2014年11月10日月曜日

麻琴「お母さんの声…?」

 
※未完作品
 
1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:13:42.39 ID:1bYz9K0AO
麻琴「~♪」カチャカチャ

朝7時。白井家のキッチンには、黒髪の少女が立っていた。

フライパンを器用に使いこなし、その隣の小さな鍋は湯気を立てている。

麻琴「まあ、こんなもんかな」

目玉焼きにソーセージ、ブロッコリー。中学生にしては手際よく短時間で二人分の朝食を作り上げてしまった。
ちなみにご飯やパンといった主食はセルフサービスである。
それを食べ終えると、出掛ける前の最後の役割が彼女を待っている。

2VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:14:32.06 ID:1bYz9K0AO
一応ノックをしてから家主の部屋に入る。

麻琴「黒子おばさん起きてっ…?!」

バサッ
黒子「ああん!お姉さま!いけませんわそんな!」バタバタ

家主――白井黒子の寝姿は少々衝撃的だ。今朝もいつものように枕を抱き抱え、髪を振り乱して体をくねらせている。

麻琴「毎度のことだけど…こ、これ…寝てるんだよね…?」

正直近づくのは勇気がいるが、彼女が仕事に遅れてしまっては一大事。
麻琴は意を決して歩を進める。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:17:36.54 ID:1bYz9K0AO
黒子「くかー」

麻琴「黒子おばさん、朝ですよ!起きて下さい!」ユサユサ

黒子「うぅ…な…なんですのぉ…お姉さま?」

緩みきった口許から涎が垂れていたが、見なかったことにしておく。

麻琴「もう!仕事遅れちゃいますよ!」

黒子「麻琴でしたの…私今日は非番ですのよ」
むにゃむにゃ言いながら答える黒子はまだ半分寝ているようだ。

麻琴「そ、そうだっけ?とにかくキッチンに朝ごはん置いておきましたから、食べて下さいね?」

黒子「わかりましたの~」

麻琴「じゃあ黒子おばさん、いってきまーす!」パタパタ

黒子「いってらっさい~」
ベッドからひらひらと手を振って、黒子はまた惰眠をむさぼり始めた。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:19:06.82 ID:1bYz9K0AO
朝の学園都市は通学する生徒でごった返していた。
10年ほど前と比べ実績を積み世間的にもますますその名声を高めた学園都市は年々入学希望者が増加し、モノレールなどの混雑はかなり深刻になっているらしい。

友達1「麻琴ちゃ~ん!おはよ~」

元気のいい声に振り返ると、仲良しな友達二人が人混みの向こうから手を振っていた。

麻琴「あ、友達1・2ちゃんおはよう!」

友達2「今日身体検査だよね~嫌になっちゃう」

ため息をつく友人は既に疲れてしまっているようだ。

麻琴「へっ?そうだっけ?」

友達1「あれ?忘れてた?」

上空を見上げると、確かに飛行船のモニターに自分の中学の名前が表示されていた。

麻琴「あちゃー…」

友達1「麻琴ちゃんってたまにうっかりしてるよね~」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:19:43.38 ID:1bYz9K0AO
バチバチッ!

教師「ハイ、上条さんもういいわよ」

麻琴「はぁ…」

肩をほぐす麻琴の後方で生徒たちの歓声が上がる。

教師「…!すごいわ上条さん、レベル4よ!」

麻琴「う、うそ…」

友達1「麻琴ちゃんすごーい!」

クラスメイト2「さすが上条さんだよねー」
友達2「……」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:25:19.38 ID:1bYz9K0AO
友達1「麻琴ちゃん、帰ろー」

麻琴「うん」

三人で通りを歩いていると、信号の向こうの仲良さげな集団が目にはいった。

友達1「あ、あの制服って常盤台じゃない?」

麻琴「本当だ」

言われてみれば、どことなくやんごとないオーラに包まれている。
お母さんと黒子おばさんもあんな感じだったのかな。

友達1「はぁ…優雅だなぁー私もお嬢様だったらよかった~」

麻琴「えーそうかな?なんか大変そうだけど…」

友達1「でもさ!おほほ、お釣りは結構ですのよ~とか言えるんだよ?!」

友達2「そこかい!」

目を輝かせる友達1にすかさず友達2のツッコミが入る。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:26:03.11 ID:1bYz9K0AO
友達2「てか麻琴ちゃんなら入れそうだよね~」

友達1「だよね!レベル4に上がったんでしょ?すごいよねー」

麻琴「ええっわ、私には無理だよ」

友達2「相変わらず謙虚だなぁー」

麻琴「…………」

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:26:38.84 ID:1bYz9K0AO
友達1・2「じゃあね~また明日ー」

麻琴「うん!またねー」

トボトボ
麻琴(レベル4か…)

麻琴(お母さん…中二の時にはレベル5だったんだよね…)

麻琴(それに…ずっとレベル3だったのにお父さんがいなくなってから急に上がるなんて…)ハァ
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:27:21.44 ID:1bYz9K0AO
ガチャリ
麻琴「黒子おばさん、ただいま…」

パンッパンッ

麻琴「わぁっ?!」

黒子・初春「麻琴(ちゃん)おめでとう(ですの)!」

麻琴「えっ?えっ?」

初春「聞きましたよ、レベル4なんてすごいです!」

麻琴「それどこでk」

黒子「まあ、麻琴はがんばり屋さんですから当然ですの」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:27:53.78 ID:1bYz9K0AO
初春「さあさあ早く入ってください!」グイグイ

麻琴「わわっ飾利さん…!」

パタパタ

麻琴「そういえば涙子さんは?」

黒子「佐天さんはまだお仕事だそうですわ。もうすぐ来るでしょう」

バターンッ
佐天「おっ邪魔しまーす!」

黒子「早っ?!」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:29:44.18 ID:1bYz9K0AO
佐天「麻琴ちゃんおめでとう!これ、うちの新作ケーキ持ってきたよ~」

初春「やったぁ~」パァア

黒子「初春…ケーキに飛びつかないでくださいまし」

麻琴「わぁー…ありがとうございます、涙子さん」

佐天「いいのいいの!」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:30:24.22 ID:1bYz9K0AO
初春「ではでは、麻琴ちゃんのレベルアップを祝して~」

黒子・初春・佐天「かんぱーい!」

麻琴「か、かんぱーい…?」

ゴクゴク
黒子「かーっ!生き返りますわー!」

佐天「ぷはーっ!うまいっ!ほらほら、麻琴ちゃんも食べた食べた!」ヒョイヒョイ

初春「ああ!佐天さんどうして私のお皿からとっちゃうんですかぁ~」

麻琴「あはは」
ワイワイ
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:31:47.62 ID:1bYz9K0AO
数時間後

初春「うぅ…きもちわるいです…」

黒子「はぁ…いい加減自分の適量というものをわきまえなさいな」

麻琴「飾利さん、お水飲めます?」

初春「うぅ…ありがとうございます…」

佐天「麻琴ちゃんは気が利くなぁー!美琴さんに似て可愛いし、学校でモテるんじゃない?」ニヤニヤ

麻琴「えぇっ?!」カァッ
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:32:50.72 ID:1bYz9K0AO
初春「そうですよぉ!あ、もしかしてもう恋人がいたり…」

黒子「なんですって?!麻琴?!」

麻琴「なっないない!全然いませんよ!」

佐天「照れちゃって~かわいいなぁもう」

初春「あ!私この間街で麻琴ちゃんが男の子と歩いてるの見ましたよ!」ニヤニヤ

麻琴「そ、それはただのクラスメイトで…偶然放課後会っただけです!」

黒子「麻琴~?!」ゴゴゴ…

麻琴「ほ、本当ですよ!」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:33:49.24 ID:1bYz9K0AO
黒子「はぁ…異性に対しては父親似なんですのね…油断できませんわ」イライラ

佐天「まぁまぁ白井さん!似てるといえば麻琴ちゃんはお母さん似ですよねー」

初春「本当ですね、顔や能力も似てますよ」
麻琴「そ、そうかな…」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:38:32.46 ID:1bYz9K0AO
初春「そうですよぉ!能力レベルも高いですし、将来が楽しみです!」

