2013年11月19日火曜日

インデックス「――――あなたのために、生きて死ぬ」 1

1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/03(日) 01:01:57.49 ID:vI5sckLy0


当スレは

ステイル「最大主教ゥゥーーーッ!!!」

の2スレ目、そしておそらく最後のスレとなります


お読みになる際は以下の点にご注意ください

※ステイル×インデックスが主役 
※未来設定
※全体的に誰得
※つまんないギャグとなんちゃってシリアスが交差しきれてない
 =地の文と台本形式が入り乱れて読みにくい 
※勝手なカップリング多数
※稀にキャラ崩壊
※俺得

それでもいいなら↓へどうぞ


2 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/03(日) 01:03:54.47 ID:vI5sckLy0


学園都市第二三学区。

宇宙開発施設が立ち並ぶこの学区では、常時はおろか一般客来場のため

警備が緩められる大覇星祭期間中ですら、その警戒が解かれる事は無い。



その二三学区をいま現在、かつてない喧騒が支配していた。

国際空港の連絡通路からエントランスホールに至るまでを埋め尽くすのは全て人。

興奮して隣の友人に何事かまくしたてる男子学生。

真っ白な修道服に身を包むコスプレ女子学生。

『Welcome To Japan』の幟を掲げている電子街特有の雰囲気をまとう集団。

それら野次馬とはスペースを区切られて、テレビカメラやマイクを準備するマスコミ。



あまねく熱気の矛先は、空港内の随所に特別に設けられたモニターである。

画面に映し出される滑走路にコンパクトな旅客機が姿を見せた瞬間、おお、と歓声が上がった。

3 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/03(日) 01:06:12.44 ID:vI5sckLy0



無事着陸を終えたジェットが停止して十五分ほどは、

滑走路を取り囲んでいた黒服の男たちが周囲を神経質に固めていた。

指揮を執っているのは前時代的なデザインの杖をつく白髪の男だ。

お預けを喰らった形の群衆が不満な空気を醸し出し始めた事を察知したわけではないだろうが、

警備主任がカメラに取り囲まれる己が上司に向けて、一つ大きく頷く。

すると、遂に機体側面のハッチが音を立てて開門された。


先刻とはうって変わって大空港全体を束の間の閑静が取り巻いた。

扉の隙間から陽光が差していると錯覚した者は、果たして幾人居たのであろうか。

輝きの正体は、溢れんばかりの笑顔から放たれる光であった。





十字教三宗派の一角、イギリス清教が最大主教。

インデックス=ライブロラム=プロヒビットラムが、正式に日本の地を踏んだ瞬間だった。




4 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/03(日) 01:07:00.71 ID:vI5sckLy0



はあ、とそこかしこから恍惚とした吐息が漏れる。

報道マイクを握って現況を報告しなければならない筈の

プロのテレビマン達でさえ、呆然として阿呆面をお茶の間に垂れ流していた。

それほどの、俗世の穢れとは無縁の光景であった。



故に、なのであろうか。

聖女のすぐ後ろに影の如く寄り添う大柄の男など、誰一人として気に留めない。

最大主教の純白の聖衣と見事なコントラストを形成する、

漆黒の牧師服に身を包んでいるにも関わらず、である。



民衆の注目を一身に集める女性はにこやかにカメラに手を振りながら、

階段を一歩、また一歩とゆるやかに下っていく。

その正面でこれまた温和な笑みを浮かべて待つのは、学園都市統括理事長、親船最中。

階下へ辿りついたインデックスと親船が手を取り合った瞬間、この日最大の喝采が渦を巻いた。


5 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/03(日) 01:07:29.58 ID:vI5sckLy0






あの第三次大戦からおよそ十年の歳月が流れた、七月十日。



学生のみならず数多の群衆が見守る喧騒の最中で。



歴史が痛みを教訓に前進し続ける証左としての。








かがく    まじゅつ    こうさ
学園都市とイギリス清教の、対面の瞬間であった。





6 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/03(日) 01:08:46.99 ID:vI5sckLy0



果てしないように思われた歓喜の声が徐々に徐々に静まってくると、

インデックスがそのふっくらとした唇を動かそうとした。

当然の如く、航空機脇での撮影を許可された運の良い放送局の集音機が一斉に向けられる。



『統括理事長さま自らのお出迎え、大変身の縮む思いです。
 お身体の具合はその後、いかがでいらっしゃいますか?』



流暢な日本語がマイクを通して響き渡ると、今度は驚愕の色が辺りを包む。

最大主教が常人離れした記憶力の持ち主であるのは周知の事実だが、語学まで完璧にこなすとは。

親船はその顔をはっきりと綻ばせると、孫に接するかのように無邪気に聖女に感謝を述べた。


『まあ、ありがとうございます! 最大主教様の労り、老骨に温かく染みますわ』


その光景を直ぐ後ろから見守っていた神父の、真一文字に結ばれた線が微かに上弦の弧を描く。

誰にも認知されていないつもりなのだろうが――

この場で唯一男の魔術が通用しない白髪黒服が、肩を軽く竦めた。


7 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/03(日) 01:10:13.13 ID:vI5sckLy0


んが。


『ようこそ、学園都市へ。つきましてはこの感謝の気持ちをパネルに籠めましたので』


怪しくなる雲行きと不吉なフレーズに、二人の魔術師の面持ちが途端にこわばる。

同時に遥か彼方の管制塔屋上に、特大のボードがババーン! と空だった筈の座標に跳躍してきた。


『どうぞご覧くださいね』


おぞましい悪寒が背筋を走るのを感じた神父が、即座に最大主教の前方にその身を滑り込ませる。

が、時既に時間切れ。

そこに切り取られているのは、ことさら馬鹿でかく引き伸ばされた例の百万再生映像









――――ではなく、元気な姿の親船最中であった。




8 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/03(日) 01:11:32.81 ID:vI5sckLy0




















                   ┌─―─────────―――――┐
                   |                       .|
                   |                       .|
                   |   ヘ(^o^)ヘ おかげさまで元気です。.|
                   |     |∧                 |
                   |     /                  |
                   |                       .|
                   |                       .|
                   └─―――――――────────┘



9 :グダグダ編[saga]:2011/07/03(日) 01:12:17.47 ID:vI5sckLy0







デデーン




インデックス、ステイル、アウトー






10 :グダグダ編①[saga]:2011/07/03(日) 01:13:42.47 ID:vI5sckLy0



拡声器越しの淡々とした処刑宣告は、二人にとって聞き覚えの無いわけがない声で告げられた。

今この瞬間だけは『幻想殺し』から『空気殺し』へとジョブチェンジしたヒーローを呪いつつ、

赤髪バーコードことステイル=マグヌスは腹の底から一発、乾坤一擲の怒号を放った。





「そんなん反則だろうがあああああぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっ!!!!!!!!」










                   ┌─―─────────―――――┐
                   |                       .|
                   |             / .|
                   |          (^o^)/ |
                   |         /(  )        |
                   |      / / >    |
                   |         まあまあ(笑)   .|
                   |                       .|
                   └─―――――――────────┘



「動くなあああああ!!!!!!!!!!!!!」




11 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/03(日) 01:17:26.07 ID:vI5sckLy0

申し訳ありません、このようなスレで なんかAAずれてますし

というわけで今日はここまで
どんなスレかと聞かれたらこういうスレだと答えるのに丁度いい部分だけ抜き出しました

見切るならはやくしろっ!!間にあわなくなってもしらんぞーーーーっっ!!!!
ではまた
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)[sage]:2011/07/03(日) 02:50:06.00 ID:LcO7CMwU0
1乙!
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/07/03(日) 02:54:16.28 ID:rILog1qAo
乙です!!
楽しみにしてますwwwwww
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/03(日) 14:12:23.82 ID:rFzY11ZKo
デデーン、俺、アウトー

おかげさまで元気ですは反則だwwwwwwwwwwww
17 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:49:34.44 ID:vI5sckLy0

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六時間後


ワイワイ ヤイノヤイノ


打止「カラオケのメニューって高いよね、
   ってミサカはミサカはそれでも気にせずガンガン注文!」

美琴「あ、打ち止め。そのポテトも頼みましょ」

一方「ドリンクは全員持ったな」

当麻「よし、それじゃあ科学と魔術の公式会談が無事に終了した事を祝って!」




「「「「カンパ「待たんかあああーーーーーー!!!!」




ステ「貴様らぁぁ…………!! 特に男二人ぃっ!! 僕に何か言うべき事はないか!?」

18 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:51:10.10 ID:vI5sckLy0



一方「護衛のお仕事お疲れさまでしたァ」

当麻「身を挺してインデックスを守るお前の姿、最後まで見届けさせてもらったぜ。
   でもな、お前だって知ってるだろう! 大切な誰かに死なれることの痛みを……
                       (中略)
   ……そんなに重たい衝撃は、誰かに押し付けちゃいけないものなんだ!」

ステ「黙れ黙れ黙れ黙れーーーーーーっ!!!!」



美琴「結局何発やられたの、『アレ』?」

打止「MNW調べではステイルさんの分が二十三回、
   インデックスさんの代わりに受けたのが六十五回だったよ!」

ステ「またネットワークに垂れ流したのか!?」ヒリヒリヒリヒリ



イン「どうしてなの、すている…………? 
   どうして、私の身代わりなんて馬鹿な事したの!?」

ステ「……決まっている。僕は貴女を護るためにこの世に居るからだ」

イン「それであなたが傷ついたら、私の心も傷つくの! もう、こんな事しな、いで…………」

ステ「…………最大主教」

19 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:51:46.95 ID:vI5sckLy0



一方「急に昼メロが始まったぞ」

美琴「ウチでもときどきやってるわよ。
   チャンネル争いしてたらいつの間にかいちゃいちゃ、みたいな」

打止「文脈が全然繋がってないんだけど、ってミサカはミサカは(ry」

当麻「ははは。……おや!? インデックスの様子が…………!」



イン「うっ、うう……………………」シーン

ステ「頼む、泣かないでくれ…………ん?」



一方「ゴンベからカビゴンにでも進化するンですかァ?」

打止「BBBBBBBBBB」

美琴「まだ進化を残していたというの…………!?」

当麻「ようやくなつき度MAXになったのかよ」


ステ「外野ぁ!! 少し黙ってろ!!!」

20 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:52:33.21 ID:vI5sckLy0



イン「うう、ひっく……………………ぷ」

ステ「…………ぷ?」


外野(((( ? ))))



イン「ぷっ、ぷぷ、あはは! あーっはっはっはっはは!!!!!」

ステ「」



イン「だ、ダメじゃん! 思い出すだけで腹がよじれてくるンだよォ!!!」ヒーヒー

ステ「おいぃぃぃぃいいい!!!???」ガビーン!

イン「せ、せりあとみさきが、真顔でリンボーダンス始めた時なんて、
   ぷっ、あはははは!!! ひーっ、ひーっ!」バンバン!

美琴「アレは笑ったわねー。あの女王サマがひっくり返って」ププ

イン「や、やめてぇみことぉ! こ、呼吸、こんなんに、なる、よぉ!」ゼーゼー

21 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:53:36.02 ID:vI5sckLy0



ステ「…………」ドン! ドン! ドン!

当麻「隣に迷惑だからあんまりイラ壁するなよ」

一方「マグヌスくンじゅうよンさいはリアルに中二かそういや」

ステ「二十四だ!! くそがっ!」

打止(本格的に邪気眼が疼いてきたかも、
   ってミサカはミサカは自分の中学時代を回想してみたり)トオイメ


ステ「だ!」ドン!

ステ「れ!」ドン!

ステ「が!」ドン!



ステ「『絶対に笑ってはいけない公式会談IN学園都市』なんて企画したああ!!!」ドオン!



当麻「つちm」

ステ「ですよねえええええええ!!!!!」

一方(雲川も親船もノリノリだったけどな)

22 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:54:42.14 ID:vI5sckLy0




美琴「それにしてもアンタたち、どうしてわざわざ飛行機から降りて来たの?」

イン「公式には最大主教は今日、イギリスから学園都市に来た事になってるの」

打止「……それってつまり」

一方「一ヶ月間学園都市で遊び呆けてた事実を隠そうってのか?」

ステ「聞こえが悪いね。仕事の準備をしつつ休暇を取ってただけだよ」ハア

当麻「なんだよ準備って……あちこち観光してただけだろお前ら」

イン「そんなことよりクワガタの話しよーじゃん!」

美琴「全然誤魔化せてないから!」

当麻(建宮のことじゃないよな)



ステ「おい、僕にはまだ疑問が残っているぞ上条当麻」

当麻「なんだよ? まだ何か文句あんのかサボり神父」

ステ「…………どうして僕らはこんな所にいる?」

23 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:55:24.27 ID:vI5sckLy0


一方「あァン? バーコードくンはカラオケ来たこと無いンですかァ?」

ステ「いや、そう言う事じゃなくて」

当麻「今日の仕事でたまった鬱憤をマイクに吐き出してみようぜ!」

ステ「鬱憤どころか憤懣が弾けそうなんだよ今にも! 
   溜めさせるぐらいなら初めからあんな企画止めさせろ!!!」

美琴「じゃ、まずはステイルからね」

打止「日本語の歌わかる? 洋楽もたくさんあるけど」

イン「じゃあ次はわたし!」



ステ「…………最大主教!」

イン「じょ、冗談なんだよ……」

当麻「どうしたんだよ二人とも」

ステ「いいか、僕らの仕事はまだ終わっ」


prrrrrrr!

24 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:56:07.90 ID:vI5sckLy0



ステ「…………(ピ) 何の用だ! 今こっちは……なに?」

イン(もとはる?)ゴフ

ステ「(ああ)………………………………しかしだな」

当麻「?」

ステ「………………わかった、お言葉に甘えよう」ピ



一方「さっきから忙しねェけどよ、結局どうなンだ?」

イン「どうも、予定が空いちゃったみたいじゃン」

打止「おお! それじゃあ心おきなくカラオケ大会できるね!」

ステ「そもそも此方の予定を確かめてから引っ張ってくるものだろう普通!」

25 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:56:36.04 ID:vI5sckLy0


美琴「ノリ悪いわねー。もしかしてアレ? 音痴だったりするわけ?」ニシシ

ステ「」

イン「……あ」

当麻「?」

ステ「………………誰が」

打止(なんか火が付いたような)



ステ「 誰 が 聞 く に 堪 え な い デ ス ボ イ ス だ と ? 」



美琴「!?」

一方「言ってねェよ」

26 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:57:12.07 ID:vI5sckLy0



ステ「OK。お望み通り先陣を切らせてもらうよ」ピピピピピ

当麻「て、手慣れてやがる……!?」

打止「カラオケって日本特有の文化じゃなかったっけ?」

イン「十年経てば大抵の事はどうにでもなりますの」

美琴「それ言えば何でも許されると思ってないでしょうね!?」


ピピピ


ステ「さて、まずは軽く喉鳴らしだ」

一方「曲名は……ンだこれ?」



「なんとなく消したストーリー」
http://www.youtube.com/watch?v=20_fDhFJMoU
※なんか色々注意



「「「「 ! ? 」」」」


27 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:58:05.07 ID:vI5sckLy0



六分三十二秒後



ダラダラダラダラダラ(ドラムロール音)



「 1 0 0 点 ! ! ! 」



当麻「当たり前だろコレええええ!?」

一方「中の人補正マジパネェわ」

美琴「いまひどい自作自演を見た」

イン「いきなり持ち歌なんて珍しいなぁ…………」ポー

打止「わ、私ですらちょっとクラリと来ちゃった…………
   ってミサカはミサカは多感なお年頃を気取ってみたり……」

一方「ンだとおォォっ! 打ち止めァっ!!!」ガタッ

打止「お、落ち着いてあなた!」

28 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 20:58:51.63 ID:vI5sckLy0




ステ「フン、次は誰だったかな?」ドヤ


当麻(この後どうするんだよ…………)

美琴(カラオケでああもプロい真似されるとしらけるわー)

一方(続けねェ……この空気の中歌うとか勘弁)

