2013年10月6日日曜日

上条「俺達はもう子供じゃ無いけど、…まだ大人でも無いんだな」 1

1しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 21:56:37.17 ID:NYUL6l7DO
コンセプトはゲス条じゃないのにやらかした上条さん。

鬱展開注意。

後少しエロい。
3しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 21:58:28.45 ID:NYUL6l7DO
その夜、白井黒子は風紀委員の活動がいつもよりも長引き、自らの寮に帰宅するのが完全下校時刻をとうに過ぎた時間になってしまった。


事前に寮監様には連絡を入れてある為、門限破りのペナルティーは受けずに済む。その為わざわざ能力を使って、疲れた身体に鞭打ってまで急いで帰宅するのが馬鹿馬鹿しく、ゆっくりと徒歩で帰り道を歩いていた。


そこで、彼女は見つけた。

彼女が敬愛するお姉様の、その意中の殿方(本人は素直に認めたりしていないが)。



上条当麻が公園のベンチにうなだれるように座って居る所を。 

4 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 21:59:52.26 ID:NYUL6l7DO


「……何をなさっているんですの?」


「………白井か」



彼、上条当麻は酷く落ち込んでいるように見えた。


普段から特別生き生きしている訳では無い(非常時はまた別だが)彼だが、今日は何時にも増して暗く、今にも泣きそうな表情をしている。



しばし流れる沈黙…。



仕方なしに白井は口を開いた。



「……お帰りになりませんの? とうに完全下校時刻は過ぎていますのに」


「………」



上条当麻は答えない。

ただ俯いたまま、時が過ぎるのに任せている。
5 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:01:25.14 ID:NYUL6l7DO


「何か困り事でも?」



「………」



……沈黙。



「……帰りたくない理由でもあるのでしょうか?」



一瞬、上条は肩を震わせる。質問には答えずとも、その反応で彼がここに居る理由は解った。



「……あのシスターさんと喧嘩でもなさったんですの? それとも機嫌を損ねて追い出されたのでしょうか?」



彼の学生寮に、白いシスターが居候しているのを最近知った彼女は、彼の落ち込む理由を探ってみる。



「……違う。喧嘩もしていないし追い出された訳でも無い」


「ならばどうしてここに?」


「………」



……また長い沈黙。
6 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:02:54.25 ID:NYUL6l7DO




「……逃げてきた」







彼は弱々しい声で言った。






「怖くなって、どうすればいいのか分かんなくなって、……逃げてきた」


「何故…、ですの?」


「………」





「……犯したんだ。…………インデックスを」





……そう告げる彼の頬は、





涙で濡れていた。
7 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:04:48.67 ID:NYUL6l7DO

 1





「………っく…ぅ…」


…啜り泣く声を聞きながら、上条当麻は立っていた。



目の前には彼のベット。
そこに横たわるのは、彼の部屋に居候する少女。




インデックスという名前の、彼にとって大切な存在である、決して泣かせないと心に決めていた大事なモノ。



「ひっく……ぅ…く」



その大切なモノが泣いていた。




彼が泣かせたのだ。





……自らの手で。
8 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:06:12.32 ID:NYUL6l7DO





無理矢理剥ぎ取った彼女の修道服が部屋に散らばる。

安全ピンで留められただけだった彼女の衣服は、驚く程簡単に只の布きれに戻っていった。……客観的にそんな事を考えられる自分に嫌悪感がどんどん増していく。




「………とう…ま」




彼女が己の名前を呼ぶ。


自分を裏切り、心と身体にずっと消えない傷を付けた最低な男の名前を。


今の彼女には普段のような笑顔は無い。きめの細かい美しい銀髪も乱れ、何も身に付けていない身体には所々痣が出来て、まだ成長仕切らない幼い身体に、痛々しい乱暴の後が残る。




摘み取った。



まだ幼さが残る少女の純潔を。




ベットシーツに残る血の跡が彼に取り返しのつかない事をしたと、容赦無く告げる。





自分は、インデックスを無理矢理犯したのだと。
9 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:07:34.06 ID:NYUL6l7DO


「………とうま?」



再び己を呼ぶ声。

だが返事は出来ない。

してはいけない気がする…いや、返事をするのが怖かった。


「………とうま………返事して?」



「………ッ」



それでも返事は出来なかった……。



「とうま……ぅ…ひっ…く……ふぇ…ぅ…っ」



彼女はまた泣き出す。



上条はその場に居るのが堪えられなくなった。





だから逃げた。




必死に走り、何度も転びながら。



逃げても何も変わらないと分かっていても……。
11 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:09:06.04 ID:NYUL6l7DO




「………ハッ、何してんだよ俺」




夜の人気の無い公園のベンチに座り、うなだれる。


こうなったきっかけはよく覚えていない。


ほんの些細な事だったと思う。だがそんな事は今となってはどうでもいい。



「……幻想殺し…か」



右手を掲げ、それを見つめる。彼の右手に宿る、異能の力ならば例え神の奇跡ですら消し去る自分自身でもよく解らない謎の力。



……その右手で顔を覆う。
だが何かが変わる訳では無い。




「……使えねー右手だな」




彼の右手では、どんなに消し去ってしまいたくても、[現実]は[ピーーー]事は出来ない。
12 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:10:57.32 ID:NYUL6l7DO

 2


上条の部屋でインデックスはうずくまっていた。



「……とうま」



彼は何処へ行ったのだろうか、上条が部屋を飛び出してからずっと考えている。



「………とうま」



彼の名前をつぶやく。


自分を乱暴に、無理矢理に貪った少年の名前を。



「………と…うま」



何故あんな事になったのか、彼女には解らない。いつもと同じように接し、同じように笑い、同じように触れ合っていた。



「………とう…ま」



だけどそれは起きた。


唐突に、張り詰めた糸が切れたように。
13 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:12:16.94 ID:NYUL6l7DO


最初は驚いた。


突然奪われた口づけに。


次は嫌だった。


優しさがかけらも無い彼の手が、自分の密所をまさぐるのが。


そして悲しかった。


欲望を吐き出す為だけのような交わりが。


だけど、彼女は彼を受け容れた。


泣き叫び、抵抗すれば彼は思い留まってくれたかもしれない。


だがしなかった。


彼が…、この世界で何よりも大切で、絶対に離れたくない人が望むならと。



「……とうま」



驚きと悲しみと、恐怖と痛みでどんなに我慢しても涙が出た。


そして全てが終わると、彼はどこかへ行ってしまった。



「……とうま、どこに行ったの?」




名前を呼んでも、何も返って来ない。
14 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:15:21.41 ID:NYUL6l7DO

 3

「取り敢えず今夜はここに泊まると宜しいですわ」


「……すまないな」


白井黒子は上条当麻から話しを聞いた後、同じ学区内にあったビジネスホテルまで上条を連れて来た。


「礼なんて要らないんですの。 ここの宿泊費は貸してあげただけですもの。…後できっちりと返して頂きますわよ?」


「判ってるさ、必ず返す」



本当はお金の事なんてたいして気に留めていない。その辺はケジメなので言っているだけだ。



「………」


「………」



…またも沈黙が支配する。

上条はベットに腰掛けて、先程からそうしているように、うなだれ、俯いたままだ。
15 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:17:06.56 ID:NYUL6l7DO



(…全く、我ながらどうかしていますの)



今一緒に居る男は女性に乱暴を働いた卑劣漢だというのに。



(仕方ありませんわね、これもお姉様の為ですの)



彼女、白井黒子が上条に協力するのには訳がある。

それは、自らが敬愛してやまないお姉様、御坂美琴の為だ。


上条当麻が、今日行ったという非道を彼女が知ればどうなるだろうか。



彼女は間違いなく壊れてしまうだろう。



悲しみ、傷つき、怒りの余り破壊に走るかもしれない。


お姉様本人は認めないし、白井としても認めたくない事だが、その位お姉様は、御坂美琴は目の前でうなだれている男に心を奪われている。
16 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:18:27.62 ID:NYUL6l7DO


(お姉様にだけは知らせる訳にはいきませんわね……、この類人猿が嫌われるのは大歓迎ですがそれでお姉様が傷ついてしまうのはいただけませんの)



本来ならば即刻婦女暴行の罪で連行しているが、それをしても誰も得をしない処か返って混乱を呼びそうだ。



「……白井」



上条から声が掛かる。



「……なんですの?」


「……本当に俺を捕まえなくて良いのか?」



その質問はこのホテルに来る迄にもされた質問だ。



「それについてはお答えしたはずですの。貴方には多少借りがありますから今回は見逃す…と」



上条にはそのように説明していた。まさかお姉様が貴方にゾッコンでばれたら傷つく。…なんて口が裂けても言えない。まあ借りがあるのも本当ではあるが。
17 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:19:44.85 ID:NYUL6l7DO


「……そっか」



上条は力無く微笑む。




prrrrrrr、prrrrrrr!

携帯の着信音がなる。

自分の携帯だ。と白井は携帯に手を伸ばし、画面を見る。



着信:お姉様



「……そういえば帰宅すると言ってから大分時間が過ぎてますのね」



お姉様からの着信の理由を大まかに予想しつつ、通話ボタンを押す。
18 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:21:19.65 ID:NYUL6l7DO


「……もしもし、お姉様?」


『もしもし? あんた何してんのよ? 随分と遅いんじゃない?』



予想的中。余りにも帰宅が遅い為、心配して連絡をしてくれたらしい。



「申し訳ありませんの、風紀委員の仕事が思ったよりもはかどらなかったものでして…、そろそろ帰宅できると思いますの」


『フーン? なら良いけどさ、いくら何でもそろそろ帰って来ないと寮監にまた制裁されるわよ?』


「それは御免被りたいですの…、後一時間ほどで帰宅しますのでその旨を寮監様にお伝え戴けますでしょうか?」


『分かった伝えとくわ、……じゃあ切るわよ?』



……通話を終えた白井は軽くため息をつく。



「……御坂か?」



上条の問い掛け。白井は軽く頷く事で返答する。
19 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:22:30.57 ID:NYUL6l7DO


「……この事、言うのか?」


「言えるはずがありませんの」


「………」



また沈黙。


白井が見る限り、上条が御坂美琴の想いに気づいているそぶりは無い。


ならば何故、御坂美琴に伝えるか否かという事を気にするのか?




白井には、上条当麻の考えている事など解らない。
20 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:23:35.61 ID:NYUL6l7DO




「……まあいいですの。わたくしはもう行きますの。…貴方に頼まれた非常に面倒な用事もある事ですし」



皮肉混じりに別れの挨拶をする。



「ああ、いろいろ面倒掛けて悪いな白井」



「全くですの。迷惑料を貰いたい位ですわ」



苦笑いを浮かべる上条。



「……それじゃあインデックスの事、頼むな?」


「……判っていますわ、だからわざわざお姉様に帰宅時間を遅く伝えたのですから」
21 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:24:48.38 ID:NYUL6l7DO


白井が上条から話しを聞いた時、しなければいけない事は二つだと直ぐに思いたった。


一つは上条の寝床の確保。心情的には放って置いても構わなかったのだが、そうしてしまえばこの男はあのまま公園のベンチから動きそうに無かったし、借りに警備員にでも保護されたら自分の仕出かした事を洗いざらい白状して、保護が補導になるだろう。


そうなれば何処からお姉様の耳に情報が入るか分かった物ではない。


だからこそ、こんな敵に塩を贈るような真似をしているのだ。




もう一つは同じ女性としての配慮だ。


白井自身はそんな経験などないのでよく解らない、だが無理矢理に乱暴されるという事を想像してみれば、どんなに辛い事か位は容易に理解できる。


なのでまずは様子を見に行き、必要ならばケアを施して、その後上条から聞いた彼の担任だという人物に彼女を預ければいい(無論事情は伏せてだが)。
22 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:26:18.90 ID:NYUL6l7DO


「……俺が携帯持って来てたらお前に頼まなくてもよかったんだけどな」


「……それを言っても仕方ないですわよ」



確かに面倒な事ではあるが自分から(お姉様の為ではあるが)首を突っ込んだ以上はきっちりとこなすつもりだ。



「……後はわたくしに任せて下さいまし。そして貴方は頭を冷やしてこれからどうするのかよく考える事ですわね」



「……分かってる」



踵を返し、ドアに向かう。


最後に、一言だけ上条に言い放つ。




「……お姉様まで泣かせるような事があれば……、その時は貴方の事を死んでも許さないんですの」




白井黒子は何処までもお姉様、御坂美琴の味方なのだ。



その為ならば、例え恋敵で在ろうと庇う事も出来る。




それが白井黒子の強さだった。
23 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:28:00.02 ID:NYUL6l7DO

 4

「……ちょっと、いや大分入りづらいですわね」



上条の学生寮、その玄関前で白井黒子は呟いた。


上条当麻の前では見栄を張って任せておけなどと言ったが、内心は不安で胃が痛い程だった。



(風紀委員の仕事でもこういった事件には係わった事無いですし……うぅ、一体どのように接すればよろしいんですの!?)


頭を抱えて唸る。

どうしても扉を開ける踏ん切りがつかない。
24 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:29:50.58 ID:NYUL6l7DO


(野蛮人に傷つけられ涙する乙女には一体どんな言葉を掛ければいいんですの!? 一体どんな慰め方をすれば……はっ!! ここはわたくしが文字通りカラダを使って…、ってそんな事思い付いてる場合じゃないですのぉぉぉ!!)



テンパり出してガンガンと壁に頭をぶつけ始める。


こんな時でも煩悩が湧いて出て来る自分の頭にちょっと嫌気がさしているらしい。






そこで、玄関の扉が勢いよく開かれた。


白井は頭を壁に打ち付ける作業を止め、開かれた扉の方へと向き直る。



「……なんだ、……とうまじゃないや」



中から出て来た人物、裸体にシーツを被っただけという姿をした銀髪碧眼の少女は落胆したように呟いた。
25 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:31:09.15 ID:NYUL6l7DO


「……何かようなのかな? 今とうまはいないんだよ」



「……あ」




白井は言葉に詰まってしまった。


躊躇う内に先に扉を開けられた事や彼女の姿が裸だった事もあるが、…それ以上にシーツで隠し切れていない腕や首筋にはっきりと乱暴の跡である痣が、白い肌に付けられていたからだ。


「……あの男、金属矢を二・三本お見舞いしてからくればよかったですの…!」



そう言い捨て歯噛みする。
話は聞いていても、実際にその証拠を見ると怒りが込み上げてくる。
26 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:32:15.21 ID:NYUL6l7DO



「……しらい?」


「……ふぅ、取り敢えず中に入れて貰えませんでしょうか? 話はそれからですの」



一旦肩から力を抜き、目の前の少女に話し掛ける。


今ここで怒りを表わにした所で何にもならない。


白井は、冷静に自分が出来る事に努めようと心に決める。
27 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:33:34.39 ID:NYUL6l7DO

…少し時は過ぎ、常盤台中学女子寮。


「……ただいま戻りましたの」

御坂美琴がせわしなく部屋をうろうろしていると、同居人である後輩がようやく帰ってきた。



「遅いわよあんた! もうちょっとで捜しに行く所だったんだから!!」


「あぅ……、申し訳ございませんの」



複雑な面持ちで謝罪する白井。



「全く…、連絡しても繋がらないし、……本気で心配したんだから」


「……ごめんなさいですの」



白井は頭を深く下げ、再び謝罪した。



「その、作業に勤しむあまりご連絡に気づ 「嘘はつかないの!」



美琴は白井の言葉を遮り、ピシャリと言い放つ。



「…さっきもう少しで捜しに行ってたって言ったでしょ? 私と電話してた時はもうとっくに風紀委員の仕事の方は終ってたんだってねぇ? 連絡つかなかった時に初春さんに電話して聞いてんだからね?」


「えと、…あの、あぅぅ」
28 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:34:43.43 ID:NYUL6l7DO



冷や汗をダラダラとかきながらしどろもどろになる白井。


「一体何してたのよ?」


「えと、それは……」



美琴に追及されて口ごもる。



「……」



ついには俯いたまま黙り込んでしまった。



「……言いたくない事なのね?」


「……すみません」
29 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:35:47.50 ID:NYUL6l7DO

「そ、ならいいわ」


「へ?」


「危ない事に首突っ込んでる訳じゃないみたいだし、誰だって隠したい事の一つや二つあるでしょ? それを無理矢理聞き出す程私も野暮じゃないわよ」


「お姉様…」



美琴は泣きそうになっている後輩に向かって笑いかける。


気にならないといえば嘘になるが先も言ったように危険な事でないのなら無理に聞き出す事はしたくない(美琴自身もこのような事はしょっちゅうしていたのもあるが)。
30 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:36:36.21 ID:NYUL6l7DO
「………ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!! お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! やっぱりお姉様は優しいんですのぉぉぉぉ!!」


「ちょっ! 鼻水つけんなぁぁぁ!!」



いきなり抱き着く白井。いつもなら電撃で追っ払う所だが本気で泣いているようなのでそれも憚れる為、今回だけは口だけの抵抗に留めておく。



(……よっぽどやなことがあったのかしら? まあ聞かないって言った手前追及なんてしないけど…ね)



御坂美琴には何が起こったのか知らされ無かった。


彼女にとって、それは納得の行く事ではない。


だが同時にこうも思うのだ。


なにも知らない方が幸せだったとも。


後の彼女はそれを嫌と言う程味わう事になる。


あの時は助けてくれる者が居た。


だが次はそれが居ない。




この日。この夜が彼女が平穏で居られる最後の夜だった。
31 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:38:55.69 ID:NYUL6l7DO

 5

降りしきる朝日が目に浸みる。


公園のベンチに座りながら空を仰ぎ見る。


自身の心とは裏腹に、空は気が遠くなる程青く澄み渡っている。


上条当麻は腕で目を覆い隠し、刺すような痛みを与えて来る光から逃れる。


そうしていると昨晩一睡も出来なかったツケもあり、抗い難い睡魔に襲われる。


いっそ何もかも投げだして惰眠を貪ろうかとも思うがそうもいかない。


彼にはやる事も考えなくてはならない事もウンザリする程あった。
33 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:40:10.41 ID:NYUL6l7DO


(……どうすりゃいいのかな、俺は)



考えれば考える程、昨日彼が起こした愚行が、彼の脳裏にこびりつき、彼の思考を阻害させた。





何故あんな事をした?





何故彼女を傷つけた?






何故、泣いているに止められなかった?





頭に浮かぶのは後悔と自責の念。


その先の事を考えようと思ってもうまく纏まってくれない。
35 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:42:13.18 ID:NYUL6l7DO


(……学校、いかねーと)



今日は平日だ。学生である上条は当然行かなくてはならない。


だが身体に力が入らない。



「なにしてんのよあんた?」



突然声を掛けられる。


目を覆っていた腕を降ろし、空に向けていた顔を声の発っせられたほうへと向ける。



「……御坂か」



御坂美琴。何故か解らないが自分にしょっちゅう突っ掛かってくる少女。



「…随分と元気無いじゃない、なんかあったの?」



どうやら自分は今、端から見ても解る程暗い顔をしているらしい。



「…なんでもねーよ、むしろ元気いっぱいの上条さんの方が珍しいだろ?」



軽口を叩き、自然を装う。


白井との約束もある、彼女にだけは何も悟られてはならない。
36 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:43:55.05 ID:NYUL6l7DO


「ふぅん…、そお?」



そういうや否や、美琴は上条の隣に座る。



「……学校行かなくていいのかよ?」



「あんたこそ」



当然の問い掛けは、これまた当然の返答で返される。



「そりゃそーだな、確かにこんな所で油売ってる俺が言える立場じゃねーや」



上条は可笑しそうに小さく笑う。だが美琴は真剣な面持ちのままで上条の様子を見ている。


「……なんでせう? 上条さんの顔に何かついているのでしょうか?」


「無理に茶化さなくていいわよ、……本当に何があったの? 教えて」



美琴の言葉を聞いて、上条は自分の心臓が跳ね上がったような感覚を覚えた。


さらに美琴の言葉は続く。
37 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:45:52.18 ID:NYUL6l7DO


「そんな今にも泣きそうな顔して何でもないなんて言われても信じらんないわよ。むしろ聞いてくださいって言わんばかりね」


「……全く、美琴センセーには敵いませんよ」



上条は口を開く。



「いつもの上条さんの不幸ってやつですよ」



嘘をつく為に口を開く。



「実は財布を落としちまってな、見つからなくて途方に暮れてた所なんですよ」



困り顔で頭をボリボリと掻き、飽くまでも普段と変わらない事を装う。


そんな上条を見て美琴はため息をつく。



「…あんた本当に嘘つくの下手くそね」


「………ッ」



上条は心底思う。





この勝ち気な瞳をした少女には本当に敵わないな…と。
38 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:48:03.53 ID:NYUL6l7DO

 行間1



「……上条ちゃんはまたおさぼりさんですか」



教室の教壇の前で出席を取りながら、月詠小萌はため息をついた。



「カミやんはきっとまた何処かで女の子とフラグ建ててるん決まってるやん!」



青髪ピアスが根拠は無いが一番有り得そうな事を言う。それに反応してクラス中から 「またか。あの野郎」 だの、「あの節操無しめ!! 学生の本分を分かってないのかしら!?」 だのブーイングが殺到する。


小萌は「みなさ~ん! お馬鹿ちゃんの事はほっといて先生の話を聞いて下さいね~!!」 と注意を促すが鎮まる気配は無い。


騒がしい事この上ないが、一応呼びかければ出席には応じてくれるので放っておく事にする。担任としてどうかとも思うが、別に喧嘩になるような話題でも無い。授業が始まる頃には収まっているだろう。
39 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:49:22.20 ID:NYUL6l7DO



出席簿に記入をしながら騒ぎの原因たる困った教え子の事を考える。



(一体上条ちゃんはどうしちゃったんですかねぇ? 昨日も風紀委員の子にわざわざ頼んでシスターちゃんを私の所に泊まらせましたし…)



上条が何も言わないで突っ走るのはいつもの事だ。

…だが今回はそれらとは違うと思う。



(……シスターちゃんも昨日は何か変でしたしねー)



小萌は昨晩のインデックスの様子を思い浮かべる。
40 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:50:33.20 ID:NYUL6l7DO

インデックスは自分に対しては普段と変わらないようなそぶりをしていた。


だが小萌はそれに違和感を感じた。


インデックスの行動や言動に隠し切れないぎこちなさが微かにだが感じ取れた。



(……シスターちゃんになにか酷い事したり言ったりして、…それで上条ちゃんがいたたまれなくなって逃げちゃったんですかねぇ?)


