- 521 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:07:57.22 ID:09fdl3WDO
「まーた泣きそうになってる」
彼の手が自分のそれに重なる。
腕と腕が触れ合って、手と手が触れ合っていて。
先程の無意識の恋人繋ぎが思い出される。
その彼の温かさはまだ残っていても、幸せとドキドキが更に上書きされていく。
「あわわわわわ……………………///」
その手の温かさが、凍てつきそうになった自分の心をまるごと温めてくれているかの様だ。
彼が視界にいるだけで周りが見えなくなる。
彼が触れてくれるだけで五感の全てがその感触に集中する。
視界もふやけて何も考えられなくなる。
ずっとその幸せ症候群に侵されっぱなしでもいいくらい────────
「だ、大丈夫です……………………ょ………………///」
「おー、そうか。ならよかった」
初春にとって、それほど彼の存在は大きかった。
「ちょ、ちょっとアンタ何してんのよ!?」
ただ、この場にいる美琴の事。
それを考えると、それをずっと味わうという訳にもいかなかった。
「御坂さんってもしかして……………………うひゃー、これ修羅場ってやつ?」
「あの類人猿んんんんお姉様に飽き足らず初春まで……………………デモウイハルトクッツケバオネエサマハフリーニ」ブツブツ
「これもまた、青春ね」
完全に傍観者に成り果てている三人の呟きは渦中の三人には届かなかった様だが。- 522 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:08:46.15 ID:09fdl3WDO
美琴はつい大声を張り上げずにはいられなかった。
アイツと初春が、手を繋いでいる。
その繋がった手を見て、彼の手を両手でもじもじと包み込んでいる初春を見て。
まるで、恋人同士の様なやり取り。
───………………………………まさか。
二人は、既に付き合っているのではないだろうか。
そう疑わずにはいられなかった。
彼女は彼が好きで。
彼も彼女が好きで。
まるで自分は第三者。
………………第三位と掛けた訳じゃない。
自分も彼と手を繋いだ事はある。
彼の手の温かさに胸が動悸し、心が踊る様な思いもした事もある。
それも、何度か。
あの罰ゲームの時も、色々理由付けて買い物に付き添わせた時も。
フォークダンスをした時もそう。
携帯のペア契約した時だって、彼の手を引っ張って携帯ショップに連れてきた。
彼が入院した時だって、彼は眠っていたけど手を握った。
ただ──────────────。
思い返してみれば、彼から手を握ってきてくれた事なんてなかった。
いつも手を繋いだのは自分からで。
いや、繋いだという表現も違うのかもしれない。
自分が手を引っ張っただけで。
ただ、今見たのは彼が自分から彼女の手を握っていたという事。
それを見た美琴は、自分の手をギュッと強く握り締めるしか出来ずにいた。- 523 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:09:32.09 ID:09fdl3WDO
「いや、何ってなあ。初春さん、体調悪そうに見えたから気になったんだが」
「わ、私は大丈夫です」
「んー……、大丈夫ならいいけど。でも辛かったらすぐ言うんだぞ?」
「ぁ、ぁりがとうございましゅ……………………///」
「ん? また顔赤くなった………………熱でも出たか?」
「こ、これは……………………その……………………///」
いちゃいちゃ。
「………………………ね、ねえ……………二人って付き合っt『prrrrrrrrrrrr』うぇ」
「あら、電話ですの」ナンツータイミング
「事件発生かしらね?」ナンツータイミング
「ですかね?」ナンツータイミング
覚悟を決め、二人の関係を問い詰めようとした所で第一七七支部の電話が鳴り響いた。
それに肩スカしをくらった様に言葉を止めた美琴は、ここで一旦溜息をついていた。
ただ視線は、今だ繋がっている彼らの手。
初春が上条の手を包み込んでいるところから見ると、二人の関係がどうであれとにかく初春は上条に恋い焦がれているのであろう事はわかった。
───まあ…………また聞けばいい、かな……………………?
実の所、答えを聞くのも少し怖かったりして。
ほんの少し、ホッとした気持ちもあった。- 524 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:11:14.14 ID:09fdl3WDO
「もしもし、こちら第一七七支部です。………………はい、わかりました」
「固法先輩、事件発生っすか?」
電話応対を終えた固法に上条が尋ねる。
今日が初仕事で、まだ右も左もわからない事だらけなのだが、今の電話は事件か何かだという事は把握出来た。
電話を切った固法はそんな重い案件ではないわね、と苦笑いを浮かべていた。
「ええ、事件って言うより迷子の保護ってところね。白井さん、出動準備を。上条くんも研修ってコトで白井さんについていってね」
「了解ですの。それでは上条さんも準備なさいな」
「了解っす」
黒子が腕章を腕に着けるのをまじまじと見る。
腕章か、と別に憧れ少年心が騒ぐ訳でもないのだが、やはり正規の認められた印というものに興味はある様だった。
そんな上条に固法が思い出した様に彼女の机の引き出しから中に入っていたものを取り出すと、上条に手渡した。
「んじゃ、上条くんもこれを」
「あ、はい……………………おお、俺にもついにこれが」
濃い緑色の生地に白の刺繍で描かれた盾をモチーフとした紋章。
それにくっついている安全ピンを見ると、付け方は至って原始的に見えた。
何かこう、カチってはめるとかそういうのではないらしい。- 525 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:12:11.45 ID:09fdl3WDO
「初春、データを」
「はい、これですね。第七学区の○×スーパーです」
そしてジャッジメント諜報隊の初春が素早く受信したデータを画面に表示させ、情報を確実に伝達させる。
その手慣れた手つき、そして凛とした姿に感心を覚えた。
タイピングやらマウス捌きやら、とてもじゃないが自分には出来なさそうな動きだった。
「っていうかあそこかよ……………………上条さんご用達のスーパーじゃないか」
「えっ、そ、そうなんですか? ……………………イツモアノスーパーニカミジョウサンガ」
「あそこの特売セールにはいつもお世話になってるんだよなー」
(つまり偶然を装ってあのスーパーで張ってれば当麻さんに会えてまた料理を振る舞えるのかな……………………」
「初春! 心の声が出てますし、上条さんも余計は話は慎みなさいな!」
「わ、悪い……………………」アチャー
「え、ええっ! す、すみません……………………か、上条さん聞こえました?///」
「へ?」
「な、なんでもないですっ///」
いつもお世話になっているスーパーにまた違う目的で行くってのに不思議な感覚を覚えた。
なるほど、ここからなら距離もそんなに遠くはない。
他に準備はいるのか、と黒子を見たがどうやらもう準備するものはなく、いつでも出発できる様だった。
- 526 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:13:03.67 ID:09fdl3WDO
「それでは、行ってまいりますわ。上条さん、肩を失礼しますの」
「ん? なんだ?」
「むぅ……………………」
「空間移動で飛びますの。それではお姉様、皆さん、いってまいりますの」
「う、うん………………気をつけて」
「空間移動か……………………いや、まさかな」
まさかとは思うが……………………………………
「あれ……………………? ってもしや!」
いざ演算を開始した黒子の表情が引き攣る。
その様子に一同はキョトンとした様子を見せたのだが、上条が何かを気付いた様に手を打つ。
空間移動とは、黒子の能力で。
能力ということは、異能の力で。
そして自分が持っている、異能の力を消してしまう幻想殺し。
どうやら、自分は飛ばせないらしい。
- 527 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:14:21.72 ID:09fdl3WDO
「やっぱ……………………飛ばせねえか? 幻想殺しの影響で」
「「「「 あ 」」」」
「演算は出来ますが、上条さんは飛ばせないみたいですの……………………このままテレポートは出来ますが、恐らく」
「多分、学ランがテレポートされるんだろうなぁ……………………いや、学ランだけじゃなくて服だけ全部飛んだりして」フコウタイシツダシ
「「っ!?///」」
「それはまずいわね」
「ってかよく途中で気付けましたね……………………」
例え幻想殺しが宿る右手で触れられていなくとも、上条を空間移動で飛ばす事は不可能の様だ。
演算は出来ても『何か』が邪魔をしてどうにもうまくいかない。
無理矢理空間移動した所で、上条を包んでいる服だけを飛ばす形になってしまっていたのだろう。
下手をすれば、上条を包んでいる服だけ全てを空間移動……………………それを想像して顔を真っ赤にする少女が二人がいるのだがここではあえて触れておかない。
「にしても、困りましたわね……………………」
「何か……………………………………すまん…………」
落胆の様な、諦めの様な声で黒子が溜息を吐いた。- 528 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:15:49.60 ID:09fdl3WDO
他の支部よりも優れていると言われているこの第一七七支部での功績は、黒子の空間移動による迅速な対応というのが大きい。
空間移動という能力のおかげで被害拡大を防いでいたり、早急の犯人確保というのが出来ていると言っても過言ではなく。
その空間移動が使えないとなるとやはり足で事件現場に向かわなければならない様だ。
───まあ、でも。
気分は乗らないが、上条は風紀委員の後輩になった。
面倒だが、後輩ならばやはり先輩が面倒を見てやらなければならないのだろう。
───……………………この殿方の本質というものはまだまだわかりかねますし。
黒子には、上条を置いていくという選択肢はなかった。
それは同僚と憧れのお姉様が、上条という男にあれだけ惚れ込む理由というのも知りたかったのかもしれない。
右手を見て、妙に落ち込む様子の上条を見て黒子はもう一度溜息を吐いた。
「……………………まあ私も研修生の時、固法先輩に空間移動抜きで連れていっていただきましたし。
仕方のない事ですわ。ほら、テレポート出来ないなら走っていきますわよ。
ついてきなさいな、年上の後輩さん」
「……………………サンキュ。了解しやした、年下の先輩さん」
そう言い、ほっとしたように笑う上条を見て。
ふん、と一息つくと黒子は上条を伴い現場に向かう事にした。
- 529 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:17:20.87 ID:09fdl3WDO
「行っちゃいましたねー……………………」
「そうね」
「………………………………」
「………………………………」
「あは、は……………………お茶おいし」チラッ
「さて、私は仕事しなくちゃ」スクッ
「え、ちょ固法先輩……………………」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………………………………………」
「……………………………………………………………………………………」
「」グスッ
───ちょ、この沈黙は無理ぃ………………二人ともドアを見つめて止まってないでよぉ
佐天は困った。
あれから初春と美琴の二人はドアの方をじっと見ていて静止していて、沈黙に堪えきれず声を掛けてみても反応はなかった。
頼みの固法も自身の仕事に取り掛かり、そちらの方に意識を集中させていてこちらの方は見向きもしない。
基本的に人付き合いがよく、雰囲気を大事にする傾向の佐天はこういう空気が苦手であったりした。
というかまあ、その様子を見てそんな二人を釘付けにする上条は一体何物なんだろうと考えていた。- 530 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:19:16.00 ID:09fdl3WDO
佐天の知っている情報といえば、高校生で。
初春の好きな人で。
そして美琴も知り合いで、彼女もその人が恐らくだが好きで。いや、それは確定的か。
幻想殺しという能力(?)を持っていて。
なんか色々とすごい人っぽい。
後は……………………鈍感?
今までのやり取りでわかった事と言えば、それだった。
「……………………上条さん、かぁ」ボソッ
「「 」」ギロッ
「ひぃっ!?」
名前を呟いたと思ったら鋭い視線がこちらに向けられた。
美琴はともかく、初春からもものすごいプレッシャーの様なものを感じ、佐天はたじろいでしまう。
彼の関わる事全てをまるで一字一句逃さずに聞き付けてやってくるのだろうと容易に予想できる。
(うぅ、早く帰ってきて下さい………………責任取ってもらいますからね!」
「…………………佐天さん」ギロ
「責任って……………………どういうことかしら?」ピリ
「ぅひっ!? 心の声が出てた!? って違いますよそういう事じゃないです!」
場の空気を和ませようとしただけなのに……………………不幸だーと何かが乗り移ったかの様に佐天は心の中で叫んでいた。- 531 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:20:42.12 ID:09fdl3WDO
あるファミレスでは上司にいいようにコキ使わされる男がいた。
放課後から夕食時に差し掛かろうという時節、一日の疲れを忘れてわいわいと盛り上がる学生達で溢れるそのファミレスの中で、ある意味異質な四人組がテーブルを囲っている。
見た目的にはそれはまた学生達と大差ないそれなのだが、その中身を見るととてもそうは言ってはいられないのだろう。
「浜面、アイスコーヒー」
「私は超紅茶で」
「……………………ったく、俺は奴隷じゃねえっての」
「グチグチ言ってないで早く取って来なさい」
「所詮浜面は私達の言う事を超聞いてればいいんですよ」
「わぁったよ。滝壺、お前は?」
「私はいいよ。自分で取りに行くから」
「どうせ行ってくるんだ、ついでだついで。滝壺も紅茶でいいか?」
「……………………うん。じゃあ紅茶。はまづら、ごめんね」
「はっは、任せろ」
「……………………ずいぶん私達の時と反応が超違いますね」
「御託はいいからさっさと行く」
「へーへー」
呆れか、諦めかどっちとも取れるような苦笑いを見せて男が席を立つ。
コップを持つその手から、随分それに慣れている様な様子が見て取れた。- 532 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:22:06.33 ID:09fdl3WDO
麦野沈利。学園都市第四位『原子崩し』レベル5の超能力者。
絹旗最愛。『窒素装甲』レベル4の大能力者。可愛い。
滝壺理后。『能力追跡』レベル4の大能力者。
そして先程ドリンクバーの飲み物を取りに行った(行かされた)浜面仕上。
この四人からなる組織『アイテム』の面々が集まるそのテーブル席は、ある意味注目の的でもあった。
(おいおい、あそこの席の子達、めちゃくちゃ可愛くね?)
(俺あの小さい子が一番好みだな)
(ピンクのジャージの子も恰好はあれだけど、素材はかなりいいぞ)
(おい、あの三人組の所、さっき一人男が混じってたぞ)
(はあ? 爆発しろ)
(もげろ)
(あかん。何となくそいつ殴らな気がすまんわー)
という声も聞こえたりしていて。
とは言いつつもこの三人は陰でそう言われる事など慣れてたりもしているので気にする事はない。
周りの目など気にしたところで仕方のない所で生きてきた。
「ほらよ、持ってきてやったぞ。感謝しろ」
「はぁ? 何でそんなに偉そうなの?」
「浜面に感謝する事なんて死んでも超しませんから」
「はまづら、ありがとう」
「せっかくアイテムの一員になれたってのに結局この扱いなのかよ…………滝壺おおおおぉぉぉぉ」
るるると涙を流しながら力無くツッコミを入れるのだが、その内の二人は相変わらず上から目線が取れない。
まあ実際に力関係でもそちらの方が上だとわかっているので強くは言えない浜面であったりもしている。
「よしよし」
そんな浜面の頭を優しく撫ではじめた滝壺は、アイテムの中で浜面の唯一の癒しであった。
癒し────というか実際恋人同士だから、という理由もある。- 533 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/19(月) 01:24:59.04 ID:09fdl3WDO
「なんかくっそムカついた。浜面一発殴らせて」
「嫌だよ! っていうか何で麦野はそんなに機嫌が悪いんだよ!?」
「あんたらが目の前でイチャイチャするのがいけないだろぉが!」
「それもありますけど、先程のこっちを見る超イケてない男共の私達の超可愛さ評論に麦野の事はスルーされてたっていうのも超ありますけどね」
「絹旗ああああああああぁぁぁぁぁ?」
「大丈夫、私は可愛いのに性格でもったいない事になってるむぎのを応援してる」
「応援されても嬉しくないわよ!」
そんなドタバタな会話が繰り広げられるそのテーブル席。
ただその麦野から沸き上がった殺気のオーラはまさしく一般人のそれを軽く凌駕していて、ファミレス内の他の客達はそれにビクビク怯えてフォークやらスプーンからポロッと食べ物が落ちる事になっていたらしい。
とは言いつつも結局はこの『表』の様な生活は満更でもない。
アイテムには、色々な事があった。
悲しい事、苦しい事、絶望する事。
それらを乗り越えて、今またこうして集まっている。
例え一人欠員が出たとしても、結ばれた彼らの絆はもうそう簡単に切れる事はない。
『闇』が『光』になれないのかと聞かれれば、彼らを見ればわかる通りそうでもなく。
別段用事もないのにこうして四人が集まっているというのは、それからも見て取れていた。
それも全てある男に殴られた事から始まった────といっても浜面は否定しないのだろう。- 544 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:20:10.21 ID:L0K70tNDO
黒子「ただいま戻りましたの」
上条「ただいまーっと」
初春「あ、上条さんお帰りなさい!」
佐天「お帰りなさーい」
固法「お帰りなさい」
あれから一時間くらい経過した所で、先程この部屋を後にしていた二人が任務を終え帰還してきたようだ。
彼の顔を見た途端、はちきれんばかりの笑顔を隠しもせず初春は声を掛けるのだが、それは上条にだけ。
姿が見えないのか、はたまた別段声を掛ける必要もないのか黒子の事はガン無視していたのだが、黒子はそれよりもキョロキョロと部屋の中を物色している様に見渡していた。
黒子「あれ? お姉様はお帰りになられたんですの?」
固法「ええ、何でもレポートを纏めなくちゃいけないって言ってもう帰ったわよ?」
黒子「そうなんですの………………最近、本当にお忙しそうにされててお疲れのようですので、帰りに黒蜜堂にでもお誘いしようと思っていたのですが」
残念、とちょっぴり寂しい表情を浮かべた黒子。
帰りにお姉様と一緒に甘いものでも食べて元気を出してもらおうと画策していたのだが美琴が既に帰ったとの情報を耳にするとシュンと落胆していた。
最近は寮でも机に向かってる時間が多く、「ああん、もう!」なんて言いながら一生懸命書類を片付けていく姿ばかり見ている。
それでも黒子が声を掛けると返事をしてくれ、構ってくれている。
そんな「優しすぎるお姉様」の事が黒子は大好きで、その最近の美琴の忙しさは余所から見ても実に大変そうに見えていた。
- 545 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:21:15.54 ID:L0K70tNDO
固法「ケーキでも買っていってあげたらどうかしら? きっと御坂さんも喜ぶわよ」
黒子「ええ、そういたしますの」
佐天「あそこのケーキは美味しいですもんね」
上条「おぅ……………………あんな高価な店、俺じゃ気軽には行けねえってのに……………………くっ、これが格差社会か!」
傍から会話を聞いていた上条が涙を飲みながら呟いていた。
万年金欠生活を送っている上条としては耳が痛くなりそうな話だったりする。
まあ無能力者で貰える奨学金が少ない上に度重なる入院のおかげでとてもじゃないけど裕福なんてなれる訳もなく。
それは居候がいようがいまいが結局は同じ話なのだろう。
黒子「あの時はどうもですの。美味しかったですわよ、フルーツゼリー」
上条「そりゃ一個1400円もするやつは美味しいだろうな」
黒子「お手頃な価格ではありませんか。そんな安物でしたの? あれは」
上条「なん、だと…………………………………………」
初春「えっ………………ちょ、ちょ、白井さん…………? ど、どういう事なんですか!?」
佐天「どーどー。落ち着いて、初春」
その会話に、なぜか顔を真っ赤にしながら上条の背中をぽんぽん叩いて慰めていた初春の動きが止まった。
また自分の知らない上条の話が出て、気にせずにはいられなく。
しかも、今度はまさかの黒子。
黒子「以前、わたくし入院した時がありましたわよね? その時上条さんがお見舞いに来てくださった時にそのフルーツゼリーを頂いただけですの」
まあ特に隠すことでもない。
- 546 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:22:22.77 ID:L0K70tNDO
初春「それだけですか!? 本当にそれだけなんですか!? 後に何かあったんでしょう!?」
上条「ど、どうしたんだ? 初春さん。それに、何かって?」
初春「え、あ、いゃ……………………その…………」
黒子「ありませんわ。というか、ありえませんの」
初春「で、では本当にそれだけなんですね!?」
黒子「安心なさいな」
上条「?」
佐天「本当に純粋にわからないって顔してる…………」
鈍感においては上条の右に出るものはおらず、佐天も黒子もそんな上条の様子に初春と美琴を不憫に感じながら一旦話を落ち着けた。
さてさて、といった具合に固法は書類を取りながら事件経過について尋ねる事にした。
固法「それで、どうだったの? 迷子の子は」
黒子「ええ。無事に母親の元へ帰りましたわ」
結局、仕事については特筆するものは起きなかったので極々簡単に説明すると。- 547 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:23:31.29 ID:L0K70tNDO
場所はあの時一度上条が迷子を保護したあのスーパー。
上条と黒子の二人がスーパーに到着した途端上条の服がちょいちょいと引っ張られ、そっちの方に振り向くとその子の姿があった。
通報元はどうやらそのスーパーで夕方時の忙しい時間帯ゆえに余裕はなかったらしく、仕方なく風紀委員に通報したみたいで傍についていた店員さんが申し訳なさそうによろしくお願いしますとちょこんと頭を下げると黒子が引き受けていた。
迷子になった理由として、その女の子に聞けばなんでも「ここに来ればお兄ちゃんに会える」との事。
お兄ちゃんが誰を指すのかはその子の反応を見ればまるわかりで、あの時一度面倒を見た際に接した上条の事がとても気に入ったのか、懐きまくっていたのだった。
ただ黒子の姿を見た途端、泣きそうな表情になったので上条が慌てて抱っこしてあやしたという事はまあ大した事ではないだろう。
その後は黒子が空間移動で母親を探し回り、見つけ出したのが数十分後。
どうやら今回『かざりちゃん』がいないのをちょっぴり寂しく思っていたのだが、上条が来てくれた事で相当の喜びを表していた。
まだ物心ついていない子にさえもフラグを立たせてしまう男・上条。
ちなみに見つかった母親に、その子を帰す時になぜかその母親からも「みおが気に入ったから」とかなんとか言われて食事に誘われたりしたのだが、仕事が残っているという理由を付けて早々と切り上げてきた(逃げてきた)。
とまあ上条の初仕事はこんなもんであったという。
初春「特筆する事起きてるじゃないですかっっ!!」ダンッ
上条「わっ!?」ビックリシタ
初春「あ……………………ご、ごめんささい…………」
>なぜか母親からも~の所で初春が机をバンと叩いた所で自分の失態に気付き、しおしおと萎れる初春に一同冷や汗を垂らしていた。
そんなこんなで上条の初仕事の一日は特に問題なく(?)過ぎていった。
- 548 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:24:30.72 ID:L0K70tNDO
余談ではあるが、ジャッジメントの仕事は完全下校時刻をもってその日は終了となる。
いつもは補習だらけの毎日を送っている上条としては、結局いつもより帰りが実はほんの少しだけ早くなったりしていてここで補習免除という特例に上条は感涙を流したりしていた。
しかもジャッジメントの仕事は毎日必ずあるというわけでもなく、日常生活に支障をきたすというような事は全然なかったりするのだ。
インデックス「とうまー、今日ジャッジメントの初仕事だったんでしょ? どうだったの?」
上条「んー? ああ、今日は迷子の保護の仕事でな」
インデックス「へー。無事に帰れたの? その子」
上条「ん。ちゃんと見つかったぞ」
インデックス「そっか、よかったんだよ」
上条「機嫌よさそうだな。なんかいい事でもあったか?」
インデックス「ううん、別にー?」
ジャッジメントの仕事を始めたという事で上条の帰りが遅くなるだろうと当初心配していたのだが、いつもより帰りが早くなるだろうなという上条の言葉に機嫌をよくしたインデックス。
しかし勿論彼女が機嫌をよくするそんな理由にも気付かない上条はよくわからないという顔をして今日の自信作のもやし炒めを次々に口に運ぶ。
まあ機嫌がいいに越した事はないと別段気にする事もないのだろう。
いまだ彼女の頭の中にある10万3000冊の魔導書を狙う輩はいる。
「必要悪の教会」から成り行きで任された事になっている、彼女を守るという事は今までの暮らしと変わらず出来るのだろうと上条も安心したりしていた。- 549 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:25:25.78 ID:L0K70tNDO
初春「大人の女性、大人の女性……………………と」
カチ、カチとマウスのクリック音と一人の少女の声が室内に響き渡る。
お風呂上がりなのか濡れた髪の毛の上からバスタオルを垂らしたままなのだが、一心不乱にパソコンの前で忙しなくマウスを動かしていた。
初春「む、これは……………………!」
『大人の女性力診断テスト!』
というタイトルのURLリンクを目にするや否や気付けばリンク先に飛んでいたのは大人のオンナを目指す彼女にとっては仕方のないことなのだろう。
どれどれ、と内容に目を通す事にする。
- 550 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:26:21.39 ID:L0K70tNDO
1)一人でバーに入る事ができるか。
初春「バーって………………。えぅ、お酒飲んだ事もない……………………」
Yes [No] ポチッ
2)強いお酒を飲めるか。
初春「だからお酒飲んだ事ないって……………………」
Yes [No] ポチッ
3)不倫の恋をした事があるか。
初春「不倫はダメですぅ!」
Yes [No] ポチッ
4)どんな状況でも冷静に振る舞えるか。
初春「……………………当麻さんだと…………ちょっと無理かも…………///」
Yes [No] ポチッ
5)聞き上手であるか。
初春「んー……………………こっち、かなあ?」
[Yes] No ポチッ
6)褒め上手であるか。
初春「いいことをしたら、ちゃんと褒めてあげたいな」
[Yes] No ポチッ
7)一夜限りの恋をした事があるか。
初春「い、一夜限りって……………………あれ、なのかな…………///
い、いつかは私も当麻さんと……………………はぅぅ、一夜だけじゃなくて………………///」
Yes [No] ポチッ
- 551 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:27:51.53 ID:L0K70tNDO
8)常に相手を襲えるか。
初春「し、質問の意図がわかりません!///」プルプル
Yes [No] ポチッ
9)ハメ上手であるか。
初春「ハメ…………? 卑怯な手でってコトかな? 卑怯な手はダメです」キリッ
Yes [No] ポチッ
10)にがうりを使用した事があるか。 20000
初春「にがうり………………? 料理に使った事があるとか? これ大人の女性と何の関係があるのかな…………それに20000の数字は何だろ?」
Yes [No] ポチッ
その10問目の質問に答えた所で画面が切り替わり、計測中の文字と共に砂時計のイラストが画面に表示される。
なんだかよくわからない質問が半分くらいあったのだが、あれが大人の女性に必要なものなのかな、と初春は考え込んだ。
初春「むぅ……………………」
彼に見合いたい。
彼の好みはまだ聞いてはいないのでわからないのだが、しっかり者の彼(あくまで初春の主観)に合うのはやはり大人の女性なのだ。
ただ自分の体型もこんなだし、性格もこんなの。
嫌われてはないとは思う。
ただ彼が自分を選んでくれるという自信はやはり持てなく、不安が付き纏うのも当然の事だった。
『診断結果』
初春「あ……………………」
すると診断結果という文字が書かれたページに自動更新され、初春の目はそれに釘付けになった。
- 552 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:29:17.38 ID:L0K70tNDO
『貴女の大人の女性力は 20% です。
貴女は大人の女性とは到底言えないのでしょう。
残念!
by MSK NETWORK』
初春「残念って……………………」ガクッ
まああの質問に大人だと言える答えが出来たのは10問中2問だけ。
単純計算で20%になるというのは予想できたのだが、改めて示されたその文字に初春はガクッと頂垂れた。
初春「やっぱり私じゃ……………………ダメなのかな…………」
正直、ショックは大きかった。
彼の趣向がどうであれ、日頃から子供っぽい自分をどうにかしたいと考えていたのにこの結果はそれを真っ向から叩き落とすかの様なもので。
ダメだ、気を抜くと涙さえ出てきてしまいそうになる。
泣き虫な子なんて好む男というのはあまりいないのだろう。
ただ泣きそうになると彼はその温かい手であやしてくれる。
その時の感触を思い出すと、彼に甘えたくなった。
♪~~~♪~~──────────
すると、突然そこで初春の携帯が鳴り響いた。
- 553 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:30:55.21 ID:L0K70tNDO
これは。この着信音は。
初春「当麻さん!?」
彼だけの専用の着信音だ。
聞き間違いではないのか、それとも何かのアラームを寝ぼけて設定してしまったのではないかと目をゴシゴシ擦りながら携帯の画面を確認すると。
『着信:当麻さん』
初春「あわわわわわわわわわわわわ……………………」
間違いは、なかった。
- 554 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:32:05.67 ID:L0K70tNDO
初春「ももももももももしもももししし///」
上条『ぷっ、どうしたんだ初春さん』
初春「はぅぅ///」
開口一番、冷静に「もしもし」と言えなかった自分に上条の笑い声が電話先から届いた。
それに恥ずかしくなり、あわわわわわと慌てふためくのだが深呼吸して落ち着く事にする。
勿論録音は忘れてなどないし。
上条『いやさ、この前言った一緒にご飯食べに行くって話。あれいつがいいかなー? なんて電話掛けてみたんですけど』
初春「え? え?」
初春は驚いた。
今度ご飯食べに行こうと言ってくれたのは彼なのだが、その事ならあの焼肉でつい消化されたものだと思っていたのだ。
寧ろ気分的には、あの時にあったあのキス寸前の一件でこちらがありがとうと言いたい所でもあったし。
初春「ど、どうして……………………」
上条『あー……………………やっぱ嫌か? ま、そりゃ知り合って間もないやつからいきなり誘われても嫌だよなあ……………………』
初春「そんな事ないです! 上条さんとご一緒するのを楽しみにしてましたから! 行きます、絶対に行きます! 雨が降っても槍が降っても絶対に行きますぅ!!」
上条『お、おお……………………あ、ありがとな…………』
初春「……………………っ///」
彼の寂しそうな声を聞いた瞬間、何かが溢れ出すかの様に初春は叫んでいた。
彼が誘ってくれた。
その事実が初春をまるで楽園に導くかの様で。
嬉しさのあまりちょっぴり目尻に涙が溜まりそうなのを何とか堪え、日取りを上条と決めた。
- 555 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:33:10.19 ID:L0K70tNDO
上条『うん、それじゃ今週の土曜日、ジャッジメントの仕事が終わってからだな。了解、どこ行きたいか決めといてくれなー』
初春「は、はいっ!///」
上条『それじゃ、今日はありがとな。暖かくして寝るんだぞ、おやすみ』
初春「は、はい、おやすみなさい///」
そういうと、暫く電話を耳に当てたままで静止する。
折角の彼からの電話だ、自分から切るなどという愚行はしない。
ツー、ツーという電子音が流れるまで、暫くそのままにしていた。
余韻に浸りながら、初春の心は歓喜で踊っている。
嬉しさのあまり、何かをギュッと抱きしめたくなった。
初春「当麻、さん。当麻さん……………………///」
好き。
好きという言葉では表せないほど、好き。
キュンと来る胸もそのままに、初春はじっとそのままで静止していた。
彼女が動き出すまでもう少し時間は掛かるのだろう。
先程までのあの落ち込みはもう何処にもなかった。- 556 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:34:17.20 ID:L0K70tNDO
その数十分後。
そんな幸せ気分に浸りながら、寝る前についついあるものの検索を掛けてしまったのが間違いだったのだろうか。
初春「え……………………………………?」
それを見た瞬間、初春の心臓は跳ねた。
初春「な、何………これ……………?」
初春の目の前のモニターに表示されているのは、画像の検索結果画面。
横に平均七、八枚、縦に何十枚ものある数えきれない程の画像が映し出されている。
初春「何、で……………………当麻さんの画像が、こんなに……………………!?」
そう、そこにあったのは無数の上条の写真────────
ご飯を食べている写真や、授業を受けている写真。
不良に追いかけ回されている写真や、黒子に蹴り飛ばされた時の写真や。
夕暮れか若干オレンジ色がかって顔に影が差しながら真剣な表情をしている写真や……………………
少し先に進むと、美琴やあのシスターちゃんと一緒にいる時の写真もあり、また自分の知らない人物といる時の写真もある。- 557 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/21(水) 01:35:06.76 ID:L0K70tNDO
そして。
自分を抱き寄せ、頭を優しく撫でているあの時の写真も。
初春「これは、まさか……………………!」
その全ての写真がこちらに視線を合わせていない。
所々こちらを見ているものはあるのだが、完全にこちらを見ているものはなかった。
そう、まるでその全てが盗撮かのような、そんな写真ばかり。
確信した。
間違いなく上条は、狙われている。
初春「当麻さんは……………………私が守る!」
こうして初春にとって、絶対に負けられない戦いの幕があけた。- 571 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/22(木) 02:19:55.58 ID:+IpjPu9DO
誰だ。誰が何の為に。
初春は目の前に写し出されているその画面に食いつく様に見ていた。
その一点一点、何か不自然な所はないかを探す。
勿論、不自然な点だらけではあるのだがその画像の殆どがそんな状態ゆえに、おかしい所を感じにくくさせてしまってもいる。
『自然な不自然』
木の葉を隠すなら森の中とは少し違う気もするのだが、何かの意図を隠す為にこの大量の画像が貼られたのだろうか。
その一枚一枚を解析の為に保存する。
断じて他意はない、断じて。
初春認可のセキュリティソフトを通しても、至ってこれといった反応はなかった。
それから彼が写っている場所、角度、距離を計る。
その一枚一枚のどれもがバラバラで、手当たり次第に撮影されたものなのだろうか。
画像のExif情報を取ってみると、全ての画像が同一機種だという付加情報が記されている。
恐らく犯人は一人だけ、か。
偶然にもこちらに視線が合っている画像をまじまじと見る。
初春「…………………………………………///」
熱い眼差しに顔が熱を帯びた様な気がしたが、慌てて首を振って調子を整えた。
彼(画像)と視線を合わせていられるという喜びを断腸の思いで断ち切り一旦その画像を閉じて、初春は再び手を動かす。- 572 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/22(木) 02:20:54.67 ID:+IpjPu9DO
次に考えなければならないのは、その画像の出所と動機。
出所は至って問題ない。
初春にかかればどんな所に隠そうが所詮は網羅しているネットワークの中で、ほんの少しの時間があれば解析出来てしまえる。
ただ、犯人が何の為にこの無数の画像を撮ったのかが一番のネックだ。
まるで彼の生活の一部始終を見るかの様に、まるで彼全てを付け狙うかの様に。
嫌な予感がする。
もしそれが、上条の命を狙う様な動機だとしたら。
初春「…………………………………………」
もし彼が、何者かに────────────────
と考えると、初春は震えた。
マウスを持つ小さな手も、うまくカーソルを合わせられない。
あんな優しい彼が、温かい彼が。
初春「イヤ……………………イヤ……ぁ……………………当麻、さん…………」
ここでしか言えない彼の名前を呟く。
恐怖を感じずにはいられなかった。
『ほら、もう泣くなって』
ただ、彼の温かい温もりを思い出す。
自分が泣きそうになった時、優しく温めてくれた。
胸に抱き寄せてくれた。
指で自分の涙を拭ってくれた。
そんな優しい愛しい彼の顔を思い浮かべて、初春は顔を上げる。
自分がそんな事ではどうする。
彼は自分の特性を褒めてくれたのだ。
人には自慢出来そうにないものを、誇っていいと言ってくれたのだ。
先程も、自分が守ると決めたのだ。
初春「……………………うん、よしっ」グッ
両手を握り締めて、気合いを入れ直す。
犯人がどんな動機であれ、必ず尻尾を掴んでやる。
それで自分にどんな危害が降り注ごうが、彼を守り抜く。
今だ知らぬ見えざる敵と、戦う覚悟は出来た。- 573 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/22(木) 02:22:18.95 ID:+IpjPu9DO
初春「…………………………………………えっ」
とは先程シリアスな場面を作っておきながら。
初春の目は点になっていた。
彼女の目に映るモニターには画像キャッシュから取れたサーバーデータ、IPアドレスが映し出されていて出所は極々簡単に絞れていた。
初春「これは…………女子高……………………………………?」
自身が持つ情報網を探り、正確な場所を探し当てる。
『日舞女学園』
という、発信元は第九学区に所在する成績もちょっといいくらいの至って平凡な女子高校からで。
能力者レベルの平均は3の様だ。
学校の情報を調べるに芸術系の学校が数多くある学区の中でも普通科が目立つ学校の様だった。
その画像が貼られた場所のリンクを踏む。
学校掲示板、と書かれた掲示板からだった。
初春「これかな…………………………………………」
- 574 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/22(木) 02:23:37.21 ID:+IpjPu9DO
『1:出身中学晒して被ったら補習(112)』
2:発火能力者ちょっと来い(21)
3:体育教師がwwwwwwズラwwwwづらwwww(340)
4:学校一美人と言えば(3)
5:コンビニでたむろってたらピンク色の子供に注意された(654)
6:【イケメン】今日襲われそうになったけど男子高校生に助けられた【画像あり】(999)
7:【速報】足が臭い(1)
8:17才♀だけど01:00までに200いったらおっぱいうp(198)
9:(^q^)(12)
10:姉の子供がDQNネームで泣けた(510)
:
:
:
:
:
:
』
初春「……………………………………………………」
この女子高って結構お下品なのかななんていう感想を持ちながら該当のスレッドにカーソルを合わせた。
『【イケメン】今日襲われそうになったけど男子高校生に助けられた【画像あり】(999)』カチッ
- 575 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/22(木) 02:25:04.44 ID:+IpjPu9DO
──────────────────────────────
1:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
書き溜めはないから遅いけどちょっと聞いてくれ
2:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TIhiuyd90
クソスレ立てんなks
3:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:PpOqzerEO
は?画像は?
4:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yUU83riC0
さっさと画像うpしろks
5:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
まああれだ、もれ高揚してるから文章うまく書けないかもしれね
バイトの帰りにちょっといつもと違う道で帰ろうと思ったのが間違いだったんだ
その時にDQN4人に絡まれたんだよ
DQN全員ブサメンでさ
それでナンパとかうわあ・・・って思いながら
ごめんなさい、急いでるのでっつって立ち去ろうとしたんだ
6:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:tu6HI2340
うわぁ・・・のAA↓
7:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:chChuTRNO
画像は?
8:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:tu6HI2340
>>7空気嫁糞もしもしEXILE
9:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:GyhTO2uL0
>>7
IDちょっとすげえ
10:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:dsToRfro0
>>7
記念
11:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:G4tf56RsO
>>7-8
ちょっとワロタ
12:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
ちょ>>7いいとこ持ってくなwww
それでさ
帰ろうとしたら一人が後ろからもれの腕を掴んでさ
気持ち悪い笑い方で遊んでこーや、姉ちゃんとか言ってくんのよ
あ、バイト先は第七学区にあるファミレスなんだけど、その帰りな- 576 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/22(木) 02:26:43.05 ID:+IpjPu9DO
13:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:chChuTRNO
画像はないの?
14:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yO0UbAiy0
>>7記念パピコ
15:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
>>13ちょっと待ってろww
それで嫌だっつって振り切ろうとしても離してくんねーの
結構強く掴んでくるもんだから腕も痛いし帰りたいし、あ、これ俺ヤラれんのかなって思ってた時にさ
16:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yUU83riC0
はよしろ
17:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:chChuTRNO
画像マダー?
18:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
>>17どんだけ欲しがってんだよwww
しゃーねーな、その微妙な神IDに免じてくれてやるよ、ほら
http://uploader.nth.~~~~~~~.jpg
19:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:GyhTO2uL0
それって第七学区のあの噂のロリ教師なんじゃね?
20:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:GyhTO2uL0
誤爆
21:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:GyhTO2uL0
>>18
キタ━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━!!
22:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:PpOqzerEO
キタ━━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━━!!
ってかちょっとイケメンじゃねーかww俺と変われww
23:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:G4tf56RsO
>>19-21
なんかお前ワロタww
- 577 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/22(木) 02:28:08.90 ID:+IpjPu9DO
24:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:chChuTRNO
もっとないの?
25:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:tu6HI2340
なんだこのドヤ顔wwwwwwwwwwwwww
保存しました
26:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yUU83riC0
>>24
お前はどんだけ飢えてんだよwwww
初春「……………………………………………………」イラッ
まるで便所の落書きの様なそのスレッドを見た初春のこめかみに青筋が浮かんでいた。- 578 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/22(木) 02:29:16.82 ID:+IpjPu9DO
とはいえ、状況はとりあえずここまで把握できた。
レス番18に貼られた画像リンクは、確かに彼の画像だ。 その後のレスを読んでいっても、彼に感謝や好意を示すかの様な1のレスと貼られる画像達。
そしてそれに評価、歓喜をしていくスレッドの住民達。
それらの情報を吟味しつつ、とりあえず分かった事がある。
上条の命を脅かす────────そういうものではないらしい。
しかし、それだとしても何故写真が撮られているのか、盗撮のようなものをされているのかがわからない。
彼が女子生徒を助けた、それはわかった。
しかしそれでは何故その助けられた本人が彼の画像を所持しているのかが繋がらない。
初春「むー…………………………………………」
考える。
もう一度その1のレスを読んでみる。
初春「あ」
最後辺りまで読み進めると、答えが見つかった。
- 579 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/22(木) 02:30:53.77 ID:+IpjPu9DO
860:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:chChuTRNO
ふぅ……
つか何で>>1はこんな画像持ってんの?
861:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:Yo45Drg0
あ それ俺も気になった
862:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
ああ
それは俺の能力なんだ
初春「え………………………の、能力…………………?」
能力、といった文字に初春は食いついた。
しかし能力と盗撮画像と、一体どんな関係があるのだろうか。
もう少し、読み進めた。
885:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
あんま言うと特定されっから詳しく言えないけどさ
俺、目にしたものを画像に出来るっつー能力持ってんだよ、レベル3の
886:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:Wt56weFTO
>>885
特定した
887:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:HtmbRsty0
>>886
ちょwwwwお前俺のクラスメイトか?www
頼む、見逃してくれ
- 580 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/22(木) 02:32:44.78 ID:+IpjPu9DO
初春「………………………………………………#」ピキッ
完全に自分のこめかみから何かが切れた音が自分にも聞こえた。
あと。そういえば。
1のレスにもあったあの文字。
『第七学区のファミレスのバイトの帰り~』
あの時を思い出す。
つい最近、上条が女子生徒を助けたとの事でこの支部にやって来た事を。
確か、上条が襲われていた女子生徒を助けて、上条が怪我をして自分が手当をして。
初春「……………………………………………………まさか!」
確信はないのだが、恐らく。
詳細を見るまでだが、犯人は────────────。
とりあえず今は自分の考えを照らし合わせる情報が手元にはない。
ただ、第一七七支部に書類として残してある筈だ。
初春「……………………………………うん、よしっ」ググッ
明日のジャッジメントの仕事に一つやるべき事が出来た初春は、両手を再びグッと握り締めていた。- 588 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/24(土) 01:31:59.21 ID:9QbTuRpjo
翌日、昼休み。
初春「むー……………………………………………………………………………………」
佐天「初春ー? 難しい顔して、どうしたの?」
箸をくわえたまま唸り声を上げている初春を見て、佐天は首を傾げていた。
今日の授業中も、初春はずっとそんな表情をしていた。
珍しい。
ここ最近、幸せですーというオーラを発してばかりいた彼女が今日は至って思案顔をしているのだ。
初春といえば授業態度も真面目で、教師からの信頼も厚い。
ジャッジメント所属、というのもあるのだが、それを抜きにしても模範的生徒でもあったりしていて。
そんな彼女が得意であるはずの数学の授業中に指されても、「わかりません」と教師の出題を一蹴していた。
むしろ「考えている暇などありません」という雰囲気でさえも醸し出し、「いつもは先生の話を真面目に聞いてくれるのに!」と年老いた数学教師を泣かせていたのはつい先程の話であった。
こりゃ何かあったな、と佐天は考える。
ぱぁっという笑顔の花はまだ今日見ていない。
日頃それを見ている佐天としては、少々物足りないところで。
なんだかからかいもあんまり効かないなあ、と少し頬を膨らましていた。
佐天「ねえってば」
初春「…………………………………………………………………………………………………………」
ちくしょー、こうなったら。
佐天「あ、上条さん」
初春「!? ど、どこですか!?」
- 589 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/24(土) 01:33:05.97 ID:9QbTuRpjo
佐天「お、やっと反応した。それにはちゃんと反応するんだね」ニヤニヤ
初春「さっ佐天さん!///」
やはり今の初春をいじれるキーワードはこれなんだねと口角を釣り上げる。
一気に顔を真っ赤にしぶんぶん腕を振り回す初春を見て、佐天は満足気に表情を緩めた。
―――この子からかうの楽しー。
なんて笑う佐天はきっとSだ。
佐天だけにS………………………………………………………………はは、正直すまんかった。
佐天「それで、どうしたの? 難しい顔して考え込んじゃってさ。なんかヤな事でもあった?」
初春「あ、いえ、その、そういう事じゃなくて……………………………………………あ…………………でも、ヤな事、ですね」
慎重に言葉を選ぶみたいだ。
誰にも言えない悩み事を抱え込んでしまったみたいな、そんな雰囲気。
言いたくない事、言えない事なのだろうか。
ただ佐天はそんな初春が口を開くまでじっと待つ。
親友というポジションを自負する自分としては、言えるならば相談してほしいし協力もしてあげたい。
なんだかんだ言って初春が大好きだし。
初春「その、ここではあまり大きな声では言えない事なんですけど…………………………実は」
―――…………………………………………ん?
佐天「っ、ちょっとま、待って初春」
初春「…………………………………………? 佐天さんどうしました?」
初春の言葉を途中で止める。
そんな佐天の様子に今度は初春が首を傾げており、何事かとキョトンとしている。
その時の佐天の視線は、初春ではなく。
教室内の窓の方向――――――――――――――――――厳密には、ある人物の方を視界に収めていた。- 590 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/24(土) 01:34:08.14 ID:9QbTuRpjo
―――うわぁ…………………………………………すっごいこっち見てる…………………………………………。
昨日、初春に交際の申し出をしたあのひょろっとした男子・メガネ君がじっとこちらを見ていた。
まるでこちらの動向をすべて図るかのような強い視線。
逆に見ている視線に気付いていないのか、はたまた意に介してないのかただメガネ君は初春の後ろ姿をじっと見つめている様子だった。
あの時、初春は明確な「NO」を示したのだが、メガネ君は上条に「お前には負けない」とかなんとか言い放って立ち去っている。
それはまだ。
初春を諦めてはいないという事になるのだろうか。
ううん、きっとそうなのだろう。
今もガン見にガン見を重ねがけしてずっと初春を見ているし。
彼の気弱そうな感じの割にその強い意志の様なものを感じられ、正直驚きもしたのだが。
だが、結局は。
佐天「結局、ダメだと思うけどなあ………………………………………………………………」
初春「? 何がですか?」
佐天「ううん、なんでもない。それよりここで言いにくいならさ、ちょっと教室出ようよー」
初春「あ、はぁい」
―――親友のきっと初めての恋だし、余分なものはなるべく取り除いてあげておきたいし。まああれだけ上条さん一直線の初春だから、薮蛇かも知んないけど、ね。
初春がどれだけ上条を想っているのかは知っている。
だって、あれだけの飛び付き(ダイレクトの意味で)も見せられたんだし、と昨日校門の前で初春が上条にした場面を思い出しながら心の中でそっと呟いていた。
それでも、恐らく。
自分が感じている以上に想っているのだろう。
そう思うと、余計に初春に幸せになってもらいたくなった。
傍目から見ても可愛い初春を、より可愛く魅力的にさせているのはやはり上条で。
こうなりゃ大事な親友をここまでにさせた責任は取ってもらわないと、と佐天は意気込んだ。
感じられるメガネ君のやけに鋭い視線を背中で払い落としつつ、初春を伴って佐天は教室を出る。
それは親友としての思いやりであって、決してからかうネタが増えるからという理由ではない、うん。- 591 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/24(土) 01:35:05.69 ID:9QbTuRpjo
「あぁ? 捜し物をしてほしいだぁ? なんで俺に頼むんだよ、自分で探すかアンチスキルに頼むかにしろよ」
ある部屋の一室で、電話を耳に当てて不機嫌そうに話す男が一人いた。
彼の表情は呆れ半分、面倒くさい半分となんとも人の神経を逆撫でさせるチンピラの顔をしていて。
「あ?」
まあそれは言い過ぎた。
『頼むよ浜面。最近、何でも屋みたいなモン始めたんだろ? 客だと思ってさ、どうせ暇なんだろ?』
浜面「あぁ? こう見えて俺は超多忙な日々を送っているんだぞ」
『嘘つけ。この前なんか可愛い女の子達とファミレスでたむろってたっつー話を聞いたぞ。それに商売するんなら、顧客は大事にした方がいいと思うけどよ?』
浜面「…………………………………………ちっ。ってかアンチスキルとかにゃ頼まんのか?」
『……………………………………………………………………………………黄泉川苦手なんだよ』
―――ああ…………………………………………それはわかる……………………………………。
電話先の相手からの言葉に妙に納得してしまった浜面。
元スキルアウトの彼は、よく黄泉川という警備員に世話になっていた。
問題を起こしては黄泉川が来襲し――――――――――といった感じだったのだが。
あのパワフルな羽交い締め、一発で骨の髄まで粉々にされそうなパンチ力、一瞬で黄泉の国までのチケットを発行するあの裸絞め――――――――――――――――。
浜面「…………………………………………余計な事思い出さすんじねえよ」
『すまん。ま、俺もお前も随分あいつには世話になったもんなー。あいつさえいなきゃ俺達だってよ…………………………………………』
浜面「みなまで言うな、あん時の痛みがぶり返すだろが」
『だよなあ…………………………………………俺だってあの時やられた脇腹があいつの顔を思い出す度に疼いちまってよ……………………』
浜面「うう…………………………………………」
『うう………………………………………………………………
って違あああああああああああああああああああう! こんな痛みを思い出す為に電話掛けたんじゃねえぞ!?』
- 592 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/24(土) 01:35:58.26 ID:9QbTuRpjo
浜面「うるせえよ、お前から言い出したんじゃねーか」
『…………………………………………そうだったな、すまん』
浜面「ったく…………………………………………………………………………………………………………で?」
『で、とは?』
浜面「ま、お前の言う通り暇してんのは事実だ。スキルアウト時代のお前からの頼みでもあるし、しゃーねーから手伝ってやると言ったんだが」
『いや、初耳だが? ってそうじゃねえ! まじか! 手伝ってくれんのか!? ひゃっほおおおおおおおおおおおおおううう!!』
浜面「それで報酬かなんかは出んのか? …………………………………………奢らされっぱなしで金がねえから金がいいんだが……………………ムギノトキヌハタノヤロウ……………………」
『あん? なんだって?』
浜面「いやすまん、気にすんな。で? 出るのか?」
『ああ、報酬か。…………………………………………………………50万出るっつったらどう思う?』
浜面「………………………………………………………………は? なんだよ、ダイヤでも見つけんのか?」
『いや、なんかな。マイクロSDみてえな小さいデータカードらしいんだがな』
浜面「なんだよそのウワサ話みてえな言い方は」
『ああ、俺も実は実物見ちゃいねーんだ。ただスキルアウトの中でよ、見つけた奴にゃ100万っつーホットな話があんだよ。
それで俺達スキルアウト共が別々に躍起になって探してんだが、どうにも見つけにくい上に競争率も激しいみたいでな。
それで俺とお前とで組んで山分けにしようって思ってたんだが』
浜面「まだ見つかってないのか?」
『見つかってたら電話しねーよ。この辺にありそうだって情報も聞いたし、頼むよ。俺と探そうぜ?』
浜面「………………………………………………………………まあ、暇つぶしにはいいか」
『まじか! サンキュー! 今日三時に一旦待ち合わせしようぜ! って浜面空いてっか?』
浜面「今日かよ、いきなりだな。まあ空いてるが」
『よっしゃきた! んじゃ三時に俺達のいつもの溜まり場で待ってっから、そこに来てくれよな!』
浜面「ん、りょーかい」
『っしゃ! サンキュ! また後でな!』
浜面「ああ」pi- 593 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/24(土) 01:36:55.19 ID:9QbTuRpjo
ふむ、と浜面は思案する。
なんか怪しい気もするが、スキルアウト時代の信頼できる仲間からの相談だ、出来れば乗ってあげたくもあった。
正直今の生活は結構キツキツな財政状況の上にアイテムの集まりでは必ずと言っていい程奢らされる。
そこでもし見つけたら50万、というおいしい話を浜面は見逃せる筈もなく、乗る事にしたのだ。
第三次世界大戦以降、アイテムは学園都市の暗部とは縁を切った生活をしている。
もっともそれは、常に「闇」の中にいた彼らにとってはどんなに望んでも手に入らなかったものであり、それが叶った今ではとても充実した平穏な日々を送っていた。
…………………………………………が。
二度と戻りたくない「闇」の方には、まだ仕事があった。
当時のポジションとしては下っ端も下っ端であったのだが、それなりに収入はあったりしていたのだ。
だが、それも今はない。
加えて無能力者というヒエラルキーの底辺に位置する浜面。
奨学金などもってのほかで、生活するには自分でなんとか稼ぐしかなく。
仕事がない上にアイテムの面々は揃いも揃って浜面に奢らせてくる。滝壺は別だが。
麦野はレベル5、絹旗はレベル4の上位の能力者勢はそんな浜面の懐事情を気にしてはくれないのだ。
まあそれで今回この話を乗ることにした。
それに、50万はでかい。かなりでかい。
たったのデータカード一枚を見つけるだけで50万だ。
もしかしたらデマなのかもしれない。
しかしそう思い行動しなかった所で「あいつが見つけたらしいぞ」とかいう話を聞いたら絶対に後悔するだろう。
まあそれだけだ、アイテムの面々にも別に知らせる必要はないだろうし。
というか秘密で稼ぎたいし。
そう思い、浜面はそれに縋る事にした。
とは言いつつも、収入があった暗部の頃に戻りたいかと聞かれれば浜面はその質問者を殴りかかるほど否定するのだろう。
もう二度と、あんな思いをしたくないし、アイテムの面々にあんな思いをさせたくはない。
結局、浜面はそんなアイテムの立派な一員であった。- 594 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/24(土) 01:37:40.58 ID:9QbTuRpjo
上条「ふんふーん♪」
初春「上条さーんっ!」ブンブン
佐天「こんにちはーっ!」
上条「おお初春さん、佐天さん。今から支部に行くところ?」
初春「はいっ、そうです。ごご、ご一緒しましょう」
上条「そっか。じゃあ行くか」
初春「はぃぃ///」
佐天「」ニヤニヤ
上条の通勤ルートはこの柵川中学の前を通り過ぎる。
昨日ここで偶然上条に出くわした事で、初春は上条がやって来るのをわくわくドキドキしながら待ち伏せしていた。
彼女のこれからの通勤は、ここで上条を待って一緒に行くというルートで確定したようだ。
今日一日ずっとしていた難しい顔も、上条の顔を一目見るだけですべて吹き飛んでしまっていた。
こうして隣を歩いていられる。
その事が初春を高揚させて、幸せ気分に導いていた。
昼休み、佐天に例の件をすべて話していた。
それを聞いた佐天も初春に協力するよっと言ってくれていて、今日も支部について来てくれるみたいだ。
昨日あの掲示板で見た『目にしたものを画像にする能力』という情報。
あれだけ大量の、日付もバラバラ、状況も様々である画像が貼られていたという事は、一日だけではない。
何日かにかけて…………………………………………いや、毎日なのかもしれない。
もしかしたら、今もこの辺に隠れてひっそりと上条を見ているのかもしれないのだ。
出来ることなら、なるべく上条の近くにいた方がいい。
―――これ以上、当麻さんのプライベートを侵害させるわけにはいきません!
大好きな大切な人を守るため、と初春は意気込んでいた。- 595 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/24(土) 01:38:31.85 ID:9QbTuRpjo
固法「今日は白井さんとパトロールね」
上条「あ、はい。了解しました」
今日の仕事はパトロールか、と思案する。
そういやパトロール中の白井とも出くわした事もあったなーと感想を持ちつつ、腕章を用意した。
風紀を律する者の仕事として、一番の理想は犯罪を未然に防ぐ事である。
起きてしまった事件を対処するのも勿論大事な事なのだが、こうして出回る事で少しでも犯罪が起きる可能性を減らしていくという事はかなり重要な事なのだ。
安全ピンで学ランの腕辺りに縫い付け、準備をする。
隣では、なぜか初春も腕章を付けていた。
固法「あれ? 初春さん腕章付けてどうしたの?」
初春「私も行きます」
黒子「初春は自分の仕事があるのでは?」
初春「行くったら行くんです」
佐天「私も行きますよー」
固法「うーん…………………………………………ま、いいか。それに」
初春「固法先輩?」
固法「(上条くんと一緒にいたいんでしょ?)」ニヤニヤ
初春「(…………………………………………ぁぃ///)」カァッ
上条「?」
黒子「この男は……………………」
佐天「」ニヤニヤ
まあ厳密にはそれだけではないのだが、彼と一緒にいられるという状況が喜ばしくあった。
今回事情を知っている佐天もいるし、何より「空間移動能力者」の黒子がいる。
事情は知らなくとも、彼女がいれば安心出来るのだ。- 596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/24(土) 01:38:53.93 ID:HcfWEk7s0
- …………………………………………支援。
…………………………………………三点リーダの多さ - 597 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/24(土) 01:39:26.83 ID:9QbTuRpjo
今回の件について、上条には知らせるつもりはなかった。
どうやら自分が被害を被っているという事には気付いていないようで、知らないのならば知らないままがいいだろうと初春は考えていたのだ。
それに、上条はジャッジメントになったばかりで他の事に気を回してはいられないのだろう。
ジャッジメントは覚える事が多く、激務でもある。
だから4ヶ月という長い研修期間を要していて、それに自分も辟易した事も覚えている。
だから彼に余計な気は使わせたくない。
そういう思いと、あとはもう一つ。
自分の力で、彼を守ってあげたい。
黒子「…………………………………………まあいいですの。それでは、行ってまいりますの」
上条「それじゃ、行ってきます」
佐天「行ってきまーす」
初春「行ってきます!」
固法「はい、行ってらっしゃい」
そうして四人(一人は風紀委員ではないが)といういつもよりも大人数の見回り隊が出動していった。
そして歯車も、様々なその意味を持って大きく回りだしていった。
- 606 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:08:01.73 ID:1A2jdRxVo
佐天「それで初春ったら、「こういう事ですので、付き合えません」って断っちゃったんですよー」
黒子「初春がクラスメイトの殿方から交際を申し込まれていたとは」
初春「もう、佐天さんっ///」
黒子「「こういう事ですので、付き合えません」ねえ…………普通はその言葉の真意に何かを感じる筈なのですが」
上条「ん?」
佐天・黒子「はぁ……」
初春「ぇぅ///」
第七学区の大通り。
午後四時過ぎの学生達の帰宅ラッシュ時は、人通りが忙しなく動いていた。
前を黒子、佐天が歩き、後ろで初春と上条がそれについていく二列の形をとっている。
この陣形を取るにあたって、初春が黒子に無言のプレッシャーを与えていたのは言うまでもないだろう。
とはいえ、はにゃーん的な気分に浸っているだけではない。
前方の佐天、後方の初春で上条を見る怪しげな視線がないかくまなく探してもいるのだ。
手には携帯電話を常に握っており、新しい画像が貼られやしないかも時々チェックしている。
先ほど第一七七支部に到着してから出る僅か数分の間に、事件簿ファイルから例の女子生徒のデータも抜き出していた。
- 607 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:08:48.50 ID:1A2jdRxVo
『田代まさこ』
あの時の女子生徒の名前は、そう言った。
日舞女学園の二年生、能力はレベル3の『認識投影』。
視界に入れたものを脳に蓄積し、特定の機材にデータ化をするもの、らしい。
…………随分変わった能力だと感じた。
どういう原理でデータ化をするのかはわからない。
念動力か、はたまた電気能力でも兼ね備えているのか。
詳しいことはわからないのだが、まあ別にその能力の全てを知る必要もないのだろう。
状況証拠はもう十分揃っていたから。
間違いない。その女子生徒によるものだ。
動機は、あの掲示板にも書いてあった通り――――助けてもらった事によって恋心でも芽生えたのだろう。
初春「……………………」イラッ
でも。
だからとは言え、能力使って盗撮まがいの事までしていいのか。
自分で鑑賞する分にはまあ彼女の『自分だけの現実』によるものだし、譲歩するとはいえども。
理由がどうであれ、彼女はやり方を間違えた。
上条「初春さん、どうしたんだ? 難しい顔をして」
初春「えっあ、いえ…………すみません」
上条「なんかあったか?」
初春「な、なんでもないですよ…………大丈夫です」
上条「ならいいけど。なんかあったら相談とかも全然受けるぞ? はは、俺じゃ頼りないかもしれないけど」
初春「そ、そんなことないです! でも、あ、ありがとうございます!」
佐天・黒子「(これが無自覚天然フラグメイカーの実力…………!)」
そんな難しい顔をしていた初春も、そんな上条の一言によって一瞬で笑顔になっていた。- 608 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:09:44.83 ID:1A2jdRxVo
それから少し歩くと、初春の携帯の画面に変化が起きた。
―――!!
あの『日舞女学園』の学校掲示板に新しいスレッドが立ち、一覧表の一番上にその文字が表示されていた。
それを見た瞬間、初春の目が大きく開かれた。
『1:今目の前に好きな人がいるんだが』
普段ならそこまで気にしないようなスレッドがやけに嫌な予感がして、条件反射の様にボタンを押していた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
1:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
前にも一度貼ったけど、なんか消されてたからまた貼ってく
http://uploader.nth.~~~~~~~138.jpg
画像は俺の能力で撮ってるからバレずに撮れるわwwwwwwww
でもなんか風紀委員と一緒にいるぞ…?
つか腕に風紀委員の腕章付けてる…
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――きた!!
その貼られた画像のURLリンクを踏むと、画像が展開されていく。
拡大されているのか、上条の横顔が画面いっぱいに表示された。
その瞬間、初春は周りを見渡した。
どこだ。どこで見ている。
画像を確認すると、ついさっき通った店が端に写っていて、ほんの数分ほど前に撮影されたもので近くにいるであろう事が窺える。
角度的に女子生徒がいたであろう方向を見るのだが、今は目ぼしいものはない。
どうする、どうする。
犯人を探すべきか、それとも今はスレッドの住民達にせがまれて次々と貼られていくのを止めるべきか。- 609 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:10:58.00 ID:1A2jdRxVo
考えていると、歩いていた黒子の足が止まった。
黒子「少し休憩にいたしましょうか」
上条「ん、りょーかい」
初春「あ、はい」
佐天「はーい」
初春「(…………佐天さん)」
佐天「(ほえ?)」
初春「(多分ですけど…………この辺りに、います)」
佐天「(!!)」
佐天の表情にも緊張感が走る。
首を何度も左右に振り、怪しげな人物がいないか確認をしていた。
とは言え、場所はコンビニの前。
時間も夕方で学生達でごった返していて、特定の人物を探すのには一苦労してしまう。
更に二人できょろきょろと視線を泳がしすぎると、犯人に警戒されてしまう危惧もあるだろう。
やはりまずは、スレッドの動きを止めるのをした方がいいか。
そう思うと、初春は携帯を再び操作し始めた。
- 610 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:12:06.84 ID:1A2jdRxVo
―――――――――――――――――――――――――――――――――
18:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
かっこよすwwwwwww
http://uploader.nth.~~~~~~~154.jpg
http://uploader.nth.~~~~~~~155.jpg
http://uploader.nth.~~~~~~~156.jpg
19:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yPor73jG0
うおおおおおおおおおおおおおお
20:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:Aer9UijF0
なにそのツンツン頭wwwwwwwww
やべ、俺も好きになりそう
21:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:UehGGht90
今夜は寝れねーな- 611 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:13:23.41 ID:1A2jdRxVo
初春「警告でもしましょうか…………」
22:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
>>20
だめ
23:警告 ID:???
/ヽ ,. . .-‐…‐- . .
{_/)'⌒ヽ: : : : : : : : : 〉`: 、
{>:´∧;;;;;/. : : : : : : : : : : : : :ヽ
/: : : /;;;;;;Y: : : : : : : : : : : : : : : : : : .___
. /: : : :/丁⌒: : :∧ : : /: /` }: : : : : :ハ;;;;;;}
/: : : :/: : :{: : 八: :{:>x/| / |:i : : :}: : : };;;∧
. /: : :/} : : :八Y⌒jY´んハ从 从-‐ノ: : :/Y: : :.
/: : / /: :/: : : V(. 弋ツ 心Yイ : ∧ノ: : ハ
!: : :!//i: : : : : 个i '''' , {ツ /彡く: ハ: : : :i
}: : :ヽ / : : : i: :´{入 _ /: : : ∧: i i: : : | このスレはジャッジメントに
〃. : : : ∨: : : :/l: :/⌒ヽ、 ` イ: : : :/ }: リ: : :ノ 監視されていますの
: : :/\: : V : /ノ:/ VT爪_八: : : { 彡. : イ{
: :( /: \:} /: :/{ rv\j { >‐=ミー=彡ヘ: ヽ
`)' ){: ( ): : :{八 /ヘJ ̄ ̄ {_/ / \j: : 八: :}
( ー=ミ 彡' ト、 / / 〔o〕 `トしヘ. _ \{ j ノ
r=彡' ー=ァ |\{. . -‐、‐=ァ′ ヽ \(
`フ ( | \_/ x个彳) ∧ \
ヽ | _/ ∨ {\ /、ヽ ヽ
ヽ ー-ヘ. ∨j ヽ{__> . _}
〉 \ \
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〈 j\ \
/ ー--==ニニ=く
24:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:UehGGht90
は?
25:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
>>23
は?
26:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:Aer9UijF0
おい、ID・・・
27:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
!? やべっ最強の風紀委員か!?
28:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:yPor73jG0
おい何があった
29:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:WeThgYL7O
今北産業- 612 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:14:24.66 ID:1A2jdRxVo
30:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TsrMsk17O
お前らすまん、風紀委員にこのスレばれたみたいだわ
俺はこの場からとにかく逃げる
31:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:UehGGht90
>>29
>>1が盗撮画像貼る
風紀委員にバレた
高飛び
32:以下、名無しにかわりましてNRSがお送りします ID:TbnBbd560
その後>>1の姿を見た者はいない・・・
―――――――――――――――――――――――――――――――――
初春「白井さんっ!!」
黒子「どうしたんですの?」
上条「ん?」
その時、初春の視界の端に一目散に逃げ出していく女子生徒の後ろ姿が写った。
叫び声を上げた初春に驚き、黒子は怪訝な表情を見せたがそんな事よりも。
- 613 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:15:12.12 ID:1A2jdRxVo
初春「盗撮魔です! あの人を追ってください!」
佐天「うわっすっごい逃げてる」
上条「盗撮魔!?」
黒子「本当ですの!?」
初春「はい! 説明は後でしますからとにかく!」
そう言い切る瞬間に黒子は姿を消していた。
『空間移動能力者』
逃げる者からすれば、これほど嫌な追手はない。
それはどれだけ逃げても、逃げても。
黒子「ジャッジメントですの!!」
「ひぃっ!!??」
一瞬で追いつかれてしまうからだった。
- 614 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:15:48.40 ID:1A2jdRxVo
「ごべんばざいいいいいいぃぃぃぃ…………ヒグッ、グスッ…………」
上条「あの時の…………っつか被害者って俺だったのかよ…………」
初春「こんな写真まで…………」
佐天「あは、あはは…………」
固法「こんな事してたのね…………」
神妙に縄についた女子生徒を第一七七支部まで引っ張ってきたのはつい先ほど。
女子生徒はさっきから泣きじゃくり、謝罪の言葉をただ延々と呟き続けるだけだった。
見ていてこちらが痛々しいほど泣いていて、ちょっぴりやりすぎたかなと反省する。
しかし初春にとって許す事のできないその所業と照らし合わせて、どうしたもんだかと頭を悩ませていた。
とりあえず証拠物品を押収し、調書を取る。
固法も苦笑いを浮かべながら事情聴取をしていたのだが、どうにもやりにくそうだ。
「ごめ、ごめんなざいいぃぃぃぃうわあああああああああぁぁぁぁぁぁんっ!!」
固法「うーん…………」
一際大きい鳴き声が支部内を揺らす。
捕まってしまったという気持ちと、好きな人にこんな姿を見られたという気持ちと、やってしまった事の後悔と。
色んな感情がごった返して、くしゃくしゃに泣きじゃくるその顔を机に突っ伏して埋める女子生徒は、この中で一番年長にはとても見えなかった。
…………固法先輩が一番上じゃないかって? そう書くと何やら明日生きられないような気がしt
固法「うふふふふふふふふふふ…………」
「「「「 」」」」ゾクッ
ごめんなさい。
- 615 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:16:31.21 ID:1A2jdRxVo
黒子「それで。結局被害者は上条さんという訳なのですが。あなたはどうするおつもりで?」
上条「俺か?」
佐天「盗撮された上に、不特定多数の人に見られる掲示板に貼られたわけですもんね…………」
んーと上条は考える。
自分が被害者、とはいっても特にこれと言った被害を被ったわけではない。
それよりも、この目の前で思い切り泣かれるという状況の方が上条にとって気分的に辛かったりする。
正直自分は本当になんともないし。
初春「上条さん…………」
初春の声が耳に届く。
聞いた話で、初春が一番この件で動いてくれていたらしい。
すると彼女の心境を考えるとどうか。
どうすればいいのかという答えはわからない。
わからないのだが、ここまで反省している女子生徒に対して糾弾できる度胸も持ち合わせてもいない。
上条「まあ俺は気にしちゃいないし、許してやってもいいんじゃないか?」
「っ!!?? ほ、ほんどうでずがぁぁぁ!?」
黒子・佐天「!?」
初春「っ」
初春に対して申し訳ない、という表情を見せながらそう言い放った。
ただやはり、心を鬼にする事など上条にとってできる事ではなかった。
誰かが傷ついたのなら上条としても許せない事だったのだろう。
男女関係なく制裁を食らわせてきた上条だ、その辺りの分別はしてきているつもりだ。
しかし心から反省している様子の相手に、これ以上言う言葉もないのだろう。
これから直してくれれば、それでいい。
- 616 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:17:15.49 ID:1A2jdRxVo
上条「ただ! もうこんな事は絶対しちゃダメだぞ。それが約束出来るのなら、俺は許す」
「はい…………もう絶対に、しません…………」
上条「そうか。ならいい」
黒子「はぁ……………………この男は優しいのやら甘いのやら」
佐天「これ、いいんですかね?」
固法「まあ本人が許すって言っちゃってるから、調書も取ったし私達にはどうにも」
女子生徒が今度は逆の意味の涙を流すと、上条は困り果てた顔を見せた。
まさかこんな事が起きていたとは、とため息を吐く。
なぜ黒子がため息を吐いたのかは知らないが、気にする事でもないのだろう。
- 617 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:17:49.97 ID:1A2jdRxVo
上条「初春さん…………ごめんな」
初春「え?」
ふとそこで上条が呟いた言葉に、初春は上条の顔を見た。
本当に申し訳なさそうな、そんな表情。
上条「いや、なんつーかその、頑張ってくれてたんだろ? 俺を助ける為に。なんかそれを無駄にしちまった様に許しちゃって」
初春「ぃ…………ぁぅ…………///」
上条「俺全然知らなかったんだ、こんな事が起きてたなんて。それに気付いて動いてくれてたっつーのに、情けないよな、俺」
自嘲する様にため息混じりに苦笑いを見せる上条に、初春は気付けばその手を両手で包んでいた。
初春「っ、そ、そんな事ないです! 許す事が出来るのは、上条さんが優しいからなんです!
むしろ上条さんがそれほど優しいって事が知れて、嬉しいんです!