打止「え、えーっと…………そうだ! インデックスさんだったよね次!」


イン「ボー…………え? あ、そうだったね。ステイル、まいくまいく」

打止「え」

ステ「はいどうぞ」

イン「よぉし、負けないよステイルー! 
   ってインデックスはインデックスはウォーミングアップ!」


ピピピ


当麻「いやアイツ満点だから」

美琴「どうやっても勝てないから」

29 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:00:59.78 ID:vI5sckLy0


http://www.youtube.com/watch?v=AQ-fM5LKTbU

~~~~~♪


一方「コイツァ……」

イン「『必要悪の教会』でカラオケに行くと大体私とステイルで満点の取り合いになるンだよぉ」

打止「何その異次元カラオケ!?」

ステ「他の連中も軒並み九十点台を叩きだすよ。
   神裂とかシェリーとかアニェーゼとか土御門とか建宮とか」

当麻「俺らの中じゃ美琴ぐらいだよなそんなの」

美琴「な、なにハードル上げてんのよ!」



イン「……When I am down and, oh my soul, so weary.」


当麻(う、上手い事は知ってたが……!)


イン「When troubles come and my heart burdened be……」


打止(もはやこの勝負、ミサカたちの入れる領域じゃあ(ry)


30 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:01:39.72 ID:vI5sckLy0


You raise me up, so I can stand on mountains.

You raise me up, to walk on stormy seas.

I am strong, when I am on your shoulders.

You raise me up…… to more than I can be.



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ダラダラダラダラダラ




「 9 9 点 ! ! ! 」



当麻&打止「」

31 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:02:44.47 ID:vI5sckLy0



イン「ああああ!! 惜しかったかも!」

ステ「ラストのサビでヘッドボイスの効きが後一歩だったね」ハハ

イン「やっぱりぃ? っていうか慣らしでパーフェクトなステイルがおかしいじゃぁん」アハハ

当麻「おかしいのはお前らだよ」

打止「ますます歌いづらくなった…………」

ステ「僕をコケにしてくれたそっちの超能力者二人、何か言う事はあるかな?」

イン「まあまあ。みこともあくせられーたも点数なンて気にせず楽しくやろォ?(笑)」

当麻「感じ悪っ!」



一方「……………………だ」


ステイン「え?(笑)」

32 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:03:34.26 ID:vI5sckLy0




美琴「いい度胸だって言ってんのよ!! 超電磁砲舐めんじゃねー!」

一方「良く言ったァァァ!! それでこそ学園都市の頂点だよなァ!?」

美琴「出してやろうじゃない百点満点!!」

一方「第一位はな、歌唱力も第一位だから第一位なんだよ三下どもォォォ!!!」

打止「えぇぇ…………」

当麻「そんなシステムスキャン受けるぐらいだったら音楽都市に行くわ」

ステ(それはそれでそそられるものがあるな)


美琴「じゃあ私からいくわよ!」


ピピピ



「only my railgun」


33 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:04:34.26 ID:vI5sckLy0



当麻「なりふり構ってねーなオイ!?」

イン「あはは、意外性が足りないねぇみこと? だから第三位なんですの」

打止「さっきからキャラ違うよねインデックスさん」

ステ「どうだか……」

一方「やっちまいな超電磁砲ンン!!」




美琴「放て! 心に刻んだ夢を 未来さえ置き去りにして 限界など知らない 意味無い!
   
   この能力(チカラ)が光散らす その先に遥かな想いを…………」



当麻(さすがにテーマ曲だけあって映えるなぁ……)



美琴「歩いてきた この道を振り返ることしか 出来ないなら…今ここで全てを壊せる」

34 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:05:37.84 ID:vI5sckLy0



打止「おおお! さっすがお姉様! ってミサカはミサカは興奮してみたり!」

イン「ふ、ふふん! ってインデックスはインデックスは(ry」

当麻「これならインデックスの99点に勝てるかも!」

ステ「次回、『超電磁砲』死す!」

一方「デュエルスタ…………ンばるわきゃねェだろォが!! なに不吉な次回予告してやがる!?」



美琴「狙え! 凛と煌く視線は狂い無く闇を切り裂く! 迷いなんて吹き飛ばせばいい

   この心が叫ぶ限り 誰ひとり邪魔などさせない……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ダラダラダラダラダラ



「 9 5 点 ! ! 」


35 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:06:32.85 ID:vI5sckLy0



美琴「んあーーーっっ!!」ダンダン!

当麻「いや、悔しがるような点数じゃないからね?」

ステ「まあまあだったね」パチパチ

イン「高得点おめでとうなんだよ」パチパチ

美琴「最っ高にムカつくわよ今のアンタら!」

ステ(そもそも本人(?)が歌ったから満点が出るとは限らないんだけどね)

イン(スローテンポの曲の方が高得点出やすいんですの)



一方「チッ、第三位に期待した俺が間違いだったか」

美琴「んですってぇ!!」

打止「落ち着いてお姉様! アナタも言い方きつすぎ!」

一方「へーへーすいませンでしたァ。じゃあ次は俺だな」



ピピピ



36 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:07:39.52 ID:vI5sckLy0


美琴「大口叩いといて私より点数低かったらわかってるでしょうね」

一方「どうして俺とお前が一位と三位に分けられてると(ry」

打止(少なくとも歌の上手さは関係ないよね)



http://www.youtube.com/watch?v=7liIs5AO-kU



一方「Just cry 閉じ込めた記憶を辿る Why 罪を引きずる足音
   今はもう空は滲む涙と 厚い雲に閉ざされた心」



当麻(コイツもうめぇ……)



一方「ああ 誰も彼も 一つや二つは触れられたくないことも
   もう自分以外の人を傷つけたくないよ 弱ささえ受け入れて」



打止(驚き役に定着してきた、ってミサカはミサカはヤムチャ顔をしてみたり)


37 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:08:26.87 ID:vI5sckLy0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


一方「つらい時は泣けばいい 言葉じゃきっと満たせないから 
   君の痛みに触れて 僕も泣くから
   壊れ行くもの 確かになおせないこともあった 明日へ向かうために」


打止「激しい曲なのになんかウルってきちゃった……」

ステ「言うだけの事はあるね」

イン「さあ、肝心の点数は!? ってインデックスはインデックスはちょっとハラハラ!」



ダラダラダラダラダラ



「 9 5 点 ! ! 」



一方&美琴「ええェェ…………」

打止「そ、そんな落ち込むことないよ二人とも、すっごく上手で私感動したよ!」

ステ「科学にしては良くやった、と褒めてあげるよ」HAHA

イン「まあでも95点、これが限界だってハッキリしたかも」AHAHA

打止「水掛けてるところに油注がないでーーーっ!?」

38 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:10:15.21 ID:vI5sckLy0


美琴「も、もう一曲! 今のは単なる前座よ!」

ステ「ふ、三流の逃げ口上だね」

一方「ああああァァァァ!?」

イン「どうどう」

美琴「やっぱ馬鹿にしてるでしょアンタ!」



打止「こ、こうなったら演算補助を解除するしか…………」

当麻「………………」

打止「あれお義兄様? さっきから静かだね」



イン「ふふ、ちゃんと順番は守らないとダメじゃん?」

ステ「その通り、次はどっちが…………おい、上条当麻?」

一方「ン?」

美琴「と、当麻…………? どうかし」


39 :グダグダ編②[saga]:2011/07/03(日) 21:11:29.05 ID:vI5sckLy0




「 お 前 ら 、 い い 加 減 に し ろ っ ! ! 」



「情けねえと思わねえのかよ!? 

 大の大人が寄ってたかって、こんな鉄の塊が吐き出す数字に踊らされやがって!

 カラオケってのは皆が和気藹々と交流するため、その為に作られた日本の至高の発明品だろうが!

 それがこのザマはいったい何だってんだ!? 下らねえ点数に一喜一憂して、お互いいがみ合って!

 違うだろ、そうじゃないだろ!! 思い出せよ、初めてカラオケに行った時を!

 歌の上手い下手じゃあない、純粋にマイクに魂をぶつけて、皆に拍手されたあの日を!

 一方通行! てめえの言う学園都市最強ってのは、

 大事な人を困らせてまで守らなきゃならないプライドなのか!?

 美琴! 俺はお前の歌ならいつだって百点満点で採点してやる!!!

 ステイル! ちょっとてめえ上手すぎてKYなんだよ!

 そして耳の穴かっぽじって良く聞きやがれインデックス! 

 もしもお前が得点なんてモンに縛られて、カラオケの本質を見失っちまってるって言うなら!

 まずは――――!!」




         てんすうしじょうしゅぎ
「そのふざけた  幻      想  をぶち殺す!!!!」


52 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:48:36.87 ID:2rZuTTta0









打止「生で見るのは何気に初めてかも、ってミサカはミサカは呆然としてみたり」

一方「説教だけで一スレ……もとい一レス使いやがった」

ステ「濃厚な説教スレか…………悪夢だなそれは」

イン「しかも途中でさりげなく惚気たんだよ」

美琴「もーとうまったらぁ」ニヘヘ



当麻「おい、俺の言いたい事はわかったか!?」

ステ「わかったわかった」

一方「高得点出す自信ねェから点数つけンのやめろって言いてェンだろ?」

当麻「え」

53 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:49:17.31 ID:2rZuTTta0


イン「なーんだ、とうまは自分の歌がアレだから説教で誤魔化したんだぁ」

美琴「大丈夫、そんな当麻でも私にとっては百万点だから……」ポッ

当麻「え、ちょ、上条さんはそういう思惑があったとかじゃ」



打止「お義兄様は犠牲になったのだ……そういうことだから次は私の番!」

一方「ンじゃ、こっから採点無しだな」

イン「んー、あまりこだわっても良い事ないかも」

ステ「そこの説教魔の顔も一応立ててやらないとね」

当麻「とっくに面目丸潰れだっつーの!! ちくしょう…………」イジイジ

美琴「元気出して? 私が居るから……ね?」

当麻「美琴…………」

美琴「当麻ぁ…………」

54 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:50:09.69 ID:2rZuTTta0


イチャイチャ



一方「パターン入りましたァ」

ステ「次はどういうチョイスでいくかな……やはりロックで…………メタリカあたりを」ウーム

イン「らすとおーだーはどんな曲歌うの? ってインデックスは(ry」

打止「(慣れてるなぁ)……よーし、決定!」


ピピピ



「メモリーズ・ラスト」



打止「誰にも負けないなんて誇大妄想だってこと 傷だらけの掌(てのひら)から溢れた孤独」


一方(コイツ…………)


打止「過ぎ去った時間(とき)は 戻せないから 一秒ずつ塗り替えてくその笑顔で」




55 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:51:13.54 ID:2rZuTTta0


打止「忘れないよ 季節が巻き戻されても もし君が今日の事 忘れていっても」


ステ「………………」

イン「あ…………」


打止「今でも小さなガラクタだけど この胸に刻んだ 記憶があれば」



「ゆっくり針は進んでく もう逃げないよ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


打止「お粗末さまでした!」

当麻「いやいや、よかったぜ。やっぱカラオケはこうあるべきだよな」

イン「……良い歌だったね、ステイル」

ステ「…………ああ」

美琴(この子なりのエールなのかしらね。まったく自分の事で手一杯でしょうに)クス

56 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:51:49.42 ID:2rZuTTta0


一方「クソガキにしちゃまあまあだったじゃねェか」

イン「ハイハイツンデレ乙」

一方「ちげェよ!!」

美琴「ちょっと涙ぐんでたくせに」

ステ「父親か君は…………」

一方「誰がだよ…………ったく」

当麻「よっしゃ、ようやく上条さんの出番だな」


ピピピ




「ラフ・メイカー」


一方「おォ……!」

イン「これはとうまっぽいなぁ」

57 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:52:45.20 ID:2rZuTTta0


当麻「涙で濡れた部屋に ノックの音が転がった
   誰にも会えない顔なのに もうなんだよどちら様?」


打止(上位個体だけど今お姉様のテンションがやばい)ビビビ


当麻「『名乗る程たいした名じゃないが 誰かがこう呼ぶ“ラフ・メイカー”
   アンタに笑顔を持って来た 寒いから入れてくれ』」


ステ(独善者の歌、か。コイツらしい)


当麻「ラフ・メイカー? 冗談じゃない! そんなモン呼んだ覚えはない
   構わず消えてくれ そこに居られたら泣けないだろう」


美琴(ああもうダメだわ私…………思い出しちゃうじゃない)グス


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


当麻「小さな鏡を取り出して 俺に突き付けてこう言った 『アンタの泣き顔笑えるぞ』」



「呆れたが なるほど 笑えた」

58 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:54:02.90 ID:2rZuTTta0


ガバッ!


当麻「んなあっ!?」ウケトメ

美琴「とうまぁ…………」エグエグ

打止「完全に感極まっちゃったね」

一方「素人くせェ歌い方が逆にくンだよな」

イン「あはは、ちゃんと責任取らなきゃダメなんだよとうま?」

ステ「君が何とかしろよ、ラフ・メイカー」クク



当麻「んな事わかってるって。コイツの涙を止めるのは俺の役目さ。
   …………本当は、泣かせたくもないけどな」ナデナデ



イン&打止「………………」チラッ

一方「なに見てンだ」

打止「べっつにー?」

イン「ああいうの憧れるなー、なンて別に思ってないンだよ」

ステ「………………さて、二巡目だね」

イン「ちぇっ」

59 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:54:56.74 ID:2rZuTTta0



ステ「…………だがその前に、少し手洗いに」

美琴「わ、私もちょっと顔洗ってくるわ」


バタン


一方「…………ドリンクが切れたな」

打止「え? 私のはまだ」

一方「いいから補充手伝え、打ち止め」

打止「…………うん、わかった」


バタン


イン「え、あ?」

当麻「ちょっと休憩だな。はあ、しかし疲れたよな今日は」

イン「……うん、あんなサプライズするから笑い疲れちゃったよ、あはは」



当麻「………………」

イン「………………」

60 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:56:36.49 ID:2rZuTTta0



当麻「なあ、インデックス」

イン「! ど、どうしたの?」

当麻「お前の仕事もとうとう終わっちまったな」

イン「まだ、らすとおーだーの結婚式までは日本に居るよ」

当麻「そういや、そうだったな…………でも、十日なんてあっという間だ」

イン「……そうだね」



当麻「この一ヶ月はさ、昔に戻ったみたいだったよ。
   朝起きたらお前が居て、一緒に朝飯食ってドタバタしてさ。
   さすがに風呂場に寝泊まり、とまではいかないけどな」

イン「…………」

当麻「美琴や真理とも仲良くしてくれてありがとな。
   ステイルの奴も俺にはああだけど女には結構優しいし」

イン「………………とうま」



当麻「――――どうした、インデックス」


61 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:57:16.44 ID:2rZuTTta0


イン「私ね、とうまに言わなきゃいけない事があるの。その為に、日本に来たの」

当麻「…………なんだ?」

イン「え、っと」

当麻「………………」

イン「その…………」

当麻「うん」

イン「………………」



当麻「そういや、二人っきりになる機会なんて今までなかったな」

イン「!」

当麻「ステイルが四六時中張り付いてるからなぁ。そのせいか」

イン「ち、ちがうの! …………私が」





62 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:57:56.78 ID:2rZuTTta0


「私に、勇気がないから」


「そうなのか?」


「そう、勇気が、ないから…………」


「大丈夫か」


「…………大丈夫じゃ、ないかも」


「俺は、お前の為に何が出来る?」


「……………………待ってて」


「待つ?」




「私が、あなたに、この想いの全てをぶつける決心がつくまで」




63 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 20:59:08.00 ID:2rZuTTta0


「いつまででも待っててやる…………って言いたいけどな」


「うん」


「あと十日だけ、だな。きっと、あっという間だ」


「わかってる」




「その時が来たら、お前の想いに向かい合う。そう約束するよ」


「――――ありがとう、とうま」




「十年前とは変わったな、俺たち」


「私の見る限り、とうまはあんまり変わってないと思うな」


「ひでえな。成長が無いってことかよ?」


「ふふ。違うよ、もちろん」


「ホントだろうな…………」

64 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 21:00:09.32 ID:2rZuTTta0



「…………線がね、変わったと思うの」


「線?」


「私たち人間っていう『点』を結ぶ『線』。
 とうまの点が動かなくても、私が動いたのかもしれないね。それとも…………」


「線の形そのものが、別物になったってことか」


「…………昔は、たとえ歪でも、あんなに近かったのに」


「そうなのかな。…………そう、なのかもな」


「きっと、そうだよ」


「十年か。意外と、あっという間だったな」


「たった十年だもん。当たり前かも」

65 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 21:02:07.29 ID:2rZuTTta0





           なみだ  とめる
(それでも、お前の 幻 想 を 壊 す のはもう)




(俺の役目じゃないんだろうな)




(アイツに、渡さなきゃならないものなんだ)





66 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 21:03:04.80 ID:2rZuTTta0


ガチャ


ステ「待たせたね」

イン「おかえり、ステイル」

当麻「随分遅かったな」

ステ「混んでたんだ。もう少し遅い方が良かったのかな?」

当麻「さあな…………丁度良かったんじゃねえの?」

ステ「それはなによりだよ」ハン



当麻「他の皆はどうしてる?」

ステ「さあ? 別々に出たんだから僕が知るはずもない」

当麻「そーかよ」

イン「……ありがと」

ステ「何の話だかさっぱりだね」ヤレヤレ

67 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 21:04:43.87 ID:2rZuTTta0


ガチャ


一方「ドリンクバーが切れてて時間掛かっちまったぜェ」

打止「…………うわあ、わざとらしイテッ!!」ゴツン!

美琴「さ、続きよ続き! 今度こそはアンタらを唸らせてやるわ!」

当麻「点数は出さねえぞー」

イン「ま、客観的な評価よりは主観にうったえる方が楽かもしれませんの」フフン

ステ「では僕からだね」


ピピピ




「Reckless fire」


美琴&打止「「………………」」

イン「また持ち歌? 頑張ってねステイル!」

当麻&一方((こいつ本当にイギリス人か?))


68 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 21:06:29.60 ID:2rZuTTta0

---------------------------------------------------------


『はあ………………不幸なんだけど』


『くく、心中お察しするぜい。素晴らしいリンボーダンスを見せてもらったにゃー』


『やかましいんだけど』




『結局、オレたちの当初の目論見は外れたわけだ』


『予想を遥かに越えて慎重だった、と見るべきか。
 それとも単純に私たちの頭脳が劣っているのか』


『さあな。さておき二人を留めておくのは七月いっぱいがリミットだ。
 それ以上は本人たちが何と言おうと帰国してもらわなければならん。
