2013年12月16日月曜日

美琴「私が一万人以上殺した、殺人者でも?」 1

 
 ※未完作品
 
1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:25:40.67 ID:X5AOPpqso

「ええいっ、ちくしょう不幸だっ、不幸過ぎますーっ!」

 上条当麻は街灯が薄暗く足元を照らす通りを全力疾走で駆け抜けながら叫び声を上げた。

 ガサガサとやかましい音を立ててぶん回される買い物袋の中身は、最早そのままミキサーにでも掛けて怪しげな健康ドリンクにでもしてしまった方がマシな程度にぐちゃぐちゃに攪拌されている事だろう。

「くそっ、残り八人……? こんだけ走って二人しか引き離せてないのかよっ! ええいもうっ!」

 不幸の塊としては珍しく何の障害も妨害も無く行きつけの商店に辿り着き、リーズナブルな食材を満足行くまで購入する事が出来たから、機嫌よく鼻歌なんぞを歌いながらの帰り道。
 ふと目をやれば建物の陰に男三人に囲まれた見覚えのある少女が居たのをスルーしていればこんな事にはならなかった。

 しかしその時の上条は機嫌が良かった為、可憐な容姿ではあるが明らかに見た目も中身も子供な女の子に粉をかけるような哀れな男達を救済すべく、その集団の中へと踏み込んでしまったのだ。

 辺りは大通り沿いとはいえ夜も遅く一般人の通行も減り、道の両脇にろくでもない格好をした不良とホームレスがちらほら点在するのみ……と高をくくっていたのも大きな誤りだった。
 その集団に声をかけ、軽く説教でも始めようかと思った矢先、遠巻きにたむろっていた、一見無関係と思われる不良の塊がすっくと立ち上がり、こちらを囲むように歩み寄ってきたのだ。
 二~三人の塊が、一つ、二つ、三つ――合計十人に囲まれた私上条当麻が取った選択肢。
 すなわち、全力で逃走。

「なんで俺がこんな目にーっ! 不幸だあああああああっ!!」

 叫び声は空しく路地に響き渡り、薄霧に包まれた虚空へと吸い込まれていった。

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:27:45.26 ID:X5AOPpqso

 気が付くと上条を追う足音は止んでいて、そっと後ろを伺っても人の気配どころか野良猫一匹見当たらない路地が広がるばかりだった。
 前を向くと建物の間から抜けたその先は川沿いの広い道路が目の前を横切り、時折乾いた音を立てて車が通り過ぎては暗闇に慣れた目をライトで焼いていく。

「はぁ……今日も不幸だった。明日はもう少し幸福だといいなぁ……」

 左手に持った買い物袋からたぷたぷと液状になった中身を思いつつ溜め息を吐く。
 幸いにも自宅であるアパートへは目の前の川を渡れば5分と経たず到着する位置だった。
 が、橋に差し掛かった所で上条はその足を止め、再び溜め息を吐いた。

「ちょっと! 人の顔見るなり何なんだよその溜め息は! いくらなんでも失礼かも!」

 辺りに明かりもなく視界は闇に閉ざされてる中、その真っ白な服装と輝くような銀髪が鮮明に浮かび上がり、上条はそのただでさえ低いテンションを更に低下させうな垂れる。

「なんでお前がここにいるんだよ。ってかつまり、俺を追ってたあいつらは……」

「ふん、当然私が片付けたに決まってるんだよ」

 フンス、と鼻息も荒く薄い胸を張る少女の指先からは人工とも天然とも付かぬ光が灯り、少女の白磁のような顔を照らし出した。

4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:29:27.25 ID:X5AOPpqso

 そう、上条は不良どもに囲まれていた少女を助けようと声を掛けたのではない。
 この目の前の一見子供で――中身も子供だが――それだけに余計に危険極まりない少女から不良どもを助けようとわざわざ気を利かせて声を掛けたのだ。
 命が惜しかったら、すぐにケツまくって逃げ出せ、とお節介なアドバイスをする為に。

 そしてその上条の涙ぐましい努力は、結局彼女の気まぐれにより全て灰燼に帰したのであるが。

「不幸だ……」

「だから、人の顔見てその態度は失礼だって言ってるんだよ!」

 プンスカと迫力の無い怒り方をしている少女だが、先程から言っているように、見た目と裏腹に少女は10人以上の不良どもとは比べ物にならないほどに危険極まりない存在である。
 薄水色のブラウスに白いスカート、羽織られたこれまた真っ白な薄手のカーディガンという服装はこんな夜中に一人で出歩くとすぐにでも暴漢に襲われかねな い可憐な少女にしか見えないが、その胸元に掛かる特殊な形状の十字架は、見るものが見れば一瞬で顔を蒼ざめさせるであろう、魔神候補生の証である。

 魔神。

 それは、魔術を極めた結果、神の領域にまで達するものの事を言う。

 目の前の銀髪少女は、その域に達すると言われている天才魔術師。しかも彼女は見た目通り、小中学生程度の年齢で、その地位にまで登りつめた天才である。
 それは彼女の才能だとか、特異体質だとかも充分影響しているだろうが、それ以上に彼女自身の研鑽と努力の賜物である事だろう。
 そんな自信に満ち溢れた表情に、上条はしかし呆れた溜め息をみたび吐く。

「なんだってそんなお前が俺に付きまとうんだよ……」

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:31:05.07 ID:X5AOPpqso

「そんなの、貴方が逃げるからに決まってるんだよ。いい加減白黒付けさせて欲しいかも!」

「白黒も何も……俺に勝てる要素なんか欠片も無いのに何を言ってるんだか。お前は百年に一度の天才且つ魔神候補生で、俺は未だに術の一つも満足に覚えてないただのオチこぼれの見習い魔術師なんだぞ?」

「オチこぼれ、ねえ……」

 少女は如何にも自分は不機嫌ですよー、とでも言うかのように眉間にしわを寄せ、右手人差し指に嵌めた指輪を左手でなぞった。


「……ねえ、ゲーティア、って知ってる?」


「は?」

 夏場なのに、周りの空気が2~3度下がったような感覚に、鳥肌が立つ。
 少女の全身を包み込むように燐光が浮かび上がり、伸ばした指に嵌められた指輪が熱を持ったように赤く染まり始める。

「別名『悪霊の書』。ゴエティア、と言った方が正確なんだけど、日本人の貴方にはそっちの方が馴染みがあるかなって思ったんだよ。でも知らないなら使う必要も無かったかも」

「そ、そのゴエ、だかゲーだかがどうしたんだよ?」

「魔術書『レメゲトン』の第一書を指すんだけど、主にソロモン王が使役したとされる72柱の悪魔の召還法を記した禁書なんだよ。この指輪はその書の中に記述のある召還用護符の属性を付与したものなんだけど」

 言って、少女は右手人差し指にある指輪を掲げ、呪を紡いだ。


「我が呼びかけに応えよ悪魔! 30の軍団の長、地獄の大いなる侯爵、マルコシアスよ!」


 次の瞬間、少女の目の前の地面に円に囲まれた五芒星が浮かび上がり、光と共に翼を持った巨大な狼が現れた。

「……マジですか」

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:33:18.45 ID:X5AOPpqso

「……と、まあこんなものを手軽に召還出来る代物なんだよ」

 まるでマッチを使って上手にロウソクに火を灯せましたー、位のノリで化物を召還せしめた少女が得意気に鼻を鳴らす。

「お前……まさか、コレ使って不良どもを伸したんじゃないだろうな?」

「むっ、失礼かも! 流石にあの程度のチンピラをやっつけるのにこんな物騒なモノを使ったりはしないんだよ!」

「そんな物騒なモノをじゃあなんでワタクシめのように無能な魔術師見習い相手に召還しやがったんでしょうか!?」

「……フン」

 何かが少女の気に障ったのか、途端に不機嫌のオーラを撒き散らしながら少女が掲げた指をゆっくりと振り下ろした。

 その動きに呼応するように目の前の羽根付き狼がギラッ! と上条を見据え……。

「って、え? ちょ、まさか……!」

「グオオオオオオオオオオオッ!!」

「ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 危険を察知し身構えると同時、覆いかぶさるように襲い掛かってきた。その巨躯は一瞬にして上条に覆い被さり、轟音を持って振られた腕は上条の身体など襤褸切れ同然に吹き飛ばす、かのように見えたのだが。


「……で、なんで貴方は全くの無傷なのかな?」

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:35:41.59 ID:X5AOPpqso

「…………」

 その場には吹き上げられた砂埃にまみれつつも、右手を頭上を守るように掲げた上条の姿があるのみで、先ほどまで凄まじい威圧感を放っていたソロモンの悪魔は影も形も見当たらない。

 上条の掲げた右手が、正式な手続きを踏む事でしか還る筈の無い悪魔を、消し去ったのだ。

「ホント、その力は本当に何? 私が今まで読んできた10万3000冊の魔術書の中にも、そんな術式も霊装も用意してないのに全てを打ち消すような術なんて載ってなかったんだよ。私が百年に一度の天才だって言うんなら、貴方は千年に一度の天災かも!」

   イマジンブレイカー
――幻 想 殺 し

 少年の右手に宿りしそれは、異能の力であれば魔法の炎でもソロモンの悪魔でも触れれば一瞬で無に帰す。
 ただし、その右手が打ち消すのは異能の力のみであり、例えば一撃で人間の身体など肉片に出来る悪魔を消し去れるとしても、その悪魔が足元のアスファルトを踏み砕いたら、上条は約9メートル下の水面に打ち付けられ、運が悪ければ溺死体となるだろう。

 なので。

(怖えーっ! 何なのあの化物っ! 咄嗟に庇った右手に当たったら消えたけど絶対死んだと思った! 走馬灯十周くらいぐるぐる回ったよ今ッ!!)

 表面上平静を装い体中からダラダラと大量の汗を噴出させ、それでも男の意地とばかりに虚勢を張ったまま呟く。

「なんていうか、不幸っつーか……ついてねーよな」

 上条の言葉に、ぐっ、と気圧されるように少女が顔をしかめ、目の前の少年を睨みつける。
 犬歯さえ覗かせて苛立ちを露にする少女に、上条当麻はその日を締めくくるように深い溜め息を吐いた。

、 、 、  、 、 、 、、 、 、 、 、
「オマエ、本当についてねーよ」

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:37:44.00 ID:X5AOPpqso
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 英国領、グレーター・ロンドン。
 19世紀からの産業革命による急速成長を遂げ、現代社会の中心地の一つであると同時に、数々の歴史的な建造物をそのまま残した、欧州、いや全世界でも有数の大都市。
 そんな発展した都市であるこの街に住む人々は、当然、皆多かれ少なかれ科学の恩恵を受けていて、その信望者でもある。

               オカルト
 だから、その裏に潜む非科学の存在を知らないし、それを疑っても居ない。

     そ れ
 だが、非科学はその街の中心に確実に根を張って存在しており、屋台骨の一つとして大英帝国を支えてさえいるのだ。

                                   ネセサリウス
 そして、裏の存在である非科学の、その更に裏側に、”必要悪の教会”という組織が存在している事は、更に希少であり、そんな奇特な組織の末席にその不幸な少年が一人、座している

 名を、上条当麻。

 魔術の才能も無ければ頭の出来も悪く、その特殊の右手だけが一際異彩を放つものの、魔術師としては彼の利き腕でもあるソレはただの邪魔物でしかないという現実、とどう贔屓目に見ても”向いてない”、”場違い”な彼がそんな組織に所属しているかというと。

 一言で言えば彼が不幸だから、である。

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:39:38.61 ID:X5AOPpqso

 幼い頃から不運にまみれた人生を送り、周りからは疫病神とまで呼ばれ疎まれ蔑まれ、見かねた父親が頼ったのは、よりによって、科学万能の現代社会に真っ向から歯向かう選択――すなわち、”非科学”だった。

 世界最大の宗教である十字教、その三大勢力の一つであるイギリス清教に海外出張の際に邂逅を果たし、ぞっこん入れ込んだ父親により、上条当麻はイギリスに連れて来られ、興味の薄い参拝旅行に強制的に参加させられたのだ。
 そして例によって彼の不幸が発動した。

 その旅行、上条にとっては退屈そのものでしか無かった。
 興味の無い文化の興味の無い観光施設に無理矢理つれてこられ、そして同行者である父は熱心にその文化の、施設の素晴らしさについて熱弁を奮ってきて上条があからさまにヒいてるのにも全く気付く様子なく一人でハッスルしているのだ。
 これで楽しめという方が無理なもので、上条当麻(当時小学生)はとにかくこの苦痛の時間が早く終わってくれることだけを考え、鼻息の荒い父親の後をてくてくとついていくのみだった。
 そして、あまりの退屈さに欠伸を噛み殺すのも億劫になった上条は、近くにあった丁度いい高さの彫像に右手を掛けて寄りかかり。

 バギン、と乾いた音が響き渡った。


 晴れてイギリス清教の(裏側の方の)お偉いさんに見初められた彼は、色々な紆余曲折を経た上で、”その身の不幸体質を究明し、解消する為”という本音と 建前の入り混じった理由により”必要悪の教会”の一員として、”魔術”の勉学に励む見習い魔術師として迎え入れられたのである。


 勿論、その事が彼の不幸人生を軽減するどころか加速させた事は言うまでもない。

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:41:17.32 ID:X5AOPpqso

 そして今日もロンドンの片隅にある、古びた街並みの中でも一際古めかしくこじんまりとしたアパートの一室にて、上条当麻の不幸な一日は幕を開けた。

「いや、何も朝っぱらから不幸な一日と決め付ける事はないよな……」

 我ながらしょうもない事を呟いてるな、等と情けない事を自覚しつつ、上条はのそのそとくたびれた布団から這い出した。
 ふと見れば眩いばかりの日差しが部屋に差し込んでいる。ここの所曇りの日が続いていたが今日は三日ぶりの晴天だ。流石の上条も今日ばかりは何かいい事がありそう、と心を浮き上がらせる。

「そうだ、布団でも干すか」

 何しろ三日ぶりのいい天気である。今日干さなければ明日からまた曇天や雨天に見舞われないとも限らない。空には雲ひとつなく、万が一にもにわか雨で台無 し、という展開も有り得るとは思えず、取り込む頃には太陽の臭いを沢山吸った、ふかふかの布団を堪能できる事だろう。
 何だか思考もヤケにポジティブになった上条は、三つ折りに畳んだ布団を両手で抱え、器用に足で窓を引き開けると、ベランダへと足を踏み出した。


 ベランダには既に少女が干されていた。

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:42:55.74 ID:X5AOPpqso

「…………」

 ずるずると布団を取り落とし、目の前の物体をマジマジと見つめる。

(……うわ、美少女だ……うちのベランダに美少女が干されてる……)

 化粧っけも全くなく、埃や擦り傷さえついてるのに、文句なしの美少女だった。
 年頃の男の子たる上条としてもこうまで間近で美少女の、しかも無防備な寝姿を見るのは初めての体験だ。

(つか……日本人、だよな? 女子中学生?)

 肩までの茶色い髪をシンプルなヘアピンで留め、半袖のブラウスに袖なしセーター。
 すらっとした細身の体型に、プリーツスカートから伸びる長い足は白く、そのスカートの短さは年頃の男の子である上条にとって目に毒である。
 ふと、吹いた風にプリーツスカートがまくれあがってドキリとさせられたが、その下から覗いたのは色気の薄い短パンで、思わず上条は心の中でがっくりと膝をつきうな垂れた。
 とはいえ、太ももの付け根の方まで見れたことや短パンごしにうかがえる形の良いお尻は充分に眼福だったりして。

 ……いやいや、俺は気を失ってる女の子を前にして何考えてやがりますか!
 っていうかそもそもなんでうちのベランダに女の子が? っていうかこの子ボロボロじゃないか。ひょっとして死んでたりしないよな?
 どうしよう、触っちゃって良いのかな。触って指紋とかついちゃったら俺殺人犯として疑われちゃうのかな。でもなんか触ったら柔らかそうで正直触りた…… いかん、その展開は不幸全開の上条さん的にもろくそリアルに想像できるっ! いや待て上条さんは清廉潔白純情少年なのですよ! 生まれてこの方罪など犯し た事は……そりゃ拾った100円をネコババしようとした事はあるけど、あれはその姿を速攻持ち主に見咎められボコボコに殴られたからノーカンなの! 第一 あの時のオッサンもたかだか100円程度で心が狭いったら無いね! どうみてもヤのつく人だったんで全力で土下座したけど……。その後全力で逃走したらド ブにハマったり財布落としたりしたけど……。

「ねぇ、ちょろっとー」

「ああ、思い返せば不幸な人生だった……」

「おーい、もしもーし。聞こえてるー?」

「色々不幸を思い出してたら腹減ってきたな。そういや朝飯まだだったっけ」

「…………」

「あー、作る気力も湧かねぇ。パンでも焼いて食えばいいk」

「い・い・か・ら・人の話を聞けええええええええええ!!!」

「おわああああっ!?」

 辺りのガラスがビリビリと振動音を立てる程の大音量が響き渡り、上条の心臓がドッキュン、と跳ね上がった。

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:43:59.83 ID:X5AOPpqso

 一瞬遠のきかけた意識を取り戻すと、向かいの建物や僅かに道行く通行人が辺りを見回して音の源を探しているのが目に入り、上条は慌てて目の前の少女をむ んずと左手で引っつかむと全速力で部屋の中へと引っ込み窓を閉め……ようとしたらさっき取り落とした布団が引っ掛かって閉まらない。仕方が無いのでカーテ ンを閉める事で誤魔化した。

「はぁっ、はぁっ、あ、あぶねー。もう少しで俺が傷だらけの少女をベランダに天日干しにする変態嗜好の最低クズ野郎認定される所だったぜ……」

「そういう今のアンタはその傷だらけの少女を脇に抱えたまま荒い息を吐くアブないお兄さんにしか見えないけどね」

「うわああっ、わ、悪いっ!」

「って、きゃあっ!? い、いきなり放り出すんじゃないわよ、ってて……」

「あ、すまん。ってお前がいきなり人を動揺させるような事言うからだろうが! 第一人様の部屋のベランダで大声で叫ぶとか止めろよな心臓に悪過ぎる!」

「しょうがないでしょ! アンタが幾ら話しかけてもブツブツとわけのわからない事呟いて人の事無視するからっ!」

「そりゃ朝起きていきなりベランダにボロボロの女の子が引っ掛かってたら誰だって現実逃避したくもなるわっ! そもそもなんでお前はあんな所にあんな体勢で引っ掛かってたんだよ!?」

「そ、それは……その」

「な、なんだよ……」

 売り言葉に買い言葉とばかりに怒鳴りあってた上条も、いきなりしおらしくなった少女の様子に戸惑う。
 きゅっ、と両の拳を強く握り締め、少女は躊躇うように、しかしはっきりと呟いた。

「追われているのよ……」

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:45:22.82 ID:X5AOPpqso

 もし上条当麻が、現在の彼のように人とは違う数奇な運命を辿ったのではなく、ごく普通の日本人として日本で育ち日本の学校に通い、平凡な高校生として過ごしていたのなら、少女の言葉に深い溜め息を吐き、

「何を馬鹿な」

 と斬って捨てた事だろう。

 しかし、上条当麻は知ってしまっている。
 この世には、裏の世界が存在している事を。
 皆が事件もなくつまらない、平和な日常を送っているすぐ一つ裏の路地では、血が流れ、骨が砕かれ、肉を焼かれる暗闇が存在する事を。
 生まれ付き稀有な右手を持っている上条でも、つい数年前までは想像さえしていなかった。
 しかし今、彼はオカルトという世界に足を踏み入れ、見習いのペーペーという立場ではあるけれど、少なくとも腰の辺りまではどっぷりと浸かり、最早簡単に抜け出す事は出来ないであろう位には非日常に染まりきっている。

