2014年7月20日日曜日

上条「そこのおねーさん! お茶しない?」 麦野「あん?」 2

499第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:01:10.36 ID:QOZdPDBso
「…よし、始めるか」

『暗部』から連絡があった狩猟解禁時間、午前0時。
麦野沈利の短い一言で、『アイテム』が動き始めた。

麦野のマンションに集まっているのは、麦野、上条、絹旗、滝壺、そして浜面の5人だ。

「まずは平行して情報を集めるわよ。
 絹旗はネットの深いところからターゲットの目撃情報を検索。
 滝壺は『能力追跡(AIMストーカー)』でターゲットを検索。 …始めろ」

麦野の言葉に、絹旗と滝壺が無言で頷き、それぞれの操作に入る。

本来、PC関連の情報収集はフレンダが得意なのだが、現在リタイヤ中なので絹旗が担当となる。

「ええと、まずはネットの噂話サイトや尋ね人サイト、『書庫(バンク)』経由の超監視カメラ履歴からですね…
 流石に隠れて移動しているでしょうけど……」
「………………」

絹旗は、1つ1つ動作を確認するように、ぶつぶつと呟きながらPCを操作し、
反対に滝壺は体晶をひと舐めしてからは彫像のように動かない。

しばらく、全員が無言の時を過ごす。
しかし、ほどなく絹旗と滝壺が、同時に「あれ…?」と戸惑った声をあげた。

「どうした?」
「いえ… 超ダメモトで、尋ね人サイトの掲示板に画像無しで依頼レスをだしたんですが… ほら、見てください」

絹旗が指し示すPC画面には、数十件の新着レスの表示があった。

「依頼して数分で超えらくレスがついてます… 内容は…… えっ、画像あり?」

簡単にウィルススキャンして添付された画像を開く。
すると、ひと目で写真の男女と分かる、壮年男性と少女が歩いている画像が表示された。

「…ご丁寧に、地図情報までありますね。ええと、第3学区ですね」
「他のレスは?」

麦野の指示に、絹旗が次々にレスを開いていく。

「……超予想通りですが、どれもこれも超画像付きの位置情報ですね。
 これは12学区、これは14学区… うへぇ、全学区分ありますよ、コレ」

うんざりした表情で絹旗が言う。

「あからさま過ぎて、逆に超怪しいですね。撹乱にしちゃ、やり方が超稚拙です」
「情報の発信源は?」
「いちおー逆探してますが、超100%デコイですよ、これ? 無視するのが一番です」

絹旗がPC画面のウィンドウをいっぺんに消す。
麦野も絹旗の意見に賛成のようで、「でしょうね…」と呟いた。
500 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:01:46.77 ID:QOZdPDBso
「しかし、発電能力者(エレクトロマスター)らしいと言えば、らしい撹乱の仕方ね。
 どこの端末から情報をばら撒いているのか分かればいいけど……」
「餅は餅屋。いわばネットは相手の土俵ですから、超ダメモトで考えるべきですね」

そう言って、絹旗と麦野が滝壺を見る。
体晶の使用でやや苦しそうな滝壺は、妙な踊りを踊っていた。

「あれ… うん…… 北北東? あれ、西南西…? 真東…」
「どうした、滝壺?」

麦野が声を掛けると、滝壺が困惑した表情をした。

「麦野… クローンって沢山いるのかなぁ…?」
「……複数感知したのか?」

むむむ、と滝壺が困った顔になる。

「う~ん、やっぱり本人のAIM拡散力場を記憶したわけじゃないから、ある程度のズレや揺らぎは出るんだけど…
 似たような反応がすっごい沢山。しかも、移動してるよ…?」

滝壺の言葉に、麦野が「そうか…」と納得したように呟いた。

「体細胞クローンだったら、複数体複製することも可能ってわけか…? そして、粗悪乱造した個体は使い捨てに……?」
「クローンの人権とか、超無視した虫唾が走るやり方ですね。
 …どうします? 反応のひとつを辿れば、第3位のクローンを確保できるかもしれませんよ?」

滝壺が感知した反応がミサカ・クローンならば、『彼女』から何か情報を引き出すことが出来るかもしれない。

「……それは一旦保留、どうにも罠臭いわ。今は情報の精度を高めましょう。
 絹旗。滝壺が感知した座標と目撃情報との摺り合わせをしてちょうだい。」
「超了解です」

絹旗と滝壺が再び作業に戻る。
それを眺めながら、麦野は『複数のクローン』という可能性を思考の海に投げ込んでいった。
501 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:02:41.08 ID:QOZdPDBso
とあるホテルの最上階ペントハウス。

「だせぇ撹乱情報だな… 初春、どう見る?」

『アイテム』と同じ学園暗部組織である『スクール』も、ターゲットの目撃情報を精査している最中だった。

「……撹乱、で正解だと思います。問題は、どこの端末から… くぅ… アクセスしているかですが…… はぁ…」

所々に色っぽい吐息を漏らしながら初春が答える。

今の初春は、身体にぴったりとフィットしたスクール水着を着ている。
悪趣味なことに、股間と乳部は布が切り取られ、挿入されたアナルバイブや、乳首に着けられた電極ピアスが妖しく震えている。

「逆探は?」

そんな初春の惨状などどうでも良いのか、垣根帝督が無造作に聞く。

「やってます… 少し時間が掛かりますが、大本の発信源は特定できます…… あん……」

桃色の吐息を吐いて、初春がうらめしそうに背後に立つ塔下をチラリと見る。
塔下はにやにや笑いながら、「ん、どうしたの?」とすっとぼけた声を出した。

「……この悪趣味な道具を外してくれたら、もっと速く検索できるんですが…」
「あっれー、快楽のパルスは良い感じに出てるんだけどねー。
 初春ちゃん、さっきこっそりイッたでしょ? イク時はイクって言わないとー」

飄々とした塔下の物言いに、初春がぐっと口唇を噛んで悔しがる。
この半日で、絶頂すら知らなかった初春の肉体は過激に開発されてしまっていた。

「…ただ発信源ですが、ターゲットが能力を使用して端末から上げている場合と、そうでない場合も考えられます… ふぅ…」
「どういうことだ?」
「い、一日の準備期間があったなら、直接他者に頼むことも可能ということです。
 バイトを雇って、複数の端末から同時に情報を上げることもできます…」

赤い顔の初春の言葉に、垣根が「ふむ…」と考えるそぶりをする。

「能力に拠るものと、他者に拠るものと、選別しろ」
「…もうやってます。 
 花が咲くようにしか咲かないのと同じで、情報も流れる方向にしか流れません。あとはそれを丁寧に辿るだけです」

ぎこちない動きで初春がタッチタイピングを開始した。

「…こちらかも質問をしていいですか?」
「ああ、なんだ?」
「垣根さんの説明では、反学園組織を釣り上げるために1日ターゲットを泳がした、ということですが、それにしてはそういった情報が上がってきていません。
 そちらの精査は誰か別の人が行っているんですか?」

ターゲット、天井亜雄とミサカ00000号が1日自由に動き回れたのは、学園都市側の『彼らを餌にして敵性組織を釣り上げる』という方針があったからだ。
しかし、現在、初春の手元には、そうした学園都市外の組織の情報は集まっていない。

「……それについては、お前は何も気にしなくて良い。 いや、むしろ俺たちも気にすることじゃねぇ。ちーとばっかり癪だがな」

答えになっているようで、全くなっていない垣根の言葉に、初春は曖昧に「はぁ…」と相槌を打った。



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502 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:03:11.24 ID:QOZdPDBso
「で、どう考えていらっしゃいます、お姉さま?」

第11学区の貸し倉庫。
倉庫の奥に作られた居住スペースで、半裸の少女2人が妖しく絡み合っていた。

「どうって、何が?」
「今回の件ですわ。哀れな科学者の逃避行、とは理解できましたが、それならお姉さまが彼らを学園都市外にテレポートすれば済む話では?」

絡み合っているのは結標淡希と婚后光子だ。
2人は、クィーンサイズのベッドに向かい合わせに横になり、お互いの秘所を、くちゅくちゅと弄りながら会話をしていた。

「依頼方法も正規のルートとは違っていましたし… きな臭い匂いがしますわ…… あん、お姉さま、手つきがいやらしいですわ…」
「ふふ… みっちゃんだってやらしーじゃん。私はみっちゃんの手の動きを真似してるだけだし…」

結標が婚后に顔を寄せ、婚后もそれに答えるように口唇を重ねる。
2人のかなり大きなおっぱいが、むにゅ、お餅が重なるように、相互に潰れあう。

「…ぷはっ、…まぁ、確かに変な依頼よね。跳ばすポイントを覚えるだけでも一苦労よ」
「ふぅ… 昨日は徒歩で学園都市を行脚… 今日からはお姉さまの能力をフルに使っての学園都市内の移動… 腑に落ちませんわ……」

考え込もうとする婚后に再びキスをすると、結標は手の動きを加速させた。
じゅぷ、じゅぷ、と淫水音が大きくなる。

「あぁ… お姉さまぁ… そんなに激しくされますと……」
「そろそろ時間だし、イッちゃいな…!」

結標の指が婚后の秘所をかき回しながら、同時に大きく勃起した婚后のクリトリスを、クリクリ、と潰す。

「………ぁあッ!!」

婚后の会陰部から脳髄に向かって快感のパルスが迸り、婚后の呼吸が一瞬だけ止まる。
絶頂の快感を思う存分堪能し、小さく口蓋から舌を出して「あ、あぁ…」と吐息を漏らす。

「気持ちいいですわ… とても、とても……」

せがむように婚后が口唇を求める。
結標がそれに応えて舌を絡め合い、絶頂にひくつく秘所を優しく愛撫していると…

コンコン、

ドアから遠慮がちなノックの音が響いた。

「……すまない、時間だが」

声は天井のものだ。
少しだけ焦りを感じる声だ。

「はぁい、すぐに行くから準備しておいて」

名残惜しそうに婚后から身体を離して、結標はベッドから降りた。

「時間厳守って、いかにも理系男子って感じねぇ…」
「わたくしの父も時間には厳しかったですわ。さて、それではお姉さま……」

傍らに準備していた濡れタオルで、丁寧に秘所を拭って婚后も立ち上がる。

「ええ、きっちりしっかりに最後まで。完璧に依頼を遂行するわよ…!」

静かな、しかし、力強い宣言と共に、結標は軍用懐中電灯のスイッチを入れた。
503 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:04:11.51 ID:QOZdPDBso
「…あの2人は信用できるのだろうか?」

苦悩と不安とを混ぜ合わせて濃縮したような表情で天井が呟く。

今日の一日は、恐らく彼にとって人生で最大のヤマ場になる筈なのだ。
拭っても拭っても、不安が彼の心に侵入し、精神を磨耗させる。
もし… 自分の計画が完遂できなかったら…

「クソッ…」

両手を組んで額に、ゴツゴツッ、と打ち付ける。

臆病な自分が嫌になる。気弱な自分が嫌になる。
研究ばかりに没頭し、無駄に歳を重ねた自分が嫌になる。

「どうして… 私は……」

不安が、心の底に厳重に封をしていたはずの後悔心を引き出そうとした時、

「マスター、マスター……」

ミサカ00000号が、打ち付ける天井の拳をそっと手で包んだ。

「頭部への過度な刺激は、脳細胞を破壊します。と、ミサカ00000号はマスターに奉ります」
「……ああ、そうだな」

組んだ両手をゆっくりと解き、天井はぎこちない笑みを00000号に見せる。

「少し… 自分を奮い立たせていただけだ… 今日が山場だからな…」
「なるほど、武者震いというやつですか? と、ミサカ00000号はマスターの頼もしさに胸キュンします」
「……私がもう少しソフト面に強かったらなぁ」

天井亜雄は肉体(ハード)面の専門家であり、脳(ソフト)面の専門家ではない。
クローンであるミサカ00000号の知的成長には、とある天才脳科学者の遺産が使われていた。

「マスター、マスター。ミサカの情緒はマスターの調教で完璧に仕上がっていますよ? と、ミサカ00000号はこっそりマスターを褒め称えます」
「ちっとも、こっそりじゃないじゃないか…」

やれやれ、といった風に天井が苦笑を漏らす。
そして、自分の中の不安が少し薄らいだのを感じた。

「……ありがとう、ミサカ」
「………………?」

不思議そうに首を傾げるミサカ00000号の頬を撫ぜる。

(やるしかないんだ… それが私の人生だ……)

密かに決意を新たにすると、天井は結標と婚后が居る部屋のドアを見やった。

「……しかし、まだなのか? あまり時間をオーバーすると計画に支障が」
「もう準備できてるわよ」

突然、天井の背後から結標の声が響いた。
ぎょっとして天井が振り返ると、ミニスカート、サラシ、ブレザーの結標と、どこかの学校のジャージを着た婚后が立っていた。

「い、いつの間に……!?」
「私の能力は知っているでしょ? 『座標移動(ムーブポイント)』 私にとって距離と空間はすべて紙一重の存在よ」

結標の台詞に、天井は軽い戦慄を覚えた。

結標の能力『座標移動(ムーブポイント)』は、彼女が指定する物体を、任意にテレポートする能力だ。
その効果範囲は極めて広く、かつ、数センチのズレも許さない正確なものだ。

学園都市全体でも希少なテレポーターの、その頂点に立つのが彼女だ。

「…少し安心した。単なる痴女かと思っていたところだったからな」
「あらあら、依頼人にそう言われちゃ、仕事人として失格ねぇ…」

天井の軽口を軽く受け流して、結標は不意に真面目な顔になった。

「それじゃ始めましょう。貴方たちは、ひたすらポイントに向かって下さい。何回もテレポートをすることになるから、酔い止めはしっかり飲んでおいてね」
「分かっている、私たちの命を貴女たちに預けよう。よろしく頼む」

天井と結標はしっかりと握手をし、それを真似してか、ミサカ00000号も婚后の手を強引に掴んだ。

「よろしくお願いします。と、ミサカ00000号は黒髪の素敵なお嬢様に申し上げます」
「おほほほ… どーんと、大船に乗ったつもりでいてくださいな」

00000の言葉に気を良くしたのか、婚后が豊かな胸を張って応えた。
その仕草がなんとも可笑しかったのか、結標と天井は同時に、クスリ、と微笑を漏らした。
504 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:04:38.08 ID:QOZdPDBso
「………お?」

沈黙が支配していた麦野のマンションで、絹旗が短い声を上げた。

「動いたか?」

麦野が短く問うと、絹旗がこっくりと頷いた。
情報の精査に入ってから、1時間ほどが経過していた。

「はい。情報を『アイテム』の権限を使って『書庫(バンク)』のフィルターに掛けていましたが、この2箇所が超怪しいです」

絹旗が示したのは、14学区と20学区のとある地点だ。

「この2箇所は、一般に出回っている地図では空き地ですが、『書庫(バンク)』の情報だと「建造物あり」になっています。
 さらに、滝壺さんの座標とも一致しています」
「うん…… 少しずつだけど、移動もしているよ……」

体晶の連続使用で疲弊しているのか、脂汗を流しながら滝壺が言う。
その隣では、滝壺を心配して浜面がおろおろと百面相をしている。

「…滝壺、そろそろ限界みたいね」
「お、おう」

麦野が言うと、本人よりも速く浜面が頷いた。

「これ以上粘って、もっといい結果が出ると思う?」
「超ノーですね。絞り込むだけは絞り込みました。あとは足を使うべきです」

絹旗が、スッと立ち上がる。
麦野も小さく頷くと、椅子から立ち上がった。

「よし、二手に別れるわよ。滝壺はここで待機、アタシと当麻は20学区、絹旗と浜面は14学区よ。
 ターゲットが反学園都市組織と接触する可能性もある。引き際だけは見誤らないように」

麦野の指示に、それぞれが動き始めた。



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505 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:05:39.24 ID:QOZdPDBso
「よし、動くぞ」

ほぼ同時刻。
『スクール』もまた、行動を開始していた。

「確認するが、14学区と16学区だな?」

垣根帝督が、ずっと桃色吐息の初春に念を押す。

「は、はい…… その他の情報は、明らかな齟齬や介入が確認できました。確度が高いのがその2つです……」

良い感じに刺激と快楽に慣れてきたのか、わずかに身をくねらせながら初春が答える。
その表情は、何かを堪えるというよりも、快感を許容したような茫洋としたものだ。

「俺は単独で16学区に行く。塔下は14学区だ」
「了解、エセキャバ嬢は?」

塔下が、野卑た目で心理掌握を見ると、彼女は不愉快そうに塔下を一度睨みつけてから、垣根の方を向いた。

「テメエは初春と一緒に居ろ。『スクール』権限を使ってさらに情報に検索をかけろ」
「……貴方がたの持っていた符丁(パス)なら、すでに使わせていただいていますよ」

なんでもないような初春の言葉に、『スクール』3人がやや緊張した顔つきになる。
ここに居る誰も、彼女に暗部の権限や『符丁(パス)』の存在を教えてはいなかった。

「……いつの間に」

呆然とした塔下の言葉に、初春が大いに溜飲を下げた表情で答えた。

「おや、気付いていませんでしたか。他人のカラダを弄ることに集中しすぎですね… あッ!」

言葉の最後に、塔下が腹いせにバイブの振動を上げたせいで、初春は軽く絶頂したが、その目は生気を宿したままだ。

「……心理掌握(メジャーハート)、俺が戻るまで能力を使用して初春を拘束しておけ。余計な事をさせるな」
「了解…… 初春さん、貴女には脱帽よ。心から」

その言葉に、初春は悪戯を終えた子供のような気持ちで脱力し、肢体を弄ぶ快楽に身を委ねていった。




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506 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:06:05.18 ID:QOZdPDBso
第20学区。
スポーツ工学系の学校が集まるこの学区では、競技場や体育館といった施設が所々に点在し、また、それらの用具や備品が納められれた倉庫が隣接している。
                                       ・ ・ ・ ・ ..・ ・ .・ .・ ・ .・
深夜、人の気配が消えたその場所に、一台のタンデムバイクがエンジン音を立てずに停車した。

「……さて、座標はここで間違いないわね。『下肢靭帯機能研究所』建設予定地って… もう施設が出来てるじゃない」

バイクの前席から降り立ったのは、黒いライダースーツを着た麦野だ。
ぴったりと身体にフィットしたそのツナギは、暗闇の中でもその見事なボディラインを際立たせている。

「でも、人の気配がまるでしないな…… やっぱ偽情報…? つーか…」

後部座席から上条が降り立つ。
彼は黒ジーパンにロングTシャツというラフな格好だ。

「なに?」
「なんかこう、ザ・女スパイ!な感じで、すげぇカッコいいな…」

遠慮なしに麦野の身体をジロジロ見ると、「ふん」と鼻を鳴らした麦野が上条にデコピンを食らわせた。

「いてッ」
「ばーか、褒めるならもう少し上手く褒めなさいよ」
「ああ…… うん、そのままハリウッド映画に出てもいいぐらいにキマッてる。正直、押し倒してぇ」

上条が素直に言うと、少しは満足したのか、麦野は「まぁ良し」と呟いた。

「それじゃ、ここからは真面目に行くわよ。まずは…… んッ!」

不意に、麦野は上条の手を強く引くと、そのまま身を低くして走り出した。
突然手を引かれた上条は、すっ転びそうになりながらも、麦野に従って走る。

200mほど無言・無音で走り抜けて、適当な遮蔽物に身を隠すと、麦野は鋭い眼で件の施設を凝視した。

「…何スか?」

小さな声で麦野に問うと、麦野が短く「先客が居る」と答えた。

「ターゲットではなく?」
「チラっと見たが、若い男が2人。しかも、ドアの解錠に集中していた。侵入者だ」
「侵入者?」

麦野の言葉に、上条が疑問の声を上げる。

「……接触する反学園都市勢力だったら、侵入なんかしねぇよな?」
「そうね… とすれば、考えられるのは他の『暗部』組織、か……」

数瞬だけ麦野は考え込み、そしてすぐに決断した。

「横撃する。話を聞きたいから、本命はアンタ。上手く気絶させてね」

麦野の言葉に、上条は静かに頷いて拳のメリケンシールを改めた。
507 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:06:54.53 ID:QOZdPDBso
「ハズレっぽいな、ここ」

施設の通用門。
侵入者2人の内、しゃがみ込んで電子キーを解錠していた背の高い男が不満げに呟いた。

「だな。人の気配は無し。だけんども、何か手がかりはあるかもよ」

解錠を相棒に任せて周囲を警戒していた小太りの男がそれに同意する。

「……で、いつ仕掛けてきそう?」

背の高い男が、何でもない風に尋ねる。

「えーとだな… おぉ、決断早えな。俺らをノシて情報を聞き出すんだとさ」
「なんだそりゃ? つーことは、アイツらも『暗部』か… あー、やだやだ、俺は荒事嫌いなんだよなぁ…」

背の高い男が、解錠作業を諦めて立ち上がる。

「『コウモリ』。相手が50m内に進入したら合図な。『逆落とし』を発動させる」
「あいよぅ。タイミング任された」

スキルアウトや企業の私兵とは全く違う、危険な『暗部』の雰囲気を漂わせ、『コウモリ』と『逆落とし』はギラリと眼を光らせた。
508 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:07:30.34 ID:QOZdPDBso
「…行くぞ」

麦野が短く言い、音も無く駆ける。
派手な能力ばかりに目が行きがちだが、麦野の体捌きは相当なものだ。
身体能力に自信がある上条ですら、本気で走らないと着いていくことが出来ない。

「相手が気付いたら、牽制に『原子崩し』をぶち込むから、アンタはダッシュ」
「了解…ッ!!」

相手との距離がぐんぐん詰まる。
おぼろげだった人影が、次第にはっきりと視認できる距離になった時、

「……ん?」

上条は、それまでドアの前で作業をしていた男が、急に両手を地面に押し付けたのを見た。

虫の囁き。
背筋に、ぞわり、とした言い知れない悪寒が走る。

「……危ないッ!!」

上条は、咄嗟に併走する麦野を突き飛ばした。

不意に突き飛ばされた麦野は、「きゃっ!」と凄まじく意外に可愛らしい声を上げて地面に転がった。
その瞬間、

バリイイィィィッッ!!!

地面から青白い稲光が、それまで麦野が居た空間に立ち上った。

「…………ッ!! こっちッ!!」

瞬時に状況を判断した麦野が素早く身を翻して駆け、上条もそれに続く。

相手から見えない適当なビルの影に身を潜め、2人して軽く息を吐く。

「…今の、なんだろ?」
「しくったわね… 相手が『暗部』なら、高位能力者であってしかるべきなのに……」

冷たい汗を流して麦野が後悔の声を出す。

(最近、企業の私兵ばっかり相手にしてたから、勘が狂ってたわ……)

反省と後悔は一瞬。
麦野はすぐに己を取り戻すと、相手の能力について思考を開始した。

「地面から電光っつーことは、発電能力者(エレクトロマスター)か?」
「いや、一般的な発電能力者(エレクトロマスター)なら、電光は放射・投射型になるはずだ。
 今のは、どっちかっていうと、設置型、もしくは局所型な感じだった」
「そうね… ということは…… ん?」

何かに気付いたように麦野が声を上げる。

「当麻ッ!! 避けてッ!!」
「え…?」

今度は麦野が上条を突き飛ばそうと手を伸ばすが、今度は間に合わなかった。

バリイイィィッッ!!

「ぐぅぅぅぁぁぁぁ!!! ちっくしょうッッ!!」

上条の足元から鈍い稲光が立ち上り、足底から上条が感電する。

反射的に左手を下肢にぶつけ、それ以上の感電をキャンセルしたが、微かに肉や体毛の焦げる匂いが漂った。

「……チッ!! 最初の位置まで後退するわよ!!」

大きな舌打ちを1回打って、麦野は上条の手を引いて走り出した。
509 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:08:09.26 ID:QOZdPDBso
「……駄目だな、当たったが仕留めてねぇ」

『コウモリ』が軽く首を振って言う。
その言葉に、『逆落とし』が残念そうに「クソ…」と呟いた。

「妙に勘の良いヤローだ。初撃といい、俺の『逆落とし』はそんなチャチいもんじゃねぇぞ…!」

地面から手を離した『逆落とし』が毒づく。

「…完全に『逆落とし』の効果範囲から出たな。なぁ、めんどくせーから逃げようぜ?」
「ああ… いや、これで相手が諦めるとも思えねぇし、俺たちの能力は迎撃には向いても、遊撃には向かねぇ。
 ここは、相手が沈黙するか完全に逃走するまで粘るのが良いと思うぜ」

『逆落とし』の言葉に、『コウモリ』が頷く。

「だな。それじゃ、相手の出方を… おっ、移動を始めるみたいだ」

『コウモリ』が耳に手を当てて呟く。

『コウモリ』の能力は局所的な集音能力だ。
極めて広範囲の、任意の空間の音を、高い精度で集音することが出来る。
麦野たちの接近も、わずかに鳴ったモーターの音を聞き分けて感知したのだ。

「それじゃ、今度も50m以内に入ったら合図よろ。近づいたら能力を使う簡単なお仕事です、と…」

『逆落とし』の能力は、地面に帯電している微弱な電気をかき集め、一気に放出する能力だ。
地面限定だが、効果範囲も広く、何より通常では狙い辛い放電を局所に集めることが出来る。

『コウモリ』と『逆落とし』は互いに視線を交わし、慎重にタイミングを推し量った。
510 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:08:38.35 ID:QOZdPDBso
「どう?」
「なんとか、走れそうだ…」

『逆落とし』の効果範囲から出て、麦野は上条の傷の具合を確認した。
途中で帯電をキャンセルしたのが効いたのか、火傷はそれほどひどくはないようだ。

(さて、どうする… 瞬殺するだけなら簡単なんだけど……)

殺しても良いのなら、この位置から『原子崩し』を連射して相手を消し炭に変えれば良い。
しかし、今回は情報も聞き出したいし、なにより、上条が横に居るときは、あまり破天荒な能力使用はしたくなかった。

「……俺がオトリになるよ。左手があるから、そこまでやばいことにはならねぇし、あと1発や2発ぐらいは……」
「駄目よ。さっきはたまたま手が動いたけど、基本的に感電したら四肢は麻痺するのよ。動けなくなってさらに喰らうのがオチよ」

やんわりきっぱりと上条の提案を蹴って、麦野は全身のライダースーツをあらためた。

「…オトリは私がやるわ。このスーツは一応の防電機能は備えているから、ある程度は防げるわ。奥の手もあるしね」

じっと上条を見つめる。

「アタシが走り出した2秒後に、同じルートを走りなさい。攻撃が来ても足を止めないこと、良いわね?」
「よくねぇよ! それだと沈利がッ!」
「うっさい、議論してる暇はねぇんだよ!」

反論した上条を、声を荒げて遮る。
麦野は軽く上条と口唇を合わせると、チロッ、と上条の前歯を舐めて言った。

「暗部組織『アイテム』のリーダーを舐めんじゃねぇよ。これぐらの修羅場はいくつも潜ってきてんだ。つべこべ言わないで…」

額を、コン、と合わせる。

「あいつらぶん殴ってノシてこいッ!!」
511 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:09:05.37 ID:QOZdPDBso
「なんだぁ、万歳突撃か? 女の方が真っ直ぐコッチに来るぞ?」
「自棄になった…? ンなわきゃねぇか、だが、やるこた1つだ」

『逆落とし』が地面に両手をつけ、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を展開する。
走る女の位置を予測して、AIMを集中させる。

「……喰らえッ!」

女の足元から、青白い電撃が鋭く立ち上る。

「……なにッ!?」

そのまま女が倒れ付すと思っていた『逆落とし』は、多少フラつたものの、女がそのまま走り続けるのを見て軽く動揺した。

「あのスーツ絶縁体かッ!?」
「いやッ、足音のリズムが乱れたッ。効いてる、もう一撃だッ!」

『コウモリ』の言葉に『逆落とし』が再び意識を集中させる。

「粘るじゃねぇか、だが、コイツで終わりだ……ッ!」
512 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:09:31.22 ID:QOZdPDBso
(予想以上にきっついわね…!)

多少の電撃はスーツが無効化してくれたが、それでも無視できないダメージが残った。
もう一度、アレをまともに喰らうとマズイ。

(あと30m、ここなら届く… 当麻、ビビるんじゃないわよ……ッ!!)

心の中で気合を入れて、麦野は走りながらスーツのポケットから1枚のカードを取り出した。

「上手く散らばれよッ!!」

妙に厚みと重みのあるそのカードを空中に放り投げて精神を集中させる。

「喰らえッ!!」

麦野がカード目掛けて『原子崩し』を照射する。
光速で直進した破壊光線が、カードにぶつかった瞬間、

光が拡散した。
513 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:09:57.24 ID:QOZdPDBso
「なんじゃそりゃ!?」

光速で飛来した幾筋もの光の矢に、『逆落とし』と『コウモリ』が咄嗟に地面に伏せる。

ドガガガガッ、と自分たちの周りを光の矢が貫いて行き、アスファルトやビルの壁を鋭く刺し抉った。

「え、えげつねぇ…」
「当たらんで良かった…」

抉れたアスファルトを見て、『逆落とし』と『コウモリ』が呆然と呟いた。

2人が自失していた時間はほんの数秒だった。
彼らも『暗部』らしく、素早く状況に適応しようとした、

だが、その数秒で上条が接敵した。

「おおぉぉぉッ!!」

右足で地面を強く蹴る。
慌てて身構えようとする『逆落とし』向かって跳躍すると、上条は勢いのまま左拳をオーバースィングで叩き付けた。

ドガッ!

「ぐぉ…!」

こめかみを強打された『逆落とし』が悶絶する。
さらに体を密着させ、相手の下腹部目掛けて右拳を打ち下ろす。

ゴッ、とひどく鈍い音がして、正確に鳩尾を強打された『逆落とし』が、そのままずるずると地面に崩れ落ちた。

「次ッ!!」
「待ったッ、待ったッ!! 降参ッ!!」

上条が次の相手に向いた瞬間、『コウモリ』は両手を挙げて降伏の意思を示した。

「……テメッ!」
「降参だよ、降参!! お前らだって仕事でやってんだろ? 俺らだってそうだ、痛い思いなんざしたくねぇよ!!」

そのあまりにも現金な物言いに、上条がムッとなる。

「ざけんな! 人に問答無用で能力使っておきながら…ッ!」
「そりゃ、そっちだって一緒じゃねぇか… とにかく降参だ、情報が聞きたいんだろ? 何でも話すぜ?」

諦めたように『コウモリ』がどっかと地面に腰を降ろすと、ゆっくりと麦野が近づいて来て言った。
514 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:10:23.67 ID:QOZdPDBso
「…じゃあ質問するぞ。お前らなんでここに居た?」
「おっかねぇ美人だなぁ… ああ、例のクローン狩りだよ」

あっさりと言う。

「ここの場所は?」
「取得した情報からの1点読み。当たれば儲けモン、ってところだ」
「成果は?」
「なし。俺の能力で施設内を調べたが、人っ子一人いねぇ」

『コウモリ』の言葉に、麦野は盛大な溜め息を吐いた。

「つまりハズレか… ったく、痛い思いしたっていうのに…」

あまり期待はしていなかったが、脱力感は相当だった。

「……当麻、こいつら拘束したら帰るわよ」
「え、ああ…… 放置して良いのかよ?」
「別に良いわよ… あんたらはこのレースから降りるんでしょ?」

上条に拘束されながら、『コウモリ』は頷いた。

「ああ、元々乗り気じゃなかったからな。陽が昇ったら通常業務だ」

『コウモリ』がニヤっと笑うのを見て、思わず麦野も苦笑を浮かべた。

「…あ、そうだ。あんたらの情報の出所はどこ? ネット?」
「いや、おたくらもそうかもしれんが、『上』から流れてきた情報だ」
「上から…?」

麦野の頭に、あのお調子者の声が再生される。

「……その情報って、オペレーターから?」
「ああ、そうだぜ?」
「そのオペレーターってさぁ… なんか妙な口癖…」

麦野がそう言った瞬間だった。

ひゅ… と何かが飛来する音が聞こえたと感じた瞬間、『コウモリ』の額に黒く太い鉄釘が突き刺さった。

「………………?」

何も言えず、何も感じず、『コウモリ』はそのまま地面に倒れ、死んだ。

「……なっ、バッ!!??」

麦野が慌てて上条を押し倒すと、再び飛来音が聞こえ、今度は倒れて気絶していた『逆落とし』の背中に鉄釘が突き刺さった。
背中から心臓まで穴を開けられて、『逆落とし』も音も発せず絶命した。

「隠れるぞッ!!」

麦野が問答無用にビルの壁に『原子崩し』で穴を空け、上条と共に身を隠す。
寄り添うようにして身を縮めると、麦野は携帯を取り出して滝壺にコールをした。

軽快な呼び出し音が鳴り、ほどなくして滝壺の声が聞こえた。

『……もしもし?」
「滝壺ッ、疲れてるとこ悪いけど、体晶を使って……」

早口で指示をだそうとする麦野の声を、滝壺の暗い声が遮った。

『麦野ぉ… 絹旗が……』
「あぁ!? 絹旗がどうした!?」

嫌な予感が頭をよぎる。

『絹旗が… やられちゃった……』

麦野の顔面から血の気が一気に引いた。
515 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:11:07.20 ID:QOZdPDBso

――――時は少し溯る。

14学区の指定されたポイントへやってきた絹旗と浜面は、そこで1人の能力者と相対した。

「あぁ、キミらもクローン狩りにきたんだ… 残念だけどここには何も無かったよ」
・...・ ・ ・ ・ ・
瓦礫と化した14学区の建物跡に、頭に特徴的なゴーグルを着けた少年が立っていた。

「でも、手ぶらで帰るのもなんだし、いっちょ、ここは同じ『暗部』を拉致ってみますかね… と!」

いやらしい目つきで、絹旗の体を舐め回すように観察して、『スクール』の構成員、塔下が言った。




                                                             続く




.
516 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2012/12/28(金) 00:12:18.16 ID:QOZdPDBso
はい、以上です。

エロいシーンもっと書きたかった…
次回もまたキリの良いところまで書けたら投下します。でわ。 
548 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:30:34.65 ID:PmnaTDYQo


「浜面ッ! 超離れていて下さい!!」

目の前の男から異常な雰囲気を感じる。
相手が『暗部』の能力者であるなら、無能力者である浜面が危険だ。

絹旗は浜面を庇うように前に出ると、手ごろな子供ほどの大きさの瓦礫を持ち上げ、一気に塔下目掛けて投げつけた。

「おぉ! スレンダーロリの怪力娘!? なにそれ萌える~!」

ごぉ! と音を立てて飛来した瓦礫を軽い身のこなしで避けると、塔下は足元のバックからサブマシンガンを取り出し、腰だめに構えた。

「げ、マジかアイツ…!」

超能力よりも、さらにリアルな暴力の象徴を見て、浜面が慌てて瓦礫の影に身を隠す。

「……超余裕!」

しかし、絹旗は恐れるどころか、逆に勝機とばかりに塔下に向かってダッシュした。
銃器を前にしたその行為に、若干の違和感を感じながらも、塔下は躊躇いもなく引き金を引いた。

「玉砕覚悟? つまんねー……」

バリバリバリ……!!

安っぽい爆竹が連続して爆ぜるような音が3回して、銃弾が絹旗に降り注ぐ。
一応、無力化を狙ってか、絹旗の脚目掛けて放たれた銃弾は、正確に絹旗の両足に集弾され、

ぐちゃ、

そのまま、見えない壁に押し潰されるように変形し、絹旗に傷1つ着けることなく地面に転がった。

「……へ?」
「私の『窒素装甲(オフェンスアーマー)』は、拳銃弾ごときでは貫けませんので…ッ!!」

絹旗の能力『窒素装甲(オフェンスアーマー)』は、大気中の窒素を操る能力だ。
効果範囲は体表から数センチと狭いものだが、圧縮された窒素の強度は凄まじく、自動車を持ち上げたり、弾丸を受け止めたりすることも可能なのだ。

「超頂きました!!」

能力を使用した絹旗のボディブローが、塔下の鳩尾に食い込む。

「ぐほっ!!」

激痛と衝撃に体が九の字に折れ曲がり、塔下はずるずると地面に崩れ落ちた。

「ふぅ… さて、超色々と話を聞かせてもらいますよ…!」

意識がトバないぐらいには手加減をした。
絹旗は塔下の腕を捻り上げると、そのまま馬乗りになり行動を制限した。

「……いってぇ、俺にはMッ気無いのになぁ… 上に乗るならもっとこー、腰を振るカンジで乗ってもらいたいなぁ…」
「減らず口ばっかり言っていると、テメェの金玉、超握り潰しますよ?」
「うわぁ、おっかねぇ……」

絹旗に見えない位置で、塔下は口の端をぐにゃりと歪めて笑った
            ・ ・ ・ ・ ・ .・ ・
「おっかねぇから、俺が握り潰すわ」
549 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:31:59.04 ID:PmnaTDYQo
その瞬間、絹旗を凄まじい激痛が襲った。
                              .・ ・ ・
気絶すら許さないその激痛は腹部から、いや、腹の中からだ。

「がッ… ぐぁ… なに、を……!?」
「癪に障るってさー、言葉があるじゃん? あの癪って、諸説色々あるけど、一説には胆嚢のことらしいんだよね」

激痛により拘束が解かれ、塔下が逆に絹旗を押し倒す。

「まぁ、つまり、胆嚢っていう臓器が痙攣したりするとすんげー痛いわけ。まぁ、どこの臓器でもそうなんだろうけどさ」
「まさ、か……!?」

脂汗を大量に流しながら、絹旗が1つの可能性に思い至る。

「念動……!?」
「大正解! 俺の能力『第三透手(インビジブルサード)』は3本目の俺の腕だ。
 強度はあんまり大したことないけど、巧緻性はちょっとしたモンなんだぜ? 感覚もあるから、君の内臓の形がよく分かるよ」

内臓痛は人間の感じる『痛み』の中でも、特に異質なものだ。
そして、その一番の恐ろしい点は、『慣れることが出来ない』ということだ。

激痛が腹部から下腹部に移動する。塔下が圧迫する部位を胆嚢から腸に変更したのだ。

「ぎゃああ!!」
「あはは! 痛ったいだろー? 腸は特に過敏な臓器だからねぇ… ん? あれ、君、便秘してた? 詰まってるよ?」

あまりの激痛と羞恥から、眼から一筋の涙を流し、絹旗はとうとう気絶した。

「…あれ、イッちゃった? ほんじゃまぁ、後始末しますか…ッ!」

塔下はそう呟くと、不意に能力を使って落ちていたサブマシンガンを拾い、横薙ぎに弾幕を張った。

「…チッ! もう少し油断してろよテメェ!!」

足音を殺し近づこうとしていた浜面が、慌てて遮蔽物に隠れる。

「いやー、美女・美少女はともかく、男はお呼びじゃないんだよね? 鴨撃ちするから出てきてよ」

『第三透手』でサブマシンガンを引き寄せ、瓦礫に向かって連射する。

ガガガガッ、と盾にしている瓦礫が銃弾に削れる。
跳ね上がる心音を耳で感じて、浜面はジッとチャンスを待つ。
550 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:32:33.39 ID:PmnaTDYQo
そして数秒後、カチリ、という音と共にサブマシンガンが動きを止めた。弾切れだ。

「よっしゃぁぁ!!」

雄叫びと共に浜面が瓦礫から躍り出る。
相手が新たな武器を手にするより早く接敵するため、猛然とダッシュする。
だが、

「お前、馬鹿だろ?」
「あ゛!! うお!!」

塔下の直前2m、足元を見えない何かに阻まれて、浜面は盛大にすっころんだ。

「はい、悶絶、終了~」

そのまま浜面の背中に足を乗せ、『第三透手』で浜面の胃を探り当てる。
これまで感じたことの無い激痛が浜面を襲う。

しかし、この状況が浜面の待ち望んでいたチャンスだった。

「……馬鹿はテメェだッ!!」

常人ならば悶絶して動けない激痛の中、浜面が強引に身体を動かし塔下のバックを取る。

「バッ! とっとと死ねよッ!!」

塔下が浜面の胃を握り潰そうと力を加える。
激痛がさらに増し、気を抜けば失神しそうになるが、浜面は根性でそれに耐え切り、叫んだ。

「ふじなみぃぃぃぃ!!!!」

塔下の両手をフルネルソンでがっちりホールドして、そのまま海老反りに体幹を伸展させる。
浜面と塔下の天地が急速に逆転し、塔下が暗い夜空を知覚した次の瞬間。

どがぁ!!

見事なドラゴンスープレックスが炸裂し、塔下の後頭と頸椎とが地面に激突、意識を完全に断ち切った。

「はぁはぁ…… 早く絹旗を連れて帰らねぇと……」

自身も少なくないダメージを負っているが、それでも気力を振り絞って絹旗を背負う。

「なんかヤベー感じがするぜ、このヤマ……」

足取り重く、浜面はこの場から立ち去った。

そして、その直後、

ヒュン…!

1人取り残された塔下の頭部に、飛来した鉄釘が打ち込まれた。
塔下は2度と意識を取り戻す事なく、絶命して果てた。
551 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:33:06.64 ID:PmnaTDYQo
「……とまぁ、そんな感じで… あ、絹旗は命に別状はないけど、しばらく安静らしいぜ」
「…………焦ったぁ。ったく、滝壺が『やられた』なんていうから、てっきり死んだかと思ったわよ…」

麦野のマンション「Meltykiss」。20学区より急いで撤退した麦野が、浜面の説明を受けて胸を撫で下ろしていた。

「でも、内蔵損傷は軽くないよ? 浜面も……」
「わーってるよ。絹旗も浜面もこれでリタイヤだ。クソ…」

滝壺が心配そうな表情で言い、麦野が吐き捨てるように同意した。

「これからは、アタシと当麻で進めるしかねぇな… つーか、この事件、絶対に裏があるわよ……」

麦野が眉根を寄せて黙考する。
あの後、建物を調べて見つけたのは、活動を停止した脳細胞片と、灰になった線香、そして一輪の菊の花だった。

さらに、脳内に駆け巡るのは、『逆落とし』と『コウモリ』の命を奪ったあの鉄釘だ。

あの武器を使う能力者を、麦野はたった一人であるが心当たりがあった。

「……まだこの番号使ってるかな?」

今時ローカルな紙のアドレス帳を繰って、目当ての電話番号を探し出す。
あらかじめ複数用意してあるプリペイド携帯を使って、電話を掛ける。

長い長いコール音が続き、麦野が半分諦めかけた時、出し抜けに通話が繋がった。

『……はぁい、この番号を知っているのはどちら様?』
「アンタ、今なにしてんの、結標?」
552 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:33:55.44 ID:PmnaTDYQo
某所、無人ビルの屋上に陣取っていた結標が、携帯から流れた意外な声に変な顔をした。

「麦野先輩!? うっわ、おひさー。えーと、先輩が最終登校して以来だから半年ぶりぐらい?」
『世間話をするつもりは無いの。アンタ、今、なにしてんの…?』

不機嫌さを押し殺した麦野の低い声に、結標がやや鼻白む。
麦野と結標とは、能力開発の進学校、霧ヶ丘女学院で一時期机を並べた過去があり、同じレベル5として浅くない親交があったのだ。

「何って… お仕事中だけど…… あー、もしかして、先輩も今回の件に?」
『クソッタレが… つーことは、さっきのバラしもお前の仕業か……』
「ちょっと、ちょっと! 何のこと?」
『とぼけんなよ、アタシの目の前で暗部2人をお得意の『鉄釘』で処理しただろ?』

麦野の言葉に、結標は眉根を寄せて不快感を露わにした。

「何それ…? 最初に言っておくけど、私じゃないわよ、それ。
 私は徹頭徹尾『運び屋』よ。そりゃ、荒事をしないわけじゃないけど、『掃除屋』みたいなことはやらないわ」

結標の口調が真剣なものに変わる。

『本当だな?』
「当たり前でしょ。それじゃ、忙しいから切るわよ? ま、今度お茶でもしましょう」
『待て、最後に1つ。『今回の件』っつったな。運んでるのは研究者か?』
「……それじゃ」

まずったー、という表情で電話を切る。
隣に居た婚后が、心配そうな表情で結標の顔を覗きこんだ。

「お姉さま、今のは……?」
「みっちゃんまずったわー。うっかり、敵対勢力に情報流しちゃったかも…」

結標がペロリと舌を出し、婚后が諦め顔で肩をすくめた。
553 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:34:27.36 ID:PmnaTDYQo
「あんにゃろ、『座標移動(ムーブポイント)』が逃亡を幇助したら、捉えられるわけないじゃない……!」

麦野は結標の能力をよく知っている。
だが、それだけに腑に落ちない点もあった。

「…アイツが本気を出せば、ものの数分で学園都市の『外』へターゲットを連れ出すことも可能なはず… なのに、なんでこうもチンタラしてんだ?」

ブツブツと呟き、さらにもう一つの疑問点も浮上する。
                                            ウチラ
「それに… アイツは確か、学園都市総括理事長の直属のはずだ… 『アイテム』の様にカネやコネで依頼できるわけじゃねぇ…」

麦野の脳裏に嫌な予感がよぎる。
そう言えば、本来の目的である『反学園都市組織の釣り出し』は進んでいるのだろうか?

「…一度確認する必要があるわね」
554 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:36:28.59 ID:PmnaTDYQo
「はぁはぁはぁはぁ……!!」

真夜中の第5学区。大学や短大が立ち並ぶ文教区を、天井亜雄とミサカ00000号は疾走していた。

「はぁはぁ… クソッ、ここでの遭遇は聞いていないぞ…ッ!!」
「マスター、マスター… 恐らく、人海戦術の網に引っ掛かったのではないでしょうか。と、ミサカ00000号は遠慮がちに申し上げます」

走る二人の背後から、複数の人間の荒々しい足音が聞こえる。
これまで順調に『逃亡』を続けてきた2人だったが、この第5学区でとうとう追跡者に捕捉されてしまった。
00000号が言うように、ネットや能力に拠らない、人の足を使った情報網に掛かってしまったのだ。

(次の移送『ポイント』はまだ先だ… クソ、どうする…?)

天井の顔が焦燥感に満ちた時、耳につけたイヤホンから結標の声が流れた。

『天井さん、足止めにみっちゃんを跳ばすから、落ち着いて逃げてちょうだい』
「え… 足止め……?」

天井が思わず振り返ると、丁度、そこに婚后光子が『転移』してきたところだった。

「……なんだ、あの格好?」

天井を振り返って笑う婚后の背には、巨大なジャイロスタビライザーが装着されており、そこにはテニスボールほどの黒い円球が数え切れないほど接続されていた。
その様相はどこかアニメ風で滑稽な印象であった。

「さぁさぁ、狼藉者はこの婚后光子が退治いたしますわ。天井さんは早く次のポイントへ…」
「あ、ああ… ありがとう…」

些か以上の不信感を感じながらも、天井は礼を言って走り始めた。

「さぁーてぇー、きっちり足止めして差し上げますわ!」

誇らしげに仁王立ちする婚后の前に、10人ほどの男たちが立ち止まった。

「…なんだ、このコスプレ女?」
「…無視しようぜ、獲物はすぐ先だ」

「…あら、貴方がた、少し失礼ですわよ…?」

追跡者たちが婚后を無視しようとした瞬間、婚后の両手が踊るように動き、ジャイロに装着されたボールに次々と触れていった。
その瞬間、まるで大リーグのピッチャーに投げられたかのように、凄まじい速度でボールが撃ち出された。
555 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:36:55.15 ID:PmnaTDYQo
「何ッ!」「コイツッ!!」

完全に油断していたのか、数人がボールの直撃を受けて昏倒する。
婚后の能力は物体に風の噴射点を作り打ち出す『空力使い(エアロハンド)』だ。
ジャイロは噴射時の衝撃を吸収するもので、撃ち出したのは硬質ゴムで出来たゴム弾だ。

「あまりこの婚后光子を甘く見ないことですわ。でなければ……」

婚后がさらにボールを撃ち出す…!

