- 517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:07:02.73 ID:eNBsr68t0
「教えろ」
先に切り出したのは、第一位よりも俺の方だった。
聞く情報は限られているんだ。早漏と思ってくれても構わねぇ、さっさと答えが聞きたい。
「翼ってのは……何なんだ?」
直球の質問に、『ドラゴン』の表情が変わる事はないが、発せられた言葉には、愉快じみた感情が垣間見えた。
「第二候補……君も翼を発現させたからこそ、私は君に興味がある……」
その言葉は、俺の質問に対する答えと言うよりかは、ただの独り言で、
その独り言は、どうしようもないくらいに俺を奮い立たせた。
- 518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:08:58.09 ID:eNBsr68t0
轟ッ!
瞬間的に俺は攻撃を放つ。
威嚇のための一撃だったつもりで放ったんだが、これは少々強くやりすぎたかもしれない。
「……オイ、やりすぎなンじゃねェか?」
「……うるせぇよ」
適当な相槌を打っているが、そんな余裕も行動もすぐに消え去る。
「やれやれだな」
確かに直撃した感触はあったのに、
外傷一つないどころか、その無表情すら何にも変わっちゃいなかった。
- 519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:10:52.70 ID:eNBsr68t0
……ハッ、結構な事だ。
テメェには聞かなきゃならねぇ事があるんだ。
簡単に殺せないくらいが、丁度
いい。
「"翼"について聞いていたな」
絶妙なタイミングで俺の耳に響いて来る『ドラゴン』の言葉。
「一方通行も聞いといた方がいいかもしれん。君たちが発現した"翼"は当然科学の産物なんかじゃない」
翼。
一瞬そのキーワードに気後れしていた第一位だが、即座にあの黒い翼が頭に浮かんだらしい。
表情を見れば一発で伺える。
- 520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:12:12.55 ID:eNBsr68t0
「さっさと教えろよ『ドラゴン』
悪いがコッチはそこのクソ野郎と違って、テメェがナニモンだとか言うのには興味が皆無でな」
「ここ最近の行動からも全く同じ事を言えるが、せっかちは君らしくない事だ、垣根帝督」
…ムカつく。
俺らしさって何なんだよ。
ただでさえ一般人がどうのこうのってだけの話でも変わっちまってる俺の、一体何が分かるってんだ。
- 521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:13:32.82 ID:eNBsr68t0
「まぁ、いい」
無表情からの退屈そうな声。
とうとう来る。
ここまで俺が一つの情報に釘付けになるのも中々珍しい事で、俺の手には意外にも汗が浮かんでいた。
「翼……か、アレは一概にああだこうだと言えないのが辛い所でな」
いちいち焦らしやがって…。
「何だっていい!翼に関係してんだったら何だっていい!さっさと教えろよ!!」
思わず大声を張り上げ叫んでしまう。
一つの情報にここまで感情的になるのも、おそらく普段の俺にとっては珍しすぎる事だろうな。
- 522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:15:17.41 ID:eNBsr68t0
「……随分と荒れてるようだが、そうだな。いい加減に言うとしよう。
天gbmfと、私は解釈しているよ」
……何だと?
『ドラゴン』の言葉に今、確かにノイズのような音が混じっていた。
それも、俺が聞き出したかった場所に限って。
このノイズに似た音には、俺も第一位も心当たりがなければ可笑しいのだが、当然双方共に何に対しても気付く事はない。
- 523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:15:58.55 ID:eNBsr68t0
かく言う『ドラゴン』も、何かしまったと言った風な感じに陥っている。
「……そうだったな、すっかり忘れていたが…これだから人間の言葉は不便でならん」
とうとう人外の存在らしき言葉を吐きやがったと第一位は思ってるんだろう。
倒れている統括理事会の人間らしきヤツに『ドラゴン』は何だと聞いていた所を見ると、
コイツ、いや、『グループ』の目的は『ドラゴン』の正体。
- 524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:17:44.61 ID:eNBsr68t0
……が、んな事はどうでもいいんだよ。
肝心の俺の目的がまだ果たされちゃいない。
「…他に伝える方法は?」
また叫ぶ所だったが、一旦冷静さを取り戻し、俺は静かに問う。
「テレjchq……これでも駄目か」
今回ばかりは、『ドラゴン』もわざと焦らしている訳ではないらしい。
そんな考え、俺には全く浮かばず、余計にイライラが誇大していくだけ。
- 525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:18:50.27 ID:eNBsr68t0
「そう怖い顔をするな、垣根帝督」
だったらさっさと教えろ、
何も言葉じゃなくたっていいんだ、そう。
直接その力を俺に見せて見たらどうだ?
人外であろう存在なんだ、どうって事なくこなせんだろ?
ヤケクソ気味に思考を広げていく俺を、『ドラゴン』は制止する。
…思考の内だけで、どれも口には出していないのに。
- 526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:19:36.14 ID:eNBsr68t0
「やめておけ」
「……何?」
最初は唯の独り言だと思った。
「君たち如きでは、ptlwである私をdqyす事などできはしない」
肝心な部分に限って走るノイズだが、コイツの言いたい事は簡単に分かる。
学園都市の第一位と第二位程度の力じゃ、テメェの顔色一つも変えられやしない……と。
……面白ぇ。
- 527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:21:07.92 ID:eNBsr68t0
ふつふつと湧き上がる戦意。
だが、それは俺だけに言えた事であって、第一位は警戒心を多少強めているだけで冷静さは失っていない。
「……でェ?『ドラゴン』ってのはなンなンだ。
お前は……誰だ?」
次に切り出したのは、第一位。
俺がもう一発、適当な攻撃を『ドラゴン』に放とうとした時に被さってきた、第一位、『グループ』の核心。
俺が質問した時と同じく、返ってきた答えは結局曖昧で、俺たちに想像させる枠を広げるようなモノだけであった。
- 528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:21:46.10 ID:eNBsr68t0
……多少話を飛ばそう。
未だに誰も血は流しておらず、第一位と俺の頭の中には謎が深まっていくだけで、
『ドラゴン』……いや、『エイワス』なる存在は、現れた時と全く同じ表情を崩す事はない。
足して、分かった事は本当に少なかった。
とりあえず、エイワスは人間ではないらしい。
エイワスと言うのも、明確な名ではなく、とにかく不十分すぎる存在。
そんな中途半端な存在に、俺は舐められてるってのか…。
- 529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:22:41.64 ID:eNBsr68t0
どうとも言いにくい感情に陥る。
ここまで不安定なのに、ここまで悠々と立ちはだかっている姿は、俺そのもののような気がしてならなかったんだ。
もう暗部の人間でもなければ、当然光の住人でもない不安定な存在なのに、悠々と居場所を求めて、知らん顔で普通に居座っている。
正しいのかが分からない。
理由をこじつけまいと考えてきた思いが、ここで余計に思考回路を大きくしていく。
そんな俺の心情など知る由も無く、エイワスは話を進める。
最も、これは第一位がメインの話な訳だが、そこには俺も絡み上がるみたい……だ。
- 530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:23:16.31 ID:eNBsr68t0
「打ち止め(ラストオーダー)」
短く言葉を放つエイワス。
即座に雰囲気を硬直させていく第一位。
単に第一位の様子を変えようとしただけに放たれた一言だろうと鷹をくくった俺だが、そうではない事をエイワスは次々と証明しようとする。
「君には何の前振りもいらないだろう。
一方通行、彼女は早かれ遅かれ、"崩壊"するよ。
もっとも、単なるクローンなんだ。そこまで気に病む話でもない。
同じ機能の個体を作り直せばいい。それだけの話さ」
この一言、
俺にとってはどうでも良い一言で、
第一位にとっては、戦意をフルで起動させるに十分すぎる一言。
- 531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:23:51.07 ID:eNBsr68t0
瞬間、
チョーカー型の電極のスイッチを入れ、
なんとか目に留まる程の速度で、第一位はエイワスへと突っ込んで行く。
遠距離からの一撃で様子を見た俺とは違い、真っ向からの直接的な一撃。
「血の気の多さはどっちもどっち、か」
当のエイワスは何のけなしに呟き、何のけなしに、第一位の一撃を避け、
直後に、二発目を放とうとした第一位の身体から、鮮血が吹き出した。
- 532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:25:26.85 ID:eNBsr68t0
まるで刀で身体を一刀両断したかのような血の吹き出し方に、俺は目を張らずにはいられなかった。
……何が起きた?
これは第一位が一番感じてる筈だが、第三者の俺でもこの疑問は大きく頭にこびりついて来る。
「ごっ……ぼ、ァァがあああああああああああああああッ!?」
謎の衝撃による激痛に耐えず声を張り上げ叫ぶ第一位。
「しまった。これはこちらの落ち度だな」
それでも、顔色一つ変えず立っている怪物に、俺は……。
- 533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:26:10.34 ID:eNBsr68t0
「おおおおおオオオオオオオオォォォオ!!」
自分でも、可笑しな話だと思うよ。
普通だったら様子を伺って、なにかしらの変化を探るのが専決なのに、
俺は全く逆の方法に出ているんだから。
大きく叫び、六枚の白い翼、もとい未元物質の出力を最大にして、第一位同様エイワスに突っ込んで行くだけ。
- 534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:27:15.30 ID:eNBsr68t0
俺には第一位と違って、『反射』なんて大層な防御壁はない。
だからどうしたと、心底痛感したよ。
そんな防御壁があろうとなかろうと、起きる結果は何の変わりもないのに。
「がッ……は」
身体が崩れ落ちる。
第一位のような大きな叫び声が俺から上がらないのは、傷口が第一位よりも相当浅いから。
…と言っても、死に向かわせるには十分な傷口だが。
- 535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:27:44.07 ID:eNBsr68t0
「随分と加減ができるようになってきたが、私の意思ではこれが限界…か」
表情も、声色も、
何も変わらないエイワスだが、一つの変化が起きたのを、俺は確かに確認できた。
背中から、何かが生えている。
いや、何かという表現は使うまい。
形として、翼が一番しっくりくる。
青ざめた輝きを放つプラチナという、これまたメルヘンチックな色をした翼が、第一位と俺を引き裂いたモノの正体なのか?
そして、この翼はやっぱり俺を引っ掻かせる。
圧倒的な存在感の違いだけで、質のそのものは俺や第一位の翼にそっくりなんだ。
- 536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:28:15.49 ID:eNBsr68t0
自分の血で濡れた地面に倒れながらこんな事を考えているのも馬鹿みたいだが、局面は進み続ける事をやめない。
「abeoughabaeougbao殺wobnoweuferya……ッ!!」
とうとう、第一位の力がその一線を越えた。
背中が弾け、そこから飛び出す漆黒の翼。
相対的な色の翼を持つエイワスはやっぱり無表情のままだが、俺は起き上がりたくて仕方がない。
この局面に、興味が湧いてきている。
そんな余裕はないのもわかっているが、この双方が持つ羽の本質を…こんな状況でも俺はやっぱり知りたい。
- 537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:28:55.79 ID:eNBsr68t0
「やはり、rgg時ri代priegjが違うか」
轟音が炸裂した。
漆黒と青ざめたプラチナの、二つの翼が激突した事による衝撃波。
二つの大きすぎる翼が生み出したのは嵐。
第一位とエイワスを中心に起きる爆風に、倒れたままの俺は耐えず体を吹き飛ばされ、壁に背中をぶつける。
思わず口の中に広がる血を吐くが、俺の視線の先は変わらない。
- 538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:32:36.05 ID:eNBsr68t0
あんなでかい嵐が生み出されたのだから、多少なりとも互角の衝突が起きていたのかと思ったが、人外の怪物はやっぱり怪物だった。
最初の一撃だ、たった一撃で、第一位の黒い翼は根元から千切られる。
続く二撃目、無表情のまま振るわれたプラチナの翼で、完全に分断されていく。
直後に上がった絶叫、いや、咆哮と言うべきか。
上を向いて声を張り上げている第一位を、もはや待ちはしない。
繰り出された、三撃目。
真っ赤な鮮血が、多少距離があった俺の元まで飛び散り、第一位の華奢で真っ赤な身体が見事に宙を舞って行く。
- 539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:33:07.32 ID:eNBsr68t0
「……ハハ」
俺は気が付けば真っ赤な口から笑みがこぼれていた。
次元が違いすぎる。
10月9日の最後に、俺が第一位の黒い翼を見た時にもコレと似たような事を考えたものだが、コレはもう言葉にならないくらいの格の差だと俺は確信を持てる。
現にエイワスは、「こんなものか」ともはや倒れている第一位の方向すら見ていない。
- 540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:33:38.51 ID:eNBsr68t0
そう。
今、エイワスの視線の先にいるのは、俺だ。
「ッ!!」
起き上がらない体を無理矢理上げようとする。
当然それは叶わず、余計に傷口を広げて、吐血するだけで終わった。
「アレイスターは彼を第一候補と置いているが、私は君の方が興味が持ててね」
静かに近づいて来る。
青ざめたプラチナの翼を生やしたまま、確実に。
- 541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:34:21.17 ID:eNBsr68t0
「見せてくれないかね。一方通行のように、君の知りたがる"翼"ってヤツを」
近づいて来る。
余裕をかましたその面が気に食わねぇ。今すぐにブチ抜いてやりたい。
そうだ、ブチ抜いちまえばいい。
そのためには…ああ、力が必要だ。
力をくれよ。
今度のは護れる力なんかじゃなくて、コイツにも引けを取らない、圧倒的な、破壊のための力だ。
……よこせよ、力だ!!
- 542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:34:52.83 ID:eNBsr68t0
「ftdykpyewsdvhksah殺ajtohpawnkhgr……ッ!!」
俺の意識は薄れていき、こっから先は俺の知らない未知の支配によりエイワス、ドラゴンを駆逐するべく立ち上がる。
出血は止まり、痛みも感じない。
そんぐらいの意識は持ち合わせている所を見ると、木原と戦りあった時よりかはなにかしらの変化が有る様だ。
「……ほう」
目の前に映るエイワスの表情は、上手く伺えない。
ただ俺の取るべき行動は決まっているため、そんな事には気を止めなかった。
- 543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:36:05.60 ID:eNBsr68t0
自分でも、どんな攻撃を放ったのかと聞かれれば返答に困るだろう。
背中から出現する二枚の白い翼を叩きつけたと言ってしまえばそれまでなんだが、力を放つ直前に、大量の数式に似たような式が頭にぶち込まれていくから答えに困るんだ。
「君のもオシリスの頃のrsg力nopheだろうが、どうも形式ayjmが違うな。ふむ、興味深い」
複雑に入り込む式の中でも放った俺の一撃は当然エイワスに届く事はなく、
圧倒的な力で潰されるかと思ったが、まさか、
反射的に放った俺の拳を、握って止めて来るとは思いもしなかった。
- 544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:36:38.42 ID:eNBsr68t0
「………成る程」
ものの数秒、
俺の拳を止め、そのまま握り続けていたエイワスが呟いた。
瞬間、
ドバッ!っと、俺の体から鮮血が吹き出した。
突然の衝撃に頭が着いてこず、二枚の白い翼の形がブレる。
例えるなら、正常だったテレビの画面がいきなり砂嵐に切り替わったような。
- 545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 23:37:13.34 ID:eNBsr68t0
大量の出血により、俺は支配されていた意識からは脱出できたものの、肝心の意識そのものがうすれちまっているみたいだ。
「やはり、私なら彼より君を第一候補にするんだがね」
簡単に引き裂いておいて、何をほざいてるんだこの怪物は。
「一一一汝の欲する所を為せ。それが汝の法とならん、か」
結局、何も得られないまま終わるのか。
花飾りと、その周辺の世界を護る、なんて馬鹿げた決心は未だ揺らいじゃいない。
そのために、俺には未元物資じゃ足りないと思ったんだ。
そう思った矢先に出てきたのがこの翼だった。
その翼の手がかりが、この怪物だってのに………。
- 552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:52:09.97 ID:QHk2NYgh0
立てよ、手がかりはすぐ目の前にいるんだ。
本能が俺の五感を刺激する。
立てる、まだ立ちはだかる事が出来ると信じたが、今の状態じゃあ、やっぱりキツイらしい。
「気に病む事はない。そのために、私がこれから言う事はよく聞いておいた方が良い、垣根帝督。
当然、一方通行も、だ」
とことん、外も内も見透かされてる気がしてならない。
これから言う事……ねぇ。
ここに来て、翼について教えてくれるなんて、ハッピーな展開でも期待しておくか。
- 553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:52:52.29 ID:QHk2NYgh0
「ロシアに行け」
………は?
まともに続いてもない意識の中に届いた言葉に、耳を疑った。
こればかりは第一位も同じだろう。
「ああ、いきなりすぎたな済まない。上手く言葉が使えない身なんだ、これくらいは許してくれ」
必死に意識を留め、変な汗が吹き出し始めた頃にもなって来たってのに、この怪物は自分のペースをまるで壊さない。
「まず、一方通行。あの子は難しいな」
この一言、第一位にはどうな意味を持たせる一言なんだろう。
- 554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:53:22.33 ID:QHk2NYgh0
もし、俺が同じような言葉を投げかけられたら?
俺の周囲の人間、数は本当に少ないが、心理定規、花飾り、白井と他のヤツら。
そいつらの、俺が護りたいと願うヤツらの命が、難しいと一蹴されたら……?
「アレイスターのプラン次第だが、今すぐであれ遠い未来であれ、あの子は死滅するだろう。
あの医者を頼るのは止めておけ。
彼もまた人間なんだ。人間の技術、いや、この街の技術でどうにかなるならアレイスターも不安材料を放ってはおかないだろう。
後で嘆くのが嫌ならば、既存のものとは違う道でも歩んでみたまえ」
- 555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:54:02.08 ID:QHk2NYgh0
ペラペラと、神のお告げのように言葉を振りかけられた一方通行に反応が見える。
「ふ、ざけン……な」
血みどろの口から発せられた言葉に、俺は確信する。
コイツの目には、『諦め』なんか映っちゃいなかった。
あのガキは助ける。と、
言わずとも、俺にさえ伝わって来る。
- 556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:54:41.87 ID:QHk2NYgh0
「ロシアと言ったが、正確にはそこから独立したエリザリーナ独立国同盟か。
そこは今、惑星規模の戦乱の中心点へと変貌しつつある。ありとあらゆる文明の知識や技術が、軍事と兵器に鍛えられて集結する事だろう。
……一方通行に垣根帝督、君達が見た事もないような、"全く別の法則"もね」
その全く別の法則ってヤツが、一方通行の護りたい、打ち止めを助けるための材料になる。と、エイワスは言いたかったんだろうか。
一方通行は今にもエイワスを引き裂いてやろうかと意識を強めて睨めつけているが、俺の掠れた声がそこに覆いかぶさる。
「待て、よ」
エイワスの視線が俺へと移る。俺は半ばヤケクソ気味に、途切れながらの声で質問していく。
- 557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:55:24.57 ID:QHk2NYgh0
「それ、が、その法則が、俺の知りたがる翼……に、直結するってか?
そのため、に、わざわざロシアまで行けってか?
…打ち止めのため、だとか言って、そこのクソ野郎は何が何でも向かうだろうが、俺は……御免、だぞ」
ああ、御免だよ。
確かに翼については知りたい。その気持ちは今でも変わらない。
…が、そのためだけに、俺の本当の目的が居る、在る学園都市を離れるってんなら話は別なんだ。
木原からこの場所を聞いた時から、意図的に敷かれたレールに沿って進んでるとしたって、護れるためなら何だってするって決めた。
そのために力を欲したが、護る対象から離れてまで手に入れようとも思わないんだ。
それが、俺が今生きてる、奇しくも10月11日に目覚めちまった俺の、唯一の存在価値なんだよ……。
- 558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:55:51.24 ID:QHk2NYgh0
「一方通行のサポートも兼ねつつ、そこから真のrsg力nopheを引き出してもらいたい。と、言わなくともこの反応か。
やはり、保険はかけておくに限るな」
……嫌な予感がする。
少なくとも、今の言葉でコイツの意図は大体理解できた。
打ち止めの助けとなる、エリザリーナ独立国?は戦火の中心で、学園都市の第一位でも不安が残るから、そこに俺を増援として送り、そこから翼もろとも何かしらの力を出現させる、と言った所か。
意識は薄れ薄れなのに、こういう事だけは変わらず頭の中をずっと回り続けている。
そして、次のエイワスの一言は、
俺を、確実に突き動かす。
- 559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:56:26.29 ID:QHk2NYgh0
「初春飾利」
「……ッ!!」
さっきから気にかかっていたエイワスの言う"保険"、
この単語一言で十分だった。
俺を何が何でも一方通行に同行させるため、花飾りを人質にでもとったってか。
そもそも、俺と多少なりとも関係があるからって、こうも簡単に一般人を引っ張り出すってのか。
プライバシーも何もあったもんじゃない。
- 560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:57:09.92 ID:QHk2NYgh0
「いやはや、君が彼女を心理定規の、いや、第三者が居る所に預けておいてくれて助かったよ。
もしも君の家に一人で留守でもしてたなら、わざわざ私から出向かねばならなかったからな」
「どういう……意味、だ」
単に人質を取るってだけとなると、少々腑に落ちないエイワスの言葉に、俺は尋ねる。
心理定規の所に連れて行ったのが功を奏した……?
「君は知ってるだろう?」
俺を見下ろし、そんな言葉から切り出したエイワス。
- 561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:57:56.93 ID:QHk2NYgh0
「彼女は、初春飾利は、初対面の打ち止めを庇い、君の前に立ちはだかった」
「それ、が、どうしたってん…だよ」
「その彼女が、打ち止めの現状、つまりはいずれの崩壊と、打ち止めの正体……量産型能力者計画から作られたクローンだと言う事を聞いたら、一体どうするんだろうな?」
「ッ!!」
……どこまで引っ掻き回すつもりなんだ。
なんで、知っちゃいけない場所にいる人間に、知っちゃいけない情報を聞かせる……?
- 562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:58:39.01 ID:QHk2NYgh0
エイワスの言いたい事は、もう十中八九理解したよ。
俺をロシアに行かせるためだか何だか知らねぇが、花飾りまでロシアに道連れにするって言いてぇんだろ?
「心理定規の体を借りたのは声だけだから、どんな顔をして聞いていたのかは分からないが、君にまで立ち向かった彼女の事だ。
既に何かしらの決意はしてそうだけどな」
そのために、打ち止めの惨状をありのままに伝えたってのか。
花飾りと一緒にいる、心理定規の声帯だけを都合良く利用して。
- 563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:59:16.17 ID:QHk2NYgh0
「…クソ、が」
「ああ、もう一つ程釘を刺そうか。
初春飾利は、クローンの元である御坂美琴と友人関係にあるんだよ、全く、皮肉な話だな」
もう、まともに物事を考えていられない。
怒りで目の前が貸すんですらいる。
そんな怒りだけで、いや、何を武器にした所で、コイツの戯言一つも止める事なんて出来ないのは分かってる。
その現実が、余計に俺を怒りのドン底へと誘うんだ。
- 564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/28(土) 23:59:59.20 ID:QHk2NYgh0
一方通行もそんな所だろう。
さっきから息をするのも苦しい状態で、ヒューヒューと必死に息をして何か、エイワスを、怪物を黙らせる方法はないのかと考えているのが見てとれんだよ。
アイツも、そんな事は不可能で無意味なんて、分かっているんだろうが。
「……さて、そろそろアレイスターのヤツがうるさくなる頃合いか」
どこまでも無表情で、どこまでも絶対的な存在でい続けた怪物は、つまらなさそうに言葉を並べて行く。
- 565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:00:39.33 ID:GnkVRxdU0
「もう一度言うぞ、第一候補に第二候補」
ゆっくりと、血で広がる床に突っ伏す俺と第一位に、告げる。
「ロシアに行け」
本当に、10月9日に俺が死ななかったのかが謎に思えて来る。
アレイスターの野郎が掲げたプランは、ここまで俺が絡みつくようなプランだとは、俺には思えなかったんだよ。
「禁書目録という言葉を覚えておくといい。アレ自体はそこにはないが、それに関わる重要な品がある」
幕は開けていく。
今にもアレイスターにイレギュラーとカテゴライズされそうな第二候補(垣根帝督)と、
アレイスターお気に入りの第一候補(一方通行)の、戦いが。
- 566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:02:54.12 ID:GnkVRxdU0
一一一一一一一一一一一一一
一一一一一一一一一
一一一一一一
怪物がこの場から消え去って、何分が経ったろうな。
傷心なんて心底似合わない真似をしてる訳じゃないんだが、俺はどうもまだ起き上がる気分じゃないらしい。
別段、傷のせいで動きたくても動けないとかいうんじゃない。
傷の痛みは、第一位も俺も随分マシになった方だ。
……ムカつくが、自然治癒なんかでどうにかなる傷口でもなく、それでも痛みが確実に柔らかいでるのは、エイワスの野郎のせいだ。
『選別だ』
とか言って、去り際に俺と第一位に最低限の行動は許される程度の処置を施して行きしやがった。
とことん舐めやがって……。
- 567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:04:58.59 ID:GnkVRxdU0
一人でクソッたれる俺を他所に、第一位が俺より心底重たそうな体を起き上がらせる。
「どこに、行く、つもりだ……?」
第一位に質問するなんて簡単な行動に出ただけなのにまだ声が掠れちまっている。
所詮は最低限の処置って所か。
「あの、ガキを……連れて、『外』に出る」
俺よりも重く掠れた声で、第一位は呟いた。
……いきなり『外』か。
展開早いっての、まだ追いつくような頭してねぇよ。
- 568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:05:28.34 ID:GnkVRxdU0
「待て、よ」
気が付けば俺は第一位を制止していた。
「その体で、『外』に出られると思ってんのか?
