- 5 : ◆hZ/DqVYZ nkr[saga]:2012/05/01(火) 12:10:39.83 ID:CzeVlro+o
-
~~~
「目が覚めたようだね?」
「……」
「私がわかるかね?」
一方通行は首を横に振る。
「……ふむ、これは……どうしようかね?」
カエル顏の医者は困ったように、つぶやいた。
「……」
一方通行は定まらない視点で、部屋の中を見渡す。
その部屋には今自身が寝ているベッドとイス、そして机とテレビが一台あるだけであった。
その机の上には、最新式の携帯電話がひとつ置かれている。
「あ」
それを見て、一方通行は頭を抑える。
頭を抱え込むようにすると、カタカタと震えはじめた。
「嫌、だ……嫌だ嫌だ」
そして『嫌だ』と繰り返し呟いた。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
その様子をカエル顏の医者は静かに見つめていた。
―― これがお前の計画なのかね?
その瞳には失望と申し訳なさが同居しているように見えた。 - 6 : ◆hZ/DqVYZ nkr[saga]:2012/05/01(火) 12:14:32.22 ID:CzeVlro+o
-
~~~
「一方通行……」
泣き腫らした目で携帯電話の画面を見つめながら芳川は、呟く。
「どうしたら、いいの? 私は……何が出来るの?」
ただ待っていればいいと思っていた。
それが自分に出来る事だと思っていた。
帰って来た時に、優しく包み込みおかえりなさいといってやることが、自分に出来る事だと思っていた。
だが、今のままでは一方通行は帰ってこない。
本心では助けを求めているのにそれに一方通行は何故か気づいていない。
ならば何故あんなメールをよこしたのか。
答えは簡単だ。
一方通行自身、芳川ならば、芳川桔梗だけが自分を救えると無意識のうちに思っているからだ。
もちろん、そこにたどり着くのに垣根帝督やミサカ00002号の助けが必要な事も、感じているだろう。
そして、それこそが一番の問題なのだ。
何故ならば、一方通行は垣根帝督とミサカ00002号には面と向かって拒絶の意を示してしまったからだ。
唯一、一方通行が拒絶を直接的に示さなかったのは、芳川桔梗だけである。
だから、一方通行は芳川にだけ、助けを求める事が出来たのだ。
しかし一方通行は芳川へと救いへと導く橋を、自分で落としてしまった。
そう、思い込んでいる。 - 7 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:15:32.31 ID:CzeVlro+o
-
~~~
「……」
一方通行は一日をベッドの上にただ座り過ごしていた。
『嫌だ』以外何も言葉を発しないし、何にも反応を見せない。
ただ、ぼうっとまっすぐ前をみつめている。
何を考えているのかなにを思っているのか知るものはいない。
「チッ……クソバカ第一位が」
病室を覗き込み、悔しそうに吐き捨てたのは、長い髪で顔の半分を隠している少年だ。
「お前がそんな絶望していたら、俺たちはどうなるんだよ……。
それにお前まだ、ペンを供えに行ってねぇだろうが、クソモヤシ」
一方通行を救ったのは、かつて一方通行の実験に巻き込まれ、命を拾った少年であった。
その少年は闇に染まった真っ黒ないわゆる裏の世界で一方通行の名を最近よく聞く事と、佐天の発見した都市伝説と同じものを見た。
そして、深夜の路地裏をふらついていたら偶然倒れて瀕死の一方通行を見つけたのだった。
「……」
少年はため息をつくと、自分に出来る事はないというようにその場を立ち去った。
- 8 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:16:36.36 ID:CzeVlro+o
-
~~~
「ただいま」
佐天の行動から数日がたっていた。
上条は、未だに暇があると外をふらつき一方通行の姿を探している。
だが、決して無理はしていないようだ。
「おかえりなさい」
同居人のインデックスはそんな上条を優しく迎える。
「なぁ、インデックス」
「なにかな?」
「俺がさ、今やってる事って意味、あるのかな?」
上着をハンガーにかけながら、上条は問う。
「俺にできることって、走り回るしかないのかな?」
上着の代わりにジャージを着ながら、更に問いかける。
「もしかしたらさ、俺が走り回ってるのは一方通行の為じゃなくて自分のためなんじゃないかな?」
「それのなにが悪いのかな?」
「え?」
「大丈夫なんだよ、いまとうまが抱いてる気持ちは私と会う前にとうまが抱いてた気持ちとは別物だよ?
少し前のとうまは、自分の為だけにこだわってた。
けど、今は大切な友達だから、その人がいないと自分が苦しいから助けたいと思ってる。
それは、あたりまえの事なんだよ。
罪悪感で人を助けるっていうのとは違う。
とうまは今、自分も大切に出来ている、それはいい事だと思うんだよ」
インデックスは笑う。 - 9 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:18:26.39 ID:CzeVlro+o
-
「そっか……俺は……消えてしまえばいいと思っていた俺自身でさえも、今大切に出来ているのか……。
人を大事にするって事の意味がまた、わかったような気がするよ」
―― 自分の事を大切にできない奴に、守れるものなんかありはしないんだよな。
そう思えるようになったのは誰のおかげは言わなくてもわかっている。
だけど、上条はそれを言葉にしたいと思った。
しなくてはいけないと思った。
「インデックス、ありがとう」
「なにが?」
「色々だよ。
お前と出会ってなかったら、俺は一生一人で一生苦しんで、一生救われなかった。
だから、ありがとう。
お前との出会いは俺の人生に光をくれたんだ」
「……なんか、恥ずかしいね」
インデックスは照れたように笑う。
上条も穏やかに笑った。
「でも、とうま、こちらこそありがとうなんだよ」
「え?」
「私だって、とうまがいなきゃずっと縛られたままだったもん。
かおりやすているとも今みたいに笑えなかった。
私に笑顔をくれたのも、とうまなんだよ」
この二人はきっと大丈夫だろう。
二人は二人でひとつの大木になったのだ。
雨にも負けず、濁流にも流されない、一本の大木に。
この先なにが起ころうとも、二人は負けないだろう。 - 10 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:19:24.26 ID:CzeVlro+o
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~~~
「ねぇ、00001号。
一方通行のとこにも行ってあげてよ」
ミサカ00002号は星を見ながら呟く。
「一方通行は、しっかりご飯食べてるかな?
コーヒー飲んでるかな?
ちゃんと寝てるかな?
垣根さんもなんか最近おかしいし、ミサカやっぱ少しだけさみしいな。
でも、大丈夫だよ。
ミサカには、00001号がついてるもんね」
空に輝く星は何も言わない。
けれど、ミサカ00002号は満足気だ。
吐き出せる場所がある、見えなくとも話を聞いてくれているという確信が持てる。
それがミサカ00002号を支えていた。
「はぁーあ、ミサカ初めてのクリスマスなのになぁ……多分、プレゼント、貰えないね。
早くみんなで笑いたいなぁ……」 - 11 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:20:02.95 ID:CzeVlro+o
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~~~
「……」
―― 俺は何をしているんだ?
俺は誰だ?
俺は間違っているのか?
俺はいつから間違ってるんだ?
俺は、だれもまもれない、のか?
俺は、一人、なの、か?
「い、や……だ…」
その声は弱々しく、脆かった。
その日から、一方通行は一言も嫌だとも喋らなくなった。
「……彼らに知らせた方がいいのかね?」
カエル顏の医者は、一方通行を保護したという事をまだ垣根帝督達に伝えていなかった。
一方通行が、それを望んでいるとは思えなかったからだ。
だが、このままでは一方通行はゆっくりと死ぬだけである。 - 12 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:21:08.40 ID:CzeVlro+o
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~~~
「白井さん、これ、見てください」
風紀委員第一七七支部で、初春は白井にパソコンのディスプレイを見るようにいった。
そこに表示されていたのは、警備員の方の記録である。
被疑者、被害者の個人情報は一切載っていない機密レベルはそう高くは無いページだが、一学生が入れるようなページでもない。
「……まったく、ほどほどになさいと言ったでしょう?」
白井は呆れながらもそのページをみた。
「細かい事はいいんですよ。で、どういう事だと思いますか?」
「こ、れは……」
「これって、やっぱ……もう、一方通行さんはこの街にいないってことでしょうか?」
初春が調べていたのは先日佐天が持ってきた都市伝説に関する事件はないかということであった。
結論からいうと、それは確かにあった。
そして、その概要は概ね正しかった。
事件が初めて起きたのが十二月三日。
そして佐天からこの話を聞いた十五日のわずか十二日足らずで発見され病院に運ばれたスキルアウトは百二十三名。
こんなにスキルアウトがいる事自体に少し驚いたが、そこは今重要ではない。
そして、その日を境にぱたっとその事件は起こらなくなっている。 - 13 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:28:55.74 ID:CzeVlro+o
-
「いえ、白い死神が一方通行さんだと決まったわけではありません。
というか、白い死神などというのが存在すると決まったわけでもありませんの。
そう結論づけるのはまだ早いですわ」
「でも、これ、昨日起きた事件です」
初春が開いたのは、一人の少女がスキルアウト集団にさらわれそうになったという事件だ。
「これ、たまたま運良く警備員の方がパトロールしていたからこの女の子は助かりましたけど」
「もし白い死神などというのが本当にいたとして、その夜起こる犯罪をすべて防いでるというわけではないでしょうから、それでは根拠にはなりませんわよ」
「そうかもしれませんけど」
「……でも、少し妙ですの」
「何がですか?」
「仮に助け出された生徒の証言が正しく、白い死神などというのが存在するとしたら、それは一方通行さんで間違いないと私も思いますの。
初春、佐天さんがその都市伝説を見つけたサイトはわかりますの?」
「えっ? あ、はい。ちょっと待ってください」
初春はパソコンを少しいじり、何やら怪しいページを開いた。
「佐天さんがみてたのはここの携帯版でしたね。
私が教えたサイトなんで間違いありませんよ」 - 14 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:29:44.83 ID:CzeVlro+o
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「このサイトの特徴はなんですの?」
「えっと、そりゃあ……あ」
このサイトは管理人がどこからか謎の人物や怪現象を仕入れてきて、閲覧者に目撃情報などを尋ねるという読者参加型のサイトである。
各記事毎に簡単な掲示板がついており、そこに読者は自由に目撃談などを書き込めるというものだ。
「佐天さんから聞いた時から不思議に思ってましたの、何故、この白い死神には事件当事者からしかの目撃談がないのか。
あの目立つ外見でこれだけ派手にやっていたら、絶対誰かの目にとまりますの。
他の都市伝説は……ほら、例えばこれなんて第三者の目撃例がたくさんありますの」
白井が指差したのは、雷を打ち消す男というものだ。
この人物に二人は心当たりがある。
そして、その記事の掲示板には河原で常盤台の超電磁砲の電撃を消していた。
同じ男が不幸だと叫びながら走り回っていた……など、上条当麻としか思えない目撃談が書き込まれている。
相手がレベル5という事もあり、その掲示板の見解は、御坂美琴がギリギリで消えるようにしているだけというものであった。
そのため、上条当麻の幻想殺しは存在しないという結論に至っていた。
だが、白い死神という記事の掲示板にはなんの情報も書き込まれてはいない。 - 15 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:32:18.87 ID:CzeVlro+o
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「深夜にしか行動していないからじゃないですか?
場所も路地裏とかですし」
「だとしたら食事などの世話をしている人がいるという事になりますの。
垣根さんすら切り捨てようとした一方通行さんがそのような誰かを頼るような事をするでしょうか?」
「……白井さん、流石に怒りますよ?」
白井が何を言おうとしているか察しがついたのだろう。
初春は声を低くし言った。
「落ち着きなさい、この街は普通ではありませんの。
第一位をむざむざ野垂れ死にさせるような事はないと思いますの。
一方通行さんは疲労で倒れたところを何者かに拉致された。
もしくは……カエル顏の先生、あの方が保護、もしくは監禁している。
そう考えた方が自然ですの」
「え? なんでそこにカエル先生が出てくるんですか?」
「芳川さんと知人、それだけであそこまでしてくれるなんておかしくありませんの?
妹達の保護、そして調整、さらにはご自身の病院を戦場とする。
少し寛容過ぎやしませんの?」
「それは……すごくいい人ってだけじゃ?」
「あの戦闘でロビーはというか一階部分はほぼぐしゃぐしゃですのよ?
それがニュースにすらなっていませんの。
あのお方はこの街の上層部、統括理事会に強いコネがあると考えた方が自然じゃありませんの?」
白井の目は真剣だ。
少なくとも白井はそう確信しているように初春には思えた。
「……確かに、白井さんのいう可能性もあるかもしれませんが……じゃあ、行ってみます?」
初春は少しだけ迷い、確かめる事を選んだ。
「馬鹿正直に行って『その通りだね?』と言うとは思えませんが……行きましょう」
学園都市で最も優秀であり最も問題児でもあると言ってもいい二人が、動き出した。 - 16 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:33:57.99 ID:CzeVlro+o
-
~~~
うじうじしていても、何も始まらない。
そう自分に喝を入れると、芳川は一方通行を見つける手がかりを探し始めた。
「一方通行……どこにいるのよ……」
芳川は記憶を辿る。
一方通行が消える前、一番一緒にいたのは間違いなく芳川だ。
朦朧とした意識ではあったが、何か覚えている事があるはずだと、必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
―― 何か……そう、もう一人誰かいた気がする。
病室での一方通行と麦野沈利の戦いを、芳川はなんとなく知っていた。
脳が必要なピースだと、記憶しておいてくれたのかもしれない。
―― あれは……。
芳川はすぐさま書庫にアクセスし、ぼんやりと脳裏に残る流れて行く光線を元に、何度か検索をする。
すると、ひとつだけヒットした。
―― だ、第四位?
『暗部?……お前、第四位の麦野沈利か?』
その途端、病室での耳からのみの情報が、鮮明に浮かび上がった。
「そうだ、暗部組織の人間が絡んでいたんだ……」 - 17 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/01(火) 12:34:43.56 ID:CzeVlro+o
-
―― という事は……アレイスターは、まだこの件に自ら手を加えていたの?
あいつは、また……私から大切なものを……奪おうというの?
体全体から力が抜けた。
アレイスターには敵わない。
それを芳川はすでに一度痛感している。
あの時、実験記録、研究結果を消す暇さえ無く、何時の間にか奪われていた。
そこから、すべてが始まっていたのだ。
いや、もしかしたら十年前、既にアレイスターの中であの夏休み最後の事件は決まっていたことだったのかもしれないと芳川は思った。
椅子にだらしなくもたれかかり、目の前が真っ暗になっていくような錯覚にとらわれた。
その闇の中では、自分の大切な人がうずくまり泣いている。
それが、芳川から絶望を振り払った。
「……それでも、私は……諦めちゃダメなんだ。
一方通行が……私にとって一番大切な存在が苦しんでいる、それなのに、泣いて待ってるだけなんて……そんな弱い女じゃない。
大丈夫、私は桔梗よ。何があっても、大丈夫」
- 20 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/09(水) 01:12:11.85 ID:NssaRfn2o
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~~~
白井と初春は病院の前に立っていた。
正面の入口はブルーシートに覆われ、裏口に回るようにと張り紙がされてある。
乾いた風の音が二人を出迎えるようにそれらをガサガサと揺らした。
「行きますわよ」
「ええ」
二人は足を一歩、踏み出した。 - 21 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/09(水) 01:13:21.91 ID:NssaRfn2o
-
~~~
「俺は、どうすればいいんだろうなぁ」
垣根は寒空の下、一人夜空につぶやく。
冬の空は透明に澄み、なんだか吸い込まれそうな追いつけそうな、心地よく尚且つ恐怖を煽るような空間を作り出していた。
「なぁ、ミサカ……俺はさ、本当はなにもしたくないのかもしれない。
一方通行と同じように消えちまいたのかもしれない。
そんで、そう思うからこそ、あいつの気持ちが正しく理解出来るような気がするんだ。
きっと、それは何よりも苦しい道だ。
なんにも見えない真っ暗闇だ。
そんなところにずっといたら気が狂っちまうよな。
はやく助けたいけど、どうしたらいいのか全くわからねぇんだよ」
白い息をゆっくりと吐くと、冷たい空気で肺を満たすように今度は大きく息を吸い込んだ。 - 22 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/09(水) 01:14:21.86 ID:NssaRfn2o
-
「ごめんな。
なんかミサカちゃんや美琴ちゃんにいうタイミングってもんが掴めなくてな……お前もあいつらに会いたいだろ?」
垣根は申し訳なさそうに微笑む。
ミサカ妹達の墓所も此処だ。
一人その火を消すたびに、垣根はその遺体をミサカ00001号の眠る丘へ眠らせていた。
御坂は、最初の妹達が死んだ時、垣根を呼び「あの子と同じところに寝かせてやって」と目を真っ赤にしながらいった。
垣根はその時場所を教えようとしたが、何故か御坂はそれを望んでいないような気がしてしまい、それ以来タイミングを掴めずにいる。
「また、来るよ」
そこに墓石などはない。
ただ、小さな木が人数分植えてあるだけだ。
でも、それでいいような気がした。
- 23 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/09(水) 01:16:38.01 ID:NssaRfn2o
-
~~~
「失礼します」
部屋に入ってきた白井と初春の表情をみて、カエル顏の医者は全てを察したようにため息をついた。
「……予想通りと言えば嘘になるけど、君達なら早い段階で気づくと思っていたよ?」
深く椅子に腰掛け、嬉しそうにわらった。
「……そうですの。
では、単刀直入にききますわ、一方通行さんはどこにいますの?
そして、あなたは何者なんですの?」
「僕はしがない医者だよ?
ただ救える人を救うだけの男だね?」
「私達の敵なのですか? 味方なのですか?」
「敵も味方もないよ、誰であろうと救える命は救うだけだね?」
「……もう一つの質問にも答えてください」
白井にかわり、初春が一方通行の行方を再度尋ねた。
カエル顏の医者はゆっくりと立ち上がるとついてこいと言うように、部屋の奥へと歩き出した。
すこし歩くと、そこには扉があった。
その扉は、電子ロックで施錠してあるようで、ドアノブの横についた小さなディスプレイを慣れた手つきで叩くと、かちゃんと音がし、少しだけ開いた。
先生はその扉を押し開けると、二人を中に招く。 - 24 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/09(水) 01:17:13.26 ID:NssaRfn2o
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「正直助かったよ?
こんなに早く気づいてくれて」
どうしようかと迷っていたんだ、と笑う。
二人は恐る恐る扉をくぐった。
そこに部屋があるものだと思っていたが、そこには地下へいく階段があるだけであった。
「そこを降りたら彼がいる。
彼をみたら、僕が何故すぐ君達に教えなかったのかわかってもらえると思うね?」
いまの“君達”は主に垣根とミサカ00002号、そして芳川の事だと二人は察する。
ドアをくぐった時とは違う緊張感を持って、二人は一段ずつ降りた。
降り切ると、一つの部屋があり、ベッドには一方通行がぼんやりとした様子で座っていた。
「あ、一方通行さん!」
それをみると、初春は足を早め、一方通行の目の前へと進んだ。
「初春飾利です! わかりますよね?
何やってたんですか! みんな、みんな心配してますよ!
……帰りましょう?」
「……」
「あ、一方通行……さん?」
「……」
一方通行は答えない。
その視線も、初春を捉えてはいない。 - 25 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/09(水) 01:18:16.19 ID:NssaRfn2o
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「……なるほど、つまり一方通行さんは、壊れてしまったと、そういうわけですの?」
「そうだね」
「それを、垣根さんや芳川さんや妹さまになんと言っていいかわからないと?」
「それは違うね?
彼がそれを望んでいるかいないか、問題はそこだね?」
「望んでいない訳がないじゃありませんか!
誰かに助けて貰いたいと思ってない訳がないじゃありませんか!」
「それは余計なお節介かもしれない、彼はそうするしかなかったにせよみっともなくあがくよりも、一人の道を選んだ。
それは、彼の意志だね?」
カエル顏の医者は、わかってもらえなかったかと、いう風にため息をついた。
しかし、二人は優秀といえど中学生、まだまだ未熟で感情的な所があるのは仕方ない事である。 - 26 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/09(水) 01:19:13.22 ID:NssaRfn2o
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「彼は今とても不安定だ。
そこに親友である垣根君や彼にとって特別な存在である芳川君が来て変な方向に傾いてしまわないと言い切れるかね?」
「一人で部屋の中でぼんやりしているよりはましですの」
「君達は彼の様子を知るべきだったから、今知った。
ならば、彼らも知るべき時に知るだろうと思わないかい?」
カエル顏の医者の言う事は正しい。
いまの一方通行の様子をみたら、また一方通行が垣根達を見たら、恐らく両方ともいらぬ傷を負う事になるだろう。
「それでも……部屋に一人きりなんて、寂しすぎます」
初春は、静かに呟く。
「……だからこそ、君達が一番最初に気づいてくれて助かったね? 」
「何故ですの?」
「君達はこの子と近すぎず、遠くない友人だ、だからこそ君達になら、何か話すかもしれないと思ってね?
御坂美琴や上条当麻では彼に近過ぎるからね」
「私達が……いえ、私達には何もできませんよ」
「ただ、話を聞いてあげればいい。
近過ぎる人間に言えないという事もあるからね?」
カエル顏の医者は、それは僕たち大人には出来ない事だと言った。
一方通行が一番警戒しているのは大人だと悲しそうに微笑んだ。 - 27 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/09(水) 01:20:02.61 ID:NssaRfn2o
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~~~
『初春飾利。
御坂美琴の親友。
白井黒子。
こいつも御坂美琴の親友。
俺が守れなかったミサカの大切なもののひとつ。
こンな俺を必死に探してくれた。
心配してくれた。
それは―― なンでだ?
俺の第一位の力が目的なのか?
こいつも俺を人間として見てくれないのか?
でも……御坂美琴が認めた人間だ。
だったら……だったら俺も信じても良いンじゃないか?
……もう、わからない。
なにもわからない。
何が守りたくて何を望んだのか、大切なものはなんなのか、なんにも―― わからない。
でも、ただひとつだけわかることがある。
俺は、もうダメだ。
もう、きっと帰れない。
もう、きっと笑えない。 - 28 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/09(水) 01:21:56.10 ID:NssaRfn2o
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何を考えようとも全ては悲しい。
何を為そうとも全ては無駄なこと。
この世では確かなものはありはしないンだ。
ここでは八方手を尽くしても全ては空しいだけだ。
高潔さ、見目麗しき容貌も、権力も、黄金も、名声も……そして愛なンて不確かなものも、全ては野に生きる草のように過ぎて行く。
ただいっさいは、過ぎて行くンだ。
俺らやこの世の秩序、真実なンて物……それは共同条理の原理の嘘だ。
まるで出番を終えた人形のように、俺は舞台から忘れられるンだ』
ただ一言、自身が最も信頼する同志に、愛する人に、家族に、助けてくれと言えれば忘れられる事なんてありはしない。
忘れないでくれと言えたら、どんなに楽であろうか。
だが、それをいう事は一方通行にはできない。
何故ならば、恐ろしいのだ。
自分が垣根帝督にしたような行為を自分が垣根帝督にされるのがなによりも恐ろしいのだ。
自分の行動が自分を殺して行くその感覚に一方通行は精神を削られるように、蝕まれていた。
―― わりィのはぜンぶ、おれだ。 - 33 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/12(土) 23:59:19.31 ID:7pn7dYuWo
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~~~
埃っぽい研究室に湯気をあげるコーヒーと薄暗い蛍光灯、そして芳川の姿があった。
芳川はもう何もないその研究室でコーヒーを飲みながら思考を巡らせていた。
―― 何故アレイスターは私の研究成果を知る事が出来たのかしら?
あれには何重にもセキュリティを掛け一度でも手順を間違えたらファイルは完璧に消去されるはずだった……。
それにこの街のネットワークからも孤立させていたし、アレイスターがあれを知る事は不可能のはずなのよ。
芳川は全てを知っている風なアレイスターの態度に疑問を持った。
―― もしも、この街で起きている事全てをあいつは知っているなら何故天井亜雄を野放しにしたのかしら。
この街に害になる事はあっても益になる事なんかあるわけがないのに……。
そして、アレイスターの考えを紐解こうと思考を巡らす。 - 34 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:00:08.13 ID:j7YOYfo/o
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―― つまり、今のこの状況を望んだという事?
なんのために?
だが、思考はすぐに行き詰まった。
軽くため息を漏らすと芳川はコーヒーを一口飲んだ。
「……おいしくない」
十年間美味しいとも不味いとも思わず飲み続けたコーヒーの味は、なにか物足りなさを感じさせる味しかしなかった。
「今のこの状況……か」
―― 一方通行が消え、帝督も精神的に不安定。
レベル5のトップ二人は負の方向へと変わった。
そして、レベル5第三位御坂美琴さんも自身のクローンとその死に本来負わなくても良い傷を負った。
上条君も……上条君は理解者を得て良い方向へと変わった?
アレイスターの考えを読む事を諦め、自分たちの置かれている状況を考え出した途端、一つの違和感にぶつかった。
―― アレイスターは上条君に何かをしようとしているの? - 35 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:00:34.99 ID:j7YOYfo/o
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だったら、と芳川はさらに考える。
―― 一方通行や帝督を、レベル5でも絶対的な壁のある存在を壊す事が上条君を使う事に繋がると言うの?
まぁ、あいつがこの街をなんらかの方法で視ているという前提だけれど。
まるで人をゲームの駒のように扱うアレイスターに腹の中が熱くなるような憤りを覚えた。 - 36 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:01:37.12 ID:j7YOYfo/o
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~~~
芳川桔梗は窓のないビルの前に立っていた。
―― きっと一方通行はこの中にいる。
あの帝督と御坂さん、それに初春さんが何ヶ月も探してカケラも情報が出ないなんて、そんなのおかしい。
そのビルを見上げると、よし、と一言自らを鼓舞する。
―― それにいなくてもアレイスターなら居場所を知っているはずだ。
「アレイスター・クロウリー……見ているんでしょ?
私をこの中に入れなさい」
芳川はアレイスターがこの街を視ているという前提のもと、行動している。
じっと待っていると、やがて身体を独特な浮遊感が襲い、目の前に大きなビーカーとその中に浮かぶアレイスターが現れた。
「アレイスター……クロウリー」
「……」
「素直に案内してくれるとは思わなかったわ。
まどろっこしい事はなしよ、一方通行はどこ?」
「何故……」
アレイスターはうんざりとした様子で言葉を紡ぐ。
「何故、私がお前をここに入れる事を赦したと思う?」
だが、その声はゆっくりと、穏やかな物だ。
「答えは簡単だ。
お前は何も出来ない。
お前が眠っている間に、一方通行はもう帰れないところまで堕ちた」 - 37 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:03:18.47 ID:j7YOYfo/o
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ニヤリと笑う。
「お前に、一方通行は救えない。
もう、誰にも救えない」
先ほどと声色は変わっていないはずなのに、その声は絶望への道のみを大きくした。
「……いつ、一方通行と帝督はあなたにとって無価値な物となったの?」
「上条当麻――幻想殺し―― の精神が安定する兆しをみせた日からだ」
「じゃあ、あの時帝督を助けたのはまだ必要だったからという事なの?」
「……第二位?」
アレイスターの表情に僅かだか変化があった。
―― 上条君が落ち着いたのって、あの三人が大怪我した日よね?
上条君、帝督、一方通行があの日、怪我をした原因を……知らない?
「……アレイスター・クロウリー、もしも、一方通行に何かあったら―― 私はあなたを許さない」
こちらが何かを掴みかけたという事を、悟られる前に芳川は自ら身を引いた。
「許さない、か。
だがお前に何ができる、芳川桔梗」
アレイスターは僅かな違和感を覚えたまま、芳川を外へと飛ばした。
「……何ができる、ですって?
私はあんたが壊そうとした物を救える、あんたの言葉なんか信じない。
一方通行は必ず、私達が救って見せるわよ」
窓のないビルの外へと飛ばされた芳川は、背後にあるその建物に向かって、そう言い切った。
- 38 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:03:52.21 ID:j7YOYfo/o
-
~~~
言葉は最も偉大な力だ。
どんな力も言葉を壊す事は出来ない。
言葉がこの世界を作り、言葉がこの世界を救うだろう。
一方通行が失った言葉という力は、第一位としての能力『一方通行』よりも、より強く、より救いへと繋がる力だ。
それを失う事の絶望を、一方通行はひしひしと感じている。
―― 失った……いや違う。
俺は……捨てちまったンだ。
心の言葉を持たずして、何を語れようか。
そんな状態で紡ぐ言葉にどんな価値があろうというのだろうか。
だが、一方通行は捨てたのだ。
失ったのではない、亡くなったのではない。
それは取り戻すチャンスがあるという事なのだ。
―― 捨てちまったンだ……。
だが、一方通行はそれに気づかない。
いや、気づけない。
垣根帝督、ミサカ00001号とミサカ00002号、そして芳川桔梗、大切な人達の心を見る事が出来なくなっているからだ。
ただ、一点を見つめながら、一方通行は口を動かした。
その口から音が奏でられる事はないが、確かに動いた。
“いやだ”
声にならないその言葉は何に対するものなのか、誰もわからない。 - 39 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:04:20.18 ID:j7YOYfo/o
-
~~~
とぼとぼと、初春と白井は家路を辿っていた。
二人の間に会話は無く、ただ歩くだけである。
そのうち、じゃあ、と二人は別れを告げそれぞれ別方向に歩き出した。
白井はこれからどうするかを考えていた。
初春はこの先どうなるのかを考えていた。
―― とりあえず私は、お姉さまに気づかれないようにしませんと……。
―― とりあえず、佐天さんに相談してみよう。
二人は別々の方向の事を考えていた。 - 40 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:04:58.99 ID:j7YOYfo/o
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~~~
「一方通行さんを、見つけました」
ドアを開けると、佐天が笑顔で迎えて暮れた。
ニコニコと笑いながら夕飯をテーブルに並べはじめた佐天に、初春はただ一言、そう言った。
「本当は言わない方が良いのかもしれないけれど、私は佐天さんを誤魔化せる自信ないんで……」
困ったように笑う。
「それに、私が知ってもいいなら佐天さんが知っても問題ないと思いますし。
明日、白井さんと三人で一方通行さんのところへ行きましょう?」
「……え?」
初春の突然の報告に、佐天は理解に時間がかかった。
しばらく硬直したのち、表情を驚きに変えた。
「ぇええええ? 一方通行さん、見つかったの?
垣根さんには? 芳川さんや上条さん……それに御坂さんや妹さんには?」
初春は黙って首を振った。 - 41 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:05:46.55 ID:j7YOYfo/o
-
「なんでよ! 私なんかより一方通行さんを必死に探してるのあの人たちでしょう?
一番に報告すべきは―― 」
初春の肩をつかんだ。
「私だって!」
だが、佐天の言葉は遮られる。
「私だって、早く皆さんに知らせたいですよ……。
でも、でも!
一方通行さんは、今あの人達と会わせたら……きっと救われない」
一人で考えた初春の結論は、今会わせたら一方通行は帰ってこないという、カエル顏の医者と同じようなものであった。 - 42 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:06:14.49 ID:j7YOYfo/o
-
「私、たくさん考えたんです。
一方通行さんの気持ちとか、自分に置き換えてみて考えたんです。
私がもし、佐天さんを
『お前なんか大っ嫌いだ! お前なんかいらない!』
って切り捨てちゃったら、それが本心じゃ無かったとしても、佐天さんから優しい言葉をかけられたくありません。
ちゃんと、自分の意思で、自分の言葉で、自分の心で、佐天さんに謝って、また仲良くしたい。
そう、思ったんです。
だから、私は一方通行さんが自分の言葉を取り戻して自分の心を取り戻す手伝いがしたいんです」
「……そっ、か……」
へたっと、初春の肩に置かれた手を下ろすと、佐天は少しだけ何かを考えたあと、にっこりと笑った。
「だったら、そんな暗い顔やめよ?