「怪我だけじゃすみませんわよ!」
「クソ… 散開だッ!」

雨あられと撃ち出されるゴム弾を避けようと追跡者たちが散る。
目標点が一気に広がるが、婚后は慌てず騒がず、さらに弾幕を拡げる。

「ぐあっ!」
「がぁ!」

ゴム弾を受けて、追跡者たちが見る見るうちに数を減らしていく。
このまま全滅するのか… 追跡者がそんな思いに駆られた。
ところが、

「……あら、弾切れですわ」

えらくのんびりした口調で婚后が呟いた。
よくよく見てみると、婚后の言うとおり、ジャイロスタビライザーに装着されたゴム弾は0になっていた。

「ん、もう…… あと少しで全滅P勝ちでしたのに…… あら、何を呆然としていらっしゃるの?」
「ふ、ふざけやがってぇぇぇぇ!!」

それまでの劣勢の反動が怒りになり、追跡者が婚后に殺到しようとした。
しかし、やはり婚后は慌てず騒がず、ジャイロスタビライザーを、背面から腰の下まで包み込むような形状に変形させた。

「ま、足止めは十分ですわね。それでは、皆様……」

あらかじめ作られていた、ジャイロの噴射ガードに両手を当てる。

「ごきげんよう~~~!」

ロケットマンよろしく、婚后がジャイロに支えられるようにして空中に飛翔する。
呆然とする追跡者を文字通り尻目にして、婚后光子が夜空の彼方に消えて行った……
556 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:37:28.39 ID:PmnaTDYQo
「ハァハァ… これで何度目だ…?」
「ふぅ… 6度目のチェックポイントです。と、ミサカ00000号は疲れのせいで無機質な声で申し上げます……」

逃亡を始まってから数時間、彼らはこうして定められた『移送ポイント』に移動し、『座標移動』による転移というプロセスを幾度となく繰り返してきたのだ。

「…ようやく半分か」

額に滴る汗を拭い、天井は懐から携帯電話を取り出して耳に当てた。

「……天井だ、そちらの進行はどうなっている…?」
『…それは貴方の気にする所ではありませんよ、ドクター天井。貴方は規定のルートを逃走すればいいのです』
「ぐっ… しかし…!」

なおも言い募ろうとする天井だが、一方的に相手から通話を切られてしまった。

「畜生……」

無念、後悔、不安、焦燥… 様々な感情を押し込んだ声で呟く。

「00000号、体調はどうだ? 辛くはないか?」
「はい、マスター。私は大丈夫です。と、ミサカ00000号はマスターの気遣いに満面の笑みで返します」

セリフの通り、にっこりと笑ってミサカ00000号が答える。
しかし、彼女の額からも玉のような汗が吹き出ている。

(これ以上の無理は… しかし…)

なおも葛藤を続ける天井の前に、結標淡希が音も無く転移して現れた。

「ご苦労様。それじゃ、跳ばすわよ」
「ま、待ってくれ…! もう少し休憩を……!」
「駄目よ。追跡者に捕捉されたら、そこで終了っていうルールなんでしょ? 少しの時間も無駄には出来ないわ」

結標の言葉に天井が臍を噛む。
すると、ミサカ00000号がそっと天井の腕を掴んだ。

「マスター、マスター。私ならへっちゃらです。ばんばん行きましょう! と、ミサカ00000号は愛しのご主人様にエールを送ります!」

その言葉にようやく決心がついたのか、天井は結標に向き直ると、「すまない、跳ばしてくれ」と頭を下げた。

「了解、なんだか妬けちゃうわね~」

クスリと軽く笑うと、結標は軍用懐中電灯を2人に向けた。
557 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:38:06.65 ID:PmnaTDYQo
とある高級ホテル最上階ペントハウス。

塔下の用意した高級ワークステーションの前に座って、初春飾利はまんじりともせず時を過ごしていた。

心理定規は仮眠を取っている。
無用心にも見えるが、離れる前にきっちり能力『心理定規(メジャーハート)』を使って初春との距離単位は狭めてある。
初春の身体的拘束も併せれば、下手な真似はしないと考えたのだろう。

「……まぁ、情報のプールはすでに終わっているんですけどねー」

垣根に『スクール』情報へのハッキングを露呈した段階で、既にオンラインストレージへのプールは完了している。
さらに、『心理定規(メジャーハート)』の使用も見越して、情報の取り出しには時間制限も設けたため、現段階では誰も情報を引き出すことはできない。
ゆえに、

「暇ですね……」

意味も無くキーボートをかちゃかちゃと叩く。
情報の精査は、すでにオートプログラムを組んでいるので、あとはモニターを見ているだけで良い。
本当なら、初春も仮眠を取りたいところなのだが……

ブゥゥゥゥゥン……

「ああ… また……」

アナルに挿入されたバイブと、乳首に着けられたクリップが振動を始める。
塔下がそう設定していったのか、断続的に振動するソレが、初春の誘眠を妨げていた。

「あん… んぁ…… ぜぇぇぇったい、あの人、女の子にモテないです。断言できます……」

剥き出しの性感帯を擦られるような、あの地獄の快楽とは程遠いが、それでも定期的な快楽は初春を常に軽い絶頂へと導いていた。

「私、処女なのに… カラダだけこんなにいやらしくなって……」

局部だけ綺麗に切り抜かれたスクール水着では、乳首と股間の様子がよく分かる。
キャップに吸われた乳首は痛いほど勃起しており、自主的に股間に置いたハンカチは、秘所からの愛液でぐしょぐしょに濡れてしまっている。

「もう、お嫁に行けません……」

震える瞳でモニターに写るペントハウスのセキュリティを確認する。
『心理定規』は隣室、垣根と塔下も帰還した形跡はない。

初春はそろそろと片手を股間の革パンツに伸ばして、生地の上からクリトリスを探り当てた。

「んぁッ!!」

股間から、ビリッ、とした電流が走り、軽い絶頂を感じる。
しばらく、「はぁぁ… はぁぁ…」と深呼吸をして調子を整えると、次はゆるゆると指の腹で撫ぜるようにクリトリスの愛撫を始める。

「馬鹿になっちゃう… 馬鹿になっちゃいます……」

こうやって自慰をすればするほど、可虐者の思う壺なのは分かっているが、それでも指は止まらなかった。

「乳首も、こんなに……」

キャップの上から乳首をコリコリと弄る。
クリトリスと違った、じんわりと広がるような快楽が体幹に広まっていく。

「あ、あ、あ…… イク、イク、イク……………ッッッ!!!!」

初春が身を屈めて絶頂を迎えたその瞬間、

「お楽しみのところ悪ぃが、至急、塔下のバイタルを確認してくれ」

垣根帝督の声が間近から聞こえた。
558 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:38:44.57 ID:PmnaTDYQo
「☆□△□★※☆△~~~~ッ!!!!」

あまりのショックに溺れたように手足をバタバタと動かす初春を、チョップ一発で黙らせてから、垣根帝督は同じ言葉を重ねた。

「早くしろ、塔下のバイタル」
「うぅ… はぃ…… いつから見てたんですか……」

そもそも、垣根はどこから入ってきたのだろうか?
入り口のセンサーは何も反応していないし、ドアが開く音もしなかった。

初春は横目で、チラチラ、と垣根を見て、そしてぎょっとした。

「か、垣根さん… それ……!?」
「ん…? あぁ、返り血だ、俺のじゃねぇよ」

垣根のスラックスの右半分が、黒い血でベットリと濡れていた。
問い質したい気持ちを何とか抑えて、初春がワークステーションの操作に集中する。

「えっと、あの人のバイタルは… え、D?」

『スクール』メンバーの状態を表すステータスに、垣根:L、心理定規:L、塔下:Dの文字が表示されていた。

「こ、これって……?」
「ああ、Dead… 死亡したようだな」

何でもないように垣根が呟くが、初春はショックを受けて両手で口を塞いだ。
いくら自分に極悪非道な行為をした人物とはいえ、流石に死亡した事実はショッキングだったのだ。

「そんな、なんで……?」
「他の『暗部』にやられたんだろうな。俺も3人ほど仕留めた。着替えてくるから、『心理定規』連れてきとけ」

それだけ言うと、垣根はさっさと隣室へ消えて行ってしまった。

初春は、図らずも遺品となってしまった自分の責め具を見て、なんとも言えない複雑な感情を得た。
559 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:39:10.58 ID:PmnaTDYQo
「とうとう死んだか、あの変態」

塔下が死んだことについて、『心理定規』の感想はこの一言のみだった。

「で、何かわかったの?」
「まぁな」

初春をワークステーションからどかし、色々な操作を行いながら垣根が答えた。

「まず1つは、今回の件でターゲットは『反学園都市勢力』とは、一切コンタクトを取っていないっつーことだ」
「つまり、『上』の目論んだ『釣り出し』は不発に終わったってこと?」

『心理定規』が推論を言うが、垣根はゆっくりと首を振った。

「いいや違うな。まだ確証は無いが、恐らく、最初から『反学園都市勢力の釣り出し』なんざ、目的になっていなかったんだろうよ…」
「……ちょっと、それどういうことよ?」

『心理定規』の眉尻が釣りあがる。

「そういうことだろうさ。それともう1つ、ターゲットの逃亡を幇助しているのは『座標移動』だ」
「はぁ? それじゃ最初からウチラ負け戦じゃない!」

『座標移動』の巨大な能力は、『暗部』の中では語り草となっている。

「だが、いまだターゲットは学園都市内だ。…フン、色々見えてきたな」

椅子から立ち上り、垣根は初春と『心理定規』を見た。

「こいつは俺様の予想だが、恐らく近いうちに『上』からターゲットの位置情報が送られてくる。動くのはそれからだ」

『心理定規』が神妙な顔で頷き、初春も散々迷った挙句、おずおずと頷いた。
560 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:39:55.08 ID:PmnaTDYQo


「はぁ? 全部『上』の仕込みぃ?」

麦野のマンション「Meltykiss」。
麦野と2人で夜食のバーガーを食べながら、上条が素っ頓狂な声を上げた。

ちなみに滝壺は隣室で寝ており、浜面と絹旗は深夜営業の闇医者に行っている。

「ま、あくまでアタシの予想だけどね。ターゲットの逃亡ルートも、逃亡手段も、全部『学園都市側』が用意したものなんでしょうね」

好みの鮭フレッシュバーガーを囓りながら麦野が答える。

「それじゃ、何のために俺たちは……」
「それを知るためにも、なんとしてでもターゲットを確保しなくちゃね」

指についたタルタルソースをペロリと舐めて、麦野がニヤリと笑った。

「アタシの予想が正しければ、現時点での最善手は『待ち』よ。つーわけで、食べ終わったらスルわよ」

麦野が、長いあんよを伸ばして上条の股間をまさぐる。
その旺盛な性欲に苦笑しながら、上条は「腰、立たなくなるといけないから1発な」と軽口で応えた。

ゆっくりと、しかし確実に、決着のときは迫っていた……






                                                                ――続く
561 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:41:33.35 ID:PmnaTDYQo
はい、今回は、

・塔下君、飛竜原爆固めで轟沈
・みっちゃん空を飛ぶ
・ドキドキ、初春ちゃんおなにぃ中毒

の3本でお送りしました。

それでは、また次回。 
562 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/03(木) 20:43:37.61 ID:PmnaTDYQo
あ、それと、散々質問された『塔下君』ですが、
原作15巻に出てきた『スクール』構成員の、『ゴーグルの少年』を勝手に改変したキャラです。
プロットでは、もう少し長生きして、初春にフェラぐらいさせる予定でしたが、冗長になるのでカットしました。
ではでは。 
599 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:01:27.70 ID:fXSouTE2o
ぎしぎし、ぎしぎし……

瑞々しい若い肉体の交合に、クィーンサイズのベッドが揺れる。

「あぁ、深ぃ…… 奥まで届いているわ……」

仰向けに寝る上条当麻の上に跨り、麦野沈利が表情を蕩けさせる。
これまでに散々、毎日毎晩味わっているペニスだが、不思議と飽きが来ない。
それどころか、セックスすればするほど、自分の膣に馴染んできている実感がある。

(あー、落ち着くぅ……)

ここ最近、麦野沈利の最大のリラックスポジションがここだ。
上条に貫かれていると、肉体的にも精神的にも固定されているような気がする。

『暗部』の仕事で受けるストレスを、もっぱら上条との性行為によって発散しているのだ。

(こいつと離れるとマジでヤバイだろうなぁ…)

絶対的強者の立場である麦野は、『弱さ』に対して敏感だ。
『弱み』や『弱点』はできるだけ作らないようにしているし、何かへの依存も出来る限り控えてきた。

しかし、いざ依存対象を得ると、意外に精神が安定している自分に驚いている。

そんな風に、つらつらと物思いに耽っていると、不意に、ズン、と下から腰を突き上げられた。

「あんッ…!」
「何、考えてたの?」

軽い抗議の視線を下に送ると、悪戯っぽい瞳で微笑む上条が見えた。

「……仕事のことよ。もぅ、集中してたのに… あっ、ちょっと!」

浅く早く、膣奥をペニスの先端で、コツコツ、と突かれる。
子宮口は麦野の性感帯の1つだ。浅く突かれるだけで、軽くイッてしまう。

「セックス中にそりゃないんじゃないの?」
「……馬鹿」

そりゃそうか。と、麦野は思った。
今は仕事を忘れて良い時間だ。

しかし、そんなやる気になりかけた麦野の気持ちとは裏腹に、携帯電話が無機質な着信音を響かせた。

「……ぜってー見てやがる」

せめてもの抵抗なのか、騎乗位のまま麦野は電話に出た。

「はい、もしもし」
『……あんたねぇ。オトコに跨ったまま電話に出る、フツー?』

出歯亀を全く隠さず、しかもそれを問題にせず会話が始まった。

「で、最終逃亡ルートはどこよ?」
『……さて、なんのこと?』
「ざけんな。もう目星はついてんだよ」

数瞬、電話先が沈黙した。

『…第23学区だ』
「…派手にやれってか? 

第23区は航空・宇宙開発部門が占有する学区で、広大な敷地が特徴だ。
                           ・ ・ .・ ・ ・ ・ ・
『さぁね。予想される逃走時間は1時間後… 間に合うようにお願いね』
「……ふん、了解」

パタリ、と携帯電話を閉じる。
上条が怪訝そうな表情をしていると、麦野は激しく前後に腰を振り始めた。

「あと15分で終わって、シャワーに15分、移動に30分! さぁ、景気づけに一発かますわよ……!」

妖艶、というよりもドスの聞いた声でそう言うと、麦野沈利はニヤリと笑った。
600 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:01:54.61 ID:fXSouTE2o
コツ、コツ、コツ、コツ…ッ

「あっ、あっ、あっ、あっ……!」

上条が小刻みに体奥を突く度に、麦野の口から短い嬌声が漏れる。

本当はもっと激しく突かれるのが麦野の好みだし、上条もそれを把握している。
しかし、これから一仕事をすることを考えて、あえて動きを少なくしているのだ。

「ふぅ…… 小技が上手くなったわねー…」
「そりゃ、勢いばっかじゃ沈利だって満足できないだろ?」

首を伸ばして軽くキスをする。
口唇がほんの少し触れるだけのキスだが、それでも麦野は満足そうに満面の笑みを浮かべた。

「キスが優しくなった。がっついてばっかりだったのに…」
「心外だなー。上条さんはいつでも優しいですよ、と…!」

言葉と共に、騎乗位から強引に麦野を抱え上げる。
お気に入りの駅弁スタイルに移行して、麦野は挿入感を噛み締めるようにおとがいを反らした。

「あうぅぅ…… フィニッシュ?」
「時間無いから、後ろのテーブルに手を着いて……」

男の言われるがままに、麦野が両手を後ろに回してテーブルにつく。
長い脚をしっかりと上条の腰に回すと、より密着して挿入感が増す。
601 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:02:20.36 ID:fXSouTE2o
「…行くぜ!」

短い宣言と共に、麦野の腰が下から突き上げられる。
いつもの挿入とは違い、より腹壁側の膣壁を小刻みに突き上げられ、麦野の快感レベルが一気に高まる。

「それ…ッ、そこッ、凄い……ッ!」
「ああ… なんか、スッゲーとこ当たってる感じするぜ……」

上条の声に、やや緊迫感めいたものが含まれる。
毎度のことだが、駅弁スタイルは麦野を落とさないようにするのに気を使う。

上条が、よりしっかり麦野を把持しようと両手を臀部に回す。
すると、

にゅる……

「あ、バカ……ッ!」

しっかり持とうと力を込めた上条の右手中指が、意図せず麦野のアナルに、第一関節まで潜り込んでしまった。
入れた上条も、入れられた麦野も面食らって、思わず顔を見合わせてします。

「わりぃ……」
「き、汚いから… 早く抜いてよ……」

流石の麦野も、準備無しでアナルを弄られるのは恥ずかしいのか、目線をそらして頬を染める。

しかし、そんな仕草が、上条にとっては新鮮でひどく可愛いものに思えた。

「……痛くない?」
「い、痛くは無いけど…ッ!」

麦野の様子を確かめながら、慎重に中指をアナルに埋め込んでいく。
中ほどまで挿入すると、膣に埋め込んだペニスを、薄い腸壁・膣壁越しに感じることができた。

「うわ… 意外と近いんだ……」
「そりゃ、隣同士の穴なんだし… あ、ちょっと、そこで本気でストップ!」

中指が根元まで埋め込まれた段階で、麦野が真剣な声で言った。

「それ以上入れられたら、本当に指を汚しちゃうから……」

恐らく、絹旗やフレンダが今の麦野を見たら、悶絶を繰り返して憤死するかもしれない。
それぐらい、今の麦野はしおらしく、か弱く見えた。

「ああ、それじゃ、ここまでな…!」
「ちょ、抜いてよぉ! あぁんッ!!」

指をアナルに挿入したまま、上条が腰の動きを開始する。
挿入した指に、ピストン運動するペニスが、ごりごり、と擦れる。

当然、その間の膣壁・腸壁も擦られて、麦野はなんとも言えない、ぞくぞく、とした快感を味わった。

「もぅ… こんな、小技ばっかり、覚えてぇ…!」

予想外のアナル責めに、急速に昂ぶりながら、麦野は新たな絶頂の予感に腰を奮わせた。
602 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:02:53.55 ID:fXSouTE2o
「23区か。予想通りと言えば予想通りだな」

『スクール』専用のルートから得られた情報は、麦野沈利が受けたものと全く同じ内容だった。

「しかも1時間後か… 面倒くせぇ……」

1人ごちると、垣根帝督は上着を羽織って席を立った。

「待機じゃないの?」
「ブラついて時間を潰す」
「私は?」

腕を組んで眉尻を上げる『心理定規』を、垣根はチラリと一瞥した。

「もう、この件からは手を引いて良いぜ。あとは『残った暗部』を叩き潰すだけだからな。俺様だけで十分だ」
「あ、そ。それじゃ、こっちは勝手にやらせてもらうわね」

『心理定規』は軽く肩をすくめると、イブニングドレスの上から薄手のコートを羽織った。

「あ、あの……」

1人、会話の輪から外れていた初春が、おずおずと垣根に声を掛けた。

「その… あの……」
「あぁ、なんだ?」

歯切れの悪い初春の言葉に、垣根が面倒そうに応答する。

「…………お尻、外してください。その……」
「………あぁ、トイレか」

得心した垣根が、知恵の輪状になった鍵束を一瞥すると、複雑に絡み合っていた鍵束の内、一本が弾かれるように元の形に戻った。

「あ、ありがとうございます……」

礼を言うのもおかしな話だが、責め具を着けた張本人である塔下が死んだ以上、垣根が鍵を解除しないことには、初春の性感帯はロックされたままなのだ。

「の、残りは……」
「残りの鍵は1時間かけてゆっくりと解けるように設定しておいた。無理やり開けようとするなよ、鍵が壊れる」

そう言われて、初春は捻れた鍵束を見つめた。
よくよく見てみると、たしかにゆっくりと捻れが直っていっている。

「……1時間はここに居ろと」
「まぁな。それが解けたら、もうお前は用済みだから帰って良いぜ。お前の能力はチト惜しいが、使い処が面倒だからな」

あっさりと言う。
それはつまり、初春を『スクール』から解放するということだった。

「……………………………」

何か言いたくて、しかし、何も言えずに初春は黙り込んだ。
『風紀委員(ジャッジメント)』として、垣根帝督を見逃すことは出来ない。
しかし、この男に対して、決してこれ以上触ってはならない、と、心のどこかが警告を発しているのだ。

「まぁ、1時間何もしないのは暇だろうからな」

沈黙を守る初春に対して、垣根は1枚の光ディスクを差し出した。

「これは…?」
「前に質問したな、『何のために』と。ヒントぐらいは出してやる。後はおまえ自身で判断しろ」

それだけ言うと、垣根は初春に質問を許さず、さっさと部屋から出て行ってしまった。

「……私からは何の忠告も出来ないわね。観るか観ないかは初春さんの自由よ」

準備を終えた『心理定規』が、一枚のメモを初春に渡した。

「これ、私の連絡先。個人的には初春さんとお友達になりたいから、気が向いたら連絡をちょうだい」
「は、はぁ……」

どんな表情をして良いか分からず、初春は光ディスクとメモとを交互に眺めて溜め息を吐いた。
603 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:03:19.78 ID:fXSouTE2o
「1時間、か……」

1時間のインターバルを与えられたのは、何も追跡者だけではなかった。
逃亡者である天井亜雄にも、1時間の休憩(インターバル)が与えられていた。

「逃亡の英気を養えって? なんだかムカつくわねー」

場所は23区の多目的トイレ(リラックススペース)
そこで結標淡希が顔をしかめ、すぐそばに立つ婚后光子もコクコク頷いて同意する。

「逃げる獲物に適度な休息…… 癪に触るやり方ですわね」
「だが、有り難いのは事実だ……」

そう言うと、天井はミサカ00000号を呼び寄せ、寝台に寝るように指示をした。
深夜からの絶え間ない逃亡劇に疲労しているのか、彼女は肩で息をしていた。

「マスター…?」
「少し身体の調子を見よう。命令だ」
「はい、マスター…… はぁ…」

疲れからか、その独特な言い回しも行わず、ミサカ00000号は寝台に身を置いた。

「クローン、か……」

結標がポツリと呟く。
この夜の逃亡劇で、結標は彼女がどういう存在・状態なのか、おぼろげに理解していた。

「こんなこと言うと失礼になるかもしれないけど、儚い存在に見えるわ、私には」
「お姉さま、詩人ですわね… そこはかとなくインテリジェンスの香りが……」
「茶化さないの」

意外に真面目に考えているのか、結標がぴしゃりと言う。

「……印象としては間違っていない。体細胞クローンである彼女は、我々と違い寿命は明らかに短い」

ミサカ00000号のバイタルを測定し、携帯医療キットから長い針の注射器を取り出して天井が言った。

「能力も、オリジナルの御坂美琴と比べて、ほんの1割ほどしか再現することが出来なかった…… 儚い存在と言えば、そうだろうな……」

テキパキとなれた手つきでミサカ00000号の胸元をはだけ、左胸を露出させる。
乳首に着けられた意匠化ピアスも露わになり、結標と婚后が思わずギョっとした表情になる。

「なに、それ……?」
「……バカな男の、バカな行動の結果だよ」

慎重に注射器を操作し、心臓注射を行う。
すると、乱れていたミサカ00000号の呼吸が、ゆっくりと安静なものに変わっていった。

「これで、今晩はもう大丈夫だろう……」

ミサカ00000号の衣服を整え、天井は機器を片付けると、1つ、大きく息を吐いた。

「時間はまだあるな… 暇なら聞くかい? バカな男の身の上話を……?」

疲れに疲れきった表情で微笑する天井に、結標と婚后はゆっくりと首を縦に頷いた。
604 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:04:06.47 ID:fXSouTE2o
天井亜雄は元々『肉体操作(ボディポテンシャル)』系の科学者だ。
しかし、『肉体操作』系は能力としては地味で、また、科学への応用も利きにくい能力であり、天井は常に資金繰りに苦労をしていた。

「そんなとき、量産型能力者開発計画、通称『レディオノイズ』計画が立案された」

登録してあった超能力者(レベル5)御坂美琴のDNAマップを用い、体細胞クローンによる人工的な超能力者を造りだすプロジェクトであった。
肉体形成の分野において第一人者であった天井は、プロジェクトの責任者として白羽の矢が立ち、資金難に喘いでいた天井もこのプロジェクトに飛びついた。

「だが、知ってのとおり、計画は完全に失敗に終わった……」

計画の中期の段階で、学園都市を統べる『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』は、人工超能力者の可能性をゼロと断定した。
そのため、計画に参加していた企業や資産家は次々と見切りを付け、計画から離れて行った。

プロトタイプ体細胞クローン、『ミサカ00000号』が生れ落ちたのは、ちょうどその辺りであった。

「私は、傾いたプロジェクトを何とか建て直そうと躍起になった。少ない私財を投げ打ち、様々なコネを使い、なんとかミサカ00000号を超能力者に育てようとした」

だが、それも失敗に終わった。
何が原因だったのか分からない。いや、原因が多すぎて特定できないと言った方が正しかった。

「私は肉体変化・操作に関してはスペシャリストだったが、ソフト面、即ち脳については全くの門外漢だった。
 計画の初期には、布束という天才脳科学者がサポートしてくれていたが、彼女はすぐに計画から離れてしまったからな……」

計画が凍結され、天井の手元に残ったのは、多額の負債とただ1人製造されたミサカ00000号だけだった。

無残に最後のスポンサーが最後通告をしたときのことを、天井は良く覚えている。
何もかもか灰色になり、残された機材とミサカ00000号の前で、天井は獣のような絶叫を上げた…
605 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:04:43.96 ID:fXSouTE2o
「全てが終わった、そう思った。実際に科学者としての私は終わりだった。未来も何も無くなった……」

浅く寝息を立て始めたミサカ00000号を見て、天井が呟くように言った。

「私は全てを呪った… 私を責任者にした統括理事会を… 掌を返したスポンサーを… そして、何より、この娘をな……」

天井が2人の方を振り向いた。

「コイツが憎くて憎くて仕方がなかった。殺そうとも思ったし、実際に喉に手をかけた。…少し、気が触れていたんだろうな」
「…まぁ、気持ちは分からないでもないわね」

気遣うように、結標が天井に同調する。
天井は軽く「ありがとう」と言って、続きを話した。

「私が喉に手をかけても、この娘は無抵抗だった。当然だ、そういう風に調整していたのだからな。そして… 魔が差した……」

額に手を当て、ひどく後悔をした表情になる。

「無抵抗の美少女を前にして、その時の私は情欲を抑えることができなかった。
 …恥ずかしい話だが、研究一筋のせいであまり異性とは縁が無くてね。無抵抗なことを良いことに、散々この娘を犯し抜いた」

あの時、天井は思いつく限りの陵辱をミサカ00000号に与えた。
それでも、天井の気は晴れることなく、逆に行為はどんどんエスカレートしていった。

「元々、私は肉体変化の専門化だったから、この娘の体を思うがままに改造した。
 乳房を肥大化させ、陰毛を永久脱毛し、陰核の包被を切り取り、咽頭を改造し、タトゥーを彫り、ピアスを入れた…」

流石に不快に思ったのか、婚后が顔をしかめた。

「…ご本人を目の前にして言うことではありませんが、悪趣味なことですわね」
「はは、私もそう思う。思い出すだけで自殺したくなる……」

だが、天井が最も後悔していることは、それではなかった。

「度重なる肉体改造に、精神が未発達なこの娘も、ようやくおかしいと気付き始めた。 ……だから私は、この娘の脳も改造した」

2人が、軽く息を呑むのを感じた。

「さっきも話したが、私は脳は専門外だ。だから布束が残した『学習装置(テスタメント)』を使った」

『学習装置(テスタメント)』とは、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五感全てに対して電気的に情報を入力することで、脳に技術や知識をインストールするための装置だ。

「だが、門外漢があやふやな知識で使ったせいか、期待する効果は現れなかった。結果は、ご覧の通りだ……」
「……性奴隷としての人格形成は、狙ったものではなかったんの?」
「さてな…… 狙ったようにも思えるし、そうでないようにも思える…… だが、この娘が、ああいった支離滅裂な言動を話し始めて、ようやく目が覚めた……」

天井が、再び2人を見た。

「君たちがどんな指令を受けているのかは分からないが、これからはこの娘の安全を第一に考えて欲しい」

そう言われて、結標と婚后は互いに視線を交わした。

「私のことは、もう良い。この娘を最終ポイントに指定された時刻に連れて行く。それを第一に頼む」

言って、深々と頭を下げる。
その天井の行為に、婚后は口元を扇子で隠して目を泳がせ、結標は困ったように頭を掻いた。

「……ま、事情は大体把握したから、私たちは全力で任務を遂行するだけよ」
「そうですわね…… 受けた任務をきっちりこなすだけですわ」

結標がきっぱりと言い、婚后がそれに同調する。
天井は、幾分和らいだ表情で、「ああ、それで頼む」と、微笑んだ。
606 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:05:09.46 ID:fXSouTE2o
「よし、行くか……」

漆黒のライダースーツに身を包み、麦野がハイブリット・バイクに跨る。

「………うぃ」

どこか冴えない声で上条が答え、後方のタンデムシートに跨る。
その頬には、赤々としたもみじ色の手形がついている。

「…ぶつことねぇじゃん」
「やめて、って言ったのにやめないからよ」

麦野から『勝手にアナルを弄った罰』として、風呂上りに痛烈な平手打ちを食らったのだ。

「……今度はちゃんと準備しとく」
「……はい?」
「なんでもない! 行くぞ!」

清音性に優れたハイブリットバイクが音も無く走り出す。
肉付きの良い麦野の胸腰部に手を回して、上条は互いのフルフェイスのヘルメットを、こつん、と合わせた。
このヘルメットは、内部で話した声を振動として広い、接触した同じタイプのヘルメットに伝達する優れモノだ。

『なぁ、シナリオ書いてるのが学園都市なら、最後に出てくる障害もやっぱり能力者かな?』
『ええ、恐らく出てくるのは『座標移動(ムーブポイント)よ』

麦野が数ヶ月前の記憶を引き出して答える。

『『座標移動(ムーブポイント)は、指定した座標の物体を任意に瞬間移動することができるテレポーターよ。
 この能力の凶悪なところは、始点と終点が固定されていないことよ』

つまり、見えるモノ全てが範囲ということだ。

『つまり、『見られたら終わり』ってこと?』
『まぁ、動き回っていたらテレポートは難しいらしいから、一箇所に留まらないことね』

一応、麦野の頭の中に戦闘プランはある。
上条が接近し、左手で結標を無効化するのが理想だが、それはかなり難しいだろう。

(大盤振舞いでいかないとね……)

それに、麦野個人としては、あまり上条と結標とは絡んで欲しくないのだ。

(アタシ以上に年下趣味だからな、アイツは……)

上条に聞こえないように軽く舌打ちして、麦野はアクセルを強く握り込んだ。
607 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:06:10.57 ID:fXSouTE2o
23区。
航空・宇宙開発分野が占有するこの学区に、音も無く麦野のタンデムバイクが進入する。

「……そろそろポイントね」

指定された逃亡ルートはすぐそこだ。
麦野は『座標移動(ムーブポイント)』の奇襲を警戒し、バイクの速度を緩やかに落とした。

瞬間、麦野の瞳が、光る何かを知覚した。

「…………来たッ!!」

手首を素早く動かし、前輪をロックしたままアクセルを全開。
強引にドリフトをしてバイクを方向転換させると、元居た場所を鈍く光る球体が通過し、そして、同じ速さで戻って行った。

「結標…… じゃないか……」
「あら、お姉さまのお名前を知っていらっしゃいますの? とすると、貴女が『原子崩し(メルトダウナー)』?」

高出力の証明の下に、この場にそぐわないブルマ少女がゆっくりと歩いてきた。

姿を見せたのは婚后光子だ。
婚后は以前使用したジャイロスタビライザーは背負っておらず、代わりに、3つのひも付きゴム弾がついたごつい手袋を両手に嵌めている。

「……ごめん、当麻」
「…わかった、まかせろ」

婚后の狙いは恐らく追跡者の足止めだろう。
そう判断した麦野は、上条を降ろすと、ギアを入れずにアクセルをゆっくりと上げた。

「…危なくなったら、すぐに逃げなさい。負けたときの狙撃に気をつけてね」
「ああ、沈利もな」

短く言葉を交わした瞬間、上条が猛然と婚后目掛けてダッシュする。
同時に、強引にギアを入れた麦野のバイクが、猛スピードで急発進する。

「……ッ!! 無視するおつもりですのッ!?」

婚后が手首を返してゴム弾を掌に引き寄せる。
しかし、婚后がゴム弾の射出準備を終えるより早く、上条が一気に距離を詰めた。

「おらッ!!」
「おっとっとッ!!」

意識を散らす目的で放った大振りの右ストレートを、婚后が慌てて前転してかわす。
その隙に、麦野のバイクは赤いテールランプを揺らして走り去った。
608 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:06:36.55 ID:fXSouTE2o
「……ま、良いでしょ。お姉さまが負けるはずはありませんし」

程よい脱力肢位でファイティングポーズをとる上条に相対する。
距離はおよそ1m強。先ほどの踏み込みを見るに、1ステップで上条は距離を詰めてくるだろう

「確認いたしますが…… 降参していただけませんか?」
「…そりゃ、コッチのセリフだッ!!」

上条が地面を強く蹴りつけ、婚后との距離を一気に詰める。
流石に女性の顔を殴るのは気が引けるのか、腹部を狙って左フックを放つ。

「あ、そ~れ!」

しかし、上条が動いたのと同時に、婚后も身を亀のように丸めたと思うと、胸に重ねた左腕を、右手で軽く叩いた。
瞬間、みえない何かに弾かれたかのように、婚后の身体が後方に吹っ飛んだ。

「なにッ!!」
「よっとっとッ!」

4、5メートルを一気に移動し、たたらを踏んで婚后が着地する。

「ご解説をいたしましょうか?」
「……『空力使い(エアロハンド)』。任意の点に空気の噴射点を作り、物体を飛ばす能力か……」
「ご名答! 人はわたくしの事を、『トンデモ発射場ガール』と呼びますのよ!」

婚后が今度こそ手元にゴム弾を引き寄せて左右計2個のゴム弾にタッチする。

「お行きなさいッ!!」

撃ち出されたゴム弾が、高速で上条に迫る。
が、上条は僅かに身を動かしただけでソレを回避した。

「おや?」
「電撃よりは遅ぇし、初動が分かっている弾なんて当たるかよ」

やや呆れた口調で上条が言う。     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
しかし、それでも婚后は笑みを崩さず、手首をくるりと返した。

「……うおッ!!」

背部に、ぞわり、とした危険を感じて、今度は上条が地面に転がる。
そこを、手首の返しで軌道を変えたひも付きゴム弾が、高速で通過していった。

「……なんじゃそりゃ?」
「いわゆる1つの、くらっかぁ~・う゛ぉれぇ~いッ! ですわッ!!」

言葉の終わりに、今度は左右計4個のゴム弾を射出する。
しかし、4個のゴム弾は上条に向かわず、てんでバラバラな方向に飛んで行った。

「……まさかッ!」
「そのまさかですわッ!」

婚后が独特な動きで手首を返すと、4つのゴム弾がまるで生き物のように四方から上条に襲い掛かった。

「くっそッ!!」

身を捻り、後方に下がることでゴム弾をかわす。
距離がさらに離れた。

「やりますわね。では、これはいかが?

手元に戻したゴム弾の内1つを発射する。
足元に打ち込まれたソレを、上条が軽くジャンプしてよける。
すると、ほど同じ軌道で次弾が高速で迫った!

「チィッ!!」

着地の瞬間を狙われ、上条は強引に空中で身を捻り着地点をずらす。
しかし、不完全な着地はバランスを崩す結果となり、上条の瞳が3発目のゴム弾を捉えた。

ごつッ、と鈍い音がした。
何とか腕のガードが間に合ったものの、上条の右腕に見る見るうちに黒血が集まり痣となった。
609 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:07:03.37 ID:fXSouTE2o
「……ッたく、めんどくせー」

上条が大きく深呼吸をして、軽くステップを踏む。

「再度申し上げますが、降参していただけませんか? まだ、わたくし本気じゃないんですよ?」

余裕の笑みを崩さずに婚后が言う。
上条はそんな婚后をジト目で見ると、ふぅ、と息を吐いた。

「気は進まねえけど、お前を殴って倒すから」
「あらあら、負け犬の遠吠えにしては、大言が過ぎますことよ?」

婚后がゴム弾を射出する。
角度、時間、スピードを変えられたソレらが、いっせいに上条に襲い掛かる。

「ぐっ……ッ!!」

ゴム弾に翻弄されるように上条が身を捻る。
多方向から襲い掛かるゴム弾を、ある程度はよけることに成功するが、かわしきれない数個をやむを得ずガードする。

「おや、ジリ貧ですことよッ!?」

婚后がゴム弾の密度と速度を上げる。

(今だッ!)

瞬間、突如として上条が婚后に向かって猛然とダッシュした。
婚后が全てのゴム弾を射出したのを確認したのだ。

「弾が戻るよりも速くッ!」
「奥の手と言うものは隠しておくものですわよ?」

全弾使い切ったと思われた婚后の手に、手品のようにゴム弾が現れた。

「掌ばかりに集中して、手の甲を忘れていらっしゃいませんのッ!」

勝利を確信した婚后は、接近する上条の顔に向かって、必勝の一撃を射出した。
ダッシュした上条は、よける間もなく当たるはず。はずだった。

「そうだな、奥の手は隠しておくもんだ」

上条が左手を軽く振るう。
直撃するかと思われたゴム弾は、上条が左手で触れた瞬間、勢いを失って減速した。

「なッ!? そんなッ!!」
「痛かったぞ! 痛いぞッ!!」

ボディ目掛けて、5分の力で正確に鳩尾を打ち抜く。
婚后の身体がくの字に折れ曲がり、そのまま膝をついて崩れ落ちた。

「……ふぅ、何とかなったか」

先行した麦野は大丈夫だろうか。
心配する上条は、ふと、麦野の言葉を思い出した。

『負けたときの狙撃に気をつけてね』

上条は油断無く辺りを見回すと、迷った末に、婚后の武装を解除して担ぎ上げた。
610 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:07:33.26 ID:fXSouTE2o
「はぁはぁはぁ…… もうすぐ、もうすぐだ……」

一方、逃亡ルートの終わり際では、天井たち3人が息を切らせ疾走していた。
学園都市が指定した最終ポイントまであと数百メートル。
天井が逃走の成功を夢想し始めたとき、結標が天井の襟首を掴んで止めた。

「ぐっ… なんだッ!?」
「ごめん、天井さん。追いつかれちゃったみたい」

天井が慌てて首をめぐらすと、黒いライダースーツの女が、バイクから降りてヘッドライトをこちらに向けるのが見えた。

「やっぱ、ファイナリストは麦野先輩か…… こーんな屋外の開けた場所で、私に勝てるかしら?」
「能力が知れてりゃ、対策なんざいくらでも取り様があるだろうが、ボケが……ッ」

麦野が静かに闘志を燃やす。

「……後ろの2人が、ターゲットとクローンか。その2人を守りながら戦うつもりかよ?」
「このぐらいのハンデがちょうど良いんですよ。…天井さん、下手に動かないでね、始点がずれるから」

結標が念押しに言い、天井が深刻そうに頷いた。

「それじゃ… 始めますかッ!!」

結標が軍用懐中電灯のスイッチを入れ、超能力者(レベル5)同士の戦闘が始まった……


                                                      ―――続く。 
611 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/14(月) 00:09:10.50 ID:fXSouTE2o
はい終わり。

次で終われるかな?

婚后さんのゴム弾はジョジョではなくコータローまかりとおるLが元ネタ。
じゃあの。 
620 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/15(火) 00:03:09.13 ID:tcm4Pk8jo
「ふっ!!」

麦野沈利、対、結標淡希。

最初に動いたのは麦野だった。
自身の座標を悟られまいと、大きく弧を描くようにダッシュする。
さらに、

「喰らいなッ!!」

未だ一箇所に固まっていた、結標、天井、00000号を巻き込むように『原子崩し(メルトダウナー)』を叩きこむ。

「強引なのは相変わらずね…!」

音も無く飛来する極太のビームに、しかし、結標は全く臆する事なく対処する。

「う、うわっ!!」

結標の代わりに天井が悲鳴を上げる。
が、次の瞬間には、天井は奇妙な浮遊感を感じ、数瞬前に居た場所とは全く異なる地面に座り込んでいた。

「ひ、ヒヤヒヤさせる…」
「何度体験しても慣れないですねぇ… と、ミサカ00000号がか弱く主張します…」

どうやら、『原子崩し(メルトダウナー)』が発射されてから、僅か数瞬の間に、結標が『座標移動(ムーブポイント)』の能力を使って彼らを瞬間移動させたようだ。

「ちっ、どこ行った…!?」

消えた結標を麦野が目をギラ付かせて探す。

探索時間はほんの数秒。
安易に見つからないと悟った麦野は、遠慮無く座り込んでいる天井たちに掌を向けた。

「動くと死ぬぞぉ!!」

瞬間、『原子崩し(メルトダウナー)』の斜線上に結標が現れる。

距離にして約3m。
結標は麦野が『原子崩し(メルトダウナー)』を照射するよりも速く、軍用懐中電灯を麦野に向けた。

「成層圏までふっ飛びなッ!!」
「やなこったッ!!」

文字通り光速のライトに照らされる直前、麦野の両足が爆発するように弾けた。
どぉん! という炸裂音と共に、麦野の身体が斜め後方に吹っ飛ぶ。

極めて慎重に出力を調整した『原子崩し(メルトダウナー)』を両足底から照射して、その反動で『跳んだ』のだ。
621 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/15(火) 00:03:37.21 ID:tcm4Pk8jo
「うわッ! なにその荒業!? 足痛く無いの!?」
「余計なお世話!!」

麦野が空中で懐から1枚のカードを取り出して放り投げた。

『拡散支援半導体(シリコンバーン)』

『逆落とし』戦でも使ったソレは、『原子崩し(メルトダウナー)』を拡散させる、文字通り『アイテム』である。

「行けぇ!!」

『原子崩し(メルトダウナー)』がカードに接触し、光の槍が数条の光の矢に変化する。

「ちっ! 馬鹿の一つ覚え…ッ!!」

毒づくものの、その攻撃方法は苦手なのか、結標がテレポートして大きく距離をとる。

地面に光の矢が次々と激突し、瞬間的に砂煙が舞う。

「くぅッ… 目隠しのつもり……?」

本来なら、屋外では『座標移動(ムーブポイント)』はほぼ無敵である。
しかし、麦野が指摘したとおり、今の結標には天井とミサカ00000号という足手纏いが居る。
彼らを視認できる位置・距離が、結標の移動限界であり、麦野の勝機である。

「こっちだボケッ!!」

不意に、麦野の声が場に響いた。

「なッ…! 馬鹿にしてんのッ……!?」

『原子崩し(メルトダウナー)』の不意打ちを警戒していた結標が、わざわざ自分の位置を教えた麦野に苛立ちの声を上げる。
だが、麦野を見た結標は、苛立ちを不審に変えた。

「………痴女?」
「誰が痴女だッ!!」

結標の視線の先には、黒いライダースーツを脱ぎ捨てた麦野の姿があった。
ライダースーツの下は、往年の芸術品泥棒を思わせる薄紅色のレオタードで、さらに、そのレオタードの表面には不可思議な紋様がプリントされている。

「終わりだッ!!」

声と共に、麦野が豊満な肉体をダイナミックに躍動させて結標目掛けて突っ走った。

「いや、意味分かんないし… 万歳突撃ッ!?」

麦野の突飛な行動に混乱しながらも、反射的に結標は『座標移動(ムーブポイント)』で麦野をテレポートしようとした。
だが、

「!!??ッ 11次元ベクトルが計算できない…ッ!?」
「対策あるっつっただろーがッ!!」

このレオタードが、麦野の対『座標移動(ムーブポイント)』用の切り札その1だった。
レオタードの表面にプリントされた紋様は、可視者に視覚的な錯覚を引き起こし、その距離感を狂わせる効果があるのだ。

その錯覚は一瞬で一時的なものだが、結標の隙を作るには十分な時間だった。

「サヨナラ、結標…… 天国でそのショタコン治してもらいな……!」

麦野沈利が躊躇い無く『原子崩し(メルトダウナー)』を照射する。

どんぴしゃのタイミングだった。
結標が我を取り戻したときには、『原子崩し(メルトダウナー)』は目の前まで迫っていた。
622 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/15(火) 00:04:03.32 ID:tcm4Pk8jo
自身へのテレポートは間に合わない。
勝負は決まったかと思われた。
しかし、結標淡希は、やはり学園都市第六位の超能力者(レベル5)であった。

「きてはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

『原子崩し(メルトダウナー)』が結標に激突する寸前、光の槍はその軌道を変えて垂直に立ち上った。

「な、なに…ッ!?」
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッッ!!」

なんと言うことか。
結標淡希は、光速で照射された『原子崩し(メルトダウナー)』を、『座標移動(ムーブポイント)』でテレポートしたのだ。

よほど酷い負荷が脳にかかったのか、結標の鼻から一筋の血が、たらり、と流れ落ちる。
だが、その双眸は大きく見開かれ、麦野沈利を凝視している。

「……お前、アホだろ?」
「逆王手… 勝負あったわね……!」

結標がゆっくりと麦野に軍用懐中電灯を向ける。

麦野の背筋に、ぞわり、とした冷や汗が流れ落ちる。

(まずいッ!!)