エイワスが施したのは、たかが応急処置だぞ」
こんな戯言、言うキャラじゃないなんてのは百も承知だが、俺達が学園都市の第一位と第二位でも、いくらなんでも、この状態じゃ『外』に、ましてロシアに行けるなんてとても思えやしねぇ。
打ち止めの状態にもよるが、俺達、少なくとも第一位が五体満足の状態じゃなけりゃ、まともに、全く別の法則と渡り合えない気がしてならねぇ。
- 569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:05:55.96 ID:GnkVRxdU0
似合わないなんて事は分かってる。
……が、エイワスと対峙して、少なからず感じたんだよ。
いくら他所から、230万の能力者の頂点だとか、頂点から二番目とか褒められた所で、絶対にたどり着く事が不可能な存在がいるって事が。
「うる、せェよ…」
それでも、と、
そんな事はハナから分かってるよ、と、
まるでそう言われているかのような錯覚に陥る俺は、いよいよ末期なんかな?
「あの、ガキの……命だけ、は」
途切れ途切れでも、根っこから強い意志が潜んでる第一位の言葉を聞いて、俺の取る行動は決定された。
- 570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:06:50.37 ID:GnkVRxdU0
「そう、かよ」
俺も、重い体をようやく起こす。
まだ耐えられないと言わんばかりに、身体のあちこちが悲鳴を上げてるのが分かるが、そんな事はどうでもいい。
必死に足を踏ん張り、必死に第一位の前に立つ。
「なンの……真似だ」
そう、俺は、第一位の前に立ちはだかってる。
「分からねぇか。"今の"テメェ、じゃあ、足で纏いだって言ってんだよ……」
ああ。
俺は、このまま第一位と一緒に『外』に出るなんて行動を取る事はしない。
このままの状態で、やすやすと行かせる訳には、いかねぇんだ。
- 571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:07:53.79 ID:GnkVRxdU0
「ふ、ざけンな」
『外』へと向かう邪魔をする俺を睨みつけて言葉を放った第一位は、今にも倒れそうだった。
「ふざけてんのはテメェの方、だろ……。
無茶してでも、死んでも助けるのが"悪党"か?
そうじゃ……ねぇだろうが」
尚更、許す訳には行かなかった。
ここまで他人の、それもあの第一位の意気地を咎めるなんて思ってもなかったのに。
「テメェが死んだら、打ち止めはどうなる?
たとえ助けたと、して、打ち止めは本当に助かったって、思えんのかよ?」
- 572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:09:03.96 ID:GnkVRxdU0
似合わない。反吐が出る。糞くらえ。
分かってる。
全部、分かってるさ。
「テメェの命も、打ち止めの命も、全部が全部安全だと確信できた時に初めて、助かったって、言えんじゃねぇのかよ?」
今の第一位の目に映る俺は、一体何に見えんだろうな?
どこぞのツンツン頭の野郎か。
どこぞのジャージ爆乳教師か。
何だって良い。どうと思われたって構わない。
「テメェの都合で、俺と花飾りは振り回されなきゃなんねぇんだよ。足で纏いになるくらいだったら、黙って、寝てろ」
言葉の後に、俺は第一位の腹に自分の拳を、
出来る限りの強さで入れた。
- 573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:10:20.64 ID:GnkVRxdU0
「……クソッタレが」
俺は肩に第一位を乗せ、ようやく第七学区まで辿り着いた所だ。
随分と手間の掛かった作業だったが、俺を誰だと思ってやがる。
こんなひょろっちいモヤシの一匹や二匹、たいした事ねぇっての。余裕だ余裕。
……とは言え、やっぱりこの身体で人一人担いで移動するのは、実際の所結構な具合でキツかった。
一方通行より大分傷が浅いって言っても、俺も重傷者だっての。
……そんな事はどうでも良い。
俺には、行かなきゃなんねぇ所があった。
- 574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:10:58.75 ID:GnkVRxdU0
一つは、カエル顔のクソ医者の病院まで。
俺は何とかなってるが、ひとまずこのモヤシを預けなきゃなんねぇからな。
二つは、モヤシの仮住まいまで。
俺がコイツの腹に拳を入れた後も、
『あの……クソ、ガキは…』
だとか言って終いには打ち止めの回収を、すぐにでも途切れそうな意識の中で俺に頼んできやがった。
まさかテメェから頼み事をされるなんて、思ってもなかったが、打ち止めを身近に置いておけるのはコッチとしても都合が良い。
- 575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:12:14.44 ID:GnkVRxdU0
何よりも、打ち止めの状態が確認出来るのはありがたい。
心配なんてちんけなモノじゃない。
状態の悪化速度によって、俺もこのモヤシも、いつ『外』に出ればいいか、その的確なタイミングが伺えるからな。
先に病院までコイツを送り込もうとした俺だったが、途中でその考えを止める。
どうせあのクソ医者の事だ、
俺の話は一つも聞かないで、モヤシだけを置いて俺を向かわす可能性は皆無と見ていいだろう。
病院は、打ち止めを先に回収し、俺のマンションの適当な部屋に寝かせておいてからだな。
- 576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:12:50.08 ID:GnkVRxdU0
「……ここか」
第一位が指示した場所まで着くと、目の前に大きなマンションが俺の視界に入った。
俺のマンション程まではいかないものの、それなりの高級マンションと見て取れる。
セキュリティだとかがかなりメンドくさそうだが、問題ない。
俺はスーツの内ポケットから、何の変哲もないカードを取り出した。
まぁ、普通に見たら確かにコイツはただのカードに見えるかもしれんが、実際の所は、学園都市製の建物のカギなら絶対に開ける事が出来るっつー優れモンだ。
しかもセキュリティにも関与しないから助かる。
- 577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:13:25.41 ID:GnkVRxdU0
なんでそんな代物持ってんのかと聞かれちまえば、暗部の時に使ってたのがまだポケットに入ってたから、としか答えようがない訳だが。
マンションの位置と一緒に呟いていた号室の前まで行くと、目の前には【黄泉川】の苗字が目に入る。
さっさと用事は済ませるに限る。
俺は気配を殺し部屋の中へと入って行く。
体のどっかしらから血が垂れてないか気になったが、まぁいい。
試しに入った一室が見事ビンゴ、打ち止めの眠ってる姿がそこにはあった。
- 578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:13:52.42 ID:GnkVRxdU0
……しかし、ここで一つ重要な事が思い浮かぶ。
…なんの前触れもなく、打ち止めが姿を消したらどうなる?
当然第一位と一緒にいる事を疑うだろうが、何かしらのメッセージは必要だよな……。
俺は多少頭を悩ませた。
もし、第一位がこの状況下にいたら、どんなメッセージを残すんだ?
そもそもメッセージを残すのが前提ってのは自分の神経を疑うが、まぁ仮定だ、仮定。
数十秒考え、これが一番しっくり来るか。と、俺は一人で納得した。
- 579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:15:38.61 ID:GnkVRxdU0
…もう一つ、もっと重要な事に気が付く俺。
……書きとめるメモ翌用紙は辛うじて持ってたんだが、肝心の書くものがねぇ。
どうしたものかと再び頭を悩ませようとしたが、……止めた。
俺は親指を口の中に突っ込む。
…最初に言っとくが、赤ん坊みたく指をしゃぶってる訳じゃねぇからな。
口の中にまだ広がってる血を指に絡め、ある程度の量がついたと思ったら指を口から出す。
そして、真っ赤な血がある程度絡みついた親指で、メモ翌用紙に、震える文字を書きとめた。
『このガキの命は、必ず助けてみせる』
- 580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:16:16.70 ID:GnkVRxdU0
「……随分とご挨拶な格好だね?」
現在時刻……知らん。
もう朝日が出る頃になるのかって感じの時間だってのは確認できた。
「御託はいい。とりあえずコイツのベットを用意してくれ」
俺は肩を担いでいた第一位を駆けつけてきたナースに預ける。
「全く掴めない状況だが、患者の必要するモノならなんでも用意するよ?」
つか、冥土返しも冥土返しで、いつもこんな時間まで仕事してんのか?
ご苦労なこった。
- 581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:18:02.02 ID:GnkVRxdU0
「……君、一方通行の腹部付近でも殴ったのかな?」
「……あ?だったらどうしたってんだよ」
「いや、ね?当たりどころが悪かったのか、アバラ骨が折れてしまってるんだね?」
………いや、え?
黙らせるだけの一発で、え?
しかも俺の体力なんてかなり擦り切れてたんだぞ、そこからの拳で?折れ?
いやいやいや……体弱すぎにも程があんだろ第一位…。
「だから、五体満足にするのが多少厄介になった事を伝えたんだよ?
まぁ、君が望むんであれば5日くらいでなんとかするがね?」
- 582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:18:39.43 ID:GnkVRxdU0
俺のあの惨事をたった4日で治しやがった医者は、骨を無理矢理くっくけるのはどうも好んでないらしい。
それでも5日って……、やっぱりコイツの腕に常識は通用しねぇ。
「急ぐ必要ねぇ。って言ったら?」
「う~ん、彼の体の強さにもよるが、見た所こういった大怪我の経験も彼は浅いからね?
まぁ、一週間と5日って所かね?」
「……なら、"今"は急ぐ必要はねぇ」
一週間と5日……まぁ予想通りの速度だな。
急いで『外』に出るのも構わねぇが、焦りすぎな行動は俺のスタイルじゃねぇってのも確かだ。
- 583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:19:33.16 ID:GnkVRxdU0
「……それで?君はどうするつもりだい?
言われた程度の処置はしたが、五体満足と言う分にはまだ少し足りないんだが?
入院すると言うのならベットを用意するし、入院しないと言うのなら無理に止めようともしない。
まぁ、君の顔を見れば大丈夫だと思うがね?」
「……ハッ」
違いねぇ。
しつこいようだが、『外』にすぐ出るつもりもねぇんだ。
日常生活に支障が出ないくらいの状態なら、無理に入院する必要はない。
「俺は入院しねぇ。第一位を急かす必要もねぇ。ただ、黄泉川とか言うやつとその関係者には、第一位がここで入院してる事は黙っておけ」
- 584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/29(日) 00:20:05.61 ID:GnkVRxdU0
解せなそうな冥土返しなど構わず、俺は釘を刺しておく。
第一位がどうなろうが俺の知った事じゃないが、善人気取りの第一位と打ち止めを引き取ってるような野郎の事だ、第一位と打ち止めの現状を知ったらどんな行動を起こすか不安でならんからな。
「じゃあ、俺は行くぞ」
「ああ、なんかあったら電話でもなんでもするといい。
二度目だが、患者が必要とするモノは、なんでも用意するからね?」
それにしても、冥土返しもよく俺と第一位が一緒にいる経緯だとかを聞いてこないモンだ。
少なからずも『闇』を知る医者だっつー噂ってのはマジなんだろうと思うと共に、俺はある場所へと向かう。
知っちゃいけない真実を知った花飾りを、迎えに行くために。
- 591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:40:50.44 ID:4ISVtq5/0
行間四 一10月18日?.
- 592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:42:03.53 ID:4ISVtq5/0
「そんなに不思議かね、アレイスター」
垣根帝督が一方通行を肩に担ぎ第七学区へと移動しているそんな頃、金髪の怪物、エイワスは二本の足で歩き、ありきたりな携帯電話を耳に当てていた。
月を見上げながら、どこから入手したかも分からない携帯電話越しに会話をするエイワスの表情には、相も変わらず何の変化も見えない。
対する相手の方は、少しだけ黙り、そして返答する。
『その気になれば、移動に足など必要あるまい。意志の疎通に関しても同様のはずだ。
確かに不可解ではある。効率的とは思えない』
「二本の足で立ち、文明の利器で会話をする。……それなりに価値を見出せる行為じゃないか。
もっとも、効率優先でガラス容器の中に逆さまで浮かぶ男には解せぬ風情かもしれないがね」
人間と人間の会話では成立し合えない怪物同士の会話を挟み、エイワスは全く別の話題に切り替える。
「そうそう。君が五十年以上もかけてこんな酔狂な街を作り、ようやく発現させる事に成功したあの第一位だがね」
話題が変わったにも関わらず、的確にアレイスターの何かしらの感情へとつけ込むようなエイワスの言葉に、アレイスターは言葉で遮りに入る。
『思った通りには進んでいないという話か』
- 593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:43:02.06 ID:4ISVtq5/0
「それはまぁ、誤差範囲を含めて何とか許容できるんじゃないか?
私が言いたいのは、そんな事じゃない。分かってるクセに」
『不可解な点……か。あなたがそこまでして垣根帝督に執着する点もまた、不可解ではあるな』
この二つの存在からしたら何の変哲もない世間話に当たる会話は、エイワスにとっては世界を滅ぼす事よりもよっぽど興味があるものらしい。
「彼はやはり面白い。10月9日の時点で死の運命にあった彼がこうして息をしている時点で、私はこう思わざるを得ないよ」
『そこまであなたが興味を駆り立てるのも珍しいな。
イレギュラーに生きているというならば、浜面仕上も言えた事だろうに』
- 594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:43:56.90 ID:4ISVtq5/0
「面白いと言うのは、垣根帝督だけに言っているんじゃないさ。
君の感情についても言ってるんだよ。私は」
『……なに?』
怪訝そうに、解せなそうに言葉を返すアレイスターだが、それも当然と言えば当然だった。
「幻想殺しに一方通行、そしてイレギュラーの浜面仕上、それぞれのヒーロー達に君は憧れているんじゃないかと考えていたが、
君が一番憧れを抱いているのは、垣根帝督なんじゃないのか?」
『……、』
確認するかのように問われたアレイスターの返答はない。
それも構わず、エイワスは続ける。
- 595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:44:35.85 ID:4ISVtq5/0
「一口にヒーローと言っても、様々な分類がある。
……誰に教えられなくても、自身の内から湧く感情に従って真っ直ぐ進もうとする者。
……過去に大きな過ちを犯し、その罪に苦悩しながらも正しい道を歩もうとする者。
……誰にも選ばれず、素質らしいものを何一つ持っていなくても、たった一人の大切な者のためにヒーローになれる者。
……しかし、垣根帝督は、そのどれもに当てはまっているとは思わないか?」
その問いには、口を閉ざしていたアレイスターも返答する意外に道はなかった。
『素質らしいものを何一つ持っていなくても……?
久々に面白い見解だエイワス』
愉快気に、しかしどこかバカにされた感から湧き上がるような怒りを乗せたアレイスターの返答にも、エイワスは何一つ動じる事はない。
- 596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:46:46.80 ID:4ISVtq5/0
「知識の範囲として、それなりに良い思い出として君の中には残ってるだろうに、彼が能力を発現した時の事くらい」
決して表に出される事はない出してはいけない、出されてはいけない、垣根帝督の過去。
アレイスターはその過去の"一点"を頭に浮かべ、何を考えているのだろうか。
「そして今、彼自ら縛り付けた過ちと闇の鎖に抗い、時に自ら湧き上がる意志次第では簡単にその鎖を砕いてみせる。そんな彼に、君は憧れているんじゃないか?」
『……エイワス』
一回、アレイスターの制止の声が届く。
が、エイワスは喋ることを止めない。
- 597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:47:21.08 ID:4ISVtq5/0
「垣根帝督以前に、そんな三種類のヒーローは君の持っていないものを備えているようだ。
そして、垣根帝督はたった一人でその全てを備えていると言ってもおかしくはない。故に、君が憧れるのも無理はない。
……何せ君は『あの時』崩れ落ちて嘆くことしかできなかったんだからな」
『エイワス』
もう一度、制止のために名を呼んだアレイスターの声色には、ほんの一瞬だが歪な感触が含まれていた。
エイワスの表情は変わらない。
それとも、興味と価値。その二つの概念だけのためだけに現出する怪物にとっては、単に興味も価値も見出せなかったというだけの理由なのか。
- 598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:48:21.01 ID:4ISVtq5/0
『使えるものなら何でも使わせてもらう、それがたとえ、あなたであってもだ。あなたは私のプランに誤差があると笑うが、私からも言わせてもらおう。
……その絶対的優位こそ、永劫に続く保証などどこにもないのだと言う事を』
「別に、望んで力を持ち、努力によって維持しているのではないのたがね。
それこそ、垣根帝督のように」
どこまでも不可解と混沌しか常人には与えるしかできない会話は、次のエイワスの言葉で終わりを告げる。
「まぁ良いだろう。また価値と興味が湧いたその時に、私はここへ現出しようか。
もっとも、垣根帝督のおかげでその過程は早く訪れそうだが」
携帯電話の通話は途切れ、アレイスターは一人思う。
垣根帝督という一人が、現在10月18日にこうして生きているという現実だけで、こうも違いが生じるのか。
そして、その変化は一体、ロシアでどのような結果を導き出す一一一?
- 599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:49:00.37 ID:4ISVtq5/0
第十一章 一10月18日.
- 600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:49:42.24 ID:4ISVtq5/0
現在時刻、06:12
「垣根さん」
名前を呼ばれる。
名前を呼んだ花飾りの声色は、当然ながらいつものもの、つまりは雰囲気がまるで違っていた。
「……私から言うことは、何もないわ…」
顔を俯けて、どこか申し訳なさそうに呟いたのは心理定規。
精神系の能力者、しかも大能力者であるにも関わらず、名前も知らない誰かに精神を手に取られ、花飾りにいらない真実をぶちまけちまった事に、酷く恥じてる様子が俺には伺えた。
- 601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:50:18.59 ID:4ISVtq5/0
「何をくだらねぇ面してんだよクソ」
俺は珍しく、いや下手したら初めてになんじゃないか?
心理定規の頭に手をポン、と置き慰め混じりにそう言った。
心理定規は「似合わないわよ」と言ってたが、その口元は心なしか緩んでいた気もする。
「……それで?」
急速に話題を変えたのも、俺。
本題に入らなきゃいけない。こればかりは、俺一人の一存じゃどうもできない問題なんだから。
- 602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:51:24.54 ID:4ISVtq5/0
「行くつもりか、ロシアに」
俺は質問する。もちろん相手は花飾り。
コイツは、何の事はないただの道案内をしたくらいの打ち止めを守るために、俺の挑発には全く乗らず、脅しにも乗らずに、自分の苦痛も省みなかった馬鹿だ。
その打ち止めが、いずれは崩壊の運命にあって、尚且つ花飾りと何故か友好関係にある第三位、御坂美琴のクローンだなんて言われちまえば、もう返ってくる答えも決まってると言えば決まってるんだが。
「はい。行きます」
返ってきた答えは当然、予想の範疇の返答であって、
それによって俺のこれから、
やるべき事、やらなければならない事の全ても、現段階で決定された。
- 603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:51:55.80 ID:4ISVtq5/0
俺はありったけに説明した。
紛れもない真実を、出来る限り隠さず。
あらかじめ心理定規には席を外してもらった。
暗部の事は隠し通したつもりだが、量産型能力者計画の事を言っちまったとなれば暗部の影がどこかしらの言葉に隠れていても不思議ではない。
さっさと話を進めたかった俺は、無駄に突っ込まれないために花飾りと二人で話をしてるって訳だ。
俺が話したのは、打ち止めに関する事をあらかた。って言った所か。
保護者の位置に当たる第一位、一方通行が目を覚ますまでは学園都市で待機、
打ち止めに急な変化が見られた場合は、あの医者に頼んで第一位を急遽目覚めさせ、即日でロシアに向かう事、など。
- 604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:52:36.58 ID:4ISVtq5/0
奇しくもこれから行動を共にしなくちゃならねぇ第一位の人間像については、オブラートに包みながら花飾りに話したつもりだ。
エイワスの野郎から量産型能力者計画について聞かされているとなれば、第一位の前科だって聞いていても可笑しくはない。
当の被害者である御坂美琴が中学生のガキだってのがカンに触るが、とにかくこの現実は中学生にはキツすぎる。
自分と同じ顔を、同じ体型をしたヤツが、何の助けも求めずコロコロと死んで行くような真実は、とてもじゃないが花飾りにも受け入れられるとは思えないからな。
それを平気でやってのけていた第一位と行動を共にするんだから、嫌気がさしながらも随分なフォローを施したんだ。
- 605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:53:03.50 ID:4ISVtq5/0
そして、話を打ち止めの現状へと戻させる。
打ち止めは今、俺のマンションにいるという事。
10月9日に打ち止めと直接顔を合わせていないからできる事であるが、俺も随分と滑稽な真似をしてるもんだよな。
花飾りが巻き込まれ、そしてロシアに俺の知らない全く別の法則があるとは言え、一度攫おうとしたヤツを事実上匿っちまってるんだから。
つか、そろそろ目が覚めてもおかしくない時間だよな……?
目が覚めて目の前に広がる光景が全く知らないモノだったら確実に騒ぐよな……?
……やっべ、今すぐ戻んなきゃなんねぇみたいだ。
- 606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:53:31.77 ID:4ISVtq5/0
「って訳だ、打ち止めが目を覚ましてると面倒だから、俺はここら辺で帰るとするぞ」
言葉には出てないものの、それなりに焦っている俺は、今にも歩き出せそうな体勢にさせる。
そんな慌ただしい俺を、花飾りは容赦なく制止した。
「……あの、垣根さん」
「…なんだよ、用があるならさっさと済ませてくれ」
「私も垣根さんの御宅でお世話になったり……出来ますかね」
……おいおい、
どんだけお前にとっての日常、俺にとっての非日常に連れて行かせりゃ気が済むんだよこの花畑は……。
- 607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:54:05.56 ID:4ISVtq5/0
「お前、意味分かっててそれ言ってんのか?
俺を斬った、お前の意識も奪った、あのパジャマ女くらい覚えてんだろ?
俺にはあんな感じの馬鹿野郎共がごろごろと付きまとってくる。
だから一一一」
途中で言いかけ、そして花飾りの言葉がそこに被さる。
「やめろって言うんですか?
嫌です。ロシアにまでついて行くんですから、そんな危険は今更ですし、ちゃんと予想の範疇でもあるので」
………やっぱり、コイツは、この花飾りは、凄いヤツなのかもしれない。
正気の沙汰には思えねぇだろ?
それでも、コイツの目には、かなり強い何かが眠っている気がするんだ。
……だから面白ぇ。
- 608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:55:25.10 ID:4ISVtq5/0
「それに……」
俺を説得するためか、花飾りの言葉は続いていた。
もう断る気も中々失せてきたんだが、聞く分には俺も構いはしない。
「私は一度アホ毛………打ち止めちゃんと顔を合わせた機会があるので、垣根さんが一人でいるよりもよっぽど誤解されずに済みませんか?
垣根さん、小さい子の世話とか出来なそうだし……」
……色々とカンに触る部分があった気がするが、寛大な心を持つ俺は華麗にスルーする。
まぁ、ここまで座った度胸で俺に意見するヤツも珍しいからな。
もっとも、俺の殺しの顔を知らないからこそ言えてる事なんだろうが。
「…チッ、分かった。そこまで言うんなら着いて来い」
そして、俺はようやく重い体を起こす事が出来た。
- 609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:55:52.97 ID:4ISVtq5/0
「……あれ?垣根さん家一階でしたっけ?」
不思議そうな声で尋ねてきた花飾りに、俺はハッとする。
…どうしようか。
確か猟犬部隊の襲撃を、火事で誤魔化してたんだっけか……。
火事を起こしたのは他の住人って嘘もついちまって、それはもうこのマンション自体が俺の家だって事をカミングアウトできない事を意味しちまってる。
「……俺の階が結構酷い有様になっちまったらしくてな。
運良くこの一階の部屋が空いてたんだよ。
だから、しばらくの間はこの部屋で暮らす事になったって訳だ」
思いつきの嘘っぱちを思わずペラペラと言っちまったが、大丈夫だろうか?
