- 517 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:43:12.39 ID:P/2pr6Buo
- ~~~
仕事に出るミサカ、芳川が少しでも朝の短い時間に余裕を持てるようにと一方通行と垣根は三人よりも早起きをし、朝ごはんの準備をしていた。
王道好きな二人は鮭の塩焼き、味噌汁、白米、漬物と非常に日本人らしい献立をチョイスする。
「よし、とりあえず味噌汁は俺に任せろ。お前は米炊いて鮭焼いてくれ」
ン。とだけ答えると、まず米をとぎ、炊飯器のスイッチを入れた。
コメが炊き上がるのと垣根の味噌汁の出来を見計らい冷蔵庫から鮭を取り出す。
鮭の切り身に塩をふり、オーブンを約二百五十度まで熱する。
しばらくしていい温度になったら網にサラダ油をぬり、その上に鮭を置いた。
あとは綺麗な色になるまで待てばいいだけである。
鮭が焼きあがる少し前に、垣根が出来た。と満足そうな声をあげ、同時に炊飯器もご飯が炊けた事を告げる電子音を鳴らした。
そしてタイミング良く三人も起き出してきて、手洗いうがいを終えた頃、丁度鮭もいい色になった。
白米、味噌汁、鮭、漬物をテーブルに並べ席につく。
「いただきます」
芳川家の一日がはじまった。 - 518 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:44:04.46 ID:P/2pr6Buo
- ~~~
三人を送り出した後、二人はのんびりとした時間を過ごしていた。
「今何時だ?」
垣根の言葉に一方通行は無言で時計を指差す。
「あー、九時かぁ……十一時までに掃除してもの動かして……そのあと芳川連れて飯喰ったあと家具買いに行くか、そんで夕飯は女達に任せときゃいいから模様替え終わり次第上条のとこ行く」
言うなり立ち上がり、家中の窓を開けはじめた。
一方通行もめんどくさそうに立ち上がり部屋を片付け始める。
黙って掃除するだけなのも苦痛ではないが、なんとなく垣根に疑問をぶつけてみることにした。
「なァ、個性ってのはなンだと思う?」
「……俺だったらまず未元物質だろ、お前だったら一方通行。唯一の能力だから俺たちはそれだけで個性になるんじゃね?」
「じゃあ……超電磁砲・御坂美琴は?電撃使いなンて珍しくはねェだろ?」
「そりゃあ、そのまま超電磁砲だろ。あれは美琴ちゃんしか撃てねぇ……あとは常盤台の生徒とか妹のために命捨てる覚悟決める根性とか茶の髪の毛とか……?」
「じゃあミサカたちは?」
「……ミサカ姉は静か、恥ずかしがり屋、美琴ちゃんより臆病。ミサカ妹は明るい、よく喋る、美琴ちゃんより若干毒舌とか?」
学園都市製の音が全くと言っていいほど出ない掃除機でテレビやソファの影に隠れていた埃を吸い取る。
- 519 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:44:32.34 ID:P/2pr6Buo
- 「でもミサカ姉はなんか危うい……なんというかあの口調が心配になる」
一方通行はソファの足を雑巾で拭きながら垣根の話を黙って聞いている。
「なんというかさ、言いたかねーけど自分がクローンだっていうか、実験動物だっていうか……死にたくはないけどいつでも生きることを諦めるような思考から抜け出せてない感じ?」
なんとなくそう感じるだけだけどな。と最後に付け足す。
そのあと二人は黙ったまま掃除を続け、客間を空っぽにした。
そしてリビングを新しく作る。
テレビをどこにおくかで若干揉めたり、一度始めると完璧にやらないと気が済まない性格のせいで家中を細かく掃除したりなど、終わった時には予定時間を少しだけすぎていた。
だが、お互い満足行く結果を得たようで顔を見合わせ頷き合う。
「行くか」
「おォ……肉食いてェ」
垣根が部屋着から着替えるのを待ってから二人は外へでた。
- 520 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:45:37.05 ID:P/2pr6Buo
- ~~~
ハンバーグを売りにしている店で昼食をとった後、三人は近くの喫茶店で食休みをしていた。
「研究所の片付けってなにしてんの?」
アイスコーヒーをすすりながら垣根はアイスティーにミルクをいれかき混ぜる芳川の方を見る。
「色々、よ。ミサカちゃん達の生まれてからの記録の整理だとか自分の理論立てたクローニング技術の改変とか」
「改変?」
「そ、わざと失敗するように書き換えてるの……一度学園都市に奪われ目を通されてるから統括理事会直々の実験だと意味ないけど他の連中がクローン作ろうとしても絶対出来ないように、書き換えてるのよ」
これで少なくとも外でクローンが生まれる心配は減る。と芳川は言う。
「クローンなンざ作ろうと考えるような学者はこの街にくるだろうしなァ……人間が人間を造るなンて馬鹿げたことを考えるよなァ」
人間に超能力を与える街。
そして余りにも大きすぎる力が備わってしまった第一位は誰よりも人間の愚かさというものを感じているのかもしれない。
「超能力もクローンも……人間が人間を超えるような技術はあっちゃいけねェンだよ。刃物を持つ責任を持てないようなちっぽけな存在が人を生かすだ殺すだなンて馬鹿げてやがる」
コーヒーを一口。
「それは……自分が人間を超えた存在だと勘違いしちまうからって事か」
- 521 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:47:35.28 ID:P/2pr6Buo
- 「そうね、私は自分がまともな大人とは思わないけれど、人間が人間を超えることなんて無理だという事を理解してる点ではマシな方だと思ってるわ」
それは人間をはるかに超えた力を持つ少年が誰よりも弱く、そして誰よりも強く普通である事を望んだのを自分がまだ子供で、これからの生き方を決める段階で目の当たりにしたからである。
「私は、あなた達に出会っていなければあなた達に恨まれるような人間になっていたかもしれないわね」
「それをいうなら芳川に俺らが会ってなきゃ俺らは実験に嬉々と参加して、人を殺すのをなんとも思わねぇクズになってたよ」
この出会いが最善であったと垣根は言う。
「でも、芳川……その……」
静かに紅茶を飲む芳川に一方通行は何かを言いよどむ。
「なに?」
芳川はごくごく自然に微笑みを浮かべ、一方通行の言葉を待った。
――一方通行は大丈夫だ、きっと時間の問題だ。
垣根は二人の様子をストローをくわえながら見守る。
「いや、なンだ?その、手伝えることあったら、言えよ?俺はずっと、それはもう……本当に出会った時から、お前の力になりてェと、お前を助けたい、支えたいと思ってたンだと思うからよ」
真剣な目をしている一方通行の瞳をじっと見つめ、芳川は小さく息を呑む。
そして、少女のように顔いっぱいで喜びを表すように笑いかける。
「ええ、ありがとう。一方通行も……帝督も、二人とも頼りにしてるわよ」
満足気に一方通行も微笑む。
その顔は幼さを残した少年のようであった。
この人の前では第一位はただの甘えたがりの男の子にすぎない。
- 522 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:48:15.76 ID:P/2pr6Buo
- ~~~
「あ、オイ垣根」
芳川と別れ、とある大型の家具屋さんに二人は足を運んでいた。
そこで一方通行がなにやら面白いものを見つけたらしく、垣根を呼び寄せる。
「なんだ?なんか面白いものでも……ってこりゃあ懐かしいな」
一方通行が指差すのは黒を基調にした上品な本棚と、同じ材質の少し洒落た感じのある机であった。
商品名の横には『第二位・未元物質との共同開発品』と書いてある。
「お前らと再会する二週間くらい前かな?ちょうどこれの開発終わったんだよ……ここの研究員はそこそこいい奴らだったよ、まず俺に会ってから名前をちゃんと聞いてくれた」
その机にそっと手を触れる。
「……珍しい奴らもいるもんだな……具体的になにを協力したんだ?」
「汚れにくくて傷つきにくい材質を俺が生み出して、現実にある物質をそれにいかに近づけることが出来るかって研究だった」
「ほう、お前の能力オンリーで大量生産しろって言わねェところにプライドっつーかアーティスト魂というかを感じるな……よし、じゃこれにしようぜ……ベッドはねェの?」
「あるんじゃねぇか?」
二人は近くの店員を呼び寄せ、本棚と机を買う旨を伝える。
店員は素晴らしいほどの接客用のしかし嫌味のない笑顔で対応した。
そしてこれと同じ材質で作られたベッドも買いたいと伝えると送料を無料にさせていただきます。といい、ベッド売り場へと二人を案内した。 - 523 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:48:57.46 ID:P/2pr6Buo
- ~~~
「すげェ店員だったな……店員の見本みたいな野郎だった」
思ったよりも速く買い物が終わり、二人は日差しが一番きつい時間帯の街を徘徊していた。
街は笑顔で溢れていて学生たちはみんな浮き足立っている。
そんな世界をどこか一枚ガラスを通して見るような目で二人は見ていた。
“あそこに俺たちははいれるのか”
「……なぁ、なんか楽しそうだな」
「……そォだな」
長く息を吐く。
「帰るか」
「……あァ」
家の方向へと足を向けた瞬間、後ろから二人の首に腕が回される。
「学園都市最強コンビさん!ちょうどいいところに!」
二人はとっさに反撃のための演算を開始するが、その声が聞き覚えのあるものだったのでそれを中止する。
「涙子ちゃんかよ……驚かせんなよ」
「お前あぶねーからいきなり俺にひっつくな、人体を反射設定に入れてたらお前怪我してンぞ?」 - 524 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:49:28.23 ID:P/2pr6Buo
- あはは。と笑いながら軽く謝る。
佐天はどうやら一人のようだった。
なにをしているのか聞くと、四人で遊ぶ約束をしていたのだが、風紀委員二人は緊急招集、御坂も
協力していた実験でトラブルが起きた為呼び出され、暇をしていたらしい。
「垣根さんに朗報です。三日後私達とあなた達七人で遊園地に行きましょう、それで白井さんはチャラでいいそうです」
芝居がかった口調で佐天は話す。
「……俺は行かねェからな」
自然と人数に入っている事に気づき、一方通行はそれを拒否する。
「えぇ!行きましょうよ!初春と私で両手に花ですよ?」
「ちょっと待って、俺、一方通行、美琴ちゃんに黒子ちゃん、涙子ちゃんに飾利ちゃん……あと一人誰よ?」
「え?上条さんだっけ?御坂さんの思い人。その人に決まってるじゃないですか」
「とにかく俺は行かねェぞ……垣根、先帰ってるわ。お前は上条のとこ行って来い」
さっさと歩き出す。
「……ま、よくわかんねーが黒子ちゃんがそれでいいなら俺は付き合うぜ?上条も誘っとくわ」
一方通行の小さくなる背中をみながら佐天に了承の意を伝える。
「え……?あ、あぁ、はい、どうもありがとうございます。えっと……それで当日やって欲しいことがあるんですけど、いいですか?」
佐天は先日四人で立てた作戦を垣根に説明しようとするが、垣根がそれを遮り佐天の言葉を止める。
「まぁ、まて話すならどっか座るか最低歩きながらにしようぜ」
二人は街中、道端にポツンと立っている。
「ここだと他の人たちの邪魔になるだろ?」
そういい、垣根は行き先も決めずに歩き出す。
「そうですね、それでですね―― 」
佐天も垣根に続き、歩き出した。
そして、先ほど遮られた話をまた、始める。 - 525 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:49:56.57 ID:P/2pr6Buo
- ~~~
「てなわけで三日後に中学生四人を引き連れて遊園地に行くことになりました」
佐天と別れると、垣根は上条の寮へと来ていた。
「無理。俺、お金、ない。それにインデックス、ひとりにできない」
話を聞くや否や即答で無理だという上条。
「……なんで日本語不自由な感じになってんだよ。金は……最悪奢ってやるよ、インデックスちゃんは一方通行に預ければいい」
垣根は出された麦茶を一口飲む。
インデックスは上条の横にちょこんと座りながら「遊園地……羨ましいかも」と呟いていた。
――悪いなぁ、インデックスちゃん。でも今回は美琴ちゃんがこいつに気持ちを伝えるためらしいから、我慢してくれ。
心の中でインデックスに謝りながら、どうにか上条を乗り気にさせようとする。
「お前が断ったら俺は男一人になるわけだが……」
「あ、じゃあ俺の友達紹介しよううか?女子中学生四人とか言ったらきっと泣きながら来そうなやつがいるぞ?」
「バカかてめぇは」
「……大体なんで俺なんだよ。御坂しかよく知ってる子いないし一方通行連れてけよ」
空になったコップに麦茶をつぐ。
垣根が自分のも飲み干したのを見て、垣根にもついでやる。
「大丈夫だ、あの子らはあの一方通行すらおちょくる勇気と人懐こさがある」
すぐに仲良くなれるさ。と息を吐きながら言う。
その後、一時間ほど誘い続けたら上条はついに折れた。
「……んー、じゃあわかった。行くよ」
渋りながら了承すると、インデックスにお土産買ってくるから、今度はお前も連れて行ってやるからと頭を撫でる。
――犬みたいだなインデックスちゃん……。
恨めしそうに上条を見ていた目は、すっかり消え、インデックスは嬉しそうに笑いながら「約束なんだよ。楽しんでくるといいかも」と言った。
羨ましさ三割、嬉しさ七割という印象を垣根は受けた。
- 526 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2011/12/31(土) 23:52:15.29 ID:P/2pr6Buo
- ~~~
一方通行が帰宅すると、丁度買ったものが届いていた。
机はギリギリエレベーターに乗ったので、配達員と協力してそれらを部屋に運び込む。
全部運び込まれると、机と本棚を自分のセンスで配置した。
次にベッドを組み立てる。
それが終わると朝干して行った布団を取り込んだ。
やる事がなくなると缶コーヒーを冷蔵庫から取り出し一息つく。
読みかけの本を部屋に取りに行き、積んである大量の書物を見てため息を一つ。
――読む前にこいつら全部本棚入れちまうか。
大量の本をバランスよく抱え、黒々としたツヤのある美しい本棚に、次々と並べて行く。
途中本を入れ替えたりなど、ここにもこだわりがあるようだ。
片付けながら本をパラパラとめくり、読み始めたりしてしまうので、整理はなかなかスムーズにいかなかった。
結局ほかの住人が帰ってくるまでおおよそ三、四時間かけて本棚にきっちり収めた。
- 531 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/01(日) 08:04:34.15 ID:fkNrnLpAo
- ~~~
「遊園地?……一方通行も行くのかしら?」
ちらりと、一方通行の方に視線を一瞬だけ向けた。
「行くわけねェだろ」
皿洗いを終えた一方通行がソファへどかりと座りこむ。
「お、お疲れ。その日暇だろ?インデックスちゃんの相手してやってくれよ」
「めんどく……いや、解った。ミサカ達は三日後もカエルのとこか?」
食器をしまい終わった二人に目を向ける。
「その日は二人ともお休み!ミサカは芳川博士の研究所ついてくけど00001号は家にいるつもり……だよね?」
「はい。その日は一方通行と語り合おうかと思っていました。とミサカはシスターも来ることにタイミングのよさを感じずにはいられません」
二人はそれぞれ垣根の両脇に座る。
「……随分仲良くなったのな」
「……垣根さんこそお姉さまとその友人三名に囲まれてハーレムじゃないですか。とミサカは言い返します」
「そうだよそうだよ、ミサカ達とももっと遊べよー」
三人の様子を一方通行はぼんやりと、芳川は若干ニヤつきながら見守る。
「まぁ、帝督と御坂さん、それに上条君がいれば事故や事件に巻き込まれても問題はないだろうけど……気をつけなさいよ」
芳川は立ち上がり、お風呂先もらうわね、と言いながら部屋を出た。 - 532 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/01(日) 08:05:02.33 ID:fkNrnLpAo
- ~~~
そして、佐天に誘われた日から二日がたった。
どうせならという事で、上条とインデックスを家に招き、泊まらせる事になっている。
上条が補習に行く頃に垣根と一方通行は迎えに行き、上条をインデックスを交えた三人で見送る。
入院している時に出された課題は二人がかりで上条にすでに教え込んだ。
その甲斐あってか、能力開発以外は平均までのレベルに到達していた、が出席日数はどうにもならない。
いま上条は成績面よりも出席の方をクリアするためだけに優しい担任の先生の補習を受けている。
勉強も分かるようになるとそれなりに楽しくなるらしく、補習があることに対して不幸だとは言わなくなった。
補習だけではなく、日常生活でもいう回数が減っていると、隣の住民が言っていたことをインデックスが二人に教えてくれた。
インデックスは上条の話をする時すごく楽しそうに表情をコロコロ変える。
太陽の光をそのままエネルギーに変えているかのような笑顔に二人も自然と笑顔をこぼしたり、優しい気持ちになれた。
蝉の声も鋭い日差しもまとわりつく温度も、全てを楽しんでいるかのように三人は歩く。
- 533 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/01(日) 08:06:30.97 ID:fkNrnLpAo
- ~~~
「あなた達はみことの妹ってことでいいんだよね?」
夜、晩御飯を食べながらインデックスはミサカ達に確認を取る。
二人はそれを肯定し、よろしくと軽く頭を下げた。
上条はこの二人がクローンである事は言ってないようだ。
「よろしくなんだよ!」
インデックスは御坂の事をほぼしならない、だから妹がいる事にも疑問を持たなかった。
しかしこのシスターならクローンだとわかってもこう言うだろう。
“そうなんだ、でも神様に望まれたからあなた達が生を受けたことに変わりはないかも……それにあなた達は私の大切なお友達って事にも変わりはないんだよ”
純粋なただ笑っただけの笑顔でそう、言うだろう。
- 534 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/01(日) 08:06:56.67 ID:fkNrnLpAo
- ~~~
夕食を摂り終え、少し休んだあと順番に風呂に入る。
インデックスが風呂を見て、その広さに驚き、ミサカと芳川に一緒に入ろうと誘いをかける。
ミサカ達は快諾し、芳川もあまり乗り気でないが了承した。
着替え、タオルを持ち、三人は風呂へ移動する。
「わー、とうまの寮とは大違いかも!綺麗だし広いし」
「学生寮と比べちゃかわいそうよ」
インデックスが小さいので、インデックスとあと二人ならばギリギリ浴槽に収まる。
芳川はミサカ達に先に温まるようにいい、自身は髪の毛を洗い始めた。
「……どうやったらききょうみたいにスタイル良くなれるのかな」
シャワーの前に座る芳川をじっと見つめる。
芳川は少し顔を赤くし、成長期なんだからいまからよ。とテンプレ通りの答えを告げた。
それからもインデックスは芳川を凝視し続けようとしたが、ミサカ00002号に注意され見つめるのをやめた。
芳川は体を洗い終えると先にでて、浴室には三人が取り残される。
「インデックスは初恋いつ?」
ミサカ達もインデックス同様に彼女の事情を知らない。
インデックスは自身の記憶がここ一年しかない事を魔術関連のことは伏せて説明した。
「そっか、じゃあ今した恋が初恋かぁ……人を好きになるってなんだろうね」
「好きにも種類があるからね。私が誰かを好き、みさかが誰かを好き、みさかいもうとが誰かを好き、同じ恋愛にカテゴライズされてしまう好きだけどその形は全員バラバラだよね。その辺は誰にならうとかっていうより自分の納得する形を見つけるしかないかも」
そんなこんなで三人も順番に風呂を終えた。
- 542 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/07(土) 23:55:19.68 ID:PR+s3PeQo
- ~~~
いってきまーす。元気にそう言いながら、垣根と上条は出かけて行った。
それから少しすると、ミサカ00002号と芳川も家を出た。
昼には帰ってくるとの事で午後は家でのんびりと過ごすようだ。
一方通行とミサカ00001号、インデックスの三人はソファに腰掛けながら、膨れた腹を休ませるようにゆったりとたまに口を開きながら穏やかな時間を満喫している。
「なァ、インデックス」
天井の一点を見つめながら、一方通行が口を開く。
それはどこか遠慮するように、内気な生徒がわからない所を先生に聞くような少し媚びるような声であった。
「なにかな?あくせられーた」
インデックスはどこまでも純粋な瞳で一方通行の方へ顔を向けた。 - 543 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/07(土) 23:56:27.32 ID:PR+s3PeQo
- ~~~
「芳川博士、これはなに?」
ミサカが手に持っているのは日記と書かれた古ぼけたノートだ。
芳川は二人とバラバラにされた後、彼らの関わった実験で手に入る資料は全て手に入れていた。
それで何が変わるというわけでもなかったが、そうせずにはいられなかった。
「……一方通行の実験に関わって命を落としてしまった子の日記よ」
そこには第一位への恨み辛みが書き殴られていた。
芳川はその日記を最後までは読んでいない。
読めなかったのだ。
「あの子は何も悪くない、そしてこの子も何も悪くない。だから読めなかったのよ……大切な人を悪く言うその子に不条理な怒りを抱いてしまいそうで、どっちも悪くないから行き場のない感情をどうして良いのかわからなかった」
ミサカは相槌をうちながら、その日記をペラペラとめくり読み進める。
「この子はミサカと違って助けてもらえなかった子なんだね……なんだか、すごく悲しい」
喉につっかえた異物を飲み込むような苦々しい表情を浮かべ、ミサカはその日記を閉じ、ダンボールの中にしまった。
が、すぐにそれをまた手に取り、急いでページをめくる。
「どうしたの?」
その行動を芳川は不思議そうに見つめる。
「芳川博士、これ、ここ読んで」
数年来の友人を失ったかのようにボロボロと涙をこぼしながら、日記のあるページを読み、そこを芳川にも読ませようとする。
「――ッ!」
驚き目を見開く。
芳川の頬にも一筋の光がつたっていた。
「この子のお墓……というより死体処理場かな?そこに行こうよ」
涙を拭うとミサカは芳川に抱きつき、はっきりした声でそう言った。 - 544 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/08(日) 00:01:36.49 ID:vMkq2LiTo
- ~~~
「……人を愛するってのはどォいう事なンだ?俺は人の愛し方がわからねェ……人を愛するのに資格はいるか?愛されるのには?」
次々と湧き出る疑問を全てぶつける。
一方通行の顔は迷子になった子供のように不安さと揺らぎに満ちている。
いつもの冷静で物静かな彼の姿はそこにはない。
「なァ、シスター。俺は自分で人を殺したことはねェ、でも俺が存在する事で死ンだ奴は山ほどいる」
座り直し、膝に両肘をつく形に落ち着く。
「反射の正確性、強度を測る実験で俺は自分と同じくらいの年齢の奴が撃って来た炎を反射せずに真上に行くように操作した。そしたらその発火能力者は研究員に頭を撃ち抜かれた」
そして、自嘲するように弱々しく笑う。
「あいつは悪くねェのに『ただ測るだけの事も出来ないクズが』って言われながら殺されてた……俺がいなきゃあいつはもっと生きることができた。これは俺が殺したも同然だろ?」
しん、と音がした。
ミサカもインデックスも一方通行の様子に驚き、言葉を発することができずにいた。
一方通行は真剣にインデックスの目を見つめ、答えを求める。
インデックスは小さく息を吐くと目を閉じた。
たっぷり三秒ほどかけてゆっくりと目を開くと同時に言葉を生む。
「それは違うんだよ。あくせられーたは守ろうとした。心ない人がその行為を更なる暴力で蹂躙した、それにあくせられーたが責任を感じる必要なんてないんだよ」
インデックスはこの街に奪われた命の事を思い、悲しそうに顔を歪める。
「ただ、その時は自分の行動が起こす結果を考え抜く力がなかっただけ、でも力ない正義を私は悪とは考えない。本当に悪なのは『人の為に使わない力』だと思 うんだよ……あぁ、そっか。だからあくせられーたはかおりととうまが戦ってる時手を出せなかったんだね……とうまが『一方通行を巻き込んだ』って考えちゃ わないようにそうしたんだ」
『まァあいつの戦いだし“死にそうになるまでは”手出ししなくて良いよなァ?』
『死にそうになるまでは』
あ、と何かを思い出したように一方通行は声を出した。
「そォだ……本当に“上条の戦い”だと感じてたンなら、その中で上条が死のうがそれは上条の納得いく結果なンだ」
「あとは、あなたが何よりも人が死ぬ事を嫌っているって事もあると思うけどね」
インデックスは心和む笑顔を浮かべる。
「最も愚かな行為は後悔から学ばない事。あくせられーたは確かにその子を守れなかった、だけどそれを糧に今たくさんの人を救える力を身につけた、その子は理不尽に命を奪われてしまったけど、あくせられーたを恨んでいるかもしれないけれど……仕方なかった事なんだよ」 - 545 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:02:43.42 ID:vMkq2LiTo
- 仕方がない。
そんな言葉で終わらせることしかできない自身の小ささにインデックスはもどかしそうな顔をする。
「私もまだまだ未熟だからちゃんとした答えは出せてないかも、ごめんね……でも必ず答えを見つけてそれをあくせられーたに伝えるから……待ってて欲しいんだよ」
申し訳なさそうにインデックスはうつむいた。
「そしてね、愛することをあなたが知らないはずがないんだよ、あくせられーた」
先ほどまでの歯痒さを押し殺し、次の問いに真剣に向き合う顔つきをインデックスはしていた。
それは人を納得させようとする顔だ。
真剣に向けられた疑問に向かい合い、真剣に頭を働かせ、慎重に言葉を選ぶ。
「貴方にはていとくがいる。ききょうもいる。みさか達もいるしみこともいる。とうまと私をそこに加えてくれると嬉しいけど、どうだろう?」
「俺が聞きてェのは友情とかそンな言葉に置き換えられる愛じゃねェンだよ」
「おんなじなんだよ。友愛も恋愛も親が子に向ける愛も……それは全て人を大切に思うって事でしょ?」
質問しに職員室まで来た生徒を優しく迎える教師のようにインデックスは笑う。
「あくせられーたは大切な人がいる。失いたくない人がいる。それはなんで?」 - 546 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:06:22.29 ID:vMkq2LiTo
- 一瞬だけ考える。
そして、答えた。
それは一人が嫌だからだと。
「なんで一人は嫌なの?」
インデックスはさらに質問をぶつける。
寂しいから。
一方通行は普段の彼が思っても絶対口にしないであろう言葉を即答する。
「どうして寂しいの?」
さらにぶつける。
一方通行の心に絡まった糸を解きほぐすように。
「俺を……ちゃンとに見てくれるのはお前らだけ、だから」
インデックスを指してのお前ら。
そこには当然上条当麻も入っているだろう。
「私ととうまもそこにいれてくれるんだね。ありがとうなんだよ」
くすぐったそうにインデックスは微笑んだ。
「そして、その中でも特に大切で失いたくない人がいる。そうでしょ?」
一方通行はゆっくりと考えたのち、頷く。
「私が出来るのは気持ちに気づかせて落ち着かせてどこにむかいたいかを意識させることまでだよ。そこからを形作るのはあくせられーた自身にしか出来ないんだよ」
時計の音がかすかに聞こえる。
インデックスはもういうことはないだろうとだらしなくソファに寝そべった。
一方通行は言われた通りに考える。
どこに行きたいか。
――俺は、垣根とずっと笑いあいたい。ミサカ達に生きてて良かったともっと思わせたい。御坂美琴や上条当麻の事も出来る事なら心から信じあえる仲になりたい。インデックスから答えが聞きたい。
「そして、何よりも――」
――芳川とずっと共に生きていきたい。
一方通行は大きく息をはいた。
「……インデックス、ありがとうよ。俺は、自分の気持ちに……気づくのが怖かっただけなのかも、しれねェ、心の奥底では気づいていたのかもしれねェ……」
いつの日か想像した未来。
芳川の隣にいるのが自分ではない未来。
それを描いた時、確かに一方通行の心は悲鳴をあげた。
「人を愛するって事がなンだか少しだけ解った気がする」
ミサカとインデックスは満足そうに一方通行を見つめる。
「大丈夫ですよ、弱っちいあなたをミサカ達や上条さん、お姉さまにこのシスターさん。そして垣根さんと芳川博士、みんなが守ってくれますよ。とミサカはその代わり暴力からは貴方がミサカ達を守れよと交換条件を提示します」
「とうまにも言ったんだよ、あなたの心を支えてあげるって……とうまとあくせられーたは似てるのかも」
嬉しそうに笑いながらインデックスは起き上がった。 - 547 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:07:11.12 ID:vMkq2LiTo
- ~~~
「お前遊園地って行った事あんの?」
待ち合わせの駅まで歩く道すがら垣根は上条に話しかける。
「ん?ないよ……俺がそんな所行ったら誰か死ぬかもしれないし」
「そうか、まぁ今日は大丈夫だ。なんせ俺がいるし美琴ちゃんもいる。お前は俺らに頼れば良い」
「それで、いいのかな?俺が――」
「悪い。だなんて言うなよ?聞き飽きたし言い飽きた、ただ運が悪いだけだ、お前はなんにも悪かねぇよ」
突き刺すような太陽光が二人の体温をあげた。
「大丈夫だ、上条……お前のできねぇ事は俺達がやってやる。だから俺達が出来ねぇ事はお前がやってくれ……俺達もお前も出来ねぇ事にぶち当たったら――」
「全員で足掻けば良いんですの」 - 548 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:07:45.14 ID:vMkq2LiTo
- 二人の後ろに突然現れる白井と御坂。
二人は今日も制服だ。
「おおう……その通りだがびっくりさせんなよ」
「急に現れるのやめてくれよ……心臓に悪いだろ」
二人は驚きつつも、すぐに行動出来るよう構えていた。
上条は不幸の中から全てを守るために培った経験。
垣根は立場上狙われる事が多かったために育てた感覚。
驚きも恐怖も全て終わったあとでいい。
いちいちそんな事で身体も思考も止めていたら二人は命を落とす境遇で育った。
「それは失礼いたしましたわ。おはようございます、おふたりとも」
「お、おっす!二人とも」
「おはよーさん」
「おはよう、二人とも」
挨拶を交わすと、四人は待ち合わせ場所へ向かう。
佐天と初春はすでにそこにいて、二人で何やら楽しそうに過ごしていた。
「元気だねぇあの二人は」
- 549 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:08:25.14 ID:vMkq2LiTo
- ~~~
「さってと……遊園地に着いたわけだが……なんで上条はすでに疲れてんの?」
チケットを買うと、垣根はぐったりとしている上条をニヤニヤとした顔つきで見る。
「……知ってるくせに」
電車内で痴漢に間違えられたり、どこかでイベントでもやっているのか、混雑していた駅で一人別の方へ流されてしまいそうになったり、ホームへ落ちそうになった女の子を助けたりなど……随分と朝から飛ばしていた。
「いやぁ……でもこんだけ不幸続いたらあとはもう今日は幸せいっぱいですよ!」
佐天がうなだれる上条を励ます。
垣根はチケットを上条と御坂に渡した。
「あれ?黒子や佐天さんや初春さんのは?」
御坂は不思議そうな顔で垣根に尋ねた。
「これを見よ!」
垣根は怪しく笑いながら、四枚のチケットを見せつけるように御坂の眼前へ差し出す。
「なになに?……優待券?」
「そっのとぉり!実は少し前に家具を買ってな、その家具は俺が開発協力した物なんだよ」
垣根は自慢気に事のあらましを御坂に説明する。 - 550 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/08(日) 00:11:37.53 ID:vMkq2LiTo
- 家具を買った日、垣根は家に帰るとさっそく研究チームへ電話をした。
買わせて貰ったぜ、という報告と売れ行きはどうなのか、あんたらの研究ならいつでも付き合うぜ……などの事を話すと「こっちから連絡するべきだったのにすまなかった。かなり売れていて忙しくて連絡が遅れてしまった」と詫びをいれられてしまった。
次の日、お詫びに渡したいものがあるからと呼ばれた垣根はそこで優待券を四枚手に入れたのだ。
「この遊園地の持ち主がその家具気に入ってくれてな研究室のトップ四人に二枚ずつ送られてきたらしいんだが行く時は四人で行くからってみんな一枚ずつ譲ってくれた」
「なるほどねぇ……四枚なら女の子四人に譲りなさいよ」
「男二人で並べってか?嫌だよそんなの」
それに、と垣根は御坂にだけに聞こえるように声を落とす。
「こんな人混みで人質になりそうなのぞろぞろ引き連れてんだぜ?俺をよく思わねぇ連中の襲撃が万が一あった場合お前は全員守り切れると言えるか?」
「うっ……確かに、初春さんや佐天さんはなんかあった時にあんたといた方が安全……かも……」
「だろ?……それに上条と二人きりにしてやるんだ、むしろ感謝しろ」
垣根は兄が妹に意地悪をするような顔つきでからかう。
「なっ、なんであんたが知ってんのよ!」
「見てりゃわかるわ普通」
あきれ顔でつぶやく。
じゃれあう二人に、中学生三人は早く行こうと囃し立てた。
それに返事をすると、垣根は三人の少女を連れ、優待券専用のゲートをくぐって行く。
それは御坂美琴の戦い-恋-の決着への道のりの開始の合図でもあった。
- 555 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/09(月) 14:37:08.81 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
【とある少年の日記】
自分の人生の終わりが見えた。
だから日記をつけて見ようと思う。
この日記が*****の目に触れる事を祈る。
僕の苦しみと絶望をあいつに突きつけてやりたい。
才能がものをいうこの街であいつはそれがあった。僕には無かった。
たったそれだけの事で僕は生まれてから五千日すら生きる事が出来ぬまま死んで行くんだ。 - 556 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:38:05.82 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
○月◇日 雨
今日はあいつが「めんどくせェから」と言ったので実験が中止になった。
ふざけてやがる。
前回俺は全身を火傷した。
それでも毎日休む事も許されずに他の実験に付き合わされた。
俺がどんなに望んでも許されない休みを「めんどくさい」たったこれだけで
クソが
- 557 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:38:47.67 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
この日記帳もあと少しでページがなくなる。
僕は当初二、三ページ書いた頃には死んでいるんだろうと思っていた。
あいつのめんどくせェはずっと続いている。
一度あいつと偶然研究所内で会った。僕が睨みつけると怯えた顔でごめんと口を動かした気がした。
……気がしただけだけどね……。
あいつがいくらめんどくせェと言ってもいつかはその日がくるだろう。
その時僕はあいつに聞こうと思う。
僕の事をどう思っているのかを……。
- 558 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:39:18.60 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
□月△日 曇り
親友が死んだ。
あいつの遺品は安っぽいノートと真っ赤な綺麗な万年筆だけだった。
これが俺たちなんだと思い知らされた気分だ。
俺たちは所詮持たざる者なんだ。
明日は俺の番……俺は……おとなしく殺されてやるつもりはねぇ。 - 559 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:39:48.22 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
実験が今から始まる。
あいつは今回もめんどくせェって蹴ったらしいけど研究員がそれを許さなかったらしい。
僕と話したいとあいつが言ったらしい。
僕も死ぬ前に聞きたいことがあったからちょうど良かった。
部屋に入るとそいつは前置きもなく『俺はお前を殺したくねェ……だから安心しろ』そういった。
イメージとだいぶ違った優しいやつだった。
めんどくせェも僕たちを助けるための事だったのかな?となんとなく思った。
この実験が終わって生き残れたらあいつと友達になれるかな?
なれたらいいなぁ……。 - 560 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:44:46.31 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
□月▽日 快晴
朝起きたら研究員が全員倒れていた。
どいつもこいつもギリギリ死んではいなかった。
その死屍累々の中一人うずくまって泣いている痩せ細った真っ白いのがいた。
胸ぐらをつかんで立ち上がらせると罵倒してやるつもりの言葉が消え失せた。
そいつは泣いていたのだ。
顔面をぐしゃぐしゃにして、ボロボロと……そして「すまねェ」と繰り返し繰り返しつぶやきやがった。
どうすればいいんだよ、俺は……俺は…… - 561 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/09(月) 14:45:21.04 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
◎日○日
研究所を追い出された。
正式な学園のIDをもらい、俺は一人暮らしを始めることになった。
俺はこの日記と死んだ親友の遺品だけを持って行こうと思う。
- 562 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:48:23.23 ID:Ok5E0xZio
- ◎日*日
とある研究員が第一位の関わった実験の資料を集めているらしい。
この日記と親友の遺品も回収されるだろう。
親友のノートを悪いと思いつつも最後にみて見ることにした。
中を読んで俺は生きる目的を失った。
もしも何処かで会ったなら俺は自分を殺してくれるように第一位に頼もうと思う。
最後に、この日記を読んだ研究員へ
第一位にありがとうと伝えてくれ
俺は多分素直に言えねぇと思うからよ
この狂った街で誰よりも強く優しく、そして弱っちい男にどうか俺たちがお前を恨んでいなかったことを伝えてやってくれ。
多分、あの時のあいつの涙は俺の友人のためを思っての事だと思う。
俺の他に友人の死に涙してくれたのは第一位だけだったから……第一位は俺らがこんなクソッタレな環境にいたのを自分のせいと思い込んでたら……悪いからな
- 563 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:49:09.99 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
追記!
