2014年5月3日土曜日

とある四人の恋愛模様

 
※未完作品
 
1 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:03:05.01 ID:5Lu3WJlC0
とあるスレ

結標滝壺御坂初春「きっさてん!!」

の番外編です。

明らかにレス数過多になりそうだったのと若干の方向性の違いにより別スレ立てました。

※多少ですが18禁描写が出てきますので良い子は読まないでください。
※特定カプですのでお嫌いな方は読まない方がいいです。
※本編以上に更新が不定期です(二か月とか更新しない場合もあると思います)
※いろいろと好みが分かれる表現が出てきます。ご注意ください。

2 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:04:44.67 ID:5Lu3WJlC0




あの日全てと言っていいほどの、全てが終わった。








                       ―――数日後、『グループ』は解散した。




4 : ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:06:33.53 ID:5Lu3WJlC0


「襲う? 別にいいけど……貴方みたいな童貞の白もやしにできるのかしら?」



小さな部屋に淡々とした声が響く。



声の主である赤毛の少女は2シーターほどのソファの真ん中に深く座り、体重を預けている。
その身に着けているのは青いスカートと金属の板でできた飾りのベルトだけで上半身には何もつけておらず、誰が見ても小さいとは言えない豊満な胸が露出していた。


その手には何も持っていない。


怖がっても強がっても嘆いても悲しんでも憂いてもいない、何の揺らぎも感じられない平坦な声。
かすかに見える感情は子供を愛でるような嘲笑。そして少しだけ圧迫された体勢からくる若干の苦しみ。

「そもそも私の体型じゃ貴方の趣味には合わないんじゃない? その粗末なモノが勃つのかしらね」



赤毛の少女の目の前には一人の少年がいた。



全体的に線の細い、白髪で白い陶磁器のような肌を持つ少年で、宝石のような赤い目をしている。
整った顔と相まって、神話時代の彫刻やビジュアル系バンドのメンバーのようにも見える。


その赤い目に宿る暗く、深い夜のような鈍い闇がなければ。


白く細い少年はソファの背もたれにその手を置き、赤毛の少女を数センチの距離で見据えている。
額が、鼻が、唇が、ほんの少しでぶつかってしまうそんな距離。

赤毛の少女は静かな水面のような澄んだ瞳と優しい微笑みを浮かべ、白い少年を見上げている。
白い少年は面白くなさそうな淡泊な表情で、赤毛の少女を見下ろしている。



「分かった」



言葉とともに白く細い少年の綺麗な顔がぐにゃりと笑みで歪む。



楽しそうに。


愉しそうに。


愉しそうに。


タノシソウニ。




深い深い心の奥底から本当に本当にタノシソウニ笑う。










              「望み通り―――――食い尽くしてやるよ」



5 : ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:07:27.01 ID:5Lu3WJlC0

そう言って白く細い少年は赤毛の少女との距離をゼロにした。








っていくら客観的に考えても自分に降りかかっているのが現実なわけで……というか食い尽くすって……コイツ本気なのかしら? あー……どうしてこうなったんだっけ……?

首元に噛み付いている少年の白い頭を見ながら赤毛の少女こと私――結標淡希はその声と表情からは想像もつかないほどに、動揺している。


自分をできる限り客観視したものの、こう見えて心臓はバックバクだったりするのよね。


6 : ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:09:40.82 ID:5Lu3WJlC0



「どうしようかしら」


赤毛の少女――結標淡希は小奇麗な天井を見つめながらぽつりと呟いた。

誰に聞かせるわけでもない、何を伝えるわけでもない、空虚な言葉。
『グループ』という組織の待機部屋<セーフハウス>の一つ、そのリビングにあるソファに彼女は横になっていた。

正確には『グループ』はつい先ほど正式に解散となったため、もう組織は存在しない上、この部屋も明日の午後には解約される。



「……どうすればいいのかしら」


もう一度呟いた。

自分以外は誰も知る事のない、どんな答えも正解でどんな答えも正解ではない、ただその裏には考える事を投げ出して誰かに縋りたいという願望。
いつも通りの仕事着、彼女が形だけ在籍していた霧ヶ丘女学院の青いスカートに金属でできた飾りのベルトとピンク色のインナーとしての布を着ていて、同色の青いブレザーと愛用して履いていたローファー、白のスニーカーソックスは床に脱ぎ捨ててある。

正確には形だけの在籍ではなく、来月から霧ヶ丘女学院への復学は決定している。



今度は何も言わずに一つため息をついた。


学園都市、それどころか彼女の身の回りだけに限らない範囲で『世界』は平和になった。
明確に『悪』と呼べる簡単な存在はいなかったが、結果として多くの人間が幸せになれる物語のような結末<ハッピーエンド>は訪れた。

彼女が関わったのはほんの少し、微々たるものだろうが彼女も歯車の一つとして働いて

その結果、彼女の世界<学園都市>は平和になった。



少なくともいくつのも『暗部』が必要ないくらいには。



結標淡希とその人質である仲間達が解放されるされるくらいには。



『暗部』を抜けて『学校』に通えと言われるくらいには。




晴れて自由になった彼女の憂いはただ一つ。




自分は何をすればいいのだろうか。



今の彼女には『目的』がない。


かつて『残骸<レムナント>』と呼ばれるモノを求めた『大きな計画』。

最近まで『仲間』たちを解放するために行った『グループ』としての様々な仕事。

そのどちらも今の彼女に必要な事でも目指す『目的』の手段でもない。


もっと昔に求めていた事はもう思い出せない。
学園都市の本懐である能力開発など今更する気はないし、そもそもが今日までの『仕事』のおかげで能力は開発するまでもなく向上し、かつて負った忌々しい傷も完治している。

もしかしたら身体検査<システムスキャン>をすれば『八人目』の椅子が用意されるくらいにはなっているかもしれない。

7 : ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:11:18.47 ID:5Lu3WJlC0



だからどうしたと言うのだろう。



学園都市に来た理由すら思い出せない人間に超能力者<レベル5>の力も地位も価値なんてない。

そんな自分はもう学園都市にいる意味はない。
かといって学園都市を出るつもりもない。出る事はできない。


行く場所などないのだから。




『目的』を失った人間はどこに行けばいいのだろう。




先ほどまでいた『グループ』の構成員だった三人が部屋を出て行って一人になってから、彼女がずっと反芻している言葉。


『グループ』は馴れ合いの組織ではない。

互いの利用価値だけが繋がりの組織だった。

それでも生き死にを共にした間柄だ、『仲間』の行く末に興味があったのだろう。



最後の時間には誰からともなく少しだけこの先の身の振り方の話をしていた。


        金髪でグラサンは「大切なものを守るために、平和を維持でもやっている」と言っていた。

        素顔を隠した優男は「妹分を連れて故郷にでも帰ってのんびりしたい」と笑っていた。

        白く細い凶悪面は「やる事がある」とだけ忌々しそうに吐き捨てた。



私はなんと答えたか、つい先ほどの事なのに彼女自身が思い出せないでいた。



幸いにも帰るべき場所はある。

お節介で世話焼きでお人好しの同居人の部屋。

しかしそれは彼女の居場所ではない。

あくまで一時的な仮宿。


だから彼女は歩き出せないでいた。


結果、ソファの肘掛の片方に足を、片方に頭を乗せて、寝るわけでもなく横になっている。

何の『目的』もなく。



ただ時間が過ぎるのを待っていた。




時間が解決してくれるような事でないと知りながら。

8 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:13:55.12 ID:5Lu3WJlC0


           ――ガチャリ、と部屋のドアが開いた。


金属音が彼女の思考を止める。

使われなくなったこんな部屋に誰が? 横になっていた少女が顔を向けると部屋の入り口には見慣れた白い顔が一つ。


手にはコンビニの袋を持っているようで何が入っているかまでは分からない。
ただ彼女の経験上、袋の中に缶コーヒーが入っている事だけは予想できた。


「………何でまだいやがるンだオマエ」


白い少年は吐き捨てるように言うと、ソファから離れた位置にある椅子に腰を掛ける。
座るとともに脇に置いた杖がことりと小さな音を立てる。

時計を見ると少女が一人になってから三十分以上も時間がたっている。

「別にどこにいようと勝手じゃない? この部屋の契約は明日まで……つまり今日明日は自由に使えるって事でしょう?」

不機嫌な少年の棘のある言葉を向けられた少女はソファに寝転がりながらクスクスと笑い、いつも通りに答えた。

できる限りいつもと同じように。

「貴方こそこんなところにいていいの? お姫様が首を長くして待っているんじゃないのかしら」

今まで幾度となく少女や仲間が少年をからかうために使ってきた言葉だ。
いつも通りに彼をからかうように発されたその言葉。

ただその言葉には今の彼女には今までには込めた事のなかった裏の感情――嫉妬が含まれていた。

その皮肉の言葉こそ彼女の持っていない彼の『目的』の一つであり、それは彼女の今一番求めているものだから。


「…………」


そんな心情を知ってか知らずか少女の言葉に少年は沈黙で返す。



広くない部屋に気まずい沈黙の時間が訪れる。



おかしい、と少女は寝転がりながら首をかしげた。

普段の少年ならば毒舌とともに、いかにも不機嫌だという殺気やら怒気やら敵意やらをドロドロにごちゃ混ぜにした強い威圧感を放ってくるのだから。
どうしたものかと少年の表情を窺うと、白い顔に苦虫を噛み潰したような不機嫌な表情が張り付いていた。

「どうしたの? いつもなら『黙れショタコン女』とか『その口縫い付けられてェか露出狂』くらいの憎まれ口を叩くのに」

少女は体を起こし、ソファに座りながら質問を重ねる。



彼女にとって会話自体に意味なんてない。

コイツとはいろいろと相性が悪いし、そもそも会話が成立するかどうかも怪しい。

そもそもコイツと初めてあった時の事は軽いトラウマだ。


だから結局はただの暇潰しだ。

現実逃避だ。

もし真面目な答えが返ってきたところで笑い飛ばすかからかってやればいい。



少女はそう考えていた。



少年の言葉を聞くまでは。
9 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:14:46.03 ID:5Lu3WJlC0









                   「帰りたく、ねェンだよ」







少年は世界が終わるとでも聞いたような深刻な顔でポツリと呟いた。

10 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:16:14.46 ID:5Lu3WJlC0




「帰りたくねェンだよ」




横になっていたソファに座った私の耳に届いた言葉は信じがたい単語だった。

帰りたくない?

一方通行がそう言ったのかと思うと聞き間違いとしか思えない。



目の前にいるのは学園都市で最強の超能力者<レベル5>、核爆弾すら直撃しても大丈夫な人間。

私なんかとは違って小さな歯車ではない、その手で世界を救った英雄<ヒーロー>ともいうべき存在の一人。

他人を人とも思わないような自信過剰というか少なくとも誰かに弱みを見せるような事はしない自尊心<プライド>の塊。


そんな男が弱々しい小さな声で「帰りたくない」そうポツリと呟いたのだ。



まるで世界の終わりと聞いたような深刻な顔で。



最初は思考が停止した。だって仕方ないじゃない? 聞き間違えだと思うのが普通だもの。

次に腹の底から笑いが込み上げてきた。我ながらよく我慢したと思う。もしかしたら我慢しきれなくて肩は震えていたかもしれない。

最後に湧き上がってきたのは好奇心。あの一方通行をこんな事にした原因を知りたいという純粋な好奇心。




そう自覚した瞬間――


    「話くらいなら聞いてあげようか?」


           ――すでに私の口からはそんな言葉が出ていた。




私の言葉を聞いて、一方通行がこちらを見る。

顔に書いてあるのは驚天動地という言葉。

そんなに意外だったのだろうか、失礼な話だ。


「『グループ』のよしみってところかしらね。おねーさんに相談してみれば?」


普段の私ならば口にすらしないような言葉。

そんな言葉が立て続けに口から出てくる。


「元『グループ』、だけどね」


私は今、私がどんな顔をしているかは分からない。

部屋には鏡なんてないし、目の前の白いののあまりにも不釣り合いな衝撃的発言により、私の感情は昂っているから。

先ほどまで沈んでいた自分が信じられないくらいに。

11 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:18:12.16 ID:5Lu3WJlC0

ただ、一方通行の信用を勝ち取る程度には平静を装えていたらしい。



だって





会話自体を面倒臭がって仕事の話すらロクにしないようなコイツが自分の身の上話を始めたんだから。





チッっとあからさまに大きくされた舌打ちの後に続いた言葉は……何とも一方通行らしいというべきか、らしくないというべきか評価に困るような相談事だった。

というか仮にも相談するなら舌打ちするんじゃないわよ、と思ったのは内緒の話だ。



彼の話を要約すると、同居人の少女とケンカした、そんな簡単な問題だった。


もちろん原因の根本は複雑なところもあるだろうし、片方の言い分しか聞いていない以上、偏った判断しかできない。

それでも分かるのは、根本にあるのが些細な行き違いからくるどちらに問題があるとも言えないような――つまり痴話喧嘩みたいなものだという事だ。

岡目八目とでもいうべきか、他人が聞けば呆れてしまうそんな話。



もはやある種のノロケ話に近い。



それをあの一方通行が真剣な顔をして、世界の終わりを回避するためにはどうすればいいか、そんな風に話す。

しかも、こちらがただ黙って頷いていると「……聞いてンのかァ?」なんて不安そうにこちらを見てくる仕草がおかしくてたまらない。

「心配しなくてもちゃんと聞いてるわよ」と返すと「ならイインだァ。で、だなァ…」と続きを話し出す。



まるで子供だ。

仲のいい友達とケンカした無愛想な子供。

答えは決まっているのにそれを伝える方法を知らない子供だ。

おかしくてたまらない。




こんなに大きな、


こんなに凶悪面の、


こんなになんでもできる、






こんなに何もできない子供がいるだなんて。




12 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:20:43.36 ID:5Lu3WJlC0

「笑いたきゃ笑いやがれ……ガラじゃねェだなンてのはとっく自覚してンだ」

「ああ、ごめんなさい。別にバカにしてるつもりはないのよ? ただ少しだけおかしかっただけ」

どうやら自分は笑っていたらしい。どこかの金髪グラサンみたいなニヤニヤとした嫌な笑いじゃないといいんだけど。

「まあ、意外だとは思ったけど……貴方みたいな世界を救った英雄<ヒーロー>がそういう悩みを抱えてると思ったらつい、ね」

「自覚はあるっつってンだろォが……話すンじゃなかったぜ」

そういうと一方通行はそっぽを向いてコンビニの袋から缶コーヒーを取り出した。

白い頬が心なしか朱に染まっているが気のせいだろう。


私の目がおかしくなければ。


「だから謝ったじゃない。ごめんなさいって」

返事の代わりにカチっという缶を開ける音が聞こえて、一方通行はそのまま無言でコーヒーを飲み始める。
顔を背けてコーヒーを飲む一方通行。

改めて思う。

信じられないくらいに丸くなったものだ。

           数か月前では考えられない。



正直、今日までは畏怖の対象としてみていた。

彼の中にも人間性というべき優しい部分があるのは知っていたけれど、直接それを向けられた事はなかったし、それよりも彼の強さの影響のが大きいのだから仕方がない。

だから恐怖の権化、暴力の体現する存在としてしか考えていなかった。

もちろんその本質は変わらないのだろうけれど、それでも今目の前にいるのは年相応……よりも明らかに精神年齢の低い一人の子供に見えた。



ツンデレってこういうヤツの事を言うのかしら。もっともツンデレにしてはツンが強すぎる。学園都市最強なくらいに(しかも物理的な強さだ)。



「彼女の好きなケーキでも買っていけば? そしてゴメンナサイ。それで収まるわよ」

そういってソファに深く座りなおす。
どうやらいつの間にか身を乗り出すほど話に聞き入っていたらしい。

「……ンな事でイイのかよ」

ズズズズというコーヒーをすする音の合間に小さな声が聞こえる。
相変わらずこちらに背を向けたままだがどうやら機嫌は治ったようだ。

「貴方の話しか聞いていないけど……結局はどっちも正しいしどっちも悪いような問題よ。ケーキでもあげて機嫌を直して、これからはこうしようって話せば分かってもらえるわよ?」

そう、それで解決する。

そんな事で解決するだろう。

些細な子供のケンカなのだから。

「今日はもう遅いしお店もやってないから……明日行って来たら? 朝多少でも機嫌が直ってたならケーキは一緒に買いに行ってもいいと思うけれど」

私に背を向けたままの一方通行からの反応はない。

ただその背中からはもう世界に絶望したような落ち込んだ雰囲気は伝わってこない。

むしろ「そんな事でイイのかァ……悩ンで損した」と照れている気さえする。

口には出さないけれど。

なんというか凶悪面の割に根が素直。

              …………損をする人間ね。
13 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:21:40.68 ID:5Lu3WJlC0



少し伸びをして天井を見上げると、少しだけ気が楽になった。



別に私の悩みが解決したわけではないけれど。

別に何かが変わったわけではないけれど。

一方通行の悩みを聞いていたらどうでもよくなってきた。

どうにでもなる気がしてきた。

なんというか真面目に悩んでいた自分がバカみたいだ。

とりあえず今日答えを出すのは止めよう。

考えよう。

ゆっくりと考えよう。

小萌に相談するのもいいかもしれない。

あんななりでも教師なのだ。

すごく頼りになる大人なんだ。




「……ありがとなァ」




             「え?」


思わず、ぐるんと音が出るくらい大げさに反応してしまった。


考え事をしていた私の耳に驚くべき言葉が聞こえた。

私の耳がおかしくなければ……お礼を言われたらしい。

何食わぬ顔で缶コーヒーを飲む白い顔が明らか朱に染まっている。








                              ………………本当に丸くなったものね。

14 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:24:09.19 ID:5Lu3WJlC0


室内に少年のすする缶コーヒーの音だけが響く。

天井を見上げる赤毛の少女はどこか満足気で。

缶コーヒーをすする白い少年は気恥ずかしそうだった。


少年は缶コーヒーを飲み終えると杖を取り、椅子から立ち上る。


「ンじゃ行くぞ」

             「……え?」

「はァ?」


二人は互いを見つめた固まってしまう。
少年の言葉が少なかったせいかその意図が伝わっていない。

「………」

何かを話そうとするが言葉が出てこない少年に

「………えっと……何?」

少女が沈黙に耐え切れず聞き返す。

少年はほんの一瞬、ひどく狼狽した表情を見せると顔を背ける。
少女が何事かと首をかしげていると、少年はそのままぶっきらぼうに「送ってくっつってンだ」と呟いた。


その言葉に虚を突かれたように少女の動きが止まる。


「えーっと………遅いから?」

目を点にしたままの少女の質問はたっぷりの沈黙の末に

「…………遅ェからだ」

少女の予想を覆す答えが返ってきた。



呆けていた顔をたまらず抑えてうずくまる。

顔を抑え、膝を抱えたまま動かないでいる少女を少年が覗き込む。

どうやら小刻みに体が震えている。

「……どォしたンだァ?」


少年が覗き込むと



        ――咳を切ったように少女が笑い出した。


「あはははははははは!!」


純粋な笑い。

嫌味も嘲りも裏の真意も何もないただ面白くて仕方がない、そんな大笑い。


一頻り笑った後、少女は倒れるようにソファに横になった。
15 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:28:29.08 ID:5Lu3WJlC0


「か、勘弁してよ…………笑いすぎて、お腹が痛い、じゃない」

苦しそうにお腹を押さえて蹲る。まだ小刻みに肩が震えていた。

「……ンなにおかしいか?」

「当たり前じゃない」

笑いすぎて涙を浮かべている少女とは対照的に、少年はいたって真面目な顔をしている。

「私は結標淡希よ? 『八人目』の候補で超能力者<レベル5>相手でも状況次第では勝てるって言われてる人間よ? そんな人間を夜遅いから送るってそんなの」

「オマエだって女だろォが」

「…………へ?」


少女はその答えにきょとんと呆けてしまう。


無理もない。
普段の少年からでは想像もつかない言葉だったからだ。

たっぷりと間を置いて少女は呟くように反応を返す。


「私を女として見てくれるなんて光栄ね。中学生以上はババアじゃないのね」


少女は長い間、男女の区別なんてない戦いの場にその身を置いていた。

敵も味方も自分さえも女として扱わないような空間に。

だから少年からも女だなんて扱われた事はなかった。


「あ、でもババアも女ね」

驚き、そして少しの火照る頬を隠すために、返す言葉に少年を揶揄する毒を混ぜる。

「ハイハイ、似合わねェ事提案した俺が悪かったよ。もう黙れショタコン露出狂」

案の定少年の機嫌は悪くなったようで不機嫌そうに毒づいて言葉を返す。

「だって貴方が私を心配してくれるなんて思ってなかったもの」

「そもそもオマエは見てくれだけはイインだ。ンな人間が露出狂みたいなカッコしてたら襲ってくださいって誘ってるようなもンだろォが」

何度目だろう、少女の表情が時間が止まったように凍りつく。

たいして少年は自分の言葉にしまった、という表情で天井に目を逸らす。

そんな少年を見て少女は少しだけ表情を緩ませる。

「貴方もそう思うの?」

「あァ?」


「ちょっとした疑問よ。貴方も誘われてるって思うのか少し気になったのよ」


16 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:29:57.06 ID:5Lu3WJlC0


少女の問いに少年は答えない。

天井を見上げたまま、後悔をするように、懺悔をするように目を閉じている。

そんな様子を楽しむかのように少女は言葉を続けた。

「貴方に褒められるだなんて思ってもみなかったわ」

「別に褒めてねェだろォが」

「見てくれがいいってのは見た目がいいって事でしょ? 褒め言葉じゃない」

少年の明らかな照れ隠し目的のぶっきらぼうな態度が面白いのか少女はニヤニヤとした笑いを浮かべている。

ふと思いついたようにスッと立ち、すぐにソファに深く座り直す。

左膝を立てて座る姿は扇情的で、短いスカートからは下着が見えてしまう。
ただし少年からでは死角になって見えない。


「こんな事をしたら欲情しちゃうのかしら? 我慢できずに襲っちゃう? 童貞のクセに?」


顔を膝に乗せたまま少しだけ首をかしげる。

雑誌のグラビアのようなわざとらしいポーズ。

加えて、パチンと金具を外すような小さな音が聞こえると、少女の胸に巻かれているピンク色の布が少しだけ緩み、膝で抑えていない体の側面が露出する。

「別に貴方ならいいわよ? 知らない仲じゃないし……おねーさんが筆下ろししてあげようかしら?」

獲物に向ける妖艶な笑顔というよりは年下の少年に向ける優しい微笑み。

からかうような軽い笑い。

少なくとも今までの少女と少年の関係ならば見せる事はなかった顔。


「なーんて冗談よ。そんなに睨まなくてもいいじゃない。あーヤダヤ」


「結標ェ」


少年は少女の挑発を遮り気怠そうにため息をついた。

ただその顔はどこか気負ったような張りつめたような、仕方なく何かを決心したような強さが垣間見られる。

「……何かしら」

少女は間違え探しのように、少しだけ変わった少年の様子に違和感を覚える。

先ほどまでの疲れたような呆れたような顔。


うっとおしいと睨む強い眼光は、その奥に愉しみを求める男を宿していた。








「教えてやるよ。オマエが力の弱い『女』って生き物だって事を」

17 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:33:44.14 ID:5Lu3WJlC0

いくらここに至るまでの原因を思い出したところで、私が今置かれた状況が変わるはずもなく、

「がっつくのはみっともないわよ? 自分から童貞ですって自己紹介してるみたい」

クスクスと余裕の笑みを浮かべる私の心は、その表情とは裏腹に戦々恐々としていた。



心臓が早鐘を打つように、バクバクと音を立てている。



数センチしか距離のないコイツに聞こえているんじゃないかと気が気じゃない。

そんな思考に気をとられていると猫のようにザラリとした舌が首筋に触れる。


「あ、ンく」

思わず声が出てしまった。
立てたままの左膝を強く抱きしめる。


別に気持ちがいいわけではない。

不意打ちだったから、油断をしていたからだ。



初めて首で味わう舌の感触が想像より冷たかっただけだ。



「シャワーくらい浴びさせんっ……欲しいんだけど」

そういう間にも首の根元から中腹辺りまでを、冷たい舌が往復する。
ザラついた舌が、固い舌が強く強く私を撫ぜる。


自分の首が他人の唾液で濡れていくのが分かる。


「どォせ汗かくんだから一緒だろォが」

かぷり、と軽い間抜けな音がするのと同時に今までとは違う衝撃が首に走る。

這い回る舌ごと一緒に持っていかれるような感覚。

舌の周りを優しく挟まれるように、啄まれるように触れられる。




そうか、口で首を吸われている。




触れられた場所から体の中に舌と唇の感覚がじわじわと侵食を始める。

肌だけではなくその奥にある肉と骨まで触られている気がする。



「まさか汗フェチとか? 変態<ロリコン>の上に汗フェチとか……貴方の業は深すぎるわね」

まだ笑えているはずだ。

余裕を持った小馬鹿にしたような、毅然とした態度をとれているはずだ。



当然だ、感じてなんかいない。


「ぅあっ、くぅ」


感じてなんか、いない。
18 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:37:03.95 ID:5Lu3WJlC0


「首で感じてるショタコン女にンなセリフ言う資格ねェだろ」

「感じてなんか……ッ!!」

体が小さく跳ねる。

言葉を遮るほどに体が反応する。

ザラついた舌とも柔らかい唇とも違う。


これは歯だ。


舌よりも優しく、唇よりも強い力。

跡が付くほどではない、子猫がするような淡いアマガミだ。

「ショタコンマゾ女」

「ッ!!」

「露出癖もあったな」

首元からボソリとした声が聞こえる。

ムカつく。

でもそれ以上に、チクチクとした歯の刺激としゃべった事で唇から伝わる振動がこそばゆい。

「くすぐったい、だけよ」

私の取り繕った言葉に反応して、一瞬だけ、動きが止まる。

同時に下から突き刺さるような視線を感じる。




何かが来ると身構えると――


         「これでもかァ?」


             ――ガリ、と首の筋を擦る音が体に響く。




弱く鋭い痛みが首に走る。

コイツ、噛みやがった。

跡が残ったらどうしてくれるのかしら。



  くちゅり、と水気のある音が聞こえる。



    耳に聞こえるのではなく体の中から聞こえる。


      体の下の方から。



「襲われて首噛まれて罵られて、挙句にこンな濡らしてくすぐったいだけとはなァ」

19 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:38:57.40 ID:5Lu3WJlC0



言葉に遅れて、傷口を直接触れられるような衝撃が走る。



ただし痛みではなく、痛いくらいに強い快楽が。



見なくても分かる。


噛まれた隙に、首に意識を飛ばしていた隙に、手をスカートの中に入れられた。

油断してた。


細い指が、ほんの少しだけしか触れられてはいないのに、全てを支配される。




っていうかコイツ、いきなり直接触ってやがる。




「ンなマゾにゃ準備は充分か」

「え?」

「いったろォ? 食い尽くしてやるって」



何言ってるの?


