2013年6月18日火曜日

御坂「とらっ!」一方通行「ドラァあああっッ!!??」

2 ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:16:40.97 ID:0+l68e1u0


「クソッタレが…」


暗い室内。しかし、その原因は悪天候のせいではない。



私鉄の駅から徒歩十五分。比較的新しく、家賃もそこそこの良物件である。




「駄目だ畜生ォ…どうにもなンねぇ…」




苛立ちに、一層表情に険が寄る。




「…ま、髪型で何とかなるなら苦労しねェよな」




大きく溜息をつき、ヘアカタログを放り捨てる。



今日から新学期とあって、いつもと違う形のスタイリングで、かるーいイメージチェンジを狙ってみた。



しかし、世の中そう簡単には出来ていないものである。




「…あと三十分は寝れたのによ…あァ、そうだ」





ユリコにご飯をやらなければ… 
 
3 ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:17:06.74 ID:0+l68e1u0


「ユリコ~。出てきやがれ。どこにいやがる」




なーご、と、姿を見せるのはメスのスコティッシュ・フォールド。




彼女の名前はユリコという。我が家唯一の癒し。ユリコちゃんマジ天使。





「ユリコ。飯だ。いただきますは?」





「なーご」





ユリコは首をかしげた。「なんぞそれ?」とでも思っているのだろうか。



その姿がまた愛らしい、と一方通行は思った。



ゴミを一まとめにし、台所へ向かう。




「…うっるせえぞクソガキ…もう少し静かにできねえのか」




気だるげで、なおかつ不機嫌そうな声が奥から聞こえてきた。
4 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:17:46.68 ID:0+l68e1u0


「テメエの不規則な生活になんて気を遣ってられっかよ。木原くゥン?」




「その『木原クン』っていい加減止めろ…きっしょく悪い。そうだな…パパと呼べ!」




「生まれ直せインテリ野郎」




朝っぱらから精神衛生上良くない面構えである。あんな面でもさる研究分野では有名な学者らしいのだが…




「…テメエがそれを言うかよ。昼飯は?」




「午前中に帰る。感謝しろクソッタレが…つゥか、自分でもつくれンだろ」




「バッカヤロ!養ってんのは俺だぞぉ!?それに研究者として、健康な肉体の維持は最優先事項なんだぞクソガキ!」




「ハイハイ」




この男は木原数多。一応俺の保護者という立場である。




研究者という職業柄、生活が不規則なものになりやすいので、一方通行も結構苦労していた。
5 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:18:15.00 ID:0+l68e1u0


「つうかよォ…どこに顔面に刺青いれた研究者がいるンだよ…」





「ぁあ!?テメエ!俺のセンスに文句付けてっとブチのめすぞ!?」




…こいつのセンスは、中学校への入学のとき卒業した。




この木原数多という男、とてもじゃないが研究者には見えない。




短く刈り、金色に染め上げた短髪だけにはとどまらず、顔面に刺青とまで来た。




これではどこぞの気合入ってる人にしか見えない。




授業参観には、非常に窮屈な思いをした記憶がある。





「暗いな…こんな暗かったか?」




「となりのマンションのせいだろ。まァ、お蔭様で家賃は安くなりましたけどねェ」




去年隣に建設された超高層ブルジョアマンションのせいで、我が家の日照条件は非常に悪化した。



建物に相応しい人間が住んでいるだろうな、と考え、その人々をなんとなく想像しようとして、止めた。
6 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:21:10.82 ID:0+l68e1u0


「…くっだらねェ」



木原クンだってそれなりの収入を得ている。隣に住むくらいの余裕はあるのだ。



俺だってえり好みも、高望みもする気は無い。



今のままでも充分だ、「必要な」ものはそろっている。




「学校、行ってくンぞ。」



「おー。今日から新学期か。ま、せいぜい頑張れや」



「…どォも」



正直、春は嫌いだった。



人間関係の構築期、一方通行はこれがどうしても好きになれなかったが、クラス替えに期待が全く無いわけでは無かった。
7 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:22:53.14 ID:0+l68e1u0


「…いってくンぞ」



「おう。気ィつけろよ」



外は快晴。風もほとんど無い。



日焼けの全く無い肌に差し込む強い日差しが、今日だけはなんとなく好ましく感じられた、気がした。



多少はマシな気分で、始業式へと向かった。
8 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:23:32.30 ID:0+l68e1u0


____________________________________



訂正。



若干分のすがすがしい気分になど吹き飛んだ。



道中、人生のままならなさを改めて思い知ることとなった。



まずは、その理由を説明することからはじめよう。






彼は髪が真っ白だった。そして、眼は鮮血の如く赤かった。…どこの中二の妄想だ、とか突っ込みたくなるかもしれない。



しかし、紛れも無い事実である。肌も真っ白で、どうしてか全く日焼けをしない。




なぜこんな風になったのかは、自らの出生同様不明なのだが…




一方通行<アクセラレータ>という名前も相まって、人はみな自分を外人だかハーフだとか思い込む。




それはそれでよし。だがしかし、生まれつきとはいえ、非常に目立つこの風貌は敵を作りやすい。




いじめのターゲットに何度もなった。やられっぱなしもシャクなので、殴り合いの喧嘩もしょっちゅう行った。




いくら筋力をつけても、女性的で繊細な体つきのせいで、風貌による威圧もできなかったからというのが理由の一つである。




自己防衛の為とはいえ、しょっちゅう行われる喧嘩、悪くなる目つき、人相。
9 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:24:27.63 ID:0+l68e1u0




一方通行本人としても、自らの顔つき自体は悪くないと自負していたのだが、もうそんなのは関係ない。





実際彼は、すれ違った十人中九人が振り向いて二度見するほど、端正な顔立ちをしていた。





しかし、それも、「完全に」無表情の状態であった場合だけである。




「…」



家を出たときは一つであった財布が、今は三つになっている。



その理由というのも…




「す、すみません!い、命だけは!」


(ここは日本だぞォ…)


「さ、サイフは差し上げますので!」


(…)




…こんな事が、今あったばかりだからである。



これを見ていた生徒にとっては、きっと一方通行がカツアゲをしたことになっているのだろう。
10 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:25:12.37 ID:0+l68e1u0


また悪評が立つ羽目になる。そして、悪評が悪評を作る。まさに、負のスパイラル。



その風貌も手伝ってか、おかげで中学時代は喧嘩を吹っかけられることもたびたびあった。



そのせいで誤解(?)も解けず、友人も中学時代を含め、ほとんどできなかった。




「……はァ」




大きく溜息がこぼれる。



仕方が無いことなのだろうか?



脱オタならぬ脱不良は、彼にとって、現在の最大の課題である。



自分の言葉は、普通にしゃべっているつもりでもぶっきらぼうに聞こえるらしいし、普通に眼を合わせるだけでも睨んでいるように映るらしい。





(どォにかしねェとな…でもどォにかできる問題でもねェンだよな…つゥかもォ無理…)




先ほどまでの清々しさが露と消えようとしていたとき、背後から声がかかった。
11 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:25:51.98 ID:0+l68e1u0



「おっす。一方通行。どうした?元気ないぞ!」



「三下か…」



去年のクラスからの友人で、親友とも言える仲の上条当麻。




背のほどは一方通行と同じくらいだが、彼より一回り体つきががっしりとしている。




触れるものを傷つけそうなほど硬く、重力に全力で反逆しているツンツン頭の黒髪が特徴的な男である。




「…サイフ拾った」


「またですか…羨ましいねー。だけどちゃんと事務室とどけろよ」


「いてェぞクソが!背中を叩くンじゃねえ!」


「えー…そんなに激しく拒絶されると、上条さん傷ついちゃう…」


「気持ち悪いンだよ!怖気が走るような発言をするンじゃねえ!」



(…まァ、いいか…)



そんなこんなで正門が見えてきた。
12 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:26:26.31 ID:0+l68e1u0

登校時間より少し早いので人は比較的疎らだ。



それでも、クラス発表の掲示板前には多くの生徒で溢れていた。



「事務室行ってくる。先行ってろ」



「おう!またクラス一緒だといいな!」



上条と別れ、事務室に向かう。



自然と早足になってしまう。



やはり、期待しているのだろう。




「はッ、…くっだらねェ」



自嘲の言葉が口をついた。



勿論、本心からの言葉ではない。



悪い癖だ。一方通行は、そう思った。


13 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:27:01.95 ID:0+l68e1u0

_______________________________________





「うあっ。見ろ…一方通行くんが同じクラスだぞ」



「すっごい…真っ白…綺麗…」   「『長点の白い悪魔』とか呼ばれてたんだよね?」



「俺の聞いたトコじゃ、『死の大天使』だったぞ?」   「なんでも、釘バットが獲物だったらしいよ…?」



「お、お前声かけてこいよ」   「人殺しの眼よ…」     「な、なんか機嫌悪そうだよ」



「は?お前行けよ!…」   「今日の朝もカツアゲしてたぜ?」  「マジかよ…やっぱ不良なんだな。超パネえ」




(…全部聞こえてンぞ…クソッタレ…)



いくら進学校といえども、いや、進学校だからこそ噂というものは尽きることが無い。



去年のはじめも、目立つ風貌の一方通行はその絶好の標的だった。



白銀の前髪からのぞく仏頂面。



周囲から見れば、確かに彼の顔は不機嫌そうに見えるかもしれないが、眼をこらしてよく見てみるとそんなことはない。



彼は、これ異常ないほどに上機嫌だった。


14 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:27:32.30 ID:0+l68e1u0

「なんかいいことでもあったのか?上機嫌そうな顔してんぞ?」


「別に…何でもねえよ。…つゥか良く俺の機嫌が良いって分かったな…」


「ホレホレ!!ビンゴじゃねえか!ほらっ!!いいから上条さんに相談しなさい!ね?いいっしょ?」


「い、いちいち気持ち悪いンだよテメエは!お前は時たまどォしようもなくうっとおしいな!!放せ!引っ付くンじゃねえ!」




上条のスキンシップ過多に、一方通行はうんざりといった様子だ。



これではホモセクシュアルか何かと勘違いをされてしまう、一方通行がそう考えていると、



「上条さん!今年はおんなじクラスですねぇ!」



不意打ちだった。まさしく青天の霹靂。




「おっ、佐天じゃないか。お前もウチのクラスになったのか」



「なったなった!いっやぁ!!楽しそうなクラスで良かったですよ~っ!!」




瞬間、目が見開かれる。



自分の顔が熱くなるのを自覚した。
15 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:28:25.19 ID:0+l68e1u0


「おっ、一方通行さん!あたしのこと覚えてる?何度か上条くんと一緒のとき会ってると思うんですけど!」



「…佐天涙子。だろ?…知ってンよ」




向日葵のように眩い彼女。



ずっと、憧れていた少女だ。知らないはずがない。




(…メレンゲって何だっけ…?…ン…何かのサナギだっけ…?)




突然のことで一方通行は色々と計算が追いつかない。血迷っている!




一方通行は頭がよい。とても良い。




成績は全国統一テストで常にトップ3に居座るほどであり、その上、主要十二ヵ国語をマスターしているという始末。




そして極めつけはスーパーコンピューター並の演算能力である。まさしく「神童」の如き知能の持ち主と言えるだろう。




しかし、彼の頭は、こういったケースには全く働かなかった。





「おーっ!覚えててくれてたんですか!嬉しい!一年間よろしく!あっ、やばい!二年生の第一回ミーティングに遅れちゃう!じゃあまた明日ねお二人さん!」



「おー。ゆっくり行けよー」




(行っちまった…)



一方通行は後悔していた。自分が情けない。
16 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:28:51.67 ID:0+l68e1u0


(ちっくしょォ…何だ何だよなンですかァ?気の利いた言葉の一つしか出てきやしねえ!こンな時くらいもっとこう…あァ!クソッタレ!!)



佐天涙子への好意にはっきりと気付いたのは半年くらい前だろうか。



気付くと彼女を眼で追っていることに気付き、今まで抱いたことのない不思議な感情を何と呼んだら良いのか、三日三晩悩んだ。



彼が悩んで、出した答えは以下のようなものだった。



(これってもしかして恋ってヤツなンじゃね…?…うン…恋だ。これを恋と呼ばなかったら何を恋と呼ぶンだ…?)



という感じでやっと気付いた。



うっすらとした自覚はあっても、それを恋だと認めるのは非常に長い期間を要したのだ。



当時の一方通行は、今以上に素直ではなかった、自分にも、他人にも、である。



そもそも彼女を知ったのは、同じ中学であったらしい上条を通してであった。



ころころと変わる表情。自分と違って、いつでも明るく、憂いを帯びているところを見たことが無い。



自分のような嫌われ者に対しても態度を変えることなく接してくれた。



(自分のような根暗なクソッタレを明るく照らしてくれる太陽のような少女だ。)



「太陽のような」なんていう陳腐で月並みな表現が似合ってしまう、それが佐天涙子だった。
17 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:29:19.03 ID:0+l68e1u0

「上条…テメエ、あの女にもちょっかいかけてンのか?」


「え?なんの話だ?」


「とぼけンな。」


「そ、そんな理不尽な!いたいいたい!く、首を絞めないで!」


「ったくよォ…俺ァ、テメエみてェにはできねェよ…」



「へ?一方通行が女の子と話して動揺してるところなんてみたことないけどなー」



「…」



「(今まさにそうだったンだが)…」

18 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:30:10.80 ID:0+l68e1u0


一つこの上条当麻という男について言及しておこう。



こいつは、見てくれは普通だが、恐ろしくモテる。



どういう訳か、無自覚で女の子の心の琴線に触れるようなことを言うらしい。



当然、多数の男子からは僻みの視線で見られている。



それでも嫌われることが一切無いのは、彼の人柄によるところが大きいのだろう。



風の噂では、こいつにフラグを立てられている生徒は、どのクラスにも最低三人以上はいるそうで、この学校の生徒会長も上条の魔の手にかかっているとまで言われている。



(佐天がそうとは考えたくねェがな…)
19 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:30:33.26 ID:0+l68e1u0



「見て見て…一方通行くんが上条の首絞めてたよ…」



「おい…眼を合わせるな…死にたいのか」



「噂じゃ実はいい人って聞いてたんだけどなぁ…」



「まぁ上条なら死んでもいいか…リア充は[ピーーー]…」




(…またやっちまった)




クラス中に蔓延する囁きに、調子に乗りすぎた、と一方通行は自戒する。



ただでさえ目立つ見た目なのだ、これ以上目立ってどうする?



辺りを見回すと、教室の空気がお通夜のようになってしまっていた。



(少々ハシャぎすぎたか…)



ちなみに、合わせた眼は片っ端から逸らされた。切なくなんか無いやい。



「ん?一方通行、どこ行くんだ?」


「…便所。ゆっくりしてえから着いてくンなよ」


「わかった!巨大な一本グソだったら写メってこいよ!」


「変態かよォ…つゥか俺以外でもそんなキャラで通してンのかァ…?」
20 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:31:11.92 ID:0+l68e1u0


そうではないと信じたい。



軽口を叩き、廊下へと向かう。



いつもより全然機嫌がいいのは、佐天と話ができたからであろう。



まあどちらにせよ、教員がやってくるまで一人でいるほうが気分が良いだろう。



(自分にとっても、クラスの連中にとっても…なァ)



廊下へ出ようとした時、顔面に衝撃を感じた。
21 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:31:46.01 ID:0+l68e1u0




「ごがっ!」


「きゃっ」




鼻への強い衝撃に思わず涙目になる。



どうやら誰かとぶつかってしまったようだ。



「げっ!早くも頂上決戦かぁ?」


「長点の白い悪魔・一方通行くんと、常盤台の電撃姫が早くも激突よ!」


「初日から一体どうなってるんだ!?」




(…いってェ…ついてねえぞちくしょォ…)



静まり返っていた教室が、にわかに騒がしくなる。



しかしこれは、活気付くといった感じの空気ではなかった。和やかとは程遠い雰囲気が漂い始めている。



(…電撃?何言ってんだ?)



一体何があったのか、そいう思い顔をあげると、
22 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:32:30.98 ID:0+l68e1u0




少女が、立っていた。




23 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:33:09.80 ID:0+l68e1u0



(ンだこの女。…知らねえな…)



スラッとした体形の少女だ。身長は、女子にしては高い部類に入るだろう。



少女は黙り込んだまま、こちらを睨みつけている。



一方通行は、少女の険しい視線より先に、顔つきに眼を奪われた。



少々紅潮しているように見える頬の隣には、肩にかからない程度の長さの茶髪が垂れていた。



眼を見張るほど整っている顔つきは、可愛らしいというより、凛々しいという表現が似つかわしいだろう。




(……)





目の前の少女が美しいということはわかった。だが、それだけだ。それがどうしたというのだ。




言葉を失いつつも、考えることは止めない。




一方通行は、どんな事態であってもそれを実行できる人間だった。
24 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:33:57.02 ID:0+l68e1u0




(…なるほど、『姫』ね。そりゃあ分かる。けど、『電撃』ってなンだ…?)




一方通行は、日々の経験からして、舐められることの無いように睨まれたら睨み返すことに決めていた。




目立つ風貌のせいで苦労を強いられてきた彼が自然と身に付けた、いわば防衛本能の賜物と言って良いだろう。




彼は面倒な人間だった。いくら不良と罵られようと、プライドを曲げることは出来なかったのだ。




ガンを飛ばしたままの、ここまで役三秒。




少女はついに痺れを切らした。




「早くどいてくれる?」



「…」




少女の不遜な言い様に、一方通行は下らないプライドを刺激される。



まさに、「俺は悪くないのに、謝ってたまるか」という風に。

25 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:34:29.27 ID:0+l68e1u0


(…気に入らねえ)



「…テメエが、どけ」




言ってからすぐ、彼は失言を自覚した。




(あぁクソ…どいときゃァよかった…クラスの連中にまたビビられる…こ、こればかりは弁解のしようがねえ…)





相手のどこかしら物騒な雰囲気に、一方通行は反応してしまったのだ。心の中で滝のように涙を流す。





「…へえ。アンタあれでしょ?『白い悪魔』だとか、『死の大天使』とか噂されていい気になってる…ほら、何だっけ?」




「知らねえな…つゥかいきなり何だよ…もォ勘弁してくれ。初日からいい迷惑だ」




クラスの雰囲気は、絶対零度。言うまでもないだろうが、お通夜を通り越して、無音である。




両者、無言で睨みあう。




(勘弁してェェェ!!!!!)