そう麦野が感じ、結標が能力を使おうとした瞬間、

「おいおい、ちゃんと曲げる方向は確認して曲げろよ。危うく俺様に当たるところだったじゃねぇか……」

ヒートアップした戦場に、第三者の声が響いた。

麦野と結標が声のした空を見上げる。
そこには、大小6つの白い翼を優雅に広げた、ホスト風の青年が浮かんでいた。

「まぁ、予想通りだが、最後の相手は超能力者(レベル5)か。美味しい状況だなぁ、おい」

緩やかに翼を羽ばたかせ、青年――垣根帝督が、3人目の超能力者(レベル5)が地面に降り立った。 
623 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/15(火) 00:04:54.01 ID:tcm4Pk8jo
あい終わり。

あわきん、新約になってかまちーに忘れられてるんじゃないだろーか? 
652 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:00:37.07 ID:NW7ymHovo
「…消えろッ!」

垣根からどこか危険な雰囲気を感じ取ったのか、麦野がいきなり『原子崩し(メルトダウナー)』を照射する。
音も無く光速で迸った光の槍は、しかし、垣根が身体を覆うように被せた白い翼に吸い込まれ、消えた。

「…なに?」
「おいおい、ずいぶんと暴力的だな。そんなんじゃ、男にモテねぇだろ?」

垣根は余裕の表情を崩さない。
対して、絶対の自信を持つ必殺の一撃をあっさりと防がれ、麦野は不満そうに眉根を、ぎゅっ、と寄せた。

「…手に持っているソレはが獲物?」

結標が警戒した声で問う。
垣根の右手には、一見してそれとわかるライフルが握られていた。

「あぁ、これは違うぜ。暇だから今回の『掃除屋』をぶち殺した時の戦利品だ」

垣根がライフルを麦野と結標の足元に転がす。
強化プラスチックで構成されたフレームが、カン、と軽く乾いた音を立てた。

「『掃除屋』…」
「そうだ、お前らだって薄々気付いているだろ? 今回の件はずばり『暗部の間引き』だ。
 誰が音頭とってるか知らねぇし、証拠があるわけでもねぇけど、これが正解だよ」

垣根の言葉を麦野は冷静に受け止めた。

麦野自身も、恐らくそうであろうと予想していた。
任務に失敗した暗部があっさり『掃除』されたこと、狙っていたはずの『反学園都市勢力』がまったく釣り出されないことが一番の理由だ。

「…そうなの?」
「あたしに聞かないでよ、先輩」

麦野の問いに結標が簡潔に答える。

「ただ、あたし達に指示を出したのは、いつもの統括理事会ルートだけどね」
「つまり、それで正解ってことか、くそったれ……」

麦野が全身の緊張をやや解く。
内実が暗部同士の内ゲバであるのならば、最早、麦野が任務を継続する意味はない。

「予想してた中で最悪の答えだ。ふざけんなよ…」

麦野が毒づいて、バイクに向かおうとする。
だが、一歩足を踏み出す前に、垣根帝督が動いた。

「おいおい、なに帰ろうとしてんだよ、てめぇ…!」

垣根の翼がにわかにその先端を伸ばし、袈裟懸けに麦野に襲い掛かる。
慌てて麦野が後方にステップしそれをかわすと、アスファルトの地面に翼が炸裂音を立てて突き刺さった。

「コイツ……!」
「俺様にとっては、この状況は好都合なんだよ。内ゲバ? 最高じゃねぇか」

白い翼がゆっくりと垣根の背に格納される。
それは即ち、垣根が戦闘態勢をとったことを意味してた。

「俺様が目的を果たすためには、他のlevel5は邪魔なんだよ。だから…」

6枚の翼が一気に展開される。

「素直に俺様にぶち殺されろッ!!」

今夜、最後の戦闘が幕を開けた。
653 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:01:05.54 ID:NW7ymHovo
「淡希ッ!! 一旦休戦ッ!!」
「了解、先輩ッ!!」

女性2人が一瞬でアイコンタクトを取り、素早く共同戦線を作る。
顔には出さなかったが、麦野の『原子崩し(メルトダウナー)』があっさり防がれたことは、麦野、結標双方にとっても衝撃だった。
ゆえに、「この男には2人掛りではないと危ない」と、2人の本能が合致したのだ。

「いいねぇ、こっちも2人同時の方が手間が省けていいぜ!」

垣根帝督が白い翼を横薙ぎに振るう。
麦野と結標とを、一気になぎ倒す勢いだが、激突の前に2人の身体が空中に掻き消える。

「…テレポートかッ!?」

垣根の前方数m先の空中に結標が出現する。
そして、結標が何かを取り出そうとミニスカートの中に手を突っ込み、

「で、本命は後ろ、と…」
     ・ ・
無音で背後から照射された『原子崩し(メルトダウナー)』を、垣根は振り返ることすらせずに翼で防いだ。

「クソッ、大人しく死んどけよッ!!」
「こんな子供だましに引っ掛かるかっての、馬鹿か?」

垣根の後方で臍を噛む麦野に軽口で答える垣根。
しかし、今度は正面の結標が動いた。

「潰れろッ!!」

はるか遠方に駐機してあった軽クレーン車を垣根の頭上にテレポートさせる。
重さ数トンの重量物が、ふわり、と数瞬だけ滞空し、次の瞬間には大音声と共に垣根を押し潰した。

どぉぉぉぉん!!!

「やったか!?」
「先輩、それ禁句ッ!!」

固唾をのんで2人が見守る中、舞い上がった粉塵が次第に晴れ、そして。

「単純だが、それだけに効果的な攻撃だな。だが、俺様には通用しねぇな」

一体、どんな能力行使が行われたのか。
                             ・ ・ ・ ・ ・ ..・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ..・ ・ ・ ・ .・
垣根帝督は何事も無かったかのように、悠然と軽クレーン車の中から歩いて出てきた。

「…なんだコイツ?」

あまりにも異常なその光景に、結標が冷たい汗を流して呟く。

「おぉ、そういえば自己紹介がまだだったな。学園都市序列第2位のLevel5、垣根帝督だ」

白い翼がさらにその面積を拡大させる。

「――俺の『未元物質(ダークマター)』に常識は通用しねぇ」
654 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:02:26.08 ID:NW7ymHovo
どぉぉぉぉん!! どぉぉぉぉん!!

重量物の激突音が連続で木霊する。

結標が、目に見える車や街路樹といった重量物を、片っ端から垣根の頭上にテレポートさせているからだ。

「死ねよッ!!」

さらに、重量物で身動きが取れない垣根に、麦野が連続で『原子崩し(メルトダウナー)』を撃ちこむ。
しかし、

「馬鹿の一つ覚えか? いい加減飽きたぞ、おい」

垣根帝督は全くの無傷だ。
重量物は足止めにしかならず、『原子崩し(メルトダウナー)』は身体に届く前に白い翼に防がれてしまう。

「…淡希、攻め順を変えるわよ」
「了解… チッ、癪に障るわね…」

麦野がレオタードのスリットから「拡散支援半導体(シリコンバーン)」を取り出し中空に放る。

「食らえッ!!」

照射された『原子崩し(メルトダウナー)』がカードに接触し、複数の光の矢が垣根に襲い掛かる。

「なんだよ、結局は小細工かよ」

しかし、それも垣根は難なく防御する。
ますます不機嫌そうに麦野は眉を寄せるが、本命は結標だ。

(目標視認ッ!!)

軍用懐中電灯の灯りを垣根に向ける。

(アイツはメルヘンチックに飛んできたから、空中に跳ばすのは悪手… ここは地面に『埋める』ッ!!)

テレポート先を、数十m下の地中に設定。
圧迫、窒息させるのが狙いだ。

「とんでっけぇぇ!!」

結標が「自分だけの現実(パーソナルリアリティ)」を展開する。
だが、

「残念、既に解析済みだ」

垣根は強制テレポートされる事なく結標に向かってダッシュすると、白い翼を鋭く結標の腹部目掛けて打ち出した。

(ヤバイッ!! 回避ッ!!)

まだ余裕のある結標が、自身の身体をテレポートして回避しようとする。
しかし、結標がいくら能力を行使しても、テレポートは発生しなかった。

ドゴォ!

鈍く、深い音がして結標の腹部に翼が激突する。
瞬間的に胃の内容物が食道を逆流し、結標は激しく嘔吐した。

「う、げぇぇぇぇ!!」                  ・ ・ ・ ・ .・.・ ・
「悪いが、お前の操る11次元ベクトルを、全く違う異質なベクトルに変換させてもらった。テレポートを見せすぎたな」
655 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:03:18.01 ID:NW7ymHovo
さらにうつ伏せに倒れた結標に追撃を加えようとする垣根に、麦野が『原子崩し(メルトダウナー)』を照射する。

「させるかッ!!」
「てめぇも見せすぎなんだよ」

渾身の一撃は、しかし、垣根の翼に防がれ… いや、

「解析は終了した」
「え…?」
                                    ・ ・  ・ ・
白い翼に触れた『原子崩し(メルトダウナー)』が、そのまま反射・反転して麦野に襲い掛かった。

「…嘘でしょッ!!」

麦野が慌てて正面に『原子崩し(メルトダウナー)』のバリアを張って防ぐ。
しかし、その表情は焦りで満ちている。

「解析… 解析って…?」
「種明かしをしようか。お前の能力は『曖昧なままの電子を操る』能力だろう? 本来、電子線は直進するもんだが、それは常識の物理学での話だ」

垣根帝督が翼を広げる。

「俺様の能力『未元物質(ダークマター)』は、この世の物理法則に拠らない、全く異質な物質だ。
 異質な物質に触れた電子線はその性質を変えて反射した。実に簡単なタネと仕掛けだろ?」

翼を広げた垣根帝督がゆっくりと地面から離れて飛翔する。

「簡単に片付けるのはつまらねぇからな、遊んで殺るよ」

次の瞬間、ヒュン、という軽い風切音ががしたかと思うと、麦野のレオタードの右腕部分が、まるで刃物で切られたかのようにぱっくりと裂けた。
さらに、麦野の素肌にも長さ数センチの裂傷ができ、たらたら、と血液が流れ出す。

「かまいたち…?」
「正解。翼の隙間を通る風に一工夫加えてみた。おら、踊れよ」

垣根の言葉と共に刃物となった風が麦野に襲い掛かった。

「舐めんなッ!!」

麦野も『原子崩し(メルトダウナー)』のシールドを作りあらかた防ぐが、量がハンパではない。
度々にシールドの隙間から突破され、浅い切り傷をいくつも負う。
656 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:03:51.39 ID:NW7ymHovo
(このままじゃジリ貧じゃない…!)

所々を切り裂かれ、半ば半裸状態となった麦野が覚悟を決める。

残った「拡散支援半導体(シリコンバーン)」を全て中空に放ると、そのすべてに『原子崩し(メルトダウナー)』を叩き込む。

「おいおい、またそれか?」

拡散する光の矢が、垣根の翼に弾かれ、あるいは反射する。

しかし、それは麦野にとって覚悟の上だった。

「…跳べっ!」

結標戦で回避に使ったように、足元に『原子崩し(メルトダウナー)』を照射する。
爆発と共に急激な推進力を得た麦野が、跳ね上がるように夜の空に跳躍する。

「…せいッ!!」

さらに空中で『原子崩し(メルトダウナー)』を放射し、体軸に急激な横回転を与える。
急激に回旋した体幹に沿わせるように、麦野は全身の力を注いで右の踵を垣根帝督に叩き込んだ。

ズボッ、と音がして麦野の踵が白い翼に完全にめり込む。
ここで、初めて垣根帝督の表情が変わる。

「まさか…ッ!?」
「そのまさかよッ! ゼロ距離で喰らいやがれッ!!」

翼の内側から、麦野が『原子崩し(メルトダウナー)』を踵から照射する。
垣根の体表がほの白く発光し、電子線が垣根の服を焼く。
しかし、

「……流石に焦ったぜ」

麦野の放った渾身の『原子崩し(メルトダウナー)』は、垣根の身体を滑って後方へと流れて行った。

「そんな…」                                     .・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ .・ ・ ・ ・ ..・ ・ ・ .・ .・ ・ ・ ・ ・
「別にフリックのつもりじゃない。この白い翼は勝手に出てきちまうんだ。体表の汗に細工をして電子線を曲げさせてもらった」

空中で垣根が麦野を拘束する。

「最後の足掻きは良かったぜ。だが、これで終わりだ」

ドコッォ、と麦野を白い翼が強かに打撃する。
全身を激痛に支配された麦野の身体が力を失い、そのまま落下して地面に叩き付けられた。

「が… は……」

肺腑の空気を強制的に吐き出して麦野が悶絶する。
まだ意識は保っているが、満足に身体を動かすことが出来ない。

「予想外に手間は取ったが、結局はこの程度か…」

垣根帝督が地面に降り立つ。

「じゃあな」

トドメの一撃を放とうと、垣根が白い翼を広げたその時、

「テメェ、沈利から離れろッ!!」

最後の主役が遅れてやって来た。

肩に担いだ婚后光子を地面に降ろし、上条当麻が吼えた。
657 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:04:17.70 ID:NW7ymHovo
「……なんだ?」

新たな敵の登場に、垣根が臨戦態勢を整える。
言動から察するに、あの男は足元に転がっている女の仲間なのだろう。

「高位能力者か…?」

垣根が警戒して動かずにいると、上条は軽く息を吸った後、全力で垣根に向かってダッシュした。

「うおおぉぉぉぉぉ!!」
「…………ッ!!」

上条の雄叫びに、本能的な恐怖を感じた垣根が白い翼を振るう。
狙い済ました一撃は、しかし、上条がわずかに身を捻ったことであっさりとかわされた。

「格闘技… ボクシングかッ!!」

(肉体強化系の能力者か?)

だいたいのアタリをつけて、垣根がさらに翼を振るう。
上条は素早く右半身になり翼を避けると、サウスポーのリードブロウを垣根に叩き込んだ。

「シュッ!!」

右拳が白い翼に阻まれ、あっさりと防御される。
拍子抜けする垣根だが、上条は構わず右ジャブを繰り返した。

「ふッ!!」

顎、ボディ、顎、と狙いを散らしてジャブを放つが、悉く白い翼に阻まれる。
そうしているうちに、垣根の脳内に不審感が募り始めた。

「お前、もしかしてタダの無能力者か?」
「……ッ! だとしたらどうすんだよッ!!」

なおも攻撃を続ける上条に対して、垣根は軽く息を吐くと、短く呟いた。

「蹴散らす」

それまで防御一辺倒だった白い翼が俄かに動きを変え、上条の右側面から薙ぎ払うように強烈な一撃を加えた。

ドガッ、とも、ズンッ、ともとれる重い音と共に、上条がノーバウンドで数メートルも跳んだ。
658 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:05:00.34 ID:NW7ymHovo
「ぐッ…… 効いたぁ……」

右腕と右わき腹がズキズキと痛む。
恐らく、右尺骨と第9,10肋骨にひびが入っている。

「…内臓破裂ぐらいの勢いで殴ったが、身体だけは丈夫みたいだな」

悠然と垣根が近づき、翼を上条に叩き付けようとする。

「食らうかッ!」

上条は痛む腹筋をフルに活動させ、下肢を強引に天空方面に引き揚げて、そのまま後転倒立から身を捻って立位となった。

「おおすげぇ、体操選手か、おい?」

妙に感心した垣根が次々と翼を振るう。
一度食らって翼の軌道を掴んだのか、上条は見事な体捌きでその全てを回避した。

「やるじゃねぇか、無能力者でそこまでやるなんて、凄いよお前」
「世間を知らねぇみたいだな。俺程度のレベルの格闘家はこの街にはゴマンと居るぜ」

上条の言葉は本心だ。
豪快な足技を使う駒場や、格闘技の師匠である土御門などには、全く勝てる気がしない。

「能力者は、その能力で自分を縛っちまって、周囲が見えなくなるもんだ」
「…吹くじゃねぇか」

上条の言葉にカチンときたのか、垣根が僅かに顔をゆがませる。
そして、さっきと同じように白い翼を振るい、

「もう慣れたぜ、その攻撃はよ!」
「ざけんな無能」

よけたはずの右足が粉砕された。
659 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:05:26.34 ID:NW7ymHovo
「ぐぉぉぉぉぉ!!

たまらず転倒し、上条は激痛にのたうち回った。
どういう作用が働いたのか、右の踵骨、腓骨が砕かれている。

「遊んでやってるのを勘違いすんじゃねぇよ無能」

声とともに、右手首に強烈な翼の打撃が加えられる。
ぼきり、という音と共に、橈骨の遠位端が真っ二つに割られる。

「ぎゃああぁぁぁ!!」
「弱いものいじめなんて、柄じゃねぇのによ。弱いくせに吼えるからこうなるんだ」

倒れ付す上条に、垣根がすくうような一撃を加える。
サッカーボールのように翼に蹴られた上条が、きっかり3秒間滞空して、地面に強かに叩き付けられる。

「ぐっ… ごほぉ……」

先ほどひびの入っていた肋骨が完全に折れた。
幸い、肺には刺さっていないようだが、激痛が上条の視界を赤く染める。

「ああ、気分が悪いぜ… ん?」

ふと、右足に違和感を感じて垣根が視線を落とす。
すると、そこには荒い息をした麦野沈利が、必死に垣根の右足にしがみつこうとしている姿が見えた。

「これ以上は…」
「おいおい… 安っぽいドラマじゃねぇんだからよ…」

呆れた声を出して垣根が乱暴に麦野を振り払う。

「黙っとけ」

ごっ、と容赦ない蹴りが麦野の顔面を捉える。
頬に強い一撃を食らって、麦野が再び倒れ込んだ。

「何か企んでるのか?」

このとき、垣根の意識が少しだけ上条から離れた。
660 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:06:18.41 ID:NW7ymHovo
遠くから麦野の弱々しい声が聞こえる。

雄叫びを上げて駆け寄りたい気持ちをぐっと堪えて、上条は近くのとある人物に声をかえた。

「おい… 起きろ……」
「………なんですの、傷だらけのヒーローさん?」

声を返したのは婚后光子だ。
実を言うと、担がれている最中に目は醒ましていたが、上条もそれに気付いていたため大人しくしていたのだ。

「頼みがある。アイツの注意が完全に俺から離れた瞬間、『空力使い(エアロハンド)』で俺の身体をアイツ目掛けて飛ばしてくれ」

上条の言葉に婚后が胡乱な目つきになる。

「大人しく寝ていないと、本気で死ぬことになりますわよ?」
「俺が動かねぇと、沈利が殺されちまう。頼む……」

真剣な表情で婚后を見つめる。
その、あまりにも力の篭った熱視線に、婚后は頬が赤くなるのを感じた。

「べ、別にそれぐらいのことだったら構いませんが… まだ隙というほどには警戒を解いていませんわよ?」

ぷい、と上条から顔を背け、目線だけ横目で見る。

「大丈夫だ、沈利が隙を作ってくれる」
「……何か申し合わせを?」
「いや、何もねぇ」

あっさり言う上条に、ますます胡乱な目つきになる。

「何もねぇが、沈利なら最後の最後まで絶対に足掻いてくれる。それを信じる」
「……そうですか、わかりましたわ」

力強い上条の言葉に、婚后が深く頷いた。
661 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:06:46.03 ID:NW7ymHovo
「おらッ!!」

今度は腹部を蹴られる。
身を屈めて必死に痛みに耐える麦野に、垣根がますます詰まらなさそうに顔をゆがめる。

「おい… マジで何もねぇのかよ? 萎えるぜ…」

そう呟いた瞬間、麦野がギラリと目を光らせてとある一点を見つめ叫んだ。

「淡希ッ!!」
「………死んだフリさせとけよッ!!」

身体中を吐瀉物で汚しながら、結標淡希が力を振り絞って軍用懐中電灯を麦野に向ける。

「完全痴女じゃん!」

所々切り裂かれたレオタードは、その錯覚の効果も失っていた。
電灯の灯りが照らした瞬間、麦野の身体がはるか空中に出現した。

やや白み始めた払暁の空に、半裸のレオタード美女が舞う。

「食らえッ!!」

空中から地面の垣根目掛けて、『原子崩し(メルトダウナー)』を連続で照射する。
無論、そのどれもが白い翼に防がれ、弾かれ、反射されるが、そんなのはお構い無しだ。

反射された光の槍を強引に『原子崩し(メルトダウナー)』で打ち消し、さらに連射する。

「芸の無い足掻きだなぁ、おいッ!!」

攻撃の合間に、垣根が空気のかまいたちを飛ばす。
しかし、それを予期していたのか、麦野は『原子崩し(メルトダウナー)』を推力に使って弾かれるように空中を移動してよけた。

「チッ、面倒な…ッ!!」

舌打ちをする垣根だが、だからと言って焦ってはいなかった。

ああも無謀な空中機動と連続照射が長く続くわけは無い。
このまま防いでいれば、麦野沈利はじきに力尽きて墜落するはずだ。

そう予想して、垣根は『原子崩し(メルトダウナー)』の処理に全力を注ぎ込んだ。
662 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:07:27.81 ID:NW7ymHovo
「今だッ!!」
「あ、あの光の奔流の中に突っ込んでいくおつもりですの!? 下手をうったら貴方が焼かれますわよ!?」
「覚悟の上ッ!!」

上条の迷いの無い言葉に、婚后が息を呑む。

「やってくれ!」
「…ええい、わかりましたわ! 貸しイチですからね、色男さん!」

婚后が上条の身体の各部分を流れるような動きでタッチする。
次の瞬間、轟くような空気噴射とともに、上条の身体が砲弾のように飛び出していった。
663 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:07:54.51 ID:NW7ymHovo
麦野沈利は無我夢中だった。

結標の名前を呼んだのも、今、こうやって無駄な攻撃を続けているのも全くのノープランだった。

シュパンッ!!

「くぅ!!」

垣根の放ったかまいたちが麦野の肌を浅く切り裂く。
着ているレオタードはもう半分も面積を残していない。
『原子崩し(メルトダウナー)』を使った強引な飛翔もそう長くは続かない。

ただ、彼女が願うのは1つ。

(当麻が逃げる時間を…ッ!!)

結標が問題なく『座標移動(ムーブポイント)』を使えたのは大収穫だった。
テレポート能力は他の能力と比べても非常に複雑な演算を必要とし、とりわけ結標は身体的苦痛に弱いと知っていたからだ。

そして、『座標移動(ムーブポイント)』は、こと移動・逃亡にかけては、すべての能力の中でダントツの性能を持っている。

(離脱するときに当麻を連れて逃げてくれれば…!)

その希望を胸に秘めて、麦野は『原子崩し(メルトダウナー)』を撃ち続ける。

「早く… 逃げてッ!!」

祈るような気持ちで倒れた当麻を見る。

そして、その瞳に映ったのは、
雄叫びを上げて突進する上条当麻の姿だった。
664 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:09:12.09 ID:NW7ymHovo
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」

人間の重心は常に変化する。
基本的な解剖学的立位肢位では、重心は第4腰椎のやや前方に位置する。

しかし、四肢の関節運動や、体幹・頸部の回旋により、重心は極めて複雑にその位置を変化させる。

ゆえに、単純に吹っ飛ばしただけでは、人体は直進しない。

そういう意味では、婚后光子は掛け値無しの天才であった。

(すげぇ…ッ!! 身体の動きに合わせて噴射が…!)

まるで身体の動きを完璧に予測していたかのように、全く重心がぶれずに上条当麻が疾走する。

そして、麦野との射撃戦の最中、雄叫びに気付いた垣根帝督がこちらに顔を向け、

「取ったぁぁ!!」

上条、渾身の左フックが垣根の顔面を捉えた。

「ぐはぁぁッ!!」
                         ・ .・
空中にいることで、しっかりと下肢によるためを作れなかったことが災いしたのか、一撃では垣根は倒れなかった。
ただ、左手で殴ったことで能力をキャンセルしたのか、垣根の背中から6枚の翼が掻き消える。

「…てめぇぇぇ!!」

怒りに形相を歪めた垣根が、白い翼を再度出現させる。
だが、上条は当然のように、やや左半身のオーソドックススタイルになると、左ジャブを垣根の顔面に叩き込む。

「無駄n… ぎゃッ!!」

絶対の自信を持って防ごうとした白い翼があっさりと突破され、垣根の鼻頭に拳がヒットし鼻血が空中に散る。

「なん、だと……!」
「てめぇ、舐めすぎなんだよッ!!」

痛む右足を強引に地面に突き刺し、わき腹、胸部、顎の流れるような左フックの三連打を見舞う。

ドゴッ、ドコッ、ガッ!!

強烈な三撃に、しかし、垣根帝督は倒れない。
上条の身体が万全ではないことを踏まえても、それは異常なタフネスだった。

「…畜生め、この俺様に奥の手を使わせやがって……ッ!!」

垣根帝督の目つきが変わる。

そして上条は、確かに流れていたはずの垣根の鼻血が止まっているのを見た。
665 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:10:13.39 ID:NW7ymHovo
「…なにッ?」
「解析したぞ… てめぇの能力はその左手であらゆる能力をキャンセルするものか… どうりで最初は右しか使ってこねぇわけだ。奥の手隠してやがったな……」

上条の目前で、垣根の殴られた頬の青痣が、見る見るうちに治癒していく。

「それなら、俺様も奥の手を切らしてもらう。体組織の変性なんざやりたくねぇが、まぁ、細胞が入れ替わるまでの我慢だ…ッ!!」

恐るべきことに、垣根帝督は己の体細胞を『未元物質(ダークマター)』で変性し、治癒速度を異常に亢進しているのだ。

無論、作り変えられた体細胞は、他の細胞にどんな悪影響を及ぼすか想像が付かない。
ゆえに奥の手、滅多なことでは使うまいと、垣根自身が戒めていた能力使用だ。

「残念だったなッ! 銃火器の1つでも持ってりゃ勝ちだったのによ!」

垣根帝督が素早く右足を軸に身体を半回転させ、左足を上条の右わき腹に叩き込む。
なかなかどうして、腰の入った回し蹴りだ。

「クッ…!」

壊れた右腕でなんとか防御するが、衝撃とともに右手首に激痛が走る。
今ので、右手首が完全にイカれてしまった。

(尺骨までいったか… クソッ!!)

激痛に飛びそうになる意識を懸命に手繰り寄せる。

「俺様を油断させるためだろうが、ダメージを負いすぎたな! 超能力者だから身体を鍛えないってのは幻想だぜッ!」
「んなの、沈利を見てりゃ分かるよッ!!」

距離を取ろうと繰り出される強烈な前蹴りを何とかかわす。

(空手…じゃない、キックボクシングか…!?)

確信が1つの覚悟を生む。

(キックボクサーなら…ッ!!)

上条が無事な左足のみで跳躍する。

「おおぉぉ!!」

大降りの左ストレートを垣根が両腕を交叉してブロッキングする。
しかし、これで距離が詰まった。
666 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:10:44.04 ID:NW7ymHovo
「せいッ!」

上条が至近距離からのショートアッパーを繰り出す。
垣根は右足を一歩引いてそれをスウェイバックでかわすと、とある準備動作に入った。

右腕を強く引き、体幹を小さく、しかし、急激に右回旋させる。
左足が腰の高さまで持ち上がり…

(来たッ! ローキックッ!!)

狙いは上条の壊れた右足だ。
          ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
だから上条は、右足を前に踏み出した。

「……ッ!? せいッ!!」

上条の行動に不審感を感じながらも、垣根はそのまま強烈なローキックをぶち込んだ。

ゴッ!!!

肉と肉、骨と骨とが激突する鈍い音が響く。

垣根は、確かに上条の右足に致命的なダメージを負わせたことを確信した。

「終わりだッ!!」
「…ああ、終わりだッ!!」

不意に、上条の左手が伸びる。
勝利を確信した垣根の一瞬の隙をついて、上条は左手で垣根の左手首をガッチリと掴んだ。

「てめッ!」
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

全身全霊の力を振り絞って左手を手前に引く。

「な、なにッ!!」

垣根の左半身が強引に引っ張られ体勢を崩す。
そして、上条の眼に垣根の後頭部が見えた。

「ぐっ… ああぁぁぁ!!」

壊れた右手で強引に鉄拳を作る。
激痛が脳を引き裂くが、そんなものには構ってられない。

「チィッ!」
「じゃあな、三流超能力者。他人のオンナに手を出すからこうなるんだぜ」

引き絞る左腕の動きと連動するように、右腕を回転させる。
狙うは、垣根帝督の頸椎――!

ドガァァ!!!

強烈な右フックが垣根帝督の後頭部に命中する。
眼球が飛び出そうなほどの衝撃に、垣根の視界が真っ赤に染まる。
『未元物質(ダークマター)』で回復しようにも、未だ上条の左手で身体を掴まれているためか、上手く能力が使えない。

「くそ、が……」

後頭部を殴られたからか、四肢が麻痺して上手く動かすことが出来ない。
強靭な精神力でなんとか継ぎとめていた意識が、とうとう朦朧とした。

「ぐ……」

カクン、と垣根の身体から力が失われる。
垣根の左腕を掴んだまま上条は、油断せずにそのまま垣根を後ろ手に拘束した。

「……ふう」

大きく大きく息を吐き出し、この夜の全ての戦闘が終了した。
667 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:11:14.22 ID:NW7ymHovo
「もぅ… 無茶しすぎ……!」

いつの間にか地面に降りていたのか、麦野が慌てて上条に駆け寄る。

「わりぃ、けど、沈利が無事で良かったよ」
「それでアンタが重傷だったら意味ないわよ…」

上条の有様は酷いものだ。
特に、無理に使った右手首は、完全に関節方向とは違う向きに曲がってしまっている。

「早く病院に…」
「待った、それよりコイツはどうする?」

上条が拘束した垣根を示す。

「…負けた暗部を掃除していたスナイパーは、そいつが潰したらしいから、あんまり気は進まないけど、『上』に連絡して回収に……」

麦野がそう話した瞬間、突如、ガソリンエンジン音が鳴り響いた。

「な、なんだッ!!」
「当麻、向こうッ!!」

振り返った上条の眼に、闇に紛れるチャイナブルーのプジョー206が、3人目掛けて爆走するのが見えた。

「うわッ!!」

轢き殺されると感じた麦野が、上条を抱きかかえるようにして身を翻す。

ギャリギャリギャリギャリッ!!!!!

しかし、麦野の予想とは裏腹に、プジョーは豪快なドリフトを決めて急停止した。
そして、後部座席のドアが開き、

「垣根さん、乗ってくださいッ!!」

改造スクール水着に雨がっぱを着た初春飾利が、小さな身体を精一杯伸ばして垣根の身体をつかんだ。

「……ッ!!」

痺れる手足を何とか動かし、初春に引っ張られるようにして垣根がプジョーの後部座席に滑り込む。

「出してくださいッ!!」
「オッケーッ!!」

運転席に座った『心理定規(メジャーハート)』が、ギアとクラッチをリズム良く操作してプジョーを急発進させる。

後部座席のドアが閉まる瞬間、麦野と初春の目が一瞬だけ交錯した。
668 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:11:40.13 ID:NW7ymHovo
逃げるプジョーの車内で、初春が大きな溜め息を吐いた。

「こ、こ、こ、怖かったです… 運転が荒すぎですよ…」
「なに言ってんの、アレくらい普通よ」

やや親しげに会話を交わす女性2人を見て、垣根が不可解に眉を寄せた。

「……なんでお前がここにいるんだよ、初春」

拘束の鍵は渡した。
彼女が『スクール』と関わる必要は、もう無いはずだった。

「光ディスクの動画を見ました」

垣根とは視線を合わせず、初春が言った。

「暗闇の五月計画、プロデュース…… 貴方の行動原理がアレであるのならば……」

静かに、初春飾利が垣根帝督を見つめる。

「私は貴方に付いて行きます」

その言葉に、垣根は朦朧とした意識の中で、「…勝手にしろ」とだけ呟いた。
669 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:12:05.58 ID:NW7ymHovo
「……ま、どっちかってゆーと、ウチラにとってはありがたい展開かもね」

上条を抱いて地面に、ぺたり、と腰を降ろして、麦野沈利はしみじみと呟いた。

「いや、ホント。あんなのとは2度と相対したくないわ」

婚后に身体を支えられながら、結標が2人に近づいて言った。

「で、先輩はどうすんの? まだやる?」
「やるわけないでしょ。『アイテム』は今回の件から完全撤退よ」

麦野が両手を挙げて降参のポーズを取る。

「…ウチらを騙した上層部には、いつか落とし前つけるけどね」
「怖いなぁ… ほんじゃ…」

結標が軍用懐中電灯を操作して、離れた位置で抱き合っていた天井とミサカ00000号をこの場にテレポートさせた。

「……終わったのか?」

大事なものを守るように、ミサカ00000号をその腕に抱いた天井が、恐る恐る声を掛けた。

「ええ、貴方を狙う暗部は全員リタイア。おめでとう、ゴールよ」

結標の言葉に、麦野が軽く舌打ちをし、天井が深く溜め息を吐いた。

「……ありがとう、本当にありがとう。先ほどの戦闘を見て、自分がどれだけ危ない橋を渡っていたかを実感したよ」
「本当よ。あんな化け物が出てくると知ってりゃ、絶対に引き受けなかったわ」

おどけた調子で結標が言い、婚后がクスリと笑った。

「はは… それでは、ここからは私たちだけで良い。目的地はすぐそこだ」

ようやく緊張の取れた表情で天井が言う。
しかし、そう言って歩き出そうとした天井を、全くの第三者の声が止めた。

「いや、その必要はないよ?」

柔らかい声に6人が視線を向けると、いつの間にか昇っていた朝日を背に、カエル顔の医師が立っていた。
670 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:12:37.87 ID:NW7ymHovo
「なにやら騒動があってたみたいだからね。おっとり刀で来てみたら、もう終わっていたみたいだね?」

カエル顔の医師はのんびりとした口調で言うと、まず上条に近づき、素早く全身のチェックを行った。

「……うん、君、よく動けたね? 根性以前に、筋の付き方が理想的なんだろうね? ウチの病院なら全治2週間だから、早めに受診してね? とりあえず……」

カエル顔の医師が、上条の胸部に両手を当て、一瞬だけ力強く手を操作した。

ゴキゴキッ!

「ぐっ!」
「ちょ、ちょっと何やってッ!?」

上条がうめき声を上げ、麦野が慌てて詰問するが、カエル顔の医師は涼しい顔で答えた。

「うん、とりあえず、折れた肋骨は元の位置に矯正しておいたから、安静にしていれば肺に刺さる心配はないよ?
 手足の方は、流石に機材がないと無理だね?」

言われて、上条はさっきよりもずっと呼吸が楽になったのを感じた。

「あ、ども…」
「別に良いよ、僕は医者だからね?」

カエル顔の医師はそう言うと、今度は天井とミサカ00000号に向き直った。

「さて、君が天井君だね? 僕の患者はそっちかな?」
「はい、彼女です」

天井がミサカ00000号の背を押して前に出させる。
ミサカ00000号は状況がよく分かっていないのか、キョトンとした顔をしている。

「もらったバイタルデータだと、健康状態は問題ないみたいだね? あとは、病院でしっかりエコー検査をして…」
「あのぉ……」

完全に蚊帳の外に置かれた結標が、遠慮がちに声をかけた。

「別に知る必要も権利も無いかもしれませんけど、どういうことか説明してもらえませんか? 天井さん、貴方の目的って、逃げることじゃないの?」

結標の質問に、天井がかなり困った顔をする。

「あー、その… 騙したつもりじゃなかったんだが…… 私の本当の目的は、この人に彼女を託すことなんだ」

その言葉に、誰よりもまずミサカ00000号が反応した。

「託す…? マスター、託すとはどういう意味ですか? と、ミサカ00000号は不安を押し殺して申し上げます…!」
「そのままの意味だよ、00000号……」

天井がミサカ00000号の頬を撫ぜる。
その行為に何かを感じたのか、ミサカ00000号が両手で撫ぜる天井の手を掴んだ。

「ちょっとちょっと! 全ッ然、話が見えないんだけどッ!」

結標が半切れで怒鳴る。
その声に、カエル顔の医師が「おや?」といった風に首を傾げた。

「天井君、彼女たちには、母体のことはきちんと説明していないのかい?」
「は、はい…」
「それは迂闊だね? テレポートがどんな負担をかけるか分からないんだよ?」
「そう、ですね……」
「あのですねぇ……」

いい加減、結標が切れそうになったとき、カエル顔の医師が結標の方を向いて言った。

「彼女、ミサカクローン・プロトタイプ00000号は、妊娠しているね?」

結標の眼が丸くなった。
671 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:13:06.15 ID:NW7ymHovo
「に、妊娠ッ!!??」

結標が素っ頓狂な声を上げる。

「く、クローンって、妊娠できるんですの?」

婚后も流石に驚いたのか、思わず質問をする。

「うん、通常、クローンの生殖能力は極めて低い。無いと断言しても良いね?」

なぜかミサカ00000号がコクコクと頷く。

「けれども、流石は肉体変化の専門家である天井君だ。彼は完璧とは言わないまでも、一定の生殖能力を持たせることに成功した」

カエル医師の言葉を、ミサカ00000号が引き継いで答える。

「ですが、ミサカの生理はとても不定期です。排卵の無い月もありますし、着床の可能性もとてもとても低いのです」
「そう、本来なら、体外受精すら不可能な妊娠確率なんだね。なんだけど…」
「ミサカはマスターとのらぶらぶセックスで見事に妊娠しました! 排卵誘発剤もオギノ式も何も使わずです! と、ミサカ00000号は頬を赤らめながらマスターとのラブラブ度をアピールします」

微妙な雰囲気が流れた。

「…つまり、妊娠確率ほぼ0%だったけど、ヤリまくったおかげで見事に命中した、と」
「軽く言うけど、これは奇跡に近い出来事だね? はっきり言えば、学会で発表するレベルの出来事だね? できないけど」

はぁぁぁぁぁぁ…… と結標が盛大な溜め息を吐いて天井を見た。

「天井さぁん… ホント、最初に言っておいてよ…」
「すまない… 本当に、すまない…」

天井が顔を真っ赤にして何度も頭を下げる。
しかし、それで毒気を抜かれたのか、結標は両手を肩の高さまで上げて、首を、ふるふる、と左右に振った。

「ということは、最初から天井さんは学園都市外に逃げるつもりはなくて、そこのお医者さんのところに2人して保護されるのが目的だったのね…
 そして、逃げる過程で、情報に踊らされた『暗部』を釣る生餌になった、と……」

結標の言葉に、麦野が再び舌打ちを打つ。
だが、天井はゆっくりと首を振って言った。

「ほとんど正解だが、1つだけ違うところがある」

そして、ミサカ00000号の顔を正面から見て、言った。

「保護されるのはミサカ00000号、君だけだ」

ミサカ00000号の眼が大きく見開かれた。
672 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:13:32.35 ID:NW7ymHovo
「どうして… どうしてですか!? と、ミサカ00000号がマスターに申し上げますッ!!」
「それが、学園都市が出した条件だからだ。『妊娠したクローン体』という成果は保護されるべき対象だが、研究に失敗した研究者はそうではない」

天井は淡々と語った。

「今夜の逃亡が成功したのならば、お前の身は学園都市が最後まで面倒を見てくれる約束になっている。私は……」

少しだけ息が詰まった。

「私は、処分されるだろう。レディオノイズ計画で、私は不必要に学園都市の闇に触れてしまった。野放しにはされないだろう…」
「そんな……」

ミサカ00000号が口を押さえて絶句する。
そんな彼女の肩に手を置いて、天井が噛んで含めるように言い聞かせた。

「分かってくれ。君を生かす方法はこれしかなかったんだ…
「嫌です… 嫌です…ッ! マスターが居ないと、私は生きていけません……」
「生きてくれ、頼む。僕のためにも、僕と君との子どものためにも…」
「嫌です、嫌ですよぉ……」

とうとう、ミサカ00000号が泣き崩れる。
小さな声で「嫌です、嫌です…」と連呼する。

「…そういうわけだから、できればこれからもこの娘と…… ぶふぉッ!!」

次の瞬間、天井が結標の右ストレートでぶっ飛ばされた。
673 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:14:59.95 ID:NW7ymHovo
「……これ、かなりムカつきません、先輩?」

ハァハァ、と荒く息を吐きながら結標が言う。
すると、麦野が、ゆらり、と立ち上がって「そうね…」と同意した。

「ヤルだけやって、妊娠させといて、あとはポイとか、最低とかそういうレベルじゃないわね…」

かなり頭に来ているのか、麦野の周囲に『原子崩し(メルトダウナー)』が漏電している。

「最後まで責任持つのが男だろうがぁ!!」

倒れた天井の顔面に、麦野のサッカーボールキックが炸裂する。
さらに天井が吹っ飛ぶ。

「はいはい、戻っておいで~」

が、結標が即座に『座標移動(ムーブポイント)』を使って手元に天井を引き戻す。

「しかも何? 『僕のため』って? オンナに十字架背負わせて楽しい? ねぇ、楽しい?」

結標の容赦のないストンピングが天井の顔面を連打する。

「がっ、や、やめッ!!」
「はい握手~」

助けを求めて必死に手を伸ばす天井の両手を、麦野が両手とも握る。そして、

「焦げろや」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」

限定的に展開した『原子崩し(メルトダウナー)』によって、天井の両手の平が真っ黒に焼かれる。

「ま、マスターッ!!」

ミサカ00000号が慌てて駆け寄ろうとするが、それを婚后が途中でブロックする。

「おっと、今は近づかないほうが良いですよぉ」
「で、でもマスターがッ!!」

ミサカ00000号の心配通り、天井は美女2人の陵辱を一身に浴びてズタボロになった。
顔は原型を留めないほどに変形し、両手は骨が見えるほどに炭素化している。

「あがが……」
「…まぁ、このくらいにしておいてあげる」

既に気絶している天井を一瞥して、麦野が荒い息を整える。

「君ら、無茶するねぇ…」
「別にいいでしょ。お医者さんはそこにいるんだし」
「そりゃそうだけど……」

カエル医師がかなり引きながら苦笑いをする。

「マスターッ!!」

ようやく解放されたミサカ00000号が天井に駆け寄り、必死に天井に声を掛ける。

「マスター、マスターッ!!」
「ああ、見た感じ、命に別状はなさそうだね。もちろん、手当ては必要だけど…」

カエル医師が苦労して天井を担ぎ上げる。

「顔は… こりゃ、元の形には戻らないなぁ。うわぁ、手は再生できないから、義手になっちゃうねぇ…」
「酷い…… なんてことを……」

ミサカ00000号が涙で潤んだ瞳で麦野と結標を睨みつける。
だが、次のカエル医師の言葉で、その表情が変わった。

「これは、僕の病院に長期入院しないと駄目だね。研究段階の再生技術も使って… ああ、これは年単位で治療に時間がかかりそうだ」
「え…?」

ミサカ00000号がカエル医師を見る。
カエル医師は、全然格好良くないウインクをしてみせた。

「決して自分の患者を見捨てないのが僕のポリシーなんだね? 僕の患者になったからには、治るまでは、最後まで僕が面倒をみるよ。無論、統括理事会が何を言おうと関係は無いさ」
「そ、それじゃ…」
「まぁ、とりあえず君は元気な赤ちゃんを産むことを考えなさい。ああ、名前はしっかり2人で考えること、いいね?」

ミサカ00000号の瞳から、先ほどとは違った涙が流れ落ちた。

「はい… はい…! 元気な赤ちゃんを産んでみせます。と、ミサカ00000号は高らかに宣言します!!」
674 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:15:26.09 ID:NW7ymHovo
それから2週間後―――

「ローション塗った?」
「塗った」
「抗生物質飲んだ?」
「飲んだ」
「洗腸はちゃんとできた?」
「浣腸3回して水しか出てこなくなった」
「よくほぐした?」
「指3本余裕」
「……よし、入れていいわよ」

麦野のマンション「Meltykiss」、麦野のベッドルーム、通称「インランの間」(絹旗命名)。
クィーンサイズのベッドに仰向けになった麦野が、自ら両脚を高々と抱え上げて、臀部の深いところまで男に見せ付ける。

この2週間、暇を見つけては拡張を繰り返し、つい先ほどまでも男の指で散々弄られ続けた菊のつぼみが、妖しくその姿を見せた。

アナルはヴァギナより低い位置にあるため、麦野の腰の下にクッションを入れて位置を調節する。
高鳴る動悸を抑えつつ、長大なペニスの先端を麦野のアナルに軽くキスさせると、麦野も緊張しているのか、アナルの皺がきゅ、と収縮した。

「……もうカミングアウトしちゃうけど」
「え、なに?」

紅潮した頬を見せたくないのか、麦野がそっぽを向いたまま言う。

「アタシ、アナルは初めてだから」
「え、あ、うん……」

この2週間、『退院したらアナルセックスさせたげる』と、麦野主導で準備を進めてきたから、この発言は正直意外だった。

「それじゃ、さ…… 無理しなくても良いんだぜ?」
「ううん、いいの… ていうか、その……」

麦野にしては珍しく言いよどむ。

「……処女、貰って欲しい。ここしか残ってないから……」

消え入りそうな声でそう呟く。
上条は、心臓の鼓動が一段階早くなるのを感じた。

(やべぇ… 今すぐガンガン犯してぇ……)

オンナにここまで言われたら後には引けない。
そもそも、上条本人も楽しみにしていたのだ。
675 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:16:01.49 ID:NW7ymHovo
「じゃ、入れるぜ…」
「うん、ゆっくりね……」

亀頭が肛門にめり込むと、麦野が「はぁぁぁぁ……」と腹式で呼気し、同時に下腹部に力を入れていきんだ。

「お、おおぉぉぉぉ…!」

抵抗のあった肛門が、ふわっ、と口を開き、その間に上条はエラの張った亀頭を完全に肛門の中に収めることに成功した。

「ちょ、チョイストップ!」
「お、おう!」

違和感が凄まじいか、それとも痛みがあるのか、麦野がペニスの進行を止めて、「ふぅー… ふぅー…」と長く長く深呼吸を繰り返す。

「…落ち着いた?」
「うん、いいよ… 痛がっても構わないでいいから、最後まで入れて…」

麦野が腕を伸ばして上条の首に手を回す。
いつもだったら、これは「キスして」の合図だが、今は違う意味があると上条は感じた。

「いくぞ…」

宣言と共に、ペニスを直腸に、ズズッ、ズズッ…! と進入させる。
途端に麦野の顔が苦痛に歪む。

本来は「出す穴」に「入れ」られる違和感と、狭い直腸を長大なペニスが蹂躙する圧迫感を感じる。

平均よりもずっと大きい上条のペニスを初めて受け入れるのだ。
きちんと準備をしていなければ、恐らく佐天のように肛門が裂けてしまっていただろう。

「大丈夫か…?」
「平気… 平気だから…… 最後までお願い……ッ」

首に回した手が背中に降り、思わず爪を立てて、カリカリ、と上条の皮膚を削る。

事前にローションを直腸内に注入してあったせいか、肛門を抜けてからはそれほど抵抗を感じない。

「はあああぁぁぁぁぁ!!」

麦野が肺腑の空気を全部吐き出すような大呼気をすると同時に、上条が最後まで腰を進める。
互いの陰毛がわずかに触れ合い、上条のペニスが全て麦野の直腸に収まった。

「……入った?」
「ああ、入った、全部……」

思わずホッとして脱力する麦野の顔に、上条がキスの雨を降らす。

「ぎゅってして… 強く……」

挿入したペニスがあまり動かないように注意して、上条は言われた通り麦野を強く抱きしめた。
676 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:16:27.56 ID:NW7ymHovo
「…ありがと」
「うん? いや、初めてなら優しくしねぇと」
「そうじゃなくて… あの時無茶して助けてくれたこと……」
「…ああ」

垣根との戦闘のことだと思い至り、上条は得心して頷いた。

「もうちょっとカッコよく倒せたらよかったんだけどな、ハハ…」
「なに言ってるの。十分カッコよかったわよ」

麦野が上条の頭を自慢の豊乳に押し付ける。
甘酸っぱい麦野の匂いが、上条の鼻腔いっぱいに広がった。

「あんなにボロボロになってさ… こんな色情魔の為に…」

上条を幸せ抱擁から解放して、正面に見据える。

「前に言ったかもしれないけど、もう一度宣言しておくわね。アンタはアタシの男で、でも、それ以上にアタシはアンタの女よ」

真剣な目つきで言う。

「だからね…… 心からのお願い… あんまり無茶しないで……」

スッ、と麦野の顔が近づき、上条と静かに、緩やかに口唇を合わせる。

「あぁ、分かったよ。出来る範囲で無茶することにする」
「…はぁ、言うだけ無駄なのかしらね」

溜め息を吐くが、その表情は穏やかなものだ。

「ね、動かないの?」
「いや、だってきつそうだし」
「少しぐらいなら我慢できるわよ。それとも、私のお尻、気持ちよく無いの?」

麦野の表情がやや不安げになる。

「まさか… 入り口はぎゅうぎゅう締め付けてくるし、ナカはあったかいし… すげぇ気持ち良いよ」
「じゃ、動いて。アタシも気持ちよくシテ…」

ここまで言われて動かないのは、男子としての沽券に関わる。

上条は「じゃ、いくぞ」と前置きして、ゆっくりと埋め込んだペニスを抜き始めた。

「おおおぉぉぉぉ…!」

長くて太い肉棒がゆっくりと抜かれる感触に、麦野が擬似的な排泄感を覚える。

(こ、これ… 結構良いかも……)

人間は、何かを「出す」際に快感を覚える生き物だ。
エラの張った亀頭が、腸壁をごりごり擦られながら排出するのは、麦野にとって未体験の快楽だった。

「それ、良い…」
「ん?」
「出すの… 出される時、気持ち良い…」

元々、麦野は快楽に対して感度が高い。
初体験のアナルセックスだが、麦野の身体はしっかりとそれに順応しつつあった。
677 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:17:40.63 ID:NW7ymHovo
「こうか?」

再び根元までペニスを押し込んで、今度もゆっくりとペニスを引き出す。

「あぁぁ… うん… それ、良いわ… 気持ち良い…」

ズズッ、ズズッ、と亀頭が腸壁を往復して擦る。
単調で静かな抽挿だが、上条のほうもこれはこれで気持ち良いものだった。

(肛門の締め付けってすげぇな…)

ペニスの竿を包む肛門の締め付けがヴァギナの比ではない。
まるで、強力な輪ゴムで締め付けられ、ごりごりと上下にしごかれているようだ。

「う、締まる…ッ!」
「ん? コレが良いの?」

呟いた上条の一言で察した麦野が、肛門をぎゅっと締める。

「うわッ!」
「あ、痛かった?」
「いや、全然… すっげぇ締まったから驚いただけ…」

肛門括約筋は随意筋であるため、かなり能動的に動かすことができる筋である。
元々、男を悦ばせるために色々と鍛えている麦野だから、この筋はかなり自由に動かすことが出来た。

「こんな感じ?」
「おっ、絶妙…」

本気で気持ち良いのか、上条が目を閉じて深呼吸しながら抽挿を繰り返す。
ぬめりが少なくなるとローションを追加する。

その内に、だんだんと抽挿のスピードが速くなってきた。

「あっ、あっ、あぁぁ……」

ぞりぞりと腸壁を擦られて、麦野が歓喜の喘ぎを上げる。
感じている証拠に、ペニスを飲み込むアナルのすぐ上の穴から、夥しい愛液が垂れ流れている。

「はぁ、はぁ、はぁ… くっ…」

感じているのは上条も同じで、既に何度も射精の波をやり過ごしている。

不意に、上条と麦野の視線が交錯した。

「そろそろ…」
「うん… 最後は激しくシテ…」

そう言われて、上条が改めて麦野の両脚を抱え上げ、身体を二つに畳んだ屈曲位にする。
678 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:18:32.85 ID:NW7ymHovo
「…イクぞッ!!」

短い宣言と共に、上条が猛烈なピストン運動を開始する。

びちゃ、びちゃッ!!