何考えてるの?


何をしようとしているの?



「せいぜいイイ声で鳴きやがれ」

「な、何を――――ッ!!」







ブツリ








21 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:40:25.01 ID:5Lu3WJlC0


                  ――――鈍い音がした。




刃物で肌を裂かれた熱さよりも、


弾丸で腹を穿たれた痛みよりも、


鈍器で頭を殴られた衝撃よりも、



鋭く

熱く

鈍い





灼熱の鉄棒で脳を直接かき回されたような痛みと衝撃が体の根幹を駆け巡る。





首も肺も体勢も何も変わらないのに息が苦しい。


「ギッチギ――な、やっぱ準――足ンねェからか?」


体が強張って、袋詰めした小麦粉みたいに固く動かないのが分かる。


「それ―――勢のせいか?」


遊んでいた右手はソファの角を、左手は抱えたまま動かせなくなった左膝を痛いくらいに握り占めている。


22 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:42:47.81 ID:5Lu3WJlC0



「―――」




声が、でない――



               ――呼吸が、苦しい。



血が、沸騰する――




       心臓が、膨れ上がる。








「オイ!!」




その言葉で引き戻される。


貫かれたハラから赤い濃い水が少しだけ流れて右足を伝わっていくのが分かる。



互いに嗅ぎ慣れて嗅ぎ慣れて嗅ぎ慣れてしまった鉄の匂い。



その匂いで意識がなれていくのが分かる。



人の首を堪能していた白い頭が、いつの間にか私の顔を覗き込んでいた。


23 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:44:11.03 ID:5Lu3WJlC0


平静を装おうとしても痛みで顔が強張る。

物理的な怪我とも精神的な傷とも違う激痛。



目の前の顔の表情が変わる。



子供みたいに困っていた顔ではない。

タノシソウに笑っていた顔ではない。



この心配そうな顔、どうやらバレたらしい。





「まさか」


                   「何よ」


「………オマエ、初めてか?」



隠す気があったかと聞かれたら微妙なんだけど。



                   「…………………悪い?」




隠す気があったかと聞かれたら微妙だけれど、それでも隠したかったかと聞かれたら



「…………別にィ」


「笑、えば?」




                         私は隠したかったと答えるだろう。

24 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:45:56.02 ID:5Lu3WJlC0


「笑えばいいじゃない。散々人に童貞って言っといて、自分が処女だなんて面白いでしょ? 笑えばいいじゃない。笑いな――」


その文句は最後まで言うことができなかった。

物理的に口を塞がれてしまったから。

数秒にも満たない優しい唇が触れるだけの優しいキス。


白い整った顔がゼロの距離まで近づいて、すぐに離れていった。


「少し黙れ」

「いきなり何を――」


一度文句を言ってやろうと口を開くがそれは叶わなかった。



繋がったままの体をくるりと反転させられて


両の膝をソファに乗せ、膝立ちのような形になる。


今までとは逆に私が上から乗るような形。


反転と同時に口を塞がれる。






今度は深い深い、繋がるための口付け。





私の首を散々いじめたザラついた猫みたいな舌が入ってくるのが分かる。

私の舌を絡め取るように侵食してくる。

さっきはすぐに離れて行った白い整った顔が目の前にある。

閉じられた瞳には白い睫毛がきらりと輝いている。

キレイだ。









あ、私、目を閉じて、ない。

25 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:47:56.91 ID:5Lu3WJlC0




何時間にも思えた深く長いキス。

実際は長くても数十秒ほどだろう。

離れた拍子に口の端から透明な液体がトロリと流れ、ゆっくりと自分の胸を這い落ちるのが分かる。


解放される頃には全身の力が抜けてしまい、情けなくも細い体にしだれるように寄りかかっていた。



「ったくよォ……ちょっとショタマゾ露出狂の馬鹿女にお灸を据えてやるだけのつもりだったンだがな」

ケタケタと笑う表情は……なんというか好きな女の子に意地悪する子供のような無邪気さと残酷さを感じさせられた。



なぜだろう、私は今襲われているわけで


それなのに、私は今この馬鹿が子供のように愛おしくて


どうしてなのだろう、思い返せば私は一度たりとも抵抗をしていない。





両の手は一度も抵抗をしなかったし、それどころか今はコイツの頭を抱いてむしろ体が離れないようにしている。





「うる、さい」




せめてもの抵抗にと、耳元で精一杯の不満を示す、つもりだった。


だけど私の口から出た声は、骨抜きになった艶っぽい強請るような甘い声。


自分の声だと信じたくないその声は、行為の続きを催促するような、懇願するような声だった。

26 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:49:23.08 ID:5Lu3WJlC0


「せめて―――――――」


「え?」

何度目だろう、私は耳を疑った。


耳元で囁かれた言葉。


私にしか聞こえないように、この部屋に他の誰かがいても聞こえないような小さな声で囁かれたのは優しい言葉。








             ―――ココからは優しくしてやるよ。








私の中で何かがカチリと音を立てた。


27 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:50:24.81 ID:5Lu3WJlC0


小さな部屋に少女の嬌声が響く。


恐怖に歪む悲鳴ではない、拙いながらも淫靡な艶のある、相手を求める声。



部屋にあるのは2シーターほどのソファが一つと椅子が三つ。


ソファの近くには脱ぎ捨てられた衣類が散乱している。


青いブレザー。

黒のローファー。

白いスニーカーインソックス。

ピンク色の布。


壁際にある椅子の近くには改造された杖が転がっている。


空になった缶コーヒーとコンビニのビニール袋と一緒に。



部屋には誰もいなかった。




衣擦れの音と男の荒い吐息だけが聞こえる。

28 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:52:43.79 ID:5Lu3WJlC0


目が覚めるとそこは、雪国でも秘密の国でもなく、『グループ』の待機部屋<セーフハウス>の一つのベッドルームだった。


あくまで仮眠室そして用意されたものだし、その役目は今日一杯で終わりを迎えるけど。



申し訳程度につけられた安物のカーテンから漏れる光から察するに、時刻は昼近い。

体を起こし、ベッドに座る。

「腰、痛……」

正確に言えば腰だけではない。

多少無理な体で勢もしたせいか、膝や股関節や背中や首も痛い。

何よりも痛い場所があるが、そこは傷のようなものだから仕方がない。


ウン、と小さく背伸びをする。


体のあちこちから感じる痛みは強くはなく、どちらかといえば異物感に近い。


汗がベタつく感じ。


皮膚が少し引っ張られるような違和感。



ただ、それがあまり気にならないのは




「オナカの異物感のが強いからかしら」

29 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:54:21.49 ID:5Lu3WJlC0



下腹部をさする。



水っ腹のように下腹部が重い。


ただし、入っているものは水とコールタールか水銀くらいに天と地ほどの差があるけれど。



何もつけていない事に気付き、近くのタオルケットを体に巻く。


立ち上がるとナカからドロリと垂れてくるのが分かる。




昨夜、初めて私の体のナカを犯したモノが溢れてくる。




それは生理の時、血液が出るあの感触に似ていて。

自分の体から、自分の意識の与り知らぬ異物が出るあの感覚。



でも




あの感覚よりも気持ち悪いし、





あの感覚よりは気持ち悪くはない。

30 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:55:59.67 ID:5Lu3WJlC0



ベッドルームを見回すが誰の姿もない。

念のためと他の部屋も見るがやはり誰もいない。


リビングに私の服が散乱しているだけだった。


ベッドルームに戻り、ベッドに倒れこむとボスンという音がした。




「一言くらいあっても罰は当たらないじゃない」




首に触れると少しだけデコボコとした跡のようなものが感じられる。



ミシン目のように規則正しく並んでへこんだ、両端の鋭い細い楕円状の跡。



指でなぞると痛いような、痒いような不思議な感覚に襲われる。




私は今、私がどんな顔をしているかは分からない。


31 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 16:56:29.33 ID:5Lu3WJlC0











部屋に鏡なんてないし、私の目の前にあるのは壁にかけられた白い男物のコートだけだからだ。










32 : ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/17(水) 17:02:21.64 ID:5Lu3WJlC0
とりあえず1-1終了です。
「Until reaching the starting line」は副題のようなものです(最初つけ忘れてましたが)

あと>>1に書き忘れましたが意図的に主観を変えてますので見にくいかもしれません。

「このキャラどーしてこーなった(AA略」とか「何でこんな風にしてるの!?」とかは
>>1の設定ですがいろいろありますので各エピソードが終わってからレスするかもしれません(気紛れ)

ではまた次回に。

                 本当は各エピソードが完結してから投稿しようと思いましたが煮詰まってしまったので投下………、、、

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/17(水) 17:09:49.65 ID:+YrQ/Rj/0
…ふぅ





…ふぅ
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/17(水) 17:55:42.62 ID:lfpjxN2q0
何という俺得スレ……ッ!! 
41 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:33:31.17 ID:rY6iS8KI0



あの日、私は私は変わった。








                       ――― 一か月たって、私は変わっていない事に気付いた。



42 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:35:37.04 ID:rY6iS8KI0

『グループ』が解散したあの日から一か月が過ぎた。



蕾だった桜も気付けば葉桜どころかもう散っており、日々上昇する気温は梅雨の気配さえ感じさせる。


結局、私は予定通り霧ヶ丘女学院の三年生として復学した。


かつて求めた『大きな計画』も『暗部』で過ごした日々もまるでなかったかのようにすんなりと。


今は小萌の家を出て一人暮らしをしている。
最低週に二回は小萌の家に行くという条件で。


実際の週二回なんて話ではなく、家事――正確に言えば炊事――がダメな私はほぼ毎日小萌の家にお邪魔していたりするのだけど。


身体検査をした結果、予想通り判定は超能力者<レベル5>――ではなかった。

正確には超能力者<レベル5>認定を受けるに値する成果だったが、今超能力者<レベル5>になってしまう事は、『あの戦い』で能力者が成長した事実を残してしまう。


故に統括理事長の一存で公表しない事になった。


でもそんな事はどうでもよくて。

どうでもいいもので。


全てが空虚なものに思えてしまう。


別に人生に悲観したわけでもないし、他人が有象無象に思えるほど高尚な人間でもない。

誰かを傷つけたり、誰かを助けられたり、失敗だってするただの人間だ。


楽しい事がないわけではないし、頭に来る事だってある。


全部が上手くいっている。


表面上は。


でも実際は。



何も上手くいっていない。


地面に足がついていないように

空回りを続けている。




歯車は噛みあわず、空転し続けている





そんな、感覚。
43 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:37:52.09 ID:rY6iS8KI0

「…………」

「…………」

赤毛の少女と白い少年は窓のないビルの一室にいた。

六畳ほどの小さな一室。


全てが終わったとしても、その後には必ずはじまるものがある。

学園都市は特定の誰かの悪意のない、平和といえる町へと姿を変えていた。


しかし、原因が絶たれたところでその後処理や影響がすぐになくなるほど学園都市は小さくない。

窓のないビルの扱いが最たる例であり、空間移動の能力者を使わなくては侵入できないこの場所に様々な機能があるのは変わらない。



それはある意味で今の学園都市の現状そのものだ。



二人がいる場所は『待合室』と呼ばれた場所。

窓のないビルの機密性が弱まり『案内人』の数は以前より増員されたとはいえ、元々が三桁にも満たない数しかいない十一次元特殊計算式応用分野、需要に比べて供給が圧倒的に少ない。

故に以前よりも出入りが激しくなった窓のないビルで『案内人』を待つ場所として用意されたのがこの場所だった。


「で、まだなの」

「俺が知るわけねェだろォが」

「貴方だけ送って戻ってくるんじゃダメなのかしら?」

「書類持ってくるから待ってろとよォ」

「……早く帰りたいんだけど」

「俺に言うンじゃねェ」


赤毛の少女と白い少年は広くない室内でその両端に座っていた。

できる限り近づきたくないとでも言うように端と端に座り、互いを見ないように顔を背けている。


会話が途切れ、何度目かの沈黙が室内を支配する。

それはお互いがお互いと話したくないから。


しかしそれ以上に。


お互いに無音の空間にいるのが嫌だった。



だから幾度となく同じような会話を繰り返していた。




                中身のない、繰り返しの時間を過ごしていた。
44 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:40:58.58 ID:rY6iS8KI0

結局、あの部屋で30分近く待たされた。

その上、書類を届けに来た人間は「そのまま帰っていいよ」の一言告げると戻っていった。

書類一枚を届ける手間を省くために私は待たされたらしい。


送迎のハイヤーは断った。


ハイヤーは実質密閉空間、つまりさっきまでの部屋と同じ。

これ以上一緒になんていたくなかったから。


なのに私は




夜道を二人で歩いていた。




「もう真っ暗じゃない!!」

何度目だろう。

内容のない誰に宛てたわけでもない罵倒。

「俺のせいじゃねェだろォが」

律儀に答えが返ってくる。


さっきからずっとこの調子だ。

窓のないビルから空間移動をして

送迎用に準備されていたハイヤーを断って

歩き出してからずっと。

コツコツと杖を突く音が私の後ろから聞こえている。
45 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:42:35.70 ID:rY6iS8KI0

歩き出してからずっと。


……。


…………。


………………ずっと?



ずっと!?



「ちょっと、どこま――」

思わず振り向いて怒鳴ろうとして、その直前で結局やめる。

背中から「ン?」という声が聞こえるが無視をする。

「ンだァ? 言いかけたなら最後まで言いやがれ」

「……………何でもないわ」


どこまでついてくるの、と言おうとしてはじめてずっと一緒だった事を意識する。


どこまでついてくるのと聞けばおそらく

『オマエが家に着くまでだ』

そんな風に言われるんだろう。


いや、素直じゃないコイツの事だ。

『俺の勝手だろォが』

としか言わないかもしれない。



でもどちらにしろ私が家に着くまでコイツはついてくるんだろう。






だって外は暗くて『遅い』から。

46 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:44:04.84 ID:rY6iS8KI0


またしばらく無言のまま歩く。


ゆっくりと。


変わる事なく。


繰り返しの時間を過ごす。



「ここでいいわ」

くるりとアイツの方へ振り向いて、笑顔一つ浮かべずに言葉を放つ。

「………」

無愛想な仏頂面をしていると思った顔は、夜の暗さにまぎれて分からない。

「すぐそこなのよ、私の家。というかこの上」

私の言葉にも表情は変わる事なく。

「………」

私にはどんな感情を抱いてるのか、欠片さえ理解できない。

「別れの挨拶くらいしたらどうなの? なんだかんだで『案内人』の回数が多いのは私だから多分また会うのよ?」

ただ分かるのは

「………」

悪意が向けられてない事くらい。




「お茶くらい、だそうか?」




気付けば私はそんな事を口にしていて




       「…………コーヒーなら」




気付いたら私はアイツを家に上げていた。
47 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:45:54.46 ID:rY6iS8KI0

「はい。ブラックでよかったわよね」

            「………………」

「ありがとうなんて言葉は期待してないけど、何か言いなさいよ」

            「缶コーヒーが出てくると思ってンだよ」

「それはどういう意味かしら?」

            「あの料理そのものを冒涜した野菜炒めを知ってると……なァ?」

「何がよ!! インスタントくらい入れれるわよ!!」

            「いやァ……なンか、スミマセン」

「…………その反応すごくむかつくわ」


交わされるのは何気ない会話。

先ほどまでよりは自然な会話。



いつも通りで、あの日までと同じ他愛もない会話。



「そもそも缶コーヒーなんて家に常備するようなものじゃないでしょうが」

「え?」


ただその会話とは裏腹に。

少女の心臓は早鐘のように鳴り続けている。


「何その意外そうな顔? ……そういえば前、コンビニの袋に大量の缶コーヒー持ってたわね」


少女なりに理由は分かっているつもりだ。


「たしかコンビニ帰りに呼び出された時はあったなァ」


一つはこの部屋に初めての他人を上げた事。

彼女には親しい友達はいなかったし、この部屋を知っているのは家族みたいな小さな教師だけだ。

故に少年が初めての客と言える。
48 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:48:05.40 ID:rY6iS8KI0

「迷惑この上ないわね。スーパーとか行きなさいよ」

「面倒だろォが」


もう一つはその相手が異性であり、体を重ねた事がある少年だったから。

そもそもなぜ少年を引き留めたがが自分で理解できなかったし。

なぜその提案に少年が乗ったかも分からなかった。


「これだから無駄金持ち<超能力者>は」

「面倒だろォが」


そんな気持ちを知ってか知らずか、少年は以前と変わらない態度を取っていた。


「ン? っていうかオマエ超能力者<レベル5>じゃねェの?」


超能力者<レベル5>。


この町の誰もが焦がれる言葉。

その重身をもった言葉を聞くだけで彼女は見えない鎖に締め付けられる。


「聞いてないのね。しばらく超能力者<レベル5>は増やせないって。このタイミングで超能力者<レベル5>が増えたら『あの戦い』で能力者が成長した事になるじゃない」

「統括理事会……いや、統括理事長……親船か」

「そうよ」

「かつての掃き溜めが……ちったァマシになったって事かァ?」

「かしらね」

ただそんな話題さえも二人には世間話に過ぎなくて

本当に話したくない事は、目を背けたい事は、大事な事は、他にあった。


彼女の部屋に入って初めての沈黙。


少年がコーヒーをすする音だけが聞こえる。


「それ」

「え?」

「捨ててくれて良かったンだがな」



あの日自分が着ていた白いコートを見ながら少年はつまらなそうに呟いた。

49 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:51:19.11 ID:rY6iS8KI0

「捨ててくれて良かったンだがな」


その言葉を聞いた瞬間にズキリと心が痛んだ。


「借り物、だったから」

上手く声が出ない。

言葉が見つからない。

「忘れただけだ」

分かっていたハズなのに。

鈍い衝撃が私を襲う。

「あの日あんなに、寒かったのに?」

思わず出てくるのは憎まれ口。


本当はただありがとうの一言を伝えたかっただけなのに。

貴方のコートを返したかっただけなのに。


返答はなし。


何も言われない事が私を責めたてる。


口が回らない。

いや、言葉は出る。


  ただ思いとは裏腹に


    どうでもいい事ばかりが


      言いたくない事ばかりが溢れ出る。


「あの子とは 仲直りできた?」

50 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:51:47.67 ID:rY6iS8KI0


 間を持たせるだけの言葉が出る。

   それも口に出したくないセリフ。

同時に鼓動が早まるのが分かる。


返答はなし。


「アドバイスした 手前、気になる じゃない」


  変わらずの無表情。

別に話を聞いていないわけではないはずだ。


返答はなし。


       「今日は早 く帰らなくて、いいのか しら? あの子が待って るんじゃ、ない?」


捲し立てるように言葉が早くなる。

そのくせ思うように舌が動いてくれない。

飲み干された空のマグカップが置かれ、コトリと音を立てる。


返答はなし。


            「コー ヒー、ま だ、飲 む?」

51 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:52:19.90 ID:rY6iS8KI0










「落ち着け」









52 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:54:08.57 ID:rY6iS8KI0

断ち切るようなその一言で私の空回りが少しだけ落ち着く。

よほど動揺していたのか割れるくらいに自分のカップを握りしめていた。


「ンで、オマエは俺を引き止めてェのか帰らせてェのかどっちなンだ?」


その一言で自分がどれだけ動揺していたのか再確認する。

早く帰れと言い、コーヒーを飲むかと聞き、自分がどっちなんだと聞きたくなる。

そもそも家に寄って行かないのかと言い出したのは私だ。


相手が了承した以上二人の総意なのだろうが、言い出したのは私だ。


つまり私の意思だ。


「引き止めたく、なんか」


ないのか?

本当に?


私は一方通行を引き止めたくないのか?



