2014年3月9日日曜日

御坂妹「アクメツ……?」 2

558とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/25(金) 09:44:18.45 ID:gKpTv5gOo

新倉「――悪いな? ウチは女子供には優しいのがポリシーじゃん」

蹴りと共に放たれた、その最後の台詞を偏光能力の男が聴くことはなかった。


数分後。


戦いの場となった道路から、廃ビルの敷地へと入った少しの所で四人の男がいた。

不良A&B「」チーン

偏光能力「」チーン

生(新)「きゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅーきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅ♪」」ギュッギュッギュー

完全にノビた不良達を鼻唄混じりで縛り上げる。
目を覚ましても身動き一つ取れないように念入りに拘束してから、新倉は懐から携帯電話を取り出した。

prururururu

生(新)「――安達か?」

生(安)『どうした、新倉の。何か進展したのか?』

生(新)「幻想御手の取引をしてた連中を確保したからさ、そっちで回収してくれないかなーって」

生(安)『それはいいけど……何か吐かなかったのか?』

生(新)「吐かせる前にブチのめしたもんで……てへ」

生(安)『……とりあえず、理由を訊くじゃん』

生(新)「不法取引、傷害、婦女暴行の現行犯」

生(安)『――よし、無問題じゃん』

生(新)「流石は俺、話が分かる~! それで被害者のフォローしたいから……」

生(安)『こっちで尋問して、幻想御手の入手経路を洗えと……』

生(新)「頼めるか?」

生(安)『了解、場所を教えてくれ――すぐに行くから』

新倉は安達へ現在位置を簡単に説明し、通話を終えた。
559 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/25(金) 09:48:15.58 ID:gKpTv5gOo

さて、不良達はこれでいいとしても、まだ問題は残っている。
先程まで不良達に襲われていた学生達を保護してやらなければいけない。

敷地から出て、道路にへたりこんだままの女子学生へと声をかける。

新倉「そこの君、大丈夫だったか? ……って、あれ? 
    もう一人の男子学生は、どこに行ったじゃん?」

佐天「――へ?」

言われて佐天が周囲を見渡すと、不良達から幻想御手を買おうとしていた学生の姿が忽然と消えている。

佐天「……あ、逃げちゃったみたいです……ね」

新倉「自分を助けてくれようとした女の子を放置して一人で逃げたのか……なんともまぁ……」

佐天「――仕方ないですよ」

新倉「ん?」

佐天「だって……彼も、きっと無能力者だから……こんな時、私達に出来ることなんてないんです」

正しいことをしたいと思っても力がない。
正しい人を助けたいと思っても、足手まといになるしかない。

新倉「(ふーん……『無能力者』だから、ね…………)でも、君は逃げてないじゃん」

佐天「え? ……わ、私は……! ……あ、あれ?」ウーンウーン

新倉「……あー……もしかして……立てないのか?」

佐天「あ、あはは……腰が抜けちゃって、逃げたくても逃げれなかったみたいです……」///
560 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/25(金) 09:49:33.68 ID:gKpTv5gOo

新倉「――お手をどうぞ、お嬢さん」キリッ

佐天「ど、どうも……」///

ギュッ

新倉「いつっ」ズキッ

少女を助け起こす際、右腕に鋭い痛みが走った。

佐天「そ、そうだ! 先刻、腕を切られて……!」

新倉「いやいや、大丈夫じゃん。このぐらいなら別に……」

新倉にしてみれば、最後に死んだ時の事を考えると、腕をナイフで切られたぐらいで騒ぐ気にはならない。

佐天「駄目ですっ! し、止血しないと……いや、その前に消毒!? ……あー、こんな事なら薬局で他にも買っておくんだったー!」

軽くパニックになっている佐天だったが、いつの間にやら立ち上がっている。

新倉「えっと……?」

佐天「そうだ! 近くに公園がありますから、そこに行きましょう!」グイッ

新倉「いや、ちょ……いてててっ……わ、分かったから、腕は掴まないで……」

佐天「あぁ!? ……ご、ごめんなさーい!!!」アタフタ

新倉「(面白い子だな~)」

慌てる佐天を横目に新倉は呑気にそんな感想を抱いていた。



――ちなみに。

――その後、駆け付けた安達が何故か亀甲縛りで拘束された不良達の姿に呆然と立ち尽くしたのは別の話。
561 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/25(金) 09:52:03.89 ID:gKpTv5gOo

第七学区・児童公園


公園にある水飲み場で、血を洗い流しつつ、軽く消毒する。

新倉「うぅ……染みる」

佐天「き、聞いてもいいです、か……?」

若干の緊張を伴って、佐天から質問が投げかけられる。

新倉「……どうぞ?」キョトン

佐天「……先刻の人が言ってましたけど……スキルアウト、の方なんですか?」

スキルアウトという単語に『方』なんて付けたのは初めてだった。

新倉「うーん、改めて聞かれると……どうなんだろうな?」

原則的にスキルアウトとは武装した無能力者集団を指す。
学園都市には潜在的にスキルアウトが一万人存在しているとされるが、
それらの中で、武装した本当のスキルアウトは1%にも満たないのだ。

新倉「前はウチの連中も、先刻の奴らみたいな不良の集まりに近かったけど……今はそうでもないし……」

実際に呼称されているスキルアウトは『無能力者の不良』程度の意味に過ぎない。

佐天「えっと……良いスキルアウトって事ですか?」

新倉「良い不良みたいで変だな、それも」クスクス

佐天「……そうですね」クスクス

屈託なく笑い合いながら、佐天は思う。


――よく分からないけど……きっと……この人は良い人なんだろうな。
562 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/25(金) 09:53:22.77 ID:gKpTv5gOo

新倉「まぁ、無能力者の不良なんだから、別にスキルアウトでいいんじゃないか?」

佐天「え、それでいいんですか!?」

新倉「いや、別に呼ばれ方が変わった所で自分が変わる訳でもないし」

佐天「…………」

他人にどう思われていようと関係ないと。
自分と同じ無能力者な筈の少年は、簡単に言ってのけた。

佐天「(あぁ…………この人も、そうなんだ)」

――昨日、セブンスミストで会った……あの人と同じなんだ。

憧れの人が、対等に接することが出来る人。
それを許されたのではなく、自然にそうする事の出来る人。

――自分が無能力者である事に、何の引け目も感じずに真っ直ぐに生きている人。

羨ましかった。

どうすれば、こんなに真っ直ぐに立てるんだろう。

――それに比べて、どうして私の足元はこんなにも脆いんだろう。

また心に、暗い影が差し込んだ。

新倉「……どうかしたのか? ……えっと」

名前を呼ぼうとして、初めて互いに名乗っていない事に気付く。

新倉「ごめん、自己紹介してなかったじゃん」

佐天「あ……わ、私、佐天涙子って言います!」

新倉「さてん……佐天か……俺は新倉……新倉生だ」
563 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/25(金) 09:55:25.62 ID:gKpTv5gOo

佐天「新倉……生さん……? ウチの副担任の先生と同じ名前だ」ポツリ

新倉「(ん? 副担任……?)」

佐天「そういえば、少し先生と顔付きも似てるような……?」

――言われて、ようやく思い至る。

佐天の着ている制服が、風間が教師として潜伏している柵川中学の制服である事に。

新倉「(高校生にしては子供っぽいって思ったけど、女子中学生だと!?)」

――そこまで考えて、さらに思い至る。

風間が担任しているのは、一年生のクラスであるという事実に。

新倉「(いやいや、オカシイじゃん!? きょ、去年までランドセル!? こ、この発育で!?)」

思わず、中学一年生にしては豊満な胸元へと視線が引き寄せられる。
こうなると「高校生にしては子供っぽい」という感想が、まるで逆の意味を持ってくる。

新倉「(幻想御手(レベルアッパー)ならぬ、巨乳御手(バストアッパー)が存在するとでも言うのか……?)」

自分達が死んでいる10年の間に、これほどまでに人類は進化していたというのか。
或いは、学園都市は科学技術だけではなく、学生の発育まで最先端なのだろうか。

佐天「……あの?」

新倉「い、いやー、世の中には三人は同じ顔をしてる奴がいるって言うじゃん?」

生の場合は数十人単位。御坂美琴の場合は二万人程同じ顔の人間がいるのは内緒だ。

佐天「そうですよね。でも……同じ名前でも、新倉さんの方がウチの先生より格好良いですよ」

新倉「え、あ、そう?」///

DNAレベルで同じ顔なのだが、可愛い女の子に褒められただけで、どうでもよくなるから男は愚かなのである。
564 :※佐天さんのスタイルはアニメ仕様です[saga]:2011/03/25(金) 09:57:26.09 ID:gKpTv5gOo

照れる新倉をベンチに座らせて、簡単な応急処置を行う。

佐天「――あの、痛くないですか?」ギュッ

出血している部分を自分のハンカチで止血しながら、佐天は新倉の様子を窺う。

新倉「んー、大丈夫。もっと酷い怪我した事あるから……痛みには割と慣れてるじゃん」

佐天「もっと酷いって……」

新倉「例えば――トラックに撥ねられたり」

佐天「ええぇ!?」

新倉「――50人のヤクザに襲われたり」

佐天「や、ヤクザ!?」

新倉「――他には拷問されて、銃で手足を撃たれたりしたかな~?」

佐天「う、嘘ですよね……?」

いくらスキルアウトとは言っても、そんな修羅場をくぐり抜けているようには見えない。

新倉「さーて、どうかな?」ニヤニヤ

佐天「新倉さん……真面目に答える気あります?」ムスッ

新倉「ごめんごめん、冗談じゃん。(これでも大真面目なんだけどな~)」

佐天「……もう、変な人ですね」

新倉「うわっ、ひでぇ」
565 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/25(金) 09:59:17.71 ID:gKpTv5gOo

佐天「でも…………あ、ありがとうございました!」

新倉「???」

佐天「た、助けて貰っちゃって……お礼、言えてなかったから……」

新倉「あぁ、そういう…………でも、礼を言うのは筋違いじゃん」

佐天「……え?」

新倉「――少なくとも、あの『学生』を助けたのは、佐天だから」

そもそも、新倉があの場を訪れたは、幻想御手の調査の一環だし、その後の戦闘もその流れだ。
いわば、自分の都合で戦ったに過ぎないのである。

新倉「だから、礼を言われるのは俺じゃなくて……佐天であるべきだろ?」

佐天「――――――どうして」

新倉「ん?」

佐天「どうして……そ、そんな事……言うんですかぁ……」グスッ

新倉「ちょ、え!? 何!? 何で泣くじゃん!?」アタフタ

佐天「お礼なんて、言われる資格ないのにっ……!」

正しいことをしようと思っても、それを為し得なければ意味が無い。

新倉「…………」

佐天「私、弱くて……結局、何も出来なかった……!」グスッ

新倉「――佐天は、充分に強いって」
566 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/25(金) 10:00:20.67 ID:gKpTv5gOo

佐天涙子を追い込んでいるのは無能力者であることへの単純な劣等感ではない。

自分の理想とする生き方をしている、憧れの少女への羨望。
例え能力などなくても、そういう生き方が出来るであろう、少女への嫉妬。

そして、自らの「想い」を貫けない、望んだ物へと手が届かない、無力感。

佐天「――でもっ!」

生来の性格から、劣等感とは無縁の生であるが……無力感ならば、痛いほどに理解出来る。

助けたいと思っても、助けられない。

何度、そんな事を繰り返したのか。

だからこそ、言葉を紡ぐ。

目の前の少女の心を少しでも楽にする為に。

新倉「確かに、実際に戦って助けることは出来なかったかもしれない。
    人によっては、無謀だ、愚かだと、佐天の行動を批難するかもしれない。
    でもさ、『助けたい』と思った……そんな佐天の気持ちは間違ってないじゃん」

――そんな、自分の心に対する真っ直ぐな気持ちを『正義』と呼ぶんだ、と。

新倉「なら、俺は佐天を褒めてやりたい。
    正しいことを正しいと言えるなら、それは間違いなく『強さ』だから。
    だから、馬鹿になんてしないし……させないじゃん」

――もし、力が足りないのなら君の『正義』の『味方』になる、と。

佐天「――――――――――――っ」

567 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/25(金) 10:02:52.07 ID:gKpTv5gOo

色々と限界に達してしまった佐天に号泣されてしまった新倉は、その胸を佐天に貸していた。

新倉「(前にもあったな、そういえば)」

胸の中でボロボロと泣く佐天の姿に、新倉は共有された過去の記憶を呼び起こす。

――死んじゃったかと思ったっ!

そう言って、『生』の胸に飛び込んできた友人の姿。
恋仲だった訳ではない。普通に友人でクラスメイトだった。
だからこそ、彼女が心配してくれたのが嬉しかったように思う。

しかし、そんな『想い出』も自分自身の物ではない。
あの時……クーデター事件の際、新倉自身は拷問を受け、他の生を誘き出す為の囮として仲間ごと殺害された。

新倉「(事の顛末は、俺より後に死んだ連中との共有記憶や『残留組』からの又聞きみたいな感じだけど……)」

何しろ、あの時は現在のプラントは未稼働だったし、期限まで素体の精製も間に合わず、『新倉生』を蘇生している余裕もなかった。

新倉「(生き返ってからも、このシュチュエーションあるのな)」ポンポン

迫間もそうだが色気と少し離れた場面で、女子に泣かれ過ぎではないだろうか。
背中を優しく叩いてあげながら、そんな風に考える。

新倉「(別に嫌じゃないんだが……どうせなら、嬉し泣きがいいよな~)」ナデナデ

事実上、今の佐天は嬉し泣きしているようなものなのだが、そこには気付かない新倉。
肝心な所で鈍感なのは、新倉個人の女性相手の経験値が足りないからか。

新倉「(まぁ、迫間と違って彼女がいた訳でもないし……女の子の扱い方はなぁ……年下だし)」サスリサスリ

かつて、アクメツを行う前の準備期間に多くのメンバーが修行や技能習得に時間を費やす中、
半分ネタの『エロ』担当として、夜の街で勇名を馳せた『加藤』『向井』『北斗』達のR18指定記憶も共有されているが、
あれは所詮、エロ経験値であって、通常の対人経験値とは無縁なので仕方ない。
568 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/25(金) 10:17:29.08 ID:gKpTv5gOo

――などと新倉が思考を巡らしている一方。

佐天「(わ、私ってば、何をやっちゃってるんだろう……)」///

ひとしきり泣いて、冷静さを取り戻した佐天は羞恥の感情に襲われていた。

佐天「(今日、初めて会った人の前で大泣きした挙句、胸まで借りちゃって……!)」///

日頃は、初春相手に散々セクハラの限りを尽くす佐天であるが、いざ自分が追い込まれると非情に弱かった。

佐天「あ、あの……お見苦しいところを……」///

新倉「いや、気にしてないじゃんよ。……もう、平気?」

佐天「あ、はい! …………は、恥ずかしい所を見せちゃったついでに、少しいいですか?」

新倉「?」

佐天「は、話を聞いて……貰いたくて。相談、と言いますか……その」

新倉「――俺で相談に乗れるなら、喜んで引き受けるじゃん」

それから二人は色々な事を話した。



学園都市に来る前の事。

母親に貰った、お守りの事。

最初に受けた身体検査で、『才能なし』の判定をされた事。

無能力者と超能力者。

虚空爆破事件の時に感じた、友達の助けになれない無力感。

その時に目撃した、『御坂美琴』への羨望と嫉妬。

偶然、入手してしまった『幻想御手』を使いたいと思っていること。

せめて、本当に自分に才能がないのか、確かめたいという気持ち。

先程、不良達に立ち向かった時に感じた恐怖。


本当に多くの事を話した。

今まで溜め込んでいた感情を吐き出すように話す佐天の姿は懺悔にも似て――

新倉は、ただそれを黙って聞いていた。

相づちを打つ事もなく。ただ、純粋に聞き続けた。

578 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/27(日) 20:23:36.71 ID:BoApHBS3o


佐天「」ゴクゴク

新倉「おぉー」

よほど喉が渇いたのか、ヤシの実サイダーを一気飲みする佐天。

佐天「ぷはぁっ! いやー、喋った喋った!」

色々とぶちまけた後なので、その表情は晴れやかである。

新倉「スッキリした?」

佐天「はい。なんだか、お母さんに話してるみたいな気分でした!」

新倉「そ、その評価は喜んでいいものなのか?」

『子供っぽい』とか『オヤジっぽい』等と言われた経験はあるが、そんな風に言われたのは初めてである。

佐天「あ、ごめんなさい。けど、相槌も打たずにずっと目を見て、話を聞いてくれるから……つい」

『聞き』に徹する為にそうしただけなのだが、それが『母親』っぽさを感じさせる原因だったらしい。

新倉「うーん、俺の情熱的な眼差しじゃ、女子中学生をドキドキさせられないのか……」ガックリ

佐天「……そういう台詞がなければ、普通にドキドキしちゃうかも?」ニコッ

新倉「あー、それは俺の悪い癖というか。そうかー、だからモテないのか……」グスッ

10年の時を経て、衝撃の真実が明らかにされた。

佐天「それに何だか、こうして話してる時の新倉さんって、クラスの人気者ポジというか……?」

要するに人気はあっても色気がない、と。

新倉「えー、嬉しいけど嬉しくないじゃん……」

佐天「でも、先刻はヒーローみたいで素敵でしたよ?」

新倉「……本当にそう思う?」

佐天「はい、憧れます」ニコニコ

新倉「……」///

年下の少女に逆にドキドキさせられてしまった新倉は、咄嗟に赤くなった顔を逸らした。
579 :とある複製の妹達支援[saga ]:2011/03/27(日) 20:25:06.86 ID:BoApHBS3o

佐天「――でも本当なら、無能力者でもそんな風になれる筈なんですよね」

新倉「まぁ、結局は本人の生き方の問題だから……資格だとか能力とか、関係ないとは思うじゃん」

『超人』である自分達は別にしても、仲間のスキルアウト達は無能力者でありながらも、そういう生き方を選ぼうとしている。

佐天「分かってはいるんです、自分の心が弱いだけだって……でも、先刻だって震えが止まらなかった」

新倉「正しい事をしたいとか、誰かを守りたいとか……その気持ちに男女の違いなんてないと思うじゃん。
    でも、やっぱり佐天は女の子なんだから、あんまり無茶はして欲しくないかな」

佐天「あはは、ありがとうございます。でも、もしも私が能力者だったら、どうですか?」

新倉「――心配じゃん」

佐天「え?」

新倉「佐天が能力者でも無能力者でも、俺は心配する」

その言葉に迷いはない。混じりっ気のない本音だった。

新倉「……心配ってさ、相手の強さとは本来、無関係な感情だと思う。
    確かに相手の力を信用して、安心して任せるって事はあるけど。
    でも、相手が大切なら、『そんな事』は別の所で……やっぱり心配しちゃうんだよな」

佐天「……そう、なんでしょうか?」

新倉「佐天だって、風紀委員の友達の事を心配するだろ?」

佐天「――そっか、そうですよね」

そして、少女は自分の中にある焦燥の正体を知る。
580 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/27(日) 20:26:08.19 ID:BoApHBS3o

佐天「だから、私は自分が無能力者なのが怖いんだ」

――初春や、白井さんや、御坂さんが友達だから、大事だから。
   
佐天「風紀委員だからとか、超能力者だとか関係なしに心配で……」

――もしも、何かあった時に自分が皆の力になれない事が、皆を助けられない事が怖いのだ。

佐天「その為に能力者になりたいって思っても……全然、力には目覚めなくて、レベルも0のままで」

だから、焦っていた。

だから、追い詰められていた。

目指し願う場所と、今いる場所との落差に悩み、目前の才能という壁に絶望して。

――それでも尚、足掻こうと。

佐天「だから、『幻想御手』が欲しかったんだ」

自分の中にあるかどうか分からない力の萌芽を知る術を求めていた。

新倉「――そこまで分かっているなら、俺は良いと思うじゃん」

佐天「良いって……」

新倉「『幻想御手』を使っても、構わないんじゃないかってこと。……持ってるって言ってただろ?」

佐天「でも……やっぱり」

新倉「ズル、だって思う?」
581 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/27(日) 20:28:53.50 ID:BoApHBS3o

佐天「――はい」

新倉「まぁ、ウチの連中もそう言ってたし、それ自体は褒めてやりたいんだけど……でもさ」

確かに、その矜持は賞賛されてもいい。
無能力者としての誇り。
意地でも使わない、という姿勢は好ましくも思える。

だが、そう生きれない人間は悪なのだろうか?
どうしようもなく弱くて、裏技とも言える手段に縋るしかない人間は叱責されなければいけないのだろうか?

新倉「――人間ってのは、基本的に弱い生き物じゃん」

だからこそ、その中で光る小さな強さは美しく気高い。
だが何かの価値を認める為に、何かの価値を貶める必要などない。

新倉「その弱さを受け入れて、その上で危険(リスク)を背負えるなら、別に手段は問題じゃない」

少なくとも力は力に過ぎない。

大事なのは使い方だ。
それを用いて手に入れた結果なのだ。

ショッカーに改造された仮面ライダーが正義の為に戦うように。

地球侵略の先兵として送り込まれた孫悟空が、世界を救うように。

例えが生の個人的な趣味に偏ってはいるが、そういう事なのだ。

新倉「『幻想御手』だって、レベルを上げてくれる魔法の道具って訳じゃない筈じゃん。
    何かしらの理由と原因があって、能力者のレベルを上げるという『現象』を起こしている道具に過ぎない……と思う」

佐天「……そ、そこは自信ないんですか」

新倉「生憎、調べてる最中なんで。……で、どんな副作用があるかも分からない得体の知れないブツには変わりないだろ?」

佐天「そう、ですよね。副作用だってあるかも知れないんですよね」

新倉「その辺を受け入れる覚悟があって、仮に能力を手に入れても間違った事に使わない決意があって、
    例え、間違っていると言われる手段だろうと、欲しい物がある……そんなエゴを自覚しているのなら――」

佐天「…………」

新倉「――使ってもいいんじゃないかな」
582 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/27(日) 20:30:55.17 ID:BoApHBS3o

――結局、佐天は『幻想御手』を使う事にした。


佐天「……いざ使うとなると、やっぱり怖いですね」

音楽プレーヤーとにらめっこを続けていた佐天から弱音が漏れる。

新倉「(そりゃ、そうだろうな)」

当然だろう、と新倉は思う。
今の佐天には、冷静に先が見えている。
そこらの不良や並のスキルアウトと違って、副作用の危険性も認識している。

怖くない筈がないのだ。

半ば背中を押すような形になった新倉としては、ここは最後まで付き合うのが義務だろう。

そんな訳で。

新倉「佐天、イヤホン片方貸してくれ」ヒョイ

本来なら佐天が左耳に付けるイヤホンを自分の右耳に装着する。

佐天「に、新倉さん!?」ドキッ

その突然の行動というよりも、イヤホンの長さの関係上、急激に近くなった二人の距離に佐天の声のトーンが上がる。

新倉「――言いだしっぺが付き合うのは当然じゃん? 二人なら少しは怖くないだろ」

『幻想御手』を調べる為に実際に使ってみる事を考えていたからこそ、新倉は迷いなく『一緒に使う』という選択をしたのだろうか?