おおざっぱな予測を立てる小萌。彼女はインデックスから事情は聞いていない(聞かれたくない事なのだろうと思い、話してくれるまで待つ事にした)。そんな少ない情報でほぼ正解を導き出せるのは流石としか言いようが無い。
41 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:51:32.17 ID:NYUL6l7DO


(う~ん、そうだとしたらこの件は私はでしゃばらない方がいいですねぇ…)



年齢的に問題あるかもしれないが、そんな事をいえばインデックスが上条の学生寮に居候している時点でアウトである。



小萌自身、生徒の恋愛沙汰に無理に首を突っ込んだりはなるべくしたくない。



(アドバイス位ならしてあげたいですけど…、それも上条ちゃん次第ですしねぇ~)
42 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:52:43.93 ID:NYUL6l7DO



「にゃ~、小萌先生、もう授業始まっちまうぜい?」


「HRは終わってる。でも出席が取り終わってない」



言われて気づく。いつの間にか考えに没頭して出席を取るのを失念していた。



「あっ!? はわわわっすいません!! 急いでやりますから!!」



わたわたとあわてふためく小萌。生徒達から生暖かい微笑みが漏れる。



(とっ…取り敢えず上条ちゃん達の事は保留ですね)




出席を取り終え、そそくさと教室を後にする。廊下を歩き出してすぐに始業のチャイムが鳴る。急いで次の授業の受け持ちに行かなければならない。
43 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:53:31.48 ID:NYUL6l7DO


月詠小萌は教師だ。


教師である以上、どんな生徒にも分け隔て無く接しなくてはいけない。


その中には上条当麻も勿論入っているし、直接の教え子では無いがインデックスだって自分の生徒のように感じている。


彼らが助けを求めれば必ず助けるし、力になる。


だがそれだけでは駄目なのだ。


助けを求めるだけしかしないのはただの甘えでしか無い。


まずは何事も自分で考え、努力しなければいけない。

それすらしないで縋るのはお門違いでしかない。



(まあ、上条ちゃんはその辺り弁えてるでしょうからきっと大丈夫ですね)



その上でどうしようもなくなったらきっと助けを求めてくるだろう。




彼女は教師であり、そして大人だった。


見た目小学生の大人な教師は、今日も可愛い生徒達の為に教鞭を振るう。
44 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:56:18.00 ID:NYUL6l7DO

 6

「……集中できませんわね」


白井黒子は小声で呟いた。


自分の席で頬杖をつきながら退屈な授業を聞く。


普段ならばこんな腑抜けた態度で授業に参加するなど有り得ないが、今日に限っては大目に見てほしいと白井は思う。


白井は昨晩の出来事を未だに引きずっていた。


無論自分は部外者で、これ以上首を突っ込むのは野次馬以外の何物でも無い事は理解している。


それでも考えてしまう、敬愛するお姉様が慕うあの男と、その傍らに寄り添う少女の事を。


白井は昨晩交わした銀髪の少女との会話を思い出す。





…………
45 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:57:36.41 ID:NYUL6l7DO





「…その、大丈夫ですの?」


「うん、別にへいきかも」


「……平気そうには見えないんですの! 貴女はあの卑劣漢に…!!」


「とうまの悪口は言わないで!!」


「……ッ」


「……とうまは別に悪い事していないから、…少し乱暴だったけど…わたしはとうまの事好きだもん。だからとうまは悪くない…!」


「……貴女はそれで良いんですの?」


「うん。わたしはとうまが居ないといやだから。……とうまがわたしを求めるらなどんな事でもできる」


「…そう…ですの」
46 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 22:58:50.63 ID:NYUL6l7DO



…………






間違っていると思う。


上条という少年も。


あの健気な白い少女も。



だが……。


何が間違っているのか上手く纏まらない。


ただ歪だという事。


白井黒子にはそれしか理解出来なかった。



「……たいして歳は変わらないのに、随分面倒な事をしてますわね」
47 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:00:21.17 ID:NYUL6l7DO

 7

「……おい、御坂」



上条当麻は呼び掛ける。



「………なあ!」



自分の手を引き歩く少女に呼び掛ける。



「………」



返答は無い。


ただ、握られた手だけは決して離すまいと力が篭められる。



「…………御坂」
48 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:01:29.97 ID:NYUL6l7DO


上条当麻は御坂美琴に昨晩の出来事を打ち明けた。


白井黒子との約束を破ったのは悪いとは思うが、上条は美琴に隠し通す事は出来ないと思った(それ以前になぜ美琴に言ってはいけないのかも彼は理解していないが)。


確かにこの事はあまり人に言うような話では無いだろう。だが彼女、御坂美琴は彼を酷く心配していた。


嘘でごまかす事も出来ない。何も言わずにいても悪戯に彼女を不安にさせるだけだと判断した彼は白井との約束を破り、全てを打ち明けたのだった。
49 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:03:12.07 ID:NYUL6l7DO


「………ねぇ」



暫く、手を引かれながら歩いていると、ようやく御坂美琴は口を開いた。



「………このままデートしよっか?」



上条は何を言われたかよく理解出来なかった。



「聞こえなかった? デートしよって言ったのよデート♪」


「…お前何言ってんのか分かってんのか?」



上条は目の前の少女が何を考えてるのか本気で分からなくなった。



「さっきの俺の話聞いただろ? そんな奴と一緒に居てお前は平気なのかよ!?」



上条の自分で自分をおとしめる言葉。



「そんなの知らない!!」



だが御坂美琴はそれを否定する。



「あんなの嘘に決まってるもん、あんた…当麻がそんな事する奴な訳ないじゃん……!!」



「御坂…、俺は…」
50 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:04:28.38 ID:NYUL6l7DO


上条が言葉を放とうとした所で、繋がれたままの手をさらに強く握られる。



「私には解るもん…、あれは当麻の嘘、本当の事言いたく無いからって適当な事言っただけ…!!」



美琴は握り締めた上条の手を自身の胸の辺りまで持ち上げ、今度は両手で愛おしむように優しく包む。



「……御坂」



わからない。


何故彼女は昨晩の自分の行いを否定する?


何故彼女は手を放さない?


何故、彼女はこんなに泣きそうな顔になっている?






自分には、わからない。
52 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:06:20.43 ID:NYUL6l7DO







「…………」

「…………」



上条の手を抱きしめるようにしたまま決して離そうとしない美琴。


そして、されるがまま時が過ぎるに任す上条。


どれ位時間が経っただろうか。長い沈黙の後で、ようやく美琴は口を開いた。







「……………好き」








彼女は俯いたまま口を震わせる。



「……当麻の事、好きなの」



掠れるような声で言葉を紡ぐ。


瞳に涙を浮かべ、慈悲を請うように、上条の手に縋り付く。
53 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:08:09.89 ID:NYUL6l7DO




御坂は今なんと言った?



   「 好 き 」



誰に? …自分にだ。


あの御坂美琴が? 自分を?


上条は己の頬が熱くなるのをはっきりと感じた。


いつも怒ってばかりで、ことある事に電撃を飛ばしてくる目の前の少女が、自分・上条当麻の事を好きだと言ったのだ。


心臓の音が自分で解る程、速く脈打つ。


必要以上の汗が噴き出る。


喉が一瞬で干上がり、水分を欲す。





上手く開いてくれない口をなんとか開く。
54 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:09:26.58 ID:NYUL6l7DO


「…ありがとう、御坂……、 嬉しいよ」



上条は素直に思う。



嬉しいと。



上条の言葉を聞いて、美琴は顔を上げる。



「ホントに? ホントに嬉しい?」



その顔にあるのは期待。



「……ああ、本当だ」


「じゃあ…!」



上条は美琴の言葉を遮るように告げる。
56 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:10:39.17 ID:NYUL6l7DO


「駄目なんだ」



彼女の縋り付くような眼差しから目を逸らして。



「嬉しいのは本当だけど……、駄目なんだよ」



彼女の想いを拒む。


自分には彼女の想いを受け入れる資格は無い。



「……なんで?」



彼女の瞳から大粒の涙がこぼれる。



「……なんで駄目なのよ?」



握られた手が離される。



「……すまない」



謝る事しか出来ない自分に反嘔がでそうになる。
57 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:11:59.14 ID:NYUL6l7DO


「……ひっ…く、…う…っ…、…ふ…ぇぅ…っ」


…泣き声。


また泣き声だ。



「…や…だよ…っく、……ひっ…ぃぅ、なん…で…ぐすっ…わたしは…、…だめなのよ……ぅぅ」



「…………」



また泣かした。


また傷つけた。


御坂美琴の姿がインデックスと被る。


どちらも泣いていた。


御坂美琴は目の前で。


インデックスは心の中で。


二人共、自分が守ると決めた大切なモノなのに。


…何故傷つけたのだろう。


後悔の念しか浮かばない。


これが幻想ならば、喜んで壊すのに。


だが、壊れてしまったのは二人の少女の幻想だ。


自分にのしかかる現実ではない。


幻想を[ピーーー]事しか出来ない少年は、守れ無かった幻想を前にして、立ち尽くす事しか出来なかった。
58 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:15:45.32 ID:NYUL6l7DO

 7.5(Index)

……待つ。



「……とうま」



彼の帰りを……。



「……今日は帰って来る……よね」



ずっと待っている。



「………とうまは、………いなくならないよね?」



彼の部屋で、彼が必ず帰って来た場所で。



「……とうま」



自分自身が居場所だと思える、唯一の場所で。


幾度も彼の名を呼ぶ。
59 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:17:06.41 ID:NYUL6l7DO


「…………とうま、わたしは大丈夫…だよ?」



彼はいつも、名を呼べば優しく微笑んでくれた。



「だから、……早く帰って来て……とうま」



早く帰って来てほしい。


そしていつものように自分に優しく微笑んでほしい。


でないと…壊れてしまう。



「…とう…ま」



縋るように、傷を癒すように呟く。


彼の名を呼べば呼ぶ程、涙が頬を濡らす。


泣いてはいけない。


泣けば彼が傷つく。



「…とうま」
60 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:18:22.86 ID:NYUL6l7DO


昨夜、彼は行ってしまった。


何故?


自分が泣いたからだ。



「……わたしは、平気だったのに」



泣いたから、彼は逃げてしまった。



「……とうま」



伝えなくてはいけない。


自分の想いを。


彼を壊さない為に。


自分自身が壊れない為に。



「………とうまは悪くないから」
61 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:19:43.17 ID:NYUL6l7DO


彼がする事なら全て受け止める。


欲望も


怒りも


暴力でも。


優しさと、そして愛情をくれるのなら。



「……だから」



ひとりにしないで。



「とうまの事……好きだから!」



壊したまま、置いて行かないで。



「………とうま!」



早く帰って来て。


今は、自分の傍に居てほしい。





これ以上、待つのは嫌だ。
62 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:21:57.55 ID:NYUL6l7DO

 7.5(mikoto)

私はあいつが好きだった。

それに気づいたのは何時だっただろうか?


最初はただ気に入らない、ムカつく奴だと思ってた。


いきあたりばったりで。


ホントは強い癖に、のらりくらりと逃げてばっかで。


人の事助けても、別に何でもないようにのほほんとしてて…。





それでいて、…優しくて。
63 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:23:18.91 ID:NYUL6l7DO





はっきり自覚したのは、いつかの地下街であいつが何かと戦っていた時?


夏休みの最後の日に、あいつの言葉を聞いた時?


それとも、妹達を助ける為に藻掻いて藻掻いて、どうしようもなくなった時、あいつに手を差し延べられた時?




あいつは誰にでも手を差し延べる。


目に映る全てを守ろうとする。


わかっている。


自分はただ、その中の一人だっただけだ。


あいつにとっては、…自分はただの知り合い。


それが嫌だから、あいつにちょっかいを出していたのかな?


少なくとも、最近はそうだと思う。
64 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:24:47.15 ID:NYUL6l7DO



「昨日、……インデックスを無理矢理襲った」



…嘘よ。



「あいつ、泣いてたのに……止められ無かった」



……そんなの信じない。


あんたがそんな酷い事をする訳が無い。


きっといつものように、面倒だから適当に遇っているだけだ。



「…………」



なんでそんな辛そうな顔してんのよ。……あんたは嘘が下手くそなハズなのに。



「………嘘なら良かったんだけどな」



辞めてよ、……嘘だと思えなくなるじゃない。



「……人に話すような事じゃなかったな、すまない」



なんでそんな事言うのよ…、なんで謝るのよ! 聞き出したのは私だけど、……私はこんな嘘が聞きたかった訳じゃないのに。
65 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:26:28.63 ID:NYUL6l7DO


「……だから、もう俺には係わるなよ、……こんな奴に付き纏ってもろくな事無いだろ?」



…つまりそういう事なの? 私が嫌だから嘘までついて離れさせようとしてるの?


…嫌よ。


絶対嫌。



あんたが嘘をついてまで離れたくても、私は騙されないし離れてもやらない。



「おい、どうしたんだよいきなり!?」



手を取って歩き出す。


今まではこんな簡単な事すら恥ずかしくて出来なかったのに。



少しドキドキするだけで、別になんてことはない。



「何処行くだよ!? …学校はどうするんだ!?」



関係無い。…学校なんか行くよりあんたと一緒に居たいもん。
66 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:28:15.08 ID:NYUL6l7DO



歩く。


手を繋いで歩く。


やっと繋げた。


ずっと繋ぎたかった。


もう離したくない。


離してしまえば、何処かに行ってしまいそうだから。

だから、離れないように力が篭る。


……離せば、あの子の所に戻ってしまう。



「…なあ、御坂!」



……聞こえないフリをしておく。



「聞いてくれ、…御坂!!」



嫌だ。聞いたらまた嘘ついて逃げようとするに決まっている。



「……なあ!!」



…しつこいわね、まあ確かに黙って連れ回されるのも嫌かな?


じゃあデートって事でどうかしら?


こんな事、私が言えるなんて思わなかったな。
67 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:29:41.28 ID:NYUL6l7DO




「…本気で言ってんのか?」


当たり前じゃない。あの時みたいなふりじゃなくて…、本当にデートよ。



「何言ってんのかわかってんのかよ? 俺は昨日……」



言わないでよ!!


嘘でも他の女を抱いた話なんてしないで。


あれは嘘。



あんたの下手くそな嘘。



本当の事を話したくないから、あんたがついた適当な嘘。



「……御坂、俺は本当に」



聞きたくない。


お願いだから嘘にさせておいてよ。
68 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:31:50.33 ID:NYUL6l7DO
当麻。


彼の名前を呼んでみる。


彼は私の気持ちに気付くだろうか?



「…………」



彼の手を両手で握り直す。


彼は辛そうな顔のままだ。



「………御坂」



名前で呼んでよ。


私にも…少し位優しくしてよ。



「…………」




…………




………



……





言おう


私の気持ちを


伝えるんだ。


このままじゃ、……彼は行ってしまう。


どうにかして、振り向いて貰うんだ。


だから言うんだ。


『好き』って。




私は…



彼、当麻が居ないと嫌だ。
69 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:34:46.56 ID:NYUL6l7DO

 8

『……分かったぜいカミやん、禁書目録の世話は舞夏に頼んでおくにゃ~』



電話越しに会話する友人は、軽快でいて妙な口調で、上条当麻の頼み事を承諾した。



「…悪いな土御門。本当はお前に頼むのは気が引けるんだけど…」


『気にすんなにゃ~、困った時はお互い様ですたい』



いつもと変わらない態度、同じ雰囲気で話す友人の言葉で、上条は多少だが心が軽くなる。



「…とにかく礼を言うよ。ありがとな」


『別にいいって言ってるんだがにゃ~? そんなに後ろめたいなら理由位は言ってほしいもんだぜい?」


「…それは」



口ごもる。昨晩の事はなるべく言わないようにと釘を刺されている。



『……冗談だにゃ~。話したくないなら無理に話さないでいいですたい』


「……すまん」



謝る事しか出来ない。


そんな自分が酷く情けなく感じる。
70 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:36:41.34 ID:NYUL6l7DO




『そろそろ切るぜい?あまり長話をしててもカミやんは都合が悪いだろ?』


「……そうだな、またな土御門」


『ああ、明日学校でにゃ~♪』



通話を切り、自分も腰掛けているソファに置く。


それから個室サロンの見慣れぬ天井(自身は一度も入った事もないから当然だが)を見ながら、本当にこれで良かったのかと自問する。
71 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:37:45.10 ID:NYUL6l7DO


(……インデックスは、どう思ってんのかな)



自分が帰らない事を?


違う。


彼女を傷つけた自分自身の事をだ。



(さっき土御門は、インデックスは俺の部屋に居るって言ってた…)



…何故だ?


何故、彼女は己を傷つけた人間の下に居ようとする?


他に行く所が無いから?


違う。


その気になれば彼女は何処にでも行ける。仲間が居るイギリス、この学園都市にだって彼女の味方は沢山出来た。


それとも、自分が逃げ出したまま帰らないと見越しているのか?


違う、絶対に違う。


彼女はそんな人の心を見透かしたような行いはしない。しないと信じている。


なら…何故だ?


わからない。
72 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:39:19.11 ID:NYUL6l7DO



「……お待たせ」



上条の自問は、控えめに掛けられた声によって遮断された。


声の掛けられた方向、丁度シャワールームの入り口の方に目を向ける。


そこには入り口のドアにもたれ掛かり、そして少し大きめなバスローブを身に纏い、頬を朱く染める少女の姿があった。



「……御坂」



御坂美琴。


自分を好きだと言った少女。


そして、自分がその想いを拒んだ少女。


二人は今、同じ空間の中に居る。


二人きりで、誰の目にも留まる事のない所に。
73 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:40:37.88 ID:NYUL6l7DO


二人きりだ。


自分を好きだと言った少女と。


確かに自分は、彼女の想いを拒んだ。


だが、彼女が嫌いな訳ではない。


むしろ好意的に思う。


だからだろうか?


この状況に鼓動が早くなるのを否定出来ない。



「……シャワー、空いたけど?」


「あ…ああ、分かった」



座っていたソファから腰を上げ、それから隅の方に置いてあったバスローブを手に取りシャワールームに向かおうとする。


しかしその入り口の前には未だに美琴が寄り掛かっており、どいてくれる気配は無い。
74 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:42:10.94 ID:NYUL6l7DO


「…いや、どいてくれないとシャワー浴びれないんだが?」



上条は困った風に口に出した。しかし目の前に居る少女は何も言わずにただ頬を赤らめたまま動かず、その視線は上条と合わせないようにしているのか、右に左にせわしなく動いている。


上条は短く、小さなため息をつくと、少しだけ笑顔を向けて美琴に語りかけた。



「御坂、さっきも言ったけどお前には感謝してるよ、正直今日も帰りたくなかったからな」


「……うん」


「だからさ、そんな不安そうな顔すんなよ? ……少なくとも今日は何処も行ったりしないから」


「………」



何も言わずにドアから離れる美琴。



「……どうかしたか?」


「……何でもない」



上条は美琴の行動を疑問に思いつつも、取り敢えず汗を流す為にシャワールームに向かった。
75 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:43:45.22 ID:NYUL6l7DO



…………



今から数時間前、あの告白の後も二人は共に居た。


御坂美琴は上条当麻と一緒に居たいと願い。


上条当麻は、自身の寮に帰るのを躊躇っていた。


そして二人はこの個室サロンに来た。


御坂美琴が望むように。


上条当麻が流されるままに。


御坂美琴は自身の身勝手だと理解して、それでも自分の想いに身を任せた。


上条当麻は自身がここに居るべきではないと理解しながら、それでもその内に燻る罪悪感から、そして恐怖心から御坂美琴と行動を共にした。


互いに過ちと歪[いび]つさを理解しながら、それでも二人はこの場所に来た。
76 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:45:36.05 ID:NYUL6l7DO



………





シャワーを浴び終え、美琴の居る部屋へと戻る。


着替えなど用意していなかった為、上条もバスローブ姿のままでいる。



「…おかえり」



ソファに座りながら同じくバスローブ姿のままの美琴が出迎える。



「えと、…着替えないのかよ?」



気恥ずかしさから理由がわかりきった質問をしてしまう。



「だって、今日着てた制服しかないもん…、あんた…当麻だってそうじゃない」



予想通りの返答。何故そんな事を聞いたのかと逆に自分で考えてしまう。


二人きりの空間。


互いに湯上がりのバスローブ姿。


そして自分に好意を抱いている少女。


自分は男だ、これだけ状況が重なれば意識するなと言われる方が難しい。


例え、それが想いを拒んだ相手でもだ。
77 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:46:52.61 ID:NYUL6l7DO




「ぼーっとしてないで座ったらいいじゃない、座る所なんて沢山あるんだしさ」



言われて気付く。自分が不自然に固まっていた事に。


適当な所、丁度美琴が座るソファの向かい側に腰掛けながら、自身の緊張をほぐす為に会話を切り出す。



「しっかしこんな所借りる金をポンと出せるとは、流石は常盤台のお嬢様って所だな?」


「そっかな? そんなたいした事ないと思うけど?」



何気ない会話を続ける。


美琴の様子もここに来るまでの雰囲気ではなく、多少いつもの彼女のそれに戻っていた。


それで良い。


昨日とは場所や事情が違うとはいえ、今日も過ちを犯すような事があれば自分はもう立ち直れないと思う。


都合が良いとは感じるが、今談笑している少女とはこれからも変わらずに、今までと同じ関係でいたい。
78 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:48:29.78 ID:NYUL6l7DO

「………」

「………」



ふと、何気ない拍子で会話が途切れた。


静まり返る部屋。


先程まで笑顔を見せながら話していたのが嘘のように、お互い口を開かない。


こんな時、いつもならどうしていただろうか?


……わからない。


そして、そこで気付く。


もういままでと同じで居続ける事が出来なくなっている事に。


上条の思考はまた深く、それでいて澱んだ何かに埋め尽くされる。


こんなはずじゃないのに、壊したくなんかないのに、どんなに取り繕っても、一度壊したモノは元に戻らないのだろうか?


