一方通行「飯も風呂もできてンぞ」番外個体「それじゃあ、あなたで」
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- ※未完作品
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- 1 :1 ◆vMMlAilaQ[saga]:2011/03/18(金) 19:31:51.85 ID:SMLw9DYPo
○基本、番外通行がいちゃいちゃするスレです
一応、
番外個体「――ただいま、帰ったよ」
から設定を引き継ぐ形になっていますが、未読・読む暇ないよの方は、
・第三次世界大戦後
・番外通行で同棲中
・麦のんとワーストお友達
・ワーストはカフェでバイト、一方通行は家事担当
・婚約直後、ヤルことは上記スレでほぼ消化済み
を踏まえて頂ければ分かりやすいかと思います
何かシチュエーションみたいなので要望あればどぞー、寧ろ有り難いです
※新約と食い違いがあるかもしれませんが、基本原作に則っています
※基本的に地の文あり。時々無くなったりもするかもしれません
※稀に性描写とか出てきます
- 12 :1 ◆vMMlAilaQ[saga]:2011/03/18(金) 23:35:06.13 ID:SMLw9DYPo
結局寝ないでごろごろぬくぬくいちゃいちゃ
「あなたがあんまりキスするものだから、痕ついちゃったよ。鎖骨とか首筋にこれって、いかにもですって感じしない?」
「絆創膏でも貼っときゃ良いだろ」
「そんなことしたら絆創膏まみれになっちゃうよ。
あ、もしかしてまさかとは思うけどさぁ、キスマーク付けるのは、俺の女だって証だァ! みたいなそんな感じ?」
「仕方ねェだろ、オマエが他の野郎と居るの考えただけでムカついたンだよ……」
「ぎゃはは、何それ嫉妬ってわけぇ?」
「スゲェ乱れっぷりだったよなァオマエ」
「……その話の逸らし方はズルくない?」
「この俺が欲しくて、我慢できなくて、むずむず――うァ!? おい、ァ、ッ」
「……ムカつく。仕返しだよ。こうやってキスマーク付けたままスーパーにでも行けば良いんだ。あなた白いからすっごく目立っちゃうねぇ。
……ていうか、何かエロい声出かけてたけど。あっれえ、もしかして感じ――ひゃっ!? ちょ、布団の中で不意討ちは、あぁっ、ち、ちくしょ、」
「ンう!? お、オマエ何してあァっ、……ふざけン、ァ、ンッ、」
「ぎゃはははは! ミサカのこと苛めるのも忘れて喘いじゃって、可愛いじゃん。ミサカネットワ――……か、硬くなってるう!?」
「マジでやめ……は、あっ、ってぐりぐりしてンじゃねェ!」
小ネタ程度に。一応前スレ最後の少し後って設定で、>>1000までに投下しようと書いてたやつ
要望とかはなるべく拾っていけたら良いなぁと思ってる
それじゃあおやすみなさい
- 14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/19(土) 02:40:22.98 ID:FMd/XoOU0
- >>1乙
期待してます
- 52 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 21:42:43.64 ID:eWahEoj6o
「お、おはよ」
若人二人――、一方通行と番外個体という、昨夜結ばれたばかりの男女の一日は赤面から始まった。
それもそのはず、ほぼ同じタイミングで目を開けた所為で朝一番に見た景色が意中の人で、
それぞれのはだけた胸元や首筋には赤い痕、キスマークがしっかりと印されていれば赤くもなる。
ちなみに胸元がはだけているのは、電気を消しておやすみの挨拶をした後も互いに舐めあったり吸いあったりつまり深夜のテンションって怖い。
「き、……のうはよく眠れたか?」
「あ、うん、えっと、はい。お、お陰様で……」
ガチガチになってしどろもどろな会話を交わしつつ、番外個体がくわ、とあくび。
空気が読めていないそれで幾分緊張も和らいで、
「今何時――、あァ!? もォ昼なるンじゃねェか。流石に寝過ぎだろクソッたれ……。
つーか毛布、あンま引っ張ンな。夜中寒くて一回起きたンだからな」
「んあー、ミサカに少ししか掛かんないじゃん。大体もう春だってのに寒すぎだよここ最近」
「あ、オイ独占禁止だ。……どォする? もォ少し寝てるか? どォせ今日オマエバイト休みだろ」
あくびで目尻を濡らす番外個体と小さな争いを展開しながら尋ねる。
結局どんなに引っ張り合っても毛布が伸びることはないので、自然と二人の距離を縮めることで落ち着いた。
一方通行の提案に、起きることが苦手な彼女のことだからてっきり頷くかと思っていたのだが、
「んーん、眠りけど起きる。おなか減ったし」
いつもなら欲求のままに、二度寝三度寝と満足するまで眠りこける番外個体にしては珍しい。
彼女はのそのそと半身を起こし、彼女に起床を越されるという前代未聞の事態に衝撃を受けている一方通行の横でぼんやりする。
どうやら頭の方は、まだ半分お眠りになっているらしい。
- 53 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 21:44:00.00 ID:eWahEoj6o
その後、一方通行が昨夜の余韻に浸ってぼうっと彼の着替えを眺めていた番外個体をからかったり。
それで拗ねてしまった実質0歳児のご機嫌を取るために、彼女の好物であるフレンチトーストを焼いたり。
そんな始まりの一日は、『結婚しようね、式場は――』とか話すような仲になっても以前と然ほど変わらない。
3月に入ってもなかなか仕舞うことが出来ずにいるこたつに入ってテレビを眺め、そのまま寝息をたて。
当たり前、何度も繰り返してきた日常が何よりの幸せなのだ。
その中で変わったことを強いて挙げるとするならば、
「き、今日もあなたの部屋ゴニョゴニョ」
「あァ? はっきり言え」
「今日もあなたの部屋で……その、寝ても、良い?」
番外個体が甘えてくることが増えた、気がする。
頬を朱に染め視線を左右に忙しなく動かし、小さな声で。
それだけで見事に庇護欲をくすぐられ、血はどくどくと激しい音を立てて心臓を出入りする。
一方通行は特別動物が好きなわけでも嫌いなわけでもないが、雨に打たれてずぶ濡れになった捨て犬や捨て猫が居たらこんな気分になるのだろうか。
ちなみに犬と猫、一方通行はどちらかといえば後者派である。
そしてこれがトドメだと言っても過言でない最後の締め、
「だめ……かな……?」
本気でくらっときた。
自分でも大馬鹿だと思うが、ロシアで出会ったときは畏怖の念しか抱かなかったような少女が今は正反対、堪らなく愛おしい。
「駄目なわけ、ねェだろォが」
番外個体が照れながらにも甘えてくるということは、つまり生活の中で甘い成分が少し増すということ。
そう考えるとやはり、少しだけ。
幸せな変化は、あったと言っても良いのかも知れない。
- 54 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 21:46:34.23 ID:eWahEoj6o
さて。
『蜜柑は一日ふたつまで』ルールを番外個体が破ってしかもシラを切ったり、
エントランスに郵便物を取りに行った一方通行が同じ階の住人から向けられる視線や、
『あそこの部屋の人です。超いかがわしいんですよ』『あら、噂をすれば……』とかいう丸聞こえな会話に精神を削られてマンションの薄い壁を呪ったり、
「麦のんに電話してきた。おめでとうって。ひゃひゃ、泣いてた。……泣いて、喜んでくれた」
「ハッ、らしくねェな。……まァ、世話になったって言やァ認めざるを得ねェンだけどよォ」
「あなたも? ミサカもだなぁ、バレンタインとか。今度うちに来て話聞くとか意気込んでたけど」
二人の気持ちが通じ合ったという報告に、番外個体の良き理解者でありお姉さん的存在の麦野沈利が泣いたり。
そんな日常は、
「そォだ、今日は抽選会の最終日じゃねェか……。迂闊だったぜ、忘れてたなンてよォ」
「抽選会って、もしかしてアーケードでやってるやつ? 確かミサカがお洋服買ってるお店も対象だったと思うけど」
「食料品やら日用品やら、前に買い物したとき貰った抽選券が三枚あるンだよなァ」
「なら行こうよ、ミサカ福引きっていうのに前から興味あったんだよね。ついでに春物も欲しいなぁ」
今日入ってきた一枚のカラフルなチラシで、『特別』を孕むことになる。
- 55 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 21:51:57.82 ID:eWahEoj6o
第七学区のアーケード街。
セブンスミストに比べやや小規模だが、様々なショップが連なっていることと気軽に利用できる親しみやすさで放課後の人気スポットとなっている。
中々質の良い生鮮品を手に入れることもできるので一方通行も時々利用するし、番外個体も洋服を買いに来たりするらしい。
そこで年一回、三日間に渡って行われる抽選会は、各ショップで三千円買い物する毎に一枚貰える抽選券があれば誰でも参加でき、景品が豪華なことで知られている。
というわけで、それに参加するため二人は足を運んでいた。
キスマークを晒すわけにはいかないからと、そこはマフラーを巻いて何とかカバー。
空調の効いた店内では少し暑苦しさを感じるものの仕方がない。
「……あなたが近くに居ると緊張するんだけど」
「なら外で待ってるから一人でゆっくり見てこいよ」
「だ、ダメダメ! ……あなたにも、見て貰いたいし。このミサカに似合うヤツ」
そんな二人が現在居るのはレディース専門店で、福引き前にお買い物である。
番外個体が欲しがっていた春物も買えるし抽選券も貰えるしで一挙両得だ。
彼女は気になった服を手に取ったり戻したりしながら、
「どんなのが良いかなあ。あなたはどう思う? ひゃひゃ、お望みとあらばバニーでもナースでも着てあげるよ。勿論高くつくけどね」
「何でも似合うと思うけどな、オマエの体型だと。ほら、あれとか良いンじゃねェの?」
「なっ、あんなの着たいとも思わねーし! 大体ミサカはああいう可愛いのよりも……っ」
一方通行が指差したのは、レースやリボン、フリルなどのモチーフをたっぷり使用した、所謂ロリータ・ファッションというものである。
マネキンが完全装備したそれは人目こそ引くものの、だからこそ着るにはかなりの勇気を要しそうだ。
「それともゴスロリ、何なら専門店にでも――くっ、くは、」
「だからミサカは、……な、何笑ってんだよう、からかってんの!?」
「冗談を真に受けてンじゃねェよ。つーか否定しつつもスゲェ見てンじゃねェか、その少女趣味はオリジナル譲りですかァ?」
番外個体が顔を赤くして底意地悪く笑っている男をベチベチ叩く。
気恥ずかしさと、見透かされたという悔しさを誤魔化すように。
流石にがっつりロリータでお姫様になりたいわけではないが、それでも彼女だってれっきとした女の子だ。
可愛いものに惹かれてしまうというのは仕方がない。
- 56 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 21:53:43.04 ID:eWahEoj6o
そんな彼女の気持ちを知ってか否か、
「まァ、新鮮で良いンじゃねェの。ただアレだと目立ちすぎだし、オマエも着にくいだろ」
「別に着たいと思ってるわけじゃないんだってば。ミサカには可愛い系よりもカジュアルな服装の方が合うと思うし。
ただちょっと……可愛いかな、って……少しだけだけど……」
「そォ思うンなら着てみりゃいい。何もあそこまで華美でふりふりなのが『可愛い』服ってわけじゃねェ。……ン、こォいうのは?」
ふりふりなどと、彼の口から出ると戦慄せずにはいられない言葉を用いつつ、一方通行が手に取ったのは白のワンピースだった。
奇しくも番外個体の目には、それがウエディングドレスのような高貴なものみたいに映って。
とくとくと胸が鳴り、着てみたいと――着られたら嬉しいのにと、普通の女の子として当たり前な欲望が沸き上がる。
大好きな相手から初めて選んで貰ったワンピースは、一目惚れという形で番外個体の心を大きく揺さぶった。
しかし彼女は、気付かぬふりをする。気持ちを押し込める。
「……真っ白ワンピース。清楚だねえ、このミサカに一番似合わなそうだ。何の嫌み?」
「嫌みとかじゃねェよ。これならシンプル且つオマエが言う『可愛い』を着ることができンじゃねェの? あくまで一例だけどよ」
普段はカジュアルな格好をする番外個体としては、一方通行が選んだようなワンピースは滅多に着ないし、足を出すこと自体皆無に等しい。
似合わないという先入観もあるし、この自分が可愛い格好をするのは恥ずかしいとも思う。
ふわふわーとか、ひらひらーとか。
雑誌を見て憧れることはあっても、着ようとは思わなかった。思えなかった。
「……ミサカが着ても、良いのかな」
汚れの無い、正真正銘の純白。
可愛いレースがさりげなく施されていて、自分が触ると汚れてしまわないか不安になる。
「何馬鹿言ってンだ、良いから着てみろ」
「う、うん……」
「勝手にシラけてンじゃねェぞ。一人でお着替えできますかァ?」
「で、できるし! ミサカのこと馬鹿にしてんの? ちょっと待っててね、直ぐ着替えてくるから」
威勢良く啖呵を切って、その割にワンピースは丁重に手に扱いながら試着室に入っていく番外個体。
それを見届けて、一方通行は試着室の壁に寄り掛かる。
「……ったく。自分のこと卑下することなンてねェンだよ、オマエ」
「その言葉、そっくりそのままお返ししたいところだけど。あなたがそう言ってくれたのは、嬉しい、かな」
- 57 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 21:54:36.72 ID:eWahEoj6o
「――オイ、まだか」
「ちょ、ちょっと待って、うわあ!?」
ただ着替えするだけにしては長めの時間と、どったんばったんという何やら不穏な響き。
店員も番外個体の叫び声を聞いて苦笑いである。
買いますから買いますからと心の中で謝罪しつつ、試着室の中の番外個体を急かす。
「何してンだ、そろそろ周りの視線が痛くなってくンぞ」
「だって背中のチャック、届かない……っ」
微かな布が擦れる音と、番外個体が奮闘する呼吸音。
一方通行は呆れたように溜め息をついて、
「あとはチャックだけなンだろ? なら出てこい、上げてやる」
「で、出るのはちょっと……。そうだ、あなたが中に入ってこれない?」
「あァ? オマエは公共施設で何をしよォとしてるンだよ……怖ェよ……」
「違う違う、馬ッ鹿じゃねえの!?」
番外個体のわりと本気な罵声が飛んできて、直後カーテンの間からひょっこり顔だけこんにちは。
口をぱくぱく鯉みたいに開閉させて、心なしかほんのり赤くなった顔をして小声で訴える。
「き、す、ま、あ、く」
「……そォいやァ、そォだったな……」
- 58 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 21:55:42.73 ID:eWahEoj6o
試着室という空間は、外から見た通り非常に狭い。
その上幼い子供と親が一緒に入るのならまだしも、高校生程度の身体が一緒に入ると更にキツくなるのは当たり前だ。
店員や買い物客の『ぎょっとした』という表現がぴったりな顔に見送られ、
彼女が着替える試着室に入るという勇気溢れる行動をやってのけた一方通行は改めてそれを痛感していた。
乱雑に投げ捨てられた番外個体の抜け殻を見て、もう少し淑女らしくできないものかと思わず溜息が零れる。
「何か予想外に前開くみたいで……。試着する時までマフラーしてるわけにいかないし、そうすると丸見えなんだよね」
背中に手を回して悪あがきをしながら、ばつが悪そうに番外個体は言う。
姿見に映った彼女の首や鎖骨の辺りには、成る程確かに赤い痕が。
「ン、貸してみ」
選手交替。
背中の真ん中辺りまで引き上げられたチャックに手を掛け、
(この紐……。透けてンじゃねェか、気付いてンのか?
