2013年9月28日土曜日

上条「誰を助けりゃいいんだよ……」

112011/03/05(土) 19:47:36.78 ID:VPiHbgWD0
上「すまん、土御門。もう一回言ってくれ」

土御門「チッ、この大変な時に! いいか、かみやん! あと1回しか言わないからよく聞くんだぜよ!

土「禁書目録が必要悪の教会の裏切り者の集団に連れ去られ、
  助けに向かったステイルと神裂ねーちんも捕えられて、
  それを助けにいった天草式の面々がまとめて捕虜にされて、
  天草式に恩のあるオルソラが犯人たちを説得に行って迷子になって行方不明、
  探しに行ったアニェーゼ部隊が罠にハマって捕獲され、
  一方その頃学校では小萌先生の家に姫神が遊びに行ったら先生も同居人の女子高生も見当たらず、
  それを探しに行った姫神自身も帰って来ないし、
  それを心配して探しに行った青髪ピアスも帰って来ないし、
  学級委員として立ち上がって捜索に当たった吹寄も戻らないし、
  出発前に吹寄から相談を受けた黄泉川先生も行方不明になって、
  探しに行った先生の同居人が全員消え、
  しかもその内の2人が妹達で、調査に当たった1万人がいきなり連絡不能になり、
  それを知った超電磁砲が探しに行って何者かに拉致され、
  追いかけて行った風紀委員の後輩とその友達が誘拐され、
  超電磁砲のファンの少年とその義妹がやはり彼女を探しに行って帰って来ず、
  所変わって暗部では新生アイテムの4人が軒並み行方不明、
  スクールの残党が音信不通、
  忍者が2人地味に消えて、
  ついでに最近風斬氷華の目撃情報がめっきり減ってるらしいし、
  海を越えてイギリスでは女王と王女3人と騎士長が正体不明の誰かに拘束され、
  『新たなる光』の4人が消息を絶ち、
  イタリアではアックアとヴェントとフィアンマが縛りあげられて
  ローマ教皇が何者かに誘拐されて
  ロシアではサーシャ・クロイツェフが忽然と姿を消し、
  エリザリーナ独立国同盟では代表者が出かけたっきりいなくなり、
  あとスフィンクスを何日か前から見かけない
  んだぜよ!」

上「」


土「そしてかく言う俺も、
  たった今謎のキャンピングカーから現れた謎の悪漢たちに拉致られてる最中なんだぜよー!!
  助けてかみやーーーーん!!」

上「」 
 
212011/03/05(土) 19:48:56.70 ID:VPiHbgWD0
黒服の男達に両手両足をしっかり掴まれた土御門は、
そのままずるずると引きずられて、キャンピングカーに乗せられていった。
謎のキャンピングカーは呆然と見送る上条を尻目に、暗闇の方向へ走り去る。

「――ん?」

ふと足元を見ると、白いA4用紙が1枚、地面に落ちていた。

「……土御門の奴、何か置いていったな」

上条は、それを拾い上げて上から下まで目を通した。
312011/03/05(土) 19:50:02.73 ID:VPiHbgWD0
■■■■救助リスト■■■■

===イギリス清教===
必要悪の教会
   禁書目録         【誘拐:必要悪の教会の裏切者】
   ステイル=マグヌス     【捕縛:必要悪の教会の裏切者】

ロンドン女子寮
   神裂火織         【捕縛:必要悪の教会の裏切者】
   オルソラ=アクィナス    【迷子】

天草式十字凄教
   建宮斎字         【消息不明】
   浦上           【消息不明】
   五和           【消息不明】
   牛深           【消息不明】
   香焼           【消息不明】
   諫早           【消息不明】
   野母崎          【消息不明】
   対馬           【消息不明】
   他44名          【消息不明】

アニェーゼ部隊
   アニェーゼ=サンクティス  【消息不明】
   シスタールチア      【消息不明】
   シスターアンジェレネ   【消息不明】
   他約200名         【消息不明】


===ローマ正教===
神の右席
   フィアンマ        【捕縛】
   ヴェント         【捕縛】
   アックア         【捕縛】


===ロシア成教===
   サーシャ=クロイツェフ  【行方不明】


===エリザリーナ独立国同盟===
   エリザリーナ       【行方不明】
4 :12011/03/05(土) 19:50:48.10 ID:VPiHbgWD0

===学園都市===
とある高校
   月詠小萌         【行方不明】
    結標淡希        【行方不明】
   姫神愛沙         【行方不明】
   青髪ピアス        【行方不明】
   土御門元春        【拉致:謎のキャンピングカー】

御坂勢力
   御坂美琴         【誘拐】
   妹達(10032-20000)     【音信不通】
   白井黒子         【誘拐】
   初春飾利         【誘拐】
   佐天涙子         【誘拐】
   エツァリ         【行方不明】
    ショチトル       【行方不明】

黄泉川家
   黄泉川愛歩        【行方不明】
   芳川桔梗         【行方不明】
   一方通行         【行方不明】
   打ち止め         【行方不明】
   番外個体         【行方不明】

新生アイテム
   麦野沈利         【行方不明】
   浜面仕上         【行方不明】
   滝壺理后         【行方不明】
   絹旗最愛         【行方不明】

旧スクール
   垣根提督         【盗難】
   心理定規         【音信不通】

忍者
   服部半蔵         【行方不明】
   郭            【行方不明】

その他
   風斬氷華         【現出不安定】
   スフィンクス       【行方不明】
5 :12011/03/05(土) 19:51:28.28 ID:VPiHbgWD0
「…………いやいや」

「魔術師捕まりすぎだろ」
「偉い人警戒心なさすぎだろ」
「何でたった今さらわれたはずのお前の名前が入ってるんだ土御門」
「新生アイテムって何だ。昔はどうだったんだ」
「旧スクールって今は何なんだよ……盗難?」
「って、え? にん、忍者?」


つっこみ所しかない。
上条は汗ばむ指で救助リストを掴み、何をすべきか考えた。

「流石に俺1人じゃどうしようもない! そうだ、誰か頼れる奴に助けを……」


「頼りになる人はみんな……さらわれて……いますね……」

ひゅう、と、冷たい北風が吹き抜けた。
こんな時は叫ぶに限る。


「ふ、不幸だ――――――――――――!!!」


でも。


「誰も見捨てる気はないけどな!」  
 
9 :12011/03/05(土) 19:54:37.51 ID:VPiHbgWD0
上条は一旦家に帰ることにした。
目の前で友人を攫われたにしては薄情な行動だが、彼は全く心配していなかった。
多分、その内ひょっこり帰ってくるだろう。
それよりも心配しなくてはならない人物が山ほどいる。
一度コーヒーでも飲んで冷静になろうと、部屋のドアを開けた。

するとそこには、思いもよらない人物がいた。
勝手に。

「おー。お邪魔してるぞー」

土御門舞夏。
と、


「にゃー」


意外ッ!! それはスフィンクスッ!!


「意外でも何でもねえよ! 普通に帰ってきてんじゃねえか!」

「どうしたー?」
「にゃー」
10 :12011/03/05(土) 19:55:18.17 ID:VPiHbgWD0

スフィンクスは少し遠出の散歩をしていただけらしい。
ペット誘拐を疑うなんて馬鹿ばかしい話だった。
知人が誘拐され過ぎて感覚がおかしくなっているのかもしれない。

「……舞夏。お前はここで何してるんだよ」
「スフィンクスと遊んでた」
「そうか。勝手にか」
「勝手に掃除と洗濯物の取り込みと晩御飯の準備もしといたぞー」
「ありがとうございます!!!」

一応、舞夏に義兄が連れ去られた経緯を告げてみた。
すると、彼女はこともなげに言った。

「んー。心配しなくても大丈夫かな。
 兄貴はいっつも私が見てないところで攫われたり襲われたり食われたりしてるけど、
 あとできちんと帰ってくるからなー」
「……そうなのか」
「兄貴はヒロイン体質なんだなー」
「……そう、なのか?」
「学園都市が舞台の小説が出来るとしたら、確実にヒロインは兄貴だなー」
「……そう、なの……か……?」

ヒーロー役の誰かにはお悔やみを申し上げるしかない。

上条の部屋に来たのは義兄の部屋の片付けのついでだったのだという。
雑談に一区切り付いたところで、舞夏は寮に帰ると言い出した。

「スフィンクスも無事だったことだし。俺もそろそろ出発するかな」
「にゃー」

額を撫でてやると、スフィンクスは迷惑そうに鳴いた。

25 :12011/03/05(土) 20:51:39.07 ID:VPiHbgWD0

午後3時半。
外ならスーパーへ向かう主婦で街が賑わう時間帯か。
上条はスフィンクスと共に静かな住宅街を歩いていた。
スフィンクスを連れて来る気は無かったのだが、勝手についてきて勝手に横を歩いている。
食べ物でも食いに出かけると思っているのだろうか。

「にゃー」

ふいに、そのスフィンクスが鳴き声を上げた。
1本の細い道を曲がろうとした時だった。

「ん? どうした?」
「……にゃー」

そっちには曲がるな、と言いたいらしい。

「いや、別に嫌ならついて来なくてもいいんだからさ」

上条が構わず曲がると、スフィンクスは仕方なさそうに付いて来た。

「……チッ」

「え? お前今舌打ちした? ねえ、今チッて言ったよね?」
「にゃーん」
26 :12011/03/05(土) 20:52:38.82 ID:VPiHbgWD0
どこへ行く当てもない。
頼れる人もいない。
さてどうしようかと思いながら、何となく駅へ向かって歩みを進める。
次の角を曲がって、歩道橋を渡れば……

「にゃー」

まただ。
スフィンクスが鳴いた。

「曲がるなって言いたいのか?」

上条が見つめると、猫の方も見つめ返して来た。
そっちは嫌だ。そう言っているように見える。

「何が嫌なんだよ。ここは危ない学区じゃないし、駅に向かう以外は何も……」
「……もしかして」
「にゃ!?」

上条はいきなりスフィンクスを抱え上げると、逃げないようにがっちりホールドし、
スフィンクスの嫌がる方向へと曲がった。

「……」

憮然とするお猫様。

「スフィンクス……お前の嫌がる方へ嫌がる方へと向かっていけば……」


御坂美琴は、そのクローンである妹達は、ある1つの悩みを持っている。
それは、小動物に嫌われること。
彼女たちは電気系の能力者だ。無意識だが常に微弱な電磁波を体外に放っている。
敏感な動物にとっては、それが怖いらしいのだ。


「――その先に、電気系の能力者がいるかもしれない!」
「猫をソナー代わりに使う……」


「これぞ『ソニャー』!!」



(俺は何を言ってるんだ)
27 :12011/03/05(土) 20:53:04.38 ID:VPiHbgWD0
「にゃー……」
「お、こっちがいやなのか? おうおう、嫌か? やめてほしいか? じゃこっちー」

「…………」
「こっちの道はお厭じゃないようですね。だったらあっちか」

「にゃー…………」
「次はこっちか。大通りからは離れて来たな」


「にゃー……にゃー……」
「鳴く頻度が上がってきたかも」


「にゃー…にゃー…にゃー…」

「にゃーにゃーにゃーにゃー」

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ」


「おお……これは……近いかも……!」

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ」
「にゃにゃにゃににににににににnnnnnnn」


「フギャーーーーッ!!!!!!」


「? あ、猫……」

ついにスフィンクスがキレて逃げていったところで、
上条は1人の少女を見つけた。


「み、御坂妹……?」


ソニャー恐るべし。
28 :12011/03/05(土) 20:53:43.45 ID:VPiHbgWD0

「御坂妹だよな?」

胸のペンダントを確認しつつ上条が問うと、少女は首をこくんと肯いた。

「はい。ミサカの検体番号は10032。
 貴方が『御坂妹』と呼称している個体に間違いありません、
 とミサカは肯定します」
「連絡がつかないって聞いたけど、元気そうだな」
「そうでもありません、とミサカは今度は否定します」

無表情のまま首を振る御坂妹。

「ミサカが連絡不能になったのは、ミサカネットワークが切断されてしまったせいなのです
 と、ミサカは眉尻を下げ困り顔で解説します」

無表情のまま困り顔の御坂妹。

「切断ってどういうことだ?」
「そのままの意味です、とミサカは理解力の無いあなたの頭を心配しつつ話を続けます。
 ミサカはミサカネットワークから切り離されてしまったようなのです」

いつも繋がっているネットワークに繋げない。
その通信機能に普段頼っている御坂妹は、突然の出来事に戸惑っていた。

「そりゃまた、何で?」
「それが分かれば苦労はしません、
 とミサカは『馬鹿ですか?』と聞きたい気持ちをぐっとこらえて和やかなコミュニケーションに努めます」
「……すいません、馬鹿で」
「謝ることはありません。貴方が悪いのではないのですから、とミサカは母性あふれる笑顔で慰めます
 ところで、病院へ行って調整してもらえれば治るかもしれない、とミサカは考えているのですが……」

始終無表情の御坂妹は、若干上目遣いで上条の顔を覗き見た。

「……送れってことか?」
「おお、とどうせ伝わらないだろうと思っていたミサカは貴方の察しの良さに感嘆の声を漏らします」

無表情だが若干頬を染める御坂妹。
なぜそこで頬が染まるのかについては、上条には知る由も無い。

「うーん……まあ、いいか」
「……忙しかったのですか?
 と、ミサカは何なら聞き分けのいい女の子を演じてみようかと考えるのですが……」
「いやいや。演じなくていいから。行くよ。体に何かあったら心配だもんな」

上条が承諾すると、御坂妹の表情が少し明るくなったように見えた。
鈍い上条にも分かる程度に。
29 :12011/03/05(土) 20:54:33.76 ID:VPiHbgWD0
2人連れだって総合病院にたどり着く。
お馴染みの、もはや学校よりお馴染みになってしまったのではないかと思うほどお馴染みの病院だ。

受付に行き、用件を話す。

「調整をお願いしたいのですが……」

すると、受付に座っていた看護士は、申し訳なさそうにこう答えた。


「すみません。
 先生は一週間前から欠勤されていて、連絡も無いんです。
 すでに警備員にも相談していて……
 ですので、調整は後日にしていただけますか?」
30 :12011/03/05(土) 20:55:09.83 ID:VPiHbgWD0
■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===学園都市===

御坂勢力
   御坂美琴         【誘拐】
   妹達(10033-20000)     【音信不通】
   御坂妹          【発見】
   白井黒子         【誘拐】
   初春飾利         【誘拐】
   佐天涙子         【誘拐】
   エツァリ         【行方不明】
    ショチトル       【行方不明】

その他
   風斬氷華         【現出不安定】
   スフィンクス       【解決済】
new! カエル顔の医者      【音信不通】




orz

41 :1[sage]:2011/03/05(土) 22:13:59.48 ID:VPiHbgWD0
すいませんすいません
この方たちすっかり抜けてました

===英国王室===
   エリザード        【捕縛】
   リメエア         【捕縛】
   キャーリサ        【捕縛】
   ヴィリアン        【捕縛】


===騎士派===
   騎士団長         【捕縛】


あと吹寄【行方不明】

最初からこんな調子だと誰か見捨ててしまいそう…
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/05(土) 22:25:34.03 ID:fbuse1/DO
早速弊害発生してんじゃねーかwwwwwwww 
 
57 :12011/03/06(日) 17:54:39.56 ID:kD9b/yGo0
御坂妹を病院に預け、上条は出発することにした。
カエル顔の医者を見つけ、御坂妹をネットワークに繋げるようにしてもらう。
そうすれば彼女の問題は解決だ。

「先生を探しに行くのですか?」

少女はどこか寂しげに話しかけてきた。

「それならミサカも一緒に……」
「それはやめてくれ。途中ではぐれたらもう見つけられないかもしれないだろ」
「それはそうですが、でも……」

道端で出会ってから病院に来るまでの間しか上条とは一緒に過ごしていない。
彼女としては、もう少しイベント的なものがあってもいいのではないかと期待しているのだが、
想いを寄せる相手が朴念仁なのだから、そういった受け身の姿勢では得るものがない。

というわけで御坂妹は、

「お前が無事なのが一番助かるし、俺も嬉しいんだから」

この一言で妥協することにした。

「……いってらっしゃい。必ず無事に帰ってきてくださいね、とミサカは送り出します」
58 :12011/03/06(日) 17:55:06.29 ID:kD9b/yGo0
病院を出ると、妹達が離れたのを見計らったのか、スフィンクスが寄って来た。

「にゃー」
「お前、今日はやけに絡んでくるな?」

ちくわも持ってないのに。

「……もしかしてウニ狙い?」
「……」ダッ

ちょっと勇気を出して披露したギャグは冷たくスル―された。
スフィンクスは遠くへ駆け出していく。

「ちょ、逃げるほど寒かったか!?
 俺のこのツンツンヘアーと海の幸を掛けたクスリとくるネタが……」

追いかけると、スフィンクスは曲がり角の前で立ち止まり、上条の方を振り向いた。
そして一言。

「にゃー」

「何だよ? 今度は曲がれってか?」
59 :12011/03/06(日) 17:55:39.96 ID:kD9b/yGo0
近寄ってみると、そこは細い路地だった。
ビルとビルの隙間の薄暗い空間。少し先は行き止まりになっている。

「何か出そうで不気味なんだけど……」

スフィンクスは構わず進んでいく。
仕方なく上条が付いていくと、大きなエアコンの室外機の陰に、何か動くものがうずくまっている。
背筋がぞわりと疼いた。


「う……うう……」


女の呻き声が聞こえる。

「な、何だ……?」


「うー…………うぅ~……」



――聞こえるんですよ、うー、うー、って。うすぐらーい中で。
いやあ、驚きましたねえ。気味のわるー……い女の声でしたよ。
私も、やだなー、やだなーって思ったんですけどね
怖かったですけどもねえ、そー…っと近寄ってみたんですよ。
そうしたら――


「――吹寄?」

「かっ……上条当麻……?」

吹寄制理だった。
60 :12011/03/06(日) 17:56:12.52 ID:kD9b/yGo0
「おい!? だ、大丈夫かよ? 何でこんな所に……」
「へ、平気よ。ちょっと休んだらすぐ行こうと思ってたんだから……」
「大丈夫そうには見えねえよ! 一体何があったんだよ、こんな見つかりにくい所で」
「人に迷惑は掛けられないから、目立たない場所を選んだのよ」

駆け寄った上条が支えてやると、吹寄はゆっくりと起き上った。
座った状態でもふらふらなのが分かる程で、とても元気そうには見えない。
無理に歩かせたらまた倒れるのではないかと心配になるくらいだ。

「何だよ、熱でも出したのか?」
「違うわよ。大丈夫だからほっといて!」
「放っておけるかよ、こんな状態のクラスメイトを!」
「大したことじゃないの。ただ……」
「ただ?」
「…………たのよ」
「ん?」

吹寄が、小さな声で何か呟いた。
怒ったように顔を赤くしている。というよりも明らかに不機嫌である。


「お腹が空いて動けなくなっちゃったのよ!!」


「ええー!! そんなベタなー!!」
「悪かったわねベタで!!」
「デコッ!?」

上条は頭突きを食らってしばらくダウンした。
61 :12011/03/06(日) 17:57:19.88 ID:kD9b/yGo0
「それなら僕の顔をお食べよ」カポッ


というわけにもいかないので、
上条は動けない吹寄のためにコンビニでパンと牛乳を買って来てやった。
受け取った吹寄は何の付随効果も無いカレーパンに少し顔をしかめたが、
空腹の方が勝ったのだろう、何も言わず食べ始めた。
スフィンクスが物欲しそうに眺めていたが、非情にも彼女は無視した。

「で、何でお前はそんなになるまで何も食わなかったの?
 もしかしてダイエット?」
「もが、べひゅに私は、むぐ、細くなるとか可愛くなるとか、むぐむぐ、興味ないし」
「だったら何で?」
「むぐっ…………」

吹寄はまた顔を赤くして押し黙った。

「あの……お金が、ないの」
「ははあ……」

一人暮らしは毎月末にピンチになるのが常識である。
吹寄制理にもその常識が通用してしまったらしい。

「お前って結構しっかりしてるように見えるけど、そういうとこはルーズなのか」
「い、一応きちんと家計簿は付けているのよ? 今月はちょっと無理な買い物しちゃって」
「……いくらの健康グッズを買ったのかな?」
「うぐぐ……」

ムサシノ牛乳ではない牛乳に顔をしかめつつ一気に飲み干すと、
吹寄制理は勢いよく立ちあがった。
スフィンクスが舌打ちをした。

「とにかく私はこんなところでのんびりやってる暇はないの!
 小萌先生を見つけたのよ! 声を掛けようと思ったけど見失っちゃって。
 場所を警備員に伝えて捜索に協力してもらおうと思ってたの」
「先生を? どこで?」
「第六学区よ。小さな女の子を連れていたわ」
「そりゃ危ねえな。幼女の姉妹が歩いてるようにしか見えないもんな」

月詠小萌はれっきとした高校教師であるが、見た目は12歳という驚異的な若々しさの持ち主である。
そんな女性が小さな女の子を連れているということはつまり、少女を狙った犯罪者の恰好の餌食だ。

「それじゃ、警備員の詰所へ行くわよ!」
「う、え、俺も?」
「担任の先生が誘拐されそうになってるというのに、放っておくの? 貴様は!」
「め、め、めっそうもありません」

本当はカエル顔の医者を見つけて御坂妹を助けてやらなければならないのだが……
押しに弱い上条だった。


「にゃー」
62 :12011/03/06(日) 17:57:49.12 ID:kD9b/yGo0

警備員の詰所には、黄泉川愛歩がいた。


「いるしッ!!」
「んー? あ、小萌センセんとこの問題児じゃん。どうした?」
「どうしたも何も、先生がいきなり行方不明になったって、結構騒ぎになってますよ!」
「あら、そうなの?」

吹寄は月詠と姫神と青髪ピアスが行方不明になったことまでしか知らない。
黄泉川まで消息が分からなくなっていたと聞かされてきょとんとしている。

「色々起こってるのね」
「そのせいで上条さんはてんてこまいですよ……」
「? なぜ貴様がてんてこまいになるの?」

そういえば、何でだろう。
自問に自答する前に、黄泉川が頭を掻きながら謝罪してきた。


「あー、悪い悪い。ちょっとドタバタしてただけで、
 うっかり学校に午後の欠勤届出すの忘れてたじゃんよ」
「ドタバタって?」
「学校で色々行方不明になってるのは知ってるじゃん?
 それの捜査をしてる時に遊園地で人質を取った男が立てこもり事件を起こしたって通報が来たじゃん」
「ええっ! 立てこもり? 遊園地で?」
「そ。一度にあれこれ起きててんやわんやじゃん」
63 :12011/03/06(日) 17:58:16.02 ID:kD9b/yGo0

ということは、警備員は今とても忙しい。
しかし遠慮していても仕方がない。
吹寄は進み出ると、月詠を第六学区で見かけた旨を報告した。

「お。ってことは小萌センセは無事かな? 報告助かるじゃん。
 連絡がないのは気になるけど、事件性はなさそうだから取りあえず後回しにするじゃん」
「はい……まあ、仕方ないか」

吹寄は肩をすくめてため息をついた。ぷるん。

「用事はそれだけ?
 じゃあ悪いけど、お茶を出してのんびりお喋りってわけにもいかないから、
 とっとと家に帰るじゃん」

黄泉川に促され、2人は詰所から追い出される。

「じゃ、先生、さようなら」
「おう。さよーならー」

吹寄は帰って行った。
これだけのためにひどい目に遭ったね。
64 :12011/03/06(日) 17:59:06.32 ID:kD9b/yGo0

「……と、そうだ。先生、ついでに聞いておきたいんだけど」

一緒に出て行こうとした上条だったが、ふと気が付いて黄泉川を振り返る。

「うん?」
「打ち止めとか、この、芳川? とか……
 先生の同居人が先生を探しに出掛けたらしいんだけど、会ってねえかな」
「うーん、会ってないじゃん。ちょっと連絡とって見るよ」

芳川は携帯電話を取り出し、打ち止めの番号へ電話を掛けた。
電子音が響く。
彼女は応答するだろうか。




『もしもしヨミカワーっ? 今ツクヨミと一緒に第六学区の遊園地にいるのってミサカはミサカは現状報告!』

「「」」

65 :12011/03/06(日) 17:59:37.53 ID:kD9b/yGo0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===学園都市===
とある高校
   月詠小萌         【第六学区の遊園地】
    結標淡希        【行方不明】
   姫神愛沙         【行方不明】
   吹寄制理         【解決済】
   青髪ピアス        【行方不明】
   土御門元春        【拉致:謎のキャンピングカー】

黄泉川家
   黄泉川愛歩        【解決済】
   芳川桔梗         【行方不明】
   一方通行         【行方不明】
   打ち止め         【第六学区の遊園地】
   番外個体         【行方不明】

66 :1[sage]:2011/03/06(日) 18:01:24.15 ID:kD9b/yGo0
以上です
おお、こわいこわい

平日は投下出来ないと思うので
また週末に来ます

では
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/06(日) 18:02:06.56 ID:O2LzI1fYo
やばい、この軽過ぎるノリが溜まんねぇww 
 
77 :1[saga]:2011/03/07(月) 22:05:47.98 ID:Awa8dqWO0

『実はこの遊園地、今ちょっと目線のおかしい男が人質を取って立てこもり中なのって
 ミサカはミサカは特ダネを披露してみる』
「お前、そんな所にいてよく無事じゃん?」
『ミサカの居る所は、犯人が立てこもってる観覧車からは見えないのってミサカはミサカは解説してみたり』

『でね、人質にされてるのはツクヨミなのってミサカはミサカは衝撃の事実を暴露してみる!』


「うえええええぇぇぇぇぇぇ!?」


犯人はよりにもよって本物の幼女を差し置いて、幼女っぽいアラサーを人質に選んだらしい。
とにかく驚いてばかりはいられない。
黄泉川と上条は早速現場へ急行した。



「ところでお前、何で遊園地なんかにいるじゃん? 私を探しに出掛けたって聞いたけど」
『えっ……あの、ヨミカワを探してうろうろしてたら、ツクヨミに声を掛けられて……』
「ったく、家族の心配より遊ぶ方が大事かね」
『あ、あはは……実はヨミカワの気配を遊園地に感じて……っていうのはダメ?
 ってミサカはミサカは言い訳用スマイルを発動してみるんだけど……』
「電話だから見えないじゃん」


移動中も、黄泉川は打ち止めと連絡を取り続けていた。
園内の様子を詳しく聞くためだ。
犯人は観覧車から敷地内への出入り口をすべて見張っており、
警備員もうかつに入り込めない状況なのだという。

「先生は大丈夫なのか?」

上条が訪ねると、打ち止めは電話越しに緊張した声を出した。

『犯人と一緒のボックスに閉じ込められて、すごく怯えてるよってミサカはミサカは報告してみる。
 でも取り乱したりはしてないかも。さすがは良く出来たオトナだよね』

見た目は幼女だが先生はすごいのですよ。

「とにかくすぐに行くから、絶対に目立つ行動はするな」

黄泉川の言葉に、打ち止めは素直に「うん」とだけ応えた。

78 :1[saga]:2011/03/07(月) 22:06:15.48 ID:Awa8dqWO0


『そ、そうだ、犯人の特徴はね……』

何か話していないと不安なのか、打ち止めはひっきりなしにまくしたてている。
犯人に聞こえるわけでもないのだし、その場から動かないでいてくれるならありがたい。
上条と黄泉川は適当に相槌を打ちながら聞いてやった。

『ええっと、すごくひょろ長い感じで……』
『目つきがもう、怪しくて……』
『何か、板みたいなのを大事そうに抱えてるかもってミサカはミサカは説明してみる』


車を運転しながら、黄泉川はそれを頭に叩き込んでいるようだった。
上条はその横で、妙な感覚に襲われていた。

「……なんか、聞いたことあるというか、見たことあるというか……」


『あ、今窓から顔突き出して、拡声器で何か喋ってるかも!』


『すべてはエンゼル様の仰せのとおりにィィィ――――ッ!!!! ……だって』



「……」

黄泉川と上条は押し黙った。

黄泉川の方は、犯人の異常性に警戒したからである。
そして上条の方は、


「おっやぁー……? なんだか、すさまじく聞き覚えがあるぞー……」


頭を抱えていた。



「火野紳作!? 外で何十人って殺した奴じゃん!?」
「聞いた限り、そうなんだよな……」
「でもここは学園都市じゃん。どうやって入ったんだ」
「あいつは、エンゼル様の啓示があれば何でもやってのけちゃう奴みたいだからな」
「そもそも逮捕されてるはずじゃん……」
「あいつは、エンゼル様の啓示があれば何でもやってのけちゃう奴みたいだからな」
「なにそれこわい」

話しながら、第六学区に辿り着く。
辺りには異様な雰囲気が漂っていた。
緊張感。
遊園地のマスコットの大きな縫いぐるみが、にっこり笑いながら正門で手招きしている。
本来ならかわいらしいはずのそれが、妙に不気味に見えるほどだった。


「打ち止め。そっちはどんな様子だ」

黄泉川が受話器に向かって声を掛けると、打ち止めは呆けたような声で応答した。


『なんだか、もう大丈夫かもってミサカはミサカは推察してみる』

「は? なんで?」

『ヒーローが現れたから」

79 :1[saga]:2011/03/07(月) 22:07:08.88 ID:Awa8dqWO0


園内は静まり返っていた。
時々、興奮した犯人が拡声器で何か怒鳴り散らす以外、誰も口をきこうとしない。
人質の、ピンクの髪のかわいらしい少女は、きゅっと口元を結んで耐えているようだった。
勇敢にも彼女は犯人に幾度か話しかけ、犯行を思いとどまらせようと説得していたが、
それも徒労に終わっていた。

あの少女は、駄目かもしれない。
園内の人々は、最悪の結末を思い浮かべては頭を振る。
そんな悲劇が起こってもいいのか。

誰か、あの子を助けてやってくれ。
正義のヒーロー。


そこへ。
皆の祈りが通じたのか、1つの人影が現れた。

観覧車の正面に対峙するジェットコースター。
その一番高い山場の上に、彼は現れた。
バサリ、と。
上着の裾をマントのようにはためかせて。

まるで、アニメのように。映画のように。
ヒーローはそこにいた。


「少女を人質にして観覧車に引きこもりだと……?」

違う、引きこもりじゃない。立てこもりだ。
しかしヒーローの放つ圧倒的なオーラは揺るがない。


「汚い真似しやがって! オレがその曲がった根性、叩き直してやる!」


削板軍覇。
学園都市ナンバーセブンの超能力者である。

87 :1[saga]:2011/03/07(月) 23:34:44.66 ID:Awa8dqWO0

「何だよ!? 何なんだよお前!? 俺とエンゼル様の邪魔する気か!?」

火野は拡声器でひっくり返った声を撒き散らした。

「いいか? 妙なことをしたら、この子供の頭をぶち抜くぞ!
 こいつはボタンを押すと人が殺せるという不思議な道具なんだぞ!」

小萌のこめかみに拳銃のようなものをあてがい、喚く。

「そんなことはさせない! とう!!」


削板は、跳んだ。
高さ80メートルはあろうかというジェットコースターのコースの上から。
そして、50メートルはあろうかという驚異的な距離を越えて、何故か火野のいるゴンドラに飛び乗りこんだ。


「その子は撃つな!! 撃つならオレを撃て!!」

パーン


本当に撃つ火野。
弾は確実に削板の胸板へと直撃した。

――はずなのだが。


「……痛え」
「ッ!?」

「痛え……が、響かねえ……!」

「な、何だお前!?」

削板は倒れない。
なぜならば。


「そんな根性のこもってない一撃は、オレの胸には響かねえんだよ!
 いいか……根性ってのは、こうやって示すんだ!!」


思い切り、拳を振り上げる削板。
訳の分からぬ悪寒に襲われ、火野は悲鳴を上げた。



「すごいパーンツ!!!」



「ビブルチッ//」

88 :1[saga sage]:2011/03/07(月) 23:35:18.23 ID:Awa8dqWO0

すいません間違えました

89 :1[saga]:2011/03/07(月) 23:36:16.81 ID:Awa8dqWO0


「すごいパーンチ!!!」



「ビブルチッ!?」



不思議な声を漏らし、火野は足元から崩れ落ちた。


「あ、あ、ありがとうなのですよ……」

小萌は半ば呆然としながら礼を告げる。


「ふふん、いいってことよ」


こうして、事件は幕を閉じた。



「――ってミサカはミサカは締めくくってみたり!」
「なんじゃそりゃ!?」


遊園地から少し歩いた所にある、小さなカフェ。
無事帰って来た打ち止めと、上条は話し合っていた。
黄泉川は事件の事後処理で遊園地に残っている。
御坂妹がネットワークに繋げなくなっている事について訪ねてみると、
彼女は小さな顔を下に向けて、悲しげに言った。


「ミサカネットワークを切断したのはミサカなの、ってミサカはミサカは告白してみる」


話を詳しく聞くと、原因はある一体のミサカなのだという。

「ミサカ19090号……って言っても、あなたには分からないかもしれないね。
 他のミサカよりちょっぴりスタイルのいいミサカなんだけど、その子がウイルスに犯されてしまったみたいなの。
 会って確かめてはいないから詳しいことは分からない。でも、共有されたあの感覚はすごく覚えがあった。
 ミサカがすぐに気付いてネットワークを緊急停止したんだけど、
 話を聞く前にどこかへ行ってしまったみたいなのってミサカはミサカは結論を述べてみたり」

「じゃあ、御坂妹だけじゃなくて、全員ネットワークに繋がっていない状態なのか?」

「うん。ミサカが許可を出せばすぐに復旧できるけど、
 その前に19090号を助けてあげないと、ウイルスが他のミサカにも感染しちゃうかもしれないからって
 ミサカはミサカは歯がゆい思いで足踏みしてるの」

「つまり、19090号を見つけなきゃ妹達全員が大変だってことか……」

「あの子は学園都市にいるはず。だけどネットワークが無いとミサカには見つけられなくて……って
 ミサカはミサカはいざという時の自分の役立たずっぷりに落胆してみたり……」

普段は天高くそそり立つ立派なアホ毛がしぼんでいる。
どうやら本当に落ち込んでいるようだ。

90 :1[saga]:2011/03/07(月) 23:36:51.17 ID:Awa8dqWO0

「何だ、学園都市にいるなら簡単だよ。な? スフィンクス」

上条は、にっこりと、少し遠くをあるくスフィンクスを振り返った。
スフィンクスが少し遠くにいるのは、打ち止めが近くにいるからだ。

「……にゃー」

スフィンクスが警戒心をあらわにして鳴いた。


「どういうこと? ってミサカはミサカはあなたの自信満々な顔を疑いの眼で見詰めてみるんだけど」
「俺にはソニャーがあるからな。近くにいる妹達を見つけるならお手の物だ」
「な、何? ソニャーって? って、ミサカはミサカはかわいらしい響きにときめいてみる!」
「ふふん、それはな……」

上条がソニャーの効能について説明しようとしたその時、
彼は気が付いた。


「いやあ、やっぱり夕方のコーヒーは体に滲みるね?」
「ほのかな甘さが疲れをほぐしていくぜよ」


すぐ後ろの席に、カエル顔の医者と土御門がいた。


「ウオ――――――――イ!!!」


「何だ? かみやん。店内では静かにするぜよ」
「過ぎたおしゃべりはマナー違反だよ?」

冷静に指摘する2人。
しかし、これが黙っていられるか。

「先生、あんた行方不明じゃなかったのかよ!?」
「自分で自分を行方不明と振れ回った覚えはないよ?」
「一週間も何しにどこへ消えてたんだ?」
「患者を探しに。いつものように往診に行ったら姿が見えなくてね?」
「何で土御門とお茶してるんだ?」
「偶然会っただけだよ。どうやら危険な場所から自分で脱出したみたいだね?」

疑問符ばかりの会話が出来上がった。

「かみやん。まだまだ全然救助できてないみたいだな。
 小萌先生の件も知らないヒーローにいいとことられたみたいだし」
「知りすぎだろお前は……」

土御門は元気そうだ。
救助リストの彼の名前にチェックを入れようとした、その時だった。

曲がり角の陰から、突如として謎のキャンピングカーが現れ、
中から出て来た黒ずくめの男達に、土御門が羽交い絞めにされた。


「うわあああ! またさらわれてるところだにゃーッ!!
 助けてかみやーーん!!」

「やだ」

91 :1[saga]:2011/03/07(月) 23:37:18.24 ID:Awa8dqWO0


土御門を無事送り出したところで、上条は今後の方針を決めた。
何かというと事件に巻き込まれる打ち止めを連れ回すのは得策ではない。
カエル顔の医者に彼女を預け、ソニャーで19090号の捜索をするのだ。

そうと決まれば話は早い。
上条は再びスフィンクスをしっかり捕まえると、彼女が嫌がる方向へと進む。


「にゃー……に(中略)ャ―――ッ!!!」
「お、見つけたな。おーい! お前が19090号か?」
「そうです、私が13577号です、とミサカは自己紹介します」
「う……」