 だから、彼は、自嘲するように微笑み、しかしまっすぐこちらを見て目を逸らさない少女の視線を受け止め、見つめ返して言った。

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:45:49.77 ID:X5AOPpqso


「何を馬鹿な」


「ちょっと! 思わせぶりに引っ張っておいてそれは無いでしょ幾らなんでも!」

「いやいや、でもそれはねーよ。追われてるって今時中二病にも程があるぜ? しかもそれでなんでよりによってこんなボロアパートのベランダに引っ掛かって るんだよ。その設定ならどっちかっつーと街角でぶつかってきてとか裏路地で倒れているのを偶然通りがかってとかそっちの方がしっくり来るぞ」

「そんなのこっちが好きで引っ掛かってたんじゃないんだから仕方ないじゃない! こちとら追っ手を撒く為に必死で、屋上から屋上に飛び移ってたら流れ弾に当たって気が付いたらあそこに引っ掛かってたんだから!」

「屋上から屋上ってお前自分が忍者だとか言うつもりか? 忍者とかいう設定喜ぶのはアメ公くらいで純粋な日本人が忍者ネタ使うのは幾らなんでも重症じゃ……」

「忍者ネタって何よ!? っていうかなんでアンタは私が中二病って前提でしか話が出来ないのよ! 確かに私はリアルで中二だけど中二病発症してまで人様の家のベランダに引っ掛かって遊ぶ趣味は持ち合わせていないわ!」

 それと、一応言っておくけど私は忍者じゃなくて超能力者だから! と怒鳴りながら付け加えるのを忘れない美琴に、アカンこれは本当に重病患者だと上条は右手で口元を抑え涙を堪える。

「……大丈夫だ、中学生なら誰しもそういう病気に罹る物なんだ。それは後で思い返せば確かに恥ずかしい事かもしれないけど、その経験はきっと将来クリエイティブな仕事に付く時にはきっと役に立つ」

 言って、美琴の肩に手を掛けようとするとバチコーンと思い切りハタかれた。痛い。

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/26(土) 14:46:42.05 ID:X5AOPpqso

「だからその異様なほどに優しい眼差しでこっち見んな哀れむな同情すんな! っていうかその場合ごくごく平凡な会社員とかになった場合はどうなるのよ!」

「そっと胸の奥にだけしまって墓の中まで持ち込むしか、ないな」

「そんな悲しい未来は嫌っ!?」

「人間、諦めが肝心だぞ」

「安っぽい同情してんじゃないわよ! っていうか違うから私のは中二病的なアレじゃなくてガチで追われてんの! だからそんな痛ましいものを見るような目でこっち見んな重い溜め息吐くな何もかも理解したような顔で深く頷くなぁっ!!」

 はぁ、はぁ、と息を切らせ少女の肩が上下する。
 そんな少女の必死な様子を見て、上条は上条でなんだか愉快な子だなぁ、と心の中で呟いた。恐らく聞かれたら思いっきりぶん殴られるだろう失礼な呟きである。

「あー、まあなんつーか、散々からかっておいてなんだが、な」

「な、何よっ、今更謝っても許してなんてあげないんだからね!」

「その……さっきも言ったけど俺朝飯まだなんで腹減ってるんだよな。良かったらお前も食うか?」

「ッ! 誰がアンタの施しなんか……!」

 ぐううううきゅるるるる、と、可愛らしい腹の虫が鳴った。恐らく、目の前の少女の胃の辺りから。
 ふと見やれば少女の顔がみるみる内に真っ赤に染まっていく。あまりの恥ずかしさに目の端に涙まで浮かべているので、上条は指摘しようと開きかけた口を閉じ、頬を掻きながら「いいからその辺に座って待ってろ」とキッチンへ向かった。

 ふと目を逸らす直前に見えた、こちらに手を伸ばしかけて引っ込める真っ赤な顔の少女を見て、上条は苦笑を噛み殺す。
 折角だからトーストに乗せる苺ジャムくらいは多めにサービスしてやろう。



48 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:02:46.08 ID:X5AOPpqso
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「まずは自己紹介しなくちゃね。私は御坂美琴、見ての通り日本人よ」

「御坂、ね。俺は上条当麻。こちらも見ての通り日本人だ」

「上条さん、ね。よろしく」

「お、おう。よろしく」

 ジャムトーストとベーコンエッグというお手軽もお手軽な朝食を終え、ひとここち付いた所で、傷だらけの少女改め美琴と向かい合う。
 こうして落ち着いてみると、確かに傷だらけで、ブラウスやセーターやスカートのあちこちが擦り切れたり汚れたりしているが、少女は整った容姿をしていた。
 一言で言えば美少女だ。
 化粧っけは全く無かったが、それが逆に少女の健康的な美しさを演出しているとも言え、曲がりなりにも年頃の男の子である上条は正面から向かい合うのが照れ臭い。

49 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:04:03.96 ID:X5AOPpqso
                                        ロンドン
「しっかし、アレだな。幾らイギリスの中でも比較的外国人が多い首都とはいえ、まさかピンポイントで日本人が住んでる部屋のベランダに引っ掛かるとは、お前凄いよなー」

 照れ臭さを誤魔化す為に適当に話題を逸らす上条だが。

「あはは、言われて見ればそうよねー。なんだか運命じみたものを感じちゃうわ」

「う、運命!?」

「え? いやいやいやマジに捉えないでね? 軽いジョーダンよジョーダン!」

「あ、わ、悪いそうだよな」

 上条当麻、年下の少女にちょっぴりドキドキしてしまうの図。余計に墓穴を掘ってしまったと反省。

「そ、それよりえっと御坂、さん」

「呼び捨てでいいわよ。アンt……上条さんの方が年上だろうし、堅苦しいの苦手だからフランクに行きましょ?」

「そっか、んじゃ御坂。俺の方も呼び易い呼び方でいいぞ。年上っつっても大してかわらなそうだし、敬語も不要だ」

「……そ。ありがと、助かるわ」

「それより、御坂。あちこち傷だらけじゃないか。救急箱あるから軽く手当て位はした方がいいんじゃないのか? 服もボロボロだし何か貸そうか?」

「んー、そうね。正直あちこちヒリヒリするから、悪いけど好意に甘えさせてもらおうかしら。でも服は良いわ、多分借りても返しに来れないだろうし……」

「あ、そっか、追われてるって設定……じゃない、マジで追われてるんでしたねすいませんでしたぁっ!」

 会話の途中で美琴方面から尋常じゃない怒気を感じた上条は素早く土下座の姿勢にてその怒りを収める事に成功する。普段からその不幸体質で危ない人に絡ま れやすい上条の得意スキルの一つ『THE・瞬間土下座』がこんな時に役立つとは、等と上条は自分の運の無さに一瞬感謝しかけ、次の瞬間に暗鬱な気分に陥っ た。
 トボトボと救急箱を取りに部屋の隅へ移動する上条に、思わず美琴も申し訳ない気持ちになりそわそわと膝を擦り合わせるものの、何を慰めれば良いのかさっぱり分からず結局何も言えないまま渡された救急箱を大人しく受け取った。

50 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:05:27.08 ID:X5AOPpqso

「中の物、何使っても良いからな。使う機会も多いから包帯とか消毒液の在庫は多めに備蓄してあるし」

「ありがと……使う機会が多いって、なんか激しいスポーツの部活動とかやってるの?」

「ああ、まあそんなとこ……」

 実際はそんなとこじゃなく、単に自らの不幸体質のせいだなんて言えない上条は不自然に目を逸らすと乾いた笑いと重い溜め息を漏らすのだった。

 と、美琴の方に目をやると、何だかそわそわとしながら上条の様子をチラチラ伺っていた。
 なんだ、トイレか? というベタなボケが一瞬浮かんだが、すぐに合点が行って上条は立ち上がりながら何気ない風をよそおい尋ねた。

「えっと、飲み物でも買って来ようと思うけど、御坂は何か要るか?」

「あ、うん。じゃあ、ヤシ……じゃない、何かサイダー系があれば、それで」

「あいよ」

 去り際にひらひらと手を振り、上条は自室を後にした。

51 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:06:25.49 ID:X5AOPpqso

 上条が去った後、遠ざかる足音に耳を凝らしていた美琴は、そこからたっぷり百秒ほど待ってから衣服に手を掛け、脱ぎ始める。
 細かい傷は全身のあちこちに刻まれ、服を着たままでは手当て出来ない箇所が幾つもあるのだ。
 流石にさっき知り合ったばかりの男の子の前で服を脱ぐ真似は出来ず、さりとて世話になった人に出て行けとも言えなかったので、上条が空気を読んで外出してくれたのはありがたかった。

 ふと、わき腹の青痣に湿布を貼りながらその傷を負った場面を思い起こす。
 じわり、と目の端に涙が浮かびかけ、慌てて少女はそれを拭い脳裏の映像を消し去るように頭を左右に振った。

「どうして、こうなっちゃったのかな……」

 弱々しい少女の呟きは、誰にも届く事無く、空気に溶けて消えた。
 包帯を巻く手はのろのろと動き、手当ては遅々として進まない。

 見知らぬ街の片隅で。見知らぬ少年に温もりを与えられ。それでも少女はただひたすらに孤独だった。

52 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:07:24.36 ID:X5AOPpqso
――――――――
――――
――


「超能力、ね」

 行きつけの雑貨屋で飲み物を購入した帰り道、人通りのまばらな路地を歩きながら上条は呟いた。
 美琴の前では中二病呼ばわりしてからかいはしたものの、実際上条は少女からキナ臭いものを感じ取っていた。

 イギリスに移住する前、住んでいた実家の程近くに『学園都市』なる場所があった。
 東京都西部のほとんどを高い壁と厳重な警備システムで囲い、その中にはその名の通り夥しい数の教育機関が詰め込まれた、学生の為の街。
 しかしその詳細は外部への徹底的な情報規制の下ほぼ霧の中。周辺では怪しげな噂話が幾つも広まっていて、当然上条もその一部は耳にした事がある。


――曰く、学園都市内部では、子供達を使い、超能力の開発を行っている。


 火の無い所に煙は立たず、とは言うものの、物には程度というものがあり、実際火の無い所に煙を立たせる輩など履いて捨てるほどいる事くらい上条も熟知している。
 そして『学園都市』とは、その閉鎖的な性質上、そういった性質の悪い輩のやっかみの対象としては余りに適当に過ぎた。
 しかもよりによって超能力、と来たもんだからいくら何でもその噂が荒唐無稽の笑い話に過ぎない事など、幼い時分の上条であっても分かりすぎる位に分かり過ぎるという物だ。

53 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:09:56.04 ID:X5AOPpqso

    オカルト
 だが、魔術が存在する事を上条は知っている。


 ここ、霧の中の街であるロンドンで、表の世界の住人には決して知られないまま、魔術はあちこちに潜み、溶け込んでいる。
 そんな事を通りを歩く学生もしきりに時間を気にしているビジネスマンも楽しそうに歩く親子連れも真っ白い服に銀髪の少女も一切知らず、のほほんと平和で退屈な日常を過ごしている。

「…………」

 そのまま何も見なかった事にして通り過ぎようと上条が歩を進めようとすると、その白い銀髪少女が物凄い形相をしながら前方に回りこんできた。

「ちょっとそこのツンツン頭! 今あからさまにスルーしようとしたよね? いい度胸してるかも!」

「……あー、なんだチビッ子魔神か」

「むきーっ! 私にはインデックスってちゃんとした名前があるんだよ! いい加減ちゃんと覚えて欲しいかも! 貴方初めて会った時からチビッ子って言ってるし!」

「初めて会った時……?」

 言われて上条はその時を思い出してみる。

54 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:10:58.02 ID:X5AOPpqso

 それは一ヶ月前の事だろうか。
 初めて会った時もこの女は不良どもに囲まれていた。そう言った場面を見過ごせない性質の上条は当然割って入ったのだが。

『やー、こんな所にいたのかー、ダメじゃないかはぐれちゃー』

『……私、貴方の事知らないんだよ。手、離して欲しいかも』

『ハハ、ハ……ハ?』

『いいから離して。汗でベタベタして気持ち悪いんだよ』

『いや、お前ここは話を合わせろよ! 折角の俺の『知り合いとの待ち合わせのフリして連れ出しちゃうぞー♪』作戦がっ!』

『なんでそんなメンドクサイ事しなくちゃいけないの?』

『おまっ……!』
                                                  サモンイフリート
 そのまま少女と口論になってガキだのウニ頭だの罵りあった挙句少女がキレて炎の魔神召還ーどかーん(この時点で不良ども全滅)とかなって咄嗟に右手で防 御したら、なんで無事なんだと因縁を付けられ、次々と魔術で攻撃をふっかけられたりそれを打ち消すやり取りを繰り返した挙句、何故かそれ以来目を付けられ 会う度ケンカをふっかけられるような関係になってしまったのだった。


「これが不幸と言わずしてなんといえばいいのだ……」

「……何いきなり遠い目をして人の事無視するのかなこのウニ頭は」

 上条としては今は部屋に残してきた少女の方が気になる。とりあえず目の前のチビッ子は適当にあしらう事にした。

55 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:12:23.70 ID:X5AOPpqso

「で、何か用でもあるのかよ 。そもそもお前の家も通ってる教会も反対方向だろ。もしかして嫌味な上司にパシらされてるとかか?」

「そんな事させられてないんだよ! それよりっ! 今日という今日こそ私の魔術でコテンパンに打ちのめしてやるんだから黒コゲにされるか手足引き千切られてダルマになるか全身の穴という穴から墳血するか好きな死に方を選ぶといいかm……むぐっ!?」

 街中で物騒な発現を大声でわめき散らすインデックスの口を思い切り右手で覆い隠した。

(馬鹿野郎っ! こんな一般人が大量に居る所で魔術だとかダルマとか物騒な事大声で言うんじゃねぇっ!)

(むーっ! むぐぐーっ!)

(き、聞かれてないよな今の……?)

 暴れるチビっ子を必死で抑え付け、上条は辺りの通行人の様子をチラリと窺う。


 ざわ……

    ざわ……


(…………ん?)


 あらやだ、誘拐……?

    冴えない顔した男ね……きっと女の子にモテないからって……


(あれーっ!? ひょっとして俺の咄嗟の行動裏目ですかーっ!?)

56 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:13:41.45 ID:X5AOPpqso

「…………え、あ、いや。これは……ですね」

 ピピーッ! と鋭い笛の音が響き渡った。
 釣られて目を向けると、ごっつい体つきをした警察官がこちらに向かってくるのが目に入った。

「ゲッ! ちょ、ちょっと待っ……いやこれは違うんです誤解ですああもう不幸だちくしょうーッ!」

「あっ、ちょ、ちょっと待つんだよウニ頭!」

「不幸だああああああああああああああっ!!!」

 泣きながら全力で逃げ出した上条を、インデックスは慌てて追い掛ける。
 上条当麻、結局本日も不幸まっさかりであった。

57 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:14:42.54 ID:X5AOPpqso

「はぁ、はぁ……ああもう畜生一体俺が何をしたってんだ」

「大人しく私と勝負しないのがいけないんだよ」

「…………なぁ、なんでお前居るの?」

「なっ! いちゃいけないの!?」

「うん」

「むきーっ! ムカつくムカつくムカつく! いいからとっとと勝負なんだよ!」

「勝負も何も、お前が一方的に魔術ぶっ放して俺が全部打ち消してるだけじゃないか。そういうのってただのイジメって言うんだぞ。前園さんもカッコ悪いって言ってるしいい加減にしたらどうだ?」

「何を訳の分からない事言ってるんだよ! 大体そっちがカッコつけて攻撃しないからイジメみたいになるだけかも! いい加減マジメに私と戦うんだよ!」

 キャンキャンとうるさい少女に、上条は溜め息を一つ吐き出した。

 、 、 、 、、 、、 、 、 、、 、 、 、 、
「じゃあ、マジメにやっていいんかよ?」

58 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:15:32.73 ID:X5AOPpqso

 ぐ……ッ、とインデックスは言葉を詰まらせた。

 上条にまっすぐと睨まれただけで少女の全身は強張り、指1本動かせなくなる。
 インデックスにとって上条当麻とは得体の知れない恐怖そのものだ。
 何しろ、自分が今まで築き上げてきた自信もプライドも魔術の技術も、訳の分からない内に全て打ち消されてしまい、何十もの魔術攻撃を打ち込み続けたにも関わらず、当の上条は舞い上がった埃や土に汚れてはいたものの全くの無傷だったのだから。

 ふ、と上条は目を逸らしてガリガリと頭を掻く。ただのハッタリだったにも関わらず思い切りビビられてしまった。これじゃホントに年下の女をイジメてるだけにしか見えない。

「はぁ……まったく、なんで俺の周りには自称超能力者とかチビッ子魔術師とかそんなのばかりなんかね。なんつーか、不幸だなぁ」

「ちょ、ちょうのうりょくしゃ……?」

 さっきまでギャーギャーうるさかった少女なら噛み付いてきそうな発言なのに、今はびくびくと若干距離を取りながら聞いてくる。
 自分から絡んできたくせに、と思わないでもないけど、そこまでビビらせてしまったのは上条本人であるし、何とも複雑な心境だ。
 なんだかばつが悪くなった上条だが、何の気なしに半歩踏み出したらびくぅっ! と、2~3歩後ずさられてしまい、思わず溜め息が漏れる。

「…………はぁ」

 どうやら今は自分が何をしてもビビるモードのようだと判断した上条は、仕方ないので雨の中の捨て犬のようにブルブル震える少女を放置して家へと足を向けるのだった。

59 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:17:26.77 ID:X5AOPpqso
――――――――
――――
――


「ただいまーっ、と」

――!? わっ、ひゃっ!

