2013年9月10日火曜日

垣根「俺の居場所に…」 1

 
 
1>>1[sage]:2012/06/23(土) 19:01:01.85 ID:qRavVs4W0


垣根帝督による10月9日以降(原作15巻以降)の再構築ssとなります。
垣根×初春になると思います。
需要があるかは分かりませんが、どうぞよろしくお願いします。


◎諸注意!

・某小説サイトで二週間くらい前から投稿していたのですが、訳あってこちらで投稿させていただく事となりました。
・遅筆な上に、PCが再起不能のためiPhoneからの投稿となります。
>>1のご都合主義にry


そんなこんなですが、宜しくどうぞ。
2 :>>1[sage]:2012/06/23(土) 19:02:38.27 ID:qRavVs4W0


序章 ー10月11日。


3>>1[sage]:2012/06/23(土) 19:03:30.69 ID:qRavVs4W0



『―――yjrp悪qw』

『ちくしょう。……テメェ、そういう事か!!テメェの役割は―――ッ!?』

最後に見たのは、振りかざされた拳。
後の事は、記憶にねぇ――――。


――――――――――――――――
―――――――――――――
――――――――――
―――――――
――――




「………………あ?」

府抜けた声と共に、俺は目を覚ました。

辺りを見回す。
真上は白、横も白。

……成る程、ここは病院ってわけか。


「………ッ」

体を起こそうとするが、体が言うことを訊かねえ。

無理矢理体を起こそうとしたら、今度は頭痛が襲ってきやがる。

4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 19:04:38.48 ID:qRavVs4W0

「目を覚ましたようだね?」


病室の出入り口付近から声がした。
見てみりゃ、そいつはそれなりに年をくった医者だった。

………コイツの顔、常識が通用しねぇ。



「早い目覚めだね?
治したのは僕だが、君の状態たるや、それなりに酷いものだったんだよ?」



………あ?

そういえばそうだ。何で俺は病院なんざで寝てたんだ?


「……オイ、何で俺はこんな所にいる?」

かすれ声で医者に尋ねる。
声もまともに出ねえのかよ、クソッタレ。

そしてこの医者は、いきなり疑問の核心をついてきやがった

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 19:08:57.26 ID:qRavVs4W0

「覚えているだろう?"10月9日"」



………あー、そうだった。

あんの忌々しいクッソ野郎(第一位)と戦って、無様に殺された日だったか。

……あ?
俺はあの日、
確かに 殺 さ れ ― ― ― ?


「オイ!!! 」


勢いで医者に叫んだ。
頭痛が襲う。関係ねぇ。


「なんで俺は生きてる!?確かに!あの日!俺はあのクソ野郎に殺された筈だぞ!!」


「患者を救うのは僕の仕事だからね?『冥土返し』(ヘブンキャンセラー)とまで言われて、やすやすと死ぬのを見過ごす程僕は優しくないんだよ?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 19:09:27.86 ID:qRavVs4W0

……『冥土返し』、聞いた事がある。
どんな患者も治しちまうっつーメルヘン色の強い医者だったか。

それと、こんな噂も聞いた事がある。


『冥土返し』は、学園都市の『裏』を知っている―――――。

―――成る程な。


「…テメェ、『裏』からのご命令で俺を治療しただろ?
成る程なぁ…、ククク……。
…舐めてんじゃ、ねえよ!!!」



無理矢理体を起こし、無理矢理叫ぶ。
何故か込み上げてきた怒りのおかげで、痛みは感じなかった。


「……………」

『冥土返し』は何も喋らねえ。ムカついた。


「なにだんまりしてんだ?アァッ!?随分と舐められたモンだ。
一番殺されたくねえ奴に殺されかけた上に、今度は無駄な助けかよ!?」



俺はただ吠える。謎怒りに身を任せて。
そして、『冥土返し』は俺を制止する。この一言で。

9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 19:10:00.98 ID:qRavVs4W0

「自惚れるなよ?」


………は?
自 惚 れ る ?



どういう意味だよクソ野郎。
そう言いかけたが、『冥土返し』の言葉が先に遮る。


「君は僕に『裏』が君を生かすように仕向けたと言ったが、そうじゃあない。
君はもう、『裏』から必要ないと言われてね?
君を治療したのはあくまで僕の意思なんだよ?」

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 19:10:42.68 ID:qRavVs4W0
?


………ハッ。そういう…事かよ。

自分で言うが、俺は頭の回転が早い。
どんなに怒りに震えていようが、ある程度の場は掴んできたからな。


……つまり。

俺はその内、殺される。


『冥土返し』の言ってた事はおそらく事実だ。
なんの確証も魂胆もねぇが、直感が俺をそう促す。

『裏』が俺は必要ねぇってんなら、『裏』を知っている俺を生かしておく可能性はゼロに近い。


これは、学園都市の『闇』に潜んでる奴なら誰でも分かる。いわゆる『鉄則』。


簡単に『死』を考えた俺だが、別段沸いてくる感情―――。なんてモノはありはしなかった。


………が、
また『冥土返し』の言葉が俺を遮った。

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 19:11:28.95 ID:qRavVs4W0

「それで?」


「……あ?」


「君は今死ぬ事でも考えてたみたいだけど、このまま簡単に野垂れ死ぬつもりかい?」



……ホントにムカつく野郎だ。

「何が言いてえんだ。テメェ」


「分からないかね?"生きてみろ"と言ってるんだよ」




その一言を聞いた瞬間、得体の知れない感情が俺を支配する。

出てきたのは、笑み。
とにかく不愉快極まりなかった。

勝手に救って、そして今度は"生きろ"だ?

ふざけんじゃねぇ。
俺は命令される事が大嫌いなんだよ。

俺は殺される。


おそらくコイツはその事を分かっていて俺に生きろと言っている。

心底不愉快だ。冗談じゃねえ。

言葉にして表そうとするが、これまた『冥土返し』は遮りやがる。


拒否権も許さねえってか。ムカつく。

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 19:12:20.87 ID:qRavVs4W0

「僕は君があと2日で退院できるだけの施しをする。
後は君の自由だからね?
黙って殺されるのもよし。
人生を楽しんでみるのもよし。
まさに自由だね?
そういうのが君は一番好きだろ?」



本当にコイツは全部分かったような口振りで喋ってきやがる。
実際に全部を知っていたとして、とことんムカつく。


その上自由だと?
生きろとかぬかしたのはどこのどいつだよ。



「そうだね? 垣根帝督―――」



こんなクソにまみれた合図で、俺は第二の人生の幕開けってのを迎えちまったらしい。

こん時の俺は、まさに生まれたての赤ん坊の気分。

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 19:12:56.81 ID:qRavVs4W0




簡単に殺されると思ってたが、このクソ医者の言葉が、表情が、なにか俺を引っ掻かせる。

信念―――とまでは言わねえが、何かしらを揺らがせられたような気分。


俺らしくもねぇ。自分で自分にムカついた。




―――これから先、俺はどうなる?

らしくない疑問は、喜劇(ストーリー)の序章。
モヤモヤする心境は、俺(垣根帝督)そのもの。


現在。10月11日。
垣根帝督と"何か"が交わる時、物語は始まる―――――。


20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[ sage]:2012/06/23(土) 22:16:03.66 ID:qRavVs4W0


第一章 ー10月13日。


22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/23(土) 22:25:03.58 ID:qRavVs4W0


10月13日。

本当にあのクソ医者は2日で俺を退院させやがった。

つくづく思い知らされたよ。あいつの腕に常識は通用しねえ。

屈辱感をもたらす程に、俺は今五体満足だ。


10月9日の俺は臓器が飛び出てる程のグロい状態だったらしい。反吐が出る。


どうせ殺される俺を五体満足で帰しやがる。

これが一番ムカつくんだ。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:26:15.43 ID:qRavVs4W0

その上『生きろ』とまで言っておいて、『退院した後は君の自由だからね?』だぁ?


ふざけんじゃねぇ、無責任にも程があんだろ。

だが、これから先の事について考えるような事は何もねぇ。


何故かって言っちまえば、"生きたい"とも"死にたい"とも思っちゃいねえから。



………結局は俺が一番無責任なんじゃねえか?
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:26:49.03 ID:qRavVs4W0

いや、考えるのはよそう。俺らしくねぇ。

のらりくらりと家まで歩いている俺を、どうやら神様っつーのは簡単に帰すつもりはないらしい。



「ちょ……っ。離して下さい!支部まで連行しますよ!?」


「『風紀委員』(ジャッジメント)が来たと思ったら、随分と可愛らしい奴が来たもんだな。なぁッ!?ギャハハハハハハハ!!」



……オイオイ。冗談よせよ。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:27:19.90 ID:qRavVs4W0

何だって帰り道の通路でイカれた小説みてぇな展開繰り広げてんだコイツら?



………そして何より、俺がイラついたのは俺自身にだった。


「俺の帰り道でなにツマんねぇことやってんだ?正直目障りで仕方ねぇんだが」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:27:46.44 ID:qRavVs4W0

気付けば俺の口からこんな言葉が出てた。

何だってこんな言葉が出てきたんだ?訳が分からねえ。

…確かに俺は、"一般人"と"俺の敵"の区別をハッキリと線引きしている。

一般人には危害は加えねぇし、敵には一切の容赦はしねぇ。
言っちまえば、一般人を気まぐれで助ける事もあるかもしれない。


だが、コイツらはなんだ?

いかにも三下臭しかしねぇクソ馬(スキルアウト)が二匹に、その馬共に震えている雑魚(被害者)。

そして、出で立ちがあまりにも似合わねぇ花飾りの勇者さん(風紀委員)。


……………白けた。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:28:23.61 ID:qRavVs4W0

気まぐれで助ける?バカか。こんな三下共の茶番劇に、何だって第二位(俺)が参加しなきゃなんねぇんだ。


本当に何故啖呵を切ったのかが謎だよ。

自分で自分に呆れてたら、クソ馬共が反応してきやがった。


「オイオイどこのホスト崩れだお前!?ギャハハハハッ!」

「悪りぃけど俺達取り込み中なんだよね?。あぁそうだお兄さん。
アンタ、金持ちそうなスーツ着ちゃってさ。こりゃ金置いてくしかないでしょ?」

「道連れかよッ!?ギャハハ―――ごがッ!!?」


……どうでもいい、息臭え。

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:29:41.73 ID:qRavVs4W0

「て、テメェ!?コイツに何しやがった!?」

「言って分かる脳ミソ持ってねえだろうが三下」


「テンメェ……調子に乗ってんじゃ――がッ!?」


喋んじゃねぇよ。吐き気がする。

………こんな馬共にイラついてやがる。本当にらしくねぇ。
どうしちまったんだ?

29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:30:12.69 ID:qRavVs4W0


「オイそこの風紀委員。後始末はテメェでやっとけ。
良かったな。テメェに手柄つくぜ」


適当に気晴らしにすらならない戯言を、花飾りの風紀委員にふった。


「……あっ。………あぁ…!」



………なんだ?
コイツ。今までにないくらい震えてやがる。


しかも俺が話しかけた瞬間にだ。どういった了見だよクソガキ。


……そう思っていられたのも、まぁ長くは続かなかった。

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:30:43.09 ID:qRavVs4W0

………いや待てよ。この花飾り、どっかで見た覚えがあるぞ。


――――――――
―――――
――


『聞こえ、なかったんですか……』

『あの子は、あなたが絶対に見つけられない場所にいる、って言ったんですよ。嘘を言った覚えは……ありません』



……………、思い出した。

俺が第一位に潰される前に、俺が殺しかけた奴だったっけか。

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:31:21.60 ID:qRavVs4W0


「………ハッ」


何でか知らねぇが、思い浮かんだ事がどんどん口から出ていく。


「あの状況であんだけの威勢放ったのは結構だったが、"今の俺"に震えてるんじゃ、意味がねぇな」


意味もなく俺は勝手に毒づいていた。



「…………」

花飾りは喋らねぇ。


ただ一つ、俺のことを見る目は、あの時とまるで変わっちゃいなかった。

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:32:12.29 ID:qRavVs4W0

別段今のコイツに殺意は湧かない。
むしろ俺は感心していた。


一度殺されかけた奴が目の前にいるんだ。普通だったらチビって逃げるだろ。


それにコイツの腕、包帯が巻いてある。

…あの時の傷って訳か。
さぞ傷が痛むだろうにな、本当に大したモンだ。



「………クソッタレ」


最後にそう吐き捨てて、俺はこの場をあとにした。

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/23(土) 22:32:55.04 ID:qRavVs4W0

…オイ待て。


吐き捨てた後に思うような事じゃねぇが、なんで「クソッタレ」なんだ?

俺は何か求めてたのか?
そもそも花飾りに毒づいてた時点で俺は意味が分からなくなっていた。

何を、誰に求めてたんだ……?


…………本当におかしいぞ俺…。


今日はとことん自分を嫌悪する日らしい。
今の心境はモヤモヤどころじゃねぇ。


……さっさと帰って寝よう。




俺の中で"何か"が変化してるっつーのには、俺はまだ当分気付かないみたいだ。


37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 14:09:37.48 ID:YCZamvxl0


行間一 ー10月14日 1。


38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 14:10:12.42 ID:YCZamvxl0



『ああそうだ、お嬢さん。言い忘れていた事があるけど』

『テメェが最終信号と一緒にいた事は分かってんだよ、クソボケ』


私が最後に見たのは、竜巻を背中に乗せた白い少年と、絵本に出てきそうな六枚の白い羽を背中から生やした"あの人"。

後の事は、記憶にない―――。


――――――――――――――――
―――――――――――――
――――――――――
―――――――
――――



「…ッ!!!」


掛け布団を勢い良くめくりあげる動作と共に、私は目を覚ました。

…最悪の目覚めです………。


目覚まし時計を見て、今日の日時を確認する。
10月14日、5:24。

……昨日は早めに寝たんでしたっけ。

39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 14:10:51.98 ID:YCZamvxl0

9日に右肩を複雑骨折し、長い入院生活か……と落ち込んでたけど、


カエルに良く似たお医者さんが凄い日にちで治してくれたおかげで(と言ってもまだ包帯は巻いてるんですけど…)、12日には早くも退院することができ、昨日の13日には見事に風紀委員(ジャッジメント)の仕事に復帰できて私の気分は凄いハッピー。



……だったのに。

復帰して最初の仕事に任された第7学区の見回りで、何の因縁か"あの人"に会ってしまった。


痛みは消えた筈の右肩が、あの人に殴られたこめかみ付近が、あの人を見た瞬間に疼いてしまう。

40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 14:11:47.31 ID:YCZamvxl0

かといって、今回はあの人が私を傷つけるような事はなかった。

むしろ逆。
私を助けてくれたんです。


スキルアウトの人達に絡まれていた被害者を、
風紀委員としての威厳を守れなかった私を。


分かっています。助けてくれたって事は、確かに。

それでも、私は怯えてしまった。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 14:12:18.57 ID:YCZamvxl0

そして、あの人が去り際にポツリと呟いた一言を、これまた何かの因果か私には聞こえてしまった。


『クソッタレ』、と。
どこか寂しそうな顔で。


それを聞いた時、私は何故かこんな感覚を覚えたんです。

『この人とは、またどこかで会うことになる』


それが事実になったとして、私にとって良い物語になるか、悪い物語になるのかは、私、初春飾利はまだ知らない。


48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:04:02.39 ID:UszX2A/O0


第二章 ー10月14日 2。


49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:08:25.56 ID:UszX2A/O0

「…………」

久しぶりの自室での目覚め。
気分は優れている筈がねぇ。


何せやることがねぇんだから仕方ねぇってモンだ。


『スクール』が9日に壊滅したと聞かされた時点で、俺に残された人間関係なんつーのも断たれたも同然。


携帯のアドレス帳を見た所で、出てくる名前は数が知れている。


……そういえば1人いたな。話つけとかなきゃいけないヤツが。

50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:09:15.07 ID:UszX2A/O0

適当に淹れたコーヒーを飲みながら、アドレス帳からソイツの番号を探す。

仕事以外でコイツに電話するたぁ、初めてだったか。

「………」

なかなか掛からねぇ。ムカつく。

51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:09:45.58 ID:UszX2A/O0

『はいはい私だけど。あなたよく生きてたわね』

「……テメェ、これでも元上司だぞ。
死にかけた上司をいたわる事すらできねぇのか」


『あら?もしかして見舞いとかに期待しちゃったり?あなた随分と可愛い所あるのね』



成る程、余程愉快な死体になりてぇと見える。

52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:10:17.95 ID:UszX2A/O0

『……で?わざわざ私に電話してきた理由を聞こうかしら?』


「……『スクール』の事だ。こちとら 簡単に壊滅した。としか聞かされてないんでね。色々と聞いとく必要があんだよ」


そう。
俺が今電話してる相手は『スクール』での元同僚。


仕事の上では名前なんざ知っとく必要もないため、コイツの事はその能力から『心理定規』(メジャーハート)と呼んでいる。

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:11:34.06 ID:UszX2A/O0

『あー、私も一応話しときたい事あるし、この後時間あるかしら?適当な場所で落ち合いましょう』


都合が良い。電話よか直接会った方が話し落とす事もねぇだろ。

「決定だ。なるべく早めに連絡よこせ」


心理定規の返事は待たず、俺はそのまま通話を切った。

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:12:06.38 ID:UszX2A/O0

「こっちこっち?」

手を降って合図するアイツを見つけ、俺は喫茶店に向かった。



………待て。

「お前…なんだって制服なんざ着てやがんだ」


席に座る動作と一緒に俺は心理定規に質問した。


どういう訳か、今心理定規はいつもの派手なドレス姿とは一転して、制服……それも常盤台中学のソレを着ていやがった。

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:12:36.15 ID:UszX2A/O0

「だって私戸籍上では常盤台なんだもの。それに、学生が制服を着るのは当たり前でしょう?」



……舐めてやがるのかコイツは。


「テメェ、『スクール』が壊滅したとは言え、俺達は腐っても暗部に染まってるんだぞ。
その元暗部の人間が学校だぁ?ふざけんのも大概に――」

言いかけた所で、心理定規の言葉が覆い被さる。


あの医者といいコイツといい、最後まで喋らせろってんだ。

56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:13:10.57 ID:UszX2A/O0

「心配しないで。制服を着ているだけで私常盤台には通ってはいないもの。
あの第五位がいる学校なんて、行った所で生き地獄なだけよ」


「そういう問題じゃねぇ。通ってまいが常盤台の制服着てるだけでどれだけ目立つか分かってんのか?
それに常盤台の関係者に見つかってみろ。
あそこほど校則がうるせぇ場所はないはずだ」

57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:13:42.36 ID:UszX2A/O0

「大丈夫なのよねそれが。私には暗部時代に持っておいた沢山のコネがまだ使えるし、仮に面倒事になってしまえば能力を使ってしまえば問題ないわ」


……それだけで本当にどうにかなるのか?