答えは出ている。

分かっていても認めたくない、私の気持ち。


何を分かっているんだろう。

何を認めたくないんだろう。


言葉が出てこない。

形に、ならない。

53 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:55:16.81 ID:rY6iS8KI0

「コートを」


言葉になるのは、形になるのはどうでもいい事ばかりだ。

ああ、私の心は動揺したままらしい。


それでも何とか言葉を紡ぐ。


「コートを返さなきゃと思ってた だけよ。そ、それにアドバイスをし た手前、少しだけ気になってたし」


揺らいだままの心はその奥にある本心が隠れたままに。

私の望みを映さないままに外へと向かう。


「コートは捨てろ。クソガキとは無事元通り、これでイイか?」


遮られるように告げられた言葉。

いや、遮ったのだろう。



会話を。

この場を。


私達の関係を。



「ンじゃな」

「あ……」


立ち上がった姿を見て、待って口が動くよりも先に

私の手は早く服の端を掴んでいた。

「え、あ……」

自分自身の行動に驚いてその手を放す。


こどもが親を引き留めるように。

想い人に後ろ髪を引かれるように。


それはまだ何も伝えてないからか。

分からないままに手を伸ばし、手を戻す。
54 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 17:56:43.47 ID:rY6iS8KI0


自ら伸ばした手にすら戸惑う私に畳み掛けるように



一方通行がくるりとこちらに振り向いて



私を抱きしめた。



          「へ?」



思考がついて行かず、呆けた言葉しか口にできない。


「え? あ」

「期待されてたみてェだからな」

「き、期待なんて……」

「してなかったってか?」


反論はできなかった。


それはコイツの言うように実は期待していたからそういう事ではなく。

ニヤリと笑った顔が怖かったり、少し子供っぽくて可愛いなんて思ったわけでもない。

抱きしめる力に対して形だけの抵抗――あの日と同じような行動――をしていたからでもない。



単純な話だ。





「ま、どっちでもイイけどなァ」





唇が塞がれたまま反論ができるほど、私は器用じゃない。
55 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:00:38.51 ID:rY6iS8KI0

少し薄暗い部屋。

光源はカーテンの隙間から差し込む月明かりだけ。

ベッドの上には二つの人影があった。


「っつーかよォ」


一つは赤毛の少女。

ベッドに仰向けに倒れこんでおり、解かれた髪はざんばらのように広がっている。

広がった赤い髪は白い月明かりに照らされて深い海のような藍色へと変貌している。


「何かしら?」


一つは白い少年。

少女を運び、ベッドに下ろしたまま覆いかぶさり、その体をただ預けている。

その白い髪や肌が白い月明かりに照らされて月そのもののように強く輝いているかに見える。


「今日の格好は俺が言ったからかァ?」

「自惚れないで。そもそもあの服装は仕事用よ。十一次元の演算の関係で」

「前にも聞いた。肌の感覚が演算の邪魔になるどォのこォのってヤツだろ? っつーかアレかァ? つまり空間転移能力者は皆サマ露出狂ですってかァ?」

「そんな事言ってないわよ。それに今日は普通の服でしょう?」


少女の服装は白系のアウターキャミソールにカーキのチノパンツ、既に脱がされているが青いブラウス。

胸が少し開いて見えるのは服のデザインと言うよりは彼女の胸のせいだろう。


「それに貴方こそ普通の服着るのね。今日見てびっくりしちゃったわ」


少年の服はジャケットにジーパン。どちらも黒が主体だが少年の普段着ていた服と比べるとカジュアルでとても普段着らしい。


「そして手馴れてるのね」


夏で薄着とはいえ少年は少女の服をするすると脱がす。

薄暗い中、慣れた手つきで少女に何の負荷もかけぬままするすると衣服が落ちていく。


「はァ?」

「脱がすの上手いのねって言ったのよ」


少女の言葉に少年の手が少しだけ止まる。

56 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:03:02.97 ID:rY6iS8KI0

しかしすぐに何もなかったかのように手が動きだし、少女の肢体が露わになる。


少女は体を起こし、ベッドの上に座り、少年と向き合う。


暗闇の中で少女の肌が白く浮き上がる。


藍色の髪に包まれた張りのある柔らかそうな白い肌。





深海に差し込んだ白い光を見ているような、深く深く吸い込まれそうな錯覚に陥る。





「何百メートル先のアリの眉間に銃弾打ち込ンだりする方がよっぽど難しい」


少年はそんな彼女の姿を気にも止めず、自らの服を脱ぎだした。


「………器用なだけだって言いたいのだろうけど例えが突飛過ぎてマヌケよ?」

「どォでもイイ」


少年が服を脱ぎ終えると、その白い四肢が露わになる。


ベッドに体重を預け、少女との距離を近づける。


暗闇の中で少年の肌が白く浮き上がる。


月明かりに照らされてどこまでも透き通るような光を帯びた白い肌。




夜空に浮かぶ月よりも白く、星の輝きすらも及ばない強い光。





「でしょうね」


少女はそんな少年の姿を気にも止めず、自らの腕を少年の首へと回す。

57 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:04:23.12 ID:rY6iS8KI0

「したいの?」


「期待されてたみてェだしな」


「だから期待なんかして」


少女は言いかけて止める。

それは言葉にしても意味がないと感じたから。

同時に一つ思い至った事があったから。


「貴方がしたいの?」


絶え間なく流れるように動いていた少年の動きが初めてはっきりと止まる。

二人しかいない、静かな空間の空気が止まる。


「性欲あったのね」

「……俺を何だと思ってやがるンだ」

「学園都市最強の変態<ロリコン>」


少年の反応はない。

少女はくすりと笑う。


「冗談よ」


少年に口付けをする。

優しい優しい触れるだけの易しい易しい口付け。



それは二人の中での開始の合図。








                「いち、男子高校生、かしらね」
58 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:06:47.19 ID:rY6iS8KI0

「それ、五回目よ。美琴」

「でさー………ってあれ? そうだっけ?」

私のため息交じりの言葉に目の前の少女――御坂美琴は差も気付かなかったといった反応をする。

もちろん彼女の性格は知っているので本当に気付いていない事くらいは分かっている。


無理もない。



つい先日約一年ほどの少し長い片想いが終わりを告げたからだ――想いが成就されるという形で。



「嬉しいのは分かるけど……惚気ばかり聞く身にもなって欲しいものだわ」

「惚気って……愚痴に付き合ってくれるんじゃないの?」

場所は喫茶店。

有体に言えば私は美琴の恋愛相談に乗っているのだ。

恋愛経験なんてないくせに。

「貴方がどう思っているかは知らないけれどそれは愚痴じゃなくて惚気よ」

「ううー」


よく付き合い始めの彼氏彼女が何をしたらデートになるのかなんて話を聞くけれど

答えは簡単で彼氏彼女でするなら何だってデートなのだ。


それと同じように。


彼氏への愚痴の話は。

彼氏との惚気話に他ならない。


「夏の暑さも厳しいけど……どっかの誰かの惚気も厳しいわねー」

「うう……」

暑いといっても八月上旬。
暑さには徐々に慣れてきているし店内は自動空調のおかげで寒すぎず暑すぎない冷房が効いている聞いているから言葉ほどではない。

わざとらしく手でぱたぱたと仰ぎながら美琴を見ると申し訳なさそうな顔で机に突っ伏している。
59 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:07:57.91 ID:rY6iS8KI0

惚気くらい付き合ってあげるつもりなのだが、流石にまったく同じ話を五回も聞かされれば嫌味も言いたくなる。

本人が会話のループに気付いてないしね。



まあでも

「どんなに喧嘩したって別れないんだろうからいいじゃない、そのまま言っちゃえば」

年下の女の子<後輩>が悩んでいるなら頼れる年上<先輩>としてアドバイスくらいしてあげるくらいの甲斐性はあるつもりだ。



例え他人に惚気に聞こえようとも


本人が悩んでいるのであればそれは起こっている問題であり、彼女の悩みなんだから。


「で、でも……鬱陶しい女だって思われないかな?」

「それ、笑えばいいのかしら?」

軽く笑ってしまう。


彼女の行動を全部知るわけじゃないけれど

行方不明の彼(当時は彼氏彼女はない)を追って戦争最中のロシアまで行った人間がなんと弱気な事だろう。


「どういう意味よ」

「そのままの意味よ」

目の前の少し不機嫌になった少女に「少し前のストーカーモドキの<少し積極的だった>ツンビリを思い出してみなさい」と言いかけて心の中に留めておく。


それは本人にも自覚があるはずだし、そもそもツンビリも治ってない。

せめてツンデレかビリデレくらいにはなるべきだと思うけど、私に実害がない以上は割とどうでもいい。




                                     相手の彼には少しだけ申し訳ないけれど。

60 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:10:37.65 ID:rY6iS8KI0

まあ、素直になれない美琴と鈍感な彼。

どっちもどっちだと思う。




「でも淡希に感謝はしてるよ」




不意の言葉に飲みかけのアイスティーを少しだけこぼしそうになる。

正面を向くと少し照れたような真面目な顔が一つ。


「いきなり何?」

「アイツへの告白に協力してくれた事」

「協力って……ただのアドバイスじゃない。ただの気まぐれだし……それに滝壺さんのアドバイスの方が役に立ったんじゃない?」

「そんな事ないわよ。そもそも淡希がいなければ私は告白できなかったと思うし」



協力、なんてほどの事はしていない。



少しだけ相談に乗って。


少しだけ背中を押して。


少し頼りになりそうな友達を紹介しただけだ。



協力なんて言葉はおこがましい。




「……美琴ちゃんがそんな小心者だとは思ってなかったわ」

「馬鹿にしてない?」

「してないわよ。可愛いらしいなとは思ってるけど」


年相応で可愛らしい。
61 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:11:54.84 ID:rY6iS8KI0

言ってしまえばさっきの惚気話も同じだ。

「にしても高校は長点上機、彼氏は世界を救った英雄。順風満帆ね」

夏のこの時期に高校進学先はほぼ決定。それも学園都市トップの高校に。

一般には知られてないが付き合い始めた彼氏は世界の危機を救った張本人の一人。鈍感だが性格はかなりいいし、見た目も悪くない。

才色兼備。文武両道。

中学三年生としては可愛げがない。


だからこそ彼女の今の悩み――付き合い始めた彼氏との接し方と少し成長の遅い胸――を聞くとすごく安心をさせられる。


「そんな事は…………あるか」

「あら、やけに素直じゃない」

「だって今、いろいろ上手くいってばかりなのは事実だし」


過度な謙遜は相手を貶めるだけ、それは誰の言葉だったか。


「それはよかったわね」


口だけの同意をする。

付き合い始め、一番楽しい時期なんだろうけれどそれでも拭えない不安はあるのを知っている。



隣の芝生は青い。




最高の幸せを知っているからこそ最悪の不幸が怖い。









私達は世の中が幸せだけでできていない事を知っているから。




62 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:13:13.11 ID:rY6iS8KI0

「淡希」

「何?」

「悩み事ない?」


……。


…………。


聞かれて言葉に少しだけ詰まる。


「……何よ、急に」

「悩み事じゃなくてもいいんだけど、何か力になれないかなって」

「お返しのつもり?」

「も、かな。何か力になりたいなって」

「特にないわね」


さらりと答える。

できる限り、すんなりと。


「即答!? 少しくらい考えてくれても……それこそ淡希は好きな人とかいないの?」

「貴方に手伝われたら逆に失敗しそうで嫌だわ」

「どういう意味よ」

「そのままの意味よ」


不機嫌そうに睨んでくる目から逃れ、残ったアイスティーに手を伸ばす。


「ううー、いや、分かるけど……他に力に慣れそうな事なんてないし」

「別にいいわよ」


別にお礼をして欲しくて相談に乗ったわけじゃない。

何のためかと聞かれれば困るけれど、強いて言うなら可愛い後輩のためなんだろう。多分。
63 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:14:10.35 ID:rY6iS8KI0

「じゃあ、思いついたら言ってね」

「ま、期待しないで待ってなさい」

「はーい」


いつも通りの彼女に戻る。

可愛い元気な後輩に。


「あ、もうこんな時間だ。私行かなきゃ」

「そう。じゃあまたね」

「うん。またメールする」


勢いよく席を立つと少しだけ音がした。

この元気さも彼女らしい。

私は対照的に静かに立って自分の分のレシートを持つ。


「そうそう」

「何?」

「淡希と仲良くなれた事も入ってるよ」


彼女も自分の分のレシートを持つ。


「上手くいってばかりな事の中に」


その笑顔は相変わらずだ。


「それは光栄ね」


そう返すと少しだけ赤くなり、彼女はくるりと背を向けて急ぎめに走って行った。


照れるなら言わなきゃいいのに。


でも多分、私の顔も少しは赤いのだろう。


「好きな人、ね」


つい三、四ヶ月前まで友達はおろか普通の日常生活すら行っていなかった人間だ。

今だって同性の友達すら数えるほどで追加をすれば通っているのは女子高だ。

百合属性無し<ノーマル>の自分に好きな人がいるほどの環境はまだ整ってない。


好きな人と言われて頭をよぎる人物なんていない。








                     一人だけしか。

64 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:16:35.91 ID:rY6iS8KI0

「遅かったじゃねェか」


少年は部屋に入ってきた少女に話しかける。

少しだけ不機嫌そうに。


「別に時間まで決めてないじゃない」


今日は少年からだった。

その前は少女からだった。


更にその前はどちらからだったか。


彼らは二度目の夜から度々その体を重ねていた。



どちらからでもなく


どちらからともなく。


どちらからも。



あったのは暗黙の了解だけで決めたルールは特になかった。


そもそも学園都市の人口はそのほとんどが学生のために夕方を過ぎればほとんどの施設が閉まってしまう。


夜の学生の用事など宿題か夜遊びくらいだ。


故に時間を決める必要はなくとも夜九時には二人とも体が空いていた。


「ま、たしかに」


今の時刻は夜十時。

珍しい時間ではあったがおかしいというわけでもない。



「一つ、聞いていいかしら」

「……何だ?」


少年は少しだけおかしいと思いながらも少女の言葉にただ従う。


「私は―――






             ―――私は、何?」
65 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:17:42.26 ID:rY6iS8KI0


少年は酷く抽象的な質問に答えを失う。


「どォいう意味だよ」


少女の顔を見ると今まで見た事がないようなのっぺりとした無表情だった。


「私は、何? 貴方にとって、私は何?」


少年は圧倒される。

いや、動揺しているのかもしれない。


「あの子みたいに貴方との絆があるわけじゃない」


少女の言葉が理解できるのに頭に入って来ない。

それでも少女は言葉を続ける。

少年ただそれを聞く事しかできない。


「なら、私は」



そこで少女の言葉が止まる。


そこから先は少女にしか分からなくて。


そこから先は少女にも分からなかった。






「今日は、ごめん」






               小さく短い声で呟くと、少女は部屋から姿を消した。

66 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:19:47.35 ID:rY6iS8KI0

「どうしたの?」


彼女との付き合いももうすぐ数か月。

境遇が近い事もあっていろいろと話す機会が増えた。

独特の話し方やあまり変わらない表情にも慣れてきた。


「何が?」


ただ、それでも唐突かつ主語のない質問が理解できるほど私は万能ではない。


「最近元気がないなって」

「誰が?」

「むすじめが」

「私が?」

「うん」


思い当たる節はあると言えばある。

九月に入ってもまだまだ残暑が厳しいとか学校始まって彼に会えなくなった美琴がちょっとだけ鬱陶しいとか。


ただ

ないと言えばない。


「いつくらいから?」

「夏休み?」

「夏休み」

「夏休みの中頃。八月の頭くらい」


一か月前。

思い当たる節は一つだけ。
67 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:20:52.91 ID:rY6iS8KI0

「何かあった?」

「何もないけど」

「昔みたい」

「昔?」

「そう。私とむすじめが仲良くなる前」

「それっていつよ」

「四月とか五月のはじめ」


その頃は滝壺さんとは名前と顔を知っていた程度の関係のはず。

少なくとも話した事はなかった。


「食堂とか学校で見た時。今みたいな顔してた」

「今みたいな顔って?」

「苦しそうな顔」

「苦しそうな、顔ね」


言われてため息をついてしまう。



「私やみさかじゃ話にならない?」



滝壺さんの目を見ると心配そうな、それでいて強そうな眼をしていた。



親友というものはよく分からないけれど

それに値するだろう人間はできた。

何かを悩んでいて気兼ねなく相談できる間柄。


「別に何も悩んでないから相談ってわけにもいかないわ」

「ならいいけど」
68 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:22:23.66 ID:rY6iS8KI0


そう、悩んではいない。


滝壺さんと会うまでの私と今の私。

美琴と仲が良くなるまでの私と今の私。


悩みがあるわけじゃない。



あるのは一つの違いだけだ。



「滝壺さん、一つ聞いていい?」

「何?」

「私の顔が今みたいな顔じゃない時。貴方と知り合った時、どんな顔してた?」




何が違うのかの自覚はある。




「満ち足りた、幸せそうな、楽しそうな顔」





ただ、それによって私がどう違うのかは理解してなかった。





臆病にも自覚する事を恐れていた。



「用事ができたわ。また今度」

「頑張ってね」

「……ありがと。頑張ってくるわ」
69 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:24:50.28 ID:rY6iS8KI0

「…………」

「あ、終わった?」

赤毛の少女と白い少年は窓のないビルの一室にいた。


六畳ほどの小さな一室。


二人がいる場所は『待合室』と呼ばれた場所。


窓のないビルの機密性が弱まり『案内人』の数は以前より増員されたとはいえ、元々が三桁にも満たない数しかいない十一次元特殊計算式応用分野、需要に比べて供給が圧倒的に少ない。

故に以前よりも出入りが激しくなった窓のないビルで『案内人』を待つ場所として用意されたのがこの場所だ。

白い少年がその部屋を訪れた時、赤毛の少女は広くない室内でその最奥に座っていた。


入り口で立ち尽くす少年に赤毛の少女が声をかける。


「どうしたの?」


少女はとても楽しそうな顔をしていて。


「なンでオマエがいンだ」


少年は酷く嫌そうな顔をしていた。


「私が担当の『案内人』よ」


その言葉を聞いて部屋を出て行こうとした少年に少女は続ける。


「悪いけどチェンジはできないわよ?」


少しだけ意地悪そうに微笑んで。


「それに私は貴方に用があるの」

「なンだよ」

「場所、移していい?」

「……好きにしろ」


少年は部屋を出ようとしたまま、つまり背を向けたまま少女に答えた。


少女が「分かったわ」と頷くと――

70 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:25:22.67 ID:rY6iS8KI0










次の瞬間、二人はとあるホテルのベッドの上にいた。









71 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:27:18.84 ID:rY6iS8KI0

「オイ、言い訳はあるかショタマゾ露出狂」


少女が上で少年が下。

少女は少年の腰辺りに膝乗りになっている。


「何が? 計算通り演算通りよ?」

「元仲間のよしみだ。遺言くらいは聞いてやる」

「元仲間なんて……学園都市最強の超能力者<レベル5>が丸くなったものね」

「遺言はいらねェか」

「好きにしろって言ったのは貴方でしょ?」

「………」

「大丈夫よ。貴方が来るまで何度も練習してたし、今の私ならこの距離程度百発百中だから」


少女の言葉で少年の顔はどんどん不機嫌になっていく。

少女の顔は部屋の明かりの影になり、少年からでは表情が分からない。


「で、何の用ですかァ、ショタマゾ露出狂の結標さん」

「一つ、聞いていい?」


少しだけ少女の声が遠慮がちな小さな声になる。


「なンだ」

「貴方、ロリコンじゃないのよね?」


ガリッ、と奥歯をかみ砕くような音が小さく響く。


「死にてェのか?」

「念のため、確認よ」


少女は胸をなで下ろす。


「確認?」

「ええ、確認。だって少女趣味<病気持ち>じゃあ流石に勝ち目がないじゃない」


少年はまだ状況が理解できていない。
72 :Until reaching the starting line ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/21(日) 18:29:30.47 ID:rY6iS8KI0

「話が見えないンですけどォ……とりあえずどけよ」

「嫌」


短く遮るように言葉を切る。




そしてそのまま少女は肩にかけていただけの青いブレザーを後ろに落とす。





「ねえ、一方通行」






パチンと金具を外すような小さな音が聞こえると、少女の胸に巻かれているピンク色の布が緩み、するすると落ちて誰が見ても小さいとは言えない豊満な胸が露わになる。







「どんな言葉を重ねたって薄っぺらい気がするし、それで貴方の心が動かされるなんて思ってないから単刀直入に言うわ」








もう一度バチンと金具の音が鳴り、少女の腰に巻いた飾りのベルトと青いスカートが外れる。









「私。あなたが―――――」

73 : ◆oEZLeorcXc [saga]:2011/08/21(日) 18:34:28.72 ID:rY6iS8KI0
とある四人の恋愛模様「Until reaching the starting line」完

にとりあえずなります。
もう少しだけエピローグ的なものと本編で補足できなかった部分を補足するかもですが。

なお、一方さんサイドの心情とかは書くつもりはありません。
なぜならスレタイのとある四人に一方さんは入ってないからです。

あくまでこれは結標淡希の物語だったりします。

次回(正確に言えば補足エピ入れるので次々回)は浜滝です。
気長にお待ちください。


80 :Until reaching the starting line 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/27(土) 20:45:44.69 ID:N1tVcogH0


私はこの微睡が好き。

それは多分、行為の最中よりも貴方に私を求められている気がするから。


「ねえ、起きてる?」

「………ン……」


私はこの時の貴方が好き。

以前よりは、以前では考えられないほど丸くなった貴方だけど、この時間の眠そうな声はそれでも格段に可愛らしいから。


「今更だけど一つ聞いてもいい?」

「なンだァ」


私の問いかけに私の背中に張り付いたまま眠そうな声で答える。

もぞもぞと動く仕種がくすぐったい。


「私のどこを好きになってくれたの?」

「……なンだそりゃ?」


声が一瞬で覚醒状態になる。

ちょっと残念。


「ふと気になって」

「思いっきり目ェ覚めたわ」


それでもあなたは私の背中に張り付いたまま。

ああ、何でこんなにも落ち着くんだろう。


「自分で言うのもなんだけど私を好きになる要素ってないじゃない? ずっと聞かなかったけど、私のどこを好きなってくれたのかなって」

「…………」


ピタリと動きが止まる。私の背中を離れる。

ちょっと残念。


81 :Until reaching the starting line 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/27(土) 20:46:57.22 ID:N1tVcogH0


「どうしたの?」

「いや、それこそ俺のセリフだろォが。法で裁けない大量殺人、人間兵器、極悪面……なンもイイ事ねェだろォが」


声が少しだけ悲しそうになる。

振り向いて抱きしめたいかも。


「え?」

「え? って何だよ」

「何を言ってるの?」

「何その反応。むしろ逆に聞くけどよ。オマエは俺のどこが好きなンだよ」


声の緊張が少しだけ解ける。

多分ちょっと間抜けな顔をしてるに違いない。


「後悔、しないでね」

「………覚悟はしてる」


少しだけまた緊張する。

覚悟するのは私の方なんだけど。



「………全部好き」

「は?」

「というかね、すっっっっっごくむかつくんだけど。本っっっ気で腹立たしいんだけどね。髪はサラっサラだし、肌はつるっつるの上にすごくスベスベで白いじゃない? それこそシルクみたいに」
「体毛とかそんなレベルじゃなくてウブ毛すら生えてないし。しかもほぼ全身。能力のせいでホルモンバランスがどうのだっけ? ふざけないで!! こっちはすっごく苦労してるのに!!」
「そのくせ睫毛はバッシバシに長いわ、手足はすらっと細いわ……しかも、昔みたいにガリッガリじゃなくて適度に筋肉ついてるから彫刻かってくらいにキレイな体形じゃない? 指も長いし爪もキレイだし?」
「ってか本来なら微妙な白髪だって見え方によっては銀色にキラキラ輝いて見えるし、目の赤さは宝石みたいだし……もうね、全部好き。大好き。どこまでもツボよ!!」