右手で殺した幻想と同じで、そこに確かにあったモノは殺せば消えてしまうのだろうか?
79 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:49:43.66 ID:NYUL6l7DO




「………ねえ」



彼女が声を掛けてくる。


消え入りそうな小さな声なのに、はっきりと意志が篭っていてよく聞こえる。



「そっちに行かせて?」



同意も拒否も告げさせぬままに動く彼女。


美琴は上条の目の前まで来ると、見下ろすようにソファに座る彼に眼差しを向ける。



「…御…坂?」



彼女の熱を帯びた視線に息を詰まらせながら、彼女に呼び掛ける。
80 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:51:14.94 ID:NYUL6l7DO


「……嫌」



拒否の言葉。



「……名前で呼んでよ」



それは懇願だった。



「当麻は、……私が名前で呼んでいても不思議にも思わないのね」


「………ッ」



言われ、初めて気付く。


自分はこの少女に名前で呼ばれた事など無かったはずなのに。



「話してる時もずっと気にしてたのに、わざとかとも思ってたけど……その様子だと違うかな?」



確かにそうだ。決して気づかないフリなどしていない。



「でもさ……」



彼女は言葉を紡ぐ。



「そっちの方が、……私は痛いよ」
81 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:52:05.04 ID:NYUL6l7DO


自分の、そして彼の心をえぐる言葉を紡ぐ。



「……当麻」



涙をこぼしながら名前を呼ばれる。


何かを求めるように。


何かを否定するように。


想いの全てを籠めるように。



「………みっ…!」



上条の発しようとした言葉は、無理矢理に中断された。


彼女、御坂美琴の唇で。


彼の答えを受け入れも、拒絶もせずに。


ただ、自分の想いでなにもかも塗り潰すように。


歪つで、不器用な、狂おしいまでの口づけを。


上条当麻はされるがままに受け入れた。


流されるままに、口づけを受け入れた。
82 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:56:01.67 ID:NYUL6l7DO

 行間2

「……ごちそうさま」



そう言ってテーブルの上に箸を置くインデックスの表情は、誰が見ても分かる程暗く沈んでいた。



「もう食べないのかー…? 沢山食べると思っていっぱい作ったんだがなー?」


「うん、ごめんまいか。…ちょっと食欲ないんだよ」



彼女の向かい側に座る土御門舞夏は、普段では考えられないような彼女のセリフに、何より彼女のその様子に驚きと気まずさを覚えた。


舞夏自身は彼女の事情知らない。ただ兄、土御門元春に頼まれ彼女の食事の世話をしただけだ。


だから何故彼女がこんな暗い表情をしているのかは知らない。


何故、家主である上条当麻が居ないのかも知らない。

聞き出せる雰囲気でも無かった。
83 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:58:18.49 ID:NYUL6l7DO


(うーん…、ドロドロに狂ったラブの匂いがするんだがなー? 流石にコレは聞けないなー)



乙女の勘というやつなのだろうか、かなり鋭い嗅覚を発揮するが、そこは追及するのを自重した(兄からあまり詮索するなと言われているのもあるが)。


と、そこで玄関から来客を告げるチャイムが鳴った。


「ッ!! とうま!?」



いち早く反応したインデックスが玄関に駆け寄る。


舞夏は上条ならチャイムは鳴らさないだろうと思ったが口には出さなかった。



(こんな時間に誰だー? 上条の知り合いは常識通じない奴多いからなー…)



大分失礼な評価だがそれも致し方ない。すでに完全下校時刻も過ぎて、外を出歩く者はほとんどいない。学園都市でこんな時間に訪れるなど非常識とされても何も言えない。
84 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/22(火) 23:59:53.68 ID:NYUL6l7DO




「………あ」



扉を勢いよく開き、自身が待ち望む者の名前を呼ぼうとするインデックスだが、扉の向こうに居る人物が彼女の希望とは異なる人物だった為、代わりに落胆した声を上げる。



「…まさか昨日と同じリアクションで出迎えられるとは思いませんでしたの」


「……しらい」


「……その様子だと上条さんも帰って来ていないようですわね?」



来客、白井黒子の問いにインデックスは何も言わず、頷くだけで肯定する。


それから白井を部屋の中に招き入れ、それに白井も応じる。
85 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:01:33.94 ID:mUkdoxTDO


「おー、誰かと思ったら白井だったのかー」


「あら? どうして貴女がここに居るんですの?」



舞夏は白井に事情を説明し、それに白井も納得した。



「…そういえば貴女のお兄様が上条さんのご友人でしたわね。わかりましたの」


「そういう事なんだなー」



そこで会話に区切りをつけ、舞夏は座っていた席から立ち上がった。



「さて私は帰るぞー? …メイドとしては後片付けしないで行くのは癪なんだがなー」


「いきなりですのね? どうしたんですの?」


「んー、何か私はいない方がいい気がしてなー? あんまり人に言いたくない話をするんだろー?」



その指摘にインデックスと白井は何も言えなかったが、その表情だけでその通りだというのは一目瞭然だった。



「……上条が明日もいなかったら言うんだぞー? ちゃんとご飯を作りに来るからなー!!」


「……うん、ありがと……じゃあねまいか」



弱々しくではあるが、笑顔を見せて礼を言うインデックス。



「おー、また今度なー!!」



そう告げて、彼女の大切な友人の一人である土御門舞夏はその場を後にした。



(……本当はすっっっごく気になるんだがなー!! あー…!! ぐちゃぐちゃに爛れたLOVEの匂いがぷんぷんするぞー…!!)
86 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:04:38.78 ID:mUkdoxTDO


「……気を使わせてしまいましたわね」


「……うん」



残された二人の表情は暗い。



「…あれから上条さんは?」


「……朝にわたしが戻る前にせいふくとかケータイデンワーとか取りにきたみたいだけど…、わたしは会ってないんだよ」


「……そうですの」



…………。



しばし沈黙が支配し、さらに場の空気が重くなる。

89 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:06:18.49 ID:mUkdoxTDO


「………お姉様もお帰りにならないんですの」


「………え?」



白井が呟くように放った言葉は、何故かインデックスの心を深くえぐった。



「…携帯の方に連絡も入れてみましたけれども音沙汰無し、しかも学校も無断で欠席してますの…、同じく上条さんも連絡が着かず、学校を無断欠席したみたいですの…」



「………」



インデックスは何も言わない。ただ白井の話を聞く。



「……勿論それだけでお二人が一緒に居るとは断言できませんけれども、……昨日の今日ですから念の為確認しようと思い、お邪魔したのですが…」




「………とうまは……帰ってきてない」
94 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:10:03.66 ID:mUkdoxTDO




痛い。



心が、…痛い。



まだ二人が共に居ると決まった訳ではない。



……それでも痛い。



何故、心が痛むの?



……居ないから。



彼が傍に居ないから。



とうま……。



心の中で彼を呼ぶ。



何度も。



何度でも。



彼がいれば痛くないのに。



彼がいれば、悲しくないのに。



彼がいれば、…寂しくなんかないのに。





「……とうま、どうして帰ってこないの? ……みことといっしょにいるからなの? ……はやく帰ってきてほしいのに……」
96 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:12:54.33 ID:mUkdoxTDO

 8(Scene2)

「………んっ…」







………キス。





キスをしている。




御坂美琴と…。




自分を好きだと言った少女と…。


「……っ……ん……!」



その想いを拒んだはずの自分に。


熱く。


深く。


ぎこちなく。


震えながら…。


肩に添えられていただけだった彼女の手が、次第に背中の方へと回される。


乾ききっていない彼女の髪から漂う、微かな香りが鼻腔を擽[くすぐ]る。


思っていたよりも華奢で、しかし柔らかな彼女の身体が自分の身体に重なり合う。
97 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:14:21.74 ID:mUkdoxTDO



舌を絡ませ。


唾液を混ぜ合わせ。


優しく。


激しく。


長く。


甘く。


溶けてしまうように。



「…ん……あ…っ……」



彼女の腕に力が篭る。


離れないように。


離さないように。


キスは続く。


愛おしむように。


奪いさるように。



………。
98 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:15:53.40 ID:mUkdoxTDO


それを流されるままに受け入れる。


自分は彼女の想いに応える資格は無いのに。


拒まなくてはいけないはずなのに。


自分では傷つけるだけなのに。


自分では、泣かせてしまうだけなのに。



「ん……っ……ふ…」



現に彼女は泣いている。


涙を流しながらキスをしている。


恍惚とした表情を浮かべていても、その瞳から涙だけは流れ続ける。



「……あ…ふ…」



ゆっくりと離される唇。


長いキスがようやく終わる。


絡まり合った唾液が扇情的な線を引く。



「……キスって……気持ちいいんだね……当麻」
99 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:17:19.66 ID:mUkdoxTDO


彼女はさらに身体を密着させる。


そして耳、首筋、肩と自らの舌で上条の身体を嬲る。



「っ……うぁ…!?」



快感が迫り上って来るのを感じる。


頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなりそうな程の、快楽的な刺激。



「……気持ちいいの?」



甘く蕩けるような囁き。



「……えへっ、こういう事するの初めてなんだけど……上手なのかな私?」



彼女の普段とはまるで違う、艶やかで狂おしい程の色を放つ声。
100 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:18:57.70 ID:mUkdoxTDO



「………ッ!!」


「………あ…っ!」



彼女の背に腕を回し、強く抱きしめる。


ソファの背もたれから横にずり落ちるようにして、互いに腕を絡ませながら横になる。


…抱きたい。


彼女を、この女を。


抱きしめて。


貪って。


ぐちゃぐちゃにしたい。




身体を少しだけ浮かせ、彼女に覆いかぶさるような体勢になる。


彼女のバスローブは擦れ合い動いたせいで、はだけて淡い桃色の乳房が露出していた。
101 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:20:08.69 ID:mUkdoxTDO


ゴクリッ と無意識に生唾を飲み込む。


頭が痺れたように、上手く思考ができない。


心臓の鼓動がやけに速く、それでいて大きく聞こえる。


彼女がゆっくりと瞳を閉じて、自分を受け入れるように身体の力を抜いた。


頬を朱く染め、少しだけ震えながら、そして幸せそうな表情を浮かべて。



もう涙は止まっていた。



「……当麻、……いいよ?」



彼女が囁く。



「……当麻がほしい」



少女ではなく、女の声で。



「……私も…犯して……?」
102 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:21:31.00 ID:mUkdoxTDO
………。


……犯す?


……犯すのか?


……また傷つけるのか?


……昨日と同じように。


………。



「………当麻?」



名前を呼ばれ、我に帰る。覆いかぶさっていた体勢から身体を持ち上げ、そのまま彼女から離れる。



「…ッ! 当麻!?」
103 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:22:26.95 ID:mUkdoxTDO
着崩れたバスローブを正して、それから洗面台のあるシャワールームの方に向かう。



「当麻!! 何処行くの!?」



洗面台の前に立ち、蛇口から冷水を出す。その下に頭を突っ込み、直接冷水を被る。



「当麻っ!? 当麻ってば!!」



ゆっくりと頭を上げ、洗面台に設置された鏡を見る。


……酷い顔だ。


自分はこんな顔つきだっただろうか?


自分はこんな飢えた獣のような険しい目つきだっただろうか?


自分はここまで情けない、泣きそうな顔だったのだろうか?



「………当麻…?」



髪の毛から滴り落ちてくる水滴も拭おうとせず、ただ茫然と立ち尽くす。



「………すまない」


「……ッ」



近寄り、触れてこようとする少女に、鏡に目を向けたまま言う。



「……駄目なんだ、……やっぱり俺には資格が無い」



はっきりと言う。



「…お前の気持ちには…応えられない」



もう一度、拒絶の言葉を。





「すまない、……御坂」
104 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:25:10.77 ID:mUkdoxTDO
「すまない……御坂」



謝る事しか出来ない。


やはり、彼女の気持ちには応えられない。



(……インデックス)



だって、…重なってしまったのだ。


昨晩のそれ…、あの愚かな行いに。





そして、気づいたのだ。





自分の瞳が、目の前の少女ではなく、重なり合ったそれに向いている事に。
105 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:26:33.60 ID:mUkdoxTDO





「……あ…、と…当麻?」



美琴の呼び掛けには応えず、その横を通り過ぎて広間に戻る。


そしてバスローブを脱いで、自分の制服へと着替え始める。



「なん…で、…着替えてるの?」



震える声で美琴が問い掛ける。



「……帰るんだ」



短く、簡単に答える。


帰らなくてはいけない。


自分の家に。


彼女の下に…。
106 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:27:36.56 ID:mUkdoxTDO




電話で土御門が言っていたのだ。


彼女、インデックスは自分を待っていると。


自分は、…まだ彼女に謝っていないのだ。



「だから…帰らないと」










「……インデックスの所へ」
107 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:28:46.62 ID:mUkdoxTDO


「……だめぇっ!!」



突然の叫び声に驚いて、そちらの方を振り向く。



「……御坂…」



叫び声の主は、両手で肩を抱きながら震えていた。



「………嫌よ、絶対行かせない!! ……言ってくれたじゃない!! 帰らないって、…今日だけは一緒に居てくれるって言ってくれたじゃない!!」


「………」



悲痛な叫びだった。


込み上げる怒りをぶつけて非難するような。



「……行かないでよ!!」



それでいて、縋るような。



「……お願い」



酷く悲しげな、彼女の想いの全てだった。 
109 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:30:02.99 ID:mUkdoxTDO


「……すまない」



上条は、謝る事しか出来なかった。


何度も、何度も繰り返し。


それでも足りないと分かっていても、それ以外に掛ける言葉が分からないから、だから上条は繰り越す。



「…本当に、すまない」



彼女にとって、何の救いにもならない言葉を放つ。


残酷でも。


非道でも。


他に彼女に出来る事が無いから…。


着替えを済ませ、個室サロンの出入口に向かう。



「………駄目、行かないで」


「………」



彼女の言葉を聞いて、振り向く。



「……御坂、分かってくれ」



傷つける事を承知で言葉を掛ける。
110 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:31:41.60 ID:mUkdoxTDO




「……ッ!!」



彼女は右腕を前に伸ばす。


その手には、一枚のコインが掲げられている。



「分からない…、何で? ……何で私じゃ駄目なの?」



彼女から紫電が迸る。



「こっちに来て。…お願いだから」










「…来ないなら、…撃つ」








「………御坂」
111 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:32:44.82 ID:mUkdoxTDO
超電磁砲[レールガン]に狙われ、美琴に向き直る上条。



「…………撃てよ」



上条は右手を下げたままで言った。



「……それで気が済むなら撃てば良い。俺は右手は使わない」



「…な…!?」



美琴は戸惑った。仮に撃ったとしても上条には右手がある限り効かない。それが分かっていたからこその、自分がどれだけ本気なのかを見せつける為の脅しだったのに。


上条はその右手を使わないと言い切った。


それは、自分が撃てば彼は死ぬという事だ。



「……撃たないと思ってんの?」


「…分からない」


「……死ぬ気?」


「……死にたくはねえよ」


「っ! なら何で!!」



上条は踵を返し、部屋を出る。



「……お前なら、最後には分かってくれるって信じてるからだよ」



上条はそう言い残して、美琴の下から去って行った。



「……ふざけんな、…何が信じてるよ」



一人残された美琴。



「…私に言った事は……守らない癖に…!!」



結局、美琴は撃てなかった。
112 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:36:30.89 ID:mUkdoxTDO

 9

美琴と別れてから数十分後、上条当麻は自分の寮の玄関前まで到着した。



「…いざとなるとやっぱり足が竦むな」



正直、今すぐにも逃げ出したい。


だがそうする訳にはいかないのだ。



「ビビってどうする上条当麻! ちゃんと向き合うって決めたんだろ…!!」



自分は沢山間違った。


取り返しの付かない事をした。


沢山泣いた。


沢山泣かせた。


インデックスも。


御坂美琴も。


もう今までのように互いに笑い合う事はできないかもしれない。


だが、それでももう逃げ出したらいけないんだ。

逃げたって、壊した幻想…[現実]は元に戻らない。


だから逃げない。


もう二度と。
113 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:37:45.37 ID:mUkdoxTDO




「そうさ、壊しちまったんならまた創ればいい。[現実]ならそれが出来るはずだろ!」



幻想は殺せば消えてしまう。だが[現実]は壊れても、消えたりなんかしない。


消えないのなら創り直せる。


元の形とは違っても、新しい[現実]を。








「それが出来ないなんて幻想は、自分からぶち殺してやるさ…!!」



上条当麻は、意を決して扉を開けた。
114 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:39:12.80 ID:mUkdoxTDO


「……インデックス!!」



その声を聴いた瞬間、金縛りにあったように身体が硬直した。



「……とう…ま…!」



帰ってきた。


帰ってきてくれた。


…たった一日。


たった一日のはずなのに。


まるでずっと会っていなかったかのように感じる。


今すぐ駆け寄って、彼の存在を確かめたいのに。


身体がまるでいうことを効かない。



もう自分の心は嬉しさで溢れているはずなのに…。


彼を抱きしめ。


彼に抱きしめられ。


彼が幻想で無い事を身体全体で確かめたいのに。 
116 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:40:42.52 ID:mUkdoxTDO




「ぁ…う…!」



言葉すらまともに出て来ない。


自身の身体が他人の物のようにまるでいうことを効かない。


頬が熱くなり、その上を何かが濡らすような感触。


…涙。


泣いてしまった。


泣いてはいけないのに。


泣けばまた彼が行ってしまうかもしれないのに。


止まらない。


拭おうとする腕すらまともに動いてくれない。


ただ頬を伝うに任せるしか出来ない。
117 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:42:21.45 ID:mUkdoxTDO


「…インデックス」



彼が呼ぶ。


自分の名前を。


あの時、呼んでくれなかった自分の名前を。


それだけでさらに瞳の奥から熱い物が込み上げてくる。



「…ひっ…く…とっ…とう…ま」



感情の高ぶりで上手く考えが纏まらない。


彼の名前を嗚咽混じりでしか呼べぬ事に酷い苛立ちすら感じる。


身体は漸く椅子から腰を上げる事が出来たのみで、足は未だに動かせない。
119 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:43:37.87 ID:mUkdoxTDO


「………」



彼が自分に近づく。


ゆっくりと、真っ直ぐに。


涙が滲んでよく判らないが、…彼は悲しそうな顔をしているようだ。


…だが判る。


彼はそれでも精一杯、優しげな顔をしているのだ。


それだけで彼は、[あの時]の彼でない事が分かる。



……。
120 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:45:17.91 ID:mUkdoxTDO


そこで、気づいた。


…そうか、自分は怖かったんだ。


…彼が。


あの時の彼ではないのかと…。



彼が帰ってきた嬉しさの中に、少しだけ昨晩の傷が疼いたんだ。


…だから動けなかった。


彼の全てを受け入れると決めながら、あの時の彼を拒絶していたのだ。



……。



彼が目の前に立つ。


この彼は自分の待ち望んだ[優しい彼]であって、[あの時の彼]ではない。


でも、…目が合わせられない。



「インデックス…」
121 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:46:46.28 ID:mUkdoxTDO


彼の手が自分の身体に延びる。


繋がれたい。


抱きしめられたいと想っていた彼の手が。


だが、身体はさらに強張った。


そして、拒みたくないはずなのに震えだし、彼の手を拒もうとする。



「…………ッ」



それに気づいた彼は手を止め、ゆっくりと戻した。



「……ぁ………」



だめだ、どんなに頭で思っても、何処かで恐怖に逆らえない自分が居る。


…こんな事ではまた彼が行ってしまう。


また置いて行かれてしまう。


また孤独(ひとり)になってしまう。


…それだけは嫌なのに。


嫌なはずなのに。


………。
122 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:47:46.90 ID:mUkdoxTDO
「……すまなかった」



彼が頭を下げる。



「お前に…インデックスに酷い事をした……」



神に赦しを乞うように…。



「そして…」



懺悔の言葉を紡ぐ。



「孤独(ひとり)にして、すまなかった」



…………。



「もう、…孤独(ひとり)にはしないから」



その言葉だけで救われた気がした。


そして無意識の内に、彼の腕の中に吸い寄せられていった。


優しい彼?


違う。


なら…、あの時の?


