- ※未完作品
- 2 :鬼桜 ◆aVMyAiujQ[saga]:2013/10/14(月) 19:38:30.24 ID:sCmP6thZ0
- 「なんだか読んでるだけで、すっごいストレス溜まるんだけどぉっ!」
目の前の人物があげた叫声に、体がびくりと震える。
学生客が多く、喧噪に包まれているファミリィレストランの中でも、その音は一際大きく響き渡り、衆目の視線を集めた。
おそらく今この瞬間、わたくし達二人は注目の的となっているのだろうと、ツインテールの少女――白井黒子は感じ取る。
尋常ではない量の冷や汗を流しながら。
目の前で叫声をあげた人物は、セミロングの茶髪に愛らしい顔立ちをした少女だった。
しかし今はその愛らしい顔立ちも、不機嫌に釣り上がった鋭い目つきと、彼女の体表を迸り火花を散らしている静電気によって、台無しになっている。
何が起こったのかと、周囲の人間が訝し気に思う中、しかし当事者である少女は周囲の状況に気付いた様子はない。ただただ、黒子を睨み続けている。
まずい。このままの状況は非常にまずい。何とかしなければいけない。
そんな思いもむなしく、目の前の少女が怒りを収める気配はない。
怒りを静めるためのアプローチを何もかけていないのだから、当たり前なのだが。
焦りばかりが募り、黒子はただただ、冷や汗を流し続ける。
焦っている理由は、目の前の少女が自分に対して怒りを露わにしているから、という理由ではない。
自分の完璧(パーフェクト)であるはずだった計画が、標的である人物に露呈した事、ひいてはそれにより計画が破綻してしまう事に対する焦りだった。 - 3 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/10/14(月) 19:42:45.93 ID:sCmP6thZ0
- 最近は以前にも増して「とある人物」に夢中になっている少女と、久しぶりに取り付ける事の出来た約束なのだ。
ここで一発、自分をアピールしようと必死に練った計画が破綻しようとしているのだから、黒子が焦る気持ちもわからないわけではない。
もっとも、その「必死に練った計画」というものが『友達の紹介とかこつけたお姉様籠絡計画』などというものであるのだから、今、目の前に広がっている光景は因果応報と言えるものだろう。
焦りばかりが先行し、言葉のでない黒子を差し置き、目の前の少女――御坂美琴は不意に表情を崩すと、溜息混じりに呟いた。
「だいたいねぇ、あんたは『女の子として魅力的』なんだから、私なんかにうつつを抜かすよりももっと周りに目を向けてみればいいのよ」
――あんたは女の子として魅力的なんだから
――――あんたは女の子として魅力的なんだから
――――――あんたは女の子として魅力的なんだから
頭の中を、美琴の言葉が反芻する。
「お……お姉様」
気持ちが高揚する。自分の声がうわずっているのが解る。
その理由を考えるよりも早く、黒子は今の抑えきれない気持ちを、躊躇うことなく解放した。
「黒子が、黒子が間違っておりました、お姉様はもう私の事を〝人生の伴侶〟として認めてくれていたのですねっ!」
一息でまくし立て、美琴に向かって某怪盗を彷彿とさせるダイブを繰り出す。
瞬間、美琴のこめかみに青筋が立った。
「どう考えれば、そうなるのよッ!」
怒号とともに、美琴の体表を覆っていた静電気が意志を持ち、黒子へと降り注いだ。
「――――ひゃぅっ!」
体中を駆け巡った衝撃(電撃的な意味で)に耐えきれず、黒子は意識を手放した。
ちゃっかりと、美琴の胸元へと飛び込みながら。
抱きつけるのならば、意識の一つや二つ飛ばすのはやぶさかではないと、消えゆく意識の中で思ったりとか思わなかったりとか。
……いや、確実に思ったり。
- 15 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/10/14(月) 19:59:41.40 ID:sCmP6thZ0
†††
胸元に飛び込んできた、黒こげ黒子をしっかりと抱き留めながらも、美琴は嘆息した。
周囲の視線が集まっていたように感じたが、いざ周りを見渡してみれば、みな素知らぬふりをしていた。
自分たちが巻き込まれる事を危惧したのかもしれない。
ある意味、その行動は正解だっただろう。
ここ、学園都市ではこのような事態は日常茶飯事と言えるだろう。
いつ自分が被害者になるかなど、わかったものではないのだ。
危険に自ら飛び込む馬鹿など、いないとは言わないが少数だろう。
少なくとも、美琴はそういった人間をすぐに思い浮かべようとしても、「三人」しか思い当たらない。
そのうちの一人は、他ならぬ、目の前に倒れ伏す少女なのだが。
美琴は溜め息を吐くと、抱き留めていた黒子を自分の横に寝かせ、それから、テーブルの上に置かれていたティーカップに手を伸ばす。
中に注がれた黒色の液体に映る自分の顔を見つめる。
そこに映る自分の姿は、多少の陰りを帯びているようにもみえた。
このままでは、物思いに耽ってしまいそうで、美琴は気持ちを切り替えるとカップの中の液体を口に含む。
口の中に広がるその味に美琴は、
「苦ぁ……」
顔をしかめながら、呟いた。
カップをソーサに戻し、添えられていたコーヒーミルクとスティックシュガーを入れて、スプーンでかき混ぜる。
そうしてから、もう一度コーヒーを口に含んだ。
ホッとするような甘みが口内に広がり、美琴は思わず息を吐く。
それはコーヒーの甘さから来るホッとした気持ちだったのか、それともただの溜め息だったのか、美琴自身には判断できない。
「やっぱ私に、ブラックコーヒーはまだ早いわね」
多少の寂寥感を含んだ呟きは、誰にも届く事なく、虚空に消えた。
- 24 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/10/14(月) 20:03:21.03 ID:sCmP6thZ0
†††
美琴が二杯目のコーヒーを飲み始めた頃、隣で寝ていた黒子が意識を取り戻した。
思いの外、長時間目を覚まさなかったことを心配していただけに、ほっとする。次からは出力を気をつけなければいけないなと、ひそかに考えた。
もっとも、そんな機会がないことが一番なのだが。
今、自分が置かれている状況が理解できていないのか、黒子は体を預けていた長いすから体を起こした後も、ぼんやりとした視線をテーブルに向けている。今にも、もう一度意識を手放しそうだった。
しかしそんな美琴の予想は覆される。