 玄関を開けると、奥の方からどったんばったんと派手な音が悲鳴と共に響いた。

「? ……まさかっ!」

 一瞬考え込んだ上条だが、美琴が追われている事を思い出し、即座に駆け出す。
 本当に追っ手が来ているのであれば逃げ場の無い狭いアパートの部屋はただの袋小路であり、危険な死地となる。


「無事かっ、みさ、か……!」

 短い廊下を一足飛びに駆け抜け、奥の部屋に飛び込むと、上条の目の前には肌色が広がっていた。

「…………へ?」

「……………………」

 上条の目の前で、ベッドに腰掛けた姿勢で固まってる御坂美琴。
 ベッドの枕元付近にはサマーセーターとブラウス、スカートと短パン、そしてブラ……が綺麗に畳んで置いてあり。



 つまるところ、御坂美琴は裸だった。

60 : ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/03/26(土) 20:17:57.60 ID:X5AOPpqso

 かろうじて、見てはいけなそうな部分には包帯が不器用に巻かれているおかげで隠されているので、一応セーフ? と上条としては思いたいのだが。

「………………」

 思い切り涙目の美琴を見るに、こりゃ多分アウトだろうなぁと諦めの心境に陥る。

 そして、そんな上条に更に追い討ちをかけるかのように、パサリ、と明らかにヘタクソに巻かれた包帯がずり落ちて布団に着地した。

「………………」

「………………ふ」

「ふ?」

「ふにゃあああああああああああ!!」

「ぎゃあああああああああああああああああッ!」

 バチバチビリビリィッ! と突如少女の前髪から危険な音と共に蒼白い光が撒き散らされる。
 咄嗟に右手を突き出したのは習性なのか本能なのか分からない。
 が、その蒼白い光は上条が突き出した右手に触れると、バギン、と甲高い音と共に消え去った。



90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:01:42.35 ID:/Fwu0hYwo

「あ、れ……?」

「…………へ?」

 思わず顔を見合わせる少年と少女。

「い、今の……何?」
                      エレクトロマスター
「あ、その……今のが、私の超能力。電撃使いって言って、電気や磁力を操る事が出来るの」

「電撃使い……」

「そ、それよりアンタの方こそ、今の何? 私の電撃が消えちゃったんだけど……!」

「あ、ああ。これはだな……」

91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:02:37.14 ID:/Fwu0hYwo
――――――――
――――
――


 イマジンブレイカー
「幻想殺し……?」

「ああ、俺はそう呼んでる」

 あの後、あまりの事に冷静になってしまった事が幸いしたか、裸を見られた事はとりあえず不問にして貰えたようだ。
 ちなみに美琴は包帯を巻くのが非常にヘタクソで、上条が結構な時間を掛けて外出から帰ったにもかかわらず上手く負けずに四苦八苦してたとの事で、仕方な いから上条が代わりに巻いてやった。はっきり言って羞恥プレイだったがそれについても何とか我慢してもらえた……と、思う。

 そして、今は改めてお互いの能力について情報交換をしているといった状況である。

「異能の力なら、なんでも……って。嘘みたいに反則な能力ね、それ」

「確かにな……生まれた時から付き合ってる俺も、良く分からない部分が沢山ある。ある人には、これがあるせいでお前は不幸なんだって言われた事もあるんだぜ」

「え、不幸? なんで?」

「なんでも、この右手は神様から与えられた幸運さえも打ち消してしまうんだと」

「神様……か」

「ん? どした?」

「いや……何でもないわ」

92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:03:55.28 ID:/Fwu0hYwo

 言いつつ、虚空を睨みつけるように黙り込む美琴を見ると、どこが何でもないんだよと言いたくなる上条だが。

(……ま、聞くのも野暮ってもん、かな)

 色々喋って喉も渇いたので、買って来た瓶入り飲料を取り出し、片方を美琴へ投げ渡す。

「ひゃっ! あ、ありがと」

「あ、ちょっと温くなっちゃってるのと、持ちながら走ったから噴きこぼれるかも知れないから気をつけろよ」

「え、ちょ、きゃっ!?」

 思い出したかのように注意した上条だが、時既に遅く、少女の手元から白濁した泡が吹き出し少女の手に噴きかかった。

「は、早く言いなさいよそう言う事!」

「あ、悪い。言うの遅かったか……」

「あうう……手がべとべとするぅ……」

 幸いにも瓶を持っていた手とスカートの端が少し濡れただけで済んだようだ。
 渡した濡れ布巾でスカートの端を丁寧に擦る美琴を眺めていると、ふとこちらを見た美琴と目が合った。

「……何よ」

「あ、いや。渡した方半分くらいこぼれちまったし、こっちと取替えようぜ」

「え、いいわよ別に……。私の方だって不注意だったんだし」

「いいからいいから」

93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:04:36.06 ID:/Fwu0hYwo

 半ば強引に美琴から瓶を奪い取ると、自分の持つ未開封の物と取り替えてやる。
 一瞬戸惑ったような表情を浮かべた美琴だが、渋々といった様子で瓶を受け取ると、今度は慎重にその蓋を開封した。
 こぼさずに開封出来た事にほっとしたような顔をした美琴は、喉が渇いてたのもあり瓶に口をつけぐいっと傾ける。

「んく、んく――――むぐっ!? ご、ごほっ! ごほごほっ! な、にこれ、苦っ!」

「何って、ジンジャービアだぜ。ジンジャーエールの元ネタ」

「ジンジャービア……これが?」

「飲むの初めてか? こっちじゃ一般的なんだけどなぁ」

「アンタ、思い切り顔ニヤけてるわよ。ひょっとして図ったわね?」

「へへ、これ初めて飲む奴は大抵強烈なジンジャー臭にむせるんだよなぁ。俺も最初はそうだった」

「くっ、こ、子供の悪戯かっつーの!」

「いやまぁ、なんつーかある意味お約束っつーかなんつーか。でも美味いだろ?」

「う、ま、まあ美味しいけどさ」

 どこか納得できない顔をしつつも、ちびちびとジンジャービアを飲む美琴。なんだかんだで気に入ってくれたようで、内心してやったりの上条だった。

96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:06:02.35 ID:/Fwu0hYwo
――――――――
――――
――


「じゃ、私そろそろ行くわね。色々ありがと、世話になったわ」

「え、お、おい」

 さばさばとした表情で笑い、立ち上がる美琴に上条は戸惑った。
 何を戸惑ったのか? 上条本人にも分からない。が、何となくこのまま少女を行かせたくない。不思議とそう思った。

 が、美琴はスタスタと玄関に移動し、既にドアに手を掛けている。

「あの……御坂」

「何?」

「えっと……行くアテとか、あるのか?」

 落ち着き無く聞いてくる上条に、驚いたように美琴は振り返る。

「何? 心配してくれてるの?」

「え? ああ、いや……そりゃ、心配くらいするだろ。お前は曲がりなりにも若くて可愛い女の子なんだし、ここはお前にとっちゃ勝手が分からない外国なんだぜ?」

 先程のジンジャービアのやり取りを見ても、美琴がロンドンという土地に慣れていない事は明らかだと上条は確信している。
 そんな見知らぬ土地に一人、しかも怪我だらけの少女を放り出すと思うと、生来のお節介な上条としてはとてもじゃないけど放ってはおけない。

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:06:42.50 ID:/Fwu0hYwo

「ふーん、そっか。心配してくれてありがと」

 クスリ、と笑う美琴に食い下がろうとする上条だが。

「でもね」

 バチッ、と美琴の前髪から蒼白い閃光が迸る。次の瞬間、それは上条が伸ばしかけた右手に吸い込まれ、パキン、と乾いた音を立てて消滅した。

「この通り、私はただのか弱い女の子じゃないわ。だからご心配無用」

「で、でもよ……」

「あ、そうだ」

 何かを思い出した美琴はドアに向いていた体をクルリと上条に向け直し、ニッコリと笑いながらチョイチョイと手招きをして見せた。

「ちょいとアンタ、顔貸しなさいよ」

「? なんだ?」

「いいから、美琴さんからの最後のお礼よん♪」

「良く分からないけど……こうか?」

「そうそう、ちょっと右向いてー。うんうんそんな感じそんな感じ」

「…………?」

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:08:11.63 ID:/Fwu0hYwo

 言われるがまま顔を近づけ、美琴に頬を向ける姿勢を取る上条。
 一瞬、これはまさか……キで始まりスで終わる甘酸っぱい青春のアレとかソレとかですかーっ!? と思いちょっぴりドキッとした上条だが、




「じゃ、後は歯を食いしばってねー」


「……え?」



 次の瞬間物凄い殺気を浴びせられ、その幻想をぶち壊された事を知る。


「さっきは良くも人の裸見てくれたわねええええええええっ!!」


「ごっ、がァあああああああああああああああああッッッ!?」

          ビリビリ
 轟ッ!!! と電撃が篭められた拳が唸りを上げたかと思うとそれはまっすぐに上条の左頬に突き刺さる。上条はノーバウンドで5メートルほど吹っ飛び床を転がり奥の部屋の壁に激突、肺の中の空気を全て吐き出し、床に崩れ落ちた。

「はー、すっきりした。んじゃ、さよならー♪」

「待てコラッ! 恩人になんていう仕打ちして行くんだテメェッ!」

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:09:29.88 ID:/Fwu0hYwo

「だーかーら、それはありがとって言ってるでしょ?」

「ふざけんなっ! お礼は一言で恨みは強烈なパンチとかあまりに釣りあってねぇじゃねぇか!」

「美少女の裸に値は付けられないのよ。プライスレスプライスレス」

「自分で美少女って言う奴ほど信用ならない奴はいねぇよっ!」

「なによー、細かい事をネチネチと。どうせ二度と会わないんだしほっとけばいいじゃないそんな事」

「ほっとけるかっ! ていうかお前とは絶対二度どころかこれから何度か会いそうな気がするよッ! それに!」

 バン、と壁を叩いて上条は叫ぶ。


「……お前、追われてるんだろ。本当に一人で大丈夫かよ。実際ベランダに引っ掛かって気絶してたじゃんか」

「…………いいから、ほっとけばいいじゃない」

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:10:04.49 ID:/Fwu0hYwo

「だから、ほっとけるかって。服だってこの辺りじゃ見慣れない格好で、そんなボロボロだし、滅茶苦茶目立つぞ」

「……はぁ。ホントにお節介のお人好しねアンタ。第一それならなんでアンタはこんな怪しい格好した女がベランダで引っ掛かってて、そう平然と優しく出来るのよ」

「そりゃあ……」

 上条にもそれは分からなかった。話してみたら思ったより会話のウマが合ったとか、単に困ってる人を見捨てられない性分だとか、そういうのかもしれない。

 けど、ちょっと違うような気もする。
 何がどう違うのか? と言われてもはっきりとは分からず頭を捻ってみるも、答えは出ない。

 ただ、どうしてもそのまま少女を行かせたく、ない。
 それだけははっきりとしていた。


「……やっぱ、ほっとけねぇよ」

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:11:49.41 ID:/Fwu0hYwo

「……私に関わるとアンタも追っ手に襲われて危ないわよ?」

「だとしても、土地勘の無さそうなお前一人で逃げるより、ここに住んでる俺が協力した方がいいだろ? それとも、お前も追っ手もこっちに来てから長いのか?」

「ううん、私がこの街にいるのは昨日の夕方からよ。その時から既に追っ手に見つかってて、そっから徹夜で逃げ通し」

「じゃあやっぱ俺が……」

「アンタさ、やっぱお人好しにも過ぎるわよ。そもそもなんで私が追われてるのか、犯罪者なんじゃないかって疑ったりとかしないの?」

「犯罪者ぁ? お前みたいのが大した犯罪なんて犯すとは考えにくいんだが……」

「忘れたの? 私は電撃を操る超能力者よ? 見た目や年齢なんか関係ない」

「……、だとしても、俺はお前が悪い奴には見えねぇよ。少なくとも、一晩中追い回されて体中青アザだらけにされるような犯罪を犯した奴には、とても見えない」

「随分私の事買ってくれちゃってるわね。アンタがそこまで私を信用してくれるのは嬉しいけど、さ。アンタはなんで、会ったばかりの私にそこまで言えるのよ?」

「……短い時間だって、分かるさ。お前が悪い奴じゃないって」

「…………私が、悪い奴じゃ、ない?」

「ああ、そうさ。だから……」

「ふーん、でもさ、それって――」

102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:12:34.86 ID:/Fwu0hYwo







「――私が一万人以上殺した、殺人者でも?」







104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:13:51.57 ID:/Fwu0hYwo

 美琴の言葉に、上条の思考が固まる。


 殺人者?


 一万人?


 少女の口から出た言葉の意味が分からず、上条は目の前の少女に訴えかけるような眼差しを送った。

 そんな上条を見て、美琴はクスリと笑いを漏らす。
 それは、まるで、当然自分に手を差し伸べる存在などいやしない、とでも言いたげな笑いで。

「助けてくれた事は本当に感謝してる。もし出来たら、いつか十倍にして返すからね」

「え、待っ……」

「じゃあね」

 伸ばしかけた右手の先で、バタン、と勢い良くドアが閉まった。

 それは、まるで拒絶。

 行き場の無い右手を宙にさまよわせ、上条は力なくその手を握り締める。
 去り際、ドアの隙間から覗いた少女の表情が、目の奥に焼き付いて離れなかった。

105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:14:55.64 ID:/Fwu0hYwo

 上条は、美琴との短い時間でのやり取りを思い出し、ふと気付く。

 あんだけやかましくギャーギャー叫んで。

 食事を与えたら急に大人しくなって。

 包帯を巻いてやったら顔を真っ赤にしながらぶつぶつと文句を呟いて。

 からかったり、下らない冗談を言ったらイチイチ良い反応返してくれて。

 電撃喰らったり思い切り殴られたりしたけど、そのドタバタもまた楽しくて。



――つまる所、自分は彼女とのやり取りが、楽しかったんだな、と。

106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:15:38.03 ID:/Fwu0hYwo

 だから、上条は少女のそんな顔がヤケに胸に残った。


 寂しくて、苦しくて、今にも潰れそうなのに。




 始めっから助かるのを諦めているような、そんな顔が。


107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/27(日) 21:16:18.18 ID:/Fwu0hYwo

 部屋に戻り、シーツの乱れたベッドに座りながら、上条は思う。
 束の間の邂逅で、上条の心に不思議な風を、暴風を引き起こし、あっという間に去っていった少女の事を。
 何故自分はあの少女を引き止めなかったんだろう。
 引き止められないなら、せめて目的地の近くまでついていってやっても良かったのに。
 上条は落ちこぼれとはいえ、魔術という裏の世界の住人で、荒事に巻き込まれる事には慣れていて、美琴は超能力者とはいえ女の子で上条は男だ。

 だが、それがどうした。

 所詮は奇妙な出会い方はしたものの、今日初めてあったばかりの、赤の他人だ。
 上条が親切心と同情で伸ばした手は、あっさりと拒絶されたのだ。
 ならば、ただ街中で偶然出会っただけの上条に、出来る事など何も無い。

 ただ、それだけの事。
 それだけの事なのに、何故だか上条は無性にイラついていた。



 でも、イラつくだけで、何も出来なかった。


108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/03/27(日) 21:19:18.08 ID:/Fwu0hYwo
以上、本日の投下終了です。
以下、謎のおまけ

☆NGシーン

 イマジンブレイカー
「幻想殺し……?」

「ああ、俺はそう呼んでる」

「……アンタの方がよっぽど中二病じゃない」

「それは言わないでッ!?」

☆NGシーンその2

 思い出したかのように注意した上条だが、時既に遅く、少女の手元から白濁した泡が吹き出し少女の手に噴きかかった。

「は、早く言いなさいよそう言う事!」

「あ、悪い。言うの遅かったか……」

「あうう……手がべとべとするぅ……」

「……、……」

「あれ? どうしたの前屈みになって?」

「……ちょっとした男の生理現象です」

「?」



すいませんでした。 
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/03/27(日) 21:21:29.37 ID:yz+KMpfV0
これは両方入れてよかったのが明白(キリッ
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/27(日) 21:25:33.18 ID:YDzuVNlDO
美琴が純粋にかわいい。なんか久しぶり、このときめく感覚 
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/29(火) 20:03:03.52 ID:Jl+nNkWNo
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――――
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 中学の初夏、私は超能力者の第三位に認定された。
 達成感。それもあったとは思うけど、それよりも「何故?」という思いが強かった。

 自分の能力に自信が無かった訳ではない。
 けれど、超能力者に上がったその途端、既に他に六人いるのにその上から三番目になる理由が分からなかった。
 普通上がったばかりの自分は末席の七位か、たとえ前回からの期間が数ヶ月あるにせよ、精々六位くらいなんじゃないかと思っていた。

 それが、いきなり第三位だ。
 怪しいにも程がある。

 でも、何度見返してもその書類には第三位の文字が躍っていて。
 私の肩にはずしりとその三文字がのしかかった。

 ここまで来ると最早苦笑しか浮かばないな、等と強がってみたら、それはそれで諦めがついた。
 もう上に二人しか居ない。
 なら、今まで上だけ見て走り続けていた足をふと止め、周りを見る余裕を作るのも悪くない。

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/29(火) 20:03:53.94 ID:Jl+nNkWNo

 自分は確かに自らの能力を伸ばす事に注力してきたし、成長してきた実感はある。
 けれど、逆を返せばそれはそれしか出来ないだけの単純馬鹿であり、立ち塞がる壁に真正面からぶつかる事しか出来ない融通の利かない意地っ張りだっただけの事で。
 能力なんか伸ばさなくても友達を沢山作ったり、他の特技を活かして学生生活を充実させているクラスメイトに比べて、私は何ら優れている点など無かったと思っている。

 それを、”能力が人より高いから、鼻に掛けている”と言う者もいたけど、それに対して何の反論もしなかったのは、相手するのが馬鹿らしい、というのもあるけど。
 上手く反論するだけの言葉を持ち合わせて居なかっただけの事だ。

134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/29(火) 20:04:28.99 ID:Jl+nNkWNo

 始めの内はただ手の平の間の電光が星の欠片みたいで、沢山の星を作りたいと思い。
 一つ、二つとそれが増えるたびに嬉しくて、もっと沢山、もっといっぱい、とそれに打ち込んで居ただけだった。

 楽しかった。
 嬉しかった。
 誇らしかった。

 そして気が付けばレベルは上がり、小学四年生にして強能力者に到達し、全校集会で表彰までされた。

――御坂さんはいいよね、優秀で

 そう言われて、照れくさくて嬉しかったけど、すぐに気が付いた。
 それは称賛とか、羨望とかそういうのじゃなく、敬遠とか、嫉妬とか、そういう言葉だった事に。

 悪意。

 それを向けられる事に、幼い私は戸惑った。
 どう受け止めればいいのか、どう処理すればいいのか、分からず。
 分からない事を持て余し、落ち着かず、とりあえず目の前の分かる事を先に処理しながら先送りにしていた。

 そして、レベルはまた上がり、先生達には褒められ、友達には遠ざけられ。

 誰一人友達の居ない、常盤台中学へと進学する事を決めた。

 それは、先送りにし続けたその問題から、ただ逃げただけだった。
 結局私は、幼く弱い子供のままだったのだ。

135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/29(火) 20:04:59.41 ID:Jl+nNkWNo

 子供のままじゃ居られない。

 逃げた先の常盤台で、私は仮面を被る事にした。
 幸いにも、知り合いが誰一人いない事が功を奏し、私はどうにか立ち位置を確保する事が出来た。
 それはちょっと想定していたものとは違ったけれど。

       レベル4
 入学時に大能力者だった事から、私は妙に持ち上げられ、結局浮いた存在にはなったが、元々仲が良いと思っていた友人が急に疎遠になる事に比べれば、なんて事はない。
 輪の外に弾かれる事に比べれば、輪の中心になって二~三歩離れた位置から囲まれ続ける事なんて、恵まれている方だ。


 そして、超能力者になったその夏、その距離は更に二~三歩離れる事になる。
 私はただ微笑みを浮かべ、距離を詰める事なく、その立場を受け入れる。

 同じ超能力者の第五位である先輩に派閥に誘われた事があったが、丁重に断った。
 その誘いは、向こうから近付いてくる物ではなく、私から歩み寄るような要求だったからだ。
 私は、自ら距離を詰める事も、遠のく事もしないと決めていたから。

 結局、私は頑固で、ワガママな子供のままだった。

136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/29(火) 20:05:41.38 ID:Jl+nNkWNo

 そして、次の春。私は中学二年生へと進級した。
 そこで、私は常盤台中学に進学して以来、初めて私との距離を動かす存在に出会う。

 その人物は、白井黒子という。

 初めて会った時、いきなり私に人差し指を突き付けると、何をヘラヘラと笑っているのか、気持ち悪い、等と言ってきた。
 呆気に取られる私の周りで、他の子達がざわめく。
 そこから畳み掛けるように投げ付けられる嫌味や悪口の数々。
 はっきり言って言い掛かりもいい所だった。
 私は彼女に何も言っていないし、何もしていないのに、何故こうも理不尽にボロクソ言われるのか。

 でも、気付いたら笑い出していた。
 久しぶりに大声を上げて、腹を抱えて笑った。
 笑われた彼女は目を白黒させ――いや、決して駄洒落のつもりはなく――笑う私に地団太を踏んで更なる罵詈雑言を浴びせると、踵を返して去っていった。

 でも、私の心には一筋の涼風が吹いていた。

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/29(火) 20:06:29.66 ID:Jl+nNkWNo

 そんな彼女と、二ヵ月後にはルームメイトになり、三ヵ月後にはすっかり息の合ったパートナーになるだなんて、誰が予想しただろう?

 毎日のようにじゃれ付いてきて、逆に鬱陶しがって小突いたりぶっ飛ばしたり電撃でビリビリしたりするような関係になるだなんて、誰が想像できただろう?

 毎日張り付いたような笑いしか浮かべてなかった私が、声を荒げて怒ったり、涙が滲むほど笑ったりするようになるだなんて、誰が思っただろう?

