2013年8月1日木曜日

一方「俺にその資格があるとでも?」

3VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:33:47.40 ID:48Whit0Eo
 ここは学園都市内のとあるファミレス。
 珍しいことにこの日、一方通行は上条当麻に呼び出されていた。

「よぉ、一方通行」

「なンですかァ、人をわざわざ呼び出して」

「いやぁ、ちょっと、折り入って聞きたいことがあって」

 一方通行の表情がやや厳しくなる。
 上条が自分に聞きたいこと、つまり、自分にしかわからないこと。
 表の話ならば、上条には自分以上の事情通である知り合いがたくさんいる。
 超電磁砲やその取り巻き。あるいは土御門か、それとも例の子供教師か。
 しかしわざわざ自分を選んだということは、裏に通じることだからではないだろうか。

「いつもお前と一緒にいる女の人のことなんだけど」

 一方通行の表情がさらに厳しくなる。
 彼にとっては、裏の話以上に真剣にならざるを得ない話かも知れない。

「打ち止めがどうかしたのか?」

「打ち止めとは面識があるからな。そうじゃなくて、大きい方」

「ああ、番外個体か。あいつがどうしたんだ?」

「綺麗な人だよな」

「は?」 
 
4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:34:15.15 ID:48Whit0Eo
「なんていうか、厳しそうでさ、お姉さま、って感じの」

「まァ、打ち止めよりは年上に見えるけどな」

「あの人も、妹達の一人なのか?」

「厳密には違うが、ま、似たようなもンだ」

 上条は、照れたように鼻の頭を掻きながら、一方通行に告げる。

「正直言って、好みのタイプなんだ」

「どれが」

「その、番外個体さんが」

「……あー……」

 そう言えばこの男は、御坂美琴と御坂美鈴を並べれば、美鈴を選びかねない男だったなぁ、と一方通行はしみじみ思う。

「年上好きか」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:34:41.63 ID:48Whit0Eo
「上条さんは年上のお姉さんがタイプなんですよ」

「……まァ、年上に見えるか」

「え、違うの?」

 ほとほと呆れたように、一方通行は物覚えの悪いヒーローを睨みつける。

「……お前も妹達の事情は知ってるだろが。もォ忘れたンですかァ?」

「あ、実年齢か」

 実年齢と肉体年齢の差異は妹達には日常茶飯事である。

「ま、あいつらの場合、その辺り気にし始めたらキリがねェけどな」

 そうでも考えておかないと、打ち止め、妹達、番外個体がほぼ同年齢になってしまうのだ。

「でも、ほら、何とかいう機械で、年齢相応の常識はあるんだろ?」

「さあ?」

 学習装置で何を教えられたかは、一方通行も知らない。
 そもそも番外個体は街で生活するために作られたのではない。対一方通行の兵器である。
 世間一般の常識は、その後に不完全ながらもMNWを通じて学んでいたはずだ。
 もっとも、一部個体によってとんでもないネタが仕込まれたりもしているらしいのだが。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:35:18.48 ID:48Whit0Eo
「もし良かったら」

「あァ?」

「紹介してくれないかな」

「はァ?」

「とにかく、紹介だけしてくれないか? 別に俺のことを良く言えとか、強制するとかそういうわけじゃないんだ」

「番外個体にかァ?」

「頼む」

「はァ? めンどくせェなァ」

「そこをどうか一つ」

「あー、どーすっかなァ」

「頼むよ」

 敢えて視線を逸らし、一方通行はコーヒーを啜る。

「……豆ケチッてンな、ここ」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:35:51.59 ID:48Whit0Eo
 立ち上がる上条。

「一方通行、お前、まさか」

「あン?」

「お前、もしかして番外個体のこと……」

「つまンねェ勘違いしてンじゃねェぞ、三下ァ!」

「それじゃあ、別に良いだろう?」

「俺は、あいつらを護ると決めてンだがなァ」

「や、上条さん品行方正よ? 人畜無害ですよ?」

 心外そうに、上条は手を振っている。

「(まァ、てめェがやりちンだったら、オリジナルもシスターもとっくに……だわなァ)」

 それどころの騒ぎではない。
 学園都市内だけでも一体どれだけの女性が毒牙にかかるのか。
 魔術サイドだって被害は免れないだろう。

「確かに、これ以上ねェ程の人畜無害ってか?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:36:19.67 ID:48Whit0Eo
 通りすがったウェイトレスに飲み終えたコーヒーのお代わりを注文すると、一方通行は興味なさげに言葉を繋げる。

「いいけどよォ、オリジナルはどうなンだよ」

「は? ビリビリがどうしたって?」

「どうしたもこうしたも」

「おいおい、確かにアイツとは顔見知りだけど、別にそういう関係じゃないぞ?」

「だったらシスターはどうすンだ」

「それこそないだろ。インデックスはタダの同居人だし、大事に預かってるんだからな」

 上条の表情は本気でわかっていない人間のものだ。

「(ちょっと可哀想すぎンだろ)」

「ま、顔合わせるくれェなら、段取ってもいいけどよォ」

「おお、マジか? 頼む」

 小躍りするように立ち上がると、上条は一方通行の手を勝手に握りしめ、そしてやっぱり踊るように去っていく。

「……そんなに嬉しいもンかねェ」

 溜息混じりに呟いた一方通行は、テーブルに残された紙切れに気付く。

「野郎……ちゃっかり伝票置いてきやがった」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:36:45.14 ID:48Whit0Eo
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  

「は? どうしてミサカがヒーローさんと会わなきゃいけないわけ?」

 番外個体はまず言った。

「向こうが会いてェって言ってンだよ」

 一方通行が答えると、さらに、

「だからなんで?」

「好みのタイプ、とか言ってたなァ」

「ふーん。そ。好みの……好み!? って、え、どういうこと、それ。ミサカがヒーローさんの好みって」

「言葉のままだろ。年上趣味なンだとよ、三下は」

「年上って、ミサカまだ生まれて三年も経ってないよぉ。なに、ヒーローってロリコンさん? やだぁ、貴方と一緒じゃない」

「どさくさ紛れに何言いやがる」

「ま、好みって言われるのは嬉しいけどさ」

 ん? と番外個体の動きが止まる。

「あれ。お姉さまはどうなるのかにゃ~ん?」

「知るか。フラれンだろォよ」

「酷いね、アナタ」

「今更だろォ」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:37:13.21 ID:48Whit0Eo
 わお、と大袈裟に驚いて見せながら、番外個体は気怠そうに一方通行の前に座り込む。

「別に、ミサカは会ってあげても良いんだよ? 良いんだけど」(チラッ)

「あァ?」

「もしも、もしもだよ。ミサカがヒーローさんと付き合ったりなんかしたら……」

「はァ?」

「デートなんかしちゃったりして……それが見つかったりしたら……」

「あー、なるほどォ、そーいうことかァ」

 得心がいった、と頷く一方通行に、番外個体は嬉しそうに詰め寄る。

「どうなるかな?」

「まァ、あれかァ? ジェラシーって奴か?」

「え。妬いちゃう? 妬いちゃうの?」

「そりゃァ、穏やかじゃァねえよなァ」

「そうだね。困っちゃうよね」

 訳知り顔でうんうんと頷く一方通行。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:37:41.01 ID:48Whit0Eo
「なにしろ、惚れた相手が別の奴と一緒にいるんだからなァ」

「ほ、惚れた相手?」

 番外個体が止まった。
 そろそろと、一方通行の視線を窺うように上目づかいになっている。

「惚れてるの?」

「違うのか?」

「あ、えっと、違わない、と思うよ……うん」

「そりゃそうだろ。気ィつけろよォ」

「え?」

「超電磁砲は痛ェぞ」

「え?」

 別の意味で、番外個体が止まった。
 一体、この男は何の話をしているのだ?
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:38:09.19 ID:48Whit0Eo
「超電磁砲? 撃つの?」

「超電磁砲。見たことなかったか?」

「お姉さまの能力よね?」

「そりゃそうだろ」

「貴方、いつから超電磁砲撃てるようになったの?」

「はァ? 撃つのはオリジナルだろーが。三下と一緒にいるおめェに嫉妬すンだろ?」

「あ、そっち?」

「他になンかあるか?」

「お姉さまじゃなくて……」

「シスターか? 三下の話だと、噛みつくらしいが」

「……もおいいよ……」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:38:39.15 ID:48Whit0Eo
「そろそろ時間か。行ってこい。晩飯いらねェ時は連絡しろよ。無断外泊はするなよ」

「……本当にいいの?」

「何が」

「行ってもいいの? ヒーローさんとデートして良いの?」

「おいおい。いくら自分がクローンだからってそこまで卑下するこたァねえだろ。堂々とデートしてきやがれ」

「……そうじゃ、なくて……」

「小遣いか? あいつ貧乏だからなァ……。十万もあれば足りるか、ほら」

「そうじゃなくてっ!」

「なンなンですかァ?」

「……もう、いいよ」

「あン?」

「もういいって言ってるの! いいよ、デートだってなんだってしてくるよ! 白もやしなんかより、もっともっとずっとずっといい男とデートしてくるよ!」

「おゥ。ああ見えても三下はそれなりの男だからな。安心して任せられるってな」

「馬鹿っ!!!」

「なに怒ってンだ?」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:39:04.54 ID:48Whit0Eo
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 やるせない気持ちで歩いていく番外個体を、見知った姿が呼び止める。