突然、黒子は何かに気付いたのか、素早くスカートのポケットから携帯電話――小型で近未来的な形状のもの――を取り出した。
ディスプレィを確認すると、顔色を変えて、飛び上がる。
黒子の反応に美琴は首を傾げた。
その間にも、黒子はそそくさと座席から立ち上がり、捲し立てる。
「このままでは遅刻ですの! お姉様、行きますわよ」
言われて美琴は、自身の緑色の携帯電話――カエルのマスコットを模したもの――を取り出す。
ディスプレィには、十二時四十五分と時刻が表示されている。
約束の時間まで、あと十五分だった。
黒子から言わせれば、悠長にファミレスでお茶を飲んでいる場合などではない、という事だろう。
未だ座ったままの美琴の腕を取り、席を立つよう促す。
「ちょっと待ってよ、せめてこの一杯だけゆっくり飲ませてちょうだい」
まだカップに半分程残っているホットコーヒー(割と甘め)を手に取ろうとする美琴に、黒子は頭を振る。
「いけませんわ、お姉様。このままでは約束の時間に間に合いませんの」
確かに、約束の間に合わず、待たせてしまうのは申し訳ない。ましてや相手は初対面。尚のこと、遅れるのは忍びない。
それはもちろん、美琴だって理解している。ましてや、寝起きの黒子よりも、状況は理解している。
だが、慌てた様子の黒子に何を言っても、意味がないだろう。
そう結論づけると、美琴はカップに入ったコーヒーを一息に飲み干しつつ、立ち上がった。
「お姉様、お行儀が悪いですの……」
黒子の発言は聞こえなかったフリをする。
二人は立ち上がると、会計を済ませ、ファミリィレストランを後にした。
- 47 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/10/14(月) 20:11:21.13 ID:sCmP6thZ0
†††
結論から言うと、集合時刻十分前には、待ち合わせ予定である公園に着いていた。
考えてみれば当たり前なのだが、美琴の目の前に居る黒子は、こう見えてもレベル4の空間移動能力者なのだ。
その気になれば、目的の場所まで移動する事にそこまで時間を要しはしない。加えていえば、待ち合わせの場所は先ほどのファミリィレストランから目と鼻の先にある場所だった。
そもそも、だからこそ美琴は悠長にコーヒーを飲んでいたわけであるのだし。さすがに初対面の相手との待ち合わせに遅れる程、礼儀を失してはいない。
要するに、黒子がただ一人で焦っていたというだけのことだ。
やはりもう少しゆっくりコーヒーを飲んでいても良かったと思うのだが、そんなことを言えばまた黒子の小言が始まるだろうから、美琴は何も言わない。
美琴と黒子は今、公園の片隅に備え付けられたベンチに座っている。
「初春、何をしておりますの、もう五分前だというのに。ましてやお姉様を待たせるなどとは言語道断ですの」
隣でなにやらぶつぶつと言っている黒子を尻目に、美琴は公園内の景色をぼんやりと眺める。
小さな子供が多い公園内は、活気に溢れていた。
何となく子供達の姿を目で追っていると、ある一点で視線が止まる。
公園の入り口付近に、移動販売車に止まっていることに気付いた。
かわいらしい文字で、『クレープ』と書かれた看板も確認できる。
美琴は思案する。
最近、クレープを食べた記憶がない。
まだ時間はあることだし、どうせなら、待ち時間の間に食べていようか。
でも、十分で食べきれる自信は無いし、そもそも先程もファミリィレストランで軽食を摂っている。
けれど、甘い物が別腹であるのもまた事実で。悩ましい問題だった。
そんな葛藤を繰り返しつつ、クレープの移動販売車を眺めていた美琴の目に、ある文字が飛び込んだ。
- 55 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/10/14(月) 20:14:27.67 ID:sCmP6thZ0
それは、『クレープ』と書かれた看板におまけ程度に添えられている文字だった。
しかし、美琴にとってそこに書かれている文字はとても魅力的で、吸い寄せられるように視線が奪われる。
体が無意識に動いた。
立ち上がって、そちらに向かって歩き出す。
「お、お姉様?」
驚いた様子の黒子が声をかけるが、それも耳には届かなかった。
『只今、先着100名様にゲコ太ストラッププレゼント』
看板には、ただそう書かれているだけだった。
しかしそれは、美琴にとっては魔法の言葉だ。彼女にこれ以上効果のある謳い文句を探す事は難しいだろう。
「ゲコ太」という言葉はそれ程の力を持っていた。
一応解説しておくと、ゲコ太とはカエルのマスコットキャラクタである。
ただ事実を述べるだけならば、それ以上でも、それ以下でもない。
だが、〝ゲコ太である〟という事実のみで、美琴を釘付けにしてしまう。
美琴にもう、迷いは無かった。
迷う事無く、ゲコ太ストラップをもらう為にクレープを買う事を決めていた。
いつの間にやら、目的が変わってしまっているが、それは重要な事ではない。
重要なのは、ゲコ太をゲットする事だ。
美琴はクレープ屋に向かって歩き出す。
――その時だった。
- 112 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/10/14(月) 20:43:19.53 ID:sCmP6thZ0
耳をつんざくような轟音が、美琴を襲った。
咄嗟に両手で耳を覆いながらも、音の発生地点を探る。
さして時間もかからず、それは見つかった。
公園の向かいにある施設から、黒煙が立ちこめている。
注視して、それが銀行であることがわかった。
爆発だけでも大事だが、加えてその発生源が銀行だという事実に、頭の中で警鐘が鳴る。
それは黒子も同じようだった。
「お姉様、申し訳ありませんが警備員への連絡と、けが人の有無の確認にご協力をお願いしますわ」
黒子がスカートのポケットから風紀委員の腕章を取り出しながら、言う。
「黒子、私も――」
言いかけた美琴の声を遮りつつ、黒子は腕章を腕に通す。
「いけませんわ、お姉様。学園都市の治安維持は、私達風紀委員のお仕事ですの。一般市民であるお姉様は下がっていてくださいまし」
力になれないわけではないというのに。
本当ならば無理矢理にでも、協力してしまいたいところだが、それは却って黒子の立場を危ういものにしてしまうだろう。
美琴がそうは思わなくとも、〝一般市民を巻き込んでしまった〟ということになってしまうのだから。
ここは素直に、黒子の顔を立てる事としよう。
自分も力になりたいという気持ちをぐっと抑え込んで、美琴は、今から繰り広げられる光景を見守る事にした。