「フギャ―――ッ!!!」
「19090号か!?」
「はい。あなたの10039号です、とミサカは自己紹介します」
「そ、そうか……」


「フギャ―――ッ!!!」
「19090号! 見つけたぞ!!」

そこには、誰もいなかった。


orz



打ちひしがれる上条の耳に、小さな電子音が聞こえて来た。
携帯電話を確認すると、病院に預けた打ち止めから発信されている。

「もしもし」
『はーい、打ち止めでーすってミサカはミサカは元気に名乗ってみたり!』
「分かってるって。どうした?」
『あのね、19090号なんだけど……』
「何か分かったのか?」


『具合が悪いからって、自力で病院に来たよ』


「…………」

上条の体から何かが抜けた。

膝から崩れ落ちる。

目線が低くなって気が付いた。


「……打ち止め」
『なあに? ってミサカはミサカは聞き返してみる』


「一方通行が落ちてる」


112 :1[saga]:2011/03/13(日) 23:52:18.57 ID:TuBB66MI0

『ええっ!? ってミサカはミサカは驚嘆の声を上げてみる!』
「うん、まあ……倒れてるというか、落ちてるというか……べちゃっと」
『べちゃ……』

電話の向こうの打ち止めは呻いていた。

『今どこなの? ってミサカはミサカは訊ねてみる』
「第一一学区。でかい倉庫の前だ」
『そんな所までヨシカワを探しに行ったのかな? ってミサカはミサカは疑問に思うんだけど』
「俺に聞かれてもなあ」


とにかく、転がしておくのも不憫である。
上条は一方通行のもとへ歩み寄り、一応生きていることを確認して、
倉庫の鉄扉へ寄りかかるように座らせてやった。

「こいつはミサカネットワークに助けられないと何もできないって聞いたけど、
 これがその状態か……」
『ねえ、番外個体が近くにいるんじゃないかなってミサカはミサカは確認を取ってみたり』
「番外固体って、御坂と同じ顔してるんだろ? それらしいのは見当たらないぞ」
『おかしいなあ……』
「?」
『ヨミカワを探しに行く時にね、ミサカ達は二チームに分かれたの。
 ミサカとヨシカワチーム、一方通行と番外個体チーム。結局ミサカとヨシカワははぐれちゃったんだけどね……。
 ネットワークを切る時に、あの人をお願いって番外個体には伝えておいたけど、やっぱり……』

打ち止めはここで言葉を切った。
そして、小さく呆れたような声を出した。

「やっぱり?」
『やっぱりあの子、放置プレイに目覚めちゃったんだねってミサカはミサカは嘆息してみたり』
「や、やっぱり?」
『あの人の世話を頼んだ時にちょっと危ないかなって思ってたの。
 動けないあの人と二人っきりになったら、もしかしたらそういう道に目覚めちゃうかもって』
「想定の範囲内なのかよ!? どんな奴だよ番外個体……」

予想外のドSの登場に戸惑った上条が大きな声を上げると、
倉庫の扉の向こうで、カタリと人の動く気配がした。


「ねえ……そこに誰かいるの?」

女の声だった。

「な、何だ? 誰だ?」
「ねえ、あなたさ、さっきの奴等じゃないならミサカをここから出してよ。イイコトしてあげるから」

扉の向こうの声が、挑発的に言った。

「え? ミサカって、もしかして……」
『どうしたの? ってミサカはミサカは電話の向こうでコントを繰り広げてる風のあなたに訊ねてみる』
「コントじゃねえよ。鉄の扉の向こうに誰か捕まってるんだ」
『むむ。ちょっとミサカにもよく声を聞かせてってミサカはミサカはねだってみたり』

上条は、携帯電話を扉の方へ向けて、声がよく聞こえるようにしてやった。
倉庫の中の女性は、上条に向けて話しかけ続けている。

「ねー? 開けてってばー」

『番外固体!』

打ち止めが叫んだ。

「最終信号? そこにいる奴、最終信号の知り合い?」

扉の向こうでも叫び声が上がった。

番外個体が、頑丈な倉庫に監禁されている。

113 :1[saga]:2011/03/13(日) 23:53:16.16 ID:TuBB66MI0


上条は、扉を蹴ってみた。

「オラァッ!!」

返事がない。ただの鉄の扉のようだ。


上条は、近くにあった木の棒で扉を叩いてみた。

「オラァッ!!」

返事がない。ただの鉄の扉のようだ。


上条は、扉を揺すってみた。

「オラァッ!!」

返事がない。ただの鉄の扉のようだ。



「…………いいぜ、扉……」


「お前が、うら若い少女を閉じ込めたまま何も感じないって言うなら……」


「そのまま彼女を死なせてもいいっていうなら……」



「まずはそのふざけた蝶番をブチ壊す!!」



上条の、幻想殺しの宿った右手が、重い鉄の扉に突き刺さる。
扉を扉たらしめる、要。
蝶番に向かって。


「オラァ―――ッ!!」




へんじがない。ただのてつのとびらのようだ。


114 :1[saga]:2011/03/13(日) 23:54:06.20 ID:TuBB66MI0


そこへ。
全力で放ったパンチを無視されて項垂れる上条の背後で、空を刺すような音が鳴った。
まるで、宙に向かって槍を振り回すような。

「!?」

上条は振り返り、咄嗟に身をよじった。
直後、上条の頭部があった辺りを、木の杭が貫いていた。

棕櫚のような素材の、長さ三メートルほどの杭が、地面から斜めにこちらへ向かって生えている。

「な、何だ……!?」
「どうかした?」

今の出来事では、大した音は発せられていない。
扉を隔てて向こう側にいる番外個体には、上条が咄嗟に動いた気配くらいしか分からないのだろう。

丁寧に解説してやっている余裕は無い。上条は注意深く辺りを見回した。

時刻は八時を回っている。倉庫街には街灯もなく、辺りは薄暗い。
にもかかわらず、やけに光るものがあった。
人影だ。
暗い景色を切り取るかのように、真っ白に光る人間のような形のものが、
上条の五メートルほど先に現れていた。

能力者か、とも思ったが、「光る」と「杭を生やす」はどう考えても一つの能力ではありえない。
そして、一人の能力者が二つ能力を持つことは無い。
ならば――


「まさか、魔術師!?」
「まじゅちゅしゅィ!? (かみまみた)」
『何があったの? ってミサカはミサカは――』

その瞬間。
上条の手から携帯電話が吹き飛ばされた。
すぐそばにあった木の杭の側面から、新たな杭が生まれ、彼の携帯電話を弾き飛ばしたのだ。

持っていた手にしびれが残る。

「邪魔するなって言いたいのか……?」

白い影は応えない。
上条は、右手で杭を掴んだ。
幻想殺しの力によって、杭は跡形も無く消え去る。

「悪いけど、それならこっちの台詞だ」

たじろぐ影の方へ、上条は一歩進み出る。
しかし、影へは近づけない。後ずさった様子も無いのに、勝手に一定の距離が保たれていた。
そして、杭は二本では無かった。

すぐ後ろの扉から。
地面から。
傍にあったコンテナの側面から。

無数の杭が突如として飛び出してきた。

右腕は一本しかない。一度に消せる杭は一方向にまとまった一束が限度。
上条は横へ跳び、何とか他の襲撃をやり過ごす。

「何だこりゃ!? 無限に生やせるのかよ!?」

異能の力なら何でも打ち消す彼だが、数による暴力は苦手としていた。

上条のこめかみを一筋の汗が滑り落ちた。
白い影は何も言わない。

115 :12011/03/13(日) 23:55:20.30 ID:TuBB66MI0


「ねえゲコ太先生、19090号はまだ治らないの? ってミサカはミサカは訊いてみたり!」
「うん? もう少しだよ? 十秒数えてくれるかい?」
「はーい! ってミサカはミサカはいい返事をしてみる!」


10


「……ッッ!!」

再び、杭の集団が襲ってきた。
消しきれなかった一本が左の二の腕を掠り、浅い傷を付ける。
思わず右手で傷に触れようとしたが、すぐに次の杭が来た。

9

(あいつだ、あの白い影! 多分、あいつに近づければ……)
しかし、影は上条が動くたびに同じ距離だけ同じ方向に動いている。
そもそも、彼は今敵の攻撃を避けるのに精いっぱいで、なかなか思った場所へも移動できないでいた。

8

「一体どうしたの? 何かすごい音がしてるけど、よっぽど激しい[ピーーー]でもしてるわけ?」

番外個体が茶化してくる。事態の深刻さが分からないというよりは、場馴れのせいで平静でいられるようだった。

「番外個体! 扉から離れてろ!!」

離れていてどうなるとも思えないが、上条にできる警告はこれが関の山だった。

7

(くそっ、あいつには近寄れないのか)

避けながら、打ち消しながら、上条は必死で頭を回転させる。

(魔術の事はよく分からない。けど……)
(あんなに沢山でかい物を出し続けられるものなのか?)
(時間が経ったら消えるってわけでもなさそうだし……)

現れた杭は、上条が打ち消した物以外はその場に残り続けている。
辺りは杭だらけになっていた。

6

「うわっ!?」

倒れこもうとした先に、既に杭が生えていた。
右手を突き出し、杭が消えたスペースに体を滑り込ませる。


116 :1[saga]:2011/03/13(日) 23:56:26.00 ID:TuBB66MI0

5

(消しても消してもキリがない!)
(でも、無限だの永遠だの、そんなことを魔術で出来るとは思えない)
(出来るとしても、こんな所でコソコソ監禁なんかやってる奴には無理だと思う)
(だったら、何か秘密があるはず――)

4

新たな杭の出現によって、思考は中断される。

「ぐっ――!?」

右足に。
杭が突き刺さった。

3

がくん、と膝が折れ、その場に崩れ落ちる。
深くはない。しかし立てない。
動き回り続けていた負担と、傷。
彼の右足は悲鳴を上げていた。

(立て! 早くしないと、次が……)

2

白い影が何か動く気配を見せた。
次の攻撃を繰り出すのだろう。
表情も見えないのに、その挙動には余裕が見て取れるようだ。
完全に相手を捕えた、という、優越感。

1

「くそっ! どうしたら――」



「なァーに遊ンでンのかなァ? ……俺も混ぜてくンねェ?」


ミサカネットワーク復旧。

上条が振り返ると、一方通行が起き上っていた。
今更ながらよく串刺しにならなかったものだと感心する。

その感心をよそに。
一方通行は左足を上げ、思い切り地面を踏みつけた。

その足元から爆風が巻き起こる。

風は、魔術の核となる七本の杭と、その他全ての杭と、白い影と、近くに隠れていた魔術師全員を、まとめて吹き飛ばした。
ついでに上条も。

「なんでえええええええぇぇぇ―――――ッ!!」

空の彼方へバイバイキンする上条当麻。


「あ、やっべェ。やっちまった(笑)」


117 :1[saga]:2011/03/13(日) 23:57:23.49 ID:TuBB66MI0


一方通行が吹き飛んだ魔術師と上条を回収して戻って来ると、打ち止めがタクシーで急行してきたところだった。
彼の姿を見つけて駆け寄って来る。


「一方通行ー!! (アイタカッター アイタカッター アイタカッター イエスッ)」←※脳内BGM

「……打ち止め……! (タエーマーナクーソッソグゥアーイーノーナヲォーゥ)」←※脳内BGM

「よかった! 無事だったんだねってミサカはミサカはほっと胸をなでおろしてみる! (キミニィー)」
「当たり前だっつの。俺がそォ簡単にくたばるかよ。核を撃っても死ねェっつってンだろ(エイエーントォヨブコートガー)」

微笑ましい再開をする二人の足元から、上条が口を挟んだ。

「盛り上がってる所悪いんだけど」
「(コトーバーデハーツタエルコトガ)えっ? ンだよ」
「その倉庫の中に番外個体が閉じ込められてるんだ」
「あァ。それを助けるためにここへ来たらミサカネットワークが切断されたンだよ」
「どうやって助ける? この扉、どうしても開かないんだ」

上条の言葉を聞いて、一方通行は呆れたような顔になった。

「こンなモン、ブチ破りゃイイだろォが」


ベコン


上条を散々無視した鉄製の扉を、一方通行はいとも簡単にねじ破って見せた。

上条は、何だか切ない気持になった。

118 :1[saga]:2011/03/13(日) 23:58:05.79 ID:TuBB66MI0


番外個体は考える。
ネットワークは元に戻ったようだが、彼女にとって事態はあまり好転していない。
最終信号の知り合いらしき男は急に音沙汰なくなってしまった。
襲撃者と派手にやり合っていた音がついさっきまで聞こえていたのに、
ひと際大きな轟音が鳴り響いたかと思うと、外は急に静かになってしまったのだ。

「死んだかな? けけっ」

だとすると、彼女を助け出してくれそうな人物の心当たりは、あと一人。
しかし、番外個体は考える。
助けを求めるなどばかげていると。
特に、あの男には。

「別に、あの人に助けてもらいたいなんて思ってないけどね。
 ここから出られるなら誰でも何でも使ってやるってだけだし」

ならばさっさと復旧したネットワークで上位個体にでも救援を求めればいいのだが、
彼女はまだそれをしていなかった。

「も、もうちょっと待ってみようかななんて……
 別にあの人のことはどうでもいいけど、妹達はネットワークが回復したばっかりで大変そうだし」


ベコン

「あ……――?」

奇妙な音を立て、鉄で出来ているはずの扉がぐにゃりと曲がる。
そして、その強引なやり方で道をこじ開けた張本人が、倒れた扉の前に立っていた。


――よォ、待たせたな、番外個体。


番外個体は、考える。
助けを求めるなどばかげていると。
特に、この男には。

しかし、彼は助けに来た。


「……一方通行……」



(ヤッパスッキャネェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン)




↑※脳内BGM

119 :1[saga]:2011/03/13(日) 23:58:42.74 ID:TuBB66MI0


番外個体は無事救出された。
彼女に怪我が無いことを確かめた後、縛り上げた魔術師に問いかける。

「その服装、ローマ正教だよな? イタリアで見た事がある」
「……」

魔術師は何も答えなかった。
上条の問いを聞いた番外個体が怪訝そうな顔をする。

「宗教団体が科学の都市っていうか、ミサカに何の用なワケ?」
「……」

魔術師は五名ほど捕まえたが、誰一人として一言も発しようとしない。
そういう風に訓練されているのだろう。

「おい、番外個体」
「ん?」

一方通行は番外個体に呼びかけ、無言で物影の方を顎でしゃくった。
それで伝わったらしい。
番外個体は「はいよ」と応えて、魔術師二人の首根っこをつかまえて彼が示した方へ引きずって行った。
一方通行も残りを引きずって後へ続いていく。

「どこ行くんだよ?」
「多分、ミサカ達に見せたくないんだと思うってミサカはミサカは推測してみる」
「見せたくないって、何を?」
「ショッキングな拷問風景」

上条と打ち止めがしばらく待っていると、
魔術師たちが連れ去られた方向から、とても可哀想な悲鳴が聞こえて来た。



「お待たせ~。色々お喋りしてきたよ。あは☆」

数分後、非常に晴れやかな表情で戻って来た番外個体が言った。
対して、一方通行は苦い顔をしている。

「妹達が大変なことになってる。
 学園都市組以外はみんなろーませいきょう? っていうのに監禁されてるって」

明らかに楽しんでいる様子で報告する番外個体。

「ローマ正教が妹達を? 何で?」

上条が尋ねると、番外個体は肩をすくめた。

「詳しいことはあいつらにも分かんないみたい。下っ端っぽいしね。ぎゃは」
「あのー……って、ミサカもミサカも割り込んでみたり」
「ん?」

打ち止めが遠慮がちに小さな右手を上げる。

「あのね、番外個体の件が片付いてから相談しようと思ってたんだけど、
 ミサカネットワークが復旧してから、あちこちのミサカ達から緊急信号が来てるの
 ってミサカはミサカは現状報告してみる」
「その妹達は何て?」
「謎の黒服の男達に監禁されてるって」
「つまり、それがローマ正教ってわけか」

しばし話し込む四人。
番外個体たちは他にも、魔術師は19090号のウイルスの事に関しては何も知らなかったこと、
学園都市にはもう他の魔術師は潜入していないことなどを聞き出していた。

120 :1[saga]:2011/03/13(日) 23:59:31.55 ID:TuBB66MI0


しばらくして、一方通行がため息交じりに言った。

「とにかく、世界中に散らばってる妹達が全員捕えられている。それだけ分かりゃ充分だ」
「この人、自分が全員助け出す気みたいだよ。何人いると思ってんだか」
「俺も手伝う」

上条が口を挟むと、一方通行は心底忌々しそうな顔をした。

「何言ってンだ? オマエ。他の心配してろよ」
「でも、」

「確かオマエは言ってたよな?
 禁書目録が必要悪の教会の裏切り者の集団に連れ去られ、
 助けに向かった仲間二人も捕えられて、
 それを助けにいった仲間の集団がまとめて捕虜にされて、
 そいつらに恩のある修道女が犯人たちを説得に行って迷子になって行方不明、
 探しに行ったイギリス清教の部隊が罠にハマって捕獲され、
 一方その頃とある学校ではある教師の家に生徒が遊びに行ったら先生も同居人の女子高生も見当たらず、
 それを探しに行った女子生徒自身も帰って来ないし、
 それを心配して探しに行った男子生徒も帰って来ないし、
 立ち上がって捜索に当たった女子生徒も戻らないし、
 出発前に女子生徒ら相談を受けた黄泉川先生も行方不明になって、
 探しに行った俺達同居人が全員消え、
 しかもその内の二人が妹達で、調査に当たった一万人がいきなり連絡不能になり、
 それを知った超電磁砲が探しに行って何者かに拉致され、
 追いかけて行った風紀委員の後輩とその友達が誘拐され、
 超電磁砲のファンの少年とその義妹がやはり彼女を探しに行って帰って来ず、
 所変わって暗部では新生アイテムの四人が軒並み行方不明、
 スクールの残党が音信不通、
 忍者が二人地味に消えて、
 ついでに最近科学の天使の目撃情報がめっきり減ってるらしいし、
 海を越えてイギリスでは女王と王女三人と騎士団長が正体不明の誰かに拘束され、
 魔術の小組織の四人が消息を絶ち、
 イタリアでは『神の右席』とかいうのの三人が縛りあげられて
 ローマ教皇が何者かに誘拐されて
 ロシアでも修道女が一人忽然と姿を消し、
 エリザリーナ独立国同盟では代表者が出かけたっきりいなくなり、
 あと飼い猫を何日か前から見かけなった
 ンだと」

「うわぁ……何で一発で覚えてんのこの人……」

「片手間に手助けされてもありがた迷惑だ」
「…………」
「ね、この人に任せてあげてってミサカからもお願いしてみる」

一方通行と妹達の間には、少なからぬ因縁がある。
何か思う所があるのだろうと、上条は推測した。

「そうか。頼む」
「オマエに頼まれる筋合いはねェよ」

一方通行は、面倒臭そうに吐き捨てた。

121 :1[saga]:2011/03/14(月) 00:00:19.75 ID:+33A+O6G0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===ローマ正教===
   ローマ教皇        【誘拐:忘れてた】


===学園都市===
とある高校
   月詠小萌         【解決済】
    結標淡希        【行方不明】
   姫神秋沙         【行方不明】
   吹寄制理         【解決済】
   青髪ピアス        【行方不明】
   土御門元春        【拉致:謎のキャンピングカー(二回目)】

御坂勢力
   御坂美琴         【誘拐】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【誘拐】
   初春飾利         【誘拐】
   佐天涙子         【誘拐】
   エツァリ         【行方不明】
    ショチトル       【行方不明】

黄泉川家
   黄泉川愛穂        【解決済】
   芳川桔梗         【行方不明】
   一方通行         【解決済】
   打ち止め         【解決済】
   番外個体         【解決済】

その他
   風斬氷華         【現出不安定】
   スフィンクス       【解決済】
   カエル顔の医者      【解決済】


138 :1[sage saga]:2011/03/21(月) 14:18:00.01 ID:BJMTTvuI0

緊急事態であっても、休息を取らないわけにはいかない。
上条は一方通行達と別れたあと、スフィンクスと家に帰って落ち着かない夜を過ごした。
一晩明けて、金曜の朝。スカスカの出席日数を気にしつつも学校をさぼり、上条はまず病院へ向かった。

昨日までウイルスに犯されていた19090号は、その後の経過を診るために入院していた。

「誰にウイルス感染させられたの? ってミサカはミサカは19090号に質問してみる」
「ミサカにも分かりません。ミサカはただ、部屋で一人で雑誌を読んでいただけなのです
 と、ミサカは首をかしげて考え込みます」

病室には打ち止めもお見舞いに来ており、19090号から事の次第を聞いていた。

「本当に何の心当たりもないのか?」
「あ、あの、はい……と、ミサカは……」

上条が訊ねると、19090号は真っ赤になって俯いてしまった。

「……俺は出た方がいいのかな?」
「この唐変木……ってミサカはミサカはこっそり心の中でなじってみる」
「声に出てるってば」


19090号は回復したものの、ウイルスの正体や感染の原因が分からないことから、
今後もしばらく診察を続けるらしい。

そこまで聞いて、上条は病院を後にした。


139 :1[sage saga]:2011/03/21(月) 14:18:35.67 ID:BJMTTvuI0


妹達から離れた所を見計らって、スフィンクスが近寄って来る。


「お前、今日も付いてくる気なのか? 飯なら今朝やっただろ」
「にゃー」

上条に何を言われても、スフィンクスは済ました顔をしていた。

そんな毅然とした猫に、何者かが飛びついて来た。


「かわいいーっ!! お行儀いいですね! おりこうさんです!!」

「……!?」


奇抜な女だった。
見せたいんですか? と尋ねたくなるほど短い丈の、浴衣のような何かを身に纏っている。
縛られたいんですか? と尋ねたくなるほどジャラジャラと鎖のアクセサリー満載。
昇天ペガサスしたいんですか? と尋ねたくなるほど盛った茶髪。

派手な少女が、怯えるスフィンクスを撫でまわしていた。


「あのー……」

上条が恐る恐る声を掛けると、逃げたがるスフィンクスをがっちりホールドしていたコギャル(仮称)がさっと顔を上げた。

「おっと、これは失礼。私、猫が好きなもので。しなやかでしたたかな忍っぽいところがたまらないんですよねー」
「し、シノビ?」

コギャルは立ちあがると、浴衣の裾を整え、上条を見据えた。

「何てお名前ですか?」
「こいつはスフィンクスと申しますですが……」
「おおっ? 何か横文字でカッコいいですね。よろしく、スフィンクス氏。私は――」

胸元に抱いた猫に向かって自己紹介をしようとしていた少女だったが、ふと気が付いたような顔をして中断した。

「――いけないいけない、くのいちたるもの、そう簡単に人に素性を明かしては駄目なんでした」
「はあ、くのいち……?」

(さっきからシノビだのクノイチだの、この子なんだか――)

ちょっと可哀想。

140 :1[sage saga]:2011/03/21(月) 14:19:12.89 ID:BJMTTvuI0


そういえば。
と、上条はポケットをまさぐる。

土御門が攫われる間際に残して行った、意味不明のA4用紙。
その救助リストの中に確かに、「忍者」という不穏なカテゴリーが存在していた。


忍者
   服部半蔵         【行方不明】
   郭            【行方不明】


どちらも行方不明。
本当に学園都市に忍者がいるのか。いかにもな名前しやがって。

「おっといけない。われらのヒーローを探しに行かないとってことで失礼します!」

どうやら『忍者』に関係ありそうな、しかし人目を忍ぶ努力を全力で放棄したような少女が、やっとスフィンクスを手放した。

さっさと走り出そうとするコギャル。
上条はその背中に慌てて声を掛けた。


「あ、あのさ! もしかして『服部半蔵』か『郭』って名前に聞き覚えないか!?」
「ええっ!?」

急ブレーキ。
少女のアクセサリーがぶつかり合って盛大に音を立てる。


「く、郭は私ですが……それに、半蔵様を知ってるんですか?」


大ヒット。
行方不明のはずの郭は、当たり前のように元気にそこにいた。


141 :1[sage saga]:2011/03/21(月) 14:19:50.05 ID:BJMTTvuI0


「私が行方不明ですか? やった!!」

捜されていると聞いて、郭はなぜか喜んだ。

「誰かが私に会おうとしたけど、見つからなかったってことですね!? 隠れ忍んで生活する私の努力は実ったんですね!?」
「努力って……連絡つかないのはまずいだろ」
「行方を自在にくらますのは、一流の忍者への第一歩です!」

フンス、と鼻息荒く語る郭。
彼女が行方不明になったのは、半分わざとだったらしい。
はた迷惑な話だと思ったが、探していないのに勝手に出てきてくれたのはありがたかった。

結局、彼女は上条に付いて来た。
一応「服部半蔵を探している」という目的が一致したことと、スフィンクスがかわいいからというのがその理由だ。


「半蔵の方は本当に行方不明なんだろうな? 二人して隠れ住むのが趣味だとかいうんじゃ……」
「半蔵様も隠れ家をいっぱい持つのが趣味ですよ? でも急に連絡が付かなくなることはないですね」
「忍者って変……」
「常に修行ですから!」


適当に雑談しながら、郭の言う方向へと歩いていく二人。
そこへ、突然後ろから灰色の塊のようなものが飛んできて、上条の右耳を掠めた。


「!? う、わ……!?」


上条のすぐそばを通り抜けたコンクリートの破片は、近くに停めてあった乗用車を粉々に砕いた。

冷や汗をだらだら流しながら振り返る上条と郭。

そこには、小さな女の子が仁王立ちしていた。


「超見つけましたよ! 馬鹿面あああぁぁぁ!!」



142 :1[sage saga]:2011/03/21(月) 14:20:17.98 ID:BJMTTvuI0


「ば、馬鹿面!? 初対面の女の子に、顔見る前から馬鹿面扱いされた!?」
「上条氏、あんな小さな女の子に一体何したんですか?」

いつの間にか上条から五メートル離れていた郭が言った。
コンクリートを飛ばしたと思われる、ニットのミニワンピースの少女は、
薄暗い路地で上条の顔をまじまじと見つめ、きょとんとした顔になった。


「……あれ? よく見たら超別人でしたね」
「確認してから撃てよ!」

それにしても本日は、どうもミニスカートに縁がある。
特にこの子は非常にぎりぎりである。

「失礼しました。私が探しているのはもっと超馬鹿っぽい茶髪で超馬鹿っぽい服装で超馬鹿っぽいヘタレ顔の浜面という男なんです」

少女は、ぺこんと頭を下げて謝った。
きっと後ろから見たら見えてる。

「お、浜面の知り合いか。俺も一応あいつを探すってことになってるんだ」
「? そうなんですか?」

ニットの少女が顔を上げた横から、郭が飛び出してきた。

「上条氏!! 半蔵様から浜面氏に乗り換えるんですか!? 一緒に半蔵様を助け出そうって誓ったじゃないですかっ!!」
「乗り換えるとかそういう話じゃないし、別に何も誓ってないぞ」

二人のやり取りを聞いて、小さいがこの中では一番利口そうな少女は考え込む。

「服部半蔵……スキルアウト時代に浜面と超つるんでいた男でしたよね。あの男も超行方不明なんですか?」
「それどころか、麦野沈利とか滝壺理后とか絹旗最愛とか、関わってる奴はみんな超行方不明だよ」

上条が救助リストの一部を見せてやると、少女は目を丸くした。

「私もですか? このとおり超ピンピンしていますが」
「え、お前名前は……?」
「絹旗最愛です。むう……確かに私は今超自分の痕跡を消しながら行動していますから、
 行方不明扱いになってもおかしくないかもしれません」
「何でだよ? もしかして隠れ忍んで生きるのが趣味だとかいうんじゃないだろうな?」
「そんな超馬鹿な趣味はありません。私が隠れているのは……」


絹旗が言い掛けた時だった。
突然後ろから弾丸のようなものが飛んできて、上条の右耳を掠めた。


「見つけたわよ……アイテム!!」


143 :1[sage saga]:2011/03/21(月) 14:20:45.22 ID:BJMTTvuI0

「何だ!?」

驚いた上条が振り返ると、そこにはドレスを着こんだ十四歳くらいの少女が立っていた。
そのまま舞踏会へ駆けつけられるほどの見事な衣装である。
そしてその手には、その服装に何とも似合わない、四十ミリの小型グレネード砲。

「責任取ってもらうわよ……」
「し、しまった!? 超見つかりました!」

ドレスの少女は絹旗をしっかり見据えて近寄って来る。

「誰だよあれ!? お前を狙ってるんだよな?」

上条が訊ねると、絹旗は深刻な顔で肯いた。

「『心理定規』。『スクール』のメンバーだった女です」
「スクール……心理定規? 音信不通って話だけど」
「私を追い回して他の連絡を超無視していたんでしょう。それより、あの女の能力は超ちょっと面倒です」
「超ちょっと面倒って結局どの程度なんだ」

『心理定規』はグレネード砲を構えて立っている。

これはまずい、と上条は思った。
絹旗も郭も避けるなり防ぐなりする術を持っていそうだが、
上条は異能の力以外が相手だとただの無能力者に過ぎないのだ。

撃たれたら死ぬ。
多分、自分だけ。


「……一般人を巻き込むつもりはないわ。そこの二人と一匹、死にたくなければその子から離れて」

グレネード砲の先端で上条と郭とスフィンクスを指しながら、少女は言った。
上条は首を横に振る。

「そういうわけにはいかない。絹旗が何をしたのかは知らないけど、殺されそうになってるのを黙って見過ごせるか」
「別に殺すつもりもないんだけどね。私は『彼』を返してほしいだけ」

言って、顔を絹旗の方へ向けるドレスの少女。

「どこへ連れて行ったの?」
「だから、それは超私ではありません」
「こんなに『距離』を縮めてるのに。あなた、親しい人にも平気で嘘がつけるのね」
「超本当のことを言っているだけですってば」


そこへ。
突然後ろからビームのようなものが飛んできて、上条の右耳を掠めた。


「見つけたよ~ん、心理定規」


144 :1[sage saga]:2011/03/21(月) 14:21:23.03 ID:BJMTTvuI0

「何なんだよ!? さっきから俺の右耳ばっかり!」

驚いた上条が振り返ると、そこには高校生くらいの少女が立っていた。
スラッとした体型で、豊かな髪がセクシーさを醸し出す美人。
ただし、手からビームが出る。


「責任取ってもらうからね」
「くっ! しまった! 見つかった!」

ドレスの少女は唇を噛んで後ずさった。
突然現れたセクシー系美女を見て、絹旗が叫ぶ。

「麦野!」
「麦野? 行方不明のはずのアイテムのメンバーか」

上条が改めて彼女の方を見ると、麦野沈利は絹旗の方へ手をふらふら振っていた。

「とりあえずそこのムカつくドレス女を木っ端微塵にするから、話はその後」
「ちょ、ちょっと待てよ。何がどうなってるんだ?」
「うるせぇな。ってゆうかテメェ誰?」

上条の制止を気にも留めず、麦野は原子崩しを発動した。
心理定規は、突然の事に自分の能力を発動する暇が無かったらしく、慌てて身をかがめた。
かがめた程度でどうにかなるものではない。
上条は咄嗟に彼女を庇う形で前に立ち、右手を差し出した。

原子崩しが幻想殺しによって打ち消される。

自分の能力が不発に終わったのを見て、麦野はひゅう、と口笛を吹いた。


「――まず話を聞かせろ」

上条は、右手を前に出したまま言った。


151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[saga sage ]:2011/03/23(水) 21:50:20.51 ID:0XFRUnIL0
>>1です。

sageたのにもかかわらずレスがついていて驚きました。
本当にどうもありがとうございます。

これからも気分でageたりsageたりしながらやっていきたいと思います

sageって内緒でやってる感じがしてとてもいいですね


ところでリストにこの人たちが入って無かったです

===結社予備軍===
新たなる光
   レッサー        【消息不明】
   ベイロープ       【消息不明】
   フロリス        【消息不明】
   ランシス        【消息不明】

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい


今回も物凄く短いのでsage

152 :1[saga sage ]:2011/03/23(水) 21:51:02.42 ID:0XFRUnIL0


二十分後。

一触即発、いつ殺し合いに発展してもおかしくないほどの緊張感に包まれていた五人と一匹は、
ファミレスで仲良くお茶をしていた。


「かぁーみじょぉー! テメェ遅すぎ」
「女性を待たせるなんて呆れるんだけど」
「まぁまぁ、二人とも。上条も所詮超浜面とおんなじようなもので、超上条だということですよ。
 ここはオトナな私達が我慢するとしましょう」
「上条氏、ドンマイです」
「にゃー」

「…………不幸だ」


まるで最初からそうなるのが決まっていたかのようにスムーズにナチュラルにドリンクバー往復係に任命された上条は、心からそう呟いた。
153 :1[saga sage ]:2011/03/23(水) 21:52:29.94 ID:0XFRUnIL0


ドリンクを配った上条が着席すると、
スフィンクスと鮭のムニエルの奪い合いを始めた麦野を置いて、話し合いが始まった。


「つまり、絹旗は浜面を探していて、その絹旗を『心理定規』が追っていて、その『心理定規』を麦野が追いかけ回してたんだよな?」
「はい。超そんな感じです」
「何でそんなややこしいことになるんだ?」
「そもそもの発端はですね、やっぱり超浜面なんですよ」

絹旗が腹立たしげに顔をしかめて、アイスティーをストローでずるずると啜った。
交代で『心理定規』が口を開く。

「もう解体しちゃったけど、私はちょっと前まで『スクール』という組織にいたの。
 その時の同僚が学園都市第二位の垣根帝督。
 彼が浜面に誘拐されちゃってね。攫った男の顔は前に『アイテム』とごたごたした時に見覚えがあったから、
 てっきり『アイテム』が何か企んでるんだと思ったのよ」
「『スクール』の方に何があったのかは超知りませんが、新生『アイテム』は何もしていませんよ」
「私も頭に血が昇ってたみたい。それで、絹旗さんを追い回してたら――」

『心理定規』が顔を向けると、猫に勝利して鮭にかぶりついていた麦野が軽く手を振りながら応える。

「ウチのかわいい絹旗ちゃんがいじめられたってんで、私がキレたわけ」
「私はあの馬鹿面に超責任取ってもらおうと、奴を超探していたんです」

それで、「麦野→心理定規→絹旗→浜面」の構図の出来上がり。
上条はため息をつきたくなるのをどうにかこらえた。
154 :1[saga sage ]:2011/03/23(水) 21:53:50.13 ID:0XFRUnIL0

「でもさ、第二位ってつまり、学園都市の中では一方通行の次くらいに強いんだよな?
 浜面が誘拐なんか出来るのか?」
「今彼は自分の意思で動けない状態なの」
「ふぅん? ……」

病気でもしてるのか? と思ったが、上条は深くは聞かなかった。


「『アイテム』は関係なくて、浜面の単独犯だったのね。ということは、浜面を殺すしかないのかな」
「つまり、浜面はブチコロシ確定だろね」
「はい。では、浜面超殺すということで超オッケーですか?」

三人の手が挙がる。
超能力者を含む高位能力者の少女たちの間で、決議がなされた。

「んじゃ、浜面さがそっか。解散」

『アイテム』のリーダー、麦野沈利の宣言で、絹旗と『心理定規』はさっと席を立った。
はたから見ればショッピングにでも行くかのような、きゃぴきゃぴとした雰囲気を漂わせて、少女たちは出口へ向かう。


「かわいそうな浜面氏」
「…………な」

上条と郭は、人知れず葬られようとしている浜面を思って両手を合わせた。



「かぁーーみじょぉぉぉおーー!! 何ボサッとしてんだよ! ブチ抜かれたいの!?」

「え、は、すいません……」

なぜか上条も浜面討伐隊のメンバーに加えられていて、なぜか怒鳴られて、なぜか謝ってしまった。
何か、釈然としなかった。
155 :1[saga sage ]:2011/03/23(水) 21:54:39.73 ID:0XFRUnIL0


上条は『心理定規』と行動を共にすることになった。
彼と郭の携帯には複数の回線と同時に通話する『世間話モード』がないため、
それを持つ他のメンバーとペアを組まされたのだ。

常に情報を交換しながら、五人と一匹は浜面を探して街を走る。


少女は先を歩いている。
やけに背中の空いた『心理定規』の派手なドレスの後姿を眺めながら、上条は考えていた。

(やれやれ。確かに浜面もリストに入ってるけど……こんなことしてる場合なのか?)