 黒子は、私の世界を変えた、掛け替えのない存在だ。



 でも、それでも、私は仮面を脱ぐ事は出来ないままだった。

 黒子は、私の一歩後をついて来る、可愛い後輩にしてパートナー。



 私と同じ位置に立って、同じ目線で見てくれる存在は、ついぞ現れないまま。

138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/29(火) 20:06:59.16 ID:Jl+nNkWNo





――そして、悪夢の実験の存在を知った時、私の虚飾の世界は、支える者が誰も居ない砂糖菓子で出来た私だけの現実は、音を立てて崩れ去った。




162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:32:32.83 ID:sYlWRZCOo

 資料室での作業を終え、さて帰宅しようという段。
 無意識に吐いた溜め息に反応するかのように声を掛けられ、上条は足を止める。

「どうした、いつにも増して貧乏なツラしやがって」

 振り返ると、ボロボロのゴスロリ衣装を着たボサボザ髪の女がいた。

「貧乏とか言わないで下さい。貧乏なのは事実ですが」

「ハッ」

 鼻で笑われた。予想した反応だけど普通にダメージがでかく、上条は肩を落とし溜め息を吐く。

「で? そのしょぼくれた表情は何だよ。また転んで財布落としたか買った食材全滅させたのか」

「そんな所です。いいからほっといて下さい」

「やだよ。お前からかうの楽しいから好きだし」

「俺はシェリーさんにからかわれるの嫌いですけどね」

「おいおい、つれないねぇ」

 くつくつと肩を震わせてニヤけたツラを向けてくる意地悪な先輩だが、これでも結構世話になっているので無視は出来ない。
 今だってからかってるようで落ち込んでる上条の様子を心配して声を掛けてくれたのだ。

「ってか、底抜け馬鹿のお前さんがそう辛気臭い顔してると空気が悪くなるんだよな。嫌な事があったか分からんがその物覚えの悪い脳味噌の特性活かして速攻忘れてヘラヘラ笑ってりゃいいのに」

 ボロクソ言われて上条の心がズタズタに切り裂かれる。これでも心配してくれてるんだよ……多分、とこぼれそうになる涙をぐっと堪えた。

163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:33:11.15 ID:sYlWRZCOo

「で? 一体何があったんだ? 人には話せないような事か?」

「……なんでもないですよ、ホントに」

「ふむ……」

 探るような目。暗号や文書の解読を専門としている彼女の事だ、上条のヘタクソな隠し事なんて小学生向けの国語の教科書並に読み解くのは簡単だろう。
 しばしじーっと冴えない顔をした少年の目を覗き込んでいたボサボサ女は、一人得心したように頷くと呟いた。

「……女か」

「ブッ!!」

「ほっほーう」

 正解と認めたくない正解をズバリ言われてしまった事に激しく動揺する上条。
 意地悪な先輩である所のシェリーの笑みが悪魔のように深くなった。
 上条の背中に嫌な汗が伝う。

164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:34:03.63 ID:sYlWRZCOo

「待って下さい、そういうんじゃないですからね! 妙な想像しないで下さいよね!」

「あーあー、分かってる分かってる」

「うわぁ絶対分かってねぇよこのボサボサゴスロリ女、絶対妙な想像してるニヤけ具合だよその表情! 退屈してた所に美味しい弄りネタが転がり込んで来たのを心底喜んでる目だよその輝き具合!」

「オイコラ誰が暇人だって?」

「ボサボサゴスロリ女呼ばわりしたのはスルーしてまで暇人呼ばわりに噛み付いてきた!?」

「まあ暇なんだけどさ」

「しかもすぐに手の平返して認めた!?」

「で、何歳位年下? あんまり下だとお前の年齢でも犯罪だぞ?」

「なんで始めッから年下断定なんだよ! 俺が年上属性持ちである可能性は考慮してないのかよ!」

「いや、だってお前ってロリコンっぽいし。例の魔神候補のチビッ子にも付きまとわれてデレデレしてるし」

「してねえええええ! こちとらアイツのせいで何度も生命の危機に瀕してるっつーの! デレデレどころかこの前ドロドロの溶岩真上からドッサリ降り注がれたっつーの!」

「お熱いねぇ」

「熱いとか感じた瞬間蒸発死しますけどね! どっかのゴム人間の兄貴よろしく死亡確定ですからね!」

 渾身のボケのつもりだったが目の前のゴスロリ女には通じないネタだった。わざわざ日本から取り寄せてまで毎週欠かさず読んでる自分がちょっぴり恥ずかしい。

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:34:39.82 ID:sYlWRZCOo

「で、何?」

「いや、何? って言われてもですね……」

「いいから、話せよ。その女の子と何があったんだ? ん?」

「なんでそういう話になってるかが無茶苦茶疑問なんですけど」

「いいから、話せっつってんだよ。具体的な話じゃなくてもいいんだ。そうだ、『友人の話なんですけどね』って事にしておけば誤魔化しつつ相談できるんじゃないか?」

「それ聞く方から提案したって何の意味もないですよね!?」

 駄目だこの女。こりゃなんか話すまで絶対逃がしてくれないわ。
 そう心底実感した上条は、今日何度目か分からない溜め息を吐き、どうぼやかして話そうか思案をめぐらせた。

「えーっと、ある日、見覚えのない布団がベランダに干されてた、としましょうか……」

「出だしから意味不明すぎ。やり直し」

「…………」

 駄目出し来るんかよ。

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:35:14.40 ID:sYlWRZCOo

 それから九回は駄目出しを喰らいつつも、何とかぼやかして説明してみたものの。

「知らん。自分で考えろ」

 とバッサリ斬り捨てられた。

「そもそも、それお前自身が何にモヤってるのか、何が納得行かないのか分かってないじゃんか。その時点で他人に相談した所で何の意味もないわな」

 そう思って言いたくなかったのに無理矢理聞き出したのはお前だろ。

「ま、いい暇潰しにはなったよ。んじゃ私ゃ作業の続きあるから戻るな」

 もう二度とこの先輩には真面目な相談しない。絶対しない。

 涙目になりながらボロボロの背中を睨みつけてると、ふとそのボサボサ頭が振り返り、睨み返された。
 思わずビビって首をすくめるチキンな上条だが。

「一つだけ先輩からありがた~いアドバイス」

「へ?」

167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:35:55.34 ID:sYlWRZCOo

「上条よぉ、お前って馬鹿だしドジだし無能だし空気読めないし、何かに躓くとすぐにウジウジと考え過ぎて動けなくなるようなどうしようもないヘタレ野郎だけどよ」

「…………」

「でもよ……。ここだ! って決めて突き進む時、そん時の突進力だけは私でも止めらんない位の厄介な突進力がある。私ゃそこだけは買ってやってるんだよ、これでも」

「……シェリー、さん」

「ま、足掻けよ。存分にな」

 ひらひら、と手を振りながら再び遠ざかり始めるボロボロのゴスロリ服。
 その上で揺れるボサボサのライオン頭が、時々妙に頼もしく思えるのは、こういう面があるからだ。

「…………」

 廊下の真ん中で、上条は深く頭を下げる。意地悪で、強かで、でも時々厳しい優しさをくれる尊敬すべき先輩の背中に。


 顔を上げ、右手を握り締め、少年もその足を踏み出す。

 その顔は、さっきまでと違い、目標を捕らえた猛禽の眼差しに変わっていた。

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:36:29.67 ID:sYlWRZCOo
――――――――
――――
――


 美琴を探さねばならない。

 会って何をするかなんて分からない。会って何が出来るかなんて分からない。
 けれど、会わないと何も始まらないのは確かだ。

 しかし上条に少女を探す手掛かりは皆無だ。

(どうする……!)

 分かっているのは、少女が追われている事。そして超能力者である事。

(どうする……!)

 焦っても仕方ない。そう言い聞かせつつも、手立てのなさがどうしても上条を焦らせる。

 超能力という非日常の存在を探せばいい、と言うだけなら簡単だが、100人に1人は魔術に関わる人間であるここロンドンでその理屈は通らない。
 魔術と超能力は全く別の物だとしても、上条にはそれがどう違うのか等という知識は皆無だ。

(どうする……!!)

 焦りで考えがまとまらないままに、上条はとにかく足を動かしロンドンの街を走り回った。

169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:37:15.02 ID:sYlWRZCOo

 特に目星があったわけでもない。

 それを見つけたのは本当に偶然だった。

 一時間近く走り回っても何の手掛かりも得られず、こうなりゃどっかのチビッ子魔神の完全記憶能力でもアテにしようか今まで散々虐待された(でも無傷)ツ ケを考えればそんくらい可愛いもんだろああでも素直に人の頼み聞くまともな性格してない(但し対上条限定)から無駄か等と自棄になりかけてた上条は、高台 の手すりにもたれて薄暗い街並みを見下ろしていた。
 中心街から外れているとはいえ、現代社会における頂点にある都市の一つ。街のあちこちに人工の灯りが散りばめられ、人々は昼間と変わりない明るさの元、それぞれの生活を営む。

 上条はぼんやりとそんな日常の情景を眺めつつ、非日常の真っ只中にいる少女の事を想った。
 もう、この街には彼女は居ないのかもしれない。
 もう、追っ手により彼女は始末されてしまったのかもしれない。
 そんな事を考えつつも、上条にはちっとも諦める気にはなれなかった。


――じゃあね。


 笑いながら、泣きながら、別れた少女にまた会いたいから。
 会って、肩を掴んで、言ってやりたいから。


――私が一万人以上殺した、殺人者でも?


「……当たり前じゃねぇか、そんなの」


 その時、上条の視界の端に、チカチカッと灯りが点滅するのが見えた。

170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:38:06.01 ID:sYlWRZCOo

「…………?」

 ぼやけた意識をふと引き締め、その一帯に目を向けると、街の一区画の灯りがまとめてフッ、と消えた。

 停電? にしては影響範囲が狭い。
 電源やブレーカーの故障なら精々建物一つ分にしか影響しないはず。
 ああ、でもブロックごとの配電設備の故障とかならあり得るのかも、等と考える上条の目の前で、すぐ隣の区画でもフッ、と灯りが消えた。

「…………まさ、か」

 灯りが消失する直前、蒼白い閃光が路地裏を駆け上がるのが見えたような気がした。
 疑いが頭をもたげ、すぐに確信に至る。

「……ッ! 間に合うか!?」

 休んだ事で冷え切った身体に再び熱を入れ、上条の足が跳ね上がった。
 細かい路地まで駆け慣れた街だ。上条がその路地に足を踏み入れるのにものの五分と掛かる事はあるまい。
 そう頭では冷静になろうと呼び掛けるも、馬鹿みたいに心臓を叩き付ける鼓動が収まる事はなかった。

171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:41:25.57 ID:sYlWRZCOo
――――――――
――――
――


 その路地に飛び込んだ途端、地面にうずくまる美琴の姿が目に入った。

「御坂ッ!」

 遂に見つけた事に歓喜と興奮を覚え、息が詰まる。
 慌てて駆け寄り、助け起こそうとすると、拒絶するように手で制され思わず立ちすくんだ。

「アンタ……なん、でここに?」

 荒い息をつく美琴を見て、頭に血が昇りそうになるのを必死に抑え付ける。

「……、お前この辺で派手にやりあったろ、この辺り数区画分停電状態だぞ」

「ごめん、手加減したつもりだったんだけど……」

「そんな事より、怪我してるんだろ? 肩貸してやろうか?」

「だい、じょぶ……ぐっ!」

「全然大丈夫じゃないじゃないか! くそ、誰がこんな事を……」

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:42:20.33 ID:sYlWRZCOo






「――私達、超能力者ですが? と、ミサカはお二人の会話に割り込みます」





173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/03/31(木) 17:42:51.01 ID:sYlWRZCOo



 暗がりの向こう、無機質な緑色の光を放つ軍用ゴーグルを額に付けた少女が佇んでいた。
 肩に掛けたベルトにぶら下がっているのは、その少女の華奢な両手で支えるには不釣合いの黒い物体。

 アサルトライフル。

 そんな物騒なものを持つ少女の背格好は、壁に片手をついてもたれながらぜぇぜぇと息を吐く美琴とほぼ変わらない。
 いや、それどころかそっくりだ。
 ていうか、そっくりなのは背格好だけじゃない。服装も、体格も、髪型も、そして。

「……貴方は、無関係の一般人ですか? であれば、その隣にいる人物から離れ、大人しくこの場を立ち去りなさい、とミサカは警告を発します」

「み、御坂……が、もう一人……?」

 そう、その顔も、声も、全てが美琴とそっくり、同一だった。
 まるで、双子の姉妹かのように。



204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:01:48.95 ID:S/3pliMxo

「繰り返します。この件に無関係であれば即座にこの場を立ち去りなさい、とミサカは再び警告を発します」

 目の前の光景を理解できず、上条の思考はカラカラと音を立てて空転した。
 目の前で物騒な武器を構える少女は誰か?
 普通に考えれば、美琴の姉妹か。ならば何故彼女を狙う? そんな危険な武器を持ってまで。


――いや、今考えるべきはそこではない。


「お、れは……」

「そ、うよ……」

 その時、傍らの少女からカスれた声が聞こえた。

「! 御坂ッ!」

 その声で上条は呪縛から解き放たれ、思い出す。彼の本来の目的を。
 しかし、その目的である少女は、そんな少年の思いを否定する。

「アンタは……無関係でしょ。だから、早くここを立ち去り、なさい……」

「いや、俺は……!」

 苦しげに息を吐きながらも拒絶する少女に、しかし上条は納得できず言葉を返す。

「これ、は……私個人の問題よ。アンタを巻き込む訳には、いかない。だから、見なかった事にして、帰りなさい」

 それでも少女は、再度上条を拒絶した。

「はっきり言って……アンタは邪魔なだけなのよ」

「……ッ!!」

205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:03:10.99 ID:S/3pliMxo

 頭では分かっている。

 幾ら上条が普通の一般人とは違うとしても。裏の世界に身を置く者だとしても。
 それは、美琴の住む世界と必ずしも交わらない。
 美琴の居る領域にはとてもじゃないけど届いていない。

 上条は特殊な力を持ってるとしても、所詮は見習い魔術師でオチこぼれ、無力な一般人と何ら変わりないのだ。


――けれど、それがどうした。


 上条は己が無力で足手まといである事など知っている。
 魔術の世界であればチビッ子やら同僚や先輩に弄られ追い掛け回されてるから身を護る術は身体に叩き込まれているが、相手は未知の超能力という存在。

 果たしてそれに己の右手は通じるのか?
 もし通じなかったら、相手の攻撃に馬鹿正直に右手を構え、それを引き千切られて無様にのた打ち回るのみだ。


――だから、それがどうした。


 恐怖が上条の足を、心を激しく震わせる。


――そんなものは、傷付き、倒れそうになりながらも、歯を食いしばり強がる少女を放り出して逃げる理由になんか……


 それを強引に抑え込み、上条は右手を固く、固く握り込んだ。



――なる訳が、ないッ!!!

206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:04:44.67 ID:S/3pliMxo

「…………?」

 黙って顔を伏せたまま拳を握り締める少年を訝しげに見ていた美琴だが、カチリ、と乾いた音が耳に入った事ですぐに意識を目の前の追っ手に戻し、身構える。

                                                     オリジナル
「どうやら動きが無いようなので、こちらの用事を進めさせていただきます、とミサカはお姉様への攻撃態勢を取ります」

「そう、簡単に捕まると思う?」

 不敵な笑みを浮かべる美琴だが、ふらつく足が、額に浮かぶ汗が、虚勢である事を示していた。

「……どうか、大人しく捕まって頂けませんか? と、ミサカは油断無く構えつつ降伏勧告をします」

「冗談、言わないでよねッ!」

 壁にもたれた姿勢のまま、美琴の前髪から眩い雷光が迸り、ゴーグル少女の足元に突き刺さった。
 ノーモーションで放たれたそれは、しかし少女には当たらず、アスファルトに焼け焦げた跡をつけるに留まる。
 光速に等しい攻撃をあっさりと避けたゴーグルの少女は、上空にいた。

 コンクリートの壁面を蹴る事で跳躍したゴーグル少女は、短いスカートをなびかせつつも空中で姿勢を崩す事無くアサルトライフルの引き金を引いた。

 プシュ、プシュ、と気の抜けた音が二つ。特殊なサイレンサーでもついているのか、風を斬るようにアスファルトに突き刺さる弾の威力に反し、路地から離れた他者の耳に届く事はない。

207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:06:35.91 ID:S/3pliMxo

 美琴としても、これ以上他者を巻き込みたくないので、その点はありがたかった。
 前方に身を投げ出して転がり、片膝をついた姿勢で起き上がり振り向くと、丁度ゴーグルの少女も地面に降り立ち、こちらを肩越しに振り返っていた。
 その向こうに、まだ佇む少年の姿を見て美琴は唇を噛み締めた。

「アンタ! いい加減離れなさい! 大怪我しても面倒見る余裕こっちには無いんだからね!」
                                                     エレクトロマスター
 美琴の足元に散らばるネジやら金具の欠片がフワリと浮かびあがる。電気・磁力を操る能力者である美琴は、その能力で金属の類であれば砂鉄でさえも掌握し、武器として振るう事が出来る。

(出来れば、傷付けるような攻撃はしたくないんだけど……)

 事情があって、美琴は目の前の少女を積極的に攻撃する事が出来ない。
 精々手加減をした電撃で動きを止めたり牽制をして逃げる隙を作る程度だ。

(ほんっと、最悪の追っ手を用意してくれたもの、ねッ!)

 操った金属片の何割かを電磁力を使い音速に近いスピードで打ち出す。
 しかし、それらは目標の少女に届く前に、見えない壁に引っ掛かるように動きを止めた。

「それで攻撃のつもりですか」

 見ると、ゴーグル少女の前髪にも青白い電光が跳ね回っている。容姿だけでなく、能力も美琴と少女は同じなのだ。磁力を帯びた金属での攻撃は同じく少女の操る磁力により無力化される。

「手加減等という余裕を見せていますと、余計な怪我をしますよ、とミサカはお姉様に塩を送ります」

「まったく、やりにくいったらないわね!」

 逆に少女により打ち返された金属片を能力で打ち落としつつ、再び牽制の為の電撃を放つ。
 少女に当たらないように、横の壁や足元、避け易いギリギリを狙い、且つ上条を巻き込まないような……。

「……、え?」

 ふと視界を動かすとさっきまで視認していた筈の少年の姿が無かった。

208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:07:37.12 ID:S/3pliMxo

 警告通り逃げ出してくれたのだろうか? だとしたら何の問題もないが、美琴の心には何かが引っ掛かって落ち着かない。
 顔を伏せ、拳を握り締めていた少年は、逃げ出そうとか、素直に引き下がろうとか、そういう殊勝な行動を取るようにはどうしても見えなかったからだ。
 美琴は思わずそのまま視界を動かし、少年の姿を探してしまう。
 そして、それが決定的な隙を生み出している事に気付いたのは、その直後だった。

「油断大敵です」

「な、しま……ッ!?」

 美琴の牽制は正確で、精確で、たとえ美琴が一瞬気を逸らした程度では隙を作るような甘いものではなかった。
 しかし、少女はそこに強引に美琴の隙を作る為に、牽制として放った美琴の電撃に自ら体を当てに行く。
 美琴の狙いは、牽制を牽制として受け止め、避ける事で予測される相手の立ち位置に対し優位な自身の立ち位置を確保する事だから、その少女の動きは完全に美琴の心理の裏を突いていた。

「お姉様の攻撃は、どれも手加減が過ぎます、とミサカは冷静に分析します」

 それは、美琴の、少女を傷付けたくないという想いが生み出した、過剰な手加減という隙。まともに浴びても、電撃使いであれば、ほとんどダメージが通らない程度には手加減された電撃など、牽制の役目も果たせはしない。

「チェックメイトです、とミサカはお姉様にトドメを刺します」

 そして、少女はまっすぐと構えたアサルトライフルの引き金を引き。



「――させるかよッ!!」

「……ッ!!?」

 少年の鋭い蹴りが、アサルトライフルを弾き飛ばした。

209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:12:23.36 ID:S/3pliMxo

「あ、アンタ!」

 今度こそ美琴は驚愕にその動きを完全に止めてしまう。
 そんな美琴に素早く駆け寄ると、上条は強引に腕を掴み路地を駆け出した。

「いいから逃げるぞ、御坂!」

「え、あ、ちょっと……!」

「させません、とミサカは少年を敵と認定し攻撃します」

 ゴーグルの少女から凄まじい閃光が迸り、上条の背中を襲った。
 光速で迫るそれは、一瞬で上条に到達し、そして。


――バギンッ!