…違う。


今そこに居る、有りの儘の[上条当麻]に惹かれたから。



……。



「……ただいま、インデックス」


「……お帰りなさい」





「………とうま」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/23(水) 00:48:51.68 ID:PUqUbpRSO

超複雑です…
124 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:51:19.89 ID:mUkdoxTDO

 10

行ってしまった。


…彼、上条当麻は。


振り向いてくれなかった。



「……当麻」



二人掛けのソファ、…彼と唇を重ねたソファにもたれ掛かりながら、御坂美琴は彼の名を呟いた。



「…何が、いけなかったのかな」



彼に振り向いて欲しかった。


彼に気に掛けて貰いたかった。


彼に、自分だけを見て貰いたかった。


だから、告白をした。


だから、唇を重ねた。


だから…、あんな売女のような真似までしたのだ。


なのに彼は行ってしまった。


今日は帰らない、自分と一緒に居る。と約束していたのに。


それを破って、あの少女の所へ行ってしまった。
125 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:53:07.30 ID:mUkdoxTDO




「……許せない」



彼を引き止められなかった自分が。



「……許せない」



自分を掻き乱すだけ掻き乱した彼の事が。



「許せない」



彼の心に入り込んだ、あの少女が。
126 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:54:23.86 ID:mUkdoxTDO






美琴はソファからゆっくりと立ち上がり、着崩れたバスローブの紐を解いた。


バスローブは何の抵抗も無く床に落ち、一糸纏わぬ姿になる。


シャワールームの前、洗面台のある脱衣所まで歩き、設置された籠の中から自分の制服を、隅に取り付けられた小型の洗濯乾燥機の中から下着を取り出した。


今日穿いていた物ではあるが、洗って清潔なショーツに脚を通し、身につける。


次にブラジャーを手に取る。両端を持ってそのまま背中に手を廻してホックを掛ける。それから身体に合うように整え、最後に肩紐を掛ける。


ブラウス、スカート、リボン、ブレザー、短パンと身につけて、美琴は普段通りの姿となる。
127 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:55:59.80 ID:mUkdoxTDO


「許せない、…なんで私だけこんな想いしなくちゃいけないのよ」



真っ直ぐ出入口に向かう。



「私だって好きなのに…!! なんであいつ…当麻は私を見てくれないのよ!!」



部屋を出る前に一度だけ振り返る。


視線の先は、彼と唇を重ね…抱き合ったソファ。



「……嘘つき」



美琴はその場を後にした。


その顔にはもう悲しみは無かった。


悲しみは怒りに変わった。


彼を想う恋心も傷つき、抉られた所から徐々に憎しみに変わっていく。


美琴は、はっきりとそのこと自覚しながら、…それを停められなかった。


…否、停めなかった。



「渡さない……絶対に…!!」
130 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 00:59:13.94 ID:mUkdoxTDO

 11

「…あ~、あっちぃあっちぃですの。いちゃいちゃするのはわたくしが帰ってからにしてくれませんことお二人共?」



放っておくといつまでも抱き合っていそうな勢いの上条とインデックスに対し、白井黒子はやっかみ半分にヤジを飛ばした。



「っ!? 居たのか白井!?」



心底驚いたような顔をする上条。



「気付いてませんでしたの?」


「あ…ああ」



上条は気恥ずかしそうにボリボリと頭を掻いた。
131 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:00:29.99 ID:mUkdoxTDO



「その様子ですと色々吹っ切れたみたいですわね。少し安心しましたの」



白井は上条とインデックスの様子を観る。


インデックスはまだ上条から離れずに、その腕の中に納まっている。


上条も昨晩の陰欝とした気配はあまり無く、その眼にも光が戻っていた。


…これならば自分が心配するような事は、もう起こらないだろう。


白井は自分の心配していた事が一つ減った事に安堵した。


……これでもう一つの事に集中できる。
132 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:02:10.66 ID:mUkdoxTDO


「…さて、上条さん」



敬愛するお姉様、御坂美琴の事に集中できる。



「今まで何処に居たのか、正直に答えて下さいまし」



上条が帰ってきた事で、ここに居る健気な少女の涙は止まった。


だが、その裏で涙を流す少女が居る。





白井黒子には、そんな確信めいた何かを感じていた。
133 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:03:37.51 ID:mUkdoxTDO


白井が帰宅した後、上条とインデックスは二人きりになった。



「………」


「………」



だが、会話らしい会話は交わされていない。


上条は白井に今日起こった事を全て話した。


美琴と一緒に居た事。


美琴に告白された事。


…その想いを拒んだ事。


そして、その後唇を重ねた事も。


無論、その話はインデックスも聞いていた。


嫌、インデックスにこそ聞いて貰わなければいけないと思い、話した。



「……とうまと…みことが」



話が進むにつれて、彼女の表情が悲しげになっていった。


それでも話すのを辞めなかった。


己の愚かしさを、卑劣さを、一つ一つ言葉にした。


改めて自分自身に反吐が出る。


こんな誰も幸せになれない、傷つけ、傷つくだけの話をしなければいけなかった自分に、…反吐が出る。
134 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:05:03.46 ID:mUkdoxTDO



「……もういいよ」



話を終えた後に、インデックスは言った。



「…とうまが戻ってきてくれた。それだけで十分だよ。……だから、自分ばっかりせめないで?」



インデックスは微笑んでいた。


今にも泣きそうな顔で、微笑んでいた。




…………




その後、白井に美琴の事を頼み、それに白井は「貴方に頼まれる迄もありませんの」と言って席を立った。


そして去り際。



「責任を感じているのなら、 お姉様とは距離を置いて下さいまし。…それが貴方とお姉様……それにそちらのシスターさんの為ですわね」



…と言って、この部屋を後にした。


……それから二人は殆ど喋らないままに時間だけが過ぎ、今に至る。
135 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:06:22.97 ID:mUkdoxTDO



合間に気を紛らそうと、そのままになっていた食器を片付けたり、スフィンクスに構ってみたりもしたが、やはり何処かぎこちない。



「……ねぇ、とうま」



スフィンクスを抱えながら、インデックスが聞いてくる。


もう時間は深夜に差し掛かる頃合いだ。



「…どうした? インデックス」


「……うん、あのね? …よかったのかなって思って」



「…御坂の事か?」



インデックスはコクりと頷く。



「…今俺が近づいてもあいつを傷つけるだけだ。なら白井の言う通りにしたほうが良い。…多分それがお互いの為だ」



「……うん、わかった」


「……そろそろ寝るか、もうこんな時間だ」
136 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:07:18.34 ID:mUkdoxTDO
上条は立ち上がり、自分の寝床へ向かおうとした。しかし、インデックスが上条のシャツの裾を掴んでそれを拒んだ。



「…? どうした?」


「…えと、あのね?」



裾を掴んだまま離そうとしないインデックス。


そして何か言いづらそうに言い淀む。その頬には朱が刺し、恥ずかしそうに眼をを逸らしている。


「…インデックス?」


「…今日は!」



一旦言葉を止め、真っ直ぐ上条を見ながら続きを言う。



「今日は…一緒に寝たい」



そう言い切ってから、俯いてしまった。


それを上条は…。



「………そっか」


「……だめ、かな?」


「…………」


「………とうま?」


「…分かったよ、インデックス」



すんなりと受け入れた。



「一緒に寝よう」



自分でも驚く程、簡単に受け入れた。



…そうした方が良い気がしたのだ。
137 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:10:02.70 ID:mUkdoxTDO


「…じゃあ、電気消すぞ?」


「うん」


上条の言葉に、先にベッドに横たわっていたインデックスは短く頷いた。



「……どうしたの?」



明かりを消した後、ベッドに潜り込もうとしない上条にインデックスが問い掛けた。



「いやっ、…ちょっとな」



躊躇うような仕草をする上条。



「…はやくきて、とうま?」



それを見たインデックスは微笑みながら彼を促した。



「………」
138 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:11:10.44 ID:mUkdoxTDO



極力インデックスに触れないようにベッドの中に潜り込む上条。


完全にベッド入り込むと、インデックスに背を向けてしまった。



「…とうま」


「どうした?」


「…こっちむいてくれないの?」



その言葉に上条の心臓は跳ね上がった。


上条の背中に擦り寄り、インデックスはさらに言葉を続ける。



「恐がらなくてもいいよ、わたしはもう大丈夫だから…」


「………ッ」


「とうまは自分の事をゆるせないんでしょ? …わたしに酷い事したとおもって」


「……俺は…」
139 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:12:22.62 ID:mUkdoxTDO


…その通りだ。


自分は彼女にしてはいけない事をした。


どんなに謝っても。


どんなに償っても。


決して赦されない事を、自分はした。



「赦すよ」



彼女は告げた。



「とうまが赦せなくても、わたしは赦すよ」


「………」


「だって…わたしは…」


「とうまの事、好きだもん」



彼女の手が何かを求めるように動く。


何を求めているのかはすぐに分かった。
140 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:13:27.68 ID:mUkdoxTDO


「……俺は」



だが、戸惑う。


彼女の求める物は自分の手だ。


分かっていて、だからこそ躊躇った。


自分は彼女の手を取って良いのか?


また傷つけてしまうのではないのか?



「とうま」



怯えるように身体を背ける

上条に彼女は言う。



「とうまはどうしたいの?」



問い掛ける。



「相手を思いやる心も、罪の意識に苛まれるその気持ちもだいじだよ? ……でもねとうま」



強い意思を感じさせる声で、問い掛ける。



「とうまが本当に望む事はなに?」
141 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:15:01.46 ID:mUkdoxTDO



その声は恋人に告げる睦言のようにも、子供を叱り付ける母親の言葉にも聞こえた。



「俺が、…望む事?」


「そう、罪を贖うためでも、 相手を傷つけないための思いやりでもなくて、とうま自身がどう在りたいのかわたしは知りたい」



自分自身が本当の望む事。


罪に対する意識でも無く。


相手の気持ちを優先するような配慮でも無く。


自分がどうしたいのか。


正直に。


素直に。


有るが儘の心で。


上条は身体を起こし、正面を真っ直ぐ見据えた。


そして、その傍らに居るインデックスの手を取る。
142 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:16:32.16 ID:mUkdoxTDO


「……ありがとう、インデックス」


「……うん」



上条もインデックスも、繋いだ手に力が篭る。



「一番大事な事を考えてなかったんだな、俺」



インデックスも起き上がる。



「やっと気づけた、俺がどうしたいのか」



インデックスを見る。


彼女は優しく微笑んで、上条を見つめている。



「インデックスが言ってくれなかったら、…多分ずっと気づけなかった」


「うん」



インデックスと向かい合うように座り直し、繋いでいた左手に、右手も添えようとするが…躊躇してしまった。



「消えないから大丈夫だよ」



彼女は繋いでいなかったもう片方の手で上条の右手を取る。
143 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:17:40.39 ID:mUkdoxTDO


「……あっ」



繋がった瞬間、思わず声を出してしまった。



「とうま、わたしは幻想じゃないよ? とうまの右手ではこわれないから」



そう言う彼女は少し可笑しそうだった。



「……はは、そうだな……確かに壊れないな」



無意味な心配をしていた自分が恥ずかしいといった具合に、上条は赤面した。



「…ありがとう、とうま」



インデックスは嬉しそうだった。
144 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:18:47.61 ID:mUkdoxTDO


「とうまはわたしのことちゃんと考えてくれてる。大事に想ってくれてる。そばに居てくれる。わたしはそれだけで十分しあわせなんだよ?」


「……そっか」


「……うん」



見つめあう。



「…インデックス」


「……なに?」



上条は告げる。


彼女のおかげで気づけた事を。


自分の正直な気持ちを。


自分の素直な想いを。


有るが儘の心を。



「俺も、お前の事が好きだ」
145 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:20:01.04 ID:mUkdoxTDO



上条は告げる。


自分の願いを。


自分の望みを。


自分の我が儘を。



「俺は欲しかったんだ…、インデックスが」



上条はインデックスをゆっくりと抱き寄せた。



「…とうま」



彼女の瞳は潤んでいき、頬にも朱が刺していった。



「だから昨日、無理矢理に奪ったんだ…、自分の欲望に負けて、頭が真っ白になって、お前の気持ちなんか考えもしないで自分の物にする為に」
146 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:21:11.93 ID:mUkdoxTDO


上条は昨晩の蛮行を悔いた。悔いて、そこから己の求むモノを見つける。



「……ッ! …ん…」



その求むモノの唇を、自分の唇で塞ぐ。


だが今度は無理矢理でも、強引にでもない。


優しく、互いにいたわるように唇を重ねた。


舌と舌を絡み合わせ、唾液を混ぜる。



「…ぅ…ん…っ、…とうま」


「…今度は優しくするから」


「……うん」



そう言って、さらに唇を重ねようとする。…だが。
147 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 01:22:06.30 ID:mUkdoxTDO



prrrrr!


携帯電話から着信音が鳴り響いた。



「…っと、電話か」


「……むぅ」



上条は携帯電話を手に取る。インデックスが少し不機嫌そうにしていたが彼は気づいていない。



「………っ」



着信中の携帯電話の画面を見て、上条は押し黙ってしまった。



「……とうま?」



着信は、御坂美琴からだった。



173 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:24:27.20 ID:mUkdoxTDO
prrrrr、prrrrr!


「…………」


「………とうま?」



携帯電話から電子音が鳴り響く中、上条当麻はその画面を見たまま押し黙っていた。



「……出ないの?」



その彼の様子に少し不安を感じながら、インデックスは問い掛ける。



prrrrr、prrrrr!



鳴り響く電子音。


その音を鳴らしているのは先程まで一緒にいた少女。


自分が傷つけたもう一人の大切な存在。


御坂美琴からだ。
174 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:25:44.90 ID:mUkdoxTDO




「………ッ」



通話ボタンを押して、携帯を耳に当てるだけ。…その簡単な動作を上条は躊躇している。


…つい先程だ。


縋るような瞳を向けて叫ぶ彼女、美琴から眼を背け、インデックスの元に帰って来たのは。


恐かった。


…あの後、彼女は泣いていただろうか?


それとも怒り狂ってしまったのだろうか?


それを確かめる行為となる彼女との会話が、どうしようもなく恐かった。



prrrrr、prrrrr!



…自分が葛藤している間にも電子音は鳴り響く。



「…………」
175 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:27:11.76 ID:mUkdoxTDO


…だが自分の指は動かなかった。



……



「…………あ…」



切れてしまった。


どうやらこちらがなかなか出ないので諦めたらしい。



(……最低だな、俺…)



自分が躊躇している内に切れてしまった着信。


戸惑ってしまった自分。…そして切れた事で安堵している自分も、どちらも最低だと思った。



「……とうま?」



「…ん、ごめんインデックス。なんか変な空気にしちまったな」



申し訳無いような、恥ずかしいような、そんな表情を作って上条は謝った。



「べつにとうまのせいじゃないと思うんだよ? …でんわはでなくてよかったの?」



…良くない。と言いかけた所で思い留まる。



「……大丈夫だ」



彼女、インデックスには余計な気を使わせたくない。
176 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:28:38.42 ID:mUkdoxTDO


「………ほんと?」


「…ああ」



インデックスは上条の顔をじっと見つめる。



「…じゃあ、でんわはかけなおさなくちゃね」



「………ッ!!」



彼女は優しく微笑んでそう言った。



「たぶんだけどでんわはみことからでしょ? とうまはみことをこのままにしておいていいの?」


「……それは…」


「とうま」



咄嗟に出そうとした言い訳も窘められる。



「みことから逃げる口実にわたしをつかっちゃだめ。それに…ここで眼を背けたらとうまはまた自分が許せなくなるとおもう」



「…………」
177 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:29:45.16 ID:mUkdoxTDO


prrrrr、prrrrr!



そこでもう一度、携帯の着信音が鳴り響く。


着信は、御坂美琴から。



「…とうま」


「…わかった、ごめんな」



上条は今度こそ、何の迷いも無く通話ボタンを押す。



(…ありがたいな、ホントに)



自分を支えてくれる存在。


自分を窘めてくれる存在。


その価値に気付いて…。



(ありがとう、インデックス)



上条は、心の底から感謝した。
178 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:31:07.74 ID:mUkdoxTDO

「………御坂か?」


『………』



上条が発した言葉は、沈黙で返された。



「…………返事くらいしてくれよ」


『………』



またも無言。



「………」


『………』



上条もまた言葉が詰まり、何も言えなくなる。



「………」



数分の間、互いに何も語らない。ただ電話に耳を傾けている気配だけを確認しあっていた。



「……御坂」


『………』



先に沈黙を破ったのは…、上条。



「済まなかった。…いろいろと」


『………』



美琴は何も語らない。ただ携帯を握り絞めたような鈍い音が微かにしたのみ。
179 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:32:59.12 ID:mUkdoxTDO



「何度も謝ってるけど、…それでも謝り足りないと思う。だからごめん」


『………』



無言。



「……………今、何処に居るんだ?」


『………公園、いつもの』



やや間を置いて、ようやく一言だけ言葉を放った美琴。



「………帰らないのか?」


『………』



また無言。



「…今日は帰った方が良いだろ。門限もとっくに過ぎてるだろうし、…白井も心配してたぞ?」



上条はなるべく傷つけないように言葉を選んで口にしようとして、…それは今の彼女には無意味な事だと考え直し、そのまま考えを口にだした。
180 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:34:11.03 ID:mUkdoxTDO



『………やだ』



短く、一言だけの否定。


それはまるで子供が駄々を捏ねるような、そんな印象だった。



「………御坂」


『今日は一緒に居てくれるって言った。……だから帰らない。当麻が来てくれるまで、絶対に』


「………」



自分が来るまで帰らない。


…稚拙で幼稚な言い分だ。


単なる我が儘でしかない。


そう上条は思いながらも、それを非難したりしない。


…当然だ。


そんな我が儘を言わせるような状況、そしてそんなになるまで傷つけたのは、自分なのだから。
181 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:35:25.30 ID:mUkdoxTDO


彼女、美琴にはそれを言う権利がある。


だが……。



「…………ごめん」



それでも……。



「……俺は…行けない」



彼女を突き放さなくてはいけない。



「…お前の所へ行けば、…俺はまた流される。流されて、今度こそ止まらなくなる。…それだけは絶対にやっちゃいけないんだ。……だから、行けない」


『………ッ』
182 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:36:49.88 ID:mUkdoxTDO


上条はつい先程、今まで気づけなかった事にようやく気づいたばかりだ。


自分が誰の傍に居たいのか…。


誰の事を一番に想っていたのか…。


気がついてしまえば簡単な事だった。


自分は、インデックスと呼ばれる、今傍らに居る少女の事が好きだったのだ。


自分を取り巻く全てを取り払って。


記憶を失う前の自分の事すら考えずに。


今の自分の心に尋ねた答えが、それだった。
183 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:37:52.29 ID:mUkdoxTDO

…そしてもう一つ。


今、電話越しに話す少女。


御坂美琴にも強く惹かれる感情が存在するのだ。


それもまた、好きだという想いと言って良いものだ。


しかし…だからこそ拒む。


…拒まなければ、また流される。


そして誰も幸せになれない。


中途半端な気持ちは、美琴の事をさらに傷つけるだろう。


インデックスもまた、悲しませ…泣かせてしまうかもしれない。


そして、自分は…自分の事を絶対に許せなくなる。


…もうこれ以上、後悔するような事はしたくない。


だからこそ、突き放す。
184 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:42:05.74 ID:mUkdoxTDO


「…………すまない」



そうする事しか出来ない自分に歯痒さを覚えながら……。


上条は通話を切った。



「………これでいいんだよな…上条当麻」


「……とうま」



隣でずっと、上条の事を心配そうに見ていたインデックスが不安げな表情を作っていた。



「……それが、とうまのだした答えなんだね?」


「………ああ」



上条は頷いた。


それが最良だと信じて。


彼女なら…立ち直れる。


自分が居なくても前を向いて歩き出せると信じて。


上条当麻は、今度こそ彼女を拒絶した。





今度こそ完全に、粉々にその想いを砕いた。



※(多分一人言だよな…)まだ続けるけどちょっと遅くなります。紙に書き出したやつまだ打ちこみ終わってないの。
185 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 12:52:38.08 ID:mUkdoxTDO

 12

「………」



携帯電話から流れる無機質な電子音を聴きながら、御坂美琴は奥歯を強く噛み締めた。


彼は来ない。


話すら聞いて貰えない。


…自分は、完全に拒絶された。



「……なんでよ」



どうしてこうなったのだろう?



「……当麻」



美琴の手から携帯電話が滑り落ち、地面に転がる。



「……あ…」



落としてしまった携帯電話を拾う為にしゃがみ込む、…しかし携帯を拾って、それを握り締めたまま立ち上がれない。
186 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 13:00:00.97 ID:mUkdoxTDO



「……もう…やだ」



…どうして自分ばかりがこんな想いをしなければいけないんだろう。


自分はただ、傍に居て欲しい。


…自分の事を見て欲しいだけなのに。


夜の公園の片隅で、一人蹲る少女はか細く…消え入りそうだった。
188 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 13:12:12.39 ID:mUkdoxTDO


少女は想う。


一人の少年の事を。


自分が好きな、彼を。



「…やっと…素直になれたのに」



今まで、ずっと自分の気持ちをごまかしていた。


気恥ずかしさと、ちっぽけな虚栄心が邪魔をして、ずっと素直になれなかった。

会う度に喧嘩腰になっていたのだって…少しでも自分に顔を向けて欲しいからなのに、そんな想いを頭ごなしに否定して…、気付かないフリをしていた。


それが自分だ。


自分の気持ちをはっきり自覚した後でも、それは大して変わらなかった。
189 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 13:22:58.70 ID:mUkdoxTDO


「………」



その癖、彼には自分の気持ちを知って欲しくて…、想いに気づいて欲しくて堪らなかった。


自分からは何もしようとしない癖に…。


そして今日、彼からあの話を聞いた。


彼があの子を求めて…抱いたという話を聞いてしまった。


嘘だと思った。


嘘だと思いたかった。


でも彼の言葉は、仕草は、悲しそうな眼は…、それが真実だと容赦無く告げていた。
190 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 13:32:48.11 ID:mUkdoxTDO

彼は無理矢理だと言っていた。…だがそんな事はどうでもいい。


彼が欲したのが、自分では無くてあの子だった。


ただその事だけが自分の胸を抉った。


どうして私では無いんだろう?


どうして私には何もして来ないの?


どうして、気づいてくれないの?


彼の手を引きながら歩いていた時、考えていた事はそういった事ばかりだった。


彼の言った事は嘘だと自分に言い聞かせながら、いつも自分の事を素通りしていく彼を非難して。
191 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 13:37:37.12 ID:mUkdoxTDO



だから言ったのだ。



彼に、好きと。



ずっと素直になれずにいた、自分が嫌だったから。



それ以上に、彼の隣には自分が居たかったから。
192 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 13:49:37.51 ID:mUkdoxTDO


その後、自分の告白は拒絶された。


…でも、彼は去らなかった。


その時、彼が何を思っていたかは分からない。


ただ自分は、彼と一時も離れたくない。それしか考えていなかった。


…いや、本当はその時には気づいていたのだ。


彼が自分を見てくれる事は無い…と。


でも、もう止められない。


足掻いて足掻いて、必死に振り向いて貰おうとして、少しでも自分を想って貰いたかった。


望んだ形でなくても、優しくなくても良かった。


彼が居なくなってしまうより、何倍もマシだった。


そして、…その結果がこれだ。


194 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 13:57:23.43 ID:mUkdoxTDO



「……頑張ったのになぁ」



先程掛けた電話は、本当は今から行くと告げる為に掛けたものだ。


だが、彼の声を聴いた途端に、恐くなってしまった。


彼の声は電話越しでも分かる程、決意に満ちたはっきりとした声だった。



そして、三度目の拒絶。



自分の心を砕くには、十分だった。
195 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 14:03:23.02 ID:mUkdoxTDO



「……当麻」



それでも彼を想いつづける自分は愚かだろうか?


自分では、…分からない。


そして、たとえ愚かでも…構わない。
196 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 14:17:26.38 ID:mUkdoxTDO
「………当麻」


彼女は呟く。


「………助けて」



か細く、消え入りそうな声で。



「………助けて…当麻」


彼の名前を。


「…………助けてよ」



助けを求める声を。



ゆっくりと立ち上がり、ふらふらと覚束ない足取りで歩き始める。



「…そうだ、…そうだよね……助けて貰えば良いんだ」



彼女の向かう先は……、彼の所だ。



「…あいつなら、当麻ならきっと助けてくれる……だって…あの時もそうだったもん」



心を砕かれた少女は、心を砕いた少年の下に向かう。



彼女、御坂美琴にはそれしかもう縋るモノが無い。



「……当麻……私を助けて」 
208 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:08:16.78 ID:mUkdoxTDO

行間0「とうまの手は優しくなかった」


彼女、インデックスは泣いていた。


…何故?