他にも大勢助けなければならない人間がいる。
どちらかといえば加害者らしい浜面を見つけるために、広い学園都市をうろうろしていていいのだろうか。

漠然とした不安を感じて、空を見上げた。


「……なあ、みんな」

「え?」
『何ですか? 上条氏』

電話越しに皆の注意がこちらへ傾く気配を感じながら、上条は続けた。



「浜面が背中から白い翼を生やして空飛んでる」


「は?」
156 :1[saga sage ]:2011/03/23(水) 21:55:28.09 ID:0XFRUnIL0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===学園都市===
御坂勢力
   御坂美琴         【誘拐】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-11000)    【解決済:一方通行】
   妹達(11001-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【誘拐】
   初春飾利         【誘拐】
   佐天涙子         【誘拐】
   エツァリ         【行方不明】
    ショチトル       【行方不明】

新生アイテム
   麦野沈利         【解決済】
   浜面仕上         【飛翔】
   滝壺理后         【行方不明】
   絹旗最愛         【解決済】

旧スクール
   垣根帝督         【盗難】
   心理定規         【解決済】

忍者
   服部半蔵         【行方不明】
   郭            【解決済】

157 :1[saga sage ]:2011/03/23(水) 21:56:54.30 ID:0XFRUnIL0
つづく。


次こそageられるくらいの量書き溜めるんだ…
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/23(水) 22:09:51.04 ID:Ln8ntY29o
一通さん仕事はええなwwwwww
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/23(水) 22:10:40.44 ID:rfgq8VzJo
浜面の【飛翔】ワロタwwwwww 
 
167 :1[saga]:2011/03/28(月) 00:58:35.59 ID:ZmFpkswl0

みんなの標的・浜面は、その背に大きな純白の翼を広げて大空を旅していた。
まるで天使のように美しいそれは、羽ばたく度に太陽の光をきらきらと反射させている。

「降ろしてえええぇぇぇぇぇぇ!!!」

泣きながら。


「『窓の無いビル』のちょっと東側だ。見えるか?」

上条が訊ねると、学園都市の各地へ散っているメンバーたちが口々に応える。

『私と郭さんは超高台にいますから、遠いですが見えています。
 確かにあの超キモイ背格好は浜面に間違いなさそうですね。
 麦野はどうですか?』
『私もかなり遠くにいるけど見えてるよん。先月辺りから目はいいの』

早速、麦野・絹旗・郭はこちらへ向かうと言い出した。

「で、一体何なのあれ?」
「……あの翼は『未元物質』ね」

ドレスの少女が上空を見上げて、上条の疑問に答えてくれた。
上条はそれを聞いて首を傾げる。

「『未元物質』って?」
「垣根帝督の能力」
「……人に翼を与える能力?」

本当は違うのだが、『心理定規』は面倒臭いので「そうよ」と答えた。

「じゃあ、垣根を攫った浜面が垣根の能力で泣きながら空を飛んでいる、と。
 ということは……」
「怒らせたんでしょうね、彼を」


と、そこへ、後方からどたばたと足音と大声が飛んできた。

「待てぇぇぇぇ! 浜面ぁぁぁぁ!!」


上条や浜面と同年代の少年だった。
飛んで移動する浜面を走って追いかけているらしい。
彼の名を呼びながら上条と『心理定規』の横を通り過ぎる。


『その声は、半蔵様!?』

通信越しに彼の叫びを聞いた郭が声を上げた。

「何だって、半蔵!?」

上条が聞き返すのを聞いて、服部は立ち止まって振り向いた。

「……誰だ? 何故俺を知ってる?」


一介の高校生とは思えない、鋭い眼光で彼は上条を見据えた。
自称忍者な郭の知り合いなのだから、本当に一介の高校生とは違うのだろうが。

168 :1[saga]:2011/03/28(月) 00:59:47.48 ID:ZmFpkswl0

「郭の知り合いだ。お前と浜面を探してた」

上条が説明すると、服部は渋い顔をした。

「俺たちを? 面倒だな……。とにかく今は構ってられない。浜面を降ろしてやらないと」
「どうやって?」


二人のやり取りは、雑談モードの『心理定規』の携帯電話を通じて他のメンバーに伝わっている。
浜面を降ろす方法について服部が答えられないでいると、通話中の一人が口を挟んだ。

『簡単じゃん。あのメルヘンな翼を撃ち落としゃいいだろ』
「え? む、麦野さん? それって、浜面くん、あの高さから落ちるんじゃ……」

上条がつっこみ終わらない内に、彼らの二キロほど西方から真っ白なビームが伸びてきて、
浜面の背に生えている右の翼を貫いた。

『ビンゴ!』
『超流石です!』

きゃっきゃしている『アイテム』女子。

「うわああああ! 落ちるうぅぅぅぅぅ!!」

泣く浜面。
169 :1[saga]:2011/03/28(月) 01:01:43.33 ID:ZmFpkswl0


右側の浮力を失った浜面の体は、バランスを崩してガクンと高度を落とした。
しかし、落下するまでには至らなかった。
残った左側の翼が激しく羽ばたき、浜面が地に降り立つのを阻止しようとする。


「あ、あぶねえ! 今の『原子崩し』……麦野か!?」

地面に叩きつけられかけた浜面が、攻撃してきた人物を的確に言い当てた。
まれによくあることらしい。


『チッ、まだ落ちてないの? しつけえな』
『では左側は超私がやります』

電話から絹旗の楽しげな声が聞こえて来たその二秒後、
上条達のいる場所から五〇〇メートルほど南東の方から、
小石がすごい速さで飛んできて浜面の左翼を撃ち抜いた。

「やめてやめてぇ―――!!」

『ナイスピッチング~』
『超当然です』

今度こそ、浜面は落ちた。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


右翼の破損で高度を落としていた浜面は、その位置から左翼を攻撃され、
壊れながらも羽ばたく翼に多少落下速度を落としてもらいつつ、
周囲のビルの壁や街路樹の枝にぶつかりながら、
ドシンと音を立てて着地した。


「「浜面ァァァァァ!!」」


本気で心配して彼に駆け寄ったのは、上条と服部の二人だけだった。

『アイテム』の女性二人はお互いのシューティングテクを自慢し合い、
『心理定規』は自業自得だと言い放ち、
郭は服部のことばかり考えていて、
スフィンクスは「にゃー」と鳴いた。

170 :1[saga]:2011/03/28(月) 01:03:53.66 ID:ZmFpkswl0



浜面の落下地点に集合した一同は、浜面の生死を確かめた後(生きていた)、
服部を問い詰めて事情を聴いていた。


「半蔵様! お姿が見えない上に連絡もつかないと思ったら、
 空飛ぶ浜面氏を追いかけて全力疾走とはどういうことですか!」
「そりゃあ、仲間が急に飛んでったら追いかけるだろう」
「急に飛んでった瞬間近くにいたのね。
 ということはあなた今回の誘拐事件に一枚噛んでるの?」

『心理定規』が進み出て睨みつける。
その派手なドレスの少女を見て、服部は首を縦に振った。

「そうだ。浜面がアレを盗むっていうから、俺も手伝った。
 それで近くの廃ビルまで運んだのは良かったんだが、
 浜面が『チョロいぜ、第二位』とか何とか口走った瞬間、
 あいつから羽が生えてきて飛んで行っちまったんだ」
「……チョロいね、浜面仕上」

『心理定規』は腰に手を当ててため息をついた。

「その廃ビルっていうのに連れて行って。彼を返してほしいんだけど」
「……だが……」

服部は、気絶したまま動かない浜面の方を見る。
学園都市第二位の誘拐を企てるくらいだ。余程の事情があるのだろう。
寝ている浜面を無視して服部一人では決められないと思っているようだ。

「やっぱ、こいつから話を聞かなきゃ埒が明かないみたいだにゃーん」

つま先で浜面の方を指し、麦野が言った。

「コラ、はぁーまづらぁー! 起きろ! ×××踏みつぶすぞッ!!」
「…………」

ドスの利いた声で脅すが、一向に目を覚ます気配が無い。
本当に踏みつぶそうと麦野が歩み出たその時、絹旗が彼女の肩を叩いて言った。

「まあまあ、そんなことをしたら浜面はともかく滝壺さんがこの先超気の毒です。
 それより効果的な起こし方がありますよ」


「超浜面! 滝壺さんが超バニースーツ着て超ぺったり地面に座り込んで潤んだ瞳で超上目づかいで見てます!!」


「何ィ!? どこだッ!? 滝壺ォ!!」


起きた。

171 :1[saga]:2011/03/28(月) 01:05:38.65 ID:ZmFpkswl0



「――何がどうしてこうなったんだ? 浜面」
「……滝壺が攫われた」

目を覚まし、止血をした浜面へ上条が訊ねると、浜面は神妙な面持ちで答えた。


「うそ!?」
「そういえばここ一週間くらい、超姿を見てないです!?」

同じ『アイテム』のメンバーである麦野と絹旗は、
それぞれ自分のターゲットを追うのに夢中で滝壺の所在までは気が回っていなかったらしい。

「誰なんだよ、そんなバカやったクソ野郎は?」

眉間にしわを寄せた麦野に詰め寄られ、浜面は答える。

「学園都市だ。統括理事会の命令で動く連中だよ。
 俺の目の前であいつを連れ去って行ったんだ。
 追いかけたけど駆動鎧が相手じゃ敵わなくて……」

情けねえよな、と呟いて彼はうなだれた。
代わりに、服部が再び話し始める。

「奴らが何を狙って浜面の女を攫ったにせよ、そのままにしていいことがあるとは思えない。
 俺たちは考え方を変えて、学園都市と交渉することにしたんだ」
「学園都市の第二位ってのは今自力で動けない状態な上に、
 学園都市にとっちゃ相当価値のあるもんだ。
 それで使えるかもって思って……」
「盗っちゃおうぜって、二人で……な」
「おお……何つーか、ノリで……な」

浜面と服部はテヘ、と頭を掻いた。

「…………」

そんな二人を見て、『心理定規』は拳を握り締める。
172 :1[saga]:2011/03/28(月) 01:07:08.16 ID:ZmFpkswl0


「俺達、ノッちゃうと止まらなくなるっていうか……」
「俺と浜面のコンビだと、すぐ調子乗っちまうっていうか……」
「そりゃ、スキルアウト時代からの親友だし」
「おまっ、こんな所で親友とか言うなよ、恥ずかしいだろー」

バシッと浜面の背を叩く服部。

「……何なの、こいつら」
「超キモイです」

引く『アイテム』。

「でも、本当のことだろ? 俺はお前を何より大事な親友だと思ってんだよ」
「え? そ、そりゃあ俺だって、お前のことは好きだよ」
「えっ」
「いや、親友という意味でね」
「だ、だよなー? そういう意味だったら俺だってお前のこと好きだよ」

顔を赤らめる二人。

「は、半蔵様……?」

顔を青くする郭。

「何言ってんだよ、俺のほうが半蔵のこと百倍好きだよ」
「いや、だったら俺はその千倍浜面のこと好きだよ」
「ちょっ、後出しはずるいだろ。俺はむしろお前のこと愛してるっつってんの」
「ふざけんなよお前先に言いやがって。俺だって浜面のこと一万年と二千年前から愛してるよ」


「おい、どういうことだよ? 誰か止め……」

上条は振り返ったが、女性陣は誰一人として止めに入るために進み出てはくれなかった。

「おい、『心理定規』……」
「あなた、まさか……」

麦野と絹旗に見られても、『心理定規』はそ知らぬ顔をしていた。


「……もうだめだ! 浜面ァァァ!!」
「あはん! こんな所でェー!!」


「貴方達、しばらくそうしてなさい」

『心理定規』が言い捨てた。
173 :1[saga]:2011/03/28(月) 01:09:08.05 ID:ZmFpkswl0



三十分ほど濃厚なシーンを披露した後、二人はひどく傷ついていた。

「俺には滝壺が滝壺が……」
「いっそ殺してくれ……」

郭も相当傷ついていた。

「半蔵様が、半蔵様の貞操が浜面氏に……」


上条はため息を一つ吐いて、傷心の浜面に声をかける。

「盛り下がってる所悪いんだけどさ、垣根を返してやってくれよ。
 滝壺さんが攫われたのは許せねえけど、やっぱり誘拐はよくないって」

なだめられて、浜面は小さくうなずいた。

「……ああ……」

納得したというよりは、ショックで何も考えられないようだ。

そこへ。

「そもそもさ、浜面テメェ、何か勘違いしてない?」

腕組をした麦野が浜面の前に立ちはだかる。

「え……」
「『アイテム』のリーダーは私だろ。
 滝壺は浜面の彼女である前に『アイテム』の一員なんだし、攫われたらまず私に言えよ」
「超そのとおりです。そこまで頭が回らずに変な方向へ空回ってしまうあたり超浜面らしいですけど」
「ったく、ちゃんと相談しろってば。
 さっさと滝壺取り戻すぞ。ホラ、立て浜面」

出来の悪い弟の面倒を見るような、呆れながらも優しげな調子で、麦野は彼の方へ手を伸ばす。

「お前ら……」

力強く、その手を取る。


これが、アイテムだ。

三人は頷き合い、滝壺奪還の作戦会議のため、いつものファミレスへと向かっていった。



「……ねえ、彼は?」

『心理定規』が残された服部をにらみつけると、
郭に支えられてやっと立っていた服部は肩を震わせ、南の方向を指差した。

「あっちのビル……」
「そう。どうも」


こうして、垣根帝督は『心理定規』の手によって無事元の場所へ返された。


「……ひどい落ちだな」
「にゃー」

上条とスフィンクスは、なかば呆然とその顛末を眺めていた。
174 :1[saga]:2011/03/28(月) 01:11:02.11 ID:ZmFpkswl0



「滝壺理后は学園都市に攫われた、か……」

静かになった通りで、上条は呟いた。

「統括理事会は何を考えてるんだ? 女の子を攫って一体どういう……」
「心配かにゃー?」
「そりゃそうだろ。『アイテム』の奴らが頑張ってくれるとはいえ、
 俺も何かできることは……おい」
「ん? どうかしたか? かみやん」
「土御門。なんでお前がいるんだ」


土御門元春が、そこにいた。


「謎のキャンピングカーに拉致されたんじゃなかったっけ?」

ため息混じりにたずねると、土御門はへらへら笑った。

「かみやんがいつまで経っても助けに来てくれないから、自分で脱出したぜよ。
 ところでかみやん、滝壺を助けるつもりなら、
 やっぱり学園都市と交渉するのが手っ取り早いと思うぜい」

土御門の提案に、上条は眉をひそめた。

「第二位を誘拐して交渉? 返してきたばっかりだぞ」
「違う違う。普通に統括理事長に会って話し合えばいい。
 かみやんはなぜかベシャリで押し切っちまうところがあるから、
 話し合いの席まで持っていければ案外うまくいくかもしれないぜい」
「押し切るって……」

自分に説教癖があるのは何となく自覚していたが、
押し切るだとか押し付けるだとかいうことをしているつもりはない。
抗議しようと口を開くが、土御門の次の言葉に遮られた。

「とにかく、会ってみて損はないはずだ。統括理事長。
 言いたいことは他にも色々あるだろ?」

学園都市の統括理事長、アレイスター=クロウリー。
確かに、その人物には言ってやりたいことはいくつかあった。
何を企んでいるのか分からない、不気味な相手。

上条は少し考え、そして言った。
175 :1[saga]:2011/03/28(月) 01:12:24.99 ID:ZmFpkswl0


「……会ってみたい気はするけど、『窓の無いビル』に入る方法なんてあるのか?」
「そりゃ、出入りが全く出来ないんじゃビルである意味がないにゃー。
 特別に選ばれた人間だけが『案内人』を通して入ることができるんだぜい」
「『案内人』?」
「そう。リストに入ってる結標淡希ってのがそれだにゃー」

つまり、次はその子を助けろということか。

確かリストでは行方不明扱いになっていて、月詠先生の同居人だったはずだ。
上条がA4用紙を広げて眺めていると、土御門がもう一枚、同じような紙を差し出してきた。

「そうそう、そのリスト、抜けがあったり誤字があったりでひどい状態だから、更新しといたぜい」
「……更新? 『救助リストVer2.0』って……土御門、お前……」

上条が一言文句をつけてやろうと思った、その時だった。

すぐそばのビルの陰から突然謎のキャンピングカーが現れ、上条達の前に停車すると、
中から黒ずくめの男達が降りてきて土御門を抱え上げ、無理やり車に詰め込んでしまった。

「うわあああ! またしても攫われるぅーッ!!
 助けてかみやーーん!!」

「お前はピーチ姫か」


キャンピングカーは瞬く間に視界から消えた。
176 :1[saga]:2011/03/28(月) 01:13:03.72 ID:ZmFpkswl0

■■■■救助リスト(Ver2.0)■■■■

===イギリス清教===
必要悪の教会
   禁書目録         【誘拐:必要悪の教会の裏切者】
   ステイル=マグヌス     【捕縛:必要悪の教会の裏切者】

ロンドン女子寮
   神裂火織         【捕縛:必要悪の教会の裏切者】
   オルソラ=アクィナス    【迷子】

天草式十字凄教
   建宮斎字         【消息不明】
   浦上           【消息不明】
   五和           【消息不明】
   牛深           【消息不明】
   香焼           【消息不明】
   諫早           【消息不明】
   野母崎          【消息不明】
   対馬           【消息不明】
   他44名          【消息不明】

アニェーゼ部隊
   アニェーゼ=サンクティス  【消息不明】
   シスタールチア      【消息不明】
   シスターアンジェレネ   【消息不明】
   他約200名         【消息不明】


===英国王室===
   エリザード        【捕縛】
   リメエア         【捕縛】
   キャーリサ        【捕縛】
   ヴィリアン        【捕縛】


===騎士派===
   騎士団長         【捕縛】


===結社予備軍===
新たなる光
   レッサー        【消息不明】
   ベイロープ       【消息不明】
   フロリス        【消息不明】
   ランシス        【消息不明】


===ローマ正教===
   ローマ教皇        【誘拐】

神の右席
   フィアンマ        【捕縛】
   ヴェント         【捕縛】
   アックア         【捕縛】


===ロシア成教===
   サーシャ=クロイツェフ  【行方不明】


===エリザリーナ独立国同盟===
   エリザリーナ       【行方不明】
177 :1[saga]:2011/03/28(月) 01:13:30.69 ID:ZmFpkswl0

===学園都市===
とある高校
   月詠小萌         【解決済】
    結標淡希        【行方不明】
   姫神秋沙         【行方不明】
   吹寄制理         【解決済】
   青髪ピアス        【行方不明】
   土御門元春        【拉致:謎のキャンピングカー(三回目)】

御坂勢力
   御坂美琴         【誘拐】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-12500)    【解決済:一方通行】
   妹達(12501-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【誘拐】
   初春飾利         【誘拐】
   佐天涙子         【誘拐】
   エツァリ         【行方不明】
    ショチトル       【行方不明】

黄泉川家
   黄泉川愛穂        【解決済】
   芳川桔梗         【行方不明】
   一方通行         【解決済】
   打ち止め         【解決済】
   番外個体         【解決済】

新生アイテム
   麦野沈利         【解決済】
   浜面仕上         【解決済】
   滝壺理后         【誘拐:学園都市】
   絹旗最愛         【解決済】

旧スクール
   垣根帝督         【返却】
   心理定規         【解決済】

忍者
   服部半蔵         【解決済】
   郭            【解決済】

その他
   風斬氷華         【現出不安定】
   スフィンクス       【解決済】
   冥土帰し         【解決済】
NEW! 上条刀夜         【行方不明】
NEW! 上条詩菜         【行方不明】
NEW! 御坂旅掛         【行方不明】
NEW! 御坂美鈴         【行方不明】

178 :1[saga]:2011/03/28(月) 01:14:02.00 ID:ZmFpkswl0




「えっ」




179 :1[saga sage]:2011/03/28(月) 01:14:41.77 ID:ZmFpkswl0


つづく

あ、ていとくん羽しか出てない……
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2011/03/28(月) 01:16:29.37 ID:Me7amhqRo


……かつて読んだSSの中でも最悪の能力だ。
心理定規……恐ろしい娘。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/03/28(月) 01:21:41.37 ID:Mvbq389IO
上条、御坂両家親追加wwwwww 
 
 
204 :1[saga]:2011/03/31(木) 01:14:14.23 ID:kUqq65hr0
とある高校は、昼休みだった。

上条は学校の廊下を速足で歩く。
授業を受けるためではない。小萌から話を聞くためだ。

結標淡希は小萌の同居人らしい。
手掛かりを持っているとすれば彼女だろう。

すれ違う同級生に重役出勤をからかわれながら、彼は職員室へ足を踏み入れた。


「上条ちゃああああああん!!!!」


小さな先生が飛びついて来た。

205 :1[saga]:2011/03/31(木) 01:15:16.53 ID:kUqq65hr0


「せ、先生! どうしたんですか!?」
「どうしたもこうしたも……今までどこで何してたんですか?
 姫神ちゃんも土御門ちゃんも青髪ちゃんも上条ちゃんもいないし、
 みんな揃って連絡つかないし、先生は、先生はぁっ……」


どうやら、多大なご迷惑とご心配をお掛けしてしまっていたらしい。

小萌は昨日立てこもり事件の人質にされたばかりだというのに、
もう生徒のことしか頭にないようだった。

むしろあんな事件に巻き込まれたからこそ、
ただの無断欠席に過剰反応しているのかもしれない。


「とっとにかく、うう、上条ちゃんが無事でよかったですっ……」

泣きじゃくりながら上条の頭を撫でようとするピンク髪の教師。
背が低いので届かなかったが。
206 :1[saga]:2011/03/31(木) 01:17:12.99 ID:kUqq65hr0


「俺は無事だし、姫神も青ピも必ず連れて帰ってみせます。
 それから――結標淡希も」

「結標ちゃんも、ですか? というか土みか」
「先生、結標がどこにいるか分かりませんか? 手掛かりになるようなことなら何でも」

真剣な瞳を向ける上条に、小萌は涙をぬぐって答える。

「それが……先生も分からなくて。
 一週間くらい前から連絡が取れなくなっちゃったのです。
 帰って来ないことはよくあるですけど、電話にもメールにも反応ないのは初めてで、
 それで心配になって、昨日はお休みして探してたんですけど……」

「それが何で打ち止めと遊園地になるんですか?」
「遊園地を捜そうとしたんです。結標ちゃんは遊園地が好きだから。
 他の場所は捜し尽くしてしまったので、一か八かで入ってみたのですよ」

そこで、打ち止めが「ミサカもミサカもー」と言いながらタックルして来たらしい。

「遊園地が好き?」
「はいー。遊園地というより、小さなお子さんがいっぱいいる所が好きみたいですね」
「……?」

結局、遊園地にも結標はおらず、そのまま人質にされ、警備員に保護され、
結標の捜索も彼らに任せて、現在に至るという。
207 :1[saga]:2011/03/31(木) 01:17:56.41 ID:kUqq65hr0


「心当たりはみんな先生が捜した後か」
「先生が思いつくような所にはいなかったですー」

そう言って、小萌は肩を落とした。

「何かの事件に巻き込まれたかもと思うと、先生はもう心配で心配で……」

うぐぐ、と涙ぐむ見た目幼女の先生を、上条は慌ててなだめる。

「せ、先生! 落ち込まないで下さい! 俺が必ず何とかします!」
「上条ちゃんが? 気持ちは嬉しいですけど、これから午後の授業が……」
「待ってて下さい!! 先生!!」


上条は午後もさぼった。

208 :1[saga]:2011/03/31(木) 01:19:53.16 ID:kUqq65hr0


校門の前で大人しく待っていたスフィンクスと合流し、上条は学校を出た。


警備員の詰所には、またしても黄泉川がいた。

「先生、授業は?」
「こっちの台詞じゃん。こんな所で何してる?
 さすが月詠センセんとこは問題児だらけじゃん。うらやましいよ」
「う……」


「ウチの学校の生徒が三人も行方不明だし、月詠センセの同居人もいないし、
 他にも色々問題起こってるし、警備員は大忙しじゃん。交代で授業は休んでるじゃんよ」
「そっか……。結標について分かったことを教えてほしいんだけど」
「学校さぼって何してるんだか……ま、いいか」

ため息をひとつ吐いた後、黄泉川は教えてくれた。

「ちょっと前にね、女の子が黒服の男達に襲われてるって通報があったじゃんよ。
 他の班員が駆け付けたんだけど、現場はすでに無人だった。
 その襲われてた女の子の身体的特徴が、月詠センセんとこの居候に酷似してるって話じゃん」

「黒服の男達?」
「何か、目撃情報によると、宗教団体みたいな怪しい感じの格好だったらしいじゃん」

(……魔術師……)

上条は唇を噛む。
209 :1[saga]:2011/03/31(木) 01:21:24.16 ID:kUqq65hr0


魔術師たちが学園都市に入り込み、何かよからぬことをしているのは間違いない。
現に昨日上条も襲われたし、妹達はローマ正教の魔術師たちに捕えられている。

(一体何をするつもりだ?)


他に手掛かりはないかと尋ねるが、黄泉川は首を横に振った。

「一切なし。今頑張ってるとこじゃん。
 お前とその子の間に何があるのか知らないけど、
 先生たちに任せてさっさと学校に戻るじゃん」

「……はい」

上条は素直にその場を去った。
が、もちろん学校へは戻らない。


スフィンクスとともに近くの通りを歩きながら、上条は考える。

(結標が襲われた現場はからっぽか……)

(一応行ってみるか? ……無意味になりそうだな。
 他に何か手掛かりは……)


ふと、思いついた。

土御門から聞いていた話。


「そうだ、結標は一方通行の同僚? だったことがあるんだっけ」
210 :1[saga]:2011/03/31(木) 01:22:29.61 ID:kUqq65hr0


あまり期待はできなかったが、上条は携帯電話を取り出し、
最近新しく登録された番号へと発信した。


コール十回。

もしや無視されているのでは、と思った所で、相手は応答した。



『이것은 좀비입니까!?』



「!? あ、一方通行……?」
『なンだオマエかよ。何の用だ』

日本語に戻ると途端に知り合いの声だということが確信できた。
間違い電話をしていなかったことにほっと安心し、上条は話し出す。

「お前、韓国にいるのか?」
『丁度いま、ソウルの妹達を救出したとこだ』
「それはよかった。ところで、結標について聞きたいんだけど」
『ハァ……?』

211 :1[saga]:2011/03/31(木) 01:23:34.95 ID:kUqq65hr0


上条が事の次第を簡単に説明する間、一方通行は黙って聞いていた。
色々とカオスな話だが、流石第一位というべきか、彼は大体の事情を呑み込んでくれた。


『オマエ、何かズレた所を斜めに走ってるよな』
「うるさいな。いいから何かヒントない? 結標のヒント」
『つっても、ここンとこ全然顔も合わせてねェし……待てよ』

一方通行が、何か思いついたように声を上げた。
上条が先を促すが、彼はどこか歯切れの悪い調子になる。

『あー、もしかしたら……』
「何だ? 何かあるのか?」

『確か、今日は金曜日だったよな』
「ああ。それで?」
212 :1[saga]:2011/03/31(木) 01:25:39.59 ID:kUqq65hr0

『……第一三学区のよォ』

「うん」

『……東の端になァ……』

「うん」

『幼稚園があるンだわ』

「……うん?」

『そこじゃ毎週金曜の二時からは、お歌と踊りのお稽古って決まってるらしくてよ』

「…………う、うん」

『今から駆け付ければそれに間に合うかも知ンねェから行ってみろ』

「……………………はい?」

ブツン。

と、音がして、通話が切れた。

「何だ今の……?」
「にゃー」

意味が分からなかった。

こんな時にお遊戯会の、しかも稽古なんか眺めてる場合かよと思ったが、
何の手がかりもないのも事実である。

上条はバスを使い、第一三学区へと向かった。

227 :1[sage saga]:2011/04/07(木) 00:23:08.78 ID:FojNYDRV0

目的の幼稚園はすぐに見つかった。

西洋のお城のような屋根の付いた、カラフルでかわいらしいデザインの建物だった。
裏に回ると廊下側の窓の中が外からでも窺える。

園内を囲むフェンスを辿って進む。

正門の真裏へ回り込むと、そこに人影があった。
ちょうど、お歌とおどりの練習中の教室が見えるあたりだ。


「うふふ……見える見える……」

「あらたかし君、右回りと左回り、間違えないようになったじゃない……」

「ひとし君てば、上手になって……」

「これのために一週間生きてるようなものだわ……」



何かいる。

228 :1[sage saga]:2011/04/07(木) 00:24:31.00 ID:FojNYDRV0

「む……結標淡希?」
「!」

上条が恐る恐る声を掛けると、フェンスにへばりついていた女が振り返った。

年齢は上条と同じか少し上くらい。
赤みがかった髪を二つに縛っている。

ここまではまだ普通だが、服装は奇抜だった。

どこかの学校の制服に着こなしアレンジを加えまくっている印象だ。
上はピンクのサラシのようなものを胸に巻き、ブレザーを肩にかけただけ。
下はやたら短いスカート。
つまり露出が多い。

妙に扇情的だ。


(本当にミニスカートに縁があるな……ってそれどころじゃない)


上条が結標を観察している間、彼女の方でも上条をじろじろ見ていた。

「貴方誰? 見たところ学園都市の人間のようだけど、また私を狙った連中じゃないでしょうね?」
「俺は上条当麻。お前を助けに来た」
「私を? ……」

「……どっちかっていうと、今は黙って帰ってくれた方が助かるんだけど……」

結標は、踊る園児たちの方をちらりと見て言った。

229 :1[sage saga]:2011/04/07(木) 00:26:33.81 ID:FojNYDRV0

「――成程。小萌の生徒さん」

事情を説明すると、結標はすんなり納得してくれた。

「小萌には確かに悪いことをしたわ」

「襲われた時に携帯を落としてしまって。
 そのまま逃げ続けていたから連絡が取れなかったの」
「何で襲われたのか分かるか?」

結標は、肩をすくめてふう、と息を吐いた。

「私が狙われたのは、『レムナント』を運び出そうとしていたかららしいわ。
 今じゃもう興味もないけど、彼らは欲しがっていたみたい」

レムナント。壊れた『樹形図の設計者』の破片。
それを使えばまた『樹形図の設計者』を作り上げることができるという代物だ。

しかし、そんなものを魔術師が欲しがるだろうか?

「あれはとっくにバラバラにされているから、私はお役に立てないと言ったんだけどね」
「今も逃げてる最中なのか?」

「ええ。どこへ逃げてもすぐに見つかってしまうの。
 彼ら、どんな能力者を味方につけているのかしら」

結標は首を傾げる。
まさか、魔術師が不思議な呪文で居場所を特定してきているなどとは考えないのだろう。
上条もこの件が魔術師の仕業かどうかは半信半疑だった。

「しかしそんな中でもお遊戯のお稽古は見逃さないとは……」
「悪漢のために生きがいを諦めるというの? 冗談じゃないわ」


上条は、「そうか」とだけ答えた。

230 :1[sage saga]:2011/04/07(木) 00:27:45.95 ID:FojNYDRV0

「学園都市と交渉したいんだ。力を貸してくれないか?」

追手の影を警戒しつつも、結標に問いかける。
彼女と行動を共にする以上、何かあれば必ず守り抜くつもりだ。

滝壺の件はすでに彼女に話してあった。

結標自身、学園都市そのものにはいい感情を持っていないようで、
都市と対峙すること自体は抵抗がないようだった。

「『窓のないビル』に行きたい。そこで統括理事長と話をつける」
「……案内だけなら構わないけど。上手くいくとは思えないわね」

結標は学園都市の闇を知っている。

「やるだけやるさ」

上条は、少女の目を見て何故かそう思った。
231 :1[sage saga]:2011/04/07(木) 00:28:47.35 ID:FojNYDRV0

「それじゃあ、ここから歩くよりは私の能力で移動した方が早いわね」
「能力ってどんなの?」
「空間移動系の高度なものよ。対象に触れなくても好きな場所へ移動できるの」

結標は、上条から一歩距離を置いて、言った。

「準備はいい? と言っても、貴方はただ立っていればいいのだけど」
「いや……多分ダメだと思う」
「? 何が?」

「俺の右手には『幻想殺し』ってのが宿ってて、異能の力は全て打ち消しちまうんだ」

それを聞いた結標は、しばらく無言で上条を見つめていた。

「……信じられない。本当に移動しない……」
「と、いうわけだからさ、悪いけどバス停に付き合ってもらえるか」
「それはいいけどね。一つ問題があるわ」
「何?」

結標は呆れたような顔で上条を眺める。

「私の『座標移動』が効かないと、あのビルの中へは入れないわよ」
「えっ」
「……当然でしょう? この能力があるから私が『案内人』に選ばれたのだから」
「……」

二人はしばし立ちつくしていた。

232 :1[sage saga]:2011/04/07(木) 00:29:36.99 ID:FojNYDRV0



最近電話帳に登録した番号その二。

浜面へ電話を掛けると、当然のように『アイテム』のメンバー達が付いて来た。
仲がいいんだな、と上条は適当な感想を抱く。

もともと、学園都市と交渉したがっていたのは浜面だ。
それに、滝壺は上条よりも彼ら『アイテム』が助け出すべき少女である。
上条が手出しできない以上、ここは彼らに任せるのがいいと思ったのだ。


「案内人捕まえたって!?」
「捕まえたって言うか、助けたって言うか……いや、ただ会っただけだな」

特に追いかけてもいないし危機から救ったわけでもない。
それを思い出し、上条は自らの言葉を訂正した。

「とにかく、この子についていて貰えば、あのビルの中に入れるんだな」

浜面は露出の多い結標を前に目のやり場に困るようで、
どうにか彼女の耳当たりに視線を定めていた。

233 :1[sage saga]:2011/04/07(木) 00:30:42.88 ID:FojNYDRV0


『窓のないビル』前。

すべての壁に何もないせいでどこがビルの正面なのか分からないが、
とにかく彼らはそのビルの前に集結した。


「統括理事長か……ついにここまで来たわね」
「超長かったです……」
「俺たちのラスボスだよな」

『アイテム』の面々がそれぞれの感慨を口にしている。
彼らの物語はここが最終章ということになるのだろう。

(こいつらもこいつらでドラマがあるんだろうな……俺の物語は半分も進んでないけど)

名前が増えるばかりの救助リストを思い出し、上条は胸のあたりにずしりと重たい物を感じた。



「それじゃあ、結標。頼む」

浜面の言葉に、結標は無言で肯いた。

一度に四人も運べるのか? と上条は思ったが、彼女は平気な顔をしている。

彼らは、『窓のないビル』へと乗り込んで行った。

234 :1[sage saga]:2011/04/07(木) 00:31:15.84 ID:FojNYDRV0



そして二分で戻って来た。


「!? 早いな?」

思いがけず目の前に現れた四人を見て、上条は後ずさる。

「交渉はどうなったんだ? 滝壺は? ……統括理事長は?」

麦野が舌打ちした。

「いない。アレイスターのクソ野郎、どこかへ消えてやがった」

235 :1[sage saga]:2011/04/07(木) 00:31:42.31 ID:FojNYDRV0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===学園都市===
理事会
new! アレイスター=クロウリー  【失踪】








「どうせこんなこったろうと思ってたよ!」

236 :1[sage saga]:2011/04/07(木) 00:33:15.09 ID:FojNYDRV0

つづきます

うーん
まだ半分も助けられてないのか そうか……
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/07(木) 00:36:17.34 ID:OYmG8avPo
乙ですた
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/07(木) 00:46:47.88 ID:cLa+wVhJo
終わりが見えないwwww
乙 
 
244 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 03:55:57.84 ID:eBL18MQ90

「不幸だぁぁあああああ!!」


上条当麻は叫んでいた。

統括理事長との直接交渉権を得たと言われてやって来て、
それが結局無駄足だったと知った麦野に本気で攻撃されているからだ。

可憐な乙女から放出される極太ビームを避けたり消したりしながら、
彼は窓のないビルの近所を走り回る。

それを、浜面は気の毒そうに、絹旗はやや楽しそうに見ている。

結標はこれといって感慨もなさそうに眺めている。


そんな午後。


245 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 03:57:41.00 ID:eBL18MQ90

「ここで落ち込むのは超早いですよ!!」

仲間たちに気合を入れるように、絹旗はしっかりとした口調で言った。

「ま、私は落ち込んでなんかいないけどねー」

いい具合にストレス発散した麦野が、晴れやかに応じる。

「よし、じゃあ行くか!」

浜面は先頭に立って歩き出す。
また、滝壺を助け出す手掛かりを見つけるために。

へこたれない。

これが、アイテムだ。


彼らの後姿を見つめて、ぜえぜえと息を吐く上条は文句を言いたくても声が出せなかった。

『アイテム』に気合が入ったのは結構だが、上条の方は振り出しになってしまった。

そもそも統括理事長が学園都市を放り出して失踪とは何事か。
魔術師が入り込んでいるというのに対応が遅れ気味に感じられるのはそのせいかもしれない。

そこへ、ふと思いついたように結標が近寄って来た。

「学園都市と交渉をしたいのよね?
 理事長ほどの権限があるわけではないけど、もう一人心当たりがあるわよ」
「何だって? 誰?」
「親船最中。学園都市統括理事会の一人だけど、あの中じゃまともな方ね。
 ある事件を通じて知り合ったのだけど、それ以来縁があって」
「親船って……もしかして」

上条の表情が曇る。
彼女はかつて、上条の目の前で拳銃で撃たれたのだ。
しかも、土御門に。

あの光景はなかなかショッキングだった。

「会ったことがあるの?」
「一度だけ。……あの人、体は大丈夫なのか?」
「いたって健康だと思うけれど」

結標の案内で、二人と一匹は親船邸へと向かうことになった。


246 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 03:59:25.37 ID:eBL18MQ90

親船の居住は、静かな学区にあった。

端整だが生活感が無い。
偉い人の住みかってのはこんなもんなんだろうな、と上条は適当に思う。

まず結標が一人で親船の家へ行って話を通すと、思っていたよりも簡単に招き入れられた。

「貴方の名前を出したらすぐに許可が下りたわよ。貴方一体何者なの?」

戻って来た結標にまじまじと見つめられ、上条はあいまいに返事をした。

「さあ……?」


お偉方にしては質素。

ただし、上条の住む学生寮などは比べるべくもない。
廊下がある時点で勝負にならない。
当たり前だが。

親船最中の自宅は、そんな印象の邸宅だった。

玄関を上がり、電灯(おしゃれ)の灯る廊下を歩き、応接室へ通される。

秘書らしき男の手で扉が開かれた。


そこには、




「よかった!! ちゃんといたよ!!」


「……はい?」


親船最中が、優雅にソファに腰かけていた。


247 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 04:00:44.58 ID:eBL18MQ90

「最近どいつもこいつも行方不明だの誘拐だのって目に遭ってるから、
 どうせあんたも謎の集団に拉致とかされてるんだろうと思ってたんだ」

年老いた理事の向かいに座り、上条が先程の叫びの理由を説明すると、
向かいの女性は苦笑した。

「確かに、ここ最近は学生や研究者が何人も学園都市から姿を消しています。
 ですが、私の身の上まで気に掛けて下さるとは思わなかったわ。どうもありがとう」

優しげな目つきで上条を眺める親船。
かわいい孫を見るような瞳だ。

そういう目で見られると、何となく、照れくさくなる。

「――って、ほのぼのしてる場合じゃない。
 単刀直入に聞きたい。滝壺って学生が学園都市に誘拐されたって話は本当か?
 本当ならどうして……ってのはとりあえずいい。今どこにいる? 無事なのか?」

室内に、ピンとした空気が張り詰める。

ただ穏やかだった親船の瞳に、真剣な光が宿った。

「誘拐……そう思われても仕方がありませんね」

彼女はひとつため息を吐き、続けた。

「本当はこんなことを一学生に聞かせていいものではないのですが、
 あなたには借りもあるし、あなたの性格もある程度分かっているつもりです。お答えしますよ」


248 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 04:01:44.42 ID:eBL18MQ90

使用人の女性が入って来て、三人の前にコーヒーを置いた。
ついでにミルクを与えられたスフィンクスは、お礼を言うように鳴いて、ぺろぺろ舐めはじめた。

コーヒーを一口飲んで、親船が話を再開する。

「あなたがどのくらい事態を把握しているのか分かりませんから、始めからお話しましょう。
 変化があったのはおよそ一か月前。学園都市に所属する研究者たちが謎の失踪を遂げ始めたのです。
 その数、現在まで合わせて百五十人」

「……それは初耳だ」

249 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 04:02:29.26 ID:eBL18MQ90

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===学園都市===
その他
new! 研究者(約150人)     【失踪】


250 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 04:04:23.57 ID:eBL18MQ90

「……それで?」

「一人二人程度なら、今まででも無くはなかった。
 ご存じのとおり学園都市から逃げ出すのはそう簡単ではありませんけどね。
 しかし、二桁を越えるのは異常です」

「警備員に任せきりだった調査を理事会直下の組織にも命じて、
 本腰を入れて取り組んだのが最初の失踪から一週間後」

ここで、親船は一度言葉を切った。
そこへ結標が代わりに口を開く。

「百五十人消えるまで、一週間も足踏みしていたの?」
「その時は失踪者は二十人でした。後手に回ってしまったことには変わりありませんが」

結標の問いかけに、親船は苦しげに答える。
本当に自らの失態を恥じているようだ。

「そして、ぼんやりとですが事件の輪郭が浮かび上がってきました」

気を取り直すように背筋を伸ばし、老いた理事は続ける。

「研究者の失踪の原因は、外部の人間による誘拐だったようなのです。
 これには理事会もショックでした。学園都市の『壁』をかいくぐって何十人も攫われていたのですから」

「世界の科学の頂点を名乗っておきながらこの様。学園都市の威厳にも傷が付くでしょうからね」
「そんなことはどうだっていいだろ……」

結標が皮肉めいた調子で吐いた言葉に、上条は顔をしかめる。

「そのとおり。まずは攫われた人たちを助け出さなければなりません。
 調査は続けられ、外から来たと思われる一人の男を捕えることに成功しました」
「何か喋ったの?」

親船はこくりと肯き、

「正確には喋ったというより、喋らせたのでしょうね。彼はロシア成教の魔術師だと名乗りました。
 ある目的のために、学園都市の優れた研究者が必要なのだそうです」
「ロシアって……ついこの間まで戦争してた相手じゃない?」

結標は訝しげに顔をしかめた。
魔術と関わりのない生活をしていれば、その印象しかないだろう。
そこの宗教団体が絡んでくる理由は戦争がらみだと感じるかもしれない。

251 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 04:05:34.65 ID:eBL18MQ90

「それで、滝壺は結局どこに誰に攫われたんだ?」

上条が先を促す。

「彼が捕らわれた事で、向こうを正体を隠すのをやめました。
 ロシア成教を堂々と名乗って要求を突き付けて来たのです。
 ……滝壺理后を渡せと」

苦しげに語る親船。
そこへ結標が質問を重ねる。

「まさか言うとおりに渡したんじゃないでしょうね?」

なにせ、親船のこの表情である。
学園都市のプライドに掛けてもそんなことはしないと思うが、ついそういう心配をしてしまう。

しかし、わざわざロシア成教の機嫌を損ねないためだけに、
統括理事会が学生を引き渡すような真似はしないだろう。

浜面によれば滝壺はレベル4である。
そんな貴重な人材を、そう簡単に手放したりは

「渡しました。それが統括理事会の決断です」

おおりじかいよ、わたしてしまうとはなさけない!