伺うべく花飾りの表情をチラ見するが、大して疑っているような視線は感じない。
良かった良かった。
- 610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:56:27.77 ID:4ISVtq5/0
現状、打ち止めはまだ起きていない。
スースーとガキらしい寝息を立てているのを花飾りが近くで見守り、俺はと言えば適当に淹れたコーヒーを啜っているだけだ。
見た目だけで言っちまえば、まだ打ち止めに大した障害や苦痛の様子は見えていない。
現時点では急がなかった事がこうをそうしているが、いつまでもそう言ってられるものでも当然、ありはしない。
最低限、余裕だけはかましちゃいけないって事だけは常に頭に入れておく。
「そういえば、お前学校はまだ休みでいいのか?」
気を紛らわすためにも、俺は花飾りに声を掛けた。
- 611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:56:58.98 ID:4ISVtq5/0
「はい。風紀委員の仕事は通常通り入るでしょうけど、学校そのものは休みですよ」
これを聞いて、花飾りをウチに入るのを許可したのもあながち間違いじゃないんじゃないかと思えてきた。
コイツがさっき言ってた通り、奇しくも俺はガキの子守なんて出来る気が欠片もしねぇ。
学校がないって事は、打ち止めの世話は全部コイツに預けられるって事なんだ。
風紀委員の仕事が入っちまったってんなら、打ち止めも支部に連れて行っちまえば無問題。
うん、完璧だ。
- 612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 21:57:25.75 ID:4ISVtq5/0
「……う~ん」
俺でも花飾りでもない声が、部屋の中に響く。
つまりは打ち止めのいかにも眠たそうな声が。
寝返りを打ち、ウトウトといった感じで、半開きの瞳を手でこすっている。
まぁなんともガキらしい行動だな。
「あれー?ここはどこ?って、ミサカはミサカは……」
寝ぼけてるんだろう。
全く見慣れない部屋が目の前に映ってる事もなんとか理解できてるレベルで、全く見慣れない俺の顔を見ても大した反応は見せてきやしねぇ。
- 613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:00:16.77 ID:4ISVtq5/0
「アホ毛ちゃん、アホ毛ちゃん」
花飾りはと言えば、寝ぼけてるんだからそのまま寝かせておけばいいものをわざわざ肩をゆすって打ち止めを呼んでいる。
……つか、アホ毛って何だよ。
「おい、無理に起こす事もねぇだろ」
まだ朝の七時半だ。
率直な意見を促した俺だが、花飾りは全くをもって聞いちゃいない。
少なくとも俺にはそう見えた。
「あれ?もしかして初春のお姉ちゃん?、ってミサカはミサカは……」
もう九日も前に出会ったヤツだってのに、寝ぼけている今でも鮮明に覚えてる所を見ると、まだ本当に大した障害や苦痛もないみたいだ。
- 614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:01:11.05 ID:4ISVtq5/0
「アホ毛ちゃん、聞いてもらえますか?」
優しく、まるで保母さんみたいな口調で花飾りは打ち止めに声を掛ける。
「おい、何を話すつもりだ。
……まさかとは思うが、お前」
俺が懸念したのは、ごくごく簡単な事だ。
花飾りが、打ち止めに余計な真実を吹き込まないかと言う事。
クローンと言った所で、所詮は身体と考え方共にガキを主体に作られたモンのハズだ。
これから先、あなたは崩壊します。なんて言われちまえば耐えられるとは到底思えない。
その心配は、この先の花飾りの返答でなんとか和らぐ。
- 615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:01:43.86 ID:4ISVtq5/0
「(大丈夫です。一方通行さんの事も含めてなんとか誤魔化しますから)」
打ち止めに聞こえない程度の小さな声で耳打ちした花飾りを見て、俺は軽く安堵する。
花飾りは、中々に肝が座った表情だ。
とても俺や心理定規のような修羅場を経験したとは思えないただの女子中学生にしては、第二位である俺でも関心せざるを得ないレベルだっての。
まだ完全に寝ぼけが取れていない打ち止めに、花飾りが説明したのは以下の一つ。
一方通行は仕事でどうしても帰れず、元同居人にこれ以上の迷惑をかけまいと、友人(って事にされた)の俺の都合がきいてた事もあって俺の家で何日間か過ごしてもらう、という事だ。
- 616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:02:17.80 ID:4ISVtq5/0
率直な感想。随分な肝と度胸を持っている花飾りでも、どうも嘘までは上手くないらしい。
まぁガキの打ち止めの、しかも寝ぼけている今だからこそなんとかなってるんだろうが、仕事でいないってどうなんだよ……。
説明を受けた打ち止めはと言えば、途端に真剣な顔つきに戻っていて、本当についさっきまで寝ぼけてたのかと思わせるほどだった。
「うん、あの人にお友達がいたのには凄い驚いたけど、あの人らしい行動になんとか頭が追いついた。ってミサカはミサカは満面の笑みで言ってみる!」
……この笑顔。
コイツを護るために、第一位は俺の前に立ち、エイワスに牙を剥いたのか。
善人ぶった笑えない行動だが、俺ももうとやかく言える立場じゃないってくらいの自覚はある。
- 617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:02:59.81 ID:4ISVtq5/0
こんな無邪気に笑顔が放てる自由が、そんなに簡単に奪われていいのか?
俺の思考回路も随分イかれてきたが、ともかく答えはNOだ。
昔の事を、ふと思い出す。
大切な人が一人いて、そいつのためだけにがむしゃらに前を走っていた、あの頃を一一一。
「ねぇねぇ!」
段々と表情が厳しくなって行く俺を咎めるかのように、打ち止めの陽気な声が俺の耳に届く。
「初春のお姉ちゃんはなんで垣根さんの家にいるの?ってミサカはミサカはふと思いついた疑問を投げかけてみたり!
も、もしかしてお二人は恋人さん?ってミサカはミサカはキャー!」
- 618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:03:42.02 ID:4ISVtq5/0
高ぶる声に連なってなのか、それか疲れている俺の気のせいのか気の迷いなのか、一人でテンションが盛り上がっている打ち止めのアホ毛がピョンピョンと跳ねている気がする。
ともかく言いたいのは、俺はやっぱりガキが苦手だ。
無駄に他人の関係を聞いてきて、無駄に一人で盛り上がっている。
もっとも、この程度の事でイラつけている時点で平和っつーか、俺が変わっているのかが分かる。
良い方向なのか悪い方向なのかは別として。
「こ、ここ恋人なんてそんな訳ないじゃないですかっ!」
………また花飾りも一人で変な方向に行っちまってるしよ…。
何故顔を赤くしながらあぅあぅしてやがんだか全くを持って理解不能だ。
適当に親戚で済ませておけばいいものを……。
……いや待て。
ふと思いついたガキみたいなイタズラ(?)を、俺はすぐさま実行してみる事にした。
- 619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:04:21.68 ID:4ISVtq5/0
「ああ、俺とコイツは恋人だ」
イタズラと言うのも、かなりくだらなくそれも馬鹿らしいモノだった。
「ふ、ふぇっ!?かかか垣根さん!?」
キメ顔で俺は嘘っぱちを放ち、その上マジの彼氏っぽさを演出するために花飾りの肩を片手で掴み俺の方へと引き寄せる。
「わ、わわわ!お、お姉ちゃん達アツアツなカップルさんなんだね!ってミサカはミサカは恥ずかしさ混じりに率直な感想を述べてみたり!」
流石ガキだ。見事に騙してやったぜ。
………何やってんだか俺は。
- 620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:05:04.89 ID:4ISVtq5/0
「か、かか、か、かき、ねさん」
肩を掴まれたままに足して、掴まれてない肩が俺の肩と密着するような形になったままの状態で、花飾りはそれはもう大変な状況に陥っていた。
顔を全体的に、比喩表現じゃねぇぞ、本当に首元から耳までの全部だ。
真っ赤っかに染まっている。
これも、比喩表現なんかじゃなく。
今にも湯気を吹き出しそうな勢いに増して、不意に俺に視線を合わせちまい視線をずらせなくなったまま、プルプルと顔を震わせてる。
………何やら可笑しい雰囲気になっている事に、ようやく気がつく俺。
- 621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:05:40.53 ID:4ISVtq5/0
「お、おい、花飾り?」
花飾りの顔は真っ赤っかなままで、視線を移せないのも変わっちゃいない。
気がつけばからかうために見ている方の俺もこの変な雰囲気に流され、花飾りの表情を確かめてしまう。
それが打ち止めにはどうやらこれからキスをするお熱い(俺からしたらクソウザい)カップルに見えちまったらしく、両手で目を覆うも指と指の隙間をわざとらしく開けて様子を伺ってきやがる。
どうもこの雰囲気に耐えられなかった俺は凄い勢いで花飾りの肩から手を離した。
朝飯では花飾りの作ったスープに、仕返しなのか俺のにだけタバスコが大量投下されてて、そんなこんなで朝の時間を終えた。
……そういえば、恋人ってのは嘘だってこと、打ち止めに言うの忘れちまったな…。
- 622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:06:07.03 ID:4ISVtq5/0
「やっぱり、今日も風紀委員あるみたいですね」
現在時刻は……ちょうどお昼時にさしかかったくらいか。
まだ機嫌がちっとも直らない花飾りはムスッと片方の頬を膨らませながら、俺にそう言った。
「ちょうどいいな、だったら飯は外食にすんぞ。当然打ち止めも連れて行くから安心しろ」
俺が外食を提案した理由は至って簡単なモノだ。
昨日の夕飯のような上手い飯が食えるのならば喜んで花飾りの手料理を楽しむ事にしてた所だろうが、朝飯と言えばそれはもう酷かったからな。
まぁ、自業自得ってやつなんだろうが。
そして花飾りは何故か、俺が外食を提案した瞬間にどこか暗い表情になりやがった。
- 623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:06:37.18 ID:4ISVtq5/0
「……おい、大丈夫か?なにいきなり暗い表情になってやがる?」
意味も分からず安否を確認する形で花飾りに問いかけるが、俺の疑問が晴れるような回答は断じて返ってこなかった。
「なんでもありませんよ。いいですね、外食。
アホ毛ちゃーん!お昼は外食ですって!もちろん垣根さんの奢りで!」
……いやいや、声色が全くをもって大丈夫じゃなさそうなんだが。
何を怒ってんだ?
……俺何かしたっけ?
つか、ちゃっかり奢りと決めつけられてる俺の方が怒り狂っても可笑しくはない気がするんだが……。
- 624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:07:48.63 ID:4ISVtq5/0
「わー!!このお店のお料理美味しいねーお姉ちゃん!ってミサカはミサカは激ウマスパゲッティを頬張りながらテンションMAX!」
俺と花飾りと打ち止めは、俺の行きつけの洋食店に足を運んでいた。
ぶっちゃけかなり値段を張ってる店なんだが、まぁ奢りと言えど所詮は女子中学生とお子様が一人ずつだ、大したことはない。
「垣根さんはいつもこんな感じのお店でご飯を?」
店に来てからだと初めてなんじゃないか?
花飾りが俺に質問してきた。
その声色はまだピリピリとした何かが張り詰められていて、
……何だコレは、第二位ともあろうこの俺がこんな女子中学生相手に変な汗をかいていやがる。
- 625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:08:25.22 ID:4ISVtq5/0
「あ、ああ。ファミレスよりかはそれなりに頻度は多いが。
気に入らなかったか?」
思わず言葉が詰まってしまったが、これこそ完璧の返答ってやつだろう?
さり気なく相手の事を気遣った言葉を織り交ぜながらの返答だ。これで少しはピリピリとした雰囲気も和らぐハズ一一一。
「いいえ、美味しいですよ?とっても。
頻繁にこんな店に来てたら、私の手料理なんか霞んでしょうがないでしょう…」
最後の方は多少聞き取りにくかったが、とりあえず花飾りの機嫌は一つも直っちゃいなかったってのは分かったと共に、下手に気取ると余計に酷くなると察した俺は本心をぶちまけることにした。
- 626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:08:52.63 ID:4ISVtq5/0
「いや、お前の飯もかなり気に入ってんだがな……。
俺がここを昼飯に選んだのは朝飯の時みたくタバスコやら何やらが大量投下されそうでビビってたからだよ」
自爆覚悟の暴露をしたつもりの俺だったが、これが意外にも、俺の気のせいかもしれないが花飾りの表情を和らいでいるような気がした。
「だ、だだだって…朝ご飯の時は垣根さんがあんな事するから…」
怒り口調なつもりなんだろうが、言われている俺からしたらそんな雰囲気は全く感じられない。
オドオドと視線を移してる花飾りを見て、俺は確信した。
謝るなら今しかねぇ一一!
- 627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/31(火) 22:09:25.66 ID:4ISVtq5/0
「ああ、朝は俺が調子に乗っちまって済まなかったな。
さっさと食っちまって支部行こうぜ。
夕飯はそれなりのを期待して待っててやるからよ」
俺の確信に伴い、且つ無駄に怒らせないためなるべく本心をそのまま放ったつもりなんだが、これでどうだ?
ぶっちゃけこれでも駄目だったらもう手のつけようがないって気もするんだがな………。
そんな不安が見事に晴れていくかのように、花飾りの表情は次第に明るくなっていき、放たれた言葉も陽気に満ちた、女子中学生まんまの声色に染まっていた。
「はい!!楽しみにしてて下さいね、垣根さん!」
……やれやれだ。
まぁこんな感じで昼も過ぎていき、俺と花飾りと打ち止めは第一七七支部へと向かう。
だが、やっぱり、普通に迎えられるほど、俺は一般の表の世界に染まってた訳じゃないらしい。
- 633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:30:50.95 ID:CjULzDgm0
行間五 一10月18日。
- 634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:32:28.43 ID:CjULzDgm0
時を多少戻すとしよう。
正確な時刻を言うならば、10月18日の午前4時21分41秒。
垣根帝督が打ち止めを回収したくらいの時間に当たる。
場所は、とある暗部組織のアジト。
潜伏している人数はわずかに三人というかなりの少人数。
二人は男で、もう一人は女だった。
その内の一人の男の声が、アジト内に響く。
「……海原、こんな事態になっておいて言う事じゃないんだろうが、お前に仕事が入ったぞ」
言葉を投げかけられた海原と言う男は、表情を何一つ変えずに返答する。
「こんな状況だからこそ、少々大変くらいの仕事が入った方が気が楽になるってモンですよ」
予想と大して変わっていなかった海原の返答に対し、今度は女の方が海原ではない方の男に話しかける。
「土御門、蒸し返すようで申し訳ないと思うけど、私たちは確かにシェルターにいたハズよ。杉谷に『ドラゴン』の情報を聞き出すまさにその時だった。
それが、どうして私たちはアジトなんかに一一一」
女の怪訝そうな声は途端に制止する。
原因は、土御門と呼ばれた男が速やかに懐から取り出したホンモノの銃を、女の額に容赦なく突きつけていたからだ。
- 635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:33:36.70 ID:CjULzDgm0
「ち、ちょっと……なんの真似よ土御門!」
銃を向けたれた女は当然ながらこの状況に頭がついて来ず、銃を向けた土御門に困惑の声を張り上げてしまう。
補足ではあるが、ここにいる三人、正確にはあと一人いるのだが、その人間関係は互いの理念のため、間接的に手助けなどもしてきた関係だが、逆に言えば理念さえ関係してなければ普通に裏切りもあり得る。
つまりは大した仲間意識など、この組織にはひとかけらも有りはしないのだ。
そんな事、女も当然頭の中には入ってはいたものの、あまりにも唐突であるために土御門の行動の意思を伺ってしまっているといった状況だ。
- 636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:34:05.86 ID:CjULzDgm0
問われた土御門は、女の額に突きつけた銃を離す事はなく、どこか何かに耐えているかのような声色で女に返答する。
「結標、お前の気持ちも当然理解できる。
俺達『グループ』は確かに昨日17日に『ドラゴン』の情報を求め、学園都市の裏と戦った。だが……」
女の事を結標と呼んだ土御門は、論すように言葉を並べる。
その言葉が途中で途切れた瞬間に、もはや修羅場と化したこの場をただジッと見つめていた海原の言葉が、土御門の代わりと言わんばかりに言葉を繋ぐ。
「裏からもう『ドラゴン』には関わるな、と命令が下った。と言う訳ですか……」
- 637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:35:06.03 ID:CjULzDgm0
「そ、そんなのって……尚更おかしいじゃないのよ!!」
土御門の言いたかった事を代わって言った海原に対し、いや、土御門に対しても同様に、結標は声を上げて反発の意思を強く表明する。
「私達『グループ』はそんなに安っぽい組織じゃないでしょう!?
何時だって私達の目的の邪魔になる障害が現れたら、それがたとえ統括理事会だろうと容赦なく噛み殺してきたじゃない!」
そう。
この三人にあと一人を加えた『グループ』と言う組織は、まさに結標の言った通りの組織だった。
常に目的のために行動し、その邪魔となるものには、どんなモノでも容赦はしない。
だが、声を張り上げた結標も構わず、土御門が額に突きつけた銃を離す事はない。
- 638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:36:01.76 ID:CjULzDgm0
代わりと言ってはどうなのか分からないが、土御門の言葉が、土御門の精一杯の返答が結標の耳に届く。
「頼む結標……分かってくれ」
言われた結標は、知らなかった。
土御門と言う男は、こうまでも何かに耐えてるかのような、震えた声で人に何かを訴えるようなヤツであったと言う事を。
が、結標は知っていた。
彼の、土御門の純粋な目的を。
義妹の手作り料理は絶品なんだぜーい!
だとかなんとかで、散々に聞かされていたから分かる。
多少の間が空き、そして結標は理解し、どこか悟ったように、土御門に言葉を返した。
- 639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:36:56.92 ID:CjULzDgm0
「……分かったわよ、後は勝手に姿を消した一方通行に無駄な期待でもかけておくわ」
半ば諦め、半ば慰めといった感じに言った結標の顔はどこかスッキリしていて、
「助かる」と吐き捨て銃を懐に戻した土御門もまた、表情ににじみ出ていた重みは和らいでいて、
そんな二人を、何をからかう事もなくただ見ていた海原が、絶好のタイミングで話を切り出した。
「それで、僕に任された仕事の内容を聞きましょうか。土御門さん」
『グループ』は絶えず、学園都市の闇の中を歩き続ける。
- 640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:37:47.58 ID:CjULzDgm0
第十ニ章 一10月18日。
- 641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:38:53.13 ID:CjULzDgm0
「割に遅かったじゃないの。もしかしてお楽しみ中の所に呼んじゃった感じかしら」
レストランを離れ、第一七七支部のドアを開けた瞬間に目に入った心理定規がわざとらしくからかってくる。
相変わらずコイツは掴みづらい上にウザったくてならねぇ。
「メ心理定規さん!お、お楽しみってそそそそそんな事!」
…あーあー花飾り、お前のその酷いテンパりかたにも大分慣れて来ちまった気がするよ。
- 642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:39:44.42 ID:CjULzDgm0
心理定規が花飾りの反応を見た途端、これまた嫌な顔をして次のくだらねぇ戯言を抜かそうとした直後に、それこそ無邪気で陽気な声が支部内に響いた。
「わー!お姉様と同じ常盤台のお姉ちゃんがいる!ってミサカはミサカはなりふり構わずはしゃいでみたり!」
まるで不意打ちをくらった落ち武者のような面白ぇ顔になった心理定規。
カカカ、ざまぁみやがれ。
「…宜しくお嬢ちゃん。あなたが打ち止め…でいいのよね?」
気を取り直してと言った風に、心理定規はまたアホ毛がピョコピョコと動いている打ち止めに近づき、そう話しかけた。
- 643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:40:43.58 ID:CjULzDgm0
「宜しくね!ってミサカはミサカは元気に挨拶!えーっと……」
「ああ、私の事は心理定規と呼んでくれれば構わないわ。
宜しくね、打ち止めちゃん」
「(ねぇ、ちょっと)」
打ち止めと一般的(あくまでも能力名を名乗る所は除く)な挨拶をかわした心理定規は、打ち止めが花飾りと何やら遊び出した瞬間に小さな声で俺に話しかけて来た。
「(なんだよ)」
思わず俺も小さな声で返答してしまう。
相手の行動につられて同じような行動をとるなんてな、やっぱり俺は丸くなってるよ。
- 644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:41:32.01 ID:CjULzDgm0
「(あなた、固法さんから何も聞かされてなかったりする?)」
「(何をだよ)」
「(固法さん、今日から短期間だって行ってるけど他の支部に移る事になったんですって。
上層部に理由を聞いてみても曖昧な解答だけ)」
……いや、知るかよ。
他の支部が人足らずで単に短期間のお手伝いってだけで飛ばされたんじゃねーの?
なんだってメガネの愚痴をわざわざ聞かなきゃなんねぇんだ……。
全てを綺麗にまとめて言おうと試みた俺だったが、心理定規の小さな声がそれを遮る。
- 645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:42:16.41 ID:CjULzDgm0
「(それで、固法さんの代わりにこの第一七七支部に派遣されてくる人がいるのよ。ソイツが一一)」
いや、だから知るかっての。
俺はお前やら何やらの愚痴をホイホイ受け入れるゴミ箱じゃねぇんだぞ?
好い加減にイライラしてきて、次こそ心理定規に文句を垂れてやろうとしたその時だ。
一七七支部のドアが、ゆっくりと開いた。
んだよ、最早俺に喋る権利なんてのはないに等しいとでも言うのか。
そして、ドアの向こうにいた野郎が、にこやかスマイル(心底うぜぇ)を織り交ぜて言葉を放ちやがった。
「短期間ではありますが、本日付けでこの支部に派遣された海原光貴と申します。どうぞ宜しくお願いしますね」
……嫌だね、誰がテメェみてぇないけすかねぇ野郎にお願いされるかっての。
- 646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:42:52.71 ID:CjULzDgm0
現在時刻、13:42。
現在、第一七七支部には俺と心理定規、花飾りと打ち止め、そして、海原光貴と名乗ったいけすかねぇ野郎の計五人が居る。
海原は俺を含むこの支部にいる奴ら全員に軽く挨拶をした後に、メガネが使っていたデスクに座り、手際良くノートパソコンの電源を入れてカタカタと仕事を始めた。
とりあえず、不用意に挨拶されちまった事に酷く腹を立てる俺。
そして、ここから先は海原の心の内に秘めている考え事で、俺の知る領域じゃない。
つか、知りたいなんてのも微塵も思わねぇが。
- 647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:43:34.58 ID:CjULzDgm0
(さて、土御門さんの指定通りに、何の気はないただの派遣員として何事もなく迷い込めた訳ですが、まさか本当に第二位の垣根帝督がいるとは思いませんでしたね……)
海原はパソコン越しに視線を垣根に移し、その様子を垣根本人に気づかれない程度に伺っている。
(見た所大した変化はなし、ですか。
さり気なくもう一人『スクール』の構成員、確か心理定規と言いましたか。
彼女も暗部組織特有な臭いが消えてますし……。
……いやはや、それにしても…)
昨日の17日に大掛かりな仕事をなんとかこなし、そしてすぐにまた仕事を任された海原ではあるが、今の海原の頭の中に、仕事に関して考えるような正当な事は叶いっこなかった。
その理由が、これまた正当な理由として受理していいものか大変頭を悩ます内容なのだが……。
- 648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:44:12.91 ID:CjULzDgm0
「お花のお姉ちゃん!心理定規さんがこのお人形くれたの!ってミサカはミサカは思わぬ収入にはしゃいでみたり!」
「さんなんていらないって言ってるじゃない、心理定規で大丈夫よ?アホ毛ちゃん?」
「ムキーッ!ミサカのコレは断じてアホ毛なんかじゃないもん!
さり気なくアホ毛ちゃんが定着してるのが悔しー!ってミサカはミサカはどことなく湧いてくる怒りに任せてデスクをバンバン!!」
「うっせぇぞ打ち止め!!
心理定規、テメェも下手にからかいをいれんじゃねぇ!」
(いやはや、なんとも言えない癒しですね~。おっといけません、このままでは垣根帝督にバレてしまいます)
- 649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:45:00.11 ID:CjULzDgm0
何とも言えない心境になっていた海原の心の内を知る者は当然ながら一人も居はしない。
(打ち止めと言いましたか。確かにあの御坂さんにそっくりです。
量産型能力者計画の全貌を知った時は酷く怒りに身を奪われそうになりましたが、今もこうして子供らしくはしゃげていられる所を見ると、自分が心配するような事はなさそうですね)
キャッキャキャッキャと騒ぐ打ち止めと、それをなだめる垣根達。
海原は仕事について説明された最初は、打ち止めが垣根帝督と一緒に居るという現実に酷く心配をしていたのだが、その心配は完全にではないにしろ和らいでいた。
(さてさて、目の保養はこれくらいにして、そろそろ自分に任された仕事を全うするとしますか。
……それにしても困ったものですね、自分には御坂さんという想い人がいるというのに…)
- 650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:45:50.09 ID:CjULzDgm0
心境は俺、垣根帝督のモノへと移って行く。
パソコン越しだからまだ気配が薄く済んでいるんだろうが、このいけすかねぇ野郎、何か変な雰囲気を持ってやがる。
打ち止めの遊び事になんとなく付き合いながらも、散々歩いてきた暗闇の道で鍛えられた俺の目は、海原を危険視する事を止めない。
コイツ、ナニモンだ?
しかも、俺はコイツの顔を見た事がある気がするんだ。
俺が見た事がある気がすると考える人間なんて、本当に限られてくる。
それこそ、学園都市の暗部に息を潜めているような一一一。
警戒を最高まで張り詰め、何かしらの感情を促すような言葉を海原にかけようとした俺だが、これもまた心理定規の小さな声が制止しやがった。
…なぁ、好い加減、俺にも少しくらいは喋らせてくれよ。
- 651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:46:41.10 ID:CjULzDgm0
「(ねぇ、ねぇったら!)」
「(何だクソアマ!あのいけすかねぇ野郎、理由は分からんが嫌な匂いがしてならねぇ。
邪魔すんじゃねぇぞ、俺は不用意に花飾りと打ち止めを危険に晒しちゃならねぇんだ)」
「(……ハァ、あなたなら絶対にこうなると思ったから私は事前に説明しときたかったのよ……。
まぁいいわ、あなたなんとなくで海原光貴を危険視してるみたいだけど、覚えてない?)」
……嫌につっかかるような言い方じゃねぇかよコラ。
それに、事前に説明しときたかったって事は心理定規は海原光貴がメガネの替え玉って事を何故か知っていて、
覚えてない?って事は心理定規が海原光貴の事を何かしら知っているって訳だ。
……いいね、心理定規から聞き出せんならそれがベストだ。
不用意に花飾り達を危険に晒しちゃならねぇのは確かだが、不用意に海原に話しかけて嫌悪にまみれた雰囲気になるのも御免だからな。
- 652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:47:10.12 ID:CjULzDgm0
「(生憎、顔を見たような"気がする"止まりでな。ハッキリと覚えちゃいねぇんだよ。
だから知ってるんなら教えろ、海原光貴がナニモンなのか)」
「(まぁ、そんなトコだろうと思ってたけど、あなたやっぱりすっかり暗部の時の顔が薄れてきたわね)」
「(…オイ待てよ、なんだってそこで暗部の名前が出て来やがる)」
「(……先に言っておくけど、もしかしたら"ホンモノ"の方である可能性も考えられるから不用意に手を出したりしないでよね?