私たちが一方通行さんを、レベル5の第一位を助けてあげるんでしょ?
だったら笑わなきゃ。
もう一度笑って欲しい人たちがいるなら、まず自分から笑わなきゃ!」
「……はい!」 - 43 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:06:59.07 ID:j7YOYfo/o
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~~~
「裏切られても信じる事から、奪われても与える事から、寂しくても分け合う事から……か」
垣根は一人の頃よく来ていたビルの屋上に立っていた。
「こんなにも月は綺麗なのに、一方通行のバカは姿見せないし……俺の頭の中もいろんな事でぐちゃぐちゃだし。
あーあ、俺は何をやってるんだろうな」
白い吐息を吐く。
「与えるだけじゃ、ダメなのかな?
でも、俺はそれしか方法が分からないんだ。
何かを貰ったら、それを手切れ金として俺から人は離れちゃうんじゃないかと思っちゃうんだ。
俺は、愛されたいんだよ。
誰かの一番になりたいんだよ。
やっとなれたと思ったのに、次の瞬間奪われた。
やっぱり、俺は何かを貰ったらいけないんだろうな」
純白の翼で飛び上がる。
空には垣根を邪魔するものはなく、自由だった。
「一方通行とずっと一緒に同じ景色をみたいと願ったから奪われたんじゃないかな?
俺が悪いんじゃないかな?
答えてくれよ」
大声で叫ぶが、空には邪魔をするものがいないと同じで、その声に答えるものもいない。
虚しく散った言葉は垣根の心を重くするだけであった。
「いったい、俺になにが、できる……?
友達一人、大好きな女の子一人守れなかった俺に……なにができる?」
泣きたい気持ちを必死に抑え、垣根は堕ちるように地面へと帰った。 - 44 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/13(日) 00:07:26.12 ID:j7YOYfo/o
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~~~
「あ、おかえりー。
少し休んだらご飯いこー?」
白井が部屋に戻ると御坂は漫画本を読みながら、寝転がっていた。
「……お姉さま、寝ながら読むと目を悪くしますわよ?」
「……へいへい」
「……まったく」
―― よし、大丈夫そうですわね。
うまくやれていますの。
「……黒子、なんか元気ないわね?」
「そ、そうですの?」
「うん」
「書類整理がたくさんあったので、疲れてるのかもしれませんの」
「……ま、余計な詮索はしないわよ。
ただ、必ずここに帰って来てね?
あんたの帰る場所も私の帰る場所もここなんだからね?
そんで、自分だけの手に負えないと思ったら変なプライドなんか捨てて私を頼りなさいよ?
私はあんたのお姉さまなんでしょ?」
御坂は気づいていた。
白井が何かを自分に隠しているという事を。
そして、それが一方通行に感するという事も察している。
その上で、御坂は白井の御坂には秘密にするという判断を尊重したのだ。
御坂にとって白井は可愛い後輩ではなく、頼りになるパートナーなのだ。
「お姉さま……ありがとうございます。
時が来たらお話しますわ」
「ん、じゃあご飯いこ!
もうお腹減っちゃって減っちゃってさ」
満足そうに頷くと、御坂は変わらぬ笑い顔で白井の手をとった。
- 49 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/16(水) 23:54:55.91 ID:LLzqqlMro
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~~~
「一方通行、早く帰ってくるといいな」
ぴょこんとアンテナのように飛び出たアホ毛を揺らしながら打ち止めは窓の外を眺めていた。
隣にはミサカ00002号が立っている。
「そうだね、打ち止めはたっくさんお世話になってるもんね」
言いながらちょうどいい高さにある頭を撫でる。
撫でるというよりは手を乗せているだけだが。
「ミサカ00002号もたっくさん……でしょ? ってミサカはミサカは言い返してみたり! 」
「……うん、そうだね。
でも、本当にどこいっちゃったんだろうね? 」
「大丈夫、あの人は強くて優しいから!
ってミサカはミサカはあの人に抱きしめられた時の事をぼんやり思い出してうっとりしてみる……」
少しだけ頬を赤らめ打ち止めは笑った。 - 50 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/16(水) 23:55:37.08 ID:LLzqqlMro
-
「……初恋は叶わぬものってのは本当らしいねぇ」
ミサカ00002号は苦笑いを浮かべると、ぐしゃぐしゃと打ち止めの頭を撫で回した。
「わわっ! やーめーてー! ってミサカはミサカは抗議してみる! 」
「はっはっはー! ちっこいなぁお前は」
「そんな事ないもん! 年相応だもん! ってミサカはミサカは失礼な00002号に憤慨してみる!」
楽しそうに、二人は笑った。
「……でもさ」
打ち止めを撫で回す手を止め、ミサカ00002号は静かに呟いた。
「どうしたの? ってミサカはミサカは急にしょんぼりした00002号を心配してみる」
「んー、なんかミサカが吹っ切れたというか、立ち直れた途端にさ、今度はまた垣根さんが少しおかしくってさ……ミサカに相談してくれたらいいのになぁ」
冷たい窓に手を触れながら、ミサカ00002号はさみしそうに呟いた。 - 51 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/16(水) 23:57:11.93 ID:LLzqqlMro
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~~~
真っ暗闇の中で白い男は一人うずくまっている。
どうしてここにいるのか何故こうなってしまったのか、答えは既に出ているがそれを認めたくないがために目を逸らす。
そんな事ではいけないのだ。
だが、向き合うのが怖い。
怖ろしい事が嫌だ。
痛いのも嫌だ。
苦しいのも、寂しいのも嫌だ。
世の中には嫌な事しかない。
男は逃げて逃げて逃げて、逃げ尽くしてここに辿り着いたのかもしれない。
―― じゃあ、俺はなンで今怖くて痛くて苦しくて寂しいンだ?
それらのものから逃げたはずなのに……。
―― あァ……まだ逃げ切れてねェのか。
だとしたら。
―― もっと、逃げなきゃ……。
男はふらりふらりと立ち上がった。
そして、扉に手をかける。
―― もっと……逃げ、なきゃ……。
だが、男がドアノブをひねる前に、扉勢い良く開いた。 - 52 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/16(水) 23:57:58.75 ID:LLzqqlMro
-
「おわぁ! ……な、なにやってんですか? 」
驚きの声と共に現れたのは佐天涙子であった。
「……」
一方通行は佐天の顔をじっと見つめると、ふらぁっとベッドの上に戻った。
「……さて、一方通行さん、コーヒー飲みます? 缶コーヒー買って来ましたよ?」
佐天は手に持っているビニール袋から何種類かのコーヒーを出した。
もちろん、一方通行は無反応だ。
「……何をそんなに悩んでるんだろうなぁ。
手を伸ばしたらみんなが掴んでくれるのにさ」
ため息をつきながら、佐天は椅子に腰掛けた。 - 53 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/16(水) 23:59:47.14 ID:LLzqqlMro
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~~~
『手を伸ばしたらみんなが掴んでくれるのにさ』
―― それは、真実か?
佐天涙子。
無能力者の中学生。
御坂美琴の友達。
上条と違って本当にただの人間なのに、俺を恐れもせずに触れてくる。
ただのバカなのかもしれないけど、俺を“普通の人間”として扱ってくれる一人。
―― ダメだ。 信じるな。もう何も、信じるな。大切になってしまったら、もっと怖くなる。
もっと痛くなる。もっと苦しくなる。
もっともっと寂しくなる。
「でも、凄いですよね」
しばらく一方通行の様子を見ていた佐天が唐突に口を開いた。
「こんなに長い間、垣根さんや御坂さん、それに初春が探していたのに全く情報つかめなかったなんて……信じられませんよ」
手持ち無沙汰に缶コーヒーを机に並べる。
「やっぱ、さすが第一位って事ですかねぇ……。
しかも、その間もこんな状態になってるのに人助けしてたわけでしょう?
一方通行さんは、絶対悪者になれませんね」
おかしそうに笑いながら、そういった。 - 54 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/17(木) 00:01:43.92 ID:049nMs0ao
-
「あ、初春と白井さんもあとで来ますよ?」
そして、思い出したようにそういうと、佐天はぼんやりし始める。
そして、すぐにそれに飽きたのか鞄から教科書を取り出してパラパラと読み始めた。
「はぁ、自分だけの現実って何だろうなぁ……。
これがよくわからないんだから、やっぱ私には無理なの、かなぁ」
『自分だけの現実』という単語が目に付き、そこを開くと佐天はポツリとつぶやいた。
―― 違う、無理なンかじゃねェよ……。
だって、だって……お前は俺よりも強いンだから。
「……」
だが、その口から言葉が出ることはなかった。
―― あァ、ごめンなァ……やっぱ、無理だったわ……。
「ん? あ、ごめんなさい……頑張るって決めたのに。
でも、やっぱたまには泣き言言っちゃいますよ」
微かに反応を示した一方通行に、佐天は力強く笑いながら言った。
「しょうがないですよ、たまにの泣き言は……。
人間ですからね、私も、そして一方通行さんも。
しょうがないけど、初春や御坂さんや白井さんに聞かれるとまた、心配かけちゃうから……あ、そっか」
佐天は何かに気がついたように声を少し大きくした。 - 55 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/17(木) 00:04:32.92 ID:049nMs0ao
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「だから、私や初春なんですね。
私も一方通行さんや垣根さんになら、今みたいな泣き言言えますもん。
それはきっと、お互いの距離がちょうどいいんでしょうね。
近すぎると、自分の言葉でどれだけ相手に心配とか迷惑とか、たまには傷つけちゃったりとか、そういうのがわかっちゃうんですよ。
だから、心配かけたくないって思うと相談できなくなっちゃうんですよね。
相手を傷つけたくないから……拒んじゃうんですよね。
そっか、近すぎる人には逆に言えない相談もあるってことがカエル先生は言いたかったんですね、多分」
スッキリしたようになるほどなるほど、と言いながら佐天は椅子に座り直す。
「さ、一方通行さんも私になんでも言っちゃってくださいよ!」
ふいに口に出してしまう弱音は、目標を執念に変えてしまうのを止める装置のようなものだ。
内にそういった弱音を溜め込むと、それが溢れた時になにも見えなくなってしまう。
そう、今の一方通行のように……。
他の人が簡単に出来るそれを、この街の第一位と第二位は出来ずにいたのは何故か?
それは、彼らにとって弱い部分を見せる事は、付け込まれ傷つくということと同意だからだ。
彼らには自身の周囲に敵しかいなかった時期が長すぎたのだ。 - 56 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/17(木) 00:05:20.33 ID:049nMs0ao
-
~~~
「お待たせしました!」
勢いよく扉を開け、顔を出したのは初春飾利であった。
「退屈じゃありませんでしたか?
なんせ、一緒にいるのがうじうじしたもやしですからね」
「……」
「いやぁ、案外そうでもないよ?
すっごくちょっとだけど、私の話を聞いていてはくれるんだって思ったし、私一方通行さんの事尊敬してるもん」
―― 尊敬? この俺を?
「こんなもやしより御坂さんの方が凄いですよ」
「勿論御坂さんも尊敬してるよ。
でもさ、一方通行さんは私の出会ってきた人の中で誰よりも優しいんだよね。
さっきなんとなーく『自分だけの現実』についてのところ読んでてさ、私つい言っちゃったんだ―― 」 - 57 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/17(木) 00:06:56.40 ID:049nMs0ao
-
佐天は、先ほど一方通行が少しだけ反応を見せた話をした。
それを聞き終えると初春は、少しだけ反省したような顔つきに変わり、ポツリと言った。
「……そっか、一方通行さんはまだ人を助けたいって気持ちがあるんですね……」
その言葉に佐天は頷く。
「その『人』の中に、一方通行さんご自身は入っていないんですかね?」
「多分ね、今一方通行の中には色々ぐるぐる回ってるんだと思う。
そして、信じられる誰かを探してるんだと思うんだ」
「……それ、垣根さんや芳川さんじゃダメなんですか?」
「ううん、きっと一方通行さんが立ち上がらせるのは垣根さんや芳川さん、それに御坂さんの妹さんだよ。
でも、それは一方通行さん自身が気づかないと、手の届くところまで来れないんだよ」 - 58 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/17(木) 00:07:31.31 ID:049nMs0ao
-
「私たちはお呼びじゃないって事ですね」
「それも違う、さっきも言った通り弱音を吐くには私たちみたいな近くも遠くもない距離感の友達が時には必要なんだよ」
―― 友…達…?
一方通行の目がわずかに動いた。
「壊れるはずのない友情がもしかしたら壊れてしまうと感じちゃうほどの事は、近ければ近いほど、言えないのかもしれませんね」
初春の言葉に、佐天はただ微笑むだけであった。
―― 壊れるはずのない?
でも……ミサカは簡単に死ンじまったぞ?
俺は、何もできなかった……それなのに、壊れるはずのないものが、あるのか?
一瞬、顔を苦痛に歪め、一方通行は目を閉じた。
思い出したくない数々の光景を打ち消すように……。
- 59 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/17(木) 00:09:33.57 ID:049nMs0ao
-
~~~
「……おい」
垣根は路地裏で倒れるチンピラ集団のど真ん中に一人立っていた。
「お前今なんて言った?」
そして、久しぶりの襲撃者に冷たく問いかける。
「だ、第一位がこの街の裏世界で殺人鬼になって、第二位は腑抜けてる……って噂を―― 」
「第一位が殺人鬼だとぉ?」
答えた男の頭を踏む力を強くし、信じられないという声色で聞き返す。
「う、あ……や、やめてくれ、許してくれ……」
「……チッ……二度とツラ見せんな」
―― クッソ、やりすぎた。
あんな小物になにマジになってんだよ、俺は……。
クッソ、最低だ。
イラついていたとは言え、自身が最も嫌う力で押しつぶすという行為をしてしまった事に、軽く凹む。
―― それより、一方通行が殺人鬼? まさか……。
垣根は携帯電話を取り出すと、とある番号に電話をかけた。 - 60 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/17(木) 00:10:14.78 ID:049nMs0ao
-
「俺だ、ひとつ教えろ」
相手が電話を取ると、直様聞きたい事があると、単刀直入に言った。
『……はぁ、ったく超なんなんですか?
私これから映画見るところなんですけど?』
「んなもんあとで飽きるほど見せてやる。
いいから黙っていう事聞け」
「……人も殺せない男が超偉そうですね、もしかして第二位までもが暗部落ちしたんですか?」
「第二位……も?」
『え?知らないんですか?
一方通行は暗部落ちしたって噂』
一番聞きたくなかった言葉を当たり前のように言われ、垣根は心中で毒を吐く。
―― クッソ、何やってんだよクソ野郎。
守りたかった命ってもんを……奪う側に回るなよ……。
「……悪い、邪魔したな。じゃあ」
ふつふつと怒りが暴れるのを、抑え込むように垣根は冷静を装い電話を切った。 - 61 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/17(木) 00:10:51.54 ID:049nMs0ao
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「まじでどうしたらいいんだよ……一方通行を救う前に、誰か俺を助けてくれよ……」
普通の精神状態ならば、絶対に信じないであろう噂を垣根は“もしかしたら……”と疑っていた。
携帯電話をしまい、帰る場所のない野良犬のようにとろとろと歩く。
―― もう、何を信じていいのかわからん。
「あっれー?
垣根さん?ってミサカはミサカは外で会うのは初めてだね!って飛びついてみたり!」
少し歩き大通りに出ると、そこで打ち止めと御坂美琴に出くわした。
「……あぁ、打ち止めちゃんか……一人……な訳ねぇか。
美琴ちゃん、久しぶりだな」
「んー? なんか元気ない? ってミサカはミサカはどことなくしょんぼりしてる垣根に尋ねてみる」
垣根の周りをちょろちょろ動き回りながら打ち止めは言う。 - 62 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/17(木) 00:13:04.15 ID:049nMs0ao
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「はは、打ち止めちゃんにも見抜かれるとは余程今の俺はダメダメなんだな……」
打ち止めから視線を外しながら、垣根は投げやりに言った。
「……なんかさ、似てるよね」
「え?」
「いや、一方通行と垣根さん。
二人ともすぐ側に助けてくれる手が何本も出てるのに、それに頼ろうとしないじゃない?
良く言えば自分の事を自分でしっかりやる人、とかかもしれないけど、悪く言ったらそれはただの馬鹿だよ」
「うんうん! ってミサカはミサカはお姉さまに同意してみる!
ミサカ00002号がさみしそうにしてたよ?
00002号や芳川にいきなり相談するのが嫌だったらミサカやお姉さまにまず話してみたら? ってミサカはミサカは提案してみたり」
二人はそっくりな笑顔を浮かべながら、優しく垣根に手を差し伸べた。
垣根は一瞬戸惑うが、何かを振り払うように軽く頭を振ると、申し訳なさと恥ずかしさが混じったような顔でその手をとった。
―― 簡単なんだな。
一方通行、誰かの手を掴むのなんて簡単なんだ。
俺が出来たんだから、俺の前に立ちはだかる唯一の存在であるお前に……出来ないはずがないんだ。
早くそれに気づいてくれ……。
「ありがとう、俺の事を見損なうかもしれないけど、色々整理するのに手を貸してくれ。
そしたら、ミサカちゃんと話すよ」
「ん、そうしなさい。
あ、でも酒は飲ませないでね! インデックスから聞いたわよ?
この前二人で飲んで大変な目にあったんだよ!
って珍しく怒ってたわ。
私の妹をそんな目に合わせたら……第二位の壁を超えてやるわ」
冗談っぽく、でももし本当に垣根が……いや、垣根に関わらず御坂はミサカ00002号、打ち止め、そして全ての妹達を傷つける物の為ならば、どんな壁も壊すだろう。
そういう気持ちが、御坂の言葉からは読み取れた。 - 66 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:34:55.14 ID:jYlE53rwo
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~~~
自分にできる事、それを見つける事が出来たらその人の人生は成功だと言えるだろう。
何かやりたい事がある。
今、自分には時間がある。
そう思う人は、今のうちに沢山の事を経験したり、沢山の繋がりを作るといいだろう。
そうしたら、遠回りなんかしなくたって成功できる。
すなわち、自分にできる事が見つかるのだ。
だが、遠回りをしたっていい。
回り道をしたら、無駄な時間も確かに過ごすかもしれない、無駄な事をやらなくてはならなくなるかもしれない。
しかし、諦めずに自分の目指す“何か”を追い続けていれば最終的に、無駄な事をしたからこそ見えるものも出てくる。
そうなったら、無駄だと思っていた数々のものが無駄な事ではなくなるのだ。
今、一方通行は無駄に時を食い潰している。
しかし、最後にもう一度笑えたのならば、この時間はかけがえのないものへと変化するのだ。
だからこそ、それを理解しているカエル顏の医者は慎重になっている。
強すぎる力を持ちながらも、清く正しい心で歪んだ世界をまっすぐ生きたが故に歪んでしまったこの少年を、救いたいと思ったのだろう。
人生など、本来自分のやりたい事の為にあるのだから……。 - 67 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:36:20.83 ID:jYlE53rwo
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~~~
一人で考え事をしたい時に垣根がよく利用する個室のある喫茶店に、垣根、御坂、打ち止めそして上条当麻とインデックスが顔を並べた。
それぞれ頼んだ飲み物が入っているカップを眺めながら垣根が話を始めるのを待っているなか一人だけ、沈黙に耐えきれず言葉を発した。
「あ、あのう……上条さんは何故呼ばれたんでせうか?」
御坂、打ち止め、インデックスは同時にため息をつき、インデックスがたしなめるように言う。
「……とうま、空気ってものが読めないの?」
垣根に急に呼び出されたという同じ状況のインデックスはしっかりと事態を把握していた。
その事に上条は驚く。
「あれ? インデックスさんは分かってるの?
なんで? え?」
再度、三人はため息をつく、そして上条はさらに焦ったようにおろおろとするばかりだ。 - 68 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:36:44.60 ID:jYlE53rwo
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「ふっ……ふふふふ」
そんな四人を眺めながら垣根は急に笑い出した。
それをみると、三人は笑顔を浮かべ、一人は満足そうな顔を一瞬だけ表へだした。
「……あー、上条、やっぱお前最高だよ」
一通り笑い終えると、そうつぶやき顔をあげた。
「急に呼び出したりして悪かったな。
ちと手を貸してもらいたくてさ……。
上条、俺を助けてくれ」
「……当たり前だろ? 俺はお前の事を友達だって、そう思ってるんだから」
おろおろと困り果てていた上条の顔は、状況をすべて理解する事は出来なかったのかもしれないが、少なくとも何故呼ばれたのか、それは理解し真剣な頼もしいものへと一瞬で変化したように見えた。
「俺はさ―― 」
垣根はゆっくりと話し始める。
一方通行や芳川、そしてミサカ00002号とまた、笑い合う為に。 - 69 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:37:49.81 ID:jYlE53rwo
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~~~
薄暗い部屋に五人は黙って座っている。
三人の少女たちは落ち着いた様子で、二人の男はそれぞれ落ち着きがない。
―― やっべぇ、呼び出したはいいけどいざ話そうと思うと何話していいか全然わからなくなるな。
……やっぱ上条よんで正解だったかも。
何故、こうなったかと言うと、話は垣根は御坂、打ち止めと遭遇した後上条に連絡をいれたところまで遡る。
今からいう場所にインデックスちゃんと来てくれないか?
そういうと上条はそれを快く承諾し、垣根に何かあったのかと心配するような顔つきで指定された場所へやってきた。
しかしそこに御坂、打ち止めがいる事に気づくと心配よりも、何故自分が呼ばれたのか、という疑問の色が強くなった。
対してインデックスは寒さに頬を少し赤らめながら、垣根を一目みると静かに微笑みがんばれ、とでもいうように頷いた。
―― 上条は凄いな。
「よし、少し場所移すぜ。
話はそこでするから今は黙ってついてきてくれ」 - 70 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:38:19.50 ID:jYlE53rwo
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垣根がそういうと、御坂、打ち止めは何も言わずに歩き出し、上条は少しだけ何かを考えるように視線を地面に落とした。
そして、すぐにその視線を垣根に戻すと、「これでいいのか?」とでもいうように眉をひそめる。
―― は、頼んだぜ? 俺を助けてくれ。
垣根はそれに気づかない振りをしながら、少しだけ笑った。
喫茶店に着き、いつもの個室を指定すると馴れた足取りで部屋へと進んだ。
そして注文を終えると垣根は黙り込んでしまったのだ。
「すまん―― 」
やっぱりなんでもない。わけがわからなくなり、思わずそう言いそうになった時、上条がその声をかき消すように言葉を発した。
「あ、あのう……上条さんは何故呼ばれたんでせうか?」
完璧だった。
上条は垣根が逃げ出そうとした逃げ道を完全にふさぎ、なおかつ垣根の頭を落ち着ける時間を作った。
―― 危なかった……上条、サンキュー。
上条がおろおろとしている間に気持ちを落ち着ける。
気持ちが落ち着くと、なんだかこの状況が凄く面白いもののように感じてしまい、垣根は笑い出した。
それをみると、上条は安心したような顔を一瞬だけすると、またすぐにおろおろとしはじめた。
「上条、やっぱお前最高だよ」
―― さぁ、俺の言葉を、気持ちを……十何年もごちゃごちゃと詰め込んだものを整理しよう。
垣根帝督は話をはじめた。 - 71 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:38:49.80 ID:jYlE53rwo
-
~~~
―― 俺は……お前が逃げないようにする為の保険って事でいいんだな?
そう、目で問いかける。
上条は何も気づいていないふりをしながらも、ちゃんと全てを恐らく一番正しく理解していた。
―― わかったよ……それに、お前のいまの怖さとか不安とか分かるしな。
それでもお前は立派だ。
弱い自分を認める強さを持ってんだから。
垣根たちの後に続き、上条も歩きだした。
喫茶店にたどり着き、注文を終え、頼んだものが来ると、コーヒーの入ったカップをいじりながら「何も気づいていませんよ」と主張するように上条はそわそわとしはじめる。
そして、垣根一歩引こうとしたのを察すると、それに被せるように声をだした。
「あ、あのう―― 」
―― これでいいんだろ?
大丈夫、何も怖がるな。誰もお前を見放したりしないさ。 - 72 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:39:16.53 ID:jYlE53rwo
-
~~~
一人きりで部屋にいると、思考は暗くなりがちだ。
外から見える景色はすっかり黒くなった。
「垣根さん、遅いなぁ」
小さな照明をひとつだけつけた薄暗い部屋でミサカ00002号はぼんやりとしていた。
「芳川博士ももうなーんにもない研究所でなにをするわけでもなくぼーっとしてるし、垣根さんは帰ってこないし。
暇だなぁ……一方通行、早く帰ってこないかなぁ……」
身体を抱きかかえるように縮まって、ミサカ00002号はいつも家の中にいるというイメージの一方通行を思い出していた。
「というかさ、凄くない?
垣根さんと芳川博士、それに初春ってお姉さまのお友達も腕のいい風紀委員らしいし……。
その三人が血眼になって探して手がかりらしい手がかりゼロってどんだけよ」
ミサカ00002号は小さなため息を漏らした。
「寒いなぁ……」
帰ってくるのは、微かな風の音だけであった。 - 73 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:40:46.47 ID:jYlE53rwo
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~~~
「俺はさ」
一つ一つを確かめるように、垣根は言葉をつなぎ合わせる。
「一方通行と芳川と引き離されたあと、ずっとひとりだったんだ。
それが当たり前で普通の状態だったんだ。
だから、一方通行と芳川に再会して、お前らと会って、ミサカちゃん達と出会って……インデックスちゃんや打ち止めや妹達と出会って……。
毎日が楽しかった」
お前ら、と上条と御坂のほうを見たあと、垣根は視線をしたに落とした。
「でも、同時に……怖かったんだ。
十年前、俺は一方通行と芳川を奪われてひとりになった。
そいつらは帰ってきてくれたけど、それもなんか怖くてさ!
次いつ奪われる?
この楽しい時間はいつまで続くんだ?
それが頭から離れなかった」
垣根はすっかり冷めたコーヒーの入ったカップを気持ちを落ち着かせるかのようにいじる。 - 74 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:41:45.73 ID:jYlE53rwo
-
「はじめて女の子を好きになった。
でも、その子も奪われた。
『やっぱりな』って思ったよ。
求めちゃいけないんだ、って。
愛されたいと言葉にして願ってはいけないんだ、って。
結局、俺には愛される資格がないんだ、って……。
だって、俺は―― 化け物だからさ」
何かを呪うように、自分の手のひらをじっと見つめる。
「……」
四人は黙って垣根の話を聞いていた。
「そして、ミサカが奪われたら今度は一方通行や芳川や、ミサカちゃんや……美琴ちゃんや上条やインデックスちゃんやみんなみんなみんな奪われるんじゃないかって、すっごく怖くなってさ……。
一方通行は絶対帰ってくるってのも、全部自分に言い聞かせてたんだ」
垣根の声は震えていた。
「俺はさ、ずっと探してたんだ。
自分が愛される資格ってものを。
ミサカはさ、一緒にそれを探してくれるんじゃないかって思ってたんだ。
もし見つかったら、ミサカは俺を愛してくれるんじゃないかって思ってたんだ。
そうなったら、俺はこの身も、心をも全てを捧げて大切にしようって思ってたんだ。
でもさ、俺……守れなかったんだ……」
喋っている内容は支離滅裂だ。
「だから、やっぱりな、って思ったんだよ。
なぁ、俺は間違ってるのかな?
誰かに愛されたいと思うのは、間違ってるのかな?
愛される資格って俺にはないのかな?
でも、そんなの嫌なんだよ……。
一人は……一人は嫌なんだよ」 - 75 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:42:24.67 ID:jYlE53rwo
-
「間違ってなんか無いわよ」
そこで、はじめて御坂が口を開いた。
「ひとりが嫌なのも、誰かに愛されたいと願うのも、普通だよ。
垣根さんは普通がわからなくなるほど、苦しかったんだね……」
「ていとくは、それでもあんなに明るく笑っていたんだね……」
愛されたい、それゆえに他者を受け入れ、愛を注ぎ、人の幸せを垣根は願ったのだ。
だから、垣根は笑えていたのだ。
不安定になりながらも、その針が憎しみや絶望に振れる事はなかったのだ。
「ていとく、もし人に愛されるのに資格なんてものが必要だったとしたら……あなたほど人に愛される資格を持ってる人はいないんだよ」
「違う、だって俺は奪われた。
もし俺が人から愛されてもいいような人間だったら、何故ミサカは死んだんだ?」
「なぁ、垣根」
今度は上条が、垣根に応える。
「ミサカはさ、奪われたのか?
俺は、そうじゃない気がしてきた。
正直お前らの関係とかその時の状況を詳しく知らないんだけどさ……ミサカは奪われたんじゃなくて、大切な人を守ったんじゃないのか?」
垣根は目を大きくみひらいた。
―― 守っ……た? - 76 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:42:56.89 ID:jYlE53rwo
-
「うん、上条の言うとおりかもってミサカはミサカは00001号は、大好きな人を、本当に本当に、心から大好きな人を守ったんだよって、垣根に教えてあげてみる!」
―― 守って、くれ……た?
なんで? 俺なんかより、自分の身を守れよ。
「な、んでだよ……じゃあ、なんで、俺なんかを守ったんだよ」
「だから、あんたが大切だったんでしょ?」
「違う、違う違う」
ミサカ00001号は垣根に心の底から恋をしていた。
それは、垣根も知っているはずだ。
だが、垣根は何故かそれを今、認めようとしない。
「お前、認めたくないだけだろ?
ミサカの死を無駄にしてる自分を認めたくないだけだろ?」
上条はキツく言い放つ。
「本当は、わかってるんだろ?
答えは出てたんだろ?
でも、整理したくて俺たちに話そうと思ったんだろ?
お前は今のお前が、ミサカが命をかけて守る価値のないものだって、自分で分かってるんだろ?
それを、認めたくもなければ守ってもらえた価値のある自分に変わるのも怖いからって目を背けてるんだ!」
インデックスが「言い過ぎだよ」と、言おうとするが、それは御坂によって止められた。
上条はその事には気づかずに、続ける。 - 77 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:43:32.37 ID:jYlE53rwo
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「なぁ、いい加減壁を壊そうぜ?
お前は海より広くて空より綺麗な心を持ってるじゃねぇか!
どうしてそんな広大な世界の中に、お前ひとりが入ったらそれで他には誰も入れないような部屋を作っちまうんだよ!
どうして、そんな中に閉じこもってるんだよ!
確かに、外の世界には怖いものや痛いものがあるかもしれねぇ、だけど!
それよりも多くの幸せがあるだろ?」
「うっるせぇ!
うるせぇうるせぇうるせぇ!
……あいつが、あんな良い子が、俺なんかに本気で恋してた訳がないだろ?
初めてみた男で、周りに他の男がいなかったってだけなんだよ」
垣根はミサカ00001号を否定した。
その気持ちも、その心も。
そのセリフを吐いた垣根の顔は、苦痛で歪んでいる。
それ程までに、上条は垣根の核をついたのだ。
「そんな、苦しそうな顔をしてまで、みさかを否定してまで……ていとくはなにをみたくないの?」
そして、インデックスが不思議そうに尋ねた。
「ていとくは愛されてた。
それに、ていとくも、愛してた。
確かに、好きな人の死は辛い。
だけど、みさかはたったひとつしかない命を使ってまでていとくを守ったんだよ?
