- ※未完作品
- 1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[saga]:2011/04/05(火) 00:47:03.40 ID:2cQgefoQo
-
・とある(主に一方さん)×ロックマンゼロ
・だいたい地の文あり
・比較的きれいな一方さんです
・設定は都合のいいように改変・解釈
・かなりまったりと進行してきます
・アカルイミライヲー
ではやっていきます - 3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 00:52:40.69 ID:2cQgefoQo
-
【プロローグ】
星から生まれた命の輝き。
人を模して造られた機械の叫び。
思想から芽生える争いの炎。
――ここには、もう届かない。
静寂に包まれた、電脳の深淵に溶けていく意識の底から浮かぶ光景は――
―― 一方通行。お前と共に戦った、百年前の戦場の記憶。
聞こえてくるのは――
――お前が百年前に残した、最期の言葉。
- 4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:01:14.76 ID:2cQgefoQo
- カエル顔の医師「完全封印までもう時間がない……既に機能停止が始まっているからね?
満足な会話などできるかどうか……」
上条「一方通行……!!」
一方通行「……三、下かァ」
上条「お前は……お前はこれでいいのかよ!?
今まで皆のために戦ってきたってのに、こんなのって……!!」
一方通行「俺みてェなのがいる限り……血塗られた歴史は繰り返されちまう」
上条「そんな……何言ってんだ、一方通行!!」
一方通行「俺は……いつも考えていた……
オマエは何故……何も知らない人間たちのことを……信じることができンのか……
今でも……その答えは分らねェ……
だけどよ……俺は仲間として……オマエを信じてやる……
だから……お前の信じる人間たちの言葉を……信じてェ……」
『最終カウントダウン……5……4……』
上条「やめ……ろ……!!
今すぐ封印をやめてくれ!!」
一方通行「いいンだ……三下……
アイツらのこ……たのン……」
『……3……2……1……0』
上条「一方通行ーーーー!!!」
――それから、百年の年月が過ぎた。 - 5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:07:54.81 ID:2cQgefoQo
- 【OPENING MISSON:シエルを救え】
打ち止め「シエル、皆、頑張って!! ってミサカはミサカは鼓舞してみる!!」
シエル「はぁ、はぁ……打ち止め、この先に本当に……?」
打ち止め「うん、この先に『あの人』が封印されてるんだよってミサカはミサカは断言してみる!!」
ぼんやりと光りながら飛行するサイバーエルフ『打ち止め』に先導され、
シエル達レジスタンスのメンバーは深い森の中を進んでいった。
すでにネオ・アルカディアの追手はすぐ後ろにまで迫っており、足を止めることは許されない。
シエル「これは……行き止まり?」
森の最奥で、青く、巨大な壁がシエルの行く手を阻んだ。
しかしその表面に通った光の筋は、この『忘却の研究所』が未だ稼働していることを示していた。
打ち止め「ううん、強い力を感じる……きっとこの奥にあの人がいるってミサカはミサカは確信してみる」
ミラン「よし、それなら俺に任せてくれ。 下がって、シエル」
レジスタンスの一人、ミランが手際良く爆弾を仕掛けていく。
それと同時にシエルの耳に飛び込んできたのは、後方を守っていたはずの仲間の悲鳴だった。
「な、なんだこいつ!?」
「「「うあぁぁぁーー!!」」」
ミラン「くそ、もう追いつかれたのか!?」
シエル「皆……!!」
ミラン「扉が開いたぞシエル、さあ早く中へ!!」 - 6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:12:06.81 ID:2cQgefoQo
- スペル間違えた……orz
× 【OPENING MISSON:シエルを救え】 → ○ 【OPENING MISSION:シエルを救え】
シエル「これは……」
ミランに促され、扉の奥のだだっ広く真っ暗な空間にシエルは足を踏み入れた。
水たまりを踏む音が瓦礫の山にピシャリと響く。
そこでシエルが見たものは、この暗闇に不釣り合いなほどの真っ白な『英雄』の姿だった。
シエル「これが……『一方通行』?」
ミラン「つ、ついに見つけたぞ……うわぁ!?」
恐る恐るその体に触れようとしたミランが、見えない何かにはじかれた。
打ち止め「……どうやらプロテクトがかかってるみたいだねってミサカはミサカは推測してみる」
シエル「そんな、一体どうすれば……」
ミラン「……!! シエル、危ない!!」
パンテオン「…………」
振り向いたシエルの眼前には、すでに無数の量産型レプリロイド・パンテオンが武器を構えていた。
―― その一体が放ったエネルギー弾が、ミランの脳天を直撃した。 - 7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:16:27.14 ID:2cQgefoQo
- ミラン「がはっ……!!」
シエル「ミラン!! しっかり、しっかりして!!」
ミラン「…………」
シエルの必死の呼びかけにもかかわらず、ミランが目を覚ます事はない。
パンテオンがここまでやってきたということは、おそらく他のレジスタンスの仲間もすべてやられてしまったのであろう。
すべての仲間を失い、あと一歩のところで一方通行の封印を解くこともできない。
―― 一体自分は何のために今まで戦い、ここまで来たのだろうか?
シエルの心はすでに絶望で満たされていた。
打ち止め「シエル……シエルゥ!! ってミサカはミサカは必死で呼んでみる!!」
シエル「……えっ?」
そのために、打ち止めの必死の呼びかけに気付くのに少しの時間を要した。
- 8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:20:28.60 ID:2cQgefoQo
- 打ち止め「ミサカの力を使ってあの人の封印を解いてほしいってミサカはミサカは懇願してみる!!」
シエル「そんな……それじゃ打ち止めが!!」
サイバーエルフは電子でできた魂のような存在で、さまざまな力をもっている。
その力をもって一方通行にかかったプロテクトに『無理やり』干渉することは可能だった。
しかし、それはすなわち打ち止め自身の死を意味していた。
打ち止め「シエルの帰りを待ってる皆のことを忘れないで、ってミサカはミサカは訴えてみる!!」
それに、ミサカのことなら大丈夫だよ。
あの人とは、『いっしんどうたい』なんだからってミサカはミサカはノロケてみる!!」
この状況にあって、屈託のない笑顔を振りまく打ち止め。
それは単にシエルを励ますためのものではなく、心底一方通行を信頼しているからこそのもの――
――シエルには、そう思えた。
シエル「わかったわ……お願い、打ち止め」
打ち止め「うん、今までありがとうシエル……さよなら!!」
シエル「打ち止めーーーー!!」
- 9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:27:11.66 ID:2cQgefoQo
- ――深い、深い闇の中。
泥のような眠りの中心で一方通行を不意に揺り起したのは、どこか懐かしい声だった。
『こんなトコにいたんだって、ミサカはミサカは百年ぶりの再会に感動してみる!!』
『…………?』
『えへへ、まだよくわかんないのも無理はないかなーってミサカはミサカは大きな懐を示してみる!!』
『ンだ……オマエは……』
『うーん……色々お話したいことはあるんだけど、今ちょっと時間がなくて』
ああ、なんだとおぼろげな意識で気づく。
この声は、心地よいこの声は。
『ぴんちってやつみたいだから、助けてほしいってミサカはミサカはお願いしてみる!!』
――かつて命をかけて守ると決めたものじゃないか。
その瞬間視界が眩しい光に覆われ、一方通行の意識は完全に覚醒した。 - 10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:33:24.15 ID:2cQgefoQo
- まずは状況の整理だ。
今いるのは、よくわからない廃墟のような場所。
シエル「あ、一方通行が……復活した……?」
目の前には震える少女が一名。
パンテオン「…………」
背後からは武器をもった人間型の何かが物も言わず近づいてくる。
ミラン「…………」
足もとに転がる、別な意味で物を言わない男が握る小銃を拾い上げる。
得物の確保、完了。
シエル「一方通行……?
助けて。お願い、助けて……!」
ここで一方通行の推測は確信に変わった。
記憶などなくてもわかる。
この状況は自分が心に刻み込んだ単純な図式そのものだ。
それならば、自分のしなければならないことは自ずから明らかである。
一方通行「……最っ高の寝覚めじゃねェかよおいィ!!」
『白き英雄』の伝説が今、再び幕を上げた。 - 11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:39:57.90 ID:2cQgefoQo
- 一方通行「オイオイなンだこンなもンか!? もっと楽しませてくれよザコどもがァ!!」
一方通行は無限に湧く蜘蛛型メカニロイド・セキュリパイダーを片っ端から破壊し、
さながらシューティングゲームの様にパンテオンたちの脳天を打ち抜いて行く。
シエル(これが……『白き英雄』、一方通行)
封印を解くことに対して抱いていた迷いや疑念などを考える余裕は今はない。
立ちはだかる敵を殲滅しながら突き進む一方通行を、シエルは必至で追いかけていた。
一方通行「チッ……シケてンなァ」
他方、どれだけの敵を倒しても一方通行が満足することはなかった。
むしろその撃墜数が増えれば増えるほど、急速に一方通行の表情からは当初の狂気じみた明るさが抜けていった。
――何かがつまらない。何かが違う。
こんな三下どもが相手だからとかそんな理由ではなく、もっと根本的な何かが抜けているのだ。
一方通行「…………オラオラオラオラァ!!」
それを振り払うため、一方通行はなおも引き金を引く手を緩めなかった。 - 12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:45:02.13 ID:2cQgefoQo
- 一方通行「……ンだァ、行き止まりかァ?」
すでに敵の気配はなく、一方通行は物足りないような表情を浮かべる。
気づけば二人は小さなコンピュータルームのような場所に出ていた。
シエル「……ううん、ここは前時代の研究所みたい。
もしかしたらレジスタンスベースに戻れるトランスサーバが……」
一方通行「!? おい、下がれェ!!」
シエル「えっ? ……きゃぁ!!」
一方通行が駆け寄るよりも一歩早く、瓦礫の奥から腕が伸び出しシエルの体を鷲掴みにする。
巨大メカニロイド・ゴーレムが一方通行の前に姿を現した。
ゴーレム「グオオオオオォォォォォッ!!!」
一方通行「ぎゃっは、うれしいねェ!! まだこんな活きのイイのがいンじゃねェか!!」
オマエはあのザコどもみてェに簡単にやられてくれンなよォ!?」
一方通行はすぐさまバスターを構え、その頭部を狙いうつ。
しかし、ゴーレムはもう片方の腕でエネルギー弾をことごとく弾いていった。 - 13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:49:31.60 ID:2cQgefoQo
- 一方通行「なっ!?」
ゴーレム「…………」
一方通行からの攻撃にまったくひるむことなく、ゴーレムは前頭部の経口にエネルギーを集中させていく。
ブウウゥゥンッと低い音が漏れたかと思うと、極太の光線が一方通行を襲った。
一方通行「チィッ……!!」
間一髪光線の魔の手から逃れた一方通行は、すぐさまその動きを目で追った。
光線は先ほどまで一方通行のいた直線上に底の見えない溝を作りながら、ゆっくりと壁を伝い天井まで這っていく。
不覚にも、その意味に気がついたのは光線が消えるのを見届けてからだった。
一方通行は次に、崩れ落ちる天井の砕片を必死で避けねばならなかった。
シエル「一方通行ーッ!!」
派手な音を立て、コンクリートの塊が一方通行を襲う。
一方通行「……ったく、退屈させてくれねェなァ」
砂煙の中から、一方通行は真っ白い顔をのぞかせた。
表情こそ全く変化がないが、現在の状況が窮地であることは誰の目にも明らかだ。 - 14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:52:07.24 ID:2cQgefoQo
- 一方通行(さァて、どうすっか……)
考え始めたその時。
『アクセラレータ……オモイダセ……ジブンノ……ホントウノチカラヲ……』
一つだけ無傷で保管されていたモニターに、光が灯った。
一方通行「……誰だァ!?」
『ハヤク……アノコヲ……タスケナイト……』
一方通行(自分の……『本当の能力(ちから)』?)
謎の声の正体への疑問よりも、その言葉は一方通行の琴線に触れた。
自然に右腕を首筋の答へと伸ばしていく。
正解を告げる鐘は、キイィィィンという小気味のいい起動音だった。
- 15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 01:57:40.73 ID:2cQgefoQo
- シエル「だめ、早く逃げて!! こいつにはバスターが……!!」
そして、同時に放たれたその言葉を――彼にとって最大の屈辱足りえるその言葉を、
一方通行の耳は決して聞き逃すことはなかった。
一方通行「……ハァ?」
一方通行は、思わずこぼれそうになる笑いを必死でこらえた。
『逃げろ』などと、一体誰に向かって言っているのだろうか。
本当のところ、自分が誰なのか一方通行自身にも思い出すことができない。
だがしかし自分とは少女一人に逃がしてもらう事をよしとする人間ではなかった。
少女から呼ばれた『一方通行』という名こそが、そのプライドを揺さぶり起こしていた。
ゴーレム「グオオオオオォォォォォッ!!!」
一方通行「ったく、ピーピーうるせェ木偶の坊だァ」
ため息をつきながら、ゆっくりとゴーレムに近づいて行く。
シエルの言葉に従って逃げ出すつもりは砂粒ほどにもなかった。
シエル「あ、一方通行……?」
一方通行「いいからオマエはそこでじっとしてろ」
ずっと感じていた、戦い方への違和感。
彼女が呼ぶ『一方通行』という名前。
謎の声が教えた、自分の本当の能力。
そしてただ一つ、心に刻み込まれたプライド。
――全てがパズルのピース一つ一つのようにぴったりとはまっていった。 - 16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 02:02:29.30 ID:2cQgefoQo
- 再びゴーレムの砲口が一方通行に向けられた。
しかし、先ほどのように無様に避ける必要などない。
一方通行は目をつぶり、全身を大の字にして攻撃を迎える。
そして一回目と寸分たがわぬ威力の光線が、一方通行の頭部を直撃した。
一方通行「クッ……ハッハッハッハッハァ」
懐かしいその感覚に、ついに一方通行はこぼれる笑みを隠しきれなかった。
感度は良好だ。申し分ない。
ゴーレム「グオ……オオオ……」
シエル「あ……ああ……」
自らの攻撃によって頭部を破壊されながらも、まだ稼働を止めない機械と、
その腕の中で驚きと恐怖の入り混じったような表情を見せる少女を一方通行は交互に見比べる。 - 17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 02:06:25.52 ID:2cQgefoQo
- まず狙いを定めたのは、頑なに少女を拘束するその右腕だった。
ひと踏切で一瞬の内に間合いを詰めると、躊躇なくその拳でゴーレムの肩をひねりつぶした。
ゴーレム「グオオオオオオオオォォォォォォッ!!!」
一方通行「おォおォ、いっちょ前に苦しンでやがンのか?」
無理やりに肩口から引きちぎり、その腕ごとシエルを抱えて一方通行は一旦距離を置いた。
もう何も気にすることはない。最後の仕上げを残すのみだ。
シエル「こ、これが……『学園都市第一位』の力……?」
一方通行「……さァな、俺にもよくわかんねェ」
突き出した一方通行の右手がグッと握られると、ゴーレムの体が音を立てて崩壊した。 - 18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 02:11:28.92 ID:2cQgefoQo
- シエル「ゴーレムを倒してしまうなんて……
やっぱりあなた、あの伝説の英雄『一方通行』なのね?」
ゴーレムが現れた先にはトランスサーバと呼ばれる転送装置があった。
少女が言うには、これに乗れば彼女の住む場所まで帰れるらしい。
シエルは何かのパネルのようなものを操作しながら一方通行に訪ねた。
一方通行「アクセラレータ……俺の名前か?」
確かにその名前で呼ばれることに違和感はない。
しかし、あまりにも永い時を眠りの中で過ごした一方通行は、すでにその記憶のほとんどを失っていた。
あるのはあの能力への確かな手ごたえと、
それを表現するのに『一方通行』という名前が最もふさわしいという感覚だけだった。
一方通行「クソッ、思い出せねェ……」
シエル「永い間眠っていたみたいだから仕方ないわ……無理やり起こしてしまってごめんなさい。
そして、助けてくれてありがとう。私の名前はシエル、こう見えても科学者なのよ」
- 19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/05(火) 02:18:23.84 ID:2cQgefoQo
- 敵が来ないうちに早く帰ろうと言うシエルを、一方通行はいぶかしげに見据えた。
果たして自分のいた世界はこんな年端もいかない少女が科学者で、
しかも物騒な敵から追われているのが日常的なものなのだろうかと、一方通行には腑に落ちなかった。
しかしそれよりも納得がいかないのは、『英雄』という自分の肩書であった。
自分がそんなご立派な存在だったというのはにわかには信じられない。
どちらかと言えば、悪事を重ねた挙句に封印されたという方が納得がいく。
促されトランスサーバの上に乗った一方通行は、シエルの背中に向けて言った。
一方通行「……もし俺がその一方通行じゃなかったらどうすンだ?」
シエルはしばらく答えなかった。
しかし答えが思いついたのか、ただ操作が終了しただけなのか、不意に振り向き言った。
シエル「私にとってはあなたはもう一方通行なのよ」
そうはっきりと語るシエルの姿を見て、なるほどと一方通行は少し納得した。
この女はなかなかの修羅場をくぐりぬけてきたのかもしれない。
シエル「さぁ、ベースに移動するわね」
シエルがボタンを押すと、二人の周りを円柱状の光が取り囲む。
そしてそのさなか、一方通行の意識は再び途絶えていた。 - 32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/04/09(土) 22:21:27.64 ID:VvKr18PPo
- 『……ここ、は?』
光の届かない意識の底で、一方通行はおぼろげに目を覚ました。
自分が立っているのか、座っているのか、それとも寝ているのかもわからない。
とにかく何か行動をしなければ、と動き出そうとしたとき、目の前にぼんやりと明かりが灯った。
みるみるうちに明かりは大きくなり、ついに人の形をなす。
先ほども出会った、あの少女の形に。
『……えへへ、さっきは助けてくれてどうもありがとう、ってミサカはミサカは感謝の気持ちを示してみる!!』
『また……オマエか』
『やっぱりあなたってすごいんだね、あっという間にあんな大きいのを……』
『おい』
ピシャリと少女の話を遮り、一方通行は自分の疑問をぶつけようとしていた。
彼女は確かに一方通行の大切な存在だ。
命をかけ、自分がどうなろうとも失いたくなかった、唯一の存在。
しかし、そこから先が出てこない。
『……オマエは一体誰なンだァ?』 - 33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 22:24:51.16 ID:VvKr18PPo
- 恋人か?
家族か?
友人か?
それとも赤の他人なのか?
しかし、本来なら衝撃的な言葉を聞いたはずである少女はそれほど驚いた様子はなかった。
代わりに先ほどまでの明るい表情を曇らせ、うつむいて言った。
『そう……だよね。
アナタはもう、ミサカ達のことは覚えてないんだよねってミサカはミサカはしょんぼりしてみる』
違う。俺はお前のことを……大切な存在を、ちゃんと覚えている。
そう言いかけて、一方通行からは声が出なかった。
言いきれる自信がなかったのだ。実際に、一方通行は少女について何も覚えていないのだから。
『……それで、どうしようってンだァ』
『えっ……?』
『俺を目覚めさせて、どうしようってンだァ』 - 34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 22:27:17.51 ID:VvKr18PPo
- 『シエル達……レジスタンスの事、助けてほしいのってミサカはミサカはお願いしてみる』
『アイツらの事を?』
『うん。それがきっと、皆を助ける事につながるからってミサカはミサカはさらに核心に踏み込んでみる』
『おい、さっきからサッパリ話が見えねェぞ。誰のことだ、「みんな」ってのはァ』
『……ごめんなさい、それを詳しくお話しする時間は今はないのってミサカはミサカは悲しみながらあなたに告げてみる』
ふと気がつくと、真っ暗闇だった辺りが白み始めていた。
周囲の背景に溶けていくように、少女の体も薄まっていく。
『……!! おい、待ちやがれェ!!』
『この世界は、人々が思っているよりも深刻な状況なの。
……それも、百年前の戦いがもう一度起こるかもしれないくらいって、ミサカはミサカは近い未来を想像してみる。
でも大丈夫。ミサカはずっとあなたの中にいるから……』 - 35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 22:32:28.39 ID:VvKr18PPo
- 「セルヴォ、一方通行は……」
「ふむ、特に体に異常はなさそうだ。
おそらく目覚めてすぐに例の『能力』を使って、体がびっくりしてしまったんだろう。
じきに目覚めるはずだよ」
「そう……よかった……!!」
「それにしても……『伝説のレプリロイド』というからには、並のものとは違うとは予想はしていたが……」
「ええ……すごく細くて、真っ白で、きれいで……まるで本物の人間の体みたい」
――なにか柔らかいものが腕に触れている。
柔らかい光がまつ毛の隙間を縫って侵入してくる。
一方通行は抵抗することを止め、目を開くことにした。
一方通行「……?」
シエル「あっ……一方通行、目が覚めたのね!?」
一方通行「……ここは?」
シエル「ここはレジスタンス・ベースの私の部屋よ」 - 36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 22:37:09.31 ID:VvKr18PPo
- セルヴォ「おっと、まだ動いてはいけない。すぐにプラグを外そう」
すぐさま立ち上がろうとする一方通行を見て、初老の男が慌てて制止する。
男がコンピュータを操作すると、無数のコードたちが意思をもったように動き、ゆっくりと一方通行の体から外れていった。
セルヴォ「どうだね体の調子は、問題なく動けそうかい?」
一方通行「ああ……」
セルヴォ「私の名前はセルヴォ。このベースで技術者をやっている。
レジスタンスのメンバーは皆私が調整をしているんだがね。
君のような伝説のレプリロイドを扱えるなんて、技術者冥利に尽きるよ。
しかし、転送されてきたと思ったら意識を失っていたのには驚いたが、
もっと驚いたのはそのボディの軽さだねぇ。
5人ほどで運ぼうとしたんだが、私一人でも……」
シエル「あの、セルヴォ? そろそろ……」
セルヴォ「……ん? ああ、いかんいかん、また始めてしまうところだった」
もうセルヴォったら、とシエルに言われ、セルヴォは大げさに笑った。
どうやらこの男の癖はつまらない長話のようだ。
しかし、
セルヴォ「それじゃ、私はそろそろ自分の部屋に戻ろう」
と言い終えた次の瞬間のセルヴォは、打って変わって真剣な顔つきになった。
セルヴォ「……これからよろしく頼むよ、一方通行」
その言葉の重みを一方通行が理解するのはこの時より少し後のことである。 - 37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 22:43:53.88 ID:VvKr18PPo
- どうやらここはシエルの私室と言うよりも研究室らしい。
部屋の奥には大きなコンピュータ、そこから端を発して種々の機器やら資料やらが無造作に積み重ねられていて、
とても整理されているとは言い難い。
彼女の私物らしいものと言えば、一方通行が寝かされていたベッドに、ぽつねんとかけられた女性物の洋服くらいのものか。
一方通行とシエルは部屋の中心に置かれた無機質な机に向かいあった。
とても堅い椅子だった。
シエル「……改めまして、ようこそ一方通行、レジスタンスベースへ。
ここはイレギュラーの疑いをかけられたレプリロイドたちが、生き延びるために戦う最後の砦。
少しでも長く生き延びようと私たちは必死で戦ってきた……
でも、それももう限界……。私たちはあなたの伝説を信じ、あなたに最後の望みをかけてあなたを探したの。
あなたは『一方通行』。
百年前の世界で『幻想殺し』とともに世界を救った伝説のレプリロイド……」
一方通行「『幻想殺し』……?」
どこかで聞いたような名前だ、と一方通行は思う。
加えて夢に出た少女の言う、『百年前』という言葉も聞こえてきた。
印象的なワードの数々だが、一方通行はどれ一つも記憶にない。
一方通行「……話せ」
まずは一つ一つ、それをつぶしていくべきだろう。
シエル「えっ?」
一方通行「今のこの世界。百年前の世界。そンでもって、オマエらの置かれてる状況。
最初っから、全部だ」 - 38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 22:47:47.32 ID:VvKr18PPo
- シエルの語った内容はこうだ。
百年前、ある科学者が『サイバーエルフ』と呼ばれる電子生命体を生み出した。
サイバーエルフは機械の肉体に組み込まれることで、極限まで人間に近いロボット『レプリロイド』になることができる。
レプリロイドは人間のために働き、人間とともに歩む最高のパートナーとなるはずだった。
しかしいつしか、『イレギュラー』と呼ばれる暴走レプリロイドが出現し始めた。
そして、サイバーエルフのもっていた無限の可能性は最悪の方向へと広がっていった――
あらゆるレプリロイドをイレギュラーに変えてしまう悪魔のサイバーエルフ、『ダークエルフ』の出現である。
ダークエルフの出現を期に全世界でイレギュラー達の暴動が勃発。
『黒き英雄』・幻想殺しらの活躍により終結するも、全人口の90%が死滅する最悪の結果となった。
これが世に言う第四次世界大戦――またの名を『妖精戦争』ともいう――の顛末である。 - 39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 22:53:06.51 ID:VvKr18PPo
- その後、生き残った人々は学園都市跡地に『ネオ・アルカディア』と呼ばれる理想郷を築き、失った平和を取り戻したかに見えた。
しかし文明の復興には人間の力だけでは足りず、必然的にレプリロイド達の力に頼らざるを得なかった。
そう、イレギュラーの脅威はまだ去っていなかったのである。
シエル「幻想殺し――伝説の英雄は今も生きている。そして……私たちを処分しようとしているの」
一方通行「幻想殺しが、お前たちを……?」
シエル「今のネオ・アルカディアでは、なんの罪もないレプリロイド達が簡単にイレギュラーと認定されてしまう。
……再びイレギュラー達の暴動が起こることを極端に恐れて、ね。
こうして話している間にも、スクラップ処理施設では多くの無実のレプリロイドたちが処分されているわ。
あなたの力を借りたいの……私たちの未来はあなたにかかっている。
お願い、私達を助けて……!!」 - 40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 22:57:31.22 ID:VvKr18PPo
- 一方通行「へェ……」
それまで斜め上を見上げていた一方通行は、なるほどと言う代わりにシエルと目線を合わせた。
一方通行「オマエ、面白ェな。
……そンな年で立派なテロリストの親玉ってわけだ」
シエル「テロ……!! 私達はただ……」
一方通行「オマエらの目的なンざどォだっていいンだよ。
ネオ・アルカディアとやらだって人間を守るっつー大義名分をもっていやがる。
そこに暮らす人間たちからすりゃ、レジスタンスはれっきとしたテロリスト集団だろォよ」
シエル「そん……な……」
一方通行「……はァ」
お前はよ、と言いながら一方通行は立ちあがり、向かいに座るシエルに近付く。
こいつは少しお説教の必要があるかもしれないと思いながら。
説教? ――まるでアイツのようだな。
そう思いながら一方通行は『アイツ』が誰のことなのか思い出せず、すぐさまシエルに向き直った。
とにもかくにも、教えねばならない。
一方通行「この程度で心が揺らいでて、どうするつもりなンだァ?」
心構えと言う奴を。
- 41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 23:03:58.98 ID:VvKr18PPo
- シエル「えっ……?」
一方通行「たとえテロリストと罵られようが、2、3日豚のエサみてェな飯にしかありつけなかろうが、
オマエにはやらなきゃなンねェことがあンだろォが。
それを俺みてェなよく知りもしねェ野郎に簡単にくじかれやがってよォ……
オマエの意志だの気持ちだのは関係ねェ。オマエはもういっぱしの『悪党』なンだよ。
悪党なら、躊躇うンじゃねェ。立ち止まンじゃねェ。
……ありったけの力で、押し通して見せやがれ」
シエル「アクセラ……レータ……」
ようやく自分が励まされたことに気付いたのだろうか。
シエルは溜まった涙をぬぐいながら慌てて立ち上がった。
一方通行「そンじゃァ、行くとしますか……
無実の仲間が処分されそうなんだろ?」
シエルの決意に満ちた顔を確認し、一方通行は部屋の出口へと踵を返す。
シエル「一方通行!! その……ありがとう」
一方通行「……さっさと行くぞ」
一方通行は思う。
シエルが本当に悪党になるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
- 42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 23:10:38.79 ID:VvKr18PPo
- 【MISSION.1:廃棄レプリロイドを救出せよ】
シュンッという音とともに光が空気を切り裂くと、
一方通行の視界には先ほどまでいた司令室ではなく、広大な瓦礫の山が現れた。
どうやら転送は無事に完了してようだ。
今回のミッションのエリアは、地上都市。とはいえ、戦争でめちゃくちゃにされた『旧』地上都市であるが。
シエル『一方通行、聞こえる?
ごめんなさい、本当ならもう少し正確な転送がしたかったのだけれど……』
一方通行「シエルか……別にかまわねェよ。
転送妨害のジャミングがかかってるつーこたァ、なンか見せたくねェもンがあるってことだァ。
わかりやすくていいじゃねェか」
シエル『そうね……それで、近くにスクラップ処理施設みたいな建物はある?』
一方通行「……ちょっと待ってろォ」
一方通行は通信機を片手に、申し訳程度にかつて都市であった面影を残す瓦礫を踏みしめて辺りを見渡した。
360度見渡す限り、見える建物は前方に一件のみ。
しかしそこへ続く長い道のりの途中には、武器をもったレプリロイドたちが瓦礫を片付けるでもなくうようよと存在している。
さらにわざわざネオ・アルカディアから遠く離れたこんなところにある辺り、
あの建物はよほど人間たちには見られたくないものなのだろう。 - 43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 23:17:06.47 ID:VvKr18PPo
- 一方通行「おう、見っけたぜェ。怪しい匂いのプンプンしやがるのが一件だけなァ。
……あン?」
パンテオン「…………」
一方通行「……ちっ」
振りかえると、既に一体のパンテオンが右腕のバスターを構えていた。
攻撃が放たれる前に、素早く一方通行は首筋のスイッチに手をあて足もとに力を込めた。
すると意志をもったかのように瓦礫が集まり、轟音を上げながら目の前に太い柱を形成していく。
壁の上端が見えなくなるころには一方通行の周りは単なる更地と化し、
さらに数体のパンテオンが巻き込まれ柱の一部と化していた。
一方通行「よっとォ」
気の抜けた声を出しながら一息で柱の頂点へ上り詰め、
首から上だけを出して機能停止した先ほどの向う見ずなパンテオンをその勢いで踏みつぶした。 - 44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 23:26:27.89 ID:VvKr18PPo
- シエル『あ、一方通行!? 応答して!!』
一方通行「ンだァ、何素っ頓狂な声出してンだよ」
シエル『よかった、無事だったのね!!
なにかすごい音がしたから、私心配で……』
一方通行「……話はそンだけかァ?」
シエル『えっ……?』
一方通行「用が済ンだなら、もう切るぞ。
敵に見つかるのも時間の問題だからなァ」
シエル『わ、わかったわ……ごめんなさい。
……それ以上近づくと、通信の妨害も入ってくるかもしれないわ。
一方通行、気をつけてね……』
一方通行「……あァ」
一方通行はシエルからの通信を切ると、舌打ちをしてスクラップ処理施設を見据えた。
ここから見て、距離はおよそ1キロ、ちんたら警備レプリロイドどもに構っている暇はない。
そしてあの施設は活動を続けているとなれば、大きな力をぶつけて崩してしまうわけにもいかない。
一方通行「しゃァねェ……ちっとばっかタイミングはシビアだがなァ」
一方通行が柱から飛び出すと、風の力を受けて一直線に加速していく。
何体もの飛行型メカニロイドのボディを突き破り、一方通行はとてつもないスピードで目指す施設へ接近していった。
一方通行「こっから先はァ……一方通行だァ!!」
爆音を上げ、一方通行は施設の壁面へ垂直に突入する。
―― その一瞬が、一方通行にとっての今回のミッションの勝負どころであった。
- 45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 23:31:36.89 ID:VvKr18PPo
- 処理施設内。
生きながらスクラップにされたレプリロイド達の残骸が所狭しと積み上げられ、
そこから漏れだすオイルの臭いが充満するという異様な光景が広がっていた。
上方では無数の棘のついたプレス機がギラリと光り、獲物をつぶす瞬間を今か今かと待ち焦がれている。
その中、レジスタンス一員であるコルボーは究極の選択を迫られていた。
――自分の命か、仲間の命か。
アステファルコン「卑しいレジスタンスのイレギュラーよ……
勇敢なのも時には考え物だぞ?」
コルボー「くっ……!!」
アステファルコン「返答次第では貴様を釈放し、イレギュラー認定も撤回してやると言っているのだ。
……早く決断せねば、後悔することになるぞ?」
自分の命と引き換えにレジスタンスの皆を守る。
言葉にするのはたやすいが、そう簡単に決断などできるはずもない。
しかし現在のレジスタンスはもはや風前の灯状態であり、
ネオ・アルカディア軍に攻められればひとたまりもないということは、コルボーにはわかっていた。
アステファルコン「生きるも死ぬも、貴様の回答次第だ。
……さあ言え、レジスタンスのアジトはどこにある!?」
コルボー「……言え……ない」 - 46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 23:38:18.24 ID:VvKr18PPo
- アステファルコン「なに……?」
コルボー「誰がお前らなんかに……ベースの場所を教えるか!!」
アステファルコン「……美しき覚悟だ。
望み通りスクラップにしてやろう!!」
アステファルコンが両手を広げ力を込める。執行の合図だ。
コルボーは目を堅く閉じてうつむき、体をこわばらせて最期の時を待った。
コルボー(皆、済まない……俺はここまでのようだ。
シエルさん、ミラン兄さん、先にいく不幸を許してくれ……!!)
アステファルコン「ネオ・アルカディアに歯向かった事をあの世で後悔しろ、イレギュラー……!!」
アステファルコンが言葉を言い終わらぬうちに、激しい震動が地響きとともに施設内を襲った。
体勢を保っているのがやっとの地震を、コルボーは目を閉じたままじっと耐えていた。
揺れが収まってから、少し様子がおかしいことにコルボーは気づいた。
こんな音や揺れがプレス機の作動で起こるだろうか。
何より自分は既にスクラップになっていて、意識などないはずだ。
コルボーは恐る恐る顔を上げ、辺りを見回す。
窓など無いはずの施設の中に太陽の光が差し込んで、砂煙がもうもうと舞うのがよく見えた。
そして光の出所に、一人の人間型レプリロイドが立っている。
逆光とエネルギー不足でよく見えなかったが、コルボーはその男がニヤリと笑った気がした。 - 47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 23:46:19.94 ID:VvKr18PPo
- 一方通行「さァて答え合わせっとォ……ぎゃっは、全問正解!!
我ながらホレボレしちまう精度だなァおい!!」
一方通行は飛行しながら観測したエネルギー反応と今のそれを比べて過不足がないことを確かめると、
うれしそうに地面へと降り立った。
反応の値の大きかった場所を避け、地面を固めて柱のように何本も立たせてプレス機のつっかえ棒にする。
先ほどパンテオンをあしらうためにやったものとは必要とされる計算量も精度も違うが、
施設の壁に接触する瞬間にやった割には上出来の結果だろう。
そして一方通行は、目の前で仁王立つ、鳥のようなレプリロイドに向き直った。
一方通行「ンで、オマエがここのボスってわけかァ」
アステファルコン「……貴様、何者だ」
一方通行「へェ……喋りやがったよ。
レプリロイドってのは人間の形したのだけじゃねェのか?」
アステファルコン「何者だ、と聞いている!!」
一方通行「さァな。
……ただ、『一方通行』って名前らしいぜ?」
アステファルコン「一方通行……だと?」 - 48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 23:50:53.37 ID:VvKr18PPo
- アステファルコン「くっ、ははははは!!
伝説の英雄を名乗るとは、イレギュラーの仲間にしては面白いことを言う!!
……私は四天王ハルピュイア様のご命令で、スクラップどもの始末をしているアステファルコンだ。
『稲光る極鳥』などと言う異名をとることもあるがね」
一方通行「別にオマエの名前なンざ聞いちゃいねェよ。
俺はこの施設をぶっ潰しに来てやっただけだからなァ」
アステファルコン「この施設を潰す、か。……はああああ!!!」
アステファルコンが再び両手を広げ力を込める。
その全身が電気を帯びると、鈍い起動音を上げてプレス機械が動き出した。
一方通行が作り上げた柱に力が加わり、ミシミシと音を立てる。
アステファルコン「あの柱たちも、もってあと数分と言ったところか……
ご覧の通り、あの機械は私が作り出す電力で動いている。
この施設は私そのものと言ってもいいのだよ。
……この意味がわかるか?」
一方通行「なるほど、こいつはいいことを聞いたぜ。
……つまりオマエを倒せば万事解決ってわけだァ!!」
一方通行は能力のスイッチの起動音をスタートの合図代りに、勢いよくアステファルコンに向かって飛び出した。 - 49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/09(土) 23:56:29.28 ID:VvKr18PPo
- アステファルコン「貴様には不可能だということだ、身の程知らずめ……
まずは貴様から始末してやる!!」
アステファルコンが巨大な翼状の右腕をつきだすと、同時に腕は肩口から二股に分かれる。
充電完了を知らせる火花の音がバチリバチリと二股の間で鳴り、幾本もの電撃の矢が真っ直ぐ放たれた。
しかしそれを確認しても一方通行にはまったくひるむ様子はない。
むしろうれしそうな表情さえ浮かべながら、一方通行は接近のスピードを速めていく。
一方通行が跳躍の頂点に達したとき、電撃の矢はいずれも一方通行の体に正確に着弾し――
――正確に元の場所、すなわちアステファルコンの腕を射抜いた。
アステファルコン「なっ……!?」
一方通行「どォした? ……鳥野郎ォ!!」
アステファルコンが反射に驚いている間に懐に入り込んだ一方通行はその勢いで腹部を殴りつける。
二倍に増幅された威力で、アステファルコンの体は壁際まで吹き飛ばされた。
一方通行「あらァ? 見た目と違ってずいぶン軽いンだなァ。
流石は未来の技術ってとこかァ!?」
アステファルコン「……くっ!!
うららららららぁっ!!!」
アステファルコンが壁に飛びつき、斜め上から今度は左腕で電撃の矢を乱射する。
しかし、どれも一方通行の反射によって成果を上げることなくそのまま攻撃者に牙を剥くことになる。
結果的にアステファルコンの両腕はボロボロになり、傍目にも使い物になるとはとても思えないものとなった。
体のバランスを失い、アステファルコンはそのまま地面に落下した。 - 50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/10(日) 00:04:04.09 ID:XGHvxshbo
- アステファルコン「バカ……な……」
一方通行「バカはオマエだよ鳥野郎。
……ったく、せっかく残しといてやった左腕まで台無しにしやがってどォすンだァ。
未来の機械には学習って機能はついてねェのかァ、あァ!?」
どうも表情から察するに、他のどんな攻撃方法を用いても反射の前にはなす術はないのだろう。
――表情が豊かというのも考え物だな、と一方通行は失望のため息をついた。
頭を掻きむしり、一方通行は地面に横たわるアステファルコンの頭部に足を乗せた。
一方通行「オマエ、もォいいよ。そろそろ時間も時間だァ。
何か言い残したこたァねェか?」
言いながら、一方通行は足もとにグリグリと力を込めていく。
既に息も絶え絶えになりながらも、アステファルコンは声を絞り出した。
アステファルコン「……全てのレプリロイドが……私の様に……軽いボディなのではない……
私の……体を構成する金属は……特殊でな……
普通のレプリロイドの……ものよりも……数十倍……軽い……」
一方通行「ほォ、そいつはまたどォいうわけだァ?」
アステファルコン「それは……この目的の……ためだ……!!」
- 51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/10(日) 00:07:05.44 ID:XGHvxshbo
- 一方通行「……おォ?」
アステファルコンのただならぬ気配を感じ取り、一方通行はやや後方へ飛び退く。
その一瞬の隙をつき体勢を立て直すと、アステファルコンはすぐさま残った両足で飛び上がった。
アステファルコン「……飛行変形!!」
一瞬ボディが光ったと思うと、アステファルコンの体は先ほどの二足歩行から四足歩行の形態に変わっていた。
アステファルコン「イレギュラーどもは貴様にくれてやる!!
だが今にネオ・アルカディアの精鋭レプリロイド達が現れ、貴様を八つ裂きにするだろう!!
その時を首を洗って待っていろ!!」
そう言い残しアステファルコンは施設の天井を突き破って出ていく。
その光景を最後まで見届けてから、一方通行は先ほどよりも大きなため息をついた。
一方通行「要するに『あなたには敵いませンから尻尾巻いて逃げだします』っつーわけかァ。
流石機械、なかなかいい判断しやがる。
だがオマエよォ……」
思い上がりではなく、この状況では勝敗は火を見るよりも明らかだ。
逃げるのが最適の判断と考えるのが当然だろう。
だが、最適の判断が常に成功をもたらすとは限らない。
――例えば、一方通行(このおとこ)が相手ならば。
- 52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/10(日) 00:14:27.08 ID:XGHvxshbo
- 一方通行「……まさか本気で俺から逃げられるとでも思っちゃってンのかァ!?」
一方通行がアステファルコンと同様に垂直に跳躍する。
砂煙をあげながらもう一つ天井に風穴を開けて、空へと飛び出した。
アステファルコン「なっ、貴様どうやって……!?」
一方通行の予想通り、天井を飛び出してから高度を上げることなくアステファルコンはゆっくりと飛行していた。
両腕はすでに破壊してあるのだ、そう素早く移動できるはずがない。
アステファルコン「や、やめろっ!!」
一方通行「……今更後戻りは許されねェンだよ!!」
一方通行の渾身の右ストレートが、アステファルコンの中心部を突き破る。
アステファルコン「ぐふっ……がああああああっ!!!!」
神経系に支障を来たしたアステファルコンの全身からいくつもの小さな爆発が起こり、
すべてが集まり一つの大きな爆発となって断末魔ごとその体を包み込んだ。 - 53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/10(日) 00:18:46.67 ID:XGHvxshbo
- コルボー(……何がどうなっているんだ?)
その頃、コルボーはじられない光景に言葉を失い、ただただ黙って真上を見上げることしかできなかった。
コルボー(死を覚悟した瞬間に突然現れて、伝説の英雄『一方通行』を名乗って。
俺たちには全く歯が立たないミュートスレプリロイドをを圧倒的な力で追いつめて。
確かに伝説の英雄と言われても納得できるくらいの強さだったけど……
まさか百年前に封印されたはずのレプリロイドが復活して、僕達を助けに来ているだなんてなぁ……)
コルボー「彼は一体……」
突如、見上げていた空で大きな爆発が起こった。
その衝撃と砂ぼこりを避けるため、コルボーはとっさにうつむく。
コルボー「……いたっ!!」
ゴツンと軽い音を立てて、コルボーの頭に何かが落下した。
コルボー「これは……ハンドガンか。
うん!? このサイン……ミラン兄さんのサインだ!!
じゃあ……」
コルボー(あの一方通行を名乗る男の正体が、ミラン兄さん!?
……いやいや、流石にそれはないだろう。
兄さんはあんなに真っ白いボディじゃないし、第一腕っ節は全然だったもんな。
ってことは……兄さんはあの一方通行に殺されて、武器を奪われてしまったのか!?)
コルボー(……!! ヤバイ、アイツが下りてくる!!)
コルボーは何故かとっさに兄のハンドガンを懐に隠した。
コルボー(兄さん、俺もすぐそっちへ送ってもらうよ……) - 54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/10(日) 00:23:40.11 ID:XGHvxshbo
- 一方通行「一丁上がりってとこかァ」
空中戦でも華麗な勝利を収めた一方通行はゆっくりと処理施設の中に戻り、
改めて捕まっていたレプリロイドの無事を確認した。
少々遊んでしまった感はあるが、結果オーライと言ったところだろう。
一方通行「……あン? オマエ、何震えてンだ?」
コルボー(出来ればひと思いに殺してくれぇ……)プルプル
一方通行「おい……オマエ聞いてンのかァ!?」
コルボー「は、はいい!?」ビクッ
一方通行「ったく、聞こえてンなら返事ぐらいしやがれ。
せっかくここをつぶしても、一緒に無実のレプリロイドまで殺したってンじゃ世話ねェからなァ」
コルボー「へ……?
ひょっとして……僕のことを助けに来てくれたんですか?」
一方通行「……まァな、別にあの鳥野郎みてェにぶっ殺しゃしねェから安心しろ」
もちろん助けに来たつもりなのだが、簡単にそう解釈できないのも無理はないと一方通行は自認していた。
自分の見た目が人が呼ぶほど正義の味方に適していないのは、彼自身がよく知っているのだ。
だからさして気にもせず、一方通行は通信機を使ってミッションの完了を報告しようとした。 - 55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/10(日) 00:41:23.03 ID:XGHvxshbo
- 一方通行「一方通行だァ。シエル、聞こえるか?