そんな上条さんが……………………
……………………って、はっ!!」
黒子「おぉ………………」
佐天「わお………………」
固法「ほう………………」
「……………………グスッ」
上条「お、おう……………………ありがとな、初春さん」
自分が言おうとした事の重大さに途中で気付き、言葉を何とか止めた。
周りからは感嘆とする声が響き、初春はその顔を一気に真っ赤に染め上げる。
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうなほど、初春の心は動揺していた。
初春「はぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……………………///」
上条「はは。でも本当にありがとう、初春さん」
きゅっ―――――――――――
更に手を握り返される感触が、初春を包み込む。
その暖かな柔らかい彼の感触が、恥ずかしくもまた昇天しそうなほど嬉しかった。- 618 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:18:44.87 ID:1A2jdRxVo
初春「えへへ……………………」
黒子「緩みきってますわね」
佐天「うはー、見ているこっちが恥ずかしくなっちゃいそうな所見せつけちゃってー、この初春め」ニヤニヤ
支部からの帰り道、隣を歩く佐天のくいくいと腕で腕を押されるのだが、その感触は恐らく初春に届いていないのだろう。
黒子もなんだかなーという表情を見せているのだが、初春には届く事はない。
先ほど味わったあの感触は、忘れたくない。
上条の優しさをまた見れて、初春はそれがまるで自分の事のように喜んでいた。
自分の好きな彼の優しさが見れて、本当に嬉しい。
彼と一緒に仕事が出来る事になって、本当によかったと思える第一弾の事だった。
佐天「でもさ、初春」
初春「はい? なんですか?」
佐天「浮かれるのもいいけど、鞄忘れちゃダメだよ」
初春「えっ
ああああああああああああああああああああああああああああああ」
しまったーという声を上げる。
というか気付いていたのなら早く言って欲しかったと佐天を恨めしげに睨むのだが、ふやけきってる彼女の表情は全くと言っていい程迫力はない。
佐天「ごめんごめん、私も今気付いた。取りに行ってくる?」
初春「あ…………はい、ごめんなさい、ちょっと行ってきます!」
佐天「はーい、行ってらっしゃい」
黒子「わたくし達はここで待っていますから、早く行ってらっしゃいな」
初春「すみません、すぐ戻ります!」
だだだーっと走っていく初春の後ろ姿を見て、黒子はもう一度ため息を大きく吐いていた。- 619 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/25(日) 02:19:32.20 ID:1A2jdRxVo
初春「えへへ…………大好きです、当麻さん…………」
一人になり、言いたいことをここぞとばかりに言う。
ビルの間を小走りに駆けながら心の中は彼の事で埋め尽くされていた。
「ほら、探せええええええええ!!」
「うおおおおおおおお100万はもらったああああああああ!!」
初春「…………なんか今日、スキルアウトの人達多いなぁ」
すると初春の目の前を数人のスキルアウト達が横切っていく。
駆けていた足を止め、去っていったスキルアウト達を横目で見ながらやり過ごすと、再びその足を動かし始めた。
あの時。
黒子達と離れなければよかった。
そう思う事が身に起きる事はまだ知らずに、初春は第一七七支部への道を駆け足で向かっていった。
- 638 : ◆LKuWwCMpeE2011/09/29(木) 01:17:47.09 ID:DldltVI/o
初春「鞄忘れちゃうなんて、私おっちょこちょいだなぁ」
誰に言い聞かせる訳でもなく、自分で自分に苦笑いをしつつ置き去りになっていた鞄を持ち第一七七支部から室外に出る。
扉を閉めた一秒の後、電子ロックが掛かった音を確認すると初春はビルの出口の方向へと足を進めていた。
初春「………………………………」
完全下校時刻が近い時間帯で、冬の夕方は夜の帳が下りるのが早い。
人気が少なくなった――――いや、無くなったと言っていい程このビルは静かになっていて、閑散とした静けさに少々心細くなってくる。
タッタッと駆け足気味に歩く自分の足音がやけに大きく感じられた。
―――早く戻らなきゃ。
人気がなくなったとは言えども、ビル内を照らす灯りはきちんと灯っていてそれがせめてもの気持ちの救いになっていた。
初春にとって大きな事件は、本日あっけなく幕を下ろした。
事件が発覚してからの翌日スピード解決。
それについては一安心、と胸をなで下ろしていた。
自分が解決させた云々よりも、彼の力になれたという事が何よりも嬉しい。
結局彼は犯人を許したとしても、何ら不満はない。
むしろそんな彼の優しさが見れて、非常に嬉しかったのだ。
初春「当麻、さん…………」
胸がトクン、と脈を打つ。
会いたい。声が聞きたい。
抱きしめたい。抱きしめて欲しい。
強く、強く。ふわわ……
明日はジャッジメント非番の日だ。
今までの初春なら、休暇を喜んでいたのだが、今は違う。
また明日会えるかな、会いたいなとボソリと呟きながらビルの外へと出て行った。
- 639 : ◆LKuWwCMpeE[sage]:2011/09/29(木) 01:18:49.16 ID:DldltVI/o
しかしビルの玄関の外に出た矢先に機嫌が悪そうな野蛮な声が初春の耳に届き、足が止まってしまった。
「んで? データカードは見つかったのかって聞いてんだよ」
「い、いえ…………す、すみません…………まだd」
「見つけて来いって言っただろうがよ!?」ゴッ
「ぐはっ!! す、すみませ…………」
「おらぁっ、てめぇもだよ!」バキッ
「そ、そんな……ごふっ!!」
初春「っ」
ビルの柱の陰に隠れるようにしてそこから覗き込む初春の目に届いたのは、ビルの駐車場で数人の男達が一人の男に次々に殴られていく場面。
何かグループ内で揉め事でも起きたのか、リーダー格らしき体格のいい男が数人の男達に罵倒を浴びせ暴行を働いていた。
無抵抗の相手を殴り倒した所で、それでもまだ機嫌は収まらないのか鉄パイプを手にして側に駐車してあった白いセダンの車の窓ガラスを割る。
ガシャン! という音が一際大きく響き、窓ガラスはあっけなく粉々になっていった。
「あー、ムカつくなぁおい。クソむかつく。聞けば浜面の野郎が動き出したらしいじゃねえか。ああ?」
「は、はい…………そ、そうみたいですね!」
「あいつ俺達のグループ見捨てやがったと思ったら女達に囲まれてヘラヘラしやがって…………クソ!」バゴッ!!
「っひぃ!?」
初春「っ!」
そう言ったと思えば鉄パイプで怒りに任せてボンネットを一心不乱に叩き、壊していく。
その様子はまさに野蛮の一言で尽きてしまうほど荒れ狂っていた。
- 640 : ◆LKuWwCMpeE[sage]:2011/09/29(木) 01:19:32.23 ID:DldltVI/o
「あー…………クソだな、本当にクソだ。最近ヤレてねえし、女でも犯してスッキリしてぇなおい」
「おい、君達何をしているんだ!? ああ、私の車が…………!?」
すると、ビルの自動ドアが開き中からスーツ姿の中年の男性が出てくる。
駐車場から聞こえる物々しい大きな音に気付き、出てきたのだろうか。
男性はその車を見ると、怒りの視線をリーダー格の男に向ける。
どうやらその車は、その人の車だった様だ。
「ああ? ……………………はん、いいカモ見つけた」
「どうしてくれるんだ! 私の車を…………弁償してもらうぞ!?」
「おっさん、カネ持ってますかあ?」
「ふざけるな! いいかお前ら、通報してやる!」
「あ?」
自分が潜む柱を通り過ぎ、車の元へと向かう。
その人も怒りで冷静になれないのか、出てしまえばどうなるのか考える余裕はなかったらしい。
寄ってくる男性を一瞥すると、リーダー格の男はその仲間達に視線を向け、首でちょい、と何かを指図するように動かしていた。
「黙らせろ」
「「「は、はい!」」」
「な、なんだ君達は!?」
そのリーダー格の男の命令を元に、男達がすぐさま男性を囲むように動く。
…………マズイ、このままでは。- 641 : ◆LKuWwCMpeE[sage]:2011/09/29(木) 01:20:05.60 ID:DldltVI/o
初春「あ…………ダメ…………!」
このままでは、男性が暴行を受けてしまう。
下手をすれば殺されてしまうかもしれない。
学園都市では頻繁に、という訳でもないのだがそんな物騒な事件が度々起きる。
ジャッジメントの自分としては、そんな状況を見逃せるものではなかった。
応援を呼んでいる暇はないのだろう。
早くどうにかせねば、どうなるか想像に難くなかった。
恐怖はないのかと聞かれれば勿論そんな事はない。
しかし、そんな悠長な事は言ってられる状況ではなかった。
弱者の味方に、弱者の救済に。
自身が掲げた正義の元に、初春は動く。
初春「ジャッジメントですっ!」
「あん?
…………………………………………ぐへ、女か」
初春「…………………………………………っ!!」
姿を現した初春の姿に、リーダー格の男の目が光った様な気がした。- 642 : ◆LKuWwCMpeE[sage]:2011/09/29(木) 01:21:09.97 ID:DldltVI/o
「ちょうどいいトコに現れたなあ、おい」
初春「そ、その人を離してください!」
「ああ? 俺達はまだなぁんにもしてねえぞ、可愛い風紀委員サン?」
「な、何を言っているんだね!? 私の車をこんな風にしておいて!」
リーダー格の男が初春に近づいてくる。
腕に付けた腕章に目をやると、初春がジャッジメントだと気付いたのか更にその目を狡猾に細めていた。
後ろでは男性のそんな声が上がっていたのだが、リーダー格の男の下っ端らしき男達が取り囲む様に男性との距離を縮めると、男性の威勢よく上がっていた声が情けなく萎んでいく。
自身の身に降りかかるであろう危機にようやく気が付いた様子だった。
初春「っ…………!」
近づいてくる男に、初春はその身を強張らせた。
男の表情は、まさに卑猥に歪んでいる。
自分が風紀委員だろうが何だろうが、そんな事はお構いなしにただ自分の欲求を満たしたいという気持ちさえ感じ取れてしまう雰囲気に、初春は息を飲んだ。
まずい。
周りに目を向けるが、自分の力になれそうなものは何一つない。
ただ男と、今更恐れる男性とそれを囲む男達と。
「ま、確かに捕まるような事をしちゃうかもしれねえけどなぁ?」
ガッ――――――と腕を掴まれ、身動きを取れなくされてしまった。
- 643 : ◆LKuWwCMpeE[sage]:2011/09/29(木) 01:21:44.43 ID:DldltVI/o
初春「っ!!」
「さぁて、俺達はお楽しみタイムにでも洒落込もうかぁ」
初春「そ、そんな事したら自分がどうなるかわからないんですか!?」
「あぁ? 俺を捕まえようってか? はは、安心しろ嬢ちゃん。そんな事気にならない程の快楽の世界に連れてってやるからよ?」
初春「!? い、いや…………離して!!」
「ま、恨むんなら自分の運のなさに恨むんだな。はっ、いや寧ろ幸せだって思えるようにしてやんぜ?」
初春「ぃ、いや…………!」
なぜ、この男はそんなに血走った目をしているのだろう。
なぜ、自分は力がないのに飛び出してしまったんだろう。
なぜ、自分は力がないのだろう。
なぜ、こんな事になったんだろう…………………………………………。
「ほらぁ! さっさと入れや!」
初春「きゃっ……………………い、いや…………と、当麻さん……………………!」
乱暴に引っ張られ、男達が乗ってきたと思われるワゴン車に押し込まれる。
初春の力では、到底跳ね返せるものではなかった。
- 644 : ◆LKuWwCMpeE[sage]:2011/09/29(木) 01:22:21.85 ID:DldltVI/o
佐天「なんか初春おそいなぁ…………」
黒子「鞄が見つからないのでしょうか?」
先ほど別れた道の途中で、大分時間が経つのだが初春が戻ってくる気配がない事に佐天と黒子は疑問を持ち始めていた。
場所は第七学区の彼女らが度々訪れているファミレスの真ん前。
暗くなった空の黒に反発しあうような明るさは、まだまだ少女である彼女達にとって少しでも気分を休めてくれるのだが今は違う。
「いいからさっさと来る。わかった? 30秒だけ待っててあげるから。遅れたら壁のシミよ?」pi
「全く、超馬鹿面の癖に私達の呼び出しに応じないとは超お仕置きの必要がありますね」
「大丈夫、私はそんなはまづらが一週間床に伏す事になっても看病する」
ふとそんな会話がファミレスから出てきた女の子達三人から聞こえる。
初春と同年代くらいの女の子の声がして、彼女がもしかしたらいるのではないだろうかとそちらに目を向けるのだが当然彼女の姿はそこにはなかった。
何か、嫌な予感が抜け切らない。
基本的にしっかりしている初春の事だ、どこに鞄を置いたのだろうとか、道に迷ったとかそんな事にはならずにそんなに時間もかからずに戻ってくるだろうと予想していたのだが。
しかしあれから何十分が過ぎようとしていたのだろうか。
ここからなら、支部は五分もかからずに着ける距離のはず。
鞄を取って戻ってくるだけの話だ、10~15分もあれば十分なのに。
最近幸せに浸って上の空の時が多いといえども、ものの分別はしっかり出来る子だ、それなのに。
まだ、彼女は戻ってこない。
黒子「何かあったのでしょうか……………………」
佐天「私、電話掛けてみます」
妙な嫌な予感を感じたまま、佐天はおもむろに携帯電話を取り出す。
初春の番号はショートカットに登録してあるため、彼女の番号を呼び出すのは造作も無い。
pi、piと二回ほど携帯のボタンを押すとすぐさま電話を耳に当てた。
- 645 : ◆LKuWwCMpeE[sage]:2011/09/29(木) 01:23:44.75 ID:DldltVI/o
―――初春……………………!
prrrrrrrr、prrrrrrrrrrr………………
相手の応答を待つ音が佐天の耳に響く。
1コール、2コール、3コール。
早く、早く出て。
prrrrrrrrrっ
そして5コール目で、その音は止まった。
佐天「もしもしっ、初春っ!?」
しかし。
『おかけになった電話は、電波の届かない所にあるか電源が入っていないため、かかりません』
『もしもし』と可愛らしいいつもの声とは違った。
顔も知らないのに聞きなれた女性のアナウンス音が佐天の耳に届くと、佐天の表情もいよいよ険しくなる。
おかしい。
彼女は自分からの着信は必ず取ってくれていたのに。
今まで時間がない時でも、それでも出て返答をしてくれていた。
だが今は、出ない。
バッと初春が歩いていった方向に目を向ける。
もう近くまで来ていたから、応対する必要がないために出なかったのではないだろうかと期待を寄せてそちらを見たのだが。
しかし、あってほしいものはなかった。
『ご用件の方は、ピーッと言う発信音の後にお名前とご用件をお話ください…………』
佐天「もしもし初春!? 気付いたら、すぐ電話して!」
そのままでいた佐天の耳にアナウンスの続きが聞こえると、佐天はそう言うとすぐさま電話を切った。
黒子「出ませんでしたの?」
佐天「はい……………………初春…………」
黒子「大丈夫でしょうか…………?」
佐天「早く戻ってきて…………!」
半ば嘆願するかのように呟く佐天。黒子も勿論心配の色が取れずに初春の身を案じていた。
いつ彼女がここに戻ってくるのかはわからない。
電話が繋がらない以上、下手に動いてもすれ違ってしまうだけだろう。- 646 : ◆LKuWwCMpeE[sage]:2011/09/29(木) 01:24:34.12 ID:DldltVI/o
「しかしこのクソ広い学園都市の中で一枚のそのメモリーカードを探すなんて無理なんじゃねえか?」
「最初は俺もそう思ったんだがな。だがこの有力情報をあたってみてから考えようぜ?」
「ま、それもそうだな。たったそれだけで50万な訳だもんな」
「50万もあれば女何人喰えるんやら…………へへ、楽しくなってきたぜ!」
「……………………そろそろお前も特定の相手を見つけろよ」
「うるせぇ! スキルアウトやめて三人もの女に囲まれてるテメェには言われたくねえよ!」
「俺は一人に絞ってるんだって!」
「は、それはどうだか。前に聞いた女三人全員を食っちまってr 「はーまづらぁ……………………?」 ひっ、だ、誰!?」
「げ、む、麦野!? ファミレスん中で待ってるんじゃなかったのかよ!?」
「そりゃあんたが来るの遅かったからねえ……………………?」
「ってかその隣の超見てくれの悪いヤンキー男は誰ですか?」
「み、見てくれの悪いヤンキーって…………」グサ
佐天「……………………」
黒子「……………………佐天さん、初春はもしかして」
『スキルアウト』という単語が佐天と黒子の身を一瞬震えさせた。
スキルアウト―――原則的には無能力者の武装集団を指す。
もっと簡単に言えば、不良やチンピラの様なもの。
そしてそんなスキルアウトによる残虐な事件や抗争の仰々しさを物語るニュースが、この学園都市では後を絶たない。
『普通』の世界の者達からすれば、絶対に関わりたくない存在だ。
- 647 : ◆LKuWwCMpeE[sage]:2011/09/29(木) 01:25:18.11 ID:DldltVI/o
そんな騒がしい会話を横で聞いていた佐天と黒子の嫌な予感が更に強くなる。
もしかしたら、初春は……………………
佐天は嫌な予感が更に強くなっていったのを感じた。
初春が、初春が。
そうであってほしくない。
大切な友人の身に、なにかあってほしくなんかない。
「ってかおい、まじでカワイイ子達じゃねえか……………………それより浜面、『ブル』の奴からなんかさっきメールが来たんだけどよ、女捕まえたとか言ってやがったぞ?」
「はあ?」
「浜面…………滝壺さんという人が超ありながら…………」
「はまづら…………? どういう事…………?」
「た、滝壺、ち、違う俺じゃない! ってかなんでお前今そんな事言い出すんだよ!」
「いや、なんかここで言えばお前が面白い事になりそうでな?
なんか『土下座したら浜面も参加させてやる』とかなんとか書いてあったぜ?」
「浜面ぁ…………………………………………?」
「これはもう超言い逃れできませんね…………?」
「はまづら…………もう、応援できないよ…………」
「違うんだ! 滝壺おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「にしても、『ブル』の奴。写メも送ってきやがったんだが、まだ子供じゃねえか。ほら浜面、見てみろって」
「見ねえよ!?」
「浜面に余計なもの超見せないで下さい」パシッ
「なになに? どんな子なの?」
「俺も…………参考までに…………」
「はまづら…………………………………………」
「ウソウソ! 冗談だって滝壺!」- 648 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/09/29(木) 01:26:20.38 ID:DldltVI/o
ただやはり悪い予感というものは。
「うわ、まだ小さな子じゃない!」
「私と同じくらいでしょうか…………? あれ、この子超ジャッジメントですか?」
「頭に花飾り、カワイイね。それより、捕まえたって何?」
「ん、んぅんん!! 滝壺は気にしなくてもいいからな?」
佐天「え………………………………………………………………?」
黒子「…………………………………………っ……………!!??」
どうして、こんなにも的中してしまうものなのだろうか。
- 655 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:37:28.53 ID:5uD5glRfo
初春「んー! んん!」
「大人しくしてろよ? 痛くしねえからよ、グヘへ」
怖い。怖いよ…………。
数人の男達と初春を乗せた車が走る。
口にはガムテープを張られ、両腕も後ろに縛られて身動きが取れない。
ワゴン車の後部座席に押し込まれ、隣には男が陣取っており初春に視線を寄越す度に卑猥な笑い顔を見せていた。
ただ、身体を震わせて縮こませるだけしかできない。
―――いや…………いやぁ、当麻さん…………っ
車は走っているのは分かる。どこに向かっているのかを考えている余裕などない。
等間隔に置かれた街頭の灯りを二、三秒毎に走り抜けているのが視界に映っているが、見ているというだけで頭には入ってこない。
これから自分はどうなってしまうのか、どうされてしまうのか。
恐怖が初春を支配していて、視界も涙で滲み出してきていた。
「ゲヘ、女の涙ってたまんねえよなあ」
初春「っ……………………!」
その涙も男を喜ばす材料にしかならない。
絶体絶命―――という言葉が初春の頭を駆け巡った。
初春は弱い自分が嫌いだった。
それは身体的にも、内面的にも。
同僚である黒子という少女は、自分とさほど変わらない体格であるのにも関わらず身体能力・演算能力が自分のそれとはさほど違う。
そしてたった一つだけ年が上の美琴は、自分と比べるのが失礼なくらいの次元の存在で。
こんな状況など、どうとでも対処出来てしまうのだろう。
しかし、自分にはそんな力はない。
能力だって、身体だって、力も何もなく。
ジャッジメントの仕事中でも目の前で起こった事件に立ちすくむ事だってあった。
- 656 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:38:18.39 ID:5uD5glRfo
周りの人達は『女の子なんだから仕方がない』と言う。
しかし自分としてはそんな理由で自身が掲げた正義から引き下がりたくなかった。
それならば、何の為にジャッジメントになったのか。
何をしたいが為にジャッジメントになったのか。
弱者を、守りたいからではないのか。
だったら今、こんな男に屈している訳にもいかない。
この男の、言いなりになるものか。
初春「……………………っ」
「おいおい、なんだよその目は。そんなに凄まれると俺興奮しちまうぜ」
男の手が自分の太もも辺りに置かれた。
気持ち悪い。嫌悪感しかない。
触るなと男の手から逃れるように足を動かすと、男はその目を更にキツく歪めた。
「おーおー、強がっちゃって。そんな子、嫌いじゃないぜ?」
初春「…………………………………………!?」
しかし、男の手が…………………………自分のスカートを、めくり始めていた。
- 657 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:39:08.33 ID:5uD5glRfo
黒子「その話、詳しく聞かせなさい!」
浜面「おわっ、な、何だ!? いきなり女の子達が目の前に…………!」
麦野「あ? なんだこいつら」
絹旗「超ただならぬ様子ですね」
滝壺「……………………空間移動?」
佐天「すみません、ちょっと失礼します!」
浜面「おわ、ちょ」
『ジャッジメント』『頭に花飾り』
耳に届いた二つのワードが、今自分達が探している少女だという事を悟らせると二人は一瞬の間もなく行動していた。
空間移動で黒子と佐天が浜面の元に移動すると、佐天は浜面が手にしていた携帯電話を取り上げるようにして画面を確認する。
佐天・黒子「……………………………初春!!」
間違いなかった。
画像に写っていたのは、怯えた表情の初春の姿。
場所は走っている車の中なのだろうか、初春の後ろに写る光が不自然に横に線を描いていた。
間違いであってほしかった。
しかしその画像を見るだけで十分状況は理解出来てしまう。
黒子と佐天の二人の心臓は、大きく脈を打っていた。
初春は、攫われたのだ。
- 658 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:39:59.19 ID:5uD5glRfo
浜面「んあ? この画像の子と知り合いなのか?」
黒子「初春は今どこにいますの!?」
佐天「初春…………初春……………………!」
胸ぐらを掴みかかるかの様に詰め寄られた浜面は、その勢いに圧倒されていた。
彼女の様子からして、ただならない雰囲気の様で。
ツインテールの少女の後ろで知らない女の子も両手で顔を覆って泣き出してしまっている。
状況を把握するに、恐らく画像の女の子は彼女達の知り合いか。
黒子「お願いですから…………教えてくださいましっ!!」
佐天「お願いします! 大事な友達なんですっ!」
土下座でもするかの勢いで頭を下げる二人に、浜面は困った表情を見せる。
その様子から、本当に二人にとって大事な子なんだという印象を受けていた。
恐らく年齢は、絹旗くらいのまだ小さな女の子。
そんな子が、スキルアウト時代に耳にした暴れん坊の異名で知られる『ブル』に捕まった、という事は。
純潔を、散らされるという事を意味している。
元々浜面からしてみれば、別に大して関心も持たない事だった。
スキルアウト達は、窃盗、略奪、強姦、殺人など様々な犯罪を犯す。
かつで自分もATM荒らしや窃盗などの犯罪は繰り返してきては警備員に捕まった事も多々あった。
しかし、強姦や卑猥な行為は今まで一切してきてはいない。
どうしても、悲哀の念を感じてしまう。
元々どうして浜面がスキルアウトになったのかというと、傲慢、高圧的に振る舞う能力者達に対抗する為だった。
能力が発現したからといって、能力者達の無能力者達を蔑み侮蔑しまた虐げた行為が浜面にとって許せるものではなかった。
それはこの学園都市に対する疑問でもあったし、能力がないからゴミの様に扱うという常規を浜面は憎んでいた。- 659 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:40:39.30 ID:5uD5glRfo
一矢報いたい。
裏を返せば、無能力者達と共にその体制と戦いたいという優しさからくるもので。
弱い者の味方に―――――とは聞こえはいいのかもしれない。
しかしそのつもりだった。
だから今まで、『女を捕まえた』という仲間達の誘いは全て断ってきていた。
どうしても可哀想という思いが先行してしまい、とてもではないが参加する気は起きなかった。
しかし、それで今はよかったと思える。
命に変えても守りたいと思う大切な者も出来たし、それがどんな相手でも立ち向かっていくだろう。
滝壺「……………………はまづら」
浜面「滝壺……………………」
女の子二人の様子を見て、心配の色を浮かべるその大切な者の自分を呼ぶ声が浜面の耳に届く。
恐らく、その捕われたという少女の危機を彼女も肌で感じたのだろう。
もし、もし。
捕われた、というのが大切な者だとしたら。
浜面「おい。『ブル』の野郎と連絡取れるか?」
「ん? はっ、浜面も参加したくなったか?」
浜面「違ぇ。やめさせるんだよ」
「……………………ああん?」
絹旗「浜面…………」
麦野「浜面、あんた」
滝壺「……………………それでこそ、はまづらだよ」
浜面「頼む。手遅れになんねえ内に…………!」
「……………………ったく、わかったよ」
黒子「感謝致しますの!」
佐天「あ、ありがとうございます……………………!」
そう考えると、浜面はそう行動していた。- 660 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:41:30.13 ID:5uD5glRfo
prrrrrrrrrrrrrr―――――――――――――
「ああ? んだよんな時に」pi
初春「……………………っ…………!」
太ももを露にされ、それを不快な笑みを浮かべて眺めていた男の携帯の着信音が車内に響き渡った。
興奮していたのだろうか、少々息も荒いようでそれが更に初春の恐怖心を煽っていた。
「なんか用か?」
『よう』
「ああ? その声……………………浜面かよ。どうした? 参加する気にでもなったか? ゲヘ」
初春「……………………っ!?」
『……………………んー…………まあな』
「ほう? テメェ、可愛い子達に囲まれてるっつー噂だったんだが、なんだよ。ヤラせてくれねえのかよ? 欲求不満なのかぁ?」
『はは、ま、そんなところかもな。ところで、今どこにいるんだ?』
「教えてやってもいいが、土下座する覚悟は出来てんだろうな?」
『ああ。お前はもう手を出しちまったか?』
「いんや、まだだ。しかしなあ…………くく…………情けねえやつだな、てめえはオイ。まあいい。今は移動中よ」
『どこに向かうつもりだ?』
「第十一学区の俺達のアジトだ。場所は分かるよなぁ?」
『ああ、わかった…………それより、俺が来るまでまだその子に手つけないでおいてくれっか?』
「はあ? てめえにそんな指図受ける筋合いはねえぞ?」
『頼む』
「ああ? 中古は飽きたから初物をいただきたいってか? か~、モッテルオトコは違うねぇ」
『んじゃ、俺もそっち向かうから』pi
「…………………………………………ちっ」
電話をまるで楽しんでいたかの様だったが、愉快に歪めていた表情を消すと男は苛々した様子で乱暴に携帯を投げ捨てる。
バキ!という音と共に、電源も落ちたのかディスプレイから光が消えていた。
- 661 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:42:29.55 ID:5uD5glRfo
初春「………………………っぁ……………ぃ……」
物々しい会話の内容に、初春はその身を震わせていた。
相手先が誰なのかもわからないし、電話口から漏れた声も全て聞き取れた訳でもないのだが、男の口から出た純潔の危機を匂わす言葉に心底恐怖を覚える。
イヤダ、イヤダ、イヤダ……………………。
その男の視線が自分の捲れたスカート、太ももに来ると再びその口角が厭らしく釣り上がった。
―――当麻さん……………………当麻さん当麻さん……………………!!
ギュッと目を瞑り、心底会いたい彼の名を心の中で叫び続ける。
悲しくて、苦しくて。
目の端から、涙さえ溢れてきていた。
もしこんな形で純潔を散らしてしまったとしたら。
もう二度と、彼とはいられない。
汚れた自分を見て欲しくない。
汚れた自分が彼に近づく事で、彼を汚してしまいたくない。
でも、会いたい。
恐怖と畏怖と後悔と想いと、頭がどうにかなってしまいそうだった。- 662 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:44:01.12 ID:5uD5glRfo
浜面「……………………第十一学区だ」
電話を切った浜面は、苦虫を噛んだような表情で呟く。
そんな浜面の様子を穴が開くほど見つめて窺っていた黒子と佐天の目が見開かれ、お互いの顔を見合った。
黒子「第十一学区……………………!」
佐天「く、詳しい場所は……………………!?」
「スキルアウトの野郎共の巣窟にしてる、あの廃墟ビルだろうな。詳しい場所は……………………口じゃ説明しづれえな」
黒子「くっ……………………!」
佐天「早くしないと初春が……………………!」
浜面から電話を受け取ったスキルアウトの男がそう言うと、黒子と佐天にまた暗い色が差す。
第十一学区だというのがわかっても、詳しい場所がわからなければ恐らく立ち往生してしまうだろう。
しかし、迷っている時間などない。
それに黒子は空間移動能力の保持者だ、見つかるまで怪しげな所を覗いては次を探す――――――その一縷の希望に縋るしかないと黒子は再び顔を上げた。
黒子「ご助勢感謝いたします!」
佐天「白井さん、行きましょう!」
一分、一秒だって惜しい。
手遅れになってしまってからでは仕方がない。
恐らく、今だって震えて泣いているはずなのだ。
初春の心の中にいる人を、ずっと思い浮かべながら。
- 663 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:44:47.08 ID:5uD5glRfo
滝壺「はまづら……………………」
浜面「ああ、わかってる。おい嬢ちゃん達、俺の車に乗っていけ。そっちのが早いだろ?」
黒子「え…………しかし…………」
場所を知っているのなら、連れていってもらった方が望ましいだろう。
しかしそうは言っても、結局浜面も黒子からしてみればスキルアウトで、信じ難い相手だ。
しかもこう考えては失礼なのかもしれない。
もしかしたら、罠にかけられているという可能性も。
しかし、それでも。
結局今は信じるしかないのだ。
この躊躇している時間だって惜しまれる。
初春が危ないというのに、自分の身の心配などしていられない。
それに、浜面という男の袖を心配そうな表情でくいくいと引っ張る女の子の様子が、彼を信じていいものかと思わせてしまっていた。
麦野「まあここまで来ちゃったし、ねえ…………浜面呼んだには呼んだけどどうせ暇だったし?」
絹旗「なんか最近超平和で暴れ足りないですし?」
浜面「いや絹旗、お前は大変だっただろ…………」
佐天「すみません……………………お願いします…………!」
「『ブル』の奴、なんか最近調子乗ってやがるからな……………………アァデモメモリーカードドウシヨ」
佐天ももはや縋るしかない、といった様子で頭を下げる。
この面々が一体どんな関係の集団なのかはわからないが、今は信じるしかなかった。
- 664 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:45:32.55 ID:5uD5glRfo
佐天「初春…………初春…………!」
黒子「きっと…………大丈夫ですわ…………」
猛スピードで国道を走り抜ける車が一台。
運転席に浜面、助手席にスキルアウトの男が乗っていて、黒子と佐天は後部座席に座っていた。
佐天の隣では滝壺が佐天の背中を撫でており、その黒子の言葉と相乗して佐天の気持ちを少し落ち着かせていた。
三列目では麦野と絹旗が陣取っており、その二人は何やら楽しげに場違いのヒソヒソ話をしていたが、それについては黒子はとやかく言うつもりはなかった。
なんやかんや言って巻き込んでしまったようなものだし、結局協力してくれるとの事なのだ。
無事でいて欲しい。
黒子と佐天の二人の胸中はこれだけだった。
もし、もし。
初春に何かあったとしたら…………と考えるだけでも意識が遠のいてしまいそうなほど。
彼女とてこんな事になって、今感じている恐怖感、絶望感は計り知れないものなのだろう。
せめて、自分ならよかったと黒子は苦虫を噛むばかりだった。
なぜあの時一人にしてしまったのか。
なぜ自分がついていかなったのか。
後悔の念しか浮かんでこない。
初春だって、好きな人が出来て近付けるという事だけでこっちにまで幸せにしてくれそうな笑顔を見せてくれて……………………。
そう言うと黒子ははっとし、携帯を取り出した。
佐天「白井さん…………?」
考える。
上条を、呼ぶか。
呼んだところでどうにかなるのか―――――しかし、黒子は上条の電話番号を無意識で呼び出していた。
初春が今一番会いたいのは、彼のはず。
それはどんな状況でも、どんな事があっても。
あれだけの想いを見せつけられれば、何よりも彼の事を考えているというのがわかる。
自ずと答えは決まっていた。
prrrrrrrrrrrrr―――――――――
数回のコールの音がした後、上条の声が届いた。
- 665 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:46:45.31 ID:5uD5glRfo
上条『もしもし、白井か? どうしたんだ?』
黒子「上条さん……………………初春が、初春が……………………」
上条『ん? 初春さんがどうしたんだ?』
黒子「初春が…………スキルアウトに、攫われましたの…………!」
上条『………………………………………………………………何だと?』
浜面「ん? 上条?」
黒子「はい、それで今…………『おい……初春さんは大丈夫なのか…………? 無事なのか!?』っ」
麦野「…………すげえ馬鹿でかい声」
浜面「あいつの声じゃねえか」
上条『白井っ! 初春さんは無事なのかよ!? クソッ、今どこにいるんだ!?』
黒子「え、ええ…………今浜面さんという方に協力していただいているのですが…………」
上条『それより初春さんはどうなんだよ!? 無事なのか!?』
浜面「あいつ俺の事はスルーかよ」
麦野「知り合いなの? 浜面」
浜面「んー、まあな」- 666 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/01(土) 02:48:24.92 ID:5uD5glRfo
黒子「きっと、無事です…………場所は第十一学区、どこかにある廃墟ビルのようなのですが…………」
上条『第十一学区だな!? わかった、今から行く!』
その言葉が響くと同時に通話が切れ、機械音が黒子の耳に届く。
滝壺「すごい怒ってたね」
佐天「初春…………もう大丈夫、上条さんが来てくれるから…………」
そして、ヒーローは動く。
世界の混乱を止めた、歴戦の英雄が動く。
初春にとって、かけがえのない大切な人が動く。
その電話口の雰囲気から、尋常ではない怒りをまき散らして。
初春が危険に晒された事による、怒り。
それは、まるで全てを燃やし尽くしてしまいそうな想いさえも感じさせていた。
- 672 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:03:27.96 ID:tSH8b6bCo
走る。走る。
陽も暮れた夜の町並みも置き去りにして、上条当麻は走る。
上条「畜生…………! 間に合ってくれ………………!」
嘆願にさえも聞こえる彼の呟き。
それは走り抜ける彼の尋常ではないスピードで、帰路に着く学生達の耳にも触れず溶けていく。
シュンっ!
