2013年7月2日火曜日

一方通行「青紫色の携帯電話」 1

2 ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:06:27.79 ID:facbNr1eo

~~~

「断る」

狭い部屋にはテーブルが一つ。
その横には四つの椅子が備えてあり、現在は二つが使用中である。
テーブルの上にはまだ温かみを失っていないコーヒーがゆらゆらと湯気を出している。
カップの傍らには未使用のスティックシュガーとミルクがある事からコーヒーを出された少年はブラックを好んで飲むことがわかる。

「……最強から抜け出し、無敵になりたいと常日頃から言っていたのは嘘か?それとも自信がないのか?」

二人のうちの一人、白衣を着た研究員が挑発するように言った。

が、少年は無視。
ため息をひとつつくとコーヒーカップに手を延ばした。

挑発的な笑みを浮かべている研究員はそんな少年の行動ひとつひとつに酷く怯えているようにも見える。

少年がコーヒーを一口飲むのを待って研究員は再度口を開く。

「なぁ、一方通行。何も難しいことを言ってるわけじゃないだろう?」

少年は無視。
その態度に腹が立ったのか、研究員は机を思い切り叩き、立ち上がりながら怒鳴る。

「ッ……何が不満なんだ?!たかが二万体のクローン人形をぶっ殺すだけの事じゃねぇか!お前なら立ってたって終わるような実験だ!……何がなんでも協力してもらうぞ一方通行、お前にはその義務がある」

「……義務?笑わせンな」

少年、一方通行がやっと口を開いた。
その声は冷たく、なんの感情もこもってはいない。
そして研究員の目からはかりそめの威圧感は完全に消え去りもはや恐怖しか残ってはいない。

「お前はなンで俺が拒否してると思う?」

対する一方通行は先ほどと変わらぬ様子で問いかける。

「……実験期間が長いのは目をつむってくれこれが精一杯なんだ」

研究員は一方通行が拒否する理由は約二年にも渡る実験期間の長さが理由だと思い、答える。

「だからお前はクズなンだ……そんなもンは気にしちゃいねェよバカが」

「だったら何が問題なんだ?出来る事なら全て改善する、だから首を縦に振れ」

「お前はなンもわかっちゃいねェ……それ以上不愉快な言葉撒き散らしたらぶっ殺す」 
 
3 ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:08:47.21 ID:facbNr1eo
初めて一方通行の感情に変化が見られた。
無関心から悲しみそして激しい怒りへと変わる。
真っ赤な目、それ以外は真っ白な少年から発せられるのは殺気。

研究員は第一位、核爆弾でさえ殺せない最強であり最恐の化け物の怒りに息をするのも忘れるほどに恐怖した。

「う、ああ……」

言葉にならないうめき声が喉から漏れる。

少年はそんな醜い研究員に目もくれず椅子から立ち上がる。

--誰もわかっちゃくれねェ。

そして誰にも届くことのない独り言を残しドアを開けた。

ドアを開ける瞬間の一方通行が全てを諦めたような悲しい表情をしていた事を知る人も、一人もいない。
4 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:14:59.45 ID:facbNr1eo

~~~

「悪いが、お断りだ」

髪は茶色、服装はファッション雑誌にそのまま載っていそうなものをちゃんとに着こなしている。
整った顔立ちに浮かぶ色は苛立ち。

「なぁ、なんで俺にこの実験持ってきた?」

髪の毛をいじりながら問う。

「それは……お前は口癖のように一番になりたいと言っていただろう?

それを叶えてやろうと思っての事だ。

拒否するなら第一位にこの話は持っていくつもりだ」

もちろん嘘である。
ただ、第一位に断られたからと言うのは少年の逆鱗に触れることとなるのは分かり切ったことだ。

そして、今のを聞いて笑った少年をみて研究員はうまくごまかせた、上出来だと思った。
しかし少年はそんな簡単な人物ではない。

「ははっ……最高だよ、お前。最高に--ムカついた」

少年の顔から笑みが消え部屋全体の空気が禍々しいものに変わった。

「俺は嘘吐きが嫌いだ。
一方通行に断られたから俺のとこに来たんだろ?……あまり俺を馬鹿にするんじゃねぇよ」

研究員はカタカタと歯を鳴らす。
一方通行程ではないがこいつも化け物だという事を思い出したらしい。
少年はそんな研究員には構わずしゃべり続ける。

「お前らクソッタレの反吐が出るような実験なんかやんなくたって俺は実力で第一位を倒してみせる、俺を舐めるな……あと、優しい俺からアドバイス。

お前らは俺たちの事を何も、何ひとつわかっちゃいねぇ。

そんなんだから俺にも一方通行にも断られちまうんだよ。

まぁ、あれだ、次からはよく考えてもってこいよ」

立ち上がり部屋の外へと続くドアへ足を進める。

--まぁ、こいつらが狂ってるのも元々は俺らのせいか。

ドアを開ける少年の表情は何かを無理矢理期待しているような、苦しそうなものだったことを誰も知らない。
5 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:16:28.85 ID:facbNr1eo
~~~

「ふ、不幸だァアアアア」

黒髪をウニのようにツンツンと逆立てた少年、上条当麻は夜の学園都市を全力疾走していた。
住民の八割が学生という街柄二十時をすぎると街中に人の影は少なくなる。
そんな薄暗い街中を電撃がパリパリと照らす。

「待ってって言ってんでしょーが!」

電撃を放つ少女、御坂美琴は殺さんばかりの勢いで上条当麻を追いかける。

「待てと言われて待つ奴はいねーよ!」

致死レベルの電圧を持った電撃を勘だけを頼りに右手で打ち消す。

「ほんっとうに鬱陶しい右手ね……」

右手によって、自身の攻撃が打ち消されるたび少女のストレスは溜まる。

「お前の攻撃は俺には効かねーんだよ!

いい加減俺に絡むのはやめてくれ!」

「やめろと言われて、やめるやつがいるかぁあああ!」

走りながらポケットからコインを取り出し、電撃を上条当麻の前方に落とす。

上条が一瞬立ち止まったのを確認すると自身の呼び名にもなっている『超電磁砲』を放った。

「……お、お前なぁ」

御坂と上条を繋ぐ道路はえぐれ、破壊された。
砂埃の中では上条が右手を突き出し、御坂を睨みつけている。

上条がなにやら文句を言おうとすると、ピーピーと機会音が鳴り響き、二人のみている風景は乱れた映像のように不安定な物になった。

そして街がいきなり消え、あたりは真っ白な空間に変わる。
6 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:18:56.48 ID:facbNr1eo
システムエラー。

そして眼前に文字が現れ、現実世界へと強制的に引き戻された。

そう、何も二人--実際暴れていたのは御坂一人だが--は現実世界で暴れていたのではなく、新開発されたゲームの仮想世界の中で暴れていたのだ。

このゲームは様々な世界に行き、ゲームのキャラになり、自身でクリアするという超未来的シミュレーションゲームである。

プレイヤーは多いなゆりかごのようなマシンに乗り込み頭にヘルメットをかぶるとそれで仮想空間に飛ばされる。

二人は今回『夜の学園都市』を選んだ。

本来は夜出歩けない中高生のカップルに夜デートを体験させるという目的で作られたステージだ。

そこを御坂は上条との勝負の場に選んだ。

「仮想世界だからって全力で必殺技撃ってんじゃねーよ!

ここで死んでも現実で死ぬわけじゃないけどショックで気を失うくらいはするって説明を忘れたのか!!

だいたいなんでゲームの中でも勝負なんだよ!

普通に遊べないのかお前は!!」

ゆりかごのような筐体が開き叫びながら上条当麻は起き上がった。

「……えへっ」

御坂はごまかすように笑う。

システムエラーの原因は興奮しすぎた御坂の漏電であった。
7 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:21:24.97 ID:facbNr1eo
「しかしそういう事だったのか」

脳波、心電図など、異常がないか簡単な検査を受けたあと二人は缶のジュースを飲みながら世間話に花を咲かせていた。

「『そういう事だったのか』ってどういうことよ?」

「ん、お前がこの実験?というかテストプレイヤーに選ばれたわけだよ」

「……あー、そういう事ね。

私の能力防げれば電気系の能力者は全部OKってことになるからねぇ」

この開発協力の要請が来た際

『御坂さんの心を最も揺さぶれる人と同伴してください。

……あ、好きな人とかいたらその人がいいわ』

と言われたことを御坂は上条には話していない。

だから、ここの開発者達が微笑ましい視線で二人をみている意味を上条は知らない。

御坂はそんな視線に気づくたびに顔を赤らめているのだが……。

「でもすげぇよなぁ……自分の能力ごと中にはいれるとかどうなってるのか上条さんにはわかりませんことよ」

「あー、それは多分あれよ、脳から直接読み取ってるんじゃないかしら」

「それがバカの上条さんには意味わかんねーんだよ!」

「んー、記憶とかそういうのも電気信号だからね、その辺をこうササッと?」

「つまり、御坂もよくわかってないって事か……」

大きくため息をつきながら偉そうな事いってても上条さんと同レベルなんですね。
と毒づく。

しかし相手は中学生、自分は高校生。

それで同レベルといってしまうのは自分で自分をバカにしている事になると上条は気づかない。

「……言ってなさいよ」

御坂は気づいたが、なにやら本当に哀れに思い突っ込むのをやめた。

「というか、これはどんな研究の一環なんだ?」

「『自分だけの現実』の核を見つけようって感じの研究らしいわよ」

自分だけの現実。
簡単に言ってしまえば思い込み。
それは強い記憶の電気信号となりゲーム内にも反映される。

そこで読み取った信号を同系列の能力者でまとめ、全く同じところがあったらそれがその能力の核となるものなのではないか?

それがわかってしまえば多重能力者を生み出す事も可能なのではないか?

という研究である。

「よくわかんねーけどいいや、最新ゲーム一番に体験できたわけだしな」

上条当麻、どこまでものんきな男である。

二人はそのあと学校のことやクラスメイトの事でポツポツ話をしていると二人の向かい斜め右の部屋のドアが開いた。

出て来たのは茶髪の少年。

二人には気づかずそのまま携帯電話を取り出し、一瞬何かをためらうように顔をしかめ、電話をかけはじめた。
8 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:22:57.52 ID:facbNr1eo

~~~

胸糞悪りぃ。

奴らが俺達が平気な顔で人を[ピーーー]と思っている事がムカつく。

人を人と思わねぇその態度がムカつく。

名を名乗ればビクつくのがムカつく。

他の子ども達と同じに扱われないのがムカつく。

俺を邪魔者だと切り捨てた一方通行がムカつく。

--そんな一方通行から連絡を待ち続け、かなり凹んだからって初めて買ってもらった携帯電話をずっと眺めている自分に一番ムカつく。
9 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:23:55.08 ID:facbNr1eo
~~~

胸糞悪りィ。

人を快楽殺人者と思ってるのがイラつく。

エジプトのミイラやルーヴル美術館に展示されてる美術品のように扱われるのがイラつく。

怯えながら話しかけてくる態度にイラつく。

いちいち特別扱いされンのがイラつく。

唯一の親友を俺から奪ったことにイラつく。

--まァ、一番イラつくのはビビってその親友に電話の一本も出来ねェ自分の弱さにだけどなァ。

10 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:27:08.76 ID:facbNr1eo
~~~

「久しぶりだな、*****。

俺の事を覚えているか?」

垣根は意を決して『*****』の番号へ発信した。

なんで電話なんかしようと思ったのかは本人にもわからない。

多分タイミングというものなのだろう。

『覚えてる。

な、なンか……その……用か?』

「はっ、用がなけりゃ雑魚は一位様に電話もしちゃいけねぇってか?」

『ンなこと言ってねェだろ!

十年ぶりに喧嘩でもしてェのか?あ?』

「カルシウム足りてねぇんじゃねぇの?

少しおちょくったくらいで切れんなよ」

『……』

「まぁ、いい。話は【妹達】【実験】【虐殺】こんだけ言えば伝わるか?」

そうか、と垣根は納得した。

多分自分は一方通行と連絡をとるきっかけ、自分と一方通行が繋がる共通のものを探していたのだ。

そして、それが見つかった。

だから電話をかける事が出来たのだと。

『オーケィオーケィ、つまりは死にてェンだな?

お前まだ研究所だろォ?

今すぐ跳ンでくから出来るだけ遠くに逃げろよ』

「は?いやちょっとまてよ!……って切れてる」

垣根はどうやって実験を完全に凍結させるかの相談をしようと思っていた。

思っていたのだが……。

「ウソでしょお?

……え?

あいつ人の話もっと聞く子だったよね?」

誰も信じられないという環境下での十年間という余りにも長い月日は

素直な少年をどこまでも疑り深く

最悪の結果しか考えようとしない青年へと育てていた。
11 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:29:08.73 ID:facbNr1eo
~~~

十年前に初めて買ってもらった携帯電話は一度も使われる事は無かった。

登録件数は二件。

メンバー分けなどする必要はないのにその登録者の内の一人は『親友』と分類されていた。

一方通行は何かを考える時、ひどく気分がざらつく時、心が乱された時、精神状態が安定しない時は必ずその携帯電話のディスプレイを眺めている。

漢字なんてその時は簡単なものしか習っていなかったから『読めるように』と表示される名前は『かき根ていとく』となっている。

一度『垣根帝督』と直した事があったが思い出を壊してしまった気がしたので元に戻した。

今回もいつも通りベッドに腰掛けディスプレイを眺めながら考え事をしていた。

レベル6。

妹達。

二万体。

虐殺。

クローン。

オリジナル。

実験。

どうすれば実験を止める事が出来るのか。

どうすれば妹達は救われるのか。

答えの出ない自問を繰り返す。

正確に時を刻む時計の音だけが部屋に鳴り響く。

その一定のリズムを十年間鳴る事のなかった着信音が崩した。

表示されている名前は『かき根ていとく』

恐る恐る通話ボタンをプッシュすると、ずいぶんと低くなったでもどこか懐かしい声が聞こえた。

同時に嫌な予感が襲って来る。

そして予感は垣根の発した【妹達】【実験】【虐殺】という単語により現実へとなる。

「クソッタレが……」

電話を一方的に切り、携帯電話を壁に叩きつけようとしたが、そのままベッドの上の枕に放り投げる。

玄関に進み、ドアを蹴りあけそのまま研究所の方へと

--跳んだ。
12 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 02:30:57.96 ID:facbNr1eo
~~~

「あ、あのう~どうかしたんでせうか?」

垣根はこの時初めてここが表向きは普通の研究をやっている機関なのだと知る。

「あ、あぁ……いやなんでも……いやいや違う。

とりあえずなにも聞かずに外に出ろ。

そして全力で逃げてくれ」

「は?」

いきなり逃げろと言われ困惑するのは上条。

「理由を言いなさいよ」

反発するのは『第三位・常盤台の超電磁砲』御坂美琴。

「お前……御坂美琴か?」

「そうよ、何か問題ある?」

大有りだよ馬鹿野郎、いや実際これはかなりやばい。

と、垣根は冷や汗を垂らす。

多分今の頭に血の昇った一方通行は

御坂美琴-オリジナル-をクローンの妹達の一人だと思うだろう。

そしたら無傷で誤解を解くのはまず不可能になる。

「まじやべぇ、とりあえずお前らはどっかの部屋はいって身を隠してろ!

マジで俺が殺されちまう!」

考えを整理し分析すると相当やばい事になっているという非情な現実が垣根を襲う。

何ひとつ悪い事などしてはいないのに……。

「だぁからその理由を話せって言ってんのよ!

なんかトラブルなら私が協力するわよ?」

垣根は完全に御坂を無視。

第一位を倒す算段は一応はついている。

しかし心の準備もなし、あらゆる用意もなしで勝てるような相手ではない。

それに、戦う前から焦っているようではその時点で負けているようなものだ。
13 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:36:29.34 ID:facbNr1eo
「はァーい、かーきねくゥうううン。
久しぶりだなァ?オイ!
まさか人殺し実験に嬉々として参加するゴミクズに成り下がってるとは思わなかったぜェ?」

「あ、終わった」

一方通行の到着は予想よりもずっと早かった。
垣根がどうしようかとオロオロしているうちにいつの間にか現れていた。

「チッ……こうなりゃ覚悟を決めるか」

大丈夫、自分を信じろ。
俺は学園都市第二位《未元物質》の--垣根帝督だッ!

目標は誤解を解く事。
それが不可能と判断したら直ちに逃げ切る事。
戦えば90%の確率で俺は死ぬ。
だが一方通行を三ヶ月入院させる程度の負傷は負わせる自信くらいはある。
でも今負傷させる意味はねぇ。
戦っても得な事はひとつもねぇ。よって無理だと判断したら直ちに逃げる。

「ははっ、落ち着けよ***。
まずは再会を祝って飯でもどうだ?奢るぞ?」

とにかく時間を稼げ、一方通行が頭を冷やす時間を稼げ。
自分と会話するレベルまで落ち着いてくれたらなんとかなる。

「おちょくってンのか?」

「んなわけねぇだろ。
俺とお前の仲だ、話せば分かる誤解もとける」

幸運な事に一方通行は今垣根しか目に入ってはいない。
今のうちに御坂と上条、特に御坂が垣根の願い通り何処かの部屋に隠れてくれれば丸く収まる。

「……」

よし、このままいければ。
垣根のそんな期待を裏切ったのは常盤台の超電磁砲、御坂美琴であった。

「ちょろ~っといい?私を無視しないでくれるかしら?」

「……おまえ、空気ってもんが読めないのか?」

何かが切れる音がした。
やばい、と思った瞬間、垣根の体はガラスを突き破り外へ放り出された。

「……ッ!」

背中を思い切り打ち付け息が止まる。
回避をと思った時には顔面に蹴りが迫っていた。
が、ギリギリで能力を展開し、直撃は避ける事に成功。

「てっめ、いきなり何しやがんだ……」

「人殺しには……罪には罰が必要だろォ?」

……やめだ。

得な事がないから逃げるなんて言い訳するみたいなカッコ悪いことはやめだ。
90%負けるなんて諦めもやめだ。

ぜってぇ勝ってやる。

理由?
そんなもの

ムカついた。

これだけでいい。
ボコって埋めてやる。

「……あぁ、そうだな。

人の話を最後まで聞かない困った***ちゃんにはゲンコツだよなァアアアア」

「その名前で呼ぶンじゃねェエエエエエエ!」

ぶっ殺す。

二人が再開して初めて合致した気持ちは殺意であった。
14 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:38:27.06 ID:facbNr1eo

~~~

まず最初に仕掛けたの一方通行。
近くにあった車を次々と蹴り飛ばす。

垣根は十分避けれるそれらを避けずに全て展開した翼で受け止める。

そして空中へと飛び上がると翼を大きく広げた。

「お前随分真っ白だな、不健康だから日焼けしてけよ」

言った瞬間、翼を通った太陽光は殺人光線へと変質。

一方通行の肌を少し傷つけた。

「ンだとォ!

……クソったれのハエがァ!

てめェ何しやがったァアア?!」

「教えるわけねーだろ、ただひとついうならそいつはお前の知る太陽光じゃあない。

ただの殺人光線だ」

あらゆるもの全てを反射するという自身の絶対の能力をすり抜けた垣根の攻撃に一方通行は驚く。

「しかしやってみりゃあ第一位もたいしたことないな

……能力に絶対の自信を持ちすぎて研究を怠ったのがお前の敗因だァ!

一方通行ァアアアア!」

そのまま急降下し、翼を叩き込む。

が、それは反射されダメージを与える事は無かった。
15 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:40:27.32 ID:facbNr1eo
「チッ、まだ足りねぇのか」

それは垣根の油断であった。

勝ちが見えた瞬間気がほんの少し緩み自身の目論見の破片を口走ってしまった。

「足りない?」

一方通行がその隙を聞き逃す訳もなく

地面を踏みしめ垣根に攻撃すると

距離を取り学園都市No.1の頭脳をもってして『今起きたあり得ない現象』についての考察をはじめた。

垣根は攻撃をよけると再び上昇し、殺人光線を浴びせながら、調整をする。

どちらの思考がより速いか、先に答えをだした方がこの勝負の勝者である。

「これで終いだ」

「ハッ!なァンだ、なンて事はねェただの手品だなァ」

互いに同時に答えを見つけた。

垣根は再度急降下し、先ほどと同じように翼を叩き込む。

対する一方通行も迫り来る翼に拳を叩き込む。

答え合わせの時間だ。

が、そこに割って入った青年が一人。

二人の間に右手を突っ込むとパキィンと何かが壊れる音がした。

飛んでいた垣根は墜落し、無理な姿勢をベクトル操作で無理やり保っていた一方通行もそれを失いすっころぶ。
16 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 02:42:07.85 ID:facbNr1eo
「お前らいい加減にしろよ!
こんな街中で高レベルの能力者が能力全開で戦ってんじゃねぇよ!」

「いっててて」

「……てめェ何しやがった?」

「んなこたぁいまはどうだっていいだろうが!
周りをよくみろ!特に白いの!
茶髪の方が車受け止めたりしてたから全壊にはならなかったがメチャクチャじゃねぇか!
茶髪もなーにが殺人光線だ!
地面溶けてんじゃねぇか!」

ぐしゃぐしゃの地面、半壊した研究所の入口、全損した自動販売機、傷ついた何本もの街路樹。

一方通行が吹っ飛ばした車の先は研究員の宿舎があった。
その前にはコインを用意した御坂美琴が立っている。

それらをみて二人は言葉を失った。

こんなんじゃ化け物扱いされても仕方がない。

次に合致した二人の気持ちは自身への戒めである。

「……悪りィ」

「……いや、俺もやりすぎた」

反省した二人をみて上条は表情を崩す。

「よく知らんが二人は親友なんだろ?
喧嘩する前に話し合えよ、そんで壊したものは謝って弁償しろ。
高位の能力者だし金はあんだろ?」

最後のセリフは二人にはやけに恨みがましく聞こえた。
17 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/11/30(水) 02:45:02.14 ID:facbNr1eo
くそう
全部で100レス分は書いたから20レス分くらいずつ投下しようと思ってたのに思いのほか書き溜め少なかった
明日からは書き溜めしつつ書いてあるの投下するから少し量すくなくなります

一人でもみてくれる人がいたら嬉しいな
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/30(水) 02:46:00.94 ID:JB+nXp4Zo
見てるぜ。頑張ってな
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 02:46:15.60 ID:ACwNOTPfo

31 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 16:38:47.68 ID:facbNr1eo
~~~

研究員たちに謝罪を済ました二人は御坂、上条と共にファミレスへと来ていた。
店にはいると、最初はきまずそうにしていた二人だが、垣根の「俺も断ったよ」という関係者にしか分からないであろう一言で一応の和解は済んだ。
残る壁は十年前、別れの時の事だけである。

「なぁ、**……じゃねぇや、一方通行、お前にとって俺は足でまといの邪魔者だったのか?」

上条が御坂を連れ、ドリンクバーへ立った時を見計らい垣根が切り出した。

余談だが、周囲の女の子の好意に気づかず周りの男共を苛立たせる上条であるが、彼は『恋愛事』だけに鈍感なのであり、本来は人の気持ちをいち早く汲み取り、気を利かせる男である。
何故恋愛事に鈍感なのかというと、それは幼少の頃の暗い記憶。
不幸体質から疫病神と呼ばれ、それならばと自分を襲う《不幸》から人を救う強さを身につけたが、その努力も『自演』『マッチポンプ』と非難され刺されたこともあった。
そのトラウマが原因なのである。
その心的外傷は『自分なんかが人に愛されるわけがない』という強い感情を幼い上条の心に刻み込むには十分すぎる威力を持っていた。
そしてそれは《自己》というものを形成途中の心の一番大きな要因になってしまう。

上条当麻という人間を形成する大きな根っこに『自分が愛されるわけがない』と染み付いているのだ。

「御坂、のんびりいこう、時間をゆっくりかけてもどろう」

「ん?なんでよ?」

「いいんだよ、俺らは今必要ないんだから」

「わ、わかったわよ……いきなり笑わないでよ、ドキッとしちゃうでしょう」

最後のほうはボソボソと上条には聞こえにくいものだった。

「ん?なんか言ったか?」

「なんでもなぁああい!」

上条はどうしてこんなにも優しく微笑む事が出来るのだろう。
そして、その笑顔の裏にはどんな苦しみを抱えているのだろうか。

その苦しみを取り除いてくれる者はいるのだろうか……。
32 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:40:38.68 ID:facbNr1eo
~~~

「俺はお前に、親友だと思ってた奴に切り捨てられたのが悔しくて……憎くて、お前を[ピーーー]ためだけに能力を磨いていった。だけど無理だ、こうやって会っちまうとお前を[ピーーー]なんて無理だ……さっきも[ピーーー]といいながら俺はどこか手を抜いていた。じゃなきゃ太陽光戦でさっさとお前を殺していたはずだ……なぁ?俺はお前の横に立つには、親友になるには力がなさすぎるのか?」

目に涙をため、一歩間違えれば愛の告白である。
それほど、垣根は一方通行を大切なものとしていた。
一方通行を[ピーーー]ために人の百倍薬漬けになって、電極を脳にぶっさした。

それは本当は[ピーーー]ためではなく認められるため、そして一方通行が自分を否定する訳がないと何処かで信じていたかったからである。

「まてまてまて、俺の能力が化け物地味てておっかねェから一緒にいたくねェって言ってお前が俺を追い出したンだろ?あそこはもともとお前の開発に力入れてたじゃねェか」

「……は?」

「大体俺がなンでお前を足で纏だと思うンだよ?あの時俺らまだ6歳だぞ?二人でなにしたって遊ンでただけじゃねェか、遊びに足で纏いもクソもあるかよ」

「じゃ、じゃあ……」

「そういうこったな……」

二人は全てを理解する。

つまりはこれも研究のひとつなのである。
本音としては牽制、最悪の事態への対処という面があったかもしれない。
学園都市第一位候補と第二位候補、その二人が余りにも近くになりすぎたため、どちらかが反抗した時に抑止力となるものが必要であった。しかし科学者には反 逆した超能力者を止めるなんて事は不可能。だったら垣根には一方通行を、一方通行には垣根を止めてもらおうという具合である。
しかし今のままの垣根では一方通行には到底かなわない、だから一方通行を憎ませて彼を[ピーーー]事だけを考えさせた。

そして研究のひとつという建前としては《大切なものを失った喪失感によるストレスへの耐性》となっている。

研究員達の唯一の誤算は二人が家族を超えた堅い絆で結ばれていた事と、二人に携帯電話を買い与えた一人の甘すぎるアルバイトの存在である。
33 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 16:41:35.76 ID:facbNr1eo
~~~

「そう、二人は無事仲直り出来たのね……十年間か……長かったわね」

部下からの嬉しい報告を聞くと、芳川桔梗は大きく息を吐き、冷めたコーヒーを一気に飲み干した。

「当時まだ高校生だった私がもう三十路手前のおばさんなんだもんね……本当長いわね」

芳川桔梗は知人のツテを使い、当時まだ高校生ながら一方通行達のいた研究所へ「助手」として出入りしていた。
そしてコーヒーを淹れさせたり、研究所では教えてくれない一般常識というものを教えたり、など二人にとっては姉的存在であった。

二人もよく懐き、「よしかわーよしかわー」と後をついて歩いていた。

そんなある日、芳川は二人を仲違いさせ、大きな力をひとつの勢力にしないようにしようと計画している事を偶然聞いてしまう。
34 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:44:57.15 ID:facbNr1eo
“二人を助けたい”

これは決して優しさなんてものではない、いうなれば甘さだ。
研究員になりたいわけではないが、今はその研究チームの一員だ。
それならば方針には従わなくてはならない。
だが芳川には二人を引き離し、一人ぼっちにさせるなんて事はしたくはなかった。
所長に掛け合ってみたりもしたが

「高校生のバイト風情が意見するな」

と切り捨てられてしまった。

ただのエゴ、研究成果より自分の感情を優先させた研究者としては失格な行為。


何かいい案はないかと思った時、ここの研究所は「バイト風情」に莫大なバイト料をくれている事を思い出す。

すぐさま、貯金を確認すると自分でも驚くほど、到底高校生がもっている額でない金額がそこには表示されていた。

“こんだけのお金があれば……”

すぐさま携帯電話を三台契約し、青紫色のものは自分が持ち、白いのは垣根へ、黒いのは一方通行へと渡した。

「いい?携帯買ってあげたことは誰にも内緒よ?三人だけの秘密。壊さない限りなんとか私が携帯代払ってあげるからあまり無駄遣いしないでね?あなた達二人 の番号と私の番号は登録してあるから……これからきっと、とても辛い事が起きるわ、だけど何を信じるかは自分で決めなさい。明けない夜はないのと同じで終 わりのないトンネルなんてものもないのよ、決して諦めず自分の正義と気持ちに正直に生きなさい」

二人はちゃんとに理解できていたかは怪しい。
だが、真剣な芳川の目を見て、力強く「うん」と頷いた。

それだけで芳川は大丈夫だと確信する。

言葉の意味などあとから理解すればいいのだ。
35 :区切るとこ間違えちゃった ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:46:34.34 ID:facbNr1eo
数週間後、芳川は高校退学処分、学園都市からも追い出されそうになるが、優秀さを買われ遺伝子研究を専門にしている研究所に拾われた。

次の年には大検を取り、大学へも進学している。

そして、今は--。

「さて、この子達どうしましょう?」
36 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:48:30.26 ID:facbNr1eo

~~~

「さぁって、そろそろ解散しますか?御坂は門限そろそろだろ?」

「……アンタ、ナッイスー!完っ全に忘れてたわ、今ならまだ余裕ある……」

良かったぁ、と安堵のため息をつくと伝票をみながら自身の分のお金を出そうとする。

「ここは俺が奢る。迷惑かけちまったしな」

すぐさま垣根が伝票を奪い取り、上条にも同様に財布をしまうように言った。
二人は素直にお礼をいう事にする。

「一方通行さんと垣根さんは私に言えない話があるんでしょ?」

ファミレスを出ると不意に御坂が言った。

「あ、別に聞き出そうとかそういうつもりはないわよ?どちらかというと心配してくれてるみたいだしアンタ達の事もまぁ、信用してあげる……だけど整理がついたら話してね?」

にっこりと微笑むと、四人をバスが追い越し、それに気づくと御坂はバス停まで全力で走り出した。
37 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:49:51.34 ID:facbNr1eo
~~~

「俺は力になれないか?」

御坂を見送った--置いていかれたという方が正しい--三人はトボトボと歩いている。
そんな中、唐突に上条が二人に切り出した。

「は?」

「なンの事だ?」

二人は上条を巻き込むまい、俺たちと親密な関係にさせるまいととぼける。

「いいよ、隠さなくたってなんかやばい事に巻き込まれてんだろ?押し売るつもりはねぇけどなんか手伝える事あれば言ってくれよ?俺たちもう友達なんだし」

それだけいうとスッキリしたのか足取り軽く驚く二人を置いてサッサと歩いていってしまう。

「……なんなんだ?あいつは?」

「……知るか、とてつもねェバカなンだろ」

二人は今の上条の言葉を素直には喜べない。

なぜならば、

『どうせこいつもすぐ裏切る』

どうしてもそういう風に考えが傾いてしまうからだ。
38 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:51:35.36 ID:facbNr1eo

~~~

「なぁ、芳川に連絡とってみねぇか?」

再会から三日後、二人は先日来たファミレスで『実験を中止させる』話し合いをしていた。
いい案が浮かばない中、垣根が突然そういいだした。
一方通行は『大人』というものに例外なく不信感を持っているのですぐに賛成という事が出来なかった。

「却下だ。芳川もどうせ腐った大人になっちまってる。大好きな姉貴分だからこそ腐った姿をみたくねェ」

「姉貴分……ねぇ……?」

「あ?ンだよ?」

間違いなくお前は芳川に恋してたよ。お前の初恋は変人科学者もどき(当時)だよ。とは思っても口にはださない。

「イヤイヤなんでもないぜ?だが俺は芳川がそんな腐った奴になってるとは思わねぇ、十年間この携帯は一度も不通になる事はなかった……まぁ使ってないから不通っちゃ不通なんだがな」

「ハッ、愉快すぎンぜ。十年間約束を守ってくれたから信じられるってか?俺は無理だ。大人は敵だ」

「じゃあ俺が大人と呼べる年齢になったら俺はお前の敵になんのか?お前自身もお前の敵になる?」
39 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/11/30(水) 16:54:24.57 ID:facbNr1eo
「俺は道を誤らねェよ、それはお前も同じだ」

「俺たちは大丈夫だけど他の奴はダメなのか?」

「俺は本当に地獄を経験したンだ。同じような境遇のガキを見捨てたり作ったりはしねェよ」

「それは芳川も同じなんじゃないか?彼女は俺たちを大切にしてくれた。すでに強大な力が発現していた俺らをただの子供として扱ってくれた唯一の人だ。そんな彼女が俺らの十年をまったくしらねぇとは思えねぇ、そんで絶対悲しんでいてくれる」

「そんな確証がどこにあンだよ?あ?」

「俺らが道を誤らない確証もないだろう?それに俺らは十年間地獄のような真っ暗闇にいた。俺ですら『そこにいる能力者と闘って殺せ』なんてクソッタレな実 験を何度もやらされそうになった。でも全部拒否って凍結させて、俺もお前も人殺しにはならなかっただろ?それは芳川が最後に言った『諦めずに自分の正義と 気持ちに正直に生きろ』って言葉の結果だろ?少なくとも俺はそうだ」

垣根も一方通行も人を殺す事に一番嫌悪感を抱いている。
実験途中に死んで行った奴らを何回もみて来た。そいつらを舌打ちしながら「片付けろ」という科学者の表情も何度もみた。
自分はああはなりたくない、それが自分の正義であり心からの本音だ。
親友を失ってドン底にいる時にその正義を守れたのは芳川の言葉があったからだ。

お互いがお互いに絶望しながらもどこかで信じていたい、と思えていたのも芳川のおかげだ。
二人は芳川の言葉を自身の成長と共に育て、正しく理解していた。

芳川桔梗。

彼女がいなければこの二人はさらに辛く冷たい暗闇の中に落ちていただろう。

「……チッ、勝手にしやがれ」

垣根は言われたとおり、勝手にする事にした。

垣根が操作するのは何世代も前の型の真っ白い携帯電話だ。
40 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/11/30(水) 16:55:37.40 ID:facbNr1eo
~~~

「あ、もしもし?芳川?久しぶり!俺だよ、俺」

『……オレオレ詐欺は間に合っているのごめんなさいね』

切られた。

「……バカじゃねーの?」

ニヤニヤしながら一方通行は自身の真っ黒の携帯電話を取り出し芳川に電話をかける。

あんな嫌がってたのにノリノリじゃねーか。と垣根は心の中で悪態をつく。

「お、芳川か?俺だ、一方通行だ。久しぶりだな」

『……私には能力名を一方通行っていう弟分はいるけど名前が一方通行なんて知り合いはいないわ』

切られた。

「バーーーッカ!バーッカ!」

大笑いしながら机を叩く。

「今似合わねぇほど爽やかな声だしてたな、マジウケるわ」

「……くかきけこかか---そォンなに死にてェか?てーいとくゥン?」

一方通行が骨ばった手で垣根の頭をつかもうとした瞬間、垣根の携帯電話が着信を告げた。

「ナイスタイミング!」

垣根が魔の手から逃れるように大急ぎで電話をとると一方通行はふてくされたようにそっぽを向きコーヒーをちびちび飲み始める。

「いやぁ、ナイスタイミングだぜ、芳川。改めて久しぶりだな」

『ふふっ、久しぶりね、帝督』 
 
 
48 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:05:48.92 ID:/QGrE+6vo
~~~

「明日お前ヒマだろ?」

電話を終えた垣根は楽しそうにウキウキとしていた。
一方通行はそれが何故か、面白くない。
理由は分からない。

「……ん?どした?なんか予定あんのか?」

相変わらず不貞腐れてたようにそっぽを向く。

「……悪かったよ」

垣根は本人よりも速く不機嫌の理由を理解した。

「……なンの事だ?」

「なんかわけもわからず俺に腹立ってんだろ?俺もわかんねーけどとにかく機嫌直せよ」

嘘だ。垣根は全てをわかっている。
少なくとも『そうであろう』という予測は立っている。
だが、それは一方通行本人が気づかなくてはいけないことなのだ。

「……なンかダメだ……お前と芳川が話してるの見たらめちゃくちゃ腹立った……悪りィ……」

この男は知らないのだろう。
人を愛するという事を。

「余りにも俺がかっこよすぎて嫉妬でもしたか?」

垣根はそれが愛だと教えてやるつもりはなかった。
第一人に言われて納得できる感情ではないのだ。
自分で気づかない限りそれを理解する事はできない。

「ホスト崩れが何言ってやがンだ」

垣根の冗談にやっと一方通行は余裕を取り戻し、少しだけ笑った。
49 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:07:35.78 ID:/QGrE+6vo
~~~

翌日、午前七時半。

「あら、二人ともずいぶんいい男になったじゃない」

三人は芳川の個人的な研究所で再会を果たした。
この時間帯は芳川が指定してきた。

十年ぶりに見た芳川はやつれ、疲れきった笑顔で二人をむかえた。

「そっちはずいぶんお疲れのようだな……昔のが魅力的だったぜ?」

「……今はなンの研究してンだ?」

その姿を一人は驚き、もう一人は怪しんだ。

「ふふ、さては帝督の初恋は私ね?それと***、安心して、私は闇の実験に手を貸しちゃいないわ……成果を利用された事はあるけれどね」

「バーカ、俺はお前に異性を感じた事なんか一度もねぇよ。あんたはいい姉貴分だった、それだけさ」

「俺はなンの研究をしてンだ?と聞いたンだが……」

それだけで人を殺せそうな目付きで睨みつける。
少なくとも十年ぶりに再会する『恩人の姉貴分』に向ける目ではない。
50 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 00:10:14.93 ID:/QGrE+6vo
「……オイやめろよ、折角再会したんだぜ?」

「黙れ。利用されただァ?素直にハイソウデスカと信じられる訳ねェだろ。
答えろ、表に出せねェような実験の8割は俺ンとこに来るからなァ。どれかひとつにでも関係してたらすぐ思い当たる……ひとつでも関わりを見つけたら……ぶち殺してやンよォ」

「ぶち[ピーーー]」その言葉を口にした時の睨みつけるその目には殺意より多くの戸惑い。

大人は信じられない。
大人は敵。
大人は―― 自分の事をわかってくれない。

他人は自身を傷つけるだけの生き物。

一方通行の中に、彼の中で絶対的に真実である言葉が渦巻く。

「そうね、私は今遺伝子の研究を第七学区の研究所でしているわ。というかそれを知って会おうとしてくれたんじゃないの?」

「遺伝子……だとォ?」

51 :やり直し、saga必要な時に限って忘れてしまう…… ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:11:11.91 ID:/QGrE+6vo
「……オイやめろよ、折角再会したんだぜ?」

「黙れ。利用されただァ?素直にハイソウデスカと信じられる訳ねェだろ。答えろ、表に出せねェような実験の8割は俺ンとこに来るからなァ。どれかひとつにでも関係してたらすぐ思い当たる……ひとつでも関わりを見つけたら……ぶち殺してやンよォ」

「ぶち殺す」その言葉を口にした時の睨みつけるその目には殺意より多くの戸惑い。

大人は信じられない。
大人は敵。
大人は―― 自分の事をわかってくれない。

他人は自身を傷つけるだけの生き物。

一方通行の中に、彼の中で絶対的に真実である言葉が渦巻く。

「そうね、私は今遺伝子の研究を第七学区の研究所でしているわ。というかそれを知って会おうとしてくれたんじゃないの?」

「遺伝子……だとォ?」
52 :やり直し、saga必要な時に限って忘れてしまう…… ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 00:12:55.84 ID:/QGrE+6vo
クローンに直結する遺伝子という分野は一番聞きたくない答えであった。
学園都市で遺伝子研究をしている研究所は四つ。

他にもあるにはあるがAIM拡散力場の研究や各能力ごとの研究をメインにしており遺伝子研究はおまけみたいなものだ。
おおよその研究テーマ、理論を構築し、実験や証明、さらにそこからの発展はメインにやっている四つの研究所全てが揃う第七学区に持ち込まれ、そこの研究員の力を借り続ける。
全てを第七学区の研究所に投げてしまうこともあるレベルのごく小さな施設しか揃えられてはいないところもある。

今回のクローン技術は第七学区の遺伝子研究所が四つに分裂した最大の理由だ。

まだ一方通行と垣根が同じ研究所にいた頃は遺伝子研究をメインにやっている研究所はひとつであった。

そしてそこには人間のクローン技術の考えに大きく四つの派閥が存在していた。

ひとつはクローン技術なんて神への冒涜だ。
と考える学園都市にあまりにもふさわしくない宗教派。

ひとつは世に出せぬ物はやる意味がない、それをやる時間を遺伝子から全ての病を検出、治療する方法を探すべきだ。
と考える医療派。

ひとつは成功したとしても世には出せないから無意味、そんなことをする前にクローンを認めさせる世の中を作るべきだ。
と考える行政派。

そして、ひとつはそういう可能性があるならば研究するのが科学者だ。
と考える純粋派。

この四つの派閥で一番先にクローン人間を生み出したのは宗教派であった。
そして人間のクローニングを禁止する国際法律をつくり、開発陣自らその技術を禁止することにより、他の三派がその技術を使うこと、研究する意欲を衰退させてしまった。
53 :やり直し、saga必要な時に限って忘れてしまう…… ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:15:43.94 ID:/QGrE+6vo
「そうね、私はクローンについてはそんなに興味がなかったわ。どの派閥にもいなかった。そして、自分でいうのもあれだけど私は優秀だった、それがまずかったのよね」

「どォいうことだ?」

「私は四つ全ての派閥の研究成果を閲覧することが出来たのよ、普通各派閥ごとここまでしか他の研究所の人には見せてはいけないって決まってるよの。それを私は優秀さを評価され大抵の閲覧許可がおりちゃったのよ」

芳川は冗談っぽく笑う。
クローニングが禁止されたとはいえ、それぞれの研究所はそれぞれの目的の為にクローン研究を辞めることはなかったのだ。

「……単刀直入に言え、お前は今回の実験に関わってンのか?」

まっすぐ芳川の目を見つめた。
芳川は一度目を閉じ、ゆっくり開くと大きく息を吐いた。

「そうね、答えはイエスよ」

言い終わると同時に一方通行の右手が芳川の首に伸びた。
ギリギリと締め上げ怒りのこもった真っ赤な目で掴み上げたものを睨みつける。

「ほらなァ、ていとくーン?やっぱこいつもクズになっちまったンだよォ」

じわじわと力を込めていく。
その顔は悲痛に歪み泣きそうなとても醜く痛々しいものだった。
54 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 00:16:37.27 ID:/QGrE+6vo
「ぐっ……」

芳川も顔を歪め、目には涙をためていた。

「おい、まて落ち着けよ、人の話は最後まで聞くもんだとつい最近思い知ったばかりだろう?」

「……チッ」

垣根の言葉に一方通行は素直に手を離した。
ゴホゴホと咳き込む芳川は垣根に微笑み、話を続けた。

「結論を言ってしまうと、私は新しいクローニングの方法を発見してしまったのよ、実験は怖かったからしなかったけど理論は完璧だった。それを……取られたのよ」

「取られただァ?誰に?」

「学園都市統括理事会理事長アレイスター・クロウリーによ」

「あ?……つまり、この実験は理事長自ら認めたもンだとでもいうのか?」

「この街で行われるすべての実験をアレイスターは知っているわ、そしてそれらが自身の実験の邪魔にならないようなら容認している。この街は***がいうように、腐っているのよ」
55 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:18:40.83 ID:/QGrE+6vo
「じゃあ、俺たちが断り続けても……」

「おそらく本当にアレイスターにとって必要な実験なら無理矢理実験は開始されるでしょうね」

「実験の大前提は?」

じっと黙り二人のやり取りを聞いていた垣根が口を開いた。

「知らないわよ、そんなこと、私はクローンを作るとこまでしか詳しくは教えられてないもの、実験自体の事は知らないわ」

「一方通行は?」

「俺がこの街で桁外れの力を持っている事だと聞いた」

「つまり……誰にも負けないって事かしら?」

「だったら前提を崩そうぜ」

「どうやって?悪りィが俺は誰にも負ける気がしねェぞ」

垣根は何かいたずらを思いついたように笑った。
そして、そのいたずらを口にする寸前、

「あー、その前にひとついいかしら?」

垣根を遮るように芳川が言う。

「私、いま妹達を保護してるんだけどこの子達の世話というか保護というかしてもらえないかしら?」

「……ごめん、芳川、俺耳悪くなったみたいだ。もう一度いってくんね?」

「研究ノート取られたときにこの理論を使ってクローンを作るなら管理は私にやらせてくれるように交渉しておいたのよ、そしてわざと失敗を続けてたのよ。
でもいつの間にか私の知らない所で成功個体が二体作られてた。それを奪って逃走中なのよ、私」
56 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:22:53.19 ID:/QGrE+6vo
「っはァああああ?なンで?」

驚く二人とは対照的に芳川はけろりとしている。
そして、少しだけ照れたような顔をしながら言った。

「実験の被験者は*****だと聞いたからよ……私は貴方に人なんか殺して欲しくなかった」

「俺が実験を……受けると思ったのか?」

「違うわ、私は貴方も帝督も人を殺すような実験は絶対に受けないと信じてた」

伏せてた顔をあげ、まっすぐ二人を見つめる。

「でもこの実験は『無理矢理でも開始されてしまう』そうしたら優しい貴方達は自分が傷つく道を選んで心を閉ざしてしまう!……この実験は開始準備が整ったらそこで負けなのよ」

悔しそうな顔で吐き捨てるように言った。

芳川はこの十年の間誰よりも二人の事を考えていた。
実験の邪魔をするなど科学者としての死を意味する行為をしてまで、二人になるべく辛い思いをさせまいとしていた。

「なンで……?なンで俺達なンかの為に……?」

「そんなの、あなた達が好きだからに決まってるじゃない」

優しく微笑む。
先ほど自分を殺そうとした一方通行を一切の恐怖も怯えも感じずに、隣で照れ臭そうに笑う垣根と共に優しく包み込むように抱きしめた。
57 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 00:29:06.23 ID:/QGrE+6vo
「ごめんね、二人とも……十年間ながったよね……辛かったよね……助けられなくてごめんね」

十年ぶりに再会した一方通行にどんな冷たい目を向けられても、殺されそうになっても、決してこぼすことのなかった物を、芳川はこぼした。

「ははっ、泣いてんのか?芳川……」

「……そォいうテメェこそ、目鼻からなンか垂れてンぞ」

三人なのだ。

一方通行と垣根は数日前、再会し、その喜びを分かち合った。
だが、何かが足りなかった。

嬉しさの中に、空っ風が吹き込み、どこかまだ寒かった。

それぞれの心には親友と大好きな姉の部屋が存在していたのだから。

親友の部屋に十年ぶりに明かりが灯っても姉の部屋は暗いままでは、心の底から、涙が出るほど嬉しいと感じることはできないのだ。

ただし、神様はこの二人に長い幸福は与えてはくれない。

幻想ではない絶望に打ち勝つ事は果たして二人に出来るのだろうか………。 
 
 
64 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 05:54:12.95 ID:/QGrE+6vo
~~~

満天の星空を眺めながら垣根は黄昏ていた。
断崖絶壁―― その辺で一番高いビルの屋上―― に立つように、夜空を見上げる。

そして、吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な澄んだ空に声にならない叫びをぶつける。

―― 俺は何故生まれてきた!

―― 俺には何故でかすぎる能力が備わっている?

―― 俺は愛される資格があるのか?!

手が届きそうな月に手を延ばしてみる。
当然つかめない。

さみしさを象徴するかのような夜風が垣根の身体を冷やす。

死んでしまおう。

ふいにそう思い、虚空へと倒れこむ。

そして気づくと自身の真っ白な翼に包まれ地面に横たわっていた。

ため息をつくと再度屋上に飛び立つ。

立ち並ぶ数々の超高層ビル。
その中に存在するちっぽけな自分。

大小様々な虚像がのしかかってくる街の中で垣根は一人心を何かに奪われるような錯覚に陥っていた。

日々をまるで野良犬のように愛を求め、心の水分を奪われ、カラカラになりながらふらつき回っている生活に嫌気が差していた。

真っ白な携帯電話を懐から取り出す。

その色は頭の先からつま先まで真っ白な[ピーーー]べき相手を思い出させた。

本当に心から思っているならば、それをみた瞬間、垣根の心はドス黒い感情に支配されるはずだ。

だが、垣根帝督の心はその携帯電話を眺めている時だけ、暖かな潤いと優しさで満たされる。

―― なぁ、*****。

俺はどうしたいんだと思う?――

憎むべき相手に問いかけて見る。

そいつを[ピーーー]ためだけに能力を研究し尽くし、磨いていった。

これは垣根の防衛本能だ。

心の根っこでは『信じたい』と思っているし、信じてもいる。
しかし、もし、万が一、再会した時『お前なンかいらない』と言われたら、そこで垣根の心は粉々に壊れてしまう。

そうならないために、垣根は思い込む。

こいつは殺さなきゃ行けない相手なんだ。
こいつに嫌われたって痛くも痒くもないんだ。

と。
65 :またまたsaga忘れ ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 05:56:32.43 ID:/QGrE+6vo
~~~

満天の星空を眺めながら垣根は黄昏ていた。
断崖絶壁―― その辺で一番高いビルの屋上―― に立つように、夜空を見上げる。

そして、吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な澄んだ空に声にならない叫びをぶつける。

―― 俺は何故生まれてきた!

