2014年10月24日金曜日

美琴「ここが……世界樹の迷宮」

 
※未完作品
 
1VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 21:43:38.94 ID:PVrgx3oo
※注意※

・これはATLUSから出ているRPG『世界樹の迷宮』の世界観を舞台とした、禁書のクロスオーバーSSです。
・分かりにくい単語には一応注釈を入れますが、原作を知っていないと分かりにくい表現があるかも知れません。
・また、終盤には原作の重大なネタバレが出てくる予定です。これからプレイしようと思っている方は気をつけてください。
・週1~2回くらいのペースで投下していきますが、それなりに長くなる予定です。
・感想、指摘、雑談大歓迎です。

以上注意事項でした。

 
2 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 21:45:04.02 ID:PVrgx3oo






        深き樹海に総ては沈んだ…。



3 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 21:45:43.51 ID:PVrgx3oo

佐天「初春! 早く!」

初春「ま、まってくださいよ佐天さん!」







        罪なき者は、偽りの大地に残され
        罪持つ者は、樹海の底に溺れ
        罪深き者は、緑の闇に姿を消した。





4 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 21:46:41.17 ID:PVrgx3oo
狂える角鹿「Voooooooooo!!!!」

佐天「やばい! 追いつかれるよ!」

初春「そんな事言ったって……きゃっ!」





        人の子が失ったのは大いなる力
        新世界が失ったのは母なる大地





佐天「初春! くっ……フロントガード!」

狂える角鹿「Oooooooooo!!!」 ガキィン!

初春「佐天さん!」
5 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 21:47:14.97 ID:PVrgx3oo





         実は失われた大地と共に
         深淵の玉座でただ一人
         呪われた王だけが知っている。





佐天「今のうちに逃げよう!」

初春「は、はい!」
6 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 21:49:08.17 ID:PVrgx3oo


                                                     f´{、 ,.-、
        , ┐ f´{、 r'´{、  r-、_____,. ┐  ,ィ  r{、  ,.-j    r‐、_  ,.、 , ┐ ,.、く⌒ ニ__,.ニ、 >   , ィ
       __j  )__} r'__i  ヒ.r 、| ┌‐i i‐┐ | (  Yニ. ニ^ム ヽr‐、 ヽ、 }_ {__ヽ ソ __)( ,.イ ┌┐ |jノ´, --、{ /
     ( r.┐┌┐┌┐ n、,.ヘ  二. .二, リ f__`, ニィ = Tzi n ノ_rニ`  ソ^ニ  ニ^ゝ、_ヽ. ̄.ノ_ ,⌒ヽ {
    l`ー' )||| ヽノ j ___,ゝ `ニ_,ニ´ く__/ i i|「_j|{| | 7´ィnヽ.! | / ri  ト、`i| ┌‐ ^ ‐┐ |  } }
      `¨´ || `ヽ. ,∠ニヽ、__,.ィ´ヽ(´ ヽー‐イ ! トf^マくl_イ !{ {_ノ|ノ ノ| jノノ| ! {_ヽl |   | !  / /
       | ー‐ ´_... --、 `i _} | | レ‐ フ ,イ ├} { }├┤|`<‐'_ノ ,.-、`ヽ ノr‐.ァ!. |     !  !‐' /
      ,. -`ー<´__ ノ ノ´_.. -'イ| .j.イ-‐´ ヽ/ニ ニ ニソ .ノ ̄` ー<ー-ヽ..二..,、ム、_! |_ ... -‐|. ├ ´
     //´  ̄ ` ー―― ´└',. ‐. ‐ ´´              ̄           ̄ ¨¨{(て)ヶ j‐i 弋 ¨¨フ /
      { {        _. -,ニ ‐ ´                          `¨¨¨´  ヽ.. `¨´ ノ
     ` `ニ.._ー―_ ニ- ´                                        `L{´
         
                    世界樹の迷宮×とある科学の超電磁砲

                              ~御坂美琴が世界樹の迷宮に挑むようです~
7 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 21:51:41.23 ID:PVrgx3oo

 ここはエトリア。
 大陸の辺境に位置する小さな街だ。

 この街には世界樹と呼ばれる巨大な樹が立っており、その地下には広大な迷宮が存在している。
 迷宮の中には地上とは似ても似つかない生物――魔物による生態系が築かれており、それらから手に入れられる素材は多くの富を生み出した。
 エトリアは今や、世界樹の迷宮に挑み、富や名声を得ようとする者たちで溢れていた。
 
 そんな街の外れ、樹海への入り口から息を切らして飛び出してくる影が二つ。
 片や全身鎧に身を包み、小柄な身体に不釣合な大盾を構えた少女。
 片や申し訳程度に手足を覆うプロテクターこそ付けているものの、白衣を纏って肩から鞄を提げただけの軽装の少女。
 二人の少女は樹海から飛び出した勢いのまま、転がるように街へと続く街道へ倒れこむと、ぜえぜえと荒い息をつく。

佐天「こ、怖かったぁ……」

初春「やっぱり二人だけで世界樹の迷宮に挑むだなんて無理ですよぅ……」

佐天「でもでも、1Fなら地図も完成したし、2Fもこの調子でいけるって!」

初春「2Fに降りた途端あんな化け物がいるんですよ!? 無理無理! 絶対無理ですって!」

佐天「ほら、上手いことあいつを避けていけば……」
8 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 21:55:25.15 ID:PVrgx3oo
初春「もしあそこを切り抜けられても、樹海の奥にはもっと強い魔物だっているんですよ!? 断言します。二人じゃ絶対無理!」

佐天「んー、そうは言ってもなぁ……新米のパラディンとメディックを入れてくれるギルドなんてあるのかなぁ?」


※パラディン:防御特化型の前衛。パーティーの盾となる職業。いわゆるナイト。
※メディック:回復支援型の後衛。回復役。いわゆる僧侶や白魔。
※ギルド:同じ目的を持って樹海探索に挑む集団。PTは主にこのギルドメンバーで組む。いわゆるクランやLS。


初春「佐天さんはともかく、メディックの私だけならなんとかなるかも知れませんね、メディックは数が少ないですし、居すぎて困ることもありません」

佐天「初春ぅ……私を見捨てるのぉ……?」

初春「じょ、冗談ですよ。さっきだって、佐天さんだけなら私を見捨てて安全に逃げられたのに、
    転んだ私を庇ってくれました。佐天さんは命の恩人です! 私は恩人を見捨てたりなんかしません!」

佐天「ぐすっ……ういはるぅぅぅぅ……」

初春「何泣いてるんですかもう。さ、立って下さい」

 そう言って立ち上がった初春が佐天に手を伸ばす。
 と、

佐天「初春! 大好き!」
9 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 21:57:05.84 ID:PVrgx3oo

 がしっ! と、佐天が初春に抱きついた。
 小柄な少女と言えど、佐天の身体は今やそれなりに重量のある鎧に包まれている。

 対して初春は軽装な上に佐天よりも小柄だ、そこに十キロ以上の重量差が存在する佐天が抱きつけばどうなるか?
 当然、初春にそんな荷重を支えきれるほどの筋力は無い。つまり――

初春「あわわわわ!!」

 街道脇の草むらに向かって、佐天と共に初春が背中からひっくり返るように倒れた、

??「むぎゅっ!」

 ――謎の効果音を伴って。

初春「むぎゅ?」

 思わず呟き、そこで違和感に気づく。
 結構派手にひっくり返った割には背中に痛みはない。
 草むらはそれなりに深いが、しかし衝撃をすべて吸収できるほどではないはずだ。
 恐る恐る、初春は振り向いた。

佐天「人?」

 先にその正体に気づいたのは初春の肩ごしに地面を見ていた佐天だった。
 初春と佐天が下敷きにしていたのは紛れも無く人間である。
10 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 21:57:49.39 ID:PVrgx3oo

初春「あわわわ! 佐天さんどいて下さい!」

 強引に佐天を突き飛ばし立ち上がると、初春は自分が下敷きにしていた人間に駆け寄る。
 
 少女だった。

 うつ伏せに倒れていたのは、見たことも無い衣装に身を包んだ茶髪の少女。
 慌ててその少女を抱き起こすと頬を叩いて意識の有無を確認する。
 その手際の良さはさすがメディックと言えた。

初春「だ、だいじょうぶですか!? すいません、こんなところで寝ている人がいるなんて思わなくて!」

佐天「と、とにかく街まで運ぼう! こんなところで倒れてるなんておかしいって! 施薬院で見てもらった方がいいよ!」

 

              
11 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:00:41.51 ID:PVrgx3oo

              ◆

 

 目を開くと、そこは見知らぬ天井だった。
 薬品の匂いにシミひとつ無い純白のシーツ。
 ふと横を見れば壁際の棚に見たこともない色の薬品がずらりと並べられている。

??「おや、目を覚ましたようだね」

 声の方を振り向けば、そこに居たのは白衣を着た、いつぞやのカエル顔の医者。
 少女――御坂美琴は己が病院のベッドで寝ていることを悟り、同時にいくつかの違和感を得る。

 何故自分は病院のベッドで寝ているのか。
 何故この病室は石造りのレトロな内装なのか。
 何故このベッドはパイプではなく木製なのか。

 疑問を思い、口を開く。

美琴「私は……なんでここに」

 一番最初に思い浮かんだ問いをとりあえず放つ。
 記憶を探っても、ここ数日の記憶が曖昧で、思い出せない。
 その問いに答えたのはカエル顔の医者だ。

医者「樹海の入り口に倒れていた君を、親切な冒険者がここまで運んでくれたんだよ」
12 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:02:03.77 ID:PVrgx3oo

 樹海?
 冒険者?

 聞き慣れぬ単語に戸惑いつつも、次の問いを発した。

美琴「ここは? 病院……っぽくないけど」

医者「ここはケフト施薬院。一応病院みたいなものだけどね。そして私がここの院長、キタザキと言う者だ」

美琴「ケフト施薬院……? そんな施設あったかしら。ていうか、ここは何学区なの?」

医者改め キタザキ「学区? なんだいそれは」

美琴「何って、学区よ。学園都市の区画単位」

キタザキ「学園都市…… はて、それなりに長く生きて入るけど、そんな都市は聞いた事がないね」

美琴「はぁ? あんた私をからかってる訳? 大体あんただって第七学区の医者じゃ」

キタザキ「僕は生まれてこの方エトリアから出たことは無いよ。だれかと勘違いしてるんじゃないかい?」

美琴「? 一体どういう……」

キタザキ「どうやら記憶が混濁しているようだね。そうだね……ちょっと窓の外を見てみるといい」
15 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:06:43.65 ID:PVrgx3oo

 言われ、キタザキの指し示す方を見て美琴は絶句した。
 
 木枠の窓の外に広がるのは、近代的とは程遠い石造りの家屋の群れ。天をつくような高層ビルや風車は無く、代わりに空高くそびえるのは、

美琴「樹? なにあれ、大きすぎて天辺が見えない」

 幹は学園都市に立ち並ぶビルを数棟束ねたほどの太さがあり、その梢は雲を割り、その先まで伸びている。
 開いた口が塞がらない美琴に、キタザキが言う。

キタザキ「あれは世界樹。エトリアのシンボルであり、大いなる恵みをもたらす母さ」

美琴「世界樹……」

キタザキ「どうだい? 記憶の整理はついたかな?」

 その問いは、しかし美琴の耳には届いていなかった。
 彼女は魅せられていたのだ。
 学園都市では見ることの叶わない自然の雄大さに、その神秘性に。

 だが、いつまでも呆けているほど美琴の頭の回転は遅くなかった。 
 信じ難い事だが、自分がファンタジーの主人公よろしく、異世界に飛ばされてしまったのでは無いかという可能性に思い至った。

 だって、あんな巨大な樹があるなんて、聞いたことも無い。
 そもそも、あんなスケールの樹など、存在出来るハズが無い。
 科学の街に生きる学生と言えども……否、科学の街に生きる学生だからこそ、あの樹の存在が異常であることが簡単に理解できた。

 ならば、

美琴(まず私がすることは、帰る方法を探すこと)
16 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:07:15.83 ID:PVrgx3oo

 ここでパニックに陥るほど美琴は愚鈍では無かったし、異常事態に不慣れでも無かった。
 そもそも自分の存在自体SFな代物なのだ。これくらい、受け入れられないほど狭量じゃない。

美琴「……キタザキさん」

キタザキ「ん? なんだい?」

美琴「信じられないかも知れないけれど、聞いてくれますか?」

キタザキ「信じるかどうかは話の内容によるけれど、聞くくらいはできるよ」

 彼の言葉に、美琴は一度深呼吸をし、言った。


美琴「私は、こことは別の世界から来たの」
17 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:07:54.12 ID:PVrgx3oo
  
              ◆


佐天「それじゃ、樹海から無事戻れたことを祝って、カンパーイ!」

初春「かんぱーい!」

 カチンと、二人の握ったジョッキが澄んだ高音を奏でた。
 ゴクゴクと豪快にジョッキの中身を流し込み、プハーと佐天が息を吐く。

佐天「かー! 生き返るぅ」

初春「佐天さん、オヤジ臭いです……」

佐天「仕方無いでしょ、美味しいんだから」

黄泉川「そうじゃん、よく飲むお客は良いお客じゃん」

 そう言って彼女らのテーブルに料理を並べるのは爆乳の女性。ここ、金鹿の酒場の女主人、黄泉川だ。

初春「うー、だからって飲みすぎはいけませんよ? ただでさえ今日は赤字なのに」

佐天「でも、ここで飲まないと明日の探索に支障がでるよ?」

初春「出ませんよ!」
18 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:08:44.91 ID:PVrgx3oo

黄泉川「相変わらず楽しそうじゃん、お前ら。確か今日は2Fに挑むって言ってたけど、どうだったじゃん」

初春「それがですね、2Fに下りた途端、馬鹿みたいに強い鹿が襲いかかってきまして」

佐天「私たちは命からがら逃げ出してきたんですよ」

黄泉川「ああ、他の冒険者からもたまに聞くじゃん、その鹿の話。なんでも桁違いに強いとか」

佐天「そうなんですよ、逃げるので精一杯でした」

初春「あ、そう言えば……」

佐天「ん?」

初春「私たちが樹海の入り口で見つけた女の人、大丈夫ですかね?」

黄泉川「女の人?」

佐天「そうなんですよ、樹海の入り口に見たことも無い服装の女の人が倒れてて……一応施薬院に連れていったんですけど」

黄泉川「へぇ、見たことも無い服装って、どんなのじゃん?」
19 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:10:18.47 ID:PVrgx3oo

初春「えっと、そうですね。やたら短いスカートに、なんて言うんでしょう、こうブレザーで……」

佐天「そうそう、胸には見たことの無い紋章が入ってたね」

初春「あ!そうですね!」

黄泉川「へぇ、じゃあ貴族の娘さんじゃん?」

初春「うーん、確かにお嬢様っぽかったですけど……」

 悩む初春の耳に、カランカランとベルの音が飛び込んだ。
 店の入口にかけられた呼び鈴だ。ふと思考を打ち切り、何気なく入り口を見る。

初春「あっ!」

佐天「お?」

黄泉川「いらっしゃい」

 三者三様の反応を見せる彼女たちに、入店者が視線を合わせた。そして、迷うこと無くこちらへと歩いてくる。

黄泉川「知り合いじゃん?」

佐天「えっと、まさに噂をすれば……って奴ですね」
20 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:11:08.58 ID:PVrgx3oo


               ◆


 結局、キタザキは半信半疑ながらも、美琴の言葉を事実と仮定して助言をくれた。
 数時間前のやりとりを、美琴は脳裏に浮かべる。

キタザキ「それにしても、ここが異世界だと知っていながら、あまり動揺していないね」

美琴「それで元の世界に帰れるなら、いくらでも動揺するわよ」

キタザキ「君は強いね。僕だったら数日は立ち直れそうにないよ」

美琴「その割には、あんたも落ち着いてるじゃない」

キタザキ「職業柄、患者の妄言には慣れてるからね」

 言って、キタザキはニッと笑った。
21 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:12:02.83 ID:PVrgx3oo

キタザキ「とりあえず、君はこの世界の人間として振舞うといい」

 そう言って、湯気の立つ紅茶を美琴に勧める。
 ゆっくりと口を付ける美琴に、自分も唇を湿らすとキタザキは続ける。

キタザキ「その方がトラブルも少ないだろうしね。さて、肝心の元の世界に戻る方法だが……一応心当たりはある」

美琴「!? あるの?」

キタザキ「あると言うか、そんな事があってもおかしくはない。と言った方が正しいかな」

美琴「どういう事?」

キタザキ「さっき君が見た世界樹だよ。あの地下には樹海が広がっていてね」

美琴「地下に……樹海?」

キタザキ「おかしな話だろう? 我々は世界樹の迷宮と呼んでいるんだが、そこには未だに謎が多い」

美琴「謎って言うと?」

キタザキ「まず、樹海の中と外では生態系が全く違う。独自の生物が住み、植生や、気候まで違う。
     地下だと言うのに明かりがあり、小川や、小さな泉まである。そして、その地下にはさらに別の世界が存在する……と伝えられているんだね」

美琴「それが、元の世界とどうつながるのよ」
22 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:13:07.92 ID:PVrgx3oo

キタザキ「正直に言って、君のように異世界から来たと言う人の話しはおとぎ話でも聞いたことが無い。
     それらしい人物や、手がかりも皆無だ。だからこそ、その手がかりがあるとしたら、そんな謎に包まれた世界樹以外に無いだろうね」

美琴「なんとも曖昧な話ね。確証なんてこれっぽっちも無いじゃない」

キタザキ「だが、試してみる価値はあるとおもうよ? 樹海には危険な生物が多くいるが、君は超能力が使えるんだろ?」

美琴「簡単に言ってくれるわねぇ……」

キタザキ「まぁ、他人事だからね」

 突き放したような言葉に、しかし美琴はニヤリと笑う。

美琴「そうね、正直そういうRPG 的な展開って憧れてたのよね。いいわ、潜ってやろうじゃないの、世界樹の迷宮とやらに」

キタザキ「ま、頑張ってね。そうそう、世界樹に挑むならどこかのギルドにでも入るといいよ。一人だといろいろしんどいだろうしね」

美琴「ギルド?」

キタザキ「冒険者同士の集まりさ。ほとんどの冒険者は、そこで4~5人のパーティーを組んで世界樹に挑むからね。
     そうだなぁ、職業はアルケミストとでも名乗ればいいんじゃないかな?」


※ アルケミスト:魔術攻撃型の後衛。錬金術を使って主に属性攻撃をする職業。いわゆる魔法使い。
23 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:14:09.51 ID:PVrgx3oo

 簡単に樹海について説明したキタザキは、善は急げとばかりにソファから立ち上がる美琴に向けて言った。

キタザキ「そう言えば、君を運んできた冒険者が、ギルドメンバーを探してるとか言ってたかな」
 

 思考をやめ、現実に戻る。
 目の前に居るのはどこかで見た顔の女性と、見知った少女二人。
 思わず目頭に熱いものが浮かぶのを感じるが、堪える。
 爆乳の女性が「ごゆっくり」と去っていくのを見送り、美琴は口を開く。

美琴「昼間はありがとね」

佐天「あー、いいって事です。困ったときはお互い様です」

初春「そうですよ。あ、お体はもう大丈夫ですか?」

美琴「もう随分良くなったわ」

佐天「そいつは重畳。あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は佐天涙子、見ての通りパラディンです」

初春「私は初春飾利って言います。メディックです」

美琴「御丁寧にありがとうね。私は御坂美琴よ、一応……アルケミストをやってるわ」
24 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:15:14.22 ID:PVrgx3oo

初春「御坂さんも冒険者だったんですね!」

佐天「ん? それにしては装備が無いようですけど……」

 訝しむ佐天に、美琴は予め用意しておいた答えを返す。

美琴「ええ、実はまだエトリアに来たばかりで、装備もろくに揃えてないのよ。疲れが溜まってた所為か、あんな所で倒れちゃったし」

佐天「ほほう……」

 佐天がその頬に怪しげな笑みを浮かべた。
 よく見ると、初春も目が笑っていないように見える。

佐天「と、言う事はまだギルドにも所属していない?」

美琴「ええ、そうよ」

初春「あの、でしたらぜひ……」

佐天「私たちのギルドに入って下さい!」

美琴「いいわよ」

初春「お願いします! 私たち二人じゃさすがに……って、え?」

佐天「いいん……ですか?」
25 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:19:19.55 ID:PVrgx3oo

美琴「もちろん。そのためにここに来たんだから」

佐天「…………」
初春「…………」

佐天「やったーーーーーー!!!」

初春「やりましたね佐天さん! これで2Fもなんとかなるかもですよ!」

佐天「そうだね初春! 御坂さん、ありがとうございます!」

初春「今後ともよろしくおねがいします!」

美琴「ええ、よろしくね、佐天さん、初春さん」

 こうして冒険は始まる。
 幕が上がり、物語は進む。
 
 始まった演劇は止まらない。
 観客が、望むと望まざるとにかかわらず……。


 第一話 [了]
26 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/22(水) 22:24:30.12 ID:PVrgx3oo

            ――次回予告――

??「だーかーらー! わたくしをギルドに入れなさいと申していますの!」

 新たなる仲間。


佐天「ひっかきモグラです! これくらいなら私だけでも大丈夫ですから、御坂さんは後方で待機していて下さい!」

美琴「ちょっと! 私だって戦えるわよ!」

 振るわれる剣。


美琴「ここが……世界樹の迷宮」

 いざ、冒険の舞台へ!


 次回、第二話をお楽しみに!
 
 君たちは続きを読んでもいいし、読まなくてもいい。
 
27 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/22(水) 22:25:41.24 ID:PVrgx3oo
以上第一話でした。
次回二話は一週間以内に投下されると思います。

52 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 20:56:38.10 ID:VbYvnBEo

エトリア ――冒険者ギルド


美琴「登録?」

佐天「ええ、美琴さんに私たちのギルドへ入ってもらうには登録が必要なんですよ」

初春「登録って言っても、書類に署名するだけですが」

建宮「そういう訳よな」

 ベルダの広場に面する砦のような建物、そのカウンターの奥から現れた男――建宮斎字はそう言うと、一枚の書類を取り出す。
 それはエトリア執政院の印と冒険者ギルドの紋章が入ったもので、そこには佐天と初春の名前、そしてギルド名が書かれている。

美琴「ジャッジメント……?」

佐天「私たちのギルドの名前です! カッコいいでしょ?」

初春「悪を挫き、弱きを救く! 正義のギルドです!」

佐天「ま、名前負け感は否めないけどねー」

初春「うぅ……」
53 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 20:59:26.41 ID:VbYvnBEo

建宮「ま、冒険者なんてのは樹海からしてみれば略奪者よ、正義とは言い難いかも知れんが。いいのよな、こういうギルドがあっても」

初春「ですよね! さすが建宮さん、分かってらっしゃる!」

佐天「ささ、御坂さん。ここにお名前を」

 言われ、初春の下に自分の名前を入れようとした時だった。

??「だーかーらー! わたくしをギルドに入れなさいと申していますの!」

冒険者風の男「何度も言ってるがダークハンターの、しかもお前みたいなガキはお呼びじゃねぇって言ってんだよ!」

??「かっちーん! ガキ? ガキと申しましたの? わたくしはもう立派なレディですの!」

冒険者風の男「ハッ! レディを名乗りたかったら金鹿の主人くらい色気つけてから来な」

??「むきー! なんて無礼な殿方ですの!? こんなギルドこっちから願い下げですの!」

 言い、ボンテージにウィップを提げたツインテールの少女がぷいっとそっぽを向いた。
 からまれていた男はやれやれと言った風情で冒険者ギルドから出て行く。

建宮「あーあー、またあのお嬢ちゃんか」
54 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:01:01.62 ID:VbYvnBEo
佐天「また?」

建宮「ああ、ここ数日冒険者ギルドに居座っては登録にきた奴らに片っぱしから声をかけてやがるのよ。
    ダークハンターは確かに攻撃に特化した優秀な職業だが、いかんせん堅実な冒険を好む奴らには敬遠されがちなのよな。
    それに、あの性格じゃぁなぁ……」


※ダークハンター:攻撃特化型前衛。鞭を使い、状態異常や縛りを得意とする職業。いわゆる……なんだろう?