コイツが着る時には注意しねェと、恥かくな。つーか下に濃い色着ると色までモロ透けンぞこれ)
ワンピースとキャミソールの二枚越しに浮かぶ、背中を横断するライン。
少し注意深く見ると、暖色系の色合いだ。
……女の子特有の下着、ブラジャーである。
意識しないように努めてもその線の輪郭は視界の端でちらつき、一方通行は無意識のうちにごくりと生唾を飲む。
女物の下着にこれ程まで欲情したのは初めてで、『そんな気分』になると今度は露出した背中やらうなじやら全てが――
- 59 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 21:57:41.81 ID:eWahEoj6o
「な、何? 何か急に固まっちゃって……怖いんだけど」
番外個体の控えめな声で、我に返った。
「あ、いや……何でもねェよ。あ、上げンぞ」
鏡の中で不思議そうな顔をする番外個体に対し、急に罪悪感が沸き起こる。
この狭い公共の場で自分は一体何を考えていたのだと顔をしかめ、
この後番外個体とまともに視線を合わせることができるだろうかと不安になった。
取り敢えず、今は気にしないのスルー精神でチャックを勢いよく引き上げ、
ぷちん
小気味良い小さな音と共に、背中を一直線に横断していたラインが左右両側に『弾けた』。
チャックが閉まり着替え完了の瞬間を緊張の面持ちで待っていた番外個体の表情は、
理解不能、驚愕、羞恥と赤みを増しながら目まぐるしく変化し、
「な、ななな何が」
胸を押さえてしゃがみ込んだ。
芳川よりは大きいと評価されたカタマリがたゆんと微かに揺れた気がして、それが酷く羞恥心を煽る。
俗に言う『ラッキースケベ』。
どこぞのヒーローと違い、慣れていないこの状況が理解できないのは一方通行も同じで、
「お、おう……わわ悪ィ、こう、勢い余って引っ掛かったンだよ……」
「う、うん、そうなんだ……。あ、あの、ちょっと後ろ向いててくれるかな?」
憤慨することも忘れ、しゃがんだままたどたどしく背に手を回す番外個体。
お世辞にも手先が器用とは言い難い彼女にとって、毎朝行うこの行為でも中々苦戦を強いられるものだ。
数分かけてホックを繋ぎ直してから、後ろを向く一方通行の裾をちょいちょいと引っ張った。
「もォ良いのか」
「うん……」
互いに己の心臓がうるさく響いているのを意識しつつ、それを悟られないようにと平常心を装う。
どちらも同じ境遇であるというところまで意識は回らないらしい。
- 60 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 21:59:32.35 ID:eWahEoj6o
「ン、じゃあ立ってみ」
「へんじゃないかな……」
促され、番外個体は朱に染めた顔を不安げ歪めて一方通行の顔を見上げた。
それから彼の方に向き直り、ゆっくりと立ち上がる。
「……スゲェ、良いじゃねェか」
――その姿は鮮烈で、ただただ、綺麗だった。
清楚なワンピースは、番外個体がもとより持ち備えた整った顔立ちやスタイルを引き立てる。
似合うじゃないか、と。
清楚でこの自分には一番似合わなそうだと彼女は言ったが、とんだ的外れじゃないか、と。
番外個体が遠ざけていた純白はそんな彼女によく似合い、一方通行を思わず見惚れさせる。
「ミサカが着ても、おかしくないかな」
「おかしくねェよ。似合ってっから鏡見てみろ」
少女の瞳が不安げに揺れた。
怯えに睫毛を伏せ、それでも姿見を、
「わあ……!」
「悪くねェンじゃねェの?」
「うん……。ミサカじゃないみたいだ」
「そンなことねェよ、全部オマエだ」
「全部ミサカ、かぁ」
ひらひらとスカート部分を手で摘まみ、番外個体が笑みを溢す。
ワンピースか、一方通行の言葉か。
恐らくその両方を気に入ったようで、
「あなたが選んでくれたワンピース、こりゃ買いだね。
それにしても脚と胸元、両方の露出を求めてくるなんて……。み、ミサカはその……いつでも脱ぐ準備は出来て、」
「うっせェ! ワンピース一枚で良からぬ想像して赤くなってンじゃねェよ、それじゃあ俺が変態みたいじゃねェか……。
良いから早く着替えて出てこい」
試着室から出た一方通行が店内に居た人間からヒソヒソ言われたのは言うまでもないが、番外個体の笑顔に免じて目を瞑ることにする。
- 61 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:00:55.29 ID:eWahEoj6o
友達や恋人らしき異性と連れだって歩く学生、風船を配る着ぐるみ、自販機に商品を搬入する業者。
放課時刻を過ぎ、学校という退屈な場所から学生達が解放されたこともあるのだろう。
四時を回って、アーケードにも人が増えてきた気がする。
行き交う人々を眺めながら、一方通行と番外個体はオープンカフェで一息ついていた。
テーブルの上にはブラックコーヒーとココア、それぞれの手にはクレープ。
番外個体は生クリームやチョコソース、苺がたっぷりのそれを幸せそうな顔で頬張りながら、
「見てよあれ。お別れのハグってヤツ? 帰りたくないわ私、とか言ってるのかなあ」
「ケッ、お熱いこった。いくら好き者同士でも公衆の面前であれはねェよ」
「かなりの勇気がいるっていうか、最早公害だよねえ」
二人の視線の先には、人目も憚らずに抱き合う制服姿のカップルが。
見るからに『愛し合ってます』な彼らは、このまま抱擁の先まで発展してしまわないかと見ているこちらを冷や冷やさせる。
そこでふと、向かいに座る少女が何故だかにまにま笑みを浮かべてそれを凝視していることに一方通行は気が付いて、
「……ああいうの、オマエもやりたかったりすンの? ニヤけてンのは意識してのことか?」
「まさか。ただ、あれ以上に過激なものになったら面白いなあって」
「ハッ、実際そォなったら赤くなって目ェ逸らすンだろ」
「はぁ? ミサカそこまで純真無垢な乙女じゃないし。そういうのはお姉様で十分」
そんな会話をしている間に、熱々カップルは互いの締め付けを終了させたらしい。
それぞれ反対方向の帰路に就き、何事もなかったかのように澄まし顔で歩き出すその姿はある意味尊敬に値する。
番外個体は頬に生クリームをつけて、
「ああいうのをバカカップルっていうのかな?」
「せめて略そォぜ。つーかクリームついてンぞ間抜け」
「え、うそ!? どこどこ?」
「ったく……」
- 62 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:01:54.92 ID:eWahEoj6o
指の腹でそれを掬い上げ、ぺろりと舐め取る一方通行。
微量ながらしっかりとした甘さを含むそれに、思わず顔をしかめる。
番外個体はというと、そんな彼のことをニヤニヤとあまり良くない顔で見つめていた。
「甘ェ、よくこンなの食ってるな。……ンだよ、俺の顔に何か付いてるか?」
「いやあ、指をしゃぶるあなたもなかなかサマになってると思ってね」
「何馬鹿なこと言ってンだ、とっとと食って行くぞ」
「あれー、照れてるう? ぎゃは、でもああいう場面では直接舌で舐め取ってほしかったなーあ? ミサカもう一回つけちゃおっかなー?」
先程のカップルに頂けない感化を受けたのか、それとも対抗心でも燃やしているのか。
いずれにせよ、一方通行を困らせる為に饒舌になっていた彼女の口は、
「んっ、」
身を乗り出した一方通行の唇で塞がれた。
音も立てずに一瞬触れるだけの、優しいキス。
自分でけしかけておきながら、それでも顔を火照らせ目を白黒させる番外個体を促して立ち上がる。
「福引き済ませてさっさと帰ンぞ。帰って飯の仕度もしなくちゃなンねェンだからよ」
「あぅ……ず、ずるいよそういうの。周りも見てんじゃん」
「うるせェ、これに懲りたら人をからかうのも大概にするンだな。『純真無垢』な番外個体ちゃンよォ」
「……自分だって赤くなってるくせに……」
聞こえているのか否か。
番外個体の呟きは、ただ風に流された。
- 63 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:04:03.96 ID:eWahEoj6o
「あなたって脚フェチ? なんか脚が出るのしか買ってない気がするけど」
「あァ? ちげェよ」
番外個体がそう言うのには理由があって、最初に入ったショップで白のワンピースを買ったほかにもう一着、
パステルピンクのティアードペチパンツを一方通行の推しで買っているからだ。
『可愛いもの』、つまりスカートとか、そういったものに抵抗はあるけれど着てみたいという番外個体の矛盾を叶える為に。
パーカーにあわせれば甘くなりすぎるのを防げるとかで、それも一枚。
一方通行による『ミサカ。をプロデュース』は無事に終了し、
「こ、こうしてミサカはあなた好みに教育され、染められていくのねっ」
「何言ってンだボケ」
春物三点に加え、抽選券八枚をゲットである。
それに一方通行が持っていた三枚を合わせて計十一枚、
「良いか、狙うは二等の冷蔵庫だ」
「えー、一世代前の型じゃん。ミサカ入浴剤セットが良い」
「今家で使ってンのよりは大分マシだろ。それにオマエの獲物はもォ残ってねェぞ、最終日だから全部出たンだろ」
年に一度のお楽しみイベント。
第七学区アーケードで戦いの幕が開かれようとしていた。
- 64 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:05:41.87 ID:eWahEoj6o
「何これ何これ!? ミサカ『ガラガラ』初めて見た!