…本当に覚えてないかしら?『グループ』の面子よ、資料で一度目を通してるハズでしょう)」
あー、思い出した。
第一位のヤロウに敵意を向け過ぎていたせいでインパクトが薄れてたって訳だ。
海原光貴。
コイツの名前は、確かに『グループ』の構成員に記されてやがった。
- 653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:47:41.21 ID:mVv7c0Ut0
成る程な、これで心理定規の言うホンモノかもしれないから、と言ったその意味も理解できたよ。
コイツ、海原光貴は能力でなのだろう、本来は海原光貴ではないどこぞの野郎が、ホンモノの海原光貴の皮膚を使い、さも自分が海原光貴であるなように日常に入り込んでいる一一一。
確かホンモノの海原光貴は常盤台中学の理事長サマの孫かなんかだった気がするな。
……まぁ、この場合海原光貴がホンモノである可能性は極めて低い。
理由なんて言うまでもないが、俺と言う存在が、本来晒されなくていい危険に、花飾り達を巻き込んじまっている。
- 654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:48:30.97 ID:mVv7c0Ut0
自分をひたすら嫌悪すると共に、何も持ってませんよ、と言わんばかりにパソコンを操作している海原が目に入り、思わず立ち上がってしまう。
「(ち、ちょっと!)」
やはりそんな行動は許される事はなく、この事態を一番危険視していた心理定規が素早く俺の行動を止めに入る。
……クソッタレが。
何だってこうも普通に、何の障害もなく息をつく事が許されないんだ?
…いや、分かってる、分かってるさ。
そんな事、俺に許されちゃいけないって事くらい……。
それでも、俺は……。
- 655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:49:31.35 ID:mVv7c0Ut0
多少の時間が経過し、俺も多少の落ち着きを取り戻していた。
まぁ、本当に"多少の"落ち着きな訳だが、そこはどうでもいい。
学校が終わって支部に来た白井は、あのアマ、一体何なんだ?打ち止めを見るなりすぐさま発狂しだしやがった。
『小さいお姉さまッ!?』などと訳の分からない事を言っていた気もするが、俺は構わずラリアットをかましてやった。
現状白井は、心配気に目をやる花飾り達にまみれて見事に意識を失っている。
- 656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:50:10.92 ID:mVv7c0Ut0
「(心理定規)」
白井のおかげで、無理に湧きたってきていた怒りなどの感情は綺麗にまとまり、もう大分落ち着いてきた俺は、小さな声で打ち止めと遊んでいた心理定規を呼び止める。
「(何かしら、その表情を見ると、少しは落ち着いたって思ってもいいのかしら?)」
「(ああ、どっかの変態のおかげでスッキリだよ。
……で、頼みたい事がある)」
率直な言葉、そう、俺は心理定規にやってもらいたい事がある。
最近だとすっかり感情的になっちまいがちな俺に任せるよかよっぽど、正当な方法。
- 657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:51:11.06 ID:mVv7c0Ut0
「(あなたが私に、頼み事?まぁ聞く分には構わないけど、あんま無理難題な頼み事は勘弁してよね)」
「(出来ないような事を無理矢理頼んだ試し、今まであったかよ?
ぶっちゃけこれはお前にしか出来ねぇ。いいか、よく聞けよ)」
あくまで花飾り達、まして海原の野郎に気づかれないような小さな声で、しかしハッキリと心理定規に伝わるように、俺は口を開く。
「(お前の能力で、お前と海原光貴との距離を縮めろ。
そして聞き出せ。お前は誰だってな。
今やるってんじゃねぇぞ、アイツが胡散くせぇ仕事ってやらを終えて支部を離れた時だ。
この程度なら、どうってことねぇだろ?)」
かなりゲスい考えだが、俺にはこれがピッタリ一致する正方なんだよ。
これで『グループ』の方の海原光貴だった場合は、容赦なく殺させてもらう。
- 658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:52:19.65 ID:mVv7c0Ut0
「(簡単に言ってくれる所は相変わらずなのね……。まぁいいわ、分かった。
それくらいならまだ無理難題でもないしね、確かに私にしか出来ないし)」
「(悪ぃな、俺が直接聞き出せばいいんだろうが、どうも今の俺は感情のコントロールが下手くそになっちまっている。
有無を言わさず殺しちまう可能性も拒めないからな)」
「(ちょっと、初春さんもいるここでそんな物騒な事言ってんじゃないわよ)」
俺と心理定規が交わす言葉の奥にある雰囲気は、本当に『スクール』を思い出させる。
それはやっぱり、どうしようもなく居心地が悪く、
俺の心ってヤツにも、何か暗いモノが潜んでいた気がした。
- 659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:55:12.89 ID:mVv7c0Ut0
「あー、楽しかった!ってミサカはミサカは初春のお姉ちゃん達に遊んでもらった事を思い出しながら心中を吐露してみたり!」
「アホ毛ちゃん、風紀委員は本当は遊ぶような場所じゃないんですよー?」
現在、俺は花飾りと打ち止めを後ろに連れて家へと帰っているところだ。
ああ、今から心理定規の連絡が待ち遠しくてならねぇ。
早くアイツの化けの皮を剥がし、俺の浸る居場所に入り込んだ後悔を、無様な死体にする事で思い知らせてやる。
- 660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:56:12.51 ID:mVv7c0Ut0
俺たちが丁度家の前に着いた頃だろうか、
待ちに待った、連絡が来やがった。
俺のポケットの中で携帯電話が振動した瞬間、俺は素早く携帯電話を取り出す。
あくまでも、花飾り達に怪しまれない具合に。
携帯を開ける。
そこには、新着のメールが一件。
…何故電話をよこさなかったのかが頭に残る所だが、まぁいいさ。
早く見せてくれ、朗報ってヤツを。
For:垣根帝督
From:心理定規
件名:なし
内容:
……彼、『グループ』の方の海原光貴じゃないわ。
紛れもない、ホンモノよ。
- 661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:57:03.08 ID:mVv7c0Ut0
……何だと?
心理定規からのメールを見るなり、困惑と疑問が一気に頭の中に積み込められ、思わず表情にすら出してしまう。
「どうしたんですか?」と、花飾りが心配気に聞いてきたため、俺はなんとか冷静さを保とうとするが、やはり解せないという根本的な概念は俺の頭から消えることはない。
……絶対におかしい。
俺がエイワスと対峙した翌日というあからさまに疑ってもおかしくはないタイミングに派遣されてきた海原光貴という男は、本当にただの常盤台中学理事長の孫ってだけなのか………?
- 662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:58:06.08 ID:mVv7c0Ut0
膨らみ続ける疑問がでかくなりすぎて、率直な疑問の数々を、心理定規にメールを通して質問する事を忘れてしまう。
心理定規は精神系能力者であり、大能力者だ。その中でも、アイツの能力は中々のものである上、いや、だからこそ、アイツが聞き出した海原光貴の言葉は、本心から放たれた言葉だと思ってもおかしくはない。
終いには、第一七七支部に派遣された海原光貴が『グループ』の構成員だったとしたら、もっと俺に疑いをかけられないようなヤツの顔に化けて来るんじゃないか?
とまで考えちまっている。
俺は、知らない。
海原光貴という化けの皮を被った野郎は、俺の知りたがる"全く別の法則"を所有している事を。
その法則を使用し、心理定規の能力から免れている、という事を。
- 663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/02(木) 22:59:00.90 ID:mVv7c0Ut0
「クソがッ!」
花飾りと打ち止めがリビングでよくも飽きず遊んでいる中、俺は自分の部屋でどうしても耐えられず叫んでしまう。
俺は今、どうしようもなく困惑している。
当然だ、もう訳が分からなかった。
このタイミングで裏からの手先として暗部の人間が俺に近づいて来るってのはまさに正当な方法だ。
なのに、近づいて来たのは暗部の人間としての顔を持つ海原光貴ではなく、単なるお坊っちゃまでお金持ちの海原光貴だって言うのか?
嘘だ、信じられるハズがない。
こんな風に、肯定しては否定する魔のループみたいのにひっかかっちまい、俺は10月18日という今日は長時間答えの見つからない疑問を考え続ける事で終わりを告げた。
- 668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:13:19.99 ID:JeH+AFgK0
第十三章 一10月21日。
- 669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:13:49.84 ID:JeH+AFgK0
海原光貴っつーいけすかねぇ野郎が第一七七支部に派遣されてから、早くも3日が経過していた。
まだ第一位は目を覚ましていない。
そして、打ち止めも大した変化は見られない。
エイワスと対峙してから約4日経つが、アイツの言っていた"打ち止めの崩壊"がまだ来てない所を見ると、やっぱり焦って『外』に出る必要はなかった。
……いや、そんな事はどうでもいいんだ。ともかく俺は……。
「大丈夫ですか垣根さん、一昨日あたりから顔色悪いですよ?」
- 670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:14:29.95 ID:JeH+AFgK0
ああ、俺は今、かなり表情が青ざめ、一見すれば病に陥った可哀想な人に見えている……らしい。
理由らしい理由なんて言えるかは分からんが、これは、そうだな、アレだよ。
気の迷いってヤツだ。誰だって経験する事のある、一般的な現象だ。
そんな一般的な現象がこの俺に許されるなんてな、カカカ。
「あの……本当に大丈夫ですか?
そろそろ支部に行く時間ですけど、垣根さんどうします?
体調が優れないんだったら休んでた方がいいですよ、アホ毛ちゃんの様子に変化があったらすぐに連絡しますから」
もはや廃人的な思考にすら陥っていた俺は、花飾りの言葉にようやく明確な意識を取り戻す。
- 671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:15:06.72 ID:JeH+AFgK0
「…ああ、支部、か。支部……。
いや、俺も行くさ。大した事じゃねぇ」
そうだ。俺がこんなにも廃人コースへまっしぐらになっちまってる原因は、間違いなく支部にあったんだ。
……と言っても、俺がその原因を敵視しすぎているってのがそもそもな訳なんだがな……。
一一一一一一一一一一一一
一一一一一一一一一
一一一一一
「垣根さん、顔色悪いですね。どうかなされました?自分に出来る事があればなんなりと申しつけ下さい」
- 672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:15:46.55 ID:JeH+AFgK0
……そう、顔色が悪いそもそもの原因テメェなんだよ、海原光貴。
「この俺がテメェに頼む事なんてあっかよ……」
思わず口に出しちまったが、いや、本当に何なんだコイツは?
本当にここにいる海原光貴が"ホンモノ"だったとして、タチが悪すぎるんだよ。
まだ中坊のナリして基本的な事務仕事は至って完璧。
学区内の巡回でも、コイツにしょっぴかれたスキルアウト共の数は三日間にしては目を張るモノがある。
終いには俺にいらん気を遣って『自分に出来る事があったら何でも言ってくださいね』と来たもんだ。
しかも悪気は一切見えやしねぇ。
だからこそトコトンムカつくし、俺はコイツの事がトコトン気に食わねぇ。
- 673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:16:26.72 ID:JeH+AFgK0
海原が来て3日も経つが、俺はコイツに対する態度はいつもこんな感じで、終始悪態づいている。
「(ね、ねぇ、ちょっと)」
そんな俺が醸し出す悪意やムカつきに敏感な心理定規は俺の元まで近づき、俺にしか聞こえない程度の小声で耳打ちして来る。
……なんだか最近、こんな感じのやりとりが普通に、何の違和感も感じずに行われている気がしてならねぇ。
「(まだ彼が『グループ』の構成員だと疑ってるみたいだけど、好い加減に態度改めたらどう?
それとも、そんなに私の能力が信用できないって意味なのかしら?)」
心理定規の言葉は、適度な注意を促しつつも、どこか不機嫌そうな何かも潜んでいる気がした。
- 674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:16:53.67 ID:JeH+AFgK0
「(何をカリカリしてんだお前は、
俺は今ここにいる海原光貴という人間が気に食わねぇんだよ。
それがホンモノだろうがニセモノだろうが、気に食わないと感じるのに何の変わりもねぇ)」
率直に意見を口に出した俺だったが、その意思になんら偽りはありはしない。
本当にアイツという人間が気に食わない。
理由?理由なんてモンは腐る程あるが、その中の例を強いて一つ上げるとしようか。
「ああ初春さん、その事務仕事は自分が時間余ってた時にやっておきしたよ」
「あ、ありがとうございます。海原さん」
「いえいえこの程度、何か手が足りない事がありましたら遠慮なく自分に申しつけて下さい。手伝える範囲でしたら全力でカバーさかせてもらいますので」
- 675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:17:49.58 ID:JeH+AFgK0
そう、これだ。
コイツ、海原光貴はやたらと花飾りに気を遣っている(気がする)。
「(え?なに?何か急に表情怖くしちゃってるけど、もしかしてアレがムカつく理由?もしかして、あなたが嫉妬してんの?)」
不機嫌そうな心理定規の声色は一転して、見事にからかい様のような感じで、俺に突っかかって来る。
「(ほざけ)」
面倒なので一言で一蹴をした俺だったが、心理定規はと言えばもっと否定するのを期待していたのか、多少の驚きを兼ねて、不機嫌そうな表情へと戻っていった。
そこまで頑なに否定すると思った理由を是非とも聞きたいモンだが、俺は頑なに否定しないのにも、理由じゃあないが、直感的に拒む感情があった。
嫉妬……ってのは言い過ぎだが、それもまぁそれで、的を射ちゃいるからな…。
- 676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/08(水) 22:19:18.63 ID:JeH+AFgK0
大層失礼な話になっちまうかもしれないが、俺は花飾りにとある人物を重ねていた。
いや、かつてのとある人物。と言った方がいいのか。
顔の形も、髪型も、全然似てやしないけど、俺に強くつっかかってくるクセに、変な所でオドオドとする所なんか、本当にそっくりなんだ。
俺が全力で護りたかった、全力でも護れなかった、アイツ。
その時にはとことん痛感させらってもんだ。
いくら努力したって、不可能な事はどんなにあがいても不可能なんだって。
その俺が今、無様に人を護ると言い張ってるときた。
そんな事知ったら、オマエだったら、どうするんだろうな。
かつてのオマエだったら、笑って俺を全力で応援するだろう。
オマエはそういうヤツだった。
今のオマエだったら、笑って俺を全力で殺しに来るだろう。
オマエはそういうヤツなんだ。
- 677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:19:52.98 ID:JeH+AFgK0
分かってる。人を平気な顔して護るなんて、この俺に許される事じゃないって。
何度も言ってる、でも、許される事じゃないからこそ、正当な資格がないからこそ、俺はまた護りたいと願う。
この感情は、花飾りにはひとしお強いんだ。これは気のせいなんかじゃない。
やっぱり、アイツと重ねちまってるんだろうか……。俺もどうやら相当な未練たらしい男だったらしい。
この感情は、一体何なんだろうな。
護りたいと強く思わせる花飾りに抱く、俺の感情ってのは。
恋心?ハッ、冗談もキツいってもんだ。
いくらアイツと影を重ねちまってるとは言え、俺もそこまで変態でもないし、そこまで失礼極まりない人間なつもりでもない。
- 678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:20:43.25 ID:JeH+AFgK0
かつて、確かに俺はアイツに恋心に似たような感情を抱いていたのかもしれない。
目の前で笑うアイツが愛おしくて、目の前で悲しい顔をされたら本当にたまらなく辛かった。
だが、それはあくまで"だった"で片がついちまう話なんだ。
アイツとは、俺が今までにないくらい絶望したあの日から何度か会った事もあった。
望まれた形でも、望まれない形でも。
やっぱり、どんな形でも再会して、そこから湧いてくる感情なんて、有りはしなかった。
- 679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:21:40.90 ID:JeH+AFgK0
俺とアイツがそんな平和な仲にあったのは俺達がまだ随分なガキの頃だった。
だからなんだ。
だから恋心に似たような感情もこの俺に芽生えていたんだ。
もう、自分で何を考えているのかが半ば怪しくなってきて、自分から広げた、忘れたいと強く願った過去の自分を無理矢理捻じ曲げる。
それもことごとく表情に露わになっちまっていたらしく、意外そうな顔をしていた心理定規が、また怪訝そうな顔に戻っていた。
「(なんでもねぇから。少し一人にさせてくれ)」
無駄に突っ込まれる前に心理定規に毒づき、俺は一人支部にあるソファで横になり、しばし体を預けた。
- 680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:22:52.91 ID:JeH+AFgK0
深い思考の奥底に入ってしまえば、抜け出せない所まで勝手に自分で自分を追い込み、結局なにも解決できないままもがいてしまう。
少し頭を落ち着かせよう。
そうすれば、少しでも海原に対する不快感も和らいでくれるだろう。
瞳をゆっくり閉じ、深い意識の底へ落ちようとした俺だったが、先の出来事を占うカミサマってのはとことん俺の事を嫌っているらしい。
「垣根さん、少々用事があるのですが、釜いませんか?」
背を向けている俺に、海原の落ち着いた声が届いた。
- 681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:23:47.73 ID:JeH+AFgK0
「……ヤダね」
体勢はなに一つ変えないまま、背中を海原に向けたまま、俺は返答する。
「まぁそう言わないで下さい。
自分、僭越ながら垣根さんに渡したいモノがありまして。せめて話でも聞いていただきたいんですが……」
……また訳の分からない展開になってきた。
渡したいモノ?お前が?いつも悪態づいているこの俺に?
どんな物騒なモノが出てくるんだと嫌気がさしてきたが、受け取らないで放置したままにすんのもそれはそれで気味が悪いので、俺は体をゆっくり上げる。
- 682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:24:26.28 ID:JeH+AFgK0
「……なんだよ、渡すんならとっとと渡せ」
悪態づく事をなんとか避けようと必死に努力してみたが、やっぱり無理だ。気に食わねぇモンは気に食わねぇ。
「はい。では申し訳ありませんが………。
はい、遊園地の無料チケット三枚分です」
「……は?」
…いやいや、は?遊園地のチケット?は?
念のため、色々な不気味なモノが渡される場面を想定してみたモノだが、まさかこんなモノを渡されるとは思ってもみなかった。
……遊園地?は?
- 683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:25:00.58 ID:JeH+AFgK0
「…いや、これを渡された意味がサッパリ分からねぇんだが」
解せない、とことん解せないが、質問しない限りは一生経っても解せないまんまなので、俺は困惑の色を表情に残しながら海原に言葉を放った。
「ああ、失礼しました。自分とした事が唐突すぎましたね。スイマセン」
俺の言葉にどんな返答をしてくるのかと結構身構えたものだが、海原はしまったと言った感じで詫びてきやがった。
…ああ、コイツのこういう所もまた、俺はとことん好めない。
回りくどいんだよ、いちいち相手の機嫌を気にした言葉をソレらしく並べやがって。
とっとと訳を教えりゃ済む話だろうが。
- 684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:25:57.30 ID:JeH+AFgK0
「このチケット、自分の祖父からいただいたモノなのですが、三枚となると少々中途半端でして……。
垣根さんは初春さんと打ち止めさんと一緒に暮らしてると聞いたモノなので、羽目を外すのに如何なものかと思いまして」
あーあー、こんな所で僕は遊園地なんて庶民向けのテーマパーク興味ありませんよってか?
そりゃあテメェみてぇないけすかねぇお坊っちゃまからしたら遊園地なんて楽しくねーだろうな。
だが悪ぃな、そんないけすかねぇテメェより俺の方が(おそらく)金持ちだよ。
無駄すぎる妄想を広げてる俺だが、勿論答えは最初から出ている。
受け取るわけがねぇ、気持ち悪ぃったらありゃしねぇよ。
……が、俺のその答えは口に出す前に無残に崩れ落ちる事となる。
- 685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:27:20.40 ID:JeH+AFgK0
「えっ!?遊園地?行けるの?初春のお姉ちゃんと、カキネと!?ってミサカはミサカはさり気なく聞き取った重要なやり取りにテンションMAX!」
「オイ待てよテメェ、何で花飾りにはお姉ちゃんがついてるのにこの俺に向かっては呼び捨てなんだ」
後から冷静になって考えてみれば何の事はない、特に突っ込む必要のない打ち止めの呼び方だったが、今の俺は遊園地についてを打ち止めに聞かれた事よりも敏感に反応しちまっていた。
「ねぇねぇウナバラ!!本当にお姉ちゃんとカキネと遊園地行けるの?ってミサカはミサカは上がり続けるテンションを抑えつつ質問してみたり」
「わざと言ってんのか?わざと言ってんだな?オイコラ打ち止めァ!!」
- 686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:28:10.81 ID:JeH+AFgK0
「ああ、遊園地の話は行けると思いますよ?ただ、垣根さんに今行けるかどうかを聞いてるので、解答次第では……」
ソファから体を完全に起こし、打ち止めに向けて大きく吠える俺を完全にスルーして、海原の野郎は打ち止めにそう言うと、言葉の途中で俺の方向をジッと見て来やがる。
……待てよ、この展開、海原は三流止まりの策士でもあったってのか。
嫌な予感しかしねぇ。
「行く行く!行くよね?ね?カキネさん!ってミサカはミサカはここぞって場面で歳上のカキネに全力で敬意を示してみたり!」
「最後の最後で呼び捨てに戻っちまってるけどなクソガキ」
……ほら、だから嫌な予感しかしねぇっつったんだよ。
そんな眼差しで俺を見るんじゃねぇ、嫌になる。
- 687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:28:55.28 ID:JeH+AFgK0
「垣根さん、…行きましょうよ」
……心底、ウンザリする。
俺に言葉を放ったのは、紛れもなく打ち止めに同情でもしたような雰囲気の花飾りだった。
「(垣根さん、ちょっと)」
適当にあしらって、この場はなんとか切り抜けようかと目論んだはいいんだが、結局それも叶わず、花飾りは耳打ちする形で俺を打ち止めと距離の空いた場所まで連れてくる。
本当にこういう場面じゃ何とも思わねぇのな。
仮にもテメェは今俺の耳に小さく吐息を響かせてるんだぞ。
こんな具合で、後にからかってやろうか。
- 688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:29:25.81 ID:JeH+AFgK0
「(なんだ、お前真剣ムードになるとすぐ顔に出るんだから言いたい事があんだったら手短に済ましてくれ)」
「(じゃあ単刀直入に言います、行きましょう、遊園地。
アホ毛ちゃんと私と、垣根さんの三人で)」
……まぁ、コイツが今俺に言ってくる内容なんてどうせこんなモンだと思ったよ。
「(なんで打ち止めに続いてテメェまで俺を無理矢理入れてくるんだ。
仲良く楽しく遊園地で遊びてぇんなら俺なんかより心理定規の方が上等なんじゃねぇのか?)」
俺は心の底からの正論を言ったつもりだった。
が、花飾りの表情には何の変化も起きないし、何の迷いも見えない。
ただ俺をジッと見つめる、花飾りのその目が、俺に言いたい事を包み隠さず具現化していた。
- 689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:30:33.43 ID:JeH+AFgK0
それは、俺の言った事は、何の正論でもありはしない。と。
その迷いのない意思を持った瞳で俺を見つめたまま、花飾りは追い打ちと言わんばかりに俺に言い放って行く。
第二位の俺に対して、とてつもなく大きな態度で。しかしあくまでも、小さな声で。
「(アホ毛ちゃん、結構無理してるんですよ?
私はアホ毛ちゃんの保護者にあたる一方通行さんの話を垣根さんからしか聞いてませんから良い印象は全くと言って良い程持ってませんけど、それでも、アホ毛ちゃんはその一方通行さんの事が心配でならないんです)」
……だから、どうしたってんだ。
口に出る事はない、俺の意思。
- 690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:31:51.42 ID:JeH+AFgK0
俺の直感的な感情は、決して口から言葉として出る事はない。
打ち止めが無理をしている?打ち止めが寂しがっている?打ち止めが第一位の事を心配している?
知るかよ。それがどうした。
心底思った、だから何だ、だからどうした、と。
でも、違うんだよ、やっぱり。
今の俺は、どうしてもここで止まる事が出来ずにいるんだ。
だからどうした。で、俺にとって利がないどころか面倒にしかならない話を終わらす事が、出来ずにいるんだ。
「(だから……どうしたってんだよ。
俺が打ち止めを保護する理由なんざ、俺の利に害が及ばないためでの一時的なモンだって事くらい、お前にも話したハズだろ……。
寂しいんだったら、心理定規を連れて行けばいい。白井でもいいじゃねぇか。
何で、俺を巻き込むんだよ……)」
せめてもの抵抗なのか、もう訳も分からず俺は俯きながら、しかし花飾りに聞こえる程度の声で花飾りに向けてそのままの感情を口にした。
当然俺は気づいていなかったのだが、俺と花飾りが打ち止めと距離の空いた場所で小さな声で話をしているのを心理定規が察して、下手に察せられないように打ち止めをからかっていたらしい。
気付くハズがねぇよ。
花飾りが、俺を揺らがすような言葉を並べてくるんだから。
- 691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:32:28.75 ID:JeH+AFgK0
「(垣根さん……)」
布石が、置かれる。
俺の情けない弁論を、俺の情けない心中を聞いた花飾りが、俺に向けて言葉を放つ前の、布石が。俺の名字を、小さく呟く事で。
「(……全然、垣根さんの言った事の一つも、私からは本心から放たれたモノとは思えません)」
思わず、目を張った。
何なんだコイツは。いつもに増して驚かされる。
いや、今に限っては鬱陶しくてたまらなくもあるんだが。
俺という本人が思い切り本心から言ったつもりの心中を、全て本心からのモノじゃないと否定してくるんだぞ、本当に何なんだ。
- 692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:33:19.01 ID:JeH+AFgK0
俺が言葉にして花飾りの言葉を否定するような事はなかった。
出来なかったんだ。何故か。
本当に本心からのつもりだったのに、こうも簡単に、それも全否定なんてされたら、俺という、垣根帝督という人間は間違いなく反論していく性格だと言うのに。
それと、否定できなかったら理由が、もう一つ程あったな。
また、花飾りの言葉が俺の耳にだけ届く。
俺という人間の全てを根こそぎ理解したかのように、まるで、論して行くかのように。
「(見てて、思うんですよ。私。
垣根さんとアホ毛ちゃんって、似てる所があるなぁって。一昨日くらいからですけど)」
- 693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:34:52.11 ID:JeH+AFgK0
「(……は?)」
「(私は冗談を言うつもりも、言ったつもりも一つもありませんよ?