簡単に尋ねた所、「ご都合主義なのよ、私は」とのこと。

仕事の頃からそうだ。
相変わらずコイツは掴みにくい。


それはコイツが能力を使って俺との距離を縮めているからではない。

第一んな事やったら殺してる。



………何が目的でコイツに会いに来たんだっけか?

58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:14:17.25 ID:UszX2A/O0

「……それで?」

「…あ?」

「ただの雑談をしに来た訳じゃないんでしょう?確か『スクール』についてだったかしら」


そうだ。ソレソレ。
俺は『壊滅したスクール』について情報が欲しかったんだ。


『スクール』の構成員の中で今現在生きてるヤツは俺とコイツだけってのは知っている。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:14:55.83 ID:UszX2A/O0

俺が知りたい情報は以下の2つ。

スクールが壊滅してからのエージェントからの連絡。
並びに総括理事会からの何かしらの申告。



総括理事会に直接乗り込むのも悪かねぇが、"用なし"とまで言われた俺が行こうが結果なんざ見えている。

大能力者(レベル4)のコイツが知ってる情報量も、たかが知れている。


それでも、どうしても、俺はその情報ってのを知っておきたかったらしい。

60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/24(日) 21:16:04.20 ID:UszX2A/O0

「……意外ね」

1人深く考えていた俺を引っ張りだすように、心理定規は俺に呟いた。


「何がだよ」


「総括理事会があなたを"見捨てた"って事は知ってるんでしょう?
だったら大方、殺される事くらいしか考えていなかったと思ったんだけど」


……………。

言葉が…出てこねぇ。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:16:58.90 ID:UszX2A/O0

言われてみればそうだ。
俺はいわば命を狙われてもおかしくない立場。

それに抗って生きようなんつー考えは丸っきりなかった。
勿論今だってそうだ。


なのに。
俺は情報を求めている。確かに。

短い、少なくとも長くはないであろう命の俺が、何故?

62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/24(日) 21:17:29.31 ID:UszX2A/O0

なんで求めている? なにを求めている?


さっきから頭の中からは疑問詞しか浮かんでこねぇ。

いや、もうひとつあった。


俺の何かしらが変わっているという、確信。
無様に殺されかけ、無様に助けられ、無様に生かされている。


どうやらあのクソ医者に"何か"を揺らがされたってのは本当らしい。


……ムカつく、盛大にムカつく。

俺の表情から怒りと戸惑いの感情を読み取ったのか、心理定規は俺にそれ以上の詮索はしてこなかった。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:18:05.59 ID:UszX2A/O0

「ま、らしくない事してるのもあなたらしいしね。深くは気にしないわ」


俺は気を使われてんのか、ムカつくを通り越して自分に呆れちまう。


「一応これだけは言っとくわ。『スクール』が壊滅してから、私は学生としての生活が可能となっている。
これは、超能力者(レベル5)のあなたに言えるかは分からないけど、理事会からの接触は一切ないということ」



そんな事はコイツの格好を見ていりゃ分かる。
俺にそんな"自由"が与えられるかは別として、大能力者くらいのヤツらには不用意なマネはしないっぽいな。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:18:56.95 ID:UszX2A/O0

「あなたの知りたい事は全部吐いた事だし、話題を変えましょうか」


ケロッと顔色を変え、コイツは何故か目を輝かしている。
やっぱりコイツは掴みにくい。


「学校にいってないのにわざわざ制服を着ている理由が一応あってね…」

「…いや、聞いてねぇよ」


「私、『風紀委員』に通い始めたのよ」




……………はぁ?

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:19:26.83 ID:UszX2A/O0

コイツは馬鹿か?
馬鹿なのか?死ぬのか?


ただ呆けている俺など気にせず、心理定規はペラペラと続ける。


「私、こう見えて暗部に入る前はちゃんと風紀委員の一員だったのよ?
だから、復帰と言うのが正しい表現かしら?」



やっぱりコイツは馬鹿だ。

「常盤台の制服に風紀委員…? 面を割るこれ以上とない手段だなコラ」

66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/24(日) 21:19:53.67 ID:UszX2A/O0

「そう怒らないでよ。それとも、自由すぎる生活に妬いちゃったり?」


「OK、そんなに望むなら愉快な死体に変えてやるよ」


俺は立ち上がり、両手を握り拳に変えて心理定規の頭を挟む形で拳を置く。


「いたいいたいッ!!」

ただひたすらグリグリ。
随分と丸くなってやしねーか…?俺。


「んだぁ?風紀委員サマがこの程度で根ぇあげてんじゃねえぞ!」

「どんなキャラよあなた!!」



かれこれ3分が立った。俺もよく飽きなかったな。

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/24(日) 21:20:34.04 ID:UszX2A/O0

「で?お前がしたかったのは日常の自慢話だけかよ」


「あー、いや、あなたに提案があってね。
聞いてくれるかしら?」

「聞くだけならな」


「あなたにも風紀委員の仕事手伝って欲しいのよね」



………成る程。
どうやらコイツは本当の死体になりたいらしい。

68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:21:12.94 ID:UszX2A/O0

「オイ、何の真似だ?」

「何の真似でもないわよ。あなたに風紀委員の仕事をやって欲しいの。
これはあなたのためでも―――」


言いかけた所で、俺は再び立ち上がる。

右手を心理定規の首を掴む形にして、首のほんの少し前で寸止めする。


「俺のためだ?随分とキマった冗談だな。
こりゃあ笑えねぇ」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:22:22.89 ID:UszX2A/O0

現在時刻は12:44。

昼時の喫茶店で広げているこの雰囲気に、一般人共は何だ何だとこっちを見てくる。


「冗談なんかでもないわ。だってあなた、何か生きる理由を探しているみたいなんだもの。
これはあくまでも"協力"。らしくないままのあなたが、一番あなたらしくないから」

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/24(日) 21:22:50.07 ID:UszX2A/O0

………コイツの目。あの花飾りと同じ目だ。

圧倒的な力を振るおうとする俺を前に、その俺を、ただ真っ直ぐ、
強い眼で見つめてくる。



勘にさわる。その目で見るんじゃねぇ。
俺にすら分からない"何か"をテメェには分かるってのか。

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:24:59.24 ID:UszX2A/O0

「それに……」

それでもこいつは曲がらない。
その言葉にも、強い何かを秘めているような気がした。


「あなたはこれを、"断れない"」


な  に  ?


一見戯言にも聞こえたが、俺は自分の感情に大きな違和感を覚える。

このクソッたれた"提案"を、コイツの言う"協力"を、
「断る」の一言で一蹴できない。

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:25:26.84 ID:UszX2A/O0

瞬間、俺は学園都市第2位の頭脳をフル回転させる。


答えが出てくるのには、一秒もかからなかった。


「テメェ……能力をッ!!」


「…ええ。私とあなたの心理的距離を縮めさせてもらった。
仕事でもないと、流石のあなたにも隙はいくらでもあったからね」

73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:25:57.38 ID:UszX2A/O0

………やってくれたなこのクソアマ。

どうも俺とコイツの交遊関係は、"頼まれたら断れないくらいの関係"に設定されちまったらしい。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/24(日) 21:26:32.41 ID:UszX2A/O0

コイツ……何が目的だ?

死体になりてぇって願望だけとなると、流石にコレは凝りすぎてる。


目的を聞き出そうとする前に、心理定規が動いた。


「言わないと本当に分からないみたいね」

心理定規は俯いてそう言った。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:27:08.71 ID:UszX2A/O0

今の俺なら分かる。今、コイツは何故か怒ってる。


何故気付かないんだ、と。まさにそう言いたげな表情が、俯いていても伺えた。



「私は、あなたに生きて欲しいのよ……帝督…」


……コイツのこの一言。

俺はコレを聞いた時、心理定規が別の誰かなんじゃねぇかと、マジで錯覚した。

76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:27:42.06 ID:UszX2A/O0

「な…に……?」


俺は聞き返す事しか出来ない。
それも府抜けた声で。


「何度でも言うわ。生きて欲しいの。
あなたは生きることに理由を求めようとするから、私はそれを手助けしようとしてるだけ」



……そんなの頼んでねぇ。
頼まれる覚えもねぇ。

もはや大きな世話を通り越してる。

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:28:12.80 ID:UszX2A/O0

だがそれは不思議と、心地が良かった。

いつもなら自分にクソッたれてる所だが、何に対してムカつくような事もない。


それが今まで生きている中で、垣根帝督(俺)が一番人間らしい感情になっているかもしれないと言うことに、俺(垣根帝督)はまだ気付いてない。

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:28:45.72 ID:UszX2A/O0

いつ気付くかも分からない、もしかたら一生気付かないかもしれない。



いつもの調子の俺なら、どんなんだよと一蹴していたのかもしれない。

自分の"感情"を。

79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:29:18.37 ID:UszX2A/O0

「風紀委員って言うのは、生きる理由を求める上では割と上等な手段じゃないかと思うの。
汚れきった手で人を助ける事にも、それなりの意味があるんじゃないか、って」


心理定規は続ける。

俺を説得させてるつもりか?
ハナから能力使っといて回りくどい真似してんじゃねぇ。



それに正直、断る理由はもう無いに等しかった。

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:29:46.25 ID:UszX2A/O0

コイツの能力が一番の原因だろうが、足掻き続けるのも情けないと思ったから、もう拒もうとは思えなかった。


まぁ、全部を引き受けようとも思っちゃいねぇが。


「オイ」


「何?」


「条件が2つある。
1つ目はさっさとこの能力を解け。
解いた直後に断るなんつー真似はしねぇからよ」

81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/24(日) 21:30:18.06 ID:UszX2A/O0

「……分かったわ。あなたとこの距離のままいるのも気色悪いしね。
…で?2つ目は?」


クスクスと笑いながら聞いてくる。
やっぱりテメェはクソアマだ。


「俺がするのはあくまで"手伝い"だ。間違えても風紀委員に入れようなんざ思うんじゃねぇぞ」



「……安心したわ。ようやくあなたらしくなったわね」


これが本当の第二の人生の幕開けなんじゃねぇかと一瞬思ったが、どうせ能力の影響だろうと俺は気には掛けなかった。


96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:27:22.71 ID:pNaFgXLC0


第三章 ー10月14日 3

97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:27:51.30 ID:pNaFgXLC0

「オイ、本当に能力解いたんだろうな」


「今ので何度目よその質問。アンタ自分でも気づいてて言ってるでしょ…」


現在時刻は13:29。

俺達は一悶着あった喫茶店を離れ、第七学区内を歩いている。


大方心理定規が所属している支部にでも向かってんだろ。

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:28:52.30 ID:pNaFgXLC0


「まずは挨拶よ。挨拶」


心理定規は1人呟き、前を歩く。

……まだ1時半だぞ?学生はまだ授業終わってないんじゃねーのか?



「あ、そうそう。ある程度人が集まるまで少し時間あるから、支部内色々回れるわよ」


……必要ねーよ。

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:29:44.99 ID:pNaFgXLC0

久しぶりの俺のうんざり顔を見てか、心理定規はまたクスクスと笑っていやがる。うざってぇ。


「ほら、着いたわよ」

心理定規が立ち止まり、俺は目についた物を見る。

【柵川中学校】


うん。普通に知らねー。

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:30:46.79 ID:pNaFgXLC0

「ここよ、ここ」

校内をスーッと歩いて、再び立ち止まる。
1つの部屋の横には、【第一七七支部】と書かれたプレートが貼り付いてあった。



「手続きやなにやら済まさなくていいのかよ」


「あなたそんな事気にするタイプだっけ?大丈夫よ。それこそ常盤台じゃないんだから」

101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:31:31.84 ID:pNaFgXLC0

適当な相槌の後に、心理定規はポケットから取り出した鍵を使って、部屋へと入っていった。


……狭ぇ。

部屋に入って最初の感想がこれだ。
やっぱり俺に常識は通用しねぇ。

102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:32:14.86 ID:pNaFgXLC0

適当な相槌の後に、心理定規はポケットから取り出した鍵を使って、部屋へと入っていった。


……狭ぇ。

部屋に入って最初の感想がこれだ。
やっぱり俺に常識は通用しねぇ。

103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:33:16.41 ID:pNaFgXLC0

―――そこそこの時間が過ぎた。

俺は退屈にコーヒーを飲み、心理定規はパソコンとにらめっこしている。


「おや、また1人しょっぴきましたの?心理定規さん」

『スクール』時代の"普段"を思わせる雰囲気の部屋の中に1つ。

違う女の声が響いた。

104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:33:57.98 ID:pNaFgXLC0

……何だコイツ。

今ドア開いたか?いいや開いちゃいねぇ。
気付いたら部屋の中にいて、気付いたら声が聞こえてきた。


「白井さん……能力使わないで普通に入ってきてよ…。
それ心臓に悪いんだから」

105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:34:33.72 ID:pNaFgXLC0

白井と呼ばれたこの女。
成程。コイツの能力は『空間移動』(テレポート)か何かか。



「毎度申し訳ありませんわ心理定規さん。
それで……」


……言葉の後に何かこっちをチラ見してきやがった。

喧嘩でも売ってんのか?
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:35:12.98 ID:pNaFgXLC0

「ああ、コイツ? 犯罪者にしか見えないだろうけど、今回はちょっと違うわ。
助っ人って所かしら」


……分かった。喧嘩を売ってんのはテメェの方だったか。
いいぜ、高く買ってやるよ。

107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:35:46.13 ID:pNaFgXLC0

「助っ人……ですの?」

心理定規を殴ろうと立ち上がろうとした俺を今度はまじまじと見て、白井とかいうのが呟いた。


何だ俺、読心能力にでも目覚めちまったか?

コイツの目。フルで俺を疑ってやがる。

108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:36:15.55 ID:pNaFgXLC0

まぁ無理もねぇか。
強いハネが目立つ茶髪(しかも金に近い)に、ホストみてぇなスーツ姿と来てる。

風紀委員にゃあ一番似合わねえ格好だって事くらいの自覚はある。


「ああ。確かに身だしなみはそぐわねぇがバリバリの風紀委員助っ人だ。
垣根帝督だ。宜しくな」

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:36:42.58 ID:pNaFgXLC0

疑われる事なんざさんざん慣れている俺は一切気にせず、適当に挨拶した。


仕事柄は自分の名前を滅多に名乗ろうとはしないが、風紀委員のガキに名乗った所で俺が学園都市の第二位ってことがバレる事はない。


どこぞの第三位や第五位みたく、俺の正体は一般には公開されてないからな。

110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:37:22.17 ID:pNaFgXLC0

「まぁコイツの服装とかにはそれなりの理由があるのよ。
腕前だけは確かだから」


オイクソアマ。それでフォローしたつもりか?

それなりの理由ってだけで風紀委員が納得すると思ってんのか?


無駄に追及されんのだけは勘弁だぞ……。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:37:52.87 ID:pNaFgXLC0

「まぁまぁそうでしたの!心理定規さんが一目おかれる殿方なら問題ありませんわね」


……この女、本当に常盤台かよ。


詮索してこないのは助かるが、一緒に仕事をやる仲ってーとなると少々心配になってきた。

ちょいとカマかけてみるか。

112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:38:22.53 ID:pNaFgXLC0

「白井だったか?お前、コイツが学校行ってねーの知ってんだろ?」


普段俺は初対面の一般人(特に女性)と話す時は猫を被るが、今は被ろうとしない。

心理定規が五月蝿そうだからな。


「ええ。存じておりますわ。
研究協力のため長期の休学だそうで。
風紀委員に顔を出せてるのですからそろそろ復学しても宜しいですのに……」


良かった。
疑りが浅いだけで普通の考えはできるみてぇだ。

常識が通用しねぇのは俺の能力だけで十分だっての。

113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:39:00.26 ID:pNaFgXLC0

「それにしたってよくも名乗りもしない奴と仕事なんざ出来んな。尊敬するぜ」


仕事をやる上で信頼ってのは第一に気にする事だ。
ある程度の信用を得るために、俺は適度な雑談ムードを醸し出す。



横で心理定規が頬を膨らましてたが気にしねぇ。

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:39:36.71 ID:pNaFgXLC0


「心理定規さんにも名乗れない理由があるのでしょう。休学の理由にも関係あるかもしれませんし、深い詮索はしませんわ。
日は浅えど、"仲間"としての信頼はあるつもりですから」



白井はそう言って、心理定規に微笑んで見せた。


……何だ。コイツ、それなりに恵まれた環境にいるんじゃねーか。

115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:44:02.26 ID:pNaFgXLC0

「大した仲間意識だ。こりゃあ本当に尊敬したぜ」



10月9日以降の俺は、本当に何かしらが変わったような気がする。

心情が豊かになり、その本心を吐露できる。



ジジイみてぇだな。 笑えてきた。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:44:34.28 ID:pNaFgXLC0

「お褒めいただき光栄ですわ垣根さん。ですが仲間意識の事なら、ウチの初春が一番強いんですのよ?」


「それは言えてるわね。彼女も第一七七支部だから、少なくとも会うことにはなるでしょう」



まだキャラの濃そうな奴が来んのかよ…。

117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:45:03.37 ID:pNaFgXLC0
そんな、まんざらでもない俺の感情が壊れるまで、あと30秒。



「そういえば白井さん、今朝は初春さんに会った?」


「ええ。登校時にフラッと会いましたわ。やはり昨日と同じで少し体調が悪そうでしたわね……」


「そう…。やっぱり退院して1日後に復帰っていうのは早すぎたのかしら」

118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:45:30.56 ID:pNaFgXLC0

仲間内の他愛もない雑談ムードが壊れるまで、あと15秒。


「病み上がりってやつか。俺はそいつの代わりって事でいいのか?」


「そういう訳じゃないわ。それにいくらあなたでも、ハッキングの能力じゃ初春さんの足元にも及ばないしね」



心理定規の戯言に軽く毒づこうとした時が、終わりの合図だった―――。

119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/25(月) 20:46:03.15 ID:pNaFgXLC0

「すみませーーん!!遅れちゃいまし―――」

ドアを勢いよく開けて出てきた少女。
俺がコイツの顔を見るのは、これで三度目。



目が会って、そして花飾り(初春飾利)も俺(垣根帝督)も、共に表情を凍らせた。


131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:20:14.76 ID:zthO/UpI0

「えっ――な んで――」

花飾りの目の色は"絶望"。
風紀委員という仕事の場で俺と対面したのが原因。

132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:20:48.30 ID:zthO/UpI0

「…………」

俺の目の色は"憤怒"。

何故コイツがこの支部にいる。

まさか、心理定規は全て分かっていて俺をここに連れてきた―――?