わあ、こういう仕組みで玉が出るんだね、アナログすぎてミサカの能力じゃ歯が立たないよ」
「はしゃいでンじゃねェよ、オマエはガキか。つーか不正はやめろよな」
「11回を半分ずつ……。み、ミサカが6回やっても良い?」
「オマエが全部やれよ、生憎と俺はシケた遊びでハイになれるほど感受性豊かにできちゃいねェ」
順番待ちの列に並んでいる時点で興奮状態に陥っていた番外個体。
うずうずと落ち着きなく順番が回ってくるのを待ち望んでいたのだが、いよいよ次という時にそれが緊張の面持ちに変化し、
「……胃がキリキリする」
「そンなに力ンでどォするンだよ。ほら、順番きたぞ」
「よ、よし。冷蔵庫を狙えば良いんだよね?」
緊張は絶頂を迎えているが、腕まくりもして気合いだって十二分。
ガラガラガラガラと福引き特有の中身がかき混ぜられる音を肌で感じながら、表情を硬くした番外個体が2回ほど回した時、ころんと。
彼女が考えていたよりずっとあっさり出てきたそれは、
「白ー。残念賞ですね」
- 65 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:07:07.86 ID:eWahEoj6o
「…………、」
生まれて初めての福引きを、興奮を通り過ぎて緊張までして。
しかしそんな彼女に突きつけられたものは、正真正銘の現実とポケットティッシュだった。
「ま、まあ確率なんて低いしね」
一発目で当たりが出るなんて……、何処かでは期待していたのだが、所詮それは夢でしかない。
気を取り直して、もう一度。
ガラガラ回して、……白。
ガラガラガラ、白、白、白。
白玉のインフレに泣き出しそうな顔になりながら、それでも一生懸命回す番外個体を見て一方通行がニヤニヤと笑う。
「オイオイ、欲深すぎるンじゃねェの? ラッキーに見放されますってなァ」
「二等を狙えって言ったのはあなたじゃん。……じゃあさ、あなたがやってみてよ」
というわけで、六回目。
番外個体に代わって、同じく福引き初挑戦の一方通行が、
「水色ー。五等、洗剤になります」
ポケットティッシュよりは遙かに高価で家計も大助かりな洗剤を引き当てた。
五等といえばそれほど珍しくもないし、準備されている数も多いはずなのだが、
「ハッ、どォだ家庭にしっかり貢献したぜェ」
「ぐぬぬ……。み、ミサカだって!」
一方通行がドヤ顔をするのと番外個体が悔しがるには十分すぎた。
再び戦線に立った番外個体は、屈辱を晴らすためにじゃらじゃら音を鳴らしてやや乱暴に振り回す。
結果は依然として、白の連発だった。
- 66 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:08:12.72 ID:eWahEoj6o
「ミサカには籤運が皆無なんだ……」
番外個体がそう言うのも無理はない。
九枚の抽選券を使った内、彼女が気合いを籠めて回した八回が残念賞、一方通行にやらせてみた一回が五等。
残るチャンスはあと二回で、番外個体は十回目を無気力にガラガラやっていた。
よくよく考えてみれば、何か当たりが出る方がおかしいのだ。
三日間行われる抽選会の最終日。
お目当ての二等はまだ残っているものの、三等の電気カーペットや、
番外個体が欲しかった入浴剤セットなど『数に限りがある物』は大半が出払っている。
となると必然的に『ガラガラ』の中には白色が多くなり、そう思ってしまうと今出てきた玉の色を確認するのも馬鹿臭く――
「……金、色……?」
鎮座しているであろう白の敵に、視線で破裂でもさせられないものかと目を向けて。
「おめでとうございまーす!! 一等、沖縄旅行二泊三日にご招待!」
「あっ、あた、あたあた、当たったぁぁあああああ!?」
からんからーんという、どこか間抜けなベルの音。
夕焼けで紅く染まる学園都市のアーケード街に、どよめきが響いた。
- 67 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:09:47.11 ID:eWahEoj6o
沖縄二泊三日の旅。
全く眼中になく、『一等は何か知らないけどとっくに持っていかれているんだろ、それより冷蔵庫』だった二人にとっては予想外のサプライズだった。
内陸に位置する学園都市で暮らす彼らからすると、沖縄というところは海! 飯! 常夏! な憧れの地であり、
しかし学生が旅行することには困難を要する地でもある。
だから一等・沖縄旅行の存在事態知らなかった二人とはいえ喜ばないわけがなく、本命だった冷蔵庫なんかよりずっと良かったと漏らした。
番外個体は小躍りし、人前ではしゃぐ彼女の頭をはたく役割である一方通行も今日ばかりは興奮せずにいられず。
周りにいた人達からも拍手喝采で、アーケードは一時お祭りのような異様な雰囲気に包まれていた。
しかし、暗くなったアーケード街からの帰り道を歩く二人はというと、
「……あんなにはしゃいでさ、ミサカ。馬鹿じゃねえの」
「冷静に考えりゃ分かることだったのになァ……」
一等を当てた直後とは比にならないくらいの沈みっぷり。
この姿を見ても尚、『あぁ福引きで一等だったのか』と想像できるのは読心系の能力者くらいだろう。
―― 一等を引き当てた直後、抽選会場から場所を変え、二人は事務所に案内されていた。
『お、沖縄で結婚式挙げるのはどうかな!?』
『話が飛びすぎだろ。……でも行く行くはそォいうのも良いかもなァ』
とかヒソヒソうずうず話しつつ、旅行の日程や概要の大まかな説明を受けたり必要な書類に記入をしたり。
どうやらその書類を抽選会の実行委員側で統括理事会に提出、許可が下りれば正式に豪華旅行を贈呈となるらしいのだが。
『超能力者と大能力者、ですか……。正直、許可を取るのは難しいかもしれません。
あ、その場合はそれ相応の商品を準備させていただくこともできますし、お知り合いの方に権利を譲っていただくことも可能ですので……すみません』
ハイテンションだった一方通行と番外個体は、その一言で一気に突き落とされた。
懇切丁寧に説明をしてくれた綺麗なお姉さんも、申し訳なさそうに頭を垂れた。
- 68 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:11:29.70 ID:eWahEoj6o
「まァ俺からも上に掛け合ってみるけどよ、期待はするな。『闇』と疎遠な今、上と交渉することすらままならねェかもしれねェからな」
「……それでもダメだったら、黄泉川達にでもあげようか」
「そォだな」
「あーあ、折角『外』に純真な理由で出れると思ったのにな。あなたと二人で、初めて旅行できるってさ。
……よく考えればさ、『ミサカ』なんて国際法に抵触するような存在だし、あなたは端から見れば得体の知れない学園都市の第一位だし。
やっぱり、たかが二日だけ此処から出ることすら、ミサカ達には許されないのかな」
「……命が生み出される過程や理由がどォだったにせよ、オマエは立派な一人の人間だろォが。
残念だっつーのは俺も同じだが、それで何処までもネガティブになってンじゃねェよ、らしくねェ」
「……うん。そうだね、今日試着するときもそんなこと言われたんだった」
「何か重くなっちまったな、パーッと焼き肉でもしてくかァ?」
「あ、それ良いね! ミサカ焼き肉屋さんって……あれ、初めてかも! 焼くんだよね、自分でがんがん!」
「あァそォだ、沖縄に行ったと思って豪勢にやろォぜ」
「じゃあ麦のんも呼ぼうよ。結婚会見ってね」
「そ、それはいらねェ要素な気が……」
「大丈夫、あなたから散々苛められたことも全部言ってやるからさ、あひゃひゃ!」
- 69 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:12:34.55 ID:eWahEoj6o
――同日、午後八時
何処からか罵声や下品な笑い声。
自らの限界を感じ、非行に逃げた者達の生きる音が響く路地裏。
どこまでも暗く、どこまでも汚く。光の世界の住人から蔑まれ、恐れられる。
哀しき暴力の集うそんな場所の一角に佇むのは、一組の男女。
男の方は温和な笑みがよく似合い、一見して爽やかな好青年であることが分かる。
女の方は赤毛をふたつに結い、この時期にはまだ寒そうな格好をしていた。
いずれにしても美男美女と称しても何等異存はなく、しかし何故か、汚れた路地裏に居ても違和感は見受けられない。
「……こんな場所に呼び出して、何の用かしら? レディをデートに誘うなら、もう少しまともな場所が良かったんだけど」
「あなたが言うデートで行きたい場所とは保育園――何でもありません蹴らないで蹴らないでください痛いですって!」
「帰るわよ? 貴方の身包みを全部飛ばした上でスキルアウトの集団にぶち込んでからね」
赤毛の少女が少年を蹴りつけながら言う。
言っていることは冗談では無く、彼女の能力があればそれは容易いことなのだ。
同居人から野菜炒めを酷評された後なので、痛がっている少年を蹴る脚にも力が籠もる。
「今日はあなたと同盟を結ぼうかと思いまして――ちょっと、何時まで蹴ってるんですか雰囲気が台無しでしょう?」
「同盟……? へぇ、何処かのお節介の所為で最近はつまらない『仕事』ばかりだったけれど、『闇』から抜け出すことは不可能ってわけね。
誰を『殺る』の? ふふ、私に利益があるならば考えてあげても良いわ」
「いえいえ、そんな野蛮なものではありませんよ―― 一方通行さんと大きい御坂さんが最近良い感じなのはご存じですか?」
「……、はぁ?」
- 70 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:13:53.47 ID:eWahEoj6o
少女が拍子抜けしたように声をあげる。
てっきり『同盟』とは、互いに互いを利用し合うような『闇』に関わることだと思っていたからだ。
しかし少年の口から出てきたのはよく知った呼称と、それに似合わぬ色恋沙汰だった。
「ですよね! 自分もそれを知ったときは正に『はぁ?』でしたよ!
小さい御坂さんと妹さん達の一部、それに加えて大きい御坂さんまで手玉に取るのか、とね」
「……ごめん、ほんっとに気持ち悪いわ……」
「まぁそこは目を瞑りましょう……自分の本命はあくまであの方ですからね……。
それでですね、そのお二方が沖縄旅行なるものを福引きで当てたんですよ」
「そんなの、行けるわけ無いじゃない。仮にも第一位、それに『大きい御坂さん』って『第三次製造計画』でしょう?」
「ええ、そこであなたに協力を仰ぎたいわけです。統括理事会に掛け合い、大きい御坂さんに沖縄旅行をプレゼントしませんか?」
「何を馬鹿なこと言っているの?」
一蹴だった。
少年の提案を、少女はいとも簡単に踏みにじった。
自分にそんなことをする義理はないと。
そんなことをしている暇があったら、せめて野菜炒めくらいは上手く作れるように練習してやると。
しかし、少年は項垂れもせず、怒りもせず。ただ、いつもの温和な笑みを浮かべていた。
そして勿体をつけるように、自らの理論を口にする。
「考えてみてください。大きい御坂さんの幸せ=沖縄旅行=クソ一方通行さんといちゃいちゃ=子作り。
……あとは言わずとも、賢いあなたなら理解は難しくないでしょう?」
「……ッ!」
それは甘い甘い、砂糖の様な誘惑。
少年の真意、そして自分に同盟結成を持ち掛けてきた理由。
彼の言葉で少女は全てを悟る。悟った上で、口角を吊り上げる。
「成る程、アルビノショタ、ビリビリショタ、一方通行似のS気質ショタに超電磁砲のクローン似のツンデレショタ……。
ふふっ、可能性は無限大、ね。良いわ、その話乗ってあげる。最高の利害関係じゃない」
「自分で言うのも何ですが、老人へのウケの良さには自覚があります。そこにあなたの能力が加われば怖いものなしですね」
「ふふふ、あはははっ! ぞくぞくしてくるわ!
……そうそう、この際だから聞いておくけれど、小さい子ウケの良いアニメで何かおすすめは無いかしら?」
「某魔法少女ものなんてどうでしょう。深夜アニメですが、3話あたりは特にオススメで子供達も喜ぶと思いますよ。
黄色い先輩が大活躍する姿はグッとくるものがありましたね。ティロ・フィナーレ!」
「ティロ・フィナーレ!」
「もっと魂を籠めて! ティロ・フィナーレ!!」
今宵、ここに同盟が結束され。
舞台裏で、密かに物語は進行していた――
- 71 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/24(木) 22:14:57.67 ID:eWahEoj6o
―― 一方その頃、幕間。
「「くしゅんっ」」
「二人揃って仲良くくしゃみ? つーかミサカは可愛くて大変よろしいんだけどさぁ、第一位テメエそれはねぇよ」
「んあー、誰かミサカの噂でもしてるのかなぁ? あ、あなた今ミサカが育ててたカルビ食べたでしょおおおおお!?」
「あァ!? これは俺がじっくり炙ってたンだよ、オマエはさっき食ってただろォが!」
「ゆ、許さない! 情報をねつ造しないでほしいものだけど! 最後の一枚だったのに!」
「残念でしたァ、もォ腹ン中だわ。ぎゃはは、何なら吐き出してやろォかァ!?」
「ぐぬぬ……。あなたはピーマンでも食べてなよ、中身がすっかすか同士仲良くしてなってね! それともこの炭化した端っこがお好みかなあ!?」
「いらねェよこっちに渡すンじゃねェ!」
「はいはいデカイ声出していちゃつかない。ミサカも肉の一枚くらい頼めば良いことでしょうが」
「だ、だってあの一枚はこの人の為にミサカが焼いてたのに……」
「お、おう……そォだったのか、悪ィな。ならもォ一枚適当に焼いてくンねェか?」
「チッ……ジョッキ生と鶏もつ! ちくしょうこの空気、当て付けとしか思えないわ……」
「あひゃひゃ、麦のん補導されちゃううよ」
「お、泡盛も置いてンのか……。沖縄に行った気になって飲もォぜ」
「……沖縄かぁ……行きたかったなあ……」
「行きたかったなァ……」
- 103 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:01:57.24 ID:2pAAEUvjo
『この度はご当選おめでとうございます。統括理事会から正式な許可が下りましたので、
改めまして沖縄二泊三日の旅をご案内させていただきます』
茶封筒に入ってそんな知らせが届いたのは、福引きから三日後のことだった。
ついでにパンフレットもどっさりと入ってきて、白い砂浜だとか青い海だとか水着のお姉さんだとかに心も昂ぶる。
「お、沖縄に行けるの!?」
「みたいだな」
バイトから帰ってきてテーブルの上に散らばるそれらを発見した番外個体は跳び跳ねて、満面の笑みをみせた。
もしかすると無理かもしれないという旨を伝えられた日から彼女はどうも静かだったのだが、久しぶりの笑顔満開。
そこはかとなく消沈オーラを漂わせていた彼女よりもやはりこちらの方がしっくりくる。
一方通行としても落ち着いてしまうのは否定できないし、それを別段嫌とも思わない。
「沖縄ってミサカ、テレビで観てから憧れだったんだよね! あひゃひゃ、興奮してきたよ!」
「そりゃ結構。つーかはしゃぎすぎると行く前から疲れンぞ」
ただ、どこか引っ掛かりを覚えてしまうのだ。
というのも、
(……どォいうことだ? これが当たった日に上に掛け合ってみたが、回答を濁すだけ。
その後の審議で許可を出すことにしたのかもしれねェが、あの濁し方でOKはまずなさそォだった。……まさか、何か裏が……?)