……だが、仮に想定していなくても、新倉は佐天に付き合って『幻想御手』を使用しただろう。

佐天「(こ、怖くはないけど、ち、近いです! ふざけてくれないと、ドキドキしちゃうんですってば~!!)」ドキドキ


~~~~~~~~♪


本来とは全く別種の緊張感を伴って、佐天は幻想御手を使用したのであった。


583 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/27(日) 20:33:57.63 ID:BoApHBS3o

――数分後。


ヒュルルルル……

佐天「やった! 新倉さん、やりました!」

不安だったのか、『母親から贈られたお守り』を握り締めながら、唸っていた佐天は、それの出現に歓声を上げた。

小さな渦。

能力よって生み出された風が、木の葉を巻き込んで、輪を形成していた。

新倉「へぇー、佐天は風力使い(エアロハンド)だったのか」

学園都市では、比較的ポピュラーな能力だが佐天にしてみれば、そんな事はどうでもいいのだろう。
自分の中にどんなに小さくても能力があった、という事実が重要であり、それを彼女は求めていたのだから。

佐天「良かった……私にもあったんだ……」

新倉「おめでとう、佐天」

佐天「えへへ……あ、新倉さんは?」

新倉「俺? スマン、佐天が心配だったから、まだ試してない」

佐天「うぅ/// ……私の事はいいですから、新倉さんも試してみましょうよー」

佐天を見守っていたので、自分が試すのを忘れていた新倉は、少し思案してみる。

新倉「つーか、どう試せばいいんだ……?」ハテ

能力に対する専門的な知識を持っていない新倉にしてみれば、当然な話である。
584 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/27(日) 20:37:42.13 ID:BoApHBS3o

佐天「えっと……『出ろ』って念じてみる、とか?」

ものすごく曖昧な意見を頂いた。

新倉「えぇー? そんなんで大丈夫か……?」

今更だが、安達と違って学園都市での開発を受けていない自分に能力が発現するのかも不明である。
『幻想御手』を使ったとしても、こればっかりは実際に試してみないと分からない。

新倉「(――――『出ろ』)」ムムム

ボッ!

新倉「うわっ!? あ、熱……くない?」

自分の人差し指に出現した灯火に思わず叫ぶが、すぐに『熱くない』事に気付く。

佐天「わぁ……発火能力(パイロキネシス)みたいですね」

新倉「これが能力か……何か指先に火がついてるってのも変な感じじゃん……あ」

ふと、アレを再現してみたくて指先に意識を集中させてみる。

ボッ! ボッ! ボッ! ボッ!

人差し指に続いて、右手の全指に火が灯る。

新倉「おお、出来たじゃん! 見て見て、佐天! 五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)!」

佐天「あの、それって悪者の技じゃ……」

佐天のツッコミも虚しく、新倉は火を飛ばして『今のはメラゾーマではない・・・メラだ・・・』等と言って遊んでいる。
むしろ火力はメラ以下なのだが。

佐天「(わ、私はあんまりはしゃがないようにしよう……)」

人の振り見て我が振り直せ、とはよく言ったもので――

能力者になった事でテンションが上がりっぱなしの佐天は、子供の様に遊ぶ新倉の姿に少し冷静さを取り戻した。

585 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/27(日) 20:40:18.96 ID:BoApHBS3o

新倉「えー、いくら能力者になったと言っても、はしゃがないように」コホン

佐天「せ、説得力がない!」

新倉「(∩゚д゚)」

佐天「でも、大丈夫ですよ。私にも能力があるって……分かったんだから、後は地道に頑張れます」

新倉「それはいい事じゃん……でも」⊃□

差し出されたのは、小さなメモ。
書かれているのは、携帯電話の番号とアドレス。
そして、学区内のある場所への行き方を描いた簡単な地図だった。

佐天「何ですか、これ?」

新倉「俺の連絡先と……知り合いの医者がいる病院のある場所」

カエル顔だが腕は確か、と付け加えるのを忘れない。

佐天「病院ですか?」

新倉「言っただろ、どんな副作用があるか分からないって。体に不調を感じたら、この病院に行って欲しいじゃん」

佐天「……心配してくれてるんですか?」

新倉「先刻もそう言っただろ……俺の連絡先は……まぁ、万が一というか保険というか?」

佐天「へぇ~?」

新倉「……何だよ」
586 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/27(日) 20:43:18.71 ID:BoApHBS3o

佐天「ふふっ……これで、共犯になっちゃいましたね?」ニヤニヤ

新倉「…………佐天さんや」

何故か呼び方が変になったが、問題はそこではない。

佐天「何ですか?」

新倉「不意打ちで男をドキリ、とさせる台詞を言うのは控えなさい。色々と焦るじゃん」

佐天「え、もしかして……私ってば、魔性の女!?」

新倉「去年までランドセルの癖に調子に乗らない」コンッ

自称・魔性の女の頭を軽く小突く。

佐天「痛っ……うぅ……ゴメンナサイ。ちょっと図に乗ってました」

新倉「――でも、本当に何か異変を感じたら連絡してくれよ?」

佐天「異変がなきゃダメですか……?」ウルウル

涙を溜めた瞳+上目遣いという多重攻撃である。

新倉「だーかーら! そういうのを控えろって言ってんでしょー!?」

佐天「………………」ウルウル

どーする、アクメツ~♪

新倉「……ちょっとだけだぞ?」

佐天「メールしますね♪」ヨッシャ

新倉「何だかなぁ……」ハア

完全に女子中学生に手玉に取られて、悲しいやら情けないやらで新倉は深い溜め息を吐いた。 

594 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 21:17:27.59 ID:55K+MyVLo
ガソリンを入れにいったり、食材の買い物してたら……書き始めるのが遅くなってしまった……
まだ4話が書き上がりそうにないので、予定を変更して挿話を先に投下します。

今回は3分割された内の①です。短いですがご容赦を。 
595 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 21:20:05.99 ID:55K+MyVLo

挿話 『とある複製の露西亜回想① ~邂逅編~』


――11年前。


桂木の死後……アクメツとして蜂起するまでの一年の間、生達は超人としての戦い……その下準備を行っていた。

最初の『統合』の際に死亡した生との入れ替わり、各種専門技能の習得、武術の鍛錬。

ある者は剣術を。ある者は柔道を。

ある者はレスキューを。ある者はスカイダイビングを。

ある者は化学を。ある者は物理を。

ある者は国内で、ある者は海外に渡り、厳しい修練を積んでいた。

――そして、ロシアにも一人の生がいた。
596 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 21:22:17.72 ID:55K+MyVLo

ロシア・モスクワ市内


~とある軍事基地近郊~


その男の名は迫間生。

高校の冬休みを利用し、単身極寒の地を訪れた彼は、ロシアの軍事格闘技『システマ』を習得するべく、特訓の日々に明け暮れていた。

教官「――ショウ、今日はここまでにしよう」

ソ連の特殊部隊スペツナズの元軍人という経歴を持った、インストラクター(生は教官と呼んでいる)が、訓練の終了を告げる。

迫間「いえ、ユーリ教官……俺はまだやれます」

教官「ショウ……『力む』事はシステマの天敵だぞ? ……しっかりと汗を拭いて、もう休め」

迫間「でもっ……」

教官「…………」

食い下がろうとする迫間を教官は無言で制した。

迫間「……いえ、分かりました。――ありがとうございました!」

わざわざ、迫間がロシアにまで来たのには、ちゃんとした理由がある。

1990年代初頭のソ連崩壊。
それに伴い、かつては謎に包まれていた数々のロシア武術は次々と、その全容を明らかにされていった。
システマもそんな武術の一つである。
現在、システマはロシア以外にもアメリカ合衆国、イギリス、フランス、ドイツ、セルビアなど各国に普及が進んでいる。
それは日本も例外ではないのだが、それは一般向けのセミナー程度であり、殺人術などの軍事・警察関連機関向けの戦闘術は指導・公開されていない。

だからこそ、本場に来て……本物のプロに師事する必要があった。
597 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 21:23:31.57 ID:55K+MyVLo

教官「ふむ……焦らなくても、お前は筋が良い。もうしばらく鍛えれば……ん?」チラッ

教官が道場の入り口へと視線を向ける。それに釣られるように迫間はそちらを見た。

???「」ノシ

それは、赤い修道服を着た少女だった。

教官「――っ」ボソッ

その教官の声が小さく、まだ不慣れなロシア語だった為に多くは聞き取れなかった。

――だが。

迫間「(…………魔女?)」

教官の言葉には恐怖の色が混ざっていたように思えた。

教官「……ショウ、また明日な」

迫間「あ、はい」

迫間に別れを告げ、意を決したように教官は少女の元へと向かった。

教官「――――――?」

???「――――――♪」

教官「――――――!」

???「―――――――」

少女は教官と何度か言葉を交わした後、迫間の方へと近付いて来て、軽く手を振って微笑んだ。

???「はぁい」ヒラヒラ
598 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 21:25:56.28 ID:55K+MyVLo

迫間「は、はぁい……?(何だ、このシスター?)」

???「ふむふむ……」

少女は値踏みするかの様に迫間へと容赦のない視線を送る。

迫間「……俺に何か用かな?」

???「いやー、わざわざ日本から武術を習いに来てる変人がいるって聞いたから、軽ーく見学にねー」

迫間「ふーん……それで、変人を見た御感想は?」

???「あなた、何を相手にするつもり? 護身の為って訳じゃないわよねー? とんでもないマゾだって言うなら話は別だけど」

――迫間の訓練への集中力や熱意は、その程度では説明がつかないと少女は語る。

迫間「いや、ただの喧嘩じゃん。少し相手がデカイけども」

???「デカイ? そんなに背が低いようには見えないけど……プロレスラーでも相手にするの?」

迫間「ちょっと、国に喧嘩を売る予定なんでね」

???「」ポカーン

迫間「……冗談じゃん」

???「あははははっ!」ケタケタ

迫間「……そんなに面白かったか?」

???「えぇ、最高のジョークだったわ……何しろ、『本気』な所が」アークルシイ

迫間「いやいや、冗談なんだけどな」

???「……いいわ、そういう事にしておいてあげる。私は可愛い物が大好きだけど、愉快な物も好きだから」
599 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 21:27:21.53 ID:55K+MyVLo

愉快な男のレッテルを貼られた迫間は、気にするでもなく会話を続ける。

迫間「――ところで、お嬢さんは何者?」

???「私? そうね、国民的アイドルって所かなー? そうだ、未来のテロリストにサインでもしてあげましょうか」

迫間「あ、アイドル?」

改めて少女の姿を見る。

美人だとは思う。
見る限り、年は20歳より少し下といった所。
だが、その白い肌は十代前半と言っても通用する程にピチピチだ。

だが、妙な違和感がある。
何というか、体が不自然に若いというか……

美しいかと言えば、その通りだろう。
だが、年月が過ぎても一切変化しない得体の知れない宝石を見ているような気持ち悪さがある。

迫間「踊りや歌が得意だとか?」

???「んー? まぁ、童謡なんかは得意だけど」

迫間「童謡ねぇ……?」

???「信じてないわね? これでもロシアでは誰でも知ってる著名人だと思うのだけど」

迫間「へぇ……まぁ、イイ声してるし……歌は聴き応えありそうじゃん」

???「そ、そう?」///

迫間「機会があれば聞いてみたいな」

???「ふふふ……気を付けなさい? 油断してると、あっと言う間に昇天しちゃうわよ?」

迫間「おいおい、凄い自信だな……」

少女は文字通りの意味で言っているだが、迫間にそれを知る術はない。
600 :○言っているのだが ×言っているだが[saga]:2011/03/28(月) 21:30:18.58 ID:55K+MyVLo

???「――そうだ、あなた日本のアニメのDVDとか持ってきてたりしない?」

迫間「アニメ? ……何枚か持ってきてるけど……」

暇潰しのつもりで持っては来たものの、訓練がハードで結局は一度も見ていない。

???「本当!?」グワッ

迫間「に、日本のアニメに興味が?」

???「というか……最近、日本のOTAKU文化が気になるのよ……私の中の何かが、魂の叫びを挙げているの」

迫間「そりゃまた、難儀な魂だな」

???「……良ければ、譲ってくれない?」

迫間「DVDを? そりゃ構わないけど……」

???「よっしゃー! あ、お代は体で払ってあげるわ」

迫間「ぶっ!?」///

???「どうせ、観光なんてしてないでしょ? 私が色々と案内してあげるから」

迫間「あ、そういうの……」ハア

ホッとしたようなガッカリしたような気分で溜め息を吐く。

???「おやおやぁ? 修道女相手にどんな想像をしちゃったのかにゃーん?」ニヤニヤ

迫間「こ、このヤロウ……」///

???「いやー、面白いわね……最近は仕事も減って、からかうような部下もいないから退屈してたのよー」

迫間「人で退屈を紛らわさないで欲しいじゃん……ん? 修道女にも部下なんているのか?」

???「まぁ、私『達』は普通の修道女じゃないからねー」

迫間「……何やら危険な香りがするから、詳しくは訊かないでおく」

???「あら、残念。でも、秘密は女を美しくするのよ?」

迫間「それはそれは……でも、名前ぐらいは教えてくれるんだよな?」

???「いいわよー? しっかりと心に刻みなさいな。私は――」



――そして、赤の修道女はロシア民話に登場するヒロインの名前を告げた。
601 :ゆっくりと本編を書き進めていきます[saga]:2011/03/28(月) 21:54:17.30 ID:55K+MyVLo

学園都市・第七学区


~Bennys~


夕暮れが去り、夜の帳が下りる頃。

風紀委員の友人が風邪を引いたとかで、その友人の家に御見舞いに行くという佐天涙子と新倉が別れてから一時間後。

クローンプラントで検査を受ける前に腹ごしらえをしようと、新倉はとあるレストランを訪れていた。


ワイワイガヤガヤ


新倉「………………」

夏休みを明日に控え、学生達で賑わうレストラン。
だが、美味しそうな料理を目の前にしても、新倉だけが表情を硬くし、沈黙を貫いていた。

――何故か?

浜面「――いやいや、そんな先生いる訳ないって!」

上条「居るんだよ、リアルに身長の問題でジェットコースターの利用をお断りされる、ロリ教師が……!」

何故か、新倉と同じボックス席で学園都市の七不思議について語らう、浜面仕上と上条当麻の所為である。

新倉「(三十分前に知り合ったとは思えない程の意気投合っぷりじゃん……)」ゲンナリ

二人が仲良くなった事は、非常に喜ばしいのだが、単純に喜んでばかりもいられないのだ。

本音を言えば、どうしてこうなった!? と誰かに問い質したい気分である。
602 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 21:56:28.07 ID:55K+MyVLo

レストランの前で浜面仕上と遭遇したのは平気だった。

一緒に食事を摂る事にしたのもいい。

ジムで別れた後の……売人の捕縛や佐天との交流を(彼女のプライバシーもあるので触りだけ)話したのも問題ない。
いや、リア充爆発しろとか言われたけども。

不味かったのは店が混んできて、ちょっと可愛い店員さんからの「相席をお願いしてもよろしいでしょうか?」という要望を受けてしまった事だ。

そして、やって来たのが……夏休み前のハイテンションで、腹も空いてないのに豪華に無駄食いをしに来た馬鹿一名。

――あれ? 生じゃねーか。

咄嗟に新倉が『互いを名前で呼ばないと、ここの食事代全部持ちゲーム』を開始しなければ、面倒な事になっていただろう。

何せ、上条当麻と新倉生は『初対面』であり、上条当麻は新倉生を『安達生』だと思っているのだから。
浜面か上条が、一度でも新倉を苗字で呼べば、それだけで露見しかねない危険な賭けである。

最悪の場合、『複雑な家庭の事情で苗字が違う双子』設定を用意はしているが、それの使用は避けたい。

――何で名前が同じなんだよ?

と、鋭い指摘をされた場合は『複雑な家庭の事情で離れ離れになった兄弟達の再会を願って、同じ名前を母親が付けた』設定も用意されている。

……どちらにせよ、無理があるので設定の使用を避けたい事には変わらないが。 
603 :とある複製の妹達支援[sage]:2011/03/28(月) 21:58:19.29 ID:55K+MyVLo
とある新(倉)生・三馬鹿の座席のイメージ

壁浜  上
壁□□□ 
壁  新

604 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 22:19:09.87 ID:55K+MyVLo

新倉「」チュー

沈黙を誤魔化すようにアイスコーヒーを口に運ぶ。
誤魔化すのも辛いが、基本的に『脳天気でポジティブ』な生の一人である、新倉としては――

新倉「(ま、混ざりたい……)」

二人の会話に混ざれない事のほうが精神的にキツかった。

上条「――それにしても、俺の頼んだ『苦瓜と蝸牛の地獄ラザニア』遅くないか?」

新倉の緊張を他所に上条は呑気に自分の料理の心配をしていた。

浜面「確かに遅いな……ってか、本当に食べたいのか、それ?」

上条「うーん……あんまり……?」

浜面「疑問形かよー」

上条「夏休み前のテンションって、怖いな……」

カランコローン

イラッシャイマセ-

早くも後悔を始める上条の後ろで、新たな客が入店した。

新倉「ぶっ!?」

その予想外の客の姿に新倉は、口に含んでいたコーヒーを吹き出した。

上条「うおっ!?」ヒョイ

ある意味で慣れっこなのか、それを華麗に回避する上条。

浜面「ど、どうした!?」

新倉「な、何でもないじゃん……」ケホケホ


――そこにいたのは。


美琴「――いた、あの席の連中ね」

黒子「(お姉様にお任せして、本当に平気でしょうか……?)」

――御坂美琴と白井黒子であった。
605 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 22:35:39.22 ID:55K+MyVLo

不良A「ダメだダメだ。子供はもう、ねんねの時間だぜ」

美琴「」ピクッ

黒子「(ま、まずいですの……早くも頓挫の予感が……)」アワワ

どうやら、『幻想御手』を情報を求めて、この店に屯している不良達に接触しに来たらしい。
黒子ではなく、美琴が交渉役なのは黒子の場合、風紀委員として面が割れている可能性があるからだろう。

――それはいいのだが。

美琴「え~~~~ 私 そんなに子供じゃないよぉ」キャハ

――あれは何だ。

……というか誰だ?

最初こそ、二人に気付かなかった上条だったが……
美琴による『交渉』が始まってからは、すぐに彼女に気付いて、一部始終を見守っていた。

見守っていたのだが――

上条「」チーン

黒子「」チーン

不良達から少し離れた席で、その様子を見ていた黒子と同様に、グラスを握ったまま、テーブルに顔を突っ伏して沈黙してしまった。

……正視するのに耐えられなかったらしい。

新倉「(こんな事なら、早く風紀委員に『幻想御手』のサンプルを提供しておくべきだったか……?)」

最初こそ、「面白そうだから、黙っていよう」等と思っていた新倉も流石に笑いを通り越して、苦笑するしかない。

不良B「だよなあ、オレはアンタ好みだぜ」ヒック

美琴「ホントにー?」キャ
606 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 22:37:20.57 ID:55K+MyVLo

上条「――――――」ミシッ

上条の手元のグラスから、異音が響く。



美琴「じゃあ、教えてくれる?」

不良B「ん―――」ジロジロ

美琴のスカートや腰回りに舐めるような視線を這わせる。

不良B「やっぱ、タダって訳にはいかねえなあ?」ニヤニヤ



浜面「うわっ、ロリコンかよ……」ボソッ

上条「――――――」メキッ

新倉「(割れるぞ、おい)」



美琴「……えっとぉ、お金なら少しは出せます~」

不良B「金もいいけど、こういう時はやっぱり……こっちの方かねぇ」スッ

不良の手が美琴の小さな肩へと伸ばされる。
607 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/28(月) 22:39:56.09 ID:55K+MyVLo

上条「――――――っ!」メキメキバキイ!!!!!

……ついに、グラスが完全に砕け散った。

浜面「……か、上条?」

その様子にルールを忘れて、つい苗字で呼んでしまう浜面。



スカッ

軽く頬を引き攣らせながらも、華麗に手を躱す美琴。

不良B「」オリョ

美琴「え――でもそういうのは、やっぱり怖いっていうかぁ……お金じゃダメ?」

不良B「ダメダメ。それじゃ、教えらんねぇなぁ……子供じゃないんだろ?」ニタリ



上条「」ゴゴゴゴゴ

新倉「(何か、上条が別の生物になりそうな勢いじゃんー!?)」((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

浜面「(そこまでして女子中学生をどうにかしたいもんか……?)」ウーン


613 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/30(水) 08:39:30.79 ID:qFMiI9LOo

美琴「う…………」グスッ

不良B「うおっ!? なんだイキナリ」ビクッ

美琴「私……実は無理言って学園都市に来させてもらったの」

不良B「は? 何を言って……」

美琴「でも、やっぱり私才能なくて、能力も全然伸びなくて……
    お父さんは、さりげなく電話で身体検査の結果を聞いてくるし、お母さんはアナタはやれば出来る子なんだからって……」グスン

不良B「あー、それわかる……」ゲンナリ



浜面「そう、そうなんだよなぁ……」ウンウン

新倉「言っておくが、あの涙は偽物だぞ? ……あの娘、レベル5だし」

共感したのか何度も頷く浜面に釘を刺す。
怖いので上条の方は気にしない。

浜面「……マジ?」

新倉「」コクコク
614 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/30(水) 08:45:03.25 ID:qFMiI9LOo

美琴「期待に応えなきゃって思うけど、どうしようもなくて……思わず嘘ついちゃって。
    そんな時、お兄さん達の事知って……もう『幻想御手』しか頼れるものがなくって……」

不良B「い、いや……そんな事を言われても……」オロオロ

美琴「だから――」

    
不良B「――――」ズキューン!!!

黒子「」Ω\ζ°)チーン



浜面「女の子って、怖いな……」

新倉「……まったくだ」ウンウン

上条「(あのビリビリ娘は、何をやってるんだよ……?)」///ガタッ

浜面「え、行くの?」

新倉「もう少しで上手くいきそうだから、手出ししない方がいいと思うぞ」

別に失敗しても、後で安達経由で『幻想御手』は彼女達の元へいくので問題ないのだが。

上条「よく分かんねーけど……なんかイライラするんだよな……」ムカムカ

浜面「(もしかして、上条って……?)」ゴニョゴニョ

新倉「(かもな……でも、自覚はしてないみたいじゃん?)」ゴニョゴニョ

上条「――とにかく、ちょっと行ってくる」
615 :上条「側にいたお前が悪い」とか言い出しそうなイライラっぷりになってきたな……[saga]:2011/03/30(水) 08:47:26.23 ID:qFMiI9LOo

不良A「なにやってんだ、アイツは……」

不良C「(おい、よく見りゃアレ、常盤台の制服じゃねぇか)」ゴニョゴニョ

不良A「!」

不良C「意外といい金ヅルになるかもしんねーぜ」

不良A「……ほう」ニヤリ

『常盤台=お嬢様学校』程度の知識しかないのか、愚かにもほくそ笑む不良達。



不良A「こんなとこで泣かれてもメンドクセー、金額次第で教えてやるよ」

不良B「オ、オウ」

美琴「(やった! 計画通り!)」イソイソ

相手の気が変わらない内にと、財布から諭吉さん何人か出す美琴だったが――

上条「これこれ、童子ども」

美琴「(こ、この声は……!)」

不良B「あーー? 何だテメェは」

上条「よってたかって、女の子の財布を狙うんじゃありません」イライラ

台詞こそ説得するようなものだったが、声には怒気が含まれていた。

美琴「(またアンタかっ!!)」
616 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/30(水) 08:51:30.36 ID:qFMiI9LOo

不良B「イキナリ出てきて、何言ってんだテメー」

上条「あん? お前らこそ、ここがどういう場所か分かってんのか?」ゴゴゴゴゴ

美琴「(ちょっと待てぇ―――ッ! あとちょっとだってのに、何でアンタが出てくんのよー!?)」

上条「レストランだぜ? 食事をする所だろーが」

美琴「(や、ヤバイ……このままじゃ情報が……このチャンスを逃してたまるかっ!)」

――よって、美琴は知らない振りを決め込むことにした。

美琴「えー、こんな人、私知らなーい」

上条「」ピクッ

が、それは上条にしてみれば燃料投下にしかならなかった。

上条「サカるなら、ビデオ相手に一人で頑張ってろ、このハゲ!」イライラ

今宵の上条さんは凶暴です、とばかりに不良(ハゲ?)に喧嘩を売る上条。

不良B「何だとぉッ!? それにハゲじゃねー! 剃ってるんだよ!」ビキビキ



浜面「……上条って、割とオレらに近い?」

新倉「まぁ、優等生タイプではないと思う」

浜面「いや、それは見れば分かるんだが」

新倉「オマエモナー」

浜面「おい」
617 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/03/30(水) 09:18:04.06 ID:qFMiI9LOo

上条「だいたいな、アイツはあんなキャラじゃないぞ。お前等の手に負える相手じゃない、やめとけ」

美琴「ちょっ……!」



浜面「何か、灰原さんが気になる光彦君を諭す、コナン君みたいな台詞を言い出したぞ……。
    アレか、俺じゃないと無理だ的な?」

新倉「いや、その例えは分かり難い……それに、そこまで深い意味はないと思うぞ」

浜面「――ところで」

新倉「ん?」

浜面「あの不良達がいるテーブルの上……どう思う?」

テーブルの上には多くの料理やグラス。自分達のテーブルの上と比べてみても、2倍以上だ。
それに対して、上条と言い争っているロリコン疑惑スキンヘッドを加えて、3人。

浜面「ヤバくないか?」

新倉「……いざとなったら、上条を連れて店の外に逃げる方向で」

三人いれば、恐らく負けはしないだろうが、流石に店内で暴れるわけにもいかない。

浜面「了解。……今のうちに代金は置いておこうぜ」スッ

そう言って浜面は、財布から千円札を取り出して、テーブルの上に置いた。

新倉「それもそうだな……あ、上条の分はどうする?」

浜面「まだ料理来てないし……って訳にもいかないよな……半分ずつ出しておくか」トホホ

新倉「仕方ないな……後でしっかり請求しよう」チャリン



622 :とある複製の妹達支援[sage]:2011/04/01(金) 11:09:10.02 ID:HkMJqZGko
筆が進まないので、ちょっと間隔が開くかもです……自分のメンタルを安定させる為に携帯にメモしてた、ここ数日の日記でも晒してみます。

3/30

ガスが復旧した。

我が家を訪れたのは、大阪のガス局の人だった。
本当に全国から応援が来ているらしい。
それでも復旧率は13%?以下だというのだから、我が家は幸運なんだろう。

母が帰る前に、沸かしておこう。疲れてるだろうから。

デイサービスで風呂に入れる祖母は、逆に自宅の風呂に入るのは難しいようだ。
一応、家の一部をバリアフリー仕様にしてあるが、それでも苦労するらしい。

しんどいくせに普段どおりに振舞おうとするので、祖母の行動には普段から焦らされる。
脳梗塞の治療から退院した、その日に……布団を直そうとして、骨折したりするし。
俺も相当イライラさせられるが、下手をすると俺の人生の中で一番一緒にいるのは祖母かもしれないので、キレる訳にもいかない。

こんな祖母でも、昔は母を女手ひとつで育てたというのだから侮れない。
祖父と離婚してどうの、という話を前に聞いた。祖父とは、亡くなる前に一度会っただけだ。幼稚園の年長の頃だったかな。

むしろ、だから我が母はしっかり者なのだろうか……?

地震への備えが尋常ではなかった。
地震の予感があったのか、地震の前に水を風呂釜に貯めていた。
家の中を探しただけで、カセットコンロ用のガスボンベが10本出てきた。コンロも2台あった。
以前、教室?で作ったというロウソクも山ほど出てきた。

……多すぎて困っていた知り合いに分けたぐらいだ。

だが、電池はなかった。不覚である。

地震直後はラジオやライトが使えず困ったのだが……

――まさか、中学時代に機械工作で作った、俺のラジオが未だに正常に稼働するとは……俺が一番驚いている。

十年振りの再会である。よく動いたもんだ。
だが、教材費が高かっただけあって高性能で、バッテリー&ソーラーパネル&手回し充電装備。FM、AM、サイレンモード搭載。

が、ライトは配線が切れていた……ロウソクで我慢するしかないらしい。

それとは対照的に、小物入れに使っていた木工工作の産物は、震災ゴミと一緒に捨ててきた。だって、ボロいし……
623 :とある複製の妹達支援[sage saga]:2011/04/01(金) 11:12:39.90 ID:HkMJqZGko
3/31

地震前から辞令で、単身赴任を終えて、仙台に帰ってくる予定だった、父が戻ってきた。
家に家族が揃う。母に比べて頼りない父ではあるが、そこにいるだけで安心する。

イイ年して何いってんだか、と自分を笑う。

心配だから、予定よりも早めに帰ろうか? という父を今まで俺と母で制していた。
来ても邪魔だから、来なきゃいけない人にその分来させてやれって。

俺も大概だが、母も容赦がない。

すっかりと片付いて、元より綺麗になった家を見ても、父には被害の実感はないだろうと思う。
写メでも、残しておくべきだったか。特に俺の部屋の惨状を。

原発の影響で、東芝の中間管理職らしい父も忙しくなるそうだ。
そういえば、5号機と6号機の部品は東芝製とか聞いた。健在なようで何よりだ。
他のと少し離れていたからかも知れないけど。

ガス復旧を待つ必要がなくなったので、髪を切りに行く。
いきつけ?の1000円カット。
『いつもの』の行為が、これほどの幸福だとは知らなかった。
涙が出た。眠くなっただけだろうけど。

あ、ポイントカードたまった。次回は無料だ。1000円使ったつもりで貯金しよう。

髪を切ってもらって気付いたのだが、妙に白髪が増えた。
元々、年の割には多いほうだという哀しい自覚はある。
まぁ、将来ハゲるよりはいい。

帰ったら染めよう。前に使った奴、半分残ってるから。

帰る途中でブックオフを覗いてみる。

開いてた。本とか大丈夫だったんだろうか? 俺の部屋は大惨事だったが。
あ、でも五時までらしい。そりゃそうだ。

パーフェクトブラッドが一冊抜けがあったなと思って、探してみた。
停電中、人力ライトで読んでたので続きが気になっていたのだ。
100円であったので買って帰る。

しまった、7巻じゃなくて8巻だった……やってしまった。ダブりである。

フルメタとレギオスとレジミルとレンタルマギカが、頻繁にダブる。
特にレギオスはカバーの形式がコロコロ変わって、嫌がらせに近い。
いや、別にレギオスが悪い訳ではないんだが。

地震では、ダブっていた本が身代わりになってくれた。
いや、大事な本のって意味で。
本棚の上にあった、大理石?っぽい河北新報社賞が、その重量で一部の本を抉っていた。

まさか、過去の栄光に裏切られるとは……副賞で2万円分の図書券を貰ったが、全部推理小説に消えた。漫画じゃないだけマシだが。
我が家にある、内田康夫の本の半分は俺が買った品である。
浅見光彦よりも短編に出てくる車椅子の少女がスキなのは内緒だ。


つーか、この河北新報社賞……自分に直撃してたら死んでないか?


そういえば、禁書の4巻が紛失してから、はや2年である。
恐らく、友人に貸したのが返却された際に大学の何処かで置き忘れたのだろう。
そのうち買い直そうと思うのだが、なかなか手が出ない。
お布施だと思って、新品で買うべきだろうか?
624 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/04/01(金) 11:18:40.18 ID:HkMJqZGko
4/1

エイプリル・フールである。

……多くの人が現状を何かの嘘であって欲しいと思っているだろう。

俺だって、かなり方向性が違うが……明日が誕生日とか、軽く嘘だと思いたい。

今までで最も憂鬱な誕生日だ。

23にもなって、ケーキでお祝いもないが、それでも気分は晴れやかにいたい。
明らかに単位足りないかも、とか、就活どころじゃねーよな、とか不安も多いが。(来年度から大学4年。実は高校を一度入りなおしてる)

正直、大学開始が5月からとか言われても、逆に怖い。それまで、どないしろと。

SS書いたり、第二次Zを楽しみにしたりしても、誤魔化せるのには限界がある。

心理学科の学生が、うつ病とか笑えないので深く考えないようにはしてるけど。

……深く考えると、SSを書く手が止まる。

某幽霊ラノベの主人公程じゃないが「死にてぇ」気分である。

はっ!? 

マテゴ×禁書……? アリか? ……きっと上条さんが『集合無意識』からの干渉で死にたくなる話だろう。……欝シナリオ過ぎてねーわww

……生徒会の一存よりもマテゴ先だろ、とアニメ化の時に思ったのは言うまでもない。

最近、せっきーなのブログもちっとも見に行っていない。ネット繋ぐの投下する時ぐらいだし。

ラノベ好きの俺としては、今やってるラノベ原作のアニメは大概、原作も持ってるから楽しみにしてたんだが……ちっとも見れてないな。ヴィクトリカマジ天使。シャルルが至高。

……いや、その程度の不便で済んで助かってるんだけどさ。

数日前に開店前からスーパーの前に並んでる時、前にいた女の子(幼女)が、母親に『神様なんていないんだよ』って言ってたんだ。
『いたら、こんな風になってないもん』って……マジでキツイって。

……TVもさ、キツイ立場の子供の話を流しすぎだろ……大概にしろよって思う。俺の涙腺は緩めなんだよ!?

それに津波の映像流し過ぎで、他県の子供トラウマとか完全に二次被害だろ。

……むしろ、普段どおりのバラエティでもやっててくれたほうがマシなんだよな。
いや、節電で見ないけども。

――そんな訳で、暖房を切った部屋で布団にくるまって、俺はSSを書いている。
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[sage]:2011/04/01(金) 16:12:33.45 ID:vckfNnAAO
お疲れ様
気長に待ってるからゆっくり落ち着いてまた面白い読み物を書いて欲しい

お誕生日おめでとう
629 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/03(日) 12:35:13.04 ID:m784L9lao

不良B「はっはーん……さてはテメーらグルだな? そうやって、タダで情報を手に入れようってハラか」

上条「はぁ?」

不良B「汚ねぇ手を使いやがって……ボコボコにしちまおうぜ」

上条「――しょうがねぇ、相手になってやる……三人ぐらいなら、俺でも……」

ジャー ガチャ

ゾロゾロゾロ

???「すっきりしたー」

???「あー? 誰、こいつ」

???「どうかしたのか?」

???「お、何だよ、喧嘩か?」

不良D、E、F、G、H、Iが現れた!

上条「――――へ?」

合体スライム並の勢いで出てきた増援に上条の顔が凍りつく。

上条「(ええーーっ!? トイレに集団でゾロゾロは女の子の特権だと思ってましたがーーーっ!!)」

不良B「この人数を相手にしようっていう度胸は褒めてやる……今なら、有り金全部出して謝るなら許して――」

上条「」ジリ

浜面「(上条ー! こっちだー!)」クイクイ

上条「!」バシュッ

不良達「」

その見事な逃げ足に不良達の思考が止まる。

不良C「逃げた!? 自分から出てきたのに?」

不良B「ヤロウ、追えっ! ふんづかまえて、ギタギタにしてやる!」

ダダダダダッ

上条を追って、不良達が店を出て行く。さらっと食い逃げである。

美琴「」ポツーン

店員「お客様、大丈夫でしたか?」オロオロ

美琴「あ、お気遣いなく……お会計はこの子が。全部」ポン

黒子「はっ、何か見てはいけないものを見てしまった気が……」ガバッ

不良達の分の会計まで黒子に押し付けて、美琴は情報源と妨害者を追って店を出た。
630 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/03(日) 12:36:55.53 ID:m784L9lao
カランッ

走る上条の足に当たった空き缶が、塀の上で寝ていた黒猫を掠めて飛んでいった。

上条「――ええい! くそっ! くそっ! あーもう、ちくしょう不幸すぎますーっ!!」ダダダッ

変態的な叫びを夜の街に響かせるのは、上条当麻。――焦っている。

新倉「瓦礫を走る~何か蹴っ飛ばす~夢から覚める出口を探すの~♪」ダダダッ

現実逃避にも聞こえる歌を走りながら熱唱する新倉生。――かなり余裕。

浜面「上条、そこを右だ! 路地に入って姿を隠したら、すぐに大通りに抜けるぞ!」ダダダッ

逃走ルートを指示する、路地裏喧嘩術においては上条よりも『場数』と『熟練』を踏まえた浜面仕上。――案外、余裕。

馬鹿三人は、路地裏と大通りを交互に駆け抜け、徐々に追撃を減らしていく。

浜面「げっ……まだ、五人もついてきてるぞ……」チラッ

不良B「止まれ! このクソガキ共!!」

不良D「待て、この逃げ足王!」

レストランを出たところで、新倉が準備しておいたワイヤートラップで二人ほど沈めたので、そこから一人がスタミナ切れで脱落したらしい。

新倉「ここらで、三手に別れるか」

不良達も合わせて散開してくれれば、倒すのも撒くのも容易になる。
但し、敵の最大の標的は上条なので、誰が何処に逃げたか判らないように散らなければいけない。

上条「いや、もう、なんか、本当……巻き添えにしちまって……悪い、二人共」

浜面「気にすんなよ、慣れてっから! うわ、自分で言ってて泣きそう」

新倉「――そうそう、こんなのも青春っぽくていいじゃん(本当……楽しいな)」b

浜面「よし、そこの十字路で散るぞっ!」

人混みに紛れ、三人はそれぞれ別の方向へと駈け出した。

上条「……ま、不幸だけど、こんなもんだよな」

一人になって、上条当麻は思う。

――不幸に愛されているとしか思えない青春を謳歌している自分だが、案外……友人にだけは恵まれている、と。
631 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/03(日) 12:38:07.80 ID:m784L9lao

そこからさらに、2キロ程走った所で、ようやく都市部を離れて大きな川に出た。

川に架けられた鉄橋の突っ切りながら、上条は背後を確認する。

上条「……撒いたか? 本当、浜面と生に感謝だな……今度、何か奢ろう」

男友達の貸し借りなんて、その程度で済ませておくのが良好な友人関係の秘訣である。

上条「」ハア

空を見上げて、深呼吸。火照った身体に夜の冷気を身体に取り込む。

突然、夜を光が切り裂いた。

上条「――――っ!?」

考えるよりも先に身体が反応した。

オレンジ色に光る、槍……というよりも、レーザー光線に近い輝きが上条の右手に衝突し、消えた。

上条「~~~~~~」ポロッ

残されたのは、元のサイズよりも小さくなったゲームセンターのコイン。

美琴「――何やってるのよ、アンタ? 不良を守って善人気取り?」

上条「いや……今回は別に、そういうんじゃなかったんだが……ってか、追っ手が居なくなったのは……?」

美琴「うん、めんどいから、私が焼いといた。まぁ、二人だけだけど」バチン

上条「あー、そうですか」

だが、ちっとも不良が可哀想に思えないのは何故なのか。

上条「(浜面と生の方に三人……それとも、さらに脱落したのか……?)」

あの気のいい友人達へ自分以上の危機が訪れていない事を祈るばかりだ。
まぁ、どう考えても……レベル5と対峙している自分が一番危険なのだが。
632 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/03(日) 12:40:07.33 ID:m784L9lao

美琴「ったく、アンタの所為で情報を取り逃がしちゃったじゃない」

上条「情報? あぁ、必死に聞き出そうとしてたもんな」

美琴「そう、才能の不足を補う裏ワザの噂があって……ん?」

――待て。今、この男は何て言った?

美琴「アンタ、私がアイツらから情報を引き出そうとしてるのを判った上で、邪魔に入った訳? 毎度の余計なお世話じゃなくて」

上条「――あ」

完全に失言だった。

美琴「……事と次第によっては……」ビリビリビリッ

上条「いや、俺にもよく判んねーんだよ! なんか御坂に絡むハゲ頭を見てたら、イライラと……」

美琴「はぁ? 何よそれ。それじゃ、まるで――」

――まるで『嫉妬』みたいじゃない……?

そこまで考えてしまったら、美琴が顔に血が上るのを防ぐ手立てなど無く。

美琴「(う、嘘!? だって、そんな嫉妬とか、だって、そんな、えー!?)」プシュー///

上条「み、御坂?」

 
美琴「は、はひっ!?」ドキドキドキドキドキドキ
633 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/03(日) 12:42:18.41 ID:m784L9lao

上条「あの、その……」

どうやら、自分は何か『とんでもないこと』を言ったらしいのは理解出来るのだが、
それがどういう原因から起きた事で、どういう結果を生もうとしているのかは……さっぱりである。

上条「えっと……」///

が、何故か本能的に凄く恥ずかしい。

理解不能の感情の渦の中、上条が出した結論は。

上条「み、御坂が悪いんだぞ!? あんなヘンテコな演技しやがって! 白井だって正視できなくて、気絶してたじゃねーか!!」

――責任転嫁である。

美琴「んなっ!? へ、ヘンテコとは何よ!? 大体、アンタどこから見て――」


上条「『え~~~~ 私 そんなに子供じゃないよぉ』」キャハ

――プツン。

美琴は、自分の中で何かが切れる音がしたのを確かに聞いた。

美琴「――――さい」

上条「うん?」

美琴「――忘れなさい」

上条「……あ、れ? な、何でしょうか。この気配は」

美琴「全部、忘れなさいっ! じゃなきゃ、アンタの記憶を物理的に消してやるんだからっ!!!」///

上条「ちょ、え!? み、御坂サン!?」

美琴「ふふふ……ふふふふっ……」

ゴロゴロゴロ

上条「……ら、雷雲?」

美琴「超電磁砲まで防がれちゃったんだもん……私だって、本気を出すしかないじゃない……?」

上条「よ、よせ、御坂……忘れる! 忘れるから! それにお前、そんなモン使ったら、周辺の電子機器がっ!?」

美琴「防げるもんなら、防いでみなさいよ……私の全てを出し切った、全身全霊の攻撃……」

上条「……ふ、ふ……ふ」

三二万八五七一分の一の『天才』は、天然自然の力をも操り、学園都市の二三〇万分の一の『天災』へと文字通りの『天災』を襲いかからせる。


上条「不幸だあああああああああああああああ!?」


少年の絶叫が、一学期最後の日の夜を締め括った。
634 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/03(日) 12:44:12.96 ID:m784L9lao

――この落雷により、学園都市の広いエリアで大規模な停電が起きた。

学園都市と外部とを繋ぐ、『門(ゲート)』のセキュリティが一部沈黙。

宇宙から、学園都市へと監視の目を光らせる三基の人工衛星も、雷雲によって、その目を封じられた。


何の因果か、その欠落した警備の隙間を縫うように、一人の修道女が学園都市の内部へと侵入した。


そして、その修道女を追う、二人の『魔術師』がいた。


???「まさか、あの子が学園都市に逃げこむとは……少々、困った事になりましたね」

???「関係ないさ、僕らの役目はいつだって……変わらない。変えられないんだ」

???「そうですね……土御門を介して、五行機関へと連絡します。隠し通せるとも思えませんし」

???「横から余計な真似をされたくもない、それでいこう」


――偽悪の魔術師が偽善使いを自称する少年、そして悪を滅する者と……対峙する時が迫りつつあった。










第四話  『少年少女達は神の御手に幻想を見るか?』 完
635 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/03(日) 12:45:33.45 ID:m784L9lao

おまけ とある女子中学生の初メール


~とある中学の学生寮~


ゴロゴロゴロ ドオーン!!!


佐天「――あれ、停電? いーとこだったのに~」

初春「(……た、助かりました)」

佐天「あ、そうだ」メルメル

初春「佐天さん?」

佐天「停電ですけど、大丈夫でしたか?っと……」ピッ

初春「メールですか?」

佐天「まぁね♪」



第七学区・路地裏



不良C「くそっ、あの白菜頭、どこに隠れやがった!?」

不良E「この停電じゃ、姿も見えないぜ……」

新倉「(チャ~ンス! この隙に、っと……)」

~~~~♪

不良E「ん? 蠍火?」

新倉「し、しまったぁぁぁぁあ!?」

不良C「いた! あそこだっ!!」

新倉「やばっ!? ちくしょう、誰だ、こんな時に!?」ダダダッ

『停電ですけど、大丈夫でしたか?』

新倉「さあああああああああああああああてええええええええええええええええええん!!」


~再び、とある中学の学生寮~


佐天「」ゾクッ

初春「どうしました?」

佐天「急に背筋が……風邪引いたかな~?」

初春「というか、上半身裸の私より先に何で佐天さんが?」

佐天「さぁ……? さて、続き続き! ほら、前も拭いてあげるから!」

初春「だから、前は自分で拭けますってば!」
636 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/03(日) 12:48:57.01 ID:m784L9lao
戦わなければ生き残れない! な次回予告!


夏休み初日。少年達は、奇妙な修道女と遭遇する。


上条「何か、お嫁さん貰ったみたいな気分だなーって」

禁書目録「おなかへった」

美琴「(ってか、私にしてみれば、アンタの右手だって『オカルト』にしか思えないんだけど)」

上条「――ここにいる御坂美琴嬢は、学園都市に7人しかいない『超能力者』の第三位であらせられるぞ!」

美琴「……どうせ、効かない癖に」

上条「この右手で触ると……それが異能の力なら、原爆級の火炎の塊だろうが、戦略級の超電磁砲だろうが、
    神の奇跡(システム)だって打ち消せます、はい」

禁書目録「……、じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」

生(迫)「……何回か死んでるけど、地獄は見たことないじゃん」


悪滅の前に現れるのは、偽悪の魔術師。


生(迫)「さてと……食後の運動でもしようか、インデックス。逃げ足に自信は?」

禁書目録「……伊達に一年も逃げ回ってないかも」

神裂「――鬼ごっこは終わりですか?」

00013号「……これより、『迫間生』並びに『禁書目録』の撤退を支援します、とミサカは引き金に指をかけます」


能力者として、アクメツ最初の戦いが幕を上げる!


生(迫)「『歩く教会』に比べれば、頼りない教会かもしれないが……お前をそこで保護してやるから……」

禁書目録「ダメ……しょう……死んじゃダメなんだよ……!」

ステイル「うん? 僕達『魔術師』だけど?」

生(新)「上等じゃん――『炎』対決と洒落込もうか、この不良神父っ……!」

上条「御坂! ここは、俺と生で抑えるから! 言う通りに頼む!」


そして、事態は加速し、混迷していく。


美琴「――この症状……まさか『幻想御手』を……?」

小萌「だって、この子……顔はそっくりですけど、安達ちゃんじゃありませんよねー?」

生(安)「――よぉ、上条……今、ここに『俺』がいるか?」



次回 『魔術師来たりて、南天に星が輝く』をヨロシクじゃん!
642 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/04(月) 11:02:07.87 ID:DpEFMPO3o

挿話 『とある複製の露西亜回想② ~食事編~』


~とあるレストラン~


『凄いボルシチ』を出す、この辺では『有名な店』がある、と修道女に教えてもらった迫間は彼女と一緒にその店を訪れていた。

迫間「――いや、それにしたって『ワシリーサ』は無いだろ……」

食事の到着を待ちながら、目の前の修道女に対して明らかに偽名じゃないか、とツッコミを入れる。

ワシリーサ「えー? そうかなー?」

迫間「日本人の俺だって知ってるじゃん……『うるわしのワシリーサ』だろ? 飛行機の中で読んだよ」

初めての海外旅行という事で、少しは行き先の『文化』を学んでから行こうと買い漁った、大量の雑誌やガイドブック。
その中には、他国民向けに翻訳された『ロシア民話集』もあったのである。

ワシリーサ「あら、意外と勉強家なのね」

迫間「確か『ヘンゼルとグレーテル』に『三枚のお札』を足して『シンデレラ』で割った感じの話だろ?」

ワシリーサ「……流石に老婆相手に強盗やらかす不良兄妹の話や、トイレバトルがメインの昔話と同列に扱われたくはないけど」

迫間「何、その悪意のある童話解釈……あ、『シンデレラ』はいいのか?」

ワシリーサ「うーん、微妙な所よねー。私的にはシンデレラを探す為に街中の女の味を確かめるような尻軽王子は遠慮したいなー?」

迫間「謝れ! シンデレラストーリーに憧れる全世界の婦女子に謝れ!」

迫間が夢見る少女達の怒りを代弁し、咆えた。

ワシリーサ「あ、意地悪な義理の姉達の目玉を仲良くなった鳩が抉り出してくれる場面は個人的に共感出来るかも」

が、ワシリーサはそれを意に介する事もなく、メルヘンの裏側に潜む惨劇を嬉々として語る。

迫間「あの……食事前なんで、お手柔らかに頼むじゃん……ほら、何か他の客も嫌な目で見てるし」

店内の色んな所から冷たい視線が突き刺さって居た堪れない。




643 :とある傭兵のカメオ出演[saga]:2011/04/04(月) 11:04:26.56 ID:DpEFMPO3o

ワシリーサ「周りの目なんて気にする必要ないでしょ。ほら、ボルシチが来たわよん」

店の奥から、二つの皿を持った店主がやって来た。

店主「――お待たせしました」

店主は背が高く、肩幅も広いので、まるで熊のような印象を受ける。
だが体は引き締まり、顔の彫りも深く、穏やかながらも眼光は鋭い。
ひっつめにされた灰色の髪と、たくわえられた灰色の髭を見ると、ロシアに来たんだな、と実感させられる。

店主「――ごゆっくりどうぞ」

店主は多くを語るわけでもなく、皿を置いたら速やかに奥へと引っ込んでしまった。

迫間「おお、これが本場のボルシチかぁ……美味しそうじゃん」クンクン

テーブルビートの深紅色を見ていると、それだけで暖まるようだ。
だが何故だろうか、妙に懐かしい香りもする。

ワシリーサ「ほらほら、早く食べなさいって」ニヤニヤ

迫間「? いただきまーす……」ズズッ

ワシリーサ「」ニヤニヤ



644 :とある料理の味覚破壊[saga]:2011/04/04(月) 11:05:47.98 ID:DpEFMPO3o

迫間「――ワシリーサ」

ワシリーサ「なーに、ショウ?」ニコニコ

迫間「本場のボルシチって、『あたたかいドクターペッパー』みたいな味がするのか?」

本場の世界三大スープは、日本で慣れ親しんだジュースの味がした。
あと、少し味噌っぽい。……懐かしい香りの正体は味噌だったらしい。

ワシリーサ「個人的見解を述べさせてもらうと……しないと思うわー」クスクス

迫間「知ってたな?」

ワシリーサ「あれ、言ってなかったかにゃーん? 『凄いボルシチ』を出す『有名な店』だって」

迫間「……道理で、他の客がボルシチを注文してない訳だよ……変だと思ったんだ……」

ワシリーサは嘘は言っていない。
『凄い不味いボルシチ』を出す、『悪い意味で有名な店』だったというだけで。

迫間「人をからかう為だけに、この店に連れて来たのかよ……?」

ワシリーサ「ごめーん♪」

相手が女とは言え、本気で殴りたくなった迫間を誰が責められるだろうか。

迫間「もういい……腹に入れば一緒じゃん……」

妙に塩味が効いている。涙の味ではないと思いたい。

ワシリーサ「この店のボルシチの味は置いておいて……」

迫間「いや、置くなよ……」

ワシリーサ「適当に食べたら観光に行くわよー?」

迫間「……頼むから、観光先は無難な場所にして欲しいじゃん」

こればっかりは冗談として流して欲しくは無かった。


――超人と魔女の露西亜観光は、まだまだ始まったばかりだ。 
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]:2011/04/05(火) 07:15:19.10 ID:dUBTV3+80
こっちではカリーニンさんが元気そうで良かった。
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/06(水) 15:12:19.41 ID:G85jQTLC0
>>649
それらの差額は来月の請求時で修正してくれるぞ 
652 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/06(水) 18:07:13.43 ID:2kBofMsJo
>>646
奥さんと仲良くレストランをやっています。

>>651
割と長いこと停電してたんだけど、電気代があんまり変わっていない被災地の我が家も来月には反映されるのでしょうか……



被災地に近い場所のココイチで、ボランティア作業をした日は1000円まで無料、
と災害ボランティアセンターの人に言われたので帰りに寄って来ました。

ほ、本当にタダだった……凄いなココイチ……
今度から、普段の外食でもカレーの時は全部ココイチにしよう、敬意を表して。

心配になってメガネっ娘の店員さんに「だ、大丈夫なんですか?」って会計の時に聞いたら

「会社の方で頑張ってますので」ニコニコ

と鉄壁のスマイルで返されたよ……。

あと帰り際、自転車置き場でJK達が何やら爆笑してました。

どうやら、「何者なんだ奴らは!?」という話題で盛り上がっているらしい。

①戦に敗れた兵士たちのような疲れ果てた人相。
②泥&埃まみれの風体。人によっては長グツ装備。
③何故か代金を請求されない。
④何か一杯いる。

……うん、すっごく変だね!

そんな変な>>1がお送りする、アクメツ×禁書の一巻パートです。まぁ、とりあえず最初の部分を。 
653 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/06(水) 18:12:11.67 ID:2kBofMsJo
7月20日


学園都市・第七学区


~とある高校の男子寮~


【AM 8:46】

うだるような熱気によって、迫間生は目が覚めた。

迫間「あ、暑い…………」

うつ伏せの体勢から、顔だけ起こして部屋の中を見回す。
かつてのアクメツ時代に自分が生活していた部屋でも、学園都市内のクローンプラントの一室でもない。

ここは、学園都市でとある高校の生徒として生活している、安達生の暮らす男子寮だ。

迫間「そういえば、安達の代わりに泊まったんだっけか……」

迫間が安達の部屋に宿泊した理由は昨日の一件にある。

『幻想御手』使用に伴って、能力が覚醒した自分と最も付き合いの長い同胞、新倉生。

何故、開発を受けていない彼に能力が発現したのか? という疑問。
そして、どうも異能力(レベル2)以上の強度を持っているらしい、という事実。

それらを探る為に行なわれた新倉の精密検査。
この検査には、学校で超能力の開発を受けていた安達も対比検討の為に参加し、昨日は徹夜コース一直線。
とはいえ、学生の身分の安達が何度も外泊という訳にもいかないので、彼の代理で迫間が『安達生』として彼の部屋に宿泊したのだ。

迫間「おいおい……エアコンが逝ってるじゃん……」

昨日の時点ではギリギリ動いていたのだが、途中で力尽きたらしい。

しかも、志半ばで倒れたのはエアコンだけではないようだ。
昨晩の落雷が影響で、家電の半数が天に召されている。

迫間「(朝飯……どうするかな……?)」

冷蔵庫は辛うじて無事たが、いつエアコンと同じ末路を辿るかは分からない。
既にテレビや電子レンジに至っては、うんともすんとも言わない。

悲しい現実に涙腺が緩むが、どうせ困るのは安達なので、大してダメージはない。
654 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/06(水) 18:13:35.74 ID:2kBofMsJo

迫間「(どっかのファミレスにでも行くか……ん? そういえば、安達に何か頼まれていたような……あ、布団だ)」

明日はいい天気だから、起きたら布団を干してくれと頼まれていたのを思い出した。

迫間「(それにしても、天気予報マシンと例の実験の演算やってるメカが同じっていうのが笑えないな)」

自分達も記憶のデータ送信用に普段、勝手に拝借している某国の衛星とは別に人工衛星を持ってはいるが、
高度な演算装置を宇宙空間に天気予報の衛星として置いておく学園都市の発想には驚かされる。

迫間「ふんふふん、ふふふん、ふんふんふーん♪」

ガラガラ、とベランダに繋がる網戸を開けて、朝の新鮮な空気を取り込む。
いかん、外も暑い。

ナンカオヨメサンモラッタミタイナキブンダナ-ッテ

ナ、ナニイッテンノヨアンタハ!?

迫間「(む? 何やら隣の部屋から、ラヴ臭がするじゃん……)」

昨晩の落雷の原因と思われる某ビリビリ中学生の声が、隣家から聴こえてくるのは幻聴だろうか。
非常用の仕切りから、手摺の方へと身を乗り出して、隣を覗いてみる。

迫間「前に煽った俺が言うのも何だが……」

どうやら、今上条の部屋には例のビリビリ中学生が来ているらしい。
だって、ピンク色のエプロンを着けた少女がツンツン頭の少年に料理を振舞っているのが見える。

迫間「あ、朝から中学生の手料理とか……いっそ、殺ってやりたい……」プルプル

物騒な事を呟きながら、視線を戻そうとした時、迫間はそれに気が付いた。

上条の部屋のベランダに白い布団が干してある。

迫間「(何だ、上条も布団を干して………………!?)」

数泊の間の後、その布団の正体を理解した迫間は、隣の上条当麻の部屋へと突撃していた。
655 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/06(水) 18:15:50.16 ID:2kBofMsJo

同時刻


上条当麻の部屋


美琴「~~~~~♪」ジャブジャブ

上条「」ズズズッ

ご機嫌で使い終わった調理器具を洗う、女子中学生の後ろ姿を眺めながら味噌汁を啜る。

上条「(なんだ、なんだろう、なんなんでせうか、この状況は?)」パクパク

表面上は冷静に食事を続ける上条だが、内面は混乱気味である。……困惑と言ってもいいが。
何しろ、常用している三段活用にも普段のキレがない程だ。

――事の起こりは20分前。

上条は冷房が使えない為に眠れぬ夜を過ごして、睡眠不足気味だった。
それだけなら不幸のレベルで済んだのだが、冷蔵庫死亡に伴い、一部の食材が死線を超えてしまい、朝食抜き。

よくよく考えてみれば、昨晩もレストランで料理を食べ損ねている。
そんな訳で健康的な男子高校生の胃袋は、抗議のような音を鳴らしていた。

そして、腹の音に呼応するかのように電話がかかってきた。

――上条ちゃーん、バカだから補習ですー♪

と嬉しくもない、ロリ担任からの逢瀬のラブコール。

……不幸だ。

いつもの一言を終えた後、軽く泣きたくなるような状況で、それはやってきた。
ピンポンピンポンピンポーン!と連続かつ、執拗に鳴らされるチャイム。

何かの勧誘かと思って、無視を狙ってもみたが、一向に止まないチャイムに辟易しながら、ドアを開けると……

――き、昨日のお詫びに朝御飯作りに来たんだけど……

上条家の家電を瀕死に追い込んだ原因が、少しドキッとする上目遣いで立っていた。
656 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/06(水) 18:17:58.33 ID:2kBofMsJo

上条「(ぜ、前回の決闘後の時も思ったけど、この状況ってヤバくないか……?)」モグモグ

客観的には美少女である中学生が、手料理を振舞ってくれている。
これだけなら、充分に幸福だと言えるのだが……

上条「(こんな場面を誰かに見られたら……例えば、土御門とか……)」

その日の内に緊急時クラス連絡網が発動して、クラス中から吊し上げられるのは確実に思える。

そうなれば、今の幸福分を覆い隠す様な不幸の嵐に見舞われるに違いない。上条当麻は自分の不幸を嘗めてはいないのだ。

上条「(あ、でも昨日からの不幸を考えれば、相殺出来ている……のか?)」

不良達との追い駆けっこ。超電磁砲。落雷。家電死亡。朝食抜き。補習。
それらと『御坂美琴による手料理』がプラスマイナスゼロな時点で、ある種の異変が上条には起こっている訳だが、当人に自覚はない。

上条「(それにしても……この風景……)」ジー

上条の視線を感じたのか、洗い物をしていた美琴が振り返る。

美琴「……な、何見てんのよ。早く食べちゃいなさいよ……あ、もしかして、美味しくなかったの!?」ガーン

上条「いや、美味しいぞ? それこそ、自分で作る食事が悲しくなるくらいに」

美琴「そ、そう?/// ……ん? じゃあ、何で見てたのよ?」

上条「何か、お嫁さん貰ったみたいな気分だなーって」

色々と危険な台詞を可愛らしいフリル付きのエプロンを装備した家庭的超電磁砲へ向けて放ってみる。

美琴「な、何言ってんのよ、アンタは!? こ、これはあくまで昨日のお詫びなだけで……別に他意は無いんだからっ!」///

上条「まぁ、そうだよな。ちょっと思っただけだから、気にすんなよ(第一、そんな都合の良い話が不幸な上条さんにある訳がないんですよ)」ハア

美琴「べ、別に気にしてなんか……」

ピンポーン

美琴「……誰だろ?」

上条「――――――まさか」

先程の想像が脳裏を過ぎる。
657 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/06(水) 18:20:23.09 ID:2kBofMsJo

上条「えっと、俺が出るから……御坂は奥で休んでてくれ。洗い物は終わったんだろ? お茶でも入れるからさ」

美琴「――そう? じゃあ、お言葉に甘えて……」

言葉巧みに美琴を奥へと誘導し、仮に踏み込まれても、玄関先からは美琴の姿が見えないようにする。

上条「はーい、どちらさま……」ガチャ

そこに居たのは想像していた相手ではなく、その反対側の『お隣りさん』であった。

迫間「――よぉ、上条」

上条「……生? どうしたんだ、こんな朝から」

土御門や青髪ピアス程ではないにしろ、一緒に馬鹿をやってる以上、『類友』である友人に警戒心を滲ませながら問い質した。

迫間「悪いが、ここを開けてくれるか?」

上条「えっと、ここじゃダメか? 何か用事があるなら……」アセアセ

部屋の奥へ幾度も視線を送りながら、慌てる上条。

――これで隠せていると思っているのだろうか。

迫間「……言っておくが、俺の用件は『上条が隠したい事』とは無関係じゃん。
 ってか……本気で隠すなら、そのローファーも隠せよ」

言われてみれば、玄関に置きっぱなしだった御坂美琴の靴。

上条「ば、バレてる!? ……けど、無関係って……なら、何だよ?」

迫間「ベランダ」

上条「ベランダ?」

あまりにもサラッと言うので、どこかの外国人の名前でも聞き間違えたのかと思った上条。

迫間「……悪い事は言わないから、今すぐ見て来いって。俺はここで待ってるから」

上条「――分かった」

友人の真剣な表情に促された上条は部屋へと戻り、不思議そうな顔をしている美琴の横を通り抜けて、ベランダへと向かう。
658 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/06(水) 18:21:46.07 ID:2kBofMsJo

ガララッ

上条「……ベランダって、別に変な所なんて……布団が干してあるだけで……」

いや、待てよ? 自分は何時の間に布団を干したのだろう? 覚えがない。

……現に愛用の布団は未だに部屋の中だ。


――なら、この布団は何だ?


布団?「おなかへった……」

そして、布団は空腹を主張したりするだろうか?

                        
――上条当麻の部屋のベランダに銀髪碧眼のシスターさんが干されていた。 
670 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 10:38:40.68 ID:57sJx4i6o

上条の部屋のベランダに干されていた少女は、禁書目録(インデックス)と言うらしい。偽名?

干されていた訳ではなく、追われていて屋上から屋上へ飛び移ろうとしたら、撃たれて失敗したらしい。アクション映画?

撃たれたり、ベランダに引っ掛かったりしても無傷なのは、着ている修道服の効果らしい。防弾チョッキ?

彼女を追っているのは『魔術結社』とかいう胡散臭い連中らしい。オカルト?

そして何よりも――お腹が減っていたらしい。空腹?


【AM 9:19】


禁書目録「」パクパクモグモグ

美琴「……どんな胃袋してんのよ、このシスター」

既に美琴が作った朝食の残りは食べ尽くされ、腐りかけの冷蔵庫の中身まで、上条が止める暇もなく暗黒胃袋(ブラックホール)へと消えた。

禁書目録「ふぅ……久しぶりにおなかいっぱいになったかも。
       ……最初の料理は絶品だったし、最後のパンは少し酸っぱかったけど、美味しかったんだよ」

三人が見守る中、インデックスは優雅?に食事を終えた。

美琴「そりゃ、どーも」

別にこのシスターの為に作った訳ではないが、それでも純粋に賞賛されるのは悪い気はしない。
671 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 10:45:38.41 ID:57sJx4i6o

迫間「しかし、どうして学園都市の外部の人間が簡単に入り込んでるんだ?」ボソッ

自分だって侵入者である事を差し置いて、迫間は疑問を浮かべる。
むしろ自分が侵入する時に、それなりに下準備と小細工を施したからこその疑問だが。

上条「――どっかのビリビリ中学生が昨日の晩に雷雲呼んだり、停電させたりするから、セキュリティやら衛星の監視がザルになったんだろ」ボソッ

迫間「……なるほど。納得じゃん」ボソッ

美琴「何の話?」

上条&迫間「「何でもありませーん」」

美琴「ってか……アンタ、風紀委員じゃないの? 放っておいていいの?」

迫間「非番、という事で……事情を聞いてから考えるじゃん(安達じゃないから、義務もないし)」

上条「で、インデックス……でいいのか?」

禁書目録「うん、そうだよ。魔法名ならDedicatus545……献身的な子羊は強者の知識を守る、って意味だね」

迫間「(称号……みたいなもんか?)」

上条「で、魔力がないから魔術が使えないと言ってのける、インデックスさんが『魔術結社』なんてのに狙われてるのは何でだよ?」

そこはかとなく馬鹿にしながら、上条は聞いてみた。

禁書目録「……私は、禁書目録だから」

美琴「は?」

禁書目録「私の持っている、10万3000冊の魔導書。きっと、それが連中の狙いだと思う」
672 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 10:47:04.06 ID:57sJx4i6o

上条「ま、魔導書?」

禁書目録「うん。エイボンの書、ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)、死者の書……代表的なのは、こういうのだね」

迫間「(死者の書ぐらいしか知らないじゃん……)」

まぁ、それも小難しい本ばかり読んでいた、とある作家先生から聞いた程度なのだが。

上条「中身はともかく……お前、手ぶらにしか見えないんだけど」

美琴「何処かの倉庫の鍵でも持ってるの?」

禁書目録「ううん。ちゃんと10万3000冊、残らず『持って』きてるよ?」フルフル

上条「……バカには見えない本とか言い出すんじゃねーだろーな?」

禁書目録「バカじゃなくても見えないよ。勝手に見られたら意味がないもの」

上条「……、うわぁ」

呆れたように苦笑する上条は、より一層、オカルトへの不信感を募らせ――

美琴「(ってか、私にしてみれば、アンタの右手だって『オカルト』にしか思えないんだけど)」ジー

美琴は、『信じ難さ』では似たようなレベルの少年の右手を睨み――

迫間「(魔術師、それに禁書目録ねぇ……?)」

迫間は――その単語から、かつて出逢った一人の『魔女』を思い浮かべ、少しだけ感傷に浸っていた。

迫間「(このシスターが、『本物』だと仮定して……彼女の言葉に嘘偽りがないとすると……)」


――10万3000冊を持ってきてる、という言葉の意味は何か?