その場にいる誰よりも泣きたかったのは一方通行だ。




しかし、彼の表情は変化が掴みづらい。傍から見れば絶賛「にらみつける」状態である。ファイアーさん真っ青レヴェル。




「「…………」」




結局、このにらみ合いは、教員が教室にやって来る、その時まで続いたのであった。
26 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:37:50.90 ID:0+l68e1u0
今日はここまでです。
地の文ありますけど、こんな感じで進みます!あ、完結しますよ?もう全部書いたもの!
需要が無くても投下しきりますよ?もう全部書いたもの!
新約三巻の例の二人の再会、あっさりしてましたが充分アリです!
ふたつの意味でモエました!!

俺…内定きたら、続きを書きに書きまくるんだ…
27 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 00:38:45.51 ID:ERJYEpX+o
いいね。
とてもおもろい。
28 : ◆ufBod3Nf5sG9 :2011/12/12(月) 00:39:42.08 ID:0+l68e1u0
あっ!言い忘れてましたけど、いろんな作品からインスパイア受けてます!
パクリじゃねェよ!オマージュだよォ!!!
29 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 00:41:23.42 ID:WfmAf3pjo
いい感じで続きが楽しみ乙 
 
47 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:23:29.95 ID:0+l68e1u0


「常盤台の電撃姫」には、御坂美琴という立派な名前があること。



御坂美琴と佐天涙子は親友同士であること。



常盤台中学という、日本屈指のお嬢様学校の出身であること。



そこでは、「御坂さま」や「お姉さま」と言った呼称で呼ばれ、非常に尊敬されていたこと。



中学時代の取り巻きや、交友関係から、レズビアンであるとの噂が立っていること。



ヤクザみたいな見た目の父と、大学生にしか見えない母がいる、だとか。



この学校でもファンは多いが、友人はさほど多くない、なんて話もある。



…と。



以上は、数少ない去年のクラスからの友人である海原から聞いた話だ。
48 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:24:23.17 ID:0+l68e1u0

ただ、


「『姫』は分かるとして、『電撃』っつーのはどォいうことだ?」


「それはわかりかねますね。興味があるなら調べてみては?」


「ふゥン…いいや、興味はねえけど」




結局、何が電撃なのかは分からずじまいだった。



「あなたはどうしてか不良として噂が立っていらっしゃいますけど、彼女も負けていないようですよ?もっぱら、中学時代は武闘派で鳴らしていたようですからね」



海原光貴は、端正な顔立ちに胡散臭い笑みを浮かべる。



一方通行にとってはどうでもいい話だったが、彼女が自分と似たような存在であると言うことは理解できた。



「まァ、俺には関係ねえよ。それより、クラスの連中どォしよ…派手にビビらせちまったなァ…」



「まあまあ、気負いすぎは良くありません。あんがいすんなり受け入れられると僕は愚行しますが?」
49 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:25:14.95 ID:0+l68e1u0


「…そンな簡単にいくかよ?つゥか今日のアレは勘違いっつーか、普通に不良の対応だった…」



がっくり、と肩を落とす一方通行。あればかりは自分が悪い。



「ただでさえ貴方の表情は読みにくいんですから、落ち込むと眼も当てられませんよ?」



「て、てめェ!…言ってくれるじゃねェか…」



「じょ、冗談ですよ!そ、それに土御門さんのような金髪グラサンアロハでも上手くやってるんです。あなたなら余裕でしょう」



「呼んだかにゃーーーーーーーーー!!!!」



「何一つ呼ンでねェよ」
50 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:25:50.28 ID:0+l68e1u0


「ひゅう!!元気を出すんだ一方通行!!あ、そうだにゃー!!おまえん家にあったガンダムデスサイズヘルのガンプラをメイドカスタムにしてやるぜぃ!!」


「どうやったらンな話になるンんだよ!?…つゥか、アレは木原くンのだ…勝手に触ったら木原神拳だぞ」


「な、なんだってーーーー!?」




海原光貴と土御門元春。この二人は一方通行の数少ない友人だった。



一年生の時は、彼らと同じクラスで本当に良かったと一方通行は思っている。



「…ッたく…オマエらときたらよォ…」



溜息をつきながらも、つい頬が緩む。



胡散臭い目の前の友人を見て、少しだけ元気が出た。



不本意だがそれだけは認めなければならないだろう。



こいつらのような物好きだっているんだ、と、一方通行は前向きに考えることにした。



(そォだ、前向きに、明るく、朗らかに、さわやかに!…そう!あの佐天涙子のように!!)



一方通行が、御坂美琴の恐ろしさに戦慄するのは、もう少し先になる。
51 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:26:54.77 ID:0+l68e1u0

一方通行の新しい学校生活は、激動の初日とは打って変わって順調だったと言える。


上条や海原、土御門ら、「中学のとき」の彼をも許容し、長くを一緒に過ごした面子が一緒の学級だったが一つ目の要因。


そして、去年一年を一緒に過ごしたおかげで、一方通行が基本的に無害な人間だと知っている生徒が比較的多かったのが二つ目の要因であろう。


なにより上条の周りには人がよく集まるので、一方通行は多数の人間と顔を向けて話す機会が増えた。


この機会を活かし、一方通行は自分の良くないイメージを払拭しようと努力した。


簡単には行かなかったが、少しずつ、徐々に、であるが、彼を見る目線は、その鋭さを鈍らせていった。
52 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:27:26.30 ID:0+l68e1u0

「その子がですね!毎回会うたびにスカートめくるんですけどね?」


「いや、それおかしくね?」


「馬鹿野郎ォ!この三下がァ!!女子高生の間ではスカートめくりが流行ってるかもしれねェだろォが!!」


「ひ、ひぃ!そ、そうなのか!?」


「あはははは!何それ!流行ってないですよ一方通行さん!」


「ェえ…そうなのかァ?」



(結構マジで言ったンだが…)



佐天を普通の人間だと仮定して、一方通行の灰色の脳細胞が推理した結果がこれだった。



彼は実際、大真面目に言っていたのだ。
53 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:28:36.98 ID:0+l68e1u0



「はは!真面目に言ってたの?一方通行さんって面白いですね~」


「…それで行くと、どォ考えてもオマエが変態っつーことになっちまうけど…それでいいのか?」


「うっそ!マジですか!?」


「いやいやいや!そこで驚いちゃうの!?」


こんな感じで、憧れの佐天涙子との会話も自然に楽しめていた。


(あァ…なんという楽しい時間…くきけかかきくけこかかきくけかけくききけこかくいここかくき…)


心の中では小躍りどころか、全裸でブレイクダンスしちゃいそうなほど上機嫌だった。


表情の変化がネガティヴな方向にしかほとんど向かわない一方通行でさえも、口角を歪め、かろうじて笑顔を作り出せていた。



「んでね!スカートの中身が___あっ!ごめん!部活の子がお呼びだぁ!またね二人とも!」



いつもこの子の去り際は風のようだな、そんな事を一方通行は思った。


もっと話をしていたかったが、用事があるなら仕方が無い。
54 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:29:21.80 ID:0+l68e1u0

「お、そういえば一方通行日直だろ?さぼんなよ?俺、一応生徒会なんだからな?」


「あいよ。…つゥかよ、テメエ、生徒会って柄じゃあねェよな…似合わねえ…」


「ほっとけ!言われ慣れてるわ!んじゃその生徒会の集まりに上条さんは行くですのことよ!じゃあな、一方通行」


「あいよ」




日直の仕事は面倒だが仕方があるまい。



品行方正のほうが何かとウケも良いし、細かい雑務はわりと嫌いじゃない。



(…俺が職員室に入ると面倒なことになるンだが…)



職員室は苦手だったが、仕事は仕事だ。こういう割り切りは得意だった。



(はァ…ま、しょうがねえか)



溜息をつきつつ職員室に向かって歩き出す。



なんだかんだ言って、彼は上機嫌だった。
55 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:30:19.51 ID:0+l68e1u0


「どォ言う状況だ…」



職員室で様々な雑務を言いつけられ、終わってみると日が暮れる時刻になっていた。



どうみても小学生かそこらにしか見えない女教師に、顎で使われまくったのだ。



しかし、「先生は!一方通行ちゃんが良い子だって知ってます!めげずに頑張るのですよー!」



とか何とか、他の教員と違って信頼はしてくれているようなので、悪い気はしなかった。



その為、良いように手伝いをしてしまったのだ。



職員室での問題児を見る目線から解放され、肩の荷が下りた気分だったが、教室には、思いもかけない展開が待ち受けていたのだ。



「……」



教室の四方八方、いたるところに倒れた机やいすが散らばっている。



そして、一方通行は確かに見たのだ。



自分が教室に入る瞬間、清掃用具入れに駆け込む、御坂美琴の姿を。
56 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:31:42.91 ID:0+l68e1u0


(……)


赤い夕日が差し込む教室は静まり返っている。サッカー部のミニゲームの声が響いてくるほどだ。


(ここは刺激しないほうがいいな…面倒なことになりそォだ)


無視を決め込むことにした一方通行は、御坂の理解しがたい奇行には眼をつぶり、深く考えないようにした。


(ま、俺には関係ねェよ…うン…関係ねェ)


鞄の置いてある席へと歩み寄る。


あと二メートル、一メートル、そして、残り十センチといったところで___


ばん。という騒音と共に、御坂美琴が清掃用具入れから飛び出してきた。



「ちょっ、ちょっとアンタ!!!」


「ッ!な、なンだ何があった?」



突然のことに一方通行は驚きを隠せない。
57 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:32:19.24 ID:0+l68e1u0


最初から訳が分からなかったが、一体この女は何がしたいのだろう。明らかに普通じゃない。一方通行は動揺を隠そうとしなかった。


「そ、そこはアンタじゃなくて…っ、あ、アンタの席じゃないでしょ!?」


「あァそうだ。上条の席だよ。直前までこの席で話してたからな」



顔を真っ赤に紅潮させ、見るからに激しく動揺している御坂美琴。明らかに様子が変だ。


(全く、何なンんですかァ…?)


彼女の意図を図ろうと頭を働かせる一方通行。


しかし、次の瞬間さらに予期せぬ出来事が起こった。


「ちぇいっ、さぁぁあーーーっ!」


御坂が、彼の手の中にある学生鞄に突然掴みかかったのである。


眼をひん剥いて抵抗する一方通行。
58 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:34:27.86 ID:0+l68e1u0


「っ!て、てめェ!いきなり何しやがる!」


「よ、よこせ!貸しなさい!」


「何言ってンだお前は!?正気かよ!?」



もう付き合ってられるか。


一方通行はそう言って逃げ出してしまいたい気分に陥った。


しかし、そういう訳には行かない。


この得体の知れない女に自分の鞄を貸し与えたら何をされるか分からなかったからだ。



(こうなったら強硬手段に出るか…)


足払いでもかけてやろうか、そう彼が考えているとき__
59 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:35:03.59 ID:0+l68e1u0

「っしゅん!」


「はァァあああ!?」


御坂美琴は、盛大なくしゃみと共に鞄を手放した。


当然ながら、一方通行は反動により後ろに突っ込むこととなる。



(痛いっいたいいたいいたいいたいいたいいたいッ!!!)



後頭部を床に強打し、眼に涙を浮かべる一方通行。


ここまでされるともう温厚ではいられない。



「…やりやがったなクソ女ァ……!どうしてくれ__」


「……」


痛む頭を抑えながら、彼は御坂に言い寄った。


しかし、どう考えても彼女の様子がおかしい。


今度はうつむいて黙り込んでしまったのだ。


(この女…ヤバすぎだろ…脳みそ湧いてンじゃァねェのか…?)



「…何があったンだよ。話すことぐらいはできンだろ…?」


ふさぎこんだ様子の彼女に不審なものを感じ取った一方通行は、彼にできるだけの優しい表情を浮かべた。


毒気を抜かれたわけでは無い。決して無い。


しかし彼女は黙り込んだままだ。
60 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:36:03.94 ID:0+l68e1u0

(…)


一秒一秒が、とてつもなく長く感じられた。


彼らの長い沈黙を破ったのは御坂だった。



「…帰るから。」


「…」



ぽつん、とそれだけをこぼすと彼女はさっさと教室を出て行ってしまう。


取り残される、散らかった教室と、唖然とする一方通行。何がなんだか分からない。


(…『お嬢様』…ねえ…)


あんなぶっ飛んだ女が『様』づけや、『お姉さま』など呼ばれていた常盤台という学校はどんなところだったのだろう。


そんなことを一方通行は考えた。



「…机、片付けンの俺かよ…」



甚だ不本意な後片付けを終え、彼も教室を後にした。


この夜、彼は、彼女の奇行の原因を知ることとなる。
61 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/12(月) 23:40:45.57 ID:0+l68e1u0
今日はここまでです!

設定ですが、まず能力の設定は一切無いです。その他は追々小出しにしてきます。
あと、原作とキャラが違うので、流れも変えます。納得いかない所があるかもしれませんが、書いちゃった!もう書いちゃったんだよォ!!
亜美ちゃん編は執筆中。遅筆なのでいつになるか分かりませんが、期待しててね!ではまた!
62 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 23:41:49.72 ID:w4DLaDkq0
亜美ちゃん役が誰になるか・・・そこに期待しながら>>1
63 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 23:43:14.60 ID:puH44gbLo
乙 
 
83 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:00:33.90 ID:gaejv8yd0



「なァるほど…」


『上条当麻へ 御坂美琴より』


「…ラブレター…ってやつだな…」


つまり彼女は、俺の鞄と上条のヤツの鞄を間違えたのだ。


道理で落ち着きが無かったのだ。一方通行の中で、さっきの奇行に合点の行った瞬間だった。


「つゥかよ…ドジにもほどがあンだろ…」


お嬢様が聞いてあきれる。


「ま、明日返せばいいだろ。」


そんなことをなんとなく考えながら、緑色の奇妙な蛙がプリントされた便箋を光にかざす。
84 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:01:02.67 ID:gaejv8yd0

「…ン?」


訂正、ドジじゃない。大ドジだ。


(中身、入ってねェじゃねえか…)


ここまで来ると笑うのも悪いような気がしてきた。もうこれについて考えるのはお終いだ。


明日の支度を終え、ベッドに入る。




__そうして、夜は更ける。




85 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:01:30.39 ID:gaejv8yd0


ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ。


「ッ!?」


丑三つ時も過ぎたであろう深夜。


鼓膜を打つ異音に眼を覚ます。


同居人の木原は研究所だ、彼の仕業ではない。


一方通行の頭は、寝起きとは思えないほど冷静に働いた。



「寝てろやゴルァァあああああああああ!!!!!」


「!?」


言葉を選ぶ暇も無かった。


青白く点滅するひとつの光点が、一方通行に向かって真っ直ぐ突っ込んできた。


「っちィ!」
86 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:03:39.48 ID:gaejv8yd0


身をひねり、その勢いのまま起き上がる。


さっきまで自分が寝ていた所に青白い光が音を立てている。


普通の高校生と言うには、少しズレた人生を送ってきた一方通行でも、深夜に襲撃されたことはない。


しかも、相手はスタンガンを所持していると思われる。


正気じゃない、[ピーーー]気だ。


部屋の入り口に引き返し、電気をつける。


「その声、テメエか!御坂美琴ォ!」


「っ!」


(常盤台の『電撃』姫。なるほど…って物騒だな女子高!!)
87 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:09:32.07 ID:gaejv8yd0

うつむいたままの姿勢で、ゆっくりとした動作で彼女は立ちあがった。


ホットパンツにTシャツというラフな格好だったが、一方通行の眼には、禍々しい何かにしか映らなかった。


襲撃されたのが特別肝の据わっている一方通行だから良かったものの、善良な一般人であったならパニック状態は避けられないような状況である。


それだけこの状況は普通では無かった。



「…見た?」


「何を……?つゥか、他に言う事ねェのかよ。オマエ、通報されて然るべき状態ッてコト、わかってンの?」


低く、押し[ピーーー]ような声だ。正直滅茶苦茶怖い。


しかし、一方通行の中で、恐怖より危機感が勝っていた。油断すれば、死ぬかもしれない。


「あ、アレよ…わ、分かってるんでしょ?それでいて馬鹿にしてるんでしょ!?」


「…ァ?」
88 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:12:48.09 ID:gaejv8yd0

一方通行の赤い瞳が大きく見開かれる。


口元は邪悪に歪められ、端整な顔立ちは、悪魔的なものへと一変する。


深夜にいきなりスタンガンで暗殺を謀ろうとする女に向かってまで、優しくあろうとするのは無理な話だろう。


事実、一方通行は、目の前の女を、既にひとりの暴徒としか見なしていなかった。


安眠を妨害された挙句、訳のわからないことをのたまう。これ以上の迷惑などあるだろうか?