 議会のジジイどもがまたぞろ騒ぎ出しかねないんでな……あとねーちんも』


『おやおや、心中お察しするけど』


『やかましいぜよ』


69 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 21:07:59.71 ID:2rZuTTta0




『実は、一方通行が外出許可を求めてきてるんだけど』


『ふうむ……………………危険な賭けだな、それは』


『いつも通り話が早すぎて助かるけど』


『期待値は相手の質、量いかんに大きく左右される事になるぞ』


『だから、その辺りの情報が欲しいんじゃないか。最大主教の身にも響くぞ?』


『ちっ…………お見通しか。確かに昨日、仲介人を探しあてた。
 数日中にはどんな手を使ってでも口を割らせる』


『一方通行は五日後に「外」に出る。出来れば間に合わせてくれよ』


『…………おい、決定済みなのかそれは』

70 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 21:10:25.72 ID:2rZuTTta0


『分の悪い賭けは嫌いじゃないけど。そっちは違うのかな?』


『オレは、嫌いじゃないが苦手だな。己の心臓部をチップにしてるとなれば尚更だ』


『私は気楽なゲームマスターさ。別に大したものを賭けては』





『ほーう、旦那の命は「大したもの」じゃないのかにゃー?』





『……何の話かわからないんだけど』


『くくく、くっくっく………………』


『なぜ笑う、だいたい私は結婚などしていn』


『くははははは!! これが笑わずにいられるか! 
 遂にアンタの弱みを握ってやったぜよー!!!』


『!? 待て、なにを』

71 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 21:11:49.75 ID:2rZuTTta0


『満天下に向けて吠えたい気分だぜい、雲川芹亜の』


『よせっ!!! さもなくば貴様の家庭での痴態を飛行船で学園都市中に流してやるけど!!』


『人を呪わば穴三つ。そしてオレはアンタより遥かに呪術に精通している……後はわかるな?』


『わかるか!!』


『それならそれで構わないぜい。ハハハ、テンション上がってキター!!!』ブツッ


『だから待て…………クソッ!! 早急に対策を…………!」




「ん、さっきから喧しいがどうかしたのか?」


「お前が言うな! いま私は忙しいんだ!! 放っておいて欲しいんだけど!!!」


「ふーん、良くわかんねえ」


「ああもう、不幸なんだけどーーーーっっ!!」

72 :グダグダ編③[saga]:2011/07/04(月) 21:12:32.45 ID:2rZuTTta0

--------------------------


OUT

エセ関西弁(賞味期限切れ)


-------------------------

73 :グダグダ編③2011/07/04(月) 21:14:32.43 ID:2rZuTTta0


続くんじゃん


科学と魔術のブレーン対決は得るものの無い痛み分けに終わったようです

二期後期EDは言わずと知れた通行止め曲ですが
ステイル&神裂→インデックスと思って聞いてもなかなかこみ上げます
という[田島「チ○コ破裂するっ!」]回でした

さあ罵ってください
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/07/04(月) 21:33:49.51 ID:/Whvb2Zbo
ここのステイルがインデックスの前でケンゼンな本能を歌うのはいつですか?www
乙!
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/05(火) 21:22:07.29 ID:/I5M36aa0
ステイルが under the cry 歌うかと思ったがそんなことは無かったぜ
78 :>>1 ◆ECRmZv/7RGf1[saga]:2011/07/05(火) 21:24:22.31 ID:yNr4V3Qe0

I'll be right これは健全な本能~♪

I'll be right なんて健全な本能ぉぉおおおおお

ああああぁぁあぁあああああぁああぁぁああーーーっ!!!!




ステ「ふっ、どうかな?」←七巡目


打止「……うん、上手いよ?」

美琴「上手いけどさぁ」

一方「一曲目はしっとりしてた分聞けたンだがよ」

当麻「コレはちょっと激しすぎるっつうか」



イン「正直ひく」

ステ「!?」




79 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/05(火) 21:27:35.19 ID:yNr4V3Qe0
コテ間違えました(笑)
歌った結果がコレだよ!


>>75
即保存しますた 未来設定でしか書けませんが了解でーす

では今日は美琴とインデックスのいちゃつく小ネタです↓
80 :小ネタ「シスター」[saga]:2011/07/05(火) 21:29:47.33 ID:yNr4V3Qe0



とある日 上条家



イン「…………そういうわけで、電話したんだよ」


13857『お姉様に「お姉様」と呼ばせたい…………なかなか背徳的な響きですね、フフ』


イン(いきなり相談相手を間違えたかも)


13857『そういうことならやはり力づくでにTEGOMEにして
    姉妹SMプレイに持ち込むのが手っ取り早いでしょう』


イン「いや、あっちは超能力者だから。全然手っ取り早くないんだよ」


13857『我らが主から授かりし愛の力を持ってすればどうということはありません』ハァハァ


イン(この子破門すべきなのかな……)


13857『さあ最大主教! ご決断くだされば今すぐにでも必要な物資は手配します! 
    だから早くお姉様の屈服する姿を全ミサカに布教s』



ガッ



イン「……ぬるぽ?」


81 :>>79 コテじゃなくて酉じゃね? とセルフツッコミ[saga]:2011/07/05(火) 21:31:08.99 ID:yNr4V3Qe0


17000『お耳汚しをして大変失礼しました、インデックスさん』


イン「あ、管理人さん」


17000『害虫は駆除しておきましたのでどうかご安心を』


イン「鈍器で頭を殴ったような音がしたんだけど」


17000『話は聞かせていただきましたよ。どうか私にも協力させてください』


イン(わーお、スルー)


17000『やはりここはインデックスさんの武器をフルに活用すべきです』


イン「私の武器? 『魔滅の声』でみことの中学時代を糾弾すればいいのかな?」


17000『それでは立ち直れなくなる可能性がありますよ』


イン「ですよねー」

82 :小ネタ「シスター」[saga]:2011/07/05(火) 21:32:11.62 ID:yNr4V3Qe0



17000『あなたの長所、それはごくごく稀に表に出る「聖母」属性です』


イン「『聖母』だなんてそんな畏れ多い……」


17000『この場合の「聖母」とは私の持つ「寮母」属性をつきつめた先にある境地を指します』


イン「ダーウィンも爆笑ものの進化論だね」


17000『お姉様はその立場上、常に誰かに頼られる人生を送ってきています。
    学び舎の後輩然り、模範生徒として扱う大人たち然り、私たち然り』


イン(聞いてないし)


17000『男性ならお義兄様が不動のポジションを築いていますが、
    女性という観点に立てばあまり一緒に過ごす機会の無いお母様ぐらいのものなのですよ』


イン「じゃあ、そこにつけこめば?」


17000『お姉様を攻略できる確率はMNWの試算によれば78%です』

83 :小ネタ「シスター」[saga]:2011/07/05(火) 21:32:58.05 ID:yNr4V3Qe0


イン「攻略…………とうまになった気分だなぁ」


17000『まあお義兄様が意図して攻略した相手は当のお姉様ただ一人ですが』


イン「むむ、じゃあとうまのやり方を参考にすればいいのかな」


17000『あなたはそういえば二人がくっつく過程を目の当たりにしているのですね』


イン「……………………うん。いやー、あれは見ててホントに面白かったかも!」


17000『…………しかしあの方の場合は少々…………いや結構………………
   いやいやすこぶる、特殊な状況だったと聞きますが。主に不幸のせいで』


イン「…………良く考えなくても再現は無理だね、あんなの」


17000『ですから私の提言に従って頂ければ』


イン「そうする。ありがとね!」


17000『いえ、お役に立てて幸いですよ、インデックスさん。では失礼します』


イン「じゃあね!」ピ

84 :小ネタ「シスター」[saga]:2011/07/05(火) 21:33:49.13 ID:yNr4V3Qe0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


イン「かくかくしかじかで、みことと姉妹(スール)の契りを結ぶ算段が付いたんだよ!」


ステ「はあ」


真理「はー」


イン「みことが仕事から帰ってきたら実行に移すけど、その前に二人の意見を聞きたいかも」


真理「すーるってなーに?」


ステ「…………真理には無理だろう」


イン「じゃあステイルは?」


ステ「ああ、凄く良いと思うよ………………………………………………………………どうでも」


イン「だよねだよね!」


ステ(やれやれだ)

85 :小ネタ「シスター」[saga]:2011/07/05(火) 21:34:40.53 ID:yNr4V3Qe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ガチャ


美琴「真理ちゃんただいまー!」


真理「おかえりなさい、まま!」


ステ「僕らもいるんだがね。おかえり」


美琴「ごめんごめーん。ただいまステイル、インデ…………」




イン「お帰りなさい、『美琴』」キラキラキラ


美琴「!?!?!?」


ステ(まあ、そういう反応になるよね)リョクチャズズズ 


美琴「ちょ、ちょっと! 何でアンタ私立リ○アン女学院の制服なんて着てんのよ!!」


ステ(読んでたんかい)

86 :小ネタ「シスター」[saga]:2011/07/05(火) 21:35:17.02 ID:yNr4V3Qe0


イン「まあ美琴ったら、アンタなんて。いつも通り『お姉さま』と呼んでちょうだい?」ウフフ


美琴「」ゾワゾワゾワッ!!


ステ(美琴がノンケのようで何よりだ)ズズズ


イン「さあ美琴、こっちに来て姉妹の絆を深めましょう?」クスクス


美琴「ちょっとステイルー! アンタこの状況に何か言う事ないわけ!?」


ステ「Something」スッ


美琴「ふざけんなあああ!!! ってどこ行くのよ!?」


ステ「真理とベランダに行っているよ。ああ煙草は吸わないからご安心を」ガラガラ


美琴「逃げんな、いや、逃げないで下さいおねが、ああもう!」パチ


イン「まあそんなに照れないの、美琴ったら…………へ?」ベタベタ


美琴「ひっつくんじゃないわよぉぉぉ!!!」バチバチッ!

87 :小ネタ「シスター」[saga]:2011/07/05(火) 21:36:17.21 ID:yNr4V3Qe0



バリバリバリッ! ドオンッ!



ステ「アーメン」スッスッ ジュウジキル


真理「しゅている、あーめんってなーに?」


ステ「電化製品の冥福を祈る言霊さ。君は使う機会が多そうだから覚えておくといい」


真理「あーめん!」キャキャ


------------------------------------------------------


美琴「言う事はある?」バチバチ


イン「うう…………ありません(かかっててよかったギャグ補正)」プスプス


美琴「だ、だいたいさ。どうしてそんなに私なんかを妹にしたいわけ?
   私なんか生意気で、年上に敬意払わないし、昔は短パンだったし」


イン「みことが可愛いからに決まってるんだよ。あと、一生懸命なところも好きかな」ニコ


美琴「………………い、一生懸命?」カァ

88 :小ネタ「シスター」[saga]:2011/07/05(火) 21:37:07.46 ID:yNr4V3Qe0


イン「まことが生まれてから今まで、みことはずっと走ってるでしょ」


美琴「……そりゃそうでしょ。子供の教育には妥協したくないもん」


イン「(その割には甘やかしてるけど)疲れた時、ちゃんととうまに寄りかかってる?」


美琴「…………ツンケンしてた頃の私じゃないんだから、大丈夫、よ……」


イン「うんうん、とうまはここ一番では頼りになるもんね。でも」


美琴「!」


イン「とうまに言えない事だって、あるよね? 男と女、なんだから」


美琴「な………………無い、とは言わないけどさ」


イン「そういうのを聴きたいから、みことのお姉さんになって私も頼られたいんだよ」


美琴「…………………………いんでっくす」


イン「なあに?」ニッコリ

89 :小ネタ「シスター」[saga]:2011/07/05(火) 21:38:11.88 ID:yNr4V3Qe0


美琴「いいの? だって、だってそんな酷い事」


イン「いいよ。だって私は、とうまもみことも大好きだから」


美琴「…………いんでっくすぅっ……!」ガバッ!


イン「よしよし。お姉ちゃん呼びはまだ早いかな?」ダキッ ナデナデ




美琴「…………………………………………………………………………聞いてくれる、お姉ちゃん?」


イン(………………キ、)


美琴「私ね、会心のゲコ太コレクションを真理ちゃんに『ハン!』って鼻で笑われちゃってね」




イン(キタ━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(。  )━(∀。 )━(。∀。)━━ !!!!)




美琴「当麻に言っても『( ´_ゝ`)フーン 』だし、もう私どうしたらいいのか」

90 :小ネタ「シスター」[saga]:2011/07/05(火) 21:39:15.50 ID:yNr4V3Qe0

-----------------------------------------------------------------


真理「いんでっくしゅ、くるくる!」キャッキャッ


ステ「仲良き事は美しき哉、だったっけな…………日本とは、おかしな国だ」


真理「あんなのを日本代表だと思って欲しくないなぁ」


ステ「!?」





美琴「それでね、劇場版の試写会には結局私一人で、仕事の合間を縫ってね」ハグハグ


イン「キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!」ナデナデ


美琴「書斎をゲコ太部屋に改装しようと思ったら二人に失笑されて頭に血が上っちゃって
   ついつい机をバン!! って叩いたら腕折れちゃって」


イン「腕もろっ!」


真理「カエルとかないわ(笑)」


イン「!?」



オワリ

91 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/05(火) 21:40:18.16 ID:yNr4V3Qe0


天丼とかないわ(笑)

まだこのネタは膨らむ予感がします

ではまた明日



97 :冥土返し編[saga]:2011/07/06(水) 20:05:24.34 ID:DP8T5YLe0


七月十一日

第七学区 とある病院 待合ロビー



ステ「げほっ、かほ! 調子に乗って歌い過ぎたか……?」

イン「受付済ませてきたよ、ステイル」

ステ「ああ、ありがとう。もしかして、あの医者に掛かる事になるのかな」

イン「お尻と、喉と、胃に肺の検査をいっぺんにやってくれるのなんてあの先生ぐらいじゃん」

ステ「それもそうか。彼に診察してもらうのは初めてだね」

イン「え、そうなの? 結構意外ですの」

ステ「…………どういう意味かな」



イン「だってちょくちょく学園都市に来てたんでしょ?」

ステ「上条当麻じゃあるまいし、仕事の度に大怪我してられないよ」

イン「……そう、だよね。良かった」ニコ

ステ(………………まあ、だからこそ僕はヒーロー足り得ないんだろうな)

98 :冥土返し編[saga]:2011/07/06(水) 20:06:04.56 ID:DP8T5YLe0



イン「ステイル、バカな事考えてるでしょ」

ステ「ば、馬鹿とは何だい」

イン「それはみさきでもないと分からないけど。
   でも、きっと自分を傷つけるような事を考えてたに決まってるよ」

ステ「……勝手に決め付けないでくれ。心理掌握でもなければ無理なんだろう」

イン「わかるもん」

ステ「なぜ?」



イン「ずっとあなたの顔を見てたから」



ステ「…………貴女は」

イン「私がこの五年いちばん一緒に過ごしたのは、あなたなの。それは、事実だよね?」

ステ「……最大主教」

イン「すている……」

99 :冥土返し編[saga]:2011/07/06(水) 20:07:23.10 ID:DP8T5YLe0



ミサカ19090号「……………………あのー」

イン「きゃわわわわわっ!!!」

ステ「ぬおおおおおおっ!!! な、何だいきなり!」

19090「いえ、先ほどから三回程お呼びしていますよ。ステイル=マグヌスさん?」

ステイン「へ」

 
ワカイッテイイデスネトミサカハ マッタクチカゴロノコイツラトキタラ

ヘッダガタリナイ コウキョウノバダトイウコトヲカンガエテホシイデストミサカハ

サッソクネットワークハイシンヲ ニャー ヒトリモノニハメノドクデストミサカハ


       ザワ ザワ ザワ ザワ


19090「お二人の世界にダイヴされてたようですね、
    とミサカはこんな公衆の面前で見つめ合うおバカさん達に嘆息します」

ステ「ぐぐ……ちょっと待て、『妹達』が多すぎるんじゃないのか?」

イン「そ、そういえばざっと見まわしただけでも五人は居るかも」

19090「まあ私たちはこの病院の看板ナースですから」フフフ

ステ「今すぐ帰りたい……」ゲンナリ

イン「そういうわけにはいかないじゃん!」


100 :冥土返し編[saga]:2011/07/06(水) 20:08:33.85 ID:DP8T5YLe0


19090「いい加減に行きましょう。先生もお待ちですよ」

イン「あ、ごめんなさい。ほら行こ、ステイル」

ステ「貴女はここで待っててくれてもいいんだよ」

イン「だーめ。悪い診断されたのに黙ってるとかやりそうだもん」

ステ「そんな事はしやしないし、仮にしたところで僕の自由だね」

イン「あなただけの身体じゃないの! もしもの事があったら、私…………」グス



ステ「……ごめん」ナデ

イン「一緒に連れてってくれたら、許してあげるかも」イチャイチャ

19090(この二人の間にどんな障害があるのか全く推測が立ちません、とミサカは(ry)

101 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:09:49.71 ID:DP8T5YLe0


診察室


コンコン


冥土帰し「どうぞ?」


ガチャ


19090「お連れしました、先生」

冥土「ご苦労だったね?」

19090「いえ、それでは私は仕事に戻ります」

冥土「君、前々から言ってるが無理なダイエットは禁物だよ?」

19090「ケフッ!! ……失礼します」ソソクサ


バタン


冥土「さて…………ご無沙汰だったね?」

102 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:10:52.44 ID:DP8T5YLe0


イン「お久しぶりです、先生」ペコリ

冥土「はっはっは、ずいぶん礼儀正しくなったね?」

イン「う。子供扱いしないで欲しいかも」

ステ「僕の事も覚えておいでで?」

冥土「患者の顔なら大抵記憶しているんだが、君は特別だね? 
   まあ、爆発する手紙の配達人にされればそりゃあ忘れないさ」

ステ「う」

冥土「まあ若いころを思い出して身を捩るのは大人になった証拠だね?
   …………そう言えば、『彼女』はロンドンではどうなのかな?」

イン「その人なら『愛しのお兄ちゃん』と仲良くやってるんだよ」

ステ「仲が良すぎて困るがね」ハァ

冥土「それは良かったね? 僕のやり残した仕事を完遂してもらったんだ、礼の言葉も無いよ」

イン「そんな…………大それたことじゃ」

冥土「謙遜の必要はないと思うけどね?」

ステ「………………」

103 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:11:56.30 ID:DP8T5YLe0




冥土「しかし君たち、明日の便で帰国すると聞いたんだがね?
   こちらで病院にかかっている暇などあるのかい?」

イン「あ、それは……」

ステ「多少予定を詰めてでも診てもらう価値がありますよ、貴方にならね」

冥土「おだてても無駄だよ? 僕は常に最高の治療を心がけているからね?」

ステ「はは、頼もしい」

イン「みっちり隅々まで診て欲しいんだよ、先生!」



冥土「ではそろそろ、医者として仕事をさせてもらおうかな。 
   …………えーっと、ステイル=マグヌス君と」

ステ「……と?」




冥土「付き添いはインデックス=マグヌス君で間違いないね?」




ドンガラガッシャーン!!


104 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:12:47.28 ID:DP8T5YLe0




冥土「おいおい、デリケートな機器や薬品もあるんだ。気を付けてくれないかね?」

ステ「最大主教ゥゥーーーッ!! こ・れ・はどういう事なんだ!?」

イン「だ、だって付き添いは家族じゃないとダメだ、って受付で言われたからしょうがなく」

ステ「なぜそんな摩訶不思議なルールがまかり通っているんだ…………!」

冥土「僕が制定したんだよ。君たちから今朝電話で予約があった時点で急遽ね?」

ステ「くそっ、貴方もか! どいつもこいつも!!」



冥土「待合ロビーでも三回ぐらい呼んだと思うんだけどね?
   『イギリスよりお越しのステイル=マグヌスさん、
   付き添いのインデックス=マグヌスさん。診察室へお入り下さい』って」

ステ「ちょっと待てえええ!! 昨日(テレビ中継)の今日でそんな事をされたら……!」

冥土「今ごろは『最大主教既婚者説』が院内で流布してるかもしれないね?」

イン「あ、あわわ(でもそれはそれで……)」

ステ「どうしてこうなったあああああ!!!!!!!!」

105 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:13:44.65 ID:DP8T5YLe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


冥土「喉の痛み、カラオケで熱唱しすぎ……とりあえず口の中を見せてもらうよ?」

ステ「」チーン

イン「ステイル、ガンバ!」