「番外個体ではありませんか。とミサカは問いかけます」

「誰? ていうか、何号よ」

「10032号ですが、あの人に貰ったネックレスをきちんと見ればわかるはずだとミサカは胸を張ります」

 御坂妹の視線は、番外個体の周囲をスキャンするようにグルグルと定まらない。

「……10032号か。そんなに警戒しなくてももやしは一緒じゃないよ。お家でチビっ子とゲームでもしてるよ」

「貴女が一人で歩いているとは珍しいですね。とミサカはこれまで貴女がいつもモヤシといたことを思い返します」

「いいよ、もう。あの人のことは。あの人はミサカのことなんかどうでもいいんだから」

「やさぐれてますか?」

「まーね。じゃ、これから人と会うから」

「そうですか。やさぐれた番外個体と顔を合わせるまだ見ぬ人の冥福を祈りながら、ミサカは別れを告げます」

「貴女も知ってる人だけどね」

「病院に行くのですか?」

「アタシとアンタの行動範囲、ドンだけ狭いの。先生以外にも共通の知り合いくらいいるでしょうに」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:39:30.15 ID:48Whit0Eo
「と言われても、ミサカには男性の知り合い自体が極端に少ないのですが」

「これからね、ヒーローさんとデートなの」

「ヒーローというと……まさか」

「そ。上条」

「お待ちなさい」

 番外個体の進行方向に立ちふさがる御坂妹。

「……何?」

「あの人に何の用ですか? 場合によってはこのミサカもお供します」

「だから、デートだってば」

「!?」

「デートは、二人きりでするものでしょ? 邪魔は良くないよ」

 因みに、ここに来て番外個体がデートに乗り気になったわけではない。
 慌てる御坂妹の反応が面白く、わざと乗り気になったと見せているだけだ。 

「ふ、ふ、二人きり」

「うん。二人きり」

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:39:58.18 ID:48Whit0Eo
【緊急速報】末っ子があの人とデート【狙撃班急募】

1 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします :xxxx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:Misaka10032
  手の空いてるミサカは至急学園都市に来られたし
  緊急事態発生。尚、武装は許可する。繰り返す、武装は許可する

2 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします :xxxx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:Misaka12378
  何があった、とりあえず落ち着け

3 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします :xxxx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:Misaka12245
  あの人ってまさか……

4 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします :xxxx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:Misaka14510
  あいつ、一方通行さんになんてことを!

5 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします :xxxx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:Misaka11351
  >>5
  ねーよwww
  10032号があの人って言ったら上条だろ

6 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします :xxxx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:Misaka18637
  いや、それより狙撃班急募に武装許可って、何する気だお前。
  ちょっと落ち着け、な

7 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします :xxxx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:Misaka10032
  これが落ち着いていられるか。これを見ろ
  っ(ミサミサ動画「番外個体とのやりとり」)

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989:以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします :xxxx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:Misaka20001
  なんだか負荷が凄いんだけど、何があったのかな、ってミサカはミサカは聞いてみる
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:40:24.74 ID:48Whit0Eo
 何か凄い目で睨まれているような気がする、と番外個体は思った。
 目の前の10032号はいつもと同じ目つきだけど、何かが違う。何かが決定的に違う。
 これは、恨みの目だ。
 自分はミサカ負の感情のエキスパートである。わからないわけがない。
 そしてまあ、恨まれている理由もわからないではない。
 ヒーローは、皆のヒーローだから。
 でも、しかし。

「あのね、デートに誘われたのは私だから。睨まれても困るんだけど」

「……貴女でも良いと言うことは、ミサカでも良いと言うことだと、ミサカは判断します」

「それは多分駄目」

「何故ですか、二人とも同じお姉さまからのクローンではないですか。とミサカは指摘します」

「肉体年齢の問題だから」

「肉体、年齢、ですか」

 今更どうしようもない。培養基から出てきたときの肉体年齢は今更変えられない。

「ヒーローさんは、年上が好きなんだって。で、ミサカが年上だと思ってる。失礼だよね、ミサカ、まだ生まれて三年も経ってないのに」

 ミサカの目つきは変わらない。

「じゃあ、そろそろ行かないと約束の時間だから」

「背中に気をつけて、とミサカは姉妹としてせめてもの情けで警告します」

「本気で恐いよ」

「じゃあ本気で気をつけるべきだ、とミサカは再び忠告します」

「……忠告感謝、って言っておくよ」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:40:53.96 ID:48Whit0Eo
 上条の姿が見える。
 番外個体は、ゆっくりとその姿へと近づいていった。

「はろー。白もやしに言われて来てみたけど?」

 背後から話しかけると、上条は慌てて振り向いた。

「あ、あの、俺、上条当麻です」

「知ってるよ。もやしと最終信号から聞いてる、あと、10032号とかその辺」

「それじゃあ、まず」

「お腹減った」

「え」

「お腹減ったって言ってるの」

「あ、じゃあメシでも」

「何処行くの?」

「えっと……ファミレスとか」

「デートでファミレスか……ま、いいけど」

(さて……緊急の依頼でしたが、間に合ったようですね)
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage saga]:2011/08/23(火) 00:41:19.67 ID:48Whit0Eo

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【待たせたな】末っ子のデート【蛇】

1 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします :xxxx/xx/xx(X) xx:xx:xx.xx ID:Misaka17600
  こちらスネーク。これより作戦を開始する。 
 
 
29 :1ですよ[saga]:2011/08/24(水) 23:45:32.16 ID:IcHfZhVYo
 上条は、番外個体を案内するように先に歩き始める。

「俺の行きつけのファミレスだけど」

「んー、あ、そこならミサカもよく知ってるよ。最終信号や一方通行と一緒に来るからね」 

 ファミレスの名前を告げられたところで、番外個体はそう答え、上条を追い越す。
 一瞬上条は抵抗しかけるが、思い直したのか番外個体に道を譲る。

「ところで、一応聞いておくね」

「はい?」

「貴方は、お姉さまのことはどう思ってるのかな?」

「……ビリ……いや、御坂美琴のこと、だよな」

「うん。返答次第によっちゃあ……」

 幻想殺し相手にレベル4の電撃が通じるとは思っていないが、それなりの体術も学習装置で教えられている身だ。
 接近戦限定なら、一方通行や超電磁砲よりも分があるだろう。

「バキン、と逝っちゃうよ?」

 無慈悲に何かを手折る動作に、上条は苦笑を浮かべていた。

「うーん。なんていうか……あいつは……あいつは凄く良い奴だと思う」

「良い奴?」

「俺より妹達に近い貴女のほうがそれはよくわかってるんじゃないか?」

「うーん。ミサカ、そういうのはよくわかんないよ。元々一方通行を殺すために作られた個体だしね」

「い?」
30 :1ですよ[sage saga]:2011/08/24(水) 23:46:10.39 ID:IcHfZhVYo
 上条の表情にニヤリと笑う番外個体。

「なんだ、知らなかったの? 単なる出遅れた妹達だと思ってた?」

「あいつとやり合った妹達がいるとは聞いてたし、あいつと一緒にいるのは打ち止めと貴女だけだから、特別なんだろうなとは思っていたけど、そこまでは知らなかった」

「それじゃあ初めましてにゃーん。ミサカがその番外個体。対一方通行の兵器として作られたクローンだよ」

「でも、今は違うんだろ?」

「ん?」

「今は、一方通行と一緒にいるじゃないか」
 
「まあ、色々あったからね。貴方だって、お姉さまだって、今更あの人と戦う気はないでしょう?」

「戦う理由がないからな」

「そ。ミサカも一緒だよ」

 その気になったらあんなモヤシはばっきばきだけどねぇ、と続ける番外個体に、上条はうなずく。

「あいつ、身体弱いもんな。能力なかったら多分打ち止めにも勝てないんじゃないか?」

「さすがにそれはないんじゃないかなぁ。あの人、ああ見えて最近は身体のこと気にしてるみたいだし……」

「弁護するんだ?」

 上条の笑いに気付く番外個体。

「べ、別に弁護って訳じゃ……」

「打ち止めは、あいつのこと兄貴みたいに思ってるらしいけど、やっぱりそんな感じなのかな」

 兄を庇う妹みたいだ。と上条は言う。
31 :1ですよ[sage saga]:2011/08/24(水) 23:46:34.97 ID:IcHfZhVYo
「げぇー。嫌だよ、あんな兄貴なんて。それじゃあ、ミサカはあの人の妹。うわ、想像しただけで吐き気が」

「一万人近い妹か……土御門か青ピ辺りがそんなゲームやってそうだな……」

 舞夏を超える妹など存在しないニャー
 僕は、妹が一万人でもオールオッケーやで!
 そんな叫びが聞こえたような気がして、上条は軽く首を振った。

「ま、とにかく腹が減っては何とやらだから」

「なんとやらって?」

「え」

「なんとやらって、なに?」

「え、えっと……腹が減っては……本能寺?」

「意味わかんない」

「ほら、あの、本能寺って、信長が秀吉に殺された寺で」

 ちなみに上条当麻の学業成績は悲惨の一言である。

「あー、ごめんね。ミサカ、そっちは駄目駄目なんだ。信長とか秀吉って言われてもわかんない。何した人?」

「……なんか偉い人……多分……」

 重ねて言うが、上条当麻の学業成績は……
32 :1ですよ[sage saga]:2011/08/24(水) 23:48:20.17 ID:IcHfZhVYo

 正直、番外個体はこのデートには乗り気ではなかった。
 売り言葉に買い言葉、一方通行への反発が高じてやってきたようなものだ。
 ところが、である。

「(悪くないじゃん……)」

 番外個体の上条当麻への興味。最初は正直無関心に等しいものだった。
 噂は聞いている。
 妹達の救世主。
 幻想殺し。
 ヒーロー。
 お姉さまの想い人。
 だから、悪人だとは思っていなかった。
 文字通り命を懸けて妹達を、お姉さまを救ったヒーローである。それに対する感謝はある。
 実際に会ってみても、悪い印象はない。
 自分という年上(実際には年上でないとしても)女性の相手を懸命に成し遂げようとしているところにも好感が持てる。
 学園都市第一位一方通行、それどころか得体の知れない魔術師すら倒してしまう無能力者。それだけの力を持つ男が、自分と食事をする、その一点だけのためにあたふたしている。
 番外通行が普通に生まれ成長していた女性なら、プライドは十二分にくすぐられていただろう。
 今の彼女にとってはそれはただ、「真面目に一生懸命なのは好感が持てる」ということに過ぎない。
 それでも、それは立派な「好感」だ。
 いい男、とは思えなくても……