……チッ、まだ通信妨害が生きてやがんのかァ」
コルボー「シエル……? それって、レジスタンスのシエルさんですか!?」
一方通行「あァ、そうだが……ンだ、ひょっとしてオマエもレジスタンスかァ?」
コルボー「ええ、コルボーって言います。
……あの、助けてくれて本当にありがとうございました」
一方通行「礼なンざ別にいらねェ。
それよりもベースに戻る方法を考えねェとな……
この辺の地盤ごと施設をつぶしてやりゃァジャミングも止まるか……?」
コルボー「ちょ、ちょっと待ってください!!
この先の部屋にトランスサーバがありますから、そこからベースへ帰ることができますよ!!」
物騒な提案を実行しようと構える一方通行に対し、慌ててコルボーが制止する。
一方通行「……ンだァ、そういうことはもっと早く言いやがれェ」
もう少し能力を慣らしておきたかったのだが、と少し残念に思いながら、
一方通行はコルボーが指差す先にある扉へ歩き出した。
コルボー「……ところで、あなたはいったい何者なんですか?
ネオ・アルカディアのミュートスレプリロイドをあんなに簡単に倒してしまうなんて……」
一方通行「…………」
『お前は誰だ』
そう問われ、一方通行は振り向かぬまま足を止めた。
自分は一方通行。それ以外の色をつけることはできないし、
そもそも先ほどのアステファルコンのように信じてくれないことの方が多いだろう。
だがそれでも、この名前だけが自分の証明なのかもしれない。
一方通行「さっきも言った通り、俺は『一方通行』だァ。
……オマエらは、それで分かるンだろ?」 - 56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/10(日) 00:45:28.32 ID:XGHvxshbo
- ネオ・アルカディアの心臓部、エリアX。
その中心に存在する最重要拠点・ユグドラシルの塔に、
『ネオ・アルカディア四天王』と呼ばれる4体のレプリロイドが集結した。
ファーブニル「……はぁ? レジスタンス!?
わざわざ俺たち四天王を全員集めといて、やるこたレジスタンスの始末かよ!?」
世界各地でイレギュラーの鎮圧・人間の生命圏の拡大のための任務についている彼らがこうして招集されたからには、
よほど大きな問題が持ち上がったのだ――
―― そう半ば期待していた四天王の一人・『闘将』ファーブニルは、
真っ赤に燃えるようなボディを震わせ、失望したようにつぶやいた。
ハルピュイア「言葉が過ぎるぞファーブニル。
……これは幻想殺し様直々の命令だ」
翠緑のボディに身を包んだ『賢将』ハルピュイアが苦言を呈するも、ファーブニルは気にかける様子もなく文句を続ける。
ファーブニル「つってもよー……そんなもんパンテオンに任せときゃいいじゃねえか。
なんでわざわざ俺たちが……」
レヴィアタン「……つまり、何かレジスタンスたちをマークしなければならないようなことがあった。
そうよね、ファントム?」
ファーブニル「なんだよファントム、お前は何か知ってるのか?」
訳知り顔で話を振る四天王の紅一点・『妖将』レヴィアタンと、
先ほどから全く変わらぬ様子で腕を組む『隠将』ファントムとをファーブニルは交互に見た。
ファントム「拙者の率いる斬影軍団の情報網を甘く見てもらっては困る……
だがしかし、ここは烈空軍団が長たるハルピュイアに事のあらましを説明してもらうのが筋であろう」 - 57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/10(日) 00:49:15.39 ID:XGHvxshbo
- 三人が、一斉にハルピュイアの方に視線を向ける。
ハルピュイアは諦めたように説明を始めた。
ハルピュイア「俺の管轄だったイレギュラーのスクラップ処理施設が、何者かの襲撃にあった。
……おそらくレジスタンスどもの仕業だ。
そして我が烈空軍団に所属するミュートスレプリロイドの一人、アステファルコンがやられた……」
ファーブニル「なるほど……つまりお前は根性無しのレジスタンスどもにしてやられたってわけだ。
四天王の名が泣くぜぇ?」
ハルピュイア「ファーブニル、貴様……!!」
レヴィアタン「はいはい、じゃれ合いはそこまでにして頂戴、キザ坊やに戦闘バカ!!」
いつものケンカを始めた二人を見て、レヴィアタンが間に割って入った。
しかしその後に「でもちょっと不思議」と思い出したかのように付け加え、言う。
レヴィアタン「普通のレプリロイドじゃ束になっても敵わないミュートスレプリロイドを倒すだなんて……
あのレジスタンスにそんな力があるとは、到底考えられないわね」
ハルピュイア「……施設を襲撃したレジスタンスのレプリロイドは『一方通行』と名乗ったそうだ」
ファーブニル「一方通行ぁ!?
ふっ……はっはっはっはっ!! こいつはいいや!!
幻想殺し様と並ぶ伝説の英雄をもちだすたぁな!!」
ファントム「して、その英雄の名を騙る不届き者の始末をどうするか……
それが今回の召集の理由と言うことで良いのだな、ハルピュイア」 - 58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/10(日) 00:53:02.13 ID:XGHvxshbo
- ファーブニル「それなら俺の出番だぜ!!
最近のイレギュラーどもは根性が足りなくてよ、つまんねーと思ってたとこだ!!」
レヴィアタン「まったくこれだから戦闘バカは……イレギュラーに根性も何もないでしょう。
だいたいアンタがしばらくいなくなったら、他のイレギュラーの処理はどうするつもり?
退屈してるのは、ファーブニル、アンタだけじゃないのよ?
私もその伝説の英雄とやらの力を見てみたいわ」
ハルピュイア「お前もだ、レヴィアタン……幻想殺し様から仰せつかった任務はどうした?
『アレ』の捜索は最優先任務だったはずだ」
レヴィアタン「あら流石は賢将、そういうところは抜け目がないのね。
残念だけど、まだまだ幻想殺し様に吉報を届けるのは先になりそうよ。
あんな『一方通行』並みの伝説、探してどうするのかしらね、幻想殺し様は……」
ファーブニル「つーことは……今回はファントムがおいしいトコもってくってことか?」
ファントム「いや……拙者は幻想殺し様の身辺警護が最優先任務。
イレギュラーの討伐は本業ではない……」
ハルピュイア「ファントムはそれと並行してレジスタンスどものアジトの在り処を探せ。
……見つかり次第総攻撃を仕掛ける。
ファーブニル、レヴィアタン、お前たちは今まで通り任務を全うしろ。
決して余計な手出しはするな」
レヴィアタン「ふぅーん……それまでの間、例の一方通行の事はどうするのかしら?
放っておいたら、人間たちにまで被害が出てしまうかもしれないわよ?」
ハルピュイア「その心配は無用だ」
ハルピュイア「奴は……一方通行は、俺がやる」 - 59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/10(日) 00:56:18.69 ID:XGHvxshbo
- 四天王が一方通行討伐に向けて動き始めたその頃。
同じ時間の空間で、彼らもある目的のために動き始めていた。
『ちょっと聞いた?
……一方通行が復活したみたいよ』
『おおっ、それじゃ俺もようやく根性のある奴と戦えるんだな!?』
『……あなたって、本当にそっくりな持ち主と出会ったのね』
『ていうか、私達が喜んで戦ってどうするのよ。
アンタ、次適当なこと言ったら……確定、ね』
『話によると、私が最初に一方通行に会えそうね……なんとかして伝えないと。
……あの子たちを助けるために』 - 76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/04/25(月) 00:24:24.31 ID:5e/kp7tuo
- 一方通行がコルボーを連れ帰還した後、レジスタンスベースではちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。
もちろん、伝説の英雄が復活しレジスタンスへの協力を約束してくれたことを祝するものだ。
しかも手土産代りにと言わんばかりに、絶対不可能と言われていたスクラップ処理施設を破壊したことが、
レジスタンスのメンバーたちをさらに過熱させていた。
その晩は文字通り飲めや歌えやの大騒ぎとなったのである。
―― 一方、ベースの片隅にはそのお祭り騒ぎを快く思わない者がただ一人存在していた。
一方通行「ったく、バカみてェに浮かれやがって……」
そう、他ならぬ一方通行その人である。
レジスタンスの宴が始まってから、かれこれ一時間ほどたったであろうか。
一方通行を宴の中心に置いてもみくちゃしようとする中高年型レプリロイド達を振り切り、
ようやく一方通行は廊下の壁に寄りかかり、文句の一つを垂れることができた。
おそらく戦争以前に造られた地下施設をベースとして利用しているのだろう。
壁面は薄汚れ、ところどころに銃弾の跡のようなものも残っているが、
その大きさはまだ慣れない一方通行を迷わすのには十分なものだった。
一方通行「とにかく、どこか隠れる場所を探さねェとな……」
なんとか一人きりになれたとはいえ、どこから嗅ぎ付けてあのオヤジどもががやってくるかは分からないし、
夜風に当たろうと外に出ようものならばネオ・アルカディアにベースの場所を特定されていまう危険性がある。
心なしか重くなってきた体を引きずり、右も左もわからないまま一方通行は歩き始めた。 - 77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:27:20.18 ID:5e/kp7tuo
- アルエット「あなたがシエルお姉ちゃんを助けてくれたあくせられーたって人?」
一方通行「……あンだァ、オマエは」
その時、人形を小脇に抱えた少女がは一方通行の目の前に現れた。
人間でいえば7、8歳程度だろうか。
アルエット「私の名前はアルエット。シエルお姉ちゃんがつけてくれたんだよ」
一方通行「そいつは良かったな、じゃァな」
こっちは疲れているんだ――そう言うことすら億劫だった一方通行は、
ぼそりと言い残し、アルエットの横を抜けようとした。
しかし壁に寄りかかりゆっくりと前進する一方通行は、
アルエットにも簡単に正面に回り込まれ、腕をがっちりとつかまれてしまう。
アルエット「ちょ、ちょっと待ってよあくせられーた。
今おじさんレプリロイドたちに追われて困ってるんでしょ?
……私、いい隠れ場知ってるよ?」
一方通行「バカ言うンじゃねェ、誰がオマエみてェなガキに……」
アルエット「ほらほら、こっちこっち」
一方通行「……ったく、仕方ねェ」
そういや大昔にもこんな目にしょっちゅうあっていたなと思い、
満更でもないような表情をしながら、一方通行は引っ張られるがままアルエットとともに歩きだした。 - 78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:31:48.97 ID:5e/kp7tuo
- アルエット「お姉ちゃん、こんばんは。遊びに来たよ」
シエル「あら、アルエット……それに一方通行まで?」
アルエットに連れられ一方通行がやってきたのはシエルの部屋だった。
相変わらずうす暗い部屋の中、コンピュータのモニターだけがこうこうと光っている。
一方通行「……チッ」
シエルが斜め下に目線を下げるのを見て、一方通行はばつが悪そうに目をそむけた。
一方通行の右手は誇らしげにほほ笑むアルエットの左手で堅く握られていたからだ。
アルエットと目を合わせ、笑いあいながらシエルが言う。
シエル「二人とも座ってて、今アルエットの好きなアレを出してあげるからね」
アルエット「ホント? やったぁ!
あくせられーた、早く座ろぉ」
一方通行「おォ……」
『アレ』という言葉を聞いて、アルエットはすぐさま握っていた手をはなしちょこりと奥の席に着く。
一方通行も自由になった腕の感触を確めながら、向かいの椅子に腰を下ろした。
- 79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:34:44.85 ID:5e/kp7tuo
- シエル「はい、二人ともどうぞ」
アルエット「えっへへ、いただきまーす」
一方通行「……なンだァ、こいつは?」
一方通行は目の前に置かれた縦に長い缶を眺めた。
メタリックブルーの地に、黒い大きな『E』の文字が書かれ、上蓋から一本の細いストローが伸びている。
どうやら、飲み物のようだ。
アルエット「……どうしたの、あくせられーた?
E缶飲まないの?」
一方通行「E缶?」
アルエット「そうだよ、E缶。
とっても美味しいし、元気になれるんだよ」
シエル「エネルゲン水晶っていうレプリロイド達のエネルギー源の鉱物があって、
普通はそのまま口から食べるように摂取するんだけど……
あんまりおいしい物じゃないんですって。
そのE缶はエネルギー水晶の成分とレプリロイド用の甘味料を入れてあるから、人間のジュースみたいに飲めるのよ」 - 80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:37:17.29 ID:5e/kp7tuo
- 一方通行「……ふゥン」
考えてみれば、と一方通行は思う。自分は目覚めてからエネルギー補給らしきものを一度も行っていない。
それに加えてあれだけの能力を使うのだ、エネルギーがかなり消耗されているはずだ。
ということは、先ほどからのこの体の重さはエネルギー不足のせいなのかもしれない。
アルエット「ねぇね、あくせられーたも飲んでみなよ」
一方通行「しょうがねェな……」
じっとこちらを見つめる瞳に耐えきれず照れ隠しの文句を垂れながら、一方通行は恐る恐るストローを口先へ運んで行く。
唇に触れる寸前ストローの口から感じたむせるような甘い香りに顔を一瞬しかめたが、意を決して勢いよく吸い込み――
――そのベクトルを逆にしたように、勢いよく吐き出した。
一方通行「オエエエエエエエエエエ!!!!!!」 - 81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:40:19.10 ID:5e/kp7tuo
- 数分の後。一方通行が吐き出した液体が部屋中を席巻するという地獄状態は、
幸いにもシエルが用意したタオルのおかげで終息はしたものの、室内には何とも言い難い鬱屈とした雰囲気が残っていた。
アルエット「あくせられーたぁ、大丈夫?」
一方通行「まァ……な……」
あれからしばらく、一方通行はテーブルに突っ伏し口の中に残る甘ったるい味が抜けきるのを待っていた。
しかも部屋の中にも残る、自分が最も忌み嫌うべき香りも鼻腔から侵入を続けている。
その二か所からの猛攻に耐えるため、一方通行は無の境地に達する勢いでいた。
アルエット「変なの、私のお友達もみーんなE缶大好きなのになぁ」
シエル「一方通行は普通のレプリロイドとはちょっと違うから、エネルギー摂取の方法も特殊なのかもしれないわね。
……でも困ったわ。そうすると、エネルゲン水晶を直接食べる方法でもうまくいかないかもしれないわ……」
一方通行「…………」
一方通行は目を閉じて考えた。
確かにシエルの言うとおり、自らのエネルギー摂取方法は特殊なのかもしれない。
先ほどE缶を吐き出してしまったのは、単純に口に合わなかっただけではない。
はっきりとした拒否反応が自分の体の中で起こったからだということを、一方通行は理解していた。
では、自分は一体どうやってエネルギーを得ればよいのだろうか。 - 82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:44:13.05 ID:5e/kp7tuo
- レプリロイドの一般的な方法がとれないならば、何か代替案が用意されているはずだ。
体が感じるけだるさから察するに、永久動力が搭載されているとは考えづらい。
しかし、この時の一方通行にはそれ以上の推理のしようがなかった。
せめて本能的な部分の記憶くらい残っていれば――
――そう自身の重大な欠落を呪い始めた時。
一方通行の目は、耳は、鼻は、この室内に起こったある大きな、殊自分においては最大級の変化を感じ取った。
シエル「アルエット、本当にこれが……?」
アルエット「うん、いつかあの子が話してたから、きっとそうだよ」
一方通行「おい、オマエら……何してンだ?」
そして、未だ甘い感覚に支配される口腔にもその変化を味わわせたいと、一方通行の本能が求めていた。
アルエット「今ね、シエルお姉ちゃんが『コーヒー』って言うのを淹れてるんだよぉ」 - 83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:46:46.86 ID:5e/kp7tuo
- 一方通行「やっぱコーヒーはブラックだよなァ……」
ひょっとすれば、それは自身が唯一覚えていた言葉かもしれない。
シエルが入れた一番煎じをゆっくりと時間をかけて味わった後に、一方通行は思った。
シエル「一方通行、体の調子はどう?」
恐る恐るというふうにシエルが体を前に傾け、尋ねる。
一方通行「……最っ高だな。生き返った気分だぜェ」
シエルとは対照的に椅子の背もたれに大きく寄りかかり、一方通行は答えた。
事実、今までのだるさは嘘のように消え失せてしまっている。
今なら能力の使用も問題なくできるだろう。
シエル「でも、本当にあなたは不思議なレプリロイドね……
まさか人間の食品、それもコーヒーがあなたのエネルギー源だなんて。
いいえ、もはやレプリロイドとも……」
一方通行「別に俺はなンでもかまやしねェよ。
……つか、なンで俺のエネルギー源がコーヒーだってわかったンだァ?」
アルエット「えへへ、それはらすとおーだーが教えてくれたんだよぉ」
一方通行「ラストオーダー?」 - 84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:48:36.82 ID:5e/kp7tuo
- アルエット「うん、私のお友達だったサイバーエルフさん。
いつもここで、私といろんなお話をしてたの。
外見は私と同じくらいだったのに、いろんなことを知ってて、すごい子だったんだぁ。
あくせられーたのことも、その子が色々教えてくれたんだよ」
一方通行「っつーことは、そいつがコーヒーについても言ってやがったってことかァ……
……そのサイバーエルフは一体何者なンだ?
なンで俺のことまで知っていやがる?」
アルエット「え、えっと……それはらすとおーだー本人に聞いてみないとわかんないよぉ」
テーブルに身を乗り出し、尋問するかの様に尋ねる一方通行に気圧され、アルエットは人形を強く抱きしめ、体をすぼめる。
なおも送られる厳しい視線に耐えかねたのか、アルエットはシエルに助け船を求めた。
アルエット「ねぇねぇシエルお姉ちゃん、らすとおーだーはお姉ちゃんがレジスタンスに来た時一緒に連れて来たんだよね?」
シエル「ええ、確かにそうだけど……
……ごめんなさい一方通行、私も彼女のことについてはよくわからないの。
ただ、妖精戦争の頃に生み出されたサイバーエルフらしいのだけれど……
ひょっとしたら、その時にあなたと会ったことがあるのかもしれないわ」 - 85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:50:10.37 ID:5e/kp7tuo
- アルエット「そうだよ、あくせられーたって百年以上も生きてるんでしょ?
らすとおーだーのこととか、なんにも覚えてないの?」
一方通行「それは……」
そうアルエットに言われ、ぐっと詰まるのは今度は一方通行の順番であった。
百年生きているとはいえその大部分は意識などないし、その前のことも記憶にない。
つまるところ一方通行の人生とはこのレジスタンスで始まった慣れない生活だけなのだ。
一方通行「……知らねェな。
第一、そいつの特徴とか何もねェのに名前だけで思い出せるわけねェだろォが」
投げやりにそれだけを言って、一方通行は再びコーヒーを口元へ運んだ。
しかしその思惑とは裏腹に、アルエットが間髪をいれずに答える。
アルエット「……確かに、そうだよね。
らすとおーだーはね、茶色くて、短い髪で……
あっ、そうそう!!
自分のこと、『ミサカ』って言ってたよ!!」
一方通行「……『ミサカ』、だと?」
一方通行のカップをもつ手が、一瞬停止した。
『ミサカ』――その三文字に、一方通行は少ない記憶をたどっていく。
そして、一つの言葉にたどりついた。
『ミサカはずっとあなたの中にいるから……』
- 86 : [sage saga]:2011/04/25(月) 00:51:56.24 ID:5e/kp7tuo
- 一方通行「アイツが、俺を……?」
シエル「一方通行、何か思い出したの……!?」
一方通行「ああ……ン?」
天井を見上げて、アルエットに言われたとおりの姿を思い浮かべた後、一方通行は再び視線を下ろした。
すると、正面にあったはずの小さな人影がなくなっている。
部屋の奥を見通すと、そこには空っぽになったカプセルのようなものを寂しげに見つめるアルエットの姿があった。
一方通行「おい……オマエ何してンだ?」
アルエット「えっ……?」
不意に呼びかけられ振り向くが、アルエットは人形を堅く抱きしめたまま答えようとしない。
一方通行は徐に立ち上がり、アルエットのの横に立ってカプセルの中を眺めた。
何の変哲もない、強いて言えば少し大きいだけの容器だ。
一方通行「……コイツがどうかしたのかァ」
アルエット「……らすとおーだーがね、この中にいたんだよ。
でも、いなくなっちゃった」
一方通行「いなくなった?」
- 87 : [sage saga]:2011/04/25(月) 00:53:07.23 ID:5e/kp7tuo
- またも下を向いてしまったアルエットから目を離し、一方通行はシエルの方へ振り返った。
シエル「…………」
しかしシエルも同様に、思いつめた目で床を見つめたまま口を開こうとしない。
どういうことか詳しく問いただそうとしたとき、再びアルエットがささやいた。
アルエット「あくせられーたの封印を解くときにね……その力を使って。
それで、消えちゃったんだって。
ねぇ、あくせられーた。
消えちゃったらすとおーだーは、どこに行っちゃったのかなぁ」
一方通行「…………」
この問いに回答するのは容易ではないだろう。
しかし、一つだけ一方通行には心当たりがあった。
それが本当に適切な答えなのかは分からないが、何故か一方通行には確信があったのだ。
一方通行「……一番居たかった、安らげる場所にいるんじゃねェのか。
だから心配するこたねェよ」 - 88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:54:32.69 ID:5e/kp7tuo
- その後、一方通行は自分の中に打ち止めがまだ生きていることを二人に話した。
二人とも信じられないという風だったが、一方通行がそんな嘘をつくとも思わなかったのだろう。
一様にほっとしたような顔を見せた。
しかしそれは、一方通行にますます人間とレプリロイドとの間の境界を分らなくさせていた。
シエルもアルエットも同じように笑い、同じように悲しむ。
一方通行にとって、アルエットをレプリロイドたらしめているものは、自分がそれを知っていると言うことだけだった。
――人間とレプリロイドとの違いは、差は、何故生まれるのか?
奇しくもこの時一方通行の中には、シエルの想いにつながる考えが芽生え始めていた。
アルエット「あくせられーた、シエルお姉ちゃん、お休みなさーい!!」
閑話休題、おそらく老人たちの酒宴も既に終わったのだろう。
静かな廊下に、アルエットの走る音が山彦のように響いた。
一方通行「世話になっちまったなァ」
シエル「ううん、あなたに世話になるのは私達だもの……
それに皆あなたが味方についてくれて、本当にうれしいのよ。
もちろん、私もね。
だから、レジスタンスの皆のこと、悪く思わないでね……?」
一方通行「……考えといてやるよ」 - 89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/04/25(月) 00:56:50.43 ID:5e/kp7tuo
- そう言い残し一方通行は踵を返し、どこへともなく歩き出す。
しかしその時、一方通行の背中に声が振りかかった。
シエル「待って、一方通行……!!
どうして人間の私がレジスタンスにいるのか、聞かないの?」
一方通行「つーこたァ、やっぱ何かデケェ理由があンだな」
シエル「それは……!!」
一方通行「……別にそれが何かとか聞きゃしねェよ、俺は。
悪党がモノ狙う理由なンざ星の数ほどあるからなァ」
一方通行は再びシエルに向き直り、こわばるその瞳を見据えた。
一方通行「オマエがあのガキに打ち止めのことを全部話したのは、あのガキを信じてたからだろ?
だったら、それと同じだァ。
オマエが俺を……本当に信じられるようになったら、話しゃァいい。
……それまで俺が、オマエのことを信じてやるからよ」
シエル「一方通行……」
シエルは感じていた。
打ち止めだけではない。
もう一人、かつてシエルのあこがれであったあの男が――
――あの男の信念が、図らずも一方通行の中に生きていることを。
シエル「……ありがとう、一方通行」
既に大きく遠ざかった一方通行の背中に、シエルはつぶやいた。
―― そして物語は再び『ミサカ』を軸に、大きく動き出すこととなる――
- 96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/05/03(火) 22:48:08.09 ID:L8BkbZIGo
- 投下再開します!!
ちなみにこのSSは『とある魔術の禁書目録』の物語から百年後の世界が舞台です。
……それ以上は何も言えません!! - 97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 22:50:45.74 ID:L8BkbZIGo
- 【MISSON.2:輸送列車を破壊せよ】
一方通行「その打ち止めと同じ信号を出しているサイバーエルフをとっ捕まえてくりゃいいンだな?」
司令室のトランスサーバが鈍く光ったのを確認して、一方通行はその上に立ちミッションの内容について確認する。
しかし一方通行の乱暴な言い回しを諌めることなく、シエルはまだ半信半疑というような表情を見せた。
シエル「ええ……でも、同様の信号が複数のサイバーエルフから出るだなんて……
一体どういうことなのかしら……
とにかく、ネオ・アルカディアの手に渡る前に助けてあげないと……!!」
一方通行「……なるほどねェ。
オペレーター、準備はいいのかァ?」
一方通行は正面に立つシエルから横に向き直り、二人のオペレーターの方へと向き直った。
赤いストレートヘアのオペレーター・ルージュに、金色のショートヘアのジョーヌだ。
ルージュ「プラットフォームの座標入力は既に完了していますので、いつでも行けます」
一方通行「それならさっさと転送しやがれェ。
……列車ごとどっか行かれちまわねェうちにな」
ジョーヌ「……了解。
転送準備、完了……」
ルージュ・ジョーヌ「……転送!!」
二人が合わせて声を発すると、瞬時に一方通行の体が光とともに消え去る。
シエル「一方通行、気をつけて……」
打って変わって静寂に包まれた司令室に、シエルの消え入るような声だけが残った。
- 98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 22:51:45.58 ID:L8BkbZIGo
- その少し前、レジスタンス・ベースに送られてきた信号がシエル達を驚かせた。
サイバーエルフが発信源とみられるその信号は、かつて打ち止めを発見した時のそれとまったく同一だったのである。
サイバーエルフは、ほとんど一つの生命体と変わりはない。
それぞれに少しずつ違いがあるし、コピーを作り出すことは事実上不可能だ、というのはシエルの弁だ。
それならば、その発信源のサイバーエルフは何者なのだろうか?
ひょっとすれば、打ち止めの正体がわかるのかもしれない。
しかし、この時一方通行はまだ知らなかった。
――この問題が、自身の根幹にかかわる問題であるということに。 - 99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 22:54:06.23 ID:L8BkbZIGo
- ルージュとジョーヌの追跡の結果、信号はネオ・アルカディアの貨物輸送列車の中から送られていたことが判明した。
現在列車はプラットフォームで荷物の積み込みを行っていて、
その隙をついて列車を襲撃するというのが今回のミッションの筋書きだった。
しかし、転送が完了した後一方通行が見た光景は、予定とは少し違っていた。
一方通行「……おいおい、ずいぶンと静かだな」
積み込み作業の真っ最中に飛び込むとばかり思って身構えていた一方通行は、
まったく人影の見当たらないプラットフォーム内を怪訝な顔で見回した。
建物は吹き抜けの構造になっていて、現在自身が立っているの二階部分から、
無機質な赤茶色の車両がいくつもつながっているのが確認できる。
だが、それ以外の作業レプリロイドなどが一切見当たらないのだ。
シエル『ひょっとしたらもう積み込み作業が終わってしまったのかもしれないわね……』
一方通行「……シエル、例のサイバーエルフの詳しい位置はわかるかァ?」
シエル『ええ……動力部のある先頭車両の、一つ手前。
二番目の車両から反応があるわ。
気をつけて、一方通行。
どこに敵が潜んでるか分らないわ……』
- 100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 22:56:15.31 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「……了解。
そンじゃァ、ついでにやっこさんの補給もしばらく出来ねェ様にしてやるか」
シエルからの忠告もそこそこに、一方通行は首筋の能力のスイッチを入れ、柵の上に飛び乗った。
その場でしばらく列車や周りの様子を眺める。
十秒ほどそのままでいたが、一方通行は何の攻撃もされることはなかった。
プラットフォームは相変わらず不気味に静まり返っていて、
わざとこれほどまでに目立っている自分を狙う気配も感じられない。
となると、考えられることは一つ。
一方通行「面白ェ。そンなに乗りこンで欲しいなら……お望み通りぶっつぶしてやるぜェ!!」
これは、罠だ。
おそらくサイバーエルフはレジスタンスをおびき寄せるための餌なのだろう。
ならば――相手がそんな小細工をするのだとすれば―― 一方通行がとる行動は決まっている。
――圧倒的な力で正面から敵を叩く。
それが自身が『一方通行』たる所以の一つなのだ、と一方通行は口に出さずに宣言した。
- 101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 22:58:34.28 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「チッ……やっぱり動き始めやがったかァ」
まるで一方通行が上に飛び乗ったのを見計らったかの様に動き出した列車はぐんぐんと加速していった。
だんだんと離れていくホームを一瞥してから、一方通行は列車の進行方向を見据える。
その時、目の前に現れた『何か』に視線を阻まれた。
パンテオン・ウォーリア「……ウオオオオォォォォ!!!」
首から上は今まで何度も目にしてきた雑魚。
しかし、その体――特に両腕の強化がすさまじく、通常の数倍の太さのそれを振り回している姿を見ると、
流石の一方通行もため息をつかざるを得なかった。
一方通行「やれやれ、たまンねェなァおい」
コキリと関節の調子を整えながら、パンテオンに近づいて行く。
愛おしくて仕方なかったのだ。
急ごしらえで警備レプリロイドにこんな強化を施してしまう敵が。
そして、それがまったく的外れであることを知らない目の前の脳筋野郎が。
パンテオン・ウォーリア「ウオオオオォォォォ!!!」
その右腕がおおきく振りかぶられても、一方通行はまだ攻撃を仕掛けることはない。
こちらからわざわざ教えてやるのはおせっかいと言うべきだろう。
そのあやまちに、出来れば自分から気付いてほしかったのだ。
――もっとも、気づくころには全てが手遅れだということも、一方通行は十分理解していたが。
- 102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:02:47.32 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「……先頭車両から二番目、この車両かァ」
丁寧に指をさして確認し、大きく片足踏みして、一方通行は自分の立つ車両の天井に穴を開ける。
その衝撃で、後ろ数十の車両に転がる大小さまざまなレプリロイド達の残骸の一部が線路上に投げ出された。
だがそれに見向きもせず、一方通行は素早く車両内に体を滑り込ませた。
このミッションの本来の目的、謎のサイバーエルフの正体への興味がそれを大きく上回っていたからだ。
一方通行「さァて、鬼が出るか、蛇が出るか……」
一方通行は慎重に車内を見渡した。
比較的大きな車両だが、貨物のようなものは一切ない。
その代わり先頭車両とは逆側に、シエルの部屋に置かれていたようなカプセルが一つあった。
ただこちらは空っぽではなく、中でボール状の光が一つぼんやりと浮かんでいる。
一方通行「オマエ、一体何もンだァ……?」
車両の他端側から、一方通行はゆっくりとカプセルに近づく。
それにつれて次第に曖昧だった輪郭がはっきりとしていき、小さな人型が――
ミサカ16012号「あなたはまさか……一方通行ですか?
と、ミサカは百年間待ち続けた瞬間を現実かどうか確認します」
―― どことなく見覚えのある姿が、現れた。 - 103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:06:13.45 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「オマエは……『ミサカ』、だと……?」
耳に飛び込んできた聞き覚えのある一人称を捕まえて、一方通行は思わず聞き返した。
そしてつくづくとその姿を眺める。
大きさこそ数十センチほどしかないが、まるで打ち止めが成長した後のような姿をしている。
16012号「はい、ミサカはミサカです、と、ミサカは明確に回答します」
一方通行「……ンで、オマエは俺のことを知っていやがンのか?」
まったく明確になってない、と思いながらも一方通行はさらに尋ねる。
16012号「もちろん、忘れられるわけがありません。
ミサカが今ここに存在しているのは、一重にあなたのおかげなのですから、
と、ミサカは客観的な事実を述べます」
一方通行「……はァ?
ンだそりゃ、どういう意味だァ?」
16012号「そのままの意味ですが、と、ミサカは特に詳細な情報を付加することなく答えます。
……それよりも、いつまでもここにいてはいけません。これは罠なのです、
と、ミサカはあなたに必死に警告します……!!」
一方通行「ああ、その辺ウヨウヨしてたパンテオンどもは俺が全部片付けといたからよ。
オマエは安心して……」
16012号「それは囮です、とミサカはあなたに真実を伝えます。
本当は今この瞬間を、四天王が……」
一方通行「……!!」
一方通行がただならぬ気配を感じ、後ろを振り返る。
その瞬間閃光が轟音を上げながら駆け抜け、先頭車両から順に貫いた。 - 104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:08:10.41 ID:L8BkbZIGo
- 侵入時に自分が開けた穴から再び外へ出ると、一方通行は目の前に広がった光景に頭を掻き毟った。
二両目から後ろの十数の車両はほぼ大破と言っても過言ではなく、
運よく原型の残っているものでも横転は当たり前、果ては人間用食品の積荷が散乱していて、
一方通行はこの後始末をするであろうネオ・アルカディアのメカニロイド達を憐れまずには居られなかった。
一方通行「あァあァ、メチャクチャじゃねェかよ。
……ったく、やってくれるぜ」
ゆっくりと先頭車両の方へと振り返り、一方通行は斜め上空から降下してくる一体の人型レプリロイドを睨みつけた。
そのレプリロイドは両手に構えた二本の剣を鉛直に下ろし、ゆっくりと線路に着地する。
それを待って、一方通行は質問ではなく、挑発にしかなりえない言葉を投げかけた。
一方通行「こンな手の込ンだ罠まで仕掛けやがって、そンなに俺を殺したかったのかァ?
ネオ・アルカディアのレプリロイドさンよォ」
しかしそれにまともに応じることなく、そのレプリロイド――
――『賢将』ハルピュイアは片方の剣を一方通行へ向け言った。
ハルピュイア「今の一撃を喰らって、傷一つ負わないとはな……
流石に『一方通行』を名乗るだけのことはある、ということか。
我が名はハルピュイア、幻想殺し様にお仕えする『ネオ・アルカディア四天王』が一人……」 - 105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:11:14.61 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「四天王? おいおい、こないだあの鳥野郎をぶっ飛ばしたと思ったら、もうその上司さンの登場か。
一方通行には乾く暇も与えてくれねェンだなァ」
ハルピュイア「……伝説の英雄をお前の様なゴロツキと一緒にするんじゃない!!」
一方通行「はっ、そォかいそォかい」
そう言って構えた剣を振り抜くハルピュイアを嘲笑するように、一方通行は列車の上から線路に向けて飛び降りた。
一方通行「この世界じゃ随分と有名人なンだなァ、一方通行っつーのはよ。
悪ィが俺はおとぎ話の類には弱くてなァ。
良かったら聞かせてくれねェか、その英雄の伝説ってやつをよ」
ハルピュイア「なに……?」
当然一方通行の申し出が意外だったのだろう、一瞬ハルピュイアは困惑したような表情を浮かべる。
しかしすぐに元の調子に戻り、再び眼前に剣を構えた。
ハルピュイア「哀れだな、ネオ・アルカディアに暮らす者ならば誰もが知っている英雄の物語も知らないとは……
イレギュラーどもの思惑が垣間見えるというものだ。
……いいだろう、お前に聞かせてやろう。
本物の英雄がいかなる功績を残したのかをな……!!」 - 106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:13:15.24 ID:L8BkbZIGo
- 百年前、ネオ・アルカディア――当時まだ学園都市と呼ばれていた場所――には、様々な能力をもった超能力者が存在した。
超能力者たちはLEVEL0からLEVEL5までの段階に分けられ、
特に強い、軍隊とも対等に渡り合えるほどの能力をもった超能力者がLEVEL5に分類された。
LEVEL5は学園都市百八十万人の超能力者の頂点とも言われ、わずか7人しか存在しなかったという。
そして、LEVEL5の7人の中にも、第一位から第七位までの序列が設けられた。
超能力者の頂点たるLEVEL5のさらに頂点に君臨するもの――
―― それこそが、『学園都市第一位』一方通行であった。
妖精戦争においても、一方通行は『幻想殺し』や他のLEVEL5らと協力し、戦争を終結に導く。
だがその最後の戦いにて、幻想殺しを庇って行方不明となってしまう。
しかしその後のネオ・アルカディアにおいて、
一方通行はその身を挺して未来を守った『白き英雄』と謳われる存在となったのであった。 - 107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:15:00.27 ID:L8BkbZIGo
- ハルピュイア「……これがネオ・アルカディアに伝わる、幻想殺し様に並ぶ英雄の伝説だ。
わかったか? お前のようなイレギュラーが軽々しく口にしていい名ではないと言うことが」
一方通行「カカッ、なるほどォ。
寒気がするほど見事な御説教ありがとよ」
パチパチと拍手を送りながら、一方通行は大げさに首を縦に振った。
一方通行「つまりはアレだ、オマエらは英雄英雄と俺のことを祭り上げて、
いたンだかいなかったンだかもはっきりしねェよォな虎の威を借って、弱者を食い潰してやがる狐どもってェわけだ。
……すました顔して良くやるぜェ」
ハルピュイア「黙れ!! ネオ・アルカディアを愚弄するつもりか!!」
一方通行「へェ、そこまで言うなら出してもらおうじゃねェか。
その、伝説の英雄なンてもンが本当に存在したっつー証拠をなァ!!」
ハルピュイア「……証拠なら、お前の目の前にある」
そう言って、ハルピュイアは下ろしていたもう一振りも地面と平行に、一方通行に向けて突き出した。
ハルピュイア「この二対一体の剣の名は『ソニックブレード』。
妖精戦争において人間を守るために戦った、LEVEL5を中心とする超能力者たちのために作られた『光る十の武具』の一つだ」 - 108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:17:19.12 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「おいおい、もうそういう伝説だのの類はよォ……」
ハルピュイア「光る十の武具はただの武器ではない。
超能力者と最大限の同調を行うため、使い手の能力がそのまま納められた、いわば英雄の意思を受け継ぐ武器だ。
そして我ら四天王は、この光る十の武具を一人一つずつ所有し、任務にあたっている……
すなわち、俺たちは確固たる英雄の御名の元にイレギュラーどもの始末を行っているのだ」
そう言い終わると、ハルピュイアは勢いよく宙に飛翔した。
同時に掲げられたソニックブレードに光が集まり、巨大な雷のエネルギーとして周囲の磁場に影響を与え始める。
ハルピュイア「ソニックブレードに納められた能力は、『超電磁砲』。
電撃使い系最強を誇った、学園都市第三位の能力だ……!!」
一瞬、低く天が唸るような音を上げたかと思うと、一筋の雷光がソニックブレードへ流れ落ちた。
一方通行「……ぎゃっは」
ビリビリと肌に迫る電磁波の威圧を感じながら、一方通行は不思議にも口元を緩めずにいられなかった。
なるほど、確かにこれはかつての英雄の存在を証明するものたりえるのだろう。
この感覚を、以前確かに自分は感じたことがある。
もっともその時は認識することすらなくはじき返した感覚だが、それでも実際に観測したことには変わりない。
―― そして今回も。
変わらず、真正面からはじき返してやるだけだ。
ハルピュイア「幻想殺し様に逆らった罪……己が身で償え!!」
ハルピュイアが叫ぶとともに、激しく帯電した剣が幾度となく振り抜かれ、
そこから端を発した衝撃波が何重にも重なり、一方通行に飛びかかる。
一方通行「……来いよ、『出来そこないの乱造品』」
一方通行は懐かしい威力を受け止めようと、そのか細い腕を伸ばした。 - 109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:19:11.17 ID:L8BkbZIGo
- 勝負は文字通り、一方的だった。
ハルピュイアがどれだけの力を込め、どれだけの隙を突こうとも――
―― 一方通行には、傷一つつかない。
一方通行「オラオラどォした?
学園都市第三位の能力ってのは、ずいぶンとしょっぺェもンだったンだなァ!?」
ハルピュイア「ぐっ……はああああぁぁっ!!」
またしてもソニックブレードが一方通行に向けて振り抜かれる。
三度作り出されたその衝撃波は、一方通行とハルピュイアの丁度中間地点で交わり、
一つの巨大な刃として一方通行に襲いかかる。
一方通行「……ククッ」
しかしそれすらも、いや一方通行からすれば苦し紛れとしか取れないようなそんな攻撃では、
その体にダメージを与えられるわけがない。
巨大な衝撃波が一方通行の右手に着弾したかと思うと、すぐさま翻り、その射手であるハルピュイアへと牙を剥く。
ハルピュイア「くっ……!!」 - 110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:21:37.09 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「逃がすかよ!!」
間一髪、間接的な自傷を避けたハルピュイアの目の前に、数メートルは離れていたはずの一方通行が現れる。
とっさに胸の上に重ねたソニックブレードに正面から拳が叩きつけられた。
致命的なダメージは何とか避けたものの、その衝撃で砂煙をあげながら後ずさざるを得ない。
ハルピュイア「はぁ、はぁ……」
それまで全く攻撃の手を休めることのなかったハルピュイアは息を整えるかのように、
この時初めて一方通行から大きく距離をとった。
――まさか、本当に?
ハルピュイアはこれまでの戦況を冷静に鑑みて、これまで必死に避け続けていた結論を選択せずにいられなかった。
四天王とは数多のネオ・アルカディアのミュートスレプリロイドを束ね、英雄の魂を受け継ぎ、幻想殺しとともに人間たちを守り導く存在。
そしてその中でも賢将ハルピュイアと言えば、『翠緑の斬撃』とも称される四天王のリーダー。
その自分が、決して敗北を許されることのない自分が、まるで赤子同然の扱いを受けるとは。
――本当にこの男は、あの『白き英雄』その人だとでも言うのか?
- 111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:23:12.25 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「ったくシラケさせンなァ、おい。
それが本当にオマエの言う『英雄の意思』とかってのの力かァ?」
ハルピュイア「……何故だ」
一方通行「あァ?」
仮にやつが本当に一方通行だったとして、それがどうしたのだろうか、とハルピュイアは考える。
いかに相手が伝説の英雄であったとしても、今はただイレギュラーをかばいだてするだけの存在だ。
大人しく倒されるか、さもなければイレギュラーらしく躊躇なく自分を破壊すればいい。
ハルピュイア「何故とどめをささない……!?」
だが、目の前の男はそれすらせず、常にうすら笑っているのだ。
それが、ハルピュイアのプライドを音を立てて引き裂いていた。
一方通行「……さァな。どうしてだろォなァ?」
ニヤリと口元をゆがめると、一方通行は腕を広げ、再び攻撃を迎え入れる体制をとった。
- 112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:24:45.70 ID:L8BkbZIGo
- 『クソッタレな記憶に辿り着けそうだから』――もし答えを出すとするならば、そんな言葉になるだろう。
幾度となくハルピュイアから、正確にいえばソニックブレードから放たれた『超電磁砲』の能力を受けて、一方通行は考えを改めた。
自分はこの感覚を感じたことがある、どころの騒ぎではない。
何千、いやひょっとすれば何万とこの能力と向き合ったのではないか。
そう思うほど、一方通行は超電磁砲の扱いに熟知していた。
既にそのまともな観測すら必要とせず、一方通行は自在にソニックブレードから放たれる電撃を操ることが出来たのだ。
では、何故自分はそれほどまでに超電磁砲を知っているのか?
かつて二人が親密な関係だったから?