感謝するなら分かる。
涙するのも分かる。
でも、怒ったり、それを否定するのは私にはわからないんだよ」 - 78 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:44:11.47 ID:jYlE53rwo
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「……だ、だって……」
垣根は定まらない視点のまま、ポツポツと言葉をこぼしはじめた。
「それ、じゃあ……」
ひとつ何かが壊れた。
「ミサカは、俺が……」
またひとつ、何かが崩れる。
「俺が、俺のせいで死んだって、事……じゃねぇか……。
俺は自分のせいで、最も愛するやつを殺しちまったって事じゃねぇか」
そして、決壊した。
「俺が大切だと思ったから!
俺を大切だと思ってくれたから!
だから、ミサカは死んだってことじゃねぇか!
そんなの、俺は信じたくない!
俺なんかを守ろうとした?
なんで自分より価値のないものを守ろうとするんだよ!
俺は、ただ、ミサカが元気に笑ってくれているだけで、幸せなのに……」
「だから、違うんだよ。
お前のせいじゃなくて、お前のためにだ。
たったひとつしかねぇ命を、お前にくれたんだ。
それは、お前と同じ気持ちがあったからだ。
ミサカはお前がミサカに望んだように、ただお前が元気で笑っていたら、それで幸せだったんだよ。
ミサカが死んだ責任逃れをしたいわけじゃないだろ?
お前は、大切なものを作らない理由が欲しかっただけなんだ。
だから、頭良いはずのお前のいう事がさっきから論理性もなければ筋も通っちゃいないんだ。
……ほら、落ち着けよ」
垣根の決壊は、上条の言葉で一瞬で止まった。 - 79 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:44:41.94 ID:jYlE53rwo
-
―― 大切なものを作りたくない理由?
言われた通りに落ち着いて、垣根は思考の海へと潜る。
そして、その中で何かを見つけた。
「……俺は、大切なものを、作ったら……」
また、潜る。
「ミサカを―― 」
あと、ひとつ。
あとひとつで全てが揃う。
「―― 忘れそうで、怖い、のか……」
垣根がみつけたもの、それは純粋すぎる想いであった。
垣根がその全てをかけてミサカ00001号に恋をしていたという証だったのだ。
「……どんだけバカなのよ。
忘れたくないから閉じこもるなんて……本当にバカね。
忘れたら、思い出せば良い。
脳が忘れても、心は覚えてる。
折角命を貰ったんだから、閉じこもるなんて無駄な時間の過ごし方するんじゃないわよ」
「あ、ぁ……」
「さ、垣根。
お前の目の前にあるその壁を、ぶっ壊そうぜ?」
上条は立ち上がり、垣根の近くに歩み寄ると、その肩を軽く叩いた。
そして、そのまま外へと足をむけた。
もう、話す事は全部話したとでもいうように。 - 80 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:45:32.89 ID:jYlE53rwo
-
~~~
トン、と軽く上条の右手が触れた。
その瞬間、絶えず無意識でし続けている演算が一瞬止まった。
ほんの一瞬だけ、垣根は本当の意味で頭が空っぽになったのだ。
だが、頭は完全に空にはなってくれなかった。
『やっと、みつけてくれましたね』
どうしたって、考えてしまうもの。
それは上条の右手でも消せないもの。
『ほら、ミサカはちゃんと、あなたの中に生きてます。
だから、大丈夫ですよ』
笑いながら、そういった。
「……あ」
本当に、刹那の出来事であった。
だが、それは垣根の心へと確かに刻まれた。 - 81 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/19(土) 00:48:40.79 ID:jYlE53rwo
-
~~~
「垣根!」
店を出ると、打ち止めが垣根を呼び止めた。
なんだ? というように首を傾けると、打ち止めは少しだけ申し訳なさそうな顔で、こういった。
「大丈夫だよ!
まだ、多分少しは心の中で疑ってると思うけど……もう少ししたら、確信が持てるようになるかも!ってミサカはミサカは意味深な発言をしてみたり!
じゃあ、またね!ってミサカはミサカは問い詰める暇を与えずに逃走する!」 - 84 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/21(月) 01:50:44.25 ID:gvy+HrAQo
-
~~~
オレンジ色の優しい光にその部屋は包まれていた。
役目を終えた大げさな機械が埃をかぶっている。
部屋の主は安物のカップに「これがいい」とある男が買ってきたコーヒーを淹れていた。
カップからは湯気が立ち、部屋はコーヒーの香りに包まれる。
そして、弟分が「腰が痛くなるだろ?」といい買ってきたオンボロな部屋には似合わない椅子に腰掛けた。
「やっぱり、美味しくないわね」
今まで飲んでいたものを美味しいと感じなくなったのは、味覚が変わったからかと思い、いつもとは違うものを淹れたのだ。 - 85 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/21(月) 01:51:12.04 ID:gvy+HrAQo
- しかし、それも美味しいと感じることは出来なかった。
理由はわかっている。
味覚が問題ではないのだ。
問題なのは―― 。
「……やめやめ」
思考を止め、芳川は背もたれに寄りかかる。
「わかったことといえばアレイスターの監視網は完璧じゃないって事。
あいつの目なんて今はどうでもいいっていうのに……」
ため息をつくと、コーヒーを一口飲んだ。
「……早く美味しいコーヒーが飲みたいものね」 - 86 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/21(月) 01:52:52.44 ID:gvy+HrAQo
- 「……早く美味しいコーヒーが飲みたいものね」
~~~
「一方通行さんも頑固ですよね。
ほぼ、毎日私みたいなうるさいのが会いにきて、ひとりブツブツ宿題やったり話しかけたり鬱陶しくないんですか?」
「……」
一方通行は佐天の方にゆっくり顔を動かし、またゆっくり戻した。
「……じゃあ、こうしましょう!
整理ですよ、整理!
思考の整理!
私が今から色々質問するんで、イエスなら頷く、ノーなら首を振る。
ね?」
では、と佐天はベッドへ腰掛け質問をはじめた。
「あと三日ほどでクリスマス・イヴですけど楽しみですか?」
「……」
黙ったまま首を振る。
「賑やかなのは嫌いですか?」
頷いた。
「じゃあ、一人が好き?」
ぎこちなく頷く。
「今、あなたの目の前には何が見えていますか?
……違う。これはイエス、ノーで答えらんないか。
えっと……今、あなたの目の前には……誰かいますか?」
首を振る。
「そっか……。
一方通行さんは、自分を責めているんですか?」
頷く。
「好きな人は、いますか?」
頷く。
「その人の顔を最後に見た時、その人は笑っていましたか?」
……首を振った。
- 87 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/21(月) 01:53:32.04 ID:gvy+HrAQo
-
~~~
―― クリスマス? なンだ、それは?
―― 賑やかなのは、嫌いだ。 それが終わった時の、静寂がより大きくなる。
―― 一人が……好きだ。
初めから一人なら、寂しく、ない。
―― 目の前には……誰もいない。
何も見えない。
全部……捨てちまった。失くしちまった。
―― 自分を……?
当たり前だろ? 俺がいなきゃ、苦しまなかったやつが何人いると思ってやがる。
―― 好きな……人。
いる。いや、いた。
……違う、いるンだ。そいつは確かにいるンだ。
―― 最後に……。
一方通行は、思い出す。
ボロボロと涙を流しながら自分を抱きしめてくれた人を。
不安そうな顔で、自分を見つめる親友を。
怒ったような、悲しいような、とても不安定な目で何かを訴えかける妹のような女の子を。
―― みンな、笑ってなかった……。
俺はただ、笑って欲しかっただけなのに。
あいつらが笑えるために、全てを捨てたのに。 - 88 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/21(月) 01:54:09.40 ID:gvy+HrAQo
-
~~~
「ただいま」
「あっ、おっかえり! どこいってたのさ?」
玄関の開く音と家主の帰宅を告げる声。
それが耳にはいると、沈んだ顔を吹き飛ばし笑顔でその声の元へ駆け寄った。
「ごめんな。
……ミサカちゃん、俺は今までいろんな事が怖くって、いろんなものから逃げてきた。
大切な……一方通行と再会して、芳川と再会して……お前らと出会って」
垣根は次にくる言葉を探す。
「なんだろう、大切なものが増えて……喜びも増えたけど、いつも胸がざわざわしてさ。
他人を受け入れようとしてるはずなのに、どこか心が拒否してさ。
俺は、最初それは周りに誰かいるって空気に慣れてないからだと思ってたんだ。
でも、それは違った。
怖かったんだ。
大切なものがこれ以上増えるのが。
増えたら一人一人との繋がりが薄くなる気がしてたんだ。
そして、それに気づくのも怖かったから、誤魔化してた。
それでも、うまくやってただろ?
でもさ、ミサカが死んで、それが誤魔化せないレベルになっちまったんだ。
ミサカとの繋がりを、思い出を、記憶を、薄れさせたくない。
だから、もう、大切なものをそばにおかないようにしようって、そう考えてた」 - 89 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/21(月) 01:54:49.63 ID:gvy+HrAQo
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「……そっか。
垣根さんは、どうしたって、何があっても、ミサカ00001号の事が大好きなんだね。
わかるよ、ミサカも大好きだから……」
それはミサカ00001号を、とも垣根帝督を、ともとれる言い方であった。
「……ミサカもそばにいない方がいい?」
垣根はゆっくりと首を振る。
「違うんだ。
逆なんだ、一人でいたら忘れてしまう。
俺が忘れても、お前や芳川や一方通行が俺にまたあいつを思い出させてくれる。
あいつが大好きだったこの世界から、離れちゃいけないんだ。
だって、この世界にあいつは生きていたんだから。
あいつがいるのは、ここなんだから」
「そっか……わかった」
―― 大好きだったよ。
ミサカ00002号は、垣根に背を向け、垣根の耳に届かないようにそう、言った。 - 90 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/21(月) 01:55:15.87 ID:gvy+HrAQo
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~~~
「佐…天……涙子」
誰もいない病室で、一人つぶやく。
「初春……飾…利……」
何時の間にか自分の周りではしゃぐようになった少女達の名前を。
「白井、黒、子。違う。」
―― 俺の呼びたい名前は他にある。
「か……」
しかし、そこで止まってしまう。
呼んではいけない。
誰かがそう、耳元で囁くのだ。
お前は捨てたのだろう? と。
「ぅぅうう」
頭を抑え、呻く。
一方通行の頭に渦巻くのは後悔。
何故、あんな顔をさせてしまったのかという後悔だ。
その自身の胸を食い潰そうとする感情を吐き出せば、救われるという事を、一方通行は理解出来ないでいた。 - 91 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/21(月) 01:55:47.87 ID:gvy+HrAQo
-
~~~
―― あぁ、そっか夢を見てるんだな。
―― 楽しそうに笑っている夢を見てるんだ。
―― 芳川も、ミサカも、ミサカちゃんも、そして、一方通行も。
勿論、俺も笑ってる。
―― もう、決して訪れないその光景の中で俺はその事を理解しながら、悲しむ事もなく、絶望に打ちひしがれる事もなく、ただ笑っているんだ。
―― そう、それでいいんだ。
―― ミサカは死んだ。
だけど、ミサカは俺たちに笑って欲しくてその命を俺達の希望に変えてくれたんだ。
―― それがわからなくて、俺は今までなんで命を捨てたんだ? と問いかけていたような気がする。
―― 違うんだよな。
お前は、命を捨てるような弱いやつじゃない。
その命を、託したんだよな。
―― 俺達、家族に。
―― それが解ったから、俺は笑える。
―― しっかりと、本当に、心の底から笑える。 - 92 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/21(月) 01:58:20.54 ID:gvy+HrAQo
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―― ごめん、嘘だ。
- 93 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/21(月) 01:59:13.14 ID:gvy+HrAQo
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―― やっぱ、たまには泣くかもしれない。
『それでいいんですよ』
自分の視点を通して見た夢の中。
見える顔は全部笑顔で、見えないはずの自分の顔も笑顔だと確信が持てた。
そして、その夢の中でミサカ00001号が垣根に話しかける。
『それでいいんですよ。
たくさん笑ってください。
そして、たまにはミサカ00001号の事を思い出してください。
その時、涙を流してもらえるなんて、ミサカの死に涙してくれる人がいるなんて、ミサカは誇らしいです』
―― そっか、じゃあ、そうする。
ミサカ……大好きだ。
一番の笑顔でそういい、一番の笑顔でそれにミサカ00001号は応えた。
そして、さぁっと視界は白くなって行き、垣根は目覚めたのだ。 - 97 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/24(木) 23:31:24.62 ID:9ylJ6CvAo
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~~~
「こーんにちは!」
騒がしく扉を開き、佐天涙子は日課となっている一方通行の病室へやってきた。
「明後日クリスマスイヴですよー?
一方通行さんは何歳までサンタさん信じてました?」
「……クリスマスを…知るまえに、聖ニコラウスを……知っていた」
「――ッ! 」
ずっと沈黙していた一方通行が、ぼんやりとだが言葉を発した事に驚く。
「……そうなんですか?
流石というか、なんというか。
クリスマスプレゼント貰った事はありますか?」
首をゆっくりと横に振った。
「そっか、でも今年は貰えますよ!
だって、一方通行さんは良い子に生きてきたじゃありませんか」
「……俺が、良い…子?
馬鹿言ってじゃねェよ……。
こンなクズの、どこが……良い子なンだよ」
「そんなに、ぼろぼろになってるのにあなたは人の事しか考えていない。
いつだって芳川さん、垣根さん、妹さんのことばっかり。
そんな、優しい人にサンタさんがプレゼントくれない訳ありませんよ」 - 98 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/24(木) 23:31:57.28 ID:9ylJ6CvAo
-
「……オ、レ…は……」
―― 違うンだ。
俺は、芳川や垣根やミサカの事を……。
「違くなんかありませんよ」
佐天は一方通行の心を見透かすように言った。
「切り捨てた、とか考えてるのかもしれませんが、本当に切り捨てたのなら、そんなに苦しむ必要ないですもん。
確かに、切り捨てようとしたのかもしれない。
捨てるってのはいらないからですよね?
邪魔だからですよね?
それが自分なのか相手がなのかはわかりませんが……。
どっちにしろ、そう思って捨てたのならスッキリするはずです。
前者なら邪魔なものが消えて、後者なら自分がいなくなる事で相手が幸せに向かって行く事にスッキリするはずなんです。
なのに、あなたは苦しんでる。
馬鹿な事をして、大切な人が悲しむ顔を見て苦しんでる。
さっさとこの街を出てしまえば、見なくて済むのに、まだこの街に留まり苦しんでいる。
それは、一方通行さんが、何よりも垣根さん達を大切にしているってことなんじゃないですか?」
「違…俺は……」
その日、一方通行がそれ以上言葉を発することはなかった。
だが、佐天の胸には「もう、いつでも大丈夫だ」という確信めいたものが生まれた。
- 99 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/24(木) 23:39:04.40 ID:9ylJ6CvAo
-
~~~
「一方通行さん、話せるようになったのですか?」
「はい、少し話したらまた黙っちゃいましたけど話ししましたよ」
佐天は宿題に頭を悩ませながら、白井が病室へ来る前の話を簡単に伝えた。
「……流石ですの、佐天さんはカウンセラーにでもなったらどうですの?」
正直、一方通行はこのままずっと言葉を発せず、最終的に御坂に頼る事に、つまり力技になるものだと白井は思っていたようだ。
なので、一方通行と話をしたという佐天の報告に、心底驚いていた。
「あー、それもいいかもしれませんね。
でも、それなら人生相談も受ける喫茶店とか開きたいです」
「…………喫佐天……?」
「そう、どうです?
茶店ルイコとかも良くないですか?」
「……レベル5の溜まり場になりそうですの」
「それは、なんか……やかましそうですね……」
考えただけで疲れてしまったのか、ペンを持つ手を止めぼそりといった。
「……あれ? でもそうなったら安泰じゃないですか?
一方通行さんとか垣根さんならコーヒー一杯二千円とか言っても普通に払ってくれそうだし」
だが、何かに気づいたようにあれ? と言い、パァっと顔を輝かせた。
「……美味しければ一万円でも払いそうですのでレベル5の財力は恐ろしいですわよね」 - 100 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/24(木) 23:39:33.08 ID:9ylJ6CvAo
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佐天の向かい側へ腰掛け、白井は佐天が必死にペンを走らすノートにさっと目を通す。
「ここ、計算ミスってますの」
「あっ!
だーから答えがマイナスになっちゃうのか、ありがとうございます」
「お礼は紅茶でも淹れてくださいの、マスターさん」
背もたれに大きく寄りかかり、目をつむった。
白井と初春は毎日風紀委員の仕事を必死に終わらせ一方通行の病室へと通っている。
その疲れが大分たまっているようだ。
「白井さん、疲れてますねぇ……。
私も風紀委員のお仕事手伝えれば良いんですけど……」
悔しそうに、佐天はポツリと言う。
「佐天さん、適材適所、出来る事は人それぞれ、ですわよ?」
目を閉じたまま白井はたしなめるように言った。
「……そうですけど、私って毎日ここきて宿題やったり一方通行さんの髪の毛引っ張ってみたり、それに飽きたら適当に勉強して……なんか成績上がっちゃいそうですよ」
「上がっちゃいそうって……。
それでも、一方通行さんの言葉を取り戻したのは間違いなく佐天さんですの。
それは、私や初春には絶対出来ませんでしたわよ?」
「……でも、なんかやっぱ疲れきった白井さんと初春見ると『もっと私に何か出来る事があったら』って思っちゃいますよ」 - 101 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/24(木) 23:40:16.14 ID:9ylJ6CvAo
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白井に訂正された箇所を直し、問題を解き切ると佐天は紅茶を淹れるため湯を沸かしはじめた。
湯沸かし器やティーポット、ティーカップは病室に備えてあった。
そして茶葉は初春が持ってきたものだ。
「その気持ちはわかりますが……でも、私なら大丈夫ですの。
いくら疲れていても佐天さんがこうして美味しいお茶を淹れてくれて、寮へ帰ればお姉さまが笑いかけてくれる。
それだけで疲れなんて吹き飛びますの」
眠いのか、少しだけ声は甘えるようなおっとりしたものになっていた。
紅茶の良い匂いが部屋へ広がると、白井の顔は自然とリラックスしたものになり、ゆっくりと目を開いた。
「ありがとうございますの……これなら二千円、取れますのよ」
にっこり微笑みながら、白井は佐天から受け取ったカップに口をつけ、そう言った。
「……なんだか、今日の白井さん子どもっぽいですね。
子猫みたい」
照れ笑いを隠すように、佐天は白井をからかおうとするが、白井はそんな佐天の思惑に気がついているのか、ただ静かに笑っているだけであった。 - 102 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/24(木) 23:41:19.75 ID:9ylJ6CvAo
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~~~
「……」
垣根は少し緊張したような面持ちでその建物を見上げた。
「帝督?」
そのまま立ち尽くしていると、後ろから最も信頼している声のひとつが聞こえて来た。
「芳川か……なにやってんだ?
こんなところで」
芳川の考えは自分と同じだろうと推測はついたが、一応尋ねてみる。
「……はぁー、あんたもそうだと思ったんなら多分あたりね。
すっごい複雑だわ」
芳川は垣根の顔を見て迷いや悩みが大方消えた事に気づくと笑顔がこぼれそうになるのをごまかすように、大きくため息をついた。
「……やっぱりか、あのジジイなんのつもりなんだろうな」
「さぁ? まぁ、でもここなら安心だわ」
「そうかもしれねぇけどさ」
二人はテンポ良く会話しながら、その建物の裏に回るため歩きはじめた。
「ま、いいさ。
あいつには世話になってるし、あいつが意味ねぇ事するようなやつじゃねぇ事はわかってるしな」
「そうね、しかし私もとんでもない人とコネを持ってたのね……」
垣根は笑い、芳川はわざとらしくため息をついた。
「よし」
「さて」
二人はお互いの顔を見合わせ、確認するように建物をもう一度見上げる。
「行くか!」
一方通行はここにいる。
二人は確信していた。 - 103 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/24(木) 23:41:51.98 ID:9ylJ6CvAo
-
さらに、その確信は二人だけのものではなかった。
「やっぱり、俺少し賢くなったかも」
後ろから垣根の肩を叩き、上条は笑った。
「あー、やっぱりあの子達が最近良くここ通ってたのは一方通行絡みだったのかぁ」
御坂も妹達に会うためによく通っている。
最近初春、佐天、白井をここでよく見かけるようになったので最初は誰か病気なのかと心配になったがすぐに、それはないと確信した。
そして、三人が一方通行に会いに行っているのだという確信もその時に得た。
「困った事になったら相談するって言ってたから待ってたけど、どうやら困った事になる前に終わりそうね」
しかし、垣根、芳川が気づいたと察し、もう知らないふりをする必要もないだろうという風に笑った。
「上条……美琴ちゃん……お前ら」
二人の登場に垣根は笑顔をこぼす。
「色々考えたんだよ。
走り回るだけしか出来ないと思い込んでるのは考えるのが苦手だと逃げてる事なんじゃないか、とかさ」
「親友に優秀な風紀委員がいてね」
二人は冗談っぽく言った。
「本当、俺たちは幸せ者だな……うっし!行くか!」
垣根が緩んだ空気に気合を入れ直し、四人は病院の中へと足を踏み入れようとするが、それは背後から聞こえた少し怒ったような声に阻まれた。 - 104 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/24(木) 23:42:29.40 ID:9ylJ6CvAo
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「ちょっと、ミサカに黙って盛り上がらないでよ!
仲間にいれてよ! ミサカだって早く一方通行に会いたいんだからさ!」
振り返るとぜぇぜぇと息を切らせたミサカ00002号が立っていた。
「くそう、上条さんより気づくのが遅れたとは……」
「……ひどい」
「まぁ、いいや……間に合ったし……
さ、行こう!」
呼吸を落ち着けると、ミサカ00002号は右手で入り口を指差し、そう叫んだ。
「……なんつーか、こう締まらない感じが芳川一家って感じなのかねぇ」
「……どちらかというと私達は垣根一家じゃない?」
「それはほら、俺まだこんな大きな子供いる年齢じゃねーし?」
「……あとで覚えときなさいよ?」
垣根と芳川は、疲れたような顔をしながら、スタスタと院内へ入って行った。
「……ひどい。ひどすぎる」
「ま、まぁ……ごめんフォロー無理だわ、しょうがないとしか言えないわ」
上条と御坂も、それに続いた。
「ほら、やっぱ一方通行がいないとうまく回らないんだよ、ミサカ達はさ……」
ミサカ00002号もクスクスと嬉しそうに笑いながら、病院の中へと進んだ。 - 108 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/28(月) 22:59:12.71 ID:pRLPTELJo
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「お邪魔しますよ、先生」
扉の向こう側の返事を待たず、芳川はそのドアを開いた。
「……やれやれ、随分沢山のお客さんだね?
一度に診れるのは一人までだよ?」
「冗談はいらない。
あんたには感謝してるし、尊敬もしてる、申し訳ないって気持ちもある。
だが、それ以上にあんたは不自然だ」
垣根は意外にも落ち着いた様子で声をだした。
「ここの修理費やここで起きた事、金は一切いらねぇとあんたは言ったが、これを直す金は、起きた事をもみ消す金はどっから出たんだ?
最初から違和感はあった、妹達をすんなりと受け入れてくれたり、もっと言えば、芳川がこの街に来るきっかけはあんただった。
どうにも俺にはあんたも俺たちを苦しめてる連中のど真ん中にいるように思えるんだが?」
「……頭が良すぎるというのも厄介だね?
ただひとつだけ勘違いして欲しくないのは、僕は芳川博士がこの街に来る事を快く思っていなかったよ?」
芳川は、それに黙って頷く。
「ただ、垣根君の言うとおり来ると決まった時から……いや、上条君がこの街に来てから、今回のような事が起きる事は予想はしていたね?
第一位および第二位と幻想殺しの出会い、そして第一位の崩壊、第二位の崩壊……そうなった時に、芳川博士は必ず動くと思っていたからね?」
「何故?」
「勘だね」
カエル顏の医者は机の上の書類をまとめると、立ち上がった。
「さて、行こうか」
「……まだなんか隠してるだろ?
でもま、いいや。
まずは一方通行だ」 - 109 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/28(月) 23:00:00.99 ID:pRLPTELJo
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~~~
暖かな紅茶を飲んでいるうちに、白井は静かに寝息をたてはじめた。
鍛えているとは言えど、まだ十五にもならない少女である。
その体力は僅かなものなのだ。
佐天はカップを片付けると、先ほどまで自分が座っていた椅子には戻らず向かいの白井の椅子へと腰掛けた。
「こうしてみると、白井さんも可愛らしい」
普段は自分よりも年上のような風格を持っているが、無防備な寝顔にそれはなく、あどけなさの残る可愛さを持った表情をしている。
「……なんか最近私女の子ばかりにフラグ立ててる気がする。
初春とかもう夫婦みたいだし、白井さんともなんか今恋人っぽくないですか?」
冗談を飛ばしてみるが、白井も一方通行もそれには反応しなかった。
佐天はため息をかるくつくと、なんとなく白井の手を握ってみた。
「体温高いなぁ」
ぼんやりと独り言をつぶやく。
「おあっとぉ……びっくりした」
一方通行も落ち着いているし、白井は寝てしまった。
そうなると特にする事はないため、佐天はわかりもしない手相をみてみたりと、寝ている白井で遊びだした。
じっと手相をみていると、肩に急に重さがかかり驚きの声をあげる。 - 110 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/28(月) 23:00:45.09 ID:pRLPTELJo
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「おお、白井さんが私にもたれかかり眠っている……ほら、恋人度が上がりましたよ?
美少女同士のカップルって一方通行さんは萌えます?」
「……」
冷めた目で、みられたような気がした。
「なんか、あれですね。
すっごい忙しい人を和ませようとしてボケたら本気で怒られた時のような寂しさを感じましたよ。
はぁーあ、宿題白井さんのおかげで終わってしまいましたし、もっとお話しましょうよー」
「……お前は、女が……好きなのか?」
「……んー、そうですねぇ、可愛い子は好きですよ?」
「そうか……俺は……が、好きなンだ」
「はい」
「なのに、いつも…悲しませてばっかりで……」
「はい」
「あいつは、もう……俺の事なンか……嫌いになっちまったかもしれねェ……。
か…ねも……さかもみンな、みンな……」
「そうやって、また閉じこもっちゃうんですか?
一方通行さん、怖くっても扉を開かなきゃ!」
佐天のそのセリフを待っていたかのように、病室のドアが三度ノックされた。
ノックの主は声を出さない。
まるで、中にいる人たちが自分が誰だかを知っていると信じて疑っていないようだ。 - 111 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/28(月) 23:01:19.30 ID:pRLPTELJo
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「……あ、ああ……」
そして、一方通行にはそれが誰かわかった。
カタカタと震えはじめる。
外の人間はもう一度だけノックした。
鍵などかかってはいない。
無遠慮に開けてもいいはずの彼が、何故ノックをするのか。
それは、一方通行に選ばせているのだ。
この扉を開くかどうかを。
自分たちはお前のところへたどり着いた。
今助けて欲しけりゃその鍵を開けと、ノックの音はそう聞こえたような気もする。
「諦めてしまわないで……。
たとえ、今ひとりだと思ってしまっても心の鍵を開いたら誰だって自分の理想を描く事は出来るんですよ?
その描いた夢を、現実に出来るかはわからないけれど、何もしないうちに諦めるのは……そんなの、一方通行さんのやることじゃない!」
「……」
一方通行は何かを耐えるように、固く目を閉ざしている。
「…………」
そして、気持ちを落ち着かせるようにゆっくりと双眸を開き、頷いた。
佐天も頷き返すと、扉へ向かって声をかけた。
「垣根さん、入ってください」
その声がすると扉が開き、ぞろぞろと垣根、芳川、ミサカ00002号、そして上条と御坂の順で部屋は人で満たされた。
だが一方通行はうつむいたまま決してその顔をみようとはしない。 - 112 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/05/28(月) 23:02:09.52 ID:pRLPTELJo
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「久しぶりだな、一方通行」
垣根の第一声は怒りもせず、喜びもせず、哀しみもせずに、普通に当たり前なものだった。
「……」
しかし、一方通行は口を閉ざしたままだ。
「なんか、痩せた?
それ以上痩せたら冗談抜きで死んじゃうよ?」
ミサカ00002号は一方通行の手足を見て、心配そうな声を出す。
「……はぁー」
芳川はひとりだけため息をつくと、呆れたように続ける。
「あんた、まだビビってるの?
みんなこんなに必死にあんたを探した理由が、あんたを責めるためだとでも思ってるの?
まったく、私達があんたを見捨てるわけないでしょう?」
ピクリと肩を少しだけ揺らした。
「……でも……」
「でも、じゃないわよ」
「確かに、いろいろショックだったけどさ……歩いて進まなきゃ。
止まってたって何も始まらない。
前に進めるんだから、進まないと……。
だろ?」
御坂と上条もここに一方通行の友人達は、誰ひとりとして一方通行を一人ぼっちにさせる気はないようだ。
「ねぇ、本当はわかってるはずよ?
だって……。
言ったでしょう?私の名前を忘れないで……って」
- 117 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:20:51.10 ID:CiO+IEWlo
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~~~
『私の名前を忘れないで……』
―― はっきりしない意識の中でそう、言ったような気がする。
―― ……ううん、絶対に言った。
―― だって、私の名前は、私の本当の気持ちだから。
【桔梗。
キキョウ科の多年草。
秋の七草として日本人ならば誰もが知っている野草。
その花言葉は―――― 】 - 118 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:21:25.40 ID:CiO+IEWlo
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~~~
―― はじめて自分の名前と同じ花があると知ったのは私が出会った頃の一方通行達よりも幼い頃だった。
小学校へ上がって数年たったある日の事、花言葉というものがあるのを知った。
知っただけで調べてみようなんて思わなかったけどね……。
そんな無価値な知識を覚える必要がどこにある?
本気でそう思っていた。
―― この頃自分が出来て当たり前の事は他人も出来て当たり前だと思ってた。
だから、友達なんてひとりもいなかった。
いたのは宿題を見せてもらうためだけに私に愛想を振りまく馬鹿なガキばかり。
何よ、宿題って……本当、今思うと笑っちゃうわね。
―― 中学に上がり、そして卒業して、高校生の時にこの街に来た。
そこで、心を許せる初めての友人が出来た。
そして、今、その友人は私のかけがえのない大切な人へと変わった。
―― 私が花言葉なんて無価値な知識を覚えようと、そう思わせるほど、その人は私を『恋する女』に変えたのだ。
―― 図鑑を開く時はドキドキと胸が高鳴った。
もし、悪い意味の言葉だったらどうしよう、とか逆に良い意味だったら嬉しいな、とか……本当に、三十路手前の私が十代の女の子みたいにはしゃいでた。
―― か行から『桔梗』のページを開いた。
まず目に飛び込んで来たのは青紫色の美しい花だ。
そして、その写真のしたに簡単な説明が書いてある。
―― あった。
―――― 変わらぬ愛。
桔梗、その花言葉は―― 変わらぬ愛である。
芳川は誰よりも一方通行を愛していた。
そして、その気持ちは名前が現すとおり不変のものだとある意味とてもストレートに伝えていたのだ。
「ねぇ、一方通行……?
助けてあげるよ?
だから、もう一歩進んで」
会えた喜びか、無事だったことへの安心か、芳川の瞳からは一粒の涙がこぼれ落ちた。 - 119 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:23:10.37 ID:CiO+IEWlo
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~~~
「俺…は、そこへ……手を、伸ばして……本当に、良いのか?」
絞り出すように一方通行は声を発する。
「だって、俺は……俺のせいで……みンな傷ついて、ミサカは死ンじまったンだぞ?