「どういうことだよ!? 学園都市がロシア相手にそこまでする義理があるのか?」
「何か弱みでも?」
「順を追って話しましょう」

恥入りながらも、冷静にその場を取り仕切る親船。

252 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 04:06:36.37 ID:eBL18MQ90

「もちろん、最初は断りました。『これ以上暴慢な振る舞いをすればこちらも黙っていないぞ』という警告付きで。
 むしろ滝壺理后は絶対に向こうへ渡すまいとして、彼女を『保護』したのです。
 ……それが一週間前」

「浜面の目の前で滝壺が連れてかれたってのはその時か」
「そりゃ学園都市に攫われたと勘違いもするでしょうね」

「しかし、一昨日のことでした……彼らから『第一位を預かった』と通信が来たのです」

「「え!?」」

上条と結標が同時に素っ頓狂な声を上げる。

結標が叫んだのは第一位がそう簡単に他人に捕まる人物ではないと知っているからで、
上条の方は、ついさっきその第一位と携帯電話で連絡を取ったばかりだからだ。

「そんなわけないでしょう!?」
「事実、第一位とはずっと連絡が付きません」
「そういえば、ミサカネットワークが切れて倒れてたかも知れないけど……
 今なら電話に出られるはずだ。俺さっきしたし」
「何ですって?」

証明すべく、上条は一方通行の携帯電話へもう一度電話を掛ける。

コール十回。

毎回待たせる奴だな。


253 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 04:07:46.05 ID:eBL18MQ90

「……出ない……」

なんと、今回は本当に出なかった。

「でしょうね。今はロシア成教の手の内ですから」
「違うんだって。昨日も会ったし……」

どうやら、親船は信用してくれないらしい。
上条は歯がゆい思いをしたが、それくらいの不幸は日常茶飯事である。

「それで、第一位と引き換えに滝壺さんを渡せと言われたというわけ?」

これ以上の問答は無駄だと判断したようで、結標が話を先へ進める。

「はい。 第一位の超能力者と少し珍しい能力の大能力者。
 我々はそれを秤に掛けました」

「統括理事会は基本的には多数決制です。結果、滝壺さんを渡すことに決まりました。
 結局今日まで彼は学園都市に返されていませんが」

情けない、とふいにこぼす親船。

申し訳ないが、上条も同じ感想を抱いた。
隣の結標も同じようだった。

「つまり、一方通行を人質に取られて手も足も出ないのか」
「そりゃあ、彼の体には学園都市の能力開発技術の結晶が満載しているでしょうからね」

殺されるのはともかく、他の組織にいじり回されたら大変なことになる。
親船は事の顛末を語り終え、コーヒーを口へ運ぶ。

「もちろん私は反対でした。しかし統括理事会のルールでは……」
「ふざけんなよ……」
「え……」

しばらくのあいだ、上条さんの説教タイムとなった。
254 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 04:10:59.96 ID:eBL18MQ90

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===学園都市===
御坂勢力
   御坂美琴         【誘拐】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-14500)    【解決済:一方通行】
   妹達(14501-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【誘拐】
   初春飾利         【誘拐】
   佐天涙子         【誘拐】
   エツァリ         【行方不明】
    ショチトル       【行方不明】

黄泉川家
   黄泉川愛穂        【解決済】
   芳川桔梗         【行方不明】
   一方通行         【拉致:ロシア成教?】
   打ち止め         【解決済】
   番外個体         【解決済】

新生アイテム
   麦野沈利         【解決済】
   浜面仕上         【解決済】
   滝壺理后         【強奪:ロシア成教】
   絹旗最愛         【解決済】

その他
   風斬氷華         【現出不安定】
   スフィンクス       【解決済】
   冥土帰し         【解決済】
   研究者(約150人)     【失踪】

255 :1[sage saga]:2011/04/11(月) 04:12:10.18 ID:eBL18MQ90
つづきます。

上条さんの仕事が増える一方だぜ
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2011/04/11(月) 04:39:21.01 ID:UqWx90b0o
一方さんの仕事が順調だww
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[sage]:2011/04/11(月) 04:44:13.42 ID:6CwEsoSXo
一方さんナンバリング通りに解決してるんだなwwwwww
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/11(月) 07:15:25.41 ID:XiYLGxFio
一方さんの方が仕事速いじゃねぇかwwwwww


273 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:41:27.19 ID:Zy/6bDTF0


「あー、スッキリした。じゃなくって、心機一転がんばるぞ!!」

長い説教を終えた上条さんは、親船邸を出て夜道を歩いていた。

久しぶりに清々しい気分である。

決して「久々のお説教を楽しんだから」ではない。
一歩だけだが進展があったからなのである。

どういった進展かというと、親船が結標の身柄を預かってくれることになったのだ。

また誘拐かというとそうではない。
彼女は今、魔術師に狙われている身である。
その結標を、親船が統括理事のプライドに掛けて絶対に守り抜くと誓ってくれたのである。

彼女の目は本気だった。
たとえ他の理事を敵に回しても、絶対に結標を魔術師に引き渡したりはしないだろう。

上条の情熱を掛けた説得が親船の心を動かしたのだ。

だから上条さんは清々しい気分なのですよ!
説教癖を満足させることが出来たからではないのですよ!


「それもどうなの……」
274 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:43:16.65 ID:Zy/6bDTF0

帰路につく。

ロシア成教に渡された滝壺を助けに行くにしても、一度準備をする必要があるだろう。

時刻は八時を回っていた。
終バスがとっくに出ているので徒歩で自宅を目指す上条の横で、スフィンクスが緊張したように鳴いた。

「……にゃぅ……」
「うん?」

その異様な声に驚いて立ち止まると、スフィンクスはトトト、と上条の前に進み出て、睨みつけるような視線を彼にぶつけてきた。

「な、何だ……? 腹減ったのか? 家までもうちょっとだから我慢……」

と。

突然、何かに導かれるように駆け出すスフィンクス。

「おい!? スフィンクス!? どこ行く気だよ?」

逃げられると追いかけたくなる――ではないが、急にアクティブになった愛猫に気を引かれ、上条は咄嗟にその後を追いかけた。


猫の足は速い。

が、どこか手加減しているらしい。
スフィンクスは時々後ろの上条を振り返り、付いて来ていることを確認しながら夜道を走る。

上条は奇妙に思いながらも追いかける。

猫って、人間のために手加減して走るんだっけ?

275 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:44:27.73 ID:Zy/6bDTF0



辿り着いたのは第二三学区だった。

航空専門の学区。
実際に飛空テストも行うため、広々として見晴らしのいい地域だ。
飛行機を格納するのだから、そこらの建物もいちいちでかい。

猫を追いかけるのに迷わないのは結構だが、上条の頭は混乱し始めていた。

何で猫が飛行場へ人間を連れて走って来なければならないのだろう。

スフィンクスは、明確な意志を持って上条を連れ回しているように見える。

上条が近寄ると逃げ、離れ過ぎると止まって待つ。
その繰り返しでここまでやって来たのだ。

ふいに、前を走るスフィンクスの姿が、一棟の巨大な建物の中へ消えた。

「勝手に入るなよ!」

慌てて追いかけ、どうやら小型戦闘機の整備場であるらしいそこへ近寄ると、人間用の出入り口の一つが開いているのが見えた。

276 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:46:47.28 ID:Zy/6bDTF0

「お、お邪魔しまーす……」

挨拶すれば勝手に入って許されるとでも思っているのか。

そんなことはないのだが、とにかくスフィンクスが侵入してしまった以上、彼も入らないわけにはいかない。
上条は開いていたドアからまず顔を突っ込み、誰もいないらしいことを確認して中へ入った。


広い整備場だった。

最新式(多分。学園都市だし)の小型機が十数台並ぶ中、ど真ん中に巨大な飛行船が鎮座している。

奥にいる奴はどうやって外へ出るのだろうか。
上条が困るわけではないのでどうでもいいのだが。

「おーい、スフィンクスー?」

呼ぶ声は、遠すぎる向かい側の壁には反響せず消えて行く。

しかし別の声が返って来た。

「にゃー」

その方向へ目をやると、すぐ近くの小型機のハッチの横で、スフィンクスが行儀よく座っていた。

ふう、とため息をつく。

「何やってんだよお前は。そんな所に勝手に上ったら怒られるぞ。俺が」

近寄って、連れ戻そうとする。
その上条の姿を確認したスフィンクスは、首を横へ向けた。

そして、ハッチ横に取り付いている何かのボタンに向かって、思い切り猫パンチした。

「え!?」


ハッチが開いた。

するりと、猫特有のしなやかな動きで、スフィンクスはその小型戦闘機の中へ乗り込む。

「おいおいおい!? 開いちゃうのかよハッチ!? 乗っちゃうのかよスフィンクス!?」

とにかく捕まえて降ろさなければならない。
上条は戦闘機に駆け寄り、側面をよじ登って乗り込み、スフィンクスの方へ手を伸ばした所で、


「うわっ!? 待て! 何で閉まっ……?」


ハッチが閉まって機体が前進を始めた。

277 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:48:41.99 ID:Zy/6bDTF0

どうやら飛行機が近付くと勝手に整備場のシャッターが開くようだ。
直撃を免れたのは良かったが、首尾よく離陸してしまったというのも困りものである。


仮にとうまんくす号と名付けよう。

最新式(多分)小型戦闘機とうまんくす号は、自動飛行機能を備えた賢い飛行機である。

最初に行き先さえ入力してしまえば、離陸、着陸時の微調整から飛行中の障害物の回避まで、
何から何まで自動で完璧にこなしてくれる。

ただし、今回スフィンクスが猫パンチで入力した行き先は滅茶苦茶だった。

正常に動くには動くのだが、このまま入力した目的地へ向かうと、
機体は南太平洋にあるヘンダーソン島という小さな島に着陸することになる。

そして燃料切れで二度と戻れなくなる。

上条は操縦席のモニタに表示される文字や記号の半分も理解出来なかったが、
飛行機が勝手に動いていて、進路が海のど真ん中へ向かっていることには気が付いてしまった。

不幸中の幸いだが、こういう時に叫ぶのにとてもいい言葉を、彼は知っている。



「不幸だあああああーーーーー!!!」



ただし、別に叫んでも意味はない。


278 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:50:50.73 ID:Zy/6bDTF0

「どうする!? どうする上条当麻! どうにかしてこいつの進路を変えるんだ!
 ああもう、何を押せば何が起こるかサッパリ分からねえ!!」

当たり前である。彼は右手と溢れる情熱とフラグ体質以外は他と何ら変わらないただの高校生なのだ。
戦闘機の扱い方などまるで分からない。
辛うじて自分と猫にシートベルトを着用できたくらいだ。

勝手に猛スピードで夜空を直進するとうまんくす号の中で、上条は動転する気持ちを抑えて機類を眺める。

何しろ戦闘機である。
適当に何かいじってミサイルでも発射されたら、上条一人とスフィンクス一匹では責任など取れない。

かといって何もしなければヘンダーソン島行きは確定である。

上条が一か八かで、ゲームのコントローラーの十字キーに近いモノを触ろうとしたその時だった。


『ガ――ガガ――か、――みじょ――ん?』


どうやら無線機らしい、機内に取り付けてある機械から、女性の声が漏れて来た。

突然この機体に無線を掛ける人物になぜ名前を知られているのかは分からない。
しかし助けてくれるなら誰でもいい。

「誰だ!? 俺の知り合い!?」

上条はマイクを取って応答しようとしたが、マイクが見つからないので虚空へ向けて叫んだ。

それで伝わったらしく、また相手からの通信が届いた。

『はい――か、ざ、―ひ―です……あ、やっと安定したみたい』

「風斬?」

通信の相手は、風斬氷華だった。

279 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:52:07.45 ID:Zy/6bDTF0

『えっと、飛行機が勝手に変な所へ行こうとしていて、困ってる……んですよね?』

「そう! そうなんだよ!」

頭のいいお嬢さんだ!

『それじゃあ、ちょっと待って下さい。この戦闘機の内部に侵入して、進路を変えますね』

「え? そんなことできるの?」

有能なお嬢さんだ!

一度、通信が切れた。
風斬はとうまんくす号の進路を変えるため、戦闘機に搭載されているコンピューターをいじるつもりらしい。

確かに風斬は普通の人間ではないのだが、そんなことまで出来てしまうとはにわかに信じがたい。

上条が信じようが信じまいが、その十分後には進路をロシアへ向けた航路図が、とうまんくす号のモニタに表示されていた。

って何でロシア?

『行きたいのかと思って』

家に帰してはくれないのね……

280 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:53:40.64 ID:Zy/6bDTF0

少し待つと、通信機から砂のような音がして、また少女の声が聞こえてきた。

『終わりました。これで大丈夫』

「すげえな……どうやってコンピューターの中に入ったんだ?」

『入ったんじゃないんです』

「入ったんじゃない?」

『閉じ込められているんです。コンピューターの中に』

「はい!?」

無線機越しの風斬の声は、それはそれは心細そうであった。

281 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:56:01.68 ID:Zy/6bDTF0

『世界のAIM拡散力場に異常な歪みが発生しているんです』

「世界の? AIM拡散力場ってあれだよな、学園都市の能力者がいないと発生しない……」

『今は『妹達』が世界中にいるので、世界的な展開が可能なんです。
 ただ、今回のは彼女たちが直接の原因ではないみたいで』

「な、何だか難しくなりそうだな……理解力レベル0の上条さんに手加減してくださいますか?」

『えっと……』

風斬は少し困ったような声を出し、

『できる限り噛み砕きますけど……』

「ああ、頼む」

『一ヶ月ほど前から、少しずつ虚数学区にズレのようなものが発生していたんです。
 何か、ちょっとおかしいかな、くらいの。それが日が経つに連れて段々大きくなって……』

スフィンクスが、地図上の行き先となっている『ロシア』の文字を見て「にゃー」と鳴いていた。
呑気だな、こいつは。

『そして三日前、突然大きな歪みが発生しました。まるで爆発みたいな』

「爆発?」

上条もレベル0とはいえ能力開発は受けている身だ。
爆発と表現する規模の異常があれば少しくらい気が付きそうなものだが、風斬によればそうでもないらしい。

AIM拡散力場を認識できるのは、特別な能力者か専用の機械くらいのものだという。

『私の体は沢山の能力者のAIM拡散力場が寄り集まって出来ていて、
 体温は炎系、声は音波系の能力者に補われて支えられています』

上条が相槌を打ち、風斬が続ける。

『たまたまその時、私の一番近くに電気系の能力者がいました。
 ハッキングを生きがいとするような人で、親友はパソコン、みたいな……
 何ていったかな、くやま……?』

「いいよ。大事な人物じゃないんだろ?」

『はい』

本当はその人は工山規範というのだが、確かに大事な人物ではないので彼については割愛された。

282 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:57:23.50 ID:Zy/6bDTF0

『"爆発"の時に、私の構成に不具合が起きたんですけど、
 近くにいた彼の『自分だけの現実』に大きな影響を受けてしまって』

AIM拡散力場に大きな異常が起きた時、近くにオタクがいたせいで、コンピューターの中の人にされてしまったらしい。

正確にいえば、「コンピューターの中の人」ではなくて、
コンピューター同士のネットワークの中に閉じ込められているのだそうだ。

そのネットワークを通じて個々のコンピューターへ侵入し、ある程度勝手に操作できる。

『でも、セキュリティの壁があって、学園都市のネットワークの外へは出られないんですけどね』

「どっちにしろ難儀だよなあ……」

そのお陰で上条はヘンダーソン島に永住しなくて済んだといえばそうなのだが、出来る事ならなんとかしてやりたい。

『AIM拡散力場が乱されているんです。学園都市以外の何者かの手によって』

「学園都市以外?」

『それが正されれば、自然に私も元の形に再構成されるはずなんですけど……』

二人して、考え込む。

そもそも「外」の人間は、AIMという言葉すら知らないはずだ。
いたずらに乱すことなどできるだろうか。
超能力も信じていない人間がほとんどだというのに。

283 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:58:16.22 ID:Zy/6bDTF0

「分かった。俺が何とかしてやる」

『……はい』

AIM拡散力場の異常。

上条にどうこう出来るような問題とは思えなかったが、上条は請け負ったし、風斬は託した。

彼はどんな無茶なことでもやってのけて来た。
やると言ったらやり遂げてしまうのである。

信頼と実績の上条当麻。

上条が何とかすると言ってくれれば、風斬はそれで安心だった。

そして、彼女は言った。


『――東南東から信号が来てる』

「えっ」


それきり通信が途絶えた。

284 :1[saga]:2011/04/15(金) 00:59:38.10 ID:Zy/6bDTF0


「信号って……すっかりコンピューターっぽくなっちまったな。大丈夫かな、あいつ」

取り残された形になった上条は、ロシア到着を待って独りごちる。

シートベルトを振り切ったスフィンクスが何か言いたげにじっと彼の顔を見つめていた。

「ん? どうした?」

「……」

にゃー、くらい答えるのではないかと思ったが、スフィンクスは黙っている。

「何だよ。大体な、お前が勝手に戦闘機に乗り込んでボタンいじったりするから……」


「勝手に外へ連れ出してしまったことについては謝る」


「!?」



非常に滑らかに、流暢に、猫が喋った。


285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/15(金) 00:59:58.14 ID:6G5OyDHX0
滝壺がさらわれた理由がこれか……!
286 :1[saga]:2011/04/15(金) 01:00:31.29 ID:Zy/6bDTF0


「はい!? え? あれ!?」


パニックに陥る上条の目の前で、スフィンクスは操縦席の隣のシートにしっかり座り直し、顔を正面に向けた。

顔洗いのような動作で、肉級の付いた前足がくるりと顔を撫でる。

みし、と、その小さな体が音を立て……


上条が目を瞬いたその刹那の間に、スフィンクスはそこから消えていた。

代わりに、隣の席に人間が一人。


「ど、ど、どちら様?」


「……ショチトル」


どうやら日本人ではなさそうだ。

褐色の少女がそこにいた。

287 :1[saga]:2011/04/15(金) 01:02:04.02 ID:Zy/6bDTF0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===学園都市===

とある高校
   月詠小萌         【解決済】
    結標淡希        【保護:親船最中】
   姫神秋沙         【行方不明】
   吹寄制理         【解決済】
   青髪ピアス        【行方不明】
   土御門元春        【拉致:謎のキャンピングカー(三回目)】

御坂勢力
   御坂美琴         【誘拐】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-14550)    【解決済:一方通行】
   妹達(14551-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【誘拐】
   初春飾利         【誘拐】
   佐天涙子         【誘拐】
   エツァリ         【行方不明】
    ショチトル       【発見】

その他
   風斬氷華         【中の人】
   スフィンクス       【行方不明】
   冥土帰し         【解決済】
   研究者(約150人)     【失踪】
288 :1[saga sage]:2011/04/15(金) 01:02:44.35 ID:Zy/6bDTF0

つづきます

つまりショチトルは……剥いだのです……

かわいそうなスフィンクス


302 :1[saga sage]:2011/04/17(日) 23:41:18.14 ID:43ses4Tu0

「ショチトル、か」

上条と固い約束を交わした、とある少年の知り合いらしい。

何故彼を戦闘機へ連れ込んだのかと問うと、少女は少しためらった後、こう答えた。

「貴様……いや、あなたを一日観察していた。
 いつもエツァリが語っている『あの男』がどんな人物なのか」

なんと、いつも語られていたとは。

上条の方は私生活で色々ありすぎて彼の事をあまり思い出さないので、少し申し訳なくなった。

「あなたは信頼できる人間だとエツァリは言っていた。
 私は学園都市には不法侵入している身で、エツァリのほかに味方がいない。だから……」

「頼れる人が俺以外に思いつかなかったのか。ってことは、何か困ってるのか?」

こくり、とショチトルは肯いた。

「頼む。お兄ちゃんを……エツァリを助けてほしい」

303 :1[saga sage]:2011/04/17(日) 23:41:56.70 ID:43ses4Tu0


ショチトルは語った。

304 :1[saga sage]:2011/04/17(日) 23:43:11.97 ID:43ses4Tu0

私とエツァリはあの日、『学舎の園』の中にいた。
常盤台中学を含むお嬢様学校の集合地帯だ。

エツァリは常盤台の生徒である御坂美琴を陰ながら見守るため。
そして私は、そのエツァリの行為を咎めるためだ。

エツァリは暇ができるとすぐ御坂美琴を見守りに行こうとする。
その日もそうだった。

奴は優れた魔術師だ。
いつも瞬く間にターゲット……御坂美琴を見つけて、じっと眺める作業に移る。

……そんな顔をするな。
エツァリはエツァリなりに彼女と彼女を取りまく世界を守ろうとしているんだ。
それに、間違った方向へ進もうとしたら私が責任を持って止める。


そういうわけだから、御坂美琴に何かあった事にはすぐに気が付いた。

彼女は「妹達と連絡が付かない」というような事を言って、慌てて走り回っていた。
情報収集のためだろう。

それなら是非役に立とう。陰ながら。
エツァリはそう考えた。

そして、彼女の妹の行方について調べようとした所で、事件は起きた。

305 :1[saga sage]:2011/04/17(日) 23:45:23.51 ID:43ses4Tu0

御坂美琴が、魔術師の集団に誘拐されたのだ。

やつらはみんなゴム製っぽい全身タイツに身を包んでいた。
電気対策のつもりかもしれない。
そこを考えると、超電磁砲の能力については調べがついていたようだ。

何しろ全員全身白タイツだったから、服装からはどこの魔術師なのか判断が付かなかった。
だが、使っている魔術の傾向を見た限りでは、ロシア成教の手の者らしい。

御坂美琴は学園都市第三位の超能力者だと聞いた。
私にはよく分からないが、相当強いのだろう?

しかし、彼女は魔術師との戦闘経験は豊富ではなかったのだろう、
慣れない魔術に翻弄されてあっさり捕まってしまった。

エツァリも陰ながら手助けして全身タイツを二、三人バラバラにしたのだが、相手は数が多かった。

我々の存在に気が付いた全身タイツが数人、こちらへやって来て攻撃を仕掛けて来た。
その相手をしている内に、御坂美琴は魔術的に拘束されて、
移動用の霊装の中へ引きずられて行ってしまったんだ。

306 :1[saga sage]:2011/04/17(日) 23:47:27.98 ID:43ses4Tu0

移動霊装はすぐには発動しなかった。

準備に時間がかかるのかと思ったが、別の目的があったようだ。
御坂美琴が連れ去られてからしばらくして、別の女子中学生が三人、同じ霊装へ詰め込まれて行った。
他にも攫わなければいけない人間がいたから、発動を待ったのだろう。

攫われて来た女子中学生達には見覚えがあった。
というより、エツァリ情報で知っていた。

白井黒子、初春飾利、佐天涙子。
皆御坂美琴の友人だ。
御坂美琴を助けようとして逆に捕まったらしい。

攻撃してきた魔術師をやっと退けたエツァリは、咄嗟にその霊装に自分から飛び乗った。
発動前に彼女たちを助け出すつもりだったようだが、一歩遅かった。

全身タイツたちにより術式が発動、エツァリ達はまとめてどこかへ飛ばされてしまったんだ。

後に残されたのは私だけ。

一度だけ、エツァリから『ロシアに行くらしい』と通信霊装で連絡があったが、それきりだった。

この時ほど自分の無力さを悔やんだ事はない。

全身タイツに襲われた時だって、私はエツァリの足手まといになっていた。
私を守りながらでなければ御坂美琴を助け出す事が出来たかもしれないのに。

そして、今も無力なままだ。

私も魔術師のはしくれだが、戦闘は得意ではない。
一人でロシアへ行っても邪魔になるだけかもしれない。

でも、じっとはしていられない。

それで……エツァリが唯一学園都市で信頼できる人間だと言っていた、あなたを頼る事を思いついた。

307 :1[saga sage]:2011/04/17(日) 23:48:08.43 ID:43ses4Tu0

だが、エツァリの言葉をそのまま信じるわけにもいかない。

だから飼い猫に化けさせてもらって、一日あなたを見ていた。
そして、思った。
この人なら大丈夫だと。
エツァリの評価は間違ってはいないと。

関係ない人間を巻き込むのは申し訳ないと思っている。

だが、私には他にどうしようもできない。

頼む。エツァリを助けたい。

協力してほしい。

308 :1[saga sage]:2011/04/17(日) 23:48:37.34 ID:43ses4Tu0


そこまで話し終え、ショチトルは口を閉じた。



では上条さんから感想を一言。


「何かシュール!」



309 :1[saga sage]:2011/04/17(日) 23:49:19.73 ID:43ses4Tu0


上条としては断る理由はない。


役に立てるかどうかは分からないけど、と前置きした上で承諾すると、
ショチトルは安心したように小さく微笑んだ。


戦闘機は順調にロシアへ向かっている。


327 :1[saga sage]:2011/04/21(木) 00:03:26.06 ID:NnylFuPO0

飛行時間は三時間だった。

日本からロシアの端まで。
流石は学園都市製。新幹線のぞみが大阪へと走り抜ける間に、こっちはボルシチとマトリョシカの国へ一直線である。

今更驚かないどころか、ちょっと遅いんじゃないかと思ったくらいだ。
機内の人間に負担が掛からないよう、風斬が速度の設定に手加減をしてくれたのかもしれない。

それでもショチトルは目を白黒させていたが。

328 :1[saga sage]:2011/04/21(木) 00:04:31.14 ID:NnylFuPO0

周囲に何も無い、広い雪原を選んで戦闘機は着陸した。
ハッチを開けて外へ出ると、オレンジがかった空が夕方である事を教えてくれる。

「さて、ロシアって言っても広いけど、エツァリがどの辺にいるのか分かるのか?」

話しながら上条が手を貸してやると、ショチトルは素直に彼の手を取って飛行機から降りた。

「通信術式は何度も試しているのだが……」
「だめか。携帯は?」
「同じだ。何度かけても繋がらない」

となると、寒い大地でいきなり手詰まりだ。

「……」
「……」
「取りあえず、今日の宿を探そうか……」

寒い大地に足跡を描きながら、二人はとぼとぼと歩き出した。



足元にエリザリーナが落ちていて踏みそうになった。

329 :1[saga sage]:2011/04/21(木) 00:05:57.41 ID:NnylFuPO0

「うわあああぁぁぁああああ!?」
「人だ。生きてるぞ」

仰天し、彼女を踏み潰しかけていた足を避けて転倒する上条をよそに、
ショチトルは行き倒れている女性の傍へ跪いて、冷静に脈を測っている。

「それ、エリザリーナだ」
「エリザリーナ? あの独立国同盟の? ああ、駄目だ、脈が今にも途切れそうだ。手遅れかも……」
「普段からそんな感じだから諦めるのはまだ早いぞ」

エリザリーナの顔色は蒼白だった。
がりがりに痩せている。
目は落ち窪んでいるし、息も細い。

つまりいつも通りだ。

安心した。

「エリザリーナ? 意識はありますかー?」

上条が声を掛けてみたが、彼女は起きる気配が無い。

「誰かに襲われたのか?」

周囲を警戒して、ショチトルがきょろきょろと左右へ目をやる。しかし上条は否定した。

「単なる行き倒れだと思う」
「何故?」
「そこに買い物籠が」

指された方向に目を向けるショチトル。

確かに買い物籠らしきものが半分雪に埋まっていた。
ネギが突き出ている。
長ネギが。
まごうことなき買い物籠である。

330 :1[saga sage]:2011/04/21(木) 00:07:37.75 ID:NnylFuPO0

「……ネギが凍ってる」
「つまり買い物帰りに倒れたんだろうな。ということは、歩ける距離に街があるだろうから運んでやろうか」
「大丈夫なのか?」
「すごく駄目だと思う」

威厳的な意味で。


上条がエリザリーナを担ぎ、ショチトルが買い物籠を預かって、二人は再び歩き出した。

遠くに街の灯のような光が見える。
取り敢えずそこまで辿り着けば人がいるはずだ。

寒さにめげないよう気を紛らわすため、少年と少女は道中ぽつりぽつりと会話をする。

「エリザリーナがいるということは、ここは同盟国の中なのか?」
「ちょっとネギ買うのに国境越えたりしないだろうから、そうなんだろうな」
「エツァリがいるのはロシア国内のはずだから……少しずれてしまったのか」
「そう落ち込むなよ。距離的にはぐっと近づいたはずなんだし……よいしょ」

エリザリーナがずり落ちて来た。

「それはそうだがな ……よいしょ」

ネギが傾いて来た。

331 :1[saga sage]:2011/04/21(木) 00:10:01.10 ID:NnylFuPO0

ちらほらと見えていた街の光がはっきりそれと分かるようになるまで、一時間以上歩き続けなければならなかった。
学園都市製なら余裕で日本とロシアを往復している時間である。
そう考えると徒歩というのは不便だ。
それとも機会が便利過ぎるのか。

「しかも人間一人背負ってるし」

異様に軽いのは助かるけどな、と付け足す上条の横で、

「凍っているからネギが腐る心配が無いというのだけが救いだな」

ショチトルはネギとちょっと仲良くなったようだ。

「持ち主まで凍らなくて本当によかったよ……ん?」

そこへ、カツ、と音を立て、靴が石畳を踏んだ。
舗装された道。
人の暮らしている証だ。
見渡すと、周囲が急に街らしくなっていた。

「着いた……か」
「まずは病院だな」

ところで。と、軽過ぎる女性を背負い直しながら、上条はショチトルへ振り返る。

「……ショチトル、ロシア語は?」
「……英語なら少しは……」

ゲッソリした国の救世主を背負った状態でうろついて、あらぬ誤解を生まないかどうかが心配である。

332 :1[saga sage]:2011/04/21(木) 00:10:59.91 ID:NnylFuPO0

エリザリーナは目覚めてくれない。
ここまで歩いて来る途中に心配になって何度も脈を測ったが、一回も死んでいたことはなかった。
しかし起きない。
命に別状はなさそうだが、起きない。

仕方がないので、上条は彼女を背負ったまま日の暮れ掛けた街を徘徊する。

すぐさま屈強な大男達に囲まれる羽目になった。

333 :1[saga sage]:2011/04/21(木) 00:12:24.71 ID:NnylFuPO0

「彼等は、別の場所にいるはずのエリザリーナを我々が攫ってここまで運んだと思っているらしい」

大男達が時折英語も混ぜて詰問してきたため、
上条には何がなんだか分からなくても隣の少女には少し事情が掴めたようだ。

「エリザリーナはここからあの雪原に行ったんじゃないのか?」
「思ったのだが」

縛られながら、ショチトルは言った。

「うん?」
「エリザリーナは、わざわざ一時間以上雪の中を歩かなければならないような場所へ買い物に行ったのか?」
「……あ」

同じく縛られながら、上条は間抜けな声を出す。

「街の灯が見えたから取り敢えずここまで来たが、もしかして」

エリザリーナを見つけた地点からすぐ後ろを振り返ったら、すぐ近くに別の街があったのではなかろうか。

沈黙。
ガチムチの男達が何かこちらへ怒鳴っているのにも関わらず、
上条にはその場の空気がやけに静かに感じられた。

「それは……攫ったことになるかもな」
「やってしまったな」

よりにもよって、奇跡の救世主を。

芋虫状態にされた上条とショチトルは、乱暴に担ぎ上げられて薄暗い牢へ放り込まれた。


346 :1[saga sage]:2011/04/26(火) 01:54:30.16 ID:1WmcxjK60
こんばんはー

原作の「行間」に憧れてそれっぽいのを投下 
 
347 :1[saga sage]:2011/04/26(火) 01:55:48.05 ID:1WmcxjK60

世界中に散らばる『妹達』を救い出すため、一方通行は世界中を文字通り飛び回っていた。

現在地点はイギリス・スコットランド北部。

ネス湖の近所である。

しかしネッシーを探している暇はない。
次の『妹達』を助けなければならないのだから。

古ぼけたバス停付近で、一方通行は足を止めた。

ここから一番近い場所に捕らわれているミサカの居場所を聞き出すため、彼は携帯電話を取り出して、

(日本は夜だな。クソガキは寝てるはずだから……)

番外個体の番号へコールする。

しかし、相手が出る前に携帯電話を手放す羽目になった。
何者かに体ごとぶつかられて落としてしまったからだ。


「あァ?」


彼は体つきは華奢だが目つきは凶悪である。
割とガタイのいい人間でも睨んで怯ませることができる。

が、相手はガタイのいい男などではなかったし、怯まなかった。


「あら、失礼しました。ちょっとよそ見をしていたものですから」


ふんわりと、穏やかな顔つきのシスターさん。

彼女は、一方通行の華奢で白髪で赤目な出で立ちにも特に臆さず、にこやかに修道服の裾を払った。
348 :1[saga sage]:2011/04/26(火) 01:56:46.26 ID:1WmcxjK60

「……別に」

敵意のある相手でないならどうでもいいと、一方通行は関わりを断とうとする。

そんな彼の思惑に反して、修道女は落ちている一方通行の携帯電話を拾い上げ、
丁寧に彼の手に渡した。

「はい。落し物でございますよ」

ついでにスマイル0円も付けてくれた。

「どォも」

受け取りながら、コレは苦手なタイプだ、と一方通行は思った。
関わると碌な事がなさそうである。ただの勘だが。

とにかくさっさとこの場を離れることにする。

にもかかわらず。

「なぜよそ見をしていたのかと申しますと、バスの時刻表を見ていたからなのでございますよ」
「いや、聞いてねェよ」

半ば無理やり、会話が続行されてしまった。
349 :1[saga sage]:2011/04/26(火) 01:57:48.99 ID:1WmcxjK60

「イギリスに来たのは最近でございまして。なにぶん慣れない土地でございますから、迷ってしまったのでございます」
「交番にでも行けよ。じゃァ、俺はこれで……」
「その携帯電話、学園都市製でございますね」
「?」

――学園都市の製品を知っている。

何者だろうか。

ここで、初めて一方通行は修道女の姿をまともに見た。

とりあえず、ゆったりした修道服の上からでも分かるほど豊満な体つきだということは置いておこう。
それでいてくびれるべき所はくびれているという点も今は関係ない。

「オマエ、これと同じモンをどっかで見たのか?」
「なるべく警察の方のお世話にはなりたくないのでございますよ」
「は?」
「私はオルソラ=アクィナスと申します」
「あ、どォも一方通行ですゥ……」
「大切な用事がありますから、交番で足止めを食っている場合ではないのでございます」
「そォかよ。別にどォでも良いけどよ。なら頑張って自分の足で歩け」
「その電話と似た物を、学園都市にいる私の恩人が持っていたのでございますよ。だから学園都市製ではないかと」

「…………」
「…………」


苦手なタイプだと思った。

350 :1[saga sage]:2011/04/26(火) 01:59:18.82 ID:1WmcxjK60

携帯電話を手の中でくるくると回し、一方通行はオルソラと名乗った修道女を観察した。

顔以外のすべての素肌が布に隠されている。
穏やかに微笑んでいて、いかにも人畜無害である。

そして、妙に会話が噛み合わない。
そういう癖なのか、テンポが一歩か二歩か三歩ズレている。

何を聞いても言っても、返ってくる言葉がどこか要領を得ない。

そしてもう一つ気がついたのは――

(この感覚。胸のあたりが締め付けられるよォな……)


恋。


ではなくて、魔術師が近くにいる時に感じる気配である。

見た目はただの天然系シスターさんだが、その気になれば手の平から氷の槍を出したり出来るのかもしれない。
やられた所で別に困らないが。

それより気になるのは、学園都市にいると言う彼女の恩人のことだ。
明らかに外部の人間なのに、科学サイドど真ん中の街に知り合いがいるらしい。

また何かの陰謀で学園都市からけしかけられた駒でないとも限らない。

「その恩人ってのは?」
「『あくせられーた』さんというのは、本名なのでございますか?」
「あだ名みてェなモンだ。で、恩人ってのは」
「恩人というのは、文字通り恩のある方のことを言う言葉でございますよ」
「言葉の意味を聞いたんじゃねェよ。どォいう経緯で知り合ってどンな恩がある?」
「珍しいあだ名でございますねえ、加速装置でございますか?」
「恩人ってのはどこのどいつだ」
「ええ、私、学園都市に恩人がいるのでございますよ」

「…………」
「…………」


煙に巻かれた。

もしかしたらこれは、相当訓練されたスパイかもしれない。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/04/26(火) 02:00:44.31 ID:1WmcxjK60

「オルソラ、とか言ったか」
「はい?」

一方通行が名前を呼ぶと、彼女は素直に返事をした。

ここまでは普通の会話のキャッチボールである。

「道に迷ってるっつってたな」
「ええ。イギリスは慣れないものでございまして」

ここも、クリア。

「どこに行くつもりだった?」
「はい、なるべく自分の道は自分で切り開くようにしております」

!?