初春「そうですよねぇ、見るからにキツそうな性格してますし、冒険においてチーム内の不和を招くような人はちょっと……」

美琴「黒子……」

佐天「ほえ? 御坂さん、知り合いですか?」

美琴「え? あ、いや。知り合いに似てたから……」

佐天「そうですか……あ、でも仲間を探してるならちょうどいいじゃん! ウチのギルドに入ってもらおうよ!」

初春「えー、ああいう人はちょっと……」

佐天「でもさぁ、正直そうも言ってられないでしょ? 前衛が私一人って結構きつかったし」

初春「うーん……でもなぁ」

建宮「悩んでるところ申し訳ないが。あの嬢ちゃん、アイツの所にいっちまったのよな」
55 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:04:10.87 ID:VbYvnBEo
 建宮に言われ、二人がそちらを見やると、確かに美琴はダークハンターの少女へと話しかけようとしていた。
 どこか安堵したかのような、しかし緊張を持った表情で、美琴が口を開く。

美琴「あのさ、良かったら、私たちのギルドに入らない?」

初春「えーーーー!?」

佐天「おお! 御坂さんアグレッシブ!」

 ギロリと睨みつけるように振り向いた少女が、少し驚いたように表情を変えながらも、怪訝そうに答えた。

??「……貴女は?」

美琴「私は御坂美琴、アルケミストよ。今日からそこの二人と樹海に挑むことになったんだけど、まだ人数不足なの。どう?」

黒子「なんとも単刀直入な方ですのね。わたくしは白井黒子、見ての通りダークハンターですの。
    で、何でまたわたくしに声をかけましたの? さっきのやりとりを見てなかったとは想えませんが」

美琴「あー、何ていうのかな。あんた私の知り合いに似てるのよね。
    さっきのやりとりもそうだけど、経験上、あんたみたいな真っ直ぐな奴に悪い人はいないから」

初春「真っ直ぐ……ですかね? 私には相当なヒネクレ者にしか見えませんが」

佐天「こら初春、人を見かけで判断しない」
56 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:06:11.42 ID:VbYvnBEo

黒子「……貴女のお仲間は賛成してないみたいですが?」

美琴「佐天さん、初春さん、いいよね?」

初春「えっ? 私は……」

佐天「私も初春も大歓迎です!」

初春「ちょっ 佐天さん!」

美琴「OKみたいよ?」

 いたずらっぽく微笑む美琴に、黒子は顔をうつむかせる。
 初春はまだ納得していないのか佐天に何か言っているが、佐天が説得する内に、しぶしぶ同意する。
 それだけの時間を於いて、ゆっくりと、黒子が口を開いた。

黒子「わかりましたの。こちらとしても好都合ですし、よろしくお願いしますわ、御坂さん」

美琴「ええ、よろしくね、黒子」

初春「い、いきなり呼び捨てですよ……もしかして御坂さんってアレな人?」

佐天「まぁまぁ。よろしくね、白井さん。私は佐天涙子」

初春「初春飾利です」

黒子「ええ、よろしくお願いしますの」
57 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:08:10.64 ID:VbYvnBEo

第一階層「翠緑ノ樹海」 B1F 希望に満ちた冒険者が踏み固めた大地


美琴「ここが……世界樹の迷宮」

 迷宮へと続く長い階段を降りると、そこは地下だというのに日が指し、巨大な樹木がしげる樹海だった。

 降りてすぐの広場で、美琴は右へ左へと視線を向ける。
 眼前には木々を縫うようにして道ができている。多くの冒険者が歩く内、地が踏み固められて短い草しか生えなくなったのだろう。
 対照的に左右は壁のように密集して生える木々に阻まれ、通れそうにない。とりあえず道なりに進むしかなさそうだ。

佐天「それじゃあ行きましょうか、御坂さん」

 言い、正面の道へと佐天が進んでいく。
 次いで、同じく前衛の黒子、後衛に初春と美琴が続く。

 一本道を進むと、目前が唐突に開けた。
 先よりも大きな空間に出たのだ。
 同時、どこからか見られているような視線を感じ、美琴は左右を見渡す。

初春「どうしました? 御坂さん」

美琴「いや、なんだか見られているような……」
58 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:09:27.29 ID:VbYvnBEo

佐天「あ、気づきました?」

美琴「何なのよ、これ」

黒子「魔物ですの」

 ポツリと、呟くように答えたのは黒子だ。それに佐天が続く。

佐天「このあたりからはもう魔物の縄張りですから。気をつけてくださいね、奴らどこからでも現れますから」

黒子「言ってる傍から……来ますわよ」

 その言葉に、佐天が剣を抜き盾を構える。黒子も腰のウィップを握った。
 直後だった。
 地面がもぞもぞと動いたかと思うと、子犬ほどのサイズのモグラが一斉に地面から飛び出してきたのだ。

美琴「で、でかっ!?」

佐天「ひっかきモグラです! これくらいなら私だけでも大丈夫ですから、御坂さんは後方で待機していて下さい!」

美琴「ちょっと! 私だって戦えるわよ!」

初春「まぁまぁ、アルケミストの火力は戦闘の要ですから、温存しておきたいんですよ。ここは佐天さんに任せて下さい」
59 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 21:11:50.63 ID:VbYvnBEo

黒子「あら、わたくしもいますわよ!」

 叫び、黒子が駆けた。
 狙うは三匹いるモグラの内、今にも飛びかからんとしてくる先頭の一匹。

黒子「とりゃっ! ですの!」

 敵の出鼻を挫く先制攻撃は黒子の鞭だ。
 鋭く風を斬って襲いかかる鞭は、飛び出そうとしていたモグラの顔面を、刃物で斬りつけたかのように切り裂く。
 頭部をばっくりと断ち割られたモグラは、地面に転がると一度ビクリと跳ねて動かなくなった。

美琴「うっ……」

 あまりにも凄惨な光景に狼狽えた美琴を、狡猾な樹海の生物は見逃さない。
 仲間の亡骸になど目もくれず、一匹のモグラが無防備な美琴へと襲いかかる。

ひっかきモグラ「SHAAAAA!!」

佐天「危ない!」

 割って入った佐天の盾がモグラの鋭利な爪を弾く。
 そのまま爪をカチ上げ、空いた胴体を横薙ぎに振るった剣が真っ二つに切り裂いた。
60 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 21:14:02.51 ID:VbYvnBEo

黒子「ラストォ!」

 再び鞭一閃。風切り音が響いた後に残ったのは、脇腹をえぐられながらも飛びかかろうとするモグラだ。
 そこへ佐天がトドメの一突きを入れ、戦闘は終了した。
 ショートソードをモグラから引き抜き、血振るいをして鞘に収める。

 次いで取り出すのは大ぶりのナイフ。

佐天「それじゃ、はぎ取りと行きますか」

初春「モグラの素材なんて、売ってもたかが知れてますけどねー」

 その光景に、美琴は思わず口元を抑えた。
 佐天が取り出したナイフを器用に使って、モグラの皮を剥ぎ始めたのだ。

美琴「えっ……ちょ、何してんの?」

初春「何って、素材を剥ぎ取ってるんですよ。解体作業です」

美琴「解体って……」

佐天「あはは、御坂さんってお嬢様っぽいなぁと思ったけど、やっぱりそうだったんですねー  
    あえて事情は聞きませんけど、そんなんで大丈夫ですか? この先」

 言いながら、佐天は状態の良い死体からそれなりの大きさに皮を剥いで荷物に詰める。
 笑顔にこびりついた返り血がどこか凄惨だ。
61 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:15:37.62 ID:VbYvnBEo

黒子「足手まといは勘弁ですの。戦えないなら今すぐ街に帰ってくださいまし」

美琴「いや、大丈夫。うん、もう大丈夫だから……」

初春「顔、真っ青ですよ……無理はしないでくださいね」

美琴「うん、ごめんね、初春さん」

黒子「はぁ、先が思いやられますの……」

佐天「まぁまぁ、アルケミストは貴重な戦力なんだから。それじゃ、次は御坂さんの実力を見せてもらいましょうか。
    樹海に慣れるためにも、暫くは1Fでモグラ叩きですね」

初春「了解です」

 答え、初春達が広間をずんずんと進んでいく。
 美琴もその後へと続いた。

 一行が向かったのは広間の右手奥、真っ直ぐと続く細道だ。左右を木々に囲まれた道はどこまでも続き、突き当たりが見えない。
 
佐天「ここからは魔物も多く出現しますから、気をつけてくださいね」

 そう言って、盾を構えた佐天が先頭に立つ。続くのは黒子、美琴、殿に初春という陣形だ。
 先の広間とは違い、両脇を木々に囲まれたこの道は薄暗い。確かに茂みから魔物が飛び出してきてもおかしくはなかった。
62 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 21:17:08.98 ID:VbYvnBEo

 無言で進む一行の中で、最初に口を開いたのは美琴だ。
 異世界とは言え、いつも姦しく歩くはずの一行にどうしても違和感を拭えなかったのだ。

美琴「佐天さん達は、なんで冒険者になったの?」

佐天「私は……その、家が貧乏でして。樹海で一攫千金を狙ってっていうのが理由ですね。
    さっきの皮も、街の道具屋で売ればそれなりの額にはなるんですよ。
    まぁ樹海に潜るための装備やら宿代やらで結局は消えちゃうんですけどねー」

美琴「そうなんだ……大変なのね」

佐天「まぁぶっちゃけ、冒険が楽しいからってのもありますよ? こうして命張って樹海に潜るスリルって言うんですかね?
    実は家が貧乏なのも父がギャンブルにハマって借金こしらえたからなんですけど。あはは、血なのかな。ちょっと恥ずかしいですけど」

美琴「でも大元はその家族のためなんでしょ? 私は素直にすごいと思うな」

佐天「そう言ってもらえると助かります」

美琴「初春さんは?」

初春「私はもっと単純ですよ。昔冒険者だったっていうキタザキさん……えっと、御坂さんを運んだ施薬院の院長さんですけど、
    あの人に憧れてメディックになって、街の施薬院で働く道もあったんですけど、小さい頃から世界樹を見て育ちましたからね、
    一度樹海に挑んでみたかったんです」
63 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:17:55.78 ID:VbYvnBEo

美琴「へぇ、夢があっていいじゃない」

初春「親には止められましたけどね。反対を押し切って、丁度ギルドメンバーを探していた佐天さんと」

佐天「一緒に駆け落ちしたんだよね?」

初春「もう! 誤解を招くような言い方しないでくださいよう!」

美琴「あはは、じゃあ黒子……じゃなくて白井さんは?」

黒子「もう黒子でいいですの」

美琴「じゃあ、黒子は?」

黒子「はぁ……どうしても言わなくては駄目ですの?」

美琴「ん? 別に話しにくいことならいいわよ」

黒子「そうですの。じゃあわたくしはパスですの」

佐天「えー 私白井さんの理由も聞きたいなぁ」

黒子「話して面白い事でもありませんので。そういう御坂さんはどうなんですの?」

美琴「私!?」

佐天「あ! 私も気になる!」
64 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:19:28.41 ID:VbYvnBEo

初春「確かに、なんであんなところで倒れていたのかも気になりますね」

美琴「わ、私は……その、樹海の奥で、見つけたいものがあってね」

佐天「見つけたいもの?」

美琴「うん。それはこの世界にあるのかどうかも分からないんだけど、でもあるなら世界樹の中にしか無いだろうって言われてね」

初春「へー、なんだかロマンチックです!」

黒子「一体何をお探しですの?」

美琴「うーん、そこの所は私もパスって事で」

佐天「えー!?」

初春「気になります!」

黒子「あまり詮索するのも不躾ですのよ。それより、どうやらお喋りの時間は終わりみたいですし」

 そう言って黒子が視線を向けた先には、蝶が舞っていた。
 蝶と言っても、尋常な大きさではない。アマゾンに生息するというモルフォ蝶を数倍にしたようなサイズだ。
 それでいてその姿形は一般的なモンシロチョウのような物だから、それが群れをなしてヒラヒラと飛んでいる姿はどこかシュールだった。
65 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/25(土) 21:21:00.30 ID:VbYvnBEo

初春「シンリンチョウですね。そこまで好戦的では無いですし、腕試しには丁度いいでしょう」

佐天「よっしゃ、それじゃあこっちから奇襲をしかけるよ! みんな、着いてきて!」

黒子「了解ですの」

美琴「分かったわ!」

佐天「それじゃあ御坂さん。ここからでも術式って届きます?」

御坂「うん、大丈夫」

佐天「それじゃあ、御坂さんの術式と同時に突っ込むよ。1、2の、3!」

 同時だった。
 美琴の前髪から、槍となった電撃が一瞬にしてシンリンチョウの群れに到達。そのすべてを高い電圧により焼き焦がした。

黒子「なっ!?」

 その一瞬の出来事に、突撃しようとしていた前衛二人が、思わずたたらを踏んで立ち止まる。

御坂「えっと、こんなんでいいのかな?」

初春「すごい……」

佐天「すごいですよ御坂さん! いやぁ、やっぱり錬金術師の火力は桁違いですね!」
66 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:22:02.55 ID:VbYvnBEo

御坂「あはは、そうかな?」

黒子「…………」

佐天「それじゃあ早速剥ぎとりです!」

御坂「あ、やっぱりやるんだ、アレ」

佐天「当然です! さ、行きますよ!」

 ナイフを引き抜き、焼け焦げたシンリンチョウに佐天が駆け寄る。

佐天「あー、でも真っ黒焦げで売れそうな素材が……」

美琴「うっ……」

初春「でも見てください。この複眼は電撃をうけても無傷です」

美琴「本当だ、キラキラして宝石みたい」

佐天「いつも私たち力技で倒しちゃうから、複眼は砕けてコナゴナになっちゃうんだよね」

初春「それでは、この複眼をいただくとしましょう。佐天さん、お願いします」

佐天「がってん承知!」

 早速とばかりに、シンリンチョウの死体へと佐天が手を伸ばす。
 ここで見事な解体ショーが披露された訳だが、大きな蝶から少女が複眼をむしりとる様は
それなりにショッキングな映像だったとだけ、ここでは述べておこう。
 
67 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:23:35.75 ID:VbYvnBEo

 エトリア ――金鹿の酒場


 暫く一階を探索し、それなりの戦利品を得た一行は一度街に戻ると素材を売却した足で酒場に来ていた。

佐天「それじゃ、新しい仲間と冒険の成功を祝って、カンパーイ!」

初春「カンパーイ!」

美琴「か、かんぱーい」

黒子「…………」

佐天「いやあ、まさかあの複眼があんな値で売れるとはね」

初春「予想外の臨時収入です」

佐天「本当、御坂サマサマですよ」

美琴「あ、ありがと」

佐天「さ、じゃんじゃん飲んでください!」

美琴「えっと、お酒はちょっと……」

佐天「あー、いけない方でしたか。これは失敬」


※ このSSはフィクションです。現実での未成年の飲酒は法律で禁止されています
68 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:24:08.37 ID:VbYvnBEo

黒子「…………」

初春「どうしました? 白井さん、さっきからずっとだんまりですよね」

黒子「いえ、何でもありませんの。失礼ですが、今日は先に宿へ帰らせてもらいますの」

 どこか思いつめたような表情の黒子は、立ち上がりさっさと出て行ってしまった。

初春「あっ! 白井さん……」

美琴「黒子……」

佐天「どうしちゃったんだろう」

初春「何か気に触るような事でもしちゃったんでしょうか」

美琴「んー……私ちょっと行って来るね」

佐天「あ、なら私も」

美琴「ダメダメ、こういうのってあんまり皆で行っても逆効果だからさ。大丈夫、私に任せて」

初春「佐天さん、ここは御坂さんに任せましょう」

佐天「ん、そうだね。お願いします、御坂さん」

美琴「任された。それじゃ、行って来るね」
69 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:26:03.70 ID:VbYvnBEo

  エトリア  ――ベルダの広場


 陽が落ち、通りの家々から漏れる温かい光に照らされた広場で、少女が一人佇んでいた。
 黒子だ。

 彼女は公園の中央にある噴水の水面に写る、陰鬱な表情の自分を見下ろしている。
 その顔にはどこか過去を懐かしむ者特有の寂しさがあった。

美琴「黒子……」

 声に、少女がはっと振り向く。
 そこに居たのは心配そうに眉を下げた表情の美琴だ。

黒子「御坂……さん」

美琴「ねぇ、どうしたの? 私達、何か気に触ることでもしちゃった?」

 美琴の声に、黒子はまた悲しそうな表情で俯く。
 
黒子「……ねぇさま ……ですの」

美琴「え?」

黒子「本物の、お姉さまなんですの?」
70 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:28:26.18 ID:VbYvnBEo

美琴「っ!? あんたまさか覚えてっ!」

 美琴の言葉に、黒子の顔がぱぁっと明るくなる。
 間髪入れず、黒子は美琴へと飛びついた。

黒子「おねぇさまぁぁぁぁぁぁん!!!」

美琴「ひゃあっ!?」

 押し倒され尻餅をつくが、それでも構わず黒子は美琴を抱きしめて離さない。

黒子「あああああああお姉さまっ! 会いたかったですの! 本当の本当に会いたかったんですの!」

黒子「お名前とお顔を伺った時は他人の空似だと思いましたが、あの電撃! やっぱりお姉さまでしたのね!」

美琴「ちょ、離しなさいって!」

 なんとか黒子を振り払い、冷たい石畳の上にぺたんと座り込む黒子に向き直る。

美琴「えっと、あんたは私の知ってる白井黒子でいいのよね?」

黒子「そうですの! お姉さまの従姉妹の黒子ですの!」

美琴「い、従姉妹?」
71 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:32:45.25 ID:VbYvnBEo

黒子「お姉さまがお屋敷を出ていかれてから、わたくしはひたすら鍛錬に鍛錬を重ね、このエトリアまでやって来ましたの!
    あぁ、まさかこんなに早く再開できるだなんて!」

美琴「ちょちょちょ、ちょっと待った!」

黒子「なんですの?」

 きょとんと、黒子が首を傾げる。
 美琴は目を逸らしつつ、気まずそうに告げた。

美琴「ごめん、人違いだったみたい……」

黒子「はへ?」

美琴「私がさがしてる白井黒子は従姉妹じゃなくて大切な仲間で友達の……」

黒子「そ、そんなっ!? だって、アルケミストで電撃遣いで――こんなにそっくりですのに!」

美琴「うん……私の知ってる子とも、貴女はそっくり」

黒子「そんな……そんなっ」

 ポロポロと、黒子は涙を流す。
 その背中に、美琴はゆっくりと手を回した。

美琴「ごめんね、ぬか喜びさせちゃって」

黒子「うっ……えぐ。お姉さまぁ……」

美琴「私じゃそのお姉さんと違って頼りないかも知れないけど……一緒にさがそうよ。私達の大切な人を」
72 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:33:14.46 ID:VbYvnBEo

黒子「御坂さん……」

美琴「お姉さまって呼んでいいよ。貴女のお姉さんが見つかるまで、私が代わりになってあげる」

黒子「御坂さんが?」

美琴「そう。私じゃ駄目……かな?」

黒子「うっ……そんな事ありませんのっ! うぅ……ひっく。お姉さまぁ」

美琴「よしよし、泣かないで。それじゃあ、今日は宿に帰ってゆっくり休みましょう?」

黒子「はい……お姉さま」

 こうして、彼女たちはチームとなった。
 未だバラバラで、あの街での4人のようには行かないかも知れない。
 いや、きっとそうだろう。
 それでも、美琴は言い知れない自信を感じていた。

 私達なら、きっとやれる。
 この仲間たちと樹海を踏破し、そして……。

 美琴は黒子の小さな肩に手を回しながら、うっすらと微笑んだのだった。
73 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:35:10.58 ID:VbYvnBEo

 その頃、金鹿の酒場。

佐天「うははは! さいきょー! あたしいまさいきょー!」

初春「よっ! ギルドリーダー! かっちょいーです!」

佐天「よっしゃー! この調子で世界樹踏破を目指すぞー!」

初春「今の私達なら何でも出来ますよ! がんばりましょう!」

佐天「おー!」

 もう少しどうにかならないのかというような雰囲気で、同じく決意を新たにしていたのだった。

 夜は更けていく……


      第二話[了]
 
75 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/25(土) 21:41:05.99 ID:VbYvnBEo
         ――次回予告――


佐天「ぎゃああああ!! 追いつかれる!」

初春「ちょ!? 佐天さんは殿なんだから私を抜かさないでください!」

全てを刈る影「KYYYYYSHAAAAAAAAA!!!」 

 現れる強敵。


佐天「でも最初の広間にいたカマキリは降りてきた私たちに真っ直ぐ向かってきましたよ?」

美琴「確かに、鹿のようなパターンは見受けられなかったけど……」

 その打開策とは。


??「畏れよ、我を……」

 そして現れる謎の少女!


 次回、第三話をお楽しみに!

 君たちは望むのなら続きを読むことが出来る。

 
76 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/25(土) 21:44:21.51 ID:VbYvnBEo
というわけで第二話でした。
次回はまた一週間後くらいに。

その間、雑談・批評・質問大歓迎です。
気になるレスがあったら返信させてもらうかもです。


93 :>>1[sage]:2010/09/26(日) 23:12:22.19 ID:wY6Cni2o
レスがつくと書く気力がわきます。



日付変わる前に番外編投下します。
3話はもうちょっと待ってね!

95 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 23:23:16.72 ID:wY6Cni2o





 深い樹海の中。
 音も立てずに動く影がある。
 『彼ら』は影のように移動し、通った痕跡は塵一つ残さない。
 まるで東洋のシノビのような集団を、人々は畏怖と共にこう呼んだ。




 『樹海戦隊ゴレンジャー』と。



96 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 23:24:41.97 ID:wY6Cni2o
                                                     f´{、 ,.-、
        , ┐ f´{、 r'´{、  r-、_____,. ┐  ,ィ  r{、  ,.-j    r‐、_  ,.、 , ┐ ,.、く⌒ ニ__,.ニ、 >   , ィ
       __j  )__} r'__i  ヒ.r 、| ┌‐i i‐┐ | (  Yニ. ニ^ム ヽr‐、 ヽ、 }_ {__ヽ ソ __)( ,.イ ┌┐ |jノ´, --、{ /
     ( r.┐┌┐┌┐ n、,.ヘ  二. .二, リ f__`, ニィ = Tzi n ノ_rニ`  ソ^ニ  ニ^ゝ、_ヽ. ̄.ノ_ ,⌒ヽ {
    l`ー' )||| ヽノ j ___,ゝ `ニ_,ニ´ く__/ i i|「_j|{| | 7´ィnヽ.! | / ri  ト、`i| ┌‐ ^ ‐┐ |  } }
      `¨´ || `ヽ. ,∠ニヽ、__,.ィ´ヽ(´ ヽー‐イ ! トf^マくl_イ !{ {_ノ|ノ ノ| jノノ| ! {_ヽl |   | !  / /
       | ー‐ ´_... --、 `i _} | | レ‐ フ ,イ ├} { }├┤|`<‐'_ノ ,.-、`ヽ ノr‐.ァ!. |     !  !‐' /
      ,. -`ー<´__ ノ ノ´_.. -'イ| .j.イ-‐´ ヽ/ニ ニ ニソ .ノ ̄` ー<ー-ヽ..二..,、ム、_! |_ ... -‐|. ├ ´
     //´  ̄ ` ー―― ´└',. ‐. ‐ ´´              ̄           ̄ ¨¨{(て)ヶ j‐i 弋 ¨¨フ /
      { {        _. -,ニ ‐ ´                          `¨¨¨´  ヽ.. `¨´ ノ
     ` `ニ.._ー―_ ニ- ´                                        `L{´
         
                    世界樹の迷宮×とある科学の超電磁砲 番外編

                         ~ 樹海戦隊 ゴレンジャー ~
97 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 23:26:22.18 ID:wY6Cni2o

10032「こちら10032号、座標A-3に敵影。と、レンジャーは報告します」

10801「了解。警戒歩行のままB-4へ迂回する。と、レンジャーは返答します」

20000「20000号了解。引き続き採掘を続行する。と、レンジャーはツルハシを振りかぶります」

17600「こちら17600号。FOEに気づかれた! 採取ポイントから引き離しつつ振り切る。と、レンジャーは猛ダッシュ」

打ち止め「レンジャーリーダー了解だよ! ってレンジャーはレンジャーはお花を摘むよ」

10032「……リーダー、小さい花は大した金にならないので他のものを探してくださいと、前回の作戦会議で言いませんでしたか?
     と、レンジャーは脳みその足りないリーダーに文句を言います」

打ち止め「えー!? こんなに綺麗なのに…… って、レンジャーはレンジャーはしょんぼり」

17600「17600号よりレンジャーリーダーへ! 敵の足が早い、支援を要請する! と、レンジャーはもうだめ走れません……」

打ち止め「貴女が死んでも代わりはいるもの…… って、レンジャーはレンジャーは悲しげにうつむいてみる」

17600「ざけんな死んだら呪ってやる! と、レンジャーは慌てて茂みに身を隠します」
98 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 23:27:35.06 ID:wY6Cni2o

20000「こちら20000号。採掘は終了した。採取ポイントへと向かいつつ17600号の支援へ回る。
     と、レンジャーは重いザックを背負い直します」

17600「支援感謝する。現在座標はD-6、FOEは『狂える角鹿』歩行速度で付近を巡回している。引きつけて欲しい。
     と、レンジャーは涙ながらに訴えます」

10801「10801号ポイントへ到達。これより伐採を始める。と、レンジャーは斧を引き抜きます」

10032「待った、魔物がそちらへ行った。と、レンジャーは10801号へ警告します」

10801「了解。種別は? と、レンジャーは問い返します」

10032「恐らく森ウサギと思われる。数は1。と、レンジャーは図鑑を片手に判別します」

10801「それくらいならこちらで処理する。情報に感謝する。と、レンジャーは弓に手をかけます」

20000「20000号より17600号へ。C-6方面へFOEを誘導している。今のうちに採取ポイントへ向かえ。と、レンジャーは走りながら伝えます」

17600「了解。採取ポイントへ向かう。と、レンジャーは足音を殺して走ります」

打ち止め「あー!って、レンジャーはレンジャーは叫ぶよ!」

10032「どうしましたかリーダー? と、レンジャーはどうせろくな事じゃないんだろうなぁと判断します」

打ち止め「おっきいカマキリだー! ってレンジャーはレンジャーは大興奮!」

10032「逃げろおおおおおおおおおおお!!!!!!」
99 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 23:28:16.97 ID:wY6Cni2o

エトリア ――イツワ商店


五和「それで貴女はそんなにボロボロなんですね……」

10032「本当にあのリーダーには困ったものです。と、レンジャーはため息を付きます」

五和「それでも生きて帰ってこれただけ良かったです。えっと、買取はこのお値段でどうでしょう?」

10032「店主、これは少し安すぎではありませんか? と、レンジャーは抗議します」

五和「うーん、これ以上はどうにも。最近新しいギルドが増えている所為で、低い階層の素材が多く出回ってるんですよ。
    それでこのあたりも軒並み値崩れを……」

10032「ふむ、それならば仕方ありませんね。と、レンジャーは深い階層に潜る算段を立てます」

五和「新しい素材が入るのは嬉しいですけど、あまり無茶はしないでくださいね? 命あっての物種ですから」

10032「肝に命じておきます。ところで―― と、レンジャーは話題を方向転換します」

五和「なんですか?」

10032「その服、丈が足りていませんよ? と、レンジャーは下乳を凝視します」
100 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 23:32:53.18 ID:wY6Cni2o

美琴「ごめんください……」

五和「はーい」

美琴「あの、キタザキさんに紹介されて、アルケミスト用の装備が欲しくて来たんですけど……」

五和「おや? レンジャーからアルケミストに転職ですか?」

美琴「へ?」

五和「そういえば今日は変な語尾がありませんね。あっ! アルケミストになるんだったら語尾がレンジャーじゃおかしいですもんね!」

美琴「えっと、多分人違いじゃないですか?」

五和「へ? ……親戚の方ですか?」

美琴「いえ……」
101 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/26(日) 23:36:33.52 ID:wY6Cni2o

五和「す、すいません! 常連の方にそっくりだったもので! えっと、アルケミスト用装備でしたらあちらの方に!」

美琴「へぇ、赤でちょっと派手だけど可愛いかも」

五和「ウチはデザインも凝っていますので。これでもエトリアのファッション発信源と言われているんですよ!」

美琴「へぇ、そうなんですか。ところで――」

五和「なんですか?」

美琴「その露出度の高い服も、今エトリアで流行ってるんですか?」



 樹海戦隊ゴレンジャー 第一話[了]
102 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/26(日) 23:37:27.17 ID:wY6Cni2o

   ――次回予告?――


10032「おいいいい!!? アンタ毎回毎回トラブル引っ張って来すぎだろ! と、レンジャーはリーダーに抗議します!」

打ち止め「そ、そんな事無いもん! 向こうが勝手に来るんだもん! って、レンジャーはレンジャーは反論してみたり!」

ワイバーン「GYYYYYYYAAAAAAAAAA!!!!」

 絶体絶命のピンチ!