- 165 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/10/14(月) 22:29:47.19 ID:sCmP6thZ0
†††
爆音が聞こえた瞬間、白井黒子は咄嗟に、三つの事を考えた。
一つ目は、迅速にその場へ駆けつけなければいけないということ。
被害状況の確認と、原因の追求、ひいてはその解決には、現地へ急行することが必要不可欠だと判断したからだ。
二つ目は、事件の発生を警備員(アンチスキル)、風紀委員(ジャッジメント)に連絡するということ。
応援の要請はもしもの為にも必要不可欠だ。もしも仮に、自分だけで事件を無事解決と導けたとしても、事後処理もある。
どちらにせよ連絡は必須だった。
これらは、街の秩序を保つために、市民の安全を守る為に、風紀委員(ジャッジメント)として当然行わなければならない事だった。
事態を早急に鎮圧する。
その為に黒子は迅速に行動する。
そして、最後の三つ目。
これだけは、ごく個人的な想いによるものだった。
それは、〝お姉様を巻き込まない〟という事。
とってつけた事を言ってしまえば、風紀委員として何の権限も持たない御坂美琴(お姉様)を事件に介入させないというのは、当然の考えだ。
だが、それ以前の問題として、黒子個人の感情として美琴を事件に巻き込む事に抵抗があった。
それは、〝大切な人に傷ついて欲しくない〟という純粋な想いによるものだ。
(まったく……わたくしまでこのような考え方では、〝あの方〟の事をとやかく言う事は出来ませんわね)
現場へと向かう速度はそのままに、黒子は胸中で独りごちる。
脳裏に思い浮かんだものは、自分と同じ考えをもっているだろう、そして自分と同じ人を〝大切な人〟だと認識している人物だった。
頭の中を駆け巡っていく思考を一旦追いやり、黒子は目の前で起こる異常事態に意識を集中させる。
目的地は、目と鼻の先。
- 168 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/10/14(月) 23:33:15.84 ID:sCmP6thZ0
†††
破砕された、自動ドアだったものの残骸から、三人の男が飛び出してきた。
リーダー格と思われる中肉中背の男、ドレッドヘアの巨漢、ひ弱な印象を抱かせる男の三人だ。
三人の男は大きく膨らんだボストンバッグを手に、焦った様子でこの場から逃走しようとしている。
その様子から、三人の男がこの異常事態を引き起こしていることは容易に想像できた。
「さっさと引き上げるぞ! もたもたしてると――」
「お待ちなさい!」
だが、この場から逃げ出すことなど、黒子が許すはずがなかった。
幸いにも、黒子は犯人達が逃げ出す前に現場へと駆けつけることが出来ていた。
黒子が男達の前に立ちはだった事で、男達の足が止まる。
間髪入れず、黒子は言葉を続けた。
「風紀委員ですの! 器物破損および、強盗の現行犯で拘束します」
「嘘だろ、何でこんなに早く――」
驚愕の表情を顔に貼り付け、男達の視線が黒子を捕えたのがわかった。まじまじと姿を確認している事が確認できる。
それから男達の表情が徐々に険しいものから変わっていく。
やがて、目配せを交わすと――
「ぎゃはは、なんだそりゃあ、焦って損したぜ!」
「風紀員も人手不足かぁ?」
腹を抱えて、笑い出した。
好き放題の言い様に、黒子の表情が険しくなる。
端から見れば、一介の女子中学生――華奢で小柄な為、見た目は小学生にも見える――が男三人を相手にしようとしているのだ。
男達の反応も、無理はないのだろう。
だが、男達は哀れだった。もう少し、懸命になるべきだった。
男達はひとしきり笑った後、改めて黒子に向き直る。
その中の一人、ドレッドヘアの男が黒子へ向かって突進してくる。
「お嬢ちゃん、そこをどかないと怪我しちゃうぜ!」
言いながら、男が突進の勢いそのままに右腕を振るう。
その様子を、黒子は至って冷静に観察していた。
自分に向かって伸びてくる右腕を、黒子は状態を反らす事で容易く回避する。- 169 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/10/14(月) 23:36:48.91 ID:sCmP6thZ0
「そういう三下の台詞は――」
すかさず男の右腕の袖口を掴み、同時に男の軸足を蹴り上げる。
突進の勢いが殺せていない男の体が宙を舞い、背中から地面へと落下した。
「死亡フラグですわよ」
今ある光景がさも当然とばかりに、済ました顔で告げる黒子に、残った男達の顔色が変わる。
男達はようやく理解したのだ。黒子が自分達にとって、危険だという事を。
人を見た目で判断しない方がいい。
例え普段が〝お姉様ラブの変態(あんなの)〟であっても、見た目は華奢で小学生のようであっても、黒子は風紀委員だ。
その資格を手にする為に費やした研鑽は並大抵のものではない。ましてや資格を手にした後からが、やっと本番といっても過言ではないのだ。
結果、研鑽を重ね続ける事となり、武力や知力は自然と身に付けられている。
「おい、あいつを連れてこい」
リーダー格の男が何かを口にする。
黒子にはその言葉が聞き取れなかった。華奢な体格の男が銀行へと向かって引き返していく。
この期に及んで、何を考えているのやら。
その思考が黒子には読めない。
どちらを先に対処するかをシミュレートするが、それよりも早く状況が動いた。
「なかなかやるね、嬢ちゃん。だが俺だってなあ!」
黒子と相対している男の手の平から、赤く輝く炎が顕現する。
(発火能力者(パイロキネシスト)ですか。それも、それなりに強い。……厄介ですわね。ですが――)
黒子が見せた逡巡を、男は怯えととったのか、不敵な笑みを浮かべて、黒子への距離を一歩詰めた。
そこから男が腕を振るい、黒子目掛けて炎を解き放つ。
まるで意志を有したように飛びくる火球。
だが、足下を穿とうと襲い来る火球にも黒子は冷静だった。
心静かにその様子を見つめながら、タイミングを計る。
男の振るった炎が自分の眼前へと迫った瞬間、黒子は能力を解き放つ。
次の瞬間、火球が地面を破砕した。- 170 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/10/14(月) 23:38:56.32 ID:sCmP6thZ0
「やったかっ!」
確信に満ちた物言いだった。
しかし、その予想は裏切られる。
火球はどうなった?