―― 俺には何故でかすぎる能力が備わっている?

―― 俺は愛される資格があるのか?!

手が届きそうな月に手を延ばしてみる。
当然つかめない。

さみしさを象徴するかのような夜風が垣根の身体を冷やす。

死んでしまおう。

ふいにそう思い、虚空へと倒れこむ。

そして気づくと自身の真っ白な翼に包まれ地面に横たわっていた。

ため息をつくと再度屋上に飛び立つ。

立ち並ぶ数々の超高層ビル。
その中に存在するちっぽけな自分。

大小様々な虚像がのしかかってくる街の中で垣根は一人心を何かに奪われるような錯覚に陥っていた。

日々をまるで野良犬のように愛を求め、心の水分を奪われ、カラカラになりながらふらつき回っている生活に嫌気が差していた。

真っ白な携帯電話を懐から取り出す。

その色は頭の先からつま先まで真っ白な殺すべき相手を思い出させた。

本当に心から思っているならば、それをみた瞬間、垣根の心はドス黒い感情に支配されるはずだ。

だが、垣根帝督の心はその携帯電話を眺めている時だけ、暖かな潤いと優しさで満たされる。

―― なぁ、*****。

俺はどうしたいんだと思う?――

憎むべき相手に問いかけて見る。

そいつを殺すためだけに能力を研究し尽くし、磨いていった。

これは垣根の防衛本能だ。

心の根っこでは『信じたい』と思っているし、信じてもいる。
しかし、もし、万が一、再会した時『お前なンかいらない』と言われたら、そこで垣根の心は粉々に壊れてしまう。

そうならないために、垣根は思い込む。

こいつは殺さなきゃ行けない相手なんだ。
こいつに嫌われたって痛くも痒くもないんだ。

と。
66 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 05:59:33.50 ID:/QGrE+6vo

~~~

風に吹かれていた。

街角には人影もなく、なくした『何か』を探し求め、他の何かを失った。

そんな一方通行に温もりなんて物はなく、心は冷め切ってしまっていた。

―― 死にてェ。

毎日毎日そんな事ばかり考え、風以外にはなにもない街をふらつく。

心を閉ざし、その風に包まれる。

そして、何処かに向かって叫ぶ。

―― 俺はここにいるンだ。と。

見えない涙は何処に零していいのかわからない。

あれからどうしているのだろう。

真っ黒な携帯電話をポケットから取り出す。

その色は黒い服を好んで着ていた自身を化け物と恐怖した親友を思い出させる。

―― あいつは今何をしてンだろうか。
今電話をかけたら、あいつを怖がらせるだけだろうか?――

一方通行には何もわからない。

―― あの女は元気だろうか?
あいつは俺の元から親友と共に消えた。
そういえば、あいつはこれをくれてからぱったりと研究所にこなくなったな……そンでその数週間後垣根も俺の元から消えた――

何かが不自然だ。
子供ながら一方通行はそう思っていた。

芳川はこの状況を見据えたようなことを言っていたし、仕組まれたものにしか見えない。

垣根が自分を怖がるなんて事もあり得ないと思った。

だが、もし今ある現実が真実ならば自分は心を保てないとわかっている。

だから確認できなかった。

今のままならまだ垣根も芳川も心の中にカケラが残っている。

そのカケラは太陽の破片のようにキラキラとしている。

それを失ってはいけない。

それを失ったら本当に心は凍りつき、本物のバケモノになってしまう。

だから、考える。

虚像の二人を決して失わない方法を。

―― 最悪の結末だけを考えよう。
期待するのはやめよう。
初めから期待なンてしなけりゃ傷つくこともねェンだから。
そして、名前を捨てよう。
学園都市は俺を人間だと思っちゃいねェ『能力』だけを見ている。
だったら名前なンていらねェ、名前を呼んでくれる人はもういねェンだから――

能力名の申請をした。
個人情報から出来るだけ本名を消した。

―― 俺はたった今から、学園都市最強の能力者『一方通行』だ――

67 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:00:43.27 ID:/QGrE+6vo

~~~

二人の所在がわからない。

電話はかけるのが怖かった。

二人を引き裂く何かを私は止めれなかったから。

恨まれていると思った。

だから、二人の噂だけを集めた。

むごい実験の話を聞くと心配になった。

二人が受けるとは思えないがそれでも傷つくだろう。

と。

--いつか必ず私が二人に温かな心を蘇らせる。
それが私が二人に教えてられる最後のこと--

二人の淹れてくれたものより数倍不味いコーヒーを飲みながら論文を読み漁る。
68 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:02:16.67 ID:/QGrE+6vo

~~~

「んんん、よし!もう大丈夫だ。ひっさしぶりに泣いちまったよ」

両手で顔を隠しながら垣根は照れたように言った。
今の垣根は年相応、いや少しだけ幼くみえる。

「私も、十年ぶりね……あなたたちの方が辛い思いをしてると考えたら泣いてなんていられなかったわ」

こちらも照れたように笑う。

「俺は……一人になっちまった時は泣いてばっかだった……でもそんなンじゃ芳川と垣根に笑われると思って強くなろうとした」

ふてくされたように一方通行は言う。
感情というもののだし方が分からないのだ。

だが、信頼できる人の前では泣くなどという安心感は正しく得られた。
今はそれだけでもいいのだ。

「よし、早速だが妹達のところへ行こうぜ!」

なんとなくしんみりしてしまった空気を垣根が打破する。

「そうね、地下に降るわよ」

楽しそうに垣根の笑顔を見つめる。

「……」

どこか面白くない一方通行。
ブスッとしたままそっぽを向いている。

そんな一方通行ををみると芳川はくすぐったい気分になった。
―― 可愛い。
本当に弟ができたみたいだと嬉しく思った。

「ふふっ、ほら*****もいくわよ?」

芳川は未だに一方通行を*****と呼ぶ。
一方通行はそう呼ばれるたびに心に何かを背負わされているように感じていた。

「よ、芳川ァ……その……」

一方通行は子供が何かをねだるような顔をしていた。

芳川はん?と首を傾げ、一方通行の言葉を待つ。

「あの……よォ……その、名前……今は一方通行が名前だから……*****とは呼ばねェでくれねェか?」

怒られる事を怯える幼稚園児のように一方通行は言う。

芳川は少しだけ悲しそうな顔をした後、何かを納得したように頷くとわかったわ、とだけ言った。
69 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:04:35.60 ID:/QGrE+6vo

~~~

「ほう、クローンだけあってそっくりだな」

垣根の妹達をみた感想はそれだけであった。

今、二人の妹達は調整槽呼ばれる装置の中に一糸纏わぬ姿で入っている。
胸と下半身は見えぬように目隠しがされてるとは言え、少し配慮が足りなかったかなと芳川は後悔した。

「こいつらはいつ目を覚ますの?というかいつからいるの?」

「そうね、あと三十分もしたら調整も終わるし、それと同時に目を覚ますはずよ……一昨日からよ」

「なァ、なンで常盤台の制服があるンだ?」

「……御坂美琴さんが常盤台のお嬢さんだから、同じ服きてたら姉妹っぽくて可愛いじゃない?」

「……お前なンかズレてるよなァ」

一方通行は鼻で笑い、垣根は聞こえなかったふりをした。

「つーかよ、御坂美琴とこいつらは姉妹っぽいじゃなくて姉妹だろ……というか御坂美琴にはなンて説明したらいいンだ?」

先日『整理がついたら説明しろ』と言い残した御坂美琴の事を思い出す。

同じレベル5なのに、まっすぐ育った羨ましいやつ。
これが御坂美琴に対する一方通行の第一印象である。

人を愛する事も愛される事も体感できてる羨ましいやつ。
これが御坂美琴に対する垣根帝督の第一印象である。

おそらく彼女は実験過程で子供が血を吐き、もがき、苦しむような姿を見ていないのだろう。
人をゴミのように扱う研究員を見ていないのだろう。
だからあんなにピカピカと輝く事が出来るのだ。

「ん?あぁ、それならほっとけ」

垣根は何か考えがあるのか、能天気にそう言うと、勝手にコーヒーを淹れ出した。

「……懐かしいな、昔芳川にうまいって言われてからそれが嬉しくて、よくコーヒー淹れたよな」

「ン?あァ、ンなこともあったな」

「確かにあなた達が淹れてくれたコーヒーは美味しかったけど、あれぶっちゃけ自分でやるのめんどくさかったからなのよね」

芳川は垣根の淹れたコーヒーを自然に横取りするとしれっとそんなことを言った。
そして一口のみ、でもやっぱ美味しいわ、ととても幸せそうに笑った。

「芳川博士、調整が終わりましたとミサカは報告します」

垣根が自分の分と一方通行の分をちょうど淹れ終えると、調整槽の脇に設置してあるスピーカーから声が響いてきた。

「あら、なんだか速かったわね……っと、そうね二人とも一旦この部屋から出て行ってくれる?」

そのままいつものように調整槽を開けようとパソコンに向かうが、ここには男の子が二人いる事を思い出し、外に出るように指示した。

二人はおとなしく指示に従うと、コーヒーを淹れたマグカップを持ったまま部屋の外へ出た。
70 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:06:51.06 ID:/QGrE+6vo
~~~

「妹達本当にそっくりなんだな」

「そォだな」

「妹達がこっちにいるって事はとりあえず今すぐ実験が始まる事はないのかな?」

「それは正直分からねェな、クローンがどんくらいで今のあいつらと同じ姿になるのか知らねェし」

「そっか……」

「……あァ」

二人は静かにコーヒーを飲みながらこの先の事を思う。

そして、行き着く答えは同じであった。

この先は人を殺す覚悟が必要になるかもしれない。

二人はお互い同じ考えに達した事を相手の目を見る事で確認した。
そして、頷き合う。

どちらかが、外道・畜生の道へ落ちたら、お互いを頃し合おう。

二人の顔には第一位としての責任、第二位としてのプライドが浮かんでいた。
71 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:08:18.12 ID:/QGrE+6vo
~~~

「よし、と。二人ともはいってきていいわよー」

返事をし、ドアを開け中にはいるとそこには先日初対面を果たした御坂美琴が二人いた。

「常盤台の制服きてるとまじでお姉さまそのままだな」

垣根が感心したようにこぼす。

「お姉さま?とミサカは聞き返します」

「ん?あぁ、御坂美琴はお前らのお姉さまみたいなもんだろ?」

当然の事のように言うと、妹達二人は少しだけ顔を赤らめた。

「お姉さま……ですか」

「んで、さっきも話した通り二人の世話をして欲しいのだけれどいいかしら?妹達もこんな地下室にいるだけより少しは外に出たいでしょう?」

「まてまてまて、ばったり御坂美琴と出会っちまったらどォすンだ?外に出ンならまずは御坂美琴に説明のが先だろ?」

「あー、その事なんだが俺が作戦考えてみた。一方通行はだいぶ悪者になっちまうが……いいよな?」

「……お前ら以外からなんと思われ様が知ったこっちゃねェよ」

今はそれでもいい、だけれどいつまでも心に二人しかいないというのは悲しすぎる。
芳川は少しだけ顔をしかめた。

「……まぁ、最後誤解は解いてやるから安心しろ。そんでその作戦なんだが……」

垣根の作戦はあくまで実験を延期させようという完全に頓挫させる事のできるようなものではなかったが、現時点では効果は期待できるものであった。

早速芳川は下準備を始め、残りの四人はお互いの役割を確認しあった。
72 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga sage ]:2011/12/01(木) 06:10:09.79 ID:/QGrE+6vo
~~~

「お姉様、何か機密と書かれた書類が届いてますわよ」

御坂美琴のルームメイト、白井黒子は風紀委員の仕事から帰って来ると、玄関で寮監に渡された封筒を御坂に差し出した。
本日は午後からは非番だ。

「機密ー?最近そんな大層な実験に協力なんてしてないわよ?」

「報告ではなく、要請ではありませんの?」

それもないと切り捨てる。
もしそうなら、直接研究所の職員が訪ねてくるはずである。

「差出人……というかこれ切手すらついてないわよ?誰が持ってきたのか寮監から聞いた?」

「いえ、伺っておりませんわ。……少し気が利きませんでしたね、すみません」

差出人の名前や切手が貼っていない事を全く気に留めなかったのが風紀委員として、なんだか恥ずかしく、萎れる。

「いやいやそんな落ち込まないでよ、別にあんたがわるいわけじゃないんだし……届けてくれてありがと、黒子」

「お、お姉様……」

その後行きすぎたスキンシップに軽くお仕置きをすると、御坂は封筒を開けた。

そして愕然とする。

「ウソでしょ……コイツなんで……?」

クローン。虐殺。そして最近知り合った真っ白な青年、一方通行の名前。

そこには信じられない、とても認められてはいけないような実験の内容と、自身のクローンの写真が載せてあった。
73 :区切る場所間違えた短くなっちった ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:11:15.27 ID:/QGrE+6vo
お仕置きから復活した白井は何やら様子のおかしい御坂に気づき、声をかけた。

「あの……?お姉さま?」

「……なんでも……ないわ」

明らかに嘘だ。
顔は青ざめてるのに目は怒りに満ちている。
非常に奇妙な顔をしている。

「ごめん、黒子少し出かけてくる。
あ、ちゃんと寮監に許可とって来るから大丈夫よ……少し学校も休むかもしれないけど心配しないで、私は必ずここに、パートナーがいるこの部屋に帰って来るから」

学校を休むというセリフに心配で泣きそうになった黒子に笑顔で大丈夫という御坂の目は熱く燃えていた。
74 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 06:13:25.09 ID:/QGrE+6vo
~~~

「すみません、少しいいですか?」

「……なんだ?」

数分後、早速御坂は寮監室へ《報告》にきていた。

「えっと、しばらく外泊と学校も欠席します……あ、理由は言えません」

「……訳も言わずそんな事が許されると思っているのか?」

「……勘違いしないでください、私は許可を貰いに来たんじゃありません。ただ、報告に来ただけなんです」

ピリッとした空気を纏う。

「ほう……いい度胸だな」

「お願いします、止めないでください」

寮監は御坂の雰囲気にただならぬものを感じ、戸惑うた。

「……反省文200枚、プール掃除、寮の玄関・食堂・倉庫の清掃。帰ってきたら一人で全部やれ」

まさか、寮監がこのようなめちゃくちゃな事を許してくれるとは思っていなかったので、御坂は驚き目を瞬かせる。

「あ、ありがとうございます」

―― よかった。寮監に能力使うような事態にならなくて。

そういい、少量の着替えの入ったバッグを担ぎ寮を出ようと歩き出す。

「御坂……必ず帰って来いよ」

「……えぇ、必ず、仕事がたんまりありますから」

振り返らず、御坂は言った。

御坂美琴の闘いがはじまる。
 
 
77 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 23:22:29.38 ID:/QGrE+6vo
~~~

「なぁー、うまくいくと思うか?」

「あー、どォだろうなーまぁ、なンとかなんじゃね?」

二人はマッサージチェアに身体をほぐされながら、緊張感なく作戦の心配をしている。

「あんた達少しは若者らしくしなさいよ」

二人の横では芳川がスポーツドリンクを飲みながら足つぼマッサージを受けている。

昼に常盤台の寮に届け物をしたあと、一方通行行きつけのイタリアンレストランの個室で妹達も連れ食事をした。
その後三人は車で学園都市内をふらふらと回り、最終的に発達した地下都市、第二十二学区の銭湯に来ていた。

ミサカ達は未だ作戦の準備に奮闘中だ。
すべて終わったら存分に贅沢させてやろうと垣根は考えていた。

「風呂とか久しぶりにはいったわァーベクトル操作で汚れなんかほほいのほいだからなァ」

「いつも完全無菌なのか、お前。というか便利だなベクトル操作」

「あー、気持ち、一日能力使わないの意識して過ごすとマッサージ気持ちいいなー。そういや垣根はどうやって能力名決めたんだ?」
78 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 23:24:18.88 ID:/QGrE+6vo
「貧弱だなぁ、一日っていっても昼食ってから今までの三時間程度だろ?……研究員が勝手に決めただけだよ。……お前は?」

聞くべきではないかな?とも思ったが変に遠慮のもおかしな話だと考え、良しとする。

「ン、あー俺から振っといて悪りィが……言わなきゃダメか?」

「まぁ、言いたくないなら別にいいけどさ、名前捨てたのはなんでなんだ?」

芳川は必死に平静を保っていた。
再会してから一番聞きたかったが、聞けなかったことを垣根が話題にだしたからだ。

なぜ聞けなかったのか。
それは、自分が言ったら、責めている様に受け取ってしまうのではないかという心配からだ。

今の芳川は、自分だけは二人の事をわかってあげなくてはいけない。
時間はかかっても理解し、受け止めてあげなければならない。という過保護な親のような心境である。

「……その辺の話はまた今度話すわ、今日はしんみりしたくねェ」

「……りょーかい、でも別に無理に話さなくてもいいぜ?お前が*****だろうが一方通行だろうがお前はお前だしな、なぁ?芳川」

「へっ?えぇ、うん、そうね」

急に話を振られ、慌てて返事をする。

何気なく二人のほうに顔を向けると、垣根が「大丈夫さ」というように、ウィンクして見せた。

―― 垣根は気配り屋ね……。
私が聞こうにも聞けない事を代わりに聞いてくれたのね……まったく……本当に優しい子ね。

芳川は静かに微笑む。
79 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 23:27:11.47 ID:/QGrE+6vo
~~~

マッサージにも飽き、三人は第七学区へ戻ってきていた。
そろそろ妹達を呼び戻し晩ご飯でも、と三人が考えていると、激しい電撃の槍が一方通行を襲った。

「見つけたわよ、学園都市第一位・一方通行ぁあああ!」

「あれ?作戦狂ったんじゃね?」

小さく呟くのは垣根。
そして、学園都市のトップ2は思考をフル回転させる。
ここから新しいシナリオを作れ。と。

「心当たりはあるわね?……垣根さんも関わってるの?」

一方通行を睨みつけていた目は隣に立つ垣根に向けられる。

「もし、関係者なら……アンタ達を―― 殺してでも止めて見せる」

御坂美琴の言う「殺す」はくだらないスキルアウトが威嚇や脅しのために使う「殺す」と同じものではない。

その言葉には、人を殺すという外道畜生な行為への嫌悪感、またその罪を背負う覚悟ができていた。

それを見て、二人は間違いに気づく。

――腐ってもこいつもレベル5、汚ねェ実験を見てねェ訳がねェ。

――こいつ本当にすごい強いやつなんだな。

御坂美琴は精神力だけならば、二人をすでに凌駕していた。
80 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/01(木) 23:29:57.83 ID:/QGrE+6vo
「……ハァ、めんどくせェ。俺とお前が本気で戦ったら128手でお前は死ぬって結果が出てンだけどよォ?それでもやるか?」

一方通行の中で、新しいシナリオが完成したようだ。
垣根はこれに話を合わせればいい。

「今、一瞬退いたな?それがお前の覚悟の強度だ。そンなチャチな覚悟で俺様に歯向かうんじゃねェよ」

精神力が強かろうが、あくまでまだ子供。
死を目前に考えるとやはり、ビビってしまう。
そして、どう見ても一方通行は悪役であった。
わかりやすすぎるほどの、事情を知らぬ者が見たら劇の練習でもしているかのような、完璧に作り上げられた悪党。

だが、災厄の中心にいる当人相手ならむしろこれくらいがちょうどいい。

「あァ、垣根くンとそこの女は無関係だからよォ……やンなら俺だけを狙えよォ?まァ垣根がお前如きに負けるとは思えねェけどなァ……アハッハハギャハハハハハッ!」

――なるほど、俺は何も知らないただの友達って事でいいのか。だったら……。

「オイオイ、こんな街中で電撃ぶっ放すほど御坂美琴ちゃんってのは常識知らずなのか?何日か前に初めて会ったはずのお前らに俺の知らないとこで何があったか知らねぇが今日は引いてくんねぇか?一方通行もそれでいいだろ?」

何も知らないのならばとりあえず場を収めようとするのが無難だ。
と考え、両者を宥める。

「……何も、何も知らないくせに……こっちはこっちは……妹の命がかかってんのよ」

それだけで人を殺せそうな目つきで垣根と一方通行を睨みつける。

「くそっ……」

あの一方通行と対等に渡りあっていた垣根も一方通行側にいることは御坂の思考を冷静にさせるのには丁度良かった。

御坂は捨て台詞と共に三人の前を去った。
81 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2011/12/01(木) 23:31:25.28 ID:/QGrE+6vo
~~~

――勝ち目のない戦いをふっかけるのは勇気ではなく無謀。

――逃げるのは恥じゃない。

――本当に恥ずかしいことは退くべき時に退けず無駄死にする事だッ!

――人の命を奪って得られる強さなんて私の正義に反する。

――やってやるわよ。

――会ったことがなくたって、産まれ方が普通と違ったって……私のDNAから産まれ、同じ血をその体に流すのならば、それは私の妹だッ!
 
 
88 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 01:39:09.03 ID:yiEeaZqso
~~~

「すみません、お姉さまとは結局接触はできませんでした。とミサカは頭を下げます」

御坂美琴が去ったあと、芳川運転の車で妹達を拾うと、五人は垣根帝督の家に来た。

台所で芳川と料理を覚えたいらしいミサカ00001号が晩御飯を作っている。

残りの三人は報告と、今後の身の振りをどうするかを、小さなガラステーブルを囲みながら会議中だ。
それぞれの前にはブラックコーヒー、カフェオレ、コーヒー牛乳がおかれている。

「ですが、謎の力を持っているという上条当麻とは接触に成功しましたとミサカは無い胸を張ります」

「お前のお姉さまとは俺らが遭遇したよ、なんというかいい奴だよな。会った事もねぇお前達をあいつはちゃんとに『妹』って呼んだぞ……まぁ、少しばかり考え無しで暴力的な所があるけどな」

「違いねェな……」

笑いながら一方通行も同意する。
その笑いには馬鹿にしたような要素は一切なく、むしろ喜んでいるように見えた。
89 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 01:40:57.93 ID:yiEeaZqso
同じレベル5として、御坂美琴の行動は素直に尊敬できるものであった。
能力を磨き上げ、230万人の頂点に立つ者からこそはっきりと実感できる実力差。

御坂はそれを恐れずに立ち向かってきた。
そして、無謀だと思ったらプライドも何もかも捨て、みっともなく勝つ可能性を模索するために逃げた。

御坂美琴という女の子は若干十三歳にして、それ程までに人の命というものの重さを理解している子だった。

「それは……嬉しいですね、素直に。とミサカはまだ見ぬお姉さまを尊敬します」

ミサカは小さく笑う。
それを見て二人も自然と微笑む。

「さて、ほんわかしたところで話を戻そう。上条当麻はなんなんだ?」

「はい、上条当麻は無能力者です。とミサカは驚きの真実を発表します」

コーヒーを飲む一方通行の手がとまる。

「はァ?ンなわけあるか、あいつは右手一本で俺と垣根の喧嘩を怪我一つせずに止めたんだぞ?」

「一方通行に同意だ。無能力者をバカにするつもりはねぇが、あれが無能力者だなんてことは信じられねぇ」

「そうですね、ミサカも同意です。彼の右手には『異能の力ならばなんでも消せる』という特殊能力が備わっているのですから、とミサカはそれが便利なのか不便なのかよくわからないなと感想をこぼします」
90 :訂正 ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/02(金) 01:42:58.94 ID:yiEeaZqso
同じレベル5として、御坂美琴の行動は素直に尊敬できるものであった。
能力を磨き上げ、230万人の頂点に立つ者からこそはっきりと実感できる実力差。

御坂はそれを恐れずに立ち向かってきた。
そして、無謀だと思ったらプライドも何もかも捨て、みっともなく勝つ可能性を模索するために逃げた。

御坂美琴という女の子は若干十三歳にして、それ程までに人の命というものの重さを理解している子だった。

「それは……嬉しいですね、素直に。とミサカはまだ見ぬお姉さまを尊敬します」

ミサカは小さく笑う。
それを見て二人も自然と微笑む。

「さて、ほんわかしたところで話を戻そう。上条当麻はなんなんだ?」

「はい、上条当麻は無能力者です。とミサカは驚きの真実を発表します」

コーヒーを飲む一方通行の手がとまる。

「はァ?ンなわけあるか、あいつは右手一本で俺と垣根の喧嘩を怪我一つせずに止めたンだぞ?」

「一方通行に同意だ。無能力者をバカにするつもりはねぇが、あれが無能力者だなんてことは信じられねぇ」

「そうですね、ミサカも同意です。彼の右手には『異能の力ならばなんでも消せる』という特殊能力が備わっているのですから、とミサカはそれが便利なのか不便なのかよくわからないなと感想をこぼします」
91 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/02(金) 01:44:04.55 ID:yiEeaZqso
だが、超能力者二人は未だ納得がいかないらしい。

「いや、でもそれ第七位みたいなよくわからン原石って事だろ?しかも十分レベル5並の力持ってる。それが無能力者扱いってのはどうなンだ?ありえるのか?」

「それが、よくわかりませんが身体検査でも感知されないらしいんですよ、とミサカは補足説明をします」

「でも、まぁ……一度体験しちゃってるからなぁ」

垣根は首をかしげながらそう言う。

「んんんー、よし!その能力、信じよう!」

胡座をかいた体勢から床に頭がつきそうなくらいかしげた首をまっすぐに戻しながら垣根は判断する。

「まァ、その方が都合いいしなァ……」

一方通行もそういうものなのだと理解することにしたらしい。

「というか、私のない胸という渾身のボケはスルーなんですね、とミサカは悲しみに打ちひしがれます」

大げさに膝と両手を床につけ、落ち込む。
哀れになったのか、垣根が肩をポンと叩きながら言う。

「……次はちゃんとツッコミ役やるからさ」

いいながらカフェオレを口に含んだ。
92 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/02(金) 01:44:52.49 ID:yiEeaZqso
「つ、突っ込むだなんて……とミサカは垣根帝督の下ネタに頬を赤く染めます」

「っぶは……お前一回シメテいい?」

ミサカの下品すぎるジョークに口に含んだ液体を吹き出してしまった。

垣根とミサカがはしゃぐ様子を、一方通行は呆れつつも笑いながら眺めていた。

「ったく、オラ明日から作戦立てっぞ」

手に負えないと言った様子で、垣根は無理矢理話を正常な方向へ持ってきた。

「……まァそンなの話し合う必要もねェだろ?俺は御坂美琴とばったりエンカウントしねェようにお前らの準備が整うまで引きこもっとく」

それだけ言うと、コーヒーに手を付けた。

「んー、まぁお前はそれでいいな。問題はお前らなんだよなぁ……」

頭をぽりぽり掻きながら眉をしかめる。
93 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 01:48:34.25 ID:yiEeaZqso
「なにか今日の私達に問題がありましたか?とミサカは恐る恐る尋ねます」

「んー、余りにも今日のキャラを崩すと不審に思われ……あ、そうだ」

垣根はミサカが上条とは笑顔を交えつつ、会話したと聞き困っていたが、何かを思いついたようだ。

「よし、お前明日から二人の前では『私は殺されるために生まれてきたのですから』ってな感じの無表情なキャラになれ!」

「それの意味は?とミサカは再度尋ねます」

ニヤリと、笑うと垣根は自信満々にその意味を説明しはじめた。

「お前でも料理中のほうのミサカちゃんでもいいけど、次に上条に会ったら『実験をよりスムーズに行う為に一切の感情を消去されました』的なことを言え」

ふむふむ、とミサカは頷く。

「そんで、上条の事だ、いやあいつの事よく知らんけどね?すごくお人好しそうなやつだったから多分それを見たら美琴ちゃんに連絡いれると思う。出来れば美琴ちゃんと上条と二人が一緒にいる時を狙って遭遇できたら一発で済んで楽なんだけねぇ」

「何故ですか?」

「そんなミサカちゃんをみたら美琴ちゃんはブチ切れると思うし、そんな美琴ちゃんをみたら上条もブチ切れる100%本気で俺らに……ってか一方通行にかかってくるだろ?」

「ほうほう!なるほど!とミサカは感心します」
94 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 01:51:06.49 ID:yiEeaZqso
「あと、御坂美琴が巻き込みやすいように上条に会ったら実験の事洗いざらい話しちまえ」

黙ってコーヒーをのんでいた一方通行からも、提案がはいる。

「わかりました。今日はほのめかす程度でしたからね」

ミサカは上条に自身は美琴の妹の様なもの、実験の為にここにいる。
程度の事しか情報を与えてはいない。
これがクローンでその実験が死ぬ為のものとわかったら、あの人の良さそうな上条はとてつもなく怒るだろう。

三人は顔を見合わせ怪しく笑う。

「あ、一方通行は上手な殴られ方の練習しとけよ」

垣根が気づいたように言った。

「は?なンで?」

「上条は右手で触れた異能を無効化してんだから、当然とどめはグーパンだろ?」

「……あ」

「何はともあれこれでミサカちゃん達の命は救われたようなものだ!」

「はい!とミサカは二人と芳川博士に感謝してもしきれません」

心から笑う二人に対して一方通行は一抹、二抹、三抹の不安が残り、その笑顔はひどく引きつったものとなった。
95 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 01:52:13.84 ID:yiEeaZqso
~~~

芳川とミサカ00001号からお呼びがかかり、一同は一番大きな部屋へ集まった。

普段使われる事のない大きなテーブルがまだ温かなままの料理で埋め尽くされていた。

「そんなに手の混んだものはできなかったけれど……多分美味しいと思うわ」

芳川は謙遜の割には顔は自信で満ち溢れていた。
対する00001号は本格的に料理をしたのは初めてで、しかもそれを人に振舞う事に不安を感じているのかおどおどしている。

「おー、うまそうだな!あ、肉じゃがあるじゃん!俺これ大好きなんだよなぁ」

垣根は久しぶりの手料理に感激していた。

「こちらの野菜炒めは00001号が作ったものですね?とミサカは推測します」

普段から―― といってもたった二日間だが―― 芳川の手料理を食べているミサカ00002はそこまで感激もしていなかったが、作ってくれた芳川に対する感謝の気持ちと双子の姉である00001号の頑張りを嬉しく思う気持ちは感じられた。

「…………」

一方通行は大好きな人―― 本人は気づいておらぬが―― の手料理に言葉を失うほど感激していた。
96 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:53:24.06 ID:yiEeaZqso
「ほらほら、三人とも冷めないうちに食べちゃって!」

芳川が本当のお姉さんの様に声をかけると三人は一斉に席につき、大きな声で元気良くいただきますをいった。

「お、野菜炒め美味しいじゃないですか、とミサカは00001号を褒め称えます」

まず最初にミサカ00002号は00001号の作った野菜炒めを口にした。

「ほ、本当ですか?とミサカはホッと胸を撫で下ろします……ささ、一方通行も垣根帝督も食べてみてください!」

双子の妹の美味しいという台詞に安心したのか二人にも勧める。

「おう、もちろん頂くぜ!……ミサカちゃん二人にいえるけどさ、その垣根帝督って呼び方はどうにかならんか?」

「じゃ、じゃあ……垣根さん?」

ミサカ達は顔を見合わせながら、同時に言う。

「んー、まぁそのほうがましだな!」

垣根はずいぶんと簡単に心を打ち解ける術を一方通行との再会から身につけていた。
もともとの人懐こい性格もあるだろうが、一方通行が自分と同じ気持ちだったこと、認めてくれた事が垣根を半分だけでも開放させたのかもしれない。

一方通行が人を愛する事を渇望したのならば、垣根帝督は人から愛される事を渇望していた。
97 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:54:27.80 ID:yiEeaZqso
「うめェ……」

垣根と妹達がやいやいやっている間に一方通行は野菜炒めを一口、口に運んだ。
そして、まっすぐ00001号のほうを向き言う。

「すンげェうめェよ。本当に初めてか?」

「は、あの……はい!芳川博士と博士の研究所へ逃げ込んでからの一昨日と昨日は芳川博士のお手伝いはしましたが、自分で作るのは初めてでしゅ、とミサカは噛んだ事をごまかし……ます」

ミサカは顔を真っ赤にし、手をパタパタ振りながら答えた。

「ちょっとちょっと、私の料理も食べなさいよ」

拗ねたように笑いながら芳川が言う。

「勿論だ」

言いながら肉じゃがに箸をのばし、そのまま口へ運ぶ。

「ン、うめェ……最ッ高に美味いぜ、芳川」

目をキラキラさせながら、嘘偽りない感想を述べた。
98 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:55:16.40 ID:yiEeaZqso
「ふふ、ありがとう。帝督も、たくさん食べなさいよ」

食ってまーす。という垣根の返事に笑顔をこぼし、そういえば一方通行は十年前はこんな顔をしていたな。と記憶が呼び起こされる。

夕飯は完食され、洗い物は垣根・一方通行・ミサカ00002号が引き受けた。

「いやぁ、まじで美味かったな!俺こんなに美味い晩飯とか十年ぶりだ!」

意外にも手際良く皿を洗いながら垣根はウキウキと話す。

「全くだな、俺も十年ぶりだ」

垣根が洗った皿を受け取ると、皿に残った水滴をベクトル操作で弾き飛ばす。

その皿を受け取り、食器棚に収納しながらミサカも同意する。

「私達は生まれてまだ一ヶ月という所ですけれど、一昨日、昨日、そして今日食べたご飯が一番美味しかったです、とミサカは幸せいっぱいだとアピールします」

「そォか……幸せか、なら良かった」

「だな」

三人は顔を見合わせ笑った。

そんな三人の様子を00001号は自分も混ざりたいといった視線で見つめ、芳川は微笑ましく見守るように見つめた。
99 :LDKが全部一個になってる間取りの部屋もあるよね? ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:56:45.44 ID:yiEeaZqso
~~~

「あー、食ったあと皿洗いして少し間をあけたからちょうどいい感じだ、風呂は入ってきたし寝るだけだぁ……」

ソファにだらしなく脱力する。

垣根の部屋は一人暮らしには大きすぎる4LDKである。
リビング兼ダイニング兼キッチンの一番大きな部屋。
それの他に玄関を入ってすぐ右手に和室が一つ。
その隣にはフローリングの部屋が一つある。
それらの向かいには二つ扉があり、一つはトイレ、一つは洗面所・風呂へとつながっている。

玄関からLDKを正面に抜けると、二番目に広いフローリングの部屋。
ここは客間として使っていた。
訪れる客は大抵が協力要請にやってくる研究員だ。
先ほど三人で話していたのもここである。

そしてLDKの右手には垣根の寝室がある。

今垣根は先ほど三人でいた客室に一方通行と二人でだらだらとしている。

「あいつらはなにやってンだ」

「あー、なんか風呂とかその他の部屋とか覗いてるみたい」
100 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 01:59:18.85 ID:yiEeaZqso
「そォか……あー、本当にいい気分だな、今日泊めてくれよォ」

垣根の隣で同じ姿勢でだらける一方通行。

「あー?元々そのつもりっつーかテレビとかソファとか一番でけぇ部屋に移せば俺の寝室、和室、洋室二個になるしみんなでここに住まね?家賃俺払いでいいし」

「あー、いいかもなァそれ毎日美味いもン食えるしなァ。そうなったら半分は払う」

「じゃあ、あいつら来たら提案してみっかー」

「あァ」

子供のような顔をしながら二人はそんな夢の様な暮らしを話、そのうちウトウトとしはじめた。 
 
 
108 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:47:18.40 ID:ffsGP3FIO

~~~

「寝てると可愛いですね。とミサカは二人に同意を求めます」

「そうね、寝てる時はちゃんとに子供してるわ」

「しかし、ここが新しい家ですか……ミサカは和室が気に入りました。と畳の良さを知った事に感激します」

三人はあらかた部屋の物色を終え、二人がいる部屋に戻ってきていた。

「んー、私はそろそろ帰るけどあなた達二人で大丈夫よね?なにかあったらそこで寝てるの叩き起こしなさい」

車のキーをくるくる回しながら、芳川は帰り仕度をはじめた。

「あ、あの、芳川博士。とミサカは呼び止めます」

「ん?なーに?」

「あ、あのお二人を起こして……別れの挨拶した方が喜ぶと……思います!とミサカは自信はありませんけど……提案……します」

芳川は少し驚き、考えてからそれもそうだな、と思い直し二人を優しく揺り起こす。

「帝督、一方通行。私もう帰るから二人をよろしくね」

「ン……ン、よしかわァ……?かえっちまうのー?……とまってけよー」

「あー、そうだそうしろよー……べつに……あしたがっこう……やすみ……だろー?」
109 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:50:03.01 ID:ffsGP3FIO
「……学校っていつの話よ……懐かしいわね、そういえば十年前はよく三人で寝たかしらね……」

二人の頭を撫でながら微笑む。
二人に触れると、十年の月日はより克明に実感として伝わってくる。

――あんなに小さくて、可愛いかった子達がこんなにかっこよくなっちゃって……。

「二人とも、赤ちゃんみたいですね。とミサカは微笑ましく思います」

00001号はニマニマしながら二人と、その二人を見つめる一人の女性を見つめる。

「というか、芳川博士、三人で寝たってかなりきわどい発言だよね。とミサカはのほほんとした雰囲気をぶち壊します」

「貴女達がちゃんとに実験を嫌がってくれるように本来なら消される感情を消さないようにと努力した結果がこれか……あんた強い子に育つわよ」

そう、本来ならば妹達はこの二人の様に感情豊かなものではない。
学習装置により、完全に脳構造を整頓し、全くの同じ個体になるはずであった。

芳川は最初失敗に失敗を続け、それで実験自体を中止させようとしていた。
だが同僚のある男が、芳川の失敗は故意によるものと判断し、本来のクローン生成は全て芳川に任せるという規約を反故。
芳川には秘密で勝手に二体生成した。

生まれたクローンが実験を拒否しない様、学習装置では感情消去プラグラムというものがまずクローンにインストールされる。

そうなってしまったら、妹達個々に感情を芽生えさせるのは至難の技だ。

だから、芳川は感情消去などいつでもできるのだからまずは調整をしつつ、自然体でのクローンを観察するべきだと申し出た。

そして研究所の職員を何人かに金を渡し、その申し出を無理矢理通す。

そのまま約一ヶ月粘り、そして、二人を連れて逃げ出した。
110 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:51:45.29 ID:ffsGP3FIO
~~~

「ン、あー……寝ちまってたか?……オイ、垣根起きろ」

時間はまだ午後十時をまわったばかり。
芳川はすでに帰宅した。

「んあ?……あー、寝てたか……なんか懐かしい夢見た気がする」

目をこすりながら垣根はボソボソと話す。

「あー、俺もなンか夢見た」

あくびをしながら、一方通行は便所ォと言い残し部屋を出た。

LDKを抜け、廊下に出る。
そして、二つの扉の前に立った。

「あれ?右が風呂で左がトイレだっけ?」

よく聞いていなかったのか、迷う。

--まァ、左で合ってるだろ。

根拠のない自信でその扉を開くとそこには生まれたままの姿の妹達がいた。
片方は顔を真っ赤にし、驚きで声がでないのか口をパクパクさせている。
もう片方は全く気にせず口を開く。

「一方通行、トイレなら隣ですよ。とミサカは優しく教えてあげます」

「あァ間違えた、悪りィ悪りィ」

一方通行も全く気にせず、扉を閉め隣の扉へと手を伸ばす。

用を足し客間に戻ろうとすると、突然風呂場から悲鳴が聞こえた。
どうやら、数分固まっていたままだったようだ。
111 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:53:12.73 ID:ffsGP3FIO
「ァア?……おーいどォした?ゴキブリでも出たか?」

一方通行は、まさか原因が自分にあるとも知らずに声をかける。

悲鳴を聞きつけた垣根も大慌てで飛んで来た。

「なんだ、おい、何が起きた?」

首を傾げながら、しらね、と短くこたえる。

中からの話し声がやむと扉が勢いよく開き、可愛らしいピンク色のパジャマに身を包んだミサカ00001号が飛び出して来た。

「あ、一方通行……」

扉の前にいる一方通行をみると顔を真っ赤にし、そのまま逃げる様に向かいの和室へと駆け込んだ。

「まったく、そこまで気にする事ですかね?とミサカは疑問に思います」

やれやれ、と出て来たのはブルーの00001号とは色違いのパジャマに身を包んだ00002号だ。
112 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:54:12.58 ID:ffsGP3FIO
「え?何が起きたの?」

「あ?何も起きてねェよ、俺が風呂とトイレ間違えて扉開けたらちょうど風呂から出たこいつらがいただけだァ」

何か問題があるか?と偉そうにしている。

「おっま、問題しかねぇだろ!とりあえず謝って……いや、もうこの事には触れるな、いいな?」

少し怒気を含んだ声色で垣根が叱る。

「そんな怒る事ですか?とミサカは再度疑問に思います」

「お前も、少しは恥じらいというものを持て!」

「お前だって芳川の研究所で裸同然のこいつら見たじゃねェかよ」

「ありゃ大事な所は隠れてただろうが、それに医療行為の一環だ。それと覗きまがいを一緒にするなバカ」

軽く一方通行の頭を殴る。
垣根の中にははっきりとした線引きがある様だ。

「とりあえず、ミサカちゃんは髪ちゃんと乾かしてこい。夏とはいえ風邪ひくぞ……一方通行は……まぁ勝手にしてろ」

そう言い残すと、和室の扉をあけ、中に入っていった。
113 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:55:17.58 ID:ffsGP3FIO
~~~

「おう、あんま気にすんな。一方通行はお子様だし、別に下心があったわけでもねぇし許してやってくれよ」

ミサカは顔を真っ赤にし、いつのまにか敷いた布団の上で丸くなっていた。

「ううう……別に怒ってるわけではなくて、みられた事がその、恥ずかしくって……とミサカは足をバタバタさせます」

下品なネタを恥ずかし気もなく言う00002号とは正反対で、00001号はとても恥ずかしがり屋のようである。

思い返せば、昼ごはんを食べている時も、夜ご飯を食べている時も自分と一方通行が話しかけるとそわそわと落ち着かない様子であったと垣根は思い出す。

「あー、そりゃまぁそうか。でもミサカちゃんがなんかミスって恥かいた訳じゃねぇし、悪気はないとはいえ、悪いのはあいつだしミサカちゃんがそんな真っ赤 になる必要はねぇんじゃね?むしろもっと怒っていいんじゃないか?そんで、もしあれなら一方通行に一発ビンタでもしてやれ、そんで忘れちまおうぜ」

「……わかりました。とミサカは垣根さんの提案を採用します、でもビンタはいいですもうすぐ忘れたい……」
114 :また区切るところ間違えちまったよ ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 20:55:55.28 ID:ffsGP3FIO
「おう、そうしろ!ミサカちゃんも髪の毛しっかり乾かしておいで」

「はい、ありがとうございます。とミサカはお礼を述べます」
115 :また区切るところ間違えちまったよ ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 20:56:41.96 ID:ffsGP3FIO
~~~

ミサカが出てった部屋で、崩れた布団を軽く直し、窓を開け扇風機を押入れから取り出し電源をつないだ。

「垣根くーン」

和室を出ると、一方通行が呼んでいるのが聞こえる。

「あー?どうした?なんでも適当にやってくれて構わんぞ」

「とりあえず湯を沸かしてコーヒー飲もうとしてンだけどこの家コーヒーねェのか?」

一方通行はマグカップを手にしながら、うろうろとキッチンを歩き回っている。

「いや、確かドリップ式のが……」

食器棚のしたの扉をあけごそごそと、探る。
116 :また区切るところ間違えちまったよ ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/02(金) 20:57:57.54 ID:ffsGP3FIO
「ほれ、あった!」

「おォ、サンキュー」

小さい缶に十袋ほど、入ってるものをみつけ、一袋一方通行に手渡す。

「とりあえず明日から俺は引きこもるからよォ、買い物行ったら缶コーヒー買い占めて来てくンねェか?」

「……はいよ」

そんな会話をしていると、丁度湯が沸き、ヤカンがピーピー音を立てた。

「お、一方通行は徹夜で何か作業でもあるんですか?」

髪を乾かし終えたミサカがこんな時間にコーヒーを飲もうとしてる一方通行に問いかける。

「いやァ……飲ンだら寝るぜェ?」

「コ、コーヒーとは覚醒作用があるから……夜飲むのは控えた方がいいんじゃ……ない……ですか?」

途切れ途切れ、もう一人のミサカが言う。
顔が赤いのはまだ恥ずかしいからだろうか。
117 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/02(金) 20:59:26.37 ID:ffsGP3FIO
――いや、このミサカは何も起きてなくとも顔を赤らめそうだな……。

垣根の目には、一生懸命『なかった事にしよう』としているミサカ00001号がとても愛らしくうつった。

「ミサカちゃん達はなんか飲みたいものあるか?牛乳と水しかないからなんか飲みたきゃ適当に買いに行ってくるけど」

苦笑を漏らしつつ、尋ねる。

「じゃあミサカは炭酸飲料が飲みたーい!」

00002号が手を上げながら言う。

「み、ミサカは……」

遠慮しているのか、もじもじとしながら00001号は俯いてしまう。

――なんか、マジ可愛いな。

「……遠慮なんかしなくていいぜ?」

頭に横切った感情を振り払う。

――俺に……そんな資格はねぇだろうが。

垣根は無理矢理笑う。

「じゃ、じゃあ……フルーツ牛乳が飲んでみたいです。とミサカは希望を述べます」

ちろちろとこちらを伺う、ミサカ00001号はまるで子犬のようだった。

「オッケ、んじゃいってくるわ」

「はい、ありがとうございます!お気をつけて」

00001号は頬をピンク色に染め、微笑みながら垣根を見送った。
118 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 21:01:08.43 ID:ffsGP3FIO
~~~

上条当麻は考えていた。

「……やっぱ御坂に聞いてみようかな」

ベッドに腰掛け一人つぶやく。

上条が何を思い悩んでいるのかといえば、昼間であった御坂の妹を名乗る人物の事である。

――もしや、貴方が上条当麻ですか?とミサカは自動販売機にうなだれよりかかる青年に声をかけます。

自らを『御坂』と呼称し、顔は御坂美琴そっくり。

――お金を飲まれたのですか?そうですか、二千円も……なら……。

姉の御坂美琴と同じ様に自動販売機に能力を使い、ジュースを吐き出させた。

――これで二千円分はあるでしょう、とミサカは十六本の様々なジュースを手渡します。

百二十円の缶ジュースが十本。
百五十円のペットボトルが四本。
百円の水が二本。

手渡されたジュースはピッタリ二千円分であった。

しかし、外部刺激を受けた自動販売機が警報を鳴らし、たまたま近くにいた警備員が駆けつけて来た。

その時すでに御坂妹の姿はなく、上条は一生懸命身の潔白を証明した。

自動販売機の中身を開け、上条のいう事が正しいとわかると、警備員は次からは飲まれたらすぐ管理者に連絡する事、と厳しくいいつけ上条は開放された。
119 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/02(金) 21:04:36.70 ID:ffsGP3FIO
上条はただ平謝りをし続け、警備員が去ると、突然己の不幸さが嫌になり無力感にさいなまされベンチに腰を落とす。
ぼんやり公園を行き交う人々を眺めているといつの間にか御坂妹が隣に座っていた。

機密レベルの高い実験に内密に参加している為警備員に捕まるとお姉さまに迷惑がかかる、と言い上条を置いて逃げた事を謝った。

御坂妹は表情がコロコロ変わるやつで話していて飽きなかった。

妹の携帯電話がなるまで他愛ないお喋りを続けた。
別れ際にまたな、と声をかけると御坂妹はさようなら、とだけ言って去って行った。

その姿にひどく違和感を覚え、奇妙さを感じた。

そして一人一つずつ開けたジュースを除いた十四本のジュースを抱え寮に帰ってくると、今まで上条は携帯電話とずっとにらめっこを続けていた。

「なんだよ、出ねぇじゃん」

心を決め、にらめっこを終わらせ、御坂美琴の電話番号にカーソルを合わせた。
発信ボタンをプッシュしたが御坂が電話に出ることはなかった。

携帯電話を枕元に放り、自身もそのまま横になる。
120 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/02(金) 21:05:33.76 ID:ffsGP3FIO
首を横に向け、目に入った時計の針はすでに午後九時半を差している。

「あ、風呂と飯まだだ……課題もだ……ふ、不こ……いやこれはただの不注意か……」

ため息を吐きつつ起き上がると浴室に向かう。
浴槽の栓を抜き、水が抜ける様をぼんやり眺めながら今日はシャワーでいいやと思い直し、晩御飯を作るため浴室を後にした。

――御坂妹、また……会えるよな?

上条の夜は更けていく。


128 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 00:05:37.60 ID:mAbJ85Uao
~~~