打ち止め「あ、貴方は? って、レンジャーはレンジャーは恐る恐るきいてみたり……」

??「あァ? なンだこのガキ……」

 現れる謎の人物!


20000「うひょおおお!! イケメンの防具ペロペロ!」

??「やめろつってンだろォ! この変態がァ!」

 20000号の特殊な性癖とは!?


 次回第二話をお楽しみに!

 君たちはこれで打ち切りかも知れないことを覚悟したまえ!

103 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/09/26(日) 23:40:11.93 ID:wY6Cni2o
以上、短いですが番外編でした。
番外編という言い訳で好き勝手できて楽しかったです。

続くかどうかは未定ですので、ぜひとも気長にお待ちください。
本編第三話は例のごとく一週間以内には……


122 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/30(木) 20:34:18.53 ID:t2330VQo

第一階層「翠緑ノ樹海」 B3F 幾多の戦士が倒れた絶望の地


 木漏れ日が差す昼の樹海は、雑多な音に彩られている。
 梢の音、川のせせらぎ、虫や鳥の鳴き声、モンスターが茂みをかき分ける音。
 そして――

佐天「ぎゃああああ!! 追いつかれる!」

初春「ちょ!? 佐天さんは殿なんだから私を抜かさないでください!」

佐天「んな事言ってられないっしょ!? いやああああああ!!」

美琴「走って! アイツ言うほど足は速くないわ! なんとかしてあの扉まで辿りつくのよ!」

黒子「はぁっ はぁっ…… 待ってくださいですのお姉さまぁ!」

美琴「黒子っ! 大丈夫よ、もうすぐだから!」

全てを刈る影「KYYYYYSHAAAAAAAAA!!!」 

 走る。走る。追われる冒険者達はただただ先に見える扉へ向かって駆けていた。
123 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/30(木) 20:35:41.16 ID:t2330VQo

 彼女たちが、狂ったように暴れる鹿の隙をつき踏破した地下二階から、このフロアへ降りてきたのはついさっきだ。
 降りるなり襲いかかってきた巨大カマキリに立ち向かおうとする佐天を引き止め、慌てて逃げ出してから既に数分立つ。

 それでもカマキリは執拗に彼女たちを追いかけまわした。
 そして疲れ果てながらもなんとか彼女たちが見つけたのが、件の扉という訳だ。

美琴「飛び込んで!」

 号令一喝。

 重い装備を抱えた少女たちが我先にと扉へ飛び込んだ。
 美琴が慌てて扉を締める。

全てを刈る影「KYYYYYYYAAAAAAaaa……――」

佐天「た、助かったぁ……」

黒子「何ですのアレは!? かなりヤバそうな雰囲気でしたの……」
124 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/30(木) 20:36:56.38 ID:t2330VQo

初春「この階のヌシって奴ですかねぇ」

佐天「あれがヌシならもうこの階は楽勝d……――」

美琴「佐天さん?」

佐天「う、うし……うしろ……」

美琴「後ろ?」クルッ

全てを刈る影「Kyyy……」

美琴「」

黒子「」

初春「」

 ――絹を裂くような悲鳴が、樹海の中にこだましていた。
125 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/30(木) 20:37:55.65 ID:t2330VQo

エトリア 金鹿の酒場

佐天「いやぁ、びっくりしましたよもー」

初春「びっくりってレベルじゃありませんよ! つい糸使って戻っちゃいましたし」


※糸:正しくはアリアドネの糸。ダンジョン脱出用のアイテム。いわゆるリレミト、あなぬけのヒモ。


初春「糸だってタダじゃないんですよ!? うぅ……完全に赤字です」

美琴「まぁまぁ、あんなのに迫られたら仕方ないって」

黒子「しかし、あれより先に進むにはあのカマキリをなんとかしないといけませんの」

美琴「どう思う佐天さん、勝てそう?」

佐天「え~、無理じゃないですかねぇ。超ヤバそうでしたよ?」

初春「オーラが違いましたよね! [ピーーー]気マンマンって言うか……」
126 :規制語が入ってる時に限ってsaga忘れる俺ガイル[saga]:2010/09/30(木) 20:41:13.28 ID:t2330VQo

美琴「やっぱり無理かぁ……」

黒子「しかしお姉さま。B2Fの鹿も自分の縄張りを同じように回るだけでしたわ、
    きっとあのカマキリにも習性のようなものがあるはずですの」

佐天「でも最初の広間にいたカマキリは降りてきた私たちに真っ直ぐ向かってきましたよ?」

美琴「確かに、鹿のようなパターンは見受けられなかったけど……」

 う~、と唸りながら美琴は頭をかかえる。
 と、そこにコトンと皿が置かれた。
 見上げればにっこりと笑う巨乳の女性。黄泉川だ。

黄泉川「腹がへっちゃ、頭も働かないじゃん」

 美琴は疲れた顔で笑い返すと、フォークを持ってパスタへ向かう。
 
初春「だからって悩んでばっかじゃ、ご飯も食べられなくなっちゃうんですけどね」

佐天「ちょっと悲観的すぎやしないかい初春」

黒子「貴女が楽観的すぎなんですの」

 女三人寄れば姦しい。四人ならば言わずもがな。
 騒がしい会議は進む。
 美琴はファミレスに集まっていたあの頃を思い出しながら、トマトソースの絡んだパスタを口へ運んだ。
127 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/30(木) 20:42:29.25 ID:t2330VQo

第一階層 B3F

 階下に降りると同時、4人は真っ直ぐに駆け出した。
 気づいたカマキリが獲物を求めて動き出す。しかし、追いつけない。

佐天「やっぱりあいつ、足は遅いみたいですね」

黒子「しゃべってると舌を噛みますのよ!」

 追ってくるカマキリを難なく振りきり、扉をくぐる。
 ここまでは、昨日と同じだ。

美琴「予想通りなら、こっちのカマキリも引きつけて振りきれば……」

佐天「……動きませんね」

初春「もう少し近づいてみましょう!」

 初春の提案通り、広間をさらに進む。

黒子「どうやら先に進む道に陣取っているようですわね」

初春「最悪ですね……」

 と、四人がカマキリの視界に入った瞬間だった。

全てを刈る影「HuuuShuuuuu……」

黒子「えっ」

 動き出す。
128 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/30(木) 20:43:21.53 ID:t2330VQo

全てを刈る影「KYYYSHAAAAAAA!!!」

 先の広間のカマキリとは比べ物にならない速度で、カマキリが猛然と迫ってくる。
 多脚を複雑に蠢かせ迫る姿はまさに悪夢だ。虫嫌いの人にはとても見せられない。

美琴「えええええええええ!!!?」

佐天「聞いてないよおお!」

初春「いやああああ!」

黒子「走りますわよ!」

 駆ける駆ける。
 追う魔物に逃げる乙女。
 構図は童話的だが追われる身からしたら冗談じゃない。

 と、走る4人の目前に迫るのはカマキリだけではなかった。
 眼前に、壁。

佐天「どーすんのよー!? ういはるぅぅ!」

初春「知りませんよそんなの!」

美琴「とりあえず入ってきた扉まで逃げるわよ!」
129 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/30(木) 20:45:59.76 ID:t2330VQo

 真っ直ぐ走ってきた足を減速覚悟で方向転換。
 足を緩めたその瞬間は捕食者からしてみれば絶好のチャンス。

 が、そこでカマキリはぴたりと足を止めた。

黒子「追ってこない……ですの?」

 振り向く黒子の視界の先で、ゆっくりとカマキリが帰ってゆく。
 
佐天「ははぁん。そういうこと」

黒子「佐天さん?」

佐天「あいつ、どうやら視界が極端に狭いみたいですね」

初春「あっ、それで追いかけてこなかったんですね」

佐天「そう、だからちょっと横に逸れるだけで私たちを見失っちゃうのよ」

美琴「なるほどね、じゃあ……」

黒子「決まりましたわね!」
130 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/30(木) 20:48:36.01 ID:t2330VQo

                 ◆


 ゆっくりと、ジャッジメントの四人がカマキリの正面へ向かっていった。
 視界へ入る。

全てを刈る影「SYYYYAAAAAAAAAA!!!」

 動き出した。

美琴「よっしゃあ! 走ってみんな!」

 思惑通り、カマキリは四人を追走する。
 走り、走り、壁が見えてくる。だか四人はスピードを緩めない。

 依然、カマキリはまっすぐに突っ込んでくる。
 十分にひきつけ、そして、

美琴「今よ!」

 視界に外れ、カマキリがキョロキョロとしている内に背後へ回りこんだ。
 そのまま先の小道へと走る。

全てを刈る影「KYYYYSHAAAAAAAAAAAA!!!!」

 気付き、激昂したカマキリが再び追いかけてくる。
 鬼ごっこ第二ラウンドだ。
 しかし迫るカマキリは追いつけない。
 
131 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/30(木) 20:49:27.57 ID:t2330VQo


美琴「いける!」

 そう確信した時だった。


 ふらりと、四人の前に人影が飛び出てくる。


佐天「ふえっ!?」

初春「ど、どいてください!」

 言いながら、その人物の横を駆け抜け――


??「畏れよ、我を」


 ――鐘が、響いた。


??「命ず、言動能わず」

 同時、カマキリの動きがピタリと止まる。
 そこへ、もうひとつの影が跳びかかった。
132 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/30(木) 20:50:38.12 ID:t2330VQo

??「七閃ッ!」

 鍔鳴りが響き、空中をきらめく斬撃が舞う。

 ボトボトと、重いものが地面に落ちる。
 それは巨大な魔物の残骸だ。 

 断末魔すら無く。

 等分され。
 等分され、等分され。
 等分され等分され等分され等分され等分され等分され等分された、カマキリの肉片が、体液と共に散らばる。

 それを成した人物は刀を血払いし、鞘に収めた。

 黒髪の女性だ。
 異国風の装束に身を包み、身の丈ほどの大刀を帯びている。

 あれだけの殺戮を成して、しかし返り血一滴浴びていないその女性は、ゆっくりと振り向いた。


神裂「神裂火織。それが私の名です。お見知りおきを、新米冒険者の皆さん」

 
134 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/30(木) 20:52:15.53 ID:t2330VQo

エトリア ――執政院ラーダ


 執政院の中、応接室において、ジャッジメントの四人はメガネを掛けた理知的な女性の話を聞いていた。

固法「現在、樹海でフォレストウルフの大量発生が確認されています」

佐天「フォレストウルフ? それっぽい魔物なんて見てませんよ?」

固法「フォレストウルフが現れるのはB4F以降なのよ」

固法「それだけならいいのだけれど、その群れを率いるボスが二階層への道を塞いでいるの」

黒子「なるほど、それで執政院は困っているというわけですのね」

固法「うーん、正確にはそこまで困っているわけではないのよね」

黒子「へ?」

固法「第一階層に現れる魔物なら、こちらで雇っている戦力で十分倒せるのよ」

固法「貴女達も会ったでしょう? あの二人組の冒険者に」

 言われ、美琴は回想する。
 自分たちが逃げるしか無かった相手を、一瞬で切り刻んでしまった二人組のことを。
136 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/30(木) 20:53:16.79 ID:t2330VQo

 数時間前 ――第一階層「翠緑ノ樹海」B3F


 きん、と刀を納めた女性――神裂火織は、次にその隣でいつの間にか佇んでいた少女へ目を向ける。
 少女は紫色のボロきれのような布を纏い、銀髪をそのローブと呼んでいいかも分からない布の中に覗かせていた。
 年の頃は美琴たちと同じか少し下ぐらいだろうか。

神裂「彼女はインデックス。私の相棒です」

インデックス「…………」

美琴「……?」

佐天「えっと、助けてくれてありがとう……って所ですかね?」

黒子「余計なお世話でしたの。あのままなら十分振り切れましたし」

初春「まぁまぁ白井さん。……で、貴女達は何者なんですか?」

神裂「我々は執政院に雇われている冒険者です。見たところ貴女方も冒険者のようですが?」

美琴「そう……だけど」

佐天「正義のギルド『ジャッジメント』とは私達の事です!」

神裂「? 聞いたことがありませんね」

インデックス「……知らないんだよ」

佐天「」
139 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/09/30(木) 20:59:37.13 ID:t2330VQo

黒子「で、私達が冒険者だったらどうする気ですの?」

神裂「ふむ。その様子だと、どうやら執政院からのミッションを受けていないようですね」

美琴「ミッション?」

佐天「執政院から出される依頼の事ですよ。樹海の中で起こった、街の運営に関わる事柄を冒険者に依頼するんです」

神裂「そうです。現在この先は、ミッションを受けていない冒険者の立ち入りを制限しているのです」

インデックス「先に進むのなら、このミッションが解除されるのを待つか、ミッションを受けるかしかないんだよ」



 言われ、執政院までやってきた彼女たちは、今こうしてミッションの説明を受けているのだった。

佐天「あの人達かぁ……強かったなぁ」

 見れば佐天もあの時のことを思い出しているようだ。
 それほどまで、あの二人は圧倒的だった。

固法「あの二人に任せてしまえば全く問題は無いのだけれど、それだと若い冒険者が育たないから」

初春「なるほど、それで私達に」

佐天「腕が鳴るねっ!」

黒子「その挑戦、受けて立ちますの」

美琴「えぇ、やってやろうじゃないの!」

固法「ありがとう、皆。彼女たちには冒険者をサポートするようお願いしてあるわ。
    彼女たちの助力を借りて、速やかにフォレストウルフ達のボス――スノードリフトを倒して頂戴」


   第三話 [了]
141 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/09/30(木) 21:04:04.63 ID:t2330VQo

    ―――次回予告―――


初春「これでよし!っと、地図も大分埋まって来ましたね。そろそろ階段も近いと思いますが」

インデックス「その通りなんだよ」

 美琴たちは、さらなる深層へと足を踏み入れる。


黒子「どうやら、早めにケリを付けなければいけないようですのね」

佐天「こいつ一匹でも苦戦してるって言うのに!」

フォレストウルフ「Vow!」

 立ちふさがる魔物、フォレストウルフ。


美琴「大丈夫だから…… 黒子は佐天さんの方に!」

黒子「でも……」

美琴「いいから!」

 美琴の運命はいかに!?


 次回第四話をお楽しみに!

 君たちは彼女たちの戦いを見届けなければならない!

142 :>>1[sage]:2010/09/30(木) 21:07:07.06 ID:t2330VQo
と、言うわけで第三話でした。
次回はやっと戦いらしい戦いになります。

次回四話は例のごとく一週間後くらいに。
その間、雑談・批評・質問大歓迎です。
気になるレスがあったら返信させてもらうかもです。

157 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:21:12.55 ID:vKhhkQUo

第一階層「翠緑ノ樹海」 B3F 幾多の戦士が倒れた絶望の地

 
 樹海の中、木々に囲まれた小道の中で剣戟の音が響く。
 振り下ろされるのは獣の牙に似た形状の剣。
 狩猟用として使われるそれを、アルマジロにも似た生物が背の甲で弾いた。

ボールアニマル「Kyuwyyyy……」

佐天「くっ……こいつ硬い!」

マンドレイク「…………」

 佐天は一歩下がり、盾で横薙ぎに振るわれた蔓の鞭を防いだ。
 盾を掲げ、地を踏みしめ耐える。
 その佐天の影から黒子が飛び出した。

黒子「鞭遣いでわたくしに勝てると思いましたの?」

 甲高い風切り音が通り抜けると同時、マンドレイクの身体から生える二本の蔦がちぎれ飛んでいた。
158 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:22:54.17 ID:vKhhkQUo

佐天「御坂さん! マンドレイクはこちらで処理します! ボールアニマルに術式を!」

美琴「了解!」

 応じ、前髪から紫電が舞う。
 瞬時に形成された光の槍は、雷光を伴って魔物へ殺到、炸裂した。
 
ボールアニマル「Kyuwyyyyyy!!!!」

 肉を焼く匂いが通路に満ち、真っ二つに断ち割られたマンドレイクから木片が散った。

初春「お疲れ様です。手当するんでじっとしてて下さいねー」

佐天「いやぁ、でもこのあたりの魔物には慣れてきましたね……っつぅ! しみるって初春!」

初春「我慢してください」

黒子「怪我をしておきながら良く言いますの」

美琴「まぁまぁ、佐天さんは文字通り私達の盾なんだから」

初春「これでよし!っと、地図も大分埋まって来ましたね。そろそろ階段も近いと思いますが」

インデックス「その通りなんだよ」

初春「うわっ!?」
159 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/07(木) 00:24:56.50 ID:vKhhkQUo

 唐突に現れた少女に驚き、初春が尻餅をつく。
 黒いローブに身を包む少女はあの時の二人組の片割れ、インデックスだ。

美琴「ビックリさせないでよね……」

黒子「気配を殺して近づくなんて悪趣味な……」

インデックス「ふふ、気配に気付けない方が悪いんだよ」

初春「むぅ……」

インデックス「それより、その様子だとミッションは受けてきたみたいだね」

美琴「まぁね。この通り許可証もあるわよ」

インデックス「よろしい。この先の通路を行けばB4Fに降りられるから、気をつけて行くんだよ」

佐天「ありがとう、インデックスちゃん!」

インデックス「い、インデックスちゃんって……」

初春「それじゃあ行きましょう皆さん!」

佐天「おー!」
160 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:26:13.33 ID:vKhhkQUo

第一階層 B4F 地の底よりあふれる闇の牙


フォレストウルフ「BowWowwww……」

 白狼の唸り声が轟くと同時、樹海の奥から似たような遠吠えが聞こえてくる。
 木々の向こうから届くのは地を叩く足音。
 奴らが迫ってきているのだ。

黒子「どうやら、早めにケリを付けなければいけないようですのね」

佐天「こいつ一匹でも苦戦してるって言うのに!」

フォレストウルフ「Vow!」

 吠え、森狼が佐天へと飛びかかる。
 盾で弾き、剣を突き込むが、その毛皮はなかなか刃を通さない。

黒子「はぁっ!」

 黒子の鞭がしなり、狼へ猛然と襲いかかる。
 激しい打撃に、狼の足が鈍った。
161 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:28:34.60 ID:vKhhkQUo

美琴「トドメっ!」

 雷光が煌き、瞬時に大気中を渡った電撃が、足を止めた狼を焼き焦がす。
 煙を上げ、崩れ落ちる狼を確認し、佐天が荒い息をつきながら膝を付いた。

美琴「大丈夫? 佐天さん」

佐天「だ、大丈夫です…… それより新手は?」

初春「足音は段々離れていきますね。どうやら奴ら、そこまで情に厚いわけではなさそうです」

美琴「ごめんね、もう少し早く電撃を撃てていたら……」

佐天「仕方ないですよ、術式に時間がかかるのは分かってますから」

美琴「うん……」

 佐天のフォローにも、美琴は暗い顔で頷くばかりだ。
 それも仕方ないのかも知れない。そもそも美琴の『能力』は錬金術師の『術式』とは違うのだから。
 
 ここに来て、美琴は自分の異常に気づいていた。
 否、それは異常などと言える程の物ではない。単純な人間としての本能だ。
162 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:29:15.34 ID:vKhhkQUo

 ここまで美琴達が相手にしてきたのはモグラやウサギ、鹿といった現実では人間を襲うことのない生き物だ。
 しかし、今相手にしたのは実際に人を襲い、喰らう肉食生物。
 恐怖で演算が遅れるのも致し方が無かった。

美琴(しっかりしなくちゃ…… 樹海の奥に行くなら、この程度で恐れてちゃ駄目……)

 ピシャリと自分の頬を叩き、気合を入れる。
 強いて毅然とした表情を作ると、前を行く3人に続いて歩き始めた。


 B4Fは曲がりくねった細道の続く階だ。
 地図を書いてはいるが、こうして分岐が続くとそれが正しいのか不安になって来る。
 いつ狼の襲来があるかも分からなければ尚更に、だ。

 そうした精神的重圧は、容易に人を消耗させる。
 息を荒くさせ、知らず知らずのうちに手は汗ばむ。
 身体が熱を帯び、歩行は雑なものとなっていく。

 これらの隙を、樹海の生物は見逃さない。
 知恵に長けた人喰いの化物達は、人間の弱さを熟知していた。

 
163 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:32:53.59 ID:vKhhkQUo

 
 それにいち早く気づいたのは黒子だった。

黒子「!! 佐天さん!」

 が、遅い。

フォレストウルフ「Vow!!」

佐天「チッ!」

 不意打ちだ。
 横合いから飛び出てきたフォレストウルフは消耗していた佐天を安々と押し倒し、組み敷き、噛み付いた。

佐天「ぐぅっ!?」

美琴「佐天さん!?」

 なんとか腕を差し出し首を守るが、激痛に剣を取り落としてしまう。
 
佐天「っ! りゃぁっ!」

 それでも果敢に盾を打ち付け、腕から狼を引き剥がす。
 狼は数歩後ずさると、立ち上がる佐天を尻目に天を仰いだ。
164 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/10/07(木) 00:35:54.62 ID:vKhhkQUo

フォレストウルフ「Wooooooooooooo!!!!」

 遠吠えに、獲物の匂いを嗅ぎつけた狼たちが集まってくる。
 遠くからは木々をかき分ける音がする。

初春「ま、マズイですよ……」

美琴「任せて!」

 叫び、雷撃を放つ。
 走り抜ける雷の槍は容易に狼を灼き尽くす――かに見えた。

美琴「なっ?」

フォレストウルフ「Vowwwww!!!」

 電撃は確かに狼を貫き、ダメージを与えている。
 しかし、樹海の魔物は通常の生物ではない。
 地上に生きる動物なら確実に感電死するであろう電流にも耐えてみせた。

 足を引きずりながらも、狼は美琴へと跳びかかる。
165 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:38:59.86 ID:vKhhkQUo

黒子「お姉さま!」

 黒子が鞭を振るう。
 狼はひらりと身をかわす。

 牙を剥いた。

美琴「っあぁ!」

 激痛。
 腕に食い込んだ牙が筋繊維を断ち切り骨を砕く。
 溢れ出る鮮血は狼の口を汚した。

初春「御坂さん!」

佐天「危ない!」

 駆け寄ろうとする初春に、茂みから飛び出してきた新手の狼が飛びかかる。
 剣を失った佐天が慌てて間に割入った。
 
初春「佐天さん無茶です!」

佐天「はっ! メイン盾舐めんなってのよ!」

 後ずさる狼に向け、盾を構える。
 腰を落とし、受け止める体勢。

佐天「パラディン自身にとって、盾は剣に勝る武器だってことを教えてやるわ!」  
167 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:42:45.67 ID:vKhhkQUo

黒子「お姉さま! 今助けますの!」

美琴「離れて!」

黒子「えっ」

美琴「大丈夫だから…… 黒子は佐天さんの方に!」

黒子「でも……」

美琴「いいから!」

 怒声にも似たそれを受け、黒子の身体がビクリと竦む。
 しかし躊躇いは数秒。鞭を手に佐天の後を追った。

フォレストウルフ「Vwwwwwww……」

 美琴の腕を噛み千切ろうと、狼がさらに顎へ力を込める。
 しかしそれでも、美琴はニヤリと笑った。

美琴「さっきはアンタを舐めてたわ。今度は全力で行くわよ!」

 パチパチと、前髪で電気が弾けた。
 この世で最も速い攻撃が、前触れもなく光の奔流となって狼を飲み込む。


 雷が落ちた――。
168 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:45:39.30 ID:vKhhkQUo

佐天「くっ……」

フォレストウルフ「VaWoaaaaa!!」

 爪が盾の表面を引っ掻き、傷を付ける。
 苦し紛れに振った剣は数本の毛を散らしたのみだ。

佐天「動きが早い……!」

黒子「任せてくださいな!」

 駆けつけた黒子の鞭が唸った。
 生物のようにうねる革鞭は、靭やかな体をもって狼へと迫る。

 肉を叩く快音と共に、鞭がしなる動きで狼の足を封じた。

佐天「だっしゃあああああ!!!」

 打撃音。
 黒子の鞭に足を絡め取られた狼へ、佐天の盾が振り下ろされた。
 頭蓋骨を砕く感触を残し、ずるりと狼の身体が傾ぐ。

 重い音を立てて狼が倒れた。
 もはや立ち上がる気配はなさそうだ。

 初春が安堵の息を吐いた。
169 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:50:46.33 ID:vKhhkQUo

佐天「よっし!」

黒子「お姉さまは!?」

美琴「大丈夫よ……ただ、腕は結構マズイことになってるけどね」

 そこだけ真っ黒に焦げ付いている芝生の上、完全に炭化した狼を振り落としながら、美琴はプラプラと手を振って答えたのだった。

          
               ◆

          
初春「それじゃあ、治療しますね」

 言って、初春が美琴の腕に手をかざす。
 すると彼女の手のひらを中心にあたたかい光が広がり始めた。
 癒しの光だ。

 美琴はむず痒いような感覚を得た。
 光が傷口を塞いでいるのだ。
170 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 00:54:43.05 ID:vKhhkQUo

 徐々に温かみを増していく光が不意に途切れた後、美琴の腕はすっかり元通りになっている。

美琴「すごい……」

初春「こう見えても、メディックですからね。やっと本来の力を見せられた気がします」

佐天「初春~ 私も~」

初春「はいはい、待っててくださいね」

 タタタ、と佐天の元へ駆けていく初春を見送り、黒子が口を開いた。

黒子「お姉さま、この狼の数から言って、恐らく巣は近いかと思われますの」

美琴「巣か…… スノードリフト――だっけ?」

黒子「えぇ、狼たちの親玉だそうですの」

美琴「そいつを倒せば――」

 先へ進める。
 樹海のさらに奥、第二階層へと。

 しかし、

美琴「倒せるかしら……私達に」

 不安げなその言葉に頷くのは黒子で。
 彼女はぎゅっと拳を握る。

黒子「倒してみせましょう」

 そして、

黒子「行きましょう――樹海のさらに先へ」

 地の底から、獣の唸り声が聞こえた、気がした。

                             第四話[了]
171 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[saga]:2010/10/07(木) 01:02:19.23 ID:vKhhkQUo
 ――――次回予告――――

佐天「ついに来ましたね……」

黒子「なんですの…… すごく、嫌な気配ですの」

 ついに地下五階へ足を踏み入れた一行。


スノーウルフ「Grrrrrrr....」

美琴「やっぱり、すぐにボスには会わせてくれないか」

 迫り来る尖兵達!