他の妹達だって、俺がいなきゃ苦しまなくて済ンだはずだ」
「……あの子達は生まれなかった方がよかったって、あんたはそう言うの?」
「違う、俺のせいで、あいつらは苦しみしかない人生を歩ンだンだ。
俺がいなきゃ―― 」
「違くないっ!
あんたがっ……あんたや垣根さんがいなかったら私の妹達は生まれてすらいないのよ?
存在しない方が良かった命だって、あんたはそういってる」
「違、う……」
「……お前も俺と同じだ」
一方通行の台詞に怒りをあらわにする御坂。
その御坂を止めるように、垣根は口を開く。
「大切なものが一気に増えて、それを失いたくなくて……でも、失っちまって……。
わかんねぇんだよな、どうしたら良いのか。
俺は失った大切なものを忘れたくないから、全員を他人にしようとしてた。
俺もお前も何かを忘れるってのが苦手な頭をしてる」
それは羨ましいな、と上条はポツリとつぶやき、御坂に睨まれた。
垣根はその様子を視界の端でとらえ、思わず笑う。 - 120 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:25:09.96 ID:CiO+IEWlo
-
「ククッ、そう良いもんでもねーぞ?
ミサカと歩いた場所や、あいつが好きだったもの……。
そういうあいつの気配が残ってるものを感じると一番にどうしてもあいつが倒れる瞬間がチラつくんだ。
正直ミサカちゃんや美琴ちゃんの顔を見るのも最近は辛かった。
でも、今はこいつらの顔見て泣いてたら笑わせたいと、笑ってたらその笑顔を絶やしたくないとそう、思えるようになった。
なぁ、一方通行。
どうすればいいか教えてやるよ」
垣根は今から言う事、やる事に相手がどんな反応をするかわからない時期待と不安の混じった顔をする。
―― そういえば、あの時もこの子はこんな顔をしていたわね。
二人が芳川に手作りの本を渡した時。
垣根はこんな顔でチラチラと芳川の事を見ていた。
―― そっか、自信満々そうに見えても案外そうでもないのね。
「泣けばいいんだよ。
悲しかったら、ただ、泣いて、ミサカを思ってやればいい。
あいつは―― 俺らを助けてくれたんだぜ?
だから、泣いて、ごめんなさいよりありがとうだ。
そして、最後は笑ってやろうぜ?
あいつの分まで笑って、泣いて、幸せを感じて生きよう。
あいつが守ってくれたこの繋がりを捨てるだなんて……そんな悲しいこと言うなよ」
「……でも」
一方通行は赦しを求めている。
もう決して言葉を交わす事のないミサカ00001号からの赦しを希っているのだ。
そしてそれは決して願う事のないと絶望している。
一方通行をもう一度立ち上がらせるには、どうしたって一人足りないのだ。
そしてその一人とは、二度と会う事が叶わない。
絶望。
一方通行の頭脳は、こんな時にばかり冷静に答えを導き出していた。 - 121 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:26:01.23 ID:CiO+IEWlo
-
~~~
どんよりと曇ったに伸びる数々の高層ビルはまるでこの街で命を失った者達への墓標のようだ。
街には誰もいなく、垣根は一人その中に立ち尽くしている。
「なんだよ、これ。
夢の中くらい幸せいっぱいな快晴の花畑にしろってんだ」
吐き捨てるように、文句を言うと何時の間にかあらわれたのかミサカ00002号がそれをたしなめる。
「まぁまぁ、リアリティはあればあるほどいい事だよ?
それに、今は一方通行が先だからね、尚更リアリティが大切だと思わない?
さ、行こう」
どこへ?とは垣根は聞かない。
ただ頷くと、これまたどこから現れたのか目の前の芳川に参ったと言うような顔を向けた。
「あなたは尻にしかれるタイプね、きっと」
芳川はクスクス笑うと、歩き出した。
「ったく……行こうぜ?」
ミサカ00002号にそういい、垣根も歩き出した。
- 122 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:26:42.39 ID:CiO+IEWlo
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~~~
垣根達が一方通行と再会してから二日後、十二月二十四日。
クリスマス・イヴの日の事である。
二日前、垣根達は黙り込んでしまった一方通行に、また来るよ、とだけ言葉を残しその場を去った。
佐天涙子は眠りこける白井を起こし、そのあとを追って行く。
「あ、あの!」
少しばかりの落胆の見える背中にそう声をかけると、五人はゆっくり立ち止まりそして振り返った。
「ごめんなさい、一方通行さんを見つけたの隠してて」
「ん?……あぁ、別にいいよ。
多分、それは正しい選択だったと思うし。
それに、お前が一方通行に言葉を取り戻させたんだろ?
むしろ感謝してる。
話ができなかったら俺はどうしていいかわからなかったと思うから」
「そうね、きっとあなた達だからこそ、一方通行もゆっくりと考える事が出来たんだと思うわ」
「……そっか、なら良かったです。
私、明日からはもう一方通行さんのところへ行くのやめます。
もう、あの人は大丈夫だと思うし、こっからはあの人自身が一人で落ち着いて考える時間が必要だと思うので」
「……あの人、ね」
芳川は佐天に聞こえぬようにぼそりと囁いた。
そんな芳川を横目に見ながら垣根は、佐天にわかった、と言いもう一度ありがとうと繰り返した。 - 123 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:27:12.37 ID:CiO+IEWlo
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それから二日間、垣根、芳川、ミサカ00002号は誰一人として一方通行の病室へとは行かなかった。
行ったとしても何も変わらないと思ったからだ。
「今日、クリスマス・イヴか……」
朝、三人で朝食を摂りながらミサカ00002号がニュースを流すテレビを見てポツリとこぼした。
「クリスマス・イヴねぇ……。
オカルトとか宗教とか否定するこの街でキリストの誕生日祝うのはなんかおかしいよな。
インデックスちゃんは……あいつはなに教だ?祝うのか?」
「知らない、聞いてくれば?」
「あの子は……ご馳走食べれそうなイベントは全部参加するんじゃない?」
「……ま、本場のシスターさんがそんな認識されてるようだから別にいいか」
他の熱心なシスターさんが聞いたら怒りそうだが、垣根の中ではそういう結論に至った。
「で? クリスマスがどうかしたの?」
「……いや、別にサンタさんくるかなぁってさ」
「言っとくけど―― 」
「わかってるよ!聖ニコラウスでしょ?
でも、こんな特別な日には何か奇跡を願っちゃわない?」
トーストにかぶりつき、ミサカ00002号は窓の外の曇り空へと目を向けた。 - 124 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:27:57.11 ID:CiO+IEWlo
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~~~
その日の午後、学校を終えた御坂が垣根達のマンションへ訪ねてきた。
「邪魔するわよー。
というか、前住んでたところもう直ったんでしょ?そっちには帰らないの?」
「おー、上がれ上がれ。
いいの、金払ってるのは俺だし、俺には俺の考えというか希望というか……こだわりがあるんだよ!
んで?なんのようだ?
ミサカちゃんなら今昼寝してて芳川は打ち止めの様子見に行ったから今相手出来るの俺だけだぞ?」
「ま、その通りだわ。
んー、じゃあみんな揃うまで待たせてもらっていい?」
マフラーを外し、コートを脱ぐ。
垣根はそれを受け取るとハンガーにかけた。
「外は寒いか?」
「うん、雪が降りそう」
困っちゃうと言わんばかりにわざとらしく肩をすくめる。
「そりゃご苦労様で。
あったかいものなんか淹れてやるよ、ココアコーヒー紅茶、なにがいい?」
「ありがとう。
そうね、ココアにしようかな」
「りょーかいだ」
御坂は応えると、携帯電話を少しいじり、テレビをつけた。
テレビの中では清楚を装った女性が果物を使ったクリスマススウィーツなるものの紹介をしている。 - 125 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:28:25.07 ID:CiO+IEWlo
-
―― そういや……。
垣根はそれを聞きながら、ミサカ00001号達が初めて家にきた時の事を思い出していた。
『じゃ、じゃあ……フルーツ牛乳が飲んでみたいです。とミサカは希望を述べます』
―― 顔真っ赤にしてさ、泣きそうな顔で、わかったよっていったら今度はパッと笑顔になって……。
「はぁー、なーんかケーキとか食べたい気分……違うわね、これは……あれだ、フルーツ牛乳が飲みたい!」
ぼんやりとしていると、御坂のそんな独り言が耳に入ってきて、思わず吹き出してしまった。
「……なに?
どうしたの?」
台所にいた垣根が突然笑だしたので、御坂は不気味そうに台所を覗いた。
「いや、悪りぃ……やっぱ姉妹だなと思ってさ」
「なにがよ?」
「美琴ちゃんとミサカだよ。
ミサカもフルーツ牛乳が好きだった」 - 126 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:29:47.35 ID:CiO+IEWlo
-
「……そっか……私がたまに行くケーキバイキングのお店とか連れてってあげたかったな……」
「……そういうのは言い出したらキリがねぇよ。
俺だってもっと……早く勇気を出して好きだと伝えてやりたかった。
あんな、死ぬ直前じゃあなくってさ」
「……そうね、キリがないわ。
やめましょう……ココアできた?」
重くなった空気を吹き飛ばすかのように、御坂は明るい声を出した。
そして、垣根もそれに便乗する。
「おう、とびきり美味いココアだ。
なんたって……」
御坂にカップを渡すと、御坂は軽く息を吹きかけた。
そして、垣根がいい終わらないうちに一口飲んだ。
「未元物質が入ってる」
そして垣根の最後の台詞に口に含んだ一口分を、思い切り吹き出した。
垣根はそれをみて、大笑いしながら嘘に決まってるだろ、と目に涙を貯めていた。
「ちょ、あんたね……」
口の周りと床を拭きながら、御坂は垣根を睨みつける。
「でもさ、未元物質って食べれるものも作れるんじゃない?」
「作れるのかなぁ……まぁできない事はないとおもうけど……食いたいと思う?」
「見てなかったの?
未元物質って言われた瞬間吹き出したでしょ?」
じゃあ聞くなよ、と垣根は思ったが、それを口にしたら収まりかけた怒りが再熱しそうだと思い直し飲み込んだ。
そのあと二人は寝ぼけて御坂を00001号と間違え飛びついたミサカ00002号の相手をしたりなど役者が揃うのを待った。
ちなみに、ミサカ00002号の言い分は『サンタさんが00001号をくれたのかと思った』というものである。 - 127 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:31:25.09 ID:CiO+IEWlo
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~~~
「ほら、いつまでそうやってベッドの上でぼんやりしているつもりですか?」
いつものように一人きりの病室でぼんやりとしていると、何時の間にか隣に誰か立っていた。
「……は?
お、前……ミサカ…なのか?」
「死んだくらいでこのミサカ00001号の顔を忘れるだなんて、随分薄情ですね。
さぁ、行きましょう?」
ミサカ00001号は一方通行の手を取り、引っ張る。
一方通行はベッドからずり落ちるように降りると、引かれるままミサカ00001号に着いて行った。
扉を開け、階段を登り、廊下を歩く。
そしていつも患者で賑わっている受付にくると、異変に気がついた。
「他の、人は?」
「いいからいいから」
―― あァ、そォか。夢だこれ。
ある意味正しい回答にたどり着くと、夢ならば……と一方通行は笑顔を見せた。
「おい、引っ張るなよ。
手も離せ、一人で歩ける」
―― そうだ、こンな感じだ。
こンなのが俺の楽しかった日々だ。 - 128 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:31:51.79 ID:CiO+IEWlo
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「そうですか。じゃあサクサク行きましょう!」
ミサカ00001号は快活に喋りながらニコニコと笑っている。
―― 俺は、お前にそう笑っていて欲しかったのかな?
記憶にあるミサカ00001号と若干差異がある所が、夢らしくていいな、と一方通行は思った。
数十分歩きたどり着いた先は家だった。
垣根のマンション、何時の間にか垣根達のマンションとなった場所。
ミサカ00001号は迷いなくそこへ入る。
部屋の中には垣根、芳川、ミサカ00002号の姿はなくがらんとしている。
ミサカ00001号はソファへどかっと座ると、一方通行にも座るように促す。
「さて、一方通行。
ミサカは間違いなくミサカ00001号です。
そうですね、詳しい事は言えませんが、妹達の特殊能力フル活用って感じです。
所で、あなたは何をやっているのですか?」
少し怒ったような厳しい口調に変わる。 - 129 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:32:22.34 ID:CiO+IEWlo
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「な、何って……俺は……」
「ぐだぐだと責任など感じて、罪など感じて、そんなものは誰にもないのに……。
誰のせいでもないんですよ?
それに、ミサカ00001号は幸せでしたよ?
短い人生だったかもしれませんが、間違いなく幸せでした。
00002号や芳川博士、そしてお姉さまに一方通行……みんなに良くしてもらい、みんなに愛されて幸せでした。
最期の最期には心から愛した人がミサカと同じ気持ちだと知る事も出来た。
そして、そのかけがえのない唯一の人と、大切な家族を守るれたんです。
なにも文句などありませんよ?」
「で、でも……俺がいなかったら」
「ミサカ00001号もミサカ00002号も他の妹達も存在していません。
あなた方のぬくもりを知る事もありませんでした。
こうして何かを考えるという事も出来ませんでした。
一方通行、ありがとうございます。
貴方がいたからミサカ達は生まれる事が出来た」 - 130 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:32:51.51 ID:CiO+IEWlo
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「でも、苦しンでばかりの人生だったじゃねェか!
もっと、もっと幸せにしてやりたかった!」
一方通行は泣き出しそうな震えた声を絞り出す。
「……あなたは、やっぱり優しいですね。
ミサカ達が知らなかった、大切にしていたもう感じる事のできない幸せを、『妹達に悪い』って理由で自分も受け取れずにいるのですね……」
「だって、俺がしっかりしてれば……守れたはずなンだ……。
俺は、俺は学園都市で誰よりも強い第一位なンだから……」
「一方通行、ミサカ00001号は十分あなたに守ってもらいましたよ?
今こうして話せるのも、一方通行のおかげです。
あなたの強い意志を生きている時に間近で感じたおかげです」
「……」 - 131 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:33:30.71 ID:CiO+IEWlo
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「ミサカ00001号は一方通行の幸せも願っていますよ?
大切な家族に生きて欲しいと、そう願ったからミサカ00001号は勇気を出して行動出来た。
お二人を守るだなんて生意気だったかもしれないけど……あの時ミサカにはああするしか道はなかったんです。
だから、一方通行……幸せになってください。
一方通行がミサカ00001号の幸せを喜んでくれたり、痛みを悲しんでくれるのと同じように
ミサカ00001号は一方通行の幸せを喜び、痛みに心が引き裂かれそうになるんですよ?
だから、笑っていてください。
垣根さんや00002号や芳川博士と、仲良く笑ってください。
ミサカ00001号が大切にしていたものを、これからも守ってください」
諭すように、ミサカ00001号は優しくゆったりとそう語りかける。
「ミサカは、あなたの足かせになるために死んだのではありませんよ?
あなたを……いえ、あなた達を守り自由にするために頑張った結果、死んでしまっただけです。
だから、今のあなたを見ているとミサカは辛いです。
ミサカの事を忘れてくれなんて言いません、忘れられたくはないから。
でも、もし、ミサカの存在があなたを苦しめるだけのものになったのならば、忘れてください」 - 132 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:37:10.94 ID:CiO+IEWlo
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「ごめ……ン。
俺さァ……本当ォはわかってンだ。
あいつらを捨てようとしたのは、俺自身が俺を許せねェからだって……自分の為なンだって……。
あと、お前は、俺達が楽しそうにしてるの眺めてるの好きだってのも、ちゃンとわかってる。
こンなンじゃ、お前は笑って成仏できねェって……。
でもよォ……申し訳なくてよォ……なァにが最強だ、なァにが第一位だって……。
なンか、罰を受けなきゃいけねェンじゃねェのか?
本当ォはお前ら、俺を恨ンでンじゃねェのか?
……なァ、お前は……お前らは俺を許してくれるのか?
俺は、またお前らを大切なものだと言っていいのか?
俺は、あいつらに手を延ばしてもいいのか?
俺は……まだお前らを家族と呼んでいいのか?」
「そんなの、当たり前じゃないですか」
ミサカ00001号は朗らかに微笑む。
「だって、ミサカ達はいつまでもどこまでも家族ですから。
お互いがお互いを大切にしあって、支え合って、それでいいんですよ。
さ、もう大丈夫ですよね?
ミサカにも出来たんです。一方通行も勇気を出してください」
「……あァ……わかった、きがする。
ありがとうな、ミサカ」
「……いえいえ」 - 133 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:37:38.18 ID:CiO+IEWlo
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「さぁて、あとはあいつらがくるの待つだけか?」
「そうね……学園都市にもこんな所があったのね」
「なんか小さな木が沢山あるね」
三人はミサカ達の眠る丘の上に来ていた。
そこだけは、現実とは少々違い、おおよそ数年後くらいの形になっている。
「……ここにさ……ミサカが埋まってんだ。
まぁ、想像は出来てたと思う。ここが好きってのは何度かいった事あるし……」
「ま、そうね」
「この花……ってか植木かな?
藪柑子っていうんだ。お正月とかに飾るだろ?
縁起がいいものをって思ってさ……。
最初はスノードロップ植えようと思ってたんだけど、あれ人に送ると花言葉変わっちまうんだよな。
だから、とりあえず縁起がいいもので、生まれ変わったらもっと楽しい人生送って欲しくってさ」
垣根は愛おしそうに小さな赤い実を見つめる。
「そっか……まぁ大丈夫!
だってミサカ達は、あのお姉さまと同じ血が流れてるんだもん!
どんな困難だって、どんな環境でだって最期は笑えるよ。
00001号も他の妹達も、みんな笑って逝ったでしょ?」
「そう……だといいなぁ」 - 134 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:38:32.37 ID:CiO+IEWlo
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~~~
「ほら、サクサク歩いてください!
モヤシのくせにずっと寝てるから余計にひょろひょろになるんですよ!」
ミサカ00001号は文句を言いながら、一方通行の前をずんずん進む。
「……なァンかわかンねェけど能力使えねェンだから、しょうが…ねェだろォが!」
―― クッソ、夢なンだからパッと場面変われよ!
……そっか……夢、なンだよな……。
いくらここでこいつが赦しますって言っても、それは俺が勝手に自分を赦してるだけ……なンだよな……。
夢だ、と思い出すと軽くなり手を延ばしてもいいンだという気持ちはサァっと失せた。
「ミサカ、ごめン。
これは、夢……なンだよな。
どォせなら、全部夢だったらいいのに……。
起きたらお前らがメシ作ってくれてて、それ食いながらこンな夢見たって笑いながら話して……さ」
「夢なら夢で、そうやって素直な気持ちをぶちまけたらいいんじゃないですか?
現実でぶちまける練習だと思えばいいのでは?
夢なら失敗しても、目覚めれば消えるのですから」
ミサカ00001号は足が止まりかけた一方通行を気にせずどんどん進む。
「……これが夢なら、覚めたくねェよ」
「ダメですよ、あなたはまだ生きているんですから」
強く生きて欲しい、ミサカ00001号は一方通行にそう言っていた。 - 135 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:40:16.27 ID:CiO+IEWlo
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「お、来た来た。
……久しぶりに全員集合、だな」
「そうですね、これがおそらく目に見える形では最後となると思いますが」
ミサカ00001号に連れられて来た場所には、垣根、芳川、ミサカ00002号がいた。
その場所は晴れ渡り、何本もの小さな植木が埋まっていた。
その植木は赤い小さな果実をつけている。
―― クリスマスカラーだな。
一方通行が佐天の影響か、のんきにそんな事を考えてしまう、そのくらい清々しい風景であった。
「とりあえず、一方通行」
「え?……あ、お、おう、なンだ?」
「お前はこの先どうしたいんだ?
俺はお前を助けたい、お前とまた笑いあいたい」
「……俺は」
チラっと芳川の顔を伺う。
芳川は答えを出すのを促すように首をかしげた。
「俺だって、お前らと一緒に……生きたい」
「なら―― 」
「でも、でもだめだろ。
俺はお前らを……捨てようと、したン、だぞ……?
今更、戻れるわけが……ねェだろ?」
「なんでだよ?
俺たちはお前に戻ってきて欲しいと言ってるじゃねぇか」
わからない、というように垣根は声を少し荒げた。
「好き勝手やって、そンな俺が幸せになろうとするなンて赦されるわけねェだろォが!」
一方通行も、イライラとしたように心に溜まったものを吐き出す。
そのまま垣根も一方通行も黙り込み、あたりは風の音とそれに揺れる葉の音だけになった。 - 136 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:43:37.37 ID:CiO+IEWlo
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「誰が」
そんな中、ポツリと芳川が呟く。
「誰が、赦してくれないの?」
「誰って……」
誰だろう、と一方通行はもう一度考える。
ミサカ00001号?
違う。
ミサカ00002号?
それも違う。
垣根帝督?
違う。
じゃあ、芳川桔梗?
……違う。
「お…れが、俺は……俺自身を……赦せねェンだよ……そう、考えるのすら許せねぇンだよ」
「どうして?」
どうしてか?
そんなのはきまっている。
「何もかも怖くって、投げ出そうとしたから。
全部、自分の事しか考えてねェみてェだから」
「そんな事ない。
あなたはちゃんと私や帝督やミサカちゃん達の事を考えてくれてる」
「でも、お前たち、を捨てようと……した」
「まだ、私たちは捨てられてないわよ?
だって、あなたは私の目の前に今いるじゃない」
「……」
「ねぇ、一方通行……」
そこに、ミサカ00002号も割って入った。
「別にいいんじゃない?
全部を守れる人なんかいない。
全部を受け止められる人なんかいない。
だから人は助け合うんでしょ?
一方通行が守ろうとしたけど守れなかったものを、00001号が守ってくれた」
「いつも一方通行や垣根さんはミサカ達を守ってくれましたよね?
その過程でお二人が命を落としていたら?
お二人は……いえ、一方通行はミサカ達を恨みますか?」
「そンなわけねェだろ!」 - 137 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:44:05.25 ID:CiO+IEWlo
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「いつまでもふさぎこんでてその様子を空から眺めていて笑えますか?」
「笑えるわけ、ねェだろ」
「ミサカも同じです。
約束通り弱っちいあなたを守ったんです。
今度は一方通行が約束通りミサカの大切にしていたものを守ってください」
「……わかった。
わかった。わかった」
一方通行は大きく息を吸い込み、一気にそれを吐き出した。
「今度こそ、守ってみせる。
お前の愛したこの世界を、一人でじゃねェ。
垣根や上条や……ミサカや、御坂美琴や……芳川や、俺の知ってるお前の世界を作っていた全ての力を借りて……守り抜く」
「……正解です。
さ、あとはそれを―― 」
ミサカ00001号の言葉は打ち切られ、目の前にはシステムエラーの文字が出た。
そして、一瞬視界が暗くなったかと思うと自分を呼ぶ声が聞こえて来た。 - 138 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:46:39.85 ID:CiO+IEWlo
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「おい!一方通行!
大丈夫か?」
「上…条……?
あれ? な、ンで?」
「説明は後だ!
街で能力者とスキルアウトが暴れてんだ!
垣根や御坂はもう行った、白井も緊急出動したらしい……俺はスキルアウトの方が銃を使ってるって、言うからさ……垣根と御坂に止められた……。
そんで、どうやら電気を落とされたらしい」
「意味わからねェ。
……はじめから説明しろ」
一方通行はまだ先ほどの夢の続きのような感覚だ。
だから、普通に上条に接することが出来たのである。
そして上条は混乱した頭で、もう一度説明する。
「ええと、つまり要約するとこうだ!
まず、機械の事は気にするな。俺も正直良くわかってねぇから。
そんで、この機械にお前らを繋いだ。
そしたらしばらくして暴動が起きた。
御坂はここを俺に任せて外に行った、珍しく白井から助けてくれと連絡が来たもんだからな。
そんで……さっき電気が落ちた。
垣根、芳川さん、ミサカ妹の妹はすぐ目を覚まして……なんだっけ……」
「落ち着け、話す時、問題を解く時、落ち着くことが大切だと何度も言っただろォが」
「半年近くうじうじしてたお前が言うな……ってそんなこと言ってるばあいじゃねぇよな。
垣根もすぐ飛び出した、妹の妹も飛び出した。
芳川さんはなんかカエル先生の手伝いに行った。
そんで、お前もやっと目を覚ました」
「……チッ」
一方通行は、大体を理解すると舌打ちをする。
それと同時に、現実に帰ってきたという恐怖が彼の心に流れ込んできた。 - 139 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:48:06.44 ID:CiO+IEWlo
-
―― クッソ、怖ェ……。
もしもミサカや垣根や芳川、それに超電磁砲になンかあったら……。
現実なのだ。
先ほどとは違い死んだ人間とはもう、会えないのだ。
夢の中で決意した守るという気持ちは、薄らいでいた。
さっきの夢の中なら、すぐさま飛び出しただろうな、と一方通行は苦々しく思う。
一方通行?と当然飛び出していくと思ったら黙り込んだ友人の顔を上条は覗き込む。
が、一方通行はそれを無視してうずくまった。
『まったく、ほら一方通行。
さっきの気持ちを思い出してください』
「え?」
頭の中に直接、ミサカ00001号の声が聞こえた。
『いい加減立ち上がりましょう?
そして、笑いましょう?
ね、あなたにはまだまだ守りたいものがあるんじゃありませんか?』 - 140 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:48:36.96 ID:CiO+IEWlo
-
~~~
「やっばい……」
御坂美琴に比べたら小さすぎる力だが、ミサカ00002号も暴れる学生を必死に止めていた。
なるべく垣根の側を離れぬようにとしていたが、街は大混乱に陥っているのだ。
逃げる人、その人達も巻き込み能力を放つ能力者と銃を撃ち鳴らすスキルアウト達。
気づいたらミサカ00002号は垣根を見失っていた。
そしてさらなることに、スキルアウトの数人に囲まれてしまった。
「お前、御坂美琴だろ?」
しかも、連中はミサカ00002号を御坂美琴と間違えている。
―― やばいやばいやばい……!
「こ、こんだけの人数で同時にぶっ放したら……レベル5といえども殺せるんじゃないか?」
誰かがそう言った。
その言葉は周りのスキルアウトに火をつけ、どんどん燃え上がる。
―― ごめん、一方通行、あんたを助けられそうにないや。
必死に生きる道を探すが、どう考えても道はなかった。
「よし!じゃあ、一斉にいくぞ!」
―― 一斉にこなくたって今突きつけられてるの撃てばミサカは死ぬっての。
何時の間にか数人だったのが、数十人に膨れ上がっていた。
数十の銃口が、ミサカ00002号にまっすぐ向けられている。
―― 00001号も、きっとあの時周りに何人の妹達がいるかわかってたんだよね。
勝手なことしたらその妹達が一斉に銃向けてくるってのもわかってたんだよね。
……強いなぁ、いまミサカ、怖くってしょうがないのに……。
いくぞ、誰かが言った。
数十の指が引き金に手をかけるのが見えたきがした。
そして、何十もの銃声があたりに響いた。
- 141 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:49:02.36 ID:CiO+IEWlo
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~~~
「ちくしょう、何だってんだよこいつらは!」
垣根は手当り次第に暴れているものを多少強引に無力化し、同時に逃げ惑う人々を一人でも多く助けようと脳をフル回転させていた。
「……ミサカちゃん、スキみてどっか隠れてろ!
正直今はひとりのが動きやす……あ、れ?ミサカ、ちゃん?」
周りをぐるりと見渡し、ミサカ00002号とはぐれたことに気がついた。
飛んで来た炎塊をまるでハエを追い払うかのように手を振るだけで相殺する。
「おいおい、嘘だろ……」
探そう、そう思った瞬間悲鳴が聞こえた。
無視しようかと考えるが、実際そんなことが出来る訳もなく、クソッとしたうち混じりに叫びながら飛んだ。 - 142 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:49:41.63 ID:CiO+IEWlo
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「あんたらいい加減に……しろぉおお!」
死なない程度の雷を落とし、暴徒を一気に沈静化させる。
「停電……してる?」
ビルのモニターが真っ暗であることから、あたり一体の電気供給が止まったと、推測できた。
そして、そこでひとつの心配が生まれる。
「一方通行達……大丈夫…かしら」
もし、ダイブ中に機械が止まってしまったら……?
最悪そのまま植物状態になってもおかしくはない。
いくら病院とはいえ、供給を急に絶たれたら呼びに切り替わるのに多少のタイムラグはある。
「やっば……い、どうしよう……」
御坂の顔から血の気がサーっと引いた。
「お姉様!」
その声に意識を現状に向ける。
だが、少し遅すぎた、肉体操作系の能力者だろうか?
目の前にはすでに乗用車が迫っていた。
―― やば……間に合わな……。 - 143 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/01(金) 23:52:06.53 ID:CiO+IEWlo
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~~~
「いーやーだー!」
路地裏を佐天涙子は走っていた。
「折角のクリスマスなのに!なんでさ!」
佐天涙子はクリスマスらしくケーキを買おうと街に出ていた、そしてこの騒動に巻き込まれたのだ。
必死に逃げるが、そこらにいる全ての人間が敵だ。
類稀なる直感力で、攻撃をギリギリかわしているが、無傷ではない。
「きゃあああ!」
だが、いくら鋭くとも運動能力の差は埋まらない。
最終的には捕まってしまい、情けなく悲鳴をあげてしまった。
―― ……こんな奴らにビビるな。
気持ちで負けちゃダメなんだから……悲鳴なんて、相手を喜ばせるだけだ。
キッと睨み返すが、その瞳からは涙が溢れそうである。
怖いものは怖いのだ。
いくら気持ちで負けぬようにと踏ん張ろうが、まだ子ども、限界というものがある。
―― 絶対泣かない、それが出来たら私の勝ちだ。
……そうしたら初春と白井さんと御坂さんとケーキを、食べよう……御坂さんと白井さんにとびきり高級なケーキをご馳走してもらう。
ギリギリと歯を食いしばり、佐天は苦痛を乗り越えようと、幸せな未来を空に描いた。
そして、その見上げた路地裏から見える空から、思い描いた未来を確実な物へと変えてくれる存在が降ってきた。
「助けにきたぜ、感動したか?」
- 146 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/09(土) 00:03:54.24 ID:kNqAdDeDo
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ぐしゃりと、自分の頭や身体が潰れて鮮血が飛び散る様子がイメージできた。
それ程までに死が近づいていたのだ。
しかし、その程度の死などものともしない男がこの街には少なくとも二人いる。
「……助けにきたぜ、感動したか?」
御坂の背後から伸びた真っ白な翼は車を空中で串刺しにしていた。
御坂は振り返り礼を言おうとするが、それよりもまず驚きの声をあげることとなった。
「だ、大丈夫、あんた」
余裕綽々な様子で笑っている垣根を想像していたが、そこにいたのは埃まみれで髪も乱れ汗だくな垣根帝督の姿であった。
「少なくともお前よりはな、クッソ……ミサカちゃん知らねえか?はぐれちまったんだ」
ハァハァと息を切らしながら、ミサカ00002号が行方不明だと伝える。
「あーもうっ!こんな時一方通行がいたら……」
もっと楽になるのに、とイライラと吐き捨てるように言うと、今度は銃弾が垣根、御坂を襲うがそれは翼と目に見えない力で全て防がれた。
「とにかく、みつけたら連絡くれ!
黒子ちゃんも頼む!