いやそれだけはあり得ないと、一方通行はもっとも安直な考えをすぐさま打ち消した。
そもそも、そんな記憶ならすぐにでも思い出したいものだろう。
これは出来れば思い出したくない、闇に沈んだ記憶だ。
それを理解しながら、それでもなお答えを探して、一方通行はハルピュイアの攻撃を受け続けていた。 - 113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:25:55.99 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「ウオラアアァァァッ!!!」
大げさに叫び、たっぷりと時間をかけてから、一方通行は体にまとわりつく砂鉄の嵐を振り払う。
惜しい。非常に惜しい。
そう、この応用力の高さこそ電撃使いの真骨頂。
一方通行はここまで、ソニックブレードから放たれた様々な攻撃を観測してきた。
剣先から放たれる衝撃波、電撃の槍、落雷そのもの、そして砂鉄の嵐。
だが、そのどれもが一方通行の待つ核心には至らない。
このままでは、自分も相手もいたずらに体力を消耗していくばかりだ。
残念ながら、そろそろ勝負をつけねばならない――
―― そう思い、ハルピュイアに向けて一歩踏み出し始めた時。
ハルピュイア「学園都市第三位の異名の由来となった、『超電磁砲』を……お前は知っているか?」
一方通行「……あン?」
不意に投げかけられた問いに、一方通行は思わず顔を上げた。
- 114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:28:20.36 ID:L8BkbZIGo
- ハルピュイア「ローレンツ力を用いて、砲弾を音速の数倍以上の速度で打ち出す……
その威力はいくつもの巨大な建造物を突き破り、余波だけで嵐をかき消した、とされている。
この技を用いて、第三位は数多くのイレギュラーを葬ったと言われている」
気づけばハルピュイアは再び一方通行に向け、ソニックブレードに力を込め始めていた。
集められた二つの切っ先に光が宿り、次第にその光度を増幅させていく。
ハルピュイア「しかしその超電磁砲すら、幻想殺し様や一方通行を前にまったく無力であったという逸話すら残っている。
もし、お前が本当に一方通行であるというのならば……
その手でこの技を受け止めて見せろ!!」
一方通行「……カカッ、上等じゃねェか」
左手を腰にあてたまま、一方通行は右手を突き出し、その掌を広げた。
その表情は、心なしか先ほどまでより幾分明るく――もちろん見る人が見ればだが――なっているように見える。
一方通行は感じていたのだ。
ついに『アタリ』を引いたことを。
一方通行はまっすぐ光の中心を見据え、その力の観測に全神経を集中させる。 - 115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:31:00.96 ID:L8BkbZIGo
- ハルピュイア「いいだろう、お前がそれほどまでに自信があるというのならば……
まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」
ソニックブレードに集められた光が一際強い輝きを放ったかと思うと、
それがまるで一つの助走であったかのように、勢いよく電撃の砲弾が発射されるた。
『超電磁砲』が一方通行の手のひらに着弾する直前、一方通行は奇妙な声を聞いた。
それは既に二度聞いた声のどれとも違うようで、どれにも似ている声で、
さらに奇妙なことに、それは目の前の光の筋から聞こえてきていた。
『そんな……そんなもののために……?』
一方通行「……!?」
次の瞬間、一方通行の目に、いや脳にあたる部分に直接情報が流れ込んだ。
月明かりすら雲に隠れ、暗闇が支配する真夜中に、人のいない場末の操車場。
一方通行はある少女に向かい合っている。
打ち止め、いやむしろ先ほどであったサイバーエルフと瓜二つの顔をしたその少女は、
整った顔をゆがませ、血走った視線を突き立てた。
一方通行「オマエは……!!」
しかしここで一方通行は気づく。このままでは反射が――
――そう思うと同時に、一方通行の体は爆風を上げて輸送列車の残骸の中へ吹き飛ばされた。 - 116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:33:00.88 ID:L8BkbZIGo
- 『そんな……そんなもののために……?』
意識を失った中で、再び少女が一方通行に問いただす。
『そんなもののために、あの子達を殺したっていうの……!?』
一方通行がその意味を把握しないまま情景はにじみ出し、違う場面を映し出した。
と言っても、場所や時間帯はそう変わらないようだ。
『あいつらだってなぁ……精一杯生きてきたんだぞ……!!』
ただ違うのは、相手が黒髪の男だということ。
『それが何で、てめえみてえな奴の食い物にされなきゃなんねえんだよ……!?』
自分は無様にも殴られ、へたった状態でこの男に説教されているということ。
そして再び情景は変化し、その答えとなる画を映し出した。
あの『ミサカ』を名乗るサイバーエルフの少女の死体の前に立つ、自分の姿を。 - 117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:34:59.35 ID:L8BkbZIGo
- やはりな、と一方通行は心の中で一人ごちた。
もちろん、おそらく自分の古い記憶を垣間見て、すべてを思い出したわけではない。
自分についてのことは、いまだにほとんど何も思い出すことができない。
だがしかし、これだけはわかる。
『一方通行』は他人の言うような英雄などでは決してなかった。
むしろ人々から忌み嫌われるべき大悪党だったのだ。
―― それで、何だというのだろうか。
そもそもが自分らしくなかった、と思い出せないはずの自分を考えながら、一方通行は思う。
自分が誰なのかわかったからといって、何か変わる話でもない。
例えば自分が生粋の正義の味方だったとしたら、もっと意欲的にレジスタンスを助けるのだろうか。
例えば自分が何の力もないただの一般人だったとしたら、ネオ・アルカディア軍を恐怖し一人震えているのだろうか。
そうではない。自分がかつて誓ったことも、そうではなかった。
守りたいものがある。たとえこの身をとしてでも、守りたいものがあった。
そのために、自分は力を得たのだ。
ならば今も昔も、何の変わりもない。
ただ守りたい者のために、力を振るうのみだ。
- 118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:36:51.34 ID:L8BkbZIGo
- その時、一方通行の右手に熱い感覚が迸った。
そして自分が守りたいもののために得た力を思い出す。
かつて自分の『翼』であったその剣を、一方通行は堅く握りしめた。
その名は、『ゼットセイバー』。
“Z”――すなわち、“A”cceleratorが、すべてを終わらせるための力。
- 119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:38:09.79 ID:L8BkbZIGo
- ハルピュイア「……やはり、奴の伝説はただの伝説にすぎなかったということか」
パラパラと地面の破片が飛び散る音だけが無数に響く中、ハルピュイアはもうもうと舞う砂煙をにらみ続けていた。
彼の放った超電磁砲によって、一方通行は跡形もなく吹きとんだはずだ。
それを確認すれば今回のミッションは終了である。
奴が本物の一方通行だったかどうかなど、何の意味もない。
人に仇なすイレギュラーは破壊された。ただそれだけの話だ。
ハルピュイア「しかし、これで本当に終わりなのか……?」
若干薄くなり始めた煙を見て、ハルピュイアが恐る恐る歩を進めようとしたその時。
鋭い音とともに、太い、一本の光の柱が砂煙の中心からそびえたった。
その光はすさまじい勢いで天へ昇り、大気が激しい震えに満たされる。
ハルピュイア「……うぐっ!! な、なんだ!?」
直後、光の柱が発散したかと思うと、辺りは打って変わって静寂に包まれた。
巻き起こされたとてつもない勢いの風で崩された体勢を立て直しつつ、ハルピュイアは光の中心だった場所へ目を凝らす。
そこでハルピュイアが見たのは、先ほどの光とは正反対の、漆黒の剣をもった一方通行の姿だった。 - 120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:39:01.19 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「ぎゃっは」
一方通行がゼットセイバー天に向けてを掲げた。
しかしその漆黒は太陽の光を反射することすらなく、むしろそれすら吸収するかのように、一層禍々しさを帯びていく。
ハルピュイア「バカな……まさか、お前のもつそれは……!!」
一方通行「……『これで本当に終わり』だァ」
ゼットセイバーが大地を切り裂いた。
いや、そんな生易しいものではない。
その目の前にいるものをすべて引き裂き、それでもなお獲物を探し求める、貪欲なまでの一撃。
その斬撃が――いや、正確にいえばその余波が、ハルピュイアの体に突き刺さった。
- 121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:40:44.16 ID:L8BkbZIGo
- ハルピュイア「がはっ……!!」
その直撃を受け、ハルピュイアは思わず構えていたソニックブレードを地面に立て、寄りかかる。
とっさに磁力で作った砂のバリケードすら、その斬撃の前には無力だった。
ハルピュイアが顔を地面に向けている間に、一方通行が間合いを詰め、ゼットセイバーをその顔に突き立てる。
一方通行「なンだ、ずいぶンと頑丈じゃねェか。流石はあの鳥野郎の上司さんだなァ」
ハルピュイア「光る十の武具の一つ、『ゼットセイバー』……!!」
一方通行「へェ、やっぱこいつはオマエのもってるのと同じ奴だったのか。
言うほど光っちゃいねェようだけどなァ。
……さァて、そろそろ潮時だな?」
ハルピュイア「まさか、ここまでとは……仕方ない、殺せ」
一方通行「いい覚悟じゃねェか。四天王さンってのは誇りが高ェこって。
そンじゃ……地獄で、あの鳥野郎によろしくなァ」
ゼットセイバーが高らかにその先端を真上に向ける。
そして躊躇なく再び一撃がくだされ、ハルピュイアの体はあとかたもなく吹き飛ぶ――
――はずだった。
その、背中から聞こえてきた少女の声が、一方通行の腕を止めなければ。
16012号「お待ちください、とミサカはあなたの直情的な行動を諌めます」 - 122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:43:12.74 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「オマエ……出てくンなってあれほど俺が言ったのをもう忘れやがったのかァ?」
16012号「申し訳ありません、とミサカは約束を破ったことを深くお詫びします。
……しかし、それ以上にミサカにはあなたを止めねばならない理由があります」
一方通行「わからねェな。
オマエを罠にして俺をおびき寄せ……
あまつさえ俺もろともオマエを殺そうとしやがったコイツを、
これから先いくらでも俺たちの敵になるだろうコイツを生かしておく意味がどこにあるってンだァ?」
16012号「……光る十の武具です、とミサカは明確に回答を示します。
これから起こるかもしれない災厄……
それに立ち向かうためにはあなた一人の力では不可能です。 光る十の武具の、超能力の力が必ず必要になります。
そして、その光る十の武具を使いこなすことができるそのお方は今後の世界に無くてはならぬ存在なのです、
とミサカは断言します」
一方通行「光る十の武具、ねェ」
16012号の弁を聞き、一方通行は胡散臭そうな目を自分のものではなく、ハルピュイアのもつソニックブレードに向ける。
しかしすぐに向き直り、再び詰問を続けた。 - 123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:46:09.62 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「……仮にそうだとして、ンでオマエにそンなことが分かる?
サイバーエルフに予知能力があるだなンて、俺は聞いてねェぞ」
16012号「これらはすべてお姉さまがおっしゃったことです、とミサカはその情報源を明らかにします」
一方通行「『お姉さま』、だァ……?
ったく、電波なのは存在だけにしろっての」
ハァ、と一つ大きなため息をつき、一方通行はゼットセイバーの切っ先をゆっくりと地面につける。
一方通行「興が削がれた。行けよ。ただし、次はねェ。
今度来るときゃ……その四天王っての、全員で来るんだなァ」
ハルピュイア「くっ、イレギュラーに情けをかけられるとはな……
ここで見逃したこと、いつか後悔する事になるぞ……!!」
一瞬、ハルピュイアの体が鋭い光に変わると、素早く空に溶けるように消えていく。
一方通行は、どこともないその光の行く末をしばらく見つめていた。 - 124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/03(火) 23:48:53.95 ID:L8BkbZIGo
- 一方通行「……ケッ、何がお姉さまだ。
ベースに戻ったら、オマエの正体洗いざらい吐いてもらうからなァ」
『あら、あんまり私の妹に手荒なまねはしないでほしいわね』
一方通行「あン……?」
不意にした声に、一方通行は辺りを見回す。
しかし、どこを見てもサイバーエルフの光しか――
――いや、その光が二つに増えていた。
突如現れたその謎の光はふよふよと動いたかと思うと、ゼットセイバーに接触する。
すると一方通行の視界には真っ白な、何もない空間が現れた。
美琴『久しぶりね、一方通行。……って言っても、私のことは覚えてないみたいだけど』
そして、一方通行にとってはもう見なれてしまった姿が再び現れた。
- 135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:34:14.38 ID:OoUvRdJro
- 連投しちまったorz
一方通行『……またか』
やれやれと言う顔をしながら、一方通行は毒気を抜かれたようにつぶやいた。
無理もない。一方通行はこれでその顔に三度出会ったことになるのだ。
一人目は、自分を目覚めさせたサイバーエルフ・打ち止め。
二人目は、列車の中で出会った打ち止めにそっくりなサイバーエルフ。
そして三人目は、目の前にいる――
――『クソッタレな記憶』に登場した、あの少女だった。
一方通行『なンなンですかァ、オマエらは?
その顔したサイバーエルフってのは、一体何匹いやがんだァ?』
美琴『そうね……大体一万くらいかしら』
人差し指を唇に当て、少女は鼻歌でも歌うかのように言う。
それを聞いて、一方通行顔を片手のひらで覆わざるを得なかった。
コイツはふざけているのだろうか、と。
一方通行『もういい。オマエには聞かねェよ。
それで、俺に何の用があってノコノコ出てきやがったンだァ?』
- 136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:36:41.58 ID:OoUvRdJro
- 美琴『そうね、私達の関係のことは妹に詳しく聞いてもらおうかしら。
私の名前は御坂美琴。ううん、正確にいえば……
ソニックブレードに納められた“超電磁砲の能力そのもの”。それが私という存在よ』
一方通行『超電磁砲……“そのもの”だァ?』
美琴『光る十の武具が超能力者の能力を納めたものって言うのはさっきあのハルピュイアって子が言った通り。
だけど、能力を何かの道具で再現するって言うのはそんなに簡単なことじゃなかった。
それには超能力者の記憶や、人格とかを集めたデータも搭載する必要があったの。
そのために造られたのが……』
一方通行『……オマエっつー、オリジナルの超電磁砲の記憶や人格をコピーしたサイバーエルフってわけかァ』
美琴『……その通りよ。だから私は妹達のように自由に動き回ることが出来ない。
基本はソニックブレードの中にいるわけだからね。
ただ、こうして光る十の武具をもっている人となら、それを通じて通信することができる』
一方通行『なるほどなァ。
要するに、オマエがあのミサカミサカうるさいのに妙なこと吹き込みやがった“お姉さま”ってワケか』
美琴『そう。……そして、これからアンタに伝えたいことも、そのことについてなの。
今ネオ・アルカディアを統治する、“幻想殺し”について……』 - 137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:37:41.28 ID:OoUvRdJro
- 一方通行『幻想殺し、か。良く知らねェが、そいつがレプリロイドどもに恐怖政治してやがるって話なら、
シエルの奴から耳にタコができるほど聞かされてるぜェ』
美琴『ううん……確かにそれは見過ごせないわ。
でも私が知らせたいのはそのことじゃないの。
……あいつが裏で、私の妹達を世界中から集めさせていることよ』
一方通行『オマエの妹……例のサイバーエルフどもかァ。
アイツは一体何のためにそンなことをしてやがる?』
美琴『……それが、わからないの』
一方通行『はァ? わからねェ?』
美琴『私の妹達は妖精戦争時代にダークエルフを成立させるために利用されてしまった。
でも、ダークエルフは幻想殺しによって倒されて今はもういないはずなの。
それなら、妹達を集めている意味は何……?』
一方通行『“妹達がダークエルフを成立させた”?
おい、ソイツは一体……』
どういうことだ、と言いかけて一方通行は気がついた。
超電磁砲の姿はあたかもプロジェクタの接触不良のようにぶれ、足元から次第に空間へとその構成粒子を拡散させていく。
一方通行は彼女と自分にに与えられていた時間がとても少ないものであったことをこの時初めて自覚した。 - 138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:39:22.31 ID:OoUvRdJro
- 美琴『……ごめん、もうこれ以上私には力が残ってないみたい。
とにかく、出来る限り妹達を幻想殺しに捕まらないようにさせてあげて。
それが頼めるのは、一方通行、アンタしかいないの……』
一方通行『……一つだけ聞かせろ。
オマエの言う幻想殺し……世界を救った英雄とか言われてるソイツが、なンで今じゃ悪の親玉みてェなことになってやがる?
アイツに何があったってンだァ?』
美琴『それは……私にもよくわからないわ。
百年前の戦争から封印されていた私達は、数年前四天王たちによって封印を解かれた。
その時にはもう、ネオ・アルカディアは理想郷とは程遠いものになってしまっていた……
……これは確証のない、私の考えだけど』
もう首から上だけになった姿で超電磁砲はうつむいた。
そしてまだ残る二つの目で一方通行を捕え、消えかかる唇で最後の言葉を告げる。
美琴『気をつけて。……多分、“幻想殺し”は“幻想殺し”じゃない』
- 139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:40:34.24 ID:OoUvRdJro
- 16012号「……お姉さまと、お話になったのですね?
と、ミサカは突如意識を回復したあなたの顔を見て確認します」
ふと目を開くと、一方通行の体は先ほどまでいた線路上にあった。
輸送列車の残骸が痛々しく、ここが直前まで戦場であったことを思い出させる。
一方通行「まァな……」
身の入らないような返事をして、体に感じる小さな痛みに想いを馳せた。
しかし、自分の体にダメージを与えた超電磁砲の力を思い出し小首をかしげる。
あれだけの威力の攻撃を受けながら、このボディにはたいした傷もなかったのだ。
しかしその疑問をすぐに忘れ、一方通行は先ほどの『超電磁砲』との会話を思い返した。
それはすなわち、『幻想殺しは幻想殺しじゃない』という言葉そのものについてだった。
まるで禅問答のような台詞をぐるぐると頭の中で回し、その意味を考える。
しかしその思考はすぐに打ち切られてしまった。
シエル『……一方通行、応答して!!』
通信機からひたすらに自分を呼びかける、少女の声に。 - 140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:42:03.95 ID:OoUvRdJro
- 一方通行「シエルかァ。……こちら一方通行、例のサイバーエルフを捕獲した。転送を頼む」
シエル『よかった……無事だったのね!!
待ってて、今転送するわ』
一旦シエルからの通信が途絶えると、一方通行の視界が光に包まれる。
しかし、そこには16012号も一緒だ。
16012号「これからあなたのアジトへ向かうのですね?
とミサカは質問をしながらもこれからの生活をあなたに委ねます」
一方通行「……ったく、どいつもこいつも」
一つ大きな息を吐きつつも、一方通行はこの大きな手がかりである存在がシエルに研究し倒されたり、
アルエットに遊び相手として扱われたりする姿を想像せざるを得なかった。
【MISSION.2:COMPLETED】 - 141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:43:08.80 ID:OoUvRdJro
- マンティスク「静粛に!!」
『ネオ・アルカディア四審官』の一人であるデスタンツ・マンティスクが木槌を叩くと、
それまで騒がしかった傍聴席が水を打ったように静まり返る。
イナラビッタ「人間に害をなす凶悪重大事案が急増している現状に鑑み、再発防止、一般予防の見地から……」
ハルピュイア「…………」
間を開けずに幻想殺しから下された判決文が同じく四審官の一人、
チルドレ・イナラビッタが読み上げられるのをハルピュイアは上の空で聞いていた。
一方通行との交戦から数日。傷ついたボディの修復もそこそこに、
ハルピュイアは連日行われる『ネオ・アルカディア中央評議会』と呼ばれる裁判に四天王の代表として出席していた。
四天王の中でのハルピュイアの役割は、天候を操作を利用した人間の生活圏の拡大だけではなく、
『賢将』の名の通り、幻想殺しの行政を学術的な面でサポートすることが大きなウェイトを占めている。
ネオ・アルカディアのレプリロイド犯罪に関する裁判官である四審官とともに、
『正式な手続きに従った被告の権利を最大限に尊重した厳正な裁判』を行うこともハルピュイアの重要な職務の一つであった。
――しかしそれが既に骸と化していることも、また認めたくない事実であった。
イナラビッタ「……よって、真実なる統治者幻想殺しの御名においてイレギュラーと認定。廃棄処分とする」
ケルベリアン「イレギュラー認定!!」
四審官のトレテスタ・ケルベリアンの言葉が地鳴りのように響き、被告レプリロイドの最期を通告する。
イレギュラーと認定されたレプリロイドに、更生の機会など存在しない。
すべて例外なく殺処分になることは、幻想殺し自身が定めたことであった。
フォクスター「本日のイレギュラー案件に関して、これにて閉廷とする」
最後の四審官、キュービット・フォクスターの冷徹な声が場の空気断ち切ると、その日の裁判に幕が引かれた。 - 142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:44:11.89 ID:OoUvRdJro
- 評議会の終了後、レジスタンス討伐についての作戦の指揮を取るべく、
おっとり刀でエリアXを移動していたハルピュイアは、道中で気がかりなものを見かけて立ち止まった。
ハルピュイア「あいつらは……」
ハルピュイアの視線の先の広場には、先ほど評議会にもいた四審官が集まっていた。
確かに四審官は四天王の率いる四つの軍団からそれぞれ一名ずつ選出されたレプリロイドだ。
四天王の直属の部下として、また四天王に準ずる各軍団のパイプ役として、
何かしらの情報交換を行うことは全く不思議ではなく、むしろ迎合されるべきことだろう。
しかしそれはもっと公の場でなされるのであって、このような場所で行われることではない。
また、彼らは戦闘形態の他に政治的職務を行う場合の人間形態も持ち合わせていて、
傍目には人間が会話をしているようにしか見えない。
それも相まってか、ハルピュイアの目には彼らがこそこそと人目を忍んでいるかのように見えた。
ハルピュイア「……一体何を話しているんだ?」
思わず物陰に隠れ、ハルピュイアは四審官の会話に聞き耳を立て始めた。 - 143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:44:59.74 ID:OoUvRdJro
- イナラビッタ「今日の幻想殺し様の判決も、納得できないよなあ……」
広場の芝生の上に足を投げ出して、
イナラビッタは小さく十歳程度の子供型のボディ全身を使ってそよ風を知覚しながらつぶやいた。
フォクスター「イナラビッタ!! 滅多なことを口にするな。
法の守護者たる私達審官が、弁護となる情状の証明にまでいたらなかっただけだ」
子ども型に作られた弊害でもあり、目的でもあるのだろうか。
普通のレプリロイドならばイレギュラーとして強制連行されかねない言葉を平然と吐くイナラビッタを、
その都度たしなめるのは女性型のような姿をしたフォクスターの役目であった。
イナラビッタ「でもよぉ、フォクスター。
結局アイツが何を見ちまったかなんて知らされてもいないし……
たいした話し合いもなくイレギュラー認定なんて判決急ぎすぎだと思うだろ?
……もっとゆっくり話し合う時間がいるってのにさぁ」
座ったまま後ろを振り向き、イナラビッタはフォクスターだけでなくその場の全員に語りかける。
すると、骨格が浮き出るほどに痩せた長身の男の姿をしたマンティスクと、
筋骨たくましい壮年の大男の姿をしたケルベリアンが、同意するかのように一様に浮かない表情を見せた。
マンティスク「またこの手で無用な命を刈らねばならぬのかと思うと……気が重い。
我が鎌を振るわぬことこそが、平和の証のはずなのだが……」
ケルベリアン「うむ。しかし、人々がイレギュラーの恐怖を捨てきれないのもまた事実なのだ。
マンティスクよ、我々が守るべき法は人のためのもの……レプリロイドの我々には辛いものだがな。
幻想殺し様は、変わってしまわれた……」 - 144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:45:34.92 ID:OoUvRdJro
- ハルピュイア「……ケルベリアン」
ケルベリアン「こ、これは、賢将殿……!!」
これ以上彼らに話をさせることを危険に感じたハルピュイアが姿を現すと、
烈空軍団所属で直属の部下であるケルベリアンを筆頭に、四審官は押し並べて身を固くした。
ハルピュイア「今の話……聞かなかったことにしておこう。
近頃のイレギュラー増加に関しては、我ら四天王の至らぬこともある。
今日の案件、責任を問われるのは……俺のはずではなかったのか?」
ケルベリアン「そんな……あなたは幻想殺し様同様、人々を照らす光。
……ご自分をお責めにならないでください。
危険思想の温床となるイレギュラー予備軍の矯正、ストレス要因の是正といった予防処置は必要です。
しかし、ネオ・アルカディアの基本思想は本来人とレプリロイドの協調であったはず……」
ハルピュイア「もういい……ケルベリアン、それからお前たちも、もう行け。
我らの力は人間のため、そして我らの信じる正義のためのものだ……」
ケルベリアン「はっ……ご自愛を、賢将殿……」
――何故だろうか。ハルピュイアは、去っていく四審官の背中を見つめながら、考えを巡らせた。
- 145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:46:29.98 ID:OoUvRdJro
- 四天王は幻想殺しのDNAクローニングによって、また光る十の武具に適合するように造られた。
その点でいえばレプリロイドとは若干性格が異なり、自分たちを『バイオロイド』と製作者は位置付けていた。
そしてその最大の存在理由はネオ・アルカディアの政治の大部分を負う幻想殺しのサポートだ。
一口にDNAクローニングと言っても、まったく同一の個体が生み出されるのではない。
『記憶』を引き継ぐことなく、また光る十の武具という別の要素をくみこむことによって、
それぞれが得意分野で力を発揮しつつも幻想殺しと意を同じくし、共に人間を導く四つの異なる個体が生み出されたのだ。
しかし、実際はどうだろうか。
今日の裁判と照らし合わせてみれば、一目瞭然だ。
四天王は、少なくとも自分はその役目を果たせていない。
ケルベリアンが言った『人とレプリロイドの協調』はネオ・アルカディア樹立の際の根本理念であったはずだ。
だが現在はそれとはまったく別の、それどころか正反対の方向に向かってしまっている。
そして自分たち四天王だけでなく、他のミュートスレプリロイド達もそれを感じつつあった。 - 146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:47:44.63 ID:OoUvRdJro
- また、ハルピュイアはあの時自身に突き刺さった言葉を反芻する。
『つまりはアレだ、オマエらは英雄英雄と俺のことを祭り上げて、
いたンだかいなかったンだかもはっきりしねェよォな虎の威を借って、弱者を食い潰してやがる狐どもってェわけだ。
……すました顔して良くやるぜェ』
今の自分の迷いは、本当に自分が幻想殺しのいる高みに到達できぬことから生じる齟齬なのだろうか?
いやむしろ――と、反対の結論に達しかけて、ハルピュイアは自分が急ぎの身であることを思い出し、頭を振った。
ハルピュイア「…………」
空を見上げ、主人に想いを馳せる。
しかし浮かび上がった黒髪の英雄はすぐさま別の姿に置き換わった。
ファーブニル「なぁーに辛気臭い面してんだ、ハルピュイア?」
それは真っ赤なボディの思慮の足りない同僚のものだった。
- 147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:49:20.64 ID:OoUvRdJro
- ハルピュイア「お前……何をしに来た?」
ファーブニル「へっ、聞いたぜハルピュイア。
例のレジスタンスの凄腕にコテンパンにされちまったんだってなぁ。
しかも、どーも相手は本物の『一方通行』らしいって話じゃねえか」
ニヤニヤと頭の悪そうな笑い方をしながら、ファーブニルはハルピュイアを見下すような格好をして言う。
ハルピュイア「そんなことはどうでもいい!!
お前、イレギュラー討伐の任務はどうしたんだ?」
その言葉を手でさえぎり、ハルピュイアがそのまま剣を抜くかのような剣幕で問いただすが、
ファーブニルはまったく態度を改めようとせず、変わらぬ姿勢で話を続ける。
ファーブニル「まあ聞けよ、ハルピュイア。
今俺の塵炎軍団が捕えてたレジスタンスのレプリロイドが脱走しやがったんだよ。
……まんまと、俺たちの用意した探知機付きのヘリを奪ってな」
ハルピュイア「まさかファーブニル、お前……!?」
ファーブニル「そう、例の一方通行が仲間を助けにノコノコ出てきたとこを、一網打尽にしようってわけだ。
つっても、この作戦を考えたのはファントムの奴だけどな。
流石はムッツリ、まったく恐ろしいこと考えるもんだぜ」 - 148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage saga]:2011/05/15(日) 23:50:50.13 ID:OoUvRdJro
- ハルピュイア「待てファーブニル、奴を倒すのは俺の仕事だ!!」
ハルピュイアが最も大きな声を出し、ファーブニルに正面から迫る。
より戦闘に特化したファーブニルの体はやや大きく、ハルピュイアはその顔を下から見上げる格好になった。
ファーブニル「なーに言ってんだ、そんなボロボロの体しやがって。
レヴィの奴が見たら、爆笑もんだぜ?」
大きな鼻息を吐き出すようにしてから、ファーブニルはハルピュイアの肩にポンと手を乗せた。
ファーブニル「それに……大事な『喧嘩友達』がやられて、黙ってるわけにゃいかねえからな、俺も」
ハルピュイア「ファーブニル……」
ニコリ、と頭が悪そうであるがどこか憎めない笑顔を向けられ、ハルピュイアは思わずつぶやく。
ファーブニル「そんじゃ、俺は『イレギュラー討伐の任務』に行ってくるからよ。
お前はここで日向ぼっこでもしながら待ってな」
ハルピュイア「…………」
再び去っていく背中を見送りながら、自分たち四天王がそれを守りきらねばならない、と決意を新たにしつつも、
ハルピュイアはネオ・アルカディアの未来を憂えずには居られなかった。
ハルピュイア「幻想殺し様、より良き選択を……」
そより、と冷たい風が頬を撫ぜ、
ハルピュイアは、今の季節が風と風のぶつかり合う頃であることを思い出した。 - 172 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:24:59.70 ID:qUlQrufGo
- シエル「……調べれば調べるほど、新しいことが見つかるわ。
いったいこの小さな体のどこに、こんな力が……」
薄暗い部屋にカタカタとキーを叩く音だけが無機質に響きわたる。
シエルは16012号と向き合い、その力を新しいエネルギーに利用するための研究にいそしんでいた。
16012号「ミサカの体はそんなに不思議ですか、とミサカは我を忘れ数時間も研究に没頭するあなたに問いかけます」
シエル「あら、もうそんなに時間がたってる?
……いけない、そろそろ一方通行やアルエットが戻ってくるころね」
はっとした顔をすると、シエルはすぐさま立ち上がり、机に背を向け準備を始める。
コーヒーカップの触れ合う音が聞こえ出すのを確認して、16012号は小さくため息をついた。
16012号(これはとんでもない所に来てしまったのかもしれません、とミサカは一人浮かない表情を見せます)
一方通行の予言どおりにいじくりまわされてしまった自分の体をいたわりながら、
これならばネオ・アルカディアに捕らわれていたほうが楽だったのではないか、と16012号は若干の後悔の念に駆られていた。
- 173 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:25:48.04 ID:qUlQrufGo
- ハルピュイアとの戦闘から帰還した後、16012号はすぐさま一方通行とシエルからの質問攻めにあった。
それはすなわち彼女、16012号そのものについての質問だ。
しかし、16012号――いわゆる『妹達』がどういう存在であるかを語るのは簡単なことではない。
その出自はLEVEL5の量産を目的とした『量産能力者計画』であるが、
それが頓挫した後、彼女たちが流用された『絶対能力進化計画』の存在を抜かすことはできないし、
さらにそれがある少年によって中止に追い込まれた後の彼女たちの動向は様々だ。
だが、16012号はその中の二つの部分を話すことができなかった。
一つは、『絶対能力進化計画』で彼女たちの半数以上が命を落とし、それが一方通行の手によるものだった事について。
もちろんこのことは16012号の記憶にしっかりと刻み込まれていることなのだが、口止めをしたのは他でもない一方通行自身だった。
別に彼がかつての自分、すなわち大悪党であったことを隠したいわけではない。
ただ、英雄と信じた存在がただの犯罪者だったというようなことでシエルがくじけてしまってはならない。
彼の悪党としての存在が、彼女の壁になるなどということはあってはならないのだ。
16012号は一方通行からの口止めに素直に従うことにした。
もちろんその理由の一つには反抗して叩きだされでもすれば行くあてがないということもある。
しかしなによりも、16012号には一方通行の考えが、もっと言えば気持ちが痛いほど理解できたのだ。 - 174 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:28:00.96 ID:qUlQrufGo
- そしてもう一つ、彼女が語ることのできなかった事は、『百年前から現在まで彼女が何をしていたか』だ。
だが、こればかりは仕方がない。
なぜなら彼女には、百年前、妖精戦争が起きたころの記憶が一切ないのだ。
正確にいえばその後の記憶も曖昧だ。
ネオ・アルカディア軍に捕えられ、この荒廃した世界を見て、ようやく自分が長い間封印されていたことを知ったのだから。
あなたと同じ境遇ですね、と出来うる限りの笑顔――それでもひきつってはいたが――で言うと、
皮肉だと受け取ったのか、一方通行はつまらなそうに顔をそむけた。
幸いだったことは、ミサカネットワークを介してオリジナルの超電磁砲と意思の疎通ができたことだ。
といっても、その正体は人格をコピーしたサイバーエルフであったのだが、それでも超電磁砲であることは変わりない。
その時は、この世界の現状などを知り、そしてそれを救うべく16012号は一人発奮していたのだ。
しかし目覚めてからというもの、彼女は暗い倉庫のような場所に閉じ込められ、
まるで再び封印されてしまったかのようにその後の音沙汰は全くなかった。
そしてようやく日の目を浴びることになったかと思えば、それは一方通行なる人物をおびき寄せる『エサ』としての役割だった。
これではやる気も起きたものではないかに思えたが、彼女はその名前にどことなく聞きおぼえがあることに気づき――
――その正体に思い当たり、再び使命感を燃え上がらせたのであった。
- 175 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:28:58.21 ID:qUlQrufGo
- シエル「二人とも遅いわね……一体どこまで行ったのかしら」
手慰みにスプーンでコーヒーをかき混ぜながら、シエルは頬杖をついてつぶやいた。
テーブルの上にはアルエットのためのE缶が一つ、そしてシエルと一方通行のためのコーヒーが二つ置かれていた。
二つといってもその中身はずいぶんと違い、まったくコーヒーのことを知らないレプリロイドが見たら、
この二種類の液体が同じ名前のものであるとはとても思えないだろう。
奥の一方通行のものは本来の澄んだ黒色であるが、シエルの目の前のものはミルクによって茶色く変化してしまっている。
シエル(これでも、少し量を減らしたのだけれど……)
そう思いながら、手を止め液体の底をのぞく。
シエル「うん、とってもいい香り。でも……」
シエル(やっぱり内緒でもう少しミルクとお砂糖を足しちゃおうかしら……
……ダメよ、そんなんじゃ一方通行に笑われちゃうわ)
16012号(……やはり、生きている人間たちというのは見ていて楽しいですね)
椅子から中腰で立ち上がり、何やら難しい顔をしながらうつむくシエルを16012号はじっと観察する。
そして、『16012号』ではない自分の名前が決まる日は本当に来るのだろうか、と数時間前のことに思いを馳せた。
- 176 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:29:28.08 ID:qUlQrufGo
- 一方通行とシエルによる16012号の『取り調べ』が終わった後。
終了を待ちかまえていたかのようなタイミングでシエルの部屋へと飛び込んできたのは、
サイバーエルフの友達を待ち望んでいたアルエットだった。
アルエット「それでね、メナートって子が私にいっつもいたずらしてきてね……」
16012号「……はぁ、それは大変でしたね、とミサカは碌に聞いてなくても何とかなる返答を選択します」
アルエット「だからね、16012号さんはいたずらなんかしない、優しい子になってね。
……うーん、なんか『16012号』っていうのすごい呼びにくいなぁ。
ねぇねぇあくせられーた、なんかこの子にいい名前ないかなぁ?」
16012号(……ミサカが既に成長の余地などないことは問題外なのでしょうか、とミサカはややうんざりしながら考えます)
一方通行「さァな……つか、俺にそンなこと聞いて、どうしようってンだよ」
アルエット「だって、この子はあくせられーたが連れてきてくれたんでしょ。
この子を見つけた時って、どんな感じだったの?」
一方通行「……コイツを見つけたのは、薄っ暗ェ列車の車両の中だったなァ。
まァそいつはネオ・アルカディア四天王とかいう奴のせいでぐちゃぐちゃになっちまったがなァ。
そンで、俺を狙ってきやがったその四天王……ハルピュイアってのと戦ったンだ」
アルエット「あくせられーた、そういうのじゃなくて……
ほら、かわいいなぁとか、きれいだなぁとか……」 - 177 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:29:58.47 ID:qUlQrufGo
- 一方通行「…………」
『我が名はハルピュイア、幻想殺し様にお仕えする『ネオ・アルカディア四天王』が一人……(キリッ』
一方通行「……キザな、いけすかねェ奴だったな」
アルエット「……もう、あくせられーたのバカ!!
こうなったらいろんな人にいい名前がないか、聞きに行こうっと。
いこ、あくせられーた!」
一方通行「はァ? なンで俺まで……おい、引っ張んじゃねェ!!」
16012号(選手交代です、とミサカはあなたの健闘をお祈りします)
バタバタと二人が姿を消すと、入れ替わるように入ってきたのはシエルだった。
シエル「……あら? 一方通行とアルエットはどうしたの?」
16012号「二人はミサカの名前を探す旅に出ました、とミサカは自由をかみしめながら報告します」
シエル「そうだったの。せっかくコーヒーとE缶をだしてあげようと思っていたのに……」 - 178 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:31:00.06 ID:qUlQrufGo
- 長いまつげを伏せ、シエルは残念そうな顔をしながら16012号の方へと近づく。
16012号「……? まだ、何かミサカに聞き足りないことでもありましたか、とミサカはあなたの意図をなんとか汲み取ろうとします」
シエル「ううん、別にそういうわけではないんだけど……
……あなたを捕えていたレプリロイドは、本当に『ハルピュイア』って名乗ったの?」
16012号「はい、ネオ・アルカディア四天王の一人だとかと、偉そうに語っていました、とミサカは当時の様子を克明に語ります」
シエル「そう……『ネオ・アルカディア四天王』……」
16012号「……それがどうかしましたか、とミサカはあなたに残る引っ掛かりの原因を探ります」
そう言えば彼女は先ほどもこの名称に驚いていた、と16012号はあの取り調べの時を思い出す。
その時は単にネオ・アルカディアの正義の象徴でもある四天王の名に恐怖しただけだと思ったのだが――
――どうも、それだけではなさそうだ。
シエル「ううん、なんでもないの。
……それより、少しあなたの体を私に調べさせてもらえないかしら。
今取り組んでいる、新エネルギーの開発に活かせるかもしれないの」
16012号「もちろん構いません、と、ミサカは協力の姿勢を示します」
とはいえ、今それを彼女に詮索しても仕方がない。
あまり余計な事をするな、と一方通行からも念押しされているのだ。
この場所で世話になっている限り出来ることを頑張ろう、と16012号は覚悟を決めることにした。
もっとも、それを後悔するのに、そう時間はかからなかったことは、ご存じのとおりである。
- 179 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:32:47.53 ID:qUlQrufGo
- シエルの研究室が彼女の私室を兼ねていたのと同様に、ここは動力室を兼ねたものらしい、
と一方通行は最初に訪れたセルヴォの研究室を眺めて思った。
部屋の中はシエルのそれよりもさらに殺風景で、ベース内のエレベーターを制御する機械やら、
レプリロイドのメンテナンス用の機械やらが並んでいるだけで、あとは鉄クズが放られているだけだ。
部屋の奥で椅子に座ったまま、セルヴォは一方通行から受け取ったものをしげしげと眺めた。
セルヴォ「ふむ、これが例の光る十の武具……ゼットセイバーか」
一方通行「光る十の武具のことを知ってンのかァ?」
セルヴォ「ああ、有名な話だからね。現代に伝わる、英雄たちの力のこもった武器といえば。
……しかしそれがこういったものだとは知らなかったがねぇ」
一方通行がセルヴォに渡したもの――
――それは正確にいえばゼットセイバーではなく、ゼットセイバーの『柄』のみだった。
ハルピュイアとの戦いを終えベースに帰還した一方通行は、右手に何かふっと力が抜けてしまったような感覚を覚えた。
それに驚きすぐさま手元を確認すると、あの時振るった猛威が嘘のように、
ゼットセイバーの刃の部分はきれいさっぱりと消え失せ、柄だけが残っていた。
その柄には出力用を操作するスイッチのようなものは見当たらないし、いくら力を込めてみても全く反応が無い。
そこでレプリロイドだけでなく武器の構造にも明るいというセルヴォにゼットセイバーを見せることにしたのだ。
- 180 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:33:28.43 ID:qUlQrufGo
- 一方通行「最初はちゃンと刃がついてやがったンだがなァ。
ここへ帰ったと思ったらそのザマだぜェ」
口元に手を当て唸るセルヴォに、一方通行は呆れたように言う。
セルヴォ「……とにかく私に少し預からせてくれ。壊れた武器の修理には多少心得がある。
なにより、伝説のレプリロイドに続いて伝説の武器を扱える機会なんて、そうそうないからね」
一方通行「あァ……それからついでにコイツの解析も頼むぜェ」
セルヴォ「これは……何かのチップのようだね」
続けて一方通行がとりだしたのは、稲妻のような絵が描かれた小さなチップだった。
『超電磁砲』を名乗るサイバーエルフとの対話ののち、掌に残されていたものだ。
セルヴォ「おそらく装着することで何らかの力を得られるものだと思うが……
わかった、これの解析も取り急ぎ行おう」
ところで、と言いながらセルヴォは体を横に傾けて、前に立つ一方通行の奥を覗き込む。
セルヴォ「今日は他に何か用事があったんじゃないのかね?」
アルエット「……ぶー」
そこでは、先ほどからまったくの蚊帳の外にされてしまったアルエットが、頬を膨らませ睨んでいた。 - 181 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:34:23.34 ID:qUlQrufGo
- 一方通行「いや、別に。そンじゃ、その二つの件、よろし……」
アルエット「ちょっとまったー!!
今日はあのサイバーエルフさんの名前を決めに来たんでしょ、あくせられーた?」
一方通行は素早く踵を返し、去ろうとするが、アルエットに右腕をつかまれ、挙句それをぶんぶんと左右に引っ張られてしまう。
アルエットが自分に代わってセルヴォの前に躍り出たのを確認して、一方通行は小さな舌打ちを一つした。
セルヴォ「サイバーエルフ?
ひょっとしてこの間一方通行が連れて帰ってきた新入りのことかい?」
アルエット「そうなの。セルヴォさん、何かいい名前ないかなぁ?」
セルヴォ「うーん……私はずっと研究一筋だったからねぇ」
そう言って一旦区切るようにゼットセイバーの柄を机の上にそっと置くと、
セルヴォは再び口元に手を当て、目を細め、何か思い出すように顔を斜め上に向けた。
セルヴォ「そう言えば、私がネオ・アルカディアに追われることになったのもこの研究が原因だったんだよ。
まったくお上というのは、武器の研究をしているというだけで人のことをすぐにイレギュラー扱いしてくるから……」
一方通行(……また始まりやがった)
アルエット「あの、そうじゃなくて、サイバーエルフさんの名前を……」
セルヴォ「ん? ああいかんいかん、またやってしまった。年をとるとついね」
セルヴォははにかみながら、照れ隠しの様に口元に当てていた右の手で頭をかきむしる。
こうして呼びかければすぐに戻ってくるのがセルヴォのいいところだ、と言うのは多くの若者型レプリロイドの弁だ。 - 182 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/05/29(日) 19:35:43.06 ID:qUlQrufGo
- セルヴォ「サイバーエルフの名前についてだが、おそらく私では力になれそうもない。
だけど、アンドリューじいさんや、オペレーターの二人に聞いてみるといいんじゃないかな?」
アルエット「うぇ……アンドリューおじいちゃんかぁ」
一方通行「……? ンだ、そいつがどうかしたのかァ」
セルヴォ「アンドリューじいさんは私と同じころにレジスタンスに入った古株でね。
ここでは物知りで有名なんだよ。
だからきっといい名前を知っていると思うんだが……」
アルエット「う、うん。早く行こう、あくせられーた!!
セルヴォさん、ありがとー!!」
一瞬曇った表情を浮かべたアルエットだが、すぐさま一方通行の腕を引き寄せ、出口へと回れ右をする。
一方通行「だから引っ張ンじゃ……!!
オイ、待てっつの!!」
悪態をつきながらも、一方通行は必死に体勢を立て直しつつ、アルエットに続いて部屋を後にした。
セルヴォ「やれやれ、まるで嵐の様だな。
それにしても、ゼットセイバーか……」
深く息をつきながら椅子に腰かけ、セルヴォは机の上の伝説の武器を再び眺めた。
セルヴォ「……私にはまったく手が出せそうにない代物だよ。
一体どんな人物が100年前にこんなものを……?」
こんな超級のロストテクノロジーを全自動解析機に扱わせるのは危険極まりない。
なにより、この武器に失礼だ。
とにかくやれるだけのことはやってみようと、セルヴォは整備用の工具を探し始めた。
- 189 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/04(土) 19:08:04.09 ID:XqKhg3Cbo
- 他方、一方通行とアルエットはその後どうだったかと言うと、これはまた踏んだり蹴ったりだった。
アンドリュー「あれはわしが学校の先生をしておったときのことじゃ。
わしの受け持ったクラスにとても仲のいい2人の人間の女の子がおっての。
姉妹でもないのに双子のように似ていて、それはとてもかわいらしい子供たちで……」
一方通行「…………」
この老人の名前を聞いてアルエットが一瞬いやな顔をした理由が、一方通行には今なんとなくわかった。
これはセルヴォの長話の比ではない。
何しろこちらの話をほとんどまともに聞いておらず、ただ淡々と自分の身の上話をしているだけなのだ。
それも、恐ろしくつまらない。
アンドリュー「しばらくして、レプリロイドの警備隊――当時はアンチスキルとかいっとったかのぉ。
それが組織されることになって、わしは学校の先生をやめなければならなく……」
アルエット「あのぉ、名前は……」
一方通行「……次、いくぞ」
驚いたことは、アンドリューは一方通行たちがその場を離れても全く気付くことなく話を続けていたことだ。
聴覚だけでなく、この男は視覚をつかさどる部分もやられてしまっているのかもしれない。
しかしそれをご丁寧に、セルヴォやシエルに報告してやる気もまったくなかった。
またなにか面倒なことに巻き込まれるに違いない。
- 190 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/04(土) 19:09:52.34 ID:XqKhg3Cbo
- 次に訪れた司令室――すなわちルージュとジョーヌも役には立たなかった。
ルージュ「ジョーヌ!! あなたさっきから文句ばっかり付けてきて、白だの黒だの桜だの乙女だのってふざけてるの!?