迫間「上条、トランプ持ってるか?」

上条「はぁ? 持ってるけど……何だよ、こんな時に」

迫間「こういう時に最適な格言があるじゃん」


『論より証拠』
673 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 10:48:56.51 ID:57sJx4i6o

迫間「ハートの12は?」

禁書目録「――右から3列目の4段目」

上条「あ、合ってる……?」ピラッ

迫間「スペードの5は?」

禁書目録「――右から6列目の3段目」

突如として開始された神経衰弱において、銀髪シスターの的中率は100%だった。

美琴「完全記憶能力……?」

迫間「流石は常盤台。このぐらいは知ってて当然か」

高度な『演算』を行い、また『開発』に伴って『脳』の分野への知識に明るい美琴と、
『記憶』という分野において、プロフェッショナルである『生』がその可能性に気付くのは当然の帰結であった。

上条「完全……何だって?」

迫間「完全記憶能力(かんぜんきおくのうりょく)……読んで字の如くの能力だよ。
    『一度見た物を一瞬で覚えて、一字一句を永遠に記憶できる能力』って感じかなぁ」

美琴「言っておくけど、学園都市にある『能力』とは無関係の……時折、普通に確認される体質らしいわよ」

上条「じゃあ、何か? こいつは、10万3000冊の魔導書とやらを全部『記憶』して、持ち歩いてるって事か……?」

禁書目録「言ったでしょ? 勝手に見られたら意味がないって」フフン

確かに、記憶の中にあるのでは勝手に見るのは不可能だろう。それこそ学園都市にいる読心能力者でもない限り。

上条「――でも、記憶力が良いのと、魔術があるかどうかは関係なくないか?」ウーン

美琴「あ……それもそうね」

10万3000冊が嘘なら、魔術師云々も嘘じゃないか? という疑惑だったのだから。

禁書目録「むー! どうして信じてくれないのかな!? 超能力は信じてる癖に魔術は信じられないなんて変なんだよ」プンスカ

上条「まぁ、確かにな」
674 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 10:50:15.22 ID:57sJx4i6o

禁書目録「大体、超能力者の街なんて言うけど、君達には何が出来るって言うの?」

上条「うーん、俺の場合は学園都市で開発した訳じゃなくて、産まれた時からの天然素材だからな……」チラッ

美琴「な、何よ」

上条「――ここにいる御坂美琴嬢は、学園都市に7人しかいない『超能力者』の第三位であらせられるぞ!」

懐から紋所を取り出して「頭が高い、控えおろう」と言い出しかねない、上条のテンションに美琴が後ずさる。

美琴「ちょ、やめてよ!? そういうの私が嫌だって知ってる癖に!?」///

言いながらも、上条に褒められるのは、それはそれで悪い気がしない美琴である。

禁書目録「よく分からないけど……学園都市で三番目に凄いって事なのかな?」

美琴「もう少し『超能力者』同士の序列は複雑なんだけど……少なくとも『電撃使い』としては、トップよ」

禁書目録「……見せて欲しいかも!」wktk

美琴「そ、そう……? しょーがないわねー」ニヘラ

バチンッ!
675 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 10:51:32.02 ID:57sJx4i6o

バキンッ!

上条「――って、どうして何の予告もなく、上条さんに電撃かましてんだよ、お前は!?」

禁書目録「おぉー、思ってたよりも凄かった! ……もっと見せて欲しいんだよ!」wkwk

美琴「なら、取っておきの『超電磁砲』を……」スッ

上条「スルー!? つーか、人の部屋で自分の異名の必殺技を出そうとは、どういう了見ですか!?」

何の躊躇も見せずにスカートのポケットからゲームセンターのコインを取り出した超能力者に対し、無能力者から渾身のツッコミが入る。

美琴「……どうせ、効かない癖に」
     
上条「うぐっ」
676 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 10:53:40.57 ID:57sJx4i6o

禁書目録「ところで、学園都市で三番目の人の能力を防いでる、そっちの君は何者なのかな? 一番か二番の人?」

迫間「(第一位は、こんなにアホっぽくないじゃん)」

上条「いや、どっちかと言えば、下から数えた方が早いんだけど……」

自分の能力を誰かに懇切丁寧に説明する、という経験に乏しい上条は、つい言い淀んでしまう。

美琴「学校の成績も?」ププッ

迫間「座布団一枚!」ケラケラ

上条「そこ、五月蝿い」クワッ

美琴&迫間「はーい」

上条「えっとな、この右手なんだけど」

禁書目録「うん」

上条「この右手で触ると……それが異能の力なら、原爆級の火炎の塊だろうが、戦略級の超電磁砲だろうが、
    神の奇跡(システム)だって打ち消せます、はい」

美琴「(改めて、引き合いに出されるとムカツクわね……)」

禁書目録「えー?」

返ってきた反応は、幸運のミラクルストーンの通販を見ているような猜疑的なものだった。

美琴「前に『右手』の話を聞いた時にも思ったんだけど……」チラッ

美琴が迫間へと視線を向ける。『安達生』から上条の右手の話を聞いた時の事を思い出しているようだ。

美琴「――そのインチキ商品の煽り文みたいな説明は、どこから出てきた訳?」

上条「さぁ……?」


――そういうものだ、と認識しているというか……知っている、というか……?


美琴「こんな奴に私は手も足も出なかったのか……」ホロリ
677 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:01:09.74 ID:57sJx4i6o

禁書目録「神様を信じていなさそうな人に神様の奇跡も打ち消せるとか言われても、説得力がないんだよ」

上条「魔術が使えないけど、魔術はあるとか言う、インチキ魔法使いにも説得力はないけどな」

禁書目録「い、インチキじゃないもん! ちゃんと魔術はあるだもん!」

迫間「……なんか見せてやればいいんじゃないか?」ヤレヤレ

禁書目録「分かった! 見せる! これ、この服!」

美琴「服?」

禁書目録「この修道服は『歩く教会』っていう、極上の防御結界なんだから!」

迫間「おっと、防御結界ときたか……」キラキラ

ロマン溢れるフレーズに迫間の目は輝くが、それとは対照的に

上条「何だよそれ……先刻から専門用語ばっかり並べやがって。本気で説明する気あるのか?」

イマイチ理解が追いつかないのか上条は呆れ顔だ。

禁書目録「本気で理解する気のない人に言われたくないかも! だったら、台所にある包丁で私を刺してみればいいんだよ!」

上条&美琴&迫間「「「いやいやいや!?」」」

禁書目録「信じてないね? これは『教会』として必要最低限な要素だけを詰め込んだ『服の形をした教会』なんだから。
       布地の織り方、糸の縫い方に刺繍の飾り方まで……全てが計算されているの。包丁程度じゃ、傷一つつかないんだよ?」

美琴「説明されたって、刺す訳ないでしょ……」

迫間「城とか教会が擬人化するラノベがあったなー」モンサンミシェルマジシスター

上条「お前は、信じてるのか信じてないのかどっちなんだよ……?」
678 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:02:33.77 ID:57sJx4i6o

禁書目録「とことん馬鹿にして……。
       これはトリノ聖骸布――神様殺しの槍に貫かれた、聖人を包み込んだ布地を正確にコピーしたモノだから、強度は法王級なんだよ?」

迫間「えーっと……核シェルターみたいな感じか?」

禁書目録「そう。物理、魔術を問わず全ての攻撃を受け流し、吸収しちゃうんだから。
       それこそ、原爆級の火炎の塊だろうが、戦略級の超電磁砲だろうが平気なんだよ!
       これがあるから、私だって無事に逃げ回っていられるんだしね」

美琴「――ほう?」

上条「……おい、御坂。まさか本気で超電磁砲を……?」

美琴「アンタは私を何だと思ってるのよ……確かめるだけなら、こんなモンで充分でしょ!」ビリッ

強めの静電気程度までに加減された電撃がインデックスの腕を目掛けて放たれる。

禁書目録「~~~♪」

美琴「うそ、効かない……?」ビリビリッ

再び、電撃を放つ。今度は少し強めに。

禁書目録「ふふーん♪ 何かしたのかな~?」

美琴「……ちょっと、アンタも右手を試しなさいよ」ムカッ

上条「え、俺も? ……御坂の電撃を防いだ時点で、割と納得したんですが」

毎度、電撃を浴びせられていた身としては、アレの危険性は重々承知している訳で。
少なくとも、インチキ魔法使いに防げるレベルの能力ではない事は確かなのだ。

美琴「そう簡単に防がれてちゃ、こっちだって悔しいんだから! 
    アンタの右手が有効なら、アンタが異常って事で自分を納得させられるじゃない!」

上条「何を言ってるんだ、お前は……」

どうやら美琴は『私の電撃を防いだって、結局はアイツの右手には勝てないんじゃない』という結論へと着地させたいらしい。

禁書目録「どんな挑戦だって、受けて立つんだよ?」フンス

美琴「ほら、やってみなさいってば!」グイグイ

上条「お、おい、御坂……」
679 :そのフラグをブチ殺す![saga]:2011/04/08(金) 11:04:58.76 ID:57sJx4i6o

迫間「――ちょい待ち」ガシッ

上条の右手が、インデックスの肩にかかる寸前、迫間は上条の手を掴んで引き止めた。

上条「生?」

迫間「上条の『幻想殺し』って……能力で作った物は、どうするんだっけ?」

上条の能力に関しては御坂との決闘を見たのと、安達からの又聞きでしか知らないので、改めて本人に確認を取る。

上条「能力で作った物? ……消える、かな」

迫間「能力の効果を受けてる……もしくは、能力で操ってる物は?」

上条「操って……?」

美琴「……私の砂鉄の剣は、強制的に砂鉄に戻されたけど」

上条「あぁ、そういう意味なら……能力の効果を受ける前の状態に戻す、だな。
    補足すると、空間移動とか精神操作系は、効果範囲が右手を含むから、そもそも効かないと思うぜ」

迫間「――つまり、こういう事か?」

ここまでの情報を能力から魔術へと置き換えてみる。

さらに多くの方にも分かりやすいようにドラクエ的に言えば。

①ギラ等の攻撃呪文→右手で消せる。
②スカラ等の効果がかかった装備→右手で触れば術の効果が消える。
③ルーラ等を上条にかける→右手が効果範囲なので、無効化。
④マジックアイテムor魔法の法衣等の魔術によって作られた装備→???
680 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:06:26.64 ID:57sJx4i6o

上条「……まぁ、そんな感じかな」

美琴「自分の能力の話なのに、どうしてそんなに曖昧なのよ、アンタは」

上条「だって、身体検査でも『無能力』判定なんだから、詳しく調べようもないしなぁ……今の説明だって、経験則? みたいなもんだし」

迫間「まぁ、それは置いといて……問題は、先刻の『歩く教会』の説明なんだが」


これは『教会』として必要最低限な要素だけを詰め込んだ『服の形をした教会』なんだから。
布地の織り方、糸の縫い方に刺繍の飾り方まで……全てが計算されているの。


美琴「この場合……『歩く教会』は④のケースよね? ――あぁ、なるほど」

自分の能力で言えば……砂鉄の剣ではなく、雷撃の槍のパターンが適応される可能性が高い。
『戻される』のではなく、『消滅』させられる訳だ。

上条「つ、つまりどういうことだってばよ?」

迫間「つまり、『魔術がかけられた服』なら術が消えるだけかも知れないけど、『魔術で出来た服』なら、服ごと木っ端微塵なんじゃね?」

禁書目録「えぇ!?」ビクッ

明確に『可能性』を示されて、半ば『やれるものならやってみろ』な気分で頭に血が上っていたインデックスの表情が青くなる。

上条「(え、もしかして……素敵イベントのチャンスだった?)」


――想像してみる。


触る→脱げる→見る→???

上条「(あれ? 御坂に説教される理不尽な未来しか想像できないのは、何でだ?)」
681 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:07:53.07 ID:57sJx4i6o

迫間「それで、シスターのインデックスさん的には『異性に素っ裸に剥かれる』リスクを背負ってまで、
    上条の右手が『魔術』に通用するか試したいー?」

禁書目録「え、遠慮するかも……」ソソクサ

美琴「ちょ、何で私の後ろに隠れるのよ」

禁書目録「だ、だって……」

美琴「――とりあえず、アンタはこの子に近づくの禁止ね」

上条「あ、扱いが酷い!?」

美琴「この子に指一本でも触れたら、警備員に通報するから」ビシッ

上条「俺が捕まんのかよ!? 不法侵入のインデックスじゃなくて!?」

美琴「けど、裸云々は別にしても、その『魔術』が消えただけでも大変なんだから、触らないように気を付けてあげなさいよ」

未だに『魔術結社』等の話は信じきれないが、それでも『歩く教会』の防御力の御蔭で捕まらずに逃げまわっていられると言うのであれば。
彼女にとって、『歩く教会』が破壊される事などあってはいけないし、そうなれば捕まるのも時間の問題になってしまうかも知れない。

上条「いや、そもそも……『右手』を試せって言ったの御坂じゃねーか」ゲンナリ

美琴「うっさいわねぇ……それとも何? そんなにこの子の裸が見たいの?」ギロッ

上条「ば、馬鹿言え!? こんな起伏に乏しいガキの裸見て興奮する程、上条さんは落ちぶれては――」ハッ
682 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:09:05.68 ID:57sJx4i6o

迫間「(馬鹿だ、ここに馬鹿がいるじゃん!)」

禁書目録「…………」ギラッ

上条「あのー、シスターさん? そんなに歯を剥き出しにして、どうなさるおつもりで……?」

敬虔で、心の広い修道女にだって許せない言葉はあるのである。

美琴「…………ふーん」バチンバチン

上条「そして、何故に御坂さんまで前髪から雷を迸らせておられるのでしょうか……?」

日頃から、黒髪ツインテールの後輩に『自己主張の弱い』『慎ましい』等と好き放題に言われている美琴としても、上条の発言は看過出来ない。

そして、何よりも。

女には、主義主張や立場を超えて手を取り合わなければいけない時がある。

上条「お、落ち着け二人とも……れ、冷静に話を―――っ!?」


――乙女の繊細な心を傷つけた、悪逆の徒へ正義の鉄槌が下される。


ガブガブッ!!!

ビリビリイ!!!

ヤーメーテー!?

ゲラゲラ
683 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:19:41.37 ID:57sJx4i6o

~五分後~



美琴「あー、なんかスッキリしたー!」ツヤツヤ

禁書目録「天誅なんだよ」フンス

上条「」Ω\ζ°)チーン

美琴&禁書「「☆-(ノ゚Д゚)八(゚Д゚ )ノイエーイ」」

黒焦げで煙を上げる上条を尻目にハイタッチをしだす美琴とインデックス。

上条「……不幸だ……」ボロッ

噛みつきと電撃の複合コンボを喰らい、上条当麻は満身創痍であった。
しかも、下手に右手で防げばインデックスの『歩く教会』を破壊してしまう恐れがあり、実質されるがままだったので、普段よりもダメージが酷い。

迫間「口は災いの元じゃん」ワライスギテハラタイラサンニサンゼンテン

上条「照れ隠しだったんだ……別に地雷を踏むつもりはなかったんだ……」ヨロッ

迫間「――思うんだが、お前の不幸の半分ぐらいは要領がよければ防げないか?」

『安達生』とは違って、付き合いの長い友人ではない『迫間生』だからこその客観的な意見である。

上条「言わないでくれ……時々、自分でもそう思うんだから……」グスッ

禁書目録「今の失言は別にしても、君の『右手』に『異能の力』を消し去る力があるなら、不幸なのは納得かも」

上条「――へ? ど、どういうことでせう?」

禁書目録「少しはこっちの世界の事を信じてくれたみたいだから、教えてあげるんだけどね?」

上条「」(;゚д゚)ゴクリ…

禁書目録「神様の加護とか、運命の赤い糸とか……眼に見えないけど、世界にある不思議な力……
       『幸運』なんかも、君の右手は手当たり次第に消してしまってるんじゃないかな?」
684 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:21:48.02 ID:57sJx4i6o

上条「――――つまり、あれですか」

禁書目録「君の右手が『空気』に触れているだけでも、バンバン不幸になっていくって訳だね♪」

上条「ぎゃあぁあああああああああああああああああ!! ふ、不幸だあぁぁあああああああああああ!!」

迫間「うわぁ……」

何と表現すればいいのか……要するに『これはひどい』。

美琴「」ポン

絶望の声を上げる上条の肩に美琴の手が優しく置かれた。

上条「みさか……」ウルウル

美琴「い、一杯食べて元気だそうよ!」

上条「ちくしょおおおおおおおおおおお!! 無理して同情すんなあああああああああああああ!!」

それに美琴が作った朝食の残りどころか、冷蔵庫に中の腐りかけまで、インデックスの胃袋の中である。

迫間「(今、もっと良い言葉を掛けてたら……上条の奴、御坂に惚れてたんじゃ……)」

禁書目録「お腹いっぱい食べさせてもらったし……私はそろそろ行くんだよ」クスクス

インデックスは小さく微笑むと、身体と修道服を翻して、トテトテと玄関へと向かった。

上条「……どこか行くアテでもあるのかよ?」

迫間「追われてるなら、下手に動きまわるよりも、何処かに潜伏してた方がいいんじゃないか? 汚いけど、こことか」

美琴「確かに魔術師?とかいう連中がうろついてるなら、大人しくここにでもいたら? 汚いけど」

上条「お前等……汚い汚い連呼しやがって……えっと、汚くてもいいなら、ここに居てもいいんだぞ?」

禁書目録「――ここにいると、『敵』が来るから」

インデックスは、三人の申し出を断ち切るように告げる。
685 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:23:45.42 ID:57sJx4i6o

上条「敵って……何で、断言できんだよ?」

禁書目録「この服……『歩く教会』は、魔力で動いてるからね。それを元に探知をかけてるんだよ」

そんな、動く発信機のような服を着続けているのは、やはり『歩く教会』の防御力が必要だからなんだろうか。

禁書目録「でも、教会まで行けば匿ってもらえるから」

美琴「教会までって……アンタ、不法侵入なんだから……学園都市の土地鑑なんてある訳ないわよね?」

しかも、風紀委員や警備員の力は頼れない。
彼等の役目は『学園都市の風紀と学生』を守る事で、『外部から侵入者』を助ける事ではないのだから。

つまり、事実上の孤立無援で、インデックスは見知らぬ科学の街で魔術師から逃げおおせなければいけない。

禁書目録「まぁ、でも私が所属している教会の支部さえ見つければ、それで済むから」

上条「はい、そうですかって……お前を放り出せって言うのかよ?」

禁書目録「……、じゃあ。私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」

上条「――っ!」

美琴「アンタ……」

迫間「…………」チッ

その辛すぎる笑顔に上条だけでなく、迫間と美琴も言葉を失った。

優しい言葉に隠された、どこまでも優しい拒絶。

――こっちくんな。
686 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:24:40.06 ID:57sJx4i6o

禁書目録「それじゃ。ご飯、ありがとね? すっごく、美味しかったんだよ。――さようなら」

美琴「ちょ、ちょっと!」

インデックスの姿が、玄関のドアの先へと消える。

消えてしまう。

上条「っ!」ダッ

追った。

何が出来るか分からないのに。

ただ、見送ることだけはしたくなかった。

上条「おい! 何か困った事があったら、また来て良いからな!」

それなのに、そんな事しか言えなかった。

禁書目録「うん。おなかへったら、またくる」ノシ

笑顔で手を振るインデックスを、ドラム缶のような形状の掃除ロボが追い立てていく。

禁書目録「ひゃい!? な、何これー!?」ワタワタ
687 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:26:05.64 ID:57sJx4i6o

美琴「――良かったの?」

後ろから、気遣うような声。

上条「……何が?」

美琴「……ゴメン、何でもない」

上条「そっか。――さてと、俺も補習に行かねーとなー」

美琴「うわ、夏休みの初日から? 普段の頑張りが透けて見えるわね」

上条「どうせ、上条さんは落ちこぼれですよ……生、補習は?」

迫間「いや、『俺』は無いけど」

ちなみに、これは『安達生』に代わっての発言である。

上条「うそっ!? 何でだよ!?」

迫間「それこそ、普段の頑張りの差じゃねーの?」

とりあえず、そんな風に答えておく。

……迫間の学生時代もそうだったが、何故か生達は遅刻が多い。
勿論、色々な諸事情があっての事だが。

だがver.3の安達の場合、学業に関する知識も百数十名分の『結果』が蓄積されている。
いくら遅刻を繰り返していても、成績自体は補習を喰らう程に悪くはないのだ。

上条「くそぅ……裏切り者め……」

美琴「なっさけないわねー……じゃ、私は帰るから」クスクス

上条「……アリガトな、今日は。いや、今日もか」

美琴「――だ、だから、昨日のお詫びであって、別に他意は……」///

迫間「あの、人の目の前でイチャイチャしないでもらえます?」

上条&美琴「「イチャイチャなんかっ!」」

奇しくも、台詞が重なってしまった。それはもう見事に。

美琴「あうぅ……」///

上条「――行ってくる……」///
688 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/08(金) 11:31:00.75 ID:57sJx4i6o

迫間「ったく……これだから、若い連中は……」

肉体年齢は別にしても、感覚的に10年前に高校生をやっていた迫間からすれば、上条と美琴の初々しさは羨ましく思える。

迫間「――さてと、俺も動きますか」

一人残された迫間は、二人の姿が見えなくなったのを確認すると、携帯を取り出し、短縮に登録された番号へかける。

迫間「御坂美琴(オリジナル)の周辺を哨戒中なのは誰だ?」

???『私、ミサカ00013号ですが。……何か御用ですか?』

迫間「13号か……ちゃんと、聞いていたな?」

――幸いだった。

学園都市の中で活動中の『妹達』の中でも彼女は特に『優秀』だ。

00013号『えぇ、それも仕事の内ですので』

迫間「インデックスの居場所は分かるか?」

00013号『スコープ越しですが、追跡(トレース)は万全です。と、ミサカは掃除ロボに追い立てられる銀髪シスターを照準に捉えます』

迫間「頼むから撃つなよ? 絶対に撃つなよ?(狙撃体勢に入ってる時は口癖でるんだよな、コイツ)」

00013号『それは俗に言う『振り』ですか? と、ミサカはお笑い芸人的な発想で聞き返します』

迫間「…………」

00013号『謝りますから、無言は勘弁して下さい。と、ミサカは迫間さんに許しを請います』

迫間「――今から追いかけるから、場所を教えてくれ」

00013号『――了解しました。依頼料はスイス銀行に頼む。と、ミサカは既に仕事の完了後を見据えます』

迫間「大丈夫かな、コイツら……」

蘇生されてから、個性の成長の方向性が斜め上に突き抜けている気がした。

だが、今はそれよりも。

――サヨウナラ……

迫間「嫌な事、思い出させやがって……あの腹ペコシスター」ギリッ

……放っておける筈が無かった。 
712 :とある複製の妹達支援[sage saga]:2011/04/27(水) 13:16:54.30 ID:3MZrhNkZo
学園都市・第七学区


【AM 10:35】


固法「」ピッピッ

昨晩の停電から未だに復旧していないのか、大通りでは風紀委員が交通整理を行っていた。

美琴「(固法先輩、仕事を増やしてゴメンなさい……)」コソコソ

心の中で謝罪しながらも姿は見られないように、こっそりと移動する。

普段のように不良を返り討ちにした余波での停電なら美琴だって気にしたりはしないのだが、流石に今回はそうもいかない。

美琴「(インデックスが学園都市に来たのだって、遠因は私にある訳で……)」

それで彼女の逃亡が有利になったのなら、少しは救われるが――

美琴「(けど、魔術結社って……)」

だが、彼女を追った『魔術師』とやらも学園都市に侵入しているとすれば大問題だ。

美琴「(結局、情報もスカったし……あ、アイツには変な場面を見られるし……)」

どうも全ての行動が裏目に出ているような、そんな気分にすらなってくる。

美琴「(まぁ、でもあの爆弾魔が『幻想御手』を使っていたなら、今頃は警備員の取り調べで何か分かって――)」

シュン

美琴が横断歩道を渡り切ろうかという時、目前の空間から突然、一人の少女が現れた。

黒子「あ、お姉様!?」

美琴「黒子?」

黒子「ナイスタイミングですの!」グイッ

何か焦るような様子を見せる黒子は、美琴の手を取って、再びテレポートを行おうとする。

美琴「ちょ、ちょっと! どうしたのよ!?」

黒子「――問題が起こりましたの!」
713 :とある複製の妹達支援[sage saga]:2011/04/27(水) 13:18:27.67 ID:3MZrhNkZo

学園都市・第五学区


【AM 10:40】


~アクメツクローンプラント~


黒子と美琴が、とある病院へと向かっている頃――プラントにも同様の報がもたらされていた。
情報を送ってきたのは警備員として活動中の風見生。情報を受け取ったのはプラント常駐組の早坂や烏丸である。

生(早坂)「――介旅初矢が意識不明?」

生(烏丸)「ん? 誰だ、それは」キョトン

生(風見)『例の虚空爆破事件の犯人じゃん。ウチの支部で聴取をしてたんだが……取り調べの最中に突然、倒れた』

モニターに表示される風見の表情は困惑そのものであった。

生(早)「……まさか、新倉や藤崎が脅かしすぎて……心因性で、とか?」

生(風)『いやいや、変装なしで俺が取り調べすれば、そうなるかも知れないけどさ……取り調べを担当したの、俺じゃないし』

生(烏)「それで、その介旅はどうなったんだ?」

生(風)『近くの病院に搬送されたじゃん――状況が状況だから、新倉にも伝えてくれ』

生(早)「――『幻想御手』の副作用の可能性か」

もしも、『幻想御手』の副作用による昏睡ならば、その危険は新倉生……そして、佐天涙子にも迫っている可能性がある。

生(烏)「やれやれ、今日は忙しくなりそうだな……」

そんな一言と共に、烏丸は『新倉』がいるであろう、部屋の天井……そのさらに上を仰ぎ見た。
714 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/04/27(水) 13:20:22.83 ID:3MZrhNkZo
同時刻


~筋ジストロフィー研究センター 隠匿区画~


絶対能力進化計画に参加している研究施設には、一般には知られていない区画が存在する。
そこで『妹達』の調整や『実験』が行なわれているのだが、今日は違った。

生(新倉)「眠い……頼む、布束さん……俺を寝かせてくれ……」

布束「well なら最後にもう一度、能力強度を調べて終わりにしましょうか」

生(安達)「ってか、昨晩から付き合わされてる俺も、既に限界じゃん……」

行なわれているのは、『妹達』用の能力強度を調べる施設を利用しての、新倉生に発現した能力の調査だった。

布束「――気にならないの? 何故、学園都市で開発を受けていない新倉さんに能力が発現したのか」

生(安)「まぁ……2年近く、学園都市で無能力者やってる身としては、少しは気になるけどな」

だがそこには、疑問はあっても嫉妬はなかった。

生(新)「どうしてだろうな? DNAレベルで同一の個体なんだから『妹達』の事を考えれば……」

新倉生に能力の『才』があるのなら、他の生にも同様の素質が眠っていても不自然ではない。

芳川「それを踏まえると、興味深い研究テーマね。
    キミ達の『オリジナル』の問題なのか、それとも『自分だけの現実』の問題なのか」

――それとも、それこそが『幻想御手』の効果なのか。

生(新)「(オリジナル……神宮路、か)」

自分達の根源(オリジナル)は、パーフェクトONEだと生達は思っているが、それは彼のように生きたいという願望に近い。
実際には、稀代の悪党で狂人の神宮路がオリジナルだと、正確に理解している。

生(新)「(……流石に能力の才能まであったとも思えないが)」

元になった人間が、無能力者か、超能力者かの違いだろうか。

――ふと、何かが意識の端に引っ掛かったが、眠気の所為か、ハッキリとしない。
715 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/04/27(水) 13:22:27.38 ID:3MZrhNkZo

芳川「――特に体調の変化はないんでしょう?」

生(新)「強いて言うなら、すごく眠いじゃん」

布束「少し、脳波に乱れがあるけど……発現の影響……かしら」

生(新)「ん~~? その所為かなぁ?」

生(安)「何が?」

生(新)「どうも、能力の使い勝手が変というか……不完全燃焼してるみたいというか……発火能力だけに」

芳川「確かに強度(レベル)の測定にも、ムラが出てるようだけど」

布束「他のデータを見る限り、最低でも強能力(レベル3)相当の筈なのに……肝心の能力の出力が低いみたい」

さらっと挟んだギャグも、研究者肌の二人には軽く流されてしまった。

安達「演算能力に問題がある、とか?」

芳川「その可能性は低いわね。
    元々、『アクメツ』として複数の人間の記憶や知識が統合されているキミ達は、その手の計算力も上がっているもの。
    能力に対して『不慣れ』という事は考えられるけど、決して演算能力が低い訳じゃない」

生(新)「もっと、何か出来そうなんだけど、それが何か分からないんだよな……」メラメラ

溜め息を吐きながら、新倉は手の中で炎を弄ぶ。

生(安)「観測と演算に問題がないなら、色々と試してみれば、そのうち調子も出てくるんじゃないか?」

生(新)「そうか~?」

芳川「時間はあるんだから、自分の能力の名前でも考えたら? どうも普通の『発火能力』とは毛色が違うみたいだし」

生(新)「え、能力名って自分で考えんの?」

布束「大概は、既存の能力との対比や、能力特性を元に研究施設なんかで付けてもらうケースが多いのだけど……」

芳川「キミの場合、『書庫(バンク)』への登録は難しいから、好き勝手に名前を付けていいんじゃない?」

生(安)「確かに俺と違って学生の身分がある訳じゃないし、『安達生』として登録するのも問題だもんな」

生(新)「うわっ……そうなると、どんな名前にするか悩むな……」

悩むと言いながらも、その表情は輝いていた。
特撮、ヒーローアニメ等をこよなく愛する生達にとって、この手の思案は大好物である。

布束「――その前に検査」

楽しそうに名前を考え始めた新倉に布束から釘が刺された。

生(新)「」(´・ω・`)ショボーン

新倉生の能力に名前が付くのは、まだ少し先らしい。
716 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/04/27(水) 13:26:22.46 ID:3MZrhNkZo

【AM 10:45】


~水穂機構病院~


黒子「――このようなケースは稀なのでしょうか?」

病室で寝かされている介旅初矢を横目に黒子は担当の医師に問いかけた。

医師「稀少だった、と申し上げるべきでしょうか。
    つい先日までは、私もこのような症例は診たことがありませんでした」

美琴「それって、つまり――」

医師「――ええ。今週に入ってから、同じ症状の患者が次々に運ばれてくるようになりました。
    他学区の病院でも状況は一緒で、対応に追われているのが現状です」

運ばれてきた患者たちのカルテを見ながら言う医師には疲労感が滲んでいた。

美琴&黒子「「!」」

そのカルテを後ろから覗き見た二人は、そこに自分達の知っている学生達がいるのを確認した。

美琴「(いつぞやの眉毛の子に、この前の銀行強盗犯まで……)」

黒子「あの、これまでに患者が回復したケースは?」

医師「今のところは、一例もありません。
    学園都市最高の医療技術を持つ、冥土帰し(ヘブンキャンセラー)ですら、苦戦を強いられているそうですから……」
717 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/04/27(水) 13:27:15.77 ID:3MZrhNkZo

美琴「新種の伝染病とか?」

医師「ウィルスは検知されていませんし、二次感染も確認されてませんので……その可能性は低いでしょう。
    ただ、意識不明者の間で何らかの共通の要因があるのは、間違いないはずです」

美琴「(まさか、これも幻想御手が……?)」

黒子「(情報不足ですから、今のところは何とも言えませんの……)」

医師には聴こえないように二人は小声で相談する。

黒子「――ですが、仮にそうだとするなら事態は深刻ですわね」

医師「情けない話ですが、当院の機材やスタッフの手に余る事案ですので……外部から大脳生理学の専門チームを招きました」

コツ…コツ…

???「――お待たせしました」

背後からの声に各々が振り返り、その声の主を正面に見据える。
複数の研究員らしき男達の先頭に見覚えのある女性が立っていた。

美琴「あれ?」

黒子「あら?」

???「水穂機構病院院長から招聘を受けました、木山春生です」

美琴「あなたは……」

そこにいたのは、7月17日に遭遇した『脱ぎ女』であった。
718 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/04/27(水) 13:31:39.42 ID:3MZrhNkZo

学園都市・第一〇学区


【PM 1:15】


~とある教会~


禁書目録「…………」トボトボ

教会から暗い顔をして出てきたインデックス。

迫間「おかえり」

そんな彼女に門の前で待っていた迫間が声を掛ける。

禁書目録「……ただいま」ショボン

上条の家で別れた後、迫間はミサカ13号のサポートを受けながらインデックスを追いかけ、合流を果たしていた。
最初、「迷惑を掛けたくない」と迫間を拒むインデックスを強引に納得させ、今は教会巡りの最中である。

迫間「ここもハズレか?」

禁書目録「……うん。ダメだったんだよ」

――これで、五軒目だった。

教会の外観の時点で、インデックスが「ここは違うんだよ」と言って、入りもしなかった教会を数えれば既に二桁台だ。

迫間「学園都市で、唯一墓地のある学区だから期待したんだが……」

禁書目録「ゴメンね? 付き合ってもらってるのに……」

迫間「それは別にいいんだけど……やっぱり、イギリス清教式の教会自体が少ないのか? 
    確か、ローマ正教の世界支配から脱する為の教会なんだろ?」

禁書目録「……妙にこっちの事情に詳しいんだね、しょうって。
       まぁ、ここが科学の街なのも影響しているとは思うけど……旧教三大宗派とは言っても、まだ規模は小さいからね」

迫間「地震国だから、古い建物の現存率も低いからなぁ……」

溜め息を吐きながら、耳に付けたピアスを軽く弾いた。
719 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/04/27(水) 13:32:48.39 ID:3MZrhNkZo

ここまで第九、一二、一四、一九学区と教会のありそうな学区に狙いを絞って見て回って来たが、
インデックスの求める『イギリス清教式の教会』の発見には至らなかった。

禁書目録「ねぇ、もう付き合ってくれなくてもいいんだよ? これ以上は本当に……」

迫間「地獄の底まで、ってか?」

禁書目録「そ、そうなんだよ! 酷い目に遭うかもしれないんだよ! いいの!?」ガオー

迫間「あー、はいはい。怖い怖い」ナデナデ

禁書目録「ばっ、馬鹿にしてる!?」

迫間「してる」

禁書目録「むきー! しょうは嫌な奴なんだよ!」ポカポカ

迫間「はははっ! 当たらん! 当たらんよ!」サッサッ

抗議のグルグルパンチを華麗に避けていると――

キュルルルル

――静まり返った街に小さな自己主張の音が。

迫間「…………」

禁書目録「あぅ……」///

迫間「もしかして、お腹減った?」

禁書目録「」コクリ

中途半端な時間だったが、上条の家でそれなりに食べた筈なのだが。
720 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/04/27(水) 13:34:47.71 ID:3MZrhNkZo

迫間「うーん、どうするか……」パチン

財布を取り出して、中身を確認する。

ちなみに第一〇学区は、学園都市でも特に治安の悪いエリアである。
当然ながら、インデックスを待っている間に迫間も馬鹿な不良に財布を狙われたりした訳で。

……つまり、どういう事かと言うと。

お腹を空かせた修道女を満腹にするのが容易なぐらい、迫間の軍資金は潤沢だった。

――尊い寄付に感謝せねばなるまい。

迫間「第七学区に戻って、何か食べるか」スタスタ

禁書目録「う、うん!」トテトテ

お腹の音に関して、深く触れないでくれたのは嬉しかった……乙女としては。

迫間「……そういえば」

禁書目録「なに?」

迫間「腹の音、意外と可愛いじゃん」ニヤニヤ

禁書目録「――やっぱり、しょうは嫌な奴かも」

迫間「イメージ的には……」

グルグルチュドーン

迫間「――とか」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨・・・・・・

迫間「――みたいのを想像してた」

721 :とある複製の妹達支援[saga ]:2011/04/27(水) 13:35:54.95 ID:3MZrhNkZo

禁書目録「な、なんてことを言うのかな!? なんか、それ既に人間から出る音じゃないよね!?」

迫間「いやいやー? インデックスさんの腹ペコっぷりなら妥当ですよ?」

禁書目録「むー!」プク-

迫間「そう、むくれるなって……腹一杯食べていいから」

子供が腹一杯食べられる世の中であって欲しいと願う。
目の前にいるのは、節制すべき修道女だが。

禁書目録「そ、そんな事で許してもらえると思ってるのかな!?」ウキウキ

迫間「デザートにアイスも許可しようかなぁ~?」

禁書目録「――神は貴方を許しました」パアアアアア


後光を放つインデックスによって、迫間は許されたらしい。

迫間「(コイツの扱い方が分かってきたじゃん……)」

ちょろ甘だな、とインデックスには見えないように、こっそり笑ったのは秘密である。


722 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/04/27(水) 14:16:12.41 ID:3MZrhNkZo

学園都市・第七学区


【PM 1:40】


~焼肉チェーン『猛角』~


禁書目録「や、焼肉!?」キラキラ

迫間「残念ながら、目当ては別なんだけどな」

禁書目録「……焼肉じゃないの?」シュン

迫間「まぁ、二人で焼肉ってのもアレだしな。今度、上条や御坂を誘って来ればいいだろ」

禁書目録「今度?」

迫間「そ、今度」

そんな機会があるのかどうかすら、今のインデックスには分からない。
少なくとも、逃亡者である自分にそのような猶予があるとは思えなかった。

――でも。

禁書目録「そうだね、ご飯はみんなで食べた方が美味しいもん」

そんな機会に恵まれたなら、それはとても楽しい時間になる筈だ。

迫間「よし、中に入るか!」

禁書目録「おー!」

昼食には少し遅い時間だが、店内は多くの学生客によって賑わっていた。

ワイワイガヤガヤ

トンググイダト!?

ニクジルイノ-チ!!