本当はとある変態、じゃなくて二人の幸せを切に願う親切な男女が暗躍した結果なのだが、
それを知らない一方通行は怪しく思って当たり前だ。
そんな彼とは対照的に、番外個体はパンフレットを喜色満面で眺めている。
かと思えば携帯をいじりはじめて、
「……何してンだ?」
「持ってく物とか、買わないといけないものとか。まとめておかないといけないかなって。
あ、ミサカ水族館行きたいな! 観光誌も買わないとね」
「おう、もォ完全に頭ン中沖縄じゃねェか……。あのなァ、」
ちったァ猜疑心ってのを抱きやがれ。
そう言おうとして、しかし一方通行は口を噤んだ。
こうして楽しそうに、嬉しそうにしている番外個体を前に誰がそんなことを言えよう。
彼女がそうであることが何よりも最優先であるべきで、それだけで何等不足はないではないか。
(もしこれに裏があったとしたても、その時はコイツを護り通すだけ。ハッ、上等じゃねェかクソッたれ。乗ってやンよ)
本来は協力者である学園都市を勝手に黒幕認定し、決意を固くする一方通行であった。
- 104 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:04:17.95 ID:2pAAEUvjo
―――――
――
「えっと……ミサカは定番に海と水族館行きたいなあ」
「今の時期って春休みのガキとか多いンじゃねェの?」
「大丈夫だよ、平日だし。んーと、あとは……」
こたつに入った二人が捲るのは、買ったばかりの観光誌だ。
旅行行きが決まった翌日、早速番外個体が買ってきたものである。
これがあれば120%沖縄を満喫できるとかで、やや誇張している感が否めないものの、
「一日目は、空港から……まずは宿かなあ? で水族館? それとも二日目? そうだ、お土産も買わないとね」
番外個体は既に楽しんでいるようだから良しとする。
「待て待て、確か宿は那覇だろ? オマエが行きたいデケェ水族館ってなァ聞く限りじゃどォも距離があるように思えるンだが」
「あう……じゃ、じゃあ我慢する……」
「……チッ、あからさまに落ち込むンじゃねェよ。ちょっとその本こっちに寄こせ。
……高速バス使って往復5時間ってところか。大人しく乗ってられっか?」
「ミサカのこと馬鹿にしてる? これでも常識はあなた以上だと自負しているよ」
「そりゃあ大したもンだ。クソガキみてェに騒いだらぶン殴るからな」
「おー怖い怖い。……あれ? てことは……」
「次、何時行けるかも分かンねェしな。二日もあるうちの5時間だ、寝てりゃあっという間だろ」
「ほんと!? さっすが第一位、そこにシビれる! 憧れるう!」
- 105 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:06:48.55 ID:2pAAEUvjo
言葉を発せずとも超ご機嫌であることが分かる番外個体と、旅行前から疲れてきている一方通行。
旅行に行ったことのない二人にとってそれは楽しみ他ならないのだが、同時に酷く頭を悩ませるものでもあった。
というのも今回番外個体が当てた旅行はというと、
「取り敢えずオマエが行きたいところだけ計画立てるか。それ以外は……向こうに行けばどォにかなンだろ」
「うん、ミサカは水族館と海さえ行ければ、あとは沖縄でのんびり過ごせるってだけで結構満足だったりするし。
……それにしても、これってツアーとかじゃないんだね……」
「俺もそう思ってたところだ……旅行の計画立てるなンざ慣れてねェ、骨が折れるぜ」
『足と宿は準備するけど他まで面倒見切れませーんどうぞ御勝手にー』という、少々投げやりなものだった。
三千円で一回できるアーケードの福引きに何処まで求めるのだと言われればそれまでかもしれないが、
「ミサカは何ていうかさ、ガイドさんが居て、他の旅行客が居て、っていうのを想像してたんだよね。
みんなでバスでカラオケしたり、バスガイドさん可愛いねーって盛り上げたりさ」
「何時に再集合してくださァいみたいなヤツだろ。俺もそンな感じだと思ってたンだけどよ」
- 106 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:09:04.39 ID:2pAAEUvjo
「ま、そういう仕組みも結構アリじゃないかな? 行きたい所に行けるし、寝坊しても怒られないしね。
ホテルも結構良さそうだよ、ガイドにも乗ってる。そしてなんとっ!」
じゃじゃーんと自作の効果音付きで観光誌の1ページを開いてみせる番外個体。ノリノリすぎて少し怖い。
「天然温泉に入ることができちゃうんだって!」
天然温泉。
意外と公衆浴場が充実している学園都市で入ることは可能だが、
最近まで血で血を洗うような闇の中にいた彼らは呑気に温泉に入ったことなど皆無である。
つまり、人生初体験。しかも天然モノ。
好奇心旺盛なお年頃の番外個体ちゃんはそれがとっても嬉しいらしく、目をキラキラ輝かせて『お肌もスベスベに♪』とかいう見出しを指差している。
「温泉って美容に良いんだよね? 頭の上にタオル乗っけて……、イイねイイね最っ高だねぇ!」
「俺たちって確かカップルプランだったか? 温泉貸し切りにできるみたいじゃねェか」
「ッ!?」
カップルプランとはその名の通り、恋人同士でホテルを利用する際にお得なプランのことだ。
仲睦まじい二人を見たアーケード側の気遣いに思えなくもないが、この場合は『少しでも安く収めたい』という丸分かりな意図がある。
ちなみにカップルプランと聞くとオシャレでダブルベッド感じがするが、そんなことはない。
何故か和室である。布団である。それなのに食事はリッチに西洋料理である。
そんなカップルプランと温泉貸し切りという響きに、番外個体は何故だか顔を赤くして狼狽した。
その理由は単純明快、
「か、カップルプランで温泉貸し切りってことは、その……混浴……なの、かな……?」
「あー……そォいうことに、なるかもな」
しん、と妙な静寂。
聞こえてくるのは、薄い壁一枚で隔てられたお隣からのテレビの微かな音だけ。
どことなく気まずい静寂にこのまま支配されてしまうのでないかと一方通行が不安に思ったとき、
「……ミサカとお風呂入るの、いや?」
「ンなわけねェよ」
自分でも情けなくなるくらいの即答だった。
- 107 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:10:07.83 ID:2pAAEUvjo
「……確か酎ハイがあったな。飲むか?」
「う、うん。沖縄も無事行けるみたいだし、ぱあーっと飲んじゃおう」
両者共共顔を赤くして黙ってしまい、そのなんともいえない空気を払拭しようと一方通行が持ち出してきたのは酎ハイだ。
健全な未成年なら当然摂取してはならないのだが、生憎と彼らは健全とは言い難い。
あくまで沖縄祝いを宴の理由に掲げ、簡単に塩胡椒で味付けした鶏肉を焼いたものをつまみにアルミ缶を傾ける。
「あ、皮パリパリだ。ミサカこれ好きなんだよね」
「夜に食うには向いてねェけどな。肥満への第一歩だ」
「お、お祝いだから良いの! ……肉ばっかり食べてもその体型維持できる人は良いよねぇ、女の敵としか思えないよ」
一瞬躊躇う素振りを見せるも、結局は箸を伸ばしてしまう。
体重計に乗って後悔することになるのは目に見えているのだが、香ばしい香りには敵わなかった。
増量という不穏なワードは酎ハイと一緒に呑み込んでしまうことにする。
「おい、一気はよくねェぞ。度数が低いとはいえ、立派なアルコールだからな」
「んく、んく……あひゃひゃ、もう一本! あなたもじゃんじゃん呑みなよ、ほら一気一気!」
楽しそうに呷る番外個体には、早くも悪酔いの兆しが伺える。
普段はお目付役の立場を担う一方通行も、今日はそんな彼女に釣られて梅酒に手を出す始末だ。
思い返すと、この二人がこうやってアルコールを過剰摂取した後は必ずと言って良いほど『ハプニング』が起きている。
例えば、番外個体が振られた冷たい夜。
身体を重ねたことでただの同居人としての一線を越えてしまった。
例えば、大晦日。
酔いで甘い空気になったものの、二人は呑みすぎでその記憶が飛んでいる。
だから、ここらで止めておくべきだったのだ。
早い段階で悪酔いしているのが伺えた番外個体を一方通行は寝かしつけるべきだったのだ。
何も彼まで一緒になって泥酔ツアーに付き合ってやる必要は無かったのだ。
けれどそれも、今となっては後の祭り。
今更引き返すことなど、最早不可能に等しい。
酔った勢い、というのが一番適切か。
その裏に多少の理性や日頃の願望があったにしろ、アルコールが二人を大胆にしたのは確かだった。
- 108 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:11:20.31 ID:2pAAEUvjo
―――――
――
「き、昨日は酔っ払ってたじゃん! だから無効でしょ、ミサカもあなたもまともじゃなかったじゃない」
「自分から言っておいてそれは頂けねェなァ」
「あなただってミサカの立場だったら絶対こう言うっていうか泣いちゃうんじゃないのかなあ!?」
「そりゃまあ、やりたくないってなァ当たり前の反応だろォよ。けど悪ィな、今はオマエの立場とは正反対なンだわ」
法律なんて気にせずに、お酒をごくごく呑んだ翌朝。
人の悪い笑みを浮かべる一方通行に、番外個体は反撃できないでいた。
ただただ悔しそうな表情で一方通行を睨むだけ。
それが彼を余計に煽っているとは気付かぬままに。
- 109 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:13:01.45 ID:2pAAEUvjo
彼らが協議、というよりは既定事項に番外個体が抗議しているだけなのだが、それは玄関先で展開されていた。
事の始まりは一方通行の一言、
「あァそォだ、昨日言ったことやってもらわねェとな」
以前から決めていた、旅行に持っていく物を買い揃える為のセブンスミストでのお買い物。
そこへ向かおうと家を出ようとした正にその瞬間だった。
唐突に放たれた一方通行の一言は、番外個体が法律違反したことを酷く後悔すると同時に反省させる、効果抜群のペナルティ。
「キスマーク付けたまま一日買い物する、だったか。よろしく頼むぜェ?」
昨夜、酔いに酔って。
無謀にも番外個体は一方通行に神経衰弱を挑み大敗し。
バツゲームとして彼女自身が提案していたソレを遂行することになっていた。
「ほ、本気で言ってんの?」
そこから先は最初の流れの通り。
番外個体が抗議し、しかし自分で提案したということもあり一方通行に軽く受け流される。
彼は人差し指で自身の頭を指して見せ、
「大体よォ、仮にも学園都市第一位のアタマだ。それに記憶力で挑むなンざ無理があるンだよ。
ミサカネットワークで巧いことやればまだ可能性はあったかもしれねェが、それもしなかったンだろ?」
「……だ、だってあなたもそれなりに酔ってたし……大体覚えてるなんて、うぅ……。ど、どうしてもやらないとダメかな」
「まァ無理強いはできねェけどよ、番外個体っつーのは所詮その程度ってわけだよなァ?」
「……っ!」
挑発的な言葉に番外個体が反応を示す。
人を馬鹿にすることは好きであっても、その逆を彼女は好まない。
特にその相手が一方通行であれば尚更で――といってもあくまで彼女の思考が『正常』であれば、だが――
彼に馬鹿にされているという事実は彼女の対抗意識や闘争心に火を点けた。
「……このミサカは別にキスマーク程度で恥じらうようにはできてない。
あなたがミサカに何を期待してるのかは知らないけどさぁ、帰ってきてからつまらなかったて言わせてあげるよ!」
そうして、『勝者』は相手の首筋に唇を押しつけ、『敗者』はこそばゆい感覚に身を小さく震わせ。
肌に浮かんだ赤い花は、付けた者によって愛おしそうにひと撫でされたのだ。
- 110 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:15:15.72 ID:2pAAEUvjo
本日、土曜日。
緑の両生類人気キャラクターイベントがあるとかで、何時にも増してセブンスミストは賑わっていた。
そんな中二人は並んで歩いているのだが、
「さっきから落ち着きねェじゃねェか」
「はぁ? そ、そんなことないし。ミサカはこれくらい平気っていうか寧ろ見せびらかしてやるってくらいの気持ちだからね」
番外個体は強気な台詞と裏腹に、心なしかびくびくと。
俯き気味な彼女の横顔に浮かぶのは、明らかに羞恥の色だ。
その理由はというと玄関での『アレ』に他ならず、威勢良く啖呵を切ったまではいいものの、
強がりの中に時々垣間見える彼女の不安げな表情や怯える様子は一方通行の期待通りといえる。
「あ、あなたのところからも見える? その……キスマーク……。別に気になってるわけじゃないけどさ」
「目立ちすぎて男共もおっ勃っちまうかもしンねェなァ」
かなり大袈裟にそう言ってやると、番外個体は素直に顔を赤くした。
そんなことないというフォローでも欲しかったのかもしれないが、そんなのは逆に一方通行を煽るだけである。
「つーか視姦されてる気分はどォよ? ぎゃっは、まさかこの前みてェに下ァ濡らしてンじゃねェよなァ?
……ン、今擦れ違ったアイツ完全に気付いてたっぽいな」
「へ、へんなこと言わないでよう……」
キッと睨み付けているつもりなのだろうが、如何せん涙目では迫力の欠片もない。
そんな番外個体は、この状況をどうしても打開したければ安易にそれを行うことができるはずだ。
一方通行の嗜虐スイッチがオンになってしまったとはいえ、ぶつなり泣き喚くなりすれば良い。
彼女が『本気で嫌がる』ことを彼が強要するわけがないのだから。
それを分かっていても尚、番外個体が従順であるということは、彼女にはマゾの気質があるといっても良いかもしれない。
普段は人を困らせることで悦に入ってしまうような、どちらかといえばサディズムであるのだが。
- 111 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:17:25.55 ID:2pAAEUvjo
さて、隠れM疑惑が浮上している番外個体。
「それにしてもスゲェ人だな。この中でオマエのそれに気付くのはどれだけ居るンだか」
彼女の中の羞恥心は、一方通行が意地悪く言えば言うほど増していく。
沢山の人が居て、皆それぞれがそれぞれの休日に夢中になっていて。
そんな中のたった一人、その首筋の小さな赤い痕に気付く人など滅多に居ないことは番外個体だって分かっているのだが、
「ひうっ、今あの人と目あったんだけどバレてないかな……?」
強がりという拠り所、或いは鎧とも言えるのかもしれない。
その殆どは既に廃れ、働くことを忘れてしまっていた。
故にキスマークひとつで動揺し、恥じらいを感じているという彼女の本心も、今となっては露呈してしまい隠しようがない。
(……ミサカはどんな風に思われてるんだろう)
周りにいる人全員に見られているような気がしてならないのだ。小さな子供から店員まで、一人残らず。
(キスマークを見せびらかすような淫乱女? それともこの人と怪しいプレイでもしてるって思う人もいるのかな?)