という風の切る音だけが学生達に届いただけ。
突如吹き抜けた風と音に何事かと後ろを振り返るが、学ラン姿の少年が一瞬の内に遠ざかっていったのを僅かに確認できただけだった。
自身が住む学生寮に着いた矢先に、風紀委員の先輩になった黒子からの着信に気付いた。
何だろうなと電話を受けると、そこで上条の空気が変わっていた。
初春が危ない。
黒子から告げられた実にシンプルな言葉は、上条の心をえぐった。
なぜだ、なぜ。
なぜ彼女が危険な目に合うのか。
自室に鞄を放り投げるように置くと、インデックスも驚いた様にしていたのだが説明している時間もなく。
隣の部屋に住む土御門に彼女を託すと、上条は全力で駆け出していた。
上条「無事で……………いてくれ…………………!」
情報は第十一学区、ただそれだけ。
詳細も何もわからないのだが、それでも走る。
いてもたってもいられなく、ただひたすら走った。
並走していた車を追い抜く。
上条当麻は風になった。- 673 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:05:16.40 ID:tSH8b6bCo
「おら、入れ!」
初春「──────っ!」
ここは一体何処なのだろうか。
見た事もない、辺りも薄暗い地下駐車場で車は止まった。
シミやらゴミやらで地面は汚れていて、この学園都市の中では類を見ない程の汚さだった。
車を下ろされ、腕を引っ張られて廃れたビルの中に連れ込まれていく。
───い…………ゃぁ………………………………っ
口元に貼られたガムテープは、口を開く事も許してくれない。
一体中で何をされてしまうのか────それはまだあどけない少女でも、嫌でも簡潔に予想させられていた。
キィッ────────
鉄製の重々しいドアが錆び付いた悲鳴を上げて開かれる。中はいまだ電気は通っているのか、薄暗くだが廊下を確かに写し出していた。
中ではどこの部屋からだろうか、知らないヒップホップ調のBGMが爆音で垂れ流されていた。
「お、『ブル』さん。ばわッス」
「チャース」
「っと、『ブル』さんそこのスケはなんなんすかあ?」ニヤニヤ
初春「…………っ!?」
部屋を照らすライトにフィルムでも貼られたのだろうか、やけに赤い部屋から三人の男達が出てくる。
初春をさらってきた『ブル』という名の男の仲間のようだった。
男達も初春の姿を見ると、『ブル』と同じ様に下品で不快な笑みを浮かべていた。
- 674 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:06:14.25 ID:tSH8b6bCo
「おお、お前らか。俺ぁ今から忙しいから部屋入ってくんじゃねえぞ」
「か~、今日はまためっちゃ可愛いコっスね」
「『ブル』さん、終わったら俺らにも回してくれませんかね?」
「『ブル』さんの後なら抵抗しねえからヤリやすくていいっす」
初春「……………………っ」
似合わない長髪やモヒカン、顔中、舌にもピアス。
そして下劣すぎる会話、言葉。
初春の一番嫌いな人種達だった。
「そんじゃーな、邪魔すんなよ」
初春「んん………………っ!」
三人の自分の背中を追い掛ける視線を感じながら、『ブル』に腕を引っ張られて連れられある部屋の前まで来てしまった。
───いや……………………いゃ……………………っ
この部屋の中に入ってしまったら────────。
きっと、何かが終わってしまう。
しかし初春の力ではやはり抗えるものではなく、安々と『ブル』に連れ込まれてしまった。- 675 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:07:18.79 ID:tSH8b6bCo
浜面「ん──────あれは上条?」
白井「上条さんがいるんですの!?」
佐天「どこ!?」
「あそこで走ってるヤツがそうか?」
第十一学区に入り、少し走ると前方の方で浜面の知っている背中が見えると声を上げていた。
こちらは車、そして向こうは足。
上条を呼び止めようと浜面は車のスピードを上げたのだが、なかなかに追い付けない事に浜面は驚愕した。
浜面「あいつ、なんて脚力してんだよ…………」
「人間の走るスピード越えてやがる……………………」
滝壺「……………………すごいね」
麦野「一体何者なのよ、その男……………………」
「なんだ? なんかの能力か?」
先程黒子が電話を掛けたのはこの車に乗り込んでからというものの。
あの学生寮からここまで、どれだけ距離が離れているのか、それは相当な距離のはず。
しかし上条は乗り物も何も使わず、ただ自身の脚だけでこの短時間でここまで来たということに一同はただ驚いていた。
浜面「いや、無能力者だぞ、あいつ。………………………………多分だけど」
絹旗「私は知っている訳ではないんですけど…………『新入生』の事件の時、結局その人が超止めたらしいですしね」
滝壺「すごい人?」
麦野「へぇ、そうなんだ」
「無能力者かよ、おいおい……………………バケモンみてえなスピードじゃねえか」
黒子「……………………上条さんを変に言わないでいただきたいですの」
浜面「いや、そんな風に思っちゃいねーさ。あいつはすごい奴だって事は知ってるからな」
黒子「………………………………っ…………」
佐天「白井さん……………………?」
───…………………………どうして、わたくしは。
黒子は無意識に出た言葉に自分自身で驚いていた。
あの類人猿などお姉様に付き纏う邪魔者の存在だったはず。
しかしなぜ今、彼を擁護するような言葉が出たのだろうか。
彼が悪く見られるかの様な言葉にムッとした自分の気持ちは一体何なんだろうか。- 676 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:09:41.86 ID:tSH8b6bCo
浜面「上条!!」
上条「浜面!?」
浜面「乗れ!」
黒子「上条さん、乗ってくださいまし!」
上条「白井!? 何で浜面と一緒に? ……………………まあいい、このまま飛び乗るぞ!」
スライド式の後部座席のドアを開け、走っていた上条に黒子が声を掛けると上条はその顔に驚きを貼り付けていた。
しかし逡巡する事もなく、そういうと上条は並走していた車に飛び乗った。
浜面「飛ばすぞ! 捕まってろよ!」
上条「頼んだ!」
飛び乗って窓の上に付いている取っ手を確かに掴むと、ドアも閉めずに身体半分車の外に出したまま上条が叫ぶ。
その言葉を聞くと浜面はアクセルペダルを思い切り踏み込み、『ブル』が篭城しているあの廃ビルへとそのスピードを上げていった。
- 677 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:10:29.32 ID:tSH8b6bCo
初春「んん…………!」
『ブル』が上着を脱ぎ捨てて近寄る。
初春はその身を縮こまらせ、ただ身を震わせるしかできなかった。
危機感、恐怖感が最高潮に達する。
嫌だ。嫌だ。
こんな男に、自分は。
「ふへ…………苦しかったろ? ガムテープ取ってやるから」
初春「っ」
その汚い手で顔も触られたくない。
しかし『ブル』は触れる事を嫌がる初春の口元に手を当てると、ガムテープを引き剥がした。
初春「くは……………………っ、か、帰してください!」
「げへへ……………………よく見ると可愛いじゃねぇか」
そのガムテープの口が付いた部分を舐め取るかの様な仕草を見せた『ブル』に、初春は心底嫌悪感と嘔吐感を覚えた。
醜い。醜すぎる。
ガムテープを丸めて投げ捨てると、『ブル』はナイフを取り出し今度はそれを気味悪く舐め回し始めた。
初春「い……………………いや……………と、当麻さん………!」
そのナイフで何をしようとしているのか。
『ブル』が手にした鋭利な刃物に初春の胸の警鐘が激しく鳴り響く。
コンコン────────────。
───!?
するとそこでドアをノックする音が響き、『ブル』は一旦その動きを止め、邪魔された事に苛立ったか忌ま忌ましげに扉の方に目をやった。
「すんません『ブル』さん」
しかし、初春が期待したものとは違う男の声が扉ごしに響く。
助けになるでもでもなく、初春の心は更に頂垂れる思いだった。
- 678 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:11:17.60 ID:tSH8b6bCo
「なんだよ? 邪魔するなっつっただろうが」
「へへ…………」
「まあ入れ」
「お取り込み中すんません、げへっ…………」
ドアが開く。
そこにいたのは、先程見た三人組の一人だっただろうか。
長髪に眉、鼻、口にピアスを開けている男が手に『何か』を持って入室してきていた。
「ああ? んだよそれ?」
「げへへ、これっスか?」
初春「……………………………………っ!?」
長髪が手にしていたのは、銀色の手にすっぽり収まる大きさのもの。
何かの機械か。
「それほどレベル高いコなら高く売れるんじゃないっスかね?」
「てめぇもモノ好きだな。俺の顔撮りやがったらぶっ殺すけどな」
「わかってますって。今まで『ブル』さんのをどれだけたくさん撮ってきたと思ってるんスか」
『カメラ』だという事を、そこで悟った。
- 679 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:11:57.73 ID:tSH8b6bCo
初春「ぃや……………………ぃやぁ…………!」
首をぶんぶんと振って身体を起こそうと抵抗するのだが。
長髪の持つカメラのレンズがこちらに向けられると、初春の目から更に涙が溢れ出してきていた。
「さぁて、再開、再開っと」
『ブル』も大してカメラが気にならない、といった雰囲気でナイフを再び逆手に取ると、初春の方に向き直る。
「くくく、どぉんな身体かまずは見せてもらおうかねぇ」
下劣な笑いを再び浮かべると、『ブル』はセーラー服の前の部分を引っ張りそのナイフを一気に引き下ろした。
ビリリッ────────────!
初春「い…………いやああああぁ!!」
破かれた音と共に、初春の上半身が露にされていく。
下着を残して、セーラー服は見るも無残に切り裂かれてしまっていた。
- 680 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:13:19.91 ID:tSH8b6bCo
「確か、この辺だったな……………………久々に来たからあんま覚えちゃいねえが」
上条「……………………あれは!!」
黒子「ど、どうされたんですの!?」
上条「浜面! 一旦車を止めてくれ!」
浜面「了解っと!」
キキッ!という音を上げて車が止まる。
黒子の何事かを尋ねる声もそのままに上条は止まった車から飛び降りるように下りると、道の端の方に走り出した。
上条「……………………………………くっ」
そこにあったのは────────彼女が身に付けていた物。
色とりどりの、花飾りだった。
- 681 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:13:53.60 ID:tSH8b6bCo
間違いない。彼女の物だ。
上条はそれをそっと優しく持ち上げると、苦虫を噛む。
スキルアウトらしき男の言葉によると、『ブル』とやらが潜むその廃ビルはどうやらこの辺りらしい。
黒子「上条さん!?」
佐天「どうしたんですか……………………ってこれは!?」
続けて下りてきた黒子と佐天が上条の手に持つ物を目にすると、二人も苦しげに表情を歪める。
二人にとっても見慣れた、初春がいつも頭に付けていた花飾りだった。
黒子「それでは……………………!」
「思い出した! そこだ!」
スキルアウトの男が開けた窓から身を乗り出し、上条達の裏手の方を指差す。
そこには地下駐車場に続く緩やかなスロープの道があった。
上条「すまん! 恩に着る!」
黒子「わたくしも行きますの! 佐天さんはここに残ってくださいまし!」
佐天「いえ、私も行きます!」
黒子「しかし……………………!」
佐天を止める様な言葉を考える黒子だったが、既に地下駐車場への道へと走っている上条を見て途中で言葉を止めた。
ここで押し問答をしている暇はなく。
佐天にも何かあったら……………………いや、その時は空間移動で逃がせばいい。
彼女も、初春の身を本気で案じる親友だ。
黒子「行きましょう、佐天さん!」
佐天「はい!」
そして二人は既に遠くに行った上条の背中を追い掛けていった。- 682 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:14:28.41 ID:tSH8b6bCo
上条「初春さん、何処だ!?」
バンっ!!と地下駐車場から中へと進む扉を蹴り開けると、上条は大声を張り上げる。
薄暗い廃ビルの中は、爆音で流されている音楽やスキルアウト達で騒ぐ声でざわついており、自分の声は届いたか届いていないかはわからない。
この中に、彼女は連れ込まれたのか。
「ああ? 誰だよテメー?」
「なんだなんだぁ?」
「おいおい殴りこみにでも来たのかぁ?」
上条「おい、ここに女の子が連れ込まれなかったか?」
しかし流されるBGMや騒ぎの中、ドアを蹴破った音と自身が上げた声に気付いたか、中から五~六人のスキルアウト達が姿を表す。
男達は上条の姿を見ると、敵を見るかの様な目付きに変わった。
「連れ込まれてたとしたら?」
「今頃ヤラれてんじゃねーの?」
上条「………………………………………………………………あ?」
「つーか俺達の縄張りに土足で踏み込んで挨拶も無しかぁ?」
「丁度いい。データカードも見つからなくてムシャクシャしてたところだ」
「ちょっと俺達と遊んでもらおうか!」
バギンッッ――――――――――――――!!
「「「「「「!!??」」」」」」
という破壊音と共に、上条の手が打ちっぱなしのコンクリートの壁から引き抜かれる。
上条の表情は俯いていて、どんな顔をしているのかは見えない。
ただその圧倒的に感じさせるオーラと怒りは、まさに上条を取り囲もうとしたスキルアウト達を震え上がらせていた。
ゆっくりと、上条がその顔を上げる。
彼のその表情は、怒りに満ちていた。- 683 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:15:03.75 ID:tSH8b6bCo
上条「…………………………………………言え」
「お、おい、何だよコイツ…………やばくねーか?」
「た、たまたま壁がボロくなってただけなんじゃねーの!?」
「お、お前ら、得物忘れんなよ」
「最悪、殺すしかねえなぁ」
ただスキルアウト達も、グループ間の抗争や能力者達との争いにて戦果を上げてきた者達で。
たった一人、単身で乗り込んできた如何にもシャバの人間に臆する場合でもなく、男達は啖呵を切る。
六人でかかれば、たった一人の少年だ、どうとでも出来るという風に上条に向かって行った。
上条「てめえら…………覚悟しろよ!」
「はぁっ!!」
鉄パイプを持った男が上条に殴りかかる。
しかしそれを僅か数cmで見切ると、その男の顔面に思い切り拳を打ち込んだ。
「ぐはぁっ!!」
「「うおッ!?」」
その男は後ろにいた二人の男を巻き込み、5m程後ろに吹き飛ばされた。
その様子を見るや否や、残りの三人が同時に上条に蹴りやら木刀やらを撃ちこむ。
しかしそれを上条は飛び越えると、壁を蹴り三角飛び蹴りの要素で膝蹴りを木刀を持った男に突き立てると、男は鼻から血を出して盛大に倒れ込んだ。
「ぶごっっ!!」
上条「ッ!!」
そして間髪入れずにその隣にいた男を回し蹴りで蹴り飛ばす。
胸元に上条の足が入ると、何処かの部屋のドアを巻き込んで男は吹き飛んでいた。
「ぐあッッ!!」
それを一瞥すると、残った一人に上条は向き直る。
残りの一人は戦力の違いを悟ったか足を震わせているようだった。- 684 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:16:42.68 ID:tSH8b6bCo
上条「何処にいるんだ!? 言え!!」
「あ、あそこです……………………」
胸倉を掴み、締め上げるかの様な上条に男は恐怖からか呆気無くある部屋のドアを指差した。
その差した指も震えていて、ガタガタと歯を鳴らしながら自身に降りかかる危害を何とか逃れようと必死の形相をしていた。
上条「あの部屋か……………………!」
黒子「上条さん!!」
すると後ろから黒子の声が響き、上条は男を投げ捨てるように離す。
その男はドサッという音と共に地面にへばり付き、腰が抜けたかどうやらもう立てない様子だった。
黒子は既に倒れ伏している男達五人の姿に目をやると驚愕の表情を浮かべていたが、次第に渋い顔付きになっていった。
黒子「上条さん! 怒るのもわかりますが貴方はジャッジメントですの! くれぐれも配慮をしてくださいまし……………………!」
上条「……………………っ、そう、だったな」
佐天「すごい……………………この人数を、一瞬で……………………?」
黒子「それで、初春は!?」
上条「あそこの部屋だ!」
佐天「今行くよ、初春!」
- 685 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:17:15.71 ID:tSH8b6bCo
男が指を差した方向に顔を向けると、一同はドアの方に駆け寄ってく。
中で何が起きているのか……………………という事も想定する余裕だって今はない。
まだ、何も起きてないでくれ――――――――――――
三人の胸中はそれに尽き、無事を願ってそのドアの前まで辿り着いた。
上条「はぁッ!!」
そしてその扉を蹴り開けた先にあったのは――――――――――――――――――――。
上条「っ!!??」
黒子「初春っ!?」
佐天「初春!!」
「何だよ、今日は厄日かよ、まだヤレてねえってのに……………………っつーか、何だ? てめぇらは」
初春「むぐ……………………ぅぐ……………………!?」
全身を下着姿にされ、『ブル』に羽交い締めされ口元に手を当てられ。
そして首元にナイフを突き立てられている初春の姿だった。- 686 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:17:57.35 ID:tSH8b6bCo
初春「……………………むぐ、ぐ……………………!!」
上条「てめぇ……………………!」
怒りが更に高まる。
上条の姿を確認すると、初春のその大きく開かれた目から涙が溢れ出していた。
どれだけ泣いたのだろう、初春の頬には既に涙の跡が何重にも残り、更にそれを新しく上書きされていく。
「おやおや、コイツを助けに来た王子サマってやつかぁ?」
上条「…………てめえが『ブル』って奴か?」
「あぁ? おいおいこんなシャバい野郎にも俺の名が知られてるなんてな。とうとう俺も有名人になっちまってたのかぁ?」
上条「うるせぇ。さっさとその子を離せ」
「くぅー、女の子二人連れ込んでるってのに更に女を求めるっての? なんだぁ? ハーレム王国でも建設しようとしてんのか?」
下品に下品を重ねた笑いを浮かべる『ブル』に、上条達は怒り、そして吐き気さえ覚えた。
先程の『ブル』の言葉から初春はまだ服を剥ぎ取られただけというのが分かり取り敢えずは安堵したのだが。
こんな醜悪の塊の様な男に、初春は穢されそうになったのか。
上条はグッと拳を握る。
自身の拳から血が出そうなほど、強く握っていた。
黒子「……………………く、能力が使えない!?」
佐天「白井さんどうしたんですか!?」
「おやおや、何かの能力者かぁ? はっ、まあここは能力者達に攻めこまれた時の為にビル全体にAIMジャマーを設置してるからな。使えねえのも無理はねえなぁ」
能力を使えば、この程度の状況などいくらでもしようがあった。
しかしここで黒子は空間移動か使えないと分かると、悔しげに顔を歪めていた。
どうすれば、どうすれば。
初春を傷付けずに、救える?
下手に動けば初春が危ない。
初春に傷が付く恐れを三人は一番の念頭に置いて、思案する。- 687 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:19:07.72 ID:tSH8b6bCo
初春「ぐ……………………っ」
「ったくよぉ……………………今日は本当に腹立つ日だぜ。データカードは見つからねえしよ、いいとこで邪魔されるしよ、コイツもとう…………………………………………
はん、当麻さんってお前の事かあ?」
上条「んだよ」
「コイツが当麻さん、当麻さんなんつー声を上げて嫌がる素振りを見せやがってたからなあ、はん、てめえの事かよ」
上条「…………………………………………っ」
黒子「初春……………………」
佐天「うぅ……………………」
刹那、初春と目が合う。
恐怖に濡れた色と、後は何をその心に秘めているのだろうか。
わからないが、助けを求めている事に変わりはない。
初春「……………………っ」
上条「!?」
その瞬間、初春の眼の色が変わった。
何かをしようとしているのだろうか。
じっと上条の目を見つめ、コクンと頷く。
「なんだぁ?」
その微かな初春の動きに『ブル』は反応すると、初春は思い切り―――――――――――口元を覆った、その手に噛み付いた。- 688 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:20:28.56 ID:tSH8b6bCo
「ぐわッッ!? いてええぇぇッッ!?」
上条「がぁッッ!!」
『ブル』の手は、急激に襲った痛みから初春の身動きを封じていた腕を一瞬緩めてしまう。
その隙をついて上条はまず初春に突き付けていたナイフを持つ腕を掴むと、初春の方向からずらした。
冷静さを欠いた『ブル』は、羽交い締めにしていた腕の方も離してしまうと上条に交戦するために向き直る。
もつれ込むようにして空を切ったナイフは、上条の頬を横一線に切り傷を作っていた。
「クソがぁぁぁぁッッ!!」
上条「ッ!!」
黒子「初春!」
佐天「初春ぅ!!」
初春「と、当麻さん!!」
腕を離され、地面に倒れ込むようになった初春を咄嗟に駆け寄り、佐天が抱き止める。
初春の身体を包み込む様に佐天はギュッと抱き締めるのだが、初春は上条の情勢の方に意識が向いていた。
「クソッ、こんな簡単な手に引っかかっちまうとは!!」
上条「覚悟しろ……………………!」
初春の身が解放された事に気付くと、上条は一瞬表情を緩めるが瞬時に『ブル』に向き直ると構えを作る。
『ブル』もナイフを完全に持ち直すと、今度は上条に矛先を向けて突きつけていた。- 689 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:21:23.65 ID:tSH8b6bCo
「てめえらは完全に俺を怒らせやがったなぁ……………………生きて帰れると思うなy―――――――――――――
上条「おらぁッッ!!」
「ぐほっ!?」
しかし、『ブル』がそう言い切る前に上条は瞬時にナイフを持つ手を絡め取り、床に這い蹲らせた。
まさに一瞬。
瞬きする間に消えた様な速さで『ブル』の腕を掴むと、そのままうつ伏せに床に押さえ込む。
背中を思い切り踏み付けると、『ブル』の肺から空気が抜き取られたか咳き込んでいた。
「く、くそ、速ぇ……………………てめぇはナニモンだよ、クソがぁ……………………!」
上条「…………………………ただの、ジャッジメントだ」
上条の『ブル』に対する冷たく冷酷な声……………………しかし初春にとって、何よりも暖かく優しい声がそこで響いていた。- 690 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:22:04.77 ID:tSH8b6bCo
初春「とう、まさん……………………うぅ、当麻さん……………………!!」
上条「初春さん……………………もう、大丈夫だからな」
黒子が『ブル』に手錠を掛け、更に縄で縛っている所で佐天の腕に支えられて立っていた初春が上条に声を掛ける。
彼女の顔は涙で濡れ、更に今度は安堵の涙でまた濡れていた。
その表情が痛々しく、上条は着ていた学ランを脱ぐと初春にそっと着せる。
その瞬間、初春は上条の胸元に飛び込んでいた。
初春「当麻さん……………………! 当麻さぁん!!」
上条「ああ、もう心配しなくていいからな…………!」
上条も初春のその小さな身体を思い切り抱き締めるように包み込むと、着ていたワイシャツに初春の涙が染み込んでいく感触を覚えた。
―――こんな小さい身体で……………………!
どれほどの恐怖をその一身に浴びていたのか。
きっと男の自分には感じた事のない、想像を絶するものだったのだろう。
もう大丈夫、心配いらない。
傍にいるから。
様々な想いを乗せて、その小さな身体を抱き締める。
ギュッと背中を引き寄せられる感触に、上条はいまだ震えるその身体を自身もただ抱き寄せていた。
佐天「よかったよぉ……………………初春ぅ……………………」
佐天の泣き声も響き、黒子からも温かい様な視線が初春を包んでいた。
黒子「すぐにアンチスキルも来るそうですの」
上条「そっか」
初春「…………………………………………グス、ヒック」
佐天「初春ぅ…………」
上条「ほら、もう泣くなって」
初春「……………………っ」
初春の目元を指で拭う。
されど次から次へと流れだす涙は、なかなか止められなく。
それでも上条は、ただ拭っていた。- 691 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:22:43.55 ID:tSH8b6bCo
初春「あ……………………」
上条「ん?」
今度は初春が泣き顔もそのままに上条の頬に手を当てようとすると、初春の顔は更にくしゃっと歪んだ。
上条の頬から、赤い血が一線流れていた。
初春「えぅ、当麻さん……………………顔に、傷が…………!」
上条「あ、さっきちょっと切られたんだっけ。でも大した事ないから大丈夫だ」
さすがに傷口に手を当てる訳にもいかず、初春は手を引っ込めるとその手を首元に置いた。
初春「私のせいで…………!」
上条「んにゃ、それは違うぞ。それに初春さんを守れてこれで済んだんなら安いもんじゃねえか。唾でも付けときゃ治る治る……………………ん?」
なんとでもないという風に軽口を叩くと、ドアの外が何やら騒がしい事に気付き上条が反応し声を上げた。
「アンチスキルだ!」
「おお、君達か! 大丈夫かね!?」
一同ドアの方に目を向けたのだが、姿を表した人物が頑丈に防護服に身を包んだアンチスキルの見た事のある顔の者だと分かるとホッと一息ついていた。
黒子「ええ、この者と廊下にいた者達の連行をお願いしますの」
「ああ、わかった。それで君達にも話を聞きたいんだが」
黒子「勿論ですの。 ……………………でも、その前に」
「ん?」
黒子「上条さんの…………手当を先にお願いしますの」
上条の頬に出来た切り傷を見て、黒子が言う。
上条は平気な顔をしているのだが、そこから細菌やら何かが入ってしまわれるのを危惧していた。
「おお、君が第一七七支部に配属になったという上条くんか。
頬に傷が出来てるね、救急箱持ってきてるから応急処置するけど、一回病院連れて行くよ」- 692 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:24:00.85 ID:tSH8b6bCo
上条「は、はぁ。よ、よろしくお願いします」
初春「……………………あの、あと毛布とかあれば……………………」
「被害者は初春くんだったのか…………災難だったな」
初春「は、はい…………でも、助けてくれましたから」
「君も一回病院で診てもらった方がいいな。上条くんと一緒に一旦病院連れて行くよ」
初春「……………………当麻さんと一緒…………///」ボソッ
佐天「…………もう普通に当麻さんって呼んでるね」ニヤニヤ
黒子「…………………………………………」
初春「えぅ……………………///」
黒子「それでは行きますわよ、初春、佐天さん…………………………………………当麻さん」
初春・佐天「えっ」
上条「??」
初春ではない、黒子が口にしたその名前に。
初春と佐天の二人は素っ頓狂な声を上げていた。
- 693 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/04(火) 03:26:46.28 ID:tSH8b6bCo
一方、その頃。
浜面「だから俺は違うって!」
黄泉川「こんな車に女の子達連れ込んで何しようとしてたじゃん? 免許もない奴が怪しまれるのも無理ないじゃん?」
浜面「俺は上条達を送り届けただけだっての!! ほら、お前も何か言ってやってくれ!」
「ヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイ…………………………………………」ブツブツ
浜面「滝壺! 麦野! 絹旗! 説明してやってくれえ!!」
滝壺「は、はまづらはちg 「そうなんです…………私達、実は浜面くんに…………」 モゴモゴ」
絹旗「さっきも今日は帰さないって超鼻息荒くしてました……………………超怖かったです…………」
黄泉川「…………………………………………ほぅ?」
浜面「おおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいい!?」
「ヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイヨミカワコワイコノコラモコワイ…………………………………………」ブルブル
あれから何があったのか、所々焦げていたり、鉄パイプが折れ曲がっていたり、そして大量に転がる気絶したスキルアウト達の近くで、最強の警備員に職務質問されて仲間にも陥れられる男の姿がそこにあったらしい。
- 717 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/05(水) 03:41:07.75 ID:vMjphmTDO
黄泉川「結構無茶したじゃん?」
初春「当麻さん……………………大丈夫、ですか?」
上条「大した事ないって……………………いつっ」
ワイワイ、ガヤガヤという警備員達がスキルアウト達を連行していく喧騒や無実が晴れて浮かばれながら仲間の少女達にいじられる男の叫びが開けっ放しの後ろのドアから聞こえる中。
三又の矛をモチーフにしたデザインが描かれた専用車両にて、上条は黄泉川から手当てを施されていた。
頬の傷口に消毒液が染み渡る。
ピリッとした様な痛みを感じ、上条は小さく悲鳴を上げるとそれを心配そうに隣に座る初春も痛々しい表情を作った。
黄泉川「こりゃ…………ちょっと跡残るかもしれないじゃん?」
初春「………………………………っ」
黄泉川が見たところ、傷は思ったよりも深い。
とはいっても頬を貫通するまでには全然至っていないのだが、それでも跡に残りそうな傷であった。
頬を流れ落ち、上条のワイシャツに赤い染みを作ったその流血量から見てもわかってしまわれるのだろう。
初春「ごめ、なさい……………………当麻さん、ごめんなさ、い………………っ」
それを聞くと、初春の目尻に再び涙が溢れ出していた。
- 718 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/05(水) 03:42:15.97 ID:vMjphmTDO
彼の顔に跡に残る程の傷が付いてしまった。
それも、自分を助ける為に。
ポロポロと頬を流れる涙を拭う事もせずに初春は俯いてただ涙を流していた。
これも、自分が不甲斐ないせいなのか。
いやきっとそうだろう。
自分だけで打開する力があれば、自分に降り懸かる危険を察知する力があれば。
自分が、あそこで出なければ────────。
後悔は尽きない。
いくら後悔しても、しきれない。
情けない自分のせいで、彼が傷付いたという事が一番初春にとって悲しく悔しいものであった。
上条「…………………………大丈夫だって」
ギュッ────────。
初春「当、麻さん……………………っ」
肩に腕を回されて引き寄せられる感触に初春は顔を上げる。
上条の学生服の上に毛布を掛けたその上からでも、彼の温かさが直に伝わる気がした。
上条「さっきも言ったけど。初春さんが助かってこれくらいで済んだなら全然問題ないぞ」
コツン、と彼の肩に頭がぶつかる。
彼の温かさ、優しさ、声が初春の心に染み渡った。
- 719 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/05(水) 03:43:26.01 ID:vMjphmTDO
上条「それに。初春さんが無事で、本当によかった」
後一歩。後一歩だけ遅かったら、初春はどうなっていたのだろうか。
きっと、二度と笑う事の出来ない思いになってしまっていたのだろう。
もう二度と、彼の顔を見られない、見てはいけないという思いにさせられていたのであろう。
初春「…………………………ヒグッ、当麻さぁん…………」
自分も彼の身体に腕を回してもっとギュッと近寄る。
彼の胸元に縋り付くように顔を置くと、初春はずっとそのままそうしていた。
黄泉川「おーおーお熱いねえ、ご両人? それに、当麻さん?」ニヤニヤ
上条「そ、それは……………………そういえば、いつから俺の事を名前で?」
初春「………………………………///」ギュッ
黄泉川の言葉に照れたのを顔を埋めて隠すように上条の胸元から初春は動かない。
自分の部屋ではずっと当麻さんって呼んでましたーなんて恥ずかしくて言える訳もないだろう。
黄泉川「これでよしっと! んじゃとりあえず病院連れてくじゃん」
初春「あ………………、はい」
上条「すみません」
どうやら応急処置は済んだらしく、上条と初春を病院へ連れていく為黄泉川は開かれた後ろドアから一旦下りた。
くっついている二人を見るとついついニヤついてしまい、 上条に怪訝な表情をされたが別に黄泉川は気にする素振りもなくドアを閉めようとしたが、後ろからやってくる少女に気付くとドアをそのままにして自分は運転席に向かっていった。- 720 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/05(水) 03:45:21.90 ID:vMjphmTDO
佐天「初春ー!」
初春「佐天さん」
一先ずの話は終えたか、佐天がちょこちょこと駆け寄り初春の名を呼ぶと、初春も埋めていた上条の胸元から顔を上げて返事をした。
佐天は二人の体勢を見るや否やこれはこれはと気まずそうな顔をしていたのだが、どうにもニヤニヤが先行してしまうようで少々表現の難しい表情を作っていた。
佐天「私もこっちの車に乗ってっていいんだって」
上条「お、そうなのか」
佐天「ごめんね初春ー? あ、でもお邪魔になっちゃうからやっぱり遠慮しようかな?」ニヤニヤ
初春「そ、そんな事は……………………///」
佐天のからかう言葉に初春は顔を赤くして誤魔化す様に佐天に呟くが、そこから全然初春は動こうとはしない。
説得力もありゃしなかった。
黒子「わたくしはお邪魔させていただきますの」
初春・佐天「!?」
すると、そこで黒子の声が響き渡る。
その言葉は何を意味するのであろうか。
驚いた表情を作り、初春と佐天はそちらに視線を向けていた。
- 721 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/05(水) 03:48:16.72 ID:vMjphmTDO
上条「おお、白井。話はいいのか?」
黒子「ええ。後はアンチスキルの支部で詳しい事情をお聞きになるんだそうですの」
上条「そっか。もう夜だし冬は寒いから早めにそうしてくれてよかったよ。初春さんの恰好もこうだしさ」
黒子「それも…………そう、ですが…………」
佐天「白井さん……………………?」
上条「?」
初春「………………………………」ギュ
黒子「……………………いたしかたない、ですの」
上条の身体に縋り付きながら、自分の顔をじっと見つめる初春を見て黒子は容認する様な言葉を吐く。
上条と初春が座る対面側の座席に佐天の隣に座ると、外にいた眼鏡をかけたアンチスキルの女性にドアを閉めるよう頼んだ。
黄泉川「閉めたら鉄装も乗るじゃん」
「はぃぃ><」
黄泉川に声をかけられ、その女性は気弱そうな返事をしながら車のバックドアを閉めると助手席に乗り込む。
シートベルトをかけたのを確認すると、黄泉川は車を走らせた。
- 722 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/05(水) 03:49:19.33 ID:vMjphmTDO
佐天「上条さん、血が……………………」
黒子「…………………………っ」
夜の街を走る車中、佐天が上条の頬に当てたガーゼやワイシャツに染み込んだ血を見て呟いていた。
今までずっと親友の為に必死になっていて、気を回す余裕がなかったのか改めてそれを見た佐天もその表情を暗くさせていて。
その隣の黒子は、とても痛々しい、思い詰めた様な表情をしていた。
黒子「わたくしの能力が使えれば、あなたが傷付かずともあれくらいの事件など…………!」
上条「だから大丈夫だって。なんか見た目あれかもしんないけど、あんま痛くないし」
そんな様子の黒子を慰める様に上条は気遣った。
そういう傷、たまにあるだろ? という風になんてことはないと上条は取り繕う。
事実、出血量に対して自身が感じている痛みはそれほどだし、もう既に流れ出る血も止まってきている。
それよりも何だかんだ言って尊敬すべきジャッジメントの先輩にそんな顔をされるのは予想外というか、見たかった訳でもなかった。
上条「助かったんだし、それでいいじゃねえか」
他に何がある?と黒子、佐天、そして初春を見る。
実にシンプルだ。
能力があれば?なければ?