133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:21:28.62 ID:zthO/UpI0

妄想枠が広がり、心理定規に問いかけようとしたが、それは叶わなかった。


「う?い?は?る??? 何でそこで立ち止まってますの?遅れてる事に自覚があるなら、さっさと手を動かして下さいな」


「初春さん、もしかしてコイツの形相のせいで立ち止まっちゃってる?
ごめんなさいね。こんなんでも一応助っ人ってやつなのよ」

134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:22:15.96 ID:zthO/UpI0


これこそ本当に他愛のない仲間内の雑談。

やっぱり読心系の才能あるのかもな。

白井はともかく、心理定規も何も知っちゃいねぇ。


冗談まじりの白井の怒りも、冗談まじりの心理定規からかいも、この花飾りには聞こえちゃいない。


当然俺にも、大して聞こえやしなかった。

135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:23:05.17 ID:zthO/UpI0

現在時刻、15:42。

「…………」


風紀委員第一七七支部の部屋には、沈黙が広がっていた。


事件簿やら何やらをペラペラめくる俺と、パソコンをカタカタと打ち続ける花飾り。

136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:23:41.34 ID:zthO/UpI0

そして、その雰囲気に耐えられないと言わんばかりに繰り広げる心理定規と白井のヒソヒソ話に、当然俺達は気づいていない。



「(なんなんですのアレ?やっぱり初春の様子がおかしいような……)」


「(それはウチのヤツだって一緒よ。あんな雰囲気、"仕事"でも滅多に見なかったわよ……)」


「("仕事"?)」


「(ううん、気にしないで白井さん。
こっちの話)」

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:24:13.72 ID:zthO/UpI0

それからも数分たち、とうとうこの2人は何かを思い付いたらしく、俺と花飾りに切り出してきた。


「そうですわ!!交流を深めるという面でも、これからの信頼関係を築く土台にするためにも、初春と垣根さんで第七学区の巡回を頼みたいですの!」


「いいわねソレ!なんか2人とも一言も喋ってないし、この機会にどうかしら?」



本当になんなんだコイツら。
…………言葉が出ねぇ。

138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:24:42.72 ID:zthO/UpI0

言葉こそ出さなかったが、考える様なことはいくらでもあった。


俺が花飾りと巡回?何故?

見れば俺とコイツの関係はギクシャクしてるっつー事ぐらいすぐにでも分かる筈。

増して心理定規は俺がどういう人間かを知っている。

俺が他人と馴れ合って仲が良くなるような人間じゃないって事を。

139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:25:16.15 ID:zthO/UpI0

そしてこの花飾りはこの提案をすぐ断らない。何故?

疑ってみたが、聞こえていない訳じゃなさそうだ。

何か言いたそうな、しかし戸惑いを含んだ表情が伺える。


早く言っちまえよ。「イヤです」って。
早く断ってくれよ。このクソな提案を。

140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:25:57.82 ID:zthO/UpI0

そして、コイツの口は動いた。

俺の予想と期待の、正反対な言葉を言うために。


「…いいですね、ソレ。垣根さんさえ良ければ、お願いします」



…………。
前言撤回だ。俺に読心系の才能はねぇ。


コイツの目を見ても、なにも分かりゃしねぇんだから。

141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:26:36.72 ID:zthO/UpI0

訳が分からなかった。


コイツの言葉の意味も、コイツの意思も、
そして、俺の可笑しな思考も。


俺は一瞬、ほんの一瞬、
コイツの言葉に賛同していた。

142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:27:12.15 ID:zthO/UpI0

いや、それはまだ続いているのかもしれない。

それは、否定してないから。否定しないから。


俺が、コイツと同行するということに。


理由なんか……知らねぇ。

143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:27:59.33 ID:zthO/UpI0

少なくとも罪滅ぼしっつー考えは微塵もない。

そもそも"罪"となんざ思っちゃいねぇんだから。


だが、俺は行こうとしている。
コイツと歩こうと、コイツと話してみようと思った。



そして俺は、ようやく重い口を開く。

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:28:32.02 ID:zthO/UpI0

「オイ、心理定規」


「な、なにかしら?」


「腕章よこせ。どうせ俺の分もあるんだろ? 助っ人だろうが腕章は必要みたいだしな」



馬鹿みたいな吐き台詞だ。
我ながら、似合わねぇと自覚したよ。

145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:29:10.77 ID:zthO/UpI0

現在時刻、16:06。

第七学区の裏路地に、足音が響く。

「………」


巡回を始めて約5分、俺と花飾りは一切口を聞いてない。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:29:38.81 ID:zthO/UpI0

何か言おうとしてるのか、このままだんまりを通し続けるのか。

そんな事に興味はなかったが、コイツの考えてる事には興味があった。



ロクな関係も持たない(だろう)最終信号(ラストオーダー)を命懸けで守り、
今度は命を狙った俺の隣を歩いている。

俺が言うのは酷だが、常識的に考えて正気の沙汰を越えている。

147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:30:39.65 ID:zthO/UpI0

「あの……」

俺の耳に届いた花飾りの声は、心なしか震えていた。


「なんだよ」


震えてるクセに、怖いクセに、それでも俺の隣を歩き続ける。

ムカつくとと共に、もはや感心すらしていた。

148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:31:14.12 ID:zthO/UpI0

「あなたは……一体何なんですか?」



………は?

オイオイ、随分と奇抜な質問だな。

本当に感心しちまう。

149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:31:43.08 ID:zthO/UpI0

「どういう意味だよ」

こうとしか返答の仕様がなかった。


悪党と名乗ろうともしたが、一瞬俺の脳裏に白いクソ野郎が浮かんだからすぐさま止めた。

ウゼェんだよ。テメェが俺の脳裏に現れんじゃねぇ。

150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:32:13.00 ID:zthO/UpI0

「そのままの意味です。あなたは誰で、あなたは何がしたいんですか?」


声の震えはもうなかった。

根強く聞いてくるコイツにイラついた俺は、最初に出会った日(10月9日)を引き合いに出す。



「名乗らなかったっけか?"お嬢さん"、
垣根帝督って言うんだけど」

151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:32:47.86 ID:zthO/UpI0

俺はわざとあの日と同じように振る舞う。

コイツはどう反応する?


あの日を引き出した俺を最低だと思うのもいい。

あの日を思いだし、苦痛を表情に残すのもいい。

あの日に俺が残した傷が疼き、痛みに震えるのもいい。

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:33:18.14 ID:zthO/UpI0

「ああ、そうでしたね。思い出しました。"外道でクソ野郎の垣根さん"」



まさか、こんな言葉が出てくるなんざ思ってもいなかった。

俺はどこまでコイツの肝に驚かされればいい?

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:33:58.63 ID:zthO/UpI0

外道のクソ野郎。

これも俺が10月9日にコイツに吐いた言葉だった。

ここで俺はようやく気付く。

この花飾り、真正面から俺と向き合うつもりだ。

154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:34:25.77 ID:zthO/UpI0

それこそ何がしたいんだよと心底思う。

ただ俺も引き下がるつもりは毛頭ない。


「そういえばまだ君の名前を聞いてなかったな、お嬢さん」


上等じゃねぇか。

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:35:09.30 ID:zthO/UpI0

外道のクソ野郎と分かっていて、救い用のない悪党と分かっていて、それでも向き合うってんならとことん相手になってやる。


「お嬢さんじゃありません。初春飾利です。宜しく、垣根さん」


「初春っつーのか、俺が何をしたいのかも聞いてたよな」


ここらで猫被りを止め、毒づくように吐き捨てていく。

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/27(水) 20:35:49.48 ID:zthO/UpI0

「テメェと向き合ってやるよ。その気に食わねぇ目に、テメェの思考に付き合ってやる。
こんな形でクソ外道に目ぇ付けられた事を一生悔いやがれ」


直後、
ようやくコイツと同じ土俵に立った。

そんな、そんな気がした。


164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:21:29.86 ID:DgjgmlUY0


行間 二 ー10月16日。

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:22:11.35 ID:DgjgmlUY0

『窓のないビル』

出入口どころか窓の1つすらないビルの中に、『人間』と『何か』がいた。

『人間』の名はアレイスター=クロウリー。
学園都市の統括理事長であり、最強の魔術師。


『何か』に名はない。
強いてコードを言うなら、『ドラゴン』
アレイスターが言うなら、『エイワス』

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:22:38.15 ID:DgjgmlUY0

双方共に明確な存在としては危うい存在が、確かに言葉を交わしていた。


「まるで第二候補(スペアプラン)を遊ばせてるみたいだな、アレイスター」


「――なに、彼の私的な役割は10月9日の時点で終わっている。『未元物質』も一部保管され、既に研究も始まっている。
彼のプライベートを潰すほど私にも暇はなくてな」

167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:24:07.22 ID:DgjgmlUY0


不適な笑みを浮かべ、アレイスターは1つのモニターに視線を移す。


エイワスもそれに連なり、更に言葉を乗せた。

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:24:38.90 ID:DgjgmlUY0


「そのわりに、随分とそぐわないgjbをahqwるじゃないか」


ノイズが走るエイワスの言葉に感情は一切ない。

それは当然、アレイスターの表情にも言えた事だった。

169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:25:04.51 ID:DgjgmlUY0

「これは彼のプライベートじゃあない。第二候補の第二の仕事さ」


「ふむ。それが10月17日に予定されてる所を見ると、まだ君は彼を第一候補(メインプラン)とぶつけるつもり、と思っていいのかい?」




感情のない問いに、感情のなかったアレイスターの口元が僅かに歪む。

170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:26:35.53 ID:DgjgmlUY0

「いいや」

否定の言葉を置き、アレイスターは続けた。


「垣根帝督がつまらない人間関係を持ち始めている。これに至っては一方通行にも言える事だが、垣根帝督のは"一般人"だ」


「久しぶりに君の言いたい事がさっぱりだな、アレイスター」

171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:27:55.15 ID:DgjgmlUY0


「――彼は色々と勘違いしている。私は彼を殺しはしないし、本質そのものは第一候補に匹敵するとも言える」


そこで。と、アレイスターは置き、


「彼の"本質"を試す。人間性と『未元物質』が、そのつまらない関係でどこまで変わるのかを、どうしようもない"研究者"を使って」

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:28:31.18 ID:DgjgmlUY0

エイワスはアレイスターの言葉の真意を詮索しようとはしない。

アレイスターの言う垣根帝督が持ち始めた関係など、まともな関係じゃないばかりか期間など一週間にも立たないのだ。


だが"研究者"としてモニターに移った人物の名前を見て、エイワスは目を張る。

感情のな い表情に、

わずかな、歪みが生じた。

173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:29:01.98 ID:DgjgmlUY0


―――その研究者の"名"は"その分野"で知らない者はいなかった。


―――その"名"を持つ者はどんな形であれ科学に愛され、科学を悪用しなければならない運命にあった。


―――そしてその殆どがどうしようもなく残酷で、どうしようもなく卑怯で、どうしようもなく外道。

174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/28(木) 17:29:53.54 ID:DgjgmlUY0




―――総称されるその冠し名は―――



  ? ?   『木原』




180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:05:39.81 ID:WKQsOsm70

現在日時、10月16日 9:36。

花飾りに啖呵を切ってから2日が立った。
正直昨日の事は思い出したくない。


心理定規と白井(と変なメガネ)が立ち上げた変な企画のおかけで俺はさんざん振り回されたあげく、花飾りを俺の"先輩"としてずっと付き添わせやがった。

181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:06:15.26 ID:WKQsOsm70

認めたくねぇが、俺は頭が良い割にかなり不器用らしい。


事務的な仕事なんざやったことないもんだから色々とミスったあげく、花飾りに変な目で見られた。


死体になりてぇのか花飾り、と言ってやったが、
『ミスの八つ当たりなんてみっともないですよ垣根さん』

だとよ。

182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:07:23.46 ID:WKQsOsm70

コイツの掴みにくさは心理定規の数段上を行ってやがる。




そして今、俺は心理定規に呼び出され第一七七支部にいる。

白井や花飾りは学校。
制服姿の心理定規が普通に支部にいていいのかとことん心配になる。

183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:08:01.56 ID:WKQsOsm70

「…で、話しておきたい事なんだけど」


心理定規の第一声で俺は硬調する。

………"仕事"の時の顔してやがる。


「よくない情報が入ったのよ。『暗部』絡みでね」

184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:09:04.24 ID:WKQsOsm70

色々よぎった考えはあったが、ひとまず簡単に吐き捨てる。


「何でココでんな話をする。わざわざ呼び出してまで、理由らしい理由でもあるんだろうな」


「あなたが受け入れるような理由なんてないわよ。 強いて言うなら活動しやすいから?
白井さん達は学校、そしてココには多数のコンピューター。
知ってる?ここのコンピューター、初春さんが使うモノ以外殆ど細工してるのよ」

185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:09:32.08 ID:WKQsOsm70

「花飾りに覗かれるかもしれない程度のセキュリティかよ。
こりゃあ『暗部』の情報が引き出せるって訳じゃなさそうだが」



「そこまで大層なモノでなくても、期待できないものでもないわよ?
『スクール』の時に経由していたネットワークを一時的に借りてるの。
所詮、"用済み"の私たちに出来る事なんて限られてるけどね」

186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:10:45.86 ID:WKQsOsm70

ここで一瞬、俺は我に帰る。

俺は長く居座り続けた『闇』に、今まさに帰っていた。


そしてそれはどうしようもなく居心地が悪かった。

こんな感情を抱いたのは恐らく初めてで、
その感情が俺の求める"何か"に関与しているかなんて事には、俺は気にもかけなかった。

187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:11:23.43 ID:WKQsOsm70

「………なんなんだよ。その噂ってのは」



モヤモヤする心境を払うためにも、俺は心理定規に質問した。


「まず、10月9日に『スクール』が壊滅したのと一緒に、『グループ』以外の暗部組織は壊滅されたの」

188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:12:03.72 ID:WKQsOsm70

その程度なら予測できた。

少なくとも俺を"惨殺"したクソ野郎がいる『グループ』は暗部同士の潰し合いくらいじゃ消えそうにない。

それこそ上層部に直接啖呵を切らない限りは。

189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/29(金) 21:12:43.44 ID:WKQsOsm70

それに足して、『メンバー』のリーダー(名前忘れた)に至っては俺自ら殺し、『アイテム』も俺の攻撃が響いたのだろう。


他の組織は大方『グループ』に潰されたか。



「で?何で今更潰れた組織の名前を引き出す。まさか、仲良く元通りする事になりました、ってか?」

190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:14:08.73 ID:WKQsOsm70

ケラケラとかます俺だったが、心理定規の表情に変わりはない。


よぎった嫌な予感は、すぐさま心理定規の言葉が具現化してくれた。



「元通りって言うんじゃないけど、……あながち間違いでもないのよね…」

191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:14:39.72 ID:WKQsOsm70


切なそうに呟くコイツの心境は理解できなかったが、俺も変な疑問を抱えていた。



―――戻る? あの、『闇』が?

192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:15:15.45 ID:WKQsOsm70

俺達に闇が戻ってくる。
結構な事じゃねぇか。


さんざんに居座り、手を汚し、こだわり続けた俺の唯一の居場所。


それが、何故、
こんなにも不愉快に感じる?

193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:17:21.27 ID:WKQsOsm70

分からねぇ。

もう全部、何もかも理解不能。



1人で悶えている俺に言う、心理定規の情報は大して耳に入っちゃいない。


『グループ』以外の組織の残党が結成されようとしてるとか、
『猟犬部隊』(ハウンドドッグ)の残党が動き出しているとか、

194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:17:52.16 ID:WKQsOsm70

もうそんな事はどうでも良かった。


俺を巻き込むな。静かに寝かせろ。

さんざん人をコキ使い、さんざん人を殺してきた俺が何を言ってんだか……。

195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:18:24.25 ID:WKQsOsm70

それでも、俺は壊れないことを、何事も起こらない事を望んでいた。

この、"居場所"を。



………、居 ?場 ?所 ??

196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:19:18.13 ID:WKQsOsm70

そんなこんなで時間は過ぎていく。

現在時刻、12:31。



俺と心理定規は柵川中の食堂にいた。

適当に風紀委員の事務を行い、適当な時間に昼食をとる。

変鉄すぎる常識に、俺は浸っているのかもしれない。

197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:20:04.24 ID:WKQsOsm70

食堂で花飾りと会った。
アイツここの中学だったのかよ…。

加えて花飾りと一緒にいた中学生が俺をまじまじと見てきやがる。


「うーいーはーるー?このイケメンさんとは一体どんな?どんな!?」

「佐天さん!?そ、そういうんじゃありませんって!」

198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:20:46.21 ID:WKQsOsm70

そんな事はどうでも良く、アイツに巻かれていた包帯は取れていた。


加害者の俺はあえて何も言わなかったが、わざわざ被害者のアイツが俺に言ってくる。


「治りましたよ垣根さん! これで事務の手伝いはかどりますね!」


無邪気に、それも平然と言うが、この花飾り本当に大したモンだ。

199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:21:42.51 ID:WKQsOsm70


俺は「助けなんざ必要ねぇよ」とあしらうが、やっぱりこれは居心地が良かった。


……余計にモヤモヤする。

俺は、何を―――?