「(いい人なんだ)」

 そう思うことは出来る。
 上条当麻という男、お姉さまや妹達が惚れるのもわからないではない。
 と第三者のように考えながら、番外個体は上条の値踏みを続けていた。

「お待たせ致しました。スペシャルシーフードセットのお客様」

 番外個体の前に置かれるセット。

「エコノミー中華セットのお客様」

 上条の前にも。
33 :1ですよ[sage saga]:2011/08/24(水) 23:48:58.33 ID:IcHfZhVYo
「ドリンクバー取ってくるよ。何がいい?」

「コーヒー、ブラックで」

「ホットコーヒー?」

「あ、うん」

 やりとりを終えてから、番外個体は心の中で首を傾げる。
 ブラックコーヒーなんて、呑んだことないよ。
 どうして、ミサカはそんなもの頼んだだろう?
 ブラックコーヒーなんて、まるで……まるで……
 

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【待たせたな】末っ子のデート【蛇】その5

845 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600
  食事タイム終了。それなりに話は弾んでいた模様。
  会計に向かったようなので、盗聴器を回収後、追跡を再開する。

846 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:original
  ……
  ……
  ……
  ……

847 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka13983
  ひぃっ!
  お、お姉さま? 無言はちょっと……あの……

848 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:original
  17600号、現在地は?

849 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600
  あの、お姉さま。今は任務中で……

850 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:original
  これ、最後のチャンスね。
  17600号、現在地は?
 
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34 :1ですよ[sage saga]:2011/08/24(水) 23:49:58.54 ID:IcHfZhVYo
「ごめん」

「……別に気にしなくて良いよ」

「ホンットにごめん」

「いいってば、どうせ、お小遣いいっぱい貰ってきたんだし」

「お小遣い?」

「第一位の財力は並みじゃないよ?」

 会計時に、上条は財布を落としたことに気付いた。言ってしまえば、よくあることである。

「まさか、よりによってこんな時に……ああ、不幸だ」

「傷つくなあ、ミサカと一緒にいるのがそんなに不幸なの?」

「いや、そういう意味じゃ」

「いいよ」

 番外個体は笑う。

「もののついでだ。今夜はミサカに任せなさい。次は何処行く? カラオケ? ケーキ? それとも、大人の時間?」

「おと……な……」

「なに赤くなってるにゃーん?」

「あ、いや、その、あの」

「うふふふふ」

 妖しく笑う番外個体が、突然振り向いた。
 その視線の先に現れる二つの影。
 パチン、と火花の弾ける音。次いで空気の焦げる臭い。

「ねえ……何やってんの?」

「お姉さま? 指示通りの場所にお連れしましたけれど……あの、これはどういう事ですの?」

「げっ、ビリビリ。白井まで」

 ニッコリと微笑む美琴と、侍るように寄り添いながら首を傾げている黒子。二人が、上条と番外個体の前に立っていた。

50 :1ですよ[saga sage]:2011/08/25(木) 23:36:04.94 ID:/u5A/MgGo
「まあ、大きなお姉さまではありませんか」

 黒子の五感が番外個体に集中する。上条の存在は頭っから無視だ。
 二人が会うのは初めてではない。以前に一度、美琴と共にいるときに偶然出くわして紹介は受けている。
 その時は血縁者としか紹介されていないので、黒子にとっての番外個体はあくまで「大きなお姉さま」なのだけれど。

「お久しぶりですの」

「誰かと思ったら白黒じゃん、おひさだね」

「白井黒子ですの」

「だから白黒だって」

「白井黒子、ですの」

「白黒」

「し・ら・い・く・ろ・こ、ですの」

「し・ろ・く・ろ」

「大きいお姉さまは意地悪ですの」

「うふふふ」

 勝ち誇ったように笑う番外個体と、涙目で美琴を見上げる黒子。

「馬鹿やってないで。黒子、さっきのアレ出して」

「はいですの」

 懐から財布を取り出す黒子。
 それを目にした上条があっと叫ぶ。

「それ、俺の財布!?」

「まあ、類人猿までいやがりましたの」

 ようやく黒子が上条を認識した。
51 :1ですよ[saga sage]:2011/08/25(木) 23:36:32.00 ID:/u5A/MgGo
「このお財布、ジャッジメント詰め所に届けられましたの」

 ヒラヒラと財布が振られる。

「超落とし物です、とのことですわ」

「なんだよ、超って」

「存じません。拾い主がそう仰っていたそうですから」

「そんなことはどうでも良いけれど……」

 黒子の言葉を引き取るように、美琴が溜息をつきながら言う。

「あんたねぇ……こんな時まで何やってんのよ」

「いや……あはは」

「で、当然支払いなんて出来なかった訳よね?」

「はあ……まったく……面目ない次第で……」

「みっともないわねぇ。で、その子に奢らせたわけ?」

 黒子から財布を受け取った美琴は、せかせかと歩いて上条の前に立つ。

「はい。ちゃんと誘った側が払いなさい。男の子」

 どちらが年上だかわからない迫力に推される上条。

「いいよ、別に。正確にはミサカじゃなくて第一位の奢りなわけだし」

「余計関係ないじゃないの」

「だって、これ、一方通行プロデュースだよ?」

「は?」
52 :1ですよ[saga sage]:2011/08/25(木) 23:37:13.37 ID:/u5A/MgGo
 美琴の目が険しくなり、上条と番外個体を見比べる。

「どういう意味?」

「この人が、ミサカとデートしたいって、一方通行に頼み込んだわけ」

「一方通行が? 貴女に? あいつと? デートしろって?」

「うん」

「なんでよ」

「一目惚れ? ってやつ? やーん、ミサカ困っちゃう~~」

 くねくねと身体を踊らせて頬を押さえる番外個体。
 黒子は一緒になって「可愛いですわ、大きなお姉さま~」とくねくねしている。
 時々止まって「許すまじ類人猿、滅すべし類人猿」とボソッと呟くけれど。
 
「ちょっと、いいかな?」

 くねくねする手をしっかと握り、美琴は番外個体を引っ張る。

「なに? 今、デートの最中なんだけど」

「身内同士の話よ」

 そこで美琴は上条に向き直る。

「五分ほど借りるわよ」

「え、おい、ビリビリ」

「お姉さまの邪魔はさせませんわ」

 ディーフェンスディーフェンスと、描き文字効果音が付きそうな動きで黒子は上条を制止する。
 美琴をテレポッたり、番外個体にときめいたり、ディフェンスしたり、今日の黒子は忙しい。
53 :1ですよ[saga sage]:2011/08/25(木) 23:37:39.98 ID:/u5A/MgGo
 御坂美琴は、一方通行を許したわけではない。一連の凶行を忘れるつもりも毛頭無い。
 一方通行は、妹達を一万人以上殺した極悪人だ。
 それでも、大事な妹達をあの男が命懸けで助けたことも美琴は知っている。
 だからといって、許しはしない。
 妹達が一致団結して一方通行に反旗を翻すと言えば、美琴は一も二もなく支援するだろう。
 美琴は妹達の意思を尊重する。
 妹達は一方通行に対する復讐を望んでいない。だから、美琴は一方通行に復讐しない。
 妹達の中には一方通行を好いている者がいることを美琴は知っている。
 理解は出来ないが、否定もしない。
 妹達が一方通行を好くことを、禁じるつもりはない。

「無粋だよ? お姉さま」

「無粋は承知で、どうしても確かめたいことがあるのよ」

 真剣な美琴の顔に、番外個体も居住まいを正す。

「なに?」

「貴女、あいつのことが好きなの?」

「あいつって?」

 わかっていてはぐらかしている。そう知りつつも、美琴は答えざるを得ない。

「上条当麻」

「ヒーローさん? どうして?」

「どうしてって。デートなんでしょう?」

「モヤシに頼まれたからね」

「本当にそれだけ?」

 ニヤリと番外個体は笑う。

「ミサカは10032号とは違うから、安心してよお姉さま」

「なんか微妙に安心できないわよ、それ」

「ヒーローさん、いい人だとは思うけれど、それだけだよ」

「そうよね」
54 :1ですよ[saga sage]:2011/08/25(木) 23:38:19.18 ID:/u5A/MgGo
「貴女が好きなのは一方通行だもんね。私には理解できないけど」

「はぁあああああああっ!?」

 いきなりの大音量に顔をしかめる美琴。

「なに突然大声出してんのよ!」

「お姉さまが変なこと言うからでしょ。なんでミサカがあいつのこと好きなのさ」

「は? 違うとでも?」

「違うし、ちげぇし、おかしーし、なんでミサカがあんな白モヤシを好きだと思うかなぁ」

「……アンタと打ち止めと20000号と14510号はとてもわかりやすいと思うんだけど」

「あんなおチビや変態や根暗と一緒にしないで!」

「違うの?」

「違うし。あんな、人の気も知らないでヒーローさんとデートしろなんて言い出すお馬鹿なんか! 好きなわけないじゃん!」

 壮絶な自爆である。
 わかりやすいなぁ、と思いつつ、自分のクローンだと考えると暗澹たる想いもちょっぴり生まれる美琴だった。

「じゃあ嫌々デートな訳だ」

「……そこまでは言わないけれど」

「しょうがない。お姉さまが一肌脱いであげるわ」

「え?」

「今から代わってあげましょうか」

「いや、おかしくない? それ」
 
77 :1ですよ[saga]:2011/08/29(月) 20:12:06.05 ID:fOR7QhN7o
 じっ、と番外個体は睨むように美琴を見つめている。
 臆さず視線を外さない美琴。
 番外個体は視線をそのままに口を開く。