ステ「十年前でも古いわ! くそっ」アーン

冥土「………………ふむ、ただの炎症だね? トローチで充分かな。では次」

ステ(早いな…………)



冥土「臀部を九十発ほどひっぱたかれる……昨日のアレか。
   僕は仕事中で見ていないんだが、テレビのあるロビーは爆笑の渦だったね?」

ステ「…………Son oF A bitch!」

イン「言葉づかいが悪いですの」

冥土「じゃ、下を脱いで」

イン「!」カァ

ステ「…………出て行ってくれ」

106 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:14:27.96 ID:DP8T5YLe0

イン「えー? それじゃあ付き添い人としての役目が」

ステ「いいかい、三度は言わない。出て行くんだ」

イン「はーい」シブシブ

ステ「渋らないでくれ…………なにやら切ない気分になる」



バタン



冥土「それじゃ脱ごうか」

ステ「お断りする。尻が云々は彼女が勝手に言ってるだけで、実際は大した痛みじゃないんです」

冥土「そんなものは素人の浅い判断だよ? 
   まあ確かに歩き方や筋肉の張りに異常は見られないから、
   脱ぐのは止してレントゲンを撮るに留めておこうかな?」

ステ「服の上からでもおわかりになるんですか」

冥土「僕ぐらいになると脱がずともね。
   それにしても脱ぐ気がないならどうして彼女を外に追い出したんだね?」

ステ「『脱ぐ』を連呼するのは止めてください! …………実は、少し頼みが」

107 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:15:23.35 ID:DP8T5YLe0







診察室前



イン「冷静になるとあの場に残りたがるなんてもの凄くはしたないんだよ……」ハァ


イン「でも、すているの事考えてると最近…………」

番外「最近?」

イン「胸の痛みが前より大きくなってて…………って!」



番外「どうもー、お久しぶり」ピチピチナースフク

イン「わーすと……! その格好って」

番外「聞く必要ないでしょ? ミサカは当院の看板娘なんだから」

イン「…………わーすとの治療はなんとなく受けたくないじゃん」

番外「(ヨミカワ?)ひっどーい。言いたい事はわかるけどさ?」

イン「ちなみに担当の科は?」

番外「心療内科」

イン「この病院危ないかもーーーーっっ!?」


108 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:16:11.50 ID:DP8T5YLe0


番外「早めの休憩時間もらったからぶらついてたんだけど。アナタを見つけたからさ」

イン「私はこの部屋にいるステイルの付き添いで来たんだよ」

番外「……ああ、昨日散々叩かれてたもんねぇ。ミサカもテレビ見て興奮しちゃった☆」

イン(ミサカDNAの汎用性がヤバイ)


番外「ステイルさんか…………ねぇ、恋人なの?」

イン「…………違うよ。みさかねっとわーくで知ってるんじゃないの?」

番外「私、あんまネットワークには接続しないの。コレといった理由はもう無いんだけどね」

イン「聞かない方が良い話かな?」

番外「その方がありがたいかな。いや、でも……」


イン「大丈夫? 言いたい事があるなら遠慮しないでね」ニコ

番外「…………アナタって、結構聞き上手なの?」

イン「シスターだから当然じゃん!」

番外「そういう職業的技能を超越してると思うんだけど。
   でも考えてみれば、アナタはミサカの先輩に当たるんだよね」



イン「……………………失恋の、ね」


109 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:17:01.35 ID:DP8T5YLe0




イン「この間は、ロクにさよならも言えなくてごめんね」

番外「頭下げないでよ、悪いのはミサカなんだからさ」

イン「あの後はどうしてた?」

番外「んっと、アナタが『くーるびゅーてぃー』って呼ぶ子のアパートで、
   一晩中飲んで泣いてた…………アナタはどうだった?」

イン「結婚が決まった後って意味なら…………人生で初めて、ヤケ酒ってヤツをしたんだよ」

番外「………………私たちってさ」

イン「うん」



番外「アナタはお義兄様が好きだったけど、お姉様に勝てなかった」

イン「でもあなたは、らすとおーだーを決して嫌ってなんかいない」

番外「だって、可愛い妹で、頼りになる姉なんだから」

イン「好きになりこそすれ、嫌いになんてなれるはずないよね」

110 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:17:57.27 ID:DP8T5YLe0




番外「アハハハ! 何これ、ミサカたちってビックリする程そっくりさんだね!」

イン「いまだにその男性(ひと)を愛してるって点まで含めてね」

番外「! アナタ…………」

イン「おかしいよね? 本来なら、五年前に諦めてるべきなのにね」

番外「……諦めるとか、そう言う話じゃないじゃん」

イン「…………」



番外「私はこの世に生み出された時から、あの人の為だけに存在してたんだ。
   たとえそれがどんな腐った理由で、どんな汚らわしい目的だったとしても」




「私の生きる道は――――あの人なくしては在り得ないのに」





111 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:19:10.07 ID:DP8T5YLe0



「……私も。私の人生は、あの人が救ってくれたから始まったの」



――――私と一緒に、地獄の底までついてきてくれる?――――



「あの人の、とうまの為に生きるのが、この上ない幸せだった」




番外「そんなに好きなのにさ。振られたからって他の男を好きになれるもんなの?」

イン「……正直に言っちゃえば、私自身も意外だったんだよ。
   とうま以外の人を愛するっていう感覚が、自分の心じゃないみたいだった」

番外「………………良いなぁ」

イン「決して、良いとは思えないけど?」

番外「一般論ではだよ? 恋なんて破れるのが普通、また次のを探すのが女の常じゃない」

イン「…………私の周りにも沢山いるかも、そういえば」

番外「でしょ? 一人の男しか眼中に無いミサカって異常なのかな、とか思っちゃうわけよ」

イン「そんなことない、って言ったら自己弁護になっちゃうかな」クス

112 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:20:24.68 ID:DP8T5YLe0



ガチャ



ステ「待たせたね…………おや」

イン「あ、ステイル!」

番外「ちぇー、いいところだったのに」

ステ「? お邪魔をしてしまったかい?」

イン「だいじょぶかも。中に戻ってもいいんだよね?」

ステ「ああ、もういいよ」

番外「短い間だけど話せて楽しかったよ。じゃあ……」



イン「ちょっと待って」

番外「え、なに?」

イン「番号とアドレス、交換しよう?」

番外「! い、いいの? 宗教家のお偉いさんの番号なんて」チラ

113 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:21:17.87 ID:DP8T5YLe0


ステ「プライベートを制限するほど、イギリス清教は閉鎖的ではないよ」

イン「わーすとが嫌じゃないなら。どう?」

番外「よ、喜んで! いやー、何かミサカすごい番号ゲットしちゃったな」イソイソ

イン「『妹達』も二十人ぐらい登録してあるよ、私」ポチポチ

番外「(案外レアでもなかった)……完了! 今夜電話していい?」

イン「いつでもOKなんだよ」

ステ「イギリスに帰った後は、時差を気にしてくれるとありがたいね」

番外「あっは、神父さんって石頭かと思ったら意外に話せるじゃん」

ステ「……油を売ってていいのかい、看護士さん?」

番外「ざんねーん、まだ休憩時間で…………アレ?」



ミサカ13577号「油売りから本職へ復帰する時間は、とっくに過ぎていますよ番外個体」

番外「ひっ!?」

イン「あーあ」

ステ「だから言ったろう」ハン

114 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:22:16.53 ID:DP8T5YLe0



13577「三十分オーバーですので三百分ほど余計に働いてもらいましょうか」

番外「ち、巷で節電が叫ばれるこのご時勢に残業を推進する様な発言は如何なものかと」

13577「なるほど、では明日の朝は五時間早く出勤してもらいましょうか」

番外「わ、わかった! ミサカが悪かったからせめて睡眠を二時間は確保させてええ!」



ヘルプミー!! ユーキャンノットエスケープフロムミー トミサカハ



イン「またねー」フリフリ

ステ「さて、次は貴女がうるさかった肺の検査結果だ」

イン「うるさいなんて言い方は無いと思うよ! ロリコン疑惑の原因でしょ!」

ステ「それは貴女が吹っかけてきた言い掛かりだろうが! 疑惑もクソもあるかッ!」

イン「いーや、アニメで年齢に言及されなかった理由はもはや誰もが知ってるんだよ。
   そのせいで私や小萌に絡むのを見たアニメからの人が誤解するんですの!!」

ステ「やめんか! この際どい話をこれ以上続けるつもりはない!! 僕は診察室に戻るぞ!」

イン「ハイハイ死亡フラグ死亡フラグ」

ステ「やかましい!」

115 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:23:25.64 ID:DP8T5YLe0



診察室



冥土「病院なんだから君たち、少し静かにしてくれないかね?」

ステ「…………し、失礼した」ペコ

イン「ごめんなさい……」ペコリ

冥土「さて、奥さんが最も心配していた煙草の吸い過ぎについてだね?」

ステ(反応したら負けかな、と思ってる)ピクピク

イン(しっかりこめかみが震えてるかも)



冥土「一日平均四十本、これはヘビースモーカー一歩手前の数字だね」

イン「え!? そ、そんな程度だったの!?」

ステ「僕を何だと思ってたのかな」

イン「ガチガチのヘビースモーカー」

ステ「はぁ…………否定はしないがね。最近減らしたんだ」

116 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:24:41.51 ID:DP8T5YLe0


冥土「検査の結果も今のところ正常。あまり煙を深く吸わないようにしてるのかな?」

ステ「ここ五、六年は、そう心がけていますよ」

イン「じゃ、じゃあ何も心配要らないの?」

冥土「エックス線検査は決して万全じゃないんだけどね? 
   まあそこは学園都市製という事で一つ」

イン「さすが学園都市製じゃん!」

ステ(言い訳じみて聞こえるのは、僕が穿った物の見方をしているからだろうか……)



冥土「とは言えやはり健康の為には禁煙すべきだ、と医者としては言わざるを得ないよ?
   減煙はいつから、どのくらいの本数から始めたのかな?」

ステ「それは、言わなければいけないのですか?」

冥土「もちろん強制はしないよ? ただ今後の事を考えればね?」

イン「ステイル」ジトー

ステ「…………はあ。およそ四カ月前に始めました。だいたい月百本から七十本に」

冥土「それはそれは。よく減らせたね?」

ステ「………………別に」

イン(あれ? 四か月前?)

117 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:25:46.08 ID:DP8T5YLe0


冥土「今の本数にしてからはどのくらいかな?」

ステ「だいたい一月です」

イン(………………)

冥土「ふむ。減煙と言うのは普通、禁断症状を増幅させるばかりで良い事無いんだがね?」

ステ「ストレスがどうこうする世界はもう通り過ぎましたよ……」トオイメ

冥土「……むしろ胃の方が深刻そうなんだね? 禁煙するだけの精神力はあるようだから」



イン「あの、ステイル。聞いていい?」

ステ「なにかな」

イン「タバコ減らした切っ掛けなんだけど。私の自惚れじゃなかったら……」

ステ「遠慮する事はないよ」

イン「その。私がダイエットしてるから?」

ステ「…………ああ」

イン「じゃ、じゃあ…………私のご飯の量が普通になったら?」

ステ「禁煙するよ、貴女の望み通りに」

イン「!」

ステ「十字の前で誓ってもいいさ」

118 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:27:35.49 ID:DP8T5YLe0


イン「……ニコチンとタールの無い世界は地獄だって言ってたよね?」

ステ「…………貴女と一緒なら、地獄も悪くはない」

イン「え?」

ステ「あまり積極的に、というのはゴメンだがね。
   無力な僕に出来るとしたら、これが限界さ」

イン「………………やっぱりばかだよ、すている」ギュ

ステ「かもしれないね」ス



冥土「ご両人、申し訳ないがこの後も診察はあるんだがね?」

ステイン「!!!」ガバッ!

冥土「磁石みたいな反応だねぇ、くっついたと思ったら離れて」

ステ「そ、そこまで密着してはいない!!」アセアセ

イン「そーだよね、すているハグは絶対してくれないし」ボソボソ

冥土「…………はぁ、最後は胃カメラを飲んでもらうよ?」

119 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:29:06.84 ID:DP8T5YLe0


十分後


ステ「もう少し苦しいものだとばかり思っていたよ」

イン「さすが学園都(ry」

冥土「それを抜きにしても胃カメラ技術は進歩しているからね。世間一般のイメージも今は昔、さ」

ステ「それで、結果は……?」オソルオソル



冥土「僕を誰だと思っている?」キリッ

イン「……先生、名台詞を使うのがワンテンポ早いんだよ」

冥土「おや?」

ステ「いやだから、とりあえず結論をお願いします」

冥土「まあよくもここまで荒れてるものだね?」

ステ「やっぱりか…………」ズーン

イン「先生でもどうしようもないの?」

冥土「ふっ、僕を誰だと思ってる? 特製の特効薬を投与するから安心したまえ」

イン「感動も半減なんだよ」

ステ「さっきの今だからな…………」

120 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:29:54.54 ID:DP8T5YLe0




冥土「これで診察は終了だよ。後はロビーで待っててくれ」

ステ「その前に、少しだけいいだろうか」

冥土「……あまり言いたくはないが、手短にしてくれると嬉しいね?」

ステ「一つ、質問するだけですよ」

冥土「なら構わないかな」







ステ「貴方はアレイスター=クロウリーの生死をご存知ですか?」







121 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:32:02.76 ID:DP8T5YLe0

冥土「………………なぜ、僕にそんな事を?」

ステ「貴方の患者なんでしょう、奴は」

イン「イギリス清教には、彼専用に組み上げられた探知術式があるの」

ステ「三年前。アレイスターが上条当麻に敗北したその日以来、反応は皆無ですが」

冥土「ならばきっと、彼は今この世に居ないんだろうね?」

ステ「知らない、と言う事でよろしいですか」



冥土「……認めたくはないね。自分の患者が、己のあずかり知らぬ処で死んだなどとは」

ステ「! だが奴はこの箱庭を創り、数多の悲劇を産んだ男だ。それでも貴方は……」

冥土「誤解を恐れずに言おう。僕は彼を救った事を後悔などしていない」



イン「………………そっか。先生はお医者さんだもんね」

冥土「その通り。医者は目の前の命を救うのが使命。
   更に言うなら、結果として現れるモノは宿業なんだよ。
   そこから目を背けるつもりは、ないさ」

ステ「…………思いの外、長引いてしまいましたね。最後にあと一つだけ」

冥土「どうぞ?」

122 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:32:50.85 ID:DP8T5YLe0






ステ「もしも今、彼が貴方の眼前で倒れ伏していたら?」




冥土「助けるよ、もちろん」




ステ「――――わかりました。では今度こそ、失礼します」

イン「さようなら。お世話になりました、先生」

冥土「………………お大事に」


ガチャ パタン






「僕の仕事はどこまで行こうと治す事のみさ。なあ、アレイスター?」






123 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:36:27.64 ID:DP8T5YLe0


生徒の身に降りかかっていた悲劇を知り、心を痛めた女がいた。


悪魔の目から家族を守るため、多くを失った男がいた。


深い深い電子の闇から、いまも抜け出せない男がいた。

    じっけん
狂気の沙 汰の後遺症を、振り払おうともがく人々がいた。


暴かれた裏側に、世界の在り様を見つめ直した女がいた。


決して消えない爪痕と共に散った、一〇〇三一の命があった。



「私たちの問題なんて、ちっぽけなものに思えてしょうがないね」

「…………実は僕も、そうじゃないのかと自問してしまった」


男女の心の機敏など霞む、血で記された脚本がそこかしこに存在していた。

陳腐なラブ・ストーリーの登場人物が、場違いを知覚しても無理からぬ事であった。


「その中で強く生きている人達に比べて、私は

124 :冥土帰し編[saga !美鳥_res]:2011/07/06(水) 20:37:39.19 ID:DP8T5YLe0









                        そんな事はないだろう








125 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:38:15.09 ID:DP8T5YLe0




 ……………………え?」



126 :冥土帰し編[saga !美鳥_res]:2011/07/06(水) 20:38:55.53 ID:DP8T5YLe0





            少なくとも私は、君たちが演出し、出演するこの舞台を





                 とても楽しく拝見させてもらっているよ





127 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:39:52.19 ID:DP8T5YLe0





「どうかしたのかい、最大主教?」





128 :冥土帰し編[saga !美鳥_res]:2011/07/06(水) 20:40:23.84 ID:DP8T5YLe0





                いま
                現在の私にとって、ただ一つの愉しみなんだ






                     どうか、失望させないでくれよ






129 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:41:00.01 ID:DP8T5YLe0







「――――――――――――――――――」






130 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:42:11.57 ID:DP8T5YLe0


「最大主教、おい! 聞こえているかい!?」



聞きなれた声で、瞬きすら忘れていたインデックスの瞳に光が戻ってきた。

何者かの声に聴き入っているようだった、とステイルは根拠も無く直感した。

周囲ではこれまでと変わらず、生温かい活気がBGMを務めている。



「ごめんなさい、ステイル。ちょっとお花摘みに行ってくるね」



何事も無かったのように微笑み、女はやおら立ち上がった。

ステイルは続けて質そうとするが、一瞬早く彼女は小走りで去ってしまった。

呼気の行き場を失った神父の視線の先で、その手が修道服の内側をまさぐる。





腕が伸びた先には、携帯電話が仕舞ってあったはずだ、とステイルは思い出した。






131 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:42:57.04 ID:DP8T5YLe0

------------------------------------------------------------------


とある日、とある時、とある場所。

明りの灯らない静謐な、広々としたスペースに四つの影が在った。


「……なぜ、計画を変更した?」


沈んだような低い声。


「怖気づいたの? いつもの強気はどこに消えたのかしら」


弾むような高い声。


「いけませんね、喧嘩腰では。まずは言い分を聞こうではありませんか」


張り付けたような明るい声。


「完璧な遂行のため、だ」


――そして燃えるような、しかし昏い声。


132 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:45:39.42 ID:DP8T5YLe0



「日取りを変えただけだ。単純極まりない内容に変更点は無い」

「ま、そりゃそうよね」

「予定通り、第一一学区のゲートから私が先駆けすればいいんですね?」

「おのおの、過ぎた相互干渉は不要という点も変わりないな」


連帯感をまるで感じさせない好き勝手な言い草が飛び交った。

しかしリーダー格らしい男はまるで気にも留めず、一つ大きく頷いた。


「決行は、七月十五日未明」


幽かな月明りの差し込むステンドグラスの瞬きに向けて、

己に酔いしれるかのようにその両の腕が空に伸ばされる。

他の三人の視線が、思い思いの色を帯びて自然と一点に集中した。





  かがく
「学園都市に、立ち直れない痕を刻んでやろうではないか」






133 :冥土帰し編[saga]:2011/07/06(水) 20:46:23.57 ID:DP8T5YLe0

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OUT

心理掌握
粒子加速器
最終信号    ⇒冥土返しが胃カメラの片手間に十分でやってくれました
警備員ですの!
警備員じゃん      

IN

冥土返し ←New!


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134 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/06(水) 20:48:20.63 ID:DP8T5YLe0


続くんだね?


前スレラストのアンケート結果はまだ反映されていないのでご安心を
まだまだこの程度のいちゃいちゃでは済まさんよ

次回より伏線回収タイム…………のはずでしたが