そんな、迷路に捕まった俺を、
引っ張り出すように、事件は起こった。

200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:22:29.32 ID:WKQsOsm70

それは、爆発。

場所の詳しい特定はここからじゃ難しいが、少なくとも柵川中内であることに違いはない。



それがどういう意味を表すのか、俺にはすぐに分かったよ。
おそらく、心理定規もそうだろう。

どんだけ暗部やってきたと思ってんだ。

201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:22:57.73 ID:WKQsOsm70

花飾りは他の生徒と同様この現状に頭が追い付いていない。


コイツ、こういう時は普通のヤツと同じなのかよ………。



何はともあれ、俺と心理定規は動く。

動かなきゃならねぇ。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:23:44.61 ID:WKQsOsm70

「(オイ、お前は花飾りを含むここにいる生徒の避難とケアを出来る限りとれ)」


心理定規にしか聞こえない程の声で、心理定規に聞かせるためだけに囁く。


「(あなたはどうするつもり?)」

203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:24:54.59 ID:WKQsOsm70

「(奴さんのオーダーに答えてやろうじゃねえか、前菜なんかで満足してんじゃねぇっての。
メインディッシュ自ら顔出してやる)」



そして、俺は一旦戻っていく。

血肉にまみれた、闇へと。

204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:25:25.92 ID:WKQsOsm70

ひとまず俺は柵川中の外に出ていた。

奴さんの標的は恐らく、いや、
十中八九は俺だろう。


とうとう迎えが来たって訳か。

205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:25:55.19 ID:WKQsOsm70

一番納得のいく、一番合理的な結末に、どうしてもイラつきが生まれる。


これ以上の事は考えねぇ。

今感情論をぶちこめば、俺は壊れてしまいそうだから。

206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:26:28.45 ID:WKQsOsm70

柵川中周辺を歩いていると、1人の女を見つけた。


ソイツは20代の女性だった。
ソイツは車椅子に乗っていた。
ソイツの服装は緑色のパジャマだった。

そして、ソイツの目と出で立ちには、深い"何か"を感じた。

207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:27:56.45 ID:WKQsOsm70

「失礼、お姉さん。さっきそこの学校で爆発があってね。危ないから避難しておいた方がいい」


俺は肩の腕章を見せる仕草と一緒に女に注意した。

当然、マジの善意剥き出しでこんな事をやっている訳ではない。
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:28:37.46 ID:WKQsOsm70

「あら、風紀委員の方ですか。大きな音がしたものですから驚いてしまって」


パジャマの女はペコリと頭を下げ、車椅子の方向を逆回転させる。



「そのお体だと移動も一苦労でしょう。
車椅子を押すくらいの事はやらせて下さい」


俺は最も風紀委員に適していない意志で、最も風紀委員に適した対応をする。

209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:29:05.34 ID:WKQsOsm70

「あらあら、では、お言葉に甘えさせてもらおうかしら」



その後、俺はパジャマの女が指定した場所まで車椅子を押し続けた。


そこは人気が少なく、第七学区なのかも怪しい場所だった。

210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/06/29(金) 21:29:56.61 ID:WKQsOsm70

「もうここで大丈夫ですよ、迎えが来るので。どうもありがとうございます」



「そうですか。では、失礼しますね」


そして、


「ああそうだ、お姉さん。言い忘れていた事があるけど」

211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/29(金) 21:30:32.79 ID:WKQsOsm70


俺は、


「テメェが注文者って事は分かってんだよ、クソボケ」



本当の意味で、
闇へと帰っていく。



219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:49:22.11 ID:kV6MqW7d0


第五章 一10月16日?。

220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:50:19.94 ID:kV6MqW7d0

砂嵐が吹き荒れる。

原因は俺が適当な一発を女にくれてやったから。


「ククク…ッ」

砂嵐から声がする。

221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:50:56.78 ID:kV6MqW7d0

あの程度じゃ死なねぇか。
まぁ当然と言えば当然だろ。

わざわざ第二位を注文して来てんだ。少しくらい楽しませてくれなきゃ価値が合わねぇよなぁ?



「ばれてましたかぁ……。まぁ…」

222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:51:27.61 ID:kV6MqW7d0

女の姿が視界に入る。

右手を口元にあて、ケラケラと笑ってやがる。

成る程、第一位に引けをとらねぇイカれっぷりと見える。


「ば・れ・て・し・ま・っ・て・は、仕方がありませーん!」

223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:52:07.86 ID:kV6MqW7d0

車椅子ではありえない速さと、ありえない形相でパジャマの女は俺に迫ってくる。


あまりの勢いに反射的にもう一発かましたが、ヤツの動きを止めただけで見た所外傷は1つもない。

224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:52:47.23 ID:kV6MqW7d0

「『量産型能力者(レディオノイズ)計画』を蒸し返すような呼び方で気は引けますが、"私は"あなたをこう呼んだ方がいいんですかねぇ?
オ・リ・ジ・ナ・ル」


ゾッ、と、

コイツの持つ『何か』が、俺には見えた気がした。

225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:53:14.10 ID:kV6MqW7d0

「あのスライム計画まで知ってやがんのか……。
テメェ…"誰"だ?」

この時点で俺の警戒度はMAXと言っても良かった。

少なくとも、コイツは雑魚じゃねぇ。
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:53:42.47 ID:kV6MqW7d0

長く居座り続けた暗部で培われてきた感覚が、俺を奮い立たせる。



「あー、どこから説明したらいいのかしらね?でもでも、私が名乗っちゃえば大体分かっちゃうからそれでいいですかね」

227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:54:11.13 ID:kV6MqW7d0


まただ。

コイツから一瞬見える『何か』が
、俺を襲う。

その『何か』が何なのかも、コイツが名乗ったと共に判明した。


228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:54:44.66 ID:kV6MqW7d0

「『木原』」

「……へぇ」


「第二位がこの名をしらない筈ありませんよねぇ? では改めて自己紹介しましょうか。木原病理と申します。宜しく、第二位さん」


229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:55:12.43 ID:kV6MqW7d0

知らない筈はなかった。

『木原』
あのクソ一位の研究にも携わった一流のゲス共。


……ああ、そうか。

今の今までコイツが放ってた気味の悪い『何か』は『木原』だったのか。

230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:55:40.67 ID:kV6MqW7d0

俺は『未元物質』の出力を最大にする。

一気に潰す。

これ以外に方法などいらなかった。

俺が未元物質を最大出力で振るう時何故か六枚の白い翼が展開する。

231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:56:10.99 ID:kV6MqW7d0

似合わねぇって?
安心しろ、自覚はあるよ。


その翼を木原病理に向けて叩きつける。
いたってシンプルな攻撃だった。


しかし、

232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:56:52.61 ID:kV6MqW7d0

「いきなり全力ですか。そういうのマジでさむーいんですが」


「…なに?」


受け止めていた。

翼の一撃を、未元物質を、確かに木原は"両手で"受け止めてやがる。

233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:57:19.31 ID:kV6MqW7d0

疑問を浮かべてる暇などなかった。


肉が軋む音がする。
音源は木原の両腕。

警戒した俺は翼を離し木原との距離をとる。

234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:57:46.93 ID:kV6MqW7d0

直後、木原の腕からミサイルが発射される。

俺には見えた。あのミサイルに書かれた文字を。

Made_in_KIHARA.

235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:58:14.20 ID:kV6MqW7d0

ちゃちな攻撃にしか見えんが、『木原』となれば話は別だ。


放たれた2つのミサイルは俺を追ってくる。

俺は未元物質を構築、応用しこの世には存在しない太陽光を木原とミサイルに向けて放つ。
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:59:21.59 ID:kV6MqW7d0

ミサイルは瞬間に爆発したが、木原に大した外傷はない。

……アイツ、皮膚まで改造してるってのかよ。

こりゃあ全身が改造されてると見ても間違いじゃなさそうだが……。

237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/01(日) 23:59:55.08 ID:kV6MqW7d0

「あらあら、女性の肌をなんだと思ってるんですかねー」


「改造人間がなに抜かしやがる。見せてみろよ。まだこんなもんじゃねぇんだろうが」


「イロイロ諦めてきた病理ちゃんにそれ言っちゃいますー?私から攻撃仕掛けるなんて気が引けますがねぇ…」

238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/02(月) 00:01:31.81 ID:nvASZ/aV0


御託はいいよ、怪物。

見せてもらおうじゃねぇか、『木原』がどの程度の代物かをよ。



245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/03(火) 21:25:29.23 ID:L3DBTRzP0



と、その前にだ。
聞いときてぇ事があったな。

「テメェ、"オリジナル"ってなぁどういう意味だよ」


「あー、それですか? なんかぁー、いきなりネタバレってのもつまらないですよね??」

ドス黒い瞳にドス黒い笑みでコイツは俺に言う。

うざってぇ。やっぱとっとと殺すか?

246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/03(火) 21:26:21.72 ID:L3DBTRzP0

「なので……」

木原の声が届く。
明確な殺意が肌に届く。


「ネタバレは、お・あ・ず・けでぇぇえす!!」

瞬間、木原は車椅子から取り出したスイッチを押す。

出てきたのは、やっぱりただのミサイルだった。

247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/03(火) 21:27:13.95 ID:L3DBTRzP0

「舐めてんのか?」

思わず口に出してしまう。
木原製だろうが、もう底が見えている。

この程度で、二位の前に立つつもりか?

『未元物質』を使い、俺と木原の間で大きな爆発が起こる。

「そうですねぇ。私はあなたを殺し合いに来た訳じゃありませんし?」

巻き上がる煙の中から声がする。
見えなくても分かる。コイツは俺を見透かしてる。

248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/03(火) 21:28:42.55 ID:L3DBTRzP0

「物騒な兵器抱えてよく言えんな。
だったら何しにきたってんだよ」


「そうですねぇ。諦めさせに?」


諦め?何をだよ。
言葉に出してないのに、木原は分かったかのように続ける。

「『諦め』の餌ってのはあちらこちらにも転がってるんですね?。ほら、あんなのとか」


249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/03(火) 21:29:35.26 ID:L3DBTRzP0

木原が指差したその先。
それを見て、俺は何故か目を見開いていた。

「こ、この辺だよね初春?爆発あったの」

「待ってくださいって佐天さん!親友としても風紀委員としても、ここに居るのは許可できません!危険ですよ!!」


250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/03(火) 21:30:29.98 ID:L3DBTRzP0

あのバカども……ッ。

一番闇から遠い奴らが、一番闇に近いこの場へと確実に近づいて来る。


もう自分の感情にクソったれるのはやめだ。

俺のイザコザに、『一般人』を巻き込みたくない。
それでいい。

理由を付けりゃ、俺にも……人を、助けられる筈だ。

251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/03(火) 21:31:23.95 ID:L3DBTRzP0


「…なんて顔してるんです?オリジナル」

まだ距離がある花飾りを注視していた俺に木原は言う。

ここで一番、『闇』の雰囲気を感じさせて来る。

「一位に続いてアナタもですか?止めてくださいよ。暗部なんて小さい容器に入らないアナタ達が他人を守る?助ける?
いやいや、サムいどころじゃないんですが……ねッ!」


252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/03(火) 21:32:08.64 ID:L3DBTRzP0

木原がとった行動は、単純と言えば単純で、複雑と言えば複雑だった。

何の咎めもなく、兵器を花飾り達に放ったという単純。

コイツの言う『諦め』のためだけに、闇が光を襲うという複雑。


大分距離は縮まってきて、花飾りとサテン(だったか?)がようやく身の危機を察した。

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/03(火) 21:32:55.28 ID:L3DBTRzP0

「…チッ!」

俺は即座に反応する。狙われてる花飾り達が兵器に気づくより、ずっと早く。

花飾り達と数十メートル離れた位置で、ミサイルを受け止める。

俺の後ろにいる花飾りとサテンがどんな顔をしているのか、

俺は知らない。

254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/03(火) 21:33:57.29 ID:L3DBTRzP0

俺は翼を広げていた。

闇のくせして、光をも思わせる白い翼が、汚れを知ってはいけない光を守るために。


木原はため息をついていた。

闇が何をやっている?と、ドス黒い瞳が、ただただ俺を見つめる。


花飾りは……。
俺の名前を読んでいた気がした。

木原に敵意を丸出しにしていたためか、後の事は知らねぇ。


260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/04(水) 22:45:53.15 ID:c4eDXZIV0

「はぁぁぁぁああああ」

大きなため息が一つ。

B級、いや、C級映画を見た後のような表情と雰囲気。

「大体分かりましたよ。まぁ最初から予想はいくらでもしましたけど。
あなたの浸ろうとしてるもの……」

261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/04(水) 22:47:11.32 ID:c4eDXZIV0

俺としては、もうどうでも良かった。

さっき理由があればとか何とかとも思っていたが、それも全て撤回だ。

本能が、確かに助けろと促している。

それがありゃぁ、十分だよ。
コイツを、木原病理を、潰す。

262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/04(水) 22:48:05.73 ID:c4eDXZIV0

しかし、

木原から全くと言っていいほどに戦意を感じない。


「なんか酷く萎えてしまいましたよ。
諦めさせるのは一旦諦めますかねぇ」


悠長に流れて行く言葉が、俺のカンに触る。

263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/04(水) 22:49:24.61 ID:c4eDXZIV0

「まぁ」

やる気のない声。
うざったい、今すぐに頭を叩き潰してやりたい。

「ここは引くとましょうか。
お姫様の前で、化けの皮はがしたくないでしょ?騎士(ナイト)さん」

わざとらしく木原は笑う。後ろで花飾りがどんな心境なのかなんて知らない。

「とことん舐めてやがるな。ここまでかき回しといてんな理由で帰すと思ってんのか?」

264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/04(水) 22:50:25.72 ID:c4eDXZIV0

「ええ、帰らせていただきますよ。そのためにも……」

コイツから笑みは消えない。
最初からそうだ。この余裕は何だ…?


「どっかーん」

……あ?

木原の腑抜けた一言に、思わず敵意を緩めてしまう。

265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/04(水) 22:52:10.05 ID:c4eDXZIV0
直後、

轟ッッ!!!

マジの爆発が、そう遠くないどっかで起きた。


「ッ!!」

思わず片目を瞑ってしまう。
理由?それは爆発の音が響き過ぎってくらい耳に届いたから。

ぶっちゃけた所、俺や花飾り達を狙った攻撃ではない。

しかし、この爆発により敏感に反応したのは、花飾り達だった。

266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/04(水) 22:53:00.84 ID:c4eDXZIV0

「佐天さん……あの方向って…」

「うん……」

二人の表情が、深刻さを増す。
この距離ならまだ聞こえる。聞こえる。


「私たちの寮…だよね…」


な に ?
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/04(水) 22:53:59.20 ID:c4eDXZIV0

木原は笑っているまま。

コイツ……何を考えてる?

俺が言えた義理じゃねぇが、行動の根端が見えねぇ。

「解せなさそうですねぇ。オリジナル」


「…当然だ。まるで訳が分からねぇ」

268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/04(水) 22:54:47.25 ID:c4eDXZIV0

「別に"今"はそれでいいですよ。
今日は私帰りますし」

……これ以上話しても無駄みてぇだ。
色んなイレギュラーを見てきた俺の直感。

逃がさねぇと吠えた所で、コイツは何かしらの手段でこの場を巻く。

しかし同時に、こんな直感もあった。


コイツは、また、俺を『諦め』させに来る。

269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/07/04(水) 22:56:00.38 ID:c4eDXZIV0
根拠もクソもねぇ。
だって直感なんだ、仕方ねぇだろ。


「では、また"お会いしましょうね"。オリジナル」

そんな言葉は俺には聞こえちゃいない。

ただ木原がこの場からいなくなるのを、ただ確認する。


ただ、それだけ。



278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:40:11.96 ID:XPA1HtE90


第六章 一10月16日?。


279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:41:00.17 ID:XPA1HtE90

「か、垣根さん!」

オドオドした声で、花飾りが俺に近づいて来る。

テメェ、いつもの威勢はどうしたんだよ。

「あぁ?」

適当に反応する。
ヤクザみたいだ、笑えてきた。

280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:41:39.48 ID:XPA1HtE90

「だ、大丈夫なんですか?」


……は?