「一応念のために聞くけどさ」

「うん」

「冗談だよね? お姉さま」 

「……」

「あの、もしもし?」

「モチロン ジョウダン デスヨ?」

「おい」

 勿論冗談とはわかっているけれど。
 さすがに本気でそこまで言わないだろうとはわかっている。

「とりあえずさ」

 美琴はちらりと、黒子が阻止している上条に目をやった。
 黒子ディフェンスの向こうで困っている上条。

「あいつを誤解させるようなことは止めて欲しいんだけど」

 もし、誤解したら、お互いに困るでしょ? と。

「ミサカにだって別にそんな気はないよ」

「あんたの本命は別だしね」

「お姉さまこそ、ちゃんと手綱押さえたら? 女紹介してくれなんて、ふざけたこと言わせないようにしてよね」
78 :1ですよ[saga sage]:2011/08/29(月) 20:12:37.13 ID:fOR7QhN7o
 んぐ、と黙る御坂に向かって、番外個体はこの時とばかりに責め立てる。

「既成事実の一つも作っちゃいなよぉ。白黒に頼んで、夜中のベッドへテレポート、なんてさ」

 ベッドにテレポートしたら、インデックスと同衾になるのだけれど。勿論二人がそれを知るよしもない。

「な、な、な……」

「それとも、お子様なお姉さまにはそこまではむりかにゃ~ん」

「アンタねぇ、自分のことは棚に上げて……」

「ん?」

「そういうアンタだって、似たようなもんでしょ」

 そうでなければ、さすがの一方通行も番外個体を上条に紹介しないだろう。

「ミサカのことはどうでもいいでしょ、お姉さまがしっかりとヒーローさんを捕まえてよね」

「それこそどうでもいいでしょ。しっかりやんなさいよ」

「ミサカに、もやしと既成事実作れって?」

 具体的に言われると、美琴の勢いは止まる。

「ん、あ、いや、……うーん……そういうことになっちゃうのか……」

「下手すると、ミサカ大戦が始まっちゃうよ?」

「なにそれ恐い」

「20000号とか、14510号とか最終信号とかが黙ってないよね」

 実力行使だって辞さないよ、と番外個体が真面目に言う。
79 :1ですよ[saga sage]:2011/08/29(月) 20:13:03.26 ID:fOR7QhN7o
「言っておくけど、ヒーローさんだって似たようなもんだからね」

「え」

「皆が動かないのは、ライバルがお姉さまだからだよ? お姉さまにならお似合いだし諦めがつくって、皆思ってるから」

「そうなの?」

「もしお姉さまが新しい男見つけたら、その瞬間スーパーミサカ大戦が始まるよ。お姉さま以外の相手には誰も譲る気ないはずだから」

 スーパーミサカ大戦……

「倍返しだーー、とミサカは反撃します」

「なにやってんの! とミサカは左舷弾幕が薄いことを指摘します」

「「二人のこの手が真っ赤に燃えるゥゥ!」」「幸せ掴めとッ!!」「轟き叫ぶ!」「「ばァァくねつッ!!ゴッド!フィンガァァァ!」」「石ィ!」「破!」「「ラァァァブラブゥッ!!天驚ォォォけェェェェェン!!!」」

「断空砲! やってやるです! とミサカはわざと言い間違えてさらなる人気を狙ってみます」

「熱膨張って知ってるか? 人、それをねぼしと呼ぶ!」

 …………

「どうしたの、お姉さま。どうしてお腹抱えてひくひくしてるの? 何か笑ってる?」
 
「ごめん、何か想像しちゃった……」
 
「わけがわかんないよ」

 やや強引に持ち直した美琴は、黒子がころころと転がっていることに気付く。
 どうやら見事にフェイントをかけられたらしい。上条が「すまん、白井!」と言いながら走ってくるのが見える。

「あ、とにかく、アンタが本気なら何も言わない。だけど、本気じゃないんならあいつを誤解させるような真似だけは止めてよ」

「ミサカだって、冗談で数百人の妹達を敵に回したくないよ」

80 :1ですよ[saga sage]:2011/08/29(月) 20:13:56.03 ID:fOR7QhN7o
 その頃、一方通行は悩んでいた。
 上条当麻の件である。
 上条が番外個体に興味を持っているのはいい。そこに干渉する気はない。
 問題は、上条に想いを寄せているであろうメンバー達である。
 御坂美琴、インデックス、10032号。
 そして土御門から話を聞く限り、それ以外にも数名。さらには魔術サイドにもいるとのこと。
 後者は良いだろう。正直、自分にとっての知らない相手のことまで気にしてはいられない。
 あとは、最初の三名である。 

(三下の奴、オリジナルやシスターと付き合ってたわけじゃねェのかよ)

 好みが年上だというのは以前に聞いていた。
 聞いてはいたが、それとこれとは話が別である。
 いや、それよりも驚きは、御坂美琴がまだ想いを告げていないと言うことである。

(何やってンだ、あいつは)

 番外個体を見初めたと言うことは、上条にとって年齢を無視すれば御坂美琴の外見も好みの範疇であるはずだ。

(だったら、素直にオリジナルとつきあやァ良いだろうに。ほっときゃ勝手に年は取るんだ)
(だいたい、番外個体の奴だって別に三下が好きって訳じゃァ……)

 一方通行の足が止まる。
 コンビニで買い込んだ缶コーヒーの詰まったビニール袋がぶらぶらと揺れている。

(あれ? だったら俺ァ、なンで三下に番外個体を紹介したンだ?)
(いや、三下が番外個体のことを気にしてるから……でいいンだよなァ)

 そうだ。その通りだ。
 上条当麻に番外個体を紹介してくれと頼まれたから紹介した。実にシンプルな回答である。

(だってェのに……)
(なンでだ?)
(なンで、こンなに釈然としねェンだ?)

 もやもやとした感情が拭えない。
81 :1ですよ[saga sage]:2011/08/29(月) 20:14:29.25 ID:fOR7QhN7o

「一体全体、なンなンですかァ?」

 呟いてみても、状況は変わらない。

「ちっ」

 缶コーヒーを一本取りだすと、片手で器用にプルトップを引いて缶を開ける。
 一口。
 二口。

「けっ」

 お気に入りの缶コーヒーでも、もやもやは全く消えようとしない。
 いったい自分が何に苛ついているのか。
 実に簡単な答えが出そうな気もしているが、答えに辿り着くのを嫌がる自分もいる。

「うぜェ……」

 行き場のない感情を、呑み終えた空き缶にぶつけるように蹴り飛ばす。
 ベクトルを操作されたわけでもない空き缶は、ごく平凡に地面を転がっていく。

「駄目ですよ」

 空き缶が止まった。
 正確には、止められた。
 ジャッジメントの腕章を着けた小柄な少女が、空き缶を拾っている。

「ゴミはゴミ箱に、です」

 相手によっては「あ?」と凄んでみせればそれで終わり。
 しかし、今の一方通行はそんな気分ではない。かといって、素直に謝るつもりもない。
 大きな花飾りを頭に付けたお子様ジャッジメント相手なら尚更だ。

「だったら、お前の頭は花壇に植えねェとなァ?」

 な、と呟いて頭に手をやる少女を尻目に、一方通行はチョーカーのスイッチを入れると瞬時にその場から立ち去る。

(めんどくせェ)

 と呟いて。 
 
82 :1ですよ[saga sage]:2011/08/29(月) 20:16:13.91 ID:fOR7QhN7o
以上、四回目の投下、お粗末様でした。

投下してから、美琴の所を御坂と打っている場所に気付いたぜ。脳内補正お願いします。



【おまけ】今日の黒子

 黒子デイフェンス
  ↓
 上条フェイント
  ↓
 黒子、テレポディフェンス
  ↓
 上条、黒子に触れる
  ↓
 黒子、テレポしようとして失敗、愕然
  ↓
 上条、黒子を軽く押す
  ↓
 黒子、バランス崩す
  ↓
 黒子ころころ
  ↓
 通りすがりの無能力者(チンピラ)、なんか見える
  ↓
 そんなはまづらは応援できない
  ↓
 超変態です、キモいです


83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/29(月) 20:23:25.73 ID:KhQyBXNu0
乙!楽しく読ませてもらってるぜー
あと >黒子ころころ にちょっと萌えた 
 
89 :1ですよ[saga  sage]:2011/09/04(日) 22:04:59.37 ID:at15MeNIo
 今日のデートは思っていたよりも悪くなかった。と番外個体は思う。
 上条当麻という人間は良くも悪くも「普通」だった。
 妹達や一方通行からの話がなければ、「幻想殺し」という異能の持ち主だとは絶対にわからなかっただろう。
 それは妙に心地の良い「普通」でもある。
 番外個体や一方通行が決して持てない、だけど心から欲している「普通」がそこにある。 
 それはあまりにも当たり前すぎて、持っている当人にはわからない価値。
 ああ、そうか。と番外個体は納得する。
 一方通行にとってのあの人は単なる「ヒーロー」ではない、「憧れる普通」なのだ。
 どれほど焦がれようとも決してたどり着けない領域の住人なのだ。
 だから、眩しい。
 その眩しさには、当人は気付くことが出来ない。

「お姉さまだって、そうだよね」

 御坂美琴も違う。
 クローンとオリジナルという意味ではなく、その在り方として。
 御坂美琴が立つべき場所は、上条当麻と同じ位地。
 卑屈でもなく、謙遜でもなく、素直にそう思う。