『~~たら』『~~れば』など結果から見た過程上の願望にしか過ぎない。
過ぎた事は仕方がないし、それに助ける事が出来た。
これ以上の事はないだろ?と優しく上条は諭す。
その言葉に、黒子は後輩に傷付かせてしまったという罪悪感が晴れていく様な感覚を覚えた。- 723 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/05(水) 03:51:28.36 ID:vMjphmTDO
この類人猿は、殿方は。
上条さんは……………………当麻さんは。
───…………………………なるほど。だからお姉様も初春も。この方に心を奪われたのですね。
自身もかつて救われた事がある。
どんな相手だろうが、上条は救ってしまうのだ。
トクン、と胸を打つ音が大きく響いた、そんな気がした。
上条「それに………………頬に傷って、なんかかっこよくねえか?」
黒子「………………………………ふぁい?」
ここで黒子は、このシリアスな空気が飛ばされるとは微塵にも思っていなかった。- 724 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/05(水) 03:52:59.59 ID:vMjphmTDO
初春「ほぇ?」
佐天「お?」
黄泉川「ほう……………………」
上条「なんか技使える様になる気がしないか? ほら、龍槌閃、とか九頭龍閃、とかさ?」
鉄装「天翔龍閃の方がいいですぅ><」
黄泉川「んー私は牙突の方が好きじゃん?」
上条「おお! お二方はわかってくれますか!」
佐天「な、何の話……………………?」
初春「わ、わかりません……………………」
上条「そうだな、まずは逆刃刀を入手して……………………神裂、余分に持ってんのかな……天草式とか当たれば置いてそうだしな……」
初春「と、当麻さん……………………?」
黒子「何をおっしゃっているんだか。それにその脚の速さからして縮地の方g
ってわ、わたくしは何を!?」
黄泉川「ほう、白井もこっち側の人間、か?」ニヤ
鉄装「侮れませんね><」- 725 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/05(水) 03:57:34.65 ID:vMjphmTDO
上条「白井……………………低俗だ、上品ではないと言いそうなイメージだったのに………………」
黒子「ち、違いますのおおおぉぉぉ! お、お姉様に付き合っている内にいいいいぃぃぃ!」
上条「ははっ、わかってるわかってる。可愛いとこあるじゃねーか」
黒子「なっ!!///」
初春「!!??」ビクッ
佐天「……………………わぉ」
上条「白井はあっちだろ? テレポートする時、額に二本の指を立ててテレポートしちゃう方なんだろ?」
黒子「ヤードラット星人からは教わっていませんの!! ってちが」
黄泉川「……………………結構マニアックじゃん」
鉄装「なんか語れそうですね><」
上条「それは知らなかった……………………」
黒子「うぅ…………………………お姉様が…………わたくしに………………」
初春・佐天「……………………………………」
黒子としては本当に美琴による影響なわけなのだが。
意外な黒子の趣味が知られた所で、まあなんとかかんとか。
そんな会話が病院に着くまでの車中で行われていたらしい。
- 755 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/06(木) 23:54:15.30 ID:SGTJ9FZDO
黒子「ふぅ……………………」
自然と溜息が出る。
上条の治療に自身も付いて行き、それからアンチスキルの詰め所へと事情聴取に赴き事後処理が終わった後の廊下で黒子は窓から外を眺めていた。
目に映るは街灯り月明かり、綺麗に光るネオンは学園都市の栄えを余す事なく主張している。
この街には様々な人、学生達がいる。
能力者でしかり、無能力者でしかり。
この街で培ったそれを元に、何をして何になって生きるのかは千差万別だがその目的は結局は皆同一。
『自分だけの現実』を持ち、望み、高める。
演算能力をそれに加えて手に入れた能力は──────今日、何一つ活かせなかった。
大事な友人、同僚が危険に晒され今日ほどそれを奮うべきだとわかっていたのに。
たかだか演算を狂わせられるものに、自分の特性は封じ込められてしまっていて。
結局、彼の力がなければ大事な友人は救えなかったのであろう。
『助かったんだし、それでいいじゃねえか』
自身は跡に残るという傷を負いながらも、他人の為、彼女の為なら傷付くのも厭わないその言葉。
なかなかに言える言葉でもない、と黒子は思う。
見返りを求めない彼の優しさ、強さ。
守ると決めたら一貫して、守り抜く。
助けると決めたらどんな困難な状況だとしても、守り抜く。
付き合いはさほど長くない。
なのに、なのに。
黒子「……………………羨ましい、かもしれませんの…………」
先程、搬送中にずっと目にしていた彼と彼女の距離の近さ。
彼の身体に縋り付く彼女と、そして彼女の肩に腕を回して引き寄せる彼と。
それを見ていると、胸が痛んだ。
何故、こんな気持ちになるのか。
この胸の痛みは、何なのだろうか。
自分がかつて類人猿と罵っていた彼を、自分は────────。- 756 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/06(木) 23:55:28.19 ID:SGTJ9FZDO
元々、上条に対しては自身の言動ほど嫌っている訳でもなかった。
いや、寧ろ興味があった方だ。
なぜ自分の憧れのお姉様があれほど熱心に熱い視線を向けるのか、彼にだけ素の自分をさらけ出しているのか。
なぜ彼は憧れのお姉様から憧れの視線を向けられているのか。
その理由が、黒子は知りたかった。
『俺にも、守りたいものがあるんだ。信じてみたい、己の正義ってやつを』
彼が掲げる正義とは、守りたいものを守り抜く事。
弱者の為に立ち上がり、大切な者の為に戦う。
今まで接してきた中で、その熱い思いの節々は感じてきていた。
その無条件の優しさ、暖かさ。
強さ、信念。
あれは反則だろう。
それに直に触れた初春なんて…………いや恐らく、美琴もそのはず。
直に触れていない自分にさえ、心を開けさせられるかの様だった。
なぜ彼に初春や美琴は惹かれたのか。
それは理解した。…………しかし。
それを理解するという事は──────つまり。
黒子「どうなのでしょう、かね………………………」
まだ、この気持ちに名付けるのは時期尚早なのかもしれない。
憧れか、恋慕か。
答えを出すのはまだ早いだろう。
しかし、彼に抱きしめられていた初春が─────羨ましく思ったのも、また事実だった。
窓に置いた手は冬の外気に触れて水滴を作り、一線地面に向かって流れ落ちていく。
それは、涙の様にも見えたのかも知れない。
「あら」
「ん?」
ふとそこで、上品さを押し出した様な声と、野太い野生の色を感じる声が響き渡った。- 757 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/06(木) 23:58:09.31 ID:SGTJ9FZDO
黒子「浜面さんと麦野さん、でしたか………………先刻はどうも、お世話になりましたの」
麦野「気にしないで。いい暇潰しになったわ」
浜面「おう、助かってよかったじゃねえか」
麦野「あんたもそんな殊勝なコト言えるのね」
浜面「俺は気遣いを知らない男じゃねえし」
麦野「誰と比較しての言葉かにゃーん?」キュイーン
浜面「そんな意味合い含めた訳じゃねえ! つかこんな所でそんなん撃つんじゃねえよ!」
麦野「いつからそんな偉そうな口叩けるようになったのかしら?」キュウウウゥゥ
浜面「すいません! 謝るから勘弁して下さい!」ガバッ
黒子「……………………………………ぷっ」
浜面「白井っつったか!? 笑ってないで助けてくれぇ!」
ついには土下座をし始めた浜面を見て、黒子は笑顔を見せ始めていた。
麦野とのやり取りがまるで息の合った漫才の様に思えて、本当に仲がいいのだなと感じさせている。
まあ黒子は知らない事だが、あれほどの屈強を乗り越えまた結束した仲なのだ、それが例え恋仲でなくとも二人のやり取りからそう思わせらていた。
- 758 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/06(木) 23:59:05.04 ID:SGTJ9FZDO
黒子「まるでコンビ組んでるみたいですの。美女と野獣とかいう名前でテレビに出てもおかしくないかもしれませんわね」
麦野「浜面とコンビってのは気に食わないけど、美女って言ったのは認めるわ」
浜面「…………………………麦野一人でどっちも体言してるだろうがよ」ボソッ
麦野「あぁん!? なんつったはまーづらぁ? ブチコロシカクテイネ」
浜面「ひいぃっ地獄耳!? まじすんませんっした! 何でもするからどうかお許しをっ!!」
麦野「……………………何でも?」ピク
浜面「何でもしますぅ! だからそのかざした手をどうかお静め下さりませええええぇぇぇっ……………………ってはっ!?」
麦野「……………………何でも……………………ウフフ」
───……………………何やらいけないスイッチでも入れてしまったようですの。
麦野から発せられる圧倒的なオーラと抑圧的なもう一つの顔に、これから彼女と接する機会がある場合絶対彼女を怒らせないようにしようと深く心に刻みながら黒子は尋ね事をする事にした。
黒子「後のお二人は?」
麦野と浜面がここにいる理由として、事情聴取等があったからなのだろう。
だが先程同じ車中にいた残りの二人の姿がない事に疑問を感じていた。
確か、滝壺さん、と絹旗さん、という二人だったろうか。
浜面「ん、まあ絹旗は小さいし滝壺はまだ身体が心配なんでな。黄泉川ももういいって言ってたし、二人とも先に帰した」
麦野「ま、事情聴取なら私達だけでも十分だしね」
黒子「そうでしたの」
身体が心配、という言葉に気になった部分はあるのだが、つい先程知ったばかりの人間だ、事情を聞くのも野暮だろうと黒子は追求はしなかった。
それよりも聞きたい事は色々ある。- 759 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:00:41.83 ID:tDzbSmpDO
麦野、浜面、滝壺、絹旗の四人は一体どんな間柄なのか。
そして浜面と彼の関係は、一体何なのか。
こう言っては失礼なのだが。
黒子から見た浜面は一端のスキルアウトの様で、先程共にいた場所を案内してくれたあのスキルアウトの男と同じ雰囲気を漂わせている。
ジャッジメントの自分からしてみれば、スキルアウトはまさに敵のようなものだ。
黒子が検挙してきた数々の暴力事件、窃盗事件、その他諸々の犯行はほとんど彼らの出。
そんな雰囲気を持つ浜面は、上条と一体どんな間柄を持つのだろうか。
知りたい、聞きたい。
しかし。
───まあ、それも野暮ってものなのでしょうね。
結局は浜面達とも先程知り合ったばかりで、それを聞くのはなかなかに躊躇われてしまう事であった。
麦野「白井さん、だったわね。あの小さいコが助かったっていうのにあまり元気ないわね」
黒子「あ、いえ。その……………………」
麦野「ま、私が気にする事でもだろうけど」
浜面「……………………意外だ、麦野がそんな事を気にかけるとは」ボソッ
麦野「はまづらぁ?」
浜面「何で俺は口が滑るんだ…………………………」ヒクヒク
麦野の言葉に黒子は取り繕う。
自分のそんな雰囲気を察せられて、少々気まずく苦笑いを浮かべた。
- 760 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:02:08.75 ID:tDzbSmpDO
黒子「初春が助かったのは勿論喜ばしい事ですの。いえ、助けなければ初春は………………と考えるとゾッとするほど、初春は大事に思っているのですが…………」
麦野「うん」
黒子「結局、わたくしの力では救えなかったというのが悔しく思っておりまして…………」
麦野「うん」
黒子「能力がなければわたくしはただの力なき女子中学生、という事にわたくし自身に憤りと情けなさを感じておりますの」
麦野「そうなんだ」
黒子「ええ……………………」
情けない。
後輩となった彼の力がなければ、初春は。
ジャッジメントの先輩として、手本になるべき所だったのかもしれない。
いや、それを抜きにして大事な友人がこの手で救えなかった、ただ見ているだけしか出来なかったという悔しさはあった。
能力を封じられた時の対策用としても、血反吐が出るほど訓練したと言うのに。
なのに、友人を盾に取られて身動きが出来なかった。
それが、悔しかった。
情けなかったのだが。
浜面「うーん……………………何か違う気がする」
黒子「え……………………?」
しかし、その浜面が呟いた言葉に黒子は反芻するように聞き返していた。- 761 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:03:30.14 ID:tDzbSmpDO
黒子「………………と、おっしゃいますと?」
浜面「元気がない理由。それじゃねえと思うんだよな」
麦野「やっぱり浜面もそう思う?」
黒子「っ」
浜面が言ったその何気なさそうな言葉に、黒子は核心をつかれた様な思いを感じた。
自分の元気がない、その理由。
それは黒子が先程言った事に嘘偽りはない。
だが、それだけではなかった。
浜面「あん時の取り乱しを見りゃその初春ってコをどれだけ大事に思っているのかはわかってるさ。それでそのコが助かった事にさ、白井さん…………何か言いにくいな、白井でいいか?」
黒子「構いませんの」
浜面「あのコが助かって白井が本当に喜んでいるのはさっきの様子でわかったさ。その時能力が使えたか使えなかったってのはわからねえし、知る由もねえけどさ」
黒子「………………………………」
浜面「でもな、大事な友達が助かったっつー事に、今はもっと嬉しそうな表情をするべきなんじゃねえかと俺は思うんだよ……………………あー、俺自分で何言ってるかわかんねえ」
黒子「つまりわたくしは初春が助かった事を望んでいなかったと……………………?」
浜面「ちg「ううん、そうじゃない」ぬぉ」
黒子「……………………………………」
一体、何が言いたいのだろうか。
自分の今の本当の気持ちが感じ取られているのだろうか。
この二人に心を見透かされた様な思いに駆られた不安を押し殺し、黒子は続きを促した。
浜面「……………………麦野、タッチ」
麦野「そのつもりで口を挟んだ。それで白井さん。浜面も言ってたけど、あなたがそのコが助かった事を喜んでいるのは間違いないわ。でも、今あなたが気にかけているのはその事じゃないはず」
黒子「………………………………」
麦野「そうね……………………大方、『上条』とかいう男の事じゃないかしら?」
黒子「っ」
浜面「そうそれ! それが言いたかった!」
- 762 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:06:08.92 ID:tDzbSmpDO
麦野が口にした彼の名前に、ほんの一瞬だけ肩が跳ねる。
それは、まさに黒子が考えていたワードであり、今現在黒子の心境を覆うものであった。
しかし、何故。
何故この二人には、それがわかった?
心の内を読み取られたか焦燥感の様な動悸が、黒子を襲っている。
確かに彼の事を考えていた。
認めざるをえない彼の力、心の強さ。
行動力、判断力も優れていてそれはもう戦いを知った男の動きでありもした。
なのに。
それをおくびにも出さず、虚栄する事なく、慢心する事なく、謙虚さとそして暖かさを持って接する優しさ。
人の為になるとその力を遺憾無く本領発揮する彼の本質というのを触れて────────それもきっと、彼のほんの一部分なだけなのだろう。
その優しさを向けられる初春が、羨ましい。
そう感じてもいたりしたのだ。
麦野「当たり、でしょ?」
黒子「なぜ……………………」
麦野「あの車の中で。その男を庇う様な事言ってたじゃない? それでなんとなく、ね」
ああ、あの時か。
つい自分の口から自然に出た言葉。
『上条さんを変に言わないで下さいまし』
それに、心の機微を感じ取られていたのか。
- 763 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:07:31.05 ID:tDzbSmpDO
参ったな、と苦笑いを作る。
ここで否定しようにも、意味もないし麦野に口で勝てるとも思わない。
たったあれだけの事でそんな自分の抱え込む複雑な感情を読み取られていたとは、これは参った。
恐らく、彼女にも何かあったのだろう。
それは多分、横にいる浜面という男も交えた、何かが。
それも自分では想像つかない、様々な事が複雑に絡み付いた事情を乗り越えてきたのであろう。
黒子「正解、ですの」クス
麦野「ようやく笑ったわね」
浜面「(麦野にビビっただけなんじゃねえの?)」
麦野「壁のシミ決定ね」
浜面「何も言ってねえじゃねえか!」
本当に息の合った二人だと思う。
それに、女性に言い寄られて……………………とは少し違うか。
からかわれて本気でたじろぐ浜面の姿に、少し彼の姿がダブって見えたりもしていた。
上条「んあ、白井?」
黒子「ふぇ」
浜面「おう、上条」
麦野「あら」
噂をすれば影というものなのだろうか。
思わぬ人物の登場に一瞬心臓が止まった様な気もした。- 764 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:09:10.87 ID:tDzbSmpDO
上条「何してんだ? こんな所で。それに浜面も」
不思議そうな目で黒子を見つめる。
その視線に黒子は戸惑った様でも、また恥ずかしくもあったりしていた。
黒子「い、いえ、その………………」
浜面「いや、事情聴取も終わったし立ち話を少し、な」
上条「そうか。白井も終わったのか?」
黒子「あ、はい…………」
麦野「」ニヤニヤ
上条「と。そちらはさっき車に乗ってた──────」
麦野「あなたが上条くんね? 麦野沈利って言います」
上条「これはご丁寧にどうも。上条当麻と申します」
浜面「(キャラが違ぇ)」
ペコリと頭を下げる上条と麦野。
そんな様子(麦野)に浜面はまるで見た事がないものを見たかのような表情をしていたのだが、そこは麦野に感付かれなかっただけでも彼は運がよかったと言えよう。
とまあそれは置いておいて、上条には気になった事が一つ。
上条「つか、さっき何だか白井が泣きそうに見えたんだが…………」
黒子「っ!?」
上条の言葉に黒子はたじろぐ。
何があった? と心配そうに見つめる視線に黒子は戸惑った。
- 765 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:12:48.38 ID:tDzbSmpDO
上条「はっ、まさか! おい、浜面。てめえが白井を泣かせたんじゃねえだろうな…………?」
浜面「何でそうなるんだよ!? 何もしてねえよ!」
麦野「そうなのよ。実はね、さっきね」
黒子「ちょ、ちが」
上条「オーケー浜面、歯ぁ食いしばれ。俺の拳はちっとばかし響くぞ」
浜面「だから違ぇって! それにお前のパンチなんざもう二度と食らいたくねえ!!」
黒子「お、お待ちになって下さいまし! そうじゃありませんの!」
上条「ん? そうなのか?」
黒子「ええ、浜面さんは別に何もしていませんの」
浜面「助かったああぁぁ~」
麦野「もう二度とって…………どういう事よ、浜面?」
黒子の説得で握った拳を緩める上条を見て、ホッと一息つく浜面。
まあ自分の思わず呟いた一言でまた麦野から質問責めをされるだろう事は予定調和か。
上条「それならいいけどなー、はは」
クシャ────────
黒子「なっ!?///」
ふと黒子は頭に暖かい感触を覚えた。
それを辿ると、学生服の腕の部分が見える。
それは彼の方から伸びていて、つまり今自分の頭を撫でているのは。
考えさせられていた、彼の手であった。
- 766 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:14:25.64 ID:tDzbSmpDO
黒子「ちょ、ちょ、かみ、じょうさん!///」
上条「んー?」
髪に触れられているその感触は暖かく。
傷付かない様に、癒す様に。
まるで、ゆりかごを優しく揺さぶられているかの様な、優しい感触。
少し前までは異性に身体を触られる事すら嫌だったというのに。
でも彼にだけ、触れてほしいと思うこの感情は一体。
しかし、やはり気恥ずかしさが先行してしまうのは仕方のない事なのだろう。
黒子「あ、頭を撫でないで下さいましっ!!///」ガバッ
上条「あ……………………すまん、そうだよな」
払いのける様に振り返った自分の照れ隠しの言葉に、上条は気まずそうに苦笑いを浮かべその手を離す。
本当に悪く思ったのか、彼は次第に真剣な表情になっていた。
上条「そりゃそうだよな、直接じゃなくてもあんな場面見ちまったんだし。男に嫌悪感を持つのもしょうがねえよな」
黒子「ぁ…………………………」
何て事してるんだ、という様な上条の自分で自分を責める様な言葉と雰囲気に黒子は息を飲む。
言葉になくともその顔は謝罪をしているかの様だ。
上条「ましてや嫌っている男に触られたくもねえよな」
黒子「え…………………………」
悪い、と言葉を付け加えて上条は謝ってしまった。
違う。それは違う。
嫌ってなどいない。
断じて違うのだ。
彼の自嘲する様な乾いた笑いに、黒子はその手を取った。- 767 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:15:48.58 ID:tDzbSmpDO
上条「白井……………………?」
黒子「あなたの事。………………嫌ってなどいませんわ」
いや、寧ろ────────。
だがそれをここで言うのは違うのだろう。
はっきりと堂々と胸を張って、とまでではまだない。
答えはいつか、彼と接していく内に自ずと見つかるはず。
上条「そっか。ならよかった」
繋いだ彼の手の感触と、暖かさから。
不思議とそう思えていた。
浜面「何だよ麦野、頭下げて」
麦野「………………………………察しなさいよ、バカ」
浜面「??」
傍観者と成り果てた二人の間にそんな会話があったのだが、それはまた別の機会にしようとしますかね。
本妻、滝壺と愛人(?)麦野と浜面を賭けたドロドロの戦い────────。
それはまたどうなるのかはお楽しm「ブチコロカクテイネ」ごめんなさい。
- 768 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:17:28.55 ID:tDzbSmpDO
初春「あっ当麻さん!」
そんな中、立ち話をしていた廊下にて一人の少女の声が響き四人はそちらに視線を送る。
その少女は彼の姿を見かけると、嬉しそうに駆け寄ってきていた。
上条「おー、初春さん。もう終わったのか?」
初春「はい、今終わったとこなんですよ……………………って!?」
初春の言葉は途中で止まる事となった。
目線は彼の顔から下の方。
彼の身体、腕、手。
その手は、今────────自分の知る、同僚の少女と繋がっている。
初春「………………………………白井さん?」ジト
黒子「はっ!? こ、これは違いますの!」バッ
上条「ぬお」パッ
自分の視線に気付くと、黒子は焦った様に彼から手を離した。
今まで、何をしていたのだろうか。
まったくもって羨ましい事をしていたのか。
初春「当麻さん! 行きましょう!」グイ
上条「のわっ、ちょ」
そう思うと何か嫌な予感の様なものがした気がして、彼の腕をつい引っ張ってしまったのは仕方のない事だ。
黒子から離そうと歩き出そうとしたのだが、そこで先程見た男性と女性の姿に気付くと初春はその足を止める。
………………彼の腕は、抱きかかえたままだが。
- 769 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:18:54.02 ID:tDzbSmpDO
初春「あ、さっきの……………………」
麦野「大丈夫だった?」
浜面「上条、お前って奴は……………………」
先程自分が救出され、ビルの外に出た際に目にした人達だった。
聞けば、自分を助ける為に上条達に助力をしてくれたらしいのだ。
男性の方は彼に何やら恨めしいようなそんな目線を送っているのが気になったが、知り合いなのだろうか。
初春「あの、本当にありがとうございました」ペコ
頭を下げる。
先程、彼らがいなかったらもしかしたら助けられなかったのかもしれないと上条は呟いていて、初春は見知らぬ二人に心底感謝していた。
麦野「よかったわね」
ニコリと笑う女性を見て、やけに包容力のある人だな、と感じた。
それにしても………………。
麦野「……………………どうしたの?」
初春「えっあっ、す、すみません…………その、綺麗な方だなって思いまして…………」アセアセ
麦野「ふふ、ありがとう」
浜面「(やっぱキャラ違うってえええええええぇぇ!!)」
麦野「はまづらぁ」
浜面「(……………………もう何も思わん、うん、思わないったら思わん)」
まさに初春が目指す理想の『大人の女性』を体言した様な容姿、包容力を目の当たりにして初春は見とれてしまっていた。
そんな自分の視線を不快に思われてしまったのかちょっぴり不安になったのだが、クスクスと笑う彼女を見て初春はホッと一息ついていた。
- 770 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:20:21.79 ID:tDzbSmpDO
上条「そうだな、俺からも言っておくか」
黒子「それでは、わたくしからも」
上条・黒子「「本当にありがとうございました」」
初春「あ、ありがとうございました」
初春はもう一度頭を下げて礼をしたのだが、上条と黒子のシンクロする動きに嫉妬して自分もとかは思っていない、うん。
頭を上げると、もういいのにと言った表情で麦野と浜面はお互いの顔を見合って苦笑いを浮かべていた。
- 771 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:21:25.21 ID:tDzbSmpDO
浜面「つか上条。お前このコ達とどんな関係なんだよ」
上条「ん?」
四人で廊下を歩きながら浜面が上条に尋ねていた。
どんな関係と言われても、と苦笑いをして右隣を歩く初春(腕はなぜか組まれている)、左隣を歩く黒子(なぜか近い)を見る。
ちなみに初春はアンチスキルに支給された服に着替えたか、ダボダボの三又マーク付きのジャンバーとジャージのズボンを履いていた。
上条「尊敬すべき先輩達、仲間かな?」
浜面「ん? 先輩達?」
先輩という言葉に浜面は怪訝な表情を浮かべていた。
上条が先輩ではなく、彼女達が先輩。
どういう事だと聞き返していた。
上条「そ。つかまだ言ってなかったな。俺ジャッジメントになったんだよ」
浜面「なぬ」
麦野「へえ」
その上条の言葉になぜか嬉しそうにしている両隣の二人はまあ置いておくとして。
前を歩く浜面は思わず振り返っていた。
浜面「ジャッジメント? 上条が?」
上条「なんだよその言い草」
浜面「いや、な。そりゃお前に合っているかもしれんが」
そういうと浜面は前を振り向き直す。
何やら他にも言いたい事あんのかななんて右隣を見た。
- 772 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:23:00.15 ID:tDzbSmpDO
初春「えへへ」
自分の視線に気付くと、彼女はニッコリと笑ってついには手に指が絡んでいく。
その感触に上条はどきまぎしながらもその手を握り返していた。
尊敬すべき先輩、仲間。
先程はそう言ったのだが、多分。
……………………その言葉では収まらないのだろう。
この右手を包む感触も────────。
麦野「そうそう。あなたのお花、浜面の車に置いてあるわよ」
初春「あっ。ありがとうございます」
浜面「んじゃ帰るか。皆送ってくぞ」
上条「いや、いいよ。初春さんと白井は俺が送っていく。ありがとな、浜面」
黒子「ええ、そこまでご迷惑をおかけする訳にもいきませんの」
浜面「そうか、了解」
ずっと、守るべき、守っていきたいと上条は思えていた。
- 773 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/07(金) 00:26:17.17 ID:tDzbSmpDO
麦野「あー、浜面コンビニ寄ってって」
浜面「ほいほい」
帰りの車中、麦野の言葉に了解の意を告げると浜面は前方に見えたコンビニの駐車場にハンドルを切った。
鮭フレークか何かでも買うのかと思いながら夜の道中には眩し過ぎるくらいの明かりに近付いていく。
手慣れた手つきでバック駐車を済ませると、意気揚々と麦野が車から降りた。
麦野「鮭♪ 鮭♪」
浜面「やっぱりか」
そんな彼女の様子に苦笑いを浮かべると、浜面もコーヒーでも買うかと車を降りると、コンビニの自動ドアが開き、中から一人の女性が出てきたのに気付いた。
浜面「あいつが、ジャッジメントねぇ…………そんなんで収まるタマでもねえだろうがよ」ボソッ
麦野「!」
浜面「ん? どうした麦野?」
その女性を見た麦野の空気が変わった────────そんな、気がした。
番外個体「ったく………………コーヒーくらい自分で買いに行けっつの…………最終信号もお菓子なんかねだらないでよ………………ん??」
麦野「てめぇは……………………超電磁砲? あ、でも何か違う」
浜面「何だ?」
そうして、また新たな事件は起きていく。- 792 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:01:20.89 ID:njpKURODO
番外固体「えー、なんかすっごい睨まれてるんだけど………………」
麦野「……………………………………」
浜面「お、おい、麦野………………?」
困った様な表情を浮かべ、そのコンビニから姿を現した女性は言う。
どこかの民族衣装なのだろうか、白のそれに包まれたその人物は両手に買い物袋を引っ提げており、どうやらこれから帰路に着くのだろうと推測された。
浜面「ん?」
店内からの逆光にて浜面にはしっかりとは女性の顔は見えなかったのだが、目が慣れてくると女性の顔がどこかで見たような顔だと言う事に気付く。
───あの顔、どっかで見たぞ? 確か………………
浜面「確か………………御坂美鈴か?」
麦野「あぁ?」
浜面にとっても、その人物の顔は見知ったものであった。
それは浜面が今は亡き駒場という男の後を継いでこの第七学区のスキルアウトのリーダーになった直後の話。
学園都市上層部からの命で学園都市にやってきた第三位の母親の殺害を実行しようとしたのだが、しかしそれは上条と一方通行に阻止され失敗に終わっていた。
完全に思い出した。
その顔は、その時の被害者になる予定だった顔だ。
忘れようにもない。
自分が変わる一番最初のきっかけとなったあの事件なのだ。
それも今思えば、実際に自分を止めてくれた上条には感謝をしている。
詳しい事情は聞かされてもなく。
ただ殺せとだけ命じられただけだった。
後で聞いた話によると、美鈴はローマ正教と学園都市との戦争に子供が巻き込まれないように連れ戻そうとしただけ。
本当に、未遂に終わって良かったと今ならばそう思えていた。
とはいえ出来ればもう二度と顔を合わせておきたくなかった人物でもあった。
それも当然だ、殺してしまいそうになった人物に今更どの面下げていればいいのかわからない。
いきなりこんな所で出くわして逃げられるか、悲鳴を上げられるかいっそ糾弾でもされんのかなと考えていると、その人物の口が再び開いた。
番外個体「誰それ?」
浜面「………………………………あん?」
麦野「ちょっとどういう事だぁ? 浜面」
肩透かしを食らったような気分になったのは浜面の気のせいではないと思う。- 793 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:02:34.29 ID:njpKURODO
番外個体「ま、とりあえず急いでいるから帰らせてもらうよ。そうそうそこのお兄さん、隣の彼女さんに言っておいてくれる?」
浜面「人違い……………か? いや、確かにあの時の顔だぞ………………
ん? 何をだっつーか彼女じゃねえ」
番外固体「あっつーい視線を向けられるのは別にいいんだけどさ、ミサカにはその趣味はないよって」
麦野「あぁん? 誰が熱い視線を送ってるだって?」
番外個体「ほら、ミサカってば結構モテちゃうから。きゃー、またあの人が嫉妬して夜枕とパンツに染みを作っちゃうよ。ぎゃは☆」
浜面「ちょ、ここコンビニの前d」
麦野「誰がてめぇなんざに劣情を持つかよ。はっ、なんなら今からてめぇのパンツに恐怖の黄色いシミを作らせてやろうか?」
浜面「ここコンビn」
番外個体「えー、ミサカは別に怖いっていう感情はないんだけどなぁ……………………」
麦野「じゃあ今からその感情を身体に刻み込んでやるよ、そのクサレマ○コから内蔵引きずり出してやろうかぁ!?」
浜面「麦野こk」
番外個体「おお、綺麗な顔して結構エグイ事言うんだね。昔のあの人みたいだよ、ぎゃは☆ 昔のあの人実際には知らないけどね」
麦野「はっ、強がって話そらそうったってそうはいかねえぞ? 今だってションベン漏れそうなの我慢してんだろぉ?」
浜面「だかr」
番外個体「もー、なんで初対面の人にいきなりコンビニの前で喧嘩売られなきゃいけないの?」
麦野「ああ? てめぇは御坂美琴じゃねえのかよ?」
番外個体「違うよ?」
麦野「そうか。悪かったな」ウィーン
番外個体「うん、じゃあね」スタスタ
麦野「って納得いくかあああああああああぁぁぁッッッ!!」ダダダッ
番外個体「もー、何なのかなー」モー
浜面「やべ、ちょっともうついていけね」
どっちかっていうと事件というより、喜劇の始まりというのかも知れない。
まあ浜面にとってはとてもそうは言えそうにないのだが。- 794 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:05:31.19 ID:njpKURODO
浜面「どうしてこうなった……………………」
コンビニの前で延々と女の子達に卑猥な叫び声を上げさせている訳にもいかず、浜面は二人を(命懸けで)車に押し込み自身も運転席に引き下がっていた。
車中では物凄い殺気やらのオーラが飛び交っており、窓ガラスがかたかた悲鳴を上げている様な気さえする。
女性を見て機嫌が一変した麦野は元より、初対面というのに車に普通にホイホイ乗り込んできたその女性も女性だった。
二人ともどういう神経してんだよという浜面のこっそりの溜息は誰にも気付かれる事なく空中に消えて行く。
まさか今日一番の疲労感をここで味わう事になるとは。
麦野「それで。てめえは一体誰なんだよ」
番外個体「えー、ミサカはミサカなんだけどな」
麦野「ミサカっつー事は超電磁砲なんじゃねえのか?」
番外個体「ううん、それとは別人」
麦野「……………………ま、超電磁砲ならそんな発育いい訳ねえもんな」
とは言いつつも、麦野の脳内では一つの仮説を立てている。
『絶対能力進化実験』
二万体の軍用クローンを用いて、学園都市第一位を誰も上る事の出来ない高み、レベル6の『絶対能力者』に進化させようというもの。
三人席の間一つを空けて隣に座るこの女は、超電磁砲のクローン、というやつか。
麦野は美琴が研究所を破壊して回っている所、研究所の護衛として一度美琴とは交戦している。
超能力者としてのプライドを持ち臨んだその戦いで、この世から葬ると意気込んでいた麦野は不覚にも遅れを取った。
相手もレベル5だろうがそんな事は麦野に関係なかった。
学園都市暗部のアイテムにて様々な任務に就く中、その圧倒的破壊力で数々の手練れを葬ってきたのに、よもや自分より年齢も下の少女に負けるという事は麦野のプライドに大きな傷痕を付け、その日は撤収となっていた。
麦野としては再戦を待ち望んでいた。
この手で、この能力で。
例え相手の序列が上だったとしても、沸き上がる激情を元にただブチコロスだけ。
そう意気込んでいたのだが、その機会は来なかった。
実験は、凍結されたのだ。
それも何の力も持たない無能力者が、最強の第一位を打ち破ったという根も歯もない噂だけを残して、実験は終わっていたのだった。
詳しい事情は知らない。
それに、麦野にとって実験が凍結されたなどという事は、どうでもいい事実だった。
それよりも、超電磁砲をこの自分の手で葬り去る──────あの時の麦野は、それに尽きていたのだが。
もうその機会は、二度となかった。- 795 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:06:45.26 ID:njpKURODO
その時の、麦野のやり場のない怒りを再燃させる顔が、年齢こそ違えどその姿が僅か横1m足らずの距離にいる。
本人ではないという事は、実はわかっていた。
しかし超電磁砲に対する憎しみのようなもので、美琴にウリフタツの顔を持つその人物に無意識で突っ掛かっている。
番外個体「ねえ、もしかしてあなたは」
麦野「あ?」
番外個体「あの実験の……関係者、なの?」
麦野「………………………………」
麦野が考えていた話題が、彼女によって触れられる。
違ったらどうしようと迷うなどという軟弱な精神も持ち合わせていない麦野は、自分から聞こうと思えば勿論出来た。
ただ自分から話すと言う事は、何故か自分の根負けの様な気がしてそうしなかった。
相手よりも優位に立ち、跪かせるのが趣味というか無意識の内の性格というか。
どうでもいい所というか、変な所でこだわりを持つ麦野であった。
麦野「直接的は関係はなかったが知っている」
番外個体「そうなんだ。ならミサカの事もわかるよね?」
麦野「クローン、なんだろ?」
番外個体「当たり!」
浜面「クローンだと……………………?」
浜面が振り返る。
そこには、まさに一人の女性が足を組んで座っている様子があり。
とても、クローンには見えなかった。- 796 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:07:36.23 ID:njpKURODO
番外個体「あなたも関係者なの?」
浜面「いんや、俺は違う。ただ」
番外個体「?」
麦野「なによ?」
浜面「一方通行から、聞いた」
番外個体「あの人から……………………………………聞いた?」
その時、番外個体の空気が変わった。
- 797 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:08:36.41 ID:njpKURODO
番外個体「え…………う、うそ……………………なんで………………」
浜面「お、おい、どうしたんだ?」
麦野「どうしたんだよ? っつーか第一位から聞いた、だぁ?」
まるで信じられないものを見るかの様に浜面を見る。
それは聞いてはいけないものを聞いてしまったかの様な、その若干隈がかかった様な目を大きく見開かせていた。
彼女の様子に、麦野も怪訝そうな視線を送る。
この女も疑問だし、浜面が第一位と繋がっているかの様なその言い草にも疑問を覚えていた。
浜面「もしかして………………お前は噂の番外個体、か?」
番外個体「嘘……………………だって、何で……………………?」
麦野「番外個体だぁ? ただのクローンじゃねえのか?」
浜面「………………詳しい事を言ってもいいかどうかわからんから伏せておくが、こいつはただのクローンじゃねえらしいな」
麦野「どういう事だよ………………わかんないわよ」
番外個体「嘘、だ……………はずがない……………ぅそだ…………」ブツブツ
浜面と麦野の話にももはや気にも留めず、ただ呆然とした様子で呟く番外個体。
浜面と麦野はそんな彼女の様子をただ窺うだけしか出来ない。
彼女の持つビニール袋がカサッという音を立てていた。
番外個体「あの人、ヒーローさん以外に友達いたの!!??」ビックリ
浜面・麦野「……………………………………は?」
十分な静寂の時間を挟んで、ようやく二人の口から出た声はたったそれだけだった。- 798 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:09:50.73 ID:njpKURODO
番外個体「ねえねえ! あなたってあの人のお友達なの!? うわー、ビックリだよ、あの厨二を極める白モヤシが顔はともかくこんな遅い時間まで異性と戯れ るリア充の友達がいるだなんて! ねえねえ、あの人とどんなお友達なの!? いつもどんなお話してるの!? お友達といる時のあの人ってどうなの!? 黒 い翼が出た時どうやって対処してるの!? あの下品な笑い顔見ても気分は大丈夫なの!? 」
浜面・麦野「」ポカーン
番外個体の剣幕とまくし立てた言葉に面食らった浜面と麦野はあんぐりを開けているだけしか出来ないでいた。
表情はまるで財宝を見つけたトレジャーハンターの様に見え、普段の一方通行の素行という名の眠る情報を片っ端から掘り起こさんとばかりに浜面に問い詰めている。
前の助手席を後ろの座席から抱きしめる様に手を回し、浜面の方に視線を向ける番外個体を見て浜面はひっと怯んでいた。
浜面「お、おう………………友達っつーか戦友っつーか」
番外個体「何それ!? かっこいいじゃん! かー、孤高の一匹狼を気取るあの人にもそんなオトモダチがいるんだねえ」
番外個体は顔に手を当てて随分嬉しそうな表情を作っていた。
一体こいつは何なんだという視線を番外個体に向ける。
一方通行から聞いた話。
手の付けらンねェ奴が一人いて困ってンだよという嘆きを聞いた事がある。
その言葉と番外個体のやんちゃ振りを見て、ああ一方通行が言ってたのはこいつなんだなと納得させられ浜面も苦笑いを作った。
っつーか黒い翼が出た時ってなんだよそれ。
コンコン────────
浜面「ん?」
すると運転席の窓ガラスをノックする音に気付き、浜面は振り返る。
そちらの方に視線を寄越すと────────。
黄泉川「………………………………」ゴゴゴゴゴゴゴ
浜面「ひいいいいぃぃぃぃぃっっっ!!??」
夜叉(そう見えた)がいた。- 799 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:11:15.98 ID:njpKURODO
浜面「よ、黄泉川! な、何か用か……………………はは?」ガチャ、ビシッ
黄泉川「浜面ぁ?」
ドアを開けて車から飛び降りるようにして直立不動の敬礼を見せた浜面に、黄泉川がズイッと詰め寄る。
その表情は怒りに満ちているようにも見えた。
黄泉川「お前……………………ウチの子に何してんじゃん………………?」
浜面「は? う、ウチの子って………………?」
番外個体「あ、ヨミカワー!」
浜面「えっ」
麦野「あら、さっきのアンチスキルの人じゃない」
グルグルと黄泉川、そして番外個体に目を回す。
一体何がなんだかもう理解出来ない。
軽いスモークが張られたパワーウィンドウを麦野が開け、どうもと会釈をすると、黄泉川も麦野の存在に気付いた。
黄泉川「お? 浜面ぁ、お前そっちの子含めてウチの子にまでも何しようとしてたじゃん?」
浜面「何もしようとしてねえよ!? っつかコイツお前の知り合いかよ!?」
黄泉川「番外個体はウチの大事な家族じゃん」
浜面「か、家族だって?」
番外個体「うん、そうだよ?」
麦野「(クローンでアンチスキルの家族って…………得体がしれねえ…………)」
黄泉川「一方通行から番外個体の帰りが遅いって電話きて、おつかいに行ったっていうコンビニまで来てみれば浜面が連れ込んでたから声をかけたじゃん」
浜面「んあ?」
また疑問が増えていく。
一方通行から電話きて、番外個体の帰りが遅い?