コノジュースキエルヨ

723 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:17:29.11 ID:3MZrhNkZo

1番テーブル 二人席


店員「お待たせしました~」プルプル

迫間「お、きたきた」

禁書目録「……や、山盛りのカレーライスが来たんだよ!」キラキラ

既に『山盛り』を通り越して『ドカ盛り』レベルのカレーライスに運んでいる店員さんも苦戦している。

店員「ランチメニューのカレーライスが2つ、で宜しかったでしょうか?」プルプル

イタダキマ-スナンダヨ

迫間「はい。……だ、大丈夫ですか?」

パクパクモグモグ

店員「バイトにも意地がありますので……では、ごゆっくりどうぞ」ニコニコ

禁書目録「おかわり!」

迫間&店員「えええええええええええええ!?」


――インデックスの前に鎮座していたカレーライスの山が、消滅していた。


迫間「い、何時の間に……?」

店員「店長おぉおぉぉおおおお!! ケースF発生! ケースF発生ですぅぅうぅぅ!」

ケースF――突然のフードファイター襲来を告げるべく、店員は青い顔で厨房へと駆け戻った。

禁書目録「大きなお肉がいっぱい入ってて、すごく美味しいんだよ!」

迫間「焼肉屋だからな。肉の仕入れ先がしっかりしてるから、普通のカレーの肉の質もいいんだよ。
    学生向けのランチメニューだから、この量にコーヒーが付いて500円という破格の値段じゃん」

ランチタイムは2時までだったので、一回注文して終わりだと思っていたのだが……

迫間「(このスピードだと、2時までに何皿食べるか分からんぞ……)」ゾクッ

……財布の中には諭吉さんが何人か控えているので大丈夫だとは思うのだが。
724 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:18:36.61 ID:3MZrhNkZo

~20分後~


迫間「5皿目か……」メルメル

仲間達へ簡単に今朝からの事をまとめたメールを打ちながら、ぼんやりと目の前で繰り広げられる宴を眺める。
ミサカ13号(サーティーン)がある程度の報告はしている筈だが、こういうのは当事者が連絡するのが筋である。

禁書目録「」パクパクモグモグ

追加のカレーを運んでくる店員さんが震えていたのは、その重量の所為だけとは思えない。

迫間「(――魔術師なる連中が、学園都市に侵入した可能性あり、要注意と)」ピッ

注意を促すメールを兄弟達へと送信する。

???「お、メールだ」

迫間「ん?」

少し離れたテーブル席から、妙にタイミングよく声が上がった。

迫間「まさか……」ヒョイ

声のしたテーブルの様子を窺う。

――そこには。
725 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:20:08.98 ID:3MZrhNkZo

8番テーブル 六人席 


~とある複製達の食肉祭~


生(椿)「」フムフム

迫間からのメールを読む椿生を余所にして、テーブルの上では変装した『妹達』による肉の宴が開かれていた。

00777号「いやー、13号が哨戒任務を代わってくれてラッキーでした、とミサカは喜び勇んで上ミノに箸を伸ばします」ワーイ

01296号「ミサカの胃袋は宇宙です。と、ミサカは向こうのテーブルの銀髪シスターに対抗して追加注文します!」オカワリ-

00428号「あ、これ食べてもいいかな? と、ミサカは答えを聞かずに523号が焼いていたタン塩を強奪します」ヒョイパク

00523号「ま、まいったぜ……と、ミサカは428号の食い意地に呆れ果てます。ちょ、913号まで!?」

00913号「ふん、油断しているのが悪いんですよ。と、ミサカは手を拭きながら鼻で笑ってやります」ゴシゴシ

生(椿)「お前等、加減しろよ……? ってか、428号とは週一で焼肉に来てないか……?」

00428号「き、気のせいですよ。仮にそうなら、ミサカの胃袋は既にボロボロです、とミサカは嘘を吐きます」ワタシノカラダハボドボドダ

生(椿)「嘘と同時に白状!?」

00913号「他の学園都市潜入班が焼肉に行く時も、428号は平然と紛れ込みますからね。と、ミサカは密告します」

00428号「う、裏切り者! と、ミサカは913号を弾劾します!」

全員「「「お前が言うな」」」
726 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:21:22.50 ID:3MZrhNkZo

オモイニモツヲ-マクラニシタラ-


00913号「鳴ってますよ? と、ミサカは財布係の携帯の鳴動を示唆します」

生(椿)「誰が財布係だ……」ピッ

01296号「だれへしょうひゃ、ひょんなときに(誰でしょうか、こんな時に)」パクパクモグモグ

生(椿)「口に食べ物を含んだまま喋るんじゃありません――はい。あぁ、先生……急患ですか? 意識不明で……容態は安定して?」

00428号「……どうやら、電話の相手は例のカエル顔のようですね。と、ミサカは漏れ聞こえる声から、相手を予想します」

生(椿)「はい……他の病院にも? えぇ、ここ最近から……? 分かりました、こちらでも調べてみます」ピッ

00523号「この展開だと緊急の呼び出しなのでは? と、ミサカは過去の経験から推察します」

生(椿)「523号、正解。――俺はこれからプラントに戻って、少し調べないといけないから……」

01296号「そ、そんな!? まだ追加注文した料理も来てないのに!?」

生(椿)「いや、支払いの為のカードは置いていくって……でも、だからって食い過ぎるなよ? 特に1296号」

01296号「……」ムムム

生(椿)「あと、お前達は一応は潜伏中なんだから、目立たないようにして帰って来い」

妹達「「「「「はーい、とミサカは了承します」」」」」

ちなみに、椿の忠告を華麗にスルーした1296号によって、二回目のケースFが発生したのは言うまでもない。

727 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:22:21.24 ID:3MZrhNkZo

1番テーブル


……どうやら、学園都市に潜伏中の『妹達』の外食デーにかち合ったらしい。

迫間「(楽しそうで何よりだけどな)」

外部で割と気ままに過ごしている『妹達』と違って、潜入班は息苦しい思いをしているだろう、という配慮から出来た日だ。
ちなみに引率役になるのは、一般的な仕事に従事していて、尚且つフットワークの軽い生である。

迫間「(1296号とインデックスの所為で、店員さん達が戦々恐々としてるじゃん……)」

しかし、店員さん達の困惑の原因は二大フードファイター襲来だけではない。

店員A「うぅ……あそこの女の子達……焼肉屋なのに持ち込んだシャケ弁とか、サバ缶食べてるよ……」

店員B「持ち込み禁止なのに……注意したのか?」

店員A「一番、大人っぽい子に言ったんだけど、もの凄い怖い目で睨まれた……」グスッ

よっぽど怖かったのか、店員は半ベソをかいていた。

店員B「泣くなよ……あっちの六つ子も追加注文が早くて大変なんだから……」

迫間「(シャケ弁にサバ缶……?)」チラッ

話題のテーブルへと視線を送る。

――そこには。
728 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:23:52.75 ID:3MZrhNkZo

6番テーブル 4人席


~とある暗部の退院祝い~


フレンダ「と、言う訳で――」カンパーイ

絹旗「超退院祝いです!」カンパーイ

???「普通、退院した奴らがそれを言う?」カチン

???「」スピー

フレンダ「だって、麦野は言ってくれそうにないし……」

絹旗「滝壺さんは、いつものように超睡眠モードですし」

フレンダや絹旗と同じテーブルを囲むのは、彼女達の所属する『アイテム』の同僚達である。

フレンダの隣で、仕方なさそうに乾杯に付き合うのは麦野沈利(むぎのしずり)。
ふわふわした茶色の髪と、ブランド物で統一された服に身を包んだスラリとしたスタイルの美人だ。
彼女は学園都市に七人しかいない超能力者(レベル5)の第四位であり、アイテムのリーダーでもある。

絹旗の隣で目下爆睡中の少女の名前は滝壺理后(たきつぼりこう)。
肩で切り揃えられた黒髪と、年中変わらずに着ている桃色のジャージが特徴だろうか。

729 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:25:46.90 ID:3MZrhNkZo

麦野「払いは私持ちなんだから、そのぐらいで文句言ってんじゃないの」

滝壺「3番テーブルから、信号が来てる……」ムニャ

絹旗「確かに、シャケ弁中毒の麦野が焼肉に連れて来てくれたのは、超奇跡に近いですが」

麦野「そこかよ」

フレンダ「だって、流石に焼肉屋にシャケは無い――」

麦野「いや、自分で持ってきたから。シャケ弁」

言いながら、コンビニのシャケ弁を取り出す麦野。

絹旗「そこまでしなくても……」

フレンダ「結局、麦野はシャケ弁から離れられないって訳よ」

絹旗「ところで、フレンダの持っている『それ』は何ですか?」

フレンダ「サバ缶だけど?」

絹旗「超同類じゃないですか……」

それがどうかしたのか?と言わんばかりのフレンダに絹旗がツッコミを入れる。

滝壺「……大丈夫、そんな魚類に支配された二人を私は応援してる」

麦&フレ「「おい」」
730 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:28:16.53 ID:3MZrhNkZo

食事が進むにつれて、少女達の話題は入院の原因へとシフトしていった。

麦野「――そもそも、『アイテム』の構成員であるアンタ達が、馬鹿な逆ギレ学生の爆弾如きで入院ってのも問題があるな」

絹&フレ「「うっ」」グサッ

麦野「まぁ、殆ど無傷で検査入院で済んだみたいけど? それだって、クレープ屋の店長とやらに庇われた結果なのよね?」

絹&フレ「「ううっ」」グサグサッ

研ぎ澄まされた言葉の刃が、容赦なく二人へ突き刺さる。

麦野「『結局』フレンダは、普段から爆弾を使ってる癖に得意分野で遅れを取った『訳』だろ?」

フレンダ「面目ない訳よ……」

麦野「絹旗も、能力の防御力に頼りすぎて、基本的に注意力不足だったんじゃないの?」

絹旗「返す言葉もないです……」

麦野「まぁ、無事だったから良かったけどさ。……仕事中だけじゃなくて、普段から気を抜かないように」

絹&フレ「「む、麦野!」」キューン

滝壺「……ツンデレ?」

麦野「コホン……それで、アンタ達を庇った……」

絹旗「海原さんですか?」

麦野「そう……そいつは生きてるのよね?」

フレンダ「うん。重傷だった筈なのに、割とピンピンしてた」

絹旗「明日か明後日にでも、改めてお礼をしようかと……」
731 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:29:23.80 ID:3MZrhNkZo

麦野「そうよね……私の仲間を可愛がってくれたって言うんなら、『お礼』しに行かないとねぇ?」

フレンダ「麦野が言うと、全然別の意味に聞こえるって訳よ……」

絹旗「一応、恩人なんですから、超穏便にお願いします」

麦野「分かってるわよ。裏の人間が表の人間に借りを作りっぱなし、って訳にはいかないでしょーが」

フレンダ「む、麦野が私の口癖の真似を……」フルフル

滝壺「……先刻の嫌味と違って、真似じゃないと思う」ボソッ

絹旗「超自意識過剰です」

フレンダ「みんな酷い……麦野! その豊かな胸元で慰めて欲しい訳よ!」ガバッ

麦野「暑苦しいから抱きつくな」バキッ

フレンダ「痛っ!」

バユン

滝壺「フレンダ、大丈夫?」

フレンダ「うぅ……ゴメン、滝壺……ぶつかっちゃった……アレ?」

モニュンモニュン

滝壺「……何してるの?」

フレンダ「……で、かい……?」モミモミ

滝壺「」///

麦野「(なん……だと?)」

絹旗「(まさか、あのジャージの下にそんな超強力な武器が隠されて……!?)」
732 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:31:54.49 ID:3MZrhNkZo
1番テーブル


迫間「(――この店の中、カオス過ぎるだろ)」

自分達もそれに拍車をかけているのだが、完全に棚上げ状態である。

禁書目録「ねぇ、しょう」

迫間「ん? おかわりはダメだぞー」

禁書目録「違うもん! 
       しょうは、どんな能力を持ってるのかなって……今朝、聞きそびれたから」

迫間「え、今更?
    ……あの時に聞かれなかったから、興味無いのかと思ってたじゃん」

禁書目録「だって、とうまもみことも『魔術』なんて、って感じだったけど……しょうは変に受け入れてたし」

だから喧嘩腰になれず、聞き出す機会を失ってしまったらしい。

禁書目録「……そう考えると、学園都市の学生なのに宗派の事情に詳しいのも変かも」ジロッ

迫間「まぁ、前に一度……『魔術』とやらの世界に足を踏み入れかけた経験があるだけじゃん。
    別に詳しいわけじゃないって」

――あれは『魔術』だったのかもしれない、という程度の認識だが。

禁書目録「ふーん……? で、しょうはどんな能力を持ってるの?」

迫間「どんなって――」

学園都市の基準で考えれば、自分は紛れもなく無能力者だ。

新倉は能力者になってしまったが、自分はある意味でそのままだ。
クローン人間だったり、超人だったりするが、そこは変わらない。

――だが、だからと言って。

『幻想殺し』や『超電磁砲』の後で、堂々と無能力者だとは言いたくない。……何か癪だ。

なので。

迫間「実は俺には――」

禁書目録「」wktk
733 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:33:41.28 ID:3MZrhNkZo

迫間「――死んでも死なない不死の能力があるじゃん!」エッヘン

……嘘は言ってないだろ?

禁書目録「えー? 伝説の吸血鬼じゃあるまいし……嘘だよね?」

迫間「修道女が他人の発言を速攻で嘘扱いって、どうなんだ?」

禁書目録「うぐっ……だ、だって、そんなのとうまの右手よりも嘘臭いかも!」

迫間「いやいや、本当だよ? ほら、だから『地獄の底まで付いて来て』とか言われても平気な顔してるんだよ。
    何回か死んでるけど、地獄は見たこと無いじゃん」

禁書目録「……むー……だったら試しに死んでみてって、言う訳にもいかないのが悔しいんだよ……」

迫間「おいおい」

禁書目録「まぁ、しょうも私の事を信じてくれてたみたいだから、私も信じてもいいけど……
       もし、私がロシア正教の所属だったら、しょうは殺されてたよ?」

迫間「はい?」

禁書目録「あそこは、悪霊とか生前を語る存在に対して、容赦がないから。
       ……特に『殲滅白書』なんかに目を付けられたら、一巻の終わりかも」

迫間「待った! 今……なんて言った?」

禁書目録「……一巻の終わり?」

迫間「いや、その前」

禁書目録「殲滅白書?」

迫間「そう! それじゃん! 
    ……それって、魔術師の集団か何かなのか?」

禁書目録「……ロシア正教の特殊部隊って感じかな。勿論、魔術師のだよ?」

迫間「そっか……そうなのか」

――アイツ、本物の魔女だったのか。

禁書目録「……なんで、嬉しそうな顔してるのかな?」

迫間「十年越しの疑問が解けて、気分がいいんだよ。……インデックスのおかげでな」

禁書目録「私の?」
734 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/04/27(水) 14:36:50.20 ID:3MZrhNkZo

迫間「お礼にデザートのアイスを二人前にしてやるじゃん」

禁書目録「ホント!? でも、こんなにお腹一杯食べると、この先が辛くなりそうで怖いんだよ」

今朝の彼女の空腹度を考えてみると、そもそも何日もろくに食べていなかったのではないだろうか。
魔術師に追われ、見知らぬ土地を教会を探しながらの逃亡劇。

これから先、今回のようにちゃんと食べれる機会があるかも分からない。

迫間「食べれる時に食べておけばいいんじゃないか?」

そんな返答しか出来なかった。
迫間はインデックスを放っておけない、と思った。
だがそれは、彼女を救うとか、そんな確固たる意志があっての考えではない。

昔、恋した少女に別れを告げられた時の絶望感を味わいたくなかっただけなのだ。
もう二度と、あんな『全てを諦めた上で地獄に堕ちる』ような顔は見たくない。

禁書目録「……それもそうだね」

この先も好きなだけ食べられる、とでも言えれば良かったのだ。
だが、何の根拠もなく彼女を励ますような無責任な言葉は使えなかった。

迫間「それ以前にアイスとか、嗜好品の摂取って、シスター的にはアリなの?」

嫌な思い出と暗い考えを振り払うように尋ねてみた。

迫間「……奢る俺が言うのも変なんだけどさ」

宗教上の理由で、食べれない物があるなんてのは割とよくある話だ。
インデックスの食いっぷりの凄さから、特に意識はしてなかったが。

禁書目録「」ダラダラ

冷房の効いた店内なのにインデックスは急に汗だくになった。

迫間「――ダメなのか」

禁書目録「た、確かに私は修行中の身であるからして、一切の嗜好品の摂取は禁じられているけども」

迫間「じゃあ、ダメじゃん」

禁書目録「しかし、あくまで修行中の身なので完全な聖人の振る舞いを見せる事はまだまだ難しかったり難しくなかったり!」

都合のいい解釈もあったものである。
だが、酒を薬と言ったり、水飴を毒と誤魔化す話も聞くので、信仰なんてこんなもんなのかもしれない。

迫間「はいはい。……店員さーん、デザートをお願いしまーす」ノ

どこか呆れたように頷きながら、迫間は店員を呼んだ。 
746 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:07:37.46 ID:Ah7YFTiEo

【PM 2:40】


~水穂機構病院~


病院内の休憩所で、美琴と黒子は調査チームの作業が終わるのを待っていた。
一度、昼食を摂る為に病院を出たのだが、戻ってきてからだけでも二時間以上は経過している。

美琴「」スースー

待っている時間の長さに加えて、美琴は昨晩や今朝の件で知らず知らずのうちに疲労していたのか、すっかり熟睡モード。

黒子「暑いですの……」グデーン

その隣の黒子も夏の暑さに負け気味だった。

安達「――メールで呼び出されて来てみれば……」

黒子「あら、安達さん。随分と遅い到着ですわね」

安達「非番の日に呼び出されてるんだから、この程度の遅刻は勘弁して欲しいじゃん」

黒子「昨日の女性と逢瀬の最中だったとでも言うのであれば、謝罪して差し上げますの」ニヤリ

安達「…………(まぁ、一緒にいたという意味では、その通りなんだが)」

他にも新倉とか芳川とか、プラント常駐のメンバーとか逢瀬と呼ぶには余計なのが多かった訳だが。

黒子「……え、まさか……本当に?」アタフタ

沈黙を肯定と受け取ったのか、黒子は急に慌てだした。

安達「そんな色気のある用事じゃなかったから、別に構わないって。――んで、専門チームとやらはまだ?」

新倉の検査も進展しなかったので、そういう意味では黒子からの呼び出しは渡りに船だと言えるが。

黒子「えぇ。あ、ちょうど終わったようですの。お姉様、起きてくださいましー」ユサユサ

美琴「」ムニャ

黒子「おね……」

美琴の無防備な寝姿を見ていると、黒子の中に何やら不穏な感情が沸き上がってくる。

黒子「――では、ここは目覚めのキスを……」チュー

美琴「……んぁ?」
747 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:08:56.51 ID:Ah7YFTiEo

ゴチンッ!!

美琴「普通に起こせないの!?」///

黒子「起きなかったではありませんの~」イテテ

安達「何やってんだか……」

美琴「あ、来てたんだ……えっと……」

安達「」シー

何かを話したそうにしている美琴に対し、口に人差し指を立てて「内緒」の意図を伝える。

安達「(インデックスとやらの話を振られても、当事者じゃないから分からないんだよな)」

ミサカ13号の報告と、その修道女と一緒に行動しているらしい迫間からメールを受け取って、事情は把握している。
だが、それでも下手に話題に触れるのは危険だろう。

木山「――なんだ君達、まだ居たのか……おや?」

安達「先日はどうも。風紀委員第一七七支部所属の安達生です」

木山「白井君と同じ支部か。君達二人が今回の件の担当、という事かな」

黒子「そんな所ですの」

美琴「私は――」

木山「御坂美琴、だろう?」

美琴「私の事、ご存知ですか」

木山「――ああ。超能力者(レベル5)ともなると有名人だからね」

黒子「流石はお姉様!」

美琴「うっさい/// ……ん?」

黒子「……って、あれ? ……何だか、デジャヴですの」
748 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:09:56.26 ID:Ah7YFTiEo

安達「(まさか、な……)」

美琴に対する、木山の態度が彼女と初めて会った時の自分に重なった。
だが、例の実験の関係者の中に『木山春生』の名前は無かったし、少なくとも態度の原因が自分と同じ理由とは思えない。

安達「――昏睡状態の学生達はどうですか?」

木山「私は医者じゃないから、治す事は出来ない。……こうなった原因を究明するのが仕事だからね。
    それにしても……暑いな」

黒子「看護師さんが言ってましたが……昨晩の停電から、まだ主電源が復旧してないそうですの」

安達「…………」チラリ

美琴「何よ」ムッ

安達「別に~?」

木山「そうか……非常用電源は手術や重篤患者に使われているし……冷房が効いてないのも当然か」ヌギヌギ

言いながら、何の躊躇もなく上着を脱いで、下着一枚の状態になる木山。

美琴「また始まった……」///

黒子「だーかーらー! どうして貴女は、そうやってすぐにストリップを始めますのっ!?」///

木山「だって、暑いから……」

黒子「殿方の目がありますのっ!!」ビシッ

安達「え? 俺は別に気にしないじゃん……むしろ、もっと脱いでくれても……」

黒子「黙ってなさい、この変態!」クワッ

安達「(一番、変態とか言われたくない人に言われたぁぁぁぁあ!?)」ガ━━(;゚Д゚)━━ン!!

木山「下着をつけていてもダメなのか……」シラナカッタ

黒子「ダメですっ! ……ほら、前も閉じてくださいな」

服をちゃんと着れない幼児を相手にするのかのように木山に服を着させる黒子。

美琴「木山先生、専門家として御意見を伺いたいんですが……」

木山「それはいいが……場所を変えないか? ここは暑すぎる……」

そんな木山の要望に応え、四人は何処かの喫茶店にでも入る事にした。
749 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:11:15.22 ID:Ah7YFTiEo

学園都市・第七学区


【PM 3:00】


禁書目録「……お腹一杯で幸せなんだよ」ニコニコ

迫間「そいつは重畳じゃん」

二人は人々の行き交う通りを連れ立って歩いていた。
穏やかで、平和な時間が過ぎていく。

迫間「エネルギー補給も済んだし、教会探しを再開するか?」

禁書目録「そうだね、早くしないと今日も野宿する羽目になるかも」

迫間「……今まで野宿してたのかよ」

禁書目録「誰かの家に泊めてもらってる時に襲撃される訳にもいかないから」

迫間「IDなしじゃ、ホテルに泊まるってのも無理だもんな……」

その気になれば偽造IDを用意する事も可能だが、一朝一夕で用意しても、粗悪品になるだけだろう。
加えて、露見した時のリスクが高すぎる。

迫間「(最悪、プラントに連れて行く事も視野に入れておくべきか……?)」

プラントであれば、外部(魔術師)と内部(警備員)の両方に対して、有効な隠れ家と言える。

迫間「(だが、実験阻止に対して有効な手立てが見つかってない現状で、プラントの存在が露呈する可能性のある行動は……)」

禁書目録「しょう、やっぱり迷惑だった?」

迫間「ん? あぁ、そうじゃなくて……今日中に教会が見つからなかった時、インデックスをウチに泊めていいか考えてたんだよ」
750 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:12:36.59 ID:Ah7YFTiEo

禁書目録「しょうのウチって……とうまの部屋の隣だよね?」

迫間「あー、あそこ以外にも部屋があるんだよ。それも隠れ家として優秀な…………」ゾクッ

言いながら、迫間は気付いた。

――いる。

視界に入った訳ではない。

気配を感じた訳でもない。

だが、迫間はそれを察知した。

迫間「(オイオイオイ……人ゴミの中にライオンが紛れてる、なんてレベルじゃねーぜ……)」

かつて自分達が敵対してきた、どんな『悪』とも違う、圧倒的な力。

巧妙に気配を消し、力を抑えていても、その違和感は拭えない。

迫間「(前に遠くから『一方通行』を見た時にも感じた……)」

――絶対的な敗北の予感。

しかし、内心の動揺を表には出さず、歩みは止めない。

禁書目録「しょう?」

インデックスが不安気に声を掛ける。
751 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:13:33.43 ID:Ah7YFTiEo

迫間「……少し、待ってな」ピッ

慣れた手つきで携帯を取り出し、コール。
電話に出た相手は、遠くから自分達を『見ている』筈の人間。

00013号『――気付いていますか?』

挨拶も過程も全て無視して、用件に入る。

迫間「――ああ」

00013『約100メートル後方に、パンクな服装をした東洋人女性が一人……お二人を尾行してます』

迫間「――そうか」

後方にいるらしい尾行者に気取られないように、返答は一言のみ。

00013『身の丈に匹敵する日本刀を所持していますが……何故か、周囲からは警戒されてません』

迫間「(精神操作に近い効果を持った魔術で、通行人の意識を逸らしてる……?)」

ゲームや漫画によくある魔法のイメージを自分の知っている学園都市の『超常』と併せて、現実味のある仮説へと変える。

周囲から意識されていないのも気になるが、日本刀を持っているというのも引っ掛かる。
日本刀と言えば、『魔術師』という名前からは連想されない武器の筆頭だ。

迫間「(まさか、別口……? しかし、このタイミングとなるとインデックスを追っている連中としか……)」

00013号『狙撃しますか? と、ミサカはトリガーを引く準備をしながら問い掛けます』

――いや、ここでは人が多すぎる。

彼女の狙撃の腕を疑う訳ではないのだが、一歩間違えれば無関係な通行人に怪我人が出るだろう。

迫間「ダメだ。……だが、準備だけはしておいてくれ」

00013号『了解しました』ピッ

学園都市の学生だって、高位能力者ともなれば銃弾なんて効かないケースのほうが多いのだ。
『魔術師』なんて得体の知れない相手ともなると、同じように銃弾が通用するかどうかすら不明である。
752 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:15:27.79 ID:Ah7YFTiEo

禁書目録「しょう……もしかして」

迫間「ああ、そうらしい」

その言葉にインデックスに明らかな後悔の色が見えた。

禁書目録「しょう……ここで、別れよう」

迫間「駄目」

インデックスの提案を迫間は一刀両断した。

禁書目録「だって――むぐっ!?」

迫間「懲りずに馬鹿なこと言ってるのは、この口かなぁ~?」ムニムニ

禁書目録「ひょう、やめへ~」

迫間「――お望み通り、地獄の底だろうと付き合ってやるから、大人しく守られとけって」

インデックスの都合など完全に無視だ、と迫間は宣言した。

禁書目録「……しょうって、本当に勝手で嫌な奴なんだね」

迫間「何だ、知らなかったのか?」

禁書目録「知ってる。――本当にいいの?」

迫間「さてと……食後の運動でもしようか、インデックス。逃げ足に自信は?」スッ

問いには応えずに、軽口と共に右手を差し出す。
その行動で、やっと『巻き込む』覚悟を決めたのか、諦めたようにインデックスは微笑んだ。

禁書目録「……伊達に一年も逃げ回ってないかも」

インデックスは優雅にその手を取った。
それは、さながらダンスの誘いを受けるかのように。

――そして、二人の逃走劇が幕を開ける。
753 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:18:16.20 ID:Ah7YFTiEo

【PM 3:18】


街を駆ける。
人混みを掻き分ける。
路地を抜け、死角を駆使し、追跡を躱す。

時間にしてみれば20分近く、走り続けていた。

そうして二人が辿り着いたのは、人気のない公園だった。

迫間「ここまで来れば……」

禁書目録「…………追っては来てないみたい」

結構な距離を走ったのだが、インデックスは少し息を乱す程度だった。

迫間「言うだけあって、逃げ足も中々のもんだな、インデックス」

禁書目録「でしょ?」フンス

迫間「走ったから腹減ったとか言い出すなよ?」

禁書目録「言わないもん! ……でも、油断しちゃダメだよ。相手は魔術師なんだから、この程度で済むとは思えないかも」

だとすれば、自分は一年間も逃亡生活を続けていない、とでも言いたげだった。

迫間「――分かってる」キョロキョロ

……周囲を見渡す。
通行人はいないようだった。

『上』から見て、角度的にも邪魔になる遮蔽物のない、この場所なら。

迫間「…………?」

――通行人がいない?

確かに自分は、『狙撃』の際のリスクや『戦闘』に巻き込むまいと、人通りの少ない道を選び、この公園へと逃げ込んだ。

だが、夏休みの初日。
学生達の街である、この学園都市で。
一人も公園に人間が居ない等という事態が起こり得るのか?

迫間「(これは――!!)」
754 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:21:47.19 ID:Ah7YFTiEo

???「――鬼ごっこは終わりですか?」

人気のない公園に、その声はよく通った。

迫間「っ!?」

声の主は身長と変わらないような長刀を手にし、左右非対称な長さのジーンズを身に着けた奇抜な美女。
報告通りの服装だった。

迫間「インデックス……こいつか?」

禁書目録「うん、この一年間……私を追ってきていた二人組の魔術師の片方だよ」

???「意外ですね、貴女が無関係な人間の介入を許すとは思いませんでした」

禁書目録「私としては、今すぐにでも逃げて欲しいんだけど……しょう、逃げてくれる?」

迫間「――お断りだ」

禁書目録「……これだもん。どうしたらいいかな?」

半ば諦めているようだが、それでも生を巻き込む事に抵抗があるらしい。

???「……少なくとも、貴女が大人しく私達と来てくれるのであれば、無関係な人間を害そうとは思いませんが」

迫間「こっちとしても、わざわざ君みたいな美人と戦うのは避けたいじゃん……退いてくれたりしない?」

???「残念ながら、私達には彼女を『回収』しなければいけない『理由』があります」

魔術師の女は迫間の冗談に付き合うつもりはないようで、淡々と告げるのみ。

迫間「回収……?」

『回収』という単語の不愉快さよりも、その意味するところに迫間は眉を顰める。

???「それを阻むと言うのであれば――容赦はしません」

迫間「それはそれは……一つだけ、訊いてもいいか?」

???「どうぞ」

迫間「君の言う……『理由』ってのは……インデックスを苦しめてでも果たさないといけない代物なのか?」

???「――えぇ」
755 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:23:33.44 ID:Ah7YFTiEo

迫間「そうか……判った、もういい」

???「考え直してくれますか?」

迫間「いいや?
    悪いが、『友達』に手を出そうって相手を……黙って放置してられないのよ、俺としてはさ。
    そっちの『理由』がどんなに重要だろうと、最初から譲るつもりはないじゃん」

???「……そう、ですか」

禁書目録「友達……?」

自分と迫間は、まだ出会って数時間だ。
確かにインデックスは既に生を友人だと感じている。
だが、そんな出会って間もない相手の為に生命を賭けられるものなのだろうか?

禁書目録「しょう、どうして……?」

迫間「……どうしたもこうしたもあるか」

一緒に食事をした。
一緒に街を歩いた。
そして何より、一緒で楽しかった。

――それで充分だ。

迫間「『友達』って奴を見捨てられないんだよ、『俺達』は。
    ……だから、気にするな」

それは、『アクメツ』としてではなく、一個の『生』という人間の守るべき一線。
譲れない、譲りたくない、大切なモノ。

???「…………」

迫間「魔術師さん、俺を馬鹿だと思うか?」

???「いえ、少なくとも私に貴方を笑うつもりはありません……その資格もないでしょう」

迫間「そっか。
    さて、これから友達の宿泊先を確保しないといけないんでな……早々に終わらせてもらうぜ?」

???「――名前をお伺いしても?」
756 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:25:27.42 ID:Ah7YFTiEo

迫間「……生(しょう)だ。君は?」

敢えて、苗字は告げずに名乗る。

神裂「神裂火織(かんざきかおり)と申します……本来なら、もう一つ名乗るべき名前がありますが……私はそれを名乗りたくはない。
    どうか、私にそれを口にさせる前に、抵抗を止めてください」

迫間「奇遇じゃん。俺にも、もう一つ名乗るべき名前があるんだが……まぁ、この場では関係ないな」

悪を滅する者ではなく、ただ友達を守りたい一人の男として。

神裂「……もう一つ?」

迫間「些細な事じゃん――さぁ、殺ろうか」

相手を殺傷する武器を持った魔術師に対して、迫間は文字通りの空手。

埋めようのない差。武力的な不利。

だが、それこそが自分達の本領であり、繰り返してきた戦い方。
五体と『命』を武器として、死へと向かう、一方通行の戦い。

今も昔も、自分を駆り立てるのは友への想いと悪への怒り。

――その片方の感情を胸に迫間は力強く大地を蹴った。
757 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:27:31.08 ID:Ah7YFTiEo

武器を持ってない迫間が、神裂を打倒するには格闘戦しかない。
そして、相手の持っている刀は、いかにも取り回しが難しそうな、身の丈を超える長刀。

迫間「(だったら、超接近戦しかないだろうがっ!!)」ダンッ

神裂の懐を目指して、迷いなき突撃を敢行する。

禁書目録「しょう、ダメ!」

迫間「っ!?」

その声に反応した迫間が、咄嗟に後ろへと下がる。

刹那。

直前まで迫間のいた場所を七つの斬撃が襲った。

神裂「中々の反応ですね。……一秒でも遅れていれば命取りでしたよ?」

チン、という刀が鞘に収まる音。

辛うじて攻撃を回避した迫間は呆然としていた。
日本刀を持っている時点である程度は予想していたが、彼女は『魔術師』でありながら、『魔術』を使っていない。

禁書目録「しょう、大丈夫なの!?」

迫間「大丈夫だ――そこにいろ」

駆け寄ろうとするインデックスを片手で制して、体勢を立て直す。

禁書目録「でも……私だって、戦えるんだよ! 少なくとも『歩く教会』があるんだから、しょうの盾にぐらい……」

迫間「却下」

禁書目録「でも……」

迫間「五月蝿い、そこにいろ」

禁書目録「むー!」

取り付く島もない迫間の応対にインデックスが後ろで憤慨する。
758 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:29:06.39 ID:Ah7YFTiEo

神裂「…………今なら、まだ間に合いますよ?」

インデックスを断固としても守ろうという迫間の姿勢に神裂の表情に変化があった。
迷い、羨望、好意、共感、或いは……嫉妬。

迫間「ふん、そっちも却下じゃん。
    それにしても驚いたな……最近の魔術師は鋼糸術を使うのか?」

その言葉に逆に神裂が衝撃を受ける。

神裂「……まさか、初見で『七閃』を見破った……?」

魔術ではなく、剣術。
剣技よりも暗器に近い性質。

迫間「……『七閃』ね、一度の居合の動きの中に隠された、七つの軌跡。
    安いトリックとは思わないが、居合にしては、少しばかり派手過ぎるぜ?」

魔術と錯覚してしまう程の刹那に繰り出される七連撃。
動きで動きを隠す、という性質故に神裂の動きに無駄は無かった。
巧妙かつ、洗練され、完璧だった。

――その動きの中に隠された何かを察知する事が出来る程に。

神裂「もしや、居合の経験が?」

迫間「それだけじゃないが……それなりに眼には自信があるじゃん」

ある者は、カースタントのドライバーとして。
ある者は、居合の達人として。

多くの犠牲と経験の上に、自分は立っている。
彼らが修練し、獲得した肉体的な性能も自分は受け継いでいる。
759 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:37:35.98 ID:Ah7YFTiEo

迫間「(けど、避ける自信はないな……)」

回避できたのは、インデックスの警告だけではなく、神裂が故意に外れるように加減して放ったからだ。

――本気であれば、腕の一本ぐらいは持って行かれていた。

神裂「『七閃』の正体を看破したことは素直に賞賛しますが……
    どんなに優れた眼を持っていても、一瞬と呼ばれる時間に七度殺すレベルの『七閃』の速度に対応出来ますか?」

迫間「(うん、絶対に無理)」

無理なものは無理なのだ。

どんなに生の身体が鍛えられ、多くの武術を習得していると言っても、それは通常の人間の範疇に過ぎない。
ある種の不老不死によって得た、普通の人間には持ち得ない膨大な研鑽の時。
それらを駆使しても、超人止まり。

今の自分達では『異能』の世界の一流には届かない。

神裂「そして、仮に七閃を突破したところで、その先には真説の『唯閃』が待っています」

剣を操る魔術師は告げる。
この手に握る七天七刀は飾りではない、と。

迫間「へぇ……じゃ、とりあえず『唯閃』とやらを出してもらえるまでは頑張ってみますか」

この女に勝つ事は出来ないだろう、と迫間は悟っていた。
彼女は、実力の半分も出してはいない。

それは、スクランダーやプロテクターを装備していたとしても、埋められるような力量差じゃない。
……仮に刀や他の武器を持っていても、焼け石に水だろう。

しかし、自分の敗北が直接、戦術的な敗北には結びつかない以上――撤退は有り得ない。

例え自分が殺されても、インデックスさえ逃がせれば、それは『勝利』なのだ。

迫間「(幸い、仮面は持って来ている……瞬殺さえ、免れれば……最低でも、インデックスが逃げる時間を稼げれば……それでいい)」

もう少しで、彼女の『配置』が完了する。
だが格好をつけた手前、自分で離脱の隙を作るか、援護が来るまでの時間を稼ぐ程度はやりたい所だ。
760 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:39:38.80 ID:Ah7YFTiEo

目的と勝利条件を再確認して、迫間は再び神裂へと突っ込んでいく。

迫間「おおおおおおぉぉおおおおおおお!!!」

神裂「七閃」

声と同時に再び七つの斬撃が迫間を襲う。

鮮血が舞う。
肉片が飛ぶ。
地面が砕ける。

――だが。

止まらない。
止められない。

確かに実力差は明白。
勝機があるかも怪しい程。

しかし、それは互いが全力を出した場合の話だ。

撃たれても、斬られても、前進を止めない『アクメツ』にとって。

『殺さない』ように『加減』された攻撃など――

迫間「がぁああああああああああああああ!!」

――その足を止める理由にはなりはしない。

『即死』を防ぐ為に守るのは、首と動脈の一部のみ。
それ以外の意識を活力を闘志を、全て前進へ傾ける。

どうせ避けられないなら、最初から避けなければいい。
761 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:41:48.25 ID:Ah7YFTiEo

神裂「そんなっ!?」

鋼糸が、最大の効果を生む位置よりも手前での激突。
回避でも防御でもなく、前進を選んだ結果、逆にダメージは最小限に抑えられた。

迫間「覚悟がっ! 足りないんだよっ!」ブンッ

突撃の勢いそのままに迫間は拳を振る。
既に七天七刀を振り回しての迎撃は間に合わない。

神裂「くっ」

咄嗟に七天七刀を引き上げて、その黒鞘で拳を受け止める。
防御を成功させ、冷静さを取り戻した神裂は、反撃をしようと身構えた。

しかし、次の瞬間――神裂の視界が傾いた。

神裂「(合気!?)」ガクンッ

自らの持つ武道の知識から、我が身に起きた現象を分析する。
厳密には正解では無かったが、結果的に彼女はその本質を正確に理解していた。

――が、遅い。

迫間「そこっ!」ヒュン

ある時はボクサーとして、またある時には空手家として。
自分ではない自分によって鍛え上げられた拳が、正確に神裂の顎を撃ち抜いた。

神裂「あっ……!?」

傾いていた視界がさらに揺れ、足腰から力が抜ける。

迫間「インデックス!」グイッ

禁書目録「ふぇ!?」

神裂「しまっ――」カクン

迫間「よし! 逃げるぞ!」ダダダダッ

インデックスの手を取った迫間は、神裂を一瞥すると全速力で逃走を始めた。

――ここに来て、まさかの『逃げるが勝ち』作戦。

インデックスを置いて逃げるつもりは毛頭ないし、そう言った。
だが、一緒に逃げる分には一向に構わないのだ。 
763 :顔から火が出るかと……誤字よりも誤操作のが怖い……[saga]:2011/05/15(日) 21:49:52.94 ID:Ah7YFTiEo

禁書目録「しょう、怪我は平気!?」

迫間「このぐらいの怪我は慣れてるじゃん! いいから走れ!」

脳震盪を起こすように狙って打ったが、それでも時間が経てば回復してしまうだろう。

迫間「(こうなったら、迷ってられない……プラントで匿うしかない!)」

目指すは第五学区のクローンプラント。

禁書目録「しょう、後ろ!」

迫間「んなっ!? 嘘だろ!?」

インデックスの声に促されて背後を確認すると、既にダメージから回復した神裂が猛追を始めていた。

――本当に同じ人間か!?

インデックスや迫間は逃げる事に精一杯で、走りながら追撃に対応している余裕はない。
だが、それに対して神裂は、尋常ならざる速度で追跡しながらも、攻撃の体勢を整えていた。

追う者は前方だけに注意していればいいが、追われる者は前方と後方を気にしなければならないのだ。

神裂「(彼の言う通り、覚悟が足りなかった……!)」

たかが学生相手と侮った。素人相手に本気になる事も、その必要もないと考えていた。

しかし、生と名乗る少年の見せた戦いは、紛れもなく戦士のそれだった。
戦い慣れている、というのが神裂の抱いた率直な感想である。

神裂「(制限時間(リミット)が迫っている以上、私に手段を選んでいる余裕など無かったのに……!)」

だからこそ、どんなに卑怯な手段であろうと、インデックスを無事に回収する為になら迷わず使う。
高速で走りながらも、神裂は抜刀術の構えを取り、その『標的』を定めた。
放つのは、『七閃』ではなく、自らの最強の一撃。

しかし、『唯閃』の標的は禁書目録ではなく――
764 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:51:24.75 ID:Ah7YFTiEo

禁書目録「させない!」バッ

迫間「(この馬鹿っ!?)」

10万3000冊の魔導書を守る、それがインデックスの使命だ。
だが、その為に他者を犠牲にしても構わないという人格の持ち主であれば、自分は彼女を『回収』しようとはしていないだろう。

だからこそ、回避不可能な状況下で、隣の少年を『全力』で攻撃すれば彼女は必ず少年を庇う。

吐き気がする程に卑怯な手段だ。
だが、そうする事が最良の手だった。

『歩く教会』があるインデックスが傷を負う事はない。
だが『唯閃』の攻撃力であれば、少なくとも彼女を昏倒させる事は可能だ。
その後、彼女を確保して離脱すればいい。そうすればこの少年を殺さずに済む。

――その筈だったのに。

迫間「どけええええええええぇぇええええええええええええ!!」ガッ

……庇われる筈の無力な少年は、攻撃と錯覚しそうな勢いでインデックスを『引き倒した』。

そして、無防備のまま『唯閃』にその身を――晒したのだ。

ガキンッ、と鋼鉄製の何かを両断する手応え。
その後にザクリと、肉に刃が食い込む感触が伝わる。

迫間「がぁあああああああああああああああああああああ!」

禁書目録「しょう!?」

神裂「どう……して……」

――知っているのではないのか。

インデックスの身に付けている『歩く教会』の防御力は絶対だと。

庇う必要なんてないのに。

それなのに。

何故。

混乱と後悔の中で揺れる神裂の隙を突くかのように――

一発の銃弾が飛来した。
765 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:54:53.23 ID:Ah7YFTiEo

神裂「くっ!?」

文字通り、眼前を横切る銃弾に神裂は戦慄する。

神裂「これは……狙撃!?」キンッ

銃声は無かった。
元々、無音の銃なのか、或いは銃声が届かぬ程、遠方からの狙撃なのか。
銃弾を防げたのは、戦闘経験と僅かに聴こえた風切り音の御蔭と言っていい。

神裂「っ!」キンッキンッ

次々に襲い掛かる銃弾を鞘で防ぎながら、狙撃手の姿を探す。
神裂は弾道から、狙撃地点を推測し、そちらへ意識を向けた。

――その視線の先。

遠く離れたビルの屋上に、一人の少女がいた。

迫間とインデックスの移動に合わせて、最適な狙撃ポイントへと移動していたミサカ13号。

     

放った銃弾が容易く迎撃され、少女の表情は曇った。

00013号「通じませんか……一方通行といい人外が多すぎて困りますね。と、ミサカは溜め息を吐きます」

かつての苦い経験が思い出されるが、流石に銃弾をそのまま『反射』されたりはしないようだ。

実験での一方通行戦以来の実戦。

だが彼女に感情の乱れはない。
恩人を助けることに迷いはなく、一方通行という怪物を知るからこそ、未知の敵にも恐怖しない。

00013号「――ミサカ13号、これより『迫間生』並びに『禁書目録』の撤退を支援します」

宣言と共に、再び引き金を引く。
766 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 21:56:44.92 ID:Ah7YFTiEo

彼女が使用している銃は、実験で使用していた『鋼鉄破り』ではなく、もっとスマートな代物だ。

『MSR-001゜磁力狙撃砲』

威力は『鋼鉄破り』どころか、普通の狙撃用の銃よりも劣るが、ミサカ13号にとっては最高の銃だった。

この銃は、電磁石を用いてスチール製の弾丸を飛ばすスナイパーライフルで、簡易版のレールガンと言える。
その特性故に『欠陥電気』を駆使すれば、弾速の底上げや、弾道の補正も可能である。

蘇生された後――とあるスナイパーの元で修行していた時に用意してもらった銃で、愛着もある。

00013号「(目的は撃破ではなく、足止め……動きを封じて時間を稼ぎます!)」

狙うは二点。

相手に「殺されるかもしれない」という恐怖心を与えて、動きを制限させる為に頭部を。
物理的に直接、機動力を奪う為に脚部を。
どちらも、かすらせるだけで構わない。それで充分に牽制の効果がある。

00013号「(甘いでしょうか、温いでしょうか……?)」

銃を撃つのは好きだと思う。
だが、別に誰かを傷つけたい訳ではないのだ。

00013号「(師匠……私は、遠距離狙撃という貴方と同じ『土俵』において、貴方とは別の戦いをします)」

殺すつもりはない。
きっと、『生』は『妹達』が自分達を守る為に誰かの生命を奪う事など望んでいないから。

まぁ、銃弾が当たったところで、あんな怪物が相手では、さほど効果があるとも思えないのだが。

00013号「(――こんな狙撃手がいたって、構わないでしょう?)」

守る為に人を撃つ。

絶対的な矛盾を孕みながら、少女は引き金を引く。
767 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 22:01:06.58 ID:Ah7YFTiEo

狙撃する側の決意とは裏腹に、その標的となっている魔術師は混乱の中にいた。
だが、その行動自体は迅速で、銃弾から身を隠すように公園の木々の間を駆け抜ける。

神裂「(二人は――離脱しましたか)」

銃弾を防いでいた時、視界の端でインデックスが少年に肩を貸して公園を脱出したのを捉えていた。
距離的に言えば、今ならまだ追いつけるだろうが、狙撃手がいる状態で追撃が可能とは思えない。

神裂「(ここは一度、引くしかありませんか……!)」

このタイミングでの突然の狙撃。

もしかしたら、あの生と名乗った少年は、魔術の世界と無関係な学生等ではないのかもしれない。
下手をすると、何らかの組織に属した人間である可能性もある。

神裂「(そんな風には見えませんでしたが……)」

だが、そんな自分の主観でインデックスを襲うかもしれない『危機』を看過する訳にはいかなかった。
自分達以外の組織に彼女が捕らえられた時の未来を想像し、神裂は僅かに身体を震わせた。

神裂「(……追撃はステイルに任せて、少し調べてみましょう)」

インデックスを想えば、彼が善意の第三者であって欲しいと思う。

だが、そうであれば――

神裂「(私は……あの名を名乗る資格があるのでしょうか……)」

手に残る、人を斬った感触が重く神裂へとのしかかっていた。

772 :再開します[saga]:2011/05/15(日) 23:17:03.88 ID:Ah7YFTiEo

【PM 3:25】


喫茶店で『幻想御手』に関する話を終え、四人は店を後にした。

木山「――じゃあ、『幻想御手』を入手したら、私の研究室に連絡してくれ」

黒子「はい。お忙しい中、ありがとうございました」

木山「いや、こちらこそ色々と迷惑をかけてすまない」

安達「迷惑なんてとんでもない、大変結構なものを見せて頂き――」

黒子&美琴「「黙ってなさい」」

安達「はい」ショボン

木山「ふふっ……奇妙な男だね、君は――何だか、教鞭をふるっていた頃の事を思い出して楽しかったよ」

美琴「教師をなさってたんですか?」

木山「昔……ね。では」

美琴「なんつーか、少し変わった感じの人よね」

立ち去る木山の背中を見ながら、ポツリ。

黒子「常人とは違う感性が天才を生むんですわ――それにしても、安達さん」

安達「ん?」
773 :再開します[saga]:2011/05/15(日) 23:18:02.97 ID:Ah7YFTiEo

【PM 3:25】


喫茶店で『幻想御手』に関する話を終え、四人は店を後にした。

木山「――じゃあ、『幻想御手』を入手したら、私の研究室に連絡してくれ」

黒子「はい。お忙しい中、ありがとうございました」

木山「いや、こちらこそ色々と迷惑をかけてすまない」

安達「迷惑なんてとんでもない、大変結構なものを見せて頂き――」

黒子&美琴「「黙ってなさい」」

安達「はい」ショボン

木山「ふふっ……奇妙な男だね、君は――何だか、教鞭をふるっていた頃の事を思い出して楽しかったよ」

美琴「教師をなさってたんですか?」

木山「昔……ね。では」

美琴「なんつーか、少し変わった感じの人よね」

立ち去る木山の背中を見ながら、ポツリ。

黒子「常人とは違う感性が天才を生むんですわ――それにしても、安達さん」

安達「ん?」
774 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:19:13.60 ID:Ah7YFTiEo