アホ毛ちゃんと垣根さん、本当に似てるんですよ)」
…訳が、分からない。
花飾りの言っている意味が。全く。
その俺の感情は、わざわざ口に出さなくともちゃっかり表情に出てしまっていたらしく、花飾りは前振りはいらないと言った感じで説明していく。
「(アホ毛ちゃんも、垣根さんも、家族を、綺麗な"居場所"を、心の底から欲してるんですもん)」
「(…………………)」
俺は花飾りの短い説明に、ただ沈黙する事しかできなかったが、実際の所、もうこの一言だけで十分に理解出来たよ。
居場所。
まさか、どうしようもなく無様に俺の浸ろうとしていたモノが、こうも簡単に花飾りの口から出て来るなんて。
それも、やっぱり口ぶりや風情だけじゃなかった。
俺の事を、少なくとも俺よりかは理解しちまっているんだ。
花飾りは、まだ言葉を続けていく。
俺は、ただ黙って耳を傾けるだけ。
- 694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:37:58.93 ID:JeH+AFgK0
「(それなのに、求めてるくせに、あなたはその居場所を拒もうと、拒絶しようとしてる。それがどうしても、見ていて悲しいんです)」
「(拒まないでください。私からしたら、拒まれる事の方がよっぽど辛いんです。
それはきっと、アホ毛ちゃんも一緒で、)」
……何なんだよ、コイツは。
この俺が、垣根帝督が、お前の家族みたいなモノだと?
正気の沙汰じゃない。
俺はテメェに何をした?
俺とテメェが初対面だった時、あの日、俺は、テメェに、何をした?
傷つけたんだぞ。俺からしたら正当法に値する、理不尽すぎる理由で。
その傷つけたお前を、今度はケロッとした顔で護るとかほざいちゃってるこの俺が、お前の家族?
- 695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:39:00.33 ID:JeH+AFgK0
「(やめ、ろよ……クソッ、タレが……)」
かすれている上に、下手したらまともに聞き取れないんじゃないかと思うくらいの弱い声で、俺は無様に拒む事しか出来ない。
「(拒まないで下さい、怖がらないで下さい。
あなたは誰ですか?学園都市に七人しか存在しない超能力者の中でも、二番目に君臨する、垣根帝督さんでしょ?
もし、第二位の垣根さんが、それでも怖いと思い続けるなら……)」
花飾りが合間をとる。
それ以上は、もう言わないでくれないか。
もう、どうせなら、俺をここでお前の方から拒んではくれないか。
……その方が、よっぽど楽なのに……。
- 696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:40:18.58 ID:JeH+AFgK0
「(私の方から手を伸ばします。怖くないよって。そして、私はずっと、いつまでも受け入れますよ?
垣根さん、あなたは、私の居場所の一部なんです。
あなたは、私の仲間なんですよ?)」
………ああ、
やっぱり、やっぱりだ。
コイツは、花飾りは、初春飾利は、かつての"アイツ"に似ているよ。
俺の頭の中で、とことん思い出したくて、とことん思い出したくない過去の片鱗がフラッシュバックする。
『…いつも一人でいるけど、アンタ友達いないの?
だったら、私がアンタの初めての友達になってあげようじゃない!
"なかま"ってヤツよ。分かる?な・か・ま!』
思い出したくて、思い出したくない、アイツの声が、垣間花飾りの声に重なったんだ。
- 697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:41:15.74 ID:JeH+AFgK0
……もう、コイツには敵いっこないのかもな。どうしようもないくらいに。
何で遊園地行くか行かないかだけの話がここまで膨らんでんだか……。
「(分かった、分かったよ)」
俺は諦めるように、いや、もう参った。
お前の勝ちだ、俺にもう抵抗の余地はなさそうだよ。花飾り。
「(行ってやるよ遊園地、三人で。
お前や打ち止めが言う所の、家族みたいな三人で)」
- 698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:42:29.47 ID:JeH+AFgK0
第十四章 一10月23日。
- 699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:43:15.52 ID:JeH+AFgK0
「……寝覚めの質問だ、何でテメェは俺の上に乗っかってやがる」
現在時刻、8:24。
「待ちきれないからに決まってるじゃん!ってミサカはミサカはやっと起きたカキネの耳に向かって大声を響かせてみたり!」
「あァッ!?まだ8時じゃねぇかよ!?
ってかうっせぇクソガキ!!」
……今日が遊園地に行かなきゃなんねぇ日で、目が覚めた今、まだ体も起こしてない俺の真上にはギャーギャーと騒ぐクソガキが一匹いた。
- 700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:43:50.36 ID:JeH+AFgK0
「も~、アホ毛ちゃんも垣根さんも、朝から何やってるんですか~?」
無理矢理、俺から離れようとしない打ち止めを引っぺがそうとする俺と、絶えず俺に引っ付く事をやめない打ち止めの騒ぎを聞きつけて、今度は花飾りが台所からひょこっと顔を出して来た。
「あ!お姉ちゃんお姉ちゃん!ようやくカキネが起きたよ!ってミサカはミサカは……ぷぎゃっ!」
花飾りを見つけるなり、余計に陽気なテンションを格上げしやがった打ち止めに、俺はいい加減に打ち止めを引っぺがした。
「……でぇ?花飾り。お前の方こそ、朝っぱらから台所で何をしてるんですかぁ?」
「へ?決まってるじゃないですか!!弁当作りですよ、弁当作り!」
- 701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:44:17.49 ID:JeH+AFgK0
げんなりとした感じで質問した俺に対して、さもそれが常識なんですと言わんばかりに花飾りは返答してきやがった。
「ミサカ、遊園地も楽しみだけど、お姉ちゃんのお弁当も凄い楽しみ!ってミサカはミサカはもう待てない!って事を全身でアピールしてみたり!」
……俺はともかくとして、花飾りと打ち止めの二人はいっつもこんな調子だ。
願わざる形で同居する事んなって、かれこれ5日になるが、やっぱり俺はコイツらのこの雰囲気についていけてる気がしない。
「……ったく、何でこんな時間に起きちまったんだか……。
オラ、行くんだったらとっとと準備終えて行くぞ」
……まぁ、その雰囲気になんとか合わせんのも、そんなに悪い気もしないんだがな。
- 702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:45:00.11 ID:JeH+AFgK0
「わーっ!!遊園地だよ!遊園地!ってミサカはミサカは目の前に広がる素晴らしい光景に目を輝かせてみたり!」
「テメェはテンションをもう少し下げらんねぇのかよオイ……」
言わずとも普通に理解できるだろうが、今俺たちはようやく遊園地ってヤツに到着した所だ。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。
かく言う私も、結構ワクワクしちゃってますからね」
場所は第六学区、研究機関や学校ばかりがひしめく学園都市に唯一と言ってもいいくらいのアミューズメント施設があちこちに存在する学区だ。
- 703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:47:26.60 ID:JeH+AFgK0
第六学区は俺の家がある第七学区から少し区間が空いてるため、学区を跨ぐために多少の移動時間も喰んじまった。
そこを考えると、八時に起きたのは案外丁度いい時間帯だったのかもしれない。
………それにしても、俺たちの目の前に広がる遊園地と言う名の光景。
学園都市の遊園地なんて言ったらココぐらいのものなんだろうと思っていたが………やっぱりそうだったか、胸糞悪ぃったらありゃしねぇ。
また、望まずとも自然に、俺の頭に過去の片鱗が蘇る。
どうしようもなく思い出したくない、一番思い出したくない光景だと俺は思う。
遊園地に行く事を承諾した時にはすっかり忘れる事が出来ていたっつーのに、何だってんだよ。
どうして、今現在こうして俺が見る遊園地が、過去のあの一ページに重なっちまうんだ……。
- 704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:48:07.46 ID:JeH+AFgK0
「…どうしたんですか?垣根さん、なんか顔色悪いですよ?」
頭に浮かんで来る"あの日"を何とか引っ込めようと、思わず自身の奥歯を強くこすり合わせていた俺の険しくあっただろう表情を見て、花飾りは何かあったのかと不思議そうに俺の様子を伺ってきた。
「……ああ、いや、なんでもねぇ。
無問題だ。」
こればっかりは俺個人としての問題なんだ。下手に心配されちゃたまったもんじゃねぇ。
「ね!ね!早く乗り物とか!ね!ってミサカはミサカはカキネの裾を引っ張ってもう待てないって事をアピールしてみたり!」
…遊園地なんてモンで楽しめるかどうかは怪しい所だが、まぁクソガキもこんなにうるせぇんだ。
早く忘れちまうためにも、盛大に付き合ってやるとするか。
- 705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:48:39.36 ID:JeH+AFgK0
「……ぐぉっ、うぇぇ……は、吐く…」
「ち、ちょっと垣根さん!?だから無理しない方がいいって言ったのに……大丈夫ですか!?」
……今、俺はこれまでにないくらいのピンチに陥っていた。身体的に。
ジェットコースター、やっぱりアレは常識が一切通用しない恐ろしい、もはや兵器と言っても過言ではないな。うん。
似合わねぇ六枚の白い羽を生やして飛び回る事ができる俺が言うのも全く持って可笑しな話なんだろうが、昔っからそうだった。アレはいかん。
「あれれ~?結局駄目みたいだったけど、どうしちゃったの?ってミサカはミサカは随分張ってた威勢が皆無になっちゃったカキネを思いっきり見下してみたり」
「……この、クソ、ガキッ!」
- 706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:49:11.32 ID:JeH+AFgK0
そう。
クソガキが手始めに乗ると言い出したのがこのジェットコースターで、
俺は昔っからコイツは好かねぇって事を何の気なしに呟いてみたら、
途端にクソガキが馬鹿にしたような視線と口調で俺につっかかってきやがったんだったな。
思いっきりにふっかけられた喧嘩(?)に乗せられて、まんまと打ち負かされた俺には、結構悔しいという概念が生まれてきているらしい。
…安心しろ、似合わねぇなんつー自覚は当然ながら持ち合わせてるよ。
- 707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:49:43.45 ID:JeH+AFgK0
…それなりに気分も元に戻ってきて、時間帯も丁度真昼間に差し掛かってきた頃だったので、俺たち一行は花飾りがわざわざ作ってきた弁当を食べるべく空いていたベンチ席に座っていた。
「何も考えないでお弁当作ってきちゃいましたけど、飲食店も並んでる遊園地で普通に食べちゃっても大丈夫なモンですかね?」
「気にする必要もねーだろ、それに、こんくらいの非常識の方が俺の肌にも合ってるからな」
言葉では適当に流しはしたものの、遊園地に並んでる飲食店なんざまともなもん一つもねーからな、
こうして認めちまうのも納得行かねぇが、やっぱり花飾りの手料理は美味い。一緒に住むことんなってから朝昼晩としょっちゅうコイツの手料理な訳だが、飽きる気配が一切ねぇんだ。
味を選ぶとなったらとことん五月蝿くなる自分でもあり得ねーと思うよ。
- 708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:50:27.02 ID:JeH+AFgK0
「やっぱりお姉ちゃんの手料理も、ヨミカワの炊飯料理に負けないくらいに最高!ってミサカはミサカは大好きな卵焼きを口に運びながら…もきゅもきゅ」
「オイ、なんでテメェはさっきから俺が食おうとしたもんばっか横から入って食うんだ。あと食いながら喋るんじゃねえ」
俺が今までに殺してきたクソ野郎どもがこの今の光景を見ちまえば腰の一つや二つは抜かしそうな光景になってるが、まずその光景を見て笑っていたのは花飾りだった。
「……何を笑ってんだよ、気味悪ぃな」
「いやぁ、本当に家族みたいな雰囲気でほっこりしちゃいまして。
私の手料理をこうやってワイワイと食べてもらえるなんて、本当に幸せな事なんだなって思ったらつい笑っちゃったんですよ」
………ったく、
んな事を真顔で言うんじゃねぇよ。
聞かされてるだけのコッチが小っ恥ずかしくなってくるだろうが。
- 709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:51:04.85 ID:JeH+AFgK0
「……まぁ、何だ。俺もこういうのは悪くねぇとも思えるっつーか、悪い気分じゃあ一一一一一」
似合わずに、上手く繋がらない言葉を花飾りに向けていた途中で、その言葉が途切れる。必然的に。
……何なんだよ、全く。
悪い気分じゃねぇって言おうとした途端によぉ、本当に何なんだ?あ?
言葉には出さない。
勿論表情にも。
「垣根さん?どうかしました?」
何も知らないお前は、何も知らないままでいい。今回ばかりは、俺個人の問題なんだ、"おそらく"。
- 710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:52:30.09 ID:JeH+AFgK0
「いや、何でもねぇ。悪い、ちょっと便所に行かせてくれ。悪いな」
「もう!食事中なのにカキネったらデリカシーなさすぎだよ!ってミサカはミサカは食事中のNGワードを言い放ったカキネに憤慨の意を表してみたり!」
……クソが、何でだ。どうしてなんだよ。
過去を切り離そうとしている今この状況で、どうしてあの過去を思い出させるこの場所で、"あの野郎"としか見て取れないようなヤツが俺の視界に入ってんだよ!
……俺が牙を向ける対象は、結構前から以下の二つにしかなかった。
俺の邪魔をする奴ら。
それと、むやみやたらに一般人を適切じゃない学園都市の裏っ側に引き込もうとする奴ら。
今俺の視界に入ってる一人の男が、俺があの日に殺したハズだったアイツだったとしたのなら、
- 711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:53:05.72 ID:JeH+AFgK0
ソイツは、その俺の牙を向ける対象を決めた、唯一の存在。
俺の守りたかった、護りたかった、一般人として生きる道も当然許されたアイツを、無理矢理闇の道へと引きずりこんで、なんとか光の当たる道を歩かしてやろうと努力した俺の全てを邪魔した、あの野郎。
何でなんだ、俺が殺したハズなのに、それでも生きている理由なんてのはどうでもいいんだ。
何で今この場面で俺の近くに姿を現したんだ。
テメェは研究者だ。それも過去の。
研究者であるテメェが目を着けるんだとしたら、やっぱり打ち止めのヤツなのか?
いや、それにしたってタチが悪すぎる。
あの日と同じ場所に現れて、同じみたいに俺の視界に入って、そんなの一一一一。
- 712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:53:34.72 ID:JeH+AFgK0
混乱に混じりながら広がっていく俺の思考も、ここらで終止符が打たれる。
原因は簡単で、思考を広げてる暇なんてなくなっちまったから。
そりゃ、あの野郎が立っていた場所を起点に小さな爆発が起きちまえば、考え事なんてしてる暇ねぇだろ?
「クソッッ!」
大きく叫び、俺が素早く視線を移した場所は二箇所。
クソ野郎と、花飾り達が座っているベンチ席。
先ず野郎の様子を伺う。
今すぐにでも飛びかかってアイツの肉を削ぎ落としてやりたい所だが、ここは公共の場だ、不用意に一般人をコッチに誘い込むのは気が進まねぇ。
なんとか絶好の機会を伺い、そこで勝負を決めちまうのが俺の仕事だ。
- 713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:54:11.48 ID:JeH+AFgK0
次に伺うのは花飾り達の様子。
爆発と言えど、まだ随分な小規模で済んだため、大した騒ぎにはなってはいないものの、やはり花飾りの表情は曇りがちで、打ち止めの手を握りながら、便所に行くと言った俺をキョロキョロと探している雰囲気だった。
「……オイ」
俺は、言葉を放つ。
聞こえていないだろうが、あのクソ野郎に向かって。
「"あの日"の借りも返さなきゃなんねぇと思ってたんだよなぁ……。
…悪いが、今度は[ピーーー]ぐらいじゃ足んねぇかもしんねぇ」
明確で、最も俺らしい殺意を乗せて。
- 714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:54:37.68 ID:JeH+AFgK0
俺が行動に移ろうとする。
行動っつっても、結構な速度で野郎の元まで近づいて、野郎を連れて遊園地から離れた場所まで飛ぼうとしただけの話だが。
が、俺のそんな行動より先に、野郎が動きを見せてきた。
あの日みたく、全身を黒服で包んで、あの日みたく、黒いフードを被った後頭部から、確かに視線だけは俺の方向を向いたまま。
あの日と違う、黒服から垣間見える野郎の手に握られているのはギラギラと独特な光を見せる石で出来ているようなナイフという確かな凶器。
一瞬だった。
アイツが手元をちらつかせ、黒く光るナイフが俺の視界に入ってきたその瞬間。
俺が隠れていた物陰に使っていた学園都市製の自動販売機が、文字通り真っ二つになりやがった。
- 715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:55:32.94 ID:JeH+AFgK0
「……ッ!」
俺は思わず硬調する。
あいつが見せてきた戦力は、少なくとも肉眼では見えなかった謎の一撃により、自動販売機という物体を真っ二つにしたというモノ。
応用力ではかなり長けている部類に入る未元物質を持っている俺からしたら、まだ大した事のない戦力ではないと思えるが、重要な所はそんな所じゃない。
あの日、あの俺が絶望したあの日には、アイツはそもそもの戦力すら持っていなかった。
あの日みたいに、アイツが持つ科学者や研究者特有のゲスさを持って、俺が護りたいと願うモノを狙うという手段に加えて、そこそこな戦力を持ってこられたら一一一。
- 716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:56:01.85 ID:JeH+AFgK0
気が付いた頃には、もう既に俺の体は動いていた。
一刻も早く片付けなければヤバい、という、俺の確実的な直感が間違いなく俺を奮い立たせた原因で、
無暗に標的に突っ込むなんて事、自分の身を危険に晒すようなモンだっていう正しい考え方も出来ただろうに。
気が付いた頃には、
そうだよ。
俺が気が付いた頃には、もう遅かったんだ。
- 717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/08(水) 22:56:45.23 ID:JeH+AFgK0
「か、垣根さん……」
唐突すぎる展開なんだ。状況に頭が追いつかないってのも分かる。
かく言う俺も、冷静さなんてのはどこかに吹っ飛んじまってるから、大した程場を理解できてるって訳でもない。
場は、正にたったの一秒で生死を左右する修羅場と化しちまっていた。
物陰から姿を出した俺の目の前には、今すぐに殺したいと願うクソ野郎と、
そのクソ野郎の腕には、随分と身長差のある花飾りの首が収まっている。
要するに、アレだよ。
B級のサスペンスドラマでよく見る、少しでも俺に近付けばコイツを殺す、って感じの場面だ。
- 718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:58:05.54 ID:JeH+AFgK0
注意深くクソ野郎を睨みながら、俺は打ち止めの状況も確認する。
陽気に輝いていた打ち止めの瞳は今は閉じられ、アイツは現状気を失っている形になっていた。
こんな場面でエイワスの言っていた『崩壊』がやってきちまったのかと一瞬思ったが、瞬時にそれはないと的確な判断を下す事が出来た。
暗部で何回も人が意識を失っている場面は見た事がある。
あの気絶の跡は、人為的に行われたモノだ。
打ち止めの気を失わせている所を見ると、アイツの目的が打ち止めっていう可能性もなくはなくなって来たが……。
何よりも今俺は、なんとかあの野郎から花飾りを離れさせる事を考えなくちゃならねぇ。
- 719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:58:49.49 ID:JeH+AFgK0
「テメェ……今更この俺の目の前に現れるなんて、どういう風の吹きまわしだ?」
一旦、この場に必要な最低限の冷静さを取り戻し、俺は黒いフードを被ったままの野郎に質問する。
「…………」
野郎の返答はない、ムカつく。
行動に移っちまいそうになるが、俺はなんとかソレを抑え、再び質問する事を試みる。
「ああそうだったな、テメェは昔っから座前事を好まないタイプだったか……じゃあ聞くぜ、テメェ、今更俺のカンに触れやがって、何が目的だッ!!?」
どうしても耐えられず、叫びを帯びた問いになっちまったが、野郎は答える。
それも、どうしようもないくらいに、俺を怒り狂わせた。
- 720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 22:59:22.64 ID:JeH+AFgK0
「……何を吠えているんだかな、君、自分の力量くらい分かってるだろ?
あの日、私から君の大切な大切な"あの娘"を護れなかった、救えなかった、みじめで仕方が無い君の力量くらいさぁ」
もう、考え事なんて全て吹っ飛んでなくなった。
俺の目の前で、こうして俺を嘲笑うこの男は、あの日確かに俺が殺したハズのアイツだという確証を得て、
俺がコイツをもう一度[ピーーー]ための、最低限の理由も得たんだ。
「黙れぇぇぇぇええええええええええエエエエエエエ!!」
ぶっ壊れる寸前の、デカいデカい咆哮に乗せて、"二枚の"膨大な白い翼が、俺の背中から展開する。
- 721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/08(水) 23:00:11.32 ID:JeH+AFgK0
「クハハハハはははッ!!」
俺の背中から展開する二枚の翼を見るなり、野郎は大きな笑いを上げる。
クソ野郎が。
俺の行動の全てを、根強く湧いて来る殺意が見事に支配して行く。
あの日とまるで同じ感覚だ。
テメェの全てを蒸し殺したい。
「あの日のあの時にそのイカれた力があったら、一体今頃君はどうしてただろうなァッ!?
あの日護れなかったから、今日この日のこの娘は絶対に私から護ってみせるってかァッ!?垣根帝督!!」
コイツの言動の一つ一つが、俺を蒸し返して行く。
やめろよ、過去の出来事なんだ、これ以上あの惨事を思い出させるんじゃねぇ。
- 722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/08(水) 23:00:43.61 ID:JeH+AFgK0
「黙れッ!!」
その抵抗の印が、こうして叫ぶ事によって現れている。
叫びの後に、俺は野郎の懐に突っ込むが、肝心の決め手のための一撃までには届かない。
野郎は、手元でちらつかせる事で握るナイフを光らせ、そこから見えない一撃を放って行く事で俺との距離をとっていく。
「10月9日からの君と言うモノはそれはそれは見てらんないモンだったなぁ!!
私の元にいた頃の君みたく、自ら傷つけたこの少女を護るぅ?
それこそ、どういう風の吹きまわしかってんだよッッ!!」
野郎の言葉に、今度は花飾りの表情が曇り始める。
10月9日のあの事を、思い出したかのような。
やめろ、確実に力の支配を受けて入る俺に、お前のそんな顔を見せるんじゃねぇ。
- 723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:01:37.27 ID:JeH+AFgK0
「だまれ……」
今度の抵抗の印は、俺の口から小さく呟かれただけで、当然、野郎にそれが届く様な事はなく、絶えず野郎はベラベラと続けて行く。
「望まれた形からではないにしろ、君がこんなにもこの娘に執着する理由なんてのは、私には分かるぞ?
確かに、この娘はかつて君が護りたいと願ったあの娘に似ているからな!」
「ダマレ…………」
「髪の色も!長さも!瞳の形も!大きさも!
人体としてのパーツ一つ一つは似てないモノではあるが、確かに彼女は似ている!
君はまだ浸っているんだろ?無様に私によって打ち砕かれた、かつてあの娘と築いて来たような、それに似た"居場所"がッ!!」
- 724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:02:15.82 ID:JeH+AFgK0
「黙れだまれダマレ黙れぇぇぇぇええええええええええエエエエエエエエ!!!」
頭に湧き上がって来る感情は、もう人間の言葉如きじゃ説明し難いモンとなっていて、
俺は今までにないくらいの憤慨に満ち溢れた咆哮を上げていて、
完璧な意識が確かに戻ってきた時には、俺の目の前にはもう、あれほどに殺したいと願った野郎の姿はなく、
遊園地特有のカラフルに色彩された地面の面影すら残らない大地には、
意識を失い、倒れたまんまの打ち止めと、大きな瞳からうっすらと涙が浮かんでいた花飾りの姿が、俺の目に写っているだけだった。
- 725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:02:45.18 ID:JeH+AFgK0
「お、俺、は……?」
さっきまで意識の中にあった光景とは全く異なる光景を前に、ただ呆然と立ち尽くす俺の背中からは、もう俺を膨大な力で支配していた二枚の白い翼の姿はもうなく、
その代わりと言っていいのかは全く持って怪しい所だが、俺の感覚に、何か、過去に忘れてきていたような感触が確かに走ってきた。
ぎゅっ、と。
俺の懐に、俺とはまだ大分身長の差が目立つ花飾りの身体が、強く抱きついて来ていたんだ。
- 726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:03:21.55 ID:JeH+AFgK0
「は、花、飾り……?」
俺らしくもない、かなり府抜けた声で花飾りの行動を伺ってしまうが、様子を伺う事よりも先に花飾りの涙混じりの言葉が俺の耳に響いて来た。
「……し、心配したん、ですよ!!