ありがとう、*****。
君の優しさが僕は嬉しかった。
ゴミのようにしか扱われず、負け犬どうしで傷の舐め合いしか出来なかった僕達に初めて優しくしてくれた人が君だ。
ありがとう。
- 564 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:52:41.53 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
ゴミ屋敷のように荒れた研究室に天井はいた。
真夏だというのにこの部屋は冷房で少し肌寒いくらいである。
「妹達の戦闘能力は格段に上がったなぁ……やっぱ感情なんてものは“実験動物”にはいらないよなぁ」
液体に浸された裸体のクローンを眺めながら天井はつぶやく。
「第一位も感情なんてものがなかったら良かったのになぁ……そうすりゃあの時の実験もちゃんとできたってのによ……」
忌々しそうに顔を酷く歪め拳を握りしめる。
「だがそれも、第一位に振り回される人生ももう終わりだ……私の計画通りやれば……クローンと上条当麻、それに懐くインデックスとかいうガキこの無能の三人は確実に殺せる……あぁ、芳川を忘れていたな……あいつはこの手で殺してやる」
悪意に満ちた空虚な笑いを浮かべる。
「一方通行、ついでに未元物質……お前らを絶望の淵に叩き込んでやる」
一人肩を震わせながら、不気味に笑う。 - 565 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:53:22.36 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
「白井さんはともかくどうして垣根さんや佐天さんもあんなにジェットコースター連続で乗って平気なんですか?」
グロッキーになりながら初春はベンチにもたれかかる。
「俺空飛べるし、ビルから何度も落ちてるし……能力使ったとこ見せた事なかった?」
「私はもともと好きだし……というか初春苦手なら言えば良かったのに」
水を差し出しながら佐天は初春の頭をよしよしする。
遊園地は相当混んでいたが優待券は乗り物も優先的に乗せてくれるものだった。
その結果入園してわずか三十分で人気の三つの絶叫系マシーンに乗る事ができたのだ。
遊園地に遊びにきている人々は夏の太陽に負けぬくらいみんな輝いた笑顔をしていた。
「さて、飾利ちゃんが復活するまでゆるゆるとしますか……俺も流石に三十分で三つのジェットコースターは疲れたしな」
初春の隣へ座り、パンフレットでぱたぱたと初春を仰ぐ。 - 566 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:59:10.80 ID:Ok5E0xZio
- 「垣根さんってさりげなく優しいですよね」
こそこそとベンチの横の木陰に移動しながら白井に耳打ちする。
「そうですわね、学園都市のトップお三方はみんなお優しいですわね」
二人は木に寄りかかり、しばらく口を閉ざす。
笑い声と蝉の声とアトラクションの機会音と……そこにはたくさんの音がせわしなく行き来していた。
佐天は目を閉じ音を感じるように呼吸を静かにさせた。
そして、唐突に白井に語りかける。
「最初超能力者ってみんな他者をバカにするような人ばかりだと思ってました……でも御坂さんとあって……無能力者の……いらない子の私にもそんなこと気にせず接してくれて……レベルでしか評価してもらえない街で評価されてる人が底辺の私をちゃんとに――」
「俺みたいなレベル5が言ってもあれかもしれねぇが……レベルなんて関係ねぇよ、少なくともこの街に住む子供達にはな……俺はお前も飾利ちゃんも黒子ちゃ んも美琴ちゃんも上条と一方通行も……みんな同じただの友達だ。レベルなんてのに価値を見出すのは腐った大人と頭の悪いバカだけさ」
いつの間にか立ち話をしている二人の横に垣根と初春はたっていた。
「佐天さん、あなたは決していらない子なんかじゃないですよ。佐天さんがいなくなってしまったら私は泣きます。そして、必ず探します」
初春はグロッキー状態を何時の間にか回復させていた。
「さらに、もし私がいなくなっちゃったら佐天さんが迎えにきてくれると信じてます……佐天さんが消えたら私が、私が消えたら佐天さんが……そんなの面倒臭いからあなたはずっと私の、私達のそばにいればいいんですよ」
いいながら佐天の手を取る。
「初……春……うん、そうだね……私、頑張る!そしてなんかごめん、折角遊びきてるのにさ」
佐天の顔に笑顔が戻る。
「んじゃお化け屋敷行くか……何でも学園都市の技術をフルに使ってて世界一怖いらしいぜ?」
三人は楽しそうに頷くとお化け屋敷へと駆けていく。
御坂と上条の事などすっかり忘れているようだ。
- 567 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 14:59:36.15 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
四人がお化け屋敷へと向かった頃、御坂と上条はやっと遊園地内へたどり着いた。
「あっついなぁ……御坂大丈夫か?とりあえずなんか冷たい物飲むか?」
胸元を扇ぎながら上条は御坂に問いかける。
御坂もハンカチで汗をぬぐいながらそうね、と気のない返事をする。
――やっばい、なんか急に緊張してきた……。
「……なんか機嫌悪い?ごめんな俺なんかと待つ羽目になっちまってさ」
「あ、いやそんなんじゃないわよ……その、いやちょっと疲れたというか?うん、大丈夫」
少しだけ悲しそうな顔をした上条に慌てて何でもないということを主張する。 - 568 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 15:00:07.94 ID:Ok5E0xZio
- 「じゃ、少しどっかで休んでから垣根達と合流するか」
「え?」
「え?合流する……だろ?」
「あ、うん……そうよね」
上条はとりあえず目に入ったカフェへとさっさと歩いて行く。
御坂がついて来ないのに気がつくと振り返り御坂を呼びつける。
二人はカフェでお茶をしながら四人へ連絡を取ろうと携帯をいじるが、四人は誰一人として電話にでることはなかった。
学園都市の本気を体験中でとてもそれどころではなかったのだと二人が知るのはもう少しあとの事である。 - 569 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 15:00:49.89 ID:Ok5E0xZio
- ~~~
「しょうがないからさ……お昼まで……ふ、二人でまわらない?」
御坂のこの言葉により、お昼までの約二時間、二人で適当に回る事となった。
二人の周りは楽しそうな声が行き交い、遊園地のマスコットも忙しそうに子供達の相手をしている。
「お、あれ空いてそうじゃん……乗ろうぜ」
上条が指差したのはコーヒーカップである。
並んでいる客はカップルばかりである。
親元を離れて寮で生活する子供が多いこの街では親子連れよりもカップルが当然多く、先ほどのカフェもカップルだらけだったが、御坂は変に意識してしまう。
「わ、わかったわ!美琴センセーに任せない」
「……何をだよ」
そんな御坂の心を知る由もなく、上条はマイペースである。
そして、最後尾に並びながら肌をジリジリと焼く太陽との一方的な我慢比べを二人は始めた。
――落ち着くのよ、デートだと考えるからダメなのよ、普通に遊んでるだけって思えばなんてことは無いわ! - 570 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 15:02:03.57 ID:Ok5E0xZio
- 一人ブツブツと呟きながら御坂は言い聞かせるようにデートじゃないデートじゃないと繰り返す。
そんな御坂に上条は純粋に心配心からおでこに手を当てる。
「ひゃっわぁ!な、ななな何よ!急に!」
「いや、お前様子おかしいし熱でもあんのかな?と思ってさ……まだまだ暑いし体調悪くなったならすぐ言えよ?雰囲気壊さないために我慢とかしそうだからなぁ、お前は」
優しく笑いかける。
その笑顔は確かに優しく暖かいものだったが、御坂の心にはトゲが刺さるような微かな痛みが走った。
――なんか違う……これは誰にでも向けるような顔だ。
御坂は上条に「御坂美琴だけに見せる顔」というものをして欲しいと望んでいた。
そして、上条の見せたその笑顔は逆に御坂を落ち着かせるきっかけに働いた。
「……うん、大丈夫ありがとう。少しアンタと二人ってのに緊張してたのよ」
小さく微笑みながら、正直な気持ちを打ち明ける。
「緊張って……俺なんかに緊張してたら好きな奴できた時デートも出来ねーぞ?」
その好きな人が自分だとは上条は夢にも思わぬだろう。
「……アンタってやつは本当にもう……」
少し進んだ列を詰めながら御坂はため息をついた。
「それに緊張の度合いなら常盤台のエースで可愛い女の子とデートもどきしてる上条さんの方が上だと思いますことよ」
たはは、と笑う。
「か、可愛い……って」
頬を桃色に染め、顔を背けた。
「んー?お前は可愛いよ、白井も佐天も初春もみんな可愛いぜ?」
そんな事だろうと、多少気を落としながら御坂は何度目かになるため息をつく。
そんなこんなで時間を過ごしているとやがて係員に呼ばれ、二人はアトラクションへと乗り込む。
「所でさ、これってなにするアトラクションなの?」
カップの中に座ると上条は御坂にそう尋ねた。
「え?アンタしらないの?」
「来たことないからな……ただ座って外眺めるだけ?」
カップの中央にあるハンドルに肘をつく。
「それ回すとこれが回るのよっと」
上条を振り落とすようにハンドルを思い切り回した。
「ぬおっ……おぉ、すげぇなこれ……あっはははは、はははは」
上条は突然笑いだし、ハンドルをどんどんぐるぐるまわす。
それに伴い二人の乗るカップも勢いを増していった。
「あっはは、ははははあははははは」
上条は壊れたように笑いまくる。
「ちょ、あんた落ち着きなさいよ!速いって……いやまじ速いって!」
御坂は上条の暴走を止めようと、上条の身体を揺さぶる。
「遅い遅い遅ーい!もっと速くもっと速ーく!速さが足りなーい!あっはははは」 - 571 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/09(月) 15:11:22.16 ID:Ok5E0xZio
- 上条さん壊れたなぁ
裏話として前日にインデックスから「明日はたくさん笑うんだよ!楽しむんだよ!余計なこと考えて楽しめなかったなんてことになったら許さないんだよ!」と釘を刺されていたので上条さんは自分を変えようと頑張っているのです
上条さんが二章で変になったのは本来のうじうじした性格を隠すのに限界が来てたのと、インデックスに何かを感じ、決壊してしまった結果ということなんでしょうね
インデックスはうじうじが治らなくてもいいと思ってますが生きてることを幸せに感じるようになって欲しいとも思っているので隠すのではなく無理なく少しずつ変えていこうと日々頑張ってます
また読んでください - 572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/09(月) 18:57:44.50 ID:zHOCzNCvo
- 乙
上条なんとかしろ - 574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/01/10(火) 10:22:15.77 ID:KsEMJaih0
- おつ
- 575 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:43:13.18 ID:5FkIIq5vo
- ~~~
「つ、疲れた……」
御坂は、ずるずるとコーヒーカップから這い出る。
上条はご機嫌にカラカラ笑いながらそんな御坂を支える。
笑い上戸なのか笑い止む気配が全く、見えない。
そのまま御坂を引きずりジェットコースターに並ぼうとするが、それを御坂はゾンビのような面持ちで阻止する。
そして御坂は最後の力を振り絞り、近くのベンチへ逆に上条を引っ張り座り込む。
「……すまん、少しはしゃぎすぎたみたいだな」
近くの自動販売機から水を購入し、御坂に手渡す。
御坂は力なくそれを受け取り、口に含む。
「あー、いいわよ別に……アンタの変な一面も見れたしね」
顔はまだ少し青い。
「それでも、悪かったな……なんか友達と遊ぶのって楽しくてさ」
「友達と遊ぶなんて珍しくないで――」
言葉を途中で止めると御坂はごめんと上条に謝る。
「いや、いいさ。本当の事だしな……それに今は垣根や一方通行やお前らもいるし」
遠くを見ながら小さく笑う。
「ほら、そんな暗くなるなよ!折角遊び来てんだ楽しもうぜ」
今度は楽しそうな笑いを貼り付ける。 - 576 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:43:39.94 ID:5FkIIq5vo
- 「……そうね……あ、ちょいごめん」
そう言うと御坂は震える携帯電話を取り出し、通話状態にする。
電話する御坂の様子をぼんやり眺めながら上条はインデックスの事を考えていた。
――インデックスともこういうところに来てみたいな。
通話を終えた御坂はその横顔を寂しそうに見つめる。
御坂には、というより恋する乙女には分かってしまうのだ。
好きな人が自分以外の女の子の事を考えているのはわかってしまうのだ。
女の子の恋愛嗅覚は鋭いという事を上条は知らない。
その後二人は比較的穏やかなアトラクションを一時間弱で数個乗り、垣根達との待ち合わせ場所へと向かうのだった。
- 577 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:44:47.17 ID:5FkIIq5vo
- ~~~
御坂、上条ペアがそこで見たものはげっそりとした四人組である。
垣根はいつもより瞬きが多く、落ち着かない。
佐天はどんよりと顔を曇らせている。
初春は作り笑いのまま全く表情を変えず、白井は朝とは別人のように痩せこけているように見えた。
「電話でも佐天さん様子おかしかったから少し気になってたけど……あんたらどうしたのよ?」
御坂の問いに垣根はただ一言。
「ここのお化け屋敷やばいぞ……」
それしか言わなかった。
第二位すら挙動不審にさせるお化け屋敷……と上条がつぶやいたのが御坂にリアルな恐ろしさを実感させた。 - 578 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:45:19.19 ID:5FkIIq5vo
- ~~~
六人はお昼を食べにイタリアンレストランへと来ていた。
パスタやピッツァを適当に頼み、それらを少しずつつまむような食べ方をしている。
店内はガヤガヤと賑やかだ。
垣根達も周りと負けず劣らず賑やかに食事をしている。
「おー、このピッツァまじうめーぞピッツァピッツァ」
「……垣根さんピッツァって響き気に入ったの?」
「このパスタもかなり美味しいですわよ」
「ほら、アンタもこれ最後の一切れ……まだ食べてないでしょ?」
「おー、サンキュサンキュ……やけに最近気が利く子になったな」
「んー、私はこのスープがお気に入りですかねぇ……」
各々好き勝手に運ばれて来た料理を食い尽くす。
それぞれが、程よく満腹になると午後の予定について話し合う。
その結果、午後は六人で適当に園内を散歩し、お土産の購入などアトラクションよりも買い物をメインにし、もし乗りたいものがあったら勝手に行けば良い。との事に決まった。
- 579 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:45:57.46 ID:5FkIIq5vo
- ~~~
「お土産って言っても買う人いないよねぇ休み明けにクラスにクッキーでも配る?」
「そうですね、持ちしそうなお菓子適当に買っとけばいいですね」
柵川中コンビは園内のショッピングエリアの中でも一番大きな店であれこれ見て回っている。
垣根と白井はぬいぐるみやフィギュアなど置物系に特化した店に行き、御坂と上条は御坂の希望によりメリーゴーランドへと向かった。
「しかし、美琴ちゃんは本当に少女趣味だよな……あ、でもデートでメリーゴーランドは定番か?」
「なにが可哀想って上条さんですわね……恥ずかしがってましたし」
「……黒子ちゃんはこれで、本当に、良いのか?」
垣根は木彫りで出来たマスコットキャラの置物を「何故木彫り?」という表情で手に取りながら尋ねる。
そうすることでただ何となく気になっただけだというスタンスを崩さない。 - 580 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:46:59.88 ID:5FkIIq5vo
- 「……いいんですの。お姉さまが幸せならばそれで……」
「同性だからとかそんなくだらないことを考えてんなら今回の美琴ちゃんの告白を俺は阻止するぜ?……お前が報われない悲しみを背負うなんて間違ってると思しな」
「違いますわ、純粋に私はいつでもお姉さまの力になりたい……それだけですの」
二人は話しながらも次々と商品を手に取りそれらを一つずつじっくりと眺める。
「……上条が美琴ちゃんを受け入れたらお前は笑って美琴ちゃんの顔が見れんのか?」
「……そんなの当たり前ですの」
白井は能力を使い垣根からにげるように何処かに行ってしまった。
残された垣根は軽く舌打ちすると髪をガシガシとかきながらため息をついた。
「あー、なんか失敗したかも……」
近くにいた客や店員はそんな垣根を不思議そうに一瞬目に止めるが、すぐに興味を失いもとの行動へ戻っていった。
- 581 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:48:17.73 ID:5FkIIq5vo
- ~~~
――垣根さんから逃げ出した。
白井はメリーゴーランドの天井部分にテレポートしていた。
御坂と別れる時メリーゴーランドの位置を確かめたからだろうか、咄嗟に能力を使ったらそこに来ていた。
――逃げ出したのは負い目があったから。垣根さんにではなくお姉さまに……。
「……私は……最低ですわね」
白井は気づいていた。
上条が御坂を見ていないことを。
上条の心には他の女性がすでにいることを。
――私はお姉さまを傷つけようとしている。
大好きで最も尊敬している憧れの人、その人が傷つく舞台を白井は自分自身で用意してしまった。
その事が白井の心を締め付ける。
罪悪感で胸がいっぱいになる。
「お姉さま……お姉さまは黒子を恨みますよね」
瞳を濡らし、楽しそうに上条の手を引きメリーゴーランドから出てくる御坂を見つめる。 - 582 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/10(火) 22:48:50.24 ID:5FkIIq5vo
- ~~~
「黒子ちゃんどこ行っちまったかなぁ?」
垣根は店を出ると、空から白井を探し始める。
眼下にはキラキラ光る来園客の笑顔と声が聞こえる。
いつの日かまた白井もここにありふれる笑顔を御坂とできたらいいなと垣根は思った。
園内で一番高い建物の上で羽根を休めると、そこからは学園都市がよく見えた。
空を見上げるとそろそろ夕暮れ、よく遊んだものだと垣根は呆れるのと同時にどこかくすぐったい気持ちになった。
「お、見つけた……しっかしお化け屋敷の上かよ……」
トラウマを植え付けられた場所の上へと、垣根は翼を羽ばたかせる。 - 588 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:32:22.99 ID:6XevJzvEo
- ~~~
お化け屋敷の上、体育座りをし、顔を膝に埋める白井に垣根は力強く声かける。
「正直になれよ」
――うるさいですの。
「お前が御坂美琴を本当に心から慕ってるのなんて出会って数回の俺にだってわかる」
――うるっ……さい。
「そんなお前が傷つける事が分かっててこんな舞台を用意するわけねぇ……そうだろ?」
「……」
「……お前は御坂美琴にとって一番いい選択をしたと俺は思うぜ」
「……でも、お姉さまが傷つく舞台を作り上げてしまったのは事実ですの」
白井は顔をあげた。
「自分の思いも告げれぬまま終わるなんて悲しすぎますの……最初はそう思ってたんですわよ?でも遊園地行きが決まったあと気づいてしまったんですの」
また、顔をふせる。
「上条さんを初めて見かけた時、あの人は絶望というか心が真っ暗でした。そして、つい先日見かけた時……彼の瞳に一筋の光が見えましたの……そして……その光は恋だという事も私にはすぐわかりましたの……相手はお姉さまではないという事も」 - 589 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:33:52.50 ID:6XevJzvEo
- 「……で?」
「結果的に私はお姉さまが傷つくだけのステージに上がらせてしまったんですの……今回の企画を中止させる事だって出来たのに私はそれをしなかった……大好きなお姉さまを取れられたくない、そんな醜い独占欲のためだけに」
「……それは違うよ」
垣根は沈みかける太陽に顔を向ける。
白井からはその表情は見えない。
「それでも、それが美琴ちゃんの為になるって思ったんだろ?想いが散るのも悪いことばかりじゃない……本当は分かってんだろ?想いも伝えずに終わるくらいなら、勝負する前に「終わった」と美琴ちゃんが悟るまえに勝負させてやろうと思ったんだろ?」
白井に向き直る。
太陽を背中に負いながら、垣根は白井に訴える。
「それは結果が例え美琴ちゃんが傷つく物だったとしても勝負もせずに終わる、それよりはマシだとお前は思ったんだろ?だったら自信を持てよ」
「だけど……私は、一番傷つけたく人を……」
「言いたくない事も、やりたくない事もそいつのためになるなら言ったりやったりしなきゃいけねぇんだよ……友達なんだからさ……友達って損な役割やるためにいるんじゃねーのかな」
「……とも、だち?」
垣根は頷く。
そして白井の手を取り立ち上がらせた。
「さてと、観覧車でも乗ろうぜ」
そういうと、子供のように屈託なく笑いかける。
白井は小さく頷くと垣根と観覧車乗り場の近くまでテレポートした。
その顔はまだ少し曇っていたが、白井の心の霧を晴らす事が出来るのは御坂だけである。
垣根は垣根が出来る百点満点の事をできていた。
- 590 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:34:47.39 ID:6XevJzvEo
- ~~~
「お、白井に垣根……お前らも観覧車か」
テレポートすると、そこには上条と御坂がいた。
「あ、なんなら四人で乗るか?」
上条が三人に提案する。
それに対し三人はうんざりしたような反応をそれぞれ示した。
「そりゃないっしょ上条さん!」
「本当に朴念仁ですね」
そこに新たな二人の少女が合流する。
「というか私達は優待券なんで、御坂さんと朴念……上条さんは二人でノロノロと乗ってくださいよ」
初春はとびきりの笑顔で上条に言葉をぶつける。
「あ、ははは……あっはっは……はは」
垣根は困ったように笑い、初春について行く。
白井と佐天もそれについて行った。
「……これだと終わった頃ちょうど花火はじまる時間帯かね?」
上条は四人を見送ると御坂にそう話しかけた。
あたりは薄暗くなっており、観覧車で一周する頃にはあたりは暗くなり、花火にちょうど良さそうである。
――ま、俺の不幸でそんなタイミングよくいくとは思えねーけどな。
そんな事を思いながら、上条は観覧車を見上げた。
- 591 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:35:23.97 ID:6XevJzvEo
- ~~~
――黒子、佐天さん、初春さん……ついでに垣根さん。ありがとう。
観覧車に乗る直前に御坂は白井へとメールを送信する。
係員が、二人を微笑ましそうに箱の中へ促した。
その中は二人で座るとちょうどいいくらいの椅子が二つあるだけの空間だ。
――二人きり……多分あの子らの事だから花火も二人きりにしてくれる、というか初めっから二人きりにさせられるとは思わなかったわ……。
朝四人がさっさと行ってしまった事を思い出し、微笑む。
ずいぶん前の事のように感じるが、まだ一日も経っていない。
――よし、がんばろう。
御坂は上条が座ったのと反対側へ座った。
しばらく外を眺め――観覧車も初めてなのだろう――はしゃぐ上条と笑い合う。 - 592 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:35:53.30 ID:6XevJzvEo
- そして、四分の一ほど進んだところで上条の話をぶった切るように真剣な声をだした。
「あ、あのさ!アンタに話があるのよ」
「ん?改まってなんだよ」
「その、ええと……」
御坂はいい渋る。
なかなか良い言葉が見つからないのだ。
「いや、だからその……ね?」
「ね?と言われてもなぁ」
「そ、そそそうよね……ごめん」
覚悟は決めたはずだがなんと言っていいかわからない。
前まではいう事自体を恥ずかしがっていたが、今は言うべき言葉がわからない。
「もういや……」
御坂は一つため息をつくと肩を落とす。
自分の口下手さに嫌気が差してきた。
「あー、その、なんだ?あ、携帯電話光ってるぞ」
上条はいきなりしょぼくれた御坂をどうしようかととりあえず話を振ってみる。
御坂は力なく返事をすると、携帯電話を開き、メールをチェックした。
- 593 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 13:36:22.28 ID:6XevJzvEo
- 『どんな結果になったとしても、黒子はお姉さまを両手を広げてまっておりますわよ』
それは、観覧車に乗る時に送ったメールの返信であった。
《ありがとう。多分こうやって無理矢理舞台を揃えてもらわなきゃ私は遅かれ早かれ逃げていた。だからありがとう、頑張ってくるね》
御坂は白井にそう送った。
その返信が先のものである。
――がんばろう、大丈夫、私には黒子がついてるんだ。
微笑み、携帯電話を閉じる。
そして、勇気を出して上条へと告白をした。
「か、上条当麻さん。私はあなたの事が好きです。私の事をただの中学生として扱ってくれたり、私を助けようと第一位や第二位に立ち向かってくれたり……あなたは私のヒーローです。これからは私だけのヒーローでいてくれませんか?」
ちょうど、上条達のゴンドラが頂上についたところであった。
二人の顔は外からの光で一瞬明るくなった。
御坂は顔を真っ赤にし、上条を見つめている。
上条は信じられないというように目が泳いでいる。
花火は一発で終わった。
どうやら準備中のミスだったらしい。
上条にとっては御坂の表情がよく見えてしまったので「不幸」であったかもしれない。
御坂にとってはどうであったのだろうか……。
「答えはおりてからでいいわ……」
御坂は落ち着いた口調でそういった。 - 598 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:33:20.52 ID:6XevJzvEo
- ~~~
「お姉さま……」
白井は御坂からのメールを見てつぶやく。
初春と佐天はそんな白井を不思議に思っているが、気づいていないふりをする。
二人も御坂と同じく白井の親友である。
なにかを悩んでいる事くらいは気づいていた。
「あ、初春あそこ綺麗だよ」
「本当ですねー第七学区でしょうかね、やっぱ賑やかな学区ですからね」
二人は白井をあえて無視する。
佐天と初春が喋り続け、垣根と白井は黙ったまま一周し終えた。
「――――」
垣根は白井にだけ聞こえるように降り際に何かをつぶやく。
「そう……ですわね、私はお姉さまをただ、支えることを考えればいいんですのね」
白井に笑顔が戻った。
それを祝うかのように、空に花が咲く。
ちょうど御坂が勇気をだした頃、白井は自分の行動に自信と勇気が持てた。
――お姉さまを支えるのは私の役目……どんな時でもお姉さまを支える事ができるのは……誰でもない、私だけ。 - 599 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:34:00.60 ID:6XevJzvEo
- ~~~
「じゃあな……また」
御坂は返事をしなかった。
「あっ……」
その事は佐天、初春にも御坂が振られたと言うことをわからせるには十分である。
「上条さ――」
佐天は咄嗟に上条の肩をつかもうとするが、それを垣根が止める。
「駄目だ。それは間違っているよ、涙子ちゃん」
言われて佐天も、自分が何をしようとしたかに気づいた。
「すみません……また、遊びましょ上条さん」
「……うん、またな佐天さん、初春さんと白井も」
上条は困ったように笑いながら言った。
「……んじゃ帰るか、送ってく必要はあるか?」
その問いには白井が必要ないと答える。
「私が送って行くので心配ありませんわ」
朝集まった駅で六人は四人と二人に別れる。 - 600 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:34:50.10 ID:6XevJzvEo
- ~~~
「お前が『申し訳ない』なんて顔するなよ、どんな答え出したか俺にはわからねぇがお前は自分に嘘つくような答えを出すようなやつじゃないことはわかる」
まっすぐ前を見つめたまま垣根は続ける。
「だったらそれでいいんだよ。惚れた腫れたの話に誰が悪いとかはねぇよ」
「うん、わかってる……けどさ、これから俺は御坂とどう接すればいいのかな?」
「いつも通り接すればいいさ……とか言うやついるけどさ、そんなの振った側の一方的な言い分だ。振られた側はいつも通りなんて無理に決まってる」
垣根は立ち止まり、空を見上げる。
「今はギスギスすればいいさ、そのうち前とは違った新しい関係が出来る……少なくとも前と同じような友達として仲良くやっていきたいとかそんな事は絶対に考えるなよ、そりゃ無理だからな」
「そう……か。そうなのか。分かったしばらく御坂とはギスギスすることにするよ」
観覧車後、合流してから上条は初めてちゃんとに笑った。 - 601 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:35:26.24 ID:6XevJzvEo
- ~~~
「黒子……私、ダメ、だっ、たよ……」
御坂は寮へ着くなり泣き出した。
黒子はそれを宣言通り、両手を広げ受け止める。
「よく、頑張りましたわ……流石お姉さまですの。今は存分にお泣きください」
白井は優しく御坂を包み込む。
御坂の初恋は散った。
そうなることを御坂も知っていた。
だけれど、御坂は闘ったのだ。
想いを告げる、それは何よりも難しく、勇気のいることである。
成功したら花が咲いたように笑いに包まれ、失敗したらこの世の終わりのような悲しみに包まれる。
御坂が今ここまで大泣きしている事は、本気で恋をした証拠である。
それを御坂は誇っていいのだ。
「本当に好きだった……本当に、ほんとうに……」
「わかってますわよ、大丈夫です。上条さんもそこは絶対にわかってくれています。鈍い朴念仁ですが、あの方はお姉さまが心を奪われるくらいの素晴らしい殿方なのですから」
白井は優しく微笑みながら御坂を抱きしめた。 - 602 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:35:58.31 ID:6XevJzvEo
- ~~~
夜空を光の花が明るくしていた。
今、ここには御坂と上条しかいない。
初春が事前に調べた花火が見え、なおかつ人が来ない穴場に二人は来ていた。
観覧車を降りると御坂は黙ってそこへと向かい、上条が追いかけた形だ。
二人はここでも一言も喋らない。
花火が上がり、散らす音だけが二人を包む。
「答えを……聞かせて」
花火が一段落ついた時、御坂はついに切り出した。
「……」
上条は大きく息を吸い込む。
「ごめん」
そして、一言そういう。
その言葉と共に花火がまたはじまった。
「御坂の気持ちはすごく嬉しい。俺なんかを好いてくれる人なんているわけないって思ってたし……でも御坂が本気だってことは伝わって来たよ、俺なんかにも愛される資格はあったんだって思えた……ありがとう」
上条は一生懸命御坂の想いに言葉を添える。
- 603 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:40:41.79 ID:6XevJzvEo
- 「でも、俺は守らなくちゃいけない人がいる。その人が俺には何より大切なんだ……だからごめん。俺は……インデックスを何より守りたいと思ってる、あの子は俺に光をくれた、俺はインデックスが――」
時が止まったかと、上条は錯覚した。
そして、ゆっくりと自分の気持ちに気がつく。
――そうか、俺は……インデックスが好きなのか。
上条は御坂が好きだ。芳川が好きだ。垣根が好きだ。ミサカ00001号が好きだ。00002号が好きだ。一方通行が好きだ。佐天が好きだ。初春が好きだ。
上条の中には一つの好きしか存在しなかった。
それは他者を作らぬようにと生きてきた結果だ。
それが、今、壊れた。
上条の中に特別な一人が存在していた事に、上条は今きがついた。
「――インデックスが好きなんだ」
上条は言い切ると、あたりはまた花火の音だけになった。
「そっか……うん、多分私はあんたの気持ちをわかってたんだと思う。でも、私は私の想いを知って欲しかった。貴方を困らせる事になるとしても……だからありがとう、上条当麻、真剣に私と向き合ってくれて……でも、やっぱもう少しだけ、好きでいさせて」
御坂は涙を必死に堪え、笑った。
その声は震えている。
「ごめ……いや、ありがとう御坂」
出かけた言葉を飲み込む。
それは絶対に言ってはいけない言葉だからである。
こうして、御坂美琴の初恋は花を咲かせる事なく終わった。 - 604 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/11(水) 21:41:09.75 ID:6XevJzvEo
- しかし、得難いものを得たのも事実。
それがなんなのかは今はまだわからないだろう。
それは時が経ち、落ち着いて今日の出来事を思い出せるようになった時、初めて理解できるのだろう。
失恋は花が枯れる事ではない。
枯れるとは、想いも伝える事が出来ぬまま諦めてしまうことである。
失恋とは違う種類の花が咲いてしまう事でなのだ。
だがその花は種をこぼし、いつの日か御坂の心に良い思い出として花開くだろう。
そうやって、少年少女は傷ついたり喜んだりしながら成長して行くのだ。
上条の心にも、どんな花かは分からぬ種が落ちたはずである。
それがどんな花を咲かすかは、誰にも分からない。
遊園地編 了。- 613 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/12(木) 20:57:00.19 ID:GbbKQaO8o
- ~~~
「お馴染みの喫茶店に来たわけだが……なんでそんなにお前らは怖い顔してるんだ?」
佐天から呼び出された垣根は怖い顔をしている佐天と初春に訝しげな顔をする。
「これはなんというか……つまり、私達はまだまだガキってことなんですよ」
佐天も初春も中学生くらいの女の子にありがちな「○○ちゃんを振るなんてひどい」という子供っぽく間違った正義感を持っていた。
「まず、ありがとうございました。あの時垣根さんに止めてもらわなきゃ私、上条さんにひどいこと言ってた……感情で動いちゃうのやめないとね……」
佐天はしょぼんと力なく頭を垂れる。
「私だって同じですよ……佐天さんが言ってなきゃ私がいいそうになってたと思います」
垣根は店員にコーヒーを注文すると白井の横にどかりと座った。
「良い子だよな、お前らは……間違ってると思ったら素直に謝れる、それは大切な事だぜ?そんで俺もお前らもまだまだ発展途上なんだ失敗もするし間違いも犯す、その度友達とかに叱られて成長するんだ」
「垣根さんはやっぱり大人ですわね……私も貴方のおかげで自分に自信が持てましたの」
「よせよ、お前らと比べたらそりゃ大人かもしれんが変わらんよ。……きっと俺がいなくても美琴ちゃんが黒子ちゃんに自信与えただろうし、そうしたら涙子ちゃんや飾利ちゃんを黒子ちゃんが止めたさ」
三人の顔を順番に見渡し優しく微笑む。
店員が冷たく冷えたコーヒーを持ってきた。
垣根はそれにストローをさし、それをくわえる。
「はぁーあ、なんか夏休みももう終わるのになぁ……こうなんかあれですよね」
佐天は天井を見上げ目をつむる。
- 614 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/12(木) 20:59:15.81 ID:GbbKQaO8o
- ~~~
「御坂さん、ダメだったみたいですね……」
「そうだね……私上条さんにひどい事言うとこだった……多分それを言ったら御坂さんも傷つけてたと思う……やっぱ私ダメダメだなぁ、無能力者だし考えるより先に行動しちゃうし……」
二人は佐天の部屋で寝巻きに着替えながら今日の出来事を話していた。
二人は己の未熟さを痛感していた。
傷ついた友達に何を言ったらいいか分からない。
さらに、その友達を傷つける事をしてしまいそうにもなった。
窓を開け、ぬるい風をその体に受ける。
「夏休みももうすぐ終わりだね」
「そうですね……佐天さん、貴方はだめだめなんかじゃありませんよ?」
初春は佐天からわざと顔を背けながら言った。
なにか照れ臭かったのだろう。
御坂の失恋はその親友たちの心にも雫を落とし、波紋を広げていた。
- 615 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/12(木) 20:59:51.93 ID:GbbKQaO8o
- ~~~
「夏休みも終わりかぁ……もう一騒動くらいありそうだなぁ」
佐天のこぼした夏の終わりに垣根は勘の域を出ない予感を感じる。
「私にも出来る事があったら言ってくださいね、無能力者ですけど」
「はは、頼りにしてやるよ」
垣根はゆっくりとコーヒーを飲む、その間四人はぽつぽつと笑いあったりする。
十数分かけて飲み干すと席を立ち店をあとにした。
- 616 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/12(木) 21:00:23.51 ID:GbbKQaO8o
- ~~~
「あァもォーかなり鬱陶しィンですけどォ?」
「そんな事いうなよ、なんかさ自覚した途端困ることもあるよな?」
上条は遊園地から帰った日もインデックスと垣根達のマンションへ泊まった。
「……あァ、それはあるな。なンつーかこう……な?」
一方通行もインデックスに諭され気持ちを自覚したばかりである。
「そう!それ!こう……な?って感じだよな!」
「……テンション高ェようっぜェな」
心底うんざりしたように上条を睨みつける。
「インデックスとどう話していいかわっかんねぇんだよ!この後帰って変な感じになっちまったらどうすんだよ」
「俺がンな事知るかよボケ!こっちは芳川の事で……あ」
「お、おー?おうおう……落ち着け……顔がトマトみたいに赤くなってるけど落ち着け……俺は悪くないぞ?」
一方通行はどんどん赤くなり、プルプル震えはじめる。 - 617 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/12(木) 21:01:14.44 ID:GbbKQaO8o
-
「お、おめェが――」
悪りィんだよ!と上条へ掴みかかろうとするのをある人の一声でその動きが止まる。
「一方通行?何を騒いでるのよ」
「――あ?ああああ!ンでもねェ、なンでもねェよ!俺たちすげェ仲良し、な?」
そういい上条と肩を砕かんばかりの力で組む。
「え?あ、はい。すみま……せん?」
芳川は不思議そうな顔をしたが、深くは聞いて来なかった。
そのまま、そう?仲良くね?といい部屋に戻った。
残った二人は顔を見合わせ、ため息をつく。
「はぁ、まぁ恥ずかしがんなよ……人を好きなるのは……良い事なんだと思うし」
上条は自信なさげにそういった。
「……お前はもっと人からの好意を素直に受け取っていいンじゃねェか?」
「受け取ってるさ」
「……ならいいが」
少なくとも前よりは成長した。
以前の上条ならば「俺を好きになるなんてありえねぇだろ」と御坂とも真剣に向き合えなかったであろう。
それが御坂の気持ちを否定せずに向き合い、ちゃんとに答えも出したのだ。
「一方通行こそ、やっと素直になったなって感じだろ?本当は昔から芳川さんが好きだったんだろ?」
「……シスターの、いやインデックスのおかげだよ」
「自分の気持ちが一番わかんねぇよな、俺たち以外と似てるかもな」
「それインデックスにも言われたわ……似てねェだろ」
- 623 :緊迫感とか緊張感ってのはどうやればでるのだろうか ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:17:49.24 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
遊園地騒動から数日後、夏休みも残すところあと二日になった。
今日、この日、天井亜雄は動き出す。
それの行動力は一方通行、垣根帝督、芳川桔梗へ向けられた純粋すぎる悪意だ。
一方通行の最強の能力はそれすらを“反射”することができるのか。
垣根帝督は大切なものを守り抜くことが出来るのか。
芳川桔梗は“大人”として二人になにが出来るのか。
全て終わったその時、学園都市の夏も終わる。 - 624 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:20:59.99 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
「珍しく一日中全員集合か?」
「あ、このあと一方通行借りていくわよ?」
芳川家は久しぶりにゆっくりと朝食をとり、のんびりと食後の時間を過ごしていた。
そこへ垣根がニコニコしながら全員暇な事を喜んだ。
そして、芳川はこのあと一方通行を連れて何処かへ行くつもりだと言った。
それに一番驚いたのは一方通行であった。
「あ?聞いてねェぞ?」
「今言ったんだから当たり前でしょう。調べるのにずいぶん時間かかっちゃったけど本当はもっとはやく行きたいところがあったのよ」
ミサカ00002号はその様子をにこやかに見つめている。
――これで日記の少年も少しは報われるかな?
ふと、ミサカは先日みた日記を思い出す。
――あれ?『めんどくせェも僕たちを助けるための事だったのかな?となんとなく思った。』
“僕たち?”
――あの子には同じ境遇の友達がいた?だとしたらその子は?
「芳川博士!」
思わずミサカは叫んだ。
「な、なによ……私なんかした?」
出かけるのを渋る一方通行を一生懸命説得していた芳川は突然大きな声を上げたミサカに驚きその顔には少しだけ怯えも見えた。
「あ、いやごめんなさい……日記って一冊しかないの?」
「え?えぇ、私が手に入れられたものは前に見たものだけよ」
「そっか……」
――あの子の友達は生きてるのかな?
日記の少年の友人、生き残り自分の思いを恨んでいるこの街の研究員へと託すことしかできなかった少年。
この子は今どうしているのだろう。
ミサカはそれがなんとなく気になった。
その少年の日記は何故芳川のところへ届かなかったのか。
「そっかぁ……」
同じ台詞をつぶやく。
気づいた事をミサカは芳川へ伝えようか、少し迷う。
そして、結論を出した。
黙っていよう。と、言って何かが変わるわけではない。
「……さぁ、一方通行、いくわよ」
芳川はミサカの様子を不思議に思いながらも特に深く突っ込むことはしなかった。 - 625 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:22:02.85 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
気づくことなど出来なかった。
それはとても些細な変化であったのだから。
例えば何か重大な病気だったとしても日頃汗水垂らして働いていれば「少し疲れてるだけだな」と勝手に納得してしまうような、そんな些細な事だったのだ。
垣根も一方通行も芳川も00002号も変化の張本人の00001号ですら気にしていなかった。
ただ、少し疲れたな。程度に思っていただろう。
それにもともと00001号は口数も少ない大人しいほうである。
もう一度言おう、気づかなかったとしてもしょうがないのだ。
この時、すでにミサカ00001号は最終信号による強制命令を受け付けかけていた。
すんなりとその命令をミサカ00001号の脳が承諾しなかったのは果たして幸か不幸か……。
- 626 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:24:14.49 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
「ンでェ?俺をこンなとこに連れてきた理由はなンだよ」
白髪は彼の機嫌を示すかのように風で一回だけ大きく揺れた。
その赤眼は理解出来ない事への苛立ちで普段よりも色が濃く見える。
大抵のチンピラならば、小さく悲鳴をあげ逃げ出すような恐ろしい顔つきである。
そんな一方通行に芳川は全く動じることなくため息をついた。
それは彼女が彼より戦闘能力が高いからでは決してない。
彼が彼女を殺すはずがないとたかをくくっている訳でもない。
二人の間にあるもの、それは互いを必要不可欠な存在とする依存にも似た信頼関係である。
「もう少し素直になったほうがいいわよ、昔の一方通行は『よしかわー、よしかわー』って垣根と一緒にいつも素直でそれでいてちょこちょこ私の後をついてまわって……可愛かったのよ?」
覚えているかと聞くように首を少しだけ傾ける。
それに対し一方通行は芳川から顔を背けながら小さく舌打ちをした。
多少のイラつきと、多大な照れがそのしたうちには含まれている。
- 627 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:25:55.47 ID:LVCV3bXoo
- 「……ここはたしか……俺が潰した研究所だろ?」
いやな思い出しかない場所に連れてこられ、一方通行は焦りににもにた恐怖を感じていた。
小さな子供が窓ガラスを割ってしまい、それを叱られるのを恐れると同時に、ガラスが割れた窓はこれからどうなるのだろうとオロオロするしているのにすこし似ていた。
「そんな泣きそうな顔しないでよ……ただ、私は見せたかったものがあるだけよ」
そう言って芳川は困ったように笑うと一冊のノートを一方通行へと渡した。
そのノートは少なくとも十年近くは前のものだと推測できるほど古ぼけたものであった。
表紙に中央よりやや上の位置に日記と書いてあり、右下のほうにはかすれてしまい、うまく読み取れない。
この日記の持ち主と持ち主の友人ならばそこに書いてある日記主の名前だと判断でき、読めもするだろう。
一方通行も芳川も名前だと推測することまでは出来る。
だが、持ち主の名前を彼らは知らない、なので読むことが出来ない。
何か文字らしきものが書いてある。
その程度しか認識できなかった。
そんな古臭い日記を受け取った一方通行は見てもいいのかと聞くように芳川に視線を向け、顔を斜めに傾げた。
芳川は黙って一方通行に頷く。
「……ンでこンな物を俺に見せる」
一ページめくると泣き出しそうな声と表情で一方通行は芳川を睨みつけた。 - 628 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:29:19.75 ID:LVCV3bXoo
- 「いいから、読んで」
しかし芳川は日記を大事そうに閉じようとする一方通行にそれを許そうとしない。
『恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる
恨んでやる恨んでやる恨んでやる』
その日記の前半は一方通行への憎しみしかなかった。
一方通行は心に釘を打たれるような痛みを感じた。
何度もページをめくる手を止めようとするが芳川の視線がそれを許してはくれなかった。
そして、その芳川の表情も苦しそうな痛々しいものである。
「……なァ、俺はやっぱ……生きてちゃいけねェンじゃねェかなァ……」
日記に視線を落としたまま一方通行は震える声を発した。
芳川は何も答えない。
芳川の出す答えでは一方通行が満足しないことなど彼女には分かっているからだ。
「……は?」
日記の後半、残り数ページの所で一方通行は驚きの声をあげた。
そしてその目からはポロポロと涙があふれる。 - 629 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:30:33.25 ID:LVCV3bXoo
- 「あ、こいつ……あいつ……か」
日記の持ち主を思い出し、一方通行の目からはさらに多くの光が零れる。
「そう、確かに守れなかった。それは私達がそれぞれ離れ離れになった直後くらいの実験よね……その頃のあなたはまだ人と仲良くなりたい、繋がっていたいと思っていた。だからその日記の子と話がしたいと申し出たんでしょう?」
そして、これが一方通行が他者を受け入れずにいた理由である。
自分と関わったら死んでしまう。
上条当麻と似たような感情が、一方通行にもあったのだ。
だからインデックスは二人を似ていると感じたのだ。
「あなたを……いえ、あなた達を理解しようとしてくれる人ははじめっから私だけじゃなかったという事よ……そして、この場所はその子の死んでしまった場所、そして埋葬されている場所でもあるのよ」
その子と言いながら日記を指差す。
「……どこだ?花なンか持ってきちゃいねェが手だけ合わせてェ」
芳川はにっこり微笑むとその場所へと案内しようと歩き始める。
一方通行は廃墟と化した研究所の裏側へ芳川が消えるのをゆっくりと歩きながら見つめる。
- 630 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:32:23.15 ID:LVCV3bXoo
- 「わりィが今は帰ってくンねェか?」
涙声で自分の背後へと声をかける。
「――――チッ……ばれてたのか」
物陰から現れたのは伸ばした髪で顔の半分を隠している一方通行よりやや年上に見える少年であった。
「お前がここをぶっ潰した時に会ったんだけど覚えてるか?第一位」
「……あァ」
「警戒するな、俺はただお前に……実験動物としてしか見られない俺たちの死に涙してくれたお前に……」
少年は何か言いたそうな顔をするが、言葉が見つからなかったのかそっぽを向いた。
「なんでもね、やっぱ無理だわ……あとよ、そいつは多分お前を恨んじゃいねぇよ、そしてお前があいつの眠ってるところに行ってやれば喜ぶ……親友だった俺が言うんだから間違いないさ……」
男の髪が風に揺れた、髪の下にはひどい火傷の痕が残っていた。
- 631 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:33:58.87 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
芳川と一方通行が出て行ったあと、残された三人は無駄話に花を咲かせていた。
垣根が口にするのは漫画の話や料理の話。
遊園地の話でミサカ達が少し不機嫌になったが今度一緒に行こうと提案すると直ぐにそれは直った。
ミサカ達は病院での出来事を
二人で一生懸命と話す。
いつも00001号のお尻を叩く患者がいるというと垣根の機嫌はすこぶる悪くなったが00002号が毎回ビリビリお仕置きをすると聞いてすこしだけ良くなった。
そんな和やかな空気を壊すように、垣根の携帯電話に着信があった。
それは上条からでどうやら宿題でどうしてもわからないから教えて欲しいとのことであった。
電話で話すよりも直接会ったほうが早いということで、垣根は一時間ほど出てくると二人に言い残し上条の学生寮へと翼をはためかせていった。
- 632 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:34:27.80 ID:LVCV3bXoo
- 「00001号は垣根さんが好きなんだよね」
垣根を見送るとミサカ00002号は唐突にそう言い切った。
質問ではなく確認、ミサカの中に答えはすでに出ている。
「えっ……あ……うぅ」
00001号は顔をほんのり赤らめて俯く。
それで00002号は満足し、さらに言葉を続ける。
「ミサカも垣根さんが好き、優しいしミサカ達のこと大切にしてくれるしいつも気にかけてくれるし……00001号の事も大好き」
00001号の手を自分の胸に抱くように取る。
「本当は黙ってようかなって思ってた……けど、やっぱ諦めたくない、00001号と垣根さんが幸せそうにしてたらそれはミサカにとっても幸せだけど……勝負もせずに逃げたら後悔する、ライバルが自分の半身なんて手強いけど……勝負だよ、おねーちゃん」
そして、言い終えると力強い笑顔を00001号へと向けるのだった。 - 633 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:35:03.85 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
火傷の少年が消えたあと、ほんの数秒消えた方向を見つめ、一方通行は芳川を追いかけた。
裏にまわってさらにすこし奥へと行った所で芳川は一方通行を待っていた。
「話は済んだの?」
「……あァ、とても穏やかにな」
芳川は心配そうにしていた顔からホッとした顔へと表情を崩した。
「ここに眠っているそうよ」
そこには木で作ったお世辞にもうまいとは言えない十字架が刺さっていた。
そしてその根元には花束がひとつ備えてある。 - 634 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:36:03.06 ID:LVCV3bXoo
- 「……」
一方通行は黙ってその十字架へ手を合わせた。
――ごめン。そして……。
渦巻く気持ちはたくさんあったが一方通行はその二つの言葉にすべてを込めた。
目を開け、ノートをひらひらとさせ芳川に確認を取る。
芳川はそれで何をしようとしているのかを理解し、頷いた。
芳川の了承を得たことを確認すると目を瞑り、演算を始める。
少し時が経過すると、一方通行の掌に小さなプラズマが発生し、それにノートを近づけた。
ノートは勢いよく燃え始め、一方通行はそれを花の横へと置いた。
「天国でも日記をつけろよ……ペンは今度また備えにきてやる」
空に向かって小さくそうつぶやいた。
素晴らしいまでに美しい空がそこには広がっていた。
なだらかに流れる白い雲、大空を駆け回る鳥、そして、今の一方通行の気分を表すような透き通った風ばかりがそこには存在していた。 - 635 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:37:38.00 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
垣根と芳川、一方通行はほぼ同時に帰ってきた。
そして五人は揃ってソファに座り、ジュースを飲みながらダラダラと時を削る。
最初の違和感はミサカ00001号がたまにぼんやりすることだった。
「――ってな訳なんだ、笑えるだろ」
垣根が上条に勉強を教えに行った時のことを楽しげに話し、一方通行はそれを鼻で笑い、芳川と00002号は呆れたように笑った。
「あれ?ミサカちゃんにはウケなかったか」
満足気に三人の顔を見渡した後、ぼんやりとしている00001号に垣根は気がついた。
「……え?あ、何でしょうか?とミサカは聞き返します」
ミサカ00001号はわたわたと慌てた。
「ぼーっとしてどォした?具合でもわりィのか?」
00001号の顔を覗き込むように一方通行は心配そうな顔をした。
「い、いえそういうことではないんですが……なにか頭がはっきりしないといいますか……とミサカは報告をします」
「疲れてるのかな?まぁ、無理しちゃだめだよ?」
00002号は00001号の肩を抱きながら顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫……だと思います。とミサカは微笑みます」
その微笑みにはいつものような自然な光は微かだが失われている。
その違和感すら「体調が悪いから」と勝手に納得してしまうくらいのほんのちょっとの変化であった。
「今日の買い物当番はミサカが代わるよ、00001号は休んでて」
00002号がそう微笑むと00001号も微笑みを浮かべながら頷いた。
- 636 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:38:44.69 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
呼んでいるのですか?