大体あなたはいつもいいかげんなのよ!! この間も転送座標の入力を間違えそうになってたじゃない!!」
ジョーヌ「何よ!! そんなこと言ったら、ルージュの立てる作戦のシミュレーションだって!!
一見緻密に計算されて完璧なプランに見えるけど、入力パラメータをちょっといじっただけで全然役に立たないじゃない!!」
一方通行「…………」
アルエット「あのー、えーっと……
これ、私たちのせいなのかなぁ……」
どうしてこうなったのだろうか。
初めは二人とも16012号の名前のアイデアをいくつも出していたはずなのだが、気づけばとめどない口論へと発展していた。
当初この二人は息の合ったコンビなのだとばかり思っていたのだが、どうやらそうでもないようだ。
ルージュはお堅い性格、一方ジョーヌは少々ゆるい頭をしているようで、仕事のない時は喧嘩ばかりしているらしい。
喧嘩するほど仲がいい、とは言うが、これは一体いかがなものだろうかと一方通行は次回からの転送にいささか不安を覚えていた。
一方通行「……もう、行くぞォ」
アルエット「ご、ごめんなさーい!!」
結局芳しい成果は得られぬまま、二人は脱兎のごとくその場から立ち去るしかなかった。
ルージュとジョーヌの口論は、それからまだしばらく続いたそうだ。 - 191 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/04(土) 19:11:39.65 ID:XqKhg3Cbo
- 次に訪れた司令室――すなわちルージュとジョーヌも役には立たなかった。
ルージュ「ジョーヌ!! あなたさっきから文句ばっかり付けてきて、白だの黒だの桜だの乙女だのってふざけてるの!?
大体あなたはいつもいいかげんなのよ!! この間も転送座標の入力を間違えそうになってたじゃない!!」
ジョーヌ「何よ!! そんなこと言ったら、ルージュの立てる作戦のシミュレーションだって!!
一見緻密に計算されて完璧なプランに見えるけど、入力パラメータをちょっといじっただけで全然役に立たないじゃない!!」
一方通行「…………」
アルエット「あのー、えーっと……
これ、私たちのせいなのかなぁ……」
どうしてこうなったのだろうか。
初めは二人とも16012号の名前のアイデアをいくつも出していたはずなのだが、気づけばとめどない口論へと発展していた。
当初この二人は息の合ったコンビなのだとばかり思っていたのだが、どうやらそうでもないようだ。
ルージュはお堅い性格、一方ジョーヌは少々ゆるい頭をしているようで、仕事のない時は喧嘩ばかりしているらしい。
喧嘩するほど仲がいい、とは言うが、これは一体いかがなものだろうかと一方通行は次回からの転送にいささか不安を覚えていた。
一方通行「……もう、行くぞォ」
アルエット「ご、ごめんなさーい!!」
結局芳しい成果は得られぬまま、二人は脱兎のごとくその場から立ち去るしかなかった。
ルージュとジョーヌの口論は、それからまだしばらく続いたそうだ。 - 192 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/04(土) 19:12:30.00 ID:XqKhg3Cbo
- ごめん、>>191はなしで
司令室の扉が閉まると、それまでうるさく耳に響いていた舌戦は打って変わって聞こえなくなった。
こんなおんぼろなベースなのに、それなりの防音は出来るらしい。
アルエット「はぁ……皆、あの子の名前なんてどうでもいいのかなぁ」
とぼとぼと歩きながらがっくり肩を落とし、アルエットがつぶやく。
一方通行「……別に、名前なンてどうでもいいじゃねェか。
何でオマエはそンなことにこだわってンだァ?」
たかだか一体のサイバーエルフの名前など、実際どうでもいいのではないかと一方通行は思っていた。
そもそも昨日今日入ってきた顔も知らない奴の事なのだから、真剣に考えられるほうがどうかしている。
アルエットがなぜこれほどまでにムキになるのかはわからないが、
どうせ子供の考えることだしすぐに飽きてしまうだろう、という位にしか考えていなかったのだ。
しかし、それがどうやら違うようだと気付かせのは、不意に自分の体が何かにぶつかったことだ。
その何かとはまさしく、立ち止りうつむいたままのアルエットだった。
アルエット「私の、アルエットって名前はシエルおねえちゃんがつけてくれたんだ」
一方通行が声をかける前に、アルエットの口からぽつりと言葉が漏れる。
アルエット「それまで私には名前がなかったの。
……『IDL-119』ってせいぞうばんごうならあったけど」
一度堰を切ってしまえば、その勢いはとどまることを知らかった。 - 193 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/04(土) 19:14:23.44 ID:XqKhg3Cbo
- ――彼女が工場で大量生産された、愛玩用レプリロイドであったこと。
それは人間とレプリロイドを結ぶため、あえて『一から教えなければ何の役にも立たない』レプリロイドであったこと。
しかしその工場で従事していた一体のレプリロイドがイレギュラー化し、巻き添えに彼女たちもイレギュラー認定されたこと。
同じラインで生産された彼女の姉妹はすべて処分され、アルエットだけがあるレジスタンスに助けられたこと。
しかし生まれたての彼女には何もできず、『役立たず』とののしられ、あわや戦闘員の慰み者になろうかという時に、
そのレジスタンスはネオ・アルカディア軍の襲撃を受け、壊滅したこと。
瓦礫に埋もれ、ネオ・アルカディア軍にも見つからなかったところを、運よくシエルのレジスタンスに救われたこと。
そして、製造番号ではなく『アルエット』という名をもらったこと――
彼女の口から流れ出るその過去は、アルエットの普段の明るさとはかけ離れた、衝撃的なものだった。 - 194 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/04(土) 19:15:02.36 ID:XqKhg3Cbo
- アルエット「『アルエット』っていうのは、すごく鳴き声のきれいな鳥さんのことなんだって。
その鳥さんみたいに、私がそばにいるだけで、心が安らぐ……
シエルお姉ちゃんはそう言ってくれた。
だから私はずっとお姉ちゃんのそばにいる、それが私の生まれた理由。
……アルエットって名前をもらってわかったの」
一方通行「『生まれた理由』……かァ」
アルエット「だから、あのサイバーエルフさんにも。
お姉ちゃんが私にしてくれたように素敵な、生まれた理由が分かるような、名前をつけてあげたいの」
そうか、と一言だけ言って一方通行は即座に踵を廻らせた。
一方通行「……シエルの部屋へ戻るぞォ」
アルエット「えっ……待って、まってよあくせられーた!!」
それまで片手でつかんでいた一方通行の手に両の手を添え、アルエットは精いっぱい力を込めた。
しかしいかに彼の体重が軽いといっても、戦闘用のレプリロイドと非戦闘用の子供型レプリロイドではその力には雲泥の差がある。
一方通行が逆に力を込めて手を引くと、アルエットの体がぐいと引き寄せられた。 - 195 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/04(土) 19:17:12.11 ID:XqKhg3Cbo
- アルエット「……わっぷ!」
もう少しで前のめりに倒れるかというところで、アルエットは一方通行に受け止められる。
しかしそれは体全体を包まれるような温かい方法ではなく、空いていた左の腕で頭をつかむような、乱暴な方法だった。
その勢いで一方通行はわしゃわしゃとアルエットの髪をなでまわす。
――やはりそれは人のものと寸分の違いもない質であった。
一方通行「オマエはどうしたいンだァ?」
アルエット「えっ?」
一方通行「何も他人に聞くこたァねェ。
オマエが教えてやればいいじゃねェか、アイツの『生まれてきた理由』……アイツの名前をよ。
オマエはあの16012号にどンな風に生きてほしいって思ってンだ?」
アルエット「私が、思ってること……?
……うん、決まったよ、あの子の名前!!
ね、あくせられーた、シエルお姉ちゃんのとこに戻ろう?
あの子に早く教えてあげたいの!!」
一方通行「……おォ」
再びアルエットに舞い戻った笑顔を見て、一方通行も幾分緩んだ表情を見せ、二人は連れ立って元来た道を歩んでいく。
コルボー「…………」
――しかしその影で一人の青年レプリロイドが息をひそめていたことに、まだ二人は気づいていなかった。
- 196 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/06/04(土) 19:22:13.97 ID:XqKhg3Cbo
- 今日の投下はここまでです。
次回でこの日常パート、終わらせたいな……
あと、ここまでのところでタイプミスやら日本語でおk的な所が多々あるので、ここで修正させてください。
>>4 お前の信じる人間たちの言葉を→オマエの信じる人間たちの言葉を
>>12 まだこんな→まだこンな
>>18 一方通行に訪ねた→一方通行に尋ねた
>>33 お前のことを……→お前のことを――
>>40 しれないと思いながら→しれない
>>42 してようだ→したようだ
>>43 壁の上端→柱の上端
>>59 同じ時間の空間で→同じ場所で
>>76 施設を破壊した→施設の破壊をなしとげた
>>77 抱えた少女がは→抱えた少女が
>>78 一方通行の右手は→その右手は
>>97 MISSON→MISSION
>>99 立っているの二階部分→立っている二階部分
>>110 これまで必死に避け続けていた結論→必死に避け続けていた結論
>>114 逸話すら残って→逸話が残って
>>115 発射されるた→発射された
一方通行の手のひら→その手のひら
どれとも違うようで、どれにも似ているようで→どれにも似ているようで、どれとも違うようで
打ち止め、いやむしろ→打ち止めと言うよりむしろ
>>117 おそらく自分の古い記憶を垣間見て→おそらく自分の古い記憶であろうものを垣間見て
>>118 その剣→剣
>>120 ゼットセイバー天に向けてを掲げた→ゼットセイバーを天に向けて掲げた
反射することすらなく→反射することなく
いや、正確にいえば→正確にいえば
>>135 何匹いやがんだァ?→何匹いやがンだァ?
>>139 しかし、自分の体にダメージを→自分の体にダメージを
しかしその思考は→だがその思考は
>>141 チルドレ・イナラビッタが→チルドレ・イナラビッタから
>>142 四つの軍団から→各軍団から
>>147 へっ、聞いたぜハルピュイア。→へっ、聞いたぜ?
>>148 待てファーブニル、→待て、
他にもあるかもしれませんが、生温かい目で見てやってください。
見てくれた人、ありがとう!!
- 204 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/18(土) 19:45:15.87 ID:xxYagLV70
- コルボー(一方通行さんとアルエットちゃんによる心温まるお話、いかがでしたでしょうか)
コルボー(お久しぶりです、コルボーです)
コルボー(スクラップ処理施設で間一髪、一方通行さんに命を救われ数日。
ようやく傷も完治したのでベースをブラブラと歩いていたところ、この二人を見つけました)
コルボー(こっそり後をつけたはいいんですが……)
アクセラレータ、ハヤクハヤク!
ダカラヒッパンジャネェ!
コルボー(アルエットちゃんが天使すぎて生きているのが辛いです)
コルボー「アルエットちゃんかわいいよぉ、ペロペロしたいよぉ……」ドンッ
コルボー「……ドンッ?」
一方通行「」
アルエット「」
コルボー「」
- 205 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/18(土) 19:46:48.03 ID:xxYagLV70
- 一方通行「で、わざわざこのバスターを返すために俺たちの後ろをフラフラくっついてきてたって訳なンだなァ?」
コルボー「はい……決して不純な動機ではないんです。だからもう勘弁してください……」グスッ
別に自分は何かした思えはないのだが、と思いながら、一方通行はこちらと目を合わせようとしない目の前の男を眺めた。
何故か彼の服や顔面がぼこぼこになっているように見えるが、自分には関係ないことだろう。
アルエット「コルボーおじさん、大丈夫?」
一方通行「アルエット、この変態に近づくンじゃねェ」
コルボー「もう、僕はおじさんでも変態でもないですよぉ……
と、とにかくそのバスターはお返ししますからね!!」
一際大きな声をあげて、コルボーが手元の小銃を指差す。
しかしそれを受けて一方通行も訝しげにバスターを手で弄んだ。
一方通行「そりゃ別にかまわねェが……何でこンなもンを後生大事に取っておいたンだァ?
いくら物資不足っつっても、バスターの代わりくらいいくらでもあるだろォが」
コルボー「……それは僕の兄、ミランの使っていたものなんです」 - 206 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/18(土) 19:47:50.26 ID:xxYagLV70
- 一方通行「アニキ?」
コルボー「っていっても、製造番号がとなりだったってだけなんですけどね。
ほら、グリップのところにサインがあるでしょう? それはミラン兄さんのものなんです」
一方通行「……ふゥン」
そう言われてみれば、と確認すると何やらミミズののたくった様なマークが刻まれているのがわかる。
だがそれよりももっと大事なことがあるのではないかと、一方通行はこのバスターを手に入れた時の状況を思い出した。
―― そう、このバスターの所有者であったミランと言う男は、すでにこの世には存在していないのだ。
一方通行「……そンな大事な物ならなおさら受け取れねェだろうが。
アニキの形見っつーなら、オマエがもっとけよ」
言いながら、手を伸ばしてバスターをコルボーの腹のあたりまでもっていくが、それは再び一方通行の手元まで押し戻されてしまった。
コルボー「別に使ってくれとは言いません。そんな旧式、あなたの能力の前では使い物になんかなるわけありませんから。
それでも是非、一方通行さんに持っていてほしいんです。
持っていていただくだけでいいんです……お願い、出来ませんか?」
一方通行「……ケッ、後で返せっつっても知らねェからなァ」
できるだけ厄介事は避けたいのだが――と考えながらも、迫りくるコルボーからの視線に耐えかね、一方通行はその目の前をそろりと通り抜ける。
それと同時にしぶしぶとバスターを懐へしまいこみ、小さなため息をひとつついた。
- 207 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/18(土) 19:50:10.80 ID:xxYagLV70
- アルエット「あっ、待ってあくせられーた!!」
ぺこりと小さく会釈をして足早にコルボーの前を通り過ぎたアルエットが、再び右の手を握る。
振り払うのも面倒で、一方通行は小さな角度で顔をアルエットとは反対のほうにそむけた。
無理矢理に引っ張りさえしなければ、どうでもいいだろう。
コルボー「……あ、あの!!」
幾歩も足を動かさないうちに、背中に向けて大きな声が降りかかった。
それでも憂わしげに後ろを振り向いたアルエットとは対照的に、一方通行は聞こえないかのように歩を進める。
しかし――
コルボー「今度ミッションに行かれる時は僕も同行させてください!!
僕も、あなたのお役に立ちたいんです!!」
一方通行「……何言ってンだ、オマエ」
――これにばかりは、足を静止せざるを得なかった。
一方通行「オマエがノコノコついて来ちまったら意味ねェじゃねェか」
コルボー「えっ……?」
一方通行「……俺はオマエらを死なせねェために、わざわざ七面倒臭ェミッションやってやってンだからなァ」
一瞬振り向いたのもつかの間、一方通行はそれだけを告げるとすぐさま踵を返してしまい、あわててアルエットが追従する。
コルボー「…………」
だがそれとは対照的に、コルボーはその場に立ち尽くし、数週間前の出来事を思い出していた。
――兄との最後の別れとなってしまった、あの時のことを。 - 208 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/18(土) 19:51:23.74 ID:xxYagLV70
- コルボー『兄さん、ミラン兄さん!!』
ミラン『なんだコルボー、騒々しい』
コルボー『セルヴォさんに聞いたよ、あの一方通行が封印されている場所に今から行くんだって!?』
ミラン『ああ、そうだ。
……まったくセルヴォさんはいつも余計なことばかりしゃべってくれるもんだ』
コルボー『何が余計な事だよ、酷いじゃないか!!
セルヴォさんには教えて、どうして僕には教えてくれなかったのさ!?』
ミラン『セルヴォさんはこのレジスタンスの中でも古株だ。
この大事な作戦について説明しないわけにはいかないからな』
コルボー『……兄さんはいつもそうだ』
ミラン『……コルボー?』
コルボー『大事な作戦だからこそ、一人でも人員がほしいはずじゃないか。
なのにどうして、僕を連れて行ってくれないのさ!?』
ミラン『……何言ってるんだ。お前が来たら意味がないだろうが』
コルボー『へっ……?』
ミラン『俺はお前を、レジスタンスの皆を守りたいからミッションに行くんだからな』
- 209 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/18(土) 19:52:09.21 ID:xxYagLV70
- コルボー「……兄さん」
一方通行の後方で、小さなささやきがこぼれる音がする。
コルボー「そこに、いるの?」
一方通行「…………」
それでも自分には関係のないことだろうと、彼が振り向くことはなかった。 - 210 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/18(土) 19:53:21.45 ID:xxYagLV70
- アルエット「というわけで、サイバーエルフさんの新しい名前は『ミサカ』さんに決定しました!!」
一方通行「…………」
同時にファンファーレが鳴り響くかのような明るさでそう宣言するアルエットを横目で眺めながら、
一方通行は冷え切った一番煎じにゆっくりと口をつけた。
淹れ直そうと言うシエルの申し出を断ったのは、早くエネルギーの補給をしたかったからだ。
能力の使用に負けず劣らず、子供の世話というものは体力を消耗する。
16012号改めミサカ「ずいぶんと時間をかけた割には単純な結論に落ち着いたのですね、とミサカは不信半分安心半分という顔をします」
アルエット「だって、いっつも自分のこと『ミサカ』って呼んでるから、変わっちゃうとかわいそうだし……」
ミサカ「……ひょっとしてそれだけの理由でですか、とミサカはじとりと冷たい目線を向けます」
アルエット「むぅ、そんなことないよ!!
学園都市第三位の『みさかみこと』って人はね、とってもかっこいい女の人だったんだって。
だからミサカさんにもそんな風になれるといいなぁって……」
ミサカ「それで、『ミサカ』というわけですか。
まったくあなたらしい安直なネーミングですね、とミサカは呆れたようにつぶやきます」
アルエット「ご、ごめんなさい……」
ミサカ「ですが、複雑ならばいいというものでもありませんと、ミサカはあなたの苦心をいたわります」
アルエット「……えっ?」 - 211 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/18(土) 19:54:33.20 ID:xxYagLV70
- ミサカ「やたらとミサカの美的感覚から外れた名をつけられても困りますから……
ミサカはこの『ミサカ』という名を大事にしていきますと、ミサカはその贈り主であるあなたに宣言します」
アルエット「……うん!! よろしくね、ミサカさん!!」
シエル「いい名前が決まったみたいね、アルエット」
現れたのは、すでに幾杯目かに入ったコーヒーを淹れていたシエルだった。
アルエット「あ、シエルお姉ちゃん!!」
それに気づき、アルエットがパタパタと足元へと駆け寄る。
シエル「ふふ、ぴったりなとってもいい名前でとってもよかったわね、ミサカ。
百年前の英雄の一人……御坂美琴は今でも理想の女性像として憧れられている人物ですもの」
アルエット「えへへ、なんだか照れちゃうなぁ」
ミサカ「……ほめられたのはあなたではなくミサカの名前ですが、とミサカは冷静に事実を述べます」
一方通行「……理想の女性像ねェ」
あれが本当にそうなのか、と先日出会ったあの少女の姿を思い浮かべる。
確かに目鼻立ちは整っていたようだが、どう見てもまだ子供であったはずだ。
自分が盲目的に英雄などと呼ばれていたように、後世には都合のいい部分ばかり伝わっていくのかもしれない、と一方通行は二口目を口元へと運ぶ。
若干ながら、香ばしい風味の薄れを感じずにはいられなかった。
- 212 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/18(土) 19:57:57.62 ID:xxYagLV70
- アルエット「あ、そうか……この子の名前が『ミサカ』さんになったってこと、セルヴォさんやみんなに教えなきゃいけないよね、あくせられーた」
サイバーエルフの名前も決定し、一段落ついていたころ。
相も変わらず続いていた一方的な会話をとたんに切り上げ、はっとしたような調子でアルエットがつぶやいた。
一方通行「……はァ?」
そこでなぜ自分の名前が呼ばれるのだろうかと、一方通行は背中を這い寄るように襲ういやな感覚を察知した。
それから逃れるために、懸命に残ったコーヒーを喉へ流し込もうとする。
だが数秒後、勢いよくカップをテーブルへろ叩きつけようとした瞬間、何か温かいものが彼の右腕をつかんだ。
それは紛れもなく、力強く握られたアルエットの小さな手であった。
アルエット「……いこ、あくせられーた!!」
やはり、子供の世話というものは体力を消耗する。
眩しいばかりのアルエットの笑顔を見て、一方通行は蓄えたはずのエネルギーが急速に消費されていくのを感じていた。
- 213 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/06/18(土) 20:01:51.46 ID:xxYagLV70
- ミサカ「まったく、騒々しい。
……それにしても、せっかくゆっくりと一方通行と会話できるチャンスだったのに残念でしたね、とミサカはあなたの心中を察します」
シエル「そ、そんなこと……」
ミサカ「みなまで言わずとも、ミサカには痛いほどよくわかるのです、とミサカ遠い日のことを思い出します」
ミサカ(そう、あれはまるでかつてのミサカ達とあの人を見ているような……)
シエル「……でも、仕方がないわ」
ミサカ「……?」
シエル「一方通行にはいつも難しい仕事をお願いしているのだもの。
それで疲れているのに、アルエットの相手まで……加えて私もだなんて、そんな負担はさせられないわ」
ミサカ「そう、ですか。
しかしあの方のことを心配しているのだとすれば全くそれは見当違いで……」
シエル「ええ、わかっているわ」
シエル「でも……」
シエル(……それだけじゃない。
『ネオ・アルカディア四天王』……彼らが、もう動き始めてしまっている。
なおさら一方通行に頼り切るなんて、できるわけがない)
シエル(これは、すべて私の責任なんだから……) - 220 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/07/02(土) 21:43:32.20 ID:kjSIuZ/f0
- 【MISSION.3:行方不明機を探せ】
一方通行「……おいコルボー、その墜落した飛行機っつーのはいつになったら見えてくンだァ?」
うだるような暑さに耐えかね、首元のスイッチに手を伸ばしそうになるのを必死に抑えつつも、
一方通行がハンドルを握るコルボーに食ってかかる。
太陽が煌煌と輝く中、黄色い砂からの照り返しをまともに受けながらレジスタンスのメンバー数人を乗せたオープン型ジープは砂漠の真ん中を走っていた。
コルボー「大体この辺りって話なんですけどねえ……」
しかしまともに取りあうことで生じるエネルギーの無駄遣いを心配しているのだろうか、
そのコルボーも気のない返事をするだけだ。
一方通行「この辺りって……もうずっと同じ景色じゃねェかよ」
首を振ることすら億劫で、ふんぞり返ったままの恰好で呆れたように言う。
事実、視界に入るのは一面雲ひとつない青い空に、これまた草一本生えていない砂ばかりの世界なのだ。
いくら仲間とはいえ、ここで人探しなど、それこそ石ころを見つけるようなものだろう。
一方通行「ったく、ンでこういう時に限ってトランスサーバーは使えねェンだかなァ……」
頭の後ろに両手を組み、何も遮るものなどない自分と太陽の間の空間を見上げ、
数時間前の出来事を思い出しながら一方通行はつぶやいた。
- 221 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:44:12.20 ID:kjSIuZ/f0
- レジスタンスベースとネオ・アルカディアの間に大きな砂漠があることを初めて知ったのは、
今回のミッションの説明を受けた時だ。
シエル「砂漠からベースにSOS信号が送られてきているんだけど……
ひょっとしたら、ネオ・アルカディアにつかまっていた仲間のものかもしれないわ。
敵に見つかる恐れもある危険な地帯なんだけど、一方通行、捜索に行ってもらえないかしら?」
一方通行「……仕方ねェな」
確かに砂漠化地帯ともなれば、まともに姿を隠せるような場所も少ないのだろう。
そんな場所で、大人数を動員してのんきに捜索などできるはずもない。
そもそも以前のミッションのように、丸ごと罠ということも考えられるのだ。
ここは自分が請け負おう。
そう考えて、前回よろしくトランスサーバの上に颯爽と飛び乗り、一方通行は目を閉じた。
一方通行「…………?」
数秒の間を待って、彼は自分の身に何の変化も起きていないことに気が付いた。
- 222 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:44:54.98 ID:kjSIuZ/f0
- 徐に目を開くと、正面に座るオペレーターが申し訳なさそうな表情でうつむいている。
ルージュ「その……非常に面目ないのですが……」
ジョーヌ「昨今のエネルギー不足のあおりを受けまして、トランスサーバに回せるエネルギーが調達できなくてですね……」
一方通行「あァン……? オマエら、何言って……」
二の句を告げようとする前に、後方の扉が開く音が司令室に響く。
怪訝な顔で一方通行が振り向くと、そこには数人のレジスタンスの戦闘員が直立不動の姿勢で静止していた。
コルボー「ジープの準備完了しました!!
コルボーチーム、いつでも出撃できます!!」
周囲よりも一歩前に立ち、胸を張って宣言するのはあのコルボーだ。
一方通行「……おいシエル、コイツはどういうことだァ?」
シエル「えっと、そういうわけだから……コルボー達と一緒に車で行ってもらえないかしら」
苦笑いを浮かべるシエルと鼻息の荒いコルボーを交互に見比べ、一方通行はうんざりしたような表情を浮かべた。
こういうときは決まって、良くない勘が当たるものだ。 - 223 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:46:09.61 ID:kjSIuZ/f0
- 一行を乗せたジープは、ネオ・アルカディアのお偉いさんが見れば発狂しそうなほど汚らしいガスを噴出して、砂漠をのろのろと走る。
妖精戦争よりもずっと前から使われていた化石燃料というエネルギーで動くその自動車の側板を指で弾きながら、
この自動車の方がよっぽど化石だ、と一方通行は舌打ちをついた。
一方通行「にしてもコルボー、オマエがチームのリーダーとはなァ。
レジスタンスもよっぽど人材不足なンだな」
コルボー「ははは、手厳しいですね……
でもやっぱり一方通行さんだけにお任せしっぱなしと言うわけには行きませんからね。
僕たちも、自分で出来ることは自分でやらないと!!」
一方通行「自分でできることは自分で……か」
左手をハンドルにかけたままぐっと握りこぶしを作るコルボーを、しげしげと見つめる。
コルボー「……? 僕の顔に何かついてたりしますか?」
一方通行「別に、何でもねェよ」
まさか、言えるはずもない。
――お前らが自分でできないものは俺に任せろ。
そんな言葉を呑み込んで、一方通行は再び目の前に広がる空間を見据える。
ミッションの進展にはまだまだ時間がかかりそうだった。 - 224 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:47:04.66 ID:kjSIuZ/f0
- 「リーダー、一方通行さん!! 前方に黒煙が上がっているのが見えます!!」
不意に後ろから声が降りかかった。後方の座席に立ち、望遠鏡をのぞいていたコルボーチームのメンバーの声だ。
それに釣られて一方通行も身を乗り出し、額に手を当て遠方を望む。
一方通行「あァ? どれどれ……
……なるほど、アレで違いねェみてェだなァ」
確かに地平線すれすれの辺りに細い煙の筋が上っているのが確認できる。
しかしその様子を見て、同じく目を凝らしていたコルボーが不思議そうに一方通行を見た。
コルボー「あの、僕には全然見えないんですけど……本当に一方通行さんには見えてるんですか?
もしそうだとすれば、すごい高性能な眼球を積んでるんですね」
一方通行「くだらねェ事に感心してねェで、さっさとスピード上げやがれ。
……なるべく早く、俺に追いつけるようになァ」
そう言うと、一方通行は足を座席の背もたれにかけ、さっとジープの後方に身を立てる。
入れ替わりに望遠鏡を持ったメンバーが先ほどまで一方通行のいた席に着いたことを確認すると、
両腕を地面と平行に伸ばし、空気の分子の運動に干渉を始めた。
人が生活している都市ならばまだしも、ここは単なる砂漠であり、風はおろか空気の対流すらわずかにしか起こっていない。
しかし一方通行は自らの体で起こした対流を使い、ものの数秒で自身の高速移動を可能にするほどの空気操作を可能にしていた。
しかしかつて、百年前の自身の力ではここまでの事を行うことは不可能であったことを、彼は知らない。
そして現在の彼の能力の向上は、彼がレプリロイドであることで起きているということを知るのも、もう少し後のことであった。
コルボー「……本当にくだらないことなのかなぁ」
中途半端に盛り上がった砂漠の小山に悪戦死闘しつつ、
ものすごい速度で小さくなっていく一方通行の背中を見て、コルボーはつぶやいた。
- 225 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:48:27.66 ID:kjSIuZ/f0
- 一方通行「ったく、何でどいつもこいつもやることが派手なンだかなァ」
ほぼ大破し黒煙を上げる軍用ヘリに近づいてその姿を眺めると、一方通行は前回のミッションを思い出した。
同時に、あれだけの大きさの列車をすべて駄目にしてでも自分を倒そうとした男の顔が思い浮かぶ。
ネオ・アルカディアとはよほどイレギュラーに恨みがあるらしい。
コルボー「一人で歩ける?」
「はい、大丈夫です。
助けに来てくれて、本当にありがとうございます……!!」
顔をくしゃくしゃにしながら、唯一の生存者がコルボーに肩を支えられジープへと乗り込んでいく。
コルボー「ちょっと狭いけどなんとか全員乗れそうですね。
さあ、こんな所さっさとおさらばして彼に治療を……
……一方通行さん?」
一方通行「…………」
すでに自分以外の全員が乗車しても、一方通行は振り返りもせず、遠い東の空の向こう――
――ネオ・アルカディアの方角を見つめていた。
一方通行「おい、一応聞いとくが……このヘリはどうやって手に入れたんだァ?
「へっ? そ、それは、警備が手薄になったのを見計らってネオ・アルカディアの軍から……」
一方通行「……だろォな」
どうせそんなことだろうと思っていた、と口には出さず、一方通行は大破したヘリの扉の部分をそっと撫でた。
ミッションの説明を受けてからずっと気がかりだったこと。
それはいったいどうやってネオ・アルカディアにつかまっていた彼らがこんなところまで逃げ出すのだろうか、ということだ。
必ず何かしらの移動手段となる車や、飛行機が必要になってくるはずなのだ。
しかしそれはどこかから奪うでもしなければ、単なる捕虜である彼らにそうやすやすと手に入る代物ではない。
- 226 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:49:16.46 ID:kjSIuZ/f0
- では、『どこか』とはいったいどこなのか?
答えは簡単だ。レジスタンスでないのだから、ネオ・アルカディアでしかあり得ない。
大破したヘリに刻まれたマーク――あの輸送列車に刻まれていたのと同じもの――が、その動かぬ証拠であった。
一方通行「コルボー、オマエらはソイツを連れて早くベースに戻れ」
コルボー「へっ? いや、あの一方通行さんは……?」
一方通行「俺は……迎撃、ってとこかァ」
コルボー「迎撃? ……あ、ああっ!?」
一方通行いる場所のさらに先、ななめ上空を見上げ、コルボーが驚きとも叫びともつかない声を上げた。
それにつられて一方通行も再び空を見上げる。
一方通行「……チッ、もう来やがったのかァ」
そこには幾重もの波となって押し寄せるネオ・アルカディアの戦闘用航空機らしき姿があった。 - 227 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:49:48.10 ID:kjSIuZ/f0
- シエル『一方通行、みんな、聞こえる!?
そちらに向かって、無数の戦闘機が近付いているわ!!
早く逃げて!!』
通信機からシエルの大声が響き、一瞬呆けたように立ち尽くしていたコルボーがあわてて我に返った。
コルボー「あ、一方通行さん!!」
一方通行「……シエル、聞こえるかァ?」
だが、コルボーの呼びかけを無視して、一方通行は通信機を強く耳に押し当てる。
一方通行「俺がやつらを迎撃する。オマエらは最終防衛ラインを死守してろ」
シエル「そんな、たった一人でこんな大勢の敵をだなんて、いくらあなたでも……!!」
一方通行「悪ィが……俺はオマエがどォ思うかなンてしったこっちゃねェンだよ」
シエル「えっ……?」
一方通行「俺は奴らを迎え撃つ。そして、一匹たりともベースへは近づけさせねェっつってンだ。
……何か文句でもあンのかァ?」 - 228 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:51:28.27 ID:kjSIuZ/f0
- シエル「……わかったわ。でも、絶対に無理はしないでね……?」
一方通行「あァ、それから下手に逃げんじゃねェぞ。
お前らはそこで大人しくしてりゃいいンだからなァ」
そう言って無造作に通信を切り、一方通行は後ろを振り向く。
と同時に、鈍いエンジン音が砂に響いた。
コルボーが片手でハンドルを握り、片手を額のあたりに添えて言う。
コルボー「……拳闘を、お祈りします」
一方通行「おォ……後は俺にまかせろ」
その単純な言葉をシエルに対して表現するのには、自分はなぜこんなにも時間をかけたのだろうか。
ジープの汚らしい排気音が次第に小さくなるのを聞きながら、一方通行は自分の心が不思議であった。
- 229 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:52:59.89 ID:kjSIuZ/f0
- 一方通行「…………」
すでに敵の部隊はその姿がはっきりと認識できるほどにまで迫ってきていた。
どうやら戦闘機というよりは、大型の輸送機に近いらしい。
大量のパンテオンを導入して、陸からベースを制圧するつもりなのだろうか。
しかし最初からあの捕虜を追尾してベースの場所を知るという考えならば、戦闘機を飛ばしてしまえばいいだけと思うが――
――と、言うところで一方通行は一旦思考を切り上げた。
敵の狙いが何であろうと、自分には関係がないのだ。
その狙いをすべて潰してやればいいだけなのだから。
一方通行「さァて……行くか」
いやらしく口角をゆがませ、一方通行は腰元から一丁の小銃を取り出し、構える。
紛れもなく、先日コルボーから譲り受けたミランの形見のバスターだ。
だがそれが以前使用したのと違う様子を見せているのは、エネルギーを蓄えるかのようにバスターに光が集まりだしていることだ。
一方通行「さっそく試させてもらうぜェ……ミラン、セルヴォ」
一方通行が引き金を引くと、唸り声をあげて一際大きなショットが輸送機に向けて放たれた。
- 230 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:53:55.20 ID:kjSIuZ/f0
- セルヴォ『すまんが、やっぱり良く分からなかったんだよ』
一方通行『……はァ?』
ゼットセイバーの解析終了の知らせを受けたのは、ミサカの名前が決まってから、そう時間がたっていないころだった。
まさか、その解析者自身が呆れるような超伝説級の武器がこんな短時間で丸裸にできるはずがない。
確かに一方通行はそう理解していたが、それでも得られた情報はかなり期待よりも少ないものであった。
やはりというべきか、ゼットセイバーをあの戦いのときのように使用する方法はセルヴォにも皆目見当がつかなかったらしい。
そして唯一判明したこと――それは、ゼットセイバーが常に何かしらのエネルギーを発し続けているということだった。
セルヴォ『その漏れ出ているエネルギーを応用すれば、何か武器の威力増強くらいならできるかもしれないが……』
一方通行『何か武器の、つってもなァ……ン?』
これまで自分の能力以外に頼ることの少なかった一方通行であったが、不意に腰に感じる重みを思い出し、
早くも無用の長物となりかけていたミランの形見をセルヴォの前に差し出す。
セルヴォ「……なるほど。あい分かった、そのバスターの改造は私に任せてくれ」
それならこいつを頼む、と言いながら渡されたそのバスターを見て、セルヴォはどこか納得したような表情を見せた。 - 231 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:54:50.35 ID:kjSIuZ/f0
- 一瞬帯電したかのように電撃に包まれたかと思うと、断末魔の爆音をあげて一機の輸送ヘリが墜落していく。
その予想以上の威力を目の当たりにして、一方通行は思わず息をのんだ。
ゼットセイバーに起因するものなのか、それともセルヴォの改造の腕によるのかは定かではないが、
これは能力節約のためのサブウェポンというには、いささか大げさすぎるかもしれない。
相変わらずその刃を見せようとしないゼットセイバーの柄をマガジンに装着することで、
ミランの形見はすさまじい出力のチャージショットを放つことのできるバスターへと生まれ変わったのだった。
しかもセルヴォの改造はこれだけにとどまらない。
超電磁砲から受け取った稲妻の描かれたチップ――セルヴォ曰く、『サンダーチップ』――を装着することで電撃の力が得られるようになったのだ。
『炎属性の敵には、雷属性の攻撃が効果的だぞ!!』とは彼の弁である。
一方通行にはその意味がいまいち理解できなかったが、単にサンダーチップを装着しているだけでも威力が増大しているのかもしれない。
一方通行「……ぎゃっは」
間髪いれずに放たれた二発目のショットが再び輸送ヘリを撃墜すると、嬉しそうにその口元をゆがめた。 - 232 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:55:42.85 ID:kjSIuZ/f0
- すでに十数のヘリを撃ち落としただろうか。
それでもネオ・アルカディア軍勢の数は減るどころかさらに増えたようにも思える。
一方通行「チッ……流石ににこれだけじゃ捌ききれねェか」
そう言ってバスターを一旦腰元に戻し、首元のスイッチに手を触れかけたとき。
一方通行のいる辺りが大きな影に包まれた。
同時に何かの落下したようなくぐもった音が幾度となく響く。
パンテオン「…………」
一方通行「……へェ」
気付けば数十にも及ぶパンテオンの群れがそのバスターを構え、一方通行を中心に大きな円をなしていた。
そしてけたたましい音の木霊とともに、無数のショットが放たれる。
――だがそれに隠れ、カチリという音が一つ小さく鳴ったことに、感情すら持たぬパンテオンたちが気付くはずもなかった。 - 233 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:56:30.95 ID:kjSIuZ/f0
- パンテオン「ガガッ……ギ……」
一方通行「……ウオオオォォォォッ!!!」
体の中心に大きな穴をあけ、半ば機能の停止したパンテオンの首根っこをつかみ、
派手な砂埃を巻き上げながらそのまま地面へと叩きつける。
それでも無数の敵が四方八方から迫りくる中、砂に腕ごと突き刺した状態で一方通行は静かに目をつぶった。
パンテオン「……!!」
直後、地面の奥深くから轟くような地鳴りがあたりを襲う。
その高まりが最高潮に達したかと思うと、一方通行の周囲の砂が盛り上がり、果てには洪水のごとくパンテオン達を呑み込み始めた。
一方通行「これでも……食らいやがれェ!!」
その勢いはとどまることを知らず、放射状に隙間なく砂が覆いかぶさり、
厚さ1メートル以上、一体あたり数トンはあるであろうその氾濫にパンテオン達はなすすべもなく呑み込まれていく。
- 234 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:57:05.40 ID:kjSIuZ/f0
- ようやく砂漠がその怒りを鎮めたかのようにすべての敵を呑み込んだ頃、
一方通行のいる辺りはさながら蟻地獄のごとく、大きなくぼみとなっていた。
だがこれでもまだ地面の砂は尽きることがないのか、と一方通行は改めて人間たちの業の深さを沁みるように感じてから、
大きく跳躍して地獄の奥底から地上へと舞い戻った。
あれだけの数の敵に囲まれてしまっては、一匹一匹を相手にするのはさすがの自分でも骨だ。
下手に時間をかけるくらいなら、多少エネルギーを消費はするが、一気に片を付けるほうがいい。
そこで選んだ方法が、最初に砂の地面に打ち付けた拳の衝撃のベクトルを操作し、砂ごと敵をすべて流してしまうという方法だった。
やった自分でもそむちゃくちゃに思うような方法だが、結果的に転じて福となしたのだ、誰も文句は言うまい。
一方通行「ま、こンなもンかァ」
軽く腰に手を当て体幹を整えながら、ひとつ小さな息をついて辺りを見回す。
結局、草一本はえなかった砂漠に加わったのはくすんだ水色だけだ。
よくもまぁたかだか自分のためにこんなにも人員を導入したものだと、一方通行は砂から生えるように残った腕の残骸を蹴飛ばした。
そして、それまで戦闘のために停止していた思考を――
――そもそもこの軍は何のためにここまでやってきたのか、という根本的な疑問についての思考を再び再開することとなった。
- 235 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 21:57:44.24 ID:kjSIuZ/f0
- おそらくではあるが、自分はシエルに宣言した通りすべての敵を殲滅し、一匹たりともベースに近づけることはなかった。
だがそれは、敵が短絡的に自分を敵として認識して向ってきてくれたことの恩恵が大きい。
もしも――そんな小細工をしたとしてもそう易々と通すつもりはなかったが――何らかの策略をもって敵が望んできたとすれば、
この戦いはここまで単純な殲滅作戦にはならなかったであろう。
そう考え始めると、パンテオンがご丁寧に地上まで降りて白兵戦を始めてくれたことが不思議だし、
そもそも戦闘機でなく歩兵の輸送機でここまでやってきたことがすでに妙だ。
本当にベースの制圧をする気があるのかどうか、不思議なくらいである。
――まさか?
ここで不意に、一方通行の疑問はある一つの解答に突き当たった。
ベースが狙いでないのだとすれば、敵の狙いは―― - 236 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/02(土) 22:00:11.55 ID:kjSIuZ/f0
- シエル『一方通行、応答して!!』
一方通行「……シエルか。そういやミッション終了の報告がまだだったなァ」
シエル『違うの、気をつけて!!
そちらに新たな敵の輸送ヘリが急接近してきているわ!!』
一方通行「ンだと?」
そう言って一方通行が顔をあげた瞬間、バラバラと破裂するような音が上空から耳元へと飛び込んだ。
その音の主は一つしかない。
東の空から、いったいどんな改造をすれば可能なのかもわからないほどの圧倒的なスピードで接近してくる、小さな輸送へリ。
一方通行の視界に登場したかと思うと、その輸送ヘリはものの数秒でその真上に現れ静止する。
そしてすさまじい勢いで砂埃を巻き上げる嵐の中心に、ドスリ、と何かが威勢よく現れた。
「いよっと。
へっへー、最近レジスタンスにすげーのが来たとは聞いてたけどよ……まさかここまでとは思わなかったぜ。
わざわざ大量のパンテオンどもを導入して、ぶつけてみた甲斐があったってもんだ。
こりゃハルピュイアのやつが負けちまうわけだぜ」
それは――
ファーブニル「俺様の名はファーブニル!! 幻想殺し様にお仕えする四天王の一人だ!!」
――真っ赤なボディの、厳ついランチャーを両腕に装着した頭の悪そうな男だった。 - 237 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/07/02(土) 22:04:58.16 ID:kjSIuZ/f0
- ……ってな感じで、今回の投下終了です。
ってか>>221-222内のセリフと>>230の最後のセリフが『』のつもりだったのに
「」になってる……orz
みなさん脳内修正お願いします。
ここはひとつ、戦闘おバカさんとのバトルには乞うご期待!!ってことで。
見てくれた人、ありがとう!!