いつものセックスとは位置がずれ、上条の下腹部が麦野のヴァギナを叩く。
そのたびに、溢れた愛液がしぶきを上げて飛び散る。

「あッ、すごッ… すごい……ッ!! ごりごり、アタシのお尻がごりごり削られてるぅ……!!」

完全にアナルセックスの感じ方を覚えたのか、麦野が通常のセックスと変わらぬ喘ぎ声を上げる。
フリーになった両手がベッドのシーツを引き絞り、なんとか押し寄せる快楽に耐えようとする。

「イクならイッちゃえよッ! アナルセックスでイッちゃえ!!」

こちらもあまり余裕がない上条が激しく腰を動かして叫ぶ。

「だって、だってお尻だよッ!? 絶対に痛いまま終わると思ってたのにッ!!」
「それだけ、俺と沈利が愛し合ってるってことだろッ!」
「ばかぁ!! こんな時にそんな事言わない!!」
「こんな時だからじゃねぇか!」

麦野を気持ちよくイカせたい。

その気持ちが、ほとんど無意識に上条の手を動かした。

「あ、馬鹿、今弄ったらッ!」

上条の左手が伸びて、固く隆起したクリトリスを摘む。
少しの間、抽挿を止めて麦野の顔を覗きこむと、麦野は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして「イヤイヤ…」と首を振った。

「おかしくなる… 今弄られたら、絶対におかしくなっちゃう…」
「…見せてくれよ、おかしくなった沈利を…ッ!」

ぐにゅ。

猛然とピストンを開始すると同時に、左手で固くしこったクリトリスを押し潰す。
瞬間、

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

部屋中どころか、マンション中に響きそうな大声を上げて、麦野が絶頂に達した。
同時に、痛いくらいにペニスを締め付けられた上条も限界に達する。

「く、出る… 出すぞッ!!」

ドクドクドクドクドクドク……!!

信じられないくらい大量の精液が、麦野の直腸に注がれる。
子宮に掛けられるのとは、また違った精液の注入に、麦野の下腹部が悦ぶように痙攣した。
679 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:19:00.20 ID:NW7ymHovo
「はーッ、はーッ、はーッ!!」

数百メートルの全力疾走を終えた後のように、2人が荒く激しい呼吸を繰り返す。

「はぁ、はぁ… 抜くぞ?」

声を掛けて、上条が萎えたペニスをずるずると引きずりだす。
それまで限界に拡げられていた肛門が閉じるより早く、注入された精液が、ごぽっ、とあふれ出てきた。

「うわ… エロ……」

ヴァギナから精液が逆流するシーンは何度も見てきたが、これがアナルになるとまた違った淫靡さがあった。

「えっと、たしか、終わったらすぐに洗うんだったよな…」

抗生物質は飲んでいるが、それでも感染症が怖い。
事前のレクチャーではそう教えられていたが、

「……待って、アタシが綺麗にするから」

麦野が緩慢な動作で上条にのしかかると、萎えた上条のペニスを大きく口を開けて頬張った。

「お、おい… 今は」
「いいひゃら…」

いくら浣腸を繰り返して綺麗にしたとはいえ、今の今まで腸内に入っていたそれを、麦野は愛おしそうに喉の奥まで頬張った。

上条にしてみても、禁止されていたから、かなり久しぶりのフェラだ。
身をもって知ってる麦野のテクニックに、再び血液がペニスに集まるのを感じた。

「かひゃくなっら…」
「沈利にフェラされたらそうなるって… つか、解禁… で良いの?」

ちゅぽん、と堅くなったペニスを口外に出して、麦野が言った。

「ホントは病室でしてあげるつもりだったんだけどね。大部屋だったから遠慮したのよ」

そう言って、除菌用のウェットティッシュを使って、丁寧にペニスを拭き清める。

「うわ、スーッってする…」
「まぁ、こんなもんで良いかしら…」

しっかり除菌したのを確認すると、麦野は改めてベッドにあがり、上条に向けてM字に開脚した。

「さぁ、次はドコの穴を使うの? …ココ?」

麦野が口を指差す。

「今日は喉フェラだってしてあげるわよ… それともココ?」

未だ精液を垂れ流すアナルを指差す。

「コツは掴んだから、貴方のおちんぽをごしごし擦ってあげるわよ… それとも、ココ?」

愛液でぐずぐずになったヴァギナを指差す。

「いつか貴方の子供を孕む、その予行練習、しない?」

頭がクラッとなる。
その誘い方は卑怯すぎる。

「…ンなの、全部味わうに決まってんじゃねーか!」

理性がぷっつんした上条が、乱暴に麦野のヴァギナにペニスを挿入する。

愛の睦み事は、まだまだ終わらない……
680 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:19:36.73 ID:NW7ymHovo
――とある病院のとある病室

「マスター、マスター。おシモの世話は如何でしょうか? と、ミサカ00000号が尿瓶を片手に申し上げます」
「…つい30分前にやってもらったばかりだ」
「では、マスター。性処理の方は如何でしょうか? と、ミサカ00000号が指でのの字を書きながら奉ります」
「いらん… というか、頼むから病室でそういう事を大声で言わないでくれ…」
「…わかりました、と言いながら、しれっと右手をマスターの下衣のナカへ…」
「やめんかッ!」
「……………ケチ」
「あのなぁ…… それより、お前の体調はどうなんだ?」
「はい、万全です。赤ちゃんも、エコー検査で順調に生育していることが判明しました」
「そうか…」
「3ヶ月だって… そう、お医者さんが言ったの…… 貴方の子よ…… と、ミサカ00000号が昼メロ風に言い放ちます」
「ああ、そうだな、私の子だ……」

天井亜雄が、苦労して視線をミサカ00000号の腹部に向けた。

「元気に育てよう。…2人で」
「…はいッ!」

病室に、涼しげな風が吹いた気がした。



                                                         第3話 妹編 了
681 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:20:06.84 ID:NW7ymHovo
次回予告。


「え、沈利って、お嬢様だったの?」
「上条当麻ッ、貴様鼻の下を伸ばしてるんじゃない!」
「きょうこそははまづらと…」
「超潮風が気持ち良いですッ!!」
「…アタシの別荘だってこと、わすれるんじゃないわよ?」


第4話
「砂浜でセックスするときは、立ちバックでやんないとまんこに砂が入って怪我するのよね」



「ええと、自己紹介をします。私は、天草式十字凄教所属の魔術師、姫戸です」

次回は海で水着回で新キャラでエロエロな予定は未定。 
683 :第3話「妹編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/01/23(水) 00:22:07.35 ID:NW7ymHovo
はい終了。

次回投下はマジで未定。
ちょっと忙しくなるので。多分、1月中はないです。

1,2時間でちゃちゃと書いた短編は投下するかもですが、本編は2月以降に。

それでは次回。 
708 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:33:32.81 ID:IdDIDVkdo

麦野のマンション「Meltykiss」

20畳ほどの広いリビングで、麦野沈利はソファに身を沈めて携帯電話を耳に当てていた。

足元では、恋人である上条当麻が真剣な顔でペディキュアを塗っている。

「……で、結局あんたらは介入の事実を認めないわけね」
『それは上の判断って、何度もいってるでしょーが。アタシは単なるアナウンサーだし」
「ざけんなよ、ったく……」

研究者の逃亡を利用した『暗部』の間引き事件から2週間後。
上条の骨折も癒え、麦野は満を持して『電話の女』を吊るし上げようと連絡したのだが、その返事は玉虫色のものだった。

『だいたい、アンタだって分かっていながらコッチの話に乗ったんでしょ? 怒るのはお門違いだと思うんだけどなぁ』
「こっちは重傷者2名、軽症者2名出してんだ。納得いく説明を貰うのは当然だろうがッ!」

あの事件で麦野率いる『アイテム』は、学園都市側からの操作された情報により、危ない橋をいくつも渡ったのだ。

『……正直、ソレについての感想は「よくやった」と言った所ね。誰も死なないとは予想していなかった』
「てめぇ……」

麦野の声に明らかな怒気が混ざる。
『電話の女』に対して怒りを露わにするのは珍しいことではないが、今回は明らかにその質が違った。

「……使い捨ての駒だってのは理解してるけどよ、声に出して言うんだから、それなりの覚悟はしてるんだような、あぁ、おい…!」

思わず上条の手が止まるほどの冷たい声だった。
知らず、上条の喉が、ごくり、と鳴る。

「今回の『暗部の間引き』で、さぞ予算や資源に余裕ができたんだろうさ。だがな、『暗部』の絶対数が減るって事は、互いに牽制する必要もなくなるって事なんだぜ?」

声がますます冷たくなっていく。

「……首輪の管理はしっかりやっておけよ!」
『ええ、そのつもりよ。ついては、アンタたち『アイテム』の24時間監視を、1週間全面的に解除するわ」
「……は?」

24時間監視とは、即ち、麦野が直前に言った『首輪』のことである。

学園都市内に居る限り、彼女たち『アイテム』の行動は常に把握されている。
それがどんな手段なのかは分からない。だが、確実に『首輪』は嵌められているのだ。

『いちおー、期間内なら学外への外出許可も出るわよ。行き先ぐらいは連絡してちょうだい』
「……なに考えてやがる?」

低い声で麦野が問う。

『……「よくやった」。そう言ったはずよ』

そう言うと、『電話の女』は二、三、外出の際の連絡手段について言って、そのまま唐突に電話を切った。
709 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:33:50.90 ID:IdDIDVkdo
「………チッ」

通話が終わった携帯電話をしばらく忌々しそうに見つめて、麦野は軽く舌打ちを打った。

「チクショー、調子狂うわ…」

パタン、と携帯電話を畳むと、足元で一心不乱にペディキュアのデコレーションをしている恋人を見る。

「ねぇ、当麻ー」
「…ん? ちょっと待て、今、良いカンジでデコできてるから」

この男はけっこう手先が器用で、かつ、職人気質な部分があるらしく、毎日のペディキュア塗りが最早趣味になりつつあった。

「……………うし、よく出来た。今回のテーマはクール&キューティーな。水色系がキレイにはまったぜ! んで、なに?」
「教えたアタシが言うのもなんだけど、上達したわねぇ…」

きれいにデコレーションされたペディキュアを、ためつすがめつ眺めて麦野が感心した声を出す。

「水色…… 水…… うん……」

なにやらコクコクと頷いた。

「決めた」
「え、なに?」
「海行くわよ、海!」

すくっ、と立ち上がって、麦野は高らかに宣言した。










第4話「砂浜でセックスするときは、立ちバックでやんないとまんこに砂が入って怪我するのよね」









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710 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:34:36.03 ID:IdDIDVkdo
「海だあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「超青いですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅ!!!!!!」

レンタル・ミニバスの窓をいっぱいに開けて、フレンダと絹旗が身を乗り出して叫ぶ。

学園都市では滅多に体験できない鼻につく潮風。
鬱蒼とした自然林から鳴り響く蝉の鳴き声。

麦野率いる『アイテム』の面々プラスαは、学園都市から『外出』して、『外』の海水浴場へとやってきたのだった。
学園都市23区から定期航空機に乗り、遠く離れた県営飛行場に降り立ち、さらにレンタルバスに揺られて5時間。
待望の潮風は、溜まった移動ストレスを解消させるに十分な威力があった。

「海かぁ… 無茶苦茶久しぶりだなぁ…」

バスの運転席で、浜面仕上が嬉しそうに呟く。
幼い頃、両親に連れられて海に行ったのは覚えているが、それはおぼろげな記憶だ。
しかし、こうやって潮風を身近に感じると、まざまざと当時の風景を思い出すことが出来た。

「おぅ、浜面。運転変わらなくていいか?」

それなりに広いバス内でも、窮屈そうに身を屈めてそう言ったのは駒場利徳だ。

麦野が『アイテム』メンバーに、

「非常に親密、かつ口が固くて『表』の人間じゃなければ誘って良いわよ」

と言ったがために、フレンダがかなり強引に連れ出したのだ。

「ええと、次の休憩所で頼むわ。路肩に寄せるスペースねぇし」
「おお、そうか… 遠慮なく言ってくれよ」

どことなく残念そうに言って、駒場が自分の席に向かう。

席に向かう最中、サングラスに麦わら帽子を被った麦野にぎこちなく頭をさげる。

「……ども」
「ヘンに気を使わなくて良いわよ」
「…………ども」

言葉少なにそう言って、フレンダの前の席(2人分)にどっかと座る。

(気まじぃ……)

一応、彼は能力者による『無能力者狩り』に対抗すべく組織した、武装無能力者集団(スキルアウト)のリーダーだ。
昔から知っているフレンダはまだしも、能力者の最高峰である超能力者(レベル5)である麦野に対しては、複雑な感情を拭いきれないのだ。

さらに、『見知らぬ女性の集団に参加する部外者』という立場は、馴染むまでかなり気まずいものだ。

「ねぇねぇ、利徳~~! 海だよ、海ッ!! エメラルドグリーンの碧い海だよ~~ッ!!」
「見えてる。あと、身を乗り出すな、あぶねぇ… うぉい!!」

前方の座席から身を乗り出していたフレンダが、駒場が喋っている途中にそのまま座席を越えて駒場にダイブした。
慌てて駒場がフレンダの小さな身体をキャッチすると、そのままフレンダは駒場の膝の上に乗って座席の窓を開けた。

「うっひゃ~、気持ち良い~~!!」
「お前なぁ……」

あの壮絶な初体験からこっち、フレンダは完全に恋人気取りだ。
男のけじめとして、それは素直に受け入れた駒場だが、衆人監視でイチャイチャするのは流石に精神的に辛い。

「フレ…」
「フレンダ~~! はしゃぐのも良いけど、砂浜でトラブル起こさないでよ!」

駒場が注意するより早く、麦野がサングラスをずらして睨みつけながら言った。

「わ、わかってる訳よ!」

麦野に一喝されて、フレンダが駒場の膝の上で大人しくなる。

言葉なく開いた口を緩慢に閉じて、駒場はもう一度「ども…」と呟いた。
711 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:35:18.91 ID:IdDIDVkdo
――真夏の海水浴場。

海水浴客で賑わう砂浜に、上条・浜面・駒場の3人が適当な場所に荷物を降ろした。

女性陣は着替えや準備に時間がかかるので、男どもは諸々の準備をするために手早く着替えて場所を確保したのだ。

「だぁぁぁ… 気ぃ使って疲れた……」

手際よくパラソルやポータブル椅子、断熱マットなどを準備し、一通りセッティングが終わると、駒場が大きな身体をマットに横たえて嘆息した。

「まぁ、なんと言うか、お疲れさん、旦那。…ほれ」

苦笑した浜面が駒場に冷えた缶ビールを差し出し、自身も一缶空ける。
明らかな未成年者違反だが、周りの男性客もすべからくアルコールを摂取しており、咎める者も居ない。

「浜面、運転は?」
「ここから泊まる所までは運転手が来るってよ。だから気兼ね無しだ」
「そりゃ良いね」

嬉しそうにプルトップを引き、喉を鳴らしてゴクゴクとビールを喉に流し込む。
よく冷えた炭酸が冷えた身体に拡散し、なんとも言えない幸福感に包まれる。

「ぷはぁ! うめぇ… おぅ、上条は?」
「あ、くださいください」

パラソルの支柱を思いっきり捻じ込んだ上条が、無げ渡された缶ビールを手にとって、これもおいしそうにあおる。

「くはーっ、うめぇ… 海っていいなぁ……」
「ああ、一瞬で生き返ったぜ」

ようやく一息ついて余裕ができたのか、駒場の口が軽くなる。

「つーか、なんで俺なんだよ… フレメア誘えばいいじゃねぇか……」
「フレメアちゃんは完全に『表』の人間だから駄目だって、麦野が却下したらしいぜ。それに、フレンダは『彼氏』と来たかったんだよ」

浜面が、やけに『彼氏』という言葉を強調して言う。

「……おぅ、久しぶりにスパーでもやっか?」
「へへ… 砂地はアマレスの独壇場だぜ? 得意の足技がどんだけ使えるかな…?」
「朝錬に砂浜ダッシュとか『一歩』でやってたなぁ…」

それなりに脳筋な3人が、妙な意味でボルテージを上げていると、目の前を地元の女子大生らしきビキニ集団が通り過ぎた。

「…………………」
「…………………」
「…………………」

学園都市は、例外を除いてハイティーンまでの学生とアラサーオーバーの教師しかいない。
滅多に見ない20台前半の成熟した水着姿を、男どもの眼が自然と追尾する。

「………………いいな」
「………………いいね」
「………………いいッスね」

若い衝動に3人が浸っていると、遠くから「あ~~~~ッ!! 超鼻の下伸ばしてますッ!!」という甲高い声が聞こえた。
712 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:37:26.58 ID:IdDIDVkdo
「お、おお、着替え終わったか?」
「へっへー、私は超服の下に水着を着込んでいましたからね! 1人で先に来たおかげで、3人の浮気現場をばっちり目撃しましたよ!」

年齢に似合ったスポーティなタンクトップビキニを着た絹旗が、小悪魔めいた笑みを浮かべて言い放った。

「いやッ! 別に浮気じゃねぇし!! 見てただけだし!!」

上条が慌てて叫ぶ。
麦野の嫉妬など、考えるだけで恐ろしい。

「そ、そうだぜ! 見てただけだよ!」

こっちは、滝壺にあらぬことを吹き込まれるのを恐れた浜面だ。

本人たちの知らない一方通行な両想いをこじらせている彼は、この旅行で滝壺に告ろうと密かに考えているのだ。

「ほほぅ、超そうですか… 本当ならば、麦野や滝壺に超注進するのが私の使命ですが… ほら、超何か言うことありませんか?」

そう言って、薄い胸を張って仁王立ちする。

一瞬、「なに言ってんだコイツ?」な表情をしていた2人だが、絹旗の言わんとすることを理解して、慌てて水着に注目した。

柄はオーソドックスなストライプだが、ローティーンの絹旗にはとても良く似合っている。
普段はボーイッシュな格好を好む絹旗だから、『水着』という非日常的なギャップが余計にそう感じさせるのだろう。
決してセックスアピールが高いわけではないが、ジュニアアイドル的な可愛さが十分に引き出されていた。

「可愛いッ!! 絹旗すげぇ水着姿可愛い!!」
「ああ! セクシーで超キュートだ! ナンパされるかもなッ!」

機関銃のように褒めちぎられ、絹旗がますます薄い胸を張る。

「え~、別にそんなことは… 超々ありますけどー、お2人とも超想い人がいらっしゃるのにー、こんなせくしぃ少女に超悩殺されていいんですかー?」
「いやいや、マジで可愛いって…… え~と…」

他に褒める言葉を捜していると、不意に周囲の男性客から「おっ!」とか、「すげ…」といった歓声があがった。

「うん?」
「こぉら、早速馬鹿やってんじゃないわよ」
「…………………………すげぇ」

ポツリ、と上条が呟き、浜面、駒場が、ゴクリと喉を鳴らした。
713 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:38:27.79 ID:IdDIDVkdo
歓声の原因は、きわどいハイレグ水着を着た、麦わら帽子にサングラス姿の麦野だ。

布地の極端に少ないハイレグビキニは、着る者によっては下品な印象を与えてしまう。
しかし、プロポーション抜群の麦野が着ると全く違った。

トップはオレンジ色の三角形ブラ。
Fカップオーバーのどっしりとした質感のバストを、乳房の総面積の1/3ほどの布地で吊り下げるように支えている。
しかも、砂浜に足を取られないように少し跳ねるように歩いているおかげで、弾むように豊乳が縦に揺れる。
縦に、揺れる。
見ている側が零れ落ちるのではないかと心配になるぐらい見事に揺れる。

さらに素晴らしいのは、豊満なバストからは想像できない、キュッ、と美しく締まったウェストだ。
女性らしい柔らかさを残しつつも引き締まったそこは、わき腹のところに2本の美しいラインが走っている。
それは程よく腹筋が鍛えてある証拠で、上条が「使ったことないけどオナホより気持ち良い」と評する名器の源でもある。

また、ヒップも素晴らしい。
腰の位置が日本人離れした高い位置にあるだけではなく、お尻の山頂が高い位置で盛り上がっている。
ビキニも超ハイレグでお尻の内側半分しか覆っていないので、むっちりとした『丸尻』が歩くたびにコレでもかと横に揺れる。
横に、揺れる。

もちろん、スラリと伸びる素足も素晴らしい。
密かに足が太いのを気にしている麦野だが、むしろその頭身から考えれば丁度良い太さで、非常に肉感的な美しさを備えている。
あえて変態的な表現を使うならば、「頬をすりすりしたい太もも」とでも言うべきだろうか。
美脚を越えた蕩脚とでも言うべき美パーツがそこには存在した。

全体的に目に毒とかそういうレベルではない。
普段全裸を日常的に見慣れている上条でさえ開いた口がふさがらない。

周囲の一般男性陣は、思わず「ありがとうございますッ!」と両手を合わせて拝み、
女性陣はやっかみや嫉妬心をはるかに超越して「別次元って居るのね……」と完全に白旗を上げていた。
714 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:40:03.68 ID:IdDIDVkdo
「きぬはた~、馬鹿晒してんじゃないわよ!」
「うぅ~、麦野が出てくる前に超賞賛を浴びたかっただけじゃないですかー。こうなると分かっていたから超早く着替えてきたのに…」
「そういう狡い考えしてるから成長しないのよ。 …で、どう?」

軽く絹旗をたしなめた後、麦野が上条に向いて軽く胸をそらす。

「完璧… いや、もう… 言葉がでねぇ……」
「ふっふっふ… そうでしょうとも。有り難がって見物しなさい!」

傲岸不遜な物言いがまたよく似合う。
無いものを誇るのは滑稽だが、本物を誇られては、ただただ頭を下げるしかない。

「いやぁ… マジですっげぇな… なんかうら……」
「はーまーづーらー…! アンタが褒めるのはアッチでしょ?」

麦野が、クイ、と親指を向けると、そこには残る2人の女性陣が、正反対の表情で立っていた。

「やっほぅ! 利徳を悩殺しにきたぜぃ!!」
「あ、あの… はまづら、あんまり見ないでね…」

元気よく手を振るのがフレンダ、恥ずかしそうに身を縮めているのが滝壺理后だ。

フレンダの水着は女性陣の中で一番布地が小さい。
ボトムは麦野とほぼ変わらない大きさの黒のハイレグビキニだが、そもそもお尻の大きさが違うのであまり露出が高くは見えない。
しかし、金髪碧眼に色白ボディに黒のハイレグビキニは恐ろしく映える。
トップがお腹辺りで交叉するスリングショットなだけに、妖しい色気を醸し出している。

「ど~~ぉ? 利徳、興奮したぁ?」
「…………………アホ言え」

冷めた口調でぶっきらぼうに言い放つが、フレンダを完全に直視できないところを見るにかなり衝撃を受けているようである。

「あ、あのさ…」
「うん…」
「あの… 凄く…」
「うん……」

対してこちらは浜面と滝壺である。
『アイテム』(と浜面)全員がワンピースで来るだろうと想像していた滝壺だったが、
なんとなんと、完全に予想外のビキニスタイルである。

フリルの付いた花柄のレモントップは、清楚な絹旗にとても良く似合っている。
着やせするタイプなのか普段はあまり意識されないが、滝壺も相当な巨乳の持ち主である。
さらに、肉感的な麦野とは違って、線の細い滝壺の巨乳は、体型とのギャップが凄まじい。
全体的にパーツの小さな顔、鎖骨の浮き出た華奢な肩、それを経由して、当然薄いであろう胸部だけが、ありえない角度で盛り上がっているのだ。
麦野やフレンダと違って、トップは乳房全体を覆うタイプのモノだが、それでもずっしりとした重量が視覚から伝わってくる。
儚げな印象とも合わさって、ギャップによる破壊力は相当なものだった。

「凄く… 可愛い……」
「うん……///」

周囲からの「お前ら早く付き合えよ」光線を一身に浴びて、浜面と滝壺は暫く2人の世界に浸っていた。
715 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:40:40.59 ID:IdDIDVkdo
「どぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!!! 超超回転海老ぞりスパイクぅぅぅ!!」
「なんのぉ!! 結局そのコースは読んでた訳よぉぉぉぉ!!!!」

波打ち際で繰り広げられる仁義無きオンナの戦い。

学園都市から持ち出した『超高級999層重ねアイスプディング』を賭けて、ちびっ子2人が死闘を繰り広げている。

「あはー…… 北北西から信号がきてるよ、浜面…」
「えーっと、北北西って、あっちか…」

こちらは、巨大な天蓋付き貸し浮き輪に乗っかって海面に浮かぶ滝壺を、浜面が望む方向にバタ足で牽引している。

「浜面はこっちに乗らないの?」
「い、いや… 2人で乗るのは狭いし…」

それが滝壺の決死のアタックだと気付かない、馬鹿な男である。

「乳ぐらい揉みゃいいのによー、根性無しが……」
「それが出来たら、とっくにくっ付いてるでしょ」

泳ぐ気も遊ぶ気も無い駒場は、炎天下で汗が流れることを良いことに、さっきから大量のアルコールを消費している。
その駒場の呟きに答えたのは、パラソル下の断熱マットにうつ伏せになり、恋人からせっせとサンオイルを塗ってもらっている麦野だ。

「…そうだな、ちょっとは手助けしたほうが良いのかな」
「フレンダから逃げ回っていたアンタにゃ無理でしょ?」

容赦ない麦野の言葉に、駒場が、ぐっ、と言葉を詰まらせた。

「ま、しっかり責任取ってるのは偉いと思うけどね」
「……別にフレンダを嫌ってたわけじゃないからな」

駒場が自然に答える。
アルコールの助けか、それとも少しは慣れたのか、麦野ともようやく緊張せずに会話できるようになっていた。

「なぁ、アイツが足を洗うことってできねぇのか?」

前々から疑問に思っていたことを率直に訊いた。

「…学園都市の中じゃ、絶対に訊かないでよ、それ」
「分かってるよ。だからココで訊いてるんだ」

麦野が「むー…」と唸ったあと、「難しいんじゃない」と答えた。

「本人が足を洗う気ないし、そもそも、アタシもフレンダも入ろうと思って『アイテム』に入ったわけじゃないからね」
「そうか… すまん」

あまり触れてはいけない部分の話だと察して、駒場は口を閉じた。

たったったったった……!

「げっとぉぉぉぉぉ!!!!」

微妙な雰囲気の中に、勝負に勝利したフレンダが猛烈な勢いで駒場にダイビングした。

「うぉ!」
「りとくー! アイスゲットしたぜぇ!! 約束通り2人で食べよ!」
「んな約束… あぁ、わかったわかった! 引っ張るな!」

小動物にまとわりつかれ、巨人がのっそりと身を起こす。

「ちょっと行ってくる」
「あいよ」

フレンダが駒場の海パンをぐいぐいと引っ張る。

そんな2人をチラリと見て、麦野は誰にも見えないようにクスリと笑った。
716 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:41:17.77 ID:IdDIDVkdo
「胸の下もちゃんと塗りなさいよ」
「わーってるって。しかし、すげぇ日差しだなぁ…」

学園都市も、大概、日差しが強かったが、この砂浜の日差しはさらに強烈だ。
さっき試しに海に足を浸してみたが、砂浜はともかく岩場の塩水は、温泉を思わせる熱湯に変わっていた。

「でも、なんでまた海に?」
「別に、単なる思い付き… それに、気分も変えたかったしね」

そう言われて、上条は『間引き』のときの戦闘を思い出した。

「……そうだな、確かに気分転換は必要だな」
「でしょ… ちょっと、胸の下って言ったでしょ」
「うつ伏せじゃ塗りにくいよ」
「まったく…」

一息溜め息を吐いて、麦野がゆっくり身を起こして割り座になって座った。

「これでいいでしょ?」
「いいけど、この体勢だと…」
「気にしないでさっさとやる」

ピシャリと言われて、しぶしぶ上条が手にサンオイルを乗せて背後に回る。
そーっと両手を前に回して、下乳から手を潜り込ませる。

(うっわー、見られてる……)

密かに注目されていたのだろう。
周囲の男性の眼がいっせいにこちらに注目されるのが分かる。

「んぅ……」

背後から下乳にサンオイルを塗る様は、どう見ても胸を愛撫している図だ。
麦野は平静としているが、こういう時は男のほうが気恥ずかしい。
それなのに、麦野は更なる要求を出してきた。

「どーせだから、おっぱい全部に塗ってちょうだい」
「……楽しんでるだろ、てめー」

上条の言葉に麦野がニヤリと笑うと、素早くブラの紐を解いた。

「うわっ!」

パサリ、とブラジャーが落ちる前に、なんとか上条が麦野の豊乳を鷲掴みにして周囲の視線から隠す。
いわゆる、手ブラの状態だ。

「お、お前な…」
「あはは! オイルは私が垂らすから、しっかり塗りなさい」

楽しそうな麦野の声に、上条はやれやれと溜め息を吐いた。
717 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:41:49.90 ID:IdDIDVkdo
「うわぁ…… 超迷惑な超バカップルですね……」

滝壺たちと合流した絹旗がウンザリした声で呟く。

「しばらく戻れねぇな、あれは……」
「いいなぁ…」

滝壺の指を咥えた発言に、浜面がドキっと胸を高鳴らせる。

「えっと… ああいうのに憧れるの?」
「うん、うらやましい……」

そう言って、滝壺が浜面をチラチラと見る。
しかし、ここでも浜面のヘタレが発動する。

「そ、そうか…」

と言って場を濁そうとする浜面が、突然、

「ぎゃッ!!」

と悶絶して飛び上がった。

「ど、どうしたの…?」
「い、いや… ちょっと海草が触れたかな、はは…」

騒動の原因は絹旗だ。

水中で、にゅ、と伸ばした手で、遠慮無しに『窒素装甲(オフェンスアーマー)』を使ってわき腹を捻り上げたのだ。

(なにすんだよッ!!)ボソボソ

滝壺に聞こえないように囁いた浜面に、絹旗が鬼の形相で答える。

(なにするじゃないですよ、この超超朴念仁ッ!! オンナがここまで超アプローチしてるのに何スルーしてるんですかッ!!)

『仕事中』でもここまで真剣な表情はしないだろう。
それほどの形相で睨みつけられて、浜面が言葉に詰まる。

(良いですかッ! もうこの場で決めてくださいッ!! もし、決めずにノコノコと戻ってきたら…)

水面から出した手をコキリと鳴らす。

(握りつぶします……!)

ゾッとするような声でそう言われ、浜面は思わずコクリと頷いた。
718 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:42:35.34 ID:IdDIDVkdo
「あれ、絹旗戻るの?」
「いえ、折角なので超泳いできます」

シュタ、と手を上げると、絹旗はビート板を手にものすごい勢いのバタ足で泳いで行った。

「? ヘンだね、絹旗」
「お、おう…」

不思議そうに絹旗を見送る滝壺に、浜面が裏返った声で返事をする。

「うん? 浜面もヘンだね?」
「いや…」

口ごもり、しかし、全身の勇気を拾い集める。

(勇気出せよ、おい、俺ッ!!)

ゴクリと喉を鳴らして、滝壺を正面から見る。

「な、なに……?」
「た、滝壺!」

高鳴る鼓動を押さえ込もうとして押さえ込めず、何回も深呼吸を繰り返す。

「あのさ、滝壺…」
「うん…… 俺さ… ずっと言いたかったことがあって……」

(これは… ようやく…?)

勇気を出した度重なるアプローチがついに効果を出したのか?

滝壺が内心ワクワクしながら浜面の次の言葉を待つ。

だが、浜面はやはりヘタレ属性なのであった。

「た、滝壺は、俺のことどう思ってるの?」
「………えぇー」

そりゃーないぜーと、滝壺ががくっと肩を落とした。
719 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:43:14.90 ID:IdDIDVkdo
「いやぁ、美味かった! 海はサイコーだし、言うことない訳ッ!」

相当にハイテンションなフレンダが、駒場を先導してどんどん歩く。

「おい、あんまり離れるんじゃねぇよ」
「えー、2人っきりになりたいじゃん!」

既に周囲に人影は無い。
立入り禁止のロープをあっさり越え、誰も来ない岩場エリアに入って、フレンダはようやく足を止めた。

「うーん、ここなら邪魔は入らないかな…?」
「邪魔って…」
「結局、他の人が居るとイチャイチャしたくない訳でしょ?」

フレンダは駒場を適当な岩場に座らせると、己の胴体ほどもある駒場の太ももに跨った。

「ねぇ… 水着姿見ても興奮しないの?」
「…してるよ。でも、カエル先生から止められてるだろ?」

流石に、繋がったまま病院には2度と行きたくない。

「オーラルはできるじゃん…」
「あのな、お前…」
「…だってさ、麦野たちはずっとイチャイチャしてたのに、アタシはお預けだったんだもん…」

駒場の分厚い胸板に、甘えるように頬を擦りつける。

「ここなら良いでしょ? 誰も見てないし……」

フレンダがスーッと口唇を駒場に寄せる。
そして、それが触れ合おうとしたその瞬間、

「あー、お前ら立ち入り禁止の札が見えんかったのか?」

若い、ひどく若い女性の声が響いた。

「あ… すまん……」

地元の監視員か何かと思い、駒場が慌てて立ち上がって声の方を見た。

「ここいらは岩場が切り立っているし、なにより潮が満ちたら渦を巻くんだ」
「ああ、悪い…」

駒場が向けた視線の先には、前合わせの着物を着た少女が立っていた。

「すぐ戻るよ」
「ちぇー……」

ぐずるフレンダをひょいと肩に乗せて、駒場が立ち去ろうとする。

「ああ、待ちな。潮が満ち始めている。元来た道は危険だから案内するよ」
「そうか… 重ねてすまん」

駒場が頭を下げると、少女はニカッと笑った。

「まぁ、気にすんな。私の名前は姫戸、まぁヨロシク」

そう言って差し出した少女の手は、不釣合いなほどゴツゴツと岩のように固かった… 
720 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/06(水) 17:45:06.70 ID:IdDIDVkdo
はい、終了…

ごめんなさい。
エロを期待した人ごめんなさい。
投下を始めて、初めてのエロ無し回…
理由はお察しください。

あと、4話のヒーローは駒場さんです。

上条さんと麦のんはエロ担当… のはずが…

では次回。 
772 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:02:25.81 ID:VMKypQC5o
本編が一応、キリの良い所まで書きあがったけど、まさかまさかのエロシーンどころかお色気シーンも無し。

個人的に腹が立ったので、(テメェのプロット力がないせいだろうに)
>>483の続きを書いてみた。

ので、投下します。

「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」

16kほどです。 
773 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:03:11.65 ID:VMKypQC5o



「えと、まずは何をすれば良いわけ…?」

2人同じベッド、同じ布団の中。
御坂美琴と白井黒子は、互いの息が掛かる距離で見詰め合っていた。

「その… 黒子がリードしてくれるんだよね?」
「ととと、当然ですわ…ッ!!」

失恋のショックを埋めるためか、はたまた、最初から興味があったのか、
御坂美琴は以前から猛烈なアプローチを続けていた白井黒子と肌を重ねようとしていた。

無論、御坂美琴は処女である。
ましてや、女性同士の睦合いなど全く知識に無かったが、

(まぁ、黒子は無駄に知識を溜め込んでるでしょうから、まかせてオッケーよね…)

と無責任かつのん気に考えていた。

が、果たして大任を任された白井黒子は、

(どどどどどどッ、どうしましょうッッッ!!??)

大混乱の極みにあった。
774 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:03:57.94 ID:VMKypQC5o
白井黒子は淑女である。

たとえ普段の言動があーだったり、行動があーだったりしても、一応は淑女である。

変態的な言動や行動は美琴オンリーのものであるし、さらに言えば、本能に我を忘れての行動なので、身に覚えもあまり無い。

ゆえに、こうして任されてしまっても、黒子はどうして良いかさっぱり分からなかった。

(り、リードと言っても、何をリードすれば良いのでせう!?)

混乱して、笑顔のまま凍り付いている黒子を、美琴がやや心配そうな表情で見つめた。

「……黒子?」
「と、とりあえず、お姉さま… き、キスなど如何でしょうか…?」

言ってしまって、

(何を言っているんですの私はーッ!!?)

心の中で大絶叫する。

これはヤバイ。
絶対に電撃コースだ。

美琴が頼んだのは、「慰めて」ということだけだ。
無論、肉体的な『触れ合い』は含めてのことだろうが、キスを許すなどとは言っていない。

(お姉さまのファーストキス(願望)を奪うなどという暴挙が、黒子に許されるはずが…ッ)

「うん、優しくね…」

しかし、黒子の想像とは裏腹に、美琴は静かに目を閉じて、やや口唇を突き出した。

(通ったぁーーーーーーーッ????????)

なんだろう、このご都合主義は?
なんだろう、この理想的な展開は?

(黒子は明日の朝、息をしていないのかも知れませんわ……)

人生の幸運を全て使ってしまっているような状況に、白井黒子の理性が段々と削られていく。

「ふーッ、ふーッ……」

鼻息あらく息を整えると、おずおず、と口唇を美琴に寄せる。
時間にしたらほんの一瞬、しかし、黒子には数時間にも思える時間が流れて、

ちゅ…

2人の口唇が重なりあった。
775 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:04:37.52 ID:VMKypQC5o
(ああ… とうとう……)

憧れのお姉さまの口唇を奪ってしまった。

なんと柔らかい感触だろう!
なんと幸せな味だろう!!
パライソという言葉はきっと今の状態を指すのだ!!

身体のほんの一部分、わずか数センチ平方の接触だけなのに、どうしてここまで幸せな気分になれるのだろう。

(お姉さまの体温が、口唇を通して伝わってきますわ……)

身体の中心が、じん、と痺れるのがよく分かる。
このまま、多幸感に包まれて、黒子が意識を落とそうとする寸前、美琴が口唇をそっと離した。

「あ……」
「ね、ねぇ黒子… この先は…?」
「はぁ……………  はぁ!?」

超予想外な美琴の『おねだり』に、黒子が素っ頓狂な声を上げた。

「び、びっくりさせないでよ…! き、キスで終わりなの?」
「そそそそ、そんな事は……ッ!」

(マズイですわ…! 既に黒子の性知識はゼロですのッ!)

引き攣った笑顔を保ったまま、黒子の頭脳がフル回転する。

(とりあえず、顔を見せないようにしないと…ッ!)

自分の動揺を悟られてはいけない。
さしあたってそう感じた黒子は、結果的に次の一手に繋がる行動に出た。

「お姉さま、後ろを向いてくださいまし…」
「え、う、うん……」

言われた通りに美琴がベッド上で寝返りをうつ。
これで顔を見られることはない、と一息ついた黒子の眼に、とある美琴のパーツが飛び込んできた。

それは『うなじ』である。

(お姉さまのうなじ… あぁ、スッとラインが通っていて綺麗ですわ…)

それは本能的なものだろうか、はたまたここに来てようやくいつもの暴走癖が発動したのか、
黒子は美琴のうなじに口を寄せると、紅く小さな舌を、ちろり、と出して、美琴のうなじをペロリと舐め上げた。

「ひゃっ!」
「お姉さま… 身体の力を抜いてくださいまし…」

ちろちろ、ちろちろ… と、美琴のうなじを丹念に舐め上げる。
普段は気にも留めない身体のパーツを舌で愛撫され、美琴の背筋をゾクゾクとした何かが走った。

「く、黒子… やぁ、べぇろがエッチすぎるよ…」
「…まだまだ序の口でございますことよ?」

ようやく調子が出てきたのか、黒子が若干余裕を持った声で応える。

(ここはアタリだったようですわね… それでは、次は勇気を出して…!)

黒子の手が、スッ、と伸び、背後から美琴を抱きしめるように回される。

「黒子…?」
「お嫌でしたら、抵抗なさってください…」

声と共に、黒子がゆっくりと美琴のシャツのボタンを外し始める。
一瞬、美琴はビクッ、と身体を震わせたが、すぐにされるがままに緊張を解いた。
776 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:06:09.36 ID:VMKypQC5o
「…いいよ、痛かったら言うから」
「……はいッ」

美琴の言葉に、黒子の手の動きが加速する。

シャツのボタンを外し終えると、焦る気持ちを抑えて、今度はブラジャーのホックを外す。
緊張をまぎらわせるために、大きく美琴のうなじを、べろり、と舐めると、黒子はそっとブラジャーの中に手を忍ばせた。

「「………あっ」」

美少女2人が同時に声を上げる。

1人は、誰にも触れられたことの無い、敏感な頂点を触られたことで、
1人は、その頂点が固く尖っていることを発見して。

「お姉さま… 感じていらっしゃいますの?」
「わかんない… わかんないよ…… あッ!」

言葉の途中、手の腹で乳首を、コリッ、と刺激され、美琴が桃色の吐息を漏らす。

美琴のコンプレックスの1つであるおっぱいだが、同年代の女子と比べて、それほど貧しいわけではない。

黒子は確かな膨らみを感じるそのおっぱいを優しく掌で包むと、乳首を中心に円を描くように手を動かし始めた。

「はぁ… あぁ…」
「お姉さま……」

美琴の吐息を聞いているうちに、段々と黒子の気分も昂ぶり始めた。

憧れの御坂美琴が喘いでいる。
しかも、自分の腕の中、自分の手によって!

最早、白井黒子を止められる存在など、『学園都市』には存在しなかった。
777 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:07:00.77 ID:VMKypQC5o
ぢゅぅぅぅぅぅ……

「やぁ…! 黒子、そんなに吸っちゃダメェ…!」

黒子が美琴のうなじにむしゃぶりつき、強く強く吸い上げる。

「…ぷはぁ、はぁはぁ… お姉さま、明日は一日部屋から出られませんの」
「え…?」
「黒子の愛の証を、しっかりと刻んでしまいましたもの…」

黒子が手鏡を使って美琴に己のうなじを見せる。
そこには、くっきりと黒子のキスマークが、赤く浮かび上がっていた。

「すごい… 黒子の所有物って感じ……」
「………ふぅ」

自覚はないのだろうが、美琴のセリフで黒子の欲情の炎がさらに燃え上がる。

「こちらも舐め舐めいたしますわ…!」

美琴の身体を強引に仰向けにすると、襲い掛かるように自分が馬乗りになる。

最早不要となった美琴のシャツとブラジャーを取り去ると、驚いておっぱいを隠そうとする美琴の両手を、己の両手で拘束する。

「く、黒子…」
「……あむ」

御坂に抵抗する暇を与えず、黒子は一気に固く尖った美琴の乳首を咥え込んだ。

「ひぅ!」
「ぢゅ、ぢゅ、ぢゅぅぅ…!」

吸い上げるように乳首を激しく吸引し、さらに舌で前後左右に愛撫する。

テクニックも何も無い本能的な愛撫だったが、愛護的な精神が働いているのか、美琴に苦痛はなかった。
むしろ、乳首を責められるたびに、ゾクゾクとした感覚が背筋を走りぬける。

(あぁ、すごい… やっぱり、えっちって気持ち良いんだ……)

乳首からの快感入力もそうだが、黒子に押さえ込まれているこの状況が堪らなくいやらしい。

(黒子、すごく一生懸命、私のおっぱいを吸ってる…)

乳房に当たる、黒子の鼻から漏れる吐息から、黒子がすごく頑張っているのがよく分かる。

「……んッ!」

何度目か分からない黒子の吸引に、美琴が短い嬌声を上げる。
そして、

じわ……

美琴は身体の中心から、暖かい『なにか』が滲み出るのを感じた。
778 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:07:27.12 ID:VMKypQC5o
(あ、あれ…? 今、私……)

おもらしをしたような、その不思議な感覚に、美琴は知らず知らず太ももを擦り合わせる。

(あ… お姉さま、もしや…)

目ざとくそれを感知した黒子は、いったん乳首から口を離すと、潤んだ瞳の美琴を見つめた。

「お姉さま、黒子に全てを晒すお覚悟はできていらっしゃいますか?」
「そんな… わかんないよ…… でも、黒子がそうしたいなら……」

頬を、かぁ、と紅潮させて美琴が呟く。

黒子は思わず、ごくり、と喉を鳴らすと、「それでは、ここを見せて頂きます…!」と宣言した。

「は、恥ずかしい!」
「お姉さま、わたくしもすぐに後を追いますの…」

恥ずかしさに身をよじる美琴に構わず、黒子は美琴のズボンを一気に足首までずり下ろした。
可愛らしいキャラ絵がプリントされたショーツを目の当たりにし、黒子が「ほぅ…」と息を吐く。

「く、黒子ぉ…!」
「お姉さま、お覚悟を…!」

黒子が美琴のショーツを触れ、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を発動させる。
瞬間、美琴のショーツが消え去り、産毛の様な陰毛と、綺麗に縦に割れた秘所が露わになった。

そのタテスジは、ぬらりと妖しい液体で覆われていた。

「……感じていらっしゃったんですわね、濡れていますわ」
「いやぁ… 言わないでぇ……」

美琴が両手で顔を覆って、いやいや、と首を左右に振る。

「綺麗ですわ、とても…」
「言わないでってばぁ…」

美琴は手をどけようとしない。
表情を見れないのは残念だが、それ以上の興奮と欲求が黒子にはあった。

「お姉さま、純潔(マリア)はお守りいたしますわ。ですが、お覚悟を…ッ」

黒子は強引に太ももを割り開くと、無防備な秘裂に顔を近づけた。、

「黒子、こ、怖いわ…ッ!」
「愛しております、お姉さま…!」

告白と同時に、黒子は大きく舌を伸ばし、美琴のタテスジを下から上に舐めしごいた。
779 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:08:00.51 ID:VMKypQC5o
「ひゃぁぁ!!」
「あぁ… これがお姉さまの味ですのね…」

舌にのった美琴の愛液は、黒子にとってネクタルそのものだ。
四肢に力が張りつめ、思考が通常の何倍にも加速したような気がする。

「もっと下さい… 黒子にお姉さまのお恵みを…」
「あぅぅぅ……」

さらに何度も黒子の舌が美琴のタテスジを舐め擦る。
その行為の中、秘裂の上部で小さく震えるクリトリスに舌が当たると、美琴の身体が小さく、しかし鋭く痙攣した。

「…お姉さま、ココが気持ち良いんですの?」
「だ、ダメッ! そこ、凄く良い……!」

相反する言葉を聞いて、黒子は容赦なく美琴のクリトリスを口に含む

「だ、ダメッ!!」

美琴の制止も聞かず、黒子は乳首でしたときのように、優しく甘く、美琴のクリトリスを吸い上げた。

ぢゅぢゅぢゅ!