泣いて……いるのですか?
ミサカに出来ることは何かありますか?
あなたは誰なのですか?
……小さいミサカ……?
あぁ、あなたもミサカなんですね?
ミサカ00001号とミサカ00002号とあなた。
ミサカ00001号は00002号であり、あなた。
ミサカ00002号は00001号であり、あなた。
そして、あなたは、いえ……あなた方は00001号であり、00002号……え?
違うのですか?
……あ、なるほど、そういうことですね?
では、ミサカ達にお願いがあります。
このミサカの――――。
め、いわくを……おか、け、し、ま……す。 - 637 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:39:27.00 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
「よし、準備はいいな……00003号~00032号は超電磁砲のお友達の所へ、00033号~00082号は超電磁砲のところへ、00083 号~00100号は上条当麻のところへ、00101号~00200号は奴らの家へ、00201号~00300号は私と共に第一位を殺しに……だ。あぁ、芳 川桔梗は俺の手で第一位と第二位の目の前で殺すから手を出すなよ?」
天井は上機嫌にコンソールを操作する。
データに間違いがないかを確認すると、おぞましい笑い声をあげた。
「インストール……ヒヒッ戦争開始、だっ」
天井の目の前にある調整槽の中にいる少女、打ち止めは身体を二回大きくはねあげた。
そして、一瞬だけ苦しそうな顔をし、無表情のまま目を開けた。
「おはよう最終信号。お前はもう用無しだ、三日もすれば勝手に死ぬようにプログラミングしてある……言っても理解など出来るわけないか……」
ニヤニヤと口の端を上げた。
破滅は着々と近づいている。
最後に笑うのは誰なのかそれを知るものは、誰もいない。
- 638 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:41:34.34 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
宣言通り夕飯の買い物はミサカ00002号がミサカ00001号の代わりをしようと買い物へ行こうとするが、一方通行がそれを止めた。
「お前はミサカについててやれ、誰より心配してンのはお前だろ?」
垣根も一方通行も芳川も、この家の住民はミサカ00001号の事も、ミサカ00002号の事もミサカと呼ぶ。
それは00001号だの00002号だのとは決して呼びたくなかったからだ。
そして、ミサカは二人とも三人がミサカと呼んだ時どちらが呼ばれているのかを間違えることも無かった。
それ程まで五人はお互いを理解し、共になくてはならない、守らなければならない存在、場所としていた。
「今日は何作ろうか!」
家を出てスーパーへの道すがら、00002号は献立を考えていた。
一方通行の申し出を笑顔で断り、「芳川博士と垣根さんがいるから安心だよ。そういうちょっとした事で甘えたくないんだ」とミサカ00002号は買い出しに出ていた。
呑気にあれが食べたいこれもいいと考えるミサカだが、何処かに自分達がいかに危うい存在であるかという危機感は残っていたのだろう。
もしかしたら生存本能かもしれない。 - 639 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:43:04.92 ID:LVCV3bXoo
- 手を叩いたような乾いた音が一度鳴り響いた時、ミサカ00001号はそれが鳴るコンマ数秒前に立ち止まった。
「ミサ――」
一方通行はそれよりも少しだけ素早く00002号に何かを言おうとするが、膝から崩れゆくミサカ00002号の姿を見て、言葉は途中で途切れた。
「チッ……下手くそが」
物陰から現れた男はイライラとした様子で、隣に立つごついゴーグルをかけ銃を構える二人がよく知っている顔を殴った。
「天井……亜雄ッ!」
倒れたミサカ00002号がその男の名前をつぶやく。
ミサカ妹達から撃たれた弾丸は、足を掠っただけでたいした怪我にはなってはいなかった。
「おっと、動くなよ一方通行ァ?百のクローンがその出来損ないクローンを狙ってるぜぇえ?」
一方通行は目つきだけで殺せそうなくらい天井を思い切り睨みつける。
対する天井は余裕を見せつけるかのようにニヤニヤとしていた。
「そんなに睨むなよ、俺の目的はなにもお前の命じゃあない」
さらに顔を歪める。
「お前に死んだ方がマシなほどの絶望を与えることだ」
言いながら一方通行を指差し、大笑いをする。
その笑い声をバカにするようにミサカは立ち上がりながら天井に言った。 - 640 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:44:56.52 ID:LVCV3bXoo
- 「……「俺」だって……いつもへこへこしていた奴が使うような一人称じゃないよ……それがあんたの本性なの?圧倒的優位に立った途端……かっこ悪いね」
そして、にっこりとわらう。
「それとも、百人もミサカの妹達作っといてまだビビってるのを隠してる精一杯の強がり?」
天井を挑発するかのように最後の言葉を強調した。
「実験動物の分際で……私に意見するな」
「私」を強調しながら怒りを抑えるように静かな口調である。
そして、一歩前へでると自らも銃を構えた。
「一方通行ぁ、お前が何かしたらその瞬間百の銃弾が出来損ないのクローンを襲うぞぉおお?」
二人に歩み寄る。
「だ・か・らぁ……反射を切っとけよぉ?」
そして、一方通行を思い切り殴りつける。
「ハッ……ハッハハ……ハァーハッハッハァァアアア!はぁぁあ、最高だぁ……お前をこうしてやりてぇとずっと思ってたんだぜぇえええ?アァクセェラレェタァアア!」
一方通行は大人しく殴られる。
その目に怒りと決意を燃やしながら……。
――絶対に守りきってやる。
その炎が意味するのは、ミサカを出来損ないと呼んだ事に対する怒りと、何も失わない決意である。
- 641 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:45:47.60 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
「私もう初春の同室になろうかなぁ」
毎日のように入り浸り、二人で宿題をやったりご飯を作ったり、佐天と初春はまるで恋人のような共同生活を送っていた。
今日もぼちぼち夕飯の準備を始めようかと、机の上に広げた教科書やらを片付けていたところである。
そこにそれは、いや、それらは突然現れた。
「佐天さん、初春さん!……良かった無事だった……とりあえず話は後、いくわよ黒子」
部屋に突然現れた白井と御坂、それに驚く猶予すら与えられずわけもわからぬまま外へと数回強制テレポートをされた。
一段落付き、先ほどまでいた方向を見ると、もくもくと煙が上がり「爆発したのか」と数秒後に気がついた。
「ごめんなさい、全部終わったら全部話すから今はとりあえず私のそばを離れないで……絶対に守るから」
混乱し、ぼーっとしている二人に御坂は申し訳なさそうにつぶやく。
しかし、佐天と初春は大混乱の状態でもしっかりと頷いた。
心の底から第三位・常盤台の超電磁砲《御坂美琴》の事を、親友として信頼している証拠である。
と白井は一人思い、微笑んだ。
しばらくどこかもわからぬ高いビルの屋上にいると、二人の頭も大分回復して来た。
御坂はそれを確認するとにっこり笑い頷く。
「とりあえず河川敷とか廃工場とかそういうところへ行きましょう、街中だと闘いにくいから」
白井へそういうと、四人はテレポートしていった。
- 642 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:46:28.26 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
「な、なんなんだよあいつら妹達……なのか?クソッ、何が起こってやがる……」
幸運なことに、上条とインデックスは佐天達と同じように部屋を爆破されたのだが、その時たまたまインデックスの散歩に付き合っていたため、二人とも難を逃れた。
――偶然命が助かるなんてこんな幸運俺にはありえねぇ……って事は生き残っちまったせいでこれからかなりきつくなるのか?
「よし、とりあえず垣根達の家に逃げよう、何が起きてるのかはあいつらが知ってるはずだ」
上条はインデックスの肩を抱いた。
「うん……でも無事に行けるかな?」
「大丈夫さ、俺を信じろ」
珍しく弱気なインデックスを励ますように力強く笑う。
- 643 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:46:56.11 ID:LVCV3bXoo
- 「でも、とうまは超能力や魔術以外には無能なんだよ?私の事はいい、でも私はとうまが――」
インデックスの弱気、それは殺す事だけを考え手段も選ばない相手に対してらあまりにも無力な自分達を理解しているからだ。
魔術ならば頭の中の魔道書で上条のサポートが出来る。
超能力ならば上条は一方通行や垣根が相手でもない限り負けはない。
だが近代兵器、銃や爆弾などに対して二人は無力である。
「大丈夫だ、何があってもお前は守る、俺がいないとお前が笑えないというのなら俺は俺自身も大切に出来る」
その目は自信と決意で満ち満ちている。
――絶対に守る。
そこに満ちているのは、笑顔を曇らせない自信と全てを守り尽くすという決意である。
- 644 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:48:34.40 ID:LVCV3bXoo
- ~~~
「伏せろ」
垣根は急に声を落とし、ミサカと芳川をソファを盾にするようにその影へ引っ張り込む。
それと同時に能力を展開し、その副産物である翼で今は芳川の部屋となった空間へと続く扉と玄関へと続く廊下の扉をぶち破った。
「な、何事?」
芳川は突然の戦闘体制に驚きながらも、すぐに動けるように態勢を整えていた。
「わからねぇ……が、殺気がそこらから向けられてる――」
気をつけろ、と言おうとした瞬間、部屋は爆音と爆炎に包まれた。
――問題ねぇ、不意打ちなら多少は焦るがそんだけ殺気撒き散らしてりゃ爆発からこいつらを守るなんて息をするより容易い。
翼で二人と自分を包み込み爆発をやり過ごす。
「ミサカちゃんは銃とかも一応使えるんだろ?芳川も一応持っとけ」
爆発で崩れかけた壁を完全に破壊して、自室に置いてあるサブマシンガンをひとつずつミサカと芳川に投げ渡す。 - 645 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:49:51.31 ID:LVCV3bXoo
- 「なんでこんなの持ってんのよ」
芳川は疑問を口にしながらも、カチャカチャとすぐに撃てるように銃をいじる。
「前に俺をぶっ殺そうとして来たスキルアウトの連中から没収したもんだ」
爆弾の犯人は部屋に入ってくる様子はまだない。
――おそらく打ち止めって子が関係あるんだろうな。
軽く舌打ちをすると、買い物に出た二人の事を気にかける。
「まぁ、一方通行がついてりゃ平気か」
そして、そんな独り言をつぶやく。
本気で殺しにかかってくるならば煙が晴れる前に突入してくるはずである。
それがないということは少なくとも狙いは自分ではないのだろうと予測を立てた。
真正面からやりあって垣根に勝てるものなど一方通行しか存在しないという絶対の自信があるからこその考えだ。
――つまり狙いはミサカちゃんと芳川か。 - 646 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:50:36.56 ID:LVCV3bXoo
- この二人ならば爆発で垣根がいなければ死んでいただろうし、もし垣根一方通行のどちらかがいて生き残っていたら中に飛び込んでくるのは自殺行為である。
部屋から出て来たところを狙撃でもした方がいい、それを防ぐ術を二人は持っていないのだから。
垣根はごちゃごちゃ考えるのを一旦やめると、二人を抱きしめるように自分に引き寄せ、耳を澄ます。
――足音は聞こえねぇ、息づかいも全く聞こえねぇ……がこの建物を囲むように兵隊がいるのはわかる。
それは、ピリピリした混じり気の、迷いのない殺気。
これだけ殺す気満々なのに追撃してこないのは何故だ。
爆煙が完全に晴れ、壊れてしまったリビングをさみしそうに見つめながら垣根はぞわりと背筋を舐められる悪寒に襲われた。
風船が割れたような音と、絶叫。
- 647 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:52:54.41 ID:LVCV3bXoo
- 「うぐ……うううい、いやぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ、あ、あ あ……ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああぁああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあ ああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああぁあああああぁあああああああああああああああああああああああああああああ」
- 648 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/21(土) 22:53:24.33 ID:LVCV3bXoo
- 「や、っぱり、だめ……だっ……たのね」
芳川の腹からは真っ赤なものが溢れ出ている。
それが血だと解るのに数秒かかり、腹を破った弾丸を発射したのが00001号だと理解するのにさらに数秒かかった。
「は?」
垣根が発した間の抜けた声はミサカ00001号の泣き声のような絶叫と数十人のミサカ妹達の突入の激しい足音にかき消された。
「芳川桔梗は第一位と第二位の目の前で天井亜雄が殺す予定だったのですが……まぁ、殺害という目的は達成できそうなのでいいでしょう。とミサカ00164号は判断を下します」
光の消えた氷のような冷たい目を、ゴーグルを取り見せる。
その声も顔もミサカ00001号とミサカ00002号と同じはずなのだが、二人にある暖かさとか人間味とかそういうものが全く感じられなかった。
その冷たい瞳が倒れる芳川、某然とする垣根、そして涙を流しながら頭を抱え苦しそうに叫ぶミサカ00001号を見下している。
爆破された灰色の世界に十数個の瞳だけが怪しく光っていた。 - 656 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/23(月) 05:18:11.42 ID:D8sbd+v4o
- ~~~
「やっべぇ……いきなり上条さんピーンチ?」
およそ二十の銃口が上条へと向けられている。
ごついゴーグルとマスクのように鼻と口を覆うプロテクター。
その表情は読めないが、明らかなのは明確な殺意。
インデックスを守るように背中に隠す上条は歯を思い切り食いしばり、打開策を考えるが……。
――万事休す……でも[ピーーー]ない、俺が死んだら誰がインデックスを守るんだ?一人の女の子の想いを散らしてまで俺はインデックスを守ると誓ったんだ。
絶望的な状況にも関わらず、上条の目に諦めの色は一滴もない。
「ちょこまかと逃げ回るのはやめてください、無駄です。あなた方を殺害します。とミサカは宣言します」
だが、気持ちだけではどうにも出来ない事もある。
そして、無慈悲にもその銃口は上条に火をふいた。
そう、火を……。 - 657 :やりなおし ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:18:38.00 ID:D8sbd+v4o
- ~~~
「やっべぇ……いきなり上条さんピーンチ?」
およそ二十の銃口が上条へと向けられている。
ごついゴーグルとマスクのように鼻と口を覆うプロテクター。
その表情は読めないが、明らかなのは明確な殺意。
インデックスを守るように背中に隠す上条は歯を思い切り食いしばり、打開策を考えるが……。
――万事休す……でも死ねない、俺が死んだら誰がインデックスを守るんだ?一人の女の子の想いを散らしてまで俺はインデックスを守ると誓ったんだ。
絶望的な状況にも関わらず、上条の目に諦めの色は一滴もない。
「ちょこまかと逃げ回るのはやめてください、無駄です。あなた方を殺害します。とミサカは宣言します」
だが、気持ちだけではどうにも出来ない事もある。
そして、無慈悲にもその銃口は上条に火をふいた。
そう、火を……。 - 658 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:20:34.35 ID:D8sbd+v4o
- ――Fortis931。
火と聞いて、上条がまず思い出したのは苦手とする赤髪の大男、ステイル・マグヌスであった。
煙草を吸いながら、自らの魔法名を口にする自身に満ち溢れた少年を上条は思い出していた。
――なんでのんきに『火を吹いたー』なんて言い回しが頭に浮かんだんだろ……火というと両親とか友達じゃなくて真っ先にあいつの顔が浮かんじゃうじゃん……。
インデックスを守るようにミサカ達に背を向け、抱きしめる。
「インデックス、俺が撃たれたらすぐ逃げろ、なに死にはしないさ……すぐ追いつくから振り返らず逃げるんだ」
耳元へそうつぶやく。
そしてインデックスは口にする。
上条が先ほど思い浮かべた男の名を。
「す、すている?」
「へ?」
スゥーと息を吸い、ハァーと煙を吐く音がした。
「インデックスを体を張って守ろうとした所だけは評価してやる。上条当麻」
振り返るとそこには抱き合う二人と妹達を遮るように炎の壁が出現しており、その前には炎の光を全身に浴び、紅く染まるステイル・マグヌスが立っていた。 - 659 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:21:28.40 ID:D8sbd+v4o
- 「約束通り、借りを返しに来たよ」
炎の壁の熱で燃え尽きた煙草の代わりを懐の箱から取り出す。
「本当だったらその子に銃を向けるような輩、燃やし尽くしてやりたいが……それはインデックスも本意ではないだろう?」
顔だけを二人にむけ、そう言った。
「お、おう……ありがとう、ステイル」
「ふんっ、借りを返しただけだ!この先に神裂がいる、とりあえず君たちは逃げろ……大丈夫だ、殺さないから安心しろよ」
忌々しそうに舌打ちすると追い払うように手を払った。
二人はそれを合図に走り出す。
「とうま、嬉しいね……全部一人で背負わなくても助けてくれる友達がいるって……嬉しいね」
「あぁ、そうだな……」
嬉しさももちろんある。
だが、それ以上にあるのは……。
「また、『俺がやらなきゃいけないのに』って考えている?」
「……うん」
言い当てられ、素直にそれを認める。
インデックスだけには自分の気持ちを偽る事ができなかった。
「ゆっくりでいいから……大丈夫、みんなとうまが好きだから……とうまの心が晴れるまでみんな手を貸してくれるよ」
にっこりと笑った。
それだけで上条は心が軽くなる。
- 660 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:22:09.36 ID:D8sbd+v4o
- ~~~
河川敷へと向かうテレポートの途中、学生寮が集まっている地域から爆発音が聞こえた。
「あの方向って……」
御坂はその方向をみながらつぶやいた。
白井は、近くの屋上へと一旦降りると御坂の目をじっと見つめる。
「お姉さま……行きますか?」
御坂の考えを一瞬で見抜き、どうするかを問うた。
佐天と初春も上条関連だとすぐに推測し、頷き合う。
そして、迷っている御坂へと二人は声をかけた。
「み、御坂さん。上条さんの所ですよね?私だってバカじゃありません、私たち四人が襲撃される理由なんて多分一方通行さんや垣根さんと友達になったからですよね?」
初春の言葉を佐天が引き継ぐ。
「そして、もし今捕まったらこれから二人の弱点になっちゃうから……そうなると二人は私達から離れてしまうからだから、御坂さんが守ってくれてるんですよ ね?私達は二人と友達になれたのに後悔なんてありません怖い思いしてもそんなものより楽しい時間を過ごせたから……」 - 661 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:22:59.92 ID:D8sbd+v4o
- しっちゃかめっちゃかだが、言いたい事はなんとなく御坂に伝わった。
そしてそれは半分正解で、半分は不正解の答えである。
御坂以外の三人が襲われた理由は恐らく佐天達の推測で間違いないだろう。
だが、御坂が襲われたのは当事者であるからだと御坂は考えていた。
「上条さん多分今危ないんですよね?あの人爆弾とかそういうのは防げないんでしょ?
御坂さん、行ってください私達なら大丈夫、逃げ切れます」
その足は震え、声も不安で溢れている。
その様子で、上条を助けに行きたいと傾いた御坂の気持ちがまっすぐに芯を持った。
「――ごめん」
その謝罪に白井は驚き、軽い失望を感じずにはいられなかった。
「謝らないでください」
二人は無理矢理笑う。 - 662 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:24:11.66 ID:D8sbd+v4o
- 「ごめん……私間違ってた……」
御坂はゆっくり顔をあげる。
「今、私がするべき事を見誤った」
白井、初春、佐天の三人は予想の言葉と違った言葉が御坂から発せられたのに素直に驚いた。
「あいつは私なんかよりずっと強い、もしピンチでも、私が助けにいかなくても助けてくれる人も多分いる……私は……私が今やらなきゃいけないのは、あなた達三人を守ることだって忘れそうになってた」
遊園地で垣根に言われた「守り切る自信はあるか?」というニュアンスの問い。
あの時、御坂は正直そんなものはなかった。
だが、今は自信がないなどとは言ってはいられない。
自分がやらねばならないのだ、それは変な責任感から湧き上がる感情ではない。
自分には目の前にいる三人より強大な力がある、だったら悪意から三人を守るのは「友」として、当たり前の事だろう。
好きだから守る、三人が御坂の事を想い御坂の恋を応援してくれたように……。
御坂の瞳から迷いが消えた。
力強く三人に笑いかける。
「さ、逃げましょう、第三位であり常盤台のエースである私がついてるんだもの、安心して……『中学最初の夏にはこんな事もあったなぁ』って言いながらまた四人でケーキを食べましょう」
力強さが優しさ、柔らかさへと変わった。 - 663 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:24:38.11 ID:D8sbd+v4o
- ――少しでも疑ってしまってすみません、お姉さま。あなたはやっぱり最高のお方でしたわ。
白井は先ほどの自分の思考を恥じ、改めて御坂を誇りに思った。
「み、さか……さん」
初春は本当はよほど怖かったのか泣きそうになりながら御坂の手を握った。
「そ、それ……死亡フラグ、ですよ?」
佐天は無理矢理笑おうとする。
その無理矢理は先ほどの無理矢理とは意味が違っている。
「行くわよ、私の親友は……あなた達は誰にも傷つけさせやしないわ」
御坂の目には希望と決意が宿っている。
また四人でお茶を飲むという希望、そしてそのために誰も失わないという決意。
その想いが静かに溢れている。 - 664 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:26:14.83 ID:D8sbd+v4o
- ~~~
「ミサ、カは?ミサカ?ミサミサカミサカミサミサミサカミサカミサミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサカミサミサミ サカミサカミサカ……ミサカ……は?ミサカ?な、んで……やっぱり?どうして?やっぱり?な、ぁ……ああああああああ!」
ミサカ00001号は銃を妹達へと向けた。
垣根と、自分が傷つけてしまった芳川を守るように。
「ごめ、んなさい、芳川博士……。
垣根さん……ミサ……カはミサ、カ00001号……は、あなたの事が好――」
ガラスの割れる音が響くと同時にミサカ00001号の身体が激しく揺れた。
真っ赤な物を撒き散らし、その身体は糸の切れたマリオネットのように力なく床に崩れる。
妹達達が放った命を奪うちっぽけな塊は垣根の翼によって防がれたはずであった。
確かに、目に見える範囲から撃たれたものは全て垣根の翼が止めている。
では、どこからミサカ00001号は撃たれたのか……ミサカを撃ち抜いた弾丸はキッチンの脇にある小さな窓から撃たれたものであった。
予想外の事が起きていなかったただの襲撃ならば、垣根は守りきれただろう。 - 665 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:26:42.12 ID:D8sbd+v4o
- ミサカ00001号の発砲。
それがなければ垣根はこの家が囲まれている事も忘れていなかっただろうし、キッチンの横に小さな窓があるのもわすれていなかったはずである。
そして、垣根はミサカ00001号の身体が床に崩れゆくのをみて、演算を止めた。
いや、脳が演算を止めてしまった。
そして、彼らにいや、垣根に鉛玉の雨が降り注ぐ。
あ、と思った時にはすでに肩を撃ち抜かれていた。そして、倒れそうになった時、垣根は後ろへと思い切り引っ張られ、そして投げられた。
「クッソがァアア!」
垣根を引っ張り投げ捨てたのは、一方通行である。
なぜ、一方通行がここにいるのか、それは少しまえに遡る。 - 666 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:27:42.09 ID:D8sbd+v4o
- ~~~
天井はバカ笑いを続けながら一方通行を殴り、蹴り、踏みつける。
――耐えろ、耐えろ、耐えろ、耐えろ。
一方通行は爆発しそうになる気持ちを抑えるように自身に耐えろと言い聞かす。
そんな中、突然ミサカ00002号が声をあげた。
「一方通行!00001号が、00001号が……」
ミサカネットワーク。
テレパシー。
虫の知らせ。
嫌な言葉と想像が一方通行の脳内を駆け巡る。
天井は突然叫んだミサカ00002号に驚き、ミサカ00002号の方へと、慌てて体を向けた。
チャンスだと一方通行はミサカ00002号へ指示を出す。
「伏せろォ!」
そのチャンスをものにするべく、言葉と同時に地面を思い切り叩いた。
するとミサカ00002号の盾になるようにアスファルトがめくれる。 - 667 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:28:08.75 ID:D8sbd+v4o
- が、上方からの狙撃だけはこれだけではどうにもならない、叩いたのと同時にミサカ00002号に覆いかぶさるように跳ぶが、完璧に守れるとは思っていなかった。
ほんの少しでも危険がある行動は、取りたくは無かったのだが、今動かなければならないと、一方通行の胸を何かが騒がす。
そして、それをミサカ00002号も望んでいた。
結果的に幸運にも無傷でミサカ00002号を救う事に成功、去り際に天井の顔面に一発だけ裏拳を叩き込み、そのままミサカ00002号を抱え、一気に自宅へと跳んだ。 - 668 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:29:00.51 ID:D8sbd+v4o
- 高級マンションだけあって、壁は厚い。
外からでは中で爆発が起きたなど微塵にも思わせないほど、いつも通りであった。
が、マンションの近くの高さのある建物には殺気を放つ妹達がいるのがなんとなくわかる。
一方通行はそれらを完全に無視し、ベランダから強行突破を測った。
そして、リビングへとそのままの勢いで跳び込んだ二人が見たのは床に倒れる芳川と、身体を激しく揺らし今まさに真っ赤な花を咲かせながら倒れんとするミサカ00001号の姿、そして思考を止め驚き固まる第二位の絶望の表情であった。
その時、一方通行の身体は考えるよりも先に動いた。
ミサカ00002号をボロボロになったソファの影へ投げ込むと、肩を撃ち抜かれた垣根の襟を掴み思い切り引っ張る。
何十も放たれた弾丸は肩の他に足にも当たったようだが致命傷ではないのでそのまま自分の入ってきた芳川の部屋へと放り込んだ。
「クッソがァアア!」
銃撃が垣根だけへと向けられていたのが救いであった。
今ミサカ00001号や芳川に刃を向けられたら確実に抹殺されていた。
一方通行は垣根の代わりに銃弾を受け、それを全て天井へと受け流す。 - 669 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/23(月) 05:33:04.21 ID:D8sbd+v4o
- 芳川はミサカ00002号がソファの影へと引っ張り込み、傷口に脱いだシャツを押し当て止血しようとしているのを確認した。
次に一方通行はミサカ00001号の方へ視線を移す。
それと同時に真っ白い翼が一方通行達を守るように伸びた。
「ミサカ……ちゃん?」
垣根はミサカ00001号の傍に何時の間にか座り込んでいた。
「か……ね……さん。好き、です……大好き……です」
力なくミサカ00001号は垣根へと手を伸ばす。
最後の最後、ミサカ00001号は正気に戻っていた。
それは、強制命令を受け付けている脳が死にかけているという事を意味する。
その力ない腕でしがみつくように垣根を抱きしめる。
垣根も思い切り抱きしめ返し、ミサカ00001号の髪を撫でた。
「ミ、サカ……ちゃん、俺も……俺は……」
垣根はボロボロと涙をこぼす。
「は、な……さないで」
そして、そうつぶやいたミサカ00001号に垣根は何度も頷いた。
「垣根さん……絶対座標――――、――――で……す。そこに……上位固体が、助け、てあげて……」
ミサカ00001号は一度目を閉じた。
「最後に――」
そして、目をゆっくり開くとミサカ00001号は全てを受け入れたかのような優しく美しい笑顔を浮かべ、そこで力尽きた。
――なんだよ、何言おうとしたんだよ……。死んでないよな?眠っただけだよな?まだ、最後の言葉を聞いてねぇぞ?
垣根はミサカ00001号を抱き上げると、もう言葉を紡ぐ事のない唇へ優しく愛しく自分のそれを重ねた……。
そしてゆっくりと顔をあげると一方通行が芳川とミサカ00002号を担いだのを確認する。
確認できると翼を大きく広げ妹達を軽く吹き飛ばした。
妹達が起き上がった時にはそこに誰の姿もなく、ただ純白の翼が数枚ひらひらと舞うだけであった。 - 678 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 01:58:13.94 ID:UYEXDufco
- ~~~
「悪かった」
大空を駆けながら一方通行はミサカ00002号に謝罪をする。
「……なんのこと?投げた事?00001号が……死んだ事?芳川博士が大怪我した事?ミサカが撃たれた事?」
「全部だ」
「なにそれ?一方通行のせいなの?全部しょうがなかったことじゃん」
ミサカ00002号は怒っていた。
なぜならばミサカ00002号は知っているからだ。
ミサカ00001号が笑ってこの世を去った事を、芳川に謝罪と垣根に自分の想いを伝えて満足してから逝った事を。
その、ミサカ00001号の人生を馬鹿にされたような気がしたのだ。
ミサカ00001号が死んだ事は、誰のせいでもなく、それがたったひとつの最善の方法だと思い行動した結果だと。
それは、ミサカ00002号だけが正しく理解している。
ミサカ00001号は思い残した事ややり残した事、それら全てを含め数ヶ月の短い人生に満足して死んでいった事を、ミサカ00002号は知っている、二人は微かだが、確かに繋がっていたのだから。
「誰のせいでもない、ただミサカ達は今泣いたり立ち止まったりそんな事をしている余裕はあるの?ないでしょ?悲しむのも、後悔するのも、全部終わったあとでいい」
オリジナルである御坂美琴にも劣らぬその精神力。
心の強さだけならば、ミサカ00002号は間違いなく一方通行や垣根を凌駕していた。
一方通行の首に手を回し、しがみつく。
かたかたと震えているようにも感じるが、気のせいであろう。
彼女は泣かないと決めたのだから。
ボロボロの垣根と焦る自分を隠し平静でいようと努力する一方通行の……第一位と第二位の情けない姿が彼女を強くしてた。
「あなた達が心折れたと絶望してもいい、必ず立ち直ってくれると信じているから……それまでは、弱っちいあなた達をこの、ミサカ00002号が守ってあげる」
いつか聞いた言葉、やはりこいつらは姉妹なんだなと一方通行は思った。 - 679 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 01:59:05.61 ID:UYEXDufco
- ~~~
怪我をした芳川を気遣う程度には垣根は落ち着きを取り戻していた。
だから、容赦なく銃を発砲する妹達を吹き飛ばし一方通行が芳川とミサカ00002号を担ぎ逃がす時間を稼ぐ事ができた。
それでも、垣根の心がへし折れたのに変わりはない。
垣根が目指すのは病院ではなく、いつか星空をみた丘。
ミサカ00001号が死んだという現実は垣根帝督が誰よりも理解している。
「お前は俺が最後まで面倒をみる、他の誰の手にももう触れさせない」
垣根は飛びながらミサカ00001号に語りかける。
もちろん、返事はない。
「あの丘に墓を作ってやる。あの辺の地質を変化させればおまえの身体を綺麗なまま眠りにつかせてやれる」
撃たれた胸当たりへ手を入れ、傷口を自身の能力でふさぐ。
服についた血液も、その状態を変質させた。
そこを軽く払うと、汚れは取れた。
「もう、俺はダメだ。芳川もお前も守れなかった。もうなにも、守れない……こんなんじゃ誰からも愛されない」
唯一自分が心から愛し、自分を心から愛してくれるかもしれないと思えた人を失った。
「お前が一片の偽りもなき愛情を俺にくれるなら、俺はこの身体も、こころも、全てを捧げていいと思っていたんだぜ?」
スピードを緩め、あの日と同じように同じ場所に舞い降りた。 - 680 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:01:04.31 ID:UYEXDufco
- 何もかも同じようだが、違うことがいくつかある。
一つはミサカ00001号はあの日のように垣根に笑いかけてはくれぬということ。
一つはまだ、あの日のような星空は見えぬということ。
そして、最後は、そこに黒髪の魔術師が立っていたこと。
垣根にうずくまっている時間を、神はあたえなかった。
「上条当麻に言われここに来ましたが、本当にあなたが現れるとは思っていませんでした」
「上条?……まぁ、どうでもいいや消えてくれ今ウザってぇ事いわれたら……俺の正義は死んでるし、アンタをぶち殺しちまいそうだ」
「あなたには負ける気はしませんよ。なんなら、やってみましょうか?その子と同じ所へ送ってあげますよ?」
神裂は表情を変えずに刀を鳴らした。
「……ムカついた」
神裂に、天井に、この世のすべてに、そしてなによりも自分に。
「やっぱ殺すのは辞めだ、手足引きちぎって目を潰し口を縫い付けてやる……無様に這いつくばって死ぬまで俺を楽しませろ」
ミサカ00001号を抱えたまま、垣根は初めて能力を「人を殺す」為に使った。
神裂に襲いかかるのは六枚の翼、それを一つを手を添え受け流し、一つを蹴り飛ばす。
足が上がったことにより不安定になった所にまとめてかかってきた残りの四枚を、片足だけの力で跳んでよけた。
「あなたは、最低ですね。胸に愛する人を抱えたまま、殺し合いをしようというのですか?」
「……黙れよ」
「上条当麻が言っていました。貴方と一方通行はこの街で誰よりも優しいと」
垣根の言葉を無視し、喋り続ける神裂に苛立ちを覚える。
なにがなんでも黙らせようとその翼を思い切り降り続けるが、全て簡単に受け流され、避けられ、弾かれてしまう。
「あなたは、その子の想いを受け止めてはあげないんですか?」
「だぁああまぁあれぇえええ」
「その子は私からみてもとても幸せそうな顔をしています。それは何故ですか?あなたに想いを託すことが出来て、それをあなたが実現してくれると確信していたからではないのですか?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ」
「推測ですが、その子もまたあなたを愛していた。それは、甘いとわかっていても、人を守ることだけに力を使うあなただからなのではないんですか?」
「うっるせぇえええ!じゃあどぉすりゃいい?守りたいものは失った!大切な人の笑顔は奪われた!これから俺はどぉやって、なにを目的にいきりゃあいい?生 きてれば真っ黒な感情がクソッタレの科学者どもをぶち殺せと急き立てる、俺は弱いからな、そんなものに打ち克ってまで自分の正義を通せる自信なんかねぇ よ!だから、もう消えてくれよ、頼むから静かに俺をこいつと死なせてくれよぉおおお!」 - 681 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:01:40.89 ID:UYEXDufco
- 「Salvere000」
神裂は刀を抜いた。
その刀は垣根の翼を六枚とも全て切り捨てる。
「救われぬ者に救いの手を……私の魔法名です。今こそあなたに借りを返しましょう、私があなたを救い上げてあげます」
神裂は納刀すると、穏やかな声で垣根に語りかける。
絶対の自信を持っていた垣根は自身の能力が刀一本に切り捨てられてしまったことにショックを受けていた。
「復讐なんて辞めろとはいいません、出来るならば今回の首謀者を先ほど私に言ったみたいなやり方で殺せばいい……ですが、あなたはそれが出来ないんでしょう?」
垣根は肯定も否定もしなかった。
ただ力強くミサカ00001号を抱きしめ、縮こまる。
――ごめん、負けた。
神裂の言葉を受け流し、ミサカ00001号に心の中で詫び続ける。
――初めから俺におまえを守る力なんて無かったんだ……お前に愛される資格なんてものも……なかったんだ。
「……ならば、新しい道を私が与えてあげます。それを成し遂げた時、あなたの人生を終わらせてあげましょう。それが半ばで潰えた時、あなたの人生を終わらせてあげましょう」
何の反応もしない垣根に神裂はなおも続ける。
「他人の人生に勝手に新しい道を示すのですから、責任は持ちますよ。あなたはこの先の人生をかけてその子の大切なものを守りなさい……出来ないというならば私の所へきなさい、その子の大切なものが全て失われた時も私の所へきなさい」
キン、と音をたて刀を鞘へしまう。 - 682 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:04:25.79 ID:UYEXDufco
- 「責任を持って、あなたの人生の幕を私が下ろしてあげます」
それだけいうと、神裂は垣根に背を向け去って行く。
途中、歩みをとめると、一言「私は聖人、人間を超えた存在なので今の闘いは気にしないでください」と言い、また歩をすすめた。
垣根が神裂を殺そうと力をふるったこと。
それを気にするなと、神裂は気遣う。
――救われぬ者に救いの手を……私の魔法名ですからね……。 - 683 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:04:55.22 ID:UYEXDufco
- ――大切なもの?誰の?俺の?違う……ミサカの?それは……?
神裂の声は垣根にちゃんと届いていた。
そして、垣根は考える。
ミサカ00001号の大切なものを。
パッと花咲くように浮かんだのはミサカ00002号の顔、芳川の顔、一方通行の顔、御坂美琴の顔、上条当麻の顔、インデックスの顔……そして、名前すらも知らないすれ違っただけの暖かな笑顔を浮かべるこの街の子供たち。
――ミサカちゃん……お前も俺に守れというか?それとも首謀者を殺せと言うか?……なぁ、答えてくれよ、俺は自分じゃ決められない……お前の出した答えなら、自信持って歩けるから……なぁ……。
「答えてくれよぉおお……」
うあぁああ、と垣根は大声をあげて泣いた。
ミサカ00001号の死を理解した気になっていたどこまでも弱い男は初めて声を大にして泣いたいま、本当にミサカ00001号がもうこの世にいないことを実感したのだ。
空を見上げると、星が少しだけ瞬いている。
いつか一緒に見上げた星空には及ばないが、それは美しく神聖なもののように垣根には感じられた。
――大丈夫かな?俺、今度こそお前を……お前の大切なものを守れるかな?
大量の水分をそこら中から垂れ流しながら、垣根はだんだんその数を徐々に増やす星空に問いかける。
『大丈夫だよ、できることを精一杯やってくれたらそれで満足だよ』
ミサカ00001号が朗らかに笑いながら、いつもの口癖の消えた口調で、そう答えてくれたような気がした。
- 684 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:05:47.82 ID:UYEXDufco
- ~~~
あ、ダメだ……このままだとミサカは壊れちゃう。
……手荒だけど、しょうがないかな?ごめんね急所は外すしここには垣根さんもいる、00002号にも不完全なネットワークで精一杯危機を伝えるよう試みた。
だから、芳川博士は痛い思いをするけど死なないから。
死にゆくミサカの最後の……最初かな?家庭内暴力ってことで。
……こんなの暴力じゃなくて家庭内殺人未遂だけどさ。
ごめんね、大好きだよ芳川博士。
一番うまく収めるには、撃つしかミサカには思い浮かばなかったんだ。
あぁ、でも垣根さんに好きだと言えて良かった。
この人の腕の中で死ねるのも最高だ。
抱きしめてもらえたのも、最高だ。 - 685 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:06:15.21 ID:UYEXDufco
- でも、00002号には少し悪いことしたかな?
多分、垣根さんの性格だとミサカに義理を感じて……って感じになっちゃいそうだし……。
ミサカ00001号の事は忘れて、ミサカと同じくらい垣根さんを大好きな00002号と幸せになって欲しい……なぁ……。 - 686 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/25(水) 02:06:42.43 ID:UYEXDufco
-
………………。
…………。
……。
- 687 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:07:59.95 ID:UYEXDufco
- 嘘。
- 688 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:09:08.17 ID:UYEXDufco
- 本当はミサカの事忘れて欲しくない!
嫌だよ、垣根さんがこのミサカ00001号の事を忘れたら。
ミサカ00001号は確かにここにいた、あなた達と笑いあった。
それを忘れないで欲しい。
でも、ミサカ00002号と幸せになってくれたら……とは思うよ?
大好きな垣根さんが、大好きな00002号と笑いあってくれる未来なら、ミサカも死んだ意味がある。
ただ、ミサカの事、たまには二人で思い出して欲しいんだ……。
わがままかな? - 689 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:09:36.32 ID:UYEXDufco
- 最後に、最後にこれだけは伝えたいけど……でも、もう、意識が……。
垣根さん……垣根さん?
あれ?もう、声……で、な……い。
あぁ、言いたかった、なぁ……。
ミ、サカの……大切な、家族とお友達を……守っ……てあげ、て、ください……って……。
おやすみなさい、みんなより、また先に休ませて貰うね?