- 238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/02(土) 22:06:08.71 ID:PLvicrPFo
- 乙―、やっぱ面白いわ
- 247 :1 ◆x8SZsmvOx6bP2011/07/28(木) 01:29:19.93 ID:6+765j9Po
- ファーブニル「久しぶりに燃えてきたぜ……!! 俺を楽しませてくれやー!!」
前口上もそこそこに、ファーブニルが両の腕を目の前へと突き出す。
ファーブニル「とりゃとりゃぁー!!」
砂漠にすら響くような掛け声が上がり、二つのバスケットボール大の炎の塊が発射された。
一方通行「……ケッ」
しかし、敵のあまりの威勢に一瞬身を固くしたものの、一方通行はすぐに体勢を整えその炎に向かって飛び出し右手をまっすぐに突き出した。
そして一瞬、二つの塊と一人の男が宙でぶつかり、バチリと火花の弾ける音が鳴る。
次の瞬間には恐ろしいスピードで一方通行へ迫っていたはずの炎塊が踵を返してファーブニルへと牙をむいていた。
ファーブニル「うおぉっ!?」
間抜けなうめき声をかき消すかのように、
炎の塊の一つが爆音を上げて先ほどまでファーブニルの腕があった場所、すなわちその胴体を穿つ。
だが、一方通行がそこで手を緩めることはない。
一方通行「ッうらあァァァああ!!!!!」
自分の攻撃でよろけたファーブニルの目の前数十センチの距離に接近した一方通行によって、
続けざまに強烈な拳の一撃がお見舞いされた。
- 248 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:30:05.71 ID:6+765j9Po
- 一方通行「なァにが『俺を楽しませろ』だっつの」
もうもうたる砂煙が上がる前方をにらみながら、一方通行は苦虫をかみつぶすようにつぶやく。
先ほどのファーブニルの発言によって、その心は苛立ちに蝕まれていた。
そういえば、この男のような存在こそ自分の最も嫌いな人種の一つであった。
それはすなわち力も持たず、さらに正確な己というものを知らない、哀れなまでに脆弱な存在。
面白いじゃないか、そこまで言うのならせいぜい楽しませて差し上げよう――と、少し頭に血が昇ってしまった結果がこれである。
当初予想していた通り、楽しすぎて果ててしまうまでにそう時間がかからなかったようだ。
一方通行は西の空に目線を逸らし、再び通信機に片手を添えた。
今度こそ、シエルにミッション終了の報告をしてやらねばならない。 - 249 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:30:54.64 ID:6+765j9Po
- 一方通行「……!?」
だが、そのスイッチを入れようとした瞬間、目の前に真っ赤な物体が現れた。
それは確かにく、最前と寸分たがわない大きさのあの炎の塊だった。
再びばぜるような音を立てて、一方通行に着弾した炎の塊は正確に反転して元の場所へと帰っていく。
しかし二つの爆発音を確認しても、今回こそはその追い打ちとして敵に接近するわけにはいかなかった。
その代わりのように赤い目を大きく見開き、いまだ砂埃に支配される前方一帯を見やる。
「おーいってぇ。話にゃ聞いてたが、マジで反射されちまうとたまんねぇもんだなぁ」
ガチャリ、と仰々しい足音が近づくに従って、少しずつ視界が鮮明になっていく。
ファーブニル「なかなかやるじゃねーか、面白くなってきたぜー!!」
そしてあの頭の悪そうな顔が、ケロリとした表情を湛えて再び姿を現した。 - 250 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:31:52.10 ID:6+765j9Po
- ファーブニル「まだまだ勝負はこっからだー!!」
ぐおお、と燃え盛るような咆哮を吐いて、二つのランチャーが天に垂直に屹立する。
一方通行「なっ……オマエ!?」
ファーブニル「とりゃとりゃとりゃとりゃぁ!!」
一方通行が驚きの声をあげる暇もなく、夥しい数の炎の塊が隕石のように襲いかかった。
それは、直径一メートルはあるだろうか、さらに巨大になり隙間なく辺り一面に降り注ぐ。
一方通行「チッ……!!」
腐っても四天王ということか、と一方通行は大きく舌打ちをした。
思い返せばあのキザな男がそうであったように、なぜかやつらは妙にタフだった。
ならば、チマチマと敵の攻撃をはじき返してやる理由もない。
こちらから直接一方的に屠ってやればいいだけの話だ。
そう思い、敵の大技を全く無視して一方通行はファーブニルの方をまたもにらみつける。
一方通行「……あァ?」
しかしその目線の先に確認できるのは、ただ砂以外何もない空間のみ。
そして――
「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
――炎の雨で覆われているはずの上空から、どこかで聞いたような雄たけびが響いた。
- 251 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:32:24.86 ID:6+765j9Po
- 慌てて一方通行も空を見上げ、その声の正体を探す。
太陽が無数に増えたかのような光にも霞むことなく、もう一つ、こちらに一直線に落下してくる真っ赤な存在が確認できた。
それは、紛れもなく。
ファーブニル「『コイツ』をはじき返してみやがれー!!」
さらに暑苦しいセリフを吐きだす、あの男だった。
しかし今度は砲撃をただ打ち出すのではなく、パワーをためるかのように青白く光るランチャーを鉛直下方向へ投じている。
一方通行「……言うじゃねェか」
幾数もの炎ではなくその突き出された腕だけを捉えて、一方通行は真上をにらみつけた。
すぐさま飛び上がり、ファーブニルに向かってとてつもない速度で上昇していく。
一方通行「はああああァァァァァ!!!!」
ファーブニル「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
そして、二つの閃光が今、ぶつかろうとしていた。
- 252 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:32:52.81 ID:6+765j9Po
- 太く節くれ立った拳と、真っ白の骨張った拳がまさにぶつかろうとした刹那。
一方通行「……!!」
一方通行の腕に、奇妙な感覚が起こった。
そもそも彼にとって、感覚とは観測の結果に等しい。
皮膚に接触したあらゆるものは彼の観測によってその正確なところを把握され、多くのものは演算の必要すらなく反射されていく。
その反射されたという結果こそ、彼の皮膚に残る感覚なのだ。
だがそれはまさしく、奇妙な感覚というほかに表現の方法がないものだった。
何しろ、まず前提となる観測が全くうまくいかないのだ。
敵の拳からのあふれんばかりのエネルギーを認知することはできる。
しかしその正体がいったい何なのか、皆目見当がつかない。
そして放たれたエネルギーはみるみるうちに増大していき――
ファーブニル「すごい……パーンチ!!!!」
――二つの拳の間で壮絶な爆発を起こした。 - 253 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:33:51.39 ID:6+765j9Po
- 一方通行「ぐっ……!!」
腕の先からその爆発の威力をまともに受けた一方通行は咄嗟に守りの姿勢をとることもできず、
背中から砂の大地へと落下する。
かなりの高さから突き落とされたはずだが、ここが砂漠であるためであろうか、動けないほどのダメージを負ったわけではない。
それよりも、と取り急ぎ辺りを見渡す。
あの爆発では自分と同様に、奴もただでは済んでいないはずだ。
果たして、一方通行は少し離れた小高い砂丘に片膝をついたファーブニルを発見した。
奴はかなりのダメージを食らったのだろうか、と様子をうかがうが、どうもそうでもないらしい。
ファーブニル「くっ、はははははっ」
ひとつ、乾いた笑い声をあげたかと思うと。
ファーブニル「……うおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
咆哮とともに、ファーブニルを中心に再び爆発のようなすさまじい風が巻き起こった。
それと同時に敵の体が白いオーラのようなものに覆われ始める。
ファーブニル「いいぜお前……もっと、もっとだ……!!」
何かを探し求めるかのように両手を目の前にかざし、ファーブニルは唸る。
ファーブニル「もっと俺を楽しませてくれー!!!」
それが比喩ではなく、本当に楽しませてくれるような相手を求める声であるということに、
一方通行は薄々ながら勘づき始めていた。
この男は、一筋縄ではいかない。
- 254 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:34:26.16 ID:6+765j9Po
- 一方通行「うおおおおォォォォッ!!」
ガギリ、と鈍い音を立て、一方通行のストレートが突き立てられる。
ファーブニル「……へっへっ」
一方通行「なっ……!!」
だが一瞬ぐらりとのけぞったかのように見えたファーブニルは、口元を歪にゆがめると、その両腕で一方通行を鷲掴みにかかった。
そして頭上に抱えた体の下に素早く身を入れ、その背中を力の限り殴りつけた。
一方通行「ぐゥっ……!!」
うおりゃー、という間抜けな掛け声とは裏腹に、非常に重たいパンチを受けた一方通行は上空へと吹き飛ばされ、くぐもった唸り声を上げる。
だが、それで終わりではない。
ファーブニル「とりゃあああぁぁ!!」
一方通行「!?」
一方通行が体勢を立て直すよりも一足早く、どんな力をもってしてかファーブニルが同じ高さまで現れた。
両手を組み、背中をこれでもかとのけ反らせ、狙いを一方通行の顔面へと定める。
一方通行「くっ……!!」
しかし空中で素早く体勢を立て直した一方通行は、腰元のバスターをとりだした。
ファーブニル「……おわぁっ!?」
そしてファーブニルの顔面に、あの強烈なチャージショットがほぼ0距離で発射された。
- 255 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:35:24.90 ID:6+765j9Po
- ――なぜだ?
一方通行は、これまで触れることを避け続けていた疑問に遂に手を伸ばすことになった。
何故奴には自分の能力――すなわち反射が通用しないのか?
いや、実際には完全に通用しなかったわけではない。
あの巨大な炎ならば、通常となんら変わりなく反射することは可能であった。
しかしそれ以外の攻撃と相対すると全て不可思議な結果を迎えることとなる。
ぶつかり合った拳の衝撃が、この腕に伝わる。
触れることすら許されぬはずのこの体がつかまれ、抱えあげられる。
そして一方的に殴られ、吹き飛ばされる――
一方通行は人生の汚点とも言うべき場面の一つ一つを丹念に思いだし、少なくとも、と一つの結論にたどりついた。
- 256 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:36:29.45 ID:6+765j9Po
- 一方通行「ぐっ……うゥ……」
全身に鈍く、それでいて馬鹿の様に重い痛みが波の様に走る。
空中での攻防の後、再び砂漠に墜落した一方通行はなんとか立ち上がり、目の前で嬉しそうに笑う男を睨みつけた。
同様に砂漠に落下し一足早く置きあがったその男は、ゆっくりとこちらに向かって歩いている。
ファーブニル「へへ、やっぱ伝説の英雄ってんだからこうじゃなくちゃな。
まだまだ楽しませてくれそうで嬉しいぜ……!!」
そう変わらぬ調子で言うファーブニルも、ぎこちない体の動きに一瞬顔をしかめ、2、3メートルの距離のところで立ち止まった。
ファーブニル「にしてもなんだこりゃ、シビれんなあ。
こんな飛び道具まで持ってるなんて聞いてないぜ、俺?
……まあでも対してダメージがねえのも、この『ソドム&ゴモラ』のおかげだけどな」
一方通行「ソドムアンド、ゴモラ……?」
ファーブニル「ん? そっか、お前は俺の武器のこととか何にもしらねえのか。
確かに俺はお前の能力とか全部知ってんのに、それじゃあフェアじゃねえかもな」
聞き慣れぬ語に一方通行が眉をひそめたのを見て、腕を組み、ふむふむと精一杯難しそうな顔をしてつぶやく。
そして両腕の二つのランチャーを突き出し言った。
ファーブニル「いいぜ、教えてやるよ!!
こいつらの名前は『ソドム&ゴモラ』!!
学園都市第七位の能力が納められた、光る十の武具の一つだ!!」
- 257 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:37:14.44 ID:6+765j9Po
- 一方通行「光る十の武具……チッ、やっぱそうか」
一方通行の辿り着いた結論。それは、敵の圧倒的な力を生み出しているその源は『光る十の武具』にあるということだ。
もしもレプリロイド自体にこんな力を与えられるような技術があるなら、すべてレプリロイドは自分に攻撃を通すほどの力を得ているはずだからだ。
これは、超能力などがなければなしえないことだろう。
だがそれならばそれで疑問が残る。
一つはもちろん、どんな力で反射を無効化しているのか。
一方通行「……解せねェな」
しかしそれよりも一方通行にとって大事な問題――それはむしろ『不満』と言うべきものかもしれないが――は、
一瞬だけ耳に残ったその数字であった。
一方通行「第七位……要するにたかがLEVEL5最下位の野郎の能力で、ここまでの出力が出せるってのかァ?
一体なンて名前の能力入ってやがンだ」
ファーブニル「さあ、知らねえ」
一方通行「はァ?」
ファーブニル「ってか、多分この能力には名前なんてねえよ。
知らねえのか? LEVEL5の序列っつのは、別に戦闘能力の高さの順にじゃねえんだぜ?」
- 258 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:38:21.30 ID:6+765j9Po
- ファーブニル「本当の指標は、『能力研究の応用が生み出す利益』。
要するにどんくれえ金になるかっつーこった。
その観点からすりゃ、この第七位ってやつは最悪だったらしいぜ。
何せ一体どんな原理で力生み出してんだかわからねえし、下手にいじったら壊れちまうかもわからねえ。
そんなわけで、戦闘能力は文句無しでLEVEL5なんだが、ずっと能力の正体は不明だったんだと
まあでも使ってるこっちとしちゃあ最高だけどな!!
腕につけてりゃどんだけ攻撃喰らってもちょっと痛えくらいで済むし、炎は出るし、遠くから殴っただけで相手吹っ飛ぶし!!」
一方通行「…………」
戦ってるこっちからすればやはり最悪だ、と一方通行は心の中で悪態をついた。
第七位、正体不明の能力。
せっかく頭の悪そうな相手が勝手に情報を喋ったと思ったら、それはまったく参考になどならないような話ばかりだった。
奴の能力の応用パターンについても、まったくまとまりがない。
炎操作系の能力と念動力を合わせたような能力の様だが、結局自分の能力を打ち破った説明にはならないのだから。
- 259 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:39:42.80 ID:6+765j9Po
- ファーブニル「ってわけで、俺が知ってることはこんなもんだ。
そんじゃ……二回戦、始めっか!!」
一方通行「くっ……!!」
コキコキと指を鳴らしながら近づくファーブニルに、一方通行は咄嗟の構えをとる。
しかし結局なんの策を講じることもままなっていない状況に柄にもない不安を覚えずには居られなかった。
あのサブウェポンもこの男相手ではほとんど効果は期待できないし、
ゼットセイバーには相変わらずその力を見せるようなそぶりもない。
このままでは――と、一方通行の頭を最悪の結末がかすめたその刹那。
『へへ、苦戦してんなぁ一方通行!! 根性足りてねぇんじゃねぇの!?』
――再びその耳に、頭の悪そうな男の声が響いた。 - 260 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:40:54.79 ID:6+765j9Po
- ファーブニル「ってわけで、俺が知ってることはこんなもんだ。
そんじゃ……二回戦、始めっか!!」
一方通行「くっ……!!」
コキコキと指を鳴らしながら近づくファーブニルに、一方通行は咄嗟の構えをとる。
しかし結局なんの策を講じることもままなっていない状況に柄にもない不安を覚えずには居られなかった。
あのサブウェポンもこの男相手ではほとんど効果は期待できないし、
ゼットセイバーには相変わらずその力を見せるようなそぶりもない。
このままでは――と、一方通行の頭を最悪の結末がかすめたその刹那。
『へへ、苦戦してんなぁ一方通行!! 根性足りてねぇんじゃねぇの!?』
――再びその耳に、頭の悪そうな男の声が響いた。 - 261 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:41:43.74 ID:6+765j9Po
- ファーブニル「ってわけで、俺が知ってることはこんなもんだ。
……そんじゃ、二回戦始めっか!!」
一方通行「くっ……!!」
コキコキと指を鳴らしながら近づくファーブニルに、一方通行はとりあえずの構えをとる。
しかし結局なんの策を講じることもままなっていない状況だ。
あのサブウェポンもこの男相手ではほとんど効果は期待できないし、
ゼットセイバーには相変わらずその力を見せるようなそぶりもない。
このままでは――と、一方通行の頭を最悪の結末がかすめたその刹那。
『へへ、苦戦してんなぁ一方通行!! 根性足りてねぇんじゃねぇの!?』
――再びその耳に、頭の悪そうな男の声が響いた。 - 262 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:42:39.06 ID:6+765j9Po
- ファーブニル「ってわけで、俺が知ってることはこんなもんだ。
……そんじゃ、二回戦始めっか!!」
一方通行「くっ……!!」
コキコキと指を鳴らしながら近づくファーブニルに、一方通行はとりあえずの構えをとる。
しかし結局なんの策を講じることもままなっていない状況だ。
あのサブウェポンもこの男相手ではほとんど効果は期待できないし、
ゼットセイバーには相変わらずその力を見せるようなそぶりもない。
このままでは――と、一方通行の頭を最悪の結末がかすめたその刹那。
『へへ、苦戦してんなぁ一方通行!! 根性足りてねぇんじゃねぇの!?』
――再びその耳に、頭の悪そうな男の声が響いた。 - 263 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:43:40.12 ID:6+765j9P0
- ファーブニル「ってわけで、俺が知ってることはこんなもんだ。
……そんじゃ、二回戦始めっか!!」
一方通行「くっ……!!」
コキコキと指を鳴らしながら近づくファーブニルに、一方通行はとりあえずの構えをとる。
しかし結局なんの策を講じることもままなっていない状況だ。
あのサブウェポンもこの男相手ではほとんど効果は期待できないし、
ゼットセイバーには相変わらずその力を見せるようなそぶりもない。
このままでは――と、一方通行の頭を最悪の結末がかすめたその刹那。
『へへ、苦戦してんなぁ一方通行!! 根性足りてねぇんじゃねぇの!?』
――再びその耳に、頭の悪そうな男の声が響いた。 - 264 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:45:15.40 ID:6+765j9Po
- ファーブニル「ってわけで、俺が知ってることはこんなもんだ。
……そんじゃ、二回戦始めっか!!」
一方通行「くっ……!!」
コキコキと指を鳴らしながら近づくファーブニルに、一方通行はとりあえずの構えをとる。
しかし結局なんの策を講じることもままなっていない状況だ。
あのサブウェポンもこの男相手ではほとんど効果は期待できないし、
ゼットセイバーには相変わらずその力を見せるようなそぶりもない。
このままでは――と、一方通行の頭を最悪の結末がかすめたその刹那。
『へへ、苦戦してんなぁ一方通行!! 根性足りてねぇんじゃねぇの!?』
――再びその耳に、頭の悪そうな男の声が響いた。 - 265 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:48:12.53 ID:6+765j9Po
- ファーブニル「ってわけで、俺が知ってることはこんなもんだ。
……そんじゃ、二回戦始めっか!!」
一方通行「くっ……!!」
コキコキと指を鳴らしながら近づくファーブニルに、一方通行はとりあえずの構えをとる。
しかし結局なんの策を講じることもままなっていない状況だ。
あのサブウェポンもこの男相手ではほとんど効果は期待できないし、
ゼットセイバーには相変わらずその力を見せるようなそぶりもない。
このままでは――と、一方通行の頭を最悪の結末がかすめたその刹那。
『へへ、苦戦してんなぁ一方通行!! 根性足りてねぇんじゃねぇの!?』
――再びその耳に、頭の悪そうな男の声が響いた。 - 266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国)[sage]:2011/07/28(木) 01:48:16.77 ID:Opc4HxlAO
- おちけつ
- 267 :1 ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/07/28(木) 01:48:29.11 ID:6+765j9P0
- ファーブニル「ってわけで、俺が知ってることはこんなもんだ。
……そんじゃ、二回戦始めっか!!」
一方通行「くっ……!!」
コキコキと指を鳴らしながら近づくファーブニルに、一方通行はとりあえずの構えをとる。
しかし結局なんの策を講じることもままなっていない状況だ。
あのサブウェポンもこの男相手ではほとんど効果は期待できないし、
ゼットセイバーには相変わらずその力を見せるようなそぶりもない。
このままでは――と、一方通行の頭を最悪の結末がかすめたその刹那。
『へへ、苦戦してんなぁ一方通行!! 根性足りてねぇんじゃねぇの!?』
――再びその耳に、頭の悪そうな男の声が響いた。 - 275 : ◆x8SZsmvOx6bP2011/08/18(木) 21:27:41.11 ID:5ndn1mbeo
- 『にしてもお前、百年たっても相変わらずモヤシみてぇな体して……
ちったぁ鍛えようって根性はねぇのか?』
『っと、そういや今はお前はレプリロイドなんだっけ。そりゃ鍛えようがねぇか!!』
一方通行「…………」
がっはっは、という乱暴な笑い声が頭の中に響くのを感じて、一方通行は小さく眉をひそめた。
ファーブニル「――――――」
よくよく周りを確かめてみれば、目の前の脳筋野郎は間抜けな笑顔をこちらに向けたままその動きを静止している。
この砂漠の真中で動くのは、自分と、ゼットセイバーがやにわに帯び始めたぼんやりとした光だけだ。
つまりこの声の主は現在の劣勢を覆しうる救世主となるべき存在のはずである。
しかし一方通行は声の質を聞いて、どうしてもそれに頼るつもりにはなれなかった。
一方通行「……何か用かよ」
一方通行は精一杯の抵抗の思いを込めて、吐き捨てるように一言だけを口にした。
- 276 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:28:37.39 ID:5ndn1mbeo
- 『なんだよ何もそんな風に返事しなくたっていいじゃねぇか』
『せっかくお前の光る十の武具――“ゼットセイバー”だっけ?
それの使い方教えてあげようと思ったのによ』
一方通行「別にそンなもンいらねェ」
『おいおい、ひょっとしてまだつまんねープライドとか持ってるのか?』
ギクリと胸が貫かれる音がして、一方通行は思わず顔をそむけた。
何も考えていなそうな声をしている癖に、その実痛いところを突いてくる。
一方通行が今こだわっていたプライドとは、自分の能力に関するものだ。
この能力がそう安々と打ち破られてたまるか。
仮に打ち破られたとして、すぐ違う力に頼るなど――
『別にお前が意地張ってやられんのは勝手だけどさ……』
『自分が何のために戦ってたのか、思い出したほうがいいんじゃねーの?』 - 277 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:29:32.70 ID:5ndn1mbeo
- ――自分が何のために戦っていたのか?
『助けて。お願い、助けて……!』
一方通行「……!!」
その言葉とるでつながっているかのように現れたその少女の顔を、一方通行はしばらく認めることができなかった。
ま
もちろん、一瞬の後に現れる面々――レジスタンスの人々のこともできれば肯定はしたくない。
だがそれが些事に思えるほど、このことは彼にとって衝撃的な事実だったのだ。
『大切な人のため、守りたい人のために根性を出す……それが光る十の武具を使うために一番大事なことなんだ』
『って、今のはあのカエルみてぇなお医者さんの受け売りなんだけどな!!』
一方通行「大切な人……守りてェ、人」
もう一度その人物の姿を思い浮かべてから、一方通行はバスターに差し込んだセットセイバーの柄を握り締め、
そして勢いよく引き抜いた。
意外なほどあっさりと現れたその漆黒の刃に一瞬気圧されながらも、再び一方通行はあの少女に想いを馳せる。
あの時、命からがら自分に助けを求めた、あの少女。
それを思い出すだけで、一体自分は何にしがみついていたのだろうかと、
ファーブニルによって打ち砕かれたプライドというものが取るに足らないもののように思えていた。
同時に、またしてもあの乱暴な笑い声が響く。
『へへっ、そうそうその顔。百年前を思い出すなぁ……』
『っと……そろそろあいつを止めてんのも時間の問題だ』
『じゃあ、お前が生きてたらまた後で会おうぜ!!』
- 278 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:30:11.73 ID:5ndn1mbeo
- そいつは御免だという軽口をたたく暇もなく、声の気配が煙のように消える。
それと入れ替わるように、一方通行の前方から大きな影が忍ぶことなく現れた。
ファーブニル「……なんか今、変だったような……ん?」
大げさに自分の体の周囲を確認してから、ファーブニルは顔を前へと向けた。
そして一方通行が目の前に掲げた漆黒の剣を確認してか、口元をいびつにゆがめる。
ファーブニル「にひひっ……やっぱそうこなくっちゃなぁ!!」
浮かべた笑みをそのままに、ファーブニルは肉弾戦の構えをとる。
それに合わせ、一方通行も白い歯をこぼし、剣の側面を前方へ向ける構えをとった。
一方通行「……始めよォじゃねェか、二回戦をよ」
その声に反応するかのように、光を反射することのないはずの剣がギラリと光る。
それを合図に、戦いの火蓋が再び切り落とされた。
- 279 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:30:52.89 ID:5ndn1mbeo
- 一方通行「ぎゃっは」
一方通行が、その黒く澄んだ刃を振り下ろした。
数メートル離れたファーブニルにその切っ先が届くことはないが、
巻き上げられた砂が嵐となって、衝撃波とともにすべてのものに見境なく襲いかかった。
ファーブニル「くおっ、なんだこりゃ!!」
そのすさまじい勢いに、思わずファーブニルが重ねた両腕で顔面を覆おうとする。
一方通行「うおおおおおォォォォッ!!」
しかし、直後に現れた一方通行がゼットセイバーを高らかに掲げ、縦一閃に斬りかかった。
咄嗟に動きのとれないファーブニルは両腕を固めたまま、一撃を受け止める。
ファーブニル「ぐぅ……!!」
その瞬間、ファーブニルは今まで上げたことのないような、体の奥から漏れ出すようなうめき声を上げる。
そして慌てたようにゼットセイバーを振り払ったかと思うと、すぐさま一方通行に『お返し』をお見舞いした。
だがその拳は構えられたゼットセイバーによって阻まれる。
一方通行「チッ……第七位の能力だか何だか知らねェが、相変わらずかってェボディしてやがる」
ファーブニルからの攻撃のエネルギーで距離を取った一方通行は、確かな手ごたえを感じながら、
いつもの調子を忘れぬために一つ悪態をついた。
- 280 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:31:33.48 ID:5ndn1mbeo
- まず驚いたのはくっきりとした体の感覚だ。
前回使用時は考える余裕もなかったが、ゼットセイバーが刃を表した事で、明らかに一方通行の受けたダメージは回復されていた。
同時に能力使用時とはまったく別の理論からなる力が、一方通行の身体能力を強化している。
それも、自分で制御できるかできないか、というまったく絶妙のラインで、だ。
そしてもっとも特筆すべき事項、それは何と言ってもゼットセイバー自体の威力に他ならない。
これまでソドム&ゴモラの効果によってほとんど傷をつけることの出来なかったファーブニルの体に、
ゼットセイバーの刃は突き刺さるようにヒットした。
そのソドム&ゴモラのランチャー自体に阻まれ思ったほどの効果を得ることはできなかったが、
違う部位に食らわせることができれば、間違いなくダメージを与えることができるはずだ。
とはいえ――それも決定打となるかと言われれば、そうとはならないだろう。
ファーブニルを仕留めるためには数発は斬撃をたたきこまねばならないであろうが、
さすがの奴もそんなチャンスをたくさん寄こしてくれるほどお人よしではない。
ならば、どうするか。
考えられることは二つだ。 - 281 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:32:26.17 ID:5ndn1mbeo
- 一つ目の方法は、奴のその鉄壁の源であるソドム&ゴモラを破壊してしまうこと。
しかしこの案は二重の意味で不可能だ。
そもそも、先ほどの一撃においてもソドム&ゴモラ自体には傷一つついていない。
このゼットセイバーの力をもってしても破壊できるかどうかは怪しいところである。
この時代の技術の粋を集めて作られたであろう四天王と比べても、明らかなオーバーテクノロジーなのだ。
そして、仮に破壊できたとして―― 一方通行には、ミサカの言ったあの言葉が引っ掛かっている。
『これから起こるかもしれない災厄……
それに立ち向かうためにはあなた一人の力では不可能です。 光る十の武具の、超能力の力が必ず必要になります』
もちろん自分の性格からいえば一笑に付すべきことであるが、少なくとも何かしらの意思が宿っているのは確かである。
それをむやみに破壊してしまうのは一方通行としても気が引けるところだ。
では、二つ目の方法は?
それはすなわち、ソドム&ゴモラの力をもってしても防ぎきれない、ファーブニルを一撃で倒せるような攻撃をお見舞いしてやればいい。
だがそんなことが簡単にできるようならば苦労はしない。
一つ目の方法のほうが現実的な事は火を見るより明らかだった。 - 282 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:33:02.80 ID:5ndn1mbeo
- 結局、手詰まりか――と、再び前方をにらみつけたその時。
一方通行「ン……?」
一方通行はゼットセイバーの柄に納められた小さな電撃の紋章を見つけた。
そしてセルヴォの語っていたよくわからない言葉を思い出す。
『炎属性の敵には、雷属性の攻撃が効果的だぞ!!』と。
ともすれば、と一方通行は柄を握る手に力を込めた。
ファーブニル「いっつっつっつ……すげー切れ味だなぁ、その剣。
それがお前の光る十の武具、ゼットセイバーって奴か……!!」
この時、パラリと収まり始めた砂嵐の奥から、ファーブニルが再び顔を見せた。
そして急激に緊張しだした大気の様子を察知したのか、より嬉しそうな表情を見せる。
ファーブニル「へぇ……なんかやばい力が集まってきてやがる……!!
サービス精神旺盛で助かるぜ……!!」
だが、嬉しそうな表情を見せたのはファーブニルだけではない。
一方通行「あァ……せいぜいたくさン楽しませてやるよ」
一方通行もまた、確かな手ごたえを感じて――そして、二つ目の方法こそ正解であったということを確信して、歪な笑みを浮かべた。
- 283 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:33:57.77 ID:5ndn1mbeo
- その二つの大きな力のぶつかり合いは、まったくの互角だった。
墨色の剣の切っ先が、ファーブニルを一刀に斬り裂かんとする。
紅蓮の炎を纏ったかのような拳が、一方通行の鼻先へ肉薄する。
しかしそのいずれもがすんでのところで弾かれては、再び牙を剥き襲いかかる。
この繰り返しが、何度行われた頃であろうか。
お互いが一歩も引くことのない、切迫した肉弾戦の最中に小さな変化が起こり始めていた。 - 284 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:34:30.08 ID:5ndn1mbeo
- 一方通行「ハァ、ハァ……ぐおおおォォォォッ!!」
ガギリ、と荒い音を立ててゼットセイバーが突き立てられる。
この一撃はソドム&ゴモラで防御されたものの、一方通行はそのままゼットセイバーごとファーブニルの体を押し込んだ。
だがファーブニルは攻撃をいなし、かすかに間合いを詰める。
ファーブニル「へっへっ……ボディがガラ空きだぜ!?」
そして前方に一方通行の両腕が伸ばされたことで隙間の出来た脇腹周辺に、丸太のような右足からの一撃が放たれた。
思わず防御の姿勢をとることができず、一方通行の体は大きく吹き飛ばされることになる。
一方通行「チッ……」
ゼットセイバーの力のためか痛みはほとんどないものの、しばらく動かずファーブニルの方を睨みつけた。
そよ、と冷たい風が頬を凪ぐ。
ファーブニル「どーしたよぉ? まさかもう終わりじゃねえだろな!?」
一方通行「バァカ、まだまだこれからだ!!」
そんな安い挑発にのるか――そう答える代りに、一方通行は再びファーブニルに切っ先を向けた。 - 285 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:35:11.73 ID:5ndn1mbeo
- 戦況に起きた、小さな変化。
それはエネルギーの影響か、明らかに一方通行のパフォーマンスが低下してきていることだ。
確かにゼットセイバーは優秀な武器であったが、それゆえに失われるエネルギーも大きい。
他方、ファーブニルの体力は未だに衰える気配がない。
それどころか嬉々としてこちらへ向かってくる様はより力を帯びてきているようにも思えるのだ。
刃の発現から既に約15分。
一方通行も薄々自身に訪れる限界を感じ始めていた。
だが、ここでスタミナ切れを起こしたのでは何の意味もない。
もう少し。
もう少しだけ待ってくれ。
どことも知らぬ空に願った瞬間。
不意に和らいだ日差しが群雲の救援を知らせた。
それを肌で確認し、一方通行はファーブニルに悟られぬよう、心の中でほくそ笑む。
――準備は整った。 - 286 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:36:00.94 ID:5ndn1mbeo
- ファーブニル(コイツ……バテてきやがったか?)
ファーブニルは気づいていた。一方通行の体力に限界が近付いている、ということを。
だがしかし、攻める手を休めるつもりは一切ない。
それは別に相手の頑張りに敬意を表してというわけでもなければ、ハルピュイアの仇を取ってやりたいわけでもなかった。
もちろんその気持ちがないと言えばうそになるかもしれないが、それよりももっと彼の心を突き動かすものがあったのだ。
すなわち、飽くなき戦いへの欲求だ。
もっと楽しみたい。もっと長く、もっと強く。
相手のパフォーマンスが低下しているなら、自分がもっと攻めることでしか自分という観客を楽しませることはできない。
それゆえに、ファーブニルにはわからなかった。
このとき水面下で一方通行が何をしていたのかを。
勝負を楽しむというよりも、むしろ勝利を得るために苦しむという考えを予想することができなかったのだ。 - 287 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:36:38.93 ID:5ndn1mbeo
- ファーブニル「超すごいパーンチ!!」
上斜め45度の角度から、一方通行に向かってファーブニルが右手を突き出し、とびかかる飛びかかる。
一方通行「…………」
一方通行はそのままの位置でニヤリと笑うと、拳に正面からゼットセイバーをぶつけた。
ファーブニル「うおおっ!!」
斬る、というよりは押しやるような斬撃をくらい、ファーブニルは弾き飛ばされる。
そして体が真上を向いた瞬間――
――ポツリと何かが顔面に落下してきたことに、気がついた。 - 288 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:37:36.60 ID:5ndn1mbeo
- そして自分の目線の先の空に――先ほどまで青が広がっていたはずの空に立ち込めているものを確認して、目を見張る。
ファーブニル「なっ……んなバカな、こんな砂漠の真ん中で……!!」
一玉、また一玉と降り出したそれは急激に勢いを増し、辺り一帯に土砂降りの雨が突き刺さる。
――雨雲か? いや違う。
大気を揺さぶるような唸り声が響き渡り、ファーブニルは一瞬身を固くした。
ファーブニル「雷雲……だとぉ!?」
ありえない。確かに、砂漠地方と言えど年に数回雷を伴う雨が降ることもある――とハルピュイアかレヴィアタン辺りが言っていた気もする。
しかし、それが今日であることが前もってわかっていたのならば、砂漠へ出撃する自分へ何の連絡もないはずがない。
当日の天気でここまで予報を外すほど、ネオ・アルカディア軍は落ちぶれていないはずだ。
一方通行「これで終わりにしてやるよ……!!」
ファーブニルの真上から、まっすぐゼットセイバーをそびえさせ、一方通行が現れる。
そして雷鳴の唸り声は咆哮に変わり、一本の雷がゼットセイバーに零れ落ちた。
- 289 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:38:16.60 ID:5ndn1mbeo
- ファーブニル(ああ、そうだ……)
その様子を見て、合点がいった。
砂漠の気候について語っていたのは、レヴィアタンではなくハルピュイアのほうだった。
どうせ自分には何の関係もない能力についての自慢話だろうと、そのくらいにしか思っていなかったのだが、
ゼットセイバーの柄の辺りを見て、あの時ハルピュイアが言っていたことをもう一つ思い出した。
『――しかし、この“超電磁砲”の能力を天候操作に応用して、人間の生存圏の拡大に貢献させることもできるだろう。
例えば、砂漠に積極的に雨を降らせるなどということも可能だ』
サンダーチップ。
超電磁砲の能力をコピーした――もちろん光る十の武具ほど精度は高くないが――アタッチメントデバイス。
ファーブニル(おいおい……まさか、たかだか武器に雷属性付加するだけのチップで天候操っちまったのかよ)
- 290 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/18(木) 21:39:03.30 ID:5ndn1mbeo
- 一方通行「確かにオマエは強かった。だが俺はオマエと違って……」
隔絶した力を放ち続ける剣を掲げた一方通行が静かにつぶやく。
一方通行「『勝負』より、『勝利』が好きなンだよ」
そして、光を放ち続ける漆黒の刃を躊躇なく振り下ろした。
ファーブニル「はははっ、最高だよお前」
最後の一撃を目の前にして、ファーブニルには何故か笑いがこみあげてきた。
それは諦めの表情ではなく、心底嬉しかったのだ、自分をここまで追いつめる相手のいたことが。
そのまま、屈託のない笑顔を湛えたまま――
ファーブニル「お前とやると……ホント、楽しいぜ」
ファーブニルの体に、雷撃が突き刺さった。
- 296 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/25(木) 23:44:20.41 ID:SuWkU4kSo
- 既に暗雲の気配は消え去り、砂漠には数十分前のような青空が戻り始めていた。
一方通行「っとと……」
不意に眩暈に襲われ、その場でよろける。
気づけば、右手が固く握っているのはまたしてもゼットセイバーの柄のみだ。
おそらく普通の能力を使用するエネルギーも残されてはおらず、意識を保っているのがやっとなくらいだろう。
一方通行「アイツがただの戦闘バカで助かったぜ……」
ふぅと一息ついて、とりあえずと一方通行は砂の上に腰を下ろし、目の前に誕生した半径数メートルものクレーターの底を覗きこんだ。
ほぼ天然の雷のエネルギーと、ゼットセイバーを合わせた一撃。
あれをまともに食らってさすがに無事では済まされるはずがない。
単にセイバーに雷エネルギーをチャージするだけの何倍もの威力のある攻撃であったはずだ。
とは言ったものの――と、一方通行は冷静に鑑みる。
この方法はそうそう乱発できるものではない。 - 297 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/25(木) 23:45:15.10 ID:SuWkU4kSo
- まずこの晴天の砂漠に雷雲を呼び寄せるだけで、多くの時間・エネルギーを費やしてしまった。
その所要時間は約15分、残存エネルギーの大半を用いてそのタイムだ。
つまり15分間は戦闘だけに集中できず、我慢を強いられるということになるのだ。
もし相手が熱くなるタイプでなく冷静に環境の変化を察知できたとすれば、この戦いの結果が違っていてもおかしくはなかった。
一方通行「……とにかくシエルにミッション終了の報告をしてやらねェとなァ」
――だが、もうエネルギー枯渇寸前の脳であれこれ考えても仕方がない。
実力の未知数な、残る二人の四天王への対策などはベースに帰還してからすればいいだろう。
そう考え、一方通行は通信機を耳に当てる。
一方通行「……またかァ」
何もなかったはずの前方の空間を見て、通信機を持った手は再度ゆっくりと腰まで下ろされる。
そこにはいつかも見たようなおぼろげな光の球が、ふよふよと浮かんでいた。
光は徐にこちらへ近づいたかと思うと、かすかにゼットセイバーへと触れる。
そして何時か聞いたような乱暴な笑い声が、再び一方通行の脳内に響き渡った。
『ヒュー、やるねえ一方通行!! 流石“学園都市第一位”の根性は伊達じゃねぇな!!』
- 298 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/25(木) 23:47:03.05 ID:SuWkU4kSo
- 年の頃は15、6であろうか。
体の大きさこそ一方通行とそう変わらないものの、その顔つきは大分幼く見える。
というのも、大きく曲げられた口角、それを取り締まる真っ白の鉢巻き。
さらに白地の空に燦々と輝く日の丸シャツにこれまた真っ白のマントをはおっているのだ。
これでは世界を守るために戦った英雄、というよりもむしろ――
削板『俺の名前は削板軍覇!! 学園都市第七位のオトコだ!!』
――ただのガキ大将と言ったほうが正しいだろう。
一方通行『…………』
削板『あ、あら? んだよ、昔のことはなーんも覚えてねえって言うか丁寧に自己紹介してやったのに……
あの“超電磁砲”のねーちゃん、嘘つきやがったのか?』
じっと睨みつけたまま喋らない一方通行を見て不安を覚えたのだろう、目の前のむさ苦しい男は頭を掻きむしりながらつぶやく。
一方通行『……本当にオマエが第七位なのかよ』
しかし一方通行がものを言わなかったのは、単に彼のことを『それ』とは認めたくはなかったからだ。
超電磁砲といい、なぜLEVEL5とやらは誰も彼も子供のような姿をしているのだろうかと思いつつつも、
その言葉の端々から、彼のことを第七位――すなわち自らを散々苦しめた『ソドム&ゴモラ』の能力の正体と納得せざるを得なかった。
なぜなら、自分が記憶を失っていることを超電磁砲から聞く、ということは光る十の武具か、
彼女がサイバーエルフなったことでネットワークにより通信可能になった『妹達』にしか不可能なことなのだ。 - 299 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/25(木) 23:47:57.63 ID:SuWkU4kSo
- 削板『なんだよその顔!! 百年前は何度もお前のピンチを救ってやったってのに!!』
まざまざと呆れ顔を見せつけられ、第七位は顔を赤くして訴えかける。
一方通行『……おい第七位。オマエらはなンでそう俺の前に現れたがンだァ?』
削板『うん?』
光る十の武具とやらが幻想殺しのことを何とかしたいというのは知っている。
そして自分に協力を求めたいというのも分かった。
気が向いたら手を貸してやっても構わない。
だが――
一方通行『そンなに危機だのを訴えてェならオマエらの持ち主の四天王どもに言やァいいじゃねェか』
そうだ。
なにも毎回自分のところに顔を出して切実そうな表情を見せつける必要はないはずだ。
いつも付き合わされる自分の身にもなってほしい――と、一方通行には二回目にして早くも嫌気がさし始めていた。
こっちは早くエネルギーを補給したいのだ。 - 300 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/25(木) 23:49:02.22 ID:SuWkU4kSo
- 削板『ふっ……はっはっはっはっ!!
そりゃそうだよなぁ、誰でもそう思うよな!!』
しかしあからさまに嫌悪感を顔に出す一方通行を見て、第七位はせきを切ったように笑い出す。
一方通行『……おいオマエ、別にさっさと消えてもらっても俺は困らねェンだぞ?』
削板『へへへへ、まあそう怒るなって。相変わらず短気だなぁお前は。
……まあ俺たちもできればお前の言うとおり、直接四天王たちに談判したいんだけどさ。
うるさいんだよ超電磁砲とか、あとめると……めると何とかのねーちゃんが、
“そんなことしてイレギュラー化したと思われて捨てられたらどうするんだ”って』
ぶぅ、と渋い顔をして第七位が愚痴をたれる。
これは奴もこの案を提案して痛い目にあった口だろう。
とはいえ確かに彼、正確にいえば超電磁砲達の言うことももっともだ。
あれだけ幻想殺しを崇拝している奴らのことだ。
幻想殺しが何かを企んでいるなどと言ったら、いくら伝説の英雄でも自分のようにイレギュラー認定されかねないだろう。
一方通行『チッ、しゃァねェな……オマエらの言い分は認めてやる。
だからさっさと持ってきた情報なり警句なりを吐きやがれ、根性男』
削板『情報? 警句? なんだそりゃ?』
一方通行『はァ?』
- 301 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/25(木) 23:49:53.37 ID:SuWkU4kSo
- 削板『別に俺はお前に伝えなきゃいけねぇこととかあるわけじゃねーぞ』
一方通行『…………』
削板『あっ、今用がないならさっさと消えろ、とかって思ったろ!?』
一方通行『ンだ、そこまでわかってンならさっさと消えやがれ』
削板『いいじゃねえかよちょっとくらい、俺達一緒に世界のために戦った仲間(とも)じゃねえか』
そういって第七位は一方通行の肩に組みかかる。
エネルギー不足で反射を行使できないのが非常に残念だ。
削板『ほら、俺もこんな根性出して戦ったの久々でよ……
普通のイレギュラーは弱っちいし、イレギュラーか怪しいのまで混じってるし。
そうそう、こないだ持ち主が憂さ晴らしにあいつらの本拠地の壁ぶん殴ろうとしたんだけど、ビクともしなかったんだぜ!?
なんでもあのキザな奴……ハルピュイアとかっていったっけ?
あいつによるとこの世のものとは思えないほど堅固に出来てるとかっつって……それで余計にストレス溜まっちまっててさぁー』
一方通行『…………』
削板『だぁー分かったって、そろそろ行くからそんな怖い顔すんなって!!』
- 302 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/25(木) 23:51:17.43 ID:SuWkU4kSo
- 削板『……!! な、もう迎えも来たみたいだし』
一方通行『迎え? 一体……!!』
何のことだ、と言いかけて突如襲いかかった地面の揺れに、一方通行は思わず腰を落とし構える姿勢をとる。
しかしその揺れをものともせず――もはや消えかかった姿になりながら――第七位は言葉をつづけた。
削板『そうそう、言い忘れてたけど……さっきの理由、別にイレギュラーにされるからだけじゃないと思うぜ』
一方通行『あン……?』
削板『俺たちがわざわざお前の前に現れる理由だよ。なんだかんだ言ってさ――』
一方通行『……!!』
しかしその最後の一言をかき消すように、ひと際大きな地鳴りが響いたかと思うと、爆裂するような凄まじい音が一方通行の耳に飛び込んだ。
音の源は、あの巨大なクレーターの底。
そこから飛び出したのは――
ファーブニル「ハァ……ハァ……
こんなに熱くなったのは久しぶりだぜ……」
- 303 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/25(木) 23:52:15.30 ID:SuWkU4kSo
- 一方通行「チッ……コイツ、不死身かァ……!?」
まずい。今自分はほぼすべてのエネルギーを使い果たしたばかりだ。
敵も相当の傷――それこそ機能停止していてもおかしくないほどの――を負ったはずだが、まだ何か隠し持っていることもありうる。
ともかく、と一方通行が覚束ない体を構え始めたその時。
ファーブニル「……やるじゃねーか!! ほら、こいつもってけ!!」
突如意外な言葉とともに、ファーブニルから何かが放り投げられた。
一方通行「これは……」
ファーブニル「そいつは『フレイムチップ』!!
お前のもってるサンダーチップと同じ、光る十の武具――つまり俺の『ソドム&ゴモラ』の能力をコピーしたやつだ!!
……まあつっても、本物のデッドコピーのカスのカス。武器に炎属性つけるくらいが関の山なはずなんだがな」
一方通行「……ケッ、こンな敵からもらったもンを馬鹿正直に信じて使うとでも思ってやがンのかァ?」
ファーブニル「はははっ、俺はそんなせこい真似はしねーよ。
俺はただもっと強いやつとやりてーだけなんだ。
お前のことだから、ひょっとしたらそいつの力をすげー引き出したり、なんて思ってな」 - 304 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/25(木) 23:53:29.96 ID:SuWkU4kSo
- ファーブニル「とりあえず今日のところは引き分けって事にしておいてやる!!