麻琴「…」

佐天「うんうん、もしかしたらお母さんみたいに研究者になったりし」

麻琴「やめて下さい!」ガタッ
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:39:24.04 ID:1bYz9K0AO
シーン…
麻琴「あ…ご、ごめんなさい…あの」

麻琴「ちょっとトイレ行ってきます…」パタパタ

初春「わ、私たち何かまずいこと言ったでしょうか…」オロオロ

黒子「あの子…もしかしたらあまり喜んでいないのかもしれませんわね」

佐天「え…レベルが上がったことをですか?」

黒子「お姉さまも類人猿も未だに行方しれずですし…お祝いなんて少々無神経だったのかもしれませんわ…」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:40:46.33 ID:1bYz9K0AO
麻琴の部屋

麻琴「……」パタン

分かってる。
二人に悪気がないことも、自分を本当に可愛がってくれていることも分かってる。

だけど、今はまだどうしてもお父さんとお母さんの話はしたくなかった。聞きたくなかった。

机の小さな引き出しから取り出した写真は、去年の入学式に親子三人で撮ったものだった。

麻琴「お父さん…お母さん…」グスッ…グスッ…
小さく折り畳まれた新聞記事が静かに床に落ちた。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:41:52.85 ID:1bYz9K0AO
だいぶ落ち着いて戻ってみると、キッチンには食器を洗う黒子の姿しかなかった。

黒子「…」

麻琴「黒子おばさん…涙子さん達は…?」

黒子「客間で布団を敷いてますわ」

ザーッという水の音が響く。麻琴は黒子の隣に立つと、濡れた食器を拭き始めた。

麻琴「そっか…」

何も考えずに重なった皿を拭いていく。泣いてぼんやりした頭には心地よい作業だった。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 23:42:38.32 ID:1bYz9K0AO
麻琴「ごめんなさい…皆、私のために集まってくれたのに…」

ようやくそう言えたのは、拭き終えた食器を二人で棚に戻し始めた頃だった。

黒子「麻琴」

カチャリカチャリと皿と皿のぶつかる僅かな音が聞こえる。

黒子「あなたが一人で我慢することないんですの。私も佐天さんも大人なんですから…初春は怪しいところですけど」

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:05:04.89 ID:d+YsbcAAO
黒子「もっとわがまま言っていいんですの」
なんでもないことのようにそう言って、黒子は優しく笑った。
嫌みのないさっぱりした笑顔だった。

麻琴「黒子おばさん…ありがとう…」

また涙が出そうになって、麻琴は慌てて笑顔を作った。


黒子「と・こ・ろ・で」

麻琴「へっ?」

黒子「な~ぜ二人はさん付けなのに私だけおばさんなんですの~?」

麻琴「え、えーっと…」アハハ
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:05:31.80 ID:d+YsbcAAO
客間
黒子「お布団敷き終えましたの?」

初春「あ、お二人も一緒にUNOしましょうよ!」

麻琴「う、ウノ?」

佐天「もー古いよ初春!」

黒子「ほんとですの…かなり久しぶりに聞きましたわ」

黒子「ダウト!」
初春「あぁっズルいですよ白井さん!」
黒子「初春が弱すぎるんですの」
佐天「で、このカードをこうするとね…」
麻琴「えーっと…こうですか?あ、あがり?」
初春「えーっ麻琴ちゃんまでぇ!」

黒子「まったく…昔から変わりませんわね」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:05:58.23 ID:d+YsbcAAO
麻琴「昔って中学生の頃ですか?」

佐天「そうそう、私たちいっつもこんな感じでしたよねー」アハハ

麻琴「そうなんだ…」(…お母さんもこうやって楽しく過ごしてたのかな)

初春「あっ!そうそう、大通りに新しいケーキ屋さんが出来たんですよ!明日みんなで行きましょう!」

黒子「初春…あなた本当に変わってませんの…」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:06:38.01 ID:d+YsbcAAO
佐天「ふぁあ…そろそろ眠くなってきたなぁ…」

黒子「ではこの辺でお開きにしましょうか」
初春「そうですねぇ…」

麻琴「うん…」ウトウト…

麻琴「じゃあ涙子さん飾利さん、おやすみなさい」

初春・佐天「おやすみ(なさい)~」
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:07:41.67 ID:d+YsbcAAO
麻琴「じゃあ黒子おばさんもおやすみなさい」
黒子「ええ。おやすみなさい、麻琴」

カチャリ
麻琴「うわぁ~」ボスッ
麻琴「楽しかったけど…さすがに眠…」

麻琴「お父さん…お母さん…おやす…み…」

麻琴「すぅ…すぅ…」
カチャリ
黒子「まったく…ブランケットもかけずに…」フワッ

麻琴「すぅ…すぅ…」
黒子「…」ナデナデ
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:12:19.43 ID:d+YsbcAAO
?『麻琴ー?』

あれ…私…寝てた…?ここは…
そうだ、私の家…

じゃあ…あの後ろ姿は…お母さん!
お母さ…

当麻『ただいま~麻琴いるかー?』

麻琴(幼)『おとうしゃんおかえりー!』ダキッ

なんだ…いつもの夢か…

当麻『くぅ…俺は幸福者だーっ』タカイタカーイ

美琴『おかえり…ってアンタ!またおもちゃ買ってきたの?!』ビリビリッ

当麻『』ピクピク…

麻琴(幼)『おかあしゃん、おとうしゃんうごかないよ?』

美琴『大丈夫、10分もすれば起きるわよ~…はい麻琴、ご飯食べちゃいなさい』

当麻『ふ…不幸だ…』

お父さん…お母さん………
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:13:24.09 ID:d+YsbcAAO
玄関の三人が消え、キッチンの場面に移る。
…いつものパターンだ。

美琴『麻琴、おいしい?』

麻琴『うん!』

当麻『麻琴は好き嫌いしないでえらいなぁ』ナデナデ

食卓を囲む親子はとても幸せそうだ。

でも、私はそこに入れない。私が座るべき椅子には、4歳の私が座ってニコニコと母の手料理をほおばっている。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:14:50.66 ID:d+YsbcAAO
私はそれを傍観しているだけだ。

三人は相変わらず楽しそうに食事を続ける。

この夢は別に今始まったことではなかった。
両親が行方不明になった日からずっと、私はこの幼い頃の夢を見続けている。
…来る日も、来る日も。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:15:36.57 ID:d+YsbcAAO
それはおそらく私の願望が夢になっているんだろう。
だからこそ、眠りにつくといつも幸せだった。
学校をずる休みして一日中眠っていた時期さえあった。

幸せな思い出の再生。
それが私の夢の全てだった。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:18:56.95 ID:d+YsbcAAO
リビングには暖かな笑い声が満ちていた。
幸せを絵に描いたような光景が目の前にある。

そのなかに混じった雑音は本当に微かで唐突なものだった。

『―――ま―こ』

「えっ?」

誰かに呼ばれた気がして振り返ると、リビングであるはずのそこは何もない真っ暗な空間だった。

笑い声が飽和する。

それは次第に波打ち、歪み――――大音量で響き出した。

なに。
なんなの、これ。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:22:16.93 ID:d+YsbcAAO
思わず振り返って、私は驚愕した。

『何か』が私を見つめていた。

さっきまで三人がいた椅子の上。料理も食器もそのままの状態でテーブルに並んでいる。
違うのは、座っている『それら』だけだ。

私を指差し、顎が外れんばかりに開いた口からけたたましいサイレンのような笑い声が溢れ出している。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:23:28.32 ID:d+YsbcAAO
反射的に悲鳴を上げた。

異様な笑い声が行き場を失ってわだかまっていく。

穏やかなはずの夢は、今や理解不能な空間になっていた。

『麻琴!麻琴!』

それらの笑い声と私の悲鳴が擦れ合い、不協和音をつくる。

私は、私は、私は、私は――――!
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:24:31.49 ID:d+YsbcAAO
黒子「麻琴、麻琴っ…」