「………………え……あ、うン…」


呆気にとられているみたいだ。

まあ、想定の範囲内。

82 :Until reaching the starting line 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/27(土) 20:47:58.52 ID:N1tVcogH0


「あ、性格も好きよ? 実は優しいところとか何だかんだで世話好きなところとか、それでいて私にちゃんと厳しくしてくれるところとか」

「……うン………ありがとォございます」

「引いた?」

「………今のを即答で許容できるほど人間できてねェ」


想定の範囲内だけど。

ちょっとだけショックね。


「そうでしょうね。でも他にも好きなところはいっぱいあるわよ?」

「…………そりゃどォも」


少しだけ震えてるのが分かる。

多分顔は赤いんだろう。


「で、私には教えてくれないの?」

「何を?」


きょとんとしてる。

わざとじゃないのが性質が悪い。


「貴方が私のどこを好きなのか」

「ン? あー………俺みたいなのを」

「好きだって言ってくれるとこ、とかじゃダメよ?」

「………精神系能力にでも目覚めたかァ?」


予想通り。

でも欲しい言葉はそういうのじゃない。

83 :Until reaching the starting line 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/27(土) 20:48:48.56 ID:N1tVcogH0


「どれだけ一緒にいると思ってるのよ?」

「………寝る」

「ちょっと!! 私は言ったじゃない!!」

「………頼ンでねェ」

「ちょっと!!」


思わず振り返ってしまう。


恥ずかしがりなのは知ってるけど。

思われているのは知ってるけれど。


欲しい言葉はそれじゃなくて。

欲しいものはそれじゃなくて。


「寝ちゃったの?」

「寝言だからな」

「え?」

「俺も全部だ。俺を受け入れてくれるとこも。俺の過去を知った上でそれを理解してくれるとこも全部だ」


優しい声。

私が誰よりも落ち着く音。


「………そっか」

「あとは肌だな」

「肌?」

「触れると浸透するっつーか、相性がイインだろォな。俺の肌と。触れてると落ち着くンだ」


そういえば思い当たる節がある。

する時はすぐに脱がすし、二人で寝る時は基本裸だし。

84 :Until reaching the starting line 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/08/27(土) 20:51:09.61 ID:N1tVcogH0


「………よくくっついてくるのはそういうわけだったのね」

「満足かァ?」

「満足も何も寝言でしょ?」

「…………そォだ、寝言だ」

「大好きよ、一方通行」

「…………。好きだ、淡希」


私はこの微睡が好き。

それは多分、行為の最中よりも貴方に私を求められている気がするから。

何より貴方と共にいる事を実感できるから。
































「苦しい」

「せっかく貴方の大好きな肌に顔が埋められるのに?」

「苦しい」

「…………ロリコン」

「…………黙れショタコン」

「違うわよ。あなたはショタじゃないでしょ?」

「じゃあマゾ」

「う……」

85 : ◆oEZLeorcXc [saga]:2011/08/27(土) 20:54:03.03 ID:N1tVcogH0
Until reaching the starting line 蛇足
今度こそ了。しばらく二人のパートは書かず次書くのは浜滝になります。
完成はだいぶ先だと思いますが。
というか前回投稿時板が調子悪かったのかageれてませんでしたねー。

では。 
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 21:15:04.21 ID:Qv+pjfR1o
なにこれあまい
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/27(土) 21:49:20.13 ID:9TnycHoj0


番外通行とは違う甘さがたまらないZE
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/27(土) 22:22:06.82 ID:reHi4GXR0
乙!!
あまぁぁぁい!!!! 
102 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:10:03.73 ID:vvqVtp9F0









目を開けると、そこは自分の部屋じゃなかった。








103 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:11:15.54 ID:vvqVtp9F0

ぼんやりとした視界に映るのは自分と友人の住んでいる部屋の倍くらいの広いリビング。
目の前に置かれた真っ白なテーブルの中心はくり抜かれていて、中に小さなアンティークが入っている。

体を起こすと柔らかいタオルケットが床に音もなく落ちる。


「やっと起きたか、馬鹿初春」


声のする方へ顔を向けると――あまり好印象を与えない風貌、ただし見た目はモデルみたいにカッコいい――最近見慣れた顔があった。


「…………あれ? 何でいるんですか?」


大きなあくびをして、目を擦り、頭を覚醒させる。

なんだか頭がぽやぽやとします。


「まだ寝惚けてるのか?」

やれやれ、とあからさまに呆れた表情をされる。


私はこの顔があまり好きじゃない。

子供扱いをされている気がするから。


もっとも高校生と中学生、三つも離れているのだから仕方ないと言えば仕方ないんだけれど。



          え?



あれ?



        ここはどこだろう?


私……どうして…………?







「寝てたんだよ」

104 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:12:10.14 ID:vvqVtp9F0

言われて思い出す。

ここは私の部屋じゃない。


寝る前は何をしていたんだっけ?

たしか勉強を教えてもらっていたんだ。

学期末試験の範囲で少し分からないところがあったから。



……。


…………。


…………………。



いつの間にか寝ていたらしい。




彼の家で。




「え……えええーーーー!! なんで起こしてくれなかったんですか!?」


たしかに寝てしまったのは私が悪いけど。


そんなに呆れた顔をするくらいなら起こしてくれてもいいと思う。

それどころか私の不満を聞いて呆れた顔が不機嫌そうなしかめっ面になる。


しかもため息のおまけつき。

105 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:13:02.57 ID:vvqVtp9F0

「何ですかその顔は」

「別に」


何も言われずにそんな顔をされるとムッとしてしまう。


何も言われないのは嫌。

何も分からないから。


あなたを知る事ができないから。


「何ですか?」


だからもう一度聞く。

あなたの事を知るために。


「少しムカついただけだ」

「何でですか?」


そういうとあなたは背を向けてテーブルに座る。

私の視線は高いまま。

私とあなたでは身長が頭一つは違うから。


「散々起こしたからだよ馬鹿。起こす度にあと五分っつって寝直したのは誰だっての」

「知りませんよ……って完全下校時間どころか日付変わる直前じゃないですか!!」

壁に掛けられた時計を見ると、時刻はおそらく午後十一時過ぎ。


おそらくなのは時計のデザインが前衛的過ぎてぱっと見で時間が分かりにくいから。

106 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:13:40.28 ID:vvqVtp9F0

「知ってる」

「知ってるなら起こしてくださいよ!!」

私の言葉であなたはこちらに振り向く。

くるりと振り向くとさらさらとした金に近い茶髪が揺れる。


学園都市製のヘアカラーで染められた、一切傷んでないサラサラの髪が少しだけ恨めしい。


「……一時間ほど張り付いて起こしてたんだけどな」

「起きてなきゃ一緒です!! ああー外出届なんて出してないし、春上さんにも連絡を」

「春上ちゃんには連絡しといたぞ。誤魔化しといてって」

「何で連絡先知ってるんですか!?」

「こういう事もあろうと聞いといた。用意周到だろ?」


悪戯が成功した子供みたいにニヤリと笑うあなたはどうにもガラが悪いというか、はっきり言ってチンピラ感が拭えない。

口に出すと何を言われるか分からないので心の中に留めておく。




                  ナンテ彼氏思イナ私。


「そんな根回ししっかりするよりこういう事にならないようにならないようにしてくださいよ!!」

「俺にその常識は通用しねえ」

キリッとか音が出そうなくらいわざとらしいドヤ顔されてもなぁ。

「それってただの常識知らずじゃないですか……」

ため息をつくのはこちらの番らしい。

107 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:14:31.92 ID:vvqVtp9F0



用意周到だけど本末転倒。


綿密な計画を作っておいて、全部倒壊させながら大雑把に進む矛盾した性格。


助けられる気持ちが半分、どう反応すればいいのか困るのが半分。


それが計算じゃなくて地の性格だっていうんだから諦めるしかない。



「まあ、なっちまったもんは仕方ない」

言われて差し出されたのは白いカップ。
お揃いで買った花がワンポイントの小さなカップ(私は黄色で彼は赤)。

「飲むか?」

私が起きるのに合わせて何か入れてくれたらしい。


こういう気は回るのになぁ。



                  女の子を扱い慣れてるだけなのかもしれないけれど。



「……いただきます」


カップの中身は適度に冷えたミルクティー。

インスタントのクセに入れ方をこだわるせいで下手な喫茶店よりもおいしい味。

きっと前に「学舎の園で飲んだヤツの方がおいしいです」と漏らしたのが原因だと思う。


その割になぜか茶葉やミルクにこだわるんじゃなくてあくまで入れ方にこだわったのは謎だったけど。





ズズズと控え目に響く音とカチコチと規則的に響く音が広いリビングを支配する。
108 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:15:44.88 ID:vvqVtp9F0



「落ち着いたか?」

「……誰のせいだと思ってるんですか?」


寝惚けた状態で怒鳴ったせいで体が火照った。

冷たくておいしいミルクティーで落ち着いた。

どっちもあなたのせいですよ。



「まあ、真面目に言うと半分くらいは俺のせいかもだけど、半分以上はお前自身のせいだな」





…………………。




思わずカップを傾ける手が止まる。

いきなり真面目になるのはズルい。

少しだけはにかんだような、優しい顔。


本人は意識してないんだろうけれど。


「………否定はしません」

「素直でよろしい。これでいいか?」


差し出されたのは白いシャツとカーキのハーフカーゴパンツ。

それと大きな白いバスタオル。

109 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:16:57.47 ID:vvqVtp9F0

「え? 何ですかこれ?」

「着替え」

「着、替え……?」

なんのこっちゃ。

「お前風呂入らねえの?」


………。


お風呂。

お風呂?


お風呂!?



お風呂!!!!



「おおおおふふおふお風呂ですか!?」

「まだ梅雨入りしたばっかだし……ベタベタしねえの? 空調効かせてたけど……あ、湯張りたかったら張ってくれていいぞ。浴槽は洗ってあるから」


動揺する私をよそにさっきまでと変わらない顔。

「紅茶でも飲む?」とでも聞いているかのようないつも通りの顔。


「そ、そうじゃなくてですね」


平静を装っても上手く言葉が口にできない。


この人は何を考えてるんだろう。

いや、何も考えてないのかもしれない。

一人暮らしの男の家でお風呂だなんて。

しかも彼氏と彼女という関係で。



ああ、頭が瞬間湯沸かし器みたいに真っ赤になるのが自分でよく分かる。
110 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:18:20.98 ID:vvqVtp9F0

「? ああ、俺ならもうシャワーで済ませたぞ」


狼狽する私をよそに、目の前にはきょとんとした顔。

あ、この人は何も考えてない(確定)。


これじゃ意識してる私が馬鹿みたいだ。


「………もういいです」

「バスルームはトイレの逆な」


そういうと立ち上がりカップの片付けを始めた。


「なんか分からなかったら聞いてくれ」


あなたの大きな背中が遠ざかる。

シャワーを済ませたといった割にはそのまま外に出れるような格好で。


そのまま寝るのかと少し驚く。




あなたと出会ったのは残暑の厳しい夏の終わりというよりも秋のはじめに近かった。


あなたを好きだとはっきり意識をしたのは初雪の降ったあの冬。


あなたとお互いの気持ちをちゃんとぶつけあったのは割と最近で、まだ桜が咲いたばかりの春の日だった。


だから夏はまだあなたと過ごしていない。






こんな些細な事でさえ、あなたを知らないんだと心が痛む。



まだまだ遠い存在で





                まだまだ近づきたい存在。




「…………馬鹿」

聞こえないように口の中で呟いて、ゆっくりとバスルームに向かう。

私の足には大きいスリッパがパタパタと音を立てる。
111 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:18:57.81 ID:vvqVtp9F0


渡された服のサイズはかなり大きいが、首のボタンを留めれば大丈夫そうだ。

下着は含まれてないが(当然だ)、ショーツの替えは一つだけ持ち歩いているから問題ない。

ブラは……寝る時はなくても困らない。


理由は小さいからじゃない。



                  と、胸を張って言いたい。



バスルームの扉を開ける。

正面には片付けられた洗面台、後ろの棚には乱雑に置かれた洗面用具。


やっぱり鈍感なのか几帳面なのか大雑把なのか繊細なのかよく分からない性格。


何も入っていない脱衣カゴに渡された服を置く。

気持ちを落ち着けて、深呼吸をする。



相手は意識していないとはいえ


多分そうはならないとはいえ




彼氏の家で、一人暮らしの男の人の家で裸になるなんて初めてだ。




どうしても躊躇してしまう。


よし、と思い立ちスカートに手を添える。

112 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:19:43.25 ID:vvqVtp9F0


「あー、そうそう」


心臓が飛び跳ねるかと思った。

あなたが悪いんじゃないけど。

別にやましい事があるわけでもないんだけど。


なんだろう。

何か言い忘れかな?



別に服を脱いだわけではないが、なんとなく恥ずかしくて顔だけを廊下に出すと、そこには同じように顔だけ出したあなたがいた。



「何ですか?」

「マセガキ」

「ッ!!」


短くそう言うとすぐにキッチンに隠れてしまう。




顔が火照るのが分かる。



全部見透かされていたらしい。



恥ずかしい。




でも、理解されているという事が




                少しだけ、嬉しい。





「馬鹿」





あなたには聞こえないようにして小さく口の中で呟いた。
113 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:21:10.12 ID:vvqVtp9F0






『傘も差さずにどうしたんですか?』



『えーっと……怪しいものじゃないですよ? 通りすがりの一般人です』



『お節介って……そっか』



『一般人じゃなかったです』



『通りすがりの風紀委員です』





114 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:22:30.93 ID:vvqVtp9F0


「流れとはいえ……泊まる事になってしまうとは」


優しい雨音のような水音がバスルームに響き渡る。

流れ落ちるのはお湯ではなくて少し温度を下げた冷水。

これで少しは顔のほてりが消えてくれるといいんだけど……そんな簡単にはいかないわけですよね、ぐすん。


「というか一人暮らしなわけで………私達は彼氏彼女なわけで」


さっきキッチンから覗いていた顔を思い出す。

ニヤニヤと意地悪く笑ってはいたけれど

あなたの顔には羞恥の欠片も感じられなかった。



私と映画を見に行く時も


私を家に呼ぶ時も


私と初めて手をつないだ時も



いつだってあなたは同じ顔をしているだけで


まるで私だけが一人で舞い上がっているみたい。

115 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:23:07.60 ID:vvqVtp9F0



今日だってそうだ。




夜。


お風呂。


二人きり。




私はこんなにも恥ずかしくて慌てていて舞い上がっているのに


言葉を反芻するだけでもドキドキが止まらないのに




あなたはいつも通り。




「魅力………ないのかな」


思わず呟いて、視線を自らの体に落とす。


実はシャワーはあまり好きではない。


お風呂自体は好きだけど。

風紀委員の仕事で忙しい時なんかはよくシャワーでだけで済ませるんだけれど。


やっぱりシャワーはあまり好きではない。




体を伝う水滴が、体の平坦さを教えてくれるから。


116 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:25:34.62 ID:vvqVtp9F0


成長期で個人差があるとはいえ

まだ中学生な自分には十二分に可能性があるとはいえ


明らかに同年代の女の子よりも劣る平坦なその曲線を

立て板に流した水のようにすんなりと落ちていく滴。


気分が憂鬱になる。


「人の家だし、あんまり長く使っちゃ悪いですよね」


シャワーを止めてバスルームを出る。

別にあなたを疑っているわけではないけれど、少しだけキョロキョロと周囲を窺ってしまう。


タオルで体を拭く。

この壁の向こうにあなたがいると思うとそれだけで心が騒ぎ立てる。

シャワーの音はもうしない。

水滴の落ちる音と私自身をタオルで拭く音だけが静かに響く。



…………髪の毛は後回しにして先に服だけ着てしまおう。



髪の毛にバスタオルを巻いて、あなたに渡されたシャツに手を通す。

首までボタンを留めても全然苦しくない。


「やっぱり、大きいな」


無理もない、身長が30センチくらい違うんだから。

シャツだけで太腿どころか膝近くまで隠れてしまう。

まるでシャツワンピースを着てるみたい。

117 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:27:10.39 ID:vvqVtp9F0


ふと気になって顔を上げる。



正面の姿見には映るのは


彼氏のシャツを借りた私というよりは

いたずらで父親のシャツを着た子供みたいな私。


あなたが動揺しないのもよく分かる。


「御坂さんに相談してみようかなぁ」


別に体型の事じゃなくて

彼氏彼女の事を唯一相談できる、頼れる先輩にして仲のいいお友達。


他に友達がいないわけじゃない。

相談自体はできるけど。


どうしても距離を感じてしまうから。




そして長い付き合いの友達とすら距離を感じる時があるのに


一年にも満たない付き合いのあなたとの距離は―――



「私といて、楽しいのかな」


超能力者<レベル5>でカッコよくて背の高い大人なあなた。

低能力者<レベル1>で十人並みで小さい子供な私。



「私で、いいのかな」



どうしたって比べてしまう。




「私なんかで、いいのかな」



誰とではなくて

誰とでもなくて



私の知らない誰かと

誰でもない誰かと




118 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:27:52.74 ID:vvqVtp9F0






『垣根さんって案外何も知らないですよね』



『縁遠かったって……一般常識じゃないですか』



『分かりました。じゃあ、私が協力しますよ』



『そうです、協力です。風紀委員のお仕事<ボランティア>です』



『いっぱいしましょう。楽しい事、くだらない事。やりたい事、やりたくない事も』



『垣根さんが今までできなかった事、全部しましょう』





119 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:29:33.67 ID:vvqVtp9F0


「でましたよー」

少しだけ沈んだ気持ちを切り替えて脱衣所をでる。

サイズの大きいスリッパがまたパタパタと音を立てる。

「んー……やっぱりサイズでかかったな。ハーフパンツがハーフじゃねえ」

声に振り向くとシステムキッチンの窓(私の顔くらい、垣根さんの胸くらいの高さにある仕切り壁)に持たれたあなたがいた。

「どうせ私は小さいですよ」

「いや、そういう意味で言ったわけじゃねえけど……怒んなよ。ってか小さい方なのか?」


コンプレックスになっているせいでどうにも過剰反応をしてしまった。


「………平均よりは、下です」

「ふーん」

すごく興味なさそうに言うとそのままソファまで歩いて行って座ってしまう。

まだまだ乾かない髪をタオルで拭きながらその横に座る。


肩が触れる。


高さの並ばない肩に私とあなたの距離を自覚させられる。


「何してたんですか?」

「んーいろいろ」

「覗こうとしてましたね」

「…………」


ちょっとおどけたつもりが真面目にとらえられたのか気に障ったのか、何とも言えない顔をされる。

あまり見ない表情だ。

120 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:30:41.64 ID:vvqVtp9F0

「何ですかその顔は」

「別に」


別に。


明らかに何かを裏に隠した言葉。


あなたの心の声を閉じ込める大嫌いな言葉。


「何ですか?」


さっきよりも強い口調で言葉を伝える。

不機嫌に見えたっていい。


あなたを知れないよりは。


「……そういうのはもうちょっと成長してから言ってくれ」




…………………。




思わず言葉の意味を考えてしまう。

濁すように言われた言葉を頭の中で反芻する。

何度考え直しても一つの意味しかない。


たしかにお世辞にも魅力的な体系とは言えはないけれど。


「……怒っていいですよね」

「あー、今のは俺が悪かったな」


というか既に怒っている。

バツの悪そうに続けられる言葉。

どんな言葉が来ても許さないし許せる気がしない。
121 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:32:06.35 ID:vvqVtp9F0





「まだちゃんと『見たい』より『見なくていい』が勝ってるんだよ」





「……勝ってるって事は『見たい』気持ちもあるって事ですか?」


許せる気がしなくても許さないつもりでも。


「当たり前だろ?」


許してしまえるのはあなただからなんだろうか。


今日はその表情を見せてくれたから許してあげます。


いつも通りを取り繕ってるけど耳まで赤いその顔を。


「ロリコン」

「俺をどこぞの白モヤシみたいに言うな。ムカつくからやめろ」


私の言葉で熱が冷めたのか赤くなったのは一瞬だった。

ちょっと失敗。


「そもそも中学生って単語だけ切り取ればロリコンかもしれねえけど、初春は来年高校生、そもそも三つしか離れてねえガキ同士でロリコンとかねえだろ」

「………分かってますよ」


分かってはいる。

それでもあなたは来年大学生。

私は子供だと言われたら頭にくるし、あなたみたいに自分をまだ子供だって戒められない。


子供同士ではあるけれど、同じ子供ではない。

122 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:32:47.99 ID:vvqVtp9F0

「っつーかよ」

「何ですか?」

見上げた顔はまだ不機嫌そうだ。

よほどロリコン呼ばわりが嫌だったらしい。

「ロリコンってのは小さい女の子が好きって事だろ?」

「そうですけど」



「なら俺はやっぱり違うな――






               ――俺が好きなのは小さい女の子じゃなくて初春飾利って女の子だからな」



その言葉を聞いた瞬間に体が火照るのが分かる。

優しい笑顔に驚いて顔を背ける。

きっと私の顔は真っ赤だろう。


さっきまで許すとか許さないとか考えていたのに。

さっきまで子供がどうとか悩んでいたのに。


一瞬でどうでもよくなってしまう。




                       不意打ちはズルい。

123 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:34:36.86 ID:vvqVtp9F0


「そういえばお前って化粧水とか使うの?」

「な、何ですかいきなり」


取り繕って少し裏返った声が滑稽だ。

自分の事ながら恥ずかしい。


「いや、何かいるかなーって考えてたんだけどさ。着替えはそれでいいとして他にもいろいろ必要だろ? うちにはアニメティグッズなんて気の利いたもんねえし」

「私も今日はお泊りセット持ってません」

「おと……お泊りセットて」

「佐天さんの部屋に泊まる時とかに使ってますけど……なんか変ですか?」

「そういうわけじゃねえけど……こう響きが……あ。歯ブラシの予備あったかな」


ソファを立ち、棚の方へと歩いていく。

まだ動揺したままの私は少し救われた。

でも体が離れてしまい、少し残念だ。


「ピンクでいい?」

戻ってきたあなたの手にはピンク色の歯ブラシが握られていた。

あなたに似つかない色。

あなたが持っているとすごく小さく見える歯ブラシ。

「何でそんな色持ってるんですか?」

「どんなのがいいかなーって適当にザラっと買った時に混ざってた。黄色とかもあるけどそっちのが好きだっけ?」

「どっちもの色も好きですけど」

「だよな。んじゃこれで」


そういうと歯ブラシをテーブルに置いて再びソファに座る。

さっきと反対側の肩が触れる。
124 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:35:53.41 ID:vvqVtp9F0

「私の好きな色なんて知ってましたっけ」

「統計……というか服とか小物とかからなんとなく。ピンクとか黄色、あとオレンジ好きだろ? 青とかも含めたパステルカラー全般が好きなのかもしれないけどよ」


あなたとは服を買いに行ったり小物を選んだりいろんな場所に行っている。

だからあなたの好きな色だって知ってるし、私の好きな色だって知ってくれている。


そんななんでもない事がとても嬉しい。


「どうかしたか?」

「なんでもないです。ピンクお借りしますね」


見上げた顔は何が何だか分からないって言いたそうなきょとんとした顔。

無理もない。


変に鈍感なあなたには私の笑顔の理由は伝わらないだろうから。


「別にいい。というか初春用に置いとくつもりだし」

「中学生を連れ込んでどうしようって言うんですか!?」


少しだけ距離を取って、まるで自分を抱きしめるみたいに大袈裟に体を隠す。


「…………」

「何ですか?」


今日何度目だろう。

返ってくる言葉は分かってる。
125 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:37:18.91 ID:vvqVtp9F0