佐天「行くよ! みんな!」

初春「ええ!」

黒子「ですの!」

美琴「了解!」

スノードリフト「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」

 ついに始まる、スノードリフトの死闘に、ジャッジメントは打ち勝つことが出来るのか!?


 次回、第五話をお楽しみに!

 万全の準備が整っているのなら、扉を開けて次回へ挑みたまえ!

172 :>>12010/10/07(木) 01:04:08.89 ID:vKhhkQUo
というわけで第四話でした。
次回は一週間後くらいに。

その間、雑談・批評・質問大歓迎です。
気になるレスがあったら返信させてもらうかもです。

196 : ◆CahDa3HfTk2010/10/20(水) 23:17:41.89 ID:S1CD.zAo

エトリア ――ケフト施薬院


キタザキ「ふむ、ついに地下五階へ挑むのかい」

美琴「えぇ、執政院からのミッションでね」

 施薬院の応接室。
 テーブルを挟んで並ぶソファに向かい合わせで座りながら、紅茶を啜って美琴が言った。
 キタザキは湯気の立つカップを片手に、ソファへ深く身を沈めている。

キタザキ「スノードリフトか…… 鋼のように硬い毛皮を持ち、その牙は鉄の盾をも貫くと言われているね」

美琴「なっ!? そんな規格外の生物だって言うの!?」

キタザキ「ま、言い伝えだけれどね」

美琴「言い伝え……ねぇ」

 呟き、しかし美琴は回想する。
 全力ではなかったとは言え、その下っ端であるフォレストウルフでさえ美琴の電撃に一度は耐えたのだ。
 その親玉となれば、キタザキが言うような規格外も、あながちただの言い伝えとは言えないかも知れない。
 
キタザキ「心配そうだね」
197 : ◆CahDa3HfTk2010/10/20(水) 23:19:10.96 ID:S1CD.zAo

 内心を言い当てられ、美琴はハッとした。
 気づけば手に持った紅茶はぬるくなってしまっていた。

美琴「心配でないと言えば、嘘になるわ」

 悔しそうに歯噛みしながら美琴は答えた。

キタザキ「君の超能力は、樹海の魔物に通用しなかったかな?」

美琴「…………」

キタザキ「そう悲観する事ではないさ。樹海の魔物は地上の生物とは別の理で動いているのだからね」

 言って、キタザキはソファから立ち上がると、薬品のビンが並ぶ棚へ手を伸ばした。
 その中から一本の瓶を取り出した。

美琴「これは?」

キタザキ「『ファイアオイル』と言ってね、可燃性の液体だ。武器なんかに塗ると、相手を斬った時に摩擦で発火するんだ。
     本当はアルケミストの居ないパーティーなんかが使うんだけど、君は電撃以外使えないらしいからね。
     まぁ、備えあれば憂いなしって事でね」

 キタザキは意味ありげに微笑んで、言った。
198 : ◆CahDa3HfTk2010/10/20(水) 23:26:18.14 ID:S1CD.zAo

世界樹の迷宮 B5F 鋭い咆哮に立ち向かう勇気ある一歩


初春「ついに来ましたね……」

黒子「なんですの…… すごく、嫌な気配ですの」

 地下五階。
 その内部はこれまで下ってきた階層と同じ森の中だ。
 しかし周辺には、禍々しい雰囲気が漂っている。
 遠くから、狼の遠吠えが聞こえてきた。

佐天「生き物の気配がしない……」

初春「ようするに、魔物だらけって事ですね」

 初春の言葉で一同に緊張が走るのが分かった。
 ジャッジメントの面々は、周囲を絶えず警戒しながら進んでいくことにする。

 木々の間にできた道を、四人は進む。
 上階では聞こえた鳥や獣のなく声も聞こえない。
 時折魔物と思われる咆哮と、遠くから響く狼の吠声が聞こえるのみだ。

佐天「あの……御坂さん?」

美琴「へっ? 何?」
199 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/20(水) 23:34:44.49 ID:S1CD.zAo

 漂う空気に飲まれかけていた美琴は、ビクリと体を震わせてから佐天へ向き直る。

佐天「あ、いえ。驚かせてすいません」

美琴「べっ、別に驚いてなんかいないわ! それより、何か用?」

佐天「まぁまぁ、そうピリピリしないでくださいよ」

美琴「別に、ピリピリなんてしてないわよ……」

佐天「じゃあ、ビリビリ?」

美琴「誰がビリビリじゃあ!」

佐天「あはは、冗談ですって」

 言って、佐天がクスクスと笑う。
 佐天の笑い声に釣られて、皆の緊張が少しだけ緩いだ。
 それを感じて、美琴は眉尻を下げる。

美琴「……ごめんね、気を使わせちゃって」

佐天「あはは、何のことですかねー 私には分からないなー」
200 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/20(水) 23:40:30.75 ID:S1CD.zAo

 棒読みに答えておどける佐天に、美琴は頼もしさを感じた。
 他の皆もきっとそうだろう。

黒子「本当に、食えないリーダーですの」

初春「佐天さんの武器はその緊張感の無さですからね」

佐天「ちょっと、うーいーはーるー」

初春「あひゃひゃ、やめてくらひゃい!」

 佐天に頬を引っ張られ、じたばたする初春へ黒子が溜息をつく。

黒子「はぁ、これはさすがに緊張感無さ過ぎですの」

 ガサガサと、茂みが揺れる。
 その気配を察知して、佐天が初春の頬を放した。

佐天「それじゃ一丁、ウォーミングアップと行きましょうか!」
201 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/20(水) 23:44:46.45 ID:S1CD.zAo
 初春は樹海に入る前、一通りの魔物について学んでいた。
 それは執政院に届けられ、公開されている一部の情報のみであったが、しかし知ると知らないとでは大きな差があった。

 茂みから現れたのは巨大な牡牛だ。
 ずんぐりとした巨体に、ねじれた角を持つ姿は一種の悪魔を彷彿とさせる。

 しかし彼女らにとっては、悪魔よりも現実的な恐怖が先行する。
 その魔物は、地下二階で逃げまわった相手――怒れる野牛と呼ばれるF.O.Eにそっくりだったのだ。


※F.O.E.:樹海内でMAPに表示されるシンボルエンカウント型モンスター。
      その強さは階層のMOBとは桁違いで、中にはボス級の強さを誇るものも。いわゆる中ボス、『セブンスドラゴン』のドラゴン。


 だが、初春はその違いをすぐに見抜いた。
 恐慌をきたしかけたパーティーへ指示を飛ばす。
202 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/20(水) 23:49:42.02 ID:S1CD.zAo

初春「こいつはB2Fのアイツでは無いです。ただ攻撃力は高いので佐天さんは防御に専念してください!」

佐天「あいよ!」

 暴れ野牛が前脚を振り上げ、体全体で伸し掛るように振り下ろす。
 佐天はその重量を盾を使って受け流すと、角の一振りを受け止める。

初春「白井さんはあいつの前脚を狙ってください、暴れるのを防げば怖い相手ではありませんから」

黒子「了解ですの!」

 野牛が佐天へ向け再び前脚を振り上げたところへ、黒子は鞭をしならせる。
 鞭が脚へと絡みつき、野牛の巨体を引きずり倒した。

初春「御坂さんは動きの止まった相手を術式攻撃で仕留めてください。防御力は高いですが術式には弱いはずです!」

美琴「分かったわ!」

 体を引き起こそうとのたうつ野牛へ、美琴の電撃が迫る。
 空気を灼きながら殺到する雷の槍は巨大な角へと集まり、そのまま体へと突き抜けた。

暴れ野牛「BMOOOOOOOO!!!」

 断末魔を上げ、激しくのたうち回っていた野牛は一つ大きく震えたきり、動かなくなった。
 あたりに肉を焦がす匂いが充満する。

佐天「よっしゃあ!」

黒子「初春にしてはなかなかの指示でしたわね」

初春「むぅ、どういう事ですかー!」

佐天「この調子でどんどん進んじゃいましょう!」

御坂「その前に」

 勢い込んで拳を振り上げる佐天へ、美琴が笑んで言った。

御坂「売れそうなもの、剥ぎ取りましょうよ。あの角、多分金属製だから高く売れるかもね」
203 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/20(水) 23:57:38.37 ID:S1CD.zAo

 その後に出てくる魔物は殆ど上階と同じだった。
 たまに現れる野牛も先の経験で十分渡り合えるようになっていた。

 長い一本道を抜け、ちょっとした広間で休憩した一行は、ついに禍々しい空気を発する扉の前へと到達した。
 扉の向こうからは、刺すような殺気が放たれている。
 耳を澄ませば、獣の低い唸り声が聞こえてくる。
 
 おそらくここがスノードリフトの巣だろう。

 自然と、ジャッジメントの四人に緊張が走る。

佐天「……開けますよ」

 ぎぃ、と扉が開く。
 同時、巨大な獣の咆哮が轟いた。

スノードリフト「WOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

 それは巨大な獣だった。
 真っ白な毛並みに怪しく光る瞳。
 口からは二本の巨大な牙が覗いている。
 狼とは言うが、どちらかというと、

美琴「虎?」

佐天「ライオンじゃないですか?」

黒子「どっちにしろネコ科ですの……」

初春「呑気な事言ってないで、来ますよ!」
204 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 00:04:38.48 ID:4kqmh6Mo

スノーウルフ「Vow!!」

 スノードリフトを守るように彷徨いていた一匹の狼が、四人へと飛びかかる。
 すかさず佐天が盾でその爪を弾いた。

スノーウルフ「Grrrrrrr....」

美琴「やっぱり、すぐにボスには会わせてくれないか」

 さらに数匹の狼が集まり、美琴たちを取り囲んだ。

 佐天が剣を引き抜き、盾を構える。
 同じように、黒子が鞭をピシリと鳴らした。

初春「前哨戦、行きましょうか!」

佐天「応っ!」

                     
205 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 00:10:55.90 ID:4kqmh6Mo
スノーウルフ「Voww!!!」

佐天「くっ……」

 何度目かの攻撃を、佐天が弾く。
 そこへ美琴が雷撃を叩き込もうとするが――

初春「御坂さん危ない!」

スノーウルフ「Wooo!!!」

黒子「やらせませんの!」

 快音が響き、飛び掛ってきた狼を黒子が下がらせる。
 先程から攻撃のたびに邪魔をされて、美琴は電撃を放てずにいた。

 相対するのは2頭の狼だ。
 しかしその2頭は、1頭が一撃で絶命したのを見るや、美琴の電撃を警戒してくるようになった。

 一頭が佐天へと執拗にまとわりつき、同士討ちを恐れて美琴が雷を撃てずにいる間、もう1頭が美琴を狙う。
 なんとか黒子の鞭で防いではいるものの、このままではジリ貧だ。

 佐天を巻き込まないよう砂鉄の剣や磁力を操作した攻撃も考えるが、

美琴(駄目よ…… こいつらの動きに、素人の私じゃ当てるのは無理……)

 これまで美琴が攻撃を当てられたのも、彼女の攻撃が光の速さで迫る雷撃だからだ。
 一瞬で到達するなら、外れることなど考えなくてもいい。
206 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 00:19:15.25 ID:4kqmh6Mo

 電子を操作して、佐天を巻き込まないよう電撃を放つことも考えるが、

美琴(そんな演算、悠長にしていられる状況じゃない……)

 まてよ、と美琴は思考する。
 
 演算を必要とせず、電撃を狼へ当てるには……

美琴「初春さん、確か解体用の短剣、持ってたわよね?」

初春「確かにありますけど…… そんなのじゃ致命傷は負わせられないですよ?」

美琴「いいのよ、金属なら何でも」

初春「わ、わかりました」

 初春から短剣を受け取り、声を張り上げる。

美琴「黒子! 何とかして一時的に佐天さんの方の狼の動きを止められる?」

黒子「佐天さんが上手く引きつけてくださるなら、可能ですの。でもそれではお姉さまが無防備に……」

美琴「大丈夫よ! 少しくらいの怪我なら初春さんが何とかしてくれるって!」

初春「えぇ!? 私ですか?」

黒子「くっ……頼みましたわよ初春!」
207 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 00:25:50.25 ID:4kqmh6Mo

 黒子は執拗に美琴を狙う狼から離れると、佐天が盾で受け止め、バランスを崩した狼へ鞭を放つ。
 その靭やかな革鞭が狼の後ろ足へと巻きついた!

美琴「レールガンって程じゃないけど、まぁ佐天さんを巻き込まない威力なら、丁度いいわね!」

 短剣を右手に構える。
 そして、

 放った。

 磁力線で結んだ軌道を、金属の短剣が真っ直ぐに飛翔する。
 目標は動きを止めた狼。その脇腹へと、威力を落としたレールガンの弾丸――短剣が突き刺さる。

美琴「今よ、離れて!」

 佐天がバックステップで狼から離れたと同時、目をくらます雷光が、狼へと殺到した。
 
 雷鳴が轟き、しかし自由となったもう一頭が美琴へと飛びかかる。

初春「危ない!」

 そこへ割り込んだ初春が、美琴へ飛びかかった狼を杖で受け止めた。
 しかし狼は杖を噛み、初春を押し倒す。
208 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 00:33:26.91 ID:4kqmh6Mo

佐天「はぁッ!」

 ゴガン! と鈍い音を発して、初春に覆いかぶさっていた狼が横薙ぎに振るわれた盾で吹き飛ばされた。
 ごろごろと地面を転がる狼はすかさず立ち上がるが、

黒子「遅いですの!」

 鋭く振るわれた黒子の鞭は、斬撃となって容赦なく狼の腹を切り裂いた。
 ふぅ、と初春が安堵の息をつき。

黒子「安心するのはまだ早いですの」

 黒子の言葉で我に返る。

 正面には、部下が敗れたにも関わらず泰然とこちらを見下ろす巨大な獣が控えている。
 スノードリフトだ。

 見れば、その奥にはまだ数匹のスノーウルフが蠢いている。
 各々はそれぞれの武器を構え、立ち向かわんと陣形を整える。

佐天「行くよ! みんな!」

初春「ええ!」

黒子「ですの!」

美琴「了解!」

スノードリフト「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」

 大狼が、吠えた。
209 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 00:38:18.59 ID:4kqmh6Mo

 まず駆けたのは黒子だ。
 その鞭でスノードリフトの顎を絡め取ろうとボンテージを仕掛ける。
 
 しかし放たれた鞭はその頭部へ巻きつくものの、スノードリフトが頭を振っただけで外されてしまう。
 
黒子「くっ、やはり一筋縄ではいきませんのね!」

 次いで前に出るのは佐天だ。前進し、スノードリフトの目を引きつけつつ、盾を構える。
 巨体が動き、双牙で佐天を捉えようとするが、それをなんとか受け流し、反撃の刃を突き立てる。
 しかしその鋼のような毛皮は佐天の刃を通さない。

佐天「硬い……!」

美琴「なら!」

 電撃。
 走る雷鳴が、一拍遅れて木々を揺らす。
 しかし、

美琴「効いてない!?」

 毛皮に焦げ目一つ付けられず、美琴は愕然とした。
 動揺したところに、数匹のスノーウルフが牙をむく。

スノーウルフ「VoW!!!」
210 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 00:43:48.01 ID:4kqmh6Mo

美琴「何度も何度もアンタ達にやられないわよ!」

 電撃。
 スノードリフトには通用しなかった雷撃も、その下っ端である狼たちには十分通用する。
 一瞬で一匹を仕留め、佐天を振り向いた。

美琴「佐天さん、こっちは任せて頂戴!」

佐天「了解です!」

 応え、スノードリフトを振り仰ぐ。

佐天「とは言ったモノの。どうしたもんかねぇ、全然ダメージ与えられないじゃん」

黒子「ともかく、やれるだけやってみますの」

 駆けた。
211 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 00:47:57.95 ID:4kqmh6Mo
 仕掛けたのは黒子だ。
 機動力を削ぐために、ウィップをしならせ足元を狙う。
 鋭い斬撃は硬い毛を数本散らすが、それだけだ。

黒子「まだまだ終りませんの!」

 続いて二撃、三撃と放つが、その幹のように太い足へは傷をつけられない。
 だが、

初春「効いていますよ! 白井さん!」

 スノードリフトが怯んだ。

佐天「やあああああああああァ!!!」

 頭部へ向かい思い切り剣を振り下ろす。
 だがそれは軽く下がるだけで避けられた。
 空振った剣先が地面を抉る。
 そこへすかさず閃く爪。

佐天「チッ」

 ガンと盾が歪む。
 ミシミシと鳴る持ち手に力を込め、受け流す。
212 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 00:54:02.60 ID:4kqmh6Mo

スノードリフト「WOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 追撃。
 空気が凍り、霜を纏った凍てつく牙が、佐天を捉えるべく動いた。
 バックステップを踏むが、間に合わない。
 反射的に盾を差し出し――

佐天「えっ!?」

黒子「佐天さん!」

 砕かれた。

 鉄の表面を貫かれ、脆い木製の基部が崩壊する。
 触れた部分を凍らせるスノードリフトの牙が、盾ごと佐天の腕に噛み付いた。

佐天「がああああああああああ!!?」

黒子「離しなさい!」

 黒子の鞭がスノードリフトの頬を叩き、怯ませる。
 その隙に佐天が盾を捨て下がった。
213 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 00:59:22.16 ID:4kqmh6Mo

 後退した佐天に代わり黒子が前へでた。
 初春が駆け寄り、佐天の腕へキュアをかけるが、凍りついた傷口はなかなか塞がらない。

初春「そんなっ!? さ、佐天さん……」

佐天「大丈夫、幸い凍りついて血は出てないし。それより白井さんが……」 

 見ればスノードリフトの猛攻を一人でしのいでいるのは黒子だ。
 鞭を使い猛獣をいなす姿は、扇情的な服装と相まってサーカスの猛獣使いのようだ。
 だが、徐々に押されている。

佐天「いくね!」

初春「佐天さん!」

 佐天が走る。
 盾を持っていた右手は動かない。
 だが剣を握る左手には力がこもっている。
 
 実家から持ち出した狩猟用の剣。
 ギャンブルに嵌る前の父が――まだ貴族として領民を治めていた頃の父が趣味の狩猟に使っていた剣。
214 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 01:11:23.41 ID:4kqmh6Mo

 佐天涙子は没落貴族の子女だった。

 元々力のある家柄ではなかった。
 少ない領地と、貴族としては控えめな屋敷に住み、つつましい生活を送っていた。
 父は権力さえなかったが、領民からは好かれ、慕われていた。
 だが、ギャンブルが彼を狂わせた。

 賭けチェスで大敗した父はその支払の為にさらにギャンブルへとのめり込み、気づけばその借金は莫大な量となっていた。
 
 そこからは悲惨の一語。
 絵画や家財を売り、領地を売った。
 それでも借金は返せず、最後は王へすがり、爵位を失った。
 
 気づけば、佐天涙子はありとあらゆる財を失っていたのだ。

 最後に残ったのは、父の得意だった狩猟用のボアスピアソードと、一式の古い鎧。
 それと少しの荷物だけを持って、佐天はエトリアへとやってきた。

 今の暮らしはとても良いものとは言えない。
 それでも佐天は毎月の仕送りを欠かした事はなかった。

佐天(私がここで死んだら、お父さんやお母さん、弟妹達の生活はどうなる?)

 そう考えると、ここで倒れるわけにはいかない。
215 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 01:16:46.61 ID:4kqmh6Mo

 ぐっと、剣を握る手に力が篭もる。

佐天「白井さん!」

 叫び、突撃する。
 スノードリフトを引きつけ続けていた黒子が、佐天の復帰に合わせてポジショニングを変えた。

 黒子が引きつけ、佐天が一撃を加える陣形だ。

 黒子の鞭が唸った。
 執拗に狙っていた前肢へ再び打撃が入る。
 痛みにスノードリフトが怯んだ。
 
佐天(狙うなら……今!)