「……嫌いじゃないよね」

「それは上条当麻のことですか? とミサカは尋ねつつ姿を現します」

 咄嗟に振り向いた番外個体。その視線が斜め下へ。

「どうも」

 ダンボールを被ったミサカが一人。

「……ダンボール被って何してるのかな?」

「超一級のステルス装備ですよ、とミサカは自賛します」

「17600号、だよね?」

「スネークと呼んでください、とミサカはミサカだけの固有名を誇ります」

「ミサカにだって、番外個体っていう固有名があるけどね」

 ダンボールをそそくさと片付けるスネーク。番外個体は目をこらすが、ダンボールが何処へ消えたかはわからない。
 因みに、電磁波でも感知できない。
 スネークのダンボールに不可能はないのだ。
90 :1ですよ[saga  sage]:2011/09/04(日) 22:05:25.13 ID:at15MeNIo
「で、そのスネークが何か用?」

「たまたまここにいただけだと言ったらどうします? とミサカはあからさまに嘘を付いてみます」

「……信じるわけないでしょ。依頼者は誰? お姉さまやあの人じゃないよね。10032号辺りかな? まさかのシスターさんとか?」

「それは言えません。とミサカは守秘義務を護ります」

「プロってるねぇ~」

「茶化しても無駄ですよ。ミサカもミサカの端くれですから、そういうのは通じません」

「はいはい。じゃあ、もう本題に入りなよ。まさか、このまま家まで着いてくるなんて言わないよね?」

「それはそれでやり甲斐のあるミッションになりそうですけれど、今回はお断りします」

「歓迎するよ? あの人だっているし」

「ミサカは一方派でも上条派でもありませんよ。とミサカは胸を張ります」

 番外個体は少し首を傾げると、ニヤリと笑う。

「貴女、朝食はパン派? ご飯派?」

「カロリーメイトが多いですけれど、それが何か?」

「お粥派だと思ってたよ」

「……!! あ、え……その……」 

「ふふーん、冷静沈着がスネークの売りじゃなかったっけ?」

「ふ、不意打ちは卑怯です、とミサカは言い訳します」

「不意打ちは貴女の専売特許でしょうに」

「くっ……不覚でした……」

「ほらほら、良いから本題に入りなよ」

 一瞬俯くとすぐに顔を上げ、スネークは本題に入った。
91 :1ですよ[saga  sage]:2011/09/04(日) 22:05:55.13 ID:at15MeNIo
「まずは、MNWに入ってもらえますか?」

「えー。ミサカ、微妙にスペックが違うから、ちょっとしんどいんだけどぉ」

「ミサカがサポートすれば、シングルで入るよりも楽でしょう」

「わかったよ」

「では」

 二人が同時にアクセスを開始する。
 そして……

「ぶっ……」

 番外個体が噴き出した。 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【パン派】お粥派【ご飯派】

1 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka19888
  ここは「【待たせたな】末っ子のデート【蛇】その15」からの派生スレです

  スネークはお粥派wwwwwwwwwwwwwwwwww

2 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka13983
  カロリーメイトが多いですけど(キリッ

3 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka18349
  お粥だと思ってたよ(ドヤッ

・・・・【中略】・・・・・・・・・・・・

167 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka19621
  二日酔いあけのお粥最強

168 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600
  なにこのスレ……

169 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka16001
  お粥派さんちーす

170 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka15764
  お粥のレシピ教えてください

171 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600
  お前ら……

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
92 :1ですよ[saga  sage]:2011/09/04(日) 22:06:41.13 ID:at15MeNIo
「……実況スレの人が減ったと思っていたらいつの間に……」

「面白いことやってるね」

「と、とにかく、ミサカが見せたいのは別のスレのこの書き込みです」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【待たせたな】末っ子のデート【蛇】その11

562 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032
  スーパーミサカ大戦の準備は整ったか、お前ら

563 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka14699
  武器は準備できているわ(ファサッ  

564 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032
  >>563
  砂時計ひっくり返してろ、お前は  

565 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka16396
  で、本当に妨害する気か、10032号は

566 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889
  うーん。それはどうかと思うけどな

567 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032
  当たり前だ、今までの俺らの苦労は何だったんだ
  悪即斬はシスターズの掟だろ

568 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka10198
  勝手に決めるな。まずは話し合え

569 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032
  それは断る。というか、翻意させる気はない
93 :1ですよ[saga  sage]:2011/09/04(日) 22:07:42.87 ID:at15MeNIo

570 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka16396
  なんだそりゃ。戦いたいのか?

571 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889
  あー、そういうことか。
  戦いは勧めないし止めるけれど、その考え方はいいと思う

572 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka18761
  ん? どういうこと?

573 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889
  末っ子の行動は妨害するけれど、その気持ちは尊重するって事だろ?

574 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032
  そう。あいつが上条を好きになるのなら仕方ない
  それはなんというか、止めちゃ駄目だと思う
  だけど、告白とかは邪魔する

575 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka16396
  なるほど。そういうことか

576 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032
  そうだ。あいつの気持ちを認めないってことは、俺たちの気持ちも同じく駄目ってことだから。

577 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889
  人を好きになるのはそれぞれの勝手だからな。
  
578 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka18434
  ゲテモノ食いもいるしな

579 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka14150
  一方さんはゲテモノじゃないやい!

580 :以下、名無しに代わりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032
  自覚あったのかwww

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
94 :1ですよ[saga  sage]:2011/09/04(日) 22:08:09.05 ID:at15MeNIo
「……」

「どうですか?」

「なにこれ」

「このあと、参加していたほとんどのミサカが10032号の意見に賛成しました」

「どういうこと?」

「ミサカ達は自由ですから。恋愛も自由です。誰からもその気持ちは止められません」

 スネークは、ゴーグルに触れた。

「例えそれがお姉さまでも、上位個体でも」

「あのさ」

「はい」

「伝えてよ、皆に」

「なんでしょう?」

 番外個体は腕をスネークに向け、指で銃の形を作る。

「レベル4を舐めるな。レベル2~3の木っ端どもなんて、いつでも粉砕してあげるから好きなときに掛かってきなさい。ってね」

「了解です。あ、それから」

「なに?」

「今の言葉、全員に伝えます?」

「え?」

「10032号が筆頭のグループか、14150号が筆頭のグループか。ということですよ」

「ああ」

 番外個体は首を捻った。
 その考える様子に、スネークも首を捻る。
 スネークにしてみれば、今更悩むことではないだろうと言いたいようなものだ。

「あのね」

「はい」

「少なくとも、お粥派には言わなくていいよ」

「まだ言いますか」

「ふふっ。ま、14150号と20000号には特に強く言っておいて」

「なるほど。よくわかりました」
99 :1ですよ[saga]:2011/09/10(土) 22:00:57.73 ID:rLu0irHKo

「あァ……」

 グループの隠れ家の一つで、一方通行は目を覚ます。
 目を開けると、微かに見覚えのある光景。
 情緒の欠片もない機能特化の家具と、安っぽいテーブル。
 そしてテーブルの上には冷凍食品のものと思しき空箱。

「……もォ朝かよ」

 気怠く身を起こすと、知った声が聞こえてきた。

「朝というか、昼だけどね」

 結標が、一方通行の横たわるベッドとは反対側の隅で雑誌を読んでいた。

「まだいたンですかァ?」

「面倒くさいから、もう一つのベッドで寝てたわよ」

「羞恥心がねェと思ってたら、警戒心まで無しか」

「なに? 襲う気だったの?」 

「さァな」

「別にいいけど」

「はァ?」

「第一位がその気になったら、私じゃ逃げ切れないわよ。逃げてまたぼこぼこ殴られるくらいなら素直に従うわ」

「おゥおゥ、素直なこって」

 一方通行がここを選んだのはただの気まぐれである。
 単に、覚えていた隠れ家の一つに行き当たりばったりでやってきただけのこと。
 先客に結標がいたのは純粋な偶然である。
 互いに優先権を主張の上、結局のところ二人とも宿泊していたのだ。 
 
100 :1ですよ[saga sage]:2011/09/10(土) 22:01:23.53 ID:rLu0irHKo
「朝ご飯、冷食があるけど?」

「コーヒーくれ」

「冷蔵庫の中よ」

「……準備する気がねェなら最初ッから聞くな」

「私は別にここの家政婦じゃないの」

「あァ?」

「自分でしなさい」

「ちっ」

「ほら」

 一方通行の目の前に突然現れるコーヒー缶。無論、結標の座標移動によるものだ。

「最初から素直に出せってェの」

「礼ぐらい言ったら?」

「……ありがとよ」

「あら珍しい。今日は雨ね。傘あるかしら?」

「クソッタレ」

「どういたしまして」

 自分の分の缶を開ける結標。
 因みに一方通行の前に飛ばしたのは特濃ブラック。結標の前にあるのは練乳ミルクコーヒー。

「飲んだら私は出て行くから」

 結局ここに泊まり込んだのも、知り合いの愚痴に付き合っていて夜遅くなってしまっただけの話である。
 どのみち自宅に帰っても一人。だったら、何処で寝ても同じこと。

「俺が先に出る。後始末しとけ」

 一方通行はコーヒーを一気に飲み干すと立ち上がる。
 後始末と言っても、「部屋を使った」と土御門に連絡するだけのことだ。大した手間ではない。
 ただし、連絡すると言うことは、自分が使ったと告白するようなもの。
 知られたくないのか、と結標は想像した。
101 :1ですよ[saga sage]:2011/09/10(土) 22:01:49.36 ID:rLu0irHKo
 今更、一方通行が土御門に気を遣うとは思えない。構わない相手ならいくらでもこき使う男だ。
 つまり、土御門への遠慮ではなく、自分の都合。
 
(あれか)

 以前徹底的にやりあって(殺しあって)以来、奇妙な縁の出来たツインテールのジャッジメントを結標は思い出す。
 昨夜、思いっきり愚痴られた相手だ。
 いや、あれは愚痴と言うより恨み言。もっと言えば呪い言か。