人通りが全くない街中を垣根は一人歩いていた。

両手には大量の缶コーヒーとドクターペッパー、ルートビア、コーラ、サイダーといった様々な炭酸飲料と目に付くままカゴに放り込んだこれまた大量のフルーツ系の飲み物が入った袋を吊るしている。

――とりあえず、ミサカちゃんにはまずドクターペッパー飲まそう、そしてその後ルートビア飲まそう。

涙目でまずいですと言うであろうミサカの顔を想像し、一人笑う。

――ミサカちゃんはご所望のフルーツ牛乳のほかに色んなフルーツジュース買ったけど喜んでくれっかなぁ……。

今度は顔を赤らめ大げさに喜び、こんなにいいんでしょうか?と慌てるミサカの顔を思い浮かべ微笑む。
129 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/03(土) 00:08:02.06 ID:mAbJ85Uao
垣根は妹達を00001号、00002号と呼ぶのにかなりの抵抗があった。
それは同じものを表面上分けるだけの呼び名に聞こえたからだ。

名前を捨てた一方通行、名前が初めから無い妹達。

ただのガキと女の子をそんな状況にぶち込む学園都市が許せない。
名前とは本来、生まれて一番最初にもらうプレゼントだ。
それを捨てざるを得ない、貰えない。
これはどれほど悲しい事なのだろうか垣根には想像もできなかった。

出来る事なら統括理事長アレイスター・クロウリーをぶち殺したいと願う。

どんな悪人でも人は人。
殺したら自分は人以下の“物”になる。
自分の正義は憎しみや怒りによって人を[ピーーー]事を場合によっては良しとする様な薄いものではない。

垣根は内に矛盾した願望――人を殺したいという願望と、人以下の物に成り下がりたくはないという願望――をもつ自分はとてつもなく醜く、汚いものだと結論づけた。
130 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 00:09:19.70 ID:mAbJ85Uao
――こんな汚い人間が綺麗な女の子に愛される訳がないし、そんな資格もない。

街の何処かで誰かの声にならない悲鳴が泣くように鳴り響く。
その泣き声は現実が理想という名の壁に反射され、心に突き刺さってくるようだ。

垣根は一人静寂と黒が支配した街中を歩く。

その背中に背負う感情を何処にぶつけていいのかわからぬまま……。
131 :またsaga忘れた脳内補完よろしくおねがいします ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:11:40.70 ID:mAbJ85Uao
~~~

第七学区に宿泊施設はそんなに多くはない。
そのうちの一つのスイートルームで御坂美琴はベッドに仰向けになりながら、天井を睨みつける。
その目は悲しみと、後悔に染まっている。
だがそこに絶望は見て取れない。

――大丈夫、アンタ達だけがあの世に送られるなんて事は絶対に阻止するから。

目は輝きを失ってはいない。

御坂は静かに目を閉じた。

精神を集中するかの様に、心を落ち着けるかの様に……。

――私の作戦は今すぐにでも出来る。でも我慢するんだ。叶うならば、一緒に……。

一定の間隔で呼吸を繰り返し、自己のリズムを築き上げる。
132 :またsaga忘れた脳内補完よろしくおねがいします ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:13:03.01 ID:mAbJ85Uao
そのリズムが安心感と共に御坂の身体に溶け込もうとした時、携帯電話が鳴り響いた。
作ったリズムは崩壊し、御坂は多少のイラつきを感じながら電話相手を確かめる。

――上条当麻ッ……。

それは御坂美琴の思い人からであった。

新作ゲームのテストプレイヤーの実験の話が舞い込んで来た時、御坂は勇気を出して、予定を立てる為と最もらしい可愛い理由を持ち出し上条と連絡先を交換した。

それから御坂からメールすれば返信は来るが、彼から連絡を取ろうとしてくる事は一度もなかった。

その彼から電話が来たのだ。

本来ならば嬉しいはずなのに、御坂は悲しそうな顔で、ディスプレイを眺める。

――ダメ……。私だけが報われようとしたらダメだ。

携帯電話を枕の下に潜り込ませ、着信の音とバイブレーションの震える音をかき消す。

――死ぬ前に、最高の思い出をありがとう……。

ただ電話が来ただけ、それを最高の思い出だと感じ、死ぬ覚悟をより一層強固なものとする。

余りにも悲しすぎる道。
彼女は初恋を宙に浮かせたまま終わらせようとしていた。

しかし、そんな運命は三人の心優しい少年達によって打ち砕かれる事を御坂はまだ知らない。
133 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:14:14.76 ID:mAbJ85Uao
~~~

「たーだいま!」

垣根提督が帰ってきた。

そして、ただいまの挨拶を聞くとドタドタと走ってくる足音が一つ聞こえてくる。

「かっきねさーん!待ってましたよぉ~とミサカは初の炭酸にワクワクを隠せません」

「ったく、おかえりなさいくらい言いやがれってんだ」

いいながら垣根はドクターペッパーを手渡す。

「ありがとうございます!あとおかえりなさい!とミサカは遅くなりましたが家主を出迎えます」

再度ただいま、といいながらミサカの頭をぽんぽんと叩く。

その場で開けようとしたミサカを、お行儀が悪い、と叱りつけ残り二人が待つ部屋へ行くまで待つように言う。

ミサカは素直に謝り、垣根の両手にあるうち、一つの袋を自然に手に取ると客室にむかう。

――なんか、少し良い子な所見せられると急に罪悪感でるよな……別に普段悪い子と言うわけではないがなんとなくね……。
134 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:15:53.38 ID:mAbJ85Uao
垣根の手に残った袋は缶コーヒーが入った方の袋であった。
それから一本を残し残りを冷蔵庫にしまう。

「ほれ、新製品出てたからそれ買ってきた。不味くても全部消化しろよ?」

客室に入りつつ一方通行に投げ渡す。

「おかえりィ。気が利くじゃねェか垣根、アリガトウよ」

一方通行は新製品に楽しみを募らせ、機嫌良さげだ。

「おかえりなさい、垣根さん……あ、あのっあの!こんなにたくさんのフルーツジュースいいんでしょうかっ?」

嬉しそうに顔を緩ませ小さくぴょこぴょこ跳ねながらミサカ00001号は垣根の予想通りの反応をした。

垣根はその笑顔をみて、胸に二種類の痛みが走るのを感じる。
そして、それを必死に隠す。

「ただいま、ミサカちゃん。もちろんだ、フルーツサイダーとか炭酸系もあるから二人で分け合って飲みな」

髪を混ぜるように頭をくしゃくしゃと撫でる。

「わ、わわわ!ありがとうございます!とミサカは嬉しさでいっぱいな気持ちを表します!」

「喜んでくれたら何よりだ。今回俺は一方通行とミサカちゃん達に任せきりだからな」

垣根は胸に走る痛みを隠す、薄っぺらい笑顔を浮かべる。
135 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:17:22.37 ID:mAbJ85Uao
~~~

ドクターペッパーを飲んだミサカがなにやら微妙な顔をしながらカタカタ震えるのを横目にミサカ00001号はフルーツ牛乳をちびちびと飲んでいた。

ミサカ00002号を見て笑う垣根帝督、新製品の缶コーヒーを気に入ったのか成分などが書いてある箇所を真剣に眺める一方通行。

三人を眺めながら自分は幸せだと実感する。

00001号は最初は芳川を恨んでいた。
どうせ殺されるのにクローンを観察したいからと感情を消さず、毎日研究員から『お前は殺される為だけに生まれて来た』と言われる恐怖は凄まじいものだった。

だから、三日前芳川が『行くわよ』といい、二人を連れて車に乗り込んだ時は――あぁ、実験が始まったのか、これから自分は恐怖を感じながら死ぬのか――と絶望した。

向かった先は廃れた廃屋の様な研究所跡だった。

ここが今から自分が虐殺される実験場かと恐怖に震えそうになる身体を必死に隠し、中にはいった。
136 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 00:20:01.05 ID:mAbJ85Uao
汚い廊下を進み、一番奥の部屋のドアを芳川に開けなさいと言われた。

指示通り扉を開くと、廃屋の様な外観、廃墟の様な廊下からは想像もつかない明るく小綺麗な部屋がそこにはあった。

どういう事かと思い、00001号は咄嗟に00002号の顔を見る。
00002号は嬉しそうに笑いながら、言った。

「ミサカ達は生きられるのですよ、とミサカは絶望に囚われるミサカ00001号に希望を与えます」

00002号は殺される為に生まれて来たと言われても、明るく元気な子だった。
それは自身の運命に立ち向かい、自分の命を諦めたくないという気持ちの現れだったという事を00001号は後から知る。
00002号は芳川のパソコンをハッキング、芳川がどちらかが死なない為に動き出した時にと用意した暗号化された文書を発見した。

暗号解読の鍵は芳川が毎日必ず二人にかける言葉の中にあった。

それを見抜き、解読。
そして*****・垣根帝督両名の実験拒否を確認次第の脱出計画を知る事となる。

そしてそれは00002号が暗号を解読した二週間後に実行された。

芳川は普段研究所では見せない様な優しい顔で貴女はもっと我儘になっていいと言った。

生まれてからここまでの出来事を振り返り、もう一度、三人の顔を見渡し00001号は思う。

――本当にミサカは幸せだ。

と。

――ミサカは殺されるのが怖かった。痛いのが怖かった。だからこの人たちも痛い思いや苦しい思いはして欲しくないです。とミサカは幸せを噛み締めます。


148 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:30:05.19 ID:mAbJ85Uao
~~~

「あ、あの……」

ドクターペッパーがお気に召さなかった00002号に垣根がルートビアを勧めていると、00001号が小さく手を挙げ三人に語りかける。

「ん?どうしたミサカちゃん」

「お前もドクペ飲みてェのか?」

「ドクターペッパーは一度は飲んでおいた方がいいですよ、とミサカはアドバイスします」

三人ともすぐにミサカ00001号に意識を向け、話を聞く態勢をとる。

「いえ、そ、そのぉ……作戦に……疑問があるので……」

しっかり注目してくれた三人に嬉しく思う反面緊張もしてしまい、声はだんだん小さくなる。
149 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:30:56.47 ID:mAbJ85Uao
「疑問?なになに?言ってごらん」

「俺ァは自分だけ殴られるのが疑問だァ……あ、垣根くゥン……一発でいいから殴らせろよォ」

垣根は興味津々に聞き返し、一方通行が、冗談を言う。
00002号は心配そうに00001号を見つめる。

――メンタル弱い子ですからね、一方通行の口の悪さにビビってしまわないようにフォローするから意見はちゃんと言うんですよ、とミサカは心の中でエールを贈ります。

そして、ミサカ00001号は一方通行の冗談に、それです!と反応をした。

「あ?……俺が殴られるって……ことか?」

00001号は頷く。

「え、演技なんてしないでちゃんとに説明すればそれで解決するんじゃないですか?とミサカは一方通行だけが痛い思いをするのは心苦しいと主張します」

「……気持ちはありがてェが、それは無理だ」

決して本人にはその気はない、そして垣根・00002号もその様な事は気にしない性格である。
だが、恥ずかしがり屋で臆病な00001は、それが突き放した怒ってる様に見えてしまう。
150 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:32:29.85 ID:mAbJ85Uao
「あぅう……すみません……出しゃばっちゃって……とミサカは反省します……」

しょんぼりと小さくなる。

「ちょっと、一方通――」

「ミサカちゃん、言いたい事は全部いいなよ?」

00002号が、言葉と目つきがキツイ!と文句を言おうと口を開くが、それを遮る様に垣根が00001号にアドバイスを与える。

「……ン」

一方通行も聞く準備は万端だ、と頷く。

「で、では……いわせてもらいますよ?……あの、ミサ、カは……00002号みたいに、強くありません……そして、お二人みたいに自分の中に絶対的に信じる正義を持ってるわけでも、ありません」

顔をやや下に向け、三人の顔を目だけでちらちら見ながら話す。

「芳川博士みたいに、小さな子供を立派は青年に導く言葉をもってるわけでもありません。そんなミサカが何かを守れるわけもありません、自分の命すらあなた方四人に任せきりです」

段々と言葉に力がついてくる。
それはミサカの本心からの言葉だからだと、三人は理解する。
151 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:36:09.28 ID:mAbJ85Uao
「こんな状態で言うのは無責任だと思いますが、ミサカは誰にも傷ついて欲しくないのです。ミサカも傷つく誰かを守れるくらい強くなって見せます」

最初下を向いて話していたが、今はゆっくりと、三人の顔を順にみながら、自分の気持ちを必死に話している。

「だけど今はまだ、頼む事しか出来ません。だけど、どうかお願いします!一方通行だけ傷つくなんてそんな作戦は考え直してもらえませんか?」

心の内、全てを吐き出したからか、ミサカの顔はスッキリと清々しいものだった。

「ありがとうよ、だが心配するな。俺も垣根も芳川も、お前らの命を救う為ならどンな痛い事も笑って我慢できる。だから、気にすンな。大切な人の為の苦労は嬉しいンだよ」

言葉をやや選びながら一方通行は言う。

「そンで、これは『俺が完璧に負ける』事が何よりも大切な事なンだ。だから、出来レースみたいな負けた演技じゃだめなンだ。あと、俺は殴られたって傷つかねェよ。そンな事にビビってお前らを見捨てた方が傷つくンだ」

垣根が00001号の頭を撫でる。

「それに傷つくとしても一方通行だけじゃない、現にミサカちゃんも『一方通行が傷ついたら嫌だ』って心を痛めてるだろ?友達ってそういうもんなんじゃないかな?」

そして、最後によく全部言い切ったな、頑張った。と頭を二回、たたいた。

――ミサカが心配する事なんてないね……そりゃそうか、ミサカのお姉ちゃん……だもんね!

ミサカ00002号は頭を撫でられる00001号を見て、一人微笑む。
152 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:38:47.39 ID:mAbJ85Uao
~~~~

廃墟の様な外観の建物に、芳川は一人いた。

しかし、廃墟の様に見えるのは外だけで部屋の中はほどほどの研究設備が整っている。

子供たち四人が楽しく過ごしている間も、芳川は自身のやるべき事を進めていた。

「打ち止めをあの男が完成してしまったら、実験を止めても悲劇が起きる……悲劇のヒロインが私なら大歓迎だけれど、あの子達がヒーローやヒロインになってしまったら……」

153 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:40:17.13 ID:mAbJ85Uao
妹達は発電能力者という点と学習装置により整頓された脳構造という点を生かし、ミサカネットワークというものを形成するはずであった。

そのネットワークは簡単に言えば、妹達限定のテレパシーである。
言葉だけではなく、視覚聴覚などあらゆる情報を送受信、共有、また各個人の記憶のバックアップも取れる。

そして、そのネットワークを制御するためだけに生み出そうとされている個体がいる。

それが最終信号である。

――あの二人が私抜きで造られたという事はあいつはもうクローンを自力で作れるということ。

芳川はキーボードをカタカタと叩きながら最悪のケースを考える。
154 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/03(土) 17:42:01.26 ID:mAbJ85Uao
――つまり一ヶ月後には百人単位の妹達が私たちを襲いはじめてもおかしくはないって事ね。

――そして、慎重なあの男なら打ち止めの管理能力を駆使せずそれを行う事はない。

昼間垣根が入れた冷め切ったコーヒーをマグカップに注ぐ。

――そうなったら、打ち止めの直接命令を解除するウィルスがいるわね、まずそれを作りましょう。

冷めたコーヒーを一口飲む、それは冷めて時間が経っているにも関わらず温かな旨味があった。

――心配なのはお姉さんのほうのミサカちゃんね。個性が弱すぎる、あれだと最悪直接命令を受けてしまう可能性がある……。

「まぁ、何がなんでも救ってみせる」

その目には決意と科学者としてのプライドが燃えている。
155 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 17:46:44.72 ID:mAbJ85Uao
投下おわり!
少なくってごめんね!でも書き溜めつきちゃったんだよ!

さぁ、打ち止めの名前が出て来ましたね
今はまだ名前だけですけどね

書き溜めて進んだらまた日付変わる頃にくるかもしれません
読んでくれて、レスくれてありがとうございます
嬉しいです
157 :じゃあ妹達達との遭遇一日目まで投下しておく ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 18:59:56.61 ID:mAbJ85Uao
~~~

「なァ、夏休みって学生にとっちゃビッグイベントだよな?」

四人がそれぞれ胸の内に潜む熱い思いを吐き出し、受け止めた余韻に浸っていると一方通行が突然口を開いた。

「遊びたい盛りの中学生だし、そりゃあビッグイベントだろ」

学校に通ったことのない妹達は答えられる訳もない。
垣根もおおよそ普通とは言い難い学生生活を送っているのであくまで一般論を述べる。

「夏休みまであと一週間ちょいだよなァ?」

「そうだな、でもそれがどうかしたのか?」

「いや、だったら一週間以内にケリつけてやりたくねェか?」

似合わない事は承知なのだろうか、少しだけ照れている様にも見える。

「なんかお前この頃というか今日だけで一気に優しいやつになったな」

茶化すわけでもなく、垣根が素直な感想をこぼす。

「でも、優しいのは良いと思います。一方通行はお姉さまに気兼ねなく夏休みを全部きっちり満喫して欲しいんですよね?とミサカは推測します」

「うんうん!ミサカも賛成だな、その為に明日はミサカが上条当麻と絶対接触してくるよ」

妹達に褒められ、一方通行は頬をほんのり赤らめる。
肌が白いのでよく目立つ。
158 :じゃあ妹達達との遭遇一日目まで投下しておく ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/03(土) 19:04:08.01 ID:mAbJ85Uao
「あ、そうだ。ミサカちゃん達さえよければこれからみんなでここに住まない?」

数時間前に一方通行と話していた事を思い出し、垣根は脈絡なく切り出す。

「え?初めからそのつもりですよ?芳川博士はミサカ達の警護、世話は二人に一任すると言っていましたし、ね?00001号?」

「は、はい!とミサカは00002号に同調します」

「なんだ、ならいいや。じゃあそういう事で」

あっさり、みんなが一緒に住むことが決まった。

「芳川にはいつ話すンだ?」

「明日また来るだろ?そん時で」

二人が家具とかキチンとした部屋割りとかは全て終わったあと考えようと話し合っていると、ミサカ00001号が小さく手を上げた。

「……別に手を挙げなくたって勝手に話していいンだぜ?」

「あ、はい……いやくせの様なもので……とミサカは……あぅうう」

「いやいや、手を挙げたっていいんだぜ?むしろ立派だ!では、ミサカちゃん」

垣根が学校の先生を演じるかの様に芝居がかった口調でミサカを指名する。

「は、はいッ!えっと、家賃とか食費とかその、お金は……とミサカは社会の中で暮らすのに一番の懸案事項を尋ねます」

「俺と一方通行の折半でいいよ、な?」

「おゥ」

「で、ですが――」

「その代わり!」

遮る様に垣根が口挟む。

「うまい飯を毎日作ってくれ!」

ミサカ00001号は、笑顔で元気よく頷いた。

「……ミサカそんなこと考えもしなかった……図々しい子でごめんね」

ミサカ00002号は世話になるのが当たり前と思っていた節があり、00001号がしっかり考えている事を全く気にも止めなかったことを恥じていた。

「ははは、お前は掃除洗濯してくれればいいよ。料理もミサカちゃんに習って二人で協力してやればそれでいいさ」

「あァ、どっちかが出来ねェ事を片方がやって支えあってけばいいンだよ」

笑いながら二人は言う。

ミサカ00002号も、パァと笑顔になり、わかった!と元気よく頷いた。

その後、二人は和室へ、一人は寝室へ、一人は和室の隣の部屋でそれぞれ眠りに落ちた。


165 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/04(日) 07:08:52.73 ID:ex9AI0hxo
~~~

次の日、垣根と一方通行は目を覚まし感激する。
まず目を覚まし二人を襲った違和感はいい匂い。
ここ十年起きて不快な思いをした事は何度もあったがこんなに幸せな香りを感じたことはなかった。

LDKへ飛び込むと、そこにはエプロン姿の妹達がいた。

「お、おおおお!」

垣根は思わず感嘆の声を上げる。

一方通行はフライパンをそっと覗き込みながら冷蔵庫を開け缶コーヒーを取り出す。

「あ、おはようございます。とミサカは挨拶します」

「おっはよー、二人とも!目玉焼きとウィンナー焼いてるからちゃんと食べてね。とミサカは初めての料理だけど自信満々!」

「おう、悪りぃ少しテンション上げすぎた、おはよう。早速ありがとうな」

「おはよーさン」

男二人も食器を並べるのを手伝い、すべて用意するとミサカ00002号の号令に続きそれぞれいただきますをした。
166 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/04(日) 07:09:57.44 ID:ex9AI0hxo
朝食は大満足の出来であった。
皿洗いはまた垣根と一方通行で行い、それが終わると00001号が紅茶を淹れてくれた。

四人で談笑しつつのんびり飲むと、ミサカ00002号は上条と接触する為外出。
00001号も芳川の研究所で手伝いをする為、垣根は芳川へ同居の話を持ちかけるため外へ出た。
167 :この辺高くないクオリティがさらに低くなってる気がする ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/04(日) 07:11:58.43 ID:ex9AI0hxo
~~~

朝早く朝食を摂ったためティータイムを挟んでも学生の投稿時間には十分間に合った。

ミサカ00002号は先日上条当麻と出会った公園当たりをうろついている。

しばらくうろついていると、学生の姿がそんなに街中に見えなくなった。

朝の遭遇は失敗と諦めかけた時、聞き覚えのある声が耳に届いた。

「ふ、不幸だぁああああああ!なんで目覚ましの電池がセットした時間の二分前に止まってんだよぉおお!おかしいだろ!」

叫びながら走るのは探し求めた上条当麻である。

叫びながら走るという、効率的にも、見た目的にもかなり酷い姿をさらしている。

遅刻しそうだし、声をかけるのはやめようかなと思い、身を隠そうとした瞬間、上条の方がミサカに気がついた。

「ん?あれ、おーい!御坂妹ー!思ったより早く再会出来たな、上条さんは嬉しいですよ!」

この瞬間、ミサカ00002号のミッションが始まった。

「……おはようございます。とミサカは挨拶します」

「……あれ?まぁ、おはよう」

上条は早くも違和感を覚えたようだ。
168 :この辺高くないクオリティがさらに低くなってる気がする ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:13:27.04 ID:ex9AI0hxo
「遅刻しますよ?とミサカは立ち止まったあなたに走るべきだと忠告します」

「あー、学校はいいや。サボる、それよりお前のお姉さまに連絡つかないんだけどなんか知ってるか?」

「しりません。とミサカは即答します」

「……お前、昨日会った御坂美琴の妹だよな?」

「……そうですが?とミサカは肯定します」

「……体調でも悪いのか?」

心配した様な目でミサカ00002号の顔をまじまじと見つめる。

「いえ、体調は良好です、とミサカはあなたの推測は間違っていると答えます」

「そうか?なら……いいけど……なんかあった?」

「実験のため感情を消去されました。とミサカは事実を簡潔に述べます」

「感情を……消す?」

「はい。とミサカは即答します」
169 :この辺高くないクオリティがさらに低くなってる気がする ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:15:13.88 ID:ex9AI0hxo
「……なんの、実験なんだ?」

「第一位、一方通行をレベル6にする為、私達ミサカ妹達が二万体殺される実験です」

「二……万……?殺す?……何を言ってんだよ……おい!」

上条は明らかに怒っている。
ミサカの言ったことが事実ならばその実験に、嘘ならば質の悪い嘘をつくミサカに。

「大声を出さないでください、事実を言ったまでです。とミサカは暗にうるさいと伝えます」

「そんな実験があっていいと思ってるのか?」

「あなたが何に疑問を感じているのかわかりません。とミサカは即答します」

上条は無言で電話を取り出し、ミサカに背を向けると、とある番号をプッシュする。

コール音が二~三度なると、そのまま留守番サービスへ繋がった。

「くっそ……御坂はこんな時にどうしちまったんだよ、電話……でろよ」

イライラした様子で携帯電話を操作し、もう一度掛ける。
が、御坂美琴が出ることはなく、また留守番サービスの音声が流れて来た。

「……チッ、俺だ上条当麻だ。これ聞いたら折り返しかけてきてくれ……妹と実験のことで話がある」

上条は仕方なく留守電を残す。

そしてミサカから詳しく聞こうと振り返るが、そこにはもうミサカの姿はなかった。

「なんだってんだよ……クソッ!」

上条の咆哮は虚しく響く。
170 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:16:30.96 ID:ex9AI0hxo
~~~

「おはよう」

「おはようございます、芳川博士。とミサカは挨拶します」

垣根とミサカ00001号は芳川の研究所へ来ていた。

「おはよう、二人とも」

徹夜で作業していたのか芳川の目の下にはクマが浮かんでいた。

「一人で徹夜で何やってたんだよ、まだやることあるなら俺らにちゃんと話せ」

疲れを隠しながら笑う芳川を見て、垣根は寂しそうに言う。

「俺も一方通行もお前と近い位置から物事が見える様になった、少なくとも十年前よりは……だから、俺達を頼ってくれよ」
171 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:17:16.56 ID:ex9AI0hxo
垣根は悔しかったのだ。
昨日自分達が笑いながら過ごしている間、芳川だけが一人画面に向かって頭を悩ませていたと言うことが。

「……そうね、ごめんなさい。でもこれは私の頭の中にしかないものだから、手伝ってもらうことは出来ないわ」

芳川は嬉しそうだ。
そして、反省もした。
自分が十年でした以上の成長を彼らはしたのだと思い知った。

――高校生からの十年と小学生からの十年は全く違うものなのね。

「……コーヒー淹れるよ、飯もなんか適当に作るぜ?」

垣根はそう言うと湯を沸かしはじめる。

「ふふ、ありがとう。帝督の淹れたコーヒーは美味しいから……嬉しいわ」

「うん……」
172 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:18:27.78 ID:ex9AI0hxo
~~~

芳川と垣根が話をしている間、ミサカ00001号は脳構造を計測する機械へと自身をつなぐ。

計測が終わるとその結果と生まれたばかりの妹達のそれと比べる。

――やはり、ミサカの脳構造は綺麗すぎますね……。

その結果を芳川に渡すと、芳川も少し顔をしかめた。

「散歩して来てもいいですか?とミサカはお二人に尋ねます」

丁度垣根がコーヒーを淹れ終え、簡単な朝食を作り終えた所であった。

そう、垣根は料理が出来るのだ。
腕もミサカより断然良い。

それでも、ミサカの料理を喜んだのは、やはり誰かが自分のために作ってくれた料理というのは格別だという事だ。

「そんなら俺も行く、ふらふら散歩して買い物して帰ってこようぜ」

時刻は午前八時半。
散歩するには十分すぎる時間があった。
173 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:21:35.10 ID:ex9AI0hxo
~~~

一方通行は一人残された部屋で考える。
右手には缶コーヒーが握られている。

――なンで俺は簡単に妹達を受け入れ信頼することが出来たンだ?

それは、昨晩垣根に言われた『優しくなった』という言葉。

一方通行は元々かなり優しい子だ。
性格的にはミサカ00001号と同質のものであった。
だが、度重なる裏切りや人間の汚い部分だけを十年間見続けた一方通行は一部の人にしか優しくしない子になった。

――わっかんねェなァ

答えの出ない問題にイラつき、コーヒーを一気に飲み干す。

答えが出ないのはミサカ達がした行為は一方通行にとって初めての体験だったから。

それは純粋すぎるくらいの無警戒に他者から信頼を寄せられること。

妹達は一方通行と垣根に一つもの警戒をしていない。
その無条件の信頼が、一方通行にすんなりと妹達を受け入れされた。

一方通行の反射〈拒絶〉は、自身を傷つけるものだけに適用されるのだ。
174 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:23:04.54 ID:ex9AI0hxo
~~~

「ふぅ、っと。ミサカはなんとか気づかれずに逃げ切ったことに安堵します」

垣根の予想通りの行動を起こした上条を思い出し、ニヤリと笑う。

「ミサカ女優にでもなろうかな……」

自身の演技の出来を自画自賛しつつ、第七学区のとある宿泊施設に向かう。

――もしミサカがお姉さまならこの学区の一番綺麗なホテルに拠点を置く、だから絶対……いや、きっと……うんまぁ、多分。お姉さまはここにいる……といいなぁ。

そうして十数分歩きたどり着いたのは見事、御坂美琴が利用しているホテルであった。

――あとはお姉さまが出てくるの待つだけだね。

時刻は午前九時十分。
175 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:25:29.66 ID:ex9AI0hxo
~~~

着信を告げる音楽で御坂美琴は目を覚ます。

そして、直感的に相手が誰だか分かり、泣きたい様な苦しそうな顔をした。

着信が切れ、少しホッとする。
が、それもつかの間、またすぐになり出した。

――なんなのよ、アンタは……。どうして普通とは違う道を選んだ途端構ってくれるの?

また、切れた。
三度目がかかってくることはなかった。

携帯電話は着信があったことを告げるランプをチカチカと点灯させる。

着信履歴を消そうと携帯電話を手に取り、ひらく。

そこには、着信一件と留守番一件を知らせるメッセージが表示されていた。

――最後に、声くらい聞いてもいいよね?

留守番を再生する。

そして、御坂はその選択で最も知られたくない事を最も知られたくない人に知られてしまったことを知る。
176 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:28:14.10 ID:ex9AI0hxo
『妹と実験の事で話がある』

――あいつがこの事を……なんで知っているのッ?

咄嗟に思うことは、巻き込んではいけないということ。
そして、上条に捕まるのもダメだということ。
捕まったらきっと甘えちゃう。
そうでなくても絶対に首を突っ込んで来て大怪我する。
美琴は上条にそんな目にあっては欲しくなかった。

――早めに妹達を捕まえて、次の実験の日時を聞かなきゃ。

そうと決まればと、御坂は服を脱ぎ捨て、変わりにタオルと新しい下着を手に取り、シャワー室へ入る。
そして、思い出した様に洗面所に備え付けられている電話を手にするとフロントに三十分後にサンドウィッチをもってくる様にオーダーする。

時刻は八時五十分。
177 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:29:01.13 ID:ex9AI0hxo
~~~

上条はぼんやりしていた。
ミサカに逃げられ御坂からも、折り返しの電話はない。

これからどうしようと、考え込む。

――もう一度、妹と……いや、その前に御坂に会っときたい……。

「よし、寮に行ってみるか……」

両手で頬を軽く叩くと上条は立ち上がり、歩き出す。

上条は何としても首を突っ込んでやると誓った。
178 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:29:54.33 ID:ex9AI0hxo
~~~

御坂、上条と遭遇したら面倒だと、垣根とミサカは第七学区を避け、第十五学区を散歩していた。

「あー、それにしてもあっついなー」

垣根は胸元をぱたぱたと煽る。

ミサカは顔を真っ赤にしながらそんな垣根のあとを子犬の様について歩く。

「ん?どうした顔真っ赤にして」

「いや、あの、お、お姫様抱っこで飛ばれたものですから……その、恥ずかしかったです。とミサカは垣根さんの常識を疑います」

垣根の顔を見るのが恥ずかしいのか、目を合わせようとはしない。

「悪かったよ、そんなに……嫌だったのか」

素直に詫び、少しだけ落ち込む。
179 :この辺の時間は気をつけて書きましたが何かおかしなところ気づいたら教えてください。伏線とかではなくただのミスですw ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:31:02.58 ID:ex9AI0hxo
「い、いえ!全然嫌ではありませんでした。とミサカは勘違いを正します」

身を乗り出し、垣根の目をまっすぐ見ながらいう。

「お、おう……なら、よかった。……あの、近いんだけど?」

ミサカが身を乗り出したので、二人の距離は十センチくらいである。
二人がちょっとずつ前に出れば口付けを交わすことが出来るほどの近い距離。

「はぅううあっ!とミサカは、ミサカは……あぅうう」

慌てて体を引き離す。

「おう、まぁ落ち着け」

「ご、ごごめんない。とミサカは赤面します」

大袈裟にミサカは頭を下げる。

「いや、別に嫌じゃなかったし、なんかいい匂いしたし気にしてないよ」

垣根のその言葉にミサカはさらに顔を赤らめる。

「まぁ、水に流そうぜ。なんか飲むか?」

「はい。あ、ちょっと待ってください……00002号が水を欲してる気がします。とミサカは垣根さんに報告します」

「お、なんだ?双子パワーか?まぁ、俺らが家出て、二時間近くたつか?あいつに金渡すの忘れたし買ってってやるか!」

ミサカの突然の発言に面白そうだ。とウキウキしながらコンビニへ入る。
そして親ガモを追う子ガモの様にミサカはついていく。
180 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:33:00.30 ID:ex9AI0hxo
~~~

「で、ミサカちゃんはどこにいんの?」

買い物を済ませ、コンビニを出た二人。
二人の手にはアイスがひとつずつ。

垣根の持つ袋にはアイスとスポーツドリンク、そしてそれらが温まってしまわぬ様にと大量の氷が入っている。

「えぇっと、第七学区のホテル?だと思います。なんか可愛い綺麗な感じのところです。とミサカはこたえます」

ミサカが答えたことに垣根はギョッとした。

「ふ、双子パワーすごいな」

「あ、ただそんな気がするだけなので……とミサカは自信はない事を強調します」

「おう、わかってるぜー。しかしあのホテルか……」

記憶を頼りに、ミサカのいうホテルにあたりをつける。
今いる場所からは遠くもないが近くもない。

「……また、飛んで行ってもいいか?」

垣根は先ほどの事もあり、遠慮がちにいう。

「ま、またお姫様抱っこですか?と嬉しい様な恥ずかしい様な……」

「……だよなぁ、電車でいくか」

少しでも嫌ならばやめようと、垣根は電車で行くことを提案する。

「あ、あの!でもアイス溶けてしまったら勿体無いので……とミサカは暗に飛んで……行きましょうと提案……します」

顔を真っ赤にしながら、垣根のシャツの端を掴んだ。

「お、おう。んじゃアイス食っちまったらいくか」

垣根は話しながらすでに完食しており、ミサカはまだ半分ほど残っている。

「は、はい!とミサカは元気良く返事します」
181 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:33:59.42 ID:ex9AI0hxo
~~~

「暑い、まじで死んじゃう……お姉さまなんで出てこないの?」

ミサカは暑さでクタクタになりながらもはや『いるかもしれない』ではなく、完全にそこにいると決めつけている。

「……なんか今ミサカ00001号が美味しいもの食べてる気がする」

ホテル前のベンチに座りながら、独り言をこぼす。

明日からは水筒を借りて冷たい飲み物を持ち歩こう。とミサカは決心しながら、御坂美琴が出てくるのを一人、ずっと待つ。
182 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:35:15.36 ID:ex9AI0hxo
~~~

サンドウィッチを食べ終えた御坂はパソコンに向かっていた。
絶対能力者進化計画の機密情報をハッキングで強奪。
妹達がどこで管理されているか、調べるためだ。

もちろんそれも芳川が用意したダミー情報なのだが……。

御坂はその情報をじっくり読み込み、妹達がこの時間は第七学区内を研修の為散策していることという情報を得る。

外に行こうと、バスローブを脱ぎ、常盤台中学校の制服に着替える。

時計をみると一時間半ほど経っており、時刻は午前十時四十分。

――とりあえず、上条当麻にこれ以上接触しない事と、次の実験の日時を聞き出さすことね……。

ポケットにゲーセンのコインを詰め込み、最後にスカートの下に短パンを履いた。

「よし、いくわよ」

御坂美琴は決意を新たに外へ出る。
183 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:36:28.92 ID:ex9AI0hxo
~~~

「そろそろ着くぜ……っとあそこにいるのミサカちゃんじゃね?」

垣根に抱かれるミサカは顔を真っ赤にし、反応しない。
垣根が空からミサカの姿を発見し、本当に言われた場所にいた事に驚きつつ、ミサカ00002号の後ろに舞い降りた。

「……あつい」

ミサカ00002号は気づいておらずじっとホテルの入り口を睨みつけている。

ミサカ00001号も未だフリーズしたままだ。

どうしようかな、と人差し指で頬をかく。
そんな垣根に名案、妙案が浮かんだ。
ニヤリと、いたずらっぽく笑うと袋からよく冷えたスポーツドリンクを取り出す。

そーっと近づき、それをミサカの頬に当てる。
184 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:36:56.71 ID:ex9AI0hxo
「はーい、ご苦労様ミサカちゃん」

「はうわぁー、っとミサカはミサカはミサ……び、びっくりしたぁ……」

ミサカは肩をビクッとさせ、とびあがった。

「あっははは!悪りぃ悪りぃ。ほれ、アイスとジュース。気がつかんくて悪かったな、この暑さじゃ下手したら死ぬのに……」

申し訳ない、と軽く謝りながら袋を差し出す。

ミサカがお礼をいい、受け取ると、時計を確認し固まったままのミサカ00001号を00002号に任せ垣根は昼ごはんの買い物に行った。
185 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:39:24.78 ID:ex9AI0hxo
~~~

「で?空のデートはどうでした?」

ミサカ00002号はアイスを美味しそうに食べている。

「な、何故知っているんですか。とミサカは驚きを隠せません」

ミサカ00001号は、慌てた様子でミサカ00002号の顔を見る。

「そんな慌てなくていいですよ。ミサカ00001号にはいろんな事を体験させるために作戦実行はミサカが買って出たのですから」

「うう、なんかすみません。ミサカばっかりいい思いをしてるみたいです。とミサカは引け目をかんじます」

「いいんですよ、ミサカ達は姉妹ですから、それにミサカ00001号には万が一があるだけミサカの方が運がいいです。……変わってあげれたらどんなにいいかと」

ミカサ00002号はしおらしい甘える様な声をあげた。

「いいんですよ、ミサカ00002には毎日楽しませてもらってますし、昨日だって臆病で恥ずかしがり屋の私のために一方通行に注意しようとしてくれたではないですか。とミサカは妹を抱きしめます」

二人は同時に生まれミサカ00001号はただ名前の番号が一つ若いだけだ。
それだけだが、ミサカ00001号はちゃんとに姉をやっていた。

「……絶対に負けないでね……お姉ちゃん」

片方は甘える様に、片方は包み込む様に、仲の良い姉妹は抱き合う。
186 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:40:24.54 ID:ex9AI0hxo
~~~

「だっかっらっ!俺は怪しい者じゃありませんよ!御坂美琴の友達です。あいつ最近様子が変だったから様子を見に来てるだけですよ」

上条当麻は常盤台中学寮、寮監に捕まっていた。

だが、道場の余地はない。
昼間に女子校、それも中学校の寮の周りを思いつめた顔でうろついていれば捕まっても文句は言えまい。
187 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:41:22.38 ID:ex9AI0hxo
「まぁ、不審者だったことは認めますよ。高校生が昼間にうろついてるんですもんね……でも、本当に心配で……」

すがる様な目つきで寮監を見る。

「……はぁ。ったく、御坂のヤツはどれだけ迷惑かければ気が済むんだ……」

髪を掻き上げ、心底鬱陶しそうに疎ましそうに吐き捨てる。
それは本気で御坂を心配し、その身を案じている様に上条の目にうつった。

「……寮監さんも心配ですよね」

上条がぽろっとこぼすと寮監は眼鏡を外し、レンズを拭きながらいった。

「……御坂はしばらく寮に帰らないと言って出て行った。でも“仕事”がたんまりあるから必ず帰ってくると私に誓って行ったぞ。だから、あいつは無事帰ってくるさ」

――御坂は今まで私との個人的な約束は破ったことがないからな。

そう言い残し、寮の中へ姿を消した。

「……寮に帰らねぇって事はホテル暮らしでもしてんのか?」

上条は、御坂の好きそうな宿泊施設にあたりをつけ、走り出した。
188 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:43:36.19 ID:ex9AI0hxo
~~~

昼ごはんは何がいいか垣根は悩んでいた。

一方通行に電話したところ肉、と一言言われ切られた。
芳川に電話したら麺類が食べたいとの事だ。

「麺類ってのは決定だが……なににしようかな俺は今パスタな気分だがそれだと肉が少なくなりそう何だよなぁ……この季節に肉うどんは……ないしなぁ」

あれこれつぶやきながらスーパーへの道のりを歩く。

考えながら歩いていると、角のところで人とぶつかった。

「ぬお、すまんっ!考え事しながら歩いてたわ……って上条か」

「こちらこそ急いでたもんで……って垣根か」

見知った顔で、お互い少しホッとする。

転んだ上条に右手を差し伸べ、彼の右手をつかむ。

――ちょうど良かった。自然に右手に触れることも出来たしな。

演技用の仮面を被り、笑いかける。

「まぁ、立てよ。改めて済まんかったな」

「いえいえこちらこそ……ってそうだ!垣根は一方通行と仲いいんだよな?」

礼をいいつつ、垣根が振るまえに実験の話を降ってきた。
189 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:45:21.51 ID:ex9AI0hxo
――こいつはいい道化っぷりだ。俺の手のひらで面白いくらい思惑通り踊ってくれてるな。

「そうだな。一方通行が正しい事をしていれば例え世界中を敵に回しても、俺は一方通行側につく。
逆に世界中が一方通行の味方でも、それが俺と一方通行の正義に反する事だったら、どんな感情をこの身に宿していても俺は一方通行をぶん殴る……」

垣根のこれは演技ではない。
言葉は多少大袈裟でも本心だ。

「一方通行の為なら俺は死ねるし、俺の為ならアイツは死んでくれる。そんな関係だ」

その台詞を聞き、上条の目に怒りが芽生える。

「その、一方通行が今、どんな実験をしているか知ってるのか?」

「あぁ、もちろんさ」

「それはお前らの正義に反しない真っ当な実験なのか?」

上条は拳を硬く握る。

「……あぁ、もちろんさ」

「嘘だな」

垣根は、そのまま殴られるのを覚悟していた。
しかし上条から拳は飛んでこなかった。
190 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:46:32.62 ID:ex9AI0hxo
「ははっ、何言ってんのお前?俺のなにを知っていて、何をもって嘘だと判断してやがるんだ?」

「お前はさっきから何かを隠している、いや何かもっと違うな……そうだ、舞台に立ってる様に見えるんだよ」

焦る。
ここで見破られたら計画はご破算だ。

「普段の俺をしらねぇ野郎が何言ってやがる……付き合ってらんねーな」

「逃げるのか?一方通行の親友だ、お前もレベル5なんだろ?そんな230万人の頂点が、最下層の俺から逃げるのか?」

「議論ってのは同じレベルのやつじゃないと成り立たねぇんだよ。レベルが違うとお話にならねーんだ」

「いつまでそうやって自分を誤魔化すつもりだ!嘘を吐き続けるつもりだ!そんなんで本当にいいのかよ!」

上条の目は真剣だ。
たった一回、会っただけの垣根にこんなにまで真剣だ。

――なんなんだよこいつはマジで。

垣根は混乱していた。

――だっておかしいだろ?別に友達ってわけじゃ……あ。

『俺たちもう友達なんだし』

「なんとかいったらどうなんだ」

――そうか、こいつはいつでも本気なのか。だから、信用に足る人物と分かれば一瞬で気を許すのか。だからあった瞬間友達だと言いやがったのか。
191 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:47:56.90 ID:ex9AI0hxo
「ハッ!馬鹿らしいな」

――俺はそんなの認めねぇ。俺は無条件に人に好かれて良い人間じゃねぇんだ。そんな人間を無条件で友達と呼ぶやつを信用したりしねぇ……。

「上条、最終忠告だ。このまま俺の前から消えろ、そして二度とツラ見せんな」

「……そうやってまた嘘つきやがって……いいぜ、お前がそれで心から笑える日がくるってんなら、そんな薄っぺらい仮面で俺を騙せると思ってんなら――まずはそのふざけた幻想をぶち殺すッ!!」

ついに上条は殴った。
垣根は避けようともしない。
上条の拳はまっすぐ垣根の左頬に吸い込まれていった。
垣根がよろける。

「……借りは作らねぇ主義なんでな」

態勢を立て直し、上条の腹へ能力を使わず一発叩き込む。

「そっちはだいぶ手を抜いた様だが悪りぃが俺は手加減しなかった。じゃあな、地べたに這いつくばってろ」

そう言い残し、垣根は歩き出した。

「くっそ……まち、やがれ……」

上条はうずくまり、遠ざかる垣根の背中を見つめる事しかできなかった。
192 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:49:04.79 ID:ex9AI0hxo
~~~

「あ、でてきた」

ミサカ00001号との抱擁を解き、照れ隠しにスポーツドリンクを飲んでいると待ち続けた人がホテルから出てきた。

「さて、00001号はどうしますか?とミサカは一緒にくるかここで待ってるか選択肢を与えます」

ミサカ00002号は作戦用へギアを変える。

「ミサカが一緒にいてもヘマをやらかすだけなのでお任せします、とミサカは自分の不甲斐なさが嫌になります」

嫌なことから目を背ける様に目を伏せる。

「気にしないでください。とミサカはミサカの女優振りを見守って欲しいと伝えます……では」

そう言い残すとミサカ00002号は御坂の元へ歩み寄る。

「ごきげんよう、お姉さま。偶然ですね。とミサカは死ぬ前にお姉さまに会えた幸運に感謝します」

急に声をかけられ、しかもそれが自分が探そうとしていた人物だから驚いたのか御坂は咄嗟に反応することができなかった。

「……無視、ですか?とミサカはお姉さまに反応を求めます」

「あ、あぁ……ごめん。貴女が私の……クローン?」

「ええ、そうです。第一位・一方通行に殺されるためだけに生み出されたクローンです」

無表情のままミサカは言い放つ。
193 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:52:32.23 ID:ex9AI0hxo
「そう、あんたはそれに何も疑問を感じないの?反抗しないの?生きたいと思わないの?」

「一方通行に殺される、それがミサカの生きがいですから。とミサカは疑問も反抗も生きたいとも思わないと即答します」

「……感情ってもんが……本当にない……の?」

御坂は涙をこぼした。

殺される為だけに生み出され、楽しいとも嬉しいとも思う事が出来ず、ただただ死んでいく自分の妹を心から不憫に思った。

「はい、ありません。とミサカは肯定します」

視線を逸らし、御坂の涙を視界に入れぬ様にしながらミサカはいった。

「そう、そっか」

御坂は至近距離まで近づきく。

「これが、温かい……って……事よ」

優しくミサカを抱きしめ、人の温かさを伝えようとした。

「覚えておいて、あなたは死なない。私が実験を止める、だからあなたの姉を、常盤台の超電磁砲・第三位の御坂美琴の事を……私の熱を忘れないで……姉らしい事なにも出来ないままでごめんね」

御坂の計画は『1手目で死ぬ事』であった。
128手目で死ぬはずの御坂が1手目で死んだら研究員はどう思うだろう?
『《樹形図の設計者》はまちがえたのではないだろ?御坂美琴に価値はないんじゃないか?それのクローンを二万体殺しても絶対能力者には届かないのではないか?』と思うことだろう。
それが狙いであった。

それゆえ、御坂は実験中に一方通行に戦いを挑もうとしていた。
そして、その時の被験体となった妹には申し訳ないが一緒に死んでもらおうと思っていた。

仮に御坂が1手目で死んだとしても、その実験までは続けられるだろう。
と思っていた。

だから、一緒に逝こうとしていた。

だが、今、妹達の一人と数回のやり取りをしてその意志は変わった。

――もうこれ以上一人も殺させてたまるか。

――第三位の誇りにかけて、超電磁砲の名にかけて、なにより……この子達の姉として……。

「そうだ、これあげる……」

ミサカの体を離すと御坂はカエルのキャラクターが描かれたバッヂをミサカにつけた。

「ふふ、大事にしなさいよ!あ、妹達ってあと何人いるの?」

涙を拭き取りながら、今度は笑顔を振りまく。

「今のところ培養器から出されているのはこのミサカともう一人だけです。とミサカは正直に答えます」

「そっか、じゃあこれはその子にあげて!」

そういうともう一つバッヂを取り出しミサカに握らせた。

「じゃあ、私はやる事が出来たから行くわ、本当は遊びたいけど……ごめんね」

別れ際、御坂はまた泣きそうな顔をしたがなんとか堪えた。

そして一度も振り返らずミサカの前から姿を消した。
194 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:54:18.78 ID:ex9AI0hxo
~~~

「あー、いってぇーあのウニ野郎思い切り殴りやがって……」

「だ、大丈夫ですか?とミサカは垣根さんの心配をします」

午前中、それぞれの仕事を終えた五人は再び家へ集まっていた。

買い物を終えた垣根はミサカ二人を、一人は抱え、一人は背中に乗せ芳川の研究所まで飛び帰った。

そこから芳川の運転する車でここまで一方通行のまつマンションへと帰宅した。

「昼は俺が作ろうと思ってたんだけどなぁ……」

上条に殴られたところが時間が経つに連れ腫れ上がっていき、とても料理などできる状態でなくなった。

「オラ、出来たぞ。席につけェ」

そんな垣根の代わりに料理を昼ごはんを作ったのは00002号と一方通行だ。

00001号が作ろうと、台所に向かうと00002号に止められた。

――ミサカと一方通行でやるから00001号は垣根さん看ててよ

そういう00002号の服にはバッヂがついている。

――わかりました。とミサカはお礼を言います、けどそんなんじゃないですからね?