「……もォ一回聞くけどよ、どこに行くつもりだった?」
「私の恩人というのは、学園都市の学生さんなのでございます。
 丁度あなた様と同年代くらいでございますね」

!!?

「俺と同じくらい? そいつ、もしかして髪がツンツンしてて奇妙な右手の奴じゃねェ?」
「そうでございますか。バスはいつ来るのでございましょう?」
「……」

一方通行はこめかみに手を当てた。

どうも三回以上言葉のやりとりすると混乱してくるらしい。
彼女がではなく相手の方が。

このあたりで、スパイ説は切ってもよさそうだと彼は判断する。

ただのド天然だ。

「はァ……めんどくせェ」
「そう何度も同じことを聞かなくてもお答えできるのでございますよ」
「さっきから一度も答えてねェだろ」
352 :1[saga sage]:2011/04/26(火) 02:01:52.99 ID:1WmcxjK60

のんびりしている場合ではない。
一方通行は、さっさとこの修道女の正体を明らかにして、関係なければ去ろうと考えている。

あちこちへ飛びまわる言葉の端々を掴まえて紡ぎ上げていくという涙ぐましい努力をして、
彼は何とか彼女がイギリス清教という宗教団体の一員で、
仲間を助けに出掛けたが道に迷って帰れなくなっていることをつき止めた。

ここがネス湖の近所だと教えてやると、オルソラはしばしぽかんとしてからこう言った。

「ネス湖というのは、ロンドンからはどれくらい離れているのでございましょう?」
「ロンドンだ? 真逆だぞ。少なくとも五〇〇マイル以上だ」

ロンドンから適当に移動してここまで来たのか。
いくらなんでも迷い過ぎである。

「五〇〇マイルでございますか……バスを乗り継ぐと何分かかるのでございますか?」
「待ち時間無しでおよそ十時間」
「あら、いいお天気」

一方通行は、これは多分自分に与えられた新しい試練なのだと思った。
353 :1[saga sage]:2011/04/26(火) 02:03:59.69 ID:1WmcxjK60

天気に感動していたオルソラは、次の瞬間その美しい顔を驚愕の色に染めていた。

「じ、十時間も掛かるのでございますか?」
「今更何を驚いてンだ。一度ここまで来てるじゃねェか」
「私が出掛けてからもう十時間も経っていたのでございますか?」
「そこまで俺が知ってるわけねェだろ」
「あ、バスが来たのでございますよ。では私はこれで」
「そのバスはネス湖行きでございますゥ!?」

とうとう口調が移った。
これはいけないと彼は危機感を覚えた。

このままでは彼のアイデンティティまでもが崩壊してしまう。
砕けた口調を受け継がせてしまった暗闇の五月計画の少女たちにも申し訳が立たない。

「あァもォ、めんどくせェ! ロンドンでイインだな?」


スイッチを切り替える。
一方通行は相手の返事を聞かずに体を担ぎ上げ、ベクトルを操作して地面を蹴った。

「え? え? どうなっているのでございますか?」

二人の体が飛び上がり、次の瞬間には巻き上がる風の向きが変換され、猛スピードで南へ移動する。

彼らを取り巻く風景はのどかな田舎の景気から一転し、騒がしい繁華街へと成り変わっていた。

当然だが同じ国でもネス湖とロンドンではまるで雰囲気が違う。
人々の衣服も、田舎らしいカジュアルな服装からカッチリしたスーツや流行のファッションに変わっている。

降り立って、修道女も降ろして、あたりを見渡して一方通行は言った。

「オラ、キングズクロス駅だ。ここなら見覚えあンだろ」
「はあ。でも、十時間も掛かるとなりますと、なかなか帰れそうにないのでございますよ」
「だからここがロンドンだ」
「私、ロンドンに帰りたいのでございますが」
「ここがロンドンだ」
「あら、いつの間にか鉄道の駅に移動しているのでございますよ。どの列車に乗ればロンドンへ行けるのでございましょう?」
「ここがロンドンだ」

一方通行はなかなか解放されない。
354 :1[saga sage]:2011/04/26(火) 02:04:55.62 ID:1WmcxjK60

少し目を離した隙に、オルソラは切符を買って改札をくぐろうとしていた。
一方通行が慌てて止めてやると、今度は公衆電話を見つけてとことこと歩き出す。

「そういえば寮に全然連絡を入れていないのでございますよ」
「そりゃ心配されてンだろォな」

彼らが立っていた位置から電話まで十メートル。

五メートル地点で急にオルソラが右へ直角に曲がった。

「おいしそうなクレープのお店があるのでございますよー」
「電話をしろよ」
「あのお店のお花、とてもきれいでございますー」
「せめて電話に辿りつけよ」

仕方ないので、十メートルの距離も一方通行が付いて行ってやる事になった。
355 :1[saga sage]:2011/04/26(火) 02:05:55.81 ID:1WmcxjK60

電話なンか掛けられンのかよ? とハラハラしながら見守る一方通行だったが、オルソラは難なく本拠地と連絡を取った。

直後、受話器越しに怒鳴り声が聞こえて来た。

『テメェェェェオルソラァァァァァ!! どこをほっつき歩いているのよ!?』

オルソラは微笑んでいる。

「シェリーさん、ごきげんよう」
『こんな時に面倒事を増やすんじゃねえよ! 今どこ!?』
「ええっと、ここは――」

そこで、列車の出発を告げるアナウンスが改札の向こうから響いて来た。
聞き覚えのある駅名に、電話の向こうのシェリーがため息を吐いた。

『キングズクロス駅? そんな所ウロウロしてたのかよ……』
「これからロンドンへ帰ろうと思っているところなのでございますよ」
『いや、帰って来なくていいわ。そこがロンドンだから。こっちから迎えに行くから絶対にそこを動くな」


二分後。

オルソラの保護者らしき派手なドレスの女が、
岩で出来たロボットに乗ってすっ飛んで来た。
356 :1[saga sage]:2011/04/26(火) 02:06:26.55 ID:1WmcxjK60

つづきます


仕事が繁忙期に入りました……

投下がさらに遅くなると思います

たまに覗きに来てくれると嬉しいです


では
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/26(火) 02:09:14.50 ID:w2tfwWPqo
とうとう妹達以外まで一方さんが回収を始めてしまった・・・
上条さんマジ何やってんすか
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)[sage]:2011/04/26(火) 02:39:55.06 ID:t7bSH2Ago
あれ、これ上条さんいらないんじゃね 
 
369 :1[saga sage]:2011/05/02(月) 05:08:52.71 ID:WSHLjmhA0
おはようございます>>1です

投下をしにきました

行間は今回で終わりです 
 
370 :1[saga sage]:2011/05/02(月) 05:12:08.17 ID:WSHLjmhA0

自分が押しに弱い性格だとは思っていないが、
一方通行は流れに押される形でオルソラの目指していた女子寮へ招待されていた。

出されたコーヒーを飲みながらオルソラ保護の経緯について説明する。
相手をしたのは先程オルソラを迎えに来たシェリーという女性だ。
ゴスロリチックな服装に全方向へ広がるワイルドな長髪と、
なかなかにエキセントリックな見た目だが、これでも修道女らしい。

「ミルクはいかがでございますか?」
「いらねェ」

オルソラがにこやかに勧めてくれたが、一方通行は一言で辞退した。

「で、テメェは本当に私達の敵じゃないのね?」
「むしろこっちがそっちの身の潔白を証明してほしいンだがな」
「お互い疑ってちゃキリがねえな。オルソラは信用してるみたいだけれど」

ぽりぽりと頭を掻いて、シェリーは足を組み直した。

「学園都市の人間だそうだけど、こんな所まで何しに来たの?」
「そこの修道女を送りにだろォが」
「分かった分かった。質問を変えるわよ。英国に何しに来やがった?」

コロコロと男性口調と女性口調が入れ替わる。どうも統一感がない。
シェリーという女性も癖のある人物だった。

ただ、一方通行も自分が美しい言葉遣いをしているとは思っていないので、
口調に関しては特に文句はなかった。

「何しにねェ……俺がソレに答えてどォなる?」
「逆に答えないとどうなるか教えてやろうか?」
「ミルクはいかがでございますか?」
「おもしれェ。ミルクはいらねェ。手取り足取り教えてもらおォじゃねェか」
「エリスの手足はちょっとデケエぞ? 潰されても泣くなよ」
「ではカップを動かさないで下さいでございますよー」
「ハッ。サイズがでけェくれェでこの俺を潰せると……おい! ミルクいらねェっつってンだろ!」

勝手に注がれそうになったので、会話が一時中断した。
371 :1[saga sage]:2011/05/02(月) 05:14:04.53 ID:WSHLjmhA0

「……世界各国に監禁されてるガキ共がいるンだよ。当然英国にもな。
 そいつらを解放してンだ」

手でコーヒーカップに蓋をしながら、一方通行は白状した。
迫り来るミルクとの格闘に疲れて、情報の秘匿にまで頭が回らなくなってしまったのである。

この状態でも油断は出来ない。
手にミルクが降り注がれることもあり得るのだから。

「世界各国ですって? そんな大規模なことが出来る組織はそうそうねえぞ」
「ローマ正教っつったかな。少しずつだが情報は集めてる。奴らの目的も分かって来た」
「ローマ正教!」

シェリーは思わずオルソラを振り返る。
彼女は今でこそイギリス清教のシスターだが、かつてはローマ正教に属していたのだ。

「オルソラ、何か知ってる?」
「はい、お砂糖ならこちらに用意しているのでございますよ」
(入れさせねェ)
「砂糖はどうでも良いんだよ。ローマ正教が集団で人攫いやってるらしいけど、聞いたことはある?」
「人攫い、でございますか……? それは、多少後ろ暗いこともやっているとは存じておりますが……」

集団で世界中となると、オルソラも流石に心当たりがないらしい。
という情報を得るのに十五分掛かった。
372 :1[saga sage]:2011/05/02(月) 05:14:44.64 ID:WSHLjmhA0

「何か嘘臭い話だな」
「わざわざ無関係の奴に信じてもらいてェとは思ってねェよ。学園都市はそォでなくても忙しいンだ」
「忙しい?」

「とある学生がな、
 禁書目録が必要悪の教会の裏切り者の集団に連れ去られ、
 助けに向かった仲間二人も捕えられて、
 それを助けにいった仲間の集団がまとめて捕虜にされて、
 そいつらに恩のある修道女が犯人たちを説得に行って迷子になって行方不明、
 探しに行ったイギリス清教の部隊が罠にハマって捕獲され、
 一方その頃とある学校ではある教師の家に生徒が遊びに行ったら先生も同居人の女子高生も見当たらず、
 それを探しに行った女子生徒自身も帰って来ないし、
 それを心配して探しに行った男子生徒も帰って来ないし、
 立ち上がって捜索に当たった女子生徒も戻らないし、
 出発前に女子生徒ら相談を受けた女教師も行方不明になって、
 探しに行った同居人が全員消え、
 その内の二人の調査に当たった一万人がいきなり連絡不能になり、
 それを知った超電磁砲が探しに行って何者かに拉致され、
 追いかけて行った風紀委員の後輩とその友達が誘拐され、
 超電磁砲のファンの少年とその義妹がやはり彼女を探しに行って帰って来ず、
 所変わって暗部では新生アイテムの四人が軒並み行方不明、
 スクールの残党が音信不通、
 忍者が二人地味に消えて、
 ついでに最近科学の天使の目撃情報がめっきり減ってるらしいし、
 海を越えてイギリスでは女王と王女三人と騎士団長が正体不明の誰かに拘束され、
 魔術の小組織の四人が消息を絶ち、
 イタリアでは『神の右席』とかいうのの三人が縛りあげられて
 ローマ教皇が何者かに誘拐されて
 ロシアでも修道女が一人忽然と姿を消し、
 エリザリーナ独立国同盟では代表者が出かけたっきりいなくなり、
 あと飼い猫を何日か前から見かけなった
 とかで今も駆け回ってンだよ」


シェリーとオルソラは、ポカーンとしていた。

373 :1[saga sage]:2011/05/02(月) 05:16:30.00 ID:WSHLjmhA0

先に立ち直ったのはオルソラだ。
普段から割とぽかんとしているからだろう。


「それは何だか、上条様みたいな学生様でございますねえ」


彼女のその小さな一言で。

かちり、と、場の人間の関係が噛み合った。

「……言われてみればそうね」
「何だって、上条? オマエ知ってンのか」
「! あなた様はご存知なのでございますか?」

「……」

「……」

上条の知り合いだと名乗り合ったことで、一方通行とシェリーは取り敢えず相手を信用する気になった。
374 :1[saga sage]:2011/05/02(月) 05:18:57.16 ID:WSHLjmhA0

上条のお陰、ということになってしまうのだろうか。
オルソラ以外は納得いかない気分だったものの、緊張の解けた雰囲気で対話が再開された。

コーヒーはミルクと砂糖の六度の襲撃から見事守られたが、冷めた。

「つまりあの坊や、オルソラやアニェーゼ達まで助けようとしてるってことなのね」

シェリーが確認するように呟き、口を閉じる。
会話が途切れた隙に、オルソラが頬笑みながら一方通行に声を掛けた。

「一方通行さん、レモンはいかがでございますか?」
「あの野郎には関わりたくはねェンだがな。レモンはいらねェ。(レモン?)
 俺に因縁のあるガキ共までアイツの守る対象に加えられそォになってたから、手を引かせたンだよ」
「それを言うなら、イギリス清教の奴らだって……」

シェリーはしばし黙りこみ、口元に手を当てて何か考えていた。

そして、何事が決心したように頷く。
オルソラの方を見て、唇を開いた。

「上条当麻に連絡は取れる?」
「あ、私番号を教えてもらったのでございますよ」
「これ以上借りを作りたくねえからな。
 イギリス清教に関係する人間はイギリス清教が片を付ける。
 だから手を出すなって伝えて頂戴」
「といっても、今動けるのはシェリーさんと私くらいなのでございますが……」
「テメェはここから一歩も動くな」

最大主教は健康そのものだが、どうにも当てにならない。
よってここでまともに活動できるのはシェリーのみである。

だが臆さない。彼女は常に一人ではない。
頼もしいパートナーがいるのだ。


そのあたりの事情をよく知らない一方通行は、彼女たちの様子を黙って眺めていた。
コーヒーを啜る。


「すっぺェ!!!」


いつの間にか、彼のカップに薄切りのレモンが浮いていた。
375 :1[saga sage]:2011/05/02(月) 05:19:54.52 ID:WSHLjmhA0

二分ほどして。

通話を終えたオルソラが、にこにこ微笑みながら二人のもとへ帰って来た。

「お留守番の女性の方に事情を説明して来たのでございますよ」
「そりゃ留守番電話サービスだ。ちゃンと録音できてりゃ伝わるだろ」

かなり不安だが、そこまで一方通行が面倒を見る義理はない。

「じゃァ……」

やっと妹達の解放作業に戻ろうと席を立つ一方通行に、シェリーが声を掛けて来た。

「行くの?」
「ざっと四千件ほど野暮用が残ってンだよ。のンびりコーヒー飲ンでる場合じゃねェ」

向きを変え、歩き出す。
挨拶もせず出口へ向かう彼に、シェリーは最後に一言、伝言を頼んだ。

「今度あいつに会ったらさ、言っておいて。どうもありがとう、死ねって」
「……おォ」

どうも、統一感のない女である。
376 :1[saga sage]:2011/05/02(月) 05:23:30.51 ID:WSHLjmhA0

そこで、

「あ!!」

突然叫び声を上げたのはオルソラだ。
珍しく驚いた顔をして、周囲をきょろきょろ見回している。

「どうした?」

シェリーが警戒心を顕にした表情で、おっとりシスターさんの驚愕の顔を見つめて尋ねた。

オルソラは応えて言った。


「私、いつの間に寮へ帰って来たのでございましょう?」
「!?」
「!?」

!?

377 :1[saga sage]:2011/05/02(月) 05:24:26.67 ID:WSHLjmhA0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===イギリス清教===
必要悪の教会
   禁書目録         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   ステイル=マグヌス     【救助立候補:シェリー=クロムウェル】

ロンドン女子寮
   神裂火織         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   オルソラ=アクィナス    【解決済】

天草式十字凄教
   建宮斎字         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   浦上           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   五和           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   牛深           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   香焼           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   諫早           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   野母崎          【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   対馬           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   他44名          【救助立候補:シェリー=クロムウェル】

アニェーゼ部隊
   アニェーゼ=サンクティス  【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   シスタールチア      【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   シスターアンジェレネ   【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   他約200名         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】

378 :1[saga sage]:2011/05/02(月) 05:25:00.87 ID:WSHLjmhA0


!?


つづきます
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[sage]:2011/05/02(月) 05:27:10.23 ID:HlgUCyAro
こんな時間から更新乙
オルソラはやっぱりいいなぁ
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/05/02(月) 07:33:16.15 ID:KLnTlkpBo
おつ!

ちょっとシリアスになったと思ったら
どんだけミルクと砂糖勧めてんだよ
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/02(月) 11:09:35.24 ID:/g+YJYKCo
レモン入りコーヒーとかwwwwwwww
オルソラは若年性痴呆症なんじゃなかろうか
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/05/02(月) 18:32:25.40 ID:nbWHu1dCo
!?

乙 
 
 
390 :1[saga]:2011/05/07(土) 05:11:13.73 ID:J6Je7EX20

エリザリーナ独立国同盟とロシアとの国境付近に、小さな集落がある。

ロシアの正規軍やプライベーティアに狙われてボロボロにされながらも逞しく生き抜いたその村は、
大戦の傷も癒えぬ内にまた大きな騒動に巻き込まれていた。

「巻き込まれてヤレヤレ系の主人公なんだ。日本のラノベによく出てくる奴」

(ハルヒとかね)

「この集落が?」
「そうそう」

冗談を言ったのが村人の男性。
日本人の感覚から言えば大柄だが、その物腰で気さくな印象を与える好人物だ。名前はディグルヴ。

対して、彼のジョークにクスリともせず「おもしろい」とだけ呟いたのは、
この村には少し不似合いな、小柄で黒髪の東洋人の少女だ。

彼女はロシア語が分かるらしい。
だが口数は少なく、次に口を開いたのもディグルヴだった。

「ところで。お前に関係あるかどうかは分からないが、今エリザリーナ独立国同盟では騒ぎが起こってるらしい」
「うん。どんな?」
「エリザリーナが誘拐されたらしい」
「大変。早く助けに行かないと」

驚いて顔を上げる少女。
だがディグルヴは笑って手を振った。

「大丈夫大丈夫。未遂に終わったんだ。犯人に担がれてるところを街の人が見つけてな」
「街中で堂々と担いでたの?」
「そうらしい。相当間抜けな奴らだな」

少女は少し首を傾げ、そしてくるりと顔を正面に戻してディグルヴを見た。

「それが、私に関係あるかもしれない?」
「ああ。その犯人な、日本人の少年なんだってよ。
 高校生っつってたから、十代だよな。お前と近いんじゃないか?」
「! もしかして……」

少女の目が期待に輝いたのを見て、ディグルヴは慌てて彼女の予想を否定する。

「違うと思うぞ。聞いた特徴が全然あいつと一致しない」
「はまづら。やっぱり来てくれたんだね」

が、乙女の耳には届かない。

391 :1[saga]:2011/05/07(土) 05:13:28.45 ID:J6Je7EX20

「違う違う。あいつが人攫いなんかするか?」
「何か事情があるんだよ。私を助けるためにロシアに来て、倒れてるエリザリーナさんを見つけたのかも」
「そう都合よくエリザリーナが落ちてるわけないだろ」

実は結構落ちているものなのだが、そんな事をディグルヴが知るはずもない。

「はまづらは悪い人じゃない。……ちょっとワルだけど」
「確かに。多少アウトローな感じはするよな」
「でも人を苦しめるようなことはしない。みんなに分かってもらおう。今度は私が助ける番だから」

うん。と、決意を胸に刻む少女。

「違うと思うんだけどなあ……」

ディグルヴは参ったな、と肩をすくめる。

彼女はやる気だ。
しかしここから例の犯人が投獄されている場所までは歩かせられる距離ではないし、
わざわざ車を出すのは面倒なのだ。

「はまづらが捕まってるのはどこ?」
「だから、浜面じゃないって。犯人は二人組だって話だぞ」
「……二人組?」
「日本人の少年の他に、どうやら中米っぽい浅黒い女の子が一緒だって。そんな知り合いいるか?」
「!!」

ディグルヴの言葉に、少女は固まった。

勘違いと分かってくれたかな? と一瞬ホッとしたディグルヴだったが、
目の前のジャージ少女の様子を見て、認識を改めることになった。

「褐色の肌……むぎのやきぬはたじゃない……あの二人は美白に物凄く気を使ってるから」

口以外の部位をほとんど動かさず、少女は固まっていた。

「た……滝壺?」

名を呼ぶと、少女――滝壺理后はゆっくり彼と視線を合わせた。

「はまづらが……女と二人っきり?」

ディグルヴの背筋を何か冷たいものが走り抜ける。

「はまづらが、他の女と二人っきりでロシア旅行?」
「え? 何で旅行になるんだ?」

滝壺の目が光った。

ように見えた。

「ディグルヴ。はまづらはどこ?」
「待て滝壺。その目はヤバイ」
「はまづらの居場所はどこ?」
「落ち着くんだ滝壺。そいつは浜面じゃ」
「連れて行って」
「はい」

無表情で迫り来る滝壺の姿を見て、ディグルヴは「人形みたいだ。怖い意味で」と思った。

392 :1[saga]:2011/05/07(土) 05:16:42.26 ID:J6Je7EX20

上条は夢を見た。
夢の中で「これは夢だ!」と気が付く夢だ。

そこで彼は、

「目が覚めたら何もかもがただの夢で、
 実はみんな無事で、
 行方が分からない知り合いなんかいなくて、
 またちょっと不幸だけど穏やかな日常が始まりますように」

と願いを掛けてみた。

結果的に、それまでの出来事は夢オチにはなってくれなかった。


起きてみると、そこは八方を石に囲まれた空間だった。
両手足が鎖で部屋の隅の柱に繋がれている。

背中が痛い。肩が痛い。腰も痛い。尻も痛い。
そして寒い。

まるで牢獄だ。
そして、事実牢獄だ。

窓は一つ。高くそびえる壁面の上方に、ポツリと浮かぶように存在していた。
エリザリーナ誘拐の罪で投獄された上条は、
その窓を見て、現在が日の射す時間帯らしいことを辛うじて認識した。

「起きたか。思い切り殴られていたから心配していたんだが」

一緒に捕まったショチトルは既に目覚めており、上条から少し離れた柱に繋がれていた。

「大丈夫……痛いけどな。ショチトル、今何時だか分かるか?」
「いや。そこまでは。私が起きたのも日が昇ってからだったし」
「そうか……」

痛いし寒いし、空腹だった。

不幸である。
とても不幸である。

そう考えるといつものことだった。

393 :1[saga]:2011/05/07(土) 05:18:27.87 ID:J6Je7EX20

ショチトルと、取りとめも元気もない会話を過ごしていた時だった。

石造りの牢で唯一別の素材で作られている木戸が開き、彼らを捕えた男の内の一人が顔を出した。

ロシア語で一言挨拶のような言葉を言い、
その後ショチトルの方を向いて英語で何か語りかける。
英語を理解できるのが彼女だけだからだ。

ショチトルは彼の言葉に何度か頷き、英語で何か答えた後、上条に向き直った。

「何て?」
「私達……というより、あなたに面会人らしい。日本人の少女だとか。
 会わせてやるが妙なことは考えるなと言っている」
「妙なことったってなあ……誰だ?」
「会えば分かるだろう。断る理由も権利もないのではないか?」

ショチトルの問いに、上条は頷いて見せるしかなかった。

394 :1[saga]:2011/05/07(土) 05:20:11.64 ID:J6Je7EX20

面会人を待つこと数分。

殺風景な牢獄に、華やかなピンク色の服を着た少女が現れた。
ただし、ジャージだが。

「誰?」
「誰?」

顔を合わせた少年と少女が、同時に同じ言葉を発した。
初対面にしては気が合う。

「……っておい! 誰だか分からない奴の面会にわざわざ来たのかよ?」

上条のツッコミに答えもせず、ピンクジャージの日本人は呆然としている。

「はまづらじゃない……」
「浜面? 知り合いか?」
「知り合いじゃないよ」
「ええ?」

じゃあ何だ。
なぜ上条が浜面ではないことに愕然とするのだ。

取り敢えず知り合いでないなら何なのかと尋ねたところ、少女は心なしか頬を赤らめてこう言った。

「ただの知り合いじゃない……恋人」

そうか、変人か。

ではなくて、

「こ、コイビト!? あいつ彼女いたのか!(ちくしょうもげろ)」
「うん。はまづらを知ってるの?」

上条よりもショチトルの方を若干気にしつつ、ジャージの少女は尋ねてくる。

「まあ、ちょっとな。ああ、俺は上条当麻。そっちはショチトル。
 ショチトルは浜面と面識はないよな?」
「聞いたこともないな」

日本人の少女の方へ会釈をしつつ、ショチトルは簡潔に答えた。
それに安心したようで、ピンクジャージはほっと息を吐いた。

「そうなんだ。……私は滝壺理后。
 日本人の高校生が捕まってるって聞いて、はまづらかと思ったの」

少女の自己紹介は、上条にとって衝撃だった。

395 :1[saga]:2011/05/07(土) 05:21:27.06 ID:J6Je7EX20

「なっ……滝壺理后!?」

無事だった。

それはよかった。

滝壺理后という少女のために学園都市を駆け回り、
さんざん苦労してそれも全て報われなかったのだが、
彼女は無事ロシアで自由の身になっていたらしい。

まあ、よかったと言える。

むしろ今は上条の方が不自由の身だ。

もう何が何だか。

「あの……滝壺さん。とりあえず、俺たちを解放してくれるように、外の人達を説得してくれませんか?」
「でも、かみじょうはエリザリーナさんを攫ったんだよね」
「えっ! ちが……」
「応援できない」

そして。
上条とショチトルは、必死になって滝壺に事情を説明することになった。

どんどん腹が減る。

396 :1[saga]:2011/05/07(土) 05:22:57.37 ID:J6Je7EX20

一時間後。

二人による涙の説得を聞き入れた滝壺が、エリザリーナに連絡を取って、上条たちを解放してくれた。
説得に応じたというよりも、決め手は上条の以下の一言だったらしい。

「そうえば浜面な、お前のこと心配しすぎて空飛んでたぞ」
「……はまづら……」
「あ、そこは感動するところなんだ」

これで、急に滝壺の機嫌がよくなった。
何はともあれ、エリザリーナ直々の指示により、上条とショチトルは牢から出されることになったのである。

「かみじょうの名前を出したら話がすぐ進んだよ。有名人?」
「有名ではないだろうけど、エリザリーナとはちょっと知り合いなんだ」
「……知り合いが多いな」

ショチトルが、驚いたような呆れたような顔で彼を見ていた。

彼女は昨日から上条の行動を追っているので、
学園都市の暗部やら統括理事やら飛行機の中の人やらと知り合いなのを見て来ている。

それでいて、ここへ来てエリザリーナほどの人物とまでちょっと知り合いだと言う。

(エツァリが言っていた「上条勢力」か。本人がその価値に気が付いてしまったら恐ろしいことになるな)

こっそりと、ショチトルは思う。

ただ、今のところそんな心配はないらしい。

上条、そして滝壺の知り合いであるというエリザリーナに会うため、三人は彼女のいる同盟国へと向かう。

397 :1[saga]:2011/05/07(土) 05:25:09.85 ID:J6Je7EX20

移動には屈強そうな四駆が使われた。

雪なんかに負けないぞ! という気迫が伝わって来るような立派な車である。

背が高く、横にも大きい。タイヤもごつごつしている。
男の夢はこうありたい。

運転をしている男も、大きくて頼りがいがありそうだった。

「何度もありがとう、ディグルヴ」
「いいんだ」

滝壺に礼を言われ、運転席の男はどこか諦めたような顔をしていた。

彼は観光業で働いていた経験があるそうで、日本語が話せる。
上条たちに気を使ってか、滝壺との会話にも日本語を使ってくれていた。

「ところで、聞いておきたいんだけどさ」

ディグルヴとの話がひと段落ついたのを見計らって、上条が滝壺に声を掛ける。

「うん。何?」

のんびりと、ディグルヴの方から上条の方へ顔を向ける滝壺。

「滝壺は、学園都市からロシア成教に渡されたんだよな?」
「そう。第一位と引き換えに」
「なんで普通にで歩いてるんだ? しかもエリザリーナ独立国同盟で」
「助けてもらったの」

そう答えて、滝壺は運転席を見た。

ディグルヴは黙っていたが、照れたような顔で運転を続けている。

「ロシアとの国境の近くに、小さな集落があるの。
 はまづらと私は大戦の時にそこですごくお世話になって……」
「いや、浜面には俺たちの方こそいくら返しても足りないほど恩がある」

滝壺の話を遮って、ディグルヴが熱っぽく言った。
何があったのか多くは語らなかったが、集落の人々を救うのに、浜面が命を張ったらしい。

「へえ。やるな、浜面」
「そう。はまづらはかっこいいの」

もっとはまづらのこと褒めて、と彼女の目が言っていたので、上条はそれ以上褒めるのをやめた。
398 :1[saga]:2011/05/07(土) 05:26:52.18 ID:J6Je7EX20

「……それで、その集落には縁があったから」
「滝壺が捕らわれてるって情報が伝わって来てな。少しでも恩を返せると思って」

集落の人達で滝壺のいる施設に乗り込んで、彼女を奪還したのだという。

「それは、壮絶なドラマが繰り広げられたのだろうな」

黙って聞いていたショチトルが、ぽつりと感想を述べた。
それに応えてディグルヴと滝壺が言う。

「まあな……死人は出なかったけど」
「それに、集落にまで追手が来ちゃって」

奇妙なことに、やって来たのは一人だった。
村人だけで撃破したが、奇妙な術を使う少女だったらしい。

闘いの末その少女は大きな看板に突き刺さったまま抜けなくなった。
今もそのままにしてあるので、近い内にエリザリーナが尋問する予定だそうだ。

滝壺が無事である理由は判明した。
しかし、聞き足りないことはまだあった。

例えば、

「第一位って、一方通行だよな? 会ったのか?」
「ううん。会ってないよ。大事な人質だから。特別な部屋に隠されていたみたい」

そして、

「何のために滝壺が必要だったんだ?」
「分からない。私の能力は能力追跡だけど、超能力を使えないロシア成教に必要なものだとも思えないし」

どちらも、あまり有力な情報には繋がらないようだった。

「でも……」
「ん?」
「日本人がたくさんいた。多分、学園都市の研究者」
「そうか。そういえばそういう話だったな」

学園都市を出発する前に、親船最中から聞いた話。
百五十人の研究者が、何らかの研究のためロシア成教に攫われている。
何を研究しているのかは不明。
399 :1[saga]:2011/05/07(土) 05:28:08.65 ID:J6Je7EX20

「能力追跡(AIMストーカー)って名前を聞いた限りだと、AIM拡散力場と関係のありそうな能力だよな」
「うん。他の能力者の力場を覚えて、地の果てまで追い続けることができるの」
「……そうか(何か怖いな)」

制限があって普段は使えないけど、と滝壺は付け加えた。

「じゃあ、連中はAIM拡散力場の研究をしてるのか……?」
「そうかもしれない。私は何かされる前に助け出してもらったから、詳しいことは何も分からなくて」

何をするつもりだろう。

魔術師は能力開発を受けない。
そんなことをする必要ないし、彼らからすれば脳の開発など忌むべき行為であるはずだ。

ならば、AIM拡散力場とも無縁である。

レベル0レベルの頭脳を誇る上条には、ロシア成教の狙いなどどう考えても分からなかった。


エンジンは快調。

悩める四人を乗せて、立派な四駆は銀世界を走る。


409 :1[sage saga]:2011/05/15(日) 02:39:33.39 ID:B6j1nkCO0
ばんこんは。>>1です




「なあ、ショチトル」

エリザリーナのもとへ向かう車内で、ふと思いついたように上条が声を掛けた。

「何だ?」

一面真っ白の風景を眺めていたショチトルは、ゆっくりと彼の方へ顔を向けた。

「スフィンクスに変身してたってことは、あいつに会ったんだよな? 今どこにいるんだ?」
「え、ね、猫か? し、しししししし、知らない」

ショチトルは知らないらしい。

「何でだよ?」
「あの、へ、変装魔術には、対象の皮膚がほんのちょっとだけ必要なので、
 失礼してほんのちょっとだけ剥がせてもらったんだが」
「……かわいそうだな」
「一応応急処置をして、その後はどこかへ行ってしまった」
「でも、元気にしてるんだろ?」
「そうだ。すごく元気だ」

スフィンクスはすごく元気らしい。
410 :1[sage saga]:2011/05/15(日) 02:41:01.75 ID:B6j1nkCO0

雑談をしている内に、車はとある同盟国の市街に入り、停止した。

「着いたぞ」
「ありがとう、ディグルヴ」

滝壺に続いて上条とショチトルも挨拶をし、せっかくだから街で買い物をするという彼と別れる。


エリザリーナは、病院にいた。

柔らかそうなベッドで、上体を起こして落ち着いている。
上条とショチトルは石の床で一晩越したので、それを見ると羨ましい限りである。

「ごめんなさいね。早く目を醒ましていれば出してあげられたんだけど」

上条たちが訪ねて行った時、彼女はベッドから降りようとした。

しかし近くにいる世話人が全身全霊で止めたので、
仕方なく彼女は絶対安静で彼らと対面することになった。

「ディグルヴの集落に、ロシア成教の追っ手が来たんだろ?」

挨拶もそこそこに本題に入る。
上条は、車の中で滝壺から聞いたことをエリザリーナにも確認した。

「そのようね」
「尋問に行く予定だって聞いたけど」
「そのつもりだったのだけど、行き倒れてしまって」

ネギを傍らに倒れてしまい、計画は頓挫したという。
買い物ついでに尋問をするつもりだったらしい。
割と気軽である。

「気が付いたのはいいけど、皆が私をベッドから出そうとしないから、行くに行けないの」
「分かる気がする」
「あなたを動かすと命が危ない気がする」
「私はそんなエリザリーナさんを応援してる」
「どうもありがとう」

青白い顔で、エリザリーナは礼を言った。
411 :1[sage saga]:2011/05/15(日) 02:43:28.90 ID:B6j1nkCO0


エリザリーナは外へ出してもらえないものの、
弟子に様子を見に行かせて、集落に捕えられた刺客から情報を引き出すことは出来たらしい。

そこまで言って、彼女は滝壺を見た。

「追っ手は見た目十代の少女。あなたは知ってるわね?」

滝壺はこくりと頷いた。

「うん。その場にいたから。ラクロスのユニフォームみたいな服装をしていて、見た目は普通の女の子だったよ」
「ラクロス……ふーん」
「何か思い当たることでもあるのか?」

思案顔の上条を見てショチトルが訊ねるが、彼は黙って首を振った。

「……追手の正体はスポーツマンではなくて魔術師。
 でも、弟子の話ではロシア系の魔術の傾向は見られなかったそうよ」
「もしかして、あいつか?」
「特徴は似ているけどね」

実は上条の頭には、とある乱れた性観念を持つ少女の顔が浮かんでいた。
いくらお説教しても懲りない、嘆かわしい現代のティーンエイジャー。
かくいう彼もまだ十代ではあるのだが。

ここでまた知り合いが登場すると面倒なことになりそうなので、
彼は人違いだと思い込もうとしていた。

「ロシア成教の人間ではないけど、雇われているのかも知れないわね。
 お金次第では敵対する宗派に力を貸す組織もあるらしいから」
「あいつは確かにラクロスのユニフォームみたいなの着てるイギリス人の十代の女の子だけど、
 そんないい加減な信念の奴じゃない」
「何か事情があるのかもしれないし、人違いかもね」

実際に会ってみないことには、滝壺の追手と上条の知り合いが同一人物かは分からない。
結論が出ないことを考えていても仕方がないので、ショチトルが話題を変えた。

「ロシア成教の狙いは何だ?」
「その追手の女の子も詳しいことは知らされていないらしいわ。
 学園都市の技術を使って何かをしようとしている、としか」

つまり、その少女は下っ端か、単に雇われているだけなのだろう。
412 :1[sage saga]:2011/05/15(日) 02:45:21.23 ID:B6j1nkCO0

「何でわざわざ科学に頼る必要があるんだろう」
「……科学に出来て、魔術には出来ないことがしたいのでしょうね」

エリザリーナは、冷めた目をして言った。
彼女がそういう目つきをすると、常人よりずっと無気力な印象である。

生きているのかどうか分かり辛くなるので、なるべくやめてほしい。

「魔術に出来ないこと……たとえば?」
「たとえば、そうね。クローン人間を生み出すこと。
 そんな魔術は無いのよ。人を作ることが出来るのは神だけだから。
 魔術で再現が可能だとしても、十字教の魔術師なら絶対に行使しない。
 それは神に対するとてつもない冒涜になるの」

それを聞いてショチトルが口を挟む。

「そんな冒涜行為をロシア成教が行っているというのか? 科学の手を借りて?」
「たとえばの話よ。流石に彼らがクローン技術に手を出すとは思えないわ」

クローンいえば、と上条はふと思い出した。
世界中にいる一万人の妹達が、ローマ正教によって捕えられていることを。

(ロシアもロシアだけど、ローマも何を考えてるのか分らないよな)
(まさか、神に対する冒涜だからってクローン達を殲滅しようなんて考えてるんじゃ……)

背筋にうすら寒いものを感じる上条。
何とか無事を確かめたいが、今は手一杯だった。

何だかんだで救助リストはまだ半分も解決していないのだ。

あーあ。

(一方通行……勢いで妹達のことを任せちまったけど、
 あいつ自身が攫われたとかいう情報もあるし、大丈夫なのか?)