「別に」

「何ですか?」

「べっつにー、歯磨いて寝るぞ」


そのまま立つとバスルームに向かって歩きだす。


「え? ね、寝るって」


私の狼狽した声が聞こえるとあなたの足が止まる。

そして背中を向けたままで私の言葉にため息をつく。


「………マセガキ」

「な!!」

「耳年増とかむっつりって方がいいか?」

「違いますよ!! でもだって、ベッド一つしかないですよね? そ、それとも来客用の布団でもあるっていうんですか?」


知っている限りベッドは一つだし布団なんてない。

つまりそれは……。

そういう事である。



私が次の言葉に困っているとあなたは


「ねーよ?」


と言ってくるりと振り返りやっぱり何でもなさそうな顔で言葉を続けた。





「キングサイズのベッドだからなんとかなるだろ。離れて寝れば」
126 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:38:56.28 ID:vvqVtp9F0




…………………。




その言葉はめちゃくちゃカチンと来た。


「指一本でも触ったら叫びますからね」

「お前、俺のこと嫌いだろ」


嫌いならこんな場所にいない。


「嫌いです。マセガキとか耳年増とかむっつりなんて言う垣根さんは嫌いです」

「ってか冗談だよ」


別に一緒に寝るのが嫌なんじゃない。


「今更撤回したって許しません」


気付いてくれないのが嫌だ。気付かれないのが嫌なんです。


今度こそと思い、顔を背けてソファにもたれ掛る。

まるで子供みたいなのは分かっているけれど。


それでも私はあなたの彼女で女なんだから。


「そっちじゃねえ。誰が一緒のベッドで寝るか」

「え?」

「俺はソファで寝るっつーの」


驚いて振り向くとバツの悪そうに髪を弄っているあなたがいた。

127 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:40:20.18 ID:vvqVtp9F0

「え? で、でも垣根さんは家主ですし、ベッドで寝るんじゃ」

「………何でそこで弱気になるんだよ」

「だ、だって悪いです……そもそも私が寝ちゃったのが原因ですし」

「それはそれ」

「で、でも」

「んじゃ一緒に寝るか?」


いつの間にか近付いていたあなた。

その言葉に思わず身構えてしまう。


「冗談だって」

「うー」

「それにな」


大きな手が伸びてきて、優しく頭を撫でられる。





「手出せねえのに一緒のベッドとかドンだけ拷問なんだよ」





「~~~~ッ!!」


幾度となく睦言は囁かれているのに。

今までだって恥ずかしくて耐えられないような愛の言の葉を聞いているのに。



心臓が止まるかと思った。

顔が爆発しそうだ。

今日だけで何度目だろう。

128 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:42:14.07 ID:vvqVtp9F0

「あっか。真っ赤だな、顔」

「ま、真顔でそんな……そんな事を言わないでください!!」

「笑いながら言ったら不誠実だろ?」


ニヤリと笑うあなたはいつも通りなのにその顔が愛おしい。


「そ、そうですけど」

「んなに顔赤くするくらいならそういう方向に話をもってくなっての」

ため息をつくと再びバスルームへ向かう。

離れる背中は呆れているんだろう。


子供な私に。


「だって」


でもそれは


「だって」


私からすれば




「だっていつまでたっても子供扱いしかしてくれないから」




私だって分かっている。

これは子供の言い分だ。

背伸びがしたい子供の言葉だ。


大人がしているそういう事をする事で、それができる事で子供じゃないと否定したい子供の意地だ。


分かっている。


129 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:43:38.41 ID:vvqVtp9F0

「俺だってガキだけど?」

「そういう意味じゃない事くらい分かってますよね?」


でも。


「んじゃキスでもするか?」


譲りたく、ない。


「――すよ」


私は立ち上がり、あなたのシャツを引っ張る。

子供が玩具を強請るように。

出かける親を引き留めるように。


「いいですよ」


どれくらいたったろうか。

数秒程度の時間が何時間にも思えてしまう。

そんな数秒の沈黙の後、振り向いたあなたの顔を見上げるとその顔はいつもの顔と少し違った。


「本気か?」


いつもより優しい顔で。


「も、もちろんです!!」


いつもより真面目な顔で。


「……分かったよ。目閉じろ」


少しだけ、怖い顔。


「早くしろよ」


その言葉で瞼を閉じる。


「は……は、い」


覚悟を決めて待つ。

130 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:44:20.07 ID:vvqVtp9F0


目を閉じた私には何も考えられなかった。


ただ伝わるのは

目の前にあなたがいる事だけ。


その気配が近づいてきて


音がした。

体に衝撃が伝わった。


「へ?」


水音のような優しい小さな音と同時に。

触れられただけの小さな衝撃が足の先まで一瞬で駆け巡った。


「背伸びしながらぷるぷる震えてるようなお子様にはソコで十分だ」


そう言うとあなたはスタスタと歩いてバスルームへ行ってしまった。


少しフラついて、少しだけ濡れたオデコを押さえながらソファに腰を下ろす。


少しだけ、冷たい感覚があるのが分かる。







馬鹿みたいに高鳴る鼓動も風邪を引いたみたいに熱い体も当分納まりそうにない。


131 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:44:54.08 ID:vvqVtp9F0






『子供扱いしないでください!!』



『それは……ズルいですよ。そんな言い方されたら言い返せないじゃないですか』



『そ、それは忘れてください』



『本当、性格悪いですよね』



『え? そ、そんな急に……』



『ありがとう、ございます』





132 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:46:42.45 ID:vvqVtp9F0

大きなベッド。

     あなたの匂い。

高い天井。

  あなたの顔


あなたの言葉。



他人にとっては取るに足らない些事でも私にはとても大きな事で。



一つ一つが私の心を大きく揺らす。




「大人に、なりたい」


思わず口にしてしまう言葉。


「あなたを、知りたい」


誰にでも聞かせるわけでもない私自身に聞かせる言葉。


「寝られるわけないじゃないですか」

体を起こすとズレ落ちた布団がモフりと音を立てる。


結局あなたは眉一つ動かさず最後までいつも通りだった。

並んで歯を磨いて、タオルケットを片手に「おやすみ」と言ってソファに横になった。

それだけだった。

133 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:47:38.51 ID:vvqVtp9F0


対して私はまともに顔を見るどころかずっと顔を背けていた。

並んで歯を磨いている間も、「おやすみ」の言葉にもまともに返せずにベッドルームに入った。

それだけだった。


ベッドに入ってからはもう散々だ。


起きてからの事はおろか

寝る前の今日勉強を教えてくれていた時の事

一昨日のデート

もっと昔の事



全ての思い出がフラッシュバックしてしまって目が冴える一方だ。


寝れるわけがない。



……。


…………。


…………………。


「そうか」


無理はない。

私が今どこにいるかを考えれば当然だ。



「全部、なんだ」

134 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:48:58.91 ID:vvqVtp9F0


全部なんだ。

ベッドも。

布団も。

服も。

この髪からするシャンプーの匂いも。



全部があなたと同じなんだ。



「寝られるわけ、ないじゃないですか」



体が火照るのも無理はない。


余りにも熱いから手を額に当てて体温を測ってみよう。



……。


…………。


…………………。



失敗した。


さっきの事を思い出して余計に体温が上がってしまった。

何もないのに何かある感触がする。


漫画ならボフンって爆発したみたいな音が鳴ったんだろうな。


「……水でも貰おう」
135 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:50:20.15 ID:vvqVtp9F0


ベッドから降りて部屋を出るとリビングの電気がついていた。

ベッドルームに入った時そのままだ。

「起きてるんですか?」

タオルケットに包まったソファの塊に声をかける。

返事はおろか反応がない。


時計を見るともう三時過ぎ。


思ったより時間はたっていた。

そのほとんどを悶えて過ごしていたと思い返すと恥ずかしい。

がそれは今は関係ない。

「何で電気消さないんですか……まったく」

仕方ない。私が消そう。

この人はやっぱり時々だらしないところがあるようだ。


そう思ってテーブルのリモコンに手を伸ばした時だった。


ソファから伸びた手に腕を掴まれた。

「ひゃぅ!?」

変な声が出てしまった。

「ちょっと垣根さん。驚かさないでください……よ?」

私の不満は届いていないようだ。

と、言うよりも



「…………寝てる?」


136 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:53:29.11 ID:vvqVtp9F0


ソファの塊は私の腕を掴んだまま微動だにしない。

タオルケットにすっぽり包まれていて顔は見えないがどうやら寝ているらしい。

つまり私を驚かそうと腕を掴んだわけじゃなくて、寝惚けてるだけなのか。


タオルケットから手だけ伸びてると少し怖いなぁ。


「痛っ……」


解こうとした手の力が大きくなり、少し痛いくらいまで強くなる。


「――、―くれ」

「垣根、さん?」

「やめて、くれ」


声が聞こえた。


「俺が、俺が」


声は徐々に大きくなる。

腕を掴む力も強くなり、あまりの力に小さく震えている。


「俺が、―――」


言葉の最後は声になっていなかった。

辛そうな、苦しそうな、悔やんだような声。



いや、苦しんで悔やんでいる声なんだ。
137 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:56:15.32 ID:vvqVtp9F0


震える手を握り、ゆっくりと解く。


「大丈夫です」


解いた手に自分の手を重ねる。

ゆっくりと丁寧に、あなたが安心できるように。


「大丈夫ですよ」


タオルケットを下ろすと綺麗な顔が、苦しそうに歪んでいた。

いつもの飄々とした堂々としたあなたからは想像もできないような悲しい顔。


「間違った道だって戻ればいいんです」


金に近い茶色の髪を撫で、そのまま抱きしめる。

背が高いあなたでも、私の小さな胸にすっぽりと収まってしまう。


「正しい道を選び直せばいいんです」


今でも覚えている。

『一度死んで生き返った。しかも俺だけが全てが終わってから』

『俺は罪を責められる事も償う事も開き直る事も認める事すらできない死体なんだよ』

『俺は俺でいちゃいけないんだ』

あなたのあの時の言葉。


「誰も許してくれないかもしれない」


人を傷つけた人間は幸せになってはいけないのかもしれない。

でもそれじゃあ一度の失敗だってできない。

偽善かもしれないけれど罪人だっていつかは救われるべきなんだ。


「でも私は側にいます」


世界が許さなくても

誰かに恨まれても

例えそれが間違っていても


過ちを犯して、苦しんで、悔やんだ人を苦しめるなんて私にはできない。




「大好きな、あなたの側に」




138 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:56:55.46 ID:vvqVtp9F0






『知ってます。というか覚えてます。あの時の肩の痛みも』



『ええ、私は人を傷つける事が嫌いです』



『でも、だからと言って傷つけた人を責め続けるのは嫌です』



『それはその人を傷つけるのと同じだからです』



『こんな事を言っても説得力はないかもしれません。私はまだ子供ですから』



『でもそれでも』



『私はあなたを許します』



『あなたはあなたでいいんです』





139 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:58:05.03 ID:vvqVtp9F0




目を開けると、そこは自分の部屋じゃなかった。




ぼんやりとした視界に映るのは自分と友人の住んでいる部屋の倍くらいの広いリビング。
目の前に置かれた真っ白なテーブルの中心はくり抜かれていて、中に小さなアンティークが入っている。

体を起こすと柔らかいタオルケットが床に音もなく落ちる。


「やっと起きたか、馬鹿初春」


声のする方へ顔を向けると――あまり好印象を与えない風貌、ただし見た目はモデルみたいにカッコいい――最近見慣れた顔があった。


「…………あれ? 何でいるんですか?」


大きなあくびをして、目を擦り、頭を覚醒させる。

なんだか頭がぽやぽやとします。


「寝惚けてるのか? 昨日泊まったろうが」

やれやれ、とあからさまに呆れた表情をされる。


私はこの顔があまり好きじゃない。

子供扱いをされている気がするから。


もっとも高校生と中学生、三つも離れているのだから仕方ないと言えば仕方ないんですけど。


「にしてもせっかくベッドを譲ったってのにそんなにソファがお好みだったか?」


そうか、私はあの後そのまま寝てしまったのか。


「え? えーっと……」

「ベッドまで運ぼうかとも思ったんだけど起こしそうだったしな」
140 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 16:59:28.18 ID:vvqVtp9F0

現在地。

ベッドではなくソファ。



昨日の自分の行動を思い出して、顔から火が出そうになる。



「びっくりしたぜ? 起きたら横に寝てんだもん」

「あはははは……」


横に寝てた、か。

どうやら頭を抱いたまま寝てたという事ではないらしい。

何の解決にもならないが、少しだけ安堵する。


「よほど俺と離れたくなかったのか……それとも夜這いのつもりだったか?」

「そ、そんなわけないじゃないですか!!」

「んな怒鳴らなくたっていいだろうが……まさか図星か!? 俺が知らないだけで既に何かされてた、とか?」

「そんなわけないじゃないですか!!」

「ですよねー」


ケタケタと笑うあなたはいつも通りで。

苦しんでいるなんて微塵も感じさせない。

それがカラ元気じゃないといいんだけれど。
141 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 17:01:00.83 ID:vvqVtp9F0


「あ、そうそう初春」

「何ですか?」

「起きた時に俺の頬が濡れてた件についての心当たりは?」

「え? ちゃんとタオルで拭いて……は!?」


そこには心の底から楽しそうなニヤリとした笑みを浮かべた私の彼氏が一人。


「カマかけただけだったんだけど……流石は好奇心旺盛な中学生。やべーやべーこれからは鍵かかるとこで寝ないとな」

「ななななな」


自分がした事自体よりも、それを知られてしまった衝撃が大きい。

というか何を知られていて何が知られていないんだろう。


「まさか襲われるとは……あ、一応未遂なのか?」


昨日の自分の行動が悔やまれる。

夜のテンションって怖い。怖い怖い怖い。


「聞いてんのか? よだれ、拭いとけよー」

「よだれだなんてついてないです!!」

「はいはい」

笑いながら手をひらひらとさせ、そのままキッチンの方まで行ってしまった。


全て見透かされていたのが恥ずかしくて

理解されたのが嬉しくて

昨日の事が嘘みたいで




今ここにいる私とあなたが現実な事が何よりも嬉しい。

142 :ハジメテ ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/10/20(木) 17:01:43.15 ID:vvqVtp9F0


よだれ……なんてついていないけど手で口を拭う。

「あれ」

触れて気付く。


濡れた感覚があるのは

口じゃなく私の頬。


私の口から垂れたよだれなんかじゃない。



誰かの何かが触れた感触。


少しだけ、冷たい感覚があるのが分かる。






「馬鹿」






悔しくてでも嬉しくて恥ずかしくて、あなたには聞こえないように小さく口の中で呟いた。

143 : ◆oEZLeorcXc [saga]:2011/10/20(木) 17:07:58.90 ID:vvqVtp9F0
とある四人の恋愛模様「ハジメテ」完

にとりあえずなります。
もう少しだけエピローグ的なものと本編で補足できなかった部分を補足するかもですが。

浜滝だと思った? 残念!! 帝春でした!!テヘペロ(・ω<)☆


すみません。
長期執筆不可→早期投稿実現→浜滝より帝春のが早そうだ→じゃあ帝春で。

となりました。
その割に投下までに時間かかってて本編短いのは……突っ込まないでくださると嬉しいです。


あ、『ハジメテのみかん』ではなく『ハジメテのお泊り』なのはわざとです。
あしからず。

次回(正確に言えば補足エピ入れるので次々回)こそは浜滝です。
気長にお待ちください。

151 :ハジメテ 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/11/26(土) 05:37:14.36 ID:UbbEhCHA0

「え?」


どう客観的にも見ても我ながらマヌケだと思う声が部屋に響く。


「いやだから初めてなんだよ」


状況説明。

クリスマス夜、彼氏宅(当然一人暮らし)。

ベッドの上(キングサイズ)。

後ろから優しく抱きしめられている(肩から感じられるあなたの重みが心地いい)。

あ、服は着てます。まだ。

以上。



追加をするなら告白をされている。

愛の、ではないやつ。



「何がですか?」

「……こういうの」

「こういうのって……みかん?」

「は?」


あ、みかんなんて言っても伝わらないや。


「あ、えっと……エ…エッチが、ですか?」

「そうだよ」


えーっと……ちょっと何言ってるか分からないです。
152 :ハジメテ 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/11/26(土) 05:38:33.07 ID:UbbEhCHA0

「何だよそのハトが豆鉄砲食らったような顔は」

「えー……だって」

首だけで振り返って垣根さんの顔を見ると、悲しそうな諦めたような表情が張り付いていた。

「まあ、多少の自覚はあるけど……やっぱそう見られてたか」

「いや、えーっと……」

「まあ、とにかく、だ。こういうの初めてだから、何かあったら言ってくれ」

「何か……ってなんですか?」

ゴクリ、と喉の鳴る音が聞こえる。

「いろいろ」

「いろいろってなんですか?」

ゴクリ、と喉の鳴る音が聞こえる。

「それが分かってたら苦労しないし、こんな言い方してねえよ」

「まあ……そうですよね」


何が分からないか分からないから初めてなのであって。

何も分からないから初めてなのである。


「そんなに意外か?」


おそるおそる、探るように投げかけられる言葉も分からない故なのだろう。


「ええ……まあ」

「参考までに聞きたいんだけど」

「何ですか?」

「俺の事どう見てたんだ?」


一頻り考えて、思い浮かんだ単語を整理する。
153 :ハジメテ 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/11/26(土) 05:39:53.66 ID:UbbEhCHA0

「オブラートに包んだ方がいいですか??」

「いや、そのままでいい」

「えーっと……遊び上手の女ったらし」

「………」

私の言葉を聞き、垣根さんが力なく崩れ肩の重みが増す。

重い。

「へこまないで下さいよー」

「流石に今のは無理だっつの」

「垣根さんが言ったんじゃないですか、オブラートに包まなくていいって」

「言葉は選べよ」


先ほどまでの私の反応で予想した以上だったようだ。

かなりダメージを受けている。


「すみません」

「いや、まあ……いいけどさ」

拗ねてしまったらしい。


普段はクールというか大人っぽいのにこういうところは子供なんだよなぁ。


「つまり私が初めてだと」

「んだよ。ってかキスもお前が初めてだぞ」
154 :ハジメテ 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/11/26(土) 05:41:32.50 ID:UbbEhCHA0





言葉の意味を頭の中で反芻する。



キス。


接吻。


口付け。


ちゅー。



数えるくらいしかしていないけれど。

数少ない私達二人がした恋人同士の肉体的な営み(何かこの表現嫌だな)。



「ええ!?」

「…………………っつーか付き合うのお前が自体初めてだ」

「………ええ!!??」

垣根さんが力なく崩れ肩の重みが増す(二回目)。

「ああ、予想通りの反応をしてくれてありがとうチクショウ」

「で、でもすっごい手馴れてましたし、デートとかもいっぱい場所知ってたじゃないですか!!」


デートの場所は大体あなたが選んで案内してくれた場所だった。


「どうとでも調べようあるだろうが」

「私を手玉に取ってたじゃないですか!!」


いつもいつも大人の余裕があって、いつもいつも私は子供扱いばかりだった。


「人聞き悪い事言うな」

「ええー」

「もういい。ムカついた。やっぱ止めだ傷ついた」


そう言うと背中から離れてベッドの端に転がってしまった。

155 :ハジメテ 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/11/26(土) 05:43:47.41 ID:UbbEhCHA0


垣根さんの倒れた振動がベッド全体に伝わる。


「え」

「っつーかこんなテンションじゃ無理」

「そ、そんな!!」

近寄って顔を覗き込もうにも拗ねた犬みたいに丸まっていて難しい。

「………あのさ」

「何ですか?」

「前も思ったけどさ。やけに食いついてこねえ?」

「え? そんな事ないですよ?」

「いや、前々から思ってたけど……やたらそういうのに積極的じゃね?」

不満そうな声が返ってくる。

「そ、そんな事は………普通です」

「つまり……女子中学生はそこそこにエロい、と」

ボソリと呪詛を吐くような暗い声が聞こえる。

「………幻滅しました?」

「というか幻想が壊れたというか……女の子は清楚可憐でそんな事考えもしませんなんて思っちゃなかったけどな」

「まあ、女子のが下ネタトークはエゲツないって言いますよね?」

「初耳なんですけど、それ」

垣根さんが勢いよく起き上がってベッドがまた少し揺れる。

よほど驚いたらしい。

嘘だと言ってくれと言わんばかりの真剣な目だ。



……と言っても今更嘘で取り繕ってもなあ。
156 :ハジメテ 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/11/26(土) 05:45:49.90 ID:UbbEhCHA0

「えーっとまあ、そういう事だったりするんです」


ピキリと顔が引きつる音が聞こえた気がした。

固まったままの表情で背中からベッド倒れこむ。

「………うわー………幻想をブチ殺されたわ」

「むー」


よし。


心の中で決意をして垣根さんの体に覆いかぶさる。


「何だよ、いきなり」


戸惑いがちな不満の声を無視して唇に唇を重ねる。

まだ数えるくらいにしかしていないその行為。


瞼を閉じるといろんな事が分かる。



思ったよりあなたの唇が柔らかいとか。


あなたの体は男らしくてしっかりしてるとか。


私の鼓動が速いとか。





あなたの鼓動が速いとか。






「今のが、今の私からの精一杯です」

157 :ハジメテ 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/11/26(土) 05:47:09.67 ID:UbbEhCHA0

体を起こしてベッドの端に座り、少しだけ距離を取り深呼吸をする。


「興味があっても怖いですし、そういう話するのは恥ずかしいですし、何より嫌われるんじゃないかドキドキなんですよ?」


全部本当で。

嘘も虚勢も見栄も建前も取り払った姿。

すごく恥ずかしいけれど。

あなたにだけしか見せない私の姿。


「でも、垣根さんが嫌なら今日はいいです」

倒れたままのあなたに背を向ける。


恥ずかしくて、怖くて、愛おしくて、恥ずかしいから。





多分、私の顔は真っ赤だろうから。





「あースマン」

後ろから、優しく抱き留められる。


お互いの鼓動は早いままだけど。

その鼓動が少しだけ心地いい。


「そうだよな。恥ずかしいのはお互い様だもんな」

「……そうですよ」

「くわえて言うと」

「?」



「飾利、大好きだ」
158 :ハジメテ 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/11/26(土) 05:48:04.07 ID:UbbEhCHA0


見なくても背を向けたままでも分かる。

すごい真剣な顔。

これは作戦成功




























……………を通り越して失敗かも。


明らかに火のついた声が



ちょっとだけ怖い。

159 :ハジメテ 蛇足 ◆oEZLeorcXc [saga sage]:2011/11/26(土) 05:49:17.79 ID:UbbEhCHA0
――――――――――――――――――

―――――――――
―――――
―――


「ところで垣根さん」

「ん?」

「梅雨の時の事、覚えてます? 私が寝ちゃって泊まった時」

「ん? あーまあ、覚えてるけど。計画してなかったとはいえウチ泊まった最初の日だしな」

「垣根さんの胸中はバクバクだったと」

「………」

「私さっき恥ずかしい中、頑張っていろいろ白状したんだけどなー」

「………」

「あの時まるで手馴れた年上ですって感じにすっごくからかわれたんだけどな~」

「ゴメンナサイ」

「で、どうだったんですか?」

「バックバクでした。余裕ぶってドキドキしてました。お風呂入ってる時とか無意味に座ったり立ったりしてました」

「ならいいです♪」

「………悪かったよ。ガキなんだよ、俺も大概」

「いいですよ」




「一緒に大人になっていきましょうね、帝督さん」

160 : ◆oEZLeorcXc [saga]:2011/11/26(土) 05:55:07.93 ID:UbbEhCHA0
と、言うわけで帝春「ハジメテ」蛇足でした。

初春大人過ぎじゃね? って感じがしますが


初春さんは原作でも達観してるというか黒いというかそういうとこがある。

このSSでは結標滝壺御坂との付き合いが深いため引っ張られてる(御坂はむしろ子供っぽい部分を反面教師的に)。

そもそも垣根に引っ張られてる。


辺りの適当な理由で脳内補完をしていただければ幸いです。

次回こそ浜滝をば!!