そう答える00001号の服にも、同じようなキャラクターのバッヂがついていた。

「一方通行料理出来んじゃん!」

ミサカ00002号が喚きながら五人分の肉のたっぷり入った焼きそばを運ぶ。

「あ?ンなもンレシピみてその通りやりゃあ完成はするに決まってンだろ、作り方書いてあンだからよォ」

面倒くさそうに手を払う。

「決まってないよ、ミサカ出来ないもん」

「それが普通だ、俺は料理は出来てもレシピ通りの味気ないもンしか出来ねェ……お前らみたいに人を喜ばすもンは作れねェよ」
195 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:55:13.63 ID:ex9AI0hxo
その言葉にミサカ両名と芳川は嬉しそうに笑う。

「ふふ、ありがとう。晩御飯はまた私につくらせてね」

一方通行の頭を撫でる。

一方通行はやめろと言いつつまんざらでもなさそうだ。

みんな揃っていただきますとごちそうさまをする。

皿洗いは腫れは引かないが、痛みは落ち着いて来た垣根と芳川、ミサカ00001号が自主的に申し出た。

「あ、そうだ」

何かを思い出した様に垣根が手を止める。

「どうしたの?」

ミサカの拭いた皿を受け取りながら芳川が聞き返す。
196 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/04(日) 07:57:37.42 ID:ex9AI0hxo

「芳川、お前もここに一緒に住めよ」

「んー、嬉しい申し出だけど今は遠慮するわ」

当然二つ返事で了承すると思っていた垣根と、二人の会話を盗み聞く様に聞いていた一方通行は過剰な驚きをみせた。

「な、なんでだよお前今あの研究所に住んでんだろ?あそこよりマシじゃねぇか?」

「あ、あァそォだよ。仕事の心配なら俺垣根と同じ部屋でいいしお前に二部屋やるから一個仕事部屋にすればいいだろ?」

芳川に関する事になると、二人は子供の様なわがままを言ってしまう。
それほどまで二人は理由は違えど芳川と一緒にいたいのだ。

「今は、って言ったでしょ?全部解決したらお邪魔するわ……全く子供みたいなわがまま言わない!」

ピシャリと言いつける。

二人は嬉しそうにごめん、とだけいい片方は作業もう片方は休憩へ戻った。
197 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:59:00.83 ID:ex9AI0hxo
~~~

皿を洗い終え一方通行とミサカ00002号のいる部屋へ三人が戻ると、炎天下の中にずっといたミサカは疲れたのか眠りこけていた。

「ミサカちゃん、タオルでも――」

言われる前にミサカはタオルケットを用意しており、垣根にわかっていますよという様に笑いかける。

「……姉妹、だもんな」

垣根も笑った。

一方通行は缶コーヒーを飲みながら芳川と話をしている。

「……今は何をやってンだ?」

「そうね、まぁ、万が一への対策?」

「想定し得る最悪の万が一ってのはなンだ?」

疲れているのが見てわかる芳川を一方通行は一方通行なりに心配しているのだ。
198 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 07:59:54.91 ID:ex9AI0hxo
「上条君との戦闘の時にその万が一が頭によぎると動きが鈍るから教えてあげない」

意地悪く笑う。

「チッ……あまり一人で抱え込むなよ」

だが、一方通行は知っている。
芳川がどれほど優しいかを。
この意地悪にも自分を気遣ったただの意地悪ではないことを。

「ありがとう」

はにかみながら芳川は一方通行の不器用な優しさに嬉しさと照れ臭さを交えた感謝をする。

そんな二人をみて、垣根は満足そうに笑う。

――芳川、どうかそのバカに『愛さなければ愛されない』って事を教えてやってくれ。そんなバカでも俺が唯一本気で喧嘩できる友達なんだ。
199 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:01:04.76 ID:ex9AI0hxo
~~~

ミサカ00001号が目を覚ますと外はもうすでに赤かった。

「あ、あれ?ミサカ寝ちゃってたのか….…みんなは?というか一方通行は?」

客間には誰もいない。
一日家にいることになっている一方通行もいない。

「……どっかいったのかな?書き置きとか……ないか」

いつも食事をするテーブルの上に何かメッセージが無いかと思いみてみるがテーブルの上には埃ひとつ乗っかっていなかった。

「みんな、ミサカ置いてどっかいっちゃったの……?」

急に心細くなり、御坂美琴にもらったバッヂを握りしめる。

そのまま、ぼんやり立っていると左手のドアが突然開き、体を強張らせる。

「お、起きたか。ミサカちゃんなら芳川と研究所行ったぜ」

出て来たのはその部屋の主である垣根。
それに続き一方通行も出てくる。

「……怖い夢でもみたのかァ?」

涙目になっているミサカにすぐさま気づき、起こってる様な口調を投げかけてくる。

「べ、別に泣いてないですよ!なんでもないったらない!」

プイと顔を背ける。
200 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:02:27.38 ID:ex9AI0hxo
「よし、じゃあオヤツ食おうぜ!さっき買ってきたんだ」

「こいつ湿布買いに行ってケーキ買ってきやがったンだぜ、信じらンねェよな」

垣根も一方通行も深く追求してくることはなく、それぞれ冷蔵庫と食器棚に向かう。

「……ミ、ミサカもなんか手伝う」

垣根のわかりやすい優しさと一方通行のわかりにくい優しさ。
ミサカ00002号はその二つを大事に胸にしまう。

「じゃあコーヒー、缶だけだと飽きると思ってちゃんと豆から揃えて買ってきたから淹れてみてくれ!」

「ちょ、いきなりハードル高すぎない?」

「冗談だよ、そこに使い切りのあるだろ?それ三つ作って、お湯いれるだけだから」

「わかった」

三人で準備し、三人同時に椅子につく。

椅子についた瞬間ミサカが思い出した様に声をあげた。

「芳川博士と00001号には?」

「差し入れて来たからあんしんしろ」

それを聞いてホッとしたようだ。

ご飯を食べる時と同じ様に同時にいただきますをして、スイーツに舌鼓を打った。
201 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:04:16.22 ID:ex9AI0hxo
~~~

夜。三人でデザートを食べた後、今日の目標を二つとも午前のうちに達成してしまったミサカは一方通行と垣根と共に家で過ごした。

芳川と00001号を交えて晩御飯を食べると、風呂に入ってそのままソファで眠ってしまった。

「布団敷いてくるわ」

「いや、俺がやるからお前はそろそろミサカ迎え行ってやれ」

電話がもうくるぞ、と予言する様に一方通行は和室に向かう。

そして一方通行が部屋から出た瞬間、真っ白の携帯電話が着信を告げた。

電話を取り、了解とだけ言って切る。

和室で布団を敷く一方通行にいってくるわ、と挨拶し、ミサカ00001号の待つ研究所へと飛び立った。
202 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:04:59.68 ID:ex9AI0hxo
~~~

「ギリギリって所かしらね、正直不安要素しかないわ」

芳川は困った様に言う。

「そう、ですか。とミサカは芳川博士に迷惑をかけていることを心苦しく思います」

ミサカも同様に困った様に言った。

「バカね、迷惑なんてかけられちゃいないわよ。まぁ、今あなたは帝督と仲良いみたいだし、これからが勝負よ。いろんな意味でね?」

芳川が冗談っぽく笑うと、ミサカは顔を赤くし芳川に反論した。

「だから、別にそういうあれじゃありませんっ。とミサカは断固主張します」

「はいはい、分かったわ。……ほら、お迎え来たわよ」
203 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:06:19.76 ID:ex9AI0hxo
二人が話していると、なんの話してるんだ?と垣根が部屋に入って来た。

「ただの女同士の内緒話よ」

芳川はミサカを見てニヤニヤとしている。
ミサカは聞かれてはいないかとヒヤヒヤしていた。

「まぁ、いいや。あ、これ夜食だから良かったら食ってくれ」

垣根はあまり興味がないのかあっさり引いた。

「あら、ありがとう。帝督が作ったの?」

「ん?あぁ、おにぎり握ったのは一方通行で味噌汁作って魔法瓶に詰めたのは俺」

「ありがたくいただくわ」

芳川は心から嬉しそうにそう言った。
204 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:07:13.87 ID:ex9AI0hxo
~~~

ミサカを抱え三度目の飛行。
ミサカは相変わらず大人しくしている。

――女の子って柔らかくて華奢だな

落とさない様にしっかり抱きしめ垣根は空を飛ぶ。

ミサカの温かさが心地よく、すぐ帰るはもったいなく感じ、すこし寄り道したくなった。

「ちょいと寄り道していいか?見せたいものがあるんだ」

「はい、構いませんよ。とミサカは即答します」

「サンキュー」

言いながら方向転換する。
205 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:08:27.14 ID:ex9AI0hxo
降り立った場所は小高い丘の様なところ。

そこは街の光もそんななく、星が綺麗に見える場所であった。

「綺麗だろ?ミサカちゃんに見せたくなったんだ……」

「すっごいですね。とミサカは声を失います」

垣根はミサカを降ろそうとせず、ミサカも降りようとしなかった。

二人は無言で空を見つめる。

垣根は今の幸せの終わりを疑いはじめる。
一方通行がいて、芳川がいて、ミサカがいて……そんな幸せの中に自分がいていいのか?
愛される資格などない自分がいていいのか?
大事なものが増えるたびに、垣根の『愛される資格はあるか?』という問いは『愛される資格などない』と言う決めつけに変わっていく。

まるで一人暗い中に取り残されている様に感じていた。
206 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:09:47.31 ID:ex9AI0hxo
「垣根さん、ありがとうございます。とミサカはお礼を言います」

無言を打ち破る様にミサカが口を開く。

「ミサカはあなたにとても感謝しています。もちろん一方通行や芳川博士にもですが……ミサカ達が今生きてられるのはあなた達が本当の強さを持っていたからです」

ミサカは垣根の腕から降りると、垣根と向き合う。

「自ら迎え役を買って出てくれて、嫌な顔一つせずにミサカを抱えて飛んでくれる。そしてこんな景色をも見せてくれる。ミサカはとても幸せです。と今の気持ちを吐露します」

垣根は考えるのをやめた。

――今夜くらい、この綺麗な星空に夢を描いてもいいよな……。

そして、笑った。
ミサカもつられて笑う。

二人は夜空に夢を描き、その夢に繋がる扉を開く鍵をこれから探しにいくのだ。

「ミサカちゃん、こちらこそありがとうな」

言いながら垣根は飛び立つ。

その胸にしっかりとミサカを抱きしめて……。
207 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:10:51.59 ID:ex9AI0hxo
~~~

夜風に吹かれながら一方通行はウイスキーを一杯煽る。

――最近はわからねェ事ばかりだ。

一方通行は垣根が味噌汁を作りはじめた時何事かと思った。

理由を聞くと『ミサカちゃん迎えにいくついでに芳川に夜食持っててやるんだ』と答えた。

――なンで俺はそれにたいしてこう……なンつーかざらついた気持ちを感じてンだ?

もう一杯、ウイスキーを飲み干す。

――なンだ?なンだよ?なンなンですかァ?このイライラする様なさみしい様な気分はよォ……。
208 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:11:24.93 ID:ex9AI0hxo
「おう、風呂あいたぜ」

顔に新しい湿布を貼った垣根がベランダのドアを開け、出てきた。

「お疲れさン。お前も飲むか?」

もともとグラスは二つ用意していた。

「おう、いただくぜ」

なみなみ注ぐと、一気に半分くらい飲み干す。

「お前酒強いのか?」

「いや、そうでもない。多分これあと四回繰り返したら死ぬ」

「……そォか」

「お前は?」

「身体ン中にあるものなら大抵なンでも分解出来っからな」

垣根は相変わらず便利な能力だなと笑い飛ばす。

二人は無言で風の音を聞いている。
気まずさなど感じずむしろ心地よさを感じる無言。
209 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/04(日) 08:15:23.93 ID:ex9AI0hxo
その静寂を一方通行が崩す。

「その頬、俺のためだろ?」

その目は全てわかっていると思わせる色があった。

「……お前だけ殴られて、それをみてるだけなんてムカつくからな」

垣根も否定したりはしない。

垣根は能力が無くとも強い。
命のやり取りを問われる実験の中で、一人も殺すことなく生き残ったのだ。
喧嘩慣れしているレベルの上条の拳などあくびをしながらでも避けられる。
垣根が殴られた理由、それは子供っぽい意地を張った結果だ。

「なァににムカつくンだよ」

「上条にだよ……この世でお前をぶん殴れるやつは俺だけでいたいんだよ」

垣根は残ったウイスキーを一気に飲み込む。

「殴られるわけじゃねェよ、殴らせてやるだけだ」

「……おう」

垣根はこの世で一方通行が唯一強いと認める男は垣根帝督だけでありたかった。
そして、自分が唯一勝てるかわからない男は一方通行だけであって欲しかった。

二人はどちらからともなく部屋に帰り、眠りについた。

一人は星の海に描いた夢を見るために。

もう一人は考えるのを一時辞めるために。

静かな夜が五人の上を通り過ぎて行く。 
 
 
219 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/05(月) 00:07:14.41 ID:8La7/OCFo
~~~

「おはよーう」

二日酔いでガンガン痛む頭を抑えながら垣根は三人に挨拶をする。

「おはようございます。とミサカは挨拶します」

「おっはよー、ってミサカも挨拶するよ」

「……ノーメイクでホラー映画出れそうだな」

三者三様の返事が返ってくる。

「ノーメイクでホラーって……そんな腫れてるか?怖くてまだ鏡みてねーんだが」

「そうですね、あり得ないくらい腫れてますよ。とミサカは心配します」

「ベクトル操作でなんとか何ないの?みてて痛々しいから治してあげたら?」

「いや、それには及ばなねぇよ。近いうちに一方通行にもこうなってもらうからな」

笑いながら垣根は言う。
220 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/05(月) 00:08:15.52 ID:8La7/OCFo
「今日はミサカは上条さんとお姉さまと同時にエンカウントしなきゃいけないのか」

自信なさげなミサカ00002号を、00001号が励ます。

「今日は私もそっちに回りますから、二人で手分けしてそれぞれ遭遇したあと何処かで落ち合いましょう。強く念じれば多分落ち合う場所は確認出来ます。とミサカは根拠はないがそんな気がすることを伝えます」

二人は喋りながらも手を止めない。
昨晩垣根の作った味噌汁がまだ余っているため、本日の朝食は和風だ。

ご飯の用意が整うと四人揃っていただきます。を言う。

食事中は一番食べるのが遅いミサカ00001号にあわせたペースで食べる。

そして四人揃ってごちそうさま。をしたら垣根と一方通行は食器の片付けを行う。

まだ二日目だというのに何年もそうして来た様に、四人の生活の歯車は噛み合っていた。

「今日は俺らはやることないな」

ミサカ達が出てった後、垣根と一方通行は洗濯物を片付けのんびりと過ごしていた。

「いやぁ、でもお前と再会して五日?六日か?まぁ、約一週間でよくここまで状況が変わったよな」

たかだか一週間だが、この一週間は濃かった。
一人ぼっちの十年間を取り戻す様に二人は様々な動きを見せた。
221 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/05(月) 00:09:13.92 ID:8La7/OCFo
「そォだな……あンがとよ」

一方通行は唐突に垣根に礼を言った。

「おいおい、何だよ突然」

自然と笑顔がこぼれる。

「お前が電話して来てくンなきゃ俺はまだ一人ぼっちだった。お前が芳川と連絡取ろうと提案しなきゃ俺は……こんなに楽しい時間を過ごすことは一生なかったと思う」

「よせよ、そんなの俺だって同じだ。お前が実験即決する様なやつだったらずっと一人だったろうし、俺も道を踏み外していたと思うぜ」

「俺らが今笑えンのはやっぱ芳川のおかけだな」

芳川、とその名前を口にする時の一方通行はとても優しい顔をする。

「ここ数日は心が蘇って行くようだったな。お前と再会して心を覆ってた氷が溶けた」

「芳川と再会して、あったかさが戻ったな」

「だな、ミサカちゃんと出会って」

――優しさを思い出した。

二人はまるで遠い昔の事を話す様にここ一週間の出来事を話した。
222 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:11:07.48 ID:8La7/OCFo
~~~

「そういえばさ、双子ちゃんパワー知ってるか?」

一週間の事を大抵話し尽くすと垣根が思い出した様に言った。

「双子パワー?」

「なーんかよくわかんねーけどあいつらテレパシーみたいの使えるみたいなんだ」

一方通行は疑る目つきで垣根を見る。

「マジだって!」

一方通行と垣根はミサカネットワークという計画があったのをまだ知らない。
だから垣根は双子の不思議パワー、一方通行は垣根の大げさに盛った話だとその時は思っていた。

「双子パワーは置いてといてよ……上条と戦う時って全治2~3週間程度の怪我負わしていいのか?」

「いや、流石に可哀想だろ……せめて一日入院する程度に全力で上条の前後、左右に攻撃する感じにしてやれよ」

「……了解だ」

それでも十分死ねるだろ。
一方通行は心の中で垣根の判断基準に疑問を投げかける。
223 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:11:56.68 ID:8La7/OCFo
話しながら飲んだ何本目かのコーヒーを一気に飲み干すとそのまま立ち上がった。

「芳川ンとこ行ってくる」

芳川のところへ行く旨を伝えると、昼ご飯の買い物をついでにしてこいと言われる。

「ンじゃ、行ってくらァ」

玄関を出ると、そのまま大きなジャンプを繰り返し、芳川の研究所まで跳んでいった。
224 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:12:36.58 ID:8La7/OCFo
~~~

御坂美琴は困っていた。
一方通行に決闘を申し込み、計画通り自分が死ねばきっと妹達は救える。
そう信じ、昨日00002号と別れたあと一方通行の情報を集めていたのだが、所在がわからない。

書庫をハッキングして得た一方通行の住所には誰もおらず、目立つ外見を当てに目撃情報などを集めてみても学園都市の様々なコンビニでコーヒーを買い占めているというものしか出てこなかった。

――どうしよう、どうしよう……はやくしないと……。

気持ちばかりが焦る。

そこで御坂は気づく。

「あれ?妹達は今二人しかいないって言ってたわよね……?」

――これならいける……!

御坂は部屋を飛び出した。
225 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:13:09.31 ID:8La7/OCFo
~~~

「おや、今日もサボりですか?とミサカは不良学生に声をかけます」

上条当麻は初めてミサカと出会った自販機近くのベンチに座っていた。

「……正直わけわかんねーんだよ」

ミサカの質問を完全に無視して、語り出す。

「垣根は実験の事を全部知ってるみたいだった。その上でなにか嘘をついている」

上条は手を組み考えこむように地面の一点を見つめる。

「一方通行や垣根と初めて会った日さ、あいつら大喧嘩してさ……過去に何かあったみたいなんだ」

二人の苦しそうな表情と、その後のスッキリした表情を思い出す様に上条は言う。

「俺さ、昨日垣根と話した後考えたんだ。あの二人はなんで喧嘩したのかってさ……そんで二人は今回の実験のことで喧嘩したんじゃないか?って思ったんだ」

――大当たりだよ。多分それ、二人の過去は何となくしか知らないけどさ……。
226 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:14:00.15 ID:8La7/OCFo
「あの時、一方通行は本気で失望してたし、本気で怒ってた。垣根は人の話は最後まで聞けって怒鳴ってた。多分、なにか勘違いがあったんだ」

――なるほど、垣根さんが実験を受けたと思った一方通行が激怒……こんなところかな?

「今回の実験のことについてじゃないかもしれない、でも一方通行は決して自分の為に怒ってる様には見えなかった」

ミサカは上条の推測を聞きながら、心の中に温かいものが溢れてくるのを感じていた。

――あの二人は、ミサカと出会う前からこんなにミサカ達の事を大切にしてくれていたんだ……。

「俺には……人の為に研究所ぶっ壊す勢いで怒れる奴が、こんな……こんな酷い実験承諾するとはどうしても思えないんだ……」

「ですが、一方通行は実験に積極的ですよ?とミサカは口を挟みます」

「お前ら、何か大掛かりな舞台を演じてないか?」

「いません。とミサカは即答します」

上条はどうしても腑に落ちなかった。
あの二人が人を殺す事を良しとするような人間には見えなかったのだ。
227 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:15:09.63 ID:8La7/OCFo
~~~

「芳川……って寝てンのか……」

芳川はデスクに上半身を預け、居眠りしていた。

「何をやってるか知らねェし、オマエが俺に話していいと判断してくれるまで探ることもしねェがよ、体壊すような無理だけはしねェでくれよ?」

近くにあったタオルケットを肩にかけてやり、冷房の温度を少しあげる。

掃除上手の芳川には珍しく、部屋全体がごちゃごちゃしている。

それらをなるべく音をたてない様に簡単に片付ける。

「あ、懐かしいな」

本棚の中の一冊の本を手に取る。

「確か、俺と垣根で小遣いだしあって芳川の誕生日に作ったんだったな……」
228 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:15:40.24 ID:8La7/OCFo
二人が芳川と一緒にいた期間はそれほど長くない。
一方通行と垣根は二歳の時に同じ研究所に放り込まれ、七歳までの五年間同じところにいた。
二人が五歳になったばかりの時、芳川は彼らの研究室に来た。
だから、一緒に過ごしたのは二年ぽっちだ。

二人は芳川とすぐに仲良くなったわけではない。
半年ほどは芳川とどの様に接していいのかわからず、おどおどとしていた。

それでも、優しく笑いかけて来てくれる芳川と、二人は仲良くなりたいと心から思った。

それで渡したのが、この本だ。

内容は二人の少年が、初めて優しくしてくれた女の人と仲良くなるために奔走するという、ものだ。

これを渡した次の日、芳川は嬉しそうに研究所へくると二人を抱きしめた。

――懐かしいな……。

今でも覚えている、芳川の温かさと匂いを。

「ん……んう….…あれ?何してんの?」

思い出に浸っていると、芳川が目を覚ました。

「ン、なンでもねェよ……コーヒー淹れてやる」

本をそっと戻し、コーヒーを淹れはじめる。
229 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:16:12.04 ID:8La7/OCFo
「昼ごはンの買い物」

「え?」

丁寧にコーヒーを淹れながら一方通行はつぶやく様に言う。

「だから、昼ご飯の買い物」

「……一緒に行こうってこと?」

小さく頷く。

「当たり前じゃない……どうしちゃったの子供みたいよ?」

芳川は笑う。

一方通行は不安になったのだ。
芳川の温かさ、優しさ、それがまた失われる事を、自分から離れて行ってしまう事を……。
子供の様に甘えてしまうのは、子供だったら芳川はそばにいてくれると、無意識に思っているからである。

青年は少年へと変わり、守りたいと思ったものに守られている。

それがまた、一方通行の心を締めつける。
230 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:17:29.15 ID:8La7/OCFo
~~~

ミサカ00002号は上条との会話を垣根に報告し終えると、冷蔵庫から炭酸ジュースを取り出した。

「あれ?お金渡したよな?途中でなんも飲まなかったの?」

「節約だよ節約、レベル5は金銭感覚おかしいらしいからさ。我慢出来るレベルだったしね」

「……そりゃご立派な事で……でも夏は我慢せず水分とれ、倒れたら大変だ」

垣根はミサカに嫌味を言われ様ともミサカの身体の事を考えていてくれる。
上条の話の中で感じた暖かい気持ちがまた溢れ出す。

「……ありがと」

それが嬉しくてミサカは小さな声で、感謝の意を表す。

「当たり前の事だ……ところでミサカちゃんは今どの辺にいるんだ?」

垣根はどんな小さな声でもミサカ達の声はすべて拾う。
それがまたミサカを喜ばせた。

「朝家を出てそのまま別れたからわかんない」

「そうか、そろそろ昼ご飯の材料買った一方通行と芳川ももどっくるし呼び戻すか」

垣根は携帯電話を取り出しミサカ00001号へ発信した。
231 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:17:55.28 ID:8La7/OCFo
~~~

芳川が一方通行と買い物を終え垣根達の家にくると、なにやら慌ただしい雰囲気であった。

「やってくれるじゃねぇか御坂美琴」

御坂美琴という名前に一方通行が反応し、スーパーの袋を芳川に預けると垣根の元へ歩み寄る。
一方通行が口を開こうとするとそれを手で静止し、電話をスピーカーモードへ切り替える。

『なんで、垣根さんからこの子へ電話がかかってくるのかはわからないけど、丁度いいわ……一方通行を出しなさい』

「それは出来ねぇ相談だな……俺はミサカちゃんに用事があるんだ、そっちこそミサカちゃんを出せよ」

『この子は私が守る。昨日の子も、妹達は全員私が救う……アンタ達の好きにはさせないッ!』

「いい事を教えてやるよ美琴ちゃ――」

『お前が呼んでいいほど私の名前は軽くないッ!』

突き刺す様に怒鳴る。
232 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:19:46.72 ID:8La7/OCFo
「チッ……生意気な……いい事を教えてやるよ『第三位』ミサカちゃんは定期的に調整をしないと生きられない身体だ。つべこべ言わずに返せ」

『そんなの学園都市中の医者に頭下げて自分で解決するわよ』

「あー、そうしてくれその方がミサカちゃんを回収しやすいしな」

それは御坂にとっても非常に避けたい事態だ。

『くっ……一方通行に伝えて、明日、午後六時、第十六学区の操車場で待つ。……来たらちゃんとにそっちに返すわ』

一方的にそういい、電話を切った。
233 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:22:31.44 ID:8La7/OCFo
~~~

「お姉さま、これはどういう状況でしょうか?とミサカは説明を求めます」

ミサカ00001号は頑張っていた。
半強制的に御坂の利用するホテルのツインルームの一室に連れ込まれたかと思えば、ドアの前に仁王立ち。
そしてミサカの質問は無視して一言。

「バッヂ気に入ってくれた?ちょろっとここで大人しくしててね」

臆病な00001号だ。
いくら大好きなお姉さまとはいえ、泣いていてもおかしくはない。

だが、必死に冷静を装い『感情のないミサカ』を演じた。

ミサカ00002号や垣根や一方通行、芳川の頑張りを無駄にしない様に。
234 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:23:14.52 ID:8La7/OCFo
~~~

「まぁ、ミサカちゃんは平気だろ、美琴ちゃんはお前らを大切に思っているし」

垣根は電話を机の上に起きながらケロリと言った。

「……まァ、そうだな。問題はミサカの方だろ、パニクって泣いてンじゃねェか?」

「ちょっと、そんなミサカ00001号が悪い言い方やめてよ。あのミサカは強い子だよ」

「そうね、とりあえずご飯食べてから考えない?御坂さんがミサカちゃん達に危害を加えるなんてありえないし、ミサカちゃんが泣いちゃってって感情消されたとか嘘でしたーって知られた時の振る舞いを決めましょ」

四人は全く慌ててはいなかった。
00001号は少し怖い思いをしているだろうが、そんなの不安は御坂がすぐに取除くだろうと確信があった。

芳川はエプロンを身につけ、垣根に手伝いを頼んだ。
235 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:24:05.70 ID:8La7/OCFo
~~~

「一番の問題はこのままだと上条抜きで御坂VS俺になるってところだな」

残された二人は狂った計画をどうするか考えている。

「そうですねぇ……上条当麻は昨日垣根さんと話をした事によってミサカたちに疑惑を持ちはじめてます。一旦その冷静さをぶち壊して一方通行への怒りを爆発させるのはどうでしょうか?」

昨日今日と、実際に上条と話して思った事から提案をする。

「冷静さを壊す……かァ」

「例えば実際実験やってるとこに迷わせるとかどう?」

「……なァるほど、お前意外と性格悪りィな」

一方通行は心底楽しそうに笑った。
236 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:25:19.86 ID:8La7/OCFo
~~~
夕方、ミサカは上条を発見し、声をかける。

「おや、今日はよく会いますね。とミサカは上条当麻に声をかけます」

上条は街中をフラフラ歩き回っていた。

「ん、あぁ、なんか……な」

「……すみません、ミサカから声をかけて置いてなんですが。用事が出来ました」

ミサカはくるりと向きを変えて路地裏の方へ歩いて行く。

「あ、おい、あんまそっち行くとあぶねーぞ」

上条もついてくる。

――計画通りです。

できるだけ複雑な道順を通り途中一旦上条を撒く。

そして、目的地においてある麻袋を担ぐ。

「ったく、待てっていって……ん……だろ?」

まず感じたのは異様さ。
そして不快な臭い。

「な、なんだここ……」

そして上条はあるものを発見する。

「そ、その靴……お前らと同じ……まさかっ!」

「はい、ここは本日の実験現場です。とミサカはここに死体回収に来た事を暴露します」

よく見ると周りの壁には血痕。
地面にも大きな血の跡があるのを見つける。

上条は死を間近に感じ、恐怖する。

体の震えが止まらず、膝をつく。

そんな上条を笑うかの様に、一人の男が現れる。

「おいおい、一般人をこんなところまで連れて来るンじゃあねェよ」

横の道から現れた男はミサカを睨みつける。

「な、なんで……こんな……」

「理由?ンなもン暇だからに決まってンだろォが……てめェもプチっとぶち殺してやろうかァ?ヒャハハハ――――」

人を殺す事をただの娯楽と笑う。

「……ふン、俺は先に帰る、てめェはさっさとそのゴミ処理してこい」

上条が反応をしないと分かると、つまらなそうにミサカに指示して去って行った。

その一方通行を見つめる目つきは激しい怒りで満ちている。
237 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:25:56.21 ID:8La7/OCFo
~~~

「あの、これはどういう状況でしょう?とミサカは無駄だとわかりつつ訪ねてみます」

御坂は電話を終えると、ミサカになにを食べたいか聞いて来た。

何でもいいと答えるとパスタがしばらくして、運ばれてきた。

それを二人で食べて、午後は御坂が喋り、ミサカがそれに対し適当に相槌、反応をしめしていた。

そろそろ暗くなるという時間になると御坂は一緒にお風呂に入ろうと提案した。

そして、二人は今仲良くバスタブに浸かっている。

「何って『姉妹仲良くお風呂に入る』の図よ。私妹出来たら一緒にお風呂はいって洗いっことかしたかったのよ」

気持ち良さげに顔を緩めている。
その頬をつつくとくすぐったそうに微笑む。
238 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:26:31.59 ID:8La7/OCFo
~~~

「なんかミサカ上条当麻が可哀想になってきたよ……」

芳川の車の中で一方通行とミサカが先ほどの件の出来について言葉を交わす。

「まァ、大成功だな」

二人は昼食を食べながら垣根と芳川にこの作戦を話した。
二人とも一言『鬼かお前らは』と言った。

その内容とは、実験が終わった現場を作り出し、そこにミサカ位の大きさの物が入った麻袋をミサカが担ぐ。
そこで、死体処理と言えば、相手は勝手に袋の中を死体だと勘違いしてくれる。

そこにその死体を作った本人一方通行を登場させることにより、上条が一方通行をはっきり敵と認識させるというものであった。

二人の作戦は成功、あとは明日御坂に呼び出された場所にどうやって上条も呼び寄せるかという事である。
239 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/05(月) 00:27:01.97 ID:8La7/OCFo
~~~

「これはいったいどういう状況ですか?とミサカは三度訪ねます」

二人は風呂を出るとバスローブを着た。
そしてミサカがベッドに入るとそのまま御坂もそのベッドに潜り込んで来たのだ。

「お願い。これが最初で最後でいいから今日は一緒に寝よ……」

御坂は風呂の時の様にふざけてではなく、思い詰める様に喉から声を絞り出す。

そして、ぎゅっと強くミサカの腕にしがみつく。

ミサカも優しく抱きしめ返し、二人は抱き合いながら眠った。

つかの間の姉妹の時間を体に刻み込む様に御坂は強く抱きしめる。

――私は明日、死ぬんだ。

死をゆっくり受け入れる、大丈夫、怖くないと言い聞かせる。

御坂は隣に感じる温かさに安らぎを感じ、眠りに落ちた。


260 :この辺のこいつらの会話まじで自分でも変じゃね?と思う ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:04:59.49 ID:Sklfe6xNo
~~~

「で、どォすンだよ」

四人は食卓に座りながら、上条を御坂との約束の場所へどうやって連れてくるかを考えていた。

「んー、美琴ちゃんはまだあそこのホテルにいんだよな?だったら……」

「だったら?」

「いや、スマンなんも思いつかねぇ」

垣根は頭をテーブルにつける。

「適当な事言わないでよ」

唇を尖らせミサカが垣根を軽く睨む。

「ミサカちゃんのファインプレーに期待してみない?」

焦る三人とは裏腹に落ち着いていた。
261 :この辺のこいつらの会話まじで自分でも変じゃね?と思う ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:05:49.42 ID:Sklfe6xNo
「ミサカちゃんだってなんとかしようとするはずでしょ?元々の作戦だって知ってるわけだし、今こうやって話し合ってるのを見越してどうにかしてもらおうなんて、丸投げしてくる子じゃないでしょ?」

コーヒーを一口飲む。

「それにミサカちゃんは今御坂美琴さんと一緒にいるのよ?情報はミサカちゃんが一番持ってる」

「ハッ、確かにそうだなァ……ンじゃあ俺らは俺らなりに上条に小技かけとくか……」

一方通行は席を立つ。

「だな!大技はミサカちゃんに決めてもらおう」

垣根も席を立った。

「じゃあミサカは早速上条当麻に接触してくるよ」

ミサカも元気良く立ち上がる。

「私も研究に戻るわ、偉そうな事言っといてあなた達に丸投げしてしまう形で申し訳ないけど……」

心苦しそうにうつむく。
そんな芳川の肩に一方通行は優しく手を置く。
262 :この辺のこいつらの会話まじで自分でも変じゃね?と思う ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:06:59.51 ID:Sklfe6xNo
「万が一への対策はお前に丸投げ状態なンだから気にすンな……お前の出来ねェ事は俺がやる、俺の出来ねェ事はお前がやってくれ」

「『俺』じゃなくて――」

「――『俺ら』でしょ!」

一方通行の言葉に垣根とミサカが不満そうに手をあげながら言った。

芳川は笑顔になる。
その視線の先にいるのは、二人にぶつくさ文句を言われながらからかわれている真っ白な少年だ。

「ふふっ、みんなありがとう……絶対にこの実験凍結させるわよ!」

三人は力強く頷く。
五人はやっと、凍結への大きな一歩を踏み出した。
263 :正直、このシーン入れればそれで満足だった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:08:46.40 ID:Sklfe6xNo
~~~

「オリジナルと00001号が一緒にいるだとぉ?」

芳川がかつていた研究所。
その研究所の地下で妹達は生まれた。
そして今も、約三百人の妹達が生まれようとしている。

単価十八万円。
たった一月で十四歳相当の肉体レベルまで成長する造られた人間。

「なんでオリジナルが実験の事を知って……芳川か?……チッ実験は必ずどんな手を使っても始めてやる……」

紙コップに入ったコーヒーを飲み干すとそのまま潰して放り投げる。

「くっく……こいつがいれば00001号も00002号も言うことを聞かざるをえなくなるからなぁあ……」

下卑た笑みを浮かべた。
研究員が見つめる調整槽には『最終信号』と書かれている……。
264 :正直、このシーン入れればそれで満足だった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:09:35.70 ID:Sklfe6xNo
~~~

「お姉さま、起きてください。とミサカは抱きつくお姉さまを起こします」

「う……にゃ……まだねるー」

御坂の表情は安心し切ったもので子供らしさで満ちている。
その身に宿る能力とは越えられない壁が存在する絶大な力を持った第一位との戦いも、そしてそのわかり切った、そして最も望ましい結果もその表情からみてはとれない。

「お姉さま、暑いですって。とミサカはお姉さまを引き剥がします」

「ぅうー……」

「まったく、子供ですか。とミサカはお姉さまの体温の高さに驚きます」

――最初は怖かったですが……お姉さまがミサカにひどいことするわけありませんね。さて、これからどうしましょうか。とミサカは考え込みます。

「あったかぁい……」

「……だから抱きつかないでください。あったかいというか暑いです。季節を考えてくださいとミサカは甘えん坊のお姉さまの頭を撫でます」
265 :コピーしきれてなかった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:10:15.10 ID:Sklfe6xNo
――とりあえず、上条当麻に連絡取らせますか。それが手っ取り早いですよねとミサカは垣根さん達が懸念してるであろう事項を解消させてみると意気込みます。……ミサカだって臆病だけど、やればできるんです。
266 :ここもなんかなぁ ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:11:11.04 ID:Sklfe6xNo
~~~

「ミサカ何すればいいんだろ?小技って言っても……ねぇ…?」

勢いよく家を飛び出したのはいいが、何をするか全く考えていなかった。
当てもなく優しい陽射しの下を歩き回る。

――上条当麻はお姉さまに恋してるのかな?なんかやけに『美琴に連絡がつかない』って必死だったけど……。

二人が一緒にいるところをみれば、それが逆だと気づくだろう。

――もしそうならお姉さまも上条当麻を好きだといいな……。上条当麻は頭悪そうだけどお姉さま大事にしてくれそうだ。

木漏れ日の中をてくてくと歩く。
その身に降りかかるぬくもりは二人の少年を思い出させる。
一人はぶっきらぼうで言葉もキツイが、ふと気づくと優しい瞳で異世界のものを見守る様にみんな見ている。
もう一人は明るく元気だ、でもたまに一瞬傷ついた様な悲しい色を瞳に浮かべ、自分に言い聞かせる様に視線を下に落とす。

――あの二人も恋をしてるのかな?もしそうならミサカは嬉しいな、二人が恋してる人が、悲しいことや辛いことを一つでも多くあの人達から取り除いてくらたら……嬉しいな。

太陽が笑うように、あの人達に笑って欲しいと願った。
あの人達の笑顔は月の様に静かだ。
誰かが笑っていないと笑えない。
自分のために笑うことはない。
267 :ここもなんかなぁ ◆hZ/DqVYZ7nkr [sag]:2011/12/07(水) 00:11:56.63 ID:Sklfe6xNo
~~~

「お姉さまさぁ起きろ、やれ起きろ」

「ごはんー?」

御坂はまだ寝ぼけているようだ。
目をこすりながらベッドの上に座っている。

「はい、これで目を覚ましてください。とミサカは備え付けのキッチンで作ったお味噌汁を差し出します」

うけとり、一口飲む。

「……美味しい。私より……料理うまいんじゃない?」

「やっと目が覚めた様ですね。とミサカはお姉さまの寝坊助っぷりに呆れます」

「う……しょうがないじゃない、アンタがあったかくて柔らかいから」

拗ねるようにミサカから視線をそらす。

「可愛いですねお姉さまは……。なんだか00002号の気持ちがわかりました」

00001号は御坂に聞こえぬようつぶやく。
268 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:12:49.70 ID:Sklfe6xNo
~~~

それは二日目の夜、ミサカが芳川の研究所がら帰ってきた時のこと。
00001号が垣根と家に帰ってきた時、すでに寝息をたてていたミサカ00002号だが00001号が部屋へはいると目を覚ました。

――あ、おかえり、先、寝させてもらってるよ……。

――ええ、構いませんよ。今日はお疲れ様でした。とミサカはミサカ00002号を労います。

ミサカ00002号はまくらをだくようにうつ伏せになり、顔をあげた。

――うん、ありがと。……なんかお姉さまに会って初めて思ったんだけどさ、ミサカ達かなりお姉さまにひどいことしてるよね……。

――そう……なのでしょうか?とミサカはよくわかりません。

妹達はまだ生まれて一ヶ月である。
そして彼女たちを人間として、扱ったのは御坂を除けば芳川、一方通行、垣根だ。
その三人もそれぞれ到底普通とは言えない過去を背負い、人間付き合いなど皆無だ。

そんな彼らとしか接していないミサカ達にとって敬愛してるとは言え、まだその存在を直に感じた事のない人への配慮をしろと言うのも無理な話である。
さらに、失敗は死を意味している。
もし、例えばこれが命に関わらず、失敗したとしても笑い話にできるような案件であれば本来優しい二人である、心に余裕も生まれ御坂美琴・上条当麻という人間を想像し自分の中にイメージを作り、虚像ではあるがそれに対して優しさを見せただろう。

だが、ミサカらいや、五人とも今をなんとか生きる事で精一杯なのだ。
269 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:13:35.04 ID:Sklfe6xNo
~~~

芳川は自室でパソコンの画面を見つめながら思う。

――どうして私は御坂美琴さんや上条当麻くんの事を『どうでもいい』としか思えないのかしら。

一方通行と垣根の話を聞く限り、上条当麻は二人の親友となってくれ得る人物だと芳川は思っていた。

――上条くんは二人を高位の能力者と知っていながら『普通』に接したらしいし、そんな帝督を第二位と予測した上で殴りかかった。

上条の行動は異常だった。
二人の喧嘩を見ればいくら能力を消せる右手があろうと嬲り殺されるのはわかるであろう。

だが、上条は退かなかった、垣根帝督から、絶対的な能力を持つ第二位から……。

――私は喜ばなくちゃいけないはずなのに、彼らの理解者が増えるかもしれない事を……なのに、どうして、私は……。

彼女もまたこの街に人生を狂わされている。
270 :このスレの芳川はかなりの天才設定です ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:14:51.60 ID:Sklfe6xNo
~~~

芳川は一方通行、垣根と同じだ。
外の世界で余りに優秀すぎるため周囲の嫉妬により辛い思いをして来た。

芳川が二人を恐れず微笑みを向ける事が出来たのもそのためだ。

二人の子供は自分を対等に扱ってくれた。

初めて研究所に来た時、二人は覚えてなどいないだろうが芳川は二人にジュースをぶっかけられている。
二人は互いにお前が悪いんだろ、と言い合いながら大丈夫?ごめんね、とまるで同年代の子に接するかのような態度を示した。

芳川はそれが嬉しかった。

だから、二人を守ろうと思った。
芳川の中でのファーストプライオリティに二人がきた。

そして次第に懐いてくる二人に母性本能をくすぐられた。
二人の成長を見守りたいと思った。

つまり、芳川の一方通行と垣根に注がれる愛情は感謝からくるものが原点なのだ。

芳川にとって自分、一方通行、垣根の三人以外の将来はどうでも良かった。

いまはそこに二人が守ると決めたミサカも入っている。

何も失くさぬようにと頑張り続けた結果、芳川は自分の知らない自分をみる事になる。

社会から疎外された存在は社会の意とそぐわぬまっすぐさを持ってして育ち、やがて社会を疎外する。
それはその社会に適合させてもらえなかった負け組のレッテルを貼られる事と同意だ。
そして、芳川はそれすら受け入れている。
だからこそ一方通行と垣根には社会的に相応しく、まともなアドバイスを授ける事ができるのだ。

――そっか……。

芳川は理解した。

――今の一方通行達にとって御坂美琴と上条当麻は悩ませるだけの存在だから……あの二人と深く関わると一方通行達は傷つくから……だから、私は彼らを邪魔者だと判断してしまっているのね……。

「……まったく、自己分析も落ち着かないと出来ないなんて……余裕ないわね、本当に……」

言いながらパソコンの電源を落とした。
271 :唯一ぶれないはずのキャラがぶれるともうわけわからんくなる ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:16:05.25 ID:Sklfe6xNo
~~~

二人は一日ずっと話をして過ごした。
そして約束の時間が近づいてきた頃、ミサカは切り出す。

「お姉さまは恋というものをしていますか?とミサカは尋ねます」

ミサカの質問に、一瞬目を細めた。

「さ、さぁねどうかしら……今思えば恋というより憧れだったのかな……?」

一人の男を思い浮かべながら答える。

「第三位であるお姉さまが、憧れ?」

「えぇ、私の電撃効かないのよ、そいつには」

自分の事のように嬉しそうに話す。

「……それはもしや上条当麻ですか?とミサカは勘ぐります」

「……そうよ」

少しだけさみしそうな顔をする。

「彼はお姉さまを心配していましたよ、電話をかけてあげるべきです。とミサカは余計なおせっかいをしてみます」

「……いいのよ、もう」

諦めるようにこぼす。

「……お姉さまのためではありません、上条当麻のために、です」

「アイツの……ため?」

「はい。とミサカは肯定します」

ゆっくり頷く。

「いいの、かな?」

もう一度頷く。

「でも……」

「でももヘチマもありません。人に心配をかけたら謝るものだと、智識として教えられましたが?とミサカは自身の知識をひけらかします」

上条のため。
そう言い聞かせ、御坂は携帯を手にとった。
妹のくれたきっかけが、『上条に何か言われたら決心が鈍るかもしれない』という弱い心を打ち砕いた。

そして、電話をかける。

コール音が数回すると、上条の声が聞こえた。

「ひ、久しぶり」
272 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:16:43.30 ID:Sklfe6xNo
~~~

「おっす」

御坂は上条と約一週間ぶりに会った。

「お前、いままでなにし――」

「大丈夫」

上条の言葉を遮るように言う。

「大丈夫、心配してくれてありがとう。それをいまから止めに行くの」

「……どうやって?」

「心配しなくていいわよ、一方通行の弱点を見つけたから……最強の座から引き摺り下ろすのよ」

「それは、本当か?」

上条は御坂の言葉を信じちゃいなかった。
勝負をしようと言う人間がこんなに穏やかな顔を出来るわけがないと、そう思っていた。

「うん、本当。――賭けてもいいわよ」

御坂はただ笑った。
笑顔以外の表情がすべて消えた、純粋な笑顔を浮かべた。

それをみて上条は悟る。

――こいつ、死ぬつもりだ。

「じゃあ行くね」

御坂は上条に背を向け歩き出す。

「ま、まてよ!」

上条は御坂の肩をつかんだ。
細く、少し力をいれたら砕けてしまうのではないかと思うほど小さかった。
その小さな肩に一体どれほどの覚悟を背負っているか誰にも想像すら出来ない。