次、目が……覚めたら、また、五人で笑おうね。
そう、言えば……ミサカ、口調が00002号……みたい、だね。 - 690 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/25(水) 02:10:05.44 ID:UYEXDufco
- ~~~
人を守るのは難しい。
ミサカ00001号の大切なものを全て守るなど無理だ。
それはちゃんとに理解していたし、ミサカ00001号は望んではいない。
出来る限りでいい……とミサカ00001号は伝えたかったのだろう。
またミサカ00001号のように失うこともあるだろう。
そうなったら、垣根はまた絶望し、己を責め、さらに自身を追い詰めるだろう。
でも、その時、ミサカ00001号の言った大切なものの中に垣根自身も入ってると気がついたら……きっと垣根は探し求めていた答えを見つけることができるのだ。
ミサカ00001号の心はイギリス清教の聖人が垣根に示した道と偶然にも重なっていた。
だから、大丈夫。
一度折れた心は元には戻らない。
一生傷を背負い、垣根は生きていくだろう。
折れた所を繋ぎ合わせ、垣根帝督はすぐに立ち上がれた。
泣くのも、落ち込むのも、反省も、後悔も……死んだあとにミサカ00001号に聞いてもらえばいい。
彼女はきっと笑いながら、よく頑張りましたと垣根を抱きしめるだろう。 - 695 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:36:21.47 ID:t3T688gfo
- ~~~
病院へ駆け込むと、止めるナース達を無視しカエル顔の医者のいる部屋のドアを蹴り開ける。
「わりィ、急患だ。おめェしか安心して任せらンねェ、無常識なのは解ってる許せそンで頼む」
断ったら殺すとでも言うような目つきとドスの効いた声で一方通行はカエル先生に詰め寄った。
「……やれやれ、そんなおっかない顔しなくてもちゃんと診るよ?その子は僕にとっても大切な知人だからね?」
恐ろしい表情の中にも見え隠れする動揺と不安。
それと、ミサカ00002号の耐え忍ぶような表情でカエル先生は何が起きたかをだいたい理解した。 - 696 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:36:54.14 ID:t3T688gfo
- 「君達も少し休みなさい、この病院は安全だからね?」
ナースにベッドと輸血パックを用意させるように指示を出すと先生は薬箱を取り出した。
「ナースがベッドを持ってくる間に足の傷をみてあげようね?……うん、応急処置はこんなものでいいかな……お風呂はシャワーだけに、そして出たらこれ塗りなおして包帯巻いておきなさい」
手際良くミサカ00002号の足に包帯を巻きつけると、薬も手渡す。
「仕事はしばらくお休みしていいよ、じゃあ次は芳川くんの番だ……大丈夫、生きているなら必ず助けるからね?」
芳川をベッドに寝かせると、腕に針をさし、輸血も開始される。
そして、手術室へと急いだ。
扉の前までくると、先生は一方通行の顔をみて任せろというように頷いた。
そして、芳川の腹部から一方通行の手が離れた。
ベッドは手術室へと運び込まれて行く。
扉が閉まり、手術中のランプが点灯する。
それを見た途端、一方通行は床に崩れた。 - 697 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:38:20.15 ID:t3T688gfo
- 「ミサカは垣根さんと、お姉さまや上条さんも気になるから探してくる……ミサカも自由にするから一方通行も自由にしてていいよ」
「まて、ダメだ行くな」
一方通行は消え入りそうな声で歩き出したミサカ00002号を止める。
「……なんで?」
「……行くな。一人で外なンか出てみろ、速攻で殺されるぞ」
「じゃあ、アンタが守ってよ……ミサカは大切なものを奪われてただ涙流すだけの負け犬にはなりたくない。ミサカ00002号はミサカ00001号のやりた かった事、守りたかったもの、それを守らなきゃいけないんだよ……そうしなきゃミサカ00001号に顔向け出来ない」
じわじわと涙が浮かんでくるが、頭を振り、無理やり引っ込める。
「お姉さまや上条さん、インデックスは私たちの友達だ、お姉さまはなんとかやってると思うけど、上条さんとインデックスは対能力者以外ならミサカより無力だもん……一応ミサカも戦闘用のクローンだからね、体術とかも少しは出来る」
じゃあね、と言いミサカ00002号は背中にかけられるいかないでくれという言葉を無視して外へと歩を進めた。 - 698 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:38:57.43 ID:t3T688gfo
- ――ごめんね、一方通行……でも今あなたといるとミサカも泣いちゃい、そうだからさ……。
ミサカ00002号の言動は全て八つ当たりと言ってもいい。
本来ならばミサカ00002号はわんわんないて取り乱していただろう。
だが、ミサカ00002号が現場についた時見た光景が「そうなったらダメだ」と訴えた。
それはもしかしたらミサカ00001号からのメッセージだったかもしれない。
ただ、一つ言える事は、垣根は壊れ、一方通行は怯え、ミサカ00002号まで狂ったらミサカ00001号が妹達から危険因子として処分される事をわかった上で芳川博士を撃った意味がなくなっていた。
ミサカ00002号も射殺され、芳川も失血死、垣根帝督と一方通行はその様子を目の当たりにしたら切れて妹達を皆殺しにするか生きる事を諦めるかしたであろう。
そうなっては、いけないのだ。 - 699 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:39:32.89 ID:t3T688gfo
- ~~~
「なん……だ、これ……?」
上条がインデックスとステイル、神裂と共にマンションへ駆け込んだ。
「血?それ、にこの量……」
「これが一人分だとしたら確実に死んでいるね。血溜まりは二つ、まぁ、こっちのは死んでる可能性のが高いかな?」
ソファの横から後ろへと引きずられた跡のある血痕。
そしてそこから数メートル離れた所に広がる血を指差し言った。
「やめ、ろ……」
「上条当麻。これは君がいつも首を突っ込んでる喧嘩なんかじゃないんだ。――これは戦争だ」
煙草に火をつけながらステイルは厳しい目つきをする。
「甘ったれるな、殺そうとしてくるやつには容赦をするな、お前の迷いはお前だけではなくインデックスの死にもつながるんだぞ」
「わかって――」
「いや、わかってないね。わかった気になってるだけさ……人の死にいちいち反応してるのがその証拠さ……まだ戦争は終わっていないんだぞ」
「……わかった。ごめん……神裂、わりぃけど――」
少し前に垣根が何気なく話していた丘の場所を神裂に伝えた。
そこに垣根がいると、なんとなくそう思った。
「多分、垣根も一方通行も相当ボロボロになってると思う。だから、出来たら助けてやってくんねーかな」
「……わかりました。彼らもあなた同様的である人さえも殺す事をためらう人達でしたね――では、行きます」
神裂の身体能力ならば、垣根に追いつく、もしくは追い越すであろう。
「私たちはどうするの?」
神裂が消えた後、インデックスは黙り込んでしまった上条の袖を引っ張りながら言う。
「もし、両方死んでいたとしたら……垣根と一方通行は一緒にいる。二人とも助かっていたら病院、一人だけなら一人は病院にいく、と思う」
自信なさげに上条は必死に落ち着こうと、頭を働かせる。 - 700 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/27(金) 01:39:59.41 ID:t3T688gfo
- 「ふん、インデックス、僕にして欲しい事はあるかい?」
「ステイルは御坂美琴を見つけてくれ」
ステイルの問いに上条が答える。
ステイルは上条にお前に言っているんじゃないと睨みつける。
「あ、あの……とうまの言う通りにしてあげて?私はなにが起きてるのかすらよくわかってないから……」
ステイルは大きくしたうちすると、なにも言わずに部屋を出て行った。
「……俺達は病院に向かおう」
ステイルが消えると床に広がる血液にもう一度目を向けるとインデックスの手を取り走り出した。
- 708 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:09:26.70 ID:C6Z7PpJUo
-
~~~
―― 垣根の野郎は今何してやがンだろう……目の前で見たンなら、ぶっ壊れててもおかしくねェよな……結果だけ見た俺がこうだしな。
“一方通行も好きにしていいよ”
―― 好きに……? なら俺はもう、芳川の側を離れたくねェ……隣でずっと守りてェ。
そばにいたら守れたのか?
誰かが問いかけて来たような気がした。
―― あれ?……垣根で無理だったことを俺は出来るのか?
「垣根に勝てる」それは戦う力の差であって守る力の差じゃない……守る力なら、むしろ垣根のが上じゃねェか?
一方通行の能力は誰かを守るのには不向きだ。
自分の身を守る。その点においては核爆弾を落とされてもその透き通る肌には寝てても傷がつく事はない。
だが、他人を守るのはそうはいかない。
垣根の翼なら包んでやれば大抵のものからは守れる。
一方通行の能力は血流操作、成長促進……など他人が傷ついた時にこそ発揮するように感じられる。
じゃあ、そばにいても傷つけるだけ?
だったらもう関わらない方がいいんじゃない?
幻想が一方通行を笑う。
- 709 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/01/28(土) 02:14:01.89 ID:EDBFnCuIO
- ―― わかった、そォだな……もう、辞める。 俺はもう全部辞める。
己が作り出した幻想にとらわれ、一方通行は目を閉じた。
『 もう、いいや 』
ミサカ00001号の行動を完全に無駄にするその言葉を、垣根や00002号が聞いたらどう思うだろう。
―― それでも、もォいい……芳川達のそばに俺はいないほうがいい……あれ? でも今消えたら芳川は死ぬのか? ……そっかァ……じゃあ、天井を、殺そうとしてくるやつを、ぜェンぶ殺そう。
真っ黒な携帯電話をポケットから取り出し、何かを打ち込む。
操作し終えるとタイミングを見計らったかのように、ナースが一人芳川のポケットに入っていたと、血で少し汚れた青紫色の携帯電話を一方通行へ手渡した。
「 運び込まれて麻酔を打とうとした時一瞬意識を取り戻したの、そして寝言のように『 携帯電話を*****に 』って……*****ってあなたのお友達か誰かかしら? 渡しておいてくれる? 」
ナースはそれだけ告げると、仕事に戻った。 - 710 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:16:27.07 ID:EDBFnCuIO
- その携帯電話を開く。
ディスプレイにはいつ撮ったのだろうか、撮影者以外の四人が楽しくおしゃべりをしている様子が写っていた。
その中の四人は本当に幸せそうであった。
まるで笑い声が聞こえてくるようにその写真は生き生きとした、輝いたものである。
そして、それはもう、戻ってこない。
端末を持つ手に力が入る。
握った指は、電源ボタンを押した。
芳川は画像フォルダを開いたままの状態にしていたらしい。
画面が切り替わり、時計と真っ白な少年の優しい寝顔の待ち受け画面が表示された。
それは、いつの日か垣根が撮ったものである。
「あ……」
自分とは思えないほど安らかな表情をしているディスプレイに写る顔に、一方通行は声を失う。
―― 俺は、芳川じゃなきゃダメなンだろォな……そンで芳川は俺じゃなくても大丈夫……でも、俺は芳川じゃなきゃ。ダメなンだ……。
そう理解し、それは芳川を守らなければという考えには……行き着かなかった。
逆に、離れなければという気持ちを加速させる。 - 711 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:17:52.66 ID:C6Z7PpJUo
- ―― わかった、そォだな……もう、辞める。 俺はもう全部辞める。
己が作り出した幻想にとらわれ、一方通行は目を閉じた。
『 もう、いいや 』
ミサカ00001号の行動を完全に無駄にするその言葉を、垣根や00002号が聞いたらどう思うだろう。
―― それでも、もォいい……芳川達のそばに俺はいないほうがいい……あれ? でも今消えたら芳川は死ぬのか? ……そっかァ……じゃあ、天井を、殺そうとしてくるやつを、ぜェンぶ殺そう。
真っ黒な携帯電話をポケットから取り出し、何かを打ち込む。
操作し終えるとタイ�%7 - 712 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:18:29.74 ID:EDBFnCuIO
- 「 側にいなくても別にあいつらを守る事は出来る。 芳川に何かしようとした者を全て……殺してやる。 芳川だけじゃねェ、ミサカや御坂美琴や上条、そンでインデックス……こいつらに悪意ある暴力をもって危害を加えようとしたやつは……俺が全員ブチ殺してやる 」
力があっても、守れなければ意味がない。
一方通行は間違った答えに逃げようとしていた。
「 大好きな人を守れるのならば、大好きな友人を守れるのならば……俺は喜ンで人の道を外れてやる。 芳川や上条は怒りそうだな、ミサカは悲しむだろうし、御坂美琴は呆れるだろォな……でも、垣根だけはわかってくれるはずさ 」
ミサカ00001号を失ってしまった。
大切な同志を超えた家族を守りきれなかった。
一方通行は誰よりも優しい人間だ。
その優しさゆえ、脆い。
初めて目の前で人が死んだのをみた時は、どうしていいかわからず暴れまわった。
能力の制御が今より精密でなかったにもかかわらず、誰一人殺すことがなかったのは、ただたんに人を殺すのが怖かったから。 - 713 :711なにが起きたの?怖いんだけど ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:22:58.50 ID:EDBFnCuIO
-
だが、今は……。
恐怖よりも憎しみ。
嫌悪よりも悲しみ。
もっとも嫌っている事よりも怒り憎しみ悲しみといった負の感情のほうが強くなっている。
―― よし、行くか……。
一方通行は携帯電話を閉じる。
青紫色の物はメールの受信を知らせるランプがチカチカと点灯していた。
最後にもう一度だけ自身の黒い携帯電話を開くと、悲しそうに画面を見つめ、粉々に握りつぶした。
ずっと大事にしてきた者を、芳川を、垣根を、一方通行が拒絶した、初めての時である。
――垣根、ごめンなお前にミサカの死とかあの部屋で起きた事全部背負わせちまった。
親友の悲しそうな笑みを思い出す。
―― 芳川、すまねェ。お前の教えを裏切る事になりそうだ。あと……いや、いい。
大好きな人の血だらけの姿を思い出す。 - 714 :711なにが起きたの?怖いんだけど ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:28:56.88 ID:EDBFnCuIO
-
~~~
「 あ……やば…… 」
ミサカ00002号は病院をでて、まず上条当麻を探そうと、彼の学生寮へと向おうと試みた。
慎重に、周りの警戒を決して怠らず、一方通行と別れてからかなりの時間をかけて、病院の敷地内から一歩でた。
そこからは全力で走り出す。
が、病院をでて数百メートルほど進んだ所で天井亜雄率いるミサカ妹達に囲まれてしまう。
「オイオイオイ、一方通行はどうした?あいつの目の前でお前らを殺す事に意味があるんだろぉ?」
お前らと天井が視線を向けた先には初春飾利、佐天涙子、白井黒子そして、御坂美琴が妹達に囲まれるように銃を突きつけられていた。
「上条当麻は捕まえることに失敗したが……男より女殺したほうが楽しいからなぁ……そして喜べ、今ここには00003号から00300号までの俺が作った妹達が勢ぞろいしてっからよぉ……にぃげらんねぇぜぇ?」
天井は狂気に満ちた笑い声を上げる。
空を見上げ、両手を高く広げ、天井は勝利を確信していた。
勝利を確信した時、そいつはすでに敗北している。
そう言ったのは誰であっただろうか……。
だが、確かに、それは今ここにおいては、真であった。
バカ笑いする天井の顔に叩き込まれるひとつの拳。
真っ白な翼を軽快に揺らし、その顔には憎しみを塗りつぶすように悲しみの仮面をつけている。
学園都市・第二位『未元物質』の垣根帝督。
真っ白な翼は天使のように美しく、悲しみにあふれるその表情に現れる心はズタボロだ。
にもかかわらず、そこにいるだけで、味方は安心し、敵対するものは恐怖するような、そんな雰囲気を持っていた。 - 715 :711なにが起きたの?怖いんだけど ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:31:01.31 ID:EDBFnCuIO
-
「こんばんは……天井亜雄、安心しろ、俺“は”お前を殺さねぇよ。 ムカつくけど、お前のやった事を全て暴いてこの街のルールで裁いてもらう……」
「垣根さん!」
突然現れた垣根にミサカ00002号は目を輝かせる。
垣根に駆け寄ろうとするが、一発の銃声で今の状況を思い出した。
「 動くなぁ! おい、超電磁砲とそのお仲間を全員ぶち殺せ 」
空に銃弾を放った天井は焦ったようなイラついたような様子で妹達に命じた。
―― 一方通行の目の前で殺せなかったのは残念だが……しょうがない、あいつの目の前では芳川を必ず殺してやる。
天井の指示に従い、超電磁砲組四人に銃口が向けられる。
そして、その引き金に指がかかろうとした瞬間。
プッと何かを吐き捨てるような微かな音が御坂には聞こえたきがした。
- 716 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:33:34.72 ID:EDBFnCuIO
-
「まったく、そこの茶髪の女の子は強いんだろう? 自分と大切なお友達が殺されそうになってんだ、迷わず相手を殺せばいいのに」
御坂達と妹達の間に一本の煙草が舞う。
そしてそのラインをなぞるように炎の剣が現れた。
「強いくせにくだらない道徳観で自分と自分の守りたいものを殺すなんて馬鹿げているよ」
上から降ってくるように舞い降りた赤髪の男はその剣を手に取ると、妹達の銃だけを器用になぎ払う。
「多少の火傷は我慢しろよ」
銃をはたき落とされた妹達に代わり、他の妹達が全員一斉に銃を構えた。
「サンキュー、ステイル。助かった、あとは俺が自分で守り切る」
ステイルがそれらに対しても同じ事をしようとした時、感謝の言葉と共に高速でステイルの横をミサカ00002号を抱えた垣根が飛んできた。
それと同時にステイルは炎を大きくあげ、大きなしたうちを残してその場を去った。
垣根はミサカ00002号と御坂美琴達が8の字を描くように囲まれていた所に、頭上から天井めがけて飛び降りた。
そしてミサカ00002号を抱えると、妹達の集団をなるべく穏便に吹き飛ばしながら、御坂達の元へと滑り込んだのである。 - 717 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:35:45.99 ID:EDBFnCuIO
-
「俺らと関わっちまったばっかりに悪いな」
佐天達に詫びをいれる。
非難されると思っていたし、されるのを望んでいたかもしれない。
が、返って来た答えは垣根の予想と大きく異なっていた。
「み、御坂さん双子の妹さんが?」
「なんか、ドッペルゲンガーを見た人の気持ちがわかった気がします」
「お、お姉さまが二人」
垣根の事なんか無視し、ミサカ00002号に三人は気を引かれてしょうがないらしい。
「ちょ、あんた達いま、それ、どころじゃ……」
「お姉さま、お友達は選ばなきゃだめだよ?」
好き勝手に盛り上がる女性陣。
今まさに命を奪われようとしていた事を忘れてしまったかのような明るさに、垣根は一瞬あまりの恐怖に頭がパーになってしまったのかと思った。
「あ、のぉ?大丈夫か?」
「ん?あぁ、はい。 だって御坂さんが守ってくれると言ったんですもん、信じますよ。 それで無理だったなら潔く諦めます、命を預けてもいいくらい私達は御坂さんを信じてますから! あ、もちろん、全部任せっぱなしじゃなくて、私達も出来る限りの事はしますよ?」
当然だと言うように佐天は言った。
「無能力者の私にはバット振り回すくらいしか脳がないですけどね」
そして、えへへっとわらう。
自虐的には不思議と感じず、ただ場の雰囲気を和ませようとしているように垣根には感じられた。
「そっか……ありがとうな。ミサカちゃんの事は全部終わったらちゃんと話すよ」
―― ミサカちゃんの死の事も……な。
御坂の顔をじっと見つめる。
御坂はどんな反応をするのか、守りきれなかった垣根を責めるか、その場にいる事さえ出来なかった一方通行を恨むか……それは、まだわからない。
でも、と垣根は顔をあげた。
今はここから逃げ切るのが先決である。 - 718 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:37:37.21 ID:EDBFnCuIO
-
~~~
ミサカがどこから病院を抜け出そうかとキョロキョロしている頃、上条とインデックスは病院にたどり着いた。
ミサカ00002号が正面から出て行くような考えなしの子だったら簡単に会えていただろう。
しかし、ミサカ00002号は入念に病院周りを観察し、一番脱出できそうな所を探すような思慮深い子であった。
そのため、行き違いとなってしまったのだ。
「あれ? もしかしてここら一帯に人払いの魔術でもかかってるのか?」
普段はこの時間でもタクシーや見舞いから帰る人など、そこそこ人がいてもおかしくない病院の前庭に、人っ子一人いない様子を見て上条はインデックスに尋ねた。
「うん、多分すているがみことを見つけたんだと思うよ、そして彼女はこの近くにいる」
「俺らが病院まで走ってる間に御坂を見つけてここまでの魔術を発動させたのか? ……とんでもねぇな」
「すているは優秀な魔術師なんだよ、ていとくやあくせられーたが反則で強すぎるだけかも」
しゃべりながらもふたりは歩みを止めない。
そして、とりあえずカエル先生の診察へと向かった。
が、そこには誰もいなく、数滴の血が床を汚しているだけであった。
- 719 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:38:52.29 ID:EDBFnCuIO
-
「やっぱ、ここには来たんだ……手術室にいってみよう」
インデックスの手を握りしめ噛みしめるように声を出す。
部屋で見た大量の血液、それから連想させられる死。
上条は必死に心を落ち着かせる。
―― 罪悪感を感じる必要は本当にないのか? あの場所で起きた事は、俺が頻繁にあの場所に入り浸ったからでは……。
息が少し苦しくなる。
嫌な汗がだらだらと垂れてくるのがわかった。
―― やっぱり……。
「お―― 」
「とうま」
たった一言。
インデックスのその一言で上条の心は落ち着く。
「ごめん」
上条の謝罪に対し、インデックスは笑いながらいいんだよ、と言った。
支えるのがわたしの役目だから。とでも言うように……。
カエル先生の部屋を出ると手術室へとふたりで向かう。
ゆっくりと、でも確実に。
- 720 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:40:31.05 ID:EDBFnCuIO
-
~~~
「ぎゃはっ! みィつけたァ! 」
悪魔のような笑い声を天井が聞いた時、その体は先ほどの比ではないほど激しく吹っ飛んでいた。
「アーララァ? 病院の近くでなァにやってンのかなァ? 天井くン? 」
妹達がボスである天井がぶっ飛ばされたと理解するのに数十秒かかった。
そして「天井に攻撃をしたものを撃つ」という命令通り、一方通行へと引き鉄を引く。
「無駄だァア!」
正確に一方通行の体へと吸い込まれて行く銃弾を全て足元へ叩き落とした。
そして一番近くにいた妹達の一人の頭部に触れ、そいつを気絶させる。
妹達は気絶させられた個体がいる事など気にも止めず、一方通行への銃撃を続けた。
それら全ての銃弾をやり過ごすと吹き飛ばした天井の元へと一方通行は超高速で向かった。 - 721 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:41:10.07 ID:EDBFnCuIO
-
「こォンばァンはァ、天井クゥン」
口の端を思い切り上げる。
そして、天井の首を掴みあげた。
「一つ質問答えろよ、打ち止めはどこにいる?」
カタカタを歯を鳴らしながら、天井は恐怖で顔を歪めた。
なかなか答えない天井に、もう一度、一方通行は尋ねた。
「打ち止め・は・ど・こ・だ・? 」
答えなければ殺すと言うように、言葉には怒りと憎しみが込められていた。
「ぜ、絶対座標――――、――――だ」
天井は一方通行のあまりの迫力に答えざるを得なかった。
「そォか、ありがとォ……今から十時間やる。俺に殺されない準備をしとけ……今度は、お前が、狩られる側だァ」
喉をくつくつと鳴らしながら一方通行は天井から手を離し、投げ捨てた。 - 722 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:42:36.17 ID:EDBFnCuIO
-
~~~
そして、その騒ぎに便乗して、垣根達は病院内へと逃げ込んでいた。
「一方通行の野郎は何してやがんだ……あんな思い切りぶん殴りやがったら天井死んでもおかしくねぇぞ」
親友の心がわからないとイライラしたように吐き捨てる。
「それより垣根さんも肩と足、応急処置だけしよ?」
ミサカ00002号は垣根の肩に広がる血を見て心配そうにつぶやく。
00001号を何処へやったかはあえて話題にしない。
「いや、いい傷口は埋めたし多少血が足りない感じはするけど死にはしねぇよ……そうだ、飾利ちゃんはパソコン得意なんだっけ?」
00002号を若干避けるようにしながら初春の方へと顔を向ける。
「は、はい。まぁそこらへんの人には負けないと思います……でも専門的知識が必要な処理とか個人的な情報の必要なパスワードの解析だとかだと時間かかりますよ?」
決して「出来ない」と言わないあたり、自信があるようだ。
「ウイルスとかなんかそういうのの処理は? ワクチン的なのは用意されてるはずだ」
「それならば出来ます」
垣根は頷き、初春に協力してくれと頭を下げた。
「まず天井の兵隊を無力化する。そのためにお前の力が必要だ、頼む」
「もちろんいいですよ……あ、無事成功させる事ができたらパフェ奢ってくださいね」
ニコリと笑いながら、快く引き受けてくれた。
垣根は御坂に芳川を頼むと一言いうと、初春を担ぎ上げ、00001号に託された打ち止めの救出に向かった。 - 723 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:43:47.00 ID:EDBFnCuIO
-
~~~
廃墟のような外観の建物の前に一方通行は立っていた。
初めてここに来た時の事を思い出す。
―― 今考えりゃあン時も芳川は睡眠も食事もろくにとらずセコセコ頑張ってたンだろォな……。
あの時ここは一方通行の長いトンネルの出口であった。
そして、今はそこはポッカリと口を開ける入り口だ。
―― 大丈夫、俺は一人でも生きていける。 一人が嫌なだけで、一人になったら死ぬわけじゃねェ……あいつらが幸せならそれだけで俺は十分なンだ。
静かにその中へと足を踏み入れた。
研究室の中にはほぼ何も残っていなかった。
ミサカ達を初めて見たとき奴らが入っていた調整槽と空の本棚、机とその上にポツンとおかれるパソコン。
電気水道ガスは生きているが、パソコンのデータは当然全て消去されている。
芳川は研究成果などを全て病院のカエル先生の元へと保管させて貰ったという話だ。
- 724 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:44:27.06 ID:EDBFnCuIO
-
では、なぜ一方通行はここに来たのか。
打ち止めの強制命令を解除するソフトの開発は一方通行も関わった。
データは全て頭に入ってる。
それにも関わらずここに来たのはとある事の確認のためだ。
調整槽の操作パネルに触れ、電源をいれる。
そして、過去のミサカの調整記録データを読み取った。
―― やっぱりなァ……天井も人間性はゴミ屑だが科学者としてなら優秀だからな、芳川のソフトに対するプロテクトもしっかりしてやがる。
先ほど読み取った妹達の脳内とミサカ00001号の一番最初の頃の脳内を比べ、そこに三人で作り上げたソフトをいれるシミュレーションをして見る。
すると、正常値へ戻すと同時に予想外の所へ負荷がかかるようになっていた。
―― こいつがどんな命令の発動スイッチかは知らねェが、ソフトを使って進めつつ同時進行でこっちのスイッチを壊せば問題ねェな。
学園都市最高の頭脳を使い、一瞬で解答への道を解き明かす。
シミュレーションを終えると電源を引っこ抜き、天井から聞き出した座標点へと向かった。 - 725 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/28(土) 02:45:49.54 ID:EDBFnCuIO
-
~~~
「この病院からノートパソコン一つ借りてってもいいですかね? 」
荷物のように担がれた初春はさっさと目的地に行こうとする垣根を引き止める。
「あ? あー、ならそこの受付の一個貰ってくか……緊急事態だしあとで謝ればいいだろ」
初春を下ろすと受付においてあるパソコンを乱暴に引っこ抜こうとする。
「わわわ! なにやってんですか! 」
垣根の暴挙を止め、カタカタとキーボードを叩いてから初春は丁寧にコードを引き抜きそれを傍にと持った。
「何やったんだ? 」
「このパソコンだけが担ってる仕事があったら大変じゃないですか、だからそれがないか調べてなかったから病院のネットワークから切り離してから持ち出した んですよ。 病院のパソコンですからね、外で勝手に使って個人情報とか抜かれたらえらい騒ぎになりますし、そんなので前科者になりたくはないんですよ」
「……よくわからんがまぁいい、いくぞ」
「待ってください、ワクチンってのはどこにあるかわかりますか? 」
「芳川のパソコン? 」
垣根はそこで初めてワクチンソフトの在り処を知らない事に気がついた。
芳川に聞こうにも彼女はいま手術中だ。
どうしようかと焦っているとミサカ00002号がそれならばと手を上げた。
「この病院のセキュリティの一番高い所に多分あります。 芳川博士は研究成果を全てここに移して貰っていましたから」
「そうですか……少し待ってください」
そういうと初春はまたパソコンを恐ろしい早さで操作する。
そして数分たつと、ありましたと言い、そのデータを引っこ抜いた。
「これで準備完了です。 さ、垣根さん行きましょう」
何事もなかったように初春は言ったがミサカ00002号と垣根はその技術に只々驚き言葉を失っていた。
しかし、驚いていたのは二人だけであった。
御坂、白井、佐天はいつもの事だと言うように気にしてはいない。
驚き固まる垣根を初春が急かす。
「垣根さん? 早く行きますよ! 一大事何でしょう?」
「あ、あぁ……悪い頼んだぜ」
初春をまた荷物のように担ぐと垣根は今度こそ座標点へと向かった。
- 729 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:03:44.97 ID:V83xhbCmo
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~~~
「ここ、か?」
垣根と初春がたどり着いたのは一方通行と垣根が再会した研究所であった。
「どうりで見覚えのある場所なわけだ……でも、まさかこことは」
御坂、上条も縁がある研究所。
表向きは、というか何も知らない研究員はここで自分だけの現実だとかの研究をしている。
「……地下とかに天井亜雄の実験室があんのかね?」
天井がどういう経緯でここを手に入れたかはいまは関係ない。
いま必要なのは天井の研究室へといく手段だ。
垣根が考えている最中、初春は芳川の作ったワクチンソフトを解析していた。
同時にワクチンと同じ場所に保管されていたミサカ妹達のデータにも目を通す。
―― なるほど、これは想定されるバグを消すんじゃなく組み替えるものっぽいですね。消しちゃった方が早いと思うんですけどねぇ……。
想定される異常仮想マップと正常値のマップを見ながら、ワクチンのどこのシステムが異常を組み替えるのかを簡単に照らし合わせてみる。
―― しかし、凄いですね。芳川さんに本気でハッキングされたらうちの支部も破られるかもしれません、セキュリティ更に改良してみましょうかね。
垣根が建物内の構造を思い出しながら、一般研究員と隔離された部屋がありそうなところを考え、初春が自分の仕事をスムーズに進行させる下準備をしていると、建物の中から白衣をきた研究員が大慌ててで走り出てきた。
「な、なんだぁ?」
垣根は思考を保留し、駆け出てきた研究員の一人を捕まえた。
「おい、何が起きた」
「あ、あああ……あ、あく…あくせら……だ、第一位が……」
「チッ……んのバカ」
初春を乱暴に担ぎ上げると大急ぎで、暴れているという親友の元へ垣根は向かった。 - 730 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:06:35.95 ID:V83xhbCmo
-
~~~
「だァかァらァ……俺はただ天井の研究室は何処だって聞ィてるだけだろォ?さっさと答えろよ」
言いながら研究員に向かって机を蹴り飛ばす。
その勢いは当たったら死んでもおかしくはない。
研究員は恐怖に体を震わせながら、涙を流しわからないわからない、とうわ言のようにつぶやくだけであった。
「わっかンねェ訳ねェだろォ?さっさと答えろよ」
ゆっくり研究員に近づいていき、その胸ぐらを掴み乱暴に立たせる。
「なァ……教えてくれよ、そしたらなァンもしねェよ」
研究員は震える事しか出来ない。
一方通行はめんどくさそうにため息をひとつつくと、研究員を壁に向かって投げ飛ばした。
なんの力も入れずに、なんの重さもその腕にかかっている様子をみせずに。
研究員は投げられた瞬間、その速度と迫り来る壁を視界の端に捉え、死という言葉が脳内を埋め尽くした。
そして、声を出す暇もなく、ただ、目だけをつむった。
- 731 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:07:36.34 ID:V83xhbCmo
-
死ぬ時とは案外穏やかなのかもしれない。
襲ってくるであろう激しい痛みはなく、握った拳、閉じた目の感覚はあるように感じた。
悲惨な状態になりすぎて身体が痛みを伝えるのに追いついていないのかと思い、恐る恐る目を開ける。
目に飛び込んできたのは自分の原型を留めない四肢ではなく、見覚えのある男の姿と真っ赤な血肉ではなく、真っ白な翼であった。
「大丈夫か?怪我してねーよな?」
その男は悲しみに満ちた目で優しく、研究員を気遣う。
そして、怪我がないとわかると立ち上がらせ、出口に向かって走るように言った。
「……」
一方通行は垣根の登場になにも言わず、研究所の奥へと進んで行く。 - 732 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:09:48.77 ID:V83xhbCmo
-
「おい、待てよ一方通行」
無視。
一方通行はもう関わらないと決めている。
「まてって言ってるだろ」
さらに無視し続ける。
一方通行は今垣根に何か言われたらまた自分がわからなくなってしまう。
「まてって、言ってんだろぉおおがこのクソガリィ!」
近くにあった壊れ落ちた椅子のキャスターを思い切り一方通行へ向かって蹴り飛ばした。
「チッ……」
それを反射せずに、はたき落とす。
代わりに転がっていた椅子をまるごと垣根に向かって殴りつけた。
―― いい、これを最後にすりゃいいンだ。垣根なら大丈夫。
なにが大丈夫なのかはわからない。
ただ、なんとなくそう思った。
「……なんだぁ?ここに来ると俺たちは喧嘩しなきゃいけねぇ理由でもあんのかぁ?あ?」
守るように翼で自分と初春の身体を包み、それを受け止める。
翼にあたり床にかしゃんと椅子が落ちると、翼を大きく広げながら一方通行を睨みつける。
が、すぐにその目は懇願するような物に変わった。 - 733 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:16:18.59 ID:V83xhbCmo
-
「なぁ、まじでどうしちまったんだ?ミサカの死なら全部終わったあとちゃんとに全員で悼んでやろう、芳川は死にゃしねぇし、こっからは誰ももう、死なな
い。俺とお前で、ミサカちゃん達の大切なもの、芳川の大切なもの、俺の大切なもの、お前の大切なもの……これ以上もう、失わぬように、戦おうぜ?」
無駄だと、垣根はわかっていたのかもしれない。
一方通行はあの惨状を見て、新しく生き方をすでに決めてしまっているかもしれないと心の奥底では理解していたのかもしれない。
だから、もう、垣根がなにを言おうと、それを変えるつもりはないのかもしれない。
だけど、言わずにはいられなかった。
垣根が選んだのは神裂の言葉と、自身の作り出した幻だったのかもしれないが、ミサカ00001号の言葉を参考にした道だ。
しかし、一方通行は一人で歩む道を決めている。
ミサカ00002号は半身とも言える存在の喪失でいっぱいいっぱいだったろうし、芳川は口も聞けないほどの傷を負っていた。
もしも、一人で決めたのならば、それは破滅へと誘う道だと、垣根は経験からわかっていた。
想いに目をつむり、全てを投げ出しミサカ00001号と共に眠る道を垣根も選ぼうとしていたのだから。
だから、一方通行の答えにも、垣根は驚かなかった。
「悪ィ、無理だわ。お前にも芳川にもそンで特にミサカどもに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。俺がいなきゃそもそもなにもはじまらなかった、俺がお前らと出会っちまった為にお前らに辛い思いをさせちまった……だから、俺はもう誰とも出会わねェように生きる」
「……そうか、わかった。出来たら俺は……死ぬまでお前と肩並べて歩きたいと思ってたけど、無理なんだな……それは悲しいが受け入れるよ、お前の人生だし……それに、家族じゃなくなるわけじゃねぇだろ?だが、さっき研究員を殺そうとしたのは許せねぇな」
当たり前のように、垣根は一方通行を家族と呼ぶ。
「芳川を、ミサカを……お前を傷つける可能性のある物は全部ぶっ殺すと決めたンだ」
「……芳川が聞いたらぶち切れるぞ?ミサカちゃん達も多分怒る」
「関係ねェよ、お前は家族だと言ってくれたが、もう、俺は違う。そンでそンな俺が勝手にやるだけだ、関係……ねェ」
「本当にもうなんの関係もないと……本気で家族じゃねぇと言ってんのか?」
「……あァ」
「……ふざけんな」
垣根は初春をおろし、一方通行へとズカズカ歩み寄る。
そして、その胸ぐらをつかもうとして
反射された。
- 734 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:19:03.37 ID:V83xhbCmo
- 「え?」
声を出したのは初春である。
付き合いがそんな無い初春でさえ、二人の絆の強さは知っていたし、一方通行が普段人の多いところでは反射を切っているという話も聞いた事がある。
そして、一方通行が反射するのは「自分に害をなす物」それだけだとなんとなくだが正しく理解していた。
どんな時でも一方通行が垣根を拒絶するとは思っていなかった。
だから、一方通行が垣根を反射した事に垣根本人よりもショックを受けた。
「そんなのって……だって、あなた達は……」
初春はこの二人のような友情を佐天や御坂、白井と築いて行きたいと思っていた。
彼ら二人の関係は決して壊れる事を想像させない、理想的なものであったのだ。
少なくとも初春にとっては。
だから、それが壊れそうな場面を目撃し、自分の目標を失ったような気持ちになったのだ。
「お前……本当にもう、俺らとは関係ない……って言うのか?」
寂しそうに垣根は震える声を出す。
「―――― 」
一方通行が口を開こうとした瞬間、それを遮るように初春が口を開いた。 - 735 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:20:15.71 ID:V83xhbCmo
-
「嫌です!駄目です、今あなたはなにを言おうとしたんですか?何があったかなんて知りません、でも、あなた達は、親友なんでしょう?いつか垣根さんがいっ てました、一方通行さんはかけがえのない大切なものだって、それは、一方通行さんも同じなんでしょう?死ぬほど辛く苦しい時にこそ、助け合うのが友人なん じゃないんですか?」
一気に喋り、一度大きく息を吸ってから続ける。
「こんな時に、垣根さんも一方通行さんも余裕なくて悲しそうで辛そうな……そんな時に、離れ離れになってどうするんですか?」
初春は真剣だった。
自分の目指す物を否定して欲しくなかったから。
だが、それでも、一方通行の出す答えはもう決まっている。
「垣根、さっきの答えはYesだ。俺はもう、誰とも関わる気はねェ、特に大好きなお前らとは……」
一方通行はそれだけいうと、研究所の奥へと消えて行った。 - 736 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/30(月) 01:22:02.50 ID:V83xhbCmo
-
~~~
「これは……?」
上条が発見したのは弱々しく画面を発光させるどこかで見た覚えのある真っ黒な携帯電話であった。
ディスプレイが生きているのが不思議なくらい、テンキー部分は粉々にされている。
ディスプレイの部分を慎重に手に取り、画面に写っている物を見て、これが一方通行の物であると思い出した。
―― 確か……。
上条は少し前に一方通行と垣根は何故携帯電話を二つ持っているのか聞いたことがあった。
『ん?あぁ、これは……なんつーか俺たちの……心の拠り所?』
『ン、まァそンな感じだな、ここまで生きてこれたのは間違いなくこれのおかげだ』
そんな二人の言葉を思い出す。
あの時の一方通行の『生きてこれた』は自分の正しいと思う道を貫き通してという意味に上条はとっていた。
―― それを壊したというのか?もう、自分の正しい道を歩く事を……諦める、ってこと……なのか?
「正義だなんだ言っといて、逃げんのか?一度心折られたくらいで、まだ確かに存在する守ると決めた大切な物からも、目を背けちまうのか?……それでいいのかよ第一位……」
―― お前は芳川さんを守ると決めたんだろ?
弱々しくもその存在を示すかのように光るディスプレイを見つめながら、上条は一方通行を一発ぶん殴る決意をした。
そのディスプレイには青紫色の携帯電話の待ち受けと対となる、芳川の寝顔が写っていた。
これもまた、垣根が撮ったものだ。
「とうま?」
「大丈夫、俺のせいとか今はそんな事よりも、純粋に道に迷った一方通行を助けたいと思ってるから」
携帯を拾い、なにやらポツポツ独り言をいう上条に不安を覚えたインデックスだったが、それはすぐに解消された。
―― とうまは、少しずつだけど変わってる。
それは嬉しくもあり、インデックスを心の支えとして必要としなくなる日がくる日が近づいているようにも感じられ、少しだけさみしいような気もした。
- 737 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/01/30(月) 01:27:51.57 ID:V83xhbCmo
- 終わりです
みじけぇ……そしてなんか話すすまねぇ……
さらに上条さん美琴ほどうまくフェードアウトしてくれねぇ
このままだといいとこ全部持ってきそうでこえぇええ
はい、そんな感じです
次回は
打ち止め救出
芳川手術終わり
病院に残った美琴黒子佐天00002号の様子
天井くんが今なにしているか
このへんまで書きたいかな
また読んでください
- 738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/30(月) 08:13:35.39 ID:/tuKY1UHo
- 乙だぜ
- 739 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:33:47.61 ID:WEELUuR2o
-
~~~
―― 寂しいなンて思っちゃいけねェ。辛いなンて思っちゃいけねェ。
一方通行は奥にいた逃げ遅れた職員をみつけると、今度は天井の研究室ではなくここの設計図を出せと言った。
職員は会議室まで一方通行を連れていくとパソコンを起動させ、すぐさま要求の設計図を呼び起こしそれを、一方通行に見せる。
その設計図と自分がここに来て暴れる前に一通り見て歩いて測量したこの建物とを比べる。
実験室が三つ。
会議室が大部屋がひとつ、垣根が通された比較的小さな物が二つ。
入ってすぐの受付は先ほど一方通行が暴れたところである。
トイレが男女二つずつ。
―― みィつけたァ……。
不自然な空間。
そこにあたりをつけ、向かう。
カツカツと靴底が床を鳴らす音のみが響く。
―― 垣根のやつ、本気で怒ってたなァ……。初春の野郎はほんの少しだけ話しただけなのに、なンであそこまで……。
不自然な空間、それは男性用のトイレと女性用トイレの間。
設計図より若干広めに作ってある建物。
それは地下へ行くための通路を設計図上では消しているからだ。
そこをぶち破ってしまおうかと考えるが、なんとなくやめておく。
男性用のトイレに入ると個室の扉を次々開き、調べてみる。
が、わからない。
―― チッ……何だってンだァ?……あ。
そこである事に気がついた。
―― 天井はどォやってこの地下に機材を運ンだ?ちっと考えりゃわかることじゃねェか……。
ここは学園都市、超能力の街である。
空間移動。
この街には58人の空間移動系の能力者がいる。
金を積めば雇われるような輩も一人はいるだろう。
では何故通路があるのか?
それはおそらく制作途中にいちいち能力者を使うのは無理だったからだろう。
地下の仕上げをする時は通路も塞がれておらず、ちゃんと使われていたのだろう。
それが工事の終わりと共に塞がれた。
そういう事であろう。
一方通行は舌打ちをすると、トイレの窓から飛び出し病院へと戻った。
白井黒子を使うために。 - 740 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:35:20.69 ID:WEELUuR2o
-
~~~
「はぁ……なんか私って本当に役立たずよね」
垣根と初春が飛び去ったあと、病院に残された四人は誰もいないロビーでぼんやりとしていた。
「そんな、御坂さんと白井さんがいなかったら私と初春は死んでましたよ?」
「それだって黒子だけで解決できたでしょう?」
「でも、そのあと河川敷では御坂さんがバリケード作ってくれたから耐えれたわけで」
「でも、結局捕まってあの赤い髪の人と垣根さんに助けられた……私なんかが、あなたたちを守りたいなんてやっぱ無理なのかな?」
珍しく弱気な御坂。
御坂もまた、大切な親友を失っていたかもしれないのだ。
少しくらい気落ちするのも無理はない。
「お姉さまは強いよ。垣根さんや一方通行なんかよりはまちがいなく、強い」
ミサカ00002号にとって御坂は憧れのお姉さま。
垣根や一方通行は心許せる親友という感じである。
だから、ミサカ00002号は二人に容赦ない。
「あの二人、特に白いの……みんな等しく辛いってのに一人でうじうじしやがって……普段人の事バカにするくせに自分が一番弱いんだ。それなのに、なにも話 してくれない、弱音をミサカ達に向かって吐く前に勝手に諦めちゃう……それに比べたら弱音はきつつ励まされ立ち直るお姉さまはむしろ潔くてかっこいいよ」
「そうですの、私たちは友達なのですから……きつい時は助け合うのが当たり前なんですの」
「そうです!それにみなさんを励ます事しか出来ない私と比べたらビリビリできる分御坂さんはかっこいいですよ!」
御坂の顔に笑顔が戻る。
それを確認すると、ミサカ00002号はある決心をした。 - 741 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:37:18.34 ID:WEELUuR2o
- ―― ミサカ00001号の事……言わなきゃ……。
「お姉さま……ちょっといいかな?」
―― 大丈夫、泣かない自信はある。一方通行と垣根さんが不安定になっちゃってんだ、ミサカがしっかりしなきゃいけないんだ。
「え?いいけど……そういえばもう一人の妹はどこにいるの?」
ずっと気にはなっていたが、御坂もまたあえて聞く事ができなかった話題。
だが、00002号に呼ばれ察したのだろう。
00001号に何かがあったと。
「その、こと……な、んだけど……さ」
―― ダメだよ……ダメッ……泣かないって決めただろ、ミサカ00002号!