※最中の描写がないのは>>1がそういう描写が下手なのが原因の仕様です。ご了承ください。


162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(九州・沖縄) [sage]:2011/11/26(土) 09:12:22.51 ID:GyZKtlrAO
うむ!乙であった!
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 09:18:21.03 ID:ticrZJUDO
おっつー 
181 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:21:27.20 ID:Yt32AAJ30

――――――

○月×日

明日最後に滝壺の通院が終わる。

正確に言えば予定だが十中八九、明日が最後だと言われている。

長かったのか短かったのかは分からない。

でもようやくこの日が来た。

本当によかった。

――――――
182 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:24:10.28 ID:Yt32AAJ30

「えーと……滝壺さん? 明日は検査のご予定では……?」

隠しきれない戸惑いをそのまま、滝壺に問いかける。


明日は滝壺の検査がある。

順調なら明日が最後だと先生には言われていた。


いろいろな事が終わって半年強。

『体晶』を使わなくなって一年と少し。

出会ってから一年と……半年にはまだ足りない。


考えれば長かった―――なんて回想に浸る間もなく滝壺がもぞもぞと動く。


「知ってる」


布の中から聞こえるようなくぐもった声。

答えは俺のかけている布団の下――ぶっちゃけ下半身辺りから聞こえてくる。


「ご、ご存知でしたら何でこんな事を!?」


布団を引きはがすとその下にあったのは何とも言い難い光景。


穿いているジャージに伸ばされた滝壺の手。

小さな滝壺の体躯からは想像もつかない強い膂力で引っ張られている。


脱がされまいと抑えながら質問を繰り返す。


「何でこんなしてんだよ」

「はまづらは嫌?」


滝壺の可愛らしい丸顔が少しだけ傾く。

小首をかしげて上目使い。



それだけで鼻の奥がアツくなる。






その両の手に万力が如き力が込められていなければ。


183 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:26:22.13 ID:Yt32AAJ30

「いえ全然。……ってそうじゃなくて、そしてその上目使いをしたらなんでも許容すると思ったら大間違ぅあん」


頬ずりをされた。

ジャージの上から。


布の上でもなお十二分に伝わる極上のマシュマロみたいな柔らかい滝壺のほっぺの感覚。

その感触に心を奪われ力を抜いてしまった俺を誰が責められようか。


「本気で脱がしにきやがったな」


力の抜けた一瞬でジャージもろともトランクスが脱がされる。

ああ、なけなしの自制心を無視して全力で臨戦態勢を取っている愚息の素直さが恨めしい。


「嫌?」

「嫌じゃないけどっ! むしろ滝壺さんなら常にウェルカムなんだけど……麦野達にバレたら殺されるんですけど」

必死の抵抗、抗議も空しく行為は続けられる。

「ちゅぷ……大丈夫だよ。『体晶』の体内濃度の測定しかしないし」

「いやいやいやそれは知ってるんだけどぅく!! ってマジモードかよ!!」

静かな寝室に水音が響く。

舌と手でいじりながら語られるその声はいつも通りの平坦な声のようでいてどこか楽しそうだ。


そして、何かに追い立てられるようでもある。


いつもなら流されるところだが何とか踏みとどまり、滝壺を制止する。

「滝壺、お願いだから一度止まって話を聞いてくれ」

「何? 私じゃ嫌だった? 気持ち良くなかった?」

「いや、滝壺以外は考えられないし、いつだって最高ですぐ果てないように我慢するので精一杯だしそれに今更、じゃなくて!! お願いだから一度止まってくれ!!」

「分かった」

何とか止まる。

ただ滝壺はそのままの体勢だ。
184 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:28:21.63 ID:Yt32AAJ30

「俺のジュニアはそのままなんですね」

「何?」

行為を止められたせいかご立腹なご様子。

こういう時の滝壺は地味に怖かったりする。

「…………むしろ俺が何? って聞きたいんだけど。何でわざわざ今日なんだ? 検査の前日だぜ?」


滝壺が『体晶』を使用していたのは『アイテム』時代からだ。

故に事情を知っている麦野達も滝壺の体を心配しているし、その体が全快となればその祝いをするだろう。というか明日はその足で全快祝いをする予定だ。


つまり、下手な事をすればバレる。そして殺される。


そもそもそんな事を抜きにしても今まで検査の前日にはそういった行為をしてこなかった。

検査は簡単なものだが血液検査もあるし、体力を使うものもある。

そもそも超能力は精神的な影響が強い。故に滝壺への直接的な行為も一切してこなかったくらいなのに。


「明日の検査はおそらく最後になる、もう治る。そう先生に言われてんだろ?」

「うん」

「だったらなんでだよ。何で今日するんだ?」

滝壺は答える事なく俯いた。


思い当たる理由は一つ。


「不安、なのか?」

「………」



――――浜面仕上と滝壺理后が出会った時から彼女は『体晶』にその身を侵されていた。



「ごめんな」

「何ではまづらが謝るの?」



―――――――浜面仕上が滝壺理后を守ると決めた時、彼女の体は既に限界が近かった。



「俺が不安にさせてるからだよ」

「そんな事は」



――――――――――浜面仕上と滝壺理后の間には常に『彼女の「体晶」に侵された病弱さ』が存在していたのだ。




「あるんだよ。滝壺はそう思ってなくても俺がそう思うからだ」


常にあったものがなくなる。

例えそれが喜ばしいはずの事だとしても、二人の関係が変わるかもしれない。

185 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:31:06.82 ID:Yt32AAJ30

手を伸ばして滝壺の頭を撫でる。

俺の考えを肯定するように滝壺は小さく震えていた。


「ごめんな」


俯いたままの滝壺の体を起こして抱きしめる。


「ああ、でも今度は俺が不安にさせてるせいじゃないぞ」


言葉と同時に体を離し、滝壺の顔を正面に見据える。


いつもあまり変わらないその表情が不安に歪んでいた。

泣きそうな子供みたいな顔。



俺の一番見たくない顔だ。



「馬鹿野郎!!」


予想外の怒声にびっくりしたのか滝壺はきょとんと呆けていた。

なぜ謝ったのか?


それは今から滝壺理后を怒るからだ。



「俺はお前が好きなんだぜ? 滝壺理后が好きなんだ」



――――最初は誰でもよかった。誰かではなく、『浜面仕上』を見てくれる人間なら誰でもよかった。



「体が治って、『体晶』の影響が抜けて大能力者<レベル4>に戻ったら何か変わると思ったか?」



―――――――守りたいわけでもなく、ただただ『誰でもない誰か』から『浜面仕上』になりたかっただけだった。



「超能力者<レベル5>に認定でもされるかもしれない。そうなったら怖いのか? それともまだ治ってなかったらって不安になったのか?」



―――――――――――いつしか、『浜面仕上』である事にこだわらなくなった。『誰でもない誰か』でもよくなった。



「俺は守りたい誰かが欲しいんじゃない。誰かに必要とされたいんじゃない。誰でもいいわけじゃない」



―――――――――――――――『滝壺理后』を守れる存在になれるのなら。







「俺は滝壺を守りたいんだ。滝壺に必要とされたいんだ。全部滝壺だからなんだよ」

186 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:32:57.65 ID:Yt32AAJ30

幾度となく考えた事だ。



無能力者で。


粗忽者で。


守る力なんてなくて。


臆病で。



そんな俺に資格なんかないんじゃないかって考えた。


それでも思ってしまったから仕方がない。



彼女を守りたいと。




「そんな風に考えるなよ。俺の大切なものをどうでもいいものみたいに扱わないでくれ、滝壺」




手の中の小さな存在の震えが止まる。


「ありがと。また不安になったら言ってね」


滝壺の顔はいつも通りだった。

表情の読めない落ち着いている、でもどこか楽しそうな嬉しそうな顔。



「…………おう。何度でも言ってやる」


欲しかったものは山ほどある。

手に入らなかったものも山ほどある。


でも欲しいものはそんなにない。


手に入れれるものは一つで充分だ。

187 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:34:51.52 ID:Yt32AAJ30
















「じゃあ、続きするね」

「え?」


ドン、と押されベッドに倒される。

今更ながら服はそのままだった。


「あれ? ここは感動で改心してくれると言うか諦めてくれる流れでは?」

「それはそれ。これはこれ」

「俺の説得無意味ん!! あ、ちょ……滝壺さぁんそこは―――…・・・」

188 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:35:45.01 ID:Yt32AAJ30

――――――

12月26日

我が家はクリスマスだった。

クリスマス三日目とかそんな意味でなく、クリスマスだった。

メリークリスマス。





サンタさん、ありがとう。

――――――
189 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:36:45.04 ID:Yt32AAJ30





「メリークリスマス」





目を覚ましたら女神がいた。



まばゆいばかりに輝いたミニスカサンタを着た。


190 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:39:23.16 ID:Yt32AAJ30

「クリスマスは忙しかったから今日がクリスマスだよ」


今日は12月26日。時間帯は夕方。

昨日、正確に言えば日付が変わって今朝まではとても忙しかった。

流通業の忙しいクリスマスの業務+年末年始の下準備で結局徹夜。仕事は朝までかかり丸一日あったはずの休日は既に半休となっていた。

それでも明日からは再び正月明けまで働き詰めの日々が待っているので激務の合間に存在する大切な休日。

そんな今日。


街からはクリスマスの気配が消えて落ち着いた年の瀬ムードだと言うのに……我が愛しの姫はマジで女神クラスに優しい。


「あーなるほど。悪かったな、気を使わせちまって」

「ううん。仕事だから仕方ないよ」


体を起こして滝壺の頭を撫でる。

特に何か言われたわけではないが、滝壺は頭を撫でられるのが好きだ。


故に二人の時はその感謝を表現するためにもその頭を撫でる事にしている。


「それに」

「それに?」

「こういう時はごめんじゃなくてありがとう」

「そっか、ありがとな。滝壺」

「どういたしまして」


言葉と共に抱きしめられる。


「あとさ」

「何?」

「サンタ服に合ってる」

「ありがと」



そんな感じで我が家のクリスマスは始まった。

191 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:40:56.19 ID:Yt32AAJ30

クリスマスといっても特に何かをしたりどこかに出かけるというわけではなかった。

滝壺が人ごみが嫌いだし、俺も明日から再び激務の日々が待っている。

お互いのんびり過ごせればそれでいい。


いつも通りでいつもと違う特別な日。


「ごちそうさま」

「おそまつさま」


いつもと違うのは料理くらいだろう。

クリスマスと言うこともありそれっぽいご馳走が並んでいた(当然ほとんどが滝壺手作り)。


正直これで充分満足だ。


「いやーすっげー美味かった」

「よかった」

「いや、マジで幸せだよ……去年はそれどころじゃなかったからな」


去年のクリスマスを思い出す。

魔術だなんて不可思議なものと関わって世界規模の騒乱に巻き込まれていた。

特別の力なんてないのに身の丈に合わない事をしたもんだ。

我ながらよく生きていたと感心する。


「お風呂入る?」

「あーそうするわ。昨日、っつーか今朝寝る前はシャワーしか浴びなかったしな」

「じゃあ一緒に入ろう」


食器を片付ける手がピタリと止まってしまった。

192 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:42:25.17 ID:Yt32AAJ30

しかし


初めての事ではないだけに思考停止するほどの衝撃ではない。


「久しぶりだな」

「そうだね。じゃあ、私は準備があるから先に入ってて」

そういうと滝壺はトテトテと自室へ入っていった。

「準備? あ、ああ」

と既に姿の見えない滝壺へと言葉を返す。


何やら嬉しい予感がした。



その予感が正しいと分かったのは体を洗い終わって浴槽に浸かる直前だった。




「お邪魔します」

「されま……ッ!!」

声と共に開けられた扉の方へ向く。





あまりの衝撃に思考が一瞬で沸騰する。




「似合う?」


かつてない衝撃だ。


知り合いに窒素装甲付きで殴られた時よりもなお。


知り合いに原子崩しなんて粒機波形高速砲を喰らわされた時よりもなお。


伝説級(だったらしいらしい)の神の一撃を喰らったあの戦乱の日々よりもなお。

193 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:42:54.93 ID:Yt32AAJ30











比べ物にならないくらいの強い強い衝撃。








194 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:45:13.88 ID:Yt32AAJ30

「た、滝壺さん」

「何? はまづら」

「つかぬ事をお伺いしますがそれは」

「スクール水着」


そう、滝壺は裸ではなかった。


以前のようにバスタオルを持っていたわけでもなくその身にまとっていたのはスクール水着(白旧型)。

形状、材質ともに旧時代的な存在のシロモノで、もはや学校文化の風俗的な資料にさえ当たる存在のものだ。


ただし、それは社会一般の常識であり、一部の人間には違った意味合いを持つ。


旧型スクール水着は水着プレイを行う者にとっていまだに根強く、全コスプレの中でも一大勢力を誇るほどに愛されているコスチュームだ。

競泳用でないスクール水着と言われる水着が何度も改変されているにも関わらず、旧型スクール水着といえばこの形を指す事からもその知名度のほどが分かる。


ちなみに一般的には紺色が主流だが(というか本来紺色や黒などの濃い色しか作られていなかった)滝壺が来ているのは白色。

当然そういう事仕様のもので水に透けるそれである。


「しかもたれウサ耳付き」

「防水加工済みだよ」


控えめなブイサインと共に滝壺が小首をかしげると、その頭についたぽてっとしたウサ耳も揺れる。


「似合う?」


お椀のように丸く大きな形のいい乳。

筋肉質でなくかといって無駄な脂肪もついていない女性らしい四肢。

芸術品とも言えるほどの体のラインに沿った白い布がキレイな曲線を描き、肩の辺りは少しだけ食い込んでいる(確実に胸のせい)。


女性特有の柔らかさが触ってもいないのに手に取るように分かる。




旧型スクール水着の性能を十二分に発揮している!!!!(本来の用途ではないが)




これを似合うと言わずして何を似合うと定義すればいいのか!!!!!!



鼻の奥にドロリと溢れる灼熱の何かを感じて鼻を押さえる。
195 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:47:14.88 ID:Yt32AAJ30

「似合うけど……何でそんな恰好を!?」

「はまづらが喜ぶと思って」

「喜ぶよ!? 喜んでるよ? たしかに好きだよ? 好きだけども!!」

「そんなに食いつくはまづらは応援できない」

「理不尽っ!?」

「冗談だよ。喜んでくれてよかった」

「………んじゃ俺湯船につかるなー」


もはや美術品のような美しさを前に感情が一周してしまい落ち着いていたが、よくよく考えれば風呂に入っていないのにこのままでは体が反応してしまう。

というか既に反応してしまっている。


このままでは滝壺を襲いかねないので冷静になるためにも浴槽へと逃げよう。


と、思ったが手を掴まれた。

「いや、もう体洗い終わったんだよ」

「ダメ」

「ダメって……何で?」

上目使いの滝壺の姿にドギマギする。

というかその目はどこか楽しそうだ。


「これ」


どこからか取り出されたのは透明なケース。


「何それ」


ラベルはなく、化粧水か何かが入っているような筒型の小さなケースだ。

滝壺はただ楽しそうに笑っている。

196 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:49:39.47 ID:Yt32AAJ30


「何それ。何その液体。液体……?」


かつてないほどの楽しそうな笑みを浮かべた滝壺は、筒型のケースを開けるとそれをひっくり返し――自らの体へとかけた。


「何!? 何してんの滝壺!?」

「えい」


どこかやる気のない掛け声と共に抱き着かれる。


ネチョ。


ネチョ。


「ぬわ――――ッ!!」


ネチョチョ。


滝壺の体の柔らかい感触。

まだ濡れていない水着の硬い布の感触。


同時に体感した事のないぬるりとした半液状の感触と重たい水音がした。


「って何これ!? すっごいネバヌル………ローション?」

「アタリ」

「何かの実験系の溶液とかかと思ってドキッとでぇ!!」

ゴン、と頭を床に打ち付ける。

脚を伝い床にたれたローションを踏んで滑ったらしい。


「ぅぬおおお………!!」


抱き着いたままの滝壺を守るために後ろ向きに倒れた。

全体重(二人分)が後頭部に襲い掛かった。

そのまま浴室の床で天を仰ぐ。

「大丈夫?」

「うう……めっちゃ滑る……で、これは?」

「クリスマスプレゼント」

「へ?」



「私からのクリスマスプレゼントだよ、はまづら」

197 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:52:44.14 ID:Yt32AAJ30

倒れこんだ俺に覆いかぶさるように滝壺が覗き込んでくる。

「嬉しくない?」

身長差があるから実は上から覗き込まれる事は少なかったりする。



角度的に少しだけ見える胸元はかけられた液体で既に透けて肌色が滲んでいる。



「嬉しい。すっげぇ嬉しい。だけどなんか……やっぱ俺ってそういう風に見られてるのねーっつうか」

「そういう風?」

「いや、気にするな。ってか滝壺寒くないか?」

お湯が張ってあるといえ浴室で十二月。

お湯をかけなくては流石に寒い。

「うん。少しだけ」

「って風邪でも引いたら……ッ!!」

心配の言葉は最後まで言わせてもらえなかった。

滝壺が俺の上を滑るように移動しキスをしてきたから。



粘着質な独特の水音が響く。



重ねられた滝壺の体の柔らかい感触。重力の関係で先ほどよりも一層鮮明に伝わってくる。

まだ濡れていない水着の硬い布の感触。さらりと触れられた場所が少しだけこそばゆい。

ぬるりとした半液状の感触と重たい水音。改めて聞くと露骨にエロイ。



そして高揚した滝壺の体温で温められたローションのぷるりとした味わった事のない未知の感覚が俺の体を襲う。



これはヤバイ。


いつも以上の密着度に理性が飛びそうになる。


そして


「ぷはぁ」


トドメ。



「あっためて………ね?」








なけなしの理性を総動員し、最後の一線だけは越えなかった俺を褒めてやりたかった。

198 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:53:53.77 ID:Yt32AAJ30

――――――

▲月◇◎日

今日の仕事少し疲れた

明日から二連休という事もあり、溜まっていた書類整理も全て処理をしたから。

何とか終わったので気兼ねなく休む事が出来る。

遠出をするのは久しぶりなのでかなり楽しみだ。

今日は早く寝よう。

――――――
199 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:55:44.66 ID:Yt32AAJ30


あの日、映画館での一件以来、どうにも滝壺の様子がおかしい。



おかしいと言うと少し語弊がある。

いや、おかしいはおかしいんだけど……端的にいうと積極的なのだ。



主にそっち方面に。



「一つ、聞いていいか」

「いいよ」

「さっきさ、おやすみって言ってお互いのベッドルームに別れたよな?」

「そうだね」

「俺はその足で直接ベッドに来たんだけど」

「そうだね」

「何で滝壺が俺より先に、しかも俺のベッドにいるんだ?」


状況説明。

寝ようと思ってベッドに入ったら滝壺さんが既にいらっしゃいました、まる。

ちなみに服装はウサ耳ピンクジャージ(ジャージはおそらく就寝用)。


「添い寝しようと思って」

「…………いやもうつっこむポイントが多すぎてどうすればいいか分かんねーよ」

ピコピコとウサ耳をいじる滝壺をよそに俺はため息をつきながらベッドの脇に座る。

「一緒に寝てくれればいいよ。はまづら」

「いや、そういう意味じゃなくてですね滝壺さん」


同棲を始めて結構経つが寝室は別だ。

幸い部屋はあったし、何より俺が寝れないから。緊張して。



耐性などできるはずもない。
200 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 12:58:43.29 ID:Yt32AAJ30

「嫌だった?」

「嫌なわけないだろ。ただ……」

「ムラムラする?」

「…………はっきり言うんですね」

「するんだ」

「………………するに決まってんだろ?」

「そっか」

そんな会話をしながらもぞもぞと動き、俺の隣に来る滝壺さん。



可愛いんだけどね?


すっごい可愛いんだけどね?


「いいよ」


何がいいかは聞き返さない。


「いや、遠慮する。珍しく連休とれたから明日は遠出するんだろ? なるべく体力残しとくよ」


そう、明日明後日は久しぶりの二連休なのだ。

故にちょっとした遠出の予定。


「しないの?」

「しないの」

「しないの?」

「しないの!」

「そう」

声のトーンが少しだけ落ちる。

頭で揺れていたウサ耳も心なしか垂れてしまったように見える。
201 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:00:29.82 ID:Yt32AAJ30


「そう。おやすみ、はまづら」


残念そうにそう言って布団にもぐる。

少なくとも自分の部屋に帰る気はないらしい。


「おやすみ、滝壺」


残念そうではなくそう言って布団をかぶる。

それくらいは我慢しよう。


………。


………………。

………………………………。


布団を引っ掴んでめくり上げる。


そこには案の定というか分かり切っていた滝壺の姿。


「で、滝壺さんは何をもぞもぞやってだあああああ、寝るっつったろ? 何やってんのマイハニー!?」

「フェ」

「言わんでいい。しないって俺言ったよね? 言ったよね?」

「したくない?」

今日だけで何度目だろう。

上目使いで小首を傾げられる。揺れるウサ耳。


反射的に即肯定してしまいたい願望に駆られるがすんでのところで我慢する。


「したくなくはない。ってかしたい。でもしない」

「あ、久しぶりに胸のがよかった?」

俺を無視して自分の胸を寄せている。


あれ? ちょっと前より大きくなってません?