考えれば考えるほど、悶えたくなるくらいに感じる恥ずかしさ。
強がることも十分に出来ず、顔をひたすら赤くして、最早買い物を楽しむ余裕など何処にあるのだろう。
旅行の準備とは、面倒でもあるが楽しみのひとつでもある。
番外個体だって楽しそうに持っていくものリストを作成していたくらいだ。
けれどそんな彼女は今現在、楽しめること、楽しみたかったことを楽しめていない。
沖縄旅行に行けることになって誰よりも喜んだ番外個体を思うと、流石に一方通行の胸も痛むというものだ。
、 、 、 、 、 、 、 、
キスマークが付いているというたったひとつの嘘でそこまで追い込むのはやり過ぎだろう、と。
- 112 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:19:42.99 ID:2pAAEUvjo
「なァ、番外個体」
だからここで、ネタばらしだ。
キスマークとは、皮膚の内出血によってできるもの。
つまり内出血さえどうにかしてしまえば良いわけで、一方通行の得意分野、血流操作でその対処は簡単に行える。
首筋に口付けしたあと、赤い痕を撫でた意味はそこにあったのだ。
番外個体はそれにすら敏感に反応していたが、その時点で騙されていたとは気付けるはずがなかっただろう。
これを知った彼女が涙目になって怒ることは容易に想像できるし、
自分では隠せていると思っているのであろうびくびくとした弱さも好みではある。
ただ、彼女が楽しむ権利を剥奪してしまうのであればこのバツゲームを続行することは頂けない。
それに買い物の主導権は女子にあるべきなのだ。
番外個体の中身が不在の時に、こちらで勝手に決めてしまっては後が怖い。
「実は――、」
「ちょろっとー、アンタ達」
「……、あァ?」
「うぇ!? お、お姉様!?」
- 113 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:21:26.18 ID:2pAAEUvjo
一方通行が真実を告げようと口を開いたとき、後ろから割り込んできたのは御坂美琴だった。
学園都市の第三位にして、お姉様、常盤台のエース、超電磁砲にビリビリと様々な通り名を持つその人である。
ランジェリーショップで遭遇して以来か。
彼女はいつも通り常盤台中学の制服に身を包み、片手に学校指定の鞄を提げていた。
「久しぶり、何やってんの? ていうかそれってキャリーケース?」
「……あぅ、何でこの局面でお姉様が出てくるわけ?」
一方通行の後ろに隠れるようにして立つ番外個体。
それもそのはず、彼女はタイミングの悪い美琴の登場のせいで、未だに『目立ちすぎる』
らしいキスマークが首筋に浮かんでいると思い込んでいるのだ。
美琴はというと、二人が見ていた旅行用のキャリーケースに興味を引かれているらしい。
じろじろとそれを眺めつつ、
「な、何よその言い方。私はちょっと、日用品を買いにね。べ、別にゲコ太のイベント目当てとかじゃないわよ!?
それよりデートの邪魔しちゃったかしら? なーんて、」
自ら墓穴を掘ってみたり冗談を言ってみたり、そんな彼女の表情が一瞬にして固まった。
口をぱくぱくと鯉みたいに開閉し、視線は一点に固定され。
「そ、そそそそれって、き、きしゅ、……きすまーく……ふにゃ」
「――~~っ!」
よく似た姉妹は同時に顔を真っ赤にし、見た目は姉な妹の方は色々と誤魔化すために一方通行の背中に顔をうずめた。
- 114 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:22:41.90 ID:2pAAEUvjo
まだまだ何も知らないようなお子様、御坂美琴は故障してふにゃふにゃになってしまい、
番外個体は遂に耐えきれなくなったのか一方通行の背中でえぐえぐいっている。
「ど、どォいうことだ……」
そんな中、困ったのは一方通行だ。
だってだって、
(キスマーク、だァ? このガキ、意味が分かって使ってンのか? オイオイどォいうことだよ、しっかりとこの手で消してやっただろォが)
消したはずのキスマーク、再び。どんな怪奇現象だ。
取り敢えず美琴を揺さぶって別世界から引き戻し、後ろに手をやって番外個体の頭をぶっきら棒に撫でてやる。
「あー、何だ。俺の認識が正しければだが、オマエが思ってるキスマークはハッタリなはずだから一回顔上げろ」
「ふ、うぇ……どういうことだよう、ミサカ……うぅ、恥ずかしくて……」
「おゥ、背中が湿っぽいぜ……。で、オリジナル。もォ一回、今度は指差して言ってみろ」
「な、中学生にそんなことさせるなんてアンタってやっぱり……!」
「何だコイツ……やりにきィ……」
他人のキスマークで真っ赤になってしまう純粋中学生は、生意気にも第一位ロリコン説を持ち出してきた。
それから何か決心したように一人頷いて、大きく一度深呼吸をし、
「だ、だから……。アンタの真っ白な肌に付いてる、そのぅ……破廉恥な……赤い……」
一方通行を、指差して。
- 115 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:25:31.29 ID:2pAAEUvjo
「…………、は?」
目の前の少女が何を言っているのか。
それは学園都市第一位の頭脳をもっても理解できなくて、だから一方通行は固まることしかできない。
未だ彼の後ろで知り合いの視線から隠れようとしていた番外個体も、きょとんとした顔で赤くなった目をぱちぱち。
「……な、何よその反応。もっと詳しく言えって空気なわけ? だ、だから……一方通行の首に――こ、これ以上はちょっと……うぅ……」
「あ、あれ? 何かミサカが考えてたのと全く違う展開なんだけど……」
再びショートしてしまった美琴と、彼女がはっきりと口にした『一方通行』の名に困惑する番外個体。
そろりと彼の前に回り込み、
「……ぶっひゃ」
吹き出した。
先程まで子猫みたいにびくびくと身を竦め、ついには泣き出してしまったような少女とは思えない。
「あひゃひゃひゃひゃ! 何だぁそりゃぁああ!? ぎゃはははっ、ひっ、くははっ!」
お世辞にも上品とは言い難いその笑い声は美琴の言葉が真実であることを証明し、同時に立場逆転を表す。
- 116 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:29:12.05 ID:2pAAEUvjo
さて、こうなるとついていけないのは美琴である。
自分の指摘で先程までぐずっていた番外個体は笑い出すし一方通行は死にそうな顔になっているしで、何が何だか訳が分からない。
「えっと、ごめん。私、もしかして触れちゃいけないことに触れちゃった……?」
「ううん、寧ろグッジョブって感じかな? あひゃひゃ、それよりドジっ子第一位ちゃんは生きてますかーあ?」
「……嘘だろ……つーかオマエ、気付いてたンだろ」
「そのキスマークに気付いたのは本当にさっきだよ。
今日のミサカは自分のことで精一杯だったしさぁ、くふふっ、お姉様に感謝、ひゃひゃひゃひゃ!」
「クソッたれがァ……」
けらけら笑う番外個体を横目に、がっくりと項垂れる一方通行。
彼女の羞恥心を煽るために放った言葉は、これでは自分に向けたも同然だ。
目立ちすぎて男共もおっ勃っちまうかもしンねェなァ ――野郎の首に付いたキスマークで誰が興奮するものか。
つーか視姦されてる気分はどォよ? ――それはオマエだろう。
「……ッ、ぐはァッ!」
「あひゃひゃ、顔赤くしちゃって! あと思い出したんだけどさ、そういえば昨日酔った勢いでミサカがした記憶があるなぁ、なんて☆」
「ちくしょう、俺は覚えてねェぞ……。ちょっとトイレ行って鏡見てくるわ……」
完全に自業自得。
これを機に、せめて成人するまで飲酒は控えて頂きたいものだ。
- 117 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:31:50.97 ID:2pAAEUvjo
「ミサカ達はそこでお茶してるからさ、ゆっくり泣いてきなよ。……ってことでお姉様、たまにはミサカとお話ししよう?」
おぼつかない足取りでお手洗いへ向かう一方通行を見送り、ミサカ二人組はカフェへと連れ立った。
適当に注文した飲み物を受け取り、席に座る。
「そういや、アンタとサシで話すって初めてかもね。えっと……」
「簡単にワーストでも妹でも何でも良いよ、お姉様」
「ん、じゃあワースト。……ね、ねえ、アンタ達ってどこまで進んでるわけ……?」
カップを包むようにして両手を添え、もじもじと恥ずかしそうに聞いてくる美琴。
やはり女子中学生、恋愛ごととなると気になってしまうお年頃なのかもしれない。
番外個体は端から見れば妹である彼女をからかうように、
「えー、恥ずかしくてミサカの口からは言えないなあ」
「んなっ、ふえぇ!? ほ、本気で言ってんのお!?」
「あれぇ? 顔が真っ赤だよお姉様。あひゃひゃ、ナニを想像してるわけ?」
「うぅ、アンタってアイツと暮らしてるうちに性格移ったんじゃないの……?」
そのSっ気は元からです。
尤も、たった一人、今頃お手洗いで悶えているであろう少年の前だとどうも反転しがちなようだが。
「そ、そのさ、どうすれば……あ、べ、別にそうなりたいと思う相手が居るわけじゃないのよ!? 羨ましいとかも思ってないんだから」
「はぁ……丸分かりだっつの」
わたわたと一人焦る美琴が今、誰を思い浮かべているか。
そんなことは彼女と接点を持つ機会が少ない番外個体でさえ分かる。
あのツンツン頭に他ならない。
「まあ、ミサカ達の場合は勢いが結構大きいかな。ミサカが告白っていうの?
それも半分勢いみたいな感じだったし。最初に『ヤった』のも……あれは勢いって言って良いのかなあ?」
「ヤ、ヤったって……」
平然とびっくり発言をする番外個体に、美琴はただ赤くなることしかできない。
この少女は本当に自分と同じ遺伝子なのかと疑いたくなるが、彼女の前ではこんな感じの番外個体でも立派な美琴遺伝子の片割れだ。
もしこの場に一方通行が居合わせたら、『告白』の一言だけで互いに頬を染め、良い感じに迷惑なカップルを見せつけてくれただろう。
- 119 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:33:25.77 ID:2pAAEUvjo
「あ、来た来た。こっちだよん。ひゃひゃ、大丈夫?
コーヒーでも頼みなよ、ベーグルとかもあるみたい。暖まればちょとはマシになるんじゃないかな」
戻ってきた一方通行を、お嫁さんは優しく優しく迎え入れた。
先程は流石に笑いすぎたと反省しているのか、そのことに関しては深く突っ込まない。
一方通行はコーヒーを注文するとテーブルに突っ伏し、
「最悪だァ……」
「き、気にすることないって。ミサカもちょっと悪ノリしすぎちゃったけどさ。そうだ、ミサカがぎゅーってしてあげようか?」
「……ン、頼むわ」
「オ、オウ……これはヤバいよ、末期かもしれない」
まさかの返答におろおろする番外個体。
そんな彼女を、美琴は羨望の隠った目で眺めていた。
子供が警察官やケーキ屋さんに憧れを抱くのと同じだ。将来を夢見る、きらきらした瞳。
(これが付き合ってるってヤツ、なのよね……。何よ、いちゃいちゃしちゃってさ。
私も……って、な、何でアイツが浮かんでくるのよ!?)
と、ここで彼女はある引っ掛かりを覚える。
(あれ? つ、付き合ってるう!? 流れ的に何の疑問も持たなかったけど……
し、しかもさっき『ヤった』って……これはその、あああアレ、アレしかないのよね!?)
大変なことに気が付いてしまった、気がする。
だってこの二人は、恋人とかでなく家族みたいなものではなかったか。
一方通行は未熟な妹の親御さん的存在ではなかったか。
「あ、アンタ達って! どういう関係なの!?」
突っ伏したままだった一方通行の肩がぴくりと動き、
そんな彼の髪の毛を面白そうに指でくるくる弄っていた番外個体も顔を上げた。
- 120 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:34:53.01 ID:2pAAEUvjo
「……どういう関係、って……。今更?」
「アンタ達が一緒に暮らしてるのは知ってたけど……、そ、それだけじゃなかったの?」
どことなく居心地の悪い、微妙な空気が流れる。
これはまずいかな、と。番外個体の表情が微かに陰った。
「別に私は以前の『実験』を蒸し返すつもりじゃないし、一方通行のことを憎んでるわけでもないのよ。
で、でも、何ていうか、やっぱりさ……」
美琴は葛藤していた。
彼女の言葉に偽りはないのだが、『憎んでいない』からといって一方通行を完全に赦したこわけではない。
多分それは、この先どれだけかかっても叶わない。
けれどそれでも一方通行は良い奴だと思うし、今では普通に会話だってする。
以前ランジェリーショップで会ったとき、彼はアイツら――『妹達』、恐らくは自分も――守ると決めたと言っていた。
だからイメージが変わったというわけではないが、その一言は本当に嬉しかったのだ。
……全て綺麗に赦すことは、きっと出来ない。
けれど憎むことも、恨むことも、責めることも出来なくて、したくなくて。
一方通行の善悪――狂気も優しさも残虐性も過保護な一面も、御坂美琴は知っているから。
「……ごめん、私に口出しする権利なんてないのにさ。でも何て言うか、これで良いのかなって思うところもあって」
「超電磁砲」
はぐらかすように淡い笑みを浮かべた、恐らくは胸中がぐちゃぐちゃの少女を、しっかりとした声で呼んだのは一方通行だった。
- 121 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:37:23.58 ID:2pAAEUvjo
今まで生気を失っていた人間とは思えないような力強い声。
ついでにガタンと音を立て、テーブルに手をついて立ち上がる。
美琴は疎か、番外個体も驚いた顔で一方通行を見上げた。
「な、何よ……。ごめん、気に障るようなこと言ったなら謝るからさ」
雰囲気が急変した一方通行に泡を喰らう美琴。
もしかしてこの男の癇に障ってしまっただろうかと冷や汗がだらだら流れる。
そうだとしたらヤバイ。
ぐちゃぐちゃに……は流石にないとして、我を失って能力フル使用の第一位に蹴り飛ばされでもしたらお星様になってしまう。
(な、何か尋常じゃないオーラが大放出なんですけど。これは上位個体に警告して何時でも『切れる』ようにしておくべき……?)