地面を破砕した。
そう、肝心の黒子に当たっていない。
周囲を見渡す男の姿が、滑稽だった。
「お生憎様、自分の手の内を最初から晒す輩に遅れを取る程、愚かでも未熟でもありませんわ」
男の足下から発信されたその声は、おそらく、男にとって絶望的なものに聞こえただろう。
黒子は既に男の懐に姿勢を低くして潜り込んでいた。
ぎょっとして男が黒子を見下ろした瞬間に、もう一度能力を発動する。
男の頭上よりも尚高い位置に瞬間移動(テレポート)すると、勢いそのままに男へとドロップキックをお見舞いする。
たまらず前のめりになって転倒した男の横に難なく着地すると、太ももに取り付けているホルスタへと触れる。
その動作によって、ホルスタに取り付けられていた鉄針が転移し、男の衣服を地面へと縫い付けた。
「て、瞬間移動能力者(テレポーター)っ!?」
男が驚愕した様子で黒子を見上げていたがそれに構う事無く、告げる。
「もしもまだ抵抗を続けるというのなら、今度は鉄針(これ)をあなたの体内に瞬間移動(テレポート)させますわよ?」
言葉の意味を正しく理解したのだろう。
男はごくりと生唾を飲み込むと、地面へと顔を伏せるとともに、抵抗を諦めた。
「さて、後は――」
先程、店内へと引き返していた、ひ弱そうな男が残っている。
いくら男がひ弱そうに見えたからといって、見た目で油断するわけにはいかない。
早急に追う必要がある。
黒子は銀行の入り口――壊れた自動ドアへと向かって駆け出し、
「そこまでだっ!」
それよりも早く、銀行の中から男が姿を現した。
そして、その男が抱き寄せるようにしている人物に、黒子は自分の血の気が引いたのを感じた。
「妙な動きをしたら、この風紀委員がただじゃあ済まないぞ」
「う、初春っ!」
そこには、首元にナイフを突きつけられた、自分の同僚がいた。- 171 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/10/15(火) 01:44:58.08 ID:3W4IP3K90
- 小柄な自分よりも更に小柄な体躯。
特徴的なのは頭の上に存在する〝花畑〟だろうか。
普段見せる、可愛らしい外見を引き立てる、魅力的な微笑みが今は欠片もない。
首元に突きつけられたナイフによって、青ざめた顔をしていた。
何故こんなところに初春がいるのか、そしてどうして初春が連れてこられたのか。
その理由がはっきりとはわからない。
黒子は動揺している為、気付いていなかった。
よく見れば、わかっただろう。
初春の腕にも黒子と同じ風紀委員の腕章が付けられていた事が。
また、目の前で拘束しているリーダー格の男が先程、〝あいつを連れてこい〟と言っていた事が。
あと一人捕らえれば事が収められるという状況で、しかし手が出せない。
うかつに動けば、人質となっている初春がどういった目に遭うかわかったものではない。
男達がとった行動は、結果的に、黒子の動きを止める事に対して、絶大な効果をもたらしていた。
黒子は怒りに湧いていた。
どこまで下賎な輩なのだと。
そして同時に、自分の力の無さに悔しさが滲み、歯噛みする。
黒子は、いつぞや自分が同じ状況に立たされた事を思い出していた。
あの時よりも自分は成長して、しかしまだまだ未熟で、自分一人でこの状況を打破する術を持ち得ない。
「動くなよ、こいつがどうなってもいいのなら話は別だがな」
男は自分が優位に立っている事を自覚したようで、余裕を見せるように振る舞っている。
その振る舞いも、小物じみた台詞も、黒子を苛立たせるのには十分過ぎた。
怒りで我を忘れかけている。
こんな状況で演算をしようものなら、周囲に甚大な被害を及ぼすか、自滅するかのいずれかだろう。
ただでさえも黒子の能力は精密な演算を必要とするのだから仕方が無い。
そう考えることが出来るだけ、まだ何とか理性を繋ぎ止められている。
偶然にも、男の立ち回りはほぼ完璧と言って差し支えないものになっていた。
もっともそれは、対黒子に対してのみの立ち回りであったわけだが。
黒子は我を忘れる自分を押さえ込もうとすることに注力し、考える余裕がなかった。
男達は、気付いていなかった。そもそも、とても不幸なことにその事実を知らなかった。
まだこの場には、〝切り札(ダークホース)〟が居た事に。
- 173 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/10/15(火) 01:46:44.41 ID:3W4IP3K90
ひ弱そうに見える男は、初春の首元にナイフを突きつけている。
何処か虚ろにも見える視線が怪しげで、いつナイフを突き立てても不思議には見えない。
黒子の首筋を、嫌な汗が伝っていく。
どうしたものか。思案を続ける黒子をよそに――
突如として、初春を取り押さえていた男に、電撃が炸裂した。
ひ弱そうに見えた男は、体を痙攣させたかと思うと、そのまま地面へ倒れ込む。
初春はと言えば、何事もなかったかのように、また、唐突な展開について行けずに、その場に立ち尽くしていた。
「悪いわね黒子、このままじゃあ色々まずそうだったからさ」
後ろから、声がする。その声を聞いて、黒子は少し、平静を取り戻した。
「お、お姉様……」
「手、出させてもらったわよ」
振り返った先には、どこか不敵な表情で笑う美琴の姿があった。
謝られたものの、文句を言えるはずもない。
言える事があるとすれば、それは自分自身の力の無さが招いたこの事態に対する謝罪の言葉だけだ。
「なによ、しんみりした顔しちゃって。これで事件は無事解決したんでしょ?」
「いいえ、まだです。この後、警備員への引き渡しを行いませんと」
こんな所でへこたれていていいわけも無い。
気持ちを切り替え、黒子は現場を見渡す。
倒れた三人の男達を、取り押さえるつもりだった。
そう、そのつもりだった。