今度オレとやる時まで、誰にもやられるんじゃねぇーぞ!!」
じゃー、あばよ――そんな台詞を捨て、ファーブニルの体は閃光となり東の空へと溶けていく。
ほのかに温かい小さなチップを弱々しく握り、一方通行はその場に立ち尽くしていた。
一方通行「…………」
――そんなはずがあるわけがない。
あの第七位を名乗る男が最後に言った言葉が、一方通行の心を揺さぶる。
『なんだかんだ言って、皆お前に会いたいんだよ』
この自分に、何万もの命を奪った大悪党に会いたがる者がいることが一方通行には不思議であった。
英雄とは頭のおかしい人間の集まりなのだろうか。
まさかそんな――と否定しかけた時、一方通行の視界が突如白み始めた。
そして周囲の景色が先ほどの一面の砂漠から、見慣れたものへと一瞬で変容する。
ルージュ「……転送、完了です」
シエル「一方通行!! よかった、無事で……!!」
どこか心の落ち着く、レジスタンスベースの指令室へと。 - 305 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/08/25(木) 23:55:08.69 ID:SuWkU4kSo
- 一方通行「シエル……? ここは……そうか、俺は転送されたのかァ」
ジョーヌ「申し訳ありません、エネルギーの充填に時間がかかってしまって帰りの分の転送しかできずに……」
一方通行「構わねェ。コルボーチームがよくやってくれたからなァ。
それより何で勝手に転送なンてしやがった? まだミッション終了の報告はしてねェぞ」
シエル「ご、ごめんなさい……大きな地響きがここまで届いたから私、心配で……」
一方通行「ったく、勝手なことしやがって……」
大きくため息をついて、一方通行は転送装置の台から降り、歩き出す。
しかし数歩も行かないうちにふらりと体勢を崩したところをシエルに抱きかかえられた。
シエル「一方通行……反射もできないくらい、こんなにボロボロになって……」
一方通行「…………」
シエル「もう二度と一人で突っ込んでいくような無茶、しないで……
お願いよ……!!」
一方通行「……あァ」
そうか、確かにいるじゃないか。
大悪党であるはずの自分にこんなにも会いたがる、一人の人間が。
英雄も、大悪党も、関係ない。
一方通行は一方通行としてこの少女を守りたいのだ。
その少女の言うことならば――
一方通行「……考えといてやるよ」
――素直に聞いてやるのも、悪くないかもしれない。
【MISSION.3:COMPLETED】 - 315 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:14:27.87 ID:ShwQknqMo
- ネオ・アルカディアのエリアX。
四天王やミュートスレプリロイドの調整のために造られたこの施設が無闇に広すぎると、
その中の一室を訪れたハルピュイアは常々考えていた事を再び思い出していた。
エリアXの施設は多くが自分の存在する以前からあるものばかりであるが、いささか大げさすぎる。
本来ならば必要最低限の機能を有する簡素なものにしもっと別な場所に力を入れるべきだ、と思うが、
そうはいってもすでに出来上がっているものについてはどうしようもない。
現に最近では自分たちの任務もイレギュラー討伐にかなり比重が置かれるようになっているのだから、
目くじらを立てることはあるまい――
――と、だだっ広い部屋の中央に横たえられた同僚の痛々しい姿を睨みながら、ハルピュイアは傍らの人間の技師に話しかけた。
ハルピュイア「……様子はどうだ?」
「ご安心くださいハルピュイア様、幸いファーブニル様そのものには別状はありません。
しかし……全身の駆動系が酷くやられてしまっています。
これを復旧するにはかなりの時間を要さねばならないことでしょう」
ハルピュイア「かなりの時間、か……どの程度かかる計算だ?」
「内部パーツの取り寄せにかなり食われますので……二週間は」
ハルピュイア「……レジスタンスどもの討伐にも闘将の存在は不可欠だ。
全力で治療に取り組め」
「……ははっ」
話が済むと、技師は自ら速やかに退出していく。
わざわざ自分がここへファーブニルの面会に来たことにただならぬものを感じたのだろう。
その背中を眺めながら、やはり人間はこういった『空気を読む』事には優れているとハルピュイアは思った。
多くのレプリロイド――特に戦闘型の者は融通が利かないことが多いのだ。
- 316 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:15:48.01 ID:ShwQknqMo
- そもそもエリアXで仕事に従事する人間もぐっと減ってしまった。
これは幻想殺しによる政策の影響が大きい。
ネオ・アルカディアを担う機関はレプリロイドに任せ、自由な生活を営むことで人間は真の理想郷を手に入れるという考えの元、
エリアXの人間の研究者は徐々に減らされていくことになったのだ。
まだ残っているわずかな人間たちが完全にいなくなるのも時間の問題だろう。
しかし――と再び幻想殺しと正反対の考えを抱いてしまう自分を、ハルピュイアは必至で押さえつける。
果たしてそれが人間にとって本当に良いことであるかどうかなど、考える余地すらないはずなのに。
ファーブニル「ったく、珍しく人の見舞いに来たと思ったら暗え顔してよ。
そんなに俺が怪我したのが悲しいのか?」
今の自分のような悩みなど到底抱えたことのなさそうな声が響き、ハルピュイアははっと我に返った。
気がつけば、顔だけを出して全身を検査機器に詰めたファーブニルがこちらを見てニカリと笑う。
そう、今考えねばならないことは、この男すら負かした由々しきイレギュラーの存在だ。
ハルピュイア「珍しい? それはお前の事だろう、ファーブニル。
今までお前がここで治療せねばならないような痛手を負ったことなどなかったはずだ」
ファーブニル「ははっ、まあな……
ちくしょー、今すぐ出てってアイツの幻想をぶち殺してやりてーぜ!!」
ハルピュイア「それよりも……例の『一方通行』についてだ」
- 317 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:16:41.85 ID:ShwQknqMo
- ファーブニル「ん? ああ、とりあえず……アイツはモノホンってことで間違いなさそうだなぁ。
アイツの剣、すげー切れ味だったぜ」
ハルピュイア「しかし……何故あの伝説の英雄がイレギュラーどもの味方などを。
……やはり、レジスタンスか」
なぜ百年前に死んだはずの英雄が生きているのかはこの際問題にしないとしても、
一方通行は本来ならばすぐにネオ・アルカディアに迎え入れられてもおかしくないほどの存在である。
何らかの方法でレジスタンスに唆されでもしなければ、人間に牙をむくような真似をするはずがない。
ファーブニル「ただのレジスタンス、じゃねえな」
ハルピュイア「……なに?」
ファーブニル「俺、聞いたんだよ。一方通行のやつ……『シエル』ってやつに通信しようとしてたんだ」
――『シエル』、だと?
ハルピュイア「バカな、彼女は8年も前に……!!」
ファーブニル「いや間違いねえ。アイツは生きていたんだよ。
そんで、一方通行と組んで……本気で俺たちを潰しにかかろうとしてんのかもな」
- 318 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:18:08.96 ID:ShwQknqMo
- ハルピュイア「……………」
ドクター・シエル。
数年来頭に浮かべることを避け続けていた名を思い出し、思わずハルピュイアは眉根を寄せた。
それは彼の存在の根幹に関わる、苦い記憶を想起させるものに他ならなかった。
だとしてもその彼女がまさかこんな大それたことを――と、彼にはにわかに信じられなかったのだ。
だが、しかし。
ハルピュイア「ファーブニル、このことは一度忘れろ」
ファーブニル「あぁ?」
ハルピュイア「来るべきイレギュラーとの戦いは想像以上に大規模なものになるだろう。
そのときに闘将であるお前がいなくてはどうにもなるまい……今は治療に専念することだ」
ファーブニル「え、いやおい!?」
ハルピュイア「例え一方通行であろうと、ドクターシエルであろうと……
人に仇なすイレギュラーは、狩る。それだけだ」
そう言ってまともに体を動かせないファーブニルの制止を意に介さず、ハルピュイアはもう用も済んだとばかりに踵を返す。
しかしその直後、深い青色のレプリロイドに視線を阻まれ、そのままそれを睨みつけた。
レヴィアタン「あらあら、せっかく懐かしい名前を聞いたって言うのに……穏やかじゃないわね」
- 319 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:18:50.17 ID:ShwQknqMo
- ハルピュイア「レヴィアタン!!」
レヴィアタン「それにしても酷くやられたものねぇ、ファーブニル。
……ふふふっ、これなら予想以上にいい退屈しのぎになってくれそう」
部屋の入り口付近で立ち尽くしたハルピュイアをまったく無視し、
レヴィアタンはファーブニルに歩み寄り、ゆっくりと傷に沿うようにその体をなでる。
ファーブニル「ちょ、くすぐってえってレヴィ!!」
ハルピュイア「お前……」
レヴィアタン「何怖い顔してるのかしら、キザ坊やさん?
せっかくあなたに朗報をお持ちしたんだけど」
ハルピュイア「……朗報だと?」
レヴィアタン「そう。今ちょうど幻想殺し様にお会いしてきた帰りなんだけど……
私の追っていた『アレ』がようやく見つかったの」
- 320 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:19:47.80 ID:ShwQknqMo
- ハルピュイア「『アレ』……? まさか、『正体不明』がか!?
どれだけ探して見つからなかったアレが、一体どこに……!!」
レヴィアタン「どれだけ地上を探しても見つかるはずがないわ。
正体不明の反応があったのは、妖精戦争時代に海に沈んだ学園都市第七学区。
つまり……『彼女』は海の底に存在していたのだから」
ハルピュイア「学園都市、第七学区……」
第七学区は多くの中学校や高等学校――いずれも現在の教育制度とは異なるものであるが――が存在していた場所で、
妖精戦争以前には幻想殺しもそこで暮らしていたという場所である。
しかし元々埋め立てで地盤の緩い土地であったこともあり、妖精戦争によって崩壊、
隣接学区ごと海底へ沈むこととなってしまったのだ。
だが、はっきり言って正体不明が発見された場所などどこでも構わない。
それよりもハルピュイアには不思議な事があった。
ハルピュイア「レヴィアタン、お前……何を企んでいる?」
それは、目の前の女がかつて目にしたことのないような――楽しそうな表情を浮かべていることだった。
- 321 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:22:07.67 ID:ShwQknqMo
- そもそもハルピュイアはこれまで、同僚である四天王たちの考えていることが理解できた試しがなかった。
自分たちは全員同様に幻想殺しのDNAデータから生まれたはずである。
しかしそこに光る十の武具という不確定要素を入れただけで、四つの個体はここまで異なるものになってしまう。
これがまさしくカオス理論のモデルそのものであるということを知りながら、
それでもハルピュイアは四天王達を理解し、出来るだけコントロールしようと努力していた。
だがかれは特に、唯一女性の個体となったレヴィアタンについてがよくわからなかった。
いつも不機嫌そうな顔をし、息をするように『退屈だ』とつぶやく彼女を見て、
口を慎むように注意したり、やりがいのありそうな仕事を回してやったりしたこともある。
しかしそれでもレヴィアタンは口癖を治そうとはしなかった。
いや、出来なかったのかもしれない。実際に退屈で仕方なかったのだろう。
その女が、この部屋に入ってから口癖を一度も吐いていない。
それどころかうすら笑いを浮かべながらファーブニルに軽口を叩いている。
ハルピュイアには、これでは彼女が何か腹の中で何かどす黒いものを渦巻かせているようにしか思えなかった。
- 322 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:22:53.85 ID:ShwQknqMo
- レヴィアタン「失礼ね、何も企んでなんかいないわ。
ただ楽しみなだけよ。『彼』に会うのがね……」
ハルピュイア「『彼』だと……?」
その代名詞は今話題に上っていた正体不明に用いられるものではない。
そうなれば、考えられる可能性は一つだ。
ハルピュイア「……お前、一方通行の討伐に向かうつもりか!?
言ったはずだ。勝手な行動は許さんと……!!」
レヴィアタン「まさか、私がそんなことするはずないわ。だって……来るのは彼の方なんだから」
ハルピュイア「何……?」
レヴィアタン「その様子じゃあなた、何にも知らないのね。
この戦闘バカがわざわざ出向いた一方通行討伐作戦。
どうしてあんな大がかりになったと思う?」
ハルピュイア「それは……ファントムが仕向けた罠を張って、奴らを一網打尽にするために……」
- 323 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:23:58.50 ID:ShwQknqMo
- レヴィアタン「でも……本当にそれだけなら、他のミュートスレプリロイドでも仕向ければよかったんじゃなくって?
わざわざファーブニルが出向いたのには、もっと大きな理由があった。
……すなわち、『機密情報漏えいの防止』」
ハルピュイア「機密情報だと?
……はっ、まさかあの捕虜……!!」
レヴィアタン「そ、このバカが大声で正体不明の情報をしゃべってくれたおかげで、
別に逃がしてあげてもよかった捕虜の大捕り物になってしまったってわけ」
ハルピュイア「ファーブニル……お前、なぜそんな重要なことを俺に伝えなかったんだ!?」
ファーブニル「へへへ、わりいなぁハルピュイア……」
ハルピュイアはあの作戦のことを単なるファーブニルの戦闘癖が出てしまっただけ、くらいにしか考えていなかった。
もしも真実を知っていたならば、無理やりにも自分や他のミュートスレプリロイドも参戦させたのに――
――何故だ?
レヴィアタン「あら、彼のことを責めるのはお門違いよ、賢将さん?」
しかしその答えとして彼女の口から出てきた言葉は、あまりに意外で、到底認める事などできないものだった。
レヴィアタン「この件についてあなたに対してだけに箝口令を敷いたのは、他もない……
……幻想殺し様なんだから」
- 324 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:24:59.92 ID:ShwQknqMo
- ハルピュイア「なっ……!!」
そんな馬鹿な!! 幻想殺し様がそんなことをするはずがない!!」
自分、そして主君への侮辱は許さん――とばかりにハルピュイアはレヴィアタンに詰め寄る。
しかしその様子に全く動じないかのようにレヴィアタンは涼しい顔をして、さらに続けた。
レヴィアタン「さあ、ね。その真意は私には分かりかねるけれども……
『あなたのことが信用できない』ってことじゃないかしら?」
ハルピュイア「そんな……」
そんなことがあってたまるものか、とハルピュイアは顔を床に向け歯を食いしばる。
これまでの自分のすべては、ネオ・アルカディアをより良きものにするためのものだった。
だからこそ『正しき行いをする者』の象徴たる幻想殺しの行いを疑わず、追従してきたというのに。
その思いが間違っていたというのか?
自身がやってきたことは、すべて無意味な回転であったというのか?
- 325 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/01(木) 22:26:51.32 ID:ShwQknqMo
- レヴィアタン「それじゃあ私はもうミッションに行くわね。
レジスタンスに先を越されるわけにはいかないわ。
きっとあの一方通行も『正体不明』の話を聞けば飛んで来るはずだもの、ね。
何せ……彼女こそ、百年前の戦いの元凶なんだから」
彼女に詰め寄ったままの姿勢でふさぎこむハルピュイアの横をするりと抜け、
レヴィアタンは不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと出口へと歩き出す。
ハルピュイア「…………」
その背中を茫然と見つめながら、ハルピュイアはすでに彼女を呼び止めることすらできなかった。
これまで任務という名の足枷を用いることで辛うじてコントロールできていた他の四天王は、
もはや自分の手の届かぬ場所へと動き始めている。
そして自分は、これまで唯一の支えでもあった幻想殺しという存在にすら見放されてしまったのかもしれない。
すべては、あの『一方通行』が現れてから。
いや、ひょっとすれば――
ハルピュイア「俺は……俺はいったい、どうしたらいい……?」
―― 8年前。
ドクター・シエルがこの地を去ってから、すべては始まっていたのかもしれない。
- 332 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/28(水) 23:58:22.62 ID:b21Yeo0lo
- 【MISSON.4:『正体不明』を追え】
眼前に迫るは、ぼやけた、気の滅入るような青色のみ。
一方通行とコルボーだけがかろうじて入るような窮屈な小型潜水艇に身を詰め込んで、
それでも『コルボーチーム』と名のついた二人は淡い太陽光で白む海底を進んでいた。
一方通行「……おいコルボー、その沈ンちまった学校っつーのはいつになったら見えてくンだァ?」
一方通行は今すぐ能力のスイッチを入れてこの場から飛び出したい衝動を必死に抑えながらも、
そのはけ口代わりにと舵を取るコルボーの非を鳴らす。
コルボー「大体この辺りって話なんですけどねえ……」
だがそのコルボーもこの狭さに当てられてか、投げやりに返事をするばかりだ。
一方通行「この辺りって……もうずっと同じ景色じゃねェかよ」
申し訳程度に前方に設置されたモニターは避けるべき障害物を移すほどの役にしか立たない。
そもそも本来はベースのオペレーターからのガイドを受けながらミッションを遂行するべきはずのところだが、
サイバーエルフ反応を追跡するためのエネルギーすら残っていないといわれては、現場としてはたまったものではなかった。
この視界の不明瞭さが海水汚染から来るのか、単にかなり深さにやってきたということを意味するのかはわからないが、
少なくとも目的地に到達するまで今しばらくかかりそうなのは確かなようだ。
一方通行「つーか、前にもこンなことなかったかァ……?」
それがデジャヴの類ではないことに薄々感づきながらも、一方通行は来るべき二つの邂逅に想いを馳せていた。
―― 一つはネオ・アルカディア四天王の一人『妖将』レヴィアタンとの。
そしてもう一つ――
――『正体不明(カウンターストップ)』という、どこかで聞き覚えのある名。
- 333 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/28(水) 23:59:20.94 ID:b21Yeo0lo
- 前回のミッションで助け出された捕虜の男が持ち帰った情報は、思いのほか重大なものであった。
幻想殺しの狙い、それはどうやら『正体不明』と呼ばれているサイバーエルフらしい。
奴がそれを手に入れてどうするつもりなのか?
正体不明と、妹達の関係は?
そもそも正体不明とはいったい何者なのか?
未だ多くの疑問が残る中、幻想殺しの野望を阻止するため、
一方通行は正体不明が存在しているという海底に沈んだ学校――旧学園都市第七学区へ向かうことになったのだった。
- 334 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:01:03.96 ID:gfipPGEfo
- ――もちろん、コルボー一人となってしまった『コルボーチーム』も同行しているのはご存じのとおりである。
だいたい、ミッションはチームなどを組まずに単独で行うというのが一方通行の流儀である。
その最大の理由はかつて彼がコルボーに語ったことであるが、
何よりまともな戦力にならぬ味方は足手まといになるだけであるし、自分並みに戦力をもつ者は癖が強く、扱いづらい。
言うまでもなくコルボーチームは前者であり、一方通行には本来必要のない人材のはずだった。
だが前回のミッション同様、今回も少し事情が違う。
前述の通り、今回のミッションの舞台は海底、それもほぼネオ・アルカディアに隣接する第七学区である。
そして『移動』という存在を可能な限り短縮する――それこそ転送装置の唯一の存在意義であったはずであるが、
例のエネルギー不足によって再び使用不可の状態になってしまっているのだ。
一方通行の能力を全開に発動したとしても、ベース出発から正体不明を探し当てるまでにエネルギーを使い果たしてしまう可能性が高い。
できうる限りのコーヒーをがぶ飲みしたところで一方通行の通常の能力が1時間も持たないことは、既に彼自身が確認済みのことであった。
- 335 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:01:33.19 ID:gfipPGEfo
- それでも一方通行としては意地でも一人でミッションを遂行したいところであった。
だがしかし――
『もう二度と一人で突っ込んでいくような無茶、しないで……お願いよ……!!』
――あの悲痛な表情を、もう一度見たいとは彼は思わない。
次までにエネルギーを蓄えておけ、とだけ念を押して、一方通行は狭苦しい潜水艇へと乗り込んだ。
まさか潜水艇というものが、ここまで白けたものだとは思っていなかったのだが。
- 336 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:02:15.04 ID:gfipPGEfo
- 相も変わらぬ深海色の景色は絶えることなく彼らの視界を覆っていく。
一方通行はその様子をモニターごしに撫で、一つ溜息をついた。
オペレーターたちからの通信によると、自分たちはすでに目的の地区へと足を踏み入れてはいるらしい。
一方通行「ここが学園都市、第七学区……ねェ」
しかしそれをいまひとつ認めることができず、一方通行はひとり言のように事実を反芻した。
モニターの先に見える景色。
いや、それはすでに景色などと言えるものではないのかもしれない。
目の前に広がるのは、かろうじて人工物である面影を残すだけの廃墟の数々だけなのだ。
さらにその壁面はすべて乳色の苔のような物体で覆われ、建物であったかどうかすら判別するのは難しい。
これが百年という月日なのか――と、一方通行は改めて自らの越えた時間を思い知らずにはいられなかった。
- 337 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:03:06.22 ID:gfipPGEfo
- 一方通行「しっかし、この様子じゃ例の学校がどこにあるかなンてわかりゃしねェンじゃねェのか?」
そもそも目的地――『正体不明』の反応があったという、旧制度の学校に当たる場所――が、
周囲の瓦礫同様に崩壊していない保証などどこにもない。
むしろその学校だけがぽつねんと残っていることのほうが不自然である。
コルボー「…………」
一方通行「あン……? おいコルボー、聞いてンのかァ?」
傍らのコルボーの反応がないことに気づき、そっぽを向いていた一方通行は思わずそちらへ目をやる。
するとコルボーは、舵を固く握り、見開いた目で前を向いたまま絞り出すように声を出した。
コルボー「……案外すぐにわかりましたよ、一方通行さん」
一方通行「……?」
その言葉に思わず一方通行はコルボーの視線の先をたどっていく。
そしてその先数十メートルに、仰々しい刻印の刻まれた巨大な潜水艇を見た時――
一方通行「なるほどなァ……コイツはわかりやすい」
――コルボーも、なかなか肝が据わってきた――と、
顔面を蒼白にしながらも冗談を言えるようになった横の男を見て、一方通行は小さく口角を捻じ曲げた。
ネオ・アルカディアの軍勢はすでに幾隻もの艦隊となって、
『正体不明』を捕獲せんと第七学区の学校へと集結していたのだった。
- 338 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:03:47.59 ID:gfipPGEfo
- 十は優に超えるであろう艦隊に気圧されたコルボーを揺さぶり、一方通行はひとまずと岩陰に潜水艇の身を隠した。
現在も、ネオ・アルカディアの艦隊は集まり続けている。
コルボー「あ、あ、ああああ一方通行さん!!
どどどどどうするんですか!? まさかネオ・アルカディア軍があんなにいるなんて……」
一方通行「……少しは落ち着きやがれェ。別にオマエは何もしなくていい」
ジョークを飛ばしていたほどの、先ほどの冷静さはどこへ行ったのか。
敵軍を視界の外に外しても一向に落ち着きを取り戻せないコルボーに対して、
一方通行はそれとは正反対の冷たい声で、ぶっきらぼうに言う。
一方通行「俺が全部ぶっ潰してくりゃ、それで済む話だァ」
そう、前回ミッションと何も変わらない。
相手がどれだけの数で攻めてこようとも、真正面から打ち砕くだけ――
――と、すでに幾度目かで自らの信念を胸に、一方通行は狭い船内を抜け出そうとした。
コルボー「ちょ、ちょっと待ってくださいよ一方通行さん!!」
しかしその鼻の先をへし折るように、コルボーは彼の腕を強引に引きもどした。
- 339 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:04:44.91 ID:gfipPGEfo
- 一方通行「うおォっ!!」
能力のスイッチを入れる前に不意に腕を引かれた一方通行は体勢を崩し、思わず背中からコルボーの方へと倒れこむ。
しかしそれを直そうとせず、そのまま憤怒の形相で彼の首根っこをつかんだ。
一方通行「おいオマエ……これ以上駄々捏ねるつもりならこの場で外に放り投げてやってもかまわねェンだぞ……!?」
コルボー「だって……こんなところに僕を一人で置いていくつもりですか!?
そ、それに『正体不明』はどこに潜んでいるのかわからないんですよ!?
一方通行さんの戦いに巻き込まれたりして、逃げられてしまうかもしれないじゃないですか!!」
一方通行に組みかかられたまま、コルボーは押し返すように反論を並べ立てる。
一方通行「……ふゥン」
その抗弁を聞いて、彼は覚えず呻り声をあげた。
前半は置いておくとしても、なるほど後半はコルボーの言う通りではある。
幻想殺しの目的が分からない今、『正体不明』は出来れば生け捕りにしておきたいのは確かだ。
- 340 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:05:24.08 ID:gfipPGEfo
- 一方通行「コルボー、オマエの言うことも一理なくはねェ」
コルボー「!! じゃ、じゃあ……!!」
コルボーの首を掴んでいた手を離し、一方通行は再び彼へと向き直った。
――『だが』という言葉を付け加えるのを忘れずに。
一方通行「ンなこと、俺の知ったこっちゃねェンだよ」
『正体不明』は出来れば生け捕りにしておきたい。
だから、積極的に攻め込むのは避ける。
確かにごもっともである。
しかしそれは言わば司令室――オペレーターたちの理論であろう。
自分たち現場で戦うものの理論とは全く逆の考え方に基づくものだ。
オペレーターの理論は『いかに利益を最大限に増幅させるか』という目的の上に成り立っている。
幻想殺しの野望を阻止し、その上で正体不明という存在にも興味がある。
両方の欲求を満たしたいという、一方通行からすればすこぶる欲張りな理論だ。
- 341 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:06:08.09 ID:gfipPGEfo
- しかし、現場における理論は『いかに最低限得るべき利益を得るか』という考えに立脚している。
積極的に攻められずにいて、結局正体不明をネオ・アルカディアに奪われたらどうなる?
ならば、正体不明を始末してでも幻想殺しの思惑を阻止する。
それが最も確実で隙のない方法である。
――ということをコルボーに説明してやる気は、一方通行にはさらさらなかった。
どうせ理解されないし、無駄なエネルギーを消費するだけである。
一方通行「じゃァな、俺が帰ってくるまでここで大人しくしてやがれェ」
と、ついに能力をオンにしながら、水中へとつながる上部ハッチに手をかける。
しかしその刹那、コルボーが再び声を荒げた。
- 342 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:06:38.26 ID:gfipPGEfo
- コルボー「あ、一方通行さん!! あ、あれ……!!」
しかし、先ほどの駄々をこねるようなものではなく、真に迫るような声を聞いて、
何を言われても意に介さぬつもりだった一方通行も、思わず彼の言う『あれ』の正体を訝る。
一方通行「ったく、今度は何だってンだァ……?」
首を傾げながら、一方通行は前方のモニターを覗き込み――
――不可解なものを垣間見た。
一方通行「おいおい、どうなってンだこりゃ?
なンだってアイツら……あそこから撤退していってンだ?」
そこには、規則正しく並んで、例の学校からまるで反対の方向へと遠ざかっていくネオ・アルカディアの大艦隊の姿があった。
- 343 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:07:34.38 ID:gfipPGEfo
- 仄暗いという形容詞を体現したかのような空間に、音はない。
床や壁面と思われる部分にはそこが学校であったということを確認するにはあまりに風化が進みすぎてはいたが、
細長い廊下に付随するように小部屋が連なるその構造は、確かに一方通行の想像するそれに合致はしていた。
一方通行「……敵の姿は無し、か」
奇襲を予期して、念のためネオ・アルカディア軍の集結していた場所とは反対の位置から潜入を開始した彼は、
周囲を見渡してひとまず息をついた。
この様子ならば、敵は少なくとも軍の大部分を撤収させたのは確かなようだ。
それにしても、と自らの右こぶしをコキリと鳴らしながら、一方通行は慣れぬ水の感覚を感じた。
風の操作のように、水流操作など絶やすい――
――当初はそう考えていた彼であったが、実際に水中へ出てみるとその勝手の違いに戸惑わされる。
空気と比べて単純な構成であると考えていたはずの水は、
酸素、塩分、その他の懸濁物質が多種多様に混ざり合い、それぞれの電気的極性を把握するのにも精一杯だ。
それに加えて水流には風に比べて多くの発生源が存在するようで、
揃えたはずのベクトルが瞬く間にどこかまったく的外れの方向へと向いてしまうのだ。
- 344 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:09:27.74 ID:gfipPGEfo
- 自分は人間のようにエネルギーの取り出しに酸素を必要とはしないし、能力を使えば水圧も関係がないことは作戦の通りだ。
しかしそれでも存外大きかった想定外の出来事に小さく舌打ちを打ちながら、一方通行はとりあえずと通信機に手をかけた。
タイムリミットは、能力限界までの一時間。
たった一人で広い学校を探索するよりは、少しでもナビゲートのほしいところだ。
一方通行「……こちら一方通行、たった今例の学校に潜入を開始した。
サイバーエルフでもなンでも構わねェ、反応があったら教えろ」
シエル『ちょっと待ってて……今少しだけ、オペレーターの二人に詳しく調べてもらうわ』
一方通行「あァ……ン?」
なるべく早くしろ、といつもの軽い悪態をつきかけて、一方通行の唇は隙間を開けたまま静止した。
それは、先ほどまで薄暗いばかりであったこの空間に、どこからともなくぼやけた光が現れたからだ。
- 345 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:10:05.87 ID:gfipPGEfo
- その光を生み出していた球状の何かは、まるで水の抵抗をものともしないかのようにふわふわと一方通行の周りを旋回し始めたかと思うと、
光を放ったまま、突如として何か別のものの形を象り始める。
一方通行「…………」
その様子を、彼はどこかで見たことがあるように感じながら見つめていた。
まさしくこれは、夢の中で出会った打ち止めとの邂逅と同じ状況に他ならない。
一方通行「オマエは……!!」
『…………』
そしてついに全貌を現した光の姿に、一方通行は思わず眉をひそめた。
その姿は今いるこの薄暗い海底にはあまりに不釣り合い――いや、あまりに似つかわしすぎたのだ。
紺色を基調としたいわゆるブレザーの型の学生服に、腰まで伸びたロングの髪が鈍く映えている。
そしてこれでもかと言わんばかりに膨らんだ胸に、小さな顔にちょこりと乗る細フレームのメガネを通して、憂いを多分に含んだ瞳がのぞく。
人間でいえば、十五、六歳であろうか。
一方通行「オマエは……一体、誰だァ……?」
現状にとってあまりに異質な存在の登場に及び腰となりつつも、一方通行はその姿をしかと睨みつけた。
――自分はかつて、この人物に出会ったことがある。
- 346 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:10:37.05 ID:gfipPGEfo
- 『…………』
薄ぼんやりとした球体から一人の少女の姿をなしたその光は、一方通行の質問に答えることなく踵を返す。
人の姿となってからは、その通った鼻筋のようにまっすぐ迷いなく動き始めていた。
一方通行「おい、待ちやがれェ!!」
目の前の存在がサイバーエルフなのか、それとも単なる立体映像の一種なのかもわからず、
一方通行は無意識のうちに声を荒げ、呼び止めようとする。
それに気がついたのか、単に彼がその場にぼうっと浮かんでいることに業を煮やしたのか、
少女は少しだけ首をもたげ、変わらぬ物憂げな表情で、何か口先だけを動かした。
一方通行「……チッ、仕方ねェ」
それを見て、いまだ慣れぬ水流の扱いに辟易しながらも、一方通行は少女に追従することとなった。
『ついてきて』。
彼女の唇は確かにその言葉をつぶやいていたのだから。
- 347 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:11:24.16 ID:gfipPGEfo
- ルージュ『……!! この反応は……!?』
そのとき、スイッチの入れっぱなしになっていた通信機から、驚愕のような、狼狽のような声が響いた。
ジョーヌよりは性格的に落ち着いているはずのルージュの声が、幾分取り乱したように聞こえる。
一方通行「ルージュかァ。こっちもたった今サイバーエルフを一体発見した。
これから追跡を開始……」
おそらく目の前のサイバーエルフの反応を検知したのだろうと、一方通行はルージュとは対照的に落ち着いた返事を返そうとする。
しかしそれは言い終わる前に、さらに激しい声にさえぎられることとなってしまう。
シエル『一方通行!! そちらに高エネルギー体が急接近しているわ!!
おそらくネオ・アルカディア軍のレプリロイドよ!!』
ジョーヌ『予想到達時間、5秒を切っています!!』
一方通行「チィッ……!!」
まさか――と一方通行が身構えた瞬間、背後ですさまじい爆裂音が響いた。
- 348 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:12:31.22 ID:gfipPGEfo
- そして振り返った彼の体に、何か細かい粒状のものが降りかかった。
一方通行「なンだァ、こりゃ……!?」
すぐさま能力によって反射されたその粒は、まとった光を乱反射し周囲へとまき散らす。
すなわち――破砕物を核とする、氷の微粒子。
一方通行「……!!」
しかしそれよりもさらに、時が止まってしまうかのような冷たい視線に一方通行はとっさに視線を前方へと移した。
「あら……今日は本当にいい日。 『正体不明』に続いて、あなたにまで会えるだなんて。
キザ坊やや戦闘バカが色々と噂してたから、待ち遠しかったわ」
砂煙の奥から現れた人影は、この海のように深い青に染まるボディに身を包んでいた。
「私があなたを壊しちゃったら……あの二人、どんな顔するでしょうね?
フフ……楽しみ。さ、女だからって遠慮はいらないわよ」
そしてまるで人魚のようなしなやかな体を水にたゆたわせながら、視線同様、冷たく鋭く光る槍の矛先をまっすぐに彼へと向ける。
レヴィアタン「タイクツ、させないでね?」
――『蒼海の海神』妖将レヴィアタンが、一方通行の前に立ちふさがった。
- 349 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2011/09/29(木) 00:13:26.42 ID:gfipPGEfo
- ――同じころ、海底の学校から少し離れた岩陰。
コルボー「暇だなぁ……」
一人になると、急にあの窮屈さが恋しくなってしまうものだ。
存外広がった潜水艇の中の空間で、コルボーは手慰みにエンジンの入っていない舵をいじりながら、
するべきこともなく、ただただ怠惰に時を過ごしていた。
コルボー「まったく、一方通行さんったら結局一人で行っちゃって……
またされる身にもなってほしいよなぁ。
……ん? 待てよ……」
冷静になって考えてみれば、現在例の学校にはほとんど敵がいない。
もしいたとしても、きっと一方通行が自慢の超能力で何とかしてくれるはずである。
ひょっとして、これはチャンスなんじゃないか?
そう考え、コルボーが本当に舵を学校へと取ってしまうまでに、そう時間はかからなかった。
目指すは、『正体不明』の捕獲。
コルボー「これで僕がミッションを成功させれば、もっとコルボーチームに予算を割いてもらえるかも……!!」
ムフフ、と気味の悪い声を上げながら、コルボー一人を乗せた潜水艇は学校へと進路をとり、ノコノコと海中を進んでいく。
――しかしこの行動が予想外の展開をもたらすとは、このとき彼は予想だにしていなかった。
- 359 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:21:31.08 ID:7V0Vbqm5o
- 蒼然たる海底に沈んだ、旧時代の学校。
光すらまともに届かず、にごった水流を湛えるその一角に、鋭い破砕音が響いた。
レヴィアタン「さあ、この攻撃がよけられるかしら!?」
レヴィアタンがまっすぐに振りぬいた槍の矛先から、幾十もの氷の塊が飛び出す。
人の頭ほどのそれは水の抵抗を突き破り、一方通行たちへと襲い掛かった。
一方通行「くっ……!!」
『……!!』
不意の敵襲に、思わず一方通行は慣れぬ水流を操作して、その場から飛びのいた。
――いや、『飛びのいた』という表現は正確ではなかったかもしれない。
そもそも彼にとってレヴィアタンの問いは愚問である。
彼女がどんな広範囲の攻撃をしようと一方通行には関係がない。
その能力をもってして、すべてをはじき返してしまえばいいだけの話だ。
- 360 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:22:17.79 ID:7V0Vbqm5o
- ただそれは攻撃を受けるのが一方通行ただ一人のときにだけ適用される理屈だ。
すなわち守らねばならぬ者がその場に存在している場合、事情は変わってくる。
ではこのとき彼がとる行動は?
その問いこそ、愚問である。
守るべきものの前に『飛び出し』、降りかかる攻撃をすべて弾き返せばよいのだから。
一方通行「……カカッ」
正体不明の前に仁王立ちした一方通行が大きく口元をゆがめると、
その体に接触した氷の結晶が踵を返すように反射し、レヴィアタンへと襲い掛かった。
レヴィアタン「……!!」
そして数秒もたたぬうちにけたたましい爆裂音が鳴り響き、
もうもうとした砂煙が一方通行の前方に立ち込め、その数メートル先の視界をふさいだ。
- 361 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:23:01.58 ID:7V0Vbqm5o
- 相手が存外派手な攻撃をしてくれたおかげで生まれた隙を、彼が見逃すはずはない。
一方通行は反射の手ごたえを確認し、すぐさま後ろへ振り向いた。
一方通行「おい、早く逃げろォ!!」
とにかく最優先すべきことは、彼女を――おそらくは『正体不明』そのものであるところのものを――
敵の手から逃れさせることだ。
だが、そう考えて声を張り上げた後に一方通行が見たものは、
先ほどまでの冷静なそれとは打って変わった少女の表情だった。
『……イヤ』
一方通行「……はァ?」
両手で頭を抱えうずくまるその少女の表情を、端的に、一語で表現するとすれば――
『イヤアアアァァァァァッ!!!!!』
――『恐怖』という言葉が符合するであろう。
- 362 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:23:48.73 ID:7V0Vbqm5o
- 『アアアアアアァァァァァァッ!!!!』
一方通行「くっ……オマエ……!?」
甲高い叫び声は建物中に響き渡り、一方通行の鼓膜で暴れまわる。
そしてその絶叫に圧倒され、思わず彼が高周波の音波すら反射するべきか、戸惑ったその瞬間。
『イヤァ……イヤアアァァッ!!』
激しく身をよじった少女の体が鈍く発光したかと思うと、
一瞬、その姿は叫び声とともに、再び光の球へ吸い込まれるようにして消えていく。
光はすばやく、かつ音もなく、暗闇の奥へと行方をくらませようとしていた。
一方通行「……とりあえずこれでよし、なのかァ?」
あまりに大げさなその取り乱しように一抹の不安を抱えないでもない一方通行ではあったが、
ひとまずの落着に胸をなでおろしかけていた。
しかしそれをあざ笑うかのような妖艶な言葉が響いたのは、未だに煙巻き起こる瓦礫の中からであった。
レヴィアタン「いけない、私としたことが……
あなたの事でこんなに熱くなっちゃうだなんて、あの二人のことを笑えないわね」
- 363 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:24:52.90 ID:7V0Vbqm5o
- 砂煙の奥から現れたその姿には、一切の傷もない。
それどころか槍の矛先を高らかに掲げたその姿はいっそう優美さを増したようにも見える。
レヴィアタン「私の最優先事項、早く済ませてしまわなければね」
一方通行「……ンだと?」
気づけば槍の矛先にはすでに先刻以上の大きさの量の氷塊が、連なるように集まり始めていた。
しかもそれは一連なりではない。
二つの氷の連なりから、それぞれ二つずつ。計四つの瞳がまったく同時に、激しい赤に灯った。
目の前のものを貫くような、縦長の瞳孔から放たれる威圧感は、ただの爬虫類のそれではない。
レヴィアタン「出ておいで――蒼海の魂龍」
重々しいうなり声を二重に響かせたと思うと、二対の氷の龍が瓦礫を食い破りながら姿を現した。
- 364 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:25:34.55 ID:7V0Vbqm5o
- レヴィアタン「『アレ』はあなたたちのエサ。
……残さず食らい尽くしてしまいなさい」
「「グウオオオォォォォッ!!!」」
レヴィアタンの命令に呼応するかのように、二頭の龍は大顎を怒らせ、並んで水中を突進する。
一方通行「ケッ、そうはいくかよ!!」
しかし対する彼もそれを黙って迎え撃つわけではない。
むしろ自分からたたき潰さんと、一方通行も唇をいびつにゆがめ、前方へ飛び出した。
その距離は、ものの数秒も待たずに両者が接触するほどの距離である。
だが彼の握り締めた拳に――
――あらゆる存在をはじき返すその拳に、手ごたえはなかった。
- 365 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:26:31.81 ID:7V0Vbqm5o
- 一方通行「なっ……こいつら!?」
自らの思惑とは大きく外れた氷龍たちの挙動に、一方通行は思わず体を止め振り返った。
そしてその行く先を目で追う。
彼と接触する間際、二頭の龍はそれぞれの側へと大きく迂回し、一方通行との衝突を避けていた。
そうして距離をとっていたはずの龍たちは、ある一点を目指し再び接近しようとしていたのだ。
『……!!』
未だ姿を隠しきれていなかった、『正体不明』の光の球へと。
「「グウオオオォォォォッ!!!」」
『イヤ……イヤ……!!』
再び分厚い咆哮があたりを揺らす。
肉食獣の獲物をしとめる合図がごとく、龍たちは正体不明へと一気に距離をつめた。
『……イヤアアアァァッ!!!』
二つの顎が、同じ空間めがけていっせいに食らい付かんとする。
―― それは、激しい爆発音とともに龍が崩れ去る、直前の出来事であった。
- 366 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:28:34.96 ID:7V0Vbqm5o
- 一方通行「一丁上がり……っとォ」
なんとか彼女は逃げおおせてくれたであろうか。
両手に構えていたバスターを下げ、一方通行は息を一つついた。
二頭の龍をちょうど一撃で仕留めるには、奴らが正体不明を捉えんとするその瞬間を狙うほかにはない。
若干集中力の必要な芸当ではあったが、彼にとってはとっさに行えるほどのことでもあった。
ゆがんだ表情を変えぬまま、向き直る。
一方通行「さァて、そンじゃゆっくりと話を聞かせてもらおうか、ネオ・アルカディアの回し者さン。
オマエ……何でアイツを仕留めようとしやがったんだァ?」
一方通行にはいくつかの疑問があった。
一つには、あの氷の龍という攻撃そのものについてだ。
あれはどう考えても、威嚇や生け捕りに用いるような攻撃ではない。
確実に敵を排除するための技であったことは、火を見るよりも明らかであった。
正体不明を何らかの形で利用するのが目的のはずの、彼らがなぜ?