番外個体も彼女なりに警戒、対策を考え――、
「超電磁砲!! ……いや、お義姉様」
「……ごめん、今何と?」
しかしそんなものを考えたところで、結局は杞憂に過ぎないのだから。
彼女たちの心配は無意味で的外れだった、ということになる。
- 122 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:39:15.01 ID:2pAAEUvjo
『お義姉様』
「ひ、ひぃ……! 何か今ゾクってきたわ! 何なのよその呼び方はぁ!?」
「ぎゃははは! お姉様ぁ!? 頭可笑しくなったんじゃねえのぉおおお!?」
「うるせェ、こっちは真面目にやってンだよォ! それにオマエが言ってる『お姉様』とはニュアンスが違ェ!」
ぴんと張り詰めていた空気が一瞬にして騒がしいものになる。
女性二人の反応を見、自分はそんなにおかしな事を言ったのだろうかと疑問に思う一方通行だったが、
きっとこの遺伝子と自分の感性は異なっているのだろうと結論付けた。
そしてもう一度、発声練習の後改めて。
「あーあー、……お義姉様」
「ひゃひゃひゃ! なになに何を企んでるわけ!?」
「ッ! こ、これ慣れないわね……」
反応は最初と大して変わらないのだが、それでも一方通行は挫けない。
こんなことで負けるわけにはいかないのだ。
恥を棄てろ。世間体を気にするな。空気を体内に取り込み、そして。
- 123 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:40:01.97 ID:2pAAEUvjo
「妹さンを……番外個体を、俺にください!」
- 125 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:41:56.80 ID:2pAAEUvjo
『番外個体をください』
そう言って、一方通行は深々と美琴に頭を下げてみせた。
張り上げられた声に店内がざわつく。
「え、ちょ、はあ!?」
「ふ、うにゃあ……」
予想外の事態に美琴は『お義姉様』以上の衝撃を受け、番外個体はというと様態急変、真っ赤になって俯く始末。
そんな周りにお構い無しに一方通行は続ける。
否、彼だって十分恥ずかしい思いをしているのだ。
他の客の視線を幾つも感じるし、誰かに頭を下げて懇願するなどこれが初めて。
プライドも羞恥も全てかなぐり捨た、彼なりの誠意だった。
「俺は確かに最低最悪のクソッたれだ。今更オマエにこンなことしたって迷惑なだけだってのも分かってる。
……けど、それでもコイツはこの手で護りてェンだ。誰かを傷付ける為だけの力じゃねェってことを証明させてくれ」
頼む、と。
情けなく、無様に乞う。
しかしその姿は奇しくも、番外個体の目には男らしく、格好良く映って。
嬉しくて嬉しくて、どきどきと胸が跳ねる。
そして、御坂美琴には。
「……まったく。何よ、見せつけてくれちゃって。――そんな風に言われたら、お幸せにって言うしかないじゃない」
しっかりと、伝わってくれていた。
「頭、上げて。……正直、アンタのことはまだ完全に赦せそうにない。けどさ、それでも私はアンタを信じる」
優しい声色と眼差しで。
「どんなことがあろうと。この子を護ってくれるのよね?」
「あァ。命に代えてもだ。絶対に離さねェ」
「それじゃあ、私からも――ワーストを、私の妹を、よろしくお願いします」
様々な思いの中で。
御坂美琴はその妹を、一方通行に託した。
- 127 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/03/30(水) 12:44:34.09 ID:2pAAEUvjo
「……ね、一方通行」
一方通行も座り直し、美琴がやっと『お姉様』ならぬ『お義姉様』の意味に気付いた頃。
俺にください辺りからふやけていた番外個体が、久しぶりに口を開いた。
「その……さっき言ってくれたこと、う、嬉しかった」
頬を赤らめて、俯きがちに。
時折こちらを伺うように送られてくる上目遣いが可愛らしい。
「……これからもこのミサカのこと、よろしく頼みます――あっくん」
「あ、あっくん? アンタ達ってそんな風に呼び合ってんの?」
「あァ!? ちが、」
「あひゃひゃ、ミサカ達の愛を証明できるでしょ? ミサカ限定だよ」
「オマエそれ今考えただろ!? 変なこと広めンじゃねェ!」
「きゃは、照れんなようあっくん。ていうかこれ意外と呼びやすくて良いかも」
少し前までの堅苦しい雰囲気は何処へ行ったのか。
仲良く言い争う二人を見て、美琴はどこか呆れたように溜め息をつく。
(これがこの子と一方通行の幸せなのよね……。だったら私はそれを糾弾できないし、する必要もない、か。
それにしても『あっくん』かぁ。そうやって呼び合う仲って羨ましいな……)
なかなか自分の気持ちに素直になれない中学生は、目の前のカップルを正直に羨ましく思う。
幸せそうで、互いに互いを想い合っているのが伝わってきて。
いつか自分も、と。無意識のうちにそんな未来を夢見ながら。
今は妹と、かつては憎みに憎んだ相手の更なる幸せを祈ろう。
「取り敢えず――この子を傷付けたら、その時は容赦なくちぇいさー! だからね」
-
- 177 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/01(金) 23:25:17.03 ID:km2jcPy/o
- こんばんは
毎回ながら、レスに助けられてます。ありがとう。沖縄に関する情報も嬉しいです
短いのを少し投下
急いで書き上げたものなので、至らぬ点はお許し下さい
※>>21を元ネタに。ってことで読む際はご注意下さい
※ワーストたんは膝より少し上のスカート、下着無しのレギンス直穿きでバイブ固定だと思ってね!
※ここに至った経緯はご想像にお任せします
- 178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/01(金) 23:27:52.25 ID:CWzVfcNw0
- うっ……ふう
全裸待機するぜ
- 179 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/01(金) 23:28:39.48 ID:km2jcPy/o
くちゅくちゅという微かな音と、太ももの間に感じる存在感。
一歩踏み出す度に擦れ、ぬるぬる滑ったその感触に頭がどうにかなってしまいそうになる。
「こんばんはーおねえちゃん」
「あ、あ、」
小学校低学年くらいの女の子に挨拶されて、予想していなかった事態に身体がびくりと強張った。
下校時刻のチャイムは数分前に鳴っている。恐らくその子も家へと帰る途中なのだろう。
立ち止まって固まってしまった『おねえちゃん』を不思議そうに眺めながら、駆けて行く。
自分に向けられたきょとんとした表情。
どう思ったのだろう。
当たり前の挨拶で顔を赤くして、身体が凍ってしまって、それなのに――『異物』を突っ込まれた陰部を濡らしてしまうような女を。
「こんばんはー」
数拍遅れて、先程と同じ様な挨拶の台詞が後方から聞こえてきた。
「ン、気ィつけて帰れよ」
「はーい」
それに応じる男の声。
一見すると人思いな優しい青年だが、彼を知る者であれば如何に似合わないことを言っているのか、分かりすぎて鳥肌モノだ。
『おねえちゃん』こと番外個体もその一人で、立ち止まったままゆっくりと振り返る。
何かに縋るように、目には怯えと――彼女自身に自覚は無いし、あっても認めたくはない、淡い期待を込めて。
- 180 :あ、期待はしないでください ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/01(金) 23:30:33.58 ID:km2jcPy/o
番外個体の3、4メートル後ろを歩いていたのは、真っ白な男だった。
現代的なデザインの杖をつき、空いた片手はジーンズのポケットに突っ込まれている。
言うまでもなく、学園都市の第一位、一方通行だ。
番外個体が振り返ると、彼は無言で――ただし、唇の端を吊り上げて――顎をしゃくり、ただ前進することを促す。
「――っ、」
その指示に一瞬、番外個体の顔が泣き出しそうに歪んだ。
しかし逆らうことは許されない。
今日のこの時は、一方通行が彼女の中の『ご主人様』で、最高の権威を誇っているのだから。
そのまま前を向き直し、再び一歩踏み出そうと――
「ひぁああんっ!? な、あっ、んあっ! ふぅっ、や、やめっぁ、」
突如。『異物』が激しく番外個体の中で震えた。
不規則に、強弱までつけて彼女の濡れそぼった秘所を蠢き回る。犯していく。
音も立てず、不気味な静けさを伴って。
そのせいで尚更、ぐちゅぐちゅ、ぬちゃぬちゃという興奮の音が番外個体まで伝わってきた。
- 181 :あ、期待はしないでください ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/01(金) 23:32:31.59 ID:km2jcPy/o
「……ダメだよなァ、挨拶もまともにできねェヤツは」
不意に襲いかかってきた大きすぎる快感に、番外個体は思わずへたり込んでしまう。
『異物』の振動は収まったものの、その余韻はまだうずうずと熱を持ち、力も上手く入らない。
一方通行はそんな彼女の元に歩み寄り、
「オイオイ、路上で嬌声あげてンじゃねェよ。幾ら人通りの少ない道だからって直ぐそこには寮もあンだ、気付いた奴に覗かれてるかもしンねェぞ。
にしてもスゲェな、学園都市の技術を無駄遣いしただけあるってもンだ。全く無音だったろ、オマエン中のバイブ」
「はっ、はぁっ、……い、入れるだけって……動かさないって、うぅ、約束したのに、」
「……質問に答えるのが先だろォが、それとも一々お仕置きされなきゃ分っかンねェかなァ」
「な、何――っ! あ、……っくぁ、んっ、」
低い声で、ぼそりと呆れたように囁かれたのとほぼ同時。
先程よりもずっと微弱な振動に、番外個体が必至に抑えようとしているのであろう悩ましい声を漏らす。
- 182 :あ、期待はしないでください ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/01(金) 23:34:40.13 ID:km2jcPy/o
「も、やめ、あくせられーたぁっ。このままじゃおかしく、ぁっ、なっちゃうから、」
「呼び捨ては頂けねェなァ。『ご主人様』だろォが、それともワザとやってお仕置き希望ってかァ?
オマエのソレはこっちの遠隔操作で好きなよォにできンだよ、強さ最大にして死ぬほどイかせてやンぞコラ」
つーかよォ。一方通行は付け加えて、
「やめてとか言ってる割には、一丁前に地面に股擦り付けてるよォに見えるンだよなァ」
「っあ、ぁう、」
「あーあー、そンなことしたら地面に染みできてンじゃねェの? どォせレギンスもとっくに濡らしちまってンだろ」
一方通行の指摘に、番外個体は顔を真っ赤にした。
彼が気付いていないとでも思っていたのだろうか。
ぺたんと座ったまま行われるだらしのない動作は、一々ぐちゅりぐちゅりと卑猥な音をたてる。
バイブを地面に押しつけることで快感を得ようという寸法なのか、そんな腰の動きは止まらない。
「み、ミサカ、ぁ、だって、こんなのいやなのにぃっ。ふ、あっ、でもこのままだと頭おかしくなっちゃ、っん、足りないんだよう」
自分が今どんなことをしているのか解っていながらも。
それがどれだけ情けなくて、厭らしくて、恥ずかしいことか、わきまえていながらも。
欲求に抗うことなど最早彼女の力では不可能で、ぼろぼろと涙を零しながら、それでも喘いでしまう。
「あー……まァ、さっきみてェな弱い振動だと物足りなくはなるだろォな」
焦らされているのと同じだ。
強い振動の後に弱い振動となれば、どうしても物足りなさを感じてしまうだろうし、絶頂に達するにも達せないだろう。
- 184 :あ、期待はしないでください ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/01(金) 23:36:20.54 ID:km2jcPy/o
それらを踏まえて一方通行は、
「ほら、何時までも一人で気持ちよくなってンじゃねェぞ。立てるか?」
立てるか? ――つまり、この場から動くということ。
それを悟った番外個体が、小さな子供がいやいやと駄々をこねてぐずるように、首を振る。
人通りが少ないというか皆無に近いこの道を動けば、嫌でも人目は多くなる。
そうなれば羞恥は今までの何倍にも跳ね上がるだろう。
そして何より、
「……早くイきたいってかァ? 我が儘なヤツ、ご主人様より我が身が優先ってわけかよ」
身体が更なる快楽――オーガズムを求めておかしくなってしまいそうなのだ。
これは我に返ったときが大変そうだと一方通行は内心危惧しつつ、
「――何も自分で果てなくたって、オモチャを最大限に有効利用してイかせてやろォっつってンだよ。
それには人通りの多い中で上手にイク方がオマエも興奮するンだろ?」
魅力的な提案で、今以上に深いところまで番外個体を突き堕とす。
甘い甘い誘惑に、彼女が導き出した結論など言うまでもなく。
……この後数週間に渡って、現在進行形で晒している痴態を死ぬほど後悔することになるとは、この時はまだ知る由もない。
- 185 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/01(金) 23:39:31.58 ID:km2jcPy/o
嘘とは違うけど、エイプリルフールだもの
本編でも番外編でもない何かってことで、余興程度に考えて頂ければ。本編との繋がりはありません
>>21で求められたものとは若干違う気がしなくもないけど、勘弁してください
- 186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/01(金) 23:40:17.08 ID:dFjDvOSfo
- ふぅ・・・そのなんだエロスはほどほどにしときなさい
- 187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/01(金) 23:42:00.62 ID:jc871ZIw0
- >>185
ふぅ・・・けしからんな
だがそれがいいのさ。もっとやれください
- 188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/01(金) 23:44:21.95 ID:V/d58XpDO
- 全く君達は揃いも揃って変態ばかりだな
…………ふぅ
- 189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/01(金) 23:47:26.77 ID:HqmNecef0
- お前らちょっとは自重しろwwwwwwww
・・・・・・・・ふぅ
- 192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)[sage]:2011/04/02(土) 00:00:59.81 ID:IWHGwU+p0
- ここの一方さんは、もっとクールでかっこよくて、
大好きな番外個体のために、自分の気持ちを押し殺して、番外個体の恋愛を応援してあげて、
裏切られて泣いてる番外個体のために、ゲスな××さんをぶんなぐるような、そんな素敵な一方さんなのに、
エイプリルフールとは言え、そんな内容のSS書くなんて、けしからn
・・・・・・ふぅ
- 262 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:37:27.81 ID:BAONOHRVo
海に感動を覚えるのは、これが初めてだった。
「すごい……本当に青いんだね」
「あァ、まさかここまでだとはなァ……」
真っ白な砂浜、透明感のある青い海。
学園都市とは一味違った黄金に輝く日射しは、波に反射して宝石のように瞬いている。
きっとその中を、綺麗な魚がゆらゆらと気持ちよさそうに泳いでいるのだろう。
沖縄旅行初日。
絶好の快晴だった。
- 263 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:40:23.90 ID:BAONOHRVo
「もうこれだけで十分な気がするなあ……神様ありがとうって感じ」
「ばァか、これからだろォが」
「……ちょとは空気読んでよ、ミサカ良い感じで雰囲気出てたでしょ?