あぁ、あと二人も気をつけろよ?」
そして慌ただしく飛び去った。 - 147 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/09(土) 00:04:32.72 ID:kNqAdDeDo
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「あ、一方通行さん?」
「……話は後だ」
空から降って来たのは学園都市最強の男、序列第一位『一方通行』の少年であった。
真っ白な少年は深紅の瞳で佐天にもう、大丈夫だ、と語りかけると銃を持った暴徒達に向き直る。
「そォやって、人を殺すことにお前らなンも思わねェのか?
女を大勢で追い回して……恥ずかしくはねェのか?
お前らみたいに、能力を人を傷つける事にしか使えないやつを、俺は許せェ……」
一人一人を睨みつける。
「あ、一方通行?
一方通行は死んだ……って……」
「ひゃは、たァしかに俺は一度死ンだのかもなァ……」
そして、本当に一瞬の出来事であった。
「お前らみたいなやつから大切な物守る為に地獄から引っ張りあげて貰ったンだよ……」
男達は倒れ、その真ん中に一方通行は立っていた。
「え?」
その光景に佐天ですら、驚きの声をあげる。
「ハッ、いいねェいいねェ……最高だ!
力の使い方ってのを初めて正しく理解した気分だァ!」
男達に目立った外傷はない、一体どうやって、など本人しか分かり得ぬが佐天にも一つだけわかったことがあった。
「一方通行さん……完全復活だ」
- 148 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/09(土) 00:06:50.36 ID:kNqAdDeDo
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上条はまたも走っていた。
うずくまったと思ったらいきなり立ち上がり「行くぞ」と短く言った一方通行は、今までの状態が嘘のような
まるで魔王を倒しに行くの勇者のような顔つきをしていた。
そして、上条の心情を察したのか共に行こうと言った。
外に出ると、一方通行は迷わず進んだ。
まるで自分の助けを必要としている人がどこにいるのか知っているかのように。
能力以外の、瓦礫や銃弾から上条を守り、能力は上条に消させる。
「おい!どこむかってんだ?」
「お前はすぐにインデックスと合流しろ」
「インデックスは俺の部屋にいるはずだから大丈夫だ!」
「大丈夫、俺もそォおもってた。
でも大切なもンってのは簡単に手からすりぬけるぞ」
「……わかったよ」
一方通行とわかれ、全速力で自分のアパートへと上条はむかった。
「お前はこぼしちゃいけねェンだ」
『とうまとあくせられーたは似てるのかも』
自分にとってなにが大切なのか自覚した日、インデックスが笑いながら言ったその言葉を一方通行は思い出していた。
―― 似てるなら、あいつも俺と同じ袋小路に落ちるかも知れねェ……そンなのは、味合わせたくねェ……。 - 149 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/09(土) 00:08:54.36 ID:kNqAdDeDo
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「はぁはぁ……着いた……って、あのバカッ」
学生寮に着くと、息を整えるため少しだけ足を止めゼェゼェと酸素を大量に取り込んだ。
そして、視界に何か動く小さな存在が入り込んだ気がしたためそちらのほうに視線を向けた。
その存在が何者であるかを認識し、先ほどの言葉が無意識の中で弾けた。
「おい!」
白い修道服に身を包み、心配そうな顔でオロオロと当たりを見回したり、自転車置き場の周りを行ったり来たりとしている少女に少し怒りのこもった声をぶつける。
「お前こんな時に外出てなにやって―― 」
いい終わる前に、身体が全力疾走することを命じた。
―― 間に合えよ……。
防ぎ切れるなどとは思っていない。
軌道を逸らせれば上出来、唯一の武器の右手が潰れるかもしれないがそれも知ったことではない。
上条の声に安堵の顔を浮かべたインデックスの表情は一瞬にして恐怖に変わった。
インデックスの目に映るのは走る上条と自身に飛んでくる瓦礫と呼ぶには大きすぎる―― 恐らく壊れた建物の一部だろう―― コンクリートの塊だった。
―― 届けぇえ!
上条は鬼のような形相で必死に手を伸ばす。
「インデックス!」 - 150 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/09(土) 00:10:04.50 ID:kNqAdDeDo
- そして、その瓦礫に右手の中指、それが少しかすった。
それだけでその瓦礫を操っていた能力は消える。
外力を失った瓦礫は重力のままに落下。
上条は最後無理な姿勢で腕をせいいっぱい伸ばしたせいでバランスを失い、地面に派手に転けている。
瓦礫にむかい走っていたため、転がった先はその瓦礫の真下であった。
コインを弾き、裏か表か勝負をして一度も勝てない不幸さは、ここでもそれを発揮する。
それほど絶妙としか言えない位置に上条はいたのだ。
「とうま!」
インデックスが叫んだ。
「……だぁいじょうぶだよ」
しかし上条は自身と瓦礫の間にはもう10センチもないというのに余裕そうに笑った。
「俺らには、仲間がいる」
コインの裏表が当てられないのならば、そのコインごと、何処かへ飛ばしてしまえばいい。
パラパラと上条の頭上に降り注ぐのは、粉々になった破片だった。
上条はゆっくり立ち上がり擦りむいた手のひら、破けた学生服を苦々しい表情で確認した。
そのあと、意地悪なコインをラッキーなコインへと変えてくれた女の子のほうを向いた。
「さーんきゅ!御坂」
「みこと……とうま……」
「ったく、妹探してたら病院にいるはずのあんたがミンチになりそうになってるってどういうことよ?
ほら、あんたもなに放心してんのよ?」
若干乱暴にインデックスの頭を揺する。 - 151 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/09(土) 00:10:40.21 ID:kNqAdDeDo
-
「いやぁ、一方通行がインデックスの様子をみて来いっていってな……。
でも、よかった無事で」
「とうま……ごめんなさい。
またとうま危ないことに巻き込まれてるかもって思ったら、家でじっとしてられなくて……」
「その気持ちは嬉しいが、俺の心配なんて―― 」
「そんなの!
そんなの、無理なんだよ」
インデックスは震えていた。
怖かったからなのか、怒っているのか、上条には分からずただ黙るしかできなかった。
御坂はそんな二人の様子に、ため息をついた。
「……ま、そりゃそうだわ。
あんたがインデックスを心配してるように、インデックスもあんたを心配してんのよ。
少しは、女の子の気持ちも考える努力をしなさいよ」
「そっか……そうだな……ありがとう、御坂。
そんで、ごめんインデックス」
「違うでしょ?
あんたが佐天さんになんて言ったか思い出しなさいよ」
「……そうだった。
心配してくれてありがとうな、そんで心配かけてごめんな」
「……うん、こちらこそ、なんだよ」
「……あれ?」
一件落着、と御坂はわらいとばそうとして、上条の言葉に引っかかりを感じた。
「……ちょっと、誰がなんて言ったからここにきたの?
私と垣根さんは、病院にいろと言ったわよね?」
「え?だから一方通行」
「……一方通行、立ち上がれたの?」
「うん」
「そっか……よかったぁ…………てか先にそれ言いなさいよ!」
御坂は嬉しそうに笑い、そしてその笑顔を隠すように上条に意味もなく電撃を飛ばした。
- 152 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/09(土) 00:11:18.97 ID:kNqAdDeDo
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「……」
佐天は一方通行になんと声をかけようかと迷っていた。
おめでとう?
ありがとう?
元気になってよかったです?
どれも違うような気がする。
「無事か?」
目の色は強く、深い意志と決意が刻まれているようであった。
佐天はただ頷き、なにを言ったらいいのかわからないので、とりあえずこういった。
「メ、メリークリスマス!」
「……はァ?」
「いや、あの……ね?」
「ね? じゃねェよ!
まったく……お前は大物だよ……。
たった今死にそうなめに遭ってるってのに、泣きもしねェし、放心もしねェ……お前は、強いな」
優しく微笑みながら、一方通行はそう言った。
「強くなんかないですよ?
ただ、私は一方通行さん達みたいになりたいだけです。
折れても、折れても、時間がいくらかかっても立ち上がる。
そんな、強い人間になりたいから……こんな人達には負けてらんないんです。
気持ちだけでも……」
「……そォかい」
- 153 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/09(土) 00:11:48.96 ID:kNqAdDeDo
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じゃあ、私は妹探しにいくわ!と言い残し御坂はまた足に力をいれ、走り出した。
もちろん上条は自分も手伝うと申し出たが、あしでまといだとスッパリ言われてしまった。
そしてインデックスと共にもう部屋から出るなとまで言われた。
「いくらなんでもひどくないか?」
言われたとおりおとなしく戻ると、上条は落ち込んだ声色でそう愚痴った。
「みことが正しいんだよ。
とうまはあれくらいキツイ言葉で言われなきゃ無茶して怪我して入院して……そんなのみことは嫌なんだよ」
「……まぁ、たしかに病院からここまでも一方通行いなきゃ来れなかったろうしな……」
この街で最強の男を殴れる上条だが、上条にはそこに行き着くまでの方法はない。
対して一方通行は遠距離から小石を蹴り飛ばしているだけで上条を殺せるのだ。
他の能力者もそうだ。
遠距離から何かされたら、上条は逃げるしか出来ない。
「俺って、弱いよな」
悔しさを噛みしめるように上条は言った。
「そんなことないよ。
だって、とうまは私を守ってくれた。
みんなを、今まで守ってきた。
とうまの前に道がなかったらきっと友達がたすけてくれるんだよ」
さっきのみことみたいにね、とインデックスは諭すように言う。
「……そうか。
そうだな、出来ることをやればいいんだな」
「うん」
まだ完全に吹っ切れたとは言えないが、確かに上条はゆっくりだが確実に助けられると言うことを自然と受け入れることができるようになっていた。
- 154 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/09(土) 00:15:04.07 ID:kNqAdDeDo
-
~~~
体には無数の穴があき、そこからは真っ赤な血液が噴き出す。
そして、地面へゆっくり倒れると、その地面は温かくミサカ00002号の身体を受け止めた。
「……あれ?」
ミサカ00002号は目を開き、自身の身体をみた。
穴などあいておらず、もちろん出血もしていない。
「大丈夫だ、守るって決めたンだ。
垣根と、お前と、芳川と……みンなの力を借りることになるけど、守るって決めたンだ」
ミサカ00002号を包み込むように抱きしめていたのは一方通行であった。
そして、その一方通行の周りにはもう見慣れた羽が舞っていた。
「あ、一方通行……それに……垣根さんも……」
「助けにきたぜ?感動したか?」
一方通行は冗談を飛ばすようにミサカ00002号につぶやく。
「お仕置きにきたぜ?……おいおい、なにもそんな震えて涙流すほど感動するなよ」
それに合わせるように垣根も銃を自分達に突きつける男らにそう、言った。
佐天を初春のいる支部へ送り届け一方通行は大切な家族を見つけた。
御坂を助けたあと、逃げる人たちをかばいながら、垣根は“恋人”の大切な世界を見つけだした。
狂った街の狂った力に人生を狂わされた最強の二人組は、今また肩を並べ歩きはじめた。
「この街でこれ以上俺の手の届く範囲のものは壊させねェ」
「もう二度と、あんな思いはしたくないからな」
二人はミサカ00002号を守るように、ミサカ00002号の前に立った。
「悪ィな」
「常識なんて言葉は今すぐ捨てろ」
そして、カタカタと震えながら銃を向ける男達に向かって言い放つ。
「こっから先は一方通行なンだ」
「俺達には常識は通用しねぇぞ」
- 160 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/11(月) 01:17:59.25 ID:6DcTg9eRo
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~~~
「に、逃げるぞ!」
なんとか声を絞り出した一人の号令で、男たちは一目散に逃げ去った。
垣根はため息をつきながら、ミサカ00002号の方へと振り返る。
そして、コツコツと靴を鳴らしながら近づくと、その頭に思い切りげんこつを落とした。
「いったぁあ!」
「馬ッ鹿野郎!
お前今死んでてもおかしくなかったんだぞ!
子供っぽい動機でちゃっかり着いてきて、それだけでもげんこつ物なのに気づいたらはぐれてやがるし……あぁもう!クソッ!」
壁を思い切り殴った。
拳からは血が吹き出したが、壁は何事もなかったように無傷だ。
「ごめん…なさい……」
不穏な空気が流れた。
「……まァ、なンだ。
はぐれたのは垣根にも非があるっちゃあるンじゃねェか?」
「あ?んなもん勝手についてきた時点で……」
垣根はイライラした様子で一方通行を睨む。
だが、一方通行の目を見た瞬間垣根は一方通行がきっかけを与えてくれたのだと察した。 - 161 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/11(月) 01:20:54.08 ID:6DcTg9eRo
-
―― あとでキレた事後悔して謝りたくても意地で謝れなくなっから、さっさと仲直りしろ。
―― 仲直りってか……まぁ怒ったのは心配してたからだし……なんつーかさんきゅ……。
目だけでそう会話すると、息を吐き今度はミサカ00002号の頭を無傷の方の手で撫でる。
「怒鳴って悪かったよ。
殴ったのは謝らないけど、でもなんかごめんな」
「ううん……ミサカこそ、ごめんなさい。
勝手についてきて勝手にはぐれて勝手に死んだら、ミサカが勝手にやったことでも垣根さん達は傷つくんだよね。
ごめん。これからは、ちゃんと考えてから行動する。
上条さんを見習わなきゃね……」
垣根の傷ついたほうの手を優しく胸に抱くように取った。
「これも、ごめんね。
でも少し嬉しかったかも……これだけ本気で心配してくれたって事だもんね。
だからこそ、本気で反省してる」
「……良い子だ」
一方通行はミサカ00002号の肩をぽんと叩くと、歩き出した。
「……もう二度と、無茶しないでくれ。
俺は必ずどんな時でも最後は一方通行と一緒にお前のところに生きて帰るからさ」
ミサカ00002号を思い切り抱きしめ、耳元にそう囁く。
「……うん、でも待ってるだけの女にはならないよ?
出来る事は自分でやる、そしてミサカも最後は垣根さんと一方通行、そして芳川博士のところに帰る!」
「……敵わないねぇ、お前ら姉妹にはよ」
垣根はくくっと笑い、ミサカ00002号もえへへと笑い返した。
どんな地獄のような場所でも、仲間がいれば、家族がいれば、大切な誰かがいれば―― 笑えるのだ。
- 162 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/11(月) 01:21:56.60 ID:6DcTg9eRo
-
~~~
『御坂さん!
垣根さんから妹さんは見つかったと連絡入りました!
あと、なにか変です。
暴れてた学生が何処かに集まるように、一方通行さん、垣根さん、御坂さんから逃げてます』
御坂は妹を探す情報を初春から随時もらうために、携帯を通話状態のままイヤホンマイクを装備していた。
しばらくカタカタとキーを叩く音だけしか聞こえないと思ったら、急に初春が吉報を叫んだ。
「よっし!ありがとう!初春さん!」
『お礼なら佐天さんに言ってください。
佐天さんなんかよくわからないけど路地裏に詳しかったんです。
その情報全部垣根さんにメールした瞬間見つかったと連絡が入ったんですよ』
「……佐天さんって、結構、謎……よね。
まぁいいや!さっさとこの騒動しずめてみんなでクリスマスパーティするわよ!」
御坂は苦笑しながらワクワクした声で初春にそう告げた。
『はい!』
初春も元気良く返事をして、そのまま通話は切れた。
通話がきれた瞬間、佐天からメールが入った。
【目的地は鉄橋っぽいです!】
「……この子まじでなんなの?」
御坂はまたも苦笑する羽目になった。
そのメールにありがとうと返事を書くと、走り出した。 - 163 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/11(月) 01:27:17.30 ID:6DcTg9eRo
-
~~~
三人は路地裏を出たあと、暴れる連中を制圧しながら、崩壊した建物の破片でバリケードを作り、巻き込まれた人々をそこに誘導していた。
暴徒が消えはじめ、終わったのか?と思った時垣根の携帯が鳴った。
「お、芳川からメールだ」
真っ白な携帯電話を取り出し、メールの内容を確認する。
【鉄橋に行け。全面衝突、必ず止めろ】
急いで打ったのだろうと思わせる文面は、早急に向かえとひしひしと伝えていた。
「なンだって?」
「ん、あぁ、悪りぃ……ほらよ」
一方通行に携帯電話を投げた瞬間、その携帯電話が、破裂した。
「は?」
「あ?」
破片が一方通行の頬にかすり、わずかな傷を作った。
「垣根……あそこだ」
携帯電話を破壊したのは一発の銃弾であった。
一方通行が、壊そうと思っても壊しきれなかった携帯電話。
それが壊された。
「……」
垣根は黙ったまま一方通行の指差した方向を睨みつけた。
そして軽くジャンプする、それに合わせるように一方通行は思い切り足を振った。
その足に乗り、音速に届くスピードで垣根は飛び出した。
「あれ?垣根さんは?」
バリケードに避難した人々の怪我の手当を簡単にしていたミサカ00002号は戻ってきて垣根がいないことを一方通行に尋ねた。
「飛ンでった」
「え?……あ」
ぶっきらぼうにそう答える一方通行にわけがわからないという声をあげたが、地面に散らばる携帯電話の破片を見つけ、理解したようだ。
「簡単に、壊れちゃうんだね」
悲しそうに、そう言った。
「俺が言えた義理じゃねェかもしれねェけど、確かな物がないと安心できねェ関係じゃねェだろ、俺たちはさ」
「……そうだね」
「あァ」 - 164 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/11(月) 01:29:33.37 ID:6DcTg9eRo
-
~~~
「クッソ!」
完全に油断していた第一位と第二位ならば殺せると狙撃者は思っていた。
その考え自体が甘いのだが……。
そして、その狙撃者は上条当麻の不幸よりも大きな不幸を呼び寄せてしまったのだ。
まだ、一方通行か垣根帝督のどちからに当たっていた方が彼にとっては幸せだっただろう。
「え?」
再びスコープを覗き、二人のうちの一人が消えている事に気がつく。
「何がクソなんだ?」
そして、突風が吹いたと思ったら、真後ろから声が聞こえた。
「あ、あああ」
振り返る事すら出来ないその威圧感に男はカタカタと歯を鳴らすだけだった。
「もう一度聞くぞ?
何が、クソなんだ?」
「ゆ、許して……」
男は自分が垣根帝督が命を狙った事を怒っているのだと思っている。
「も、もう二度と…に、二度とお前らをねらわねぇから」
垣根は大きなため息をつくと、男の首を掴み、引き寄せる。
「良かったな。
少し前の俺だったらお前をひき肉にしてたかもしれねぇぞ?」
そう言うと、力いっぱい男を引き、立たせ、そのまま力いっぱい顔面に拳をぶち込んだ。
「いい病院と先生紹介してやるからありがたく思えよクソが」
そう吐き捨てると、一瞬泣きそうな顔をして、一方通行が待つ場所へ飛んだ。 - 165 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/11(月) 01:30:52.43 ID:6DcTg9eRo
-
~~~
「鉄橋……あんなところで全面衝突してスキルアウト側は勝てると思ってるの?」
恐らくもう関係ないのだ。
そいつらにとっては生きるとか死ぬとか、関係ないのだ。
「なんで、まだまだ生きれる命を捨てるような真似をするのよ」
御坂は走る。
自分たちに牙を剥き、大切な妹や親友を殺そうとした連中を、守るために。
どんな命であろうと、無駄に散って欲しくはなかった。
生きたいというその思いを含め「幸せだった」と言って死んだ子たちをたくさん見てしまったから。
無駄に死ぬ事は、その妹達を馬鹿にされたような気がしてしまうのだ。
「はぁはぁ……」
必死に走る。
何度も足がもつれ転びそうになるが、走る。
「あっ……」
そしてついにこけた。
だが、体は妙な浮遊感を残したまま止まった。
「よォ、嬢さン。乗ってくか?
姉妹割引してやるぞ?」
「あ、一方通行!!」
「迷惑かけたな。引っ張りあげてくれてありがとうよ……スマンかった」
こけた御坂のトレーナーを掴み、なんとか地面に激突するのを防いだ一方通行のもう一方の腕にはミサカ00002号が担がれていた。
「……すごい、シュールね」
一方通行の感謝と謝罪を聞こえなかった振りをして御坂は一方通行のその格好を笑った。
ここがどんな地獄だろうと、笑える人間はここにもいた。
「うっせ、行くぞ」
「ええ、よろしくね」
二人は気を引きしめ、レベル5として、能力者のあるべき姿を、示す。
それは―― 。 - 166 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/11(月) 01:32:10.51 ID:6DcTg9eRo
-
~~~
「なんか、静かになったな」
上条は、そわそわと落ち着きなくそう言う。
「この辺はさっきから割と静かなんだよ」
そして落ち着け、というようにインデックスは言う。
「……インデックス、少し話をしていいか?」
どうしても落ち着かないのか、上条は伺うようにインデックスを見た。
「勿論っ!」
「そうだな……お前と初めて会ってからもう五ヶ月くらい経つのか?
なんか色々あったよな。
魔術とか、なんか、色々……さ」
「そうだね。
とうまは私のヒーローだよ。
私を、私とかおりとすているを、助けてくれた。
勿論、ていとくやあくせられーたも……私はみんなに助けてもらった」
懐かしむように微笑む。
「それ以上に俺はお前に助けられて……いや、支えられてるけどな。
前も言ったけどさ、本当にお前と出会えて良かった。
多分、俺はお前と出会って前より良い人になれた、だけどお前と出会う前より情けない男になっちまったようだ」
はずかしそうに、うつむいた。 - 167 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/11(月) 01:32:39.40 ID:6DcTg9eRo
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「そんなこと……とうまは凄いよ。
いつも一生懸命で、何事にも本気でぶつかれる、そんな人が情けないわけがないんだよ」
お世辞ではなく、本気でインデックスはそう思っていた。
「それは……お前が……」
言ってもいいのかと、迷うように口ごもる。
「私?私がなぁに?」
インデックスはいつも通りの見る人すべてを安心させてくれるような笑顔で上条を見やる。
「お前が……」
上条は、それでもまだ何か迷っているようだ。
だが、決心したように顔をあげた。
「お前がいるからだよ。
俺はお前がいるから前に進めるんだ。
お前の笑顔や、笑い声やお前の存在そのものが俺の力になるんだ。
もう……お前がいなきゃ俺は……俺じゃなくなっちまうんだ」
上条は、いいたい事を言えてスッキリとしたのか、穏やかな表情をしていた。
「インデックス、俺……お前が好きだ。大好きだ。
もう、二度と離したくない」 - 168 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/11(月) 01:33:36.39 ID:6DcTg9eRo
-
「と、うま……わた―― 」
インデックスが答えを出そうと口を開いた瞬間、ベランダから申し訳なさそうに垣根が現れた。
「あのー……大変申し訳ないんですが、人が必死こいて暴動止めようとしている時にラブシーンやらないでもらえます?」
「か、垣根ぇ?」
上条は、顔を真っ赤にして、金魚のように口をパクパクとさせる。
インデックスは、上条よりもさらに顔を赤くし、布団にくるまってしまった。
「……いやまじでスマン。
でも、上条……お前の力がきっと必要だ。
だから……助けてくれ」
垣根は真剣にそう言った。
上条は、その真剣さを感じ取り、顔の赤みを去っと消し、真面目な顔つきに変化した。
「……わかった、行こう。
インデックス、すまんが少し待っててくれ」
布団に包まるインデックスにそう声をかけると、ポンポンと軽く撫でる。
「よし、行こう!」
- 172 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/13(水) 21:48:57.03 ID:DLAJ7IKRo
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~~~
鉄橋の前で、能力者の集団と無能力者の集団は睨み合っていた。
ピリピリとした独特の雰囲気が当たり一帯を包む。
アンチスキルと呼ばれるこの街の警察のような組織は、街の混乱でほぼ指揮系統を壊されていた。
遠くでサイレンの音がなっている。
鳥が二羽、鉄橋の上を通り過ぎた。
そして、二つの集団はどちらからともなく、動いた。
轟音のような雄叫びが上がり、片方からは水や火や風や、その他色々な塊が、もう片方からは何千もの銃弾が放たれた。
銃がやかましく鳴り響き、能力者を襲う。
雷鳴、火炎、突風が無能力者を襲う。
この一瞬だけで何人が傷つき何人が命を落とすかなどは、だれも考えていない。
しかし、たやすく命を奪えるその数々の脅威は五人の少年少女達によって打ち砕かれた。
銃弾は不自然に地面に刺さったのが半分、残り半分は見えない力で押し戻されたようにカランと地面に落ちた。
数々の能力はガラスの割れるような音と共にえたのと、純白の翼にかき消されたものがあった。
「少し頭を冷やせ」
「お前ら、少し落ち着けよ」
「まだ暴れたりねェってなら俺らが相手になるぜ?」
一方通行、垣根帝督、御坂美琴。
間に立つ者たちにその三人を見ると、二つの集団はしんと黙った。 - 173 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 21:49:33.56 ID:DLAJ7IKRo
-
「そンなビビるなよ。
別にお前らを嬲りに来た訳じゃねェ」
一方通行が、口を開いた。
「ただ、わからねェンだよ。
なンでお前らは簡単に引き金を弾ける?」
銃を構える集団に向かいそう言った。
そして、振り返り「何故、人に向かって能力を使える?」と、能力者集団に言った。
人を傷つけることを何も思わないのか?と、一方通行は問いかけていた。
「……お前ら、どォしてこの街に来た?」
なにも答えない集団に、続けてそう、問うた。
それでもなにも答えない集団にイライラとした様子で上条は語りかける。
「お前らはなんの為に能力を得たいと思ったんだよ!」
一方通行の問いを、もっとストレートにわかりやすくぶつけ直す。
「俺は、外の世界じゃ生きられなかったからこの街に逃げてきた……この街でいう能力は俺は得られなかったよ。
でも、それでも俺は能力を持ったら誰かを助ける為に使いたいって思ってる。
お前らは、違うのか?
初めてこの街にきた時、自分にはどんな能力があるのかって考えただろ?
その能力でお前らはなにをしようとしたんだ?」
「お、れは……」
一人の少年が、一歩前に出て答えた。
年は佐天や初春たちと同じくらいだろう。 - 174 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 21:50:09.18 ID:DLAJ7IKRo
-
あんた達、といいながらレベル5の三人をみた。
「なって?」
御坂が聞き返す。
「人の…為に……誰かを守るヒーローに」
何かを思い出したかのように、少年はだんだんと声のボリュームを上げた。
そしてその少年は、ポロポロと泣き出した。
「俺……なんでこんなこと……」
「おいおい、泣くなよ……終わったことを悔やむよりこれからどうするかの方が重要だろ?
ほら、お前はどうしたい?」
垣根はその少年に近づきその頭をポンポンと撫でた。
垣根が近づいた事により、少年のいた集団―― 能力者の側―― は、一斉に下がった。
「……ま、慣れたことさ」
「ン、そォだな……」
垣根も一方通行も能力を使用して人を傷つけた事はあまりない。
今回の騒動でも、二人は身を守り人を助けることのみに能力を使った。
その過程で暴れるもの達に能力を使い気絶させたりなどはしたが、殴るよりも穏やかなことだ。
「そりゃあ……能力あるやつはいいさ!
でも、俺たちは―― 」
「あんた達だって、気持ちは同じでしょ?」
無様な言い訳など聞きたくないというように御坂は無能力者の一人を遮るようにいう。
- 175 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 21:52:11.89 ID:DLAJ7IKRo
-
「誰かを助けたい、だから力を求めたんでしょ?
その力で助けたかったはずの誰かを傷つけていいの?」
「う……ぐ、でも!」
男はどうしたらいいのかと訴えるように声を絞り出す。
「じゃあ、どぉすりゃいいんだ?
俺たちは始めちまった!だったら、おわらせなきゃいけねぇだろぉが!
白黒つけて、そうすれば……」
「そんなの、なんの解決にもなってないよ!
どうして、誰かが涙を流す終わり方しか見えないの?
みんなで笑える結末を諦めちゃうの?」
ミサカ00002号は、諦める事の怖さと簡単さを知っている。
だけど、諦めない事の美しさも知っている、だからこの言葉は諦めそうになる自分にも言い聞かせていたのだろう。
「もう、もどれねぇだろ!
そんな未来ねぇんだよ!」
無能力者集団は、再度銃を構えた。
レベル5を三人敵に回してもいい、そう覚悟していた。
「どォして俺らを敵に回す覚悟が出来て、みんなで笑えるハッピーエンドを探す決意が出来ねェのかね……。
いいぜ?
お前らが、みんな笑えるハッピーエンドなンざねェっていうなら」
一方通行は笑い飛ばすように言った。
「取り返しつかねェとこまで行く覚悟しか出来ねェってなら……その一方通行の行き先を俺が変えてやるよ」
「……あいにく俺たちには常識なんてものは通用しねぇからな」
垣根も笑った。
「そうだな……ハッピーエンドまでの道が見えねぇってんなら、その道を隠す幻想を―― ぶち壊してやるよ!」
上条は、右手をぎゅっと握りしめ空へ突き上げた。 - 176 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 21:53:04.96 ID:DLAJ7IKRo
-
~~~
―― 数ヶ月後。
『一方通行、芳川さん、いかがお過ごしですか?
ミサカと垣根さんは毎日楽しく笑っています。
あなた達が急に外の世界を見てくると書き置きを残してからはや三日が経ちました。
こうして筆をとってみても、宛先が書けないので困ってます。
というかとりあえず雰囲気的盛り上がりのために書いてみてるだけです。
さて、お身体に気をつけて必ずミサカ達の元へ帰ってきてくださいね』 - 177 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 21:54:18.89 ID:DLAJ7IKRo
-
「……ンだこりゃ?」
机の上に無造作に置かれていた「一方通行様へ」と書かれた封筒の中身を見て一方通行は呆れたようにそう言った。
「あ、それこないだ旅行いってくるって言って外いった時に出そうと思った手紙。
でも行って、一泊して、帰ってくる。
だと手紙読む前に帰ってきちゃうからね、出すのやめた」
「お前って、こういうくだらない事よく考えるよな」
「くだらないってなにさ!ユーモラスといってよ」
「クリスマスパーティに袈裟着てくるのもユーモアなンですかねェ?
あのインデックスが飯を食うのをやめて説教しにきたじゃねェか、可哀想に」
それは、あのクリスマスの暴動が収束した後の話しだ。
両集団は、大人に邪魔されぬよう自分たちがぶつかるステージを作るために、あの日のあの時間、アンチスキルやその他消防などが第七学区から離れるようにしむけていた。
そして、その後は入ってこれぬようにと、道路を瓦礫などを使って塞いでいたのだ。
そのため収束後の後片付けには、能力者達が活躍した。
瓦礫をどけ、道を開き破壊され倒壊した建物の撤去などもあらかた終わらせた。
学生達は、自ら警備委員のもとへ出頭し事件は終わった。
その後の話だ。
上条は大急ぎで自分の学生寮へ帰り、御坂は風紀委員の詰所へ向かった。
そして、一方通行、垣根、ミサカ00002号は病院へカエル先生と芳川に収束の報告に向かった。 - 178 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 21:55:38.18 ID:DLAJ7IKRo
-
~~~
なんていえばいいんだろうか。
上条は学生寮が近くなると走るのをやめ、学生寮を見上げる。
―― なんだかなぁ……告、白…しようとしたんだよな、俺……。
思い出し急に恥ずかしくなってくる。
―― つーか、告白の途中で友達乱入とか……不こ……うではないな。
無意識にエレベーターのボタンを押す。
―― あいつがきてくれなきゃ……来てくれても俺は最後に何もできなかったけどさ。
自分の部屋のある階についた。
扉が開き、歩く。
―― 知らない間に終わってるよりはマシだ。
「ただいま」
ぼんやりと考え事をしていても、部屋へ帰るという習慣は、しっかりと機能していた。
「お、おかえりなさい」
「あ……」
そこで、何故自分が走るのをやめ考え事をしていたのかを思い出した。
―― やっべ……なんだっけ?