>>1がそろそろ修羅場に入るので投下頻度を週一ぐらいに下げようと思います
七月いっぱいはそんな感じやもしれますん
とか言っといて調子に乗って明日来るかも

136 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/06(水) 21:08:21.48 ID:DP8T5YLe0
なんかおかしいと思ったらひとつ飛ばしてました

>>122 と >>123
の間に以下のレスが入ります
137 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/06(水) 21:08:54.67 ID:DP8T5YLe0

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控え目な賑やかさの雑居する待合ロビーに戻ってきた二人は、疲労感と共に着座した。

先ほどの騒動にも関わらず患者たちの注目が良くも悪くも目立つこの男女に集まらないのは、

ステイルがいつもより念入りに『神隠し』の術を行使しているからである。

処方箋の発行を待つあいだ、二人の口数はやや少なかった。



「この街に来て、いろんな人に会ったね」



インデックスがそう呟いたのは、冥土返しと別れて十分ほどの事だった。

ちょうどその時ステイルは、窓を通して梅雨明けの青空を眺めていた。



「そうだね。本当に、多くの希望と絶望に触れた」



一人の『人間』が播いた、夥しい数の絶望の種子。

そして、抗った『人間たち』から際限なく溢れた、希望と言う名の水。

二人がこの街で目撃したのは、二つの望みがない交ぜになった、科学と言う名の庭園だった。

138 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/06(水) 21:09:54.60 ID:DP8T5YLe0
大変お見苦しいものをお見せしました。
脳内保管をお願い致します。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/06(水) 22:05:23.54 ID:FQ+WOZos0
>>138
よろしい、脳内で十年ほど保管しておこう




143 :小ネタ「サラブレッド」[saga]:2011/07/09(土) 18:15:13.05 ID:kyZzhmVc0



とある日 とある託児所



幼児A「まことちゃん、おれとプリンたべよ!」


幼児B「あー! ぼくがさきにあそぶやくそくしたのにー!」


幼児C「ね、まことちゃん。わたしとおままごとしよ?」


真理「えー? みんないっしょにあしょべばいいじゃん!」


絹旗「真理ちゃんは超いつも通りですね……さすがフラグ夫婦の子です」



ヒョコヒョコ   スタスタ



イン「こんにちは!」


ステ「失礼するよ」

144 :小ネタ「サラブレッド」[saga]:2011/07/09(土) 18:16:12.24 ID:kyZzhmVc0


絹旗「これはこれは。今日はお宅のお子さんのお迎えですか?」シシ


ステ「アホぬかせ」


イン「まことのお迎えに来たんだよ」


絹旗「ええ、上条さんからお電話頂いてますよ」


ステ「じゃあ今の無駄なやり取りはなんだ!」


絹旗「超挨拶がわりですよ…………あれ、裏篤じゃないですか」


裏篤「……こんにちは、きぬはたさん」


イン「りこうからも幼稚園へのお迎え頼まれたの」


絹旗「むむむ、超信頼されてますね」


ステ「日ごろの行いのおかげでね。ところでこの子は大人しいな……」


裏篤「………………」ボー

145 :小ネタ「サラブレッド」[saga]:2011/07/09(土) 18:17:03.82 ID:kyZzhmVc0


イン「私たちみたいな何回も会ってない人の前だからなんだよ、きっと」


絹旗「いえいえ、裏篤はいつもこんな感じですよ。ね?」


裏篤「………………ん」コクリ


ステ「母親似なのかな」


絹旗「私もそう思うんですけど、超馬鹿面は名前がどうとか言ってましたね」


イン「名前?」


絹旗「私も詳しくは超知りません」



トテトテ



真理「あー! いんでっくしゅ、しゅている………………あ」


ステ「迎えに来たよ。…………?」


イン「どうかしたの、まこと?」


絹旗「ああ…………お二人はまだ知らなかったんですね」

146 :小ネタ「サラブレッド」[saga]:2011/07/09(土) 18:17:58.87 ID:kyZzhmVc0


ステ「何の話だい?」


絹旗「真理ちゃんと裏篤の事ですよ」


イン「え? いわゆる一つの、幼馴染でしょ?」


絹旗「超すぐにわかりますよ」


ステイン「?」




裏篤「……まこと、いっしょにかえろう」


真理「は…………はぁ!? にゃにいっちゃってるわけ!?」



ステイン「!?」



裏篤「……おまえ、いつもそればっかだよな」


真理「うっしゃい!! しゃんしゃいとしうえだからっていばんにゃいでよ!!!」

147 :小ネタ「サラブレッド」[saga]:2011/07/09(土) 18:18:43.53 ID:kyZzhmVc0




ステ「これは」


イン「まさか」


絹旗「おわかりだろうか? そう、真理ちゃんは裏篤に対して…………!」





真理「かんちがいしにゃいでよね! うまづらのことにゃんてぜんぜんすきじゃにゃいもん!!」





ステ「ツン…………ッ!」


イン「デレ………………ッ!?」


絹旗「父親からはフラグブレイカー、母親からはツンデレールガンを継承したサラブレッド。
   それが、上条真理ちゃんの超正体なのですッ!!!」


イン「末恐ろしい子ッ…………なんだよ!」


ステ(常時よりボキャブラリーが増えてないかあの子)


148 :小ネタ「サラブレッド」[saga]:2011/07/09(土) 18:19:41.78 ID:kyZzhmVc0


イン「馬面っていうのは…………」


絹旗「ああ、白髪のオジサンと遊んでたらうつっちゃったみたいで」


ステ「oh…………」


絹旗「しかししかし超しかし! 我らが真理ちゃんのポテンシャルはこの程度ではありません!
   神父さん、あの二人を一時的に二人っきりに出来ますか?」


ステ「出来るか出来ないかと聞かれれば、出来るがね」カードスッ


イン「するとどうなるのかな?」


絹旗「もちろん見てからの超お楽しみです」


イン「ステイル、GO!」


ステ(悪趣味な大人どもに囲まれて可哀想に……まあ、僕も見たいんだけどね)バラマキ



カミカクシー




149 :小ネタ「サラブレッド」[saga]:2011/07/09(土) 18:20:44.03 ID:kyZzhmVc0



裏篤「…………!」スッ


真理「ちょっ、いきにゃりちかづかにゃいで…………あれ、せんせーは?」


裏篤(しんぷさんがなにかしたのかな)


真理「み、みんなどこー?」


裏篤「……おちつけ、まこと」


真理「………………みんな、いないの?」


裏篤「……たぶん」


真理「………………ふたりっきり…………」




ステ「異変を感じてとっさに真理を庇ったね」←すぐ近くで見てる


絹旗「ふふふ、ウチの裏篤はなかなかの紳士でしょう?」フンス


イン「この後何が起こるのかな?」ワクワク

150 :小ネタ「サラブレッド」[saga]:2011/07/09(土) 18:21:59.11 ID:kyZzhmVc0





裏篤「……しんぱいすんな、おれがいる」


真理「……………………りとくん」ボソッ



ステ「おっ」


イン「これは?」



裏篤「……なんだ、まこと?」


真理「りとくん……えっと…………こわいから、なでなでして?」ウワメヅカイ



ステイン「……………………!!!!」デンリュウハシル



裏篤「……ん」ナデナデ


真理「んにゃあ…………りとくぅん……」ゴロゴロ

151 :小ネタ「サラブレッド」[saga]:2011/07/09(土) 18:23:07.05 ID:kyZzhmVc0




イン「あ、あの歳で………………ッ!!」


ステ「デレを極めている……………………だとおッ!!!」


絹旗「二人の時だけ超素直になる、お母さんとはまた一味違うツンデレですね」


イン「みことは『時間経過型』あるいは『フラグ回収後型』だったからね」


ステ(ツンデレってのは奥が深いな……)




真理「えへへ~…………りとくん、ちゅ、ちゅーして?」


裏篤「………………やれやれ」




絹旗「老若男女問わずの全方位旗立てに加えて、本命へのデレデレスキンシップ。
   …………この超スペック、如何思われますか?」


ステ「ああ、これは確かに」


イン「サラブレッド、かも」



オワリ



158 :小ネタ「表紙」[saga]:2011/07/10(日) 12:44:32.83 ID:yisU3/0j0


イン「ステイルステイル! 新訳二巻の表紙絵が公開されたんだよ!」


ステ「…………ああ、それは良かったじゃないか」


イン「あれ、何そのリアクション」


ステ「もう何回目かもわからない表紙登場おめでとう」


イン「そんな子供みたいな事で拗ねてるの!? 私だって十七巻以来の登場かも!」


ステ「ああ、神裂と仲良さそうにしてたアレね……」


イン「べ、別に良いでしょ、設定上は親友なんだから」


ステ「ちなみに僕は十巻の端に登場したのが最初で最後だ」シュボ


イン「…………い、一応あの絵で私と一緒だったよね!」


ステ「間に年増と歩く18禁を挟んでだったがね」フー


イン「(どんどん傷口が広がってくんだよ)…………あれ?」


ステ「どうかしたかい?」プカー


イン「……よく見たら『SP』の表紙絵も公開されてるんだよ」

159 :小ネタ「表紙」[saga]:2011/07/10(日) 12:46:03.90 ID:yisU3/0j0


ステ「なにっ!? という事は」


イン「良かったね、表紙はステイルとイノケンティウスだよ」


ステ「なん…………だと? いや待て、これは夢だ、夢に違いないね」


イン「現実だよ、ちゃんと向き合って」


ステ「……………………………っしゃああああああああ!!!!
   一巻から出続けている僕にもようやく日の目が当たる日が来たのか!
   神裂なんて四巻でとっくに一人で表紙を飾っているっていうのに、
   僕と来たら苦節――――何年だっけ? まあいいや、この扱いだった!」

   
イン「………………」


ステ「それが、それが遂に! …………おっと失礼、取り乱したね、HAHAHA!」


イン「…………じゃあステイル、もう一つの現実もお目に掛けようね」


ステ「? さ、さっきからなんなんだい?」


イン「簡単な事なんだよ。私の質問に一つ答えるだけだから」


ステ「はあ」


イン「……………………ねえステイル?」

160 :小ネタ「表紙」[saga]:2011/07/10(日) 12:46:42.05 ID:yisU3/0j0



「この可愛い女の子、誰?」


「!? あ、いやその、彼女は別に」


「 だ れ な の ? 」


「単なる、そう、仕事上のアレ、あ、ちょま」




「  す  ー  て  い  る  ぅ  ?  」




 | | ∥ | || ∥ │ | | ∥ |
 | | ∥ | || ∥ │ | | ∥,//
 | | ∥ | || ∥_,,r--、-,. -"/ ,," ;;
 | | ∥.,,. -''" '';;:::;) ゙ 、 ''"",, ゙\
 | | .r'"/;;'' i / \; ;;  i '''ヽ、 ;;:ヾ
 | | .i ,, i '' ! /") )/ ./ヾ' ' 'ヽ  ';i
 | | { ;;::: i | .i//;;i/_,,ソ) , |!ヾ;: |   僕の側に
 | |i.!   | |ノY".'>ミ;;"《_;,ノリノ ! ;;:} /    近寄るなああ
 | ! ヾ  ! ! /゙"..::" 、゙;〉u./ |./ //"''::    ―――――――――ッ!!
 |.i;;::  ::;; ヽ ヽ u  ,- ‐ヘ u// /'  '';:
 | .ノ;  ヽ;;;\i.  〈""" .{ //! _,,,.....,
-''"ノ ,,  ;'ヽ\v ヽ、_)ノ'-―=ニ''''
;;:,  :;;''i  ノ; \、 u ゙'''/<、>< ヽヽ
_,,.,,="-'",,( \ \ -/,/,,,_ /''\,.へヽ
;'"! | ' ,... .,, \";;ヽi_」  へ /\/ヽ
. ! !/ iヽ.\''  )ヽ!゙'''ト-''!\ /i 〉
 '';; { ;" i  ヽ \ ./-i"|::;;;,, /\ >'"r
ヽ;;: / : :'  i " >,゙''‐''ヽ、>::::''"::<>゚。!
ヽ! / / , :./{ ゙),,r-(,_/ !:::::::::> <! ヘ
 Y /= .i , i;;::^'"!  :::i:i i
. ゙〈_ /!  |    !    ! !
   ヽ,,)! i
     ゙-'


終わりがないのがオワリ




164 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:00:59.46 ID:yisU3/0j0


七月十五日 午前六時
 
上条家 ベランダ


「それは、本当なのか?」


『ああ、間違いない。たった今、「吐かせたて」ほやほやのネタだ』


「科学サイドにはこのことは?」


『もう別口で伝えてある。対策は向こうの頭脳が立てるさ。…………問題はお前達だ』


「何の問題があると言うんだい」


『お前は連中の恐ろしさを目の当たりにした事が無いんだ! 今すぐにでも援軍を……!』


「それでは全てが台無しだ。らしくないぞ」


『…………すまん。この件に関しては、オレの失策だ』


「己が身は、自分で守れるさ。僕も…………彼女も」

165 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:02:22.98 ID:yisU3/0j0


『……お前こそ、なんぞ心境の変化でもあったか?』


「彼女は強い。そして、天才だ。それを思い出しただけだよ」


『…………そうか。カミやん”も”いないそうだな?』


「一昨日からアメリカに出張中だ。相当に渋ってたがね」


『あのアマ…………っ!! くそ、お前達はどう動く?』


「決まってるだろう、現場だ」


『確認するまでもないが、最優先事項はわかってるな』


「愚問だ」



ブツッ



「…………長い一日になるな」


166 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:03:18.46 ID:yisU3/0j0


ガラガラ


美琴「あら、こんな朝早くから電話?」

ステ「……ああ、仕事の関係でね」

美琴「仕事ねぇ」

ステ「最大主教は? もう起きてるかい?」

美琴「ええ、まだ寝室だけど。さっきに起こしに行ったら誰かと電話してたわよ」

ステ「電話……そうか、ありがとう」

美琴「何のお礼よ、変なの。今日は出かけるの?」

ステ「ああ。今日は一日忙しいかもしれないね」

美琴「そっちもなの? 実は私も母校で講演しなきゃいけないのよ。
   浜面さんもお出かけらしいし、真理は絹旗さんのところかな」

ステ「……そもそも今日は」

美琴「いいのよ、今回だけはね。私も他の妹達も、行かないって決めてるの」

ステ「………………そうかい」

167 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:04:11.35 ID:yisU3/0j0


美琴「それより我慢できないのはね」

ステ「?」

美琴「今日で六連チャンって事なのよおおぉぉぉぉ!」

ステ「……世の社会人には珍しくもなんともないよ」

美琴「真理ちゃんの相手をロクに出来ずに六日! もう嫌だわ……夜しか寝れてないもん」

ステ「ツッコまないぞ? ツッコまないからな?」

美琴「不幸だわ…………講演会なんて抜け出そうかしら」

ステ「ちゃんと責務を果たせ! いい大人だろうが!!」

美琴「はあああ………………あ、新聞取ってきてちょうだい」

ステ「やれやれ」



スタスタ

ガチャ

ガサゴソ


168 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:04:46.08 ID:yisU3/0j0


ステ「………………これは」ピラ

美琴「どうかしたー? はぁ」

ステ「……いや、今日の予定が決まってね」

美琴「なんか面白いチラシでもあったの?」







ステ「ああ、ちょっとメイド喫茶に行ってくるよ」







美琴「は?」


169 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:05:36.53 ID:yisU3/0j0



午前八時 第七学区 警備員第七三活動支部


ガチャ


佐天「おはようございます!」

削板「おはよう佐天! 朝の挨拶はこうじゃなくちゃな!!」

白井「朝っぱらから頭に響くので遠慮して欲しいですの……」

削板「そりゃあいかん! 軽くランニングしてスッキリしねえと」

白井「隊長の『軽く』は天元突破しすぎですの!」

佐天「あのー、それで何で招集されたんですか? 私これから研修に行くんですけど」

白井「コホン! それでは事態を説明させていただきます。まずはコチラのモニターを」


ブゥン


佐天「これ…………第一一学区の物資搬入ゲート?」

削板「まあ、もう見る影もないけどな」

170 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:06:49.99 ID:yisU3/0j0


白井「今日未明、何者かが警備の最も手薄になる時間帯を狙って正面突破してきたようです」

佐天「正面突破、って! こんなの戦車でも持って来なきゃ不可能ですよ!」

削板「………………あるいは、魔術師か」

佐天「!!」



白井「本部でもその見方が強まっております。もしかすると、『あの二人』が手引きを」

佐天「白井さんっ!!」

白井「……冗談ですの、九割ほどは。彼らの奇妙な動きは上層部も黙認していたようですし」

佐天「ほっ…………それで、私たちはどうすれば?」

削板「皆は警戒だけは怠らず、普段通りの職務に当たってくれ。有事の際には俺が出る」

白井「た、隊長? そのような独断専行はお止しになった方がよろしいかと思うのですが」

削板「むむ、俺の頭ではどうにも上手く説明できねえんだが…………。
   何かあったら、とにかく俺に知らせろ! 責任は俺がとる! ってえ事だ!!」

佐天「…………なんかモーレツに納得いかないんですけど」

白井「とは言え隊長ですし。これ以上訊いてもきっと無駄ですわ」

佐天「それで済むのが七三支部クオリティーなんだよね…………」

171 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:07:33.14 ID:yisU3/0j0



午前九時 第十二学区


イン「…………凄まじい『場違い』を感じずにはいられないんだね?」

ステ「辺りには神学校が割拠しているというのに、まったく」



「お客様は神様~右席に失礼しますご主人様~ベツレヘムの星へようこそ!」



ステ「……………………はあ」

イン「居るのかな、あの人は」

ステ「土御門の情報と照らし合わせるなら、可能性は高い」スタスタ

イン「え、ちょっと。まだ『CLOSE』って」

ステ「貴女がメイド喫茶を満喫したいなら一時間後に一人で来るんだね」

イン「二人で行かないの?」

ステ「男女でこんな独り身御用達の店に来て何が楽しいんだ!」ガチャ

172 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:09:03.11 ID:yisU3/0j0


カランカラン


??「あらお客様、開店時間まではまだありm」ピシ

ステ「すまないが、CEOに話があってきたんだ。今この店に居るんだろう?」

イン「…………聞こえてないよ、固まっちゃってる(かなりの美人メイドかも)」

ステ「おやレディー、どこかお具合でも?」

イン(このフェミニストっぷりが時々憎い…………あれ、私の方見てる?)



??「な、な、『禁書目録』!?」



イン「! 最大主教としてじゃなく、魔道図書館としての私を知ってるって事は……!」

ステ「なるほど、魔術師かい。それなら話が早いな」

??「何の目的で此処に来た!?」




ステ「既に言っただろう。君たちのボス――――フィアンマを出せ、とね」




173 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:10:43.68 ID:yisU3/0j0




同時刻 第七学区

常盤台中学校 講堂


ザワザワ ガヤガヤ


美琴「ふう…………真理ちゃああんん…………」


キビキビ


寮監「おお、御坂……いや上条か。久しぶりだな」

美琴「あ、教官、じゃなかった寮監! お久しぶりです」ペコリ

寮監「誰が教官だ…………しかし感慨深いな。
   あのじゃじゃ馬がこうして壇上で生徒を見下ろす立場になったとは」

美琴「そんな言い方はないですよー。 私だってもう一児の母…………まことちゃぁん」オヨヨ

寮監「生徒の成長を見守るのがこの身の喜びとはいえ、自分が歳をくった事は実感せざるを」

美琴「まこちゃん、ママは一刻も早くあなたに…………ハッ!」

174 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:11:30.45 ID:yisU3/0j0


美琴「あの、すいません!」

寮監「いつまでも行き後れと呼ばれるのは耐えがた……おっとすまない、どうした?」

美琴「私、自分の講演だけ済ませたら帰る、というわけにはいかないでしょうか?」

寮監「…………はあ」



美琴「い、いやだなー。そんなこれ見よがしな溜め息つかなくても」アハハ

寮監「お前は結局のところ相変わらずなわけだ、と思ってな。無理に決まってるだろう」

美琴「ですよね……」

寮監「今日の主賓なんだぞお前は。もっと常盤台OGとしての自覚を持て!」

美琴「はい………………はぁ」チラッ

寮監「今度はどうした」ヤレヤレ

175 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:12:25.50 ID:yisU3/0j0



屈強な黒服達「「「………………」」」



美琴「いえ、今日の警備は昔よりも物々しいな、と思いまして」

寮監「ああ……いつもはもちろんここまででは無いが。
   今日は特別だろう。なにせ巷間で屈指の人気を誇る『超電磁砲』の講演会だからな」

美琴「…………そうなんでしょうか」

寮監「おいおい、九年も経つと性格も変わってしまうのか? もっと自分に自信をだな」クドクド

美琴(……本当に、それだけなのかしら)


(今朝のステイルの様子も少しおかしかったし)