- 176 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/10/15(火) 01:51:20.25 ID:3W4IP3K90
「……え?」
黒子はようやく気付いた。
男達が手にしていたボストンバッグが、一つも見当たらなかった事に。
そしてもう一つ。
道路をUターンし、こちらに猛スピードで迫り来る、乗用車の姿があった事に。
乗用車に乗り込んでいるのは、黒子が真っ先に倒していたドレッドヘアの巨漢だとわかった。
ボストンバッグは、おそらくあの男が回収したのだろう。
そのまま逃げてしまった方が、賢明だろうに。
あれだけ簡単に倒されてもまだ向かってくるのは、男の意地だろうか。それとも、仲間を救おうという気概だろうか。
黒子にも美琴にも、それはわからなかったが、どちらにせよ、犯罪に手を染めている時点でどうでもいいというのが正直な感想だ。
自分が今すべきことは、男達を捕らえ、この場を収める事。
「黒子――」
思考に没頭していた中、不意に割り込んで聞こえた声に、背筋が凍り付く思いがした。
いつの間にやら美琴が、車に立ちはだかるようにして、自分たちと乗用車を隔てるように、前に進み出ていた。
「あー……」
美琴の言わんとすることを理解し、黒子は呻いた。
敢えて言わせてもらうならば、男達はとても不幸だった。
黒子が憧れる、目の前のお姉様(しょうじょ)が誰なのかに気付けなかった事が。
何よりも、何よりも、不幸だった。
- 177 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/10/15(火) 02:01:28.68 ID:3W4IP3K90
†††
車が猛スピードで自分に向かって直進してくる。
美琴はそれを理解し、同時に憤慨した。
どこまでも、下劣な男達だ。
銀行強盗だけでは飽き足らず、人質を取り、最後には殺人まで犯そうとしているような愚行。
込み上げる怒りに抗う事は出来なかったし、そもそもするつもりがなかった。
自らの意志に呼応するように、美琴の周囲に紫電が走る。
体表を覆うのは、静電気というには生温い、火花を散らす電撃。
「悪いわね黒子、もしも始末書沙汰になったら、私も手伝うからさ」
怒りに沸騰してはいるものの、理性は多少残っている。
恐怖や緊張はない。
「あー」
項垂れながら、黒子が呟く。もう、それ以外に言葉を発せないのかもしれない。
過去の経験から、こうなってしまっては、何を言っても無駄だということがわかっているからだろう。
もうなるようになってしまえ、と匙を投げているように見えた。
そうなってしまうのも、仕方ないのだろう。
黒子は曲がりなりにもレベル4の空間移動(テレポーター)だ。
しかし、美琴はその更に上。
学園都市に七人しかいない、レベル5の第三位。
美琴が本気であるならば、黒子に止められるだけの力がない。
それを理解するからこそ、状況に身を任せることにしたのだろう。
そんなやりとりをしていた中で、黒子の足下――地面に縫い付けられていた男が、唐突に何かに気付いたように顔を強ばらせる。
「お、思い出した、風紀委員には捕まったが最後、心も体も再起不能にする、最悪の腹黒空間移動能力者がいて――」
こめかみに青筋を浮かべながら、「誰のことですの?」と訊いている黒子の姿をよそに、美琴は乗用車と対峙する。
体の周囲を紫電が飛び交う。
乗用車はもう、すぐそこまで迫り来ていた。
「その瞬間移動能力者を虜にする最強の電撃使い(エレクトロマスター)が……ま、まさか――」
美琴はセータのポケットへ無造作に手を突っ込み、一枚のコインを取り出す。
親指、人差し指以外の三指を握り込み、人差し指で親指の先を包み込むと、親指の上にコインを置いた。
親指を弾き、コインを中空へと誘う。
そして――
「そう、あの方こそが学園都市230万人の頂点、学園都市に7人しかいないレベル5の第3位。超電磁砲、御坂美琴お姉様。常盤台の電撃姫にして、女生徒最強の能力者ですの」
「あ……」
何かに気付いた美琴が小さな呟きを漏らした。
中空を舞っていたコインが、美琴の指にぶつかり、〝足下〟へとこぼれ落ちていった。
- 179 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/10/15(火) 02:06:42.88 ID:3W4IP3K90
コインは美琴の右手に軽く触れると、軌道を変えて〝足下〟に落下していく。
美琴の視線は、一点に集中していた。
自分に迫り来る――それこそ、もう追突間近の乗用車の、その後ろ。
「お姉様!」
黒子が声を挙げている。
おそらく、黒子が思い描いた展開と異なっていたのだろう。
美琴自身、予想外だった。
まさか自分が〝超電磁砲(レールガン)〟を放つ事を取りやめるなど。
美琴の目の前に迫る乗用車。
今更、ポケットからコインを取り出しても、足下から拾い上げても、間に合わない。
その速度は美琴の命を絶つ事は容易いだろうと想像できた。
もしかしたら、黒子は自分を救おうと演算を開始しているかもしれない。
だが、それが間に合わない事を美琴は理解していた。
何故なら――
「おいおい、三下以下のカスが、俺の妹になァにしようとしてやがンですかァ?」
それよりも早く、美琴に救いの手が差し伸べられたから。
美琴と乗用車を遮るように、目の前に、いつの間にか少年が立ち塞がっていた。
最初に、視界に入ったのは真っ白な後頭部。視線を下に移すと、長点上機学園の制服に身を包んだ、痩身痩躯の体が確認できる。
誰なのか、確認するまでもない。
最初に聞こえた声が、更にそれよりも前に視認していた彼の姿が、鮮明に記憶され、彼の存在をはっきりと理解させたから。
少年は、乗用車に向かって右腕を伸ばす。
乗用車は速度を緩める事無く、むしろ速度を増して二人へと迫る。
危機感は何も無い。
あるのは安心感。それも、〝彼〟が自分の傍にいるからこその安らぎ。
やがて、乗用車と少年との距離がゼロになり――
――――――ッ!