「ま、てよ」

「私、予定があるから……」

「一方通行に用があるんだ……今から会いに行くんだろ?俺も、連れてけ」

御坂は無言で上条の手を肩から振り落とす。
そしてそのまま全速力で走り出した。

「待ってくれ!」

上条は追いかけようとすると、それを止めるかのように行く手を遮られた。
273 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:17:14.84 ID:Sklfe6xNo
~~~

「人の事呼び出しといて遅刻とか舐めてンのかァ?」

「……アンタを……殺す」

パチッパチッと御坂の周りで電気が弾ける。

一方通行はコンテナに預けていた重さを自身に戻すとコンテナを思い切り後ろに殴り飛ばす。

その轟音を合図に第一位VS第三位の戦いの火蓋が切って落とされた。

何かを考えるように御坂は目を閉じながらコインを構えると、一方通行は余裕を表情に浮かべながら両手を広げた。

そして、御坂がゆっくりと目を開けながら、自身最大の破壊力を持つ、二つ名にもなっている超電磁砲を全力で放とうとコインを上へ、弾き飛ばす。

しかし、その戦いに水を指すように、一方通行を銃弾が襲った。

銃弾は一方通行に届く事なく、真っ直ぐ撃った者の元へと反射される。

狙撃者はそれを予測していたように、横へ転がりながら避けた。

「一方通行、お姉さまとの戦闘は実験プランに影響が出ます。今すぐ中止してください。とミサカは報告します」

ごついゴーグルをかけた妹達の一人がそこにいた。
服には昨日ミサカが渡したバッヂ。

「はァ……引っ込ンでろ」

大げさにため息をつきながらその赤眼で睨みつける。

「引っ込んでなさい、大丈夫、私が助けてあげるから……それからもう一人の妹も自由の身だから安心して」

御坂は笑っていた。
安心しろ心配はないと、言うように。

ミサカは二人の言葉を無視し、銃を一方通行に向けたまま黙る。

「……オイオイオイィ、そりゃァ、ついでに実験も進めちまって良いってアピールかァ?」

ニヤニヤしながら一方通行は言う。

そして、一方通行は動いた。
御坂が、止めようとした時にはもう遅かった。

一瞬でミサカの所までたどり着き、ミサカの頭を掴むとそのままの速度でコンテナに突っ込む。
御坂が何が起きたのか理解する前に、そこからゆったりと一人で歩いて出てきた。

「さァ、仕切り直そうぜェ?」

まるで何事もなかったかのように御坂の前に立つ。

「う、そ……でしょ?だって、私が……守る……って」

御坂の目に様々な色が渦巻く。
やがて、それは一つに混ざり合う。
その目に浮かぶのは怒り。

「一方……通行ァアアアア!」

咆哮と共に、コインを弾き全力で超電磁砲を放った。
音速の三倍の速度で打ち出されたコインはまっすぐ一方通行に向かって行く。
二人の距離は三十メートルほど、コインが溶け切るまえに一方通行へ御坂美琴の必殺技は届く。
が、当然のように反射され、御坂の必殺技は御坂自身を必殺する脅威となった。

青白く光る閃光を見ながら御坂は潰されたコンテナに向かって微笑んだ。

そして、その光の矢が御坂に届こうとした直前。

「間、に合えぇえええええ」

おたけびと共に、英雄が文字通り飛んできた。
274 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:18:05.65 ID:Sklfe6xNo
~~~

「超電磁砲はこれから一方通行とだーいじなお話があんだよ、邪魔すんな」

上条の行く手を阻んだのは真っ白い翼。

「垣根……邪魔だぁ!」

右手で翼に触れ、消すのと同時に走り出した。
が、直ぐに追いぬかれ、今度は垣根自身が演算をやめ立ちふさがった。

「いっても絶望するだけだぜ?俺は見たくもねぇツラに態々忠告してやってんだよ」

「そりゃどうも、お前の薄っぺらい仮面から出る言葉なんか信じない。俺を行かせたくないならお前の言葉で話せよ」

スピードを落とさずに垣根に向かって走る。

垣根はため息をつくと演算を開始、翼を展開させ上条を襲う。

それをなんとか避け、避けきれないものは右手で消す。

「チッ……クソ、その翼似合ってねーぞ!」

避けても消してもしつこくまとわりつく翼にイラつきながら、悪態をつく。

「ははっ!安心しろ、自覚はある」

対する垣根は楽しそうだ。

二人の距離が縮んだら上条はスピードをあげる、そしてジャンプし垣根の頭に右手を押し付ける。

翼が全て消え、垣根は頭を押された勢いでこける。
それを尻目に一気に走り抜ける。
今度は垣根が追ってくる様子はない。
そのまま全速力で御坂の向かったおおよその方向へむかう。
275 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:18:31.10 ID:Sklfe6xNo
~~~

走っていると何かを殴りつけたような轟音がした。
御坂達だ、と判断し、音のした方へ進路を変える。

しばらく走ると、操車場へたどり着く。
そして、二人の姿を確認すると、右から白い翼が上条へ迫る。

咄嗟に右手を突き出し事なきを得る。

「……超電磁砲の無残な姿をみないようにあっちが終わる前に殺してやるよ」

垣根は二人と上条の間に割り込みながらあっちと、潰されたコンテナが二台ある方を指差した。

「クッソ……邪魔すんじゃねぇえええ!」

繰り出される翼を打ち消しつつ、垣根に向って走る。

「鬱陶しい右手だな」

言葉とは反対に垣根は楽しそうだった。

走りながら上条は垣根の後ろにコインを打ち上げた御坂とそれを静観している一方通行を確認する。

何かがヤバイと感じた。
上条は一方通行の能力がどのようなものか知らないが、このままでは御坂が死ぬと直感的に感じ取る。

――やべぇこのままじゃ間に合わねぇ……。

上条はスピードをさらにあげた。
体が悲鳴をあげる。
息が苦しいが、気にしない。

そして垣根の攻撃を左手で掴んだ。
垣根は上条を振り落とそうと翼を大きく前から後ろへ振り抜く、その衝撃を利用して、上条は御坂の元へと、飛んだ。
276 :一方通行の能力でこれはできねぇだろみたいのは見逃してくれると嬉しいです ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:19:35.50 ID:Sklfe6xNo
~~~

右手を突き出しながら飛んだ上条はギリギリ超電磁砲を打ち消す事に成功する。

吹っ飛ばされた勢いで地面を転がるが、軽い擦り傷程度で済んだ。

すぐさま立ち上がり、一方通行を睨みつける。

「……お前をぶん殴りにきたぞ、一方通行!」

御坂は突然の乱入者に混乱、その背中をただ呆然と見つめるだけしか出来なかった。

「くくくか……くかきけこかかきくけききこくけきこきかかかーーー」

一方通行は奇妙な笑い声をあげると、腕を降り、風を上条にぶつける。

腕で顔をかばいながらなんとか踏ん張る。

「お前、最ッ高だよ!最ッ高にオモシレェなァ……ガタガタ震えてた野郎が俺をォ!この学園都市第一位を!一方通行様を殴るだとォオオ」

両手を広げ、大笑いする。

「やってみろよ三下がァアアア!」

そして、叫びながらレールを思い切り踏みしめる。
レールは生き物の様に、うねり上条を襲う。

「……ぶっねー」

それを右前方へ転がる事で回避する。

―― くそッ、どうやって近づきゃ良いんだよ。
277 :一方通行の能力でこれはできねぇだろみたいのは見逃してくれると嬉しいです ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:20:02.98 ID:Sklfe6xNo
上条が考えている間も、一方通行は様々な攻撃を仕掛ける。

地面を踏むだけで隆起させ、石を軽く蹴るだけで、コンテナに穴をあける。

上条はそれらを走り回りながらよけ続ける。

「なンだ!なンだよ!なンなンですかァ?その様はァァ?そンなンじゃ百年たっても俺を殴る事なンか出来ねェぞォォオ」

言いながら、先ほどよりも強い風をぶつける。

走っている上条に横から殴るように迫る突風は簡単に上条の体制を崩し、転けさせる。

そして、転けたところの地面を、一方通行は思い切り持ち上げた。

不安定な姿勢の上条はなす術もなく、吹っ飛ばされ、コンテナに激突する。

「あっ、ぐぅ……」

呻きながら、そのままコンテナにもたれかかった。

「もォ降参ですかァ?」

余裕しかない一方通行は一歩一歩上条に近づく。

そしてその首を、足とコンテナの側面で挟むように締める。

「チッ……うっぜェなァもう。弱いくせに楯突いてくるンじゃねェよ」

見下しながら、吐き捨てる。

上条は無反応だ。

つまらなそうにため息をひとつつくと、首から足を下ろした。
278 :一方通行の能力でこれはできねぇだろみたいのは見逃してくれると嬉しいです ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:20:56.19 ID:Sklfe6xNo
その瞬間、上条は目を開け、一方通行の足を右手でつかみ、力任せに横に振り抜く。

上条の右手により、能力を失った一方通行は無様に仰け反るが、直ぐに上条が手を離したため、なんとかバランスを保ち倒れこむのは回避する。
が、体制を立て直すよりはやく上条は拳を握りしめ、一方通行の顔面に叩き込んだ。

鼻血を吹き出しながら、一方通行は三メートルほど吹き飛ぶ。

「はぁ、はぁ、はぁ、どうだ……ちったぁ目が覚めたかよ最強」

肩で息をしながら変わらぬ眼光で一方通行を睨みつける。

「……あァ、悪夢から目が覚めたように清々しい気分だ……もう手加減はしねェ、お前を……殺す」

平坦な声で、最後の台詞は少し言うのを躊躇ったようだった。

再び、左足で足元にあるレールを思い切り踏みつける、上条はそれを待っていたようにレールに向かって走り出す。

――やっぱり……レールは一方通行の足元から波が伝わるように動いてる!

まだ上条の手前五メートルの位置に変化はない、そこが動き出す直前に上条はそのレールに足をかける。

そして、体のバランスを安定させるかのようにしゃがみ込むと、レールが波打った反動を利用し――先ほど垣根の攻撃を利用し飛んだように――一方通行へ飛びかかる。

「無駄だァ!」

右足で地面を掘るように蹴り飛ばす。
小石が散弾銃のように上条を襲った。
上条は一方通行の目の前に倒れこんだ。
279 :一方通行の能力でこれはできねぇだろみたいのは見逃してくれると嬉しいです ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:22:15.90 ID:Sklfe6xNo
「あと一歩だったなァ……上条ォクゥン?お前は本気で俺を殴れると、そこまで近づけると思ってたのかァ?」

一方通行は上条に近づき、その頭を掴む。

「……うるっせぇんだよ」

「ア?」

「うるせぇんだよ三下。自、分が傷つくのが怖くって、自分に嘘をついて……お前は、強いと思い込んでる、だけだ……」

右手で自分の頭をつかむその手を払う。

「そんな弱虫に、俺が負けるわけ、ねぇだろうがぁあああ!」

そして、そのまま一方通行の左頬へと渾身の一撃を叩き込んだ。

のけぞる一方通行へ、追撃の拳を腹へ一発、顔面へ二発繰り出す。

「お前がそんな見せかけの強さを本当に最強だと思ってんなら、そんな間違った強さを振りかざして人を傷つけていいと思ってんなら……そのふざけた幻想は俺がぶち殺してやる!……俺の最弱はちぃとばかし効くぜ、最強さんよォオオオ」

叫びながら、とどめの一撃を鼻っ柱にぶち込んだ。
280 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:22:50.32 ID:Sklfe6xNo
~~~

一方通行の奇妙な笑い声で、御坂は思考を取り戻す。

「ちょ、ア――」

いい終わる前に垣根によって、物理的に口を塞がれた。

「よぉし、良い子だ。舞台をスムーズに進行させるためにお前はちと黙ってろ」

後ろから抱きつくように御坂の口を手で塞ぐと、耳元へ囁くように言う。

そのまま首へ腕を回し、引きずるように一方通行・上条から距離を取った。

「は、なっ、せぇえ!」

「無駄無駄、俺にもお前の技は効かねぇよ」

暴れる御坂を気にせずどんどん二人から離れて行く。

「一方通行は本当に強いのですね」

「そうだね、というか一方通行のは演技なの?普通に怖くない?」

ほら、到着。と垣根が言い、ついた場所には色違いのバッヂをし、仲良く談笑する妹達の姿があった。

「……え?」

御坂は間抜けな声を出す。

二人は垣根と御坂に気がつくと、歩み寄り、御坂に頭を下げる。

「お姉さま騙したりしてすみませんでした。一方通行も垣根さんも今回の実験を中止させるためにうごいていたのです、決して敵ではありません!」

ミサカ達は頭を上げない。

パチパチと御坂から漏電している音が聞こえる。

「……はぁ……とりあえず、頭あげて、わけわかんないからどういう事か説明しなさい」

二人の肩を叩き、垣根を睨む。

「ん?あぁ、実はな――」

垣根は今回の計画の事を事細かに説明した。

「……なんか私バカみたい。というか最初から言ってくれれば協力したのに」

「協力関係のある中での負けじゃダメなんだ。あくまで本気で戦った上での負けが必要だったんだよ。美……第三位がこれ知ってたら今みたいな必死さが消えちまうだろ?そうなったらお前と仲のいい上条に一方通行が負けても『猿芝居』って判断されちまうって思ったからさ」

垣根は戦う二人をみながら言う。

「でも、今考えりゃ本当に辛い目に合わせたな……呑気に笑いながら飯食ってた自分が恥ずかしいよ、すまねぇな第三位」

そして、御坂へ頭を下げた。

「……美琴ちゃん、でいいわよ。垣根さん」

二人の間を穏やかな風が通り抜けた。
281 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:23:47.49 ID:Sklfe6xNo
~~~

操車場での戦いから二日後。
それまで一方通行の積極的な戦闘をみた事のあるものは一人もいなかった。
どんな戦闘実験も彼は立ってるだけで、攻撃はすべて受け流すだけであったからだ。

そして、衛星から撮られた一方通行初の『本気の戦闘』は無能力者に無様に負けるというものであった。

幻想殺しを知らない絶対能力者進化実験の研究チームは、一方通行が自ら攻撃をしようとした際、防御を忘れる傾向にあると判断。
そして、『樹形図の設計者』による再演算、つまり実験プランの見直しが決定した。

そんな内容の報告書を眺めながら芳川はとりあえずの安心を感じた。

――さて、みんなに知らせにいかなきゃね。

一方通行は鼻骨を骨折、そのまま入院中である。

垣根は勝負に決着がつくと、二人の元へと行き、上条に今回の事を説明し、謝罪した。

御坂はその日は妹を二人とも連れ、ホテルへ泊まった。
その次の日、寮に帰ると寮監に無言で突き出された原稿用紙二百枚を必死に埋めている。

ミサカ00001号は上条へ電話させるよう仕向けた事をみんなから褒められ嬉しそうだった。個性も少しだけ強くなった。

ミサカ00002号は今日も変わらず元気である。ここ数日の一方通行、垣根帝督と過ごす生活の中でかなり個性は強くなった。

――さて、これで少なくとも一年は実験が再開される事はない。でも……あの男がそれを納得するかしら?00001号が少し心配ね……。
282 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:24:16.06 ID:Sklfe6xNo
~~~

「俺、骨折ったの初めてだ」

カエル顏の医者がいうには今日一日安静にしていれば、痛みはしばらく取れないが、退院はしてもいいそうだ。

「どんなとこから落ちたりしても壊れるのは落ちた先だもんな」

一方通行はベッドの上で寝転がり、垣根は備え付けの椅子に腰掛けている。

「そォいや上条のワイシャツとかダメにしちまったから新しいの買ってやンなきゃなァ……」

「あ、上条なら隣の病室で寝てるぞ」

思い出したように垣根は言う。

「あ?なンで?」

上体をおこしながら尋ねる。

「かすり傷と打撲が多かったからな、それの治療してる内に寝ちまったから医者に頼んでベッド借りた」

「即死につながるような攻撃はしなかったとは言え結構派手にやっちまったからなァ……なンか俺ら上条にとンでもなくひでェ事してねェか?」

落ち着いて振り返ってみると、上条は『一方通行に勝てそうな右手』があるという理由だけで巻き込んだ形だ。

「……言われりゃそうだな」

心に余裕もなく、妹達を助ける事だけを考えてしまい、他者への配慮をしていなかった事に今更ながら気づく。

「詫びいれいくか」

一方通行がベッドからおり、服を着替えはじめる。

「まだまだ俺らも一個の事しか見えなくなるガキって事かねぇ」

垣根も立ち上がった。
283 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/07(水) 00:25:21.88 ID:Sklfe6xNo
~~~

「俺達だ。入るぞ?」

返事を待たず扉を開ける。

「どうぞー……って返事する前に開けるなよ」

上条は帰り支度をはじめていた。

「もォいいのか?」

「もともと疲れて寝ちまっただけだからな。あ、わざわざベッド用意してくれてありがとな」

なんの屈託もなく、一寸の負の感情なく上条は笑う。

「いや、え?お、おう。……じゃなくて、悪かったな、巻き込んじまって」

「そンでお前のおかげで一応は救えた、ありがとう」

二人は頭を下げる。

「頭あげろって、とりあえず俺はお前らが本当は優しいやつだって確認出来たから良かったよ。妹達もこれで助かるんだろ?これしか方法はなかったんだろ?じゃあいいさ」

当たり前の事のように言った。

「それに人を助けるのに使えるなら俺なんかでよけりゃいくらでも使ってくれよ……」

まるで罪を告白するかのように短く、そして小さくつぶやく。
その表情を見て、垣根は上条を信用しても大丈夫なのかもしれない。と思いはじめた。

「それよりも、明日から夏休みですよ!補習と課題まみれなので第一位の頭脳をお借りしたいんですが……」

苦笑いながら一方通行のほうをみる。

「第二位の頭脳もセットで貸してやるよ」

垣根は上条に興味が出ていた。
人を助けずにはいられないその性格、頭は悪いが人間の本質を見失わない鋭さ。
そして、明るい瞳の中に時折垣間見得る罪を後悔するかのような色。

――こいつは俺らと同じなのかもしれない。

垣根の中で上条は評価だけならかなり高かった。

「あー、やっぱ垣根は第二位なのか。上条さんは第一位から第三位までとお友達になれて嬉しいですよ」

上条はさらっと告白された垣根が第二位だという真実を驚きもせずに受け止めた。

「それに、学園都市のトップの三人が心優しい奴らだって知れて本当に良かった」

自分を利用した者を上条はまだ優しいと呼んだ。

三人は携帯番号を交換し、上条は病院を去った。

「あいつはなんなんだ?」

「……さァな、ただひとつ言えるのは、とンでもねーバカだっつー事だ」

二人は心に何か引っ掛かりを感じつつも、上条なら自分たちといつまでも対等な関係でいてくれるかもしれないと感じていた。

強い日差しの中、これから迫る夏本番の匂いと、穏やかになるであろう未来を想い描き二人は病室へ入った。

だが、彼らはヒーローと認められてしまった。

そして、ヒーローに休息は訪れない。

三人はすぐ目前に新たなる脅威が迫ってきているのを、まだ知らない。

 
第一章 誕生 完


320 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/10(土) 00:01:29.35 ID:b8ngr59Jo
夏休みがはじまった。

決して忘れる事のない、長い長い夏休み。

321 :いきなりコピペミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:03:15.12 ID:b8ngr59Jo
「あっれー、珍しい」

とある喫茶店。
夏休みだからだろうか、店自体の雰囲気もウキウキしているように感じられる。
一方通行はそこで一人コーヒーを飲んでいた。
一方通行が座る席は四人がけのテーブルに挟まれた二人がけのテーブルだ。

「ン?あァ、お前か……一人か?」

「友達と待ち合わせよ、そっちは?妹か垣根さんか……芳川さんだっけ?誰もいないの?」

御坂は芳川とは一度しか会ったことがない。
そのため、彼女の名前はそんなに印象に残っていないのだろう。

「あァ……芳川がすまねェと伝えておいてくれって言ってた」

「妹達の調整とかしてくれてる人でしょ?……今度お礼しにいくわ」

一方通行の向かいの席につきながら言う。

「……なンでそこ座ンだよ」

「別にいいじゃない友達くるまでよ」

御坂はメニューを開く。
何を食べようか迷っているのか、なかなか閉じない。

「飯食ってねェのか?」

時間は午後一時を回ろうとしている。

「うん、プール掃除してた」

「……チッ、何でも好きなもン頼めよ、奢ってやる」

「へ?……あぁ、別にそんなつもりで言ったんじゃないわよ?」

一方通行が何を思っているのか御坂にはすぐに分かった。
随分と引け目を感じているようだ。
322 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/10(土) 00:04:51.03 ID:b8ngr59Jo
「いいンだよ、ガキは素直に奢られとけ」

「ガキ扱いすんな!」

メニューから顔をあげ軽く電撃を飛ばすが、もとより当てるつもりはなかったのかそれは一方通行へ届く前に雲散する。

「ふん、じゃあこのホットケーキとチョコレートケーキにしよっかな」

「昼飯だろォ?そンな甘ェもンじゃなくてちゃんとしたもン食えよ」

「偏食なあんたには言われたくないわね、妹が『一方通行は肉と野菜のバランスが偏り過ぎです』って言ってたわよ」

御坂は呆れたように言った。
一方通行は舌打ちをすると、店員を呼んだ。
ホットケーキとチョコレートケーキ、コーヒーを注文し、御坂に尋ねる。

「……お前飲み物は?」

「あ、じゃあレモンティーで」

店員に目を向け頷く。

店員はにっこり笑い、かしこまりました。と言った。

「そういえばアンタ鼻折ったんでしょ?大丈夫?」

「……まだ痛てェけど、お前らにしたこと考えりゃ当然の報いだ」

「……なんつーかアンタ暗い、もう気にしてないからむしろ感謝してるからもうそれやめなさいよ」

御坂はため息をつく。
323 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:05:46.73 ID:b8ngr59Jo
「妹を助けようとしてくれたんでしょ?私は……あの子達に、あの子達を大切に思ってくれる人が私以外にもいてくれて嬉しいわよ」

自分よりも、妹を思った言葉。

「俺達とお前らは何が違うんだろォな」

御坂に聞こえぬように、つぶやく。
324 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:06:27.58 ID:b8ngr59Jo
~~~

御坂がホットケーキを食べ終え、チョコレートケーキに手を出そうとした時、二人の女の子が現れた。

「あっれー?御坂さんデート?」

「さ、佐天さん!失礼ですよ」

佐天と呼ばれた黒髪の少女は明るすぎるくらいの笑顔で声をかけ、それを咎めた頭に花をのせた少女は御坂に小さく謝りながら佐天の腕を引っ張る。

「ほら、佐天さん!約束した時間まではあと一時間くらいあるんですから、あと一時間はお二人の時間ですよ!」

「あ?何を勘違いしてやがンだおめェらは?」

一方通行は軽く二人を睨みつける。

「ほ、ほら、彼氏さんが怒ってるじゃないですか!……すみません、お邪魔しちゃって、でも一時間後は御坂さんは私たちと遊ぶ約束してるんでその時は貸してくださいね?」

愛想笑いを浮かべながら言う。
325 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:07:41.23 ID:b8ngr59Jo
「ちょ、二人とも違うから!ただの友達よ!友達!」

立ち上がりながら、御坂は声を張る。
二人の少女はニヤニヤしながら通路を挟んで向かいの席に座った。

「……チッ、うぜェ」

一方通行はそこから自分達の様子をちらちら伺う二人にイライラしていた。

「……あー、鬱陶しい!オイ、てめェらもこっちこい」

一方的に観察されると言うのは予想以上にストレスがたまる。
一方通行は二人を呼び寄せ自分たちも隣の四人席へ移るとメニューを突き出した。

「オラ、とっとと注文しやがれ、とォくべつに奢ってやンよォ」

その代わりそのふざけた思い込みをさっさと捨てろと、真っ赤に染まった瞳は脅すように光っている。

「は、はい」

二人は素直に頷き、佐天は一方通行の隣へ、もう一人の少女は御坂の隣へ腰をおろす。

「ちょっと、やり過ぎでしょ。二人とも怯えてるじゃない」

「あ?俺は悪くねェだろォが、大体お前が勝手に人の席座るからこうなったンだろォが」

御坂を睨みつける。

「はいはい、二人ともこいつ怖い顔してるけど悪いやつじゃないからそんなビビらなくて平気よ」

一方通行の文句を受け流し、二人に笑いかける。
326 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:08:33.84 ID:b8ngr59Jo
~~~

「と、とりあえず自己紹介しときますね?……私は佐天涙子、無能力者です」

注文を終えると、気まずそうに一方通行の方をみながらぎこちなく笑う。

「あ、私は初春飾利です。風紀委員やってます」

初春と名乗った少女はすでに場の空気に慣れたようだ。
どうやら彼女は肝が据わった性格らしい。

「……一方通行だ」

一方通行はそれだけいうとコーヒーを一口飲む。

「えぇっと……能力名ですか?」

佐天はまだ、少しだけ怯えている。

「名前はない」

「あなたニャンコなんですか?」

「花ァ引っこ抜くぞクソガキ」

「冗談通じない人ですね」

初春の言動には佐天の方がオロオロとしていた。
本人は呑気にお冷やを飲んでいる。
御坂は我関せずとケーキを食べている。
327 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:09:36.27 ID:b8ngr59Jo
「あ、あははは。髪とか白いのは能力のせいなんですかね?意外と似合ってますよ」

「……紫外線とかそォいうもンを反射してるからな、色素が必要ない、だから退化してって全体的に白くなったんだ」

一方通行は丁寧とは言えない説明をする。

「反射、ですか……じゃあ」

そういいながら佐天は一方通行の髪へ手を伸ばす。
弾かれると、思っていたが、その手はすんなりと一方通行の真っ白な髪へと届いた。

「あれ?」

「……こォいう場所では人間は反射対象の設定から外してんだよ」

顔を振るようにして、佐天の手から離れた。

「へぇ、知らなかった。というかあんたの能力はよくわからないことがおおすぎるのよ」

芳川が嘘レポートに書いたため、一方通行の能力がベクトル操作だと御坂は知っている。
上条は未だに理解出来てはいないだろう。

「珍しい能力なんですね。もしかして第一位だったりして……なんてそんなことありませんよね」

奥から店員が自分たちの飲み物を持ってきたのを見つけると、そちらに目を向けながら初春は笑いながら言った。
328 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:11:54.89 ID:b8ngr59Jo
「そんなことあるわよ、そいつ第一位よ」

御坂はティーカップに残った紅茶を飲み干す。

「へ?」

「え?」

二人は御坂と一方通行の顔を交互にみて、驚きの声をあげた。

「ぇええええええ!」

「うるっせェぞ!クソガキ」

鬱陶しそうに二人を睨みつける。

「え?だって、え?第一位?」

佐天が一方通行を指差しながら言う。

「……だったらなンだ」

少しだけ傷つく事を案じる。

「すっごいですね!うわー……すごいなぁ!」

「……佐天さん、語彙がたりてませんよ」

佐天は驚き凄い凄いと喜び、初春は一方通行をまじまじと見つめながらすごいとしか言わない佐天に突っ込む。

「ンあ?」

その反応は初めての物だった。

大抵の者は第一位の名を聞くと驚き、例えばそれが今の二人みたいに無礼な行為をした後出会ったら死に物狂いで謝られるのが常であった。

どう対応していいのか分からず御坂に助けを求める。
御坂は笑いながらその様子を見ながら、小さくつぶやく。

「ちゃんとに分かってくれる子もいるってことよ」

「でも、今ここに学園都市のトップと第三位がいるってなんだか私達すごく安全な位置でお茶してますよね」

初春は運ばれてきた紅茶に手を伸ばす。
329 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:13:31.32 ID:b8ngr59Jo
「本当に、ここにあと第二位が来たら……安心して世界も敵にまわせますね……」

佐天は冗談っぽく笑いながら紅茶に砂糖とミルクをいれをかき回す。

そして、そんな四人の元へ歩み寄る茶髪の男が一人。

「俺を呼んだか?お嬢ちゃん」

佐天の冗談が現実となってしまった。

「……」

一方通行が垣根に何か言おうとするが、垣根があとにしろ、と目で語る。

「一方通行が可愛い女の子に囲まれてるから何事かと思ってな、思わず立ち寄っちまったよ」

笑いながら、三人に言う。

「んで?この子らは美琴ちゃんのお友達かい?」

御坂の方に視線を移し、尋ねる。

「そう、髪が長いのが佐天さん、こっちが初春さん」

二人を順番に指差しながら紹介する。
二人は御坂に苗字を言われるとそれぞれ自分で名前まで名乗る。

「涙子ちゃんに飾利ちゃんね……第二位の垣根帝督です」

「本当にトップスリーが揃っちゃいましたね、佐天さん」

「凄いね、この学園都市で一番頑張った三人って事だもんね」

佐天は少しだけ嫉妬のような色を表情に浮かべた。

が、すぐに笑顔になり隣のテーブルへ垣根に座るように勧める。
330 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:15:41.68 ID:b8ngr59Jo
一方通行はその席から伝票を取ると、自らも元々座っていた位置へと移動する。

店員が垣根にお冷やを持ってくると、垣根はメロンソーダ、一方通行はコーヒー、御坂はアイスティーを注文した。

五人が和やかに談笑していると、また一人少女が文字通り突然現れた。

「すみません、少し風紀委員の仕事が長引いてしまって」

少女は遅れた――といっても五分程度だが――非礼を詫び、先ほどまで一方通行が座っていた佐天の横に腰を落とす。
アイスティーを注文すると三人に改めて詫びる。
二人は気にしてない事を伝え、佐天は隣にいるのが第一位と第二位だと少し興奮気味に伝えた。

「まぁ、第一位様と第二位様でしたの。お会い出来て光栄ですわ。私、常盤台中学一年の白井黒子と申しますの。風紀委員に所属していまして初春と同じ部署なんですのよ、何かお困りのことがあったら一七七支部までお越しくださいませ」

頭を下げながら自己紹介する。

「俺らが困る事態を風紀委員が解決できるとは思えねェけどな……一方通行だ」

「そういうことじゃなくて超能力者でもあくまで一般人、何かあったらとりあえず風紀委員呼べってことだろうよ。な、美琴ちゃん?」

ニヤニヤしながら御坂に話を振る。
御坂はアイスティーを吹き出しそうになりながら目を逸らす。
それをみて、満足気に頷くと顔を白井にむける。

「第二位の垣根帝督だ」

「垣根さんは物分りがよろしい方で助かりますの」

じっとりと御坂を見ながら白井はいう。
331 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:17:37.64 ID:b8ngr59Jo
「……これからはギリギリまであんたの到着待つわよ」

「……お姉さまなんかまるくなったというか、余裕があるというか、どうしたんですの?」

白井の言葉に意味ありげに超能力者三人は顔を見合わせた。

「……ま、御坂さんは私たちより一つですけどお姉さんですからね。それにいいことじゃないですか」

佐天が空気を読み、その話題を打ち切る。

「……さて、お前らはなんか予定あって集まったんだろ?邪魔したな……行こうぜ、一方通行」

メロンソーダを一気に飲み干すと、御坂達の座る席の伝票――御坂の追加注文と白井の注文――を垣根が手に取る。
白井と御坂が何かをいう前に、垣根は手で制しながら言う。

「邪魔したお詫びだ。あと久しぶりに普通の学生と話せて楽しかったからそのお礼ってところだ」

人差し指と中指で掴み、ひらひらさせる。
それを一方通行がひったくる。

「ここ出すから今日晩飯、お前が買いもン行け」

「人がカッコつけてるとこを……」

仲良く話しながら会計を済ませ、店を出て行った。
332 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:19:13.05 ID:b8ngr59Jo
「なんというかもっと第一位、第二位って怖い人達だと思ってました」

佐天は二人の消えた扉を見つめながら言う。

「でも、あの殿方達は私達を信用はしていませんでしたの、お姉さまを辛うじて信用しているレベルに思えましたわ」

「なんというか、絶大な力を持つ超能力者にはその力ゆえの超能力者なりの苦労があるんでしょうね」

御坂は恵まれたレベル5である。
初めから力を持っていたわけではないので、幼い頃をある程度まともに過ごせた。
だが、それゆえの辛さを経験した。
勉強もスポーツも出来て、さらにはレベル5。
その肩書きは後輩、同輩、そして先輩までもから羨望を向けられる対象となり、気軽に話を出来る友達がいなくなってしまった。

昔は普通に友達がいたからこそ、その状況は辛かった。

しかし、白井が現れ、上条が現れ、佐天、初春と言った『自分を対等に扱ってくれる』人達が今はいる。

一人ぼっちの間に歪んでしまわなかったのは、御坂自身の強さだが、今、彼女が真っ直ぐでいられるのは友達の存在が大きいのは間違いないだろう。

「ありがとね、三人とも」

口の中だけで、つぶやいた。
その顔にはあらゆる温かさのある感情が同居していた。
333 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:21:15.86 ID:b8ngr59Jo
~~~

「今日からミサカ達は一週間かけて精密検査と調整だろ?」

「あぁ、芳川がついてるから問題ないだろ。あとカエル医者の病院で、その後はそこで交代でカエルの手伝いと芳川の手伝いしながら少しは自分で稼ぐって言ってたぜ」

垣根は二人を病院へ送った帰りであった。

「ンな事気にしなくたっていいのになァ……」

「まぁ、ミサカちゃん達も服買ったりとかそういう自由に使えるお金欲しいんだろ」

「ンなのいくらでも小遣いやるってンだよ」

少しだけ寂しそうに一方通行はうつむく。

ミサカ達は二人に出来るだけ甘えたくなかった。
それは対等な関係で居続けるため、二人の足枷にならないためである。

もし二人に頼らなければ生活出来ないとなったら、優しい二人の事だ、自分のしたい事や愛する人を見つけた時そのしたい事、愛する人を簡単に捨てミサカ達を助けてくれようとするだろう。

しかし、それは誰も幸せにはしない。

生まれてから深く関わったのが一方通行、垣根、芳川だけの妹達はその三人の事だけはよくわかり、考えることが出来た。

「じゃあ今日は家にいンのは俺ら二人だけなのか?」

「あー、そうなるな。いや、芳川は来ると思う……まぁ、とりあえず一回帰るか?」

「そォだな、聞かなきゃいけねェ事もある」

二人は家へと向かい、足を進めた。
334 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:21:53.75 ID:b8ngr59Jo
「そォいやなンか昨日から大気の流れがおかしい所があンだけど心当たりあるか?」

「おかしいって、どうおかしいんだよ」

「いや、なンか変なベクトルがたまに入り込む感じだな」

説明が難しいのか、要領を得ない答えになる。

「変なベクトル?」

垣根は顔をしかめる。

「大気に触れて風の流れを観測すンのが俺は好きなンだけどよ……たまによくわかンねェ変な流れが混じる事があンだよ」

「わからねぇことばっかだな……まぁ一応気に留めとくわ」

二人は開放感に浮かれる学生が笑顔を振りまく街中を歩いている。
335 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:23:22.58 ID:b8ngr59Jo
~~~

「お久しぶりですね、先生」

「十年ぶり、だね?」

芳川は昔の自分を思い出し苦笑する。

「あの時は……若かった。そして研究だけが生きがいでした」

「ふむ、僕が乗り気じゃなかった理由がこの十年でよくわかったね?」

「……嫌というほどに」

「君があの場所へアルバイトに行くのを渋々だが認めてしまった事を僕はずっと後悔していてね、だが先日、あの子達を見て私は初めて十年前の過ちが過ちじゃなかったと気がついたよ。今、あの子達が笑っていられるのは君の存在があってこそだ」

「そんな、私は……何も出来なかった」

声が少し大きくなる。

「そんな事はない。第一位と第二位は心に闇を抱える事になったね?でも、彼らは闇に落ちる事が無かったね?」

「私、は……正しい事を……することが、出来たん、でしょうか?」

途切れ途切れ、戸惑うように声を絞り出す。

「うん、君がいなきゃ一方通行くんと垣根くんは救われる事のない道を歩んでいたはずだよ?」

芳川は黙って頷くのが精一杯であった。
336 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:25:42.95 ID:b8ngr59Jo
~~~

「んで?魔術がなんだって?」

出会い頭にお腹が減ったと言われ、適当に作ってやったご飯を食べ終えたのを確認すると、上条は尋ねた。

「……馬鹿にしてるよね?」

上条当麻は朝布団を干そうとするとベランダに引っかかっているものを見つけた。
そして今、自室で白い修道服を着た銀髪碧眼の少女と向かい合っていた。

「いや、だってお前ここがどんなとこか知ってるか?超科学都市だぞ?」

呆れるようにため息をつくと大げさにありえないというように首を横に振る。

「超能力は信じるのに魔術は信じないなんておかしいかも!」

「じゃあ、見せてみろよ」

「……私には魔翌力が無いから魔術は使えないんだよ」

ばつが悪そうに目を逸らす。

「まぁ、いいや。とりあえずベランダに干されてたのは事実だしな、その魔術結社?とかの真偽はよくわからんが追われてるのは本当なんだろ?」

「……うん」

「じゃあ、お前ここにいろよ。俺は少し補習行ってくるから家空けるけど」

そういいながら上条はカバンを手に取りそこから家の鍵をとりだすと、それを少女に渡す。

「え?な、なんで?私達名前すらまだお互い名乗ってないんだよ?」

少女は驚き上条に迫る。

「いや、困ってんだろ?だったら俺はお前を助けずにはいられない……」

まるで自分が悪いかのような、申し訳なさそうな顔をした。
337 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:26:57.40 ID:b8ngr59Jo
「き、君の方が助けて貰いたそうな顔してるんだよ」

少女は心配そうに上条の頬に手を伸ばす。

「困ってるけど今までなんとかなってたから大丈夫、少なくとも君みたいな苦しそうな顔した人間に、私の事を背負ってくれなんて言えないんだよ」

少女は笑った。

「別に、苦しくなんかないっ!ただ、俺は、困ってる人を……不幸な人を、俺が、助けなきゃいけないんだ」

自分を追い込むように上条は言う。

「俺が、悪いんだから、俺が、解決するんだ」

「な、何を言ってるのかな?君はなんにも悪くないんだよ?ちょっと落ち着いて欲しいかも」

必死に少女は上条を落ち着かせようとその頭を撫でる。

「君が何に罪を感じているのかわからないけど、少なくとも私にとって君は恩人なんだよ。見知らぬ私に事情も名前すら聞かずにご飯をくれたんだよ」

少女は修道女らしく教えを与えるように言う。

「君は『人に手を差し伸べる』という人間として一番たいせつな心は持ってるんだよ、だから君は絶対救われる。その行動理由がなんであろうとね」

聖女のように笑うと、少女は立ち上がる。

「じゃあ、ご飯ありがとう。私はもういくね」

鍵を机の上に置くと、少女はそう言い残し家を出て行った。
338 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:27:48.06 ID:b8ngr59Jo
~~~

自分と関わった人間の不幸は全て自分のせい。
自分は疫病神だから。
だから、目に困る人が映ったら自分はその人を助けなければいけない。
上条はそう思い込んでいる。
そして、そうしていれば許されると思っていた。

幼い頃からずっと許される事を願っていた。

脆く簡単に崩れてしまいそうな暮らし。
涙の染み付いたコンクリート。
大勢の笑い声に取り残された公園。

一人ぼっちの中で、上条は細かく千切り捨てられた夢を必死に拾い集めていた。

そこでは全ての事が上条へと繋がれた。
全ての悪い事が……。

そのうち、暖かな陽射しが差し込む窓辺から上条は外を見るだけでいることが多くなった。
そこに夢を見ていた。

そして上条は祈る、己の全てが許される事を……。


何も罪など犯していないのにもかかわらず今日も上条は祈る。
339 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:29:31.51 ID:b8ngr59Jo
~~~

「ンで?樹形図の設計者の破壊方法は見つかったのかよ?」

家につき、一息つくと早速一方通行は切り出す。

「まさか、あンだけ俺を待たせといてなンも収穫なしとは言わねェよなァ?」

垣根はミサカ達を病院へ送ったあと、一方通行との待ち合わせをすっぽかし、行政機関が集中する第一学区、航空・宇宙開発分野が発展した第二十三区へ一人で調査に出ていた。

「ありゃ、ばれてたか……驚かそうと思ったんだがな」

「俺が今一番考えるべき事は実験の完全凍結だからなァ、すぐ気づいたぜェ?……まァ、幸い約一年猶予があるけどな」

芳川の調べで次に絶対能力者化実験の研究チームが樹形図の設計者の使用許可が得るのは少なくとも十ヶ月後になるだろうと予測が出ている。

一方通行、御坂美琴の両名の価値に疑問が生じ、二人の能力値の再検査、また性格やクセなどの再調査が必要と研究チームの上層部が判断。
直ぐに一方通行、御坂美琴へ身体検査の要請が来たが、二人はこれを拒否。
御坂は三ヶ月後、夏休み明けの中間試験の際にどうせ受ける、と言って拒否、一方通行はその要請を完全無視した形だ。
340 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:31:45.49 ID:b8ngr59Jo
だが学園都市の生徒は一年に一回、ゴールデンウィークに行われる身体検査は必ず受けなくてはいけない決まりになっている。

それゆえ、来年の五月まで一方通行が再検査される事はない。ゆえに、今から十ヶ月間は再開される事はないという事だ。

「おりひめ一号の中にあるんだとよ」

「衛星ン中に隠してたのか……」

「壊そうとしても場所が場所だからなぁ……それに樹形図の設計者だぜ?学園都市上層部が何をしても邪魔してくるだろ」

「……偶然の事態装って一気にぶっ壊さなきゃダメってことかァ……どォすっか」

窓から空を見上げてつぶやく。

「……芳川とミサカちゃんつれて学園都市から逃げちまうか?」

消え入りそうな声で言う。

「ミサカの調整はどォする?それにンな事したら毎日のように襲撃されっと思うけど三人を絶対守り切れると言えンのか?俺らはどんなやつに襲われても死なねェさ、けどあいつらは銃弾一発を防ぐ術もねェンだぞ」

諦めるように一方通行は言葉を吐き出す。

「……そうだな、俺らはこの街でしか……生きられない、んだよな……」

窓を開き、今日も変わらず輝く太陽の眩しさに目を細めた。
341 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:33:51.76 ID:b8ngr59Jo
~~~

「上条ちゃーん?」

成人とはとても思えぬ容姿をした女性が目に涙を浮かべながら上条の顔を覗き込む。

「…………」

完全に自分の世界に入り込んだ上条はその声に気づかない。

――俺の罪……いるだけで不幸を呼び寄せて、関係ないはずの人まで巻き込むのは俺の罪だろ?俺がいなきゃ怖い目に遭わなくて済んだ奴が何人いる?