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

それまで昂ぶり続けた美琴の快楽がとうとうオーバーフローを起こす。
下半身から脳まで光速で走り抜けたインパルスは、美琴の脳内に極彩色の花火を咲かせた。

「お、お姉さま!?」

流石に驚いた黒子が口唇を離したが、絶頂が続く美琴は何も言えない。

(すごい… これがイクってことなんだ……)

朦朧とした意識の中で、美琴が初めての絶頂を学習する。

(こんなに気持ち良いなら、もっと早くしてもらえばよかった…)

これも刷り込みなのだろうか、美琴は自分に初めて快楽を与えてくれた黒子を、ひどく愛おしく感じ始めていた。

己の痴態に戸惑う黒子を見上げると、美琴はそっと両手を差し出して黒子の頬を挟むと、顔を持ち上げて優しく口唇を合わせた。

「お姉さま…」

戸惑う黒子に、極上の笑顔を向けると、美琴はだらしなく潤んだ瞳で言った。

「もっと、シテ…」

ぷっつん。

どこかで何かが切れた音がした。

「おねぇぇぇぇさまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

あの笑顔は凶器であった、と後に黒子は回想する。

白井黒子は顔面を美琴の秘所にもぐりこませると、まさしく犬のように美琴の秘裂を舌で愛撫し始めた。

御坂美琴の嬌声が部屋中に響き始めた。
780 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:08:39.67 ID:VMKypQC5o
「はーーッ、はーーッ、はーーッ、はーーッ!!」
「はぁ… はぁ… はぁ… はぁ…」

約1時間後、完全に疲労困憊した美少女2人が、ベッドの上でそれぞれ大の字になった。

「も、むりぃ… くりょこぉ… もお、むりぃぃ……」
「わ、わたくしも… あごが… したが… しゃべるのも、おっくうですわ……」

長時間責められ続けた美琴の股間はとんでもないことになっている。

おそらく、僅かにおしっこも漏れたのだろう。
シーツには愛液と唾液とおしっことが、形容しがたいグラデーションとなって染み込んでいる。

「くりょこ、すごすぎ…… にじっかいから先、おぼえてない……」
「ご、ごまんぞくいただけて、なによりですわ……」

一応会話はしているが、美琴も黒子も、己の暴走に戦慄を感じていた。

初めての身体の重ねあいでこれだけの痴態を晒してしまったのだ。
これから、自分たちはどこまでレベルアップしたしまうのだろうか?

どちらともなく2人は視線を合わせると、とりあえず口唇を重ねる。

(……ま、いっか。ここまで気持ち良いと何も考えられなくなる…)
(……まぁ、よろしいでしょう。ご奉仕の素晴らしさを実感いたしましたし…)

そうして美少女2人が、緩やかな後戯から熱い前戯に移行しようとした瞬間、部屋のドアが音を立てて開いた。

「お前ら、そこまでにしておけ。あ~あ、シーツをこんなに汚しよって…」

ピシ、美琴と黒子の身体が石像のように硬直する。

ぎりぎりぎり、と2人が首を声のほうに向けると、そこにはビシッとしたスーツに細メガネをかけたクールビューティーが佇んでいた。

「「りょりょりょりょりょりょ、寮監ッッッッッ!!!!」」

そう、そこに居たのは、泣く子も黙る、常盤台外部寮名物の、鬼の寮監が立っていたのだ。
781 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:09:21.61 ID:VMKypQC5o
その存在を知覚した2人の行動は素早かった。

「「も、申し訳ありません(の)!!」」

ベッドの上でそれぞれ正座し、深々と額をシーツにこすり付けて土下座する。

(まずいまずいまずいッ! よりによって寮監に…!)
(こ、今度はいったいどんなペナルティが… 最悪、お姉さまと部屋を分けられる可能性も…!)

だらだらと冷や汗を大量に流す2人を睨みつけると、寮監はやおら「ふぅ」と溜め息を吐いて、手をひらひらと泳がせた。

「ああ、良い良い。ペナルティなどは無い。後始末さえしっかりしておけばな」

「「………はぁ?」」

あまりに意外すぎるそのセリフに、2人はまた同時に素っ頓狂な声を上げてしまった。

「ど、どういうことなんですか?」
「どうもこうも無い。簡単に言うならば、だ」

寮監のメガネがキラリと光る。

「百合行為をいちいち厳罰にしていたら、常盤台の生徒の大半を厳罰に処さないといけないからだ」
「………うそぉ!?」

それはつまり、自分たち以外にも、『事に及んで』しまった生徒が大量に居るということらしかった。

「我が常盤台はその校風ゆえか、異性より同性に憧れを抱く生徒が非常に多い。お前たちが良い例だな。
 そして、それは厳罰をもってしても消えることがなかった」

頭が痛くなったのか、美琴が額を押さえる。

「そうした中で、『異性に関心を持ち傷物にさせるよりは…』と消極的な態度を学園が取り始めた。
 あとは、責任逃れと理由のこじつけの雪崩式連鎖だ。
 とうとう、『学園内の百合行為を黙認し、以後のアフターケアに努める』といった不文律が出来上がってしまった」

黒子が口をあんぐりと開けて驚きを表現する。
風紀委員に所属する彼女だが、そんな話は一切聞いたことが無かった。

「ゆえに、お前たちの行為も罰則の対象ではない。ただ、初めての行為で暴走することが多々あるのでな。
 事後処理の指導も兼ねて、私が止めに来たのだ」
「じ、事後処理とは?」
「お前ら気付いていないだろうが、酷い匂いだぞ? それと、そのシーツは流石に寮のリネン室では洗えんから、専門の業者に配送する」

そう言うと、寮監はB4サイズの冊子を2冊取り出し、それぞれ美琴と黒子に配った。

「基本的な事後処理のやり方や、女同士のプレイで困る初歩的なQ&Aが載っている、活用しろ」
「……本当にアフターケアをやっているんですね」

呆然と美琴が呟く。

「まぁな。ああ、そうだ……」

寮監のメガネが妖しく光った、ような気がした。
                                         ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「プレイに幅を持たせたいなら、いつでも私のところに訪ねて来い。手取り足取りとっくりと教えてやる」

それはまさしく、獲物を見つけた蛇の視線であった。








                                                  ――fin?
782 :「とある美少女達の情愛交合(くんずほぐれつ)」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/02/23(土) 01:10:38.44 ID:VMKypQC5o
おーわーりー。

やっぱりエロが一番筆が進む。

本編はエロシーンまで行ったら投下します。

あと、初春調教の方を明日の夜あたりちょこっとやります。

じゃあの。 
798 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:01:36.65 ID:Nox4/fMpo



「お兄さんたち、どっから来たの、地元じゃないよな?」

岩場をひょいひょいと飛び歩きながら、姫戸と名乗った少女は駒場に問いかけた。

「ああ、観光だよ」
「ふーん、そっちの金髪の子は留学か何かか?」

学園都市では異国人は珍しくはない。
しかし、『外』においては、当然、その限りではない。

「まぁ、そんな感じ。結局、ずっと日本に住んでる訳だけど」
「ぎゃん? だから日本語うまかとねぇ」

次第に少女の口調が訛りだす。
観光客向けの標準語が崩れていっている様だ。

「監視員か何かのバイトをしているのか?」

少し警戒を解いたのか、駒場が姫戸に尋ねた。

「ぎゃん。まぁ、バイトじゃなくて、本業だけどね」

ニヤリと笑った答える姫戸を改めて観察する。

背丈はフレンダとそう変わらない、歳もそうだろう。
時代劇のような前合わせの着物を着ているが、純朴な顔立ちには似合っていて、田舎の少女と思えば不自然ではない。

非常に身軽な様子で、足元が不安定な岩場をひょいひょいと飛び跳ねて移動している。

(学生かと思ったら本職のガイドか何かか…? やたら手がゴツゴツしてたのは、苦労している証拠なのかな…)

握手をしたときの掌の感触を思い出す。
不意に、子供の頃に観させられた『昭和日本史【黎明期】』のビデオが思い出される。

「…苦労してんだな」
「はぁ?」

険しい顔の大男に突然そんな事を言われ、姫戸が変な顔をする。
799 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:02:04.00 ID:Nox4/fMpo
「…なんか、妙な勘違いしとらん? 別に私は苦労とかしとらんよ?」
「ああ、いや…」
「つーか、田舎に変なイメージもっとっとじゃなかと?」
「む… すまん……」

駒場が素直に頭を下げて、肩に乗るフレンダが「ばーか」と面白くなさそうになじる。

「結局、『働いてる子供』に激弱な訳よね、利徳って」
「そ、そんなんじゃねぇ…!」

うりうり、と駒場の頬をつっつくフレンダと、それを邪険にあしらおうとして出来ない駒場。
そんな2人をチラリと返り見て、姫戸は小さく息を吸って言った。

「…なぁ、お前たち、もしかしたら『学園都市』から来たんじゃないのか?」
「ん? …なんでそう思うんだ?」

多少、警戒心を強めて駒場が逆に問う。

麦野から軽く念を押されているが、今回のバカンスは一種のお忍びである。
無用な詮索はされたくなかった。

「なんでって、ぎゃん金髪の娘とか、アニメの中か、それかテレビで見る『学園都市』の運動会でしか観たこと無かとよ」
「そ、そういうもんか…」

『学園都市』と『外』との技術的ギャップは色々と把握していたが、こういう文化的ギャップはあまり考えたことなかった。

「結局、バレてんならバラしていい訳でしょ? そうよ、アタシらは学園都市から来たの。一応、ナイショだから他の人に言わないでよ」
「おい、フレンダ…ッ!」

駒場が慌てて止めようとするが、時すでに遅し、である。

「なーに、びびってんのよ。結局、麦野にばれなきゃいい訳よ」
「お前のその無鉄砲・無責任・無自覚のポカで、どんだけ痛い目あってると思ってるんだよ…」
「う… ま、まぁ、今回はそう大したことじゃないし… ね、ねぇ、ナイショにしといて、よ…?」

フレンダの口調だ尻すぼみに小さくなる。
理由は、2人に向けた姫戸の眼だ。

「ふむ… 金髪碧眼に『学園都市』からの来訪者か… えらく無防備ばってん、それだけ自信があるとバイね」
「は…? ちょっとどういう…」
「―――――ッ!!」

ズサァァァァァァァ!!

フレンダが問い返そうとした瞬間、駒場が大きな身体を跳躍させて、肩に乗せたフレンダともども姫戸から距離をとった。

刹那――

ヒュパッ!!

さっきまで駒場が居た空間を、鮮やかな銀閃が通り過ぎた。

「な、にそれ…ッ?」

信じられないようなものを見たようにフレンダが声を絞り出す。

「よう避けたな。アタは護衛かなんかかね」
「てめぇ…ッ!」

瞬時に臨戦態勢を取る駒場の視線の先には、長さ3尺3寸の大太刀を振り抜いた姫戸の姿があった。

「天草式十字凄教所属の魔術師、姫戸。魔法名は『prehendere714(執拗に追い縋る猟犬)』」

チャキ、と姫戸が大太刀の刃を返す。

「今からアンタらを叩っ斬るばい」

さんさんと照りつける太陽の光を浴び、大太刀の刃が妖しく煌いた。
800 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:02:32.53 ID:Nox4/fMpo
「離れてろフレンダッ!!」

やや強引にフレンダを肩から降ろすと、駒場は岩場を蹴って姫戸に接近した。

(どういう能力かしらねぇが、長モノは懐に飛び込めばッ!!)

一般人であれば、そう、それが警備員(アンチスキル)や風紀委員(ジャッジメント)でさえも、大太刀を前にここまで果敢な行動は取れない。

しかし、駒場は百戦錬磨の戦士であった。

「すごか度胸ね。けど、そりゃ蛮勇ばい」

構えた大太刀が瞬きする間に消え去た。

首筋に、ぞわっ、とした悪寒を感じ、駒場は弾かれたように身を反らした。

ヒュパ、と鋭い風斬り音とともに、刃が駒場の頸部スレスレを通過する。

背中に冷や汗をどっと流し、駒場がはっきりと顔をゆがめる。

(なんだ今のは… 振ったのが見えなかったぞ…ッ)

「ほぅ、よく避けるの。見えとらんはずばってん」

再び手元に大立ちを構える。
その動きは流麗でよどみが無い。

「…その細腕でよく振るえるな」
「おぉ、ぎゃんて。たいぎゃ苦労しとっとバイ。だけん…」

姫戸の右足が一歩前に出る。

「大人しく斬られてはいよ」

再び、大太刀が視界から消え去る。

(下がるかッ!?)

最初のように後方に跳躍すれば安全に避けられるだろう。
そう理性が回避を選択しかけたその瞬間、研ぎ澄まされた本能が警告を発した。

(ッ!! いや、違うッ!!)

瞬間、ガバッ、と蛙のように岩場に身を伏す。
その真上を、ごぅ! という音を立てて大太刀が一直線に突き込まれた。

(突き、だと…ッ!?)

大太刀を手元に引く動作など全く無かった。
しかし、現実に姫戸は見事な片手突きの姿勢で止まっていた。

もしも、後方に跳躍していたら、着地した瞬間か、あるいは空中で、どてっ腹に風穴を開けられていたことだろう。

「…アンタ、何モンね? 刀は見えとらんどもん?」
「てめぇこそ、どんな能力者だ……」

『学園都市』の能力者とは明らかに異質な、その常軌を越えた技に、駒場は冷や汗を止めることができなかった。
801 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:02:59.75 ID:Nox4/fMpo
「なんば勘違いしとっと? さっき言うただろが。天草式十字凄教の魔術師と。まさか知らんわけじゃなかろ?」
「知らねぇよ!! 魔術師って… 魔法なんか存在するわけねぇだろ!!」
     ブキ
(クソッ、靴を履いていれば…)

駒場の脳内が強い焦燥感で満たされる。

都合3斬。
運よくかわす事ができたが、次も避けられる自信は無い。

「はぁ、なんば言いよっとか? そこの金髪は元ローマ正教の魔術師だろが!」
「「……ローマ?」」

突然まくし立てた姫戸のセリフに、フレンダと駒場が同時に声をあげた。

「あ、アタシ!?」
「お前、イタリア出身だったっけ…?」
「冗談! アタシはフランス系!!」

怒りを言葉に乗せてフレンダが叫ぶ。

その渾身の一言に、姫戸が首をかしげて「えぇ…?」と困惑する。

「ぎゃんこつは……」

大太刀を降ろして悩みはじめる姫戸に、「ちょっと、姫戸ッ!!」と新たな声が掛かった。

「『一閃』を感知してきたけど、アンタなにやってんの!?」
「ああ、対馬ねえさん。いや、ターゲットを見付けたから…」

登場したのは、ふわふわな金髪にスレンダーな体つきをした長身の女性だった。
対馬と呼ばれたその女性は、相対する駒場とフレンダを、じっ、と凝視すると、やおら腕を振り上げて、

ゴンッ!!

「あいたぁッ!!」

容赦なく姫戸の脳天に拳骨を打った。

「な、なんで!?」
「よーーーーっく見ろこん馬鹿ッ!! そして、もう一度ターゲットの特徴を言ってみなさいッ!!」
「えぇ… えーと、金髪碧眼の女… じゃなかと?」
「……『両手両脚が義肢』は?」
「………おー、お?」

姫戸が改めてフレンダをジロジロと見る。

「……お前、腕がびろーんと伸びたり、突然、変形したりとかせんか?」
「するわけないじゃん!!」
「あ、あら……?」

一瞬で、姫戸はバツが悪そうな表情を作って長身の対馬を仰ぎ見た。

「ど、どぎゃんしよ… 人違いだったごたぁ……」

ガンッ!!

言葉の終わりとともに、情け容赦ない対馬の拳骨が再び炸裂し、姫戸は「ぎゃぁ!」という悲鳴とともにしゃがみ込んだ。
802 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:03:31.25 ID:Nox4/fMpo
「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません……!!」

ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン……!

声の主は対馬、音の発生源は姫戸の額だ。

瞬時に状況を悟った対馬は、強引に姫戸を土下座させ、自身も土下座をして頭を下げると、ひっ掴んだ姫戸の頭を何度も何度も上下させた。

当然、姫戸の顔面は地面である岩場に激しく打ち付けられ、頭蓋骨を使った即興の打楽器と化していた。

「ほんッッッッッとぅぅぅぅにすいませんッ!! うちの馬鹿がとんだご迷惑をッ!! どうお詫びすればいいのか…ッ おらぁ、お前も謝らんかいッ!!」
「がっがっがっがっがっがっがっがっ……ッ」

そのあまりに異様で、かつ、ギャグにしか見えない行為に、駒場とフレンダはすっかり毒気を抜かれてしまった。

「……いや、そのぐらいでいーだろ? 俺も怪我をしたわけじゃないし…」

本当は警察に連絡するレベルの凶行なのだろうか、自分たちも基本お忍びである。
あまり大事になってもらいたくは無かった。

「つーか、あんたら何者なんだ? 魔術師とか魔法名とか、よくわからんが…」
「え、この娘、魔法名まで名乗ったんですか!?」

何気無しに駒場は呟いたが、それは対馬にとっては驚愕の情報だったらしく、今度はネックハンギングツリーで姫戸を持ち上げ始めた。

「お・ま・え・はぁ~~~!! なに一般人に魔法名晒してんだよッ!! 死ぬか!? 死ななきゃ治んないのッ!?」
「ご、ごべんなざぁぁぁいい!!」

姫戸は完全に泣きが入っている。
流石にこれ以上はマズイと感じた駒場が、対馬の肩を叩いて姫戸を降ろさせた。

「やめとけって」
「……すいません」

ぴくぴく痙攣する姫戸を降ろした対馬が、改めて駒場に向き直ると、腰を90°曲げて頭を下げた。

「この娘には、あとで厳罰を与えます。ですから、どうかこの場で起きたことは忘れてください」

声は切実で切迫したものであった。

「厚かましいとは重々承知の上です。しかし、そうしなければ、私たちは貴方がたを……」

対馬の雰囲気が、ゆらり、と僅かに変わる。
そこに危険な何かを感じた駒場は、フレンダが何か言う前に強く頷いた。

「ああ、わかった。口外はしないし、司法にも訴えない」

横でフレンダが何か言いたそうだが、頭に手をポンと乗せて堪えさせる。

「ありがとうございます……」

対馬はそう言い、グスグスと泣いている姫戸を無理やり立たせると、改めて2人そろって最敬礼をした。

「本当に申し訳ありませんでした。こっちの小道を真っ直ぐ進むと、海水浴場に出れます」

頭を上げずに脇の小道を指差し、そのまま微動だに動かない。
どうやら、駒場たちが立ち去るまで、ずっと頭を下げておくつもりのようだ。

「…もう、辻斬りなんてすんじゃねぇぞ」

全身の緊張をといて駒場が片手を上げて立ち去ろうとした、その刹那、

――――ピシ

首筋になにかチクリとした感触があった。

(……? 蚊、か…?)

駒場は軽くそう考えると、脇のフレンダを再び肩に乗せて、いまだ頭を上げない2人に「それじゃ…」と声をかけて小道に進んだ。

「……人が良いんだから、殺されかけたのに」
「勘違いだったんだから、いいだろ?」

ようやく疲労に襲われたのか、駒場がコキコキと首を動かして嘆息した。

「しかし、まぁ、魔術師か…… ただの妄想少女かもしれんが、『外』も物騒なんだな…」

そう呟くと、駒場を再びフレンダを肩に乗せて、示された小道を歩きはじめた。
803 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:03:58.71 ID:Nox4/fMpo
「あぁ、ようやく帰ってきた。どこで油売ってたのよ」

駒場とフレンダが戻ると、既に麦野たちはパラソルを畳んで撤収準備を終えたところだった。

「夏の海で開放的な気分になるのはわかるけどさ。一発ヤル体力は夜に残しておきなさいよ」
「あのなぁ… 俺たちは……」

麦野のデリカシーのない言葉に思わず反論しそうになるが、慌てて堪える。

「いや、なんでもねぇ。荷物運ぶぞ」

大の大人でも運ぶのに苦労しそうなパラソルやクーラーボックスを、ひょいひょいと肩に何個もかける。
そんな駒場に、なぜか救われたような表情の浜面が声を掛けた。

「マジで何してたの?」
「いや、ちょいと変なのに絡まれてな…」

そこまで言って、駒場は女性陣(特に滝壺と絹旗)が白い眼で浜面を見ていることに気付いた。

「…お前、何かしたか?」
「い、いや… ハハ… 別に何も…」

笑って誤魔化す浜面だが、その笑みはどこか引き攣ったものだった。

駒場が不思議に思っていると、視界に「流せ、無視だ!」と全力でジェスチャーする上条が見えた。

(…女関係か)

ここ数日で、何となくそういう雰囲気には敏感になってしまった。

ここは関わらない方が良いと判断した駒場は、あっさり浜面を見捨てて麦野に尋ねた。
浜面が「あ、おい…」と縋ろうとするが知ったことではない。

「で、どこに運ぶんだ。バスか?」
「ううん、あっちの波止場。クルーザーが迎えに来てるから」
「……は?」

麦野が1つ丘を越えた先を指差した。

「クルーザーって?」

駒場が同じようにクーラーボックスを担いだ上条に聞くと、上条は分からないと言う風に肩をすくめた。

「聞いても教えてくれないんだよ。ニヤニヤ笑うだけでさー」

上条の言葉に、麦野は「行けば分かるわよ」とだけ答えて、麦野は見事なヒップラインを揺らして歩き始めた。
804 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:05:01.49 ID:Nox4/fMpo
「ガチでクルーザーかよ… しかも、でけぇ…」

波止場にて一行を待っていたのは、大きなキャビン付きのクルーズ船だった。
外観を見ただけでも、相当に金のかかったシロモノだと分かる。

「これもレンタルか…? 無茶するなぁ…」

空港でレンタルバスを借りたことを思い出して上条が呟く。
しかし、それを聞いた麦野は、悪戯っぽい表情をして否定した。

「ばーか、レンタルじゃねぇよ」
「え、じゃあ、何コレ、もしかして…」
「そ、私の船」

えっ? と周囲の男たちが絶句する中(女性陣は平然としている)、クルーザーから1人の男性が出てきた。

体格は駒場と比べても遜色のない長身の老年男性、異国人を思わせる彫りの深い顔立ちをしたモノクロームの紳士は、海だというのにきっちりとしたスーツ姿であった。

「お久しぶりでございます、お嬢様」
「ああ、久しぶり。世話になるわよ、山岡さん」

慇懃に頭を下げる男性――山岡に、麦野は慣れた口調で話しかけた。

「お嬢様……?」

なにか得体の知れない悪寒を感じて上条が呟くと、麦野が本当に楽しそうにケラケラと笑いながら答えた。

「キャハハ! とうまぁ、毎晩アンタの上で腰振ってる女が、まさか正真正銘のお嬢様だとは思わなかったでしょ?」
「え、えーと… えっ、沈利って、お嬢様だったの…?」

いつもなら喉で止まる言葉が、驚きのためかあっさりと口から飛び出す。

「沈利お嬢様は、麦野重工の令嬢でいらっしゃいます」

麦野重工は、上条でも名前を知っている超巨大重工業系複合企業だ。

「まぁ、本流じゃないけどね。それでも、小さい頃はずいぶん贅沢させてもらったわ」

今もそんなに贅沢ぶりは変わりませんけどねー、と絹旗あたりは思うが、もちろん口には出さない。

「紹介するわ。この人はウチの使用人で山岡さん。これからお世話になるから、みんな挨拶!」

「あ、ども」「お世話になります…」「おぉ、執事さんな訳? よろしくー」「超よろしくお願いします」「……よろしく」

一行がそれぞれ挨拶をして頭を下げる。

上条も頭を下げようとしたが、瞬間、山岡にジッと見つめられて思わず言いよどんだ。

山岡は皆の礼に軽い会釈で返したあと、静かに迫力のある声で上条に話しかけた。

「あ、えーと…」
「上条当麻様ですね?」
「あ、はい…」

コクンと頷くと、山岡が深々と頭を下げた。

「お嬢様からお話は伺っております。お嬢様の心身をお守り頂き、ありがとうございます」
「いや、俺は別に…」
「今後とも、よろしくお願いします」
「は、はい… よろしくお願いします…」

なにやら大きな糸に絡み取られた感触を感じつつも、上条は神妙な顔つきで頭を下げた。
805 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:05:55.48 ID:Nox4/fMpo
「もう絶対に驚かねー… つーか、驚きすぎて上条さんの『驚き指数』がカンストですよ……」

上条当麻が呆然として呟く。

山岡の操縦するクルーザーで走ること数時間。
そろそろ陽が落ち始めたという午後4時、一行は綺麗に整備された『島』に辿り着いた。

上条が呆然とした理由は、その『島』が明らかに『個人所有物』の様相を呈していたためだった。
『島』といっても外周は箸っても1時間はかかりそうだし、洋上から見えるほど立派な別荘が建てられている。

「ほらほら、当麻。何か言うことあるでしょ?」
「……ま、まさかこの島ぜんたいがー…ッ?」

思わず棒読み口調になってしまうが、本気で驚いているのだから仕方が無い。

「ええ、そうよ。プライベートビーチにモータークルーズ、美味しい料理に広いお風呂。休養にはもってこいの場所よ」

麦野が一同をぐるりと見渡す。

「これは、この前の仕事で頑張ってくれた皆へのご褒美よ。ま、若干2名、ハメすぎて役に立ってなかったヤツもいるけど…」
「「ぐっ」」

駒場とフレンダが、同時にバツが悪そうに眼を泳がせる。

「ま、それはしばらく笑い話になることでチャラにしてあげるわ」

フレンダが目に見えてホッと溜め息を吐いた。

「島の設備は好きに使って良いわよ。精一杯楽しみなさい」

おぉーッ! と一行から歓声が上がった。

「いやぁ、結局、太っ腹なリーダー様々って訳よ!」
「これは超遊ぶしかないですね! ね、滝壺!」
「うん、そうだね……」

はしゃぐ一行を満足気に見ると、麦野は傍らに控える山岡にそっと耳打ちした。

「…ゲストは?」
「明日の朝ご到着の予定です」
「よし、丁重にね」
「かしこまりました」

言い終えた麦野は上条にチラリと視線を送ると、心の中で大きく大きく気合を入れた。

(…ここで決着つけてやる!)

上条当麻は、ビッチの企みを未だ何も知らない。
806 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:06:33.61 ID:Nox4/fMpo
某所。同時刻

「まったく… アンタはどうしてそう考え無しなの…!?」
「ごめんなさい…」

何の変哲も無い民家の一室では、対馬による姫戸へのお説教が続いていた。

「一応、あの2人に式髪を打ち込んでいるけど、反応次第じゃ、最悪、殺さないといけないのよ?」
「…はい」
「そうなったら、アンタが始末しなきゃならないこと、理解してる?」
「……はい」

もう散々泣いた後なのだろう、姫戸の眼は真っ赤だ。

「はぁ… 初任務で張り切るのは分かるけどさ……」

盛大な溜め息を吐いて、対馬は正座して小さくなっている姫戸を見る。

(でも、戦力的にこの娘が本調子になってもらわないと厳しいのよねぇ…)

うーむ、と思い悩んだ対馬は、空気を変えるように、バチーン、と一度大きく手を叩いた。

「……ッ!!」
「はい、お説教はおしまい! 以後、げんじゅぅぅぅぅッッに、注意すること! あと、私の許可なく『一刀』を抜かないこと! 返事!」
「は、はいッ!!」

姫戸の声を張った返事に対馬が「よし」と大きく頷く。

「ターゲット… 『学園都市』から脱走した『破戒尼』は未だこの近辺に潜伏中よ。我々天草式はなんとしてでも探し出さないといけないわ」

姫戸が神妙な顔つきで頷いた。

「わかっています。『女教皇』さまの願いを叶うためにも、必ずターゲットをたたっ斬ります!!」

姫戸の力強い宣言に、対馬は「コイツ、本当にブレーキ効くのかしら…?」と頭を抱えざるをえなかった。
807 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:07:38.40 ID:Nox4/fMpo
再び、麦野の『島』である。

上陸した一行は、山岡の先導のもと、豪華な別荘に案内されていた。
『島』の別荘は、豪奢・豪華で、かつ、細かいところまで気を使った機能的な作りをされていた。

地上4階地下2階建てのその建物は、1階が食堂や大浴場などの設備、2~4階が宿泊室、地下1,2階が娯楽及びジム・エステルームとなっている。

「吹き抜けホール… まさに、ザ・別荘って感じだな…」

玄関ホールに足を踏み入れた一行は、まるで高級ホテルのエントランスのような造形に感嘆の声を上げる。

「部屋は2~3人部屋を適当に割り振ったから後で確認して」

麦野がそう言って、各人に部屋の振り分け表を配る。
その内訳は、『上条-麦野』、『フレンダ-絹旗-滝壺』、『浜面-駒場』といった割り振りであった。

「麦野ずるーい、自分だけカレシと一緒な訳?」
「うっさい、アタシはオーナーだから良いのよ。それとも、今すぐ『学園都市』に帰るか、ん?」
「め、滅相も無い訳よ…」

フレンダの能天気な失言と麦野の苛烈な突っ込みは、アイテムの日常風景、いつものことだ。

「今からはどうすんですか? 夕食にはまだ超早いですよね?」

絹旗がホールのシャンデリアに見とれながら言う。

「今からはお風呂にしましょ。露天あるし、シャワーぐらいじゃ海水のべたつき取れないでしょ?」
「おお、露天かぁ… そりゃすげぇ……」

浜面が嬉しそうに言うが、麦野が意地悪そうな顔をしてそれに答える。

「悪いけど、露天は1個しかないから、男子は内風呂ね。まぁ、そこそこ広い大浴場だから安心なさい」
「あ、そうですか…」

肩透かしを食らった浜面が肩を落とす。

「ま、大浴場もすげぇじゃん。そっちに期待しようぜ」

(沈利のことだから、夜に露天で… とか考えていそうだな…)

そんな近未来視をぼんやりと感じて上条が言う。

「そうだな、大浴場だもんな!」

浜面も気を取り直して笑う。

すると、それまで影のように存在感を消していたモノクローム執事・松岡が動いた。

「…それでは、男性の方々はわたくしが浴場に案内させて頂きます… こちらへ…」

松岡の声は重々しく、まるで錆び付いた錠前を苦労した解錠したときの音のようなである。

男3人は互いに顔を見合わせ、視線で何事か確認を取ると、踵を揃え、3人同時に、

「「「よろしくおねがいします」」」

と、深々と頭を下げた。
808 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:09:38.75 ID:Nox4/fMpo
「うっわ~~!! 超さいっこうのロケーションじゃないですか!!」

女性陣の先陣を切って露天風呂に飛び込んだ絹旗が、眼下に広がる風景を見て感動の声を上げる。

その露天風呂からは、海に沈む夕陽を大パノラマで鑑賞することが出来た。
海面に走る、沈みかけた夕陽から伸びるオレンジ色の道が、波と共にゆらゆらと揺れる。

「感動…」

遅れて入ってきた滝壺がうっとりとした声をあげる。
へたれ浜面のせいで、しばらく意気消沈していた彼女だが、ようやく気持ちが落ち着いてきたようだ。

「気に入った、滝壺」

2人に遅れて、麦野とフレンダがやって来る。
フレンダはすぐに絹旗の隣に駆け寄ると、「おぉ~~!!」と揃って同じ歓声を上げ始めた。

「うん、ありがとうね、むぎの」
「…何か悩んでいるみたいだけど、アドバイス要る?」

2人そろって、軽く打ち湯をしてから露天風呂に身を沈める。

麦野の豊乳と滝壺の隠れ巨乳が、ぷかー、とお湯に浮かぶ。
その状況を、絹旗とフレンダが羨望と嫉妬と諦観と希望と妥協と逃避が入り混じった表情で盗み見た。

「アドバイス… うん……」

やはり相当に悩んでいるのか、意を決して麦野に尋ねる。

「もう、こんなちゅうぶらりんな関係は嫌なの…」
「浜面、ね」
「うん……」

滝壺が力なく頷く。
麦野は「そう…」と呟くと、突然、こんなことを言い始めた。

「最初に言っておくけど、アタシ、浜面と寝たことあるから」

どばちゃーん、と音を立てて、聞き耳を立てていた絹旗とフレンダが露天風呂にダイブした。
809 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:10:25.98 ID:Nox4/fMpo
「…お前らナニやってんの?」
「な、何じゃないですよッ!! なんで超超きわどいことをカミングアウトしてるんですかッ!?」
「け、結局、ただの精神ダメージって訳よッ!!」

ちびっ子2人がぎゃあぎゃあ騒ぐのを、煩そうに麦野が手を振って止める。

「あのねぇ、こういうのは変に隠すから拗れるんでしょうが。別に付き合っていたわけじゃないし、1回ノリでヤッただけよ」
「で、でも…!」
「……うん、なんとなく知っていた」

絹旗がなおも言い募ろうとしたとき、ゆっくりと、しかし、はっきりと滝壺が言った。

「去年の冬ぐらいだよね?」
「なんだ、気付いてたの。そ、そのあたり」
「だって、はまづらがすごく麦野に気を使ってたもん」

特に波乱もなく会話を続ける2人を見て、絹旗とフレンダは顔を見合わせた。

「…なんか、ウチら超ガキっぽいですね」
「…アタシも恋愛の機微とか結局わかんない訳だし」

そう確認すると、2人は大人しく洗い場に移動して、丹念に身体を洗い始めた。

「…で、滝壺は浜面とどうなりたいわけ?」
「上手く言えないけど、はまづらに私を守って欲しいの……」

そう言うと、滝壺は洗い場でシャンプーと格闘している絹旗をチラリと見た。

「この前、はまづらが命がけで絹旗を守ったとき、凄く嬉しかったけど、同じくらい、凄く胸がくるしかったの…」

訥々と語る絹旗の顔は真剣そのものだ。

「ああ、これが嫉妬なんだなぁ、って思った。はまづらは、私だけの王子様になって欲しいって気付いたの…」

滝壺が麦野を見る。

「わたし、独占良くが強い、嫌な女だよね……」

真剣そのものの瞳を見て、麦野の背筋に嫌な悪寒が走った。

(こりゃ、これ以上拗らせたら病むわね…)

滝壺の想いは、真摯で一途なものだ。
ゆえに、道を間違えると不幸な結果になってしまうだろう。

「まぁ、アンタが勇気を出してアプローチしているのは知ってるから、結局はヘタレな浜面が悪いんだけどさ…」
「はまづらは私のことが嫌いなのかな…?」
「それは本人から聞かないとね」

ふむん、と麦野が考え込む。

「…滝壺、アンタ処女?」
「……う、うん」
「そっかー、じゃ夜這いは無しだねー」

ブレ無い女である。

「よ、夜這いとか無理だよぉ…」
「ま、あのアプローチが精一杯なのは理解してるよ、ただ、その巨乳はもっと生かすべきだと思うけどね… ん、まてよ?」

そこまで考えて、麦野はふと1つの可能性に思い至った。

「……滝壺、もしかしたら、今晩で決まるかもしれないよ」
「え、なんで…?」
「アタシも解決しなきゃならない問題があって、そのための布石を色々打っているんだけどさ…」

ニヤッ、と楽しそうに笑う。

「アンタ達にも効果ありそうだわ、その布石」

麦野の言葉を半分も理解できず、しかし、我らがリーダーが力になってくれていることを敏感に察して、滝壺はようやく薄い笑顔を顔に浮かべた。
810 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:11:14.13 ID:Nox4/fMpo
一方、こちらは内湯大浴場に案内された男性陣である。

「ひ、広いな…」
「あ、あぁ… しかも大理石だぜ、ハハ…」
「お、お湯を溜めるだけでも数時間かかりそうだなぁー…」

駒場、浜面、上条が広い浴槽の中でぎこちない会話を繰り広げる。

その原因はただ1つ、

「恐縮です」

風呂でもモノクロームを外さない麦野家執事、山岡がなぜか一緒にお風呂に入っているからだ。

『こ、この爺さん、なんで一緒に入っているんだよ』(ボソボソ)
『知らねぇよ…!』(ボソボソ)
『つーか、老人の筋肉じゃねぇぞ…』(ボソボソ)

手ぬぐいを頭に載せた駒場が、チラチラと山岡の老人とは思えない筋肉質な身体を盗み見る。

(…ダメだ。勝てねぇ!)

いくつもの修羅場を潜り抜けた戦士であり、熟練の格闘者でもある駒場でさえ、この老執事から勝てるイメージを引き出すことが出来ない。

それほどの存在感を山岡は放っていた。

「時に」

不意に山岡が口を開く。

「は、はぁ?」
「みなさま、良い身体をしていらっしゃいますな……」
「ど、ども…」

3人が脳内に、(え、この爺さんソッチ系の人?)と薄ら寒い想像をしかけた。
しかし、そんな杞憂はすぐに消し飛んだ。

「上条さまはボクシング、浜面さまはアマレス… 駒場さまは… そう、サバットですな…」

3人がそれぞれの格闘分野を見事に言い当てられ、思わず身体を緊張させる。

「…わかるんですか?」
「上下肢の使い方、また、筋肉の付き方ですな… 上条さまは前鋸筋が、浜面さまは脊柱起立筋、駒場さまは内転筋群が発達していらっしゃる」
「すげぇな…」

浜面が感嘆の声を上げる。

「山岡さんは、ボディガードをしていらっしゃったんですか?」

思わず敬語になって駒場が尋ねる。

「はい、といっても、引退して長く、今はただの老いぼれ使用人でございます」

絶対に嘘だ、と3人が同時に思っていると、山岡は不意に、ゆらり、と立ち上がった。

「さて、それでは上条さま」
「は、俺…?」

上条が自分を指差し視線を左右に振る。

本能的な危険を察知したのか、浜面と駒場が、スーッ、と上条から離れる。

「あ、てめぇらッ!」
「お背中を流ししましょう」
「……は?」

意味が理解できず問い返す。

「お背中を、流しましょう」

その言葉には、有無を言わさぬ迫力があった。
811 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:12:56.53 ID:Nox4/fMpo
ごしごしごしごしごしごし……

(正直… 痛い……ッ!)

全裸の男2人(一応、腰にタオルは巻いている)が、洗い場にて縦一列になって黙々と身体を洗っている。

初老の老人が、若者の背中をタオルで擦る…
曇りのない目で見ればそこまでおかしくは無い光景だが、当事者は違和感バリバリである。

(つーか、なんで俺は恋人の執事に背中を洗われているんだ!?)

だらだらと嫌な汗が額から流れる。

ちなみに、浜面と駒場は、被害が及ばないように自分で清拭を行っている。

「時に上条さま」
「はいッ!」

遂に来たッ! と、何かよく分からないが覚悟を決める。

「お嬢様が大変なご迷惑をお掛けしているかと思います。使用人の身ではございますが、深くお詫び申し上げます」
「い、いえ… 俺は別に、そんな…」

好きだから… という言葉を、気恥ずかしさから呑み込む。

「お嬢様はあの通り、大変に寂しがりやでございます。また、非常に繊細で打たれ弱く、常に誰かがそばで支えている必要があります」
「………わかります」

((ええぇぇ~~~~~~~!!??))

会話を盗み聞いていた浜面と駒場が、同じ叫びを心の中で発する。

「沈利は… 柔らかい中身を守るために、無理やり固い殻を被っているだけです」
「それをご理解頂けているとなれば、この松岡、大変に安堵いたしました」

ふと、洗う手が止まったのを不思議に思った上条が振り返ると、松岡が坐位のまま深々と頭を下げていた。

「性に奔放なお嬢様ではありますが、それは強烈な自己を休ませる宿り木を守るためでございます。
 どうか、お嬢様を苛烈にお求め下さい。万一がありましても、それは上条さまの責任ではございません」
「沈利は… 良い女です」
「はい… だからこそ、高嶺の花になることをお嬢様は何より嫌がられます」

なるほど、と上条は納得した。
麦野が今まで大企業のお嬢様であることを自分に明かさなかったのは、そういう心配があったからだ。

(俺が沈利の身分にビビッて、手を出さなくなることが怖かったのか…)

馬鹿だなー、とも思う。
あんな極上の身体を前にしたら、思春期のオトコが身分差など考えるものか。

「えと… 今晩はちょっとはっちゃけるかもしれないです」

上条が照れくさそうにそう言うと、松岡は初めて表情を変え、ニヤリ、と笑った。

「お嬢様は露天風呂からの夜景がお好きでいらっしゃいます。はっちゃけるならばそこですな」

松岡の言葉に上条は思わず、たはっ、と苦笑いで返した。
812 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:13:31.41 ID:Nox4/fMpo
「ふ~ん… あの麦野がそんな悩み抱えていたとはねぇ… ん、どうした浜面?」

先に湯船に浸かり直していた駒場は、同じく隣で浸かっている浜面が神妙な顔をしているのに気付いた。

「俺ってなさけねぇ…」
「思い当たるフシは多々あるし、気付くの遅すぎるが、まぁ聞いてやる」
「ぐ… 上条は麦野の弱いところを、真正面から受け止めてるってのに、俺は滝壺から逃げてばっかりだ…」
「…ま、フレンダから逃げ回っていた俺が言うのもおかしいが、確かにお前ヘタレすぎるよな」

ぐぐぐ… と浜面が水面に沈む。
しばらく、ぶくぶくと泡だけが水面に昇ってきていたが、不意に、ざぱぁ、と浜面は顔を上げて宣言した。

「き、決めたぞ俺は!」
「ほう、何をだ?」

ぐっ、と片手を握って決意を顕わにする。
「お、俺は今晩滝壺に夜這いをかけるッ! そ、その結果、拒絶されても文句はいわねぇ!」
「ふむ…」
「協力してくれるよな、駒場の旦那!」

正直、今すぐ部屋に連れ込んで押し倒しても問題ない、と思わないでもないが、駒場にとって浜面は戦友であり親友である。
せっかくのやる気に水を差すのはしたくなかった。

「わかった、フレンダに協力するように言っておく。邪魔するヤツは居ない気はするがな…」
「た、頼むぜ…!」

すでにキョドり始めている浜面を見て、駒場はやれやれと天井を仰いだ。
813 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:14:08.66 ID:Nox4/fMpo
そして、あっという間に夜が来た。

お風呂のあとは、質・量ともに抜群のブッフェスタイルの夕食。

そして、夕食後は腹ごなしのカラオケ大会。
麦野が彼女ぴったりなハードロックを歌えば、フレンダにせがまれて駒場が渋い声で洋楽をみごとに歌い上げ喝采を浴びた。

また、夕食前まではギクシャクしていた滝壺と浜面も、浜面が積極的に滝壺にアプローチし、
昼間の謝罪を行ったり、甲斐甲斐しく食事の世話をしたため、かなり場の緊張も解けリラックスした雰囲気となった。

「よーし、次は80年代ジャ○ーズ系ソングとかいってみよ~」
「いや、わかんねぇって! 旦那ッ! 旦那ッ!!」
「俺だってわかんねぇよ…!」

今は、麦野が出す無茶振りリクエストを、男性陣が死に物狂いで達成する流れに移行している。

「それでは、僭越ながらわたくしめが…」
「マジか… 山岡さん、パネェ…」

しばらく経って、朗々としたバリトンでの甘ったるいアイドルソングが流れ始める。
麦野が、ぎゃはぎゃは、と手を叩いて下品に笑い、それにつられて滝壺も笑う。

「じょうずだねぇ…」
「そうだな…」

滝壺のそばで浜面が相槌を打つ。
すると、自然と滝壺がはにかんだ笑みを漏らした。

「…浜面へたれが超わりと頑張ってますね。なにか変なものでも食べたんでしょうか?」
「結局、好きな男に構ってもらうと嬉しい訳よねー。滝壺嬉しそー」
「ちょっといいか?」

歌い疲れて休憩中の絹旗とフレンダに、麦野の隙をついた駒場が近寄って声をかけた。

「ん、なに?」
「今日さ、お前らこっちの部屋で寝ろよ」

駒場のストレートな物言いに、フレンダと絹旗の表情が胡乱なものに変わる。

「駒場さん… もしやこの金髪ロリのせいで超少女趣味に目覚めたとか…?」
「馬鹿、んなわけあるかッ!」
「いやいや、流石に冗談なわけよ。つまり、浜面が覚悟決めた?」
「ああ、そうだ」

3人の視線が仲良く松岡に手拍子をうつ浜面と滝壺に向く。

「……もう普通に超カレカノな気がするんですけどねー」
「ま、結局、一線越えなきゃ紡がれない絆もあるって訳よ」

やけに物知り顔でフレンダが言う。

「浜面なんかに滝壺さんが手篭めにされるのは超業腹ですが、本人が望んでいるなら仕方ありませんね」

絹旗が肩をすくめて言った。

「超了解しました。ですが、私が寝ている横でおっぱじめないでくださいよ?」
「流石にそれはねぇよ。な?」

駒場は即座に絹旗の懸念に答えたが、フレンダは「あ、結局そうなる訳か…」と軽くショックを受けていた。

「…交ざったりしない?」
「超お断りです」
814 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:14:37.49 ID:Nox4/fMpo
―――そして、夜が来た。

~駒場・浜面の部屋~

「い、行ってくる!」
「おぅ、骨は拾わんからな。必ず決めて来い」


~滝壺・絹旗・フレンダの部屋

「あれ、ふたりともどこ行くの?」
「ん、利徳と逢引きなわけよ」
「映写室の大プロジェクタで超B級ホラー映画鑑賞会です」
「そ、そうなんだ…」


~上条・麦野の部屋

「沈利、露天に行こうぜ」
「…ちゃんと誘えて偉い偉い♪」

それぞれの思惑が交錯する、淫蕩な夜がやって来た。
815 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:15:24.75 ID:Nox4/fMpo
コッ、コンコン…

絹旗とフレンダが突然出て行ってから十数分後。

さて、自分はどうしようかと思案していた絹旗の耳に、躊躇いがちなノックの音が響いた。

「…だれ? きぬはた?」

麦野はおそらく彼氏と淫らな行為に耽っているだろう。
さっき出て行ったルームメイトはすぐに戻るとは思えない。

絹旗は、ほんのりと沸き起こる淡い期待を感じながらドアの前にたった。

「…あ、俺、浜面だけど」
「…ッ! えと、うん……!」

(はまづら来ちゃったッ!)

夕食からやけに積極的だと思っていたが、まさかいきなり部屋まで来るとは!

(あ、もしかして麦野たちは知ってて…?)

脳裏に麦野の「今晩決まるかも」というセリフが蘇る。

「ちょ、ちょっと待ってて!」

滝壺にしては珍しく焦った声で返事をする。

(ど、どうしよう… は、裸になっていた方がいいのかな…?)

「今晩決まる」というセリフと「浜面が来た」という事象が変な化学反応を起こし、滝壺の思考が混乱して色々な手順をすっとばす。

(あ、でも、告白されてから脱がなきゃだめなんだよね…?)