- 367 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:29:34.46 ID:7V0Vbqm5o
- レヴィアタン「不思議なことを言うのね、あなたも知っているはずじゃなくって?」
だが一方通行にとっては当然であるはずの疑問を投げかけられた彼女の態度は、
まるでそれを一笑に付すかのような、こともなげなものだった。
レヴィアタン「私、四天王レヴィアタンに幻想殺しさまから下された指令は唯一つ……
……『ダークエルフの討伐』、よ?」
一方通行「ダークエルフだと……!?」
まったく視野になかった方向から現れた名前に、一方通行は耳を疑った。
ダークエルフ。
彼は二度、その名を聞いた。
一度目は、シエルの口から、かつて世界にイレギュラーの戦火をもたらした悪魔のサイバーエルフとして。
二度目は、『超電磁砲』御坂美琴のコピーを名乗るサイバーエルフの口から。
――100年前幻想殺しに倒され、現在は過去の存在になっているはずのものとして。
- 368 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:30:26.24 ID:7V0Vbqm5o
- レヴィアタン「あら、まるで『ダークエルフは100年前に倒されたはずだ』。そんな顔、してるわね。
でもそれは表向きの、ネオ・アルカディアに住む人間たちを安心させるための『お伽話』。
100年前……かつての英雄の力をもってしても、ダークエルフを打ち倒すことはできなかったのよ」
レヴィアタンは掲げていた槍を一端振り下ろし、不敵な笑みのまま続ける。
レヴィアタン「……でも、奴もただではすまなかった。
英雄たちとの激しい戦いの末に力を使い果たす寸前にまで追い込まれたダークエルフは、
逃げ去るようにどこかへ姿をくらませた。
まさか100年間探し続けてやっと見つけた潜伏先が、
こんなネオ・アルカディアに近い場所だとは思わなかったけれどね」
一方通行「…………」
レヴィアタン「っていう話を、あなたのところの捕虜が盗み聞きしていたんだと思ってたんだけど……」
一方通行「……悪ィがまったくの初耳だなァ」
- 369 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:31:35.45 ID:7V0Vbqm5o
- レヴィアタン「フフ、お互い使えない同僚を持つと苦労するわね」
そのすべてを見透かすかのような言葉の端々に、
こみ上げる虫唾を感じて一方通行は小さく舌打ちをする。
しかし、それらはこれまでにも彼が感じていた、ある疑問の回答になりうるものでもあった。
一方通行「つーことは、オマエがわざわざこンなとこまでたった一人で乗り込ンできやがったのは……」
レヴィアタン「そう、部下をたくさん連れてきても皆イレギュラーになられちゃかなわないもの。
どうしてもここまで送るって言うから艦隊を連れてきたけど、すぐに返したわ。
それよりも、不思議なのは私の方。
ダークエルフと聞けば、イレギュラーのあなたたちレジスタンスは、
喜び勇んでやってくるものだと思っていたけれど……
ダークエルフを狙ったのじゃなければ、あなたは何をしにここまで来たのかしら?」
一方通行「俺は……」
一方通行は考える。
今現在の自分の目的は、ここへ乗り込む前とは180度変わってしまっていた。
- 370 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:33:44.87 ID:7V0Vbqm5o
- 正体不明を始末してでも幻想殺しの思惑を阻止する。それが最も確実で隙のない方法――
――という論理はそもそも、ある前提において成り立っている。
すなわち、敵の狙いが『正体不明の生け捕り』である、というものだ。
だが、レヴィアタンなるものの言葉を信用するならば、その前提はまったくの間違いであったことがわかった。
先ほどの攻撃を見るに、奴が正体不明を――彼女が言うには『ダークエルフ』を――
始末しようとしているのは確かなようである。
本来ならば、それはシエルらレジスタンスの望むところであろう。
レジスタンスは世界を滅ぼしたいわけではないし、自分もそれを望むわけでもない。
しかし、一方通行にとってもはやそんなことはどうでもよかった。
ただ、正体不明を守りたかった。
彼女がダークエルフなどという言葉を簡単に信じられるわけがない。
なぜなら、彼女を例えるならば――
- 371 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage]:2011/11/21(月) 14:34:49.34 ID:7V0Vbqm5o
- レヴィアタン「……私もあまり時間がないの。
あなたの相手はあとでたっぷりするから、邪魔する気がないのならそこをどいてもらえるかしら?」
考えに沈んでいた一方通行の様子に痺れを切らしたのか、
レヴィアタンは再び槍を構え、その矛先を彼へと向ける。
しかしそれを見た一方通行は、さらにアルカイックに頬を引きつらせた。
一方通行「せっかくだが、そうは行かねェ」
なぜなら、彼女を例えるならば――
一方通行「俺の『戦友』にちょっかい出されて黙ってるわけにもいかねェンだよ」
その言葉が、もっとも正確であろうからだ。
- 379 : ◆x8SZsmvOx6bP2012/01/06(金) 23:45:29.66 ID:iCz+yrRBo
- 一方通行「これでも……食らいやがれェ!!」
怒号とともに、一方通行は右の足を振りかぶり、力任せに足元の床の瓦礫を蹴り上げた。
回転し、竜巻のような水流を背に生み出しながら、
人の体ほどの大きさの塊が天井付近にいたレヴィアタンへとまっすぐ飛びかかる。
レヴィアタン「フフッ」
しかし彼女にその強襲を恐れる様子は全くない。
むしろ一方通行同様の笑みを浮かべ、瓦礫に向かって自らの槍を突き立てる。
そしてその先端から、三角形の刃が射出され――
レヴィアタン「あなたのその幻想。
……ブチコロシ、確定ね」
――轟音と共に、一筋の光線が発射された。
- 380 : ◆x8SZsmvOx6bP2012/01/06(金) 23:46:38.77 ID:iCz+yrRBo
- 一方通行「ンな……!?」
一方通行はあまりに想定外の出来事に、一瞬体をこわばらせた。
レヴィアタンが瓦礫に気を取られている隙に接近を開始しようとしていた彼も、
目を見張り、先ほどまで自分の立っていたあたりに生まれた深い穴を凝視せざるを得なかった。
『妖将』レヴィアタンはネオ・アルカディア四天王の一人である。
それはつまり、彼女が光る十の武具――すなわち、LEVEL5の超能力者の力を持つものであるということを意味する。
しかし一方通行はその能力を、『氷を操る』程度のものとしか考えていなかった。
ならば、たとえ分の悪そうな水中での戦いでも、相手の攻撃が自分に通ることがない限り自分が負けることはない。
そう高をくくっていた彼の心を見透かすように、レヴィアタンは笑みを浮かべながら手に持った槍を掲げた。
レヴィアタン「驚いたかしら?
これが光る十の武具、『フロストジャベリン』に収められた能力……
……『原子崩し』」
そして再び極太の眩い光線が、天井を大きく貫いた。
- 381 : ◆x8SZsmvOx6bP2012/01/06(金) 23:47:35.81 ID:iCz+yrRBo
- 一方通行「くっ……!?」
その光の強さに、おもわず一方通行は腕で目を覆い、顔を伏せた。
同時に何もないはずの背後から、何かが背筋を撫ぜる様な声音で彼の耳元にささやいた。
レヴィアタン「……『一方通行』。
自分の体に触れたあらゆるベクトル量を操り弾き返す、まさに学園都市最強の能力……」
一方通行「!?」
それはまさしく、先ほどまではるか上方にいたはずのレヴィアタンの声色であった。
ようやく目に光が戻りかけた一方通行は、あわてて前へと飛び退き、後方をうかがった。
しかし、すでに彼女の姿はない。
レヴィアタン「でも、弱点がある」
再び彼女の声が響いたのは、またしても背後からであった。
一方通行「クソったれが……いい加減にしやがれェ!!」
自らを弄ぶようなレヴィアタンに業を煮やした一方通行は、
振り向きざまに踵を振り上げ、彼女を狙い打とうとする。
- 382 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/01/06(金) 23:48:48.49 ID:iCz+yrRBo
- レヴィアタン「まず一つ」
だがその攻撃をものともしないかのように、レヴィアタンは涼しい顔で体を揺らし、するりと上へと抜ける。
そして一方通行と瓦礫ひとつ分距離を置いて、あざけるような視線はそのままに、宙に静止した。
レヴィアタン「あなたは水中での戦いに慣れていない」
一方通行「……チッ」
不意に図星を突かれ、一方通行は決まりの悪そうにレヴィアタンをにらみつける。
こちらの弱みはなるべくながら敵に見せたくはなかったのだが、予想外に彼女との遭遇が早すぎたと、
彼は事前に水中演習を行わなかったことを少し後悔した。
しかし――それがどうしたというのだろうか、と一方通行も嘲るように両の腕を腰に当てる。
一方通行「はン、オマエの言う弱点ってのはそれだけかァ?
確かにここじゃなにかと動き辛ェが、
俺は別に何もしなくてもオマエに負けることなンてありえねェンだがなァ」
そう、彼に反射の能力があれば、レヴィアタンの攻撃も通ることはない。
その絶対的な事実が存在しているからこそ、彼の敵は彼の敵足りえない。
多少の例外はあったにしても、だ。
- 383 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/01/06(金) 23:49:59.15 ID:iCz+yrRBo
- だがそのことを知っているはずの彼女は、全く表情を変えることなく、
不敵な笑みのまま口を開いた。
レヴィアタン「二つ目。あなたはその能力なしでは、水中にとどまることができない。
そして三つ目。その能力のエネルギー消耗は、かなり激しい。
……もって一時間、ってところかしら。つまり……」
レヴィアタンは一瞬言葉を止め、目線を変えずにゆっくりと天井のほうへと上昇していく。
そこには彼女が光る十の武具の力をもってして開いた大きな穴が存在していた。
レヴィアタン「あなたがエネルギーを失うまでに正体不明を探し出し、始末すれば私の勝ち。
逆に私を倒し、正体不明を保護できればあなたの勝ち……」
一方通行「……要するにオマエは、俺と勝負しようってわけかァ」
レヴィアタン「いいえ、これは『ゲーム』。私をタイクツさせないための、ね」
- 384 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/01/06(金) 23:51:42.89 ID:iCz+yrRBo
- レヴィアタン「もちろん、乗らないだなんてつまらないことはないわよね、伝説の英雄さん?」
一方通行「何がゲームだァ、ふざけてンじゃねェぞ。
そンなもン今ここで終わらせてやるよ!!」
いきり立った一方通行は、両の手を大きく広げた姿勢のまま飛び上がり、
まっすぐにレヴィアタンに襲いかかる。
しかし、対するレヴィアタンもそれに手をこまねくばかりではない。
レヴィアタン「……はぁぁっ!!」
掛け声とともに、レヴィアタンから鉛直下方向に渦を巻く水流が起こった。
強烈な回転は周囲の物体を巻き込みながらその大きさを増していく。
一方通行「くっ……!!」
一方通行も、突如巻き起こった巨大な流れと舞い上がる瓦礫にベクトルを乱され、
吹き飛ばされそうになるところを何とか耐えることしかできない。
- 385 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/01/06(金) 23:52:48.76 ID:iCz+yrRBo
- レヴィアタン「さーて、この水中という戦場の中で、
あなたは私に勝利することができるかしら……?
タイクツ、させないでね?」
一方通行「ッ、待ちやがれェ!!」
一方通行の叫びは巻き起こる渦にかき消され、むなしく散っていく。
そして先ほどまで暴れ狂っていた瓦礫がゆっくりと落ち着きを取り戻し始めた。
一方通行「クソ、逃げられたか……!!」
すでにもぬけの殻になったあたり一帯を見て、
彼はレヴィアタンに出し抜かれた事実をようやく認めざるを得なかった。
一方通行「……一方通行だァ、シエル、応答しろ」
当初は順調に見えていた正体不明捜索であったが、
まさかここにきて再び振り出しに戻ることになるとは思っていなかった。
しかも残り少ない制限時間が近づいていることに加えて、今度は厄介な対抗者付きだ。
できるだけの情報を、と一方通行はいつの間にか途切れていたベースとの通信を再びつなごうとした。
- 386 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/01/06(金) 23:54:10.99 ID:iCz+yrRBo
- 一方通行「おい、シエル?
……誰でもいいから応答しやがれェ」
しかしこれまで通信をつなげばすぐに、というくらい反応の良かったはずのシエルから、中々反応がない。
しばらくの後に聞こえてきた声は彼女ではなく、オペレーターたちの声だった。
ルージュ『……こ、こちらレジスタンスベース。現在の状況をお願いします』
一方通行「あン? ルージュかァ。
例のネオ・アルカディア軍の奴に先を越されちまった。
何としても正体不明を奴より先に見つけねェとならねェ……アイツの場所を調べてくれ」
ルージュ『了解しました、すぐに調べてみます』
一方通行「あァ、それはいいンだが……シエルの奴はどうしたンだァ?」
ジョーヌ『それが……シエルさんは体調を崩されたようで、自室へお戻りになりました』
- 387 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/01/06(金) 23:55:34.03 ID:iCz+yrRBo
- 一方通行「体調を?」
ジョーヌ『ええ、先ほどの通信で一方通行さんとお話をした後すぐ、倒れこむように……
そのはずみで通信が切断されてしまったようです、申し訳ありません』
通信で話をしたすぐ後といえば、ちょうどレヴィアタンが現れた頃だ。
ルージュ『お待たせしました一方通行さん、いくつかのエネルギー反応を検知しました!!』
一方通行「!!」
その声に、一瞬逸れかけた思考を一方通行は強引にねじ戻した。
確かにシエルのことは気がかりであるが、今はミッションの遂行が最重要事項である。
ルージュ『……大きなエネルギー反応が一つ、
かなりの速度で建物内をまっすぐ上層に向かって移動しています!!』
なるほど、おそらくレヴィアタンのことであろう。
かなり直線的に移動しているところを見ると、
奴もネオ・アルカディアからの通信か何かで正体不明の居場所をほとんど特定しているのかもしれない。 - 388 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/01/06(金) 23:56:39.33 ID:iCz+yrRBo
- 一方通行「それで、正体不明らしきエネルギー反応はあるかァ?」
ジョーヌ『小さなエネルギー反応が二つ、最上層のごく近い場所に存在しています!!
動く気配はないようですが……』
一方通行「……二つ?」
これはどういうことであろうか。
この場に存在するのは、レヴィアタンの言葉によれば自分と正体不明とそしてレヴィアタンのみのはずである。
一方通行「まさかあの女、部下を忍ばせていやがったのかァ……?」
ルージュ『一方通行さん、その件に関してなのですが……
先ほどからコルボーリーダーと連絡が取れないのですが、心当たりはありませんか?』
一方通行「……はァ?」
まさにその時まで存在すら忘れていた名前を聞き、一方通行は思わず顔をしかめた。
一体この件とあの男に何の関係があるというのだろうか。
一方通行「アイツの事なンか、知ったこっちゃねェよ。
どうせ潜水艇の中で居眠りでもこいてンだろォ?」
- 389 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/01/06(金) 23:57:52.51 ID:iCz+yrRBo
- ルージュ『そ、そうですよね……まさか、そんなわけありませんよね……』
一方通行『とにかく俺は最上層へ向かう。
ナビゲート、頼むぜェ』
そう言って、彼は天井に空いた大穴を見上げた。
太陽光が漏れだしているところを見ると、どうやらこの建物の屋上をも貫かれているらしい。
レヴィアタンの持つ『フロストジャベリン』の威力の高さに舌を巻きつつも、
一方通行は大きな跳躍で、彼女に続いてその穴から最上階を目指し始めた。
気になることはいくつもあった。
まず一つは、彼女、正体不明が本当にあの『ダークエルフ』などという存在であるのかということ。
一方通行は、御坂美琴の言った言葉を正確に記憶している。
ダークエルフは幻想殺しによって倒されて今はもういない、と。
仮にネオ・アルカディアの一般市民が知らぬとしても、百年前を実際に生きた者が、
ダークエルフが実は生きているなどという歴史的な重要事実を知らぬわけがない。
――レヴィアタンは、何者かに騙されている。
証拠など何もないが、一方通行はなぜかそう確信していた。 - 390 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/01/06(金) 23:59:32.92 ID:iCz+yrRBo
- 二つ目は、正体不明が言った『ついてきて』という言葉だ。
彼女は一方通行をこの建物の中にあるどこかへと案内しようとしていたのだ。
はたしてそこに何があるのかはわからないが、
レヴィアタンがそこへたどり着いてしまうのはあまりに危険である。
その場所にあるものを確かめるためにも、
何としてもレヴィアタンより先に彼女を見つけなければならないだろう。
―― そして、最後の懸案が悪いほうへ的中しないことを、一方通行は真摯に祈った。
小さなエネルギー反応のひとつは、正体不明のはずだ。
ではもう一つは、ひょっとすればネオ・アルカディア軍などではなく――
一方通行「まさかそんなわけねェよなァ、コルボー……」
この悪い予感が本当に的中していることを彼が知るのは、もう少し先の事である。
- 394 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/02/04(土) 21:46:51.72 ID:Ry400+Mho
- 時間は少し巻き戻り、一方通行とレヴィアタンがまさに一触即発という状態であった頃――
――旧時代の学校の最上層に、小さな潜水艇が現れた。
コルボー「よ、よし……誰もいないな」
まさしくそれは、一方通行が搭乗してきた潜水艇そのものであった。
小さな、と言っても道幅ギリギリのそれは、辺りをうかがうようにゆっくりと進んでいく。
コルボー「それにしても、思ったより道が悪いなぁ。
これじゃ正体不明を捕まえる前に一方通行さんに見つかっちゃうよ……ん?」
潜入開始数分にして己の急いた行動を後悔し始めたコルボーは、
モニターに映る奇妙な物体を見つけた。
前方かなり奥ではあるが、かすかに光る何かがそこに存在している。
コルボー「な……なんだあれ?」
通常にもまして恐る恐るになりながら、潜水艇は少しずつそれに近づいていき、
それにつれてモニターに映る光も鮮明になっていく。
そしてある距離を超えたとき、その光は突如姿を変えた。
コルボー「えっ!?」
『…………』
先ほど一方通行も見た、あの少女の後ろ姿へと。
- 395 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:48:36.91 ID:Ry400+Mho
- コルボー「あの子は一体……?」
あまりに意外な出来事に、コルボーは船を前に進めることも忘れ、ただその神々しい姿に見とれていた。
しかし少女が振り向いた瞬間、彼は驚きに身を硬直させることとなる。
なぜなら、その彼女の表情は――
『イヤアアアァァァァァッ!!!!!』
――未だ襲いくる『恐怖』に支配されていたのだから。
コルボー「う、ああぁ!!」
突如響き渡った叫び声に、コルボーは思わず耳を抑える。
潜水艇の外からの声がここまで響くとは、と彼が驚愕した直後。
『イヤァ……イヤアアァァッ!!』
少女であった影は再び光の球に戻り、
通路の向こう側へとあっという間に消えてしまっていた。
- 396 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:49:30.09 ID:Ry400+Mho
- コルボー「な、なんだったんだあれ……」
ようやく収まった金切声に辟易としながら、コルボーは潜水艇のまわりを見回した。
辺りの様子に特に変化はない。
コルボー「それにしてもさっきの女の子、かわいかったなぁ……」
腕を組み鼻の下をのばして、コルボーはうっとりとした表情を見せた。
アルエットのような幼い少女型レプリロイドもよいが、
あのように成熟した――特に一部分が、であるが――姿の設計も彼の好むところであった。
しかも本来レプリロイドに不要なはずの眼鏡を装着しているあたり、製作者のこだわりが感じられる。
コルボー「ただの潜水艇に驚いて逃げちゃうなんて、怖がり属性まで付いてるとは恐れ入るなぁ」
惜しむらくは、あんな恐ろしい表情でなけば――と考えたとき、コルボーははっとしたように叫んだ。
コルボー「って、そうだ、あの子を追わなくちゃ!!」
- 397 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:51:11.68 ID:Ry400+Mho
- 何故その手の嗜好を持つ者にはたまらない容姿をしているのかはさておいて、
彼女の存在はこのうす暗い場所にはあまりにそぐわない。
コルボー「ま、待てー!!」
彼女が『正体不明』そのものであるということを確信して、コルボーは慌ててエンジンを全開にして追跡を開始した。
コルボー「!! あれは……!!」
数分の間ぼうっと彼女のことを考えていたおかげで、
逃げる時間をかなり与えてしまったように見えたコルボーであったが、意外にも彼女の姿はすぐに再び見えてきた。
『……!!』
もっとも、それは光の球の形のままであったが。
コルボー「よーし、確保だぁー!!」
道は行き止まりになっていて、他に逃げる場所はない。
海の外へは逃げていかないところを見ると、この建物に何か愛着でもあるのかもしれない。
- 398 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:52:12.03 ID:Ry400+Mho
- コルボー「……あ、あれ?」
しかし、それまで意気揚々としていたコルボーの顔が、一気に焦りの表情へと変わった。
潜水艇の中に、ガチャリガチャリと、舵のレバーを乱雑にかき回す音が響く。
コルボー「……か、舵が……きかない……?」
彼が呆然とつぶやく間にも、船はぐんぐんととてつもないスピードで、光の球へと――
――正確に言えば、壁へと近づいていく。
コルボー「ちょ……やば、やばいって!!
動いてよ!! 今動かなかったら……!!」
拳で力任せに制御部分をたたいても、反応はない。
『…………』
スゥ、とまるで道を譲るかのように光が脇に避けた。
そして――
コルボー「もう、ダメだあああぁぁぁー!!」
――派手な音をたてて、潜水艇が頭から壁に向かって垂直に突き刺さった。
- 399 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:53:01.29 ID:Ry400+Mho
- コルボー「うぅ……あいたたた……」
激突の衝撃で大きく体制を崩したコルボーは、やっとのことで起き上がった。
思わず固く目をつぶってしまったが、意外にも自分や潜水艇への影響は少なかったらしく、
自分は気絶することもなく、船の暴走も収まっている。
コルボー「ここは……?」
慌ててモニターから外の様子を確認して、彼は思わずつぶやいた。
そこに広がっていたのは、瓦礫だけではない。
高い天井、広い部屋の中に、何千という規模で整然と存在する『本』の数々であった。
かつて人間が使っていた、旧世代記録媒体――
―― そう語っていたのはオペレーターのルージュであっただろうか。
コルボー「……そうか、ここは学校図書館なのか」
確かに壁に激突する瞬間扉の様なものが見えた気がしたが、
それは気のせいではなかったらしい。 - 400 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:54:10.78 ID:Ry400+Mho
- コルボー「あっ!!」
『…………』
しばらくモニターを眺めていたコルボーは、再び声を上げた。
あの光が、正体不明がこの部屋の奥へと入っていくのが見えたのだ。
コルボー「……こうしちゃいられない!!」
いそいそと潜水服に身を包み、コルボーは潜水艇から海中へと躍り出た。
しかし、動き辛い。
予算の都合上、配備された潜水服はまるで百年前の人間の宇宙服のような硬式なものであった。
コルボー「く、くそぉ、待てー……」
これではかつての学園都市の技術力にすら劣るのではないかと感じながら、
コルボーは懸命に――のそりのそりと――正体不明を追いかけた。
途中瓦礫に足を取られながらも、幾段にも積み重なったような本の棚の間を駆け、
部屋の奥へと進んでいく。
- 401 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:55:38.78 ID:Ry400+Mho
- そして最奥へ辿り着き、コルボーは辺りを見回した。
そこにはただ白い壁が広がっているだけだ。
コルボー「行き止まり……?」
移動することに必死で、気づけば正体不明の光球の姿すら見失っていた。
荒い息を落ち着かせ、コルボーはその壁に手を触れようとする。
『そこから……離れてください……』
コルボー「えっ……?」
後ろから聞こえてきた言葉に、慌てて、しかし潜水服の機動性の悪さからゆっくりと、コルボーは振り向いた。
先ほどの空を裂くような声とは打って変わって落ち着きを取り戻した声ではあったが、それは確かにあの少女の声だ。
『…………』
いつの間にか姿は少女のものを再び形どり、
表情もあの恐ろしげなものではなく、代わりに憂いを含んだたたずまいになっている。
コルボー(か、かわいい……って、違う違う!!)
物憂げな表情にすら緩んでしまいそうになる自らの顔を必死に引き締め、コルボーは精一杯誠実そうに尋ねた。
コルボー「君は……『正体不明(カウンターストップ)』なのかい?」
- 402 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:56:29.41 ID:Ry400+Mho
- 『…………』
少女は答えない。
確かにはいそうですとあっさり言われても拍子抜けではある。
何か答えるまで待とうか、さらにたずねようか、コルボーが迷い始めたとき、おもむろに少女は口を開いた。
『あなたは……あの人……一方通行さんじゃない……』
コルボー「一方通行さんだって!? 一方通行さんを知っているの!?」
コルボーが思わず一歩足を踏み出す。
それは一方通行という名を聞いて動揺したのであり、かわいい女の子と共通の話題があった喜びでは決してない――
――という言い訳は神には通用せず、下心を見透かされたのだろうか。
それとも単に運が悪かったのだろうか。
彼が踏み出した場所は、腐食した魚の死骸でもあったのだろうか、ひどくぬかるんでいた。
コルボー「う、うわっ!!」
体勢を崩したコルボーは、覚えず腕を伸ばし本棚に寄り掛かり、事なきを得た。
- 403 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:57:20.63 ID:Ry400+Mho
- 『……!! ダメ……!!』
少女が慌てた様子で語気を強めた。
その視線の先は、彼の手の先、支えにしたせいでその本の部分だけくぼんでしまった場所だ。
だが、妙だ。
ふつう本棚とはこんなにくぼむほど奥行きが広く取られているものなのだろうか。
そう思ったとき、コルボーの触れた本が鈍く光を放ち始めた。
そして岩石を削るような激しい地鳴りが彼の後ろ、壁の方から響く。
コルボー「なっ……なんだ!?」
コルボーが振り向いた、先ほどまで壁があったはずの場所の奥には、通路の様なものができていた。
淡い光が差し込むその先に、彼は恐る恐る足を進めていく。
- 404 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:58:28.31 ID:Ry400+Mho
- 果たして、その先にあったのはがらんとした小部屋であった。
大きさはちょうど、コルボーがレジスタンスの仲間とともに住む二人部屋と同じくらいだ。
壁面に苔などは生えていないが、長い時間の間に海水が浸入したのだろう、多少の劣化がみられる。
コルボー「……これ、なんだろう?」
コルボーは部屋の中心に置かれた奇妙な形の機械を眺めた。
人ひとりが乗れるくらいの土台に、その上にまた人ひとり分く程度の空間をあけて、
彼が見上げるぐらいの宙に宇宙船の様な水色の物体が静止している。
コルボー「ひょっとして、百年前からここに残されているのか……?」
そうつぶやいて、コルボーは無造作に上方の物体に手を触れた。
その瞬間、二つの物体の間に青白い光が投影された。
コルボー「!! こ、これって……!!」
『……見てしまった、のですね』
不意に声がした。気づけば、彼のすぐ後ろからあの少女が一層沈んだ顔で近づいてきている。
『これはあの人……一方通行さんへ宛てられた伝言です……
それを守ることが……私の償いであったのに……』
コルボー「償い? 君は一体……」
- 405 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 21:59:27.33 ID:Ry400+Mho
- 何者なんだ、と問おうとして、コルボーははっとした。
二つの装置の間に人影が現れたのだ。
『今君がこれを見ているということは、この世界には再び恐ろしい危機が迫っているのだろうね?
僕のメッセージをこの学校に遺すことを了承してくれた月詠、黄泉川両先生に感謝するとともに……
……できればこのメッセージが永久に再生されないことを願う』
申し訳程度に白髪を残し禿げ上がった頭。
白衣を着たその姿には力がない、初老の男。
そして何よりその男は――
『そしてこれは、一方通行。いや、僕の最高傑作――君に向けた、僕の懺悔だ』
――どことなく、カエルに似ていた。
- 406 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:00:15.44 ID:Ry400+Mho
- コルボー「『僕の最高傑作』!?
じゃ、じゃあこの人が一方通行さんを作ったドクター・ヘヴンキャンセラー……!?」
ドクター・ヘヴンキャンセラー。
妖精戦争のころ、ダークエルフに対抗しうるレプリロイド『一方通行』を開発し、
LEVEL5ら他の英雄にもいわゆる『光る十の武具』を提供した、戦争終結の影の功労者と伝えられている科学者である。
その彼が言う懺悔とは一体どういうことなのだろうか、コルボーには皆目見当がつかなかった。
男の、次の言葉を耳にするまでは。
『すべては、この世界を混沌に陥れたすべての原因は僕にある。
電子生命体サイバーエルフを――レプリロイドを作り出したのは、まぎれもないこの僕なんだからね?』
コルボー「……なっ」
コルボー「なんだってえええぇぇぇ!!」
――まさかコルボーも、自らの創造主に出会うとは思っていなかったのだ。
- 407 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:01:02.34 ID:Ry400+Mho
- ドクター・ヘヴンキャンセラーが語ったことは、そう多くはなかった。
本来は人の命を救う医者で、それも学園都市随一の名医であった彼は、
その研究の結果、負の遺産と呼ばれる行き過ぎた発見をもしてしまった。
それはわずかな時間で急速に肉体を復活させる治癒薬であったり、
人間の長年の夢であった不老不死を実現させるものであったり――
―― その集大成ともいえるのが、人工の生命体。 『サイバーエルフ』であった。
彼は新たな命をも生み出してしまった自らにうぬぼれることはなかった。
サイバーエルフは従来のロボットなどとは違う、『自ら悩み、考え、行動する』という
極めて人間に近い思考回路を持っている。
それはつまり『人間を傷付けてはならない』などという原則を適応することはできず、
大規模な反乱をも起こり得る、ということだ。
今はまだ、これを世に出す時ではない。
そう考えた彼はサイバーエルフに関する一切の資料や研究データを封印した。
だが――研究を完全に捨てきることはできなかったのだ。
- 408 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:01:55.93 ID:Ry400+Mho
- 『サイバーエルフの研究は完全に凍結し、それを知るのは僕ただ一人のはずだった。
しかし、どこかから嗅ぎつけたあの男が研究データを盗み出し……
この戦争を引き起こしたのは、君も知っている通りだね?』
コルボー「……『あの男』だって?」
『あのとき僕がデータを完全に破棄してさえすれば、こんなことにはならなかった。
ダークエルフが作り出されることも……「オメガ」が生まれることもなかったんだ』
そう言い終わるが早いが、映像の男は地に膝と手ををついた。
『本当に、申し訳なかった……』
そして頭を深々と下げる姿勢になる。
なるほど、彼の言う懺悔とは百年前の戦争の最も大本の原因となったサイバーエルフを作り出した責任ということらしい。
コルボー「ちょ、ちょっとまってくださいよ!!」
しかしコルボーは思わず彼に食い下がった。
当然、納得できるはずがない。わからないことが多すぎるのだ。
- 409 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:02:53.33 ID:Ry400+Mho
- これまでコルボーは――というより彼がかつて暮らしていたネオ・アルカディアでは――
ダークエルフはサイバーエルフの中から自然発生的に生まれたと聞いていた。
しかしドクターヘヴンキャンセラーの口ぶりではまるで、
彼からサイバーエルフの研究データを盗み出した男がダークエルフをも作り出し、戦争を引き起こしたかのようである。
そして、『オメガ』とは一体何なのか?
どうもダークエルフと同様に妖精戦争の頃に作られたもののようであるが、
コルボーには全く聞き覚えのない名前であった。
『僕はずっと、こうして君に謝罪する機会を求めていたんだ。
しかし戦争の間、常に戦い続けていた君に、そんな暇はなかった。
そしてすべてが終わった今、君は眠りについてしまった……』
コルボー(そういえば、一方通行さんは妖精戦争最後の戦いの後、行方不明になったって聞いてたけど……
……どうしてあんなところに封印されていたんだ?)
『こんな形でしか気持ちを示せない僕を許してほしい。
そして君が目覚めた世界が平和であることを心から願っている……』
- 410 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:03:57.06 ID:Ry400+Mho
- 映像はそこで終わっていた。
コルボーが後ろを振り向くと、少女は先ほどまでと変わらずすぐそこに立ち尽くしていた。
沈み込むような表情もそのままである。
コルボー「そうか、君がこの学校に潜伏していたのは、この映像を一方通行さんに見せるためだったのか。
でも、どうして君が……? 君は、『正体不明』とは何者なんだ?」
『…………』
またも、少女は答えない。
当然といえば、当然だ。百年余りも頑なにこの地にとどまり続けたその理由を、
どこの馬の骨ともわからぬ男においそれと話せるわけがない。
だがそれを聞かねば、わざわざコルボーが危険を冒してまでここへやってきた意味もなくなってしまう。
コルボー「お願いだ……教えてくれないかい?」
すがるように頼んでも、それは悪戯に少女の恐怖を煽るだけだった。
思えば、生れ落ちてすぐにイレギュラー認定された彼を待っていたのは、つらい逃亡生活だけだった。
レジスタンスに入ってからもそれは本質的には変わらない。
そんな中で、アルエットの様な少女を好む性質が確立されていくのも無理はないのかもしれない。
- 411 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:04:43.45 ID:Ry400+Mho
- その彼が、少なくとも見た目はであるが、年ごろの少女の心を開こうというのだ。
やはり無理難題と言わざるを得なかった。
コルボー(……どうすれば、心を開いてくれるんだろうか)
力押しが通じないことを知り、コルボーは落胆の色を隠しきれない。
しかしその時、少女の影のさらに奥から響く凍てつくような声に、彼は身を震わせた。
「そんなに知りたいのなら、私が教えてあげるわ」
『……!! 伏せてくださ……!!』
そして少女の声をかき消す雷鳴のような音と共に、一筋の光線が、コルボーたちのいた場所を襲った。
- 412 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:05:13.65 ID:Ry400+Mho
- コルボー「いつつっ……な、なんだぁ!?」
間一髪光線の魔の手を脱したコルボーは、動きのとりづらい潜水服に惑わされながらも、辺りを見回した。
後ろを見れば、ドクター・ヘヴンキャンセラーの立体映像を投影していたあの機器は粉々に打ち砕かれ、
すでに原形をとどめていない。
『はぁ……はぁ……』
目の前を見れば、まるで力を使い果たしたかのように倒れこむ、少女の姿があった。
コルボー「ひょっとして、僕のことを守ってくれたのか……?」
あの時攻撃を避けることができたのは、自分で反応できたからではない。
なにか得体のしれない力に上から押さえつけられるようにしてコルボーはしゃがみこみ、回避することができたのだ。
コルボー「で、でもどうして……!!」
レヴィアタン「それはそうでしょう? 大事なイレギュラーの駒が減ったら、困っちゃうもの。
ねぇ……『ダークエルフ』?」
- 413 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:05:53.45 ID:Ry400+Mho
- コルボー「だ……ダークエルフだって!?」
『ア……アア……!!』
コルボーは慌ててダークエルフと呼ばれた少女を凝視した。
しかし、彼女は答えない。
ただ唇をかみしめ、恐怖に体を震え上がらせるのみだ。
『イヤアアアァァァッ!!』
そしてまたしてもその体を瞬時に小さな光の球へと変え、その場から姿を消そうとする。
レヴィアタン「おっと、逃がさないわよ!?」
だがまさに動き出そうとした瞬間、レヴィアタンの持つフロストジャベリンが鈍く輝き、
光を巨大な氷の塊が包み込んだ。
『……!!』
レヴィアタン「これでよし、っと……
この私から二度も逃げだそうだなんて、そうはいかないわ」
- 414 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:06:46.77 ID:Ry400+Mho
- コルボー「あんた、ネオアルカディア軍のレプリロイドか!?
なんでこんなことを……!?」
事の急な展開にあっけにとられていたコルボーが、思い出したかのようにレヴィアタンに食ってかかる。
レヴィアタン「あら、まだいたのかしらイレギュラー?
この『妖将レヴィアタン』の力を目の当たりにして逃げ出さないなんて、中々訓練されてるみたいね。
……それとも、大事な思考回路もウイルスにやられちゃったのかしら?」
コルボー「ね、ネオ・アルカディア四天王……!?」
レヴィアタン「……フフッ」
コルボーがようやく事態の大きさに気づいたのに満足したのか、
レヴィアタンは悦に入った表情で正体不明の方へと向き直り、再びフロストジャベリンを突き立てた。
レヴィアタン「わかったのなら、邪魔しないでね?
……大丈夫、あなたも後ですぐダークエルフと同じ場所へ送ってあげるわ」
- 415 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:07:18.56 ID:Ry400+Mho
- はたしてレプリロイドである彼に天国や地獄という概念が適応されるのかどうかは疑問であるが、
きっと心休まる場所でないことは確かであろう。
コルボー(一方通行さーん……)
何もできない無力感にさいなまれながら、
コルボーは心の中で、かつて自分の命を救ってくれた英雄の名を叫んだ。
しかし、英雄は現れない。
だからだろうか。それとも、ただの下心からだろうか。
いずれにしても――
コルボー(一方通行さんなら……)
――こんなとき、どうするんだろう。
そう思えたことは、コルボーにとって、いや人類とレプリロイドにとっての大きな前進であった。
- 416 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:07:55.31 ID:Ry400+Mho
- コルボー「……や、やめろぉー!!」
『……!?』
気づけばコルボーは、凍てつく氷の塊と、レヴィアタンの間へと躍り込んでいた。
両手を大の字に広げ、歯を食いしばる。
レヴィアタン「いったい何のつもりかしら……?」
コルボー「……えっと」
『一方通行だったら』きっと今の彼のように、真正面から敵の攻撃を受け止め、弾き返そうとするだろう。
それがコルボーの想像力の精一杯であった。
もちろんそれはあながち間違いとは言えないものである。
致命的な問題点は、彼に超能力はないということであった。
- 417 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:09:03.02 ID:Ry400+Mho
- 『ダメ……早く逃げなくちゃ……!!』
レヴィアタン「今回ばかりはそこのダークエルフに同調するわね。
あなたがノコノコ出てきたところで、何も変わりはしないわ。
痛い目を見る前に早くどいた方がいいんじゃないかしら?
……もっとも、痛い目では済まさないけどね」
レヴィアタンがそう言って、フロストジャベリンに力を込める。
彼へとまっすぐ向けられた矛先が鈍く光るのを見て、コルボーは息をのんだ。
『どうして……』
うなだれるようにつぶやく正体不明の声を聞き、まったくだよ、とコルボー自身も心の中でひとりごちた。
先ほどの一撃の威力を見れば、一目瞭然だ。
彼はおろか、後ろにいる正体不明もろとも破壊されてしまうに違いない。
こうして仁王立って見たところで、別に何か変わるわけでもないのだ。
だが、それでも――
コルボー「僕は……僕は、逃げない!!」
- 418 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:10:02.94 ID:Ry400+Mho
- レヴィアタン「……はぁ?」
コルボー「確かに僕が出てきたところで、何も変わらないかもしれない……
でも、そうやって何もせず逃げて守られているだけなのはもう嫌なんだ!!」
そうだ。気づけば、いつもそうだった。
兄ミランとともにネオ・アルカディアから逃げたあの日からずっと、彼はいつも誰かに庇護され生きてきた。
誰かとは、兄ミランをはじめとする他のレジスタンス員であったり、何より一方通行だ。
しかし、彼はそれがいつも嫌だった。
なにも自分の力を認められないことが不服だったわけではない。
コルボー「僕はそんな風に生きるために、故郷に背を向けてまでレジスタンスに入ったんじゃない!!
目の前のことから目をそらして、口をつぐんで……
……『ただ生きている』だけなら、イレギュラーの方がマシさ!!」
レヴィアタン「……言いたいことは、それだけかしら」
一瞬あっけにとられたような顔をしていたレヴィアタンが再び槍を構え直し、力を込める。
しかし再度その矛先に光が宿る前に聞こえてきたのは、すさまじい地響きと、
そしてこの場にいる3人全員に聞き覚えのある、しゃがれた声だった。
「ぎゃっは、中々言うじゃねェかコルボーよォ」
- 419 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/02/04(土) 22:10:49.15 ID:Ry400+Mho
- レヴィアタン「この声は……!? くっ、邪魔はさせないわ!!」
さしものレヴィアタンも焦りの表情を隠せず、すぐさまフロトストジャベリンを強く握る。
そしてまさに光が剣先から飛び出さんというその瞬間――
コルボー「あっ……!!」
――床を突き破り、何者かがコルボーとレヴィアタンのさらに間へと割り込んできた。
「普通ならこンなところで油売っていやがる三下は即半殺しの刑だが……そいつは後回しだァ」
その何者かによって、発射されたはずの光線はまっすぐレヴィアタンの方へと反射される。
一方通行「さァて……楽しィ楽しィ死刑執行の時間だァ!!」
現れた文字通りの白き英雄の姿を見て、コルボーは思った。
彼が現れる時間稼ぎになったのなら、自分の行動は決して無駄ではなかったのかもしれない。
- 427 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga]:2012/03/01(木) 22:55:56.08 ID:GEfai5vmo
- コルボー「一方通行さん、どうして……!!」
驚きと歓喜が入り混じり、くしゃくしゃになった顔をのぞかせながら、コルボーは一方通行へ歩み寄った。
今にも彼の胸へかじりつくような勢いで、その潜水服に包まれた体を動かす。
一方通行「それはこっちのセリフだクソッタレ」
コルボー「あうっ!!」
しかしそれを見た彼は全く表情を変えず、向かい合ったコルボーの脇腹を蹴り飛ばした。
そしてそのまま後ろへ尻もちをついたコルボーのみぞおちのあたりを、げしげしと蹴りをいれつつなじり続ける。
一方通行「ノコノコこンなところまで出てきやがって、一体どういうつもりだァ……!?
オマエ俺の言ったこともう忘れやがったのかァ。ひょっとしてニワトリさンかなンかだったンですかァ!?」
コルボー「ちょ、痛っ……せ、潜水服が壊れ……!!」
一方通行「ンなの知ったことかオラ!!
どうせ『自分が正体不明を捕まえて予算を回してもらおう』とか言う魂胆だったンだろ!?」
コルボー「な、なんでそこまで知って……ごめんなさいぃー!!」 - 428 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/03/01(木) 22:57:02.79 ID:GEfai5vmo
- 何度ベクトル操作により威力の増強された蹴りを食らわせただろうか。
コルボーが本気で命の危機を感じ始めたころ、一方通行は腹部に与え続けていた衝撃をピタリと止めた。
一方通行「よかったなァ」
コルボー「へっ……?」
一言そう言って、一方通行は素早く後ろへと向き直る。
一方通行「オマエがいたから正体不明が助かったンだ。
……きっとコルボーチームには一番いい人員と武器が支給されることだろうよ」
コルボー「はっ……はいっ!!」
使えない同僚を持つと、苦労する。
褒めてやるという行為を通して、一方通行はレヴィアタンの言ったその言葉をかみしめていた。
- 429 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/03/01(木) 22:57:48.24 ID:GEfai5vmo
- 一方通行「それからオマエ」
『わ……私……ですか?』
ぶっきら棒に声をかけられ、氷の中で飛び上がるように反応したのは正体不明であった。
それはいつの間にか再び少女の姿を象り、一方通行と、不安そうに下腹部をさするコルボーを交互に見る。
一方通行「はン、ずいぶンと反応が良くなったじゃねェか。
それにしても、うちの奴がずいぶん迷惑かけちまった様だ。
……今も、昔も、なァ」
『!! 私のこと……覚えて……!!』
少女がはっとして声を上げたのも束の間、その声をかき消すような派手な音とともに、
人ひとり分はあろうかという瓦礫が落下した。
コルボー「これって……!!」
単なる瓦礫の落下にとどまらず、いくつものコンクリートの塊が崩れ始め、建物全体を鈍い揺れが包もうとしていた。
- 430 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/03/01(木) 22:59:13.59 ID:GEfai5vmo
- 一方通行「チッ……」
一つ鋭い舌打ちをしたかと思うと、一方通行はその拳で正体不明を包んでいた氷をかち割った。
『……!!』
一方通行「コルボー!! そいつを連れて早く逃げやがれェ!!」
コルボー「で、でも、一方通行さんは!?」
一方「俺は……」
一方通行が言いかけた瞬間、瓦礫と砂煙の入り混じったあたりから、鋭く、かつ鮮やかな青色が飛び出してきた。
その切っ先は彼の脳天を狙うもすぐさま反射され、後方へと吹き飛ばされそうになる。
しかし強烈な水流の後押しを受けてか、すんでのところでそれは体勢を立て直した。
レヴィアタン「まったく、一体どうなってるのかしら。
せっかくの狙いを定めた一撃を簡単に弾き返されるわ、
建物は崩れ始めるわ、冗談じゃないわね」
――荒く息を付き、右の腕で必死に槍を支える彼女は、既に左腕を肩口から失っていた。
- 431 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/03/01(木) 23:00:00.90 ID:GEfai5vmo
- 一方通行「ケッ、せっかく妙な光線を反射してやったってのに、もう一発撃って相殺でもしやがったのかァ。
わざわざ腕一本捨ててまで向かってくるとは……そンなに直に俺に壊してほしいのかァ?」
レヴィ「それは私のセリフ。どうしてもあなたは私の手で壊したくなっちゃったの。
……たとえ一本になっても、ね。
それにしても驚いたわ、こんなに早く追いついてしまうなんて……
私に分のある水中なら、ダークエルフを始末する時間くらいはあると思っていたのだけれど」
一方「舐めてンじゃねェぞ。オマエの邪魔さえなきゃ、水流を操って力任せに加速するくらいわけねェ。
レジスタンスのナビゲートでお前が静止した地点を狙えば……ってこった」
お互いに不敵な笑みを浮かべながら、一方通行とレヴィアタンは挑発を返し続ける。
ひと時たりとも予断を許さない緊迫した空気の中で、先に動いたのはレヴィアタンであった。
レヴィアタン「はああぁっ!!」
声を上げて、一方通行に向けて槍を突き立てる。
- 432 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/03/01(木) 23:00:42.95 ID:GEfai5vmo
- コルボー「一方通行さん!!」
一方通行「俺はこいつの相手をしてやる!! いいからオマエらはさっさと逃げろ!!」
コルボー「で、でも……!!」
と少し言いよどんで、しかしコルボーは正体不明の方へと振り返った。
コルボー「……行きましょう!!」
『いいんですか……? 一方通行さんが……』
迷いのない目で言い切るコルボーに対して、正体不明の少女は未だおびえる様な表情を浮かべる。
だがコルボーはひるまなかった。
コルボー「僕がいても、きっと役には立ちません。
それに、僕がここへ来たのはあなたを守るためですから!!」
『わかり……ました……!!』
そう言って、差し伸べられたコルボーの拳に、白く華奢な手のひらが重なった。
- 433 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/03/01(木) 23:01:55.61 ID:GEfai5vmo
- レヴィアタン「逃がさないわ!!」
『……!!』
それまで一方通行にのみ矛先を向けていたレヴィアタンが、
逃げ出そうとするコルボーらの気配を察知したのか、再び正体不明に狙いを定めた。
一方通行「もう、やめとけェ」
しかし両者の間に再び一方通行が現れ、レヴィアタンの視線をふさぐ。
レヴィアタン「そこをどきなさい……!!」
憐れむような表情の一方通行とは対照的に、
レヴィアタンの造形の整った顔は、今まで見せることのなかったような切迫した表情を見せていた。
力を込めるあまりか、過剰なエネルギー消費のためか、その腕は小刻みに震えている。
一方通行「どかねェよバカ。
もうそいつを俺に向けて打ってこねェってこたァ、
反射されてもさっきみたいに相殺する力も残ってねェンだろ?