【PM 3:25】


喫茶店で『幻想御手』に関する話を終え、四人は店を後にした。

木山「――じゃあ、『幻想御手』を入手したら、私の研究室に連絡してくれ」

黒子「はい。お忙しい中、ありがとうございました」

木山「いや、こちらこそ色々と迷惑をかけてすまない」

安達「迷惑なんてとんでもない、大変結構なものを見せて頂き――」

黒子&美琴「「黙ってなさい」」

安達「はい」ショボン

木山「ふふっ……奇妙な男だね、君は――何だか、教鞭をふるっていた頃の事を思い出して楽しかったよ」

美琴「教師をなさってたんですか?」

木山「昔……ね。では」

美琴「なんつーか、少し変わった感じの人よね」

立ち去る木山の背中を見ながら、ポツリ。

黒子「常人とは違う感性が天才を生むんですわ――それにしても、安達さん」

安達「ん?」

黒子「――もしかして、目付きの悪い研究者タイプの女性が好みですの?」

安達「いや、別にそんなピンポイントな嗜好はないんだが……それに、あの先生は目付きが悪い訳じゃないし」

美琴「クマは凄かったけどね」

安達「それだって、睡眠時間を削って研究してる証拠みたいなもんだろ?
    ……そのうちデッカイ事でもやってくれそうじゃないか」

根拠には欠けるが、努力している人間は何かしらの結果を残せると思いたいらしい。

黒子「確かに優秀な研究者みたいですし……『幻想御手』を見つければ、何か突き止めてくれると思いますの」

美琴「だといいんだけどねー…………ん?」ピクッ

言いながら、何かの気配を察知したかのように周囲を見渡す美琴。

パーパーパー♪ パパーパパパッパー♪

それを余所に安達の携帯電話に着信が入る。

黒子「(……西部警察?)」

安達「はい、もしもし………………………っ…………………………ああ、分かった」ピッ

にこやかに電話に出た安達だったが、途中で表情が固まったように見えた。

黒子「……どうかなさいましたの?」

安達「いや……少し用事が出来たから、支部への報告は任せていいか?」

黒子「元々、安達さんは非番ですし、それは構いませんが……」

安達「悪いな。それじゃ、お先に失礼するじゃんー」タッタッタッ

見た目こそ冷静だったが、何か焦っているように立ち去る安達。

黒子「……怪しさ大爆発ですの……お姉様はどう思いに――あら?」

振り返ってみれば、美琴の姿が忽然と消えている。

黒子「おねーさまー?」

どうも最近、このパターンが多いような気がする黒子であった。
775 :あれ、何か変だな?[saga]:2011/05/15(日) 23:22:20.97 ID:Ah7YFTiEo
黒子「――もしかして、目付きの悪い研究者タイプの女性が好みですの?」

安達「いや、別にそんなピンポイントな嗜好はないんだが……それに、あの先生は目付きが悪い訳じゃないし」

美琴「クマは凄かったけどね」

安達「それだって、睡眠時間を削って研究してる証拠みたいなもんだろ?
    ……そのうちデッカイ事でもやってくれそうじゃないか」

根拠には欠けるが、努力している人間は何かしらの結果を残せると思いたいらしい。

黒子「確かに優秀な研究者みたいですし……『幻想御手』を見つければ、何か突き止めてくれると思いますの」

美琴「だといいんだけどねー…………ん?」ピクッ

言いながら、何かの気配を察知したかのように周囲を見渡す美琴。

パーパーパー♪ パパーパパパッパー♪

それを余所に安達の携帯電話に着信が入る。

黒子「(……西部警察?)」

安達「はい、もしもし………………………っ…………………………ああ、分かった」ピッ

にこやかに電話に出た安達だったが、途中で表情が固まったように見えた。

黒子「……どうかなさいましたの?」

安達「いや……少し用事が出来たから、支部への報告は任せていいか?」

黒子「元々、安達さんは非番ですし、それは構いませんが……」

安達「悪いな。それじゃ、お先に失礼するじゃんー」タッタッタッ

見た目こそ冷静だったが、何か焦っているように立ち去る安達。

黒子「……怪しさ大爆発ですの……お姉様はどう思いに――あら?」

振り返ってみれば、美琴の姿が忽然と消えている。

黒子「おねーさまー?」

どうも最近、このパターンが多いような気がする黒子であった。
776 :なんか、エラーでるなー?[saga]:2011/05/15(日) 23:24:48.39 ID:Ah7YFTiEo

一方、ツンツン頭の高校生の姿を補足した美琴は、ほぼ反射的にその背を追いかけていた。

美琴「……っと、確かこっちの方に――いた!」

上条「ふわぁ……」

とある修道女が気掛かりで、補修に集中出来ずに結果的に授業時間が伸びるという不幸に見舞われた上条当麻である。

美琴「ちょっと、アンタ!」

上条「うん? ……何だ、御坂か」

美琴「何だとは何よ! 文句でもある訳!?」

上条「いや、そんな噛み付かんでも……つーか、御坂さんには補修で疲れた上条さんを労ろうという優しさは無いんですかね?」

美琴「補修なんて自業自得じゃないの。よく言うわ」

容赦のない言葉に肩を落とす上条。

上条「……んで、補修に縁のない優等生の御坂さんは、この補修帰りの上条さんにどのような御用があるのでしょうか?」

美琴「別にないけど」

上条「無いのかよ!?」

美琴「何よ、用がなきゃ話かけちゃいけないの?」ツーン

上条「……もしかして、その台詞は狙ってるのか?」

美琴「は?」

上条「いや、何でもない(いかん、青髪ピアスの思考に毒されてきたかも知れん)」

美琴「特に用がある訳じゃないけど……少し、気になって」
777 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/05/15(日) 23:30:50.45 ID:Ah7YFTiEo

最後まで言われなくても分かった。――インデックスの事だ。

上条「……なぁ、御坂」

美琴「何よ」

上条「英国式の教会の場所とかって……知ってるか?」

美琴「――あの子、何か忘れ物でもしてた?」

上条「あー……どちらかと言うと、俺が……かな」

きっと、それは忘れ物ではなく落し物だ。
そして、拾わずに居ても困りはしない物だ。

――でも、拾わずにはいられない物だった。

美琴「ふーん……」

――結局、首を突っ込む訳か。

今朝は知らん顔して誤魔化してた癖に、と憤慨する自分と。
でも予想通りよね、と納得してる自分がいた。

美琴「確か三沢塾の近くに教会があったと思うけど……面倒だから教えたくない」

上条「え」

美琴「――でも、偶然だけど……私、これからその教会に行くから。
    アンタが勝手に私の後ろを着いて来るのは構わないわよ」

上条「へ?」

美琴「それと、今朝アンタの部屋に忘れ物しちゃったような気がするから、
    アンタが部屋に荷物を置きに行くのに付き合ってもいいんだけど」

上条「うわぁ……」

何だろう、この素直じゃなくて逆に素直過ぎる感じになってしまった生き物は。

上条「……ツンデレ美琴たん萌えー」

なので、感想を率直に述べてみた。

美琴「うっさい! さっさと行くわよ!」///

顔を真っ赤にした美琴に促されて上条は家路を急ぐ。

上条「御坂って、結構お人好しだよな」ニヤニヤ

美琴「……アンタが言うなっ!」///

他愛ないやりとりを交わす二人。
彼らはインデックスの危機を――まだ知らない。
778 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:35:43.69 ID:Ah7YFTiEo
【PM 3:45】


~とある高校の男子寮~


夏休み初日なのも影響してか、男子寮に人気はない。
元々、誰もいない管理人室の横へ抜けて、鋼鉄の箱を目指す。
インデックスに肩を借りながら、迫間はエレベーターに乗り込み、七階のボタンを押した。

禁書目録「しょう、本当にここでいいの!?」

迫間「……ああ」

動く度に迫間の胸から流れる鮮血が足元を濡らした。

迫間「(この怪我じゃ……冥土返しの病院に行っても治療は間に合わない……)」

――となれば、解決策は仮面を装着して死ぬ事だ。

迫間「(まさか、懐に入れていた……仮面まで……両断されるとは思わなかったが……)」

逆に仮面がなければ、迫間の胴体は上下に分断されていただろう。

禁書目録「どうして……」

迫間「……ん?」

禁書目録「どうして、こんな無茶したの!? 私なら平気だったのに……!」

迫間「確かに『歩く教会』があれば…………怪我はしなかったろうな」

だが、平気ならこの少女をあの刃に晒すのか?

――ふざけるな。

『妹達』の事だって、本当であれば即刻、実験に喧嘩を売って、関与している上層部から悪滅してやりたいのだ。
でも、それでは彼女達を解放する事は出来ないから。

だから、必死に堪えて、憎まれるのも覚悟の上で。
彼女達の死を看過しているのだ。

その上、インデックスまで?

迫間「怪我しないからって……お前を盾に出来る訳……ないだろうがっ……」

禁書目録「……しょう……ごめんなさい……本当にごめんなさい……」

迫間「謝るな……ちっとも嬉しくないから」
779 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:37:57.71 ID:Ah7YFTiEo

チン、と電子レンジみたいな音と共にエレベーターが七階に到着する。

直線的な通路を抜けて、安達生の部屋の前まで頼りない歩みで進む。

迫間「インデックス、部屋の中に入って黒い……仮面を探してきてくれ」

禁書目録「仮面?」

迫間「……頼めるか?」

禁書目録「それがあれば、しょうは助かるんだよね?」

迫間「おう、バッチリじゃん……今、鍵を開けるから」

安達生から預っていた鍵を使って部屋のドアを開けて、インデックスを中へと入れる。

禁書目録「待ってて! 絶対に見つけてくるから!」

半分開いたドアに寄りかかりながら、インデックスを見送る。

迫間「(……五分五分だな)」

……部屋の中に予備の仮面がある確率が、である。

あれば、セーフ。
なければ、アウト。

痛みはある、しかし恐怖はない。
ただ、自分が死んでインデックスを守れないのは怖かった。

迫間「がはっ……ごほっ……」

ヘドロのような血の塊を吐き出した。

――時間がない。

部屋の中で必死に仮面を探しているのだろう。
中からは引っ越し作業中かと思うような音が聴こえてくる。

迫間「やっぱ、そう都合良くは……いかないか……」

廊下側へと体を動かして、ドアを探る。

迫間「――あった」

風紀委員の支部にある、認証システムを参考にした隠しパネル。
これを操作すれば――クローンプラント同様、『生』の遺伝子を持った人間以外の出入りを封じる事が出来る。
780 :お、治ったかな?[saga]:2011/05/15(日) 23:39:27.54 ID:Ah7YFTiEo

ガチャン!

禁書目録「――しょう?」

ドアの閉まる音にインデックスが、玄関へとやってくる。

禁書目録「あれ、開かないよ……?」ガチャガチャ

迫間「悪い、インデックス……もう……無理みたいだ」

禁書目録「なに……いってるの……?」

迫間「とりあえず、この部屋にいれば安全だから……」

禁書目録「しょう、開けてよ……」

迫間「……任せておけ……魔術師は俺が抑えておく」

禁書目録「っ……そんな怪我で何言ってるの!? 無理に決まってるんだよ!」

迫間「言っただろうが、俺は不死身なんだよ……魔術師の相手ぐらい余裕じゃん」

禁書目録「…………」

迫間「ubi tres, ibi ecclesia, licet laici」

禁書目録「……え?」

突然のラテン語にインデックスが虚を突かれた。

迫間「意味、知ってるか……?」

当然、その言葉も彼女の『蔵書』の中に存在した。

禁書目録「『たとえ平信徒であろうと,三人が集まれば,そこに教会がある』……なんだよ」

迫間「……クリスマスをパーティかデートの日程度にしか思ってない、日本人の三人だけどさ。
    それでも、俺と上条と御坂がいれば……そこには、『教会』があるじゃん……」

ただ一人、孤独の中で逃げ続けた少女の戦いに終わりを告げる為に迫間は言葉を搾り出した。
781 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:42:00.60 ID:Ah7YFTiEo

迫間「『歩く教会』に比べれば、頼りない教会かもしれないが……お前をそこで保護してやるから……」

禁書目録「――――!」

迫間「守ってやるから……お前を狙う魔術師からも……『孤独』からも――だから」


――今度こそ、ちゃんと言葉にして欲しい。


『一緒に地獄の底まで来てくれる?』なんて、相手を気遣う拒絶の言葉ではなく。
本当の願いを。
インデックス自身の口から。

迫間「言えば、アイツらはきっと……お前を助けてくれるから……」


――俺がいなくても、ちゃんと出来るよな?


禁書目録「ダメなんだよ……言うから……ちゃんと言うからぁ……ここを開けて……しょう……開けてよぉ……」グスッ

迫間「悪い、ドアが歪んで開きそうにないじゃん……」

禁書目録「そ、そんな嘘で騙される私じゃないんだよ! 開けて、お願いだから……!」

迫間「そこで、大人しくしてるんだぞ……? 『俺』か上条が来るまで……そこに隠れてろ」

それだけ言って、部屋の前から歩き出す。

禁書目録「ダメ……しょう……死んじゃダメなんだよ……!」

ドアの向こうからインデックスの声が聴こえているが、それすらも耳に入らなくなって来た。

迫間「(少しでも離れないと……)」

朝、敵の魔術師は『歩く教会』を動かしている魔力を探査(サーチ)している、とインデックスは言っていた。
だからといって、迫間が部屋の前で寝ていたらインデックスの居場所を喧伝するようなものだ。
782 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:42:58.82 ID:Ah7YFTiEo

迫間「(最低でも寮の外に……)」

防犯レベルもゼロな上条当麻の部屋に比べれば、まだこの部屋の方が敵に破られる可能性は低い。
『魔術』を持ち出されれば結局、破られる事にはなるだろうが、少しでも時間を稼げれば上出来だ。

――問題があるとすれば。

迫間「(間に合うか……?)」

上条当麻の帰宅、或いは自分の危機を知った兄弟達の援軍の到着。

そして、もう一つの問題点。

迫間「(あの神裂の技……『七閃』や『唯閃』は異能云々の前に鋼糸術であり、剣術が根本にある)」

異能の力を別にしても、単純な身体能力だけで既に常人では対抗できないレベル。

迫間「(奴と上条がぶつかれば……上条に勝ちの目は薄い……)」

魔術に対して、『幻想殺し』がどの程度有効なのかは不明だが、少なくとも物理攻撃に対しては無力だ。

銃弾を鞘で防いでしまう、あの技量を考えると、ミサカ13号の遠距離からの狙撃だって足止めになるのかも怪しい。
そもそも、弾だって無限にある訳ではないのだ。

……狙撃手の存在に警戒して追撃を断念してくれれば僥倖だが、そうでなければ帰宅した上条と魔術師の接触は避けられない。

そして、何より『人払い』なる術を行使したらしい、仲間の魔術師の存在。

迫間「(インデックスを守り抜くには……手が足りない……じゃん)」

都合よく、御坂美琴でも上条宅を訪ねて来てくれれば、戦力的には充分なのだが。
最悪の場合、このまま為す術もないまま、インデックスを奪われてしまう事も考えられる。

だからこそ。

――間に合ってくれ。

そして、その願いは聞き届けられた。

???「迫間っ!!!」

聞き慣れた、自分と同じ声。
焦りと驚愕に彩られていても、聞き間違える筈がない。

迫間「(遅いじゃん、新倉の……)」

消えかける意識の中で、迫間はその男の名を呼んだ。
783 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:45:56.12 ID:Ah7YFTiEo

ミサカ13号の連絡を受けた時、すぐに動けて、一番近くにいたのが新倉だった。

新倉生が駆け付けた時、迫間生は男子寮の4階にまで降りてきていた。
3階から4階へと上がる階段の踊り場で、新倉は立ち尽くしていた。
迫間生のあまりの状態に、だ。

その状態を一言で表現するならば――何故、生きているのか分からない。

今までも、色んな死に方をしてきたが、ここまでの重傷で生きていたケースには覚えがない。
新倉にしてみれば、自分が拷問を受けた時以上のダメージを負った迫間の姿に愕然とするしかない程に。

新倉「迫間の……お前、そんな身体で……」

迫間「ははっ……少し、無茶したじゃん……仮面も真っ二つにされちまってさ……」ヨロッ

新倉は、崩れ落ちそうになる迫間の身体を慌てて支えた。

新倉「予備の仮面なら持ってきた! 今、着けてやるから……!」

迫間「それぐらい、自分でやる……それよりも安達の部屋にインデックスを置いてきた……早く、保護してやってくれ……」

新倉「……けどっ……」

迫間「――もう、嫌なんだよ……友達を失うのは……」

新倉「っ!?」

頬にこびり付いた血が、涙に洗われて流れていく。
新倉には、それが迫間の血涙のように見えた。

新倉「――判った、任せろ」ダッ

迫間をそのままに安達の部屋へと向かう。
一心同体であるからこそ、その言葉だけで新倉は迫間の想いを理解していた。

クーデター事件の折、自らを愛する少女の蘇生の為の素材にした迫間生。
仮面を装着せずに、その肉体を捧げた為、試験個体との接触の後に『残留組』に蘇生された彼に、クーデター事件中の記憶はなかった。
今でこそ、それらの記憶を保有しているが、それは他の生から共有補完された擬似記憶に過ぎない。

だからこそ、彼は事件の顛末を知った時、二度目の後悔を味わったのだ。

親しき級友を、優しき教師を、愛する少女を守れなかったという事実に。

指一本触れさせないと、守り抜くと誓ったのに。

それを果たせなかった。

迫間「――今度、こそ……」カシュ

仮面を装着した迫間は、力尽きたように廊下に倒れこんだ。
迫間が撒き散らした血に反応したのか、ドラム缶型の清掃ロボットが集まってきていた。

それらを振り払う力は、迫間には残っていなかった。

ほんの少し前に新倉がやってきた非常階段の方から足音がしても、そちらを見る力も無かった。

そして。

――その直後、迫間生の肉体と数台の清掃ロボットは、3000度の炎によって、跡形も無く消滅させられた。

784 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:48:14.62 ID:Ah7YFTiEo

爆音と黒煙は、七階にいる新倉にも届いていた。
明らかに自分達が自爆用に使っている爆弾とは違う。

新倉「爆弾か……!? くそっ、何処の馬鹿だよ、こんな真似したのは……!」

思わず、そう叫んでいた。
時間的に男子寮には人が多くない筈だが、それでも何人かは残っているかもしれない。

???「うん? 僕達『魔術師』だけど?」

階下から声。
その声の主は非常階段を使って、この七階を目指している。

新倉「(なるほど、爆弾じゃなくて『魔術』って奴か…………俺がやるしかない、か……)」

同胞の死と、敵の襲来を知った新倉は即座に覚悟を決めた。
安達の部屋と非常階段の中間ぐらいの位置に陣取って、魔術師を待ち受ける。

???「ん……? 神裂と戦ったのは君かい? ……だとしたら、下にいた仮面の男は誰だったのかな?」

――現れたのは、漆黒の修道服に身を包んだ男。

赤く染め上げられた金髪に、左右十指には銀の指輪。
毒々しいピアスに右瞼の下にはバーコードの形をした刺青。

気怠そうに煙草を口の端で燻らせながら、神父は新倉の顔を観察していた。

???「七天七刀で斬られた痕跡があったから、焼き尽くしておいたけど……君も聞いていた人相と一致するし……」

新倉「(こいつ……)」

仮面に仕込まれた爆薬では頭を吹き飛ばす程度で、学園都市に潜入中の今では却って、問題が多い。
情報漏洩を防ぎ、身体データ隠蔽の為に肉片一つ残さず消し飛ばすのが理想だが、現状ではそうもいかない。

だから遺体の処理という意味では、勝手に火葬してくれたのなら、逆に助かったとも言える。

――だからと言って、ムカツクかどうかは別の話だが。
785 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:49:48.95 ID:Ah7YFTiEo

???「まぁ、君も殺せば問題はないかな。時間もないし……」

新倉「これはまた、見事な悪役っぷりだな……魔術師さん」

???「僕は神裂とは違うからね……しかし『魔術師』を知っているとなると、やはり君の方が正解だったのかな?」

新倉「そう簡単に正解を出されちゃ、賞金がいくらあっても足りないじゃん。その安そうなバーコード貼られた頭で考えてみろよ」

???「……へぇ? 聖人である神裂に生身で挑むだけあって、大層な馬鹿野郎みたいだね。殺すよ?」

新倉「この程度の挑発に乗るなんて、見た目の割に随分と子供っぽさが滲んでるんじゃねーの、坊や」

???「――ステイルだ」

新倉「何?」

ステイル「――僕の名前はステイル=マグヌスだ」

新倉「まさか名前を教えてやるから、ちゃんと呼べ、とか言い出すんじゃないだろーな」

ステイル「まさか。ただの前置きだよ……もう一つの名前を名乗る為のね」

新倉「…………?」

ステイル「僕ら魔術師には……魔法名というのがあってね。
      称号や決意表明に近い意味合いがあるんだけど、実情は少し違うんだ」

――Fortis931

ステイル「……殺し名、って奴さ。――炎よ」

言葉と共にオレンジの軌跡が爆発する。

新倉「くっ!?」

ステイル「――巨人に苦痛の贈り物を」

迫るのは灼熱の炎剣。
しかし、新倉は動かなかった。いや、動けなかった。
その炎に魅せられていたのだ。

容赦なく炎剣は新倉へと叩きつけられ、熱波と閃光と黒煙が通路を満たした。

ステイル「やり過ぎた、かな?」

炎の中……勝利宣言にも似た言葉を意識の端で受け止めながらも、新倉はまるで別の事に『熱中』していた。

――分かる。

――判る。

――解かる。

高速で脳が回転を始め、演算が一つの結論へと導かれていく。

勝利への道筋。

自分の能力の本質。

――紅蓮の炎に身を焼かれながら、新倉生の中の『何か』が爆ぜた。
786 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:51:38.80 ID:Ah7YFTiEo

自分だけの現実(パーソナルリアリティ)

新倉生にとってのそれは、如何なるモノであったか。


――例えば、一人の人間として生きた記憶。


クローンであるが故に他の生と同様に孤児として……施設で育った。
己の宿命を知らず、生来の性格から、明るく平凡に生きてきた。

友人にも恵まれたし、下宿先の婆ちゃんも優しかった。
……幸いにも孤独とは無縁だったように思う。

訪れた転機は一人の友との別れ。
1999年、新倉生は桂木の命の期限を知る。

アイツは全国模試のトップ10常連で、他にも才能に溢れていて、愚昧な教師や理不尽な社会に腹を立ててた。
いけ好かない奴だったな。


――でも、大切な友達だった。そんなアイツが好きだった。


何故、桂木が死ななければいけなかったのか。
社会が悪かったのだろうか?
或いは、堀切のクソジジイの所為だろうか?
その『本当』の答えは未だに出ない。


――だが、桂木の死は俺を……いや、俺達を悪滅へと駆り立てた。


無為無策の愚鈍なる政治。
リスクを背負わず、利益ばかりを貪る社会悪。

だからこそ、生達は、そんな連中に対するリスクにならなければいけなかった。
日本という国家に、そこに生きる人に『誓い』を刻む為に己の存在を賭けて戦った。

民主主義という名の毒によって、人間に残された武器は己の五体のみだった。
しかし、俺達にはもう一つ、武器があった。


――それは怒りのモチベーション。


桂木の死……多くの愛する者達を襲った悲劇が与えた、強い炎のような想い。
一つ一つは小さくても、それが何十人と集まれば、止められる筈が無かったのだ。


――だからこそ、俺が手にした能力は炎だったんだ。
787 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:53:45.80 ID:Ah7YFTiEo

『本当に頭のいい奴は、20歳になる前に死ぬ。それはこの世に生きることがあまりにもバカバカしいからだ』

そういえば、そんな事を書いてたっけな、桂慧大先生は。
今、こうして必死に生きて、道を切り拓こうとしている俺を桂木は笑うだろうか?

『生きろっ! 生!!!』

いや、笑わないよな?
だって、俺ってば馬鹿だもん。

『俺達は毎日眠りにつく。眠ると意識が落ち、そこには自我も何もない』

それに頭のいい桂木だって、桂木は最後の瞬間まで生きた。
薬の副作用、死への恐怖、抑えられない怒り、絶望に身を焼かれながらも生き抜いたのだ。
消えかけた命の灯火を、どこまでも熱く、どこまでも明るく燃やしていた。
その上、俺達に多くのモノを残してくれた。

『幸せも不安も恐怖も明るくも暗くもない。………………ただの、無』

人は眠りの中で死を体感していると、桂木は言った。
そして、死は無であり、無が死なのだと。

――それは嘘だよな、桂木。……例え、死んでも、消えずに残るモノもある筈だ。

新倉「(――そう、消えないじゃん)」

気高く、誇り高く、天に輝く星のように。
孤高なる星。

例え、闇に消えようとも、かつて放った光が、後の世界を照らす。

桂木が俺達に望んだ、超人としての在り方。

新倉「(――もう一度、『俺』の想いを……誓いを……世界に刻んでやるっ……!)」

今、超人は更なる力を得る。
788 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/15(日) 23:56:20.04 ID:Ah7YFTiEo

あるべき形を与えられた炎はより強く、より激しく燃え上がる。
魔術という異法に触れ、光が影の輪郭を明確にするかのように。

そして、魔術師の放った炎と、真の形を見据えた能力が激突する。

――否、身を包む炎が、身の内から出た炎によって、喰らい尽くされた。

ステイル「何っ!?」

新たな能力者の誕生を祝福するように、灼熱と爆音が、真紅の世界を彩った。

何故、開発を受けた安達ではなく、完全な無能力者であった新倉に能力が発現したのか。

刹那の中で、新倉はそれを理解していた。
一人の人間として生きてきた、確かな記憶。

友への想いを未だに抱える、その精神の基盤。
数多の人間を殺戮した、アクメツとして構築された異質な精神世界。

数十、数百の同胞の知能、記憶を引き継ぐ為に整理された脳。
それ故に生み出された、高い演算能力。

元々、全ての素養は揃っていた。

ただ、それには『蓋』がされていた。
だから彼は『原石』とは成り得なかった。
しかし、その『蓋』も『幻想御手』によって開かれた。

開かれた宝箱。
そこに収められていたのは血潮によって磨かれた、天然の宝石。

総和の中から、新たに生まれた個である、安達。
個として生き、総和の中へと取り込まれた、新倉。

『自分だけの現実』を観測するには、安達生の『世界』はまだ幼かった。
『妹達』のようにオリジナルの『才覚』によって、未成熟さを補う事も出来なかった。

だからこそ、彼は無能力者だったのだ。
789 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/05/16(月) 00:01:02.76 ID:1NMfPxNLo

ステイル「――なるほどね、発火能力者(パイロキネシスト)とか言う奴かな?」

15にも及ぶ火球は、新倉を中心に――まるで彼を守護するかのように、その周囲を回っている。

新倉「能力が使えるようになったのはいいんだけど、こう……ビシッと決まる名前がなくてさ」

指差すのは、南の空。

宇宙の遥か彼方にて、光を放つ、天蝎宮。
その中でも最も赤く燃え、最も強く輝く、一等星。

その名の意味は、荒ぶる神、アレスに抗いし者。
火星と同一視される、古き神に対抗すべく、炎は熱く、猛っていた。

新倉「アンタの炎を見ていたら……自然と思い出していた」

それは、根源であり、約束。
それは、遺言であり、遺産。

過去から未来への希望を求めて。
未来から過去への警告を告げる。


――アクメツ誕生の契機。


新倉「俺の親友が書いた、遺作の名前だ」

異端の発火能力者(パイロキネシスト)は、自らの能力に……その『運命の名』を貰う事にした。


能力名『孤高赤星(アンタレス)』


新倉「――あの南の空に輝く星の名前じゃん」

この能力は……彼が『新倉生』であるが故に産まれた能力。

ステイル「…………へぇ?」

新倉「アンタの御蔭で、イイ名前が決まったじゃん――あんがと」

皮肉等ではない、純粋なる感謝の念。

ステイル「なるほど、能力者にしては、マシな名前を考えたね」

口調こそ穏やかだが、魔術師の声に怒気が混ざる。

ギリシャ神話に登場する、戦を司る神、アレス。
かの存在は、戦闘における戦士の狂乱や破壊の衝動を神格化したものと言われている。

――その二つ名は『城壁の破壊者』

それに並び、抗おうとする赤星の名を冠する、新倉の能力。

ステイル「そう、本当に……!」

『ある理由』から、拠点防衛用の魔術に特化したステイル=マグヌスにとって、その二つ名は。

ステイル「嘗めた名前を名乗ってくれるっ……!」

自分への挑戦としか思えなかった。

新倉「上等じゃん――『炎』対決と洒落込もうか、この不良神父っ……!」

奇しくも炎対炎。

能力者対魔術師。

異なる力でありながらも、選び、選ばれた物は同じ。

――今、覚醒の炎に彩られ、新たなる戦いの幕が開く。 
811 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/06/02(木) 13:04:57.01 ID:en+27A+bo
土日辺りに投下を予定しております。
そろそろ四話を終わらせたいな~


※新倉生に発現した能力の詳細について。


孤高赤星(アンタレス)

強度・強能力~大能力(レベル3~4)
分類・発火能力者(パイロキネシスト)

最大で15個の火球――【星(ステラ)】を操る能力。
最高温度は蠍座一等星のアンタレスと同じ3500℃
【星】を複数組み合わせることで、様々な使い方が可能。

【星】は自らの意思で自由に動かせるが15個全てを同時に動かそうとすると、演算に追われて動けなくなる。
自在に動かしながら戦闘が可能なのは半数程度が限界。

弱点は、最大戦力状態(15個全召喚)になるのに時間を要する点。
さらに、何らかの手段で炎が無効化されたり、弾丸として使用した場合、
補給(リロード)にも時間を要するので、基本的に戦闘継続力が低い点。

周囲の炎を『種火』として、活用する事も出来るが、『指向性』や『特殊な効果』のない炎でないと利用は不可。
例:ステイルの炎剣を直接『種火』として奪い取るのは不可能だが、炎剣の爆発で生じた燃焼自体は活用可。

※アクメツも知っている、某アニメに登場する社長が使う『僕の大事な玉』に、炎術師な某忍者が使用する竜之炎(弐&伍)を足したイメージ。
※魔術特化の為に本人のスタミナが低いステイルとは逆で、本人が強いので言わば能力自体のスタミナが低い。ただし、応用の幅は広い。

817 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:02:38.29 ID:u8wO+NtBo

新倉「――ここにありますのは、蠍を形作る15の星々」ペコリ

サーカスの始まりを知らせる道化師のように新倉は一礼した。

『発火能力者』は単純に火を操るだけではなく、無から火を起こす具現化能力を持つ事がある。
そして、新倉生の能力である『孤高赤星』も……そうだった。

新倉「時には敵を切り裂く鋏であり、またある時は敵を犯す毒の針」

その特性は最大で15個の火球――【星(ステラ)】を召喚・操作する事。
本来ならば、15個全てを具現化させるのには、かなりの労力がいるが、幸いにも『種火』があったので容易だった。

新倉「最初は小手調べ――早々に沈んでくれるなよ?」

炎剣を持って襲いかかってくるステイルに対して、新倉は自らの周囲を旋回する【星】に指示を送る。

【三星】【球体射出】【弾】

使用数、形状、用途の三つを指示。
ある種のプログラムのように設定された『指示』によって、膨大な演算行程が効率化される。

そして、15の【星】の中の3つがステイルに向かって直線的に発射される。

ステイル「この程度!」

だが、3つの【星】はステイルの握る炎剣によって、簡単に弾かれる。
弾かれた【星】は、指示を完遂した事で、新倉の周囲……言わば、その衛星軌道上へと戻る。

新倉「ふむ……まぁ、こんなもんか」

特にスピードを持たせた訳でも変則的な軌道を設定した訳でもないので、防がれるのは予想通りだった。

ステイル「燃え尽きろ!」ブンッ
818 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:04:32.21 ID:u8wO+NtBo

振り下ろされた炎剣を新倉は極自然に受け止めた。

ステイル「なっ!?」

【七星】【直列連結】【剣】

それは、7つの【星】を繋げて形成された剣。

新倉「炎の剣の威力は……互角……いや、俺の方が少し上かな?」

炎剣同士の鍔迫り合いの中、新倉が不敵に笑う。

ステイル「ふん――嘗めるなよ、能力者」

魔術師の驚きは一瞬のみ。

新倉「っ!?」

ステイル「灰は灰に(AshToAsh)――」

輝きを伴って、ステイルの左手に青白い炎が灯る。

ステイル「――塵は塵に(DustToDust)――」

その意味するところに新倉は戦慄した。

新倉「二本目っ!?」

ステイル「――――――吸血殺しの紅十字!」

追加詠唱によって出現した二本目の炎剣によって、力の拮抗が崩される。
ジリジリと炎剣が迫り、前髪が焼ける嫌な臭いがした。

ステイル「これでっ!」
819 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:06:05.56 ID:u8wO+NtBo

新倉「二本目とは驚いたじゃん――でも」

【七星】【直列連結】【剣】

新倉「誰が……言ったよ……」

再度の指示によって、周回中の【星】が新倉の左手に集約される。

新倉「こっちは、一本だって!!!」

ステイル「くっ」

互いに握るのは、二本の炎剣。
新倉は炎の勢いそのままに、押されかけていた状態を五分へと戻す。

ステイル「お互い様と言う訳かい? どこまでも不愉快な能力だね……」

身長差を活かして、ステイルは二本の炎剣で上から抑え込もうとするが、一向に押し切ることが出来ない。

ステイル「(くそっ、分かっていた事とは言え……)」

魔術師の焦りを知ってか知らずか、新倉は不敵に笑った。

新倉「――ここで問題です。7×2の答えは何でしょう?」

ステイル「何を言って……」

新倉「チッチッチッチッチッ……」

ステイル「(じ、時間制限だと!?)」

ステイルの炎剣に対抗する為に新倉が使用した【星】は7つ。それが2本分。

7×2=14
820 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:08:40.37 ID:u8wO+NtBo

ステイル「――まさかっ!?」

つまり、一個の【星】が余る。

それは、二つの鋏を潜り抜けた先に隠された毒の針だ。

新倉「ざーんねんっ! 時間切れだぁぁ!」

向き合っている新倉の背後から、15番目の【星】が飛び出した。

だが気付いた所で、既にステイルの両手は塞がっている。
迎撃しようにも、少しでも力を抜けば、新倉の炎剣に押し負けてしまうだろう。

ステイル「しまっ……!」

握られた拳と同等の硬度を持った【星】が、弧を描きながらステイルの顔面に突き刺さった。

ステイル「ぐぅあっ!?」

炎を纏った死球が直撃し、ステイルの体が弾かれるように後方へと吹っ飛ぶ。

ステイル「…………くそっ…………」

だが自らも炎を操る以上、それなりに炎への耐性があるのか、さほどのダメージはないようだ。

新倉「効果はいまひとつのようだ……ってか」

インデックスのいる安達の部屋から遠ざけるように戦っていた為、気がつけば階段を挟んだ反対側へと移動していた。

新倉「(このまま一気に――!)」ダッ

二本の炎剣を構えて、勝負を決めるべく、一歩を踏み出した。
821 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:11:25.63 ID:u8wO+NtBo

ステイル「……認めてあげるよ、君は僕が全力を出すに値する『敵』だと……!」

高らかに謳うように。

ステイル「――世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ(MTWOTFFTOIIGOIIOF)」

それまでの熱気が嘘のように消えた。

ステイル「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり(IIBOLAIIAOE)」

冷気にも似た戦慄が、空間を満たし、それらが一箇所へと収束する。

ステイル「それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり(IIMHAIIBOD)」

『それ』はステイル=マグヌスという殻の中で醸成され、その濃度を高めていく。
     
ステイルその名は炎、その役は剣(IINFIIMS)――」

呼吸の為に生まれた一瞬の静寂が、嵐の前を思わせた。

ステイル「――顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ(ICRMMBGP)!!!」

それまで蓄えられていた力の全てが、一つの形を為して――爆ぜる。

822 :「が抜けてた。[saga sage]:2011/06/04(土) 15:17:36.00 ID:u8wO+NtBo

途端、熱気が周囲を包み、異常なまでの熱が一体を包んだ。
炎の巨人を傍らに、赤毛の魔術師は勝利を確信した笑みで、その名を告げる。

ステイル「これが僕の切り札……『魔女狩りの王』イノケンティウス……その意味は"必ず殺す"」
.

必殺の名を背負い、巨人は新倉へと砲弾のように突き進んできた。

新倉「(あれはヤバいっ!)」

本能的に炎の巨人の危険度を理解した新倉は、攻撃ではなく防御へと行動を移行させる。
右手の炎剣を分解して、新たな指示を飛ばす。

【六星】、【三角構築】、【盾】

バラバラになった【星】の内の六つが三角形を描くように組み合わさり、
新倉の右腕に盾として装着される。

新倉は振り下ろされる炎の十字架を右腕の盾で受け止めた。

新倉「くっ……うぁ……」

――抑え切れない。

ステイル「よく頑張ったけど、ここまでだよ。……大人しく灰になるといい」

新倉「(ここまで……?)」

冗談じゃない。

まだ、迫間に託された仕事を完遂してもいない。
それ以上に、このまま負けることなど、男として許容できはしない。

新倉「(だが、このままじゃ……)」

――そう思った瞬間、十字架によって盾が砕かれた。

能力と魔術の違いはあっても、本質的には同じ炎である以上、その優劣は熱量に依存する。

新倉「(これだけ使っても……足りないのか……!)」

その時、炎が燃える轟音に紛れて、誰かの声が聴こえた。
823 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:20:00.00 ID:u8wO+NtBo

その声が「伏せろ」と言っている事に、あと数瞬……気付くのが遅れていたら、新倉の上半身は消し飛んでいたと思う。

今、目の前の『魔女狩りの王』の上半身が……そうなっているように。
それはまるで空間ごと抉り取られたかのような惨状だ。

新倉「あっぶな……!」

『魔女狩りの王』がいた筈の場所に、僅かに紫電の残光が見える。

???「――状況がイマイチ判らないんだけど……敵、って事でいいのよね?」バチン

声のした方……階段の辺りを振り返る。

――前髪から雷を迸らせた少女が、そこにはいた。

少女の右手は前方へと伸ばされ、『魔女狩りの王』を貫いたのが、彼女の異名である技だと理解出来た。

ステイル「」チッ

魔術師は小さく舌打ちをして、新たな介入者に対して炎剣を振るった。
紫電の軌跡をなぞるように炎の刃が飛び、新倉の横を抜け、少女へと襲いかかる。

???「――御坂!」

第四の声と共に、少女と炎の間に一つの影が割り込んだ。

全てを焼き尽くす爆発は――起こらない。

ステイル「――なっ!?」

新倉「……上条……それに御坂美琴……?」

新倉は巨人を撃ち抜いた少女と、炎を打ち消した少年の名前を呼んだ。
824 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:26:17.81 ID:u8wO+NtBo

上条「……一応、間に合ったみたいで良かったよ」

美琴「まさか、学生寮で盛大に戦ってるとは思わなかったわ……迷惑ってレベルじゃないわよ、アンタ達」

上条「いや、所構わず俺を追い掛け回してた御坂が言ってもな……」

美琴「うっさい! いいから、正面を見て構えときなさい!」

そんな何気ないやりとりをしていても、二人は常に臨戦態勢だった。
そこに未知の敵に対する油断は一片もない。

ステイル「――次から次へと……面倒な……!」

上条「あの神父がインデックスを狙ってる魔術結社の奴……って事でいいのか、生?」

新倉「……そうらしい」

上条「その、生の周りをクルクル回ってるのは……お前の能力なのか? いつの間に?」

新倉「色々あったんだよ……それなりに使えるから、アテにしてくれていいじゃん」

美琴「……それで問題のインデックスはどこにいるのよ?」

ステイルには聴こえないように本題の質問に答える。

新倉「――『俺』の部屋の中にいる」

正面を向いたまま、三人は小声で会話を交わす。

上条「……無事なんだな?」

新倉「今の所は、な」

美琴「良かった……」
825 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:28:14.31 ID:u8wO+NtBo

上条「……敵はアイツだけか?」

新倉「いや、もう一人……剣士がいる。近くにいるかどうかは分からないが……」

直接、見たわけではない。しかし、報告を考えれば『剣士』という表現が一番簡単かつ明確だ。

上条「分かった……御坂、頼みがある」

美琴「……何よ?」

上条「ここは俺達に任せて、インデックスを迎えに行ってくれ」

美琴「は!? ……何よ、それ」

美琴の表情が不満一色に染まる。
それに対し、新倉は成程と頷いた。

新倉「そうだな、ここは俺と上条で何とかなる。
    ……むしろ、インデックスを一人にしておきたくない」

姿の見えない、もう一人の魔術師がインデックスを捕らえようと動かないとも限らないのだ。
それを考えれば、インデックスを保護した上で一刻も早く戦闘領域から退避させなければならない。

上条「それに、この廊下で『三人』で戦うのは……少し無理があるだろ」

たかが男子寮の廊下に、何人もの人間が入り乱れて戦闘する程のスペースの余裕はなかった。

美琴「……それなら、私とアンタが残れば……!」

今まで戦っていた新倉の消耗を考えれば、全力で戦える二人が残るのも道理ではある。

新倉「おいおい、まだ俺はやれるっての……それにインデックスを守る事を考えたら、三人の中で最強の護衛が必要じゃん?」

美琴「……私、コイツに負けっ放しなんですけど」ジト

上条「それだって、ジャンケンの相性みたいなもんじゃねーか」

その例で考えれば、今までのステイルと新倉の戦いは互いにチョキでの勝負だった。
どちらがより強いチョキを競っていたとも言える。

上条「幸い、俺の右手は魔術師相手でも無能じゃないらしい。
    ここは俺と生で抑える……だから、任せてくれないか」

そこに上条の『幻想殺し』……グーが加われば、それだけで形勢は逆転する。

美琴「……言ったからには、勝ちなさいよ?」

上条「あぁ、後で合流しよう。――場所は帰りに俺と御坂が会った辺りでいいな?」

美琴「分かった……!」ダッ

駆け足で安達の部屋へと向かう美琴だったが、ドアがロックされてる上、戦闘の余波でドアが変形している事に気付いた。
ドアのロックだけなら、ハッキングで解錠可能だったが物理的に変形していては、それも難しい。

美琴「(外から回りこむしかないか……!)」

そう判断すると、迷わずに廊下から飛び降りた。
そして能力を使い、器用に学生寮の外壁を移動して、ベランダのある建物の反対側を目指す。
826 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:30:06.14 ID:u8wO+NtBo

ステイル「――相談は終わったのかな?」

新倉「悪いな、待たせたみたいで」

ステイル「いや? どうせ君達はすぐに死ぬんだから、少しぐらいは待ってやるさ。
      ……僕だって血も涙もない訳じゃない」

上条「ふざけんなっ! ……あんな小さな女の子を寄ってたかって追い掛け回すような連中が、言っていい台詞じゃないだろうが!」

それに血も涙もあるのであれば、少なくとも見た目は普通の中学生である御坂美琴に躊躇なく炎を放ったりはしないだろう。
仮に事前に彼女が学園都市の『超能力者(レベル5)』だと知っていても、簡単に割り切れるような問題じゃない。

ステイル「小さな女の子? あぁ、君達は能力者だから……アレを価値も、その危険度も理解出来ないんだろうね」

上条「アレ……危険……?」

ステイル「放置しておいて、アレを使える人間に攫われても面倒からね。その前に回収したいんだよ……僕らとしては」

上条「回収だ……? 少しぐらい記憶力がいい……たかだか10万3000冊の本を覚えてるだけの女の子だろ……!」

ステイル「ん? そんな事までアレは話したのかい? ……だけど、素人にその意味を理解する事は無理だったみたいだね」

上条「――理解するつもりもねぇよ……インデックスはただの女の子だ」

そして、目の前の男は紛れもなく、自分の敵だ。
それだけ判っていれば充分だった。

ステイル「なら、理解しないまま――死んでいくといい」

死刑宣告と共にステイルは右手を振るった。

摂氏3000度の炎が、無能力者へと襲いかかる。

上条「邪魔だ」ブンッ

防御ではなく、本当に邪魔なモノを振り払うように上条は魔術の炎を消し飛ばした。

ステイル「――馬鹿なっ!?」

上条「……こんなもん、所詮は異能の力じゃねーか」
827 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:32:39.91 ID:u8wO+NtBo

ステイル「(何だ、この男は……!)」

突然の予想外。
異能を凌駕する異常に魔術師は警戒のレベルを最大へと引き上げる。

そして。

ステイル「『魔女狩りの王』!」

新倉「っ! 上条、下がれ!」

上条「なっ!?」

ステイルの声に反応し、崩れかけていた『魔女狩りの王』が、四散した炎の欠片を寄り集めて復活した。

上条「こいつ、どうして!?」

御坂美琴の超電磁砲を受けたにも関わらず、何も無かったかのように炎の巨人がその体躯を踊らせる。

ガギンッ! と振り下ろされた炎の十字架を右手の『幻想殺し』で受け止めた。

上条「(消えない!?)」

いや――効いていないのではない。

『幻想殺し』は、ちゃんと効力を発揮している。

消滅した直後に炎が復活しているのだ――!