「お姉さまだけでなく、大きなお姉さままで毒牙にかけようとは、許すまじGOtoHELLですの」
「あの場ではお姉さまに免じてデイフェンスに留めましたけれど、次こそは地獄へ逆落とし一直線ですの」
「いずれ、お小水と神様への祈りを済ませた姿で部屋の隅でがたがた震える命乞いをさせてみせますわ」

 彼女のお姉さま=超電磁砲
 では、大きなお姉さまとは?
 超電磁砲に生まれつきの姉妹がいないことは知っている。つまり、姉妹とはミサカクローンである。
 そして、一方通行は二人のミサカクローンと同居している。
 打ち止めが幼い姿だというのはわかっている。つまり、残るは番外個体。
 
 白井黒子の話から判断すれば、番外個体と上条当麻がデートをしたと言うことだ。
 つまり、一方通行は……

「みっともないというか、情けないというか」

「なンの話だ?」

「フラれたんでしょ。番外個体とか言う娘に」

「はァァああ!? 何言ってンですかァ?」

「違うの? 同居人にフラれて気まずいから家に帰れない、と思ったんだけど」

「はっ。馬鹿だとァ思ってたが、ここまでとはな。そもそも俺とあいつは付き合ってるわけじゃねェ、フラれるもクソもねェよ」

「外れなら外れでいいわよ、別に」

「馬鹿には付き合ってらンねェな」

 乱暴に空き缶を置くと、杖を乱暴に突きながら一方通行は部屋を出る。

「……わかりやすいわね」

 後に残された結標は、呆れるように笑っただけだった。
102 :1ですよ[saga sage]:2011/09/10(土) 22:02:25.83 ID:rLu0irHKo
 
  

(馬鹿馬鹿しィ)

 一方通行はせわしなく杖を使いながら急ぎ足で歩いている。

「……誰がフラれたって?」

 独り言である。無論、答えはない。

「なに馬鹿言ってンですかァ」

 フラれるというのは、付き合っていること前提である。
 そんなことわかりきっていることではないか。
 自分は、番外個体と付き合っているわけではない。
 付き合うわけがない。
 
 付き合える、わけがない。
 許される、わけがない。

 貴女の姉妹を10031人殺しました。つきましては、自分とおつき合いして頂けませんか?
 なんというおぞましさだ。
 どこの誰がそれを由とする?
 何故殺した?
 自分が強くなるために。
 自分が強くなりたいがために。
 だから、殺した。
 憐憫もなく、後悔もなく、ただただ効率的に。機械的に。
 殺し続けた。
 屍山血河を作り上げた。
 10031の墓標を立てた。

 殺さなかった9971人の中の誰か、自分とおつき合いして頂けませんか?
 反吐が出る。
103 :1ですよ[saga sage]:2011/09/10(土) 22:02:55.10 ID:rLu0irHKo
「いいよ。ミサカはそんなこと気にしていないから」

 それでも、聞こえてくるのだ。どこからか赦しの声が。

「ミサカたちは全然気にしていないよ。貴方がミサカたちの肉を裂いたことも、血を啜ったことも、骨を砕いたことも」

 潰したこと。
 切ったこと。
 削ったこと。
 折ったこと。
 貫いたこと。
 焼いたこと。
 弾いたこと。
 壊したこと。
 抉ったこと。
 突いたこと。
 削いだこと。
 剥いだこと。
 括ったこと。
 吊したこと。
 轢いたこと。
 絞めたこと。
 斬ったこと。
 刺したこと。
 嬲ったこと。
 辱めたこと。
 刎ねたこと。
 踏んだこと。
 殴ったこと。
 屠ったこと。
 奪ったこと。
 解したこと。
 
「許すよ。ミサカは許すよ。だって、今ミサカが生きているのは貴方のお陰だから」
「殺された子達なんて、どうでも良いよ」

 そう言わせているのは自分だ。
 そう言ってもらいたがっているのは自分だ。
 10031人のクローンを虐殺した学園都市第一位、一方通行だ。
 
 反吐が出るほど、おぞましい。
 

109 :1ですよ[saga sage]:2011/09/16(金) 22:42:13.03 ID:JNBVd9Cho
 それでも、腹は空く。
 朝からコーヒー一本しか入れていないのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。

「ランチステーキセット、ライスは小で」

 とりあえず、空腹を感じて最初に目に付いたファミレスに入って注文。

「あと、プレミアムコーヒー」

 学園都市では珍しく、ドリンクバーとは別メニューのコーヒーがある。
 好奇心もあって、一方通行はそちらのコーヒーを注文した。
 注文を待つ間、視線は店外へと動く。
 いつも通りの学園都市。最近は、一時期に比べて割と平穏になった街。
 騒動が絶えない街ではあるが、少し前までのように影で暗躍する組織や人間の数は圧倒的に減っている。
 
「相席、いいか?」

 聞き覚えのありすぎる声に顔を上げると、そこにはツンツン頭が。

「……好きにしろォ」

 上条は一方通行と向かい合うように座ると、ウェイトレスに注文を告げる。

「で、何の用ですかァ、プレイボーイさン」

「大した用じゃねえよ。ただ、ちょっと、言いたいことがあるだけだ」

「ほゥ」

「まずは……ありがとう」

「はァ?」

「ミサワさんのことだよ」

「ミサ……ワ?」

「いつまでもミサカワーストじゃ、おかしいだろ。だから略してミサワだよ」

「なンだそりゃ」

「二人で話して決めたんだよ」
110 :1ですよ[saga sage]:2011/09/16(金) 22:42:39.29 ID:JNBVd9Cho
 鬱陶しそうに窓の外を見ていた一方通行の動きが止まる。
 見えない手で突然掴まれたかのように、ゆっくりと頭が回る。
 口を開こうとして……

「ランチステーキセット、ライス小のお客様、お待たせしました」

 ウェイトレスが一方通行の注文したセットをテーブルに置き始めていた。

「こちら鉄板お熱くなっておりますのでお気をつけください。ごゆっくりどうぞ」

「いいぜ、気にせず先に食えよ」

「元々てめェなンざ眼中にねェよ」

「そんな男にミサワさんを紹介した訳かよ、お前は」

「おィ、ちょっと馴れ馴れしすぎじゃないですかァ?」

 一方通行はナイフにもフォークにも手を伸ばしていない。

「ふざけた名前つけてきどってンじゃねェよ」

「おい、もう一度言ってみろ」

「あァ?」

 上条は立ち上がっていた。

「ふざけた名前? その名前一つもつけなかったお前が言うことか?」

「はァ、なるほどォ、ヒーローさンは言うことが違う」

 一方通行も、同じように立ち上がった。

「御坂妹」
111 :1ですよ[saga sage]:2011/09/16(金) 22:43:32.59 ID:JNBVd9Cho
「なに?」

「名前名前言うンなら、てめェが御坂妹って呼ンでる奴にも名前つけてやったらどうなンですかァ?!」

「なんでそこで御坂妹が出てくんだよ!」

「てめェの名付けとやらは下心丸出しだっつってんだよォ!」

「ふざけんな……ふざけんなよっ!」

「ふざけてンのはどっちですかァ!」

 伸ばした一方通行の手を、幻想殺しの腕が掴み、力任せに座らせる。

「やらせねえよ。座ってろ」

「まさか、能力消せば完封なんてクソ甘いこと考えてねェだろうなァ」

 座った状態に杖は要らない。すなわち杖を保持する手も要らない。
 残った手が、いつの間にか拳銃を構えていた。
 気付いたウェイトレスが悲鳴を上げ、他の客達が慌てて逃げ出す。

「拳銃は消せねェだろ?」

 周囲の喧噪を無視して、咄嗟にテーブルの上をチェックする上条。
 コーヒーはあるが、すでにほどよく冷めている。熱膨張は狙えない。

「その距離なら、避けられるぜ?」

「俺が、この距離で外すとでもォ?」

「やってみればわかるだろ。外せば、お前の顔面陥没だ」

 上条も、残った拳を振り上げる。
112 :1ですよ[saga sage]:2011/09/16(金) 22:43:59.96 ID:JNBVd9Cho
「なんで、そこまであいつに肩入れしてるンですかァ?」

「お前があいつに冷たいからだよ」

「はァ?」

「一度しか言わねえからよく聞け、この唐変木!」

 上条は一方通行を軽く引き寄せる。

「俺は、フラレたんだ!」

 静まりかえる店内。怯えていたはずのウェイトレスも悲鳴を上げていない。
 それどころか、客達も誰一人言葉を発しない。
 上条の叫びは、店内に轟いていた。
 
「え?」

 周囲の状況に気付く上条。
 遠巻きに見守る野次馬達が、うんうんと頷いて上条を見守っている。

「あ」

 生暖かい眼差しが複数……いや、大量に上条に浴びせられている。
 中には、ハンカチで目尻を押さえる者までいたりする。
 腹を抱えて笑っている、何処かで見覚えのあるアロハグラサンもいる。

「そりゃァ、悪かった」

 いつの間にか、一方通行は拳銃を懐に収めていた。

「まァ、がンばれ、つーか、とっとと超電磁砲の所に行きやがれ」

「……だからなんでそこであいつが出てくるんだよ」

「……お前、ホンット、いっぺン、死ね」
113 :1ですよ[saga sage]:2011/09/16(金) 22:44:27.72 ID:JNBVd9Cho
「だからどうして上条さんが死ななきゃならないのこと?」

「鈍感だから」

「いや、今のお前に言われたくない。割と本気で」

「お前と一緒にすンな」

 事情を知らないとは言わせない。
 一方通行の目はそう語っている。
 
 そうだ。上条は知っている。
 番外個体独自の事情は知らないが、彼女がミサカクローンだと言うことはわかる。
 ミサカクローンが一万人以上殺されたことを、上条は知っている。
 それでも、妹達が一方通行を許すというのならば、上条には何も言うことはない。
 そして、今の一方通行が絶対に妹達には手を出さないだろうことを上条は知っている。