 跳んだ。

 左腕に全力を込める。
 弓のように腕を引き絞り、放つ。

 狙いは、

佐天「目玉ァ!」
216 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 01:23:12.97 ID:4kqmh6Mo

スノードリフト「Voooo!!!」

 爪が来る。

 盾を失った右手は動かない。
 だから肩にわざと貰い、なんとかして受け流す。 
 スノードリフトの頭が近づく。

佐天「……ッ!!」

 クロスカウンター気味に打ち込まれた剣先は、真っ直ぐに突き立った。

スノードリフト「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

 苦悶の咆哮。
 激しく暴れるスノードリフトから剣を引き抜き、離れる。
 だが、油断はしない。

 案の定、黒子の隣に戻ると同時にスノードリフトは起き上がっていた。

スノードリフト「Grrrr……」

佐天「脳までは届かなかったみたいですね」

黒子「それよりも、相当ご立腹のようですの」

 チリチリと、先とは比べものにならない殺気が空気を焼く。

 来る。
217 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 01:29:39.99 ID:4kqmh6Mo

 佐天たちは猛った獣の反撃を覚悟し、緊張をみなぎらせた。が、

スノードリフト「Wo…… Grrrr……」

 毛を逆立てるスノードリフトの反撃は、想像だにしていないものだった。



スノードリフト「WWOOOOOOOOOOOOOOOOOooooooooooooo!!!!!」



 咆哮。否、絶叫か。
 これまでと比べ物にならない声量の吠え声がビリビリと、ギシギシとまで森を揺らす。
 それは、動物の本能的な恐怖を呼び覚ますもので。

佐天「あ、あぁ……」

黒子「な、なん……ですの……」

初春「はうぅ……」

 杖を取り落としたのは、初春だ。
 黒子と佐天も、まるで金縛りを受けたかのように立ちすくんでいる。
 まさに、恐怖の咆哮だった。

黒子「あ、足が……」

 ガクガクと震えるのは、むき出しの膝。
 立とうと奮起するが、どうしても一歩が踏み出せない。
 見れば、佐天も同じように鎧をカチカチ鳴らして震えている。
218 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 01:35:50.31 ID:4kqmh6Mo

スノーウルフ「Gwooooo!」

 スノードリフトにとって、もはや彼女らは獲物だった。
 最初に狙うのは、己に傷をつけた鎧の女。
 佐天涙子。

佐天「ひっ」

 牙を剥き、あの凍てつく牙が今度こそ彼女を仕留めるべく迫る。
 死を覚悟し、佐天は目を瞑った。


 が、己を絶命せしめるはずの牙は未だ届かない。
 ゆっくりと目を開ける。

佐天「壁?」

 黒い壁だ。
 地面から立ち上がった黒い蠢く壁が、佐天とスノードリフトの間に割入っている。
 言うまでもないだろう。それを成した人物の名は。

佐天「御坂……さん?」

美琴「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった」
 
219 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 01:38:46.28 ID:4kqmh6Mo

 美琴が一人でスノーウルフに立ち向かっていったのには理由があった。
 それは、

美琴「これでやっと、全力が使えるわね」

スノーウルフ「Grrrr……」

 一人となった美琴を囲む狼の数は、今や5匹。
 完全に勝利を確信したかのような狼の視線に、しかし美琴はたじろがない。

美琴「正直、最初はあんた達が怖くて仕方なかった」

 パチパチと、前髪で火花が散る。

美琴「こんな訳のわかんない所に飛ばされてさ、戦うことになっちゃって」

 喋りながらも、美琴の脳内で様々な演算が行われる。

美琴「しかも私の電撃に耐えるですって? 学園都市第三位舐めんなってのよ」

 そして、組みあがった方程式の解を、顕現させる。

美琴「ここなら皆を巻き込まないで済む」

 だから、

美琴「全力全開で行くわよ!」

 雷撃が迸った。
220 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 01:46:14.55 ID:4kqmh6Mo

 そこからは一方的な虐殺と言って良かった。
 もしここで用いたのが砂鉄の剣や超電磁砲であったのなら、彼女は野生動物に一撃すら与えられなかっただろう。
 だから彼女は電撃のみを使った。

 エレクトロマスターの初歩の初歩。
 単純な電流。
 しかしそれは、この場において最も有効な武器だ。
 
 生半可な電撃ならば彼らの強靭な肉体には通用しなかったかも知れない。
 しかし、彼女の電撃はもはやそれを超越している。

 少々当てるのに苦労はしたが、それだけだ。
 必殺の雷撃は確実に、一匹ずつ狼を仕留めていったのだった。


美琴「ま、思いの外時間がかかっちゃったけどね」

黒子「お、おねぇさまぁ~」

美琴「よしよし、怖かったわね」

佐天「これは、御坂さんが?」

美琴「まぁね。それより、来るわよ!」
221 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 01:49:30.27 ID:4kqmh6Mo

スノードリフト「Vow!」

 スノードリフトが飛びかかった。

 だが、佐天は気が抜けた所為か一瞬回避が遅れてしまう。

美琴「させない!」

 電撃。
 しかしスノードリフトを狙ったものではない。
 
 轟音。
 雷に打たれた巨木が、炎上しながらミシミシとスノードリフトへと倒れていく。

スノードリフト「Gyyyu……」

 スノードリフトが巨木から安々と離れる。
 すぐさま反撃が来るかと佐天が身構えるが。

佐天「来ない?」

 燃え盛る木を遠巻きにして、スノードリフトは近づいてこない。

美琴「なるほど、やっぱりね」

初春「やっぱりとは?」

美琴「名前通りって事よ」

黒子「なるほど、熱いのが苦手という訳ですのね」

美琴「ご名答」
222 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 01:57:32.81 ID:4kqmh6Mo

 ゆっくりと炎から離れるようにしてスノードリフトが倒木を回りこんで来ようとしている。

 今度は激しく燃える物の少ない草地側から攻撃を仕掛けるつもりだ。
 
美琴「佐天さん、これを渡しておくわ」

 言って、美琴が取り出したのは小瓶だ。

佐天「これは……ファイアオイル?」

美琴「さっきも見たでしょう? それならきっと、致命傷を負わせられるはず」

佐天「……わかりました」

黒子「サポートは任せて下さいまし」

美琴「頼んだわよ」

 オイルを剣に垂らす佐天へ、初春が駆け寄る。

初春「佐天さん、手を出してください」

 言って強引に手をとると、氷が溶け始めた手へキュアをかけた。

 不完全だが、傷がふさがり、手が動くようになる。

初春「やりましょう。私達ならきっと出来ます!」

佐天「うん…… うん!」

黒子「やってやりますの!」

美琴「みんな! やるわよ!」

 駆けた。
223 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 02:02:51.50 ID:4kqmh6Mo

 先制をとったのはスノードリフトだった。
 大きく息を吸い、再び恐怖の咆哮を轟かせるべく顎を開こうとする。
 だが、

黒子「今度こそやらせませんの!」

 鞭が鳴った。
 命を吹き込まれた革鞭が唸り、しなり、その顎へと絡みついた。

スノードリフト「Gm……rrr……」

 頭を振り暴れるが、ピンヒールをしっかりと地面に突き刺した黒子は動かない。
 
 そして、佐天が走った。

 両手で剣を持ち、ただ敵へと突撃していく。
 空気との摩擦で、オイルが発火した。
 刀身が激しく燃える。

佐天「はああああああああああああああああ!!!」

 さながら炎の矢だ。
 暴れるスノードリフトの喉元へ、今度こそ刃が、

佐天「いっけえええええええええええええええ!!!」

 
 通った。

224 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 02:06:33.02 ID:4kqmh6Mo

スノードリフト「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 悶絶。
 のたうつスノードリフトから、鞭が解ける。
 佐天も振り回され、剣から手を離してしまう。

 尻餅をつく佐天の手にはもはや剣も盾も無い。
 だがスノードリフトは燃える刀身に悶えつつも、道連れにすべく佐天へ躍りかかろうとした。

 だが、この時点で趨勢は決した。

美琴「さっきの狼との戦いでなんとなく分かったけど、アンタ達の毛皮って微妙に電気が通りにくいみたいね。
    ただ生物である以上、電気刺激が全く効かないワケが無いのよ」

スノードリフト「WOOOOOOOOOOOO!!!!」

 バチバチと弾けるのは美琴から放出される電気。
 その前髪が放つのは莫大な電流。

美琴「つまり、直接体内に電撃を流しこめば、通用するってことよね!」

 目標は、喉元に突き立った佐天の剣。

美琴「不幸よね……」

 叫ぶ。

美琴「アンタ本当に不幸だわ!」

 まばゆい光がスノードリフトを包みこみ、そして――
225 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 02:10:05.06 ID:4kqmh6Mo

エトリア ――執政院ラーダ


固法「確かに、スノードリフトの討伐を確認したわ。おめでとう」

佐天「ありがとうございます!」

固法「礼を言うのはこちらの方よ。少ないけれど、謝礼も用意させてもらったわ」

初春「やった! これだけあれば佐天さんの新しい剣と盾も新調できますよ!」

佐天「う、うん……そうだね」

美琴「ん? なんだか元気無さそうだけれど」

黒子「疲れてらっしゃるのでしょう。今日のMVPは佐天さんですし」

佐天「あはは、そうかも知れないです」

 結局、今まで使ってきた盾の修復は不可能だった。
 剣も、美琴の電撃で疲労したところにスノードリフトの巨体が倒れこんだことで折れてしまった。

 家から持ち出してきた装備。
 幼い頃の、まだ立派な領主だった父の思い出。
226 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 02:16:40.58 ID:4kqmh6Mo

 グッと、完治した右手を握る。
 
 思い出の品は、失ってしまったかも知れない。
 だが、佐天の胸から、あの頃の気持ちは消えていない。
 
 それに、得たものもあった。

 顔を上げる。
 そこには心配そうにこちらを覗き込む仲間の姿があった。

美琴「佐天さん?」

佐天「なんでもありません。それよりも、打ち上げに行きましょうよ!」

黒子「疲れたんじゃありませんでしたの?」

佐天「細かいことはいいんですよ! ささ、金鹿の酒場へゴー!」

初春「もう、いくら謝礼を貰ったからって無駄遣いはいけませんよ!」

 わいわいと姦しく、ジャッジメントの四人が去っていく。
 それを見送る固法とは別に、彼女たちを眺める視線があった。

 視線はしばらく彼女たちを追っていたが、すぐに興味をなくしたのか、執政院の奥へと去っていった。

 
  第五話[了]
227 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/21(木) 02:18:57.33 ID:4kqmh6Mo
        ―――次回予告―――


初春「なんだか薄暗いですね……」

黒子「一階下に降りただけでこうも環境が違うとは……」

 第二階層へ足を踏み入れた一行。


森の破壊者「Guuuuuu……」

佐天「えっと、死んだふりするんだっけ?」

美琴「それすると、逆に食べられちゃうって聞いたわよ?」

 現れる恐怖のF.O.E.!


??「彼女たちには、とみに期待しけるのよ」

 謎の人物の正体とは!?


 次回、第六話をお楽しみに!
 下層へ降りた君たちは、さらなる冒険へ挑むことができる!
229 : ◆CahDa3HfTk[sage]:2010/10/21(木) 02:20:42.70 ID:4kqmh6Mo

というわけで、第五話でした。
次回第六話は例のごとく一週間後に。

途中に番外編投下あるかも?
期待せずに待っていてください。



その間、雑談・批評・質問大歓迎です。
気になるレスがあったら返信させてもらうかもです。

238 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:33:10.16 ID:EuCcAwUo
謎の人物早速特定されてますね。
いやはや、いったい誰なんだか……

というわけで番外編投下します
239 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:33:49.21 ID:EuCcAwUo




 深い樹海の中。
 音も立てずに動く影がある。
 『彼ら』は影のように移動し、通った痕跡は塵一つ残さない。
 まるで東洋のシノビのような集団を、人々は幻のようにこう呼んだ。

 『樹海戦隊ゴレンジャー』と。


240 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:34:29.45 ID:EuCcAwUo

 世界樹の迷宮 B3F

10032「ふう、素材はコレで全部ですか……とレンジャーは一息つきます」

10801「しかし、いくら警戒しても戦闘は避けられませんね。ミサカの疲労蓄積度は許容値を超えています、とレンジャーは弱音を吐きます」

20001「早く帰って宿のお風呂に入ろ!ってレンジャーはレンジャーはワクワクテカテカ!」

17600「宿……ですか、とレンジャーはあの糸目を思い出して吐き気を催します」

20000「思い出すだけで腹が立ちますね、とレンジャーは回想します」

                   ・
                   ・
                   ・
241 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:35:52.46 ID:EuCcAwUo

 エトリア ――長鳴鶏の宿

20001「すーすー ってレンジャーはレンジャーは静かな寝息を……」

10032「そんなに食べられませんとレンジャーは……」

20000「あぁ! そんな乱暴にしないでぇ! とレンジャーは妄想を……」

青髪「はーい、どんな夢見とるんか知れへんけれども、皆さん朝やでー!」

17600「うう……いったい何事ですか、とレンジャーは目をこすって起き上がります」

青髪「おはようさん! 朝やでー」

17600「もう朝…… って、まだ6時じゃないですか!とレンジャーは二度寝をするため毛布を――」

青髪「あかんでー」

17600「や、やめてくださいー 毛布をかえしてー、とレンジャーは抗議をします」

青髪「冒険者の朝はごっつ早いねん。はよ起きんと、倍の料金取るで」

17600「!? 全員早く起きてください! とレンジャーはグズるリーダーを布団からひっペがします!」

青髪「ほな、朝食は用意しとるで、はよ降りて来なや」

10801「な、何事ですか……とレンジャーは呆然とします」

10032「うぅ……昨日帰ってきたのが1時過ぎなのに……とレンジャーは渋々着替をします」
242 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:36:51.27 ID:EuCcAwUo

                   ◆

10032「朝食を食べてもまだ眠いです……とレンジャーはフラフラと歩きます」

10801「朝日が目に染みます……とレンジャーは太陽が真っ赤に見えるぅ……」

20001「Zzzz……」

20000「リーダー、立ったまま寝ないでください、とレンジャーはため息一つ」

17600「とりあえずチェックアウトを済ませてしまいましょう、とレンジャーは財布を取り出します」

青髪「あんがとさん。料金は70エンな」

10032「なっ!? 先日までは50エンだったじゃないですか! とレンジャーは値上がりに抗議します!」

青髪「せやかて、お嬢ちゃんらB3Fに入ったんやろ? だったら料金上がるんも当然やないか」

10032「お、横暴だー! とレンジャーは怒りに声を荒らげます!」

青髪「ま、払わんでもええけど」

10032「ほ、本当ですか!?」
243 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:37:45.31 ID:EuCcAwUo

青髪「ええよ。そのかわり、体で払ってもらうさかい」

20000「か、体で……///」

17600「そこ! 顔赤らめんな! とレンジャーは変態にあきれ果てます」

10032「ともかく! 却下です! とレンジャーは青髪ピアスの変態糸目を睨みつけます!」

青髪「お嬢ちゃんら可愛いけど、怒った顔も素敵やなぁ……」

10032「あの、ちゃんと払うんで、マジ勘弁してください…… とレンジャーは硬貨を取り出します」チャリンチャリン

青髪「はい、まいどおおきに~」

                     ・
                     ・
                     ・

                   回想終了
244 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:38:50.20 ID:EuCcAwUo

10801「どうしますか? おそらくあの宿はまた値上がりしていると思われますが……とレンジャーは野宿でもいいかなと思案中」

20001「えー! 野宿はやだやだー! ってレンジャーはレンジャーは駄々をこねてみる!」

10032「確かに、正直ミサカも野宿は嫌です。とレンジャーはリーダーに賛成します」

20000「お、乙女の汗の匂い……ハァハァ」

17600「変態は放っておいて、実はミサカには妙案があるのです! とレンジャーは胸を張ります!」

                     ・
                     ・
                     ・

 B3F 下り階段近くの広間


禁書「で、私のところに来たのかな?」

17600「そのとおりです、とレンジャーは同意します」

20000「さあ! 早く聖水を! よ、美少女の聖水……ハァハァ」

10032「黙れ変態。それに聖水ではなく泉の水です、とレンジャーは呆れ顔のまま訂正します」
245 :コピペミス。変なところで途切れちゃった……  ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:40:01.37 ID:EuCcAwUo

10801「私たちは丁度今ミッションを受けてきた所です、とレンジャーは証明書を見せます」

20001「もうつかれたよー ってレンジャーはレンジャーは足をさするよ……」

禁書「あーもう! 分かったんだよ! ほら、順番に降りかけるから並んで!」

20001「わーい! ってレジャーはレンジャーは優しいお姉さんに感謝するよ!」


                       ◆
246 :さらにコピペミスしたので訂正  ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:42:31.01 ID:EuCcAwUo
>>244-245 を↓に差し替えてお読みください


10801「どうしますか? おそらくあの宿はまた値上がりしていると思われますが……とレンジャーは野宿でもいいかなと思案中」

20001「えー! 野宿はやだやだー! ってレンジャーはレンジャーは駄々をこねてみる!」

10032「確かに、正直ミサカも野宿は嫌です。とレンジャーはリーダーに賛成します」

20000「お、乙女の汗の匂い……ハァハァ」

17600「変態は放っておいて、実はミサカには妙案があるのです! とレンジャーは胸を張ります!」

                     ・
                     ・
                     ・

 B3F 下り階段近くの広間


禁書「で、私のところに来たのかな?」

17600「そのとおりです、とレンジャーは同意します」

20000「さあ! 早く聖水を! よ、美少女の聖水……ハァハァ」

10032「黙れ変態。それに聖水ではなく泉の水です、とレンジャーは呆れ顔のまま訂正します」

禁書「いや、確かに私はスノードリフト討伐ミッションを受けた冒険者を支援するために、回復の泉の水を持ってきてるけど……」

10801「私たちは丁度今ミッションを受けてきた所です、とレンジャーは証明書を見せます」

20001「もうつかれたよー ってレンジャーはレンジャーは足をさするよ……」

禁書「あーもう! 分かったんだよ! ほら、順番に降りかけるから並んで!」

20001「わーい! ってレジャーはレンジャーは優しいお姉さんに感謝するよ!」
247 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:43:16.92 ID:EuCcAwUo

 数日後


10801「ふぅ、今日も大漁ですね、とレンジャーは汗をぬぐいます」

17600「では今日も泉の水をたかりに……もとい、支援を要請しに行きましょう! とレンジャーは荷物をまとめます」

20001「おー! ってレンジャーはレンジャーはおおはしゃぎ!」


 ――広間

10032「インデックスさーん! 今日も泉の水をー……って、アレ? とレンジャーは首をかしげます」

20000「誰もいませんね、とレンジャーは黒いぼろ布みたいな衣装を探します」

20001「見て見てー、こっちに立て札があるよー ってレンジャーはレンジャーは指さしてみたり!」

17600「何なに? 『ギルド「ジャッジメント」によりミッションが達成されたため、執政院からの支援を打ち切ります』!?
     そ、そんな! とレンジャーはショックを受けます!」

10801「……大人しく、宿屋に行きましょう、とレンジャーは意気消沈します」

10032「おのれ『ジャジメント』! 絶対に許さんぞー! とレンジャーはフリーザ様風にぶちぎれます!」

                     ・
                     ・
                     ・
248 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:43:50.16 ID:EuCcAwUo

美琴「はっくしゅん!」

黒子「まぁまぁお姉さま、お風邪ですか?」

美琴「いや、別にそうじゃないと思うけど……」

佐天「きっと誰かが噂してるんですよ!」

初春「スノードリフトを倒して私達もそれなりに知られるようになりましたからね、今や泣く子も黙る「ジャッジメント」ですよ!」

美琴「さすがに、そこまでは行かないんじゃない?」

黒子「それでも、こうして評価されるのは嬉しいものですの」

佐天「よーっし! それじゃあ第二階層もこの調子で行くよ!」

初春「おー!」

 自分たちが決意を新たにしているときに、理不尽な理由で恨まれているなど思いもしない『ジャッジメント』の面々であった。


               番外編 おわり
249 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/10/24(日) 18:45:35.26 ID:EuCcAwUo
というわけで番外編でした。
ギャグは書いてて楽しいです。

糸目さんマジ鬼畜。


本編6話は一週間以内に投下します

その間、雑談・批評・質問大歓迎です。
気になるレスがあったら返信させてもらうかもです。


267 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 00:47:16.65 ID:2M8T0Mwo

エトリア ――イツワ商店


初春「おぉ! 似合ってますよ佐天さん!」

佐天「そ、そうかなぁ……」

五和「えぇ、大変お似合いですよ」

 言われ、佐天が頬を染めて一回転する。
 その姿は新しいドレスを見せびらかす貴族の娘のようだが、しかし彼女が纏っているのは重厚な全身鎧だ。
 彼女が動くたびにガチャガチャと金属音が狭い店内に響く。

 彼女と初春は今、佐天の装備を一新すべく冒険者向けの商店へと来ていた。

 修理から帰ってきたピカピカの鎧を着こみ、新しく買った幅広剣の柄を撫でながら、佐天が店内を見回す。

佐天「それと、盾なんだけど……」

五和「でしたら良いものがありますよ。先日とあるギルドが持ち込んでくださった素材で作ったものなんですが……」

 言って、五和が盾の陳列されている壁から外したのは、膝の上から上半身までを隠す大盾だ。
268 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 00:48:35.10 ID:2M8T0Mwo

五和「二階層の素材ですので少々値は張りますが、性能は保証します」

 盾を構え、重さを量る。
 ずっしりとした重量感は腕に来るが、持てないというほどではない。
 だがこれだと、前のように盾で打撃する事は難しいかもしれない。

佐天「でも、皆を守るならこれくらいの方が良いかもね」

初春「そうですねー、仲間も増えましたし、大きい方がいいに決まってます!」

佐天「五和さんみたいに?」

初春「胸の話はしてません!」

五和「あ、あはは……」

佐天「よし! 決めた! これください!」
 
                     ・
                     ・
                     ・
269 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 00:51:15.26 ID:2M8T0Mwo

エトリア ――金鹿の酒場


初春「というわけで、こちらが佐天さんの新しい装備です!」

美琴「おー」

黒子「馬子にも衣装とはこのことですのね

佐天「あー、酷いですよ白井さん」

 買い物を終え、ジャッジメントの4人は酒場に集まっていた。
 少女たちが飲み物を片手に姦しく騒ぐその一角だけ、まるでカフェのような有様だ。

初春「でもですね、なんと言ったら良いか……」

佐天「ごめんなさい! 私の装備一式を揃えるので、ギルドのお金がすっからかんに……」

美琴「仕方ないわよ、防具は命を預けるものなんだし」

黒子「しかし由々しき事態ですの。何か手っ取り早く稼ぐ方法があればいいのですが」

黄泉川「それなら、丁度いいクエストがあるじゃん」

 そう言ったのは、皿やジョッキを手に持った巨乳の女主人。
 黄泉川だ。


※クエスト:街の住人から冒険者へ出される依頼。
       主に酒場などが仲介をし、クエストを達成すると物やお金などの報酬が依頼主より支払われる。
270 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 00:54:10.02 ID:2M8T0Mwo

 彼女は手早く注文の品をテーブルに並べると、腰に手を当てて話しだす。

黄泉川「この街に、いろんな花を育ててる爺さんが居たじゃんね」

黒子「居た? と言うことは今は……」

黄泉川「そう、亡くなったじゃん」

初春「私、聞いたことがあります。世界中の花を育てていて、その庭園はとても綺麗だって」

佐天「さすが初春。花の事なら何でもござれだね!」

初春「もう! 茶化さないでください!」

美琴「で、その亡くなったお爺さんがどうやって依頼を?」

 話が進まないと思ったのか、美琴が黄泉川の話を促す。
 ゆっくりと頷いて、女主人は答えた。

黄泉川「亡くなった際、遺言でこう言い残したらしいじゃん『自分が唯一咲かせられなかった花を咲かせて欲しい』ってね」

佐天「なるほど! それで初春にお鉢が回ってきたと!」

初春「もー! 佐天さん!」
271 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 00:56:53.86 ID:2M8T0Mwo

 はぁ、とため息一つ。
 黒子が引継ぎ、答えた。

黒子「わたくし達冒険者に依頼が来るのですから、樹海関連に決まっていますの。
    大方、樹海で手に入る肥料じゃないと咲かないとか、あるいはそのもの樹海でしか咲かない花だとか、そんな所でしょう」

黄泉川「冴えてるじゃん! その通り、その花は樹海の『ある場所』でしか咲かないらしいじゃん」

美琴「なるほどね。ところで、その場所ってのは分かってるんですか?」

黄泉川「どうやら地下6階にあるらしいじゃん」

初春「丁度いいじゃないですか、まさに6階を探索しようとしていた所ですし」

黒子「そうですわね。して、その依頼の報酬は?」

佐天「それは気になる所ですね。金欠だし、出来たら現金が良いなぁ」

黄泉川「一応、報酬として500エンを預かってるじゃん」


※エン(en):エトリアの通貨単位。いわゆるギルやゴールド。
      (ちなみに、500エンは装備などを揃えるとなると大して多くないが、第二階層の敵からドロップする素材がひとつ20~30エン程度なので、
       そこそこ嬉しい臨時収入程度の額にはなる)
272 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします[sage]:2010/11/05(金) 00:58:20.53 ID:UmocXRko
誤爆すんなよ作者
273 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 00:58:23.16 ID:2M8T0Mwo

初春「hai! やるます! さぁ皆さん、早速樹海にでかけましょう!」

佐天「初春、テンション上がりすぎ……」

黒子「貧乏臭いですの」

美琴「ジャッジメントの台所事情って、そんなに切迫してたんだ……」

初春「切迫してるなんてレベルじゃありません! 火の車です!」

佐天「あはは、申し訳ない……」

黄泉川「じゃ、このクエストはあんた達に任せるじゃん。今依頼された花の種を持ってくるから、頼んだよ」

初春「合点承知っ!」

 こうして、ジャッジメントの新たな冒険は、クエストと言う形で始まったのだった。
 
274 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:00:27.79 ID:2M8T0Mwo
>>272
マジすいません。
投下中は他スレみないようにします。
275 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:01:11.23 ID:2M8T0Mwo

 世界樹の迷宮 第二階層 原始ノ大密林
                 ――B6F いにしえの妖精たちが踊った森


初春「なんだか薄暗いですね……」

黒子「一階下に降りただけでこうも環境が違うとは……」

 第二階層へ足を踏み入れた一行を待っていたのは、鬱蒼と生い茂る密林だった。
 樹木の密度は第一階層と比べるべくも無く、木々の生み出す濃い酸素と水蒸気が息を詰まらせる程だ。
 
 薄暗い森の向こうからは、鳥の鳴き声と獣の嘶きが聞こえてくる。
 独特の湿った空気は彼女たちの肌に纏わりつき、不快感を高めた。

佐天「とりあえず、あっちの開けてる所まで行きましょう」

 佐天の言葉に、周囲を警戒しながら四人は進む。
 少し歩いただけで、木々の生えていない広間に出た。

 広間に入り、まず美琴が驚嘆した。

美琴「何これ…… 光の、柱?」
276 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:01:40.99 ID:2M8T0Mwo

 まさに、そうとしか形容の出来ない物がそこにあった。
 花弁を思わせるかのように広がる桃色の光が、地面からゆっくりと湧き上がり、天井までつづいている。
 
佐天「『樹海磁軸』ですね。私も見たのは初めてですが」

美琴「磁軸?」

黒子「仕組みは分かりませんが、一度これに触れた者はこの場所と地上を自由に行き来できるようになるんですの」

美琴「なんというか、ここまでファンタジーだと逆に清々しいわね……」

初春「? 何か言いました?」

美琴「何でも無いわ。それより、早く種を植えるのにふさわしい場所ってのを探しましょう」

佐天「えっと、確か日当たりのよくて落ち着いた場所って事でしたよね?」

黒子「それくらいすぐ見つかると思いましたが、これだけ薄暗い階層だとなかなか見つかりそうにありませんの」

 確かに、黒子の言うとおり第二階層は全体的に薄暗い。
 これはやはり、樹海の奥まで来ている証拠か、はたまた生い茂る木々の所為だろうか。
 
 ともかく、四人は日当たりの良い場所を探して歩きまわることにした。
 ついでに地図を書いていくことも忘れない。
277 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:03:25.76 ID:2M8T0Mwo