目を醒ますと、黒子おばさんと飾利さんが心配そうにこちらを覗き込んでいた。

麻琴「はぁ…はぁ…」
思わず辺りを見回す。カーテンから漏れる光は青白く、まだ夜らしいことがわかった。
そんな私を見て、二人がほっと息をつく。

喉がひどく渇き、掠れていた。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:25:13.42 ID:d+YsbcAAO
涙子さんが持ってきてくれた温かいお茶を飲むと、少し気分が落ち着いた。

初春「怖い夢でも見ちゃったんですか?」

麻琴「う、うん…なんだか変な夢見ちゃって…皆どうしてここに?」

私がそう言うと、三人は顔を見合わせた。

黒子「あなたの悲鳴が聞こえたものですから…」

私は現実でも夢のように叫んでいたのだろうか。
隣の黒子おばさんならともかく、離れた客間で寝ていた二人まで起こしてしまうなんてどれほどの声量だったんだろう。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:26:11.32 ID:d+YsbcAAO
麻琴「すみません起こしちゃって…もう、大丈夫ですから」

私が笑うと涙子さんと飾利さんは安心したようだったが、結局黒子おばさんは布団を運んできて隣に眠ると言った。

再び照明が消えると、部屋は薄暗くなった。
黒子「麻琴…どんな夢だったんですの?」

黒子おばさんが小さな声で話しかけた。
正直思い出すのも嫌だったが、少しずつ話してみる。

麻琴「――それで…誰かの声が聞こえて…そうしたら」

途切れた言葉の隙間から黒子おばさんの寝息が聞こえてきた。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:28:41.87 ID:d+YsbcAAO
…寝ちゃったんだ。
私もそこで話すのをやめて寝返りを打った。

そういえば、最後に誰かが私の名前を読んでいた。

懐かしい――あの声は…――そうだ。

麻琴「お母さんの声…?」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:29:53.56 ID:d+YsbcAAO
初春「あ、ここ!ここですよ~」

ふわふわと沢山の花が揺れる。飾利さんの髪飾りって不思議だなぁと言ったら、昔は頭全体花畑だったんだよと笑っていた。

麻琴「えーっと…どれにしようかなぁ」

初春「ん~これだけ種類が豊富だと迷っちゃいますよねへへへ」

佐天「初春、よだれ!よだれ出てる!」

麻琴「おばさんの分テイクアウトしとこう」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:30:50.23 ID:d+YsbcAAO
昼下がりのカフェでおしゃべりしながらケーキを食べるなんて、なんだかすごくおしゃれだ。

初春「ん~おいひい~」

麻琴「飾利さんほんとに幸せそう」

佐天「初春ほんと好きだもんね」

初春「白井さんも来られたらよかったんですけど…」

麻琴「さすがに今日は休めないって言ってましたから」

佐天「また今度一緒に来ればいいじゃん」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:32:17.24 ID:d+YsbcAAO
セブンスミスト
麻琴「こ、これっ…!」キラキラ

佐天「ん?このカエルって…」

初春「ゲコ太じゃないですか~美琴さんも大好きでしたよね…って」

麻琴「これ下さいっ!」キラキラ

店員「ありがとうございましたー」

佐天「さすが親子…」
初春「ですね…」

麻琴「ゲコ太♪ゲコ太♪」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:33:23.58 ID:d+YsbcAAO
初春「今日は楽しかったですね~」

佐天「ほんと!中学の時に戻ったみたいだったよ~」

麻琴「今度は黒子おばさんも一緒に行きましょう」

佐天「うんうん」

初春「そうですね!またおいしい店探しておきます!」

二人と手を振って別れると、街はもうオレンジ色に染まっていた。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:37:33.03 ID:d+YsbcAAO
夕方の通りは子供たちで溢れている。友達同士で歩いている高校生たち。一人でぶらぶらしている人。おいかけっこをしているらしい小学生。

平和な時間がそこにはあった。
今日の夕食はなんだろう。黒子おばさんは疲れているだろうし、早めに帰ってなにか作ってみようかな。

麻琴「わっ」

そんなことを考えていると、誰かにぶつかってしまった。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:38:31.10 ID:d+YsbcAAO
麻琴「ご、ごめんなさ…」

不良1「あぁ?なんだチビ」

慌てて顔を上げると、いかにも不良といった感じの男たちが立ちはだかっている。

麻琴「…!」

ど、どうしよう…
私お金なんか持ってないよ…

不良1「聞こえねえんだよ!」

ゴミ箱が蹴飛ばされ、派手に中身が飛び散る。
辺りの注目が一気に集中するのを感じた。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:39:23.59 ID:d+YsbcAAO
不良2「おいおいやめろって~」ニヤニヤ

体から血の気が引いていく。

不良1「謝ることも出来ませんってか?あぁ?」グイッ

麻琴「ひっ…」

不良1「ん?なんだお前、よく見りゃ可愛い顔してんじゃねぇか」
不良2「おっ、マジじゃん!今からヒマ?お兄さん達と遊ばなーい?」ヒャハハ

どうしたらそんな台詞が出てくるんだろう。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:40:09.03 ID:d+YsbcAAO
麻琴「やめ…」

誰か…助けて…
お母さん…!

「や、やめなさいよ!」

不良2「あぁ?!なんだこのガキ!」

麻琴「えっ…」

遠巻きに見つめる人達を掻き分けて出てきたのは、買い物袋をさげた友達1だった。

友達1「大の男が女の子に絡んでっ…は、恥ずかしくないの?!」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:40:47.53 ID:d+YsbcAAO
麻琴「と…友達1ちゃ…」

《逃げて!》
友達ちゃんの声。
彼女の能力は…確かレベル3のテレパシーだったはずだ。

不良1「なんだァ?仲良きことは美しきかなってかぁ?」

友達1「やめっ!離しなさいよ!!」ジタバタ

不良2「暴れんなよこのっ…!」バシッ
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:48:58.76 ID:d+YsbcAAO
友達1「いったぁ…」
麻琴「友達ちゃん!!」

不良2「あ、暴れるからだろうが!」

オイダレカジャッジメントヨベヨ!モウヤッタッテ!

不良1「おいお前らなに見てんだぁ?見せ物じゃねぇんだよ!帰れクズども!!」

バリバリッ

不良1「ギャアッ」ドサッ

不良2「お、おい、不良1?!」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:50:01.45 ID:d+YsbcAAO
麻琴「クズ…?」

パリパリッ

麻琴「それはもちろん自分自身に言ってるんですよね?」

パシッ

不良2「オイ!不良!オイ!」ユサユサ
「テ、テメェ何しやがった?!」

麻琴「何って…スタンガンと同じ要領ですよ」

不良2「なんだよ…お前…電撃使いだったのかよ…!」

麻琴「……」スッ…
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:51:09.83 ID:d+YsbcAAO
不良2「や、やめろよっ…わかった!わかったよ!俺らが悪かった!」ビクビク

麻琴「だったら、早く寮に帰って下さい」

不良2「お、おい不良1しっかりしろっ…逃げるぞっ!」ズルズル


麻琴「友達1ちゃん大丈夫?!」

友達1「麻琴ちゃん…」

麻琴「えっ…やっぱり痛いよねっ…今ハンカチを」オロオロ
がしっ
友達1「すっごくかっこ良かったよ!」キラキラ
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:52:14.95 ID:d+YsbcAAO
気が付くと、周囲から拍手が湧き起こっていた。

麻琴「あああ…」
我に返り、途端に恥ずかしさが込み上げる。
「と、友達ちゃんいこっ」グイッ

友達1「え…ちょっ、ちょっと!」

公園
友達1「もっと早くビリビリッとやっちゃえばよかったのに!」

麻琴「えっと…なんか驚いちゃってさ…友達ちゃんが来てくれなきゃやられてたよ」

友達1「もう、そんな時まで謙虚でいちゃ駄目だって!」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 11:52:47.17 ID:d+YsbcAAO
友達1「にしてもさすがだよね!やっぱり親がレベル高いと子供にも遺伝するのかなー?」