当然、口調も荒っぽいものとなる。


「おーおー……何だ何だよ何ですかァ……?人の家に無断で踏み込ンどいて逆切れですかァ?お嬢様ってのは怖えなァ?皆こうなのかよ……?ンなはずねェよ……なァッ!!??」


「っ!?」


一方通行の、堪忍袋の緒が切れた瞬間だった。真っ赤な瞳が冷酷な輝きを灯す。
89 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:13:56.24 ID:gaejv8yd0

「しばらく寝てやがれッ!こんちくしょうがァッ!!」


彼にとって、御坂は女である前に一人の暴徒。


一方通行の異様な迫力に気圧された御坂の鳩尾に、一方通行の拳が吸い込まれた。


「ごぁっ!」


しかし、彼女は倒れなかった。


「…へェ…やるじゃねえか」


後ろに飛んで衝撃を殺したのだ。直感する、喧嘩慣れしている。


「ぅぅ…みられた…みられちゃった…もうお終いなのよぉ!」


スタンガンを腰の低さに構え、彼女は再び戦闘態勢をとった。剣呑な空気が再び場を覆いつくす。
90 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:14:30.55 ID:gaejv8yd0

「安心して、気絶したら知り合いの腕のいい医者に頼んで記憶を消してもらうだけだからッ!」


御坂は、一歩前に踏み込んだ。迷いが一切感じられい。


(しょうがねェな…)


一層激昂する彼女を尻目に、当の一方通行は冷静になった。


そして、呆れ顔の彼は、止めとばかりに用意していた台詞をはいた。


もともとこれは、無駄な争いなのだ。


「お生憎サマ。手紙の中身は空っぽだったぞ」



「…ぇ?」


御坂の動きが止まる。



「だ・か・ら。空っぽ。分かりますゥ?」



「うそ…」


彼女は、その場で立ち止まると、よろよろと力を失い、その場で崩れ落ちる。
91 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:17:51.49 ID:gaejv8yd0

動きを止めた後の様子は、まさしく強制終了。


見方によっては滑稽にすら写るだろう。


「ってオイ!倒れンのかよ!?……ン?」


ぐっぎゅりゅぅぅぅぅ。



(…腹の音?)



一方通行は、床に横倒しになった御坂美琴をまじまじと眺める。



(腹へって気絶ッて……初めて見た。)



大きく溜息をつく。



もう一方通行には、この状況に相応しいボキャブラリーは用意できなかった。


あまりの馬鹿馬鹿しさに、怒りやら何やらが吹っ飛んでしまったようである。


クールダウンした頭が導き出した答えは以下の通りだった。目の前に、腹をすかせた少女がいるのだ。


彼にできることといえば、只一つ。



「…ごはン。作ってやるか」



なんかもう、色々と彼は考えるのを止めた。
92 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:21:20.41 ID:gaejv8yd0

______________________________________





「…どういうつもりよ…げっぷ」


「腹ァ膨れたか。で?最初に言うことがあンだろ」


「…ご、ごちそうさま」


空腹で倒れた御坂は、今日の晩御飯であったった一方通行特製、旨辛ベクトルカレーを一気に平らげた。


「ってそうじゃなぁーい!アンタ手紙の中身見たんでしょ!?どうして空っぽだってわかったのよ!」


「汚ねえツラでぎゃあぎゃあうっせェぞ」


「う……あ、ありがと」



一方通行が差し出したティッシュを、御坂は恥ずかしそうに受け取った。
93 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:21:49.32 ID:gaejv8yd0

「光ですかして見えたンだよ。ホントにラブレターか気になってなァ」


「ほら!やっぱアンタ見たんじゃないの!?最低だわ!人の手紙を勝手に見るなんて!」


「結果オーライだろ?くどくどうっせェ」


「ぐぬぬぬぬ…」


このお嬢様、沸点は相当低いようだ。


そもそも本当にお嬢様なのだろうか?


「つーかよォ、ラブレター他人に見られたくらいで大げさだっつーの…お前は恥ずかしい事してねえよ。むしろ立派だ」


「…」


励ましの言葉は、どうやら心に響かなかったらしい。彼女はちゃぶ台に眼を落としたまま黙り込んでしまった。


(…しょうがねェな)


「おい。ちょっと待ってろ。テメエがラブレターを恥ずかしいと思い込ンでるなら、その幻想をぶち殺してやる」


「ふぇっ?」


今にも泣き出しそうな御坂を置いて、一方通行は自室に入っていく。


「……あった。」
94 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:22:15.36 ID:gaejv8yd0



一方通行が持ってきたのは、数冊のノートだった。


「…なにこれ?」


「…読んでみりゃあわかる」


「イヤよ、めんどくさい」


「読め」


「ひっ…わ、わかったわ…」


面倒くさそうにしていた御坂だったが、一方通行の鬼をも射[ピーーー]ような鋭い眼力に負け、渋々とノートを開いた。


ひとつページをめくった後、御坂の手が止まる。


「あ、アンタ…何よこれ?」


「ぎゃはははははッ!!どォだサイッコーだろ!?これは俺が好きな女に告白する際の、パターンや行動をまとめたもの、そしてこっちは恋文の練習だァ。全国統一模試一位のこの頭脳が割り出したデータを元にしてある。狂いはねェ」


「うぇ…てゆーかその顔で恋文とか言わないでよ…」


「…何か言ったか?」
95 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:22:44.62 ID:gaejv8yd0


「な、なんでもないわよ……ん?じゃあこれは?」


御坂が次に手に取ったのは、小さなノートであった。


他のノートの影に隠れていたものだ。


「はっ!ラブレターなンて俺の妄想に比べりゃあ可愛いもンだ。もっと前向きに生きろ。こんな失敗笑い飛ばしちまえよ」


「…佐天涙子嬢にささぐ…って佐天さん!?」


「そォだ。佐天涙子のようにっ!ってオィィィィいい!!!!」


「うっわー…あんた佐天さんのこと…うっわー」


「テメエだって俺のダチの上条狙いだろォが!人の事言えるタチじゃあねえよなァ!?」


「う、うっさい!」


夜中の四時になろうという時刻、ふたりはぎゃあぎゃあと騒ぎ続ける。


先に我に返ったのは一方通行だった。


「ってオイ!やべえ!木原くン帰ってくる!?オイ御坂、もう帰れ。これは命令だ。」


「うっ、え、えらそうに!まだ話は__」
96 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:23:11.30 ID:gaejv8yd0

「誰にも言わねえよ…だから帰れ」


「ほ、ホント?」


表情に花が咲く。見たことの無い顔だ。


(コイツ、こんな面もできンのかよ)


先ほどとは少し違った意味で動揺する一方通行だったが、表情には出さない。


「あァ、本当だ」


「あ、ていうか…ラブレターって、どうなのかな?こ、告白として…ねえ?どう思う?」


「…それも今度だ。今は黙って帰れ」


「や、約束してくれる?」


「あァ、約束だ」


「ぜ、絶対よ!私とアイツが上手くいくまで、ずーっとよ!」


「わかったわかった。何でもすッから、さっさと帰りやがれ。つゥか、キブアンドテイクだ。オマエも協力しろよ」


「…わかったわ」


面倒な女だ。そう思いつつ、一方通行は本日何度目かも分からない溜息を吐く。



「こら、つゥかテメエどれだけ飯食べてないンだ?」


「きょ、今日は緊張してたから…それに作るの面倒だし…」


「…ふゥん」


まあ誰にでも家庭の事情というのはあるものだ。


つっかけのサンダルに足を通しながら、彼女はぶっきらぼうに答えた。
97 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:23:39.07 ID:gaejv8yd0


「おい。送ってくぞ」


「大丈夫。スタンガンあるし」


「…あァ、そうだった。『電撃姫』だもんなァ?」


「…うるさいわね。『白い悪魔』」


「はァ?何だよそれ?メルヘン臭ェ…イヤな顔思い出したわ…」


「知らないの?アンタ、結構有名人みたいよ?それがいい意味なのかは分からないけどね~?」


「…テメエ」


ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる御坂。先ほどとは打って変わり、余裕と自身に満ち溢れた表情だった。


「あたしはその分、悪い意味での評判は立ってないからねぇ~?誰かさんと違って、ね。」


「いやいやいや、オマエ、レズだって噂たってたから」


「ええ!?う、うそお!」


「本当ですよォー。ざァーンねンでしたァ~」


にやにやと邪悪な笑みを浮かべる一方通行。ドヤ顔が癪に障ったので反撃してやったら、クリティカルだったようだ。


「ぐぬぬぬ…く、黒子のせいで…」


「白子だが黒子だが知らねェがさっさとしろ。ブツブツ言ってねェで帰れ。今何時だと思ってンだ」


「…ふ、ふん!…それじゃあね一方通行、また明日ね」

98 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:24:14.39 ID:gaejv8yd0

「…」


(行ったか…。つゥか呼び捨てかよォ…)


(もう、どっと疲れた…)


「なーご」


「…ユリコか。」



一体今までどこにいたというのだろう?侵入者の来襲を。教えてくれても良かったのに…


「…部屋の片付け…だりィ……ン?」


足元に、御坂のラブレターの、緑色の便箋が落ちているのに気付く。


「…ふン」


御坂の襲来によって、穴の開いた襖には、便箋で蓋をした。


それ以来、一方通行家の襖には、数枚の若葉が散りばめられている。 
 
99 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:26:24.10 ID:gaejv8yd0
今日の投下は、本編はここまで!
以下、かるーく番外編と言う名の蛇足。キャラ紹介みたいなものです。 
 
100 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:26:56.30 ID:gaejv8yd0


みなさん、こんにちは。海原光貴です。


今回は僭越ながら、自分が、2-Cのクラスの愉快な仲間達、というと語弊がありますが……そうですね。


自分の周囲の人間達の様子をお届けする、くらいに留めましょうか。


「つゥかよォ、やっぱ黄金時代編一択だろォ……最近のも勿論好きだがなァ、テーマが拡散してきて収拾がつかなくなってるよなァ……」


まずは彼でしょう、我らが主人公(?)


鈴科 一方通行(アクセラレータ)学園都市東高校二年生です。


これは皆一緒ですね。主要十二カ国語を話せたり、スパコン並の知能を持ってたりといろいろずるい人ですね。


見た目は怖いと評判ですが、顔自体は驚くほど整ってます。


むしろ、整いすぎて怖くなってるレヴェルです。


自分や土御門さんとは中学時代からの知り合いです。


中学上がる頃くらいから喧嘩を吹っ掛けられる回数がましたようで、そのころから体は鍛えてるらしいですね。


……いやぁ、自分で言っててなんですが、モテそうですね。
101 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:27:25.71 ID:gaejv8yd0


いや、実際はモテてないらしいですけど、同じ男としてここまでデキる男ってこう……なんといいますか……


まぁいいです。次。


「はーっ!?馬鹿かにゃーっ!千年帝国の鷹編以降が至高にきまってるぜぃ!!シールケたんやファルネーゼたん可愛いしにゃー!!何なの!?お前ホモなの!?」


このにゃーにゃー言ってる金髪アロハ野郎は土御門元春。


彼も中学時代からの付き合いですね。常にやかましくうっとおしいですが、時たまシリアスモードになります。


まぁ、喧しいのもたまには必要なんでしょうけど……


ちなみに彼にはご執心の義理の妹がいるらしいです。


色々アブない人、という認識で結構でしょう。
102 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:27:57.97 ID:gaejv8yd0




「おい海原、オマエはどっち派だァ?どっちでもいい、なンてのは許されねェぞ…」


「鷹編にきまってるにゃー!海原!命は大切にするもんだぜぃ!!」


「…困りましたねぇ…あえて言うなら、自分は…」



103 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:28:24.62 ID:gaejv8yd0






「断罪編、ですね」






104 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:28:54.40 ID:gaejv8yd0


「「表に出ろォおおおおおおおおおおおおお!!!」」


ジルたんハァハァ。


「しょっく~ん!!なぁんの話をしているのかなぁ~?」


「……佐天かァ、イヤな___」


「なーんでも無いんだぜ~ぃ?なぁー海原?」


「え、ええ……」


女子にベルセルクの話しようとするとか、一方通行はチャレンジブルですね。


「ねぇねぇ御坂さん!あれって絶対エロい話してましたよ?エロい話ですよ!?うっひょーっ!」


うっひょーとか叫んでるこのやけにテンションの高い女性は佐天涙子さんです。


明るく、誰とでも屈託なく話せる為、男女共に人気者のようですね。


部活にも所属しているようですが…ん?何部でしたっけ?……まぁ、いいや。


僕らとは今年始めて同じクラスになりますね。
105 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:30:22.02 ID:gaejv8yd0


「ちょ、ちょっと佐天さん?なんでそこでテンションあがるのよ……」


「いっやぁ~。男子の猥談とか憧れるじゃないですかぁ~。女子ってそーゆーの無いですしぃー」


佐天さんに冷ややかに突っ込みを入れている彼女は御坂美琴さん。常盤台中学時代は、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群で、人望もあったようです。いるんですねー。そう言う人。


荒っぽいことに関わったりもしたことがあるようで、「常盤台の電撃姫」とか呼ばれてますね。


「あァー……次、体育かよォ……着替えるのだっるゥ……」


「ふ~ん……?アンタ、体力無さそうだもんねー……」


「あァッ!?そりゃァ昔の話だ。しかも、俺は授業自体がだりィとは言ってねェだろォが!」


「どうかしらねぇ~?あ、何なら持久走対決でもしてみる?」


「乗ったァ」


「みーんなー!!『白い悪魔』一方通行VS『常盤台の電撃姫』御坂美琴の、血で血を洗う持久走大会のはっじまりだにゃーー!!」


「まじかよ!」 「えっ?おもしろそーじゃね?」「掛けようぜ!俺、電撃姫に700円!」「あ、あたし、一方通行くんに1000円!」


「「土御門ォおおおおおおおおおおお!!!!!」」
106 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:31:07.41 ID:gaejv8yd0

は、ははは…この二人、仲良いですねー。確かに、付き合ってるとか言われても仕方のない気はしますね、はい。


じゃあ、今回はこの辺りで失礼致しますね。海原光貴がお送りしました。


ちなみに、持久走対決の結果は、文字通り血で血を洗う接戦を、紙一重のところで御坂さんが制したらしいです。


では、次回はもっとサブな…んんっ!えー、その他の方達の紹介をしたいと思っています。


あ……上条さん忘れてた。[終]
107 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/14(水) 19:36:53.26 ID:gaejv8yd0
番外編は時系列的には少し後だと思ってみてね?


一巻の時点だと麻耶ちゃんとか奈々子様にあんまし出番が無いんですよねー…
麻耶ちゃんは魔術サイドのあの人できまってるんですけど…奈々子ちゃんどーしよ…
っつーわけで、奈々子ちゃんで適役っぽいキャラいたら意見頂けたら幸いです。

あ、あわきんはちがうとこで使う気なので。他の子で。
あと、原作で納得の行かないところを少し変えたり、原作には存在しない立ち位置のキャラクターもでる予定なので、そこは許してね?
ではまたっ!
108 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 19:49:45.88 ID:+B3ddRJ60
乙  
 
117 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:27:17.14 ID:6MGpgWUQ0



次の朝、木原の昼食の準備、ユリコの朝食などのやるべきことを終え、一方通行は朝食と弁当の支度に取り掛かろうというところだった。


「…ァあ?」


早朝だというのに、彼の黒い携帯電話が鳴り響く。


着信は御坂からだ、こんな時間にどうしたのだろう。


「もしもし」


「窓、空けて」


「はァ?テメエ何言って」


「ブツッ」


「…」


意図を掴みかねる通告だった。


しかし、疑問に思っても言うことだけは聞いてやろうか。


そう思いつつ、一方通行は窓へと向かい、カーテンを開けた。
118 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:27:43.53 ID:6MGpgWUQ0

「…マジかよ」


「…おはよう」


「……」


そこにいたのは彼女、御坂美琴本人。


「…どォりで」


昨日の襲撃に、合点が行った瞬間だった。


窓の鍵はかかっていない、なるほど。


「…はァ」


一方通行の住むアパートの隣の高級マンション。


その二階、一方通行の部屋のすぐ向かいに御坂は住んでいたのである。


「…今更、驚くのは止めだ。で、何のようだ?」


「…」


「おい。黙ってちゃあ分かンねえ__」
119 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:28:20.44 ID:6MGpgWUQ0

「…排水溝」


「ァあ?」


「排水溝が…み、水が、ぎゃ、逆流して…」


「はァ?」


「い、いいから!お願いだから助けてええーーー!!」
120 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:29:04.61 ID:6MGpgWUQ0

「ちょっと!アンタがちんたらちんたらやってるせいで遅刻しそうじゃない!」


「おいコラ。テメエそれがあの汚部屋を徹底的に磨き上げてやった俺に対する態度かァ…?」


「うっ…」


部屋は酷い有様だった。



二回の全てを占有して作られた超高級ブルジョア仕様の部屋だというのに色々と台無しだった。



散らかっているところを見るとついつい片付けたくなってしまう、几帳面な一方通行にとって、あの部屋は許すことのできない存在だったのだ。



いかに掃除の達人の一方通行とはいえ、あの部屋を相手にするのは少々骨が折れた。



リビングに入ると、直ぐに一方通行に異臭と言う名の悪魔が襲い掛かる。



そして、排水溝の水が逆流していたのは、長いところ放置されていた排水溝が詰まったのが原因であり、あふれ出る汚水や、放置されたごみ類で洗面所は恐ろしい有様になっていたのだ。



「だいたいよォ…朝ごはんお代わりまでして、テメエの分のお弁当まで用意してやったンだ。感謝はされてもキレられる覚えはないンですけど、そこンとこわかる…?」


「わ、わるかったわよ!……ったく、アンタはあたしのママかっつーの……」


「何か言いましたかァ…?」
121 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:30:38.07 ID:6MGpgWUQ0

「な、なんでもないわ。ていうか、仕方ががないのよ。去年まではルームシェアしてたから、同居人がいろいろやってくれてたんだけどねー」


「だからと言って、テメエがあの部屋を汚していい訳ねェだろうが…」


「アンタのその掃除にかける情熱は一体どこからくるのよ…あ、話し変わるけどさ…」


「…何だよ?」



御坂は、さっきまでの余裕に満ち溢れたどこか不遜な態度を引っ込め、うつむきがちに頬を赤らめた。



「あ、あのね?ちゃんと…あ、アイツとの仲、取り持ってよね?…や、約束したんだからっ」



「はいはい。分かってンよ…」



恋愛沙汰に関しては、何より疎い少女なのだろう。


一方通行は、普段の彼女との間のギャップが微笑ましかったのか、思わず微笑をこぼした。



「気の無い返事ね…あっ!佐天さん!!」



(何っ!?)