「ミサカ00001号さ……死、ん……じゃ―― 」
ミサカ00002号の目から涙が溢れ出そうとした瞬間、御坂は妹の事を思い切り抱きしめた。
御坂もそんな気はしていた。
暗い垣根。
鬱々とした一方通行。
泣かないように頑張っている自分の血をわけた妹。
そこにいるべき一人が見当たらなくての彼らの状態。
そして本気で殺しにかかってきた感情を奪われた妹たち。
「ご、めん……私、お姉ちゃんなのに……なんにも、出来なくて……ごめん……名前とか、私があげようって……もっと服とかケーキとか、食べ、させて……ごめん」
佐天と白井も最初は何が起きたのかと驚いたが、なんとなく察したようだった。
二人はそっと御坂達から離れ窓に近づいた。
そして、窓の外を眺めながら、つぶやく。
「私たちって……なんなんでしょうね」
「偉そうな事言っておいて……かける言葉が見つからない……なさけないですわね」
御坂とミサカ00002号は抱きしめあったまま動かない。
でも、お互い涙は最後の最後のところでこぼさずに済んだようだ。
「これが全部終わったら一緒に泣こう……それまでは、私もあんたも守るべき物を、守る事を……あの子が好きだった物をもう、壊されないように頑張ろう?……それまでは、泣くの我慢だね」
そういって、ミサカ00002号を離すと、ぎこちなく笑った。 - 742 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:39:51.62 ID:WEELUuR2o
-
~~~
急所ははずれ、綺麗に撃たれていた事から、芳川の手術は簡単に終わった。
臓器は激しく傷ついておらず、弾も貫通していたため比較的楽だったよ、とカエル先生は笑っていた。
だが、大怪我に変わりはない。
病室へ運ばれ、機械につながれた。
面会は出来るが、目を覚ますのはまだ先、顔を見て安心したければ見てくるがいいと言われ、ミサカ00002号は芳川の病室へ向かった。
「芳川博士……良かったぁ……ごめんね、乱暴な姉で」
大丈夫と信じていてもやはり顔を見るまでは安心できなかったのだろう。
ミサカ00002号はそこでやっと、少しだけ穏やかな顔をした。
「……これ……って」
それは間違いなく一方通行の携帯電話である。
テンキー部分が粉砕され、ディスプレイが光を灯しているのが不思議な真っ黒携帯電話である。
「それ、とうまが拾って私に預けたから、とりあえずききょうのところに持ってきておいた」
暗闇から聞こえた声に驚く。
「インデックス?いたのかよう……声をかけてよ」
インデックスはごめんねと短くいうと、それきり黙る。
「……何も聞かないの?」
突然襲われた理由。
芳川の怪我の理由。
「うん、なんとなくわかるから……みさかいもうとは……」
インデックスの言葉を待たず、ミサカ00002号は頷いた。
「……そっか……ここは真っ暗、私もあなたの顔は見えない……だから―― 」
「だけど、ミサカは泣かないよ……ありがとう」
ミサカ00002号は携帯電話を机の上に戻し、部屋を出た。
このままそこにいたら、泣き出してしまいそうだったから。
「―― そっか……」
インデックスは機械の音と芳川の微かな呼吸音に包まれる部屋で、一粒の涙をこぼす。
「これは神様の元へかえったみさかの涙。そして、悲しむ前にやるべき事をやろうとするみさかの美しき魂への敬意の涙なんだよ」
- 743 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:40:36.67 ID:WEELUuR2o
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芳川の手術が終わる少し前、一方通行は病院へと舞い戻った。
御坂とミサカ00002号は顔を洗ってくると、トイレに向かい、ロビーには白井と佐天だけだ。
―― よかった。
ミサカ00002号と顔を合わせずに済んで。
「一方通行さん!どこいってたんですか?垣根さんは初春連れてなんかどっか行きましたよ?」
佐天は一方通行の姿を見つけると、走り寄っていった。
「知ってる……白井、ちと力を貸せ」
佐天をほとんど無視に近い形でやり過ごすと、白井に向かって声を張った。
「……わかりましたわ」
白井はなにか言いたそうな顔をしたが、それを飲み込み、おとなしく従う。
了承の意を貰うと、一方通行はさっさと外へと向かった。
それに白井も続く。
「佐天さん、お姉さまと妹さまに、黒子は出かけたと伝えてくださいな」
ついてこようとする佐天を白井は止め、伝言を頼んだ。
そして、一方通行に担がれ、佐天の目の前から消えた。 - 744 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/01/31(火) 02:42:21.54 ID:WEELUuR2o
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~~~
「くそったれが!」
天井は自身の研究室を一方通行に教えてしまった事もあり、帰る場所を失った。
腹いせに雇っていたテレポーターを殺害するが、それでもイライラは収まらずミサカ妹達を犯そうかと考えたが、どうせなら一方通行達の目の前でやろうと考え、やめた。
「あぁ……くそっ!」
天井は今、垣根達が住んでいたマンションで、体を休めている。
ボロボロになったソファを、食卓のテーブルを、椅子を、次々に蹴り壊しながら、殴られた痛みを紛らわしていた。
―― 最終信号を救えたとしても、ミサカ00003業から00100号はもう命令を受付ねぇようにしてある。00101~00300も無理に作った個体だ……ちゃんとに調整しても、もってあと半年……ひはっ!なんだなんだ?完璧じゃねぇか?
落ち着いて思い返してみると、天井の計画は成功といってもいいだろう。
一方通行達の目の前でミサカ00001号を殺害に成功し、それは一方通行に大ダメージを与えた。
妹達を殺されるのがそんなに辛いならば目の前で00100号までの98人全員を殺すのも面白いと考えはじめる。
―― 上条や超電磁砲を殺せなかったのは残念だなぁ……でもクローン殺したほうがダメージはありそうな感じしたし、いっかぁ……。
これから半年に渡り、二百名の妹達が日々死んで行くのに恐らく一方通行は耐えられない。
それを想像しただけで、天井はとても愉快な気持ちになった。
- 751 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/05(日) 00:00:40.09 ID:DxHzalvIO
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「妹さまが大変怒っておりましたよ」
一方通行に担がれながら天井の研究所へ向かっている途中、白井は静かにつぶやいた。
「もォ、関係ねェよ」
それ以上無駄口を叩くなというような拒絶をあらわにする。
そのまま無言で一方通行は目的地をめざす。
『頼むわよ』
芳川が、いつの日か言ったそんな言葉を思い出していた。 - 752 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:03:16.79 ID:DxHzalvIO
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「おい、携帯電話の番号教えろ、そんでまず俺だけを移転しろそンでなにもない座標を教えっからよ」
研究所に着くと一方通行は乱暴にそういい、白井はそれにおとなしくしたがった。
「では」
そういうと、白井は一方通行の肩に触れ、言われた座標へと飛ばした。
その直後、携帯がなり、同じ座標で問題ないとの事を言われる。
―― あれ?どうして一方通行さんは垣根さんが初春を連れて行った事を『知っている』といったのでしょう?
もしかして、と思い白井は研究所のなかへと足を踏み入れた。
ボロボロになった来客対応の受付。
そこに立ち尽くす第二位・垣根帝督。
どうしていいかわからずオロオロする初春飾利。
理解不能な光景が白井の目の前に広がっていた。
「い、いったいどうしたんですの?垣根さん?しっかりしてください!初春!落ち着きなさい!」
垣根の肩を揺らし、垣根の意識を現実へと引き戻す。
「あ、あぁ……あれ?黒子ちゃん?どうしてここに?」
垣根へ自分がここにきたいきさつを話しながら初春の頭をはたき、落ち着かせる。
白井の話を聞くと、垣根は迷うような顔をしながら俺も連れて行ってくれと頭を下げた。 - 753 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:04:25.57 ID:DxHzalvIO
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~~~
―― きったねェ所だなァ。
目に入るゴミの山にしたうちをしながら、打ち止めを探す。
天井の研究室は研究室というより簡単な仕切りのある体育館に近かった。
机や椅子の他には調整槽しかない。
薄暗い部屋の中、耳を澄ますと呼吸音がかすかに聞こえた。
「あっちか?」
その音のする方へゴミを蹴散らしながら向かう。
汚い調整槽がめだつ。
―― こンなのに入ってたらそれだけで病気になっちまうンじゃねェか?ふざけやがって
分かり切っていたことだが、天井がいかに妹達をぞんざいに扱っていたかを思い出し、気分を悪くした。
そして、微かな音を頼りに歩みを進めると……蓋の開いた調整槽にぐったりと倒れこむ打ち止めを見つけた。
「こいつか」 - 754 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:08:36.72 ID:DxHzalvIO
-
~~~
調整。
それは、普通の人とは違った産まれ方をしたミサカ妹達が生きて行く為に必要不可欠な行為である。
今、ミサカ達は大きくわけて三つに分類できる。
一番丁寧に、無理なく創り出された打ち止め。
そこそこ丁寧に創り出され、その後の調整は完璧に施されているミサカ00001号とミサカ00002号。
そしてミサカ達にかかる負担など微塵も気にせず『最悪一週間"動けばいい"』という理由で生み出され、調整もまともに受けていないミサカ00003号からミサカ00300号。
調整とは普通の人よりも弱い免疫や、臓器の働きを助けるためのものだ。
芳川は二人が産み出されてすぐの頃は、毎日二人の身体検査をし、それぞれの身体にあった浸透液を調合していた。
だから、ミサカ00001号と00002号は一方通行達と出会う頃には調整がなくともそこそこやっていける身体になっていたのだ。
そして、その後、カエル顔の医者のところで受けたより精密な調整。
これにより常人と変わらぬ身体になったといっても過言ではない領域に達した。
それでも最悪一年に一回は調整が必要なのだが。
打ち止めは、常に調整槽にはいり、常に万全のコンディションを保たれている。
それは、打ち止めが使い物にならなくなったら天井が困るからだ。
一方ミサカ00003号以下の個体、彼女らは天井にとっては動けばいいだけの個体なので、作り出されたあと満足な調整もされず、死なないようにされていただけだ。
一番理想的な調整を受けたミサカ00001号と00002号でさえ寿命はおそらく40~50歳とカエル先生は結論づけている。
ならば、最低の環境にいたミサカ00003号以下の個体達は?
正直、いつ死んでもおかしくはないのである。
- 755 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:10:25.43 ID:DxHzalvIO
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~~~
打ち止めを見つけた一方通行はその身体を抱き起こし、声をかけてみる。
が、反応はなく苦しそうな吐息を漏らすだけであった。
―― チッ……まて、こいつはなんでこンな苦しそうなンだ?
芳川とミサカ00001号とワクチンソフトを作ったとき、三人は『打ち止めは恐らく調整槽の中に閉じ込められている』という想定であった。
もし妹達が暴走したとき、打ち止めがいないと天井も困るのだから、打ち止めは命だけは安全だと芳川は予測していた。
が、その予想ははずれた。
芳川は天井の異常性、一方通行への執着を見誤ったということであろう。
『一方通行とついでに未元物質を地獄のような苦しみにつき落とせたらあとはどうでもいい』
天井はどうせ自分は殺されるということを理解している。
だからこそ目的を達成できるならば、あとのことなどどうでも良いのだ。
その時すでに自分は死んでいるのだから……。
そんな彼がなぜ。ミサカ妹達にゴーグルと鼻口を覆うプロテクターをつけさせ、御坂美琴のクローンと一目では認識できないようにしたのか。
それは、御坂美琴を殺害できようが出来まいが天井が騒ぎを起こした後『禁止されている人間のクローニング』の件でオリジナルとなった御坂がただ騒ぎたいだけの馬鹿どもに糾弾されるという可能性を考えてのことだ。
天井は妹達の顔を隠す事で、それを少しでも回避しようとしたのだ。 - 756 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:11:59.57 ID:DxHzalvIO
- ただ、ひとつ勘違いして欲しくないのは、それは天井の優しさでも正義でもないというところだ。
馬鹿どもに騒ぎ立てるエサをやるのが気に食わないだけ。
御坂の心情、その後の生活のことなどカケラも考えてはいない。
ただ、気に食わないから。
そんな子供っぽい感情からである。
―― まてまてまて、落ち着け。こいつの状態がどうであろうと関係ない、俺は妹達の強制命令を解除する命令をこいつから流せばいい、やる事は変わらねェ。
打ち止めを調整槽へ入れ、コンソールをいじる。
ここから作ったワクチンソフトを流し、それと同時に先ほどシミュレーションしたようにすればいい。
イメージはそんな感じだ。
―― こいつが苦しそうなのは恐らく調整槽から放り出されたから、もしくは妹達とは別の命令を最終信号であるこいつ自身が天井に直接叩き込まれたからだ……妹達を無力化したあとミサカの正常値に書き換えてやればいいだけだ。
そして、はじめる。
芳川のプログラムを打ち止めにインストールし、それを強制命令として妹達へ発信、途中からそれに手を加えていく。
時間にしておよそ数分、その数分一方通行は自身の脳を全てその作業に向ける。
決してミスをしないように何度も検算する。
そして……。
「完了……か?」 - 757 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:13:59.05 ID:DxHzalvIO
-
打ち止めは未だ苦しそうだが、妹達の命令解除の手順は終わった。
「これ、妹達どォなるンだ?」
『強制命令を解除する』それだけを考え、成功したあとのことは全く想像していなかったことに気がつく。
今も恐らく何割かの妹達は病院の周りを囲んでいるだろう。
そこで倒れていたらどうなるのか。
季節が季節なので外で行き倒れていても命に別条はないだろう。
しかし、武装した集団が一般人に発見されてしまったら?
「大、丈夫だよ、って、ミサカ、はミサ、カは、一方、通行?に教え、てあげ、る」
突然声をあげた打ち止めに一方通行は少々驚いた。
「お前……大丈夫なのか?というか、喋れたのか」
「うん、あな、たは一方通行であってる?それ、とも、垣根帝督なのかな、ってミサカは、ミサカは、質問、して、みる」
途切れ途切れなのは、言葉を喋るのが初めてなのか、それとも声を出すのも辛いのか。
多分、両方なのだろう。
「一方通行であってる。お前を助けたい、どォすりゃいいかわかるか?」
「うん……その前に、言っておかなきゃ……妹達……00003号から00100号は、多分、助からない……残りの妹達も、多分、もって、半年……ってミサカは、ミサカは……」
「は?な、なンで?」
「00100号までの、ミサカは、命令を、受け付けない……そういう風に、天井亜雄が、改造したんだよって、ミサカはミサカは説明してみる……残りの、ミサカは無理な身体成長と、適当すぎる調整で、寿命自体が、短い……って、ミサカはミサカは、追加説明してみ、たり」
「やっぱり、俺は、誰も……守れねェのかよ……」
「そんな、こと、ないよ……って、ミサカは……00001号は、あなたにも、垣根にも、感謝してたし、今、解放された、ミサカたちも……きっと感謝して る…ミサカが、今、喋れるのは、00001号と、解放された、ミサカの、おかげ……ネットワークは、使い方、ちゃんとすれば、便利なんだよってミサカは、 ミサカは笑ってみたり……」
弱々しく、目を細める。
「多分、生存本能って、やつなんだろうね……00002号は、ネットワークとの、繋がりが弱いから、モヤモヤした物しか、わかんないけど……他のミサカは、みんな、このミサカに……」
「お、前……に?」
「ミサカに、遺してる……色々と、ね……そろそろ、限界だから、やってもらいたいことを……説明するね」
打ち止めは目を閉じ、ゆっくりと説明を始めた。 - 758 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:14:37.30 ID:DxHzalvIO
-
今は打ち止めの入っている調整槽に昨日のデータが残っているはずだという事。
それを参考に、一方通行の能力だけで打ち止めにインストールされているソフトを破壊、もしくはアンインストールして欲しいという事。
だから、まず、昨日のデータを見つけ出して欲しいと、打ち止めは言った。
「お願いし、ますって、ミサカ、はミ、サカは……頼んでみたり……でも、無理、しないでね?人は誰でも、向き不向き、出来る事と、出来、ない事があるって、00001号、が、いって、たか、ら……」
「……任せろ、必ず助けてやる」
一方通行は打ち止めに、力強く宣言した。
- 759 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:15:51.28 ID:DxHzalvIO
-
~~~
上条当麻は走っていた。
どこに向かっているのかは上条にもわからない。
ただ、がむしゃらに走っていた。
馬鹿正直に正面から病院を出て、ひたすらまっすぐに。
「あああああ!もうっ!何やってんだよチクショーが!」
病院から離れ、人払いの魔術の効果範囲外に出ると、そこでは日常がまだ続いていた。
突然叫んだ上条を周りにいた数人の人達は奇妙な視線で見つめるが、上条は気にしない。
―― 一方通行はどこ行きやがった?携帯もでねーし垣根も同じだ。
自分が病院を飛び出した頃、垣根は病院へ駆け込み一方通行は芳川の研究所へと跳んでいったのを上条は知らない。
じっとしていられなかったから上条は走り出しただけで、なにも考えがあるわけではないのだ。 - 760 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/05(日) 00:17:19.49 ID:DxHzalvIO
-
そんな上条に声をかける一人の男がいた。
金髪アロハ、上条の親友、そう土御門元春である。
「おっ、カミやーんサボりか?」
「土御門?……ってサボりってなんの話だよ」
「もちろん、妹達の件なんだにゃー」
ニヤリと笑うと、サングラスの奥の目を細める。
「お前の部屋と超電磁砲のお友達の部屋、それに第一位と第二位のマンション、超電磁砲はコンビニでいきなり襲われたそうだな……そんな事件が起きてるのに、学生が街中うろついてられるわけないだろ?」
表向きはただの事故、御坂については襲撃自体がなかったことと処理されていると教えられる。
「た、確かに……でも、おま、なんで、知って……?」
上条は土御門が余りにも知りすぎていることと、普段のおちゃらけた口調から真面目な物になったことに戸惑う。
「そんなのどうでもいいにゃー……ま、友達としてひとつ情報をくれてやるぜい!一方通行ならカミやんも縁のある所にいるんだにゃー」
「俺も……縁のある?」
一方通行達との出会いをひとつずつ思い出す。
まず喧嘩を止めた。
垣根を殴って、殴られたなんてこともあった。
それは二人の作戦に利用されてただけだったりもして、でも二人が優しいやつなんだと確信が持てて嬉しかった。
インデックスを助けるのに手を借りたり、勉強も教わった。
遊園地にも行ったし、一方通行と年頃の男の子らしく好きな子の話なんかもなんとなくした。
そして、今三人は普通に友達と呼べるレベルにまで至った。 - 761 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:19:12.13 ID:DxHzalvIO
- ―― 喧嘩……そういや、あの研究所で垣根に会ったのが全ての始まりか……あ。
「あそこなの、か?」
答えを出した上条に、土御門は満足そうに頷いた。
「でも、カミやんは天井の研究所にははいれないにゃー……それでも行くならいけばいい、出てきた所をうまく捕まえられるかもしれないぜい……って人の話は最後まで聞くもんだにゃー」
上条は、自分の考えが正解だと分かると否や、土御門に短く礼をいい走り出した、今度は目的地を定めてから。
「頑張れよ上条当麻。一方通行の運命は、お前含む第一位の周りの連中が握ってるといっても過言じゃないぞ……あいつのことは良く知らんが学園都市に借りを 作るような真似だけはさせるなよ、暗部は一方通行を喉から手が出るほど欲しがってるからな―― 少しでも付け入る隙を作ったら楽しい楽しい暗部落ちだ」
サングラスを掛け直し、土御門は上条とは逆側へ歩き始めた。 - 762 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:19:44.57 ID:DxHzalvIO
-
~~~
「チッ……打ち止めの言ってたデータってのはどれだァ?ンなもンねェぞォ」
頭をガシガシとかきながら、一方通行は調整槽のコンソールやら近くにあったパソコンやらを隅々まで調べる。
「一方通行……妹達は、打ち止めは助けられた……のか?」
そこへ、垣根と初春、白井が合流するが一方通行はそれを無視する。
「おい、一方通行?」
「チッ……うるせェぞ三下、てめェは病院に帰れ……芳川のとこにいろ」
キーボードをカタカタ叩きながら、乱暴に言う。
芳川に誰か信頼できる人が一人でも多くついていてほしい。
素直にそう言えないのはもう関係ないと切り捨ててしまったから。
- 763 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:20:15.41 ID:DxHzalvIO
-
「あなたは一人でやらなきゃ気が済まないのですか?あなたと垣根さんの間にこの短期間でなにがあったかは存じ上げませんが……目的は同じ、ならば仲間同士協力したらいいんですの。第一位様はそんな簡単なこともわかりませんの?」
挑発するように、白井が一歩前へと出て言った。
「パソコンをいじっているということは、なにか必要な情報があるという事ですわよね?だったら、恐らく一方通行さんより初春のほうが役に立ちますの、なにを一人で背負っているかは知りませんが、くだらないプライドで“また”大切な物を失うつもりですの?」
また。
その言葉に一方通行と垣根はぎょっとする。
何故、白井が00001号の死を知っているのか。
そして、今のままだとまた、失うと白井は言う。
「黒子ちゃん……なんで、いやなにを知ってるんだ?」
「何も知りませんわ、ただ、お姉さまと妹さまのやり取りで推測しただけですの」
初春は白井と垣根の顔を見比べる。
一方通行のほうはわざと向かないようにしているようにも見えた。 - 764 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:20:52.52 ID:DxHzalvIO
-
「そうか……ミサカちゃんが、美琴ちゃんに言ったのか、俺が言おうと思ったのにな……ミサカちゃんには辛い思いさせちまったかな」
「お姉さまの妹さまはそんな弱い方ではありません。もちろん、お姉さまも……いじけて一人で勝手な義務感を感じて突っ走る第一位なんかよりも、ずっとずっと強い姉妹ですわ」
四人の間に重苦しい沈黙が流れる。
部屋には調整槽の駆動音と一方通行がキーを叩く音だけが不協和音のように流れるだけだ。
そんな空気を破って声を出したのは、初春飾利であった。
「……一方通行さん、手伝います。私なら多分、探し物見つけられます。打ち止めさん?もきっと助けることができます。初めてあった時、白井さんが言いまし たよね?『何かお困りのことがあったら一七七支部までお越しくださいませ』って……今、一方通行さんはお困りです。だから、私達一七七支部に頼ってくださ い!私は……私と白井さんは学園都市の学生を守る、風紀委員なんですから……」
一方通行の暴れた傷跡や、未遂だが人を殺そうとした場面を見て、第一位の能力『一方通行』を肌で感じた後でも、初春飾利、白井黒子は一方通行を守るべき学生だと言う。
仲間だと言ってくれる。 - 765 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:22:14.00 ID:DxHzalvIO
-
―― だけど、俺は……一人で守ると決めたンだ。
一方通行はキーボードから手を離し、硬く目をつむった。
―― 関係ないと切り捨てたンだ。頼っちゃいけねェ。
「わりィが――」
「あなたが垣根さんや芳川さん、私達と個人的な関係を断ち切ったとしても、この街の学生であることに変わりはありません、風紀委員は見知らぬ学生でも……守るんです」
答えを決めたように、目をゆっくりとあけながら一方通行は初春の申し出を蹴ろうとした。
が、その時、失ってしまった大切な人が、一方通行へと話しかけてきた気がした。
『適材適所ってやつではないのですか?とミサカはいつか一方通行に言われたことを思い出します』
「あ……」
一方通行も何かを思い出す。
一番の目的はなにか。
それは、守る事、大切な人を傷つけないこと。
それは、笑っていて欲しいから。
切り捨てたのも、そのためだ。
切り捨て、その上助けることもできなかったら……それが一番恐ろしい。 - 766 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:23:18.76 ID:DxHzalvIO
-
―― 助けるために駒を使うと思えばいいンだ。白井だって、そうだったろ……必要だから使った。
「初春……頼ンだ」
一方通行は立ち上がり、初春に席を譲った。
初春は自信満々に、はい、とだけ答えパソコンに向かう。
『それで、いいのです。とミサカは微笑みます』
空耳でもいい、幻覚でもいい。
―― お前は、死んでもそォやって、笑ってられるような、そンな人生送れたのか?
打ち止めは言った。
『遺している』
それがどんな物なのか、妹達以外の人にも見える形で遺した物を現せるのだろうか。
もしそうならば、00001号が好きだと言った垣根に、00001号の遺した物を見せてやりたいと一方通行は思った。 - 767 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:23:53.40 ID:DxHzalvIO
-
~~~
「黒子ちゃん、一回外まで飛ばしてくれるか?」
初春がパソコンをいじり出すと、一方通行は脳を休めるためか、調整槽の横へ腰かけ目を閉じた。
そして、微動だにしない。
「……わかりましたわ」
「ありがとう、終わったら全部話すし、それでそのとき文句でもなんでも聞くだから今はただ手を貸してくれ」
白井は頷くと、垣根と共に外へと移動した。
残された二人は無言で作業を進める。
初春の紡ぐキーを叩く音は、どこか楽しげで、聞いていて落ち着くものだった。
- 768 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:24:37.22 ID:DxHzalvIO
-
~~~
「な、何があったんだ?」
上条は研究所へとたどり着いた。
駆け込むと、そこはひどい荒れようだった。
「上条、無事だったのか……よかった」
「垣根……一体、何があったんだ?一方通行は?ミ、ミサカ……は?」
上条はまだ、ミサカ00001号が生きているかもしれないという微塵粉ほどの可能性を捨てたくなかった。
「迷惑かけてるよな、悪い。一方通行は今、妹達を守ろうと……救おうとしてる。ミサカは……死んだ。守れなかったよ、俺」
垣根は上条へ、泣きつきそうになるのを必死に堪えた。
「迷惑なんかじゃねぇよ、むしろ俺は知らないところでお前らが傷ついてるのを……傷ついたのを後で知るほうが嫌だ……でも、そうか……いや、お前達が頑張ってるのに、俺だけ泣けねぇよな」
無理矢理に笑顔を作る。
本当は心が引き裂かれそうだった。
お前らと知り合っちまったから、疫病神だからと言いたかった。
でも、それは違うと上条はわかっている。
それは垣根や一方通行を侮辱する行為だとちゃんと理解している。 - 769 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:25:29.55 ID:DxHzalvIO
-
「垣根は、これからどうするんだ?」
「俺は……ミサカの大切なものを守る。これ以上、何も失いたく、ない、から」
―― もう、一番の親友を失っちまったようなものだけどな。
「そうか、お前は強いな」
―― やめてくれよ、俺は弱い。今まで無関係な人までをも全部救ってきたお前に比べたら、俺たちは弱い。
研究所内は壊れ、荒らされ、そして暗い。
夏だというのに肌寒く感じるような錯覚を覚えるくらいどんよりとしていた。
少し前までは、何も知らない研究員達が愚痴をこぼしたり笑いあったりしながら、研究を勧めていたのだろう。
その温度差が垣根の心にのしかかってくるようだ。
「というか、お前それ何持ってるんだ?」
上条の言葉で垣根は現実へと引き戻される。
「打ち止め素っ裸だったからとりあえず毛布にくるんでやろうと思ってな」
穏やかに、愛おしそうにミサカ00001号から『助けてやってくれ』と直接言われた子供の名前を口にした。
「そっか……白井がいるって事は、テレポートじゃないと行けない場所にいるんだな?」
確かめるように尋ねる。
土御門の言葉は微かだが届いていたようだ。
「賢くなったな、上条」
手がかりなしでそこにたどり着いたと思った垣根は、素直に感心していた。
小さく笑うと、そういうことだからお前は病院に行ってくれと上条に言う。
「芳川に、ついててやってくれよ。一方通行も俺もお前なら安心して芳川やミサカちゃんを任せられる」
当然、上条は頷いてくれると思った。
だが、上条は一方通行に会いに来たのだ。
目的を果たせずに帰るなんて事は決してしない。
「悪い、それは無理だ。俺は一方通行に言いたいことがあるんだ」
だから、ここで待ってる。とその意志を変えることは誰にもできない。
「そうか、じゃあ俺が戻る」
垣根は毛布を白井に渡すと、とぼとぼと歩き始めた。
「上条、一方通行の事……頼んだ」 - 770 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:26:00.74 ID:DxHzalvIO
-
~~~
「一方通行さん、見つけたには見つけたんですが……」
「……なンだ?今更無理とか言うなよ」
垣根と白井が消えてから数分、初春が困ったような声を出した。
「いえ、出来なくはありません……ただ、このPCじゃ無理です」
「は?どういうことだ?」
「目的のは調整データでいいんですよね?それは既に消されています。データの消去っていうのは『データの上に消去したという情報を上書きする』という事な んです。完全に消去って難しいんですよ……それでそれを復元すればいいんですけど……この情報を復元しようとすると何個も連鎖的に色んな物が展開され ちゃってこのPCのスペックではおそらく作業中に落ちてしまいます。持ってきたノートの方とこのパソコンを同期させたんでここじゃなくてもデータの解析は できます。私のパソコンは多分壊れてしまってるので一七七支部へ移動しましょう……この時間なら誰もいませんし、打ち止めちゃんが人の目に触れる心配もあ りません」
「わかった。こいつはとりあえず病院へ連れてく、お前はデータサルベージ出来たら連絡くれ」
- 771 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/02/05(日) 00:26:43.36 ID:DxHzalvIO
-
~~~
「一方通行さんに何をいうつもりですの?」
垣根の姿が見えなくなると白井は上条に声をかけた。
「なんだろうな……逃げるな、かな?それともふざけるな、かも……ただ、俺は一方通行の生き方を認めない」
一方通行と垣根は今は違えてしまったが、同じ道を歩んでいた。
芳川を、ミサカ00001号を、ミサカ00002号をそして、お互いを何があっても守りきるんだと。
「俺、逃げ道のない世界なんて間違ってると思うんだ。俺も外の世界からこの街に逃げ込んだわけだしな……でも、逃げるだけだとダメなんだって最近わかっ た。逃げたあと考えなきゃいけないんだよ……どうすればいいか、どうすれば同じ間違いを犯さないかを……一方通行は何もかも捨てることを選んだんだと思 う……それは逃げただけで終わってる。ミサカを失った悲しみや苦しみにすぐ向き合えないのはしょうがないことだと思う、でも逃げっぱなしじゃダメなんだ。 いつかは向き合わなきゃ……ミサカが可哀想過ぎるだろ?一方通行は何もかも捨てようとしてる、思い出すからあの家で一緒に生活した全てを捨てようとして る、そんなの許せない……月並みな言葉だけどミサカはそんな事望んじゃいねぇと思うんだ」
一方通行は思考停止していると上条は言った。
逃げただけでそれ以上は何もしないと。
そしてそれは間違いだと言った。
逃げ続ければ楽かもしれない、実際上条も今まで不幸にも事故に遭いそうな人を何度も助けてきたが、その人たちからかけられる言葉や感情からは逃げ続けていた。
助けて終わり、自分のやりたいことだっけ終わりにしていた。
でもそれは独善的で傲慢だ。
上条はただ人を助ける機械だったのだ。
大切なものを守る。
一方通行のその目的は変わっていないがその大切なものの心をも捨てようとしている。
それでは、大切なものを自ら傷つけるだけである。 - 772 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/02/05(日) 00:59:22.70 ID:fFra7i41o
-
~~~
「あ、白井さん……垣根さんは?」
白井が地下に戻ると初春はパソコンを閉じ移動する準備を整えていた。
「病院に戻りましたの……一方通行さん、打ち止めさんにこれを」
初春を軽くあしらい一方通行へ毛布を渡す。
受け取ると調整槽を開き、その身体を毛布で巻く。
そのまま胸に抱きかかえると、優しく頭を二度叩いた。
「よし、白井外に送ってくれ」
白井は頷くと二人に触れ、順番に外に飛ばす。
そして最後に自身も移動した。
- 777 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 00:33:58.02 ID:2/ekjtq3o
-
~~~
「……第二位はどこに行った?」
外に移動すると、そこにいるであろうと思っていた存在がいない。
一方通行の中で計算が少々狂った。
「……垣根さんなら貴方の言いつけ通り病院へと戻りましたの」
棘のある言い方で白井は言った。
「チッ……俺の言う事素直に聞く奴じゃねェだろォが」
完全な八つ当たりである。
見ていて不快になるほどの自己中心的な考え。
「それほどに、素直に言う事聞いて"あげなくちゃ"と思わせるほど一方通行さんが哀れになったんじゃありませんの?」
白井の言葉に一方通行は何も答えない。
少し考えたあと、携帯電話を取り出し垣根へと電話をかける。 - 778 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 00:35:56.91 ID:2/ekjtq3o
-
三コールほど鳴らすと、警戒したような垣根の声が電話口から聞こえてきた。
『……誰だ?』
「俺だ、一方通行だ。第二位、お前に頼みたい事があるンだが」
『なんでお前がその携帯持ってんだよ』
「今はンな事どォでもいいだろ……風紀委員の一七七支部へ来い、今すぐだ」
『チッ……第二位、ね……いいぜ?すぐ、行くよ』
要件だけの短い電話。
まるで仕方なく仕事を共にしているだけの関係のようだ。
信頼しあって頼りにしあっていたのが嘘のように見えるほど二人の関係は一方的に断ち切られようとしている。 - 779 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 00:36:23.82 ID:2/ekjtq3o
-
―― これでいいンだ。これで……。
初春に打ち止めを抱かせ、その初春ごと抱える。
もう一方で白井を抱え跳び出そうとすると、上条当麻が怒鳴った。
「一方通行ァアア……お前どういう事だよ」
「うるせーぞ無能力者、クソみてェな三下が俺に偉そうに怒鳴り散らすな」
「人と話す時はちゃんとに顔見ろよ」
一方通行はわざとらしく舌打ちすると、上条へと振り返る。 - 780 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 00:37:07.69 ID:2/ekjtq3o
-
「―― ッ」
その表情を見て上条は言葉を失った。
―― やっぱり……。
「なぁ、お前だけが悲しいわけじゃない。なんで、それに気がつかない?言葉を刃にして垣根に振りかざし、でも、お前の方が傷ついてるじゃねぇか……お前今 どんな顔してるかわかってんのか?いろんな感情ごちゃまぜてでもそれを必死に隠そうとして……ミサカが終わるまで泣かないと決めたはお前らが泣けるように だろ?それなのに必死に自分の気持ちを殺して幻想に駆られて敵でもない通りすがりの誰かといちいち殺しあって……お前は、守ると決めた人を自分の行動で傷 つけてるだけだ」
一方通行は表情を崩さない。
「逃げるなよ!ひとつ大切ななにかを失った、そりゃ辛いさ……わかるとは言わねぇけどさ……そのひとつは、お前に生きていて欲しいから、幸せになって欲し いから、命を張って精一杯やった結果が死だったってだけだろ?それなのに、お前は大切にしている人の、その心からも逃げようとしている……逃げるだけじゃ なくて、考えろ!頭いいんだろ?ちゃんと考えろよ!……もし、考え抜いてそれで、そんな人の心を踏みにじるような道しか選べないというなら、大切なものを 全部投げ出すっていうならお前の心を隠している仮面を……その幻想をブチ殺す!」
「……言いたいことはそんだけか」
一方通行はそれだけ言うと、大きく跳んだ。
上条の前から、無能力者の前から学園都市最強の男、第一位・一方通行は逃げ出した。
- 781 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 00:37:57.63 ID:2/ekjtq3o
- 短いが終わり
- 782 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 03:40:58.40 ID:2/ekjtq3o
-
~~~
「……んで?俺を呼び出したわけは?お前は、一方通行は俺をどう使うんだ?」
多少の嫌味を込め、垣根は自らを駒としてしか見ていない一方通行に微笑みかける。
「……白井と初春を守ってやれ、こいつらは、第三位の大切なものだから」
「……いいぜ、俺の目的とも合致してるしな……お前はこれからどうするんだ?」
「……お前には関係ない」
終始目を合わせぬようにと、一方通行は振舞う。
- 783 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 03:44:31.76 ID:2/ekjtq3o
-
今、最も自分の事をよく理解しているであろう垣根と目を合わせてしまったら、自分が間違っているという事を突きつけられそうだったから。
上条の言っている通り、これがただ思考停止し、逃げ回っている事だと自分で認めてしまいそうだから、一方通行は目を背けた。
第二位からも、逃げ出した。
「そうかい。じゃあ、な」
―― 一方通行、ミサカの大切なものの中にはお前もいるんだぜ?さっきは驚いちまったが、お前があんなこと本気でいうはずないもんな……だって、俺たちは家族な んだから、許してもらえるって分かってるから無茶苦茶やってんだろ?いいさ、間違えたらぶん殴ってでも止めてやる。
垣根はそんな一方通行の不安定すぎる追い詰められた感情を理解しているのだろう、さみしそうに二人は背中を向き合わせ、別々の所へ歩んで行った。
―― 分かってンだよ、そんな事くらい。
上条への、返事を今更心の中でした。 - 784 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 03:45:11.00 ID:2/ekjtq3o
-
~~~
「あくせら……れーた……?」
必死に御坂や00002号と目を合わせぬようにしながら、一方通行は佐天に芳川の手術の終了とカエル先生がどこにいるのかを聞き出した。
そして打ち止めをカエル先生に預け、芳川に携帯電話を返すため病室を訪れた。
カエル先生が言うには麻酔は切れただろうがまだ目を覚ます事はないと言われたからだ。
そして、一方通行が病室へ入り、自分の壊れた携帯電話の横に芳川のものを置いた。
目に焼き付けるように芳川を見つめていると、芳川はぼんやりと目を開けた。
「どこに……いく、の?」
まだ、ちゃんとに覚醒はしていないのだろう。
言葉はおぼつかない。
「また、わたし……のまえ、から……いなくなるの?」
- 785 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/06(月) 03:49:47.29 ID:2/ekjtq3o
-
「―― ッ!」
顔を少しだけ、泣きそうな、媚びるような、そんな切ない表情を芳川は一方通行へと向けた。
一方通行は相当に揺れているのだろう。
半覚醒の芳川にすら心を見透かされた。
―― ックソ……最後だ。これが最後。
一方通行は言い聞かせるように心の中でこれが最後だと何回も唱える。
「いやだよ……もう、ひとり……はいやだ」
一方通行と垣根と芳川、それぞれが引き離された十年間、三人は三人とも一人ぼっちだったのだ。
その事を、つい数ヶ月前までの事を一方通行はひどく懐かしく感じていた。
「……大丈夫だ。垣根もミサカもいるし……俺の、心……は、常に、お前の側に……ある」
震える声で一方通行は芳川に語りかける。
とてつもなく、穏やかな顔で。
そして、芳川の頬をそっと撫でると、眠りにつくように優しく言った。
「***、わたしの、心も……変わらないよ……なまえ……を」
呼んで、言われる気がした。
そして、名前を呼びたいと思った。
愛しく優しく、大切な人のその名前を呼びたいと思った。
「桔梗、もう、いい。あとで聞くから、もう、眠れ……そンで、早く元気になれ……そしたら、ミサカの、墓に……花ァもってって、やろォぜ……みンなでさ」
決して実現させないであろう未来を語る。
その中では死んだミサカ00001号までもが笑顔で、みんな泣きながらも笑顔で花を添えている。
そんな光景が思い浮かぶ。
だが、それは決して叶わない。
今のままでは。 - 786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 18:37:02.46 ID:YhEsJaC00
- 乙
芳川さんセツナス(ノД`)
- 787 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/07(火) 02:07:02.90 ID:jnvXH1+wo
- --訂正--
「―― ッ!」
顔を少しだけ、泣きそうな、媚びるような、そんな切ない表情に変え、芳川は一方通行へと向けた。
一方通行は相当に揺れているのだろう。
半覚醒の芳川にすら心を見透かされた。
―― ックソ……最後だ。これが最後。
一方通行は言い聞かせるように心の中でこれが最後だと何回も唱える。
「いやだよ……もう、ひとり……はいやだ」
一方通行と垣根と芳川、それぞれが引き離された十年間、三人は三人とも一人ぼっちだったのだ。
その事を、つい数ヶ月前までの当たり前のような地獄を一方通行はひどく懐かしく感じていた。
「……大丈夫だ。垣根もミサカもいるし……俺の、心……は、常に、お前の側に……ある」
震える声で一方通行は芳川に語りかける。
とてつもなく、穏やかな顔で。
そして、芳川の頬をそっと撫でると、眠りにつくように優しく言った。
「***、わたしの、心も……変わらないよ……なまえ……を」
呼んで、と言われる気がした。
そして、呼びたいと思った。
愛しく優しく、大切な人のその名前を呼びたいと思った。
「桔梗、もう、いい。あとで聞くから、もう、眠れ……そンで、早く元気になれ……そしたら、ミサカの、墓に……花ァもってって、やろォぜ……みンなでさ」
決して実現しないであろう未来を語る。
その中では死んだミサカ00001号までもが笑顔で、みんな泣きながらも笑顔で花を添えている。
そんな光景が思い浮かぶ。
だが、それは決して叶わない。
今のままでは。 - 788 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/08(水) 00:15:04.94 ID:rRG/dAsSo
-
~~~
芳川の病室から静かに出ると、そこにはミサカ00002号が立っていた。
「打ち止めは?」
「問題ねェよ、お前は自分の事だけ気に―― 」
「そんな事出来るわけないだろッ!」
「キャンキャン騒ぐな、ここァ病院だぞ」
そっぽを向いたまま鬱陶しそうにいう。
「俺はお前を拒絶する」という意思をしっかりと見せつけるように。
「そうやって一生ミサカ達から顔を背けて生きるの?そんなの00001号が望んでると思ってるの?そんなんで芳川博士を守れると思ってるの?」
一方通行は答えない。
「ねぇ、どうしちゃったの?怒るなら分かる、泣くならわかる、だけど絶望するのはわからない……まだミサカも垣根さんも芳川博士も一方通行だって、生きている。ミサカ00001号はミサカ達を守ってくれたんだよ?それなのに、絶望して俯くなんて間違ってるよ」
目を合わせようとしない一方通行の肩をつかもうとし、弾かれる。
「……ねぇ……」
行き場を失った細い腕はそのままだらんと垂れ下がった。
「もう、歩き始めちまったから……この道は、一方通行なンだよ……」
だから、もう引き返して手をとる事は出来ない。
分かれ道で一方通行は垣根とは違う道を、一人ぼっちの道を選んだのだから。
- 789 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/08(水) 00:15:41.18 ID:rRG/dAsSo
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~~~
病院の裏側、そこで七十人の妹達が命令解除後のショックから目を覚ましはじめていた。
「どうやら、ミサ……カ達は、自由の身に……なったそう、ですよ。と、ミサカ00132号は、ミサカ達を起こし、ながら、つぶやき、ます」
「なん、だか、最低の、夢を……見ていた……気分です。と、ミサカ00144号は、現実、逃避します」
「調整、やってもらわないと、死にますね、身体が重いです。とミサカ00121号は……」
「ミ……サカ達は、人を……傷つけすぎ、ました。ミサカ00001号を、射殺したミサカは……このミサカです。もう、みんなで……ここで、死んでしまいま、せんか?と、ミサカ、は……提案し、てみま……す」
「それは、ダメ、です。ミサカ00001号の……気持ちは、ミサカ00162号の、なか、にも……残って、いるで、しょう?と、ミサカ00138号は、死に、たいなどと、00001号に……失礼、な事をい……う00162号を、叱ります」 - 790 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/08(水) 00:16:18.95 ID:rRG/dAsSo
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命令から解放され、脳のリミッターが正常になったミサカ達は、意識を保つのが精一杯なほどボロボロであった。
00100号までのミサカは命令解除がされない、それゆえネットワークをつかってしまうと天井側のミサカからミサカ達がすでに助かっているという情報を与えかねない。
だから、彼女らは己の口で会話をしていた。
「と、り、あえず……比較的動けるこの、ミサカ00112号が、病院に居るであろう、一方通行、垣根帝督、お姉さまのいずれかに、助けを求めて……みます……」
「ですが……襲撃者で、ある……ミサカ達を…助けてなど、は……くれない……の、で……は……あ、り……ま……」
そのまま気を失った。
息は止まり、開いたままの左目からは涙が一筋頬をつたった。
天井の作戦による急激な運動。
その後の急激な脳内の変化にこの個体は耐えられなかったようだ。 - 791 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/08(水) 00:16:51.43 ID:rRG/dAsSo
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ミサカ00116号、妹達二人目の犠牲者である。
フラフラと立ち上がった00112号はミサカ00116号の目を閉じさせ、病院へと向かった。
助けてくれなんて言ってはいけないのかもしれない。
その場で殺されるかもしれない。
そんな思いを胸に抱きながら、妹達七十人の命のために、恥知らずになろうと00112号は病院を目指した。 - 792 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/08(水) 00:18:38.35 ID:rRG/dAsSo
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同じ頃病院の左右でも、六十五人ずつの妹達が目覚めていた。
同じように一番動けるミサカが病院を目指し、とぼとぼと歩いている。
右側ではミサカ00178号が、左側ではミサカ00265号が、息絶えた。
一方通行達がもしも妹達を見捨てたのならば、バレては困る学園側が病院の周りに転がる二百人の妹達を秘密裏に処理したであろう。
もし手を差し伸べてくれても、全員が病院へ搬送される前に、何人かは息絶えるだろう。
垣根に初春達を任せ、自ら打ち止めを病院へと連れて来た一方通行はその光景を見てどうなってしまうのであろうか。
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次回へ続く
また読んでください - 801 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:38:26.83 ID:DwwgtETOo
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「あ、どうも……とミサカ00112号は挨拶します」
「どうも……しかし不思議な感覚ですね、とミサカ00215号は生まれてからずっと一緒にいるはずなのに、はじめて他の個体と言葉を交わすことにくすぐったさを感じます」
「ミサカ00296号もいますよ。とミサカは存在をアピールしてみます」
三人のミサカは歩いているうちに身体のリズムをとることが出来たのか、言葉も意識も先ほどより随分はっきりとしていた。
ネットワークを介さない会話。
それにお互い戸惑う。
相手がなにを思っているのか全く読めない事に少なからずの恐怖を覚える。 - 802 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:40:36.26 ID:DwwgtETOo
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「……こちらは、ミサカ00116号が00001号の元へ逝きました。とミサカは報告します」
「そうですか、こちらは00178号が……とミサカも報告します」
「こちらは00265号が逝きました。とミサカはお二人に続きます」
死んだ。
そう直接言わなかったのは何故だろう。
確認したのだ、確かに死んでいた。
息は止まり何時間も前から死んでいるかのようにその身体は体温すらほぼ失っていた。
まるで、無理矢理死んだ身体を動かしていたかのようにすでに冷たくなっていたのだ。
なのに、まだどこかで死んだと認めたくない心がある。
過剰なストレスは妹達に「嫌悪感」に近い感情を覚えさせたのかもしれない。
もしかしたら、そんな可能性は万が一もありはしないのに、認めたくなかったのだ。
生まれてから今までずっと一緒だった自分を喪った事を……。
「とりあえず、行きましょう。ミサカ00112号はこの中では一番お姉さんなので仕切ります」
その言葉に二人は少しだけ表情を柔らかくし頷いた。
そして、三人は顔を見合わせ病院の中へと足を踏み入れた。
- 803 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:41:22.42 ID:DwwgtETOo
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靴底をコツコツ鳴らしながら一方通行は病院の受け付けへと向かって歩いていた。
人払いの魔術がなくとももう自然と病院の受け付けには、人がいなくなる時間帯へとなっている。
上の階では入院患者たちの消灯時間もそろそろだろうか。
襲撃を受けてからそれなりに時間がたっていた。
そこでは佐天涙子が船を漕ぎ、御坂美琴は両手の間に電気をパチパチと走らせながら、何かを考え込んでいる。
―― あ?インデックスのやつはどこに行った?