垣根、さんが翼を羽ばたかせたと思ったら、私の首を抱えてたあの人はいなくなっちゃってるし、その後の垣根さんは…我を完全に失っちゃったみたいに……うぅ…」
言葉が途切れ途切れになりながらも、必死に今までの状況を俺に伝えようとするが、その状況を思い出してなのか、花飾りの瞳に溜まっていた涙が次々に零れて来てしまう。
見てらんねぇ、そう率直に思った俺は、俺が、取った行動は一一一一。
- 727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:04:01.74 ID:JeH+AFgK0
一一一涙が止まらない花飾りを、俺の方からも抱きしめ返していた。
何で、こんな行動に至ったのかはどんな思考回路を使っても分からないが、これも何でだろうな、
いつもの、普段の俺ならあり得ないこの行動に恥を覚える所だが、その恥じらいも、一切湧いて来やしねぇ。
むしろ、それは結構な具合で心地良く一一一一。
ここで、俺の頭の筆頭に浮かぶ、あの野郎と対峙した時にも浮かんで来たような気もする、決心にも似た思考が俺を咎め、俺は即座に花飾りの肩を掴んで俺の胸元から離れさせる。
- 728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:04:39.17 ID:JeH+AFgK0
「か、垣根さん……?」
状態の変化を伺うべく、何とか溢れる涙を止めて俺の名を呼んだ花飾りに対して俺も、正に今の感情を表すような声色の言葉を上げる。
「なん、でだよ……」
弱く抵抗し、弱くもがいているような俺の声色と表情を見て、花飾りは指で涙の溜まっていた瞳をこすって怪訝そうな表情で俺の様子を伺ってくる。
「頼むから…もう、駄目なんだよ、俺の近くにいちゃ………。
命が危険に晒されるなんて、そんな俺らにとっての常識が、お前みたいな一般人に許されて良いハズないのに、……これで何度目だ?
俺の都合で、お前が危険に晒されちゃ、たまんねぇんだよ……」
- 729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:05:49.51 ID:JeH+AFgK0
俺の抵抗は続く。
顔は俯き、花飾りの表情は見えない。
「……それに、あの男が言ってただろ?俺は、過去にこぼしちまったヤツと、お前を重ねちまってる外道のクソ野郎なんだ。
それ以前に、俺は9日がお前にした事、忘れた訳じゃねぇだろ?
こうやってお前を否定していくのも俺のエゴなんだ。
お前が俺の近くにいたいと願う理由なんて、一つもねーじゃねぇか…」
…もう、これ以上、俺はコイツを、コイツの笑顔を見ていられる気がしなくなってしまっていた。
どうしても過去のアイツに、花飾りを重ねちまう。
そんなの、俺のエゴ以外の何物でもないのに、そんなエゴでいくら護りたいと願った所で、花飾りの素の笑顔は護れないってのに。
「……何でそういう事言うんですか…」
それでも、花飾りは俺の姿勢を否定する。
何でだよ、やめてくれ。
否定されたら、お前を、過去にやりどけられなかった護りたい対象として、見ちまうだろうが……。
- 730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:06:30.02 ID:JeH+AFgK0
「私、言いましたよね?どんな形であっても、垣根さんに拒まれる事の方がずっと辛くて、ずっと嫌なんだって」
俺のスーツを小さな手で握りしめながら、顔を上げて言う花飾りの表情には、その瞳には、それは強く光る何ががこもっていた。
「時折私たちを拒んできた理由、垣根さんが私をその人と重ねる事に対して罪悪感を抱いてたなんて理由だったんですね……。
一一一それでも、ですよ。私は、あなたを受け入れます。
過去の人に重ねられても構いません。それで、垣根さんの隣に居られるなら……」
やめろよ、そんな強い瞳を持ちながら、そんな強い声色で、そんな事言うんじゃねぇよ……。
冗談に、聞こえなくなってくるだろ……。
「なん、でだ……何でお前はそこまで、外道のクソ野郎に拒まれる事を嫌がるんだ…意味が、分からねぇ……」
- 731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:07:02.21 ID:JeH+AFgK0
思ったままを口にして、抵抗していくが、花飾りは譲らない。
決して譲らないって瞳を、俺にずっと向けてるんだから。
「一一正気じゃないなんて、分かってますよ、今更じゃないですか、お互いに」
その瞳は変わらないまま、今度はそう言うと俺に向かって微笑んで来やがる。
本当に、分からない、
花飾り、お前が、そこまで俺を受け入れてくれようとするのは、一体どうしてなんだ?
何が、そんなにお前を笑顔のままでいさせてくれるんだ?
必死に問おうとしたが、その前に、つまりは口に言葉を出す前に、花飾りは俺の質問に答えてくれた。
- 732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:07:42.31 ID:JeH+AFgK0
「これだけ言っても、分からないんですか?」
答え合わせの前に、花飾りは俺に最後の布石を置いた。
答案用紙に、本当に答えを書き込む余地は一つも残ってはいないのか、と。
なんたって俺の答えは白紙なんだ。仕方が無い。
黙ったまんまの俺を見て、花飾りはとうとう答えを口に出す。
「私にとって、垣根さん。
あなたは、特別な存在になりつつあるんです。なんて言ったって、出会いがそれは強烈すぎましたから」
時折陽気な笑い声を混ぜながら、花飾りは続けていくが、注意して見てみれば、言葉を発している口はおろか、足までもがどこか震えているような出で立ちが伺えてしまう。
それでもしっかり俺に伝えようとしてくれるお前のその堅い意思が、やっぱり俺には理解ができない…。
- 733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:08:13.70 ID:JeH+AFgK0
「わ、私は……」
何か、天地がひっくり返りでもしそうな一言を言うつもりなのか、
俺が今まで聞いた限りで一番、花飾りの声が震えていた。こればかりは気のせいなんかじゃなく。
「あなたに…垣根帝督という男性に、日に日に惹かれているんですよ……?」
………意味が、分からなかった。花飾りの言っている、言葉の意味が。
この感覚は、決して初めてではなかったが、これは紛れもなく、今までで一番、俺の頭では到底理解に追いつけないような言葉。
唯一、俺の頭でも理解できる事っつったら、
本当に、花飾りのヤツは今にでも天地がひっくり返りそうな言葉を、俺に向けて放った事くらい。
- 734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:08:53.47 ID:JeH+AFgK0
「………は…?」
解せないだけでは俺は足りず、やはり聞き返してしまう。これもまた府抜けた声ではあるが。
花飾りも、一時は消えかかった涙がもう一度浮かんで来て、弱い声で、しかし根強く続けて行く。
「な、んでかなんて、どうしてかなんて、分かり、ませんよ……。
私にだって…。確、かに、出会いは最悪でした…」
そうだ。俺とお前の出会いは最悪の部類に余裕で置けるモノだ。
私的な理由で、お姫様の肩を脱臼させる騎士なんて、この世に存在する物語をありったけ探しても見つからないに違いない。
とても、これから先運命の赤い糸が繋がるような伏線が含まれたような出会いじゃ、なかったハズだ。
- 735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:09:24.17 ID:JeH+AFgK0
「二度目に顔を合わせた時は、あなたは私を助けてくれました。
どうしようもなく風紀委員としての威厳を守れなかった私と、被害者の方を。
それでも、助けられたと頭では分かっていても、私は怯えてしまったんです」
俺も、花飾りの言葉につられて、10月9日以降の、俺を根こそぎ変えていった日々を次々に思い出して行く。
そうだ、俺はお前ともう一人の被害者を"事実上"助けた。
あれは、どうしようもなくイラついてたから行えた行動だった覚えもある。
お前は俺に怯えた?当然だろ。
命すら窮地に送った人間と、なんの偶然かバッタリ遭遇してしまいました、なんて、悪い冗談にも程がある。
そこで思いっきり叫び声でも上げて、即座に俺の存在を否定してくれれば良かったのに。
- 736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:09:53.63 ID:JeH+AFgK0
「三度目は、驚きましたよ。
まさか、風紀委員の支部で再開する事になるなんて、そんな事思う余地一つもありませんでしたもん。
それに、垣根さん程風紀委員が似合わない人も、なかなかいませんし」
震えている声は、結局震えたままで、そこからでも花飾りは普段の女子中学生らしい陽気に満ちた声で語っている。
そして、
この先はもう、そんな陽気さは一つも見えず、ただ真剣に、ただ確実に、俺に伝えるために、震えている口を動かしていく。
「それから先、まだ一ヶ月にもならないのに、本当に色々な事がありました。
確かに怖い思いも、何回か体験しました。
それでも、それでもなんです」
- 737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:10:38.28 ID:JeH+AFgK0
「変な感性を持ってる事なんて、分かってます。
でも、本能なんですよ、仕方が無いじゃないですか。
それに、私たちはまだこれからロシアに行かなきゃいけないんですよ?」
……………。
「いさせて、くれませんか?側に、垣根さんの隣に。
どんな窮地が待ってたって、私は気にしません。
そして、願わくば私を護ってください」
花飾りはそう言うと、ゆっくり、ゆっくりと、俺に微笑んでみせた。
綺麗で、本当に歪みのない笑み。
でも、何でだろうな。この笑顔は、アイツに重ねようとしなかったんだ。この笑みは、"花飾りの笑みとして"、見れた気がするんだ。
「垣根、さん……私は一一一んっ!!?」
- 738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:11:05.66 ID:JeH+AFgK0
まだ、口から言葉を放とうとする花飾りを、花飾りの口を。
何でなんだろうな、俺は。
自分の唇を、花飾りのソレに覆い被させる形で、防いでいた。
- 739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:11:39.75 ID:JeH+AFgK0
何秒間か、数えてる余裕もある訳はない、数秒間だ、数秒間。
数秒間そのままの形を保っていた一一一つまりは、口づけをしたままの俺と花飾りは、ゆっくりと、ゆっくりとお互いの唇を、お互いの唇から離していく。
「か、かき、ね、さん」
後先の事なんて一切頭に入れないでこんなあり得ない行動に至ってた訳だから、花飾りがこんなに顔を真っ赤っかにして、俺から視線を移せないでいる状況になっちまったのもまぁ仕方がない。
「仕方が、ないだろ。本能なんだから」
やっぱり、似合わない真似事をすると、その後に取る行動も、とことん似合わない形になっちまう。
今更理由なんて考えた所で、明確な答えが見つかる訳もねぇだろうが。
- 740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:12:19.12 ID:JeH+AFgK0
「あ、あ、あの……」
花飾りが、ぱくぱくと口を開けたり閉じたりしながらも、なんとか人間の言葉にして、俺の似合わない戯言に対してか、なにかを言うべくの布石を置く。
「キ、キキキ、キス、の味、血の、血の味が、しま、した」
……そりゃそうだろうさ、俺は意識が力の支配によりぶっ飛んでたんだ。それは人間を捨てた獣って言っても間違いじゃねぇんだ。
無様な獣が力のままに暴れ回っちゃ、そりゃあ口の中にも血ぐらいは広がるだろうさ。
「さ、さ、最悪、でした。ふ、ファースト、キス、だったのに……」
- 741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:12:58.96 ID:JeH+AFgK0
「………そうかよ」
……やめてくれ、これ以上俺を変な羞恥心が渦巻く意識の中に放り込まないでくれ。
元はと言えば俺の摩訶不思議な行動が原因だが、ともかくこれは羞恥心のドン底に突き落とされちまう。
「だ、だだ、だから……」
そんなの、花飾りも一緒だろうに、いや、俺なんかよりずっと純情なヤツなんだろうから、俺なんかよりずっと羞恥心に追いやられてるんだろうに、花飾りは絶えず言葉を発する事をやめない。
「も、もう一回………お願い、します………」
- 742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:13:29.32 ID:JeH+AFgK0
………だから、これ以上の羞恥心に俺を誘い込むのはやめろっつってんのによ……。
「…んな事言ったら、次は血の味だけじゃ済まねぇかもしんねぇぞ」
とことん似合わない脅し(になってるかも曖昧な)を花飾りにかまし、花飾りの行動を伺う。
花飾りの口元は緩み、瞳にも、涙混じりではあるが強い光が灯ったまま、つまりは、いい表情で、静かに頷いた。
これ以上にない羞恥心に追いやられてはいるものの、同時に、俺は悪い気分も何一つ持ち合わせちゃいなかった。
右手を真っ赤な花飾りの頬に添えて、顔の焦点を合わせるために小さくしゃがむ。
そして、瞳を瞑った花飾りの唇に、もう一度。
触れるだけの、優しいキス。
- 743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:14:00.66 ID:JeH+AFgK0
さっきより、一度目のキスよりは長い時間、まぁ数秒間と言うのに変わりはないが、二度目のキスは終わりを告げ、俺と花飾りは触れていたお互いの唇を離し、瞳を開けていく。
花飾りの表情を伺ってみると、涙が溜まっていた瞳はどこかうっとりとしていて、直視されてる俺は色気すら受け取れてしまう。
……オイオイ、女子中学生、しかも一年生だろ?それなりな年の差があるお前に色気を感じてる俺は、もうマジで末期としか思えないぞ。
…そんなの、キスなんてあり得ない行動を取ってる時点で、今更だろ、の一言で片付けられても仕方がないと言えば仕方がないのだが。
とにかく今の俺の感覚の全てが信用ならねぇ。
冷静さを極力取り戻す事に努力をしていると、俺は一つこの雰囲気に対して違和感を覚えた。
詳しく言っちまえば、花飾り以外の視線を感じる。
- 744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:14:32.01 ID:JeH+AFgK0
花飾りは当然こんな状態だ。
違和感どころかここがどこなのかすらもあやふやになってるだろう。
まぁ俺だって大した集中力も冷静さも保っちゃいない訳だが、ここは注意深く俺が感じ取った違和感に意識を張り巡らす必要がある。
二枚の翼に支配された俺が片付けたという現実が一番望ましい現実なんだが、肝心の意識がねぇんだ。
経緯の確認すら、しようもない。
だからこそ、あのクソ野郎がこの違和感の原因だって可能性も十二分に考えられるんだ。
………だが、注意深く意識していけば意識していく程に、この違和感は散々に俺が体験してきた、この肌に感じ取ってきた違和感とは随分とかけ離れているモノの気がしてならねぇ。
なにか、生ぬるい視線で見られているかのような……。
- 745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/08(水) 23:15:07.88 ID:JeH+AFgK0
「オ、オイ」
生ぬるい視線なんじゃないかと意識し始めたここで、俺はようやく違和感の正体に気がついた。
思わず言葉にしてしまった俺に花飾りは気がついて、俺が呆然と視線を送っているその先に花飾りもぎこちなく視線を向ける。
違和感の正体?簡単な話だったよ。
俺と花飾りの視線の先には、ああ、うつ伏せな状態になっててもな、オマエ、その何の原理でかも意味不明にピョコピョコと動いているアホ毛のおかげで、意識が戻ってる事なんざ、分かっちまうんだよ。
「い、いつから気が付いていやがった……クソガキ…」
- 746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:15:56.05 ID:JeH+AFgK0
恐る恐る尋ねる俺、そして、俺の質問の意味を一秒近く使ってようやく理解し、理解した途端にまぁそりゃ凄い勢いでアタフタとしやがった。
オイオイ、色気が溜まった瞳が台無しじゃねぇかよ……ってそうじゃねぇから。
「ア、ア、アア、アホ毛ちゃんっ!?お、おおお起きてたんですか!?」
花飾りの最短距離に位置する俺の耳にすっげぇ響く、花飾りの言葉は、言わずとも分かるだろうが、焦りと困惑しか乗っていない。
花飾りの言葉の直後、とうとうクソガキは意識不明の真似事をやめてガバッ、と勢いよく顔を上げた。
……何でテメェの顔までが赤く染まってやがる。
- 747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:16:32.61 ID:JeH+AFgK0
一見して分かる、あの顔は急な熱かなんかに見舞われて真っ赤っかに染まったような顔じゃねぇ。
あれ、花飾りとかなり似た雰囲気なんだから熱かなんかが原因だと推測するには無理があるだろ。
「……で、いつから目ぇ覚ましてやがったんだ?クソガキ……」
「え、ええ、えーと……お姉ちゃんがカキネをだ、抱きしめ、た、所くらい、ってミサカはミサカはあそこから始まった壮大なラブらロマンスを思い出して…ふにゃー」
……つまりは、俺が二枚の翼を無意識的に引っ込めた所から全部…って事になるのか…。
……クソッタレ、やっぱり似合わねぇ真似事なんて、まともな出来事の一つも起きやしねぇ。
- 748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/08(水) 23:17:05.24 ID:JeH+AFgK0
……それからと言うものは、打ち止めがあの劇事みたいな一連の流れを見ている事を知っちまった花飾りは瞬時に意識をふらつかせ、俺はその花飾りの意識を確実に戻す事と、何故か漏電してる打ち止めに喝をいれる事に追いやられた。
何だってこんな事になったんだか……、今更ながら俺は久しぶりに自分に対してクソッタレた。
……まぁ、悪い気に一切ならない所を見ると、俺は本当に変な方向に変わっちまってるみたいなんだよな……。
……それにしても、随分と前に打ち止めについたあの嘘。
ほら、アレだよ、花飾りと俺は恋人だっつーアレだ。
今になってもアレが嘘っぱちだっていう事実は打ち止めに言ってなかった気がするんだが……、
これは、もう嘘っぱちだなんて今更言えなく、と言うよか、言う必要もなくなっちまったのかな……?
- 773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/15(水) 21:40:35.28 ID:+QvMHsCs0
行間 六 一10月23日。
- 774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:41:15.42 ID:+QvMHsCs0
「ふぅ……やれやれですね、なんなんですかあの翼は…。
本当に死んじゃうかと思ったじゃないですか」
かなり大規模な事故(?)に見舞われた遊園地が存在する第六学区とはそれなりに離れた、しかし学区の区分間隔としては隣接しているため近いと判断できるここは、第十九学区の一角。
第十九学区とは『寂れた学区』とも言われている学区であり、かつて存在した数多くの研究機関の傷跡がみて取れる。
そんな、今や誰も使用していないような学区で一人呟いたのは、被っていた大きめの黒いフードを取った海原光貴だった。
- 775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:41:43.63 ID:+QvMHsCs0
「やはりこの仕事はかなり危険な仕事でしたね……受けておいて言う事もないんでしょうが……」
どこか愚痴を零しているかのように呟いた海原の表情には幾つか常人には見られない表情が、一番注目するならば瞳だろうか。
その瞳は何故か赤く光っており、人間の一番ソレらしい、言ってしまえば目玉が見受けられない節があった。
皮膚も注意して見てみれば可笑しな点があった。
海原光貴という人間を知る全ての人が、この人は海原光貴であると確証するには、まだ足りない部分があり、海原本人に瓜二つな皮膚に混じって違う皮膚が多々見える。
何を言おうが、今この第十九学区の寂れた地平に二本の足で立っているこの男は、海原光貴ではない赤の他人なのだから仕方がない。
- 776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:42:20.28 ID:+QvMHsCs0
瞳は真っ赤なソレからちゃんとした人間のモノへと変化し、皮膚も、この男の事情を知らぬ者から見れば完璧的に海原の皮膚へと変化していた。
「さて、化粧も終わった事ですし結果報告でもしますかね」
海原は言葉の後に纏っていた黒服を脱ぎ捨て、その下から見えるスーツのポケットから携帯電話を取り出して通話機能の画面へと移らせる。
電話が繋がるまで多少の時間が空いたために、海原が一旦通話を切って後に報告をしようとした直後にその通話は繋がった。
「ああ、土御門さんですか?自分です。海原です」
『海原か、こうして俺に電話できてるって事はなんとか死なずにいられているって思っていいんだな?』
- 777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:42:51.72 ID:+QvMHsCs0
海原が土御門と呼んだ電話の相手は冗談を飛ばす雰囲気で、しかし言葉の一つ一つに重たい何かを乗せながら海原に返答した。
「いやいや、今回の仕事に至っては全然冗談に聞こえませんよ、何て仕事まわしてくれたんですか」
『ならコッチからも言わせてもらうが、この俺が頼んだ仕事を簡単に信用するのもどうかと思うぞ?
何つったって俺は嘘つきだからにゃー』
こんな可笑しなやりとりをしているこの二人は、学園都市の"裏"の顔を担う、"裏"の道で暗躍するとある組織の構成員である。
海原が土御門の言葉に何かしらの返答をしようとした瞬間に、土御門の重い声がいきなり本題へと連れていく。
- 778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:43:24.42 ID:+QvMHsCs0
『……それで?どうだったんだ仕事の方は』
その仕事とやらの報告のためにわざわざ電話をしたのは確かに海原だが、軽い冗談も混ぜられた事も反映していきなり本題に入られると海原も思わず硬調してしまう。
「…まぁ、頼まれた一連の流れはなんとかやってみせましたね。
現段階では成功と言えるんじゃないでしょうか?
後はこれから先の話でしょう。
第三次世界大戦は既に始まってるんですから」
『…アレイスターの野郎、散々に執着しておいた一方通行は放っておいて今度は垣根帝督ときた……。アイツの『プラン』は本当に正常に稼働しているのか……?』
「あのー、聞いてます?土御門さん、これでも命を掛けた仕事の報告なんですけど」
海原の報告については全く触れる事なく、土御門はただブツブツと独り言を呟いていただけだったため、なんとか話の軌道を元に戻すために海原は適当に毒づいた。
- 779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:44:02.76 ID:+QvMHsCs0
『あ、ああ、悪かったな。成功、って事は初春飾利も上手く関与できたって受け取っても大丈夫だな?』
「ええ、そう受け取ってもらって構いません。後、垣根帝督の用心深さも処理済みです。
垣根帝督が自身を襲撃してきたと思い込んでる男の、本物の方の死体を第六学区付近に置いてきましたので」
『……フン、もう五年近く前の死体を、わざわざこの可能性のためだけに綺麗に保管しといたって訳か。相変わらずアレイスターの思考には反吐がでる』
電話越しに土御門はまたもや学園都市の統括理事長である存在に毒を吐き、そして海原も報告を続けていく。
「まぁ、結果オーライと言った所じゃないですか?ともかく自分の仕事はもう終わったと思っていいんでしょうかね?
釘を刺せば、垣根帝督と初春さん、それはお熱いキスをしてましたね」
土御門自身はもう結果報告としては十分だと言おうとした所だったが、予想外の報告(?)に思わず調子が狂いそうになってしまっていた。
『な、成る程にゃー、分かった、お前の仕事はここで十分だ。ご苦労だった』
なんとか調子を戻し、土御門は海原との通話を切る。
その後に、第何学区かすらも分からない薄暗いアジトの中で、土御門は静かに呟いた。
「護る対象を"再び"見つけた、か、結構な事だが垣根帝督、学園都市の闇は、よりしつこくお前を追いかけ回すぞ?」
- 780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/15(水) 21:44:37.69 ID:+QvMHsCs0
第十五章 10月28日。
- 781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:46:17.06 ID:+QvMHsCs0
俺らが遊園地に行ってから、かれこれ5日が経った。今は28日になったばかりの深夜だ。
あの日の後日談と言えばいいのか、なんとかひたすら止まない打ち止めのハイテンションと、ひたすらあぅあぅとしてる花飾りを黙らせた俺は、酷い有様となった遊園地に群がってなのか、どこから湧いたかも知らない野次馬共を見つけた。
確かに最初は一見してみればテロにでも見舞われたかのようになった遊園地の被害を見にきたのかと思ったが、それは多少俺の見当違いだった。
まぁ、完全に間違ってるとも言い難いんだがな。
念のために意識を張り巡らせ、打ち止めと花飾りを置いて軽く様子を伺いに行ってみりゃあ、野次馬共が群がってる先にはあのクソ野郎の死体が転がってやがったんだ。
……後の事は特に語る必要もない。
意識を奪われたままに暴れた結果が、クソ野郎を殺したってだけなんだから。
花飾りのヤツとも妙な関係が続いてる。
お互い変に気を遣ったり遣わなかったりで、正直疲れて仕方がない。
……それに、今はもうとてもじゃないがそれどころじゃねぇんだ。
何故かって?…そうだな。
また現れたんだよ、どうしようもない怪物が、確かに今俺の目の前に。
- 782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:46:49.90 ID:+QvMHsCs0
「…オイオイ、エイワスサマが雑魚キャラにしかなり得ないこの俺に何の用だ……?」
そうだ、今、俺の目の前にいるのはコードネーム『ドラゴン』、一番ソレらしいと自称する名はエイワス、
そのどうしようもなく完全で、どうしようもなく不完全な存在が、俺の目の前にいるんだよ。
「そう身構える事はない、ただ興味が湧いたからここにこうして現出した、それだけの話だよ」
怪物は、人間のソレにしか見えない口から、人間の発する言葉、言語を言及するなら日本語を確かに発した。
「身構えんなだぁ……?いくらなんでも無理な提案だな、確かに俺がいくら威勢張った所でテメェみてぇなバケモンに太刀打ちできる訳もねぇが、生憎コッチに も保護しなきゃなんねぇガキ共がいるんでな、アイツらが寝てる深夜だからって、静かに事を済ませられる自信もねぇんだよ」
「やれやれ、初春飾利との距離は確実に縮まっても、血の気の多さはやはりどうにもならん、か。
なに、私もただ暴れに来たんじゃない。ただの報告だよ、報告」
俺という弱者を見下ろしながら、クスクスと笑いながらそう言ったエイワス。
…嫌な予感しかしないのは、俺の気のせいだって事に期待するしかなかった。
「打ち止めの『崩壊』、もう始まってるんじゃないか?」
- 783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:47:44.41 ID:+QvMHsCs0
無表情のままに放たれたエイワスの言葉に、俺は身構える事なんて忘れて直様近くにあったドアノブを勢いよく開ける。
すやすやと眠る花飾りの手を握っていた打ち止めの様子が、確かに可笑しい。
小さな口から発せられる息は荒く、季節的にも涼やかな夜なのに、そんな情景を全て否定したかのように、変な汗も大量に吹き出ていた。額付近だけでは留まらず、首元までにも。
「これは私の見解だが、このタイミングは寧ろ遅かった方だぞ?アレイスターのプランでも確かに今日というのは遅すぎる。やはり君が9日に惨殺されなかったという異常は数多くの出来事に影響しているらしい」
打ち止めの状態を確認する俺の耳に届いたエイワスの声色には、やはり何の感情も宿っちゃいなかった。
エイワスは立っている場所を一歩も動かずに、ただ無感情の言葉だけはしっかりと俺の耳に響くように。
「そして、このタイミングは君たちにとっても悪いタイミングじゃないんだぞ?