「か、上条ちゃーん?」

ついに上条の担任、月詠小萌はぐずぐずと泣き出した。

「はぁ、ったく……おい、カミやん!いい加減にするぜよ」

後ろの席に座る金髪にグラサンの男が上条の頭を思い切り殴った。

「……ん?なんだよ、土御門」

上条は軽く頭をさすりながら振り返る。

「……こりゃダメだにゃー」

立ち上がり、上条の鞄に机の上に広げられただけの勉強道具を突っ込む。
そして、それを上条の顔面に叩きつけるようにして渡す。

「真面目に補習受けてる俺らの邪魔ぜよ、今日はもう、帰るんだにゃー」

「いや、でも進級出来なく――」

「いいから帰れ。はっきり言って今のカミやんは見てらんないにゃー。何を一人で悩んでるか知らないけど、そんなんじゃ小萌先生にも俺らにも迷惑なだけなんだにゃー」

サングラスでその表情はわからない。
楽しんでるようにも怒っているようにも見えた。

「小萌センセ、今日の分のカミやんの補習これで良しって事にしてやって欲しいんだがにゃー」

顔の前で両手を併せ小萌に甘えた声でねだる。

「うう、しょうがないのです。あとでプリント課題作るので土御門ちゃんは帰りに職員室寄ってください……あ、上条ちゃんに届けるようですよ?」

「感謝するにゃー」

ニコニコしながら小萌に頭を下げると上条の方へ向き直る。
その胸倉を掴み立ち上がらせ教室のドアまで引きずって行く。
そして上条だけに聞こえるように小さな声でつぶやいた。

「不幸不幸言ってるカミやんのが俺はまだ好感が持てるぜ」

上条を教室から突き出すとそのまま扉を閉めた。

上条はしばらく立ち尽くすが、やがて歩き出す。
342 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:35:13.24 ID:b8ngr59Jo
~~~

学校を出て、とぼとぼと家路を歩く。

「……はぁ」

口から出るのはため息のみだ。
その足取りも重い。
亀の如きスピードで歩いているといきなり後ろから肩を叩かれる。

「上条君……よね?」

「……そうですが?どちら様でしたっけ?」

「芳川よ、貴方にはまだ……御坂さんにもだけどお詫びをちゃんと言ってなかったからね……利用してしまったみたいな形になってしまってごめんなさいね。許してくれとは言わないけれど」

「……別に気にしてないですよ、もしかしたらあなた達の“不幸”も俺のせいかも知れませんしね」

そう、言うとさっさと足を動かし始める。
芳川もそれを呼び止めるような事は無く、黙って見送る。

普通の大人ならば、こういう時引き止めたりするのだろうか?とその背中を見ながら芳川は考える。

――今のあの子は二人を悩ます種にはならなそうね……あの子も何か背負ってるのかしら?

勘違いして一方通行と垣根に喰いかかる上条は二人にとって理想の存在だ。
もし、普通の子供のように育ったらあんな子に二人はなりたかったと思う。
間違ってることに全力で反発し、裏切られても信じる事から、奪われても与える事からはじめる様なそんな本物の主人公のようなまっすぐな心を持った人に。

実験に納得ができないからと第一位と第二位に立ち向かい、嘘の言葉で裏切られても二人を信じ、無くしてしまったはずの道を新たに与えようと第一位をぶん殴った。

そんな上条がそばにいると一方通行、垣根帝督は自分と比べただ傷つくだけだと芳川は思っていた。
343 :ここの二人の会話は俺の脳内設定です ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:36:41.91 ID:b8ngr59Jo
~~~

「お邪魔するわよ」

上条と別れたあと、芳川は垣根達の家に向かった。

「おう、ミサカ達はどうだ?」

一方通行はコーヒーを飲みながら尋ねる。

「今は先生が見てくれているわ。お姉さんの方が少し問題ありね」

冷蔵庫から適当にジュースを取り出し、それをグラスに注ぐ。

「命に関わるのか?」

「かもしれないってところね。前に話した万が一の事態が起きたら何が起きるかわからないわね」

「その万が一ってのはまだ教えてくれねェのか?」

缶を机に置いた。
コツンと小さな音がやけに大きく聞こえた。

「……それを今日は話そうと思っていたのよ」

芳川はグラスに注いだジュースを一気に飲み干すと、二杯目を注いだ。

「妹達は生まれて約二週間で肉体年齢を最高25歳位まで上げられるのよ」

グラスを手に取るが、飲もうとはしない。

「そして、ミサカちゃん達は少しゆっくり目のスピードで二週間かけて14歳ほどの肉体にしたわ。ここで問題が起きるのだけれどわかるかしら?」

グラスを口に近づけるが、口はつけずにもどす。

「肉体は14歳レベルでも精神はそうはいかねェ……でっかい赤ちゃンの出来上がりって事だな」

先ほど机の上に置いた空の缶を手の中でもてあそびながら一方通行は言った。
344 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:38:46.43 ID:b8ngr59Jo
「えぇ、そしてそこでそれを解決するのが学習装置よ」

「なァるほどなァ……一度感情も他の知識と同じように与えて、自分で考え、行動出来るようにしてからそこにまた感情だけを消すように上書きっつー感じか」

「そうね、そして学習装置で大量の知識を与えると言うのは全く同じ脳を作るって事と同意なのよ」

芳川は二杯目をまた、一気に飲む。

「ミサカちゃん達は全く同じものになるはずだったのよ」

「でも、それをお前が回避した」

一方通行は芳川の目をじっと見つめる。

「確かにお前が新しいクローニング技術を開発しなけりゃ妹達は生まれちゃいねェ、でも俺も垣根も死ぬまで笑う事はなかっただろォな。ミサカ達にも会えなかった、その技術がどォいうものであれ悪いのは使い方を誤る人間だ」

「……別に、なによ急に……」

目を逸らし、俯く。

「話はだいたい読めた。殺されるためだけに妹達が生みだされたンなら戦闘技術のみ叩き込めばいいのにあらゆる常識、知識を同じ形で植え付けたってのは脳を完全に同じにする必要があった訳だろ?」

頷く。

「多分それが垣根の言ってた双子パワーとその他のまだ俺が知らねェ能力に理由があンだろ?」

また、頷く。

「恐らくそれは――」

「命令コードを受け付けるようにするため」

一方通行の言葉を遮るように芳川が言う。
345 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/10(土) 00:39:52.74 ID:b8ngr59Jo
「ミサカちゃん達はミサカネットワークを完全に構築出来ていないわ」

言いながら冷蔵庫へ向かう。
その中から缶コーヒーを二つ取り出し一つを一方通行に投げ渡す。

「だから曖昧な感じにしか分からねェのか」

「そうね、彼女達は別々の人間なのだも。でもそれは片方が強い個性を築き上げてるだけに過ぎないのよ」

「なるほどな、ミサカ姉の方は……」

受け取った缶コーヒーを開け、口に含む。

「そう、彼女は個性を築き上げることがまだ出来ていない」

「命令ってのは誰が出すンだ?」

「上位固体。打ち止め。最終信号。どれも同じ一人のミサカ、その子を通してよ。妹達にとっては構成するネットワークを支配する上位固体。そのミサカを妹達 の一人、一人の人間として呼ぶなら打ち止め。強制命令を出すという能力だけを見た科学者の視点からは最終信号。となるわ」

芳川も同じように缶を開け、一口飲む。

「打ち止めはもう、生まれてンのか?」

「恐らくまだ、もし強制命令が使えるならばミサカちゃんだけでも取り返そうとするはずよ」

「樹形図の設計者をさっさと壊して実験を完全に凍結させる理由がまた増えたな」

軽く笑う。

「命令を打ち消すソフトは一応作ったけれど、それがどこまでカバー出来るかわからないわ。だから――頼むわよ」

何も出来ない自分に歯痒さを感じるように芳川は言った。


357 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:47:22.41 ID:JvXcZAm0o
~~~

芳川と一方通行が話をしている間、垣根帝督は夕飯の買い物に出ていた。

――今夜は何にしようかな……ミサカちゃんの飯が食いたいな。

スーパー内をぶらぶらと歩く。
適当に野菜、肉などをカゴに放り込んでいると見覚えのあるツンツン頭を発見した。

「よう、上条」

「……垣、根か……なにしてんだ?」

「……元気ねぇな?失恋でもしたか?」

明るく、励ますように垣根は笑った。

「……失恋の方がましかな」

垣根から目を逸らし、小さな声で吐き捨てる。

「あ……と、なんだ、その……め、飯」

「……飯?」

「晩飯の買い物だろ?今日ミサカ達いなくて芳川も……飯は食いにくる……のか?来ると思う……まぁ、なんでもいいやお前も食いに来いよ」

何も入っていないカゴをひったくり、それを近くのカゴ置き場に投げ入れる。

「ついでに泊まって行ってもいいぜ?」

カラッと笑う。

「……うん、けど、今日は夕飯いただいたら帰るよ」

まだ迷うように、上条は頷いた。

「よし、何が食いたい?肉か?魚か?」

「……じゃあ、肉で」

垣根はよし、と頷くと肉売り場へと向かう。

「いや、お前そのカゴの中の肉だけで十分だろ」

肉、野菜、魚など様々な物が入ったカゴを指差す。

「ん?そうか?友達が家に来るなんてはじめてだからな……柄にもなく張り切ってんのかな?」

恥ずかしそうに笑い、レジへ向かった。

「……一方通行や芳川さんは友達だろ?」

「あれは家族だ」

即答。

「……そっか」

三人はお互いがお互いを大事にしあっているんだと上条は知った。
358 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:49:54.10 ID:JvXcZAm0o
~~~

「そう言えば帝督は?」

話が一段落すると、芳川は一方通行の隣に座る。

「……晩飯の買い物のはずだが……ちと遅ェな」

携帯電話を開き、時間を確かめる。
垣根がでてからすでに一時間が経過していた。

「……まぁ、心配はねェだろ」

携帯電話を閉じ机の上に置くと、欠伸がでた。

「……あら、眠いの?」

「……お前が側に来るとなンか眠くなンだよなァ」

目をこすりながら、言う。

「なによそれ」

芳川はクスクスと笑いながら一方通行の横髪を手の甲で撫でる。
一方通行もそれを拒否せず、むしろ受け入れ、頭を芳川の方へと少しだけ傾ける。

「綺麗な髪ね、本当に綺麗な真っ白」

そのまま今度は頬へ触れる。

「肌も綺麗で羨ましいわ」

一方通行は気持ち良さげにまぶたをだんだんと下げていく。

「芳川」

眠そうな声で一方通行は芳川の名前を呼ぶ。

「どうしたの?」

「好きだ」

芳川は一瞬、動きを止め、小さく微笑む。

「……わかってるわよ、そのくらい」

一瞬だけ期待のような、なにか心が熱くなるものを感じたが、すぐにそれを打ち消す。
そして、今一方通行の言った『好き』はミサカや垣根に向けて感じているものと同じ種類のものだろう、と理解する。

一方通行が何を思って口に出したのかは本人にも解ってはいない。
垣根やミサカに感じている好意と同じ種類、ならば言わなくとも伝わっているだろう。
現に芳川はわかっていると答えた。

――なンか心地いいな……。

自分の本当の気持ち、好意の種類に気づかぬまま、一方通行は心を溶かす。
安心し切った表情で、芳川に体を預けるようにもたれかかった。

――こいつにも俺は幸せになって欲しいなァ……。

普通の家庭を築き、子供を授かり……そんな幸せなそうな家族を思い描いた。
芳川の隣にいるのは、もちろん一方通行自身ではない。

――あれ?なンか今……まァいいか。

一方通行は完全に眠りに落ちた。
359 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/12(月) 03:52:29.54 ID:JvXcZAm0o
~~~

「たーだいまっ、と芳川ももういるのか」

玄関に入り、見覚えのある靴を見つける。

「お邪魔します」

上条は垣根が出会った時よりは元気を取り戻していた。

「おう、買ったもんは適当にその辺置いといてくれ」

言いながら寝室へ入り、財布や家の鍵などをベッドの上に投げ置く。

「あ、冷蔵庫に冷えた飲み物あるから適当に飲んでいいぞ」

寝室から出ると、立ち尽くす上条にそういい、客間へと入って行く。

「ありがとう、垣根もなんか飲むか?」

冷蔵庫を開けながら上条は聞き返す。

「いやーいらないぜ」

わかった、と返事をして中から炭酸飲料を一本取り出した。

「おい、上条来てみろ、第一位様の緩んだ顔が見れるぞ」

垣根は奥の部屋――垣根が客間と呼ぶ部屋――から顔を出す。
その顔は楽しそうに笑っている。

「……寝てんのか?」

ボトルを開け、飲みながらそちらへ向かうと芳川と一方通行が仲良さ気に肩を寄り合わせ寝ていた。

一方通行は子供のように穏やかな寝顔をしている。
芳川も嬉しそうな寝顔をしていた。

「一方通行って……なんか子供っぽいんだな、そんで芳川さんって美人だよな」

正直な感想を漏らす。

「芳川に惚れたら今度は本気の一方通行と俺と戦う事になるぞ」

二人の寝顔を写真に撮りながら、垣根は言う。

「一方通行って、芳川さんが好きなの?」

「俺だって好きだぜ?」

「それは家族として、だろ?」

「一方通行の好きがどういうものかは本人にしかわからねぇよ、ただ芳川は第一位と第二位にもビビらず立ち向かって来るようなやつじゃなきゃ渡せないね」

写真を撮るのをやめ、垣根は二人を見つめる。

「お姉さんを取られたくない弟みたいなものか」

三人を見て、上条は少しだけ笑う。

――この三人の幸せそうな関係を壊したくない。余計な不幸に巻き込みたくない。

上条は笑顔を消す。

「ごめん、垣根。やっぱ俺――」

「帰るなんて言うなよ?折角来たんだ、予定通り飯食ってけよ」

上条の言葉を遮るように言った。

「……分かった」

苦々しく、不安そうなそれでいてどこか怯えるような顔をしながら上条は頷く。
360 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:53:36.56 ID:JvXcZAm0o
~~~

「あー、食った食った。やっぱ肉は派手に大量に食うのが一番いいなァ」

「一方通行はもう少し野菜も食べなさい」

芳川が肉ばかりを食べていた一方通行に注意をする。

そんな二人の会話を聞きながら、垣根と上条は皿洗いをしていた。

「スーパーでの話の続きだが、なんかあったのか?お前ちとおかしいぜ?あんなに元気いっぱい正義の味方やってたのに死にそうなツラでふらふらしやがって」

二人には聞こえない声量で言う。
皿を洗う手も止めない。

「……なんだろうなよくわかんね」

本当はわかっている。

『君の方が助けて貰いたそうな顔してるんだよ』

『君みたいな苦しそうな顔した人間に、背負ってくれなんて言えない』

――苦しくなんかない、俺が悪いんだからそんな事思っちゃいけない。でもあの時、一瞬だけ俺はあの女の子に頼ろうとした。なにをかはわからねぇでも、頼ろうとした。……ずっと考えてるけどなんにもわかんねぇ……。

上条はぼんやりと流れる水を眺める。
手が止まってしまっていることにも気づかない。
垣根も声をかける事はなかった。

――何かがこいつのスイッチを入れちまったんだろうな、それが何かはわからねぇが……。

水の音と食器のぶつかる音だけが、二人の間に流れている。
上条はそれを心地よく感じ、垣根はもどかしさを感じていた。
361 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:55:49.12 ID:JvXcZAm0o
~~~

テレビとテーブル。
テーブルを挟むようにソファが二つ。
垣根が客間と呼ぶ部屋はそれ意外に何もない。
一人で暮らしている時、そこはただの音のない部屋であった。
テレビをつけても、耳には入ってこない。
ただ一人ソファに座りぼんやりとしているだけの事が多かった。

今は違う。

一方通行がいる。芳川がいる。ミサカ達もいる。そして、友達も遊びに来てくれる。

「皿洗い終ー了ぉ」

そんな今に喜びを感じながら垣根は笑う。

「なんか、いいよなこういうの……飯食ってリビングでみんなで食休みして……普段はミサカ達もいるんだろ?」

「ん?あぁ、そうだな」

「本当に、なんつーか俺が来ちゃって良かったのかな?」

「くだらねェ事言ってンじゃねェよ……垣根が無理矢理連れてきたようなもンだろ?」

こちらに顔を向けずに一方通行はコーヒーを飲んでいる。
芳川は無言のまま雑誌をめくっていた。

「あとここリビングじゃねぇぞ?客間だぞ?」

「え?でも普通リビングって一家団欒するような部屋だろ?」

「だって、不動産屋がここはリビング・ダイニング・キッチンをすべて一つの大きな部屋にまとめました……的な事言ってたもんよ」

ソファに座りながら垣根はテレビをつけた。

「だからあの部屋無駄に広いのか……」

垣根のいうLDKは食卓と冷蔵庫、食器棚と炊飯器含めた調理機器が少し以外には何もなく、なんとなくガランとしたさびしさがあった。

「多分本来は今ここでお三方がくつろいでるような空間もあそこの部屋に作れるように広いんじゃねぇの?」

上条も垣根の隣に腰をおろした。

「んー、元々一人で住んでたからよ、あのただ広い空間をリビングと呼びたくなかったのかもな……でも一方通行とミサカちゃん達と芳川と、住人も増えた事だし……うし、近いうち模様替えすっか」

言いながら一方通行に視線を送る。

「好きにしろよ」

「お前も手伝えよ」

はいはい。とやる気なさ気に一方通行は返事をする。
芳川はそんな二人の会話をぼんやりと聞いているようだった。
362 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:56:24.35 ID:JvXcZAm0o
~~~

「んじゃ、どうもごちそうさまでした」

洗い物を終え少しだけ休むと、上条は泊まっていけという垣根の言葉を断り、玄関に立った。

「見送りは玄関まででいいよ、じゃあな」

「おう、またな」

二人は手を振り合う。

上条は逃げるように扉を開き、外にでた。
エレベーターを使い、地上まで降りる。
マンションから出ると、外は暗くなっていた。
月が妖しく光、上条の頭上を照らす。
その月を睨むように上条は夜空を見上げる。

すべて見透かしているかのように月は輝く。

――こんな月の夜だけは自分の不幸に他人を巻き込みたくない。

自分の罪を暴かれているようだ。と上条は思った。

目を閉じる。夏らしい生ぬるい風を思い切り吸い込むと足を一歩前へと出す。

――俺はどうすれば許されるんだろうな。

上条は歩く、その心にありもしない罪を抱えたまま。
手を伸ばせば、恐れを捨てれば、簡単に壊す事のできる……そんな脆いはずの幻想を抱えたまま。
363 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 03:58:32.12 ID:JvXcZAm0o
~~~

「なァ、どォして今日上条を呼ンだンだ?」

上条が帰宅し、少しすると一方通行が口を開いた。

「なーんか元気なかったろ?だから」

「……確かに、なンか今日の上条はキメェっつーかウゼェっつーか妙な雰囲気してたな」

「だろ?まっすぐギラギラとした鬱陶しいくらいの情熱持って俺らに挑んできたあいつがだぜ?なんかビビってるような後悔してるような……なんか、こう、気になんじゃん?」

お互いテレビに視線を向けながら会話する。

「あいつはメサイアコンプレックスみたいなところあるからな……助けようとしたやつに拒否られたとかそんなくだらねェことじゃねェか?」

「そんな単純な話ならいいんだけどな……」

垣根はどこか納得がいかないような、心配するように眉を寄せる。

「……随分上条くんを気に入ったのね」

悩む垣根の顔を見ながら、芳川が声をあげた。
その顔には驚きと焦りが見えなくもない。

「ん?いや気に入ったというか……あいつも俺らと同じな気がするんだ」

垣根は病室で見せた上条の後悔の色の宿った目を思い出す。

「んで、俺は一方通行が言ったメサイアコンプレックスってのはちと違う気がするんだ」

「あいつ普段から不幸不幸言ってンじゃねェか。その不幸を押さえ込もうとして『自分は幸せだ。だから人を助ける事ができる』って思い込もうとしてンじゃねェのか?」

「それならいいんだよ、だけどあいつは……義務というか贖罪の為に人を助けなきゃいけないって思い込んでるように俺には見えた」

――その“不幸”も俺のせいかもしれない。

芳川は昼間偶然であった時のことを思い出していた。

「なんというかさ、あいつがなんでそんなよくわからねぇ思い込みしてるか知らねぇけど……この考え自体間違ってるかもしんねぇけどなんか……な?」

「もしそうだとしたらそれは傲慢というものだわ……世界は不幸で満ち満ちているというのに、彼はそれを全て自分のせいにしてるってことでしょう?」

「俺らも同じだよ。でかい力を持たされた。地獄を味わった。それが俺らだけだと思い込んでたんだ、でもそんなやつは他にもいるんだなぁって思ってさ……そ れに気づけたから今俺は会って一週間たらずの上条の心配なんかしてやれてる……思いやりとかそういうのをお前ら以外にも向ける余裕が出来た」

芳川は垣根の精神的な成長を嬉しく思う反面、寂しくも思っていた。
先ほど見えた焦りはつまりこういう事なのだろう。

『そのうち垣根帝督は芳川桔梗を必要としなくなる。芳川桔梗よりも速く大人になり、置いていかれる』

芳川もまた、この二人には依存しているのだ。
364 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 04:00:01.22 ID:JvXcZAm0o
~~~

垣根の家と自分の学生寮の丁度中間地点にある公園で、上条は見覚えのある白い修道服を見かけた。

「あ、おい……」

声をかけ、少し後悔する。

「……あぁ、朝のご飯くれた人だね」

少女は月を輝かす太陽のように笑う。

「あ、うん……まだ追われてんのか?」

変な会話だな、と言いながら上条は感じた。

「うん、しつこくて嫌んなっちゃうんだよ」

疲れたのを隠すように、笑う。

「そ、か……なぁ、やっぱり俺のとこ来いよ。魔術だとかよくわかんねーけど多分お前を守れる」

縋るように上条は少女に手をのばす。

「……例えば君が『私に一目惚れしちゃったから俺が守ってやる』とか言ったら私は女の子だし、すごく嬉しいかも……でも、そんな『助けなくちゃ自分が壊れ ちゃう』なんて顔でそんな事言われても嬉しくないんだよ……私はそういう迷える仔羊を導くシスターさんなんだから、そんな迷えるあなたに助けてなんて言え ないんだよ」

「俺は……別に贖罪の為にお前を助けたいんじゃない!俺は……俺は……俺のせいだから、俺がやるのが筋なんだ」

「その、『俺のせい』っていうのも意味わかんないかも」

二人が話していると、そこに一人の男が近づいてきた。

「鬼ごっこはここまでにしよう」

煙をはきながら男は言った。
少女の顔が強張る。
一瞬だけ、上条をみる。
上条は――笑っていた。

「おい、シスター俺に任せろ」

そういうと、一歩前へと進み出た。

「……君は彼女のなんだい?まぁ、邪魔をするというなら……[ピーーー]までだ」

煙草を人差し指と中指でつまみ、口から離すと、息をはきながら上条を睨みつける。

二メートルは超える身長に、燃えるような赤髪、右目の下にはバーコードの刺青と耳にはピアスが空いている。
その顔は自信と覚悟、そして上条への殺意で満ちていた。
365 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/12(月) 04:06:45.01 ID:JvXcZAm0o
~~~

「ステイル=マグヌス。と名乗りたいところだけど、Fortis931と名乗らせてもらおうか」

煙草を口に戻しながら自己紹介をした。

「んなもんどっちだっていいさ……この子の不幸がお前なら俺はお前を絶対倒す」

その言葉にステイルの顔が怒りで歪む。

「……君の言う通りさ、でも何も知らないお気楽な学生が知った口を聞くなぁああああ!」

タバコを放り投げると、呪文を唱える。

炎よ―――

巨人に苦痛の贈り物を!!

放り投げた煙草の軌跡をなぞるように炎の剣が現れる。それと同時に再度、呪文を唱える。

灰は灰に―――

―――塵は塵に―――

―――吸血殺しの紅十字!

炎の剣がもう一つ現れ、それら二つを上条に向かって投げつけた。
それは上条の手前二メートルの位置で爆発し、あたりは爆発音と熱、そして爆煙に包まれる。風がなく、まだ爆煙は晴れない。

「チッ……これじゃあインデックスをまた……クソ」

ステイルは新たな煙草を取り出し、火を付ける。

「――オイオイ、勝負はまだ終わっちゃいねぇのに一服とは余裕があるじゃないか」

上条が声を出すのを待っていたかのように、風が吹き、煙が一気に晴れた。

晴れた煙の先には右手を突き出し不敵に笑う少年。
何かを掴むかのように、その右手を思い切り握りしめる。

「インデックスってのはお前の名前か?」

ステイルから目を逸らさず、後ろにいる少女に言葉を投げかける。

「……そ、そうなんだよ……君は一体……」

インデックスは上条が炎を打ち消した事に驚きながらも、答える。

「インデックス、お前の不幸は俺のせいだ。だから俺はお前を助けなくちゃならねぇ……と思ってる。それをお前がどう思おうと関係ない……俺が俺のためにお前を助ける」

「……その子の不幸が君のせい……ね。君は神様にでもなったつもりなのかい?……ありふれている不幸が、不運が、惨劇が全て君が引き起こしていると?……馬鹿馬鹿しいね、だったら君が[ピーーー]ば良いだけの話だ。そうすれば世界は幸せになる」

「そうしたら俺は人を助けられな……あ、あ……れ?」

「大したヒーローだよ、思い込みに支配され、見失いなにもかもあべこべじゃないか」

煙を吐き出す。

「違う!俺は……俺は……」

「もういいよ、ぐにゃぐにゃした醜いヒーロー気取りが僕は嫌いなんでね」

カードのようなものを取り出しそれをばらまく、それらは外灯、自動販売機、ベンチなどに吸い込まれるように張り付いていく。

「世界を構成する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。その名は炎、その役は剣。具現せよ、我が身を喰いて力と為せ」

煙草の灰を親指で弾き、落とす。

「魔女狩りの王〈イノケンティウス〉……意味は必ず[ピーーー]……さ」

ステイルの言葉と共に、炎の巨人が現れ、吼える。

「んなっんじゃこりゃ」

そばにいるだけで肌が焼けるような熱を感じ取る。

「……でも、これも異能なら……」

上条は考えるのを一旦やめ、炎の怪物―イノケンティウス―へと暑さを我慢し、右手を突き出しながら、全速力で突っ込む。
そして、それの体を思い切り殴りつけた。
366 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/12(月) 04:07:22.15 ID:JvXcZAm0o
巨人はあっけなく消え、上条はステイルに向かって笑いかける。

「俺に魔術は効かねぇよ」

が、ステイルは余裕の表情で煙草をふかす。

「言っただろ?意味は『必ず[ピーーー]』だって」

後ろに何か高温の物体が現れたのを上条は感じた。
恐る恐る振り返ると、消したはずの炎の怪物が――復活していた。

「まじかよ」

その怪物は十字架のような武器を作り出し、それを上条めがけて振り下ろす。

「くっ……」

右手でそれを“受け止める”。

「な、んで消えねーんだ」

押される。気を抜けばこのまま十字架に押しつぶされてしまう。
一瞬だけ、十字架に燃やし尽くされるならばそれも罪人にはいいかもしれない。と考えがよぎった。
が、泣きそうな顔でこちらを見つめるインデックスを視界の端に捉え、その考えを打ち消す。

「消した先から……復活してんのか?」

力を振り絞り、十字架をそらすと、上条はステイルに背を向け走り出す。
そのままインデックスの手を取り、足のスピードをさらにあげた。

「なっ」

上条の予期せぬ逃走にステイルは煙草を落とした。

「こんな右手も効かねぇ化け物、対策も知らずに相手にできるか!とりあえず逃げるぞ、インデックス」

右手は何かあった時のために空けておく。
左手でインデックスの手を掴むと、そのまま公園から逃走した。
367 :やり直しすまんせん ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:08:11.28 ID:JvXcZAm0o
~~~

「ステイル=マグヌス。と名乗りたいところだけど、Fortis931と名乗らせてもらおうか」

煙草を口に戻しながら自己紹介をした。

「んなもんどっちだっていいさ……この子の不幸がお前なら俺はお前を絶対倒す」

その言葉にステイルの顔が怒りで歪む。

「……君の言う通りさ、でも何も知らないお気楽な学生が知った口を聞くなぁああああ!」

タバコを放り投げると、呪文を唱える。

炎よ―――

巨人に苦痛の贈り物を!!

放り投げた煙草の軌跡をなぞるように炎の剣が現れる。それと同時に再度、呪文を唱える。

灰は灰に―――

―――塵は塵に―――

―――吸血殺しの紅十字!

炎の剣がもう一つ現れ、それら二つを上条に向かって投げつけた。
それは上条の手前二メートルの位置で爆発し、あたりは爆発音と熱、そして爆煙に包まれる。風がなく、まだ爆煙は晴れない。

「チッ……これじゃあインデックスをまた……クソ」

ステイルは新たな煙草を取り出し、火を付ける。

「――オイオイ、勝負はまだ終わっちゃいねぇのに一服とは余裕があるじゃないか」

上条が声を出すのを待っていたかのように、風が吹き、煙が一気に晴れた。

晴れた煙の先には右手を突き出し不敵に笑う少年。
何かを掴むかのように、その右手を思い切り握りしめる。

「インデックスってのはお前の名前か?」

ステイルから目を逸らさず、後ろにいる少女に言葉を投げかける。

「……そ、そうなんだよ……君は一体……」

インデックスは上条が炎を打ち消した事に驚きながらも、答える。

「インデックス、お前の不幸は俺のせいだ。だから俺はお前を助けなくちゃならねぇ……と思ってる。それをお前がどう思おうと関係ない……俺が俺のためにお前を助ける」

「……その子の不幸が君のせい……ね。君は神様にでもなったつもりなのかい?……ありふれている不幸が、不運が、惨劇が全て君が引き起こしていると?……馬鹿馬鹿しいね、だったら君が[ピーーー]ば良いだけの話だ。そうすれば世界は幸せになる」

「そうしたら俺は人を助けられな……あ、あ……れ?」

「大したヒーローだよ、思い込みに支配され、見失いなにもかもあべこべじゃないか」

煙を吐き出す。

「違う!俺は……俺は……」

「もういいよ、ぐにゃぐにゃした醜いヒーロー気取りが僕は嫌いなんでね」

カードのようなものを取り出しそれをばらまく、それらは外灯、自動販売機、ベンチなどに吸い込まれるように張り付いていく。

「世界を構成する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり。その名は炎、その役は剣。具現せよ、我が身を喰いて力と為せ」

煙草の灰を親指で弾き、落とす。

「魔女狩りの王〈イノケンティウス〉……意味は必ず[ピーーー]……さ」

ステイルの言葉と共に、炎の巨人が現れ、吼える。

「んなっんじゃこりゃ」

そばにいるだけで肌が焼けるような熱を感じ取る。

「……でも、これも異能なら……」

上条は考えるのを一旦やめ、炎の怪物―イノケンティウス―へと暑さを我慢し、右手を突き出しながら、全速力で突っ込む。
そして、それの体を思い切り殴りつけた。
368 :やり直しすまんせん ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:08:39.37 ID:JvXcZAm0o
巨人はあっけなく消え、上条はステイルに向かって笑いかける。

「俺に魔術は効かねぇよ」

が、ステイルは余裕の表情で煙草をふかす。

「言っただろ?意味は『必ず[ピーーー]』だって」

後ろに何か高温の物体が現れたのを上条は感じた。
恐る恐る振り返ると、消したはずの炎の怪物が――復活していた。

「まじかよ」

その怪物は十字架のような武器を作り出し、それを上条めがけて振り下ろす。

「くっ……」

右手でそれを“受け止める”。

「な、んで消えねーんだ」

押される。気を抜けばこのまま十字架に押しつぶされてしまう。
一瞬だけ、十字架に燃やし尽くされるならばそれも罪人にはいいかもしれない。と考えがよぎった。
が、泣きそうな顔でこちらを見つめるインデックスを視界の端に捉え、その考えを打ち消す。

「消した先から……復活してんのか?」

力を振り絞り、十字架をそらすと、上条はステイルに背を向け走り出す。
そのままインデックスの手を取り、足のスピードをさらにあげた。

「なっ」

上条の予期せぬ逃走にステイルは煙草を落とした。

「こんな右手も効かねぇ化け物、対策も知らずに相手にできるか!とりあえず逃げるぞ、インデックス」

右手は何かあった時のために空けておく。
左手でインデックスの手を掴むと、そのまま公園から逃走した。
369 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:10:13.60 ID:JvXcZAm0o
~~~

「あ、あの怪物、は公園からは、出れねぇ、みたいだな」

息を切らしながら上条はなんとか逃げ切る事に成功する。

「多分、あれはルーンの刻印を消さないと駄目なんだよ。戦いながらそれを全部消すなんて無理かも。だから準備させたら勝ち目はないんだよ」

ステイルの魔術を解説するインデックス。

「そう、なのか……あの飛んでってルーンってのはペタペタ張り付いたカードか?」

「うん、そんな認識でいいんだよ。そして、イノケンティウスはそのルーンの中からは出てこれないんだよ」

二人は上条の学生寮へ向かっている。

インデックスはまだ迷うような、上条は目的を与えられ喜ぶ愚者のような表情で……。
370 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:10:45.11 ID:JvXcZAm0o
~~~

「あ、と俺は上条、上条当麻だ。よろしくなインデックス」

「う、うん。私はインデックスって言うんだよ」

二人は狭い学生寮の一部屋へと到着した。
玄関を入るとすぐキッチンがあり、その奥の部屋には小さな本棚と折りたたみ式の小さな机、そしてベッドがあるだけのシンプルな部屋である。

「とりあえずお礼を言うんだよ、助けてくれてありがとう。本当はとうまを巻き込みたくなかったんだけどな……」

うつむき、その顔から太陽のような笑顔は失せていた。

「気にするなよ、ずっと言ってるだろ? 俺 が 全 部 悪 い ん だ 」

「や、やっぱりとうま少しおかしいんだよ。朝からそれずっと言ってるけどなんの事か全くわからないんだよ」

上条に若干の気味悪さを感じる。

「……気にしなくていい、お前は俺が守るから」

優しく微笑むと、インデックスの頭を撫でた。
右手で。

パン。と音がした、気がする。
上条は目の前で起きているあまりにも意味不明な出来事に思考がシャットアウトされた。

右手でインデックスに触れたら、インデックスの修道服が弾け飛んだのだ。

「え?」

「んん?」

「うわぁあああああ!よくわかんねーけどごめん!」

「きゃあああああ!とうまのばかー!」

二人はお互い悲鳴をあげ、インデックスはベッドの上にあった布団にくるまる。

上条は適当に服を出し、それを後ろ手にインデックスへと渡す。

――は、はいてなかった……。

二人とも顔はステイルの髪色のように真っ赤である。
371 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:12:33.80 ID:JvXcZAm0o
~~~

「うううー、もうお嫁にいけないんだよ」

インデックスは上条を睨みつける。

「なんだ?俺にもらって欲しいのか?」

機嫌をとろうと上条はつまらない冗談をとばす。

「そんな事言ってないかも!もう、でも、その右手……歩く教会まで壊しちゃうなんて……」

「ん?あぁ、これね」

言いながら、右手を目の前で握ったり開いたりする。

「初めは俺はただ人よりも不幸なだけのどこにでもいる普通の人間だと思ってたぜ」

懐かしむような表情をしながら、上条は昔話をはじめる。

「外食すれば食中毒。道を歩けば車が突っ込んできたり上から工事中の鉄板やら鉄骨が降って来る。公園で遊んでても車が突っ込んでくる」

上条は笑う。

「そんで俺と遊んでる子は巻き込まれるんだ、皆が言ったよ『上条当麻が悪いんだ』ってね。刺された事もあったな……事故に巻き込まれて、周りの子を無傷で助けられても誰も許しちゃくれなかった」

「……もういいんだよ」

「それどころか自作自演を疑われたんだぜ?笑える話だろ、命をかけてそんな事をして注目を浴びたい子だって周りの奴らは言ったんだぜ?『お前がいなければ』『お前がいるから』『お前は疫病神だ』何回も言われたよ」

狂ったように上条は喋り続ける。

「でもそれは決して間違いなんかじゃないんだ……」

微笑むように、上条は綺麗な顔をした。
温かみのある、何かを思っての顔。
372 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:13:24.23 ID:JvXcZAm0o
「親父がさ、だんだん引きこもって精神的にやばくなってきた俺を迷信を信じないこの街に連れてきてくれたんだ……小学校に上がる頃だぜ?その頃から俺の心は壊れてんだよ」

家族の優しさだけが彼をギリギリのところでとどめていた。

「そこで俺は右手に異能の力を消すって能力があるのを知ったんだ。能力者が喧嘩しててな、それの流れ弾が俺のところに飛んできたんだよ『いつもの不幸か』って思いつつなんとなく右手を出したんだ、本当に、なんとなく……」

上条は何を思いながら喋っているのだろう。
インデックスは何を思いながら聞いているのだろう。

「そしたら、それが消せたんだ。それで俺は直感的に思った『あ、俺は神様の好意とか運とかそういうのを消してんだ。そんで、疫病神に愛されてんだ』ってね。だから俺が疫病神ってのは間違っちゃいない。だから、この世の不幸は疫病の神様、上条さんのせいなんですよ……」
373 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/12(月) 04:17:29.79 ID:JvXcZAm0o
いい終えると、先ほどのステイルの言葉が脳内に蘇る。

『思い込みに支配され、見失いなにもかもあべこべじゃないか』

――思い込み?なにが?

――見失ってる?なにを?

――あべこべ?だからなにが?

そして、今朝上条はインデックスに何を頼ろうとしたのか、理解した。

――俺はインデックスに救ってもらいたいと縋ろうとしたのか?こんな小さな女の子に?俺が悪いのに?

ブツブツと自問を繰り返していると、インデックスが口を開いた。

「とうまは何時の間にか不幸を全部自分のせいだって、思い込んじゃったんだね……無責任な大人の言葉を信じちゃったんだね」

――だって事実じゃないか。

「とうまは、初めから『自分のせいだから人を助けなきゃ』って思っていたの?」

――違う、最初はただ、傷つく人を見たくなかったからだ。

「とうまは、悪くないんだよ?不幸なんてとうまがいなくても全ての人に訪れるんだよ?だから人間は幸福を感じられるんだよ?」

――違う、違う違う違う。

上条は幼い頃両親以外の味方はいなかった。
外に出れば避けられ、怒鳴られ、非難された。

お前が悪い。疫病神。お前のせいだ。

どれもこれも聞き飽きた言葉だ。

それはつまり聞き飽きるくらい、その言葉は上条当麻の中に定着していたということだ。

散々言われた冷たい言葉は幼い上条の中に真実として築き上げられる。

幼いながらも、勇気と根性でこちらに向かって来るトラックから友達二人を守った。
上条は骨折の大怪我をした。

落下して来る鉄骨から人を庇った。
奇跡的に上条は大怪我で済んだ。

犬に襲われている友達を庇った。
また、上条は大怪我を負った。

火事現場から、そこの家の親が置いてきた赤ん坊を救い出した。
全身を火傷し、生死をさまよった。

いつも意識を失う直前に聞く言葉は決まっている。

『この疫病神が』
374 :つーかよく見たらピーピーだらけ……死にたい脳内補完頼みます ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/12(月) 04:22:11.74 ID:JvXcZAm0o
目を覚ますと、母親が泣いていた。
父親も泣いていた。

二人には笑っていて欲しかった。自分が笑えば両親も笑うと思って上条は微笑んだ。
そしたら、さらに両親を泣かせてしまった。

そして、つよくだきしめられた。

上条は段々外に出なくなったのではない。
外に出られなくなったのだ。

病室から見える公園では同じくらいの年齢の少年少女が楽しそうに遊んでいる。

上条はそれを見て、夢をみた。
自分もあの輪に入る夢を……。

――もしも、僕のしてしまったわるいことをぜんぶあやまったらなかまにいれてくれるかな?

その思いは十年経った今でも上条の中に「贖罪しなければならない罪」として存在していた。

上条は頭を抱える。

「だって、みんなそういった、おれはただ、一緒に、仲間にいれてほしくて……だから、罪を償えば、罰を受けたら……なんで?」

「許されるわけないよ、だってとうまはなにもしてないんだもん」

インデックスの目から涙がこぼれる。
そして、上条を抱きしめる。

「とうまは、なんにも悪くないんだよ……?」

初めはただ、人が痛がったり泣いてたりするのを見るのが嫌だったから。

助けることの出来た人からは笑顔が貰いたかった。
笑って欲しいから行動したんだから。

でも、その人たちはみんな、自分を睨みつけた。
そして憎悪の目をした。

そのうち、殺意に満ちた視線が上条を包んだ。

この街に来てからは、上条は助けた人の顔を見なかった。
その人が何かを言おうと迷ってる間に逃げ出していた。恐ろしかったから。

でも、今日出会った少女はなんの迷いもなく、ずっと欲しかった笑顔をくれた。

「とうまはなんにもわるくないんだよ」

ありがとう。と言葉を添えて、太陽みたいに笑った。

太陽の破片のように熱く、美しいものが頬を伝っていた。

少しだけ、上条は自分に誇りを持つことができた気がした。

上条が欲しかったものは笑顔。
ただ、友達からの笑顔だった。 
 
 
392 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:16:42.45 ID:SZGEBzNko
~~~

「おーっす、カミやーん!」

静寂が部屋を包む中、無遠慮に扉が蹴り開けられた。

「どこほっつき歩いてたんだにゃー?これ、プリントだ……ぜい?」

突然の乱入者――土御門元春――に二人は固まる。

「もしかしなくても俺はいまお邪魔虫かにゃー?」

そのサングラスで目が隠れているため、表情を正確に読み取ることは難しい。

「あ、そうだカミやんが終業式の日に助けた女の子覚えてるかにゃー?階段から落ちそうになった女の子だぜい?」

上条は小さく頷く。

確か隣のクラスの女の子だったはずだ。
ふざけてた男子生徒を避けようとして、足を滑らせた不運な女の子。

「『上条君お礼いう前にさっさと教室戻っちゃったから』って言って今日態々礼いうためだけに補習でもないのに学校来てたぜい?次からは礼くらい言わせてやるんだにゃー」

そう言い残すと、プリントの束を投げて寄越しさっさと部屋から出て行った。

「ほら、とうまは何も悪くない。昔の事は、みんな小さくて弱くて、怖さを何かのせいにしないと落ち着けなかったんだよ。たまたま何かがとうまになってしまっただけ」

インデックスが嬉しそうに表情を柔らかくし、上条の目を見つめる。

「……インデックス、俺はお前がずっと笑顔でいられるようにしたい……だから、お前を助ける」

―― ありがとうはまだ言わない。全部解決したら、そうしたら言おう。まだ完全に今までの考え方が変わったわけでもない。

上条の心情は当然の事である。
十六年間で染み付いてきたものだ。簡単に変わるわけがない、ただ、上条はきっかけを見つけたのだ。
心の闇を晴らす兆しを、光を見つけたのだ。

「な、なんか恥ずかしいんだよ」

インデックスは顔を少しだけ朱色に染め、上条から離れた。

「とうま、おなかすいた……かも」

そして背を向けながら、恥ずかしそうにそう言った。
393 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:27:21.40 ID:SZGEBzNko
~~~

「ごちそうさまでした」

満足気に上条の作った焼きそばを食べ終えると、手を合わせお行儀良く挨拶をした。

「お前、よく食うなぁ……あ、食器は台所もってけ、洗うのはあとで俺がやるから水に浸しといてくれればいい」

インデックスの食欲に度肝も抜かれながらも、後片付けの指示を出す。

「少し休んだら風呂先入ってきていいぞ、色々考えるのは明日に……明日も補習だった……まぁ、いっか……」

上条の顔にはサボってもしょうがないよな?という色が浮かぶ。

「いやぁ、良くねぇだろ。その銀髪の美少女はお前が学校いってる間俺が預かってやろうか?」

「お、いいのか?ありがとうなでも迷惑はかけらんねーよ垣根……垣根ぇ?」

ぼんやり眺めていた課題プリントから目をあげると、上条の携帯電話を見せびらかすように右手に持つ垣根帝督が座っていた。

「な、な、なんでお前がここに?というかどっから入ってきた?」

「ベランダから、ちゃんと邪魔するぜ?って言ったぞ。なぁ銀髪碧眼ちゃん」

インデックスも首を縦に振った。

「全然気づかなかった……まぁ、いいやどうしたんだ?」

上条はため息をつきながら、訪問理由を尋ねる。

「いや、だから携帯電話忘れてったからさ届けにきた」

上条の前に携帯電話をさしだす。

「ん、あぁ、わざわざありがとう忘れた事すら今気づいたよ」

笑いながら、礼を言うとそれを受け取り、充電器に差し込む。

「んじゃ、俺は帰るとするかねぇ……補習何時からだよ?朝嬢ちゃん迎えにくるぜ?」

「嬢ちゃんじゃなくて、インデックスって呼んで欲しいかも」

「そうか……俺は垣根帝督だ」

あからさまな偽名に一瞬顔をしかめるが、インデックスからは悪意を一寸も感じなかった。
そして上条の迷いが先ほどより消え、インデックスを信頼しているように見えたのも、垣根からインデックスへの警戒心を溶かした。

「うん、ていとくって呼ぶね」

無邪気に笑う。

――まぁ、上条の人を見る目は割りとしっかりしてるし大丈夫だろ。

人をしっかり見る事ができる、それゆえ上条は『この人に嫌われたくない、幻滅したくない』と人から逃げるようにもなった。

「いやでも……」

明らかにこれは巻き込む行為だと上条は顔をしかめる。

「おいおい、なんかトラブってるとしても俺の家ほど安全なとこはねーだろ?」

垣根も、上条の呼び寄せる不幸など気にはしていなかった。
上条が罪の意識から人を助けている印象は持っていたが、その罪を上条が巻き込まれるトラブルとは結びつけはしない。
むしろ垣根は、いや多くの人は上条がトラブルに人を巻き込むのではなく、上条が勝手に他人のトラブルに巻き込まれていると認識しているだろう。
一番近しい友人は上条の心の真実を感づいていたようではあるが、まだ知り合って少しの人たちはそんな事には気づけないでいる。

「……じゃ、じゃああそこの公園まで連れてくからそこからお願いしてもいいか?」

先ほどステイルと戦った公園を待ち合わせ場所に指定する。

「おう、任せろ」

そして、上条はまた迷った風に目線を泳がせる。

「どうした?なんかあんなら言っとけよ」

そんな上条の様子に垣根は勘ぐる。
394 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:29:47.93 ID:SZGEBzNko
「……ていとく、私実は今追われてるんだよ。だからもしかしたら明日お世話になってる時に襲われるかもしれない」

上条が言おうか迷っていた事をインデックスはいとも簡単に言った。

「私は今、逃げる力がないからとうまの守ってくれるって言葉に甘えさせてもらってるんだけど……それでもいい?」

自分の弱さを受け止めて、助けてくれと、願う。

「……何に追われてるんだ?」

「魔術結社なんだよ」

「魔術ぅ?科学の街でなにをオカルトな事を」

垣根は笑い飛ばす、が上条、インデックスの真剣な目にその笑いはだんだん乾いたものになる。

「……マジ、なのか?」

二人は頷く。

「まぁ、そうか……よし、いやまて……」

自分を納得させる理由を必死に垣根は探し出す。

『いや、なンか変なベクトルがたまに入り込む感じだな』

そして一方通行の言っていたよくわからない現象、それを魔術と結びつけた。

――まぁ、そんなものがあったら面白いな。くらいに考えときゃいいだろ、追われてるのは本当みたいだしな。

「よし、信じた。上条は魔術師と戦ったのか?」

科学の街で育ち、その街のトップに君臨する垣根であるが、決して全てが科学で解明できるとは思ってはいない。
それゆえ、頭から否定したりもしない。

「あ、あぁ、ステイルって赤髪のやつと……そいつは火を使ってた。そんでなんかカードペタペタ張り付けて火の怪物生み出してた」

「勝てたのか?」

「いや、逃げた。そのカードを全部壊さないとその怪物何度も蘇るんだってよ」

「……インデックスちゃん、魔術で火を出す時ってのはその火は普通の火なのか?」

少し考えながら、垣根はインデックスに魔術の事を尋ねる。

「魔術は『異世界の法則を無理矢理現世界に適用して様々な現象を起こす物』だから一概にそうとは言えないかも、でもステイル=マグヌスの炎は火種にこっちの炎を使ってるから、この世界の物理法則に従うと思うんだよ」

「だったら、そのステイルってやつは問題ないな」

この世界の物理法則に従う。
それならば対策などいくらでも立てられる。

「この世界の物理法則だけで、常識の中だけで戦うやつが、俺に勝てるわけがない」

垣根は自信たっぷりに笑う。
395 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:32:56.85 ID:SZGEBzNko
~~~

「帝督は?もう寝ちゃったの?」

風呂から上がると、垣根の姿が見えなかった。
髪の毛の水気をタオルでふきながら、芳川は客間のソファへ座る。

「上条の携帯電話届けに行った」

一方通行はつまらなそうにバラエティ番組をぼうっと眺めている。

「そう、私今日ミサカちゃん達の部屋で寝ていいのよね?」

「ン?あァ、どこでもいいぞ」

「……じゃ、一緒に寝る?」

芳川はイタズラっぽく笑い、一方通行をからかう。

「昔は三人でよく昼寝したよなァ」

が、一方通行はまだ恋というものに気づいていない。
さらっと受け流し、昔を思い出す。

「……昔とは違うでしょ」

なんとなく面白くなくて、芳川は目の前の、ボトルに入ったフルーツジュースを一気に飲み干す。
垣根が出かける前に飲んでいたものだ。

「それ、垣根のだぞ」

一方通行は若干イラつきながら、芳川に注意すると立ち上がり冷蔵庫へ向かった。

「……あの子はまだ、よくわからないわね」

芳川は一方通行が甘えて来るのは母親や姉に甘えて来るのと同じだと思っている。

――帝督はその辺ちゃんとに成長していたわね。二人の違いはなんなのかしら?

それは愛される事を願ったか、愛する事を願ったかの違い。

愛される事を願った垣根は自身を裏切り、妬み、利用する人々をも愛そうと努力した。
人を愛する事がどういう事か理解しようとした。

愛する事を願った一方通行は愛する事のできる人を探していた。
基準は唯一愛した二人の“家族”だが、一方通行に取ってこの二人と同等に信じてもいいと思えた存在など現れなかった。

だから、自分の好意を向け方がわからないでいる。

そして、一方通行は今、芳川に甘えている実感すら持ってはいない。
ただなんとなく、気を抜くと昔のような接し方をしてしまう。くらいにしか思っていないだろう。
本人はそれに対し、なにか心に霧がかるようなもどかしさを感じているようだが、それが芳川を一人の異性として見ているからという事には気づかない。

初めはお姉さんのように自分を可愛がってくれる芳川が大好きだった。
やがてそれは形を変えていき、子供ながら芳川を守りたいと感じるようになる。

それを恋と呼ぶ事を幼い一方通行は知らなかった。

そして十年の時を経て、二人は再会した。

この十年間、一方通行は垣根の事も芳川の事も一秒たりとも忘れた事はなかった。

それは、会えなかった十年間で気持ちは一厘たりとも減った事はないという事だ。

ただ、守りたい。

それが恋だという事を、一方通行は未だに知らない。

「お前もコーヒー飲むか?」

冷蔵庫の前から声をかける。

「なんかあまいものをちょうだい」

当たり前のように返ってくる返事に心地よさを感じる。

先ほど飲み干したフルーツジュースと同じものと缶コーヒーを取り出し、冷蔵庫を閉めた。
396 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:35:19.27 ID:SZGEBzNko
~~~

「さて、そろそろ寝るか」

垣根が帰り、風呂に順番にはいると上条は寝る準備に取り掛かろうとする。

「そうだね、もう眠いかも……とうまちょっと狭くなるけどごめんなんだよ」

インデックスはあくびをしながらベッドに潜り込む。
そして、その様子をじっと見ている上条に不思議そうな顔を向けた。

「あれ?寝ないのかな?」

ベッドの半分を上条のためにあけ、そこをぽんぽん手で叩く。

「いや……流石に同じ布団で寝るのは……ね、上条さん紳士ですから……」

ドギマギと顔を赤らめながら上条はうろたえる。

「そ、それもそうだね!布団もう一枚あるの?ないんだったらわ、私が床で寝るんだよ」

自分が何を言ったか理解したのかインデックスはあわあわとしながらベッドの上に正座した。

「だ、大丈夫だ!もう一つある!俺がそれで寝るから」

そういい、押し入れから予備の布団をとりだすと、そのまま浴室へと向かう。

「ちょ、ちょっと待って欲しいんだよ!別々の部屋で寝てたら寝てる間に拐われちゃうかもしれないんだよ。ベッドの横に布団敷いて寝ればいいかも」

上条の袖を引っ張り、引き止める。

「別に同じ布団で寝るわけじゃないから問題ないかも」

「あー、うんまぁそう、だな……そうなのか?」

守るため、と言い聞かせ上条はベッドの横に布団を敷いた。

そして電気を落とし、部屋を暗くする。

「あ、一番小さいの付けといて欲しいんだよ……」

真っ暗にするとインデックスが遠慮がちに言った。

「……わかった、おやすみインデックス」

「ありがとう、おやすみなさい、とうま」
397 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:40:01.00 ID:SZGEBzNko
~~~

豆電球でほんのり茶色がかった部屋には二つの呼吸音と時計の針の音だけがこの世に存在するかのような錯覚を感じさせた。
窓は開けてあるのだが外から物音は一切しない。
不気味すぎるくらいの静寂が上条にのしかかる。

――俺は……悪くない?