大気が震えるような大音声が、周囲を包み込んだ。
視線の先では、少年の手に触れた乗用車が、見えない圧力に屈したように、地面へと〝減り込んでいた〟。
- 180 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/10/15(火) 02:09:44.09 ID:3W4IP3K90
†††
物理法則を無視した出来事に、黒子の取り押さえていた発火能力者が驚愕の表情を浮かべていた。
「な、何だあいつは――」
無理も無い。自分も初めてその能力(ちから)を目の当たりにした時は、同じような反応をしたのだから。
大破した乗用車に、抉り取られた地面。それ以外に余波は無く、しかしそれだけで充分に大きな被害状況だ。
間違いなく、始末書沙汰だと、黒子はうんざりした。
不幸中の幸いは、理屈が全くわからないが、車中の人物も失神した様子こそあれど、怪我を負っているようには見受けられない事だろうか。
相変わらず、常識の通用しない能力だと痛感する。
男の問いかけに答えるように、黒子は一人、その人物の名を呟く。
「あの方が、新人風紀委員にして、レベル5の頂点、学園都市最強無敵の超能力者、一方――」
「お兄ちゃん!」
まあ、その呟きは、美琴の声に遮られたのだけれども。
黒子が反射的に声の出所を追えば、美琴が白髪の少年へと抱きついていた。
その光景を見ながら、黒子は内心で面白くない感情を押し殺しつつ、足下に声を落とす。
「まあ、あなた方は運がなかったという事ですわ。これに懲りて、自分を見つめ直してくださいな」
- 263 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/11/11(月) 21:48:09.67 ID:7doYIm6J0
†††
「お兄ちゃん!」
声の聞こえた方向を振り返れば、自分へと飛びついてくる美琴の姿。
何となく、そうなることは予想できていた為、慌てることもなく受け入れる。
「おォ、美琴かァ」
もっとも、振り返るまでもなく、一方通行は美琴の存在を認識していた。
そもそも、彼女と乗用車との間に割って入った理由が、乗用車を〝ぶっ飛ばそうとしていた〟彼女の姿を視認したからだったのだから。
自分に密着している美琴を引きはがし、見つめる。
鳶色の瞳が、不思議そうに、様子を伺うように、一方通行を見上げていた。
見覚えのある顔だった。いや、見覚えがあるのは当たり前だ。
違う、そうじゃない。
――あなたは、どうしていつも……
昔の記憶が一瞬過ぎる。
どうにも最近、感傷的になることがある。
その理由を考えるよりも前に、頭痛が襲う。
一方通行は、想いを振り払うように、一度、首を左右に振る。
そうした後には、既に頭痛は消え去っていた。
思考が通常に戻り、途端に日常に引き戻されたような感覚。
ようやく、言葉が口をついた。
「こンなところで何してンだ?」- 264 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/11/11(月) 21:51:39.02 ID:7doYIm6J0
「お兄ちゃんこそ」
質問を質問で返されたことには釈然としないものがあったが、一方通行は気にしないことにした。
むしろ今の状況を楽しむ事にする。
「あァ、馬鹿なンですかァ、美琴ちゃンはよォ? この腕章が目に入らねェわけねェよなァ?」
右足を半歩進め、右肩を突き出す。左手が右腕に伸び、そこに巻かれた腕章に添えられた。
クツクツと、いやらしい笑みを浮かべながら、言い放つ。
「風紀員ですのォ、ってなァ」
声音に馬鹿にするような色が含まれているのは、気のせいではない。むしろ隠している素振りすら、見られない。
ほぼ間違いなく、近くにいる黒子を意識しての事だろう。
何故ならその所作は、黒子の日常的な振る舞いと酷似しているものだから。
「っていうかよォ、俺が風紀委員だってことくらいお前は知ってンだろォが」
「それはそうだけど」
訊きたいことと回答に差異があるのか、美琴は何処か腑に落ちない様子でいる。
どうにも美琴にそういう顔をされると弱い一方通行は、自分の説明が足りないのだろうと結論づけ、補足する。
「騒がしかったから、駆けつけただけだ。で、美琴は、こンなところで何してンだ?」
改めて、問う。
「黒子の友達と会う約束をしていたから、その待ち合わせ」
「ふゥン……変なやつじゃねェだろうなァ?」
「大丈夫だと思うわよ。……たぶん、だけど」
「その言葉をそのまま信じられるほど、俺はあいつを信用してねェンだよ。つゥかそれ、オマエも信用しきれてねェだろ」- 265 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/11/11(月) 21:55:42.33 ID:7doYIm6J0
眉間に皺を作りながら、思案する。
あの女のことだ。風紀委員の仕事中であれば、信用していいと思えるだけの実績がある。
だが、プライベートとなれば話は別だ。
美琴をよからぬ道へ誘おうとしていても不思議はないし、過去の前例も枚挙にいとまがない。ある意味で、信用も、信頼もできるだけの実績があった。
奇しくも、その予想は黒子が「お嬢様籠絡計画」などというものを考えていた事からも、一方通行の推測は当たっているのだが。
考えれば考えるほど、思考が悪い方向に進んでいく。最悪、今この場で黒子を駆逐しておく必要があるのではないか。悪い虫が付こうとするならば、駆除するのが妥当ではないか。
どう考えても穏やかでない感情に支配されつつあった一方通行の思考を打ち切らせたのは、今、頭を悩ませている問題の張本人が二人の前に姿を見せたからだった。
警備員へ強盗犯の引き渡しを済ませたらしい黒子は、不満そうな顔を隠しもせず、一方通行の前で仁王立ちしている。
しかし一方通行の方が背が高く、黒子が一方通行を見上げるような格好になっている為、いまいちプレッシャは感じなかった。どちらかと言えば、滑稽にさえ感じる。
そんな一方通行の心情を知ってか知らずか、黒子は口を開き――
「言いがかりはよして下さいな、お兄さ――」
しかし言いかけた言葉を言い切らせもせず、一方通行は黒子の額を小突いた。
厳密に言えば、何故か一方通行の手が触れそうになった瞬間に、黒子の頭が見えない膜に突き飛ばされるようにして後ろに弾かれているのだが。
端から見れば、小突いているように見える事に違いは無いだろう。
顔をのけぞらせた黒子に構う事なく、追撃をかけつつ〝口撃〟も仕掛ける。- 266 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/11/11(月) 21:58:19.82 ID:7doYIm6J0
「何度も言うが、お前にお兄様呼ばわりされるいわれはねェだろォが、パンダちゃンよォ」
「痛ッ、痛いですの! それに私、パンダじゃないですの!」
「カカカっ、白井黒子なんだから、パンダでいいじゃねェか。それともシマウマの方が好みですかァ?」
言いながらも、一方通行は黒子の額を小突き続ける。
「い、痛っ、ですから、痛いですのっ!」
必死に後ろに飛び退き、一方通行と距離を置く黒子。今は二人の間には一メートル程の距離があった。空間移動を使えなかったあたり、一方通行の『小突き』は相当に痛かったのだろう。