一瞬、「アタマ大丈夫か?」と聞かれたようにも聞こえたが、花飾りの表情からそうではないと確信できた。


コイツ…俺を"心配"してやがる。

281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:42:27.55 ID:XPA1HtE90

それは紛れもない"迷惑"だった。
誰を心配してんだ。俺は学園都市の第二位だぞ。


それは紛れもない"不可解"だった。
本当に解せねぇ。俺はお前を殺そうとした悪党だぞ。


そして、

それは、紛れもない。

居心地の良さーーーー。

282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:43:22.39 ID:XPA1HtE90

「……ハッ」

どれもこれも口には出さない。
出してしまえば、俺は自覚してしまう。

「お前らが出しゃばってこなきゃ、今頃アイツの死体が転がってたっての」

俺の求める、"なにか"を。

283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:44:02.17 ID:XPA1HtE90

「で、ひとつ気になってんだけどよ」

紛らわすように、しかし自然に、俺は花飾り達に言葉を放つ。


「いいのか?寮の様子見に行かなくても」

「「あ」」

284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:45:01.44 ID:XPA1HtE90

花飾りとサテン、しまったといった顔つきで互いを見つめる。

「あわわわ、そうですよ!この後どうなっちゃうんですか佐天さん!?私野宿なんて嫌ですよ!」

「初春!?わ、私に聞かれても分からないよ!」


……花飾り、お前が凄い奴なのかそうじゃないのか、
やっぱりよく分かんねぇよ。

285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:45:37.37 ID:XPA1HtE90

「とりあえず様子見に行ったらどうだ。てか、俺を一人にしてくれ」

ヒラヒラと手を振る俺は、二人が寮の方まで行くのを見守る。

二人が視界から消えた事を確認すると、俺は背を向いたまま呟いた。


「いい加減出てきたらどうだ。心理定規」

286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:46:13.68 ID:XPA1HtE90

「あ、やっぱり気づいてたの?いつから?」

「最初からだボケ」


このやりとり。『スクール』では良くあった事だ。

しかし、その時とは雰囲気も気分もまるで違う。

良い意味でも、悪い意味でも。

287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:47:12.69 ID:XPA1HtE90

「『木原』を持ってきたのは流石に驚いたわ。
統括理事会は一体何が目的なのかしらね」

「…知るか」

本当、この一言だった。

もうあれこれ考えねぇ。

一般人をコッチに巻き込まない。
これだけ頭に入れるだけで十分だ。

288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:48:03.53 ID:XPA1HtE90

「それで?」

「…あ?」

「ゴタゴタまみれだった訳だけど、風紀委員には行くのかしら?
この事件は何かしらの形で探られるだろうし、やめとく?」

一瞬、
いや、数秒、言葉が詰まる。

答えは出てる。 が、まだ俺はその考えに理由をこじつけようとしている。

289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:48:38.27 ID:XPA1HtE90

分かってる。
理由なんていらない。 考えた所で答えなんか出やしない。

"本能"なんだ。仕方ねぇだろ。


「行くさ」

肯定する俺と、否定する俺。
双方に混じりながら、俺は続ける。

290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:49:12.71 ID:XPA1HtE90

「ムカつくが………あそこが…、第一七七支部が、俺の今の"居場所"みたいだからな…」

本当に似合わねぇな。とことん自覚が湧いて来る。

心理定規は何も言わない。
なにか安心したような顔つきで、微笑んでる。

……いつか、

俺も、あんな顔。
……出来っかな。

291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:49:55.44 ID:XPA1HtE90

現在時刻 16:12。

今、第一七七支部内ははちょいと殺伐とした雰囲気。

柵川中内で爆破されたのは誰も使わない(らしい)倉庫だけだったため、支部には何とか入れたが、警備員(アンチスキル)が張り付いていてかなり面倒だった。

無能共が見廻りした所で、一つも安心できねぇっての。

292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:50:41.58 ID:XPA1HtE90

ちなみに、今この部屋には俺と心理定規、そして花飾りしかいない。

白井は常盤台から帰って来るなり情報を集めて来ると言って出て行きやがった。

メガネ先輩も白井と同様、今回の事件の全容やら何やらについて警備員と面会中とのこと。


その事件の原因が俺なんて、一生掛かっても分かりそうにねぇのにな。

293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:51:54.14 ID:XPA1HtE90

花飾りは俯いたまんまだった。

寮の爆破については簡単な説明を受けただけで、今後の事についてとかは風紀委員という理由でまだ聞けてないらしい。

サテンが『後で説明に行くね!』と花飾りに言っていたが、結局サテンの声にも不安がこびりついていた。

まぁ、そりゃ不安でならねぇだろうな。

294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:52:39.94 ID:XPA1HtE90

無言が続く第一七七支部のドアが、勢い良く開く。


「初春ー!結果報告だよ!」

入って来たのはサテンだった。

柵川中の体育館で話を聞いてたため、警備員の目に触れずここまで来れたそうだ。

295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:53:23.98 ID:XPA1HtE90

サテンの声は陽気にも聞こえたが、どこか無理をしているような雰囲気も垣間見えた。

それは花飾りも察していたらしく、ある程度の覚悟を備えた上で耳を傾けている。


完全な第三者である俺と心理定規はただ聞いてるだけ。

296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:54:52.07 ID:XPA1HtE90


「一応仮の住居は用意できるだけするみたいだけなんだけど、ウチの学校の予算じゃ人数分は厳しいだろうから学園都市内に親がいる人は実家に帰ったり、都合のきく他校の寮に入ったりしてくれだってさ」

………よくもこんなベラベラと喋れるモンだ。

まぁ、そんなモンだろ。
それこそ常盤台みたいなボンボンの学校じゃなきゃ人数分の仮住まいなんて用意できるわけがない。

297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:55:44.34 ID:XPA1HtE90

そんなどうでも良い考えと共に、どうしても解せない疑問も俺の頭によぎっていた。


「アケミの両親が学園都市内に住んでるらしいから、ムーちゃんとマコちんと私はお世話になる話になったんだけど、初春はどうする?」


何故柵川中の寮まで爆破した?

あの場を去るための手段としては適してない上に、狙いである俺にはなんの意味もない。

……どうしても解せねぇ。

298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:56:31.57 ID:XPA1HtE90

「じ、じゃあ私も……」

「初春さん。アイツの家でいいんじゃない?」


「へ?」

「え?」

「……あ?」

心理定規の言葉に、俺を含む三人は聞き返してしまう。

……全く聞いてなかった。
何の話してたんだこいつら?

299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:57:27.88 ID:XPA1HtE90

「メ、心理定規さん!?」

「だって、佐天さんの話だと初春さん入れたら子どもだけでも5人なんでしょ?」

「オイ何の話してんだ」

全く状況が掴めない俺の視界に、
何かを閃いたような顔をしたサテンが入った。


……イヤな予感しかしねぇ。

300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:58:08.29 ID:XPA1HtE90

「初春……分かった!アケミ達には私から説明するから、垣根さんの家のお世話になってこい!」

………は?

「話聞いてなかったみたいな顔してるわね。行き着く場所のない初春さんを引き取りなさいって言ってるのよ」


「ち、ちょっと二人とも!?何でそうなるんですか!?」

珍しいな花飾り。
俺も全くを持って同じ意見だ。

301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:58:39.35 ID:XPA1HtE90

「何だって俺が引き取んなきゃ行けねぇんだ。
そこまで言うんなら心理定規、テメェが引き取れよ!」

「なに言ってんの?私は常盤台の寮住まいなんだし無理に決まってるじゃな?い」

なに言ってんだこのクソアマ。
……何故ココで嘘を吐く。

意味が分からねぇ……。

302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 22:59:44.28 ID:XPA1HtE90

「いい機会じゃない。
コミュ障って程じゃないにしろ、一人暮らしよかずっとマシかと思うわよ?」


オモシロイ事言ってくれるな、余計に了承する気なくなったぞ。

「まぁ、あの様子じゃもう取り返しつかないんじゃない?」


心理定規が指差した先の有様に、俺の目が久しぶりに丸くなった。

303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 23:00:34.51 ID:XPA1HtE90


「もしもしアケミ!?初春なんだけど、引き取ってくれる人がいるらしいから今回は遠慮するって!うん?そうそう、男!!」


「えぇっ!?ちょっと何してるんですか佐天さん!!」

……あり得ねぇ。
この行動力は何だ?

そして、……どうしてこうなった。

304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 23:02:37.14 ID:XPA1HtE90

一一一一一一一一一一一一一
一一一一一一一一一一一
一一一一一一一

……………。
この際だ、何度でも言ってやる。


「お、お邪魔しまーす」

どうしてこうなった……。

305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 23:03:18.35 ID:XPA1HtE90

現在時刻、18:24。

結論を言うと、花飾りは俺の家にいる……。

ついさっきの出来事は、俺からしたらまともに覚えちゃいない。

確か、白井が戻ってきて、途端にサテンが白井に告げ口をしたんだったっけか。

306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 23:04:08.28 ID:XPA1HtE90

後はまさにトントン拍子って言葉がピッタリだろ。

学園都市第二位の俺の意見はガン無視でな、ムカつく。

支部内を未元物質で蹴散らそうかとも本気で考えたくらいだ。

それでもやってない所を見ると、やっぱり俺は丸くなっちまったのか。


307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 23:04:52.45 ID:XPA1HtE90

元にしろ、『暗部』の人間としてはタブーな状況だってのに、俺に嫌悪感は湧いて来ない。

もうこの感覚にも慣れてきたな。
…どれだけ平和ボケしてんだか。

俺を標的にしてるヤツがいるってのに。


………それはそうと、

308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 23:05:34.89 ID:XPA1HtE90

「お前、いつまで玄関でつっ立ってんだよ」

そう。
花飾りは何故か玄関から動いていない。

まさか、俺が玄関から動かずに考え事をしてたからって訳じゃねえよな。

309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 23:06:19.87 ID:XPA1HtE90

キョトンとした顔つきで、花飾りは返答する。

「え?だって垣根さんが気だるい顔しながら動かないからじゃないですか」

…こういう所は変に常識が通用するヤツだ。

つかそもそも、常識って言うには怪しい部分があるが。

310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 23:06:47.97 ID:XPA1HtE90

「あーそうかよ。とっとと入んぞ」

「では改めて、お邪魔します」


ようやくの帰宅。
……何だかんだ言って花飾りを普通に迎えてやしねーか俺?

久しぶりに自分で自分に呆れた。

311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/07(土) 23:09:21.01 ID:XPA1HtE90


「うわっ。凄く広いですよ垣根さん!」

今度は部屋に入るなりキャッキャキャッキャと騒ぎ出す。


「当たり前だ。なんつったって俺は一一一」

っと危ねえ。
下手に第二位と宣告するのは良くねえな。

ましてコイツは俺の裏の顔を少なからず覗いちまってんだから。

ほんの一瞬でも、暗闇に帰ったような表情をした俺を、花飾りは見逃していなかった。

何も言ってこないモンだから、俺は全くを持って気が付かない……。




326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:36:16.59 ID:28qDTno20

適当にソファに寝っ転がった俺に、花飾りはオドオドしながら、

「こんな事になっちゃって、なんかすみません……」


「今更なに言ってんだ。下手に遠慮される方がよっぽど腹立つっての」


そう、今更だ。
今更、一般人の意見を否定する事なんざできやしない。

今や光でもなければ闇でもない、中途半端な存在の俺なんかには。

327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:36:50.85 ID:28qDTno20

「腹減ったか?適当な時間に済ましときたいんだが」

表情に多少の変化も見せないまま、俺は花飾りに問いかける。


何年、いや、何十年ぶりの家族的な日常を、さもホンモノのような雰囲気を俺は醸し出す。


「え?垣根さん料理できるんですか?」


………、何故そうなる?

328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:37:23.90 ID:28qDTno20

腹減ったか?
が、一体どうしたら
飯作ってやろうか?

に聞こえるんだよ…。
見た目だけじゃ物足りず頭まで花畑と見える。

「どうしてそうなる?適当にファミレスで済ませようって話だよ」


そう。
俺の食生活はいつもこんな調子。

暗部にいた人間が、料理なんてできるわけねぇだろ。

329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:38:11.20 ID:28qDTno20

「夕飯にファミレスなんて駄目ですよ!
ファミレスが許されるのは昼下がりのパフェとお喋りが目的の人だけです!」


また訳の分からない事を……。

「だったらどうするってんだよ。
悪いが俺に料理スキルなんてものはねぇ」


直後、花飾りは自信気な表情でこう言った。

330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:38:40.17 ID:28qDTno20


「私が作ります!!」

……ほう。

悪いが俺は味にかなりうるさい派だぞ?

ファミレスは所詮ファミレスって事で味を区別してるから食えるが、マジで味を識別するとなれば話は別。

ありゃあダメだ。
あんなんただの冷凍食品のオンパレードじゃねえか。

……何故か今、白いクソ野郎が脳裏によぎった。


出てくんじゃねぇっつったろクソもやしが。

331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:39:14.76 ID:28qDTno20


「………うめぇ」

俺が目を丸くしたのは本日二回目。

テーブルの向かい側に座る花飾りは無い胸を張って誇らし気な顔になっている。


いや、そんな事よりこの飯は何だ?
だってコイツ中1だろ?

いやいや、中1がコレはあり得ねぇって。

332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:40:26.10 ID:28qDTno20



「ふっふっふ……、私の手料理に舌を包んでるようですね垣根さん?
私、なんとなく恥ずかしいから佐天さんには黙ってましたが、それなりに料理出来るんですよ!」


……悔しいが、コレはそれなりになんてレベルじゃないと思うが…。

…というのは当然口にはしない。


「俺相手には恥ずかしくないってか?
お前今、二人きりの食卓で、一人の男に手料理を振舞ってるんだぜ?」

333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:41:05.07 ID:28qDTno20

軽い照れ隠し(似合わねぇ自覚はある)のために、俺は花飾りに問いかけてみた。


「え…?……あっ!そ、そう言えば……」

途端に花飾りは、俺の期待と全く同じ反応を見せやがった。

一人で自分の世界に入り、頬を赤らめながら一人で悶えている。


ハッ、所詮は中1。
ちょろいちょろい。

334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:42:15.06 ID:28qDTno20

「じゃあお風呂お借りしますね。
あ、覗かないでくださいよ!?」

「自意識過剰もいい加減にしやがれよクソッ花」


現在、俺は皿洗いをしている(正しくはされている)。

働かざる者なんとやらだそうだ。
第二位の俺にそんな常識通用しねぇってのに、何だってこんなマネ……。


いや、それにしたって俺は変わった。
こんな事してる姿なんて思いつくはずも無いのに。

335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:42:50.32 ID:28qDTno20

それが良い意味に転がるのか、はたまた悪い意味に転がるのかは、やっぱり俺には分からない。


二人分だけってこともあって、割りと早く洗い物を終えた俺はソファに寝そべる。


頭に浮かぶのは底の無い暗闇。
そこにはただ一人、案内人(木原病理)が手招きをしているのみ。



………クソッタレが。

336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:43:25.51 ID:28qDTno20

ムカつき出した俺を止めるかのように、俺の携帯電話が振動する。


画面には、心理定規の文字。

今は花飾りは風呂でいない。都合が良い。


「何だ」

『ん~?あなたが初春さんを襲ってないか気が気でなくてね』

比喩表現の訂正をしよう。
俺を余計にイラつかせるために、今心理定規は電話してきてる。

337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:43:59.97 ID:28qDTno20

「テメェが仕向けたんだろうが。
………で?改めて電話の理由を聞こうか」

『つれない所は相変わらずなのね。
…あなたを襲った『木原』だけど、』

「詳細でもわかったってか?」


『ええ、それも、ただの『書庫』(バンク)からね』


……なんだと?

338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:45:40.90 ID:28qDTno20


『書庫』なんてチンケな情報網に、『木原』が乗っているとは到底思えない。

それは、心理定規の話を聞いていくにつれ余計に疑いが深くなって行く。


俺を襲撃した木原病理、
生年月日や出身校、出身地、
そして"表"面での研究成果etc

そこまでならまだ良いんだ。

339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:47:30.11 ID:28qDTno20

だが、こっから先はいくらなんでも警備員や風紀委員が覗ける程度の中に入っているものとは思えなかった。

"裏"も匂わせる程の細やかな研究成果、木原加群とか言うヤツを標的とした『諦め』の計画。

そして、木原数多の死後、壊滅にも近い状態となった『猟犬部隊』を一時的に率いている。など。


極め付けは、心理定規のこの一言だった。

340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:48:21.99 ID:28qDTno20

『試しに暗部から伝っていた情報網もくまなく詮索してみたけど、木原病理どころか『木原』の詳細すら掴めなかったわ』


……つまり、木原病理を使ってまで俺に近づいてきた統括理事会からの意図的な情報。


しかしその情報に狂いはなく、正しい事を確かにこの俺に伝え、この先を占っている。


『裏がわざと情報を出している事を視野に入れて、職権乱用で書庫を漁ってみたらビンゴだったのよね』

341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:49:02.66 ID:28qDTno20

おそらく、いや、確実に心理定規のこの思考回路も全て統括理事会の思惑通り。


嫌気が指す。
全て統括理事会の手の中で踊らされている俺が先に見るのは、一体何だ?


「あのー……」

俺と少なからずも関係を持った心理定規、白井、そして花飾り達も、100%の安全が確保されてあたいる訳じゃない。

………ふざけやがって。


「あの! 垣根さん!!」

342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:50:14.37 ID:28qDTno20


耳に声が響く。
花飾りか。
……全く気づかなかった。


『その声…初春さん?
まずいわね、私はここらで切るわよ。くれぐれも、気をつけなさいよね』

心理定規の警告を最後に電話は途切れ、今度は花飾りの声が届く。


「どれだけ声かけたと思ってるんですか!?」

「今の今まで風呂入ってたのかオマエ」

「とっくに出てましたよ!声をかけようとしてもなんか怖い顔してるし、いざ声をいくらかけても気づかないんですもん!」

343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:50:56.54 ID:28qDTno20

「あー、悪かったな。許してくれ」

そう言って俺は湯上り後の花飾りの頭を掻き回す。


「わわっ、何ですか垣根さん!?」

似合わねぇ真似してんのは百も承知。
やっぱり俺は変わった。
短期間で、それもどうしようもないほどに。


コイツを、一般人を巻き込むわけにはいかない。

知らない方が幸せってのが一番しっくりくる。
知ってていいのは、まさに俺のようなクソにまみれた汚れ役だけで十分なんだから。

344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:52:03.44 ID:28qDTno20


『いつ来るかなんて分からないんだから、何にしても初春さんは守りなさいよ』


こうして見るととことん分かる。
俺だけじゃねぇ、心理定規も確実に変わった。

ましてコイツは精神系の能力者。

他人を、しかも一般人を思うなんて一番遠い場所にいたヤツだったってのに。

……まぁ俺もとやかく言えた立場じゃねえが。

345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:53:02.07 ID:28qDTno20


どう足掻いたって、これだけは決めたよ。

自分のツケを、他人に、まして一般人に払わせるなんて真似はしない。

俺は頑固だが、一回考え方をひねる事が出来れば思考はすぐに変わる事に今更気が付いた。


理由もクソもねぇんだ。

本能で動く事を決意し、眠りにつこうとする俺を、
そのままにしておくような事は、どうも無いらしい。

346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:55:04.10 ID:28qDTno20

「…………」

俺は深い思考を止めるような事はしない。

現在時刻、23:51。

花飾りは恐らくだが既に寝ている。
つい30分前に、心理定規から一通メールが入っていた。

347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:55:31.28 ID:28qDTno20


『いつ来るかなんて分からないんだから、何にしても初春さんは守りなさいよ』?


こうして見るととことん分かる。?
俺だけじゃねぇ、心理定規も確実に変わった。?