番外個体の手荷物見れば買い物に来てたっていうのはわかる。
しかしそれが今はこの場にいない一方通行とどういう繋がりを持つのかいまだ理解出来ないでいるのはきっと浜面の頭がバカだからではない、混乱しているだけなのだ、多分。
次から次へと出てくる驚きの事実に、もう情報の整理も諦めた方がよさそうな気がしてきた。- 800 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:12:45.24 ID:njpKURODO
番外個体「このお兄さん、あの人の数少ないお友達なんだって」
黄泉川「ん? 浜面、一方通行を知っているのか?」
浜面「ん、んん…………まあ」
番外個体「ねえねえ、ヨミカワ。いい事考えたんだけど」ニヤ
黄泉川「ん?」
歯切れの悪い返事をしていると、番外個体が何かを思いついた様な表情を作り車を降りた。
タッタッと黄泉川のいる方に駆け寄り、黄泉川にボソボソと耳打ちをし始めた番外個体に浜面は怪訝と疑問の視線を流していた。
麦野「何なのよ、一体……………………」
浜面「わかんねえ……………………」
麦野の呟きにも呆然と反応するだけ。
色々な事情が複雑に混み合いすぎて、到底浜面の理解も追い付けるもんじゃない。
それは麦野とて同じ事で、そんな麦野の様子に浜面は自分だけじゃなかったとちょっぴり安堵の様な溜息を吐いたのは彼だけの秘密だ。
麦野「何かどっと疲れた」
浜面「俺もだ………………帰るか」
麦野「そうしよ」
はぁと溜息をもう一度つき、車のエンジンをかける。
麦野ももはや買い物の事はどうでもよくなったのか、パワーウィンドウを閉めてどっと背もたれに身体を預けていた。
- 801 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:13:41.38 ID:njpKURODO
番外個体「あ、ちょっと待って!」
浜面「な、なんだよ」
かかった車のエンジン音に反応する様に番外個体は浜面を静止させる。
もう帰らせてくれとぼやいていると、今度は黄泉川が浜面の車の運転席側の窓から中を覗き込んできた。
黄泉川「お二人とも、ウチでご飯食べていかないかって番外個体が言ってるじゃん」
浜面「は?」
いやいや、それは────────。
麦野「………………いや、今日はちょっと」
うん、麦野の言う通り、今日は疲れたし遠慮しようと浜面は口を開きかけたが。
番外個体「何か今日、最終信号にねだられてあの人、一緒に釣りに行ったらしくてさ。食べきれないほどいっぱい釣っちゃったみたいなんだって」
浜面「あいつが釣りかよ………………」
黄泉川「そうそう。一方通行の奴、大量の
『 鮭 』 「」ピク
を持って帰ってきちゃったみたいでさ、余らせてももったいないだけじゃん?
それで誘いたいって番外個体が言ってたんだけど、まあ用事あるなr 「行くわ!」 お?」
番外個体「わぁ、本当!?」
麦野「是非ともお邪魔させていただくわ!」
浜面「む、麦野!? どういうつもりだよ!?」
今、この場で麦野の言動の真意に気付いたのはたった一人しかいないだろう。
麦野「何してるの浜面!? とっとと行くわよ、鮭が私を待っているのよ!」
───やっぱりそれかよおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!
そうして何故か浜面と麦野の二人は黄泉川家の食卓の相伴にあずかる事となった。- 802 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:14:56.48 ID:njpKURODO
浜面「結構でかいマンションだな」
浜面の目の前にそびえ立つ教職員用のそのマンション。
セキュリティやら何やら最新設備がビッシリと搭載されたその建物は何とも奇抜な組み合わせの四人組を迎え入れていた。
エントランスも豪華絢爛────とまではいかないのだが、それでも綺麗な清潔感のある広々としたものであり、対能力者用に特別加工がされてあるロビーの自動ドアを黄泉川が開け、四人は中に入っていった。
麦野「♪」ワクワク、テクテク
浜面「(麦野はもう鮭しか頭にないな…………)」
非常に機嫌の良さそうな麦野を見て浜面は顔をひくつかせる。
先程、番外個体を見た矢先のあの麦野はどこにいったのだろうか。
機嫌はいいに越した事はないのだろうが。
というか麦野は話を聞く限りそこにいる一方通行と会う事になるのだが、それをどう思っているのだろうか。
序列は彼女の三つ上に位置する最強の超能力者。
『アイテム』も『グループ』もお互い学園都市の闇にいた組織で、馴れ合う事など皆無で下手をすれば出会い頭に殺し合が勃発しても不思議ではない立場に位置していた。
物事が色々あれど『最強の能力者』達がここで顔を合わせる。
マンション内のある一室に辿り着くと、黄泉川がドアを開けたのが目に入った。
黄泉川「ただいまー」
打ち止め「あっ、おかえりなさい! ってミサカはミサカは元気にお出迎えしてみたり!」
麦野「え………………今度は小さい超電磁砲だと!?」
浜面「ロリっ子……………………?」
一方通行「あァ? なンの騒ぎですかァ………………って浜面ァ? なンでテメェがここにいやがンだァ?」
浜面「よ、よう一方通行」
番外個体「今帰ったよ、ただいま」
一方通行「遅ェよ。っつゥか何があった」
芳川「お帰りなさい。あら、お客さん?」
麦野「また誰か出てきたし」
浜面「………………俺、こういう時どう反応すればいいのかわかんねぇ」
一方通行の赤い目の怪訝そうな視線を思い切り浴びながら、浜面は出来る事なら帰りたい気分と必死に戦っていた。- 803 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:16:19.12 ID:njpKURODO
一方通行「ンで。どォしてテメェがここにいンだ浜面くンよォ?」
浜面「………………番外個体ってコと黄泉川にご飯に誘われたんだが」
一方通行「お呼びじゃありませン、お帰り願いますゥ」カチャ
麦野「………………とか言いつつコーヒー出してくれてる…………」ドウイウコトヨ
肩身の狭い思いをしながらソファーに座らされて縮こまっている浜面と、出されたコーヒーに口を付けはじめた麦野の気持ちの差があるのはここにきた目的の有無で違うのだろうか。
というか鮭というものだけで第一位の所に乗り込む事が出来る麦野も麦野なのだろう。
黄泉川は料理の支度に入り、番外個体と芳川の姿は今は見えなかった。
一方通行「京都で出されるぶぶづけの意を込めてンだがな」ハン
麦野「本当に歓迎されてないわね」
浜面「ん? どういう事だ?」
一方通行・麦野「浜面って本当に馬鹿だな」
浜面「ちょ、何でいきなり馬鹿にされたんだよ!?」
打ち止め「ぶぶづけってなぁに? ってミサカはミサカはあなたに尋ねてみる!」
一方通行「お前は気にすンな。向こうで番外個体か芳川と遊んでろ」
打ち止め「えー。じゃあ番外個体と遊ぶ事にするよってミサカはミサカはぷんすかちょっぴり怒ってみたり!」
暗に帰れと言わんばかりに一方通行から出されたコーヒーをあまり気にしない様子で麦野は啜っているが、浜面はそれに込められた意味がいまいち把握出来てない様子だった。
麦野「可愛いわねあの子。それよりこんな奴が第一位、とはね」
一方通行「つかテメェは誰なンだよ」
浜面「あ、一方通行、そのだな」
一方通行の視線が麦野を捉える。
暗部にいた頃からというか、昔からの一方通行の癖の様なもので爪先から順に見定める様に麦野を見ていた。- 804 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:17:31.05 ID:njpKURODO
一方通行「まァ何となく予想はついてンだがな」
麦野「あら、わかるの?」
一方通行「原子崩し、だろォ?」
麦野「そうよ」
浜面「」オロオロ
大丈夫かよといった表情でその二人の会話の様子を見守る浜面。
悪い方向に流れてここで戦闘なんて事になったら浜面としてはもうどうしようもないし、どうしても避けたいところでありもした。
一方通行「ンで、何でここに来たンだ?」
麦野「そこでこちらの様子をコソコソ窺ってる番外個体に誘われて来ただけよ」
一方通行「知ってたのか?」
麦野「ううん、さっき初めて会った」
一方通行「そォか」ズズッ
麦野「うん」ズズッ
浜面「 」ポカーン
しかしそんな自分の心配はいらぬものだったのか、想定した事態とはまるで違いごく普通の会話が展開されている。
一方通行と麦野。
気分的に会わせてはいけない二人だと感じていたのは浜面だけであったのだろうか、特に二人の様子にこれといった危惧はない。
和やかな、とは言えないのだが敵対も攻撃的な雰囲気もなく浜面はホッと一息ついていた。
- 805 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:18:23.92 ID:njpKURODO
一方通行「それで、『そっち』の方は最近どォなンだ?」
麦野「別に。暇な日々を送っているわ、『誰かさん』が色々ぶっ壊したせいで、ね」
一方通行「その割には生き生きとした顔してンじゃねェか」
麦野「……………………………………まあ、ね」
まるで二人にしかわからないような言葉を並べる。
気兼ねない会話の様に見えるのだが、実はお互い慎重に相手の様子を窺っていたりもしていた。
それぞれ『アイテム』と『グループ』に所属していた者同士、その時培った行動要素はあくまで裏で闇である。
得体の知れない相手に自分をさらけ出す事など愚行もいい所、機密情報やら命やらどうぞ持って行って下さいと言っている様なものなのだ。
その危惧を知り尽くしている二人は、平穏を手に入れたかに見えている今現在の生活でもそのスタイルを崩す事はない。
ただお互い似た様な境遇を持つ二人。
争い合う必要のないこの日常で、今は幸せとも言えるものを知り、背負った。
それを守っていきたい。
浜面(なんか知らんが助かった……………………)
二人が交わす会話にも段々と笑顔が零れはじめ────────
番外個体「ちょちょちょちょ、予想した展開と違う!!」
打ち止め「あなたってまた違う人にフラグ立てちゃうの!? そんなのダメだよ! ってミサカはミサカは二人の間に割って入ってみる!」
一方通行「あァ? 展開ってなンだよ展開って」
番外個体「あなたがオトモダチとどんな会話してるのか気になって聞いてたのにあなたってその綺麗なお姉さんとお話してばっかだし! 何? あなたってそんなに女好きだったの!?」ギュウ
打ち止め「あなたはミサカだけ見てればいいの! ってミサカはミサカは現れた第三のライバルに危機感を覚えてみたり!」ギュウウウ
一方通行「だあああァァァ、うっとォしィ離れろォォ!!」
麦野「………………………………ぷっ」
浜面「やべぇ、俺置いてけぼりくらってる?」
話を割って飛び出てきた二人に囲まれる一方通行を見て、最凶の第一位という噂の姿はどこにもなかった。- 806 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:19:53.64 ID:njpKURODO
浜面「もう鮭はいらねぇ……………………うぷ」
麦野「鮭のムニエル、カルパッチョ、西京焼き、バターポン酢焼き、鮭ハンバーグ……………………あぁ夢がいっぱい詰まった料理だった」
浜面「それも全部炊飯器で作ったってのがありえん」
麦野「それには完全に同意だわ…………私も炊飯器の数増やそうかしら」
帰り道で麦野の艶々とした声が車内で響く。
浜面はハンドルを持ちながら胸やけがしたのを必死に堪え、何とか帰路の道を走っている様だった。
麦野「今日来てよかったわね」
浜面「お前はよかっただろうけどよ…………」
チラ、とルームミラーで後ろの座席に置かれたクーラーボックスを見て浜面は溜息を吐く。
ウチ全員少食だし食い切れねェのももったいないから持って帰れェというありがたいお言葉とブツを麦野は意気揚々と受け取っていた。
浜面としてはもう鮭という言葉を見るのも嫌なほど食べさせられ、実際後部座席から漂ってくる鮭の匂いでさえももう勘弁してほしいくらいであった。
麦野「それもそうだけど。ほら、あの子達とも仲良くなれたし」
浜面「…………………………それは果てしなく意外だったが」
あれから麦野は番外個体と打ち止めと何故か意気投合しており、食事中は気兼ねなく会話までしていたのだ。
三人の共通として実は可愛いもの好きという趣向がシンクロしたのか、非常にぬいぐるみの事や人形の事やでやいのやいのはしゃいでいた。
そんな場面を見た浜面と一方通行は、この三人が結託したら何だかやばそうだと盛大に冷や汗を流し、これからのお互いの気苦労を労っていた。- 807 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/10(月) 00:20:49.19 ID:njpKURODO
浜面「ん?」
麦野「何あれ?」
ははと乾いた笑いを浮かべていると、明るい街の一角で人だかりが出来ていることに気付いた。
アンチスキルの車両や、救急車までもが端に止まっていて何か事件でもあったのだろうかと推測された。
浜面「喧嘩かなんかあったのか?」
麦野「どうでしょうね。まあ私達には関係ないでしょ、行こう浜面」
浜面「そうだな」
今日は色々な事があって一段と疲れた。
こんな日はさっさと帰って寝てしまうに限ると浜面はグイッとアクセルペダルを踏み込んでいた。
翌朝の朝刊で浜面と麦野がその時見たものが重大事件だという事を語る。
それはこの学園都市を揺さぶるあんな事に発展する事になるとは、この時まだ誰も思っていなかった。
- 823 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 01:04:35.68 ID:DD59YF6DO
pipipipi、pipipipi、pipipipi────────
上条「んが……、んー…………ふあー………………」ノソ
けたたましく鳴る目覚まし時計の音で上条当麻はいつもの浴槽の中で目が覚める。
毛布を被ったままバシッとそれを止めると、いまだ目はほぼ閉じたままだがのっそりと起き上がった。
上条「さみー………………」
本格的な冬が到来していて、一日の中で一番気温の低い早朝の寒さを実感している内に段々と意識が覚醒してくる。
学園都市製のデジタル時計は『07:00 (金)』と表示されていて、今日を乗り気ってしまえば明日は学校も休みの日になる。
よし、起きるかと小さく声に出すと布団を畳みまずは朝食の準備に取り掛かった。
簡単なスクランブルエッグと味噌汁を手早く仕上げると、そこで『匂い』に反応してインデックスが目を覚ます。身体を起こし、目は瞑ったままなのだが鼻をすんすんとさせる様子はいつも通りなので自分はとりあえず洗面と歯磨きの為に洗面所に向かった。
上条「ん、そういえばガーゼは朝昼夜に替えろって言ってたっけ」
鏡に映る自分の左頬を見て上条は昨日、自分を診た主治医(?)の冥土帰しの言葉を思い出していた。
傷口から出た血や膿でそのガーゼが少し引っ付いており、取る際にピリッとした痛みを感じたがそのままにしておく訳にもいかないだろう。
しかめっつらをしながらガーゼを取り去ると、横一線に刻まれた傷痕がそこにはあった。
上条「ふーん、こんな感じか」
それを目にした所で別段そこまで興味も示さず、すぐに新しいガーゼを頬に貼り付ける。
もし、傷付いたのが自分ではなく、彼女だったのならば。
上条「………………………………」
あと少し。あと少し遅かったのなら、どうなっていたのだろう。
いや考えるまでもなく、彼女は──────。- 824 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 01:06:57.37 ID:DD59YF6DO
ふう、と一息入れるとインデックスが洗面所まで来ていた事に気が付く。
寝呆け顔のまま歯ブラシを手に取ると、ルーティンワークの様に歯磨き粉を付け歯を磨きはじめた。
インデックス「うにゅ…………とうまぁ、ほっぺた大丈夫?」
上条「おー、大丈夫だ、サンキュ。あの先生に診てもらえば大方大丈夫だしな」
インデックス「あんまり無茶したらダメなんだよー…………」シャコシャコ
上条「ああ、わかってる。心配かけちまったな」
うにゅーと寝ぼけまなこのまま歯を磨くインデックスにもう一度サンキュと言っておくと、上条はリビングに戻って行った。
さて、朝飯でもしっかり食って元気出して学校でも行くとしますか。
- 825 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 01:55:47.35 ID:pU0AmOL9o
上条「うぃーす」
青ピ「おはよーさん、カミやん。ってその頬どないしたんや?」
土御門「おっすカミやん」
学校に着き、クラスメイト達と挨拶を交わしながら席に着くと、まあ予想していた質問が飛んでくる。
金曜日の学校というのは月~木に比べて学生達のテンションが上がる日で、いつもよりわいわい楽しげな喧騒に溢れていた。
上条「別に大した事じゃないさ」
吹寄「上条当麻、また喧嘩なんかしたの?」
上条「そんなんじゃないって、ってかまたって何だよまたって。上条さんはそんな喧嘩なんかしませんよ」
青ピ「どうせカミやんの事や、女の子にぶたれたんとちゃう?」
姫神「また上条くんは。女の子を泣かせたの?」
上条「何でそうなるの!?」
どいつもこいつも俺に何かがあると全部女の子関係だと疑いやがる。そうじゃねえってのに…………とまで考えたのだが、そういえば女の子絡みなんだっけと思い返しては何も言い返せなくなってしまった上条。
デルタフォース+吹寄、姫神といういつものメンバーに加えて周りのクラスメイト達も上条の様子に「また上条か」という視線を一斉に浴びせていた。
上条「う……………………」
男共からは非難、女子生徒達からは何やら複雑な視線を浴び上条は反論も出来ずにその身を縮こませる。
昨日帰宅してから、インデックスを預けた事情を説明した土御門に助けを求めるが土御門もニヤニヤして我関せずの姿勢を貫くつもりのようだった。- 826 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 01:55:59.30 ID:DD59YF6DO
上条「うぃーす」
青ピ「おはよーさん、カミやん。ってその頬どないしたんや?」
土御門「おっすカミやん」
学校に着き、クラスメイト達と挨拶を交わしながら席に着くと、まあ予想していた質問が飛んでくる。
金曜日の学校というのは月~木に比べて学生達のテンションが上がる日で、いつもよりわいわい楽しげな喧騒に溢れていた。
上条「別に大した事じゃないさ」
吹寄「上条当麻、また喧嘩なんかしたの?」
上条「そんなんじゃないって、ってかまたって何だよまたって。上条さんはそんな喧嘩なんかしませんよ」
青ピ「どうせカミやんの事や、女の子にぶたれたんとちゃう?」
姫神「また上条くんは。女の子を泣かせたの?」
上条「何でそうなるの!?」
どいつもこいつも俺に何かがあると全部女の子関係だと疑いやがる。そうじゃねえってのに…………とまで考えたのだが、そういえば女の子絡みなんだっけと思い返しては何も言い返せなくなってしまった上条。
デルタフォース+吹寄、姫神といういつものメンバーに加えて周りのクラスメイト達も上条の様子に「また上条か」という視線を一斉に浴びせていた。
上条「う……………………」
男共からは非難、女子生徒達からは何やら複雑な視線を浴び上条は反論も出来ずにその身を縮こませる。
昨日帰宅してから、インデックスを預けた事情を説明した土御門に助けを求めるが土御門もニヤニヤして我関せずの姿勢を貫くつもりのようだった。
- 827 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 01:56:02.45 ID:pU0AmOL9o
上条「うぃーす」
青ピ「おはよーさん、カミやん。ってその頬どないしたんや?」
土御門「おっすカミやん」
学校に着き、クラスメイト達と挨拶を交わしながら席に着くと、まあ予想していた質問が飛んでくる。
金曜日の学校というのは月~木に比べて学生達のテンションが上がる日で、いつもよりわいわい楽しげな喧騒に溢れていた。
上条「別に大した事じゃないさ」
吹寄「上条当麻、また喧嘩なんかしたの?」
上条「そんなんじゃないって、ってかまたって何だよまたって。上条さんはそんな喧嘩なんかしませんよ」
青ピ「どうせカミやんの事や、女の子にぶたれたんとちゃう?」
姫神「また上条くんは。女の子を泣かせたの?」
上条「何でそうなるの!?」
どいつもこいつも俺に何かがあると全部女の子関係だと疑いやがる。そうじゃねえってのに…………とまで考えたのだが、そういえば女の子絡みなんだっけと思い返しては何も言い返せなくなってしまった上条。
デルタフォース+吹寄、姫神といういつものメンバーに加えて周りのクラスメイト達も上条の様子に「また上条か」という視線を一斉に浴びせていた。
上条「う……………………」
男共からは非難、女子生徒達からは何やら複雑な視線を浴び上条は反論も出来ずにその身を縮こませる。
昨日帰宅してから、インデックスを預けた事情を説明した土御門に助けを求めるが土御門もニヤニヤして我関せずの姿勢を貫くつもりのようだった。- 828 : ◆LKuWwCMpeE[sage]:2011/10/12(水) 02:00:35.14 ID:DD59YF6DO
- ぎゃあああああああああああ
>>826と>>827はなかった事にしてくれ・・・ - 829 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 02:01:37.43 ID:DD59YF6DO
小萌「はーい皆さん席に着きやがれなのですーっ」
青ピ「小萌てんてー! 今日も可愛いなぁ」
上条「………………ほっ、助かった」
するとそこで担任である小萌が姿を現し集まっていた視線が雲散すると上条はほっと一息ついたのだが。
小萌「か………………上条ちゃんっ! そのほっぺはどうしたのですか!?」ダダッ
上条「うっ………………」
当の本人がまた注目を集めさせる事をするのだから仕方がない。
クラス内の第一に上条を見る癖のある小萌は、上条の顔を見るとすぐさまそばまで駆け寄った。
頬に貼られたガーゼを見ると、痛々しそうな表情を作って頬に手を当てる様な仕草を見せる。
青ピ「てんてー、カミやん大丈夫らしいで」
小萌「あぁ…………上条ちゃん痛かったですか? 大丈夫なのですか?」アワワ
上条「いや、あの、小萌先生」
青ピ「特に問題はあらへんみたいなんやってー」
小萌「けっ怪我したのはほっぺただけですかっ? ほ、他にあるのなら先生が色々面倒見てあげるのですよっ?」
上条「大丈夫ですって。ほら、朝礼始めましょうよ」
青ピ「てんてー、ボクの面倒見てやー」
小萌「ぁわわわわ、上条ちゃぁん…………」
上条「だから大丈夫ですって………………」
青ピ「………………………………グスン」
姫神「…………………………どんまい」
- 830 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 02:03:24.84 ID:DD59YF6DO
段々と顔を青ざめていった小萌に上条も焦りながら慰める。
隣ではまた顔色がその青い髪の色に近くなっていった者もいたのだがそれはまあいいだろう。
何とか小萌をなだめ、ホームルームを始めさせた所で上条は疲れがどっと来たような気がしたのだが、まあ慣れた事なので特に気にする事でもない。
それよりもクラスの男共から
『おのれ上条』
といった視線が背中やら色々突き刺さる事をどうにかしたかったがどうしようもないのだろう。
気にしたら負けといった具合にいつも通り(え)のクラス内の雰囲気であった。
- 831 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 02:04:20.55 ID:DD59YF6DO
佐天「初春ー! ご飯一緒に食べよー」
初春「はぁい」
こちらは柵川中学校の昼休み。
佐天と初春の二人は同じ机で弁当を広げていた。
今日は冬にしてはちょっぴり暖かい陽気の日でそれに相乗するように佐天の声もまた一段と明るく輝いていた。
佐天「今日ジャッジメントの非番の日でしょ?」
初春「はい、そうですよ」
もきゅもきゅとタコさんウインナーを口に運ぶ。
今日の出来はまずまずかなと感じながら今日の予定を思い浮かべると、初春はそういえば行かなきゃいけない所があった事を思い出した。
初春「今日はセブンスミストに行かなきゃなぁ」
佐天「制服、ダメになっちゃったもんね………………」
今現在の初春の恰好は、柵川中学指定の体操服に身を包んでいる。
昨晩のあの時、『ブル』に制服を切り裂かれ、もう使い物にならなくされていた。
破かれた制服は証拠物品として押収され、初春の手元にも今はない。
手元にあった所でどうしようもないのだが、あれを見てしまうとあの時の恐怖を思い出してしまいそうで、それはそれでよかったのかもしれない。
花飾りもあの時乱暴に引っ張られたりして、所々造花が崩れており。
今日の初春の頭を飾っているのは、いつもの花飾りではなく佐天が付けているものと同じ様な一輪の花のヘアピンだった。
初春「佐天さん今日時間ありますか? 一緒に行きません?」
佐天「うん、行く行く!」
まあ過ぎた事だし、あんな事で休み日の前の気分を壊されたくもない。
佐天も笑顔で首を縦に振ると、初春も嬉しそうな顔をして弁当の残りに取り掛かる事にした。- 832 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 02:05:29.29 ID:DD59YF6DO
佐天「ねえねえ初春」
初春「何ですか?」
佐天「『当麻さん』も誘っちゃう?」ニヤ
初春「さ、佐天さん!/// と、当麻さんって言わないで下さい! それに当麻さんも予定あるでしょうし………………でも、会いたいな…………」
佐天「誘ってみなきゃわかんないよ、初春ー」ニヤニヤ
初春「うぅ……………………///」
佐天「もう、そんなモタモタしてたら私が誘っちゃうよ?」pi
初春「えっ、ちょちょちょ、佐天さん!?」
佐天が携帯を取り出した所で初春が目を大きく見開かせてその様子を見ていた。
まるで佐天が彼の連絡先を知っているかのような雰囲気で──────知っているのー?
佐天「ほらほら、早くしないと私が電話しちゃうよ?」
初春「ちょっと待って下さいってば!///」
迷惑に思われないかなーという懸念を押さえ込み、初春はそのまま短縮ボタンを押すと携帯電話を耳に当てはじめた。
ちなみに佐天は黒子が仕事上の関係という事で上条の電話番号を尋ねた際に、私も私もと実は上条と電話番号を交換していたのは完全に余談である。- 833 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 02:06:34.83 ID:DD59YF6DO
青ピ「んー、やっと終わったでー! お、カミやんゲーセン行かへん?」
上条「わり、今日ちと用事あんだよな」
青ピ「何や、最近付き合い悪いでー」
上条「すまんすまん。また誘ってくれー」
青ピ「はいな」
放課後を告げるチャイムが鳴ると同時に、一斉に教室内は騒がしくなる。
クラスメイト達の喧騒に加わって伸びをしながら青ピが誘ってきたのだが、上条は申し訳ない表情を作った。
上条の返答にぶーぶーと青ピは文句を言うのだが、基本的にはものわかりのいい友人である。
青ピも笑って手をヒラヒラさせると、今度は吹寄と姫神に声を掛けているのが目に映った。
んじゃ行きますか、とクラスメイト達に挨拶を交わして教室を出る事にした。- 834 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 02:07:32.16 ID:DD59YF6DO
靴を履き替え、校門に向かうと何やら人だかりが出来ている事に気が付く。
───………………おいおい、もしかして。
オイオイ、ナンダヨアノガイジンノコ
コッチノコモカワイイナ!
メッチャカワイイ!
アノコチュウガクセイ? ムネデケエナオイ
シュウドウフクキテルケドシスターサンカナ?
ヤベクンカクンカシテエメッチャイイニオイシソウ
コノコタチダレカマッテンノカナ?
初春「と、当麻さん! こ、こんにちは///」
インデックス「あ、とうまー! 遅いんだよ! もっと早く来てくれると嬉しいかも!」
佐天「こんにちはーっ」
上条「……………………はは」ヤッパリカ
上条の姿を見掛けたかと思うと、人だかりを掻き分けてその三人が駆け寄ってくる。
その様子に周りの人だかりの空気が変わった。
オイオイマタカミジョウカヨ
クソ、ナンデアイツバッカリ
アノコタチカミジョウクンノナンナノ?
ハワイアン!
ワタシノカミジョウクンガ!