御坂の視線の先には、一方通行のスウィートエンジェルである佐天涙子がいた。



今日も素敵だ。一方通行の胸が高鳴る。
122 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:31:05.51 ID:6MGpgWUQ0


「おっ!来た来た!御坂さーん!今日は初春もいるよ!」


「おっはよ!初春さん!」


「おはようございます!御坂さん!」


一方通行の眼には、佐天しか入ってなかった。


隣にいる頭に花飾りを乗っけた少女のことなど、意識の外である。


朝日に輝く美しい黒髪、肌理細やかで真っ白な肌。


彼女の健康的な肢体に、一方通行は釘付けだ。


しかし、天真爛漫な笑顔がこちらに向けられ、視線が合ったかと思うと、彼女の表情が、下世話な笑みへと形を変えた。


「はっはぁ~ん?御坂さ~ん?一方通行さんと二人で登校する仲だったんですかぁ~?」


意地の悪い笑みだ。御坂をからかってやろうと言う魂胆が見え見えだ。


「ぬっふぇ!あ、朝からい、一緒ですかぁ!」


もう一人の花畑はなぜか顔を真っ赤にして驚愕している。


(ぬっふぇ…?)


「違ェよ佐天。御坂とはたまたまそこで会っただけだ」


無理やり、冷静な自分を取り繕う。


こういうところは慌てれば慌てるほど誤解を招く、そういうものなのである。
123 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:32:02.13 ID:6MGpgWUQ0

「そ、そうよ。そんな仲じゃあないわよ」


「えー。なんだーつまんなーい」


「…あ、朝から…あ、あべ…」


誤解はされずにすみそうだ。


一方通行は、持ち前の頭脳を回転させる。


もしこれが偶然だとしても、御坂が示し合わせてくれたファインプレーだとしても、この機会を逃してはいけない。


ここは多少気まずくても女子三人にくっついて登校し、、佐天とのコミュニケーションを図るべきだ。


そう心に決めたのも束の間、



「それじゃあね一方通行君。また後で」


御坂の先制攻撃、一方通行轟沈。戦闘時間0.1秒。



「じゃああとでね一方通行くん!御坂さん御坂さん!きのうのカナミンで__」



本格的に去り行ってしまう少女達。


取り残される一方通行。


止めとばかりに、振り返った御坂が、大きく眼を見開いて見せた。そして、口の動きだけでこう言って見せた。


『協力しなきゃ、協力しない。あたしが先、アンタは後』
124 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:33:13.56 ID:6MGpgWUQ0

「…」


やられた。一方通行はそう思った。


(…あのクサレ貧乳DQN女…)


納得行くわけがない。



(クソッタレが…!!やられた!まんまと食わされた!アイツ抜きでやる?いいや無理だ。それに後になって手札の少なさで嘆くのも…)



御坂のサポートなしに、少なくとも妨害されては佐天に近づくことなどできやしないのも事実である。


持ち前の頭脳をフル回転させ、一方通行は思考をまとめる。そして、彼の下した決断は以下のようなものだった。



「…仕方がねェ」



立ち尽くす彼の背中から正面へ、一陣の春風が通り過ぎる。


春、移ろい行く季節。内気な少年には、春風など味わっている暇など無いだろう。


彼は、遠ざかる佐天の背中に向け、一つの誓いを立てた。


「…いいねいいねェ…最高だねェ…」


真っ白な頬を歪め、真っ赤な瞳を大きく見開く。


彼は、新たな獲物を見つけたシリアル・キラーではない。


たった今この時から、一人の少女の恋の成就を叶えるキューピッドとなったのである。




「上等じゃねェか」




何としても、上条と御坂を、くっつける、そう心に誓った。
125 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:34:10.62 ID:6MGpgWUQ0


_____________________________________________





「簡単なことだ。上条と組め。以上」


「ええ!?で、でも誰も男子となんか組んでないわよ?」



「そンなの分かってる。その上で言ってンだ。…いいか、作戦はこうだ。よォく聞け」



体育の授業は今バスケをやっている。



試合形式のゲームは男女別れて行うが、柔軟からパス練習までの過程は男女混合だ。



一方通行は、その場を活かそうと考えていた。



「まずは俺とテメエが組む」



「はあ!?何でアンタなんかと…」



「最後まで聞きやがれ。そうすると上条は違うやつと組むだろ?そこで俺が上条の相手にボールをぶつける…それはもう盛大になァ」



「…それで?」



一方通行はニヤリ、とする。



こいつはただボールを思いっきりぶつけたいだけなのでは?とか御坂は思ったが、口には出さないことにした。
126 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:34:56.02 ID:6MGpgWUQ0


「俺がそいつを大げさに保健室に連れて行くから、あぶれたテメエと上条が組む。それで万事OKだ」


「…そんなに上手くいくの?」


「はッ、俺を誰だと思っていやがる。上手くいかせるンだよ。テメエがミスしなけりゃあ問題はねえ」


「…分かったわ」


体育館履きに履き替え、体育教師の前に集合する。


今日もいつもどおりの流れだと言う説明があった。


そして、


「最初は柔軟とパス練習なのである。二人組を作って始めるのである」


「御坂ァ!!」


「ここよ!組みましょう一方通行!」


「うむ、元気がいいのはいいことなのである」


がっしりと腕を組み、コンビを結成する一方通行と御坂。


周囲からは…


「御坂さん…命知らずだな…」


「またあの二人かよ…決着はついてなかったのか!?」


「あの電撃姫が男と組んだ…だと…?」
127 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:36:21.62 ID:6MGpgWUQ0


など、怯えと驚嘆の声が挙がっているが、二人の耳には入っていない。


「…第一段階クリア、だな」


「…うん」


しかし、そう簡単には行かない。


クラスの空気が、御坂の思惑とは違った方向に流れようとしていたのである。


その流れを作りだしたのは一方通行と御坂なのだが…


「なんだなんだ!?今日はそういう日なのかにゃー?じゃあじゃあ俺も女子と組むぜぃ!!!!」


「たまにはいいかもねー」


「じゃああたしも男子と組む~」


「俺も俺も!」


(ま、まずい…)


予想外の展開に御坂は上条のほうを見る。


すると、


「かっ、上条さん!よ、良かったらあたしと組みませんか?」


「おっ、五和か。いいぜ?一方通行に裏切られて困ってたところだ」


「ちょ、ちょっと!アイツ…変な女と組みやがって…どうしてくれんのよ!?」


「落ち着けェ。あとオマエ、変な女呼ばわりかよォ……」


上条が組んだのは五和という女子だった。はじけるボディの十六歳。


黒髪のショートヘアにおっとりとした表情。


隠れ巨乳らしく、男子の間では良くそれが話題になっているらしい。


…しかし、話題になった時点で、それはもう「隠れ」巨乳ではない。
128 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:38:15.44 ID:6MGpgWUQ0

そして、他方では…


「佐天、俺と組まないかにゃー?」


「おうともよ!組みましょう!組みましょう!」


「はァァ!?土御門の野郎ォ……!!愉快なオブジェに成り果ててェのかァ!?」


「…土御門くん、アンタの数少ない友達でしょ?」


悪鬼のような目つきで土御門を射抜く一方通行に、御坂は呆れたような表情を作った。


「…御坂。さっさと始めンぞ」


「もうすこし冷静になったらどうなの?」


「あァ?テメエが言うのかよ」


「…アンタ見てたら、怒ってるのもバカらしくなったわ。」


始めるとか言いながら、一方通行は突っ立ているだけであった。どうみても不貞腐れてる。


御坂は、体操をしながら彼の姿を見つめる。特に理由は無い、なんとなくだ。


体操をただするだけというのも退屈だったから、そんな些細な理由だった。
129 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:39:24.22 ID:6MGpgWUQ0

しかし、知らないうちに御坂は彼から目が離せなくなっていた。


真っ白で、産毛の存在も認められないような肌。


下手すれば自分の肌より綺麗かもしれない、大げさではない。女性が羨むほど美しいのである。


また、眉間のしわ寄せだけを除けば、彼は驚くほど整った顔立ちをしていた。


小さな頭に乗っかる、柔らかそうな白髪は、どこか現実離れしており、御伽噺の世界ような雰囲気を醸し出している。


ひとつの悪魔的な風評のせいで、人はここまでものを見なくなるのだろうか。


(……こいつ、顔だけなら結構見れるのになぁー……ていうか、ずるい……)


御坂はふと、そんなことを考えた。


「おい。なァにボサっと突っ立てンんですか?柔軟だぞ柔軟」


「ふぇっ!?あ、うん!わ、わかったわよ」


(そんな口調だから怖がられんのよ…)


「ほら、背中押してよ一方通行」


「あいよ。」


一方通行は、御坂の背中に手を置いた。そして、徐々に体重をかけていく。


シャンプーの香りだろうか、名状しがたい良い香りが鼻腔を突く。
130 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:40:16.19 ID:6MGpgWUQ0

(…下着の紐…)


いくら相手が御坂だとしても、彼女はどこからどう見ても一人の美少女である。


こうして密着する機会などほとんどない。


女性的な体つきをしている一方通行と言えども、健康的な高校生男子、色々とマズいことを妄想してしまう。


「…?ねえ、聞いてるの?ほら、交代だってよ」


「あ、あァ…」


(やべえやべえ…何考えてンだクソッタレ…佐天一筋のこの俺が…)


「ねぇ。アンタさっきからどうしたの?ずっと顔真っ赤よ?」


「な、何でもねェ!ねェったらねえ!」


「ふぅん…それならいいけどさ」


御坂の柔らかいの手のひらを背中に感じながら、これが佐天だったらな、とか、一方通行は考えた。


そう、無理やり考えた。
131 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:40:55.79 ID:6MGpgWUQ0


______________________________________________



パス練習が始まった。各ペア、思い思いにボールを投げ合っている。


「…よォし、フェイズ2だ。準備は良いか?」


「う、うん…ってちょっと待ったあぁぁああああ!!!!」


「あ?どォしたンんだようるせェな…」


「どォしたって…アンタ、五和さんにボール思いっきりぶつける気!?」


「はァ?当ったり前だろォが」


何がおかしいの?という様子で一方通行は首をかしげた。


「一応女の子よ!?それなのに思いっきりやる気!?」


御坂は信じられない、と言った顔だ、無理もあるまい。


「おいおいおいおい…これから起こるのは、『ハプニング』なんだ、ぜッ!」


「っわ!」


大げさな身振りで肩をすくめた後、一方通行は鋭いパスを御坂に放ってきた。


御坂はとっさにキャッチする。


(こ、コイツっ…!)
132 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:41:49.74 ID:6MGpgWUQ0



悪魔だ。というか絶対ドSだ。


御坂には、一方通行の顔に「滅茶苦茶ぶつけたいです。痛がる顔が見たいです。きひひひひ」と、書いてあるよう錯覚した。


「っ…アンタねえ!」


お返しとばかりに鋭いパスをお見舞いする御坂。



少し驚いた様子の一方通行だったが、面白い、とばかりに頬を歪めるだけだ。まだまだ余裕である。



そして、二人の間には、作戦もそっちのけで、バスケットボールのぶつけ合いのような様相の争いが勃発したのだった。


「協力を強制させたのはどこのどいつだったけェェええええええええ!!!!!!??????」


「アンタっ、どう考えてもぶつけたいだけでしょ!?この変態!!!」


「スタンガンで闇討ちしようとした女が今更常識人きどりですかァ!?ぎゃはははははッ」


めちゃくちゃである。


自ずと、他の生徒の注目も集まってくる。


これだけ大騒ぎしているのだ、当然のことであろう。
133 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:43:00.30 ID:6MGpgWUQ0

「おい…一方通行くんと電撃姫のガチバトルだぜ!」


「すげえ!なんてスピードだ!」


「こええっ。誰だよ一方通行くんが不良じゃないとか言ってたヤツ、あれ絶対やべえって!」


「ああ…目が血走ってるな…」


「誰か止めたほうがよくない?御坂さん死んじゃうよ?」


二人は自分たちが騒ぎの中心にいるという自覚は、当然の事ながら無かった。


良くも悪くも目立つふたりだ、耐性が付いてしまっているのだ。


そして、激しい戦いにもついに幕が降ろされる。



「うっわ!」



立ち止まっていた一方通行が、急に位置取りを買え、本格的に五和を狙ってきたのだ。



「もらったァ!」



眼を血走らせ、吼える一方通行。
134 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:43:27.19 ID:6MGpgWUQ0

彼の放った球が、御坂にはスローモーションに見えた。



(や、やばい!)



必死にボールに追いすがる御坂。



そして、



「ぐぎゃっ!」


「ざまあ__って違ェええ!!」


一方通行が、本来の自分の目的を思い出すのと、御坂の顔面にボールが吸い込まれるのは完全に同時だった。


急いで駆け寄る一方通行。


焦りに焦る彼であるが、自業自得、というか彼の悪乗りが原因である。どうしようもない男だ。


完全に予測不可能だった不足の事態。突然のことに頭が真っ白になることも多々あるはずであろう。


しかし彼は、普通ではない。頭をフル回転させ、最良の手段を導き出す。



(…やっちまった…だが、保健室に連れて行く役を上条に任せれば……逆境をチャンスに変えるのが成功の秘訣ってヤツなンだよォ……!!)


自らの行いで御坂を昏倒状態に追い込んだ男とは思えないが、その時の彼は微笑すら浮かべていた。
135 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:44:15.97 ID:6MGpgWUQ0

しかし、そんな彼の目論見も、御坂の顔を見た瞬間には、露と消えることとなった。


「…あは。…こりゃァ……流石に上条にはお見せできねェ…」


ツラに問題大有り。マニア向けすぎる。



「…ウィリアム先生」


「ん、どうしたのであるか?」


「俺、責任とって御坂を保健室に連れて行きますね?」


「うむ、わかったのである」


そういい残し、一方通行は御坂を抱きかかえたまま、体育館を後にした。





「一方通行が電撃姫を仕留めたぞ!」


「うっそやばくない!?ちょっと一方通行くんに任せていいの!?」


「いや、俺は敵に敬意を払って連れて行ったと信じるぞ!」


「うん!素晴らしい戦いだった!」



走り去った一方通行の後には、生徒達のざわめきだけが残された。
136 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/17(土) 00:47:29.64 ID:6MGpgWUQ0
今日はここまでです!明日超電磁砲七巻買わなきゃ…

近いうち来ます。
137 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sagasage]:2011/12/17(土) 01:03:31.17 ID:kHikVwD60
乙ん乙

とらドラ知らんから普通に楽しんでしまっているがな
138 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 01:43:13.86 ID:pu409xUBo
この二人駄目駄目だなぁ…面白い乙! 
 
149 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:20:25.04 ID:wNSBMkoS0




「御坂ァ、弁当食うぞ。上条、テメエも来い!あと…佐天も」


挽回してやる。


一方通行は決意した。


自分の加虐的な性格がエスカレートし、完全に当初の目的を忘れてしまったことに、彼は痛く反省していた。


食事時の団欒というプリシャスな一時を共に送り、上条との間を取り持とうというのである。ちなみに保健室から帰ってきた御坂には全力で謝った。腰に一発ミドルキックを食らったが。


御坂に提案する間もなく事を進めたので、顔を真っ赤にしてキョドっているが、そんなの気にしていられない。


勝負はタイミングが命だ。


「おういいぜ!じゃあ机くっつけよう。」


「ぐっふふ~、もちろんいいですよ!ほら御坂さん!一方通行さんが謝りたいって!」


(ここまではプランどォりだ…そしてッ…!)


「おっと、手が滑った」


一方通行は偶然を装って御坂の背を押し、御坂の体を上条の隣へと滑り込ませ______
150 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:20:50.25 ID:wNSBMkoS0


「ふぇっ?」


_____られなかった。



(はァ!?察しろやこの馬鹿!)



御坂は地面に激突せんとしている。


一方通行は、自らが佐天の隣に腰掛けるのではなく、上条の隣を御坂で埋めることによって、その位置を得ようとしていたのである。


汚い。さすが一方通行汚い。というかヘタレである。どうしようもない。


「させるかァ!」


体育のときの二の舞にはなるものか。


一方通行は、地面に接触する寸前の御坂を抱きかかえるようにしてキャッチ、


そしてそのまま御坂の体を運び、上条の隣につけた。


「…………」


よし、なんとかなった。と、心の中でガッツポーズを決める一方通行。


しかし…
151 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:21:33.71 ID:wNSBMkoS0

しかし…


「やるなあ一方通行~。なんかダンスみてえで凄かったぞ?」


「なるほどぉ!先ほどのパス練習で絆が深まったのですなぁ!」


「…違ェよ」


変に誤解されてしまったか?御坂の方に眼を向けるが、


「……ぁ」


上条の隣と言うだけで顔が真っ赤、全身を石造のようにカチカチにさせている。


…弁解を望むのは不可能のようだ。


「…いただきます」


「ん、珍しいな。お前がそんな挨拶するの初じゃね?」


「うるせェ!いつもしてるわ!」


「そ、そんな怒るなよ!…ったく、変なやつ…」


「御坂さん!あーん♪佐天特製!とりのから揚げをプレゼントぉ~」


「…はむ」
152 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:21:59.19 ID:wNSBMkoS0


(クソがぁ!俺達は緊張してンだよ!つゥか御坂…羨ましいぜ…)


最初はどうなることかと思ったが、和気藹々とした昼食の空気が出来上がろうとしていた。


一方通行ら二人は、まだ昼食に手をつけておらず、御坂はまだ一言も発していなかったのであるが。


(よォし…このまま行けば…………あ…。…クソッタレッ!や、ヤベえこと思い出した!この流れはまずいっ!)