少なくとも、複雑な演算を必要とする瞬間移動を妨げるレベルには痛かったはずだ。果たしてそれを『小突き』と言っていいのか疑問は残るが。
「申し訳ありませんの、お兄さ――あ痛っ、も、申し訳ありませんの、一方通行さん」
「ン」
黒子が訂正した事でようやく満足し、一方通行は小突く事をやめた。
額をさすりながらも、黒子は恨みがましい視線を一方通行に送っている。
だが、一方通行は黒子の視線を気にとめる気はない。
むしろ余計に嗜虐心がくすぐられて、からかいたくなってしまう。黒子もそれには気づいたようで、小突いたことについてそれ以上の追求はなかった。何事もなかったかのように、話を続ける。
「強盗逮捕に協力いただいた事には感謝致します」
「ンな事ァ、風紀委員なンだから当たり前だろォが」
「ですがっ!」
一瞬感心したような素振りを見せていたのだが、再び仁王立ちになって一方通行を睨みつけてくる。
「『ですの!』じゃねェの?」
口の端をつり上げて、楽しそうに嗤う。からかうような一方通行の物言いに、黒子のこめかみに青筋が浮かんだ。
「ですがっ! あなたはご自身の能力について今一度考えて欲しいですの! この状況を説明しなければならなかった私の身にもなってみてくださいまし」- 267 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/11/11(月) 22:02:12.56 ID:7doYIm6J0
怒り心頭といわんばかりに、顔を真っ赤にさせながら声を荒げる黒子。
さすがに気の毒――などとは欠片も思わない一方通行だが、とりあえず黒子の言葉に耳を貸すくらいはしている。
彼女の言う、『この状況』とは一体どういった状況か。
そんなことを考えながら、周囲を見渡した。
まず目立つのは、背後で〝ひしゃげている〟乗用車だ。
中にいた人間こそ回収され、既にその姿はないものの、乗用車はまだ撤去されていない。
乗用車は不自然なまでに全域にわたって破砕されている。乗用車の真下に位置する道路についても、乗用車の中心を力場として周囲が破壊されている。しかし 何故か、乗用車の中――運転席周囲の空間だけが何事もなかったかのように無傷だった。もっとも、〝事故〟の当時、車中にいたドレッドヘアの巨漢は、一方通 行と乗用車が衝突した瞬間、乗用車が地面へ押しつけられた衝撃で気絶してはいたのだが。
全ての現象は、一方通行が乗用車の中の人物が死なないように、周囲のベクトルを巧妙に操った結果だった。
どのようにすればこのような結果が得られるかなど、一般人にはわかりはしない。いや、高位の能力者でさえ、この現象を理解できるものはごく少数だろう。
結果としては、乗用車大破、周辺の道路粉砕という被害状況にも関わらず、犯人は外傷無く拘束されていた。
だからこそ、一方通行個人としては、〝この程度で済ませた〟つもりであったのだ。しかし、第三者からみればどうやら違うらしい。
まあ確かに、ベクトルを上空に向けて解き放てばここまでの被害は出なかっただろう。併せて、車中の人間も加重で失神させる事が容易に出来たことも想像に難くない。
しかしそれだと、車が着地する際にも能力を使わなくては、怪我人が出かねない。先ほどの対応よりも、一手余分に掛かる事になる。正直、面倒くさい。
そもそもの問題として、一方通行がその気になれば、被害状況をゼロの状態で、拘束する事も用意だった。ただ、そうしなかったのは――
「なンか、おかしなところがあンのか? 悪人にはそれなりの処罰が下って然りだろォ? これで良いじゃねェか」
そういった、個人的な〝思慮〟があったからだ。- 268 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/11/11(月) 22:04:07.30 ID:7doYIm6J0
しかしまあ、これはあくまで一方通行個人の考え方のわけで、黒子の理解が得られるかと言えば、そうではない。
黒子のこめかみに浮かぶ青筋がその数を増すのが傍目にもわかることからも、明らかに賛同は得られていない。
「良いわけがありませんの! これでは明らかにやり過ぎですわ。また、始末書を書く羽目になりますのよ! というか、私達は風紀委員ですの、そこまでの裁量は持ち合わせておりません!」
案の定、般若のごとき形相で睨み付け、〝小言〟をぶちまける黒子に対して、一方通行はため息を吐いた。
黒子の言い分は理解できる。理解できるが、どうにも頭が固すぎる。
それは長所でもあり、短所でもあるな、などと考えながら、目の前でまくし立て続ける黒子を観察する。
フラストレーションが溜まっているようで、今回の事件への対応から始まり、日頃の職務(風紀委員)への取り組み方から、食生活に至るまで、良くもそこまで口出しできるものだと言った領域で小言を積み上げている。
やがて、怒りを保つ気力が薄れたのか、単に叫びすぎて疲れたのか、それとも言いたいことを言い切ってすっきりしたのか、黒子の怒りは静まっていた。
そろそろ頃合いかと判断して、一方通行は口を挟む。
「オマエはそォ言うが、どォせ美琴が超電磁砲ぶちかましても同じ結果だったろォが。つゥかそもそも、校内以外での取り締まりも違反行為だろォ?」
「それは、そうではありますが……」
そこまで言って、黒子がハッとしたように一方通行を見上げる。瞳には困惑の色が見て取れた。
「――まさかあなた、一般人(おねえさま)が被害を出さない為にあのような行動に出ましたの?」
「くっだらねェ事言ってンじゃねェよ、白井よォ」
「やっと名前で呼んで下さいますのね」
「普段から呼ンでンだろォが……それはそォと――」
後ろ手に頭を掻くと、黒子の後ろに視線を這わす。つられるように黒子の視線もそれを追っているのがわかった。
「美琴はさっきからどうしたっつゥンだよ?」
二人の視線の先。そこには、頬を膨らませて二人を睨んでいる美琴の姿があった。- 269 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/11/11(月) 22:06:16.08 ID:7doYIm6J0
しかし、睨んではいるものの、何所かふてくされているような表情は、元々の顔立ちと相まって、愛らしさを誘う。ほおを膨らませて不満を露わにするその姿は、さながら、頬袋に食べ物を詰めているリスのようにも見えた。
「ず、ズッキューンっ!」
心でも打ち抜かれたのか、日常的に使われることはないだろう擬音を口にしてから、慌てだした黒子。
一方通行はそんな黒子の様子を冷めた目で見つめながら、状況を静観する。
「い、いえ、これは違うのですよ、お姉様。誤解ですの。私の気持ちは常にお姉様一筋で――」
「何おめでたい勘違いしてんのよ、あんたはぁ!」
本来は強盗に向くはずだったのだろう、やり場を無くしていた電撃が、黒子を襲った。
「――――――ひゃぁうんっ!」
さすがに――当たり前だが――超電磁砲レベルの電流を放ったわけではないだろうが、それでも相応に高い電流だったようだ。
黒子が悶絶し、地面に倒れ伏す。その姿を一瞥してから、一方通行は美琴を見つめた。
未だ頬を膨らませたまま怒ったような表情でいる事に、疑問を禁じ得ない。