自問する。

反射的に出てくる思考はやはり「俺が悪い」というものである。

その言葉に怯えるように拳を強く握る。

――インデックスは笑ってくれた。

朝、ご飯をあげた時、さっき逃げ帰ってきた時、そして先ほどご飯をあげた時、インデックスは上条の脆い心を包み込むように笑ってくれた。

――土御門、青ピ、小萌先生。

クラスメイトと担任の顔を思い浮かべる。

――御坂、その二人の妹。

いつも勝負しろと言って来る、たまにゲームのできる実験に誘ってくれたりゲーセンで遊んだりする友達とその妹の顔を思い浮かべる。

――垣根、一方通行、芳川さん。

最近仲良くなった友達を思い浮かべる。

――この人達を俺は不幸にしたくない。インデックスは俺のせいじゃないというが、でも俺がそばにいたらいつか絶対“俺自身に降りかかる不幸”に巻き込まれる。

体を小さく丸める。

もしも全ての不幸が自分のせいではないのならば、他人に降りかかる不幸に罪悪感を持つ事はない。
納得はし切れていないがこれは解った。

でももし、そうだとしても、上条が巻き込まれる不幸は相当なものだ。
いつか絶対側にいる人を巻き込んでしまう。

それはどう考えても、自分が悪い。

上条は思考を進める。

――やっぱり、俺が悪いんだ。

最終的にたどり着く答えはそこである。
さらに体を小さくするように丸める。

「とうま……私はとうまが救われるまでずっと側にいてあげるよ?時にはとうまを襲う不幸に巻き込まれるかもしれない」

静寂と上条の思考に美しい声が割り込んで来た。

「でもね、私たちはもう友達なんだよ。迷惑かけて、かけられて、それでもその人と一緒にいるのが楽しいから自分の意思で側にいたいんだよ。楽しいから辛いことがあっても笑えるんだよ。まだ私達は出会って一日も経ってないけど、私はとうまといるの楽しいよ?」

もぞもぞと寝返りをうち、上条の方を向いた。

そして、目が合うとにっこり微笑んでから、ゆっくりと目を閉じた。

――俺が……救われる?
398 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:43:11.04 ID:SZGEBzNko
~~~

――とうまはきっとまだ自分を責めてるんだよ。

人はそんな簡単には変わらない。
それが幼少の頃から体に染み付いている事ならば尚更だ。

――きっと何かあったらすぐにうじうじし始めると思う。多分今も私の言ったとうまが救われるってセリフに疑問と罪悪感を感じてるんじゃないかな。

だけど大丈夫だ、とインデックスは確信めいたものを持っていた。

上条はまだ夢を見ている。夢を捨ててはいない。

怯えきった瞳の中でもしっかりとぶれないひとつがあった。

笑いかけてもらいたい。
大切な人達に笑顔でいて欲しい。

という優しい願いがある。

――とうまは、他人に優しくされて来なかったから、誰よりも優しい子になる事が出来たんじゃないかな。

自分がされて嫌な事は他人にしてはいけない。

幼い頃きっと誰もが教わる事だ。

上条はそれを忠実に守っている。

――とうまは誰かに助けて貰いたかったから人を助けるのかもしれないね。

上条の心には様々な欲望が渦巻き、絡み合っているのかもしれない、とインデックスは思った。

上条は闇の中にぼんやり光りながら佇む光の粒のような存在だ。
真っ暗の中で心を見失い、がむしゃらに祈り続けている、そんな存在。

――もっと簡単な事なのにね。手をのばせばみんな笑いかけてくれるのに……でも、それすらも心の底から信じる事がまだ出来ないのかな。

インデックスは上条の心をかき回し、その根っこを出会った瞬間に暴いた。
それゆえに根元に刻まれた暗い思いを正しく理解していた。
399 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:44:50.82 ID:SZGEBzNko
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「……今、何かいいましたか?とミサカは何かが聞こえたと主張します」

長い検査と調整の一日を終え、ミサカ達は寝ようとしているところであった。

「何も言ってないよ、ミサカには聞こえなかったし空耳じゃない?」

「そう、ですか……とミサカは何やら不安な気持ちになります」

二人は二段ベッド上下で会話をしている。
ミサカ00001号が上で00002号が下だ。

「慣れないところだからね、それにこの部屋白いしね。日本人特有の心霊感覚が……あー、ある、らしい……よ?」

「あなたはお姉さまに似て漫画が好きなのですね」

「……わかるって事は00001号も読んでるんじゃん」

二人はクスクスと笑う。

「明日も調整だって言ってたよね?……早く寝よ」

「……そうですね、おやすみなさいとミサカは目を閉じます」
400 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:46:04.34 ID:SZGEBzNko
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「じゃあ、先に休ませて貰うわね」

芳川はそう言い残し、普段ミサカが使っている和室へと消えた。

テレビを消してソファに寝転がる。

タレントの嘘くさい喋りが消えると水を打ったような静けさに部屋は包まれる。

――やっぱ一人だと……落ちつかねェな……。

自分の周りから誰もいなくなる不安が一方通行を襲う。
天井を見つめその不安をかき消すように舌打ちをして見るが逆に不安が増すだけだった。

目を閉じると一人取り残される自分を嫌でも想像してしまう。

――垣根はすごい。どんどん成長してるみてェに感じる。……俺は何ひとつ変われてねェ気がする。

不安だけが大きさを増す。

芳川がまたいなくなる。
垣根がまたいなくなる。

想像しただけで吐き気がする。

もう何度こんな意味のない想像をしただろうか。

その度に自覚なしに唯一甘えられる存在にみっともなく甘えてしまう。

――強くなれ、一方通行。これから先、何も失わないように……全てを守れるように、強くなるンだ。

自分に言い聞かせる。
401 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:49:08.41 ID:SZGEBzNko
~~~

垣根が家に帰ると、芳川はすでに和室にこもり、一方通行はソファで眉間にシワを寄せながら眠りこけていた。

「……どんな顔して寝てんだよ」

夕方芳川に寄りかかり眠っていた時はもっと安らかな顔をしていたはずだ。

――第一位だからな、俺以上に悲惨な実験を見せられてきたんだろうな……。その度一人でガタガタ震えてたのかな……?

一方通行の髪を撫でる。

自分がずっと一緒にいてやれる事は出来ない。と垣根は理解している。
今はまだ子供だからある程度の無理もわがままとして許されている節がある。
だが、この先自分たちは大人になる。
どのような大人になるかはわからないが、大人になったら責任というものが生まれる。

そして、一方通行と垣根はこの街のトップだ。
当然、多くの人を従える組織のトップに立つ事になるだろう。

自分達のわがままに多くの人を路頭に迷わず事もありうるのだ。

――一方通行、強くなれよ。俺も強くなるから、違う場所からでも同じ景色を見てやろうぜ。

垣根は未来を上手に想像することができる。
ただし、未来の自分の隣には誰もおらず、自分の表情も真っ黒だ。
自分の事、心の内。
垣根にそれはうまく描けない。

そんな垣根を慰めるように夏の生ぬるい風がカーテンをひらひらと揺らした。
402 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:53:32.79 ID:SZGEBzNko
~~~

一方通行は目を覚ますと腹にタオルがかけられているのに気がついた。
ぼんやりした意識で食卓へ向かうと垣根と芳川が笑顔で迎えてくれる。
ホッとするのと同時に、自分の弱さに腹立たしい気持ちが沸き起こった。

「おはよう、タオルお前か?」

パンにジャムをぬりながら垣根は頷いた。

「サンキューな」

言いながら丁度焼きあがったパンを芳川から受け取る。

「ちょうど起こそうとしたら起きたわね」

おかしそうに笑いながら温かいコーヒーを淹れる。

「なァにが可笑しいンですかァ?」

受け取った皿を机に置き、手洗いとうがいをするため台所に立った。

「タイミングの良さが可笑しいんだろ」

「タイミング?」

手を拭き、そして椅子を引き、そこに座る。

「丁度帝督に起こしてきてって言ったところだったから、なんとなくおかしくてね」

コーヒーを三人分淹れ終えると芳川も椅子に座った。

「意味わかンねェ……」

そして三人揃っていただきますをする。

朝食を食べ終えると垣根は散歩と言い残し家を出て行った。芳川はシャワーを浴びている。

一方通行はベランダに寄りかかり空を流れる雲を眺めていた。

――あの雲の向こうかァ……遠いなァやっぱ。

遠い雲のさらに向こう側、一方通行達が壊したいものはそこにある。

樹形図の設計者がある限り演算、再演算、再再演算……という具合に完全に凍結される事はないだろう。だから、ぶっ壊す。

非常にわかりやすくスマートな結論である。

しかし、わかりやすくスマートな事ほど難しいと、一方通行は身をもって体感した。

「どォすりゃいいのかねェ……」

流れのままに動く雲に問いかけてみる、当然答えはない。

「なにを朝から黄昏てんのよ」

髪の毛をふきながら、ジャージ姿の芳川がベランダにでてきた。

暑いわねー、と太陽に手をかざしながら一方通行に缶コーヒーを差し出す。

「一方通行は今日何をする予定なの?」

ミネラルウォーターをのみながら横目で一方通行をみる。

「……そォだなァ……」

缶を開け、一口飲む。

「雲でも眺めながらどォやってぶち壊すか考える」

空を見上げる。
太陽と天気予報を知らせる飛行船が本日の降水確率が零だと言う事を主張していた。

「そう、ミサカちゃん達にも帝督と顔見せにきてあげて……あの子達も検査ばっかで退屈しだすだろうから」

「……そン時ァ御坂美琴も連れてってやるよ」

「……そうね、よろしく頼んだわよ」

柔らかい笑顔を浮かべると、ボトルを一気に空にした。
そしてドライヤーで髪の毛を乾かし、服を着替えると芳川は家をでた。
403 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:55:43.35 ID:SZGEBzNko
芳川の出てった玄関をぼんやり眺めていると、その扉が急に開き垣根と一方通行には見覚えのないインデックスが現れる。

「うお、お前なんでこんなところに突っ立てるの?びっくりするじゃねぇか」

やれやれ、と言いながら垣根はごくごく自然にインデックスを招き入れる。

「お邪魔するんだよ!」

インデックスは無邪気に笑いながら、一方通行に気がつくと自己紹介をした。

「あくせられーたは本当に真っ白なんだね!私はインデックスって言うんだよ。よろしくね」

「……お、おう。コチラコソ」

戸惑いながらも応対をする。

「いやー、外はあっちぃぞ」

垣根はさっさと冷蔵庫へ向かい、冷えたジュースで渇きを潤していた。

「垣根くゥン、インデックスちゃンがどこの子でなンでここにいるのか説明してくれねェかなァ?」

何も説明をしない垣根の頭を掴む。

「あー、上条が匿ってる子?なんか追われてるっていうからあいつが補習の間預かる事にした」

「……あのお人好しは自分が凹ンでる時も他人優先なのか……頭のネジ吹っ飛ンでンのかァ?」

手を離し、垣根を開放する。
昨夜の上条の異様な空気を思い出しながら、インデックスを伺う。

「め、迷惑かな?」

捨て犬のような目をしながら、垣根から受け取ったボトルを握りしめている。

「……何に追われてンだよ」

ため息をつき、迷惑ではない、というように首をふった。

「魔術結社なんだよ」

「インデックスちゃん、そこは俺が説明するわ」

垣根から聞かされた話は一方通行にとって到底信じられるものではなかった。
が、ふざけているようにも思えなかった。

――でも、垣根もまだ半信半疑ってとこかねェ?

当然垣根も完全に魔術を信じているわけではない、ただそういう可能性もある、と受け入れているだけである。

「……世の中まだまだしらねェ事があるンだなァ……」

一方通行は整理しきれない情報に、そうコメントを残すのが精一杯であった。
404 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:57:26.31 ID:SZGEBzNko
~~~

「……上条は何時に補習終わンだ?」

三人でぼんやりテレビを眺めたり、魔術の事を簡単に聞いたりしながら過ごし、退屈を感じはじめた頃である。

「夕方って言ってたんだよ」

ソファにだらしなく寝そべりながらインデックスは答える。

「あいつ昼飯とかどうすんだろう、夏休みも購買やってるものなのかな?」

学校にまともに通った事のない垣根は不思議そうにつぶやく。
当然あとの二人も学校などまともに通った事はないので、その疑問には答え様はない。
三人はそのまま、黙る。

「……そろそろ、昼だな」

「うん、お腹減ったんだよ」

「なンか今から作るのめンどいし今日は外で食うかァ?」

「そうだな、ついでに上条になんか弁当でも買って持って行ってやるか」

大きく伸びをしながら垣根が立ち上がる。
そしてインデックスの手を引き、起き上がらせた。

一方通行はテレビの電源を落とし、ベランダを施錠する。

「うし、行くか。インデックスちゃんは何が食いたい?」

「今更だけどなンでお前そンなパンクな格好してンだ?」

一方通行の指摘したそれは、安全ピンでツギハギだらけのインデックスの修道服のことである。

「こ、これは山より深くて海より高い理由があるんだよ!」

こうなった理由を思い出し、顔を赤らめ少し慌てる。

「……まぁ、いい……何食いてェンだ?」

これ以上突っ込むと面倒な事になりそうだと、話をそらす。

「うーん、お寿司食べたいかも!」

「オッケ、んじゃあ寿司で!少し早いが帰りに上条とミサカちゃん達にも寿司を届けてやろう、病院の飯よりは寿司のがいいだろう」

時間は午前十一時。

食べ終わるころにちょうど世間は昼休みになる頃だろう。

三人は仲良く家を出た。
405 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:58:25.37 ID:SZGEBzNko
~~~

「美味しかったね!ご馳走様なんだよ、ていとく!」

「おう、それにしても良く食ったなぁ……一方通行の三倍は食ってたな」

お持ち帰りようのパックが四つ入ったビニール袋をぶら下げながら垣根はインデックスの食欲に感嘆めいたものを改めて感じていた。

「見てるだけで腹一杯ンなったわ……お前とインデックスは上条ンとこ行け、俺ァ病院行ってくる……コーヒー飲みてェから先帰っててくれて構わねェぞ」

「ん、了解。こっちも適当にデザート食ってから帰るわ」

デザートという言葉にインデックスは目を輝かせ、一方通行はそんなインデックスを微妙な目で見つめた。

じゃあなんかあったら携帯電話を鳴らせよ、とでもいうように二人は白と黒の携帯電話を見せ合う。
そして、一方通行は空に落ちる様にして病院へ飛んで行った。

「……あくせられーたってすごいかも」

インデックスはするすると空を滑るように移動する一方通行を驚愕の表情で見送った。
406 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 00:59:48.33 ID:SZGEBzNko
~~~

「とうま、喜んでたね」

「だなぁ、あいつ寿司好きだったのか」

二人は上条へお昼ご飯を届け終えると、ケーキを買って家に向かっていた。
何処かで食べて行こうかと最初は思っていたが、丁度時間もお昼時なのでどこも混んでいた。
一息つきたいのに騒がしいのはいただけないという事で静かな我が家でティータイムを取る事にした。

「そういやさ、インデックスちゃんはなんで追われてるの?」

エレベーターに乗り込みながら垣根は何気なく聞いてみる。

「……そういえばとうまにもまだ話してなかったかも、とうまが帰ってきてから一緒に話すでもいい?」

申し訳なさそうな顔をして垣根の顔を下から見上げる。
垣根は頭に手を起きながら、いいぜ、と短く返事をする。

エレベーターから出て部屋までは十五メートルくらいだ。
その丁度、中間付近に二メートルくらいの大男が立っていた。

「……おいおい、この階は俺しかいねぇはずなんだけどよ?それにここは禁煙だよ赤髪くん」

「フゥー、そうかいそりゃ失礼」

煙草を床に投げ捨て擦りこむように踏みつける。
407 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/15(木) 01:00:44.98 ID:SZGEBzNko
「その子を返してくれないか?」

ステイルの目が垣根の腕を掴み後ろに隠れるインデックスを見つめる。

「はい、ドウゾと渡すわけねーだろうが」

二人はにらみ合う。

――こいつがステイルって奴かな?とりあえず問題はねぇな。

「しょうがないね、では実力でいかせてもらおう」

新たな煙草を一本取り出し、火をつけようとする。
が、煙草に火がつく事はなかった。

「だぁから禁煙だと言っているだろ?」

垣根は不敵に笑う。

「貴様……何をした?」

「大したことじゃないさ、この空間内では物は燃えない。炎を使う魔術なんて物も使えないさ」

余裕の表情は崩れない。

「な、そんな事、できる訳が……」

「物を燃やすのは酸素だ、その酸素を助燃作用がなくなるようにちと変質させただけだ」

見逃してやるからさっさと行け。最後にそういうと、ステイルの横をやや怯え顏のインデックスの手を引き、素通りしようとする。

「クソッ……まて僕は別に炎の魔術しか使えないというわけでは――」

「はいはい、またな」

垣根とインデックスはステイルがいい終える前に部屋の中へと消えた。


427 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2011/12/17(土) 02:50:53.55 ID:RI3T7pbho
~~~

「たーだいまァ」

別れてから三時間ほど経った頃、一方通行が上条を連れ帰宅した。

「お、おじゃましまーす」

「おう、もう終わったのか?お疲れさん」

「ありがとうな、二人とも。インデックスは……寝てんのか……」

「さっきまで起きてたんだぜ?」

顔にかかった髪をはらってやりながら、垣根は言った。

「……上条とインデックスは夜飯食ってくンだろ?」

缶コーヒーと適当に手に取ったジュースを垣根、上条に渡す。

「いや、そんな……悪いしいいよ」

「何を遠慮してんだよ、飯は大勢で食った方がうまいだろ」

「……いや、でも……」

「チッ……晩飯の買い物はお前が行けパシリの駄賃に飯を食わせてやる、これならいいだろォが」

コーヒーを飲みながらめんどくさそうに言い捨てる。

そんな感じで上条、インデックスの夕飯参加は決まった。

~~~

「じゃあ、行ってくるよ」

少し休み、その後夏休みの課題と補習の課題を超能力者二人にみてもらい、いい感じに頭が疲れきった頃、上条は晩御飯の買い物へ行こうと腰を上げる。

「あ、ちょっと待て。財布……これ使え」

そう言い、垣根が手渡してきたのは二つ折りの黒い革の財布だった。
まだ新しいのか、革の匂いがはっきりとわかった。
開いてみるとそこにはカード類は一切入っておらず、この財布が普段垣根が使っているものではないと気づく。

「これはなんの財布なんだ?」

それならばこの財布はなんなのだろうと気になり、素直に訪ねてみた。

「生活費だよ生活費。俺と一方通行で金出し合って一ヶ月の食費とか家で使うもんはこの財布からって決めたんだ」

「オイ、初耳だぞォ?」

垣根の言葉に一方通行が驚きの表情をする。

「だって言ってないもん、財布も昨日買ってきたばっかだし」

「言えよ、そういうのは……いくらだ?」

呆れたように頭を抱えると一方通行は自分の財布を取り出す。

「まぁまぁ、それはあとでいいだろ……上条、買い物よろしくな。いくら使ってもいいからよ」

立ち上がろうとする一方通行の頭を抑え込み、バイバイをするように上条に手をふる。

「……これ、落としそうで不安だなぁ……」

「ま、まぁ大した額じゃねぇから落としても気にするなよ」

垣根と一方通行を苦笑いさせる言葉を残し、上条はおつかいにでかけた。
428 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:51:25.82 ID:RI3T7pbho
~~~

「……さてと、ちょっと屋上行ってくる」

上条が家を出て少しすると外の様子を眺めていた一方通行が急に立ち上がった。

「なんかあんのか?」

垣根はテレビから目を離し不思議そうに尋ねる。

「……趣味だ」

照れ臭そうに目線を大きく外しながらそうつぶやいた。

「……なにを照れてんだよ」

冷ややかな目で一方通行を見送った。
429 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:53:13.58 ID:RI3T7pbho
~~~

――ン、今日もいい風が吹いてるねェ……。

屋上に上がると真ん中に立ち、体全体で風を感じるように両手を大きく広げた。

――気持ちがいいな、自然の流れってのはやっぱいい物だ。

全てが科学に染まっている学園都市である。
自然はそう多くはない。
そこで育ったからこそ、自然が一方通行は大好きであった。

――この街は狂ってやがる。正義だとか真実は嘘で固められて、子供達の命が埃よりも軽く扱われてやがる……。

風の流れを頭の先からつま先まで全身を使って感じ取る。

――大人達が作った超科学都市、それは大人の手を離れて一人歩きしてんじゃねェか?例えば俺や垣根を作ったのは大人達だ。でもそいつらは俺達を制御しきれてねェ……それは技術と呼んでいいのか?

学園都市、その存在自体に一方通行は長く疑問を持っていた。

何故この都市の上層部はレベル5という扱いきれないものを作り出したのか?
もしかしたら自分達を一瞬で殺せるほどの技術を持っているのかと疑ったこともある。

そして、新たな力。
魔術の存在の可能性。

――バッカらし……。誰が何を企ンでいようがこれから俺はなにも失わない様に……戦うだけだ。

一人真夏のぬるい風を全身にうけながら笑う。

――もう一人ぼっちにはなりたくねェからな……。

ぼんやりとそのまま時を過ごす。
430 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:55:15.73 ID:RI3T7pbho
~~~

――もう少しちゃんと戦ってやっても良かったな……魔術ってのを経験するいいチャンスだったんだしな……。

ステイルとのやりとりを一人静かに思い出す。

――インデックスちゃんの顔に浮かんだ色は間違いなくあいつを敵と認識した物だ。

眠りこけるインデックスの顔を見つめる。
インデックスは安心したように穏やかな寝息をたてていた。

――俺は……びびったのか?

戦いを避けた理由。
それが垣根にはわからなかった。

――得体のしれねぇ力に?絶対の自信を持っていたのに?何にびびった?……常識が崩れる事に?

奥歯を噛み締め悔しさを飲み込む。

――そうか、常識が壊れるのがそんなに怖かったのか……。笑えるぜ、この世の常識を覆すのが俺の能力のクセによ……。

子供らしい寝顔のインデックスを眺めながら垣根は一人笑う。

――しっかりしろ垣根帝督。第二位・未元物質。守りたい物があるからこその恐怖だ、恥じる事はねぇ……。

穏やかな寝息に包まれた空間を過ごした。
431 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:56:38.98 ID:RI3T7pbho
~~~

買い物袋を両手にぶら下げ上条は三人の待つ友人の家へと足を急がせる。

「……なんか変だな?」

違和感に気づいたのはあともう少しで垣根達の住むマンションにたどり着くという場所でである。

「な、なんだ?なんかいるのか?ってか誰もいねぇ……?」

明らかにおかしい、人が上条以外に一人もいないのだ。
完全下校時刻間近とはいえ、これは異常である。
いやな汗が全身から吹き出るのを上条は感じていた。

――いや、垣根と一方通行を巻き込んでねぇからラッキーだと考えろ。

買い物袋を花壇の横に置き、あたりを見回す。

――特に誰もいる気配はしねぇ……か?

「インデックスを返していただけませんか?」

透き通るような鋭い言葉は背中から聞こえた。

慌てて振り返るとそこには奇抜な服装をした一人の女が立っていた。
整った顔立ちと綺麗な黒髪をした日本人形のような女は二メートルはありそうな大太刀を腰にぶら下げている。

「神裂火織と申します。もう一つの名は名乗らせないでください。もう一度いいます、インデックスを私達に引き渡してください」

表情を一片も変えずに冷たく言う。

「……いやなこった」

途轍もない威圧感に上条は額に汗を浮かべながら言い返す。

「彼女を守ってあなたになんの利益があるのですか?あなた達は昨日出会ったばかりでしょう?」

「時間なんて関係ないさ、あいつは俺の友達だからな」

精一杯強がりぎこちない笑顔を浮かべる。

「素直に返して頂ければ手荒な真似はしません」

「自分の身可愛さにそうですかと渡すくらいならはじめっから関わったりしねぇよ」

片足を引き、拳を構える。

神裂はため息を一つつくと上条を思い切り睨みつける。

「手荒な事はしたくなかったんですがね……七閃」

何かが起こった。
足元には三本の亀裂が走り、体全体に風がぶつかってくる、両足に力を入れ踏ん張った。
頬には一筋血がたれ、そして買い物袋が弾けていた。
432 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:57:47.52 ID:RI3T7pbho
「な……」

一歩後ずさる。

――な、なにをされたのかすらわからなかった……でも、あれも魔術……なんだよな?

「七閃……一瞬で七度殺せます、次は……当てます」

鞘に入ったままの太刀を上条に見せつけるように持ちなおす。

「……やってみろよ」

上条は走り出した。

「……七閃」

そして、訳の解らない攻撃を今度は身体に受け、盛大に吹っ飛ぶ。

「……いってぇ……クソ、おかしいだろ」

「インデックスを返してください」

「……いやだ」

足に力を入れ、踏ん張りながらもはっきりと声をだす。

「なんであいつが追われてるとかそんな事知らねぇけどさ……お前らに渡したらインデックスは……インデックスの笑顔はみれなくなる気がするんだよ」

頬にたれる血をぬぐいながら上条は神裂を睨みつける。

「……私達が何故あの子を追っているか教えてあげましょう」

ややうつむくように視線をしたに落としながら、一歩、上条へと近づいて行く。

「あの子の所属はイギリス清教徒・必要悪の教会〈ネセサリウス〉です。そして、私とステイル……赤髪の魔術師もそこに所属しています」

また一歩、上条へと近づく。

「そして、彼女は十万三千冊の魔道書を保管する魔道書図書館でもあるのです」

「十万三千冊……?あいつはそんなものもっちゃいなかったぞ」

「いえ、ちゃんと持っていますよ、ここの中に」

言いながら頭を人差し指で二度叩く。

「常人なら一冊でも読めば発狂するであろう物を十万三千冊も彼女は記憶しているのですよ」

また一歩上条へ近づく。

「そして、彼女は優秀な魔道書図書館であると同時に爆弾でもあるのです。もしもそれが敵の手に渡ったら?十万三千冊の中には全人類を巻き込む魔術もあります」

「だからって、インデックスを捕まえるって言うのか?十万三千冊もあいつが喜んで読んで覚えたっていうのか?一冊読んだら常人なら発狂する?ふざけた事言ってんじゃねぇぞ」

「……話を続けます。正直私は世界なんてどうでもいいです、ですが、あの子を捕まえなくてはあの子の命に関わるのです」

上条との距離はもう五メートルもない。
また、一歩近づく。
433 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:58:26.81 ID:RI3T7pbho
「十万三千冊、彼女はそれを一字一句全て記憶しています。それを可能にしているのが完全記憶能力というものです」

「完全記憶能力?」

「見た物、聞いた物、どんな些細な事でも忘れる事の出来ない、そんな能力ですね……十万三千冊で脳の八十五パーセントは占められています。そして残りの十五パーセントは丁度一年生活すれば埋まってしまうんですよ……そうなるとどうなるかわかりますか?」

また一歩。
二人の距離は二メートルくらいまで縮まった。

「脳がパンク、彼女は――死にます。そうならないために、わたしたちは一年毎に彼女の記憶を奪います」

「ひとつだけ答えろ……どうして、そんな辛そうな顔を……してるんだよ」

神裂は太刀で上条を思い切り突いた。

「……あなたには関係ありません。さぁ、あの子を生かすためです。彼女を私たちに渡してください」

咳き込みながら上条は立ち上がる。

「本当は嫌なんじゃないか?さっき同じところに所属してるって言ってたよな?本当はお前達仲の良い友達だったんじゃないのか?そんな力があるんなら俺をさっさと殺してインデックスを奪えばいいだろ」

そしてゆっくり息を整えながら、続ける。

「あんたはそれをしなかった、それは出来るならこんな俺でも殺したくないって思ってくれたんだろ?本当はそんな優しい奴なんだろ?」

再度、鞘で殴られた。が、上条は喋るのをやめない。

「どうしてそれが逃げる立場と追う立場になってんだよ……あいつがステイルを見た時の顔、あんなのステイルもインデックスも辛いだけだろ」

上条はなんとか起き上がる。

「あなたに私の気持ちが、ステイルの気持ちがわかりますか?どんなに楽しい時間を過ごしても忘れてしまう、その度に『あなたはだぁれ?』と親友に聞かれる気持ちがあなたなんかに解りますか?」

「わっかんねーよそんなもん!インデックスが忘れちまうならお前らが覚えていて聞かしてやりゃいいだけだろ!そんで、その次の一年を聞かせた話よりもっと 楽しい物にしてやればいいだけだろ!勝手に絶望して勝手に敵に回って、そんなんじゃインデックスが可哀想じゃねぇか!」

「うっるせぇんだよこのド素人が!」

思い切り殴りつけた。
同時に大きくジャンプし、吹っ飛んだ上条の腹をそのままの勢いで踏みつける。
434 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:58:52.86 ID:RI3T7pbho
「もう……私達にはあの子の笑顔を見てられない」

「だからって敵に回って追っかけ回すのかよ……記憶を消さない方法なら一緒に探してやる、だから諦めんなよ、お前とインデックスとステイルと三人で笑える未来を諦めるなよ!」

神裂はしたうちをするのと同時に上条の腹をもう一度踏みつける。

「どんなに頑張ったってそんな方法は見つからなかった……私だって頑張ったんですよ!頑張って頑張ってでもいつも答えが見つかる前に季節は一巡してしま う、その度にインデックスは苦しみの中で私に微笑むんですよ?何も出来ない私に彼女の優しさを受ける資格なんてない!」

「だ、から、そんなの、てめぇの、勝手な、思い込みだろ」

そのまま上条は意識を失った。
神裂は上条の上から足をどかし、背を向ける。
そして歩き始めようとした時、背後で何かが動く気配を察知、振り返った。

「……戦うつもりはねェし、戦ったとしてもお前は地面舐める事になるだけだ。目的のこいつとのお話は終わったンだろォ?」

いいながら無事だった袋と上条を担ぎ上げる。

「……いつから居たんですか?」

「七閃ってチャチな技でこいつとのお話が始まった頃」

興味なさ気に神裂に背を向け、さっさとその場を去ろうとする。

「あー、こいつの言った事は気にすンな、意味がわからねェ上に最後はお前が言うなってことだったからよ……あとひとつだけ教えてやるよォ……人間の脳みそがァ記憶で圧迫なンて事はあり得ませェン……ちったァお勉強しろよカンザキさン?」

「なっ……それは――」

神裂の言葉を聞き終える前に、一方通行は跳んだ。
435 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:59:20.04 ID:RI3T7pbho
~~~

風を観測していると、一方通行はまたもや変なベクトルを見つけた。

――あれ?まただ……変なベクトルが生まれてンのは……割りと近い?

上条が帰ってくるのは時間的にそろそろであろう。
そして、生まれた流れの歪み。
垣根から聞いた魔術の話が頭によぎった。

「……見に行ってみるかァ」

一方通行は流れの歪みが生まれている場所まで一足で跳んだ。

一言で言うと、異様であった。

そこそこ人通りの多いはずの交差点には上条と女が一人いるだけ。

――ワイヤー攻撃か?あーあー食物無駄にしやがって……まァあいつの戦いだし死にそうになるまでは手出ししなくて良いよなァ?

二人からすこし離れたビルの屋上から戦いを見つめる。

――馬鹿でけェ声で頭悪りィ事喋りやがって……人間の脳みそ舐めてンのか?……あと何いいたいかも解らねェがお前が言うなよ、お前もなンか思い込みで……って垣根が言ってたぞ。

二人の会話に突っ込みをいれながら神裂が上条から離れるのをみると、それを回収しに向かった。

――魔術ってのがどンな物か解らねェ、まず本当にあるかも怪しいが……あの程度の小細工で様子見から入るような連中なら余裕で勝てンだろ。

何か言おうとする神裂を無視して跳ぶ。
436 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 02:59:45.94 ID:RI3T7pbho
~~~

「とうま、目を覚まさないね」

インデックスが心配そうに上条の顔を覗き込む。

「派手にボコボコにされてたからなァ……でもそろそろ目ェ覚ますだろ」

一方通行が上条を担ぎ帰ってから一晩が明けた。
上条は未だに目を覚まさず、普段一方通行が使っている布団に寝かされている。

「……なんでこうなる前に助けてやらなかったんだ?」

「……これはこいつの戦いだろ?俺が手を出していいのはこいつが助けを求めた時か、敵が俺に仕掛けてきた時だけだ」

垣根は理解はできるが納得いかないというように顔をしかめる。

「うん、多分それは正しい選択なんだよ……私、やっぱりあの二人のところに行こうかな、あくせられーたの話を聞くと本当は敵じゃないみたいだし、記憶消されちゃうだけ見たいだし……」

「それはこいつが許さねぇだろ」

頬に絆創膏を貼った上条の顔を指差す。

「……イン、デックス……ふざけた事、いうなよ……」

垣根の言葉を肯定するかのように、上条はゆっくり目を覚まし、口を開いた。

「大丈夫だ……俺がお前と神裂とステイルがみんな笑える結末をみせてやるから」

インデックスの頭を優しく撫でた。
上条の中では二人の魔術師も不幸から救わなくてはならない存在に変わっている。

「……上条はもうちょい寝てろ。インデックスちゃん、一方通行、詳しく俺にも全体がわかるように話せ」

ふたりを引き連れ垣根は部屋を出た。
インデックスは心配そうに上条を見つめ、一方通行は何かを考えるような目つきでインデックスを見る。
437 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:00:14.02 ID:RI3T7pbho
~~~

上条を残し、三人は客間へと移動してから一時間ほど経った。

「つまり、インデックスちゃんは脳の八十五パーセントを魔道書が占めていて、一年で残りの十五パーセントを使い切っちまうから毎年記憶を綺麗にしてやんなきゃならねぇって事か……魔術師ってのは馬鹿ぞろいなのか?」

インデックスがまず自身の能力と、追われている理由の推測を二人に話し、一方通行が勘違いを訂正する形で話は進んだ。

「だいたい何をもって八十五って数字を叩き出したんだよ、それに人間の脳はもともと百四十年分くらいは覚えられる容量があるはずだ八十五が本当でも単純計算で十五パーセント残ってりゃ二十年はもつ」

「あァ、それに記憶はひとつじゃねェ、意味記憶とか手続き記憶とかまァいろいろあるからな、そンでどれかが一杯になったからって他のとこを圧迫したりはしねェ……」

「つまり、インデックスちゃんを手元に置いておきたい必要悪の教会のハッタリってことだろうな」

ふたりはインデックスを置き去りに、話をどんどん進める。

「ちょ、ちょっと待って欲しいんだよ。つまりどういう事なのかな?」

「あの二人はずっと騙されたまんま親友であるお前の記憶を涙こぼしながら奪ってたって事だろ」

垣根の言葉にインデックスは固まった。

「ひどいんだよ」

恨み言も言いたくなるだろう、と二人は思った。
自分の境遇を嘆くのだろうと。

「ふたりが……可哀想なんだよ……私だったら絶対に一緒に笑いあった楽しい時間を共有した友達の記憶を奪いたくなんか……ないもん」

しかし、こぼした言葉がこれである。
どこまでも優しく、人の事を考え涙する。
インデックスとはそういう人間である。

「大丈夫さ、誰かが悲しむ結末なんて俺がぶち殺してやる……一方通行、垣根、迷惑かけて本当に悪いな、このあとどうなるかわからねぇ、神裂とぶつかった時 も死を覚悟した。でも、自分の罪には自分のこの体でぶつかって解き明かしていかなきゃ新しい道は開けないんだと思う」

まだ辛いはずの体で客間へと入ってくる。
そして二人の事を思い、涙を流すインデックスを愛でるように撫でる。

「その途中で今みたいに死ぬ目にあうかもしれねぇ、だけど守ると決めたんだ。こんなこと頼むの間違ってるし、かっこ悪いけど……もしもの時はインデックスを守ってやってくれないか?」

二人の超能力者を力強く見つめながら初めて自らの意思で巻き込まれてくれと一人の無能力者は頼んだ。
罪という言葉を使う所から心はまだ過去にとらわれているようであるが、確実に前には進もうとしている。

「……そいつは出来ねェ相談だなァ」

「全くだ、お前になんかありゃインデックスちゃんは悲しむだろ……だから、もしもなんてねぇよ」

二人の力ある者は、自分の力を正しく使うため、一人の力ない者に笑いかける。
438 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:00:40.98 ID:RI3T7pbho
~~~

「……あと二日だよ。どうするんだい?」

「そうですね、あの少年に私達と同じ辛さを味合わせたくはありませんが……」

二人の魔術師は遠くから垣根のマンションを監視していた。

「あの少年もインデックスが死ぬという結末は納得しないでしょう、リミットになったら私達に頼るしか道はなくなります」

「白髪と茶髪の妨害は?」

「彼らは問題ないでしょう。これはあの少年の問題だと自ら言ってましたから」

「そうか、リミットだけでも教えといてやることにするよ」
439 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:01:14.88 ID:RI3T7pbho
~~~

「しかし、魔術なんて詳しく知るはずもないからな。なにをどうすればいいかわからんな」

軽めの食事をとりながら、垣根は言った。

「つーかよォ、リミットはいつなンだ?」

三人とも黙った。

「いきなりポックリ逝かれちまった流石にどォしようもねェぞ?」

「いや多分なんか苦しそうになると思う、そんな事を神裂は言ってた……ような」

「じゃあインデックスちゃんが苦しみ始めたらやばいってことか?……なんで苦しむんだ?パンクで脳がってのは無いわけだろ?」

「……そりゃァ……催眠術?一年経ったら辛くなるゥ~みてェな事が出来んじゃねェのか?」

一方通行はミニトマトを口に放り込んだ。

「だったら上条が右手で触れたらパキンといくんじゃねぇの?」

茹でたウインナーを音を鳴らし、折りながら垣根は言う。

「……なぁ、インデックス、魔術ってのはどうやって発動させる物なんだ?」

「色々あるよ、すているみたいにカード使ったり……共通するのは魔法陣とかそういう何かしらの道具と準備が必要って事くらいかな?」

「じゃあ、必要悪の教会にインデックスちゃんに催眠術かけてる魔法陣あるんじゃね?」

「……なんともいえないかも」

インデックスは難しそうな顔をして水を一口のんだ。

「インデックス自体に魔法陣書いてるって事はねェのか?」

「だからそれだと上条が右手で触った時何か起こるだろ?」

「……まだ触ってない場所にある……とか?」

自信なさげに上条は呟く。

一方通行はつぶやいた本人と同時に同じ考えに行き着いたのか、顔を赤らめ、上条をどついた。

「ちょ、違う違う!口の中とかとかさ!」

「うるせェ!じゃあさっさと口ン中に手ェ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせろォ!」

照れ隠しなのか、声のボリュームが上がっている。

「女の子の前で、しかも食事中にする話じゃないんじゃないかな」

不機嫌そうに、騒ぐ二人を睨む。
しかし食べる手は止めずに。

「……すみません」
440 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:01:43.34 ID:RI3T7pbho
~~~

食事を終え、片付けを終えると、来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。

「……誰だ?」

来客がくる事自体珍しいのか、垣根が不審に思いつつ玄関へ向かう。

鍵を開け、ドアを開くとそこには昨日の大男が立っていた。

「……こんにちは……ここは禁煙だって言っただろ?」

「……タイムリミットを教えにきてあげたよ、明日の午前零時だ」

取り出した煙草をしまいながら、ステイルはなるべく穏やかに余裕を見せつけるかのように言う。

「あー、聞きたいんだけどよ俺達はインデックスに何か催眠術的な物がかかってると思ってんだ。それを解いたらどうなると思う?噂に聞く炎の怪物的なのが出てきたりするの?」

「そんな、ファンタジーじゃあるまいし、それにあの子は魔術を使えない。君らの目論見が正しかったとしても普通にその催眠術とやらが消えるだけだね」

「そっか……昨日上条ボコボコにした奴もいま近くにいるのか?」

垣根は面白い事を思いついたというように口元を歪ませる。

「一時間後に屋上集合だ、ルーンとかいうのも設置してくれて構わねぇぜ……明日と言わず今ケリをつけようぜ、赤髪の魔術師君」

ゆっくりと扉を閉め、鍵をかけた。

部屋に戻ると上条とインデックスは不安そうに、一方通行は垣根のやろうとしている事がだいたいわかるのか黙ってコーヒーを飲んでいる。

暖かな日差しの差し込む部屋に向かい、垣根は笑いながら声を張る。

「さぁ、上条、舞台は整えてやる。魔術師三人が悲しむような結末に幕をおろしてみやがれ」
441 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:02:11.82 ID:RI3T7pbho
~~~

一時間、その間上条は後に起こる事を全て忘れ、三人の友人との会話を楽しんだ。

一方通行にうるせェと罵られ、垣根に気になってる女の子はいないのかとからかわれ、インデックスとはたまに目を合わせ微笑み合う。
上条が不幸も罪も一瞬でも忘れそうになるくらい楽しい時間がそこには流れていた。

まるでこのあと訪れる最大の不幸の取り戻すかのように、上条はずいぶん久しぶりに純粋に楽しんでいた。
442 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:03:01.64 ID:RI3T7pbho
~~~

「さてさて、お二人さん……この無能力者が救ってくれるそうだぜ?」

屋上にあがるなり、垣根は二人の魔術師に声をかける。

「その子に何かあったらただじゃおかないぞ」

魔女狩りの王を顕現させ、ステイルは威圧感を与える。

「ほう、それが炎のバケモンか……まぁ、その前にまず仲直りしようぜ?お前らインデックスちゃんの友達なんだろ?片方が忘れちまってるけどさ、まずはその誤解とこうぜ……そんでお前らにお勉強を教えてやる」

垣根は饒舌に喋り続け、インデックス、ステイル、神裂に手を差し伸べる。
親友と引き剥がされる辛さはよく知っている。例えインデックスが覚えていなくとも、敵対だけはしていて欲しくなかった。
ふたりがインデックスに頭を下げるとインデックスはただ一言「お互い辛いね」といって笑った。

そして、垣根は自分達の立てた仮説を二人に説明した。

「白髪の少年の言ってる事は本当だったのですか……」

「……催眠術云々の話はそこから来たのか」

二人はそれでも危ない橋は渡りたくないと言ったような戸惑いを見せていた。

――さ、ここからのメインは上条だ。舞台は温ままりつつある、俺たちはあとは見届けるだけだ。

空を仰ぐ、自分達の守りたいものを脅かすものはここからは見えない。
443 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:03:28.95 ID:RI3T7pbho
~~~

「えぇっと……神裂さん?あなたはどう思います?」

「……体の表面にはないでしょうね、あるとしたら体内でしょう」

「ですよね、俺もそう思っていましたよ?」

ビクつきながら神裂に意見を聞く。

「でも、それを壊したらインデックスはどうなるというんだい?」

「それは……わからねぇ」

「話にならないな、死ぬかもしれない道を歩ませるわけないだろう」

「インデックスは教会側にも価値のある存在なンだろ、それに殺す様な事をするわけねェだろ」

「だったら記憶を消さなきゃ生きられないなんてひどい事もしないんじゃないかい?」

「お前は頭ン中パーなのか?そンなの教会の庇護無しでは生きられないように、逃げらンねェようにするためだろ」

「でもその呪縛が解けた時、逃げられるよりは殺してしまおうと考えてるかもしれないだろう」

「それはないと思う。一方通行がいったように教会にとってもインデックスは大切な存在なんだ、魔術がどういう物かはよくしらないけど、かけられた物を解くってのはなんらかの手順がいるだろ?例えばパスワードを解くのも一瞬で出来る訳じゃない」

一方通行は満足そうに頷く。
あくまで上条にヒントを与える立場に立つ。

「魔術も多分同じだろ?解析して、手順を踏む、その途中で解こうとした奴を無力化するような罠があるんじゃないか?インデックスを失わないようにさ……でも俺の右手なら一瞬で文字通り消せる」

――神様の奇跡だろうがな。

ステイルと神裂の表情から戸惑いが少し消えた。
444 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/17(土) 03:04:01.84 ID:RI3T7pbho
「それに、これはインデックスに起きた不運だ、神様がこんな優しい子にバッドエンドしかない未来を用意してる訳がねぇよ……だから、いい加減こいつを泥沼の中から引っ張りあげてやろうぜ」

――代わりに俺が落ちてもいいからさ、それくらいの事を俺はしてるんだから。

「……命に変えてもとか思ってないだろうね?それは僕の役目だよ。彼女の為に生きて死ぬ、それだけが僕の行動理由だ、それを邪魔するなよ無能力者」

上条を不愉快そうに睨みながらステイルは煙草を燃やし尽くした。

神裂は黙って頷くと、インデックスに近づきその頭を撫でた。

「すみません、インデックス……」

それだけいうと、インデックスから離れ、ステイルの横に戻った。

「よし、いいな?」

確認するように魔術師二人を順番に見る。

ステイルは目を逸らし、神裂は数ミリ頷いた。

最後にインデックスを見ると、力強く頷く、その顔は笑顔だ。

「とうま……ありがとうなんだよ」

「……バッドエンドしかないなんて幻想はぶち殺すぞ」

上条は笑う、インデックスの明るいであろう未来を思い描いて……。


454 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:07:56.96 ID:RPSSEkOko
~~~

格好つけてみたものの、やる事と言ったら『口の中に手を突っ込む』である。
そんなシュールな光景を二人は心配そうに、二人はテレビでも見ているかのような顔つきで見つめている。
そして、やっている本人達は真剣そのものである。

「ん?なんだ……これか?」

上条の右手が何かに触れた。
その瞬間、上条の右手に電気を流されたかのような痛みが走る。
そしてそれを痛いと感じた頃には、吹っ飛ばされ背中からステイルに突っ込んだ痛みもついてきた。

ステイルに押されながら無理やり起き上がり、インデックスの方をみる。

そこには全くの無感情な表情を浮かべ、瞳には怪しい光を宿したインデックスがたっていた。

「警告。『禁書目録』の首輪、その破壊を確認。十万三千冊の魔道書の保護のため、侵入者の迎撃を優先します」

冷たく、大理石のような重みのある声をだす。
その様子をみて、科学の街の人間はどこか期待するような面白そうなものを見る目をし、魔術の世界の人間は初めてゾウを見た子供のようにその力の大きさに声を失う。

「あ、ありえない……。この子は……魔力を持ってないはずだ」

「今更あり得ないなんて言葉を使うな、そこも教会に騙されてたってことだろ!……呪いを解いたら発動する罠とは上条さんはいつからRPGの主人公になったんですかね」

固まるステイルを軽くどつく。

「これより『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を……破壊します」

インデックスの目の前に二つの魔方陣が現れ、それが重なり合う。
インデックスが上条のほうを向くと、魔法陣も同時に動いた。

――目と連動してんのか?