それは簡単だ。


自分が泣かせているんだ。


それが分かっていて、…止める事が出来ない。


彼女の声が。


彼女の匂いが。


彼女の汗ばむ肌が。


その泣き顔ですら、自分の理性を粉々に吹き飛ばす。


彼女が自分の名を叫ぶ。


辞めて欲しいと、必死に懇願してくる。


その全てを無視した。


もう止まらない。


もう辞められない。


自分でも抑える事が出来ない。


彼女を力任せに蹂躙しながら、心の中で叫ぶ。


すまない。と謝罪の言葉を叫ぶ。


そうしないと自分が壊れてしまいそうだった。


餓えた獣のように大切なモノを辱める少年は、自らの行いに嫌悪しながら、それでも止まらない。


過ちは痛みを生み。


痛みは心を蝕む。


こうして少年と、そして少女達の幻想は粉々に砕け、消えていく。


子供にも戻れず、大人にも成り切れない。


涙で滲むその瞳にはこの先何が映るのだろうか?


彼等には判らない。
209 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:10:08.32 ID:mUkdoxTDO





それは突然だった。



「っ…!? とうま!?」



その瞬間まで、いつもと変わらぬ日常が在った。



「どうしたの?…とうま!?」



しかしその日常は、いとも簡単に砕け散った。



「ねえ!? とうまっ…!?」



きっかけは語る必要の無い程些細な事だ。


踏み固めた土台が崩れるように。


張り詰めた糸が切れるように。


彼、上条当麻の理性は欲望に飲み込まれた。
210 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:11:44.65 ID:mUkdoxTDO


「…ハァ…ハァ…ッッ! …インデックス…!」



ベッドの上に押し倒され、両手を押さえ付けられる。


彼の雰囲気に何か嫌な物を感じ、抵抗しようと藻掻くが彼の腕力に敵うはずもなく、ただ体力を浪費するだけに終わる。



「とうっ…ん…!?」



彼に訴えかけようとした言葉も、彼の唇によって遮られる。


彼の両手は、自分の両手を押さえ付けるのをやめて、代わりに背中と腰に廻され苦しくなる程強く抱きしめてくる。



「…ん…ふ……ぁッ…!」



彼からの強引な口づけはまだ続く。


彼女、インデックスにとってその口づけは突然だった。


突然過ぎて、一瞬何をされているか分からなくなる。



(…これは……なに?)



自分の唇が彼の唇によって塞がれ、彼の舌が無理矢理中に入って来る。



(…キス? ……これが?)



蹂躙し、味わい尽くすように蠢く彼の舌。



(……ちがうよ、なにか……ちがう)



インデックスは今、彼が行っている行為が自分の知るキスとは認めたく無かった。
211 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:12:56.05 ID:mUkdoxTDO



彼とキスをしたくない訳では無い。だが、こんな一方的に奪われるのも何か嫌だった。


自分にとって、キスは愛する者同士の誓いであり、互いに求め合う物だと思っていた。


だが今している行為は、一方的で、愛情ではなく欲望に塗れた搾取のような行いだった。



(…………とうま)



彼との初めてのキスは、互いに愛を誓い合う、至福の中で行うと思っていた。



(………酷いよ、とうま)



だが違った。


彼との初めてのキスは。


優しさも。


いたわりも。


愛情も感じる事の出来ない。


一方的に貪られる、欲望に塗れたモノだった。



……
212 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:14:37.04 ID:mUkdoxTDO


「……っ…、ハァ…ハァ…」



「……とうま?」



インデックスの口を弄ぶのを中断し、一旦身体を起こす上条。しかし馬乗りの状態になっただけで彼女を自由にはしなかった。



(………こわい)



まるで獣のような顔をしている彼。



(…こわいよとうま)



そんな表情をした彼を、インデックスは見た事が無かった。


上条の手がインデックスの身体…胸の辺りに延びた。



「ひっ…!?」



インデックスは小さく悲鳴を上げ、身体を硬直させる。



(…やだ、……やだよ!)



抗議の声を上げようにも彼の行為に対する驚きと恐怖で上手く言葉として発っする事が出来ない。



「…ぅ…ッ、…やっ…」



そうしている間にも彼は止まらない。
213 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:15:53.61 ID:mUkdoxTDO

右手で胸を弄びながら、左手が修道服の肩の辺りに空いた隙間に掛かる。



「…ッ!?」



彼が何をしようとしているのかはすぐ気づいた。


咄嗟に両手を使って彼の左手を抑え、抵抗を試みる。



「………やめて」



ここで止まってくれなかったら、もう彼は止まらない。


自分も、そして彼もどうなるのか分からない。


インデックスの放った言葉は警告。



「……お願い」


「………………ッ」



それに対する上条の行動は、…彼女の頭上で両手を左手でまとめて押さえ付ける事だった。
214 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:17:05.02 ID:mUkdoxTDO


「………ッ!!」



そして、右手で乱暴に彼女を包んでいた修道服を剥ぎ取った。


安全ピンで留められただけの修道服は簡単にただの布きれへと戻り、その中に隠されていた白い肌が露わになる。



「…とう…ま」



震える声で彼に呼び掛ける。だが彼はその声を無視した。


…いや、聞こえてすらいないかもしれない。


インデックスから見た彼は、とても正気には見えなかった。


興奮して荒くなっている呼吸。


力任せの乱暴な動き。


血走って、餓えた獣のような眼。


どれをとっても、普段の彼からは余りにも掛け離れていた。



(……どうしちゃったの?)



普段の優しい彼からは想像も出来ない今の彼の姿に、戸惑う事しか出来ない。
215 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:18:33.43 ID:mUkdoxTDO


(……とうま)



直接胸を揉み拉かれ、さらに首筋に彼の舌が這い纏わる。



「…ひぅ…ッ! …ゃ…」



どうしてこんな事するの?




乳首を乱暴に抓り上げられながら、拒絶する為に噤んだ口を、執拗に舐め回される。



「んんッ…! ………ん…ッ」



どうして優しくしてくれないの?




太もものあたりにズボン越しに何か硬いモノを擦り付けて来ている感触。口元を嬲り飽きた舌は、弄っていないもう片方の乳房に吸い付いて行く。



「ふぁ…ッ、…ぅ…!!」



どうして、何も言ってくれないの?




彼のがむしゃらな行為は暴力的なまでに自分本位な行いでしか無かった。
216 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:19:56.27 ID:mUkdoxTDO


「…ぅ…くッ…、や…めて」



わたしを…ちゃんと見て。


今の彼には、彼女の想いは届かない。



…………



彼の手が最後に残っていたショーツに掛かる。



「……………っ」



インデックスは既に抵抗する事を辞めていた。



(………とうま)



抵抗なく下げられる。


強引に足を広げられ、僅かに銀色の陰毛が生えた密部が彼の眼前に晒される。



「……ふ…っ…ぅ…」



羞恥心によって瞳を閉じ、その上に両手で顔を隠す。



「…見な…い…で」



絞りだすような微かな声を出すも、やはり彼の耳には届かない。
217 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:21:59.38 ID:mUkdoxTDO


「…あふっ!?」



彼の指が左右に広げるような形で彼女の密部に触れる。先程まで閉じていたヒダの中から淡いピンク色の部分が姿を表す。


インデックスは気が狂うかと思える程に羞恥の色を濃くする。


それと同時に、下腹部が熱を帯びるのも認識した。


彼が触れている部分から、じわりと…どんどん熱くなっていく。



(…なん…で…?)



嫌なはずなのに。


恥ずかしくて堪らないはずなのに。


その熱は、何か拒み難い感覚なのだ。
218 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:23:14.78 ID:mUkdoxTDO


(……とうま、…とうま!!)



上条はゆっくりとインデックスの密部に顔を近づけ、吸い付くようにその陰核、クリトリスを口に含み、嬲る。



「ッッあぅ!? ~ッッあぁ!!」



その瞬間、反射的にのけ反る程の刺激がインデックスの身体に走った。


顔を覆った腕が思わず上条の頭に延びる。



「んぁッ!! あうっひッッ!?」



あまりの刺激の強さに頭の中で考えていた事が欠片も残さず吹き飛んでいく。



(やっ…、なに…これ!?)



歯で甘噛みしながら舌先でこねるように舐め回す。



「ひぐっ、うあぁ!?」



堪え難く、抗い難い刺激がインデックスを翻弄し続ける。



「あっ! ああッぐ!」



彼の執拗な責めは続く、それに呼応するようにインデックスの密部からは愛液が滴る。


そして、その蜜を舐め取るように上条は密部全体に隙間無く舌を這わせた。
219 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:24:24.76 ID:mUkdoxTDO




「あ…ふぅ!? …らめ…きたない…から…っん!!」



彼のその行いにインデックスは再び羞恥によって顔を真っ赤に染める。それでいて波のように襲って来る快楽を伴う刺激も加わり、もう自分がどうなっているのか訳が分からなくなる。



「痛ッ…!?」



突然、その快楽的な刺激の中に痛みを伴う物が含まれた。



「痛つ…ぐっ、…とうま?」


その痛みの原因はすぐに分かった。


彼が膣の中に指を容れて来ていた。



「いぐっ!? うっぎ!!」



彼が突き刺した中指を強引に動かす。


それまで彼女を襲っていた刺激は、痛みを帯びた物に変化する。


ベッドに敷いてあったシーツを握り絞め、痛みを堪えようと必死になるインデックスだが、しかしそんな物では堪えられない程その痛みは強かった。
220 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:25:06.09 ID:mUkdoxTDO



「あぐ!? や…めてとうまッ…いたいよ…ひっぐ!?」



インデックスは声を振り絞って上条に訴える。しかし止めるどころかさらに乱暴な手つきで責め立て、掻き交ぜる。



「うッッぎ…ぃ、あっぐ!! …あぁぁ…ぁぎ!?」



………



(………とうま)



痛みと羞恥と快楽の波に翻弄されながらインデックスは想う。



(これが、…とうまの望みなの?)



インデックスの瞳から涙がこぼれる。



(…ずっとこうしたかったの?)



その涙は痛みの為?


裸身を弄ばれる羞恥の為?


(………とうま)



それとも……。
221 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:27:15.44 ID:mUkdoxTDO


「………ぅ…く…」



彼の指が一旦止まり、身体の奥に響くような痛みから少しだけ解放される。


とはいえ、痺れるような感覚は未だに続く。



「…はぁ……はぁ…」



時折、痙攣するように身体が引き攣る。


息が上がり、呼吸にすら苦労しながらインデックスは、彼を瞳を動かして見つめてみる。



「…ハァ…ハァ…ッ!!」



膝立ちの体勢の上条は、呼吸を荒げ、興奮した表情で彼女を見下ろす。



「………とうま」



先程から何度も呼んだ彼の名前。



「…………」



だが彼は、一度も応えてくれない。
222 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:28:33.05 ID:mUkdoxTDO


彼の獣のような眼と自分の目が合った。



「…………」



目が合っているのに、自分を意識されていないような、そんな感覚がある。



(…とうま、わたしの事…ちゃんと見てる?)



とうまが見ているのはわたしなの?


それとも、…ただの女の身体?


「………」


彼女の、言葉に為らぬ声で放った問い掛けには、誰も答えない。



………
223 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:29:46.20 ID:mUkdoxTDO



流れ出た涙で視界が霞む中、インデックスは彼を見続ける。



(……とうま)



視界の中の彼は、少し苛立ったように乱暴な手つきで自分のズボンを脱ごうとしている。



(……とうま)



彼のそそり立つソレが姿を現す。


そしてゆっくり、密部へと先端を押し当てる。



「…ッ…ん…」



思わず声が漏れる。押し当てられたその部分からは、先程の痛みの名残の他に、疼くような熱さ…それも指で触れられた時よりさらに熱く感じる。


だがそれと同時に身体が震える。


不安と恐怖で泣き叫びたい程だった。


それは、これから行われる初めての性交に対する物なのか、それとも…今の暴力的な彼に対する物なのか、…あるいは両方か。
224 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:30:55.61 ID:mUkdoxTDO



「……とうま」



彼女、インデックスは問い掛ける。



「…わたしの事、好き?」



様々な感覚、感情に翻弄されながら



「ずっといっしょにいてくれる?」



真っ直ぐに彼を見て、言葉を放つ。



「とうまっ…ん…」



彼は何も言わず、再び彼女の唇を己の唇で塞ぐ。



「……ん…っ…」



これは、…このキスは何の為のキス?


ただ単に黙らせる為?


わたしの言葉から逃げる為のごまかし?


それとも……


上条はインデックスに口づけをしながらゆっくりと、少しずつ腰を前に押し出した。
225 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:32:08.03 ID:mUkdoxTDO


「ふぎっ…あっ!?」



裂けるような痛みがインデックスを襲う。それによって口づけが中断され、悲鳴とも嬌声ともつかぬ彼女の声が部屋に響く。



「あ…ぅ…ぎ…っ!?」



きつく締まる彼女の中に、捩込むように挿入していく。


インデックスは上条の背中に腕を廻し、しがみつくように抱きしめる。


上条もまた、彼女を支えるように腕を廻す。



「…あ…ぐ…っ!!」


「……………ッ」



深く、奥まで繋がる。激痛に耐えるように、抱きしめ合った印を残すように、インデックスは彼の背中に爪を立て、血が滲む程強く掻きむしる。
226 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:33:18.20 ID:mUkdoxTDO


「はぁ…はぁ…とうま…!」


「………」



二人の繋がる部分から、赤い色が混ざった愛液が滴り、シーツに染みを残す。


痛い。


痛いし、辛い。


インデックスはその喪失の感覚に耐えようと上条にしがみつき、少しでも痛みから逃れようとする。



(………ッ…?)



その時、ふと気づく。


何故自分は逃げないのだろう。


痛みや辛さからではなく、彼そのものから。



(……ああ、そっか…)



自分は彼を拒まなかったのだ。


激情の任せて自分を抱こうとする彼。


拒めなかったのではなく、拒まなかった。



(とうまは…とうまだもんね?)
227 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:34:26.38 ID:mUkdoxTDO




どんなに乱暴でも。


どんなに一方的でも。


彼は彼なのだ。


自分が信じた、ずっと一緒に居たいと願うただ一人の人なのだ。


だから…。



(とうまを…信じなきゃ)



彼が、信頼する彼が望む事なら受け入れるなくてはいけない。










彼の事が好きだから。
228 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:35:29.54 ID:mUkdoxTDO


「あ…ぐ…っ…あぅ…!」



彼がゆっくりと腰を動かし始める。



「…ハァ…ハァ…ッ」



彼が動く度に痛みが走る。


そのせいなのか、再び涙がこぼれ落ちる。



「ふ…ぐっ、あ…あっ…」



徐々に速度が増していき、彼の吐く吐息もさらに荒くなる。


インデックスは上条に、完全に身を委ねている。



(…これでいいんでしょ? とうま)



彼が望む事を叶える為に。


その瞳に涙を溜めて、痛みから、その辛さから、それらに必死に堪えながら彼を受け止める。
229 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:36:54.48 ID:mUkdoxTDO


「あぐ!? あっあっあ!!」



彼は彼女を貪る事に夢中になっている。動きは激しさを増し、痛みを伴った彼女の嬌声も彼の耳には届いていないのかもしれない。



(大丈夫…、これは今だけ)



様々な感覚、感情が自身の身体を巡る中、インデックスは祈るように、縋るように彼を見る。



(これがおわれば…またいつもの…優しいとうまに戻ってくれる)



一心不乱に自分を抱く彼を。



(ちゃんと…優しくしてくれる)


「……ッッうっく!!」



そして彼の激しさが頂点に達し、果てる。



「ッッ!? ………あ…ふ」



自分の中に、脈打つように流れ込む彼のそれを感じながら、インデックスは涙を流す。


彼は、自分が泣いていれば助けてくれるはずなのだ。


自分が傷つかないように、守ってくれるはずなのだ。


今までそうだったように、今も…そしてこれからも。


だから…。



(ちゃんと…わたしを見てね、…とうま)
230 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/23(水) 18:37:38.20 ID:mUkdoxTDO


傷つけられた少女は、縋り付き、祈る事で自我を保つ。


自分の心が壊れないよう、彼への想いを強くして。



「……とう…ま」


「…………俺…は…」



………




……そして彼、上条当麻は逃げ出した。


自分が犯した罪から、その重圧から目を背けるように。


そこから、少年達は迷い、苦しみ、藻掻くのだ。


子供でも、大人でも無い、曖昧な彼等の心は何処に辿り着くのだろうか?


それは、誰にも判らない。 
241 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:36:32.94 ID:UYBYsOZDO

 行間(←)

……何の用だ。


………ちッ、何で俺がそンな下らねェ事で動かねェとならねェンだ。


……確かにあの野郎には借りがある、…あの白いチビにもなァ。


……だがよォ、それは俺が首を突ッ込む話じゃねェだろ。


あの馬鹿がやらかしたつけだろォが、借りが有ろォが無かろォが関係ねェよ。


………チッ…、さッきの海原といいテメェといい、…そンなに重要な事かよ?


…テメェの仕事の話なンざ尚更関係ねェだろ、どッちからの仕事か知らねェがなァ。


………そう思うならテメェらでやれば良いだろォが、いくら超電磁砲を確実に止められンのがあの野郎以外に俺だけだつッても…………あン? ……何だクソガキ。


………チッ、テメェも…いや、テメェらもかよ。


………もういい、切るぞ。


…………クソッ……、くッだらねェ。


どいつもこいつもあの野郎に甘いッたらねェ。
242 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:38:56.99 ID:UYBYsOZDO

 13





「…お姉様、一体何処へ」



上条の寮を出た後、白井黒子は、上条から聞いた個室サロンへと足を運んでいた。


しかし捜している人物は、チェックアウトもせずに何処かに行ってしまったようだった。



「寮にも戻っておられませんでしたし…、後お姉様が向かいそうな所は…」


prrrrrrr!


そこで、白井の携帯電話の着信音が鳴り響いた。


画面に映る着信表示は…非通知。



(……どなたですの?)



訝しみながらも通話ボタンを押す。



「……もしもし、白井ですが」
243 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:40:22.41 ID:UYBYsOZDO



『…貴女に伝える事があります』



電話の相手は名乗りもせずにそう切り出す。


丁寧な口調で爽やかな印象を持つ声だ。若い男性だろうか、何処かで聴いた事がある気がするが思い出せない。


電話の向こう側に居る男は続ける。



『彼女…御坂美琴さんは今、彼の所へ向かっています』


「……ッ!」


『心理的に非常に危険な状態のようです。…早く行ってあげて下さい』



その言葉を聴いた瞬間に、白井は空間移動を使い、捜していた人物の所へ向かう。
244 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:41:47.87 ID:UYBYsOZDO


(……お姉様!)



電話を切る事すら失念して、電話の相手が示した所…そして自身の予測していた場所に急ぐ。



(お姉様!!)



止めなければ。


なんとしてでも。


たとえ、彼女…敬愛する御坂美琴お姉様に嫌われようとも。


今の…あの少年と、白い健気な少女の姿は……お姉様を必ず打ちのめして傷つける。


これ以上、お姉様に傷を増やして欲しくない。


白井黒子は急ぐ。


自分にだって彼女を救う事が出来ると信じて。
245 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:42:52.36 ID:UYBYsOZDO



「……お姉様!!」


歩き出してからどの位経ったのだろうか?


そんなに経っていない気もするが、異様に長い間歩いていた気もする。


「捜しましたの…ようやく見つけましたわ」


でも、まだ歩かなきゃ。


まだ彼の…当麻の所に着いていない。


「……お姉様、止まってくださいまし」



後どの位歩けば当麻の所に着くのかな?


どの位歩けば、当麻の傍に行けるのかな?