「……なッ!?」

 上条の右手に弾かれ、乾いた音を立てて砕け散る。
 驚愕に動きを止める少女。そしてその視界の端に、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる少年が映った次の瞬間、二つの影が路地の奥へと消えていった。

 後に残された少女は呆然とそれを見送るのみだった。

210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:17:17.92 ID:S/3pliMxo

 一方、まんまとその場を逃げおおせた上条はというと。
 去り際に思わせぶりな笑みを浮かべつつ、実際は内心冷や汗をドバドバ流し、必死で恐怖と興奮を抑えつつ必死で足を動かしていたのだった。

(怖ぇぇぇっ! でも、上手くいったっ!)

 あの時上条は武器を失った少女の次の動きを予測し、美琴の腕を左手で掴み、右手を余らせておいたのだ。
 そして相手に無防備な背中を見せる事で狙いの的を絞らせ、後はタイミングを合わせ背後で右手を振るうだけ。

 はっきり言って、ただのバクチなだけの作戦だったのだが、それだけに成功すれば相手の虚を突く効果は大きい。
 そうして上条の狙い通り、少女の思考を数秒止める事に成功。上条たちはまんまと逃げおおせたのだった。

(考えてみれば、俺の右手は御坂の電撃を無効化してたじゃねぇか。魔術だろうと超能力だろうと、異能の力に変わりは無ぇって事だ)

 とはいえ、上条の作戦は穴だらけだ。何しろあのタイミングで相手が能力を使って攻撃してくるとは限らない。
 唯一目に付いた武器であるアサルトライフルは、拾い上げて狙って撃つ、といった動作のタイムラグを考えれば使われる恐れは無く、また服装のどこにも別の 銃器を忍ばせている膨らみは見当たらなかった(因みに、少女がジャンプした時にスカートの中を覗いてそこにも銃器が無い事も確認済み。しましまのパン t……も確認済みだがそれは今は関係無い。無いったら無い)。

 しかしながら、たとえバクチな作戦であっても、結果的にこうして上条は美琴を連れて逃げ出す事に成功した。
 その事実を前にしてみれば、咄嗟に考え付いた作戦の杜撰さなどは些事に過ぎない。
 そして彼の右手が追っ手の切り札である異能の力に通じる事が確認できた事は、上条に取って何よりもの勇気と歓喜を呼び起こした。

(つまり、俺は御坂の追っ手に抗える手段を持っている。……御坂を守る事が、出来る!)

 その事が実感できた上条は、無意識の内に笑みを浮かべていた。
 少女の力になれる事が嬉しくて仕方ない。そう、今にも言いたげな程に。

211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:17:53.97 ID:S/3pliMxo
――――――――
――――
――


「はぁっ、はぁっ! どうやら、もう追ってこないみたいだ、な……」

「あ、アンタ……どうして、こんな……」

 今にも噛み付かんとばかりの勢いの美琴を手で制し、上条は乱れた息を整える。

「話は後、とにかく安全な場所まで移動しようぜ」

「安全な場所って……そんなのあるの?」

「…………」

「無いんかい!」

「いや待って、心当たりが無いわけじゃないんだが、後で何を要求されるかが怖いっつーか……」

「はぁ……アンタってホント後先考えなしよね」

「安心しろ、自覚はある」

「なら治してよ、早く」

 さっきから美琴センセーの物言いがキツい。もっとデレを下さい。

212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:18:23.15 ID:S/3pliMxo

「まあ迷ってても仕方ないしそれこそ後の事を考えても時間の無駄だ、行くぞ」

「ああもう、なんでアンタについてく前提になってんのか全然分かんないんだけど!」

「……関わんなって言われても、俺は付きまとうのやめないぞ。そう決めちまったからな」

「自分勝手な言い分ね……ホントなんでこんな奴のベランダに引っ掛かっちゃったのかな、私ってば」

「さあな。何でも俺の右手は不幸を呼び寄せるらしいし、そのせいかもな」

「アンタ、人の事不幸呼ばわりするつもり? 流石の私も……!」

「でもさ」

 少年は少女に笑いかける。

「この右手は厄介なもんばかり引き寄せてきたけど、全部が全部不幸じゃなかったって思うんだよ」

 上条の透き通った笑みに、不覚にも美琴はドキリと胸を弾ませた。

「な、なによ、それ……」

「んー、まあ少なくとも見た目だけは美少女な子と知り合えた訳だし? その点だけ見れば幸せかもなーって」

「びしょ……っ!」

213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:19:20.02 ID:S/3pliMxo

「な、なな何こっぱずかしい事言ってんのよ! ナンパか! ナンパのつもりですかぁ!?」

「ちょ、おち、落ち着けよ! なんかビリビリ来てる、漏れ出てる!」

「うっさい! いいから早く安全な場所とやらに案内しなさいよ馬鹿!」

「馬鹿って……そりゃ上条さんはロクに勉強も出来ないお馬鹿さんですけどさ……トホホ」

「…………もう」

 肩を落としつつも、素直に美琴を先導し歩く上条に、少し申し訳ない気がしつつ。それでも美琴は何故だか火照る顔の熱を冷ますのに必死で何も言えなかった。

「怪我してるし、疲れてるかもだけどさ、こっから5分程で着くから、それまで我慢してくれよな」

「大丈夫よ、大した怪我じゃないし……」

「そっか」

 へらり、と笑う上条を見てると、益々頬が火照るのを感じる。なんで? どうして? と頭では混乱しつつ、不思議と心は落ち着いて心地よさを感じている自分が信じられなかった。

(もう、ほんとワケ分かんない……でも)

 さっきまで少年に掴まれていた自分の右手をそっと眺め、静かに溜め息を吐く。

214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:19:54.23 ID:S/3pliMxo

(コイツになら……いいかな)

 ぼそり、と聞こえないように漏らした呟きに、上条が「ん?」と振り返るが、何でもないと首を振る。
 不思議そうな顔で首を捻る彼を見てると、自然と笑みがこぼれた。


 自分の撒いた種だから、他人を巻き込めない。
 そう頑なに思い込んでいた自分が、気が付けば何だか馬鹿馬鹿しく思えて。

(だって、アレだけ拒絶しても……駄目だったし。仕方ない、よね……)


 少女は久しぶりに心が軽くなる想いに戸惑いつつ、不思議な心地よさを感じていた。

215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:20:57.94 ID:S/3pliMxo
――――――――
――――
――

            ロスト
「……目標を完全に消失、とミサカは現状を確認し、次なる策を考えます」

 静けさを取り戻した路地裏にて、ゴーグルの少女が一人、佇んでいた。

「……それにしても、アレは何だったのでしょうか。とミサカは先程の不可思議な現象を思い起こし思慮にふけります」

 放たれた電撃が幻想のように霧散し、始めから何も無かったかのように消え去った。

(学習装置や、その後に教わったどんな能力でも、あんな現象は見た事がありません。絶縁能力とも違う……)

                                                           アウェイ
 電撃を無効化したというより、現象そのものが打ち消されたような、不思議な感触だった。改めて敵地に来ている事を実感する。

(ともかく、今はお姉様の居場所を再度探査し……そうですね、私一人では荷が重そうなので)

 ジャリ、と沈黙の降りた路地に何者かが踏み込む音が響く。目を向けると、そこには闇の中でもはっきりと浮かび上がるほどに白い、白い少年が鋭利な笑みを浮かべていた。

217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:23:05.59 ID:S/3pliMxo
                           レールガン
「よォ……。その様子だと逃がしたようだな、超電磁砲を」

「……情けない事に、その通りです。とミサカは自らの失態を隠す事無く報告します」

「チッ、まァ残りカスみたいなもンだとは言え、曲がりなりにも超能力者、ってェ事か」

「それもありますが……今回は謎の闖入者がいましたので。とミサカは新たな情報を共有します」

「闖入者ァ?」

 白い少年が笑みを収め、ギロリとその紅い瞳を動かし睨みつけて来た。

 ビクッ、と少女は思わず身を震わせる。
 すぐに気を取り直し姿勢を正すが、既に見咎められていたようで、少年がチッ、と舌を鳴らした。

「オイオイ、気持ちは分かるが今は俺ァお前を害するつもりはねェンだ。あンまりビクビクすンじゃねェよ」

「すいません。しかしこれもミサカ達が少しずつ人間らしい感情を得た証拠と思うと、不便ではありますが感慨深くもあります。とミサカは少し場違いな感動を覚えてみました」

「ハッ、確かになァ」

 少年が嗤う。

218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/02(土) 23:24:19.13 ID:S/3pliMxo

 カツン、と乾いた金属の音が路地裏に響く。見れば、少年の右手には凝った意匠の杖が握られ、そのおぼつかない足取りを支えているようだった。
 少女はじっとその杖と、少年の首元にあるシンプルなチョーカーを眺め、何か言いたげな目で黙り込む。

「……人の欠陥の証ジロジロ見てンじゃねェよ。それより闖入者ってな、なンだ」

「失礼、報告を続けます」

「あァ、そうしろ」

 カチリ、と少女は外れたままだったアサルトライフルのセーフティをロックした。
 それだけ先程の現象に気を奪われていたのだろうか、と少女は一人自らの心境を省みる。

(今回は、油断から逃がしてしまいましたが……)

 淡々と少年への報告を行いつつ、少女は心に再び誓いの火を灯す。

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
(今度も逃がしませんよ、お姉様。絶対に……)





244 :回想2 ◆MDOfmX8bYE[saga sage saga !red_res]:2011/04/06(水) 20:01:12.26 ID:M60/GpNho
※注意

繰り返しますが、今回の投下には一部痛い表現、グロい物を含みます。
苦手な方は「回想2 ◆MDOfmX8bYE」の名前をNGに登録して読み飛ばしてください
投下後、簡単な内容をダイジェストで載せますので、NGにした人はそちらをご覧下さい
 
245 :回想2 ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/04/06(水) 20:03:05.96 ID:M60/GpNho
――――――――
――――
――


 ビュウ、と風が吹き荒れ短い髪を弄っていく。

 踏み込んだ操車場は薄暗く、しかし目的の人物は白く闇に浮かび上がっていてすぐに見つかった。
 私にとってそれは越えようとして越えられなかった、最初で最後の壁。登山家の前に立ち塞がるK2東壁だってもう少し隙を見せてくれるだろうって位には絶対的な障壁だ。

 いや、既に越える事を諦めてる時点で、何を引き合いに出してもその比喩は相応しくないだろう。
 何しろ、私の自信は、心は、あの日――八月十五日に、跡形も無く砕け散ったのだから。

 その後の私は、研究所を潰して回ったり、第四位とドンパチやったりと醜くも無様に足掻いた。
 それでも必死で、そのふざけた実験を止めたかったのだ。
 なりふりなど構っていられなかった。

     ツリーダイアグラム
 遂には”樹形図の設計者”のハッキングにまで手を出した。これこそが逆転の一手、確実に実験を止める妙手だと、その時は確信していた。たとえ唯一の心の拠り所だった後輩の信頼を裏切り、その手で断罪される事になろうとも、本望だった。


 しかし、学園都市の誇る最高の演算装置をハッキングしてまで下した中止命令は、布告されること無く、実験は滞りなく継続されたのだった。

                                                            スペック
 何の事は無い、学園都市どころか世界最高峰、他に存在するどの演算装置の数千、数万倍の性能を誇る人工頭脳でさえ。

                               デコイ
 学園都市の闇に潜む誰かさんにとっては、ただの囮に過ぎなかったのだ。

246 :回想2 ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/04/06(水) 20:04:23.03 ID:M60/GpNho

「ンだァ? 誰かと思えば第三位のお嬢さンじゃねェか」

 きひっ、と心底面白いものを見たかのように、学園都市の第一位が嗤った。

「どしたァ、夜分遅くにこンな所まで? まさか自分そっくりの人形がスプラッタになるのを見学する趣味でも持ってンのか? だとしたら随分と悪趣味な嗜好をお持ちなンだな第三位ってなァ!」

「……、……」

 応えず、ポケットの中からコインを取り出す。
                            ソ レ
「オイオイ、何トチ狂ってンだよ……。テメェの超電磁砲は通じないって前ン時思い知ってンだろ?」

 演算を開始。何もない空気中、構えた右手からまっすぐに、白い少年……一方通行に向けて伸びる電磁のレールをイメージする。

「……アンタはそこで見てなさい。手、出すんじゃないわよ」

 背後で息を呑む音が聞こえた。視線を送るまでもなく、そこに私の妹が居る事は電磁波の干渉から分かっている。

「ごめんね」

 気がつけば呟きが漏れ出ていた。

247 :回想2 ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/04/06(水) 20:05:15.40 ID:M60/GpNho

「本当はもっと沢山話したかった。
 いっぱいいっぱい謝りたかった。
 買い食いをしたり、噛み合わない会話をしたり、もっともっと一緒の時を過ごしたかった」

 自分でも制御できない思いからか、それとも今更死の恐怖におびえた心が決壊したのか。
 意志とは無関係に私の口は言葉を紡いでいた。

「生きる事の、生まれた事の、死ぬ事の意味を教えてあげたかった
 不幸な形で産み出されてしまった命でも、貴方は」

「……お姉、様」

「貴方達は私の――」

 妹なのだから……と言おうとして、思わず口をつぐんだ。
 私みたいな人間に、貴方達の姉だなんて言う資格は無いと、そう感じたから。

 彼女が訝しげに眉をひそめる気配を感じ、情けなさにぐっと唇を噛む。

 弱虫の姉は、結局妹と向き合う事も出来ず、せめてもの抵抗とばかりに正面の敵を睨み付けた。

248 :回想2 ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/04/06(水) 20:05:53.48 ID:M60/GpNho

(この、コインを撃ち出した時)

 ともすれば、震えそうになる指先を気力で抑え付け、演算に集中する。

(私の命も、この実験も)

 ものの数秒で演算は組み上がり、超能力者の電撃使いである自分にしか見えない電磁のレールが、一直線に敷かれた。
 後は、そのレールに弾丸を乗せるだけ。


(全て、終わる――――!!)


 音速の三倍でコインは発射され、それは白い少年へと突き刺さる。
 そして、まるっきり同じ軌道を、今度は逆方向に走り出したコインは、狙い違わずこちらへ向かい、そして。


 焼けるような衝撃、全身を打ちのめす様な轟音が全身に響き渡った。

249 :回想2 ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/04/06(水) 20:06:45.54 ID:M60/GpNho
――――――――
――――
――


 薄暗い操車場の片隅、砂利にまみれ転がる少女が、身を捩り呻き声を上げる。

「ぅ、あ……ぐ、がぁ……、は……ッ!!」

 意識全てがごっそりもぎ取られるかのような衝撃に、しかし美琴は全力で抗った。

 ここで、意識を手放す訳には行かない、そう強く歯を食いしばる彼女をあざ笑うかのように、繋ぎとめようとした身体に灼けるような激痛が襲い掛かる。

「ぐ、ぅ……あ、ぁ……ッ! ぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁああああぁあぁ……ぁ、ぅあは、が……ッ!!!!!」

 右肩を中心に胸の辺り、右腕の先は指先までの感覚が失われてる。
 にもかかわらず、激痛は巨大な波のように美琴の意識を飲み込み押し流すかのように襲い掛かってきて、とてもじゃないがその少女の矮躯では耐え切れる物ではなかった。

250 :回想2 ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/04/06(水) 20:07:38.59 ID:M60/GpNho

「ぁ、く……かは……ッ、ぐ……ふ、ぅ……!」

 口から漏れ出るのは嗚咽と血痰。目に映るのは靄のみ。
 それでも少女は左手に掴んだ砂利を握り締め、乱れた息を整える。ボヤけた視界を見定める。

 視界の向こう、血と泥にまみれた白い何かが転がっていた。

(なんだろう、アレは。細長く、折れ曲がって、捩れていて)

 ぼんやりとした視界が徐々に鮮明さを取り戻し、少女はその転がる細長い何かの正体を知る。

(……ああ、なんだ、そうか)

 少女が視線を動かすと、その右肩は引き千切れて無くなっており、焼け焦げた血と赤黒い肉の塊がサマーセーターの肩口から顔を出していた。




――アレは、私の右腕だったモノじゃないか。




 途端に激痛が現実となり意識を埋め尽くす。

251 :回想2 ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/04/06(水) 20:08:05.11 ID:M60/GpNho

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛 い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛 い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛 い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛 い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛 い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛 い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛 い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛 い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 いっその事このまま意識を手放せば痛みも薄れ、楽になれるのに。

 少女を苛む痛みはそれさえも許さないのか、ただその細く頼りない身体を捩り、震わせ、少女は心で絶叫を続ける。


 ジャリ、と乾いた音が操車場に響いた。

252 :回想2 ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/04/06(水) 20:08:41.39 ID:M60/GpNho

 のろりと顔を上げると、白い悪魔がこちらを見下ろしている。
 照明が逆光となり彼の表情は伺えない。


 ジャリ、ともう一歩足音が近付く。


 地面を通して伝わる振動だけで激痛が走る。
 少女に出来るのはただその痛みと恐怖に打ち震え、彼に焦点のぼやけた目を向ける事のみ。


 痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖 い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖 い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖 い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖 い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖 い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖 い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖い痛い怖――


「オイ」


 カスれた呼び声に、少女の身体がぴくり、と震えた。

253 :回想2 ◆MDOfmX8bYE[saga]:2011/04/06(水) 20:09:15.25 ID:M60/GpNho

 のろのろと見上げると、口角を鋭く吊り上げた悪魔が笑っていた。

「そういうつもりか、テメェ……」

 ゆっくりと、悪魔がその毒手を伸ばす。その指先一本でも触れたら、血流だろうと生体電流だろうと逆転させ、あらゆる生物を死滅させる事ができる、その手を。

「三下が貧相な脳味噌必死で働かせて、愉快でクソ下らねェ事考えるじゃねェか」

 そして、その指先が、体一つろくに震わせる事も出来ない少女の体に近付き、そして。

「気に入ったぜ。だから最強の第一位サマからご褒美のプレゼントだ。きっと安らかに逝ける筈だ」

 きひ、とその吊り上げられた口角からさも愉快そうに笑いを漏らし。


「良かったな、最期の最期にイイ夢見られンぜェ?」


 その指先が触れ、少女の全身からフッ、と全ての感覚が失われた。


 少女の意識はそこで途切れ、そこから先は、まったくの闇へと――


254 : ◆MDOfmX8bYE[saga sage]:2011/04/06(水) 20:15:32.20 ID:M60/GpNho
以上です
NGにした方向けのダイジェストを以下に

---

実験を止める為、自らの命を投げ出す事を決意した美琴。
実験場に居合わせた妹達に、思わず謝罪の言葉が漏れるも、その言葉は途切れる。

一方通行と対峙する美琴。
挫けそうになる心を奮い立たせ、美琴は超電磁砲を放つ。
その攻撃は一方通行に反射され、美琴の身体は吹き飛ばされた。

激痛に苦しみ、這い蹲る美琴。
一方通行は美琴の狙いが何であるか理解し、嗤いながら美琴にその手を伸ばす。
その手が触れた時、美琴の意識は闇に包まれた。

---
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga sage]:2011/04/06(水) 20:18:44.64 ID:M60/GpNho
今回も短くてすいませぬ
上条さんが妹達を殴らなかったのは美琴が手加減してるのに気付いてたからだと思います
でもあの場面、確かに殴りに行っててもおかしくないですねw

次回投下は3~4日以内を予定してます
それではー
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/04/06(水) 20:32:31.65 ID:V3DGykZAO
おつおつ
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/06(水) 20:37:57.67 ID:eN+hS71+0
乙!
俺はグロが大好きだから最高だった!
次回も待ってるぜ! 
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/09(土) 21:48:59.11 ID:5FCrLV18o
――――――――
――――
――


 目が覚めると、見知らぬ天井だった。     それ
 いつも見慣れたはずの薄汚れたみすぼらしい天井は、今は温かな暖色で描かれた華が規則的に並ぶ幾何学模様で満たされている。
 半覚醒の意識が丸ごと天井に吸い込まれるような不思議な感覚に包まれながら、上条は昨晩までの出来事を思い出していた。