ええっと……。
「とうま!」
「おおう……な、なんだ?」 - 179 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 21:56:50.62 ID:DLAJ7IKRo
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「あの……えっと……さっきの、だけど……」
―― ……あ、そういや返事聞くだけだった。のんびり帰らず走って帰ってくりゃ良かったんじゃねーか!
「お、おう……その、なんだ?
俺はお前の事……」
「まって!
今度は私が言うから……私の気持ちを聞いて欲しいんだよ……」
顔を真っ赤にして、上条を見上げる。
「……おう。待ってる」
「……とうま……インデックスは……イン…デックスは―― 」
インデックスは覚悟を決めた。
「いや、まて……お前ってそういやシスターだったな」
だが、上条がそれを制した。
「好……え?う、うん……そうなんだよ」
「じゃあ、恋愛とかご法度じゃねーか!
ごめん!勝手な事いって、困っちゃうよな。
ただ、俺はお前の事が好きだこれは変わらない、だから嫌じゃなければこれからも俺の側に―― 」
上条は真剣だ。
インデックスの敬虔さも理解している。
だからこそ、その信仰心を尊重しようとしたのだ。
だが……。
「と、とうまの馬鹿ァあああ!」
インデックスは、思い切り上条の右手に噛み付いた。 - 180 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 21:58:38.42 ID:DLAJ7IKRo
-
~~~
「みんな!無事っ?」
一七七支部へ駆け込むと、御坂はそう叫んだ。
「あ、御坂さん!
無事ですよー誰も怪我してません。
白井さんは少し疲れたのかねちゃってますけど」
「そう……なら良かった。
あ、私にも紅茶くれる?」
「はいはーい!
佐天さんがやりますよーっと……お疲れさまです、御坂さん!
一方通行さんも復活したし、やっと心の底から笑えますね!」
佐天が名乗り出てカップを用意しながら本当に嬉しそうにそう言った。
「そうね……これでしっかり、お墓参りにも行けるわ……」
「……そうですね」
「うん……よしっ!」
御坂は手と顔を豪快に洗うと気持ちを切り替え、三人の方へ振り返った。
「今日はクリスマス・イヴよ!
パーティしましょう!」
「さっすが御坂さん!……と、いいたいところですけど逃げてる最中にケーキ落としちゃって……」
佐天が残念そうに肩を落とすが、御坂はふっふっふ、と笑った。
「大丈夫!
佐天さん“あの”垣根さんがクリスマス・イヴに何も企んでないと思うの?
きっと、垣根さんがなんか準備してると思うから!」
「まさかの人任せ!」
「違うわよー、持ちつ持たれつってやつよ」
御坂はご機嫌に笑いながら、佐天からティーカップを受け取った。
「んー、でもそれはどうでしょう?
一方通行さんがあの状態でしたし……とりあえずもう買えないと思いますけど一応ケーキ買えるか調べてみますね」
初春はソファから立ち上がりパソコンに向かった。 - 181 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 21:59:06.13 ID:DLAJ7IKRo
-
「……地蔵のように寝てるわね」
御坂はよろしくね、と言うと眠りこける白井の顔を覗き込んだ。
「地蔵って……あ、そういえばプレゼントとか何も用意してないや。
プレゼント交換とかしたかったんだけどなー」
「あー、私も忘れてた。
ビリっと電気ならプレゼント出来るけど……どう?電気でそのこりそうな肩をマッサージしてあげよっか?」
「あー、意外と平気ですよ?
まぁ走ったりとかする時は邪魔だなぁと思うけど……」
「……くそう」
「はいはい、おじさんみたいな会話はやめてくださいね。
流石にホールケーキは何処も完売ですねー。
でも運よく明日の予約は取れましたよ?」
御坂と佐天が中学生らしからぬ会話をしていると、初春がプリントアウトした紙を二人に見せた。
「おー、仕事が速い……じゃあパーティは明日にする?」
軽く目を通すとそれには待つ真白なクリームの大きなケーキがど真ん中に写っていた。
「そうですねー……って高ッ!
何、四万円って!……あぁっ!これ学び舎の園のケーキ屋さんじゃない!
ちょっと初春!割り勘だとしても一人一万だよ?わかってる?」
「え?そんなの一方通行さんに払わせればいいんじゃないですか?」
ニコリと笑い、初春は平然とそう言ってのけた。
「……ちょっと初春さん?」
「……すみません、流石に―― 」
「だったらもう一桁上のにしないと!」
「ひどいですよね……って、え?」
「え?」
「えぇ?」
「……あ、お姉さま…帰ってきてたんですの?」
女というのは、恐ろしい。 - 182 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 22:00:08.20 ID:DLAJ7IKRo
-
~~~
「なァ……」
一方通行の何度目かわからない「なァ」に横を歩く二人はいい加減イライラとしていた。
「なァ、オイ、垣根!」
「だぁから知るかよ!
お前これ何回目だと思ってんの?
もう早く病院入ろうぜ……」
三人は、病院に入るのを何故か嫌がる一方通行に付き合い病院の周りをぐるぐると回っていた。
「ねぇ、かれこれ三周目突入しちゃうけど?
だいたい何が嫌なのさ!
もう我慢の限界だよ、垣根さん!」
「おう!……行くぞ?」
「お前が睨んでも怖くねェ……芳川怒ってるよなァ……嫌だなァ……」
「なぁ、おい……いやわかった。
こうしよう」
垣根はちょうど目に入った公衆電話へと歩いてゆく。
そして、何処かに電話すると晴れやかな顔で戻ってきた。
「喜べミサカちゃん、芳川がここきてくれるってよ」
「なっ……おま……はァ?」
ミサカ00002号は安心したかのように座り込んだ。
「もっと早くこうすれば良かったんだよ。
あー、疲れた」
「全くだ……偉そうな事いう割にチキンで困っちまうよな」
垣根もその横に座り、二人してチクチクと一方通行に文句をいう。
「心の準備ってのがあるだろォが!」
「五ヶ月あったろ?
もういいから覚悟決めろよ」
垣根は面倒くさそうにあしらった。 - 183 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 22:00:51.64 ID:DLAJ7IKRo
-
「あーもう……鬼だお前ェら」
「鬼ぃ?
ばーか愛情だ、愛愛」
「くっそ……だいた―― 」
「なにを、騒いで…るのよ……」
わめく一方通行の声を遮り、芳川が現れた。
大急ぎで来たのか、息を切らしている。
「よ、しかわ……」
一方通行は、しゅんと大人しくなり固まった。
「そうよ、芳川よ……おかえりなさい」
「あ、あァ……あの………なンだっけ……えっと」
何か言いたいことがあったのだが、と一方通行は頭を巡らす。
「あー、の……あーなンだ?
その……芳川ぁっ!」
「……なによ、急におっきい声出さないでよ」
「すまン……じゃなくて、えっとその―― 」
「一方通行、もう私を置いて何処へも行かないで」
芳川はいたずらっぽく笑う。
「私の名前を、もう二度と忘れないで」
一方通行の頬を撫でる。
「私は、あなたじゃないとダメなのよ。
あなたが好きなのよ。
だから、もう―― 私を離さないで」
「わ、かった……もう、お前を二度と離さねェ……二度と、傷つけねェ……」
頬に触れる芳川の手を取り、そのまま芳川を抱き寄せた。
垣根が、囃し立てるように口笛を吹く、だがその口笛は二人を祝福しているようだった。 - 184 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 22:02:00.39 ID:DLAJ7IKRo
-
「俺もお前が大好きだ。
芳川、いや桔梗……結婚してくれ」
ミサカ00002号と垣根が同時に噴き出す。
「ちょっと、展開早すぎない?」
芳川は嬉しそうにクスクス笑っていた。
「え?しねェのか、結婚?」
「……私、あなたより十も上よ?」
「……平均年齢は女の方が十歳くらい上だろ?
俺が先に死ンでお前を一人ぼっちにすることもねェ、むしろお前が年上で良かった」
「……ふふ、ありがとう。
一方通行……こっちを向いて」
「ン?……あ。」
「……えへへ、大好きよ」
二人は幸せそうに、笑いあった。 - 185 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/13(水) 22:02:42.23 ID:DLAJ7IKRo
-
「……どーよ?」
ミサカ00002号は二人を見ながら垣根にそう言った。
「……羨ましいか?」
「そりゃあね」
ミサカ00002号は、年相応の健気さの残る顔で二人を見つめていた。
「……じゃ、俺と結婚するか?」
「同情でしてもらってもね」
「だよなぁ……でもさ、ミサカを除いたらお前が一番好きだぜ?」
「ミサカも、00001号を除いたら垣根さんが一番好きだよ」
「そっか……」
「うん」
二人は並んで立ち、一方通行と芳川桔梗を見つめている。
そしてその瞳の奥には同じ色が宿っているように見えた。
- 188 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 12:50:31.05 ID:wdd1y05Ko
-
~~~
御坂たちと上条、インデックスは垣根に呼び出され、五人で住んでいた垣根のマンションに集まっていた。
御坂の思惑通り、垣根はクリスマスパーティの準備をしていたのだ。
垣根が言うには、クリスマスパーティ用にずっと飾り付けしてたから、こっちに引っ越さなかったらしい。
―― 嘘ばっかり。
だが、ミサカ00002号にはそれは単なる後付の理由だとわかっていた。
―― この家はもう垣根さんの家じゃなくて私たちの家だもんね……帰る時はみんな揃ってが良かったんだよね。
垣根は本当に楽しそうに笑いながら、はしゃいでいた。
一方通行も、はしゃぐのに慣れていないからか、恥ずかしそうにしながらもはしゃいでいた。
上条もインデックスのご機嫌を取りながらも楽しんでいるように見えた。
インデックスは、上条に必要以上に構われるのを鬱陶しがってるふりをしているが、本当はすごく嬉しいということが、丸わかりだった。
それを見みて御坂は少しだけ悲しそうな顔をした後、それ以上の嬉しさを顔に浮かべた。
佐天、初春、白井はそんな御坂を見て、すごいね、というように笑いあっていた。
ミサカ00002号はこの光景を幸せそうに見つめ、芳川は珍しくはしゃいでいた。
「あ、面白いこと思いついた!」
「……ほどほどにね?」
ミサカ00002号のいう「面白いこと」になんとなくトラブルの匂いを感じ、芳川は一応の牽制をかける。
「大丈夫だって!」
ミサカ00002号はカラカラ笑うと自室へと消えた。 - 189 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 12:51:01.22 ID:wdd1y05Ko
- そして、十数分たつと、リビングのドアを壊さんばかりの勢いで開け、メリークリスマス!と袈裟を着た姿で登場したのだ。
一同はぽかんと、その様子を理解するのに頭をフル回転させ、本人はその顔が面白かったのか一人爆笑している。
「ちょっと、みさか……あなたは主をバカにしているのかな?」
お皿にのったチキンを飲み込むと、インデックスが普段見せないような怖い顔でミサカ00002号に詰め寄った。
「え?いやいやただのおふざけで……」
その様子に、ミサカ00002号も「修道女がいたんだった……」と、ひたいに汗をたらす。
「ちょっとこっちにくるんだよ」
そのままインデックスはミサカ00002号の腕を掴み、リビングを出た。
「……」
「だから言ったのに……」
「あいつは少し教育しねェとなァ」
「インデックスちゃんってあんな顔もするんだね……」
「ある意味一方通行さんより怖い顔してましたよ」
「なんで、私の妹なのにあんなアホなことするのかねぇ……」
「お姉さまもたまにアホな事しますの」
「やっぱりインデックスは敬虔な修道女じゃないか……なんであんなに怒ったんだろう……」
みな、それぞれ二人の消えた扉を見つめ、つぶやいた。 - 190 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 12:52:22.08 ID:wdd1y05Ko
-
~~~
「そういやお前その右手どうしたの?」
インデックスとミサカ00002号がもどると、垣根が作ったというケーキをみんなで食べた。
その後女性陣はソファに腰掛けなにやら盛り上がっている。
男三人はこっそりとワインをベランダに運び出し、三人で乾杯していた。
程よく酒がまわり、身体もあったまると垣根が思い出したようにそう尋ねた。
「あー、聞いてくれよ。
インデックスってシスターさんじゃん?
だから、恋愛はご法度だと思ったんだ」
嫌な予感が垣根、一方通行の中に走った。
「だからさ、返事はしなくていいって言ったんだ。
俺にしては珍しく気が回るだろ?
そしたら噛まれた」
そして、その予感は的中した。
「垣根、俺ァここまでのバカを初めて見たぞ」
「安心しろ、お前もベクトルは違うが馬鹿さ加減は似たようなもんだ……。
だが、やっぱ上条にはかなわねぇわ」
「え?なんでそんな反応?
だって、え?」
「はぁ……このウニ!
確かに、ご法度かもしれねぇけど、ここはどこだ?
学園都市だ!
神様を信じない街だ!
つまりここに神はいねぇ、インデックスちゃんが修道女見習いから修道女になるまでの間くらい、その思いをストレートに吐き出してもいいんじゃねぇのか?」
「信者や教主が聞いたら怒りそォだけどな……でも、神父シスターも人間だ。
その道を選ぶってのは神様と結婚するのと同じ意味だとよく言うが……。
人間は人間としか一緒にはなれねェンだ。
それに一線を越えなきゃ、いいンじゃねェのか?」
「そっか……そうだな。
気持ちだけはちゃんと聞かなきゃフェアじゃねぇな……」
「それに、この先インデックスがお前への気持ちに罪悪感を抱くようになったら、懺悔すりゃいい。
神様だって一度くらいの過ちは許してくれるだろうさ」
三人は、グラスにワインを注ぎ足すと、また乾杯した。 - 191 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 12:52:54.38 ID:wdd1y05Ko
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~~~
「まァいいか」
一方通行は、手紙を封筒に戻すと、乱雑に机の上に放り投げた。
「色々あったよなァ」
そして、ソファに深く腰掛けるとしみじみとそうつぶやく。
「そうだねぇ……次の日またパーティやって、そん時は初春さん達に四十万もするケーキおごらされてたよね」
あれは美味しかった、とミサカ00002号はその時を思い出して笑っていた。
「値段は別にいいがよ……なンでこの街はクリスマスケーキにウエディングケーキみてェな馬鹿でかいのを作るのかねェ……」
一方通行はげんなりしたように言う。
「ウエディングケーキですら切るところ以外はニセモンなンだろ?
おかしな話だよなァ……」
「あとは……やっと、お墓にも行けたよね」
「……あァ」 - 192 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 12:54:03.45 ID:wdd1y05Ko
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~~~
「そういえばさ」
垣根は昨夜のドンチャン騒ぎの片付けをしながらミサカ00002号、芳川、そして一方通行に言った。
「片付けたら墓参り、行こうぜ」
「……あァ」
「そうだね」
「そうね……」
そして、片付けを終えると四人は、ミサカ00001号達の眠る丘へ来ていた。
「……ミサカ、お前がせっかく助けてくれたのに、いつまでもうじうじとしてて、すまンかった。
あの日、お前が夢に出て来て、俺を立ち上がらせてくれなかったら……俺は今こうしてお前に話しかけることすら出来てねェ……。
ありがとうな、ミサカ」
一方通行は、ひとつひとつお墓をまわりながら、一言ずつ言葉を投げかける。
とても、穏やかな表情をしているが目は涙ぐんでいた。
他の三人もそれぞれに手を合わせ、何かを語りかけていた。
―― ミサカが、みんなの分まで幸せになって、死んだ時に色々お土産話をしてあげるからね!
―― ミサカ……安心してくれ。
―― また、来るわ。
「……行くか」
それぞれが満足すると、一方通行は小さくそう言った。
三人は頷き、そこであることに気がついた。
「あれ?そういえば一方通行に美琴ちゃんと飾利ちゃんが作った装置の事誰か話した?」
「私は話してないわよ?」
「ミサカも」
「………」
「あいつ、あれ夢だと思ってんのかな?」
「ありえそうね」
「でも、お墓の光景みてもなんも驚かなかったよ?
普通夢でみた光景でたら驚……きそうもないね、一方通行なら」
三人は、コソコソと話し、一方通行はその様子に首をかしげた。
「オイ、何話してンだ?
さっさと行こうぜ」
「あ、あぁ……帰る前に病因寄っていいか?」
垣根は、もう一度あの機械に頼ってみようと思っていた。
最後に一度でいいから、しっかりと立ち直った一方通行をミサカ00001号に見せたいと思ったのだ。
「俺に常識は通用しないからな……きっと、うまくいく」
一人そうつぶやき、御坂へと電話をかけた。 - 193 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 12:56:06.76 ID:wdd1y05Ko
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~~~
病院の一室。
ゆりかごのような機械がひとつと、それからヘッドセットが四本伸びている。
「んじゃ、頼むぜ」
垣根が御坂と打ち止めにそういうと、二人はそっくりな笑顔で了承した。
「ありゃあ、マジで夢じゃなかったのか……」
一方通行はやっと、理解しそのシステムに感心していた。
御坂の改良した機械は特殊なヘッドセットを使う事により、ゲーム内にミサカネットワークを構築、そこに、ミサカ妹達以外をいれるというものである。
そして、その中核に打ち止めを据える事により、打ち止めに思いを遺して行った者達と出会える、というものである。
そしてたかが人格データのように思われるが、ミサカネットワークという特殊な環境下に保存されたため、それらはたかがのデータではなく、本人そのものだと言えるのだ。
「んじゃ、いくよ!ってミサカはミサカは仕切ってみたり!」
打ち止めは元気よくそういうと、ゆりかごのようなものへと入り、伸びているヘッドセットよりもすこしごついものを慣れた手つきで装着した。
「えぇ、よろしくね」
「よろしく頼んだ!」
「ヘマするなよ!」
「……頼む」
四人はそれぞれ打ち止めに言葉をかけると、自らもヘッドセットを付けた。 - 194 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 12:57:02.42 ID:wdd1y05Ko
-
~~~
「そういえばあの機械、もう使えないんだってね」
ミサカ00002号はさみしそうな顔をした。
「アウトプットする度に、打ち止めの中からも消えていくって話だったな……。
でも、関係ねェよ……だって」
「ミサカ達ならいつでも俺らのそばにいてくれるからな」
一方通行の言葉を引き継ぐように、垣根が現れた。
「その通りだ。
……どこ行ってやがった?」
「散歩だよ散歩」
垣根は適当にそう答えると、咎めるような顔つきで続けた。
「それよりどこ行ってやがった?は俺のセリフだろ。
お前次から旅行とかいく時は前もって連絡しろよ!
行くのも急で帰って来るのも急とかアホか」
「おう、悪りィ……なンせ急な思いつきだったもンでな」
一方通行はわりかし本気で反省しているようだった。
「……まぁ、いいや。
芳川は?」
「あー、なんかカエル先生のとこに行ったよ」
ミサカ00002号が答えた。
「帰ってきたら今日は少し出かけねぇか?」
垣根の提案に、どこに?と、一方通行とミサカ00002号は同時に聞き返した。
垣根はニヤリと笑うと「そりゃあ、電話屋さんに決まってるだろ?」と、そう言った。 - 195 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 12:58:29.95 ID:wdd1y05Ko
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~~~
「また、会えたな。
……全員集合だ」
奇妙な浮遊感に似た感覚に包まれ、目を開くとそこは見慣れた部屋だった。
「なァンか……妙な感じだなァ……」
一方通行は、自身の身体を見回す。
「おや、一方通行は完全に立ち上がれたのですね?
良かった、良かった」
ミサカ00001号はそんな一方通行を見て笑った。
「お前実はおとなしい奴じゃないよなァ……」
「そうですね、きっと色々吹っ切れたからこうなったんだと思いますよ。
人間は日々成長するのですから。
それにこれは、このミサカがまだ“生きている”という事の何よりの証明ですよ」
ミサカ00001号は、僅かにこれからの未来を一緒に歩めない事を寂しがるように微笑む。
「……ごめンな」
「それは、一緒に暮らし始めた時にミサカの裸体を見たことに、ですか?」
「……あったなァ、そンな事も……あれも、ごめン。
でもよ……」
「ミサカが一方通行に謝られる理由はそのくらいですよ?
あ、まだありました。
まだ、報告を聞いてません」
ミサカ00001号は、ケロリとした表情でそう言った。
「報告?」
「えぇ」
言いながら、芳川の方をチラリと見た。
「一緒にインデックスに相談しに行った仲じゃありませんか……結果報告くらいしてくださいよ」
一方通行はなんの事を言っているのかやっと気づき、少しだけ頬を赤らめた。 - 196 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 12:59:22.22 ID:wdd1y05Ko
-
「なんか、お前が頬を赤くしても不気味なだけだな」
垣根がからかうように笑い、一方通行は余計に顔を赤くした。
「うっせェ!エセホスト!
……ったく……報告って、なンて言やいいンだ?」
「なんか、私まで恥ずかしいじゃないの……ほら、こういうのはパッと終わらせるものよ」
二人が悩んでいると、黙って見ていた芳川が一方通行の側に歩み寄ってきた。
「いい、ミサカちゃん?
つまり……こういう事よ」
そして、一方通行の頬に両手を添えるとそのまま軽く口づけた。
「おぉ!芳川博士は奥手かと思っていたら意外と大胆ですね」
ミサカ00001号は、嬉しそうに手を叩いた。
垣根とミサカ00002号はニヤニヤと笑い、一方通行は顔を真っ赤にして固まっていた。
「ここは我が家、そして今目の前にいるのは家族。
何も問題はないわ」
妙に説得力のある芳川の言いように、ミサカ妹達と垣根は納得しかけるが、一方通行は騙されなかった。
「問題ねェわけねェだろォが!」
「あら?何が問題なのかしら?」
「常識って知ってるか?
普通のやつは人前でキスなンかしねェンだよ」
「俺に常識は―― 」
「ごめン、お前は黙ってて」
五人はお互いの顔を見つめあった。 - 197 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 13:00:05.01 ID:wdd1y05Ko
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「ふ、ふふははははは!」
そして、全員で笑い合う。
「はぁー……笑った笑った。なぁ、みんな」
垣根は涙を拭くと、申し訳なさそうな表情をした。
「少しだけ俺のわがまま聞いてくれないか?」
「……ンじゃあ、俺もわがまま言わせてくれ。
他の妹達にも会いてェ……病院にいきゃ会えるかな?」
一方通行は、珍しく「言いにくい」とはっきり主張する垣根が少しでも言いやすくなるように、動いた。
「えぇ、きっといるわ。
私も、そっちに行くわ」
「……ミサカも!
00001号、じゃあね!」
二人は、垣根のわがままを察し、更にそれをいう必要を無くした。
「……サンキュー」
垣根も、それを察し嬉しそうに微笑んだ。
「一方通行、芳川博士とお幸せに。
00002号……ありがとう、大好きだよ!
生まれ変わってもまた姉妹になろうね」
ミサカ00001号は、幸せそうな顔をしながら最後の別れを告げた。
生きたという証、それは目の前にいるこの四人とその家族達が与えてくれたたくさんの繋がりだ。
何か残したい、伝えたい、その気持ちはミサカ00001号が笑いかけてきた人々へ受け継がれていくだろう。 - 198 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 13:16:28.27 ID:HCuv5NOIO
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~~~
「……ミサカ、少し散歩してくるね」
他の妹達と自分はたくさん話をしたから自分と話す時間も一方通行達が使え、とミサカ00002号は言った。
「……そォか、わかった」
「ん、ありがとう」
垣根がミサカ00001号を一番に愛している、それは理解していたし、祝福もしている。
だが、理屈ではないのだ。
辛いものは辛い。
「なーんかなぁ……はは、泣かないって決めたのに」
この涙はなんの涙だろうか。
最愛の姉を本当に失う事への涙とも、失恋の涙ともとれた。
「00001号、がんばれよ。
垣根さん……泣くなよ」
空に向かってミサカ00002号は、そういうと左手をつい、と振った。
そうすると目の前に「終了しますか?」の文字が浮きでた。
ミサカ00002号は少し迷ったが、Yesのボタンに触れるとさぁっと視界は白くなり、身体に現実の重みが戻ってきた。
「……ふう、お姉様おつかれさま!」
ヘッドセットを外すと御坂にそう、笑いかけた。
「あら、あんた先に戻ってきちゃったの?
良かったの?」
「うん、だってミサカはもう伝えたい事は伝えられたと思うからさ。
それに、死んだくらいでミサカを見放すような子はいない、でしょ?」
ミサカ00002号は、ニカッと笑った。
「そうね……うん、じゃあ今度ケーキ食べに行きましょう!
それからあんたに名前もあげる。
そうしたら学校に通えるようにするし、うちの親にもあんたを私の妹だと認めさせる。
普通の暮らしをして、普通に人生楽しんで……あんたは長生きしなさい他の妹達の分まで」
「……スポンサーが第一位から第三位までとは、ミサカとんだVIPだね」 - 199 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 13:16:58.00 ID:HCuv5NOIO
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「少し、場所変えないか?」
「ええ、いいですよ」
そう、言葉を交わすと二人は玄関ではなくベランダへと進んだ。
「ほら」
垣根は手をのばし、ミサカ00001号を抱えた。
「……久しぶりですね」
「そうだな……よし、行くぞ」
そして、綺麗な青空に飛び立った。 - 200 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/15(金) 13:17:56.28 ID:HCuv5NOIO
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「よォ」
「お、一方通行はやっと更生したのですね。とミサカはずいぶん時間かかった事を遠回しにつつきます」
「それのどこが遠回しなンだよ。
更生もちと違う気がするけど……ごめンな、助けらンなくって」
「一方通行はバカですね、とミサカはため息をつきます」
「この中の誰一人として、一方通行に謝られる理由を持つ個体は……あ、一人だけいました。とミサカは00296号を差し出します」
そういうと、ミサカ00062号は一人の妹達を一方通行の前へ引っ張ってきた。
「お久しぶりです。とミサカは挨拶します」
「お前は……あの時の三人組の一人か」
「覚えててくれたのですか、とミサカは意外さを隠せません」
「忘れるわけねェだろ?
お前らの事は、全員覚えてる」
「そう、ですか……ミサカは死ぬ時、少し怖かった。
その時に一方通行にそばにいて欲しかったです。
一方通行ははじめてミサカを、抱きしめ人の暖かさを教えてくれた人でしたから……」
でも、とミサカ00296号は更に続ける。
「ミサカには、お姉様もいましたし……それに、一方通行にもこうやって会えました。
だから、もういいんですよ。、
一方通行、お幸せに。とミサカは悔いのない人生だったことを伝えます」
- 203 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:11:50.86 ID:ynUZh4FIO
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「そういえばさ、あのあと垣根さんは00001号とどこかいったの?」
「いつも通り、あの丘だよ」
「そっか……00001号が消えた時、泣いた?」
「泣くわけねぇだろ?
……二人とも笑ってお別れしたよ」
そっか、とミサカ00002号は満足そうに頷いた。
その後も、三人は色々と話をした。
上条の話や御坂の話、初春や佐天や白井、この街で出会った友人達の話で大いに笑った。
もう春である。
出会いの季節であり、別れの季節だ。
「はぁー、春だねぇ」
暖かな陽射しをまぶしそうに見つめながら垣根は言った。
「出会いの季節だなァ……この先、俺らはどンな奴らと出会って行くんだろう」
「……きっと嫌なやつもいいやつもいると思うよ。
でもさ、私達は大丈夫。
なんてったってミサカには三百人近い姉妹がついてるからね!」
当たり前のようにそういった。
「違いねェな」
「まぁ、アレイスターがいる限り本当の平和ってのは難しいだろうな……しかしでも……お前やっぱすげぇよな」
垣根はアレイスターの名前で思い出したように一方通行を褒めた。
「だろォ?」
一方通行は得意そうに笑う。
「嫌だって、あいつを騙せたわけだろ?」
そう、一方通行はアレイスターを見事に騙し、人の命を救っていたのだ。 - 204 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:12:43.13 ID:ynUZh4FIO
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「よォ、いい鞄抱えてなァに急いでやがる?」
闇夜に一つだけ色を持つ真っ赤な瞳が、怯え切ったまだ二十歳にもなっていなさそうな少年を捉えた。
「な、中身がなんなのかはしらない!
頼む、見逃してくれ……失敗したら、殺されるんだ!」
「ぎゃはっ……トンチンカンな事言うなよォ……成功させても、俺に殺されるだろォ?」
少年の目が絶望に染まった。
鞄を落とし、膝をつく。
今、この少年は何を考えているのだろうか。
「あばよ」
真っ白な災厄は、その少年にまっすぐ降り注いだ。
血の跡も残らないほどの絶対的な力で、一方通行はその少年を殺した。
「ひゃ、ぎゃはははは!」
そして、狂ったように笑う。
「……はぁーあ」
笑出したかと思ったら、急にため息をつきうつむいた。
「もう、嫌だ」
これは一方通行が垣根達の前から消えた直後の出来事である。
「はぁ」
一方通行は夜空にぽっかり空いた黄金色の穴をじっと見つめた。
- 205 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:13:32.93 ID:ynUZh4FIO
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「あン時は必死だったからなァ……しかもパシリやらされてンのは本当になンも知らねェ置き去りの奴らだろ?
クローン技術をバカな事に使わせねェようにするのに、そういうなンも悪くない奴らを殺すのは間違ってるからな……」
「でも、よく気づいたよね!
芳川博士もあんたさがしてる時に気づいたっぽいけど」
「……必死だったからな」
「照れんなよ」
「照れてねェよ!」
垣根とミサカ00002号はにやけるのを隠せない一方通行を見て笑った。
- 206 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:14:53.11 ID:ynUZh4FIO
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「あ、あれ?」
「よォ、お目覚めか?」
「お、前……」
少年は何が起きたのかわからないというように目をパチパチさせた。
「お前、ただのぱしりだろ?
ここに行って保護してもらえ」
そういい、カエル先生のいる病院への地図を渡す。
「じゃあな、腐らず生きろよ」
そういうと、一方通行は疲れきった表情で窓のないビルへと足を進めた。
「あ、待って……あの、なんだろ……あの……あ、ありがとう!
俺、人に親切にされたの、初めてだ!
ありがとう!」
少年は涙をボロボロ流しながら、叫んだ。
その声を背中に聞きながら一方通行は黙々と歩いた。 - 207 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:15:51.61 ID:ynUZh4FIO
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~~~
「いや、しかしどうやって気づけたんだ?」
一通り笑い終えると垣根が真面目な様子で聞いた。
「インデックスのお陰だなァ……。
アレイスターの野郎と話してる時、あいつインデックスの魔術壊した時の事はあまりよく知らないようだったンだ。
あいつがなンらかの方法でこの街を監視してるのはわかってたから、それが引っかかってな。
もしかしたら途轍もねェ力で暴れられたらその監視が出来なくなるンじゃねェかって、思ったンだよ。
だから、無駄に高エネルギー作り出して、ぶっ放した」
お前も俺と同じ状況なら気づけたと思うぜ、と垣根に言った。
「でも、そんな出来事がありゃ、気づきそうなもんだけどな」
「爆発起こすのと同時にその辺りの空間をまるごと閉じ込めた。
そうすりゃ音は漏れねェし」
「ごめん、ちょっとよくわからないからミサカにもわかるように説明して」
ミサカ00002号は片手で頭を支えながら、待ったをかける。
「……いいか、まず音ってのは空気が」
「あ、やっぱいいや。
どうせわからないし分かってもなんだって話だし」
「……お前なァ」
そう、一方通行はボロボロの精神状態の中でもしっかりと人助けをしていた。
少なくとも数十人の、暗部組織に使い捨てにされる命を守ったのだ。
そんな話をしていると、芳川が帰宅した。
「ただいまー……何盛り上がってるの?」
「あぁ、一方通行がどうやってアレイスター誤魔化したかって話さ」
垣根は楽しそうに、芳川に説明する。
こうして話している事をアレイスターは見ているだろう。
しかし、一方通行が救った命はすでにカエル先生のツテでこの街にはいない。
外へ逃げ延び、今頃真っ当な学生生活を送っているだろう。
もう、アレイスターが手を出せる環境にはいないのだ。
つまり、これは『全部がお前の思い通りに行くと思うなよ!』という、アレイスターへの嫌がらせだ。 - 208 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:16:30.28 ID:ynUZh4FIO
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「よし!」
話が一旦落ち着くと、垣根が膝を叩き立ち上がった。
「なによ?」
芳川は突然なんだ、と不審な顔をしたが、後の二人はそもそもの芳川が帰ってくるのを待っていた理由を思い出した。
「あ、そうだった」
ミサカ00002号も立ち上がり、芳川にも早く立つように急かす。
「ちょ、なになに?