一方通行が自らの計画の落ち度に気がつくのと同時に、教室の入り口から声がかかった。


「せんぱーい。」


「おや?あ…ミーティングあんの忘れてたぁー!」


「ははー…このお馬鹿さんめ…ん?みーてぃんぐ……ああああああああああああ!!!俺も生徒会の集まりあるんだったぁ!」


「うわっ!な、何だ何だァ?」


弁当を引っつかみ、慌てて廊下へと向かう二人、そしてそれぞれこう言い残した。


「マジですまん一方通行!かんっぜんに忘れてた!今日はこれで!」


「ごめんねお二人さん!また誘ってください!ホントごめ~んっ!!」
153 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:22:33.39 ID:wNSBMkoS0

「……」


これは、ある意味運が良かったのではないか。


心中で胸をなでおろしつつ御坂のほうを見る。


「おい…コラ。生きてっか?」


「…はぁ」


まさしく意気消沈。あれだけ長い間テンパっていた疲れもあるのだろう。


「なんであたしこうなんだろ…ちょっと前までは普通にお喋りとか出来たのに…意識したとたん…」


「ま、ある意味ツイてた。俺達の弁当の中身、同じだからな。見られたら言い逃れできねェ。変な勘違いされても困るしなァ」


「…そうね」


「…」


どうやらマジに、本格的に落ち込んでしまっているらしい。


あれだけ破天荒な女だが、御坂が悲しそうな表情を浮かべるのを、どうしてか一方通行は黙ってみていられなかった。

154 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:23:16.06 ID:wNSBMkoS0

「…ゴチャゴチャうっせえ女だな…ほらよっ」


「っ!?」


一方通行は、御坂の口にサトイモを放り込む。


一瞬非難じみた眼でこちらを睨んだものの、吐き出すわけにもいかないので、きちんと咀嚼。


そして、ごっくんと飲み込んだ。


「…うめェだろ?今は忘れて食っちまえ。悩むのは後にしろ。飯がまずくなる」


「…」


「…はッ」


一方通行は、彼女の無言を肯定と受け取った。


御坂の箸がようやく進み始めた。


(美味そォに食うよな、オマエはよ)


ガツガツ、といったような、下品な食べ方ではない。


そのあたりは流石お嬢様といったところか、彼女は上品に、それでいてとても美味しそうに食べてくれる。


料理をした一方通行としては、見ていておもわず笑みがこぼれてしまうような食べっぷりだった。
155 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:24:01.72 ID:wNSBMkoS0


「…何よアンタ。ジロジロこっちみて…そんでもってニヤニヤして…」


「なンでもねえよ」


「…気持ち悪いわね」


一方通行を罵倒しつつも箸を止めることはなかった。


そんな御坂を眺めながら、一方通行は次なるプランを練り始める。


「…一方通行」


「何ですかァ?」


「野菜の割り合い、多すぎない?」


「ウチは一週間単位で食生活のバランスを取ってンだ。今回は我慢しろ。」


「ま、好きだからいいけど…それでさ、」


「今度は何だ」


「デザートは?」


「そンなもンはねえ!」


「ケチ」


「そンなに食いたきゃ自分で用意しやがれ!…ま、明日はなンか用意してやるよ」


「やっりぃ♪あ、このアスパラベーコン巻き美味しい」


「当然だァ」
156 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:25:16.44 ID:wNSBMkoS0


緩やかな時間が続く。


とりあえずは失敗の連続を忘れてくれているようだった。箸が進むに進んだ。


「おい、何だよアレ…」


「聞きたいのは俺だよ…」


「うそ…御坂さんがぁ」


しかし、そんな二人を、周囲は放っておいてくれなかった。


生徒達はただ疑問をのみ募らせる。


もっとも、それを本人達に直接問いただすことなどできないのであるが。
157 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:26:12.41 ID:wNSBMkoS0



「…今日はここまでなのですよー!日直さぁ~ん、お願いしまぁーす」


「起立、礼」


「「さよーならー」」


長かった2-cの一日もこうして終わりを告げる。


しかし、一方通行と御坂にはまだやるべきことが残っていた。


「いいか?あくまでさりげなく渡せ。安心しろ、テメエは上条のやつに嫌われてはいねェよ」


「ほ、ホントに…?」


少し上目遣いになって尋ねる御坂。


ずっとこんな様子ならさぞかしモテるだろう、そんな風に思う一方通行だった。


「女子にクッキーもらって喜ばねえ男子はいねェ…俺だってもらえたら嬉しいしな」


もらったことないけど、そんな言葉をもう一歩のところで飲み込む。


「おっ、やべえやべえ!急いで生徒会行かねえとまた噛みつかれちまうっ!」


様子を伺う暇さえなかった。上条当麻の行動は早い。おしゃべりに現を抜かす暇さえないのか、いつの間にか支度が整っていた。


「おい!急げ!上条行っちまうぞ!」


「ふぇっ!?」
158 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:26:47.77 ID:wNSBMkoS0

作戦は簡単だ。


家庭科の授業で作ったクッキーを渡す。


あいつにクッキーを渡している女子など山ほどいたが、こういう小さな一歩でもなにかしら変化はあるはずだ。


「…おい、何突っ立てンですかァ!?」


「だ、だだだってっ…!」


逡巡しているうちに上条は生徒会室に向かっていってしまった。


「ッ!追いかけンぞ!」


御坂の手を掴み走り出す。


菓子作りは未知の領域だった御坂だったが、家庭的一方通行の監修により、いい出来のものが完成したのだ。


ここで渡せないのはあまりにも勿体無い。もったいない。MOTTAINAI。


「すまねェ、どいてくれ」


手を結んだまま、廊下を駆ける二人。目指すは生徒会室の方向だ。


「ひぃっ、あ、一方通行さんっ!?」


「ど、どけっ!殺されるぞ!」


「み、御坂さんが悪魔の手にっ!」


周囲からの雑音など耳に入らなかった。


紅海を割るモーゼのごとく人が割れていくのは、今回ばかりは都合が良い。
159 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:28:07.17 ID:wNSBMkoS0


一階の生徒会室に向け、一心不乱に駆けた。


しかし、下の階へと下る階段に差し掛かったところで__


「ぅわっ」


御坂が足を滑らせる。


「ッ!?」


このままでは、地面に頭から突っ込むことになる、そう確信した一方通行は、とっさに御坂の体を抱きかかえ__


「ご、があァっ!!!」


そのまま、踊り場の壁に背中から激突した。


ちなみに、手をつないでいた逆の手に握られていたクッキーは、窓の外に飛んでいってしまった。


「…」


「あく…あくせられーた…?ちょっと!ねえ!!」


「…ンだよ」


痛みと息苦しさで朦朧とする意識の中、一方通行は、クッキー粉々だろうな、なんてことを考えていた。


目の前に、今にも泣き出しそうな顔をした御坂が見える。


「どォしてそンな顔してやがる…ほら、さっさとクッキーを___」


「バカ!そんなのどうだっていいのよ!アンタ、怪我は?背中打ったでしょ?」


御坂は、一方通行に怪我がないか、体に異常はないかをぺたぺたと触りながら確認してくる。


「そンなことよりッ__」


「こら!窓からものを投げた生徒、出てくるのである!危ないのである!」
160 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:29:17.09 ID:wNSBMkoS0


(ウィリアム先生か…)


「…仕方がねえ。オイ、さっさと行って叱られてきやがれ」


「で、でもアンタ__」


「問題ねェよ。さっさと行っちまえ、ほら」


しっし、と追い払うような動作をする一方通行。


ここまで言われたのだ、行くほかあるまい。


何度もこちらを振り向きながら去っていく御坂の背中を見ながら、誰に対してでもなく、一方通行は一人ごちた。


「愉快だねェ……なンて言ってらンねェな……。」
161 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:29:56.63 ID:wNSBMkoS0



                   ◇



「ねえ、ホントに大丈夫なの?」


「あァ」


「ホントのホント?」


「本当だよ。ったく…何回このくだり繰り返してンですか?こっちは見た目よかだいぶ頑丈に出来てンだよ」


「…ならいいけどさ…」


先ほどから、何度も何度も繰り返したやり取り。


放課後の教室。憂う御坂美琴の表情を眺めるものは、一方通行以外にはいない。


彼女のことを知れば知るほど、彼女のイメージが当初のものから遠ざかっていく。


「電撃姫」など呼ばれているが、これではただの不器用な恋する少女ではないか。


歳相応どころか、実年齢異常に初心なのかもしれない。これでよく「お姉さま」とか呼ばれていたものだ。


考えが顔に出ていたのか、窓の外をそっぽを向くように眺めながら、御坂が口を開いた。
162 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:30:59.13 ID:wNSBMkoS0

「あたしさ、結構器用で、なんでも出来るのよ。運動だって出来るし、勉強も得意。楽器も弾けるし、料理だってそのへんの女の子よりずっと出来るのよ…?すごいでしょ?」


「…対したもンだ。」


「…」


御坂は、粉々になってしまったクッキーを握り締めた。


一方通行は、彼女の言葉を黙って聞いていた。


「私、全然だめ…何やってんのかな?…」


「…」


「アイツの前で緊張するのも、今まではほとんどなかったのに、らぶ…手紙を書いたころから急にどうしようもなくなってきちゃった…」


「誰だってそォさ…」


「アイツに話ができないのもムカつく…でも、それより私がこんなに不器用な人間って思い知らされて…はぁ…」


「……」


「ねえ、私のことどう思う一方通行?私、散々アンタに手伝わせてるのに、失敗したって事実より、自分がどんくさいって事を認めたくないの…ははは…」


「…」


「私、自分をこんな風にするアイツに苛立ってる。アイツ、何にも悪いことしてないのにさ…」


「…」


「最低だよね。…こうやって、アンタは、精一杯あたしのフォローをしてくれてるのにさ…」
163 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:31:45.48 ID:wNSBMkoS0


沈黙が空気を埋める。一方通行は御坂の顔を覗き込む。


うつむいた顔からは、表情は分からない。


こいつは今、とてつもなく落ち込んでいる。


本当に落ち込んだとき、人は表情が抜け落ちるものなのだ。


(…言葉が見つからねェ)


自分は励ますべきなのだろうか?


(ていうかよォ……失敗の原因の半分くらい俺じゃねェ?……どォしよ……)


どんな言葉を選んだらいいのか、一方通行には分からなかった。


今までの人生で、女性を励ますという経験など存在しなかったのだ。


(考えてわかンねェなら……)


「…つゥかよ」


一方通行は、大げさな身振りで髪をかきあげ、天井を仰いだ。


ここは、「女性」として扱う必要などない。そう自分に言い聞かせ、言いたいことを言うことにした。


どうせどんな言葉を選んでも、相手にどう伝わるかなど分からない。


彼が十六年の人生で、痛いほど学んできたことだ、深く考えるのは止めにした。
164 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:32:21.12 ID:wNSBMkoS0


「今まで、ほかの事は上手く言ってたンだろ?それならこれから上手くいく。どォしてそう考えねえ?」


「…」


「落胆するだけ無駄だ。どォせ、失敗しちまった事実は消えねえ。それはテメエが一番良くわかってンだろォが」


「…」


「それに、アイツが人の好意に鈍感なのは、今に始まったことじゃねェ。…だろ?」


「…」


…説教臭すぎただろうか、これではまるで上条だ。


似合わないせ台詞を吐いた。ヤバい。顔が熱い。


(ちょ、し、死にてえ…説教ってガラじゃあねェのは知ってたが…)


一方通行の勝手な動揺に、御坂は気付いていない。顔を上げようとすらしないのだ。


彼女に自分の言葉は届かなかったのだろうか?


「…ッ!クソ!あァ!もう!よこせ!」


「えっ?ちょっ!何すんのよ!」


自分ひとりで勝手に恥ずかしがっていると言う滑稽さに苛立ちが募っていく。


そして一方通行は、八つ当たりとばかりに、御坂の手の中のクッキーをひったくった。
165 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:32:47.98 ID:wNSBMkoS0

「止めなさいよっ!そっ、それ、落ちたやつよ?」


「どォせ渡せねえンだからよこせ!俺が指導してやったンだ!権利があンだよ!」


ああだこうだ喚いている御坂にガン無視をくれ、粉々になったクッキーを口の中に流し込んだ。


ほんのりとした甘み、なのだろうが。それでも、一方通行にとっては甘みが強すぎた。


上条向けに作ったのだから当たり前だ。しかし、味は悪くない。むしろ…


「クッソ甘ェ…だが、悪くはねえな」


実際、クッキーは美味しかった。


お世辞が苦手な彼である。信憑性の高い言葉と、御坂は受け取った。


「そ、そう…?…良かった、のかな…」


「…」


面倒くさいヤツだ、と一方通行は思う。


ここまで感情を二転三転させて、彼女は疲れないのだろうか?


「ほら、俺のと交換だ。甘さ控えめ、ビタースウィート仕様だ」


自分のクッキーを御坂に押し付ける。食え、と顎で示してやると、彼女はそれをゆっくりと口に運んだ。


「…ほろ苦い」


「だろ?」


子供か、と突っ込みたくなるような、素直な感想だった。思わず笑みがこぼれる。


「甘いのは苦手なンだよ。だが、コーヒーに会うこと間違いなしだぜ?」


「でも美味しい!市販のヤツより全然美味しい!」


「テメエのも悪くねえぞ。ちょいと、俺には甘すぎるけどな」
166 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:33:25.59 ID:wNSBMkoS0


不器用な笑顔を作りながら、一方通行は思う。


御坂のこんな部分を他の誰が知っているだろう、と。


自分のような強面と違うんだから、普段からそうして馬鹿みたいに笑っていればいいのに、とも思う。


そして、落ち込んでいる彼女を励ましてやりたい、とか、彼女の落ち込んでいる顔を見たくはない、とか思えるくらいには、彼女のことを思えるようになっている自分にも気付いた。


「…帰るわよ」


「…あいよ」


背を向けつつ立ち上がる。


泣き顔を見せまい、と思うくらいには立ち直ったようだ。


「晩御飯、お肉が食べたいわ。…あ、ほら一方通行!急いで帰らないと!買い物するんでしょ!?ゲコ太が始まっちゃう!」


「あァ?録画してるって行ってただろ?」


「生で見ることに意味があんのよ!ほらっ、急ぐ!」


「おい…引っ張ンな…」


御坂は、一方通行の手を引き歩き出す。


勝手なやつだ、とか思いつつも、一方通行は、この不思議な関係にどこか心地の良さを感じていた。
167 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/21(水) 15:36:14.59 ID:wNSBMkoS0
今回はここまでです!遅くなってひっじょーに申し訳ない!
時間あんまないのにちまちま加筆修正してたら遅くなってしもうた…
あっさりめですが許してね?次は多分明後日か土曜日!

ブリキ絵の黒子かわいい
168 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 15:36:52.79 ID:1Jlu3j2uo
ちがうな黒子がかわいいんだよ!!! 
 