麻琴「……!」

『ほら…あの子ですよ!噂の超電磁砲の娘さん』ヒソヒソ

『きっとすごい才能を持ってるんでしょうねぇ』ヒソヒソ

62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 17:05:54.16 ID:d+YsbcAAO
麻琴「……!」

『あの子…レベル2から上がる気配全然ありませんねぇ』

『ええ…』

友達1「うちの親なんか学園都市出身ですらないしさ!」アハハ

『父親?父親は確かレベル0の無能力者だったと思いますけど…』

麻琴「親は…関係ないよ」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 17:06:26.01 ID:d+YsbcAAO
「えーそうかなぁ?あーあ、私も親が能力者だったら今頃」

『やっぱり遺伝の影響ですかねぇ?』

ググッ…
麻琴「ごめん、私そろそろ帰らなきゃ!今日夕食当番なんだ!」ニコッ

友達「そうなの?じゃあまた学校でねー!」ブンブン

麻琴「うん!」タタタッ
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 17:08:48.77 ID:d+YsbcAAO
麻琴「ハァッ…ハァッ…」

いつもそうだった。

児童1『ねぇ!この前の人ってまことちゃんのママ?!』

麻琴『うん!』

児童1『すっごーい!』

児童2『え?なになに?』

児童1『ほら、この間街で不良をやっつけてくれた人だよ!』
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/10(木) 17:10:39.96 ID:d+YsbcAAO
児童2『え!まことちゃんのおかあさんなの?!』

麻琴『えへへ…』

児童1『ねぇ!じゃああれやってよ、コインをビリビリッてやるやつ!』

麻琴『えっ…あの』

児童2『えー出来ないの?つまんなーい』
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 13:07:33.71 ID:Ia8VARQAO
いつもいつも…私は『上条美琴の娘』でしかなかった。

麻琴「ハァッ…ハァッ…」

麻琴『ぐすっ…ぐすっ…』

教師『麻琴ちゃん、気にすることないのよ』
教師『先生はお母さんやお父さんは関係ないと思うもの』ニコッ

教師『焦らなくていいの』

でも見てしまった。そのあとすぐ先生が私の身体検査の結果をみてため息をつき、同僚教師とお父さんの話をしているところを。

麻琴「ハァッ…ハァッ…」

ガチャッ
バタン
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 13:16:37.60 ID:Ia8VARQAO
黒子「あら、麻琴?遅かったじゃありませんか」
キッチンでは少し疲れた様子の黒子が夕食の支度をしていた。

麻琴「うん…ちょっと色々あって」
「黒子おばさんの分のケーキ入れておきますね」

テイクアウトしたケーキを冷蔵庫に入れると自室へ向かう。
制服を脱ぎ、部屋着に着替えていると何かカサカサしたものが踵に触れた。

小さく折り畳まれた新聞記事。

拾い上げて広げてみる。半年前の記事は太平洋で起きた海難事故を伝えていた。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 13:29:32.51 ID:Ia8VARQAO
美琴「新婚旅行?」

最初に言い出したのは麻琴だった。

麻琴「お父さんとお母さんまだ行ってないんでしょ?行っておいでよ」

美琴「そんな新婚っていう歳でもないしねぇ。お母さんもお父さんも仕事があるし…それに」

麻琴「私なら黒子おばさんの家に行くから大丈夫!それに有給だってとれるでしょ?」

美琴は娘の唐突な提案に苦笑していたが、珍しく当麻も乗り気で(麻琴が鈍感な父にしつこく働きかけたせいもあり)話は案外すんなりと進んでいった。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 13:49:00.04 ID:Ia8VARQAO
麻琴「行ってらっしゃーい!」
黒子「い…いっでらっしゃいですの゛おね゛えさま゛ぁ~」
出発の日、黒子と一緒に港を出る船を見送った。

船上から手を振っていた二人はとても幸せそうで――それが両親の最後の姿になるなんて誰が想像出来ただろうか。

泣きじゃくる黒子を慰めながら、麻琴はやっぱり旅行をすすめてよかったとさえ思っていた。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 16:04:35.60 ID:Ia8VARQAO
両親が乗った船が落雷にあい沈んだと連絡が入ったのは、数日後のことだった。

一部の乗客は速やかに避難し無事救助されたが、亡くなった人も少なくなかった。
行方不明者も多数いたらしい。
送られた生存者リストのなかに、両親の名前はなかった。
かと言って、遺体もあがっていない。

二人は行方不明者として処理された。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 16:27:51.72 ID:Ia8VARQAO
麻琴「ごちそうさまでした」

黒子「あらまあ、半分も食べてないじゃありませんか!折角の黒子スペシャルカレーですのに!」

かれこれ一週間これなのだが…いくらスペシャルなカレーでもさすがに飽きてしまう。

麻琴「きょ、今日はケーキも食べたんで…」
笑ってごまかすと、黒子は泣き出しそうな顔になってしまった。

黒子「ああそうでしたわねぇ…初春と佐天さんとケーキ食べてきたんですものねぇ…私のカレーなんて」グスッ

麻琴「わわわ、ああ!このスパイスの薫り!素晴らしいコク!こんなおいしいカレー食べたことないです~!」

涙ぐむ黒子に慌ててカレーをがっついてみせる。仕事が忙しいと黒子がいじけやすくなってしまうのはこの半年で学習していた。

黒子「まぁ麻琴ったら!遠慮せずにおかわりしてくださいな」

麻琴「う、うん!ありがとう黒子おばさん!」ウプ

うう…お腹が苦しいよ…。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 16:47:12.46 ID:Ia8VARQAO
麻琴「ご、ごちそうさまでした…」

結局おかわりまでしてしまった…。まずい、太るなぁ…。

黒子「あら、おかわりは?」

しゃもじを持っておかわりの盛り付け体勢に入っている黒子には申し訳ないが、もうおなかはいっぱいだ。

麻琴「もうおなかいっぱいでs……!!」

黒子「……」ウルウル

麻琴「そ、そうだ!黒子おばさんの分のケーキ、買ってきたんですよー」

素早く冷蔵庫からケーキの箱を取り出すと、黒子の顔がパァッと明るくなる。

黒子「まあ、気を使わなくてもいいんですのに…」

口ではそう言いつつも嬉しそうな黒子であった。

麻琴「えへへ、ちゃんと黒子おばさんね好きなやつを……あれ」

黒子「ぐちゃぐちゃですの…」

82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/13(日) 13:44:10.73 ID:Bq4M0MsAO
麻琴「黒子おばさん…無理しないで」

黒子「何言ってますの!麻琴が私のために買ってきてくれたんですもの。食べない理由がありませんわ」

崩れてしまったケーキを頬張る黒子はとても嬉しそうだ。

昔からこういう人だったなぁ。

かなり小さい頃から、黒子とはよく遊んでもらっていた。

私のことをすごく可愛がってくれて、いい相談相手にもなってくれた。

黒子「やっぱり疲れた時には甘いものが一番ですわ」ニコニコ

麻琴「それとビールですよね」アハハ

黒子は他の人たちと違い、美琴と麻琴を比べたりはしなかった。
麻琴が母親である美琴を慕っていることも、上条美琴という存在にに苦しめられていることもよく理解していたから。

だから麻琴も黒子と一緒にいると素直になれる。
こうして何気なく過ごしている時間が、今は一番気楽で幸せだった。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/13(日) 14:05:19.86 ID:Bq4M0MsAO
美琴『麻琴、ここで待ってなさい』

お母さんは幼い私をベンチに座らせると、走っていってしまった。
その先には女子高生に絡んでいる不良の集団。
お母さんが躊躇なくその中心に入っていくと間もなく青い光が走り、不良達は散り散りになって逃げ出した。