「ミサワさんは、いい人だと思う」

「……むかつく言い方だなァ、おィ」

「上条さんには、それは嫉妬としか思えないわけですが、もう少し正直に……」

「よしわかった。音速で石ぶつけてやるから、ちょっと離れろ」

「遠距離戦でお前に勝てるわけないだろっ!」

「ん、わかってる。わかってるからちょっと離れろ」

「打ち止めに言いつけるぞ」

「なんでそういう余計なことばかりには頭が回るンですかァ? いいから死ンでろ」

「ストレートすぎるだろっ!」

「エコノミー中華セットとドリンクバーのお客様、お待たせ致しました」

 最悪の峠は越したと判断したのか、ウェイトレスが業務を再開していた。
 
「あ、こっちです」

 受け取る上条。
114 :1ですよ[saga]:2011/09/16(金) 22:44:55.86 ID:JNBVd9Cho
「じゃあドリンクバー行ってくっから」

「帰ってこなくて良ィぞ」

「まだ食べてませんからね」

 チッと舌打ちすると、一方通行は冷め始めたステーキに手をかける。
 少し遅くなった食事を始めると、ドリンクバーから戻ってきた上条も自分のセットを食べ始める。

「余計なこと、もう一つだけ言わせて貰うぞ」

「……知ったことか。勝手に言ってろ」

「勝手に聞いてろ」

「20002人を殺そうとして、9971人を殺し損ねた」

 一方通行が目を細める。
 上条は構わずに言を続ける。

「20002人を救おうとして、10031人を失敗した」

「結果は一緒じゃねェか」

「それは、残った9971人が決めることだろ」 


126 :1ですよ[saga sage]:2011/09/20(火) 23:02:59.98 ID:Y9yMDB+so
 再び、一方通行の食事の手は止まっていた。
 それは上条も同じだ。
 睨みつけるように自分に視線を向けている上条は退かない。
 一方通行にもそれはわかっている。
 目の前の男がどれほど猪突猛進か、直情径行な性格か。
 例えそれが相手に迷惑でも、自分に厄介でも、この男は退かないのだ。
 そして、だからこそ、自分はこの男を信用できるのだ。

「9971人……それが、妹達だってェのか?」

「打ち止めだって、御坂妹だって、ミサワさんだってその中にいる」

「オリジナルはどうなンだ」

「関係ないね」

「てめ……!?」

「ああ、関係ない。例え妹達があいつのクローンだとしても、そんなことはもう関係ないんだ。
あいつはあいつ、妹達はそれぞれが個人のミサカなんだ」

 そうだ。
 クローンが個性を得ること。自我を得ること。
 自分は、それを望んでいたのではなかったのか。

「そォか」

「そうだよ」

「なァ」

「なんだよ」

「9971人云々ってのは、お前が考えた理屈か?」

「まさか」

「だろうな。三下が考えつくようなネタじゃねェ」
127 :1ですよ[saga sage]:2011/09/20(火) 23:03:26.87 ID:Y9yMDB+so
 ならば、それ以上聞く必要はない。
 答えは分かり切っている。
 少なくとも、9971人までには絞れるのだから。

「どういう意味だよ」

「聞いたとォりの意味ですけどォ?」

「どーせ上条さんは赤点ギリギリですよ」

「ほォ、たいしたもンだ。とっくに赤点爆走中、留年確定かと思ってたンだがな」

「……」

「当たらずとも遠からずってか?」

「は、はは……」

「俺ァ、こんなのに負けたのかよ」

「えーと。なんか、すまん」

「ちっ、白けちまったなァ」

 一方通行はどっかと座り直す。
 やや遅れて上条も同じ体勢に。

「とっとと、冷めちまう前に食っちまおうぜ」

「……そォだなァ」

 二人は食事を再開する。

 が、
 二人がさっきまで一触即発だったのは事実なわけで。
 それを通報した人間がいたわけで。

 すると当然……
128 :1ですよ[saga sage]:2011/09/20(火) 23:03:53.37 ID:Y9yMDB+so
「ジャッジメントですの!」

 一方通行はコーヒーを。
 上条は中華セットの春巻きを口にする。

「プレミアムコーヒーって言うだけあンな、ファミレスにしちゃァ結構うめェ」

「はぁ、たまにはエコノミー中華セットじゃなくて、もう少し高い奴が食べたいのですよ。上条さんとしては」

 二人の食事の手は止まらない。
 もう何度か止められたのだ、止まってたまるか。
 正常な男子高校生の食欲舐めるなよ。

「……ジャッジメントですのっ!!」

「貧乏人。シスターの維持費、向こうから出ねェのかよ」

「維持費言うな」

「ジャッジメントっ!! ですのっ!!!」

「まァ、自分が好きこのンで養ってンだ、その結果は堂々と受け止めやがれ」

「はぁ……不幸だ……」

「ジャッジメントぉおおおおっ!! ですのぉぉおおおおおっ!!!」

「アンタ達、話聞きなさいよぉっ!!」

 美琴の怒声に怯む上条。

「う、ビリビリもいたのか」

 片や一方通行は平常運転である。

「なンか用事ですかァ?」

「ジャッジメントですのっ!」

「いや、黒子、あんたももう意地にならなくていいから」

「ううう、お姉さま。黒子は、黒子は、この腐れ類人猿に無視されてとっても悔しかったんですの」

「よしよし。悪いのはこの白いのだからね」

 黒子と美琴では悪の認識が違うらしい。
129 :1ですよ[saga sage]:2011/09/20(火) 23:04:25.16 ID:Y9yMDB+so
「だからァ、なンなンですかァ。何の用事かって聞いてるンですけどォ!?」

「ジャッジメントですのぉおお!」

「対抗してンじゃねェ! 意味不明だろっ!」

「レベル5がファミレスで暴れていると通報がありましたの! 
わたくしは駆けつけようとしたのですが、レベル5と知ったお姉さまが助っ人を買って出てくださいましたの!
勿論、わたくしは断りました、そんな危険にお姉さまを晒すわけには参りませんの。
それでも、それでもお姉さまは半ば強引に付いてきてくださいました。
これは愛、愛ですのっ! ラブですのぉ! この黒子の愛が、お姉さまに通じた記念すべき瞬間ですのぉ!」

「よし落ち着け、白井。御坂がドン退きしてる」

「はっ、これはわたくしとしたことが」

 そそくさと身なりと姿勢を正す黒子。

「ま、とにかく今は暴れてねェ。つーか、言い争いがあったことは認めるが、暴れるなンてとンでもねェ」

「一方通行の言うとおりだぞ。飯を食いながらの話し合いが白熱しただけだ」

「それでしたら問題はありませんけれど。くれぐれも誤解されることのないようにお願い致しますわ」

 うるさそうに「わかった」と告げる一方通行。昔を考えれば、これだけでも立派な態度だ。

「ではお姉さま、行きましょう」

「ごめん、黒子。先に戻っててくれる?」

 訝しげなものになった黒子の表情が、瞬時に般若に変わる。

「る~~い~~じ~~ん~~え~~ん」

「待て、白井、俺は何も知らない。落ち着け。鉄針をもどせ。こっちに向けるな、おい、上条さんは純粋物理攻撃には弱いからっ!」

「あ、黒子。違うから。私の用事はそっちのほう。一方通行よ」

133 :1ですよ[saga sage]:2011/09/25(日) 00:01:01.79 ID:A/40HghHo
 黒子に追われる上条をチラッと見て、一方通行は視線を戻す。

「いいのか? あっちは?」

「いいわよ。黒子だって本気じゃないもの」

「殺意がありそォに見えンだが……」

「まあ、ちょろっとはあるかもしんないわね」

「おィい?」

「大丈夫よ。あの子に捕まるようなあいつじゃないでしょ」

「そりゃァそうだが」

「とりあえず、出ましょう。ここは目立ちすぎるわ」

 目立つ、というより、既に注目の的である。
 一方通行は、無言で立ち上がる。

「で、話ってのは?」

 ファミレスから少し離れた公園のベンチに、一方通行は座っている。
 美琴はベンチ横の街灯の下に立ったまま、何事かを考えている様子だ。

「先に確認しておきたいんだけど、貴方がここにいるっていうこと、打ち止めと番外個体に連絡していいのよね」

「少し待て。話の内容によっちゃあ、俺ァこの場から速攻消えなきゃなンねェだろ」

「物騒な話をするつもりはないわ」

「俺らの間に、物騒でない話なンてあるとは思えねェけどな」

「妹達の話ならどうよ」

 なるほど、と頷く一方通行。
 確かにそれは、一方通行と超電磁砲の数少ない共通話題だ。
134 :1ですよ[saga sage]:2011/09/25(日) 00:01:27.53 ID:A/40HghHo
「番外個体の話、聞いたわよ」

「今はミサワだとよ」

「……ああ、そうね。私もミサワって呼んだ方が良いのかな」

「好きにしろ、あいつが好きで付けた名前だろ」

 美琴が首を傾げる。

「三下と一緒に付けた名前だ。気にいってんだろうよ」

「は?」

 美琴の言葉に、一方通行の視線がきつくなる。

「なンだ?」

「ミサワって、貴方がつけたんじゃないの?」

「はァ?」

 何を言っているのだこの女は。と一方通行の眼差しが雄弁に語っている。
 何だこの唐変木もやしは。と美琴の視線が雄弁に物語っている。

「よし、わかった。オーケィ、話を整理しよう」

「ええ。賛成」

「俺はミサワなんて名前を付けてない。三下が一緒に考えたと聞いた」

「ダウト」

「は?」

「それ、誰に聞いたの?」

「三下本人に……」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「いつまでもミサカワーストじゃ、おかしいだろ。だから略してミサワだよ」