瞳をぐるぐる回しながら部屋中を「どうしよう… どうしよう…」とうろつきまわった挙句、再び思い出されるのは麦野の、
『その巨乳はもっと生かすべき』というセリフである。

(ブ、ブラを外すぐらいがちょうどいいのかなッ!?)

絹旗は、ありえない方向に暴走していった。
816 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:15:51.04 ID:Nox4/fMpo
「お、おまたせ…」

部屋の前でさんざん待たされ、決意がかなり鈍り始めた頃、ドアがようやく開いて中から頬を紅く染めた絹旗が顔を出した。

「は、はいって…」
「お、おう…」

やや裏返った声で浜面が応じ、スルリと室内に入り込む。
キョロキョロと部屋を見回し、絹旗とフレンダが居ないことを確認すると、やや安心した様子でソファに腰を降ろす。

「…………………」
「…………………」

滝壺も、すとん、と対面のベッドに腰を降ろし、しばらく無言の時間が流れた。

「ど、どしたの、急に…?」

先に沈黙に耐え切れなくなったのは、意外にも滝壺の方だった。
眼を泳ぎ泳ぎ、指を弄り弄り滝壺が尋ねる。

「ああ、あのさ… 昼間、海で馬鹿なこと訊いちまったから…」

一応、己の失言は自覚していたのか、浜面がそう切り出す。

「ごめん、あの時はちょっと余裕無くて…」

今も十分に余裕が無いのだが、とにかく勇気を振り絞って話を続ける。

「ホントに言いたい事はああいうことじゃなくて」
「うん…!」

緊張が増したのか、滝壺の姿勢が前のめりになる。
浜面も声のトーンが高くなり、いよいよこれからが正念場だと気合を入れる。

「本当は、俺の気持ちを滝壺に伝えたいんだ。俺の、気持ちを…!」
「うん!」

滝壺が力いっぱい頷く。

これはもう決まった。
浜面がとうとう勇気を出してくれたのだ。

あとは好きだと言われて、最速でOKをして、キスをされ、甘い言葉をかけられ、そして……!

(イメージトレーニングはばっちり…!)

さらにぐぐっと身をかがめて、浜面の決定的な一言を待つ。

(大好きだよ、はまづらッ!)

その時、これまでの努力が報われると確信した滝壺の胸元から、桜色の何かがチラリと見えた。

「ん?」
「うん… あ…」

それを視認した浜面の動きが一瞬止まり、滝壺も不思議そうな表情になり、そしてその原因に気付く。

(はまづらに見えちゃってる!)
(あれ… 今俺が見てるのって、滝壺の……!)

桜色の乳首――――。
817 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:16:53.03 ID:Nox4/fMpo
破断点という言葉がある。

主に金属に対して使われるそれは、物体に外力を加えたとき、それに抗する応力がもちこたえられなくなって、物体が破壊される極限点のことである。

浜面が滝壺に対して好意を抱いたのは、最近のことではない。
滝壺が浜面のことを憎からず思ったのも、最近のことではない。

互いの恋慕と、主に滝壺からの勇気あるアプローチは長らく続いており、それは確かに浜面の理性に影響を与えていた。

こつこつ、こつこつと加わり続けた恋心は、『告白』という形で昇華されるべきであり、まさしくその直前まで状況は進んでいた。

だがしかし、これまで何人もの男を狂わせてきた女性の身体部位は、恋心が昇華するよりも早く、僅差で浜面理性をぽっきりと折ってしまった。
818 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:18:40.56 ID:Nox4/fMpo
「た、滝壺ぉッッッッ!!」
「ふぇ!?」

突如、目の前の愛しき人が暴走して獣となる。

滝壺に飛び掛った浜面は、そのままベッドに滝壺を押し倒し馬乗りになる。

(い、良いよなッ!? ノーブラで見せてるってことは、襲っても良いんだよなッ!!)

悲しい男の性か、目の前のごちそうを前に浜面の理性はあっさりと溶けてしまっていた。
とにかく今は、愛しいからこそ汚したい、目の前の肢体を堪能することしか頭にない。

浜面は己の衣類を引き千切るように脱ぎ捨てると、鼻息荒く滝壺に覆いかぶさった。

一方、滝壺は―――

(だ、だいじょうぶ、問題なし! 襲われるイメトレはずっとしてたもん!)

乳首が見えたのは計算外だったが、ブラジャーを外していたのは自分の意思だ。

こうなったら覚悟を決めなければならない。

(はまづらだったら怖くない… はまづらだったら怖くない… はまづらだったら怖くない……!)

呪文のように心に念じ、ぎゅっと瞑った眼を薄く開く。

しかし、そこには居るのは、獣欲にまみれた男だ。
普段の小器用になんでもこなし、頼りがいのあり、しかし、基本的に小心者な彼ではなかった。

「ひっ!」
「はぁはぁはぁはぁ!!」

浜面が鼻息荒く絹旗の上着を乱暴にたくし上げる。
ノーブラの巨乳が勢い良く弾むのを見て、さらに興奮が増す。

「でけぇ…!」

性欲と支配欲がない交ぜになり、滝壺の巨乳を鷲掴みし、飛び出た乳首に吸いつく。

「い、痛いッ!!」

とても愛撫とは呼べないその行為に、滝壺が悲鳴を上げる。

(が、我慢しなきゃ… 我慢、我慢…… でも…!)

心とは裏腹に、肉体が恐怖に対して過剰な反応を示す。

滝壺の眼尻に大量の涙がたまり、ぽろぽろと零れだす。
瘧のように全身がガタガタと震えだし、歯がカチカチと音を立て始める。

「……ああ」

滝壺の震えが、のしかかる浜面に伝播する。
瞬間、へたれ浜面の獣欲があっという間に霧散した。

「え、滝壺、震えて…? あ、俺…」

冷水をぶっ掛けられたかのように頭が冷静になる。

「俺、なんて事を…」

おっぱいを鷲掴みにしていた手を慌てて離す。
眼下には、小さく震える滝壺の姿。

浜面は一気に天国から地獄に落ちる気分を味わった。
819 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:19:16.15 ID:Nox4/fMpo
「……どうしたの?」

突然動きを止めた浜面を不審に思って、滝壺が問いかける。

自分を拘束する男は泣きそうな顔をしていた。

「俺… ごめん… こんなつもりじゃ……」

浜面の肩が力なく落ちる。
これではレイプだ、強姦だ。

そっと滝壺の上からのくと、ベッドから降りようとする。

「俺、部屋にもど「ダメッ!!」

浜面の力ない呟きが、ひどく珍しい滝壺の大声に遮られた。

「ダメだよ… 逃げないではまづら…」
「だって俺…」
「嫌じゃない… 嫌じゃないよ、わたし…」

まだ震えの残る身体を頑張って動かして、背中から浜面に抱きつく。
隠れ巨乳が逞しい背筋に潰され、ぐにゃり、と形を変える。

「ごめんね、わたし、臆病だから震えちゃって… はまづらがしたいようにして良いんだよ…?」

その言葉が、まるで電流のように浜面の身体中を駆け巡った。

「な、何してもって…?」
「うん、いいよ… だってわたし… わたし…」

ここを逃せば、もうチャンスは無いかもしれない。

これまで2人は、ごく親しく近くに存在していたのに、ニアミスばかりを繰り返してきた。
滝壺だって、生殺しはもう嫌なのだ。

「わたし、わたし、はまづらのことが……!」
「滝壺、好きだッ!!」

『好き』と滝壺が言葉を作るより早く、浜面が猛然と振り向いて滝壺に宣言した。

「俺、お前のことが好きだッ! 守ってやりてーって、すっげぇ、心からそう思う! お前の仕草や、表情や、声や… 全部好きだッ!!」

力いっぱい、しかし、華奢な滝壺が壊れないように丁寧に抱きしめる。

突然の告白に、しかし、滝壺は口を尖らせて不満そうな表情をする。

「う~~~、わたしが言おうとしてたのに~~」
「わ、わりぃ…」
「うん… でも……」

滝壺がそっと眼を閉じる。

「うれしい……」

顔をそっと動かして、浜面の正面に移動する。
奇跡的に意を得た浜面は、緊張に固くなる身体をゆっくり動かし、

…ちゅ

小さな小さな滝壺の口唇に、己のソレを重ねた。
820 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:20:37.48 ID:Nox4/fMpo
「じゃ、じゃあ、も1回…」
「うん……」

滝壺をお姫様だっこで抱えた浜面が、ゆっくりとベッドの上に滝壺をおろす。

「あ、あの… はまづら…?」
「ああ、なんだ?」
「好きにして良いって言ったけど…」

またも、いじいじ、と指を弄る。

「できたら、優しくして欲しい… かな?」

美少女が恥ずかしそうに微笑むその仕草が、逆に浜面に火をつけようとする。

(やば… その笑顔は破壊力がありすぎる…!)

めちゃくちゃにしたい気持ちを苦労して押さえ込んで、浜面は緊張を解くためにも滝壺に軽くキスをした。

「は、初めてだもんな、滝壺は…」
「うん… キスもさっきが初めて… あ、そっか…」 

妙に色っぽく滝壺が笑う。

「ファーストキス、奪われちゃった。えへへ…」

(我慢とか無理だろこれーーーッ!!)

どうしてこの少女は、こうも男を興奮させるのが上手いのだろうか。

既に浜面のペニスはギンギンに反り返るほど勃起している。

今すぐぶち込んで思うままに蹂躙したいが、もちろんそんなことは無理だ。

(とりあえず、ペッティングして落ち着こう…)

軽く滝壺と視線を交わして、半脱ぎになったシャツと、いつも履いている桃色のジャージをスルリと取り去る。

ショーツ一枚になった滝壺の肌はうっすらと桃色に上気している。
昼間、海の日光でしっかり焼いたため、ビギニラインだけ元のきめ細かい白い肌が残っている。

「……なんつーか、綺麗でエロい」
「へ、変じゃない? 焼きすぎちゃったかも…」
「変じゃねぇ、エロ可愛さ抜群だよ。世界中のどんな美少女より可愛い」

歯に浮くようなセリフも、こんな状況で好きな男に言われると嬉しくなってしまう。

浜面の両手が、さっきとは打って変わって、そっと丁寧に滝壺の双乳を包むように持ち上げた。

「舐めるよ、いいか?」
「うん…」

滝壺の乳首をそっと口に咥えて、乳首をコロコロと舌で転がす。

「はぅ… んぅ…」

敏感なのか、滝壺がかすかに甘い声で喘ぐ。
それに調子を良くした浜面は、とにかく先ずは滝壺を気持ちよくさせようと、知る限りの舌戯で乳首を責める。

ちゅ、ちゅぅ… れろ、れろぉ…

「あん… えっちだよぉ、はまづらぁ…」
「エッチしてるんだから、当然だろ…」

ひとしきり乳首を舐めほぐしたあと、ピンと勃起した乳首を人差し指と中指で挟んでクリクリと弄る。

はぁはぁ、と滝壺の吐息が次第に荒いものになっていく。
そこに確かに性感の昂ぶりを感じた浜面は、意を決して滝壺のショーツに手を伸ばした。
821 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:21:55.70 ID:Nox4/fMpo
「取るぞ、いいか?」
「うん…… 笑わないでね……」

流石に恥ずかしさが先にたつのか、滝壺が両手で赤面した顔を覆う。

「笑わねぇよ…」

スルスルとショーツを足首まで下ろして、片足だけ抜く。
初めて見る滝壺の秘所は、童女のような佇まいをみせていた。

「あれ、滝壺って、まだ生えてなかった?」
「今日剃ったの! ばかぁ…!」
「わ、わりぃ…」

(そういえば、今日の水着はビギニだったっけ…)

清楚でいて、しかし大胆なビギニラインを思い出してさらに興奮が増す。

(いかん… 早めにやらんと暴発しちまう…)

滝壺を落ち着かせる意味も込めて、口と片手で巨乳を弄りつつ、空いた片手で股間をまさぐる。

「……ッ!」

それでもやっぱり怖いのか、ぎゅっ、と眼を瞑る滝壺に、「優しく触るから大丈夫」と静かにこえをかける。

……くちゅ、

(おっ、ちゃんと濡れてる……)

ピタッと閉じた割れ目をそっと開くと、秘裂の中から、じわっ、と愛液が滲み出てきた。

(うし、次はこれを使って…)

処女穴に間違って指を挿入しないよう注意しながら、浜面は指の腹でヴァギナの入り口を、ちゅくちゅくと刺激する。

「あぅぅ… 恥ずかしいよ…」
「大丈夫、大丈夫だよ…」

指に愛液がしっかり絡んだのを確認して、細心の注意を払い、秘裂の上にあるクリトリスに軽くタッチする。

「ひゃ!」
「力抜いて……」
「う、うん……」

驚いて滝壺が身を竦める。

浜面は怯える滝壺を安心させようと、滝壺の口を咥えるようにキスをし、舌を伸ばして滝壺の口唇を、とんとん、とノックした。

(わ… べぇろをお口に入れちゃうの…?)

滝壺がおずおずと口を開くと、間髪いれずに浜面の舌が咥内に侵入した。

「あ… あぅあぅ……」

浜面は舌を滝壺の咥内で暴れ始めると同時に、陰核もソフトタッチで、くりくり、と弄り始める。

「………ッ!!」

完全に未知の刺激を2つも同時に味わい、滝壺の背筋がビクンと跳ねる。

(あ、すごい… 頭がぼーっとなるよぉ…)

男に口を塞がれ、一番大事な部分を支配され、滝壺は身体を蹂躙される悦びに翻弄された。
822 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:22:52.57 ID:Nox4/fMpo
浜面の指や舌が踊るたびに、どんどん自分の中の『快楽』が開発されているのが分かる。

(濡れ方が増えたか……?)

濡れやすい体質なのか、指に絡む愛液の量が明らかに増加してきた。

(これだけ濡れていたら、十分だな… よしッ!)

心の中で気合を入れた浜面は、いったん滝壺から身体を離し、滝壺を正面に見据えてやや興奮ぎみに語りかけた。

「滝壺… そろそろ入れるぞ?」
「…………うん。ねぇ、はまづら?」
「なんだ?」

滝壺がそっと微笑んで答える。

「わたしが痛がっても、やめないでね… はまづらに全部貰って欲しいんだから……」

思わず、感極まる。

「……ああ、わかった」

途端に、すーっ、と頭がクリアになった気がした。
しかし、不思議なことに肉体の興奮はそのままで、むしろ、浜面のペニスはこれまで経験がないほどに固くいきり立っている。

(たとえ麦野が乱入しても止まらねぇ自信があるぜ…)

滝壺の股座を力強く割り開き、両脚を肩に抱える。
陰毛の無い、わずかに花開いた秘裂にペニスの先端を食い込ませると、浜面はもう一度滝壺にキスをした。

「いくぞ」
「うん、きて…」

互いの意思が完全に疎通した瞬間、ずぶり、と浜面のペニスが滝壺のヴァギナにもぐりこんだ。

「ッ~~~~~!!」

十分な準備はされていたが、それでも異物感や痛みがあるのか、滝壺の目尻に涙が浮かぶ。

(痛かったか…? そりゃそうだよな……)

ここで「痛いか?」と訊くのは、覚悟を決めている滝壺に悪い。

ここは慎重に、かつ手早く挿入をすませよう、と浜面は考えた。

「力抜けよ……」

無駄だと思いながらも口から気休めの言葉が出る。

滝壺が、コクン、と頷いたのを確認して、浜面は、ずずっ、と腰を前に進めた。

「ッッああぁぁ!!」

初めて身体の『内側』を蹂躙される異物感に、とうとう滝壺が声を上げる。

「は、はまづら、あとどれくらい…?」

息も絶え絶えに滝壺が問う。

「……今、半分ぐらい」
「………そっか」

極力平坦な声で滝壺が答えるが、その声には明らかに落胆の色が混じっていた。
しかし、実際は1/3ほどしか挿入されていない。

(長々と苦しめるよりは…)
823 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:23:20.22 ID:Nox4/fMpo
「滝壺、一気に行くから、これ咥えろ」

そういって差し出されたのは、逞しい浜面の右腕だった。

「で、でも…!」
「いいから早く!!」

強い語調に、恐る恐ると言った風で滝壺が浜面の腕をしっかりと咥える。

「いくよ、滝壺の処女、貰う」

短い宣言とともに、浜面は一気にペニスを前進させた。

ぷちっ。

短く、軽い、何かが千切れたような音がした。

「~~~~~~ッッッッッッ!!!!!!!」

ほぼ反射的に滝壺の全身が緊張し、浜面の腕に強く噛み付く。
右腕に激痛を感じながらも、浜面は動きを止めず、一気に根元までペニスを突き刺した。

「ぐぅ… 入ったよ、滝つぼ……ッ!」

結合部を眺めると、挿入部の隙間から、たらたら、と紅い鮮血が流れ落ちるのが見える。

ああ、俺はこの娘の処女を散らしたんだ… と、得も言われぬ感情が生まれた。

「はいったぁぁ?」
「ああ、全部入ったよ」

浜面の腕からようやく口を離して、滝壺が涙声で尋ねる。
腕には見事な歯型が残された。

「あ… ごめんね……」
「気にすんなって。それより、滝壺……」

ほんの僅かに腰を動かす。
途端に、滝壺が「あっ」と声をあげて身をよじった。

「1つになれたぜ…」
「うん、そうだね……」

滝壺が、己の下腹部に視線を落として、ヘソの下をゆっくりと撫ぜる。

「……ここに入ってるんだね、すごい……」
「ああ、すげぇな……」

どちらともなく視線を合わせると、2人は当然のように顔を寄せ、熱い熱いキスを交わした。
824 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:24:30.74 ID:Nox4/fMpo
「そろそろ動いて良いか?」

滝壺が落ち着いたのを見計らって浜面がお伺いをたてる。

「…うん、もう大丈夫」

まだ不安そうではあるが、だいぶ落ち着いた滝壺が首肯する。

「じゃ、動くよ…」

声と共に、突き刺さったペニスをゆっくりゆっくりと引き抜いていく。

「ああぁぁ……」

まさしく杭を抜かれるようなその感触に、滝壺が苦痛とも悦楽とも取れない微妙な声を上げる。

(…………やば)

カリ首まで引き抜いたところで、浜面は戦慄とともにとある感想を得た。

(滝壺の腟内、超気持ち良い……)

他の女と具合を比べるのは失礼だとは分かっているが、それでも滝壺の腟内は破格の気持ちよさだった。

処女ということもあるのだろうが、ぬめる膣壁が、まさしく蚯蚓のようにペニスに絶妙の締め付けで絡みつき、
出て行こうとするペニスを離すまいと、適度な圧力で吸い付いてくる。

(名器だ… しかも極上の……)

抜け掛かったペニスを再びゆっくりと挿入する。

1度道が通ってこなれたのか、2回目の挿入は比較的スムーズに出来た。

しかし、余裕が出来ると、余計に膣の締め付けによる快感を感じやすくなってしまう。

(ぐぉぉぉ… 締まる……!)

浜面の背筋に、ゾクゾクとした快楽電流が走った。
825 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:25:03.56 ID:Nox4/fMpo
「は、はまづらぁ…」
「…なんだ?」
「……気持ち良い?」

滝壺の素朴な問いに、浜面が、ごくり、と唾を飲み込んだ。

「めちゃくちゃ、すっげぇ気持ち良い… ぶっちゃけ、もう射精そう…」

コツン、と奥まで突いてから、また腰を引く。
その一連の動作中、何度も浜面は射精感覚に襲われていた。

「そう、よかったぁ……」

男が自分の性器で悦びを得たことが嬉しいのか、滝壺がはにかんだ笑みを見せた。

「……やべぇ、可愛い」

思わず声に出してしまい、照れ隠しにキスをする。

「…………………………」
「…………………………」

しばらく、2人は無言のまま見つめあい、目と目でなにかが通じ合った。

ずり、ずり、ずりゅ……!

浜面が抽挿のスピードを段々と上げる。

「はぁはぁはぁはぁはぁ……!」

まだ肉体的な快感は感じていないようだが、滝壺は愛しい彼と通じ合った精神的充足感で満たされていた。

ずっ、ずっ、ずずっ、と抽挿のスピードがさらに早くなり、そして、

「くっ… 出る、出すぞッ!!」
「うん! いいよッ、腟内に来てッ!!」

やにわに、滝壺の足が伸びて浜面の腰に巻きつき、大好きホールドを行う。

その行動に勇気を得た浜面が、奥の奥までペニスを打ち付けるように突き刺し、耐えに耐えていた緊張を解いた。

どぷッ! どぷどぷッッ!!

信じられないほど大量の精液が鈴口から迸り、まっすぐ滝壺の子宮口に叩き付けられる。

(あ… 暖かい? うぅん… 熱い……ッ!)

身体の奥の奥にある中心部を、暖かい掌で包まれたような感触。

ああ、これがオンナの悦びなんだ、と滝壺は本能で理解をした。

「はまづら……」
「滝壺……」

互いに名前を呼び合い、啄ばむように何度もキスを交わす。

「すき…!」

ようやく、ようやく2人は結ばれた。 
826 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/02(土) 23:27:45.57 ID:Nox4/fMpo
はい終わり。

浜面がへたれすぎて強引にエロにもっていってしまった。反省。

あと、>>730さんが言う通り、姫戸は天草の姫戸。
大矢野でもいいかなぁ、と思ったけど、大矢野は原作に居た様な気がする。

姫戸の『ぎゃん』がわからんかったら、『ぎゃん=そう』と変換してください。

ぎゃん?=そうですか?
ぎゃん=そうですね。

こんな感じで。

それでは次回まで、じゃあの。 
839 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:22:23.12 ID:Jn/QhKL0o




夜はさらに更けて月が頂点から降る頃、

「あっ、あっ、あッ! はまづらぁ、そこ、そこが気持ち良いぃ!!」
「ここか? うし、いっぱい擦ってやるぜ!」    ナカ
「あぅぅぅぅ… はまづらのおちんちんが、わたしの腟内をごりごり擦ってるよぉ…!」

ぎしぎし、ぎしぎし、と2人を乗せたベッドが軋む。

長年の想いを成就させた若い男女が、1回のセックスで終わるはずもなく、淫蕩な営みは都合3回戦目に突入していた。

(やべぇ… 全然萎える気がしねぇ…!)

浜面のペニスは滝壺に挿入されたままで、2回注がれた精液が、膣壁とペニスの隙間から、じゅぶじゅぶ、と泡を立てて滲み出ている。
滲み出た精液は滝壺の破瓜血と混ざり、なんとも淫靡なピンク色の淫液となって、日焼けした滝壺の肌を彩っている。

「はまづらぁ、はまづらぁ… わたし、イキそう… イクよぉ…!」
「マジか…!? よぅしッ!!」

さっきまで処女だった滝壺だが、浜面の全身全霊を込めた愛撫と性技で、その肉体はどんどんと開発されていた。

特に、大好きな男に愛して貰っているという精神的充足感が強いのだろう。
破瓜の痛みはほどなく吹っ飛び、今は浜面が触る場所、責める場所全てに淡く甘美な快楽が伴っていた。

こすこすこすこす… と浜面が浅く、しかし、火が出るような素早い動きで滝壺の膣壁を擦り上げる。

「あッ! すごいよぉ! はまづらのおちんちんすごいぃぃ!!」
「滝壺…ッ 滝壺ぉぉ!!」

互いに愛人の名前を呼び、激しく深いキスを交わす。

「あッ――― あぁぁぁぁッッ!!!!」

その瞬間、滝壺の視線が激しく泳ぎ、おとがいを反るようにして体を弓なりに弧を描いた。

「――――――――ッッ!!」

視界の奥の奥で火花が散り、これまで経験したことのない快楽の津波が全身を叩く。

(すご、い…… わたしのからだが、ふわっ、て浮いて……ッ!!)

大きな乳房のわりに小さな乳首が、これでもかと言うくらい固く勃起し、天を向いてふるふると震える。

「くぅ… こっちも出る…ッ!!」

絶頂による膣の過収縮で、浜面にも限界が訪れる。

どぷ… どぷ…

既に2度注いだ腟内に、3回目とは思えない量の精液が注がれる。

(ひょっとしたら、赤玉でるかも……)

精神的にマズイと感じながらも、肉体がまだまだ興奮して勃起を保っているのが地味に怖い。

初絶頂に震える滝壺の髪を撫ぜながら、浜面は呆然とそう考えた。
840 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:22:50.79 ID:Jn/QhKL0o
「い、いっかい抜くぞ…」
「ぁぅん……」

ずず、ずず… ぬぽん…

まるでワインボトルからコルク栓を抜くときのような音がして、浜面のペニスが久々に外気に当たる。

「あ…… 垂れちゃう……」

開口したばかりの秘裂から、たらたら、と破瓜血まじりの精液が溢れ出てきた。

(……エロすぎる)

自分の理性が解けないように、極力その光景は見ないようにして、ベッド脇にあったティッシュに手を伸ばす。

「ほら、滝壺、これで股間拭いて……」
「はぅ… だめぇ… ちから入らないから、はまづら、して…」
「……ごくり」

そうしてやりたいのは山々だが、股間に触った瞬間暴走する気がして、気軽に首を縦に振ることが出来ない。

「……あ~、そうだ、風呂入るか! 汗でべとでとだろ?」
「ぅうん? …うん、いいかも」

仰向けで大の字のまま滝壺が答える。

「それじゃ、服着て…」
「汗かいたまま着るのやだから、そこの浴衣使お?」

滝壺が指し示したクローゼットを開けると、男女兼用の浴衣が3着入っていた。

「おお、いいな。それじゃ、滝壺……」
「着せて」
「わ、わかった」

まだ身体がだるいのか、それとも恋人に甘えたいのか、滝壺が妙に甘えた声を出す。

浴衣なので、それほど苦労せずに滝壺に着せ、帯をぎゅっと締める。

それなりに帯をしっかりと締めたはずだが、やはり寝たまま着せたせいか浴衣が乱れている。

男女兼用のせいか、着せた浴衣は合わせが広く、滝壺のおおきいおっぱいが、乳首を含めて半分以上顔を出してしまってエロい。

また、昼間に肌を焼いたため、おっぱいの部分だけ白く、あとは健康的に焼けた肌のコントラストがやけにエロい。
黒と白のコントラストの中に、桜色の乳首が、ちょこん、と勃起しているのがさらにエロい。

さらに、今まで正常位でセックスをしていたせか、内腿が外に大きく開いているため、無毛の割れ目をはっきりと見ることができてもっとエロい。
しかも、そこから破瓜血と精液がミックスした淫液が、たらたら、とあふれ出てるがものすごくエロい。

(…………………ふぅ。Coolだ… Coolになるんだ浜面仕上…ッ!!)

むくむくと勃起した肉棒を隠すように浴衣を着て、浜面は一度大きく深呼吸した。

「た、滝壺、行こうぜ?」
「……だめ、腰にちからが入らない…」

本気でその様子で、苦労して身体を起こそうとするが中々思うように行かない。

「それじゃ、おんぶして行くか」
「だっこが良いなぁ…」

両手をぐーにして口に当て、上目遣いで滝壺が言う。

「…お安い御用だぜッ!!」

(絶対に風呂場でイッパツやろう……)

もう我慢することを放棄した浜面が、軽々と滝壺をお姫様抱っこで抱え上げた。





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841 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:23:50.92 ID:Jn/QhKL0o
一方、滝壺の部屋から退去したフレンダと絹旗は、駒場と部屋で合流して、絹旗お勧めのC級ホラーDVDを鑑賞していた。

「でも、超良いんですか? 私を追い出してイチャイチャして良いんですよ?」
「いやぁ、流石にそれは仁義に欠ける訳よ。利徳もそういうの嫌がるタイプだし」
「ん… そうだな…」

薄型テレビの中で繰り広げられる、あくまでC級のホラーシーンを意外に熱心に観ながら駒場が相槌を打った。

「仲間はずれはよくねぇよ…」
「超真面目ですねぇ。人望があるのがよくわかります…」

感心するように呟いて、絹旗が画面に集中する。

「……絹旗はさぁ、気になる人とか居ないの?」

何となく疑問に思い、フレンダがやや慎重に問いかける。

「居ませんねぇ、というか、超別に焦る歳じゃありませんし」
「んでもさ、絹旗って年頃な訳じゃん?」
「世のローティーンの皆が皆、超恋に恋している訳じゃないですよ… お、ここ超特にC級ですッ」

お気に入りのシーンなのか、絹旗が身を乗り出す。

「……それに、あんまり良い初体験じゃありませんでしたから、滝壺さんみたいな恋心も抱けませんし」

なんでもないように言う。

「あ… だっけ…… ごめん、デリカシー無かった…」
「別に… フレンダの方が壮絶な体験しているんですから、謝らなくていいですよ」

駒場が絹旗に聞こえないように「馬鹿」と呟き、フレンダが「ぐぬぬ…」とうめき声をあげた。

「………で、おたくらは昼間、超ドコに行ってたんですか? つーか、超ナニしてたんですか?」

空気を変えようと、絹旗がやや強引に話題を振る。

「えっ、ああ、それが酷いんだよー、辻斬り女がさぁ…」
「おい、フレンダ!」
「えぇ…? あッ!?」

フレンダが両手で口を押さえるが、時すでに遅しである。

「辻斬りぃ? 何ですかそれ? 詳しく話してください」
「いや、そ、それがねぇ… 口止めされていた訳で……」

どんどんと墓穴を掘る。

「ああもう、コイツは… 絹旗さん、ゲロするか、この話は麦野さんには内緒にしておいてくれ。これ以上ややこしくしたくない」
「話の内容次第ですが…… まぁ、フレンダはともかく、駒場さんがそう言うなら心に留めておきましょう」

フレンダが「あぅ… 私って結局信用ないのね…」と地味にダメージを受けているのをとりあえず無視する。

「ああ、助かる… まぁ、辻斬りっつーか、アマクサなんてろのマジュツシって言ってたなぁ……」

駒場がそう呟いたその瞬間、

遠く遠くに置かれた一体の陶器人形が、ピシリと音を立てて割れ、傍に居た2人の女性の顔が一気に歪んだ。




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842 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:24:32.71 ID:Jn/QhKL0o
「ねぇ、せっかくだから露天風呂に行こうよ」
「おう、そうだな」

すでに他の皆は寝てしまったのか、静かで薄暗い廊下を、滝壺をお姫様だっこしたまま、ひたひた、と歩く。

「はまづら、重くない?」
「ぜんぜん、へっちゃら! でも、しっかり捕まってろよ?」
「うん!」

言われた通り、滝壺がぎゅっと浜面に抱きつく。
すると、自然と2人の顔の距離が近づき、どちらともなく口唇を合わせる。

「ちゅ… んんぅ……」
「れろ… ぢゅ…」

完全に2人の世界に入ったまま、露天風呂の脱衣所に到着する。

「…ぷはぁ、 ……キスって、あまいんだね」
「ああ、不思議だよな…」

滝壺を脱衣所のベンチに座らせて、さっさと浴衣を脱ぐ。
肉棒は変わらず固く勃起しており痛いほどだ。

「それじゃ… はいっちゃおっか……」

浜面のペニスをチラチラと見て、明らかに期待した声で滝壺が言う。

「おう、立てるか?」
「うん、もう大丈夫。 ……うん?」

立ち上がろうとした滝壺が、不意に耳をそばだてて何か音を探る。

「どうした?」
「ねぇ、むぎのの声が聞こえない?」
「あん?」

浜面も同じように黙って耳を澄ますと、微かにだが、確かに聞きなれた高い声が聞こえる。

「…………これって?」
「うん… たぶん、向こうで……」

滝壺が露天風呂に繋がる引き戸を視線で差し、浜面がそーっと顔が覗くぐらいに引き戸を開ける。

途端に、

「ああッ!! とうまぁぁ!! 良いよっ、もっと突いてぇぇぇッ!!!!」

聞きなれた声の聞きなれた嬌声が耳に飛び込んできた。
843 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:25:09.10 ID:Jn/QhKL0o
星屑の夜空と常闇のビーチが見えるように、計算されつくした証明の下。
滑らかに磨かれた岩場の下にバスタオルを何枚も敷いて、麦野沈利と上条当麻は激しい交合の真っ最中だった。

「はぁはぁはぁ… どうしたの? すっごいがっつくじゃない…?」
「んー… 沈利の身体をメチャクチャにしたい気分なんだ」

そういって、麦野の豊乳にかぶりついてちゅーちゅーと吸う。

「こらぁ… キスマークついちゃうじゃん」
「沈利は俺のモノだし、いいだろ?」
「……もぅ」

不満そうな声と表情だが、上条が「俺のモノ」と言った瞬間、麦野の瞳が満足そうに潤む。

「あ~あ、明日はもっときわどい水着を着る予定だったのに…」
「着ろよ。見せ付けちまえ、よッ!」

がつん、と痛いくらいに腰を打ちつける。

「がッ… あはぁ……」

子宮口を突かれてイッたのか、麦野の身体がぐにゃりと脱力する。

「………………ふぅ」

同じく麦野の胎内で果てた上条が、ずるずると長大なペニスを腟内から引きずりだした。
ごぽごぽっ、と注がれた精液が零れ出る。
844 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:25:34.80 ID:Jn/QhKL0o
「しばらく休憩しよっか?」
「……今日は本当に積極的ね… 綺麗にするわ」

麦野が半勃ちになった上条のペニスを咥内いっぱいに含む。
ちなみに髪はタオルをターバンにしているのでかき上げる必要は無い。

「んぅ… じゅぶ、じゅぷ…… じゅ…」

愛液と精液で汚れたペニスを舐めしゃぶって綺麗にする。
このお掃除フェラは密かに上条の大好物だ。
麦野もそれを把握しているから、このところは必ずセックスの中休みと終わりにやってくれる。

「じゅ… こくん… うん、綺麗になった」
「さんきゅ、愛してるぜ」
「調子が良いんだから」

フェラ後にも関わらず上条が顔を寄せて麦野にキスをする。

(こういうことされると、サービスしたくなっちゃうわよね…)

「…お口、犯す?」
「……いいの?」
「うん、喉まんこしたげる」

麦野が岩場に腰掛けて顎をそらすように上を向くと、立ち上がった上条が麦野の頭をがっちり両手でホールドして、半勃ちのペニスを麦野の咥内に押し込んだ。

「おぐぅ…」

麦野の喉奥深く深くまで長大なペニスが突き刺さる。
亀頭の先端に生暖かく、ぬるっ、とした感触を感じ、それがなんともいえない快感となる。

麦野主導のフェラはよくしてくれるが、こうやって上条が好きに腰を動かせるイラマチオは中々させてくれない。

(山岡さんのアドバイス様々だったなぁ… たまには強気で行くか……)

上条はしみじみとそう思い、これまで若干受身が多かった自分を強く反省した。

「突くぞ、沈利…!」

短く宣言し、麦野が小さく頷く。

ごつ、ごつ、ごつ… と上条が腰を前後に動かし、ペニスで麦野の喉奥を突き始める。

すぐさま咽頭反射が起こり、強い嘔吐感に襲われるが、根性でそれを押さえ込む。

(うぐ… きっつ…)

このプレイは女性側の肉体的負担が半端ない。
しかし、麦野の中に確かに存在する『被征服欲』を著しく満たすのもこのプレイだ。

(私、今は完全に男のモノだわ……)

酸欠と精神的充足感に頭をぼんやりとさせて、麦野は愛虐的な快楽に酔った。



.
845 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:26:01.16 ID:Jn/QhKL0o
「「ごくり……」」

そんな恋人たちのハイレベルな睦み愛を目の当たりにして、浜面と滝壺は同時に喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

「すごいね… セックスって、ああするんだ……」
「い、いや、あれはレベル高すぎだって。普通はあそこまでハードにしねぇよ…」

(俺のときはほぼマグロだったのになぁ… なんかちょっと羨ましい…)

過去に麦野と1回だけセックスをしたことがある浜面が、お口チャックでそう思う。

(滝壺は… フェラとか無理だよなぁ……)

ほんの少しだけ期待して、チラリ、と滝壺を見ると、滝壺はまだまだ固い浜面のペニスを、じーっ、と見ていた。

「…どした?」
「ねぇ、これを舐めるとはまづらも気持ち良いの?」

どっかーん、と内心ビックバン級の驚きをなんとか隠して、浜面が「お、おう」と首を縦に振る。

「そ、そりゃ、してくれると気持ち良いけど、無理はしなくて…」
「さっきは、はまづらが頑張ってくれたから、次はわたしの番……!」

妙に気合の入った顔つきで滝壺が言う。

(うおぉぉぉぉぉ!! 棚からぶた餅ッ!? 麦野、上条、ありがとう!!)

降って沸いた幸運に浜面が気色ばむ。

「頑張るね…!」

滝壺が恐る恐る、しかし、思いっきり口を大きく開ける。
両手で浜面のペニスの根元をしっかり掴んで、バナナを頬張るようにペニスを口に侵入させ、

「………ぅぐ…… がぷ…!」

思いっきりえずいて、ほぼ無意識の内に強く口を閉じてしまった。



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846 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:26:33.07 ID:Jn/QhKL0o
『いでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

「うぇ!?」

突然、露天にまで響いた魂消る声に、上条が思わず動きを止める。

「―――――ッ!!」

すると、敏感に身の危険を感じた麦野が、ドンッ! と上条を露天風呂の中に突き飛ばし、強引にペニスを咥内から吐き出した。

「げほっ!! ……この声は」

ばっしゃーん、と盛大な水柱をあげる上条を文字通り尻目にして、麦野が全裸のまま脱衣所に向かう。

果たしてそこには、股間を押さえて蹲る浜面と、それを見てオロオロしている滝壺が居た。

「……なにしてんの?」
「あ、むぎの… その… わたし、噛んじゃって……」

その一言でおおよそ理解した麦野は、「ちょっと見せなさい」と悶える浜面を強引にひっくり返した。

「……なんだ、外傷無し。はーまづらぁ、大袈裟に痛がりすぎ」
「………だ、だってよぉ」
「おぼこの滝壺にフェラなんてやらせるんじゃないわよ。そりゃ、噛まれて当然よ」

やれやれ、と肩をすくめて麦野が容赦なく言う。
そして、心配そうな滝壺と、ようやく痛みが引いて身を起こした浜面を見やる。

「……でも、ようやく、勇気出したみたいね。おめでと」
「お、おぅ… つか、むちゃ恥ずかしいんですけど……」

浜面がそう言った瞬間、セックスで麻痺していた羞恥心が蘇ったのか、滝壺が慌てて胸と股間を両手で隠した。

「中坊のガキじゃねぇんだから、堂々としてろよ」
「いや、無理言うなって……」
「むぎのと比べられると恥ずかしいよ…」

そんな風に3人が会話していると、ツンツン頭から水を滴らせながら、上条が脱衣所に入ってきた。

「ちきしょー、滅多に無い喉フェラチャンスが…」
「情けない恨み言を言うんじゃねぇよ」
「あ、いや、俺たちとっとと退散するから…」

流石に他人のセックスシーンを邪魔するのは気が引ける。
そう思って浜面が滝壺を見ると、滝壺はなぜか裸の上条をジーッと凝視していた。

「えと… 滝壺…?」
「あ、うん…… ねぇ、むぎの?」
「ん、なに?」

滝壺にしては真剣な表情で麦野に話しかける。
そして、次の一言は3人にとって予想外の一言であった。

「おちんちんの舐め方を教えてほしいの」
「…………あぁ」

この一言で、浜面は期待と後悔が入り混じった表情をし、上条はバツが悪そうに頬を掻き、麦野は得心したように深く頷いた。

「そうね… 都合の良いことに教材も情況も揃ってるしねー。相手が浜面ってのが気に食わないけど、たまには教師すんのもいいかもね」
「え゛、沈利、本気…?」

ぎょっとしたのは上条だ。
いくら知り合いでも、いや、知り合いだからこそ、エッチの現場を見せるのには抵抗があった。

「本気に決まってるでしょ。なに、嫌なの? それじゃ、喉フェラは暫く無しね」

目を細めて不機嫌顔でそう言われると、上条は首を縦に振るしかない。

「ぐ… 仕方ない…」

苦い顔で渋々頷く上条に、浜面が「マジすまん…」と手を合わせた。




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847 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:27:00.32 ID:Jn/QhKL0o
「それじゃ、まずはやっちゃダメなことからね」

脱衣所のベンチに上条と浜面を並んで座らせ、それぞれの股間に麦野と滝壺が顔を寄せて授業が始まった。

「まー、さっきやって実感してたとは思うけど、絶対に歯は立てないこと。ちんぽは血流豊富だから、ちょっと怪我するだけで流血すごいからね」
「うん…… ごめんね、はまづら」
「いや、良いって…」

全裸の巨乳美女が2人、ペニスの前で真剣な表情で居るのが、ひどくシュールである。

「それと、素人がフェラだけで射精させようとしてもまず無理だから」
「え、そうなの…?」
「喉に炎症おこす覚悟でディープスロートすれば、経験少なくてもイカせられるかもしれないけど、まぁ、現実的じゃないわね」

そう言って、なんだかんだで萎えてしまった上条のペニスをそっと持ち上げる。

「だから、最初のうちは、フェラをするときは必ず手コキも一緒にするの。こうやって…」

麦野は片手を筒握りにして手で輪っかを作ると、サオの部分をしごくように手を上下させた。

「握る力はちんぽと男の様子を見ながら調整よ。弱すぎたら刺激がないし、強すぎたら痛いだけだからね」

こすこすこす、と絶妙の力加減で手コキを行い、あっという間に上条のペニスがむくむくと大きくなった。

「はい、やってみる」
「う、うん……」

滝壺も緊張した面持ちで、見よう見まねで浜面のペニスをしごき始める。

「うっ…」
「はーまづらぁ。うっ、じゃないでしょ。ちゃんと『良い』とか『悪い』とか言わないと、滝壺がわかんないでしょ」
「あ、すまん… えと、もう少し強くても大丈夫かな…?」
「こ、こう?」

言われた通り、握る力を強くすると、次第に浜面のペニスも太く勃起し始めてきた。

「あっ、大きくなってきた…!」

嬉しそうに滝壺が言う。

「はい、ここまでが初歩の初歩ね。ぶっちゃけ、ここまでは誰でもできるから」
「うん、がんばる…!」

次に、麦野は半剥けの包被を根元に寄せて完全に亀頭を露出させた。

「ゆっくりね… 引っ張りすぎたら痛いから……」
「ゆっくり、ゆっくり……」

滝壺が恐る恐る浜面の包被を剥く。
あまりに真剣に熱中しているため顔が近く、口から吐く息が亀頭にあたりかなり気持ち良い。

(ぐぉ… これ、十分に気持ち良いぜ……)

だが、状況的に暴発が許されないことは流石の浜面にも分かる。
事前に3発抜いていたことを、浜面はしみじみと感謝した。


848 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:27:27.83 ID:Jn/QhKL0o
亀頭を露出させてからが、いよいよ本番だった。

「それじゃ、ちんぽの先っちょを咥えるわよ。くどいようだけど歯は立てちゃダメだからね… あむ…」

麦野が必要以上に大きく口を開けて亀頭を咥え込む。
そして、外見にも分かるほど頬をすぼめて吸引し、じゅじゅじゅ… と音を立てて亀頭を吸ってから、ちゅぱっ、と口を離す。

「ふぅ… とりあえず基本テク、『咥えて吸う』ね。この丸く盛りあがったところ… カリ首って言うんだけど、ここを口唇で挟むの、ほら、やってみて」
「うん… は、はまづら、いくよ?」
「お、おう…!」

互いに緊張しているのが丸分かりの表情で2人が頷きあう。
そして、滝壺が精一杯大きく口を開いて、亀頭を苦労して口の中に収める。

「………おぇ」

先ほどえずいた感触が蘇ったのか、滝壺が苦しそうに眉根を寄せる。
しかし、なんとか吐き気を堪えて、次はどうしよう? と麦野を見る。

「うん、よく堪えたわね。それじゃ、次は口唇でしっかりカリ首挟んで… そうそう、捕まえた? じゃ、ゆっくり吸って……」

必死な滝壺がコクコク頷いて、ちゅぅ… とたどたどしく亀頭を吸い上げる。

「うぐっ… 良いぜ… すげぇ気持ち良い…」
「ほんふぉ(ホント)?」

滝壺にとって意外なことに、浜面から歓喜の声が上がる。
それが嬉しくて、滝壺はさらに熱心に「ちゅぅ… ちゅぅ…」とペニスを吸い始めた。

しかし、途端に浜面の表情が歪んだ。

「あっ… え、えーと…」
「はーい、滝壺、ちょっとストップ。歯が当たってるわよ」
「ふぇ!? あ……」

滝壺が慌ててペニスから口を離す。

「だ、だいじょうぶ!?」
「大丈夫、大丈夫だって、ちょっとチクッとしただけだから」

心配そうな表情をする滝壺に、浜面が不安にさせまいと笑顔で答える。

「思いっきり吸おうとすると、どうしても口が閉じようとするから噛んじゃうのよ。だから、短く強く吸うの、こんな感じで」

言った通りに、麦野が上条のペニスを「ぢゅッ、ぢゅッ!」と力強く吸った。

「…あと、唾をいっぱい溜めて、口の中を乾かさないようにね。はい練習」
「うん、わかった…!」
849 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:28:13.63 ID:Jn/QhKL0o
ちゅぱ、ちゅぱ… ちゅぱ……

脱衣所では、滝壺による一所懸命な『御奉仕』が続いていた。

「ちゅぱ…… はぁ、ふぅ……」

始めはリズム良くフェラを行っていた滝壺だが、次第に吸う感覚が長くなってきた。

元々運動が不得意な滝壺である。
長時間のフェラに、気力はともかく体力が持たない様子だった。

「おい、休憩してもいいんだぜ?」
「だって… はまづら、まだ、しゃせいしてないんだもん…」

しょんぼりする滝壺に、思わず浜面は言葉に詰まる。

「ハイハイハイ… 滝壺、さっき私が言ったこと覚えてる?」
「え? えっと…」
「フェラだけで射精は無理って言ったでしょ? 無理無茶はしないの」
「う~~~……」

滝壺は不満そうな表情だ。
彼氏をイカせたいという欲求が強いのだろう。

「むくれる前に、もっとよく思い出して、手コキも一緒にって言ったでしょ?」
「あ、そっか…」

はっとした滝壺が、それまで遊んでいた手をゆっくりと上下させ始めた。

「……唾でぬるぬるしてる」
「そうそう、それが大事なのよ。唾液は常に補給、供給、絶やさないようにね」
「ふわぁ… あれ、なんかおちんちんの先っぽから何か出てきたよ?」

ゆるゆるとしごかれる浜面のペニスから、先走り液が滲み出てきた。

「カウパー液って言ってね、まぁ、射精前の準備だと思いなさい」
「かうぱー?」
「うん。それじゃ、唾液を垂らして、カウパーと混ぜ合わせて」
「こう?」

だらー、と滝壺が唾液を垂らし、滲み出たカウパー液と混ぜ合わせる。

「そんじゃ、ちょっとお手本見せるわよ…」

麦野も同じように、上条のペニスに唾液を垂らすと、掌を使って巧みに亀頭を刺激し始めた。
850 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:28:53.92 ID:Jn/QhKL0o
「…放置プレイかと思った」
「あはは、ゴメンね」

適度に唾液を補充しつつ、こねくり回すように亀頭を掌で撫ぜる。
さらに空いた片手でペニスの竿を軽くしごくと、次にその手をゆっくりと降ろして陰嚢を撫ぜ始めた。

「ここは特に慎重に扱ってね… ほら、滝壺もまねする」
「あ、う、うん!」

鮮やかな麦野の手つきに見とれていた滝壺が、慌てて見マネで浜面のペニスを刺激し始める。

「……こ、この中に色々入っているんだね…」

そして、初めて触る男性の陰嚢を、びくびくしながら撫ぜ始める。

「うわぁ… けっこう重いんだね…」
「たっくさん、大事なものが詰まってるからね。はい、ここにちゅ~~……」

不意に麦野が顔を寄せると、陰嚢に吸いつくようにキスをする。

「わっ、そこにもキスするんだ…」
「中にタマがあるのをしっかり意識するのよ。ほら、やってみて」
「うん! ちゅ~…」

浜面の陰嚢に吸いつくと、確かに中で玉状のナニカが移動したのがわかった。

「…ふしぎな感じ」
「次は舐め舐め、ここはベロベロ舐める」
「うん、ベロベロ…」

両手で亀頭と竿を刺激しながら、陰嚢を強めに舐める。
その感触はざらざらとしていて、分厚いゴムの膜を舐めているかのようだ。

「…はまづら?」

こんなのが本当に気持ち良いのかと、不安に思って浜面の顔色を伺うと、

「うあー……」

そこにはとろけきって、正直キモイ表情をした浜面の顔があった。

「……気持ちいいんだ。ぜんぜん疲れないし、フェラよりずっと楽なのに…」
「舌より手の方が当然器用だし、持久力もあるの。フェラが上手くなるまでは、手コキが主役ね」

そう言うと、麦野の手が縦横無尽に動き出す。
上条のペニスを、撫ぜ、擦り、しごき、摘み、揉み、様々な手技で刺激する。

「ぐぅ… 沈利ッ… 本気出されるとやばいって……ッ!!」

長らく射精感覚を耐えてきた上条が、当然のように白旗を上げる。

「もう無理? じゃぁ、最後は喉ね。滝壺、これはマネしちゃダメよ」

そう釘を刺すと、麦野は咽喉を大きく開いて、上条の長大なペニスを根元まで一気に飲み込んだ。

「うそぉ!?」

浜面のペニスを半分咥えただけでえずいた滝壺が、驚愕の表情で声を上げた。

「うっ… 出すよ、沈利…ッ!」

麦野の喉の、奥の奥で上条のペニスが射精する。
喉奥に当たった精液を、麦野が苦もなく、こくりこくり、と飲み干した。
851 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:29:32.51 ID:Jn/QhKL0o
「こく、こく…… はぁ、ふぅ… ごちそうさま」

ずるずるとペニスを口から吐き出して、あえてそのままにして麦野が一息つく。

「さ、今度は滝壺の番よ。浜面、最後はアンタがリードするんだよ」
「わかった!」
「お、おう!」

滝壺が再びペニスへの奉仕を開始する。

まずは唾液とカウパーで掌をぬるぬるにしてから、片手で竿をしごいて、片手で亀頭を撫ぜて刺激する。

まるで粘土をこねるようなその刺激に、浜面が何かを堪えるように「はぁ…」と溜め息を吐いた。

「気持ちいい?」
「ああ、最高…」

実際、浜面もそろそろ限界が来つつある。
いくら拙いフェラと手コキでも、ここまで徹底的にやられたら否応無しにも興奮が昂ぶる。

「もう少し強くしても大丈夫だぜ…」
「こう?」

こしゅ、こしゅ、とやや強めに握って竿をしごく。

親指と人差し指で作って輪っかが、丁度ペニスのカリ首にぶつかり、それが丁度いい刺激になる。

「ああ、すげぇ良い感じ… 来てる…」

快感に集中するように浜面が目を閉じる。

女の本能的に、男の射精が近いと感じ取った滝壺が、一番感触が良い片手での竿しごきに集中した。

ごしごしごしごし……!