美琴『はぁー…いつの時代も馬鹿はいるもんねぇ』

女子高生『ありがとうございました!』

麻琴『おかあさーん!』タタタッ

美琴『麻琴?!危ないから座ってなさいっていったでしょ!』

麻琴『おかあさんすごい!すごい!』

幼い私は興奮してぴょんぴょん跳び跳ねている。

女子高生『かっこいいお母さんでいいねー』

麻琴『うん!そうなの!』
『じまんのおかあさんなんだよ!』

屈託のない笑顔で言う私にお母さんが横で照れ笑いをする。

私はそれをぼんやりと見つめていた。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/13(日) 14:13:29.58 ID:Bq4M0MsAO
「コラッ上条!」
慌てて顔を上げると、教室中の視線が私に集まっていた。

麻琴「す、すみません寝てました!」

どっと笑いがおこる。先生さえも笑っていた。

教師「正直なのはいいが、寝られちゃ困るぞー皆もここテストに出すから覚悟しとけよー」

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 00:34:42.55 ID:ivgpJsgAO
終業を知らせるチャイムが鳴ると同時に、担任がひょこりと顔を出した。
担任「上条さん、いるー?」

友達2「麻琴ちゃん、呼ばれてるよ」

麻琴「え?あ、はい」

担任「ちょっと、来てくれる?」

まさか先ほどの居眠りを咎められるのだろうかと思ったが、担任はどうやら上機嫌のようだ。

てっきり職員室だろうと踏んでいたのに、着いた場所は校長室だった。

私、そんなに悪いことしたっけ…?

最近の出来事といえば、昨日不良を一人気絶させたくらいである。
まさか当たり所が悪かったのだろうか。


担任「校長先生、上条さんです」

校長「どうぞ」
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 01:08:31.26 ID:ivgpJsgAO
校長「まあ座りなさい」

校長先生は談話用のソファに深く腰かけていた。
てっきり怒られると思っていたのに、立派なソファを勧められて困惑する。

麻琴「あの…今日はどういう…」

担任「あら、言ってなかったかしら?」

担任の妙に高い声が静かな部屋にやかましく反響した。

校長「君にいい知らせがあるんだ」

穏やかな微笑みを浮かべた校長先生が封筒を手渡す。
二人を一瞥し、取り出してみると、どうやら中身は学校のパンフレットのようだった。

校長「この間の身体検査の結果と君の成績を拝見して是非うちに、と言って下さったんだよ」ニコニコ

ぱらりとページをめくってみると、能力開発のカリキュラムについて詳細な説明が掲載されていた。
すかさず校長先生と担任が交互に語りかけてくる。
適当に相づちを打ちながら文字を追った。

校長「……今この中学に君ほどの能力者はいない」

次のページは学生生活について。
中学に入学する際いくつかのパンフレットを見たが、そういえばどれもこれと同じ構成だった。

「これ以上のレベルアップもここでは非常に困難だと思う」

麻琴「…………」

校長「…君のお母様も優秀だった。あちらも君に期待されてるんだよ。」

校長「どうだい、試験を受けてみては。君ならきっと合格出来る。」

校長先生は相変わらず品の良い微笑をたたえていた。
でもよく見ると、その目はギラギラと脂ぎっている。

担任「すごいことなのよ、上条さん」

担任は興奮冷めやまぬ様子だ。上擦った声にどこか艶があることに気づいて、小さく唇をかんだ。

担任「常盤台って言ったら学園都市でも五本の指に入る名門校なんだから!これはあなたにとってチャンスなのよ!」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 01:23:30.45 ID:ivgpJsgAO
麻琴「ただいま…」

鍵を開けると、部屋のなかはまだ西日が差し込んで明るかった。

黒子の姿はない。
今日から残業だと言って飛び出していったから、帰りは遅いのだろう。

制服を脱ぎ、ベッドにダイブする。窓から入ってくる夕日で指先までオレンジ色に染まった。

校長『もちろん、返事は今すぐにとは言わない。保護者の方ともよく相談しておいで』


麻琴「………」

ふと目に入った写真立てはガラスに光が反射し、肝心の写真が見えなくなっていた。

麻琴「それって……私のためなのかな…」

呟いた言葉に返事をする相手もなく、一人きりの部屋は段々と青く染まっていった。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 01:47:56.62 ID:ivgpJsgAO
黒子「た、ただいま帰りましたの…」

麻琴「黒子おばさんおかえり…って」

玄関を覗くとスーツ姿の黒子が倒れ込んでいた。

麻琴「だ、大丈夫ですか?」

恐る恐る近づいてみると黒子は疲れきった顔をしていた。

黒子「あら麻琴…まだ起きてましたの…?いいんですのに…」

麻琴「立てますか?せめて着替えないと…スーツが皺になっちゃいますよ」

肩をかしてやると黒子はふらふらとソファまで歩く。

麻琴「何か飲みます?」

黒子「ビール!ビール飲まなきゃやってられませんの…」

冷蔵庫から冷えたビールを取り出すと黒子はスーツを脱ぎ散らかして熟睡していた。

起こすのも気の毒なので半ば引きずるように部屋に運び寝かせてやる。

黒子が忙しい時は大抵こんな感じだった。
殆ど会話することも出来ない。

暫くは編入の件も相談できないかもなあ。


黒子「んふふ……お姉さまが……あたりめ……いっぱいぃ…」ムニャムニャ

…うん、出来ないな。

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 14:09:05.21 ID:ivgpJsgAO
友達1「やっと昼飯だー!」

友達2「はぁー…さっきの授業わかんなかったよ」

友達1「私も~!ね、麻琴ちゃんこの問題わかる?」

麻琴「……」ボーッ

友達2「麻琴ちゃん?」

麻琴「え?あ、ごめんなんだっけ?」

友達2「どうしたの?なんか朝からぼんやりしてるけど」

友達1「なんか悩み?はっ!恋かっ!恋なのかーっ?!」

麻琴「ち、違う違う!…で、なんの話だっけ?」

友達2「えーっと…ここの問題がね」

麻琴「えっとここは…」

友達1「こらっごまかすなー!」
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 14:31:21.49 ID:ivgpJsgAO
友達2「麻琴ちゃん、帰ろ」

麻琴「あれ?友達1ちゃんは?」

友達2「今日は補習があるから先に帰っててって」

麻琴「そっかー」

校庭に出ると、友達2も少し遅れて外に出る。
友達2「げた箱が高いと時間かかっちゃう」
麻琴「友達2ちゃん、ちっちゃいもんね」

そう言うと友達2は気にしてるのにと少し頬を膨らませた。
私は小柄で可愛らしいと思うんだけどなぁ。
麻琴「せっかくだしちょっと寄り道してかない?」

友達2「友達1が怒るよー」アハハ

友達2は元気いっぱいな友達1とは対照的な大人しい子だ。
最初のうちは対照的な二人が仲良しなのが不思議な気がしたが、見ているとけっこういいコンビだった。
あとから幼なじみだと聞いて納得したものだ。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 14:41:26.80 ID:ivgpJsgAO
友達2「おいしいねー」

麻琴「うん」

二人でクレープを頬張りながらのんびりと話す。友達2といると、いつもこんな感じだった。彼女はふんわりとした性格なので、一緒にいるとのんびりとくつろげる。

友達2「麻琴ちゃん、何か悩みがあるの?」
麻琴「えーっと…」

悩みと言えば他でもない常盤台のことだ。
おばさんにも言えず終いで進展はないが、最近は担任の目が痛い。
友達2「言ってみたら少しは楽になるかもよ?」

友達2は本当に心配してくれているようだった。

麻琴「実はね…」
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 14:54:19.75 ID:ivgpJsgAO
友達2「……そうだったんだ」

全て打ち明けると、友達2は自分のことのように考え込んでいた。

友達2「うまく言えないけど…私だったらそんなチャンス断れないな」

麻琴「そうかな…でも今更編入してもついていけるかどうか分かんないし…それに」

お父さんやお母さんはどう思うだろうか。二人ともあまり学歴にはこだわりのないようだったけど。

友達2「…麻琴ちゃんはレベルも高いし頭もいいし心配いらないよ」

麻琴「…そんなことないよ。私なんにも出来ないし」

両親の姿を思い出す。二人共正義感が強くて困っている人をほうっておくなんて出来ないタイプだった。
でも私はいつも最初に自分のことを考えてしまう。
…卑怯な人間だ。

友達2「あ、ごめん私塾の時間だから…」

麻琴「そっか。ありがとう。なんか楽になったよ」

友達2が行ってしまうと、私も早々に家路についた。

107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 17:07:48.47 ID:ivgpJsgAO
鍋がくつくつと音を立てる。
ここしばらくカレーが続いていたので今日は和食にしよう。