一瞬考えるが、すぐに頭を今起こっている事のみに向ける。
すると、空間が割れ、そこから“何か”が出てくるのを本能で感じとる。

――やばい。

とっさに右手を構え、ステイルを自身の後ろに突き飛ばす。

「無茶です!」

神裂が叫ぶ。
それと同時に空間の亀裂から光が柱となって上条を襲った。

455 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:08:25.30 ID:RPSSEkOko
「今放たれているのは『竜王の殺息』いくらあなたの右腕でも……」

飛び出そうとする神裂を一方通行が止めた。

「なんですか、こんな時に!」

「まて、落ち着け別にお前らの邪魔する気はねェ……あのビームみてェのの射程はどンくらいだ?上条が競り負けるって事はそォとォ強いンだろ?」

微妙に裂けて血が飛ぶ上条の右手を見ながら言う。

「……あなたは……いや、いいです……軽く宇宙には届くのでは、と思います」

それを聞くと愉快そうに口を歪め垣根の名を呼ぶ。
垣根も垣根で楽しそうに笑いながら、六枚の翼を展開する。

「上条、おめェはウチの連中から見たらまさにヒーロー、天の使い……利用させてもらうぜ」

叫びながら上条の後ろから手を伸ばしその光に触れる。
一方通行が触れた部分だけ光が変な風に曲がり、やがてその変化も均一になった。

「解析終了ォ……が、無理だな……オイ女ァチャチな技でインデックスを転けさせろォ!」

神裂はとりあえず一方通行の言うとおり、多少手荒にインデックスをこけさせる。

転けて上を向くと、それに連動するように光も上に向き、雲を撃ち抜いた。

上条は圧倒的な攻撃から逃れることを許され、肩で息をしながら思わず膝をついた。
受け止めていたのはほんの数十秒だが、体全体に力をいれていたため思いのほかダメージは大きい。

「垣根ェ!」

一方通行がインデックスの方へと走りながら叫ぶと、垣根は竜王の殺息へと突っ込み、翼をそこに叩き込む。

少しだが光の柱の角度、向きが変わった。

「もう一度ぉ!」

それを確認すると再度叩き込んだ。

そして光の柱がある位置を撃ち抜くと、一方通行と共に「よっしゃあ」と声をあげた。

その様子を上条に肩を貸しながら二人の魔術師は不思議そうに眺めていた。

「ありがとう」

不審そうな顔をする二人にそう声をかけると上条は力がうまく入らない足でインデックスの元へと走り出す。
456 :あっさり終わらせすぎたと投下して感じた、書き溜めだと割りと量あるように見えるけど三レスぶんか…… ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:09:57.00 ID:RPSSEkOko
~~~

一方通行がインデックスの首を掴もうとした瞬間、竜王の殺息が消えた。

「警告――」

何を言っているのかは聞き取れなかった。
そして自身に何が起きたのかも理解できなかった。

貯水タンクをぶち破る勢いで一方通行は吹っ飛ばれ、垣根は金網を突き破り、下へと落ちた。

――な、ンだ……今、のは……。

思うように反射出来ず、タンクにぶち当たったのだと、自身を濡らす水を見て理解する。

頭を振り、顔や髪の水分を弾き飛ばすとインデックスが走り寄る上条に竜王の殺息をまたぶつけようとしていた。

そして、上条は運悪く、そのタイミングで体のバランスを崩す。
右手を地につき、顔をあげた時にはもう目と鼻の先の所へ先ほどの重い光が迫っている。

――あ、死んだ。

上条はインデックスの笑顔と優しい両親の温かい微笑みを思いだそうとするが、それは少し苦手な赤髪の魔術師の顔へと変わる。

「イノケンティウス!……チッ……しっかりしろ無能力者さっさとインデックスを救って見せろ」

上条の目の前に、炎の怪物が現れ、竜王の殺息を受け止める。

「……はは、かっこわりーやつ……その無能力者にまんまと逃げられたのは誰だよ」

足に力を入れ直し、踏ん張る。

――よし、大丈夫。

頑張ってくれているイノケンティウスの横を走り抜け、インデックスの頭に手を伸ばした。

「――警告、第二二章第一節。炎の魔術の術式を逆算に成功しました。曲解した十字教の教義をルーンにより記述したものと判明。対十字教用の術式を組み込み中……第一式、第二式、第三式。命名、『神よ、何故私を見捨て――」

パキィン、と割れるような音を響かせ、インデックスはその場にたおれた。

「けい、こ……く。だい……首輪、致命的な破壊、再生……不可……」

そのまま意識を落とした。
457 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:11:48.56 ID:RPSSEkOko
~~~

――能力が……うまく使えねぇ……まじかよ……。

吹き飛ばされ、金網を突き破り落下する。

――やべぇ……死ぬのか?つーかなんだよ何が起きたのかすらわからなかったぞ……クッソ……。

能力は展開できる、が操作が出来ない。
ふと、何度も死のうとして飛び降りた時の事を思い出した。

――死にたいと思った時は死ねねぇのに……人生ってのは嫌だねぇ……。

垣根の意識は意外とはっきりしていた。
青空と透き通った風ばかりが垣根の目にはうつる。

死を覚悟し、諦めたように目を瞑ると、異様な浮遊感と誰かに抱きかかえられる感覚を感じた。

「あ?」

驚き目を開けると、近くの背の低い建物の上に、垣根は横たわっていた。

「あれ?え?あれ?」

「第二位様が天から降ってくるとは一体何が起きたんですの?」

常盤台の制服をピシッと着こなし、風紀委員の腕章をつけた少女が垣根の横に立っていた。

「黒子ちゃん、だっけ?」

「そうですの、たまたま私が近くを警邏中でしたから良かったものの……」

「まじ助かったわ……美琴ちゃんに今連絡とれるか?」

白井は一瞬何かを考えるように顔をしかめたが、ため息をつくと御坂に電話をかける。

「あ、もしもし黒子ですけれど……垣根さんがお話があるそうですの」

繋がると直ぐに垣根へ携帯電話を渡す。
垣根は上体を起こし、それを受け取る。

「おりひめ一号の状態を知りたい」

それだけ言うと御坂は全てを理解したのか、わかったとだけいうと通話状態のまま携帯電話を置く。
パソコンを立ち上げた音が聞こえしばらくすると「嘘」と小さくつぶやく声が聞こえた。

『垣根さん?一体何をしたの?……管理局がおりひめ一号をロスト、恐らく破壊されたって……おりひめ一号って樹形図の――』

「OK、ありがとう。落ち着いたらまた連絡する、そん時全部話す」

強制的に通話を終わらせ、電話を白井に返す。
立ち上がり、能力を使ってみる。

――よし、大丈夫だ。

「んじゃ、ありがとうな黒子ちゃん、今度なんかお礼させてくれよ……そんじゃ風紀委員の仕事頑張ってくれ」

そう言い残すと、飛び上がり上条達のいる屋上を目指した。
458 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:13:15.15 ID:RPSSEkOko
~~~

「はぁ、はぁ……終わった……のか?」

上条は横たわるインデックスの横へ膝をつく。

「あれ?これなんだ?」

目の前に降ってきた羽を右手で触れると、それは弾け飛ぶような音を立て、消えた。

「痛って……んだこりゃ」

よく見ると周りは羽で囲まれている。

「――――――!」

神裂が何かを叫んだ。

垣根が丁度屋上へ到達したのを横目で捉える。

一方通行が走り寄ってくるのも見えた。

ステイルも慌てたような顔をしている。

――俺は……インデックスを守らなきゃ。

インデックスに抱きつくように覆いかぶさると、上条の身体へ数枚の羽が降り注ぐ。

ここで、上条は幸運を発揮した。

数枚のうち、一枚はインデックスの頭を守るようにおいた右手に落ちたのだ。

――インデックス、お前はずっと笑っていてくれよ。

背中に衝撃、肺が潰れた感覚と全身の骨が折れる感覚。

上条はそこで意識を失った、とても優しく朗らかな笑顔をしながら……。

――満足だ。初めて笑いかけてくれた、欲しいものをくれた人を助けれた。……満足だ。
459 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:14:04.55 ID:RPSSEkOko
~~~

リズム良く鳴り響く機械音に心地よさと鬱陶しさを半々に感じながら、上条は意識を復活させた。

息が苦しい。
声が出ない。
動けない。

考えうる最悪の事態であったが、上条の心は穏やかであった。

――なんとか生き残ったのか?いや……死に損なったってほうが正しいかな……。

屋上へ向かう途中、垣根に言われた事を思い出す。

“お前は不幸なんだろ?だったら死にたいと本気で思ってそんな行動をとってりゃ不幸にも生き残っちまう……だから今から死にたいと思い込め”

それを聞いた一方通行はバカにしたように「くだらねェ」と笑い、インデックスは何かあったら自分を放ったらかして逃げろ。と言った。

頬を緩めると、そのまままた眠りに落ちた。

――そういや、あれからどんくらいたったのかな?補講受けないと、進級やばいんだよなぁ……。

ゆっくりと深い世界へと落ちて行く。
460 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:14:32.24 ID:RPSSEkOko
~~~

「上条が壊した」

一方通行と垣根は口を揃えてそう言った。

「……深くは聞くなと、そういう事なの?」

芳川はため息をつきながらカップに入ったお茶を飲む。

インデックスを上条が救ってから一週間、丁度予定よりすこし遅れてマンションにミサカ達が帰ってきた日に上条は一旦目を覚ました。

そしてインデックスの顔を見ると微笑んでまた眠りについた。

その日から三日後、垣根は御坂を家に招き、『絶対能力者進化実験』の完全なる凍結を知らせた。

「……わかったわ。私も何も聞かない。アイツがなんであんな目にあったのかも、最強のアンタがなんで腕の骨なんか折ったのかも、何も聞かない」

一方通行はあの日インデックスのわけのわからない攻撃により、腕を折っていた。
学園都市の超高度技術により、大げさなギプスはつけなくて済んだが、本来はあり得ないことである。

慣れない痛みを必死にこらえる顔はとても面白いらしく、ミサカ00002号はそんな一方通行をからかってつまらなかった病院での生活の鬱憤を晴らしていた。
461 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:16:37.01 ID:RPSSEkOko
~~~

「とうま……」

インデックスが目を覚ますと上条はいろんな機械に繋がれ、自身で息をする事さえできない状態をやっとぬけた所だとカエル顔の先生から聞かされた。

それから四日後、上条は目を覚まし、泣きそうな顔のインデックスに微笑む。
そして再度眠りについた。

それからさらに三日後、垣根の家に同じ顔の少女が三人と一人の女性研究員が訪れた日、その日もインデックスはずっと上条の病室にいた。
自身も三日間意識を失っていたというのに、彼女はこの一週間、ほとんど寝ずに上条の目覚めを待っていた。

「とうま、とうま……」

寝言のようにはっきりしない口調で上条の名を呼び続ける。

呼んでいたらそのうち頭を撫でてくれる気がしたから。
インデックスって呼んでくれる気がしたから。
優しく微笑んでくれる気がしたから。

「とうま……あなたが目を覚まさないと私は笑えないんだよ……」

それでもいいの?と涙声になりながらインデックスは言う。

涙はまだ零さない、それは上条の目が覚めてからと決めていた。

必死にこらえるように目をつむる。

「お邪魔するね?」

カエル顔の先生は二、三時間に一度は様子を見に来てくれる。

「うん、回復は異常なくらい速いね?それに一度は目を覚ました。いつ起きてもいいはずなんだけどね」

不思議そうに先生は言う。

「でも、あの時は驚いたね?腕をフラフラさせた真っ白いのが生きてるのが不思議なこの子を抱えて『カエル出て来やがれェ』だからね?病院中に響いたんじゃないかと思うくらい大きな声だった」

「あくせられーたはとうまが嫌いなんだと思ってたけど……そうじゃないのかな?」

「多分彼はこの子の事をそんなに好いていないね?でも人が死ぬのはもっと嫌なんじゃないのかな」

「そっか、ていとくはとうまが好きだよね、凄く心配してたし凄く仲良くみえるんだよ」

インデックスは三人がそれぞれの距離感でそれでも楽しそうにしている様子を思い出す。

「多分彼は自分の正義に反しないものは全て愛したいんだと思うよ、そして、愛されたいと心から願っているようにもみえるね?」

的確にカエルによく似た先生は言い当てる。

「愛される資格をもらうために愛するなんてこれもまた歪だね?」

一方通行、垣根帝督、芳川桔梗。
三人の歪んだ心をこの医者は正しく、理解していた。

愛したい、ゆえに今、他者を受け入れられない。

愛されたい、ゆえに今、他者を受け入れようとする。

守りたい、ゆえに今、他者を害か益かでしかみられない。

――この子達は幸せにしてあげたいね?もちろん、ここに眠る子もだ。

許されたい、ゆえに、他者を作らず全てを背負おうとした。

「君もすこし休みなさい、ここに小さいベッドを持ってきてあげようね?」

カエル顔の医者は上条の状態を診る機械を軽くチェックすると、そう言って部屋を出た。
462 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:17:04.44 ID:RPSSEkOko
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「お邪魔します。とミサカはノックをしても返事がなかったので勝手に開けます」

ぞろぞろと六人の男女が上条の病室へなだれ込む。

「あ、インデックスちゃんも寝ちまってる所か……とりあえずそのちっこいベッドに移してやんなきゃな」

上条のベッドにもたれるように眠るインデックスを抱え上げ、カエル先生が用意してくれたベッドへ寝かせる。

「まぁ、なんというか上条がインデックスを救って十日か?お前が折れた骨やら潰れた内蔵に無理な力がかからないように病院運んでやったんだろ?」

インデックスの髪が顔にかからぬようそっとはらいながら、一方通行のほうへ視線を向ける。

「あァ、それにあの医者は俺以上にチートだ。学園都市の超高度医療とかそういうレベルじゃねェ、折れた骨がなんも固定せずに三日ですこし痛む程度まで回復とか理解出来ねェ」

「……まぁ、そんな医者の世話になったんだからもう目を覚ましてもおかしくはねぇはずなんだがな……」

上条の顔を覗き込む。

「もう一度言うぞ上条、俺たちを巻き込んでくれてありがとう」

垣根は笑いながら言う。

「お前は俺らの状況をも救ったンだ。素直に礼を言ってやる」

一方通行の仏頂面は照れ隠しだと言う事が丸わかりだ。

「ありがとうございます。とミサカはお礼を言います」

「ありがとうね、もちろん一方通行と垣根もありがとう」

ミサカ達も笑顔だ。

「さっさと目を覚ましなさいよ、アンタのおかげで妹二人は救われたわよ」

御坂は泣きそうになりながらも笑顔を浮かべる。

「そうね、あなたの持ち込むトラブルは困難なほどいろんな人を巻き込んで幸せにするのよ、私たちはあなたのおかげで二回救われたわ、ありがとう」

芳川も微笑む。

上条が欲しかった、望んだ結果が溢れていた。

『笑って欲しい』

そのためだけに自分の身体を削って戦って来た。

だけど、まだ足りない。
一番笑って欲しい人はまだ笑っていない。
463 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:18:20.82 ID:RPSSEkOko
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「ん……あ、ていとく達来てたんだ。大事なお話終わったの?」

垣根達の話し声にインデックスが目を覚ます。

「あぁ、起こしちまったか?みんな揃って上条にお礼いいに来たんだ。そんで御坂姉妹と芳川は丁度帰った所」

「お礼?」

「そ、目を覚まさねぇわけねーんだし寝てる間に恥ずかしいこと言っとこうって魂胆だよ」

垣根は相変わらずの笑顔だ。

「起きたらパーティーしてやんなきゃな、ミサカちゃん達の検査終了記念兼インデックスちゃんの快気祝い兼上条退院祝い」

「……すごく楽しそうなんだよ」

笑う上条を想像して、笑顔をこぼす。

「お前はそォやって笑ってろちょいちょい覗きに来てたが暗ェ顔して病人に話しかける修道女とかホラー過ぎンだよ」

椅子に行儀悪く座る。

「一方通行の言う通りだぜ、もしかしたらインデックスちゃんが暗い顔してるから拗ねて起きねーのかも」

「そうなのかな?」

力なく笑う。

窓から心地よい風が吹き、カーテンを揺らす。
外からはセミの声や病院の周りを散歩する患者たちの声がなんとなく聞こえた。

垣根は窓際に歩み寄り、外を見渡した。

「夏だねぇ……こんなに気持ちのいい天気なのに上条はのんきに寝てやがる、もったいないからはやく起きろっての」

夏の匂いと病院の空気が混ざり合い、なんとも言えない不思議な気分になった。
464 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:19:01.38 ID:RPSSEkOko
~~~

「とうま、かおりとすているも感謝してたよ。すているは『借りは必ず返す』って怖い顔で言ってたけど……」

すこし笑う。

「そうだ、今日みんながお礼いいに来てたよ。ていとく達の問題も解決できたんだって、とうまはすごいね……私はとうまに迷惑かけてばかりだね」

日の落ちかけた、オレンジ色の病室でインデックスは上条に話しかける。

「だから、今度は私が助けたいのに、とうまは目を覚まさないし……目を覚ましたらたくさんお話しようね?とうまの不安や怖いものやそういうのから私がとうまを守ってあげるんだよ」

上条の右手をそっと握る。

「支えてあげるから、とうまが見たいものや欲しいものを手にするまで、私がそばで支えてあげるから」

右手をつかむ力を少しだけ強める。

「とうまが自分を疫病神だなんて思わなくなれるまで、人から笑顔を向けられた時にそれを素直に受け入れる事ができるまで、私はそばにいるよ」

零さないと決めた涙が、一つこぼれてしまった。

それをごまかすように乱暴に目をふくと、沈んだ太陽の代わりのように笑った。

「とうま、ありがとうなんだよ。私を助けてくれて、かおりとすているを助けてくれて、あとていとくたちも助けてくれたね。あとは自分だけなんだよ、とうまだけが笑えない現実―幻想―をとうまが自分じゃ壊せないなら私が食べ尽くしちゃうかも」

上条の頬をそっと撫でる。

「だから、はやくおきて。一緒にごはん食べよ?」

ただ、笑った。
純粋な笑顔だけが、その顔には浮かんでいる。

「いん……でっ…くす?」

その声はとても小さいものだったが、インデックスにははっきりと聞こえた。

上条は三度目にして完全なる覚醒を迎えた。

そして翌日、担任の先生に入院の旨を伝えると三時間電話で説教され、最後に「馬鹿な上条ちゃんは全部補習に費やしても危ないので課題たっぷりだしてあげます」と留年回避の道を示してくれた。
465 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/19(月) 18:20:04.78 ID:RPSSEkOko
~~~

「だっかっら!なンでそこでそうなっちまうンだよ!」

机を叩きながら一方通行が上条を睨みつける。

「あ、一方通行さん?落ち着いて、上条さん病み上がりだから!そんでここ病院だから」

小萌先生に電話をした翌日、つまり上条が目覚めてから二日後、早速課題の束が病室に届けられた。

それを腕の様子を見せに病院に来たついでに上条の病室によった一方通行が手伝っている。

「……チッ。まァ、いいわ、退院したら補習後毎回家よれよ、学園都市の第一位様と第二位様の脳でお前に無理矢理でも数学物理化学を理解させてやる」

一方通行流の、感謝の気持ちである。

「はは、頼もしいんだか恐ろしいんだか……」

上条は青い空と白い雲を窓越しにみる。

「でも、色々とスッキリした気分だ。インデックスが笑っててお前らとはしゃいで……俺、今楽しいよ」

少しだけ、上条は前に進めた。
だが、これからも何かあるたびに、悩むだろう。自分を責めるだろう。
だが、上条にはインデックスがいる。
笑いかけてくれる人がいる。

それだけで、上条は幸せになれる。
自分の存在に感じる罪を少しでも消せる。

いつの日か、人に手を差し伸べる理由がはじめの頃の純粋な気持ちに戻るだろう。

その時、上条は本当の意味で新しい第一歩を踏み出した事になるのだろう。

 
第二章 「彼」 完。


475 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:38:52.83 ID:onKnFi8IO
~~~

「なんだとぉ!実験完全凍結?何故だ!何故だ何故だ何故だぁ!」

ミサカ達の生まれた研究所に男の声が響き渡る。

資料に書いてあったのは絶対能力者進化実験の完全なる凍結とそれに伴うチームの解散、定期研究費用給金の停止、そしてチームのリーダーからの男への責任転嫁のようになすりつけられた『実験失敗』による学園都市に対する賠償の命令であった。

「ぐぅうううう、クソがっ!」

机の上のものを全てなぎ払うようにして床にぶちまける。

「はぁ、はぁ、はぁ……これも全て芳川とクソガキ二人のせいだ……もういい、最終信号をつかって奴らを殺す……ぶっ殺してやる……」

「天井君、そんな事をゆる――」

暴れる男―名を天井亜雄という―によって、研究チームのリーダーは声を奪われる。
彼の言葉は乾いた音に遮られ、それ以降彼が音を出す事は永遠になくなった。

「ひっはははは!どうせ殺されるならせめて派手に死んでやるよぉ……最終信号は役割を果たすだけならもう完璧だ、見てろよくそったれども……皆殺しだ……」

狂ったように笑いながら天井は部屋を出た。
血を流し、すでに事来れたかつての上司に目もくれずに……。

それは上条が目覚めてから一週間。
夏休みも折り返し地点にきた時の事であった。

~~~

諦めてしまったら、そこで全てが終わってしまう。
何を失おうとも彼等は諦めてはいけない。
その事に気づいた時、彼らまた一つ、大人になる。

一人ぼっちを感じても心の鍵を開こう。そう教えてくれたのは、そう思えるきっかけは何だったろう。

――ただ、守りたい。それだけだったのに……。

――一緒に探してたものがあった気がする。こいつにならこの身も心もを全てを捧げてもよかった。

――もしもあの日に戻れたら……伝えられるのに。

――心は二つ。身体も二つ……だったのになぁ……。

――最後に一つ伝えたい事があったんですが……まぁいいでしょう。

それぞれの胸に秘めた思いが夏の終わりを彩る。
何かを求めることは何かを失くす事でもある。

「これは……幻想なんかじゃない、現実……だ」

上条の言葉は二人の心に深く突き刺さる。

何が幻想で何が現実なのか。

現実にはどうやって立ち向かうべきなのか。

また五人で笑う事を最も強く願ったのは誰だろう。

真夏の生ぬるいまとわりつくような空気を鬱陶しく思いながら最強の二人組は部屋を出た。

それは、夏休みももう終わる八月の最後の日。

彼らの人生を狂わせた超能力。
彼らに心を与えた一人の女性。
彼らを再び巡り合わせた一つの実験。

一つでもかけていたら二人の最強のヒーロー達は二人の最凶のバケモノになっていただろう。

二人の超能力者はなにを思っていたのだろう。
476 :うお、いきなりミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:42:50.66 ID:onKnFi8IO
~~~

夏も本番、太陽も本気を出してきた八月中頃である。
上条も無事に退院でき、潰れたらしい肺も「違和感がないのが逆に怖い」というくらい回復した。
カエル医者と一方通行が何かをしたらしいが、本人達以外にはわからないであろう。

そして夏といえば……そう、恋である。
夏の熱気は人々の服装のみを軽く開放的にするのではなく心をも開放的にしてしまう。

「はぁーあ、彼氏欲しいなぁ」

「佐天さんはその気になったらすぐ出来ますよ」

とある喫茶店。二人の女子中学生はまことにらしい会話を繰り広げている。
佐天は空色を基調とした明るめのTシャツに細めのデニムを合わせるという非常にラフな格好をしていた。
初春はモノトーンのワンピースという佐天とは対照的に全体として落ち着いた雰囲気である。
二人とも年相応の格好をしており、背伸びをするわけでもなく自身の良い所を伸ばしているようなそんな格好をしていた。

「あ、飾利ちゃんに涙子ちゃんじゃん」

そこに無地のシャツに黒いパンツを合わせただけの男が近寄る。

「あ、垣根さんじゃないですか。一方通行さんは?」

「知り合いの研究手伝ってるよ」

垣根は自然とそのテーブルに着く。

「私たち白井さんや御坂さんと待ち合わせしてるんでお二人が来たらどいて下さいね」

頭の花と同じくらい可愛らしく初春は笑う。

「……はは、意外と毒舌だよな、お前」

言いながら店員を呼び、カフェオレを注文する。

「そういやこないだ黒子ちゃんに助けてもらった」

唐突に垣根が言う。

「なんか事件起こしたんですか?」

「いや、その聴き方はどうなのよ?」

「全くだ。巻き込まれて死にそうになったのを助けてもらった」

初春の毒にため息をつきながら垣根は話す。

「垣根さんが死にそうになるって……」

佐天は信じられないと言うように垣根の言葉を繰り返す。

「まぁ、いろいろあってね……そういや黒子ちゃんにお礼するって約束したんだがよ……何喜ぶんだあの子?」

「白井さんの好きなものって事ですか?」

佐天がアイスティーをすすりながら目線を隣に座る垣根によこす。

「んー、そんな感じかなぁ」

店員さんが営業スマイルを貼り付け、垣根の注文した物を持ってきた。
それを笑顔で受け取り、小さく礼をこぼすと満足気に笑い、奥へと引っ込む。

「だったら簡単ですよ」

初春が平坦な声で言った。
垣根と佐天は初春が言葉を続けるのを待つ。

「御坂さんですよ。白井さんの好きなものは……ものっていうか人ですけど」

ずずず、と音を立て氷だけになったグラスをすする。お行儀が悪いからやめなさい、と初春の行動を軽く注意し垣根は頭を捻る。

「んー、じゃあ美琴ちゃんにも協力頼んでみるかなぁ」

「というか普通引いたりしません?」

すんなりと受け入れる垣根に佐天は笑いながら尋ねる。

「引かねーよ、人を好きになるのなんて理屈じゃないだろ?」

「なるほど、第一位と第二位はデキてる、とそういうことですか?」
477 :うお、いきなりミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:43:18.27 ID:onKnFi8IO
真剣な顔をして初春はとんでもないことを口走る。
佐天は同時に飲んでいた物を吹き出しそうになりながら垣根の顔をみる。
垣根は全く動揺せず、悠々とカフェオレを飲んでいた。

「そ、そそそうなんですか?」

「あいつは確かにかけがえのない大切なものだがそれは純粋な友情だ」

顔を真っ赤にした佐天、ニコニコと無邪気を装う初春、そして落ち着いた雰囲気を崩さない垣根。
三人はなにやら異様な空間を作り出していた。

そしてその異様な空間に割ってはいる制服姿の少女が二人。

「なーんで垣根さんがいるのよ」

いつも通りの常盤台の制服に身を包んだ御坂と白井は前回四人で集まった時もちゃっかりそこに加わっていた垣根を見ると、あきれ顔になった。

「たまたまだよ。黒子ちゃん、こないだはありがとうな」

「いえいえ、超能力者とはいえ一般の学生ですので風紀委員が助けるのは至極当然の事ですの」

「一般の学生……ねぇ」

遠くを見つめるように初春の後ろの壁の一点を見つめる。

「超能力者でも学生は学生ですの……お姉さまもですわよ?」

チロリと横に立つ御坂を見る。

「はは、第二位も第三位も頭が上がらねぇ風紀委員がいるとはな……っとわりぃ、座れよ」

カフェオレを一気に飲み干し、席を立つ。

「あ、垣根さん連絡先交換しましょうよ」

そのまま立ち去ろうとする垣根を佐天が呼び止める。

「あー、別にいいが……なんだ?俺に惚れたか?」

ふざけたように笑うと携帯電話を取り出し、そこである事に気づく。

「あ、わりぃ今日自分の持ってねーから俺の番号だけ教えとくわ」

そういうと11桁の番号を佐天に口頭で伝える。

「よし、オッケーです。あ、これアドレスなんで帰ったらメールください」

鞄からアドレスの書かれた紙を取り出しそれを垣根に手渡す。

「……用意がいいねぇ」

「丁度学校の授業で名刺作ったんですよ」

「なーるほどね……んじゃあ俺はこれで」

最後に黒子にお礼はまた今度する旨を伝えると、勘定を終え、店を出た。
478 :うお、いきなりミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:43:45.47 ID:onKnFi8IO
~~~

ジリジリと肌を焼く太陽に辟易しながら上条当麻は学校を目指す。
じっとりと額に浮かんだ汗を手でぬぐいながら真夏の空を見上げ視界いっぱいの青に歩く元気を分けてもらう。

ぼんやりと歩いている余裕があるのは同居人のおかげだ。
目覚ましの電池がきれようが同居人――インデックス――は毎朝上条が余裕を持って登校できる時間に起こしてくれる。

補習が始まる時間より二十分だけはやく教室にたどり着くと、教室には青い髪をした少年と金髪アロハの土御門がすでにいた。

「あれ?お前ら補習終わったんじゃないの?」

挨拶より先に、もう補習が終わっているはずの二人が何故いるのかを口にした。

「カミやんおはよう、いやぁ下宿先で色々あって八月前半の補習をこの時期にまわしてもろたんよ」

ニコニコしながら青髪の少年は言う。

「俺もまぁそんな感じだぜい」

口元をニヤニヤとさせながら土御門も言う。

「……そっか、まぁ頑張ろうぜ」

きっとこの友人たちは上条の一生の友になるだろう。
上条が入院、夏休み中補習三昧と小萌から聞いた二人は終わったにも関わらず、補習を受けにきた。

――んー?カミやんおらんとつまらんからなぁ……補習は昼過ぎには終わるしそっから三人で遊ぶんよ。

――そうだぜい、馬鹿がいないと盛り上がらんですたい。

自身の補習が終わった日、小萌にそう言い残し学校を出た二人。

二人は上条の不幸を大笑いしながら勝手に回避して行く強さがあった。
それゆえに上条は二人と連んでいられた。

「しかし、カミやんも不幸やねぇ……小萌先生と二人きりの補習を僕らに邪魔されるんやもん」

「はは、んなことねーよ。お前らがいたらそれはそれで楽しいからな」

上条の不幸を上条の助けなしに笑い飛ばす気軽なだけであった友人はその日胸を張って親友と呼べる存在に変わった。
479 :うお、いきなりミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:46:00.34 ID:onKnFi8IO
~~~

暑さを感じていないかのように涼しげな顔で一方通行は街中を歩いていた。

――コーヒーと……なンか食いもンとかジュースも買っとくか……。

目的地のコンビニへ入ると、カゴいっぱいの缶コーヒーとパンやおにぎりなどコンビニ弁当を適当に見繕う。

カードで支払いを済ませ、コンビニを出た。

そこからしばらく歩き、芳川の研究所へとたどり着いた。

おんぼろの扉を開け、汚れた廊下を進み、地下へと降りる。

「芳川、来たぞ」

そう声をかけると、反応したのはミサカ00001号であった。

「あ、今芳川博士はいませんよ。とミサカは尋ね人の不在を告げます」

「どこ行ったンだ?」

「病院へ」

「あァ?どっか悪りィのか?」

「いえ、カエル先生に今までの調整の資料を届けに行っただけですよ。とミサカは一方通行の心配は杞憂だと伝えます」

「……そォか。あ、これ飲むかァ?」

差し出したのはリンゴジュース。ミサカはそれを笑顔で受け取り礼を言う。

「……なァ、もし打ち止めを使って何かしようとした場合それをするのは誰だと思う?」

480 :うお、いきなりミスった ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/23(金) 09:46:27.13 ID:onKnFi8IO
「……天井亜雄、でしょうか。とミサカは推測します」

リンゴジュースのキャップを開け、答える。

「……調べておくか」

呟き、パソコンに向かう。
絶対能力者進化実験のデータベスを読み込み、研究者の一覧を見る。
目的の男はそれなりの地位に立つ人であった。次に第一位のアクセス権限を使い、過去にどのような実験に関わってきたかを調べる。

「……どれも俺が蹴ってきた実験ばかりだ」

それは非人道的な残酷な物ばかりであった。典型的な人を人と思わないクズである。

舌打ちをひとつすると、その他のデータを読み漁る。

「あ?こいつ行方不明になってンぞ……しかもこの実験の責任者ぶっ殺してやがる……使われた痕跡のある調整槽が一つ、持ち去られた培養器、調整槽が……三百ゥ?」

どうやって持ち去ったかは今は問題ではない。そんなもの空間移動系の能力ならば簡単に持ち出せる。ここは学園都市なのだ。

問題は“クローン生成の技術を持った狂人が、それを同時に三百人生み出せる”という現実である。

――御坂美琴と上条にも……別にいいか、第三位と上条だしな。

二人に注意を呼びかけるか考えるが、それを却下する。

「お前は起こりうる最悪の事態を理解しているか?」

椅子ごとミサカの方を向き、問いかける。

「……はい。自分の事ですからね。とミサカは暴露します」

さみしさに少しだけ申し訳なさを混ぜた表情を作る。

――こいつはこンなに感情豊かでも個性がないって言うのか?

個性の境界線を考えてみる、が答えはでない。

「そォか……俺“達”が守ってやる、安心しろ」

少しだけ表情を崩し、一方通行は言った。

「はい、よろしくお願いします。とミサカは一方通行達を心から信頼していると、微笑みます」

人を守ることは人を殺すことよりも難しい。
一方通行も、垣根帝督もその事をわかった気にはなっているが、実感として感じた事はない。
なんやかんやでここまでは順調なくらいうまく事が進んだ。

だから、彼らは忘れていたのだ。

最も難しい事、それは自分の正義を貫き、愛する人達を傷つけずに守る事だと言う事を……。

芳川だけが、常に危機感を持ち、不安に思っていた。
それは『何かあったら二人が傷ついてしまう』という理由である。
こんなめちゃくちゃな状況である。
いくら絶対的な力を持っていたとしても、不安であるのが普通なのだ。
恐れが緊張感を生み、正常な判断を下させる。
無意識でも恐れは必要なのである。


491 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/29(木) 01:43:28.83 ID:0GWb1Yy1o
~~~

「相談があるんだけどさ」

垣根が去った喫茶店で、御坂は三人の後輩達に唐突に話を切り出す。

「なーんかそわそわしてるなと思ったらそう言う事ですか」

佐天がニヤニヤとしながら察しはついたという風に言った。

「青春ですね」

初春は何故か嬉しそうだ。

「上条さん、でしたっけ?」

一目で不機嫌とわかる。

「うん、なんというか……」

顔を少し赤らめ言い淀む。
視線を下に落とし、右左と動かしたまに少しだけ視線をあげ、目の前に座る白井と佐天の様子を伺う。

「めんどくさいので話を進めますね?告白がしたいんですか?もっと仲良くなりたいんですか?」

なかなか話だそうとしない御坂に初春が質問をする形で無理矢理に進める。
492 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/29(木) 01:44:33.29 ID:0GWb1Yy1o
「う、ええと……で、デートしたい」

トマトのように顔を真っ赤にしならが、御坂は言う。
白井はともかく、佐天初春の二人も「か、かわいい」以外の感想が出ないほど、御坂は恋する乙女であった。

「ま、まぁとりあえず夏にしかいけないような所に行きましょう。それなら断られるような事はないですし」

「そうだねぇ、そうなると……やっぱ海とか?」

「う、海ぃ?……む、無理よ無理無理無理」

水着を見せると想像しただけで、御坂はパチパチと軽く漏電するほどうろたえる。

「お姉さまが簡単に外へ行く許可を取れるとも思えませんしね……垣根さんと一方通行さんも誘ってみんなで遊園地なんかどうですの?」

「なるほど、それでうまくはぐれて二人きりにさせる訳ですね!」

不機嫌ながらも、御坂が本気なのであれば、白井はそれを応援するつもりであった。

「お姉さまは変な所でチキンですので誘うまでに夏休みは終わってしまいますの、でも誘ってしまえばあとは……大丈夫ですわよね?」

寂しそうに笑う。
493 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:46:13.00 ID:0GWb1Yy1o
「……黒子、アンタなんか変わった?」

御坂は白井には邪魔をされる物ばかりと思っていた。
いつもいつもお姉さまお姉さまとひっついて来て、自分の思い人の事を類人猿呼ばわしていた白井が、協力的なのに驚く。

「変わったのはお姉さまですの。お姉さまが勇気を出して何かを成し遂げようとするならば……黒子はいくらでも手を貸しますわ」

寮に帰って来なくなったあの日から帰ってきてからの御坂。
一番の変化は精神的な成長、物事に対する意志の向け方の強固さだと、白井は感じていた。
何があったかは知らないし、御坂が自分から話すまでは知るつもりもない。
でもその出来事に上条当麻、垣根帝督、一方通行が関わっているのはわかっていた。

「お姉さまは自身の気持ちに素直になりましたの、以前までだったらこんな相談してさえくれなかったと思いますし」

「確かに、そうですね。御坂さん変わりましたよ……なんかうまく言えませんけど」

初春が小型のノートパソコンをいじりながら白井に同意する。

「あ、ここなんかどうです?」

そしてとある遊園地のホームページを開く。

「ほら、丁度昨日から夕方花火もはじまってますよ!」

「あ、いいんじゃない?私も行きたいし」

「私と佐天さんは女二人でカップルがイチャイチャしてる中での花火ですけどね」

「……あ、一方通行さんがいるもん!」

消去法で残った一方通行の名前をとっさに出す。

「一方通行さんは両手に花ですね」

「初春は頭に花だね」

意地悪な物言いの初春に少しばかりの嫌味を言う。
御坂と白井は微妙な笑顔を向けながら、二人のやり取りを見守っていた。
494 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:47:33.59 ID:0GWb1Yy1o
~~~

「……一方通行は恋というものがどんなものか知っていますか?とミサカは静寂に耐えられないので話題をふります」

会話なく缶コーヒーをもくもくと消費し続ける一方通行と二人きりの空間に、居心地の悪さを感じたミサカが口を開く。

「……そンなもン……あれだろ、惚れたとかそんな感じのだろ」

「惚れると言うのはどういうことなんでしょう。とミサカはさらに突っ込みます」

「なンだろォな……ドキドキする……とか?」

コーヒーを飲む手を休め、自信なさげに言った。

「ふむ、じゃあミサカは垣根さんに恋してるのでしょうか?とミサカは垣根さんと仲のいい一方通行に聞いてみます」

「知るかよ……俺はお前じゃねェし、それはお前以外だれもわかンねェンじゃねェの?」

一方通行にあまり驚いた様子は見えない。
495 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:48:50.33 ID:0GWb1Yy1o
「ミサカはもっと垣根さんと居たい、もっと話がしたい、笑いかけてもらいたい……垣根さんといるとわけもなく楽しいんです」

「……じゃあ俺は芳川に惚れてンのか?」

「……知りませんよそんな事、ミサカは一方通行ではないんですから。とミサカは驚きを隠します」

微妙な空気が流れる。
時計の音とパソコンの起動している音だけが、二人の気まずさを表すかのように規則的なリズムを奏でていた。

「……やめだやめだァ……それにこういうのは俺の役目じゃねェだろォが!今度上条ンとこのシスターに相談しやがれ」

くしゃりと缶を握りつぶすと舌打ちをする。

「……そうですね。とミサカはよく食べるシスターの顔を思い浮かべ……あのお子様に諭されたらそれはそれで複雑ですよね」

「適材適所ってやつだ。あいつは人を導く力がその辺のやつよりあるンだよ」

新しい缶コーヒーを開けながら時計を確認する。
一方通行が着いてからすでに一時間以上がたっていた。

「ンな事より芳川はどこで何してやがる?俺の力が必要だからと呼びつけといて待たせるとはいい度胸だよなァ?」

同意を求めるようにミサカに視線を送る。
言葉は乱暴だが一方通行の顔から嬉しさの色は消せていない。
近づきたかった人に頼られる。それがどうしようもなく嬉しかった。

「……そうですね。とミサカは呆れていることを隠しつつ同意しておきます」
496 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/29(木) 01:49:14.41 ID:0GWb1Yy1o
~~~

――どうしてこっちの番号を教えたくなかったんだろうな。

垣根帝督は携帯電話を二個持っている。
一つは芳川に与えられたもの、こちらには芳川と一方通行の番号しか登録していない。
そしてもう一つは研究所や知り合い、上条や佐天に教えたのもこちらだ。

――涙子ちゃんは置いといて上条はもう友達だ。最初は好かん奴だったが……今は普通に好きだ。なのにこの電話は教えたくねぇと思っちまう。

夏らしいぬるい風と刺すような陽射しを心地よく受け入れながら、一人街中を歩く。
目指す場所はビルの上、そこで真っ白な携帯電話を見つめながらもっともっと考えようと思っていた。

――大切なものが壊れるのはもう嫌なんだ。

歩きながら最後に思ったことはそんなことであった。

道を外れ、路地裏に入ると翼を顕現させ大空に向かって飛び立つ。

垣根は夢は夢のまま、諦めているのかもしれない。
だからこそ愛されたいといつまでも願う。
そして、それは夢で夢のまま取っておく、愛する人達との関係が壊れてしまわないように……。
497 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:49:47.71 ID:0GWb1Yy1o
~~~

「あー、つっかれたー。カエル先生意外と人使い荒い」

夕方、買い物を終えたミサカ00002号は帰宅するなり愚痴をこぼす。

「それが働くという事よ……私も数年前まではこき使われたわ」

食材を冷蔵庫に移すのを手伝いながら芳川は笑う。

「でも……そこそこ楽しいよ」

「そうね、好きな仕事をしている時は生きてるって実感があるわね」

家には今二人しかいない。

垣根はどこに行ったかはわからない。
一方通行と00001号は芳川が研究に帰ってきた時なにやら話し込んでいた。
その後、ミサカの検査と一方通行の能力でどこまでウイルスコードを解除出来るかの実験を終えたあと二人して「インデックスに神の教えとやらを聞いてくる」と芳川を残し出て行ってしまったきりだ。
いつもより一方通行と目が合わなかったことを少し不安に思いながら芳川は一人マンションへ戻った所にミサカ00001号も帰宅してきた所だ。
498 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:50:11.58 ID:0GWb1Yy1o
「……芳川博士は初恋いつ?」

食材の整理を終え、一息つくとミサカが躊躇いがちに口を開く。

「そうね……パッと思いつかないわね……一方通行や帝督以外に好きになった男の子っていない気がするし」

「それは恋じゃないでしょ?」

呆れたようにミサカは頭を抱える。

「だってあの二人以外に私を純粋に慕ってくれた人なんていなかったもの……周りは常に敵だらけ、恋なんてしたくても出来なかったわ」

サバサバとした口調で芳川は昔を思い出す。

「……まぁ、いいや……ミサカ好きな人が出来た、んだけどさ……ミサカの大切な人もその人の事が好きなんだよ、多分……こういう時ってどうすればいいのかな?」

ほんのり顔を赤くし、真剣な目で芳川を見た。

「さぁ?そういうのは私じゃなくて御坂美琴さんかシスターさんにききなさい」

自分にそんな事わかるわけがないと言うように芳川は大きく息をはいた。
499 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:50:49.46 ID:0GWb1Yy1o
~~~

その頃、一方通行とミサカ00001号は上条の学生寮へと来ていた。
それを提案したのは一方通行だ。

――なンか、今日は芳川の顔がうまく見れなかった……。

一方通行には珍しく、その理由を自分で考える前に他人の意見を聞こうとしていた。

無言で二人は学生寮を目指す。

上条の学生寮と一方通行達のマンション、芳川の研究所はちょうど上条の通う学校を中心に、同じくらいの距離の位置にあった。

――でもなァンて聞きゃいいンだ?……ミサカに任せりゃいいか。

ちらっと横を歩く女の子を見る。

――さっきも思ったが個性ってのはなンだろうな……。

一方通行の視線に気づき、ミサカは顔を少しあげ、首を傾げる。

なンでもない。とだけいい、視線を前に戻す。

そのままとぼとぼと会話もなく歩いていると、ミサカが唐突に口を開いた。
500 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:51:26.96 ID:0GWb1Yy1o
「……垣根さん?」

その視線の先には朝からふらふらと何処かに行ってしまった垣根帝督がいた。

「あいつ……なにやってンだ?」

垣根は上条の寮の周りをウロウロと歩き回っていた。
三歩進んで寮を見上げるように、止まる。そしてまた三歩だけ歩き止まる。

二人はそんな怪しい垣根に近づくが、垣根が気づく様子はない。

「……オイ」

気づくのを待つのも面倒だというように、一方通行は後ろから肩を叩く。

垣根は情けなく声をあげ、体を少し飛び上がらせた。

「うわぁっ……ってお前らか驚かせんなよ……なにしてんだ?」

「そりゃこっちのセリフだ、上条に用があンなら一緒にいこうぜ」

「上条?いや上条には用はねぇどっちかというとインデックスちゃん」

「ならばミサカ達と同じですね。とミサカはミサカ達もあのシスターさんに用があることを明かします」

「……んじゃまぁ、いくか」
501 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:52:14.97 ID:0GWb1Yy1o
~~~

上条の部屋の前に立ち、インターフォンを鳴らす……が、反応はない。
もう一度、鳴らしてみるがやはり反応は無かった。
三人は顔を見合わせ、がっかりしたように頷き合う。

そのまま扉の前を離れ、廊下を戻りエレベータに乗り込んだ。

一階まで降りると、インデックスと上条が仲良さげに話をしながらそこでエレベーターを待っていた。

インデックスは夏の太陽にも負けぬくらい元気いっぱいに笑い、上条はその光を受けるように静かに微笑みを浮かべている。

エレベーターの扉が開くと二人は言ったんおしゃべりをやめ、こちらに頭を下げながら入れ違いに入ろうとする。
そこで降りてきたのが自分達の知り合いだという事に気がついた。

若干驚いたようなリアクションをするが、すぐに三人に何かようなのか。と笑いかける。

三人は上条が手にビニール袋を持っているのを見て、初めてもう夕飯時だと言うことに気づいた。
502 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:52:42.81 ID:0GWb1Yy1o
飯時にお邪魔するのも悪いかと思い直し、急ぎじゃないからまた明日にでも来ると伝え、三人は二人と別れた。

二人は兄妹のように仲睦まじくエレベーターに乗り込み、上へと上がって行く。
その様子をみて、三人は静かな満足感と羨望を覚えた。

上条の学生寮からマンションへと帰る道中、垣根はいつも通りからからと快活にしゃべり、ミサカも楽しそうに垣根の相手をしている。
一方通行は二人のそんな楽しそうな声を背中に受けながら歩いていた。

ずっとこんな時間が続けばいいと三人は思った。

そう思うのはそれを崩そうとする何かに気づいていたからだったのかもしれない。
503 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:53:49.34 ID:0GWb1Yy1o
~~~

パソコンのディスプレイの光だけが灯る部屋で天井はカレンダーを睨みながら夏休み最終日、八月三十一日にペンを突き立てる。

最終信号もゆっくりと時間をかけてあと少しで完成予定だ。
そして兵隊も確保した。

これから自身が起こすイベントを思い、思わず笑みをこぼす。

――第一位と第二位は殺せる気がしねぇ……が、あいつらを死ぬほど辛い目にあわせる方法なら簡単に思いつく……。

芳川桔梗の殺害。
妹達の殺害。
御坂美琴とそれの友人らの殺害。
上条当麻とそれに懐いてるシスターの殺害。

彼らと関わったもの全てを殺せばいい。
大切なものを奪えばいい。

大切なものがある者にとってそれを奪われるのは耐え難い苦痛であろう。

――俺から絶対能力者って夢を奪ったんだ……これでおあいこ、だろぉ?

自分が傷つけられるよりも効果はある。
とくにあの二人には……大切なものを失わないようにと、それが戦う理由であるあの二人には一番効果的であろう。

天井は一人狂ったように笑う。

その部屋には下品な笑い声と機械の駆動音が若干聞こえるのみであった。
504 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:54:16.72 ID:0GWb1Yy1o
~~~

家に帰り、ご飯を食べ順番にシャワーを浴びると各々は適当に時間を潰す。
芳川はぼんやりとテレビを眺め、ミサカ達は今日あったことをお互い話す。
一方通行は分厚い本をコーヒー片手に読みふけり、垣根は所在なさげに携帯電話を閉じたり開いたりしている。

「……明日模様替えします」

携帯電話を一際大きく音をたて閉じると垣根は唐突に言った。

「明日はミサカ達二人ともカエル先生の所だよ?」

「私もまだ整理が終わってないから研究所に戻りたいんだけれど」

女性陣は三人とも乗り気ではない。

「大丈夫、一方通行と俺でやるから……芳川も最近はこっちに泊まること多いしそろそろこの部屋にあるテレビやソファを隣に移したいじゃん?」

な?と同意を求めるように一方通行に顔を向ける。

「あー、ンまァいいンじゃね?そんくらいなら二人でも余裕だしなァ……」

本から目を上げずに答える。

「ベッドと机と本棚とかそういうのも買いにいくか……ミサカは和室に二人でいいのか?一人部屋がいいなら俺は垣根と同じ部屋でも構わねェけど……」

本から目をあげ、ミサカのほうを向く。
垣根もそれでいいと頷く。

「ミサカ達は二人一緒がいいからこのままでいいよ」

一方通行の問いには00002号が答え、00001号もその言葉に頷く。

「じゃあここを芳川の部屋にしてあとは今まで通りでいいな、ベッドとかは俺らのセンスで問題ないよな?」

垣根は満足そうに頷きながら芳川に確認を取る。

「えぇ、いいけれど私お金そんなないわよ?」

「そンなの気にすンな……この家本棚ねェからどォせ買おうと思ってたし、ベッドや机なンてたいして高かねェだろ」

そんな訳で、芳川の完全移住と男二人の明日の予定が決まった。

505 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2011/12/29(木) 01:55:49.38 ID:0GWb1Yy1o
今日の分おわり

イベントに話をつなげたいんだけどそこに持って行き方に迷っていますので書くペースが亀のごときのろさ

また読んでください 
 
 

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