説明しなさいよ」
「芳川、ちと出かけるぞ」
「……」
「……桔梗、ちと出かけるぞ」
「どこに?」
二人のやり取りに、垣根とミサカ00002号は必死に笑いをこらえる。
芳川が一方通行をからかって遊んでいるのが丸わかりだというのに、おとなしく思い通りにいく一方通行が面白くてしょうがないのだ。
「携帯電話を買いにな」
笑いながら、垣根が答えると芳川は静かに「それはいい考えね」とつぶやいた。 - 209 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:17:33.33 ID:ynUZh4FIO
-
~~~
「いい空だな」
ミサカ00001号を抱きかかえながら、垣根は空を飛んでいた。
今はまだある、確かなその存在を大切そうに抱えている。
「そうですね。
ねぇ、帝督さん」
「なんだ?」
「ミサカの事を忘れて、なんて言わないけど、もしもミサカを大切に思ってくれたその気持ちと同じくらい大切な人が出来たら……ミサカの事は気にしないでね?」
「……そんなの」
「ミサカは、帝督さんの幸せを願ってる。
大丈夫、そりゃ少しはヤキモチとかやくかもしれないけど……でも、いつでも笑っていて欲しいから。
あなたには本物の家族を作って欲しいから」
「何言ってんだ、俺たちは本物の家族だろ?」
「そうだとしたら、今度は一方通行と芳川博士が傷つきますよ?
家族は一緒にはなれませんから」
垣根は黙り込んだ。
「帝督さんは、誰よりも家族というものに憧れてるんですよね。
分かっていますよ、出来るならばミサカが奥さんになって、子どもを産んで、本当の家族になってあげたかった……」
目的地についた。
だが、垣根はくっついたまま離れようとはしない。
「でも、それは無理です。
だからって、垣根さんは家族を作る事を諦めないで。
大丈夫、あなたなら。
だって、ミサカが本当に心から愛した人だもん。
だから、もしもそのうち素敵な人を見つけたら……垣根さんも恋してください」 - 210 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:18:03.00 ID:ynUZh4FIO
-
きっと、ミサカ00002号の事を言っているのだろうと、垣根は考えていた。
確かに、どちらが大切かと言われたらどちらも大切だと答えるしかない。
それ程に垣根はミサカ達を大切にしていた。
―― だけどさ、なんかそんなの。
「今すぐじゃなくていいんです。
別に00002号じゃなくても、いいんです。
そしてミサカの代わりにするのでもありません。
しっかり恋をして、前に進んでください」
その言葉に、絡まっていた糸がほどけたような気がした。
「……わかった」
―― そうだ。
代わりにしているように自分自身が思っちまってたのか。
垣根は笑った。
「まだまだ時間はかかると思うけどな。
なんせ、俺が初めてすべてを捧げようと思った女がお前だ。
お前並みに良い女なんて……なかなかいねぇよ」
「案外近くにいると思いますよ?」
ミサカ00001号も、笑った。
「帝督さん」
ミサカ00001号は、垣根の顔をじっと見つめるとそっと目を閉じた。
「大好きだ」
垣根はそのままゆっくりと、口付けた。
次に、垣根が目を開くともう、ミサカ00001号の姿は消えていた。
「ミサカ、ごめん……やっぱ少し―― 」
『えぇ、いいですよ。
幸せでした、ありがとう帝督さん。
あ、あと携帯電話、また新しいの買ったらどうですか?』
「はは、こんな時に携帯電話の話かよ……。
ありがとう、大好きだよ」
ひゅんと、風が鳴った。 - 211 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:19:07.42 ID:ynUZh4FIO
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~~~
「うっし!とりあえずそれぞれ気に入ったの探そうぜ!
そんで、その後その四台から一台に決めてそれぞれ色違いにしよう!」
携帯ショップに着くと、垣根は子供のように落ち着きなく三人に提案する。
三人は呆れたように笑い、それを了承する。
「ミサカ、何色にしようかな……」
黒にしようかなと思ったが、黒は垣根をイメージして芳川が一方通行に与えたものだ。
果たしてそれを選んで良いのだろうか、とミサカ00002号は考えていた。
「ミッサカちゃん!
決まったか?」
「ううん、ミサカ携帯とかはよくわからないから機種はみんなに任せる。
だから、今は色を考えてた」
「そっか……色か。
俺が決めていい?」
垣根はにっこり笑いながらそう、聞いた。
「いい、けど?」
「じゃあ……黒だ。
それ以外ない。
俺は……黄色にしようと思ってる」
黄色?とミサカは顔をしかめたが、直ぐにそれが何を表す色か気がついたようだ。
垣根の顔を見返すと、垣根は優しく笑っていた。
「時間かかるかもしんねぇけどさ……多分、俺の中でミサカと並べる存在はお前だけだ」
「……うん、それでも……いい、よ?」
ミサカ00002号は、静かに涙を流した。
「ミサカ、00001号の代わりでもいいよ」
「ばーか。そんなの、お前が良くても俺が嫌だ。
それに、ミサカにも怒られちまうわ。
それに、お前らはそっくりだけど、全然違う。
代わりになんか出来るわけねぇだろ。
お前がミサカの代わりにならねぇのと同じように、ミサカだってお前の代わりになんかなりゃしねぇよ」
「そっか……ありがとう、垣根さん」
「まぁ、まだ時間かかると思うけどな」
二人は顔を見合わせ、笑った。 - 212 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:19:54.44 ID:ynUZh4FIO
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~~~
「いい空だなァ」
家に書き置きを残し外へ出てくると、一方通行はその青空を見つめそう、つぶやいた。
「けど……帝督たち怒ってないかしら?」
「三日くらいなら大丈夫だろォ?」
二人は電車を乗り継ぎ、とある場所を目指す。
「だといいけど……まぁ、書き置きはして来たしね」
芳川はまだ不安があるようだが、もう出てきてしまったのはしょうがない、というようにそういった。
「なァ、桔梗」
「なぁに、一方通行?」
「好きだ」
「知ってる」
「そォか」
電車の次はバスだ。
周りの風景から建物が消え、自然が増えてくる。
「ここが、お前の育った場所か」
目的地の最寄りのバス停へ降りると、一方通行はそうつぶやいた。
「えぇ、がっかりした?」
芳川は不安そうに言う。
「なににだよ」
「こんな田舎者は嫌いだ!とか言わない?」
「バッカじゃねェの?
お前は俺が薬漬けの人間だからって嫌いになるのか?」
「なるわけないでしょ」
「だろ?」
二人は、田舎道をあるく。
「結婚したらさ」
しばらく黙って歩いていると一方通行が口をひらいた。
「こういう、自然がたくさんある場所で暮らさないか?」
「そうね、でもそうするとミサカちゃんたちのお墓参りに行きにくくなるわよ?」
「どォせ俺らが引っ越したら垣根たちもついてくるだろ、そン時墓ごと持ってくりゃいい」
スケールの大きな引越しになりそうだ、と芳川は笑った。
二人は、幸せな未来を想像していた。
「あ、見えてきた」
話しながら歩いていると、目的地が見えた。
芳川は懐かしそうな不安そうな目をする。
「大丈夫だよ」
一方通行は、芳川の手を力強くだが、優しく握る。
「うん」
二人は芳川と表札のかかった家のベルを鳴らした。
- 213 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:20:43.76 ID:ynUZh4FIO
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~~~
「決まった?」
「いや、色は決まったけど……機種はなんでもいいかな」
答えると、今度は同じ質問を一方通行はする。
「私は決めたわよ。
機種は前に買ったやつと同じやつ!」
「いやいや、流石にもうねェだろ?」
「冗談よ、それの後継機とでもいうのかしら?
やっぱり、それがいいわ」
クスクス笑う。
「そンなのがあるのか。
じゃあそれでいいな」
二人はそう決めると、やいやいふざけあっている垣根、ミサカ00002号の元へ足を進めた。
「俺ァ決めたぞ、お前らは?」
「色は決めた!機種も決めた!
つまり完璧だ!」
「そォか、ちなみにどれにした?」
色は、それぞれが違う色を選んでいる確信がそれぞれにあった。
だから、機種だけを聞く。
「芳川がくれたやつの後継機種!」
「流石だぜェ、垣根。
俺らもそれに決めた」
「……やっぱさ、これだよな」
三人は頷き合った。
「あ、すみませーん!」
そして、コロっと表情を変え、垣根は店員を呼び止めた。 - 214 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:22:37.73 ID:ynUZh4FIO
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~~~
「桔、梗……?」
ドアを開けたのは、芳川に少し似た女性であった。
「ただ、いま……」
芳川ははずかしそうにそれだけ言った。
「本当に……桔梗なの?」
「えぇ、ごめんなさい。お母さん」
女性は一歩一歩芳川に近づくと、芳川の頬をペタペタさわり、それが夢でないと確信を持つと、芳川を抱きしめわぁっと泣き出した。
「お母さん……ごめんね、何年も連絡しないで、本当に、ごめん…なさい……」
芳川も母親を抱き返しながら、涙をこぼす。
その声に、慌てて男性が家から飛び出してきた。
「どうし……桔梗?」
「お父さん……ただいま」
「……とりあえず、家に入りなさい」
こうして、一方通行は紹介される前に芳川邸に足を踏み入れる羽目になった。
家に入ってから、両親は嬉しそうに芳川に説教をしていた。
それが二時間くらいつづくと、やっとお父さんが一方通行を指差しそいつは誰だ、と聞いてきた。
「……婚約者?」
芳川は照れたように笑いながらそういった。
「こ、婚や……」
二人は面食らったように、口をパクパクとさせた。
当然である。
恋愛なんて興味を持たなさそうな一人娘が久しぶりに帰ってきたと思ったら婚約者を連れてきたのだ。
「き、貴様!」
―― 貴様って……。テンパり過ぎだろ。
「……一方通行です。
桔梗さンとは―― 」
「んなことはどうでもいい!
お前のような真っ白なわけわからんやつに娘がやれるか!」
芳川の父親は、話をする気はない!と顔を背けた。 - 215 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:23:17.65 ID:ynUZh4FIO
-
「いや、あの話を―― 」
「うるさい!帰れ!帰れ!」
そして、子供のようにわめく。
「いやだから―― 」
「うるさ―― 」
「話を聞けって言ってンだろォがクソジジイ!……あ」
そして、ついに一方通行は切れた。
「ほぉー、クソジジイとはご挨拶だな」
「クッソ……おい、桔梗ォ!
お前の親父はなンなンですかァ?
せめて人の話聞いてから反対しろって言ってやれェ!」
「……二人とも落ち着いて」
「お父さんも、その白い子の言う通りよ。
話だけは聞いてあげなきゃ」
女性陣は、落ち着いた様子でたしなめる。
「……ふん、じゃあ話だけは聞いてやろう」
「……はぁ、ったく。
俺は、一方通行です。もう今更だから、礼儀なンて気にしねェぞ?」
そう、宣言すると一方通行は話しはじめた。
「俺は、五歳の時に桔梗と会いました。
そン時は、憧れの人だった。いつも助けてもらって、大切なことは全部こいつに教わった。
……俺には、垣根って親友がいるンだが、そいつと俺は学園都市で一番でかい力を持ってるンだ。
あまりにもでかすぎる、手に余る力だ」
一方通行は、出されたお茶を一口飲んだ。
- 216 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:23:43.43 ID:ynUZh4FIO
-
「その力を……正しく、人のために使えるのは桔梗に出会ったからだ。
もし出会ってなけりゃ、俺は今頃人を殺してた思う。
でも、そのうち腐った研究者どもの思惑で、俺は……俺と垣根と桔梗はひとりぼっちにさせられた。
十年間、本当に真っ暗で苦しい十年間だったよ」
当時を思い出しながら、一方通行は話す。
「その中でも、俺が微かな希望を持てて、まともに生きてこられたのは、やっぱり桔梗のおかげだ。
そして、十年たって、再会した。
こいつは、俺らのために必死に色々頑張ってくれてた。
十年前の憧れは、どんどん膨らんでって、俺はこいつを守りたいって思ったンだ。
十年たって、俺はこいつを守る力を手に入れたンだ。
確かに、こンな頭の先からつま先まで真っ白なやつに、大切な娘を渡すのは不安かもしれねェ……でもジジイ、俺はこいつの為ならなンでも出来るぞ」
一方通行が、話終わると芳川の父親はため息をついた。
そして、ひとつだけ一方通行に尋ねる。
「お前は桔梗のために死ねるのか?」
「それは出来ねェな。
俺が死ンだら桔梗が悲しむ。
こいつが俺の命をくれって言うなら差し出すが、こいつを理由に命を捨てたりはしない。
何かあった時にこいつを守って、その結果として命を落とすならば、いいけどな。
桔梗のために死ぬっていうか……桔梗になら俺の命をやってもいいって感じだ」
「……そうか」
そう言うと、父親は部屋を出た。
「一方通行さん、でいいのかしら?」
父親の消えた扉をぼんやり眺めていると、母親が口を開いた。
「え、あ、ハイ」
「桔梗をよろしくお願いしますね。
あと、今日は泊まって行きなさい」
「……えェ、二度と離しませン」 - 217 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:24:55.40 ID:ynUZh4FIO
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「えーと、これの黄色と黒と……っと?
あれ?そういや芳川は何色にするの?」
「一方通行色」
「だよな」
垣根は笑った。
「あ、すみません。黄色と黒と白色と……」
そして、最後に一方通行の方を見た。
一応確認した方がいい?とでも言うように、一方通行の顔をみる。
一方通行はため息をつくと、店員に自ら告げた。
「青紫色を――」
垣根はがっかりしたように「そこは桔梗色だろー」とぼやいていたが、気にしない。
芳川も少し不満そうに、一方通行を睨み。
ミサカ00002号は大笑いしている。
「わかったよ、桔梗色な、桔梗色!
店員さン、桔梗色の携帯電話をください!」
「……青紫色の携帯電話ですね!
カップル割引は使いますか?」
「……はい、お願いします」
一方通行「青紫色の携帯電話」 了。 - 218 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/16(土) 18:30:04.42 ID:ynUZh4FIO
- はい、一応こういう感じで終わりました。
稚拙なSSだったけど、付き合ってくれてありがとう!
まだスレ残ってるしエピローグ的なのをまた数日いないに投下します。
- 219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/16(土) 21:02:08.05 ID:w2YFKtH5o
- 乙でした
芳川さんが幸せな嫁になるSSは初めて読んだ。
なんやかや乗り越えて、大団円で良かった…
エピローグ楽しみにしてます - 220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/06/17(日) 00:59:12.48 ID:ayYWk0YAO
- みなが救われるendだったな。乙!
芳川さん好きの自分には、実に俺得なSSだった - 221 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:39:01.52 ID:aKB/FulIO
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~~~
「ほらとうま!」
少し身長が伸び、大人っぽい顔つきになったインデックスが、上条を呼ぶ。
「あーまてまて、まだ大丈夫だから!
あいつらもお前が来ると知って料理は大量に用意してくれてるから!」
「もう!何年前の話をしているのかな!」
話し方は変わらず、子供っぽいままだが、それは上条の前でだけだ。
「何年って……まだ五、六年だろ?」
「いい?人間はね、三日あれば変わるんだよ?
それに五年は十分長いよ」
「そういう刹那的な生き方は上条さんどうかと思うな」
インデックスは控えめなドレスを着て、上条はきちっとスーツを着ている。
「なんかスーツって着慣れないよなぁ」
苦しそうに、ネクタイを少し緩める。
「それはしょうがないかも。
私もドレスよりいつもの服がいいんだよ」
スカートの裾をひらひらとさせながらインデックスは言った。
「でも、すっごく似合ってる。
その服、可愛いよ」
「服が可愛いの?」
いたずらっぽくインデックスは聞き返す。
「……バーカ」
上条は呆れたように笑った。
「ね、とうま……私―― 」
「言うな、良いんだよ。
俺はお前がカミサマの嫁でもなんでも」
一方通行に言われた『神と結婚しているようなもの』という言葉を思い出し、それを引き合いに出した。
「……私の方が辛いんだよ」
「でも、お前はシスターさんで、人を救いたいんだろ?
それに、お前にはそれが出来るんだ。
やれるところまでやれよ」
「……うん」
インデックスはうつむきながら、頷く。
「さ、笑おうぜ!
なんてったって今日はめでたい日だ!」
「そうだね!」
パッと気持ちを切り替えて、太陽のように笑った。 - 222 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:45:16.01 ID:aKB/FulIO
-
―― エピローグ。
『愛すべきものすべてに』
- 223 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:45:57.12 ID:aKB/FulIO
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~~~
「おっす!」
ドアをノックしひょこっと顔を出したのは、御坂美琴だった。
「いやー……なんというか、あんたがそういうの着てると……」
「……なンだよ」
一方通行は不機嫌そうに聞き返す。
「やっぱいいわ」
「言えよ」
「嫌よ、あんたを傷つけたくないもの」
「十分傷ついたわ、祝福してくれてアリガトウ、涙が出そうだからもう帰っていいぞ」
ニヤァと口角をあげ、淡々とそう告げる。
「やだなー、冗談よ冗談。
あんた達結婚したらこの街出てくの?」
少しだけさみしそうに、御坂は聞いた。
「……どォすっかなァ。
それはまだ考えてねェ」
一方通行は、
頭をかきながら答える。
「そっか……垣根さんと妹連れていきなり消えたりしないでよ?」
「……それはねェから安心しろ。
大丈夫、出てく時はちゃンと連絡すっからよ」
簡単に出て行く、などと話しているがそれは容易ではない。
一方通行、芳川桔梗は共に学園都市の最高機密レベルの情報を持っているのだ。
「まぁ、本格的に出てくなら私たちの協力も必要だと思うしね……」
御坂も、納得したようにいう。 - 224 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:47:12.42 ID:aKB/FulIO
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「あァ、特に初春には世話になるだろうなァ」
今度は何を奢れと言われるのか、と考えただけでげっそりした。
「あ、そういや言ってなかったわね。
結婚おめでとう」
御坂は軽く笑いながら、思い出したかのように祝いの言葉を渡す。
「サンキューな。
本当に、色々とよ……。
多分お前らのうち誰か一人でも欠けてたら俺は今こうしてここにいない。
……いや、多分じゃねェな。絶対だ」
真面目な顔で、真っ直ぐと御坂の目を見て言った。
御坂もつられて真面目な表情と目の色になった。
「何言ってるのよ、あんたらしくもない。
それに、お礼を言うのは私の方よ……。
私とあんたなんてあの日まで全くの他人だったのに、その私の妹をあんたは必死に助けてくれたんだもん。
私も、あんたと出会えて良かったわ。
あんたと、友人になれて良かった」
二人は、頷きあい、笑いあった。
「は、ガラじゃねェな」
「そうね……よし、そろそろ行くわ。
本当は芳川さんも見たいけど……あんたより先に見るのは悪いしね」
「というか多分まだ準備出来てねェぞ。
親父が最後の最ッ後までうるせェのなンの」
言葉とは裏腹に、一方通行は楽しそうだ。
「ふふ、じゃあ準備できたら呼んでね」
御坂は携帯を一方通行に見せ、電話しろ、と伝える。
「おう」
一方通行も桔梗色の携帯を、揺らした。 - 225 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:48:24.39 ID:aKB/FulIO
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「ふぅ、やっと着替えられたわ……」
芳川はげんなりとした様子でそうぼやく。
それとほぼ同時に扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
扉の向こう側へそう声をかけると、ゆっくり扉が開き優しく微笑んだ帝督が入ってきた。
「あれ?一番?
一方通行に悪いことしたなぁ」
ふざけたように笑う。
「わざとでしょ?
まったく、あんたは変わらないわね」
芳川は困ったように言い返すが、その声は嬉しそうだ。
「そりゃあ、意地悪もしたくなるさ。
芳川は俺にとっては姉貴みたいなもんだぜ?
それを幼馴染に掻っ攫われるんだ。
嬉しいけどなんかさみしいじゃん?」
少しだけしょんぼりとため息をつく。
「お母さんとか言われてたら殴ってたわ。
でも、大丈夫よ。
結婚したって帝督の姉代わりって事に変わりはないわ」
芳川は幸せそうに微笑んだ。
「……芳川、綺麗だぞ」
「ありがとう」
「幸せになれよ」
「勿論よ」
「一方通行の事……俺の一番の親友の事、頼むぞ」
「任せて」
「おめでとう、姉さん……なんちゃって」
垣根も祝福するように笑った。
「ふふ……ありがとう、弟くん」
芳川も、つられて笑う。
「それじゃあ一方通行をからかってくるわ!」
パンと手を叩くとほんのりした空気を楽しげな空気に変えるかのように明るい声を出した。
「あ、ついでに着替え終わったって伝えて」
「了解だ!」
垣根はそういうと楽しげに部屋を出て行った。
「……ふふ、お姉ちゃん、だってさ」
芳川はその扉を見つめ、久しぶりに見た垣根の子供っぽい姿に笑みをこぼした。 - 226 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:49:29.31 ID:aKB/FulIO
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「おっとー、これはこれは妹さん!」
「あ、涙子……一方通行とか芳川博士とかもう会った?」
「いやー、まだだよー。
初春が寝坊してさー今きたところなんだよ!」
佐天はやれやれと言うように首を振る。
「ちょっと、寝坊したのは佐天でしょうが!」
「私の寝坊は初春の寝坊だから。
私が自力起床できる子だと思わないで欲しいね!」
佐天はまったく反省の色を見せずにそう言ってのけた。
「はは、飾利は大変そうだね……。
なんでこんなのと一緒に住んでるの?」
「こんなのって……」
佐天はこんなの呼ばわりに肩を落とす。
「そりゃあ……何ででしょうね?」
「愛だよ愛!」
「ところで御坂さんと白井さん見かけませんでした?」
佐天を無視して二人は話を進める。
「あー、どっちも見てないや。
まぁとりあえず一方通行の様子見に行こうよ」
「あれー?妹さーん?」
「そうですね、白もやしをどうからかってやろうか昨日夜更かしして考えたんですよ!」
「ういはるー?」
「飾利って一方通行大好きだよね」
「正確に言うと、一方通行さんで遊ぶのが好きなんです」
真っ黒な事を可愛らしい笑顔で言う初春に、ミサカ00002号は苦笑するしかなかった。
- 227 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:51:12.77 ID:aKB/FulIO
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御坂が消えた後、ぼんやりと部屋を眺めていると無遠慮に扉が蹴り開けられた。
「喰らえ一方通行ぁああ!」
その声と共に茶髪の男が一方通行にむかって水風船を投げつけた。
「バッ……」
一方通行はそれを割れないよう衝撃を調整し、キャッチする。
「……カ野郎!お前場所と時を考えやがれェ!」
「はい、残念」
一方通行が垣根に向かって叫ぶと、垣根は水鉄砲で一方通行の頭を撃ち抜いた。
「……」
「あっははは!
良いザマだ、この野郎!」
垣根は楽しそうに笑う。
「かァきねェ……おま……クッククク」
ゆらぁと声に怒気をまといながら顔をゆっくり上げた一方通行だが、あまりの馬鹿らしさに笑ってしまった。
二人はそのまま数分笑い続けた。
「あー、笑った」
「おまえまじでありえねェって……前代未聞だぞ」
二人は笑い疲れたのか椅子にぐったりとしながら、ポツポツ会話する。
「俺に常識は通用しねえんだよ……」
「そういやそうだったな」
「……」
「……」
二人は黙った。
心地の良い無音が部屋を包む。 - 228 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:51:56.10 ID:aKB/FulIO
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「一方通行」
その心地よさにつられるかのように垣根は口を開く。
「なァンだァ?」
「結婚おめでとう」
「……おう」
抑揚なく、二人は会話する。
「垣根」
「なんだ?」
「お前俺より先に桔梗見ただろ?」
「よくわかったな。
めちゃめちゃ綺麗だったぞ」
垣根はなんだかそれが面白く、軽く吹き出した。
「わかるさ、お前だってあいつを慕ってたからなァ。
姉貴が取られちゃうよーとか思ってンだろ?」
「おー、その通りだ。
でも、それ以上にうれしいぞ。
本当におめでとうな、一方通行」
「あァ、ありがとな垣根」
また、二人は黙った。
そして、数分経つと、垣根が口を開く。
「一方通行、かっこいいぞ」
「お前に言われてもね」
「一方通行、幸せになれよ」
「勿論だ」
「芳川に迷惑かけるなよ」
「それは約束できねェな、でも悲しませたりはしねェよ」
「満点だ」
垣根は笑った。
「垣根、ありがとうな」
「おう、感謝しろ」
「……本当に常識の通じねェ野郎だ」
一方通行はいつも通りの親友に嬉しそうにそう言った。 - 229 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:53:20.57 ID:aKB/FulIO
-
~~~
「あら、上条さんではありませんの」
「天の助けだ!」
白井を見た瞬間、上条はそう叫んだ。
「はい?」
当然白井は怪訝な顔をする。
「いやぁ、実はインデックスとはぐれてね。
ここまで一緒にきたんだけどさ……」
「ま、はじまれば席は決まっているはずですし会えますわよ。
とりあえず、一方通行さんにお祝いでも言いに行きませんか?」
白井はそんな事か、といった風に言った。
「あー、まぁそうだな。
んじゃいくか」
上条はインデックスが心配なのか、落ち着きなくそう答え、歩き出した。
「全く、いつまでたっても落ち着きのない殿方ですわね」
呆れたようにため息をついた。
「そういやさ、一方通行の名前ってなんなの?」
上条は落ち着きのないという評価には触れずに話題を変える。
「……さぁ?知りませんの。
でも今日わかるんじゃありませんの?」
「まぁ、なんでも良いんだけどさ」
本当にどうでもいいのか、上条はその話題にもすぐに興味を失った。
「ま、名前なんて今更ね」
「ですわね」 - 230 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:54:45.49 ID:aKB/FulIO
-
~~~
「やっほー!」
次に現れたのはミサカ00002号であった。
「うわー、凶悪ヅラが更に怖く見えますね!」
そして、初春飾利。
「おー、かっこいいじゃないですか!」
更にもう一人、佐天涙子だ。
「ミサカ、佐天合格。
初春、失格」
「これから結婚するような男がそんな器の小さい事言わないでくださいよ。
おめでとうございます。一方通行さん」
「……おう」
珍しく素直な初春に調子が狂う。
「いやーしかしかっこいいですね。
私と付き合いません?」
「ごめン俺、今から結婚するンだ。
あれ?知らなかった?」
「冗談ですよ。
おめでとうございます、一方通行さん」
「ありがとよ」
佐天、初春は相変わらず一方通行をただの年上の友達のように扱う。
「……一方通行」
「なンだ?」
「良かったね」
「あァ」
「なんか、変な感じ」
「だな」
二人は兄妹のように、仲良く笑った。
そして、一方通行は三人に向かって言った。
「三人ともありがとうな、色々と」
三人はそれには言葉を用いず何故か得意そうに笑って返事を表した。 - 231 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:56:02.30 ID:aKB/FulIO
-
~~~
「よ!」
ミサカ00002号達が消えると、今度は珍しいコンビが顔を出した。
「……珍しい組み合わせだな」
「まぁな、それよりおめでとう」
「おめでとうございますの」
「……」
普通の祝福に、一方通行は面食らう。
「ど、どうした?」
その様子に、上条は更に面食らった。
「いや、なンか……普通に普通なやり方で祝福してくれたのお前らだけだよ」
「あー……」
「確かに、個性的な方が多いですからね」
上条は同情するような目をして、白井はクスクス笑った。
「でもさ、みんな心の底から祝福してると思うぜ?」
「ンなことはわかってらァ」
「なんか困ったことあったら、すぐ言えよ?」
「お前もな」
「じゃあ早速言うぞ。実は困ってんだ、助けてくれよ」
「インデックスなら知らねェぞ」
「頼りにならねぇなぁ」
上条はふざけたようにそういい、一方通行は呆れたように答えた。 - 232 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:56:38.59 ID:aKB/FulIO
-
「あぁ、そう言えば一方通行さんの本名ってなんて言うんですの?」
白井は先ほど話していた事を、なんとなく尋ねてみた。
「……今更言うのはなンか恥ずかしいな。
まァ、そのうちわかるだろうさ」
一方通行ははぐらかす。
「……では、楽しみにしておりますの」
式では本名を名乗るつもりなのだと察し、白井はそれだけいうと引き下がった。
「上条、白井」
一方通行は白井に頷くと、二人の名前を呼んだ。
「なんだ?」
「なんですの?」
「ありがとうな、本当に」
「なんだよ、急に」
改まった一方通行を上条は笑い飛ばした。
「幸せになってくださいね」
白井は行儀正しく微笑む。
「本当に、色々ありがとうな」
一方通行はもう一度そう言った。 - 233 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 21:59:08.17 ID:aKB/FulIO
-
~~~
「あくせられーた!」
「上条ならたった今出てったぞ」
上条と白井が去って数分すると、今度はインデックスが飛び込んできた。
「とうまのことはまぁ、いいや。
おめでとう、あくせられーた!
とっても幸せそうだね!」
「おう、ありがとうなインデックス。
思えばお前がいなきゃ俺は桔梗への気持ちに気づけなかったンだよな」
「あはは、そういえばそうだね」
「懐かしいなァ……たった数年前なのにな」
遠くを見つめるように、一方通行は目を細める。
「そうだね。
……あくせられーたは変わったよね」
「そォか?」
「うん。すごく、かっこ良くなった」
「それも、お前や上条達のおかげだよ」
「強くなったよね」
「あァ……」
強くなった。
主に精神的に、それは強くなったというよりも支えてもらう事に慣れただけかもしれない。
だが、変に謙遜せず頷く事ができるのも、変わった部分なのだろう。 - 234 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 22:41:46.24 ID:0e6moaaLo
-
~~~
「お姉さまも00002号もひどい!ってミサカはミサカは力いっぱいドアを開けてみたり!」
頬を膨らませながら現れた打ち止めは、出会った頃の御坂と同じくらいの背丈になっていた。
「その制服も見納めかァ……」
芳川と共に打ち止めの親代わり―― 親子というよりは友達のような関係であるが―― をしていた一方通行はしみじみと言った。
「……卒業したらあげようか?ってミサカはミサカは一方通行の性癖を心配してみる……」
打ち止めは一歩引き気味にそう言った。
「お前もう佐天や初春、特に初春に遊んでもらうのやめろ」
「冗談だって!
まぁそんなのはいいや!ってミサカはミサカは自分がなにをしにきたか思い出した!
おめでとう、一方通行!」
「おう、サンキューな」
「諦めないからね!」
「……女子校なンかにやったのが間違いだったなァ」
苦々しい顔つきで、一方通行はそうつぶやいた。
「ふふふのふってミサカはミサカは笑ってみる!
あ、そうだお姉さまと00002号知らない?