現時点での一方通行の働きぶりは上条よりよっぽど大丈夫なのだが、そんなことを彼は知る由もない。

ところで、魔術だの十字教だの聞き慣れないはずの言葉が飛び交っているが、
滝壺は特にうろたえも驚きもせず、ぼーっと宙を眺めていた。

「図太いというか、結構大物なのか?」

ショチトルがそっと彼女の顔を覗き込む。

「ぐーすかぴー」

寝ているだけだった。
413 :1[sage saga]:2011/05/15(日) 02:47:13.13 ID:B6j1nkCO0

「何をしたがっているのかは、連中に直接聞くしかないってことか」
「行くつもりなの? 止めはしないけど、上手くいく見込みはあまりないわよ」
「プロの魔術師が大勢詰めているだろうからな」

エリザリーナとショチトルは、やや不安げに意見を言った。
対して、上条は笑って見せる。

「けど、放っておくわけにもいかないからな。滝壺は助かったけど、研究者たちがまだ一杯捕まってるんだ」
「エツァリも……いるんだろうか」

ショチトルが心配そうに呟いた。

結論が出たらしいと判断したエリザリーナが、ベッドの上で窓を指す。

「なら、場所はそこの彼に聞くといいわ」

窓の外では、買い物から戻って来たディグルヴが、また車に乗り込んでいるところだった。

彼は一度、滝壺を助け出すために魔術師のアジトへ行っている。
確かに、彼にまた送ってもらえば迷わず辿りつけるだろう。

滝壺が「何度もありがとう、ディグルヴ」とか何とか言えば連れて行ってくれるに違いない。

目を覚ましたらしい彼女に、上条は尋ねた。

「お前が捕まってた場所って、どんな所なんだ?」
「新しくてきれいな建物だよ。ハイテクな感じの」
「ハイテク?」

魔術サイドなのに? と上条が首を傾げると、エリザリーナが解説してくれた。

「第三次世界大戦の時に、学園都市はロシアの土地に大量の基地を造ったの」
「ああ、聞いたことがある。上空から資材を投下して即席で組み立てるんだろ?」

エリザリーナが頷いた。
一方、ショチトルは訝しげな顔をする。

「だが、技術漏えい防止のために、戦争が終わった後すべて回収か解体かされたはずだ」

無くなった基地が何なのかと聞く彼女に、痩身の魔導師は首を振った。

「それが、連絡ミスがあったせたいで、一基だけロシアに忘れられていたらしいわ」
「何それ。ばかじゃないの?」

またそういう凡ミスをしたのか、学園都市。
ため息を吐く上条を尻目に、エリザリーナは肩をすくめて続ける。

「私も弟子たちにはホウレンソウはしっかり守るようにいつも言って聞かせてるわ」
「立派だね」
「つまり奴らは、忘れられた基地を使っているのか」
「最新式の機材がそのまま残されているからね」

その最新技術を使って、彼らは何をしているのか。

やはり、実際に見て確かめるしかないだろう。
414 :1[sage saga]:2011/05/15(日) 02:48:03.16 ID:B6j1nkCO0

エリザリーナに礼を言い、魔術師のもとへ乗り込んで行くことを宣言する。

上条が病室を出る時、ショチトルもとことこと着いて来た。

「私も行こう。エツァリがそこにいる可能性は高そうだから」

一方、滝壺は同盟国に残る事になった。
彼女がのこのこ出て行ってまた捕まったら元も子も無いからである。

さらに、学園都市に帰ることもできない。
彼女がのこのこ帰って行ってまた交渉の材料にされたら元も子も無いからである。

「悪いな、すぐ解決して浜面の所に帰れるようにしてやるから」
「ありがとう、かみじょう」

滝壺は、ぼんやりとあさっての方向を見ていた。
415 :1[sage saga]:2011/05/15(日) 02:48:56.63 ID:B6j1nkCO0
つづきます

短いしあんまり動きがないですね

もっとこう、超・エキサイティン! な感じになればいいんですけど


ではまた

418 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:25:46.84 ID:lgOvXgxq0
>>1です!!!!


すいません!!!!


打ち切ります!!!!!!!



というか、方針を変えます。

残り全員ノリと勢いだけで片付けます

ノリと勢いを維持するためにいきなり台本形式になります



色々とごめんなさい。これまでの書き方だといつまでたっても終わりそうにないので……
一応全員解決するところまで書きますが、相当駆け足なのであんまり期待しないで下さい

ではおさらいから↓
419 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:26:15.01 ID:lgOvXgxq0

■■■■救助リスト■■■■

===イギリス清教===
必要悪の教会
   禁書目録         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   ステイル=マグヌス     【救助立候補:シェリー=クロムウェル】

ロンドン女子寮
   神裂火織         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   オルソラ=アクィナス    【解決済】

天草式十字凄教
   建宮斎字         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   浦上           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   五和           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   牛深           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   香焼           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   諫早           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   野母崎          【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   対馬           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   他44名          【救助立候補:シェリー=クロムウェル】

アニェーゼ部隊
   アニェーゼ=サンクティス  【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   シスタールチア      【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   シスターアンジェレネ   【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   他約200名         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】


===英国王室===
   エリザード        【捕縛】
   リメエア         【捕縛】
   キャーリサ        【捕縛】
   ヴィリアン        【捕縛】


===騎士派===
   騎士団長         【捕縛】


===結社予備軍===
新たなる光
   レッサー        【消息不明】
   ベイロープ       【消息不明】
   フロリス        【消息不明】
   ランシス        【消息不明】


===ローマ正教===
   ローマ教皇        【誘拐】

神の右席
   フィアンマ        【捕縛】
   ヴェント         【捕縛】
   アックア         【捕縛】


===ロシア成教===
   サーシャ=クロイツェフ  【行方不明】


===エリザリーナ独立国同盟===
   エリザリーナ       【解決済】


420 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:26:52.79 ID:lgOvXgxq0
===学園都市===
統括理事会
  アレイスター=クロウリー  【失踪】

とある高校
   月詠小萌         【解決済】
    結標淡希        【解決済】
   姫神秋沙         【行方不明】
   吹寄制理         【解決済】
   青髪ピアス        【行方不明】
   土御門元春        【拉致:謎のキャンピングカー(三回目)】

御坂勢力
   御坂美琴         【誘拐:全身タイツ(ロシア成教?)】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-16000)    【解決済:一方通行】
   妹達(16001-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【誘拐:全身タイツ】
   初春飾利         【誘拐:全身タイツ】
   佐天涙子         【誘拐:全身タイツ】
   エツァリ         【誘拐:全身タイツ】
    ショチトル       【解決済】

黄泉川家
   黄泉川愛穂        【解決済】
   芳川桔梗         【行方不明】
   一方通行         【解決済】
   打ち止め         【解決済】
   番外個体         【解決済】

新生アイテム
   麦野沈利         【解決済】
   浜面仕上         【解決済】
   滝壺理后         【解決済】
   絹旗最愛         【解決済】

旧スクール
   垣根帝督         【解決済】
   心理定規         【解決済】

忍者
   服部半蔵         【解決済】
   郭            【解決済】

その他
   風斬氷華         【中の人】
   スフィンクス       【行方不明】
   冥土帰し         【解決済】
   研究者(約150人)     【誘拐:ロシア成教】
   上条刀夜         【行方不明】
   上条詩菜         【行方不明】
   御坂旅掛         【行方不明】
   御坂美鈴         【行方不明】

421 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:27:45.84 ID:lgOvXgxq0

<エリザリーナの病院の前>

上条「よし!! 出発するぞ!!」

土御門「その前にカミやん、ちょっといいかにゃー?」

上条「何だ? 土御門(つっこまないぞ)」

土御門「(あれ、つっこんでくれない……)実を言うと、ちょっと時間が押してるんだぜい」

上条「押してるって何の」

土御門「何でもいいからちょっと巻きでお願いしたいんだぜよ」

上条「巻きで……急げってことか?」

土御門「そうそう。だからとっととロシア成教のアジトへ行くぞ!」

上条「? おう! ショチトル、準備はいいか?」

ショチトル「

422 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:28:47.99 ID:lgOvXgxq0

<学園都市基地跡>

土御門「着いたぜい」

上条「すごく早く着いた気がするけど気のせいだな」

ショチトル「

土御門「それじゃあ早速、ここに捕らわれている学園都市の人々を助け出すんだにゃー」

上条「おじゃましまーす」


ピーンポーン

ガーッ


上条「あ、ドアが開いた」

土御門「呼び鈴が付いてるのも、鳴らしたら開けてくれるってのも意外すぎるな」

ショチトル「


『ふっふっふ……それは私が開けてあげたからなのです』


上条「!? 何だ!? 館内放送?」

土御門「一体誰だ!?」

『はい。私、初春飾利っていいます』

土御門「なにぃっ!? ウイハルッ!? その正体は一体ッ!?」

上条「土御門うるさい。リストにいたよな」

土御門「そういえばそうだったにゃー」

上条「……」

土御門「なんにせよ、さっそく一人目ゲットぜよ!!」

上条「モンスターじゃないぞ」

土御門「きっとラフレs
423 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:29:25.69 ID:lgOvXgxq0

上条「館内放送なんかしてるってことは、無事みたいだな」

初春『はい。御坂さんに助けてもらっちゃいました』

上条「そ、それは良かった……」

上条「それで、どうやってこの放送を? あとドアも」

初春『今、この施設のコンピューターは全部私の管理下にありますから』

上条「何ですと!?」

初春『事情を説明しますから、とりあえず中に入ってください』



初春『無事、私のいる最上階のメインコンピュータールームに辿り着けるなら、ね……』

初春『ふっふっふ……』


上条「そこはかとなくラスボスっぽいな」

ショチトル「
424 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:30:22.99 ID:lgOvXgxq0

<基地内部>

初春『皆さん正面口を越えましたね? それでは、まず右手のドアをご覧下さい』

土御門「はーい」

上条「見たぞ」

初春『その部屋に御坂さんのご両親がいます』

上条「え……」


上条「……本当か! 早く助けないと!」

初春『ロックは解除してありますから、ご自由にお入りくださいね』


ガーッ


上条「便利な人質だな」
425 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:30:56.05 ID:lgOvXgxq0

<正面口右手の部屋>


上条「うわ」

土御門「どうしたカミやん? 入り口で立ち止まると迷惑だぜい」




芳川(土下座)「……」

旅掛「……」

美鈴「……」




上条「白衣のお姉さんが美鈴さんとスーツのオッサンの前で土下座してる」

土御門「『うわ』ってカミやんお前」

ショチトル「
426 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:31:49.55 ID:lgOvXgxq0

上条「おーい、美鈴さん」

美鈴「あ、あれ? 美琴ちゃんのお友達じゃない? 久しぶりー」


芳川「……(土下座)」

旅掛「……」


上条「えーと、あの、これ、どういう状況?」

美鈴「ああ、この、学園都市の研究員の人がね……」


芳川「すみませんでした」

旅掛「許さん」


上条「……」

美鈴「……」


土御門「多分、その研究員は『絶対能力者進化計画』に関わってる」

土御門「娘のクローンが二万人も作られて、しかも半分殺されてるなんて知ったら、両親が怒るのはあたりまえですたい」

土御門「それで、研究者であるその白衣のお姉さんが土下座、と」

土御門「そういう事に違いないぜよ!!」


上条「ありがとう土御門。お前が言うならそうなんだろうな」

ショチトル「
427 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:33:10.22 ID:lgOvXgxq0



上条「研究者の人はともかく、なんで御坂の両親が攫われるんだ?」

芳川「それが、彼らの計画の初期のなごりらしいわ」

旅掛「許さん」


上条「計画の初期?」

芳川「現在、私達を攫った人たちは超電磁砲のクローンを作ろうとしているようなの」

旅掛「許さん」


上条「ロシア成教がクローン? 信じられないけど……なあ土御門、なんで?」

土御門「俺に聞くのはおかしいぜよ」

芳川「理由はどうあれ、彼らの狙いはクローンの量産だった」

旅掛「許さん」


芳川「今も一万人のクローンが世界中にいるわけだけど、それよりもっと大量に必要なようね」

旅掛「許さん」


美鈴「お父さん、ちょっと静かにしてね」
428 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:33:49.74 ID:lgOvXgxq0

芳川「計画の初期段階では、クローンをどうやって作るのか、彼等には見当もつかなかった」

芳川「そもそもクローン?何それおいしいの?状態だったようね」

上条「まあ、科学を毛嫌いしてたわけだからな」

芳川「そこで、彼等は考えた」


芳川「クローンて、二万つ子なんじゃないのか? と」


上条「」


芳川「それで彼ら、こう考えたわけね」


芳川「もっと生ませればいいんじゃないのか? と」



上条「」

土御門「」

ショチトル「」

旅掛「許さん」

美鈴「いやー、さすがの美鈴さんも二万人産んだら裂けちゃいますよアハハ」

429 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:35:11.74 ID:lgOvXgxq0

芳川「学園都市の研究者を手中にして、その考え方は間違いだと気がついた後も、ご両親は解放されなかった」

芳川「それで、新しく攫われて来た私と出会ったということよ」

旅掛「許さん」

芳川「すみませんでした」

旅掛「許さん」


上条「無事なようで何よりだけど、何で無事なの?」

美鈴「んー? 何て言ったかな、海原君? カッコいい彼に助けてもらっちゃった」

ショチトル「海原……というのは、まさか」

土御門「つまり、エツァリが化けてる男だにゃー」

ショチトル「あの、その人は今どこに?」

美鈴「私達をこの部屋に残して、他の人達を助けに走ってるわよ」

上条「何!? くそう、また出番が取られる!」

土御門「よし、追いかけるぜよ!!」

ショチトル「
430 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:35:44.00 ID:lgOvXgxq0

<廊下>

初春『それじゃあ、次はエレベーターに乗って二階へ行ってください』

上条「はーい」

土御門「すっかりツアー感覚だな」
431 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:36:34.10 ID:lgOvXgxq0

<二階廊下>

上条「うわ」

土御門「カミやん、エレベーターのドアの前で立ち止まるのはやめてほしいぜよ」


白井「あら? あなたは……例のあの人ではありませんの」


上条「人を名前を言ってはいけない人みたいに言うなよ」

土御門「カミやーん、ウィンガーディアム・レビオーサ!」

上条「うるさい」


白井「こんな所で何をしていますの?」

上条「何って言ってもな……人助け?」

白井「はっ!! まさか、お姉様を助け出してポイントを稼ごうなどとっ……」

白井「卑怯ですわ! なんと浅ましい! 汚らわしいこの類人猿め!!」

白井「どうせ、
    『大丈夫か、美琴』
    『ありがとう! かっこよかったわ! 大好き!』
    『ふっよせよ……』
    『ねえ、キスして……』
    『バカ、こんな所で……』
    『あんたの唇がほしいの、黒子……』
   などという流れを狙っていたのでしょうけど、お生憎様ですわ!
   お姉さまは既に救出されていますのよ!!」

上条「多分、それ企んでたのお前だろ」

白井「!!」
432 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:37:22.31 ID:lgOvXgxq0


上条「御坂がすでに助かってるとなると、お前はそこで何をしてたんだ?」

白井「佐天さんと協力して、悪党どもをこのドアの向こうに閉じ込めたところですの」

初春『私と白井さんと佐天さんが監禁されてた部屋なんですよー』


上条「佐天さん……? ここにはいない、よな?」キョロキョロ

初春『コンピュータールームで私と一緒にいますよ』

白井「この施設の自動ドアとシャッターは、すべてそこでコントロールできますの」

初春『白井さんが彼らを追い詰めて、佐天さんがシャッターを閉めて追いこんで行ったんです』


上条「なんか、すごい大作戦が展開されてたんだな」

白井「でも佐天さん、ゲーセン感覚で面白がってましたわ」

土御門「とにかく、これで雑魚の魔術師に襲われる心配はないと」

上条「戦争する覚悟で来たのに、とんだイージーモードだぜ」

土御門「何しろ巻きだからにゃー」
433 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:38:00.35 ID:lgOvXgxq0

上条「黒幕もこの部屋の中にいるのか?」

白井「いえ、わたくし達が相手をしたのは下っ端の連中だけですの」

初春『それから、名前も出て来ない大量の研究者のみなさんも救出しましたよ』

白井「結局、雑魚ばっかり相手にしてましたの」

上条「雑魚て」

初春『大物はとってありますから』

上条「そこらへんは空気を読むんだな」

土御門「大丈夫、カミやんが目立つチャンスは残されてる!」

上条「そんな心配してないもん」

ショチトル「
434 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:38:55.25 ID:lgOvXgxq0



初春『雑魚が片付いたところで、最上階に進みましょう!』

上条「俺何もしてないんだけど」

土御門「心配するな、いつものことだ」


初春『さて、そこに現れる黒幕の正体とは!?』


土御門「暴かれる真の目的とは!?」


白井「上条はそれを打ち砕くことができるのか!?」




上条「俺たちの戦いは、これからだ!!」






ショチトル「
435 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:39:49.34 ID:lgOvXgxq0


■■■■救助リスト■■■■

===イギリス清教===
必要悪の教会
   禁書目録         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   ステイル=マグヌス     【救助立候補:シェリー=クロムウェル】

ロンドン女子寮
   神裂火織         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   オルソラ=アクィナス    【解決済】

天草式十字凄教
   建宮斎字         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   浦上           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   五和           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   牛深           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   香焼           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   諫早           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   野母崎          【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   対馬           【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   他44名          【救助立候補:シェリー=クロムウェル】

アニェーゼ部隊
   アニェーゼ=サンクティス  【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   シスタールチア      【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   シスターアンジェレネ   【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   他約200名         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】


===英国王室===
   エリザード        【捕縛】
   リメエア         【捕縛】
   キャーリサ        【捕縛】
   ヴィリアン        【捕縛】


===騎士派===
   騎士団長         【捕縛】


===結社予備軍===
新たなる光
   レッサー        【消息不明】
   ベイロープ       【消息不明】
   フロリス        【消息不明】
   ランシス        【消息不明】


===ローマ正教===
   ローマ教皇        【誘拐】

神の右席
   フィアンマ        【捕縛】
   ヴェント         【捕縛】
   アックア         【捕縛】


===ロシア成教===
   サーシャ=クロイツェフ  【行方不明】


===エリザリーナ独立国同盟===
   エリザリーナ       【解決済】



436 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:41:28.95 ID:lgOvXgxq0

===学園都市===
統括理事会
  アレイスター=クロウリー  【失踪】

とある高校
   月詠小萌         【解決済】
    結標淡希        【解決済】
   姫神秋沙         【行方不明】
   吹寄制理         【解決済】
   青髪ピアス        【行方不明】
   土御門元春        【解決済】

御坂勢力
   御坂美琴         【誘拐:全身タイツ(ロシア成教?)】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-16000)    【解決済:一方通行】
   妹達(16001-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【解決済】
   初春飾利         【解決済】
   佐天涙子         【解決済】
   エツァリ         【誘拐:全身タイツ】
    ショチトル       【解決済】

黄泉川家
   黄泉川愛穂        【解決済】
   芳川桔梗         【土下座】
   一方通行         【解決済】
   打ち止め         【解決済】
   番外個体         【解決済】

新生アイテム
   麦野沈利         【解決済】
   浜面仕上         【解決済】
   滝壺理后         【解決済】
   絹旗最愛         【解決済】

旧スクール
   垣根帝督         【解決済】
   心理定規         【解決済】

忍者
   服部半蔵         【解決済】
   郭            【解決済】

その他
   風斬氷華         【中の人】
   スフィンクス       【行方不明】
   冥土帰し         【解決済】
   研究者(約150人)     【解決済:白井・佐天】
   上条刀夜         【行方不明】
   上条詩菜         【行方不明】
   御坂旅掛         【解決済】
   御坂美鈴         【解決済】

437 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:42:54.09 ID:lgOvXgxq0

<エレベーター内>

土御門「もうちょっとだけ続くんじゃ」

上条「あれじゃいくらなんでも巻き過ぎだもんな」


エレベーター「チーン」

ガーッ


<最上階廊下>

上条「うわ」

土御門「おいカミやん、ドアが開く度に立ち止まるのをやめろ」


エツァリ「ああ、みなさんお揃いで」


ショチトル「  上条「無事だったか!」  土御門「よかった、これで残りは御坂と第一位だにゃー」  !!」

エツァリ「再開したばかりで事情がさっぱり呑み込めませんが、ショチトルが何か不憫な扱いをされてませんか?」

白井「気のせいですの。それより、ここで何を?」

エツァリ「ご覧のとおり、悪い魔術師をひっとらえていたんですよ」

上条「悪い魔術師?」


レッサー「ふ、不覚……フロリスが変装した別人だったなんて……」

ベイロープ「まんまと騙されて一人ずつ襲われて縛りあげられてしまうなんて……」

ランシス「あひゃっ……ふ、フロリスは逃げた滝壺を追ったきり、ひひ、集落に捕らわれていたなんて……」


上条「すっごい説明してるよ!」

土御門「しーっ!」
438 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:44:00.60 ID:lgOvXgxq0


上条「つまり、今回の黒幕はお前らだったのか?」

レッサー「それは違いますよ。私達の活動理念は祖国の役に立つことですから」

上条「じゃあ、なんでこんな人攫いの加担なんかしてるんだよ」

ランシス「くひんっ……お、お、脅されて、仕方なく、あふ、協力して……」

ベイロープ「ランシス、今必要ないんだから、魔力練るのやめたら?」

レッサー「こんなことをしているのがばれたら、また必要悪の教会につけ狙われてしまいますからね」

ランシス「行方をくらませたってことに、いひひひ、して、こっそり加担を……」

ベイロープ「ランシス、くすぐったがってないで魔力ひっこめたら?」

上条「脅されたって、誰に何を?」

レッサー「イギリス王室の面々が根こそぎ攫われたのは知っていますか?」

上条「ああ、一応は」

レッサー「陛下や殿下たちが人質となると、私達も手も足もでなくて」

ランシス「は、犯人は、うひゃ、ローマ正教の、とありゅ男でっ……」

ベイロープ「ランシス、あなたひょっとしてMなの?」
439 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:45:06.75 ID:lgOvXgxq0

レッサー「ちなみに、ここでボスをしているのも私達ではありません」

土御門「ボスの下の四天王って感じかにゃー」

上条「じゃあ、ボスは誰だ? 初春?」

土御門「そんなわけないだろうカミやん。ロシア成教の人間だ」

エツァリ「御坂さんがメインコンピュータールームの向こうの実験室で対決しているはずです」

上条「対決? あいつ魔術師と闘ってるのか!?」

レッサー「あの人と正面からぶつかって無事で済むとは思えませんけどね」

ベイロープ「でも、あの状態ならあるいは……」


上条「何だかよく分からないけど、加勢しにいかねえと!」

土御門「四天王に続いてボスまで先にやっつけられたら、カミやんの立場がないもんな!!」

上条「そういうのじゃなくて、御坂が心配なんだッ!!」

土御門「わざわざロシアに来て、投獄された以外に何の思い出も無いなんて情けないもんな!!」

上条「俺は御坂が心配なんだッ!!」


初春『じゃあ、御坂さんのいる実験室まで案内しますねー』

初春『実験室は、私達のいるコンピュータールームを通った先にあります』

初春『その廊下の突き当たりにあるので、入って来て下さい』

上条「はーい」

土御門「普段のトラブルもこう簡単に行けばいいのににゃー、カミやん」

440 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:45:37.81 ID:lgOvXgxq0

<メインコンピュータールーム>

佐天「あたし達の城へようこそ!」

初春「あ、白井さん、お疲れ様です」

白井「大した仕事じゃなかったですの」


上条「元気そうだなーお嬢さん方」
441 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:46:11.61 ID:lgOvXgxq0

佐天「私たちみんな、御坂さんを牽制するために捕えられた人質だったみたいなんですけど」

初春「その御坂さんに助けてもらったんです」

エツァリ「ちなみにその御坂さんを見事助け出したのは自分です」

佐天「御坂さん、カッコよかったんですよ!」

初春「見張りの人達をガツーンとやっつけて!」

白井「もう、最高でしたの!」

エツァリ「ちなみにその御坂さんをダイナミックに助け出したのは自分です」
442 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:47:04.52 ID:lgOvXgxq0

上条「それで、どうしてここのコンピューターの管理を女子中学生がやってるんだ?」

白井「お姉様に助けられてばかりでは終われませんもの」

エツァリ「ちなみにその御坂さんを華麗に助け出したのは自分ですが」

初春「みんなで力を合わせてこの部屋を占拠しちゃいました!」

上条「しちゃいましたって、ちょっとしたお転婆みたいな感じで言うなよ」

佐天「なんか、ゲーセン感覚で。テヘ」

上条「JCこわい」

佐天「あはは~」


初春「それで、コンピューターのセキュリティを御坂さんと解除してですね」

白井「あとは、このハイテク施設の全てを初春が支配したということですの」

上条「そんなことできるもんなのか? 学園都市のコンピューターを乗っ取りなんて……」


初春「はっきり言って、赤子です」


上条(すげえ)
443 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:47:42.20 ID:lgOvXgxq0

上条「無事ならもうなんでもいいや」

土御門「イイ感じに調教されてきてるぜよ、カミやん」


上条「あっちのドアの向こうに、ボスと御坂がいるんだな?」

佐天「はい。行くんですか?」

上条「当たり前だろ。あいつ一人じゃ大変だ」

初春「じゃあ、ドアを開けますね」

佐天「がんばれ初春~」

上条「ん?」

初春「あのドアは特殊なオートロックで、いちいち解除するためのコードが変わるんです」

上条「大事な部屋なのか。どれくらいで開く?」

初春「まあ、二秒あれば解析できます」

上条(すげえ)


1

2

ガーッ

444 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:48:09.00 ID:lgOvXgxq0

<実験室>

上条「御坂! 大……丈夫……か……」

土御門「どうしたカミや……ん……」



美琴「……」

ワシリーサ―(土下座)「……」



上条「これは流石に無い」

土御門「ないな」
445 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:48:35.96 ID:lgOvXgxq0

美琴「ん? あ、え? なんでアンタがいるの!?」

上条「何でっていうか……まあ、助けに来たんだよ」

美琴「助けにって、わ、わた、私を?」

上条「ああ」

美琴「!!」

土御門「ちなみに、カミやんが助けようとしてるのはここに捕らわれてる全員のことだからな」

美琴「わ、分かってるわよ! そういうヤツよね、アンタって」

上条「?」
446 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:49:31.09 ID:lgOvXgxq0


上条「それで、これはどういうことだ?」


これ↓
ワシリーサ(土下座)「……」


美琴「知らない」

上条「知らないってことはないだろ! 何で魔術師のボスがお前に土下座なんだよ!」

美琴「違うってば! 土下座に見えるけど違うの! ただ身体丸めてうずくまってるだけよ!」

上条「どういうことだ?」

美琴「知らない」

上条「知らないってことはないだろ! 何で……」

土御門「キリがないぜよ」
447 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:50:21.78 ID:lgOvXgxq0

レッサー「その人は、ロシア成教の殲滅白書のまとめ役、ワシリーサです」

上条「あれ? レッサー、縄は」

土御門「ドアは」


レッサー「今、その人はちょっと普通の状態ではないんですよ」

上条「見ればわかるよ。この土下座状態、どうなってんだ?」

レッサー「彼女は今、ローマ正教の洗脳術式にかかっています」

レッサー「必要な時以外は動かないようになっているんです」

土御門「殲滅白書のトップにあっさり術式かけるなんて、タダものじゃないな」

レッサー「……黒幕の例の男、私には雑魚っぽく見えたんですけどね」


美琴「さっきから何の話をしてるのかよく分かんないんだけど、洗脳ってのが気に食わないわね」

レッサー「彼女も私達も、好きでこんなことをしているわけではないんですよ」

上条「とにかく、話を聞いてみたい」

土御門「洗脳されてるなら、話どころじゃないと思うけどにゃー」
448 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:51:05.01 ID:lgOvXgxq0

上条「あのー……ワシリーサ、さん?」

ワシリーサ「……」

土御門「お、おもむろに顔を上げた」

美琴「目がうつろね」

レッサー「やっぱり、まともな意識はないみたいです」

上条「私、上条当麻と申す者ですが……」



ワシリーサ「ワッシ-!!」



上条「!?」

美琴「!?」

土御門「!?」



上条「何だ今の?」

ワシリーサ「ワッシ-!!」

レッサー「洗脳術式の影響ですね。ほぼそれしか言いません」

美琴「お、恐ろしい効果ね……」

ワシリーサ「ワッシ-!!」

土御門「この人物がここまでやられるとは……」

レッサー「何でも、お気に入りの弟子を奪われたショックで呆然としてる隙に掛けられたようです」

上条「ふーん、弟子想いなんだなあ」

美琴「言ってる場合か!」
449 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:51:43.42 ID:lgOvXgxq0

土御門「どうやら、やっと出番のようだぜい、カミやん」

上条「そうだな」

レッサー「と言いますと?」

上条「洗脳ってのが魔術なら、俺の右手で解除出来るはずだ」

レッサー「なるほど。まともになったところで味方になってくれるかは分かりませんが」

美琴「このままじゃあんまりだもん。やってあげたら?」

上条「おう」




ワシリーサ「ワッシ-!!」

上条「…………」


450 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:52:14.87 ID:lgOvXgxq0


上条「行くぜ、魔術師……」


ダッ!!


上条「その幻想を!!」


上条「ぶち殺ォす!!!」



ピキィーン!!



ワシリーサ「ギャー!!」



レッサー「レッサー!!」

レッサー「どう考えても今殴る必要はありませんよ!!」

美琴「今の『レッサー!!』って悲鳴?」
451 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:52:53.37 ID:lgOvXgxq0

ワシリーサ「…………」

ワシリーサ「……う」

ワシリーサ「……うう……」

上条「気が付いたみたいだな。気分は大丈……」




ワシリーサ「ワッシ-!!!!」




上条「エエエエェェェェエエエエ」


美琴「どうなってんの?」

レッサー「その右手も失敗するんですか?」

土御門「いや……見たとこ、術式は解けてるぜい」

レッサー「そ、そうか……」

上条「何だ?」

レッサー「かわいがってた弟子がいなくなったショックで、ちょっとおかしくなってるんですよ!!」

上条「え? ってことは、これ、デフォルト?」

土御門「デフォルトっていうか、軽いショック状態だにゃー」

美琴「……不憫……」

レッサー「お弟子さんに会わせてあげればもとに戻ると思うのですが」
452 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:53:19.76 ID:lgOvXgxq0

ワシリーサ「ワッシ-!!!!」

上条「これじゃ何も聞き出せないな」

土御門「やれやれ、ここへ来て救助リストに人が増えるぜよ」

美琴「ワシリーサさん、もとに戻してあげないとねえ」

土御門「巻きでいけっつってるのに……」

上条「俺を恨めしげに見るのは何かおかしくない?」

ワシリーサ「ワッシ-!!!!」
453 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:54:03.39 ID:lgOvXgxq0

上条「残りは謎の第一位、か」

美琴「いるらしいわね、ここに。……本当にあいつが捕まったの?」

上条「しかも大人しく捕まったままでいるなんて信じられないけどな」


レッサー「ああ、彼を返してほしいんですか? いいですよ」

土御門「おっと、あっさり来たぜい」

レッサー「どうせ計画は失敗ですし。王室の方々の身が心配ですが……」

上条「大丈夫。必ず俺が助け出して見せる!」

土御門「ロシアじゃいいとこ見せられなかったもんな」

上条「うるさいよさっきから」

美琴「あーもー、そんなのはいいから! あのクソ野郎、助けるんでしょ!」


上条「……悪いな、御坂」

美琴「アンタがどんなゴミ野郎でも見捨てられないヤツだってのは、分かってるから」

レッサー「ひどい言われようですね、第一位」

土御門「人生色々だ」
454 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:54:29.65 ID:lgOvXgxq0

<第一位監禁室前>

レッサー「ここです!」

上条「おお、ありがとう」

土御門「ドアは開くのかにゃー?」

レッサー「特殊な結界が張られているので、コンピューターだけでは開きませんよ」

土御門「じゃあ解いて。巻きなんで」

レッサー「何ですか巻きって。開けますけどね」


ガーッ

455 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:55:12.84 ID:lgOvXgxq0

<第一位監禁室>

上条「一方通行?」

美琴「……」

土御門「さあ、果たして本当に一方通行は捕らわれているのか!?」

上条「うるさいよ、土御門」

レッサー「第一位さん、助けが来ましたよ」



青ピ「いやあ、ボク、ちゃうねんけどなあ……」



上条「」

土御門「」


美琴「……誰?」

456 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:56:08.07 ID:lgOvXgxq0

上条「何でいるんだよ!?」

青ピ「な、か、カミやん? 何でいきなりロシアにいて、何でボクの胸倉を掴むん?」

上条「いつお前が一位になったんだよ!?」

青ピ「ぐえっだからボクは何も知らな……」

上条「目を覚ませ青髪ピアス! お前はただのとある高校の一生徒だ! 超能力者の第一位なんかじゃない!!」

青ピ「わ、分かってるでカミやん。ボクは何も自分から第一位を名乗ったわけでは」

上条「いいぜ、青髪ピアス! お前が自分を超能力者だと思い込んでいるなら……」

上条「そんな妄想に溺れているっていうなら……」


上条「まずは、その幻想をぶち殺す!!!!」

青ピ「ちょ、やめ……」



バキッ!!!!