上条「(ヤバい……! 右手を……封じられた!)」

ステイル「灰は灰に(AshToAsh)――」

新倉「っ、あの野郎!?」

『魔女狩りの王』の後方で、ステイルが再び両の手に炎剣を生み出していた。

新倉「(間に合うかっ!?)」

『三星』『直線配置』『砲』

一定の距離を置きながら、3つの『星』を直線に並べ、一番手前の『星』を自らの拳で撃ち抜く!

前方へと撃ち出された『星』は、前に配置された『星』に激突し、玉突きのように運動エネルギーを伝達する。
役目を終えた、初弾は二発目へと吸収され、二つ分の熱量を蓄えて、一回り大きく成長した。

同じように二発目は三発目へと激突し、さらに弾は巨大化する。
ボウリングの球ぐらいの大きさへと成長した『星』が、砲弾となって、『魔女狩りの王』へと激突した。
828 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:36:43.21 ID:u8wO+NtBo

新倉の放った砲撃と、『魔女狩りの王』がぶつかり合って起こした巨大な爆発。
それによって、七階の廊下は爆心地の様相を呈していた。

そこには、魔術師の姿しかなかった。

ステイル「逃げた……? いや、体勢を立て直すつもりかな?」

周囲を見渡しながら、ステイルは新しい煙草に火をつけた。

――それにしても、気になるのは後から現れた学生。

ステイル「あんなにも容易く、僕の炎を……」

ただの生身の右手で、炎剣をガラス細工のように粉々に破壊してみせたのだ。
自分と互角に戦っていた、あの少年よりも遥かに恐ろしい相手かも知れない。

ステイル「――だけど、どんな能力を持っていようが……魔術の素人が『魔女狩りの王』を攻略するのは、不可能だ」

この場にインデックスがいれば、余計な助言をされた恐れもあったが、幸いと言っていいのか彼女は既に連れ去られている。

ステイル「この場で男二人を始末した上で……神裂と二人で、あの子の後を追えばいい……か」

彼女を連れて行ったらしい、あの中学生の少女は、確か学園都市の『超能力者(レベル5)』とやらだった筈だ。
先程の攻撃だけでは、実力の全てを推し量るのは難しいが、それでも神裂と自分の二人を相手に出来るとは思えない。

ステイル「『追え』」

その命令を受けて、また体を再生させた『魔女狩りの王』が少年達を追っていく。
829 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:39:52.53 ID:u8wO+NtBo

廊下から外へと飛び降りる事で辛うじて爆発を回避した上条と新倉。

二人はふわふわと、空中をゆっくりと降下していた。

上条「……色々と便利みたいだな、その能力」

新倉に抱えられる格好の上条は、少し複雑そうに見える。

新倉「だろ?」

【六星】、【六角連結】、【輪】

【星】で戦輪(チャクラム)状の六角形を描き、足場替わりにして乗ることで落下の速度を殺しているのだ。

新倉「――ただ、一度『消費』すると再充填(リロード)に時間が掛かるんだよな……」

だから、右手で触るなよ? と、上条に対して注意を促す。

上条「りょーかい」

既に【盾】で6つを破壊され、【砲】で3つを消費してしまった。
どちらも『魔女狩りの王』相手にである。

残りは足元の6つだけだ。
……残弾数が半分以下というのは、かなり心許ない。

上条「……それにしても……死ぬかと思った……割と本気で」

新倉「まったくだな……しっかし……上条の右手って、魔術が相手でもお構いなしか」

上条「自分でも驚いてる。……ぶっつけ本番だったから、消せるかどうか不安だったけど」

ぶっつけ本番の癖に迷わず御坂美琴を庇った訳ね、と新倉は一人ほくそ笑んだ。

新倉「……でも、あの巨人の方は消せなかった?」

上条は無言で頷く。

上条「……効いてない訳じゃなくて……どうも、消した瞬間からすぐに再生してたみたいだ。
    ……どういう理屈で動いてんだ、あれ」

新倉「俺達には魔術に関しての知識が無いからな……仕組みが解らないんじゃ、対処のしようが……」

上条「いや、仕組みは解らないけど、手掛かりならあるぞ?」

新倉「?」
830 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:46:07.34 ID:u8wO+NtBo

――四階。

――三階。

チラリ、と迫間がいた筈の場所を観察するが、人間の『存在』の痕跡は見られなかった。

新倉「(記憶移送は……間に合ったとは思うが……)」

問題があるとすれば、素体への記憶移送に必要な電力の確保が難しい事だろうか。
そもそも、研究施設の地下に勝手にプラントを建造して、電力も持ち込んだ発電機で足りない分は施設から拝借しているのだ。
普段なら誤魔化せても、昨晩の停電の影響がある時に大量の電力を消費すると、露呈する危険が高い。

最悪、『妹達』に人間発電機を頼む羽目になるかもしれない、と新倉は不安になった。

新倉「よし、降りるぞ」

2階まで降下したところで、二人は廊下へと着地した。

上条「ほら、見てみろよ」

言いながら、廊下の壁を指差す。

新倉「子供の悪戯並だな、おい」

廊下だけではなく、天井やドアにまでテレホンカードぐらいの大きさの紙がベタベタと貼られている。

新倉「これが『魔術』の元か……? まさか、あの赤毛神父……一枚一枚貼って準備した訳じゃないよな……?」

――想像してみる。

新倉「ぷっ……! ヤバい、想像しただけで……」プルプル

上条「生のそういう性格が時々、すごく羨ましいですよ、上条さんは」
831 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:48:18.35 ID:u8wO+NtBo

新倉「悪い、性分みたいなもんじゃん。……コレ、剥がせば『魔術』を使えなく出来たりしないのかね?」

上条「時間がかかり過ぎるだろ……もっと、一発で逆転できるような冴えた手を考えないと……っ!?」

考えを断ち切るように『魔女狩りの王』が、上の階の廊下を『ぶち抜いて』降って来た。

上条「くそっ!」

新倉「おいおい、自動追尾かよ!?」

上条と新倉は、咄嗟に左右へと散って『魔女狩りの王』から距離を取る。

その結果、上条は非常階段の前へと逃れる事に成功したが、新倉は廊下の奥へと追い込まれた。

新倉「やば……!」

上条「生!」

新倉「俺に構うな!」

上条「――けど!」

新倉「『ここは俺に任せて先に行け!』」キラーン

上条「この馬鹿! お前、それが言いたいだけだろ!?」

新倉「あ、バレた?」

――その無闇な余裕はどこから来るのか。

新倉「でも、考えがない訳じゃないじゃん! 俺がコイツを抑えてる間に、上条があの魔術師を倒してくれれば――!」

ゲームや漫画でも術者を倒せば、術は解ける。
お約束、という奴だ。

新倉「ついでに、この紙切れもどうにかしてみる!」

熱さとは別の理由で新倉の頬を汗が伝うが、表情から余裕は消えない。
832 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:48:55.41 ID:u8wO+NtBo

新倉「悪い、性分みたいなもんじゃん。……コレ、剥がせば『魔術』を使えなく出来たりしないのかね?」

上条「時間がかかり過ぎるだろ……もっと、一発で逆転できるような冴えた手を考えないと……っ!?」

考えを断ち切るように『魔女狩りの王』が、上の階の廊下を『ぶち抜いて』降って来た。

上条「くそっ!」

新倉「おいおい、自動追尾かよ!?」

上条と新倉は、咄嗟に左右へと散って『魔女狩りの王』から距離を取る。

その結果、上条は非常階段の前へと逃れる事に成功したが、新倉は廊下の奥へと追い込まれた。

新倉「やば……!」

上条「生!」

新倉「俺に構うな!」

上条「――けど!」

新倉「『ここは俺に任せて先に行け!』」キラーン

上条「この馬鹿! お前、それが言いたいだけだろ!?」

新倉「あ、バレた?」

――その無闇な余裕はどこから来るのか。

新倉「でも、考えがない訳じゃないじゃん! 俺がコイツを抑えてる間に、上条があの魔術師を倒してくれれば――!」

ゲームや漫画でも術者を倒せば、術は解ける。
お約束、という奴だ。

新倉「ついでに、この紙切れもどうにかしてみる!」

熱さとは別の理由で新倉の頬を汗が伝うが、表情から余裕は消えない。
833 :うわ、またエラー出た。[saga sage]:2011/06/04(土) 15:50:34.12 ID:u8wO+NtBo

上条「ったく……! 無茶すんなよ!?」

新倉「いざとなったら、飛び降りて逃げるって! さっさと行け!」

上条「判った!」

視界の端に非常階段で上へと向かう上条を捉えながら、炎の巨人と対峙する。

新倉「――さて、と」

何とかすると言ったものの、こんな炎の化物と真っ向から勝負する程、新倉は馬鹿ではない。
いや、自分が負けて死ぬだけのタイマン勝負なら別にやってみてもいいが、それで上条やインデックスを危険に晒す訳にもいかない。

新倉「(ドアを破って、適当な部屋に逃げ込む……却下)」

何処に逃げようと、この炎の巨人は全ての障害物を溶かして追ってくるだろう。

新倉「(コイツを捕まえておける檻でもあればいいんだけどな……)」

……そこまで考えた時、新倉の携帯電話に着信が入った。

……………………。

新倉「は? ――ちょ、待てええええぇぇぇええい!」ダッ

電話を受けた新倉は、迷わず廊下から外へと飛び降りる。

――直後、『魔女狩りの王』へと大量の水が降り注ぎ、超高温の水蒸気が廊下を埋め尽くしていた。

834 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:52:53.14 ID:u8wO+NtBo

新倉と別れた上条は学生寮の七階で、再び魔術師と対峙していた。

ステイル「――おや、一人で戻ってきたって事は、あの発火能力者を囮にしたのかな? 意外と冷酷な手を使うじゃないか」

上条「関係ねぇよ。……俺がここでお前を倒せば、それが生を助けることになる」

ステイル「ふん、術者狙いか……悪くはないけど、少し……認識が甘いんじゃないかな?」

実際、上条と美琴の介入がなければ生は『魔女狩りの王』に敗れていた。
仮に逃げに徹したとしても、数分も持たないだろう。

ステイル「――『魔女狩りの王』!」

叫んだ瞬間、上条の背後から――エレベーターの扉をアメ細工のように溶かしながら、炎の巨神が通路へと這い出てきた。

ステイル「ほら、ね」

あの能力者を容易く片付けて、『魔女狩りの王』は戻ってきた。
ステイル=マグヌスは自身の奥義たる巨神の姿を見て、そう思った。

――だが。

上条「(――縮んでる?)」

炎によって構築された、その巨躯が。
圧倒的な威圧感と熱量を兼ね備えた体が、一回り小さくなっていた。

ステイル「『殺せ』!」

上条「くっ」

襲いかかって来る『魔女狩りの王』を右手で防ぎながら、上条当麻は観察する。

再生力は健在だ。
だが、最初ほどではない。

その気になれば押し切れそうな……その程度の拮抗。

ステイル「――灰は灰に」

その致命的な変化に気が付かないまま、ステイルは上条を挟み撃ちにしようと詠唱を開始した。
835 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:54:55.10 ID:u8wO+NtBo

ドドドドドドドドドドドドドドドドッ


だが、そのステイルの詠唱を遮るように、戦場に異音が響いた。

ステイル「……何だ?」

怪訝な表情を浮かべて、魔術師は耳を澄ませる。


――音の発生源は階下。


ドドドドドドドドドドドドドドドド……


ステイル「――止んだ?」

ピチャン、ピチャン。

轟音が止まったかと思えば、今度は水音。

ステイル「(一体、何が……?)」


バキン!


上条「――え?」

それまで、右手で消した直後に再生していた『魔女狩りの王』が、唐突に消え失せた。

ステイル「イ、イノケンティウス!?」


836 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/06/04(土) 15:57:35.08 ID:u8wO+NtBo

ウイィィィィィィィン


上条「(な、何か上がって来る……!?)」

学生寮の七階へと――『何か』が近付いて来ている。

???「…………」


――それは、人だった。


ステイル&上条「な……」


生命を守り、炎に立ち向かう事を象徴するオレンジの服。


ステイル&上条「なん……」


生命を奪い、悪へのリスクにならんとする決意を示す、漆黒の仮面。


ステイル&上条「なんだぁあああああああああああああああああああああああ!?」


相反する装束に身を包み、その男は異能者達の戦場に乱入する。


アクメツ「――火災現場はここかぁ」ニヤリ


――消防士アクメツ、ここに現着。 
850 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/06/18(土) 21:47:48.49 ID:LMd3vOkZo
――時間は少し巻き戻る。


学園都市・第七学区


~消防署~


学園都市に数多く潜伏しているアクメツの中に、熱い情熱を持て余している生がいた。

彼の名前は伊吹生(いぶきしょう)――学園都市にある消防署で副士長の階級を持つ男である。

伊吹「……暇じゃん」スラスラ

事務書類を片付けながら、溜め息を一つ。
自らの職を活かし、消防士として学園都市にやってきた伊吹であったが、学園都市に来てから出動が極端に少ない。

伊吹「(平和なら、それでいいじゃん……でも、出る幕がないってのはどうなのよー!?)」

勿論、火災自体はある。

しかし、科学の街――学園都市の名前は伊達ではない。
消防が現着する前に……火災が起きた施設に備え付けられた消火装置が、仕事を終わらせてしまっているのだ。

以前あった『虚空爆破事件』でも、被害の大きさとは対照的に火災の被害はなく、事件後の現場調査も警備員と風紀委員に持って行かれた。

伊吹「(……こんな事なら、普通に外で『妹達』の世話しながら、働いてた方が良かったかもなぁ……)」

加えて、事務仕事は山程あるのが憎い。

伊吹「(……それにしても)」パカッ

昼間に届いたメールを見る。
どうやら、他の兄弟達は『魔術』なんて、楽しそうなファンタジーの世界に首を突っ込んでいるらしい。

伊吹「羨ましいじゃん……」

ハバタケ-ソラヘ-タカクマイア-ガレ-

伊吹「――もしもし?」

その電話は、一人の兄弟の危機を……そして魔術師の襲来を告げるモノ。

数分後――消防署の中から生の姿と、一台の梯子車が忽然と消えた。
852 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/06/18(土) 22:06:47.45 ID:LMd3vOkZo

夕闇の迫る街を二人の少女が駆けていた。

茶髪に制服姿の少女が、銀髪で修道服を来た少女を強引に引っ張るように。

修道服の少女は、何度も立ち止まり引き返したい旨を告げる。

魔術師の一人に斬られた少年の怪我が気掛かりだったし、戦う為に二人が残ったなんて嫌だった。

だが、その願いは聞き届けられない。

それは、少年達を戦いを無駄にする事だから。

本当なら、自分だって彼等と一緒に戦いたい。

そして、彼女を護る事を託されたから。

10万3000冊の魔道書を有する少女は、敵の危険性を説いた。

その魔術の成り立ち、効果、意味を。

例え、残してきた少年の一人の右手が異能の力に対して絶対でも、それだけで攻略出来るほど容易い相手ではない、と。

なら、その攻略法を電話で伝えればいいじゃない、と少女は反論するが、自分が少年の電話番号知らない事実に気付いて、軽く凹んだ。


――そんな二人の遣り取りを、茶髪の少女と同じ姿と服装をした少女が見ていた。
853 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/06/18(土) 22:08:41.78 ID:LMd3vOkZo

消防署から姿を消した伊吹生。

彼は学内の巡回に見せかけて、梯子車……愛車である『ジェットジャガー号』(勝手に命名)で出動していた。

伊吹「――迫間が殺られたのか!?」

学生寮へと急ぎながらも、携帯電話をハンズフリーにして同胞達と連絡を取り合っていた。

安達『らしい。しかも、その遺体は後から現れた炎を使う別の魔術師に焼かれたそうだ』

伊吹「炎を……へぇ……いいね……実にいいじゃん……」


――それは、獲物を見つけた狩人の表情だった。


安達『今は、新倉と上条が交戦してるが……相手は未知の敵だ、油断は出来ないじゃん』

伊吹「それで、俺は何をすればいい?」

安達『敵の魔術師が使う、『魔術』に関して『妹達』経由で情報が入った……それを踏まえて、術の無力化を頼みたい』

伊吹「――了解じゃん……相手が炎なら、俺の独壇場だ……楽しくなってきたぜぇ……!」

久し振りの『仕事』に伊吹は、意気揚々と車を走らせるのであった。


――視界の端に歩道で揉める二人の少女の姿が映った。
854 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/06/18(土) 22:11:04.10 ID:LMd3vOkZo

~とある高校の学生寮~


新倉「今度こそ、死ぬかと思ったじゃん……」

援軍が到着するから今すぐに寮から出ろ、という安達生からの連絡。

その直後の放水で、危うく新倉生は高温スチームで危蒸される所だった。

……彼は辛うじて寮からの脱出に成功していた。

新倉「イタタ……」

慌てて脱出したので、何処かで頭でも打ったのか妙に頭痛がする。

新倉「後は伊吹の奴に任せて、少し休憩させてもらうとしますかね……」フラ

仮面を付けた兄弟が学生寮に乗り込むのを寮の外から、のんびりと眺める。

新倉「……ふぅ」ドッコイショ

疲労を溜め息と一緒に吐き出すようにしながら、寮の玄関先の段差に腰を下ろす。
勝利を確信した新倉は、戦闘が終わるまで休憩している事にしたのだ。

新倉「あの魔術、『ルーン』って名前だったのか……」

それが、ステイル=マグヌスの使用する魔術の正体。

――『神秘』『秘密』を指し示す24の文字にして、ゲルマン民族により二世紀から使われる魔術言語。

詳しくは聞けなかったが、どうやら『妹達』が上手く攻略法を拾ってきてくれたらしい。

新倉「魔道書10万3000冊ってのは、伊達じゃないって事かね……」

――『魔女狩りの王』を直接攻撃しても意味はなく、周囲に刻まれた『ルーンの刻印』を消さないと何度でも蘇る。

禁書目録の名を有する少女からもたらされた、逆転の為の知識。

『ルーンの刻印』が学生寮の中に貼り付けられたコピー用紙であるのは理解出来たが、問題は対処法だった。

理想的なのはスプリンクラーを作動させること。
それによって、コピー用紙か文字のインクだけでも潰す事だが……それは不可能だった。

新倉「(あの魔術師が、術に何らかの細工をしているだけなら……俺の『孤高赤星』にも報知器が反応しないのは変じゃん)」

つまり、細工がされているのは術ではなく――火災報知器。

最初、安達は手動でスプリンクラーを作動させる事も考えたそうだが……最適の人材がいたのを思い出して、援軍として呼んだらしい。

新倉「(……そりゃ、現職の消防士がいるんだから任せた方がいいわな)」

確かに消火用のスプリンクラーとは、威力も水量もまさに桁違い。
セロハンテープで止められた程度の紙切れなんて、一枚も残らないだろう。

そうなれば、あの赤毛の魔術師には戦闘力は残らないのだろうが――容赦するつもりもない。                                          

新倉「――まぁ、迫間の体を焼いた分ぐらいはボコられればいいじゃん」

頭痛で揺れる視界の中、新倉生は魔術師に対して、不敵に吐き捨てた。
855 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/06/18(土) 22:16:46.09 ID:LMd3vOkZo

学生寮の七階は異様な戦場へと変わりつつあった。

アクメツ「アクメツ出場~~っ! 火元はお前かぁぁぁぁぁあ!?」

学生寮の前に停められた、一台の梯子車。
そこから伸びた梯子の先に、アクメツ――伊吹生はいた。

ステイル「か、仮面の男……!?」ポロッ

突然の闖入者の姿に、ステイルが口端に咥えていたタバコを落とした。

アクメツ「火災発生!!」ガチャ

ステイル「は?」

アクメツ「放水――」

眼前の男が何をしようとしているのか理解した魔術師は驚愕する。

ステイル「お、おい!?」

アクメツ「開始――――っ!!!!!!」

ドドドドドドドドドドドドドドドドッ

ステイル「ぶっ―――やっ―――うわっ―――」

生身の人間に直撃すればタダでは済まない水圧が、魔術師を容赦なく蹂躙していく。

上条「」( ゚д゚)ポカーン
856 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/06/18(土) 22:19:12.27 ID:LMd3vOkZo

……放水が終わる頃には、七階の廊下は全室で水道管が破裂したかのような惨事になっていた。

ステイル「げほっ……ごほっ……」

気管に水が入ったのか、ステイルは苦しそうに咳を繰り返している。

アクメツ「放水しゅ~りょ~」

ステイル「き、貴様……! 何者だ……! こんな真似をして……!」ゲホゲホ

アクメツ「あ~ん?」ギロ

おっと、まだ『火種』が残っていたようだ。

アクメツ「」ガチャ

アクメツが腰だめに構えたのはステンレス製の筒。
科学の知識に疎いステイルでも、それがどういう類の機械なのかは判る。

いや、疎いからこそ『それ』が、強力な兵器に見えてしまった。

バズーカと見紛う、その機械の名前はインパルス。

正式名称――IFEXインパルス消火システム。

IFEX--アイフェックス--はインパルス消火技術(Impulse Fire Extinguishing Technology)
の頭文字をとった言葉で、ドイツで開発された全く新しい消火技術に基づく消火機器やシステムの総称だ。

背中のバックパックを含めて、総重量は約25キロ。

かなりの重量だが、通常のホースを使用した消火に比べれば、その機動力は圧倒的だ。

このインパルスは水や消火薬剤の『微細な粒子』を『高速度』で火や、爆発性ガスの中に『打ち込む』ことで、消火を行う。
微細な粒子とすることで、打ち込まれた水分は一瞬で蒸発し、燃えている物質の温度を急激に冷却するのだ。

昨今では、『特殊部隊』や『警察』が『暴動鎮圧』に使用する事もある『強力』な放水銃である。

864 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/03(日) 20:53:34.71 ID:otkRBMn3o

ステイル「な、何だそれは……! それをどうするつもりだ……!」

アクメツ「」ニヤニヤ

質問には答えず……笑顔と共に撃つ。

バシュン! バシュン! バシュン!

ステイル「げふっ! がはっ! ぐあっ!?」

霧状に噴射されてるとはいえ、直撃すれば並のパンチ以上に『効く』のだ。
つまり、ステイルは強烈なパンチの雨を喰らっている状態と変わらない。

上条「」((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

眼前で繰り広げられる狂気の宴に、上条当麻は戦慄した。
それこそ、敵であるステイルを助けてやった方がいいのではないか? と、思ってしまうくらいに。

ステイル「…………う……ぁ……」ピクピク

アクメツ「――鎮火完了……ってな」

グロッキー状態のステイルを背に仮面の男が上条の方へと近づいて来た。

上条「アンタ、何者なんだ……?」

アクメツ「俺か? ……通りすがりの消防士じゃん」

嘘だ! と、心の中で上条のツッコミが入る。
865 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/03(日) 20:54:40.48 ID:otkRBMn3o

アクメツ「――まぁ、アクメツとでも呼んでくれ。一応、公式(オフィシャル)にはそうなってるからさ」ニヤリ

上条「アクメツ……?」

アクメツ「じゃあな、少年。夏の火遊びには注意しろよ?」

上条「え、あ……はい」

何故か頷いてしまった。

ステイル「……逃がすと……思うのか……?」

その消え入りそうな声に上条は素早く身構え、アクメツは面倒臭そうに振り返った。

アクメツ「お、まだやる?」

ステイル「どこの誰とも判らない相手に……ここまでされて……!」

アクメツ「そのガッツは買うけどさぁ……止めといた方がいいと思うぜ?」

ステイル「黙れっ! 『魔女狩りの王』!」

だが、世界は応えない。

ステイル「…………え」

上条「…………復活しない……?」
866 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/03(日) 20:56:08.55 ID:otkRBMn3o

ステイル=マグヌスは知らない。

その頭脳に10万3000冊の魔導書を有する少女が、遠く離れた場所で、自らの『ルーン』の魔術について語った事を。

御坂美琴は知らない。

上条や新倉が知りえない、その『攻略法』を生達に電話で伝えた……オリジナルの監視任務に従事していたクローンの少女がいた事を。

上条当麻は知らない。

新倉が『魔女狩りの王』と戦っている時、援軍として駆け付けた消防士の伊吹生が建物の中に貼られた『ルーン』に壊滅的な打撃を与えた事を。



ステイル「そ、そんな……どうして……!?」

アクメツ「残念ながら、この寮の中にある『火元』は、ぜ~ん~ぶ潰させてもらったじゃん」

――消火の基本だからな、と仮面の男は笑って告げた。

ステイル「ば……馬鹿な……!」

その意味を理解した魔術師は、自分の魔術が完全に封殺されてしまった事実に打ちのめされる。

アクメツ「――じゃ、俺はこれで」(、゚皿゚)ゞ

上条「………………ご、ご苦労様です……?」

仮面の消防士は、現れた時と同じように梯子の先の籠に乗り込んで帰っていく。

ステイル「いのけんてぃうす……イノケンティウス……魔女狩りの王!」

幾度も繰り返される召喚の言葉が虚しく響いた。

上条「…………」ギュ

改めて、右手を固く握る。
追い打ちをかけるみたいで少し抵抗があったが……別にいいか、と切って捨てる。
867 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/03(日) 20:57:35.88 ID:otkRBMn3o

上条「さて、と」

その一言で、ステイルの体が大きく震えた。
恐らく、それは水に濡れた寒さの所為ではない。

未だにダメージから回復していないステイルへと一歩、踏み出す。

ステイル「……あ……あぁ……」

……もう、世界は変質しない。

こうなってしまえば、能力も魔術も関係ない。

相手はプロの魔術師なのかも知れない。

だが、これは既に路地裏の喧嘩と何一つ変わらない。


――そして。


ただ、背の高いだけの『素人』に負けるほど、上条当麻は弱くはない。
868 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/03(日) 20:59:15.80 ID:otkRBMn3o

上条「生、無事かっ!?」

新倉「……見ての通りじゃん。そっちも何とか切り抜けたみたいだな」ノ

転がるように学生寮を飛び出してきた上条を新倉は片手を挙げながら迎えた。

上条「妙な……いや、変な人の助太刀がありまして……自分でも信じられないから、後で話すよ」

正直、夢か幻の類だと思いたいらしい。

新倉「(変て……わざわざ言い直して、悪い表現を使わなくても……)」

色々な意味で他人事ではないので、他からの評価は地味に気になる。
仮面カッコ良いと思うんだけどな、と口の中で呟いた。

……仮面の時点で変だという事に気付かないのも問題だが。

上条「生?」

新倉「何でもないじゃん……で、魔術師は?」

上条「疲れたのか、廊下で寝てる。……そのうち起きて、勝手に逃げるだろ」

新倉「それはそれは」ニヤニヤ

上条「――とりあえず、消防車が来る前に寮を離れよう。御坂とインデックスも心配だ」

新倉「消防車?」チラ

伊吹の奴が乗ってきた梯子車は、既に寮の前から消えている。
流石は俺、と賞賛したくなる程の見事な引き際だった。

上条「上の階から見えたんだよ。何台か、ここに向かって来てる」

火災報知器が作動していない事を考えると、少しばかり来るのが早い。
魔術師によって『人払い』の処置はされているだろうから、目撃者による通報も考え難い。

新倉「(伊吹が事前に呼んでた……? それに紛れて、普通の消防士として現場に舞い戻る気か)」

犯人は現場に戻る、とは違うが……きっと、そんな感じだろう。

上条「直に野次馬も集まって来そうだし……」

新倉「りょーかい。目を付けられる前にトンズラするとしますか」

上条「いや、トンズラって……」


873 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/07/05(火) 22:11:41.97 ID:oEWSbf3Zo

学園都市・第七学区


【PM 5:34】


続々と駆けつける消防車や警備員の目を逃れ、魔術師の襲撃を警戒しながらの移動。
結果的に、一時間以上を要して二人は合流場所へと辿り着いた。

禁書目録「と、とうま! しょう!」

その姿を見て、二人の少女の表情に安堵と喜びが浮かんだ。

美琴「ほら、大丈夫だったじゃない。……心配しなくたって、そう簡単にやられたりしないわよ」

私に勝ったんだから、そう簡単に負けられちゃ困る、とでも言わんばかりである。

禁書目録「……うん……良かったんだよ!」

新倉「悪い、遅れたじゃん」

上条「……二人とも、怪我はないか?」

美琴「それはこっちの台詞。……あーあ、色んな所に焦げ跡付けて……」

言われて、上条と生は自分達の服の状態を確認する。

新倉「上条、火事場から焼け出された人みたいじゃん」

上条「その台詞、そっくりそのまま返してやりますよ。それで……結局、そっちには敵は来なかったのか?」

美琴「――平和なもんだったわ。ナンパしてきた、空気の読めない馬鹿がいたぐらいで」バチッ

上条「また、不要な血が流されたのか……」ゲンナリ

美琴「失礼ね。適当にあしらったわよ」

本当か? と上条は視線でインデックスに確認を取る。

禁書目録「」フルフル

上条「…………」

美琴「いいの、あの手の輩には断固とした対応が必要なのよ」

上条「いや、まだ何も言ってないんでせうが……」
874 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:14:38.61 ID:oEWSbf3Zo

新倉「本当に魔術師は来てないのか?」

美琴「来てくれれば、それはそれで後腐れなく叩きのめせて楽だったんだけどね」

上条&新倉「「そ、そうですか」」ヒクヒク

女子中学生とは思えない好戦的な言葉に男二人の頬が引きつる。

禁書目録「(みことが一緒だったから、警戒したのかな……? けど、昼間はしょうが一緒だったけど仕掛けてきたし……)」

そして、思い出す。

一方の少年は、その時に……もう一人の魔術師に斬られたのだという事を。

禁書目録「(――そうだ、しょうの怪我は!?)」

あんな……あんな言葉を残すほどの重傷だったのだ、何とも無い筈がない。

禁書目録「…………え?」

だが、傷は無かった。

その痕すらも、何も。

新倉「……どうかしたか、インデックス?」

禁書目録「しょう、怪我は……?」

新倉「いや……ないじゃん?」

その質問を怪我をしていないか? という意味に取ったのか、新倉は事も無げに答えた。
表情こそ平然としていたが……その額にあぶら汗を滲ませながら。

875 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:16:04.44 ID:oEWSbf3Zo

禁書目録「(不死身だって……死んでも死なないって……言ってたけど)」

――仮にそんな能力が本当に彼に宿っていたとして。

それでも、何かが変だ。

インデックスは感じていた……拭いようのない、違和感を。

自分の中にある『生』の姿と、目の前にいる『生』の姿にズレがある。

例えば、服装。

朝、上条当麻の部屋で出会った時から、昼に一緒に行動している時までの服装と、今の服が違う。
血糊が付いてしまったから着替えたのかも知れないが、魔術師との戦いの最中にそんな余裕があったのだろうか。

例えば、ピアス。

一緒に食事をしていた時も、彼の両の耳にはピアスが光っていた。
傷は能力で塞がったのかも知れない。だが、ピアス穴のようなものまで治癒してしまったのだろうか。

それ以外にも……完全記憶能力で記憶された二人の『生』の姿を頭の中で対比させてみると、僅かな違いがある。

どう見ても、本人にしか見えない……でも、何かが違う。

禁書目録「(まさか、敵の魔術師……!?)」

可能性として思い当たったのは『なんらかの魔術で敵が顔を変えている』だった。

自分の持っている知識の中にも、その手の変装術は数多くある。

……だが。
876 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:22:14.93 ID:oEWSbf3Zo

上条「おい、生……?」ピト

インデックスとは全く別の異変に気付いた人間がここにいた。

上条「っ……すごい熱だぞ!?」

上条当麻の『右手』が生の額に当てられる事で、インデックスは混乱の中へと引き戻される。

禁書目録「(……魔術じゃない……? でも、他の異能の力だったとしても説明がつかない……)」

――ならば、彼は自分を庇い怪我をした生に間違いないのだろうか?

新倉「……何か、頭が痛くてな……」

上条「いつから!?」

新倉「アイツとの戦いが終わった時ぐらいから……かな」

上条「どうして……!」

今まで、何も言わなかったのか……そう問い詰めそうになって、止めた。

上条「(そんなの決まってる……インデックスを守る方を優先したかったからじゃねーか……!)」

新倉「悪い……自然に治ると思ってたんだが……どうも無理……みたいじゃん」グラッ

美琴「ちょ、ちょっと!?」

上条「生!」

禁書目録「しょう!」

糸が切れた操り人形のように倒れた生に、上条と美琴……そして、インデックスが駆け寄る。

上条「おい、生! 生!」ペチペチ

何度か頬を叩くが反応はない……それどころか、ほとんど意識がないようだった。

美琴「これ、普通の病気じゃないんじゃない……?」

上条「――かもしれない。まさか、先刻の戦いの中で何か……」

気付かない内に脳にダメージを負ったとか、敵の魔術師に何かされた可能性だってある。
877 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:24:21.44 ID:oEWSbf3Zo

上条「…………くそっ……!」

生を横にさせて、楽な体勢にしてやるが……それでも容態がよくなる気配はない。

上条「インデックス、生の体調を治すような……そんな魔術とか無いのか?」

馬鹿な発想だと思ったが、ゲームのRPGに登場するような回復魔法みたいな魔術があればと訊ねた。

禁書目録「あるけど……多分、無理だと思う」

美琴「どうして?」

禁書目録「――どれを使えばいいか判断が出来ないし、使える人間もいないから」

美琴「使える人間がいないって……経験者じゃないとダメって事?」

禁書目録「ううん。私がいれば……私が知識を教えて、それを正確に再現する事が出来れば、素人にだって魔術は使えるよ? 
       ……でも、とうまやみことには無理なんだよ」

上条「まさか……俺の右手の所為か?」

禁書目録「確かにとうまの右手は魔術を邪魔しちゃうと思うけど……それは、離れていれば済むもん」

美琴「私にも無理って事は、もしかして……?」

禁書目録「『能力者』は『才能ある人間』だから。
       『才能ない人間』が『才能ある人間』に並ぶ為に作られた『魔術』は、『才能ある人間』には使えないの」

能力の開発を受けた人間は魔術師とは人間としての構造が異なり、魔術を使用する為の回路と規格が合わないらしい。

上条「(……あの魔術師が言ってた、インデックスを使える云々ってのは、そういう意味か……!)」

禁書目録「……けど、その問題がなくても……しょうを治すのは難しいかも」

上条「?」

禁書目録「しょうの異変の原因が、単純な体調不良なのか、何かの病気なのか……私には、その判断が出来ないから」

美琴「処方箋がなければ、薬剤師は薬を出せない、ってこと?」
878 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:27:22.44 ID:oEWSbf3Zo

禁書目録「うん。先刻、とうまが顔……頭を触っても変化が無かったから、敵の魔術の所為じゃないみたいだけど……」

もしも、原因が学園都市側……つまり、科学や能力にあるのであれば、インデックスには手が出せない。

上条「どちらにしても、魔術に頼るのは無理か。……厳しいな」

不法に学園都市へと侵入しているインデックスを連れた状態では、警備員に助けを求めるのは現実的ではない。
だが彼女を置いてはいけないし……病院に生を連れて行こうにも、そこで襲撃を受ける可能性を考えると迂闊には動けない。

上条「どこか、生を休ませてやれる場所があればいいんだけど……俺の部屋は戻るのはな」

今は消防車や野次馬でごった返しているし、襲撃を受けた場所にノコノコ戻る気にはなれない。

美琴「常盤台の寮は……無理よね、やっぱ」

多数の高レベル能力者が生活しているという点では、一種の要塞に近い戦力を有しているが、問題が多すぎる。
女子寮、寮則、門限、寮監、男子、不法侵入、黒子。

美琴「(うん、絶対に無理だ)」

一つか二つの問題なら、普段と変わらないが、ここまで多いと切り抜ける自信がない。

美琴「こんな時、頼りになる大人が知り合いにいないのが悔やまれるわね……」

上条「………………あ」

――いた、一人だけ。

こんな時に頼りになる、見た目は子供な熱血教師が。



それから三分後。



小萌先生の住所は、青髪ピアスに連絡して聞いたらすぐに判明した。
唐突に発覚した悪友のストーカー疑惑に上条は生が快復したら、一緒に厳重な取り調べを行うと密かに決める。

上条「――よし、行こう」

辛うじて立っていられる生に上条が肩を貸し、それを後ろから美琴が支えるようにして、四人は歩き出す。

……ちなみにインデックスは、美琴が右手を繋いでガッチリと保護(確保)していた。
879 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:37:41.58 ID:oEWSbf3Zo

【PM 6:11】


~とあるアパート~


禁書目録「おおー」

美琴「なんか凄い場所に住んでるのね……アンタの担任」

ボロいの前に『超』が付きそうな木造二階建てのアパートを前にインデックスが感嘆の声を上げ、次いで美琴が遠慮のない感想を述べる。

上条「あー、お嬢様な御坂にはカルチャーショックか」

そう尋ねる上条も普段であれば、この家を見ただけで10分は余裕でギャグに出来る。

美琴「いや……別に実家は普通だから、お嬢様って訳じゃないわよ。ちょっと驚いただけ」

上条「まぁ、そりゃそうか」

今でこそ、超能力者として大成して常盤台中学に通い、多額の奨学金を得て、優雅?な生活を送っている彼女も元は自分と同じ一般家庭出身の小市民だ。

上条「第一、御坂は『お嬢様』のイメージから遠過ぎるしな」

美琴「……どういう意味よ」ムスッ

上条「んー? 親しみやすくて好感が持てるって意味だぞー?(棒)」

とある友人の義妹メイド風に誤魔化してみる。

美琴「こ、好感!?」///

禁書目録「……行かなくていいの?」

上条「おっと、そうだな。
    あの先生……この時間でもう寝てるとか言わないよな……?」

しかし、夜に女性教師の部屋を訪ねるという状況なのにちっともワクワクしないのは何故だろう。

上条「(仮に一人で訪ねに来ても、色気の欠片もないな、相手があの子供先生じゃ……)」

880 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:41:23.68 ID:oEWSbf3Zo

小萌先生の部屋は二階の一番奥にあった。
『つくよみこもえ』と、ドアプレートに平仮名で名前が書かれている。

ぴんぽんぴんぽーん、と二回チャイムを鳴らしても、出てくる気配がない。

上条「――蹴破るか」

美琴「ちょ、何を言ってんのよアンタは!?」

上条「いや、だってなぁ……」

小萌「――はいはいはーい」

禁書目録「あ、蹴破らなくていいみたいだね」

小萌「対新聞屋さん用にドアは頑丈なのですよー。今、開けますねー」

がちゃり、とドアが開いて緑のぶかぶかのパジャマを着た、
上条や生のクラス担任である小萌先生が、ひょこっと顔を出した。

美琴&禁書「……子供?」

小萌「いきなり失礼なこと言われました!? って、上条ちゃん。新聞屋さんのアルバイトでも始めたのですか?」

上条「この状況を見て、そう見えます?」

ドアの影に隠れて見えなかった生の姿を見せながら、上条はぐいぐいと小萌を押し退けて、強引に部屋に入ろうとする。

小萌「あ、安達ちゃん!? 何ですか、まさか夏休みに入ったからって……土御門ちゃん達とハッスルして飲酒でも!?」

上条「……泥酔して、終電逃した挙句、友達の家に転がり込む馬鹿学生に見えるのか。
    とにかく、色々と困ってるんで入らせて下さい。はーい、お邪魔しますよー」ズズズイ

小萌「ちょ、ちょちょちょっとー!?」アタフタ

慌てて、上条の前に立ち塞がる小萌先生。

881 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:44:36.64 ID:oEWSbf3Zo

小萌「いきなり部屋に上がられるのは困るのですよー!
    いえその、部屋がビールの空き缶だらけとか、灰皿の煙草が山盛りとかじゃなくてですねー!」

美琴「あのー」

流石に上条に任せていては話が進まないと思ったのか、上条の後ろから美琴が顔を出した。

小萌「…………常盤台の学生さん……? それにそっちのシスターちゃんは……ま、まさか!?」

上条「……とりあえず、何を思ったのか聞いていいですか?」

嫌な予感しかしないが、一応は確認してみる。

小萌「い、いくら学園都市にその手のホテルが少ないからって……!
    先生の部屋に女の子を『お持ち帰り』してくるなんて、上条ちゃんは何時からそんなアグレッシブになったんですか!?」

上条「どんな勘違いだよ!? つーか、ボケるにしても路線が生々し過ぎて、ツッコミし難いんだよ!」

禁書目録「ねぇねぇ、みこと。『お持ち帰り』って、何なのかな。ご飯を包んでもらうことじゃないよね?」

美琴「(せ、説明したくないっ!)」///

上条「あー、もう! 面倒だな……!」

こんな問答をしている間にも生の顔色はどんどん悪くなっている。
仕方が無いので、月詠小萌という人物の頭を一発で切り替えさせる魔法の言葉を使うことにする。

上条「先生」

小萌「ですー?」

この熱血教師には非常に効果的な文句だろう。



――小萌先生、助けてください。
882 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:47:45.66 ID:oEWSbf3Zo

結局、小萌先生には必要最低限の事だけを話した。

ただし……ある程度噛み砕いて喉越しを良くした、当たり障りの少ない情報だが。

要約すると、こんな感じになる。

①昼間に知り合ったインデックスという少女が暴漢に襲われていた。
②それを上条と美琴と生で助けた。
③だが、その直後に生が倒れてしまった。
④暴漢と、その仲間に追われていて、小萌先生の所に匿ってもらいに来た。

色々と無理があるし、インデックスはどう見ても学園都市の人間ではない。
だが、小萌先生は疑いながらも……それでも上条達を受け入れてくれた。

あんな一言で、教師の顔になってしまうのだから、本当に月詠小萌という人は教師の鑑だと上条は思う。

小萌「とりあえず、落ち着いたみたいですね」

布団に寝かされた生のおでこの上の濡れタオルを交換しながら、小萌先生は言った。

上条「そうですか……良かった……」

小萌「でも……快方に向かってる、とは言えないですー。……やっぱり、ちゃんとした病院に連れていくべきです」

上条「…………ですよね」

小萌「……まぁ、追われているんですから、今晩は様子を見ましょう。
   それで、明日の朝に容態が変わらないようだったら、『この子』は私が病院に連れていきます。それでいいですー?」

上条「助かります」
883 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:49:44.71 ID:oEWSbf3Zo

小萌「それにしても……」ジー

美琴「な、何か?」

小萌「あの御坂美琴さんと上条ちゃんが……ねぇ?」

上条「……いやいや、そんなんじゃありませんよ? 元はケンカ友達みたいなもんで」

小萌「け、ケンカ友達!? 上条ちゃん、女の子に手を上げたりしてませんよね!?」

美琴「ち、違います! その、私が一方的に絡んでただけで……その……手も足も出なくて……あぅ……」ショボーン

小萌「(なるほど、そういう……)」

勿論、小萌も上条の右手に関しては承知しているので、ケンカ友達がどの様な意味合いなのかは、簡単に理解出来た。
……まさか、超能力者相手に完封しているとは思わなかったが。

小萌「今は、普通に友達として仲良くしている、って事でいいんですー?」

美琴「え、あ、はい!」///

上条「(……油断すると、ビリビリされるけどな)」

同じビリビリでも、漏電みたいな感じなので事故の要素が強いし、
上条が注意してさえいれば、実際の被害はないのだから、かなり状況は好転しているのだろう。

884 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:51:18.34 ID:oEWSbf3Zo

小萌「上条ちゃんも、身近に努力で高いレベルへと辿り着いた人がいるんですから、もう少し授業を頑張ってくれればいいのに……」

上条「いや、それなりに頑張ってるじゃないですか。……無能力者なりに」

小萌「……同じ無能力者でも、安達ちゃんは成績は悪くありませんよ?」

上条「うぐっ! ……あ、そういえば」

小萌「?」

上条「……生の奴、能力を使ってたんです。それも『発火能力』――確か、小萌先生の専門でしたよね」

その辺から、生の異変の原因を探れないだろうかと考えたのだ。

小萌「……それって、何時の話です?」

上条「え、先刻の……暴漢と戦ってる時です。それで、戦いの後に生の様子が……」

小萌「あれ? ……あの、もしかして……上条ちゃん、気付いてないんですか?」

上条「――何を?」

小萌「あらら。まぁ、いいですー。その話は明日にしましょう。
    ……さて、シスターちゃんと御坂さんはこっちに来て下さい」

禁書目録「なーに?」

美琴「?」

小萌「お着替えタイムですー♪」

二人を着替えさせるので、上条ちゃんは出ていて下さいー、と上条は隣の部屋どころか外に追い出された。
885 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 22:57:40.19 ID:oEWSbf3Zo

~五分経過~


上条「……微妙に不幸だ」

……夏だが、薄着で外に放置されるのは地味に辛い。
炎の巨人と一戦やらかした後なので、熱の落差が余計に肌寒く感じさせた。

もういいかーい? と、小萌先生に許可を貰って部屋に戻ると、パジャマ姿(兎)のインデックスが寝ている生の隣にチョコンと座っていた。

上条「何でだって、ビール好きで愛煙家の『大人』な小萌先生のパジャマが……お前にピッタリ合っちまうんだ?」

年齢差いくつ何だか、と上条は呆れ気味に呟いた。


禁書目録「……とうま、見くびらないで欲しい。私だって、このパジャマはちょっと胸の辺りが苦しいかも」

インデックスの台詞に襖の向こう側から、小萌先生の抗議の声が上がる。

小萌「なん……、馬鹿な! バグってるです、いくら何でもその発言は舐めすぎです!」ガッ

大人の女としてのプライドが傷ついたのか、小萌先生の手が襖にかかる。
886 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/07/05(火) 23:00:34.47 ID:oEWSbf3Zo

美琴「ちょ、小萌先生、開けようとしないで下さい! 私、まだ着替え中ですから!」

小萌「むむむ……御坂さんも、いつまでも下着姿でいないで……ちゃっちゃとパジャマを着てください」

上条「ぶっ!?」///

薄い襖を挟んだ隣の部屋に女子中学生が下着姿でいる状況を認識して、テンションが不覚にも上がってしまった。
そんな男子高校生の衝動を余所に、美琴は隣の部屋で必死の抵抗を続けていた。

美琴「いや……一晩ぐらい、制服のままでも……」

小萌「ダメですー、大きめのパジャマを貸してあげますから、それを着てくださいー」

美琴「え、いや、いいですから!」

確かに、出来ることなら着替えたいのが本音だ。
色々と走って汗もかいたし、乙女としてそのまま寝るというのは避けたい。

だが、最大の問題はそこではない。

美琴「だって、このデザインは……!」

上条「(あー、そういうコトね)」

現在、小萌先生やインデックスが着ているパジャマを考えれば、ここで出てくるパジャマも同系統であると推察される。

美琴「(あ、アイツにパジャマ姿を見せるとか無理! 絶対に無理だから!)」///

美琴的には『全然アリ』なデザインではあるのだが、『それを上条に見られる』というのは絶対に無理だ。
先日、パジャマを選んでいる場面を目撃されてしまってはいるが、実際に着ているのを見られるのとでは恥ずかしさのレベルが違う。

小萌「御坂ちゃんは女の子なんですからー、ちゃんとしないとダメですよー?」

美琴「うぅ……でも、でも……」

小萌「ほらほら、覚悟を決める時ですー」ワキワキ

887 :このAAを発見した瞬間、この流れが確定したのは言うまでもない[saga sage]:2011/07/05(火) 23:03:14.43 ID:oEWSbf3Zo

結局、美琴の抵抗は小萌先生に強引に着せ替えられそうになって、観念する形で終わった。

上条「……………………」

美琴「……な、なによ、何か文句あるわけ!?」///


某電気ネズミ(トキワ近辺に生息)のパジャマに身を包んだ美琴が抗議の視線を上条へと送る。

上条「え? いや……別に何でもないです、はい(アリ……だな)」グッ

小萌「似合ってますよ~?」パチパチ

禁書目録「どーして、みことのパジャマには尻尾がついてるの?」ツンツン

それぞれが好き勝手に感想を言う。

美琴「(うぅ……恥ずかしいよぉ……)」///

上条「…………やれやれ」

呆れながらも、ちょっぴり役得だと思う上条当麻であった。
888 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/07/05(火) 23:05:51.78 ID:oEWSbf3Zo

美琴「えっと、それじゃあ……小萌先生、寮への連絡をお願いしてもいいですか?」

小萌「常盤台の寮は厳しいですからね。今回は事情が事情なので、任せてください」

上条「……そんなに厳しいのか?」

美琴「寮則自体の厳しさよりも……それを守らせる人間が……なんていうか」

普段こそ、黒子に誤魔化してもらっているが……朝帰りや無断外泊が露見したら……?