居るであろうはずのもう一人を一方通行は探す。
「あくせられーた」
悲しそうな声を、インデックスは出す。
全てを知っているかのような表情をその小さな修道女見習いはしていた。 - 804 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:42:46.83 ID:DwwgtETOo
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「あンまりふらつくな、あと外には絶対でるなよ……お前になンかあると上条が泣くぞ」
「私たちはもうどこで死のうがどうやって生きながらえようが……関係ないんじゃないの?」
「……関係はねェさ、そうだな、関係、ねェわ……」
「よかった。あくせられーたはまだ、私たちの声が、手が、届く所にいるんだね。
だったら大丈夫、とうまとわたしと、ていとくとききょうにみさかとみこと……みんなあなたを諦めないから……また―― 笑えるよ」
そう、予言を残した。
大丈夫、あなたはまたみんなと笑いあえる。
だって、あなたは完全に関係を断ち切ることなんか出来ないから。
すべてを見透かすように、インデックスはそういった。 - 805 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:46:02.54 ID:DwwgtETOo
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この少女の人を見る目は、一方通行も評価している。
だから、その通りになってしまうのかもしれないと思った。
自ら切り断とうとして、垣根とミサカ00002号に見たこともないような、悲愴な顔をさせてしまった。
―― それなのに、情けなく俺はあいつらの下へ戻っちまうのか?
「いや、絶対ェにそうはならねェよ」
情けなくたっていいからそうなりたい、と思っても無理なのだ。
一方通行はすでに諦めてしまっているのだから。
もう一度前を見て、左右を見て、上を見上げるまでは、抜け出せない。
一方通行の選んだ道は決して一方通行ではない。
出口も入り口もない。
ただ、全てが繋がったサークルだ。
前も後ろもありはしない。
歩いたら疲れるだけの道だ。
そしてそこに入り込んだのではない、道を踏み外し、落ちてしまったに過ぎない。
だから、自身の能力でいつものように跳べばいいのだ。
それが出来ないならば、誰かに引っ張りあげてもらえばいいのだ。
上を見れば、親友をはじめ、幾人かの手が必死に伸びている。
ただ、一方通行は上を見上げればいいだけなのだ。
うつむいていても、なにも見えないのだから。 - 806 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:47:23.04 ID:DwwgtETOo
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インデックスは一方通行に挑戦するかのように笑うと、コックリコックリしている佐天の横に座り、そっと自分の方に引き寄せた。
そして、佐天はそのままインデックスにもたれるように眠り出してしまう。
ミサカ00002号もとぼとぼと受け付けに歩いて来ていた。
そして、何気なく顔をあげ、あ、と短くつぶやいた。
「妹達……?」
三人の妹達も00002号が気づいた事に気づき、中に入って来た。
そして入ってくるなり三人は床に膝をつき頭を下げ、いわゆる土下座をした。
「ご迷惑をおかけしてこんなこと言える立場では、ありませんが……ミサカ00101号からミサカ00300号、合計二百名の妹達を……助けてはくれませんか?とミサカ00112号は頭を下げます」 - 807 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:48:08.85 ID:DwwgtETOo
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「お願いします。せめて死にそうな個体だけでも最後くらいは温かいベッドの上で逝かせてやってください。とミサカ00215号も頭を下げます」
「そして、一言皆様に謝る機会をください。とミサカ00296号も頭を下げます」
三人に静かに歩み寄る御坂、ミサカ00002号、そして一方通行。
三人が妹達のすぐ前に立つと、妹達は少し怯えるように肩を震わせた。
「顔ォ上げろ」
「顔をあげなさい」
「顔をあげて」
三人は抑揚のない声で顔をあげるように命じる。
00112号がちょっとあげると、ほかの二人もそれに倣うように少しだけ顔をあげた。
三人は無言でもっとちゃんとに顔を見せろと、圧力をかける。 - 808 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:49:29.83 ID:DwwgtETOo
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機械のようにギギギっと土下座から正座まで身体を起こすが、まだ、うつむいたままだ。
「オイ……顔、を、あ、げ、ろ」
一方通行が言うと、ゆっくりと三人とも顔を目の前に立つ三人へと向ける。
泣きそうな怯えるような、捨てられた子犬が拾ってもらいたいけれど、人間が怖いとでもいうような複雑な表情をしていた。
妹達はミサカ00001号、00002号と同じ程度の身体年齢だ。
それなのに妹達は00001号、00002号よりあきらかに細い。
頬もげっそりと痩けている。
「あんた達……」
御坂は、なにを言っていいかわからなくなり、三人を乱暴に抱き寄せた。
「あんた達、辛かったでしょ?苦しかったでしょ?
でも、もう、大丈夫……私たちが、助けてあげる……専門的な事は、全部先生や芳川さんに頼りきりになるけど……。
私もできる限りのことをするから、そんな……そんな怯えた顔をしなくて、いいのよ」
ぞんざいに造られ、初めて外へ出されたら同じ妹達の一人を他人の意思で無理矢理殺害させられる。
解放されても、人に頼らねば生きてはいけない身体。
なにも悪いことなどしてはいない。
それなのに、ひどく怯え会うなり土下座をした妹達に御坂は言い表せぬ感情に支配された。
「お、姉さまと、呼んでも……?とミサカは尋ねてみ、ます……」
「当たり前よ……他の子達はどこにいるの?」
御坂が妹達から身体を離すと、今度は一方通行がかくんと力が抜けたように、崩れた。 - 809 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/10(金) 04:53:26.18 ID:DwwgtETOo
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「ど、どうしたの?どっか痛むの?ねぇ?一方通行?」
必死に隣にいたミサカ00002号が支える。
「お前ら、助かったのか?本当に?」
「はい、死んだミサカも既に三体いますが……このミサカ達は、あと一、二日ならば調整なくとも死ぬことはおそらくありません。とミサカは答えます」
「三人……死ン、だ……?そォか……やっぱ、俺に全ては助けらンねェのか……。
でも、良かったなァ、お前ら、助かって……良かったなァ」
一番近くにいたミサカ00296号を抱きしめる。
「ミサカ達も痩せすぎだってのに、それよりガリガリじゃねェか……。
飯もちゃンと食わしてやる、住むとこも、なにも心配するな、大丈夫だから」
「ミサカ、達は……00001号を、殺したのですよ?」
「そうです、よ?大切な思い出の詰まった家を爆破したり、銃を突きつけたり……したんですよ?」
「そんな、ミサカ達が……そんな―― 」
「いいんだよ。ミサカが言えた義理じゃないけど、いいんだよ。
ミサカ達はお姉さまと同じ血の流れる家族だもん、そして一方通行も、垣根さんも、芳川さんも……。
血なんかよりももっと深いところで繋がっている。家族は、助け合うんだよ」
「それに、私達だって御坂さんの親友です。御坂さんの妹さん?でいいんだよね?
だったら、貴方だって私達の親友だよ、友達も助け合って生きていくんだよ……誰も一人でなんて生きれないし、誰も一人になんてなりたくはないんだから……」
いつの間にか起きたのか、佐天は御坂の両肩にそっと手を起き妹達に笑いかける。
インデックスはなにも言わずその光景を眺めていた。
そしてその目は一方通行に焦点を当てている。
―― るいこの言う通りだよ、あくせられーた。
誰も一人になんかなりたくないんだよ。貴方もそうでしょう?
傷つくというのは、一人で生きていない証だ。
たくさんの人と関わるから、人は傷つき、強くなる。
初めから誰もいなかったら、傷つく事もない。
ただ、寂しいだけだ。
でも、それは傷つく事より苦しくて、辛い。
孤独は人をゆっくりと殺すのだ。
―― 俺は……もォ、わからねェ。
なにが正しくてなにが間違ってるのか。芳川の声が聞きてェ、垣根と話がしてェ、ミサカとふざけあいてェ……でも……。
いや、考えるな。まずは妹達を全員病院に運ぶ。
「佐天、カエルにありったけのベッド用意するようにいえ、そンで準備の手伝いしてくれ、頼む。
超電磁砲は俺と来い、ミサカは調整槽使えるように準備しとけ……いくぞ、超電磁砲」
そういうと、一方通行はさっさと立ち上がり、外へと向かっていった。 - 822 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:49:22.61 ID:/1Nh7+6to
-
~~~
佐天、ミサカ00002号に指示を出すと、一方通行は外へと飛び出した。
まずは病院の裏手へと回る。
「……どうして私を連れてきたの?」
黙って歩く一方通行に御坂は聞く。
「お前なら俺が妹達運んでるあいだに天井が仕掛けてきても死ぬ事はねェだろ」
「……」
御坂は一方通行の答えになにも答えない。
「全部で二百か……白井はこっちに連れてくりゃ良かったな」
何かを思い出さぬようにと、独り言をつぶやく。
「今のアンタなら私でも勝てそうね」
一方通行に聞こえぬよう、御坂もつぶやいた。
- 823 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:50:41.09 ID:/1Nh7+6to
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~~~
「……居たぞ」
一方通行は倒れる妹達を発見、駆け寄った。
「……オイ、助けに来たぞ」
一人のミサカに近づき、声をかける。
目を少しだけ開いたそのミサカは、唇をかすかに動かし何かを言おうとする。
だが、それを言う前に力尽きた。
「え……?おい、おい?」
「大丈夫よ、死んでない……触ってんだから分かるでしょ?落ち着きなさいよ……」
一方通行の頭を軽くはたくと御坂は妹達の方へと視線を上げた。
「みんな、あんた達のお姉様が助けにきてやったわよ。
動ける子はこっちきて、優先的に調整しなきゃまずい子を私たちに教えて頂戴。
すでに死んでしまった子は……後で花を添えてあげましょう。
今やっとでも辛うじてでも生きてる子は大丈夫よ……安心しなさい。私たちが助けてあげるから」 - 824 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:51:12.59 ID:/1Nh7+6to
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~~~
「おい、垣根か?悪りぃあの野郎俺から逃げやがった!学園都市の最強が底辺の俺から……逃げるってなんだよ!
確かに俺はあいつがいくら能力使ってようが殴れる右手を持ってるさ!けどよ―― 」
『落ち着け、上条。とりあえずお前は病院行くか一七七支部へ来い。
さっきはスルーしてたがよく考えりゃお前今襲われたら死ぬぞ?』
「……わるい、分かった……病院の方にいくよ」
上条は、携帯を閉じると、走り出した。
- 825 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:52:56.77 ID:/1Nh7+6to
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~~~
暗闇の中で一方通行は妹達一人一人に声をかけ続けながら病院へと一人一人運んでいた。
最初は調整槽のある部屋まで行っていたが、十人目くらいになると、佐天とベッドメイクをしていたインデックスが簡易ベッドを入り口に用意し、待っていた。
「ベッドに寝かせてくれたらあとは私が運ぶから」
それだけいうと、インデックスは一方通行から顔をそらした。
「……頼ンだ」
一方通行はその上に優しく妹達の一人を寝かせると、そう言い残し、自動ドアをくぐった。
―― 頭が痛ェ……。
原因は分かっている。
怖いのだ。
死んだ妹達を見るのが、何よりも怖いのだ。
だから、妹達の下へ行くのを、脳が拒否している。
死から逃げようと、このまま妹達の死を見たらお前は壊れるぞ、と脳がクラクションを鳴らし続けているのだ。 - 826 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/02/16(木) 20:55:23.88 ID:/1Nh7+6to
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―― ダメだ。救える命のが多いンだから……ダメだ。
必死に逃げ出しそうになる思考を追い払う。
『もって半年』
打ち止めの台詞が頭をよぎる。
―― 半年……助けても、死ぬ……だったら、逃げても、いい、ンじゃ、ねェ、か……?
歩みを止めた。
うつむき、アスファルトをじっと凝視する。
―― 逃げても……。
『逃げるなよ!』
上条の真剣な声が、頭に響く。
「逃げるなよ」
今度は現実味を持った確かな声が耳に響いた。
顔をあげるとそこには上条……ではなく、垣根帝督が立っていた。
「上条がさ、病院に行くって言っておきながら風紀委員の支部にきてさ……『やっぱり、一方通行を救えるのはお前だけだ』って、芳川でもミサカ達でもなく、俺だけだって言ってさ……。
そんで、目が覚めた。お前にいくら拒絶されても、俺がお前を諦めちゃいけねぇんだよな……俺達は、同志を超えた家族だから」
にっこりと笑うと、行こうぜ、と妹達のいる場所を指差す。
この瞬間、一方通行を諦めるという選択肢を完全に排除したこの瞬間、垣根帝督は、ミサカ00001号の死から完全に復活したのかもしれない……。 - 827 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:55:50.87 ID:/1Nh7+6to
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~~~
全ての妹達を病院へ運び込み終わると、狙ったかのようなタイミングで、垣根の携帯が鳴り響いた。
「ん、そうか。分かった……」
「初春さんから?」
「あぁ、迎えに行ってくるわ……一方通行、準備しとけ……多分、打ち止めちゃんを助けたら天井は仕掛けてくるぞ」
一方通行は調整槽に急いでいれる必要のないミサカ達の頭を一人一人触り歩いていた足を一瞬止めた。
そして、目を閉じ、何かを心の中でつぶやく。
目を開くとまた、同じように歩きはじめた。 - 828 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:56:23.02 ID:/1Nh7+6to
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「は?暗部?暗部が俺の身柄を……?ふ、ふふふふ、ははははははは!
オーケィオーケィ、この程度ならば拘束命令じゃなくて殺害命令がでると思ってたが……なるほど……そうかそうか」
情報屋からの電話を切ると、天井は狂ったように笑い始めた。
「よし、二時間後、病院襲撃だぁ……暗部なんかに捕まってゴーモンされるのは嫌だからなぁ……さっさと芳川とお前らをクソッタレ第一位の目の前でぶち殺して俺も死ぬとするぞ……ヒャハ」
学園都市が天井を「拘束」としたのは恐らく命令を受け付けない妹達を作り上げたからだろう。
ミサカネットワーク、上位個体命令は大変に便利なものだが、今回のように打ち止めを握られてしまえば命令は解除されてしまう。
それでは兵隊として不安が残るし、打ち止め護衛のためにも人員を割かねばならない。
だが、天井の作り出した命令を受け付けない改造を施してやれば、それがクリア出来る。
そうなれば学園都市は最強の軍隊を持てるという結論に上層部は至ったのだろう。
- 829 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/16(木) 20:56:48.16 ID:/1Nh7+6to
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「あー?依頼?……チッめんどくせぇ……はいはいわかりましたよ死ね」
乱暴に電話を切ると、暗部組織アイテムのリーダー麦野沈利は同じアイテムの人間、絹旗最愛に電話をかけた。
「依頼だ。第七学区のアジトに集合よ」
『こんな時間からですかぁ?私、超眠いんですけど……内容は超なんですか?』
「天井亜雄って男の拘束、生きてれば腕の一本二本なくてもいいらしいから鬱憤はそいつにぶつけなさい」
『……超了解です』
電話を終えると、麦野は大きくため息をつく。
寝巻きを脱ぎ捨てジーンズと七分袖のシャツをきた。
携帯と札を数枚財布から抜き取りジーンズのポケットに突っ込むと部屋の鍵を手に取り、フレンダへとコールしながら玄関へと向かった。
「あ、フレンダか?依頼だ。第七学区のアジトへ来い」
『りょうかーい』
テレビの音が微かに聞こえていた。
前に自分の部屋にはテレビを置いていないと言っていたのでアジトに既に居たのだろうと、そんな適当な事を考えていた。
「滝壺は……呼ばなくていっか」
麦野はサンダルを履き、家を出た。
- 834 :ここの天井はてんじょうです。一応 ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:31:18.30 ID:IFdmce0IO
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初春から渡されたデータを元に、打ち止めの脳内を、正常な物へと構築して行く。
―― 消去、消去……消去……。
はたから見たら打ち止めの頭を撫でているようにしか見えないが、その顔は真剣で、額に汗も浮かんでいる。
打ち止めの顔色も、苦しそうなものから段々と穏やかなものに変わってきた。
呼吸も落ち着き、静かな物へとなっていく。
―― よし、これで……完了……だ。
一方通行は小さく吐息を漏らす。
ぐしゃぐしゃと打ち止めの頭を撫で回した後、優しく頬に手を添えた。
「誰でもいい、打ち止めについてろ」
その様子を見守っていた五人にそう、言葉を投げかけると部屋を出た。
「チッ」
扉をしめるのと同時に、そこにへたり込む。
―― やっべェ……頭が痛ェ……。
今度の頭痛は、能力の使いすぎによる単純な疲労からだ。
―― 反射、は大丈夫。無意識でも出来るからな……でも、いま天井が来たら……殺されっかもしンねェな。
喉の奥を震わせるように、小さく笑うと髪をかきあげ、天井を見上げる。
ぼんやりと、ある一点を見つめているとそこに見覚えのある顔が浮かんできた。 - 835 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:32:08.63 ID:IFdmce0IO
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『一方通行、何故、このミサカたちは助けてくれなかったのですか?とミサカ00116号は―― 』
「あ、ああ……お前は……さっき、あそこにいた?」
『何故ですか?とミサカ00265号も―― 』
「……ご、めン」
『何故ですか?とミサカ―― 』
「ご、めンなさい……ごめン、なさい」
『何故ですか?』『何故ですか?』
「ごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさい」
『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』
「ごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさい」
『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』『何故ですか?』
「ごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさいごめンなさい」
『何故ですか?とミサカ00001号は―― 』
「うあ……ご、めン……ほんとうに、たすけらンなくて……ごめン」
病院の薬の匂いと真っ白な景色につつまれた廊下で、一方通行は一人、倒れた。
- 836 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:33:25.32 ID:IFdmce0IO
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「―― い!だ―― ぶか?アク―― ?おい!」
―― だれだ?……かきね?
「ちょ―― れか!ベッ―― いして!」
―― あー?くそっ……目が、あたまが、はっきりしねェ……なンだっけ?なにしよォとしてンだっけ?
……そうだ、芳川だ。よしかわを、まもンなきゃなンねェのに……。
- 837 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:33:58.22 ID:IFdmce0IO
-
~~~
「一方通行は?」
「なんか顔青白くしてごめんとかずっと呟いてる」
「そっか……垣根さんは、大丈夫?」
「……あぁ、ミサカちゃんがしっかりしててくれたから……俺は真っ直ぐ歩けてる」
「いいんだよ、家族なんだから……」
―― ミサカ“ちゃん”ね……。
- 838 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:34:27.44 ID:IFdmce0IO
-
~~~
「上条さんはなぜ病院にいかれなかったんですの?」
パソコンのディスプレイの光と防犯用のオレンジ色の電灯だけが光る薄暗い室内で、三人はお茶を飲んでいた。
垣根は初春からデータを受け取ると三人とも病院へと運ぼうとしたが、それを三人は辞退し、ここに残ることを選んだ。
「そんなの、そのほうがいいと思ったからだよ」
「それは、なぜ?」
「なぜって……多分出来ない事より、出来る事を選んだんだと思う。
俺に一方通行は救えない。出来るなら俺は全ての人を俺の手で救いたいけど……多分救えたとしてもその過程で俺も一方通行もいらない傷を負うと思ったんだ」
上条は、お茶を一口飲むと湯のみを机の上に起きながら、話を続けた。 - 839 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:35:00.53 ID:IFdmce0IO
-
「垣根なら俺よりうまくあいつを救う。
それが……俺以外の人が人を救うのを今まで俺は許せなかったんだけどさ。
最近の俺はそれを素直に受け入れることが出来るようになった。それだけさ」
そして、柔らかに微笑んだ。
「……申し訳ございません」
そんな上条に白井は何故か謝った。
「なにがだよ?」
「私、上条さんを見誤っていたようですの」
「……いや、俺が変われたのは最近だから、多分白井の評価は正しかったんだと思うよ」
上条はまた、笑う。
三人の間に奇妙な、だが心地よい時間が流れた。
「……これからどうなるんでしょうね」
初春が唐突に口を開いた。
「大丈夫だよ、一方通行も垣根も、御坂も……みんな大丈夫。
そして、あいつらが大丈夫なら、俺たちも君達も大丈夫だよ」
大丈夫だ。
それを繰り返すだけだが、初春はそれに随分励まされた。 - 840 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:35:40.51 ID:IFdmce0IO
-
~~~
『これ、夢か?
……ああ、夢だ。ミサカがいるし、芳川もピンピンしてらァ。
垣根と、ミサカと……あれ?
俺がいねェ……当たり前か、俺はここにいるンだし。
でも、あれ?誰も、俺に気づいてない?
……。
………。
…………あ、そうか、俺は―― あいつらとはもう、関係ないのか。
ハッ、楽しそうにしやがって……でも、安心した。
俺なンかいなくてもあいつらは成り立つって分かったから。
これで、安心して……俺は消えることができる』
一方通行は、ガラスを一枚隔てたところから、四人の事を眺めている。
そこには視点しか存在せず、一方通行は前後左右上下から彼らをみわたしていた。 - 841 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:36:28.14 ID:IFdmce0IO
-
『はは、楽しそうに笑いやがって……。
でも、なンか仮面でも被ってるみてェだな』
微笑みを浮かべたまま表情を固める四人に恐怖に似た違和感を覚える。
『……本当は、笑ってねェ…のか?』
そう、口にした瞬間―― 声など本当は出ていないのだが、一方通行は独り言を呟いている感覚だ―― 四人の表情は一気に曇った。
『あ、ああ……ああああああああああああッ』
その表情を見た瞬間、存在しないはずの身体が引き裂かれるような痛みが一方通行を襲った。
『ダメだダメだダメだ!お前らは、笑ってなきゃダメなンだ!
俺なンかがいなくたって、お前らは笑えるンだ!
俺は、お前らが笑える未来を作りたくて、お前らを捨てたンだ!
だから、お前らは笑ってなきゃいけねェンだァよォオオオオ!』
支離滅裂で訳のわからない勝手な理屈を駄々っ子のように並べ立てる。
『笑えよッ!俺に笑顔を見せてくれよッッ!そうすれば、俺は一人でも大丈夫だから……』
垣根、ミサカの顔には諦めたような笑顔が浮かぶ。
それでも、一方通行は良かった。
少しでも、無理をしてでも笑ってくれるならば一方通行は大丈夫だった。
『だから、笑っていてくれよ、芳川……』
だが、一番笑っていて欲しい人物の表情は、他の三人の悲しみをも背負ったようにどんどん悲痛にゆがんでいく。
そして、最も見たくない物が、その両方の瞳からこぼれ落ちた。 - 842 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/18(土) 14:37:00.17 ID:IFdmce0IO
-
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
そこで、一方通行は目を覚ます。
ゼーゼーと息を切らし、汗をびっしょりとかいていた。
「夢……そォだ、夢だ。夢ン中でも、夢だと気づいただろォが……クソッ……夢だ。夢だ。芳川は大丈夫、垣根もミサカもいるから……俺なンかいなくても、大丈夫……」
まるで自身を催眠術にかけるかのように大丈夫とつぶやく。
頭を抱え上体を起こす、次にベットの上で体育座りのような体制になり、膝に頭をつける。
機械音に気づき、何気なく横を見て大きくしたうちをした。
「あのカエル……いや、垣根か?どっちにしろなんでこんなとこに……」
一方通行が寝ていた場所、それは芳川の病室であった。
一人部屋の室内に、簡易ベッドが運び込まれていて、一方通行はその上で寝ていた。
「……芳川」
- 847 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:42:02.12 ID:OjH8ZMW6o
- ~~~
一方通行が目を覚ました頃、打ち止めも一度だけ目を覚ました。
そして、天井亜雄、暗部組織アイテムも行動しはじめる。
日付もちょうど変わった午前零時、夏休み最後の日だ。
暑さもやや落ち着き、夜になると涼しい風が気持ちがいい時季に差し掛かった、この日、全てが終わる。
「さて、行くぞ」
天井のその声で、ミサカ00003号からミサカ00100号までの九十八人のミサカ妹達は病院へと銃を向け、引き金を思い切りひいた。
「芳川はどっこかなぁー?暗部のクソッタレが来る前に芳川殺してミサカ共殺して自分も殺さなきゃなんねぇからなぁ……いっそがしいねぇ」
ニタニタと楽しそうに笑いながら天井は病院内へと歩いて行く。 - 848 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:44:05.67 ID:OjH8ZMW6o
-
~~~
銃撃音とガラスが弾ける音が病院内へととどろく。
垣根はミサカ00002号の顔を見ると、行くぞ、と目で語りかけた。
ミサカ00002号も頷くと二人はインデックス、佐天涙子、カエル先生にここから何があっても出ないようにと言い残し部屋を出た。
「芳川のとこには一方通行をぶち込んどいたからまぁ、大丈夫だろ」
「うん、打ち止めと妹達のところにはお姉さまがいるからそっちも大丈夫。妹達も00112号と00215号、00296号は侵入を防ぐくらいには動けるって言ってたし」
かつかつと静かな廊下を二人は歩く。
そして、受け付けで銃を構えた妹達の前へと、堂々姿を見せた。
「悪いな、お前達は今すぐ助けるって事が出来ねぇらしい。多少手荒に―― 」
垣根の言葉が終わるのを待たず、二人の姿を確認すると、妹達は一斉に引き金を引いた。
「ここにいるのは全員じゃねぇのか……チッ、天井の野郎は一方通行のとこに行かせたくなかったんだがな」
翼を大きく広げながら、垣根は銃撃などなかったかのように言葉を漏らす。
「……あれ?ミサカってもしかしてここにいらなくない?お姉さまの所にいたほうがよくない?」
「……駄目だ、お前は俺の手の届くところにいてくれ。一人になりたくねぇんだよ」
「……分かった。銃をなんとかしてくれたらミサカも自由に動けるからさ、そうなるまではミサカを守ってね」
真っ白な翼の中、ミサカ00002号は笑いながらそう言った。 - 849 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:45:23.46 ID:OjH8ZMW6o
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~~~
「フーンフッフーン……おい、撃て」
ご機嫌に鼻歌を歌いながら天井は数十人の妹達を引き連れ病室のドアをひとつずつ撃ち抜く事を命令する。
妹達はそれに黙って従い、破壊する。
妹達の持つ銃はいつものサブマシンガンではなくショットガンである。
蝶番を破壊し、ドアを中へと蹴り抜く。
「ここもハズレか……冥土帰しが一般人も沢山いるフロアへ芳川を置くとも考えられねぇからなぁ……」
言いながら、最後の扉を見つめた。
「よし、撃て」
ダダっと、音が鳴り響くと妹達が蹴り開ける前にドアがゆっくりと部屋の外側へと倒れてきた。
部屋の中には横たわる芳川と、そのベッドに腰掛ける一方通行。
どこまでも白く美しい肌と穏やかに揺れる真紅の双眼は暗闇の中で怪しい存在感を醸し出している。 - 850 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:46:33.81 ID:OjH8ZMW6o
-
「よぉ、一方通行……ご機嫌いかがかなぁ? 」
「……最高だよ、これからお前のそのにやけヅラが苦痛と恐怖に変わる瞬間を想像すっとよォ……勃っちまいそうになるぜェ、天井クゥウウン」
「そいつは何よりだよ、俺も芳川が目の前で死ぬのをお前に見せた時の事考えると鳥肌立つほど震える……ぜぇえええ!」
天井は隠し持っていた手榴弾を投げつけた。が、天井が動いたのと同時に一方通行も先程まで自分が寝ていたベッドを天井へと蹴りつける。
手榴弾はそのベッドにあたり、弾けた。
それはベッドを半分ほど吹き飛ばす程度の威力しか持ってはいない。破壊されたベッドの破片は部屋中に飛び散る。
一方通行は自分に向かってきたものをはじき返すが、クレー射撃をやるかのようにそれは天井に届く前に妹達によって撃ち落とされた。
「不意打ちたァセコイ真似すンじゃねェか」
「化け物相手に正々堂々もねぇだろ。バケモンは退治されるのがお決まり、ってなぁ」
「ハッ、俺がバケモンだとォ?お前の方がよほどバケモンだっつーの……。
クローンを、命を簡単に、使い捨てるために生み出すなンて……狂ってやがるぜェ?」 - 851 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:48:54.90 ID:OjH8ZMW6o
-
一方通行の言葉に天井は黙った。
数秒の間、室内は無音が支配した。
その無音に水をさすように、フン、と鼻で笑うと禍々しく口角をあげ、べっとりと耳にこびりつくような声を天井は出した。
「使い捨て……ねぇ……。
それは、つまり……こういう事かぁ?」
破裂音が部屋に鳴り響く。
なにが起きたのか、次の情報は視界から入ってきた。
自分の瞳の色と同じものが広がる。
それは、周りにいた他の個体にも降り注ぎ、どこか幻想的な光景を形づくった。
そして、膝から崩れる一人の少女。
どさりと最初と同じように聴覚でなにが起きたかを判断する。
「は?」
理解した瞬間、一方通行の世界から音と光が消えた。
バカ笑いしているであろう天井の声も、床に広がる真っ赤な血液も、なにも聞こえないし見えない。
「―― ?」
自分の声すらも……聞こえない。
「―――― ?」
何も、聞こえない。
天井が笑いながら一方通行へと近づいて行く。
血溜まりを踏み、あしあとが赤く残る。
拳銃を一方通行の後ろにあるベッドへとむけた。
そして、天井はその引き金を―― 引いた。 - 852 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:50:16.52 ID:OjH8ZMW6o
-
~~~
「あ……」
打ち止めが二度目の覚醒を果たした時、最初に見たものは沢山の同じ顔をした少女達であった。
「お、お姉さまに妹達?ってミサカはミサカは目の前に同じ顔ばっかで少しホラーな気分って複雑な心理状態を報告してみたり」
「……なんでもいいけど、元気になったのね?」
呆れつつ御坂は尋ねる。
「うん!一方通行をはじめみんなにお礼をいいたいなって思うんだけど……。
今、大変なんだね?ってミサカはミサカはシリアスな声を出してみる」
「えぇ、でも大丈夫。あんた達は私が……私達がまもるから」
「うん、ありがとう。ってミサカはミサカは素直にお礼をいってみる!
……あ、今……」
にっこり笑ったと思ったら、今度は急に涙を流しはじめた。
「ど、どうしたの?」
「今、ミサカ00051号が……死んじゃった。ってミサカは、ミサカは……報告、してみたり」 - 853 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/02/21(火) 22:53:56.39 ID:OjH8ZMW6o
-
~~~
『あぁ、なんだか頭がスッキリしてきました。
でも、同時にものすごく眠いです。
眠る前に、謝らなきゃ……あと、何か遺したい……いきてたって……あか、し、を……どこかに、のこし…た、い。
だめ……もう、だめ。
おや……す、み…なさ…い……。とミサカ00051号は……』
- 861 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/03/01(木) 01:52:37.58 ID:nHXp1IF3o
- ~~~
天井の声だろうか、もしかしたら一方通行の声だったかもしれない。
短な「ぁ」という吐息のような声が発せられた。
そして、二人のうち一人には希望を散らすような―― 屋根まで届けと願ったシャボン玉があっけなく弾けるような――
もう一人には絶望を打ち破るような―― ベルリンの壁を打ち壊した市民達の雄叫びのような―― そんな、音がした。
涙を流し、血を流す。
命を落とし、頬を崩す。
未来を夢見て、下を向く。
過去を振り返り、今を蔑む。
絶望の淵を覗いて、頂を望む。
俯く狂愚な己の姿に、愛を忘る。
「……クソッタレガ」
どちらかが、つぶやいた。
「……ザマァミロ」
もう片方も、つぶやく。
涼やかな風が夏の終わりを知らせるように、カーテンを揺らす。
夏と一緒に様々なことが終わるように感じられた。
背中にあたるこの空間に似つかわしくない穏やかな風を感じながら一方通行はこの、夏休みを思い出していた。
こんなにも楽しいと思った事がここ十年であっただろうか。
心が壊れるほど悲しんだことがここ十年であっただろうか。
―― 笑って泣いて絶望し、真実を求めて歩き続ける……辛かったけど、生きてるって感じがしたなァ。
月明かりを背中から浴び、その表情は泣いているのか笑っているのか判断出来ない。 - 862 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/03/01(木) 01:54:47.86 ID:nHXp1IF3o
-
~~~
「どうした?弾切れかい?」
一歩も動かずに、鉛玉の雨を全て純白の翼で受け止める。
その顔に浮かぶのは微笑みだ。
「弾がきれたならミサカも一緒に戦うよ!」
ミサカ00002号は駆けだし、一番近くにいた妹達の側頭部を思い切り回し蹴る。
「がしゃこんがしゃこん撃ってくれちゃって、これでも一応妹達の中では一番お姉さんなんだよ?
だから、お仕置きってことで我慢しなさい」
蹴り飛ばされた妹達の一人はそのまま気を失った。
―― ミサカ00112号の話ではミサカ00100号までの妹達は00300号まで作ってその中でも丈夫な個体を選んだらしい。
でもそれって同時に全てを作り、後から番号を振ったって事かな?
ま、そんなのはどうでもいいか……00112号よりこいつらは元気って事は、ある程度手荒に扱っても良さそうってことが重要!
そのままの勢いでミサカ00002号は他の妹達も次々と気絶させていく。
―― おかしいですね、ミサカ達の攻撃はさっきから見当違いのところばかりにいきます。これは……もしかしたら……とミサカ00007号は仮説を立てます。
ミサカ00007号は他の個体に一旦下がる事を命令する。
命令を受けると一瞬で全ての個体が垣根、ミサカ00002号から距離を取った。
―― なるほどね、一個隊のリーダーを決めてやれば残りはそれに忠実に従う兵士になるわけか……。
自我を持たず、命令された事だけを行う。
その統率力は恐るべきものだと垣根は思った。
「第二位の能力ですね?とミサカ00007号はゴーグルを取る事を他の個体に命令しながら、答え合わせを始めます」
「大正解、お前らのそのごついゴーグル……それのレンズに入る光の屈折率を変えた。ま、チャチな仕掛けさ」
ゴーグルを外し、投げ捨てる妹達と余裕をまとい微笑みすら浮かべる垣根。
「……では、純粋な肉弾戦で勝負という事で……とミサカは拳を構えます」
「……いいぜ?どうせ元から全員とっ捕まえる予定だったしな」
「あんた達がもう助からないなんて、ミサカも垣根さんも信じてない、絶対に、命令に縛られない自分の心を取り戻してあげる」
垣根達と数十人の妹達との、純粋な殴りっこが始まった。 - 863 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage saga]:2012/03/01(木) 01:57:16.78 ID:nHXp1IF3o
-
~~~
「この俺の目の前で芳川を殺せると思うな」
思い切り蹴り飛ばし、壁に激突し床に墜落した天井を見下しながら一方通行は吐き捨てるように言った。
「はっ……妹達の事なんか眼中にねぇってか?」
痛みを堪えながら天井は顔をあげた。
「……いいねぇ、俺が求めてたお前はそういうお前だ。目的以外には誰が死のうが心を揺るがせない。
……その心がもっと早い段階からあったら、今回の実験も成功してたのになぁ?」
フラフラと立ち上がり、おぼつかない足取りで数歩歩くと、殺害したミサカ00051号の頭を蹴り飛ばした。
蹴られた衝動で顔が一方通行の方へと向き、その視線は一方通行へと突き刺さる。
ミサカ00051号の目には当然光など存在せず、責めるような悲しむような深い暗闇が瞳を染め上げていた。
「……一人で逝かせはしねェから。
大丈夫、あの世に行ったら、今度こそ俺が守ってやる」
誰にも聞こえぬように呟く。
- 870 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/03/19(月) 02:12:40.67 ID:HQ735hYIO
-
~~~
「はぁ、ったくレベル5の第二位様がこんなカス相手になにを手間取ってんだよ」
突如、垣根の前に現れた謎の光線。
それはミサカ00002号の鼻先をかすめ、そのまま直進し、壁を溶かした。
「結局広告塔の第三位はともかくレベル5トップスリーは揃って腑抜けって訳よ」
「そんな腑抜けの演算式叩き込まれて地獄を見たかと思うと超イラつきますね」
垣根達の目の前に突如現れた第四位である麦野沈利を筆頭とした三人組。
「……アイテムって言ったっけ?」
色々な暗い事を見てきた垣根である、暗部組織の存在も知ってはいた。
第四位が属しているチームもあると知って、その事を少しだけ調べてみたりもしたのだろう。
「大正解、おとなしく天井とかいう男を寄越しな」
「冗談じゃない、暗部なんかに渡したらどうなるかは目に見えてる」
「関連資料は一通り目を通したが、テメェらは天井を殺したいほど憎んでんだろ?私達が殺してやるから渡せって言ってんだよ××××野郎」
「断る、って言ってんだろ?」
垣根が表情を引き締めいった。
ミサカ00002号と妹達は暗部組織アイテムのリーダーであり、レベル5の第四位、麦野沈利の隠そうともしない殺気、怒気に彼女から目を離す事が出来なくなっていた。
突然現れた死をダイレクトに連想させる存在は、ギリギリの精神状態で戦っていたミサカ00002号の心には重すぎたのだろう。
そして、妹達が動けないのは、単純な生存本能である。
感情を奪われた彼女らなら、麦野沈利が何者であろうとその存在を無視し、目標である垣根、ミサカ00002号への攻撃をやめたりはしないはずである。
しかし、本能というものは消せない。
『余計な口を挟んだら間違いなく殺される』
死をも恐れる心を忘れた彼女らだが、本能は生きる事を叫んでいるのだ。
唯一動じていない垣根は髪をかきあげ微笑みすら浮かべる余裕を持っている。
戦う事、見知らぬ者と敵対することに慣れているのだ。
「……ま、どうせこいつらに私らは殺せないしあんたらどうする?私は一方通行に会いに行くけど?」
麦野は第一位と第二位が何があっても人を殺せないと確信していた。
―― それが極悪人であろうとね。
「私はここで第二位に超恩を売っておきます」
そう答えたのは、サマーセーターに中身が見えそうで見えない短いスカートをはいた御坂と同じくらいの年代の少女、絹旗最愛である。
「私は……滝壺のところに戻ってようかな」
金髪碧眼の絹旗より少し年上の少女はつまらなさそうに垣根、ミサカ00002号に視線を向けるとため息をついてそういった。
「じゃ、各々適当にやって……」
やる気なさ気に麦野はコツコツと靴底を鳴らしながら妹達の真ん中を闊歩して行く。
途中垣根に視線を向けるが、無視。
そのまま病院の奥と続く廊下に消えた。 - 871 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/03/19(月) 02:13:24.07 ID:HQ735hYIO
-
~~~
「チッ……無反応かよ」
面白くないというように天井は舌打ちをすると、ため息をつき妹達に指示を出した。
「もういいや、そろそろ暗部の連中も来るだろうしさっさと芳川殺すぞ……俺の手でなんて言わねぇ、芳川桔梗という存在が死ねばそれでいい」
口角を不気味にゆがませ、一言。
「―― やれ」
その言葉と同時に、ミサカ妹達の銃口が圧倒的な暴力を振りかざした。
が、銃弾が一方通行に届くことはなかった。
その部屋をビームのような光線が幾千も折り重なり、通過したのだ。
その光線は銃弾を消失させ、その場にいた全員の思考すらも一時的に奪った。
「はァ?」
隣の部屋の壁をぶち抜き登場したのは、一方通行と同年代の一人の女性。
「お前が第一位か、まぁとりあえず……天井亜雄を渡せ」 - 872 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/03/19(月) 02:15:21.45 ID:HQ735hYIO
-
~~~
「こいつらを殺さず超絞め落とせば良いんですよね?」
麦野が消えたのを確認すると絹旗最愛は垣根にそう尋ねた。
「お前らに貸しなんか作ったら何やらされるかわかったもんじゃねぇからな、そこで黙って第二位様の強さを拝んでおけ……邪魔したら残りの人生五体満足で過ごせると思うなよ」
殺し意外ならばなんでもやるぞ、とその目は語っていた。
「これは暗部とは関係ありませんよ。暗部のお仕事は“天井亜雄の超捕獲”ですから。
むしろ私が死なないための貸し作りです。単刀直入に言いますね、もし私やフレンダ、滝壺さんがこの先超ヘマをしたら麦野に殺される前に連絡いれるんで超助けにきてください」
「あ?」
「私嫌なんですよね。下部組織や研究員、その他大勢の学生がいくら死のうと構いませんが、私はアイテムの誰かが死ぬのは超嫌なんですよ」
「……自分勝手な奴だな」
垣根は「これだからお子様は……」とでも言うようにため息をついた。
「約束は出来ねぇが努力はしよう。いくら暗部だろうがもう、知り合っちまったやつが死ぬのは勘弁だからな」
「超交渉成立ですね。では、頼みましたよ、人の死を最も忌避する第二位さん」
満足そうに笑うと、絹旗は戦闘態勢へと、気を引き締めた。 - 880 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:36:27.39 ID:LJhw5GtIO
- ~~~
私が目覚めた時、一番側にいて欲しいと願った存在は既に消え失せ、私は一人だった。
彼がどこに行ったのかは分からない。
ひとつだけ確かなのは、家族だとお互いがお互いを愛し合い、必要だと認めあった塊は崩壊したと言うことだ。
「……」
私は壊れてしまった黒い携帯電話をそっと手に取り、十年間の歴史を感じさせる私の携帯電話と並べた。
「邪魔するぜ?……起きてたのか、なら返事くらいしろよ」
考え事をしていたせいか、ノックの音に気がつかなかったようだ。
「いろんな伝手を使って調べてるけどサッパリだ。でもあいつはまだこの街に居る。それは確かだ」
また、いつもの報告だ。
一日二日で何かがわかるはずもないのに、彼の親友―― 垣根帝督―― は毎日私のところに来る。
これにはきっと私が自ら命を絶たないかの監視の意味もあるだろう、と自分自身理解している。
「……」
私はうまく笑えているだろうか。
帝督もミサカちゃんも誰も悲しませたくないのに、私が笑うと二人は悲しそうに微笑む。
何故だろうか。
やはり、うまく笑えていないのだろうか。 - 881 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:37:16.55 ID:LJhw5GtIO
- 「……」
「……自販機行ってくるわ、お前はなんか飲むか?」
首を横に振る。
「そうか、んじゃちと待っててくれ」
彼はさみしそうに背中を丸め、部屋を出た。
季節は変わり、冬の足音が聞こえてきそうな、そんな冷たい風が私の髪を撫でた。 - 882 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:38:14.59 ID:LJhw5GtIO
- ~~~
「芳川のあれは治るのか?」
垣根は病室を出ると自動販売機のある場所へは向かわず、カエル顏の医者のところへ足を運んだ。
「また、その話かい。それは僕でも治せない、と言ったよね?