 磁軸のある広間から出ると、そこから三方向に道が分かれている。
 広間を南に置き、東西に伸びる通路と、北には扉が据えられていた。

 四人がまず向かったのは西の通路だ。

 上層に比べて細い道を、四人は周囲を警戒しつつ進んでいく。
 階を降りるごとに魔物の強さがどんどん強くなっていくのを、彼女たちは既に学んでいた。
 だから、決して油断していたわけでは無かった。
 
 その攻撃は、音もなく襲い来る。

 真っ直ぐ続く道に、周囲の風景は同じような木々ばかり。
 その所為だろうか、美琴は徐々に瞼が落ちて来るのを感じた。
 そして遂に、ゆっくりと体が傾ぎ始め……

佐天「御坂さん!」

 唐突に、銅鑼を鳴らしたかのような金属音がした。
 その発信源は美琴の前に立つ佐天の盾からだ。
 
 しかし、その頭に響くような金属音と、仲間たちの怒号を聞いても、美琴の瞼は上がらない。
 元凶は、慌てて美琴の前に割入った佐天の盾にへばりつく、不定形の生物。
 スリーパーウーズだ。

黒子「初春、お姉さまを!」

初春「了解です!」

 心地良い微睡みの中に居た美琴の意識が不意に覚醒する。
 初春のリフレッシュにより、眠気を飛ばしたのだ。


※リフレッシュ:状態異常回復スキル。一度に全体を回復できるが、スキルを上げないと全ての状態異常に対応できない。
         いわゆるキアリーやなんでもなおし。
278 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:03:52.34 ID:2M8T0Mwo

美琴「っ! い、一体……」

初春「不覚でした、敵の攻撃です」

 見れば、佐天と黒子が直径1メートル程度の不定形生物を剣と鞭によって責め立てている。
 しかし、その液体にも似た体の所為か、思うようにダメージを与えられていない。

 ならば、

美琴「どいて、二人共!」

 電撃を放った。
 轟と鳴る雷鳴は瞬時にゲル状のウーズを沸騰、蒸発させる。

スリーパーウーズ「Pikyyyyy!!!」

 断末魔らしき声を上げ、小さな塊を残してウーズが絶命した。
 佐天が盾を下げ、納刀する。黒子も鞭を腰に戻した。

黒子「さすがお姉さまですの!」

佐天「いやぁ、油断してました。あんな魔物が居るなんて……」

初春「聞いたことがありますよ、特殊な息や花粉で冒険者を眠らせる魔物が居るって」

美琴「見事にしてやられたって訳ね……」
279 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:05:13.45 ID:2M8T0Mwo

 とりあえずといった感じに小塊を回収し、四人はさらに進む。
 磁軸の西側を歩きまわり、一通り地図を完成させたところで次は北側を探索することにした。

 北への扉を見つけ、くぐる。
 そこは磁軸のあった場所よりさらに開けた広間だ。
 確かにここなら、通路よりは日が差してはいたが……

美琴「熊ね」

黒子「熊ですの」

 そこでは、いくつかそびえる巨木を中心に、巨大な熊が徘徊していた。
 とても落ち着いた場所とは言えない。
 大熊はこちらに気づいているのかいないのか、今は襲いかかってくる素振りさえ見えないが、戦闘となったらただでは済まないだろう。
 それほどのオーラを発している。

森の破壊者「Guuuuuu……」

佐天「えっと、死んだふりするんだっけ?」

美琴「それすると、逆に食べられちゃうって聞いたわよ?」

 呑気な会話ができるのも、彼らがこちらに向かってこないが故だろう。

初春「どうしましょう」

佐天「とりあえず、あの中に突撃する勇気はないね」

 佐天の言葉に皆賛同し、広間を後にする。

 ならば最後に残るのは東側だ。
280 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:08:52.97 ID:2M8T0Mwo

 東側は西と同じような構造をした通路だった。
 しかし木々の密度が薄く、温かい日差しが面々に降り注いでいる。
 
 東側へ更に進んだところ、その突き当たりで四人は足をとめた。
 周囲に魔物の気配もなく、ここならば落ち着いて種を植えられそうだ。

佐天「それじゃ、このあたりに植えようか」

初春「スコップの準備は万全ですよ!」

 初春は鼻息荒くスコップを掲げると、バックから取り出した種を持って茂みの近くに穴を掘り始める。
 柔らかい地面は、やすやすとスコップの刃を通し、あっという間に浅い穴が完成した。

 ビー玉程度の大きさの種をその中に落とし、上から土を被せる。
 これにて、依頼はひとまず終了。あとは花が咲くのを待つだけだ。

 皆が一仕事終えて気を抜いた瞬間だった。

 黒子のみが、異変に気づく。
 不意に低い振動音を耳にした黒子は、茂みの奥へと目線を走らせた。

黒子「なっ! なんですのっ!?」

 音の源は蜂の大群だ。
 近くに巣があったのか、いかにも魔物然とした巨大な蜂は、群れをなして四人へと襲いかかる!

 
281 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:10:17.49 ID:2M8T0Mwo

 人の顔ほどの大きさがある蜂へ、鞭が迫る。
 黒子だ。

 切り裂く鞭は宙を滑るようにして蜂の胴体へ吸い込まれ、両断する。
 佐天も続いて剣を振り、一度に二匹ほど屠るが、

佐天「数が多い!?」

美琴「任せて」

 雷鳴が轟いた。

 美琴の前髪から走る紫電が次々と蜂を灼く。
 数匹の蜂を感電させるが、しかし一向に数は減らない。

黒子「とにかく数を減らしていきましょう!」

 茂みから際限なく湧き出てくる蜂を、片っ端からたたき落として行く。
 四人の周囲には蜂の屍がうず高く積まれていく。
 
 三匹の蜂が繰り出す毒針を盾で防ぎ、剣を突き刺す。
 残りの二匹を美琴が焼く。
 新手の二匹は黒子が鞭で裂いた。
282 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:11:00.66 ID:2M8T0Mwo

 気づいたのは初春だった。

初春「戦闘の気配に引き寄せられて!?」

 熊、と錯覚した。
 それは巨大な獣だ。
 発達した両腕を引きずる巨大な影が、佐天へと覆いかぶさるように爪を振るった。

初春「佐天さん!」

佐天「くっ!」

 盾を持ち上げ、ガード。
 猛撃に佐天の体が傾ぐが、新調した盾はさすがの強度を発揮し、無傷だ。

 オオナマケモノ。
 二階層上部で、F.O.E.を除けば最大と言っていい攻撃力を持つ獣だ。

オオナマケモノ「Gooooo……」
283 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:11:43.79 ID:2M8T0Mwo

 二撃目。
 横合いからの、大振りな引き裂く豪腕に対して、佐天は脇を閉め、体に密着させた盾で受ける。
 ギリ、と体が軋むが、踏ん張り、耐える。

佐天「重いっ!」

黒子「ならばその攻撃力、封じさせてもらいますの!」 

 鞭が鳴いた。
 
 閃いた革鞭がナマケモノの腕に巻きつき、行動を阻害する。
 オオナマケモノの動きが鈍った。

佐天「はぁぁぁっ!」

 剣を水平に構え、佐天が走る。
 切っ先が向かうのは喉元。
 一直線に突き込まれたブロードソードが、ナマケモノの毛皮を切り裂き、肉を断つ。
 喉笛を切り裂いた。

美琴「こっちも、これで終わり!」

 剣を引き抜き振り返れば、そこでは最後の蜂の一団を美琴が焼き尽くした後だ。
284 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:13:19.48 ID:2M8T0Mwo

 各々の得物を収め、周囲を見渡す。
 猛攻は止み、周りに敵の気配はない。
 思わず安堵の息が漏れた。

佐天「びっくりしたぁ……」

初春「種を植えるだけのクエストだと思ったら、とんだ災難でしたよ……」

美琴「!? 見て!」

 美琴の叫びに、三人が種を植えた地面を見下ろす。
 なんとそこには、先程植えたばかりの種が芽吹き、花を咲かせていた。

黒子「常識外にも程がありますの……」

佐天「さすがは世界樹って所ですかね」

 驚く面々を尻目に、しかし初春は既にスコップを抜いていた。
 その目は見開き、瞳にはエンマークが浮かんでいる。

初春「さあ、この花を持って帰りますよ!」

 もちろん、

初春「そこの魔物から売れそうな素材を剥ぎ取るのも忘れずにお願いします!」

 三人のため息が、ひだまりに佇む美しい花の花弁を揺らしたのだった。 
285 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:16:22.99 ID:2M8T0Mwo

エトリア ――ラーダ執政院


 執政院の奥。
 高い天井を持つ大広間で、色付のガラスから挿し込む光を受ける人物がいた。

 一人は執政院の情報室長、固法。
 もう一人は、長い金髪を何重にも折りたたんでまとめた若い女性だ。

 ゆったりとしたローブを羽織る彼女は、固法に背を向け、広間の一段高くなった場所に佇んでいる。

固法「長、ジャッジメントの四人が第二階層へ足を踏み入れたとの報告がありました」

長と呼ばれた女(以下、長)「ふむ、かの者達が……」

固法「また、彼女たちにより多くの素材がもたらされ、経済活動はさらに活性化しております。
    長の出した樹海開放のお触れは、街にとっていい方向へ向かっているかと」

長「まだまだ、私はさらなる発展を望みけるのよ」

固法「ではやはり、彼女たちにあのミッションを託すのですか?」

長「左様……」

固法「はっ、それではすぐにミッション発令の準備を……」

長「任せたりしことよ、固法」

固法「仰せのままに」

 一礼し、しずしずと下がる固法を見送り、長の口元が半月状に裂けた。
 邪悪な笑みを湛え、長がつぶやく。

長「ジャッジメント…… ふふ、げにおもしろき名前よ」

長「彼女たちには、とみに期待しけるのよ」


  第六話[了]
286 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:17:23.28 ID:2M8T0Mwo

         ――次回予告――

固法「あなた達には、ワイバーンの住処へ潜入してもらいます」

 超難関のミッション発令!?


神裂「少しだけ、お願いしたいことがあるのです」

インデックス「きっと皆の損にはならない事なんだよ!」

 そこへ舞い込む新たな依頼とは!?


黒子「わ、わたくしは……もう……」

美琴「黒子ぉぉぉぉぉ!!」

 黒子の身にいったい何が!?


 次回第七話をお楽しみに!
 君たちは、未だ知り得無かった恐怖に直面する。
288 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/05(金) 01:20:42.98 ID:2M8T0Mwo
というわけで第六話でした。

途中で誤爆してしまったのは本当に申し訳ない。
今後は気をつけます。

次回はなんとか一週間以内に……
書き溜めも心もとなくなって来たぜ……

感想、批評、雑談、大歓迎です。
どしどし書き込んでいってくださいな。
気になるレスがあったら返信させていただくかもです。

では次回!


312 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:14:56.95 ID:etqvaCQo

 B8F 飛竜の叫びが響く巣穴


 密林を進むジャッジメントの四人は、階段を下ったところでため息を吐いた。

 息も絶え絶えといった風の四人の装備には無数の傷がついている。
 服は所々ほつれ、肌が出ている部分では血がにじんでいる場所もあった。

 四人は文字通り茨の道を抜けてきたのだ。

 彼女たちがB7Fに降りたのは、老人からのクエストを達成した翌日だった。
 元々、彼女たちは種を植える場所を探す際に地図をあらかた完成させていたため、B6Fの探索に時間はかからなかった。

 しかし、B7Fに降りてからが問題だった。
 B7Fは、硬い刺を持つ植物が群生する階だったのだ。

 四人は茨をかき分け、大蠍のような魔物の追跡を振り切りながら、なんとかここまで到達したのだ。
313 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:16:03.40 ID:etqvaCQo

 ふぅと息を吐き、佐天が鎧の位置を直す。
 初春が皆の手当てをしようとカバンを開けた。

黒子「待ってくださいまし!」

 制止するのは黒子だ。
 黒子の睨む先、茂みがガサガサと揺れている。
 四人は魔物の襲来に備え、武器を構える。が、

初春「神裂……さん?」

神裂「どうも、ジャッジメントの皆さん」

インデックス「私も居るんだよ!」

美琴「こんにちは、二人共。どうしたの? こんな所で」

 現れたのは神裂とインデックスだった。
 すっかり顔なじみとなった四人は、気さくに話しかける。

神裂「執政院の仕事で、少々調査を行っていたのですよ」

黒子「調査ですの?」

神裂「えぇ、魔物の生態調査の一環です」
314 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:17:15.09 ID:etqvaCQo

 言ってから、神裂が顎に手を当てて悩む仕草をした。
 インデックスが何かを耳打ちすると、納得したように頷き話し始める。

神裂「少しだけ、お願いしたいことがあるのです」

インデックス「きっと皆の損にはならない事なんだよ!」

佐天「損にならない? 一体なんですか?」

神裂「実は、この先には不思議な水の湧き出る泉があるのです」

美琴「不思議な力?」

神裂「はい、その泉には傷を癒す効果があり、また魔物も出ないため、冒険者たちの休息地点になっているのですが……」

インデックス「実は上の階にある源泉に異常があるみたいで、泉の水が枯れちゃったんだよ!」

 言われ、美琴達は思い出す。
 B8Fに降りる階段の近くに、きれいな水の溢れる小部屋があったことを。

神裂「我々が調査に行ければいいのですが、生憎まだこの階の調査が残っていまして……」
315 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:19:54.04 ID:etqvaCQo

黒子「なるほど、自分たちも泉を使いたければ、その原因を取り除いてこいと言うわけですのね」

インデックス「そのとおりなんだよ!」

初春「わっかりました! 私たちに任せてください!」

佐天「ちょっと初春、そんな安請け合いしていいの?」

初春「佐天さん、考えても見てくださいよ、傷を癒す泉があって魔物が出ないと言うことは……」

美琴「言うことは?」

初春「そこで野宿すれば、高額な宿賃を払って宿屋に泊まらずとも快適に一夜を過ごせるということです!」

佐天「おお! さっすが初春! 貧乏冒険者が板についてるね!」

初春「ふふん! そうでしょうそうでしょう…… って、ソレ褒めてないですよね?」

神裂「えっと……請け負ってくださるんですか?」

美琴「野宿云々は置いといて、確かに私たちに損はなさそうだし、いいんじゃない?」

黒子「賛成ですの」

佐天「それじゃあ早速、あの小部屋へ向かいましょう!」
316 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:24:19.00 ID:etqvaCQo

 B7F 痛みを耐える冒険者の道 ――泉の源流


美琴「さて、ここが源流ね」

黒子「特に変わったところはありませんが……」

 黒子の言うとおり、涼しげに水の流れる小部屋は、綺麗でこそあれ異常は感じられない。

 入り口から全体を見渡せる程度の広さしか無いため、探索をしても何も見つからないような気さえする。
 だが源流が下の階へ流れていっていない証拠に、溜まった水が四人の足首までを濡らしていた。
 
 四人は気づかないようだったが、しかし彼女たちを見つめる姿は確かにあった。
 『ソレ』は久しぶりに現れた獲物へと、背後からゆっくり近づいていく。
 腹をすかせた『ソレ』は姿や物音を隠せど、垂涎の獲物を目の前にして溢れ出る殺気を隠せない。

 突き刺すようなその殺気に、四人が慌てて振り向く。
 そこに居たのは巨大なハサミを持つ蟹だ。
 水をに濡れ、テラテラと輝く、鋼のような甲をガチャガチャと言わせ、今にも飛びかかろうと蟹はハサミを振り上げる。

佐天「こいつが源流を塞いでいた魔物……」

初春「この魔物が原因かはともかく、こいつを倒さないと調査は出来そうにありませんよ」

美琴「そうと決まれば……!」

黒子「えぇ、行きましょうお姉さま!」

 戦闘が始まった。
317 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:28:47.78 ID:etqvaCQo

                   ・
                   ・
                   ・

??「こちら――。泉の源流を発見しました」

??「了解、調査に向かいましょう、と――」

??「待ってください、何者かが源流の付近で魔物と戦闘中のようです、と――」



打ち止め「大変! 助けに行かないと、ってレンジャーはレンジャーは同業者を救けるべく弓を取るよ!」



10032「ちょっとリーダー!? 折角ミサカ達が謎の集団を演出しようとセリフまでぼかして会話していたのに!
     と、レンジャーは努力を台無しにされ憤ります!」

打ち止め「謎の集団を演出? どういうこと? ってレンジャーはレンジャーは可愛らしく小首を傾げるよ?」

10032「自分で可愛らしくとか言ってんじゃねェー! と、レンジャーはこのどうしようもないリーダーにブチ切れます!」

打ち止め「えぇ!? 何でミサカは怒られてるのかな!? ってレンジャーはレンジャーは大混乱!」
318 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:33:26.14 ID:etqvaCQo

10032「こういうのは雰囲気が大事なんですよ! ともかく、泉さえ元に戻るなら源流に用はありません。
    ここはあの冒険者に任せて、我々は先を急ぎましょう、とレンジャーは合理的な判断を下します」

打ち止め「えぇー! だってあの魔物強そうだよ! 助けてあげないとやられちゃうかも! ってレンジャーはレンジャーは優しさを発揮!」

10032「あんたのそのお気楽な性格の所為で、ミサカ達がどれだけ苦労してると思ってるんですか! とレンジャーは説教を始めます!」

10801「あの……とレンジャーは大変言いづらいのですが……」

10032「なんですか!? とレンジャーは若干キレ気味に問い返します!」

10801「もう戦闘、終わってますよ? とレンジャーは呆れ顔で告げます」

打ち止め「……」

10032「……と、とにかく様子を伺いに行きましょうそうしましょう! とレンジャーは四人に近づいていきます!」

20000「ねぇ、とレンジャーは17600号の肩を叩きます」

17600「なんですか? いつになくマジメな顔して、とレンジャーはただならぬ様子の20000号に問いかけます」

20000「あのパラディンの娘、めっちゃ可愛くないですか?」

 
320 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:37:07.33 ID:etqvaCQo
                     ・
                     ・
                     ・

佐天「な、なぜか悪寒が……」

初春「確かに、ここは肌寒いですからね。 っと、早速はぎ取りですよ!」

 何か釈然としない物を感じながらも、佐天は初春に続いてナイフを取り出す。
 巨大な蟹に4人で群がり、甲羅やハサミを次々に解体していく。
 
 美琴も大分慣れてきたのか、その中に混じって足を切り落とすと、汗を拭った。

美琴「ま、こんなモンかしら」

佐天「さっすが御坂さん!」

初春「どうやら、電撃に弱い魔物だったみたいですね」

黒子「あぁん! 素敵ですわお姉さまぁ!」

美琴「ちょっ! 放しなさいってば!」

佐天「やっぱり白井さんと御坂さんって……」ヒソヒソ

初春「そういう関係なんでしょうか……」ヒソヒソ

 と、ここが迷宮の中であることも忘れて緊張感の欠片も無い様子のジャッジメントの四人。
 周りを見渡せば、何が原因だったのか溢れていた水も流れて行っている。
321 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:39:00.41 ID:etqvaCQo

美琴「いいかげんにしなさい!」

 キレた美琴の前髪から、おなじみの電撃がほとばしった。
 雷は真っ直ぐに黒子へと向かい――

黒子「甘いですの!」

 ――黒子が避雷針がわりに、茂みへと投げた短剣へ殺到した。

??「ぎゃあああああああああああ!!」

 そして茂みの奥から聞こえてきたのは、何者かの悲鳴。
 ジャッジメントの四人に緊張が走る。

美琴「え? えぇ!?」

初春「はわわ…… 御坂さん、なんて事を……」

美琴「ちょちょちょちょっと待って! 私あんな所に人がいるなんて思わなくて…… って、そもそも悪いのは黒子じゃ」

黒子「そんなお姉さま! わたくしに大人しく電撃を喰らえとおっしゃるんですの!?」

佐天「と、とにかく茂みの奥を見てみましょう! 何、ここは樹海ですから、もし最悪の事態になっていても埋めちゃえばバレませんって!」

黒子「こっちからもかなり黒い発言が聞こえますの!?」
322 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:39:51.44 ID:etqvaCQo

10032「勝手に殺さないでください…… とレンジャーは虫の息です……」

10801「だ、大丈夫ですか? とレンジャーは10032号を気遣います」

20000「電撃プレイ、そういうのもあるのか……」

17600「変態は黙っていてください、とレンジャーはため息を付きます」

打ち止め「みんな! 泉を使えるようにしてくれてありがとね! ってレンジャーはレンジャーはお礼を言うよ!」

 口々に呟きつつ、茂みから姿を表したのは、動き易い格好に弓を担いだ、レンジャーらしき一団だ。


※レンジャー:支援も攻撃もこなせる万能型の中衛。主に弓を用いて戦う。いわゆるニンジャやスカウト。


 しかもその4人、正確にはもう一人の幼い少女を含めると5人ともが皆、そっくりな顔をしている。
 しかしさらに驚くべきは、

佐天「御坂さんにそっくり……」
323 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:41:25.24 ID:etqvaCQo

初春「というか、完全に同一人物ですよ……」

黒子「はわわ、お姉さまが一人、お姉さまが二人……」

美琴「く、黒子!?」

黒子「やべ、鼻血が……」

10032「な、なんでしょう、言い知れぬ悪寒のようなものを感じます、とレンジャーは身震いします」

20000「あぁん…… そんなに見られたらミサカはぁ……ハァハァ」

17600「お前は黙ってろ!」

 言って肩を抱くレンジャーズ達を、慈愛顔で舐め回すように見ていた黒子だったが、唐突にフラリとその場に倒れこむ。

黒子「わ、わたくしは……もう……」

美琴「黒子ぉぉぉぉぉ!!」

 樹海に、美琴の絶叫が響き渡った。
324 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:45:20.38 ID:etqvaCQo

 エトリア ――金鹿の酒場


美琴「ホント、いきなりぶっ倒れたときはどうしようかと思ったわよ……」

黒子「申し訳ありませんの、何人ものお姉さまが急に現れた事が幸せすぎて――もとい、混乱してしまいましたの」

佐天「確かに、アレはちょっとショッキングな映像でしたよね」

初春「と、ともかく! 泉も使えるようになったんですから、良かったじゃないですか!」

 いつもの席で談笑する4人。
 勿論その話題は先程樹海であった5人の美琴だ。
 
 少し話したところ、彼女たちは素材採取専門のギルドらしいのだが、泉が使えるようになったのを確認すると、
「三日ぶりの水浴びです! とレンジャーは乙女にあるまじき発言をします!」と叫んで行ってしまったのだ。
 何者か聞く時間も無かった。

佐天「一体どんなギルドなんでしょうねぇ…… 四つ子?」

初春「というか、御坂さんは本当にあの人達と関わりはないんですか?」

美琴「ま、まぁねー! 私もびっくりよー あははははー」
325 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:46:26.83 ID:etqvaCQo

 美琴がどこか白々しい乾いた笑い声を上げた時だった。
 酒場の扉が開き、二人の冒険者が入ってくる。
 その姿に、酒場の客達がざわつく。

神裂「失礼します」

インデックス「おじゃまするんだよー」

佐天「神裂さんにインデックスちゃん?」

 執政院お抱えの冒険者として名の通っている二人が現れたことに戸惑う他の冒険者をよそに、
その二人は美琴たちを見つけると、4人が座るテーブルへ近づいてくる。

神裂「どうも、先程は泉の調査、ありがとうございました」

初春「いえ、私たちの得にもなることでしたし」

神裂「そう言ってくださると、こちらも気が楽になります」

インデックス「それでね、お願いをしたばっかり所悪いんだけど、またお願いしたいことがあるんだよ」

美琴「お願い……?」

インデックス「今度は執政院からの正式なミッションなんだよ!
       是非ともジャッジメントの4人にお願いしたいって、みいが言ってたんだよ」

神裂「そういう訳ですので、執政院までご同行願えないでしょうか?」
326 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:47:42.36 ID:etqvaCQo

エトリア ――ラーダ執政院


固法「あなた達には、ワイバーンの住処へ潜入してもらいます」

 執政院へと赴いたジャッジメントに対し軽く挨拶をした所で、固法はそう切り出した。
 
黒子「ワイバーンですの?」

固法「えぇ、B8Fにはワイバーンの巣があるのだけれど、樹海の生態系を調べるために、そこからワイバーンの卵を持ち帰って欲しいのよ」

佐天「でも、樹海の生態系調査は神裂さん達が今やっているんじゃ……」

固法「それが、長直々の命令が二人に下ったらしくてね。
    樹海の調査は私からの依頼だったから、長の命令の方が優先されるのよ」

初春「なるほど、それで私たちに」

固法「今このエトリアの冒険者の中で、それだけの実力があって、なおかつ信頼がおけるのは貴女達しかいないのよ。
    どう? やってくれるかしら?」
327 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:48:44.87 ID:etqvaCQo

美琴「私は構わないけれど…… どうする? リーダー」

佐天「えぇ!? 私ですか?」

黒子「まぁ、こんなでも『一応』リーダーですので」

初春「白井さんひどいです! 
    確かにパラディンはザコ戦じゃ火力が足りない上スキルも殆ど役に立たないお荷物ですし、
    装備もきちんと揃えないといざという時壁になれない金食い虫ですけど、それでも私たちのリーダーなんですよ!」

美琴「初春さんが一番ヒドイよ!?」

固法(大丈夫かな、このギルド……)

佐天「なんだか凹まされた気分ですけど…… わかりました、引き受けましょう!」

固法「本当!? 助かるわ、ありがとう」

佐天「お任せください! 我々ジャッジメントが、必ず飛竜の卵を持ち帰ってきましょう!」

               ・
               ・
               ・
328 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:49:22.78 ID:etqvaCQo

 薄闇の中、執政院から出てくる四人を見つめる影達があった。
 『ソレ』らはミッション攻略の打ち合わせをする四人を監視しつつ、小声で言葉を交わす。

??「クク…… どうやらジャッジメントが動き出したようですね」

??「飛竜の卵…… なるほど、それが狙いですか」

??「ならば我々こそが適役」

??「えぇ、ここは奴らを利用するのが得策でしょう」

??「まさか彼女らがあの『ジャッジメント』だったとは……」

??「今こそあの時の復讐を果たすチャンス!」



打ち止め「それって逆恨みじゃない? ってレンジャーはレンジャーは首をかしげてみる」



10032「まーた台無しにしやがってこのガキャアアアア!!」
329 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:52:26.36 ID:etqvaCQo

17600「まぁまぁ、追跡は私に任せてください、とレンジャーはダンボールを用意します」

10801「前から疑問だったのですが、樹海にダンボールって逆に目立ちませんか? とレンジャーは疑問を呈します」

10032「ともかあああく! 飛竜の卵を手に入れるのは我々『シスターズ』です! とレンジャーは拳を握ります!」

打ち止め「ミッションクリアで報奨金ガッポガッポだね! ってレンジャーはレンジャーは何を買おうか妄想中……」

20000「ミサカはSM用の蝋燭が欲しいです、とレンジャーは妄想します」

10801「ミサカはBL本の印刷費にしようとおもいます、とレンジャーは次の作品のネタを考えます」

17600「ではミサカは樹海迷彩のダンボールを――」

 周りの目も構わず妄想にふける5人は、執政院の衛兵に職務質問を受けるまで騒ぎ続けていたのだった。

                     ・
                     ・
                     ・
330 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:54:23.04 ID:etqvaCQo

世界樹の迷宮 B?F ――??