美琴「こ、殺されるかも……」ゾクッ

上条「へぇ……そんなんじゃ、彼氏が出来ても泊まりに行ったりは無理っぽいな」

美琴「か、彼氏!?」

小萌「……上条ちゃん、その発言の意図について先生は詳しく聞きたいですー」ジロリ

上条「え、いや……ただ、何となく……そう思っただけです……けど?」

美琴「(彼氏……お泊まり……彼氏……お泊まり)///」グワングワン

特定の人物を相手に設定して、その単語の状況を妙にリアルに想像した美琴の脳は、オーバーフロー状態に移行した。

上条「って、おい!? 御坂どうした!? 頭から湯気出てるぞ! いや、魂!? 魂なのか!?」

禁書目録「みことが、しょうよりも重症みたいなんだよ……」

小萌「……上条ちゃんが相変わらずで、先生は少しだけ安心ですー」

上条「御坂、しっかりしろー!?」


――こうして、波乱に満ちた夏休み初日の夜は更けていった。 
908 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/08/10(水) 17:05:37.66 ID:YxJ7gg6Ko
第七学区・某所



月詠小萌のアパートから、遠く離れたビルの屋上に一人の監視者がいた。

――魔術師の神裂火織である。

監視と言っても、その手に双眼鏡の類は握られていない。
8.0の圧倒的な視力を誇る彼女にしてみれば、両の目があれば事足りる。

神裂「…………」

少年少女達の様子を伺う、神裂の表情は厳しい。
しかし、一人の修道女に注がれた――その視線は悲しくも優しかった。

???「…………」

神裂「……大丈夫ですか、ステイル」

背後に気配を感じ神裂は、後ろを振り返らずに声をかける。

ステイル「ふん。日本の暑さにはウンザリしてたからね、これぐらいで丁度いいさ……」

盛大な負け惜しみを言いながら、煙草に火をつけようとする濡れ鼠が一匹。

ステイル「くそっ! 全部、湿気ってるじゃないか!?」ポイッ

神裂「いい機会ですから、禁煙でもしたらどうですか。
    ただでさえ、魔力精製で激減している体力をさらに減らす必要もないでしょうに」

ステイル「禁煙? よしてくれ、想像しただけで死にたくなる。……それで、あの娘達の様子は?」

神裂「楽しそうですよ。……あの頃のように」

その言葉によって、ステイルの表情が動くことはない。少なくとも表面上は。

ステイル「……同伴者の身元は? 少女の方は確か、学園都市でもトップクラスの能力者だった筈だけど」

神裂「ええ。五行機関から事前に通達されていた人物の一人です」

ステイル「7人いるらしい超能力者の中で……学園都市で目立つ真似をすれば、高い確率で介入してくる可能性がある、って話だったね」

神裂「しかも、丁寧に『手出し無用』の忠告付きで情報を提供されました」

ステイル「……別に学園都市と戦争をしに来た訳じゃないからね……忠告通りに動くとしようか」

――時と場合によっては、その限りではないが。
909 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/08/10(水) 17:11:09.84 ID:YxJ7gg6Ko

神裂「問題は、少年二人の方です。……記録では、両名とも同じ高校の『無能力者』として分類されていました」

ステイル「……馬鹿な」

神裂「確かに馬鹿な話です。
    一人は……私の『唯閃』を身に受けながらも、ステイルと戦い……今でこそ意識を失っているようですが、傷は既に完治しています」

ステイル「(……いや、その男は僕が確実に焼き尽くした……恐らく僕と戦ったのは……その兄弟の可能性が高い……)」

だが、ステイルに神裂の勘違いを訂正するつもりはなかった。

ステイル「(わざわざ、迷いの種になるような情報を与える必要はない。人の死をただの結果として受け入れるには……神裂は優し過ぎる)」

それに、最大の問題はそちらではない。

兄弟の一方は死に、残った方は発火能力者のようだが……ただそれだけなのだ。

――事実だけを見れば。

そう……気になるのは、自分が焼き殺した少年もまた、漆黒の仮面らしきものを身に付けていた事だった。

ステイル「(俯せだったから、細かい形状まで確認は出来なかったけど……)」

もしも、同じ仮面だったのなら、それは何を意味するのか。

――まさか、死者が蘇ったとでも言うのだろうか?

ステイル「……もう一人の奴と……後から現れた、仮面の男の情報は?」

神裂「どちらもありません。……少年の方は先も言った通り、ただの学生。
    ……仮面の男に関しては完全な『正体不明(アンノウン)』でした」

自分の魔術を容易く掻き消した少年が、ただの学生?

ステイル「(仮面の男といい……東洋の神秘だとでも言うのかな)」

神裂「単純に学園都市側も把握していない類の能力者なのか……或いは、何らかの理由で情報を消しているのかは不明ですが……」
910 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/08/10(水) 17:13:19.77 ID:YxJ7gg6Ko

ステイル「……彼等は、何らかの組織の一員だと思うかい?」

神裂「少年達に関しては微妙ですが……仮面の男はそうである可能性が高いかと」

ステイル「根拠は?」

神裂「彼等が逃げ込んだアパート……その周辺……30人の武装した兵が潜伏しています」

遠くの闇に潜む者達を射抜くような視線。

ステイル「30……? 確かかい?」

神裂「……どうやら、目的は私達への牽制のようですね。
    完璧な隠形でありながら、こちらが存在に気付くように意図的に『緩めて』います」

ステイル「彼等の誰かが用意した部隊の可能性は?」

神裂「低いでしょうね。……あの部隊は彼等がアパートへ入るのと、ほぼ同じタイミングで周辺へと展開されました」

ステイル「事前に準備がされていた、と?」

神裂「少年達の与り知らぬ所で……ステイルが遭遇した仮面の男が手配した可能性が高いでしょう。
    思えば、昼間の戦闘時に介入してきた狙撃手も、あの部隊の者と考えた方が自然です」

ステイル「この街で、五行機関のアンテナにかからずに動ける組織があるとは思えないけど」

神裂「……魔術結社にしても、学園都市内の組織だとしても……脅威になります。
    敵の戦力は未知数、こちらの増援は無し」

ステイル「能力者の子供だけでも厄介なのに、それに加えて謎の組織か……厳しい展開になってきたね」

やれやれ、と頭を振るステイルの前髪から水滴が落ちる。

神裂「大規模な魔術戦闘になると仮定して、準備を行いましょう。
    ……どんなに困難であっても、私達が彼女を諦める訳にはいかないのですから」

ステイル「……ルーンの下準備をしてくる、神裂はこのまま監視を続けてくれ」

辛いとは思うけど、と最後に付け足された言葉に神裂は苦笑するしかなかった。

神裂「――風邪を引かないように着替えたほうがいいですよ」

ステイル「……ふん」

扉の向こう側へステイルが消えた直後、小さなクシャミが聴こえた。

911 :とある複製の妹達支援[sage]:2011/08/10(水) 17:20:10.35 ID:YxJ7gg6Ko

~アクメツクローンプラント~


プラントで司令室としての役割を持つモニタールームに数人の生と、研究員の芳川桔梗等が集まっていた。
しかも、この場にいる『生』の顔ぶれは実働部隊として活動していた者達ではなく、以前はアクメツ用の装備等を開発していた研究班の面々が主である。

芳川「……実験以外では、これが初の実戦になるのかしらね」

生(烏)「どうだろうな。戦わずに済むなら、それが一番だが……」バリボリ

相も変わらずプラントに常駐している烏丸生が盛大に頭を掻きながら、溜息を吐く。

生(多)「烏丸、流石にそれは無理な相談だろ。相手だって、一筋縄では行かない連中じゃん?」

横から注意を促すのは『多田生』。
10年前は主に兵装関連の物理担当だった生で、今は烏丸と同じようにプラント常駐組である。

生(烏)「……虎の子のver.3が10人。それに加えて、学園都市で蘇生させた『妹達』が20人……戦力的には充分だが……さて」


――プラントより、行動中の各班へ。状況報告を頼む。


912 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/08/10(水) 17:24:59.20 ID:YxJ7gg6Ko

烏丸がそう呼びかけると、同じ声が……それも無数に返ってきた。

生(藤)『こちら、A地点。……藤崎生と他二名、配置についた』

生(氷)『氷山生、B地点も配置についた。妹達も無駄に元気じゃん』

生(佐)『佐倉生……以下同文……眠い……』

生(鎌)『ちゃんと報告しろって……鎌田生、妹達二名と共にD地点に配置完了』

生(高)『E地点、高杉だ。時間押してるから巻きで頼むぜ?』

生(早)『早坂、F地点に到着した……んで、新倉の奴の容態はどうなんだ?』

生(木)『芳しくないようだな……早く椿の所へ運びたいところだが。おっと、木野……G地点だ』

生(向)『向井、H地点。ところで、安達の奴はどうした?』

生(安)『……I地点にいるじゃん……はぁ……』

次々と雑な報告が入る中、一人だけ声に覇気がなかった。
いや、他の連中にもあるのかは怪しいのだが。

生(烏)「安達の、どうかしたのか?」

生(安)『いや……まさか、小萌先生の部屋に逃げ込むとは思ってなくってさぁ……厄介な事になりそうだなぁ、と』

それなりに楽しい学園生活を満喫していた安達としては、自分達の事情が露呈しそうな現状に対して、思う所があるらしい。

生(烏)「今のうちに、それっぽい設定でも考えとけばいいじゃん」

生(安)『丸投げかよっ!?』

しかも、なんとかして秘密を守れ、ではなく「バレてもいいけど、面倒だから適当に誤魔化しといて?」のニュアンスである。

芳川「……それはともかく……報告が足りないんじゃないかしら?」

生(烏)「J地点……如月か。プラントから如月生へ――応答を」
913 :とある複製の妹達支援[sage]:2011/08/10(水) 17:44:23.05 ID:YxJ7gg6Ko

~アパート防衛配備・J地点~


『生』と『妹達』の三人一組で10組のチーム。
如月生が担当していたのは、アパートから一番近い場所だった。

生(如)「こちら、如月……スマン、少し……問題があって、報告が遅れたじゃん」

生(烏)『……問題?』

00461「お姉様……あの様な艶姿を……!」ハアハア

00965「鼻血が……とミサカは鼻を押さえて上を向きます」ハアハア

暗視ゴーグルの上から、さらに双眼鏡を覗くという珍妙な状態の『妹達』が二名。

00461「それで鼻血が止まるというのは間違いでは? とミサカはテレビで見た知識をひけらかします」ボタボタ

00965「だからと言って、平然と垂れ流すのも問題がありませんか、461号」

生(烏)『………………』

――沈黙が痛かった。

生(如)「烏丸の……チームを組む『妹達』を変えてくれ、出来る限り早く」

生(烏)『悪いが『妹達』2名に対して1人の割り当てだからな……チェンジ不可だ』

生(如)「今時、一回までならチェンジは無料じゃんっ!?」

生(多)『業界も色々と厳しいんだ……授業料だと思って諦めてくれ』

生(如)「くっ……」orz

芳川『何の話をしてるの、貴方達は……』
914 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/08/10(水) 17:49:22.54 ID:YxJ7gg6Ko

生(如)「学園都市組の連中は比較的普通だと思っていたんだが……思わぬ伏兵がいたな……」

生(烏)『(いや、普通……なのか?)』

00461号「これは、『妹達』全体で共有して、皆の財産とするべきでは?」

00965号「しかし、任務に従事している私達の特権と考えれば安易な情報共有は……!」

後ろでは、パジャマ姿の御坂美琴の画像をミサカネットワークにアップするかどうかで、激しい議論が展開されている。

生(多)『……個性的で良い事じゃないか。
     俺達の時は何年も経過して……多少の違いが出ても、根本的な部分では大差なかっただろ?』

生(如)「まぁ、存在を知らなかったクローンと遭遇して、ほんの数十分で意気投合するぐらいだからなぁ」

そもそも、生達のアイデンティティやメンタルにかなりの個体差があれば、自分達を超人へと変えた『統合』は成立しなかった筈だ。

生(如)「……クローンとしては別にしても『人間』としては、この娘達の方が案外――」

00461号「なら、パジャマ姿はアップするとして……それとは別に私達用の画像を入手しましょう、とミサカは冴えた方法を提示します」

00965号「流石は461号ですね……とミサカは新たな選択肢に賛同します」

生(烏)『――案外?』

生(如)「……とりあえず、報告終わり」ゲンナリ



芳川「……大丈夫なのかしら、色々と」

生(多)「なんとかなるだろ――多分」

実は何の根拠もなかった。
915 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/08/10(水) 18:03:47.69 ID:YxJ7gg6Ko
7月21日 


~月詠小萌のアパート~


夏休みの二日目。

美琴「…………んぅ……?」

御坂美琴が目を覚ますと、そこは見慣れた常盤台の女子寮ではなかった。

美琴「…………あぁ、そっか」ゴソゴソ

上条当麻、魔術師、インデックス、襲撃。

眠気で制限された頭の中で断片的な単語が連想され、現在の状況を思い出す。

美琴「アイツの担任の……小萌先生の部屋に泊めてもらったんだっけ」キョロキョロ

禁書目録「…………すぅ」

小萌「……かみじょーちゃん……補習なの……ですよ……」ムニャ

隣の布団を見ると、お揃いのパジャマを着た修道女と教師が仲良く寝息を立てていた。

美琴「アイツは夢のなかでも補習されてるのね……」クスクス

――そういえば、アイツは?

美琴「まだ寝てるかな……?」

ポツリ、と口に出してみて、気付く。
……これはチャンスではなかろうか、と。

美琴「(……見たい)」ウズッ

主に寝顔を。
理由などない。強いて言えば、見たくなったからだ。

ついでに後でその事を告げて、照れる顔も見てみたい。

だが。

美琴「(――その前に着替えようっと)」

考えてみれば、今の自分の服装もかなり恥ずかしかった。
916 :とある複製の妹達支援[sage]:2011/08/10(水) 18:09:59.50 ID:YxJ7gg6Ko

美琴「(音を立てないように……)」ソロ-リ

電気ネズミパジャマから常盤台の制服に着替えた美琴は、慎重に隣の部屋へと侵入する。

美琴「(って、アレ!?)」

居なかった。

目当ての上条当麻が。

美琴「(……布団が乱れてない……これって……?)」

生の隣……上条が寝ている筈の布団は整然と……まるで、そもそも誰も寝ていないかのように綺麗なままだった。

――ガチャ。

美琴「!?」ビクッ

突然の玄関の扉が開く音に驚いた美琴の体が、真上に跳ねた。

上条「――あれ? 御坂、起きてたのか」

美琴「(び、びっくりした……!)」

驚愕を悟られないように小さく息を整えながら、美琴は上条の様子を伺う。

美琴「外にいたんだ…………って、もしかして……アンタ、ずっと起きてた?」

上条「まぁ、ずっとじゃないけど……安心して眠る訳にもいかなかったからな」

美琴「寝ずの番……ってこと?」

上条「そこまで大げさじゃないって。
    ……インデックスの『歩く教会』がここにある以上、連中にも居場所はバレてる筈だろ?」

インデックス本人が言っていた通り、敵の魔術師が『歩く教会』に対して探査をかけているのであれば、それは当然の事である。

一応、上条の右手で『歩く教会』を破壊すれば、敵の追跡を防げる可能性は上がる。

美琴「確かにそうだけど……」

しかし、探査を防いでも敵に見つかる可能性や『歩く教会』の防御力がインデックスにとって生命線である事を考えれば、破壊には踏み切れなかった。
917 :とある複製の妹達支援[sage]:2011/08/10(水) 18:15:44.03 ID:YxJ7gg6Ko

美琴「でも、その辺りのことはちゃんと話し合ったじゃない」

一度、撃退された事や仮面の男の介入を踏まえて、魔術師側も警戒して「昨晩の時点での再度の襲撃はない」と美琴と上条は判断した。

美琴「先の事も考えて、今晩はしっかりと休もうぜ! って言ったのは、何処の誰よ?」

上条「……俺だな」

美琴「それで自分だけ、寝ずの番?」

上条「うぐっ……」

美琴「言ってくれれば、私だって……交代で警戒するとか……」

上条「いやいやいや!? 流石に女の子に寝ずの番とかさせられねーよ!」

美琴「……」

上条「ほら、夜更かしは美容の大敵って言うだろ!? 折角のぷにぷに肌が荒れちまうぞ?」アセアセ

美琴「それにしたって…………ん?」

――今、この男は何を言った?

何となく褒められているからといって、流してはいけない類の言葉が聴こえたような気がする。

美琴「……ぷにぷに肌って何よ?」

上条「あ」ギクッ

美琴「ちょっと待って……?」
918 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/08/10(水) 18:18:55.58 ID:YxJ7gg6Ko

冷静に考えてみる。

今の今まで、上条当麻は外に居た。

そして、外に出る為には自分達の寝ていた居間(?)を抜けなくてはいけない。

つまり、彼は寝ている自分達を起こさないように隣の部屋から居間を抜けて外へ――

美琴「……ま、まさかとは思うけど……アンタ……!」///

考えてみれば、自分だって『それ』を企てたのだ。

自分がしようとしていた事を逆にされていた可能性に美琴は行き着いた。

美琴「ひ、人が寝てるのを良い事に……?」///

上条「あの……その……」

美琴「ね、寝顔を見た挙句……さ、さ……さわ……触って……?」///

全てを看破された瞬間、上条は土下座謝罪モードへと移行した。

上条「で、出来心だったんだ! 三人揃って、すやすや眠ってるもんで……こう……つい?」orz

父親が寝ている娘の頭を撫でるような感じだったんです! と上条は苦しい言い訳を続ける。

美琴「な、な、な……!」///

が、触られたという事実だけで既に許容量一杯の美琴に後半の言い訳は届いていない。



――ちなみに。

禁書目録「(……ねぇ、こもえ?)」

小萌「(なんですー?)」

禁書目録「(朝ごはんは、しょっぱいのがいいかも)」

小萌「(……ですね。甘ったるいのは、もう一杯ですから)」

足元でそんな不本意な会話が交わされているなど、上条と美琴は知る由もない。 
924 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/08/13(土) 21:40:25.67 ID:/GwNVqsXo

小萌「さぁ、シスターちゃん。ご要望通りに出来ましたよー?」

輝かんばかりの白米。
麸とワカメのシンプルな味噌汁。
程良く塩の効いた鮭の切り身。
ゴマ油を加えて茎まで美味しく食べれる小松菜のおひたし。
定番中の定番の漬物と生卵までセットに付いて、朝食が完成した。

――どうも、外国人(であろう)のインデックスに日本的な朝食を振舞おうと、小萌先生が妙なヤル気を出したらしい。

禁書目録「――――!!!」wktk

声にならない喜びの声を上げるインデックスを余所に、

上条「……先生、料理出来たんだ」

昨夜の部屋の惨状を踏まえて、思わず本音を漏らした上条がドゴンッ! と無言の鉄拳制裁を受けていた。

小萌「先生だって、お酒のツマミばっかり作ってる訳じゃないのですよー?」プンプン

上条「いや、だって……俺の部屋よりも遥かに以上に自炊の気配が……」ヨロヨロ

美琴「(……確かに)」

小萌「こ、このぐらいの料理なら、先生にも楽勝なのです! いつでもお嫁に行けるんですっ!」

上条「まさか、先生……「そのぐらい出来ないと結婚出来ない」とか誰かに言われて……猛練習したとか?」

小萌「い、言われてません! 黄泉川先生にからかわれたりなんてしてないです!」ギクッ

上条「(――からかわれたのか……黄泉川先生に)」

料理の腕を別にしても小萌先生の場合、その見た目をどうにかしないと――とは、流石の上条にも言えなかった。


925 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/08/13(土) 21:42:00.61 ID:/GwNVqsXo

「「「「ごちそうさまでした」」」」



泊めてもらった身分の上条達が片付けと洗い物を担当した。
インデックスも頑張ったのだが、残念ながら早々に戦力外通告を出される羽目になった。

上条「――さて……今日はどうしようか?」ゴシゴシ

美琴「……まずは病人をどうにかしないとね」キュキュ

洗い物をしながら、二人は小声で相談を始める。

上条「小萌先生に車を出してもらって……けど、先生だけに任せるってのは……」

美琴「……どっちかがインデックスと残って……もう一人が先生に付き添う?」

魔術師がインデックスの確保よりも敵勢力の打破を優先してきたら、意識不明の生は最も危険な状態になる。

上条「それしかない、か……御坂、インデックスと残ってくれるか?」

美琴「……敵が来るかも知れないのよね……残りたいんだけどなぁ……」ウーン

その様子は、まるで魔術師と戦う可能性が魅力的であるかのようである。

上条「何か気になることでもあるのか?」

美琴「――似てるのよね」

上条「似てる? 何が?」

美琴「あの人の症状が……その、私が少し前に見た……『ある人達』の状態と」

上条「生の病気の心当たりがあるのか!?」

洗い物を終えた二人は、隣の部屋へと入り、未だに意識の戻らない生の元へと足を運ぶ。

美琴「……でも、確証がある訳じゃないのよ。だから、一緒に病院に行く事も考えたんだけど……」

――そう、似ているのだ。

ここ最近、自分達が調べていた『ある事件』の関係者に起きた事態に。

美琴「(――この症状……まさか『幻想御手』を……?)」

上条「御坂、その病気って――」

上条が詳しい話を訊こうとした、その時だった。
926 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/08/13(土) 21:48:19.50 ID:/GwNVqsXo
ピンポーン


禁書目録「!!!」ビクッ

上条&美琴「っ!?」バッ

三者三様の反応だったが、それぞれが連想したのは同じだった。

敵。

魔術師が正々堂々とチャイムを押して訪ねてくるとは思えないが、何らかの攻撃行動の可能性もある。

が、ここの家主にはそんな事情など関係なく。

小萌「はいはーい、今開けますよー?」

上条「ちょ、先生!」

上条が制止するよりも早く、小萌先生は玄関のドアを開けてしまう。

小萌「どちら様――あれ?」

???「先生、朝早くにスミマセン」

咄嗟に上条と美琴はインデックスを連れて、隣の部屋に隠れていた。

小萌「いえいえ、もしかしたら来るんじゃないかなー? って、思ってましたから」

その言葉に上条と美琴はどうやら魔術師が来たのではないらしい、と安心した。

???「――え?」

だが、訪問者は小萌先生の言葉に動揺しているようだった。

???「……先生、どうして……」

いや、言葉よりも小萌先生の態度にこそ驚愕している。

――まるで、小萌先生が『驚かない』事に『驚いている』かのように。

小萌「ふふ……先生を驚かそうだなんて、百年早いんです」トテトテ

ガラッ!

襖を開けた小萌先生が、生の顔を見ながら言った。

小萌「だって、この子……顔はそっくりですけど、安達ちゃんじゃありませんよねー?」


唐突で、決定的な、その言葉を。


上条「…………は?」

美琴「……え、何?」

禁書目録「…………?」

???「最初から気付いてたんですか……?」

小萌先生に続くように訪問者も部屋の中へと入ってきた。

……そして、上条と目が合った。

生(安)「――よぉ、上条……今、ここに『俺』がいるか?」
927 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/08/13(土) 21:49:43.71 ID:/GwNVqsXo

目覚めろ、その魂! な次回予告!


アクメツの一人、安達生は友と恩師を前に何を語るのか。

生(安)「まず……俺達の顔が同じなのは、遺伝子レベルで同一の兄弟だからです」

それは真実か、虚構か。

生(安)「驚いたよ、自分と同じ顔と名前の人間に出逢ったんだから」



そして、深き眠りに落ちた『新倉生』を目覚めさせるべく『幻想御手』事件の解決を図る者達。

上条「約束するよ、インデックス。――御坂は必ず……俺が連れて帰ってくるから」

佐天「上条さん、私も連れて行ってください……御坂さんの所に!」

アクメツ「乗ってくかい? ボーイ&ガール」


だが、狂った歯車は、超人達に自らの牙を己へと突き立てさせる。

初春「いやあああああっ!!」

生(安)「ば……馬鹿な……」

???「――『孤高赤星(アンタレス)』と言うらしい……一番最後にネットワークに取り込んだ能力でね」


そして、暴走を始める幻想の前に――もう一つの幻想が立ちはだかる。


上条「掛かって来いよ、化物――御坂には、指一本触らせねぇぞ」



次回 『Transfigured Imagine』 をヨロシクじゃん? 
939 :鋭意書き溜め中なのでもう少し待ってね的な投下します。[saga sage]:2011/09/17(土) 00:46:00.50 ID:+q8a2Qk5o

テッテレテーレッテレテッテッテー♪


          
『いやぁ、大変な事になりました――朝ズバッ!芸能面です』


10年前から変わらない司会者の声に一人の生が感慨深そうに頷いた。

如月「生き返って、ミリオネアが終わってた時はショックだったけど……のもたさんは変わらねぇなぁ……」シミジミ


――月詠小萌のアパートの近くで監視任務中の如月生である。


00461号「携帯で朝の情報番組を見ている場合じゃないのでは? とミサカはクローンの先輩相手でも容赦なく指摘します」

00965号「報告しなくていいのですか?」

如月「へいへい……如月生からプラントへ――安達と対象達の接触を確認……今のところは魔術師に動きはなし」

烏丸『了解……交代人員を送るから、一度プラントに戻ってきてくれないか』

如月「おいおい、まだまだ余裕だぜ? 
    一日二日の徹夜なんて、『生の会合』一週間耐久ネトゲ大会の時に比べれば……」

烏丸『いや……残念ながら戻ってもらうのは、休んでもらう為じゃない。渡す物と急ぎの仕事がある』

如月「渡す物? ……仕事の方は想像出来るけども」

このタイミングで急ぎの仕事と言えば、どう考えても新倉の役目の代理だろう。

烏丸『そうだな、渡す物の詳細は一緒にいる妹達に訊いてくれ』

如月「妹達に?」

00965号「呼びましたか? とミサカは監視作業を中断して振り返ります」

00461号「?」
940 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/17(土) 00:51:42.74 ID:+q8a2Qk5o

烏丸『――彼女達の協力の成果だからな。仕事の話は戻ってからにしよう』ブツッ

如月「おい、烏丸の!? ……切りやがった。
    461号と965号……『協力の成果』って、何の事だか分かるか?」

00965号「『協力の成果』……? あぁ、あれですか。とミサカは訳知り顔で頷きます」

00461号「学園都市組の妹達と、プラントの技術班でアクメツ用の装備開発をしてたんです。とミサカは胸を張って答えます」

如月「開発? でも、スクランダーは既に学園都市製の特殊素材で新調済みだし……何を作ってたんだ?」

00965号「ズバリ、『電磁刀』です」

その単語にメガネの少年がご先祖様の発明品を再現する漫画に登場するライト○イバー風の武器を思い出した。

00461号「……あんなの作ってどうするナリか。とミサカはチョンマゲロボットのモノマネをしながらツッコミます」

如月「ま、まさか……剣術と電磁力を組み合わせて『電磁刀術(レールガン)』とか……?」ワクワク

『一人一殺』に慣れた自分達でも『善悪相殺』の呪いは嫌だが、あの劔冑を装備したい気持ちがない訳ではない。

00461号「悪滅を辞めて悪鬼になってどうするんですか。
      電磁刀と言っても、対能力者戦を想定して強化した……要は丈夫なだけの刀ですよ。とミサカは悲しい現実を突き付けます」

如月「あ、そう……少し残念じゃん……オドシとかやってみたかったのに……」ショボーン

00965号「お姉様ならば、自力で可能かも知れませんが……レベル3程度のミサカ達にそんな期待をしないでください」

如月「そんな卑下しなくても、無能力者の俺等からすれば十分に凄いぞ?」

00461号「でも事実は事実ですから。
      ……それに新倉さんのケースを考えれば如月さんにも可能性はあるのでは? とミサカは未知の可能性に言及します」

如月「能力かぁ……憧れない訳じゃないけど、逆に戦い難くなりそうでさ」

00965号「戦い難く、ですか?」

如月「修行時代に専門技術を習得してた奴……俺の場合は居合と剣術だったんだけど、
    ver.3に統合した後も基本的な戦法はやっぱり最初に習得していた技術に偏るからな。
    仮に能力を手に入れても、それが戦い方に合致するとは限らないじゃん」

逆に学生生活を送っていた新倉や改めて製造されたクローンである安達であれば、
ベースとなる戦法がないので他の全ての生の能力をムラなく使用できる。

如月「元々の戦法に合った能力を手に入れられれば、それでいいんだけどなぁ」

00461号「成程、その辺りの事情を踏まえての武器開発、という訳ですね」

如月「……迫間の奴と戦った魔術師の件もあるし、並の刀じゃ相手にならないかも知れないからな」

そう語る如月の表情に焦りや悲観は微塵もない。

00965号「何やら楽しそうですね、とミサカはニヤケ顔を指さします」

如月「――そうか?」

一人の剣術家としての期待か。

或いは、アクメツとしての執念か。

どちらにしても、生達は修業や研鑽だけに限らず、全ての敗北ですら……勝利への糧とする。



そう――アクメツの死に無駄死にはない。 
944 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 22:58:48.65 ID:57EzCirIo

~風紀委員活動第一七七支部~



生達が魔術師の問題に追われ、その活動を大幅に制限された為に、
彼等から直接『幻想御手』の現物が風紀委員へともたらされる事は無かった。

……しかし、その行動は確実に事態を進めていたのだ。

先日、新倉生が戦った後に捕縛し、安達へと引き渡した『偏光能力』の男は警備員へと引き渡され、尋問が行われた。
他の『幻想御手』の使用者らしき学生達と同様に意識不明となったが、その前に『幻想御手』をダウンロードしたサイトについて供述を引き出せたのは幸いだった。

事前に安達生が風見生と根回しを行っていたので、そのサイトの情報は捜査に当たっている第一七七支部へと送られた。

その情報から、『幻想御手』の現物を入手した黒子と初春は、サイトを業者に依頼して閉鎖、黒子が直接取引の現場を抑えるために動き始めたのだが――

白井「く、屈辱ですの……」ズキズキ

初春「また例の人だったんですか?」

白井「これで五度目ですの! 取引現場に駆け付ける度に先を越されて!」

言いながら、黒子は昨日から今日までに行った現場を思い出す。

――そう、取引現場に黒子が到着すると、全ては終わっていたのだ。

一度目は何者かに破壊された『幻想御手』入りのプレイヤーのみが現場に残されていた。
二度目は売人らしき男が路地裏で誰かに倒され、縛られていた。ご丁寧に『犯人』の貼り紙付きで。
三度目は『幻想御手』を買おうとしていた学生が、何者かに説教の後に正座させられていた。

初春「最初は取引の関係者かとも思いましたが、どうも無関係な人みたいですねー」

白井「無関係な人間が、こんな事をしている方が問題ですの……お姉様じゃあるまいし……」

等と、当初は割と呑気な事を言っていたのだが、それも四度目からは違った。

945 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:01:28.27 ID:57EzCirIo

――四度目で黒子は、ついに自分を先回りして取引を潰していた相手に遭遇した。

これで相手が御坂美琴であれば話が違ったのだが、
相手は見知らぬ男だったので、黒子は容赦なく拘束しようと戦いを挑んだ。

初春「……まさか、白井さんが取り逃がすなんて」

しかも、無能力者らしき相手をである。

白井「しかも、似たような獲物で遅れを取るなんて……白井黒子、一生の不覚ですの……」

獲物、とは黒子が愛用している金属矢の事である。
ただし、空間移動を併用した投擲用として使っている黒子の矢とは違い、相手の使っていた金属矢は刺突用だった。

拘束しようと投擲した矢を全て叩き落とされ、驚いている間に逃走を許してしまったのだ。
その逃げ足の速さはあまりにも見事で、追跡どころじゃなかった、というのが正直な感想だ。

しかも、五度目――今回の現場で取引を行っていた能力者相手に黒子が苦戦している時に助けに入られた為、その胸中は複雑さを増した。

本来なら、そこで何らかのフラグでも立つのかもしれないが……

白井「あのバンダナ男……今度会ったら、蜂の巣にしてやりますの……」フフフフフ

助けられた後に、そのバンダナ男に何か非常に不愉快な台詞を言われたらしく、変なスイッチが入ってしまったのだ。

初春「(こ、怖い……)」

獰猛な笑みを見せる同僚の姿に初春飾利は戦慄する。

――その様は完全に上条当麻を追い掛け回していた御坂美琴そのものなのだが、当人に自覚はないらしい。

結果的に白井の怪我が少なくて済んだのだから、そのバンダナ男に感謝したいぐらいの初春だったが、
迂闊にもそんな事を言ったら、黒子に何をされるか判らない。

初春「(高位の能力者の人って、やっぱりプライドも人一倍なんですかねー)」

黒子の風紀委員としてのプライドは頻繁に目にする初春だが、
彼女が一人の能力者としてのプライドを見せた場面はどうだっただろうか。



ちなみに。

……新倉生に頼まれて『幻想御手』の拡大防止に務めていた少年達。

半蔵「へっくしょい!」

駒場「……風邪か……?」

半蔵「いや、何だか急に悪寒が……」

浜面「あれだな、また郭ちゃんが半蔵を連れ帰ろうと……」

半蔵「……その程度ならいいんだがな……」

彼等――第七学区のスキルアウト達の間で、そんな会話があったのは、また別の話。

946 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:04:31.43 ID:57EzCirIo

学園都市・第七学区


~月詠小萌のアパート~


魔術師の襲来を警戒していた三人は、その来訪者の姿――特に顔を見て、完全にあっけに取られていた。

上条「え……?」

美琴「……何よ、これ……!?」

禁書目録「……そっくり……」

部屋の外にいる生と、部屋の奥で寝かされている生。

その顔を見比べるように視線が何度も往復する。

――二人の生が、ここにいた。

安達「改めまして……こんな朝早くにスミマセン、小萌先生」

小萌「いえいえー。で、安達ちゃんはあっちの彼を迎えに来たんです?」

安達「えぇ、そんな所で。……それにしても、分かるもんですか?」

小萌「そうですねー。最初はアレ?って感じでしたけど」

安達「流石というか何というか……」

――もしかすると、教師で自分達を見分けてくれたのは彼女が初めてではないだろうか。

……過去に新倉の担任だった黒沼は、自分が殺した板前の海原を新倉だと勘違いしていたし。

安達「(……尊敬に値するじゃん、小萌先生)」

最近では、布束もプラント常駐組なら見分けられるようだが、それでも長い時間の交流を経ての話。
妹達の件でクローンに慣れている布束とは違って、小萌先生は『別の生』と遭遇するのが初めてである事を考えれば、驚異的だ。
947 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:06:10.89 ID:57EzCirIo

上条「いやいやいや!? 何で普通に会話が進んでるんだ!?」

安達&小萌「え、何が(ですー)?」

上条「何がって…………えっと……生、でいいのか?」

安達「酷い奴だなぁ、忘れちまったのかよー?」ヘラヘラ

小萌「上条ちゃん、クラスメイトの顔と名前ぐらい一致させとくべきだと思うのですよー?」

上条「いや、新任教師の心構えみたいに言わないでくださいよ!? そもそも、中学からの付き合いだし、一致はしてますって!」

小萌「じゃあ、何が問題なんです?」

上条「いや、大問題だろ! 
    こっちの生が俺の知ってるクラスメイトの『安達生』なら、こっちで寝てる『生』は誰なんだよ!?」

小萌「あ、それは私も聞きたかったんです。……安達ちゃん、誰なんですかー?」

安達「――聞きたいですか?」

小萌「無理にとは言いませんけど……是非」

上条「説明してもらわないと、混乱して頭が変になりそうなんだが」

安達「そっちの二人も?」

話を振られた美琴とインデックスがこくこくと頷いた。

全員から説明を要求された安達は、考えこむようなポーズを取りながら……やがて口を開き、話し始めた。

安達「――そこに寝ているのは『新倉生』……俺の兄弟じゃん」

決して、真実ではない……しかし、多くの事実を織り交ぜた嘘の物語を。

――それは奇しくも、部屋で寝かされている新倉生が万が一の時に用意していた『言い訳』と大差ないモノだったのだが。
948 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:12:07.63 ID:57EzCirIo

さて、嘘を真実に見せかける為には、虚偽の中に事実を効果的に混ぜる必要がある。

安達「まず……俺達の顔が同じなのは、遺伝子レベルで同一の兄弟だから。似てるのは当然だな」

……これは事実。だが、真実ではない。
何故なら、兄弟ではなく……同じ人間から造り出されたクローンだから。

上条「双子……って事か?」

安達「少し違うなぁ……俺達自身、自分達が何人兄弟なのか知らないじゃん。
    三つ子か四つ子かも判らないんだよ」

これも事実。
生達は自分達以外の『生』……まだ出会っていない『彼ら』が何処かで生活している可能性を否定出来ない。

『妹達』の二万つ子?には負けるが、10年前のアクメツを行った『生の会合』の面子に加えて、
『残留組』の生達を合わせると人数は既に50人を超えているので……五十つ子になるのだろか?