携帯電話を開くと、黒子から遅くなるとメールが入っていた。

今日も一人で夕食か。
少し寂しいかな。


リビングで夕方のニュース番組を見ていると珍しく固定電話の着信メロディが鳴り始めた。
誰だろう。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 18:22:10.21 ID:ivgpJsgAO
もしかして涙子さんか飾利さんかな。
麻琴「はいもしもし、白井です」

男「もしもし、上条麻琴さんはご在宅でしょうか?」

受話器の向こうから聞こえてきたのは聞き覚えのない声だった。

麻琴「私です…あの、どちら様でしょうか?」

男「これは失礼しました。私警備員の男と申します。半年前の海難事故の件でお伺いしたいことがありまして電話させて頂きました」

麻琴「え…?」
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 18:38:52.21 ID:ivgpJsgAO
受話器を持つ手が震える。あの事故から半年も経っているのだ。連絡があるとしたら、それは…即ち両親の死亡を意味するのではないか。

大きく息を吸い込む。
落ち着かなきゃ。とにかく、落ち着かなきゃ…。

麻琴「なんでしょうか?」

男「実は、事件について新しく判明したことがありまして…落雷についてなのですが、その一部がどうやら自然現象ではない可能性が高いんです」

麻琴「どういうことでしょうか…?」

男「人為的なものである可能性が高いんです。それで、お伺いしたいのですが…上条美琴さんは―――」

男は話を続ける。
確か美琴の能力についてのことだったと思うが、麻琴は既に上の空だった。

人為的…?

人の手によって引き起こされたということか。だとしたらこの人は―――警備員は

麻琴「…母を疑ってるんですか?」
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 18:50:55.17 ID:ivgpJsgAO
男「とんでもありません。ただ捜査の一貫として上条美琴さんの能力について確認したかったものですから…つきましてはメールやファックスで美琴さんの能力について確認できる書類などを…」

おかしい。
なにかが引っかかる。

麻琴「遅すぎませんか」

男「はい?」

麻琴「落雷なんて当日の気象データを解析すればすぐに分かるはずですよね?」

男「それは沈んだ船の破片などから――」

麻琴「母の能力についてだってあなたが警備員なら学園都市の能力データベースで検索できますよね」

一息に言ってしまうと、男は黙りこんだ。

男「…………チッ」

ガチャリ
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 18:59:34.91 ID:ivgpJsgAO
麻琴「…………」

乱暴に切られた受話器をゆっくりと置く。

ソファに座るとすぐに先ほどの電話について考えた。

誰が、何のために?

なぜ娘の私が黒子おばさんの家にいることを知っていたのか。

なぜお母さんの能力を知りたがったのか。


分からない。

ただ、気味が悪かった。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 21:09:05.40 ID:ivgpJsgAO
黒子「ただいまですの…」フラフラ
麻琴「お帰りなさい。お風呂沸いてますよ」

黒子「うぅ…ありがとうですの」

黒子「麻琴はいい奥さんになりs…はっ!」

黒子「させませんの…!お姉さまは早々に類人猿の元へお嫁に行ってしまわれましたが…!」

黒子「せめて麻琴だけは!私が守りますのおお!」ダキッ

麻琴「く、黒子おばさん!苦しいです!」バタバタ

118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 21:21:09.09 ID:ivgpJsgAO
黒子「いいお湯でしたの~」

麻琴「はい、ビールにあたりめですよー」コト

黒子「黒子は本当に果報者ですの…」

麻琴「もう、大袈裟ですねぇ…」アハハ

ソファに座り泣き真似をする黒子は昨日より断然元気そうだった。
麻琴「………」

黒子「麻琴?なんだか元気がありませんの」

冷蔵庫からオレンジジュースを取り出しコップに注ぐ。

麻琴「実は……夕方に変な電話がきて」

黒子「変な電話…?」
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 23:25:31.49 ID:ivgpJsgAO
初春「発信者の解析ですか?」
黒子から電話があったのは、0時を過ぎた頃だった。
丁度生徒たちの小テストの採点を終えて、あくびを噛み殺していたところだ。

黒子『ええ。お願いしますの』

電話の向こうの黒子はだいぶ疲れているようだ。

初春「わかりました。誰だか知りませんけど美琴さんの名前を出すなんて許せませんよ!」

黒子『では、データをこちらから送りますから』

初春「わかりました。2、3日中に連絡しますね」

黒子『すみませんわね、仕事を増やして』

初春「大丈夫ですよぉ!それより麻琴ちゃんの様子は?」

黒子『さっき寝ましたわ。初春に頼むと言ったら少しはほっとしたようでしたけど…早く安心させてあげたいんですの』

黒子もだいぶ大人になったなぁとしみじみ思う。
昔は美琴に対していろんな意味で愛情を注いでいたが(美琴が結婚してからはさすがに少し軽くなったが)、麻琴に対するそれは妹や娘に向けるような健全なものであり、見ていて微笑ましくなる。

初春「…そうですね。じゃあまた電話します」

黒子『ええ、頼みますの』
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 23:40:47.20 ID:ivgpJsgAO
麻琴「…………」

寝返りを打つ。ベッドに入ってからだいぶ時間が経った気がするが、目は冴えていた。

夕方の電話と編入のことばかりが頭のなかを巡る。

電話のことは考えても仕方がないので、編入のことを考えてみる。
結局、電話に終始してしまい編入のことはまた話そびれてしまった。

確かに常盤台に編入することが出来れば、その後の進学も多少変わってくるのかもしれない。能力も……もしかしたらお母さんと同じレベル5になれるのかもしれない。

でも…だからと言って、私にそれだけの力があるのだろうか。
検査の上でらレベル4になったというけれど強くなったという実感はない。

せっかく出来た友達と離れるのも寂しい。

麻琴「はぁ…」

やっぱり、断ろうかな…。

130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 16:42:43.84 ID:RNObpipAO
担任「上条さん、ちょっと」

担任に呼ばれたのは、帰りのホームルームが終わったあとだった。

麻琴「はい」

担任「常盤台の件なんだけど…考えてくれたかしら?」

ここのところ担任は機嫌がいい。授業中にもこちらに妙な目配せをしたりして…正直困る。

麻琴「…せっかくですけど…お断りします」
頭を下げると、唐突に肩を掴まれる。

担任「………ど、どうして?保護者の方とはよく相談したの?!」

麻琴「あ、……え?」
担任の迫力に圧倒されてしまい、言葉が出てこない。分厚い眼鏡の奥の目がギラギラと輝いていた。

担任「してないのね?!あなたの独断で決めてもらっちゃ困るのよ!大切なことなんだから!」

あまりの大声に、教室から野次馬が顔を出し始めた。

麻琴「で、でも…これって自分で決めることじゃ…」

担任「子供なんだからあなただけの問題じゃないでしょう!いいわ、白井さんには先生から連絡させてもらいます!」

麻琴「そんな…」

そう言い捨てると、担任は私を置いて歩いていってしまった。

「なんだよ担任!こえー!」
「更年期なんじゃね?」
「ぶはっ、今度机に命の母置いといてやろうぜー」
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 16:50:21.58 ID:RNObpipAO
友達2「麻琴ちゃん、大丈夫?」

麻琴「う、うん…」

友達1「なにあれ!?担任あり得ないよ!」

麻琴「大丈夫だよ、私も悪かったのかもしれないし…」

友達1「どういうこと?何の話してたの?」

友達2「もしかして…この間のこと?」

麻琴「うん…」

友達1「えっ?なんの話?二人だけずるいよー!」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 17:04:58.42 ID:RNObpipAO
黒子「や、やっと終わりましたの…これで今日はk」