「なァにをかっかしてンだ、美琴ォ」
「べ、別になんでもないわよ」
口ではそう言いつつ、拗ねたようにそっぽを向く姿を愛らしいと思ってしまうのは、美琴が自分の大切な妹だからだろうか。
やれやれという思いを押し隠しつつ、一方通行は気付かれないように溜め息を吐く。
「オマエがそォ言うンなら、気にしねェがよォ」
言いながら、自分の首元に手を添える。
そこにはいつも、どんな服装だろうと変わりなく、黒のチョーカが身につけられている。
そのチョーカに軽く触れる事が、一方通行にとって日常と非日常を切り替える為のスイッチとなっていた。
自身の名を冠す能力――より正しくは、名が能力名を冠しているというべきか――の自動制御(オートモード)を意識的に切り替える際の癖だ。
地面に倒れたままの黒子を跨いで越えて、美琴の前に立つと、その頭に軽く手を置く。
一方通行の行動に反応し、美琴がこちらを向いた事を確認してから、その手を動かした。
ガサツな触り方のせいで、栗色の髪がくしゃくしゃと乱れる。しかし美琴は気持ち良さそうに目を細め、それを感受していた。
様子が落ち着いたのを見計らい、言葉を紡ぐ。その声音は、確かな暖かみを帯びていた。
「あンまり俺を心配させるンじゃねェよ」- 270 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/11/11(月) 22:07:56.62 ID:7doYIm6J0
「……べ、別にお兄ちゃんを心配させるような事なんかしてな――」
「オマエがそォ思っている事が既に、俺には心配なンだよ」
最後まで言い切らせず、言葉を挟む。
少なくとも、美琴の中にはすぐに思い浮かぶような心当たりは無いのだろう。
困惑したように、一方通行を見上げるだけだ。
見かねたのかどうなのか、一方通行の背後から、声がした。
「お言葉ですがお兄――」
「あァ?」
「……こほん。一方通行さん、お姉様はレベル5の第三位、そうそう簡単に遅れを取りはしませんわ」
そう言いながら、いつの間にやら回復していた黒子が美琴の隣に歩いてくる。
黒子の言いたい事は理解できた。
美琴は仮にも、この学園都市に存在する学生の中で、たった七人しかいないレベル5だ。
多勢に無勢の状況であっても、優位にたてる実力は持っているだろう。
「そういう意味での心配なんてしてねェよ」
これについては、一方通行も認めるところなのだ。しかし、一方通行の心配は、そもそもそんな事ではない。
一方通行が心配する事、それは――
「俺は美琴が〝超電磁砲〟をぶっ放そォとした事に対して言ってンだよ」
そう、ただその点についてだけの、心配だった。
「え?」
「どういう意味ですの?」
しかし、一方通行の考えとは裏腹に、美琴も黒子も、言葉の意味を理解できていないようだった。
二人揃って、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
多少のもどかしさを覚えながら、一方通行は言葉を口にする
「もしも何かの間違いで〝人を殺しちまったらどォすンだ?〟」- 271 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/11/11(月) 22:09:51.57 ID:7doYIm6J0
美琴と黒子はハッとしたように表情を強ばらせた。一方通行は二人の様子には構わずに続ける。
「あんな糞くだらねェ三下以下の存在を殺しちまったなンつゥ、罪悪感を背負って生きていかなきゃならねェンだぜ?」
もしも美琴があのまま超電磁砲を乗用車に向かって放っていたらどうなっていたのか。
どうもならず、ただ犯人が確保できただけかも知れない。だが、もしも間違いが起こっていればどうなっていたのか。
別に殺す殺さないで考えなくてもいい。相手に大けがを負わせてしまうという可能性を考えなかったのか。それとも、そうなってもいいと考えたのか。
それは美琴当人のみが知るところではあるが、一方通行は、先ほど美琴のとった行動が気になって仕方がなかった。
「オマエも曲がりなりにもレベル5の第3位だ。だから、自分の力の危険度について自覚を持てっつゥ事だ」
「お、お言葉ですが、お姉様が加減を間違うなど考えられませんの」
「もちろン、美琴の力は認めてる。だがよォ、もしもって事があンだろォが」
「そんな事を言ってしまえば、あなたも同じではありませんか」
そうは言いつつも、黒子は理解しているのだろう。
「オマエ、それ本気で言ってンのか? だとしたら、抱きしめたくなる程哀れだなァ」
だから、一方通行の問いに答える事が出来ない。否、答えようとすれば、答えられるのだろう。
しかし肝心のその答えが、先程の黒子の言葉を否定する事になる。だからこそ、答えられないのだろう。- 272 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga sage]:2013/11/11(月) 22:11:32.57 ID:7doYIm6J0
黒子は二人と関わっているが故に、理解しているはずだからだ。
第1位と第3位の絶対たる差を。数字にしてみればたった二つであるにも関わらず、絶望的なまでに開きのある、力量を。
学園都市内に〝現存する〟超能力者のうち、仮に一方通行を傷つけられる可能性のあるものをあげるのならば、〝第8位〟である削板軍覇くらいだからだ。
単純な力だけではない。能力の応用性、知識、技術、他のいかなる要素を比較しても第3位(美琴)が第1位(一方通行)に匹敵するものはあろうとも、敵うものは無い。
「とにかくだ、無闇矢鱈と超電磁砲を打とうとすンな。俺はお前に、手を汚してほしくねェンだ。オマエにだけは、奇麗なままでいて欲しいンだよ」
真摯な物言いに、美琴と黒子は黙り込んだ。何を言えばいいのか、わからなくなってしまったのかも知れない。
黙りこくった二人を、一方通行は静かに見つめていた。
口にはしなかったが、そもそも、前提条件が違うのだ。
一方通行は美琴に手を汚して欲しくはない。その為ならば、自分の手を汚す事を厭わない。
エゴでいい。
偽善で構わない。
ただ、美琴には奇麗でいて欲しい。その気持ちは正直なものであり、本音を口にしていた。
物思いに耽る一方通行。それを見て取ってか、美琴が意を決したように口を開く。
「お兄ちゃ――」
「この私を置いて走り出すなんてどういう了見かにゃーん、一方通行」
しかし背後から聞こえた声に、美琴の言葉は遮られた。
- 273 :鬼桜 ◆aVMyA5iujQ[saga]:2013/11/11(月) 22:22:57.29 ID:7doYIm6J0
以上で、本日の投下を終了します。
意外と書き進めたつもりでも、思ったより進んでいませんね……
投下した量的にも、少ないような。
現状、どうにも時間が余りとれない状況が続くため、更新速度は遅々としたものになってしまいそうです。
それでも問題ないという寛大な方は、お付き合いいただければ幸いです。
2016年3月25日金曜日
美琴「お兄ちゃん!」一方通行「おォ、美琴かァ」
ラベル:
とある魔術の禁書目録,
一方通行,
御坂,
未完結
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