(それにいま、当麻は学園都市には居ない)


(真理に何かあった時――――あの子を守るのは、私の役目だ)

176 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:13:22.49 ID:yisU3/0j0



「…………………………い!」



美琴「ん?」

寮監「……………………いてるのか、上条!!」

美琴「んにゃ、ひゃい!? な、何でしょうマム!!」ビシッ

寮監「誰が鬼上官だっ!! 出番だぞ、早く行け!」

美琴「へ!? も、もうそんな時間!? い、イエスマム!!!」ソソクサ



オ、オマタセシマシター

ワーワーワー ザワザワザワ オオオッ!!!

ミコトサマ! レールガン! ツンデレールガン!

ツンデレッツッタヤツチョットマエデナサイ!



寮監「…………不安だ……いや、こういう時はいま流行りのアレだな」



寮監「不幸の予感だ………………」ハァ


177 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:14:23.06 ID:yisU3/0j0




午前九時半 メイド喫茶『ベツレヘムの星』


スタ スタ スタ


ステ「…………久しぶりだね」

イン「私の昇叙以来だから、もう九ヶ月になるのかな。『右方のフィアンマ』」



フィアンマ「ふっ、遂に俺様の城に足を踏み入れる気になったか。歓迎するぞ」



フィ「それから一つ訂正を求めよう。俺様の事は、ただの『フィアンマ』と呼べ」

ステ「僕らの話はわかってるだろうな、『ただのフィアンマ』」

イン「学園都市に出店したのもこの時の為だったんだね? 『ただのフィアンマ』」

フィ「ん、何をそんなに怒ってる?」

ステ「当然だろうがこのチラシを見ろ!!(ピラ)
   いまだに最大主教の写真を無許可で掲載しやがって!!」

イン(別に私はいいんだけどなぁ、メイド服可愛いし)

178 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:15:20.49 ID:yisU3/0j0


ステ「この一年、会ったら一言くれてやろうと思ってたんだよこっちは!
   なんだこの異様に完成度の高いコラ画像はあああ!!!」

フィ「知っているか? 肖像権侵害は親告罪なのだから本人の訴えが無ければ成立しない」

ステ「……!! そ、そういえば」

フィ「世界を股に掛けるチェーン店の経営者である俺様が、
   その程度の法務知識も備えていないと思ったのか? 底が知れるぞ、ステイル=マグヌス」

ステ「グググググッ!」

イン(華麗に論点をずらされてるんだよステイル……まあ私は別に(ry)



フィ「それで? そんなクレームを付けにわざわざ当店にお越し下さったのか?」

ステ「……Holy Shit! 本題に、入ろう」ギリギリ

イン「(聖職者がその表現はまずいんじゃ)それより私は口調の事が気になるんだね?」

ステ「なぜ僕のトラウマを抉る方向に舵を切るんだ!?」

179 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:16:27.85 ID:yisU3/0j0


フィ「口調?」

イン「最後に別れた時はローラとさいじの喋り方がハイブリッド状態だったね?」

ステ「その組み合わせで何らかの文化的発展が得られるとは思わないけどね」

フィ「ああ…………周りがとやかくうるさかったからな。
   ビジネスに相応しい話し方がどうとか、矯正には苦労したよまったく」



??「ちょっと待て! さも自分の苦労話のように吹聴してんじゃないわよ!!」

フィ「む」

ステ「誰だ!」



??「苦労したのはアンタじゃなくて私でしょうがこのおかっぱ頭!」

イン「あ、さっきのメイドさん」

フィ「なんだ、開店間近だというのにどうして着替えたんだヴェント?」

ヴェント「名前で呼ぶなあああああ!!!!!」

180 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:17:27.95 ID:yisU3/0j0



ステ「ヴェ、ヴェント…………?」

ヴェ「あ、ち、違うのコレは」

イン「えーっと、天罰術式で『0930事件』を起こした、あのヴェントさん?」

ヴェ「いやだから」

フィ「今日は指名予約が三名様入ってるぞチーフメイド」

ヴェ「ちょっとアンタ黙ってなさいよおおおおお!?」

フィ「まあどっちみち今日は開店しないけどな」

ヴェ「がああああ!!! アンタ一発殴らせて頼むから!」グイッ カラン

フィ「どうどう」



ステ「濃厚な同一属性の魔力を感じる……!」

イン「…………別に『前方』は火属性じゃないから、
   ヴェントとすているに属性的な共通点なんて無いよーだ」フン

ステ(そんな意味のわからない機嫌の損ね方をされてもな……(コツン)ん、何だコレ)

181 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:18:30.99 ID:yisU3/0j0






午前十一時 第一学区 統括理事会本部



雲川「………………そうか、その……くれぐれも無茶は」


コンコン


雲川「どうぞ」ピ

親船「あら、芹亜さん。もしかしてお邪魔だったのかしら?」ウフフ

雲川「何か御用で?」

親船「あらあら」

雲川「…………御用をどうぞ、統括理事長……!」

親船「うふふ」


ドン!


雲川「貴女、私をからかいに来ただけだな!?」

182 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:19:25.18 ID:yisU3/0j0


親船「からかうだなんてそんな。芹亜さんも人の子だもの、
   心配で胸が張り裂けそうになっても無理はないわ」

雲川「捏造だけど! それは捏造以外の何物でもな」


prrrrrrr!


親船「どうぞ、出てくださって構わないわ?」ニコニコ

雲川「…………もしもし! まだ何か話が………………へ?」



雲川「ま、間違えたんだ、気にするな!! ……コホン、報告を聞くけど」

親船(あら?)

雲川「!! 付近の捜索は! 検問の設置はどうなっている!!」

親船「……………………あらまあ、もしかして」

雲川「クソッ!」ピ

親船「いけないわ芹亜さん、淑女らしい物言いを心掛けないと」

雲川「それどころじゃあないんだけど」ハァ

183 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:21:14.58 ID:yisU3/0j0


親船「常盤台からの連絡かしら?」

雲川「いかにも。『超電磁砲』が自分の講演時間を終えた途端に消えたらしい」

親船「…………攫われた、という可能性は万が一にも在り得ないのかしら?」

雲川「書置きが控室に残されていたそうだけど」

親船「どのような?」



雲川「『我真理を愛す故に我在り』」



親船「……………………錬金術の極意に辿りついた、とかじゃあなさそうねえ」

雲川「あの親馬鹿娘がぁ……! アイツの性格のどの辺りが『破綻してない』んだ!」ピピピ

親船「あら、今度こそ愛しの旦那様に?」

雲川「やかましいんだけど! ……もしもし、例の番号はしっかり登録してあるな?
   今後はその相手からの指示に従って移動して欲しいんだけど」

親船(お茶でも淹れましょうか。親船最中はまだ動かない)

雲川「……ああ、『超電磁砲』の位置を把握するのもいいんだけど。
   やり方としてはこの手の方が確実だ。じゃ、あ…………」

親船「」コポポポポポ

雲川「た、『大したこと』じゃないけど! ああっと…………ええっと」

184 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:22:49.13 ID:yisU3/0j0






雲川「し、死なないで………………無事で帰ってきてね?」






親船「そろそろ出来たかしら」ツツツ



雲川「うん、うん…………わかった、信じてる」ピ


親船「」ズズズ



雲川「はあ………………」ポー


親船「あらあらまあまあうふふ」



雲川「………………!? ってうわあああああああ!!!!
   い、いま見て聞いて触ったありとあらゆる一切合財を忘れて欲しいんだけど!!!」

親船「若さって、振り返らない事よねえ」ズズ

雲川「振り返りたくないんだけどおおおおおお!!!!!!」

185 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:24:19.79 ID:yisU3/0j0





再び『ベツレヘムの星』



ステ「…………はあ、了承した」ピ

ヴェ「そっちのアンタ! 私の話聞いてたの!?」

イン「ま、まあまあ。私がちゃんと覚えてるから安心して?」

フィ「一時間以上も言い訳めいた身の上話をせずともいいだろう」



ステ「コレは失礼。いまいち要領を得なかったが、話をまとめてもらっていいかな」

イン「ヴェントは三年ぐらい前から、フィアンマの監視をしてたんだね?」

フィ「俺様に言わせれば、勝手に着いてきただけなんだけどな」

ヴェ「私は前教皇にアンタから目を離すな、って言われてるのよ! 誰が好き好んで!」

ステ(ほう)

イン(まさかコレは…………?)

186 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:25:51.35 ID:yisU3/0j0



フィ「その割には喜んで俺様の覇道に手を貸しているじゃないか」

ヴェ「誰がっ!! 生活の糧を得るために仕方なくやってんのよ!」

イン「でも、イギリスに来た時はフィアンマ一人だったよね?」

ヴェ「そ、それは…………」

ステ「最も監視を緩めてはいけないタイミングだと思うけどね」

フィ「万が一、億が一にも自分を知る相手には出くわしたくなかったそうだ」

ヴェ「ん、ぐ………………」

イン「え、ロンドンに知り合いなんて居るの?」

ステ「あるとすれば元ローマ正教のオルソラやアニェーゼ部隊か。
   …………いやいや、『後方のアックア』が居たな」

ヴェ「たとえどこの馬の骨ともわからない魔術師の一人にでも、
   元『神の右席』がメイドやってるなんて知られたら舌噛むわよ!」

ステ「いま僕らが知ってしまったがね。そんなに嫌なら辞めればいいだろう」

ヴェ「……………………」



イン「ねえねえヴェント」コソコソ

ヴェ「……なによ」

187 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:26:42.15 ID:yisU3/0j0



イン「フィアンマってニブい?」ゴニョ

ヴェ「!!!!!!」パクパク

ステ「奴もまた上条当麻の犠牲になったんだ……犠牲の犠牲にね…………」

ヴェ「ど、どどどっど、どういう」カァァァァァ

イン「そっか、ローマは結婚に関してはイギリスより厳しいもんね?」



ヴェ「………………よーし。私に敵意があると見なしたよアンタらぁぁぁ!!!」

ステ(天罰術式はもう使えないだろう……)

フィ「よさんかバカもーん」バチカーン

ヴェ「ごっ、があああああああ!?」ドガッシャーン!



ステ「おい待て…………どういうことだ今のは?」

イン「え? あれ?」

フィ「お前達の用事は、『コレ』に関係しているんだろう?」クク

ステ「…………わかっててやってたなクソ野郎。素晴らしい寄り道の供出どうもありがとう」

イン「琵琶湖を回らずに突っ切るぐらいのタイムロスはしたんだね? …………はぁ」


188 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:27:35.13 ID:yisU3/0j0







「それでは戦争と洒落こもうじゃないか――――『ただの魔術師』どもよ」


















「わ、私を置いてきぼりに、してんじゃないわよ……不幸だ、わ…………」ピクピク


189 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:28:32.28 ID:yisU3/0j0





同時刻 第一三学区 とある託児所



黒夜「いないいない…………」

幼児たち「………………」ゴクリ


バサモサドサッ!


黒夜「おててがいっぱぁーーい!」

幼児「きゃあーーーーー!!」キャッキャッ

黒夜「よっしゃウケたーーーーっ!!!」グッ!



絹旗「海鳥ぃぃ! 超無垢な子供たちになにしでかしてくれてんですか!?」

黒夜「かてぇ事言うなよ最愛ちゃん、こんなに喜んでくれてんだ。今度こそ真理にも!」

絹旗「私の超仕事を増やすなっつってんですよ!!
   何度見せようが真理ちゃんにアレは生理的に無理なんです!
   ちなみに私も見てると吐き気が超こみ上げます」

黒夜「ひでぇ…………」

190 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:29:22.11 ID:yisU3/0j0


絹旗「だいたいあなた、何こんなところで油売ってるんですか」

黒夜「いやそれがさ、今朝から浜面や麦野と連絡つかないんだって。
   ……………………今日は『あの日』だってのにさ」

絹旗「…………麦野はまだわからなくもないですが、超浜面や理后さんまで?」


トテトテトテ


真理「もあいせんせー」

黒夜「おっ真理、ちょうどいいところに」

絹旗「やめろって言ってンでしょうが人の話聞いてンのかァこの田ゴ作がァ!!」



真理「せんせー、まことね。ままに会いたい」

絹旗「え、ええ!?」

真理「さいきんね、ままとおねんねしてないの」グス

黒夜「真理…………」

191 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:30:15.05 ID:yisU3/0j0


絹旗「うーん…………真理ちゃん、ママはお仕事中なんですよ?」

真理「…………うん、おしごと」

黒夜「良いじゃんかよ、講演会ぐらい連れてってやろうぜ」

絹旗「無責任な事言わないで下さい!
   だいたいあの超講演は一般公開されてないはずです」

真理「やっぱり、だめ?」ウルウル

絹旗「んぐ」

黒夜「……どうするよ」



絹旗「…………お散歩行きましょ、真理ちゃん?」

真理「ままのところ!?」

絹旗「それはダメです。だけど、ちょっとでもママの近くに行きましょう?」

真理「んー…………」

絹旗「嫌ですか?」

真理「ううん、おさんぽいく」

192 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:31:46.03 ID:yisU3/0j0


黒夜「おお……最愛ちゃんがちゃんと保母さんしてる」

絹旗「おててを全部切断されたいんですか?」

黒夜「こわいこわーい」

真理「もあいせんせーとおさんぽ!」

絹旗「海鳥も来ますか?」

黒夜「いや、もう少し麦野たちと連絡とれないか試してみるわ」

絹旗「そうですか。じゃあ超準備しましょう、真理ちゃん」

真理「うみどりちゃん、ばいばい!」フリフリ

黒夜「おう、最愛ちゃんをくれぐれもよろしくな」フリフリ

絹旗(…………超愉オブカ・ク・テ・イですね)





193 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:32:43.27 ID:yisU3/0j0


とある路上


ジジジジジ ミーンミーン


絹旗「あっついですねー、お水はちゃんと持ってきてますか?」

真理「カエルのすいとう、あるよ」

絹旗「(美琴さんの趣味ですかね)か、可愛いですね!」

真理「いやぁ微妙」

絹旗「!?」



ジジジジジジジジ ミーンミーンミーン



真理「ままはどっちかな?」

絹旗「そうですねー、超第七学区はここからだと――――」





ジジジジ シ ゙ ミ  ーン   ミーンミ      -ン





194 :神の右席編①[saga !red_res]:2011/07/10(日) 21:35:31.33 ID:yisU3/0j0


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195 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:36:37.26 ID:yisU3/0j0





「――――――!」


絹旗最愛の視界が、にわかに紅く染まった。


「せんせー?」


いや、違った。

彼女の脳内でアドレナリンが急速に、劇的に分泌された為に生じた錯覚だ。

盛夏も近い日本特有の熱気は、生々しい絵の具になど彩られてはいない。


(……肌を刺す、喉が涸れる、呼吸が乱れる……!)


しかし、女の全身を貫くこの寒気が幻などであるはずがない。

錆ついて幾年経ったかもわからない警鐘が、耳の奥で轟音をあげ続けている。


(『懐かしい』、この感覚――――ッ!)


197 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:37:25.69 ID:yisU3/0j0







「おい、女」







198 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:39:25.87 ID:yisU3/0j0


「…………は? 何ですかあなた、超いきなり」


背後から話しかけてきた人物を、顧みる事が出来ない。


「その子供について少し聞きたいんだが」


血みどろのダンスホールから離れて久しい女は、口の動きとは裏腹に慄いていた。

何かが、この声の持ち主は自分とは『何か』が本源的に違う。

拙い、不味い、マズイまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい




「えー? わたしのなーに?」

「まこ…………」


折れそうな膝を無自覚に支えたのは、小さな命の邪気ない呼吸だった。

そうだ、この幼い娘一人を守れずして、何が『第一位の防護性』か。

                  オフェンスアーマー
手足に、心臓に、瞳に、脳に、『窒素装甲』絹旗最愛が蘇る。


          ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
――――否。蘇ってしまった。


199 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:40:30.94 ID:yisU3/0j0


「どうやら異国の方のよォですが、日本の礼儀というものを弁えてませンね。
 とっとと失せてくださいませンか、超クソ野郎」


結論から言ってしまうならば。


「…………どうやら『上条』という名に相違ないな、『窒素装甲』?」


絹旗は大能力者になど戻らず、無力な保母として遁走を選択すべきだったのだ。


「答える義理は、ありませン」


先刻彼女が嗅ぎ取ったのは、かつて『未元物質』に相対した際と同質の。


「そうか、ならば仕方ない」


いや、それ以上の。


比喩表現などでは決してない。


200 :神の右席編①[saga]:2011/07/10(日) 21:41:32.76 ID:yisU3/0j0







「死ぬしかないな、能力者」







――――――死臭であったのだから。








208 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:40:50.77 ID:NE2xUwVE0



「あれ? まこちゃん?」



佐天涙子は研修のため普段教鞭を執る中学ではなく、児童施設が多く存在する第一三学区にいた。

午前中で研修を終えた佐天が所属する学び舎に戻るべく駅に向かって歩いていると、

車道を挟んだ向かいの歩道に、見覚えのある小さな影が。

それは敬意と友愛を彼女に抱かせるとある夫婦の愛の結晶、上条真理であった。



「ひっく…………るいこー?」

「まこちゃん! どうしたの? パパとママは一緒じゃないの?」



慌てていたため横断歩道を捜す事もなく、

軽く左右確認を行って佐天は泣き叫ぶ真理の元に駆けつけた。

周囲に人影はあるが、みな一様に関わらないのが一番、とそそくさ過ぎ去ってしまう。

彼女は憤慨に鼻息を荒くしながらも、まずは目の前の子どもが大事だと気を取り直した。


209 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:42:08.16 ID:NE2xUwVE0



「もあい、せんせーとね、おさんぽしてたんだけろ…………」



しかし二歳児が嗚咽しながら事情を説明しようとしたところで、要領を得るわけもない。

ただ、佐天は最初に飛び出したキーワードの重要性に食いついた。



「最愛ちゃん……絹旗先生と一緒だったの?」



友人のそのまた友人を通しての知人である絹旗最愛が、

夫婦が愛娘をよく預ける託児所の職員であることは佐天も承知していた。

時刻もそろそろ正午三十分前になる。お昼寝前の散歩にでも出ていたのだろうか。



「…………!! まこちゃん、背中! もしかして怪我してる!?」


210 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:43:18.37 ID:NE2xUwVE0



そこまで思案を巡らせたところで、佐天は真理の背の異常に気がついた。

粘着質で、それでいて鮮やかな真紅の液体。



手のひら大の血漿による染みが、愛らしい衣服の腰上に付着していた。



「大変! すぐ手当…………」



顔を蒼くした佐天はすぐさま真理の上着を捲って傷の具合を確かめる。

しかしそこには服の上から浸透したであろう僅かな朱色があるのみで、

それ以外は健康的な肌色と、餅のような柔らかい感触しか認められなかった。



「この子の血じゃ、ない……?」

211 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:44:00.85 ID:NE2xUwVE0


血液はいまだ目に痛いほど鮮烈な赤を放って佐天の視覚に訴えかける。

警備員としてのキャリアは浅いとはいえ、『コレ』が持ち主の肉体から流れ出て

そう時間が過ぎたものではない事は彼女の目にも明らかであった。



(だったらまさか、この血は――――ッ!!!)



――――異常。



瞬間、佐天は真理を抱えて力の限り横に跳ねた。







212 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:44:41.63 ID:NE2xUwVE0



「……こんな雌犬を一撃で『倒し』損ねていては、
 俺様もいよいよもって廃業かもしれんな」


腕の中の泣き声が一層大きくなった。

真理に怪我が無いことだけ真っ先に確認した佐天は、

先ほどまで自分がかがんでいた座標を振り返って戦慄した。



――――無い。そうとしか表現できなかった。

すぐ後ろに立っていた街路樹、歩道を覆うガードレール、