 ベランダに引っ掛かっていた少女。

 超能力という魔術とは異なる異能の力。

 学園都市からの追っ手。

 その美琴そっくりの少女から、寸での所で美琴を連れ出し逃げる事に成功した上条は、その足でロンドンでも特に胡散臭い空気がプンプンの区画に向かった。
 そこには怪しげなオカルト商品がコンビニ気分で並べ立てられた妙な土産屋があったり、こだわりのヴィンテージジーンズが置いてあると評判だがちょくちょ く店主が店を空けるせいで人気は今ひとつなジーンズショップがあったり、風体も年恰好もバラバラな女性ばかり住んでいる不可思議な女子寮があったりと、と にかくカオスな地区という事で有名だったりするのだが、上条の目的の場所はそんな区画の端っこにある石造りの家だった。
 そして幸運にも(?)家の主に温かく(?)迎え入れてもらう事に成功した事から、今現在上条と美琴が寝泊りさせてもらっている場所となったワケである。
 尚、件の家の主は、上条にとっても頼りになる先輩であるのだが、同時にとても苦手な天敵でもある”あの人”だ。

「……そう言えば、結局シェリーさんの家に泊めて貰ったんだっけ」

273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/09(土) 21:52:14.09 ID:5FCrLV18o

 ギリギリまで迷いに迷った上条は、結局背に腹は変えられぬと、天敵を頼る事にし、散々嫌味や勘繰りをされる覚悟でその扉を叩いたのだが。
 意外にもその意地悪で性悪で悪な先輩は、余計な詮索を一切する事もなく二人の目をじっと見詰めると、溜め息一つで家の中へと招き入れてくれた。
 少々面食らった上条は、余計な事と分かりつつも何故自分を糾弾しないのかと問い質したのだが、「まずはそこの子の手当てからだろ。いいからお前は座ってろ」と一蹴。結局上条にとって、このややこしくて理解しがたい先輩はどこまでも頭の上がらない天敵なのだった。

「御坂美琴……か」

 次に上条の脳裏に浮かんだのは昨晩聞いた彼女の事。
 夕飯の後に何故だか急に野暮用を思い出して外出したシェリーの居ぬ間に、ぽつりぽつりと美琴が語ってくれた彼女の抱える事情は、覚悟を決めて少女の手を掴んだ上条にとっても衝撃的なものだった。

 能力によって明確に差別され、区別され、傷付けられた子供達が互いにぶつかり、更に傷付いていく日常。

 研究価値があるというだけで、国際法でも禁じられている人間のクローンを生産する科学者達。

 そうして産み出された歪な生命を、実験と称して簡単に虐殺する事をよしとする世界。

 何もかもが上条にとって信じがたく、許せない。
 そしてそんな一人の少女を襲った絶望の数々さえ、閉鎖された実験場にして、高い塀に囲まれた箱庭である学園都市が抱える闇の一端に過ぎないという事実に、上条は後頭部の奥に重いものがのしかかるような感覚を覚えた。
 吐き気と言い換えてもいい。要するに、それを聞いた上条が覚えたのは抑えがたい怒りと理解しがたい衝動だった。

274 :16巻のカラー口絵を思い浮かべながら読むといいかもしれません[saga]:2011/04/09(土) 21:54:32.41 ID:5FCrLV18o

 寝起きの定まらない思考を振り払う為、上条は洗面所を求め寝床を抜け出した。
 フラつく足元を注意しつつ、ギシギシと悲鳴を上げる木板の廊下を歩き、目的の扉の前に到着。一息にガラリと開け放つ。

「…………」

「…………」

 改めて上条当麻の特性について触れる必要があるだろう。
 散々彼について理解している者にとっては今更ではあるが、上条当麻は不幸である。
 その不幸は時として一見すれば幸運にも取られるであろうトラブルへの遭遇体質をも含んでいる。
 業界での言葉で言えば「ラッキースケベ」という奴だ。

 つまり、彼が開け放った洗面所への扉は、その奥にある浴室へと続く更衣室への扉も兼任しており――

「…………えーっと」

「……、……ア・ン・タ・はそんなに人の貧相な体を見るのが大好きかぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!」

――バスタオル一枚でその艶やかな裸体を隠す、御坂美琴嬢がいたというワケである。

275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/09(土) 21:56:43.44 ID:5FCrLV18o
――――――――
――――
――


「まったく、嫁入り前の乙女の柔肌をなんだと思ってるのよアンタは」

「いや、その点につきましては本当に申し訳なく思います、ハイ」

「ああもう、二回も、二回も見られた……ショックっていうか泣けてくるっていうか逆に自分が情けなくて溜め息も出ないわ……。学園都市に戻れたら心理掌握のヤツに記憶消して貰おうかしら……見た方じゃなくて見られた方の記憶を」

 ふへぐひふへへー、と奇妙な笑い声を上げて遠い目をする少女を、上条は心底悪い事をした気分になりながらおろおろと眺めていることしか出来なかった。
 上条が中に人がいるのを確認せずに扉を開け放ったのは確かだが、鍵をかけずに無警戒に朝風呂を楽しんでいた少女にも非が無いわけではない。しかし、裸を見られる側と見た側でどっちが得でどっちが損かと言えば、それは明らかに見られた側が損で見た側が得だろう。
 これが男女の組み合わせが逆だと判定が難しくなる所だが。

 ともあれ、上条は今回明らかに得した側で美琴が損した側である事は確かだ――たとえその後シェリーに首根っこふん掴まれて記述するのも憚られるような ■■■な××××を@#▼☆※△&ようとも。あまりの事に当事者である”見られた”美琴も直接制裁を加えるのを控えた事実はこの際関係ない。

 なので、上条は沈みきってブツブツと呪文めいた言葉を吐き続ける少女へのせめてもの誠意を見せる為、その目の前で床に頭を打ちつけた。
 つまり土下座した。

276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/09(土) 21:59:52.42 ID:5FCrLV18o

「すいませんでした、御坂様!」

 ゴンッ! と鈍い音に驚いて少女が目を向けると、そこには視界いっぱいに広がるツンツン頭の頭頂部があった。

「え、ふぇっ!? な、ななななによいきなり!」

「私の不注意により、御坂さんをとんでもない辱めに併せてしまい申し訳ありません! この上条当麻、心より反省しております!」

「へ? え? え?」

「謝って許されることではないこと、理解しております! しかし何も言わずにただほとぼりが冷めるのを待つのではあまりにも不義理が過ぎますゆえ、つきましては!」

「いや、だから何言ってんのかさっぱり……」

 混乱する少女を置いてけぼりにしたまま、上条の謎口上は続き、少女はますます混乱する。

 そして、次の瞬間、少女の全身に電流が走る。

              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「――この上条当麻、一生をかけて今回の事に責任を取らせていただきます!!」


「…………………………は?」


――お分かりだろうが、勿論その言葉自体に対する上条本人の深い考えは、皆無だ。

277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/09(土) 22:01:34.14 ID:5FCrLV18o

「え? 今ちょ、な、なんて?」

「ですから、どうか沈んだ顔をせずですね、えーっと」

「その、せ、責任……って、ど、どういう……」

「み、御坂には笑っていて欲しいっつーか、なんていうか……」

「わ、笑っていてって……そんな……」

「ん? お、おいどうした御坂? 顔赤いけど、具合悪いのか?」

「いや、これは、その……そういうんじゃなくって……」

「無理はすんなよ? ほら、辛いなら横になっていた方が……」

「え、あ、辛いっていうか、なんか今はほわほわして温かいっていうか……ふにゃぁ……」

「御坂? 本当に大丈夫なのか……? 何か俺に出来る事は……!」



「あー、もう見てらんね。永久にやってろバカップルが」

「!?!」

「?!?」



……同じくお分かりだろうが、当人達に自覚は、全く無い。

278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/09(土) 22:02:00.67 ID:ujQP4DjV0
――それが、上条夫妻の馴れ初めでした
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/09(土) 22:03:47.71 ID:5FCrLV18o

 いつの間にか二人の傍には食料の入った紙袋を両腕で抱え込んだライオン女が仁王立ちしていた。

「まったく、人んち来てまでいちゃいちゃしてんじゃねーよガキどもが」

「しぇ、シェリー、さん……」

「チッ」

 そのライオン女ことシェリーは盛大に舌打ちをすると、カウンターテーブルに紙袋を置き、てきぱきと食材を冷蔵庫に片付け始める。
 取り残された二人は互いに顔を見合わせると、気まずい空気を誤魔化すように乾いた笑い声を上げる。

「あ、アハハ……えーっと、俺シェリーさんの片付け手伝ってくるわ」

「あ、うん……い、いってらっしゃい……」

「…………はぁ」

 ぎくしゃくとやり取りを交わす二人を眺めつつ、シェリーは盛大に溜め息を吐きだした。

280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/09(土) 22:06:40.13 ID:5FCrLV18o

 初々しい二人を見てると無性に腹が立ってくるシェリーとしては軽はずみに二人を泊めた昨晩の自分を後悔しかけるわけだが、今更追い出すわけにも行かない。
 それに、シェリーにとっても思うところがないわけではないのだ。


 超能力。


 その言葉はシェリーにとっても因縁深い物がある。
 それは丁度今から20年程前の出来事。
 シェリーと、彼女の親友の、どこにでもある、悲劇と呼ぶにもおこがましい、くだらない事件。

(エリス……)

 けれど、シェリーという人物の根底に、今でも根付いている、一つの出来事。

(ったく、未練がましいったらありゃしないね。私とした事が……)

 しかし、そんな過去が少女と少年を助ける動機となったのだから、何とも因果なものだとシェリーは思う。

 その後も色々と親友との思い出を巡らせていると、恐る恐る、といった様子でこちらの顔色を窺うツンツン頭が視界に入る。

(…………イラッ)

 その頭をいつも通りの強さでスパン、と引っ叩くと幾分すっきりした。
 気を取り直したシェリーは、下らない思考を打ち払いつつ朝食の準備を始める事にする。



「あのー、上条さんは何故にぶっ叩かれたのでせうか……?」

「知るか。いいから手伝え」




301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/11(月) 23:13:50.66 ID:WE46KEsMo
――――――――
――――
――


「こんな所にいたのか」

 背中からかけられた声に少女が振り返ると、どこか居心地の悪そうな、でも心配そうに様子を伺う上条がいた。
 さっきの今だし、ぎこちなくなったり追い返されたりしないだろうか、等と不安になっているのだろう。
 しかし、そんな心配も杞憂とばかりに美琴は微笑み、ぽんぽんと自分が座り込んでいる地面の隣を手で叩いて座るように促す。

「ここ、ちょうど陽だまりになってて、あったかいのよ」

 草木が生い茂り、というより伸びるまま放置されたようなシェリー邸の庭は、そのせいか夏場にも関わらずひんやりとした空気に包まれている。
 そんな中、美琴が座っている周辺は日の光が程よく集まり、穏やかに吹く風とあいまって快適な空間を演出していた。
 躊躇しつつ少女の隣に座ると、なるほどこれならさっきまでの微妙な空気も晴れようものだと感じるほどの心地よさに、上条の波立つ心もみるみる凪いでいく。

「……こんなのんびりしてていいのかな」

 ぽつりと美琴がかすれた声で呟いた。

「多分、しばらくは大丈夫」

「そうなの?」

 答えが返ってきたのが意外、と言いたげに美琴が見て来たので、上条はなんだか照れくさくなり、頬を掻きながら視線をあさっての方向へ逸らした。

「この家さ。知り合いの魔術師のルーンの効果で、特定の手順を知っている人物以外には意識に入りにくくなってるのよ。だから、追っ手の奴らもしばらくは気付かない、と思う」

 風が一際強くなり、少女の髪をなぶる。その髪の先が上条の頬をかすめ、ふわりと漂う香りに上条の胸がドキリと大きく跳ねた。


303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/11(月) 23:14:41.05 ID:WE46KEsMo

「……そうなんだ。それも、魔術、ってヤツ?」

「ああ、うん」

 片手で跳ねた髪を抑え付ける少女を見てると、こんな華奢な身体の少女が過酷な運命を背負ってるのが何だか冗談みたいに思えてくる。
 上条も直接追っ手に相対し、本気で襲い掛かってくるのを目にしているから、それが冗談でも何でもない事を分かっている。

「へぇ……便利なのね、魔術って」

「……まあ、便利だな。使うやつはいけ好かないけど」

「?」

「いや、何でもない」

 しかし、こうして穏やかな陽気の下、のんびりと日向ぼっこをしている姿は、本当に、ただの普通の女の子で。

「っつーか、科学の方がよっぽど便利じゃねぇか。誰にでも使えて、こんなにも人間の生活に根付いてるし」

「……そうかもね」

 他愛のない会話に柔らかく微笑む姿からは、とてもじゃないけど、科学の頂点たる超能力者の第三位、なんて肩書きは想像も付かなかった。

304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/11(月) 23:16:55.14 ID:WE46KEsMo

「でも、科学もピンキリよ。特に私みたいな、化物なんかは、扱いづらいわけよ」

 自嘲気味に笑う彼女の表情に、陰りは見当たらない。その事が上条には気に食わなかった。

「それこそ、追っ手を差し向けて、排除しようと思うくらいには、ね」

「させねえよ、そんな事」

「……ふふ、そうね。アンタならそう言うと思った」

 明るく笑い飛ばすように言う少女の心が、傷付いていないわけじゃない事を、彼は知っていたから。
 だから、上条は少女がなんでもない事のように自らの境遇を話す少女を見ている事に我慢が出来なかった。

「そういうの、やめろよな」

 だから、上条は少女が被るその仮面を、壊してしまおうと思った。

「そうやって始めから何もかも諦めて、自分の事低い所に置いておけば、他人から何言われたって傷付かないとか思ってるのか? そういうのって、間違ってるだろ」

 ぴくり、と少女の肩が動き、上条に目を向けた。一瞬驚いたような顔をした少女は、でも次の瞬間には「何を言っているのか分からない」とでも言いたげに困ったように微笑んでみせる。

「何よ、そんな怖い顔しちゃって。大丈夫よ、私は全然平気――」

「平気ならなんでそうやって本心隠してまで無理して笑ってんだよ!」

306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/11(月) 23:18:31.84 ID:WE46KEsMo

 ざわり、と風が草木を鳴らし、肩を撫でていく。
 目の前の少女はぐっ、と唇を噛み、何かを耐えるように顔を伏せた。
 上条は、少女にそんな顔をさせてしまうのが堪らなく悔しく、だからこそ言葉を重ねる。

「御坂は、化物なんかじゃねぇよ」

「……やめてよ」

「どんな能力を持っていても、例え一万人の死者を作る原因を作ってしまったとしても」

「……、」

「下らない事で笑ったり、怒ったり、不安になったり、感動したりする、普通の女の子だ」

「……もう、やめ……」

「ジンジャービアにむせて慌てたり、その……裸を見られて怒ったり不機嫌になったり」

「……、……」
                                                         ヤツ
「自分のせいで犠牲になっちまった妹達の為に悲しんだり、考えなしに手を差し伸べようとした馬鹿を心配して手を振り払ったりするような……そんな優しい女の子だよ」

 ひくっ、と少女の肩が跳ね、細かく震えだすのが目に入った。が、上条はお構いなしに続ける。

「だから、俺は、お前がなんと言おうと……御坂を守るよ。嫌だっつってももう遅いからな」

「……、私は……」

 少女の震えは最早見ないでも伝わってくるほどにまで大きく、だからその少女の呟きも震えていた。

307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/11(月) 23:19:11.66 ID:WE46KEsMo

「私には、そんな権利なんて、ないのに。「助けて」なんて言って、都合よく助けてくれる誰かが現れるなんて、そんな夢物語のヒロインになる資格なんて……」

「資格とか権利じゃねぇよ」

「……だから、やめてよ。そういうの……」



「そっちこそやめろっつってんだよ!!!」



 思わず上げた叫び声に少女の肩が大きく震えた。
 少女を怯えさせるつもりなんてこれっぽっちもなかった。
 けれど上条には我慢出来なかった。本当は心の奥底まで傷付いて、ボロボロで、だけどそんな弱い自分一つさらけ出す事も出来ずに、歯を食いしばり続ける少女の姿を見るのが。

308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/11(月) 23:20:36.36 ID:WE46KEsMo

「もうやめろよ、そういうの。そうやって一人で何もかも抱え込んで、自分一人が悪いって思い込んで、自分で自分を責めてばかりいるんじゃねぇよ。
 俺はもう知っちまってるんだからな。お前が過去にどんな失敗をしたかを。過ちをしたかを。
 そしてそれがどう間違って悲惨な現実を引き起こしてしまったとしても、お前はそれを丸ごと背負い込もうと立ち向かっていけるような強さと責任感を持ってるヤツだって事を。
 悲惨で救われない生を与えられてしまった妹達を命懸けで救おうとする優しいヤツだって事を」

「そんなんじゃないっ! 私は、そんな上等な考えを持ってなんかいないわよ! ただ私は意地になってただけで……!」

「でも、実験を止める為だけに死のうとまでしたんだろ? 命を懸けてでも、妹達に生きていて欲しかったんだろ?」

「……ッ!」

「だったら、それは間違いなく御坂の強さで、優しさだろ。他にどんな感情が含まれていようと、ただ妹達に生きていて欲しいって思ったんなら。そう思えたのなら」

「……、……」



「お前は、立派に妹達の姉なんだよ。俺が保証してやる」

309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/11(月) 23:21:15.63 ID:WE46KEsMo

「……ホント、アンタってつくづくお人好しね」

 そんな上条の想いが伝わったのか、少女がボロボロの素顔を見せて笑っていた。その頬には涙の筋が伝っている。

「なんで、アンタってばそんなに優しいのよ」

 そっと左手を伸ばし、少年が少女の涙を拭う。少女はただされるがままにそれを受け入れていた。抵抗するそぶりも見せずに。
 抵抗する元気も無いのかと、少女の疲れきった心を想い、上条は唇を噛んだ。
 勝ち気で明るい少女の、ボロボロの泣き顔に、上条の心は痛んだ。

「優しくなんかねえよ」

「……、……」

「その、あれだ。俺も男だし。可愛い女の子の前だとカッコ付けたくなるんだよ……うん」

「…………似合わないわよ、バカ」

「うぐ」

 ストレートな言葉に思わず呻く。本気で傷付いたのか若干涙目な上条を見て、美琴がクスリと笑いを漏らした。

「……でも、ありがと」

 涙でぐしゃぐしゃで、何もかもに疲れきったような、弱々しい笑みだったけど。
 綺麗だな、と上条はその笑顔に見蕩れながら思った。
 その笑顔を守る為にだったら――たとえちっぽけな力だとしても――自分の持てる全部を持って、何にだって立ち向かえる、と。


 そう、その時の上条には、確かにそう思えたのだ。

310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/11(月) 23:22:26.20 ID:WE46KEsMo





 その先に何が立ち塞がっているのか、知るわけも無かったから。





351 : ◆MDOfmX8bYE[saga sage]:2011/04/16(土) 20:22:32.68 ID:T/pyK9RXo
――――――――
――――
――


「よお、居るかい?」

 開け放たれた扉に寄りかかりながらシェリーが声を掛けると、長身の男が手にした本をめくりながら応えた。

「……お互い顔を見合わせた後に出る質問じゃあないと思うんだが、それは」

 男は資料室の中で何やら探し物をしている様子で、会話をしながらもその手を止める事無く資料棚を漁っている。
 長身だが、声にも顔付きにも若さと若干の幼さを残していて、落ち着いたその服装や物腰と併せて見ると年齢を測るのが困難だが、これでいて未だ十代の前半だというから恐れ入る。
 そしてシェリーはそんな歳にそぐわない男の態度が気に食わないタイプだったりする。

「挨拶代わりみたいなもんじゃないか、こんなの。やだねー細かい事をネチネチと」

「……人に嫌味を言ってストレス発散したいだけなら帰ってくれないかい?」

「やだね、他に用事はあるし。そっちが嫌味を言いたくなるような態度を取るのが悪い」

「…………」

 男は呆れたように溜め息を吐くと、資料棚を漁る手を止めて向き直った。
 いつもの事。そう、シェリーが彼に回りくどい嫌味混じりの会話で苛立たせてくるのはいつもの事なのだ。

352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 20:27:26.93 ID:T/pyK9RXo