どの位歩けば…当麻は私を助けてくれるかな?
246 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:43:53.90 ID:UYBYsOZDO


「……行ってはいけません」


………どいてよ。


「……お姉様、もうお止めになってください」


……良いからどいて。


「お姉様!!」


……邪魔すんな。


私は当麻の所に行くんだ。

当麻の所に行って、…当麻に助けて貰うんだ。



その為ならなんでもしてやる、……だから退け。



「……退きません」



………。
247 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:45:16.61 ID:UYBYsOZDO


「…今のお姉様は普通じゃありませんの! だから! 一旦お帰りになりましょうお姉様!!」



…………。



「それに…! 今あの方の所へ行っても………お姉様は辛い目に遭うだけですの!!」



…それがなんだっていうのよ。



「わたくしは…! 黒子はもうお姉様が辛い目に遭うのが嫌なんです!!」



……ちがうもん。



「だから!! これ以上は進まないで下さいまし!!」



ちがうもん。
248 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:46:22.01 ID:UYBYsOZDO

…私は助けて貰う為に行くんだ。


辛い目なんか遭うはず無い。


これ以上、辛い事なんか無い。


辛い想いをしていれば。


涙を流していれば。


助けを求めて縋り付けば。


彼は…当麻はそこから救い出してくれる。


涙を止めてくれる。


…きっと、抱きしめてくれる。


だから、行かなくちゃ。



「…お姉様、それでもわたくしは!」



………そう。


…じゃあ、ばいばい。



…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 邪魔するからそうなんのよ。
249 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:49:05.24 ID:UYBYsOZDO

 14


御坂美琴は、白井黒子に対して容赦無く電撃を撃ち込んだ。



「……あ…ぐ…っ…」



白井黒子は地面に倒れ伏し、朦朧とする意識を必死に保とうとしながら、歩き去ろうとするお姉様、御坂美琴を見つめていた。


「…お…姉……様……」


止められない。


あのお姉様は、自分では止められない。


辛うじて意識を保っているが、もう身体は全く動かない。



(……どう…すれば)



行ってしまう。


お姉様が、更に傷つきに。


もう、これ以上無いという程傷ついているのに。



(どうすれ…ば…!?)
250 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:50:41.15 ID:UYBYsOZDO


…そこで、異変が起こる。


歩き去ろうとしていた美琴の動きが止まったのだ。



「…………?」



白井は美琴の視線の先を探る。



「…あれ……は…?」



そこあったのは、白。


酷く濁ったような白が美琴の目の前にあった。


「…学園都市…第一位…? …何故こんな…所に」


「……チッ、…メンドくせェな……マジであいつらの言う通りの状況かよ」



近代的なデザインの杖を付きながら真っ直ぐ美琴の方へと歩く存在。



「…な…んで、…なんで今ここであんたが出て来んのよ……!」



震えるような声色でそう呟く美琴。


「…一方…通行…!!」 
252 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:52:04.96 ID:UYBYsOZDO

学園都市第一位、一方通行。


御坂美琴にとって、最凶であり最悪の存在。


御坂美琴にとって、最も許しがたい存在。


御坂美琴にとって、最も出会いたくない存在。



「なんであんたが出て来んのよ…………アクセラレータァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


紫電を迸らせながら、美琴は叫ぶ。


電撃の余波を受けて、辺りの電灯が弾け、夜の公園を照らす光は美琴が放つ電撃の光のみとなる。



「…………」



一方通行は無言で首のチョーカーの電極スイッチを切り替える。
253 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:53:51.97 ID:UYBYsOZDO


次の瞬間、無数に襲い掛かって来る電撃の槍。


しかし、一方通行の表面に触れた瞬間に、あらぬ方向へと反射された。



「……効かねェのも忘れる程錯乱してンのか」



攻撃を受けながらも真っ直ぐ美琴に近づく一方通行。



「確かに今のテメェは危険だな、…勢いだけで周りの奴を殺しかねねェ」



美琴は攻撃を続ける。


電撃を飛ばし。


砂鉄を操り。


磁力で辺りの物を投げつける。
254 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:55:24.26 ID:UYBYsOZDO


「退け…! 退け! 退け!! あんたは関係無いでしょ!! 今あんたが出て来る必要無いでしょ!? なんで出て来んのよ!? なんで私の邪魔をする!? なんであんたが立ち塞がるの!? 私は当麻の所へ行きたいだけだ!! 私は当麻に助けて貰いたいだけだ!! ただそれだけなのに何故あんたが私の前に出て来るの!!」



癇癪を起こした子供のように、聞き分ける事が出来ない子供のように美琴は叫ぶ。



「邪魔をするな!! 何処かへ消えろ!! 私の前に現れるな!!」



叫びながら、助けを求めながら。


辺りに破壊を撒き散らす。
255 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:57:38.47 ID:UYBYsOZDO



「行かせられねェな、…それがテメェらの為だ、俺は頼まれただけだがそのくれェは分かる」



「糞ッッ!! 糞ッッ!! どいつもこいつも!! あんたも、黒子も…あの女も…!! みんなして私の邪魔をして!!」



美琴の顔が憎悪に歪む。


感情が高ぶるにつれて、撒き散らす破壊にも拍車がかかる。



「死んじゃえ…! みんな死んじゃえ!! 邪魔する奴も……!! 私を苦しめる奴も!! …全部、全部! 全部!!」



「…………」


一方通行が美琴の目前まで近づく。


手を伸ばせば届く距離に。



「………もう良いだろ」



一方通行が美琴の額に触れる。



「…寝ろ、…そンで頭冷やせ」



その直後、美琴は意識を失う。



「……とう…ま」



彼の、今…最も逢いたく者の名前を呟いて。
256 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/24(木) 21:59:24.86 ID:UYBYsOZDO






そして…、御坂美琴は上条当麻の前から姿を消した。 
268 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/25(金) 23:04:26.19 ID:wOTRZY4DO

 Apart Epilogue

翌日。


上条当麻はいつも通り学校に登校した。


退屈だと思える授業を受け。


合間にクラスメート達と馬鹿な話を交える。


そんな日常に戻っていた。
269 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk2011/03/25(金) 23:11:21.62 ID:wOTRZY4DO


「にゃー、…自分で撒いた種とはいえ今回もご苦労様だぜいカミやん?」


「……やっぱお見通しかよ」



午前中の授業が終了し、昼休みになってから上条の所に来た土御門元春は、いつもの妙な口調で話し掛けてきた。



「俺の立場を考えれば当然だにゃー、…もしもカミやんが“アレ”を壊していたら大分まずい事になっていたからな」



クラスメートが大勢居る教室で話ているからだろう、曖昧な言葉で話を続ける土御門。



「取り敢えずこの事は向こう側には報告していない。…したらステイル辺りが問答無用でカミやんを燃やしに来そうだしな」


「…あ~、…そうだな」


「まあ一緒に住んでて今まで何も無かったのが異常といえば異常だったんだがにゃー? カミやんはメンドくせぇ性格してるから分かんねえだろうケド」
270 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/25(金) 23:13:36.76 ID:wOTRZY4DO
※しまったsage忘れてた。ごめんなさい。


「…酷い言われようだなオイ」


にやにやしながら語る土御門。上条は反論しようにも大体合ってる気がするので苦笑いするのやっとだった。



「…悪かったな土御門、多分俺が頼んだ事以外にも迷惑かけただろ?」


「ん~…まあな、だが気にすんな。カミやんにかけた今までの迷惑と比べたらおあいこにもならん些細な事ですたい」


「…そっか」


「そうだぜい? むしろ礼を言うなら舞夏に言ってくれ、事情も知らないのにあの食いしん坊の面倒をいつも見てくれんのはあいつだからにゃー」


「…そうだな、後でちゃんと礼を言っとく」


「ちなみに俺は世話役を押し付けた駄目兄貴って事になってるにゃー」


「…ますますスマンな土御門」
271 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/25(金) 23:22:56.99 ID:wOTRZY4DO



冗談めいた事も言っているが、どうやら大分迷惑をかけたようだ。


詳しく聞きたい所だが土御門は話さないだろう。


そこで会話が一度途切れる。…しばし沈黙した後に上条は口を開いた。



「…まだ迷ってんだよな、正直」



その呟きに、土御門は真顔で聞き返す。



「…超電磁砲の事か?」


「…本当に全部知ってんだな、…まあ、そうだな」



美琴との事まで知っていた土御門に少し驚きつつも、肯定する。
272 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/25(金) 23:29:24.75 ID:wOTRZY4DO



「…他に方法は無かったのか、もっとマシな選択が無かったのかってな」


「にゃー、…………ダブルでゲットして両手に花状態になれば良かったんじゃね?」


「……一応真面目に考えてんだから辞めてくれよ、それは選択肢の中で一番やってはいけない事だと上条さんは思いますが?」


(…大真面目に言ったんだがにゃー)


「はぁ、…まあそんな感じでまだスッキリしてるとは言い難い訳ですよ」



ため息をつきながら上条はそう締める。顔つきは少し緩くなっているが、…それは悲しみや淋しさ等、色々な感情が合わさっているように見えた。
273 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/25(金) 23:37:30.37 ID:wOTRZY4DO


「…一つだけ言っておく」



そんな上条に、土御門は鋭い口調を使い告げる。



「超電磁砲には二度と会うな、…お前が出した答えが“アレ”と共に過ごす事ならな」


「…………」


「それがお前の…そしてあの二人の為だ上条当麻」
274 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/25(金) 23:41:14.13 ID:wOTRZY4DO


御坂美琴に二度と会うな。


上条はその台詞を聴いた瞬間、胸が押し潰されるような感覚を感じた。



「……それは」



反論したかった。しかし、その行為をする事も…やはり自身の出した答えを否定する行いに思え、言葉が詰まる。



「…無理なら無理とはっきり言え。お前のその曖昧な態度が今回の事の顛末を招いた、…その位は理解しているだろう」


「…………ッ」


「…俺の言葉だけで揺らぐ程度の決意なら、無いも同然だ。その程度の物なら持たない方が良い」
275 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/25(金) 23:48:40.18 ID:wOTRZY4DO


土御門の容赦の無い言葉。


上条はそれに言い返す事も出来ない。



「…にゃー。まあ仕方ないぜいカミやん? こんなもん大の大人だって悩む事ですたい」



いつもの口調に戻して土御門は言う。



「ただカミやんの場合相手が面倒臭いのばっかだからちょっと慎重になれって話だにゃー」


「……俺は」


「……さっき言った事は冗談だカミやん。…カミやんはカミやんのしたいようにすれば良いぜい。……まあ旗の建て過ぎには注意した方が良いケド」



「………」



土御門の言葉に反応しない上条。それから土御門小さくため息をついて席を立つ。



「悩め悩め青少年、悩みは若人の特権だぜい?」




去り際にそう言い放ち、土御門は教室から出て行った。
276 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 00:03:26.76 ID:DjMoqiGDO
「…お話は終わりましたね上条ちゃん?」



土御門が教室を出て行って間もなく、背後から声をかけられた。



「……小萌先生?」



振り返ると、そこには見た目は子供、頭脳と年齢は大人のレア物教師が仁王立ちしていた。



「……えと、何か用でしょうか?」



上条のその台詞の直後、ビキッと音が聞こえたように感じた。



上条は何か嫌な気配を感じつつ、それとなく小萌のご機嫌を伺う。



「…え~と、………もしかして怒ってます?」


「…うふふ~、上条ちゃ~ん? 先生はその質問にはYesと答えるしかないのですよ~?」



何か妖しい笑顔でそう告げる小萌、上条はその雰囲気に押されて座っていた席から落ちるように後ろに倒れ込んだ。
277 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 00:11:26.26 ID:DjMoqiGDO



そして何故小萌先生がお冠なのかを考えてみる。



(……はて、何か忘れてる気がしますよ?)


「……さては完全に忘れてやがりますね上条ちゃん!? 先生はいつ上条ちゃんが説明に来るのか今か今かとずぅ~~っっっと待ってましたのに!!」



小萌は尻餅をついている上条のワイシャツの襟を掴み無理矢理引きずろうとして失敗し、仕方ないのでちゃんと起たせてから手を引っ張りだした。



「弁明次第では許してあげようと思ったらまさかのそれ以前の問題ですか!! もうぜっっっったいに許さないです!! 今すぐ生徒指導室に連行です!!」



「ええ!? まだ昼飯食ってないんですが先生!?」



上条の懇願めいた抵抗。…だがしかし。



「も ん ど う む よ う で す !!」



まるで鬼神のような小萌の気配に上条は観念するしか無かった。
278 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 00:20:10.04 ID:DjMoqiGDO



………



「…で、何故先生がリミットブレイクしてるか理解しましたかお馬鹿な上条ちゃん?」


「…はい、マジですいませんでした」


生徒指導室に移動した上条は、小萌に何故自分がお冠なのか、その理由をたっぷりと説明されていた。



「そういえば小萌先生に一昨日インデックスを預けて何の説明もしてませんでしたね申し訳ありませんでしたーーー!!」



土下座しながら叫ぶ上条。この生徒指導室に連れて来られてからずっとこの体勢を崩さずに小萌の説教を聞いている。



一方小萌の方は腰に手を当ててずっと怒りっ放しである。
279 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 00:28:16.27 ID:DjMoqiGDO


「まったく上条ちゃんはいつもいつもいつもい~っっっっっっつも先生には何にも言ってくれないんですから!! いくら先生が優しくても流石に堪忍袋の尾がぷっつりなのですよ!!」



頬をぷくーっと膨らませて真っ赤になる小萌。



「ホントにすいませんでしたーーー!! 小萌先生にはお世話になりっぱなしでなんと申してよいのやら!!」



床に額をぐりぐり擦りつけながら、上条は謝罪の言葉をマシンガンのように並べ立てる。…そこまでやると言葉の重みが無くなった実に薄っぺらい。



「はぁ~、…もう良いです上条ちゃん。謝るのはおしまいにして下さい」


小萌の言葉で頭を上げる上条。苦笑いを浮かべながら小萌の様子を伺っているあたりどうも謝り方に真剣さが足りなく見える。
280 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 00:43:54.13 ID:DjMoqiGDO


「……それで、上条ちゃんはちゃんと前に進めてるんですか? 先生はそれだけ聞きたいのですよー?」


「……進む? …前に?」


「そうですよ? 上条ちゃんが何か悩んでいるのかぐらい先生はお見通しですからねー」



先程までと違い、優しく微笑みながら小萌は話す。



「シスターちゃんもそうですけどね? 上条ちゃんは色々とまだまだ経験が足らないんですよ? まあ当たり前ですねー、私からしたらみんなまだまだ子供なんですから」
281 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 01:07:33.16 ID:DjMoqiGDO

見た目子供の大人の女性は諭すように言葉を続ける。



「でも、そろそろ子供の時間は終わる頃でもありますねー、…先生としてはちょっと淋しいですけどね?」



上条は黙って小萌の言葉を聴き続ける。


「上条ちゃんの年頃は色々悩むものなんです! 悩んで悩んで悩み抜いて、それでも答えが出せるか分からないんですよ?」


「…………」


「上条ちゃんは、答えが出なかったんですか?」


「………出ました、いや…出しました」


上条の言葉に満足そうに頷く小萌。


「…ならちゃんと進んでますよ上条ちゃん? 答えが出せるか出せないかで全然違いますからねー」


「……そうですか?」


「そこは経験者は語ると言うやつですね! 先生からすればそうなのです!!」
282 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 01:33:29.27 ID:DjMoqiGDO
小萌は話は終わったとばかりに生徒指導室から出て行こうとする。


「悩みは心の成長剤ですよ上条ちゃん? しっかり悩んでしっかり成長して素敵な大人になって下さいね?」



去り際にそう告げて、小萌は部屋を後にした。



「……答え…か」





「…そっか」



上条当麻は子供だった。


そしてインデックスも………御坂美琴もだ。


だが、完全に子供という訳でもない。
283 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 01:35:04.09 ID:DjMoqiGDO

「俺達はもう子供じゃないけど、……まだ大人でも無いんだな」



上条は、今回の事で取り返しのつかない大きな過ちを犯した。


そのせいで傷つけた者が居る。


一人はインデックス。


もう一人は御坂美琴。


そして、自分も傷ついた。


子供だったのなら、泣きながら誰かに助けを求めても良かっただろう。


大人だったのなら、こんな傷だらけの結果にはならなかったはずだ。
284 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 02:04:58.26 ID:DjMoqiGDO

…もちろん、それを言い訳にするつもりは無い。


そんなもので言い逃れできる事じゃない。


だから悩む。


だから苦しむ。


だから、答えをだした。


そのせいでまた傷つけるかもしれない…否、傷つけただろう。


しかも、それが正解とは限らないのだ。


それでも、答えはだした。


もう逃げる訳にはいかないから。


逃げても、傷が深くなるだけだと気づいたから。
285 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 02:13:12.34 ID:DjMoqiGDO
インデックスは傍に居る事で、これ以上傷つけないと決めた。


御坂美琴は、突き放す事で、たとえ更に傷ついたとしても…立ち直れると、彼女の強さを信じた。



幻想は殺せば消える。


でも、現実は殺しても、壊しても消える事は無い。


ただ、その跡が、砕いた跡がいつまでも残る。

だが、消えないのなら治せるはずだ。


元の形には戻らないかもしれない。


その行為は、ただ傷を隠すだけの行いなのかもしれない。


それでも、上条当麻はその答えを出した。


インデックスの傍に居る事を。


御坂美琴を突き放す事を。
286 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 02:21:33.59 ID:DjMoqiGDO



「…やり直せるさ、きっと」





そして、上条当麻は前に進む。




第一部 完
287 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 02:28:43.40 ID:DjMoqiGDO
取り敢えず一旦区切りました。

ちゃんとこのスレで続きはやります。

最後かなり説教くせぇ………。

ここまででなんか質問こざいましたらどうぞして下さいね?

じゃあ多分誰もいないだろうから寝ますノシ

第二部はバリバリのヤンデレにするでぇ~ノシ
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2011/03/26(土) 02:31:06.56 ID:OaLyUuvQo
乙乙

できれば上条さんと禁書ちゃんのラブイチャを濃厚にお願いします
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/26(土) 03:22:37.13 ID:ufB6zRqDO
ほんと面白い

ヤンデレールガン期待
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/26(土) 07:16:35.70 ID:W2qpOM0IO
これは続きにマジ期待 
301 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/26(土) 23:33:02.96 ID:DjMoqiGDO
こんばんは。


今日やる事がたくさんあって書き溜め出来なかった………orz


だが即興で寝落ちするまでやります。


取り敢えず第二部のタイトル。






上条「…誰も傷つかない最高の結末……か」





こんな感じで。

ではぼちぼちちまちまと開始します。
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 00:10:25.31 ID:tckOnERDO

 Bpart Prologue



「………ッ!」


「カミやん? どないしたん急に立ち止まって」

「何かあったのかにゃー?」


上条当麻はある日の放課後、土御門元春や青髪ピアスらと共に何処に立ち寄るでもなく、ぶらぶらと街を歩いていた。

そんな中、込み入った雑踏の中にとある少女の姿が目に入った。



「…………」



しかし、その姿はすぐに人混みに紛れて見えなくなってしまった。


「…カミやん?」

「何ボーっとしてるぜよ?」


その少女の事は、よく知っていた。

ここ学園都市の頂点である七人しか居ないlevel5の第三位。

学園都市で五指に入る名門・常盤台中学校のエース。

自分を好きだと言った少女。

そして…自分が傷つけてしまった、傷つける事しか出来なかった少女。

「誰か居たん?」

「……いや、気のせいだった」

「にゃー、ならさっさと歩くぜよ、道の真ん中に突っ立ってたら邪魔になるぜよ」

「ああ、すまん」


気のせいなはずが無い。

あの日以来、初めて彼女の姿を見たが、自分が彼女を見間違うはずが無かった。

彼女は変わらず日々過ごしているだろうか? その確認だけでもしたいとは思う。

だが、上条はむやみに近づいたりしない。

それが彼女の為だ。

そして、自分の為でもある。

(……大丈夫さ、あいつなら…な)

過去に犯した過ちに、胸を締め付けられながら上条は、彼女の強さを信じた。


御坂美琴。


かつての傷の一つである少女とは、上条は既に接点を無くしていた。

もう二度と会うつもりは無かった。

あの日、あの出来事があった時にそう決めた。

あの出来事から、既に二ヶ月が経っている。

 

306 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 00:53:24.67 ID:tckOnERDO

 1

「ただいま、インデックス」


「お帰りなさいとうま!」



上条が帰宅すると、部屋の中で三毛猫のスフィンクスと戯れていたインデックスがパタパタと駆け寄りながら返事を返して来た。



「今日は少しおそかったね、どこか行っていたのとうま?」



鞄を受け取りながらインデックスは上条の帰宅が少し遅かった事の理由を尋ねる。



「ん? ああすまん、土御門達とちょっとぶらぶらしてたんだ」


冷蔵庫の前まで行き、中から飲み物を取り出しながら答える上条。


「むむ、だったら連絡くらいしてほしかったかも!」


受け取った鞄を所定の場所に置いてから上条の傍に再び近づいてきたインデックスが頬を膨らましながら不満を漏らした。


「…だってインデックスさんたら電話にあんまり出てくれないんですもの」


テーブルに取り出した飲み物を置き、台所のシンクの脇にある食器の置いてある籠から二つコップを取る。

一つは元から自分用に持っていた物で、もう一つは似たデザインで色違いのをインデックス用に購入してきた物だ。



「むむむ! またばかにして! でんわくらいもうきちんと使えるもん!」


「はいはい…インデックスたんはおりこうさんですねー」


「むきぃぃぃぃぃぃ!!」


飲み物をコップに注ぐ上条の隣でブンブン手を振り回して怒るインデックス。

どうやら上条の言い草が相当気にいらないらしい。

309 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 01:17:06.02 ID:tckOnERDO


「すまんすまん、ちょっとからかい過ぎたな」



上条はインデックスの頭を撫でながら可笑しそうに微笑む。



「…もう、とうまのばか!」



口では抗議しているインデックスも上条の手には逆らわずに素直に受け入れる。


「ほら、インデックス」



飲み物を注いだコップをインデックスに渡し、上条も自分の分に口をつける。



「…インデックス? 飲まないのか?」



コップを受け取ったままで、それをじっと見つめるインデックス。



「………インデックス?」


「ふぇ!? …なにとうま?」


「飲まないのか?」



不自然な反応をするインデックス。


上条は妙に思いながらも取り敢えずは疑問に思った事をまず口に出した。
310 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 01:46:51.07 ID:tckOnERDO

「う、ううん? のむよ?」



そう言うと、コップの中身を一気に飲み干すインデックス。



「……うぷ…、ごちそうさまなんだよ」



「…炭酸飲料の一気飲みとか罰ゲームじゃねえんだからさぁ…、インデックスさんはなんでそんな体を張った事してるの?」



涙目になりながら口に手を当てるインデックス。


それに上条は呆れながらため息をついた。



「…つーかなんか顔色悪くないか? 大丈夫かよ」



「…ちょっと気持ち悪いかも」



上条はやれやれといった具合に肩を落とす。気持ち悪くなるならやるなよ…、と体を使って表現しているらしい。



「気分悪くなったならベットで休んでろよ、夕飯出来たら呼ぶからさ」


「…うん」



短く返事をしてインデックスはベットに向かった。少しふらついている所をみて上条は、結構無理をしてやったんだな…、とさらに呆れてうなだれる。


取り敢えず夕飯はちょっと軽いやつにしよう。と上条は同情心いっぱいで献立を考え始めた。
311 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 02:16:48.92 ID:tckOnERDO


「…ごちそうさまなんだよ」



上条当麻は、インデックスのその言葉に凄まじい衝撃を受けた。



「なっ…、なんですって!?」



その衝撃たるや、思わず椅子から跳ね上がり、顔つきがガ〇スの仮面みたいになる程だった。



「…その反応はちょっといらっと来るかも」


「どうしたんだインデックス!? さてはあれか魔術師の攻撃か!? きっとそうに違いないおのれ魔術師ーーー!!!!」


「……とうま?」



じとーっとした目を上条に向けるインデックス。しかし上条はあさっての方向に向かって変な事を口走っているのでそれに気づかない。



「くそ!? 一体何処から攻撃してきやがった!? 何が目的なんだ!? こんな異常な現象見た事ねぇぞ!? 俺のインデックスがこんなに少食なはずがな……」



がぶり。と頭を噛まれる事で上条当麻は無事に現実世界に帰還した。
312 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 02:43:11.13 ID:tckOnERDO


「…おかえりとうま」


「………ただいま」



本日二度目の帰還の挨拶を交わし、改めて上条はインデックスと話を始めた。



「どうしたんだよインデックス、…お前が飯残すなんてはっきり言って前代未聞だぞ」


「そこはかとなくばかにしてるね、……ちょっと気持ち悪いだけだもん」



インデックスは体調不良らしい。そういえば顔色も先程よりも悪い。



「調子悪いって…大丈夫か? まさかさっきの一気飲みが原因って事は無いだろうからな、…風邪か?」


「………多分そうかも」


「う~ん…そっか、なら食えなくても無理無いか」


「…………」



上条は心配そうな声でインデックスを気使う。それから常備していた市販の風邪薬と水を用意して、インデックスの前に置いた。


「取り敢えずこれ飲んで今日はもう寝なさい。そうすりゃ明日には治ってるだろ」


「………うん、わかった」
313 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 03:31:25.75 ID:tckOnERDO
その後、上条は風呂に入る為に浴室に向かって行った。

インデックスは渡された薬の前に座ったままで、上条が居なくなるの待っていた。

(……今のうちかな?)