上司「おっ、白井もう終わったのか?じゃあこれも頼むよ」バサッ

黒子「…り、理不尽ですのおおお…」

ピリリリリピリリリリ

黒子「…ん?麻琴の中学から…?」

黒子「はっ!まさか麻琴の身に何か…?!」

ピッ
黒子「はいもしもし!!白井ですの!!麻琴の身に何が?!」キーン

黒子「…………あ…担任の先生?これは失礼いたしましたの…麻琴がいつもお世話になっております…」
「………………はい?」

138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 19:45:19.06 ID:3yl1RAuAO
黒子「どうして黙ってたんですの?」
夕食後、テーブルの上に広げられたパンフレットを挟んで黒子と麻琴が向かい合っていた。

麻琴「ごめんなさい…」

うつむく麻琴に、黒子がため息をつく。

黒子「常盤台ですか…悪い話ではありませんが…」
黒子自身、常盤台中学出身である。常盤台の良い面も悪い面も多少は分かっているつもりだ。

黒子「麻琴は、将来なりたいものとかありますの?」
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 20:08:46.67 ID:3yl1RAuAO
麻琴「まだ…よく分からないです」

黒子「そうですわよね…私だってあなた位の年頃は将来について考えたことなどあまりありませんでしたもの」
パンフレットをめくると、充実したカリキュラムについて事細かな説明がなされている。今の中学のそれとは大きく異なっているので、授業についていくのは大変だろう。

麻琴「私…今の学校が好きだし、正直常盤台に編入してうまくやっていく自信ないし…」
麻琴は相変わらず俯いている。実力は間違いなく同世代でも上位クラスのはずなのだが、自信は伴っていないようだ。
夕方の担任の必死さを見れば、恐らく学校側は麻琴を常盤台に編入させ評判を上げたいのだろう。
端から見れば完全に棚ぼたなのであまり効果はないと思うのだが…。

常盤台側は常盤台側で、麻琴を第二の超電磁砲に仕立てあげたいといったところだろうか。

147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 00:00:12.78 ID:8OGFQiBAO
黒子「麻琴は大人になっても学園都市で暮らしていくつもりですか?」

麻琴「え…うーん…」
そんなこと、考えたこともなかった。

麻琴「私、学園都市の外はよく知らないし…出来ればこっちにいたいかなぁ…」

黒子「……」


黒子「まあ、麻琴がしたいようにすれば良いと思いますわ」

黒子はさらりとそう言って席を立った。怒らせてしまったのだろうか。

麻琴「えっ…」

黒子「あなたの人生ですもの」

こちらに背を向けお茶を淹れる黒子の表情を窺うことは出来なかった。

麻琴「…」

麻琴「黒子おばさんなら、」

麻琴「もし、黒子おばさんが今の私の立場だったらどうします?」
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 00:11:58.34 ID:8OGFQiBAO
黒子「そうですねぇ…」

麻琴「………」

黒子「すぐにでも試験を受けたでしょうね」

黒子「私があなた位の年の頃はとにかく強くなりたいと思っていましたから」

熱いカップを手渡す黒子は恥ずかしそうに笑った。

麻琴「…」

黒子が眩しく思えた。私と同い年の―――中学二年の白井黒子はきっと、強い意思を持つ凛とした少女だったのだろう。

黒子「だからといって、麻琴が無理をして編入する必要はありませんの。こういうことはやはり自分で決めなくてはいけませんよ」

麻琴「はい…」

…私って、子供なんだ。
年齢的な意味ではなく、精神的に未熟なんだ。自分が情けない。

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 16:01:15.15 ID:rUnwitEAO
麻琴「…………」

もう何度寝返りを打ったことだろう。
デジタル時計は深夜2時を示していたが、眠気は一向に襲ってこない。

たまりかねて体を起こすと、麻琴はキッチンへ向かった。

麻琴「はぁ…」

冷たい水を飲み干すと、少し頭がすっきりする。

なんとなく窓辺に近づいてカーテンを開くと、ビルの灯りが星のように輝いていた。

眠らない街。
そんな表現がしっくりくる夜景だった。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 16:11:17.51 ID:rUnwitEAO
この街で生まれ育ち、外のことをよく知らない私。

黒子の言葉が甦る。
学園都市を出ていくなんて考えたこともなかった。
漠然と頭のどこかで、自分はいつまでもこの街にいるものだと考えていた。

お父さんやお母さんがそうだったように。

常盤台に行けばきっとそういったことが現実味を帯びてくるのかもしれない。
お母さんと同じ学校に行って…お母さんのような高能力者になって…ゆくゆくは研究者になって…。

そこまで思考を巡らせて、私は凍りついた。

それでは…私がまるでお母さんのコピーのようじゃないか。
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 16:23:13.81 ID:rUnwitEAO
私は、何を目指しているんだろうか?

正義感が強くて他人を放っておけない…そんな人になりたいんだろうか?

レベル5の電撃使いであり優秀な研究者になりたいのだろうか?



私は…私は上条美琴になりたいのだろうか?


なりたい。

だけど…それは間違っている。

何故だか解らないけど、はっきりと感じた。

いくら私がレベル5になっても…第二の超電磁砲として周りに認められたとしても、きっと自分の心が満たされることはあり得ない。

それは結局、今まで通り『上条美琴の娘』としての成功だから。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 16:27:35.80 ID:rUnwitEAO
将来の展望なんて、今はまだ思い描けない。

だけど私は、いつでも『上条麻琴』でありたい。

例えそれが頼りなくて、臆病な自分だとしても。

私は、他の誰でもない私自身として生きていきたいんだ。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 16:40:33.53 ID:rUnwitEAO
担任「本気なの?」
担任は机を挟んでこちらを睨みつけていた。
麻琴「はい」

教室には夕日が差し込んでいる。
はっきりと答えると、担任はあからさまにつまらなそうな表情になった。

「先生は残念です。正直言ってあなたには失望したわ」

一気にそう言い終えると、担任は早足で出ていってしまった。

だけど私の心は晴れ晴れとしていて、今まで感じたことのない幸福感に包まれていた。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 16:45:48.41 ID:rUnwitEAO
これでよかったんだ。

なんだか自分を誉めてあげたい気分だ。

そうだ、これからもこうやって過ごしていけばいい。

そうすればきっと自分をもっと好きになれる。

夕方の風はまだ微かに暖かくて、小さい頃のようにスキップしたくなった。

170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/08(火) 23:13:33.92 ID:8FJyxSFAO
渡り廊下の隅は死角になっていて、そこをさして気にとめる生徒は全くいなかった。

担任「申し訳ございません…えぇ、断ると…私も尽力したのですが…いえ、勿論これからも働きかけていくつもりです!」

女性の声は一方的である。どうやら電話をしているらしい。

担任「はい…あの、ですから報酬の件は…」
彼女は生徒の印象に残りにくい教師だった。特別好かれることもなければ、嫌われることもない。

担任「…っ、…もしもし?もしもし?!」

担任「クソッ!」ピッ

担任「畜生!あのクソガキ!!」

半狂乱になって携帯電話を踏みつける姿は完全に常軌を逸していたが、それを目撃した者は誰もいなかった。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/08(火) 23:27:34.49 ID:8FJyxSFAO
初春「白井さん!」

カフェに入ると、探す間もなく奥の席の花の塊が手招きしていた。

初春「そうですか…ちょっともったいない気もしますけど」

運ばれてきた温かい紅茶を一口啜る。先に来ていた二人は既にケーキを半分ほどたいらげていた。

佐天「でも麻琴ちゃんがそう決めたんでしょ?」

黒子「ええ、珍しく麻琴が頑固でしたの…自分なりによく考えてのことなのでしょう」

黒子「それなら、周りが口を挟む必要もありませんから」

私の言葉に初春が固まる。

初春「白井さんがっ…白井さんがいつの間にか年をとってしまいました…!」

黒子「どういう意味ですの」

185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/04/12(火) 15:03:08.88 ID:m+XQibIAO
紅茶とケーキの甘い香りが混ざり合う。
黒子「それで、解析の結果は?」