「で? 何の用だい。休日の筈の君がわざわざ僕を訪ねてくるって事はそれなりの意味があるんだろう?」

「はん、話が早いのは助かるが、無駄に聡い男は女性に嫌われやすいわよ?」

「……いいから、さっさと本題に入ってくれ。こっちも暇じゃあないんだ」

「せっかちな男も嫌われやすいって言うけどねぇ……」

「……生憎、僕は自分の事で手一杯でね。女性の評判なんか気にしてる余裕も無いんだよ」

 その苛立ちを隠す様子もなく、男が赤い髪をかき上げる。
 隠した所で表に出すまでからかってくるので無駄だと経験で分かっているのだ。
 だが、そういう分かったような慣れたような態度を取れば取ったでこの意地悪い女が大人しくなると考えるのは彼の甘さである。

「おや? あのチビッ子ちゃんの言葉一つに右往左往するステイル先生の言葉とは思えないねぇ。この前だって『ステイルのその指輪、デザインがシックでかっ こいいかも!』って言われて、その後似たデザインの指輪を二十個買ったり褒められた指輪を五時間かけて磨き上げたりと随分影響を受けて――」

「わーっ! わーっ! ななななんでそんな事まで知って……じゃない、それはたまたま僕自身も気に入ってるからそうしただけで深い意味は無いし、魔術的記号としても僕に都合がいいからストックを多めに確保しただけで他意は全く無いんだよ!」

 サーッ、と音を立てて顔色を蒼褪めさせる男、ステイルに、シェリーは獲物をしとめた肉食獣の笑みを浮かべた。

「ふーん、そうかそうか、なるほどねぇ~」

「そんなあからさまにニヤついた目で僕を見るな! それより何の用なのかいい加減はっきりしてくれないか!?」

「あー、はいはいそうだったね。今日はこれくらいで勘弁しておいてやるよ」

 くっくっく、と心底楽しそうに笑うシェリーに、男は頭痛を抑えきれないとばかりに顔を歪めた。

353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 20:33:05.17 ID:T/pyK9RXo
 ネセサリウス
 必要悪の教会とは、宗教組織であり、魔術師の組織でもある。
 人に、社会に害なす魔術師に対抗する為、徹底的に魔術を研究し、備える部署。それが必要悪の教会の実態である。
 例えば、魔術書の解読を専門とするシェリー達のような魔術師がいたり、ありとあらゆる魔術書の写本をその脳に蓄える禁書目録の名を関する少女がいたり。
 そして、今シェリーの目の前にいる赤髪の魔術師、ステイル=マグヌスのように、荒事専門の魔術師も多く所属している。
 このステイル、元は金髪をわざわざ真っ赤に染めていたり、指輪やピアスをごてごてと着けていたり、右目の下にはバーコードのような刺青をしていたりと見た目は不良神父そのものだが、これでいて僅か十四歳にしてルーンを極めた天才魔術師である。
 こうやってものの見事におちょくられて顔を真っ赤にしてオタオタしてても、である。

 閑話休題。

「まあ用事と言っても大した事じゃあないよ。例の人払いのルーンをまた何枚か貰おうと思ってね」

「……つい先日かなりの枚数を提供したと思ったけどね。それに人払いの術なんてわざわざ僕に頼まずともやりようがあるだろう」

 話題を戻してくれた事に内心安堵しつつ、居住まいを正して平静を装うステイルだが、前髪が汗でペタリと頬に張り付いてたりして結構カッコついてない。
 しかしもう充分からかって満足したとばかりにシェリーは突っ込まずに本題を進める。
 ここに来た本来の目的を果たす為に。

「お前さんのが一番使い勝手がいいし慣れてるんだよ。効果範囲が精密だし何より再配置も楽だ」

「君ほどのベテランに褒められるのは光栄だが、そこまでストレートだと逆に何か裏がありそうで怖いね」

「はっはっは、気にし過ぎだよ天才魔術師さんよ」

「どうだか」

 言いつつも、律儀に手持ちのストックからルーンのカードを渡す若き魔術師に、シェリーはしかし内心の警戒を緩めずその表情をつぶさに観察していた。
 ステイルはその実力もさる事ながら、作戦遂行能力の高さを買われていて、よく重要な任務を任せられる事が多い。
 そしてシェリーは、その任務のほぼ全てが組織のトップである”女狐”からのものである事も知っている。

 つまり、彼の動きに注視する事が、必要悪の教会の見えぬ意志を判断する基準となりうる事を知っているのだ。

「ん、あんがとさん。これだけあれば大丈夫そうだ」

「前に渡した数も結構あったと思うんだが……補充しなきゃいけないほど消費したのかい?」

「ああ……まあ、そんなとこ。ところでさ、ステイル」

 受け取ったルーンをパラパラと確認していたシェリーは、ピッ、とその内の一枚を取り出して目を細めた。

    ペオーズ
「一枚、PEORTHのルーンが混じってるんだけど。何これ、貰っちゃっていいの?」

354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 20:42:07.64 ID:T/pyK9RXo

「……ああ、すまないね。整理が甘かったみたいで紛れ込んでしまったようだ。欲しいというのなら、持っていってくれでも問題ないよ」

 そういってひらひらと手を振り、早く出て行けとばかりに本棚に向き直るステイル。
 その顔に動揺の色も怪しい点もなし、とシェリーの観察眼は語るが、脳裏では別の何かを感じ取っていた。

「ふーん、あっそ。確か思いがけない幸運だか悪運だかを象徴してるんだっけ? 縁起がいいし貰っておこうかな、サンキュ」

 PEORTHのルーンが象徴するのは、ダイスカップ。ギャンブルに使う、ダイスを放り入れてカラカラ転がすアレである。
 意味はシェリーの言ったとおり、偶然やハプニングにより転がり込む幸運を示したり、そして、「秘密」と「それを暴く」事も象徴している。

「じゃ、な。また切れた時催促に来るよ」

「ん、出来れば今度は皮肉やからかいを抜きにしてくれると有り難いんだけどね」

「あー、そいつぁ無理だ。私のライフワークみたいなもんだしな、これは」

 カラカラと笑うシェリーにステイルはやれやれと肩をすくめる。
 参った様子のステイルに、シェリーは満足、とばかりに息を吐くと、くるりと踵を返して部屋を去っていった。
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 20:52:34.43 ID:T/pyK9RXo
――――――――
――――
――


「やれやれ、相変わらず嵐のような人だね……」

 煙草の一つでも吸って気分を晴らしたい所だが、生憎書庫と言うロケーションがそれを許さない。
 さっさと”仕事”を終えて愛するニコチンとタールにありつきたいと思いつつ、ステイルは手に取った本を傍らの棚に乱雑に積み上げた。

 所属も担当も違い、普段から密に交流があるわけでもないが、一度会えば強烈な印象を残していくこの皮肉屋でひねくれ者の女魔術師はステイルにとっても苦手な相手だ。
 だからと言うわけではないが、彼女が「最早用は無い、アデュー」とばかりに悠然と去った後も、その開けっ放しの扉を見詰め続けていた。
 そして、充分に時間が経った後、沈黙が書庫に染み入ったのを確認し、そっと右手を耳元に伸ばした。

「……言われた通り来ましたよ。ええ、ほぼ言われた通りの時間にです」

 薄闇に包まれた書庫には、ステイルの他に誰も人影がない。にもかかわらず、まるで目の前に話し相手がいるかのように、ステイルはそっと小声で呟くように誰かに話しかけていた。 

「はい、ですからそれも言われた通り渡しました。疑われてはいるでしょうが、それも計算の内なのでしょう?」

 懐に忍ばせた栞のような紙切れと、右耳にぶら下がるピアスの内の一つが僅かに振動し、ステイルにだけ聞こえる声を届けている、いわゆる二つで一セットの遠隔通話用の霊装だ。

「ていうか、僕としては貴方がなんで彼女がルーンをねだりに来ると分かっていて、敢えてそれを渡すように言ったのか甚だ疑問ですがね。……いえ、いいです。長くなりそうなので遠慮しておきますよ」

 霊装越しに聞こえてくる声が如何にも愉快そうな声色なのを感じ取り、ステイルは本日一番の溜め息を吐いた。

「僕が逆らえないのをいい事に、これ以上余計なことに巻き込まないで下さい。おかげでそんな事実もないのに貴方専属のエージェントみたいに噂されてこっちはホント迷惑なんですよ」

 霊装の向こうの声が余計に愉快そうに弾むのを、ステイルは頭痛さえ感じながら聞き流す。何故今日はこんなにも苦手な相手とばかり会話させられるのだろうかと、呪詛のように心で呟きながら。

「……はぁ、分かりましたよ。とりあえずもう少し頻度は落として下さい。それじゃ、御機嫌よう――」

 ランプの火が揺れ、闇が蠢く中、赤髪の魔術師が通話を打ち切るように声を潜めてその名を呟く。

       アークビショップ
「――――最大教主」

 それきり、ピアスも懐の栞も振動を止め、薄暗い書庫に沈黙が降りる。
 静寂の中、赤髪の魔術師はじっと目を閉じたまま、闇に溶け込むように佇んでいた。
 何か考え事をしているのか。或いは辺りの気配を探っているのか。その真意は彫像のように固まった彼の姿からは感じ取れそうにもない。

 やがて、ステイルは目の前の資料棚から目的の本を抜き取り抱え込むと、音も立てずその部屋を後にした。

356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/16(土) 20:54:07.10 ID:T/pyK9RXo

「……相変わらず勘の鋭い子だね。やだやだ」

 その書庫から二区画ほど離れた廊下の角で、シェリーは座り込んでいた。
 傍らの床にはうっすらと淡い光が灯っている。光の中をじっくり目を凝らして覗き込むと、それはさきほどの薄暗い書庫の映像だった。
 書庫に元々張り巡らせられている防護や書物の傷み防止の術式に紛れ、シェリーは自らの術式を一つ割り込ませていた。

 ゴーレム
 泥人形。

 愛用のオイルパステルを使用し、本来であれば一体の巨人を召還するそれを、わざと一部分――つまり眼だけを生成し、まるで監視カメラのような用途で使用したのだ。

「しっかし、どっから嗅ぎ付けやがったのかね、あの女狐は」

 ガリガリとボサボサ頭を掻きながら、シェリーは考える。
 自分達の事情はどこまで把握されているのか。どの程度目を付けられているのか。介入はあり得るのか。

「……いや、あの女狐の事だから介入は無いな。するつもりならとっくに横槍が入ってる筈だ」

 始めに布石だけ打ち、後は当事者が踊るのを眺め、結果がどちらに転がろうと最後に美味しい所を掻っ攫っていく。
 それがいつものパターンだと分かっている。
 性質が悪いのはそれが得てして現場の側にとっても都合のいい落とし所になっている事だ。

「どちらにせよ考えるだけ無駄だな。ここは敢えて相手の策に乗る事でこちらからも利用させてもらうのが吉か、クソ」

 よっ、と親父臭い掛け声と共に立ち上がると、埃のついた裾をはたく。

「ま、縁があって迷い込んできた子猫だ。ふらっといなくなるまでは面倒見てやろうじゃないの」

 太い笑みを浮かべた今のシェリーを上条が見たら、恐らく重い頭痛を堪えながら思うだろう。


 最高に楽しそうで、最高に邪悪な――最低な顔をしているな、と。


380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/21(木) 00:10:56.41 ID:OjeRGP/eo

 窓の外を見ると、薄い雲が空一面を覆い隠していた。
 白く鈍い太陽光が空全体に広がり、カラッカラに晴れた青空を見るのとは違った不快な眩しさが目に痛い。

 いっその事分厚い雲で薄暗い灰色の空になってしまった方がいいと思えるくらいだ。
 そしてどしゃ降りの雨でもたっぷり降ってくれれば尚いい。
 中途半端に我慢を強いられる方がよっぽど街を、心を腐らせて行くのだから。

「……、って現実逃避してみても時間の無駄なんだけどね……」

 視線を正面に戻し、溜め息を一つ。
 学園都市第三位の称号を持ち、今は追われる逃亡生活の身である少女、御坂美琴は口の端をひくつかせながら目の前の難関を前に立ちすくんでいた。
 もっさりと積み上がっていた山のほとんどは突き崩され、左手の最新鋭洗濯機(飽く迄学園都市外部での最新鋭の為、学園都市内部の美琴からすれば十年二十年位前の型なのだが)のドラム型洗濯槽の中に収まっている。
 だが、残り数枚だけは手付かずのままカゴの中に残されており、「はよ俺も入れてくれ」と美琴の心を急かしたてている。もちろん美琴の幻聴なのだが。

「今日もいい天気ね……」

 さっきまでハンパに曇ってる空に文句をつけてた癖に白々しい現実逃避をしてしまうのは、乙女御坂美琴としては致し方ないことだった。

381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/21(木) 00:12:01.18 ID:OjeRGP/eo

 何もせず漫然と匿ってもらうだけという立場に我慢が出来ない位には無駄にアクティブで意地っ張りな彼女は、「家事の一つ位は担当する!」と意気込んだはいいが、その挙句こんな事態に陥ってるのだから世話はない。
 彼女に分け与えられた仕事とは、すなわち洗濯で、高性能な洗濯乾燥機が配備されているシェリー邸でのそれはもう楽勝どころの騒ぎではないのだが、その程度の仕事においても彼女はあっさりと高い壁にぶち当たった。

 ある意味学園都市第一位よりも手強い壁だった。
 何しろ一方通行という壁は越える事が出来ない事が最初から分かっていたのだが、今回の壁は越える事は簡単だがそれにより負ってしまうダメージやら失ってしまう尊厳やら純情乙女心やらが深刻というタイプだから性質が悪い。

 しかし、御坂美琴という少女は目の前に立ち塞がる壁を見ると、とにかくまっすぐそれに立ち向かい、正面から越えていく事が信条である。
 たとえ越える事で何かを失おうとも、そんな事で怖気づいてはいられないのである。
 と言うわけで、散々躊躇ったり逃避しまくったりしておいてなんだが、遂に覚悟を決めた美琴は、目の前の”敵”を全力でにらみつけた。


 男物の、下着。


「……、……」

 言うまでもなく、あの上条の物である。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/21(木) 00:14:38.69 ID:OjeRGP/eo

「た、たかが男の下着一つに何をそんなに動揺しちゃってるのかしらねこの美琴センセーってば……」

 わざと客観的に自らを嘲笑ってみたが伸ばそうとした手は途中で固まり進みそうもない。
 無意識の内に上条のトランクスを中心とした適当な半径のフィールドを脳内にイメージし、その範囲に入ることさえビクついてしまっている自分がいて、心のどこかでその事を本気で馬鹿らしいと認識しているが何度やってもそのフィールド内に指一本入れる事が出来ない。

 恐るべし上条・トランクス・フィールド。
 略してK.T.フィールド。

「……、うぐ……」

 下手に名付けたせいで余計になんか凄味が増して不可侵度もランクアップした気がしてしまう乙女御坂美琴十四歳であった。

「くそおおっ、負けるかーっ! たかがK.T.フィールドの一枚や二枚、美琴ちゃんの雷撃の槍であっさり貫通してやろうじゃないの! このーっ、このーっ!」

 ビリビリバチバチと弱めの電撃で牽制してみるも、その雷撃さえK.T.フィールドに触れる直前で躊躇するように引き返しプシュンと霧散する有様。学園都市の誇る超能力者の名が号泣と言うものである。
 もっとも、そのK.T.フィールドでさえ彼女の脳内が構築した妄想であるから、彼女が挑んでは敗北しているその未知の力も彼女自身の力が作り出したものといってもいいのかもしれない。
 子供の頃から脳に電極ぶっ刺したりクスリ漬けになったり勉学と研鑽に打ち込んだりと人体実験もかくやの壮絶な過程を経た結果、作り出すのが男のパンツの周りにエンガチョバリアを張る力というのもどうかと思うのだが。
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/21(木) 00:19:30.06 ID:OjeRGP/eo

「くそーっ、くそーっ、このやろっ、このやろっ!」

 そのまましばらく学園都市の技術の粋を無駄遣いしたシャドウボクシングをしていた美琴だが、段々とアホらしくなってきてやがて電撃を引っ込めると萎れた仏壇の花よろしくしおしおとうな垂れた。
 傍から見れば手狭な洗濯室の片隅で男物のパンツを目の前に一人悶え、百面奏した挙句ぱんつに向かって火花を散らし(比喩でなく)、挙句疲れてがっくりと肩を落としている少女という、構図。
 もうそれは清々しいまでの120%怪しい人物そのものである。

「……何やってるんだろ、私」

 チラ、と目的のトランクスを見やる。
 何をそんなに恐れる事があるのか。無地のダークグレーで何の装飾もない地味なだけの布の塊ではないか。
 成分にして綿100%、ゴム部分がポリエステル製、表面にゴミやら垢やらが付着してるかもだがそれだって洗えば落とせるし皮膚なんて新陳代謝で入れ替わ るし何か具体的な害があるわけでもない。ていうかそもそもその垢だって元々は皮膚とその分泌物だったものが粘土状に固まったもので、一体何故ソコまで毛嫌 いする必要があると言うのだ。

 むしろ汚れているのは邪まな想像を浮かべる自分自身の心の方ではないのか?
384 :×百面奏→○百面相 orz[saga]:2011/04/21(木) 00:21:07.61 ID:OjeRGP/eo

「そうよ。そうよね。アハハハ、ほーんと私ってばなにいっちょ前に意識しちゃってるのかしら。今更純情乙女じゃあるまいし男物のぱんつ如きぽぽいのぽーいって放り込めばいいだけじゃない」

 がっはっは、と強がりつつも顔を真っ赤にして汗をだらだら流しながら結局動揺しまくりな美琴だったが、こういう時は得てして本人に自覚などない。
 そしてその事が幸いしてか、そのまま伸ばした手は今度は謎のバリアに阻害されることなくトランクスに到達。ひょいと摘み上げる事に成功。そのままスムーズな動きで洗濯槽へとソレは投下されたのだった。

 思った以上にあっさりと片付いた事に内心安堵した美琴は、パンパンと一仕事を終えた職人が埃を払うように両手を叩き合わせて得意気に笑った。

「ほーら、なんともなかったじゃない。だから言ったでしょ、この御坂美琴サマの手に掛かっちゃあ、この程度の壁なんて越えるとかいうレベルのもの……じゃ……」

 はた、と叩き合わせてた手を止め、目の端に映ったそれをまじまじと美琴は見詰める。
 この右手首辺りについてる、糸状の、糸よりももっと細くて丈夫で光沢がある、チリチリと縮れたモノは一体なんだろう?