ドウセオレニハカンケイネエヨ、ドウセオレニハ…
スレタテテヤル
上条「じゃ、じゃあ行きますか!」
初春「はいっ!」
インデックス「おっかいもの、おっかいもの♪」
佐天「(そりゃ早く立ち去りたくなるよね)」
そうして上条は逃げるように三人を伴ってこの場から早く離れる事にした。
ちなみにだが。
昼休みに電話が来て誘われた際、家でゴロゴロしているインデックスも誘う事をOKしてくれたのはいいのだが、肝心の待ち合わせ場所をちゃんと決めておけばよかったと少々後悔していたのはまあ別にいい事なのだろう。
- 835 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 02:09:32.29 ID:DD59YF6DO
上条「しかしセブンスミストにも制服って置いてあるんだな」
初春「セブンスミストも色々なもの取り扱ってるみたいなんですよ。詳しくはセブンスミストの中の違うお店って感じですけど」
佐天「大体私はセブンスミストかな」
インデックス「そこって食べ物は置いてないのかなぁ?」
上条「………………ないぞ、多分。しかしジャッジメントも制服とか保障してくれるんだな」
初春「仕事上仕方ない部分もありますからね」
初春が一枚の切手サイズの紙を取り出すと上条に手渡した。
『風紀委員受給手配書』と書かれたその紙は、仕事上で起こった職員の私物の損害保障をするもの。
それはジャッジメントが結ぶ提携店ならどこでも使用でき、その金額は全てジャッジメントが保障するというものである。
とは言え学業に関する物のみだったり不正を取られない様に色々な条件はあるのだが、初春の場合は保障の範囲内であったらしい。
たかだが学生服とはいえども一学生からしてみれば結構な支出となり、それくらいの恩恵はあってもいいのだろう。
ふんふん、と感慨にふけながらその紙を初春に返すと、初春はニコッと笑って上条に寄り添う様に隣を歩き出していた。
初春「あ、ついでにお花も買わなきゃ」
上条「そういえばあれ、今日は着けてないんだな」
初春「はい、あの時乱暴に毟られたりしましたから………………」
上条「………………思い出させて悪い」
初春「あ、いえ、大丈夫ですよ。当麻さんが守ってくれましたから………………///」- 836 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/12(水) 02:10:52.07 ID:DD59YF6DO
上条「………………いつだって呼んでくれれば助けに行くぞ」ナデ
初春「あ、ありがとうございます………………///」プシュー
インデックス「むー………………」プクー
佐天「ほう」ニヤ
絹旗「ほうほう」ニヤニヤ
こうして上条達はセブンスミストへの道を向かって行った。
上条「えっ」
初春「えっ?」
佐天「えっ??」
インデックス「??」
絹旗「超暇でぶらついてたら見つけたのでついてきちゃいました」
それにプラスアルファを足して、だったが。
- 848 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:36:22.52 ID:pl7QZErDO
休みの感覚を味わう学生達でごった返す街中で四人の視線は珍客に集まっていた。
ふわふわしたニットのワンピースを着た(超かわいい)思わぬ客。
ワンピースの丈は太股を限界付近までさらしているのだが、不思議と淫らさや卑しさはない健康的なイメージを醸し出しているその少女。
佐天「あっ、昨日の」
絹旗「超どうもです」
佐天が昨日の事を思い出すように口に出すと、絹旗もそれに返事をする様に軽く会釈した。
というか、暇だからついてきたって………………知らない人について行っちゃいけません! なんて言える訳もなくとりあえず上条は声をかけることにした。
上条「えっと。絹旗さん、でよかったよな?」
絹旗「はい。以前は超お世話になりましたね」
上条「なんのなんの。それに昨日はこっちの方が世話になったんだし、おあいこという事でいいんじゃないか?」
絹旗「私が超お世話になったあれとは随分状況的な差がある様な気もしますが」
上条「人が危険にさらされた状況に優劣なんて付けれるもんじゃないぞ。それに俺なんざ、あん時能力を打ち消しただけだ。特に大した事はしてないし」
絹旗「それが超大した事だったんですけどね………………」
上条「ま、昨日はあれからごちゃごちゃしてたからきちんとした礼を言えてなかったな。すまん、本当に昨日はありがとう」ペコ
絹旗「それなら私も言ってなかったです。あの時は本当に超ありがとうございました」ペコ
お互いに揃って頭を下げるが。
もちろんこの状況的にそのまますっぽり収まる訳もない。
初春「ちょちょ、ちょっと待ってくださいっ! と、当麻さん一体どういう事なんですかっ!?」ガバッ
インデックス「とうまああああああぁぁぁぁ? どういう事かなああああぁぁぁぁ?」グルルル
それぞれ三人思い思いの言葉を口に出しながら上条と絹旗を交互に見つめていた。- 849 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:37:20.85 ID:pl7QZErDO
この二人に何があった、また新手のライバル現れたのかと初春とインデックスは警戒の表情を浮かべる。
二人ともダッと上条の傍まで駆け寄ると左右に散らばり、初春は右腕、インデックスは左腕を取って「うー」と唸って絹旗の方を見ていた。
威嚇でもしているのだろうか。ただ二人の容姿からして全くと言っていいほど迫力はない。
上条「のわっ、ちょ、二人とも」グイ グイ
絹旗「ふむふむ」
佐天「ほむほむ」
インデックス「………………………………」グルル
途中からインデックスのロックオンが上条の頭部に切り替わっており、ここで選択肢を間違えれば流血間違いなしの状況になっていたが。
キュ────────────
初春「………………………………」ギュ
右腕を引っ張る力が強まる。
何だろう、少し彼女は震えている様だった。
上条「どうした?」
彼女の視線も自分に切り替わっていた事に気付き、そちらに目を合わせると。
睫毛も長いつぶらな瞳は、少し潤んでいる様な気がした。それを、上条も無意識の内に強く握り返していた。
絹旗「ほほう。浜面から超聞きましたが、相当なプレイボーイの様ですね」ニヤ
佐天「プレイボウッ!」シャッ
上条「はい? 浜面は何吹き込んでんだよ………………上条さんは生まれてこの方モテた事なんかありませんってのに」
絹旗・佐天「は?」
初春「」ギュウウウゥゥゥ
インデックス「………………………………」ハァァ
いやいやこの状況で何を言い出すんですかこの人はと絹旗と佐天の信じられないという視線が上条に突き刺さる。
しかしそれで敏感な者なら何かに気付くのだが、?マークを浮かべてそんな視線も真っ向から無効化しているその表情に幻想殺しでも作動しているのではないかという疑問さえ浮かんでしまう。
さすが上条、としかもはや言えまい。- 850 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:39:28.38 ID:pl7QZErDO
絹旗「ま、まあそれで。揃ってどこかに超お出かけですか?」
上条「ん。昨日の件で初春さんの制服がダメになっちまったから制服買いにセブンスミストに行こうって所なんだ。そっちは………………ってさっき暇だって言ってたか」
絹旗「そうなんですよ。麦野は眠いって私の誘いも一蹴しちゃいましたし滝壺さんは麦野と超一緒に寝ちゃいましたし、浜面で遊ぶという選択肢も超あったんですけど用事あるとか言って出かけやがりましたし。超暇してました」
上条「お、おう………………そうなのか」
浜面『で』遊ぶと絹旗が言い捨てた助詞に冷や汗をかきながら曖昧な返事を返す上条。
絹旗とは二回くらいしか顔を合わせてもなく、こんな風に会話したのはこれが初めてである。
実は浜面から少し話を聞いていたのだが、浜面が言っていたそのイメージ通りで、やはり上条の受けた印象としても超変わったコ、といった感じだった。
その時の浜面からは、絹旗とは対等な立場だぜと別にいらない情報を聞かされていたのだが、絹旗の様子を見るにとてもそんな感じではなさそうな事に苦笑いを浮かべるしかなかった。
絹旗「それよりも、そっちの子………………初春さんでしたね。昨日は助かって超よかったですね」
初春「は、はい…………あの、昨日は本当にありがとうございました」ペコ
絹旗の視線が初春に向くと、初春も一旦上条の腕を離して絹旗に礼を告げる。
超気にしないでくださいと笑顔を作ると、絹旗は初春の傍まで寄った。
絹旗「…………………………乙女の超ピンチに駆け付けてくれるあなたの王子様をどうこうするつもりはありませんよ。超安心してください」ボソ
初春「…………………………おおおおおううじじ、サマ…………///」ポンッ
そんな絹旗の耳打ちに、初春の顔は真っ赤に染まっていく。
チラチラと上条の顔を見たり視線を戻したり。
目をグルグル回してあわわわわと恥ずかしげに顔を両手で隠す初春を見た絹旗は。
キュッと抱きついていた。- 851 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:42:01.27 ID:pl7QZErDO
初春「わっ///」
絹旗「何この子、超かわいいです!」
突然抱きしめられた初春は驚きの表情を張り付けて静止する事となった。
キュッと身体を引き寄せられる感覚。
その感覚が、絹旗への警戒心をいつしか無くしていた。
佐天「む、なんか初春を取られそうな予感………………」
インデックス「仲良きことはピロシキかな、なんだよ」
上条「お前は食べ物にしか関心を示さんのかい。まあ仲がいいのがいい事だっつーのには同感だけどな」
そんな微笑ましい光景を見ていた三人は、そんな事を呟きながらやりたいようにさせていた。
初春と絹旗。二人とも超かわいい。
背丈も同じくらい、年齢も同じくらい。
髪型も似ていて、意外と共通点は多い。二人とも超かわいい。
何となく馬が合いそうな感じがしたのは上条の気のせいではないのだろう。
- 852 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:43:27.47 ID:pl7QZErDO
浜面「よう。ワリイな、昨日は」
「いや、別にいいぜ。かわいい子達の笑顔が見れりゃ安いモンだ。それにまだ見つけられてねえみてぇだしなー」
昨日と同じあのファミレスで、浜面とスキルアウトの男は顔を合わせていた。
悪びれる様子の浜面に対して気にするなという返答と共にコーヒーを口に運び、指で挟んだ煙草を咥えると紫煙を吐き出す。
結局、昨日は碌な情報交換も出来ずにいた。
浜面としては手伝うと言った手前、協力の姿勢を止める事はしたくはなかった。
「無事だったらしいし。一件落着って事でいいじゃねえか」
浜面「お前、いい奴だな」
「あぁ? ま、『ブル』の野郎にゃ俺達の仲間も酷い目に合わされたって奴もいたからな、灸でも据えとくかって思ってた所だったしちょうどよかったぜ、かかか」
愉快そうに口角を釣り上げて笑う姿に浜面もつられて白い歯を見せる。
仲間思いのその様子に、どうやらこの自分が抜けた後の第七学区のスキルアウトのグループに対する心配はいらないようだった。
「ああ、そういや半蔵も来るぜ」
浜面「半蔵が? 何でまた」
- 853 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:44:43.37 ID:pl7QZErDO
「情報収集って言ったらアイツだろ?」
服部半蔵。伊賀服部家の忍者の末裔である男だ。
今現在は浜面が抜けた後の第七学区のスキルアウト達を束ねており、浜面の親友の一人であった。
ただ彼の本来の立ち位置としては作戦立案、計画組立等の遊撃を主としており、情報収集も彼の得意とするものなのだ。
そういった裏方の仕事役をする自分としては、集団を束ねるといった長的なポジションは合わないと彼は言う。
「いらっしゃいませー!!」
「お、噂をすれば何とやらか。おおい、こっちだ!」
半蔵「なんだ、浜面もいたのか」
浜面「よう」
いつも思う。
忍を心得ているという本人の談なのだが、全身黒で統一されている姿は逆に注目を浴びさせているのではなかろうか。
上下の服だけならまだしも頭に巻いたバンダナ?の様な物まで黒い。
郭という少女をとやかく言う前にお前も忍ぶ気ねえんじゃねーのか、という喉まで出かかってる疑問を我慢しながら半蔵が席につくまで待つ事にした。
実際ウェイトレスさんも、え、何この人みたいな視線を一瞬送っていたし。
「それで、どうだった?」
半蔵「ああ、大体のスキルアウトが動いてる状況だな。どこのボスも部下使って探させてるという話だ」
浜面「俺らはこんな悠長にティータイムに洒落込んでてもいいもんなのかね」
「どうせそいつらは何のアテもなしに走り回ってるだけなんだろ?」
無駄無駄、といった様子で肩をすくめる。
浜面はそんな様子を見て少し眉を動かしていた。
本当に探す気はあるのだろうか。
ただ闇雲に探すっていう手は確かにこの学園都市の広さの中からでは無謀の様な事に思えるのだが、それでもここでただ何もしないで過ごすより少しくらいは有意義のはずだ。
首を捻りながら浜面は考える。
その真剣な表情は、50万が欲しいからではないぞ、疑問に思ったからだ、うん。
………………ん? 半蔵も加わるという事は取り分が減るって事なのか? げ。- 854 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:46:41.92 ID:pl7QZErDO
半蔵「それで質問があるんだが」
「ん?」
半蔵「俺はその話を聞いたっていう時、席を外していたから知らねえんだ。いつ誰がどうやってその情報を流してきたんだ?」
浜面「そういや俺も知らんな」
物事には必ず原因がある。
どんな事象であれ、事故であれ事件であれ。
その物事を解決するには原因を追求した方が早いものだって多々あり、対策も色々と立てやすいのだ。
さすが忍者!という視線を半蔵に向けると嬉しそうに鼻をスンと鳴らしていた。
というか忍者は別に関係ないだろう。
「ああ、一昨日だな。俺達の縄張りんトコに…………ありゃ何かの研究者だったんかな、白衣を着た男が来てな。
『どうしても必要だ、探してほしい』ってそん時いた俺達に頼み込んできたんだよ。
当然俺達の中に、んな頼み事なんざ聞く奴いなかったんだけどよ、そいつが口にした100万で全員目の色変えてたな」
半蔵「一昨日、か」
浜面「研究者………………………」
一体何の研究者なのか。
能力実験、化学実験か。いや、考えても自分の想像につかないものなのだろう。
半蔵「それで、その研究者とやらは他にも何か言ってなかったのか?」
「言ってたぜ。なんでも…………なんつったっけ? 『DMリカバリデバイス』 とか、あと 『聞けばわかる者はいる』 とかなんとか。俺にゃさっぱりだったが」
浜面「………………………………それだけ?」
「うん」
浜面「アテも何も名前だけじゃねーか………………聞けばわかる者はいるっつったってそれがわかんねえならしょうもないだろ!」
「そうだよなあ………………」
半蔵「むむ………………」
はは、とポリポリ頭をかいて詫びた様子を見ると、浜面も熱くなってしまったか、と引き下がった。
情報が命、とは言うが。
予想以上に少ない情報に浜面ははあ、と溜息を吐く。
隣では半蔵も思案顔をしている様で、どうしたもんだか、という言葉が頭を駆け巡った。
まあそれでも、無駄に体当たりをするだけ、というのよりかは収穫はあるのだろう。- 855 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:48:41.75 ID:pl7QZErDO
上条「人多いなー」
初春「そうですね。奨学金も入ったばかりですし、皆やっぱりそれに合わせて出るセール品目当ても多いみたいなんですよ」
上条「へー」
佐天「おお、私も何か買っちゃおうかな」
インデックス「ピロシキはないのかなぁ」
絹旗「超ありませんよ………………」
大型のデパートの様な大きさを誇るセブンスミストは学生達で賑わっていた。
奨学金受給日直後の休みの前の日である金曜日の夕方は、セブンスミストの肩入れ時だ。
ここぞとばかりにセール品を出し、売上と在庫処理の二つの経営のポイントを押さえたそのやり方はオシャレを気にする学生達にとっても嬉しい月一のイベントの様な日になっている。
ただやはり服屋というのだけあって女性客が多く、それが上条にとってはちょっぴり精神的に居づらいものだったりするのだが。
佐天「あ、ねね、絹旗さん」
絹旗「何でしょう?」
佐天「……………………ボニョ、ボニョ…………」
絹旗「……………………チョウフムフム」
上条「? 何の話をしてるんだろう?」
初春「? 何でしょうかね?」
ふと内緒話をし始めた二人に?を浮かべて見るのだが、会話の内容は全くわからない。
ニヤついた佐天と絹旗のその表情からして何やら嫌な予感はするのだが。
- 856 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:49:53.61 ID:pl7QZErDO
佐天「初春ー、制服見に行くんでしょ?」
初春「そうですよ?」
佐天「それじゃ、私達三人はちょっと服見に行ってくるからー」ニヤ
絹旗「佐天さんとシスターさんと超見に行ってきますので、あとはお二人でどうぞー」ニヤ
初春「え///」
二人はそのニヤニヤが堪えきれない笑みを浮かべて、インデックスの腕を両脇から抱え込む。
その様子に彼女達三人がここから離れる事の意味を悟った初春は、思い切り顔を赤くしてあたふたし始めていた。
インデックス「えっ? ちょ、ちょっとるいこー? さいあいー?」グイグイ
佐天「終わったら電話してねー」ニヤニヤ
絹旗「超ごゆっくりですー」プクク
インデックス「わわ引っ張らないでー、ああぁとうまあああああぁぁぁぁ………………」ズルズル
引きずられて遠ざかって行ったインデックスの声がドップラー効果にて小さくなっていく。
上条ははは、と苦笑いをしてそれを見送ると、初春の方に視線を向けたのだが。
初春「…………………………………………///」プシュー
上条「ええっ!?」
真っ赤に染め上げた頬を手で覆う初春の姿があり、何でそんな状態にと上条は驚きの声を上げた。
その手は赤い顔を隠す様な意図が込められているのだろうが、手までもが真っ赤になっているのだからどうしようもない。- 857 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:53:37.13 ID:pl7QZErDO
上条「おーい、初春さん?」
初春「えへ、えへへ///」ギュ
上条「」
大丈夫なのかと肩に手を置こうとしたのだが、再起動した初春がその手を取ると指を絡ませて赤い顔のまま微笑みかける。
純真無垢な、咲き誇る花の様な明るい笑顔。
本当に嬉しそうに微笑む彼女の可愛らしさに上条は謎の胸の動悸と闘い始めていた。
初春「行きましょう! 当麻さんっ」
上条「あ、ああ。そうだな、行くか」
でも。
この笑顔が、守れてよかった。
それは紛れも無い事実であった。
佐天「あの二人はもはや手を繋ぐ事さえ当たり前か……………………!」
絹旗「何か見ててこっちが超ドキドキしちゃいますね」ドキドキ
インデックス「ああ!! とうまがかざりと手を繋いでるんだよ、早く離しに行くんだよ! とうまは私がいないとダメなんだよ!!」
そんな微笑ましい光景を見逃す訳もないでしょう?
と二人はそんな上条と初春を見てポワーンと心が温かくなっていた。
例外を除いて、だったが。- 858 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/14(金) 00:54:47.45 ID:pl7QZErDO
佐天「だめだよ、インデックスちゃん。私達は服を買いに行くんだから」
絹旗「そうですよ。それに、超考えてみてください」
インデックス「うううううぅぅぅぅ、何、を………………??」
佐天「インデックスちゃんがここで超可愛い服に着替えたとするでしょ?」
絹旗「超って超言わないでください。それで、上条がシスターさんの超可愛い姿を見るとします」
インデックス「うぅ、それで………………?」
絹旗「超上条を…………………………
誘惑 できると思いませんか?」
佐天「くうぅぅぅ、インデックスちゃんの可愛い姿! 素材もいいし、私が上条さんなら放ってはおかないなー?」
インデックス「!! そ、それいいかも………………あ、で、でも。お金が…………」
絹旗「おおっとここに二十人の超諭吉が! 超どういう事でしょう、レベル4の奨学金って超怖いですねえ?」
佐天「………………………………それは超羨ましいよぅ…………」グス
絹旗「ええ!? 今度はこっちが超こんな空気に!? なんかよくわかりませんが超ごめんなさいっ!」
佐天「ふふ、ふふふ………………能力が出ないなんて事は気にしてないよ? 全然気にしてないよ?」ウフフ
インデックス「」
絹旗「」
上条と初春のそんな様子をエスカレーターで昇った二階の陰から見下ろして窺っていた三人。
手を繋いだ二人を見た瞬間わーわー騒いだインデックスだったのだが、佐天と絹旗、両名に上手く言いくるめられて引き下がっていたりした。
とは言ったものの、佐天と絹旗の二人は初春と上条の間の邪魔をする気など毛頭もない。
学園都市では珍しい異国の、しかも美少女のインデックスに色々な服を着せ替えして楽しめるまたとないチャンスなのだ。
インデックスの可愛い姿を見たいというのは実は彼女達だったりする。
佐天と絹旗の二人は歩き出した上条と初春の後ろ姿にグッドラック!とサムズアップを送ると彼女達もまた何やらピンク色がやたら目立つ区画へとインデックスを引いて行った。- 878 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:34:23.97 ID:wOvOuijDO
それは長く続いた戦乱の世。
三国による四半世紀にも及ぶ争いは、ようやく収束を迎えようとしていた。
一国は『フラワー王国』。
一国は『幻想王国』。
一国は『メガネ王国』。
私は、三国が繰り広げる戦乱の世に生を受けていた。
激化してゆく争いと、日々数を増してゆく悲しみの中で我が国に出来たほんの些細な温かい出来事に、愛国心を抱いてくれている傷付いた兵士達も喜びと慈愛の顔を見せてくれていた。
この国に起こっている事、情勢。
幼い私は、それの意味も何も知らずに城の中で愛され、慈しまれて育った。
『かざり。おまえは強く、優しい豊かな心を持った人間におなりなさい』
私はお母様の温かな手と見た目が若い割に年季の入ったその声が好きだった。
厳しくも、優しく私を育ててくれた。
ただ私はお父様、というのを知らない。
私がまだ何もわからぬ幼き頃、不治の病にて倒れていたのだ。
それからは私のお母様が国を治める事となり、『フラワー王国』の主として今では他者からは畏れられる存在として女王の職を全うしている。
この城の中でもお母様に逆らえる者は存在しない。
もし逆らえば、反逆罪にて─────お母様が持つ不思議な力で、直接的にその身を何処か知らない土地へと一瞬の内に飛ばされる。
今ではその不思議な力を持つお母様を、恐怖の存在と城の中では後ろ指を差されているらしいのだが。
私は、そのお母様の不思議な力で遊んでもらった事もあった。
国の中の秘所とされている『幻のお花畑』に連れていってもらったり。
地面にぶつかるすれすれの所まで空中遊泳を一緒にしてくれたり。
『怖かったけど、楽しかったです』と泣き笑いの表情を私が見せると『他の者には内緒ですの』とお母様も意地悪そうな、でも楽しそうな笑い顔を見せていた。
ただ、使いの者達にはお母様は一切笑いかけない。
笑顔を全く見せる事はない。
その意味を悟るまで、私は生を受けて13の年月を経るまでかかった。
国を治める者として、絶対的な威厳というものを誇示する為だったのだろう。
家来を動かし、城に仕える者達を動かし。
兵を動かし、国の民を動かし。
「強き王」というものを、体現して尊厳を守りたかったのであろう。- 879 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:35:59.10 ID:wOvOuijDO
ただ、私と二人だけの時は優しいお母様に戻ってくれる。
そんな優しいお母様が大好きだったから、自慢したかったから。
仕える民達にもお母様を悪く見られるのは嫌だったから。
だから、私はこんな事を考えていた。
『なにを、申したんですの………………?』
『私が、この戦争を止めます。でも、私には力がありません。ですので、「聖服」なるものの力を借りて、両国の主に話を付けに行きます』
『かざり! あなたがその様な事を心配せずともよろしいですの! あなたはこの国のたった一人の跡取り。そんな危険な事など、許しませんの!』
『許してくれなくたって! ただ、もう私は我慢がなりません! 演じている姿だけではなく、本当の優しいお母様を民達にも知ってほしいんです!』
『あ…………っ! ま、待ちなさい! かざりっ!!』
そうやって、私は国を飛び出ていた。
本当の平穏の世を、私の力で取り戻したい。
本当のお母様というのを、皆に知ってもらいたい。
ただ、今の私ではそれは力不足だったから。
だから三国のちょうど間の深い森の中の洞窟に眠る、着た者の願いが叶うという噂の伝説の『聖服』を求め、従者をも振り切って私は走っていた。
三日三晩かけて辿り着いたその洞窟。
そこには、先客がいた。
『あなたは……………………!』
『ん………………フラワー王国の、姫!?』
かつて見た、近隣諸国の国を治める王家の肖像画が描かれた絵巻にて目にした事があるその姿に、私は目を見張った。
凛々しい表情、力強い目。
一目見たときからか、絵巻ながら私の心は彼に奪われていた。
『幻想王国』の王子──────とうま。
そこにあったのは、彼の姿だった。- 880 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:36:54.67 ID:wOvOuijDO
なぜ、彼がこんな所に。
しかも彼も従者を連れず……………………たった一人だけであった。
『フラワー王国の姫が、なぜこんな所に………………!』
彼の目は驚きで揺れていた。
ただそれはもちろん、私もそう。
彼は一体、ここで何をしようとしていたのか。
…………………………すると。
『あぶねえっ!!』
ガギンッッ!!
私に突如一瞬で近付き私の背に回り込んだと思えば、大きな衝撃音と共に、彼が持っていた剣から火花が散った。
『な、なん………………ですか……!?』
『ぐ……………………こ、こいつは!!』
『ふふふ……………………これはこれは幻想王国の王子、とうまクンとフラワー王国の姫、かざりサン、だったかな?』
『お前は……………………メガネ王国王子、メガネ!?』
『っ!!』
私を守るようにして背を向けてたったとうまさんの向こうに、メガネ王子とメガネ王子が率いる大勢の兵隊達の姿があった。- 881 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:37:43.46 ID:wOvOuijDO
『お二人ともこんな所に揃って……………………何をしようとしていたのかな?』
『ああ? 知るか!』
『ふ、こんな所で密会でもしようとしていたのかね』
『っ……………………!』
私はメガネ王子の歪んだ笑顔を見ると、嫌な汗が背中を走っていた事に気が付いた。
でも。
幻想王国の王子の彼は今、敵対国の姫であるはずの私を守ってくれた……………………?
彼の背中を見る。
攻撃をしかけたメガネ兵隊と剣を押し合って、対峙していた。
『大方、この洞窟の先に眠る「聖服」なるものを求めて来たのだろうと推測されるのだがね』
『お前は、なぜここに来たんだ? あれは噂によると願いを叶えるというもの。それを求めてお前もここに来たのか?』
『ふん、まあそうだね』
とうまさんの質問に肯定の返事を返す。
メガネ王子もそれを求めてここに来たという事は──────メガネ玉子の願いというのは、一体何なのだろうか。
ガキンッ!というとうまさんとメガネ兵はお互いを弾き合う音が鳴り響いた。
『ぐっ……………………』
『と、とうまさん……………………』
体勢を立て直し、グッと剣を構えたとうまさんの後ろ姿が見える。
メガネ兵達とじりじり睨み合い、お互いを牽制しあっていた。
- 882 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:38:38.33 ID:wOvOuijDO
『それで、幻想王国の王子よ。君はどんな願い事を叶えようとしてここに来た?』
『ああ? 決まってんだろ、止めるんだよ! この意味のない戦争を!!』
『!!』
その言葉に私は驚いた。
幻想王国の王子、とうまさんと私の願い事は────────同じ、なのか。
『この無意味な戦争で無駄な血が流れるのをずっと見てた……………………俺の為に、倒れていった兵士達もこの目でたくさん見てきた…………俺を守る為にっ!!』
『っ』
『ほう?』
『だがそれでも、それでも! 俺を守れてよかったって最後は笑っていた! だがそいつらにも家族はいた………………、そいつらの家族は泣いていたんだ!』
『………………………………』
『ふん、それで?』
『こんな戦争なんて悲しみを生むだけしかねえんだ! あいつらが幸せになれねえなんて誰も望んでなかったのに! だから、俺は望む! もうあんな悲しみを感じる奴が出ねえ、悲しみを生まねえ平穏な世界を!!』
『とう、まさん……………………!!』
『…………………………つまり、お前はこの戦争が無意味、だと?』
『当たり前だ! 何が国取り合戦だ!? 何が領土拡大だ!? 民はそんな事を望んでいるのかよ!? 仲良く笑い合って、お互い助け合えばいいだけの事じゃねえか!!』
彼は────────私と、同じ考えなのか。
私と同じ、平和を望む………………優しく、強い人。
国を愛し、家来を愛し、民を愛し。
そして、平和を愛し──────────。
- 883 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:39:25.65 ID:wOvOuijDO
『ふ、理想郷を創る為には多少の犠牲もやむを得ないものだというのが君もわからないのか? 国が一つになれば、戦争というものももう起きずに済むのだぞ?』
『うるせえ! そのやり方が間違ってるって言ってるんだよ! てめえらのやってる事はただの虐殺じゃねえか!』
『反抗されたからね、致し方ないさ』
『平和的に話し合いを望んだ民を一方的に殺しておいて………………それでも致し方ないと言えるのかよ!?』
『言えるね、我が理想郷を拒む不穏分子は我が国には不必要だからさ。黙って首を縦に振っていれば助かったものを』
『ひどい……………………………………』
『いいぜ………………てめえらがそうやって民を信じられずに不必要に犠牲を増やすってんなら……………………!
まずはその…………ふざけた幻想をぶち殺す!』
『どうしてもわかり合えないのかね……………………殺せっ!!』
『うおおおおおおおおおおおっっ!!!』
『とうまさんっ!!』
……………………………………………………
…………………………………………
………………………………
……………………
……………
- 884 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:40:13.78 ID:wOvOuijDO
それからというもの。
結局彼は、一人でメガネ王国の兵士達を持っていた逆刃刀で不殺のまま打ち勝ち、倒れ伏すメガネ王国の兵士達から数m離れた場所で傷だらけの身体のまま座り込んでいた。
『とうま、さん………………』
『はは、さすがに…………無傷、とはいかなかったか…………』
『どうして、私を守って……………………!!』
彼は戦闘中、後ろに私を庇ったままであった。
私は敵対国の者だったはず。
守る義理も無いし、流れ弾にでも当たって倒れてしまった方が彼の国にとっても有益だったはずなのに。
『はは………………なんとなく、だ。さあ、フラワー王国の姫。願いを叶えに行ってくれ………………』
『え………………………………?』
『ここまで来てなんだけど、俺さ……………………不思議な力を消しちまう体質、なんだよ』
『!?』
『だからその「聖服」っての………………使ったとしても、効力は消えちまうと思うんだ』
『そ、それならどうして……………………っ』
どうして、ここに来たのか。
私の膝の上の彼は傷だらけの顔で笑顔を見せると、私の頬にその手を当てた。
『姫が、ここに向かってるという情報を君の母親から聞かされたんだ……………………』
『……………………え?』
お母様が、とうまさんに?
どうして? なぜ?
『フラワー王国の姫は三国の情勢の事、知らないってのは本当なんだな………………』
『馬鹿に………………してるんですか?』
気付けば涙が目から溢れていた。
しかしそれはそういう意味だからではない。
目の前で笑顔を見せる幻想王国の王子の痛々しそうな姿が、何よりも私にとって辛かったから。- 885 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:40:56.43 ID:wOvOuijDO
『違う、そうじゃない………………。フラワー王国と幻想王国は、友好条約を結んでいたんだよ………………それで泣きそうな君の母親からの連絡がこっちまで来た時、俺は無心でここまで向かっていた』
『……………………っ、どうして』
『絵巻でしか見た事はなかったけど……………………俺は、君に、惚れていたんだ』
『っ!!??』
『それで君がここに向かったっていう時。メガネ王国も動いていたみたいでさ……………………いてもたってもいられなかった』
『とうま、さん……………………』
『はは、こんな事言うつもりはなかったんだけどな……………………ささ、姫。願いを叶いに行ってくれ。姫の純真無垢の、優しい、美しい願いを』
『…………………………グスッ、エグッ』
『泣くな……………………泣いてるとこっちが、辛くなる。大好きな姫の泣き顔は、何よりも堪えるぞ』
『とうま、さん……………………』
『俺は、大丈夫だ。さ、行ってくれ』
『………………………………はいっ』
そして私は、願いを叶えた。
聖服を身に纏い、願い事を三つだけ心の奥底に秘めて。
一つは、三国の友好と平穏。
一つは、幻想王国の王子の傷の治癒。
そして、もう一つは────────。
- 886 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:42:31.14 ID:wOvOuijDO
『はは、実はあん時まさか治癒が効くとは思わなかったんだよな』
『無茶し過ぎです。効かなかったら危なかったんですよ? あれだけ泣いたのは、生まれて初めてでした』
『心配かけさせたな……………………飾利』
『大丈夫ですよ。今、こうして当麻さんと………………素敵な旦那様と、一緒にいられるんですから……………………』
私の願いは、彼の持つ幻想殺しを飛び越えていた。
それほどまでに、私の想いは強かったのだろう。
命を賭して私を守ってくれた彼を、救いたかった。
好きになっていた。
でも実際、三つ目の願いは……………………聖服の力は、借りなかった。
だってそれは作られたものだから。
本当の自分で、想いで、彼と結ばれたかったから。
もう彼といられれば、何も怖くない。
何も心配ない。
時々、未亡人のままのお母様の当麻さんを見る目が怪しくなったりするけど、この手を離したりはしない。
だって、こんなにも素敵な旦那様はどこにもいないんですから────────。
「あの、お客様……………………………………?」
上条「初春さん……………………ど、どうした?」
初春「えへへ………………当麻さんは私の王子様なんですからぁ」ギュギュー
上条「ぬおおおおっ、か、身体の感触が………………腕が初春さんの身体の……………………離してええええええええ理性が飛ぶううううううううっ!!」
セブンスミストの制服取扱専科コーナーにて、柵川中学指定の制服を手にとって約一分間静止していた初春が突然そんな事を呟きながら上条の腕を身体に押し当てていたり。
その感触に何やら色々な感情が入り混じった悲鳴を上げながら上条は離してもらおうと嘆願したのだが、結局離してもらうまでまだそこから数十秒は必要であった。
どうやら今回は絹旗が耳打ちした『王子様』という単語が初春のトリガーを引いていたらしい。- 887 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:43:31.70 ID:wOvOuijDO
初春「………………………………///」
上条「う、初春さん……………………?」
初春「…………………………………………///」
上条「おーい……………………たはは…………」
それから風紀委員印の切手と制服を交換し、大きな紙袋もギュッっと抱え込むようにして初春はベンチで真っ赤な顔を隠していた。
その様子に上条も苦笑いを浮かべるしかない。
一体何があった、とも彼女の様子から何故か聞きづらくそのままにしていた。
まあ思い詰めた様子ではなかった為、そこは安心していたのだが。
セブンスミストのフロアの端の方にある階段の側に設置されたベンチで、二人は言葉も少なくただ座っていた。
ここは人通りが少ない。
大抵はフロアのど真ん中に設置されたエスカレーターが使われ、わざわざ端の方まで来て自分の足で階段を上り下りする者など、余程の階段好きかダイエット中の者くらいなものなのだろう。
上条「あ、そうだ。明日ご飯食べに行くだろ? 食べたい物決まったか?」
初春「ふぁっ、と、当麻さんとならどこでもいいです!///」
上条「お、おう、そうか。……………………それは喜んでもいいんかな」ボソッ
初春「え………………?」
上条「はは、いや何でもない」
誤魔化す様に呟いた言葉。
彼の言った言葉は、聞き間違いではなかっただろうか。
さっきからずっと、胸がきゅんきゅんしている。
大好きな彼と一緒にいられて、大好きな彼の声が聞こえて。
あの時、彼が助けに来てくれた時────────。
もう好きという言葉では言い表せないほど、気持ちは彼一直線だった。- 888 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:44:20.05 ID:wOvOuijDO
初春「……………………当麻さん」
上条「どうした?」
初春「手を……………………繋いでも、いいですか?」
上条「………………………………ああ」ギュ
彼から繋いでくれた手に強く自分からも指を絡ませる。
もう心臓は、飛び出そうなくらい強く脈を打っていた。
この胸のドキドキは、彼にも届いているのか。
彼の目を見る。
彼も自分を見ていて、瞳に反射して自分の顔が写っていた。
彼に想いを告げるのは自分が自分に自信を持てるまで、そう我慢していた。
だが彼の凛とした瞳を見て、彼の素敵な顔を見て。
我慢なんて、出来やしない。
自分の顔がそっと彼のそれに近付く。
繋いでない手を、彼の首に回して────────────
美鈴「美琴ちゃんはっけーんっ…………………………ってええ!? あれ、しかも当麻くん? と、あとは皆美琴ちゃんと当麻くんの知り合いなのかな?」
美琴「」
黒子「」
神裂「」
五和「」
オルソラ「あらあら」
初春「」
上条「ぬお!?」
うん、何かが色々起きそうな予感がした。- 889 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:45:38.20 ID:wOvOuijDO
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」
絹旗「超やばいです………………このコ超かわいい…………」
佐天「お人形さんみたい…………」
インデックス「…………ちょっとこの恰好は恥ずかしいかも」
一方、そんな事が起きているとは露知らず絹旗と佐天はインデックスに色々な服を着せ替えして(遊んで)いた。
今現在、インデックスの恰好は純白の修道服から一変して黒で統一されたゴスロリの服。
黒のゴスロリといえばイギリス清教の女子寮で暮らす褐色のある魔術師の事を思い出すのだがそれはまあいいとして。
絹旗と佐天はその人物の事を知らないし。
絹旗の手には彼女達の年相応に思われるコートやらスカートやらで溢れており。
一通り私生活で普通に着る様なインデックスに似合う服を見繕いプレゼントでもしようと手に持っていたのだが、もっと可愛い姿を見たいという佐天と共通の企みでほぼコスプレショー紛いの着せ替えを楽しんでいた。
試着室のカーテンが開く度、そのお店の店員さんや他の客達の歓声が沸き上がる。
どこから来たのかは知らないが男が多かったのはまあいいだろう。勿論女性客もその中にいたし。
インデックス「さ、さいあい、るいこ………………もう恥ずかしいよぅ」
絹旗「超やっべ、これは」
佐天「同性の私でさえ鼻血出ちゃいそうだよ………………」
ただ恥ずかしそうにちょっぴり涙目になったインデックスにようやく罪悪感のようなものを抱いたか、そのゴスロリ服を持ってショーはお開きとなった。
残念そうにしている周りの目を払い落とし、絹旗が会計を済ませて店を出るとインデックスが申し訳なさそうな、でも笑顔でペコンと頭を下げていた。
インデックス「ごめんね。ありがとうなんだよ、さいあい! いつかはお返しするんだよ!」
絹旗「いえ、超大丈夫ですよー。ね、佐天さん?」
佐天「うんうん。いいもの見させてもらったから」
インデックスが持つ紙袋の中には、大量の服が入っていた。
値段にして総額数万にも上り、それを何の躊躇もなく出した絹旗も絹旗だが、返せるアテはあるのかインデックス。
その際に黒い空気を再び纏った佐天を宥め、クレープでも食べるかと三人はセブンスミスト内にあるクレープ屋の方に向かう事にした。- 890 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:46:31.93 ID:wOvOuijDO
絹旗「そういえばセブンスミストといえば」
インデックス「??」
絹旗「前に何か事件が超ありましたね? 確か」
佐天「うん、あったね。虚空爆破事件って言ったっけ」
インデックス「グラビトン事件?」
七月の半ば。
学園都市内にて、連続爆破事件が起きていた。
犯人はレベル2の「量子変速」の能力を持つ少年。
不良達から虐げられ、それを救えられなかった風紀委員に恨みを抱いた事による犯行であった。
佐天「私は直接その場にいなかったから詳しくは知らないけど、最後に狙われたのは……………………初春だったらしいね」
絹旗「え…………あの子が……………………?」
佐天「でも結局、最後は御坂さんが止めたらしいけど」
絹旗「……………………超電磁砲?」
インデックス「れーるがんって、確か短髪の事なんだっけ」
その事件の最後の舞台は、このセブンスミストだった。初春から聞いた話では、確か人形に仕込まれた爆弾の爆発を防いだのは美琴の能力らしい。
美琴がいなければ、と初春は美琴に感謝の念を感じさせながらそう話していた。
佐天「でも……………………白井さん言ってた。その現場に残った爆発の跡が、どうにもおかしいって」
絹旗「おかしいと超言いますと?」
佐天「うん、まるで初春のいた場所だけが爆発が消えていたらしいんだって」- 891 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/16(日) 11:47:51.77 ID:wOvOuijDO
絹旗「ふむ」
インデックス「かざりのいた所だけ?」
佐天「うん。白井さん言ってたけど、御坂さんの能力で防いだとしても、あんな跡の残り方はどうも不自然だって言ってた。電撃による防ぎ方じゃないらしいって」
絹旗「爆発が消えた、ですか………………」
佐天「うん、その爆発は能力によるものらしいんだけど、能力が消えたみたいに…………………………」
佐天・絹旗・インデックス「!!」
三人の胸中にある考えが浮かぶ。
爆発が消えた。
そしてそれの爆発は能力──────つまり、能力が消えたという事。
佐天「まさか……………………」
絹旗「能力が、打ち消された……………………」
インデックス「とうまの、幻想殺し……………………?」
「あれれー? シスターさんだってミサカはミサカは知ってる人がいる事にビックリしてみたり!」
「あれ、あの時のシスターちゃんだ」
「あァ? あァ、三下ンとこのシスターじゃねェか………………それに、お前は………………『窒素装甲』………!」
佐天「ほえ?」
インデックス「あ、らすとおーだーとわーすととあくせられーた」
絹旗「第、一位……………………!」
打ち止め「やっほー! ってミサカはミサカは手を振ってみたり!」
番外個体「む、あのコあなたの知り合いなの?」
一方通行「……………………何してンだ? ンな所で」
そして色々な数奇の巡り合わせが、交わってゆく。- 910 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:10:54.69 ID:teqIiG2DO
セブンスミストの二階にあるクレープ屋の前で、六人が立ち止まっている。
端から見れば可愛らしい女の子五人の中に男一人が紛れているなんというハーレム状態。ただやたらと中性的ではあるが。
外面はともかく、その内側を見ればなんとも形容しがたい集団になっていた。
佐天「だ、第一位って………………!? それにこっちは御坂さんの妹さんっぽい人と御坂さんのお姉さんっぽい人!?」
打ち止め「こんにちはーっ! ってミサカはミサカは知らないお姉ちゃんに元気に挨拶してみたり!」
番外個体「シスターちゃん達も買い物?」
インデックス「うん、そうだよ。わーすと達も?」
番外個体「うん、最近寒くなったから最終信号が風邪引かないようにってあの人が服を買いに行くぞって」
インデックス「そうなんだ。優しいね、あくせられーた」
番外個体「あの人が? あはは、気持ち悪いだけなのにね☆」
佐天「どういう事なの……………………」
この場に姿を現したその三人と仲良さそうに話をするインデックスを見ながら、佐天は状況についていけないでいた。
訳のわからない単語も散りばめられているし、第一位という存在と友人に酷似している女の子二人の顔を見て驚いているだけしかない。それに大きい方はやたら毒を吐いてるし。
打ち止め「ねえねえお姉ちゃんはお姉様のお友達なの?」
佐天「お姉様って………………御坂さんの事?」
打ち止め「うん、そうだよってミサカはミサカは頷いてみる!」
佐天「やっぱり御坂さんの妹さんなんだ」
美琴に妹がいるなど聞いた事はなかったが、その小さい美琴がそう言うならそうなのだろう。
余りにも似ている──────いや、本人を小さくしたと言っても過言ではなさそうだ。
その姿も佐天を納得させる材料になっていた。
- 911 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:12:09.44 ID:teqIiG2DO
絹旗「………………………………」
一方通行「………………………………チッ」
こちらは何とも気まずい空気が流れている。
二人はあの件以来、顔を合わせてはいない。
お互い持つ情報として、『暗闇の五月計画』に携わった者同士で、かつて暗部に属してた者同士で。
ただ浜面は言っていたか、『あいつは大事な仲間』だのどうのと。
絹旗「…………質問が超あります」ボソッ
一方通行「なンだ?」
ふと絹旗が二人を見て言葉を出す。
その視線から、一方通行は打ち止めと番外個体の事だと悟った。
絹旗「あの二人は、超電磁砲の………………?」
一方通行「……………………あァ、確か『アイテム』も研究所護衛だかなンだかしてたなァ」
あの実験の時。
美琴が研究所を破壊して回っていたという時、研究所の護衛の任務を学園都市の裏から受けてアイテムと美琴は交戦していた。
詳しい事情までは把握はしていないのだが、どういう実験が行われたのかは絹旗は知っていた。
絹旗自身、直接美琴と交戦した訳ではなく顔を合わせてはいなかったのだが、超電磁砲という超有名な能力者の情報は握っており美琴の顔は一応は把握している。
そしてその美琴と瓜二つな顔が、ここには二人いるのだ。
番外個体「なぁに二人で内緒話なんかしてるの? 聞かれたらまずい話? 全くあなたは最終信号といい、ロリコンなの?」
一方通行「テメェは黙ってろ。それよかシスター、お前がいるって事は三下の野郎は来てンのか?」
番外個体「なに話そらしてるの? 殺すよ?」
打ち止め「ミサカはロリなんかじゃないってミサカはミサカは胸を張って大人の女っぷりを猛アピール!」
絹旗「(……………………何故でしょう、ちびっ子と違ってこっちは麦野と超同じ匂いがします)」
佐天「御坂さんのお姉さん? っぽい人、すっごい口悪い人なのかなぁ…………」
番外個体が一方通行にちょっかいをかけた事によって一同がそれに加わる。
そこで絹旗と一方通行のボソボソッとした会話は止まる事になったのだが、恐らくその二人に関して絹旗の予想は合っているのだろう。
最強の能力者の第一位である一方通行に対しての番外個体の口の悪さに冷や汗を流しながら、意外な人間関係の繋がりに関心を持っていたりしていた。- 912 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:12:57.11 ID:teqIiG2DO
インデックス「うん、とうま来てるよ? ………………かざりと一緒、だけど」ジト
佐天・絹旗「あははー………………」
一方通行「………………ほォ、花子もか」ニヤニヤ
打ち止め「あれれ、でも皆一緒じゃないんだ」ニヤニヤ
番外個体「大方、ヒーローさんと花子さんを一緒にさせようって三人は二人と離れたんだねぇ」ニヤニヤ
インデックス「そうなんだよ、さいあいとるいこに無理矢理連れてかれたんだよー」プクー
上条が来ていて、そして初春と一緒にいるという場面を頭の中で描くと一方通行と打ち止めと番外個体の三人は途端に表情が緩み、どこにいるのかとキョロキョロ視線を動かしはじめていた。
一方、佐天はそんな三人の上条と初春の二人を知っているという口ぶりに首を捻っている。
というか花子ってなに花子って。
佐天「あれ、初春と上条さんのお知り合いなのかな?」
打ち止め「知ってるよってミサカはミサカはお姉ちゃんに返事をしてみる! というとお姉ちゃんも?」
佐天「へっへーん。何を隠そう、初春の大親友・佐天涙子とは私の事なのだ」エッヘン
いや別にそれは隠したりはしていないのだが。
今度は打ち止めとは違う、本当に身体的に大人に近い佐天が胸を張る。
その様子を打ち止めとインデックス、そしてなぜか絹旗までもが胸に手を当てて『むー…………』と羨ましそうに眺めていた。
ただこの中でたった一人の男の一方通行はというと──────。
一方通行「三下と花子、どこまで進展してンだァ?」ニヤニヤ
番外個体「さぁね、でも二人でって事は実質デートになるんじゃないの?」ニヤニヤ
まあ特に興味を示さないか、上条を見て笑い転げたいというドS心の方が彼の関心を買っていた様だった。
- 913 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:13:49.13 ID:teqIiG2DO
上条「し、白井と御坂と………………神裂と五和とオルソラ!? そ、それに美鈴さんまで………………」
初春「」
黒子「」
美琴「」
神裂「」
五和「」
オルソラ「あらあら、ごきげんようでございます。学園都市のセブンスミストなる衣料品店はここまで大きいのでございますか、修道服は置いてあるのでございましょうか?」
美鈴「うーん………………これはまずい場面?」
一方、こちらはセブンスミスト一階の階段付近。
ベンチに座る上条達と口を開けて呆然としている美琴と黒子と神裂と五和。
それに頬に手を当てていつもの微笑みを見せるオルソラとやっべと苦笑いを浮かべている美琴の母親・美鈴と。
美琴と黒子はまだいい。
なぜイギリスにいるはずの神裂と五和とオルソラまでここにいるのだろうか。
美鈴────は大方美琴に会いに来たのだろう。
「「「「「「…………………………………………」」」」」」
オルソラ「あらあら学園都市の自販機のジュースは見慣れないものばかりなのですね」
沈黙が場を包むが、オルソラの至ってマイペースな言葉がこの気まずい空気の中の何よりものオアシスになっている様だ。
- 914 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:14:46.85 ID:teqIiG2DO
上条「で、でだ………………何してんだ? ここで」
黒子「う、初春! 離れなさいっ!」
美琴「あ、あんた達!?」
初春「はっ…………………………!!///」
黒子がいち早く正気を取り戻し、それに美琴も我を取り戻して初春と上条を引きはがそうとする。
上条の右手と初春の左手は繋がれたまんまだ。
そして初春の右手は上条の首元に回され、二人の首だけがこちらを向いているというほぼ密着状態であった。
……………………何をしようとしていたのだろう。
初春が自分のしようとしていた事の大胆さに気付き、顔を真っ赤にしてバッと腕を下ろす。
それを一同は何とも複雑な胸中で見ていた。
五和「………………ちょっと人払いのルーン貼ってきます」
神裂「………………ちょっと七天七刀研いできます」
上条「ってちょっと待て五和、神裂! 何しようとしてんの!?」
五和「ふふ………………上条さん、安心して下さい。ほんのちょっとだけ眠る事になるだけですから」ペタペタ
神裂「かくなる上はあの子もろともイギリスまで持って帰るしか………………」ジャキ
黒子「うっ………………何ですの? 能力が暴走してしまいそうなこの感じ…………急にここにいてはいけない気分に…………っ、でもこの二人をこのままにしてはおけませんわ…………!」グググ
美琴「くっ………………! 何この胸をたぎる嫌な予感は………………でもせっかく会えたんだしどんな事があっても当麻と………………!」ビリ
上条「ちょ、なにこの子達!? 精神力で乗り越えてるううううう!? っつかマジで貼ったのかよ!?」
初春「え、ど、どういう事なんですか?」
五和「む………………この子達、強い!?」
神裂「五和の魔術に耐えられる者がいるとは………………!」
黒子がまず動き出したのをきっかけに、ぎゃーぎゃー騒ぎ出したその集団。
ちなみに初春は上条の右手をギュッと握っている為、どうやら彼女にもその影響は及んではいなかった。
苦しそう、という訳でもないのだが端から見れば見えない何かと戦っているかの様だ。- 915 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:15:54.65 ID:teqIiG2DO
黒子「と、とにかく! その手を離しなさいっ!」
美琴「そ、そうよ! …………………………って、黒子?」
上条「ぬあっ! そ、そうだ繋いだままだっt」
初春「嫌です」ツーン
黒子「ぐぬぬ……………………!」
美琴「…………………………………………」
なぜ黒子が今そんなに怒っているのだろう。
美琴は今、自分の知らない所で様々な状況の変化が起きていた事に驚き、そして気付きかけていた。
まずは上条と初春の距離が、以前見掛けた時よりも縮まっていた事。
手を見ればお互い指を絡ませていて、そしてそっと初春が上条の右腕に寄り添っている様な形だ。
セブンスミストにいて、初春の横に置いてある大きな紙袋からここに買い物に来たのであろう事は推測できたのだが。
───二人で………………………………?