ましてコイツは精神系の能力者。?

他人を、しかも一般人を思うなんて一番遠い場所にいたヤツだったってのに。?

……まぁ俺もとやかく言えた立場じゃねえが。?

348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/10(火) 21:56:12.15 ID:28qDTno20




現在日時、10月17日。00:00。



本当の、暗闇が始まる。



357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:40:31.91 ID:ySLiG1x/0


第七章 ?一10月17日 ?。

358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:41:13.65 ID:ySLiG1x/0


浅い眠りすら許されなかったよ。

それどころか、まだ寝そべってもいねぇっての。


起きたのは、玄関での小規模爆発。

俺の家は他所から見たら高級マンションの一室にしか見えねぇだろうが、このマンション全てが俺の家。

誰も住んで無いマンションの一室で爆発が起きたくらいで、野次馬が集まるなんてイベントは無いはずだ。

359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:41:54.98 ID:ySLiG1x/0


眠りが深いのか、花飾りは部屋から出てこない。

「……都合いいじゃねえかよ。なぁ?」

思わず言葉に出して、更に問いかけてしまう。


何も誰もいない空気に話かけた訳じゃない。

いるんだよ。
下手な武装をした、クソネズミ共が。
玄関にごろごろと。



360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:42:45.49 ID:ySLiG1x/0

いやぁ不愉快だね。
あぁ不愉快だ。

「ヤベェなこりゃ。久しぶりの感覚だよ」


俺の口から笑みが零れてしまう。
それは当然、憤慨の笑み。


「何をヒトの日常に、入り込んでんだクッソ野郎共がぁァァアアア!!!」


361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:43:51.54 ID:ySLiG1x/0

咆哮と共に、俺の背中に六枚の翼が展開する。


嬉しい事にここは最上階。
派手に壊したってなんの問題もない。

「テメェらさぁ、俺に喧嘩吹っかけた意味、分かってんのか?」


クソ野郎共は答えない。
ヘルメット越しでも分かる。
俺の明確な殺意に表情を凍えさせてやがる。

362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:44:31.81 ID:ySLiG1x/0


まさか、俺が第二位という非常識を知らずに、仕事気分で襲撃して来た……?


誰の差し金だか知らねぇが……、


「ナメてんじゃ、ねぇぞぉォォオオオオ!!」


今度の咆哮は、確実な攻撃の意思を込めて。

翼の一撃で、玄関ごと吹き飛ばした。

363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:45:09.86 ID:ySLiG1x/0

ヤロウ共の行方なんて知らない。

出入り口のドアが吹き飛び、目の前に誰もいない事を確認すると、俺はズカズカとマンションの廊下へと歩いて行く。


「なにコソコソしてんだネズミ共ォ!
テメェらの死体を見なきゃ、コッチは満足できねぇんだよ!」


戦場では常に冷静沈着をモットーにしてきた俺が、揺らぐ。

364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:45:57.14 ID:ySLiG1x/0

一撃。
また、一撃。

俺の家となる最上階は、それはもう悲惨な状況だそうだ。


そんな感覚が俺に許される事は無い。

ただ俺の目の前に現れないヤロウ共を追跡し、イラついては、攻撃している。

365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:46:28.67 ID:ySLiG1x/0

何がそんなにカンに触る?

牙をむきだしながら、それでも頭の片隅に置かれた疑問。

その答えを俺自らの口から暴露してるってのに、今だからか、俺は全く気が付かない。


「俺の!今の!居場所に、何を勝手に乗り込んでんだって、言ってるんだよォオオオオ!!」


366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:46:55.69 ID:ySLiG1x/0

自分でもうろ覚えにすらならなかった咆哮の後、動きが見られた。


俺が先を歩いていると、俺がさっきまで使っていた部屋の二つ隣の部屋から銃声が聞こえてきた。


錯乱としているのかどうだか知らねぇが今はどうでもいい。


これも滅多に見せない。
深い笑みを浮かべ、俺はその部屋のドアも吹き飛ばした。

367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:47:25.73 ID:ySLiG1x/0

牙はおさまらない。
膨れ上がるだけ膨れて、それでも動く事を止めない。


ドアが吹き飛ばされたその先に見えたのは、三人のネズミ共。


しかし、別段現れた絶対的な存在である俺を前に震え上がってる訳じゃなかった。


既に意識を失ってるのか、三人が仲良く積み木みたいに寝っ転がっていた。

368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:48:11.44 ID:ySLiG1x/0


面倒臭かった。

だから、簡単に頭を消してしまおうと思いついた途端だった。


俺は気が付く。
コイツらの武装、服装を。


「『猟犬部隊』……ッ!」

見た事は当然ながらある。
暗部時の仕事の際に、何度も。


ようやく冷静さを取り戻した俺だが、これまた途端に気が付く。

369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:49:01.85 ID:ySLiG1x/0


心理定規の言葉を思い出せ。
ついさっきの事じゃねえか。

『猟犬部隊』は930事件と共に凍結寸前まで追い詰められ、無様に集まった残党を現状束ねているのは一一一一。


思考は途切れる。

開放状態になっていた入り口から入ってきた一人が、俺の背中に銃を突きつけているのが分かる。

370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:49:41.55 ID:ySLiG1x/0

今は俺の背中から翼が出現していないから出来る行動。


………都合が良い。

ヤロウを吹き飛ばすためにも俺は再び六枚の翼を展開させる。


勢いですぐ近くの廊下の壁に体を叩きつけたヤロウの元まで俺は歩く。


「オイ」

俺を襲撃してきたのは確か四人。
意識を保っているのは、コイツだけ。

371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:50:27.35 ID:ySLiG1x/0

「言えよ。テメェらの頭はどいつだ。
どうせ聞かれたら答えちゃってくださいとでも言われてるんだろうが」


ヘルメットを無理矢理外し、恐怖が滲み浮かんだ表情のヤロウの髪の毛を乱暴に掴み、俺と視線を合わせる形にする。



「き、き、きは」

震え上がる声。

標的が第二位という事も伝えず、随分と結構な雑魚を送ったモンだよなぁ?

372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:51:07.66 ID:ySLiG1x/0

「木原…病理」


それが聞き出せりゃもう十分だ。
俺は掴んでいたヤロウの髪を離し、
そして、未元物質の出力を最大にする。

首から上を無様に消し去り、それは俺にだけ鮮血がこびりつかないような攻撃。

転がっている三人も同様に。


残ったのは、花飾りが安らかに眠る部屋とは随分離れた所に広がる鮮血と四体の死体。


そして、深い笑みを残した、俺。


373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:51:37.41 ID:ySLiG1x/0


行間三 ?一10月17日?。

374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:52:18.14 ID:ySLiG1x/0

眠ってなんかいなかった。
最初から、一睡も。

当然じゃないですか。垣根さんの前でこそ余裕を見せて振舞ってましたけど、本当は凄いドギマギしてるんですよ?


こんな高級感しか見てとれないようなマンションで、たった一人の男の人と。

375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:54:15.60 ID:ySLiG1x/0

夕飯を振舞った時だって、それは不安でならなかった。

目を丸くして美味いと言ってくれた時なんか、本当に嬉しかったんですから。


そして、風呂上がりに見えた垣根さんの表情、
電話の内容からなのか、私を攻撃したあの時のような、真っ暗な表情。



そして、私は垣根さんの指定した部屋のベッドに横たわり、体を休める。

眠れるわけ無いじゃないですか。

たとえ眠れたとして、あんな爆発があったら普通に飛び上がっちゃいますよ。

376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:55:00.56 ID:ySLiG1x/0

だけど、私は飛び上がらない。

寸前まで声を出しかけ、そして寸前で止める。

下手に声を出したら、私が狙われてしまうから。

そんな理由じゃありません。


おそらく、本当に憶測だけど、爆発の標的は垣根さん。

377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:55:49.50 ID:ySLiG1x/0

私と佐天さんが昼下がりに見た、垣根さんとパジャマの女性とのやり取り。


言葉こそ聞こえなかったけど、そこに漂う雰囲気は、これもまた10月9日に体験したモノと似ていたんです。


そこに何が潜んでいるのか、その雰囲気が何を意味しているのか。

それも寸前まで声に出かけ、そして寸前で止める。


378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:56:30.08 ID:ySLiG1x/0


追求なんてしません。

垣根さんという人は、そういうくだりを一番嫌いそうな人だから。


今この場で声を張り上げ、爆発のあった玄関まで出て行くなんて真似もしません。


嫌でも聞こえた垣根さんの咆哮。
日常に踏み込むなと叫んでいる。


私はきっとその一部で、私がこの場に出てしまえば、垣根さんはきっと私を全力で守ろうとしてくれる。

379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:57:10.47 ID:ySLiG1x/0


何の確証も無い、何の事はないただの憶測。

一度私にその牙を向けた人間が、今度はその私を守るために牙を向くなんて、普通では思いもしない非常識。


そんな事は関係なしにと、私は絶対的な自信を持って垣根さんを信じてる。


守ってくれるとかじゃなくて、
もっと大切な。

垣根さんにも、帰る、帰れる居場所が、確かにある事に、気がつけるという事を。


380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:57:44.49 ID:ySLiG1x/0


………数分が立ち、散々に私の耳に届いた破壊音はようやく止んだ。


分かってる事は、今私のいない場で起こってる出来事は、私なんかの想像よりも百倍酷くて、悲惨で、悲しい世界。


その世界から、垣根さんは帰ってくる。

「花飾り、ちょっと起きろ」


部屋のドア越しに届いた垣根さんの言葉。

一生懸命隠しているんでしょうけど、すぐに分かってしまう。

381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:58:28.07 ID:ySLiG1x/0

言葉だけでも分かる違和感。

「う、う~ん。なんですかぁ?」

隠しているつもりでも簡単に分かってしまうソレを、私はちゃんと隠せてるんでしょうか?


「よくもまぁあの惨事の中寝れたモンだ。
二つ隣の住人が火事起こしたらしくてな、
悪いがここを一旦離れるぞ」


「火事……ですか」

嘘が下手すぎですよ、垣根さん………。

382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:58:54.12 ID:ySLiG1x/0

「お前は心理定規んトコに預けるから安心しろ」

ドア越しの会話は続く。

「え……?だって心理定規さんは常盤台の…」


「あんな嘘に振り回されてんじゃねぇ。
場所教えるから、取りあえず適当に着替えて出て来い」


言われるがまま、なんとか巻き込まれてなかった私の部屋から引っ張り出した私服に着替え、私は垣根さんと顔を合わせる。

383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 22:59:26.32 ID:ySLiG1x/0


まず、私は驚いた。

確かに爆発を受けた玄関のドアが、確かに元のまんまになっている。


「念の為の避難ってヤツだ。
ウチのマンションは耐火性がかなり低いんだと。
全く冗談じゃねぇ。」


そのドアが、垣根さんの能力で作られたモノだという事に気が付かなくても、垣根さんが言っている事が嘘だらけという事にはどうしても気付いてしまう。

384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 23:00:04.13 ID:ySLiG1x/0


「分かりました。災害じゃ仕方ないですよ」

「話が早くて助かるな。
んで、心理定規のウチだが一一一」


もう、私に迷いはない。

さっきは出しゃばらない事を前提に部屋にとどまってましたが、今度はそうはいかない。

垣根さんの目が物語っている。

自分の命なんて惜しまないで、何かに向かって歩こうとしてる事が。

385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/12(木) 23:02:10.88 ID:ySLiG1x/0

「覚えたか?一応メモも渡しておくが、こんな時間なのに送ってやれなくて悪りぃ。
どうしても行かなきゃなんねぇ用事が出来てな」


「分かりました。 大丈夫ですよ。私、これでも風紀委員なんですから」


もう、迷いはありません。

その先に待っているのが後悔だったとしても、私は、


一一一一一己の信念に従い、正しいと感じた行動をとるべし。



392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:30:52.41 ID:JQbDDGHF0


第八章 一10月17日?。


393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:32:26.91 ID:JQbDDGHF0



花飾りは見送った。
何の変わりもない、何の疑いも見せてこない。

それで良い。

知る必要のない人間が、知る必要のない真実なんて、欠片も知っちゃいけねぇんだから。


俺は歯をたて、力を込める。
顎に痛みが生まれるが気にはならない。


「木原……病理ッ!」

頭に浮かんだ案内人の木原病理は、途端に表情を変えて俺の手を掴み、無理矢理闇へと引きずり込もうとする。

394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:33:10.03 ID:JQbDDGHF0

上等だよ。

吹っ切れたって表現の方が正しいのか。

俺は携帯電話を操り、心理定規に電話をかける。

花飾りを送った事を言いたかったのもそうだが、何故か心理定規は木原病理の位置を知っているような気がしたんだ。

それも全て、散々言葉では分かっていた統括理事会の計算通りって事も知らないで。

395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:34:01.88 ID:JQbDDGHF0

「………」

電話がかかるまで数分待つ。

まさか、深夜に近い時間だからってもう寝ちまったってコトはねぇよなぁ?

電話が繋がる。


怒り混じりの疑問に、返答があった。
ただし、その怒りを増幅させる、返答が。


396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:34:34.50 ID:JQbDDGHF0

『はぁ~い?』

違いなんてすぐに分かった。
違和感なんてバリバリどころじゃなかった。

俺の話し相手は、心理定規ではない。


もっとどす黒い闇を抱え、もっと俺を憤慨させるのに長けているクソ女。


「木原……病理…ッ!!」


俺の、最も殺したいと願う人間。

397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:35:38.62 ID:JQbDDGHF0


『あーあー声を駆り立てちゃって、そういう全力っていうんですかね?大嫌いで仕方ないんですよ。私』


そうかよ。
だったら俺はテメェという人間が大嫌いで仕方がねぇ。

言葉にすらならない。
いや、言葉にする必要もない。

ひたすらこみ上げてきた怒りと、急に襲ってきた不安。

……花飾りが向かっているのは心理定規の所。
そしてその場には、木原病理が確かに存在している。



398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:37:16.63 ID:JQbDDGHF0


……クソったれが…。

「テメェがそこで俺の電話に応えてるって事は、待ってたんだろ?この俺を。
諦めだか何だか知らねぇが、俺もテメェに会いてぇんだよ。
テメェの頭蓋踏み潰さなきゃ、満足できねぇっつってんだよ……!」