ウインドウとその向こうに立ち並ぶディスプレイ品の数々。



先程まで別段視界にも入らないほど、

その存在が当たり前すぎる日常の数々が綺麗さっぱり、失せていた。



「……我ながら情けない結果だ。
 あの時代遅れのロートルが介入さえしてこなければ……!」



213 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:45:38.57 ID:NE2xUwVE0


そしてその向こう側に、赤髪の――決して長身ではない――男が在った。

鍛練とは無縁に思える痩躯とは結びつかぬ圧力が、全身から迸っている。


「あなたは、何者ですか」


声と体の震えを必死に殺し、佐天涙子は警備員(アンチスキル)として誰何を行った。

しかし、歳と性別に合わぬ修羅場をくぐった経験と、本能が告げている。


「俺様は機嫌のありかが不安定なのだが……そうだな、『宣戦布告』ぐらいはしなければな」



コイツは、能力者ではない。――――魔術師だ。



「ようく聞け、科学の狗たる雌よ」


異様な事態に気付いた通行人が、悲鳴を上げて我先にと逃げ出し始めた。

そのような俗事には目もくれず、赤い異能者は『両腕』を天に掲げた。

自らに酔いしれたように空を仰ぐ。


214 :神の右席編②[saga !red_res]:2011/07/14(木) 20:46:29.96 ID:NE2xUwVE0











――――同時にその右肩から、三本目の『腕』が顕れた。










215 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:47:44.76 ID:NE2xUwVE0


あまりの異形に完全に声を失った佐天を尻目に宣言は続く。

ただしく、天上から衆愚を見下ろすが如き音吐だった。



「目あらば見よ、耳あらば聴け。我が名は『神の右席』が頂点」



道端の虫けらを眺めるように下々を睥睨する。

そして、『腕』が禍々しい輝きを放ちながら振りかぶられた。







「――――『右方のフィアンマ』だ」






216 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:49:42.81 ID:NE2xUwVE0

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同時刻、第六学区。



アミューズメント施設が集合するこの学区の中央通りに、

派手な街並みに劣らぬパンクな風体の女が一人、肩で風を切るように歩いていた。

言及するまでもなくイカレたファッションとメイクだが、

後ろに負った巨大な、布に覆われた棒状の物体がその特異性を際立たせている。



しかしその女の真の異常性は、別の点にあった。



「…………あなた。この人たちに『なに』をしたの?」


そこに、茫洋とした眼差しのジャージ姿が声を掛けた。

良く見るまでもなく、二人の女の周りには――倒れ伏す、人、人、人。


「んー? ああ、こりゃ大変だよね。で、私が何かしたって?」

「対象のAIM拡散力場を確認できず。…………あなた、魔術師だね」


面倒そうに鼻の頭を掻きながら、黄色いパンク女が空とぼける。

しかしピンクのジャージ女の口から出た文言を聞いた瞬間、黄色はニタリと笑んだ。

217 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:50:36.71 ID:NE2xUwVE0



  AIMルーラー
「『能力剥奪』、浜面理后よね?」

「だったらなに?」


二人の女が初めて、真正面から対峙する。

魔術師が一層凶悪かつ、吐き気のするような笑みを浮かべ、

更には舌――ピアスが通っている――を出して相手の『敵意』を誘った。


「なんていうか、とりあえず? アンタ気に入らないから殺していい?」

「ダメ」


しかし理后の、良く言えば深淵のような、悪く言えばぼーっとした瞳の色は変わらない。

小さく舌打ちした黄色い女は、それでも支障は無いとばかりに――


「どんなに澄ました面をしてようがねぇ」


――背負ったハンマーで、有無を言わさぬ実力行使に切り替えた。





「私の『天罰』からは逃れられないわよ」




218 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:51:22.34 ID:NE2xUwVE0

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同時刻、第二学区。



「ちょっとそこの方、よろしいですか?」


警備員らの訓練施設など、特殊設備一色に染まっている学区の一角。

濃紺のスーツに身を包んだ女性が、深緑のローブを纏う男の前に立ち塞がった。

夏だと言うのに奇妙な厚着で闊歩する不審者に『職務質問』をかけたのだ。



「おやぁ? 私に何か用ですかね?」



緑の男は間延びした口調で平静のまま答える。

何を聞かれようと時間を割いてやる気は無いと、言外にその表情は語っていた。

しかし、女の目的はその回答いかんに関係なく遂行される。





「アンチスキルですの!」




219 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:52:38.23 ID:NE2xUwVE0


「第十一学区の監視カメラに、ゲートを破壊した不審人物の姿が捉えられておりました。
 …………これ以上の説明は、必要がありますの?」

「……おっかしいですね。カメラは全て壊したつもりだったんですが」


失態があった事が信じられない、と肩を竦めて依然おどけた態度を男はとる。

よくよく見ればその手には鼠色の小さな袋が掛かっている。

苛立ちを感じながらも、白井黒子は彼の疑念をあっさり晴らしてやった。


「ええ、あなたの仰る通り。生き残った監視カメラなどありませんわ。
 私はただ、不審人物に職質をかけただけですもの」

「………………やられましたね」


先ほどより幾分か余裕を失った姿を見て、白井の溜飲がいくらか下がる。

本当に直感のみでのカマかけだったのだから、内心ヒヤヒヤもしていた。

220 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:53:53.89 ID:NE2xUwVE0



「では、拘束させていただきます。今度は答えは聞きませんわよ!」


まあ、結果として正しかったからそれでいいのだ。


往年の相棒(花)が聞いたら溜め息をつきそうな言い訳を浮かべながら白井は、

腿に仕込んだ愛用の金属矢に手をかけ、複雑極まりない空間移動の演算を始める。







「第一優先。――三次元を上位に。十一次元を下位に」






その時、手の内で右に左に弄んでいた袋を男が唐突に投げ出した。


静かな声が響き――――白井黒子のただ一つの能力が封じられた。


221 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:54:48.12 ID:NE2xUwVE0

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同時刻、第七学区。



講演会を我が子可愛さにサッサと抜け出した上条美琴はちらほら現れる黒服たちを

レーダーを駆使して避けながら、絹旗の勤める託児所に向かうべく猛チャージをかけていた。

強烈な美人が競走馬もかくやという凄まじいスピードで駈け抜け、

それを目撃した通行人が物珍しさにパシャパシャとフラッシュを焚く。



そんな周囲からの視線を気にも留めていなかった彼女だが、

とある公園に差し掛かると、珍妙な品の並ぶ自販機の前で何故かその脚を休ませた。




「なにか御用ですか?」




「……気付かれていたか」


美琴の背後の空間。

何も存在しなかったはずの場所から、青い着衣の大男が現れた。

222 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:55:48.77 ID:NE2xUwVE0


「『超電磁砲』だな?」

「上条美琴、って呼ばれる方がずっと好きですけど」


男はもはや誤魔化すつもりもないのか、堂々たる態度である。

ただならぬ雰囲気を感じ取っている美琴は、警戒心を隠さず応えた。


「で? 私は今急いでるんですが」

「頼みがあるのだが」


彼女の態度を歯牙にもかけぬ落ち着き払った低い声。

既に心理戦で負けてるようでダウナーな気分になりながら、投げやりに美琴は返す。


「はあ。私で力になれる事ならなんなりと」







「そうか、では頼むのだが――――死んでくれ」






223 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:57:12.07 ID:NE2xUwVE0


目の前の失礼な男を完全に『敵』と認識した彼女は、帯電しながら質問した。

特に意味のある問いかけでもない。


「アンタ、何者? ……いや、何が目的?」


ただ上条美琴という女は闘う目的が明確であれば、

そしてその目的が大事な誰かの為であれば、巨大な戦闘能力を更に増す。

            パーソナルリアリティ
良くも悪くも感情に『 自分だけ の 現実 』が左右される、それが上条美琴だった。

しかし女の思惑などお構いなく、男は簡潔に――凄絶な目的を語った。










       レベル5
「――――超能力者の抹殺」









224 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 20:58:47.90 ID:NE2xUwVE0


「…………『全ての』超能力者を?」

「そうだ、全員……プラス、もう一人」

「OK、もういいわ。十分よ」


悲しいかな、最後の一人がどこの『不幸』者なのか、美琴には察しが付いてしまった。

よしんばそうでなくとも、この男の標的の中には死なせたくない相手が、少なくとも二人いる。



優しいご近所さんと、愛想の悪い近い将来の義弟。



まあそれに加えて、ご近所さんのおっかない友人と、

後輩の暑苦しい上司と、いけ好かない女王サマと――





「…………ぷっ、あははははは!!」

「なにがおかしい?」


突如笑いだした彼女に、律儀に戦闘開始を待っていた男が首をかしげる。

その貌には純粋な疑問の色が浮かんでいた。

225 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 21:01:03.11 ID:NE2xUwVE0


然程の悪人でも無さそうだ、と頭を過ぎったものの彼女の闘う決意は鈍らない。

なぜなら。


「いやぁ、私ね…………どうやら、誰にも死んで欲しくないみたいなのよ」





いつかどこかで聞いた、ある男の夢。


――何一つ失うことなく、みんなで笑って帰る――





それを、必ず守って見せる。

彼女の闘う理由は、それだけでも十分だった。


「…………成程。甘いが、良い覚悟だ」

「どうも、じゃあさっさと始めましょ。子供が待ってるの」


戦場らしからぬ好意的な笑みが、男女の間で交わされた。

男は『影から』巨大なメイスを掲げ、女はポケットからコインを取り出す。

226 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 21:02:11.33 ID:NE2xUwVE0








             レールガン
「学園都市第三位、『超電磁砲』の上条美琴よ。短い間だろうけどよろしく」







「ご丁寧に痛み入る。『神の右席』が一人、『後方のアックア』――――参る!!」









227 :神の右席編②[saga]:2011/07/14(木) 21:06:28.95 ID:NE2xUwVE0

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こうして七月十五日、後に「0715」の名で世に広まるこの日。



多くの学生が異常に気付かぬ普段通りの喧騒の最中で。



歴史が繰り返される事を証明するかの如く。









           かがく まじゅつ こうさ
――――再び、能力者と魔術師が激突した。









237 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:40:29.30 ID:DblQWgBF0


第六学区。


浜面理后に向けて獲物を振るいながら、『前方のヴェント』は現状に違和感を感じていた。


(…………この女が此処に来たのは、偶然か?)


学園都市への襲撃が事前に漏れている可能性は否定できない、と彼女のリーダーは語った。

事実であるなら、目の前の『能力剥奪』は自分を阻止するために現れた事になる。

しかし、この女の能力では魔術師相手には意味が薄いことは事前に調べが付いていた。

能力者の位置特定を行い、あまつさえ力場の『剥奪』さえ可能なこの超能力者は、

確かに対能力者なら矛として、盾として、目として桁外れの汎用性を誇るだろう。


「……ッ!」


理后は無様に逃げ回るのみで、なかなかどうして敵に対する悪意を見せない。

その事実を不気味に感じた『前方のヴェント』は、

スマートではないが手っ取り早く目の前の女を始末する策をとる。

一瞬でも、僅かでも。『ソレ』を感じてしまえば終わりだ。

238 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:41:48.17 ID:DblQWgBF0



「アンタの息子……浜面裏篤だっけ? 第十三学区の幼稚園に通ってるよね」


敵手の目的を察知した理后が慌てて耳を塞ぐ。

その挙動を見た『前方のヴェント』は自らの術式が分析されている事を確信するが。



もう遅い。



「今頃私の部下が向かってるところだ。もうグチャグチャだろうね」

「…………っ!」


ごくごく微小なモノであろうと、『天罰』には戦闘能力を奪うには十分にすぎる効果がある。

『前方』の口の動きからその内容を察知、そして想像してしまったのだろう。

理后の鋭くなった眼差しが刹那、『敵意』に染まる。




――次の瞬間、ゆっくりとその身体がアスファルトに吸いこまれていった。



239 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:42:47.27 ID:DblQWgBF0


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第二学区。


白井黒子は突然使用できなくなった己の能力に戸惑いながらも、撤退を意識する事は無かった。

『左方のテッラ』の投げ放った袋からばら撒かれたのは、白い粉。

何かの攻撃の前兆である、と直感した白井が己の脚で距離を空けた。


「第二優先。――小麦粉を上位に、人体を下位に!」


前兆では、無かった。


「っ、あああっ!?」


『小麦粉』が男の武器そのものであることに彼女が気付いたのは、

かすかに触れた飛沫が肉体に激痛をもたらした後の事であった。




「あなた程度に時間をかけていられないんですがね。さっさと終わらせましょうか」


男は、白井の事など敵とも認識していなかった。

発言の主旨を悟った彼女の脳が瞬間沸騰するが、それは同時に好都合でもある。


(侮ってくれるのなら、やりやすい……いや!)

240 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:44:24.74 ID:DblQWgBF0


しかし現実には、男は女が能力を発動する前から、これをあっさり封じてきた。

キャパシティダウンを使っている様子が微塵も見られない以上、

彼女の顔と能力を予め知っていた、と考えるのが妥当となる。


確かに空間移動能力には極めて高度な演算が要求され、

能力者の精神状況が安定していなければ能力行使は困難である。

何らかの外的要因で発動を阻害する事は、白井にとっては遺憾だが容易い事だ。


だが、この状況は違う。

三次元から十一次元への座標変換そのものは脳の中で確りなされているにも拘らず、

空間移動が全くと言っていいほど発動しないのだ。


(先ほどあの男が呟いた……いわゆる『詠唱』? というヤツでしょうか。
 あれが鍵を握っているのは間違いありませんわ)





『第一優先。――三次元を上位に。十一次元を下位に』





241 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:47:12.99 ID:DblQWgBF0


(だとしたら、随分科学に詳しい魔術師さんですこと)


身を捩って次なる攻撃をかわしながら、白井は微かな糸口を掴む。

力強く身構えて、魔術師に啖呵を切った。


「……上等ですわ。能力を封じたぐらいで挫ける白井黒子ではありませんわよ!」

「威勢が良くて結構ですねぇ」


舐めた態度の変わらない男を睨みつけてから、まずは距離を取ることに彼女は専念する。

幼いころから鍛え続けてきた女豹のごとき肉体もまた、紛れもない白井黒子の武器であった。


(ああ、隊長の地獄の扱きに感謝する日が来るなんて……!)


などと場違いに遠い目で明後日の方向を見つめたその時。


「第三優先。革を上位に、コンクリートを下位に」


冷静に一声。

履いていた『革』靴が地にめり込み、体勢を崩しながら彼女は絶叫した。



「わたくしは馬鹿ですのーーーーーーっ!!??」

「馬鹿ですねぇ」


242 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:49:07.48 ID:DblQWgBF0


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第七学区。


砂鉄剣と棍棒が交差し、耳障りな金切り声を上げる。

『後方のアックア』と『超電磁砲』は真正面から力と力の鍔迫り合いを演じていた。


(『コレ』は違う……!)


互いの獲物が激しく弾き合って、使い手も同時に後方へ跳ね跳ぶ。

超能力者に拮抗するほどの怪物を相手取りながら、しかし上条美琴はそんなことを考えていた。


(この男が当麻からチラリと聞いた『後方のアックア』なら……)


――悔しいことだが、美琴程度がまかり間違っても伍せる相手ではない。


「ぬんっ!!」


男が手近にあった噴水から水を巻き上げ、巨大な水塊を生みだす。

一直線に己に飛んでくるそれを、彼女は惜しげも無く『超電磁砲』を放って蒸発させた。


(確かに、そこらの水を片っ端から掌握するこいつの魔術は厄介だけど……)


蒸気で曇る視界に乗じて迫る巨躯をに対し、牽制気味に軽い雷撃を放つ。

しかしそれは男の金属棍棒によって防がれ、再び二人の間に間合いが生まれた。

243 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:50:23.84 ID:DblQWgBF0


「……やっぱりこっちを聞いとくべきだったわね。アンタ、何者?」

「…………そのような問いに、意味など無い」


晴れた視界に精悍な顔を捉えて、美琴は確信する。

夫のアルバムの中に一枚、英国第三王女の挙式に出席した際の写真を彼女は見た事があった。


「そんなこと言わずに答えなさいよ。ウィリアム=オルウェル」


金髪青目の浅黒い風貌が、その名を聞いた途端にハッキリと歪む。

苦悶か、憤怒か、屈辱か。

そこまでは遠目には判別し難い。

勿論電撃姫は敵の虫の居所などお構いなしに真実を問うた。












「――――じゃあないわね、アンタ」




244 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:52:13.00 ID:DblQWgBF0


「…………『幻想殺し』か」

「彼はイギリスでお姫様とヨロシクやってるはずだわ。で? アンタは結局なんなの?」


男の顔が俯いて、その表情が美琴の視線から隠れる。

美琴はこの戦闘の帰結に勝敗以外のポッシビリティを見出し、

それを追求すべく『後方のアックア』に迫った。


「もし、アンタが…………」




「甘いと、言った筈なのだが」


しかし、彼女の僅かな気の緩みを男は見逃さなかった。

ここ迄の激闘の中では一度たりとも披露しなかった超スピード。


(靴裏に水――摩擦を減らして!)


巨体の疾風のごとき突撃は、もはや美琴には不可避のものであった。

腹を括って、本格的な激突への準備体勢を取る。



(……覚悟決めるしか、ないわねッ!)



245 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:53:50.77 ID:DblQWgBF0

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そして、何処とも知れぬ路地裏。


佐天は幼い真理を抱えて、鍛えた自慢の足をフルに活用して細い路地を逃げ回っていた。

携帯電話を尻ポケットから抜いて助けを呼ぶ暇もない。

彼女は自分が現在、極めて細いロープの上を渡っているという自覚があった。



――■■■■■■■■■■■■■■■!!!――



追跡者は、先刻の赤い男ではない。気味の悪い紫色と黒い鎧で覆われた別の異形。

かつて初春に借りたホラーアクションにあんなクリーチャーが居た、と佐天は頭の隅で思い出した。



そもそもあの『腕』を目にした瞬間、彼女は自らの死さえ予感した。

『アレ』はこの街の超人達をも凌駕するモノだ、という認識が佐天にはあった。

しかし現実に彼女は、振られた『腕』から脇目も振らず逃げ出した結果として、生きている。

何か、奇跡とはまた違う何かがあの男の邪魔をした。

そうとしか思えないほどに計り知れない力だったのだ。

246 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:55:20.70 ID:DblQWgBF0



(――っ!! そんなこと考えてる場合じゃないでしょ、涙子!)



『腕』は追っては来なかったとは言え、

現在の脅威はやはり佐天に太刀打ちできる代物ではない。

まずは何をおいても、この身に抱えた小さな命の安寧を獲得する事だ。

後ろの奇怪な化物の狙いは、どうやら真理にあるようだった。



(白井さんか、隊長に連絡出来れば…………!!)



だが残酷な事に彼女の両腕は、その守るべき鼓動によって現在塞がっている。

そして真理を抱え直す時間が惜しいほど、追跡者の迫撃はすぐ後ろにある。

最寄りの警備員支部にこの足で駆け込む以外の方法を、焦燥の中では考え付かなかった。



(っはあ、はぁ、第一〇学区の二二支部までは、あと、五百メートルぐらい……!)


247 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:57:27.64 ID:DblQWgBF0