インデックスは渡された薬を持って、トイレに入る。
(…えと、…たしかくすりは飲んじゃだめなんだよ)

インデックスは、最近新しく記憶した…とある本の情報に基づいて思考を巡らせる。

(…中身を流して…ふくろはテーブルに…)

粒状の薬をトイレに流して、その袋のみテーブルの上に置いておく、コップに入った水も半分程流して置いおく。

(……これでとうまはわたしがくすりを飲んだって思うよね)


そこで、インデックスは強烈な吐き気に襲われる。

「…っ…う……!」


急いでトイレに駆け込み、便器の前でしゃがみ込み、胃の中に入っていた物を吐き出してしまった。


「ハァ…ハァ…、…ケホ…とうまがおふろ入っている時でよかったかも」


戻してしまった為か…喉に焼けるような痛みを感じる。


(……でも、…どうしよう)

痛みと吐き気で涙目になりながらインデックスは考える。

(……とうまには………いえない)

インデックスの体調不良と食欲不振、吐き気などにははっきりとした原因があった。

(とうまは……絶対よろこんでくれない)


それはいわゆる、つわりと言われる物だった。


(とうまはあの時の事すごく後悔しているもん…………言えるはずない)


インデックスは妊娠していた。


(どうすればいいの……?)


あの日、あの夜の。

上条当麻の過ちによって授かった命だった。 
322 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 11:36:58.40 ID:tckOnERDO

 2

「………はぁ」



翌日の昼過ぎ、インデックスは気晴らしのつもりで近くにある公園まで散歩に来ていた。

その日は良く晴れて、心地の良い風の吹く、清々しい天気だった。

だが、インデックスの気分は天候のように晴れやかとはいえなかった。



(……わたし一人じゃどうすればいいのか分からないかも、……でも誰に相談すればいいの?)



当然、彼…上条当麻には言えない。


彼の担任である小萌にも言えない。彼女の立場から考えれば間違い無く彼に伝わってしまう。


それ以外の、彼を経由した人達も駄目だ。


……なら、誰が居るだろうか?


「………どうしよう」
323 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 11:57:00.21 ID:tckOnERDO


「…あの、どうかしたの?」



ベンチに座って考え事をしていた最中に声を掛けられた。


インデックスは声の方に顔を向ける。


そこに居たのは顔見知りの少女だった。



「気分でも悪いの? …なんか辛そうだけど」


「…みこと…?」



その少女は、御坂美琴。


あの日を最後に会う事の無くなった、彼…上条当麻を想うもう一人の少女だった。
326 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 12:17:52.91 ID:tckOnERDO


「…なんでみことが?」


「…ん? 私はただ単に学校が短縮授業だったからぶらついてただけだけど……って、そうじゃなくて」



インデックスの呟きに答える美琴だが、自分の事はどうでもいいとばかりに話を続ける。



「なんか調子悪そうだから声掛けたんだけど? もしかして迷惑だった?」



美琴の問い掛けに対してインデックスは首を横に振る。迷惑だなんて思っていない……ただ、驚いてしまった。


インデックスは上条と美琴の間で何があったのかは全て聴いている。


そして、美琴も同じように彼と自分に何があったのか聴いているはずだった。


その事があり、会ってもまさか話し掛けられるとは思って無かったのだ。


「……なんか平気そうね、もしかして勘違いした私?」


「…ううん? 少し気持ち悪いのはあってるかも、…でも心配するほどじゃないんだよ」
327 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 12:42:24.53 ID:tckOnERDO


「そっか、心配する程じゃないならそれに越した事無いよね」



美琴は軽く息をはいてから答える。


その後に、すぐ近くにあった自販機の前まで向かう美琴。



「………ちぇいさーーー!!」



小刻みステップを踏んだと思うと、次の瞬間…鋭いい蹴りを自販機に食らわした。



「………おっ、二つ出て来た! もう一発やる手間が省けたわね」


「……どろぼうなんだよ」



出て来た缶ジュースを手に戻って来た美琴に対して、インデックスは咎めるように言う。



「大丈夫よ、先にお金はたっぷり払ってあるもん」



缶を渡しながら美琴が弁明する。



「水分でも取ればちょっと落ち着くでしょ、あげるから飲んでいいわよ?」


「…ちょっとふくざつだけれども一応ありがとうなんだよ」


美琴はインデックスの隣に座りジュースを飲みはじめる。
330 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 13:01:51.07 ID:tckOnERDO


「……ん? 飲まないの?」


インデックスが缶ジュースを持ったまま動かないので美琴はちょっと不思議に思い聞いてみる。



「あ…えと、…その」


「…………もしかして、……開けられないとか?」


「………ぅ……うん」


「…うわー、そんな奴初めて見た」



ちょっと残念な子を見る目を向けながら、美琴はインデックスから缶を取り上げプルタブを開ける。



「…はい、こんくらい出来ないと笑い者になるわよ?」


「うぐ…、なにも言い返せないかも」



改めてジュースを受け取り、中身をちびちび飲みはじめる。


美琴はその姿を見ながら気になっていた事を聞いてみた。



「ところでさ」


「………ふぇ?」


「なんで私の名前知ってたの? どこかで会った事あったっけ?」


「………え…?」



インデックスは美琴の放った言葉の意味が理解出来なかった。
332 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/27(日) 13:59:54.14 ID:tckOnERDO

 行間1


「…で、止めたは良いがどうするつもりだよ? 目が覚めたらまた暴れ始めンじゃねェのか?」

「……その場合は拘束するしかないな、存在の重要度から言って超電磁砲よりもあの二人の方が遥かに重要だ、…上条当麻と禁書目録を無駄な危険に晒す訳にはいかない、可哀相だが…」

「………」

「……お待ちに…なって下さいまし……!」

「…白井黒子か、気を失っていると思ったんだがな」

「…貴方は…、たしか……いえ、今はそんな事どうでもいいですの……! お姉様を…拘束とは一体何故ですの!?」

「……テメェが知らねェ裏事情ってやつだ、悪ィが教えらンねェな」

「……そんな事……!! させる訳には参りません!!」

「………自分も反対させて戴きます」

「……あン?」

「彼女は裏の世界に引きずりこんで良い人じゃない、こんな事で堕ちるなんて事はあったはならないんです」

「……ならどうする? 都合良くあの二人に関する記憶でも消すのか? そんな芸当“学習装置”でも不可能だぞ」

「……いえ、……可能かもしれないですの」

「………第五位か」

「……はい、…お姉様とはあまり交流はありませんが、…交渉次第では上手く行くと思いますの」

「………本当か?」

「……はい」

「…わかった、その方向で行け…交渉には俺も参加してやるからよォ」

「……よろしいのですか?」

「…クソガキ共がウルセェンだよ、…たくっ、何が誰も傷つかねェようにだ」

「…そうか、だがまずは奴の考えを聴いてからだ、まだはっきりしてない所があるからな」

「……はい」

「…まァ、準備はしておけ…本当にそれで良いならな」

「………………」


340 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk2011/03/29(火) 00:45:00.17 ID:4jCK+7DDO

 3

「……みことは…わたしの事、覚えてないの?」


「……う~ん…ゴメン、多分会うのは初めてだと思う」


「…………ッ!」



自分の事を知らない。


インデックスは美琴の放った言葉を信じられないと言った具合に、言葉を詰まらせた。
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/29(火) 00:45:28.84 ID:wyO3PNDIO
きたー!
342 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 00:47:09.57 ID:4jCK+7DDO


「………ほんとうに覚えてないの?」



同じ事を繰り返しただけの言葉をようやく絞り出したが、美琴の態度や雰囲気はその再確認の言葉を既に必要無い物にしていた。



「……? 一体何よ、私は何かあんたと約束でもしてたの? …こっちは全く身に覚えが無いんだけど?」



インデックスの様子を怪訝に思いながらも言葉を返す美琴。



「……そうじゃないけど、………でも……っ」
343 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 00:48:45.86 ID:4jCK+7DDO


「…う~~ん? あんたみたいな妙な格好の子なんて一回見たら絶対忘れない自信あるんだけどな…、…むぅ?」



…そこで、二人の会話を無理矢理中断させるように声を掛けられる。



「これはこれは、お姉様と白いちb…コホン、あの人の所の修道女さんではありませんか。とミサカは突然二人の背後から声を掛けます」


「ひゃう!?」


「に゙ゃっ!?」
344 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 00:50:28.82 ID:4jCK+7DDO


突然の事だったのでかなりのショックを受ける二人。


「あ…あんた声掛けるならもう少しまともに掛けなさいよ! 後ろからいきなりとか心臓に悪いっつーの!!」


「緊急的処置が必要と判断した為による行為でしたが取り敢えず謝罪しましょう。とミサカは大して悪いと思ってないのに謝罪の言葉を口にします。すいませんでしたお姉様」


「………相変わらずあんた達と話すの疲れるわね」
345 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 00:51:52.35 ID:4jCK+7DDO


肩を落としてため息をはく美琴。それから御坂妹の言葉の中の、気になった部分について聞いてみた。



「ところで緊急的処置ってなによ? まさかいきなり話し掛けるのがそうだったとか言わないわよね?」


「そのまさかです。とミサカはお姉様の予測を覆します」


「………それ何の意味があんのよ?」


「黙秘します。とミサカは口元に指でばってんを作りながら口をつぐみます」


「…………やっぱ疲れる」
346 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 00:53:31.28 ID:4jCK+7DDO


そう呟いて、美琴はうなだれながら追求を諦めた。





「…ところでお姉様、この白いのは実はミサカの友人なんです。とミサカは話し掛けた本題を切り出します」


「…へ? そうなの? ……ていうかあんたって友達居たの?」


「えっ、なにその失礼な発言。とミサカはちょっと傷つきました。しまいには泣くぞ畜生」


「はいはいわかったから、…で?」


「………まあ良いです、つまりこの白いのはミサカとお姉様を間違えてしまった訳です。とミサカはいじけながら説明します」
347 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 00:55:06.69 ID:4jCK+7DDO

「…ふぇ? …でも…むぐっ」


御坂妹は何か言いかけたインデックスの口を塞ぎ、そして話を合わせろといった具合に目配せをした。



「う~ん? でもその子私の名前知ってたわよ?」


「…えーっと、それはあれです。え~……ミサカがみことと名乗っていたからです。とミサカはめんどくさいので適当な言い訳をします」


「いや言い訳になってないから、てか今考えたでしょそれ」


「……???」
348 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 00:56:00.36 ID:4jCK+7DDO


「まあそういう事なのでこの白いのはミサカに任せてください。とミサカはボロがでる前に退散します。アデュー」


「ほぇ?」


「へっ?」


そう言って、御坂妹はインデックス担いで走り去る。その場に残された美琴はただ唖然としるしか無かった。


「…なんなの一体?」
349 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 01:00:25.11 ID:4jCK+7DDO

 4

「ただいま~っと、………あれ…インデックス?」



夕方、上条が帰宅すると…いつもなら近寄って来るインデックスが珍しく近寄って来ないので不思議に思い、首を傾げる。



「インデックス? ………………どうしたんだボーっとして?」



部屋の隅で膝を抱え、何処を見るでもなくぼんやりしているインデックスに、上条は怪訝な顔をする。
350 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 01:01:33.80 ID:4jCK+7DDO


彼女が家の中で何もせずにごろごろしてるのは基本動作の一つだが、こんな風にボーっとしているのは見た事が無い。



「………あ…、とうまお帰りなさい」


ようやく上条に気づいたインデックス。



「ただいま、…どうかしたのか? なんか変だぞ?」


「…そうかな? べつになんでもないかも」



立ち上がりながら言うインデックス、そうは言うが明らかに元気が無い。
351 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 01:04:51.19 ID:4jCK+7DDO
ちょっと書きながらになるんで投下遅くなります。



寝たい人は明日見た方が良いかもしれん。

ご容赦を……。
352 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 01:12:44.42 ID:4jCK+7DDO

「…インデックス?」


「ねえ、とうま」



インデックスは上条に向かい合うように立ち、瞳を伏せながら問い掛ける。



「…とうまは昔の記憶が無いんでしょ?」


「…ああ、そうだけど……どうしたいきなり?」


「………もし、その記憶の中にすごく大切な思い出があって、…でも、その思い出はすごく辛い物だったとしたら……とうまはどう思う?」
353 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 01:29:47.45 ID:4jCK+7DDO
インデックスは御坂妹から彼女、御坂美琴の事を聞いた。


彼女が上条から拒まれ、その後に何があったかを、全て。


御坂美琴は、上条に拒絶された後、暴走し破壊に走ったという事。


それを止めたのが学園都市の第一位、一方通行だと言う事。


…一方通行が美琴を止めなければ、自分と彼は危険だったという事。


そして、再度の暴走を防ぐ為に…美琴の意識から自分と彼に関する事を、全て切り離し…隔離したという事(御坂妹の説明ではそのように言っていた)。


つまり、御坂美琴は彼と自分の事を忘れさせられたという事だった。
354 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 01:42:02.87 ID:4jCK+7DDO


それは幸せなのだろうか?


それとも、辛い事なのだろうか?


インデックスは現在からおおよそ一年と数ヶ月分の記憶…思い出しかない。


過去の自分は幸福だったのだろうか?


それとも、自分が彼…上条当麻に出会う前のような、一人ぼっちで寂しい、辛い思い出ばかりだったのだろうか?


人づてにはどのように過ごしていたか、ある程度は聴いている。


だが、自分自身がどのように考え、どのよう感情を持って過ごしたかは、…分からない。
355 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 01:51:07.51 ID:4jCK+7DDO


ならば、同じく過去の記憶を失ってしまった彼はどう考えるのだろうか?


自分には分からない答えを見つけているかもしれない。



「………とうまは思い出が無くても平気?」


「…………思い出、か」
356 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 02:11:36.53 ID:4jCK+7DDO


「………さあな、平気かどうかは分かんねえよ」



上条はボリボリと頭を掻きながら、なんでもないように答えた。


「分かるはずねぇじゃん、だって辛いかどうかさえ覚えてねえんだろ?」


「…………」


「まあでも…、無いよりはあった方が良いと思うぞ?」


「………それは…なんで?」



上条は不安げな表情のインデックスに、当たり前の事を言うように、はっきりとした声で言った。



「大切なんだろ? その思い出は」


「…………ッ」
357 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 02:35:13.58 ID:4jCK+7DDO


「失ってからじゃ分かんねえけど、失う前なら簡単な問題だな、大切なら絶対に失いたくないって思うはずだろ? どんなに辛い思い出でもな」


「…………」


「まああれだ、ぶっちゃけ上条さんにする質問じゃ無いですよインデックス? 記憶がぶっ飛んだら平気もクソも無いってのは確認済みだしな」


「………そっか…うん」



インデックスは何やら納得出来たようだった。上条の顔に真っ直ぐ瞳を向け、にっこりと微笑む。



「…ところで、なんでそんな事聴いて来たんでせう?」


「ないしょかも……ん…」


「…へ? イン…ん…っ!?」



インデックスはほうけた顔をした彼、上条当麻の唇に自らの唇を重ねた。
358 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 02:46:56.56 ID:4jCK+7DDO




その翌日の朝、上条はテーブルの上にあったメモを見つけた。




そこにはこう書いてあった。



『 とうまへ  みことにあってあげて? それでたいせつなものをとりもどしてあげて?』




『 いままでありがとう   さよなら index 』



部屋の中には、上条当麻一人だけしかいなかった。 
369 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 18:28:56.61 ID:4jCK+7DDO

 行間(touma)

上条は走る。


「はぁ…っ…はぁ…っ!」


走り出してから既に、かなり経っている。


(……なんで…!)


もう体力の限界などとっくに過ぎた。


(なんでだよ……!?)


身体から悲鳴を上げるような痛みが込み上げてくる。


(…ずっと…笑ってたじゃねえか!! ちゃんとやり直せてたじゃねえか!!)


それを無視して、無理矢理脚を動かし続ける。


(そう思ってたのは………俺だけなのかよ!?)


大切なモノを失いたくない一心で…。


(…教えてくれよ……!!)


ひたすらに走った。


「…インデックス!!」 
370 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 18:41:46.81 ID:4jCK+7DDO


「……お待たせしました」


「……うん」



学園都市の第23学区。


そこにある空港の一角に、インデックスは居た。


彼女と話しているのは、神裂火織。


インデックスが昨晩、迎えに来て貰えるように頼んだ為、彼女はここに居た。離れた所にはステイルの姿もある。


二人共、彼女の理解者だ。



「…ありがとうかおり、いきなりだったのに来て貰って」 
371 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 18:44:29.46 ID:4jCK+7DDO

しまった、数字入れんの忘れてた。

>>370から5です。 
372 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 18:55:07.50 ID:4jCK+7DDO


「それは構いませんよ、……只、事情だけは聞かせて貰えませんか?」


「…………それは……」


「……場所を変えましょうか、人の多い所では話しづらいようですし」


神裂の提案に頷くインデックス。
その表情は暗く沈んでおり、普段のような明るい雰囲気は全く無かった。
373 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 19:07:36.88 ID:4jCK+7DDO


「……神裂」



ステイルが、二人から少し離れた所から声を掛ける。



「僕はここに残ってるよ、…ここに来る奴が居るだろうからね」


「……分かりました。では後で連絡します」


「……ああ頼むよ、…それと彼女の話が僕も知って良い事なら、…その時教えてくれ」


「…………」


「……はい」



それから、インデックスと神裂は空港を離れる為に歩き出す。
374 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 19:15:07.51 ID:4jCK+7DDO


「………すている」


「……なんだい?」



去り際、インデックスはステイルにこう告げた。



「とうまに何もしないでね? ……わたしはへいきだから、…だから」


「………ッ」



とうまを傷つけないでね?



それだけ告げると、インデックスは神裂の進む方へと歩き出した。
375 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 19:17:14.97 ID:4jCK+7DDO


「………やれやれだな」


ステイルは禁煙のロビーで、周りの事も憚らずに煙草に火を付ける。



「……まったく、なんて事を言うんだろうね…」



煙草の煙をゆっくりとした動作で吐き出し、それと共に…自身の想う心も口に出す。



「そんな事を言われて、…君にそんな事を言わせる奴を僕がただで済ますはずが無いだろう……!!」




「…約束を破ったな? ……上条当麻!!」
376 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 19:29:34.18 ID:4jCK+7DDO

 6


「………話はこれでぜんぶかも」


インデックスと神裂は空港を出て、すぐ近くのファミレスに来ていた。



「…………………………………………………………」


「……かおり?」



インデックスの方を凝視したまま固まってしまっている神裂。


インデックスが声を掛けると、今度は肩がプルプルと震えだし、…次の瞬間。



「…あ…んの糞ド素人がああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!? なんて事しでかしてんだああああああああああああああああああああっっ!!!!!!」



周りの迷惑も考えずに突如として叫びだした。
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 19:51:19.02 ID:4jCK+7DDO


「か…かおり!? 落ち着くんだよ!!」



わたわたと慌てながら神裂を落ち着かせようとするインデックス。通常とは逆のパターンなので珍しい光景である。



「フー…フー…、…ふぅ、すいません少し取り乱しました」



「すこしではなかったかも」


一応落ち着いた神裂だが、まだ怒りは収まってないらしい。叫んだ為に喉が渇いたのだろう、彼女は自分の頼んだ飲み物を手にする。…その手に持ったグラスにひび割れが出来いた。



「……あんまりとうまを責めないでほしいかも」


「……しかし!」



インデックスは神裂の怒りを咎める。


自分の為に怒ってくれていいるのは素直に嬉しいと思う。


だが、これは彼だけが悪い訳では無い。


少なくとも、インデックス自身はそう考えていた。
378 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 19:53:27.22 ID:4jCK+7DDO
おうふ……orz

また同じミスを……。


名前忘れた………。
379 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 20:08:47.74 ID:4jCK+7DDO


「……貴女はそれで良いのですか?」


「…うん、わたしもうとうまの事は赦してる」


「………そうですか」


神裂は納得はしていないようではあるが、ようやく怒りを静めた。


「……事情は分かりました。…ですが」


「………?」



神裂は、…恐らく間違いないと確信を持って口を開いた。



「貴女は本当にイギリスに
戻るつもりなのですか?」


「……ぇ…」


「いえ…違いますね、貴女は本当は何処に居たいのですか?」


「…………ッ」



その言葉は、インデックスの心を深く抉った。
380 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 20:41:24.92 ID:4jCK+7DDO
「貴女は…あの少年の事を赦したと言いました。……なら、何故イギリスに戻る必要があるのです?」


「それは!! …っ…みことの為に…!!」


そこまで言って、インデックスは俯く。

唇を噛み締め、瞳に涙を浮かべながら。

何かに必死に堪えるように。


「………」


「……わたしがいなければ…きっととうまは……みことの事を助けるはずなんだよ……、だって……思い出が無くってしまう事は……とうまが一番辛いって知ってるはずだから……!!」


「………」


「みことだけじゃない…!! わたしも………とうまだって…、みことに忘れられてしまうのはすごく嫌だもん!! ……かおりだって……すているも!! わたしの思い出をころす事はすごく辛かったんでしょ!?」