挑発を乗せた言葉だったが、後から怒りが勝り、二回目の珍しい感情的な俺となる。


『凄い口説き文句ですね。病理ちゃん困っちゃいます~。でもでも、女性を急かすのは関心しませんよ?』

399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:38:20.77 ID:JQbDDGHF0

……本当に俺をイラつかせるのに長けてやがる。

『御託はこの辺にしましょうか。
あなたの怒りもそろそろ限界でしょうし』


ケラケラという笑い声を交えた木原の戯言。

怒りの限界?もうとっくに通り過ぎてるよクソが。


『ああ、そうだ。 一一一心理定規さん、あなたに一一事が一一翌日の一一一時に一面仕上に一一一一えて下さい』

400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:38:49.79 ID:JQbDDGHF0


俺には聞こえない木原の声は、心理定規に向けられたモノ。

今更そんなモンに興味が湧くかっての。


『すみませんねぇオリジナル、それでは本題に入りましょうか』


「早くしろよ。どうせ場所の指定なんだろ?」


『ご名答。場所は一一一』


準備は整った。
ああそうだ、心理定規にメールして置くとしよう。
安否の確認なんかじゃない。
木原の標的はハナから俺、アイツはただの駒としか思われていない。


メールの内容は、花飾りを頼んだ。
でいいだろ。

401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:39:53.12 ID:JQbDDGHF0

場所は、昼間に木原と戦り合った第七学区に隣接する荒野だった。

あんな荒野がそもそもあったのかが疑問な訳だが、たとえソレが俺を潰すために用意されたとして、もうまともな思考を持てる状態じゃなかった。


「よう……木原病理…」

「はいはーい、こんな夜中のデートに誘ってくれてありがとうございまーす」


さぁ、デートの時間と行こうじゃねぇか。
広がる暗闇の道を、ただひたすら散歩する、そんなたまらねぇデートをよ。


402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:40:34.61 ID:JQbDDGHF0

俺はもう感情的になりすぎて、まともな思考なんぞ出来やしない。

木原はそれを手に取るように理解度し、ソレは諦めに最も行き着きやすい状態だというコトを知っている。


即座に俺が取った行動は、未元物質の出力最大。

一気に距離を縮め、斬撃にも叩きつけるだけの攻撃にも見える一撃を躊躇なく放つ。

403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:41:00.35 ID:JQbDDGHF0

昼間と大して変わらない行動をとった俺だが、木原もまるで昼間と同じ行動を取ってきた。


改造された腕で、俺の未元物質を受け止めている。

気を抜けば力負けしてしまいそうなくらいな力量。


「そういえば」

悠長に喋ってられる程の余裕。
その余裕は、木原の表情にも残っていた。


「そろそろ出すのもいいですかねぇ、"ネタバレ"」


404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:41:28.46 ID:JQbDDGHF0

言葉の直後に俺を襲う暗闇の出で立ち。

嫌な音がなると同時に、俺の意識はなんとか帰ってくる。


嫌な音の音源は、木原の両足。
嫌な音の具体的な表現は、肉が軋み、骨が交じり、かなりグロテスクな音。


俺には余裕で見えた。

木原の足に途端に浮かんだ、赤色の文字と、その意味が。

Equ.DarkMatter

405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:42:16.63 ID:JQbDDGHF0

驚愕も当然ありはしたが、考えてみれば簡単な話。

タダで俺を五体満足にしとくほど、統括理事会は善意にまみれちゃいないっていう、たったそれだけの理由。


簡単な思考くらいは許された俺だが、木原の体の異変に、流石に距離を取らなきゃいけない状態となった。


406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:42:59.90 ID:JQbDDGHF0


木原の足が、変形する。
それは比喩表現なんて可愛らしいモンじゃなく、確実に起こっている真実。

「…ハッ 車椅子は所詮飾りだったってオチか」


「自分の足でないにしろ、私の方から歩こうなんて何年ぶりですかねぇ」


タコのにも見える木原の六本の足、

その一本一本が、大地を踏みしめ、木原が降りた車椅子はポツンと置かれたまま。

407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:44:28.45 ID:JQbDDGHF0


「じゃあ……」

楽しい楽しい殺し合いの合図は、珍しく木原から。


「始めようじゃねぇか。怪物同士の潰し合いってヤツをよ」


打たれる相槌は、当然俺から。

こういうの、死亡フラグっつーらしいな、聞いたことがある。

だが、そんなフラグがあろうとなかろうと、勝敗なんて、つけるに至らなかった戦いが、この時点よりずっと前から、始まっていた。

408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:46:04.60 ID:JQbDDGHF0



一一一一一一一一一一一一一一一一
一一一一一一一一一一一一一
一一一一一一一一
一一一一


「……………。」

「あらあらぁ、そんなに病理ちゃんの演説に惚れ惚れしちゃいました?」


現在時刻………不明。
激しい牙の交じり合いからは、10分くらいって所だろうか。


俺は、もう"ダメ"だった。

409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:46:39.44 ID:JQbDDGHF0

『木原』の恐ろしさなんて言われてるモノは、本当に多種多様だとは聞いた事があった。

……コイツは、木原病理の『木原』は、人によれば何の事はない戯言で、人によれば核兵器よりも恐ろしい兵器。


俺からしたら、残念な事に後者だ。


もう、何をベラベラと告げ口されたかなんて、全くを持って覚えちゃいなかった。

410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:47:11.63 ID:JQbDDGHF0


ひたすら攻撃を放った。

木原ひそれをひたすら避けてのけた。

一撃の間、一撃の間に、木原の『諦め』は、明確に俺を襲っていたと言うのに。


暗部がどーとか、一般人がどーとか、そんな事をペラペラペラペラ。


気が付いた頃が最後。
まともな思考が出来ないあまりか、戦意すら湧いてきやしねぇ。


411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:47:58.43 ID:JQbDDGHF0


「まさかこんなに簡単に諦めてくれるとは思いませんでしたよ。
ちょっと簡単に行きすぎましたかねー?」


笑いながら、俺を見つめている。
よく分からない。

俺は俺の今までの思考に絶望し、失望し、そして諦めている。


相当強く出来上がっている『自分だけの現実』を持っていようが、どれだけ干渉力に耐性があろうが、木原の『諦め』は関係がなかったんだよ。


412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:48:38.70 ID:JQbDDGHF0


「私の『木原』に干渉される程度だったら、殺してくれて構わないそうなんで」

ゆっくりと、死刑宣告が下される。


「安心して下さい。殺しはしても脳みそは綺麗に取り出して、綺麗に取り扱ってあげますから」


意味は理解できる。

が、そこから湧き上がる感情はまさに皆無。

413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:49:08.54 ID:JQbDDGHF0

とうとう、いや、

案外生き延びた方なのかもしれない。

思えば、10月9日の時点で俺は死んでなきゃ行けなかったんだ。


通常運行していた物語(ストーリー)の中に、俺というイレギュラーが混じったせいで。

花飾りを初めとする、一般人共が、下手に俺と関係を持ってしまった。


414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:50:10.32 ID:JQbDDGHF0

関与されちゃいけないヤツらが、俺が生きている、
それだけの理由で、危険が迫る可能性が跳ね上がるんだ。



だったら、


もう、


俺は、


死んだ方がよっぽど、いいんじゃねぇか?




415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:50:40.80 ID:JQbDDGHF0


不十分な意識の中で、俺は死ぬという概念を理解する。

理解し、覚悟した。


「…だったら」

弱い言葉が、木原に向かって、

「とっとと殺せよ、回りくどい」


挑発にも聞こえる俺の言葉は、木原にとっては唯一無二の死亡の志願だと受け取れたようだ。


416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:51:11.78 ID:JQbDDGHF0


「もはや生きる事も自ら諦めましたかぁ」

だらだらと戯言並べんな。
とっとと殺せよ、嫌になる。


「でもでもぉ、お姫様が見ちゃってる場で、騎士様が簡単に死ぬんじゃ詰まらなくはありません?」


何を焦らしてんだよ。
お姫様?知るかよそんなモン。

大体、お姫様って何の事一一一。


417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:52:04.52 ID:JQbDDGHF0

俺の明確な意識が、片隅に見える存在を、確かに確認する。


「な、んでだよ」

何でだ。どうしてだ。

「何で、テメェがいや、がるんだ」

嘘だ。こんな所にこれるはずがねぇ。

ソイツには聞こえないだろう声で、もがき、抵抗する。


418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:53:06.61 ID:JQbDDGHF0

だから前から言ってるだろうが。

何で一般人が、一番遠く位置していなきゃいけないこの場所に、軽々しく足を運んでんだよって。


何で俺を揺るがすんだ。

もうメンド臭くなっちまったんだよ。
何で楽に死なせてくれないんだ。
頼むから、俺を善人にしようとしないでくれ。

419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/15(日) 22:55:12.74 ID:JQbDDGHF0

「何で、来るんだよ……花飾りぃ…」


死を決めて、一度背負った凄く重たい荷物を手放して、楽になろうと決めた今この瞬間に、


護ってやると決めていたお前が、こんな所にいたら、

俺は、


一体、どうしたらいいんだよ……。
教えてくれよ……花飾り…。



431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:04:08.72 ID:FSTBuHg30


第九章 一10月17日?。


432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:05:21.99 ID:FSTBuHg30


「あー、」

深い思考に入っていた俺の耳に、木原の不抜けた声が届く。

「お姫様の顔を見ただけで、まだそんな顔してる所を見ると、まだまだ諦めかま足りてないじゃないですかぁ?」


誰のせいだよ。

テメェが有無を言わさずに、死を覚悟していた殺しちまえば簡単な話だったんだろうが。


433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:06:11.18 ID:FSTBuHg30


木原の足は、現状二本のみ。
それも人間の足のソレにしか見えない。


今更になって、俺から湧いてくる戦意になんて期待は出来っこないのに。

なんで、俺の背中からは、六枚の翼が展開している?


止めろよ。
諦めろよ。
手を出すんじゃねぇよ。

正しく突き動かす俺の意思は、大した事はなく、結局、

本能が、優ってしまう。


434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:06:59.96 ID:FSTBuHg30

「ア」

どこまで行けるかなんて知った事じゃない。

やっぱ、俺は最初からあれこれ考えるタイプじゃなかったらしいぞ?


「アアアアアアアアアアアアあああああああああ!!!」


激しい咆哮。

それに連なり、展開していた六枚の翼は、その大きさを数倍のものにする。


435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:09:52.08 ID:FSTBuHg30


この感覚、身に覚えがある。

あの第一位の、どこから湧いたかもよく分からない漆黒の翼。


なんとなくその場でなんとか演算し、漆黒の翼に形状を真似た形で、展開されたでっけえ六枚の翼だ。


だが、あん時より、力が増しているのは気のせいか?


それは、違う。

俺を突き動かす何かが、確かな力になってやがる一一一!


436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:11:12.61 ID:FSTBuHg30


花飾りはどんな顔してるんだろうな。

気になってチラっと伺って見たら、これもまぁ滑稽な話だ。

俺を心配気に見つめやがって、タダの風紀委員がでしゃばんのも大概にしとけっての。


だがな、これだけは何とか約束できそうだよ。

護ってやるよ。

テメェだけじゃねぇ。

花飾りの、
初春飾利と、その周辺の世界を。

437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:12:08.17 ID:FSTBuHg30

今までで一番なんじゃないかってくらいの力を、木原にぶつける。


「こ、この出力……ちょっと病理ちゃんピンチかもしれませんね……!」


最初はこれまでと同様、改造された両手で受け止めるだけに留まっていたが、危険を察し、俺との距離をとる。


これはもう勘違いなんかじゃねぇ。
俺の頭の中でグルグル繰り返される演算式は複雑で、そこから展開しているこの力は、確かに強大だ。


438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:14:01.57 ID:FSTBuHg30


いや、
そもそも俺の未元物質の力が増した所で、コイツを殺せる可能の原因なんかにゃあならねぇ。

別にいつも通りの、第二位の力だけあれば[ピーーー]事なんて簡単に出来たハズだ。


諦める? 馬鹿じゃねぇの?

こんな簡単に崩れちまう程度の覚悟だったら、最初からあんなに似合わねぇ真似するかっての。


もう一度だ。
俺の心の内で、もう一度、宣言させてもらうぜ。

コイツを、木原病理を、潰す。


439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:14:34.94 ID:FSTBuHg30

形状を変化させようとする木原の行動を、俺は許さない。


翼を大きく羽ばたかせ、圧倒的な風を木原の周りに生ませる。


荒野だったがために、起きたのは砂利の嵐ぐらいだったが、木原の行動を止めるには十分だ。


風に耐えることを優先し、足の強化から入る木原の行動パターンは、全て俺の計算通り。

440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:15:25.53 ID:FSTBuHg30

その間に俺は、真っ黒の、テニスボールほどの大きさの球体を数個出現させる。


現実に存在するモノとは全く異なる、この世に存在しない物質を作り出し、応用する。

それが未元物質の能力。


ようやく、頭の中でしっかりと、まともな演算が出来てる気がするよ。


441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:16:51.99 ID:FSTBuHg30

砂利と砂の嵐が、大方収まる。

姿を表した木原の形状は、見たところ特に変化は見られない。


「不愉快だな」

率直な意見を述べると共に、俺は木原の元まで急接近する。


対する木原は、何も喋らない所か、顔の筋肉の一つすら動かさない。
少なくとも、こうして対峙している俺の目、感覚からはそう感じ取れてる。ってだけの話だが。


……ますます不愉快だ。


442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:17:20.17 ID:FSTBuHg30

不愉快でもあるが、同時に不気味でもあった。


今までの木原病理とは全く違っている。

試しも兼ね、出現させた黒の球体を全て木原に向け放つ。


とった行動と言えば、ただ一直線に放たれた黒の球体を、サラっと避けただけ。


反撃の手が出ると踏んだが、避けた後と言うものの、ただじっと静止しているだけ。

443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:18:53.74 ID:FSTBuHg30


………可笑しい。

いくらなんでもそう思うしかできない俺だったが、その疑問の根元は、一秒もかからない間に導き出された。


「コイツ………ダミーかッ!」


一見したら、俺の言ってる意味が分からなくても仕方ないだろう。

だが、俺はこの目で見ている。
木原病理は、超能力者である俺ほどでは無いにしろ、少なからず、未元物質の能力を持っている一一一一。


444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:20:25.01 ID:FSTBuHg30

「クソがッ!」


俺は叫ぶ。

暗部として仕事を全うしていた頃だったら、もっと早く気付けたハズなのに、
平和ボケが、こんな所で裏目に出るとはな。


……本物は、ホンモノの木原病理はどこにいる?

……いや、
俺は、本当はそんな答え、簡単に頭の中では分かっていたんだ。

445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:20:54.80 ID:FSTBuHg30


だが、それはどうしても否定したかった答えで、
どうしてもそれが答えじゃないと願う答え。


……今の俺の活動源は何だ?
そして、アイツは、木原病理という人間は、何を司る『木原』だ?


自分自身に問いかけ、それのどれもが、俺の考える答えの手助け役となってしまう。


「駄目ですねぇ、オリジナル」

嫌な予感なんて言葉は必要ない。
声のした方向。

そこには、木原と一一一。


446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:22:52.54 ID:FSTBuHg30


「か、垣根さん……」

「いつ障害物が来るかなんて分からないんですよー?ちゃーんと姫を見ていて、安全を常に確保しといてあげないと、騎士なんて名乗れませんよぉ?」


………ったくよぉ。

どこのドラマだ?どこの映画だ?
見事なC級っぷりに、笑えてくる。


……いいや。

笑えねぇ。
笑えねぇよ。

447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:23:18.52 ID:FSTBuHg30


「木ィ原ァァァァアアアアア!!!」


咆哮と共に、俺は木原を潰しにかかる。

何も直接の攻撃じゃなくたっていいのによ。

こんなに簡単に、冷静さを失ってたっけか?


「クククッ」

木原は笑っているだけ。
本当にムカつく。本当に。

448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:24:50.82 ID:FSTBuHg30


「あーあー、このままじゃお姫様にも当たっちゃうなぁ」

わざとらしくほざく木原だが、テメェほど俺が誰なのか、どんな人間なのかを知っているヤツはいねぇハズだよなぁ?

学園都市の超能力者でも第二位に位置する、垣根帝督だぞ。


花飾りに何の害も与えず、キッチリとテメェだけを殺してやる。


「なーんてっ」

深い、深い笑みを浮かべて放たれたその言葉は、もう、俺の耳には届いちゃいなかった。

449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:25:25.53 ID:FSTBuHg30


俺が見たのは、鮮血だった。

何度も何度も見てきた、赤黒すぎる血。
それは、紛れもない、俺の血だった。


何が起こった?

痛みを感じるよりも先に、純粋な疑問を浮かべ、もうろうとする中必死に頭を動かす。


450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:25:53.99 ID:FSTBuHg30

花飾りに害を与えず、木原だけを[ピーーー]事に専念しすぎたか?
攻撃の手を強めすぎたがために、防御を全く考慮してなかったのか?


俺に出来るのは、ただの憶測だけ。

血相かいて花飾りが叫んでる。
俺の名前を、叫んでる。


俺に出来るのは、朦朧と聞き流すだけ。

木原は心底楽しそうに笑っている。
返り血を浴びたパジャマが、嫌に光る蛍光灯に照らされる。

俺に出来るのは、途切れそうな意識の中で、ただ睨むだけ。

451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:26:52.77 ID:FSTBuHg30

とうとう立つことを奪われた俺は、自身の血が広がる地に崩れ落ちた。

「どうです? さっきみたいな簡単な『諦め』よりも、こんな感じの悲劇に続く悲劇のショーの方が愉快爽快でならないでしょう!?」


華奢な体してる癖に、改造されたその力で、もっと華奢な花飾りの体を抑えながら、動かない俺に話しかける。

「ですが」

置かれた木原のその一言は、確かに俺の耳にも届いていた。


452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:27:18.64 ID:FSTBuHg30

「まだそれじゃ足りないんですねぇ、むしろ、"ここから"なんですから」


確かに聞こえた。
意味も、なんとなくだが受け取れる。

だが、言葉よりも感じ取れたモノが一つ。


これまでにないくらい下劣で、これまでにないくらいソレらしい『木原』。


「安らかな眠りを、お・姫・様」


453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:29:20.19 ID:FSTBuHg30


地べたに横たわる俺にも、確認できた。

意識が遠のきそうな俺にも、確認できた。


木原の言葉の後に、花飾りが意識を完全に失うのを。

俺の意識が、いや、
"何か大切なモノ"が、プツンと、
確かに途切れたのを。


454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:30:00.86 ID:FSTBuHg30


一一一一何を、護りたかったんだろうな。

純粋な疑問の答えは、もう出てくる事はない。

一一一一何を、求めていたんだろうな。

悟るように、深く、思考の奥へ、奥へと沈んで行く。


護る?求める?何を……言ってるんだ?
俺は…垣根帝督だ。

七人しかいない超能力者の中でも、第二位に君臨する存在だ。

今の今まで、まともな友人も、まともな居場所も、許された試しがない存在だ。


455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:30:46.59 ID:FSTBuHg30


その俺が、人を、一般人を護る?

その俺が、誰にも邪魔をされる事のない唯一無二の居場所を求める?


……笑わせんなよ。
こんな無様な格好にまでなって、こんな、まだこんなにも、俺は浸ろうとしている。


居場所が欲しかったんだよ、悪いか。
俺を認めてくれる、綺麗で純粋な居場所が。

人を護りたかったんだよ、悪いか。
汚れきったこの手が、どこまで延びるか知りたかったんだ。


456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:31:40.66 ID:FSTBuHg30


頭の奥から一一一声が聞こえる。


力が欲しいか?と、


……ハッ。
第二位の俺が、それ以上の力を持ったら、どうなっちまうんだか…。


全てを恐怖に塗り替える、絶対的な力が欲しいか?


……以前の俺なら、憎くてたまらないアレイスターを潰すために、その力とやらを全力で欲したであろう。


457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:32:29.38 ID:FSTBuHg30


一一一でも、違うんだよなぁ。
もうそんな力、闇にしかならないような力、必要ねぇんだよ。


………ならば、何を欲する?