土御門「分かってるくせに八つ当たりはやめるんだ、カミやん」

上条「うん、ごめんな青ピ」

青ピ「あんまりや……」
457 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:57:05.48 ID:lgOvXgxq0

レッサー「ちょっと待ってくださいよ」

上条「何だ?」

レッサー「彼が第一位じゃないってどういうことですか!?」


土御門「どうもこうも、言葉どおりだぜい」

美琴「ホンモノはもっと凶悪な面構えしてるわよ」

レッサー「そ、そんな……せっかく命懸けで学園都市に侵入して攫ってきたのに……」

青ピ「かわいい女の子に拉致されて、いい経験させてもろたのはええねんけどね」


上条「そもそも、何でよりによってコイツを第一位と勘違いしたんだよ」

レッサー「だ、だって……指令書にはちゃんと書いてありましたよ!」


レッサー「学園都市の高校生男子!」

レッサー「変なあだ名!」

レッサー「変な髪の色!!」

レッサー「変な喋り方!!!」


レッサー「まさしく第一位の特徴そのものではないですかっ!!」



土御門「変な喋り方の高校生なら他にも山ほどいるけどにゃー」

上条「にゃーが言うな」
458 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:57:47.20 ID:lgOvXgxq0

美琴「ってことは、え? つまり、勘違いだったの?」

土御門「そうらしいな」

上条「まあ、御坂にとっては遭遇せずに済んでよかったのかもな」

レッサー「そんなぁ……苦労したのに……」

青ピ「気にすることないで、レッサーちゃん。ボクは君の味方やから」


上条「結局、本物の一方通行は無事なんだよな?」

土御門「そうなるにゃー」

美琴「憎らしいことにね」


上条「あいつ、こないだの電話出なかったじゃねえか……」

土御門「もう一度掛けてみるか?」

上条「うん。やってみよう」
459 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:58:39.36 ID:lgOvXgxq0


電話「プルルルルル」


電話「プルルルルル」



一方通行『Hello?』



上条「出た! 一方通行、俺だ! 無事か!?」

一方通行『なンだ、ユーか』

上条「……今どこだ」

一方通行『ロスの妹達(スィスターズ)をエブリバディレスキューしたとこだ』

上条「……」イラッ

上条「何で電話に出なかったんだよ? 連絡が付かなくてややこしいことになってたんだぞ」

一方通行『ずっとアンダーグラウンドにいたンだよ』

一方通行『そもそも、なンでミーがユーのコールにいちいち応えなきゃなンねェンだ』

上条「……」イラッ

上条「いや、何も無いならいいんだ。切るぞ」

一方通行『おォ……アディオス』

上条(アディオス英語じゃねえよ)

プツッ


土御門「色んな国の訛りがうつってるみたいですたい」

上条「やれやれ、人騒がせな。とにかく、あいつも無事か」
460 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:59:16.55 ID:lgOvXgxq0
















上条「……え、解決?」








上条「……え、解決?」
461 :1[saga]:2011/05/24(火) 03:59:58.69 ID:lgOvXgxq0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===結社予備軍===
新たなる光
   レッサー        【解決済】
   ベイロープ       【解決済】
   フロリス        【看板に突き刺さってる】
   ランシス        【解決済】


===ロシア成教===
new! ワシリーサ        【ワッシー!!!!】
   サーシャ=クロイツェフ  【行方不明】


===学園都市===
とある高校
   月詠小萌         【解決済】
    結標淡希        【解決済】
   姫神秋沙         【行方不明】
   吹寄制理         【解決済】
   青髪ピアス        【解決済】
   土御門元春        【完全復帰】

御坂勢力
   御坂美琴         【解決済】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-16700)    【解決済:一方通行】
   妹達(16701-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【解決済】
   初春飾利         【解決済】
   佐天涙子         【解決済】
   エツァリ         【解決済】
    ショチトル       【解決済】

黄泉川家
   黄泉川愛穂        【解決済】
   芳川桔梗         【解決済】
   一方通行         【解決済】
   打ち止め         【解決済】
   番外個体         【解決済】

その他
   風斬氷華         【中の人】
   スフィンクス       【行方不明】
   冥土帰し         【解決済】
   研究者(約150人)     【解決済】
   上条刀夜         【行方不明】
   上条詩菜         【行方不明】
   御坂旅掛         【解決済】
   御坂美鈴         【解決済】
462 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 04:00:37.05 ID:lgOvXgxq0
つづく

巻いております
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/05/24(火) 04:01:32.15 ID:VC7+pBF3o


男坂とソードマスターを足して割ったかのような……ww
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/24(火) 04:04:47.20 ID:w6k5bHQi0
乙ワッシー! 
 
474 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:09:36.89 ID:lgOvXgxq0

土御門「捕らえられてた連中を学園都市に強制送還しといたぜい」

上条「おう、サンキュー」

土御門「ワシリーサはロシア成教で保護してるみたいだし、とりあえず心配ないですたい」

上条「『新たなる光』は解放してあるし、完璧だな。で、」

上条「お前は何で残ってるの?」

レッサー「ロシアで活躍の場がなかったことを気に病んでいるのなら、是非協力してほしいことがあるんです」

上条「女王様たちの救出か?」

レッサー「彼女たちが人質にされたままでは、私達も自由ではありませんから」

土御門「リストには入ってるんだし、結局やるのは変わらないぜよ」

上条「そうだなあ……でも、どこにいるんだ?」

レッサー「陛下達が捕まっているのはバチカンですよ」

土御門「んじゃ、早速とうまんくす号でローマに行くんだぜい!」

上条「待て土御門。何でそのネーミングを知ってる」


※とうまんくす号…>>277
475 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:10:35.19 ID:lgOvXgxq0

<とうまんくす号機内>


土御門「もうすぐイタリアですたい」

上条「ああ……くじで一等当てて、ひどい目に遭って帰って来た思い出の土地だ」

土御門「今度こそいい思い出が出来るとは期待しない方がいいかもな」

土御門「ところでカミやん、今朝の新聞読んだかにゃー?」

上条「いや……ロシアにいたし」

土御門「じゃあ、読んでみるといいぜい」ハイ

上条「?……ありがとう」

上条「……」


上条「『誘拐されていたイギリス王室の面々、無事生還』」


上条「おい!」

土御門「助けに行くまでもなく助かってるぜい」

上条「これ今朝の新聞だって言ったよな!? 知ってたんだよな!? 出発する前に言えよ!」

土御門「ローマには今回の王室誘拐の犯人が捕まってる!! どういうつもりだったか話を聞きに行くぜよ!!」

上条「何で新聞読んで終わりじゃダメなんだ」
476 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:11:26.17 ID:lgOvXgxq0

<ローマ市街>

土御門「空港からタクシー飛ばして到着!」

上条「……」

土御門「早速犯人に話を聞きに行くんだぜい」

上条「……」

土御門「どうしたカミやん! 今回の謎の答えを知りなくないのか!?」

上条「別に……」

土御門「知りたがれ!!」

上条「何ちょっとカオナシみたいなこと言ってんだよ……犯人って誰だ」

土御門「まあ、会えば分かる。独房へれっつごーですたい」

上条「その、ちょっと後に引っ張るクセ、何とかならない?」
4771[saga sage]:2011/05/24(火) 22:12:21.31 ID:lgOvXgxq0

<独房>

土御門「それでは、王室誘拐の犯人を発表するぜい!」

土御門「オープンザプライス!!」

上条(え? プライス……え?)


扉「ギギィーーーー……」




リドヴィア「 わ た し ^o^ で す 」



上条「おまえだったのか」



土御門「これは意外! 
    『使徒十字』の一件で処刑塔に幽閉されていたはずのリドヴィア=ロレンツェッティ!
    なんと犯人だったなんて!
    一体どうやって脱走したというんだ!?
    そしてその目的は!?」

上条「ありがとな、土御門」
478 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:12:59.84 ID:lgOvXgxq0

リドヴィア「えぇえぇ、どうせ私がやりましたとも」

上条「何かふてくされてない?」

土御門「こいつがこんな逆境にあってふてくされるなんて、相当なことがあったんだろうな」

リドヴィア「どうせですから、聞いていただきましょうか」

上条「お、あっさり白状してくれるらしいぞ」

土御門「ここで粘られたら困るからにゃー」



リドヴィア「私を処刑塔から脱走させてくれたのは、オリアナでした」

リドヴィア「彼女は腕の立つ魔術師ですので。イギリス清教に協力することで、一定の自由を得ていました」

リドヴィア「そこで、一瞬の隙をつき。私を助け出してくれたので」
479 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:14:55.36 ID:lgOvXgxq0

リドヴィア「処刑塔を脱出する時、私はついでにもう一人解放してもらうよう、オリアナに求めました。」

土御門「そりゃもしかして、ビアージオ=ブゾーニか」

上条「え……あいつも外へ出しちゃったのか?」

リドヴィア「獄中で彼の計画を聞き。面白そうだと思いましたので」

土御門「計画って、どんな?」

リドヴィア「詳細は聞きませんでしたが。どうやら、学園都市に損害を与えるもののようで」

リドヴィア「これ幸いと」

上条「つまり、学園都市への嫌がらせのために手を貸したのか」

土御門「花火に負けたのがそんなに悔しかったの? ねえねえ、どんな気持ち?」

リドヴィア「大きなお世話かと」


上条「じゃあ、そのビアージオの計画に協力したのか?」

リドヴィア「いいえ。彼と共に脱獄した後、ある事実が判明したので」

リドヴィア「彼は学園都市へ嫌がらせするだけでなく、ローマ教皇の誘拐を企んでおり」

リドヴィア「教皇に危害を加えるなど、許されることではありません」

上条「助けておいて、止めようとしてたわけか」

リドヴィア「はい。ビアージオが教皇を襲うタイミングを、逆に襲う作戦でした」

土御門「狩りの基本ぜよ。相手が獲物を狙う瞬間を、こっちも狙うと」

リドヴィア「ええ。それであの男を拘束してしまえば、ひとまずは混乱も避けられるかと」

上条「それがどうしてイギリス王室の誘拐になるんだよ?」


リドヴィア「……流石の私も、こんなことになるとは思いませんでした」
480 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:16:01.28 ID:lgOvXgxq0

<リドヴィアの回想>

リドヴィア「何としても、教皇を守らなければ」

オリアナ「でも、どうする? こっちは二人だけど、あいつは早速昔の部下を集めてるわよん」

リドヴィア「彼が教皇を襲う瞬間。それを狙います」

オリアナ「いつ実行するのか分かっているわけ?」

リドヴィア「ええ」

リドヴィア「近々、英国の王室とローマ教皇が公式会談を行います」

オリアナ「あの大騒ぎになってるイベントね」

リドヴィア「そのお祭り騒ぎのタイミングで、彼は教皇を狙う手筈ですので」

オリアナ「何でわざわざ目立つ時を選ぶの? ばかなの? スーパースターマンなの?」

リドヴィア「ばかかも知れませんが。スーパースターマンは無いのではないかと」
481 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:16:40.95 ID:lgOvXgxq0

リドヴィア「私が教皇を保護しますので。貴女にはあの男を捕獲していただきたく」

オリアナ「具体的にはどうするつもり?」

リドヴィア「会談の舞台はバチカン。英国側が訪問する形になっています」

リドヴィア「当然、ビショップ=ビアージオもやってくるはず」

リドヴィア「そこで……」



リドヴィア「バチカンに、落とし穴を掘ります!!」



リドヴィア「教皇を落とし、保護します!!」



オリアナ「……」

リドヴィア「そのパニックに乗じて、ビアージオを縛り上げてください」

オリアナ「……わ、分かった……」
482 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:17:12.02 ID:lgOvXgxq0

<独房>

上条「分かっちゃったんだ……オリアナ……」

リドヴィア「完璧な作戦かと。と、その時は思っていたのですが……」
483 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:18:04.82 ID:lgOvXgxq0

<回想・サン・ピエトロ大聖堂前 地下>

リドヴィア「ふっふっふ……」

リドヴィア「落とし穴のトラップもカンペキに仕掛けられました」

リドヴィア「あとは教皇が落ちてくるのを待つだけ……」



<ドッシーン



リドヴィア「!! 来ました!」

リドヴィア「ローマ教皇! 突然のご無礼をお許……し……」




エリザード「いたた……何だここは?」



リドヴィア「」


オリアナ『ちょっと、リドヴィアちゃーん!?
     女王様も教皇様も消えちゃったって、上は大混乱よ!?」

リドヴィア「な、何ですって!? 教皇も消えた?」

オリアナ『どうやら作戦は失敗ね。お姉さんはビアージオのオジサンを追うから、そっちはそっちで何とかしてね』

リドヴィア「ど、どうしろと」

オリアナ『知るわけないでしょ』

リドヴィア「あわばばばばば」
484 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:18:32.63 ID:lgOvXgxq0

<独房>

上条「ええええええええええぇぇぇぇぇ」

リドヴィア「ま、間違えて英国女王陛下を落としてしまったので……」

土御門「ドジっ子どころの話じゃないぜよ!」

リドヴィア「どうやら、最初に教皇が出迎えるポイントを若干ずれて想定していたようで」

上条「だからってさあ……すぐに謝って解放すればよかったじゃねえか」

土御門「そうだぜい。何でわざわざ閉じ込めておいたんだ」

リドヴィア「私も最初はすぐに解放するつもりでした」

リドヴィア「陛下には事情を説明し。一応は納得していただけたので」
485 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:19:39.72 ID:lgOvXgxq0

<回想・落とし穴下>

エリザード「事情は分かった。とにかくここから出して欲しいな」

リドヴィア「はい。まさか貴女を落とすことになるとは思わなかったので。出口に案内します」

トットコ・・・

エリザード「あー、ちょっとその前に」

リドヴィア「はい?」ピタ

エリザード「その男の計画。面白いじゃないか。詳しく聞かせなさい」

リドヴィア「? はあ……」



リドヴィア「かくかくしかじかですので」

エリザード「なるほど……?」



エリザード「……何がしたいのか分からないな、その男」

リドヴィア「ええ。目的までは聞きませんでしたので」
486 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:20:24.90 ID:lgOvXgxq0

<回想・サン・ピエトロ大聖堂前>

騎士「陛下と教皇のお二人が挨拶を交わした瞬間、消えてしまわれました」

リメエア「母上たちが消えたのはこの辺り。間違いないのね?」

騎士「はい。何しろ目撃者は大勢いましたから」

リメエア「教皇の方はとりあえずあちらに任せるとして……母上の行方は突き止めなければならないわ」

騎士「失踪から二時間ほど経過していますが……」

リメエア「消えた現場から痕跡を探しましょう。任せておきなさい」

騎士「『頭脳』の長女様なら余裕ですね」

リメエア「何かのトリックがあるはず」

リメエア「必ず、暴いて見せる」


リメエア「じっちゃんの名に掛けズボッ




騎士「……殿下?」


騎士「うわあああああぁぁぁ殿下消えたぁぁぁぁぁぁぁ」
487 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:20:59.35 ID:lgOvXgxq0

<回想・落とし穴下>


<ドッシーン



リドヴィア「!?」

エリザード「誰か落ちたようだな」


リドヴィア「確かめてきますので。お待ちいただきたく」

エリザード「どうぞどうぞ」



リメエア「いたた……何なのここは?」




リドヴィア「……」


リドヴィア「うわあああああぁぁぁ殿下落ちたぁぁぁぁぁぁぁ」



エリザード「何だ、リメエアじゃないか」

リメエア「あら、あら、母上。こんな簡単なトリックだったなんて」
488 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:21:35.59 ID:lgOvXgxq0

<独房>

上条「ええええええええええぇぇぇぇぇ」

リドヴィア「だ、第一王女まで間違えて落ちてきてしまったので……」

土御門「どんだけ精巧な落とし穴作ったんだ」

リドヴィア「そして、私には王室誘拐の容疑が二倍になって圧し掛かってまいりましたので」

上条「でもさあ……やっぱりすぐに謝って解放すればよかったじゃねえか」

土御門「そうだぜい。何でわざわざ閉じ込めておいたんだ」

リドヴィア「私も最初はすぐに解放するつもりでした」

リドヴィア「殿下にも事情を説明し。一応は納得していただけたので」

リドヴィア「ところがその頃、地上では……」
489 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:22:06.92 ID:lgOvXgxq0

<回想・サン・ピエトロ大聖堂前>

キャーリサ「全く。母上も姉上も揃って間抜けだし」

キャーリサ「やすやすとっ捕まるなんて、同じ王族として恥ずかしーの」

キャーリサ「さて、二人が消えた現場はこの先」


キャーリサ「さっさと片付けて英国へ帰ズボッ
490 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:22:34.08 ID:lgOvXgxq0

<三分後>

ヴィリアン「母上も姉上たちも、このあたりで行方不明になった……」

ヴィリアン「ということは、近くに犯人の方が潜んでいるはず」


ヴィリアン「あの……私、話し合いをしたいのですけど……」


ヴィリアン「どなたか、犯人の方、いらっしゃズボッ
491 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:23:20.18 ID:lgOvXgxq0

<回想・落とし穴下>

リドヴィア「……というわけでしたので」

リメエア「あらあら。何とも間抜けなお話ね」

エリザード「お前も落ちただろう」



<ドッシーン



( ゚д゚ )
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )



<ドッシーン②



(゚д゚ )
(゚д゚ )
(゚д゚ )


492 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:24:39.07 ID:lgOvXgxq0

キャーリサ「いたた……」

ヴィリアン「お、落とし穴……?」


エリザード「お」

リメエア「キャーリサにヴィリアンじゃないの」

キャーリサ「母上と姉上……どーやら無事だったよーだし」

ヴィリアン「あの、これは一体、どういう」



リドヴィア(何だ何だよ何なのでぇぇぇぇ!?)

リドヴィア(どうしてドイツもコイツも同じ穴に落ちやがりますのでぇぇぇええ!?)



リドヴィア(いけません!)

リドヴィア(こんな危険な穴は早く埋めてしまわないと!)

493 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:26:34.04 ID:lgOvXgxq0

<回想・サン・ピエトロ大聖堂 地下>

騎士団長「リメエア様が地下へ落とされるのを部下が目撃している」

ウィリアム「敵は陛下たちを地下に閉じ込めているということであるか」

騎士団長「そうだな。不思議なコネでバチカン地下の地図を手に入れたが、最近新しく不自然な地下室が作られたらしい」

ウィリアム「不思議なコネとは何だ」

騎士団長「この先だ、抜かるなよウィリアム!!」

ウィリアム「……う、うむ」
494 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:27:18.24 ID:lgOvXgxq0

<回想・サン・ピエトロ大聖堂前>

リドヴィア「……これでよし」

リドヴィア「やたらと王族が落ちる危険な穴は塞ぎましたので」


エリザード「やっと地上に出られたな」

リメエア「何だかんだで長話してしまったものね」

ヴィリアン「みなさん、心配しているのでは……」


リドヴィア「それでは、下の部屋を爆破して証拠隠滅をさせていただきますので」

キャーリサ「何の証拠を消したいのかよく分からないけど、やりたいなら好きにすればいーの」


リドヴィア「では爆破ボタンをポチっとなですので」



地下室「ドカーン!!」





ウィリアム『ギャー!!』

騎士団長『ウオー!!』





ヴィリアン「……今、下から野太い悲鳴が……」




リドヴィア「」




リドヴィア「ピャー!!!!」
495 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:28:04.57 ID:lgOvXgxq0

<独房>

リドヴィア「それで、キレた騎士団長と聖人に追いかけまわされる羽目に……」

上条「爆破なんて余計なことするから……」

土御門「まず、ローマ教皇を穴に落とすって発想がイカれてるぜよ」

リドヴィア「何とでも言って下さいと。ですが、まんまと攫われてしまった教皇が心配です」

上条「そうだなあ。まさかビアージオに攫われるなんて」

リドヴィア「そうです。正直なところ、相手がビアージオだから油断した部分もありますので」

土御門「気持ちは分からんでもないがな」

上条「それで、リドヴィアはこれからどうなるんだ?」

土御門「うーん……脱走した上に王族を四人誘拐して、騎士団長と王室と懇意の傭兵を爆破、か」

土御門「碌な処分は下らないと思うぜよ」

リドヴィア「ふふ……これこそ、主が私に与えたもうた試練ですので……ふふ……」



上条「すげえポジティブ」

土御門「むしろ自暴自棄気味に見えるんだけどにゃー」
496 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:30:51.09 ID:lgOvXgxq0
■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===英国王室===
   エリザード        【解決済】
   リメエア         【解決済】
   キャーリサ        【解決済】
   ヴィリアン        【解決済】

===騎士派===
   騎士団長         【復帰】

===ローマ正教===
   ローマ教皇        【誘拐:ビアージオ】

神の右席
   フィアンマ        【捕縛】
   ヴェント         【捕縛】
   アックア         【復帰】
497 :1[saga sage]:2011/05/24(火) 22:33:03.34 ID:lgOvXgxq0
つづくんです
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/05/25(水) 00:29:49.07 ID:bdw6DyNAO
巻きでも十分おもしろい 
 
502 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:43:18.94 ID:IwU1ARj/0

<ロンドン・とあるカフェ>


シェリー「……」

シェリー「……」

シェリー「いた」



シェリー「この近くの教会に、アニェーゼ部隊が一網打尽にされてるわ」

シェリー「でも、エリスの目だけじゃ様子がよく分からねえな……」

シェリー「エリスの探索機能はこういう時にすごく便利だけど……」



シェリー「…………」



シェリー「単独行動だと、あれね」

シェリー「独り言が多くなってちょっと痛々しい感じになるわね」



シェリー「とにかく、行くか」
503 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:43:59.03 ID:IwU1ARj/0

<とある教会>


シェリー「見張ってるのは騎士派の奴らか」

見張り「む……貴様、シェリー=クロムウェルだな!?」

シェリー「そうよ。中の修道女を返して貰いに来たの」

シェリー「私は騎士派の野郎共が嫌いなんだよ。邪魔するなら――」

見張り「そうか。入れ」



扉<ギギー


見張り「こっちだ」





シェリー「……あれ? 何このトントン拍子」
504 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:45:23.84 ID:IwU1ARj/0

見張り「とにかく、この惨状を見てくれ」

シェリー「惨状? まさか、貴様らアニェーゼたちを……!?」




アニェーゼ「ほらほら。私達全員見てますよ。つっつかれて喜んでるところ見られてますよ」

騎士1「あふん! 見られてる! ボク恥ずかしい! でも……(ry」


アンジェレネ「あ、あの、痛いですか? 本当ですか? えっと、もっと踏んで良いですか?」

騎士2「あ、あ、あ、アンジェレネ様最高です! もっとお願いします!!」


ルチア「……車輪に轢かれて喜ぶなんて、変態ですか?」

騎士3「そんな、はずは、うひんっ!」グニッ

ルチア「変態ですね?」

騎士3「はい!」




シェリー「何だこの惨状は」

見張り「我等騎士派、謀反者の清教派を確保したと思ったら、二百人のシスター達に見事調教されてしまったのだ……」

見張り「頼むから、早く連れて帰ってくれ……」
505 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:46:24.97 ID:IwU1ARj/0

アニェーゼ「おや? もしかして助けに来てくれちまったんですか?」

シェリー「そのつもりだったけど、随分元気そうじゃない」

ルチア「はい。私達、最近肌がツヤツヤです」


アンジェレネ「シェリーさん……」

アンジェレネ「私、ここ数日のシスター・アニェーゼの生き様を見ていて、何かに目覚めてしまったみたいで……」

アンジェレネ「踏んでいいですか?」

シェリー「いいわけねえだろ!」
506 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:46:56.95 ID:IwU1ARj/0

アニェーゼ「ま、そういうわけで、私達は無事ですよ」

シェリー「っつかよ、何で騎士派の連中がアニェーゼ部隊を襲ったのよ?」

ルチア「王室の方々が攫われた影響ですね」

アンジェレネ「王族の皆さんは、ローマ教皇に会いに行ったんですよね。つまり、ローマ正教のトップ……」

アニェーゼ「魔術的な罠があるかもしれないから、『清教派』からも何人か護衛が行っていたんです」

ルチア「にもかかわらず、女王陛下も王女様方も、あっさり攫われてしまいました」

シェリー「なるほど。それで『清教派』に『騎士派』が因縁吹っかけたわけか」

アニェーゼ「たまたま槍玉にあげられちまったのが私達なんですよ。全くいい迷惑です」

アンジェレネ「騎士団長さんが不在で、このブタ共にもまとまりがなくなってしまったみたいです」


シェリー「……ブタ共?」

アンジェレネ「あ、『騎士派』の皆さんのことです。こう呼んであげると喜ぶんです」

シェリー「そうかよ……」


アニェーゼ「さて。調教も済んだことですし、帰ってもう一度禁書目録奪還の作戦でも練りますかね」

アンジェレネ「ああ……この、変態のゴミの皆さんともお別れなんですね」

ルチア「アンジェレネ、日常に帰りましょう。きっとここ最近のことは後で忘れたくなります」

アニェーゼ「ほらほら、帰りますよ」

アンジェレネ「はぁーい……」







シェリー「……え? 解決?」
507 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:47:45.76 ID:IwU1ARj/0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===イギリス清教===
アニェーゼ部隊
   アニェーゼ=サンクティス  【解決済】
   シスタールチア      【解決済】
   シスターアンジェレネ   【解決済】
   他約200名         【解決済】


===学園都市===
御坂勢力
   御坂美琴         【解決済】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-17500)    【解決済:一方通行】
   妹達(17501-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【解決済】
   初春飾利         【解決済】
   佐天涙子         【解決済】
   エツァリ         【解決済】
    ショチトル       【解決済】
508 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:48:42.59 ID:IwU1ARj/0

<謎のキャンピングカー内>


土御門「リドヴィアから話も聞けたし、さっさと次へ行くぜよ」

上条「本当に失敗談を聞いてただけだったな。もう電話で良かったんじゃねえのか」

土御門「……その発想はなかったぜよ」

上条「そうか……なかったのか」

土御門「それじゃあ、今度はビアージオを追って行ったオリアナのいるヴェニスへ向かうんだぜい」

上条「ビアージオはヴェネチアで何をする気なんだ?」

土御門「それを確かめて、阻止するのがカミやんの仕事ですたい!」

上条「それはそうだけど……」




上条「いや、騙されないぞ。俺はそんな仕事始めた覚えはない」

509 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:49:35.81 ID:IwU1ARj/0

<ヴェニス>


上条「お、オリアナがどういうわけかヴェントに土下座してるぞ」




オリアナ(土下座)「……」

ヴェント「……」



土御門「動じなくなったな、カミやん」

オリアナ「あ、あら? どうして君たちがこんな所にいるの?」

上条「仕事だ」

土御門「割り切ったな、カミやん」


上条「それよりオリアナ、聞きたいことはこっちの方にこそ山ほどあるぞ」

オリアナ「……何かしら?」

上条「ローマ教皇を助けるためにここまで来たお前が、どうしてヴェントに土下座なんだ」

土御門「土下座しに来たのか?」

オリアナ「違うわよ……」

ヴェント「そのエロ女、よりによってビアージオと間違えて私を罠に掛けやがったのよ」

上条「え、どこら辺を間違えて……?」

オリアナ「ちょっと、十字架のアクセサリーチャラチャラしてるところが似てて……」

上条「オオオオオイ!?」

土御門「お前は十字架がらみの取り返しのつかない勘違いが多いな!」

上条「姫神に謝れ!」

オリアナが「あの時の子……ゴメンね☆」

ヴェント「私は」
510 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:50:14.01 ID:IwU1ARj/0

オリアナ「というのは半分冗談で、ちゃんと事情があるのよん」

上条「半分は本気だったんだ」

土御門「十字架が鬼門なんだにゃー。使徒十字に一番関わっちゃいけない魔術師だったんじゃないのか」

オリアナ「私は確かにビアージオの奴を捕えるつもりで、罠を仕掛けてたのよ」
511 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:50:53.32 ID:IwU1ARj/0

<回想・とある寺院>


オリアナ「ビアージオは相当厄介な魔術師。魔術で真っ向勝負は分が悪いわね」

オリアナ「そこで!」

オリアナ「この学園都市特製すごい罠(トラーップ)で、ビアージオの奴を生け捕りよん!」

オリアナ「これの凄いところは、か弱いお姉さんでも一人で好きな場所にセッティング出来て、自在に敵を生け捕りに出来るってとこで……」

オリアナ「……単独行動だと若干独り言が増えて痛々しい感じになるわね」


オリアナ「……ん? 魔術師の気配?」



ヴェント「やれやれ……ここね。教皇のオッサンが捕まってるのは」



ガシャーン




ヴェント「な、何だ!? 罠!?」

オリアナ「」
512 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:52:17.82 ID:IwU1ARj/0

オリアナ「とんでもない人を間違えて捕まえちゃったン!」

オリアナ「何で!? あのポンコツちっともまともに働かないじゃない!」

オリアナ「マニュアルはどこにやったっけ? えーと、まず解除して……」


オリアナ「こ、今度こそ間違えずにあの男を……」



フィアンマ「やれやれ。まさかこの俺様が出て来る事になるとはな」

ヴェント「! フィアンマ!」

フィアンマ「昔のよしみだ。俺様が解放してやろう。感謝するんだな、ヴェント」

ヴェント「ハッ。何を寝ぼけたことを。アンタなんかに助けられるまでもな」


ガシャーン



フィアンマ「」

ヴェント「」

オリアナ「」



オリアナ「ピャー!!!」


オリアナ「な、何でこうもみんな同じ罠にはまるの?」

オリアナ「こういうアレなの? 決まった運命なの?」

オリアナ「お姉さん、縛るのは好きだけど運命に縛られるのはあんまり……」


ヴェント「オイ……このナメた真似してくれたの、どうやらアンタのようね……」



オリアナ「…………」

オリアナ「あわばばばばばば」
513 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:53:01.82 ID:IwU1ARj/0

<ヴェニス・道端>


オリアナ「と、言うわけだったの」

上条「ありがとう、何も分からなかった」

ヴェント「その後私がこいつを追っかけまわして、さっきやっと追い詰めて土下座させたところよ」

上条「いや、それはちょっと何か」

土御門「深く突っ込んでる時間が無いんで、悪いけど話を進めるぞ」


オリアナ「学園都市製のものを使えば、魔術師も簡単に防衛出来ないと思って使ってみたのよ」

オリアナ「ビアージオだし、あの程度のトラップで引っかかってくれると思ったんだけど……」

上条「関係ない大物が釣れちゃったみたいだな」

ヴェント「はた迷惑な野郎ね」


上条「あれ? それでフィアンマは?」

ヴェント「ああ、あいつなら何か魔術師に拉致されていくのを見たわ」

上条「何ですと!?」

オリアナ「忙しかったから放っといちゃった」

上条「そんな『網棚に折りたたみ傘忘れちゃった』みたいなノリで言われても!」



ヴェント「ま、あいつなら大丈夫でしょ。そこらの魔術師とは桁違いだし」

上条「そうか? ……でもなあ」

土御門「心配する義理もないだろうに、カミやんは相変わらずだにゃー」
514 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:53:32.84 ID:IwU1ARj/0

上条「よし、大体分かった。それで、オリアナ」

オリアナ「ん? なあに?」

上条「ビアージオがいる寺院を教えてくれ。行くから」

オリアナ「教えてもいいけど、彼らはとっくに別の教会へ逃げちゃったと思うよ?」

土御門「ヴェネチアにはでかいのだけで五箇所教会堂があるからにゃー」

上条「でも、そもそもあいつって今はローマ正教からも罪人扱いなんじゃなかったか?」

オリアナ「まあね」

オリアナ「それでも、熱心な部下は多少いたみたい」

土御門「それよりも、ローマ教皇を人質に取ってるんだからにゃー。誰も逆らえないぜよ」

上条「ああ、ローマ正教の魔術師を使うために教皇を攫ったのか」

土御門「命知らずというか無謀ですたい」

オリアナ「何か、なりふり構わない印象だったわよ、見た感じ」
515 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:54:44.73 ID:IwU1ARj/0

上条「あいつ、今更何する気なんだ……?」

オリアナ「結局その狙いすら掴めなかったし……」

オリアナ「ビアージオ本人も捕まえられてないし、教皇も助け出せてないし……」

オリアナ「こんなんじゃ、リドヴィアに嘲られちゃう……」

上条「リドヴィアも似たような惨状だったから、多分何も言えねえよ」


オリアナ「それにしても、案外ビアージオって捕まらないものね」

土御門「『右席のほうが雑魚かったわねん。お姉さんがっかり』」


ヴェント「……ふーん?」


オリアナ「え!? ちょ、ちょっと! 変なこと言わないでよ!? 今の私じゃないわよ!」


ヴェント「上等じゃない。こちとら腐っても神の右席を名乗っていた身」

ヴェント「雑魚いかどうか、かかっておいでぇーん?」



上条「うわ、やばい。ヴェントさんでかい船呼ぶ気だ」

土御門「逃げるぞカミやん」



オリアナ「ちょっとおおおお!」
516 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:55:37.01 ID:IwU1ARj/0

<ヴェニス・とあるリストランテ前>

建宮「皆、グラスは持ったか!?」

五和「はい!」

野母崎「はい」

対馬「ええ」

浦上「いえす!」

香焼「はい!」

諫早「はいよ」

牛深「おう!」

他「はーい!」

神裂「……ふふ」




建宮「それじゃ、」


天草式「「「カンパーイ!!」」」

カチーン☆





上条「……走りながら偶然通りかかったら何だこれ」

上条「天草式と神裂が酒飲んでイカスミスパゲティ食べてる」

土御門「何かの打ち上げっぽいにゃー」



五和「って、うわああ!? お、おしぼりさん!! 上条使います!?」

上条「いや、おしぼりさんも、上条さんなんか渡されても困ると思いますよ」
517 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:56:50.40 ID:IwU1ARj/0

上条「天草式の連中は、神裂を助けるために立ちあがって、逆に捕まったんだよな?」

土御門「そのはずだぜい」

上条「じゃあなんでヴェニスで酒盛りなんだ」

土御門「神裂ねーちんが助けたんじゃないのかにゃー」

上条「その神裂を助けたのは誰だ」

土御門「ねーちんは捕まってなんていなくて、一時的に連絡が取れなかったとかでいいんじゃないか?」

上条「俺に同意を求めるなよ。そうなのか?」

土御門「ぶっちゃけ、酔っ払った五和と天草式がねーちんを巻き込んでひと騒動起こすかもしれなかったなんて思ったけどただの幻想だったぜい」

上条「幻想だったのか」

土御門「悪いけど、天草式には何事も無くイカスミパスタ食っててもらうとするぜよ」

上条「何でヴェニスで?」

土御門「ヴェニスのイカスミは別格だとか何とか」



建宮「行け! 五和! 今こそなんちゃらメイドを着こなしてアタックなのよな!!」

五和「メ、メイドさん! 堕天使チラ上条を着たおしぼりが私を差し出したらどう思いますか!!」

対馬「テンパりすぎよ、五和」
518 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:58:25.34 ID:IwU1ARj/0

上条「よう、神裂」

神裂「少年……お久しぶりです」

上条「ステイルは一緒じゃないのか?」

神裂「あの子とステイルがどうしているかは分かりません。私だけわがままを言ってこちらに」

土御門「そりゃまたどうして?」


神裂「あの子を助けに出掛けた私を助けようとして捕まった天草式を助けるためです」


上条「……ん?」

上条「あの子を助けて私を助け……ん?」


神裂「あの子の元へ向かう途中、天草式が捕えられたとの情報を得まして」

上条「お前だけ引き返したのか」

神裂「後をステイルに任せて、騎士派の手中にあった彼らを無事保護したところなんです」

土御門「あいつら、完全に足手まといだにゃー」

上条「しーっ」
519 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:58:58.90 ID:IwU1ARj/0

上条「で、必要悪の教会の裏切り者って誰だ? リストにあったけど」

土御門「ギクッ」











520 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 01:59:29.54 ID:IwU1ARj/0