二人っきりで、まるでそれはデートの様で。
一番に自分が彼としたい事だったはず。
胸が痛い。
心臓を直接針で刺されているかの様な強い刺激がしていた。
次にこの相部屋で暮らす少女の事。
それはほんの小さな些細な変化の様に見えるのかもしれない。
白井黒子という少女は、自分が想う彼の事を敵対視していたはず。
自惚れとか慢心とかそういう訳ではないのだが、黒子は自分の事が好きだと周りにも豪語している。
同性、異性誰に対しても自分と仲よさ気に話をしたりする者にはいい顔はしてこなかった。
まあ彼以外に異性と話をする機会などほとんどないのだが。
ただその時の黒子の様子と、今初春と彼を見た時の黒子の様子が被る。
───………………………………考えすぎ、かな。
それよりも気を割かねばならないのはなぜ彼と初春がこうしてここにいるのか、なぜ手を繋いでいるのか。
誰よりも好きなのは、自分のはずなのに。
母親がこの場にいる事の疑問よりも、目の前の二人の事の方が気にかかっていた。- 916 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:17:25.04 ID:teqIiG2DO
打ち止め「おいしー! ってミサカはミサカはクレープの美味しさに感動してみたり!」
番外個体「鼻にクリーム付いてるよ、ちょっと最終信号動かないで」フキフキ
インデックス「おいしいんだよ!」
絹旗「こっちも超付いてます、シスターさん動かないでください」フキフキ
佐天「あの、すみません奢っていただいて」
一方通行「会計分けンのが面倒くさかっただけだ、気にすンな」
そんな様子を見ながらコーヒーを喉に流し込む。
ただここのコーヒーはやはりクレープ屋のサブメニューとして置いてあるだけで、コーヒーに関して味のうるさい一方通行は渋い顔をしていた。
そんな一方通行にちょっぴりオドオドしながら佐天が礼を告げる。
どうやらこの白髪の男性は、この学園都市の最高位の能力者────第一位らしいのだが。
そんな人物と今こうして茶を共にするという状況が来る事になるとは全く思ってもみなかった。
佐天「えと、一方通行さん? でいいのかな」
一方通行「……………………ン」
緊張しながら様子を窺うように言ってみると、言葉少なくそれだけの声を喉の奥から出したのが聞こえる。
彼の視線は、小さい美琴と大きい美琴の方を向いており、騒ぎすぎてないか迷惑をかけてやいないかどうかを確認している様だった。- 917 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:18:44.90 ID:teqIiG2DO
佐天「一方通行も、初春と上条さんのお知り合いなんですか?」
一方通行「まァ、そンなとこだ」
佐天「へぇ、そうなんですか……」
まさか第一位の人とあの二人が知り合いなんて。
どういう知り合いなのかと気になる。
初春は自身も生活する学生寮に住んでいる。
初春が忙しかったり自分がクラスメイト達と遊んだりしている時以外、学校生活でも私生活でも佐天はほとんど一緒にいたりするのだ。
その為に初春の交遊関係=自分の交遊関係とまではいかないが初春の交遊関係はほとんど掴んでおり、だから自分の知らないまさかの大物と繋がっていた事に佐天は驚いていた。
ただ上条以外の異性とはほとんど話す事もしない初春の事だ、恐らくこの第一位と初春が繋がる事になったのは──────多分、上条経由なのだろう。
上条は一体、どんな人なのだろうという疑問を持ちながら佐天は紅茶で喉を潤わせ、手にしていたクレープの最後を口に含んだ。
- 918 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:19:27.92 ID:teqIiG2DO
インデックス「あくせられーた、ごちそうさまなんだよ」
一方通行「三下に請求しておくぜェ」
インデックス「………………とうま泣いちゃうかも」シュン
一方通行「………………冗談だ」
絹旗・佐天「? ま、まあともかく。ごちそうさまでした」
打ち止め「よーし、次はお買い物! ってミサカはミサカはあなたの手を引っ張ってみたり!」ギュッ
番外個体「ミサカも見に行こうっと」ギュッ
一方通行「引っ張ンな離せ」
一方通行に礼を告げ、六人はクレープ屋を後にした。
店の外に出ると、そろそろいい時間かな?と佐天は時計を見ながら初春を探そうとキョロキョロと二階から一階を見下ろす。
ただやはりエントランスには見当たりはしないが、どうせなら皆でこっそり見つけだしてやろうとニヤッと一笑いの表情を表に出す。
どんな状況になってんのかなとワクワクしながら、何かやったのか問いただしてやろうかなと考えていた。
一方通行「……………………ン?」ピク
番外個体「どうしたの?」
打ち止め「??」
絹旗「どうしました?」
一方通行「いや、なンでもねェ」
歩き出そうとした矢先に一方通行が何かに気付いた様な声を上げる。
それに五人は首を傾げて一方通行に視線を向けたのだが、いつもの無愛想な表情で気にすンなと取り繕っていたが。- 919 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:20:54.70 ID:teqIiG2DO
───なンだ? 今のは。
胸を圧迫、とまではいかないが妙な違和感を一瞬感じていた。
それはすぐさま消えていったのだが、この妙な気配というか感覚は。
───魔術、か? チッ、充電は………………まだ十分残ってるか。
上条が身を置いてきたという世界の秘術。
自身も行使した事のある、能力とは違う未知の法則のもの。
上条からも彼の帰還後に魔術の世界の事は色々聞いていて、かつ一方通行も実際に目の当たりにしていた故にその存在は知っていた。
どういう事かはわからないが、魔術を感知すると身体は何かしらの反応をする。
嫌な予感もそのままに、チョーカーの充電を確認していた。
佐天「それじゃ、行こっか」
インデックス「とうま、かざりに手を出してたら噛み付いてあげるんだよ」
番外個体「ヒーローさんの頭が禿げませんように…………」ガッショウ
絹旗「超禿げませんように…………」ガッショウ
一方通行「おい打ち止め、シスターの真似なンかして噛み付くンじゃねェぞ?」
打ち止め「ミサカにその趣味はないよってミサカはミサカはあなたを安心させようとそう告げてみる」
そして、一同は動く。
エントランスの中央エスカレーターに乗り、視線をキョロキョロと探した先に何やらフロアの隅っこの方で妙な空気というか、騒がしい雰囲気を感じた。
- 920 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/18(火) 19:22:33.89 ID:teqIiG2DO
佐天「あ、いたいた! なんか人数多いけど」
打ち止め「なんか様子がおかしいかもってミサカはミサカはお姉ちゃんの陰に隠れてみる」
インデックス「あれ? かおりといつわがいる」
番外個体「これは………………」
絹旗「超修羅場ってやつですか?」
一方通行「あァ…………………………ッ」
初春「あっ、佐天さん達」
佐天「あれ? 御坂さんと白井さんもいた!?」
美琴「あれ、佐天さんと、シスター? ………………………………って、アンタはッ!!」
一方通行「………………………………………チッ」
美琴の空気が一変する。
一方通行はここで自分が引け目を感じてしまう少女に、まさかここで会う事になるとは思わなかった自分の思慮の甘さに対する悔しさからか、また複雑な気持ちからか。
ただ舌打ちをするしか出来なかった。- 938 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/20(木) 02:29:10.10 ID:lOcj0QPDO
美琴の心臓が揺れる。
視界の中心に写るは、最凶最悪の憎き第一位。
忘れもしない、『自分』を一万人以上残虐の限りを尽くし殺してきたあの一方通行。
頭の中が真っ白、目の前が真っ暗になる様な衝撃だった。
何故。何故ここにいる。
平穏な日常ともいえるこの場で、何故自分の『絶望』がここにいるのだ。
美琴「ッ、佐天さん! シスター! そいつから離れてッ!」
佐天「み、御坂さん……………………?」
インデックス「短髪? どうしたの?」
一方通行との距離が近い事に危惧を感じ、佐天とインデックスに叫び散らす。
彼女達以外にも少女達はいたが、面識のある二人の名を呼んでいた。
上条「おい、御坂……………………」
初春「御坂、さん………………?」
黒子「お姉様……………? い、いかがされましたの?」
美琴「何で………………ッ、何でアンタがこんな所にいるのよッ!」
一方通行「…………………………………………」
打ち止め「お姉様……………………」
番外個体「……………………」
美琴「っ!? その子達も、私の……………………!?」
美琴の視線が打ち止め、番外個体の二人に移り言葉が詰まる。
頭に血が上ったせいか、視界の中心が一方通行という白い悪で埋め尽くされていて、胸の内の警鐘がけたたましく鳴り響き冷静になれないでいた。
故に、その二人の顔や体勢が今になってやっと気付いていた。- 939 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/20(木) 02:29:56.15 ID:lOcj0QPDO
身体的な差はあるが、その顔は正しく自分。
しかしどういう事だ? 実験は上条の手をもって凍結されたはずなのに。
まさかまた自分のDNAマップを用いた何かの実験によってこの二人は生み出されてしまったのだろうか。
また一方通行の殺戮の犠牲となる者が、増えていってしまうのだろうか。
ただ、その自分のクローンだと思われる二人の手は、一方通行のそれに繋がれている。
それはまるで仲が良さそうに、親しんでいるように、信頼しているかのように。
美鈴「あら偶然。この前はお世話になったわね」
美琴「お母さん……………………?」
一方通行「……………………………………おォ」
美琴「え………………………………?」
美琴の呼吸が一瞬ヒュッと止まる。
母が、憎き第一位に世話になった?
何を言っている。
この存在が、そんな事するはずはない。
何かの間違いだ。
初春「御坂、さん? 一方通行さんと何が………………?」
黒子「………………お姉様? 一方通行さんがどうなされたんですの?」
美琴「え────────────────」
ただ、美琴の最も信頼する親友達のその言葉にも、息を飲む。- 940 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/20(木) 02:31:04.38 ID:lOcj0QPDO
一方通行、『さん』?
この二人も一体何を言い出しているのだ?
まさか、今度は────────
美琴「………………何? 今度はその子達含めて篭絡でもして私を精神的に追い詰めようとしてるの? 今度はそういう実験なの?」
美鈴「美琴ちゃん? 何言ってるのよ」
美琴「お母さんは口を挟まないで。騙されてるだけだから」
一方通行「……………………………………」
美琴「答えなさいよ……………………」
打ち止め「あなた……………………」
一方通行「お前は口を挟まなくていい。これは俺の問題だ」
打ち止め「でも……………………っ」
美琴「はっ、そんな小さい子にまで懐柔してるのね。何を考えているの? 今度は何をしようとしてるの?
ねえ、答えてよ……………………答えなさいよ……………………ねえ…………ッッ」
一方通行「…………………………ッ」
美琴「 答えろッッ!! 」
上条「御坂!!」
美琴「っ!!」
上条が立ち上がり、叫ぶ。
何よりも愛しい存在の咎める様なその声に、美琴の身体は一瞬跳ねた。- 941 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/20(木) 02:32:04.85 ID:lOcj0QPDO
彼が自分の名を叫んでくれたというのに。
その声は、まるで自分を止めようと咎める様な怒声。
どうして? どうして?
アンタもアイツに殺されそうになったのよ?
一方通行「いい。三下は口を出すンじゃねェ」
上条「だけど………………一方通行、お前は…………!」
一方通行「それ以上何も言うな。どうせいつかはこうなってたンだろォが……………………特に、テメェにはこれ以上、どォこォ言われたかねェ」
上条「一方通行……………………」
美琴「な、何よ……………………アンタまで………………どういう事なのよ…………当麻っ!!」
上条「…………………………っ」
初春「当麻、さん……………………」
涙さえ混じったような美琴の悲痛の叫びがこだまする。痛々しい表情を撒き散らし、その心情がどれだけ揺れているかを場の全員に感じ取らせていた。
その高まり荒ぶる感情が、美琴の周りを青光りして帯電している様子からも窺わせている。
神裂「一体何が……………………」
五和「どういう状況なのでしょう………………」
インデックス「多分、短髪とあくせられーたの間に何かがあったんだよ。きっととうまも、それに関係してる………………」
佐天「み、御坂さん……………………」
絹旗「佐天さん、止めちゃダメですよ。これはきっと………………当人同士の問題でしょうから」
黒子「お姉様…………………………」
絹旗を除いた事情を知らない周りの少女達も、ただ黙って二人を見るだけしか出来ないでいた。
絹旗も事情は知っているのだが、彼女の言う通りこれは当人同士の問題だ。
自分が口を挟むのも違うのだろうと口を固く閉ざしていた。- 942 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/20(木) 02:33:15.24 ID:lOcj0QPDO
番外個体「はぁ…………………………ったく」
美琴「な、何よ……………………!」
ふと、そこで面倒臭そうに溜息を吐く声が聞こえた。
それがした方に目を向けると。
自分のクローンだろうか、それと思わしき自分と同じ顔で少し大人びた身体を持つ者が頭に手を置いてくしゃくしゃとしている様子が目に映った。
番外個体「お姉様さぁ……………………何被害者ぶってんの?」
美琴「……………………………………!!??」
一方通行「オイ…………………………」
見た事のない自分のクローンらしき人物の言葉が、美琴を貫く。
その目はまるで自分を射抜くかの様な鋭い視線。
彼女もまた、一方通行を糾弾する自分を非難しているかのようなそんな雰囲気を纏っていた。
- 943 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/20(木) 02:34:38.11 ID:lOcj0QPDO
美琴「な………………何よ………………?」
番外個体「お姉様は知ってるの? この人に何があったのかを」
美琴「知ってるわよっ、そんな事ッッ!」
番外個体「ほー。それならこのミサカも生まれた意味を知っているんでしょ?」
美琴「アンタが生まれた意味……………………? そ、そんなの一つに決まっているじゃない。その男の実験のたm────────」
番外個体「お姉様」
美琴「な、何よ……………………?」
一方通行「オイ……………………もォやめろ…………」
番外個体「やっぱりお姉様は、全然わかってないんだね」
美琴「ッ!? どういう事よッッ!?」
番外個体「何もわかってない。妹達を守るような事を口にしておきながら、お姉様は全然わかってないんだね」
美琴「……………………………………な、何よ?」
番外個体「この人がどれだけ苦しんだかわかる? 肉体的にも、精神的にもどれだけ傷を負ってるのかわかる?」
美琴「な、何を言ってるのよ、アンタは………………その男は、一万人以上虐殺してきた冷酷な最悪の人間なのよッッ!!??」
一方通行「……………………ッッ」
打ち止め「お姉様!!」
上条「御坂っ!!」
番外個体「それだけにしか目がいってないんだね、お姉様は。間接的に、だけど自分に降り懸かった危害を全て悪だと決め付けて、蔑んで憎しんで。
何? 自分だけが苦しい思いをしたとでも思ってるの? あれからこの人と妹達に何があったのかとかも考えないで自分の考えが正しい独善オナニーでもキメこんでるの?」
一方通行「番外個体ッ! やめやがれッ!!」
番外個体「あなたもなに言い返さないで黙ってるの? お姉様が全て正しいっていう風にお姉様の糾弾をただ黙って受け入れる新手の独りよがりプレイでもしてるの?」
- 944 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/20(木) 02:36:27.10 ID:lOcj0QPDO
番外個体は止まらない。
美琴の番外個体を睨む視線が強くなろうが、自分にさえも憎しみのようなものを抱かせようが、番外個体は止まらなかった。
一方通行と美琴を相手取り、一歩も引かずに胸倉をも掴むような勢いで、美琴と一方通行の二人に噛み付いていた。
美琴「何よ………………もう、訳わかんないわよ………………っ」
チラッと上条を見る。目が合った。
ただ彼の表情も、まるで自分が違っているとも言いたそうなその表情をしていて────────。
彼だけは、味方だと思っていた。
彼だけは、自分を助けてくれると思っていた。
あの時、一人で絶望に打ちひしがれていた時に彼だけが自分の苦悩を汲み、救ってくれたように。
なのに、なのに。
どうして、今は助けてくれないの?
美琴「もう……………………訳わかんないわよッッ!!」
上条「御坂っ!!」
黒子「お姉様!!」
一方通行「ッ!!」
この場にいるのが、まるで自分だけが違う世界にいるような感じがして。
気付けば、走り出していた。
- 945 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/20(木) 02:37:34.69 ID:lOcj0QPDO
罪悪感が胸を貫く矢となって痛みを感じさせる。
たった今走り去って行った少女を、一方通行はただ見ているしか出来なかった。
わかっていた。
こんな事になる事など、わかりきっていた。
わかり合えるはずがない。そうだろう?
自分は彼女を一万回以上殺してきた、自身でも嫌気が差すほどの最低最悪の人間なのだから。
打ち止め「あなた………………」
反射をしていない右手を掴む感触が強まる。
守ると決めた少女の悲痛な自分を呼ぶ声も、今は無性に痛い。
締め付けられるような感覚、気持ち。
今まで感じた事のなかった罪悪感が、今になって最高潮にまで上ってきている。
番外個体のオリジナルを咎める言葉が蘇る。
彼女は間違いなく、被害者だ。それは間違いない。
しかしそんな番外個体の言葉を覆す事も出来ずに、ただじっと立ち尽くしていた。
番外個体は違うと言った。
それなら、どうすればよかった?
黙って糾弾を受け入れ、妹達の仇にとオリジナルが自分を殺すのなら甘んじて受け入れるつもりでもあったのに。
殴られたとしても、超電磁砲を撃ち込まれたとしても。
反射など、使うつもりも毛頭なかったのに。
上条「くそ、御坂!!」
ふとそこで、ヒーローがオリジナルの後を追って走り出すのが目に写った。
テメェはそう動くのか、とどこか客観的にも見え一方通行は沈黙を貫いていた。
オリジナルと会った瞬間に、一方通行の心はどこか遠い所にいってしまっていた。
耐えられそうになかったから。
自分のした事の後悔に押し潰されそうだったから。
弱い人間だ、と一方通行は自身を蔑む。
そもそも強い心があれば、あんな実験に参加しなかった。
善悪の判断もせずに、研究者達の口車に乗せられる事もなかった。
どうしようもなく、自分は弱い人間だと心底思った。- 946 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/20(木) 02:39:14.95 ID:lOcj0QPDO
打ち止め「………………………………」
一方通行「打ち止め……………………」
手を握られる感触が強まる。
彼女に取っての全力のつもりなのだろうが、痛みは全然ない。
だからこそそれが、逆に突き刺さる。
あの実験が止まらなければ、その小さな存在でさえも自分は手にかけていただろうに。
打ち止め「ヒーローさんに任せておけば、いいよ……………………ヒーローさんなら、きっと」
一方通行「………………………………」
番外個体「………………………………」
一方通行「あァ……………………そォだな」ギュ
大切な者の言葉は、やけに胸に響く。
打ち止めから、それをまた一段と感じさせられていた。
美鈴「……………………全部聞かせてもらうわよ。そっちの子達も含めて、ね」
一方通行「………………………………あァ」
だからこそ、自分の撒いた種は自分で刈り取る。
それが自分なりの、責任の取り方というやつなのだろう。
- 962 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/21(金) 14:56:43.54 ID:IgieDq7DO
涙で視界がはっきりとしない。
だが周りの人影や、建物、物体は自身が無意識で認識してしまう磁場にて位置情報は把握していて、ぶつかるという事はない。
この努力して培ってきた能力もあんな残虐な実験で使われ、周りからも距離を置いて見られ。
そして今度は、大切な者達まで距離を置かれた様な気がして。
一人になりたかった。
何も考えたくなかった。
納得いかなかった。
納得など、したくもなかった。
陽が落ちてきた夕暮れの街を、ただひたすら走る。
滲んだ視界からかすかに見える学生達の奇特な目や聞こえる声も、美琴の頭には全く入ってこない。
それほど、美琴の頭の中はぐちゃぐちゃになっている。
───どうして、どうしてッッ!
彼は私を助けてくれない? わかってくれない?
どうしてあの男を擁護しようとしてる?
数え切れない程の『人間』を殺した悪魔なのに、そんな男にどうして?
あんな事を、愉快そうに顔を歪めながらしてきた男に、どうして?
それから何かがあったという事など考えられなかった。
考えたくもなかった。
あの実験は無意識の内に頭の中から消し去っていた。
夢にも出てくるあの悪夢を、出来るだけ考えないようにしていた。
一方通行という存在を思い出す度、美琴の身体は震えてしまう。
この平穏な日常を、悪意で塗り潰されたくなかったのに。
───苦しいよ、助けてよ………………。
誰も自分の絶望に手など差し延べてくれなかった中、彼だけは違った。
自分の絶望を打ち壊した彼に、特別な感情を覚えた。
彼だけは、彼だけは自分のをいつだって助けてくれるヒーローなのに。
そんな彼も、あの夏休みの最後の日のこの耳で聞いたあの言葉も。
信じられなくなりそうな自分に、心底嫌気がさした。
- 963 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/21(金) 14:57:30.53 ID:IgieDq7DO
気付けば、誰もいない。
どれだけ走ったのかはわからないくらい、走った。
置き去りにしてきた街並みも、もう手に収まってしまいそうなるほど遠くに見える。
街の騒がしい喧騒も、ここには全く届かない。
風が吹き付け、髪が揺れていた。
ここはどこなのだろう。
いや、自分はこの場所を知っている。
足を止めたこの場所は、自分と彼との縁のある場所。
あの、鉄橋だ。
美琴「………………うぅ…………とう、ま…………当麻ぁ…………」
周りには誰もいない。何もない。
どこまでも、一人。
孤独を感じる。
頬を伝わる涙が、吹きつける風で余計に冷たく感じられた。
彼に会いたい。
でも、会いたくない。
彼への思いと、わかってくれない辛さがせめぎあい自分の感情をごちゃごちゃにさせていて、もう何もわからない感覚だった。
ただ────────。
どうして、彼はいつも。
自分の幻想を、ぶち壊していくのだろう。
上条「御坂!!」
美琴「っ!」
そしてその鉄橋に、自分が死ぬほど待ち望み、会いたくなかった少年の声が響き渡っていた。- 964 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/21(金) 14:58:20.36 ID:IgieDq7DO
美琴「な、何よ……………………」
上条「……………………御坂」
彼がどんどん近付いてくる。
距離にしておおよそ5メートル、夕暮れの陽を一身に浴びて彼の姿はそこにあった。
美琴「どうして、来たのよ………………?」
上条「御坂」
美琴「何よ………………何で、来たのよ…………」
誰よりも会いたかった少年の言葉は、今は聞きたくない。
信じられない。
信じたくない。
彼がここに来た事さえ、今はあの第一位の差し金と感じられるほど美琴の頭は疑念で埋め尽くされている。
美琴「初春さんはどうしたのよ……………………?」
上条「………………………………」
美琴「帰ってよ…………一人にさせてよ………………」
それほど、一人の少女にとって耐えられない重みがのしかかっていたのだ。
それを、今更になってどう考えを改めろと?
無理があるにも程があるのに。
美琴「何でアンタも、アイツを庇うのよ………………」
上条「……………………御坂」
美琴「あの第一位が何をしてきたか、アンタも知っているでしょ………………?」
上条「………………………………」
美琴「アンタも、アイツに殺されそうになったっていうのに………………何でよ…………」
上条「………………………………」
美琴「黙ってないで、なんとか言いなさいよ………………」
上条「………………俺は」
一際強い風が二人の間を吹き抜ける。
美琴の心を表すかのように、冬の寒さに無慈悲で冷たく吹き抜ける。- 965 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/21(金) 14:59:08.11 ID:IgieDq7DO
美琴「………………『俺は』、何よ……? アンタ達でそうやって結託して、私を笑い者にでもしてるの?」
上条「違う」
美琴「いつから? いつからそうやってアンタ達はつるんでたの?」
上条「御坂、聞いてくれ」
美琴「一万人もの私の妹達を殺してきたヤツを庇って、何を聞けって言うのよッ!」
上条「……………………っ!」
そっか。
彼はもはや自分を助けてはくれない。
わかってくれない。
もはや彼さえも……………………『敵』に見えてしまう。
美琴「一番に信頼してるアンタがっ! 私を助けてくれたアンタがッ! なんでも私の一番のアンタがッッ!」
上条「御坂……………………!」
美琴「もう、信じられないわよッッ!」
そして鉄橋に、一筋の閃光が爆音を上げて突き刺さる。
かつてない程のその威力は、鉄橋を揺らし、コンクリートを焦がし。
上条「っ!?」
彼の僅か1mほど横の地面に、大きな穴を開けた。
美琴「……………………私と戦いなさい。本気の、殺し合いよ」
上条「御坂………………!」
いつかのあの場面を再現するかのように。
美琴は上条と対峙していた。- 966 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/21(金) 15:00:01.26 ID:IgieDq7DO
上条「違う、御坂。俺は戦いに来たんじゃない」
美琴「じゃあ何? 一方通行の下にでも付けっての? 跪けとでも言うつもり?」
上条「そうじゃねえよ。俺はただ御坂とあいつとしっかり話し合ってほしいんだ」
美琴「話し合う? 何を言ってるのよアンタは。アイツは嬉々として私の妹達を殺したのよ? なによ、私に死ねって言ってるの?」
上条「違うっ! あいつはあいつなりに色々あったんだよ!」
美琴「色々あった? なに? また新たな実験か何かが始まってアイツの犠牲者がまた増えたの?」
上条「違うんだ、もうあいつはそんな事しねえ」
美琴「そんな事しない? それが信じられるとでも思ってるの?」
上条「俺が言っていいべき事なのかわかんねえから俺にも詳しくは言えねえ。ただな、御坂も見ただろ? あのちっこい打ち止めを」
美琴「それがどうしたのよ」
上条「あいつは、打ち止めを守ろうと………………守るべき存在として、戦ってきてんだよ」
美琴「何? 今度はその子を使ってまた何かしようと企んでるの? 私を絶望に追い込んで、今度はまた何をしようっての?」
上条「そういう事じゃねえよ! もうあいつは能力の為とか、自分の為とか思っちゃいねーよ!」
美琴「どうしてアンタがそんな事言えんのよ。何? アイツ今度は精神感応の能力か何かを身につけたの?」
上条「違ぇ! それに御坂は俺にそんな能力は効かないっての知ってるだろ!?」
美琴「さあね。アイツは最強の能力者なのよ? アンタの幻想殺しを越えてアンタを従わせてる可能性もある」
上条「そんな事はねえ! 頼む──────御坂、どうしたらわかってくれる?」
美琴「────────っ、アンタが、それを言う………………?」
どうしたら、わかってくれる?
上条のその言葉に美琴の眉が一瞬吊り上がった。
痛々しい表情をさらけ出し、キッと強く上条の目を射抜く。- 967 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/21(金) 15:01:15.11 ID:IgieDq7DO
なぜ彼がそんな事を言うのだ。それを言いたいのは、自分だ。
なぜ彼は自分の気持ちをわかってくれない?
なぜ彼は自分の苦しみを察してくれない?
なぜ彼は、自分と一緒に戦ってくれない?
上条「………………………………御坂?」
御坂「私だって………………私だって!」
視界が再び滲む。
悔しさ、悲しさ、苦しさ、無念さ。
様々な負の感情が美琴を支配し、我を無くさせていく。
美琴「私だって! アンタを信じたいわよ! アンタとわかり合いたいわよ!
でもアイツは一万人もの私の妹達を虐殺してきたヤツなのよ!?
それを今更信じろって言うの!? あれは間違いでしたはいそうですかで終わらせろって言うの!?
話し合えって? 信じられる訳ないじゃないッッ!! 」
上条「っ!!」
再度、美琴の周りを電気が帯電していく。
美琴の悲痛の叫びと共鳴するように、橋の鉄骨の所々から火花が飛び散り始めた。
その様子は、まるで終焉の中たった一人の人間がスポットライトを浴びて悲劇を演じているかのよう。
歯痒くて、切なくて、わかってほしくてわかり合いたくて。
そして美琴は叫ぶ。
手を伸ばして、助けを求めるように強く強く。
美琴「世界中の誰もが私を信じられなくてもいい!
でも、アンタだけはわかってよ!
当麻あああぁぁぁぁっっっ!!」
電撃使い最高峰の超電磁砲の力の限りの電撃が飛ぶ。
巨大な電撃となって彼の方向に一直線へと、青白い残光の残して飛んだ。
上条「わかってやるよ────お前の苦しみも、悲しみも、わかってやるよ…………!!」
そして上条は、全ての異能を消し去るその右手を強く握りしめ──────
すっと、背中に隠した。
- 968 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/21(金) 15:02:06.55 ID:IgieDq7DO
初春「当麻さん……………………」
黒子「何かが、あったんですのね………………一方通行さんと、上条さんと」
佐天「………………………………」
インデックス「短髪、泣いてたかも………………」
絹旗「……………………」
美琴が走り去り、上条が追って行ったのを一同は見守るしかできなかった。
当然、何があったのかも知らないし何と声をかければいいのかもわからなかった。
ただあの時の美琴の表情は、本当に悲しみに濡れていたのだけは感じ取り、それがどれだけ美琴の感情が揺れたのかを覚らされていた。
この場を後にしたもう一つの方も気にかかる。
一方通行に妹達と、美琴の母親の美鈴。
先程まで賑わいを見せていたこの場は、嘘だったかのように静まり返っていた。
黒子「お姉様…………上条さん……………………」
初春「………………大丈夫ですよ、当麻さんなら…………、きっとなんとかしてくれます」
佐天「初春………………」
心配そうな表情を作る黒子に、初春が宥めた。
初春は無条件で彼を信じている。
上条なら、なんとかしてくれる。
上条なら、守ってくれる。
彼の優しさと強さを知っている初春だから、笑顔で戻ってきてくれるのを信じていた。
黒子「………………ええ、そうですわね」
そんな初春に、黒子が頷く。
大切な者達を信じないで、何を信じるのかと思い直した。
四人の絆は深い。
色々な事を共に乗り越えてきたのだ、わかりあえないはずがない。- 969 : ◆LKuWwCMpeE[saga]:2011/10/21(金) 15:02:50.78 ID:IgieDq7DO
プツ────────
ふと、そこでセブンスミスト内の電気が一瞬、途切れる。
初春「!?」
黒子「今のは………………」
佐天「停電、かな?」
一瞬だ。一瞬途切れまたすぐに戻ったのだが─────。
初春と黒子の胸中に、嫌な予感が走った。
初春「今のは……………………っ!?」
黒子「まさか………………っ」
初春「白井さん──────!」
黒子「行きますわよ、初春!」
二人の意見は何も言わずとも揃う。
お互い頷き合うと、黒子は初春を伴って空間移動でこの場を後にしていた。
2014年5月4日日曜日
上条「俺がジャッジメント?」 2
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