唾液とカウパーでぬるぬるのペニスをしっかり握り、一心不乱に手を上下させる。

「あッ、それ、それ良いッ!!」

強く、そして的確な刺激に浜面の反応が明らかに変わる。

「ッ!? これが良いんだね!? 出すときは言ってね、はまづら…!」

手の疲れも忘れて、滝壺がついに両手でペニスを包んでしごき上げる。

暖かい肉の筒にペニス全体を擦られ、とうとう浜面に限界が訪れた。

「出るッ、滝壺、出すよッ!!」
「ッッ!!」

浜面の宣言と同時に、滝壺が鈴口を覆うように亀頭にキスをした。

「射精すぞッ!!」

ドクドクッ!! と大量の精液が滝壺の咥内を浸凌する。

「んん~~~~~!!」

想像以上の精液の勢いに、滝壺が目を丸くして驚きの声を上げるが、それでもしっかりと亀頭につけた口は離さない。

「滝壺、ゆっくりと鼻で息を吸いなさい。浅く、ゆっくりね…」

滝壺を落ち着かせるように、麦野が滝壺の背を撫ぜながら諭す。

そうして、ようやく浜面の射精が終わると、滝壺が「ふ~~~」と大きく鼻で息を吐いた。
852 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:29:58.50 ID:Jn/QhKL0o
「浜面、出し終わった? それじゃ、最後の仕事だよ、滝壺」

そう言うと、麦野は力なく垂れている上条の根元を指で押さえ、鈴口に吸いつくと同時に輸精管を指で押し上げた。

「あー、やっぱり? うわ、吸われる……」

尿道に残っていた精液全てを吸引され、上条がゾクゾクとした快感を得る。

「…ちゅぱ、こくん…… うん、こうやって、残っている精液もちゃんと吸い取るんだよ」

かなりの無茶振りではあるが、ここまで頑張ったのだから最後まできちんとやりたい。

滝壺はそう思い、最後の気力を振り絞って指を動かし、ぢゅぅ~… と鈴口を吸引した。

「滝壺… そこまで… 泣きそうだよ、俺……」

本気で感動しているのか、浜面が言葉通り泣きそうな声で呻く。

「最後まで吸った? よし、精液を飲む込むときは、舌を上手く使うんだよ。飲み物じゃなくて食べ物だと思って、噛むように飲むの」

そうアドバイスを受け、何度も鼻で呼吸をして息を整え、滝壺はとろろを思い浮かべながら、ゆっくりゆっくりと精液を嚥下していった。

「ごく… ごくっ… ごくっ…!」

長い時間をかけて咥内にたまった全ての精液を飲み干すと、滝壺は深く深く「はぁぁぁぁぁ~~~~……」と盛大な溜め息を吐いてへたり込んだ。

「た、滝壺、大丈夫かッ!?」
「うん… 平気…… ちょっと疲れちゃっただけ……」

心配する浜面に、疲労は隠せないものの滝壺は笑顔で答えた。

「えへへ、飲んじゃった♥」
「滝壺… お前、最高だよ…… 一生離さねぇ……」

感極まった浜面が、滝壺を強く抱いて何度もキスをする。

充実感と達成感、そして男に抱かれた安心感で、滝壺はこれまでに体験したことのない多幸感に襲われていた…
853 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:30:31.70 ID:Jn/QhKL0o
激しい情事が終わって、4人はとりあえず身体を洗って露天につかることにした。

「はぁ~~~…… 気持ち良いね、浜面……」
「ああ、生き返る……」

気付いてみれば、数時間も肉交を繰り返していたのだ。
疲れていて当然だ。

「あんたら、これから犯りまくりなんでしょうねぇ… 浜面、ちゃんとセーブすんのよ?」
「……………まぁ、うん、仕事に支障を出しちゃだめだよな」

一瞬、「お前が言うな」と言いたくなったが、確かに麦野はセックスの疲れを見せたことは無い。

「浜面、もう一緒に住んじまえば? やって気付いたけど、そっちの方がコントロールは楽だぞ?」
「そうだなぁ…… どうする、滝壺?」

内心、ワクワクして滝壺に声を掛けるが、返事がない。

「滝壺?」
「………ちょっと待って」

やけに抑揚のない平坦な声で滝壺が答える。
瞬間、麦野が険しい表情で、ざぱぁ、と立ち上がった。

瞬き5回分ぐらいの時間が経ち、

「……あっち」
「おらぁぁぁぁぁ!!」

滝壺が示した方向に、麦野が突然『原子崩し(メルトダウナー)』を打ち込んだ。

「うお!」
「何だッ、敵かッ!?」

男共が色めきたつが、麦野は「ちっ、手応えなしか……」と呟いて再び風呂の中に座った。

「おい、沈利…?」
「アタシより滝壺が説明してくれるわよ」

麦野がそう言うと、滝壺がこっくり頷いて話し始めた。

「えっとね、みんなとは違うAIMを感じたの。ちょっとおかしな感じ方だったけど」
「AIM? ってことは……」

AIM拡散力場は、学園都市で能力開発を受けた生徒特有のものだ。
この場には、確かに能力者ばかりが集まっているが、滝壺が感じたのは、そのいずれとも合わないAIMの波動であった。

「俺たちとは別の能力者が居る…?」
「う~~ん、体晶使ってないから勘違いかも…?」

あまり自信がなさそうに滝壺が答える。
滝壺の大能力『能力追跡(AIMストーカー)』は、強力であるが、その安定使用には『体晶』と呼ばれる増幅剤が必要となるのだ。

「ただまぁ、アタシも気配を感じなかったし、自然界の動物にも極まれにAIMを発する動物も居るみたいだから、そっちの方かもしれないわね」

あっさりと脱力している麦野が言う。

上条と浜面は互いに顔を見合わせると、肩をすくめてから麦野に倣った。

854 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:31:00.87 ID:Jn/QhKL0o
―――――――――闇の中。

「おいおいおいおいおい…… なんで『原子崩し(メルトダウナー)』がココに居るのよ……」

鬱蒼と木々が茂る山林を、小さな影が足音も立てず移動していた。

「せっかく良い隠れ場所を見つけたと思ってたのに… これじゃ、まるで罠に飛びこんだみたいじゃない……」

影は音もなく大きく跳躍し、適当な大木の枝に両手を引っ掛けてぶら下がる。

「はぁ… 今日は暖かい床で眠れると思ったんだけどなー… 仕方ない、ここで我慢するか…」

そう呟き、影は僅かに身を捻ってから姿勢を安定させた。

その両手両脚は、鈍く光る金属で出来ていた。

「あの狂信者どもいつ来るかな…? 出来ればココには来て欲しくないなぁ…」

影が顔を上げる。

その顔は、びっくりするほど病的に白く、瞳は真っ赤に染まっていた。








                                                                 つづく

856 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/07(木) 00:34:41.17 ID:Jn/QhKL0o
はい、終わり。

エロをがっつり書くとやっぱ違うわぁ。

あと、絹旗の相手は今のところ未定です。
絹旗のセックス描写が思い浮かばないんですよねー、自称コケティッシュ・ロリとか料理出来る自信がない。
つーか、ビッチ系がやっぱ書き易い。つまり、麦のん、かわいいよ、麦のん。

次回は未定。
ようやくサラシ巨乳と扇子巨乳とオデコ巨乳が登場予定。

じゃあの。


903 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:07:22.78 ID:7bZDIFH3o



明けて、翌朝。

「え、滝壺、超寝込んじゃったんですか?」

カリカリのトーストに、ハム、目玉焼き、トマト、シャキシャキレタスを豪快に乗せ、その上からマヨネーズをたっぷり。
新鮮に光る野菜たちが食欲をそそる。

「まぁ、察してやリな。ちょっと昨日の夜頑張りすぎたんだよ」

こちらは、いつもの100%果汁のオレンジジュースと、グリーンリーフ、ルッコラ、パプリカ、水菜、サラダ玉葱をボウルいっぱい。
朝から大量の野菜、が彼女のポリシーだ。

「結局、ヤリすぎって訳よ。あ、そこの焼き海苔とって」

銀シャリに味噌汁、そして焼き海苔に薄口醤油。
金髪碧眼の彼女の朝食は、その容姿に似つかわしくない、コメ・ミソ・醤油である。

「察しろって言われただろうが、ボケ…!」

陰鬱な口調で軽く恋人の頭をはたく彼は、巨大な丼に熱々の銀シャリ、生卵3つと醤油をあわせた、特性の卵かけご飯だ。
卵の黄身が所々で固まり、それがますます食欲をそそる。

「ああ、だから浜面がさっきフレークと牛乳持って消えたのか」

ツンツン頭の彼もご飯とお味噌汁だが、付け合せは白菜と大根の漬物、そして当然のようにある亜鉛サプリメントだ。
ほどよい塩味が食欲をそそる。

ガツガツガツガツ、

むしゃむしゃむしゃむしゃ、

昨日の色々な疲労を一気に回復するかのような、口噛音が賑やかな朝食であった。

「しかし、それにしても……」

ツンツン頭の彼が呟く。

「ここまでバラバラの要求を完璧にこなすとは… 山岡さんすげぇ……ッ!」

台所で、作務衣にエプロンという、合っているようで合っていない格好のモノクローム紳士がニコリと笑う。

「漬物は私のお手製でございます」
「マジか……」

麦野の別荘、2日目が始まった。



.
904 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:08:02.98 ID:7bZDIFH3o
「ああ、今日は朝からゲストが来るから」

朝食後の軽いコーヒータイム。
麦野が何でもなさそうに、ポツリと呟いた。

「ゲスト? 誰?」

心当たりが無い上条が首を傾げる。

「アンタも知ってる面々よ。特に仕事でね」

そう言われて想像するのは、つい先々週に激闘を繰り広げた『グループ』たちだ。

「……あの、サラシ巻いたねぇちゃん?」
「あの娘の前でそういう言動すると殺すわよ? 結標はアタシ以上の年下趣味なんだから」

ああ、正解か… と納得しかけて、慌てて上条が思いなおす。

「あ、あのさ… 俺たち、アイツらと殺しあったと思うんだけど…?」
「仕事で、よ。確かに、最後に出てきた第2位とは顔も合わせたくないけど、結標とはプライベートではそれなりに付き合いあるのよ」

コーヒーカップを受け皿ごと持ってコーヒーを啜った麦野が、ふと何かに気付いて天井を見た。

「言ってる内に、来たみたいよ」
「えっ? ……あぁ」

その意味を悟った上条が、黙って耳を澄ます。
すると、遠くから、バタバタバタバタ…………!! と、何かが風を切る音が聞こえてきた。

「……ヘリ?」
「そ。迎えに行くぞ」

座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、麦野は上条を引きずるようにして外に飛び出した。
905 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:09:46.43 ID:7bZDIFH3o
「どこに降りるつもりなんだ、あれ…? つーか、学園都市製の『六枚羽』の亜種じゃねぇか……」

朝から炎天下の砂浜の上。
眩しそうに太陽の光を手で遮って、駒場がポツリと呟いた。

彼の上空を旋回するのは、普段は無人で運用される迎撃用超攻撃ジェットヘリの『六枚羽』。
その機体の、おそらくは移動・運搬用に改良されたマイナーモデルであった。

「ヘリポートがあるわけじゃないから、結局、ここ(砂浜)に降りるんじゃない?」
「そりゃ、やってやれないことは無いだろうが、けっこう、ここの傾斜強いぞ? 無理じゃねぇかな…」

駒場がそう言った瞬間、バタバタバタバタ!! と砂浜の上でホバリングを続けるヘリの中から、何か黒いものが投下された。

「危ねッ!!」

見上げる2人からは十分な距離はあるが、念のために駒場が傍のフレンダを抱きかかえる。

ドスッ! と重い音を立てて着地したのは、どうやら荷物が沢山つまった巨大なザックのようだった。

「あー、あれって学園都市謹製の、『超衝撃緩和ジェル』で覆ったザックな訳よ」
「荷物だけ降ろして、どうしようっていうんだ?」

怪訝な顔でヘリを凝視する駒場。

その視線が荷物を落としたのだろう人物を捉えた。
ヘリから半身を乗り出したその人物は、ニヤリと笑ったように見えた。
906 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:10:19.82 ID:7bZDIFH3o
ヘリの機内。

「それではお姉さま、お先に」
「はいはい、こっちはこの娘とゆっくり降りるわ」

短い会話を交わした後、鉄扇を両手に持った、黒すぎるほど黒い黒髪を持った少女が、一気にヘリから空中に飛び出した……!!
907 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:11:08.07 ID:7bZDIFH3o
「飛び降りたッ!?」
「ば、馬鹿か、死ぬ気かッ!?」

地上の2人が慌て叫ぶ。

ヘリから地上まで30m以上はある。
どう考えても軟着陸できる距離ではない。

しかし――、

「あ、そ~れ!」

落下者が独特な動きで身を捻ると、ちょうど落下速度が減速する方向にエアジェットが噴出した。

それは、まるでオリンピックの体操選手のような動きだった。

捻り、足を畳み、開き、手を動かし、様々な角度でエアジェットを噴出させる。
そうして落下速度を強引に削りながら、最後は月面宙返りの要領で、柔らかい砂場に綺麗に両足で着陸する。

「ふっ… 婚・后・光・子… 参上……ッ!!」

呆然とする駒場・フレンダを尻目に、ビシッと見る者が見てもあまり上品では無いポーズで婚后光子が名乗りを上げる。

「……派手に登場しやがったなぁ」

別荘からようやく到着した上条が、かなりの呆れ顔で呟いた。

「あら、誰かと思えば、わたくしの好敵手さんではございませんか。ほほ、お久しぶりですわね」

口に鉄扇を当てて、ほほほ、と笑う。

「おい、結標は?」

上条の後ろから、麦野が問う。

「おっと、そうでした… えー、皆様、おねえさまが転移いたしますので、この辺りを広く開けてくださいまし… はい、どうも」

婚后がちょこちょこと人を動かし、ヘリに向かって大きく手を振る。

次の瞬間、何も無い空間に、突如として2人の人間が同時に現れた。

1人はいつものサラシに、南国によく合うアロハシャツを引っ掛けた結標淡希、
そして、もう1人は……

「お、おま…ッ! なんでここに……ッ!?」
「あ、あたしが聞きたいわよッ!? 上条当麻ッッ!!!!」

サラサラおでこが太陽の光を眩しく反射。
スタイルに似合わぬ大きすぎる巨乳。
気の強そうな太目の眉。
そして、なぜか短パンとタンクトップの寝巻き姿。

自称・親称・上条当麻の許婚、吹寄制理がそこに居た。
908 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:11:43.24 ID:7bZDIFH3o
時は遡ること3時間前。

TELLLLLLLL……

規則正しい生活をしている彼女でもまだ夢の中の午前5時。
けたたましい電話のベルが彼女を叩き起こした。

「……はい? ふきよせですけど…?」
『家におるかー?』
「えぇ…? はい、居ますけど…?」
『今日から3日、暇?』
「はぁ……? ひまって… え…?」

思考が安定していない彼女は、疑問を提起することができずにカレンダーを見る。

「……あぁ、まだ大覇星祭の仕事は無いし… 暇ですけど…」
『よし、それなら今から行くわ』
「…………はぁ?」

ようやく頭がはっきりしてきた吹寄が、ようやくおかしいと感じたその瞬間、

シュン…

「はぁい♪」
「だ、誰よアンタッ!?」
「今から南の島に行くから」
「はぁ!!??」

突然現れたサラシ・アロハシャツに触られた瞬間、吹寄制理は密かに上空で待機していた『六枚羽』の機内に転移させられていた……


909 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:12:40.44 ID:7bZDIFH3o
「こ、怖かったッ!! すっごい怖かったッッ!!」

上条の肩を掴んで、がっくんがっくんと激しく揺らしながら吹寄が叫ぶ。

「いや、えーと… すまん……」

事態はよく分からないが、とりあえず謝る上条である。

「騒がしいわねぇ……」
「あ、貴女……ッ!」

麦野の姿を認めると、吹寄は上条を離して麦野に詰め寄った。

「麦野さんの仕業ですか……ッ!?」
「ええ、そうよ」

麦野があまりにもあっさり首肯したので、逆に吹寄の勢いが削がれる。

「ど、ど、どうして…ッ!? 誘拐ですよ、これ!」
「だって、黙って当麻と旅行に行ったら、それはそれでお前怒るだろ?」
「だからってこんな……」

吹寄が呆然とした表情で周囲を見回す。

麦野と上条以外は完全に知らない顔だ。
結標、婚后は荷物の回収に向かい、駒場、フレンダはバツの悪そうな顔でそっぽを向いている。

「………完全アウェイじゃない」
「じゃ、帰る? 帰りたいのなら、またヘリを呼ぶわよ」

あー、煽りうまいわー、と、その場に居る全員が思った。

案の定、吹寄は、キッ、と麦野を睨みつけ、

「帰りません! 最後までお付き合いしますッ!!」

と大声で宣言した。



.
910 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:13:10.18 ID:7bZDIFH3o

***

とりあえず落ち着いた吹寄を別荘に通し、一通り自己紹介を終えると、おもむろに麦野は海を見て一同に宣言した。

「さぁて、お昼は浜辺でバーベキューだから、それまで泳ぐわよ。準備は山岡さんに任せておけばいいわ」
「まぁ、2日連続ではありますが、プライベートビーチを超目の前にして、泳がない手はありませんね」

到着したばかりの結標と婚后もそのつもりだったのか、嬉しそうに荷物からそれぞれの水着を取り出す。

その他の面々も、思い思いに動く中、1人吹寄だけが慌てた様子で麦野に声を掛けた。

「あ、あの、麦野さん… アタシ、水着なんて持ってませんよ…!?」

身一つで誘拐されたのだから、当然ではある。

「大丈夫、大丈夫。貴女の分はちゃんと用意してあるから」
「…ちゃんとしたモノなんでしょうね?」

状況が状況なだけに、疑り深い目で吹寄が尋ねる。

「私と同じタイプの水着だから大丈夫よ」

いまだ麦野の本性を把握していない吹寄は、一抹の不安を感じながらも取り合えず納得する。

(100%セパレートでしょうね… あとは柄か……)

麦野と自分のスタイルを遠慮なく目視で比べる。

(胸は… 若干だけどアタシの勝ちね…… 全体のプロポーションは流石に負けるけど……)

どう考えても、これは向こうから仕掛けた『上条当麻争奪戦』である。
ならば、持て得る全ての戦力は、出し惜しみなく使うべきである。

(ポロリぐらいはやってやるわよ…!)

静かに、しかしあからさまに闘志を燃やす。

だが悲しいかな、清楚系と吹寄が想像している麦野沈利は、まぎれもなくビッチ系なのであった……
911 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:13:53.06 ID:7bZDIFH3o
「トップレスなんて聞いてないわよぉぉぉッッ!!」

更衣室、というか、浜辺脇のたんなる木陰で、吹寄が吼える。

「て、て、て、てゆーか!! これ水着なのッ!?」
「学園都市謹製の『紐要らず』『透過性抜群』『ただ貼るだけ』の高性能スイムシールよ?」
「どこをどう見ても、ただの『前貼り』と『ニプレス』じゃないッ!!」

麦野が吹寄に手渡したのは、大きさの違う不透明なシール3枚だけだった。

吹寄が言うとおり、その見た目はどう見ても『前貼り』と『二プレス』である。

「焼きムラ作るの嫌なのよ。ここなら他人の眼を気にせず焼けるし」
「だ、だからって……」

渋る吹寄を尻目に、麦野は躊躇なく服を脱ぎ捨て全裸になると、スイムシールをペタリと乳首と陰部に貼り付けた。

ほとんど全裸で、乳首と股間に申し訳程度のシールを貼り付けているその姿は、

「まんま痴女じゃん…… 麦野さんがそんな変態だったなんて……」
「うるさいわねー、嫌なら別荘で寝てる? 当然、当麻はこっちだけど?」

そう言われると、吹寄は引くことが出来ない。

「き、着るわよッ! 着れば良いんでしょ!!」

ひったくる様にしてスイムシールを奪い取り、そこでハタと途方に暮れる。

(え、ここで脱ぐの…?)

恐る恐る周囲を見渡す。

まだ周囲には、早めに出てきた結標と婚后しかいない。

「早くしないと、剥くわよ」

冷たい瞳の麦野にそう言われ、吹寄は「ぐぬぬ…」とうめき声を上げながら、のろのろとタンクトップを脱ぐ。
寝巻き用のスポーツブラに上着が引っ掛かり、脱いだ反動で、ぶるんッ、と見事に巨乳が縦に揺れた。

(なんだアタシ、こんな所で裸になってるんだろう……?)

深く考えようにも、朝からの怒涛の展開に頭が思うように動いてくれない。

そうこうしている内に、ブラジャーが砂地に落ちて、どでかい巨乳が外気に触れる。

「こ、これ、そのまま貼ればいいの…?」
「ええ、乳首を倒さないように、気持ち軽めにね」

どきどきしながらシールを乳首に当てると、それは驚くほど絶妙のフィット感で乳首を覆い隠してくれた。
同じように、もう片方の乳首にもシールを貼る。

「……着けて無いみたい」
「こんなのでも学園都市製だからね。ほら、早く下も着けなさい」
「わ、わかってます…!」

ここまできたら覚悟を決めるしかない。

吹寄は麦野に背を向けて短パンとショーツを脱ぐと、素早く股間にスイムシールを貼り付けた。

「……そういえばトイレは?」
「粘着しているわけじゃないから、何度でも貼りなおしは可能よ」

ようやく一式を見につけた吹寄を満足そうに見つめると、麦野は強引に吹寄の手を掴んだ。

「さぁ、それじゃこんがり焼きに行くわよッ!」
「ちょ、ちょっと引っ張らないで…ッ!」

燦々と降り注ぐ太陽の下に、半裸の巨乳美女2人が弾けるように踊り出た。
912 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:14:47.07 ID:7bZDIFH3o
「みっちゃん凄い水着ねぇ…」

意外に味気ないワンピースタイプの水着を着た結標が、波打ち際でなぜかポーズを取っている婚后を見て言った。

「おねえさまも、これぐらいご着用になればいいんですわ」
「別に、アタシは露出狂じゃないし」

普段のサラシ姿は棚にあげて結標が言う。

婚后の水着は、いわゆる『スリングショット』と呼ばれる紐状の水着で、
両肩から股間にかけて伸びた紐が、丁度乳首を隠すラインで交叉している。

「公共の海辺では、こういった過激な水着はまさしく目の毒ですが、プライベートビーチならハメを外すのがお約束ですわよ」
「そういうもんかしら…」

(見せるオトコが居ればそういう気分にもなるでしょうけどねぇ…)

結標がそんなことを考えていると、遠くからぎゃあぎゃあ騒ぎながらやってくる人影が見えた。

「あ、先輩、ようやく……」

それが麦野であると認識して、おもわず結標は絶句してしまった。

「うわぁ…」
「ほ、ほらッ! 引かれてるじゃないですかッ!」

強引に連れて来られた吹寄が、両手で身体を隠して叫ぶ。

「堂々としてりゃ恥ずかしくないわよ。女しか居ないんだし」
「で、でも…!」
「あら、みなさま……」

騒ぎに気付いた婚后が、麦野と吹寄の肢体をためつすがめつ眺める。

「……わたくしが申すのもなんですが、中々に下品でいらっしゃいますわね」
「ほら、ほらッ!」
「いや、別に下品で間違ってねーし」

あっけらかんと、麦野はそう言うと、結標に掌大のプレスチック容器を投げ渡した。

「結標ー、サンオイル塗ってちょうだい」
「あら、オトコにさせなくて良いの?」
「昨日、日焼け止めで遊んだからもういいや。アンタはこっちの娘をお願い」

同じ容器を婚后にも投げ渡す。

「ま、ホストにこれぐらいのサービスはしますか…」
「ですわね。さぁさぁ、そちらのデッキチェアに横になって下さいな」

遠慮する暇も無く、吹寄はデッキチェアに仰向けに座らされた。

「あ、そんな焼かなくても…」
「きちんと塗らないと、夏休み中、部屋に閉じこもるハメになりますわよ?」
「うぅ……」

そこまで言われ、渋々吹寄は初対面のお嬢様に身を任せることにした。

無論、このときの判断を、吹寄は強く強く後悔するのであった。
913 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:15:13.86 ID:7bZDIFH3o

***


「しかし、まぁ、おおきなおっぱいですわねぇ…」

塗り始めてすぐに、婚后は吹寄のでっぱいに興味を持った様子で、必要以上にべたべたとその大きな乳房を触り始めた。

「わたくし、それなりに発育は良い方だと自負しておりましたが、これは自信を無くしてしまいそうですわね」
「あ、いや… ども……」

一応、褒められているのだから邪険にはできない。
しかし、サンオイルを塗る手つきがまさぐるような動きであるのは気のせいだろうか。

「サイズはおいくつなんですか? ちなみに、わたくしは84のDですわ」
「えっ、えと… これ言う流れ…? ……92のG」
「……桁が違うとはこのことですわね。なるほどぉ……」

もみもみもみもみ………

サンオイルを塗る、というより完全におっぱいを揉みながら婚后が呟く。

「あ、あの… 婚后さん、でしたっけ… もう、胸はいいですから……」
「あらあら、でもこれが邪魔して全部濡れていませんわ」

悪戯っぽくそう言うと、婚后は吹寄が抵抗する間も与えず胸に着けたニプレスを2つとも剥ぎ取ってしまった。

「ッッ!! ちょッ! 何するのよッ!!」
「だぁってぇ、剥がさないと濡れないでしょう?」
「だからって…」
「ああ、1人だけトップレスはお恥ずかしいですか? それなら…」

婚后が自分のスリングショットの肩紐に手をかけたかと思うと、それを躊躇いもなく外側にずらした。

シュル、と僅かな音がして、婚后の形の良い美乳が露わになった。

「ちょっと…ッ!」
「さぁさぁ、これで恥ずかしがることはありませんわ、折角ですから…」

婚后がサンオイルの容器を自分の身体の上で傾ける。
容器から流れ落ちたオイルが、たらーッ、と婚后の美乳の上に垂れ落ちる。

「わたくしのカラダで、お塗り差し上げますわ♪」
「ひっ…」

ああ、この女も変態であったか…
吹寄はこんな所でレズプレイもどきを受けなければならない、己の運命を呪った。

「不幸だわ……」



914 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:15:48.62 ID:7bZDIFH3o
「おーおー、みっちゃん飛ばしてるなー。止めなくて良いの、先輩?」
「本気で嫌なら抵抗するでしょ」

こちらは、至極まともにサンオイルを塗り合っている麦野と結標である。

「しっかし、92のGって凄いわねぇ。先輩、負けてるんじゃない?」
「負けてるわねー、アタシは90しかないもん」
「よく垂れないわね……」

しばらく、互いに黙々とサンオイルを塗り合い、不意に結標が口を開いた。

「上、再編が進んでいるわよ」
「だろーなぁ、『暗部』の間引きなんて考えるんだ。よっぽど『予算』が足りないんだろ」
「身の振り方を考えておくべきね」
「ここらが潮時なのかねぇ……」

おおよそ塗り終わったのか、麦野がサンオイルの容器を、ポイッ、と投げ捨てる。

「アンタは復学?」
「そのつもり。居候先も決めてあるし。みっちゃんも常盤台への編入が決まったし」
「アタシは復学する歳じゃないし、研究機関に入るにしてもなー」

うーむ、と天を仰いで考える。

「……やっぱり、『アイツ』を探さないと駄目かなぁ…」
「おーおー、修羅場が見れるかもしれないわね、これは」
「うっさい」

麦野が軽く結標の頭をはたく。

「どこで何してんのかしらねぇ… あの白もやしは……」

ぼそり、と麦野は誰にも聞こえないように、口の中だけで呟いた。
915 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:16:23.02 ID:7bZDIFH3o
「ぐす… ひく、ひっく……」
「ふぅ、ごちそうさまでしたわ」

サンオイル塗りという名の拷問が終了し、婚后は満足気に息を吐いた。
その表情は、達成感に満ち満ちている。

「もう… もう… お嫁に行けない…」

一方、吹寄はデッキチェアに仰向けに倒れこんでおり、その顔面は涙と涎で汚され、視線は空ろだ。
どこからどう見ても陵辱後の風体である。

「こーら、みっちゃん、一般人に何してんのよ」
「あら、ほんの少し『お肌の触れ合い』をしただけですわ。わたくしが本気を出したら…」

くい、くい、と中指をいやらしく曲げる。

「今頃は夢の中ですわ」
「あ~あ、涎でべとべと……」

気の毒に思った結標が、タオルで吹寄の顔を整えてやっていると、後ろから聞きなれた男の声が響いた。

「おーい、準備できたぞー」

それまで準備していたのであろう、大人3人は余裕で乗れる巨大なゴムボートを担いで、上条が現れた。

「いやぁ、エアコンプレッサーがあって助かったぜ… って、吹寄、どうしたッ!?」
「………ふぇぇぇん、とうまぁぁぁぁ!!」

ようやく縋れる人間が登場したことで気が緩んだのか、普段では絶対に出さない弱気な声を出して吹寄が上条に抱きついた。

「お、おいッ、なんでお前裸なんだよッ! って、沈利も同じ格好だし…!」

上条の背筋に冷たい汗が流れる。

「あのぅ… 麦野さん… 何か良からぬことを考えていませんか?」
「あら、よく分かるわね」

麦野の顔が、にたぁ、といびつに歪んだ。

「沖、出ましょ」

上条が運んできた巨大なゴムボートを指差して、麦野はにっこりと笑いながら言った。

916 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:17:41.02 ID:7bZDIFH3o

***

「………………ごくり」

目の前の光景を出来るだけ見ないようにして、上条はただひたすら無心にオールを漕ぐ。

上条が運んできたゴムボートは2畳ほどの広さがあり、そのスペースに上条と麦野、そして吹寄が乗り込んでいる。

あの後、すぐに麦野は吹寄と強引にゴムボートに乗り込むと、上条を動力にボートを走らせたのだ。
ちなみに、ゴムボートは浜辺に設置されたアンカーとロープで繋がっており、沖に流される心配はない。

「そっぽ向いてんじゃないわよ、ちゃんとこっち見なさい」
「う… そう言うけどさぁ……」

正面左側に正対するように座った麦野がから声が掛かる。
さらに、反対の右側には吹寄がジト目で座っている。

「…目のやり場に困るってレベルじゃねーぞ」
「見せてんだから、遠慮なく見なさいよ」

左側の麦野がクスクスと笑う。
彼女はほとんど隠れていない肢体を隠そうともせず、ゆったりとくつろぐようにして足を伸ばしている。

「アタシは出来るだけみないでよね、上条当麻……」

反対に吹寄は縮こまるようにして胸と股間を手で隠し、顔も反らして視線も合わせない。

「お前はマジ無理すんなよ… あ、沈利、足が……」
「だって狭いんだもーん」

思いっきり伸ばした麦野の足が、上条の足に覆いかぶさる。

いくら広いとは言っても、成人が3人も乗れば必然的に肌を寄せ合うことになる。
さらに、女性2人は乳首と股間だけ隠したほぼ全裸の格好なのだ。

意識をするとすぐに興奮してしまいそうなシチュエーションである。
917 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:18:11.10 ID:7bZDIFH3o
「……上条当麻、ちゃんと定期的に水を飲みなさいよ。この炎天下でずっと運動してたら、すぐに脱水症状になるんだから」
「ああ、サンキュ… えっと、水はたしか…」

上条がオールを持ったまま周りを見回すと、唐突に麦野が身体を、ぬっ、と上条に寄せてきた。

「手がオールで塞がって飲みにくいでしょ? 飲ませてあげる」

そう言うと、麦野は手元にあったミネラルウォーターのボトルを手に取り、片手で器用にキャップを空けた。

「ああ、わりぃな…?」

しかし、そのまま飲ませてもらえるのかと思いきや、麦野はそのまま自分でボトルに口を付け、ミネラルウォーターを口いっぱいに含んだ。

「あ…」
「ん~~~!」

そのまま抵抗する暇を与えず、上条にキスをして咥内の水を上条の咥内に流し込む。

「な、な、な……!」

いきなり大胆な麦野の行動に、吹寄の顔がワナワナと驚愕に震えた。

「んぅ… ぷぁ…… どーお? 喉潤った?」
「沈利… お前……」

上条は麦野の奇矯な振る舞いに困惑したと言うより、吹寄の目の前で『行動を起こした』ことにある種の覚悟を感じた。

そして、それは吹寄もはっきりと感じたことだった。

「あ、あたしだって……!」

分捕るようにボトルを奪い、ミネラルウォーターを口に含む。

「………………ッ!」

ほんの一瞬だけ躊躇し、ぶつけるようにして上条と口唇を合わせる。
そのまま水を流し込もうとするが、麦野のように上手くできず、口唇の隙間からだらだらとミネラルウォーターが零れた。

「あぅ… ごめん……」

びちゃびちゃに濡れた上条の胸元を見て、思わず吹寄が謝る。

「いいけど… 良いのかよ、お前……」
「…良いわよ、初めて捧げたんだから、キスぐらいどうってことないわよ…!」

後半は麦野を意識してのセリフだった。

この痴女が自分にエロ勝負を仕掛けていることは最早明らかであった。

(アタシだって、カラダで釣ろうとしたことあったんだし、望むところよ……!)

知らない他人に肌を見せるのは嫌だが、上条に見せるのならば何とか耐えられる。

(清楚系女子力ならともかく、カラダネタでは負けないッ!)

密かに気合を入れて覚悟を決める。

だが、悲しいかな、勝負は当然のように吹寄の想定外のレベルまで発展するのであった。
918 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:18:49.35 ID:7bZDIFH3o

***

「ねぇ、もう十分沖に出たから、漕ぐのやめて良いわよ」
「そうか? ふぅ、こりゃ良いトレーニングになったなぁ」

オールをフックに固定して、上条が筋緊張をほぐすように軽く腕を屈伸させる。
筋疲労を確かめるように、上腕2頭筋と腕橈骨筋を肥大させ、見事な力瘤を作ってみせる。

「逞しいわねぇ、素敵!」

スルスル、と麦野が上条の傍に移動して、腕を抱え込むようにして上条に抱きつく。

「この腕で何回も私を守ってくれたのよねぇ… 当麻の身体で好きなパーツといったら、やっぱりココね」

二の腕をおっぱいで挟み込み、手を股間で挟み込む。
必然的に上条の手の甲が、麦野の大事な秘所と接触するが、麦野は意に介さず、どころか強く押し当て始めた。

「……当たってるけど?」
「当ててんの」

チラ、と吹寄を見ると、案の定、あんぐりと口を開けて絶句している。

「おい吹寄、何度も言うが、無理すんなよ」

上条の心から吹寄を思ってのセリフだが、それは火に油である。

「む、無理なんて無いわよッ!」

恐ろしくぎこちない動作で吹寄は上条ににじり寄ると、まるで余裕の無い表情で上条の腕を掴んだ。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」

息を落ち着けようとして失敗し、結局深呼吸を何度も繰り返す。

(……えいっ!)

心の中で気合を居れて、思いっきり上条の腕を抱きかかえる。
半分意図したことだが、上条の手が秘所に触れて、背筋にゾクゾクとした電流が走った。

(うぅ… 触られてる……)

もう吹寄の頭は沸騰寸前だ。
自分の大事な部分を男に触られているということもあるが、それ以上に、

(当麻の腕、本当に逞しい……!)

いつの間にか大人の男となった幼馴染の逞しい腕が、吹寄の乙女心を著しく刺激する。

(この腕でギュッて抱かれたい……)

そうなれば、どんなに幸せだろうか?

上条当麻の体温と匂いを思いっきり堪能して、吹寄制理は次第に何かのスイッチが入っていくのを感じた。
919 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:19:16.31 ID:7bZDIFH3o
スイッチが入り始めたのは上条も同じだった。

(やべぇなぁ… 沈利は完全に吹寄をこっちに引き込むつもりか……)

許婚宣言からこっち、麦野が吹寄のことを強く意識していたのは知っていたし、いずれは何らかの手を打つだろうとは予測していた。

しかし、まさか肉欲の宴に引きずり込むとは思わなかった。

ある意味、麦野の得意分野とはいえ、返って吹寄の自分に対する依存心を上げてしまうのではないかと不安に思う。

(まぁ、そこらへんは、何か計算があるんだろうけど……)

そして、直近に心配することがもう一つ、

(……このシチュエーションで勃たない男が、果たしているでせうか…?)

ほぼ全裸の、自分に対して好意を持っている巨乳美女が2人、身体の両側から大事な部分を押し付けるようにしてサンドイッチしているのである。
肉体的な昂ぶりを我慢できるはずもなかった。

「……ふふ、見事にテント張ったねぇ」

麦野が舌なめずりをして上条の股間を見る。
そこには、トランクスタイプの海パンが見事、山状に盛り上がっていた。

「こ、こら、上条当麻! 貴様、なに興奮してんのよッ!」
「ば…ッ、無茶言うな! こんなん押し付けられて、興奮せんほうがおかしいわ!」

上条と吹寄がぎゃあぎゃあと言い合っているうちに、麦野は遠慮なく手を上条の海パンの中にもぐりこませると、中で固く勃起しているペニスを片手で握った。

「うぉ……」
「ちょ、ちょっとアンタなにしてんのよ!」

上条と吹寄の反応もどこ吹く風で、麦野は、べろん、と上条のペニスを露出させる。
眩しい陽光の下に 、グロテスクに固く怒脹した長大なペニスが顔を見せる。

それを見た女性2人の反応は対照的だった。

「ひっく…!」
「うふ、元気ねぇ。ふぅ~」

吹寄は顔を引き攣らせて硬直し、麦野は頬ずりせんばかりに顔を近づけて息を吹きかけた。

「おい、あんまり陽に当てないでくれ、上条さんの息子が火傷しちまう…」
「あら、それは大変、それじゃあ…」

不意に麦野が上条の下半身にのし掛かると、豊乳で挟み込むように上条のペニスを覆い隠した。

「こうすればいいかにゃー?」
「いや、普通に海パンの中に戻せよ…」
「こんなにビクビク痙攣させて、出さなきゃ元に戻せないだろーが…!」

麦野はそう言うと、なぜかボート内に持ち込まれていたベビーローションを手にとって胸の谷間に垂らした。
920 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:19:44.43 ID:7bZDIFH3o
「パイズリするぞー」

ぬちゃ、ぬちゃ、と豊富な潤滑油と驚異的に柔らかい肉球に上条のペニスが翻弄される。

本来、パイズリは肉体的快楽よりも視覚的満足感が主な性戯であるが、
麦野の圧倒的質感を持つおっぱいと、熟練した性技量により、それは最早肉のオナホールと言えるほどの快楽行為となっていた。

「うぐ… 沈利… 飛ばしすぎ……」

基本的に麦野は腟内射精をせがむ傾向にあるから、こういった『ご奉仕系』の性戯は程々に済ますのが殆どだ。
しかし、今回はライバルが居るせいか、麦野の動きが最初からクライマックスになっている。

「ふふ、ほーら、ガマン汁でてきたぞー、そろそろイッちゃう?」

いつものように上条を言葉で弄りながら、麦野がチラっと横を見る。

視線の先には、明らかに敵愾心に溢れた表情の吹寄が、自分の大きいおっぱいを鷲掴みしていた。

「…あら、何する気?」
「む、胸の大きさじゃ負けないんだからッ!」
「ふーん… それで?」
「半分よこしなさいよッ!」

踊りかかるように吹寄が反対側から上条にのし掛かる。

釣れた、とばかりに麦野が吹寄の分のスペースを空け、4つのおっぱいが上条のペニスを4方向から挟むダブルパイズリの体勢となった。

「……すげぇ眺め」

半臥位となった自分の下半身を見下ろせば、巨乳の恋人と許婚が、競って自分のペニスをおっぱいで擦り合っている。

基本的に謙虚で自己顕示欲が薄い上条だが、このシチュエーションは全世界の男に自慢できるし、自慢したいと思った。

雲ひとつ無い真っ青な空と、燦々と陽光を降り注ぐ太陽を仰ぎ見て、上条は幸せそうに呟いた。

「夏ってサイコー……」
921 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:20:28.42 ID:7bZDIFH3o
「ちょい待ち、それじゃ全然気持ちよくなれないわよ」

しばらく競うようにパイズリを続けていた2人だったが、不意に麦野が動きを止めて吹寄に話しかけた。

「て、適当なこと言うんじゃないわよッ!」
「ばーか、挟む力が全然足りないんだよ。それだと、『擦る』んじゃなくて、ただ『滑って』るだけよ」

麦野はやおら手を伸ばすと、自分のおっぱいを挟んでいる吹寄の手に重ねた。

「これッッッくらい、力入れなきゃダメなんだよッ!!」
「い、いだぁッ!!」

万力のような力でおっぱいを挟みこまれて、吹寄が悲痛な悲鳴を上げた。

「はーい、この状態でこすこす上下に擦る! 細かく、素早くよ」

麦野が強引に吹寄のおっぱいを使って上条のペニスを擦り上げる。

それはまるで、肉のたわしを使ってぶっどい牛蒡を洗っているかのような行為だ。

「パイズリなんてさ、最初は『おおっ』て喜んでくれるけど、慣れちゃったら大したことないプレイなのよ。手コキやフェラの方が全然気持ち良いし」

昨夜から感じていたことだが、麦野はエロテクになると、なぜか教え魔になるようだった。

「こ、こうすれば良いの…?」

麦野のエロ教師オーラに触発されたのか、吹寄が警戒心を残しながらも麦野が言う通りに手とおっぱいを動かし始めた。

「そうそう… ホラ、許婚がせっせと奉仕してんだぞ。言うことあるだろ?」

ピン、とだらけた顔をしている上条の鼻を指で弾く。

「ッ!! あ、うん… き、気持ちいいぜ、吹寄……」
「ほ、本当…?」
「ああ、本当だ…」

上条がそう言ったので、俄然やる気を出した吹寄の動きが激しくなる。

「これ、これ、どう!?」
「うん、良いぜ… そこ、カリんとこが良い…」
「ここね!」

実のところ、上条との初体験が無残な失敗に終わったことに、吹寄は強い負い目を感じていた。

自分がもっと上手くできたら良かったのだと、何度も何度も後悔と反省を繰り返していた。

だから、上条が自分の性戯で喜んでくれるのが、素直に嬉しいのだ。
922 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:20:54.84 ID:7bZDIFH3o
「おやおや、がっついちゃってさー、若いわねー」

吹寄がパイズリに夢中になっている隙に、麦野はこっそりと吹寄の背後に回ると、ローションを手にたっぷりと絡めた。

「上条がイクまで止めるんじゃねーぞぉ……!」

あまり上品でない笑みを浮かべながら、麦野が吹寄の股間を覆う『前貼り』を一気に剥がす。

「…………ッ!?」
「はーい、手を止めない! …悪いようにはしないから安心して」

吹寄を背後から抱きつき、耳元でそう囁く。
ついでに、身体も動けないように甘く拘束する。

「準備シテあげる……」

麦野の手が妖しく蠕き、くちゅり、と吹寄の秘所に遠慮なくもぐりこんだ。

「ひぅ!」
「処女じゃないから、指ぐらいは入れても平気だろ? さぁ、雌穴を開発するぞ…」

麦野の指が、吹寄のヴァギナの浅いところを丁寧に、しかし的確にかき回す。

ちゅくちゅく、とローションの潤滑を上手く使って入り口に集中する快感受容器であるパチニ小体を刺激する。
すると、程なくして吹寄の最奥からどろっとした愛液が分泌され、麦野は指を鉤状にしてそれを掬い取った。

「ん… いい性感してるじゃない……」

確信を得た麦野は、さらにローションを手に垂らして、今度は中指を慎重に吹寄のヴァギナの奥まで突き刺した。

「そ、それ以上は……ッ!」
「ほらほら、おっぱいが止まってるわよッ!」

中指を鉤状に曲げて、膣壁の腹側辺りを丹念に触察する。
ほどなく、

「ふぁッ!」
「お、ここか…」

吹寄の身体がビクンと跳ねるのを見て、麦野は吹寄のGスポットを探り当てたことを確信した。

「そこ… そこ、やぁ……ッ」

吹寄のおっぱいの動きは完全に停止しており、上条のペニスを巨乳で抱きかかえるようにして固まって震えている。

「あらら… あ、当麻、暴れないように押さえといてね。転覆するのやだから」
「……あとでしっかり説明しろよ」

現時点での理解を諦めた上条が、しっかり釘をさしつつも、言われた通りに吹寄を抱きしめる。

「あ… 上条当麻……」
「リラックスしてろ」

吹寄の両手が、本能的に上条に回された途端、腟内に潜る麦野の指が激しく踊り始めた。

「はあっぁぁぁッ!!」

ぐちゃぐちょ、と明らかな淫音が股間から響き、吹寄の性感が一気に高まる。

「1回、イッとくか…?」

Gスポットを中指で嬲りながら、外に出ている親指をスッと伸ばす。
そして、包被に完全に包まれている大き目のクリトリスを探り当てると、麦野は器用に親指だけで包被を、クルリ、と剥いた。

「叫んでいいぞ。周りにゃ誰もいないから」

そっと呟き、麦野は親指の腹で吹寄のクリトリスを優しく押し潰し、同時に中指でGスポットを強めに引っ掻いた。

「あ…………ッ」

これまで感じたことのない快感が、吹寄の全身を駆け巡り、

「ああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあああッッッッ!!!!」

魂消るような悲鳴を周囲に響かせ、吹寄は豪快にイッた。
923 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:21:21.38 ID:7bZDIFH3o
「よし、それじゃ当麻は仰向けに横になりな」

激しい絶頂にぐったりとしている吹寄を両脇から抱えて、麦野が全く疲れのない声で命令する。

「マジ堕とす気だろ…」
「この娘に迷惑はかけないわ、絶対」

麦野が嘘を言う女ではないことはよく分かっている。

それに、吹寄との初体験に負い目があるのは、上条も同じだった。

できれば、吹寄にもしっかり感じて気持ちよくなってもらいたい。

「…これでいいか?」
「おーけぃ、それじゃ、セカンドバージンもらってやれ…」

吹寄の太腿の下に手を差し入れた麦野が、軽々と吹寄の身体を持ち上げた。

そして、天を衝いて怒脹する上条のペニスの先端に吹寄のヴァギナを、ぴた、と接触させると、

「ゆっくり入れるよ…」

ずぶずぶ、と真下から杭を打つように吹寄の肉体にペニスが埋没する。

長大なペニスが半分ぐらいまで埋まって、ようやく吹寄は己の肉体の変化に気付いた。

「はッ! あッ、ちょ、入ってるッッ!?」
「暴れるなよ… もう少しで全部はいるんだから…」

吹寄が喚きだす前に、麦野は完全に吹寄の身体を上条に着地させた。
ペニスが根元まで完全に入り、上条の陰毛が吹寄の下腹部をくすぐる。

「は、入ってる… 上条のペニスが… アタシの…ッ!」

信じられない光景に、吹寄の声が狼狽に震える。

そして、吹寄が驚くのには、もう一つ原因があった。

「い、痛くない……ッ!?」

初体験のときは、あれだけ痛かったペニスの挿入が、今は全然痛くない。
それどころか、胎内にはっきりと感じる上条のペニスの熱が子宮に伝わり、それが仄痒い刺激となって全身に広がっている。

「しっかりと準備してから、そりゃ痛くないわよ。どう、初めて『感じた』当麻のペニスは?」
「え、えと… すごく熱い……」

自然と下腹部に手が伸び、ソコに収められた肉杭を感じようとする。

「これ… これがセックスなんだ……」

呆然と、そして悦楽が混じった声でそう呟く。

子宮の奥から悦びが沸いて出てくる。

上条当麻と、本当に1つになれた。
それが堪らなく嬉しくて、吹寄はそっと涙を流した。
924 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:21:48.24 ID:7bZDIFH3o
「ほらほら、入れるだけで終わっちゃダメでしょ?」

歓喜の余韻に浸っていた吹寄が、その声に、ハッ、と現実に戻った。

「し、しばらくこのままでいいでしょ!」
「だぁめ。後がつかえているんだから、さっさと絞り取りなさい」

キュッ、と麦野が吹寄の乳首を軽く捻り上げる。
大した痛さではないが、麦野の迫力に押されて吹寄が反抗できなくなる。

「で、でもやりかたわかんない……」
「この体位はね、オンナがしっかり動かなきゃダメなのよ」

麦野が吹寄の骨盤を固定するように、腰を左右からしっかりと把持した。

「骨盤体操って知ってる? あれと同じ要領で、骨盤の前傾・後傾を繰り返すの。ほら、こうやって…」

腸骨稜を把持した麦野の手に力が入る。
すると、吹寄の腰が前後に傾き、その動きで腟内のペニスが膣壁に擦られる。

「うく… 締まる…ッ!」
「え… 気持ちいいの?」

吹寄としては、そんなに激しく動いたつもりはない。
だが、それでも上条が悦んでくれたことが子宮に響いた。

「こ、こうかな…?」

今度は自分で腰を動かす。

じゅぷ、じゅぷ、と接合部から淫音が響き、胎内のペニスをはっきりと知覚する。

(なんか、腟内で大きくなってない……?)