それだから周りの空気読まないことには定評がある、なーんて言われるんだよ」
番外個体的野暮発言に、彼女はわざとらしく溜め息をついてくっついていた窓から額を離した。
そのままどかりとシートにもたれ掛かって、スプリングの固さに顔をしかめる。
エコノミーの座席に文句をつけるのは筋違いかもしれないが、それにしたって家のソファが恋しくなるには十分だ。
現在二人が居るのは、海の目の前ではなく真上。
つまり、飛行機内。平日ということもあって乗客はまばらだ。
(ミサカ達は学園都市でも結構重要なポジションだと思うんだけどなぁ……せめてもうちょっと、それらしく良い座席にしてほしいものだけど)
「――にゃーんて、そんなこと言ったらバチが当たっちゃうよね」
「何の話だ」
「いやあ、こっちの話。それよりそろそろ着陸かな?」
「そォだな。ベルトきちンとしろよ」
「うっさいなあ、親御さんみたいにさ。つーかあなた、そういう所は真面目だよね。似合わねー」
ぶーぶー文句を垂れつつ、それでもしっかり言い付けを実行する番外個体。
と、眉をひそめて「うあ、耳おかしくなった。気持ちわるっ」らしい。
気圧の変化によって生じるアレである。
「唾でも飲み込ンどけ」
「……じ、じゃあ! あ……あなたのが、良い」
「あァ?」
簡単且つ的確な助言は、番外個体のご所望で一気に難しいものとなった。
一方通行が怪訝な表情を彼女の方に向けると、照れ隠し特有の強気な瞳がじっとこちらを見つめている。
- 264 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:41:31.37 ID:BAONOHRVo
「……ンだよ、こンな所でムラムラきてンのか。定期的に自慰でもして解消した方が良いンじゃねェの?
人前が好きなら俺が見てやっても良いぜェ?」
「う、本当に呆れたみたいに言うなぁっ! ムラムラなんかきてないし! ……大体ミサカはオナニーなんて……しない、もん」
かあっと頬を染め上げる番外個体。
実を言うとたった一度、陰核に触れるだけという幼げなそれに手を出しているのだが、勿論言えるわけがない。
が、一方通行は彼女の微妙な表情の変化やそわそわとした挙動に気が付いたのだろう。
「本当か? 目ェ見て言ってみ」
意地悪く光る、真っ赤な双眸。
「ぁう……ミサカはオナニー、して、ない……」
それを負けじと睨み返すことは、出来なかった。
大好きな人の目を見て平然と嘘を吐くのは後ろめたくて、彼の目に全て見透かされてしまうような気がして。
「目、合わせらンねェのは何かあるってことか。言っちまえよ。隠し事はなしだろ?」
隠し事はなし。
そんな言い方、狡いと番外個体は思う。
一方通行だって秘密にしていることはあるだろうし、それなのにそんな風に言われると言わざるを得なくなるではないか。
巧な言葉で人を陥れる詐欺師にまんまと騙されるように、彼女は口を割ってしまう。
「…………だ、だってあれは不可抗力っていうか……ミサカだって、す、するつもりは、なかったのに……」
- 265 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:42:34.06 ID:BAONOHRVo
「オイオイ、経験アリじゃねェか。嘘は感心しねェなァ。にしても不可抗力、ねェ……」
飛行機はそろそろ着陸体勢に入るらしい。
ベルトをするようにと放送が流れ、乗務員が声を掛けて歩いている。
「……どンな気分だった」
機内放送、航空機の稼働音、キャビンアテンダントや前に座る家族連れの声。
様々な音が混沌とする中、妙にはっきりと、独立して。
低く小さく、楽しそうに。それでいて甘く。
「一人でヤッて、どォだった?」
「っ! ぁ、い、嫌なのに、気持ちよくなっちゃって、」
ぞくり。
恥ずかしい質問をされているのに、何故だか身体は嫌悪以外の理由で震えてしまう。
『こんな状況』の時いつもいつも思うのだが、耳元で自分だけにしか聞こえないように囁かれる一方通行の声はまるで麻薬だ。
いとも簡単に番外個体を陥れ、脳髄を溶かされているのではないかという錯覚すら覚えてしまう。
今回も例外ではなく、想いを伝えた夜にあなたが欲しいと請いたように、イかせてほしいと懇願したように、気が付けば自ら口を割ってしまっていた。
墓場まで持って行くつもりで封じ込めていたことだったにも関わらず。
「やらしいな、どォせ『嫌』とかいう背徳感で尚更興奮して感じてたンだろォが。で? イったのか、最後までしっかり言ってみ」
弱った獲物を更に追い詰めるように。
分かりきったことをわざわざ番外個体の口から聞き出そうとするその意地の悪さに、彼女の瞳が潤む。
紅潮した顔は俯く以外に隠しようが無く、溜まった涙が零れてしまいそうになった。
- 266 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:43:23.81 ID:BAONOHRVo
「ぃ、」
「はっきり」
「……――い、った」
注意していないと聞き逃してしまいそうな小さな声で白状する番外個体。
余程恥ずかしかったのか(正常者なら当たり前だ)、隣の一方通行の腕をぎゅっと掴んでついでに顔を隠すように埋めている。
そんな彼女にすら欲情してしまうのは流石にヤバいだろうかと懸念しつつ、一方通行はその頭を撫でてやる。
「……っ、ひどいよ。ミサカのこと、いっつもそうやって意地悪して」
「オマエの反応面白ェンだよ、仕方ねェだろ」
「ばっかじゃねぇの。……ね、ミサカちゃんと言えたよ。ご褒美ってやつはくれないわけ?」
「ご褒美、ねェ……」
こくんと頷いて、番外個体は一方通行を見上げた。
その瞳は貪欲に彼を求め、それでいて羞恥にゆるゆると涙の膜が揺れている。
「うん。……着陸する前に、ね? ちゅう、しようよ」
「……チッ、おねだり上手になりやがって」
一方通行の腕に抱きつきながら彼を上目遣いに見つめる番外個体の顎がくい、と持ち上げられる。
そのままぴったりと、空気が入り込むことすら拒むかのように唇と唇が重なった。
初めて『コレ』をした時は愛撫を受け止めることで精一杯だった番外個体も、必至に舌を絡ませて。
公共の場という背徳的な環境の中で、最後にこくんと卑猥に唾液を呑み込んだ。
- 267 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:44:45.94 ID:BAONOHRVo
―――――
――
「おお! ミサカ和室って初めてかも! これが畳ってやつだね」
「へェ、結構良い部屋じゃねェか。普段和室なンて使わねェからな、新鮮だぜ」
「あ、でもお風呂は今時って感じだ。でっかいよ、ジャグジー!」
「興奮すンのは勝手だが走り回るンじゃねェ。どったンばったン、他の客に迷惑だろォが」
無事に空の旅を終え、沖縄の大地を踏んだ二人。
一方通行に弄られたせいで着陸少し前から消沈気味だった番外個体も、キスと気温の高さを肌で感じてすっかりテンション上々である。
空港から送迎バスに乗り、取り敢えずホテルに荷物を置きに来た。
沖縄旅行一日目、本日は早速、高速バスに乗って醍醐味ともいえる水族館ツアー。
「あっくん早く早く、早く行こ」
「まだバス時間まで20分近くあるぞ。つーかその呼び方やめろ気持ち悪ィ」
「えー、良いと思うけどなあミサカ。うひゃひゃ、あっくーん」
「あァ沖縄テンション面倒臭ェ……」
べたべたと猫みたいに甘える番外個体。
座ってお茶請けの煎餅を興味深そうに凝視していた、あっくんこと一方通行は後ろから抱き付かれて、
「ゥあっ!?」
「ひゃはは、びっくりした? あなたは敏感さんだからね、耳が弱くて当然か」
唐突に耳を舐め上げられた。
いつかの仕返しと言わんばかりに、艶かしく執拗に。
しかしそれだけでは飽き足らないのか、彼をしっかり補足した両腕を片方だけ解いて、
「ば、かやろ、オマエいきなり何――や、ンッ、どこ触ってンだクソガキ! ゥあ、ァっ、」
「ミサカが言うのもなんだけどさ、変な声出ちゃってるよん? 下も硬くしちゃって、男の人ってかわいそー。隠しようがないもんねぇ」
けらけらと嗤われ、下腹部をまさぐられる。
ジーンズの上からさわさわと撫で回されるというたったそれだけなのに、声を殺すことで精一杯。
いやな笑みを浮かべる番外個体を振り払うところまで余力はない。
「――っふ、ァ、」
「圧し殺そうとしたってム・ダ。恥ずかしい? それとももっと、気持ちよくなりたいのかにゃん?
きゃはっ、どうでも良いか。ともかくあなたは、いっつも苛めてる女の子から攻められて感じてるの」
……――変態だね。
「ッ!?」
ぼそりと、冷淡に。
耳元で嘲笑するように囁かれて、羞恥に身体がかっと熱くなった。
- 268 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:45:41.88 ID:BAONOHRVo
「ありゃりゃん、赤くなっちゃって。ねえ、もっと罵ってあげようか? 駄犬みたいに情けなく、無様に懇願出来たら、だけどね」
我々の業界であれば是非ともと率先しておねだりしてしまうような、毒を隠す甘い誘惑。
しかし学園都市の第一位、一方通行までもが自我を忘れてそれをするかというとそうでもなく、
彼には彼のプライドと自我がまだしっかりと残っていた。
「……っ、このマセガキが何馬鹿言ってンだ。下らねェことしてねェで準備して行くぞ」
「――ちぇっ、つまんないの。折角あなたが下穿いたまま射精するとこ見れると思ったのになぁ」
「マジでばっかじゃねェのかオマエ」
「冗談冗談、日頃の仕返しだよ。あ、でもこのまま生殺しって辛くない? ミサカが今度こそ抜いてあげようか」
「ほざいてろ。……オマエのせいでこォなっちまたったのは不覚だが、こっちの能力でどォとでもなる。
ずっと今までそォやってきたし、だからどこかの誰かさンみてェに一人淋しく、なンてのも必要ねェンだよ」
一方通行の言い分に、拘束を解いた『どこかの誰かさん』が唇を尖らせる。
「……じゃあミサカがそんな馬鹿をやらかさないように、あなたが責任持って処理してほしいものだけど。じゃないとこっちから押し倒しちゃうよ?」
「取り急ぐ必要なンてねェよ、焦りすぎだ。これから先、そンなチャンスは嫌ってくらいあるだろうよ」
上手くかわして立ち上がる一方通行を、どこか淋しげな不満顔で見上げるしかできない番外個体だった。
- 269 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:46:31.69 ID:BAONOHRVo
―――――
――
所変わって、水族館。
「ぎゃひゃ、なまこってなんか厭らしいよねえ」
「平然となまこ触っていやがる……力入れンじゃねェぞ、潰れたらヤバい」
「むにゅむにゅ。……そうだ。ミサカね、イルカ見たいんだけど」
「ン、なら時間みてショーに間に合うよォにして行こォぜ」
どでかい水槽を見て驚嘆の声をあげたり、サンマ美味しそうとか呟いたり、ふれ合いゾーンでなまこと戯れたり。
入場後はそんな感じで、水族館を絶賛満喫中だ。
春休み中であるためか予想以上にカップルも目立つそこで、番外個体は自分たちもそのうちの一組だとそわそわしつつ、
「その前にお土産屋さん見てこ。チビっこにキーホルダーでも買っていかないとね……って、何見てんの?」
「……ハリセンボン」
「ひゃひゃ、誰かさんみたいだねぇ前までの」
「ならあっちの変なカエルはオマエだな、ゲコゲコうるせェし」
「むう、あなたってこのミサカのことそんな風に思ってるわけ? 心外だなあ、傷付いちゃうよ?」
「そンなやわじゃねェだろ。……あ、マンタ見てェ」
「あっちに居るの!? 見に行く!」
此処に来ることを楽しみにしていた番外個体は元より、一方通行も案外満更でない様子。
その証拠に好奇心を隠しきれていない瞳は忙しなく揺れ、番外個体と一緒にあちこち動き回っている。
「えっと、お土産屋さんとマンタ見て……。イルカは何時?」
「あと30分くらい余裕あンな」
「じゃあマンタ見てからちょっと早めに行って場所取りしようか。ミサカ一番前で見たいし、お土産は後でってことで」
- 270 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:48:06.57 ID:BAONOHRVo
「――あそこにいるイルカってさ」
会場の最前列。
いい歳をした二人はそこを陣取って、仲良くショーを観覧していた。
大きなプールの中ではイルカのナントカ君やらナントカちゃんが跳ねたり回ったり泳いだり、
そんな感じのことをして会場を沸かせている。
その中でぽつんと、番外個体が呟いた。
「もう二度と、外では生きていけないんでしょ?」
「どォした急に。飽きたか?」
「ううん。楽しいんだけど、何となくさ」
数頭のイルカがタイミングよく水中から飛び出してきて、拍手が送られる。
その雰囲気の中、たった一人憂いている少女の存在はちっぽけだ。
従順に芸をこなすイルカ達にぱちぱちと小さく手を鳴らしながら、彼女は最初の質問に対する返事を待つ。
返ってきたものはやはり、彼女が考えていたのと同じこと。
「……まァ、そォなるだろォな。自分でエサも捕れねェだろォし、自然ではやっていけねェ。動物園だって同じだろ」
「……そうだよね」
終演を迎えた会場が、より一層盛り上がる。
変なことを気にするヤツだと一方通行が横目でちらりと隣を見やると、番外個体は何事もなかったか如く楽しそうに拍手していた。
ただ、やはりどこか陰った横顔で。
- 271 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:49:31.38 ID:BAONOHRVo
水族館の楽しみといえば、普段は見られないような生き物たちを見るのがメインだが、お土産選びというのもそのひとつだろう。
締めにもってきたおみやげ屋さんで、ぬいぐるみなどのオリジナルグッズを前にした番外個体は目を輝かせていた。
柔らかな手触りの布でできたイルカを抱きながら、
「ミサカ、イルカショーってかイルカ自体初めて見たけどさぁ、凄いね。見た目可愛いくせに運動できるし、頭も良いし」
「アイツらの特性って色ンな所に応用されてンだろ。漁船とか。……つーか大丈夫か?」