……オマエもわかってるはずだァ。オマエじゃ、俺には勝てねェ。
それだってのに、何で逃げようとしねェンだァ?」
- 434 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/03/01(木) 23:03:34.60 ID:GEfai5vmo
- それは挑発ではなく、純粋な疑問であった。
目の前の彼女の状態を見れば当然のことだろう。
既に片腕をなくし、体表面のところどころから内部の機構が剥き出しになっているその姿には、
とても余裕があるとは言い難い。
窮地を装っているのだとすれば、、普通は何か秘策を持っていたり、
目いっぱい攻撃はせず、隙を見て逃げ出そうとしたりするものであるはずなのに――
レヴィアタン「……ふざけないで」
――いや、彼女の中に、一ヶ所だけこの危機を感じさせない場所があった。
レヴィアタン「だって、こんなに楽しい時間から逃げ出すだなんて、ありえないもの」
そう言って体勢を立て直すレヴィアタンの唇はつややかにそして鈍く光り、
細めた瞳の奥がとろりと、からまるように妖しく濁った。
- 435 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/03/01(木) 23:04:29.16 ID:GEfai5vmo
- レヴィアタン「でも、このままだとちょっとまずいわね……」
片腕の小脇に槍を抱えたまま、レヴィアタンは唇に人差し指を当て、斜め上を向いて考えを巡らせる。
少しの時間の後、彼女はフロストジャベリンを上へと突き立てた。
レヴィアタン「とりあえず……場所を移させてもらおうかしら」
言うが早いが、槍の切っ先から吐き出された光線が降り落ちる瓦礫ごと天井を貫いた。
そしてレヴィアタンは体をしならせ、開いた大穴からするりと抜け出ていく。
一方通行「チッ、結局逃げんのかァ!?」
一方通行は慌てて彼女の抜け出た大穴へ向けて飛び込んだ。
なぜ逃げないのか、と聞いた身ではあるが、
それは単に興味があってのことであって実際に逃がしてやるつもりは毛頭ない。
先ほどの言葉はただのブラフで、いまだに正体不明を狙っている可能性もあるのだ。
- 436 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/03/01(木) 23:06:10.42 ID:GEfai5vmo
- しかし、天井の穴を抜け出た一方通行を待ち構えていたのは、
二本の足で器用に立ち泳ぎをしながら、斜め上から彼を見下ろすレヴィアタンであった。
かろうじて互いの姿が確認できるくらいの位置で、そのすらりとした体を揺らめかせる。
レヴィアタン「私もファーブニルのバカが移ったのかしら……?
あなたを目の前にしたら、ダークエルフなんてどうでもよくなっちゃった」
槍刃に舌先を這わし、より妖美な表情を湛えた彼女はゆっくりと一方通行と同じ深さまで舞い降りた。
レヴィアタン「世界が滅びたとしても、あなたさえ倒せれば、私……とっても幸せになれそう。
さぁ、行くわよ……!!」
一方通行「……ぎゃっは、いいぜェ」
面白い。
たとえ自分も相手も人でないとしても、女からここまで言われるとは、男冥利に尽きるではないか。
一方通行「俺が最後まで責任もってイイトコ連れてってやるよ……あの世ってヤツまでなァ!!」
一方通行のアルカイックな雄叫びが響くとともに、二つの影がぶつかり合い、轟音を轟かせた。
- 443 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:10:07.64 ID:4J9vHvBto
- コルボー「よかった……どの機器にも異常ない、大丈夫だ……!!」
それまであわただしく潜水艦の中の機器を調べていたいじくっていたコルボーが、息をつくようにつぶやいた。
一方通行に促され、正体不明とともに潜水艦まで何とか逃げ込んだ彼は、
潜水服背中のジッパーから上半身が抜け出す格好のまま艦の状態を調べていた。
逃げろと言われたものの、肝心の潜水艦が故障してしまっていてはどうしようもないところであったが、
幸いにもその心配は杞憂であったようだ。
中身はそれほど精密でないにしても、丈夫さは引けを取らない。
これだから、何十年前に作られた代物でもバカにはできないのだ。
もっともコルボーはすでに、100年も前に作られた、
現在のものよりも精密でかつ頑丈な代物をも目にしているのであったが。
閑話休題、今最優先すべきことは――
『……機械の様子は、大丈夫のようですね』
彼の後ろで静かにたたずむ、この少女を守ることだ。
- 444 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:10:59.49 ID:4J9vHvBto
- コルボー「でも……本当に良かったのかい?」
だがコルボーは先刻から抱えていた疑念を思わず吐露した。
コルボー「この場所は……この学校は、君にとって罪を償うための場所だったんだろう?
確かに今ここは危険だけれど、これじゃまるで大切な場所を見捨てるみたいじゃ……!!」
最後まで言い切れずに、コルボーは息をのんだ。
『もう……いいんです』
向かい合った少女の顔は、今まで見せていたものとは打って変わったやさしい笑顔だったのだ。
『確かに私は、ここで一方通行さんを待つことが……私にできるすべてだと思っていました。
でも……本当はそうではなかった。
あなたを見て、わかったんです』
コルボー「へっ? 僕を見て?」
- 445 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:11:42.27 ID:4J9vHvBto
- 『あなたはあのネオ・アルカディア四天王の前に、私を守るために立ちふさがった……
絶対にかなわないことを知りながら、です』
コルボー(それはそうだけど、そうはっきりといわれるとどこか悲しいなぁ……)
『確かに私もあなたも結果的に一方通行さんに救われる形となりましたが……
あなたが信念を貫こうと行動したのを見て、私は気づいたんです。
……私がただ過去に恐怖し、過去に囚われてるのだということに』
コルボー「あっ……」
そうか、とコルボーは薄々ながら合点がいった。
彼女が敵と対峙した時――いや、未知のものと突然遭遇したとき叫ぶ、あの絶叫は。
『ダークエルフ』であるところ彼女が、数多のイレギュラーハンターに命を狙われ、
心に刻みつけられてしまった恐怖であったのだ。
- 446 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:12:23.38 ID:4J9vHvBto
- 『……ですが、私はもう過去を振り返りません。
今この状況を変えるために、少しでも努力しようと思ったんです』
そうはっきりと告げると、彼女の唇は真一文字に結ばれた。
『私の本当の名前は「風斬氷華」』
そこからは、もうであったころの恐怖に蝕まれた、憂いに支配された、『正体不明』の面影はない。
風斬「百年前、妖精戦争の発端となったダークエルフは……
……『もう一人の私』なのです」 - 447 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:13:23.57 ID:4J9vHvBto
- コルボー「もう一人の君、だって……!?」
その時、すさまじい音が響き、建物ごと潜水艦が激しい揺れに包まれた。
コルボー「う、うわっとっと!!」
コルボーがやや体勢を崩しかけたものの、大きな揺れは数秒で収まり再び鈍い揺れがあたりを支配する。
風斬「この揺れは、ひょっとして……!!」
他方、一人宙に浮き揺れとは無縁の少女が、はっとして正面モニターを覗き込んだ。
モニターから見える映像に映し出されたのは、
老朽化によってかこの建物の崩壊によってか生み出された壁の間隙。
しかし彼女が注目したのはそれではなく、さらにそこから垣間見える、ぶつかり合う二つの影であった。
一方は、必死の形相で槍から光線を放ち続けるネオ・アルカディア四天王。
そしてもう一方は、薄笑いを絶やさずそれをはねのけ続ける白髪の男。
さすがに二人の間で交わされる会話などは聞き取れないが、どちらが有利かは火を見るより明らかだ。
――未だに、一方通行には傷一つついていないのだから。
- 448 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:14:13.71 ID:4J9vHvBto
- 風斬「この様子なら、私たちが慌てて逃げ出す必要もないのでしょうか……?」
あまりに一方的なその光景に、思わず少女は楽観的な言葉をつぶやく。
彼女とてその力を見たことがないわけではなかったが、
百年という月日はその印象を掠れさせるには十分な時間だったのだ。
しかし、同じはずの光景を傍らで見ていたコルボーの表情は、彼女とはまったく逆のものであった。
コルボー「まずい……」
風斬「……えっ?」
コルボー「一方通行さん……楽しんでる」
確かに一方通行の能力は最強と呼ぶにふさわしい。
彼を満身創痍とさせたあのファーブニルという四天王が例外なだけであって、
彼とまともに戦って勝利できるレプリロイドは存在しないのではないか、と言っても言い過ぎではない。
- 449 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:15:07.32 ID:4J9vHvBto
- ただそれは、能力『一方通行』が発動している間だけの話だ。
一方通行本人はきっと気づいていないのだろう。
もう彼がこの潜水艦を後にして、1時間になろうとしていることに。
コルボー「だめだ、一方通行さん!! 早くあいつを倒さなきゃ……」
モニターの枠に掴みかかるようにして、コルボーは必死に一方通行へ意を示す。
しかし、ただ画面越しに訴えるだけでは彼に伝わるはずがない。
風斬「まさか、能力の制限時間が……?」
力なく頷くコルボーを見て少女は少し考えていた様子だったが、すぐさま彼へと向き直った。
風斬「それなら……私に手伝わせてください。
『あの人』と協力すれば、一方通行さんを助けられるかもしれません!!」
コルボー「う……うん!!」
あの人、とはなんなのかと疑問を持つまもなく、コルボーは少女に促され、
激震渦巻く海へと舵を取っていた。
- 450 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:15:50.33 ID:4J9vHvBto
- 一方通行「ぎゃっは!! いいねェいいねェまだそンだけ攻める体力が残ってンのかよ!!」
レヴィアタン「ぐっ……!! はあああぁぁぁ!!」
轟音を立て、ゆっくりと崩れ去ろうとする学校を尻目に、二人の戦いはまだ続いていた。
しかし、果たしてそれは戦いなどと呼べるものであるだろうか。
レヴィアタンが遮二無二に光線を打ち、一方通行がそれを片手一本でどこかへはじき飛ばす。
たったそれだけに集約されてしまうその攻防は、一見いつ終わるともなく繰り返されていた。
――惜しいな。
一方通行が、そう感想を持つまでは。
彼が光線を反射せず、わざわざあらぬ方向へはじいていたのには、一重にこの攻撃の正体に興味があったからだ。
当初その名の通り氷を操るものだとばかり思っていたフロストジャベリン。
その矛先から放たれる攻撃は、いわゆる『粒機波形高速砲』と呼ばれるものだろう。
粒子でも波形でもない、曖昧な状態の電子を操り、たたきつけることで絶大な破壊力を生み出す。
大体そんなところであろうが、一つ納得がいかない。
それはフロストジャベリン、という名前との整合性のことではない。
――なぜ彼女は光線という攻撃の形でしか、その能力を利用しないのか?
- 451 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:16:36.17 ID:4J9vHvBto
- 広範囲に出力すれば楯のように使うこともできるし、放射した力で高速回避をすることも可能だろう。
だが彼女はそんなそぶりを全く見せない。攻撃一辺倒なのだ。
つまるところ、彼女は――という結論をのみこんで、彼は一つ光線を弾き返した。
一方通行「もォいいかァ? ……そろそろオトシマエ、つけさせてもらうぜェ」
そうけだるそうに言うと、彼は素早く、真正面からレヴィアタンとの距離を縮めにかかった。
レヴィアタン「……くっ!!」
それを見たレヴィアタンも慌てて照準を一方通行へと合わせ、またしても光線を放つ。
一方通行「カカッ!! だからいい加減無駄なンだって理解しやがれェ!!」
迫りくる光に向けて、一方通行は勢いよく右腕を伸ばす。
今度こそは、正面へと弾き返してやるために。
一方通行「……ああン?」
――しかし、その手は光に届くことはなかった。
- 452 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:17:40.17 ID:4J9vHvBto
- 一方通行の手が光線へ接触する直前、彼の体に異変が起こった。
急速に力が抜け、全くいうことを聞かないのだ。
もはやベクトルを操作することはままならず、浮力を持たない彼の体はすぐさま海底へと沈んでゆく。
一方通行「クソっ……たれ、がァ」
反射するはずの光線が後頭部をかすめたことを見送って、彼は小さく悪態をついた。
ついに、エネルギーが底をついたらしい。
レヴィアタン「ようやく1時間、ってわけね」
一方通行「チッ……」
一方通行が海底面に肩から着地した頃合いを見計らって、レヴィアタンは彼にまとわりつくように近づき、不敵な笑みを見せた。
そして一心に睨みつける彼の眉間のあたりに槍を突きつける。
レヴィアタン「本当に残念。できればあなたの能力が切れてしまう前に、実力で勝ちたかったのだけれど……
私もネオ・アルカディア四天王。
瀕死のイレギュラーを生かしておく趣味は持ち合わせていないわ」
- 453 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:18:14.39 ID:4J9vHvBto
- フロストジャベリンが天へと掲げられる。
一方通行は必死に相手の出る行動を考えていた。
その切っ先で首を斬るつもりなのだろうか。
それとも光の一撃で体を粉々にするつもりだろうか。
しかしいずれだとしても、自分に勝ち筋を見出すことは難しい。
何しろ今彼は体を動かすことが困難であり、動かせたとしてもこの窮地を抜け出せるほどのことなどできるはずがない。
今こうしてわずかに残ったエネルギーで頭を働かせることすら億劫なのだ。
レヴィアタン「フフ、あなたをこの手で破壊できるって思うと、なんだかゾクゾクしてきちゃう。
本当に楽しかったわ。
そして……サヨウナラ」
一方通行「…………」
その声を聴くと同時に、一方通行は思考を停止した。
- 454 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:18:40.17 ID:4J9vHvBto
- だがそれは観念してレヴィアタンに身をゆだねたわけでも、
わずかなエネルギーすら尽きてしまったわけでもない。
彼は感じたのだ。
そう遠くない場所から、海流を派手にかき乱してこちらに接近する、一つの存在を。
彼には聞こえたのだ。
決して聞こえるはずのない、雄叫びのような声を。
遠くから接近する潜水艦から聞こえてくるそれは、
力強いわけではなく、むしろなよなよとした声であったが――
コルボー「うわああぁぁーっ!!!」
―― 一方通行の耳には、とてもよく響いた。
- 455 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:19:49.66 ID:4J9vHvBto
- レヴィアタン「なっ!?」
突如現れた潜水艦に虚を突かれ、槍を振り下ろさんとするレヴィアタンの手が一瞬止まった。
その隙を逃さず、二人の間に飛び込んだそれは素早く腹部のアームで一方通行をつかみあげる。
一方通行「悪ィな、あばよ」
そんな言葉をかき消す勢いで、一方通行を回収した潜水艦は瞬く間に姿を消そうとしていた。
レヴィアタン「くっ……あの汎用レプリロイドのイレギュラーね……!?」
巻き起こされた砂煙に顔をしかめながらも、レヴィアタンは彼らの行く先を血走った瞳で睨みつける。
レヴィアタン「絶対許せない……この私をコケにした罪の重さ、思い知らせてあげなくちゃ……!!
そしてその後があなたの番よ、一方通行……!!」
潜水艦を追って、レヴィアタンがすさまじい速度で追尾を始めたのはほんの数秒の後であった。
- 456 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:20:19.38 ID:4J9vHvBto
- 一方通行「コルボー、オマエ……余計なことを」
間一髪、潜水艦に助けられた一方通行は、
その内部で座席にもたれかかりながら、目に角を立ててコルボーに迫った。
コルボー「あーもう、少しは大人しくしててくださいよ一方通行さん!!
ただでさえエネルギー切れ寸前だっていうのに、これ以上どうかされたらたまりませんよ!!
前の時みたいにぼろぼろにまでなられたら、シエルさんに怒られるのは僕なんですからね!!」
しかし隣で舵を取るコルボーは彼へと視線を向けることもなく小言を連ねていく。
一方通行が能力を使えない今でしか言えないことばかりなのは秘密であるが。
風斬「……!! 一方通行さん、後方モニターを見てください!!」
二人の席の後ろから覗き込んでいた少女が、不意に声を上げた。
それを受けて、一方通行とコルボーの視線が潜水艦の背面から見える映像を映し出すモニターに集まった。
そこに映し出されていたのは、とてつもないスピードでその姿を近づけていく一体の人影であった。
片腕に棒状のものを持つそれは、妖将レヴィアタンに他ならない。
- 457 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:21:03.38 ID:4J9vHvBto
- 一方通行「まったく、しつこいじゃじゃ馬だァ」
コルボー「感心してる場合ですか一方通行さん!!
これじゃ追いつかれるのは時間の問題ですよ……
は、早く何とかしてください、えーっと……風斬さん!!」
一方通行「風斬? そういやオマエ、そンな名前だったか……
つか、オマエがどうにかするってのはどういうことだァ?」
風斬「私の力を使えば、テレポートしてあなたたちの拠点……
レジスタンスベースというところまで運ぶことができます。
ですが……」
少女はあまり由々しくないような表情で、迫りくるレヴィアタンの姿を見る。
風斬「力の正確さにはあまり自信が持てません。
この距離では、あの四天王もテレポートに巻き込んでしまうかも……」
- 458 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:21:44.88 ID:4J9vHvBto
- 一方通行「ぎゃっは、コイツはいい。
ご丁寧に奴をベースに招待して、レジスタンスは全滅ってわけかァ」
コルボー「全然よくありませんよ!!
とにかく一旦どこかに隠れないと……」
一方通行「……要するに、アイツを遠ざけりゃいいンだろォが」
そうぽつりと言うと、一方通行はコルボーの肩に捕まるようにして立ち上がり、潜水艦の上部ハッチに手をかけた。
一方通行「ちょいと水が入り込むかもしれねェ、気をつけろよ。
……それから風斬とか言ったなァ。奴がオマエの力の圏外に入ったら、すぐさまテレポートを頼むぜェ。
俺ももうあンまりもたねェからなァ」
風斬「はっ……はいっ!!」
コルボー「一方通行さん、一体何を……!?」
一方通行「なァに……ちょっとした、試し打ちをなァ」
ニヤリと笑いながら言う一方通行の右手には、ミランの形見のバスターが握られている。
その柄には、激しく燃え上がる模様のチップが装着されていた。
- 459 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:22:54.56 ID:4J9vHvBto
- レヴィアタン「もう逃がさない……最大出力で、あなたたちを貫いてあげる」
一方通行らを乗せた潜水艦の後方。
その姿がはっきりとらえられるか否かの、つかず離れずの距離をレヴィアタンは潜水していた。
右腕で、体と垂直に構えられたフロストジャベリンの矛先には光が集まり、その力を増幅させていく。
レヴィアタン「!! あれは……」
そのさなか、彼女の視線の先――潜水艦の上に、奇妙な人影が現れた。
一方通行「――――」
はっきりとは確認できないが、おそらく一方通行であるのは間違いないであろう。
両手に小銃の様なものを構えたかと思うと、その銃に光が集まっていく。
レヴィアタン「あれは……光る十の武具!?
いえ、キザ坊やの話では彼が持っているのはゼットセイバーのはず……
……フフ、どちらでもいいことだったわね。
これで、最後。真っ向勝負ならば、望むところよ!!」
フロストジャベリンが一方通行へとまっすぐ向けられ、その切っ先から最大級の光線が放たれた。
- 460 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:23:20.84 ID:4J9vHvBto
- 一方通行「……充電完了、かァ」
フロストジャベリンから一撃が放たれる直前、一方通行のバスターにもチャージが完了していた。
痛いほどに光を放つそれを眼前に構え、彼は思う。
レヴィアタンはおそらく負けたことが――いや、窮地に立ったことがほとんどないのだろう。
確かに彼女の使う『原子崩し』の力は強力だ。
だが、ただそれだけだ。
彼女には力を応用したり、工夫したりという気持ちが全く感じられなかったのだ。
考えてみれば、当然かもしれない。
常に敵を一撃で倒すことができるならば、何も考える必要などないのだから。
だから自分の様な、その能力が全く通用しない相手と出会っても、単純な力押しで解決しようとしてしまうのだ。
- 461 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:23:49.01 ID:4J9vHvBto
- そんな奴に、自分が負けてたまるものか。
記憶はなくとも、体に刻み込まれた苦い敗北の数々。
それが今の彼の強さを作っているのだから。
一方通行「次会うときゃァ、もっと自分の力を研究してくンだなァ」
前方遠くから、光の筋がまっすぐと向かってくる。
それを確認して、一方通行も引き金に力を込めた。
一方通行「もっとも……次何かがあンのかは知らねェがなァ!!」
その小さな銃身から放たれた炎のチャージショットは轟音を上げてフロストジャベリンの光線と衝突し、
かき消すようにそれを貫いた。
- 462 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:24:14.36 ID:4J9vHvBto
- レヴィアタンは目を疑った。
自らの放った最大出力であるはずの攻撃が発射直後にかき消されたのだ。
そしてその代わりとばかりに、一直線に彼女へと向かう紅蓮の炎の筋。
それを目の前にして、彼女になす術は何もなかった。
レヴィアタン「きゃああああぁぁぁぁっ!!!」
チャージショットに正面からまともに被弾した彼女の体は、衝突の爆風によって吹き飛ばされ――
――はるか後方、もはや完全に崩れ去った学校であった瓦礫の山へと追突した。
- 463 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:24:40.33 ID:4J9vHvBto
- コルボー『一方通行さん、目を覚ましてください!!』
一方通『……ああン?』
気づけば一方通行とコルボーの二人は奇妙な場所にいた。
それはすでに二度ほど目にした、何もない真っ白な空間に似ていて、どこか違うような場所だった。
風斬『ここは11次元空間……先ほどの場所と、テレポート先の場所とをつなぐ空間です』
不意に二人の目の前に、少女が現れた。
立体映像が現れる様な、頭から体が構成されるような登場に、この場所が普通の場所でないことを確認できる。
しばらくどこともない方角を眺めていた少女は、ふとつぶやいた。
風斬『ドクター・バイル。あの男は、そう名乗りました』
一方通行『……誰だ、ソイツはァ?』
風斬『……やはり一方通行さんはあのころの記憶を失ってしまっていたのですね。
ドクターバイル……彼こそが、ダークエルフを作り出し、妖精戦争を引き起こした張本人なのです』
- 464 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:26:25.50 ID:4J9vHvBto
- 少女は改めて、ドクター・ヘヴンキャンセラーが一方通行へ知らせようとしたこと、そして彼の謝罪の気持ちを伝えた。
そして少女の本当の名前が『風斬氷華』であること、ダークエルフとはもう一人の彼女自身であること、
そもそも彼女は何者であったか――ということも付け加えられた。
もともと彼女はAIM拡散力場と呼ばれる超能力者が無意識に発する力の集合体であった。
AIM拡散力場が人の形をなし、自我を持ったもの。それこそが風斬氷華という存在だった。
それだけでなく、彼女には強大な力があった。
『正体不明』――それはもともと彼女がもつ驚異的な身体能力、超人的な特殊能力を指す言葉だったのだ。
風斬『そのことに目を付けたのが、学園都市のある研究者でした。
「バイル」――自ら「下劣」と名乗った彼は私からその能力だけを抜き出し、一つのサイバーエルフを生み出したのです。
私が無意識に制御していたその能力を完全に引き出した彼にとって、
世界中にレプリロイドの反乱を引き起こすことは簡単なことでした……』
コルボー『それが妖精戦争の引き金になったダークエルフっていうことだったのか……
確かにそれなら、ダークエルフと全く同じ反応を持つ君がネオ・アルカディアに追われるのもわかる』
一方通行『しかし、そのバイルとかってやつが作ったのはダークエルフだけじゃねェンだろ?
オメガ……そいつは一体何者なんだァ?』
- 465 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:27:35.66 ID:4J9vHvBto
- 風斬『オメガは、ダークエルフと同様にバイルによって作られた存在です。
強大な力を持つオメガは、ダークエルフの力によってイレギュラーと化し……妖精戦争へ投入されました。
妖精戦争による被害の半分以上はオメガによるものであると言っても過言ではありません』
コルボー『そ、そんな……!!』
風斬『しかし、一方通行さん、あなたたちによってオメガは倒され……
ドクターバイルもまた極刑に処せられたことで、妖精戦争は終結したのです』
一方通行『……本当にそれだけ、かァ?』
一方通行にはどうも釈然としなかった。それは、ドクター・べヴンキャンセラーについてのことだ。
確かに彼の言い分は理解できる。彼がサイバーエルフなどというものを作らねば、妖精戦争は起こり得なかったのだろう。
しかしそれにしては――
一方通行『何でその俺の生みの親っつーのは、俺にそンなに謝りやがるンだァ。
オマエ、何か俺に隠してることあンじゃねェのかァ?』
そうだ。どちらかといえば彼が本当に謝るべきなのは全地球の人類、そしてイレギュラーにされてしまったレプリロイドたちの方である。
もちろんすべての人間とレプリロイドに謝罪すべきだとしても、一方通行に謝罪をするのはお門違いというものだ。
- 466 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:28:19.69 ID:4J9vHvBto
- 風斬『……何も……ありません』
一方通行の鋭い詰問に、少女は若干顔を引きつらせる。
これは何かあるな、と確信した一方通行であったが、さらなる追及は別の声に遮られた。
『そうそう、別になんにもないわよ。それよりも問題なのは……
「ダークエルフは生きている」ってことかしらね』
三人の間に現れた、もう一人の人物。
『……つーかさっきから黙って見てれば、なにやってんだか』
見た目は、柔らかにカールする栗色の髪に象徴させるような、落ち着いた女性である。
『あんな私の力を碌に引き出せもしないやつ、さっさとぶっ壊しちまえばいいものを……
100年も眠ってれば第一位も腑抜けになるってか』
しかしその言動は落ち着いているとは言い難い、乱暴で粗野なものであった。
一方通行『こっちこそ黙ってきいてりゃ、ずいぶンないい様じゃねェか。
……つか、誰だオマエ?』
麦野『……っと、そういや私のことは全部忘れちゃってるんだっけ。
私の名前は麦野沈利。学園都市第4位、「原子崩し」よ』
- 467 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:29:11.93 ID:4J9vHvBto
- 同刻――
うず高く積みあがった瓦礫の山の中腹から、一つの人影がよろめきながら這い出した。
レヴィアタン「生きてる、か……」
既に傷だらけの状態ながらフロストジャベリンをしっかり握る彼女であったが、
数歩分をフラフラと進んだかと思うと、不意に崩れ落ちるように倒れこんた。
それでも考えるのは、自分を完膚なきまでに負かした男のことであった。
あれだけの出力のバスターなら、彼女を一撃で倒すこともできたはずであろう。
なぜ殺さなかったのか。彼自身満身創痍であったことを差し引いても結論は一つだ。
レヴィアタン「手加減した、ってわけかしら。……なめられたもんだわ。
今度会うときは、遠慮なんかいらないわ。あなたの本気を見せてちょうだい……ね」
そうつぶやき、体を完全に地面にゆだねた彼女の表情は、どこか満足げなものだった。
- 468 : ◆x8SZsmvOx6bP[saga sage]:2012/03/28(水) 18:30:33.36 ID:4J9vHvBto
- ファントム「……妖将レヴィアタンを確認。これより転送作業に入る」
レヴィアタンが機能を停止した直後、どこかからか不意に一体のレプリロイドが現れた。
ファントム「決戦の日は、近い……
その前に拙者が奴を……『一方通行』を見極めねば」
黒を基調としたボディに、白い仮面を付けたような『隠将』ファントムがそうつぶやく。
それと同時に二人の体が瞬時に消え、辺り一帯を静寂が包んだ。
【MISSION.4:COMPLETED】
- 486 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:20:10.57 ID:YQ19khGeo
- アルエット「ど、どう、あくせられーた?」
恐る恐る尋ねるは、少女・アルエット。
一方通行「……悪くねェな」
そして彼女の目の前に座る、黒色の液体を口に運ぶ男―― 一方通行は、ため息をつくようにつぶやいた。
レジスタンスベース内の一室。
先のミッションから戻って間もない一方通行を呼び出したのは、他でもないこの部屋の主、アルエットであった。
彼女にとってはいささか大きい金属の机椅子と、横たわったカプセルの様な形状のベッドがある他、
大したものもない部屋の中に、香ばしいコーヒー豆の香りが漂っている。
そのがらんどうの部屋に、二人は向かい合って座っていた。
しかしもう一人、室内には、一方通行にとってはアルエット以上に気になる人物が存在していた。
彼とは反対側、アルエットの右隣に座り、無表情にE缶に刺さったストローをすするレプリロイドの少女。
ミサカ「……なるほど、これがエネルギーの摂取ということですか、とミサカは一心に液体を体内に取り込みます」
その姿は、あの御坂美琴に瓜二つであった。
上記三者によりこの室内に漂う奇妙な空気は構成されているのであったが、その詳細を語る前に、
まずは一方通行がいかにしてレジスタンスベースへと舞い戻ったかを記さねばならないだろう。
さかのぼること、3時間前。結論から言えば、彼は気づいた時にはすでにこの地にいたのである。
- 487 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:21:46.62 ID:YQ19khGeo
- 一方通行『ダークエルフが生きている、だと?』
11次元空間。一方通行、コルボー、そして風斬の三人の前に突如現れた、
学園都市第4位、「原子崩し」が強調したその言葉を一方通行は思わず繰り返した。
ダークエルフ―― それは百年前の妖精戦争でドクターバイルと名乗る科学者が産み出し、
戦乱のすべての発端となった存在。
そして、風斬氷華の能力そのものを抜き出した存在である。
しかし戦争末期、英雄らによってダークエルフは滅ぼされ、戦争は終結した。
――これがこの時代に暮らす人々が知っているはずの、英雄伝説である。
だが彼女が語ったその言葉は、これを根本から覆すものであったのだ。
一方通行としても簡単にうのみにできるわけがなかった。
一方通行『オマエ、何か勘違いしてねェか?
ここにいる風斬は確かにダークエルフの片割れみてェだが、
ダークエルフそのものじゃねェ。
ネオ・アルカディアの奴らが勝手に間違えやがっただけの話だァ』
- 488 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:23:20.64 ID:YQ19khGeo
- そう話す一方通行に全く怖気づく様子もなく、原子崩しは腕を組み、口を開いた。
麦野『確かに、その通り。……でも、やはりそうとしか考えられない。
幻想殺しが「妹達」を集めたところで、ダークエルフがいない今、
できることはたかが知れているわ』
一方通行『だからってダークエルフがまだ生きてるっていうのかァ?』
第4位だか何だかは知らないが、これだから女はいけない、と彼は嘆いた。
自分も相手も、推論であることに変わりはないのだが、
いつも自分の身勝手な、都合のいい結論を押し付けるのは女の悪い習性だ。
麦野「……それを確認するために、私はここに出向いたのよ」
だがそんなため息交じりの彼の言葉を歯牙にもかけないかのように、
原子崩しは表情を変えずに風斬の方へと向き直った。
麦野『教えてもらえるかしら。アンタならわかるはずよ。
今、ダークエルフがどこにいるのか……』
- 489 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:26:37.48 ID:YQ19khGeo
- 風斬『……!!』
コルボー『ど、どういうことですか!?』
麦野『単純な話。この子とダークエルフが元々同一個体だったのなら、
その生体反応を感知して生きているか死んでいるくらい判別することはたやすいはず。
……さあ、教えてもらおうかしら、ダークエルフが今、どこにいるのか……!!』
右手を差し伸べるように突き出す原子崩しの鋭い眼差しに対し、
風斬『……それは……!!』
それを向けられた風斬の視線がとても穏やかには見えないことは誰の目にも明らかだ。
コルボー『……風斬さん、教えてくれませんか?』
しかして、この沈黙を打破したのはかすかに震えるコルボーの声であった。
- 490 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:27:26.81 ID:YQ19khGeo
- コルボー『あなたが知っていることがどれだけすごい情報なのか、正直僕には思考回路が追いつきません。
でも、きっと大丈夫です。だって、僕たちには一方通行さんがいますから!!
一方通行さんならダークエルフだろうが幻想殺しだろうがやっつけてくださるに決まってます!!
……だから、お願いです、知ってることを教えてください!!』
一方通行『コルボー……』
まったくどいつもこいつも身勝手だ、と一方通行には笑いがこみあげてきてしまった。
だが、その尻拭いをすべて一手に引き受けようと誓ったのも確かだ。
一方通行『風斬、コイツの言うとおりだ。
たとえダークエルフが生きていようが何だろうが、もう一度ぶっ倒してやりゃいいだけじゃねェか。
そのために、協力してくれねェか』
風斬『一方通行さん……わかりました。
……お教えします、ダークエルフのいる場所を』
麦野『ってことはやっぱりダークエルフはまだ生きているってことね?』
風斬『はい。……しかしその反応がはっきりと感知できるようになったのは数年前からのことです』
一方通行『数年前、だとォ?』
風斬『戦争が終結した当時には、私もダークエルフは消滅したものだと思っていました。
生体反応が完全に感知できなくなったからです』
- 491 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:28:28.91 ID:YQ19khGeo
- ―― それはまるで何かに遮断されたようであった、と風斬は語る。
突如途絶えたダークエルフの反応に、彼女自身も一度は戦争の終わりに胸をなでおろしていたのだ。
しかし戦争後、気が遠くなるほどの時間の後に、突如彼女の背中を冷たい悪寒が走った。
完全に途絶えたはずのダークエルフの反応が再び感知されたのである。
コルボー『そんな、どうして今になって……?』
風斬『それはわかりません……
地球の裏側に隠れようとも反応を追うことは可能なはずなのに』
麦野『なぜ反応が再び検出されたのかはこの際問題じゃないわ。
重要なことは、ダークエルフが確かに生きていること。
そして……』
一方通行『奴が今どこに潜んでいやがるのか、かァ』
コルボー『そ、そうだ!! 風斬さん、ダークエルフは一体今どこに……?』
- 492 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:29:19.42 ID:YQ19khGeo
- 風斬『ダークエルフの反応が感知された場所。そこは、おそらく……
……ネオ・アルカディアのエリアX、ユグドラシルの塔。
幻想殺したちの本拠地です』
――重苦しく、息交じりに発せられた風斬の声に、その場の全員が言葉を失った。
- 493 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:30:12.87 ID:YQ19khGeo
- ―― 一方通行の記憶はそこで終わっている。
彼とコルボーはレジスタンスベースの入り口付近に倒れていたところを発見され、今に至る。
11次元空間はテレポート先とをつなぐ空間ということからして、
なるほど風斬がここまで運んでくれたのであろう。
そして能力をほとんど失った彼女の代わりに原子崩しが力を貸してくれたおかげで、
今自分たちはここに存在している。
これらのことはすべてコルボーが後から教えてくれたことだ。
実は完全にエネルギー切れを起こし意識を失った一方通行に対し、
コルボーはテレポートが完了するその瞬間まで意識を保っていた。
彼が言うには、原子崩しは気を失った一方通行に悪態を付きながら、
まんざらでもなさそうな顔で消えていったらしい。
風斬にはともにレジスタンスベースで暮らさないかと誘ったらしいが――
――またいつネオ・アルカディアに狙われて迷惑をかけるかわからないからと、
彼女もまたどこかへ消えて行ってしまったそうだ。
きっとコルボーは下心を見透かされてしまったのだろう。
- 494 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:30:49.22 ID:YQ19khGeo
- いずれにしても、彼女があの場所だけに囚われず、自由になったことは喜ばしいのだが。
ネオ・アルカディアの追手については気がかりなばかりだ――
アルエット「ねぇ、あくせられーた!!」
――と、そこで彼の思考は向かいに座る少女の声で遮られた。
一方通行「ンだよ、そンな近づかなくても聞こえるっつの」
ミサカ「……それは嘘です、とミサカはあなたを糾弾します。
先ほどから彼女の呼びかけに全く応じず、考え事をしているようでした」
不意にアルエットの右隣から声が飛んできて、一方通行は顔をしかめた。
考え事をして話を全く聞いていなかったのは確かである。
一方通行「あァあァうるせェなァ。一体何の話だってンだァ?」
アルエット「もうだから、ミサカのレプリロイドの体がやっとできたのって言ってるじゃない!」
- 495 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:31:20.99 ID:YQ19khGeo
- そう、アルエットの隣に座る、少女レプリロイド。
その正体は何を隠そう、あの『妹達』の一人、ミサカであった。
学園都市第3位、『超電磁砲』の外見はそのままに、
その身を包む服装はブラウンのブレザーにワイシャツ、リボン、チェックのスカート、
紺色のソックスそしてローファーと、いわゆる100年前の学生服スタイルにコーディネートされている。
ミサカ「……そんな風にじっと見つめて、ミサカの顔に何かついているのでしょうか、
とミサカは小首をかしげます」
一方通行「……!!」
はっとして、思わず一方通行は視線を手元のコーヒーカップへと移す。
アルエット「あはっ、あくせられーたったら、ミサカがかわいいから見とれちゃったんだ!!」
何をバカな、そんなわけあるか――という言葉を、
一方通行「チッ……」
舌打ちで表し、彼はアルエットをにらみつけた。
- 496 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:31:52.77 ID:YQ19khGeo
- アルエット「ひゃっ!? そ、そんな怖い顔しないでよぅ」
ビクリ、と痙攣するようにアルエットが体を引いたのに満足して、
一つため息をつきながら、一方通行は視線をななめ上の壁へと向ける。
ひとえにいえば、ここ最近のレジスタンスのエネルギー不足の一端はミサカにある。
すなわちそのレプリロイドの肉体の開発に、かなりの量が費やされたのだ。
それに加え学生服まで用意したとあれば―― そもそもどこから仕入れたのかもわからないが――
余計に手間がかかるのも当然であろう。
そして、そんなことをしていては、『彼女』が体を壊してしまうのも無理ない。
一方通行「まったく、世話のかかる奴だァ」
思わずそうひとりごちて、彼は壁に向けた視線を変えることなく縦肘をついた。
- 497 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:32:53.19 ID:YQ19khGeo
- アルエット「ひゃっ!? そ、そんな怖い顔しないでよぅ」
ビクリ、と痙攣するようにアルエットが体を引いたのに満足して、
一つため息をつきながら、一方通行は視線をななめ上の壁へと向ける。
ひとえにいえば、ここ最近のレジスタンスのエネルギー不足の一端はミサカにある。
すなわちそのレプリロイドの肉体の開発に、かなりの量が費やされたのだ。
それに加え学生服まで用意したとあれば―― そもそもどこから仕入れたのかもわからないが――
余計に手間がかかるのも当然であろう。
そして、そんなことをしていては、『彼女』が体を壊してしまうのも無理ない。
一方通行「まったく、世話のかかる奴だァ」
思わずそうひとりごちて、彼は壁に向けた視線を変えることなく縦肘をついた。
- 498 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:33:27.86 ID:YQ19khGeo
- ミサカ「……? やはりこんな余計な手間をかけてまで体を作ってもらうのは迷惑だったのでしょうか、
とミサカは手放しで喜んでいた自分を恥じます。
ミサカは丁寧に各方面にお礼を言ったつもりだったのですが……」
アルエット(えっと、多分これはそういうことじゃないと思うよ)
一方通行の言葉を自分への非難だと勘違いし悲しそうな顔をするミサカに耳打ちをし、
アルエットはミサカに促し、彼に背を向けひそひそと話し始めた。
アルエット(もう……あくせられーたも素直になればいいのにね)
ミサカ(?? つまりどういうことですか、とミサカは状況を把握しかねます)
アルエット(それはもちろん、シエルおねえちゃんのことを心配しt……)
一方通行「……アルエット」グイ
アルエット「ひゃいっ!?」ビクッ
一方通行「オマエ……また何か余計なことをミサカに吹き込もうとしてんじゃねェだろォなァ?」
- 499 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:33:59.05 ID:YQ19khGeo
- アルエット「ま、まさかそんなわけないよあくせられーた!!」
ミサカ「まったくです、今ミサカたちはあなたとドクター・シエルについて真剣に考えていたところなのです、
とミサカはやや興奮気味に内情を吐露します」
アルエット「だからそれは言っちゃだめえええぇぇ!!」
一方通行「ほォ……俺とシエルがどォしたってンだァ?」
ニタリ、といやらしい笑顔を浮かべながら、一方通行はアルエットの体を自分の正面へと向かせ、
その顔に自分の顔を近づけていく。
もしアルエットが人間であったとしたら、彼女の額は冷や汗と緊張でめちゃくちゃになっているところであろう。
そうでなくても、彼女の心中が穏やかでないのは確かである。
その荒れ果てた思考回路からかろうじて導き出せた言葉は、たったの4文字であった。
アルエット「お……」
一方通行「お?」
アルエット「お見舞い!!」
- 500 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:34:52.77 ID:YQ19khGeo
- 一方通行「……はァ?」
アルエット「そうだよ、シエルおねえちゃんのお見舞いに行こうよ!!」
そういうが早いが、アルエットは一方通行の手を逃れ、一目散に部屋の入口へと駆け出した。
一方通行「おいコラ、待てちやがれェ!!」
アルエット「ほらほら早くぅ!」
一方通行の制止も振り切り、気づけば部屋に残されていたのは彼とミサカの二人だけであった。
一方通行「ったく、バカ言ってンじゃねェ、何で俺がわざわざ……」
ミサカ「おや、ドクターシエルの元へは向かわないのですか、とミサカはあなたに純粋な疑問をぶつけます」
一方通行「……行くしかねェだろォが。
あいつをそのままにしてたら今度はシエルに何を言いやがるかわからねェからなァ」
- 501 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:35:19.43 ID:YQ19khGeo
- ミサカ「ふふっ、そうですか、とミサカは意味深な笑みを浮かべます」
一方通行「オマエは来ないのかァ?」
ミサカ「ミサカはそろそろドクターセルヴォに整備していただく時間ですので。
それに……」
ミサカ「せっかくの時間を邪魔するのは野暮、というものでしょう?
とミサカは不器用ながらも空気を読みます」
一方通行「俺にはオマエが何を言ってるのがさっぱりわからねェが……
来ねェってンなら勝手にしろよ」
そうぶっきらぼうに言うと、彼は乱暴に頭をかきむしりながら入口へと歩く。
そして開けっ放しになっていた扉のふちに手をかけたところで、何か思い出したように、
振り向かないまま踏みとどまった。
一方通行「いい忘れてたぜ。よかったな」
ミサカ「……?」
一方通行「よかったなァって言ってンだよ、また昔みてェにレプリロイドの体に戻れてよ。
……じゃァ、な」
- 502 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:36:27.98 ID:YQ19khGeo
- ミサカ「今のは、一体どういうことなのでしょうか、とミサカは彼の真意を図りかねます」
一人、ぽつねんとアルエットの部屋に残された彼女は、椅子に座り、正しい姿勢のまま考えを巡らせた。
それは別に、一方通行が自分に向かってかけた言葉が珍しく優しかったからではない。
彼が百年前の記憶をなくしていることは知っている。
しかし仮に彼が知らなかったとしても、この公然の事実を誰も教えないとは考えづらい。
つまりはこのことを知るものが一人もいないのだ。
そのことが意味するのは何か。
何者かが隠ぺいした? 一体何のために?
確かに目覚めてから今まで何か会話がかみ合っていないようにミサカは思っていたのだが、
その原因がようやく判明したような気がした。
この時代の人々は、皆勘違いをしている。
ミサカ自身も、幻想殺しも、そして一方通行をはじめとする学園都市の超能力者も。
皆レプリロイドであったと思っているのだ。
- 503 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:38:11.46 ID:YQ19khGeo
-
――彼らは例外なく、全員人間であったというのに。 - 504 : ◆x8SZsmvOx6bP[sage saga]:2012/08/13(月) 23:46:36.40 ID:YQ19khGeo
- といったところで今回の投下は終了です。
もう10数レスほど日常編が続き、MISSION.5へと続いていきます。
投下ペースはまた月1以下に戻ってしまうかもしれませんが、
気長にお待ちいただきたいと思います。
ふと気づいたんですが、シエルが倒れた的な記述をしたのは
今年の1月のことだったんですね、みなさん覚えてるのかな……?
とにかく次回はお見舞いに行きます。
キャッキャウフフは……このSSではあまり期待しないでください。
ではこの辺で、見てくれた人、ありがとう!!
- 506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/14(火) 00:01:21.56 ID:XNhUXBfDO
- リアルタイム
待っててよかった - 507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[sage]:2012/08/14(火) 00:58:56.06 ID:+d8nSWKc0
- リアル遭遇乙!
- 508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/14(火) 08:56:36.86 ID:maEnclZDO
- 乙乙
- 514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[sage]:2012/09/28(金) 14:39:10.12 ID:ORNB4qK70
- そろそろかな…まだかな
- 515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/11/02(金) 23:06:25.42 ID:c07Q9mTIo
- そろそろか?
2014年2月11日火曜日
一方通行「俺は悩まねェ。目の前に敵が現れンなら……叩き斬るまでだァ!!」
ラベル:
クロス,
とある魔術の禁書目録,
一方通行
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