二人が迎えにきてくれると思ったのにってミサカはミサカは憤慨してみる!」
「もうすぐ高校生になンだからちったァ姉離れしやがれ」
軽くデコピンした。
「いったーい!って……まぁいいや!
じゃ、また後でね!ばいばい」
打ち止めは終始エンジン全開のまま嵐のように去った。
「はァ……御坂はもっと落ち着いてたよなァ……」
自分達の育て方がまずかったのか、と一方通行は少しだけ不安に思った。
「いや、違うか……。
あいつはあいつなりに色々考えてるンだよな」
時折みせる姉達のような強さと優しさを思い出した。
- 235 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 22:43:24.25 ID:0e6moaaLo
-
~~~
友人達の祝福を受けると一方通行は芳川の部屋へと向かった。
扉の前に立つと何故か鼓動が早くなった。
そして、扉を三回ノックした。
どうぞ、と中から声をかけられ恐る恐るその扉を開く。
そして、目の前の光景に言葉を失った。
口をぽかんと開けて、一方通行は芳川をじっと見つめる。
その様子に芳川は微笑みながら、どうしたの?と言った。
そこでやっと呪縛から解き放たれ、一方通行は言葉を探す。
「あ、いや……その、き、綺麗だ。
綺麗すぎて言葉を失っちまったよ」
恥ずかしそうに頬を少し赤くしながら微笑む。
芳川もその言葉を心の底から喜ぶように綺麗に笑った。
「ありがとう、あなたもかっこいいわよ」
「お、おう」
見慣れないドレス姿に一方通行はドキマギしてしまう。
「ふふ、どうしたのよ?
もっと近くにきてよ」
芳川はからかうように笑った。
「……本当に、綺麗だ。
桔梗……愛してる」
一方通行は言われた通りにどんどん近づいた。
「ちょ、ん……んう……近づきすぎよ」
芳川は照れを隠すように若干怒ったような声を出した。
「あー、ほら口紅なんか変になっちゃったじゃない!」
そして鏡をみるとにやけそうになるのを必死に隠すようにそういった。 - 236 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 22:45:10.23 ID:0e6moaaLo
-
「悪りィ……」
「……別にいいけどさ」
垣根の時とは違った心地よさを感じる静寂が訪れた。
「桔梗、本当に大好きだ。
もう、お前しかみえない」
「結婚するんだから、当たり前でしょ?
私以外を見られたら……困るわ」
早速困らせてしまい、先ほど垣根と話した事を思い出し苦笑した。
「俺、多分お前にたくさン迷惑かけるぞ」
「私、多分すごく独占欲強いわよ」
「でも、絶対泣かせる事はねェから……困らせたりすンのは勘弁してくれ」
「そのうちめんどくさい女に捕まったって思うようになるわよ」
「もう、一生お前は俺の側にいろ」
「でも、私もうあなたを離す気なんてないわ」
会話になっていない会話をすると、二人はまた笑った。
「さ、そろそろはじまるな」
「えぇ、そうね」
二人は立ちあがり顔を見合わせる。
「桔梗」
「なに?」
「……なンだろ」
「なによそれ……」
静かに、微笑む。
「ねぇ、***。キスをして」
「……ファーストキスだな」
一方通行はゆっくりと、最愛の人との距離を零にした。
『ふっふっふ!見てしまいましたよ、ご両人!』
「え?」
「あン?」
懐かしい声に、二人は驚き振り返った。
『ご結婚、おめでとうございます、では!』
そこに一瞬だけ、ミサカ00001号の姿が見えたような気がした。
が、それは本当に一瞬で消えてしまった。
「***……これって、ゆめ?」
「夢……でも、いい。
……いや、夢じゃねェよ。
あいつが俺らの結婚式に来ない訳がねェからな……。
最高の結婚祝いだ……ありがとうな ―― ミサカ」 - 237 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/17(日) 22:49:20.32 ID:0e6moaaLo
-
~~~
二人を祝福するかのような穏やかな風が、流れていた。
友人と新婦の両親だけを呼んだささやかな結婚式。
みんながみんな、笑っていた。
その笑顔を見るために、命を賭して戦ったものがいる。
その笑顔を守るために、一人闇に落ちようとしたものがいる。
誰一人として、忘れはしないだろう。
そして、大切なものを必死に守ろうとしたその気持ちは、時を超え共感を得るだろう。
でも現実には、全ての人が笑えるハッピーエンドなんてものはないのかもしれない。
だが、彼らならば―― 。
「え? 誰もが幸せになれるハッピーエンドが存在しない?
はっ、そんな幻想はぶち殺してやるさ」
「そうだな。
なんせ俺たちには常識なんて鎖は通用しないからな」
「こっから先は、ハッピーエンドまでの一方通行でェす……ってか?」
笑い飛ばしながら、そう言うだろう……。
完
- 238 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/17(日) 23:03:12.87 ID:0e6moaaLo
- おわり
そんな興味ないと思うけど適当に色々書いてく
ちなみにバッドエンドは
一方通行復活
↓
暴動鎮静
↓
その瞬間世界崩壊
↓
御坂の実験協力していたゲームから起き上がる垣根
↓
垣根はあの研究所で第三位が面白いゲームの開発に関わってると聞いてやってきていた。
そして、こっそりプレイ。
モードは登録されている人を選んで自分でストーリーを作る、創造モード。
そこで、取り戻したい友情と恋をしたかったという願望を叶えたが、職員に見つかり起こされた。
簡単にいうとこんな感じになってたと思う。
あともう一つバッドエンドはあって、一方通行、垣根帝督、御坂美琴、上条当麻が暗部に落ちてただの殺戮集団になり
ミサカ00002号と芳川は垣根と一方通行を
佐天初春白井は御坂を
インデックスは上条を探してボロボロになっていくというエンド
そして実は最初は
一方通行×ミサカ00001号
垣根帝督×ミサカ00002号
上条当麻×御坂美琴
の御坂パラダイスにしようと思って書き始めた
けど、なんか芳川さん素敵だな
と思って書き直した
- 239 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/17(日) 23:20:01.83 ID:0e6moaaLo
- 少年が1人立っていた。
彼の目の前には死体が転がっている。
その死体は死体と言われなければただ眠っているだけの少女と誰がみても勘違いしそうなほど安らかな顔をしていた。
そしてその顔は少年のかつて愛した口調がうざったい少女と同じだ。
どうやったかは彼自身もわからない。
ただ、確かな事は彼はこれで5000人の少女の命を苦しみもなく一瞬のうちに止めてきた。
自分を被害者だとは思ってはいない。
ましてやヒーローみたいなやつが現れてぶん殴ってでも止めてくれるのを待ってたわけでもない。
では何故彼は愛した少女の姉妹とも言える少女達を[ピーーー]のだろうか?
答えは簡単だ。
彼がやらなければこの少女達は息絶えるその最後まで苦しみながら彼が5000人[ピーーー]まで何人も作られては殺される、愛した少女と同じ顔をした少女が頭をブチ抜かれ、脳をブチまけ、汚いただの肉片になるような死に様はもうみたくない。
だから苦しまないように自身が手を下す。
無敵なンて言葉に興味はねェ。
彼はかつて唯一の少女に優しく愛しく柔らかな笑顔でそう言った。
そんな彼が何故今更無敵を目指しているのだろうか。
たった一人の少女すら救えず、たった一人の少女の死にとらわれているこの世界で誰よりも弱い彼が無敵を目指す理由はなんだろう。そう問いかけてみた。
持て余す能力をもったから最初は神になろうと思った。
神になれば間違いが起きてもその責任が取れると思った。
だけど神になるには犠牲が必要だと言われた。
自分が傷つくだけならいい、その過程で死んでしまってもそのほうが楽だとすら思った。
問いにぽつぽつとそう言い残し、彼は……学園都市が誇る最強の第一位、一方通行は死んだ。
真っ白な少年の亡骸を愛おしそうに見つめるのは彼が殺し続け愛し続けた少女と同じ顔をしている。
やりきれないという表情で遺体から目を逸らすのはツインテールの少女。
静かに涙を流しながら微笑むのは頭の花飾りが特徴的な少女。
座り込み顔を伏せ嗚咽を漏らすのは美しい黒髪の少女。
どれも少年が大事にしていた友人であり、彼の数少ない理解者でもある。
少女達にとって彼はそれぞれにとって大切な友人であり、気の合う喧嘩友達であり、恩師であり、大好きな人である。
それぞれが心に隙間を感じ、その隙間につけこまれ闇へと落ちていく事になるのを今は誰も知らない。
……………………
………………
…………
……
…
というさらにその前の設定のも見つけた。
懐かしい
一方通行×ミサカ00001号
で実験凍結の協力を一方通行が御坂に話す
そして、超電磁砲組と仲良くなるって話だったな
そして一方通行死んだあと超電磁砲組が暗部に落ちて学園都市に復讐するっていうなんというかよくわからん話
佐天さんは(超能力として)第四波動身につけるし初春の能力は炎神の息吹レベルまで上がるし……という本当によくわからん話
- 240 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/17(日) 23:21:52.52 ID:0e6moaaLo
- まぁ、こんな感じで出来たSSでした
今まで読んでくれてありがとう
- 241 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/17(日) 23:27:43.95 ID:0e6moaaLo
- あと最後にまた書くと思う、というかトリ違うけどすでに新しいスレはじめてるんでもしやこいつ!って思ったら読んでやってください
このSSは最初の頃はテンション高めでうざかったとおもいます、ごめんね!
まぁ、そんな感じです
- 242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 23:37:26.71 ID:o5fb+3qYo
- 乙乙お幸せに!
面白かった
バッドエンド選択だったらどうなってたのかと思ってたが、
2番目コースなら超ショックだったかもww
でも↑の設定案もすげー面白そうだよな。好みだわ。
また新作に期待してます
お疲れさまでした! - 243 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/17(日) 23:51:36.72 ID:0e6moaaLo
- >>242
そう言ってもらえるとうれしい
少しでも楽しんでもらえたならよかったです
面白そうと言ってもらえると書きたくなるねwwww
暇をみつけて書き溜めだけしとこうかなぁ
新作は禁書メインではないが禁書のクロス物かいてるから良かったら探してみてくれい
読んでくれてありがとうございました - 250 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 01:40:15.01 ID:TMLC1M90o
- 現行の書き溜めがなかなか進まないから息抜きに番外編
- 251 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 01:41:13.28 ID:TMLC1M90o
- ~~~
一方通行と芳川が式を終えてから数年後。
御坂との約束を破り、置き手紙を残して芳川と学園都市の外に出てきてしまった一方通行と芳川は再び学園都市へ戻ってきていた。
「あー、この数年は本当にいろいろあったよな」
懐かしい街並みを眺めながら一方通行はつぶやいた。
「そうねぇ……御坂さんに切れられて、帝督に切れられて、ミサカちゃんにも切れられて……上条君に至っては切れすぎて何言ってるかよくわからなかったわね」
目を細め、責めるようにいう。
「……なンで“ここ数年”の出来事を話してるのにある一時期をピンポイントで責めンだよ」
不貞腐れたように、一方通行は芳川から目を逸らす。
「そりゃあ、約束破ったのはあなただし?
今日も耳にタコができるくらいみんなから言われるわよ」
芳川はその光景を思い浮かべ笑う。
「……まて、約束は破っちゃいねェぞ?
俺は御坂に“完全に出てく時は知らせる”とは言ったが……これはちと長い新婚旅行だ」
苦しい言い訳を真顔で言う一方通行に、芳川はまた笑った。
「……喧嘩もしたよなァ」
「だいたいあなたが子供みたいなこというからでしょ」
芳川は口を尖らせツンとした声でいう。
「……そろそろ垣根やミサカ達連れて完全にここからおさらばしようかねェ」
「……学園都市にいるのは、辛い?」
「正直辛くねェと言えば嘘だが……それよりもお前らとの思い出の街だからな。好きだぜ?」
「じゃあ、どうしてそんなに出て行きたいの?」
「俺と垣根はレベルが違いすぎるンだ。
そンなのがいたらまた涙を流すやつが生まれる。
俺たちが、学園都市を守るには離れた方がいいンだよ」
「……」
「それに、俺達はもう二人ぼっちの化物じゃねェ……御坂や上条、佐天に白井に初春。
この街はあいつらが守ってくれる。
それ程までに信頼出来る友人を得たンだよ」
「そっか……ま、外からでもあなたと帝督なら簡単に介入できるしね」
「そうそう、誰かが助けを求めてきたら、文字通り跳ンでいけるしな」 - 252 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 01:42:18.10 ID:TMLC1M90o
-
~~~
「よォ、久しぶり」
「おう、久しぶり」
一方通行達は、懐かしい我が家へと帰ってきた。
「ったく、ほいほい出て行きやがって」
垣根は再会を喜ぶように笑っていた。
「すまンすまン。
ちと新婚旅行が長引いちまってな」
「もう“新婚”でもねぇだろ」
「だなァ……桔梗も三十――」
「あなた」
「……まァなンだ、気にするな」
芳川はにっこりと、微笑み、一方通行は引きつったように苦笑う。
「はは、しっかり尻にしかれてるわけね」
垣根は仲良さげな二人に安心したような顔をした。
「おう、お前との約束もちゃンと守ってる。
たまには喧嘩したりもするけどな」
一方通行は少しだけ誇らしげに垣根の顔をみた。
「そこは心配してねぇよ。
万が一お前が芳川泣かす事があったら許さないけどな」
「お前も、ミサカ泣かすなよ?」
もちろんだ、というように垣根は頷く。
「そういえばミサカちゃんどこ行ったのよ?」
「インデックスの所行ってるぜ」
「ふーん、上条くんは?」
「知らね、さっき美琴ちゃんからまだついてないって電話きた」
「あいつも変わらンな」
一方通行は懐かしむように、上条の顔を思い出す。
「というか、普通新郎新婦は一緒に式場行かない?
なんでインデックスちゃんはついてて上条くんがついてないのよ」
「上条がついてないのはツイてないから、だろ?」
垣根が笑いながらいうと、
「……つっまンね」
一方通行が眉を顰め、そういった。
- 253 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 01:42:45.84 ID:TMLC1M90o
-
~~~
式は一方通行と芳川のものよりさらにささやかなものだった。
一方通行は予想通り集まった友人達にチクチクと小言を言われ続けたのが堪えたのか、家に帰ってくるとばたりとソファに倒れこんだ。
「つっかれた。
垣根とミサカは?」
「飲んでくるってさ」
「あー、お前も行きたきゃいっていいぞ?」
「ばかね、本当に」
「ンあ?何がだよ」
「二人の時間をくれたわけでしょ?
自分でもう新婚じゃない、とか言っておきながらあの子は気を使ってんのよ」
芳川は呆れながらも、嬉しそうにそう言った。
「……馬鹿か、あいつは」
一方通行はのそりと起き上がり、言葉は汚いが、その表情は芳川と同じく嬉しそうだった。
自分勝手な自分を当たり前に受け入れ、久しぶりに会おうがギクシャクする事なく接することのできる友人に、感動を覚えていたのかもしれない。
「コーヒー、飲むか?」
「えぇ、ありがとう」
- 254 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 01:43:32.09 ID:TMLC1M90o
-
~~~
コーヒーを使い慣れた自分のカップにいれると、一方通行はそれを芳川に差し出した。
「懐かしいわね、これ」
芳川は礼を言いながら受け取ると、使い慣れた懐かしいカップを見て微笑んだ。
「そォだな」
そして、二人は一口ずつ飲む。
「これも、懐かしい……」
芳川は嬉しそうに、そうつぶやいた。
「豆はいつも俺らが飲ンでるのと変わらねェぞ?」
一方通行は不思議そうに聞く。
「この街で、この家で、あなたが淹れてくれるコーヒーは特別なのよ」
大切そうに、もう一口飲んだ。
「あなたが消えた時、自分でコーヒーを淹れて飲んでも全く美味しくなかった。
美味しいコーヒーが飲みたいなって、ずっと思ってた。
それを、思い出したわ」
一方通行が帰って来てくれた事を、今更もう一度嬉しそうに話した。
「桔梗、安心しろ」
一方通行も当時の事を思い出しながら、話す。
「もう、お前を置いて何処かに行ったりしねェよ。
そンでさ、ありがとうな」
「心配なんてしてないわよ、信じてるもの」
「そっか、ありがとう」
「何がよ」
芳川はクスクス笑った。
「俺を、助けてくれてそして、信じてくれて」
「ほんと、馬鹿ね……」
芳川はそっと隣に座る一方通行の手を握った。
- 255 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 01:46:30.87 ID:TMLC1M90o
- はい、芳川さんと美味しいコーヒーの話
結局インデックスと上条さんは正式に籍いれるかは知らんけど結婚式は挙げるとおもう
そんな話
- 256 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 12:38:24.24 ID:caUyj8QIO
-
~~~
「ねぇ、初春」
「なんですか?」
「私たちってさ、どうして彼氏出来ないんだろう」
「さぁ?」
「だって、こんなに二人とも可愛いんだよ?」
「そうですね」
「大学生にもなって彼氏の一人もいなくて……初春はそれでイイの?」
「じゃあ、まず別居するところから始めません?」
「え?やだ」
「……一応理由を聞いてあげます」
「だって、初春可愛いし。料理もうまいし、朝起こしてくれるし」
「料理が趣味で早起きできる彼氏作ればいいんじゃないですか?」
「え?まって、初春は私と別れたいの?」
「ちょっと待ってください、その言い方は誤解を招きます」
「え?」
「え?」
「……じゃあ、初春は私が嫌いなの?」
「そんな事ありません、大好きですよ」
「だよね、私も初春大好き」
「はい」
「うん」
「……」
「……」
「佐天さん、彼氏欲しいんですよね?」
「え?うん」
「じゃあ、どうしたら彼氏出来ると思います?」
「……初春が男の子になるとか?」
「……佐天さんは私のことそんなに大好きなんですか?」
「え?当たり前じゃん、だって初春だよ?」
「……わかりました」
「男の子になってくれるの?」
「違います!佐天さんには一生彼氏出来ません、それがわかりました」
「なんでそんな事言うのさ!」
「……今ので私のこと、少しでも嫌いになりました?」
「え?まさか、大好きだよ?」
「……」
「……」
- 257 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 12:43:19.11 ID:caUyj8QIO
- ~~~
「ね、ねぇ黒子……あの二人はなんなの?」
「もう、黒子は慣れましたの」
「そ、そう……ところで黒子」
「……なんですの?」
「明日私朝早いから起こしてくれない?」
「いいですけど……お姉さま、来年から私と別居しません?」
「え?あんた私のこと嫌いなの?」
「……いえ、そう言うわけでは」
「じゃ、このままでいいじゃない」
「はぁ……お姉さま彼氏欲しいって言ってましたよね?」
「え?うん、私だってもう大学生だし恋くらいしたい」
「……では少し黒子と距離をおきませんの?」
「え?なんで?」
「ですから、周りの殿方から黒子達はカップルだと思われていますの、だからお姉さまに殿方が寄り付きませんの!」
「ばかねー、そんなわけないじゃない。
私たち女同士よ?
そんな事考えるの黒子くらいよ」
「なんか、色々おかしいですの……」 - 258 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/06/22(金) 12:45:46.99 ID:caUyj8QIO
- 佐天さんと初春
黒子と御坂
超電磁砲組のとある日の会話
男っ気のない超電磁砲組になってしまったからこういうのもアリかなぁ……とwwww - 260 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 22:51:48.23 ID:19Xf2Rvko
-
~~~
「はぁ」
「おりょ?どうしたの、垣根さん」
「いやな、俺ってさミサカが大好きじゃん?」
「それ、ミサカに言う事?嬉しいけど悲しいよ?」
「え?」
「え?」
「いやいや、え?」
「なにがよ、え?」
「あれ?」
「んん?」
「……うん」
「……え?」
「あれ?お前ミサカじゃん?」
「うん、ミサカはミサカだよ」
「うん、だからさ」
「え?なんなのさ」
「あれれー?」
「なになに?」
『時間がかかったけど、俺と一緒になってくれ!って事ですよねってミサカはあまりの二人のテンパりっぷりに思わず助け舟をだします』
- 261 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 22:52:17.23 ID:19Xf2Rvko
-
「おう、そうそうつまりそういうこと」
「え?あ、なるほど!さすが00001号」
「……え?」
「……ん?」
「ミサカ、いたよな?」
「ミサカはずっとここにいるよ?」
「いやいや、ミサカ」
「え?うん、だから」
「違う、俺が好きな方」
「え?垣根さんどっちかのこと嫌いなの?」
「そんなわけないだろ、怒るぞ」
「ごめんね」
「ん、許す」
「ありがと」
「うん」
「うん」
「で?」
「いや、ミサカ」
「うん」
「……え?おわり?」
「え?うん」
「えぇー?」
「わかった、結婚しよう」
「え?どこからそんな流れ?」
「え?」
「え?」
『はい、またもや空気の読める本妻が介入。
いいかげんにしろ』
「え?本妻?」
「え?うん」
「ミサカは?」
「本妻」
「ミサカは?」
「だから、本妻」
~~~
「と、とうま……なんか二人が壊れちゃった怖いんだよ」
「なるほど、垣根はテンパるとアホになるのか」
そんな、帝督さんとミサカ姉妹のお話
ミサカ00002号は内心傷つきながらも冗談っぽくミサカは愛人だね!とか言っちゃいそう
- 262 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/22(金) 22:53:25.28 ID:19Xf2Rvko
- これなんか楽だし楽しいな
超電磁砲組のは割りとうまい感じにかけたと思うけどこっちは微妙だなぁ
- 263 : ◆hZ/DqVYZ7nkr :2012/06/23(土) 23:41:17.95 ID:fw+XU7Vko
-
~~~
「何、読んでるの?」
学園都市外の小さな家、そこで二人は暮らしていた。
一方通行が式を終え直ぐに買ったそうだ。
多少の罪悪感はあったが、やはり新婚なのだから二人きりでいたい。
あの家で四人で暮らすのも楽しいが、それは垣根とミサカ00002号のためにもならないと一方通行は思ったらしい。
「ン、指南書……とでも言えばいいンかな?」
イタリア語だろうか、もしかしたらフランス語かもしれない。
とにかく、外国語で書かれた本をめくりながら一方通行はそう答えた。
「指南書って……なんの指南書なのよ」
芳川は意外そうに、さらに聞いた。
「そりゃあ……」
一方通行は言いながら、何かを思いついたように立ち上がった。
「どうしたの?」
「いや、早速実践してみようかと思ってな」
「実践?」
キョトンとして聞き返す芳川を優しく抱きしめる。
「ちょ」
「……第一に」
「え?なによ?どうしたのよ、急に」
「第一に、日々妻を愛しそれを態度で示すこと」
少しだけ、力を強くする。
「……十分よ」
「第二に、家事は分担する事」
「それも、十分よ。
それに、どちらかというとあなたの方が働き者じゃない」
「……第三に」
一方通行は芳川を離すと、まっすぐ瞳を見つめた。
「日々のキスを忘れないこと」
「え?あ、ちょ……ん……」
そして、そう言うと――――。
~~~
「良い夫になるための百の事……なんというか……あなたって、アホよね」
その日の夕方、芳川の膝をまくらにソファで安心しきった表情で眠る一方通行を撫でながら芳川はおかしそうに笑った。
「……大好きよ」
そして、起きないようにそっと、おでこにキスをした。
~~~
とある日の一方通行と芳川さん
この二人は落ち着いた感じでいちゃいちゃしそうだよねって話 - 264 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/26(火) 18:33:14.08 ID:N5OhXRy+o
-
~~~
「最近インデックスが俺の布団に潜り込んできて困る」
「……あ、悪いミサカちゃん、俺にもコーヒーいれてくれ」
「桔梗ォ、俺も」
「なぁ、頼むから聞けって」
「あ、ミサカちゃーん、砂糖もミルクもいらないぞー」
「桔梗、俺もいらねェからなー」
「ねぇ、泣くぞ?いいのか?
友達だろ?」
「そういやさ、お前ら新婚旅行とか行ってくれば?」
「ンー、まァ行くけどさ……お前にはどこ行くか言わねェぞ?」
「あの――」
「えー、折角ついてって邪魔してやろうと思ったのに」
「上条さ――」
「だからだよ、アホ」
「……もう――」
「あ、ありがとう。ミサカちゃん」
「……」
「お、悪りィな……うん、やっぱお前が淹れてくれたのが一番美味ェよ」
「とりあえずさ」
「上条くんの話聞いてあげたら?
彼、静かに泣いてるわよ?」
「……余計な事に気づくなよ。どうせこいつが悪いんだからさ」
「平和な学園都市に感動でもしてンだろォ、どォせ、ほっとけほっとけ」
「はぁ……全く……ほら上条さん、ミサカと芳川博――桔梗さんで聞いてあげるから泣かないで」
「お前が天使だったのか……」
「はい、ちょっと待とうぜ!
上条くん、落ち着いて話せるようにファミレスでも行こうか!奢るぜ!」
「……これは保護者的なあれなのか、バカップル的なあれなのか?」
「あなたは行かないの?」
「行くわけねェだろ?」
「じゃあ、私が行って来るわ」
「よし、上条ォ垣根ェ行くぞォ!」 - 265 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/26(火) 18:36:13.38 ID:N5OhXRy+o
-
~~~
「バカップル」
「あんた達も似たようなものでしょう」
「……はやく、そうなりたいなぁ」
「大丈夫よ」
「……桔梗さんはさ、新婚旅行どこ行きたいとか――」
「あなたには言わないわよ?
新婚旅行くらいは二人でいかせてよ」
「……チッ」
「あなたも帝督と結婚したら分かるわよ」
- 266 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/26(火) 18:50:57.01 ID:N5OhXRy+o
-
~~~
「ンでェ?上条は何の話があるって?」
「いやだからさ、最近インデックスが俺の布団に潜り込んできて困ってるんだよ」
「なんで?」
「なんで!」
「え?いやだって俺も起きたらミサカちゃんよく隣にいるけど困ってねーぞ?」
「俺も桔梗と寝てるけど別になんも困ってねェぞ?」
「……え?一方通行は夫婦だからいいとして、垣根は……え?」
「いや、だってべつに……なぁ?」
「あァ、あったけェし手とか繋ぎながらだと安心する」
「おお、わかるわかる。
まぁ一番は抱き枕みたいに抱きしめるとやっぱ安心するよな」
「お前ら……なんなの?
え?それつまりその……アレってこと?」
「はァ?
ンな事出来るわけねェだろ、隣の部屋にゃこいつらがいるンだぞ?」
「……お前ら性欲ないの?枯れてんの?」
「殺されたいのか?」
「ごめんなさい」
「……あー、つまりインデックスが入ってきてヤりたくてしょうがないってことかァ?」
「ちっげぇよ!いや、ちがくないけど違う!」
「じゃあ、なんなの?」
「そのさ、生理現象がね?」
「ヤりたくてしょうがないってことじゃねェか」
「こればっかりは、どうしようもないじゃん!
しかもなんか緊張して眠れないし……寝ぼけてあいつ俺の手とか噛み付くし」
「……襲っちゃえば?」
「うわー、垣根サイテー」
「うン、それはねェわ」
「ごめん」
「いいよ……で、どうすりゃいい?」
「……おそっ――」
「垣根、アウトー」
「いだっ!……お前殴ることはねぇだろ」
「あの、それはもういいからどうしたらいいか――」
「馬鹿な事いうからだろォが」
「上条が悩んでるから笑いをだな――」
「ンなもンいらねェンだよ――」
- 267 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/26(火) 18:51:23.96 ID:N5OhXRy+o
-
………………………
……………
……
…
「真昼間からあの人らはなんて話を……」
「やっぱとうまって意気地なしかも」
「まぁ、それだけあなたが大切ってことじゃない?」
「……で、るいこはどうなの?」
「へ?」
「かざりと」
「え?」
「え?」
「うん」
「うん」
~~~
上条さんのうらやまけしからん悩み
ここのインデックスさんは意外と大胆な気がしますって話 - 268 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [saga]:2012/06/27(水) 02:00:49.44 ID:VGJWvqeIO
-
~~~
「あなたって、キスするの好きよね」
電気を消して布団に潜り込むと桔梗がいきなりそンなことを言って来た。
「その割には襲ってこないわよね」
……こいつは頭がおかしくなったのか?
「私って、魅力ない?」
ンなわけねェだろ、と少しだけ怒ったように言ってみた。
「なら……いいけど」
桔梗は嬉しそうな少しさみしそうな顔をする。
「……おやすみ」
そして、そのまま悲しそうに微笑むと目を閉じた。
「……俺はさ、お前が大切なンだ。
そういうことをしたとして、負担がかかるのは女の方だろ?
だからさ、お前が本当に望ンだ時。
その時までは手はださねェよ」
桔梗はまだ恐れている。
なンてったってお互い恋愛するのも初めてだ。
「だからよ、そンなくだらないこと考えるな」
そっと、髪を撫でた。
~~~
結婚前の二人
芳川さんマジ女の子
一方通行さんまじ紳士
って感じの話
- 270 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/06/29(金) 13:10:18.70 ID:wwQv02GIO
-
~~~
「はい」
「……なんですか?」
「前の続きです。
何故、学園都市でもトップレベルに可愛い私と初春に彼氏が出来ないのか」
「またその話ですか?」
「答えが出るまでやるよ?」
「死ぬまで佐天さんは私と一緒にいるつもりですか?」
「……来世も一緒じゃないの?」
「あ、来世でも続けるんですか」
「え?嫌なの?」
「まぁ……」
「……」
「ちょっと、なんで泣いてるんですか」
「だ、だって……初春が」
「違いますよ!
私はこのままの状態が……」
「違うの?ならいいや」
「……ですからね?」
「ん?」
「……もういいですよ」
「あ、そうだ初春にプレゼントあるんだった」
「なんですかこれ……って指輪?」
「うん、結婚指輪」
「あれ?佐天さん彼氏が欲しいんですよね?」
「え?うん」
「はい、ですよね……で、なんで私に結婚指輪?」
「え?だって初春は嫁だし?」
「あれー?」
「なになにおかしい?」
「はい、まぁ……でももういいや……そろそろ起きません?」
「やだ、初春暖かいし」
「ほら、まずこうして裸同然で抱き合ってるのがおかしいと思いません?」
「え?だって初春暖かいし?」
「佐天さんは意地悪ですよね」
「ふふふのふ」
~~~
佐天さんはわかってやってるんだ!
じゃないとアブナイ子すぎるしね。
もうこの二人は百合カップルってことでいいよねって話
というかレスついてびっくりしたww
暇な時にまた覗いて見てください
- 272 : ◆hZ/DqVYZ7nkr [sage]:2012/07/03(火) 23:17:36.13 ID:L/6cqylio
-
~~~
「よしかわー」
「んー?どうしたの?」
「コーヒーいれてみた!
のんでみて!」
「お、やるわねぇ帝督……じゃあ早速」
「どお?どお?」
「……うんっ!美味しいわ!
偉い偉い」
「えへへ……なぁ、よしかわ……おれたちのかぞくになってよ」
「家族?」
「うん……おれも、***もおやにすてられたんだかなんだかわからないけど、ものごころついたころからここにいるじゃん?」
「……そうね」
「だからさ……おれ、おかあさんが、ほしいんだ」
「こら、私まだ子供がいるような年齢じゃないわよー?
……お姉ちゃんにならなったげるわ」
「……うん!」
~~~
仲良くなり始めた頃の芳川さんとていとくん。
一方通行は恥ずかしがって慣れるまで垣根より時間かかるんじゃないかなぁと……そんな話。 - 274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/14(土) 20:12:07.05 ID:+sY0UoPb0
- 乙
2013年7月4日木曜日
芳川桔梗「言ったでしょう? 私の名前を忘れないでって……」
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