180 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:38:45.10 ID:xgakVCX10
                          ◇




「きゃーーっ!いけぇー!ゲコ太!やっつけろー!」


「おい!立ち上がンな!見えねえだろォが!」


「…ふぅーん。アンタも、ようやくゲコ太の素晴らしさに気がついたの?まったく素直じゃないわねー」


「…ストーリーだけは評価してやる」


奇妙な関係が構築されてから、一ヶ月の月日がたった。


あれから御坂は、一方通行家で夕飯と朝食を食べることとなった。


そもそもの始まりは、家事ができない訳でもない御坂が、ひとりきりだろ全く家事を行わず、コンビニ弁当やカップラーメンで済ませてしまう悪癖を厳重に注意したところ、それならウチで、みたいな流れで始まった。



「おう、御坂ちゃん、クソガキ。そろそろ仕事行ってくるわ」


「はーい。木原さん。行ってらっしゃーい」


「…気ィつけろよ」


「おー、それとクソガキ!昨日大家さんからうるせえって苦情が来てたぞ!あんま遅くまで騒ぐんじゃねえぞ!わかったか!」


「はァい」


「…ったく。じゃあ御坂ちゃん、ゆっくりしてってくれ」


「ありがとうございます!気をつけてくださいねー」


「くゥ~!嬉しいね!じゃあ行ってくるぜ!」
181 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:42:04.17 ID:xgakVCX10


「…」


「おいクソガキ!!なんとか言えや固羅!!」


「いッしゃッしゃーい…」


「なんだそりゃ…ったく…」


…と、以上のように、強面の同居人もすっかり気を許してしまっている。


一方通行が、初めて木原を見た御坂に「木原くン怖くねェの?」と聞いたときも、


「ウチのパパも似たようなものだし、別に平気」


などと言う始末であった。


このお嬢様は、基本的に神経が図太いのだろうか。


「ていうかアンタ、このケース何よ?野球なんてするガラじゃないでしょ?」


リビングルームの壁に立てかけられている、野球のバットケースと思われるものを指さしつつ御坂は尋ねる。一方通行はどう見ても野球というキャラではないので気になっていたようだ。


「ァ?……ああ、そりゃァチンピラから鹵獲したァ。持ってると便利なンだよ。使ったことはねェがな」


しれっと毛ほどの興味も抱いていないといった顔で一方通行が答えた。大した意味のないものなのかもしれない。
182 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:42:40.09 ID:xgakVCX10

「何よそれ……宝の持ち腐れじゃない。」


「いいや、便利っつっても__」


「おぉ!?ゲコ太がトンカツ食べてる!一方通行!あしたトンカツにするわよ!」


「……蛙が豚を食ってやがる」


「…アンタ、どうしてそういう見方しか出来ないの?」


うつぶせで絨毯に身を投げ出して、足をバタバタさせながら、非難がましい目つきで御坂がこちらを振り返る。


(…この女、隙を見せすぎだろ)


高校生男子の煩悩を全く理解していない少女の背後、一方通行は溜息をつく。


「……つゥか、高校生にもなって、そのパジャマはアリなのか?子供っぽすぎじゃねェ?」


「し、知ってるわよ!前にルームメイトにも言われたわ!でもいいの!好きなんだから!仕方ないのー!」


顔を真っ赤にして弁解する御坂。


子供っぽい趣味のことはよく指摘されていたのだろう、涙目になっている。


「そ、そォか。す、すまねえな」


「……」


機嫌を損ねてしまったようだ。こっちに見向きもせず、エンディングのスタッフロールをじっと見つめている。
183 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:44:00.25 ID:xgakVCX10

「……」


「……」


(し、しまった…あー…機嫌をとるには…)


上手い言葉はないか、一方通行は考える。


保護者である木原をも巻き込んで、長い間共同生活を送っているうち、一方通行は、彼女に対しては言葉を選ばなくなっていたのだ。


(あっ、うン。これだ…)


「……まァ、だが嫌いじゃねえぞ。テメエが着るんだ、認めたくねえが似あってンよ。可愛い可愛い」


ぴしっ、と、御坂の動きが固まったのが一方通行にも感じ取れた。


うつぶせに寝転がっていた御坂は、ゆっくりと立ち上がると、こちらを振り向いた。


「ン?どォした?顔がゆでだこみてえになってンぞ?」


「あ、あ、あ、アンタ…な、なに、何いって…」


「だから、可愛いって。似あってる___」


「きょ、きょの変態!!」


「ぶへッ!!」


どうしたものか、御坂は手に持っていたテレビのリモコンをこちらに向かって投擲してきた。


かわす余裕もあるはずもない、リモコンは一方通行の脳天に直撃した。
184 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:45:09.84 ID:xgakVCX10

「ってェ!な、な、何しやがる!?」


「変態!変態!へんたーい!私のことそういう目で見てたのね!さ、さっきから!あ、ありえない!」


「はァっ!?」


正直なところ、すこしはそういう眼で見ていた一方通行だったが、正直に認めるわけもない。


痛む脳天を抑えながら、反論を試みる。こちらも涙目だ。



「っざけンな!!俺はさ、佐天涙子一筋だァ!!誰がオマエなンぞに!!」


「ッ!!わ、私だって誰がアンタなんか!」



ああ、また大家さんに叱られる。そんなことを懸念する一方通行。


この馴れ合いの関係に、小規模の衝突は日常茶飯事だった。


朝食、夕食を一緒に食べるだけでなく、


「あ、アイツ…か、上条ってさ…」


など、


「佐天涙子ってよォ…」



とかの相談から、あの漫画がどうだ、あの番組がどうだ、あのアニメがどうだ、など、御坂が寝るまでの時間帯まで、彼女は一方通行家にお邪魔していた。


ユリコなど一方通行と同じくらいに御坂に懐いている。これは納得がいかなかったが、


「…あたし、ネコに好かれたの初めて」


とか、涙目になって感動する御坂を前にしたら、「良かったなァ」としか言えなかった。
185 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:46:29.03 ID:xgakVCX10


いつも通りの口論もお開きとなり、これまたいつもどおりのダラダラとした時間が過ぎてゆく。


一方通行はユリコとじゃれついたり、御坂は友人とメールしたりしていたのだが、二人して、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。


「ふぁ……うぇ、…二時。…ん…二時?」


テレビは消えている。


物音一つ響かないリビングルームには、誰かさんの静かな寝息だけが唯一の音源だった。


「…」


抱きしめていたお気に入りのクッションには、よだれがしみを作っていた。


不覚、とか思いつつ、辺りを見回す。


すると、


「ぁ…」


白い、見たことない生き物が寝ていた。


「あ、一方通行…よね…?」


御坂には、自分の見ているものと、『あの』一方通行が同一のものだという自信が、いまひとつ持てなかった。


それほど彼は別人のような顔つきをしていたのだ。
186 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:50:09.39 ID:xgakVCX10


「…あたし、帰るわよ?…ねえ…ねえってば」


いつもの七割り増しくらいで穏やかになった彼の顔に手を伸ばす。


頬に触れる。これは本当に男子高校生の肌なのだろうか?女を敵に回している、そうに違いない。


「ふふ…ほぉれほれ」


頬をこねくり回してみる。


…本物の美形って頬をつねられても美形なんだ、とか思ってしまう。


「…っ」


御坂は突然手を止める。


「……」


我に返ってみると中々恥ずかしいことをしていたことに気づく。


「き、気の迷いよ…………帰ろ」


元来持っていた高いプライドが許さないのか、彼ごときに無心になってしまった自分を叱咤するように彼女は吐き捨てた。


そんな自分を叱咤しつつも、悪い気分ではない。そんな気持ちが一層彼女の心を不安定なものにした。自分はいったい、何を考えていたのだろうか。


押入れから毛布を引っ張り出して掛けてやる。


さほど寒くは無い日だ。これで十分暖かいだろう。


「おやすみ」


その日はベランダから帰った。


柵はひんやりと冷たく、ほこりにまみれていた。
187 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:50:58.57 ID:xgakVCX10

                             ◇






二人の奇妙な関係を、いつまでも周囲が見過ごしてくれるというはなかった。


いつものように二人で登校し席に着く。


しかし、その日の教室のざわめきがいつものそれと空気が異なると言う事に、二人は気付くことができなかったのである。


「おいおい。あの二人、また似たような時間に来たぜ?」


「あたし、この前一緒に帰ってんのみた!」


「ひと月くらい前の体育からへんだよなー」


「もっと前だろ。」


「ぁっ…!あ、一方通行と眼があった!こ、こぇぇえ!!」


「誰か知らないの?」


「俺がちょっち知ってるぜぃ!!」


二人の預かり知らぬ所で、クラスの連中は勝手に盛り上がっていた。


好奇や恐怖の視線に耐性を持ってしまっている二人は、これらに全く気付くことが無かったのである。
188 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:53:33.99 ID:xgakVCX10


噂に興ずるその他生徒は、思い思いに彼らの関係を邪推していた。


[証言その一、土御門元春]


「あれは親に牛乳のお使いを頼まれてスーパーまで言った時のことだ…そう!そこに居たのは一方通行と御坂美琴!やたらとテンションの高い二人が、『今日は 肉だぜェぇええええええええ!?』『そ、そう…良かったわね』とか言い合ってたにゃー。その会話の中で…『共通の財布』っつー言葉が出てきちまったんだぜ こんちきしょーーー!!!!!夫婦かぁっぁーーーーーーーー!!!!!」


[証言その二 五和]


「あ、あの…学校の近くにすっごく豪華な超高層マンションがあるんですけど知ってますか?すごいなーこんなとこ住んでみたいなぁ、とか思いながら眺めてた んですけど…そ、そしてら一方通行くんと御坂さんが出てきたんですよ!えぇ!?一緒に住んでるの!?とかびっくりしてたら一方通行くんが『何度起こしたと 思ってンんだよ…終いにゃしばくぞ?』とか言ってて…そ、そそそそ、そ、それって…あわわ…」


[証言その三 海原光貴]


「僕と土御門さんは一方通行と非常に仲が良いんです。僕が欲しい本がありまして、彼を書店に寄っていこうと誘ったんですが、そうしたら彼が、『ちょっと待 て。…おい御坂。一緒に帰れなくなった。七時半くらいにに来やがれ』などとおっしゃいましてね…さて…御坂さんはどこへ何をしに行くのでしょうね…?もち ろん一方通行には聞きましたよ?当然、はぐらかされましたけどね」
189 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:54:11.47 ID:xgakVCX10

2-Cの生徒達が、思い思いの想像を膨らませている中、御坂が一方通行の席に向かっていった。


クラスの視線が彼らに集まる。


そして、御坂が一方通行に耳打ちする。



その言葉は、彼らの耳には確かにこう聞こえた






「今夜は、帰らない」






「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」



その瞬間、教室中が電撃が走ったかのごとくざわついた。


「ま、まじかよ!え、エロっ!」


「だ、誰だよ!御坂は男に興味ないとかいったヤツ!知ってたなら俺だって…俺だってなぁ!」


「お前には無理だ!俺なんて去年の夏フラれてんだぞ!!」


「ぜ、絶対はじめてじゃないよねっ!?御坂さん、あんなに落ち着いてるし!」


噂とはこのようにして広がってゆくのだろうか。


今やこの騒ぎに同調していないのは、噂の中心に居る彼らだけであった。


学生にとって噂とは最高の娯楽なのかもしれない。良心すら見失ってしまうほどの。
190 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:54:37.79 ID:xgakVCX10

「あ、あんの野郎!許さないぜぃ!!い、いつの間にかそんなところまで行ってるのに話さないなんてぇ!!」


「こ、これは…ぼ、僕達も話を聞く必要がありそうですね?そうですよね!?」



土御門が騒ぎ立て、海原は平静を保とうと必死だ。


一方通行の友人として、野次馬達以上にこの話題には興味があるようだ。



「じゃ、後でね」


「あいよ」



今や教室中の話題の中心となっている二人であるが、全くそのことには気が付いていないようだ。


慣れという物は恐ろしいもので、彼らは人の視線というのもへの耐性が強まりすぎていた。


しかし、かくの如く盛大に勘違いされてしまっているのであるが、二人の会話の内容そのものはどうと言う事のないものであり、以下の通りの内容であった。


「ねぇちょっと。」


「ンだよ」


「朝伝え忘れてたんだけど、木原さんが、『今夜は帰らない』ってさ。なんか研究の方が忙しいみたいよ」


「ったく……そォいう事は早くいえってのォ」


「何?だからわざわざ伝えに来たのにその態度?」


「てめェじゃねえよ。木原くンに言ってンの。…オーケイ、わかった。わざわざ御苦労さン…あ、今日なンか食べたいものあるのかよ?」


「……湯豆腐」


「渋いな」


と、いうものであった。
191 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:55:43.02 ID:xgakVCX10

今や、ざわめき立つ教室の中では、誰があの二人に仔細を伺うのかの押し付け合いが無言の圧力によって行われていた。


(お前行けよ)


(アンタがいけ)


(…嫌だ。コワイ…)


しかし、彼らに直接話を聞きに行けるような勇気のあるものはいなかった。その上彼らの関心は、言ってしまえば下世話の一言で片づけることも可能な話題である。そうなると、自然とその役割は一方通行の友人へ求められることになる。


「…僕ですか?…はは…は…」


自ずと、一方通行と仲の良い海原へと視線が集まった。



人がいいのは悪くは無いが、便利な男と言う物は、良いように使われてしまうものである。柔和な笑みに一筋の汗が見えた。彼の動揺も珍しい。



苦笑いを浮かべながら、渋々と言った様子で、海原は覚悟を決めた。


「まぁ、いいんですけどね…それじゃあ__」
192 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:56:15.00 ID:xgakVCX10




「ガタッ」




193 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:56:51.48 ID:xgakVCX10


しかし、その直前に席を立つ者がいた。


「…」


佐天涙子。御坂美琴の親友の一人である。


彼女は逡巡の感じられない足取りで、御坂美琴の席の前まで歩み寄り、


「御坂さぁん?ちょぉっといいですか~?」


「ん?佐天さん?どうしたの?」


「屋上。」


「ええっ!?」


親指を立て、背後を指すようなポージングを取った佐天は、そのまま御坂に肩を組み、


「一方通行さん!」


「ぁあン…?ってあァ!?な、なンだよ…」


「屋上。」


「お、おォ…」


いきなり佐天に話しかけられ、嬉しかったのもつかの間。


佐天の訳のわからない勢いに気押されるがまま、一方通行らは屋上に連行されていった。



「……一体何が始まるんです?」


「……ドンマイだぜぃ…海原。」
194 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:57:31.91 ID:xgakVCX10

                               ◇









「……黒き風が泣いている…」


佐天涙子は、屋上のへりに片足を乗せ、黄昏るような表情で遠くを見ていた。


一方通行と御坂が屋上に強制連行されて役一分。


当然、連行されるような覚えのない彼らは、何が何だか分からない。


狼狽と不可解さ、それと愛想笑いの入り混じった、形容のし難い表情を浮かべている。



「(…おい…一体テメエ何したンんだよ……まァ、佐天涙子に呼び出されたンんだ、文句は言わねェけどよォ)」


「(知らないわよ。あの子ちょっと訳わかんないとこあるから…)」


「一方通行さぁああああああああああああああああん!!!!!!!!!」


「あ、あァん!!??」


佐天涙子は、大袈裟な身振りで振り返ると、その場で大きく飛び上がった。


表情には現れずとも、突然の事態に当惑する一方通行。


そして___




「っ御坂さんを!!よろしくお願いしまぁぁぁぁああああああああああっす!!!!!!」




そのまま、土下座した。


「…」


「…」


空気が凍る、とはこのような事態を言うのだろうか。


彼女の言っていることが分からない。
195 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:58:18.87 ID:xgakVCX10

…冗談か、本気か?いやいやいやそんなはずはない…と、頭の中で自問自答する一方通行。


そして、とりあえず問いただすのが先決と言う結論に至った。



「は、っはっはァ……じょ、冗談にしては笑えねェなァ?な、何とか言ってやれよ御坂?」



「そ、そうよー!全く佐天さんらしくないわよぉー!は、はは……そ、それよりさっきのヤツ魔王でしょ?あたし知ってるわよ!クロノトリガーは小学生の__」



「まったまたぁ!ごまかさないでくださいよ!!もう知ってるんですよ?…あーあ~…御坂さんに先を越されちゃったかぁー…」



「ちょ、ちょっと佐天さん!?だから__」



これはまずい。と、必死に食い下がる御坂。心の中で警報が鳴っている。



しかし__



「御坂さんったら、あの人のせいで男の人に興味が無いとか言う噂が立ち始めてたし、異性とうまくやれるか心配だったんですけど……えーと……なんでしたっけ、き、ききき…」


「杞憂だァ。」


「そーキユー!いらない心配だったみたいですね!」


彼女は全く聞く気が無いようである。
196 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 17:59:53.55 ID:xgakVCX10


「って!そォじゃねェだろ!!…だからよォ…そもそも俺と御坂は何の__」


「話は聞かせてもらったぜ!!!!」


「っておォい!!!」



お決まりの台詞と共に、でん、と屋上の扉が勢いよく開かれた。


そこに立っていたのは、ツンツン頭の生徒会副会長、上条当麻。悠悠登場。


「いっやぁ~…水臭いじゃねえか一方通行ー。最近付き合い悪いと思ってたらこう言う事だったのか、うんうん……」


「……おい三下ァ。これ以上話をややこしくすンじゃねェ。」


「そうよアンタ!!わ、わ、私は、こ、こんな性悪モヤシなんかより…」


「おーおー、御坂もこう言ってンだ。これでわかったろ?っつーことだから話を__」


「ばっかやろぉ!!!!!!!!!」


「っぎゃァッーーーー!!??」


「あ、一方通行ーーー!!??」


なんということでしょう?


必死に弁解する一方通行の横っ面を、上条当麻は突然殴り飛ばしたのです。


さすが上条当麻、という言葉で片づけることも可能でしょう。しかし、世間一般の目から見てみればどう見ても普通ではありません。
197 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 18:00:26.52 ID:xgakVCX10


「ッ!?」



と、あまりにも理不尽な状況に、たった今起こったことを理解しきれない様子の一方通行へ、上条当麻はこう続けた。


「またアレか!!お得意の自虐癖か!昔の自分のことでウジウジ悩んで、御坂に迷惑がかかるとか勝手に思い込んでやがるかよ!!」


「え、え~と……もしもーし?か、上条さ~ん…?」



流石の佐天涙子も何が何だか分からない、といった様子だ。完全に置いて行かれている。



「はァッ!?…おい上条…怒らねえからここは冷静に__」



「ふっざけんじゃねえ!!お前がそうやって自分を貶めてるという事が、お前を選んだ御坂のことを貶めちまってるってことに何で気付かねえんだ!!!」


上条当麻は突っ走っていた。そう、間違った方向に。


確かに以前の一方通行にはそのような一面が存在していたかもしれない。しかし、それはもう昔のこと。友人や理解者を増やし、人間的に成長を見せた彼である。かような言葉はあてはまらないといってもよいはずだ。



「ちょ、ちょっとアンタ!!!あ、あたしは別にコイツを選んでなんか__」



「__歯を食いしばれ一方通行。もし、お前がこれ以上自分を貶めるって言うなら__」



しかし、火のついた上条当麻に話など通用しない。



「っちょ!やめろ上条ォ!!話せばわかるッつってンだろォが!!」

198 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 18:00:55.97 ID:xgakVCX10

上条当麻の硬く握りしめた右手が___



「そのふざけた幻想を___」



               ____一方通行の端整な顔に突き刺さる。



「ぶち[ピーーー]!!!!!」


「っご!!!がァ!!!!!!!」


後ろに多き鵜吹き飛ぶ一方通行。


放心状態の御坂。


「……青春ですねぇ」


なにやら納得したかのような面持ちの佐天。


昼休みの屋上に、一陣の春風が吹きつける。


春風とは思えないほど冷たいそれは、二人の傷口に、容赦なく沁み込んだ。
199 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/23(金) 18:05:02.10 ID:xgakVCX10
今日はここまでです!空気の読めない(ある意味読みすぎ)ウニ頭の暴走でした!
今回くらいから少しずつ変わってくるかも!個人的に原作の北村の鈍感さは一種の病気にも見えたので、そこらへんをどうにかしてゆくこととなるでしょう!あ、別に北村さんディスってないですよ?