初春「…これです」スッ
初春が二人によく見えるようノートパソコンの向きを変える。

佐天「ん~?…地図?」
表示された画面には、世界地図が表示されていた。

初春「ええ、なかなか特定出来なくて…大体の位置しか掴めなかったんですが…」カタカタ

初春「この辺りです」
エンターキーを押すと、地図上に発信源を示す赤い点が現れる。

佐天「えっ…でもここって」

黒子「初春…ふざけないで下さいまし」

初春「ふ、ふざけてませんよぉ!」

話し続ける三人を尻目に、赤い点は何もない海上にぽつりと寂しく浮かんでいた。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/04/23(土) 10:28:05.31 ID:oYTiZDiAO
数分後、奥のテーブルにはすっかり白くなってしまった初春と、ひと通り彼女をいじり終え優雅に紅茶を啜る黒子と佐天の姿があった。

佐天「そういえば白井さん、時間大丈夫ですか?」

黒子「げっ…、初春!そのデータ私のパソコンに送っておいて下さいな!」

初春「うぅ…わかりましたぁ」

佐天「最初からそうした方が早かったんじゃ…」

黒子「ではお先に失礼しますの!―――もうっ、今夜も残業ですのおお」

さっと身仕度を終えると、黒子は嘆きながら喫茶店を飛び出していった。

佐天「行っちゃった…」

初春「ですね…」
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/04/23(土) 10:39:52.89 ID:oYTiZDiAO
初春「それにしても、白井さんも人使いが荒いですよねーまぁ麻琴ちゃんのためだからいいですけど」

頬を膨らませる初春に、佐天がにやりと人の悪い笑みを浮かべる。

佐天「でも初春嬉しかったんじゃない?白井さんに頼られるなんて久しぶりでしょ?」

初春「わ、私は別に…」

初春が頬を染め、慌てて首を振る。
風紀委員として長年コンビを組んでいた二人だったが、大学を卒業しそれぞれに就職してからは以前のように協力して何かをやりとげるということも無くなっていた。

佐天「ぷっ」
佐天「初春…ほんと顔に出るよね」アハハ

初春「うぅ…佐天さんひどいですよぉ~…」
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/04/23(土) 23:47:16.25 ID:oYTiZDiAO
黒子「ハァッ…ハァッ」
長い廊下を抜け、狭い一室に入れば山積みの書類に膨大なデータ。
その先のガラスの向こうには心底退屈そうな少年がぶらぶらと足を投げ出し座っていた。

黒子「お待たせしましたの!」

息をきらしてモニタールームに駆け込むと、少年がコミック雑誌から目を上げる。

少年『遅刻だよ、オバサン』

ニヤニヤと笑う顔はまだ幼い。

黒子「うぐっ…は、始めますわよ」
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/04/24(日) 00:03:18.25 ID:Q843wRRAO
いつものように怒りを抑えて腰かけると、早速仕事に取り掛かる。
少年『ねぇ、喉乾いた』

黒子「プログラムが終わったら飲めますわよ」ジトー

能力開発は接客業。
彼の担当になってから黒子は何度も自分に言い聞かせてきた。

学園都市の明日を担う人材の育成といえば聞こえがいいが、現実は生意気な子供に振り回される毎日だ。

少年『ダル…』

ここに通う子供達は皆、才能ある高能力者とその素質を秘めた人材ばかりである。…裏を返せばプライドが高く他人を露骨に見下す連中が多いということだ。
目の前の少年も例外ではない。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/04/24(日) 00:05:43.13 ID:Q843wRRAO
黒子「はいはい、ちゃっちゃと済ませますわよー」

最近、相手が物であればどんなに楽だろうと思う。
それでも数年勤めてやっと上から任された仕事である。
研究者として世間に認められるためには、ここで成果を出さなければ明るい将来は望めないこともまた事実。

とにかく今は忍耐・努力、だ。

少年『ケチババァ』ボソッ

黒子「くっ……に、忍耐ですの……!!」ギリギリ

234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/07/30(土) 21:53:00.84 ID:Vw1qYEeAO
すべての行程が終わった頃にはあたりはもう暗くなっていた。

少年「あーあ、疲れた」
いつも通り玄関前まで見送ってやると、さっきまで能力を使い続けていた少年はいっちょまえに肩を回してみせた。

黒子「はいはい、お疲れ様でしたの。明日も同じ時間ですから忘れないでくださいまし」

少年「げっ、明日もオバサンに会わなきゃいけないのかよー」

黒子「へーへーさいですさいです…ほら、お迎えが来ましたよ」

少年「えー…」

送迎専用車へと促すと、少年は黒子を一瞥してしぶしぶ乗り込んだ。

黒子「はい、さようなら」ヒラヒラ
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/07/30(土) 21:56:30.41 ID:Vw1qYEeAO
黒子「ふー、やっと終わりましたの…」
データを確認し、作業を終えて伸びをする。これでやっと家へ帰ることが出来る。
…麻琴のことだから、また夕食を準備して待っていることだろう。
新妻のように優しく自分を出迎えてくれるはずだ。
そう、新妻…新づ…ま…

黒子「いけません!!そんなに簡単に嫁にはやりませんのおお!!」ムキー

上司「白井k…」ガチャ

黒子「どうしても麻琴をと言うのならこの白井黒子を倒してごらん遊ばせー!!」キィィー

黒子「ハッ」

上司「えーっと…」ドンビキ
上司「………白井君、ちょっといいかな…話があるんだが…」

黒子「」ミラレタ

244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/08/04(木) 00:22:05.26 ID:XA3FvUeAO
問題集を解く手を休め時計に目を向けると、時刻はもう9時を回った。

麻琴「ふー…」

そろそろ黒子が帰ってくる時間のはずだ。
冷蔵庫を開けオレンジジュースを取り出していると、玄関の扉が開く音がした。

麻琴「黒子おばさん、おかえりなさい」

慌てて廊下に顔を出してみると、いつも飛びついてくるはずの黒子が玄関に座り込み俯いている。

黒子「…ああ、麻琴。ただいま帰りましたの」

麻琴「どうしたんですか?具合でも悪いんじゃ…」

心配になり額に手を当てて熱を確かめてみると、突然黒子の瞳から大粒の涙が溢れ出した。

黒子「ま、麻琴ぉ…!」ガバッ

麻琴「わっ?!く、黒子おばさん?」

黒子「やっぱり無理ですの!麻琴に会えなくなるなんて私耐えられませんのおおお!!」ビエー

麻琴「ええっ?!」
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/08/04(木) 00:27:57.20 ID:XA3FvUeAO
麻琴「なんだ、出張ですか」

黒子「なんだじゃありませんわ!一週間なんて長すぎますの!こちとら麻琴の笑顔と晩酌で生きているようなものですのにいい!」キィィ

麻琴「あはは…」

黒子「麻琴だって私がいなくては寂しくて夜も眠れないはず…っ!朝だって私のモーニングコールが…っ!」

麻琴「全然平気ですよ?がんばってきて下さいね!」ニコニコ

黒子「ひぐっ……~~~!!」ボロボロ
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/08/04(木) 00:59:37.94 ID:XA3FvUeAO
黒子「うぇっ…まっ、麻琴は私がいなくて寂しくないのですかっ?!」ボタボタ

麻琴「え、えーっと…でもあの研究所に呼ばれるなんてすごいじゃないですか!黒子おばさんがいつも言ってるところでしょう?」

いじけモードに入ったことを察知した麻琴がすかさずフォローを入れる。

黒子「うぅ…そりゃ、あそこは能力開発研究分野ではトップクラスですけれど…」

麻琴「そんなところに呼ばれるなんてやっぱりすごいですよ」ニコッ

黒子「ぐすっ……でも…い、いっしゅうかん…」グスグス

麻琴「それならちゃんと毎日電話しますから、ね?」

黒子「……本当に?」

麻琴「はい、約束します」ニコ

黒子「……」グスッ

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