神裂「……それはですね」

神裂「私とステイルが。あの子を追いかけるつもりだったから『仲間のもとへ行く』とだけ告げたんです」

神裂「それがそのまま音信不通になってしまったものですから」

神裂「仲間のもとへ行くつもりが、行方不明。ということで」

神裂「『必要悪の教会』の裏切り者のせいだという話になってしまったようですね!」


土御門「そんな事情があったとは!」

上条「成程、完全に納得した!」



五和「あ、あの……おしぼり使います?」

対馬「五和、それおしぼりじゃなくて教皇代理の頭」
521 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 02:00:59.80 ID:IwU1ARj/0


上条「神裂は、インデックスを攫った奴がどこにいるのか知ってるのか?」

神裂「それが……ステイルと別れた時にはまだ発覚していなくて」

土御門「仕方ない、どうにかして探し出してやるぜよ」

上条「おう!」



土御門「ラスボスの待つ運命の場所を求めて旅立つことになった上条当麻!」

神裂「長かったが後半妙に早かった旅も終わりを告げようとしていますね!」

上条「俺は、必ず奴を見つけ出し、皆を助けてみせる!」






上条「俺たちの戦いは、これからだ!!」




522 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 02:01:32.50 ID:IwU1ARj/0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===イギリス清教===
ロンドン女子寮
   神裂火織         【解決済】
   オルソラ=アクィナス    【解決済】

天草式十字凄教
   建宮斎字         【解決済】
   浦上           【解決済】
   五和           【解決済】
   牛深           【解決済】
   香焼           【解決済】
   諫早           【解決済】
   野母崎          【解決済】
   対馬           【解決済】
   他44名          【解決済】


===ローマ正教===
神の右席
   フィアンマ        【誘拐:魔術師】
   ヴェント         【解決済】
   アックア         【解決済】


===学園都市===
御坂勢力
   御坂美琴         【解決済】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-18000)    【解決済:一方通行】
   妹達(18001-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【解決済】
   初春飾利         【解決済】
   佐天涙子         【解決済】
   エツァリ         【解決済】
    ショチトル       【解決済】
523 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 02:02:08.86 ID:IwU1ARj/0



土御門「カミやん、〆に困ったら『俺たちの戦いはこれからだ』って言うの、もうナシだからな」

上条「ちょっと言ってみただけだよ。あ!」

土御門「どうした?」

上条「ステイルが道端に倒れてる!」



ステイル「はぁ……床冷てぇ……」



神裂「一体ステイルの身に何が!?」

上条「ステイルは無事なのか!?」

土御門「その答えを、カミやんは見つけられるのか!?」






上条「俺たちの戦いは、これからだ!!」

524 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 02:02:52.56 ID:IwU1ARj/0

■■■■救助リスト■■■■

===イギリス清教===
必要悪の教会
   禁書目録         【救助立候補:シェリー=クロムウェル】
   ステイル=マグヌス     【床が冷たい】


===学園都市===
御坂勢力
   御坂美琴         【解決済】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-18100)    【解決済:一方通行】
   妹達(18101-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【解決済】
   初春飾利         【解決済】
   佐天涙子         【解決済】
   エツァリ         【解決済】
    ショチトル       【解決済】
525 :1[sage saga]:2011/05/26(木) 02:04:41.85 ID:IwU1ARj/0
しかしまだつづく

打ち切り宣言してからも長いですね

でも多分、次か、その次の投下で最後になります


ではまた近日中に 
 
 
528 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:43:46.86 ID:wZ/iq55j0

<道端>


上条「で、ステイル、お前は無事なのか?」

ステイル「見て分からないのか? 床が冷たくて困っていたところだよ」

土御門「立てばいいのに」

上条「で、ステイル、お前は地面で何してるんだ?」


ステイル「よっこらしょっと……彼女が攫われた大聖堂まではたどり着いたんだが」

土御門(立ち上げるときに「よっこらしょ」と言うステイルさんじゅうよんさい、か……)

上条「彼女って、インデックスのことだよな? あいつは大丈夫なのか?」

ステイル「今のところ、命が脅かされるようなことはない。僕も油断していたんだろうな」

土御門「何があった?」

ステイル「思わぬ敵と遭遇してね。虚を突かれた隙に、移送術式で追い出されてしまったんだ」

上条「虚を突かれた……お前が?」

ステイル「ああ。情けない話だよ。相手はあのビアージオだからな。気が緩んでいた」

上条「またビアージオか!」

土御門「あいつ、もしかしてすごいのか?」

上条「でもさ、ビアージオってそんなにびっくりする顔してたっけ?」

ステイル「虚を突かれた原因はビアージオじゃないし、顔は関係ない」

ステイル「アレが、僕の前に立ちはだかったんだよ……」

土御門「アレ?」




ステイル「神の力。ミーシャ=クロイツェフだ」



上条「は?」

土御門「え」


529 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:45:09.68 ID:wZ/iq55j0



上条「ええええええええええ!? 何でいきなり大天使が出て来るんだよ!?」

土御門「流石に聞いてないぜい!!」

ステイル「僕に聞かれても困るが」

ステイル「ビアージオはフィアンマとサーシャ=クロイツェフを手に入れていた」

ステイル「フィアンマに術式の方法を吐かせ、彼女を使って呼び出したらしいな」


上条「方法が分かったくらいで天使って呼べちゃうものなのか?」

土御門「そんなはずはないんだが……」

ステイル「ただ、やはりその付け焼刃の術式では完璧な出来とはいかなかったようだ」

上条「どういうことだ?」

ステイル「どうもあの大天使、中途半端な状態で呼び出されている」

上条「中途半端って?」

ステイル「見れば分かる。どうせ君も彼女を助けにそこへ乗り込むつもりなんだろう?」

上条「当たり前だ」

ステイル「それじゃあ、大天使とぶつかる覚悟もしておいた方がいい」

ステイル「中途半端でも強力だからな」

土御門「そりゃあ、ホンモノの天使だからにゃー……」
530 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:46:18.39 ID:wZ/iq55j0


<ヴェネツィア・とある教会>


上条「で、ここがビアージオの隠れている教会なのか」

ステイル「ああ。まだ逃げ出していなければ、ここにいるはずだよ」

土御門「ついに、ラスボスの根城へたどり着いたわけだにゃー」

アレイスター「おめでとう、上条当麻」


上条「おう、ありがウエエエエエエエエエエエエ!!?」


土御門「アレイスター!!」

ステイル「学園都市の統括理事長が何故こんなところに!!」

上条「何で逆さまに浮いてるんだ!?」

アレイスター「友人を探すついでに通りかかったものでね」

アレイスター「あと、逆さに浮くのは趣味だ」



アレイスター「そうそう、ついでのついでだが、君の両親を助け出して自宅へ送り返しておいた」


上条「おう、ありがウエエエエエエエエエエエエ!!?」

531 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:46:51.94 ID:wZ/iq55j0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===学園都市===
統括理事会
  アレイスター=クロウリー  【帰還】

御坂勢力
   御坂美琴         【解決済】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-18800)    【解決済:一方通行】
   妹達(18801-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【解決済】
   初春飾利         【解決済】
   佐天涙子         【解決済】
   エツァリ         【解決済】
    ショチトル       【解決済】

その他
   風斬氷華         【中の人】
   スフィンクス       【行方不明】
   冥土帰し         【解決済】
   研究者(約150人)     【解決済】
   上条刀夜         【解決済:アレイスター=クロウリー】
   上条詩菜         【解決済:アレイスター=クロウリー】
   御坂旅掛         【解決済】
   御坂美鈴         【解決済】
532 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:48:11.13 ID:wZ/iq55j0

上条「うちの家族、どこでどんな状態になってたんだ!?」

アレイスター「教会の中で、縄の霊装に猿ぐつわ噛まされて横たわっていたな」

上条「それって……ビアージオがやったのか?」

アレイスター「そのようだね」


土御門「何で奴がわざわざカミやんの両親を簀巻きにするんだ……」

アレイスター「それは勿論、息子である上条当麻を脅すためだろう」

ステイル「脅して何をさせるつもりだ?」

アレイスター「恐らく、何もさせたくないので切り札を用意したのだろうな」

アレイスター「禁書目録を誘拐した時点で、君がやって来るのは分かり切っている」

アレイスター「そして、今の彼にとって上条当麻……というより、幻想殺しはとてつもない脅威なのだ」


ステイル「ビアージオに限らず、大体の魔術師は煩わしいと思うだろうな、こんなイレギュラー」

上条「好きで持ってるわけじゃないんだけどな」

ステイル「何しろうざったいというか」

上条「そう言うなって」

ステイル「死ねばいいのにというか」

土御門「ステイル、一般的な魔術師の気持ちを代弁するふりして、それは単にお前の本音だろう」


アレイスター「ビアージオ=ブゾーニは一応、一般的な魔術師とは一線を画すが……」

アレイスター「彼には、どうしても打ち消してほしくない幻想があるのだよ」
533 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:48:58.16 ID:wZ/iq55j0

上条「悪いけど、その幻想もぶち殺します」

土御門「さすがです」


上条「ところで、あんたの友人ってのは? 見つかったのか」

アレイスター「ああ。意外と近くにいたよ」

アレイスター「気が済んだからね。私はこれから帰るとするよ」

土御門「まあ、助力を期待してたわけではないからな」

ステイル「貴重な情報をどうも」



上条「じゃ、俺たちも行くか!」

アレイスター「ああ、行っておいで、我が生徒たち」


土御門「うわー」

上条「校長先生みたいなこと言ってるー」

534 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:50:24.45 ID:wZ/iq55j0

<とある教会・内部>


上条「俺、参上!! ビアージオォォォォ! 覚悟しろッ!」


サーシャ「第一の回答ですが、覚悟を決めなければならないのは貴方の方です」


上条「あ! サーシャ!! 無事か!?」

サーシャ「補足説明しますと、何しろ相手はあの大天使ですから」


ステイル「まだ倒れないで持っていたようだな、サーシャ=クロイツェフ」

サーシャ「第一の質問ですが、ステイル、貴方もまた来たのですか?」

ステイル「あの子がこの先にいるというのに、僕があれくらいで退くわけがないだろう」


土御門「何があったんだ?」

ステイル「サーシャを媒体にして大天使が召喚されてから、僕たちは協力して闘っていたんだ」

サーシャ「補足説明しますと、途中でステイルは敵の罠に掛かり、私一人残してどこかへ飛ばされていきました」


上条「んー。で、サーシャはミーシャを倒しちゃったわけ?」

サーシャ「第二の質問ですが、質問の意味が分かりません」

上条「だって、いねえじゃん、大天使」

サーシャ「第二の回答ですが、いますよ」

上条「どこに?」

サーシャ「あなたの足元です」

上条「へ?」
535 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:50:54.20 ID:wZ/iq55j0





ミーシャ(幼女)「gsieGhfjnkeiaIRaIei」





上条「う、わあああああぁぁ!? 小さ!? 小さい大天使!」

ステイル「言っただろう、術者の力が足りないせいで中途半端な召喚になってしまったんだ」

土御門「見たとこ、実力も本来の1/1000ってところだな」
536 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:52:15.46 ID:wZ/iq55j0

上条「何か、かわいいな。小さいと」

土御門「油断するなよカミやん。見た目は小さくても神の力」



ミーシャ(幼女)「rhjiagaroHaかえbjるoeoAEyjeoo」ビキビキ


ズドーン


ステイル「くそっ……! 行くぞ! イノケンティウス!!」

イノケンティウス「応っ!!」


ミーシャ(幼女)「egjただSjしgoいehsOHhkいちiw」



ドカーン


サーシャ「ううっ! やはり強い……!」



ミーシャ(幼女)「――hjdRspeaTPOHhkirjkhrHigloil――!」

537 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:52:55.40 ID:wZ/iq55j0


土御門「! カミやん! 危な――!!」


上条「よしよし、ミーシャ、ガム食うか?」ナデナデ

ミーシャ(幼女)「――mJd


バシュン



上条「あっ」




土御門「あっ」

ステイル「あっ」

サーシャ「あっ」

538 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:53:29.91 ID:wZ/iq55j0


土御門「消した! カミやんが幻想殺しで小さい大天使消した!!」

上条「ご、ごめ」

土御門「ガムで釣って幼女消した!!」

上条「悪気は無かったんだ……」



ステイル「…………」

サーシャ「…………」


ステイル「も、元の……場所に……戻っ……た……んだ……よ」

サーシャ「だい、第一の、私見……ですが……めでたし、めでたし……だと、思います……」


上条「ほら、二人もああ言ってくれてるし!」

土御門「カミやんに、ガムを差し出してくれたお兄さんにいきなり消し去られた幼女の気持ちが分かるか!?」

上条「うわーん! すいませんでしたッ!!!」

539 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:54:00.78 ID:wZ/iq55j0


サーシャ「……さて」


サーシャ「第一の話題の転換ですが、残る敵はビアージオのみです」

ステイル「他の取り巻きはあらかた僕たちで倒したからね」

土御門「そうなんだけどにゃー。サーシャ、お前は早く帰った方がいい」

サーシャ「第三の質問ですが、何故ですか?」

土御門「ワシリーサがな、『ワッシー!!!!』ってなってるから」

サーシャ「?」




上条「……」ズーン

ステイル「そう落ち込むな」
540 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:55:32.46 ID:wZ/iq55j0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===ロシア成教===
   ワシリーサ        【ワッシー!!!!】
   サーシャ=クロイツェフ  【解決済】


===学園都市===
御坂勢力
   御坂美琴         【解決済】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-19300)    【解決済:一方通行】
   妹達(19301-20000)    【委託:一方通行】
   白井黒子         【解決済】
   初春飾利         【解決済】
   佐天涙子         【解決済】
   エツァリ         【解決済】
    ショチトル       【解決済】
541 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:56:27.22 ID:wZ/iq55j0

<とある教会・書斎>


インデックス「だから、そんな魔術は聞いたことがないんだよ!」

ビアージオ「嘘を吐くとためにならんぞ」

インデックス「科学の力で生み出すテレズマみたいなものを魔術的な科学のように生み出す魔術なんて、存在するわけないかも!」

インデックス「魔導書に科学サイドの話が載ってるわけないでしょ!」

ビアージオ「十万三千冊も溜め込んでいるんだろう!? 一個くらいおまけで付いていてもいいはずだ!」

インデックス「駄々こねたって無い物は無いんだよ!」


<ドアがバン!


上条「インデックス!!」

ステイル「!」

土御門「見つけたぜ!」



インデックス「あ! とうま!!」

ビアージオ「……来たか、幻想殺しめ……」
542 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:56:59.18 ID:wZ/iq55j0


上条「くそォ、ビアージオ?この野郎! インデックスから離れろ!」

ビアージオ「なぜ疑問符を付けた」

土御門「カミやん! 迂闊に踏み込むのは危険だぜよ! 禁書目録はビアージオ?の手の内だ!」

ビアージオ「人の名前を自信なさげに発音するな」

ステイル「ビアー……ジ……オ?がその子を殺せる立場にある以上、無茶をするのは僕が許さない」


ビアージオ?「はっきり呼べ! それで当ってる!!」
543 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:57:47.08 ID:wZ/iq55j0

インデックス「ちょっと待って!」

インデックス「とうま! どうしてここにいるの!?」

上条「え? どうしてって……」

インデックス「またとうまは、私がいないというのに魔術の事件に首を突っ込んでたんだね……?」

上条「そりゃ、お前を助けに来たに決まってるだろ」

インデックス「えっ!」

インデックス「わ、私のために駆け付けてくれたのは嬉しいけど……」テレテレ

土御門「お、いきなりおっぱじめたぜい。ヒューヒュー」

上条「?」

インデックス「そ、それとこれとは話が別なんだよっ!!」





ステイル「……チッ! ……チッ!!」

上条「何だろう、神父さんの方から凄まじい舌打ちが聞こえる」
544 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:58:24.33 ID:wZ/iq55j0


ビアージオ「……くそおぉぉ……」

ビアージオ「リア充めぇぇぇぇ……」

インデックス「何だろう、元司教さんの方からも凄まじいうめき声が聞こえるんだよ」


ビアージオ「人が大事な話をしている時に、いきなり現れていちゃいちゃしやがって……」

ビアージオ「こちとら枕を濡らさぬ日は無いというのに……」ブツブツ


上条「ブツブツ言ってるところ悪いけど、こっちの質問に答えてもらおうか」

上条「インデックスを攫ってどうするつもりだ?」

インデックス「とうま、この人、頭がおかしいんだよ!」

ビアージオ「何もおかしいことはない」


ビアージオ「わたしの目的は、科学でも魔術でも手に負えない存在に触れること」

ビアージオ「そのためには、両方の力を手に入れなければならないのだ」

土御門「……そりゃ、いいことないぜい」

ビアージオ「知った事か」


ビアージオ「魔術のすべては、この禁書目録の頭脳に宿っている」

ビアージオ「科学の方は、現在相応しい人材をある場所に集めている」


ビアージオ「そして、どちらも消し去る貴様は非常に邪魔というわけだ」


土御門(ある場所ってのがロシアで、相応しい人材が学園都市の研究者と能力者のことなら、もう潰れたんだけどにゃー)

上条(放っとこうぜ)

545 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:59:12.69 ID:wZ/iq55j0


ビアージオ「わたしは一歩ずつ夢に近づいている!」

ビアージオ「いつの間にか人質にしようとしていた貴様の両親は帰宅してしまったようだが……」

ビアージオ「あと、いつの間にか折角呼んだ大天使がいなくなっているようだが……」


ビアージオ「ここで諦めるわたしではない!」


上条「何か前向きだな! 後ろ向きに一生懸命だった昔とはちょっと違うみたいだ!」

ステイル「でも潰すんだけどね」


上条「俺だって、誰が行方不明になろうと、助けに行った所で空振りになろうと、
   ここまで一心に突き進んできたんだ!」
   
上条「今さら立ち止まるわけにはいかない!!」

546 :1[saga]:2011/05/27(金) 01:59:39.74 ID:wZ/iq55j0

上条「あと、フィアンマはどうした!?」

ビアージオ「帰った!!」
547 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:00:43.20 ID:wZ/iq55j0


上条「覚悟を決めろ、ビアージオ」

上条「ここで決着をつけようぜ」


ビアージオ「フン……いいのか? 禁書目録はこちらの手にあるのだぞ」

ビアージオ「危機感がないのなら、腕一本くらいは潰して見せようか。頭が残ればそれでいいのだからな」

上条「何ッ!? やめろォッ――!」



ビアージオ「――十字架はその重きをもって驕りを正す」





インデックス「 A L (実は軽い)」




十字架<ポト




ビアージオ「……」

インデックス「……」

548 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:01:33.77 ID:wZ/iq55j0

上条「今の、 強制詠唱か……?」

ステイル「流石は魔道図書館。あの程度の攻撃は全く届かないね」



ビアージオ「くそッ……」


ビアージオ「――十字架は悪性の拒絶を示す」



インデックス「 H S A D (という夢を見たんだ)」




十字架<ぽす





ビアージオ「……」

インデックス「……」

上条「……」


ビアージオ「ええと……」


ビアージオ「その……」




ビアージオ「正々堂々と一対一で勝負だ! 上条当麻!!」

上条「う、うん!!!」


549 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:02:01.89 ID:wZ/iq55j0


ステイル「さあ、ついにすべての決着をつける時が来たぞ!」

インデックス「とうま! 私はここで見てるから! バッチリ決めるんだよ!」

土御門「フルボッコにしてやれ!」


上条「おう! 任せろ!!」


ステイル「やはり最後を飾るのは彼のようだね……せいぜいフルボッコにしてやってくれ」

上条「分かった!」

インデックス「とうま、頑張ってフルボッコなんだよ」

上条「ありがとうインデックス」

土御門「張り切ってフルボッコだぜい!」

上条「ああ!」


上条「行くぞ! ビアージオォォォォ!!」

ビアージオ「来い! 異教のサルめがァァァ!!」


ダダッ――――
550 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:02:56.05 ID:wZ/iq55j0


上条「その幻想を――」



ビアージオ「――シモンは『神の子』の十字架を――」


土御門「ふーるぼっこ! ふーるぼっこ!」






上条「ぶちボッコ!!!!」






バキィン!!!






上条「ああもう! お前等がフルボッコフルボッコ言うから混ざっただろ!!」
551 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:03:23.77 ID:wZ/iq55j0


ビアージオ「う、うおお……がああああぁぁぁぁぁぁぁァァァッ!!!」




インデックス「び、ビアージオが……!」

ステイル「ノーバウンドで数メートルも飛ばされていく!」

土御門「安心と信頼のパンチ力だにゃー」



ドサッ――――



インデックス「落ちたね」

ステイル「そうだね」

上条「……やったか!?」

土御門「カミやん、それはやってないフラグだにゃー」
552 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:03:54.95 ID:wZ/iq55j0


インデックス「……」

ステイル「……」

土御門「……」

上条「……」



ビアージオ「……」シーン



上条「……やったか!?」

ステイル「信じられないことに、本当にこれで終わりのようだね」
553 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:04:38.07 ID:wZ/iq55j0


インデックス「とうまーっ!」タタタ


上条「インデックス! 何とも無いか?」

インデックス「うん。変な質問をされていただけだから、私は平気」

インデックス「とうまも、珍しく怪我をしてないみたいだね?」

上条「そんな、上条さんは誰かを助ける度に病院に運ばれて当たり前みたいなレッテル貼るのはやめていただきたいのですよ……」

インデックス「私だってとうまが元気な方がうれしいんだよ!」

上条「……そりゃ、俺自身もそう思うよ」


インデックス「あのね、とうま」

上条「ん?」



インデックス「助けに来てくれてありがとう。とってもかっこよかったんだよ!」

上条「っ!!」








ステイル「……チッ! ……チッ!!」

土御門「何だろう、神父さんの方から凄まじい舌打ちが聞こえる」
554 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:05:10.38 ID:wZ/iq55j0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===イギリス清教===
必要悪の教会
   禁書目録         【解決済】
   ステイル=マグヌス     【解決済】

===ローマ正教===
神の右席
   フィアンマ        【帰宅】
   ヴェント         【解決済】
   アックア         【解決済】


===学園都市===
御坂勢力
   御坂美琴         【解決済】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-19999)    【解決済:一方通行】
   妹達(20000)       【委託:一方通行】
   白井黒子         【解決済】
   初春飾利         【解決済】
   佐天涙子         【解決済】
   エツァリ         【解決済】
    ショチトル       【解決済】
555 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:06:04.68 ID:wZ/iq55j0

<ヴェネツィア・とある教会前>


土御門「礼拝堂に縛られていたローマ教皇を救助してきたぜい」

上条「おー。相変わらず仕事が早いな」

インデックス(私だけのために来たんじゃなかったんだね……)

ステイル(あ、今落ち込ませたな。後で丸焼きにしてやる)


土御門「さてカミやん、リストにはあと誰が残ってるかにゃー?」

上条「えっと……」


上条「ローマ教皇はたった今解決、と」

ステイル「ワシリーサはサーシャさえ帰せば解決だったね」

上条「ああ。妹達は一方通行が頑張ってくれてるし」

上条「スフィンクスは……どうせ家に帰ってのんびりしてるだろ」

上条「そうだ、風斬は大丈夫なのか?」


風斬「はい。お蔭様で元に戻ることができました」


上条「おおっと!!」

インデックス「ひょうか!」
556 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:06:48.96 ID:wZ/iq55j0

インデックス「ひょうかも誘拐されていたの?」

風斬「いえ、私はちょっと」

風斬「無理にAIM拡散力場の研究が行われたせいで調子が悪くなっていたんです」


上条「ロシアの基地を解体したから戻れたのか?」

風斬「あの中の機械のどれかがまずかったみたいですね。『爆発』もそれで起こしていたみたいです」

上条「え? 何だっけ『爆発』って?」

風斬「あ、別に思い出せない人はそのままで結構です」


風斬「こうして元に戻れたから、元気な姿を見せておこうと思って」

上条「ああ、安心したよ。ありがとな、風斬!」

風斬「いいえ。こちらこそ……ありがとうございました」

上条「俺は、ロシアではその……」



上条「何もしてねえよ、謙遜抜きで」


風斬「?」
557 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:07:23.44 ID:wZ/iq55j0

■■■■救助リスト(抜粋)■■■■

===ローマ正教===
   ローマ教皇        【解決済】


===ロシア成教===
   ワシリーサ        【解決済】
   サーシャ=クロイツェフ  【解決済】


===学園都市===
御坂勢力
   御坂美琴         【解決済】
   妹達(学園都市組)     【解決済】
   妹達(10033-19999)    【解決済:一方通行】
   妹達(20000)       【委託:一方通行】
   白井黒子         【解決済】
   初春飾利         【解決済】
   佐天涙子         【解決済】
   エツァリ         【解決済】
    ショチトル       【解決済】


その他
   風斬氷華         【解決済】
   スフィンクス       【解決済】
   冥土帰し         【解決済】
   研究者(約150人)     【解決済】
   上条刀夜         【解決済】
   上条詩菜         【解決済】
   御坂旅掛         【解決済】
   御坂美鈴         【解決済】
558 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:08:29.43 ID:wZ/iq55j0


インデックス「何だか色々あったみたいだけど、帰ったら全部聞かせてもらうからね」

上条「あー、色々ありすぎて全部は語りきれないかもなー」

インデックス「また私のいない所でそんな大冒険して……とうまは私に恨みでもあるの!?」

上条「むしろ世界が俺に恨みでもあるのかと聞きたいね!!」

インデックス「むー! 話のスケールを大きくしてごまかす作戦かな!? 騙されないんだよとうま!」

上条「ああもう! つっかかるのも噛み付くのも後で良いだろ!」


インデックス「……そうだね。みんな無事だし、おなかも空いたし」






上条「ほら、行くぞ! インデックス!」





559 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:09:07.71 ID:wZ/iq55j0




                     完



560 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:09:35.10 ID:wZ/iq55j0

■■■■救助リスト■■■■

===イギリス清教===
必要悪の教会
   禁書目録         【解決済】
   ステイル=マグヌス     【解決済】

ロンドン女子寮
   神裂火織         【解決済】
   オルソラ=アクィナス    【解決済】

天草式十字凄教
   建宮斎字         【解決済】
   浦上           【解決済】
   五和           【解決済】
   牛深           【解決済】
   香焼           【解決済】
   諫早           【解決済】
   野母崎          【解決済】
   対馬           【解決済】
   他44名          【解決済】

アニェーゼ部隊
   アニェーゼ=サンクティス  【解決済】
   シスタールチア      【解決済】
   シスターアンジェレネ   【解決済】
   他約200名         【解決済】


===英国王室===
   エリザード        【解決済】
   リメエア         【解決済】
   キャーリサ        【解決済】
   ヴィリアン        【解決済】


===騎士派===
   騎士団長         【解決済】


===結社予備軍===
新たなる光
   レッサー        【解決済】
   ベイロープ       【解決済】
   フロリス        【解決済】
   ランシス        【解決済】


===ローマ正教===
   ローマ教皇        【解決済】

神の右席
   フィアンマ        【解決済】
   ヴェント         【解決済】
   アックア         【解決済】


===ロシア成教===
   ワシリーサ        【解決済】
   サーシャ=クロイツェフ  【解決済】


===エリザリーナ独立国同盟===
   エリザリーナ       【解決済】

561 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:10:04.08 ID:wZ/iq55j0
===学園都市===
統括理事会
  アレイスター=クロウリー  【解決済】

とある高校
   月詠小萌         【解決済】
    結標淡希        【解決済】
   姫神秋沙         【行方不明】
   吹寄制理         【解決済】
   青髪ピアス        【解決済】
   土御門元春        【解決済】

御坂勢力
   御坂美琴         【解決済】
   妹達           【解決済】
   白井黒子         【解決済】
   初春飾利         【解決済】
   佐天涙子         【解決済】
   エツァリ         【解決済】
    ショチトル       【解決済】

黄泉川家
   黄泉川愛穂        【解決済】
   芳川桔梗         【解決済】
   一方通行         【解決済】
   打ち止め         【解決済】
   番外個体         【解決済】

新生アイテム
   麦野沈利         【解決済】
   浜面仕上         【解決済】
   滝壺理后         【解決済】
   絹旗最愛         【解決済】

旧スクール
   垣根帝督         【解決済】
   心理定規         【解決済】

忍者
   服部半蔵         【解決済】
   郭            【解決済】

その他
   風斬氷華         【解決済】
   スフィンクス       【解決済】
   冥土帰し         【解決済】
   研究者(約150人)     【解決済】
   上条刀夜         【解決済】
   上条詩菜         【解決済】
   御坂旅掛         【解決済】
   御坂美鈴         【解決済】
562 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:11:05.44 ID:wZ/iq55j0






姫神「どういう。ことなの」

エイワス「人は、知らず知らずの内に周囲から期待される行動を取ると聞いたことがある」

姫神「確かに私は。目立つタイプじゃないけど」

姫神「それを期待されていると自覚してるかと言われると。流石に心外」


エイワス「まあ、実際あの少年に助けてもらった人物はほとんどいないようだし」

エイワス「彼に助けて貰えなくても良しとしないか?」

姫神「それは。私だけお姫様みたいに、なんて。思ったりはしないけど」

姫神「でもやっぱり。ちょっとは期待してしまうし」

エイワス「なるほど。それが揺れる恋心というものなのか?」


姫神「それで。えらく普通に相席しているけど。あなたは誰」

エイワス「私は……あqwせdrftgyふじこlp;……ふむ、ヘッダが足りないな」

姫神(ふじこさん?)

エイワス「エイワス。そう名乗るのが一番相応しいだろう」

姫神「何だか。すごく胡散臭い」
563 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:12:10.35 ID:wZ/iq55j0

姫神「私に。何か用?」

エイワス「君に多少の価値と興味を見出してね」

姫神「一体。何の」

エイワス「君は今、恋をしているのだろう?」

姫神「う。え。そうストレートに言われると。うろたえてしまうけど」

姫神「上条君には。言わないで。迷惑が掛かるから」

エイワス「ここで君をからかおうとは思わない」

姫神「それは。助かる」

エイワス「君に相談したいことがあるのだよ」

姫神「相談。私に?」

エイワス「恋をする少女にね。浮ついたように聞こえるかもしれないが、大事な話だ」

姫神「私もあまり。経験豊富な方じゃないけど」

エイワス「構わない。他の人間はどうも、揃いも揃って忙しいようなのでね」
564 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:13:00.91 ID:wZ/iq55j0


エイワス「かつて私は、とある牢獄のとある囚人を訪ねた」

エイワス「一定の興味を見出したものでね」

姫神(……価値は?)

エイワス「彼は驚いていたよ。まあ、大抵の人間は私を見て普通じゃないと思うだろうが」

姫神「うん。何て言うか。光ってるし」

エイワス「キリスト教を信ずる者なら、そう……天使のように見えるのかもしれない」

姫神「天使。言われてみれば。神秘的な雰囲気」

エイワス「実際に言われたよ。『あなたはわたしの天使だ』と」

姫神「それは。口説き文句のように聞こえる」

エイワス「やはりそうか……」
565 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:13:49.43 ID:wZ/iq55j0

姫神「口説かれたの?」

姫神「確かに。あなたはとても綺麗な人」

エイワス「はっきりそうと言われたわけではないが……」

エイワス「私を見る彼の目は、今の君と同じような輝き方をしていたな」

姫神「恋する。瞳……?」



エイワス「それで、私はまずいと思った」

エイワス「もともとがただの暇つぶしだったからね。彼とどうこうなろうという気はない」

エイワス「だが、それに反して彼の方は燃え上がっていくばかり」

姫神「互いの温度差。私も感じることがあるけど」


エイワス「私は彼を訪ねるのをやめた。向こうは囚人だからね。それで距離を置けば何の問題もないはずだった」

姫神「惚れさせておいてそれは。ひどい仕打ち」

エイワス「だが、話はそれで終わらなかった」

566 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:14:49.08 ID:wZ/iq55j0

エイワス「なんと、彼は消えた私を追って脱獄してしまったのだ」

姫神「その熱意。素敵な話」

エイワス「やられた方はたまったものじゃないからな」


エイワス「世界は広い。私は適当に逃げ回っていればそれでいいと思っていた」

エイワス「ところが。彼はローマ教皇を手中に収め、何億人という信者を使って私の捜索を始めたのだ」

姫神「どうして。そうなった」

エイワス「正直なところ引いた」

姫神「なるほど」


エイワス「どこへ逃げても必ず追手が来る。世界中に信者を抱えているというのはすごいな」

姫神「それで。どうやって振り切ったの」

エイワス「私はミサカネットワークに侵入し、この『見えている世界』から姿を隠すことにした」

姫神「ミサカ。ネットワーク?」

エイワス「概念としてはインターネットのようなものだと思ってくれればいい」

エイワス「目には見えないが存在する繋がりだ」

姫神「そこに入り込んで。姿を隠す。そんなことができるの?」

エイワス「私のことは『何かよく分からないけどすごい奴だ』くらいに解釈していれば問題ない」

姫神「わかった」
567 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:15:45.59 ID:wZ/iq55j0

エイワス「上手く隠れたのはよかったのだが」

エイワス「インターフェースとして使っていたミサカ19090号の脳に負担がかかりすぎてしまったらしくてね」

エイワス「少し前にとうとう彼女が限界に達し、ミサカネットワーク全体がダウンするような事態になってしまった」

姫神「どう考えても。はた迷惑」

エイワス「仕方なく私はまた出て来たというわけだ」


エイワス「しかも、私という存在について彼は調べていた」

姫神「億単位の人間が動けば。相当のことが掴めてしまいそう」

エイワス「そう。私が学園都市の技術によって現出していることを、彼は突き止めた」

エイワス「具体的にはAIM拡散力場の集合体であるヒューズ・カザキリをラインとしたシステムだが……」

エイワス「隠れた私を引っ張り出すには、AIM拡散力場がいっぱいあればいいんじゃないか」

エイワス「……というような発想で、能力者のクローン大量生産を目論んだらしい」

姫神「恋は。盲目と言うけど」

姫神「それは流石に。引く」
568 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:16:39.36 ID:wZ/iq55j0


エイワス「彼の暴挙は取り返しのつかないことになる前に止められたそうだが」

姫神「上条君。彼はやっぱり。ヒーローなのかも」

エイワス「私の問題はまだ解決していないわけだ」

姫神「確かに。彼は今。届かなかった思いを募らせている所だろうし」


エイワス「そこで、恋する少女である君に聞きたい」

姫神「正直。話の規模について行けてないんだけど。何」

エイワス「人間に、恋心をあきらめてもらうには、どうすればいい?」
569 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:17:10.56 ID:wZ/iq55j0

姫神「……それは」

姫神「色々と。方法はあると思うけど」

姫神「でも。やっぱり。直接言ってあげるのが。一番いいと思う」

エイワス「例えば……君なら、どういった言葉で伝えるのかね?」

エイワス「その、気持ちを」


姫神「私」

姫神「私だったら……」


姫神「私は上条君が好きだから。あなたの気持ちには応えられない」


姫神「そう。言うかもしれない」
570 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:17:52.70 ID:wZ/iq55j0

エイワス「……なるほどな」

エイワス「私は上条君が好きだから。あなたの気持ちには応えられない。エイワス覚えた」


姫神「あくまでも。私の場合だけど」

エイワス「誰の場合でも似たようなものだろう」


姫神「それが。相談の内容なの?」

エイワス「ああ。参考になったよ。ありがとう」

姫神「あの。誤解しないでほしいんだけど」

姫神「あくまでも。私の場合だから」




姫神「……消えた」





姫神「恋。か」


姫神「……上条君」
571 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:18:25.06 ID:wZ/iq55j0

<ヴェネツィア・とある教会前>



上条「ほら、行くぞ! インデックス!」







上条「――最後の一人を助けに」






インデックス「うん!」

5721[saga]:2011/05/27(金) 02:18:58.91 ID:wZ/iq55j0




                     完



573 :1[saga]:2011/05/27(金) 02:20:37.91 ID:wZ/iq55j0



おわりですー

こんな出落ちっぽいスレに長いこと付き合ってくれた方、本当にありがとうございました



このひどいオチのために何ヶ月も引っ張ったと思うと、誰に怒られても文句は言えないです

罵ってください



というわけで、後半かなり駆け足でしたが、これで終わりです。

改めて、読んでいただいてありがとうございました!





おまけ↓


エイワス「私は上条君が好きだから。あなたの気持ちには応えられない」

ビアージオ「」

574VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/05/27(金) 02:23:29.70 ID:e01yggwno
乙!

スレを開いて>>1を見た時の衝撃は多分いつまでも忘れないwwwwwwwwwwww
577VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]:2011/05/27(金) 05:11:29.44 ID:AljX1Qep0
巻き入ったことは残念だけど、最初のほうで懸念された姫神忘れられオチを上手くひねって解決したことでチャラにしようと思った。
上から目線でゴメン
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/27(金) 07:59:50.10 ID:TnhqgJODO
ナイスオチ
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/27(金) 08:41:10.01 ID:1Q8htn2E0
最後20000号は絶対一悶着あったんだろうなw
580VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/05/27(金) 12:22:54.57 ID:7uc8jv9IO
ぶっちゃけ最初から超展開だったから巻きに入っても違和感なかった

どう考えても最大の功労者の一方さんお疲れ様でした

あとついでに>>1も乙
581VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]:2011/05/27(金) 15:46:09.47 ID:3YmH1hKAO
おもしろかった

0 件のコメント:

コメントを投稿