レス感謝です!そして、また近いうちに来ます!あ、ちなみにとらドラ!で、一番好きなキャラは能登くんです。超気持ちわかるよ……能登くん…
200 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 18:11:46.36 ID:OrZflPODO
イマイチ・・・・・・


今一番面白いです! いやマジで。


頑張って下さい

212 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:06:40.59 ID:l4pzv8ao0


「…あァちきしょォ…なンで…どォしてこうなった…」


「…それはこっちの台詞よ…」


一方通行と御坂は、現実の恐ろしさを思い知った。


二人が痛感した認めたくない現実、それは、互いの想い人による絶大な勘違いであった。


自分達のことなどロクに知らない人間なら構わない、二人はそう思っていた。


しかし、二人が、他の誰よりも通じ合っていると信じていた友人達。


その上、応援する気でいるから余計にタチが悪い。


幸運な事に、これを上回る精神的ダメージを幾度となく経験してきた二人にとって、取り返しのつかない事態と言う風には認識されなかったようだが、それでも由々しき事態には変わりは無いのである。



「そもそもアンタ!!なんでアイツのパンチかわさなかったのよ!!喧嘩慣れしてるアンタならお茶の子さいさいでしょ!?」


「あァ?無茶言うンじゃねェ!つゥかよ、テメエは受けたことないからわかんねェだろうが、あの三下の説教はある種の魔法みてェなもンだ。誰もがアイツの言葉の前には我を失う、もしくは聞き入っちまうンだよ…」


「な、何よそれ…」


「はッ、信じてもらえねェならそれはそれで構わねェが―――」


「…かっこいい」


「って信じンのか!?つゥかふざけてる場合じゃねェだろ!対策を考えやがれ!!」


「ふ、ふざけてないわよ!」


「…ったくよォ」
213 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:07:24.54 ID:l4pzv8ao0

晩御飯の買い出しの帰路、春といえどもまだ冷える夜道を、二人は歩く。


一方通行は春が嫌いだった。


冷たいのでも熱くでもない中途半端な風も、空の色も、空気の匂いも、何もかもが煩わしかった。


春を有難がる人間の気持ちがわからないのだ。


春には、人間関係で面倒な事になった思いでしか存在しない。


字面を想像するだけでも不愉快な気分にさせられる。



「……」


「たぶんさ……」


「ァあ……?」


ぼそり、と呟くように御坂が沈黙を破った。


「たぶん、わかるのよ…私達が噂されるのも……」


「……」
214 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:07:57.45 ID:l4pzv8ao0


「私、きっかけは私のバカな行動だったけど、今の生活、悪くないと思ってた……そ、その……アンタとの…な、慣れ合い……?みたいのが……」


「……ッは、バカやったって自覚はあンだなァ……?安心したぜ」


「ふふっ……!あれはないわよねー、実際ドン引きってレベルじゃないわよ……あはは……」



本当は笑い事ではないのだが、笑い話になってしまった。


一方通行も、今やそんなことは歯牙にもかけていない。



「ごはん、美味しいし、あ、でもあたしだってやればできるのよ!?一人だと面倒だからやらないだけで……」


「あいよォ、知ってる。で……?」



「……うん。中学の時と違って、ルームメイトもいないし、佐天さんや仲の良い子は部活だし……変な噂は立つし、正直、あたし、寂しかったのかもしれない」



「……」



「そんな中の、アンタとの生活は………うん、あんまし認めたくは無いけど、きっと……」



「……」


一言一言は彼女らしくもなく歯切れの悪いものだった。何かを恥じるように、認めたくない何かを認めるように。




「きっと、楽しかった。……んだと思う」
215 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:08:41.58 ID:l4pzv8ao0


御坂が恥ずかしそうに呟く。


恥ずかしいなら言わなければ良いのに、そんなことを一方通行は考えた。


「…そォかい。」


一方通行は、知っていた。


御坂が何を言おうとするのかを。


きっと、彼女のようにするのが普通なんだろう。


確かに、自分達の今までの関係は不自然だったのだろう。


普通では無かったのだろう。



「…続けろよ」



一方通行は、普通がどんなものかわからなかった。


当然だ。自分は普通じゃないから。


生まれた時から髪が白かった。


生まれた時から眼が赤かった。


他のどんな子供たちよりも頭が良かった。


普通など、わかるはずもなかった。


しかし、世界は、社会は彼を放っておいてはくれない。


人は、決して一人では生きてはいけないのだ。少なくとも、この国では。


そう、彼は普通ではない。分かっていた。この関係がごくごく普通の正常なものではないということくらい。


しかし、分かっていたとしても彼は口にはしない。どうしてかは、分からない。
216 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:09:11.22 ID:l4pzv8ao0

「でも……」


「……」


御坂の顔が、一瞬だけくしゃりと歪んだ気がした。気のせいだったのかもしれない。


「……でも、今日でお終い。」


「……あァ。」



言い淀んでいた言葉を言いきった御坂は、晴れやかな顔をしていた。


彼女はきっと強いのだろう。


彼女はきっと自分の言葉を曲げないだろうし、決して選択し続けることから逃げないのだろう。


一方通行は、彼女の言葉を選ばされたものだとは信じなかった。彼女は悩み、自らの内からこの選択を捻り出したのだ。


こんな晴れやかな表情には、流石の一方通行も笑顔を返すことしかできなかった。



「はァーっ……ようやくガキのお守から解放されるってことかよ。せいせいすらァ……おい、あとで泣いて頼んだって知らねェぞ?」


「泣くかぁ!!!……あ、あと、さ……」


「あ?お次は何だよ。まだ言い足りねェことがあンですか?」


「私、明日アイツに告白する。」


「……あは。こりゃァ大きく出たなァ……」


急すぎやしないか、と思わなかったわけではない。しかし、薄々そんな気がしていたのもまた事実であった。

217 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:10:10.69 ID:l4pzv8ao0


「昔からまどろっこしいことは嫌いだったのよ。精神衛生上的な意味合いでも、もう限界。」


「オマエらしいですねェ。ちまちまやンのは性に合わねェってか」


「ふふっ。アンタだってそうでしょ?」


「……まァ、あのバカの鈍感さはひとつの病気だからな。この前なンて、告白されたことないっていってたぜ?」


「死んだほうがいいわね……」


「おい。腐ってもオマエが惚れた男だろォが……」


彼女の表情を見て、ようやく一肌脱ぐ決心が固まった。一方通行は、いつだって自分のやりたいようにやるだけだ。


「……ぎゃあぎゃあ五月蠅いハエどもは俺が何とかする」


「え!?い、いいの?」


「できねェことは言わねェよ。なァに、最後の手土産みたいなもンだ。」


一方通行は言いきった。


御坂の目には、その言葉が嘘偽りのようには感じられなかった。
218 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:11:01.53 ID:l4pzv8ao0


それもそのはず、このコミュ力以外チート性能男が言いきるのだ。疑う余地もないだろう。


それに、純粋に御坂はこの男が嘘をつくとは思えなかったのだ。勿論根拠などない。


「信用して…いいのよね?」


「…ッは、『信用』だァ…?」


何を馬鹿な、と小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、一方通行はこう言い放った。







「『信頼』しろ、クソ野郎。」






「!!」


御坂がおったまげた、と形容するのが相応しいだろう表情を浮かべている。


「……」


「……」


そして、沈黙。

219 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:11:34.23 ID:l4pzv8ao0

「おい、何か言えよ……」


「っぷ……」


「ぷ?」


「あはっあははははははははははっ!!!!」



「はァあああ!!??てっ、テメェ!!そこは笑うところじゃねェだろ!!」


一方通行の頬にほんのり赤みが差す。


格好いいつもりで、シリアスに放った言葉がかように笑い飛ばされたのだ。



「(だ、台無しだァ…)」



「あははっ!!はぁー…まったく…アンタからそんな言葉が出るなんてねぇ~」「


「ち、畜生ォ…」


本気で悔しい、と言ったところだろう。


事実、このように返されたのは生まれて初めてのことだった。


「……はい。」


「ンだよ、あ。」
220 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:13:12.94 ID:l4pzv8ao0


いつの間に、こんな所まで来ていたのだろう。


気付けば、もう一方通行のアパートの前だった。



「あァー……わかったわかった、預かりゃいいンだろ?」


はんぶんこにして持っていた夕食の材料を突き返される。


「ここまで」という意味だ。


「世話になったわね……」


「らしくねェな…ま、せいぜい上手くやれ。応援してやらねェこともねェ」


「はいはい……まったく、素直じゃないんだから……」


「その言葉を反射する」


しょうがないな、というように御坂。


この一か月半近く、互いに一番長く一緒にいたのだ。


お互いよく分かりあえるようになるには充分すぎる時間だった。


「昼休みに大欅の下」


「え?」


「俺が呼び出しといてやる。最初で最後だ、きっちり捕まえろよォ?」


一方通行達の学校には、正門を入ってすぐの所に、傘のような形を保った大きなケヤキの木が立っている。


正門から直ぐだが、昇降口からは遠く、昼となれば人も滅多にいないのだ。


「ありがと。……それじゃあ、今日でお終いね……」


しんみりしすぎるのもらしくない、そう思ったのだろうか。


不思議と、二人が背を向けあうタイミングは全く一緒だった。


「ばいばい、鈴科くん。」


背をむけたまま、最後に御坂がそう残す。



「…」



一方通行は、何も言わなかった。
221 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:13:35.27 ID:l4pzv8ao0

                   ◇




気持ちの良い朝だった。


弁当の量はいつもの半分、誰もいないテーブルに座るのも、ずいぶん久しぶりな気がした。


「…」


さっさと朝食を済ませ、歯磨きを済ませる。


いつもより早く起きたとはいえ、彼女が不在なだけでこうも余計な時間が省けるものなのか。


「いってくンぞ」


「ぉーぅ……って、おい、御坂ちゃんはどうしたんだ?」


玄関に向おうとするのと、木原がやって来るのは同じタイミングだった。


冷蔵庫から冷えた緑茶を取り出し、コップに注ぎ始める。
222 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:16:20.83 ID:l4pzv8ao0


「……いねェよ」


「はぁ?いねえってお前―――」


玄関に立てかけておいたバットケースを掴み、外へ出る。


手触りを確認する。実際に振り回して使うわけではないが、念のためだ。


「よし。」


最後に何か木原言っていたような気がしたが、良く聞こえなかった。


嫌になるほど、良い天気だった。








223 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:17:09.47 ID:l4pzv8ao0

                             ◇








「あの一方通行がなぁー。ここ最近付き合い悪いと思ったらこういう事だったとは……盲点だったにゃー」


「……」



クラスの至る所、一方通行と御坂美琴のカップルの話題で持ちきりだった。


当の二人は、いつもHR開始のギリギリ前に到着する。気にする必要がないのだろう。


上条当麻の姿が見えないのも珍しかったが、それ以上に関心の強い事柄だったのだろう。


教室の中心的存在である上条のことすら忘れ去っているようである。





「それなんですがね土御門さん、ちょっとおかしくありませんか?」


「おかしい?どうしてだにゃー?昨日あれだけノリノリで噂してたじゃねぇの」


「そうなんですがね……いつもの彼なら自分達に自慢げに話しますよ?確かに御坂さんとは何かありそうですが、直に男女の仲に結びつけてしまうのは如何なものかと……」
224 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:18:07.09 ID:l4pzv8ao0


海原光貴は、口元に手を置き、考え込む様なポーズを取った。


付き合いの長い彼としては、昨日の軽挙妄動は反省すべき行いだったと思っていたのだ。


「まぁ確かに、アイツのことを良く知りもしない奴らと一緒に悪乗りしちまったのは、良くなかったかもにゃー……」


土御門元春も正直後悔していた。





「今日も一緒に来ちゃうのかなー?」


「一緒のマンションから出てきたとか言ってたし、何してたのーってカンジだよねー」








「まぁ、直接彼に聞いてみればいいんですよ。ここ最近、遊ぶこともなかったですし、今日あたりどうです?彼を誘ってみては?」


「おぉ!!海原から言いだすなんて珍しいぜぃ!良い考えだぜぃ!」


今更遠慮し合う仲でもないのだ。


からかい混じりでもなんでも、直接聞いてみればいい。
225 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:18:43.64 ID:l4pzv8ao0


自分達は、彼の良いところだってたくさん知っているのだから。海原はそう考えることにした。


きっとあの白い男は、どんなことを尋ねてもそっけないふりをするのだろうな、とか考えていると、がらっ、と、教室前方の扉が開いた。


もう来ていないのは例の二人だけだ。一方通行達で間違いないだろう。


いつもより少しだけ早い時間だ。まだ二分ほど余裕がある。



「一方通行さん。今日は早い―――……は?」



「おう一方通行おはよう―――って、はぁぁ?」



その瞬間、教室が凍りついた。


教壇の前に仁王立ちする一方通行。


そして、その手には、この場にあまりにも似つかわしくのないものが握られていた。
226 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:19:06.74 ID:l4pzv8ao0
                          ◇






ずる、ずるる、と、リノリウムの廊下を何かが引きずる音が聞こえる。


始業のベルが鳴る数分前、いつもならまだ急ぎで通学している時間帯だ。


自分の通る道から、面白いように人が退いてゆく。


「はは、それがさぁー、ってひぃっ!?」


「ぇえ!?」


「きゃあ!!」


「お、おい。あ、あれって……」


非常に落ち着いた気分で、一方通行はそれを眺めていた。


自分がこれからやろうとしようとしていることは、誰の為にやる事でもない。自分の為に、自分が進んで行う事だ。


「『誤解』ねェ……」


ふ、と自嘲の笑みが浮かぶ。


いつだって、どんなときだって、彼はしたいようにしてきたではないか。


「悪魔」だの「不良」だの、どのように言われようと知ったことではない。


言いたい奴には言わせておけばよい。そうだ、その通りだ。
227 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:19:47.69 ID:l4pzv8ao0

少なくとも、勢いでも何でもなく、自分を顧みた上でこのような行動に出ようとしている時点で、自分は普通では無いのだろうし、それは「不良」のレッテルを張られても仕方のないことなのだ。


「誤解」でも何でもない。自分は、あるがまま、何ら恥じることなく不良なのだろう。


「まァ、少しは過ごしにくくなるだろォが……」


自分には、信頼のできる、信頼してくれる人間が何人もいる。


それが、一方通行の背中を押してくれた。


一ヶ月間、奇妙な共同生活を共に送った少女の為なんかじゃない。


彼女の為などではない。


自分がどう思われるか、そんなものはどうだって良かった。


ただ、あの二人に誤解されるのだけはたまらなかった。


あのお人よしのツンツンも、きっとわかってくれるにい違いない。この自分がここまでするのだ。


自分が動く理由など、自分がしたいから、だけで十分だった。


一方通行は自分に言い聞かせる。


そう、彼女は関係ないのだ。


これは、自分がムシャクシャしてやった、だけで済まされる問題になるのだ。
228 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:25:49.35 ID:l4pzv8ao0

「……あはッ」


廊下に満ち溢れる、奇異と恐怖の目線を掻い潜り、一方通行は教室の前で立ち止った。


そして、躊躇の感じられない勢いで扉を開け放ち、一気に教壇の前へと進む。


静まり返る教室。集まる視線。


廊下に引きずっていた凶悪な棒切れを握り直し、一瞥する。


数年前を思い出す。


一方通行は棒切れ、正確に言えば木製のバットを手にしていた。


しかし、さらに正確に言えば、それは単なるバットではない。


表面の至る所に打ち込まれた釘。釘。釘。


スポーツに使うには少々危険すぎるそれは、一方通行の手に良く馴染んだ。


実際、これで人を殴ったことはない。


そして、手に握るそれを肩に担ぎ、低いが良く通る声で、一方通行は鋭く言い放つ。


「……よォ、オマエら。……今日は一つ、言っておくことがある。」



229 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/24(土) 11:29:14.17 ID:l4pzv8ao0
今日はここまでです!また明日きます!