意識すればするほど、腟内のペニスの存在感が増す。

そしてそれは、次第に吹寄の新しい性感を呼び起こしていった。

「か、上条… なんか、ヘン……」
「ああ… 吹寄のナカ、どんどん締まってきてる……」

それが女性の絶頂の前触れであると、上条は経験的に知っていた。

チラリ、と麦野に視線を送ると、心得たように麦野ははっきりと頷いた。

「か、かみじょぉ… とうまぁ… あたし… ヘン……」

腰の動きがどんどんと加速する。

悦楽に突き動かされ、さらなる悦楽を得る。

「はぁ… はぁぁ… はぁぁぁッ!!」

深く深く呼気し、一瞬だけ身体を止めて、激しく短く身体を震えさせる。

(あ… くる… きちゃう……ッ!)

予感があっという間に実感となり、視界に桃色の花火が炸裂する。
全身を貫くような快感が子宮を中心に広がり、今度は声を発することもできない絶頂の波が吹寄を襲った。

「―――――ッッッ!!」
「くっ、出すぞ……ッ!」

上条も限界だった。

ただでさえ恋人と許婚のダブルパイズリという全男子羨望のプレイを射精せずに乗り越えたのだ。
もう我慢など出来るはずもない。

「出るッ!!」

どぷっ、どぷッ!!

本日1発目の大量の精液が、初めて吹寄の子宮口に注がれる。

意識はほとんど無いものの、射精の感触は理解したのか、吹寄の腟口が精子を逃すまいとさらに締まる。

「あーーー… あーーーー……」

口の端から涎と、目の端から涙をだらしなく流し、吹寄制理は完全に堕ちきった…
925 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:22:14.71 ID:7bZDIFH3o
***

一方、別荘ではバーベキューの準備が着々と進められていた。

「駒場様、お肉の方はよろしいでしょうか?」
「ああ、仕込みは全部終わったよ。いい肉だな、今から食うのが楽しみだ…」

長身の男2人が台所で小器用に食材の仕込みを行う。

どう見てもカタギに見えない2人だが、不思議と台所に立つと立ち振る舞いがひどく映えた。

「では、私は火元の準備をしてまいりますので、駒場様は外の食料庫からアルコール類と、あとは適当なおつまみを見繕ってきてください」
「わかった…」

駒場がのっそりと移動し、別荘のすぐ近くに建てられた食料庫へと向かう。

「別に保存用の建屋を作るって発想が金持ちだな… 地下は何か問題でもあったのかな…」

ぶつぶつと陰鬱に呟きながら、食料庫のドアを開ける。
ひんやりと調整された冷気が駒場を襲い、一瞬だけ鳥肌が立つ。

「ええと… 酒は…… おぉ、青島ビールがある。癖があるが、たまに飲むにはいいな…」

非常に種類が豊富なアルコール棚から、ワインやリキュール、さらには炭酸水などを選び、持ってきたクーラーボックスに次々と入れていく。

「あとはつまみか… スナック菓子よりかは干し肉系があれば良いな…」

そう言って、駒場が保存食スペースに向いた瞬間、がさり、と大きな音が保存食スペースから響いた。

「…………ねずみか?」

そう呟くが、ここまで金をかけた食料庫にねずみは考えにくい。

「…浜面か?」

歩を進めていくと、視界の端に金色の髪の毛が写った。
てっきり、髪を金髪に染めている悪友が食料をあさりに来たと思ったが、そこにいたのは…

「……誰だお前」

そこには、金髪の少女がグースカいびきをかいて、大の字になって寝ていた。
926 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:22:43.98 ID:7bZDIFH3o
「……使用人じゃねぇよな、おい」

靴のつま先で身長に、しかし遠慮なく頭を、ゴンッ、と蹴る。

駒場の靴は特注の安全靴だ。
恐ろしく固い衝撃を頭頂部に受けた少女は、

「んぎゃッ!!」

と悲鳴をあげて飛び上がった。

「い、いだぁ… く、黒夜ぅ!! お前、なにして……」

そこで仁王立ちしている2m級の大男と目が合う。

「………………はは」
「不法侵入者か?」
「え、あー、えーと……」

少女が目を泳がす。

(…変な格好だな)

駒場が改めて少女を見る。

衣装は改造シスター服とでも言えばいいのだろうか。
一応、黒を基調としたシスター服の上着だが、裾がラッパのように大きく広がっている。
また、袖や裾の寸法は合っているくせに、やけに体幹部の布地に余裕がある。

(ん… シスター… 金髪……)

駒場の脳細胞が、その2つのキーワードを引っ掛ける。
そう、それは昨日聞いたばかりのキーワードで、それを言った辻斬り魔はさらに…

「両手両足が、義肢……ッ!」

そう呟いた瞬間、少女の形相が一瞬で険しいものに変わり、軽く身を縮めたと思ったら、次の瞬間、

「せいッ!」

少女の身体がバネのように跳ね上がり、食料棚を蹴って見事な三角飛びを行う。

「シャァ!!」

そのまま空中で半回転し、不意打ちの角度で駒場に飛び回し蹴りを叩き込んだ。

ありえない角度からの攻撃に、しかし、駒場は慌てず騒がず、

「派手なだけだ」

片手一本で少女の蹴りを受け止めた。

ずしり、少女の体躯からは想像もできない衝撃が駒場の腕に伝わる。

「……マジモンで義足か。ということは、お前が辻斬り女が言ってた、マジュツシとやらか?」

駒場の呟きに少女の表情がさらに険しくなる。

「知ってるんだったら容赦できないよッ!!」

少女が掌を駒場に向ける。

思わず身構えた駒場の目の前で、差し出された掌がありえない動きをした。

変形したのだ。
927 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:23:14.67 ID:7bZDIFH3o
変形はスムーズかつスピーティーに行われた。
5指が手内に格納され、手の平のシャッターが開いて白色の何かが点滅する。

思わず駒場がそれを凝視すると、

「食らいなッ!!」

ピカッッ!!

「ぐぉッ!!」

薄暗い食料庫の中に、まるで小さな太陽が出現したかのような閃光が駒場を襲った。

(スタンフラッシュ!? しまった……ッ!!)

両手をピーカーブースタイルにガードさせ、次の攻撃に備える。
しかし、予想に反して次の攻撃は行われなかった。

ダダダダダダッ、と駒場の耳に少女が走り去る音が聞こえた。

「……逃げたか」

次第に視力が回復すると、駒場は油断無く食料庫の内外を捜索したが、少女の影を見つけることは出来なかった。

「…面倒なことにならなきゃ良いがな」

恐らく、面倒なことになるだろう。
経験則からくるほぼ正確な未来予知を強引に無視して、駒場は改めて食料を物色し始めた。
928 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:23:40.84 ID:7bZDIFH3o

***

「めーでー、めーでぇぇぇぇぇ!!!!」
『うざー、聞こえてるわよ』
「ばれたッ! 不法侵入してるのがばれちまったぁ!」
『アホくさ… 綺麗な別荘と豊富な食料に釣られるからこうなる…』
「無人島の避暑地が『原子崩し(メルトダウナー)』の別荘なんて、誰が考えるかよぉ!!」

『はいはい… えーと、明日の夜まで逃げ切れそうなの?』
「この島、森があるから、積極的に探されない限り大丈夫だと思うけど…」
『追っ手はこちらでは感知してないわよ』
「接触した大男が気になること言ってたの。もしかしたら天草式にばれたかも…」

『自業自得だわな。ボートかっぱらって移動するか、それともアーメン、闇に滅するかだな…』
「ざけんなぁ! 最後まで逃げ切って見せるわッ!」
『……真面目な話、明日の夜までは増援出せないからね』
「……分かってる、なんとか逃げ切ってみせるわよ」

『ま、そうしないと、アンタの『移籍』は認められないからね』
「首を長くして待ってなさい。『天草四郎の遺品』は必ず『学園都市』に持ち帰ってみせるわ……ッ!!」




                                                           続く
929 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/16(土) 00:26:38.11 ID:7bZDIFH3o
はい終わり。

泥縄なだけに今回構成に粗が目立ちますが、まぁ、いつものことなのでご容赦ください。

さて、次回は再びエロから始まります。
というか、けっこうな頻度でエロばっかり。

エロ:バトル:日常を6:3:1ぐらいで書ければよかな…

じゃあの。
次回投下の予定は未定。 
944 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:17:17.40 ID:uIuhSUXdo





「な、腟内… 腟内出されちゃった……」

真夏の海にポツリと浮かぶ淫蕩空間。

とある美人の性豪によって乱交の場に作り変えられてしまったゴムボートでは、
黒髪巨乳の吹寄が、股間から溢れる腟内射精の精液を呆然とした瞳で見ていた。

「こ、子供できちゃう… 上条の子供が…」
「ほら、これ飲む」

横から、にゅ、と麦野がピンク色の錠剤とミネラルウォーターのボトルを差し出した。

「えっと… これは…」
「いいから、さっさと飲みなさい!」

『暗部』の構成員すら怯む迫力で凄まれ、吹寄が訳も分からず錠剤を飲み干す。

「ごく… あの、これまさか…」
「うん、アフターピル。ちょっと生理が重くなる時があるけど、基本的に無害だから安心して」

その言葉に、ホッとしたような残念なような、自分でもよく分からない感情を得る。

「子供、それじゃ……」
「そのうち、機会があるかもしれないから、待っておきなさい」

ジロ、と吹寄が麦野をかなり強い視線で見る。

「……何を考えているんですか?」
「今夜にでも説明するから、安心なさい… さて、」

冷静な『暗部』の眼から、淫乱な毒婦の眼に一瞬で変わる。

「次はアタシよ… 今夜は頑張ってもらうから、1発で勘弁しといてあげる…!」

吹寄の愛液と精液で汚れた上条のペニスを鷲掴みにして、麦野は妖艶に微笑んだ。
945 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:17:59.66 ID:uIuhSUXdo
***

許婚のセックスシーンを眺めるのは苦痛でしかない。

狭いゴムボートの片隅に体育座りして、吹寄は麦野が上条に跨って嬌声を上げる姿をジッと見ていた。

「あぅ… いいよぉ、とうまぁ… とうまのおちんちんが、私の腟内をごりごり擦ってるぅ……!」

もちろん、この2人に肉体関係は想像していたし、それなりの覚悟はしていた。

しかし、実際に生々しい交合を見ると、凄まじい敗北感とやるせない焦燥感が吹寄を襲う。

「ねーぇ、吹寄ちゃんと比べてマンコの具合はどう? どっちの締まりが良かった?」

イジワルな笑顔を吹寄に向けて、麦野が爆弾発言をする。

その言葉に、吹寄の表情が見る見るうちに青ざめる。

(そ、そんなの比べられたら…!)

どう考えても自分の負けだろう。
悔しいけれど、セックスでこの淫売女に敵うとは思えない。

「えっと… それは流石に…」
「言えよ。つーか、答えは分かってるんだから、安心していーぞ」

妙に優しい(麦野にしては)口調で言う。

「うん… じゃあ……」

上条が吹寄を横目に見て話し始める。

吹寄は勿論聞きたくなくて耳を塞ごうとするが、身体がちっとも動いてくれない。

しかし、上条の答えはまったく予想外なものだった。

「まぁ、そりゃ吹寄だよな…」
「え……?」

吹寄が驚いて目を丸くする。

「あは、そりゃそうよね。…ん、なに変な顔してんの?」

予想通りの答えだったのか、麦野が笑いながら答えて吹寄を見た。

「だ、だって… すごい腰動いてるし… 上条、気持ち良さそうだし…」
「アンタはほぼ未使用のキツマン、私はヤリまくりのガバマンよ? ま、緩くならないようにきちんと訓練してるし、実際緩いとは思わないけどね」

言いながら、麦野は器用に繋がったまま上条の身体の上で、クルッ、と1回転し、対面騎乗位から背面騎乗位に体位を変更した。

「でも、処女の締め付けには敵わないし、アンタみたいな初々しさも無い」

それまで閉じていた両脚を開脚し、内腿を突っ張らせる。
肛門括約筋が自然に収縮し、それに伴い膣が、キュ、と締まる。

「だから、こういう小技に頼ることになるんだよ。おら、ちんぽをごしごし擦るぞぉ…!」

中腰の姿勢で小刻みに腰を前後に動かす。

「ぐっ… やばッ…」
「コッチの方向からの刺激は馴れてないだろッ!!」

キス魔の麦野とセックスをするときは、騎乗であっても基本的に正対している。

そこから180°反対に向きを変えただけで締め付けが劇的に変化した。

「いつもと違うトコが擦られて…ッ!!」
「ココ? …うん、アタシも凄く気持ちいいよ…」

豊乳弾むほど麦野が艶体を揺らす。

その習熟した腰さばきと、男のために尽くすある意味健気で一所懸命な姿を、吹寄は知らず息を飲んで見守り始めていた。
946 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:18:27.75 ID:uIuhSUXdo
***


そして時間が流れて太陽が頂点に昇った正午。

体液でべたべたになった身体を綺麗にシャワーで洗い流し、緩めのワンピースを1枚着ただけの麦野は、
やけに渋い顔をした駒場と、申し訳なさそうな表情の山岡から奇妙な報告を受けることになった。

「はぁ、不法侵入者?」
「は、さようで… 駒場様が遭遇したとのことです」

麦野が面倒そうに駒場を向く。

「どんなの?」
「話すと長くなんだが……」

そう前置きして、駒場は昨日邂逅した姫戸との戦闘から、その追う相手であろう金髪のサイボーグシスターのことまでを詳細に説明した。

「すぐ言うべきだったが、口止めされていたこともあって報告が遅れた。すまん」

淡々と話す駒場だが、麦野の気性を知るアイテムの面々―特にフレンダ―は気が気ではない。

『超なんでそのまま言うんですかッ!? もっとオブラートにくるむべきでしょう!』ヒソヒソ
『結局、利徳に腹芸は無理って訳よッ!!』

と、そんなアイテムのロリ担当の心配とは裏腹に、麦野は手をひらひらと振って「まかせた」とそっけなく答えた。

「面倒事はあんたらに任せたわ。警察に言うにしろ、森狩りをするにしろ、山岡を使ってあんたらで解決しなさい」
「……俺はかまわんが、いいのか?」
「いーのよ、アタシは今日からやること沢山あるんだから…!」

そう言って、まだ顔が赤い吹寄を舐め回す様に見る。
別荘で借りたTシャツ、ホットパンツ姿の吹寄がビクリと震えた。

ちなみに、麦野・吹寄ともに、まだスイムシールを着けているのでノーブラ・ノーパンである。

「しかし、相手は戦闘力を持っているし、物騒な追っても居る。もし遭遇したら危険が…」
「あぁ?」

麦野の顔がわずかに歪んだ。

「危険が、な・ん・だ・っ・て?」
「……すまん、失言だった」

ここでようやく駒場は、目の前の美女が泣く子も黙るLevel5、『原子崩し(メルトダウナー)』であることを思い出した。

「もし、その不審者が私の前に現れたら…」

軽く前方――海に掌を向ける。

「近未来風の面白オブジェにしてやるよ…ッ!!」

ごう!! と麦野の掌から『原子崩し(メルトダウナー)』が照射され、海面を光速で走る。

瞬間的に熱せられた海水があっという間に蒸発し、小規模な水蒸気爆発をいくつも起こした。

麦野のそのパフォーマンスに、心得た面々は「おお」「やっぱすげぇな…」など感嘆の声を上げた。

ただ1人、吹寄制利だけは、初めて目にする圧倒的な超能力に、口を開けて呆然としていた。

947 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:18:55.38 ID:uIuhSUXdo
ほぼ同時刻。某所。

一見して何の変哲も無い民家では、暗い表情をした姫戸と対馬が黙々と出撃の準備をしていた。

「…移動手段は?」
「幸いなことに『道』が通っとりました。『縮図巡礼』が使えます」

昨晩、対馬が仕掛けた『式髪』の反応から、2人は駒場が自分たちの存在を第三者に話したことを感知していた。

「…………」
「…………」

2人とも黙々と荷造りを進める。

魔術師の常識として、自らの存在を知ったもの、ましてや、それを第三者に語った者は速やかに口止めを行わなければならない。

しかし、2人が所属する天草式十字凄教は、『弱き者を助ける』ことを主是とした集団である。
さらに、事の原因が単純な姫戸の『勘違い』であることを考えると、その動きはどうしても鈍くなった。

「……よし、行くぞ」
「はい、姉さん……」

重い足取りで戸口を空け外に出る。

途端に、潮の匂いをはこぶそよ風が2人を包み、眼下に広がる大海原に反射した陽光が眩しく煌いた。

その光のなか、

「……ん?」

遥か前方。

恐らくは常人では知覚することが出来ないほど遥か彼方で、太陽の光とは違う、異なる光が煌いたのを2人は視認した。

大半の人間が見過ごしたであろうその煌きは、しかし、天草式十字凄教の魔術師である2人には『意味のある煌き』であった。

「あの光… 姉さん、もしかすっと…」
「ああ… ひょっとすると、『御柱』か…ッ!?」

常人には理解できない驚きとともに、2人から剣呑な雰囲気が滲み出てきた。

「そこに居やがったか破戒尼め…」
「あの方角は、問題の島か… よかったな、姫戸」

対馬が視線を反らさずに姫戸の方に手を置く。
        ・ ・ ・ ・
「思う存分、なで斬りにできるぞ」
「はい、関係者ならば容赦せんです」
「標的が居るのならば、もう少し準備を整えよう」

クルリと踵を返して対馬が戸口から戻る。

対して、姫戸はしばらく海の彼方を凝視して、そしてポツリと呟いた。

「『prehendere714(執拗に追い縋る猟犬)』、忘るんなよ」

そして姫戸も戸口に入る。

こうして、魔術師たちは決定的な間違いを犯したまま、静かにそのボルテージを高めていった……
948 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:19:22.72 ID:uIuhSUXdo
さらに同時刻。某森の中。

「リタイヤして良い?」
『ざけんな。つーか、リタイヤしたらお前は人生もリタイヤだろうが』

鬱蒼と茂る森の中、大木の陰に木と同化するように隠れた金髪シスターが脳内に言葉を作った。

「アレ無理、つーか、無理。何よあの出力… 3発森にぶち込まれたら、それでウチはお陀仏だよ…ッ!」

不法侵入がばれた彼女は、捜索が来ないかビクビクしながら麦野一行を遠方より監視していたのだ。

そして、海面をなぎ払う麦野の一撃を、戦慄とともに凝視してしまったのだ。

『まぁなんだ、生き残れ。今言えるのはそれくらいだ』
「ぐ… いざとなったら、これの使用も止むを得んのか……?」

金髪シスターが懐からスルリと一本の杖を取り出す。

それは、何の変哲も無い、鉄の木で出来た1mほどの杖であった。

「死ぬより酷い目に合いそうだが… 背に腹は代えられんし…」

あまり確固としない決意の光を瞳に宿し、金髪シスターは、グッ、と拳に力を入れた。

「……ところで、回収が一日早くなったりしない?」
『するか、ボケ』


949 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:19:50.95 ID:uIuhSUXdo
***


「さて、どうするかな…」

昼食のバーベキュー後、問題を丸投げされた駒場は、山岡を相手に善後策を考えていた。

「こちらで人を集めて、山狩りをすることは出来ますが、あまりおおっぴらに騒ぐとお嬢様の気分を害する恐れがあります」

山岡が相変わらず抑揚の無い口調で言う。
炎天下の下、他の皆は軽装なのに、スーツを一分の隙も無く着こなしている彼は汗1つかいていない。

「そうすると、とっとと俺たちで見つけ出して、ふんじばって警察に突き出すのが一番良いか…」
「駒場様。お嬢様はああ仰いましたが、ゲストの方の手を煩わせるわけには参りません。ここは私にお任せください」

かなり迫力のある山岡のセリフであるが、駒場はゆっくりと首を振った。

「いや、この件に関してはどうにも因縁を感じます。どうあっても俺は巻き込まれる気がするんですよ」
「ふむ、因縁ですか…」
「勘、と言ってもいいですがね。ここで自分で対処しておかないと、後で面倒なことになる…」

駒場が少しだけ遠い目をして言った。

「そう思うんですよ」
「…なるほど」

駒場の言葉に何か感じるものがあったのか、山岡が深く頷いた。

「駒場様がそう仰るのならそうでしょう。では、駒場様と私とで捜索は行いましょう」
「ああ、浜面は恋人にかかりきりだし、上条はあの娘と一緒に麦野に連れて行かれちまったからな…」

連れて行かれた先で何が行われているのかは、あまり想像したくない。
それは、麦野たちが向かった先は『地下室』であったからだ。

「お嬢様が『お篭り』になられたら、半日は出ていらっしゃらないでしょうな」
「…麦野さんは昔からああで?」
「昔からああですな」
「…そうですか」

あまり想像したくない嫌なイメージを振り払うように、駒場は軽く頭を振った後、「準備してきます」と自分の部屋へ向かった。


950 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:20:36.49 ID:uIuhSUXdo
***


「それでは参りましょう」
「…はい」
「超了解しました」
「了解って訳よ」

山岡が促すと、駒場と、そして絹旗とフレンダが気負い無く返事をした。

ロリっ娘2人は強引に探索に参加してきた。
危険を理由に駒場は参加を断りたかったが、バリバリの武闘派『暗部』である2人を、危険を理由に断ることはできなかった。

「まぁ、よろしいでしょう。駒場様が言う通りやっかいな能力を持っているのなら、御2人の力が必要になるかもしれません」

そう山岡が了承したので、渋々ながらも駒場は頷くしかなかった。

別荘裏手に広がる『森』は、いわゆる自然林ではなくそれなりに人の手が入っている森らしく、あちらこちらの木に指標となる目印が刻まれていた。

「もし迷ったらこの目印に従ってください。同じ色を辿って行けば森を抜けられる仕組みになっております」
「ああ、了解だ」

それから一行は慎重に進みながら探索を行った。

しかし、30分ほど探索を行っても、金髪シスターもその痕跡も見つけることができなかった。

「……もうココには居ないのかな?」
「さて、しかし隠れるとしたらこの森以外にはありませんからな。どうでしょう、ここは二手に分かれてみては?」

そう提案され、駒場は「うーむ…」と唸りながら考え始めた。

「…相手は移動しているだろうし、確かにそれがいいかもしれん。二手に分かれよう」

駒場がチラリと絹旗を見る。
すると、絹旗は「分かっている」と言う風に倍ほどに背丈のある山岡の腕に絡んだ。

「超了解です。私は山岡さんと行動すれば良いんでしょう?」
「頼む、フレンダの面倒は俺が見るから」
「ちょっとちょっと、何でアタシが面倒を見られる訳!?」

ぎゃあぎゃあ騒ぐフレンダを軽く無視して、駒場がやや強引にフレンダと手を継ぐ。

「お…」
「時計を合わせよう。集合はきっかり1時間後、連絡は無線で」
「かしこまりました、では私どもはここから西側を担当しましょう。それでは駒場様お気をつけて…」

老執事は悠然と一礼すると、まとわりつく孫にしか見えない絹旗と一緒に森の中へ消えていった。

「…よし、俺たちは東側だ」
「ねーぇ、もしターゲットがココに居ると知ったら、あの通り魔たちもココに来るんじゃないの?」
「…可能性はあるな。その時は案内してやろう」
951 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:21:08.02 ID:uIuhSUXdo
***


(げぇ、二手に分かれやがった……)

4人の後方きっかり20mの位置から、金髪のサイボーグシスターは表情を隠す事なくはっきりと歪ませた。

一行が探索を始めて、すぐにそれを察知した彼女は、一行の後方を着かず離れず追跡することで自身を隠していたのだが、
二手に分かれられてはそれも使えなくなる。

「…てゆーか、あのじい様はウチのこと気付いているんじゃないの…?」

隠れ鬼ごっこの最中、老執事山岡は、時折鋭い眼光を後方に向けていた。

目が合うことはなかったが、それがやけに意思を持った光に思えるのだ。

「さて、どちらを重視するか…」

しばらく沈思黙考して、彼女は妥当な選択を下した。

「どう考えても、この島の管理人っぽいじい様が重要よね。あっちにしよう」

そう小声で呟くと、彼女は音も無く統べるように山岡・絹旗の後を追い始めた…
952 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:21:42.67 ID:uIuhSUXdo
しかし、回り込まれてしまった。

「はぁ!?」
「おーおー、駒場さんが言った通りの超金髪シスターですねぇ…」

金髪シスターが山岡をロックオンして尾行を開始してきっかり5分後。

山岡に注目していた金髪シスターは、いつのまにか背後に接近していた絹旗にあっさりと拘束されていた。

「え… もしかして、ウチ、釣られた…?」
「まぁ、超そういうことです」

凄まじいことに、山岡は森に入った瞬間に金髪シスターを知覚していた。
しかし、拘束するには距離があり、また、彼女の油断を誘うためにあえて探索する振りを続けていたのだ。

「絹旗様、どこに面妖な仕掛けがあるかわかりません。ご注意を」

音を立てずに近づいた山岡が釘を刺す。
その静かな迫力に、こっそり動かしていた金髪シスターの手が止まる。

「あー、大丈夫です。コイツの事は知りませんが、コイツの手札は超知っていますから」

絹旗の言葉に金髪シスターがぎょっとした顔つきになる。

「それ、『木原印』の義肢でしょう? 一時期『暗部』の間で話題になりましたし、実際にそれを装備した『暗部』と戦闘をしたこともあります」

言いながら、絹旗は懐から短い警棒のようなスタン・バトンを取り出し、金髪シスターに当てた。

「義肢は脳波によって超コントロールされていますから、こうやって意識を落としてしまえば超無力化できる訳です」

バチッ!! という短い炸裂音と共に火花が散り、金髪シスターの身体から力が失われる。

「はい、超捕獲完了です。山岡さん、駒場さんに連絡をお願いします」
「かしこまりました」

頷いた山岡が携帯無線を耳に当てる。
しかし、数十秒経っても相手からの応答は無かった。

「……妙ですな、この森は特に危険な動物はいませんが、何かトラブルでしょうか?」
「どうせ、フレンダがこれ幸いにと超じゃれついてるんでしょう。とりあえず、私たちは超別荘に戻りましょう」

あっさりとそう結論付けて、絹旗は金髪シスターを軽々と片手で持ち上げた。
953 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:22:13.85 ID:uIuhSUXdo
***


確かに危険な動物は居なかった。

しかし、駒場とフレンダはよほど危険なモノと遭遇していた。

「…また会ったな」

駒場がなんとも『扱いに困る』といった声で言った。

「しかし、どうやってこの島に来たんだ? 船が近づいた気配は無かったが……」

そこに居たのは、昨日遭遇したふわふわ金髪と脚線美が特徴の女性、対馬と、

「………………」

問答無用で斬りかかった日本刀少女、姫戸であった。

「……ちょっと利徳、雰囲気違う…」

フレンダが若干緊張した表情で駒場の袖を引っ張る。
そして、それは百戦錬磨の戦士である駒場も強烈に感じていたことだった。

この2人は既に戦闘準備を整えている、と。

「…昨日はけっこう喋ってくれてたと思うんだがな。今日はマジュツシ的に喋らない日なのか?」

彼にしては饒舌に話しながら、駒場はゆっくりと重心を後方に落とし、チラっとフレンダに目線を送った。

その瞳には、心配ではなく信頼の光が宿っており、そして、フレンダはその瞳に対してコクリと頷いた。

「…さて、あんたらに話すことがあるんだが」
「今は話さんで、よかです」

突然、姫戸の右手に、昨日も見た日本刀が現れる。

「死なない程度にぶった斬ってから、話ば聞きます」

セリフの終わりと共に白刃が煌いた。

954 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:22:41.62 ID:uIuhSUXdo
「フレンダッ!! 奥の女を押さえておけッ!!」

振りぬかれた日本刀の一撃をかわしながら駒場が叫ぶ。

「了解って訳よッ! ふわふわ金髪は任されたわけよッ!」

お荷物ではなく戦力に数えられたことが嬉しくて、フレンダが笑顔で木々の間に消える。

こういう遮蔽物が多い戦闘空間は彼女の十八番とするところだ。

「……ッ? どういうつもり?」

相手をすると言いながら消えたフレンダを不審に思いながら、対馬は己の武器である細剣(レイピア)を構えた。
その瞬間、

バスッ! ズズズズズ……ッ!!

爆発音の後に、対馬が立つ場所に向かって、一抱え程の大木が根元から断ち曲がり倒れてきた。

「なッ…!?」

慌てて大木を避けると、避けた位置目掛けて、今度は拳大の石つぶてが一直線に飛んできた。

「くッ!!」

細剣を巧みに操って石つぶてを弾く。

(開けた場所に居ると狙い撃ちにされるだけ…ッ!?)

突然、狩られる側になった対馬が身を低くして目についた大木の陰に隠れる。

そうして、ホッと一息を吐いた瞬間、

「………マジ?」

目の前に棒状の爆薬が突き刺さったスイカが置かれていた。
火花を散らす導火線があっという間に本体に到達し、

パァァァァァァンッッ!!

大音声と共にスイカが破裂し、果肉と固い種が対馬に襲い掛かった。

955 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:23:08.06 ID:uIuhSUXdo
「ッ! 対馬さんッ!!」
「おい、お前の相手は俺だろ?」

その声にビクッと反応した姫戸が慌ててしゃがむと、頭上を駒場の放った横蹴りが唸りを立てて通り過ぎていった。

その『重さ』と『速さ』に背筋がゾクッとする。

「昨日は素足で不覚を取った。だが、今日は違うぞ」

今の駒場の服装は革ジャケットに黒のチノパン、そして一際目を引くのは脛まで覆うごつい安全靴だ。

「あんまり手加減は得意じゃないんだ。急所はそっちで外してくれ」

しゃがんだ姫戸に対して、今度は重いローキックが放たれる。

「ぢゃッ!」

バネ仕掛けの人形のように姫戸の身体が跳ね上がり、そのままクルリと後方にトンボを切って着地する。

「……驚きました」
「そうか」

姫戸の感想にそっけない返事を返し、駒場は軽く腰を落とす。

「こッ!」

瞬間、2mの大男が宙に舞った。

装備含めて100kg以上の巨体が幅跳び選手もかくやという跳躍を見せ、両足でのドロップキックが姫戸を襲う。

「ひっ!」

恥も外聞も無く、無様に身を投げ出すようにして迫り来る質量の暴力を避ける。

目標を失った駒場の両足は、たまたまそこにあった大木の切り株に激突し、

めきょッ!!

あまり聞きたく無い木材が裂け軋む音がして、切り株は大きく裂けて千切れ飛んだ。

「ば、化けモンか……」

ほとんど無意識に大きく駒場から距離を取って姫戸が呟く。

ゆらり、と立ち上がって体勢を整えた駒場は、コピー用紙を吐き出すような陰鬱な口調で言った。

「…1つ、言っておくことがあるが、俺は結構腹を立てているんだ」

大きく一歩、姫戸に向かって足を踏み出す。

「お前が俺を『叩き斬る』と言ったときの眼だ。あれは、能力者が無能力者を狩るときの眼によく似ていた」

またも一歩踏み出す。
姫戸は金縛りにあったように動けない。

「お前がどういうつもりなのかは知らんが、狩られる側が抵抗するとは考えなかったのか?」

双方の攻撃の間合いに入る。

「肝に銘じろ、俺は『武装無能力者集団(スキルアウト)』のリーダー、駒場利徳だ……」
956 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:24:46.84 ID:uIuhSUXdo
「クソッ、ちょこまかと…ッ!!」

全身をスイカの果肉で紅く染めて、対馬は逃げるフレンダを一直線に追っていた。

天草式の魔術師として、対馬は他教徒の魔術師より戦闘能力や体力で秀でている自信がある。

しかし、こちらをおちょくるように先行する金髪ロリは息を切らせる様子も無い。

「…またかッ!」

対馬の走る進行方向に、おそらくは植物の蔦で張られたのであろう、スネアトラップが膝の高さに張られている。

これで都合6回。
初見は感知できずに見事に転倒してしまった。

「いったい、いつの間に仕掛けているのよ…」

これまでのように、細剣で蔦を両断する。

また駆け出そうとして、

「……舐めてんのかッ!」

さらにもう一本、ほとんど同じ高さに蔦が張られていた。

「もう引っ掛からないわよッ!」

再度、細剣が光り、蔦が切断される。

その瞬間、ビィィィン!!という音が響き渡り、対馬は右足に何か強固なモノが巻きつく感触を得た。

「……え?」

それは蔦ではなく、無色のテグスと木々のしなりを利用して作られたマタギトラップであった。

巧妙に隠され、計算された透明な糸の輪っかが足首に絡み、猛烈な勢いで対馬の足を外方に引っ張った。

「きゃッ!!」

対馬の身体が、足払いをかけられたかのように側方から地面に叩きつけられる。

吊り下げられるまでの高さは無かったが、それでもまるでポルノダンサーがステージで行うような開脚位を強制的にやる破目になる。

「こ、このぉぉ!!」

女性的な恥ずかしさと、まんまと罠に掛かってしまった屈辱感に対馬の顔が赤く染まる。

テグスを断ち切ろうと細剣を振り回そうとするが、手首になにか重たいものが乗っていて自由に腕を動かすことが出来ない。

ハッとして頭上を見上げると、手首に足を乗せてニヤニヤと笑っている金髪が目に入った。

「結局、これで終わりな訳」

勝ち誇るフレンダを見上げて、対馬は己の敗北と油断を痛感した。
957 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:25:27.23 ID:uIuhSUXdo
「はぁ、はぁ、はぁ…ッ!」

鉛でも入ったかのように手足が重い。

ブゥンッ!!

「あぅッ!!」

鉄塊のような足が己の身体を掠める。

(この男、昨日とはまるで違う…ッ!)

大太刀を握る両手に、じわりと冷たい汗が滲み出る。

姫戸は自分が強いとは、その一生において一度たりとも思ったことは無い。

だが、それは天草式十字凄教という異能者集団の中に限ってのことだ。

いくら2mを超えようかという筋骨隆々の大男でも、『一般人』であるなのならば圧倒できると強く信じていた。

「ふッ!」

斜めにかしいだ体勢を利用して、大太刀を逆袈裟に振り上げる。

鋭く速いその一撃は、しかし、

「よっ、と…」

駒場の見事なスウェイバックで避けられてしまう。

(『隠し刃』は効いているはずだぞ…ッ!?)

長さ3尺3寸の大太刀だが、『振るう瞬間』は駒場には見えていないはずだ。

『隠し刃』。
隠れキリシタンが秀吉の刀狩りから逃れるため、刃を隠し、柄のみを納刀して献上した伝説をモチーフにした創作魔術である。

この魔術が発動すれば、一瞬だが刃のみが相手の『意識の外』へ反らされ、あたかも消えたような錯覚をもたらす。

所詮は小手先の幻覚ではあるが、姫戸の剣技と合わされば抜群の戦闘力を誇る戦法であった。
958 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:25:54.63 ID:uIuhSUXdo
「一晩あったからな。色々考えた…」

駒場がぽつぽつと話す。

「結局、タネは分からんかったが、思い至ったのは、そもそも『見て避ける』ようでは最初から話しにならんということだ」

ぐるり、と駒場の身体が半回転して強烈な後ろ回し蹴りが姫戸に炸裂する。
                                           イキ
両手を交叉させてなんとかガードしたが、予想以上に重い重い一撃に呼吸がつまる。

「ごほッ!」
「長モノの間合いは身体に叩き込んでいる。後はそれを実行するだけだ」
「ぐッ…… せからしかぁッ!!」

無酸素状態の肉体を強引に動かして片手突きを放つ。
正中を狙ったその一撃は体捌きだけでかわせるものではない。

(この距離なら、取ったばいッ!!)

だがしかし、必殺の突きは駒場の身体に到達するよりも早く、

ぎぃんッ!!
                   ・ ・ ・ ・ ・ .・ ・ ・ .・ ・ ・ .・ ・ ・
駒場が、ひょい、と持ち上げた足の靴底で受け止められていた。

「な、なんで斬れんとッ!?」
「言っても分からんかもしれんが、ふまず芯や月形芯なんかに超硬度タングステン合金を仕込んである」

その重量、片足だけでも15kg。
まず普通の人間では履いて歩くことすら不可能な『安全靴』である。

「ば、馬鹿にしてッ!」

カッとなった姫戸が、横薙ぎ、袈裟、下段突き、逆袈裟と連撃を繰り出すが、その悉くが回避、もしくは『安全靴』で防御される。

「く、そぉ……!」
「格付けは終わりだ」

駒場が姫戸の足元目掛けてローキックを放つ。
食らうまいと姫戸は駒場の蹴りを凝視して寸前で見切ろうとし、

「……ぎゃん!!」

天空より打ち下ろされた駒場の拳に脳天を強打され、姫戸は意識を失った。
959 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:26:22.88 ID:uIuhSUXdo
***

気絶した姫戸を拘束して肩に担いだ駒場がフレンダと合流すると、フレンダも捕獲した対馬を拘束し終わったところだった。

「ひ、姫戸ッ!」
「安心しろ、気絶してるだけだよ」

後ろ手に縛られ座り込んでいる対馬の横に、気絶した姫戸を丁寧に置いて座らせる。

「貴方たち、何者なのよ…ッ?」
「いや、結局、ソレって私らが言うセリフな訳だし…」

フレンダがウンザリした口調で話す。

「始めに言っておくが、俺たちはお前らが追う金髪シスターとは完全に無関係だ」
「そんな誤魔化しが通じるとでもッ?」
「通じるも何も事実だ、現に…」

そこで、駒場は腰に下げた無線機から呼び出し音が響いているのに気付き、無線機を耳に当てた。

「はい、山岡さんですか…? はい、はい… そうですか、こちらもその獲物を追ってきたハンターを仕留めました。連れて来ます」

「今、俺たちの仲間が金髪シスターを捕獲したそうだ」
「え、嘘…?」
「本当だ、とりあえず、縛ったままだが別荘で対面してもらうぞ」

そう言って、わずかに抵抗する対馬と気絶している姫戸を軽々と肩に担ぐ。

「そこで洗いざらい全部話してもらうからな」

(これで面倒事にケリが付けばいいがな……)

内心感じていたストレスがほどけ始めるのを感じ、駒場は心の中でそっと溜め息を吐いた。

960 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:26:52.19 ID:uIuhSUXdo
***

一方その頃、別荘の地下室。

「なに、ここ……?」

半ば強引に連れて来られた吹寄が驚いた声を上げる。

『大事な話がある』と、麦野と上条と足を踏み入れた『地下室』は、100畳ほどの広い空間であった。
そこに、キングサイズのベッドやトレーニング機器、明らかに業務用だと分かるエステ機器など、様々な家具・機械が機能的に配置されていた。

「簡単に言うと、私の『私室』だよ。『学園都市』のマンションにゃ置けないデカブツなんかは、ココに置くようにしているの」

そう言って、どデカイ冷蔵庫から缶チューハイをいくつか取り出してテーブルに置き、近くの椅子に座る。

「当麻も吹寄ちゃんも座りなさい。今から『お話し合い』するから」

チラ、と上条と吹寄が互いに目線を合わせ、どことなくぎこちない動作で椅子に座った。

「…話合いって、なんの?」

上条がある程度予想は付いた質問をすると、麦野は上条にとって予想通りな、そして吹寄にとっては予想外な答えを口にした。

「そりゃ当然、『上条当麻』を2人の女でどうやってシェアしていくかの相談に決まってるでしょ?」









                                                                      -続く-


961 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/23(土) 12:30:03.90 ID:uIuhSUXdo
はい終わり。

次スレは次回投下で。

次回はがっつり吹寄のエロ回予定。
デコすりは流石にギャグにしかないからでこ射ぐらいで許してくれ。

では、次回の予定は未定。 
978 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/31(日) 20:42:22.85 ID:AlTrbfPQo

つーか、埋めネタで登場人物紹介しようとしてたから、次の投下は新スレでやります。
ちょっと吹っ切れたので、火曜か水曜、もしかしたら月曜に投下できるかもかも。

と言うわけで、埋めネタやります。 
979 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/31(日) 20:54:39.76 ID:AlTrbfPQo
           /: : : : : : : : : : : : : : :..ヽ: : : : : : : : : :\
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       /: : /: ∧: : : : : : \: : : : : : |: : : : : : : : : :l: : : |
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        }: : :l:.l 弋zリ    ´^「た卞 |: : : :./: : : |: : : /: : :\
       Ⅵ八ハ  ´     弋沙'´ |: : :./: : : : |:.:.: :}: : : l: :\
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         }:圦            |: /: : : : : 八:.:. |: : /: : ヽ:..: ::ハ
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【麦野沈利】

本スレのメインヒロイン。
>>1が今一番お気に入りのキャラクター。
次点はモバマスの川島さん、雌豹、東方の風見幽香、つまりは綺麗で巨乳なお姉さん。

原作よりも戦闘狂な面がマイルドに、その分エロ度がメーター振り切れてます。
その豊富な性技は別に誰かに仕込まれたわけではなく、非常にたくさんの男と関係を持ち、遊びまくった結果です。
うちの麦のんマジビッチ。

実は明確な年齢設定があり、19歳です。
上条さんは原作通り15~6歳なので、本気で年上のおねーさん。

週に3回エステに通い、週に2回ジム通い、さらに週に1回秘密のお店でとある部分をエステしてます。
3サイズは90(E)・59・88ぐらいかな? 適当ですけど。

超電磁砲2期での活躍に今から期待しています。



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980 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/31(日) 21:00:36.15 ID:AlTrbfPQo
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【上条当麻】


>>1の勘違いにより左手に幻想殺しを持つハメになった上条さん。
ボクシングさせたのは、直前まではじめの一歩とホーリーランドを読んでいたからです。
今だったら、オールラウンダーになっていることでしょう。

原作の上条さんとの一番の相違点は『性欲』です。
うちの上条さんは据え膳は必ず食べます。
節操ないわけではなく、普通の高校一年生なら我慢できるはずもないでしょうから。
しかも、それが好みのドストライクである「綺麗なお姉さん」なら尚更です。

彼の戦闘シーンは『いかに幻想殺しをタイミングよく使うか』が難しく、非常に書きにくいです。
ばれたら終わりだしねぇ… これ1つで20巻以上も本が書ける神様は本当に凄いと思います。




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985 :第4話「海編」 ◆yEFBo3BAb.[saga]:2013/03/31(日) 21:05:02.93 ID:AlTrbfPQo
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【御坂美琴】


初めに断っておきますが、>>1は彼女のことが嫌いではありません。

というか、禁書がまだアニメ化もされていない原作3巻が出た頃から、ツンデレキャラとして色々な所でプッシュしてきました。
新約で行間ヒロインから脱却できて嬉しい限りです。

ただ、本スレでは麦のんメインヒロインですので、今回は汚れ役になって頂きました。
黒子との百合展開は半分流れですが、今はやってよかったと思っています。

本スレ再登場は、多分次の第5話になると思います。

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