「ってそうじゃなくて!!」

「でも私はしたいから」





「…………えー」




もう、どうにでもなれ。

202 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:01:57.98 ID:Yt32AAJ30

――――――

△月□日

絹旗オススメの映画に行く。

全力で断りたかったのだが「これは本当に超オススメなんです。滝壺さんだって喜ぶと思いますし、浜面だって絶対に面白いと思いますって」とかつてないほど全力で熱弁されたので見に行った。

案の定の内容だった。


二度と信用しない。





でもまあ、折角絹旗がオススメしてくれるのだからたまにはいいのかもしれない。





いや、やっぱり行きたくない。

――――――
203 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:04:09.82 ID:Yt32AAJ30

「………………………あのですね、滝壺さん」

何とか正気を保ちながらも呆れながらも必死に抵抗をする。

「何?」

もちろんそれは些細な抵抗で逃れるすべなどないのだけれどそれでも精一杯の抵抗をする。

「何? じゃなくて……だからその上目使い反則だって!!」

もうどうにでもなれと全てを投げ出したい衝動に駆られるがやっぱり抵抗をする。

「何?」

意味のない事だと分かっているがそれでも諦めない。

「えーと……俺たちは絹旗さんオススメの映画を見に来ているわけですよね?」

現在地、映画館。

「そうだね」

絹旗超太鼓判の映画は案の定というかいつも通りの馬鹿映画。

「たしかに、俺達以外に人は全くいません。係員すらいないんじゃないかってほど人の気配がありません」

外的な状況としてもこの雰囲気に流されたところで誰も咎めない。

「ほうはね」

それでも負けない事。投げ出さない事。逃げ出さない事。信じる事。

それが一番大事なはず。

「で、滝壺さんは何してるんでしょうか?」

分かっている事を確認する。






「ふぇあ」

「ついに口を離さないでしゃべるようになりやがった。完っ全に本気モードじゃねぇかよ!!」
204 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:07:39.73 ID:Yt32AAJ30

順に思い出していく。

B級映画マイスターこと絹旗最愛が「この映画は超オススメです!! 浜面はどうでもいいですが滝壺さんだけでも超見に行ってください!!」と超太鼓判された映画は案の定駄作というかやっぱりいつも通りの馬鹿映画。

当然飽き飽きしてきてどうしたものかと思っていると滝壺にポップコーンとコーラ(両方ともLサイズ)を渡された。

肘掛に置けば? とも思ったが期間限定特価特別大サイズそのそれは肘掛に置くには大きく、中身も結構残っているようだったので大人しく両手で受け取った。

トイレにでも行くのかと思いきや席を立った滝壺は俺の前に来てしゃがみ。

そのまま膝というか脚というか太腿……というかその奥に進んでいったのだ。


以上、現在に至る。


「おかしいだろそぅれ……コホン。あのさ、公共の場所なのに何でそういう事しだしたんだ?」

「へいが」


ナニかを咥えているくぐもった声。


「映画?」

「ふははない」


ナニを咥えられたまましゃべられて伝わる快感と振動。


「たしかにつまらないけどさ。予想通りというか案の定絹旗のオススメって感じの映画だけどさ」


塞がった両手のままできる限りの抵抗をするが状況は全く変わらない。


「それは今の状況の理由にならないし、何ら関係なくない!?」

「ほほく」

「予告……?」


身をよじりながら思い出す。

そういえば今回の映画は絹旗オススメにしては珍しく二時間近いしっかりとした長編で、つまりは上映前の映画泥棒の不思議ダンスや他の映画の宣伝映像もしっかりとあった。

その際、一つの映画がやたら官能的なシーンを挟んでいた。

原作が官能小説に近いのか上映ギリギリレベルのチキンレースみたいな映像がいくつか出ていたのを覚えている。
205 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:09:36.12 ID:Yt32AAJ30


つまり。


それにあてられた?


映画館の暗闇で分かりにくいが珍しく滝壺の頬が赤くなっている。


つまり。



「え? もしかして滝壺発じょっ!!」




ガリッ!!




「――ッ!! ―――ッ!!」


悲鳴は当然のように声にならなかった。


「言わないで恥ずかしい」

「て、照れ、隠しに。か、噛まな、いで、ください」


歯形が付くほどではなかったが、ダメージは大。肉体的被害はゼロだが精神的被害は甚大。

得たものは滝壺に行為を中断させられた事と滝壺の珍しい反応くらいである。




当然、面白くない映画の内容など頭に入るはずもなくそれどころかトラウマとして忘却してしまった。


後日、絹旗に映画の感想を聞かれ、起こった出来事は何とかは秘密するも窒素装甲パンチを食らう。






不幸だ。
206 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:10:13.15 ID:Yt32AAJ30

――――――

■月▽日

今日は久しぶりの滝壺とのデートの日。

だったのだが前日に起こった仕事のトラブルで残業、その疲れ原因で昼過ぎまで爆睡。

デートを見事にすっぽかす。

ゴメンなさい。



ゴメンなさい。










ゴメンなさい。

――――――
207 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:15:04.59 ID:Yt32AAJ30

「おはよう、はまづら」


目を開けたらそこにジャージの天使―――じゃなくて滝壺がいた。


「滝壺……あれ? 何で俺の部屋に?」

まだ覚醒していない頭を掻きながら体を起こす。

「家事も終わったし暇だったから」

「あー……」

そういえば昨日はちょっとしたトラブルがあって帰ったのは日付が変わってからだった。

かなり疲れていてシャワーだけ浴びてすぐに寝たのを覚えている。

「って、ん? 日が高い」

窓を見ると太陽がさんさんと輝いている。

「そうだね」

「滝壺サン。つかぬ事をお尋ねしますが」

「何?」

「今何時?」

「十四時五分」

「昼って言うか夕方に近いじゃん!!」

「そうだね」

「遅刻す……あ、仕事は休みだった」


そう、今日は休日だ。

そもそも今日が休日だったから残務を引き受けたのだった。

少しくらいならと頑張った結果、日付を跨ぎ。

帰りながら今日になった明日の予定を思い出して自己嫌悪。


久しぶりの滝壺とのデートの予定が入っていたから。


寝過ごさないよう、携帯のアラームをいつもより多くセットしたのを覚えている。


そこまで考えてようやく思考がつながる。


「ってスマン!! 今日はデートの予定じゃ……起こしてくれれば」

「でもはまづら疲れてたみたいだし」

「……面目ない」
208 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:17:18.21 ID:Yt32AAJ30

「いいんだよ。私はそんなはまづらを応援してるから」

「……今日は家でのんびりでいいか?」

「もちろん」

「悪いな。埋め合わせはまた今度するから」


仕事が理由とはいえすごく申し訳ない気分になる。

家事が残ってたら手伝おう。

もっともそんな事を言えば「はまづらはゆっくりしてて」とでも言われそうだけど。


「そういえば俺の部屋で何してたんだ?」

「寝顔を見てた」

「……俺の寝顔なんて見ても楽しくもなんともなかろーに」

「そうでもないよ?」

「そうかねー……ッ!!」

起き上がろうとしてその動きを急停止する。



マ ズ イ。



隠さなくては。

「はまづらお昼ご飯はどう……はまづら?」

「え? あ、ひ、昼メシな。何でもいいぞ。滝壺が作ってくれるもんなら美味しいしな」

「どうしたの?」

「ど、どうもしてねぇよ? 別に何もどこもおかしなところないだろ?」

後退りして距離を取る。


布団ごとずりずりと。


布団に入っている状態のまま気付かれてはいけない。

「風邪とか?」

「い、いや、大丈夫だって。別に何も」
209 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:20:46.63 ID:Yt32AAJ30

鎮まれと考えれば考えるほど意識が向く。


これはマズイ。


半分どころか八割、いや九割近い。

「熱はないね」

「あ、ああ。着替えるからどいてくれ」

覆いかぶさるように近付いてきた滝壺に重ねられた額。

熱が一部に吸い取られているせいか思ったよりも冷たく感じなかった。

「隠し事?」

「か、かか、隠し事なんてしてねーよ? 愛しのマイハニーに隠し事なんて全く微塵もございませんよ?」

「隠し事?」

再び問い詰められて距離を取る。


後から考えればこれが失敗の原因だった。


「いやいやいやいや、何もやましい事なんてないっていや、マジで」

脚の上に乗られたままの姿勢から手だけで脱出。

何とかバレないように距離を取る。



ただし、滝壺の体重に引っ張られて布団はそのままだ。



「あれ?」

「あ」


布団で隠していたそれが顔を出す。


寝巻ジャージの上からでも明らかに分かる。




結局、隠し事はバレてしまう。

210 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:27:11.17 ID:Yt32AAJ30

「いや、これは……あの……その」

「溜まってるの?」

「せ、生理現象的なアレで。朝起きたら自動的になるあれで別にそういうんじゃなくて確かに最近シてなかったのはあるけどそもそも疲れてるのが原因っていうか別にさっきから滝壺がくっついてるのもあれじゃなくてって滝壺さん何してるんですか!?」

「準備?」

「いやいやいやいや何脱がしてるんですかってパンツまで!? 起きたばっかだしキレイじゃないって!! 寝る前シャワー浴びたしさ。あ、それだとキレイなのか? いや、寝起きは汚い!!」

「あ、私さっきご飯食べて歯磨きしたばっかりだからスースーしちゃうか」

「完全に無視かよ!! ぬおおぉぉおおお治まれ鎮まれ治まって我が息子!! って無理!! だって滝壺の柔らかい双丘が俺の腕に当たってるもの!!」


動揺とかそういったものはすべて無視され、抗議はおろか提案する隙間もない。



衣服は既に剥ぎ取られ。


後退りしてとった距離はもはやゼロ。


滝壺の体は俺の右手にしな垂れるように巻き付かれている。


更に左手が俺の左肩に置かれガッツリとホールド状態。


更に更に右手はというと既に優しく柔らかく握られて準備万端だった。


「手だけでしてみる?」

「やめぬおぅ。あ、ちょっと刺激強すぎて辛い……ってそうじゃなくて」

「あ、そっか。じゃあ」


滝壺は右側からくっつけていたその体を外すとくるりと回るように俺の体を下がっていった。

さながらポールダンスを踊るダンサーのように。

同時に自分のジャージの上着を開け、出てきたのはどう収納されていたか疑いたくなるような大きな胸。

ブラでまとめられたその谷間は初めからそこにあるかのように挟み込む。



一連の動きは瞬きする暇もなく流れるような自然な動作で行われ、あっという間に収まってしまった。



マンガならスッポンなんて音がしそうなほどすんなりと。


「こうとか?」

「……どこで覚えてきたよ。そういうの」


興奮よりも先に訪れたのは呆れというか純粋な疑問。

そうそう思いつくような行為のやり方ではない。

211 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:28:50.29 ID:Yt32AAJ30

「あれで」

滝壺が指刺した方向にあったのは仕事の書類整理をするために使う机。

正確に言えばその上にある数冊の本。



それは。




「俺のコレクションンンンンンッ!!??」



さながら母親が見つけたそれの如く積まれた数冊の本。



「また買ったんだ」

少しだけ冷ややかな目がめちゃくちゃ怖い。

「あ、いや……あれは、その、あの」

「だいじょうぶ。まかせて」

「何を!? というかもしかしていやもしかしなくても滝壺サン怒ってる? 怒ってるよひぃん!!」


挟まれたままの状態でその先を舐められて体が仰け反る。


両サイドから独特の柔らかい感触で挟み込まれながら舌でザラり。


おぉう何これ新食感。じゃなかった新感覚。


「こういうの好きなんでしょ?」

「できると思ってたけどやっぱりできた。やべえ超至福」


実はこれ難しい。

挟む方も挟まれる方も大きくないとできないのだ。


「ってそうじゃなくてやっぱり何か怒って」

「怒ってないよ」

「あ、う。柔らかい。手で感じるよりもなお。あだ、そこは―――」





四回目からの記憶はなく。

気を失うように二度寝をしてしまい、気が付いた頃には日は落ちて外は真っ暗だった。
212 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:29:47.42 ID:Yt32AAJ30

――――――

#月♭日

滝壺とデート。

服を買いに行く。


やっぱり女性物を扱ってる店は居辛い。

麦野とかと買いに行ってくれねーかなぁ。

――――――
213 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:33:23.81 ID:Yt32AAJ30

「あれだよなーどうしたって慣れなねーよな」

思わず不満を口にする。

もちろん小声で。

ただそれはグチだからとかそういうのではなく。

「ってか常連に近いから店員はまだいいんだけど客が……なー」



この場所、女性用下着専門店(試着室前)で目立ちたくないからだ。



「何やってんだ俺」

何をやっているかと聞かれれば試着中の彼女を待っているわけで。

滝壺に連れられて何度か訪れているため、店員こそ気にしないが他の客の視線は気になる。


ただでさえ男がいるのが場違いなのに。

彼女のいなさそうな野暮ったい男がいれば何かを勘ぐられるのは仕方ない。


ヒソヒソと聞こえてくる声は慣れっこだがそれが気にならないかと聞かれればそういうわけにもいかなくて。

ただの布とはいえ目のやり場に困るそれに囲まれた場所で唯一何もない天井に視線を泳がせていた。



滝壺と付き合って知った意外だった事実。



滝壺はすごく下着にこだわる。

いや、正確に表現するなら衣服全般の着心地にこだわるのだ。

てっきり服にはこだわりがないと思っていたのだがそれは違った。


例に挙げるなら普段着(というか制服を除いた着る服の九割)のピンクジャージ。


値段を知って驚いた。

俺が着ている古着ジャージなんかとは格が違うシロモノで、吸水性手触り共に最高級品で目の出るような金額だったのだ。

しかも普段着バージョンと就寝バージョンがあったりする(見た目は変わらない)。



ああ、そういう意味では肌に直接触れる下着にこだわるのは意外でもなんでもないのかもしれない。
214 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:34:49.53 ID:Yt32AAJ30

そんなこんなでこだわりの主である滝壺は現在試着室にいる。

「はまづら」

「何だー?」

「手伝って」




「………は?」




思わず持っていた袋を落としてしまう。

「上手くできなくて」

「いやいやいやいや、いやいやいやいやおかしくね!? ってかおかしいよな?」


この人は今何を言ったのか?


手伝って?


何を?


いや、何をかは分かっているわけで。


「入ってきて」


彼氏彼女で同棲中。

たしかにそういう姿も見た事あるけれど、家なら別に無理とは言わないけれど……流石にこの場所では通報されかねない。


「店員呼んでくるから待ってろよ」

「見たくない?」

「見たい」

思わず即答して我に返る。

「…………って見たいけどそういう事じゃねーだろ」

危ねぇ。

危うく犯罪者になるところだった。
215 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:36:11.98 ID:Yt32AAJ30

「練習だよ」

「何の!?」

「脱がす」

「……………いや、そーだけど…………」


たしかに将来的にはそういう場面もあるだろう。

だけど何も今ここでしなくてもいい。

というか公共の場でする事じゃない。


「ダメ?」


いつもの上目使いが目に浮かぶ。


「……ダメ?」


少しだけ滝壺の声が震えている。



………。


………………。

………………………………。


「あーもう。分かった。分かったから」

相変わらず流されやすい俺。

「し、失礼しまーす」

声を殺して素早く試着室に入る。

これ誰かに見られてたら確実に犯罪者だよなぁ。
216 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:37:52.20 ID:Yt32AAJ30

サイズを測ったりもするからなのだろうか、中は思ったよりも広く人が二人が入っても充分に広かった。

「ッ!!」

その広さを最大限に利用して滝壺から遠ざかる。

壁に当たった衝撃でハンガーが頭に落ちてきた。

背中に当たる金具が痛い。



ただそんなものは微塵も気にならなかった。



「たたたきたきたきたったたきつぼさ」


そこにあった光景を初めて見たというわけではない。


「どうしたの?」


きょとんとした滝壺の顔はいつも通りだ。


「な、何で着て着て着て」


それでもかつてないほどに動揺し、無駄に手足をバタつかせてしまっている。


「声が大きいよはまづら」


口に人差し指を重ねられる。

触れられて窘められてやっと少しだけ、本当に少しだけ平静を取り戻す。


「どうして何も着てないんですか?」


そう、滝壺は何もつけていなかった。

一糸纏わぬその姿で試着室の中にいたのだ。


動悸が激しい。

興奮とか知恵熱とかそんなレベルじゃない。

体温を測ったら42℃を超えてるかもしれない。
217 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:40:12.35 ID:Yt32AAJ30

「下着の試着は直接しちゃいけないんだよ? 試着する場合は使い捨ての紙でできた試着用ショーツの上から着ます」

「それは初めて知ったけどってそうじゃなくて」

「水着も同じだよ」

「そうじゃなくて!!」


聞きたいのはそれじゃなく。


知りたいのもそれじゃない。


「ついでにどっちがいいか選んでもらおうと思って」

「何も着てないのはどうしてなんだ?」

「こっちの方がイメージしやすいかなって」

「イメージ?」

「うん。着てるイメージ」


両手に別々の下着を持って立っている。


多分それ以上の意味はなくて。


多分それ以外の意味もない。


「何で俺に見せるかな」

「見るのははまづらだから」

「いあやいま……コホン。いや、そうだけどもさ」

「どっちがいい?」


右と左、どちらかと聞かれたら。


「……………どっちかっていうとコッチ」


迷わずに左を差した。


「やっぱり」

「やっぱり!?」


好みは既に把握されていたらしい。









………じゃあ聞くなよ。

というか気付いたらあの空間に慣れてしまいだった自分が怖い。
218 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:41:13.14 ID:Yt32AAJ30

――――――

×月@日

誕生日を祝ってもらった。

本当は明後日だけれど当日は仕事だったからと。


今までは予定なんかあってもダチとのバカ騒ぎくらいで。

一人の方が多かった。


やっぱり彼女がいるって素晴らしい。

――――――
219 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:42:52.64 ID:Yt32AAJ30

「たっだいまー……慣れたとはいえ長距離はきっついわー」

「おかえり、はまづら」

「おお、ゴメンな。こんな時間まで待っててもらぶふぁァァああああたたたたた滝壺サン!? いいいいいったいその恰好は!?」

まだまだ学ぶ事の多い仕事から帰宅。

愛する人の待っているドアを開けたその目に飛び込んできたのは。



黒いバニースーツを着た恋人、滝壺理后だった。



「似合う?」

「いや、似合うも何も超似合ってるっつーか素晴らしいというか一瞬うさぎの女神様が降臨したかと思ったぜ」


動くたびにぴこぴこと揺れるウサ耳。

普段は隠されている豊満な胸とキュッとしまったウエストに細さと肉付きが絶妙な脚。


更に言うならその後ろ姿も(以下1MB程中略)


とにかくその完璧なまでの肢体がバニースーツによって神の領域ともいえる美しさまで昇華している。


こう、鼻の奥がアツく。


「よかった」

「で、どうしたのよそれ」

「明日、久しぶりにおやすみでしょ?」

「そうだけど」

「いろいろサービスしようと思って」

小首を傾げ、両の手でウサ耳をぴこぴこと動かしている。


やべぇ、超かわいい。


「サ、サービスって……」

「お風呂にする? ご飯にする? それとも」
220 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:46:26.28 ID:Yt32AAJ30

「そ、それとも……?」



ゴクリ。




馬鹿みたいに大きな音が鳴る。


緊張した空気に耐え切れなくなった喉の音だ。



このままだとヤバイ。



「えーと、準備できてるなら先に食事でその後風呂のがいいな」


クールダウンのためにまずは何もできないだろう食事にしよう。


「……残念」



すれ違う時、小さくだが明らかに聞こえるように告げられたその言葉は理性を崩壊させないためにも聞かなかった事にしよう。



食事を選んだはいいがいつも向かいに座るはずの滝壺が隣に座り、甲斐甲斐しく世話をしてくれたおかげで折角の料理の味は全く分からなかった。

もったいない。

それ以上に耐性なさすぎだろ俺。


ただ感想を言うならば。




バニースーツにエプロンという新境地はアリだった。


221 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:48:40.60 ID:Yt32AAJ30

まあ、そんな猛攻も耐え凌ぎ、何とか風呂に逃れる事が出来た。


「そういえば漫画とかでお風呂入ってる時のカポーンって表現は誰が考えたんだろうなあ。実際そんな音しねえのにな」

「そうだね」

「そうだね、プロテイ……………え?」


記憶の限り、風呂場のドアの空いた音はしなかった。

しかし。

声のする方、というか後ろを振り向いたらいつの間にか滝壺がいた。



バスタオル一枚の。



「どうしたの? はまづら」

「なななな何でいらっしゃるんですか?」


まだ濡れていない白いバスタオルで体の前を隠している。

隠れているのは前部分のみだ。


「背中流しに来た」

「なななんああななあああああああああああああああっ!!」



腋。


横乳。


くびれ。


脇腹。


腰。



普段見えていないその肌の露出ががががあらわらわあらわら。

222 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:51:28.09 ID:Yt32AAJ30

「落ち着いて、はまづら」

タオルを持っている手と逆の手が肩に置かれる。

いつもと同じその手がいつも以上に柔らかいのはただの気のせいだろう。

呼吸と共にお腹が動き、押されてタオルがゆっくり揺れているのも気のせいだろう。

「いやさ、お出迎えのバニーも不思議だったし、何気に豪華だった食事も謎だったんだけど………え? 何? どうしたのさ今日は?」


何だこの夢空間。


御盆と正月が来たところでめでたくはないのだけれど。




今死んでも生涯悔いはないんじゃないかというくらいヤバイ。




「はまづら」

「何?」

「お誕生日おめでとう」



誕………………………生日?



「…………あ!!」

「本当は明後日だけどお仕事だから」

「なるほど」


誕生日。


そう明後日は俺の誕生日だ。

仕事の予定が入っていた上、そもそも誕生日を祝うような仲間が少なかったから忘れていた。


「明日もいろいろやるけど第一弾。それに一番に祝いたかったからし」

「ありがとな」


そうか。


今年は命の危険などなく。


世界の騒乱などなく。


恋人が側にいて祝ってくれるのだ。




生きててよかった。




でもそれはそれとして。


「こういうのは前もって言ってくれ。心臓に悪い」
223 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:53:08.48 ID:Yt32AAJ30

「そうなの?」

「そうなの!!」

「分かった」


とりあえずは納得してくれたらしい。


ただし、このまま背中を流されるとなると果たして理性が持つのだろうか。


「お風呂から出たらまたうさぎさんになるね」



その言葉と共に。


ポツリと聞こえる悪魔のささやき。



「あ、でも」





いや、天使、否女神のささやき。






「汚れちゃうしここでのがいいのかな?」







幸福すぎて死にそうだった。








この後、長湯をし過ぎて鼻血を出し、俺がぶっ倒れた事は滝壺と二人だけの秘密だ。

224 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:53:56.94 ID:Yt32AAJ30
――――――

※月**日

待ち望んでいたような待ち望んでいなかったような。


いや、待ち望んでいた日。


頑張ってきます。






後日追記。

内臓が全部引き摺り出るかと思った。

――――――
225 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:58:27.65 ID:Yt32AAJ30

壊れる寸前のエンジン音みたいな振動が響いてくる。


エンジン音というよりそれはもはや爆発音。


それが自分の心臓の音だなんて聞かれるまでもなく分かっている。


弾ける鼓動はその速度を上げるばかりで少しも落ち着く気配がない。


「入るね、はまづら」


その声を聞くだけで体が跳ね上がる。


爆音はさらにボリュームを上げる。


部屋に響き渡るように聞こえるドラム音が自分の内にあるだけのものとは到底思えないくらいだ。


「どうしたの?」

「いや、何か……緊張しちゃって」


我ながら情けない。


「そうなんだ」


滝壺がゆっくりと近付いてくる。

その目からはあまり感情が読めず、俺と同じように緊張をしているのか分からない。

けど少なくとも嫌がってはいないようだ。


「滝壺」


名前を呼んで出来る限り優しく抱き寄せてキスをする。



目をつぶり、触れるだけのやさしい口付け。
226 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 13:59:17.25 ID:Yt32AAJ30


顔を離し、目を開けると滝壺はきょとんとした顔で不思議そうに見ていた。


「どうしたの?」

「いや、だってさ。俺から滝壺にはしてあげれないわけで、たしかにそういうのは嬉しいんだけど……それってお前の体目当てで付き合ってるみたいだろ?」


滝壺の本心は分かっている。

あくまで俺なりにだけれどその想像はついている。

そんな事を思ってないなんて分かってる。



だからこれは俺の自己満足だ。



「そうだね」

「………」

「どうかした?」

「いや、なんでもない」


肯定されると思わなかったなんて言えない。

まあ、いつも通り滝壺の分かりにくい冗談なんだろうけど。


「だからさ。意思表明というか自己満足かもしれないけど俺からできる事をしたかった」



これは俺から滝壺への先払いの愛情表現。



「ありがと」

227 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:04:04.54 ID:Yt32AAJ30

「じゃあ、はじめるね」

「お、おう」

覚悟を決めたとはいえ、いつか訪れると思っていたとはいえ、誰かに見せるなんて初めてだ。


羞恥以上に緊張で喉が渇く。


体勢は少し考えた末、結局お互いのやりやすいようにと俺がベッドに座る形になった。



………下半身がすごく頼りない。



「え、と……無理はしなくていいぞ?」

「大丈夫。ちょっと、びっくりしただけ」


その声は驚いているというよりは興味津々で、事実滝壺の視線はずっと離れていない。

かつてないくらい楽しそうなのは気のせいだろう。


「なら、いいけど」

「これ以上大きくなるの?」

「……ほぼ最大」


というか既に記憶の限り見た事ないレベルで膨れ上がっている。


頭は全然働いてない。

心は動揺でグラグラと定まっていない。

喉はカラカラ、体中から嫌な汗が吹き出ているというのに……現金なものだ。



まだ触られてすらないんですけどね!!
228 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:06:01.60 ID:Yt32AAJ30