 「なンだそりゃ」

 「二人で話して決めたんだよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
135 :1ですよ[saga sage]:2011/09/25(日) 00:01:56.27 ID:A/40HghHo

「……考えた、とは言ってねェな……」

 しかし、「決めた」と言っていたのだ。

「名乗ることを決めた、って聞いてるわよ。こっちは」

「誰に」

「ミサカワ……ミサワ本人に」

「いつだ」

「昨日の夜。打ち止めがあんた探しに夜の街に出て行くって言うから大変だったのよ」

「そりゃ悪かったな」

 素直な謝罪に一瞬、美琴は絶句する。

「い、いいわよ、別に。結局居場所がわかって落ち着いたんだから」

「なンだと?」

 腐ってもグループの隠れ家である。いくら超電磁砲やMNW相手でもそう簡単に見つかるものではない。

「おい、どうやって調べた」

「さあ? 私は聞いただけだから」

「誰に」

「当麻の友達よ。当麻が信用できるって言うから」

「あ」

 土御門しかいない。土御門なら、グループの隠れ家をすぐ把握してしまっても不思議はない。
 一方通行の行動は土御門には筒抜けだったわけだ。
 つまり、結標と一泊したことも。

「(……後で何言われるか、わかったもンじゃねェな……)」

 しかし、今は考えるべきはそこではない。

「あいつはなンて言ってンだ?」

「貴方が作った名前候補の中で一番気に入った名前だって」

「俺が……?」

 瞬間、まるで水底から浮かび上がるかのように一つの記憶が立ち上がる。
136 :1ですよ[saga sage]:2011/09/25(日) 00:02:22.85 ID:A/40HghHo
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 それは一方通行と打ち止め、そして番外個体の共有する記憶。
 ただの、戯れ言だったはず。
 気にも留めない、口から出任せのように繰り出した言葉だったはず。
 浮き出る泡のように昇っては消えていった、たくさんの名前。
 
「打ち止め。この名前はこれはこれで、大事な思い出だって、ミサカはミサカは大満足」

「番外個体。うーん、嫌いじゃないよ。わかりやすいし。でも、他の名前もいいかなってミサカは思うよ、少しだけね」

「名前だァ? ンなもン、欲しけりゃ勝手につけろ」

「作ってみてよ」

「はっ。馬鹿言ってンじゃねェ」

 戯れ言のはずだった。
 だから、馬鹿を言った。
 笑いながら、笑われながら、それはただのおふざけの応酬のはずだった。
 名前になんてなるわけない、馬鹿な単語を並べただけ。
 笑う打ち止め。
 呆気にとられ、憤慨し、最後には笑い出した番外個体。

 その中に一つ。たった一つだけあったのだ。

「ミサカワースト縮めて、ミサワでいいじゃねェか」

「えー、何それ、安直だねぇ。ギャハ、第一の名が泣くよ」

「ミサカはミサカはラスオと呼ばれてみることにチャレンジ!」

 それは、記憶に残るわけもないほんの小さな戯言だった。
 言った本人が即座に忘れてしまうほどの。
 再び聞いてもすぐに思い出せないほどの。
 それは、口から出任せに限りなく近いはずだった。

 それでも。
 例えそれでも。
 それは、彼女には大事な名前だった。
 使うことを躊躇った末、名付けた男がただ一人認めた友人に相談しなければ使えないほど。 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
137 :1ですよ[saga sage]:2011/09/25(日) 00:02:50.43 ID:A/40HghHo
「ああ」

 そうだ。
 その名を付けたのは自分だ。

「……馬鹿か、俺は」

「知らなかったの?」

「ああ。知らなかった。俺は自分を学園都市第一位だと思ってたンでな」

「看板、降ろせば? 喜ぶんじゃない? 垣根さんが」

 美琴は言葉を続ける。

「今なら、わかる? あの子の気持ち」

 そして即座に、

「せっかくの名前を……なんてふざけたこと言ってたら、打ち止めに演算止めさせてからぶちかますわよ」

 それとも、と言いながら美琴は肩を竦める。

「貴方、ミサワのことが嫌いなの?」

「そう見えるか?」

「さぁね。だけど、あんたの打ち止めに対する『好き』とは、少し違うわよね」
138 :1ですよ[saga sage]:2011/09/25(日) 00:03:29.90 ID:A/40HghHo
「……わかってンだろォが、〈ミサカオリジナル〉よォ」

「何が?」

「俺があいつを……」

 一方通行が睨みつけるように美琴へと顎をしゃくる。

「なァ、俺にその資格があるとでも?」 

「ないんじゃない?」

 あっさりと、美琴は答えた。

「貴方がないと思うんなら、ないんでしょう? 無理矢理に好け、なんて言うつもりはないわ」

 美琴は一方通行の視線を真っ向から捉える。

「だけどね、一つだけ言っておくわ」
「貴方があの子のことを好きかどうか、それは知らない。だけど、あの子が貴方を好きになることは誰にも止められない」
「例え、貴方でも、私でも」

 腕が上がり、美琴は一方通行に指を向ける。

「貴方にあの子を好きになる資格があるかないかなんて、貴方が決めればいい」
「だけど、あの子が貴方を好きになる資格は、貴方が決める事じゃない」
「あの子が貴方を好きになる資格まで、奪わないで」

 それを奪うというのなら、もう一度でも戦う。今度こそは、負けない。
 美琴は、そう宣言した。
 
 

139 :1ですよ[saga sage]:2011/09/25(日) 00:03:58.05 ID:A/40HghHo
 一方通行と別れた美琴は、自分を捜している黒子に行き会う。

「お姉さま、ファミレスにいないので探しましたわ」

「あはは、ごめんごめん。ところで、黒子一人?」

「殿方なら、あちらに」

 黒子の示す方向には、精根尽き果ててベンチに座っている、というか倒れている上条。

「怪我、させてないわよね」

「さすがにそこまではできませんわ。少々、関節技の稽古相手になって頂いただけですの」

 つまり黒子に密着状態で色々されていたわけで、一部人間にはとってもご褒美である。
 あまりのご褒美っぷりにかなり羨ましいのだが、上条にはその方面の属性はないのでただ痛いだけだったりする。

「十分もすれば回復すると思いますの」

 美琴は自動販売機に近寄ると、椰子の実サイダーを一本。
 蹴り飛ばしたりせずに、ちゃんと購入する。

「ほら」

 上条に近寄り、額に冷たい缶を置く。

「うぉっ。お、おう、サンキュ」

「ミサワにフラれたんですって?」

「う。聞いてたのか……」

「ま、いいけど。ジュースは黒子のお詫び料ね」

「うわっ、安っ!」

「黒子はまだやり足りないみたいだけど」

「ジュースありがとうございますっ!」

「飲んだ缶はちゃんと捨てなさいよ、それじゃあ」

「おう、気つけて帰れよ」

「こう見えても第三位なんだけどなぁ……」

 離れながら振り向き、上条の姿を視界に納めながら、美琴は下がっていく。
 
 上条はミサワにフラれたのだ。
 ミサワも妹達の一人なわけで。
 つまり、美琴と同じ姿で。
 違うところと言えば、そのプロポーション。そして外見年齢。

「……あと三年、待ってなさいよ」

 だから美琴は頑張る。
 目指すはミサワのボディ。

「目にモノ見せてあげるから」 
140 :1ですよ[saga sage]:2011/09/25(日) 00:04:36.68 ID:A/40HghHo
 翌日、一方通行と番外個体は。

「MNWで流れたよ」

「何が」

「お姉さまの宣言」

「内容はなンだ?」

「アナタを好きになるのは自由だって。おかしいね、そんなの当たり前じゃん? モヤシにミサカ達が止められるわけないのにねぇ?」

「そうだなァ、俺にゃァ、お前らは止められねェわ。好きにしろォ」

「そう? だったら、ミサカが何しても良いんだよね」

「あー、そォいうことになるのか?」

「言質とったどぉぉぉぉっ!」

 二人の前に現れる複数の影。

「なンだァ?」

「あ、アンタ達!」

「セロリたんを好きにしても良いというお姉さまの宣言! アンド、セロリたんの宣言いただきましたぁぁぁ!!!」

「あ、あの、一方通行さん、あの、お姉さまが、その、一方通行さんを好きになっても……」

「私はこいつが慌てる姿を見学しに来ただけだからな」

「ミサワたんハァハァ……」

「おいおィ……こいつら……」

「一方派シスターズ内でもトップクラスの連中だよ」

「いや、なンか一人違うのが混ざってねェか?」

 言いながら、一方通行はチョーカーのスイッチを入れる。
 さらに、片腕でミサワを抱き寄せた。

「え? え? ちょっと?」

「しっかり捕まってろよォ!」

 そして追いかけっこが始まった。


1411ですよ[saga]:2011/09/25(日) 00:06:13.42 ID:A/40HghHo

以上、終了でございます。
お粗末様でした。

初のスレ立てで緊張しました。

ここまで見てくださった方々に感謝。
142VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/25(日) 00:12:54.96 ID:FHiNakQe0
おいwwwwwwwwwwwwwwwwwwww終わりの終わりでミサワってwwwwwwwwww一気に台無しだぞwwwwwwwwwwww




でも楽しかった。ROM専してましたが激しく乙!次のスレ立てあったら見るよ!
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/25(日) 00:17:01.99 ID:fBHxVmzeo
乙!

おい黒子が可愛いぞ!偽物だ!
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東地方)[sage]:2011/09/25(日) 00:36:02.48 ID:FZ45dKcK0
乙!
最後一方派じゃなくてミサワ派だぞwww
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/25(日) 09:05:01.37 ID:fIyge9oWo
あ…れ?終わりだと…
物足りない感はあるが、乙!
146VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/09/25(日) 09:34:32.05 ID:xWrli/gAO
とうとう属性開花の飛び火がミサワにまでwww

乙です!
 

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