「……っ…」


「だから……わたしは!!」



そこで、インデックスは頬に感じる痛みの為に言葉を止める。



「…ぁぅ……っ…!」


「…もう辞めなさい…!」



神裂は彼女の言葉を止める為に、その頬を叩いた。
381 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 20:59:31.15 ID:4jCK+7DDO


「私が聞きたいのはそんな事ではありません…!!」


神裂は悲しげに顔を歪めながら、諭すようにインデックスに言葉を投げる。


「私が聞きたいのは!! 貴女がどうしたいかです!! ……そんな自分の幸福を投げ棄てるような言葉じゃない!!」


「……でも…っ」


「貴女はそれで良いのですか!? それで貴女は幸福になれるのですか!? 貴女は…彼が傍に居なくても辛くないのですか!?」



「………っ…う…」



神裂は、目の前に居る大切な友人を責める。


彼女の…その隠された本心を引き出す為に。
382 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 21:15:16.72 ID:4jCK+7DDO

「…辛い思いをしてまで…自分の幸福を棄ててまで貴女が犠牲になる必要が何処にあるんです?」


「…う…っ…ひっ…ぅ…」



神裂の言葉を聴いて、泣き出してしまうインデックス。



神裂はもう一度、彼女に問い掛けた。



「もう一度聞きます。…貴女は本当にそれで良いのですか? 彼から離れて…貴女は幸福になれるのですか?」



「………わたし…は…」



インデックスはその問い掛けに答え始める。



「…とうまと……いっしょに…」



本当の、自分自身の想いをさらけ出す。



「ずっと…ぅ…くっ…、居たいよ……! ひっ…く…」



泣きながら。


押し殺そうと決めていた想いを…。



「…とうまが…いなきゃ……ふ…ぇ…、やだ…ょ…!」
383 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 21:44:19.26 ID:4jCK+7DDO

 7


「………そうか、わかったよ。…じゃあ切るよ?」



ステイルが神裂からの連絡を終えるのと、彼が空港に留まった目的の少年を見つけたのはほとんど同時だった。



「……やっと来たか」


「…ステイル」


上条当麻。


ステイルは、この男に用がある為にインデックス達について行かなかった。


「取り敢えず聞こうか、何しに此処へ来た?」



上条は肩で息をしながらも、振り絞るように声を上げる。



「インデックスは何処だ……!!」


「…質問してるのは僕だ、……何しに此処に来た」



上条の表情が険しくなる。こういった問答をしている間すら惜しいといった、…まるで余裕の無い顔つきだ。



「……迎えに来た、…インデックスはイギリスに行かせない……!!」


「行かせない…か、おかしな事を言うね、彼女は元々イギリスが故郷だよ?」


「…いいからインデックスの居る場所を教えろよ!!」



上条は今にも飛び掛かりそうな勢いでステイルに噛み付いた。 
386 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 21:59:24.85 ID:4jCK+7DDO
「…ふん、ついて来い」


「…………」



ステイルがどこかに向かって歩き出したので、上条はその後ろについて行く。



……しばらく歩き、ステイルが立ち止まった場所は空港の外、その近くにある何かを建設中らしい作業現場だった。



「…さて、事前に人払いのルーンを貼ってあるからね、多少の事なら騒ぎにはならないだろう」


「……てめぇ、インデックスが居る所に行くんじゃねえのかよ?」



上条の言葉にステイルはつまらなさそうに答えた。



「誰が案内するなんて言った? 僕はただついて来いと言っただけだぞ」


「………てめぇ…!」 
390 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 22:21:53.37 ID:4jCK+7DDO


「…上条当麻」


「………」



ステイルを睨みつける上条。


その表情は獣のように険しい。



「…君がそんな顔をするなんて知らなかったよ。…今まで戦って来た奴らにもそんな顔を向けた事無いんじゃないか?」


「……いいからインデックスの居場所を教えろ!! てめぇは知ってんだろ!!」


「知ってるさ、僕らを呼んだのは彼女だからね。………だが」



言葉を一旦切るステイル。


…そして、上条に負けぬ程に険しい顔になって先を続けた。



「…逢わせると思うのかよ糞野郎」



その言葉と共に、ステイルの両手から炎が迸る。
391 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 22:40:51.29 ID:4jCK+7DDO



両手に炎剣を振りかざし、ステイルは上条に飛び掛かる。



「……そう…かよ…!」



上条は右手を強く握り締め、同じくステイルに飛び掛かって行った。



「だったら…!! 殴り倒してでも聞き出すぞステイル!!」



二人共真正面からぶつかり合う。


上条はステイルの左手の炎剣に右手を突き出す。瞬間、炎剣は何か砕けるような音と共に消え失せる。



「僕は君に言ったはずだ!! “あの子の笑顔を死んでも守れ”と!!」


「…………ッ!」
392 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 22:57:44.19 ID:4jCK+7DDO


炎剣の消えた左手で上条の右腕を掴む。


直ぐさま右手の炎剣を横に振るうが、上条は前に転がり込むように避わし、さらにステイルに体当たりするように身体をぶつけた。



「…ぐっ!! …だが君はあの子に何をした!? 君自身が守ると決めたあの子に何をした!? 言ってみろよ上条当麻!!」



バランスを崩された拍子に掴んでいた腕を外される。だが、懐に入ってきた上条の腹に、膝蹴りを入れて相手の動きを鈍らせた。



「が…っ…!? …く…そ…!」
393 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 23:17:20.22 ID:4jCK+7DDO


「なんであの子を傷つけた!? なんであの子に涙を流させた!! ………なんであの子を汚すような真似をした!!」



炎剣を振り下ろして上条の身体を狙う。
それに対して上条は前転の要領で転がるように避ける。



「……っ……!」



ステイルは上条が離れた隙に、左手に炎剣を再び燃え上がらせる。



「答えろよ上条当麻!! お前はあの子を傷つけてまで共に居る事が赦されると思うのかを!! あの子が赦したからそれでお前の罪が消えたのかどうかを!!」


「…………っ…!!」 
396 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 23:38:07.62 ID:4jCK+7DDO


両手の炎剣を合わせ、一本の巨大な炎剣を生み出す。

それを突き刺すような体勢で、上条目掛けて身体ごと突進する。



「少なくとも僕は赦さない!! ほかの誰が赦しても、例え神が赦しても!! …僕だけはお前を絶対に赦さない!!」


「…ステイル…!!」


炎剣を携え突撃してきたステイルに、上条は右手を前に突き出してそれに備える。


次の瞬間、ステイルの炎剣と上条の右手がぶつかり合い、ステイルの炎剣は跡形も無く消え去った。



「……あの子に子供が出来た事に君は気づいているか!?」


「……な……」


ステイルの言葉に絶句する上条。


ステイルはそんな上条の顔面を全力で殴り飛ばした。


「あ…ぐ……っ…!?」


「…わかったかよ? ……君の罪は大きいんだ、……君が思っているより…ずっと!」
397 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/29(火) 23:56:08.92 ID:4jCK+7DDO
ステイルは殴られた反動で倒れ込んだ上条の胸倉を掴み、無理矢理に立させる。


「…もう一度聞くぞ上条当麻。お前は此処に何をしに来た?」


「………ぁ……」



呆けた反応をする上条を、ステイルはもう一度殴り飛ばす。


地面に転がるように倒れる上条。



「何度でも聞くぞ、…何をしに来た? あの子に逢ってそれからどうする?」


「…子…供…? …俺…の?」



また殴りつける。



「お前以外に誰が居る? 見苦しいからそんな確認なんかしないでくれ」


「…ぁ…、な…?」
398 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 00:23:26.14 ID:k6ZZnnGDO
「…良かったな糞野郎」


「………」



ステイルは殺意を剥き出しにしながら言葉を続ける。


上条に掴み掛かり、何度も殴りながら。


「僕は今すぐにでも君を消し炭にしたい。…でもそれをやると…あの子は悲しむんだよ…」


「イ…ンデッ…がふっ!?」


「僕の前であの子を呼ぶな、それだけであの子が汚れる」



上条の囁きを拳で無理矢理中断させるステイル。殴り続ける彼の手も既に皮膚が擦り切れ、上条の血と彼自身の血によって、酷く汚れてしまっていた。



「だから僕は君を殺さない。あの子の瞳からは涙を流させない、それは僕だけは絶対に守るんだ……例え君に汚されて、それでも君しか見えていない愚かな娘でも…だ」


「………ぅ…ぐ…」



ステイルは上条を投げ棄てるように解放する。



「…失望したよ上条当麻、君が約束を破るなんて正直思っても無かった」


その言葉を最後にステイルはその場を後にした。



「……お…れ……は…」



残された上条は、しばらく倒れたまま動けなかった。 
408 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 15:23:09.23 ID:k6ZZnnGDO

 行間(14&18)

「…気は済みましたかステイル」


「……神裂」



作業現場を出てすぐの所で、ステイルは神裂に呼び掛けられた。


「…あの子は?」


「近くの店で待たせています。…貴方も今は彼女が居ない方が都合が良いでしょう?」



ステイルは煙草を懐から取り出して、それに火を付ける。



「まあ…ね、正直今僕がしているだろう顔も…あそこで転がっている奴の情けない顔も、あの子には見せたくないからね」


「……話したのですね?」



神裂の表情も曇る。
409 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 15:24:22.56 ID:k6ZZnnGDO


「ああ、言ってやったよ。僕のような第三者が告げていい事じゃないだろうけど……敢えて告げさせて貰った」


「…それで良いと思います。もし貴方が言わなかったら私が彼に告げていましたから」



ステイルは煙草を根本近くまで吸い切ってから無造作に投げ捨てる。その吸い殻は地面に届く前に燃え上がり、灰になって辺りに霧散した。



「…彼はこの後どうするのでしょうか?」


「さあね、それは奴にしか分からないよ。…僕もこれ以上何か言う気も無いしね」



二本目の煙草を口元で揺らしながらステイルは歩き出す。



「取り敢えずあの子の所へ行こうか、折角休暇まで取って来たんだ、あの子に観光でも付き合って貰うとしよう」


「……ステイル」


「僕らが遊んでいる間に…あの馬鹿はやるべき事を見つけるだろうさ」
410 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 15:27:01.19 ID:k6ZZnnGDO

 8

夕方、上条当麻は第七学区…そこにある、彼が普段からよく立ち寄る公園まで来ていた。



「………」



彼自身、何故ここに居るのかよく分かっていない。


ステイルとの一件の後、呆然としたまま歩きつづけ、気がついたらこの公園のベンチに座っていた。
411 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 15:28:26.45 ID:k6ZZnnGDO


「……インデックス」



インデックスに子供が出来た。


ステイルははっきりとそう告げた。



「…俺…の…」



間違い無く、あの日に宿った命だ。


彼はあの日以来、彼女を抱いていない。


インデックスに、あの日の過ちを…傷つけた事実を思い起こさせるのが嫌だった為に。


…否、自身の過ちを思い出したくなかったからかもしれない。
412 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 15:29:46.72 ID:k6ZZnnGDO


「………どうすりゃいいんだよ……」



彼女が自分に言わなかった理由はすぐに予測出来た。


多分、恐かったのだろう。


当たり前だ、…彼女の立場、性格…それに自分の立場や状況を考えれば、言い出せなくても無理は無い。


それ以上に、今…自分がしているであろう表情を見たくなかったのだろう。


きっと彼女は、自分にこう望んでいるはずだ。


二人の間に命が宿った事を、喜んで欲しい。…と。
413 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 15:30:50.01 ID:k6ZZnnGDO


「………喜べって…、………ははっ…無理だっつの」


正直な所、彼の意見はそれだった。


喜びたくても…無理だった。



「俺……学生だぞ? …責任なんて……まだ取れねぇよ……」



上条はありふれた言い訳を口に出す。


自分の、本当に思い起こした理由を隠すように。
414 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 15:31:59.11 ID:k6ZZnnGDO


(インデックスは……産むだろうな、…俺が何言っても)



自分はインデックスに、恐らくこう告げるはずだ。


堕ろせ、と。


それ以外に、上条は思いつかない。


産ませてやりたくとも、上条にはそれを支持する事は出来ない。


…だが、それを告げる勇気も無い。



(……どうすりゃ良いんだよ)
415 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 15:32:47.91 ID:k6ZZnnGDO


そこで、上条の前を通り過ぎていく少女が居た。



「………ちぇいさーーー!!」


その少女は自販機に鋭い蹴りを入れて、中から缶ジュースを吐き出させる。



「…っ…御…坂!?」



その少女は御坂美琴。


あの日以来、二度と会わないと決めていた少女が目の前に居た。
416 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 15:45:33.82 ID:k6ZZnnGDO


「………ん?」


「………ッ」



美琴が上条の声に反応し振り向いた。


上条は咄嗟に呼んでしまったが、その事をすぐに後悔した。



(……話し掛けてどうすんだよ……くそ…っ)


「…何か用?」



美琴はなんでもないような口ぶりで聞き返して来る。


「……いや…っ…」



上条は口ごもる。今、彼女に掛けるような言葉は何も持っていない。


黙ったまま眼を逸らす上条に、美琴が取った行動はこうだった。



「…ちぇいさーーー!!」



もう一度自販機に蹴りを入れる事だ。
417 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 16:01:49.30 ID:k6ZZnnGDO


美琴の行動に理解が及ばない上条は、ただ目を点にして美琴の方を見る。



「……はい!」


「………へ?」



差し出された缶ジュースを見ながら上条はますます理解が追いつかなくなる。



「良いから受け取りなさいよ、口止め料よ口止め料!」


「………はぁ?」


「一応マナーが悪い事だと思うしね、学校にチクられても嫌だし、これあげるから黙っててくんない?」



上条は「んな事気にするなら初めからやんなよ…」と思いつつも缶ジュースを素直に受け取った。
418 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 16:17:23.95 ID:k6ZZnnGDO
「ちょっと隣座らせてくんない?」


「…あ…ああ」



美琴の言葉に上条はベンチにスペースを開ける。


美琴はそこに座りながら缶ジュースを空け、上条を気にする様子もなく飲み始める。



「…………」



上条は訝しむ。


何故、目の前の少女はこんな自然な態度を取れるのか?



(……あれか? 私過去は振り返らない主義なの! …って感じなんですかね?)



上条はテレビなんかでよく聞くフレーズを思い浮かべる…が、どうも違う気がする。


取り敢えず、上条は声を掛ける事にした。 
420 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 16:34:18.91 ID:k6ZZnnGDO
「…その、久しぶりだな……御坂」


「………ん?」



上条の言葉で美琴が振り向く。



「……えーと、…元気だったか?」


「……ちょっと待った!」



美琴は上条の話を遮り、待ったをかける。



「…もしかして勘違いしてない?」


「……え?」


「昨日の子もそうだけど……私とそっくりだけどゴーグル掛けた子が居るんだけど、そっちと間違ってない?」


「…御坂妹の事か? たしかに瓜二つだけど、…お前は御坂美琴だろ?」


「…間違いじゃないの? ていうかあの子の事までなんか知ってるっぽい……」



美琴はベンチから立ち上がり後ずさるように上条から距離を取る。



「………御坂?」


「……………………もしかして、…ストーカー?」



上条は流石にその言い草には絶句した。
422 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 16:54:28.41 ID:k6ZZnnGDO
「…………………………………えーと、冗談だよな?」



美琴がじりじりと距離を開けて行くので、上条も取り敢えず立ち上がって近づいて行く。



「…ちょ…! こっちくんな!!」



バチバチと電撃を出して威嚇する美琴。上条はどうにも美琴の自分に対する態度に違和感を覚える。



「……どうしたんだ御坂? …お前なんか変だぞ?」


「うっさいわね! 大体あんた何処の誰よ!? 私はあんたなんか知らないわよ!?」


「……なっ……!?」



自分を知らない?


御坂美琴が?



「……どういう事だ?」



上条はつかみ掛かるように美琴に一気に近づく。



「……!? …近づくなっつってんのよ!!」



触れられる前に美琴から電撃が放たれる。…それを右手で打ち消しながら、上条は美琴の腕を掴んだ。
423 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 17:05:38.54 ID:k6ZZnnGDO


「…この…っ…離せばか!!」


腕を捕まれ、じたばたと抵抗する美琴。



「つかなんなのよあんたは!? なんで能力が!?」


「……御坂! 一体どうしたんだよ!? 俺が誰だか分かんねえのか!?」


「…しつこいわね! 知らないって言ってんでしょ!?」



なんとか逃れようとする美琴、それを上条は力任せに引き止める。



(一体なんなんだよ!? 御坂はどうしちまったんだ!?)
425 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 17:12:40.30 ID:k6ZZnnGDO



「…ふぁ…っ…!?」


その時、美琴がバランスを崩し、倒れそうになる。



「………っ……!」



上条は、咄嗟に美琴が転ばないように支えるように美琴の身体に触れた。



左手は腰の辺りに。



右手は、彼女の頭に。



バキンッ



瞬間、何かを砕く音が辺りに響いた。
428 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 18:02:13.90 ID:k6ZZnnGDO


「………!?」



上条は自分の右手、“幻想殺し”が発動した事を感じ取った。



「……………」



美琴は真っ直ぐに上条を見つめている。その顔には少しだけ驚きが混ざっているように見える。



(………何を…壊したんだ……?)
429 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 18:06:44.08 ID:k6ZZnnGDO


上条は知らなかった。


御坂美琴の記憶の一部にブロックが掛かっていた事を。


その記憶は、自分とインデックスに関する記憶である事を。


そして、そのブロックは他者の異能による物だという事を。


上条当麻は、知らずにその幻想を殺してしまった。
430 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 18:12:20.17 ID:k6ZZnnGDO


「………放して、平気だから」



上条は美琴の一言で意識を外に向けた。



「…あ…ああ、すまない」



ちゃんと立たせるような体勢にしてから美琴から手を離し、向かい合う。



「……御坂…さっきのは」


「…ん、気にする事ないわよ」


「…………」



上条は美琴の態度が急変した事に気づく。先程までの邪険な態度がまるで無い。
431 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 18:20:26.51 ID:k6ZZnnGDO



「……お前、どうしたんだ? やっぱり俺が分からないのか?」


上条の問い掛けに美琴はなんでもなさそうに、少しだけ妖しく微笑んで告げた。


「…さっきのは冗談よ、只単に当麻と会ったのが久しぶりだったからちょっとからかってやろうと思って」


「………そう…なのか?」


「そうよ? もしかして本気にしたの?」


「……いや…ならいいんだ」


美琴の可笑しそうにする口ぶりに、上条は取り敢えずは納得した。
432 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 18:38:28.54 ID:k6ZZnnGDO


「ところで、…当麻はまた何か悩みでもあったの?」



美琴の突然の問い掛けに上条は言葉を詰まらせる。



「…なんでもねえよ、気にするな」



「……ふ~ん? …そお?」



上条は言葉を濁して追求を避わす。


「ほんとに何でもねえよ、…心配ないからさ」


「じゃあその傷だらけの顔は何? 只の喧嘩ならそんなになるまでやらないでしょ当麻は?」


「……う…」



的確な突っ込みばかりする美琴に上条は口ごもるしかない。
433 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 18:50:21.86 ID:k6ZZnnGDO


「…まあ良いわ、言いたくないみたいだし」


「………」



ようやく追求を辞めた美琴に、上条は少しだけ安堵する。



「あの時はあっさり喋ったのになぁ…、ちょっと悔しいかも?」


「………ッ!」



上条を横目に見ながら呟いた一言が再度、上条の胸を締め付けた。



「……御坂…」


「ゴメンゴメン♪、ちょっと意地悪だったよね」



そう言う彼女はただ笑顔だった。
434 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 19:03:07.85 ID:k6ZZnnGDO


「…じゃあ私帰るね?」


「…ああ」



そう告げて美琴は歩き出す。



「………あ、そうだ」



少し離れた所から、美琴は上条に向き直る。



「これからはちょっとくらい会ってよね? 流石に二度と会わないとか馬鹿みたいだもん」


「……いいのか?」



美琴は上条の返事に対して、指先を向けて銃を撃つような仕草で返す。



「…当麻が居ないとストレス溜まる一方なのよ、だからたまには発散させてよね!!」



それだけ言って、美琴は駆け出した。



「……なんか、心配する程でもなかった…のか?」



残された上条は見えなくなるまで美琴の背中を見つめていた。
435 :しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 19:23:34.73 ID:k6ZZnnGDO

 行間(mikoto2)


思い出した。


…思い出した!


彼…当麻の事を…!


やっぱりだ…。


当麻は私を助けてくれる。


邪魔した奴らの企みから私の思い出を取り返してくれた……!


当麻の事を忘れてたなんて…、例え心理掌握の能力とはいえ…自分自身が許せない。


でも…それはもう良い。


だって、当麻が思い出させてくれたもん。


だからそれは良い。


記憶は戻った……後は当麻を私の当麻にするんだ。


でも……今すぐ当麻の所に行っても駄目。


焦っては駄目だ。



無理矢理に押し通して…、またあの一方通行が出て来たらまずい。


だから慎重に動く。


周りには、…当麻以外には、私はまだ当麻の事を忘れている事にしよう。


そうすれば…目眩ましになるはずだ。


ゆっくり、確実に当麻を手に入れよう。


大丈夫だ、きっと上手く行く。


私は、学園都市に七人しか居ないlevel5の第三位。



御坂美琴なんだから。
436しょーちゃん ◆QsM9ueLMyk[sage]:2011/03/30(水) 19:25:43.17 ID:k6ZZnnGDO
今日は終わりでェす。


ではノシ 
437VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/03/30(水) 19:27:26.63 ID:/hlMTLKjo
なぜ御坂は振るとすぐ面倒な女になるのか……
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/03/30(水) 20:26:30.46 ID:LXDJnlfs0

予想通り短絡的なその場凌ぎな対応が事態を余計に悪化させたな・・・
美琴の事を思いやったのって結果からすればインデックスただ一人というw

不幸な結末の予感しかしないがここまで来たら最後まで見届ける!
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/30(水) 20:31:40.95 ID:2pAAEUvj0
おつ
病んでる美琴いいね
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/30(水) 21:43:16.47 ID:ojCPYyEJo
バッドエンドの予感がプンプンするわ……
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/03/30(水) 22:18:20.79 ID:/ixT5DWlo
やばいこのぞくぞくしていく感じがたまらん
448VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/30(水) 22:24:36.08 ID:vh+IAF/IO
素晴らしい…… 

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