長「ふむ、未だ封印は解けざるようなのね」

インデックス「やっぱり直接『ここ』まで来ないと駄目みたいなんだよ」

神裂「しかし、あの者達の進行は速い」

長「我が宿願も、間もなく達成したるのよ」

神裂「長かったですね、長。……いや――」


神裂「――ローラ=スチュアート様」


ローラ「ふふ、その名で呼ばれるのも何年ぶりになりたるのかしら……」


ローラ「さあ、楽しき事になりけるのよ」
 
 
 第七話[了]
331 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:55:18.24 ID:etqvaCQo

   ――次回予告――

美琴「あれが、ワイバーン……」

佐天「すごい迫力ですね……」

 あまりにも巨大な敵!


ワイバーン「GYYYYYYYYAAAAAAAAAAA!!!」

黒子「み、見つかってしまいましたの!?」

初春「こんなんじゃ、卵なんて取れっこ無いですよぉ」

 困難なミッション!


??「ふふ、お困りのようですね……」

美琴「あ、アンタは!?」

 四人の前に現れたその人物とは!?

 
 次回、第八話をお楽しみに!
 さあ、新たな仲間と共に迷宮への一歩を踏み出したまえ!  
 
332 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/12(金) 22:58:43.85 ID:etqvaCQo
というわけで第七話でした。

ギャグ回というか、繋ぎ回でした。
次回第八話は一週間後……と言いたいところですが、今週は少し忙しいので遅れるかもしれません。ご了承下さい。


その間、質問・雑談・批評、大歓迎です。
どしどし書き込んでください。
気になるレスには返信させていただきます。

では次回お会いしましょう!

347 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:01:45.43 ID:YTh0v3Io


 少女は走る。

 薄暗い樹海の中、ただ一人で走る。
 
 彼女は何処に向かっているわけでもない。
 ただ逃げていた。
 
 背後から感じるのは、空気を引き裂くような吼え声と、大気を打つ羽ばたき。
 引き裂かれた体を抱え、真っ赤な血を零しながら進む。

 足がもつれる。
 視界が霞む。
 空気が上手く吸えない。
 体力は今にも尽きそうだ。

 それでも彼女は走るのを止めない。

 生きるために。
 ここから生きて逃れるために。
 
 仲間たちを、助けるために……。
348 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:05:09.06 ID:YTh0v3Io

 遂に彼女は咆哮上げる殺戮者を振り切った。
 速度を緩め、息を付く。

 それでも、立ち止まることはしない。
 立ち止まることは、死を意味するからだ。
 樹海の生き物は手負いの獲物を決して逃がさない。

 行かなくては。

 と、彼女は思考する。
 自分の無力を知った彼女は、思考する。
 
 仲間を救うために、ただ歩み続ける。



 ここは世界樹の迷宮。
 地上とは隔離された地下の牢獄。
 

 囚われているのは魔物か、それとも人間か……。


349 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:07:55.76 ID:YTh0v3Io

世界樹の迷宮 B8F 飛竜の叫びが響く巣穴


美琴「ここを真っすぐ行けば、ワイバーンの巣穴ってワケね」

初春「所々地面が黒いですけど、何ですかねコレ」

黒子「血……では無いでしょうか?」

佐天「あはは……迫力は十分ですね……」

 四人は北へと真っ直ぐに続く通路の前に立っていた。
 その先からは、時折鳥のような鳴き声が聞こえてくる。
 おそらく、ワイバーンの物だろう。

美琴「ま、戦うわけじゃないし。それに危なくなったら逃げればいいって」

初春「そ、そうですよね……」

佐天「初春は心配しすぎなんだよ」

黒子「ですが、樹海において慎重さは必要不可欠ですし、悪いことではありませんのよ?」
350 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:11:59.65 ID:YTh0v3Io

 四人は装備の確認を終えると、巣穴へ踏み出す。
 一本道はすぐに終わった。
 次いで目前に広がるのは、樹海の中であることを忘れさせる巨大な空間。

 そして――

美琴「あれが、ワイバーン……」

佐天「すごい迫力ですね……」

 その中央に鎮座する、巨大な影。

 蜥蜴のような頭部からはねじれた角が伸び、その顎には巨大な牙がたくわえられている。
 長い首が続く胴体はどちらかと言えばほっそりとしており、しかしびっしりと生えそろった鱗は頑強そうで、
安々とは刃を通しはしないだろう。

 そしてその背から伸びるのはコウモリのような翼だ。今は畳まれているが、巣への侵入者を見つけ次第
その羽を広げ襲いかかってくるであろうことは想像に難くない。

 ワイバーンは未だこちらに気付いていないのか、そっぽを向いていた。

佐天「気づかれないうちに卵を探そう」

初春「でも、卵なんてどこに……」

黒子「あちらではありませんの?」
351 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:14:49.10 ID:YTh0v3Io

 黒子の指さす方向にあるのは竜の寝床だろうか、樹の枝や葉などの巣材が組み合わさり、ちょっとした高台のようになっている。
 幸いワイバーンが陣取っているのは巣より離れた場所――広間の中心だ。なんとか回りこめば巣へ辿りつけるかもしれない。

美琴「でも、あの横をすり抜けるのは……」

黒子「かなり度胸がいりますわね……」

佐天「初春が囮になればいいんじゃない?」

初春「ひどいです佐天さん! それに囮ならパラディンの佐天さんの方が適役じゃ……」

佐天「えー、それよりホラ、初春の方が美味しそうじゃん?」

初春「いえいえ、私なんかより佐天さんの方が肉付きよくて美味しいですって」

佐天「なー!? 人が気にしている事をっ! どうせ御坂さんみたいにスレンダーじゃないですよ!」

美琴「わ、私!? で、でも佐天さんみたいに胸が大きい方が男の人は…… あ、アイツだってきっと……」

黒子「あ、アイツ!? お姉さまそれはいったい誰の事ですの!? まさか意中の殿方が……」
352 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:17:06.43 ID:YTh0v3Io

美琴「ななな何っ!? べ、別にアイツの事なんて――」

佐天「わー! 気になります! どんな人なんですか?」

初春「あのー…… 歓談中のところ申し訳ないのですが」

美琴「え?」

 プルプルと震えながら、初春が部屋の中央を指差す。
 視線を向けると、そこにはじっとこちらを見つめるワイバーンの姿があった。

ワイバーン「GYYYYYYYYAAAAAAAAAAA!!!」

黒子「み、見つかってしまいましたの!?」

佐天「あちゃー…… 初春! 囮は任せた!」

初春「えぇー!?」

美琴「に、逃げるわよ!」


 四人は逃げ出した。 ▼
 
353 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:19:30.82 ID:YTh0v3Io

 轟と、空気が震える。
 ワイバーンが羽ばたいたのだ。

 地上にいたはずの飛竜は一瞬で上昇し、四人めがけて一直線に降下してくる。
 ワイバーンが脚の爪を振り下ろすと、それだけで木々が折れ、地面がめくり上がった。

 ガシャガシャと装備を揺らし、四人は何とか通路へ飛び込む。
 ワイバーンはそれで侵入者を追い出したと納得したのか、再び部屋の中央へ戻っていった。

初春「こんなんじゃ、卵なんて取れっこ無いですよぉ」

佐天「部屋の中に居る相手には見境なしかぁ……」

黒子「それにしてもあの威力、まともに戦ったら勝ち目はありませんの」

 ワイバーンの爪撃を思い出したのか、黒子がぶるりと身震いした。
 あんな攻撃を食らっては、四人などまとめてなぎ払われてしまうだろう。 

美琴「ともかく、どこか休めるところで作戦を立てましょう」

 そういうことになった。
354 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:20:14.80 ID:YTh0v3Io

 B8F 回復の泉

 扉を開き、部屋へと入る。
 泉は透明な水を湛え、周囲に魔物の気配はない。
 しかし、異常なものがひとつだけあった。

佐天「人?」

 血溜まり。
 その中に倒れ伏す冒険者風の女。
 それは四人も見知った人物で……

美琴「!? 大丈夫!?」

10032「う……貴女は……」

美琴「いったいどうして……」

10032「たすけて……ください、とレンジャーはジャッジメントの皆さんに懇願……します」

 血に塗れ、かすれた声で10032号は訴える。

10032「妹達を……助けてください……」

                   ・
                   ・
                   ・
355 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:22:16.19 ID:YTh0v3Io
初春「ふぅ、これで一先ずは大丈夫です」

 治療を終え、初春は額の汗を拭うと、汲んできた泉の水を一気に飲み干す。
 それだけで身体に力が戻ってくるのが分かった。

 美琴にそっくりなレンジャーは、あれだけを四人に伝えすぐに気を失ってしまった。
 そこから初春が懸命な治療を施し、なんとか一命は取り留めたのだが。

佐天「助けて……って、どういう事ですかね?」

黒子「周辺を捜索しましたが、それらしい人物は見つかりませんでしたの」

美琴「……もしかして」

佐天「…………」

 四人の頭によぎるのは、最悪の仮定。
 樹海の魔物は、屍肉も食らう。

初春「と、とりあえず彼女の意識の回復を待って……」

10032「う……」

美琴「大丈夫?」

10032「私は……」

初春「無理はしないでください。まだ体力が完全に戻ったわけではありませんので」

10032「いえ、もう大丈夫です。ありがとうございました、とレンジャーは頭を下げます」
356 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:24:01.86 ID:YTh0v3Io

佐天「えっと、妹さん達の事なんだけど」

10032「はい、無理を承知で、ジャッジメントの皆さんにお願いがあります、とレンジャーは切り出します」

黒子「お願いですの?」

10032「実は、ワイバーンの巣の奥、隠し通路に妹達が取り残されているのです、とレンジャーは詳細を語り始めます」

美琴「何ですって!?」

佐天「隠し通路……そんなものがあったんですね」

10032「はい、ミサカ達はワイバーンの巣に潜入し、奴に気付かれず卵を入手したのですが……
     茂みの奥、隠し通路から飛び出してきた魔物に気を取られ、ワイバーンに気付かれてしまったのです、とレンジャーはあの時の事を思い出し歯噛みします」

 言って、言葉通り10032号は俯く。
 四人が息を呑み、沈黙する中さらに語り続ける。

10032「ミサカ達はワイバーンと魔物に退路を塞がれ、応戦したのですが手も足も出ず……
    ただ何とか隠し通路へ飛び込むことはでき、難を逃れることはできたのです、とレンジャーは説明します」

10032「ですが、その戦闘の際に糸を無くしてしまいまして、助けを呼ぶためにミサカが単身外へ出たのは良かったのですが、とレンジャーは言いよどみます」

黒子「ワイバーンに見つかり、這々の体でここまで逃げてきたという訳ですのね?」
357 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:26:02.11 ID:YTh0v3Io

10032「そのとおりです…… とレンジャーは自分の不甲斐なさにあきれ果てます」

美琴「それでも、一人で妹たちを助けようとしたんでしょう? よく頑張ったわね」

10032「お姉さま……」

初春「お姉さま?」

10032「あっ! い、いえ…… すいません、ミサカは姉妹の中でも長女ですので、もし姉が居たらこんな気持なのかと……つい、
     とレンジャーは染めた頬を気取られないように手を振って誤魔化します!」

美琴「いいわよ」

10032「へ?」

美琴「私が、貴方達の『お姉さま』になってあげる。見た目もそっくりだし、いいでしょ?」

10032「お姉さま……」

黒子「ぐぬぬ……」

佐天「やっぱり御坂さんって……」ボソボソ

初春「相手が自分と同じ顔でも見境なしですよ……」ボソボソ

 依然勘違いをしたままの二人が、その思いを確信へと変えつつある事も露知らず、美琴は立ち上がる。

美琴「そうと決まれば!」

 拳を握り締め、不敵に笑い、言った。

美琴「助けに行きましょうか、妹達を!」
358 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:27:26.22 ID:YTh0v3Io

 B8F ワイバーンの巣


10032「ミサカ達が巣の奥まで侵入したときは、五人全員レンジャーという事もあり、気配を消して通り過ぎることが出来ました。
    しかし、とレンジャーは皆さんを見渡します」

美琴「五人全員で行くと気づかれちゃうわよね」

10032「そうです。ミサカが本調子なら、皆さん全員の気配も隠せるのですが、今はそうも行きません。
    そこで今回は初春さんにのみ着いてきてもらいます、とレンジャーはついつい花飾りに目を奪われつつ話します」

初春「何のことですか?」

10032「いえ…… 初春さんには隠し通路の奥で妹達を治療してもらい、あとは各自自力で巣から脱出します、とレンジャーは自らの作戦の完璧さに惚れ惚れします」

美琴「それで大丈夫なの?」

10032「初春さん一人なら警戒歩行で気配を消せるので、こちらは大丈夫です。それより、とレンジャーは別の心配をします」


※警戒歩行:レンジャーのスキル。特殊な歩行法で気配を消し、魔物とのエンカウント率を下げる。いわゆる『せいすい』『むしよけスプレー』。
359 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:28:00.16 ID:YTh0v3Io

10032「一番危ないのは、隠し通路から出る時です。そこで、全員の治療が終わったらこちらから合図をします。 
     その際少しだけ、ワイバーンの注意を引きつけて欲しいのです、とレンジャーは危険な仕事を押し付けることに胸を痛めます」

佐天「なぁに、大丈夫ですよ。任せてください!」

黒子「どれくらい時間を稼げばいいんですの?」

10032「ほんの数十秒で結構です、とレンジャーは計算結果を伝えます」

美琴「任せてちょうだい。それじゃあ初春さん、妹達の治療を頼んだわよ」

初春「合点承知です!」


               ・
               ・
               ・
360 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:29:09.43 ID:YTh0v3Io

 五人は準備を終え、まずは一陣として、レンジャーと初春が巣へと向かう。
 10032号が独特な歩法で歩き始めると、美琴たちの目からも二人の気配が感じ取れなくなった。

 二人はワイバーンが別の方向を見ている隙にその真横をゆっくりと通りすぎていく。
 ワイバーンの方も、二人に全く気づいていないようだ。
 
 ゆっくりと進む二人は、ついに巣穴の奥へたどり着く。
 よく見れば、確かに茂みの奥には小道があった。
 
 美琴達が見守る中、二人が茂みの奥へ消えた。
 ワイバーンに気づいた様子はない。
 
 成功だ。

佐天「と言っても、まだ第一段階ですけどね」

美琴「私たちは、合図を見逃さないようにしましょう」
361 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:31:04.06 ID:YTh0v3Io

 初春達が隠し通路に入ってどれだけ経っただろうか、3人が張り詰めた空気で見守る中、合図は来た。
 
 矢だ。
 
 天高く打ち上げられた矢が、密林の木々を抜け上空へと向かう。
 
 合図を受け、最初に巣へと飛び込んだのは美琴だ。
 前髪から迸る電撃がワイバーンの鼻っ面へ直撃する。

美琴「これで気絶でもしてくれれば……」

 祈るように飛竜の巨体を見やる。しかし、

ワイバーン「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 咆哮。
 怒り狂った飛竜に堪えた様子はない。
 
 飛んだ。

 羽搏き、尾を振り回して威嚇する飛竜の姿はまさに巨大の一語だ。
 重厚な光沢を持つ鉤爪が光り、閃いた。

 急降下と同時に斬撃が来る。
 狙いは遅れて飛び出してきた佐天だ。

 佐天は盾を構え、受ける。が、

佐天「ぐっ……あぁっ!!」
362 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:32:06.72 ID:YTh0v3Io

 鎧袖一触とはこの事か、重鎧を纏っていた筈の佐天の体が木っ端のごとく吹き飛ばされた。

美琴「佐天さん!」

ワイバーン「GYYYYYYYAAAA!!」

 猛攻は止まない。
 次いで振り下ろされるのは長い尾だ。
 
黒子「っ!!」

美琴「黒子っ!」

 轟音。
 密林のやわらかい土が耕され、飛び散る。
 気づけば黒子は宙を舞っていた。

 尾に吹き飛ばされ――ではない。美琴が磁力を操り引き寄せたのだ。
 黒子を受け止め、電撃を飛ばす。 
 しかしそれも、ワイバーンが羽撃くだけでかき消された。

 電撃は効かない。

 ならば、
363 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:33:15.64 ID:YTh0v3Io

美琴「黒子! 眼を閉じて!」

黒子「は、はい!」

 黒子が言われるがまま目を閉じると同時、美琴の前髪から閃光が弾けた。
 莫大な光量を放つスパークが、瞼を透けてまで黒子にも見えた。
 目眩ましだ。
 
ワイバーン「KYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!???」

 高空から、飛竜が落ちてくる。
 のたうちまわる飛竜の口から苦悶の咆哮が漏れた。

 その横を、妹達が駆けていくのが見える。
 撤退は間もなく完了だ。

美琴「引くわよ、黒子! 佐天さんは私が回収するから」

黒子「分かりましたの!」

 磁力を使い、佐天の体を引き寄せる。
 重鎧の重さを感じながら、出口へと駆けようとしたその時だった。

ワイバーン「GYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」
364 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:35:18.43 ID:YTh0v3Io

 突風。
 飛竜が羽ばたき、爪を振り上げる。
 美琴が息を飲み、先を行っていた黒子が思わず眼を閉じる。

 爪が美琴の目前に迫る。
 その瞬間だった。

 矢が降ってきた。

 高高度に放たれた合図の矢だ。
 ソレは重力に引かれるまま飛竜へと墜落し――穿った。

ワイバーン「KYYYYYYAAAAAAAAAA!!!」

 翼を貫かれ、地へと縫いとめられた飛竜がのたうつ。
 
 サジタリウスの矢。
 弓使いに伝わる最大級の一撃だ。


 目眩ましから回復し、地面から矢を引きぬき、ワイバーンが立ち上がる。
 怒り狂う飛竜は咆哮を上げ、侵入者を引き裂くべく辺りを見回す。
 しかしその視界に敵は居ない。

 撤退が完了したのだ。
365 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:36:22.61 ID:YTh0v3Io

 エトリア ――ラーダ執政院


佐天「……と言うわけでして、暫くはワイバーンも気が立っていると思いますし、近付かない方がいいと思います」

固法「そう…… 貴女達ならやってくれると思っていたんだけど……」

初春「うぅ、すいません……」

固法「でもその子達も無事でよかったわ。ジャッジメントの皆には、また改めてミッションをお願いします」

                  ・
                  ・
                  ・

初春「はぁ…… どうしましょうか」

佐天「でも、さすがに私達だけであそこに行くのも……」

美琴「うん、暫くは勘弁して欲しいかなぁ」

黒子「困りましたわねぇ……」


??「ふふ、お困りのようですね……」


美琴「あ、アンタは!?」
366 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:37:13.79 ID:YTh0v3Io

10032「と、レンジャーはお姉さまの前に颯爽登場します」

初春「レンジャーさん! 怪我はもう大丈夫なんですか?」

10032「えぇ、おかげさまで。皆も暫くの静養は必要ですが、命に別状はありません、とレンジャーは丁寧に頭を下げます」

美琴「で、どうしたのよ、こんなところで」

10032「その様子だと、どうやらまだ卵は手に入れていないようですね、とレンジャーは執政院からトボトボ出てきた皆さんの様子を伺います」

美琴「喧嘩売ってんの?」

10032「とんでもない。今日は皆さんのためにこちらをお持ちしたのです、とレンジャーは背負っていたリュックを下ろします」

 言って10032号が取り出したのは、一抱えほどもある巨大な卵だ。

黒子「それはまさか!」

10032「そう、ワイバーンの卵です、とレンジャーはドヤ顔をします」
367 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:38:41.15 ID:YTh0v3Io

初春「どうしてそれを……」

10032「言ったではないですか、卵を入手するところまでは行ったと。そこでミサカから皆さんに提案があります、
     とレンジャーは相手の足元を見つつ交渉に入ります」

 無表情のまま、しかしどこか楽しげな気配を漂わせながら、彼女は言った。

10032「ミサカは治療中の妹達に変わり、お金を稼がなくてはなりません。
    ですので、この卵を差し上げる代わり、ミサカを皆さんの仲間に――『ジャッジメント』に入れて欲しいのです、
    とレンジャーは皆さんの表情をチラチラと伺いつつ頭を下げます」

佐天「どうしますか? 御坂さん」

美琴「えぇ!? 私? そこはリーダーの佐天さんが……」


佐天「何言ってるんですか、妹のお願いを聞くのは、お姉ちゃんの仕事ですよ」

368 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:39:53.35 ID:YTh0v3Io

美琴「うぅ……なんか恥ずかしいなぁ」

10032「お姉さま?」

美琴「分かったわよ! アンタも、アンタの妹達も、私がまとめて面倒見てあげるわ!」

10032「本当ですか!? とレンジャーはお姉さまの大胆発言に耳を疑います」

美琴「大胆ってねぇ…… ま、私に任せなさい。これからよろしくね」

10032「はいっ! とレンジャーはお姉さまの手を握り答えます」

黒子「ぐぬぬ……」

初春「白井さんアワレ」

佐天「それじゃ、卵を持って執政院に向かいましょう! 今日は新しい仲間を祝って宴会ですよ!」

 ベルダの広場に、少女たちの声が木霊する。
 新たな仲間を加え『ジャッジメント』はさらなる深層を目指す。

 その先に、悪夢を体現したが如き魔獣が潜んでいるとも知らず……


 第八話[了]
369 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:42:16.14 ID:YTh0v3Io

 ――次回予告――

 
 次回予告は作者都合のためお休みさせて頂きます。


 次回第九話をお楽しみに!
370 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/11/26(金) 22:47:00.51 ID:YTh0v3Io
というわけで第八話でした。

新メンバーは御坂妹でした。パチパチ
本当は別の人だったんだけどね、御坂妹書くのが楽しすぎて、つい……

まぁ本来新加入するハズだった人も
レンジャーがPTにほしいな→レンジャーと言えば地味→地味といえば……
という風に決めた人だったんで、こっちのほうがしっくり来るかな?と思ったのもありますが。


えー、ここでお知らせというかなんというか。
ついに書き溜めが切れました。
ただ週一投稿は頑張って続けますので、今後もお付き合いいただけたら幸いです。

その間、質問・雑談・批評、大歓迎です。
どしどし書き込んでください。
気になるレスには返信させていただきます。

では次回お会いしましょう!