一一一そうだなぁ。
力って言うところじゃ、的を射てるんだが、

一一一言うなれば。
護れる、誰にでも延ばせる、長い長い手をくれやしないか。


………護れる力…か。

そうだ。俺はソイツが欲しい。


俺は一一一一一一。

458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/17(火) 23:34:05.50 ID:tbmPYv3o0



パキンッ、って音がしたと思う。

それは、俺を根こそぎ変化させる音。
それこそ、良い意味でも、悪い意味でも。


「phlc護mg」


本当の戦いの、幕開け。


464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:22:11.38 ID:6b+XHTEt0


ドォッ!!と、白色の翼が垣根帝督の背中から爆発的に噴射する。

その翼は、垣根帝督が未元物質を最大出力にした際に出現する六枚の翼とは異なる。


科学という概念をまるで感じさせない、二枚の、膨大な純白の翼。



「ハ、はははははッ!!」


笑い声を思わず零したのは、木原病理。
科学者である木原からは一瞬で見てとれた。

この翼は、科学の産物としてカテゴライズできるような、そんなチンケなモノではないと言う事を。

465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:23:08.15 ID:6b+XHTEt0


「諦めないでここまで演出した甲斐があったってモンですよ!!」


歪みきった笑み、
歪みきった声を、木原は張り上げる。


「その非科学!最高ですねぇ、本当に!諦めない心の良さってのが、一ミクロン程理解できた気がしますよ!!」


答えは帰ってこないというのに、それでも木原は身に込み上げる感情やら何やらを思い切り出して行く。


垣根は、何も見えちゃいなかった。
その本能が、目の前の木原病理を、跡形もなく殺せと命じる。

今の垣根には、純粋にその命令に、従うのみ。


466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:24:05.30 ID:6b+XHTEt0

どこから噴き出したかも分からない力が、一方的に木原を襲いにかかる。

速度なんて言葉で説明できるものではないと、木原は率直に感じた。


気が付けば目の前に垣根帝督がいて、気が付けば目の前に拳があった。

「ごがッッ!?」


頭に大きな衝撃が走る。

身体のあらゆる箇所を改造している木原からすればまだ大きな衝撃で住んでいるが、常人が受けたら一瞬で意識を奪う一撃。


467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:25:15.93 ID:6b+XHTEt0


「……くッ!」

木原に、明確な焦りが生まれる。
目の前の怪物を前に、抱えていた初春が邪魔になったため、とっさに初春の華奢な体を放り投げる。


砂利が広がる地に、放られた初春の体は背中から直撃する。


この、何のけない木原病理の一連の動作の流れ。

これが、垣根を突き動かし、背中から溢れる白い翼がその大きさを増す。


468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:26:17.18 ID:6b+XHTEt0


垣根の異変には木原も当然気が付き、遂に木原は垣根帝督の殺戮を企てる。


「形状変化、リトルグレイ参照!」


その言葉の直後、木原病理のあらゆる部分が、人間とは遠く離れた形へと変貌していく。


右腕は巨人を思わせ、左腕には五つもの脳を抱えた、垣根とは違った見た目通りの確かな怪物。

「ここまでさせた責任はちゃんと取ってくださいよオリジナル!
この状態から人間の肉体に戻すのは、結構大変なんですから!!」


469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:27:45.11 ID:6b+XHTEt0


………だが、今の垣根にとって見たら、所詮はその程度だった。


言葉はいらない。

取る行動なんてのは、目の前の怪物、いや、垣根にとっての障害物をただ力で粉砕するだけの、至ってシンプルで、至って簡単な話なんだから。


木原とは到底思えない怪物に、大きな、大きな衝撃が、走った。


470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:28:43.77 ID:6b+XHTEt0


木原が意識の奥底へと沈んで行ったのは、垣根の正体不明の一撃で十分だったようだ。


「は、はは」


人間のソレではない口から、笑みと共に言葉が漏れて行く。


「9月30日での数多さんの死の理由が………何となく分かりましたよ」


言葉の後に、肉が軋む音が響く。
怪物だった身体の部品達は、徐々に人間のモノに戻っていき、最後にはあのゲテモノから見事木原病理の姿に戻っていた。


471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:29:47.26 ID:6b+XHTEt0


だが、変化があったのは木原の姿だけに言えた事ではなかった。

純白の、絶対的な力を象徴するような翼を噴射させていた垣根の背中からは、もうその翼は見られない。


更に、木原からつけられた腹部の斬撃の跡も、綺麗になくなっていた。


「元に戻るのは……メンドウじゃなかったのかよ」


かすれながらも蘇って行く意識の中で、垣根は……俺は、木原に問いかけた。


472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:31:52.12 ID:6b+XHTEt0


「ええ、メンドウですよ。
確かに思考一つでどうにでもなりますが、今私、体中がかなり痛いんですよ?歩く事も諦めてきた病理ちゃんにはマジで死活問題なーのでーす」


まだ、いやかなり余裕が感じられる木原の言葉と表情だが、俺がさり気なく会話できる状態まで戻っているという所には、あえてなのかツッコんでこない。



「これは私にも言えた事なんですがねぇ。
あなた、今戦意ないでしょう?」


これがそのツッコミなのかは怪しいが、確かに木原の言っている事は的を射ていたので、なんとなくだがムカつく。

473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:32:25.82 ID:6b+XHTEt0


「……テメェが戦意ないですなんて言った所で、信じられっかっての」


警戒心を残しておいて損はない。
毒づくように、大きな壁に体を預けている木原に向けて言葉を放った。


「ふふ、"分かってるクセに"」


笑いながら返ってくる木原の言葉。

……ウザってぇな。戦意が少しずつ湧いて来てる気がするよ。

474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:33:04.86 ID:6b+XHTEt0


………とは言ったものの、確かにお互い、味方ではないという認識はあるものの、今この場で殺してやるといった殺意や敵意があるとも言い難かった。


「それにしても………」

呟くようにして聞こえる木原の声に敵意はないが、思わず俺は硬調する。


「あの"翼"……。
これも第一位についであなたも……ですか」


475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:34:48.48 ID:6b+XHTEt0


諦めかけ、立ち上がり、傷つき、意識も奪われる寸前まで来た俺に明確な戦意をもたらしたあの白い翼。

頭に浮かんでくるのは、俺が死ぬ日のハズだった10月9日の、俺が死ぬ瞬間のハズだったあの光景。



俺と牙を交わした、あの第一位の背中から噴射する、真っ黒の、二枚の翼。


皮肉な話、本当に反吐が出るが、俺がさっきまで背中から生やしていた白い翼も、それにそっくりだったんだ……。


476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:36:35.25 ID:6b+XHTEt0


敵として、あの翼の前に立ったから分かるんだ。

断じてでも言えるよ。
あれは、あの翼は、決して科学の産物なんてちっぽけな器で収まる話じゃあない。


何か、別の異物が混じった、それでも確かな、能力。


「………知りたがってますねぇ。
翼について」


俺の顔をジロジロ見ながら、木原が言ってくる。

……当然だった。
知りてぇな。是非とも知りてぇ。

477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:38:20.32 ID:6b+XHTEt0


あの翼の情報を根こそぎ理解し、あの翼の力全てを、自由に使えるようになったとしたのなら、


あの第一位にも、勝てるかもしれない。
あのアレイスターに、堂々と宣戦布告できるかもしれない。



……………なんて事、頭の片隅にも出てこやしなかった。


思い浮かんでくるとしたら……そうだな。

未元物質に、あの翼を自由に使えたなら、

花飾りも、その周辺の世界も、
誰にも文句言われる事なく、護れんだろうな………。





478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:40:11.42 ID:6b+XHTEt0


「………フフッ」

「……何を笑ってやがる」


今この場でテメェを見下せる立場にいるのは明らかに俺だってのに、相も変わらず木原から余裕だけは消える事はない。


「ここまで光にすがる人に変わっちゃあ、もう私のする事は一つくらいかなぁ、と思いまして」


ムカつくと共に、思わず身構える。
敵意はない…が、テメェが、『木原』かが"やる事"だと……?

479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:40:47.85 ID:6b+XHTEt0


「……やる事ってなぁ、どういう意味だよ」


簡単に問うが、俺の心中はそこまで簡単ではない。


「あなたの、翼を知るであろう者に会わせる事、とでも言いましょうか?」


……ほォら。
こういうメルヘンな返答が来ると思ってたから、複雑な心中だったってんだよ。


480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:41:39.90 ID:6b+XHTEt0


「……誰なんだよ。その知ってるってヤツは」

今度の問いは、本当に簡単なモノではない。
どうせ、裏から翼を出現させたらこう仕向けろとか言われてるんだろ。


だが、それが踏みとどまる理由にはならない。

俺としても、その敷かれたレールに乗ってメリットになる事はそれなりにあるんだから。


481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:42:47.58 ID:6b+XHTEt0


「"誰"という問いには、私の答えは適合しないんですがねぇ」


……は?

一瞬、木原の頭を心配したが、ある程度の冷静さは保っていた俺は、その必要はないと自覚した。

『木原』の頭が可笑しいなんてのは、当然の知識だったな。



「何だって良い。とにかく知ってる事を教えろ」

482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/20(金) 23:44:53.84 ID:6b+XHTEt0


ゆっくり、俺の問いに答えるべく、木原の口が動きを見せる。


「今日の……10月17日の夜…時間は追って連絡します。
第二学区に在るとあるドーム施設まで行ってください」


……ここまで詳細な場所まで指定されてるとなると、そこには相当な裏にとっての利益があるんだろうが……、それは俺の利益にもなり得る。


「今言える情報は、それだけなのか?」

だから、

「そうですねぇ。
『ドラゴン』と言うコードを、頭にいれて置いてください」


俺は、さらなる暗黒の道を覗きに行く。



490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:29:48.36 ID:9zs/XHWT0


第十章 一10月17日。



491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:30:41.41 ID:9zs/XHWT0


「………」

現在時刻、09:12。

木原の元を離れてから、随分と時間がたった。


俺は花飾りを心理定規の家に送ってから顔を見ていない。

軽く睡魔も襲ってきてたので、半壊した最上階ではなく一階の部屋で数時間睡眠をとった。


…で、今しがた届いた心理定規からのメールで、目を覚ましたって所だ。

492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:31:19.66 ID:9zs/XHWT0


『第一七七支部……来れる?』


……ったく、

体をゆっくり起こし、適当に着替えてから外に出た。


……朝日が眩しいったらありゃしねぇ。

こんな、陽の当たる場所にのうのうと立ってていいものか、今更ながらクソったれるが、とりあえず今はどうでもいい。


今夜、俺は何かしらの真実を知る事になるんだから。


493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:32:00.64 ID:9zs/XHWT0


「あ!か、垣根さん」


「……学校はどうしたんだよお前」



第一七七支部に着いて一番最初に目に付いたのが、花飾りだった。


「あんな爆発沙汰があったんだもの。
柵川中は多少の期間休みに入るそうよ」


その柵川中の中にあるこの支部を、だらだらと使ってもいいのかよ……。

最近、俺に常識が通用してきたようにも思えてきた。


494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:32:28.47 ID:9zs/XHWT0


案の定と言うべきか、

心理定規が俺を呼び出したのは、昨晩の事についてだった。


花飾りは終始硬調し、落ち着きを一つも見せやしない。


「……で、今日、木原が言った場所まで行く…と」

あらかたの流れを説明し、心理定規は状態を確認する。


495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:32:58.87 ID:9zs/XHWT0


別に、この場に花飾りがいると言っても、俺は何かを隠して通り過ぎるつもりなど毛頭なかった。


昨晩は花飾りをちゃんと心理定規の元まで送らなかった俺の責任もある。



ちゃんと心理定規の元まで連れて行き、安全を確保させる。


昨晩の木原のように、前持って心理定規宅に潜入するといった可能性も最低限考えなければならない訳だが。


そこについては、既に心理定規と話をつけておいたので、大した問題は思い浮かばない。


496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:33:32.33 ID:9zs/XHWT0


「あ、あの……」

花飾りが、オドオドしながら俺と心理定規を見つめる。


昨日あんな事があったんだ。
自分の身は安全なのか、知りたいに決まっている。


「…垣根さんは、それで……無事に帰ってこれるんですか?」



………………。

久しぶりだな。久しぶりに、お前の解答に目を丸くしたよ。花飾り。



497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:34:18.49 ID:9zs/XHWT0


「ふふっ」


心配気な表情を崩さない花飾りと、目を丸くしたままの俺。

その双方を心理定規は見つめ、突然笑い出しやがった。



「…おい、何が可笑しい」

「いや、だって…普段のあなたなら大きなお世話くらいで済ませてるのに、満更じゃないんだもん」


クスクスという笑い声を交えながら心理定規が言い放った言葉には、もう俺は大して驚いちゃいなかった。


……俺の求める居場所ってのは…こういう事を言うんだろうな………。


498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:34:57.87 ID:9zs/XHWT0


「これにも動じない……?」


怪訝そうな表情でそう呟いた心理定規だったが、言われてる俺は全く気がついていない。


「じゃあ……」

しかし、こればっかりは聞こえた。
どうしようもないくらい面倒臭い、心理定規の悪戯。


「昨日……家でどんなお楽しみがあったのかしらぁ?」


花飾りからすれば今の心理定規は小悪魔にでも見えてるんだろうが、


何なんだこのウザさは。


499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:35:26.05 ID:9zs/XHWT0


「お、おた、お楽しみって……そ、そそそそんな!」


……オイ、

テメェも何故そこで激しくどもってやがる。
とても自ら闇を覗こうとした中学生とは思えねぇ。


「あれれ~?初春さん慌てちゃってるけど?あれ?あなた何したの?あれ?」


……ウゼェ、

テメェは何を女子特有のウザいムードで絶えず俺に接しやがる。
とても闇に居座っていた中学生とは思えねぇ。


500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:35:52.30 ID:9zs/XHWT0


そんな感じのくだらない時間が流れ、時刻は刻限へと確実に迫っていた。


「……行くか」


俺は今まさに自室から出ようとしている所だった。

花飾りは随分前に、確かに心理定規の元まで預けに行ったから問題はない。


心の準備………なんてのは元から持ち合わせちゃいねぇから問題ないだろ。



501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:36:42.05 ID:9zs/XHWT0


体をゆっくり動かしていくと同時に、意識もゆっくり明確としていく。


第二学区のドーム施設。
そこにあるシェルターまで行けば何かしらの答えが見つかる、

と、木原病理は俺に言い残した。


誘い口なんてのは分かっている。
どんなかまでは知らんが、統括理事会にとって何かしらの利益になると言う事も。


が、そんな事は関係あるか。

あの力……"翼"がどういうものなのかがどうしても知りたかった。

第一位から直接くらったからこそ、あの力の底のなさくらいは分かってる。


502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:37:15.78 ID:9zs/XHWT0


「………」

無言のまま、薄暗く広がる夜空の中で、一歩ずつドーム施設まで近づいて行く。


『ドラゴン』


木原が覚えとけと言った謎のコード。

俺は知らない。
今まさにその『ドラゴン』の情報を得るために、『グループ』が闇の中で戦ってる事を。

俺は知らない。
その『ドラゴン』の正体は、そもそも常識なんていう概念からすら外れている存在だという事を。

…そして、

俺は知る事になる。

奮闘する『グループ』の戦場へと、俺は介入するという事を。

そのどうしようもない"存在"と、対峙するという事を。


503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:38:47.87 ID:9zs/XHWT0


現在時刻、不明。

まぁ夜って事は確かだな。
生憎、木原との一戦で腕時計は壊れちまったから詳細な時間は分からねぇが。

わざわざ携帯を見る気ももうない。


何故かを聞かれちまえば……、

目的地に、着いたからって所か?
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:39:19.56 ID:9zs/XHWT0

……さて、適当にドーム内を歩いているのはいいが、思っていた以上に死体……もとい戦いの跡が少ねえ。


本当にここで当ってるんだろうなと心配になってきた矢先、

目の前に、真の目的地であるシェルターまでたどり着き、


そして、

そのシェルターで、一つの乾いた銃声が響いた。


505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:40:19.25 ID:9zs/XHWT0


……いきなり修羅場に巡り込まれるとは、俺もなかなかついている。


表情に笑みを残したまま、勢い良くシェルターへと足を踏み入れていく。


聞こえる。
二人の声が。

聞こえる。
『ドラゴン』の情報を聞き出そうとしている声が。

聞こえる。
聞き覚えのある、虫唾が走る声が。
その声……紛れもない、第一位の声が。


506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:41:09.46 ID:9zs/XHWT0


瞬間、俺は奥歯に力を入れ、10月9日の光景を思い出す。


何故第一位がここにいる?
何故第一位が『ドラゴン』を知っている?


疑問を浮かべる事しか叶わない俺は、もう考えるのはやめにした。


声のする方向へと、確実に距離をつめていく。

そして、聞こえた。
それは第一位とは別の男の声で、
それは俺の視界に、ちょうど第一位とその男が入った所だった。

507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:42:58.02 ID:9zs/XHWT0


「『ドラゴン』はどこにでもいる。ほら、今は君の後ろにいるだろう」


一瞬、たちの悪い冗談かとも思ったが、男のその言葉は、質問に対する答えだとすぐにわかった。


『ドラゴン』とは何なのか。
『ドラゴン』はどこにいるのか。

第一位の質問も、こんな所だろう。
そしてその答えが、今まさに繰り出された。


508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:44:44.11 ID:9zs/XHWT0


男の解答の直後に、身体が倒れる音が三つほどシェルターに響く。


俺は、ある程度の状況が見える場所に立っていた。

倒れたのは、『グループ』の三人。


第一位は、怪訝そうな顔で三人の名前を呼んでいる。


が、その第一位の声も途切れた。
別段、第一位も意識を失って声を出す事が叶わなくなった、と言う訳じゃない、残念ながら。
原因は、ただ一つの"存在"が、二本の足で立っていたのに気が付いたから。



509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:50:15.51 ID:9zs/XHWT0

「ヒューズ=カザキリではない」

男の意味不明な一言が、目の前に現出する存在に呆然と立ち尽くす俺と第一位の耳に届く。

「あれは、『ドラゴン』を形成するために用いられた、単なる製造ラインに過ぎない」


まだ訳の分からない事を言うだけ言うと、出血多量のためか男の意識はそこで途絶えた。

「一一一一一『ドラゴン』か」

第一位は問う。

「その呼び名も間違いではないが……ふむ…」

"存在"は曖昧な答えを出す。
答えの後に、視線は何も変えぬままゆっくりと口を動かす。

「いい加減に、出てきたらどうだ?垣根帝督」


510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 13:53:47.84 ID:9zs/XHWT0


予想通りの展開だな。
『ドラゴン』(?)の言葉の後に俺が姿を現すなり、第一位が余計に怪訝そうな表情をした。


「テメェ……なンで生きてる…?」

「……ハッ、悪かったな生きてて。生憎、良い医者に巡り会えたんだよクソボケ」


くだらない会話は直ぐに終わりを告げ、前を見る。


「……これはこれは、実に面白い光景だ。第一候補に第二候補」


金色の長い髪を靡かせ、喜怒哀楽の全てを持つとも受けて取れるが、一転その表情からは何の感情も読み出せなさそうな、怪物を前に。




511 :1[saga]:2012/07/23(月) 14:02:56.37 ID:9zs/XHWT0


少量で申し訳ありませんが、本日はこの辺で。
いよいよ原作に合流してしまう羽目になってしまいましたが、違和感ないよね……?


ただ、原作19巻の最後らへんを一緒にして読んでもらえれば、見事に>>1の無能さが伝わって来るかと思います。


次回予定は一日空いた水曜日になっています。
今度は予定に嘘をつかないよう努力するので、是非ともお付き合い下さい。


ではでは、お付き合いありがとうございました。

512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2012/07/23(月) 21:34:26.00 ID:4lqi+1jIo
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/23(月) 23:44:18.18 ID:6NTn69zFo
>>1乙 

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