「触っていい?」

「ああ」


滝壺の柔らかい手が触れる。


最初に感じたのはその手の冷たさ。

ただそれは俺が熱いのか滝壺の手が冷たいのかどちらかは分からない。

でも多分両方だ。


「硬い、のに柔らかい。不思議な感覚だね」


感触を確かめるように触れられる。


次に感じたのは違和感だ。

普段自ら触れる時はどんな時でも手にも感覚がある。

それがなく一方的に触れられている違和感。


「痛かったら言ってね」


形を確かめるように撫でられる。


最後に感じたのは――これが快感なんだろうか。

触れられた事のない柔らかい感覚。

くすぐったいような、それでいて痛みや痒みにも似た感覚。

冷たいその手に熱が奪われているハズなのに逆に自ら熱を帯び、体の芯から何かがゾクゾクと上がってくる。



神経を研ぎ澄まされるような強い衝撃。



「ああ」

ただ触れられているだけ。

その手の動きは当然拙く、その先にすら触れていないのに。



全神経が引っ張られる。
229 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:09:44.90 ID:Yt32AAJ30

「んぐ」

先の方を触られて少しだけ声が出る。

敏感なそこはまだ快楽よりも痛みの方が勝ってしまう。

「痛かった?」

「いや、何て言うか……先の方は刺激が強いから…………どうすりゃいいんだ?」


こうして欲しい、と言おうとして言葉につまる。


何を言えばいいか分からない。

自分に経験などはないし、知識は本や映像、つまりはバーチャルなものでしかない。

もしくは空想のものであり、実際にどうすればいいかなんて分からない。


「えーと……」

戸惑っているとその小さな手で握るように包まれた。

「こう、とか?」

「ッ!!」

少しだけ力を入れて絞るように動かされる。

「痛かった?」

「いや、気持ち、いい」

「よかった。続けるね」


込められる力が探るように少しずつ強くなる。

かけられた力が自らする時のそれに近付いてくる。

ただ与えられている快感は比べ物にならない。


「あ、く……は」


未知の感覚に戸惑いながらも視線を落とす。

この感覚の原因が本当に滝壺なのか、自信がなくなってきたからだ。

変な薬で実験をされていると言われた方が納得できる。


しかし、当然そんな事はなく。

その両の手でこの上なく楽しそうに弄んでいた。


俺の視線気気付いたのか滝壺と目が合う。




そこには―――俺の見た事のない滝壺理后がいた。

230 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:11:29.64 ID:Yt32AAJ30


「あとは、これとか」


彼女は子供みたいに愉しそうに嗤うとゆっくりとした動きでべろりと舌を出した。


別に初めて見たわけではないピンク色の舌。

俺の口に入っているものと大して違いのないはずの長三角のそれ。




彼女の舌は脳髄をくすぐる光沢を滴り纏っていた。




だらりと伸ばされた舌から透明の液が流れ落ちる。


ゆっくりと。


スローモーションのように。


「ッ!!」


それが唾液だと分かっているのに。

透明で濁ったその粘液を、俺は刺激物か何かと勘違いをした。


「冷たかった?」


無言で首を振る。

口を開けば叫び声をあげてしまいそうだったから。


頂点に落とされた雫が緩慢な動きで這うように降っていく。


頂点からくびれへ。

くびれから幹へ。

そしてその下にある滝壺の白い手へと伝わる。


同時に音もなく擦られていたその行為に小さな水音がつく。


ただ唾をたらされただけ。

他には何も変わっていない。




そのはずなのに一瞬で刺激の質が変わった。

231 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:13:56.39 ID:Yt32AAJ30

「滝、壺さん。どこで、そんな事を」

口から出る言葉が切れる。

まだ始まったばかりなのに数十キロも全力で走ったような声。

「はまづら、パソコンの中にも隠してたんだね」

その声は少しだけ冷ややかだ。

「だからそういう能力じゃないですよねん!?」

抗議なんてほどのものではないが、言葉を最後まで言わせてなんてもらえない。


彼女の指がその頂点にまで伸びていた。

先ほどは快感よりも痛みが強かった。


しかし今は。


唾液が潤滑油の代わりとなり。


拙かった手の動きは少しずつ力加減を覚えていた。




優しくそれでいて強く擦られる粘膜が気持ちいい。




「勉強、したんだよ?」

「それは、嬉しいけ、ど」


片手で幹を。

片手の掌と指で頂点や裏を。



雫を延ばすように、回すように優しく丹念に撫ぜられていく。



初体験の感覚に体の奥が引っ張られ、そのまま―――



「あ、ぐ……で、で―――ッ!!」

232 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:16:30.02 ID:Yt32AAJ30

―――そのまま至る事はなかった。



触れられていた場所が離されて。

盛り上がっていた快楽が一瞬で止められた。


「な、ん で?」


離された瞬間から徐々に下がっていくのが分かる。


「まだ、ダメ」


完全に肩で息をしている俺に彼女は優しい悪魔みたいな微笑を向ける。


「ここから、だよ?」


そう言うと彼女は両手で根元の辺りを優しく押さえ


「れろ」


再びその舌を伸ばす。


「――ぁぐ」


手とは違う硬さと柔らかさ。


人の器官とは思えないザラリとした触感。



ゼロまで戻った快楽が一瞬でハジけそうに戻る。



「気持ちいい?」

「……もうさ、俺の反応で声で分かるよな?」

「うん」

「聞かないで頂けるとありがたいんっ!!」

「ぱく」


咥えられると同時に少しだけ空気が漏れた音。

そんな小さな音がしっかりと聞こえる。


その音を聞いて彼女の温かい咥内に含まれた事を実感する。
233 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:18:56.07 ID:Yt32AAJ30

「ぐ」


ただ垂らされただけよりも強い潤い。

手で撫でられただけで感じた熱とは違う抱き締められたような熱。

慣れない彼女の体温が頼りないまでに心地いい。


ただ含まれているだけで消えて溶けてしまいそうな快感。

今まで味わった快感とは明らかに違う快感。


「ぁうっ!!」


舌が動き出した。

裏の敏感なところを沿うように抉るようになぞるように。


ヤバイ。

ヤバイヤバイヤバイ。


息が上手くできない。


今まで感じてきたものとはカテゴリというか根本が違う。

別種の何かだ。


しばらくして気付く。


人間は慣れる生き物らしい。

咥えられていただけで出そうなほどに感じていたのに今はもうそれだけでは物足りない。

いつの間にか舌の動きが止まっていたのだ。


顔を覗き込むと滝壺が少し心配そうにしていた。


「いや……想像以上に気持ちが良すぎただけだ。続けてくれ」

「ははった」

「――ッ!!」


動かされた唇。

掠るように当たった歯。

小さく振動する舌。

吐き出される空気。


「滝壺さん、咥えたまま喋らないでください」

「痛かった?」
234 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:20:40.88 ID:Yt32AAJ30

「ぅあ……いや、その……し、舌の感覚が、その……気持ち良すぎて困る」

「ひをふへる」

「ぐぅ……最後のはわざとだろ絶対!!」


今ので確信する。

彼女は反応する俺を見て愉しんでいる。


形はどうあれ楽しんでくれているという事実が少しだけ俺を冷静にさせる。


しかしそれは。



ただの油断だった。



「じゅるん」



吸われた。

長らく咥えられて溜まった唾と共に鳴る水音。


ゴクリと喉の鳴る音が聞こえた。


その一瞬で全てを持っていかれそうになる。


唇に。

歯に。

舌に。


咥内のいたるところの粘膜に。


全てが重なる。


形の違う合うはずのない二つがぴったりとくっつく感覚。




体のたった一部に触れられているだけなのに全身どころか心と脳までも支配されてしまう錯覚。

235 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:22:05.33 ID:Yt32AAJ30

「ぐぉああぅ」


叫ぶような声が出る。

当然意識した声なんかではない。


そしてその反応を見た彼女は。


その行為を続けた。


「ちょ、とま」


舌が巻きつき。


「ひは」


敏感な段を這いずる。


「た、きつ……ぼ」


手が幹を絞るように絞め、奥の奥が引き摺る出される。


「で―――、る―」


普段の何倍もの時間。


一人で至る時の何倍もの快感。



数秒、意識が飛んだ。

236 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:23:59.57 ID:Yt32AAJ30

「どうだった?」

「死ぬかと、思った。気持ち、良すぎて」

「よかった」


滝壺の笑顔は本当に楽しそうだった。

されたのは俺なのに。


「苦しかったり、しなかったか?」

「少しだけ。あと顎が疲れたかな」

「ありがとな」

まだ治まらない乱れた声で感謝を伝える。

「もう一回する?」

「いや、今日は……無理です」


たった一度でヘトヘトだ。

数百キロ全力疾走してもこうはならないと思う。


「そう。じゃあ、うがいしてくるね」

「ああ」


滝壺の背中を見ながらそういえば出されたモノはどうなったんだ? なんて無粋な事を考えていた。


「――。」

「え?」


聞き間違えだろうか。


今部屋を出るその時。





―――――「残念。」




彼女が愉しそうにそう言った気がした。

237 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:24:35.46 ID:Yt32AAJ30

――――――

Ⅹ月Ⅹ日






滝壺にオナニーを見られた。死にたい。






――――――
238 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:26:54.12 ID:Yt32AAJ30

先方の事情でシフトがズレて珍しく夕方が暇になる。

滝壺は予定があったらしく夜まで帰って来ないらしい。

その間、俺は家でゆったりと出来るわけで。

明日の仕事は早いが今なら夕寝もできる。


となれば普段抑圧されたモノを解放しても誰も咎めはしないだろう。


むしろ推奨されるべきだと思っていた。



しかし実際は。


不幸に不幸が重なった。


珍しく家にいる俺に気を利かせ、滝壺が予定を早めて帰ってきてくれたのだ。


鉢合わせ。


俺はすぐさま服を着て逃げ、当てもなくさまよい、しかし結局帰る場所など他になく、家に戻った。


夕食。


入浴。


就寝直前。




滝壺が部屋に来た。

239 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:29:05.24 ID:Yt32AAJ30

「ねぇ、はまづら」

後ろからかけられる声。

「な、何だ?」

振り向けるわけがない。

「やっぱり辛い?」

振り向けるわけがない。

「……やっぱりって何だ?」

裏返る声。

「だってさっき」

ベッドの端と端、その短い距離を遮るように話す。

「ゴメンナサイ。モウシマセン。お願いそれには触れないで!!」

背を向けたままで。

「そうじゃなくて」

それ以上にただただ情けない。

「いや、もう絶対しないから。金輪際しないって誓」

「聞いて、はまづら」

言葉を遮られて体がビクンと跳ねる。


背中にかかる重圧が強くなった。

絶対怒ってる。

もうあれだ。死にてぇ。


「……はい」

「はまづらはそういう事したいんだよね?」

「そ、そういう事って?」

「セックス」

はっきり言われた単語に言葉が詰まる。



「正直に言って? 私って魅力ない?」

240 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:30:45.52 ID:Yt32AAJ30


………。


これはあれだ。

選択肢を間違えたらデッドエンドだ。

確実に。


ただここは。


この場を取り繕う嘘じゃなくて。


真摯に真実を答えるべきだ。


「……そりゃしたいに決まってるだろ? 自分の彼女と一つ屋根の下で暮らしててそういう気持ちがないわけないだろ?」


滝壺に。

自分自身に。


「でもさ、滝壺の体調的にもそういう事はしない方がいいんだろ? だから直接は関係ないかもしれないけどお前の体が治るまでそういう行為はしない。絶対に」


これは覚悟でこれは自制でこれは宣言で。


「……ありがと。ちゃんと言ってくれて」

「当然だよ」

「だから一人でするの?」


これは戒めだ。


「…………ああ。無理矢理なんて気はかけらもないしそれくらいの自制心はあるつもりだけど……万が一がないように、な。でも気を付ける。お前に見られないように……いや、もう遅いけど」

「手伝おうか?」
241 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:31:13.74 ID:Yt32AAJ30










「は?」









242 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:35:54.84 ID:Yt32AAJ30

人にもっとも有効な攻撃は意識の外、思考の外からの攻撃だと思う。

人も機械も処理しきれない情報を入力された時、その思考は停止する。


俺もその例に漏れず予想外の言葉で思考が停止して、さっきからの後ろめたさも情けなさも忘れて振り返ってしまう。


いつも通り何も変わらない滝壺理后がそこにいた。


「えっと、今なんて?」


聞き間違えたんだろう。


「手伝おうか?」


聞き間違いではないらしい。


「いや、えっと……何言ってんだ? 滝壺」

「口とかでなら大丈夫だし」

「いやいやいやいやいや」


現状、滝壺には直接的な事は出来ない。

それはつまり一方的に奉仕される事を意味する。


「フェラって言うんだっけ」

「そ、そ……んな言葉どこで覚えたんだよ!!」

「これ」
243 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:38:06.76 ID:Yt32AAJ30

その手の中にあったのはどこからか取り出した分からないいくつかの本とディスク。

見覚えのあるものだ。

たまに訪れる知人や何よりも滝壺に見つからないように念には念を入れて隠している俺の個人的嗜好品。

中には危ない橋を渡り用意した無修正ものも入っているそれ。



俺、浜面仕上独り身時代からのコレクション(ちなみに滝壺との同棲準備として本当のお気に入り以外は元スキルアウトメンバーに譲渡した)。



「なななななな、なぜそれを!!」

反射的に取り返そうとするがひょいっと遠くに持っていかれ届かない。

座ったままだった俺はバランスを崩し、ベッドに倒れこんでしまう。

「私の能力は能力追跡<AIMストーカー>。たとえ地球の裏側に逃げても位置情報を検索できるよ」

キラーンとかつてないジト目が光る。

「…………………いや、そういう能力じゃないだろ」

体を起こしながらツッコミをいれる。

危うくスルーしそうになった。

「今のは冗談」

滝壺が言うと冗談に聞こえないから怖い。

「でもね、はまづら」

首に手を回され見つめあう形になる。

いつになく真剣な瞳。


少しだけ悲しそうな瞳。



「私ははまづらの彼女なんだよ?」



そのキレイな瞳の奥に見えるのは滝壺を悲しませている張本人のマヌケな顔――つまり俺だ。


「ゴメン。俺が悪かった。これからは滝壺に相談するよ」


辛いのは俺だけじゃない、滝壺だって同じなんだ。

何のに俺は一人で裏切るような事をしていた。


俺は馬鹿だ。


一人じゃない、二人なんだから。
244 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:39:03.28 ID:Yt32AAJ30








「じゃあさっそく」

「え?」

あれ? なんか変だぞ。

「お風呂は入った後だからきれいだよね」

さっきまでの感動的な雰囲気というかあれが台無しじゃ……いや、よく考えたら感動的でもなんでもねぇ!!

「歯磨きは……食後はしたけど気になる?」

何でこの人こんなに乗り気なの!!

「えと……滝壺さん」

「何?」

「今日は止めません?」

「何で?」

「明日仕事で朝早いし…………心の準備が」


ああ、なんというヘタレな俺。


「また今度でお願いします」

ベッドの上に土下座。

「分かった」

納得してくれたのか滝壺は立ち上がり部屋を出る。

「じゃあ、今度、ね」


部屋を出る滝壺の顔は珍しく膨れていた。





あれ、おかしいぞ。


『俺がして欲しい』より『滝壺がしたい』のが勝ってる気がする。
245 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:40:04.06 ID:Yt32AAJ30

――――――

×月◎日


本日、『アイテム』として最後の会合があった。

最後というのは『アイテム』として集まるのを最後にするという意味だ。


俺達はこれからも変わらないし、これまで通りの関係だ。


ただ、『アイテム』としてはもう集まらない。


『暗部』だった『アイテム』

一度壊れた『アイテム』

便利屋みたいな事をした『アイテム』

何の因果か世界を救う歯車の一つになった『アイテム』


その『アイテム』はもうなくなる。


これはけじめなんだろう。

何のかと聞かれると困るが。


ずっと反対していた絹旗も最後には納得してくれた。


だから『アイテム』は解散した。

今日が俺達のリスタートの日だ。



誰が言い出したのか、日記を買う事になった。



誰に見せるわけでもない、日付すら書いていない、白紙の日記。


書き方も。

日付も。

内容も。


全てを自由に書けるタイプの日記だ。


これからは思い思いの事をこの日記に綴っていくんだろう。





とりあえず三日坊主にならないようにしないといけない。


――――――
246 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:42:24.05 ID:Yt32AAJ30

夕暮れ。

俺は彼女である滝壺理后と肩を並べて歩いていた。


『アイテム』最後の会合の帰り道を。


「はまづらは何書くの?」

「ああ、これか?」

これとは日記だ。


最後だからといつものファミレスを出てセブンスミストを歩いていた。

その時に四人で購入した日記帳。

「うん」

「何書こーかねー……日記なんて小学生の時以来だからなー」

「小学生の時は書いてたんだ」

「夏の宿題でな」

「どうだった?」

「三日どころか一日もかかなくて八月三十一日にダチと集まって三人で書いたんだよ。んで後から担任にバレてエライ目にあった」

「どうして分かったの?」

「内容が三人とも同じだったんだよ」

「それはバレるね」

「一応、出てくる名前とかは変えてたから大丈夫だと思ってたんだ……今考えても浅はかすぎる」

「だね」

日記なんてその程度のものだった。

だからこれは少し俺には重すぎる。

「滝壺はどうするんだ?」

「どうしようかな」


その声はどこか楽しげで。


その声はどこか寂しげで。


「……なあ、よかったのか?」

「何が?」

「『アイテム』の解散だよ。絹旗と同じでもっと嫌がると思ってた」
247 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:44:11.28 ID:Yt32AAJ30


『アイテム』の解散。


世界中を巻き込んだ騒乱が終わった。

学園都市はその姿を変え、『暗部』やスキルアウトといった表裏両方の問題を解決するべくして動いている。

全ては概ね上手くいっている。


その変化に対応するために麦野が下した答えだ。


「リーダーはむぎのだからね。むぎのの決定に従うよ」

「解散っていっても形だけだろうし、結局集まってダベったりするんだろうけど……それでも大切な場所だったろ」

「そうだけど……私達は変わらないし、私達は変わらないといけないから」

その答えは少しだけ寂しそうだった。

「まーな」


俺達が仲間である事は変わらない。


途中で入った俺だってそう思うくらいだ。

他のメンバーだってそう思っているだろう。


ただ今のままでは互いに近すぎた。

この先、何十年と続く人生で障害になるほどに。



だから麦野は『アイテム』を解散させたんだろう。



とりあえずこれを機に絹旗がもっと交友を深めたりしてくれるといいんだけどなぁ。

何気に友達少ねぇんだよな、アイツ。


「そういえばはまづら」

「何だ?」

「仕事の日程決まった?」

「ああ、来週頭からお仕事です」

「頑張ってね」

「ああ」
248 :たとえばこんな滝壺さん ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:46:20.64 ID:Yt32AAJ30

――――――――――――――――――

―――――――――
―――――
―――


一人の少女がベッドに座っている。

ピンク色のジャージを着た黒髪の少女。


どこか間の抜けた印象を受ける、表情の読めない少女だ。


ぱたり、とノートの閉じる音が響く。

ノートの表紙には何も書いておらず、裏表紙の隅に黒いマジックで『浜面仕上』とだけ書いてある。


「―――ぼー」


部屋の外から声がする。


「滝壺ー?」


それが少女を呼ぶ声だと分かると、少女は急いでノートを元あった場所に戻した。


「あ、いたいた。どうしたんだよ、俺の部屋で」


ドアが開き、少年が入ってくる。

ぼさぼさの茶髪に体格のいい背の高い少年だ。


「今日の準備してた」

「準備…………? って、あ」


何が恥ずかしいのだろうか、少年の顔は真っ赤になる。


「うん。楽しみ」

「…………いや、俺も楽しみだけどさ」

「よかった」

「当たり前だろ? それにさ」

「それに?」

「やっと滝壺に返せるって思ってさ」

「……やり返せる?」

「返してあげられる。人聞きの悪い事言うんじゃねぇ」

「うん。分かってる」


その言葉に少年はやれやれと肩をすくめる。


「楽しみにしてる」




少女は笑顔でそう返すと、少年の胸へと飛び込んだ。

249 : ◆oEZLeorcXc [sage saga]:2012/01/26(木) 14:56:25.71 ID:Yt32AAJ30

『多少』の18禁描写を含むと言ったな。あれは嘘だ!!


と、言うわけで浜滝「たとえばこんな滝壺さん」でした。

補足をすると『浜面の日記を見ながら滝壺さんがその日を思い出し、それを浜面視点で書いている』というよく分からない手法を取りました。

あと日付は逆順で投下してますので(念のため)


おかげで執筆時間が超かかりましたが。

マジ難産だった。


あ、名誉のために追記しますと

・普段こんな事ばっかりやってません。
・普段こんなちょっとアブノーマルな事ばっかりやってません。
・そんなに長く伸びません(13㎞とか伸びません)
・そんなに速く伸びません(音速500倍なんてそんなそんな)

あ、最後二つは関係ないです。


次回は浜滝蛇足。

続いて最終回になる上琴「私とアイツ、アイツとあの娘、あの娘と私」です!!

250 : ◆oEZLeorcXc :2012/01/26(木) 15:07:51.78 ID:Yt32AAJ30
投下して後悔。

速くじゃなくて迅くだった……ってそうではなくて。


アゲ忘れたのとオムニバスなのに長いので

一方結標
「Until reaching the starting line」①
>>2
「Until reaching the starting line」②
>>41
「Until reaching the starting line」蛇足
>>80

垣根初春
「ハジメテ」
>>102
「ハジメテ」蛇足
>>151

浜面滝壺
「たとえばこんな滝壺さん」
>>181

を置いときます。


251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/26(木) 15:50:34.58 ID:WSPrP+yEo

滝壺さんマジエロス!



あと浜面は爆発しろ
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/26(木) 19:42:51.57 ID:er8Hjj7SO

逆からなのは滝壷さんが読んでたからか
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/27(金) 00:34:15.20 ID:IrGR+Mtg0
滝壺さああああん!
滝壺って本編でも意外と積極的だよね
おつおつ 
266 : ◆oEZLeorcXc [sage]:2012/04/25(水) 19:17:41.39 ID:72a8LoLq0
>>1です。無事生きてはいます。
数日中……は難しいかもですが途中放棄はしません。

忘れた頃に見てやってください。


 
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/12(木) 09:12:51.40 ID:JbzLaTwDO
もうすぐ3ヶ月
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/25(水) 06:51:43.33 ID:jkFfSxVgo
無念
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/27(金) 01:00:53.80 ID:tlPTOyaK0
もっと読みたかったな
気が向いたらまた書いてほしい
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/27(金) 13:06:43.24 ID:mAYfaIfl0
つづきみたい

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