386 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/03(金) 23:51:25.72 ID:iNX2TMUo

 世界樹の迷宮 B8F 飛竜の叫びが響く巣穴


美琴「黒子!? しっかりして!」

佐天「あ……ぐぅ……」

美琴「佐天さん! そんな……どうすれば……」

 周囲を見れば、そこには倒れ伏す仲間たちの姿があった。
 立っているのは美琴のみ、そして眼前には、それを成した魔物の姿。

 悪夢だ。
 と、美琴は思う。

 樹海に潜り、第一階層の主を倒し、ワイバーンの巣を越えここまで来た。
 自惚れではなく、事実として彼女たちはもはや熟練と言ってもいい域の冒険者だった。
 それなのに、

美琴「こんな所で……」

 ギリ、と歯を噛む。
 それは後悔か、絶望か。
 どちらにしろ、しかしこのまま終わるのは嫌だった。
 
 ならば、

美琴「私がやらなきゃ……」
387 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/03(金) 23:51:56.97 ID:iNX2TMUo

 立つ。
 敵を見据える。
 弾けるのは前髪から迸る雷。
 発電し、帯電する己の身に力を込め、立ち向かう。

 その先に、敵は居た。

 見れば、敵とて無傷ではなかった。
 先に放った電撃は効いている。
 飛竜と戦ったときのような無力感は無い。

 やれる。

 確信し、打ち込んだ。
 
 樹海が揺れる。
 轟音が密林を満たす。
 光は薄暗い木々の間を照らし、そして――


危険な花びら「Pikyyyyyyyyyyy!!!」


 断末魔を残し、灰になった魔物が倒れ伏す。
 巨大な魔花は煙を上げ、もはや動く気配はない。
388 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/03(金) 23:52:52.55 ID:iNX2TMUo

 勝利の余韻に浸るまもなく、美琴は倒れ伏す仲間へと駆け寄った。

美琴「黒子!」

 黒子を抱き起こし、呼びかける。
 果たして、反応はあった。

 それは微かで、譫言のような言葉だ。
 しかし、はっきりと生を感じさせる物で。

黒子「ぐへへ…… お姉さまそんなに激しくしては…… むにゃむにゃ……」

美琴「く、黒子?」

佐天「う……」

美琴「佐天さん! どうしよう黒子が……」

佐天「うぅ……もう食べられないよう……」

美琴「…………」

初春「ぐごー…… ぐごー……」

御坂妹「…………」スー スー

美琴「ね、寝てる?」


 ・危険な花びら
 甘い香りを放つ美しい花なのだが、その香りには人を眠らせる効果があり、
何も知らぬ冒険者を餌食にするという。 

                   ラーダ執政院 魔物調査書より抜粋
389 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/03(金) 23:54:38.46 ID:iNX2TMUo

 エトリア ――金鹿の酒場


佐天「いやぁ、まさか眠らされちゃうなんてねぇ」

初春「B6Fで御坂さんがウーズにやられたのも睡眠攻撃でしたから、警戒するべきではありましたね……」

黒子「うぅ……折角お姉さまと結ばれたと思いましたのに、夢でしたの……」

(10032改め)御坂妹「なんというか、ナチュラルに寒気のする発言をするあたりに物凄い既視感がありますが、気にしては負けですかね?
             とレンジャーは引き気味に訊ねます」

 口々にお気楽な発言をする仲間たちに、自分の焦りと決意はなんだったのかと軽く凹みつつも、美琴はいつもの調子で口を開く。

美琴「それにしても、B9Fはなかなか厄介な構造をしているわよね」

御坂妹「そうそう、その事について皆さんに見て欲しいものがあったのです、とレンジャーは鞄を漁ります」

 そう言って御坂妹が鞄から取り出したのは二枚の方眼紙。
 樹海の地図だ。

 御坂妹はこれまでマッピングをしていた初春に代わり、その持ち前の方向感覚で測量を担当していた。
390 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/03(金) 23:56:04.68 ID:iNX2TMUo

 地図にはペンで通路や目印を表すマーカーが書きこまれているが、未だ空白が目立つ。
 
御坂妹「これが今書いているB8FとB9Fの地図なんですが…… とレンジャーは地図を皆さんに示します」

 見ればB8Fには下り階段を表すマーカーが幾つか配置されており、B9Fの方にもそれに対応する数の上り階段があった。
 そう、B8FとB9Fは二つの階を行き来する立体迷宮だったのだ。

佐天「結構昇り降りしたんだねぇ、通りで疲れるわけだよ」

黒子「B9Fへ進んだと思ったらまたすぐに上り階段ですから、むしろ精神的にキますの」

御坂妹「確かに、昇り降りを繰り返していたら時間がかかってしまいます。ですが、ここを見てください、とレンジャーはB8Fの小部屋を指し示します」

初春「ここってB9Fへ降りて、またすぐB8Fに登ってくる場所ですよね?」

御坂妹「注目すべきはここ、B7Fから降りてくる階段を真っすぐ行った通路です。
     歩測なので距離が正しい保証はありませんが、小部屋と通路の間が不自然に近くありませんか?
     とレンジャーは本題に入ります」

初春「確かにそうですねぇ」

佐天「もしかして、ワイバーンの巣にあったような隠し通路が?」

御坂妹「可能性は高いと思います。
     もしここが通れるようになれば、毎回ワイバーンの目を盗んで隠し通路へ向かわずとも済むようになります、
     とレンジャーはあの緊張感を思い出し身震いします」
391 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/03(金) 23:57:12.23 ID:iNX2TMUo

美琴「確かにそこに通路があれば、かなり楽にはなるけれど…… そんなに都合よくいくかしら」

御坂妹「実は樹海において、こうした隠し通路はポピュラーな物なのです、とレンジャーは衝撃の事実を口にします」

黒子「そうなんですの?」

御坂妹「はい、注意しなければ見つけられませんが、
     地図上で当たりをつけてから探せばそれほど見つけにくいものではありません、とレンジャーは答えます」

美琴「よし! それじゃあ行ってみましょうか!」

佐天「おー!」
392 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/03(金) 23:58:05.54 ID:iNX2TMUo

 世界樹の迷宮 B8F 飛竜の叫びが響く巣穴


 五人となったジャッジメントの面々が、密林の一本道を行く。
 鬱蒼と茂る草木の密度は濃く、こんな所に抜け道があるようには見えない。
 そんな雑念を振り払うように黙々と道を進んだ美琴達は、ついに地図上で部屋と通路が最も接近する地点へと到達した。

初春「本当に抜け道なんてあるんですかねぇ?」

黒子「つべこべ言わず探しますわよ」

 促され、初春も近くの茂みへと目を落とす。
 しかしその先には道どころか、獣が通った跡一つすら無い。 
 それは皆も同じようで、それらしい道を見つけられてはいなかった。


 どれほど探しただろう。
 何度も地図とにらめっこをしながら、歩測で地図上の誤差を計測していた御坂妹がついに声を上げた。

御坂妹「皆さん来て下さい! 通路らしきものを発見しました! とレンジャーは飛び跳ねながら皆を呼びます」
393 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:00:01.51 ID:qaT4McYo

 寄ってみれば、確かに先へと続く道らしきものがあった。
 だが、

黒子「道も狭いですし、見通しも悪くて危険ですの」

初春「でも、もう少し先は開けてるようにも見えますよ?」

御坂妹「そうですね、では反対側から回って、安全を確保してから道を作りましょう、とレンジャーは提案します」

 四人は御坂妹の提案に賛成すると、再びワイバーンの巣を通って階下へ、そして立体迷宮を進んだ先、隠し通路を開通させたのだった。

 そこからの探索は順調だった。
 泉の近くにも隠し通路を見つけ開通したジャッジメントの五人は、こまめに泉に戻り休憩しつつ、次々に地図を埋めて行った。
 
 そして――

                               ・
                               ・
                               ・


佐天「御坂さんと妹さんは飛び道具で先に危険な花びらを! 白井さんは私と一緒に蠍の相手をしてください!

    初春は花粉と毒針の両方に対処できるようリフレッシュの準備お願い!」
394 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:01:15.78 ID:qaT4McYo

 現れた敵を前に、リーダーである佐天が指示を飛ばす。

 相手は先日遅れをとった相手、危険な花びら。
 さらに猛毒を持つサソリ、デススコーピオンだ。

 並の冒険者では魔物たちの持つ毒と花粉であっという間に全滅へ追いやられるだろう。
 だが、彼女らの顔に不安はなかった。

危険な花びら「Pyyy……」

デススコーピオン「Shuuuu……!」

 久々に現れた獲物へ今にも飛びかからんとする魔物たちへ、最初に仕掛けたのは御坂妹だ。 
 
御坂妹「了解。それではお姉さま、花びらの動きを止めますので、術式の用意をお願いします、とレンジャーはエイミングフットの構えを取ります」


※エイミングフット:レンジャーの弓スキルの一つ。敵の脚を狙い、行動力を削ぐ攻撃。いわゆる縛り技。


美琴「オッケー! 一撃で決めるわよ!」

 応え、美琴が帯電する。
 御坂妹も弓を大きく引き絞った。
395 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:02:12.94 ID:qaT4McYo

 対してデススコーピオンと対峙する佐天達は、

佐天「白井さん、サソリの外殻は硬いですから、トドメは御坂さん待ちになります。あちらが片付くまで御坂さんを守りましょう!」

黒子「むにゃむにゃ……」

佐天「って、おいィ!? 何いきなり眠らされてるわけ!?」

 少量だが漂っていた花粉を、攻撃を仕掛けるために近寄った際吸ってしまったのか、黒子が千鳥足になっていた。

初春「はいはーい! 私に任せてくださーい!」

 手を上げ、医術式を待機させていた初春が黒子へと駆けていく。
 だが、その隙を見逃す毒蠍ではなかった。

デススコーピオン「Syyyyyy!!」

 多脚を蠢かせ、尾の毒針を振り下ろす。
 が、

佐天「私が居るってのよ!」
396 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:03:06.90 ID:qaT4McYo

 間に入り、盾を構える。
 猛然と迫る毒針に動きを合わせ、

佐天「そりゃ!」

 受け流した。

黒子「失礼しましたのっ!」

 その間に戦闘へ復帰した黒子が、鞭を閃かせた。
 毒蛇がごとくうねる革鞭は毒蠍の尾を絡めとり、自由を奪う。

 そしてトドメは彼女の仕事だ。

美琴「二発目!」

 雷光。
 先んじて魔花を屠った電撃が、再び槍となりデススコーピオンへ打ち下ろされる。
 空気を裂く音の後にあったのは、蠍の身体が焦げる匂いだった。

佐天「よっしゃあ!」

黒子「さすがですの! お姉さま!」
397 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:03:59.53 ID:qaT4McYo

 見事『エトリアの悪夢』を無傷で打ち倒した五人は、遂にB9FからB10Fへ降りる階段を発見した。
 勢い込んで階下へと進むと、そこから三方向に道が別れている。
 左右の扉と、前方の曲がり道だ。

 一先ず五人は左手――北方向の扉へと向かう。

 その先にあったのは小部屋だ。
 しかも入ってきたのとは反対側にまた扉がある。

 五人は小部屋を簡単に探索するが、とくにコレといったものはみつけられない。
 さらに先へ進んでみることにする。
 と、

美琴「また、扉?」

御坂妹「右手の通路の先にも扉がありますね、とレンジャーは抜群の視力を持って密林の先を見通します」

黒子「まだ確証は持てませんが、この階はいくつかの小部屋によって分岐した、迷路のような構造になっているのではないでしょうか?」

初春「と、なると探索は時間がかかりそうですね。ここは一先ず街に戻りましょうか」

 初春の言葉に、四人が頷く。
 B10Fの探索は、後日ということになった。
398 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:04:41.94 ID:qaT4McYo

 エトリア ――金鹿の酒場

 
 第一階層を突破し、一躍有名ギルドとなったジャッジメントも、酒場に来れば羽振りがいいとは言えない。
 むしろ以前の妹達がそうしていたように、浅い階層で素材の採取を繰り返すギルドの方が経済状態は良いとさえ言えた。

建宮「だけどよ、俺はお前たちのようなギルドの方が骨があって好きなのよな」

 言うのは冒険者ギルドの長、建宮斎字だ。
 彼は五人の座るテーブルに混ざって晩酌をしていた。
 強い酒をロックで呷る建宮は、しかししっかりとした口調で言い放つ。

建宮「お前たちなら第三階層に進むのも、そう遅くは無いだろうよな」

佐天「またまた、建宮さんったらお上手なんですからぁ」

 対して、建宮が注文した酒を勝手に拝借している佐天はすっかり出来上がっており、真っ赤な顔でギルド長の背中をバンバン叩いている。
 それを見て苦笑いの美琴が言った。

美琴「建宮さんは昔、冒険者だったんですか?」
399 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:05:27.85 ID:qaT4McYo

建宮「そうよな。俺も若い頃は自慢のフランベルジュを片手によく樹海へ潜ったもんよ」

初春「では、B10F以降の事もご存知なのでは?」

 ちゃっかりと樹海の情報を仕入れようとするのは初春だ。
 しかし建宮から返ってきたのは意外な答だった。

建宮「B10Fについては知っちゃあいるが、その先の事は分からんのよ」

黒子「その先には行っていないと?」

建宮「俺だけじゃねぇ、第三階層へ足を踏み入れたことのある奴は、この街に二人しかいないのよな」

御坂妹「二人……ですか? とレンジャーは意外な応えに驚きを隠せません」

黒子「して、そのお二方とは一体誰なんですの?」

建宮「お前さんらも知ってる奴よな。執政院お抱えの冒険者―― 神崎火織とインデックス嬢よ」

初春「なるほど、あのお二人なら納得です」

美琴「でもさ、いくら何でもその二人だけなんて……」

 訝しむ美琴に、建宮がニヤリと笑みを浮かべて答えた。

建宮「お前たちは知らないのよな、あの『獣王』の事を……」
400 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:06:52.17 ID:qaT4McYo

黒子「獣王……ですの?」

建宮「あぁ、B10Fの最奥に鎮座する獣の王――『ケルヌンノス』 そう呼ばれているのよ」

美琴「ケルヌンノス……」

建宮「B10Fまで行った冒険者は、みんなあの化物にやられちまう。かく言う俺も、奴に挑んで敗れた一人なのよな」

御坂妹「なるほど、ギルド長すら敵わないという事は、相当強い魔物なのですね、とレンジャーは判断します」

建宮「おいおい、よして欲しいのよ。
    俺なんかは大した冒険者じゃねぇ、ただ生来の世話焼き気質が祟って、今の職を押し付けられただけよな」

佐天「まったまたぁ…… ひっく。ご謙遜をぉ……ひっく」

建宮「こいつ、大丈夫なのか?」

美琴「……寝かしときます」

佐天「んむぅ……まだ眠くないれす……」

初春「はいはーい、いい子ですから大人しくしましょうねー」
401 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:07:32.70 ID:qaT4McYo

黒子「……一体、ケルヌンノスとはどんな魔物なのですか?」

 初春の膝へ倒れこむ佐天を無視し、問いかけるのは黒子だ。
 だが、答えは別の方向から返ってきた。

黄泉川「気になるなら、実際に挑んでみるじゃん」

 爆乳の女店主。黄泉川だ。

建宮「おいおい、こいつらを死にに行かせる気か?」

黄泉川「それを決めるのはこの子らじゃん」

美琴「そうよ、安心して建宮さん。私たちだってそう簡単にやられないわよ」

建宮「…………」

黄泉川「あんただって、第三階層が気になるって顔じゃん? だからこいつらを煽ったんだろ?」

建宮「……はぁ、ったく。あんたには敵わないのよな」

黒子「どういう事ですの?」

建宮「執政院から腕の確かな冒険者を選定して寄越すよう言われてるのよ、新たなミッションを発令するらしいのよな」

美琴「ミッション……もしかして!?」


建宮「あぁ、獣王ケルヌンノスの討伐。それがミッションの内容なのよな」
402 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:08:09.70 ID:qaT4McYo

 エトリア ――執政院ラーダ


固法「やはり貴女達が来たわね、ジャッジメントの皆……って、一人足りないようだけれど?」

初春「あはは、佐天さんは二日酔いでして……」

固法「……まぁいいわ。今回のミッションについては、長の方からお話されます」

美琴「長?」

初春「エトリア執政院の長ですよ。この街で一番偉い人です」

ローラ「よう知りけるのね、そこの花頭」

初春「は、花頭!?」

ローラ「私がこのエトリア執政院の長、ローラ=スチュアートたるのよ」

御坂妹「変な話し方ですね、とレンジャーは変な髪型のオバサンに――もごもご」

美琴「こらっ! 初対面の人に失礼でしょうが! ……確かに変な喋り方で変な髪型だけど」

黒子「本当にアレが長なんですの? なんて威厳のない……」

初春「花頭って……」
403 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:09:45.12 ID:qaT4McYo

ローラ「ゴホン! 続けて良いかしら?」

初春「どどどどうぞ!」

ローラ「建宮より既に聞きけると思いたるけれど、未だ第三階層以降に足を踏み入れたる者は火織とインデックス以外おらぬのよ。
    それも、B10Fに住みたる『獣王』ケルヌンノスの所為なの」

ローラ「これまでは危険という事もあって、第三階層以降の探索はかの二人に任せたりし事だったのだけれど、

    それをそなた達にも任せようと思いたるのよね」

 そこで、とローラは言葉を区切った。
 
ローラ「そなた達には第三階層に挑む資格があるか、テストとしてケルヌンノスの退治をお願いしけるのよ」

 ローラの言葉が終り、代わりに前へ出たのは固法だった。
 眼鏡を直しつつ、ジャッジメントへ言葉を放つ。

固法「このミッションは、テストとは言えかなり危険な物になるわ。もし覚悟がないなら棄権して頂戴」

 その言葉は厳しい物であったが、しかし四人の顔に浮かぶのは、不安よりも自信と期待に満ちたもので、

美琴「やるわ! どの道先へ進むならそのケルヌンノスを倒さないといけないんだし」

御坂妹「正直危険な事は勘弁して欲しいですが、皆さんと一緒なら大丈夫か、とレンジャーは判断します」

初春「迷宮を踏破し、樹海の謎を解き明かす! それが私たち――」

黒子「――ジャッジメントですの!」
404 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:10:44.15 ID:qaT4McYo

 黒子がキメ顔でそう言った。
 言ってから恥ずかしくなり、顔を赤らめる黒子を横目に、ローラは口端を歪めつぶやく。

ローラ「ふふ、それでは期待しけるのよ、ジャッジメント」

            ◆

 こうして、新たなミッションが発令された。
 
 ケルヌンノス討伐指令。
 これにより、少女たちの運命は加速していく。

 それを知るのは、未だ一人のみ。
 執政院ラーダの長、ローラ=スチュアート。
 彼女だけが、薄暗い執政院の中、薄笑んでいた。


 第9話[了]
405 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:11:37.10 ID:qaT4McYo

      ――次回予告――


 わたくしは、あの方をお慕いしていましたの。
 いつも明るく微笑む、あの方を……

 けれど、あの方はわたくしを一人残して――

 それでもわたくしは――黒子は信じていますの。
 いつかまた、貴女と会えると信じて……


 きっと、きっとまた会えますわよね?

 お姉さま。


 次回、第10話をお楽しみに!
 今こそ、君を縛る過去の鎖を断ち切りたまえ!
 
406 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2010/12/04(土) 00:16:55.85 ID:qaT4McYo

というわけで第9話でした。
次回第十話は一週間後に……投下できたらいいのですが、
まだ書いている途中ですが、例によってボス戦は長くなる予定ですので、遅れるかもしれません。
ご了承ください。

その間、質問・雑談・批評、大歓迎です。
どしどし書き込んでください。
気になるレスには返信させていただきます。

では次回第十話でお会いしましょう!


       ◆

全然関係ないですが戦国大戦が面白いです。
物凄い金使うけど……


433 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2011/01/15(土) 21:04:14.40 ID:tr1MLZJGo
皆様お待たせしました
第十話前編を投下します……と言ってもかなり短いですが


それでは第十話をお楽しみください
434 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2011/01/15(土) 21:04:49.35 ID:tr1MLZJGo

世界樹の迷宮 B10F 密林に鎮守する獣の王


 ふぅ、と御坂妹は息をつく。
 B10Fの探索を初め数日。着実に手元の地図は埋まっていた。
 だが、

御坂妹「未だケルヌンノスのねぐらは見つかりませんね、とレンジャーはさらなる分岐に辟易します」

 彼女の視界の先、新たな三枚の扉を眺めて憂鬱な気分になる。
 幾つもの小部屋に、分岐する数本の通路。
 B10Fはまさに巨大迷宮だった。
435 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2011/01/15(土) 21:05:41.70 ID:tr1MLZJGo

 さらに行く手を阻むのはB5Fのスノードリフトに酷似した虎の魔物、ニードルタイガー。
 そして上階でも苦戦させられた危険な花びらや、こちらの思考能力を奪い、美琴の演算を困難にさせる破滅の花びらという強敵まで現れた。
 
 正直、彼女の火力に頼っていたジャッジメントにとって、そういった敵が集団で現れるとどうしてもてこずってしまう。
 それが、彼女たちの探索を遅らせていた。

 しかし、彼女たちの懸念はそれだけではない。

初春「次はどっちに進みましょうか…… 白井さんはどう思います?」

黒子「…………」

初春「白井さん?」

黒子「はっ、はい? そうですわね、さっきも、その前も左でしたので、また左の扉でどうですの?」

佐天「白井さんってば、それじゃあぐるっと回ってもとの位置に戻っちゃいますよ」

黒子「そ、そうですわね」
436 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2011/01/15(土) 21:06:39.56 ID:tr1MLZJGo

 上の空に答える黒子は、どこか様子がおかしい。
 それが、ジャッジメントの抱えるもう一つの懸念だった。

 御坂妹の見立てでは数日前――ケルヌンノス討伐指令の説明を受けてから、黒子の様子がおかしくなったように感じる。
 原因は残念ながら分からないが、時期からしてケルヌンノス討伐に何かしらの関係があるのに違いないだろう。

 このままでは、樹海探索に支障が出ることは間違いない。
 幸い戦闘に於いて、黒子がミスをすることは無かったが、それ以外ではご覧の有様だ。

 早急に手を打たなければ。

御坂妹「――とレンジャーは判断します」

 御坂妹はひとりごちた。
 
437 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2011/01/15(土) 21:07:26.71 ID:tr1MLZJGo

 エトリア ――長鳴鶏の宿


 青髪ピアスの座るカウンターでチェックインを済ませ(遺憾な事に、また料金が上がっていた!)四人はそれぞれの部屋で休息を取る。

 白井黒子は真っ白なシーツの上に寝転び、しかし未だ眠っていない。
 眠れないのだ。

 彼女の中にぐるぐると渦巻く感情。
 それが何かは分かっている。
 しかし、知りたくない。理解したくない。

黒子「お姉さま……」

 知らず知らずの内に、あの人の名前が口から溢れる。
 小さなつぶやきは、静かな部屋の中で拡散し、誰にも届かずに消える。
 
黒子「何処に……居るんですの?」
438 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2011/01/15(土) 21:08:45.25 ID:tr1MLZJGo

 その問に返答は無い。
 そう思っていた黒子に、だからその言葉は唐突だった。

御坂妹「残念ながら、お姉さまではありません。ミサカです、とレンジャーは白井嬢の部屋にお邪魔します」

 飛び起き、入り口の扉を見る。
 半分だけ空いた扉から、顔だけを出してこちらを見やる瞳。
 それは、彼女が覚えている『お姉さま』の瞳とは違う色が浮かんでいる。
 しかし、その形はそっくりで。

黒子「妹さん……」

御坂妹「いえ、正確には妹では無いのですが……まぁいいでしょう、とレンジャーは寛容な態度を見せつけます」

 そう言ってズカズカと部屋に入ってくると、御坂妹はベッド横の椅子にちょこんと腰掛ける。

御坂妹「突然すみません。部屋の鍵が空いていたのと、切なげなつぶやきが聞こえてきたのでつい、とレンジャーは弁明を試みます」

黒子「いえ、いいのですが…… 何か用ですの?」

御坂妹「それでは率直に聞きましょう。白井嬢、貴女がここ数日様子のおかしい理由を教えてください、とレンジャーは訊ねます」
439 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2011/01/15(土) 21:09:29.13 ID:tr1MLZJGo

黒子「っ!? ……それは」

 バレていない。とは思っていなかった。
 しかし、こうして真正面から訊ねられるとも、また思っていなかった。

黒子「それは……」

 言いよどむ。
 ここで御坂妹の言葉に答える事は、自分の中で蠢く不定形の不安を顕在化させてしまう行為に他ならない。

御坂妹「答えられない事なのですか? とレンジャーは口ごもる白井嬢へ問いを重ねます」

黒子「…………」

 言わねば、と思う。
 このままではいけない、とも思う。
 だから、

 言葉にすべく、己の不安の源を思う。
440 : ◆CahDa3HfTk[saga]:2011/01/15(土) 21:15:15.14 ID:tr1MLZJGo

 発端は、建宮斎字の言葉だ。

 『第三階層へ足を踏み入れたことのある奴は、この街に二人しかいないのよな』

 それは、つまり――

黒子「つまり、お姉さまはもう樹海に潜っていないかも知れない」

 第二階層まで探索し、会えなかった。
 そして、第三階層以降に僕ったことのある冒険者は、あの二人のみ。
 ある意味、B10Fは行き止まりなのだ。

 それは第三階層以降、あの人と樹海の中で会うことは無いということ。

 もちろん、樹海の中で会えなかったからと言ってエトリアに居ないとは限らない。
 だが、黒子には嫌な予感がして仕方がなかった。

黒子「何故か、もう二度とお姉さまには会えないような……そんな気がしてなりませんの」

 呟きは弱々しく、苦渋に満ちていた。

441 ◆CahDa3HfTk[saga]:2011/01/15(土) 21:16:59.84 ID:tr1MLZJGo
短いですが以上です。

>>432にも書いたとおり、今後はゲリラ的投下が増えると思われます。ご注意ください。
もちろん投下に時間が開く場合は生存報告だけでもさせていただきます。

それでは、また次回お会いしましょう。

443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/16(日) 17:00:37.93 ID:5HJPsTwX0
久しぶりに乙。待ってた。
世界樹世界の美琴ってどこいったんだろうな。



460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/04/06(水) 17:14:19.60 ID:gWThk0nKo
もう諦めた方が良いんかな(´;ω;`)
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]:2011/04/11(月) 00:31:44.42 ID:wSzAuT5AO
それでも待機中

0 件のコメント:

コメントを投稿