今こうして苦しむ彼女を一番救いたいと願う一方通行も、そろそろ五体満足となり目を覚ます頃合いだろう。
君の計算した日にちが上手く機能し、アレイスターが念入りに計算しつくした日にちが上手く機能してないなんて、実に滑稽な話だがね」
- 784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:48:26.86 ID:+QvMHsCs0
エイワスの野郎は、ペラペラと神にでもなったかのように告げていく所も、相変わらずらしい。
「……そうかよ、細やかな現状報告をドウモアリガトウ、とでも言えば俺は正解か?あ?
言う事終わったんならとっとと消えてくれ、テメェの考えてる通り俺はこっから先が忙しいんだ」
意味も分からず勝手にイラついて、意味もなく嫌な視線をエイワスにぶつけ、エイワスの反応を待つ。
「いやいや、私にも何か君と一方通行の手伝いとやらをさせてもらおうと思っててね、いやはや、一番心配に思っていた彼のチョーカーだが、ロシアで十分に活 動できるだけの量を用意してるとはやはりあの医者は優秀とみても良いのかもしれないな。あくまでも人間を対象にした場合だが、
この場合の私の手伝いと言えば、ふむ、そうだな、やはり移動手段を確立させてやる事か」
手助けだと?
花飾りまで戦火が広がる異国にぶち込まれなきゃなんねぇ様にかき回しといて、なにが手助けだ?心底イラつく。
「ふざけてんのかテメェは、誰がわざわざテメェみてぇな人外のヤロウの手なんざ仮りるかよ」
「おや、いいのかな?私やアレイスターが目算した日に着くようにはなるが、腕は確かなパイロットを用意しといたんだぞ?これはアレイスターに黙って行った 私の勝手な行動だ。まぁ、アレイスターもどうせ気がついてるだろうが、それでも今私がこうして君の前にいられる所を見ると、ヤツもそれどころじゃないらし い」
「ふざけんなっつってんだッ!テメェみてぇなヤツの手助けを受けるなんざ、天地がひっくり返るほどの理由がなきゃ到底叶わねえんだよ!」
花飾りも眠ってる部屋だってのに、俺は思わず叫んでしまう。
幸い、花飾りは寝返りをうつだけで眠り自体は冷めていないらしい。
「そうか、天地がひっくり返るほどの理由…か、……ククク」
俺の叫びになんて当然動じる事もなく、無表情から繰り出される怪物の笑みはそれはそれは不気味で、どこか自信に満ち溢れているかのような雰囲気でさえ感じ取れてしまう。
- 785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:49:37.81 ID:+QvMHsCs0
「……何を笑ってやがる、気味が悪くて仕方がねぇ」
恐る恐る、エイワスの真意まで俺は近づいていく。
ただ単に気味悪く笑った訳じゃねぇのは分かってんだよ、なにか、俺を少しは動揺させられそうな何かを持ってるんだろうが。
例えばの話だが、それこそ、天地がひっくり返ってしまいそいな何かだったら一一一一。
「君が散々護りたいと願った彼女も、ロシアに向かってると言ったら、君はどうする?」
「一一一一一ッ!!」
……なんで、そこまでに俺を掻き回すんだ。
テメェみてぇな怪物が、どこまで俺なんて雑魚キャラを遊んで使えば気が済むんだ。
「君は彼女と一度再開する機会、いや、あれは実際にしたのか?
ともかくその機会を得たはずだが、あろう事か君はその機会を避けて通った。
どうする?今の彼女はどうしようもなくネジが飛んでいるぞ?散々に悪夢まで出てきたあの過去と決別するのであれば、今しかないんじゃないか?」
俺は、何も言い返す事が出来ない。
否定する事はおろか、拒む事さえ出来やしない。
「もう一度問うが、君はどうするんだ?私の手を借りて、腕のきくパイロットを連れてロシアへと向かえば彼女のいる場所へ、君だけを降ろしてやろう。君たちがロシアに到着する時間帯に彼女がいるであろう地点など、とうの昔に予想出来ている」
……俺は、深い深い思考の奥底へと沈んでいく。
もう、俺がとらなきゃなんねぇ行動なんて決定されてるってのに。
「……それだけか、テメェが言いたい事は」
「ああ、これだけさ。後は、君の答えを聞くだけ聞いて私は再び消えるとしよう」
俺の頭の中に浮かぶのは、かつて俺に放っていたアイツの笑顔。
深く、深く入り浸って、思い出し、
そして、俺は、
「……教えろ、俺たちは、どこへ行けばいい?第二十三学区の、どこへ行けばいい?」
堕ちに行く、散々に悪夢まで見た、あの過去を見つめるために。
- 786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:50:08.13 ID:+QvMHsCs0
現在時刻、02:25。
「アホ毛ちゃん……しっかりッ!」
俺と花飾り、そして意識すらも明確かどうか怪しくなってきた打ち止めの三人は、とある場所へと向かっていた。
第七学区の、とある病院の、とある一室。
「……よう、目覚めはどうだ?第一位」
「……随分と長い時間眠ってた気がするンだが、そっから覚めて一番目にしたのがテメェのアホ面か………最悪だ」
赤い瞳に、真っ白な頭髪、真っ白な肌。
俺に何度も絶対的な壁を感じさせ、俺に何度も殺意を湧き上がらせた学園都市の第一位、一方通行が目を覚ます。
「君から電話がかかってきた時は何事かと思ったが、案外いいタイミングだったね?言われた通り、彼にはあらかたの説明を済ませておいたよ?」
病室の傍らで俺に声をかけたのは、カエル顔の医者だった。
「……さて、状況が掴めてんなら話も早い。さっさと行くぞ、『外』にな」
俺は、窓を開けていく。
どこまでも不愉快に、怪物共の手のひらで弄ばれてきた俺が、その手のひらを最大限に利用して。
第一位も、取る行動なんて既に決定されていた。
花飾りの細い腕に抱きしめられていた打ち止めの表情を見るなり、第一位の奥歯からギリギリといった音すら聞こえてくる。
意は決している。
行かなきゃならねぇ場所を、目的地を、ゆっくりと、声にまではしなかったものの、確かに、口パクで、
ロシアへ。と、
- 787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/15(水) 21:50:43.32 ID:+QvMHsCs0
第十六章 10月30日。
- 788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:51:30.45 ID:+QvMHsCs0
一一一一一一一一一一一一
一一一一一一一一一
一一一一一一
ここまで、来るとは思いもしなかった。
本当に、色々な事があったもんだ。
ジジィみたく、何かを悟ってる俺は、飛行機の中に居た。
詳しく言うならば、もう既にロシアの上空か。
「一方通行様に打ち止め様、そろそろ、あなたがたが降りてもらう時間になりますが」
飄々と言葉を口にしたのは、エイワスの言う所の腕のきくパイロットだったか。
「…あァ」
一方通行には第二十三学区に向かう前にエイワスが俺の元に現出したことと、その経緯を説明しといた。
が、
「……え?か、垣根さんは離陸しないん、ですか?」
慎重深い声でパイロットにそう尋ねた花飾りには、まだ何も説明してなかったんだっけか……。
どうしたものかと頭を軽く掻いた所で、一方通行が目を瞑りやがった。
…何でテメェに気を遣われなきゃなんねぇんだ。
「……花飾り、いいか、こっから先は、お前の選択だ。だから、これから言う事、よく聞いておいてくれ」
事の説明を、しなければならない。
エイワスの興味なんてくだらないもののためだけにロシアという戦火に巻き込まれた俺が、唯一無二の"理由"を見つけた事を。
その理由はどうしようもなく身勝手で、お前と重ねちまってたヤツと、願わくば話し合いでケリをつけるつもりだってことを。
- 789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:52:05.39 ID:+QvMHsCs0
花飾りは、黙って聞いていた。
ムカつくが、第一位も目を瞑ったまま、弱りきってしまった打ち止めの小さな手を強く握っているだけだった。
「………これで、全部だ。
俺は、ロシアでやんなきゃなんねぇ事が出来た。遊園地のあの日、黒服のクソ野郎がペラペラと言ってたのを覚えてるだろ?
あの過去を、もう一度、真っ正面から見つめ直したいから」
俺も、真っ直ぐに花飾りを見て、真っ直ぐに全てを伝えた。
「お前は、どうする?
打ち止めのヤツのために、一般人のお前が戦火の真っ只中であるロシアまで来たってだけでも大層な話だが、こっから先、打ち止めの側にいてやりたいってんなら俺はいねぇ。打ち止めを救ってやりたいって気持ちは高く買うが、お前が出来る事なんて、ないに等しいのも事実だ。
だから、真剣に問うんだ、こっから先、お前はどうする?どうしたい?」
真っ直ぐ、俺は質問した。
第一、何の考える時間も持たずにロシアへ行くと決心したコイツの意思は相当なモノだ。
それを侮辱するつもりは毛頭ないが、正直俺は一方通行と一緒に行動される事を拒んでいるのかもしれない。
何より、コイツには死んでもらいたくないんだ。
真っ直ぐ問うとか言っといて、回りくどい事を言ってるのは承知してるが、命に関わるかもしれないんだ。回りくどくもなる。
「……垣根さんは、ロシアでやらなきゃいけない事を、見つけたんですね?確かに」
黙って聞き通し続けた花飾りの、俺に対する確認作業。
「ああ、それだけは、こうやって断言できる」
俺は答え、今度の花飾りは黙って聞いただけではなく、用意していたかのような答えを、数秒の相田打ち止めの方向に目をやってから答えを出す。
「私も……垣根さんとご一緒させてもらっても、構いませんか?」
- 790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:52:54.77 ID:+QvMHsCs0
花飾りが出した答えは、俺の予想とは真逆の答えで、
思わず動揺を隠せない俺は、思わず花飾りに聞き返してしまう。
本当にそのつもりなのか、という確認も兼ねて。
「お前…いいんかよ。あんだけ打ち止めの事心配してたのに、こんなあっさり俺と一緒に行くなんて」
多少カンに触るような言い方になっているのは、これも俺の意図的なモノ。
そうでもして聞き出さないと、下手にはぐらかれそうな気がしてならないから。
「…分かってます、垣根さんの言いたい事は。でも、こんなに苦しんでるアホ毛ちゃんを前に、ただこうやって見てる事しか出来ない現実を見ると、どうしてもこれから先、私が何をしてあげられるのかな、って…」
俺の耳に届いた花飾りの返答は、繰り出された言葉に適合するように、震え、時折涙声にすら聞こえてしまう。
「…だからって、何で俺についてくるなんて答えに結びつく。
お前が、打ち止めのヤツから逃げて、なんて真似、一番似合わねぇだろうが…」
それでも俺は、追い打ち的な言葉を次々に発していく。
それでも花飾りは、ことごとく、俺の予想とは真逆の言葉を発していく。
「逃げてる事だって、分かってます。
でも、私は、垣根さんについて行きたいのを、逃げ道だなんてこれっぽっちも思ってません」
「……どういう意味だ」
なるべく動じないよう努力しながら、俺は問いかける。
コイツは、俺の知る限り、誰よりも自分に正直なバカだ。
逃げ道じゃないってんなら、ちゃんとした理由が、あるってんだろ?
そんな、理由一一一一。
- 791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:53:31.87 ID:+QvMHsCs0
「不安で、仕方がないんです。
今の垣根さんの表情、確かに目的を見つけた、綺麗な表情ですけど、逆を言えば、その目的のためなら、まるで命も惜しまないみたいな……」
……やっぱり、俺はコイツに敵いっこないのかもしれない。
どこまでも、俺より俺の心を読み取りやがって。
一時、俺には読心系の才能もあるんじゃないかと思った事もあったもんだが、やっぱりそんな才能は皆無だよ。
「私は、死ににいくような垣根さんは絶対に止めます。止められる自信だってあります。
だって、これはアホ毛ちゃんみたいな病気じゃないんですもん。
絶対に不可能なんかじゃ、ないから」
ひたすら黙っている第一位が握っていた打ち止めの小さな手を、花飾りもしっかり握る。
やっぱり、その握るその手も震えていて、やっぱりそれでも、俺に向ける眼差しだけは、いつもと変わらず強くて強くて仕方がなかった。
「第一の目標地点に到着致しました。
一方通行様、どうぞお降りに」
そして、上空を走っていた飛行機も静かに着地し、第一位の赤い瞳も、ゆっくりと開かれる。
「オイ、そこのガキ」
目を開いた、第一位の第一声は、当然ながら俺ではなく、はたまた打ち止めに対してでもなく、花飾りに向けられていた。
「このガキは、俺が必ず救う。
……色々と、ガキの事で世話になった。
テメェは、そこのどォ使用も無いクソッタレを支える事に集中してろ」
随分と、似合わねぇ真似じゃねぇかよコラ。
花飾りは頷き、第一位と、第一位に抱えられた打ち止めは飛行機を降りていく。
こっから先は、既に次の、俺の目的地へと向かった飛行機の中に居る俺と花飾りは知る事の無い物語。
さっそくとも言うべきか、ロシアの地に立った第一位たちを待ち構えていたのは、大量の銃器。
「……ゴミクズが。俺の癇に障ってンじゃねェよ」
- 792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:54:05.22 ID:+QvMHsCs0
「…………」
無言が続く、ロシア上空を行く飛行機内。
俺は目を瞑り、過去と向き合うその覚悟を、再度確認している。
静かというよりかは、意図的な沈黙と言ってもいいこの雰囲気で最初に口を開いたのは、パイロットだった。
「…目標発見、標的である超音速爆撃機 HsB-02の足を潰し次第離陸するので、垣根帝督様に初春飾利様、それぞれご準備を」
「…何?オイ、標的とか何とか言ってたが、テメェ今から何するつもり一一一」
意味も分からず、取り敢えずな感覚でパイロットに問いかけた瞬間に、この飛行機、いや、これは軍用のモノなんだろう。
どこからかは知らんが、ミサイル式の攻撃網が、物凄い速さで通り過ぎた何かを襲いかかった。
「…ッ、か、垣根さん…?」
慣れない音、慣れないこの殺伐とした雰囲気に、花飾りは俺の名前を呼ぶ。
俺は何かしらの声をかけようとしたものの、パイロットの声によりそれは叶わなくなる。
「標的の足を潰しました。
再起不能となった標的の近くで離陸する形となります。
ものの数秒なので、心の準備を宜しくお願いします」
ここで、俺はようやく理解した。
パイロットが言う、標的。
そこに居るヤツこそが、これから、俺が向きあわなきゃなんなねぇ、
散々に、散々に思い出に刻み込まれた、"アイツ"なんだって事を。
- 793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/15(水) 21:54:34.70 ID:+QvMHsCs0
俺は、ただ前だけを見て、雪の積もるロシアの地に、一歩ずつ踏み込んで行く。
「ま、待ってくださいよ垣根さん」
完全に自分のペースで歩く俺になんとかついてくる形で俺の後ろを歩く花飾りだが、今は花飾りの声でさえもまともに聞こえている気がしない。
「花飾り」
コートを着ていても寒そうについてくる花飾りを、呼び止める。
「な、何ですか?」
「気をつけろよ、今の今までで一番、お前は危険な場面にいるんだからな」
俺の、慎重さと冷静さを"装った"言葉に、その意味に、花飾りの表情は一気に切り替わっていく。
花飾りが願わずして遭遇してきた、数々の危険。
どうしようもなく狂った、どうしようもなくその名の威厳を保ったクソッタレな科学者。
どうしようもなく嫌になった、その体感をもう一度味合わせようとした、クソッタレなクソ野郎。
でもな、
そんな奴らよりも、俺はお前の事の方が、よっぽど恐くて、よっぽど危険なんだと思うんだ。
「なぁ、そうだろ?」
声を張って、俺は問いかける。
相手は"アイツ"、
本当に、何度も願った。でも、叶わなかった。
だから、俺は避けてきた。お前と向き合う機会なんて、何回も何回もあったのに、その機会を、わざわざ避けて生きてきた。
でもな、今この時は、絶対に逃げないで、
お前と向き合うって、決めたんだよ。
- 794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:55:06.68 ID:+QvMHsCs0
「……あ~あ」
声が、聞こえる。女の声だ。
俺が何度も何度も聞きたかった声色とは、まるで違う声色。
「私はあのクソ野郎を一秒も早く殺してやりたいってのに、急に移動中を攻撃されたと思ったら、なんだぁ?コレは?」
コイツの声色が、全てを証明していた。
どこまでも広く、どこまでも深く、続きに続く闇。
俺が護りきれなかったがために生まれてしまったその闇は、酷くドロドロと伝わってきて、俺は拳を握りしめ、花飾りは震えてさえいる。
「ソレを教えに来たのか?あ?テメェはよぉ……」
ゆっくり、本当にゆっくりと、アイツは言葉の後に姿を現していく。
アイツの右目は、くっぽりと空いていて、純白の光が俺たちを覗いていた。
アイツの左手は、無残に千切れていて、そこから飛び出す青白い閃光のアームが、今にも俺たちを襲いそうだった。
「…どうなんだよ、あァ!?垣根、帝督ぅぅぅゥゥゥゥウウウウウウウ!!!」
護りきれなかった、その過去の悔いを、一気に味合わせるような、アイツの叫び。
- 795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:55:56.42 ID:+QvMHsCs0
アイツの叫びに、どんな感情が入り混じってたのかと聞かれれば、俺は絶対に答えないだろう。
答えたくもないし、それ以前に、答えられないとも思う。
そんな、俺はおろか花飾りの耳にまで強く響いたであろう叫びの後に、完全に俺を標的とした一閃の閃光が、アイツから放たれる。
俺は無言で、その閃光を弾き飛ばす。第二位が所有する、未元物質で。
「…よくもまぁ余裕かましてられるわねぇ、この私の前で!今更!何しに来たんだよクソッタレェェエエエ!!」
もはや、アイツは壊れていると言っても過言ではない状況に陥っていた。
さっきの言葉から考えるに、コイツがロシアまで足を運んでいるのは、殺したいと願うヤツがロシアにいるから、って所か。
?
ああ、本当にムカついてきた。
そのくっぽり空いちまった右目、ぷっつり千切れちまった左手、そしてなにより、どっぷりと、底の見えない闇に浸かっちまった、お前自身。
全部、全部、蒸し返していけば原因は俺にあると言っても可笑しくはないんだ。
何で、どうして、こんなにも身震いが起きる。
「なんか言えよ!テメェは何しに私の前に現れた!!?」
何で、どうして、俺はこんなにも絶えられずにいる?
今すぐにでも、お前を引っ張りあげてやりたい。
どんな方向に傾いてるのかは知らないが、俺は、この俺が、変わっているんだ。何かしら、確実に。
「答えろっつってんだよ!!帝督ゥゥゥゥウウウウウ!!」
- 796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:56:26.40 ID:+QvMHsCs0
だから、と言えた義理じゃないのは承知してるが、
お前も、変われるハズなんだ。いや、変われるとかじゃない。元に戻れるハズなんだ。
俺は、お前と向き合いに来た。それが、俺がわざわざロシアまで出向いた、俺自身の目的。
だが、その目的を、荒れ狂うコイツの質問の答えとして俺が答える事はない。
だからと言って、何も答えず、このままだんまりを続ける事もしない。
「……俺は」
殺意しか見て取れないアイツに、俺は答える。
これも、しっかりした理由、目的なんだ。
罪滅ぼしなんて気はない。これは、お前を手放しちまったあの日から、"理想"として思い続けた、あくまでも理想だったんだ。
でもな、今は理想だなんて思えないんだ。
理想を現実にするのは難しい、なんて、散々に言われてるだろうが、今しかないんだよ。
俺は……。
「俺は、お前を、救いに来た」
「……は?」
アイツの、府抜けた返し声。俺の言ってる意味が、全く理解できないと言いたげな。
……だったら、もう一度言ってやる。
息を吸い、怒号以外で滅多に発す事のない、大声。
「テメェを!救いに来たっつってんだよ!!沈利ィィィィィイイイイイイイイイ!!!」
- 797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:56:56.11 ID:+QvMHsCs0
叫びの後、俺はアイツに一撃を放つ。
未元物質を応用して構成した、結構な威力を持った一撃。
救うとか馬鹿げた事を言っておいて、ソイツに早速牙を向いている俺に、花飾りは驚愕の色を持った眼差しを俺に向けるが、俺は間違った事をしたなんて何も思っちゃいない。
話し合いで片付けられるなんて、最初から思ってねぇよ。
もちろん、俺の血と、コイツの返り血だけで片付けられるとも思っちゃいない。
だからと言って、コイツを救うために必要なモノに、"コレ"って言えるようなモノはないと思うんだ。
だから、俺は牙を向く。
これしか思いつかないと言わんばかりに、ただがむしゃらに。
「救う……だぁ?」
俺の一撃がアイツにあたる寸前に、アイツは言葉の後に俺の一撃を簡単に弾き、自分の心を、その全てを吐き出す。
「ふざけんなクソ野郎が!!!何で今になって来んだよ!もう遅いんだ!私は!もう!引き返せない所まで来ちまってんだよぉぉおおおお!!」
- 798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:57:42.71 ID:+QvMHsCs0
ここまでに、残酷で、不幸なヤツを、少なくともコイツ以外に俺は知らない。
最も、そのコイツを作り上げてしまった原因も俺と来ちゃぁ、反応の使用にも困るってモンだ。
だからこそ、だろ。
何度も救おうとした。
だけど、それはあくまでも"間接的"なモノでしかなかったんだよ。
どこまでコイツ自身に背を向けて、逃げたって、背いたって、
いくら学園都市統括理事長なんていう、この街の絶対的な位置にいるヤツと交渉しようと願ったって、望んだって、
結局、得られたモノなんて一つも有りはしなかった。
10月9日、俺が本来死ななきゃいけなかったこの日、確かにコイツと会う機会はあった。
いや、実際には会ったには会った事も確かだ。
『スクール』と『アイテム』、なんて言う、組織の頭同士という立ち位置で。
結局、俺は逃げた。
直接対面しても、後が続かない。
すぐさま顔を背け、本当にその場しのぎの攻撃だけして、そして、俺は第一位にやられた。
頭のどっかでは、分かってた気もするんだ。
もう、間接的なんて言ってられるのも、そろそろ潮時なんじゃねぇか、って。
だから、もう、迷わない。
ここで、お前の手を、全てを引きずり出してやる。
昔、お前が俺にしてみせたみたいに、
思い出させてやる。絶対に。
- 799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:58:10.30 ID:+QvMHsCs0
もう限界。
いまのアイツは、それをまさに体言していて、逆を言えば、それしか感じ取れなかった。
四方八方、比喩表現ではなく、本当にあらゆる方向に飛んでかかってくるアイツの能力。
勝機は、ある。これは絶対に言える事だ。
能力的な差、それが理由としては上げられるだろう。
コイツは学園都市の第四位で、俺は学園都市の第二位。
第二位と第四位なんて、たった二つばかりの序列だが、そのたった二つの序列は、絶対に対等に見られる事が不可能な超能力者と無能力者の間での大きな壁よりもでかい、絶対的優位な序列なんだ。
あとは、俺の気持ち、精神的な問題になる。
どこまでコイツの攻撃に対応し、反応し、コイツの手を掴めるかどうか。
俺は、そんな事をばっかり、そんな事しか、俺の、救う対象の事しか考えてなくて、
俺が連れて来た、俺の、護る対象の事なんて、全然頭に入っていなった。
- 800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:58:45.63 ID:+QvMHsCs0
俺に降りかかってくる原子の矢、常識的な人間だったらものの数秒でグロテスクな遺体が完成するくらいの攻撃な訳だが、常識的でない俺は何の事はなく次々に避けていく。
が、まぁ避けるにしても体制を崩さなきゃなんねぇってのは当たり前で、
そこで、俺は目に入る。
俺の避けた、デカイ原子の矢が、標的であるハズの俺に向けていた軌道をズラして、その変化した起動の先にいるのは、
「一一一一ッ!!」
そう。花飾りだ。
「クソ……がッ!」
俺は頭の中に広がる演算式を最大限に広げていく。
まだ間に合う、背中から六枚の翼を広げ、俺は全力で花飾りを襲う原子の矢まで向かう。
ああ、そうだ、これだけは言わせてくれ。俺には見えてるよ、悪いな。
オマエが花飾りに向けた矢は、この一つだけじゃないって。
そして、
「か、垣根…さん?」
あーあ、痛ぇなぁ。
「…どうした?俺の血なん、て……見慣れ、てんだろう、がよ…」
俺の体は崩れていく。
今までで一番、エイワスの一撃よりも響く痛みに、
今までで一番、後悔が残らない、可笑しな心境の中で。
- 801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 21:59:31.90 ID:+QvMHsCs0
「垣根…さん?か、垣根さん!!」
見えるよ、聞こえるよ。
俺を、闇の鎖に縛られていた俺を、散々に飾ってくれたお前の、涙に混じった声が。
「……は?は、ハハ。な、んだよソレ…何の、冗談だよ帝督ゥゥゥゥゥウウウウ!!」
見える、聞こえるよ。
オマエを、光が相応しかったオマエを、散々に沈ませちまったオマエの、困惑の声が。
…あーあ、痛ぇったらありゃしねぇ。
だってよ、脇腹あたりに穴が空いてるんだぜ?もう笑うしかねぇだろ。
状況的には、確かにエイワスと対峙したあの日の時の方が遥かに絶命的だった。
でも、今ほど、死と向き合ってる俺はいないんじゃないか?