電磁通行流行れ。
230 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 11:37:05.83 ID:KSqXfPZDO
いちおつ
[たぬき]の流行らせる道具思い出した
231 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 11:55:35.41 ID:rr7rr5DAO
乙です

亜美は麦のんでおk 
 
241 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:12:32.92 ID:+myZXXVe0




                                ◇







「っはぁ!はぁ……はぁ……」


御坂美琴は、廊下を駆け抜けていた。


「……あの馬鹿っ!!」


彼女には、一方通行を探し出すという義務があった。


時は四時限目の真っ最中だが、気にも留めない。


メールをしても返事が無い。電話をしても通じない。


奴に、言いたいことがある。そのために、彼女は校内のあちこちを走り回っていた。


時は、二十分ほど遡る。


_________

_______

____

__

_
242 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:12:59.71 ID:+myZXXVe0



朝、遅刻ギリギリで教室に到着したら、空気がおかしかったのを覚えている。


担任が到着したという訳でもないのに、教室が静まり返っている。


ふと、常盤台の入試のテスト五分前が、このような空気だったかもしれない、などと考えた。


最も違和感を感じたのは、休み時間になっても教室が騒がしくならないことだった。


あたりの様子を伺うかのような態度、とでも言うのだろうか。


会話があっても、談笑というまでのレベルには至らず、常に何かを恐れているような空気が漂っていた。


一方通行の姿が無いのも珍しかった。


彼が学校を休むのは今までは無かったからだ。


しかし、違和感はそれだけでは無かった。誰もが自分のことを、憐れみと申し訳なさが入り混じったような、名状し難い目線で見つめるのだ。


これはおかしい、と御坂が感づいたのは、三時限目も終わりに差し掛かった頃だった。


話を聞こうと、佐天涙子の机に向かったのは、四時限目が始まる前の五分休みにだった。


彼女も話したいことがあったようで、目が合うと彼女の方から話しかけてきた。
243 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:13:31.82 ID:+myZXXVe0

「あのさ、御坂さん?」


「んー?どうしたのよ佐天さん?改まっちゃって?ていうか今日、なんかあったの?……教室の空気、なんか変よね?」


努めて何も知らない風を装う必要などどこにもないのだが、自然にそのような態度になった。


居心地が悪そうにするのも、その場の空気に負けたようで嫌だったのだ。


「いやね?あたし、昨日御坂さんと一方通行さんが付き合ってるー、みたいなこと言っちゃったじゃないですかー……?そのことで……」


「あ、あぁー!い、良いのよ別に!誤解だって分かってくれたなら……。でも、急にどうして誤解だって?昨日はあれだけノリノリだったのに……」


「そのことなんですけどね……?」


「佐天さん。ここは自分に説明させて頂けますか?」


口を挿んだのは、一方通行の数少ない友人の一人である海原光貴だった。


常に人のよさそうな、悪く言えば胡散臭そうな笑みを浮かべている彼が、珍しく真剣な表情を作っていた。


ああ、これは何かあったんだな、と、御坂はその時確信した。


「えと……海原さん?だったわね?朝から教室の様子がおかしかったけど、何かあったの?……ていうか、やっぱ一方通行絡みなの?」


「はい……。いやはや、付き合いは長いですが、どうして彼があんなことをしたのかと……誤解されたのが面白くなかったのは分かりますが、彼はそう簡単にああまで極端な行動に出る人ではありませんから……」


「……どういうこと?」


「そのことなんですけど……」


海原光貴は、ひとつ大きな深呼吸をすると、朝の出来事について語り始めた。


__________

________

_____

___

__

_
244 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:14:12.91 ID:+myZXXVe0



「……ホント、馬鹿。」


『ごめんなさい御坂さんっ!あたし、すぐに謝りたかったんですけどっ!ま、周りの目が気になっちゃって……最低ですよね、あたし……』


『驚きましたよ。突然、釘バットなんかもって現れるんですから……』


校庭。体育館。体育倉庫。職員室。だめ。どこにもいない。


『中学時代の、少し荒れていた頃ような鋭い目線で、クラス中をねめつけた時には、皆一斉に息を呑むのが聞こえましたね』


保健室。音楽室。購買。事務室。渡り廊下。いない。だめだ。


『いいかァ?俺と御坂美琴には何の関係もねェ。付き合ってなぞいねェ。……こちとらうっとォしい噂の標的にされていい加減うんざりしてたところだ。』


残る場所と言えば……屋上。ここにいなければ帰ったとしか思えない。


『仮に、これ以上ぴーぴーぴーぴー騒ぎやがるなら……』


走る。呼吸が苦しい。走る。汗だくだ。階段を三段飛ばしで上がる。屋上の扉が見えてくる。


『……どォなっても、知らねェけどォ?……ぎゃはッ』


どん、と、勢いよく扉を開いた。


「っ!」


春らしい柔らかな日差しが照りつける。


無人の屋上はいつも通りの何もない空間だった。


「はぁっ……はぁ……誰も……!居ない……」


やはり帰ってしまったのか。
245 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:14:44.09 ID:+myZXXVe0


見通しの良い屋上は、入口からでも全体が見通せすことのできる長方形の形になっており、御坂の立つ入口は、ちょうど長方形の左下の辺りに当たる。


「あーあ……ばっかみたい……必死になっちゃって……」


息を整えながら、屋上の中央部のあたりまで歩く。風が吹くと、あまり清掃が行き届いていないせいか、砂埃が舞った。


「帰るか……」


ここにもいないとなると、もうどこにも探すあては無い。


きっとこの学校にはもういないのだろう。


そう思い、踵を返した、丁度その時だった。


「あ。」


屋上の入り口、たった今御坂がくぐったドアの上部に、白い塊が見えた。


「……」


そこまで歩み寄り、わきの梯子を登ると、例の男が寝ていた。


緩みきった寝顔を空に晒して、わきには通学用カバンと、バットを入れるケースが転がっていた。


「……一方通行」
246 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:15:23.99 ID:+myZXXVe0


この男の寝顔は卑怯だな。そう御坂は思った。


こんな顔した生き物が、さっきまで釘バットをひきずっていた男だとは思えない。


日頃の彼をどんな目で見ている人間も、今のこの姿を目にすれば、毒気をあっさりと抜かれてしまうのではないか?


現に、御坂はここにやって来た目的を一瞬失念した。


「……」


一方通行の顔に手が伸びる。


あと十センチ。


あと五センチ。


そして、あと一センチといったところで、


「っは!……この……」


我に返った御坂は、頬に伸びる手を止め、右手で鼻を、そして左手で口をつまんだ。


「……」


「……」


「……」


「………ッ!?ぐ…う、ぶっはァ!!!……!?……!?」


酸素の吸引を妨げられた一方通行が跳ね起きる。


しかし、現状を把握しきれないようだ。


あたりにきょろきょろと視線を巡らせ、ゆっくりと呼吸を落ち着けた。


そして、一通り落ち着くと、御坂を認識する。
247 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:15:51.25 ID:+myZXXVe0


「……」


「……ァー…お、オハヨ」


とりあえず挨拶からだよね、とでもいいたげな態度である。


一方通行ははいつもの一方通行だった。


御坂は、その平静さが我慢ならなかった。


「お、おはようじゃあ……」


「あン……?」


「ないわよこんちきしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


「ぐぼァッ!?」


御坂の鉄拳が、一方通行の贅肉の全くないみぞおちに突き刺さる。


何の受け身も取れない状態での打撃である。


どれほど一方通行が痛みにのたうち回ったのかは、想像に難くは無いだろう。


「ーーーッ!!ひィー、ふゥー…」


「全く……」


言いたいことは山ほどあったはずなのに、こんな状態では出るやる気も出ない。
248 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:16:17.67 ID:+myZXXVe0

呼吸が落ち着くと、一方通行の第一声はこうだった。


「……ごっほ……ン?今何時だ?」


「ん?一時二十分。全く、真っ先に屋上を当たるべきだったわねー」


「あァー、そォだな……って違ェ!!」


「ん?何よ?」


「オマエ、上条のやつに告白するンじゃなかったのか?」


「あ、あぁ。アイツなら今日、休んだわよ」


「休みだ?」


「ええ。何でも何かに頭をかまれたらしくって。六針縫ったらしいわよ?」


「何だそりゃ……」


はぁ、と大きく溜息がこぼれる。


運が良かったのか悪かったのか、一方通行は不思議な気分だった。


昨日は勢いに任せたところあったのも否めない。もしそのまま告白したらどんなことになっていたのだろうか。



「全くアンタ、ホントに馬鹿なことしちゃって……」


ずっと怒っているのもいい加減疲れたのだろう。御坂は、自分の心がさっきより断然軽くなっているのを感じた。溜息とともに笑みが浮かんだ。


「あァ、ありゃァその場のノリだ……ぴーぴー五月蠅い三下どもを静かにできるとおもってよォ……。勘違いすンじゃねェぞ。俺が、俺の為だけにやったことだ。オマエは一切関係ねェ」


「……もう、それでいいわよ」


これ以上言ってもしかたがないだろう、そう思った御坂は、この話は切り上げることにした。
249 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:17:38.90 ID:+myZXXVe0

「んっ……っとそれじゃあ帰るわよ?今日はお刺身が食べたいかも…スーパー寄るんでしょ?」


「まだ授業あンぞ。早退するつもりかよ……って違ェ!おい、どォいうつもりだ?」


「どーゆーって……何が?」


「何がじゃねェ!!終わりにしたろうが!もうこンな関係は!訳のわからない、依存しあってるみてェなどォしようもない関係はよ!テメェが言い始めたンだろォが!!!」


穏やかな表情から一転し、一方通行が激する。彼の本質である直情的な傾向が顕在化する。


鋭い眼光に火がともる。並みの人間なら恐怖にすくみ上がるだろう。御坂のような女性ならなおさらである。


しかし、彼女は怯まない。表情を変えない。穏やかさを保ったまま、何事もなかったかのように言葉を紡ぐ。


「訳のわからない、関係、ね…………そうね………私達、一体何なんだろうね」


「何って、何でもねェだろ。だからやめようって話だったンんだろ?」


「うん。………『友達』、ともちょっとちがうな。当然『恋人』でもないし、『家族』でもない。ほんと……わっけわかんない」


そう言いながらも御坂は笑う。


訳のわからない関係だったが、だからこそ、思い出すのだ。


「私もさ、さっきまで終わりにする気で、アンタに文句言いに来ただけだったんだよね。でもさ、思い出すとさ」


訳の分からない馴れ合い。


食事。洗濯。掃除。テレビ。漫画。ゲーム。


「あたし、悪くないと思った。もしかしたらさ、結局寂しいだけなのかもしれない。ひとりになるのが嫌なだけなのかもしれない。でも、悪くなかったのよ」


ぬるま湯につかっているかのような、不思議で、心地よい、柔らかな馴れ合い。


言葉にできるはずもない。しかし、体温のような心地よさを御坂に与えた。
250 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:18:07.09 ID:+myZXXVe0

「一方通行は、イヤだった…?」


自分で言いだして、また自分でこんなこと言って、無責任だと思われるかもしれない。


一人じゃ何もできない、弱い女だと思われるかもしれない。


でも、並び立って得られるのは安心だった。


シリアルキラーみたいな顔していて、虫も殺せない、なんてことは全くない。良く言えば期待を裏切らない、全くもって見た目通りの男だ。


女だろうと容赦してくれたことはないし、ドSだし、料理得意なくせに好き嫌い多いし、本当にどうしようもない男だ。


それでも、


「ねえ、アンタはどうだったの?」


それでも、こいつと並び立っていたい。心から、そう思ったのだ。


一方通行が今まで耳にしたことのない声だ。その声は、感情へとダイレクトに飛び込んだ。


「……いいのかよ」


「何が?」


「上条にも、クラスの連中にも、親友の佐天にもどォ思われてもいいのかよ」


「いいよ」


「いいやよくねェ!その前に普通じゃねェ!こンな関係なンぞっ」


「普通って何よ!?」


「ッ!」


「普通なんて気にすんな!私は私のやりたいようにやる!それだけよ!アンタが嫌ならそれでもいい!でも、それをアンタの口から聞きたいの!!」


もうでたらめだった。理論武装などどこにも存在しなかった。駄々をこねるように、母親に我儘をぶつけるように、御坂はわめき散らす。
251 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:18:35.96 ID:+myZXXVe0

「……ッでも!」


「アンタには、今まで、普通な事なんかあったの?私ですらほとんど無かったわ!」


一方通行から見てみれば、御坂美琴など普通の女の子だった。お嬢様で頭が良くて、でもお嬢様らしくない。器用だが不器用な、ただの女の子だった。


「ぅッ」


普通とはなんなのだろう。どうあれば世界は、社会は彼らに優しくしてくれるのだろう。



「私は、アンタほど特別な所はなかった!でも、どうしてもみんなみたいにできなかった!!そのおかげで楽しいこともたくさんあったよ?でも、それと同じくらい嫌なこともあった!!」


友達がいて、恋人がいて、両親がいるのが普通なのだろうか。学校に通って、よい大学に行けば普通でないのだろうか。社会はそれを許してはくれないのだろうか。


「……」


社会が、世界が許してくれること。それが大切なことなのだろうか。友達でもない、恋人でもない人間と共にいること。それを世界は許してくれないのだろうか。


「私は、恵まれてたから、だから普通じゃなかったの。でもそれでもいいと思った!」


何が許されることなのか。何が普通のことなのか。十数年生きただけの彼らに分かるはずもなかった。


自らを普通と称することが善なのか。自らを特別だと思い込むこと、これは悪なのか。


「……」


「今更、私やアンタみたいな埒外人間が、『普通』なんて気にする必要ないのよ!普通じゃいれなかったんでしょ!?それならわがまま言ったっていいじゃない!!空気読むなんてアンタらしくない!」


それならば彼らは、どうしたらいいのか。どう生きれば正解なのか。
252 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:19:06.67 ID:+myZXXVe0

「ッ!何で……!どォしてそこまで!」


「アンタだって同じはずよ。やりたいようにやる。自分だけの現実を曲げない。それが、どんなに滑稽に映ろうと、関係ないでしょ?だってそれが―――」


そう、正解など分かるはずもない。あるのかどうかも分からない。わからないから逃げるのか?違う。そんなものが彼らにふさわしい生き方であろうか。


考えるのに疲れたなら、何も考えず進めばいい。やりたいようにやればいい。


道がないなら作ればいい。彼らの見つめるそれだけが、彼ら自身の、唯一の現実なのだから。


この学校で最も高いところで、御坂美琴は立ちあがる。


表情には一点の曇りもない。


その微笑は、自らの成そうとすることを、自ら成すことのできる者特有の、迷い無いものだった。
253 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:19:34.84 ID:+myZXXVe0









     
「それが、私達の、やりかたでしょ?」








254 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:20:10.22 ID:+myZXXVe0


どんっ、と、胸に拳を押し当てる。


視線の先には赤い瞳。いつもの仏頂面が、ひとまわり幼い顔に見えた。


「……」


「……ちょ、ちょっと…何か言いなさいよ」


「っぷ」


「ぎゃッははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」


「ぇぇえ!?ちょっ!わ、笑うんじゃねええええええええ!」


真っ赤になって反発する御坂。


しかし、一方通行の笑みに、いつもの冷笑的なものは含まれていなかった。


馬鹿馬鹿しい。本当に馬鹿馬鹿しい。


「ホンットに馬鹿だぜ……オマエはよォ……」


「ぐ、ぐぬぬ……」


まるで、自分達選ばれし存在は、何をしても許されると言わんばかりではないか。


どこぞの独裁者みたいなことを言っている。マトモな人間じゃあない。
255 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:20:37.63 ID:+myZXXVe0


「……まァ、嫌いじゃァねェけどなァ……」


「ん?今、なんて?」


「いいや、何でもねェよ。そンじゃ帰るか。さすがに今クラスに戻るのも面倒だ」


「そうね。……あ、今日はお刺身ね」


「分かったよォ、美琴。昨日の分の湯豆腐も残ってるからよ、楽しみにしとけェ」


「うぉし!…ってあ、アンタ…い、今、名前で―――」


「あァ?オマエ、ずっと俺のこと名前で呼んでただろォ?お返しだ。不公平だろォが」


「……ま、まあいいけど……てゆーか不公平って……子どもか……」


「なら行くぞォ。っと、この時間ならタイムセール間に合うな」


「なな、何のセールよ?」


「卵が安いンだ。さっさと行くぞ、美琴」


と、一方通行は先に行ってしまう。


平静を装っていても、後ろを向いても、赤い耳だけは隠せない。


もう少しゆっくり行けば、珍しいものを見れたのかもしれない。一方通行ももったいないことをしたものである。
256 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:21:15.19 ID:+myZXXVe0


「……『美琴』だってさ」


くくく、と、鳩のように笑う彼女の姿を。


少女らしい少女の、無垢に微笑む姿を。









俯きがちだが、その瞳は、真っ直ぐ一方通行を向いている。
257 : ◆Mx7XGp.7IA :2011/12/25(日) 11:23:01.22 ID:+myZXXVe0
以上につきまして、原作一巻は終了とさせていただきます。

読んで頂いた方々、また、レスをくださった方々には感謝の述べようもございません。

如何だったでしょうか?個人的に締めの部分は考えに考えて、彼らにとって、現在の関係性をどう認めるかに焦点を絞ったつもりなんですけど……

かえって中途半端になってしまったかもしれませんが、どうかお許しください。

あと海原はエツァリです!なぜこんなに海原が優遇されているかというと、>>1がエツァリと能登久光のことが大好きだからです!

ごめんね!ちなみに、ただのイケメン>>238で終わらせるつもりはないんで!

現在の配役は以下のようになっております。


高須竜児……一方通行

逢坂大河……御坂美琴 

櫛枝実乃梨……佐天涙子

北村祐作……上条当麻

能登久光……海原光貴(エツァリ)

春田浩次……土御門元春

木原麻耶……五和

三十路……月詠子萌

やっちゃん……木原数多

と、名前付きで登場しているのは以上ですね。

さりげなく登場している人物もいらっしゃいますが……

二巻以降は大変申し訳ないのですが、>>1の都合で投下開始が遅くなり、下手すると春以降になってしまうので別スレでやることにします。

次のスレでは、二巻と三巻をまとめてやろうと思っています!

配役については、だいたいキャラはもう決まってます!

まだ未定というか、踏ん切りのつかないキャラは奈々子様です……

ごめんね奈々子様……そこまで本筋に深く影響与えないキャラだからなぁ……

次スレのタイトルは、


御坂「とらっ!」一方通行「ドラァあああっッ!!??」食蜂「落ち着きなさいよぉ……」


になると思います!しばらく(どれくらいがいいのか?)したらhtml化依頼に出そうかと思っていますので、以下は出してほしいキャラや感想などを書き込んでくださると幸いです!

それではありがとうございました!またお会いしましょう!……つーか、亜美ちゃんバレバレだよね?そうです食蜂さんです。てへっ
258SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 11:41:00.45 ID:427RX4My0
超絶に乙!!
ニヤニヤしちゃったよ!!
そして俺のあーみんはやっぱりみさきちか!!ますます俺得な展開じゃねぇか!!待ってるよ。
259SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 11:52:41.71 ID:y7uBkfFSO
続き楽しみにしてる
 

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