「何が? 頭、とか言ったら殺すからね、社会的に。
ミサカは社会勉強的な意味で水族館とかショーとかを楽しんでるだけであって、別に子供趣味とかそういうんじゃないんだから」
「そォ言うわりにはその人形が気に入ってるみたいじゃねェか。……つーかそっちじゃなくて、さっきのショーでの様子おかしかったからよ」
一方通行に言われて、番外個体は決まりが悪そうに、
「ん、ちょっと変なこと考えてただけだよ」
何かはぐらかすような淡い笑み。
それから手に持ったぬいぐるみを掲げてみせ、
「そんなことより、この子。お持ち帰りしちゃっても良いかな? すっごく抱き心地が良いんだけど」
「けっ、やっぱりガキみてェな趣味してンじゃねェか。……勝手にしろ、そのかわり飽きてそこら辺に投げたりすンなよな」
「そんなことするはずないじゃん。あ、面倒だけど最終信号とお姉様にも此処で買っちゃおうかな」
自分とよく似た趣味の少女達へのお土産を、言葉とは裏腹に楽しそうな表情で選ぶ番外個体。
イルカショーが終わった辺りからどうも物静かな感じがしていたのだが、杞憂だったかと一方通行は一安心する。
大分広い館内や人混み、見ず知らずの地ということから疲れもあるのだろう。
何にせよ、早いものでもう1日目を8割方消費しようとしている。
宿に戻ったら番外個体の方も眠気でぐずぐずになっているだろうと予想して、明日は少しゆっくりしようと思うのであった。
- 272 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:50:08.17 ID:BAONOHRVo
―――――
――
「疲れたあ……眠う……」
「飯食ってるとき半分寝てただろオマエ」
「うにゅう……おふろ、おふろ。早くお布団入りたあい……」
「さっさと入って今日は寝ちまえ。つーかスゲェ、布団は敷かれてあンのか」
ごしごしと目を擦る番外個体を風呂に送り出す。
水族館から2時間半ほどバスに揺られて戻ってきたわけだが、体力は限界に近い。
本当は天然温泉に入りに行こうと話していたのだが、疲れと眠気で重くなった身体を引きずって行くのは流石にキツかった。
(明日は今日みたいに遠出する予定もねェし、なら入れるな)
何気に天然温泉が楽しみな一方通行は、そんなことを考えながら布団に横になってみる。
薄っぺらでどんなものかと思っていたが、これが予想に反して落ち着いた。
学園都市にいるとどうも日本文化を忘れがちだが、一部屋くらい家に和室があっても良いかもしれない。
- 273 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:51:28.49 ID:BAONOHRVo
「あっくんちょっと来てー」
布団の上でだらだらと無駄に時間を消費していたところで、番外個体に呼ばれた。
「どォした、洗濯してェ物あったら洗濯機があるだろ。入れときゃやっとく。……つーかあっくンじゃねェ」
バスルームの前に立ち、扉越しに告げる。
ついでに律儀な訂正も入れておくが、これも最近結構面倒になってきた。
「ん、違う違う。洗濯じゃなくてさあ、ちょっと一緒に入ろうよ」
「……はァア?」
いきなりのトンデモお誘い。訳が分からないよ。
面食らって思わず頓狂な声が出るが、今の番外個体が半分以上機能停止(主に頭)していることを思い出し、
「な、なンか頭が動いてないみてェだから溺れねェよォにしろよ――って、うェい!?」
「あひゃひゃひゃひゃひゃ! 逃げんなあ!」
突如として開いたドアからにゅっと突き出た腕に、引きずり込まれた。
何が何だか思考が追い付かず、とにかく目だけは固く閉じる。
いきなり素っ裸が飛び込んできたら色んな意味でヤバい。
「何だよオマエ怖ェよつーか裸じゃねェだろォな!?」
「今はバスタオル巻いてるから目開けなよ」
「い、今はァ!?」
うっすら薄目で視野を確認すると、確かに白のバスタオルで身体を隠した番外個体が。
豊かなふたつの膨らみがしっかりと存在を主張していて、直視を自粛しざるを得ない。
「んにゃ、ミサカのおっぱいが気になるの? 触らせてあげようか?」
「な、なっ、馬鹿じゃねェのか!?」
「オォウ、本気で焦ってるよこの人。赤くなっておもしろーい。ほれほれ」
ちらっちらっとバスタオルを際どいところまで捲ってみせる番外個体。
完全に楽しんでいるようで、
「いやあ、頭をそこの棚にぶつけたら眠気も吹っ切れちゃってさあ。てことで一緒におふろ入ろ☆」
「吹っ切れたンじゃなくて打ち所悪くておかしくなったンじゃねェのォ!?」
さっきまで眠気でむにゅむにゅ言っていたガキにされるがままで、それが酷く悔しい一方通行だった。
- 274 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:52:47.55 ID:BAONOHRVo
「わ、良い匂いだよ。お湯もピンクで楽しいし!」
「そォかい……」
一足先に浴室へと消えていった番外個体のはしゃぐ声が、扉をすり抜けて聞こえてくる。
カップルプランの特典として置いてあった入浴剤にご満悦らしい。
そんな彼女とは対照的に、一方通行は浮かない表情だ。
どうせ明日混浴に入るのだからと言われればそれまでだが、しかし唐突すぎた。
面白いことに明るみでまじまじと相手の裸を見るのも見られるのもこれが初めてなのだから、緊張もするし恥ずかしい気持ちだってある。
「早くー、ミサカまた眠くなってきたからさあ」
「今行く……、オマエちゃンとタオル巻いてンだろォな」
「え、巻いてないけど。お湯も透明じゃないし。大体さぁ、そういうのって今更気に掛けるもんなの?」
「うるせェ、ちょっと頭が追い付いてねェンだよ。……ン、本気で入ンぞ」
「どうぞー」
半分自棄になり、腹を括った一方通行が浴室のドアを開けた。
まず甘ったるい香りに顔をしかめ、それからピンクの湯with入浴剤の中にちょこんと座っている番外個体を発見。
なるべく視界に入れないようにしつつ、シャワーで身体を流す。
何故かニヤニヤと腹立たしい笑みを浮かべている彼女を無視して湯船に入ろうと――、
「タオル、ミサカでさえ付けてないんだけど」
腰に巻いたタオルを指摘された。
「ひゃひゃ、恥ずかしがっちゃって女の子みたい。目閉じててあげるからさ、その間にタオルとって入りなよ」
「クソッたれがァ……」
無駄な気遣いまでされると、男としての度胸が足りていないとでも言われているような気がして何だか情けなくなってくる。
番外個体が見ざるの要領で目を覆ったのを確認してから、音もびっくりな速さで湯船に逃げた。
- 275 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:53:38.91 ID:BAONOHRVo
「……、何かすごい距離とってない?」
「気のせいだろ」
「じゃあそっち行っても良いよね、ミサカとくっつこうよ」
「おわ!? 馬鹿こっち来るンじゃねェ!」
それなりに広い浴槽の中で逃げ回る一方通行。
こうなると番外個体も意地になって、
「最終信号とは仲良くおふろ入ったんでしょぉおお!? なのにミサカは駄目ってかこのロリコン!」
「アイツはまだガキだろォが! オマエとは違うンだよ!」
「何それロリコン認めてんの!? ミサカよりもつるぺたの方がお好みだなんてっ」
「ちげェよ、何でそォなる!? ……だから、泣きそォなツラしてンじゃねェ」
そう言われて初めて、彼女は自分がそんな顔をしていることに気が付いた。
それを自覚すると、淋しいような、哀しいような。よく分からない思いに胸がざわつく。
「あー……ほら、こっち来い」
「で、でも、あなたは……。……良いの?」
「ン」
「えへへ、じゃあ……お邪魔します」
6、7センチほど隙間を空けて、番外個体が一方通行の隣に膝を抱えるようにして座る。
入浴剤が入っているために水中は見えないが、それでも一糸纏わないでいることに変わりはない。
隣の自分が異性であることを分かっているのかと、一方通行は疑問に思った。
- 276 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:54:40.96 ID:BAONOHRVo
「嬉しいな、ミサカのわがまま聞いてくれるんだね」
「黙ってガキみてェに100数えてろ」
「……嫌だったら、ミサカが先にあがるからさ。言ってくれないと、分かんないよ」
「嫌じゃねェから隣に呼ンだンだろォが」
「その割にはミサカのこと見てくれないし、さっきも逃げたし。何か素っ気なくない?」
「……仕方ねェだろ」
「うにゃあ!?」
拗ねたような口調の番外個体の追求をはぐらかすように、ぱしゃぱしゃと湯をお見舞いしてやる。
「オマエ、違うンだよ。あのガキとは勿論だし、黄泉川とか芳川とかとも全然違ェ。
何処が、なンて上手くは言えねェが、一緒にいると妙に意識しちまう。そンな相手とこの状況、逃げたくもなンだろォが」
「ひゃひゃ、あっくん恥ずかしいこと言ってる自覚はお有りで?」
「うるせェ……、ッうォあ!?」
「これくらいでいちいち大袈裟だなぁ。……あのね、人肌って、気持ちいい。だから少しこうしてても、良いかな」
開いていた距離を縮めてこつんと、一方通行の肩に頭を預ける番外個体。
湿気で微かに湿った茶色い髪の毛が生き物のようにぺたぺたと彼の肌にまとわりついてくすぐったい。
それだけではなく、番外個体の体重を一方通行に預けたことで、互いの二の腕や太もも、脇腹が絶賛密着中だ。
ついでに言うと女性特有の柔らかいモノも微妙に一方通行に当たっていたりいなかったり。
- 277 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:56:51.21 ID:BAONOHRVo
「ミサカ、今すっごくどきどきいってるよ。自分から仕掛けたのにね」
「安心しろ、こっちもだ」
「……幸すぎて怖いって、こういうことを言うんだ」
少し前、彼女曰く『吹っ切れた』当初とは明らかに違った雰囲気をまとわせて。
目を閉じ、怯えていた。
「あなたが、この幸せが、ミサカの周りの優しい人達が。消えちゃわないか、時々怖くなる」
バスタブの底で、ぎゅっと一方通行の手を握る。
不安を誤魔化すように、手繰り寄せた手を離すまいと。
「そうなったら、ミサカはもう駄目だ。水族館のイルカが二度と海では暮らせないように、ミサカはきっともう独りでは生きられない」
「……あァ。だからイルカ見ながら変なってたンだな。
つーかそれは、良いことなンじゃねェの。独りで良いなンて思うのは本当に孤独なヤツ、他人の暖かさを知らねェヤツだ」
「ひゃひゃ、何だそりゃ。体験談? ……でも、本当にそうなんだよね。
ミサカは誰かの手をとって、その温もりを知ってしまって。そしたら途端にこのザマだ」
「悪いことじゃねェ」
「……うん」
「それに俺はずっとオマエの傍に居る。オマエが大切したいと思ってるモンも消えたりしねェ」
一方通行がそう言うと、番外個体は握った手に力を込めた。
安心したの意思表示。
握り返してやると、対抗するかのように力を入れてくるのが面白い。
暫くそうやってにぎにぎしあっていたのだが、途中から番外個体の力が抜けて、
「……すぅ」
「……寝やがった……」
気が付けば器用にも、一方通行の肩に頭を預けたまますぅすぅと寝息を立てていた。
それでも尚、手は繋いだままで。
- 278 :1 ◆3vMMlAilaQ[saga]:2011/04/17(日) 01:58:15.02 ID:BAONOHRVo
今日は以上です
一回の投下でさくさくいきたかったんだけど、まだ一日目最後までいってません
次回はお風呂終わらせて、二日目少し触れられたら良いなーと
投下ペースが遅い中、待っててくれてる人達ありがとう
次の投下が早くできるように頑張ります
では、おやすみー
- 279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/04/17(日) 01:58:56.06 ID:/DEFZifno
- 乙
最高だっ…!
- 280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/17(日) 02:28:26.16 ID:mknD7UnAo
- 乙!
『イルカショー』、『最前列』ときて『水を被る』がないだと……?
- 281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/17(日) 06:11:17.29 ID:Pmsuhkhs0
- 乙
ニヤニヤが止まらない
- 282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2011/04/17(日) 07:38:33.07 ID:GKmCJiTAO
- あっくんかわいいよあっくん
- 283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/04/17(日) 12:10:35.75 ID:43aUipu70
- ジンベエザメ見て「凄え!」ってはしゃぐ番外個体が見えた
沖縄って言えばホテルに何故か置いてあるゴーヤ茶は恒例だよな?
- 284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/17(日) 12:24:36.17 ID:0QNjis8F0
- >>283
いやいやそこはサンピンチャだろ
- 286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[sage]:2011/04/17(日) 18:46:34.08 ID:9HcMzxmz0
- 沖縄にはゴーヤを模したイボ付きのスキンがあってだな…
- 287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄)[sage]:2011/04/17(日) 21:49:12.60 ID:XmNXBsOAO
- >>286
え…みたことねぇwwww
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