「よう、怪我……ねぇか?"飾利"」
俺は、名前を呼ぶ。初めて。
「こ、こんな時に…なに、言ってるんですか……」
涙をぼろぼろ落として、声色も、表情も原型を留めていないお前に対して。
「よう、俺を、殺さ、ねぇのか?"沈利"」
俺は、名前を呼ぶ。久方ぶりに。
「…………」
ただ黙って、くっぽりと空いた右目から見える純白の光を、何の気なしにか揺らしてるオマエに対して。
- 802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:00:06.57 ID:+QvMHsCs0
そして、俺は、決して絶命する事はなかった。
「一一一一一一一一一一」
二枚の白い翼が、俺の背中から現出している。
途端に、傷口は癒え、加えてなのか頭の中も整理された気がする。
ぼんやりだった視界がハッキリとし始めて、摩天楼の如く広がる空から降り注ぐ純白の雪が、俺の額や頬につたるのが分かる。
「一一一よう」
俺は、笑顔でそう言ってみせた。
どんな感情を秘めてるのか、酷く泣きじゃくれた飾利に。
なにもかもが解せなくて、否定したそうで、もがきたそうな沈利に。
「…何なんだよ、何でテメェは、今更、私の所に……」
先に言葉にしたのは、沈利だった。
正直に言おうか。今のコイツは、俺からしたら見るに耐えない状態と心境にあるって事を。
殺意は、なかった。いや、呆れて殺意を忘れた。と言った方が良かったか。
表情も、感情も、どうしようも無いほどの闇に染まっているのは変わらない。
でも、その闇は、揺れていた。
- 803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:00:37.50 ID:+QvMHsCs0
あの頃の、優しかった本来の感情や表情に戻った。と言うわけではない。言うつもりもない。
簡単に言うと、俺という存在を、理解できていない。
頭が追いついていない。
大層訳の分からない俺の解釈だが、何の根拠もないくせに、どこか確証をもって言い張れるんだ。
お前を抱えきれなかった俺が、半ばやさぐれで闇の道に入り浸った事を、お前は知っている。
ソレを知っているお前は、余裕なツラしてお前の前にもう一度立っている俺が、まるで日の当たる道を自ら進んでいるような俺が、一つも理解できていないんだ。
無理もない。そんな俺自身だって、こんな事になるなんて思ってもいなかったんだから。
「……やっと、やっとだ。
やっと、言える気がする」
俺は、口を開く。
沈利の困惑にまみれた問いに答える、と言ったわけではないが、コレだけは言いたかったんだ。
「…久しぶりだな、沈利」
- 804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/15(水) 22:01:25.68 ID:+QvMHsCs0
ゆっくりと起き上がって、
ゆっくりと前を見て、
こっからだ、俺が、お前と向き合わなきゃいけないのは。
「………来るな」
お前は拒絶する。
それは過去にお前と接した俺に言っているのか、今こうしてお前の前に立つ俺に言っているのか。
「断る。生憎、同じ事を繰り返すのは性にあわなくてな」
俺は譲らない。
過去の事実を葬り去っちゃいけねぇんだ。お前にも思い出させて、そっからようやく対等に向き合えるんだから。
「黙れ!!!」
お前は叫ぶ。
どこまで深く傷ついて、どこまで深く外道になって、どこまでも俺を拒絶したいという意が肌に伝わる。
「何なんだよ!!何でこのタイミングで私の前に来やがった!?
何で!私がケリをつけようと思った、私がドン底まで壊れちまった9日は逃げて!何で!今になって私の前に来てんだよ!!」
俺は耳を傾ける事をやめない。
本当に反吐が出る。散々に悪党だのなんだのと啖呵をきっといて、やっぱり行き着く先は三流にも満たないただの中途半端な存在。
骨の髄まで自己中に動いて、その結果で、お前を間違った方向に追いやっちまった。
- 805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:02:47.65 ID:+QvMHsCs0
「そんな目で私を見るな!ウゼェんだよ!!あの日!あの時!テメェは今みたいに!自らの命も惜しまないで私を助けたか!?
そこの花飾りのガキみたく、私を助けたか?結局テメェは逃げただろうが!!
今更なんだよ!私はもう戻れない!私は今も殺したいヤツの事が頭から離れねぇんだ!
今更、今更テメェがどんなに過去を悔いたって………」
怒号の如くに訴えられたコイツの心中は、俺どころか、花飾りにも響いていた。
見えない何かと戦ってるように、もがき、そして声として俺にぶつける意は途中から弱々しくなっていく。
「浜面仕上」
俺は、とある人物の名前を口にした。
当然、アイツは目を見開かせ、俯かせていた視線を勢い良く俺に向ける。
「なんで…テメェが……」
俺に叫んだ時よりも、花飾りと俺に原子の矢を放った時よりも、今の言葉には"復讐"の文字が似合う負の感情が滲み出ていた。
「大したヤツだ。俺たちみたいな能力なんて一つも持ってやしないのに、たった一人の愛する者のために、超能力者のお前に牙を向いたんだから」
何だってそんな三下の事を知っているのかを聞かれれば、心理定規からの情報。と、簡単な言葉で終わらせることができる。
思い起こせば、木原病理が心理定規に囁いていたあの時、電話越しだったために俺には聞こえなかったあの会話。
- 806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:03:44.07 ID:+QvMHsCs0
その会話の奥には、19日に起こる悲劇を浜面仕上に伝え、俺がロシアに行くと決めた時に、浜面仕上という無能力者と、麦野沈利という超能力者とのいきさつを、完全な第三者である俺に伝えろ。
というものだったらしい。
その時にはまだ、俺はエイワスにすら出会ってないってのに、どこまで誰かさんの手のひらで動かされてきたのかが伺えてならない。
俺は、全てを聞いた。
アイツが今こうしてロシアの地に立っている本当の理由を、本当の目的も、知っている。?
「何がそこまでお前を駆り立てる?……いや、こう言うのは止すか、そんなの、俺からしたら簡単に分かっちまうんだから」
そう。俺には分かる。
もともと、俺が原因で狂気には駆り立てられやすい性であるのは確かだが、それでも、眼が一つでも、自身の腕が一つでも、お前が浜面仕上を殺したい理由なんてのは他にあるんだ。
「……ヤメロ」
一目瞭然、こうやって否定している所を見れば、少なからずもコイツはその理由を自覚している節があるんだ。
「見てらんねぇんじゃねぇのか?
愛する人のためだとか言って、あそこまで挫けないで前を見ているアイツが。
その紛れもないヒーローを、結局挫けてお前をこぼしちまった俺に重ねちまってるから、そこまでに殺意に駆り立てられてんじゃねぇのか?」
結局、コレが答えなんだ。
結局、全て俺が悪い。全部、全部。
- 807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:05:52.22 ID:+QvMHsCs0
「ヤメロ……やめろぉ…」
自分の言動の全てを、理解しているからこそ、もがき、苦しまなきゃならない。
理由もなしに人を殺していけたら、どれだけ楽な心境なんだろうか、最も、人間である以上ソレは不可能にとてつもなく近いって事も、理解している。
だからこそもどかしくて、ややこしくて、
「お前の言う通り、悪いのは俺だ。
お前が憎まなきゃ行けねぇのは俺一人なんだ。だから、だからよ」
「憎しみの矛を下手に他人に向けてんじゃねえよ。
向けんだったら俺一人にしろ。今度こそ逃げねえ、全部受け止めてやる」
「ぁ……あァ……」
多分、今アイツの中では何かが途切れたような音がしたんだろう。
遊園地で過去を蒸し返された、あの時の俺と同じように。
「一一一一一アぁ、ああああァアあああああああああぁぁァァァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
感情の全てが爆発し、沈利の大きな、絶叫とも受けてとれる叫びが響いた。
アイツの頭上から、胴体から、殆ど全ての箇所から膨大で無数の原子の矢が飛び散り、錯乱したミサイルの如く、俺に襲いかかってくる。
「垣根さん!!」
花飾りの声が聞こえるが、今はソッチを向く事はない。
今前を見なかったら、俺は二度目の後悔ってヤツを味わっちまうだろうから。
- 808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:06:29.20 ID:+QvMHsCs0
「一一一一コレが、お前の限界だよ」
言葉が発せられる。
ソレは、俺の声で。
強い意思が灯っている事も、確かだ。
今、俺の目の前に広がるロシアの大地は、幾多の爆弾が爆発したような焼け跡が生々しく残っていて、アイツが本来狙ったハズの俺は全くの無傷だった。
当然、花飾りも。
「う……うぅッ! クソ!……クソぉ…」
沈利は、涙が混じった声でなおもがきながら、確かな涙を流していた。
まるで獲物を狩り獲るためにあるかのような閃光のアームは、もう生えていない。
俺は、否定する事しか知らない、否定する事しか出来ない沈利に、ゆっくりと近づいていく。
- 809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:06:58.16 ID:+QvMHsCs0
「もう、止めよう」
終止符を、打つために。
全てを、終わらせるために。
「俺もお前も、人殺しのクソ野郎だ。
だがな、クソ野郎にはクソ野郎なりの生き方ってのもある気がするんだよ」
似合わない。本当に。
悪党悪党悪党、"悪党"。
俺が逃げ道に作ったこの二文字には、結局たどり着く事はできなかったんだよ。
沈利の、弱い弱い声が耳に届いた。
俺の似合わない言葉に酷く笑耐えているのかと思ったが、よく聞いてみれば全く違っていた。
それは、人の名前だ。
外国人の。おそらく、ファーストネーム。
弱い弱い声で、色んな感情が交差して発せられてるその名前。
俺は、知っている、ソイツの名前を。
知り合いとか、そんな健全な間柄じゃない。仕事上で聞いた事のある名前ってだけだ。
一一一一ああ。やっぱり、やっぱりだ。
お前は、いや、お前も、悪党の仮面を被るには、似合わなすぎたんだな。
- 810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:07:33.70 ID:+QvMHsCs0
「私は、もう……私はァ…」
闇になりきって、人を殺して、自分を偽って、笑い続けて、
沈利は、その悪循環をやり通す事が不可能だと自覚し、自分の進む、進むべき道が全く分からないでいる。
「遅くなんかねぇ、現にお前はこうして迷う事が出来てるんだ」
俺は抗う。コイツを取り巻こうと終始纏わり続ける心の暗闇に。
俺が作り出してしまった。影の感情に。
「お前は戻れる。一一一一いや、変われるんだ」
こんな戯言、どのツラ下げて言ってるんだかな。
自分で自分に悪態づくのも、なんだか懐かしくてならない。
「う……うぅ…ぅ…」
沈利は、静かに涙を流した。
俺は、ただ黙って、雪が絶えず降り続くロシアの空を見た。
花飾りは、何故か沈利の元まで近づいて行った。
何をするつもりなんだと、一瞬焦りにも似た感情に駆られるが、花飾りのとった行動は、そんな感情を驚きへと変えていった。
無言で、瞳を瞑り、静かに、花飾りは沈利を抱きしめていた。
見てるだけの俺からも分かるように、強く、強く。
- 811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:08:12.23 ID:+QvMHsCs0
殺意で押し潰されそうになっていたこの場は一旦落ち着きを取り戻し、泣き止んだ沈利は黙り込んでいた。
「…で?お前はどうするんだ?」
まだ精神的に安定していない状態だって事もわかってるが、それでもなお俺は質問する。
ココでしっかりと答えを見つけてもらわないと、今度こそ麦野沈利という人間が終わってしまうから。
「……私は…」
「まぁ、思いついた事でいいんじゃねぇの?俺にまた殺意が湧いたってんなら、殺しにくればいいし。
過去の過ちを悔いてんだったら、先ずは自分を理解しろ。そこからは自ずと道は見えてくる…ハズだ」
解き方は教えた、どの道へ歩むも、どう進もうとも、俺はもう口を出すつもりはない。
「わ、私、も……」
一生懸命に言葉にしようとしてるのが伺える。
散々受け入れてきた暗闇を、今この時、必死に拒絶してるようで。
「私も…歩ける…のか?日の当たる、場所を」
もどかしそうに、過去に後悔と反省を顔に残し、しかし前を向いて放った沈利に、俺は、
「お前次第だ、バーカ」
嬉しかった。最も、罪悪感はぬぐいきれないが、それでも、どんなに間違った意見でも、沈利の口から出た言葉は、紛れもない本心からだから。
- 812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/15(水) 22:08:59.32 ID:+QvMHsCs0
それからは、沈利の考え方に全てを委ねた。
過ちを犯して、それでもまた日の当たる場所を歩きたいという非常識を、どんなに否定されようとも、どんな形でも、現実にするために、コイツ自身の思考で。
「……なぁ」
「…どうした」
沈利が俺に声をかけ、そして俺が反応する。
遠くて仕方がなかったこの動作が、こうして現実として存在できてるんだ、お前だって日の当たる場所は歩けるよ。
「必死に考えたけどさ。アイツらに謝って、謝って謝って謝って、認めてもらえなくても、謝って。
やっぱり、私にはこれくらいしか思いつかねぇよ…」
苦笑いを交えて放たれたこの言葉だが、俺には分かる。恐れてる。
謝って許されないとわかっていても、浜面仕上と、その関係するヤツらに拒まれるのが。
「…そうか」
が、俺は止めはしない。
コイツが頭を悩ませて、必死こいて考えついたその答えがソレだって言うんなら、俺はいくらでも手を貸す。
「だったら、謝れ。謝って、謝って、否定されても、敵意を向けられても、謝れ。気の済むまでな」
- 813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:09:31.67 ID:+QvMHsCs0
「……分かった、……サンキューな」
似合わなくそう言った沈利に迷いは見えず、おぞましく空白の右目から光っていた純白の光も、どこか光り方が違ってすら見える。
と、ここで花飾りの声が響いた。
「あ、あの、話の勢いを殺すようで申し訳ないんですが、その人もロシアにいるんですよね?
場所……わかるんですか?」
見事に勢いは殺してくれたが、まぁごもっともな意見に沈利はしまったと言った顔つきになる。
…仮にも命狙ってまで来たヤツがそんなんで大丈夫なのかよ。
とか言ってる俺は、この通り落ち着きを絶やさないでいられる。
気分で涼しげな顔してる訳じゃねぇからな、
手段があるからだ、浜面仕上に対面する、その手段が。
「……なぁ?"エイワス"」
視線は移さない。
声の矛先だけは、明確に示して。
意識で感じ取り、思わず声をかけた。その手段に。
- 814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:09:58.61 ID:+QvMHsCs0
「君はやはり私の予想の一つ上を行くんだな。いい方向にしても、悪い方向にしても」
声がする。
俺でも花飾りでも沈利でもない、完全なる第三者の声。
「悪いな、常識の通用しない俺でも、怪物に褒められて嬉しがる感性は持っちゃいないらしい」
三度目になるエイワスとの会話には、初めて殺意が広がっていない会話。
「教えろ、浜面仕上の居場所だ
どうせ、それを伝えるためだけにここに現れたんだろうが」
「やれやれ、少しは振り回される私の身にもなってもらいたいものだが、まぁ、いいだろう。
浜面仕上の居場所は一一一一」
- 815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:10:27.91 ID:+QvMHsCs0
それから、俺たちは、
浜面仕上に会い、滝壺理后に会い、沈利は謝罪し、
俺と花飾りは傍らで見守り、アイツらの行く末を最後まで見通した。
浜面仕上は涙を流した。
散々に牙を向き合い、殺意をぶつけあってきた相手からの、謝罪。
俺からしたら、涙を流せる理由がどうしても解せないが、これだけは言えるよ。
沈利は、仲間ってヤツに恵まれてるんだって。
その場しのぎにも受け止められるが、一旦状況的には落ち着いてきた所で、事件は起きた。
起点は、ロシア上空。
俺から見たソイツの姿は、まるで天使。
本能的に、俺は戦った。
二枚の白い翼を羽ばたかせ、無謀とも言える戦いに買って出た。
勢いで戦火に突っ込んだ所で、まさか第一位と対面するとは思わなかったよ。
しかも共闘だぞ、共闘。
そんな中で、イレギュラーが続くロシアの地で、
沈利と花飾りが平坦に会話をしていた事を、俺は知らない。
- 816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:12:03.30 ID:+QvMHsCs0
「一一一アンタ、見た感じ一般人だけど、よくもまぁあの馬鹿にここまでついて来れたわね」
「は、はぁ……出会いが強烈だったものですから…」
「ふぅん、ま、いいけどさ。それより、飾利だっけ?」
「は、はい。なんで、しょうか?沈利…さん?」
「アンタ、アイツに惚れてるだろ」
「…なっ!ななな、なにをいきなり一一一!?」
「全く憎たらしいわ、アンタもアイツも、とんでもないくらいに相思相愛じゃない。
私たちがガキだった頃よりも相当酷いわよ」
「そ、相思相愛だなんて、あ、あああるわけないじゃないですか!!」
「……ねぇ、"飾利"」
「ふ、ふぇ…?」
「一つだけ約束してもらえるかしら」
「…な、なんでしょう」
「アイツの手、握っていてくれない?私、離しちゃったからさ。
理由なんて分からないけど、アンタならしっかり捕まってられそうだから」
「沈利さん……」
「とやかく言えた立場でもないし、自分がどうしようもないクズ野郎だって事も理解はしてるけどさ。
これだけは、託しておきたいのよ。私の、初恋の相手の行く末、ちゃんと幸せにして上げてくれないかしら?」
「え、えっと、」
「あー、良いわよ別に答えなんか出さなくても。アンタ女子中学生だろ?
私と殺りあったヤツにも生意気な女子中学生がいたけど、アンタはそれ以上だわ。
だから、心配はしてない」
「し、沈利さん……」
一一一一一一一一一一一一一一
一一一一一一一一一一
一一一一一一
一一一
- 817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:13:03.38 ID:+QvMHsCs0
最終章 12月24日。
- 818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:13:43.43 ID:+QvMHsCs0
一一一あっという間だった。
運命が、偶然的なのか必然的なのか、俺の死の運命がガラリと変わった、あの10月9日から、もう二ヶ月と半分が過ぎたんだぜ?
沈利との件を落ち着かせた後、俺は天使なる存在と戦い、そっから先もそれはまぁ大分スリルな出来事が続いたモンだよ。
第三次世界大戦が終わって、形上での平和を取り戻した矢先に出会った、外人のクソガキ。
不幸か幸いか、そこには花飾りと沈利も居て、
なんと言っても沈利の反応が尋常じゃなかった。
幽霊を見たような感じになったと思ったら、今度は急にそのクソガキに謝罪と来やがった。
そのクソガキを巡った事件に俺も巻き込まれ、またあの第一位と共闘する羽目になったんだ。腹立たしくてならねぇ。
その事件を起点に、俺は関わるハズのなかった分野にまで関わる事になって、
ハワイでも散々だった、全く持って。
- 819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:14:50.01 ID:+QvMHsCs0
まぁ、いわゆる諸悪の根元ってヤツはヒーローさんが片をつけたから俺の戦闘劇も今となっては皆無。
まぁ平和がなによりだが。
それよりも一つ、俺は今、俺の所有するマンションの一室にいるわけだが、一つだけ言わせてもらえないか?
「あーッ!なんで俺に入ってきた仕事奪っちまうんだよー!?」
「超うるさいです!!だいたい、馬鹿面の仕事を超良心的に引き受けてあげたにも関わらずなんですかその態度は!?
これだから浜面はいつまでたっても超馬鹿面なんです!」
「大丈夫。他人の力を必要としないで仕事と向き合うはまづらを私は応援してるから」
「あ、あのー沈利さん、こないだの仕事はちょっとやりすぎたんじゃありませんか?」
「あァ!?関係ねえよ!!カァンケイねェェんだよォォォ!!
なにが限度だ!仕事っていう名目がある以上はなにやったっていいんだよ!」
「沈利お姉ちゃんからとばっちりを受けてる飾利お姉ちゃんが大体かわいそう。にゃあ」
- 820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/08/15(水) 22:15:18.88 ID:+QvMHsCs0
……アレだ、そうだ、これだけ言わせてくれないか?
「どうしてこうなった………」
その一室は、ワイワイガヤガヤとうるさいヤツらが終始騒いでやがる。
一つだけ言っておくが、これは仕事の事務所だ。
事を一から説明するのは骨が折れるから、簡単に言うが、なんかまともな事をやってみたいと思い出したのが原因でな。
風紀委員でも的を射ちゃいるんだが、なんかこう、……スケールが欲しかったとは言い難い。
仕事と言うのも、用は何でも屋だ。いわゆる万屋ってヤツか?
依頼の内容は本当に多種多様、まぁ、応用性No.1の能力を持つ俺が社長なんだ、それなりに上手くやってるよ。
心理定規も誘ってみたんだが、どうやら今は常盤台に通っているらしく、学校生活と風紀委員の仕事を全うしていきたいらしい。
正直、コレを聞いた時は冗談としか思えなかったんだが。
余談だが、風紀委員とこの仕事を兼ね合いでやってる花飾りは何故か心理定規に対して敗北感を得たらしい。
- 821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/15(水) 22:16:38.30 ID:+QvMHsCs0
「…でぇ?」
パソコンと睨めっこしてる俺の耳に、沈利の悪意に満ちた声が届く。
「学校も休みのこのクリスマスイヴって日に、何でお熱い恋人が揃って仕事場なんかにいるのかしら?」
「なっ?し、沈利さん!?」
………出た、このムード。
「あ!そう言えば超そうですよ!
初春さんこのチンピラとどっか行かないんですか!?
流石は超チンピラ!気のきかなさも超一流です!」
「俺と滝壺はあと少ししたら出かけるからなー」
「浜面の事情なんて超どうでもいいんですよ!!」
やっぱり俺には似合わない雰囲気だと心底思いつつ、一つため息を吐いた後にこんな事を呟いてみた。
「俺の居場所に…」
常識は通用しない。
と、あと一歩のところで出かけたが、何故か瞬時的にソレを噛み殺した。
まぁ、常識が通じる面子が俺の知り合いにいるのかどうかと言った所からが問題だし、似合わない雰囲気であるのは確かだが、嫌いな雰囲気じゃないからな。
- 822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/08/15(水) 22:17:39.00 ID:+QvMHsCs0
「…じゃあ、行くか?どっか」
「…え?いいんですか?」
この数ヶ月間、こんな感情がどれだけ頭の中に念頭に置かれたか、もはや数える気にもならない。
やっぱり、俺は変わったよ。
「な、公衆の場であるにも関わらず、超なんなんですかこのバカップルはー!?」
常に悪態づいて、俺の邪魔になるものは全て排除して、
「ねぇはまづら、私たち、負けてられない」
「へ?た、滝壺さん?何を仰ってるんですかい?」
必死にカッコつけて、必死に悪になりきろうとして、
「いいかフレメア、ああいうヤツらをバカップルって言うんだ」
「バカップル。にゃあ」
どれだけ後悔して来たか分からない、そんな、決して綺麗な人生でもないし、そもそも俺という人間自体が汚ねえんだから仕方ねぇけど、
「あ、あの、垣根さん…」
「どうした、飾利?」
これだけは、言えるよ。
?
「手、繋いでもらえますか?」
「……仕方ねぇ、ほら」
今、俺は、幸せだよ。
おしまい。
- 826 :1[saga]:2012/08/15(水) 22:40:38.90 ID:+QvMHsCs0
ハイ、以上となります。
約二ヶ月と半、まぁそれなりなペースで進められたかなと思っています。
さて、「三流でもカッコイイ帝春」を書こうと思いここまで来ましたが、いかがだったでしょうが?
よく見られたミスや、駄文に続く駄文など至らない部分の方が多かったと思います。申し訳ない。
人によっては、今回投下した最終回がどうも急ぎ足にしか見えなかったでしょう。
正直に言います。コレは明らかに急ぎ足です。
と言っても理由はあります。もっとも、正当な理由ではないのですが。
自分は書き溜めする時間が基本的に通勤時間の際しか取れません。
その中で、地の文みたいに比喩表現を多用とする書き方に限界を感じたんです。
自分としてももっと書きたかったのも確かなんですが、いかんせんこのペースだけは崩したくなかったので……。
と言った感じなので、今は台本形式の新しい禁書ssを書き溜めてみてます。
この作品とは関係ありませんが、近いうちにまたお目にかかれるかもしれません。
その時には是非とも、レスでもなんでもお願いします。
ひとまずこのssは完結と言う事で、本当にありがとうございました。
是非是非レスでも質問でもなんでも下さい。
ROM専の方々(いると信じてる)もどうぞどうぞ。
と言うよか、レス下さい(笑)待ってます。
ではでは、お世話になりました。
またお目にかかるまで。
- 827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2012/08/15(水) 23:01:47.88 ID:L/sahgJ9o
- 最初からずっと見てた。
おもしろかったよ。
乙 - 828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/08/15(水) 23:09:35.01 ID:fDW73kSBo
- 乙
- 829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/08/15(水) 23:15:39.81 ID:pzmHRRL1o
- 面白かった
乙 - 830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/15(水) 23:28:25.43 ID:/yPHCZBp0
- おもしろかったよ
次回作も楽しみです
2013年9月11日水曜日
垣根「俺の居場所に…」 2
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