彼女の心は彼女自身のものだからね?」
「なんでも治すんじゃねぇのかよ!」
全てがうまくいかない苛立ちを、協力者という立場の人間にぶつけてしまう。
「……すまねぇ」
「いいよ、君だってまだまだ子供なんだ。
もっと……いや、無理な話だね?」
カルテだろうか、何か書類をとんとん、と揃えるとカエル先生は大きく息を吐いた。
「それに、彼女は喋れないわけじゃない。独り言で“一方通行”の名前を何度か呟いているのを聞いているしね?
だから、あれは病気でも何でもない、なにか心に決めた事があるんじゃないのかね?」
「なにか、心……に?」
「分かったら戻るといい……ジュース、買い忘れないようにね?」 - 883 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:39:26.04 ID:LJhw5GtIO
-
~~~
「邪魔になってるわよ」
後ろから急に手が伸びて、ヤシの実サイダーのボタンが押された。
カエル先生に言われた通り、ジュースを買うため垣根は自動販売機コーナーへと来ていた。
お金をいれ、そのままぼんやりと考え込んでいたため垣根の後ろには、ジュースを買いに来た入院患者であろう子供が、困っていたのだ。
「あ……わりぃな、ほれ好きなもん飲めよ」
チャリンとまた、小銭をいれると垣根は少年の頭を撫でにっこり笑った。
「……今日、というか今、ね。
00021号が死んだわ」
少し歩き、二人はソファに腰掛ける。
缶ジュースの開く、プシュという音がやけに大きく聞こえた気がした。
「そう、か……。
00100号までの妹達は00036号と00059号、00089号の三人だけになっちまったのか……」 - 884 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:42:52.03 ID:LJhw5GtIO
-
「……うん。でも、みんな笑ってくれたよ。
ただの操り人形じゃない、しっかりした自分の意志を持った人間として私に、そして垣根さんや一方通行にありが、とうって……」
涙を誤魔化すようにジュースを勢いよく飲む。
「あいつらは、本当に―― 幸せだったのかな?」
「幸せでしたよ。とミサカ00112号は……いえ、この口癖はやめましょう」
二人の間にニュッと顔を出したのは、ミサカ00112号であった。
「ミサカ達は全員、幸せでした。
芳川博士がいたから生まれてくる事が出来た。一方通行や垣根さんがいたからミサカ達はお姉様ともこうして触れ合い、話す事が出来た」
いいながら、ミサカ00112号は後ろから、御坂の頬に手をあてた。
「本来生まれる事すらなかったミサカ達が、自分の意志をゆっくりですが持ちはじめた。
貴方達の優しさや温かさを感じる事が出来た、それだけでミサカ達は幸せなんですよ」
―― 持ち始めた途端、終わっちまっても、それでも幸せと笑うのか?
垣根は悔しそうに、拳を硬く握る。
もっと遊びに連れて行ってやったり、うまいものを食わせたり、おしゃれさせたりなど、たくさんあったのだ。
それらが出来ぬまま、ただ、自分の意思でありがとうが言えた。
それを幸せだと感じる妹達に垣根は悔しさを感じられずにはいられなかっのだ。 - 885 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:45:19.47 ID:LJhw5GtIO
-
~~~
ミサカ00112号が去ったあと、垣根は病室に戻り、御坂もそれについていった。
相変わらず芳川はぼんやりと窓の外を眺めている。
頷いたり、悲しそうに微笑んだりはするが、会話をしようとはしない。
―― 何か、心に……か。
「芳川さん、00021号も逝ったわ。命をくれてありがとう。だって」
芳川は、黙って頷く。
―― 一方通行、お前がいないと俺もこいつもミサカちゃんも、ダメなんだよ。
どこにこそこそ逃げてやがるんだよ……。
冷たい風を遮るように、垣根は窓を閉め、鍵をかけた。 - 886 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:46:35.96 ID:LJhw5GtIO
-
~~~
俺は今までどこをどうやってここまで走って来たンだ。
俺の夢や垣根の夢、芳川やミサカ達の夢は、あの部屋と一緒にもうなくなっちまったのかなァ……。
気づいたら俺はクソみたいな場所で一人ぼっちだ。
垣根もミサカも芳川もいねェ。
俺はいい、真っ暗闇を自ら選ンだンだ。
でも、俺の守りたかった者からも、俺は笑顔を奪っちまった。
俺が望ンだ未来はこンな未来じゃねェのに……。
誰か、俺を―― 。 - 887 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:48:32.89 ID:LJhw5GtIO
-
~~~
「ァ?」
「同じ事を言わせんなよ第一位、さっさと渡せ」
「お前、は……暗部ッ……クッソもうきやがったのか」
あの日、そこで起こったことを知る者は麦野沈利と一方通行しかもういない。
天井亜雄がどうなったかはわからない。
が、生きてはいないだろう。
「暗部?……お前、第四位の麦野沈利か?」
「どぉでもいいだろ、そんな事は、いいから渡せ私はさっさと帰って寝たいんだよ」
イライラとした様子で髪をぐしゃぐしゃとかきあげる。
「……お前、誰を目の前にしてるか分かってンのかァ?」
麦野沈利の余裕の表情が気に入らないのか、一方通行は思い切り殺意のこもった目で睨みつける。
しかし、それに対しても麦野はニヤリと笑うだけであった。
「はっ、人の殺せねぇバケモンに何をビビる必要があんだよ?
そんなニセモノの殺意で暗部を生きている私が怯むとでも思ってんのかァアア? 第一位ぃ」
そう、一方通行は人を殺せない。
人に限らず生き物を殺せない。
それはごく普通の感覚であり、何も恥じるべき事はないが、こういう状況では殺せない者は害悪な邪魔にしかならない存在である。
「……」
そして天井は麦野、一方通行の興味が自分から僅かにそれたその瞬間を見逃さなかった。
妹達を思い切り突き飛ばし、自身はそれを盾にするかのように、窓ガラスへ銃を発砲しながら突進する。
麦野は妹達を容赦なく殺そうとするので、当然一方通行はそれを守るために天井より一手遅れた。 - 888 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:50:58.54 ID:LJhw5GtIO
-
「クッソがァアア!第四位お前ふざけてンのかァ!」
麦野より放たれた能力から妹達を守り、その個体を廊下側へと放り投げる。
右腕に芳川を抱え、この場において最も危険な人物である麦野沈利のもとへひとっ飛びすると、その首を左手で掴み逃げた天井を追った。
「クッソ売女がァ!お前が来なけりゃ―― 」
「来なけりゃ? 自分が天井を殺したって?
嘘だね、お前に人は殺せない。現に今私は生きている」
その気になれば自分の命が消すのに一秒もかからない最強の男に首を掴まれているというのに、麦野は余裕を崩さなかった。
「―― ッ」
一方通行は舌打ちをすると、アイテムが乗って来たと思われる車に、思い切り麦野を投げつけた。
投げられている途中でも、照準はめちゃめちゃだが、麦野は原子崩しを放ってくる。
―― クッソ、第一位の野郎最後まで私を“ただのめんどくさい障害”としてしか扱いやがらなかった。
甘々の××××野郎のくせにムカつくじゃねぇか……。
麦野は確かに余裕をずっと持っていられた。
対する一方通行ははじめから余裕のかけらすら無いほど全てを瞬時に計算し、全てを考えながら行動していた。
そうせざるを得なかったのだ。
だが、その余裕のなさは“第四位『《原子崩し》麦野沈利』”を前にしたことが原因ではなく、麦野よりもちっぽけで弱い妹達、芳川桔梗の存在が一方通行の余裕を奪っていたにすぎない。
一方通行は最初から麦野沈利をただの邪魔にしかならない雑魚としてしかみていなかったのだ。
後部座席のドアをひしゃげる勢いで激突しながら麦野は最後の最後まで滅茶苦茶に原子崩しを撃ち続けた。
―― クッソ……生きてるのが奇跡なぶつけ方、ギリギリ骨が内臓引っかかない程度に折れてるかな?
あー、しばらくは入院かにゃー? ……ウッザ。
最後にそんなことを呑気に考えながら、麦野は意識を暗闇へと落としていった。 - 889 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:51:42.69 ID:LJhw5GtIO
-
~~~
ねぇ、一方通行。貴方は今どこにいるの?
私のあげたこの携帯電話はもういらないの?
……………違うよね?
こんなになっても、まだ動いてるもん。
壊そうと、断ち切ろうとしても、無理だったんでしょ?
みっともなくても良い、情けなくても良い、貴方の声が聞きたい。
確かに私を抱きしめてくれたその存在を、もっと近くで感じたい。
貴方は私じゃないと駄目。
私も貴方じゃないと駄目。
私達はお互いが、お互いじゃないと駄目なのよ。
だから、お願い。
私の側に―― 帰ってきて……。 - 890 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:52:36.27 ID:LJhw5GtIO
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~~~
「*……**?」
頬に感じる心地よい風と、細くて骨ばっているが最も頼りになる存在を全身で感じ、芳川は目を覚ました。
「寝てろ」
「よか、た……貴方が、どこか、わ、たしの、知らないところへ、行っちゃうゆめを、みてた……」
「……寝てろ」
「でも、いま、あなたは、わたしを……抱きしめていてくれる」
「寝ててくれ」
「ねぇ、わたしの気持ちは、変わらないよ……だって、わた、しは……」
「もういい、お前の声を聞かせるな」
生体電流をいじり、無理矢理眠らせた。
「みっともなく、すがっちまいそうに、なる、だろ?
俺は、もう、駄目なンだ。
何も守れないのに、本当は、お前に俺の、心ってやつを……守って欲しなンて、言えねェよ」
一方通行も帰りたいのだ。
絶対に表へは出さないと決めた心の奥底の本心も、芳川の前では丸裸にされてしまう。
唯一絶対的に最強の男は、たった一人の女性に勝てないのだ。
「芳川……俺は……いや、もう決めたンだ。
こンなバケモノが人の世界になンかいちゃいけねェンだ」
こぼれかけた心を隠すように、むき出しにされた真実を覆うように、一方通行は芳川を抱く手に力を込める。 - 891 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:53:42.85 ID:LJhw5GtIO
-
~~~
その後の事は、一方通行しか知らない。
垣根は絹旗の協力のもと正面から襲撃してきた妹達を全員捕縛し、芳川の病室に向かった。
そこには、天井、一方通行に置いてけぼりにされ、芳川桔梗という目標も失ってどうしたらいいか分からず、立ち尽くす妹達がいた。
それらはほぼ無抵抗に捕縛されると、全員まとめて調整槽へと入れられる。
そして順番に調整を一度綿密にやりながら、妹達を鎖につながれたマリオネットからこころを持った人間へと戻す方法をカエル先生と話し合った。
外の景色が黒から白に変わりはじめた頃、一方通行は穏やかな表情をして、芳川と共に戻った。
だが、垣根はその表情を見た瞬間内蔵を氷で撫でられるような奇妙な恐怖と、なんとも言えない気持ち悪さを感じた。
本来親友が、思いつめた何もかも諦めたような表情から穏やかな面持ちへと変化したら、喜べはしても、恐怖など感じる必要はないというのに……。
だが、それは―― 。
「垣根……悪いな」
それは、これまでの事を謝るようにもこれから何かやらかすから先に謝ってという風にも思えた。
- 892 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:54:53.14 ID:LJhw5GtIO
-
「後は……」
久しぶりに、みたような気がした。
一方通行の笑顔を。
「頼ンだ」
芳川を垣根に渡すと、一方通行は百人近くの妹達がいる調整槽のある部屋へと向かう。
垣根は何故か、一方通行に声をかけることができなかった。
「一方通行……」
「ミサカも、ありがとうな。そンでごめン。
……芳川と垣根の事……頼むぜ」
「アク―― 」
ミサカ00002号の言葉を遮るように一方通行は微笑みながら首を横に振る。
“もういいンだ。もう、終わったンだよ”
とでも、言うように。
部屋に入ると、そこには御坂美琴、カエル先生、インデックスがいた。
カエル先生とインデックスはそれぞれ別の事を察し、それで本当にいいのか? と無言で語りかけてくる。
御坂は、一方通行の表情にギョッとしたように目色を変化させると、00002号と同じように、名前を呼んだ。
「一方通行……?」
「悪いな、いまお前と話している暇はねェンだ」
軽くあしらうようにではなく、心底申し訳ないと、その声色は示していた。 - 893 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:57:55.56 ID:LJhw5GtIO
-
「死ンだのは、天井に殺されたやつだけか……」
ベッドに横になる、妹達の一人の頭にそっと手を乗せる。
十数秒間そのまま動かず、そして誰も言葉を発する事も出来なかった。
「……よし」
ゆっくりと目を開くと、そう呟きパソコンを貸してくれと、カエル先生に申し出た。
先生は黙ったままパソコンを指差すと、一方通行はそれをカタカタといじり出す。
「御坂美琴、これを初春飾利に渡してくれ。
渡してくれたら後は初春が妹達の心を溶かしてくれるはずだ」
笑顔のまま死を迎える事の出来た、そんな、穏やかすぎる表情に、御坂も垣根と同じような恐怖と気持ち悪さを感じた。
―― それは笑顔の根底は威嚇行動であるという事を痛感させた。
笑顔にも恐怖を感じてしまうのはいわば本能なのである。
それを知らずとも、遠ざけるために笑顔を向けたり、その笑顔を恐ろしいと思い、手を差し伸べにくくさせたりしてしまうのだ。
「じゃあ……な」
一方通行は部屋を出る時、誰にも顔をみられないように背を向け、そうつぶやいた。 - 894 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/08(日) 00:59:34.29 ID:LJhw5GtIO
- ここまで
また読んでください - 895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 02:18:47.36 ID:S7S1OvMDO
- 乙
ゆっくりでいいから完結してくれ - 896 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/04/08(日) 14:12:41.00 ID:LJhw5GtIO
- >>892
訂正。
───────────────────
「後は……」
久しぶりに、みたような気がした。
一方通行の笑顔を。
「頼ンだ」
芳川を垣根に渡すと、一方通行は百人近くの妹達がいる調整槽のある部屋へと向かう。
垣根は何故か、一方通行に声をかけることができなかった。
「一方通行……」
「ミサカも、ありがとうな。そンでごめン。
……芳川と垣根の事……頼むぜ」
「アク―― 」
ミサカ00002号の言葉を遮るように一方通行は微笑みながら首を横に振る。
“もういいンだ。もう、終わったンだよ”
とでも、言うように。
部屋に入ると、そこには御坂美琴、カエル先生、インデックスがいた。
カエル先生とインデックスはそれぞれ別の事を察し、それで本当にいいのか? と無言で語りかけてくる。
御坂は、一方通行の表情にギョッとしたように目色を変化させると、00002号と同じように、名前を呼んだ。
「一方通行……?」
「悪いな、いまお前と話している暇はねェンだ」
軽くあしらうようにではなく、心底申し訳ないという気持ちがその声色からは、伺えた。
───────────────────
最後一文すこし変えただけです。
でもなんか読み直して変な日本語だなぁと思ったので
次回も一週間いないに来れたらきます
では、また読んでください
エタる事はないので
- 898 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:08:44.72 ID:udiEKYoIO
-
~~~
「…………」
「上やーん?」
「…………なんだよ」
「冬服になってもうて、気になるあの子のブラチラが見えなくなったんわ確かに悲しい! せやけど―― 」
「はぁ、そんな事考えてんのはお前くらいだよ」
夏休みもとうに終わり二学期が始まった。
学園都市最大のイベント、大覇星祭も何事もなく過ぎ学生たちの姿も段々と肌の露出が少ないものになって来た頃、上条当麻はぼんやりと虚空を見つめる時間が増えて来ていた。
「そうか、んなら……大覇星祭で狂ったように大活躍して燃え尽き症候群なのはわかる。
せやけど、それを一ヶ月以上も引っ張るんはどうなん?」 - 899 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:10:17.17 ID:udiEKYoIO
-
大覇星祭、上条当麻は消えた一方通行へ怒りをぶつけるように、この街の何処かに一方通行がいたら上条当麻の名がその耳に入るように、がむしゃらに暴れまわった。
それは常盤台のエース、御坂美琴も同じ事で、彼女はなんと、個人の部で表彰までされ、なおかつライバル長点上機を破り、常盤台を優勝まで導く活躍ぶりであった。
「だから、そんなんじゃ、ねーって」
十月もそろそろ終わろうとしている。
―― どこいっちまったんだよ。お前は今どこで何をしているんだよ。
いつまでも……逃げてんじゃねぇよ。馬鹿野郎。
上条は青髪ピアスの言う事を右から左へと聞き流し、真っ青に晴れた空を見上げる。
―― お前がいないと、垣根も御坂もミサカも、インデックスも、白井も初春も佐天も……芳川さんだって、みんなが……。
みんな笑えやしねぇんだよ。
空から目を逸らすように、まぶたを閉じると、ちょうど午後一番の授業の開始を告げる鐘が鳴った。 - 900 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:11:24.40 ID:udiEKYoIO
-
~~~
「一方通行さん、まだ見つからないの?」
「……はい」
青髪ピアスが、様子のおかしい上条当麻を何とか励まそうとしている頃、柵川中学校も昼休みであった。
佐天はこの所学校の授業と授業の短い休み時間でさえ、パソコンにむかい、なにやらカタカタとしている初春を心配していた。
―― どうしてここまで初春は一方通行さんの事気にかけるんだろう。
正直二人とも一方通行とはそこまで面識のあるわけではない。
御坂のお友達、つまり友達の友達レベルなのだ。
一緒に遊びに行ったことのある垣根が行方不明ならば、まだわかる。
だが、佐天には初春がここまで一方通行に固執する理由がわからなかった。 - 901 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:11:59.86 ID:udiEKYoIO
- 勿論、佐天も心配していないわけではない。
だが、相手は第一位どうしても、心配なんてする必要ないのでは? と思ってしまうのだ。
「なーんか、色々壊れた夏休みだったなぁ」
初春に聞こえぬように、ボソッとこぼした。
御坂の思いが散り、初春の様子もおかしくなった。
白井とも、夏休みを終えてからほとんど会っていない。
何がそうさせたのかはわからぬが、ここにもひとつヒビが入ってしまったようだ。
「一方通行さん、どーこいっちゃったのかなぁ……」
佐天は窓の外、風に揺れ、舞い上がる木の葉をぼんやりと眺めた。 - 902 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:12:53.97 ID:udiEKYoIO
-
~~~
「逃げンじゃねェよ」
一方通行は天井の前にと舞い降りた。
天井は一方通行が芳川を抱いている事を確認すると、怯えるどころか、嬉しそうに口元を歪めた。
「おいおい、お姫様をこんな所まで連れ出したら……魔王にぶっ殺されちまうぞ?」
「ハッ、お前が魔王ってガラかよ? いい加減、もう飽きた」
一方通行は天井のジョークにうんざりとした様子を見せ、そしてゆっくりと気を引き締めて行く。
「もう、終わりだ」
芳川を近くにあるバス停のベンチに寝かせる。
「お前のくだらねェ夢も、お前の自由も……全部俺が奪ってやる」
そして、まっすぐと視線を天井に向けた。
―― こ、こいつ……。
天井も麦野同様一方通行に殺される心配はそれほどしてはいなかった。
が、今、目の前にいるこの存在は、この目は、全てを捨てようとしている目だ。 - 903 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:13:29.16 ID:udiEKYoIO
-
―― なぜだ?先ほどまでは第四位も言ってたとおり人なんてたとえ俺でも殺せない目だったのに……なぜだ?
何が起きた?なにがこいつに全てを捨てる決心をさせたんだ?
しかし、天井の考えた事はそんな事であった。
自身が殺されるとかそういう事は理解したあとすぐさま次の思考に移ったのだ。
それは、何が一方通行を変えた。という事である。
そしてその答えは、一方通行しか知り得ない。
靴底がアスファルトを叩く音が真っ暗闇の学園都市に響いた。
その足音はだんだんと天井の元へ近づき、ついに手を伸ばせば届きそうな距離で止まった。
「あばよ、天井。あの世でミサカ妹達に謝れなンて言わねェ、あの世では妹達に殺されろ」
一方通行は殺人を自ら推進するような、似合わなすぎるセリフを吐いた。
その手は既に天井の首に触れている。
少し、脳を動かせば簡単に殺せる。 - 904 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/11(水) 21:21:29.16 ID:udiEKYoIO
-
―― 笑えるな、自分の正義を曲げる事がこンなに簡単だなンて……。
人を殺すのがこんなに、簡単だなンて……。
死ね。
そう、つぶやくと一方通行は演算を始めようとする。
「はじめまして、第一位一方通行」
その瞬間、一方通行の耳に男とも女とも、子供とも老人の物とも思え、それのどれとも言えない奇妙な声が届いた。
「お、前……は」
「アレイスター」
その人物は、微笑んでいるようにも睨んでいるようにも見える不気味な表情をしていた―― ように感じた。
「アレイスター・クロウリー、この学園都市の統括理事長だ」
そして、もう一度名乗る。
その存在は確かにここにいるがここにはいない。
声は聞こえど、どのような表情をしているのかはっきり伝われど、姿が見えないのだ。
その感覚に一方通行は素直に恐怖する。
「な、ンだ……お前」
キョロキョロとあたりを見渡すが、猫の一匹見つける事は出来なかった。
「お前は……なンなンだ?」
一方通行の顔に、今までとは違った種類の“焦り”が浮かんだ。
それは、麦野が望んだ反応であり、弱い人間が麦野を前にした時に見せる反応に近かった。
「ひとつ、私から敬意を示し提案をしよう。
それを受け入れるか否かは自由にしろ」
風が一層冷たく肌を撫でる。
日常で反射をしていない時ならば、それは自然な事だが、いまは違う。
戦いの最中だ。
無意識でもできる反射という絶対的な盾を一方通行が自らの意思で捨てる事はあり得ない。
つまり、一方通行は“アレイスターの声を聞く”たったそれだけの事に反射に使う脳のごく僅かな領域まで使い切っているのだ。
しかし、人間の脳とは計り知れぬ物に出会った時こそ冷静になれる。
一方通行もバケモンのような力を持っているが、その例にもれない。
一方通行がこの時考えていたのは、弱った芳川桔梗をこんな寒空に放置して置いたら死んでしまうのではないだろうか? ということであった。
- 908 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/04/18(水) 22:47:01.85 ID:NAZLefJIO
-
~~~
「チッ……提案ってのはなンだ」
「簡単なことだ」
「もったいつけずにさっさと話せ」
アレイスターはおかしそうに、少しだけ笑った。
そんな些細なことですら、余裕をなくした一方通行は癇に障ってしょうがない。
「もォいい、次はオマエを殺してやる」
天井の首にかける手に力をいれた。
「その男を、この街の法で裁いてやろう。その代わり一方通行、お前にはしてもらいたい仕事がある」
アレイスターは相変わらず愉快そうな声で話す。
まるで一方通行には提案を受けいれる事がわかっているようだった。
「信用ならねェ」
「そうか、ならば芳川桔梗を[ピーーー]としよう」
「なンッでそォなンだよォ!」
「今回の『超能力者襲撃事件』その首謀者として」 - 909 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:48:17.72 ID:NAZLefJIO
-
「はァ?それは―― 」
「そう、確かに天井亜雄の仕業だ。
だが、クローン技術は芳川桔梗のものだ。
実際に私の手元に彼女の研究記録が残っている」
「クローンがあいつの技術だとしても、それを使って暴れたのはこの馬鹿だろォが!」
「その男は『絶対能力者進化実験』の責任者を殺した。
その時点で実験の責任者は芳川桔梗という事になっている」
「はァ?」
「もうひとつ、彼女はその実験成果を無断で持ち出し姿をくらませた。
それは学園都市ではご法度だ、外に中の技術を漏らしていないか取り調べもする必要がある」
首を締める手から、力が抜ける。 - 910 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:49:55.91 ID:NAZLefJIO
-
「これは敬意だと、私はそう言ったがそれは一方通行、お前に対してのものではない。
私のプランを大幅に崩し、再構築を余儀なくさせたなんの力も持たないはずの一人の研究員への敬意だ」
アレイスターの声は明るい。
「……こいつを差し出したら、こいつはどォなる?」
「結果から言えば、死ぬ」
「お前はなンで急に出てきた?
絶対能力者進化実験はお前の許可した実験だろォ?
何もかもが嘘くせェ」
「そう、そしてそれは一方通行、お前が蹴った事で終わりのはずだったのだ。
第二位に話を持って行ったのはそいつの独断だ」
「でも、それをお前は黙ってみてた」
「幻想殺しにどんな影響があるか少し気になったのだ」
「上条ォ?」
「レベル5など私のプランにはそれほど重要ではない。何よりも重要なのは、幻想殺しだ」
アレイスターは、淡々と話す。 - 911 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:50:50.66 ID:NAZLefJIO
-
「一方通行、垣根帝督両名との邂逅はイレギュラーであった。
本来ならば一方通行だけとの邂逅のはずだったのだ。
そして、幻想殺しはそのあと崩壊した。
そこからの幻想殺しの変化は私でも予測不可能でね、あれは最近やっと安定してきた」
「意味がわからねェ」
「私以外に私のやろうとしている事がわかるはずもないだろう」
しばらくの間、ほんの数十秒だが、二人とも言葉を発せず、あたりは天井の苦しそうな息遣いとそよそよと葉っぱを揺らす風の音に支配された。
「……クローン技術、それがこの先使われる事は?」
「クローンなどもう必要ではない」
「お前以外が使うかもしれねェだろォが!」
「そうならないためのお前の仕事だ」 - 912 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:52:03.66 ID:NAZLefJIO
-
「ァン?」
「天井亜雄を裁判にかけた時……あぁ、安心しろ、判決は間違いなく死刑だ。
そして焦点はそこではない『禁止されているクローニングを行い、さらに非人道的な行いを繰り返した』というところだ。
その話を聞いた科学者がその技術を盗もうとするのは分かり切った事だろう。
そうだろう?
本来ならば先程お前がリーダーを潰したアイテムなどの暗部組織を使うのだが……。
まぁ、そこまでやってやる義理もないし、使えそうな暗部組織はお前自身が潰した。
だがその研究を持ち出そうとする奴を教えてはやる。
あとは自分でカタをつけろという事だ」
アレイスターは意味ありげな笑みを浮かべると、ただ、と付け加える。 - 913 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:52:40.65 ID:NAZLefJIO
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「その研究員をこちらに引き渡せばこちらで“処理”はしてやろう。
お前には私に自分の捕まえたものを引き渡す義務はないがね」
―― そろそろこいつは舞台から消える時間だ。その前に、幻想殺しを動かす駒になってもらう。
アレイスターの中では、着実とプランが組み上がっている。
―― そのためには一方通行には“人殺し”を覚えて貰わなければならない。
確かに自分が人を殺したという実感を……幼少の頃のものではまだ、弱い。
「こ、いつを……どこに、持っていけば……いい、ンだ?」
アレイスターの計画通り、一方通行は提案を受け入れた。
「窓のないビル」
ニヤリと笑ってからそう言い残すと、アレイスターの気配は消え、同時にあたりを包んでいた怪しい空気も散った。 - 914 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:53:58.55 ID:NAZLefJIO
-
~~~
「ミサカちゃん、少し休め。お前は頑張りすぎだ」
「そんなことできるわけないじゃん。あいつはミサカ00001号の心を裏切ってる。
思いを踏みにじってる。ミサカはミサカ00001号の家族として、妹として、そんなの許せない」
「それで、お前まで倒れたらそれこそミサカの気持ちを踏みにじる行為だ」
「ミサカ00002号の事はどうでもいいよ。
ミサカの何より大切なものは血をわけた、というより同じ血を流すミサカ00001号なんだよ。
ミサカ00002号が、ミサカが死んでたら、00001号は倒れるまでミサカのやりたかった事をやってくれると確信を持てる。
だったらミサカも倒れるまでやらなきゃ―― 」
「それが間違いだと言ってるんだよ」
ミサカ00002号の言葉を遮り、垣根は少し怒ったような声をだした。 - 915 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:54:42.64 ID:NAZLefJIO
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「一方通行が見つかった時、お前が倒れてたら……意味、ないだろ?
ちゃんと休め、食え、沢山の妹達が出来なかった普通の生活をしろ、それはお前の義務だ。
そして、それはミサカが、沢山の妹達がやりたかったはずの事でもあるんだからさ」
願うように垣根はまっすぐミサカ00002号を見つめる。
「……でも、部屋でじっとなんてしてられないよ……あの部屋には00001号が、いないんだもん……。
どこを探しても、声をかけても、いないし、返事も……してくれないんだよ?
そんなところに……ミサカは、いたくない……」
垣根達のマンションは修復にまだ暫く時間がかかる。
病院の子どもを見舞いに外から来た親などを泊めるための個室が数個あいているのでそこを使うかい?
とカエル先生に言われたが、垣根はそれを断り、いまは病院の近くのマンションを借り、そこでミサカ00002号と共に住んでいる。 - 916 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:55:15.71 ID:NAZLefJIO
-
「……大丈夫だ。ミサカがお前を、死んだくらいで見捨てるわけがねぇだろ。
今でも、お前の隣に、心に居てくれてる。
それに、俺もいる。芳川もすぐ近くの病院にいる。
一方通行だってこの街にいる。
お前は一人なんかじゃない。そうだろ?」
あやすように、必死に涙をこらえるミサカ00002号の頭をそっと自身の胸に抱える。
「俺がお前だけは守り抜いてやるから、だからそんな辛そうな顔をするな。
一方通行だってきっと見つけてここに連れ戻してみせる。
だから、お前はもうこれ以上―― 」
垣根は落ち着かせるように頭を撫で続けている。
「―― 我慢、するな」 - 917 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:57:13.38 ID:NAZLefJIO
-
「ちがう……よ、泣けないんだよ笑えないのと同じで泣けない。
ミサカは垣根さんが大好き。
でも、一方通行の事も芳川博士の事も好きなんだ。00001号の事だって誰よりも何よりも大好きで、ずっとずっと大好きで……。
でも、死んじゃって、ミサカは生きててっ!
垣根さんも一方通行も芳川博士も生きててっ!
なのに! なのに……00001号が大好きだったミサカ達は欠けちゃってさ……。
だから、ミサカ00002号も、壊れそうで、でも、ミサカは、どうしたらいいの?
ねぇ、ねぇ、教えてよぉ……」
泣きたいのを我慢していたのではない、泣きたくても泣けなかったのだ。
それは途方もない圧力となり、ミサカ00002号の心をぎしぎしと少しずつ潰していた。
ねだるような、縋るような、そんな必死すぎる目を垣根に純粋なまでの真っ直ぐさをもって向ける。 - 918 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:57:58.92 ID:NAZLefJIO
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「ねぇ、ミサカ00002号はここにいるよ?
なのに、どうしてみんながいないの?
もっとミサカを見てよ、00001号の願いだからミサカ00002号をみるんじゃなくって、ミサカ00002号の願いだからって理由でミサカ00002号を見てよッ! 」
子どものように、いや実際子供なのだが、自分でも何を言っているのかわからないほど、ミサカ00002号は喚く。
ただ、喚く。
依存しているかのように、垣根に縋りつき、言葉にならない悲鳴をあげつづけた。 - 919 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:58:35.56 ID:NAZLefJIO
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~~~
「消え……たのか?」
ざわざわと風が騒ぐ。
月明かりが真っ白な少年を照らす。
星は煌きながらも、その少年をどこか笑っているようだ。
「チッ」
その少年―― 一方通行 ―― は天井を一度完全に気絶させると、その体を地面に乱雑に捨てるように放り投げた。
そして、芳川の元へと歩み寄ると、先ほどとは真逆に、優しく抱き上げる。
片手でバランスよく芳川を抱くと、余った方の手で地面に転がる天井を掴み上げた。
そして、月明かりを一身に受けて怪しく光を放つビルへと飛んだ。 - 920 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:59:25.27 ID:NAZLefJIO
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~~~
「ご苦労、暫くはこの中で生活すればいい。どうせ仲間の元へは帰れないのだろう」
その男は、いや男にも女にも見えるその存在は、ビーカーの中でゆらゆらと逆さまに浮かんでいた。
「お、前が……アレイスターか?」
かすかに頷く。
確認が取れると、一方通行は二人を抱えたまま思い切りそのビーカーを蹴り割ろうと飛びかかったが、ビーカーには傷ひとつつくことはなかった。
アレイスターはニヤニヤと笑う。
「無駄だ。
天井亜雄を置いたら芳川桔梗を病院へ返してこい。
第二位、そして第三位とクローンに別れもちゃんと告げてくるのだ」
「なンでお前にそンな事まで命令されなきゃなンねェンだ」
「お前に『私に脅迫された』という逃げ道を与えたまでだ」
「……チッ」
その後、一方通行は今後どうなるかを質問攻めにする。
そして、芳川を担ぎ、窓のないビルをでた頃には夜は明け、外は明るくなっていた。
希望の朝などと思えぬほど心に重しを背負ったまま、一方通行は病院へ向かった。 - 921 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/18(水) 22:59:54.77 ID:NAZLefJIO
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優しく揺れている。
それはネオンライトがチカチカと優しく寂しい心を照らしてくれているような感触を受けた。
ピアノを静かに叩く細い指先のような、かすかなお互いの心音だけが聞こえる。
その音は決して他の音と噛み合う事はなく、だからこそ心地よい。
少年の胸には一人の少女が抱かれている。
男と女の仲というよりは、親子、兄妹のように見えた。
一定のリズムで頭を撫でながら、垣根は思う。
―― 多分、ミサカの気持ちは正しく伝わった。
だけど……。
「垣根さん……ごめんね」
頭を撫でる手に自らの手を重ね、ミサカ00002号はつぶやく。
「……いいんだよ。
お前は何も気にするな。
もともと俺と一方通行がよわっちいのが悪りぃんだからよ」
「……うん。でも、ごめんね」
重ねた手に力をいれ、その手を握った。
その手はただそこに存在しているだけで暖かな気持ちをくれるようだった。
- 925 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:17:50.66 ID:o8cvdhgIO
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~~~
「私、もう一方通行探すのはやめるわ。
それはアンタ達に任せる事にした」
一方通行が消えて三ヶ月が経ったある日の事、久しぶりに御坂、上条、垣根は集まっていた。
場所は夏休みに何度か立ち寄った喫茶店だ。
「そうか……まぁ、お前は学校も大切だしな」
「違うわよ、一方通行を見つける事のできるのは私じゃなくて垣根さん、妹、そしてあんただけだって昨日悟ったの」
どこか吹っ切れたというか、スッキリしたような妙に清々しい顔で御坂は上条に答える。
「……美琴ちゃんは何か自分なりの答えを見つけたのか……羨ましいぜ」
最後の一言は恐らく二人には届いていないだろう。
垣根は寂しそうに 俯き、ブラックコーヒーを見つめた。
「……んじゃ、私はもう行くわね」
「え?今きたばっかじゃねぇかよ」
「ほんっとにあんたは……そういう事言われると、なかなか諦めってもんがつかないじゃない。
女の子はね、というか恋してる人はその人の些細な言葉で色々勘違いしちゃったりするもんよ?」
御坂は諦めがつかないと言う割にカラッと明るくそんな事を言って笑っていた。 - 926 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:18:38.83 ID:o8cvdhgIO
-
「……」
垣根はそんな御坂を見て、こう思う。
やっぱこいつはすごい。
俺なんかよりも全然強い。
レベルだとかそんなもんじゃ超えられない物をこいつは手にしている。
「……美琴ちゃん、ここはお前の奢りだ」
垣根は伝票を抜き取りそれを御坂に渡した。
「……こういうときは男が払うもんじゃないの?」
「ばーか、未だ道に迷ってる俺たちなんかより、お前の方が余程かっこいいから最後までかっこいいところ見せてけよ」
「ったく、じゃあ美琴センセーが奢ってやるわよ。
ほら、ラストオーダーの時間よ?
他に頼みたい物あったら頼みなさいよ」
しょうがない、と御坂はため息をつくと近くにいた店員さんを呼びメニューを垣根、上条に渡した。
「じゃあ俺はサンドイッチのセットで……上条もそれでいいな?」
「え?あ……いいの?」
メニュー顔の下半分を隠し、上目遣いで御坂に確認をとる。
「いいわよ、これであんたらが何か答えを出せると言うならさ……正直、私が一番先に答えを出せたのは垣根さんと……か……」
一瞬言うのを躊躇うが、もういい、と言う風に一度目を閉じると、まっすぐ上条を見ていった。
「垣根さんと上条さんのお陰だから」
寂しそうな微笑みは、何を意味するのかは上条にはわからない、だが、それは良い方向への前進だという事は理解できた。 - 927 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:21:53.69 ID:o8cvdhgIO
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~~~
頭が痛む。
世界は真っ暗だ。
では、誰がこうしたのだろう。
答えなどあるわけもない。
そこにあるのは死に至る病ただそれだけ。
それを治す特効薬を一方通行は持っているにもかかわらずそれに気づかない。
一度気づいてしまえば、そうしたらもう彼は笑えるのだ。
彼の友人も、その友人も、みんな笑えるのだ。
人の繋がりとはなんであろうか、それゆえに人は傷つき、悲しむ。
では、繋がりとは人を壊す物なのだろうか。
それは否である。
繋がりがなくては人は生きれない。
それは死に至る病を発病させる原因でもあり同時に特効薬なのだから。
よくわからない機械が低い音を一定のリズムで出している部屋に一方通行はポツンと座っていた。
部屋の中は怪しい緑色のライトで照らされ、その部屋にいるだけで心が蝕まれて行くようだ。
ぼんやりと光るライトを見つめながら一方通行は最後の日を思い出す。 - 928 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:22:35.92 ID:o8cvdhgIO
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~~~
「一方通行、私の名前を、忘れないで……私は、いつまででも……あなたを待っているから」
病院に着くなり芳川は割合はっきりとした声でそういった。
目が覚めたのかとギョッとしたが、それはどうやら無意識の中から出た言葉らしい。
芳川の目は閉じられていた。
「……俺がお前を忘れるわけがねェだろォが」
これからの事を思い、泣きそうな目をしながら一方通行はその存在を確かめるように思い切り抱きしめた。 - 929 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:23:28.82 ID:o8cvdhgIO
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~~~
「芳川の名前……」
一方通行は一人つぶやく。
「桔梗。芳川桔梗。
あれ?桔梗ってなンだっけ? 花……か?」
誰に話しかけるわけでもなく、ずっと独りで呟いている。
声を出さなければ自分の存在が消えてしまうように思えたのだ。
だが、それを願って一方通行は垣根を、ミサカ00001号とミサカ00002号とそして芳川を捨てたのだ。
その事に一方通行は違和感を覚えてはいるが、自覚はしていない。
矛盾する気持ちが彼の中で渦巻き、瞳の真紅を濁らせている。
「……帰り、たい」
無意識にそう小さく呟くがその声を聞く者はここにはいない。 - 930 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:24:38.11 ID:o8cvdhgIO
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~~~
「なぁ、上条」
垣根はサンドイッチを掴みながら、ぼけっとしている上条に声をかけた。
「なんだよ」
「美琴ちゃん振った事、後悔してる?」
そして、何やらぼーっとしている上条に全く表情を変えずに尋ねる。
返ってくる答えはわかっているという風に、興味無さ気だ。
「はぁ? んなわけないだろ、俺はインデックスを……守りたいんだからさ」
「じゃあなんでそんな暗い顔してんだよ」
答えが予想通りで、本題にすんなり入れた事に満足し、さらに尋ねる。
「いや、なんかさ」
「んー? 」
サンドイッチをパクつきながら、反応を待つ。
「強いなと、そう思ったんだよ。
あいつはすごいなと、そう……思ったんだ」
上条もやっとサンドイッチに手を延ばし答えた。
そしてそれは先ほど垣根が思った事と重なった。
「それでダメダメな自分に凹んでるってか? お前はまたインデックスちゃんを泣かす気か?」
「なんで、そこでインデックスが出てくるんだよ」
「お前が暗い顔をしていると、インデックスちゃんは悲しむぞ。
そして、それでもお前に重く感じて欲しくないから無理やり笑おうとする。
最低な悪循環だ」
自分の言葉が自分にも突き刺さった。
「……垣根、今日泊めてくれねーか? もちろんインデックスも」
「あぁ、いいぜ。むしろ、ありがたい。
ミサカちゃんも喜ぶ」
三つ目のサンドイッチを飲み込むと、垣根は安心したような表情を浮かべた。 - 931 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:25:30.86 ID:o8cvdhgIO
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~~~
「ふう、やっぱ細かい作業はキッツイなぁ」
それが、どこから来るキツさなのかは、深くは考えない。
考えると駄目になってしまう気がしたからである。
御坂美琴はとある研究所へと垣根達と別れた後向かった。
協力の一息をつきながら、御坂はすっかり短くなり真っ暗になった外を見つめる。
「キツイのは頑張れる。妹達の為だから。
辛いのも耐えられる。私自身の為だから。
妹の為ならどんな苦境も楽しめる、それがわかった」
目を閉じ、死んでいった妹達の顔を一人一人思い出す。
みんな、最期は御坂を見て笑ってくれた。
声にならなくても、お姉さまと慕ってくれた。
それが、何よりも嬉しかった。
そして、同時に何よりも―― 悔しかった。
「よし、後少しなら出来る! 頑張ろっと」
大きく伸びをして、研究室へと入って行った。 - 932 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:26:15.77 ID:o8cvdhgIO
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~~~
「なんだか久しぶりだね」
インデックスは全てを分かっているという雰囲気をまとっていた。
「そうだな、元気だったか?」
「身体はね。ていとくとみさかも同じでしょ? 」
少しだけ表情を崩す。
「でもね」
インデックスは今度は目一杯の笑顔をしながら続ける。
「大丈夫なんだよ。絶対に、大丈夫」
そして自信をもってそう言い切った。
「あくせられーたも帰ってくるし、ききょうも帰ってくる。
みさかは神様のもとへ逝ってしまったから帰ってくる事はないけど……いつでもあなた達の側に居てくれている」
そうでしょ? と垣根、ミサカ00002号に言った。
「そう、なの……かな? 本当に、一方通行も芳川博士もミサカのところへ戻ってきてくれる?