 悲しいかな、考えるまでもなくソレはアレなのだと美琴の頭脳は瞬時に答えをはじき出してしまった。
 こういう時学園都市の頂点たる優秀な脳味噌が恨めしい、とか思ったりしたが、別にその答えは彼女が劣等な脳味噌を持っていたって瞬時に導き出せたであろうからとんだ濡れ衣である。


 すなわち、縮れ毛+直前に手にしていたもの(男物トランクス)=???
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/21(木) 00:24:14.07 ID:OjeRGP/eo

「……う、う、うううううううう」


 それでも彼女は耐えた。それこそ学園都市の頂点へと登りつめたその忍耐力と精神力で。
 叫び出して走り出したい気持ちをギリギリと全身全霊を込めて抑え込み、ふらふらとすぐそばにある流し台へその手を伸ばす。

 一歩、一歩と近付く速度はもどかしいが、慌てて動いてその???がふわりと飛ばされてしまっては大変な事になる。
 例えば手首についてる内はまだ抑え込む事が出来るそれでも、風に吹かれて顔とかについたらもう耐えられない。大惨事である。
 そういった事態に陥らないように、また自らの心を落ち着ける意味でも、この牛歩のような速度が今の自分には理想的なのである。そうなんだったらそうなんだ。

「……うう、うう、うううううううう」

 怪談話に出てくる幽鬼のように怪しげな呻き声を出しつつ、ゆっくりと歩を進める。夜道で出会ったら十人中七人が逃げ出し、残り二人が腰を抜かして倒れ、最後の一人はそのまま失禁してもおかしくない迫力だ。

 しかし、今は朝日が登りきった午前中である。さんさんとお日様が降り注……いではいない曇り空だが、先程も言ったとおり空は明るく眩しいほどであり。
 その為現状の美琴に出会った人物は怖がる事も逃げる事もせずこう言った。


「よう、御坂。洗濯の方はどうだ? ……ってなんで変な顔しながら唸ってるのお前?」


 そしてそんな気軽に声を掛けられた美琴は(自分が排除しようとしているブツの推定持ち主に声を掛けられたせいもあってか)抑え付けていた物があっさりと決壊したのだった。
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/21(木) 00:25:44.95 ID:OjeRGP/eo

「にゃあああああああああああああああああああああああああっ!!」


「うぎゃああああああああああああああああああああああああっ!?」


 バリバリピシャーン! と派手な音と共に雷撃はまっすぐ少年の下に向かい、それは即座に彼の右手によってバキンと綺麗に打ち消された。幸いにもその雷撃は完璧なまでに彼にのみ襲い掛かった為、周りの機器には被害が出る事はなかった。
 とはいえ、ただ声を掛けただけの上条少年の精神にはトラウマレベルの恐怖を刻み込むといった被害は出たのだが。







 ちなみに、少女の手に付着していた縮れ毛の色は薄汚れた金色で、手入れを怠っている証左にフケなんぞが付着してはいたが、少女が顔を真っ赤にして叫びだすような何かでは無い事を補足しておこう。 
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 00:35:43.58 ID:j3QG2qEvo

 洗濯物を全て放り込み、後はプログラム通りに洗濯乾燥機が全てこなすに任せるのみとなった美琴は、重苦しい空気の中に居た。
 向かい合うは、先程全くのとばっちりで電撃を喰らわせた被害者である所の上条当麻。
 はっきりと表面に不満や不快を漂わせているわけではないが、理不尽な攻撃を加えた自覚のある美琴にとっては何気ない仕草一つ取ってもネガティブにしか捉えられない。

「えっと……あの、ごめん」

「え? あ、ああ、いいよ別に」

「でも、やっぱりごめん」

 美琴にしては勇気を出して謝ってみたのだが、上条の反応は思ったよりもそっけない。
 その事がちょっぴり不満だったが、さりとてそれにケチをつけるのもどうかと思うので美琴は謝罪の言葉を重ねる。

 上条からしてみれば確かにびっくりはしたが、幻想殺しで打ち消したことで実際に被害があったわけでも無い。だから、美琴がなんでこうまで縮こまっているのか理解できなかった。
 しかしながら、美琴からしてみれば上条が登場するまでの自分の行動や思考の後ろめたさもあるし、被害ゼロなのもたまたま上条が不思議な力を持っていて、咄嗟にその右手を突き出す反応が出来たからに過ぎない。
 というか、美琴にとっては前者の恥ずかしい思考の方が今も自分の胸にちくちく突き刺さっているのが問題だった。おかげでまともに上条の顔をまっすぐに見れない。問題としては後者の方が大きい事も分かってるのに。思春期ど真ん中に位置する乙女の、乙女心のなせる業か。

「むむむむむ……」

「ど、どうした御坂?」

「な、なんでもないわよ! ほっといて!」

「いや、そんな事言われてもですね……」
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 00:42:10.70 ID:j3QG2qEvo

 さっきまでシュンとしてたのがいきなり顔を真っ赤にして不機嫌そうに唸りだしたもんだから上条でなくても気になるというものだが、今の美琴にそこまで気が回ろう筈もない。
 上条としてはそんな美琴を前にただオロオロとうろたえる他になかった。

「あ、そうだ。御坂、着替えとか生活用品とか大丈夫か? 必要なものがあるなら早めに言ってくれれば俺が買ってくるけど?」

 この空気の払拭にいい話題が思い付いた、とでも思ったのか、殊更に明るい声が出る上条だったが。美琴の反応はといえばジトっとした目で見上げてくるという、予想外に芳しくない物だった。

「もう既にシェリーさんが目ぼしいの揃えてくれてるわよ。それに第一、アンタに女の子の生活用品とか買いに行かせると思う? 仮に下着とか生理用品とか頼んだとして、堂々と買う気なの?」

「うぐっ、そ、それは……!」

「それとも……ひょっとしてアンタってば、私にアンタ好みの下着着せて喜ぶ変態趣味を持ってるとかじゃないわよね?」

「バッ! そ、そんな趣味あるわけ無いだろ!」

「……どーだか」

 かく言う本人も先程上条の下着を見て興奮(?)してた癖に酷い言い様であるのだが、そんな事を露とも知らない上条は冷や汗をダラダラと流しながら必死で否定する他無い。
 そんな上条の反応を見て、美琴の疑念は膨らみ、その事が更なる追撃の言葉を生み出すのだった。

「ってか良く考えたら、朝起きたらベランダに不審者が引っ掛かってたのに平気で部屋に連れ込んだり、人の裸を二回も見たりと、前科があるのよね、アンタには」

「だからそれは悪かったって……」

 その事を言われると弱い上条だった。
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 00:46:01.86 ID:j3QG2qEvo

「ひょっとして私を追っ手から逃がしたり匿ったりしてるのも、下心アリアリでやってんじゃないでしょうね……?」

 ジロリ、と上条をジト目で睨みつける美琴だが、その頬の辺りはほんのり赤く染まっていた。万一それに気付いていればその後の上条の運命は変わっていたのだろうか?

 しかし、実際にはそんな細かい相手の所作などあっさりスルーするのが上条の上条当麻たる所以だったりもする。

「あのなぁ……。そんな思わせぶりな事言って動揺させようとしたって無駄だぞ? こちとらお前相手にそんなボーイミーツガールなラヴイベントなんか最初から期待しちゃいねーからさ」

「…………」

「あれ、何故急に黙ってしまわれますか? 心なしか前髪の辺りがバチバチ言ってますけどー。美琴さーん」

「…………」

 上条としては無理矢理ギャグ方面に空気を持っていこうとしてみたつもりだったが、美琴の前髪のバチバチは激しくなるばかり。慌てて右手を頭に伸ばそうとすると一瞬早くバッチィン、と電撃が伸びてきて上条の右手に突き刺さった。
 あまりの反応のよさにびっくりして手を止めてしまう上条の耳に、なにやら空気が漏れるような音が聞こえてくる。

「ふふ、ふふふふ、ふふふふふふふ……」

 それは、目の前の少女の喉の奥から響いてきているようだった。というか美琴の含み笑いだった。
 上条は美琴の背中から湧き出るドス黒いオーラを幻視した。幻だと分かってるのに何故かそれは妙な現実感があった。

 上条は思った。これひょっとして俺ヤバくね?
407VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 00:48:03.15 ID:j3QG2qEvo

「ねえアンタ」

 はい、と上条は自分が呼ばれたっぽいのでとりあえず返事をしてみる。
 とてつもなく不幸な予感がした。

「アンタの事、なんか……」

 バチバチバッチィン! と危険が危ない音が響き渡り、激しい火花が上条の視界を焼いた。



「だい……っきらい!」


 紫電が四方から迸り、上条に襲い掛かる。次の瞬間に彼が感じたもの、それが、上条当麻が御坂美琴から初めて味合わされる、超能力という力による電撃の痛みだった。
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 00:51:51.33 ID:j3QG2qEvo
――――――――
――――
――


 すっかり機嫌を損ねたらしく、美琴はプリプリしながら隣の部屋のソファーに移動して、今は一人ブツブツと呟いている。
 おっかなびっくり声を掛けてみようとするとキッ、と睨みつけてくるので正直怖かった。
 そのくせ、気が付くとチラチラとこちらを肩越しに窺ってくる。気になって視線を向けるとババッ、と体ごと目を逸らす。

 一体何がしたいんだよ……と、上条は電撃で先っぽが縮れた前髪をくりくりと弄り回しながら溜め息をついた。
 ほっとけばその内機嫌を直して話しかけてくるかな……と、半ば諦めの心境で上条はご機嫌ナナメの電撃姫を視界から外す事にした。

 電撃姫。確か美琴は自らが『常盤台の電撃姫』等と恥ずかしい名称で呼ばれている事をぼやいていた。
 学園都市の頂点、たった七人の超能力者。魔術の世界にも世界に二十人といない『聖人』という特別はいるが、分母が不明な魔術師という集団の中ではそれが 何分の一の確率での話なのかは分からない。少なくとも二百三十分の七よりは希少だとは思うが、そもそも比べる対象として妥当なのかも測りかねる。
 それだけ学園都市という世界は外から見て未知の存在だ。

 美琴のこの後の処遇としては、最終的には学園都市に帰すのが妥当だとは思う。しかし追っ手として美琴を襲う存在も学園都市の住人だ。その目的や学園都市における立場などは一切不明。
 今の状態で美琴を学園都市に帰しても、美琴が平和な日常に戻れるのか? それが確認できるまでは下手に彼女に動いてもらうわけには行かない。

 幸いにも、上条達の所属するイギリス清教は学園都市とのコネがあるとシェリーが言っていた。
 今はシェリーを通じて、イギリス清教の上層部から学園都市へと探りを入れてもらうよう工作を施している最中だ。
 その手のややこしい汚れ仕事は上条の苦手とするところで、結局何もかもシェリーの世話になってしまっている現状が歯がゆい。

 上条は美琴の為に自分が何の役にも立っていないことに言いようも無い焦燥を感じていた。
 さっきのやり取りだって、少し落ち込んでいるように見えた美琴を、軽い会話で気を紛らわせればと思っただけなのに、余計に機嫌を損ねてしまった。
 せめて美琴が学園都市に無事帰れるまでに少しでも彼女の力になってやれたら――。
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 00:53:45.52 ID:j3QG2qEvo

(――それが、何になるって言うんだよ……)

 分かっている、全てが解決したら、美琴は元の生活に戻る為ロンドンを去り、学園都市へ帰る。
 このまま解決しなかったら、とか学園都市全てが美琴の敵だったら、とか想像しないでもないが、それは美琴にとっての不幸で、その事態に陥らないように協力する事こそが上条の本意だ。
 全て丸く収まって、色々と世話になったわね、学園都市に来たら歓迎するわ、と笑みをかわしあい別れるのがこの物語のハッピーエンドだ。それ以上何を望むというのだ。

 このままの生活を延々と続けるわけには行かないのは上条だって同じだ。早くこの状態が解消されるのが一番に決まってる。それなのに、何故上条の心は小さな引っ掛かりを覚えてしまうのだろう?

                                オカルト          ESP
 上条と美琴は住んでいる国も、世界も違う。上条は魔術の世界、美琴は科学の世界。上条はイギリスはロンドン、美琴は日本の学園都市。
 二つは決して交わることは無く、偶然に偶然が重なって、刹那のすれ違いが訪れただけ。

 たったそれだけの話。
 それだけの話なのに、何故か上条の心は波打つようにざわめき、何故だか無性にイラついて、
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 00:57:15.35 ID:j3QG2qEvo

「あれ?」


 と、不意に違和感を感じて思考を止める。
 視界の端、隣の部屋のソファーから飛び出していた、茶色の頭が居なくなっていた。
 シェリーから寝室として割り当てられていた部屋に戻ったのかと一瞬思ったが、何となく嫌な予感がした。

 美琴が近くに居る時に、僅かに感じる濃密な気配というか空気が感じられない。その事を以前美琴に尋ねた時、AIM拡散力場だか電磁波だかの問題で、動物等に嫌われて触れない、等というボヤきを漏らされたが、意識すれば感覚が鋭敏な人間にも感じられるものらしい。
 そして、今それは感じられない。
 つまり、美琴は、この家に、いない?

 それでも、まだ決まったわけではないと上条は美琴のいそうな部屋を片っ端からノックし、呼び掛けてみた。
 全ての部屋から返事が無かった。
 それだけで満足せず、またぞろ不幸イベントが起こる事も覚悟でドアを開けてみた。
 そして、全ての部屋で実行したにもかかわらず、少女の姿を発見出来なかった事で、ようやく確信に至った。


 御坂美琴は、一人で、誰にも言わず外出した、と。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 00:58:42.87 ID:j3QG2qEvo
――――――――
――――
――


(ああ、もう……なんだってまたこうなっちゃうのよぉっ!)

 隣の部屋で焦げた髪先を弄くっている上条を横目で見つつ、御坂美琴は後悔の念に苛まれていた。
 さっきは悪い事をした、と素直に謝ろうとしたのに、つまらない事で苛立ってまた当り散らしてしまった。
 これでも学園都市では超能力者という頂点にまで登りつめた身だ。
 能力・精神・感情の制御はむしろ得意とするところで、多少短気でケンカっぱやい所があるのは自覚してるが、それも抑えるよう心がけている。

 なのに、何故上条の前ではこうまでも上手く行かないのか。美琴は自分の事なのに全然分からなかった。

(感謝……してるのは確かなのに)

 情けない事に、ボロボロ泣いてる姿まで見られてしまっている。彼の事を信頼できる人だとも思う。全てが終わって、また別れる時が来ても、絶対いつかまた会いに来て、この恩を何倍にもして返したいとも思っている。
 それなのに、先程から彼に取っている態度は全くの正反対ではないか。恩を仇で返すような真似とさえ言える。

(でも、でもなんか……さっきは凄く嫌な気持ちになった。なんで、なんだろ……)

 上条に「期待してない」とか言われた時、ワケも分からず胸が痛んだ。
 なんだか全てを拒絶されたような気持ちになって、悲しみと怒りが異様に湧き上がって、気が付けば意識してないのに前髪から電撃が漏れ出ていた。
 その電撃は意識して出したものではない。イラだった時、ムカつく相手を前に威嚇で電流の欠片を見せつけるように放出する事はあるが、アレはそういうのではなかった。
 今思えば、感情が昂ぶった位で何故能力が制御できなかったのか不思議だった。制御ミスだとしたら超能力者として精密な電撃を制御するのがウリの自分のチカラが疑わしく思えてくる。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 01:03:16.31 ID:j3QG2qEvo
                   パーソナル・リアリティ
(精神が不安定になって……”自分だけの現実”が、揺らいでいる、とか?)

 思えば、あの操車場で気を失ってからの記憶は無く、気が付けば見知らぬ土地の見知らぬ街角に放り出されていた。
 焦って辺りを窺い、そこが学園都市でも、日本でさえも無く、遥か海外のイギリス、ロンドンである事が分かった時は、流石に言い知れぬ不安を覚えた。

 そんな見知らぬ街をふらふら歩いていたら、見知った顔を見かけた。その顔が自分と瓜二つのものだったので、大きな疑念が生まれたものの、一番に感じたのは安堵だった。
 駆け寄ろうとしたら警告の声を発せられ、息を呑んだ。彼女――妹達が私に向けた目は、あからさまな、警戒色。

 どうして、私よ。分からないの? と半ば悲鳴のように叫ぶと、妹達は顔をしかめ、再び警告を発してきた。ワケが分からず一歩を踏み出すと、足元に銃弾が突き刺さる。
 突き刺さった銃弾は自分の電磁波の干渉を受け付けない、ゴムを主成分とした特殊弾だった。その事が、更に混乱を加速する。
 始めから、私に対抗する為の装備を備えている。つまり――
 その事を、その現実を認めるのが怖かった。

 だから、逃げ出した。

 その事が、今の今まで、心にしこりとして残っている。

 しかし、それからは必死だった。
 妹達の私を追う手は執拗で、こちらの思惑を上回るような装備や戦略を駆使して、私は追い詰められる一方だった。
 それでも、この命を投げ出してまで救いたかった命だった。傷付けるなんて始めから選択肢になかった。
 だから、いくら追い詰められても、その銃弾がこの身に突き刺さろうとも、彼女達を傷つける事はできなかった。

 辛うじて妹達の追撃を逃れた後、精根尽き果てた私は、気が付けば移動中に気を失っていた。
 そして、気が付けば見知らぬ少年の部屋のベランダに引っ掛かっていたのだ。

(そういえば、ロンドンで気が付いた時、何か荷物を持ってた気がしたけど……)

 ありふれた肩掛けのバッグのような物だった気がする。そこそこの重量があった筈だが、逃走の際、肩紐が千切れとんだので、邪魔になって打ち捨ててきた。
 ひょっとしたらアレの中に何か現状に対するヒントがあったのかもと思うと、何故最初に中身を確認しなかったのかと思う。が、今となっては詮無きことだ。
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 01:06:27.91 ID:j3QG2qEvo

 ちら、と隣の部屋の少年の顔を窺うと、なにやら難しい顔をして考え込んでいた。
 さっきまでしきりにこちらを気にしている素振りだったのに、今は完全に考えに没頭してこちらの様子に気を払っていないようだ。
 試しに、そっとソファーから立ち上がってみるも、気付く様子は無い。そろーっと一歩踏み出してみる、やはり気付かない。

(これ、何だか面白いかも……)

 そのまま少しずつ少しずつ気配を忍ばせながら移動してみるも、上条は相当深く自分の考えに没頭しているようで、反応なし。
 結局部屋の外に出るまで彼が気付くことは無かった。

(どんだけ入り込んじゃってるんだか……ったく)

 呆れて息を吐くも、ふと思えば彼が周りの変化に気付かないほど考え込む事となれば、それの原因は自分である可能性が高いのは明らかだった。
 改めて自分がもたらした厄介ごとと、それによる少年の心労に心が痛んだ。それこそ下心の一つでも持って助けてくれる方が少しは割に合うのではないのかとさえ思う。
 そのくせ、自分と来たら妹達と真っ向から顔を合わせるのが怖くて逃げ回ってただけだし、自分のおかれた状況一つ自力で知る事も出来ない。

 一度海外にも繋がっている回線を利用して学園都市の情報にハッキングを掛けてみようとしたが、外部からの侵入に対しては無駄に堅固な防御網を張り巡らせ ている件の科学技術都市だ。外の一般レベルの機器ではとてもじゃないがそれを破るに事足りなかった。せめて国家、ないしは軍事レベルの先端機器が必要だろ う。
                                               チキン
(だからって、その程度の壁にぶつかった程度で諦めてるって、どんだけ私は臆病者なのよ……)

 ぐっ、と唇を噛み締めた。鈍く重い痛みが走るが、それがなんだというのだ。他人が心を痛めているというのに、自分は痛みを怖がるだなんて、なんて自分勝手でワガママなんだろう。
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/01(日) 01:09:46.14 ID:j3QG2qEvo

 そっ、と扉の隙間から部屋を覗き見ると、上条はまだ何か考え込んでいた。その顔は痛ましく歪んでいる。
 彼にそんな顔をさせてしまっているのは、間違いなく自分だ。
 ならば、自分は少しでも彼に報いたい。報わなくてはならない。

(分かってる。この想いも、今から私が取る行動も、結局はアンタを苦しめるかもしれないって、事)

 分かってても、立ち止まれないのが御坂美琴という人間だった。今までの彼女は弱りきっていて、いつもだったら迷い無く踏み出している足を動かせずにいた。
 しかし、上条という存在のおかげで、美琴はその”いつも”の力を僅かながら取り戻しつつあった。
 それはとても皮肉な事実だった。上条は、そんな少女の強さなど、望んではいなかったというのに。

(だけど、私は行かなきゃ……行って確かめなきゃ行けない事、ううん、確かめたい事が――ある)

 少女の目に宿る炎。その火種を灯した少年を最後に一瞥し、美琴は足音を殺し家を出た。
 目の前に広がるは見知らぬ土地、見知らぬ街、見知らぬ路地。

 しかし、少女の足は躊躇いの欠片も見せずに踏み出される。

 一歩踏み出したら、後は軽く、あっという間に駆け足になった。
 心なしか引かれる後ろ髪は重かったが、無理矢理振り払うかのように少女は懸命に走った。

 その先にある、真実を求めて。 
421 : ◆MDOfmX8bYE[saga sage]:2011/05/02(月) 13:06:09.21 ID:/g+YJYKCo
一つだけ、どうしても気になる箇所があったので訂正

>>408
×少なくとも二百三十分の七よりは~
○少なくとも二百三十万分の七よりは~

二百三十人しかいないとかどんだけ過疎なんだよ学園都市っ!
他にもこまごまミスってるところあるけど全部修正かけてる余裕ないので特に不味い所だけって事で・・・ 

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