美琴「知らないって……?」

安達「孤児だったんだ、俺達は。
    ……小さい頃は施設で育った。自分に兄弟がいることなんて知らずに、な」

安達にとっては真実であり、嘘でもある。
それは同胞達の記憶を継承している為に、だ。
だが、数多くの生にとっては紛れもない歴史であり、現実だった。

安達「そういう意味では、新倉と『再会』したのは……学園都市に来てからかな」

これも事実。
新たに製造されたver.3のクローン体である安達が、蘇生された新倉と会ったのは学園都市での話だから。

949 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:14:19.86 ID:57EzCirIo

安達「驚いたよ、自分と同じ顔と名前の人間に出逢ったんだから」

かつて、多くの生達が実際に抱いた感想だ。……真実味が違った。

小萌「その、お名前が同じなのはどうしてです?」

安達「……母親が、いつか兄弟同士で再会した時にすぐに気付くように、と」

これも、事実。

第壱統合体のパーフェクトONEが愛し、その正義の心が生まれた理由である女性。
残されたクローン達の成長を見守り、自らも東生を育ててくれた――幸子おばさんの願い。

そして、神宮路のクローンとして、その欲望の礎にされるだけだった哀れな命に『生』きろと言ってくれた。

安達「(まぁ、何十人もいたクローン全員に別々の名前を用意するのも面倒だろうしなぁ)」

ちなみに苗字に関しては、引き取られた先の施設等でつけてもらった者が大半を占める。

美琴「それじゃあ、産まれた直後に……?」

安達「その辺は少し複雑らしくてな。俺達自身も詳しくは知らないじゃん――特に興味もないし」

達観している、というポーズを取ることで細部の情報を伏せた。

上条「それじゃあ、学園都市で新倉……と会ったのは偶然なのか?」

安達「まぁ、そうなるのかな。……縁があった、って事かも知れないけど」

美琴「(嘘……にしては……表情に変化はないけど……でも)」

話を聞きながら、美琴は生の様子を観察する。それは隣のインデックスも同様だった。


950 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:20:59.99 ID:57EzCirIo

上条「ん? ……それじゃ、一昨日にファミレスで会ったのは……どっちの生だったんだ?」

一人だけ何の警戒心も持っていない上条が素朴な疑問を投げかけた。
ここまで瓜二つなら、知らない間に遭遇していても気付かなかった可能性もある。

安達「あー、それは新倉の方だな」

上条「ええ!? ……き、気が付かなかった。
    けど、どうして新倉は人違いだって……俺に言ってくれなかったんだよ?」

安達「スキルアウトだからな、新倉のは。
    色々と面倒だし、俺達の事情を話すべきか迷ったんだろ」

上条&美琴「「え!?」」

比較的、スキルアウト等と接触する機会の多い二人が驚きの声を上げる。

禁書目録「ねぇ、こもえ……すきるあうと……って、何なのかな?」

小萌「うーん……学園都市の不良な子達でしょうか……改めて説明するとなると結構、難しいですねー」

二人を余所に、インデックス相手に解説モードへ移行した小萌先生が苦戦していた。

安達「まぁ、普通のスキルアウトとも違うんだけどな」

美琴「――あぁ、もしかして第七学区の?」

安達「知ってるのか、雷電!?」

美琴「何で、アンタは自分で話の腰を折ろうとするのよ……?」バチンッ

上条「え? 第七学区だと何か違うのか?」

美琴「……前に黒子……後輩から聞いた話なんだけど、第七学区で最大規模のスキルアウトが少し『変わった』んだって」

元々、女子供に手を出すような集団とも違っていたのだが、彼等には更に変化があった。
951 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:24:05.28 ID:57EzCirIo

美琴「自警団って言うのかしら……他のスキルアウトや能力を悪用するような奴から学生達を守るようになったの」

上条「何だよ……良い事じゃないか」

美琴「風紀委員の手の届かない……そんな場所での事件を未然に防いでくれてるみたいね」

上条「――凄くイイ奴らだな……」ジーーン

安達「前は資金調達の為に犯罪行為もしてたらしいが、今は真っ当にやってるじゃん」

小萌「そう言えば、黄泉川先生も前に愚痴ってましたー……『更生してくれたのは嬉しいが、何だか張り合いがないじゃん』って」

上条「(そうか、なら浜面もそうだったのか……?)」

新倉の友人だったのだから、彼も第七学区のスキルアウトなのだろうと推察できる。

上条「(……けど、浜面もイイ奴だったもんな)」

上条は何故か、我が事のように嬉しい気分になっていた。

例え、無能力者であっても……そこから更に堕ちるような生き方を選ばない。

ゼロであってもマイナスではない。

――それはきっと、どんなに強い能力を得る事よりも価値のある事だから。

小萌「……安達ちゃん、もしかして新倉ちゃんと……この際、ちゃん付けで呼んじゃいますけど……情報交換とかしてますー?」

安達「」ギクッ

上条「……え、してんの?」

安達「いや、捜査の時とか……路地裏の情報に強いスキルアウトが味方だと助かるじゃん?」

美琴「ちょ、そんな事してたの!? 情報漏洩なんてレベルじゃないわよ!?」

安達「――頼んでないのに首を突っ込んでくる民間人への情報漏洩も問題じゃん」

更に能力を使って勝手に支部に入ったりしてるらしいし、と付け加えるのも忘れない。

952 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:27:34.78 ID:57EzCirIo

美琴「こ、コイツ……!?」ムカッ

思わず、生に掴みかかりそうになる美琴を背後から上条がホールドした。

上条「よせ、御坂……! 生に口先で勝つのは至難の技だ……!」ガシッ

美琴「コラ、離しなさいっ! ってか、何処を掴んでんだアンタはー!!」バチバチッ

小萌「御坂ちゃん、気持ちは分かりますが放電はやめてくださいですー!?」

上条「安心してください、小萌先生。帯電中のビリビリ娘が相手でも、右手でこうすれば……」ポン

ホールドを維持したまま上条は右手を美琴の頭の上に置いた。

美琴「んなっ!? ひ、卑怯者!」///

怒りの電撃も、上条の『幻想殺し』に簡単に封じられてしまった。

上条「はっはっはっ! そう簡単にビリビリされてたまるかっての」

美琴「くぅぅぅ!」ジタバタ

どうどう、等と不用意な台詞を放ち、上条が更に燃料投下するという愚行があったものの、
ここは私の出番なんだよ! とインデックスが修道女らしく慈愛の心を説いて美琴を説得し、ようやく彼女の怒りは収まった。

美琴「……うぅ」ムスッ

上条「――さて、御坂が落ち着いた所で……」

安達「(……七割方、怒らせたのは上条だがな)」

完全に自分の行いは棚上げである。
953 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:31:03.27 ID:57EzCirIo

上条「えっと、整理すると……どうなるんだ?」

美琴「アンタって……」

小萌「上条ちゃん……」

禁書目録「とうま……」

上条「いや、だって、こんがらがるだろ!?」

安達「とりあえず、俺の兄弟で、スキルアウトだけど、味方だって事だけ理解してくれれば充分じゃん」ケラケラ

美琴「それは解ったけど……アンタはどうして……此処に来たの?」

安達「ん? 新倉を迎えに来たって言わなかったか?」

禁書目録「みことが言ってるのは、こっちの『しょう』の居場所をどうやって知ったの? って事なんだよ」

安達「あ、そういう意味ね。
    ……インデックスの件は事前に聞いてたからな。上条も部屋に戻ってなかったし……行ける場所には限りがあるだろ?」

IDを持たないインデックスを連れて身を隠せる場所は少ないから、と続ける。
本当は学園都市で活動中の『失われた妹達』が、ずっと監視(護衛)していただけの話なのだが。

上条「迎え来たって事は……これから病院に?」

安達「ん? あぁ……そうなるかな」

美琴「――ちょっと待って」

不意に美琴が厳しい声で話を止める。

上条「御坂?」

美琴「……アンタ、こっちの人の症状に心当たりがある筈よね? どうしてそれに関して話そうとしないの?」

安達「…………」

美琴「だって、昨日の昼間……私は……そして、アンタも……これと同じ症状を見てる。気付かない訳がない」

安達「……まぁ、気付くよな。常盤台のエースだけあって観察力もピカイチか」

美琴「ふざけないで……!」

上条「御坂、どういう事だよ……?」
954 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:34:09.99 ID:57EzCirIo

美琴「――昨日、前に捕まえた『虚空爆破事件』の犯人が意識不明になったのよ……その症状に酷似してるの」

上条「……酷似って……新倉……の目が覚めないのが、か?」

美琴「私と黒子は、噂の『幻想御手』の副作用じゃないかって……調べてたの。
    ……そして、調べていたのはアンタも同じよね?」

安達「確かに新倉の意識不明の原因は、『幻想御手』の可能性が高いじゃん……実際に使ったそうだからな」

美琴「使った……って……どうして!?」

安達「……調べる為に決まってるだろ」

美琴「なっ!?」

安達「新倉は副作用の可能性を考慮し、万が一の事態に陥った場合の対処も事前に決めていた。
    病院側への連絡も済んでいるじゃん」

美琴「……どういう事?」

安達「実物があって、使用によって効果と実害があると証明されない限り、学園都市の上層部は動かない――そうだろ?」

小萌「『幻想御手』の噂は、私も知ってましたけど……
    確かに実際に効果が立証されなければ、放置される可能性が高いと思います」

美琴「でも、だからって……!」

安達「最優先されるのは、『幻想御手』の拡大阻止じゃん。
    これは新倉の仲間のスキルアウトが動いてくれてたけど、それでも完全な防止は不可能。
    警備員や他の支部を動かすには証拠……データが致命的に足りないんだよ」

現状では風紀委員の捜査も一七七支部の単独に過ぎず、大掛かりな捜査を展開するには、
『幻想御手を使用した』と証明された検体のデータが必要になる。

上条「それで、意識不明になるのも覚悟の上だってのか……?」

安達「どうせ、今までに意識不明になっている学生達も絶対に助けるんだ。
    ……途中で一人ぐらい増えても問題ないだろ、ってさ」

最悪、必要であれば自分が『幻想御手』を使用して調査を進めるつもりだったが、
成り行きで新倉が先に使用する事になってしまった。
955 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:36:11.13 ID:57EzCirIo

安達「――そして、結果的に新倉はインデックスを守るのに力を使えた」

禁書目録「……!」

安達「そう考えれば……予定よりも遥かに使った意味があった」

美琴「………………」

安達「間違った手段によって得た力に意味なんてない……そんな顔だな?」

美琴「……だって、結局は自分の才能のなさをズルで補っているだけじゃない」

上条「(誰かに手を差し延べる為に使うなら、意味はあると思うけど……)」

小萌「確かにそうですけど……御坂ちゃんは、少し残酷かも知れないです」

――再び、小萌先生は教師の顔になっていた。

美琴「えっ……?」

小萌「確かに、『幻想御手』があるのなら……それはズルだと先生も思うのです。
    でも、才能がない人間は……先へ進むのを諦めなきゃいけないのですか?」

成功する人間の多くは努力によって結果を得る。
しかし、当たり前の事だが努力すれば成功する訳ではない。

美琴「あ……」

人の価値は能力で決まったりはしない。

――御坂美琴はそう考えている。

それは自然な考えだ。
しかし、迷いなくそう言えるのは彼女が『強い』からだ。

小萌「科学が支配する、この学園都市でこんな事を言うのは間違っているのかも知れません。
    でも、私は教師ですから……才能がないから諦めろ、なんて……絶対に言いたくないです」

確かに美琴の考えは正しい。
だが、正しいだけでは人間はきっと救えない。

――心なんて、不安定なモノを抱えて生きている以上は。
956 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:43:51.24 ID:57EzCirIo

小萌「先生は生徒さん達が大好きです。
    けど、それでも……成績には数字という名の『現実』を記入しないといけません」

どんなに努力している生徒でも、結果を出せなければ強度(レベル)が上がることはない。

小萌「夢を持って学園都市を訪れて、レベル0判定を受けた人もいるでしょう……そんな人を前に同じ言葉を言えますか?」
    ……そして、上条ちゃんの前で、もう一度……言えますか?」

――言われて、気付く。

確かに、自分はレベル1からレベル5へと努力で上り詰めた。
だが、その道程で己の無力さを感じたことがあっただろうか?

苦労はあった。

苦難もあった。

だが、絶望という言葉には程遠い。

初めて味わった敗北は、目の前の少年によってもたらされたものだった筈だ。

そして、その少年もまた……学園都市から無能の烙印を押された人間ではなかったか?

美琴「わ……たし……そんな……つもりじゃ……」

上条「へ? いや、気にしてないぞ!?」アタフタ

                   
小萌「でも、御坂さんの気持ちも分かりますよー?」ニッコリ

何故なら――上条当麻が傍にいるから。
957 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/09/23(金) 23:47:12.90 ID:57EzCirIo

小萌「上条ちゃんを見て知ってる御坂さんなら――『ズル』を許せないって感じても無理ないですから」

上条「え、俺?」

安達「なるほど、確かにな」ニヤニヤ

美琴「(あ……そっか)」


――上条当麻は真っ直ぐだから。


多くの無能力者達と同様に無能の烙印を押されていても、曲がらない、僻まない、妬まない。

そんな生き方を選べる無能力者を知っているから。

どこかで認めたくない、許したくない、と感じてしまうのだろう。

小萌「(でも、誰もが上条ちゃんみたいに強くない事は分かって上げて欲しいのですよー?)」ゴニョゴニョ

流石にその言葉を上条に聞かせるのは不味いと感じたのか、小萌先生はこっそり美琴に耳打ちした。

美琴「はい――先生」

上条「(おお、常盤台のお嬢様がミニマム教師を尊敬のまなざしで……)」

安達「(……ウチのクラスの連中がグレないのは、小萌先生の御蔭だろうな)」

思わぬ所で、自分の生徒達+αからの尊敬を集めた小萌先生であった。


967 :とある複製の妹達支援[sage]:2011/10/13(木) 15:45:54.16 ID:fTCFma7Ao

妙な脱線をしてしまったが、当初の予定通りに『新倉生』は小萌先生の運転で病院へと搬送される事になった。

未だに意識の戻らない新倉を上条と安達で担いで小萌先生の車に乗せる時、美琴が根本的な疑問に気付く。

美琴「(――ところで、小萌先生って……運転……出来るの?)」

免許の所持以前に、そもそも物理的に可能なのか謎である。

安達「(いや、絵的に危険なのは間違いないが、ちゃんと運転は出来るらしいじゃん)」

上条「(前に乗せてもらった時に見たけど、障害者用のブレーキ操作も手元でするタイプの車で……)」

美琴「(へぇ……ん? ちょっと、前って何よ?)」

さらっと補足する上条に対し、前に乗った状況について美琴が追求しようとすると、

小萌「――聴こえてますよー?」ガチャ

車のドアを開けながら、小萌先生が優しくない笑顔で微笑んだ。

小萌「ほらほら、さっさと新倉ちゃんを乗せてくださいです」

上条&安達「はい、スミマセン!」

小萌「……で、新倉ちゃんは何処の病院に連れていけばいいんです?」

安達「えっと……この病院です」⊃□

新倉生が佐天涙子にしたのと同じように病院の詳細が書かれたメモを取り出す。

小萌「ふむふむ……あぁ、カエル顔の先生のいる病院ですね」

美琴「え、カエル?」キュピーン

上条「……何でそこで嬉しそうなんですか、御坂さんは」

条件反射的に顔を輝かせる美琴に対し、上条は呆れた顔でツッコミを入れる。

美琴「いや、だって、その……」

安達「――とりあえず、向こうには話を通してあるんで。先生、後は頼みます」

小萌「お任せなのですよー。…………あ」

言いながら、車のドアを閉めようとした小萌先生だったが、思い出したかのように安達に対して手招きをする。

安達「?」

小萌「(……安達ちゃん達の事情に関しては、とりあえず納得してあげます。
    でも、先生としては――いつかちゃんと話してくれるって信じてますよー?)」ゴニョゴニョ

安達「…………ははは」

――完全に見透かされているようだ。
968 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/10/13(木) 15:50:47.43 ID:fTCFma7Ao

小萌先生が車で病院へと向かった後、
安達生と御坂美琴は風紀委員の第一七七支部へと向かっていた。

美琴「アイツだけで大丈夫かな……」

アパートに残してきた上条とインデックスが心配なのか、何度も来た道を振り返っている。

――特にどちらが心配なのかは、敢えて言わないが。

件の上条当麻は『幻想御手』の調査に向かおうとする二人に当然のように付いて来ようとしたのだが、
「インデックスを一人にするつもりか」と二人から割と本気で説教を喰らい、渋々断念する事になった。

安達「……平気平気。少なくとも、今は敵さんも仕掛けてこれない筈だから」

美琴「――やけに自信あるみたいじゃない?」

安達「話を聞く限り、連中の行動はプロのそれだ。
    慎重で大胆。冷酷で、証拠の隠蔽も徹底している」

美琴「それで?」

安達「前回の襲撃は、こちらの戦力が一人だけ――それもただの学生だったから、連中も簡単に仕掛けてきたじゃん」

現在は三人――しかも、その中の一人は学園都市最強の七人の超能力者の中の一人なのだ。

美琴「でも、私達が離れたら結局はアイツ一人に戻っちゃうじゃない。それだと、連中もチャンスだと思って……」

安達「他に敵がいなければ、な」

美琴「あぁ、アイツを助けてくれたっていう……仮面の男? 
    ……疑うわけじゃないけど、本当にそんなの居たの?」

安達「仮面の男の真偽は別にしても、連中は上条の『右手』に関しても大して情報を得ていない筈じゃん」

そういう意味では上条当麻の方が、アクメツよりも遥かに得体が知れないだろう。
そして、そんな得体の知れない相手がいる状況で、迂闊に動くとは思えない。

――勿論、小萌先生のアパート周辺には30人もの仲間達が潜んでいるのが最大の根拠ではあるのだが、それは伏せる。

美琴「確かにそうかもね……アイツの『右手』には相当、面食らっただろうし」

安達「(……嬉しそうだなぁ)」

もしかすると、自分を負かした相手の強さが証明されるのが楽しいのだろうか。
969 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/10/13(木) 15:53:24.95 ID:fTCFma7Ao

美琴「でも、今は慎重になって動かなくても……ずっとそのままって訳にもいかないわよね」

安達「――どの道、一戦交える羽目にはありそうじゃん。その前にウチの新倉には起きてもらいたいんだけどな」

美琴「……ねぇ、訊いてもいい?」

安達「ん?」

美琴「先刻の話……どこまでが本当?」

安達「はて、何の事かなぁ?」

とぼけてはいるが、内心では自分の嘘の下手さに軽くショックを受けている。

美琴「兄弟とか、孤児とか……」

安達「あれ、信じてない? うわっ……ショックじゃん……」ニヘラ

美琴「どうせなら、発言と表情を合わせた方が真実味が出るわよ」

安達「――嘘は言ってないぜ?」

美琴「でも、全部を話した訳じゃない……って事かしら?」

安達「……ぶっちゃけるとな」

美琴「実際、隠してるのに……何故か隠すつもりがない風に聴こえるわね」

安達「ははは。まぁ、否定はしないじゃん……でも、それは俺の個人的な事情なんでな」

美琴「……それなりに付き合いの長いアイツにも話せないような事情?」

安達「そんなとこかなぁ」

美琴「ふーん……」

――実際、何か隠しているのは確実だ。

しかし……現状、協力的な姿勢を崩していない少年相手に、美琴はどの程度踏み込んでもいいのか、と測りかねていた。

美琴「(アイツとの事でも借りがあるのよね……)」

それに風紀委員――つまり、黒子の同僚でもある事実が、不安と信頼を同時にもたらす。

美琴「まぁ、とりあえずは信用してあげるわ」

それは自身の戦闘力に自信があるからこその言葉だった。

万が一、この少年が自分や黒子……そして、『彼』に敵対するような事態になっても自分が何とかすればいい、と。

安達「そいつは重畳じゃん」

自負心から生まれた、楽観にも近い余裕だったが、ある意味で彼等の素性に注意を払うのは徒労であった。

元々、学園都市で呑気に学生をやっていた安達は、個人的に上条と友好関係があるので彼の味方でもある訳だが、
他の生達に関して言えば、その立ち位置は上条当麻よりも御坂美琴の方に近い。

……何しろ、二万人の『妹達』を救う為に学園都市に潜入しているのだから。

安達「(そんな事、口が裂けても言えやしないが)」

それこそ、自分達の秘密が露見してでも、そちらを隠し通さなくてはいけない程に。 
973 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/10/17(月) 21:49:11.43 ID:/I+2gFtzo

~????~


新倉生が意識を取り戻した時、そこは昼下がりの公園だった。

木製のベンチに一人、座っていた。

新倉「――――いや、ねーよ。流石に……これは変じゃん」

周囲を見渡してみると、誰もいない。
それどころか、世界に自分一人だけになったかのような感覚。

新倉「……知らない間に核戦争でも起きたか?」

――どこの世紀末救世主伝説だ。

新倉「っ…………?」

どこからか、声。
その声に激しく動揺しそうになるが、それを押し殺して独り言を続ける。

新倉「まぁ、見た目は平和そうだし……じゃー、夢か……? にしては、妙に……」

――半分、正解だな。ある意味では夢とも言える。

二度、声。
そして新倉生は……納得し、確信した。

新倉「……成程、夢でなけりゃ……こんな事が起きる訳がないよなぁ……そうだろ?」

まるで最初から、そこに座っていたかのように現れた声の主に問い掛ける。

懐かしの享南高校の制服に身を包んだ青年。

???『相変わらず、無駄に元気そうだな……生』

新倉「相変わらず頭が悪い俺に、解りやすく説明してくれると助かるだけど――桂木センセー?」

桂木『こうしていられる時間も少ないからな』

そう言って、笑った『桂木彗一(かつらぎけいいち)』の表情は、新倉の知っている――皮肉屋らしい親友の笑顔そのものだった。
974 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/10/17(月) 22:11:52.09 ID:/I+2gFtzo

~風紀委員活動第一七七支部~



初春「――それにしても、どんどん生傷が増えてきてますね。白井さん」ヌリヌリ

打ち身用の薬用クリームを黒子の肌に丹念に塗りつけながら初春は呟いた。

白井「仕方ないですわ。第七学区では比較的被害は少ないですが、
    それでも『書庫』の登録データとの齟齬を利用して、能力を悪用する輩は後を絶ちませんし……」イタタ

この上、植物状態の患者の話が広まれば、自棄を起こした使用者達がどんな行動に出るか。

白井「やはり、根本的な解決を図る為には……受けに回ってはいられませんの」

初春「……白井さんが受けとか言うと、変な意味に聞こえますねー」

白井「初春」ギロッ

初春「じょ、冗談ですよー……『幻想御手』の開発者を検挙する、って事ですよね?」

白井「えぇ……使用者達の小規模な取り引きを潰した所で、完全に『幻想御手』の拡大を防ぐのは困難ですの……」

初春「使用者の快復も見通しが立ってませんしね」

白井「開発者を捕えることが出来れば、『幻想御手』自体への対処法も判明するでしょうし。
    そして、こんな真似をした、その目論見も――」

――絶対に吐かせてやりますわ。

975 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/10/17(月) 22:14:02.04 ID:/I+2gFtzo

白井「っと……初春、包帯を巻き直すのを手伝ってもらってもよろしいかしら。自分でやるとイマイチで……」

初春「いいですけど……御坂さんに頼まないんですか?」

白井「こんな姿を見せて、余計な心配をかけろと? 
    それに、お姉様はここ数日、何やら忙しいご様子。……昨日も結局、寮へはお戻りになりませんでしたの」

寮監へは話が通してあったのか、いつものように黒子が誤魔化す必要は無かったが、それでも心配な事には変わらない。

初春「……男の人と一緒だったりして」キュ

包帯を巻き終えた初春が、さらっと黒子が考えたくない状況を口にする。

白井「うーいーはーるー? 最近、佐天さんに似てきましたわねぇ?」ギュウウ

そんな事を言うのはこの口か、と黒子は初春の口に制裁を加える。

初春「いひゃい、いひゃいですよ、ひらいひゃん」

涙目になりながらも初春は抗議するが、黒子の執拗な攻撃は止む気配がない。
と、その時だった。

美琴「おっす――」ノ

隣に正規の風紀委員がいるにも関わらず、いつものように部屋のロックを能力で解除した御坂美琴と、

安達「ちわー、三河屋でーす――」ノ

不法侵入に文句を言うでもなく、平然とそれに帯同して安達生が入室してきた。

黒子「っ!?」

上半身は包帯を巻いただけで、ほとんど裸の黒子は大いに慌てた。

美琴「何か私に手伝える事――」

刹那。

言いかけた美琴の頭上に黒子の隣にいた初春が飛来し、更にテーブルの上にあった救急箱が、安達の顔面へと叩き付けられた。

ゴッ!
ドガッ!

黒子「ご、御機嫌よう、お姉様。能力でセキュリティを解除するのはよしてくださいな……それに安達さんも一緒にいるなら止めてください」
976 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/10/17(月) 22:25:36.83 ID:/I+2gFtzo

白井「っと……初春、包帯を巻き直すのを手伝ってもらってもよろしいかしら。自分でやるとイマイチで……」

初春「いいですけど……御坂さんに頼まないんですか?」

白井「こんな姿を見せて、余計な心配をかけろと? 
    それに、お姉様はここ数日、何やら忙しいご様子。……昨日も結局、寮へはお戻りになりませんでしたの」

寮監へは話が通してあったのか、いつものように黒子が誤魔化す必要は無かったが、それでも心配な事には変わらない。

初春「……男の人と一緒だったりして」キュ

包帯を巻き終えた初春が、さらっと黒子が考えたくない状況を口にする。

白井「うーいーはーるー? 最近、佐天さんに似てきましたわねぇ?」ギュウウ

そんな事を言うのはこの口か、と黒子は初春の口に制裁を加える。

初春「いひゃい、いひゃいですよ、ひらいひゃん」

涙目になりながらも初春は抗議するが、黒子の執拗な攻撃は止む気配がない。
と、その時だった。

美琴「おっす――」ノ

隣に正規の風紀委員がいるにも関わらず、いつものように部屋のロックを能力で解除した御坂美琴と、

安達「ちわー、三河屋でーす――」ノ

不法侵入に文句を言うでもなく、平然とそれに帯同して安達生が入室してきた。

白井「なっ!?」

上半身は包帯を巻いただけで、ほとんど裸の黒子は大いに慌てた。

美琴「何か私に手伝える事――」

刹那。

ゴッ!
ドガッ!

言いかけた美琴の頭上に黒子の隣にいた初春が飛来し、更にテーブルの上にあった救急箱が、安達の顔面へと叩き付けられた。

白井「ご、御機嫌よう、お姉様。能力でセキュリティを解除するのはよしてくださいな……それに安達さんも一緒にいるなら止めてください」
977 :残り少ないのにエラーは止めてww[sage sage]:2011/10/17(月) 22:31:33.20 ID:/I+2gFtzo

~数分後~


美琴「勝手に入った私も悪かったけど、この対応はあんまりじゃない?」ズキズキ

安達「め、めり込んだかと思った……」ベッコリ

初春「まだ凹んでますよ?」

安達「くっ……俺のプリティ&キュートな顔に何かあったらどうしてくれるじゃん……」

美琴「そうやって、無駄な自賛するから三枚目キャラが抜けないんじゃないの?」

安達「ほほう? 言ってくれるじゃねーの……」

バチバチンッ!

両者の間に無駄な火花が散る。

白井「それで――安達さんはいいとしても、お姉様は何をしにいらっしゃったんですの?」

美琴「いやー、風紀委員じゃないけどさ、私もこの事件に首つっこんじゃったし。
    何か出来ることないかなーって」

初春「御坂さんがいれば百人力ですよ!」

白井「……お姉様の御用事はお済みになりましたの?」

美琴「あー……そっちは小休止っていうか……」

安達「手伝ってくれるってんなら、それでいいじゃん。だろ?」

白井「……………………」ムムム

美琴「えっと……それで捜査は進んでるの?」

初春「あ、はい! そうですね――」
978 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/10/17(月) 22:38:45.60 ID:/I+2gFtzo
~これこれしかじかタイム~

    
安達「かくかくうまうまって訳だな」

初春「何ですか、それ?」

安達「え、知らないの?」Σ(゚д゚lll)ガーン

これが噂のジェネレーションギャップか、と生は驚愕に震えた。

美琴「……つまり、『幻想御手』が音楽媒体である以上、『学習装置』のような効果は望めないって事よね」

それを余所に黒子と初春から大まかな状況を聞いた美琴は、現状の問題点を口にする。

白井「五感全てに作用する機材がない限り、能力開発は出来ないとの事ですので」

初春「植物状態になった被害者の部屋の捜索でも、『幻想御手』以外に見つかったものはありませんでした」

安達「(新倉の奴もやったのは『曲を聴く』という行為だけだった……となると……)」

美琴「……実際に能力のレベルが上がっているんだから、『幻想御手』という曲自体に五感へ働きかける作用がある事にはならない?」

安達「結果から考えれば、そういう事になる……のか?」

白井「へ? ……どういう意味でしょうか?」

美琴「ほら、前にかき氷を食べた時の話」

白井「えーと……お姉様と食べさせ合いを……」

美琴「そっちじゃない……ってか、一番最初に思い出すのがそれなの?」

白井「他には……赤い色を見ると暖かく感じるとか……あ!」


――そう、答えは『共感覚性』にある。
981 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/10/29(土) 21:44:05.35 ID:Sfh625mUo

学園都市・第七学区


~バスターミナル~


『共感覚性』という新たな着眼点を踏まえて、それらの検証を専門家に依頼するべく四人は動いた。

御坂美琴と白井黒子は、『幻想御手』の使用者が入院している医療機関へ。
安達生と初春飾利は、木山春生のいるAIM解析研究所へと向かった。

木山『共感覚性……ね。確かにそれは盲点だったな』

研究所へ向かうバス停の前で初春は木山にアポイントを取っていた。

初春「先ほど、『幻想御手』を楽譜化して、波形パターンを分析したデータを送ったので調査をお願いしたいのですが」

木山『ああ、そういう事なら『樹形図の設計者』の使用許可もおりるだろう』

初春「わぁ、学園都市一のスーパーコンピューター! それならすぐですね。
    今、安達さんとそちらに向かってますんで……」

木山『分かった。待っているよ』ピッ

初春「安達さん、木山先生に連絡しましたよ……って、どうかしました?」

安達「いや、ちょっとな」ソソクサ

初春「あれ? 安達さんの携帯電話って、そんな色でしたっけ?」

安達「あ……えっと、実は周囲の電波状況に応じて、色の変わる携帯でな……?」アタフタ

初春「何ですかそれ!? そんな携帯初耳ですよ!」

興味津々の様子で食いついて来る初春を躱しながら、安達は冷や汗を流す。

安達「(い、言えねぇ……)」

まさか、これが新倉生の携帯電話で、彼の代わりにとある少女に病院へ行くようにメールしていたなんて。
如月生が安否確認をしに行って、今の所は他の『幻想御手』の使用者達のような症状は出ていないようだが……
しかし、今は無事でも――この先もそうとは限らない。

安達「(俺はまだ面識ないけど、初春の親友らしいし……)」

必死に初春の追求を回避しながら、安達は新倉の無茶を呪う。

安達「(さっさと新倉の奴を起こさないと、こっちが持たないじゃん)」
982 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/10/29(土) 21:58:16.61 ID:Sfh625mUo

~とある病院~


生(椿)「――来たか、如月の」

とある病院の診察室で白衣姿の椿生は、如月生を迎えた。

生(如)「よぉ、新倉の奴はもう?」

生(椿)「もう、病室へ入った……月詠先生への応対は流石に他に任せたが……そっちは?」

生(如)「今、受付に来てるじゃん……んで、どうすんだ? 
     検査するのはいいとしても、新倉の状態の事は話すのか?」

生(椿)「検査の結果次第ではあるが……問題ナシなら話して、問題アリなら黙っておく」

生(如)「まぁ、その辺の判断は医者のお前に任せるけど。
     ……仮に問題ナシだったら……誰が話すんだ?」

生(椿)「……俺が話すしかないだろうな。二十代の俺なら、親戚って事で誤魔化せるだろ」

生(如)「悪いなぁ、俺達が若いばっかりに」

『残留組』であり、この10年を普通の人として生きた椿と違い、如月は蘇生された『悪滅組』。
その新品の十代肌を輝かせながら、如月生は満面の笑みを浮かべる。

生(椿)「イヤミか貴様」

生(如)「冗談だって……ところで、カエル先生は居ないのか?」

生(椿)「どうも気になる事があるらしくてな。水穂機構病院に出掛けてるじゃん」

生(如)「へぇ?」

生(椿)「よくは分からないが、事態が動きそうな気配だ。
     俺は患者の相手で手一杯だし、まだver.1のままだから何かあっても動けない。
     ……いざという時は頼んだぞ?」

生(如)「――ああ、任せとけ」

病院には相応しいとは思えない鉄拵の『成果』を左手に握り、如月生は獰猛に笑った。
985 :とある複製の妹達支援[saga]:2011/11/05(土) 21:37:01.66 ID:BrHDwZp8o

~とある病院~


小萌先生の部屋で安達生と御坂美琴の帰りを待っている筈の上条当麻とインデックスは、
何故か新倉が運び込まれた病院へと来ていた。

上条「結局、動いちまったな……」

というのも、上条当麻が小萌先生の部屋で唸りながら、あっちへうろうろ、こっちへふらふらを繰り返し、
それに業を煮やしたインデックスが「そんなに心配なら、生のお見舞いにで行こう」と提案したからである。

インデックスを置いて、追いかける真似は出来ないし、部屋で待っているだけなのも辛い。

そんな上条の心境を察したインデックスの提案を上条は悩みながらも受け入れた。

禁書目録「いざとなれば、私一人でも逃げるだけなら大丈夫なんだよ?」

『歩く教会』も健在だし、とインデックスはえへん、と胸を張った。

上条「……いや、二人は俺を信頼してインデックスを任せてくれた訳だから」

それを置いていけるはずがない。

禁書目録「でも、心配なんだよね?」

上条「…………」

その不安の原因は、多くの不幸に襲われ、それを切り抜けてきた上条当麻特有の第六感……つまりは、勘である。

上条「(厄介なことになりそう……ってのが、正直な感じなんだよなぁ……)」

生は自分よりも遥かに戦い慣れているし、御坂はレベル5の超能力者だ。
レベル0の自分が心配しても始まらない、と言われればその通りなのだが……

上条「――とりあえずは新倉の様子を見に行こう」

禁書目録「(素直じゃないんだから)」ヤレヤレ

呆れながら、インデックスは肩をすくめた。

???「……あ、上条さん?」

後ろからの声に上条とインデックスは同時に振り返った。

上条「……佐天さん?」

そこにいたのは、御坂美琴の友人で自分と同じ無能力者(レベル0)の佐天涙子だった。
986 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/11/05(土) 21:39:31.73 ID:BrHDwZp8o

~AIM解析研究所~


木山春生の元を訪ねた安達と初春だったのだが、
研究室に通された後「少し待っていて欲しい」と木山に言われ、そのまま待たされていた。

安達「遅いなぁ、木山先生……」

初春「ですね……って、あれ? 安達さん……携帯鳴ってませんか?」

安達「あ、本当だ。マナーモードにしてたからな……」ブブブ

自分の携帯電話を取り出して、着信画面を見る。
電話の相手は――『布束砥信』。

安達「――悪い、少し席を外していいか?」

初春「分かりました。木山先生が戻られたら声をかけますね」

安達「……助かるじゃん」

このタイミングでの電話にある種の予感を抱きながら、生は初春を残したまま部屋を出る。

安達「さて……」キョロキョロ

廊下をしばらく進み、周囲の人の気配が無いのを確認し、電話に出た。

安達「……もしもし。何か分かったのか?」

布束『えぇ――その前に・・・・・・木山春生は側にいる?』

安達「木山先生? いや、少し前に席を外して……まだ戻ってきてないじゃん」

廊下に壁に背中を預けながら答える。

布束『そう……なら、そのまま聞いて。今、やっと……『幻想御手』の仕組みが解析できたの』

安達「本当か!? 流石、頼りになるじゃん」

布束『――でも『私達』は、もっと早くに気付かなければいけなかった』

安達「ん? ……そりゃ、『学習装置』に関しては布束は専門家だから、そう思うのも理解できるけど……」

共感覚性を利用して擬似的に『学習装置』と同様に開発を行なう道具、という仮説を立てていた為、安達はそんな言葉をかける。

布束『――ミサカネットワーク』

安達「え?」

布束『専門家どころか、私は当事者であった筈なのに……怠慢、かしらね』

……安達生は尋常ならざる事態の進行を布束の口調から感じ取っていた。
987 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/11/05(土) 21:41:20.17 ID:BrHDwZp8o

~????~


新倉「つまり、俺は『幻想御手』のネットワークに囚われてるのか?」

桂木『正確に言えば、その直前の状態にある』

新倉「直前?」

桂木『お前は……他の生もだが……『妹達』と共通している点が多くある。
    ……いや、ある意味では彼女達以上に『脳を整理』されている為に脳波を強制される負荷が少なくて済んでいるんだ』

新倉「……どうして、桂木がそんな事を?」

確かに生前から色々な事を知っている奴だったが、その死後に生達と出会った『妹達』の事にまで精通しているのは妙だ。

桂木『お前が知っていることは、俺も知っているさ』

――桂木は自分の事を『残影』だと言った。

新倉生の中にある記憶から、生まれた幻のような不安定な存在だと。

桂木『簡単に言えば、生がイメージする『知識』の象徴が俺だったのさ』

新倉「知識の象徴?」

桂木『現状を把握する為の……言わばナビゲーターとして、生が俺を選んだんだ。
    ネットワークに繋がっている以上、全てを知っている『犯人』とも、生は繋がっている』

だから、知ろうと思えば全てを知れる。

桂木『何かを理解する時、最も効率的なのは誰かとその事に関して……話すことだ』

新倉「説明役として、俺が桂木を想像したって事か」

イメージの姿だから、病床に伏せる前の姿だったのだろう。

桂木『まぁ、それも長い時間じゃない……生が完全にネットワークに取り込まれれば、俺も消える。
    実際、こうして顕在化したのは生がまだネットワークを利用できる段階だったからに過ぎない』

新倉「時間制限付きか……」

桂木『残念ながら、な』

988 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/11/05(土) 21:43:49.25 ID:BrHDwZp8o

新倉「幻だろうと僅かな時間だろうと、こうして桂木と話せたんだ……充分じゃん」

桂木『一つだけ、いいか?』

新倉「何だよ?」

桂木『ネットワークに取り込まれた時――心を強く保て』

新倉「何だそれ……忠告か?」

桂木『そんなところだ。要するに呑み込まれるな……それだけだよ』

新倉「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ?」

桂木『確かに生は他の使用者と違って、弱さから『幻想御手』に手を出した訳じゃない。
    ……だが、生の心に闇がない訳じゃないだろう?』

新倉「コラコラ、ミスターポジティブの異名を持つ俺に何て事を言うんだよ」

桂木『本当にそうだと断言できるか?』

新倉「…………まぁ、否定はしないけどな」

桂木『その原因の一つである俺が言うのも、それはそれで変な話だが。
    けれど、お前の過去は……下手をすると他のどの使用者よりも彼女と重なってしまう』

新倉「彼女? 重なる?」

桂木『直に判るさ――どうするかは、結局の所は生次第だと思う――』

ゆらり、と桂木の姿が陽炎のように揺れる。

新倉「桂木っ!?」

桂木『時間か――あの時の約束、忘れるなよ?』


――願わくば、超人として生きてくれ。


新倉「あぁ、任せとけ」

桂木『お別れだ、生』

消え行く友に何を言うべきか、新倉は迷った。

新倉「……おう。『また』な」

そして、口を衝いて出たのは――恐らくは果たされないであろう再会を誓う言葉だった。
989 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/11/05(土) 21:46:33.24 ID:BrHDwZp8o
~AIM解析研究所~


初春「木山先生も安達さんも遅いですねぇ……」キョロキョロ

何をするでもなく室内を見渡してみる。

初春「――あれ?」

研究用の書類等が収められた戸棚から、一枚の紙がはみ出している。

初春「……これって……?」


~~~~~~~~~~


安達「おいおい、どういう事だよ……」

布束『端的に言えば、『幻想御手』は《特定の人間の脳波に使用者の脳波を同期させる道具》なのよ。その意味は判るわよね?』

安達「はぁ!? いやいやいや、ミサカネットワークは『クローン』と『電気操作』が揃ってるから成立するような代物なんだろ?」

――普通の能力者で、そんな事が可能なのか?

布束『because 実際、無理があるのよ……それが使用者達が昏睡状態に陥っている原因だもの』

安達「原因? ネットワークが、か?」

布束『クローンである妹達と違って、普通の人間に対して一定の脳波を強要する……無理が出るのは当然でしょう?』

安達「その負荷で使用者達は倒れ、そのネットワークに取り込まれたまま……か」

つまり、『幻想御手』が使用者の能力のレベルを上げるのは、ミサカネットワークと同じように脳波リンクによる演算力の向上が理由。
加えて、同系統の能力者とのリンクで『コツ』や『経験則』のようなモノを共有して、効率的に運用しているのだろう。

布束『本題はここから。例の先生が解析を手伝ってくれていたんだけど……』

安達「あぁ、カエル顔の」

布束『先生……将来、『妹達』を患者として迎える時に備えてネットワークの研究をしてたの。
    サンプルデータとして、患者や関係者の脳波のデータや参考になりそうな研究データも集めてたらしくて』

カルテ等のデータ管理に医者の脳波をキーとして使うセキュリティの構築。
建前としては、そういう形を取り、様々な分野の人間の協力を得たらしい。

安達「……誰かのデータと一致したのか、『幻想御手』の核になっている『特定の人間の脳波』とやらが」

布束『えぇ、ピッタリと一致したそうよ…………の脳波と』

安達「――そうか」

告げられた名前に動揺することなく、ただ頷いた。

布束『オリジナルと風紀委員の子の方には、先生から情報がいくと思う』
   
安達「よし、なら先に身柄を押さえる」

布束『大丈夫だとは思うけど……気を付けて』

安達「……了解」ピッ
990 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/11/05(土) 21:50:19.31 ID:BrHDwZp8o

~????~


闇の中だった。

上も下も右も左も分からない。

ひたすらに広大な漆黒にただ、自分がいる。

新倉「………………あぁ」

だが、新倉は繋がっていた。

誰かと想いを共有する。

時に孤独から人を救う、その行為が絶望をより深く、色濃く濁らせる。


――幾千幾万の努力がたったひとつの能力に打ち砕かれる現実。


能力の有無。その差に敗北した少年が諦めた。

新倉「――なるほどね……こりゃキツイわ」


――学園都市って残酷よね。能力を数値化してどっちが優秀かハッキリさせちゃうんだもん。


能力の優劣。下にいた者が気付けば上にいる。

新倉「俺達の統合とも違うなぁ。……他人の感情に、記憶に巻き込まれて……引き摺られる」


――上を見上げず、前を見据えず、下を見て話す。


折れた心を取り繕い、欺瞞の仮面を被る。

新倉「これが学園都市の現実か……」

まるで絶望の揺り篭だった。

あの少女もこんなモノを抱えていたのだろうか?
どうやら、自分と違い『幻想御手』のネットワークには取り込まれていないようだが……

新倉「呑み込まれないように意識を保つので精一杯、か……」

脱出、とでも言えばいいのか……この状況を打破する事は不可能なように思える。

現状維持。
実に消極的で自分には似合わない対応。
それを強いられている、それだけでもかなり不愉快だった。
991 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/11/05(土) 21:51:41.52 ID:BrHDwZp8o

新倉「どこの誰だが知らないが……」

子供の弱さを利用し、その心の傷に寄生するかのような所業。

これを悪と呼ばずに何と呼ぶ?

……そう、新倉生が思った時だった。


――センセーの事、信じてるもん。怖くないよ。


新倉「あ…………?」

それが、今の自分にとって危険……ある種の急所のようなモノだと、新倉は本能的に察知した。

止めろ。
止めろよ。
止めてくれ。


――私達は学園都市に育ててもらってるから。


記憶というダムが決壊したかのように大量の『思い出』が流れこんでくる。

新倉「くっ……あぁ……」

どうしようもない悲しみが。

混ざる?

違う……重なっていく。


――この街の役に立てるようになりたいなーって。


新倉「こんなの……俺に見せるなよ……」

大切ものが、両の手から滑り落ちていく。

血の赤が視界を覆い、その眼からは涙が溢れる。

新倉「あああああぁぁぁああああああああああああああああああッツ!!!」

慟哭。

そして、新倉生は完全に『幻想御手』のネットワークに取り込まれた。

――恐らく、最悪の形で。
992 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/11/05(土) 21:54:19.99 ID:BrHDwZp8o

~AIM解析研究所~


今、自分が見ているのは、とんでもないモノかも知れない。
初春飾利は困惑の中で、そう確信していた。

『音楽を使用した脳への干渉』

初春「……さっきの今で……どうしてこんな……?」

それだけではなく、彼女の研究室には共感覚性に関する資料や論文が数多くあった。

初春「『An Involuntary Movement』? ……これは……?」

資料を見ることに意識を集中していた初春は、背後の人影に気が付かなかった。

???「――いけないな? 他人の研究成果を勝手に盗み見しては」スッ

初春「っ!?」

優しく肩を抱かれ、初春は喉が干上がったような驚愕に襲われた。


――チャキ。


???「……初春から、その手を離せ」

木山「……驚いたな、最近の風紀委員は実銃を携帯しているのか」

両手を上げたまま、振り返らずに木山は背後の少年に問う。

安達「麻酔銃に決まってるじゃん……だが、効果はバツグン……試しますか、木山先生?」

初春「安達さん……!?」

安達「初春先輩……ゆっくりと俺の後ろに」

状況を把握できていない初春に対して、子供を諭すように優しく告げる。
993 :とある複製の妹達支援[saga sage]:2011/11/05(土) 21:59:08.30 ID:BrHDwZp8o

安達「関節キメて取り押さえても良かったんだが……女性を組み伏せるのは柔らかいベットの上だけにしたいんでね」

初春「あ、安達さん!?///」

安達「過剰反応すんなって……軽いジョークじゃん……」

軽口を叩きながらも、銃口は木山の首筋から外れてはいない。

木山「この状況を見ての行動じゃないようだな……この娘の様にどこかで資料でも盗み見たのかな?」

安達「……他の協力者に回していた『幻想御手』の解析が終了しまして」

木山「……ほう?」

警戒を続けたまま、『幻想御手』の効力と、その基準となっている脳波が木山と一致した事を告げる。

初春「そんな……先生が……!?」

木山「驚いたな……それだけ優秀な協力者がいるのなら、私等に頼まなくてもいいだろうに」

むしろ驚いたのは、よりにもよって犯人に協力を仰いでしまった、こちらの方だ。

安達「間抜けな話じゃん――灯台もと暗しどころの騒ぎじゃない。
    だが、貴女も貴女だ……何故、依頼を引き受けた?」

木山「…………」

小説の中であるなら、犯人が警察の捜査を撹乱、誘導する為に敢えて協力的な立場を取る事もあるだろう。
だが本来、犯行の露呈を防ぐ為に必要なのは、沈黙と不関与である。

木山「協力しようがしまいが、時間が経てば私の犯行は露見していただろう。
    ……その前に目的を達成できれば、後はどうでも良かったんだよ」

安達「それはどういう……?」

木山「……油断はないが、問答の時間を与えたのは失策だったな、少年」

――そう、木山が言い放った瞬間。

十五個もの『火球』が安達生へと襲いかかった。

安達「くっ!」

安達は回避も防御も間に合わない、と判断すると咄嗟に身を翻し、初春を横合いに突き飛ばした。

初春「えっ!?」

――直後、生の体を炎が包み込んだ。

初春「いやあああああっ!!」


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