みんなみんな、ずっと一緒に居てくれる?
本当に? 」
インデックスは答えない。
「大丈夫さ」
代わりに垣根が言葉を発した。
「なんかさ、インデックスちゃんは本当にすげぇな。
インデックスちゃんが言うと本当にまた四人で暮らせるような気がするんだ。
だから、大丈夫だよ。ミサカちゃん」
垣根はミサカ00002号に柔らかく微笑んだ。
「俺たちは家族なんだから」 - 933 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:27:24.99 ID:o8cvdhgIO
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~~~
―― ミサカはそうは思えないよ。
上条、インデックスを加え四人で晩飯を食べ終え順番に風呂に入ると、ミサカ00002号は自室で小さく丸まっていた。
手にはいつの日か御坂美琴に貰った缶バッジを二つ、持っている。
一つは自分の、そしてもう一つは亡くなった姉のものだ。
―― 家族でも、死んじゃったら離れ離れになっちゃう。
側にいても、声も聞けない触れ合う事も出来ないんじゃ……不安だよ。
苦しそうに顔を歪め、その顔を隠すように毛布に包まった。
―― 00001号に会いたい。00001号の声が聞きたい。
温度を感じたい。抱きしめて、欲しいっ……! - 934 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:28:54.63 ID:o8cvdhgIO
-
『大丈夫ですよ』
「え?」
『垣根さんも言っていたでしょう?
ミサカが死んだくらいで可愛い妹を―― 見捨てるわけないじゃないですか、いつでも貴方を見守ってますよ』
「え? え? 00001号、なの?
どこにいるの?
ねぇ、ミサカに触れて! 抱きしめて!」
毛布から飛び出て、部屋の中を見渡す。
が、目的の人は見つかるわけもない。
「幻、聴? ……はは、ミサカもそろそろ、ヤバイかも、ね」
力が抜け、ペタンと座り込むと、背中から何か暖かい存在に包まれた。
『ほらね? ミサカはそばにいます。
貴方を見守ってますよ。
ミサカの事をいつも考えてくれるのは嬉しいけれど、それだけじゃ駄目なんですよ。
00002号は生きているんだから、だから沢山の事を経験して、沢山の幸せを心に貯めて、笑顔で生きてください』
「で、も……でも、ミサカだけ、幸せになって……い、いの?」
『当たり前でしょ!』
「あ、今の……少しだけ、お姉さまっぽい」
『えへへ』
「へへ」
『……ミサカの大好きな人たちが笑っていれば、ミサカも他のミサカ達も幸せです。
言ったでしょう? ミサカはいつでも貴方のそばにいる。
だから、笑ってください。恋してください。泣いてください。
そして、最後は笑ってください。ミサカ00001号の事は、そんなに考えなくていいですよ』
「そんなの―― 」
『……そうですね、ごめんなさい。
やっぱりたまにはミサカの事、世界中の誰よりも貴方を一番大好きだったミサカ00001号の事を思い出してください』
「あ、あったり、まえじゃん!ミサカだって、00001号のこと……一番大好き、だもん……ありがとう―― お姉ちゃん。
ミサカ、頑張るよ。頑張って、幸せになるよ」
- 935 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/20(金) 22:29:37.65 ID:o8cvdhgIO
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~~~
「みさか? みさか! みっさっかっ!」
「……え? うわぁああ! な、なんだよ! インデックス、驚かすな……あれ? ミサカ、寝てた?」
「お、驚いたのはこっちかも!
……そうなんだよ! 寝ながら泣いてたから、起こしたんだよ」
「え?」
手を頬に持って行くと、確かにその双眸からは涙が溢れていた。
「ミサカ、泣いてる……ミサカ、泣けたよ」
その涙は、ミサカ00001号が与えたもの。
ミサカ00002号が欠けてしまったと思った何かを、ミサカ00001号はうめたのだ。
夢だったのかもしれない、妄想だったのかもしれない。
ミサカ00001号はそんな事を思ってはいなかったのかもしれない。
でも、あれは夢でも妄想でもなく、確かな現実だとミサカ00002号は確信を持っていた。
「バッジ、ミサカのなくなってる」
この日、初めてミサカは泣いた。
そして―― 笑った。
「ありがとう」
天井を見つめ、ミサカ00002号は恥ずかしそうに微笑んだ。
『……』
ミサカ00001号も笑ってくれたような、そんな気がした。
インデックスはわけがわからない、という顔をしているが、何か良い変化がミサカ00002号に起きたという事はわかっているようだ。
―― みさかが救われたなら、それで良かった。
やっぱり、みさかは……笑ってる方が可愛いんだよ! - 939 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:07:51.24 ID:1dyaKj92o
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~~~
「やっと落ち着いてきたな」
「……」
「しかし、意外だったぞ一方通行」
「……」
「お前がなんの躊躇いもなく、人を殺すとはな。
しかし、あまり派手な殺し方をするな」
「……」
「……そろそろ、第一位が殺人鬼になったという情報も浸透してきた。
お前の仕事も終わりだ、以降芳川桔梗の研究成果を持ち出そうとする者は学園都市の敵とみなす。
さぁ、お前たちはもう自由だ。
好きなところへ行け」
- 940 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:08:19.73 ID:1dyaKj92o
-
~~~
「うーいーはーるー? 」
「なんですか?」
「いや、なんか最近急に元気になったからさ。
一方通行さんまだ見つかってないんでしょ?」
「……あぁ、あのモヤシを探すのはやめました」
とてもいい笑顔をしながら初春は言った。
「初春どうしちゃったの? それこそ、失踪した恋人探すみたいに必死だったのに急にケロっとしちゃってさ」
「この私が約半年かけて見つけられないなら、私に一方通……モヤシさんは見つけられないって事ですよ。
だったら、無駄なことしないで私は私に出来る事をやろうと思ったんです」
「初春に出来る事? 」
「はい! 御坂さんの関わってる研究にいま協力してるんです。
今日も一旦家帰ったらすぐに行くことになってるんですよ」
「最近帰りが遅かったのは風紀委員じゃなかったのか」
「すみません。つい言うの忘れちゃって」
気まずそうに笑う。
「いいけどさ……じゃあ落ち着くまで家事は私が全部やるよ」
「……本当は、そういうと思ったから言わなかったんです。
今は私が居候させて貰ってる立場なんですからそんな事できませんよ」
「何遠慮してるのさ! 私達は親友、ベストフレンドでしょ?
それに私も初春と同じ、私の出来ることをやるだけだよ。
私には、初春みたいに御坂さんの手伝いをすることはできない。
だけど、御坂さんの手伝いをする初春を助ける事くらいなら出来る」
「佐天さん……」
「さ、初春。行きなよ。どうせ家一回帰るのも、少し家のことやってから行こうって思ったからでしょ?
そんなの佐天さんに任せない!
美味しいご飯を作って私は初春の帰りを待ってるからさ」 - 941 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:08:46.18 ID:1dyaKj92o
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~~~
「俺に出来る事ってなんだろう」
「……知るかよ」
男二人はウイスキーを片手にテレビを眺めていた。
「垣根はさ、これからどうするんだ?」
「どうするって? 」
「お前に出来る事はなんだよって話だよ」
上条はいいながらグラスを空にした。
「わっかんねぇよ。とりあえず一方通行見つけて……どうしようかな」
「というか、どうやって見つけるんだよ」
「あーもー、うっぜぇ!
お前は何がいいたいんだよ! そんなことわっかるわけねぇだろうが! 」
上条のグラスに酒をつぎながら、自身のグラスも空にし、追加する。
「……ごめん。なんか焦ってた」
「俺だってお前と同じさ。
美琴ちゃんはすげぇ、俺なんかじゃ敵わないくらい強い。
それを再確認させられて凹んでんだよ。
だから今日お前に、同じ気持ち持ってるであろうお前に来てもらったんだよ」
酒の勢いか、垣根は普段は絶対見せないような姿をさらしていた。 - 942 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:09:16.54 ID:1dyaKj92o
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「俺とお前は同じだよ。
何かしたい、何か出来るはずだ。そう思っても実際何をしたくて何が出来るのかよくわかっちゃいねぇ」
また、一気に酒を飲み干した。
「ていとくもとうまも飲み過ぎかも」
二人の後ろには何時の間にかインデックスが立っていた。
「おま、寝たんじゃなかったのか」
飲酒が暴露たのを若干上条は気まずそうにする。
「みさかがね、泣いて笑ってまた泣きはじめたから一人にしてあげようと思って」
「そういう時はお前は何か声をかけるもんかと思ってたわ」
意外そうに垣根はグラスを揺らしながらインデックスの方を向いた。
- 943 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:09:44.74 ID:1dyaKj92o
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「何もわからないからね。なんて声をかけていいかもわからないんだもん」
「賢明な判断だ。
誰かが涙を流しているのを見て何か言ってやれるのは、その人の涙の理由を知ってる奴と無責任な奴だけだからな」
もう一杯、一気に飲み干す。
「ていとく、お酒はもう駄目! 身体壊すかも」
「いいよ、別に。
何もできない俺なんていない方が良いんだからさ。
今でもまた四人で暮らせると思ってるし四人の事を考えると勇気が湧いてくる。
でも、俺は実際は何もできないんだから」
「……酔いすぎだよ、垣根。
まだ、何が出来るかわからないってだけだろ。
何も出来ないわけじゃない」
「は、やっぱお前と俺は違うわ。
お前は何だかんだ言っても絶対に諦めない。
……俺は、何かを諦めちまいそうだ」
「ていとくは、少し弱気になってるだけかも」
垣根からグラスを取り上げ、インデックスは優しく微笑む。 - 944 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/23(月) 08:10:32.09 ID:1dyaKj92o
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「ていとくは強いよ。ただ、自分の強さに気がついていないだけ。
私の言っている強さと、ていとくの向いている方向の強さは今は別なんだよ。
全く違う方を見て、全く違う種類の物を比べているから自分は弱いと思っちゃうんだよ」
「あぁ、そうか。だから俺はお前の言ってることがよくわからなかったんだ。
そうか、わかった。俺に出来る事、今わかったよ」
上条も何かに納得したように、頷いた。
「垣根、御坂の強さは、お前が敵わないと思った強さはなんだ?
それはお前にはない物なのか?」
「……ねぇよ」
「嘘だよ、あるよ。だって、俺はお前には勝てないもん」
「あ?」
「力だけの強さしかお前はみえてないんだよ。
だから、御坂の心の、人間にとってなにより大切な心の強さにビビっちまってんだ」
インデックスは上条の話に微笑みながら相槌をうつ。
「でも、お前も持ってる。振り返ってみろ、落ち着いて一旦立ち止まってみろ、お前に出来る事、お前にしか出来ないことが転がってるだろ?」
「……やっぱお前ら反則だわ」
「俺自身も今気づいたんだ。
俺は走り回ることしか出来ない、だったら、走り回ってやるってね」
「立ち止まる、か……」
垣根は寝そべりながら天井を見上げる。
「そうか……そうだよ。
見つけたい、それだけじゃ駄目なんだ。
俺の力は何かを守る為だけに使うって自分で決めたんだから……。
一方通行を、助けたい。馬鹿な親友を守ってやりたい。それが俺の力の使い方、それが俺の……俺にしか出来ないことだ……」
「ていとくはいつでもとうまやみさかやみことの心配をしてたよね」
インデックスはよく響く声で教え諭す。
「それは、ていとくが強い心を持ってるから出来る事なんだよ。
自分だってボロボロで誰かの助けが必要なのに、いつでもみんなを守ろうとしてくれてるよね。
あくせられーただってそう。
自分の事を後回しにして、自分の大好きな人の為にボロボロになって……もっとみんなを頼っていいんだよ?
ていとくやあくせられーたがみんなを好きなように、みんなもていとくやあくせられーたを好きなんだから」
―― でも、俺に……。
垣根は何かを隠すように目を覆った。 - 947 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:30:02.17 ID:+SNSsMpMo
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「お?」
「……な、なんだよ」
「いやいや、ええねん! そうかぁ、カミやん元気になったんかー」
翌日、ふらつく頭で学校に登校するなり、青髪ピアスが嬉しそうに笑った。
「え? ……あぁ、なんか悪かったな」
そういえばずっと心配していてくれたな、と上条はここ数ヶ月の事を思い出す。
「ええよええよ。
カミやんがなんも言わんって事は僕じゃ力にはなれへんのやろ?
せやったら僕も気にせんとカミやんいじって遊ぶからよ。
カミやんも僕と遊んでる時はややこいこと忘れて普通の学生に戻ったらええんちゃう?
何をやるにも休憩は大切やで!」
当たり前の事のように、青髪は言う。
「言えない事の一つや二つで友人関係終わってまうのは嫌やし、そんなもん誰にでもあるしな。
僕らは何時の間にか一緒におるんが当たり前になってそれが一番楽しいから飽きもせずこうやって話してる訳やし。
僕らの前では無理せんと愚痴ったりしてもええんやで?
一緒におるんが楽で楽しいから連んでるわけやしな! 」 - 948 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:30:28.14 ID:+SNSsMpMo
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「そっか……ありがとう青髪。
お前もたまには真面目な事言うんだな」
「僕ぁいつも大真面目やで?」
「はは、とりあえず俺はもう大丈夫だ。
答えは見つけた」
「……そっか。じゃあ頑張れや」
「……おう」 - 949 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:31:33.77 ID:+SNSsMpMo
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「垣根さん大丈夫? 」
「……駄目」
「もう! 自業自得かも! だいたいこの国では二十歳になるまでお酒のんじゃいけないんだよ!
なのにあんなガブガブ飲んで、ていとくはおばかさんなのかな?」
「頼む、大声出すな。まじでやばい」
一晩明けて、ここまで酒が残り、さらに気分まで悪くなったのは初めてであった。
その理由はなんなのかはなんとなく垣根の中に答えはある。
―― まちがいなく上条とインデックスのせいだよこんちくしょう……。
バカのくせに俺に色々考えさせるんじゃねぇよ。
おかげで変な酔い方しちまっただろうが……。
完全な八つ当たりである。 - 950 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:33:34.02 ID:+SNSsMpMo
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「もう、せっかくミサカ元気になったのに」
「……は、御坂遺伝子は強いな」
「そんな事ないよ。ミサカは一人では立ち上がれなかったもん、強いのはお姉さまとお姉ちゃんだよ……」
少しだけ、悲しそうに微笑んだ。
「それに! ミサカが立ち直れたのは垣根さんが居てくれたからだし」
だが一瞬で顔を輝かせ、垣根の額にタオルを当て汗を拭き取る。
この季節だと言うのに、垣根は汗だくであった。
「俺がお前に何をしてやれたんだよ……世辞はよせ」
「ずっと一緒に居てくれた。ミサカが縋り付いた時受け止めてくれた。
もし垣根さんが居てくれなかったら、ミサカは立ち直れなかったよ」
「……ミサカは何て言うかな」
「垣根さんはもっと自分を大事にしてください。
ミサカが大好きな垣根さん自身を垣根さんも大切にしてください」
声のトーンを落ち着いた物へと少し変え、ミサカ00002号はミサカ00001号の真似をした。 - 951 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:34:03.19 ID:+SNSsMpMo
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「多分、すっごく心配そうな顔しながらこんな事言うよ。
しかも本気で言うから垣根さんすっごい反省すると思うよ。
ミサカが言うんだから間違いない」
うん、と頷き窓の外へと視線をずらす。
ベランダからは一羽の名前も知らない鳥が飛んで居たのが見えた。
「……シャワー浴びてくるわ」
何回か大きく呼吸をすると、垣根は立ち上がり風呂へと向かった。
―― 結局俺が一番最後か。
冷水をかぶると、心臓を掴まれたような痛さが身体に走った。
徐々にシャワーの温度をあげ、適温にする。
ゆっくりと何かを溶かすように垣根は頭からシャワーを浴び続けた。 - 952 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:34:30.27 ID:+SNSsMpMo
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「一方通行……」
真冬の冷たい風がカーテンを揺らす部屋で芳川は一人つぶやく。
「一方……通行……」
手にはチカチカと光る携帯電話を持っていた。
あの日、一方通行が自身の携帯電話を潰す直前に芳川に送ったメールをまだ芳川は開いていない。
「……」
窓のあいた部屋にいる芳川の頬は冷たく、うっすらと赤くなっている。 - 953 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:34:58.14 ID:+SNSsMpMo
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「……」
スキルアウトすら滅多にこない路地裏の奥の奥、鼠やゴキブリがわさわさと歩き回るそんな所に一方通行は一人座り込んで居た。
「……」
何をするわけでもなく、膝を抱え座り込んでいる。
日が落ち、あたりは闇に包まれた。
「……」
すると、一方通行は立ち上がり何処かへ向かいフラフラと歩き出した。 - 954 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:36:15.39 ID:+SNSsMpMo
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「出来た……。
これであの子達も少しは報われる」
一方通行を探すのを辞めると宣言した日から二週間が経っていた。
未だに垣根、上条から発見の知らせは聞いていない。
「あとは、あいつらがやってくれる。
私の出来る事は全部やった……はず」
「御坂さん、こっちも終わりました。
多分、問題ないと思いますよ実験できないから理論上はって事になりますけど」
疲労に満ちた頭に初春の声が染み渡るように届いた。
「初春さん……ありがとう。
ごめんね、無理いっちゃって」
「いえ、風紀委員の方は私の分の仕事も白井さんがやってくれてますし。
その他の生活の事は佐天さんがやってくれてますから全然大丈夫ですよ」
「あの二人にもお礼しなきゃね」 - 955 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:36:44.90 ID:+SNSsMpMo
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「御坂さん、私達は自分の出来る事を、やりたい事をやっただけです。
私達にそれぞれ道をくれたのは御坂さんです。
お礼なんて考えないでくださいよ。
私達、仲間じゃないですか」
「そっか……。
ありがとう。これは私達四人で作った物だね」
そういいながら御坂が視線を向けた先には、垣根や一方通行と出会うきっかけとなった機械があった。
初春の作ったソフトは、既にインストールされ、あとは主役が揃うのを待つだけの舞台装置だ。
「一方通行、あんたにとってこれが救いであると、私は信じてる。
だから、はやく帰って来なさいよ」
御坂の目はいつかのように、激しく燃えていた。 - 956 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:37:47.43 ID:+SNSsMpMo
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「……」
一方通行の足元には気絶したスキルアウトが何十人も転がっていた。
そこに今立っているのは一方通行と一人の名も知らぬ怯え、涙を流す少女だけだ。
「……早く帰れ」
何をしたらいいか。
どうするべきか。
何もわからずにいる一方通行は毎日こうして路地裏を歩き回り、大切なものを助けられなかった罪を償うかのように、弱き者に暴力を振るわんとする外道を、さらなる暴力で黙らせていた。
結果としてみれば、街の治安維持に貢献しているのかもしれないが、その姿は助けられた者からみても恐ろしいだけである。
「……」
フラフラとまた歩き出すが、急に膝から崩れた。
「……」
そしてなんとか立ち上がり、闇に姿を溶かした。 - 957 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:39:19.42 ID:+SNSsMpMo
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「あ、そうだ! ねぇ、これって一方通行さんのことじゃない?」
女子中学生四人組は、久しぶりに全員揃っていた。
場所はファミレスである。
注文を終えると、佐天が思い出したように携帯電話を開き、とあるページを三人に見せた。
「んー、真夜中に現れる白い死神?」
「えーっと……最近多発しているスキルアウト襲撃事件、警備員が現場に到着すると某然とする少女を発見。
事情を聞くとただ一言、白い悪魔のような人が助けてくれた。
初めての目撃者は十二月初旬……最近じゃないですか、これ。
えぇっと……え?」
「どうしたんですの? 」
「いや、嘘か本当かわかりませんけど、今日十二月十五日じゃないですか……目撃者というか、多分スキルアウトに襲われてた学生で証言を得られたのは五人。
その他警備員が見つけた気絶したスキルアウトは百人を超えるって……たった二週間弱で?」 - 958 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:39:59.43 ID:+SNSsMpMo
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「でもそれだと私達の所に何かしらの報告は来るはずですの、私は何も聞いてません。
嘘ですわ、こんなもの」
「でも、あいつなら襲われてる現場に出くわしたら立ってるだけでスキルアウト無力化くらいは出来るわよ?」
「……警備員のサーバに侵入してみましょうか?
もしかしたら風紀委員には荷が重いという事で知らされていないだけかもしれませんし、それに事件は夜中ですからね。
白井さんのような風紀委員が捕まえようと夜出歩くのを防ぎたかったとか、理由なんていくらでも思いつきますよ」
「そうね、私も協力するわ」
「……初春も私と同類だと思いますの。もちろん、お姉様もですわよ?」
二人は聞こえないふりをした。
「……」
そして、佐天は何やら迷うように眉を顰めていた。 - 959 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:40:33.17 ID:+SNSsMpMo
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「お姉様、ありがとう……か」
病院の屋上、御坂美琴は鈍色の空を見上げながらミサカ00296号の言葉を繰り返した。
「一方通行、あの子だけはあんたに恨み言を言うかもね……」
息をはくと、それは白くなり外の寒さを実感させる。
「そういえばあと一週間でクリスマスか……。
いい子にしてれば良かったなぁ、そうしたらサンタさんがプレゼント、くれたかもしれないのに……」
御坂は目を閉じ、冷たい風で肺を満たすように大きく息を吸い込んだ。
澄んだ空気は頭を浄化するかのように染み渡る。
「お姉様、風邪ひくよ?」
不意にかけられた声にパチっと目を開けると、相変わらずの鉛色が視界に飛び込んで来る。
声の出処を探し、視界を下に移すと自分によく似た小さな女の子が立っていた。
「打ち止めか。
……そうね、中入りましょ」
頭にぽんと手を乗せたあと、打ち止めの手を取り病院内へと続くドアへ歩き出した。 - 960 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:41:29.43 ID:+SNSsMpMo
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「助け……」
一方通行は何もかもがズタボロであった。
食事も取らず、日が落ちるとスキルアウトを狩る日々。
一方通行は昼間にもかかわらず薄暗い路地裏の奥で倒れるように座り込んでいた。
意識なんてものはほぼ無い。
今、一方通行の目に映るのは力で弱い人間を蹂躙し、壊そうとする最も嫌いな物だけだ。
自分の好きなものを決して目にいれないように、嫌いな物だけを目にいれ生きていた、その嫌いな物を排除すれば、好きなものは守れると信じて……。
「た、す……」
だが、ほぼ無い意識は、本当の願望を口にしようとする。
一方通行の意思とは全く関係なく、心を曝け出さそうとして来る。
「き、きょ……う」
そして、最も愛する人の名前を呼んだ。
「かきね……」
最も信頼する同志の名前を呼ぶ。
「みさ、か……」
守ることのできなかった妹のような存在の名を呼ぶ。
「桔梗」
そして、最後にもう一度、ハッキリとした声で愛する人の名前を呼んだ。 - 961 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/25(水) 19:42:48.21 ID:+SNSsMpMo
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~~~
「……よし」
―― 私にも、私の出来る事をやらなきゃ……。
怯える心に喝をいれ、佐天涙子はゆっくりと夜の街へと足を進めた。
その目には、何かしたいという、わかりやすすぎる意思が灯っている。
- 965 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:36:17.13 ID:ZUJ42Ia1o
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~~~
「……あ」
ふと目を覚ますと、あたりは真っ暗だった。
「いか…ねェと……」
一方通行は立ち上がり、おぼつかない足取りで歩きはじめた。
「いか……なきゃ」
恐らく本人に声を出しているという自覚はないだろう。
無意識が声を出さねば野たれ死にしてしまうと警告しているのだ。
ふらふらと、見てる方が不安になるような動きだが、能力だけは正しく機能している。
難しい演算などは出来やしないが、無意識、睡眠中にも出来る反射だけはこの時でさえも完璧であった。
そして、大抵の者は一方通行の反射を破れずに敗れる。
「どォして……」
わけのわからない独り言を呟きながら、一方通行は暴力をさらなる力でねじ伏せるために歩き続ける。 - 966 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:37:48.96 ID:ZUJ42Ia1o
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~~~
―― こ、ここまでは予定通り。
佐天涙子は涙目になりながら、数人の男達に囲まれていた。
男達は下品な目付きで舐め回すように佐天の身体を上から下へと見る。
「お嬢ちゃん、こんな遅くにこんなとこ歩くなんて……馬鹿だねぇ。
あ、それとも俺たちみたいななのに声かけられるの待ってたとか?」
金髪のリーダー格の男が煙草に火をつけながらニヤニヤと尋ねた。
「ち、違います」
―― この人、発火能力者だ。
煙草に火をつけたとき、ライターのような道具は確認できなかった事から彼が能力者であると判断する。
―― というか、まっずい。
もし誰も助けに来てくれなかった時の事全く考えてなかった。
突然、恐ろしくなり足が震えはじめた。
だが、そんな心配はいらないのだ。
この街のこの学区には、ヒーローがいるのだから。
「あ? んだてめぇ? さっさと消えろ」
男達の一人が、路地裏の奥へ人影を見つけ怒鳴りつける。
「……」
怒鳴りつけられた男は何も言わずに、ゆっくりと男達に近づいて来た。 - 967 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:38:28.89 ID:ZUJ42Ia1o
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~~~
「う、あ……」
「……」
小さなうめき声をあげ、倒れる男達の真ん中に、一方通行は立っていた。
その瞳は薄黒く濁り、カタカタと歯を鳴らす少女を見つめていた。
「あ、ありがとう……ございます」
少女は助けてくれたのであろう真っ白な少年にお礼をいう。
「……はやく、かえれ」
ゲームの決められた台詞しか話さないキャラのように、感情なく言葉を口にする。
少女は一瞬迷ったが、直ぐに走り出した。
その後ろ姿が見えなくなると、一方通行はまた闇に消えた。 - 968 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:39:26.52 ID:ZUJ42Ia1o
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~~~
「……やはり、第一位は壊れたな。
友人の崩壊、しかし幻想殺しにはあの少女がいる。
幻想殺しの崩壊はありえない。
そして幻想殺しはまたひとつ精神的に強くなれるだろう。
……第二位の方はどうなるかわからないがな」
アレイスターはぷかぷかと浮かびながら、笑った。
目的はただひとつ、上条当麻に眠る何かを呼び覚ますことだ。
その為ならば、第一位だろうが第二位だろうが、彼にとっては道端に転がる石よりも価値を無くす。 - 969 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:41:02.51 ID:ZUJ42Ia1o
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~~~
「お前ら、楽しいか?
そうやって自分よりも弱い女の子を大勢で怯えさせて、楽しいのか?」
「あ? 何言っちゃってんだこいつ?」
「俺は、不愉快だ」
「この街は力こそが正義、だろ?」
「そうか、だったら、俺が……そのふざけた幻想を―― ぶち殺してやるよ」
現れたのは一方通行ではなく、上条当麻であった。
その目は怒りで満ちている。
力こそが正義。
男達はそう言った。
そして、上条は目の前でその間違った正義がもたらした惨事を見ている。
力を持ちながら、それよりも大切なものをちゃんと理解し、その胸に刻み込み涙を流した者を見ている。
その、彼らの清く強い心を踏みにじられた気がしたのだ。 - 970 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:43:27.78 ID:ZUJ42Ia1o
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~~~
そのふざけた幻想をぶち殺してやるよ。
―― 上…条……?
あ、いつは……佐天涙子か?
一方通行は、路地裏でツンツン頭の友人と、何の恐れもなく自分に接してきた少女を見つけてしまった。
そしてその声と、形は今まで虚ろだった一方通行の意識をはっきりと表へ出させるにはちょうどいい刺激を有していた。
「馬鹿やろ……お前じゃ……勝てねェ…だろォ」
だが、一歩を踏み出せない。
彼らの前に出てしまったら一方通行はもう二度とこの街にいられなくなるのではないかと怯える。
「……もう、いやだ」
上条から視線を外し、うずくまる。
研究員を私刑し、一人泣いていたあの日のことを思い出していた。
ただ夢中に、憎いという感情に従い、命を奪うぎりぎりまで痛めつけた。
そして、気がついたら自分は泣いていた。
力では何も解決しない。残ったのは後味の悪さと悲しみだけであった。
その、恐怖と痛みを思い出していた……。 - 971 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:44:03.48 ID:ZUJ42Ia1o
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~~~
「はぁ、はぁ……これが、これが正義か?
お前は、俺にこうやって殴られてりゃそれで満足なのか?
違うだろ! 」
上条はなんとか男達を全員気絶させた。
それが出来たのは、男達のうち何人かは能力者であり、能力に頼り切った戦い方しかしてこなかったからである。
「……行くぞ、佐天」
上条は佐天涙子の手を取るとそのまま大通りの方へと足を向けた。
佐天はただ俯きながら黙り込むことしか出来なかった。
- 972 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:45:07.28 ID:ZUJ42Ia1o
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~~~
「帝督」
垣根がいつものように、芳川の病室へはいると、決して喋ろうとしなかった芳川が口を開いた。
「お、おおお……な、なんだ?」
垣根は自然に振舞おうとするが、逆にとても不自然になってしまう。
「一方通行は帰ってくるわ。
だから、私はもう大丈夫」
「そ、そうか……よかった」
「貴方も肩の力を抜きなさい。
皺、寄ってるわよ」
芳川は優しく微笑みながら垣根の眉間を指差す。
「……なぁ、芳川」
垣根は子どものような声を絞り出す。
「なぁに?」
芳川は、母親のような微笑みを浮かべ応えた。
「俺は……俺にできる事って、なんだ?」
「そうね」
芳川は、少し考える。 - 973 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:45:48.43 ID:ZUJ42Ia1o
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「一方通行をぶん殴る事じゃない?」
そして、面白いものを見つけた子供のように笑いながら言った。
「は?」
「馬鹿な事した友人は、誰かが叱ってあげなくちゃ」
「いや、でも殴るって」
「何も実際に殴れって言ってる訳じゃないわよ」
―― 言ったよ。すげぇいい笑顔しながら言ったよ。
「思い切り叱りつけて、物理的でも精神的にでも、どっちでもいいけどボッコボコにしてやればいいじゃない。
どんだけ心配したと思ってる!
どれだけ私達が悲しんだと思ってる!
どれだけ、お前自身を傷つけた!……ってね」
芳川は、ただ、一方通行を想い、微笑んだ。 - 974 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:46:16.59 ID:ZUJ42Ia1o
-
―― やっぱ、芳川はいいな。
母親なんて知らねぇけど、こんなような人のことを、母親だと言うんだろうな。
でも……。
「わかった。
じゃあとりあえず……あの白いの見つけなきゃな」
垣根は心にまだ引っかかりがあるというのを隠そうと笑う。
だが、そんな偽物の笑顔など、家族の前では通用しない。
「……そうね」
しかし、芳川はそれに触れることはなかった。
それは、信頼の証でもある。
―― 大丈夫、この子は本当に答えがわからなかったら素直に聞きにくる。
部屋を出る垣根の背中は、とても大きくなったように感じた。 - 975 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:46:58.90 ID:ZUJ42Ia1o
-
~~
カタンと音がした。
覚醒し切っていない頭を覚醒させ、音のした方向を見る。
看護師が閉めたはずの窓が開いていた。
「一方通行?」
「……芳、川……ごめン」
カーテンに隠れるように、ずっと側に、隣にいて欲しいと願った存在はいた。
「一方通行……あなた、何、してんのよ……みんな心配してる……だから、帰ってき、て……」
芳川はベッドから飛び降り、一方通行へと駆け寄った。
そして、カーテンごと思い切り抱きしめる。
「一方通行……一方通行………」
そして、ただ、一方通行の名前を呼び続けた。
「う、あ……ああ……」
だが、一方通行は困ったように身体を硬くする。
そして、あの日のように、芳川を無理矢理眠らせた。
「あ……一方…通行……な、んで……」
芳川はぼろぼろと涙を流しながら、眠った。 - 976 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:47:41.44 ID:ZUJ42Ia1o
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~~~
―― クッソ。クッソ。クッソ。クッソ。クッソ。
こなきゃよかった。こなきゃよかった。なンで、クッソ。
怖い。なにが?全部。
怖い。なにが?芳川が。
怖い。なにが?垣根が。
怖い。
なにが?
―― また、何かを失うのが。
一方通行は逃げ出した。
あと少し、彼に勇気というものがあったのならば救われたかもしれない。
だが、彼は臆病だった。
だから、一歩踏み出すことができず、逆に引いてしまったのだ。
もう嫌だ。と思ったとき、自然とその足は芳川桔梗のもとへとむかった。
だが、勇気が足りないばかりに、また嫌だと言った世界に戻る羽目になった。
一方通行、それは学園都市最弱の男の名前である。 - 977 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:48:35.29 ID:ZUJ42Ia1o
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~~~
「お前、なにやってんだよ」
上条の声からは怒りだけが滲み出ていた。
「……すみません」
「なんであんなところにいた。
俺が来なきゃどうなってたか」
「一方通行さんを、探していたんです。
最近、この辺りでスキルアウト集団が何個も潰されているんです。
それは、そのスキルアウトに襲われそうになってる学生を誰かが助けて回ってるんです。
だから、私がもし、襲われそうになったら―― 」
「一方通行が助けにきてくれるって思ったのか……。
でも、間違ってるよ。
お前の気持ちは分かる、けどお前が傷つくかもしれない行動はとるな。
俺がなんでここに来れたか分かるか?」
上条は佐天の肩を掴む。 - 978 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:50:23.95 ID:ZUJ42Ia1o
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「初春が! 御坂が! 白井が!
俺にお前が帰って来ないって連絡してきたからだ!
みんな、お前がなにをやろうとしてるかすぐ察したみたいだった。
初春なんて泣いてたぞ? 佐天さんに何かあったらどうしようって」
「あ、初…春……」
「何も出来なくて歯がゆい気持ちは分かる、俺だって何も出来てないからな……。
でも、自分が傷つくような、そんな行動は起こさないよ。
なんでかわかるか?」
佐天は黙って首を縦に振った。
「私が……傷ついたら、傷つく人がいる……から」
「そうだよ、俺も最近やっとそれに気がついた」
「すみ、ません……」
「道は他にもあるんだ。絶対に!」
「……はい」
「お前は、自分のできることをちゃんとやっただろ?
だから、あとは俺達に任せとけ」
上条は、御坂が何か自分なりの答えを出したのならば、御坂が当然のように彼女の後輩を導くと信じていた。
だから、この四人は自分に誇りを持てる行動を起こしていると、信じていたのだ。 - 979 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:51:36.61 ID:ZUJ42Ia1o
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「寒いな」
上条の吐く息は白い。
「そうですね」
「帰ろうぜ。初春が待ってる」
そういうと、上条は携帯電話を取り出し操作した。
「よっし! 御坂と白井も待ってる」
「常盤台の寮は厳しいのに、お二人には迷惑かけちゃいましたね」
「おっかねぇ寮監に怒られるよりも、お前に何かあった方がよほど痛いんだろうさ。
こういう時、まず会ったらなんていうか知ってるか?」
「……はい! 『ありがとうございます』そして、『ごめんなさい』ですよね」
「満点だ」
上条は、笑った。
冬の空は澄んでいて、星が綺麗に瞬く。
そして、ふと佐天は思った。
一方通行は、おそらく今この綺麗な星空が見えていないのだろうな、と。
もし見えていたら、自然とこの星空に手を延ばしたくなるはずなのに、と。 - 980 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/28(土) 02:58:08.31 ID:ZUJ42Ia1o
- 今日はここまで
また読んでください
そして時系列ごっちゃになったから整理しておく
十五日
朝 垣根二日酔い
昼間 超電磁砲組ファミレスに集まる。
夜 上条佐天を救う。一方通行上条を見つける。
深夜 一方通行が芳川のところへ。一方通行逃げ出す。
十六日 垣根芳川と会話。
多分これでつじつまあってるはず
間違ってたらすみません
- 982 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:34:34.11 ID:+Xee8gWgo
-
~~~
「佐天さんは馬鹿です」
「本当ですの」
「ええ、全く、大馬鹿ね」
家につき、扉を開けるなり三人は佐天に辛辣な言葉を浴びせる。
「……でも、そんな馬鹿な私を、心配してくれて……ありがとうございます」
頭を深く下げた。
「そして、ごめんなさい、心配かけて」
顔をあげ、しっかりと三人の顔をみながらいった。
「ほんと、どうしようもないお馬鹿さんです。
いったい、私がどれほど心配したか、わかりますか?」
初春は、目に涙を溜めながら怒っていた。
「うん、ごめん、初春」
「気がついたら佐天さん家出てて、携帯ならしても繋がんないし、近くのコンビニとか行ってもいないし……」
「ごめんね、初春」
「佐天さん、前に私言ったでしょう? 私は佐天さんが居なくなったら泣きますよ?
そして、あなたを見つけるまで私は探し続けます。
そんなの、めんどくさいからあなたは私の側にいてくださいって言いましたよね」 - 983 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:35:33.54 ID:+Xee8gWgo
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初春が最も怖いと思っている事、それは親友だと心を許したかけがえのないものが消えてしまう事だ。
その気持ちは、一方通行が垣根帝督を拒絶した時に一気に大きくなった。
同性愛者なんじゃないかとからかわれても、けろっと純粋な友情だよ、とまっすぐ言えるような、そんな二人に憧れて、そうなりたいと思っていた。
だから、最初初春飾利は一方通行を探すのに必死だったのだ。
自分の目指す最高の友情は、壊れかけても治るという事を確かめたくて……さらに綺麗に輝く素晴らしい財産になる事を確かめたくて。 - 984 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:36:33.76 ID:+Xee8gWgo
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「佐天さん、私達も同じですわよ」
白井は微笑む。
佐天の無事を喜ぶように、また、自身の心を誇るように。
「私達は四人でひとつのチームですの。
お姉さまに出来て佐天さんに出来ない事、初春に出来て佐天さんに出来ない事、私に出来て佐天さんに出来ない事……。
沢山ありますわ、でも……」
「私達に出来なくて、佐天さんに出来る事だって沢山あるんだよ、例えば今」
白井の言葉を御坂が繋いだ。
「初春さんを笑顔に出来るのは? 」
そして、初春に質問をぶつける。
「超能力者と御坂さんでも、大能力者で空間移動の白井さんでもなくて、何も出来ないと思い込んでる佐天涙子だけなんですよ」
「白井、さん……み、さかさん……ごめんなさい。初春も、ごめ、ん……」
佐天は、初春を抱きしめた。
「ほんと、お馬鹿さんですね、佐天さんは」
初春も、しっかりと抱き返す。
―― なんか、こういうの……いいな。
純粋な友情で繋がるっていいな。
きっとこれからこの四人は互いに助け合って、喧嘩したりもするだろうけど、きっと最後はこうやって笑いあうんだろうな。
上条も、頬を緩ませた。 - 985 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:39:00.59 ID:+Xee8gWgo
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「あ、昨晩一方通行が来た事帝督に言うの忘れてたわ」
垣根が部屋を出て行き、一人きりになった途端、芳川は呟いた。
「まぁ、いいか……それより―― 」
芳川が手にするのは、十年の年季を感じさせる古ぼけた青紫色の携帯電話だ。
メールの受信を知らせるランプは、あの時からずっと存在を主張するかのように光っている。
二つ折りのそれを開くと、一方通行の顔を隠すように、新着メールあり、の文字が浮き出ている。
「なんか、怖いわね……」
送信者はわかっている。一方通行以外にありえない。
恐る恐る開くと、そこには一言だけ言葉が書いてあった。
その文字を見た瞬間、芳川は息を呑んだ。
そして、一粒涙をこぼす。
それは、一方通行の叫びであった。
垣根やミサカ00002号には決して言えないと彼自身が思い込んでいる、叫びであった。
『たすけて』
- 986 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:44:08.53 ID:+Xee8gWgo
- 本当に少しだった
今日はここまで、また読んでください
あといまきりいいし、あと15レスじゃ確実に終わらないのでこれでこのスレ埋めて新しいスレ立てようと思うのですが、どうかな?
- 987 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:49:41.95 ID:+Xee8gWgo
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凍えるような寒さの中、一方通行は倒れていた。
鼠が彼の体の上を走り、地面の冷たさは彼から体温を奪う。
「う、あ……ああ」
何か言おうとするが、それはただのうめき声にしかならない。
彼の目には今煌びやかな街の光がだんだんと消えていく様子が映っている。
―― これは、俺だ。
華やかな輝きも、時間が経てば終わりを迎える。
それを、夏のあの日々の自分と今の自分とに重ねていた。
―― 寒ィ。
光がすべて消えた時、自分は死ぬのだろう。
そう、一方通行は思っていた。
目に映る光はあと二つ。
―― 垣根がいれば、芳川は大丈夫。
垣根がいれば、ミサカは大丈夫。
ミサカがいれば、打ち止めは大丈夫。
上条がいれば、インデックスは大丈夫。
御坂がいれば、佐天達も大丈夫。
佐天達がいれば、御坂も大丈夫。
みんながいれば、この街は大丈夫。
一つ、消えた。
―― 携帯電話、壊さなきゃ良かったなァ……。
もし、もしも叶うならば……今度は五人で一緒の携帯電話が、欲しいなァ。
俺は今度は……。
そして、最後の光が、消えた。
それは消えたのではなく、一方通行のまぶたが完全に閉じただけなのだが……。
―― もう、駄目だな。
一方通行のまぶたには、楽しかった日々が走馬灯のように蘇っていた。
初めて垣根と会った日。
初めて芳川と会った日。
それから、数ヶ月前の日々。
一方通行の瞳からは自然と涙が溢れてきた。
その涙がなんの涙なのかはわからない。
だが、それはとても悲しいものだった。
―― 芳川ァ……。
必死に、芳川の笑顔を思い出そうとする。
だが、思い出せるのは悲しそうに自分の名前を呼ぶ彼女だけだった。
―― 笑っ、てくれ…よ……。
そこで、一方通行の意識は―― 消えた。
「たす…け」
その声を聞くものは……。 - 988 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/04/30(月) 02:50:28.71 ID:+Xee8gWgo
- ミスった
ひとつ投下し忘れてた
お恥ずかしい
では、またよろしくお願いします - 989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 07:52:17.05 ID:mj7u2IYDO
- おっつー
次スレも待ってる - 991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 23:11:34.18 ID:HuB0sRXz0
- 己!!
次スレも楽しみです!!! - 992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/05/01(火) 01:50:29.52 ID:chmG6eZAO
- おおー乙乙次スレでも楽しみにしてる
- 993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2012/05/02(水) 02:59:46.13 ID:p7wpOpVl0
- ようやく追いついたぜ~
>>1乙
2013年7月3日水曜日
一方通行「青紫色の携帯電話」 2
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