楽勝だ、体力にだけは自身がある。

挫けそうな己を励ましながら駆け続ける佐天の脚はしかし――遂に限界を迎えた。



「ああっ!!!」



角を曲がった先の死角に、空き缶がばら撒かれていた。

近頃はその絶対数を大きく減らしたスキルアウトが、このあたりに屯していたのであろうか。

避けようと交差させた脚がもつれ、彼女の身体が前方へと投げ出された。

咄嗟に真理だけは守ろうと身を反転し、背中からアスファルトに落下する。



「つう…………ッ!!」



――そして、異形と視線が交錯した。



――■■■■■■■■■■■■■■■!!!――



肉薄していた追跡者が醜悪に嗤ったように、彼女には映った。



248 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:58:11.09 ID:DblQWgBF0

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黄が大鎚を無防備な理后に振り下ろす。



緑は白井の頭上にばら撒くべく、二つ目の袋を取り出す。



青が美琴の迎撃をものともせず、クロスレンジで術式を構築し終える。








「子の方は生かしてやるさ」



そして赤は哀れな女の末路を見届け、無感動に呟いた。





249 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 17:59:40.28 ID:DblQWgBF0














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「――――――なあっ!?」





250 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:02:09.90 ID:DblQWgBF0


『前方のヴェント』の目前で、起こり得る筈の無い現象が起こった。

『天罰』に完全に意識を断たれたはずの浜面理后が

あろうことか踏みとどまって、頭部を狙った一撃を躱したのだ。



「ごめんねぇ、浜面さぁん。ちょっと遅刻しちゃった」



場違いにキャピキャピした声が、女の戦場に介入する。

鼻につく高い声に、女魔術師のこめかみに血管が浮き出た。


「神様の罰って怖いのねぇ。こんな集団仮死状態を引き起こせるなんて。
 ああそうそう、そこのオバサン部下なんていないぼっちだから、お子さんは無事よぉ」


姿を現したのはプロのファッションモデルと言っても通用しそうな着こなしの美人。

スタイル良し、顔良し、性格――――は本人の名誉の為にもノーコメントとさせて頂く。


「うん、私もわかってはいたんだけど。とにかく、助けてくれてありがとう」


知己であるのか、呆然とする敵を差し置いて理后が呑気に声を掛ける。

そう、目の前の魔術師が単独犯である事は彼女とて承知していた。

ただ家族への愛しさが、冷徹であるべしという戦場の鉄則を上回ってしまった。

女は謝礼に手を振って鷹揚な態度を見せるが、

形の良い顎は軽く持ちあがって自慢げな内心を代弁している。


「気にすることないわよぉ。だってこんな魔術如き――」

251 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:03:07.53 ID:DblQWgBF0










「――――私の改竄力で、どうとでもなっちゃうものねぇ」










252 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:04:22.92 ID:DblQWgBF0

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白井黒子は、せめてもの抵抗を見せようと矢に手を伸ばし、直接投擲すべく男へ振りかぶった。

が、すでに『左方のテッラ』は彼女から距離を取り、その背後に向かってニコニコしている。

背後――――経験豊富な警備員の女は気配を感じ取っておそるおそる振り返った。



「あら、白井さんじゃない。さっきのお間抜けボイスはあなただったわけ?」



そして白井の耳を、神経を逆撫でする『天敵』の声が打った。

パク、パクと二、三度口を開け閉めする彼女だが、あと少しで言葉にならない。

その間に声の主は白井の返答を待たず、『左方』との前哨戦を開始してしまった。


「……どうやってこの場所を掴んだんですかねぇ。
 滞空回線はとっくにあなた達の手を離れた技術だと思ってましたが」

「確かにタネの割れてる今の御時世に使用したら人権問題ね。
 だから使ってないわよ? …………今回は」

「んきーっ! まったくあなたという人はーーっ!!」


完全に舞台の中心からはじき出された格好となった白井が、

ようやく甲高い声を上げて主座をまんまと簒奪してくれた相手を糾弾する。

253 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:05:21.07 ID:DblQWgBF0




「私を無視してシリアスに会話を進めないで下さいませ!!







 ――――結標さん!!!」







「あら、まだ居たの? もうお家帰っていいわよ」



「むきぃーーーーーーっっ!!!!!」



254 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:08:41.70 ID:DblQWgBF0

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上条美琴は咄嗟に現出させた雷槍を振り抜くが、

もとより接近させないために中距離を保っていたのだ。

当然この近距離では体格的に遥かに不利となるが、その瞳に諦観の色が浮かぶ事は無い。

絶体絶命の状況に陥ってなお敵を射抜く女の意志の強さに、『後方のアックア』は瞠目した。



(せめて、苦しまずに逝くがよい)



五トン近い質量で圧殺する水属性の大魔術を、男が今まさに零距離で発動しようとした、



その時。






「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」


上条美琴の背後に、夥しい土埃が上がっているのを『後方のアックア』は目撃した。

するとピョーン、と逆巻く砂塵の中から白い物体が飛翔する。

そして異様に暑くるしい雄叫びを、二人は同時に聞いた。

255 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:09:40.10 ID:DblQWgBF0





「『すごすごの…………















 ――――――バズーカァーーーーーッ!!!!!!!』」




256 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:11:28.60 ID:DblQWgBF0



ドッカーン。



それ以外に擬音を付けようのない怪音を立て、魔術師の巨躯が三十メートルは跳ね飛んだ。


「ぬぐおおっ!!!」




ついでに美琴も五メートルぐらいぶっ飛んだ。


「ええええええっ!!!!?」




辛うじて受け身を取った二人が色々なモノを無視した衝撃の発生源を睨んだ。

敵味方の視線が交わる一点でスタッ、と軽やかな着地音が鳴るが、

どう見ても二十メートル以上の高さから降ってきた様にしか見えない。

何事も無かったかのように降り立った元凶は、腹の底からやかましい声を張り上げた。


257 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:12:02.21 ID:DblQWgBF0











「良く持ちこたえたぁっ!! 素晴らしい根性だったぞ、第三位っっっ!!!!!」











258 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:14:09.39 ID:DblQWgBF0

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佐天涙子は迫りくる死から、せめて腕の中の幼い命だけでもと決めて背を向けた。

真理が彼女の悲壮な決意を本能で感じ取ったのか、泣き声を一層強める。

それが、生命を賭した鬼ごっこの終焉だった。



(ごめんなさい、上条さん、美琴さん)


(ごめんね、最愛ちゃん、白井さん、初春…………)



現れては消える、親しく愛しい顔、顔、顔。

そして、なぜか最後に過ぎったのは。



(……………………ル)


(…………もう一回、会いたかったなぁ)



最後に許された行いは、目を瞑って死神の鎌音を待つ事のみ。







259 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:15:07.33 ID:DblQWgBF0













「レディーはもっと丁重にエスコートするものだ、下種が」



ゴオオオオオウッ!!!!



しかし次の瞬間聞こえたのは、異形ではなく焔の猛る声だった。



「大丈夫かい? よくここまで逃げてきた」


「あ…………」


「ん、効き目が薄いな…………あの鎧か」



唖然とする佐天の耳に、たったいま回想した声が飛び込んできた。

だが炎剣の直撃を受けておいて僅かに後ずさるのみの肉塊が、再び迫る。

その間に体勢を立て直した彼女が後ろに跳ね起きようとした時。

260 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:18:47.02 ID:DblQWgBF0









 T T T  R      B  B  F   T T N A T W I T O D
「右方へ歪曲! 両足を交差、首と腰を逆方向へ回転!」









261 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:21:31.46 ID:DblQWgBF0


右方へ吹き飛び、脚がもつれ、嫌な音を立ててその関節が軋む。

クリーチャーが披露した異様なステップは、

清廉な音色が奏でる舞曲に導かれたものだった。

佐天は背後をふり返り、霞む視界に二人の救世主を捉えた。




「いんでっくしゅ、いんでっくしゅ!」




稚い声が呼んだのはまさしく、白い聖女と、黒い守護神。


「いいよ、『右方のフィアンマ』」


そして白衣の聖女は力強く右手を前に掲げ、敵対者に向けて裁きを告げる。


「あなたが私の大切な人たちを巻き込むって言うのなら」


聖なる声に邪悪な怪物が呻くその様は、正しく神話の一節の様な崇高さを――

262 :神の右席編③2011/07/17(日) 18:22:09.57 ID:DblQWgBF0











「まずは、そのふざけた幻想をぶち[ピーーー]!!」










263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/17(日) 18:23:14.20 ID:j2QVR5pso
ああww
264 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:23:53.98 ID:DblQWgBF0



「…………」


「………………」


「……………………んー? るいこー? しゅているー?」










「決まったッ! 第二部完なんだよッ!! 一度でいいからやってみたかったかも!!!」








265 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:25:38.67 ID:DblQWgBF0


「ほーおそれで誰があのゾンビにトドメを刺すんだい?」

「その前に、インデックス? ちょっと↑見てみた方が…………」

「へ? ってあああああああぁぁぁっっ!!!!??」

「今頃気付いたのか」



「ちょっと! このsaga忘れはあまりに酷すぎると思うんだよ!?」

「別に忘れたわけじゃあないよ。
 仮にも一宗教のトップがする発言ではなかったからフィルタリングしたまでさ」

「すっ、ステイル! まさかステイルの差し金なの!?」

「馬鹿を言え、イギリス清教の総意だよこれは。いつかやるんじゃないかとは思ってたからね」

「そういうアレは事前に最大主教たる私を通すべきかも!!」


状況を弁えずにギャーギャー騒ぎ始めた二人に、

佐天涙子二十三歳独身は肺の奥から呼気以外のもろもろが体外に洩れ出るのを感じた。


「とりあえず、こんな時のための『アレ』だよね……」


学園都市で今年度流行語大賞の候補にノミネートされた例の台詞を

悲しい実感とともに彼女は吐き出す。



「不幸だ……………………」



266 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:26:43.26 ID:DblQWgBF0




――■■■■■■???――


「って、ちょっと! まだ動いてるよアレ!!」


すっかり存在感を失った悲しい異形がそれでも立ち上がり、

邪魔者を排除すべく濁った眼をぎらつかせた。


「灰は灰に、塵は塵に」


それを一瞥した神父は静かに詠唱を始め、十字を切った。


「吸血殺しの紅十字」




――■■■■■■■■■■!!!???――




辺り一帯を火の海に変えるほどの熱量を一点に集中され、地の底から響くような濁声が上がった。

佐天は思わず息を呑んだ。

大能力者の発火能力もかくや、というその威力にではない。

炎の十字架に拘束された怪物に向ける男の視線が、ゾッとするほど無温であったからだ。

267 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:27:44.05 ID:DblQWgBF0




「喚くな。……すまないが、君ごとき木偶に名乗る魔法名の持ち合わせがなくてね」



ステイルは油断なく庇護すべき者たちを背後に庇いながら、一歩、また一歩と歩を刻む。

その瞳は人形の向こう側の真の敵を見据えていた。



「まあ、『貴様』の方にも教えてやる気はないが。僕らはただの――」



投げ捨てた煙草が地に届く前に灰と化す。

コンクリートまで融けるような灼熱に満たされた路地裏の気温が、更に一段と燃え上がった。

其処に、マグマを血肉とする焔の魔人が顕現した為だ。



そして黒衣の守護神は、『神の右席』への宣戦布告を行った。



268 :神の右席編③[saga]:2011/07/17(日) 18:29:00.19 ID:DblQWgBF0













「――――通りすがりの、魔術師だからね」















279 :小ネタ「スペシャル」[saga]:2011/07/20(水) 17:39:13.40 ID:TnT9aaYr0


とある日 ロンドン市街



老人「おお、最大主教様。おはようございます」


イン「おはようございます、おじいちゃん」


子供「インデックス、おはよう!」


母親「コラ!! 申し訳ございません、息子が失礼を……」


イン「全然気にしてませんよ。ねえボウヤ、これからもインデックスって呼んでね?」


子供「うん!」



ワイワイガヤガヤ アリガタヤ 



神裂「ものすごい人だかりになってしまいましたね」クスクス


ステ「だからカモフラージュを怠るべきじゃないのに……」ハァ

280 :小ネタ「スペシャル」[saga]:2011/07/20(水) 17:40:16.24 ID:TnT9aaYr0


イン「んっしょ、よいしょ、ぷはぁ!! やっと抜けられたんだよ」


ステ「困るくらいならやはり術式を解除すべきではなかったと思うよ」


イン「でもたまにはステイルとかおりと、三人で散歩してるって実感したかったんだもん」


火織「インデックス…………」


ステ「………………まあ、偶にならいいかな」


イン「ふふ、ありがとねすている」ギュ


ステ「…………」ギュ


火織(この辺りは昔とは少し違いますね)クス

281 :小ネタ「スペシャル」[saga]:2011/07/20(水) 17:40:44.93 ID:TnT9aaYr0



スタスタ ヒョコヒョコ スタスタ



イン「あ、ホットドッグの屋台だ」


火織「珍しいですね、ロンドンに」


ステ「最大主教」


イン「い、一個だけ!」


火織「いけません、一個だけなどという安易な気持ちが堕落を」



ぐー



イン「…………」


火織「………………」


ステ「神裂…………」

282 :小ネタ「スペシャル」[saga]:2011/07/20(水) 17:41:18.50 ID:TnT9aaYr0


火織「一つだけなら良いと思いませんか、ステイル?」


イン「お願いステイル!」


ステ「…………はあ。お代は君が持ってくれよ、神裂」


火織「任されました」フンス


イン「やった! どれにしよっか、かおり!」


火織「このスペシャルホットドッグは美味しそうで……一つ十五ポンド!?」


イン「三つくださいな」


火織「あっ、ちょっ、ま」


ステ(やはり、僕らは彼女に甘いな)ヤレヤレ


283 :小ネタ「スペシャル」[saga]:2011/07/20(水) 17:42:05.44 ID:TnT9aaYr0



購入後 オープンテラス



ステ「へえ、これはなかなか」モグ


火織(今夜はあの人の為に奮発しようと思ってたのですが……)シクシク


イン「よく見たら学園都市に出てた屋台と同じなんだよ」ジロジロ


火織「そうですか、かの街は食文化も侮れませんね……はぁ」



トテトテ



幼女「シスターのお姉ちゃん!」


イン「あ、こんにちはなんだよ!」


ステ「おや。君はよくミサに来てる子だね」


火織「ほう、まだ幼い身空だというのに感心ですね」


ステ「何の御用かな、小さなレディー?」


イン「」イラッ

284 :小ネタ「スペシャル」[saga]:2011/07/20(水) 17:42:44.36 ID:TnT9aaYr0



幼女「あのね、あっちの木にね、私のフーセン引っかかっちゃったの」


イン「え、大変」ホットドッグオク


ステ「おい、最大主教……」


火織「あなたが行って取ってあげたらどうです?」


イン「このお兄ちゃんがノッポを生かして取ってくれるって!」


幼女「ありがとう、おじさん!」


ステ「」


火織「相手は子供ですよ」


ステ「ええい、わかってるよそんな事! ……どれ、どの木だい?」ホットドッグオク


火織(む…………『これ』は)


285 :小ネタ「スペシャル」[saga]:2011/07/20(水) 17:43:51.51 ID:TnT9aaYr0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


幼女「おねえちゃん、『おにいちゃん』、ありがとう!」フリフリ


イン「またねー」フリフリ


ステ「やれやれ」チャクセキ




イン「ふふ、カッコよかったよステイル。
   …………あれ、どっちが私のだったっけ?」


ステ「な、なにを言ってるんだ。その記憶力で覚えてないわけが」アセ


イン「ステイルが私より後に置いたシーンは見てないもん」アセアセ


ステ「ぐ。おい神裂、君ならわからないか?」


火織「いえ、全然」ニッコリ


ステ「そのツラは知っているな!」


火織「聖人ウソツカナイヨ」


ステ「誰からそんなボケを仕込まれた!?」


イン(…………こ、このシチュエーションはみことの惚気話の中に出てきた……!)

286 :小ネタ「スペシャル」[saga]:2011/07/20(水) 17:44:52.12 ID:TnT9aaYr0


ステ「もういい、こんな俗っぽい聖人をあてに出来るか!」


火織(聖人って割とそんなものですけどね)


ステ「最大主教、よく考えたら貴女の能力で『食べ口の形』を覚えてる筈じゃないか」


イン「!!!」


ステ「それで見分ければ一発さ。頼むよ」


イン「………………えっと…………」


ステ「? どうしたんだい、早く」




イン「こ……………………こっちかも」


ステ「いや『かも』じゃなくて。断言できるだろう?」


イン「~~~~~~!! こっちが私ので、そっちがステイルのなんだよ!」


ステ「な、なぜ怒ってるんだい……?」


イン「怒ってない!!! ん、やっぱり、スペシャルな、味なんだよ!」バクバクモグモグ

287 :小ネタ「スペシャル」[saga]:2011/07/20(水) 17:45:55.88 ID:TnT9aaYr0


ステ「…………?」ハテ


火織「…………ほらインデックス、そんなに急いで食べるから」


イン「んぐんぐんぐ、え?」


火織「マスタードが頬に付いてますよ、こっちを向いてください」つハンケチ


イン「ん…………」フキフキ


ステ(…………昔を思い出すな)シミジミ


イン「……あ、ありがとなんだよ、かお」






火織「ステイル味のホットドッグはスペシャルでしたか?」ゴニョゴニョ


イン「っっっ!!??」シュー

288 :小ネタ「スペシャル」[saga]:2011/07/20(水) 17:46:50.66 ID:TnT9aaYr0





ステ「どうした!?」ガタッ


イン「こ、来ないで! お願いだからいま私の顔を見ないで欲しいかもぉ!!」マッカ


ステ「そういう訳にはいかな」


イン「後生だから!」


ステ「はあ……そこまで言うなら」チャクセキ


イン「ほっ」





火織「個人的にはやはり煙草の味がするのかな、と思うのですが」ニヤニヤ


イン「かおりぃーーーーーーーーっっっ!!!!!」ンキーッ!


ステ「?」パク



オワリ

289 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/20(水) 17:48:25.24 ID:TnT9aaYr0


かんざきさんは妹分をからかう面白さを覚えてしまったようです
もう一本、上琴夫婦の小ネタをやったら本編に戻りますねー
ではまた

295 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:09:27.89 ID:7bmJ/CHi0



とある夜 上条家 一家の寝室



真理「zzzzzz」


当麻「…………寝たな」


美琴「もう夜中にぐずり出すような歳でもないしね」


当麻「大変だったよなぁ、ほんの一年前までは」


美琴「でも、私のパパもママも、お義父様もお義母様も」


当麻「ああ。こうやって、俺たちのこと育ててくれたんだよな」


美琴「うん。そのおかげで、私たちはこうして出逢えたんだから」


当麻(………………俺は、何にも覚えてねえけど)

296 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:10:33.95 ID:7bmJ/CHi0


美琴「私だって覚えてないわよ、そんな小さい時の事なんて」


当麻「へ? 口に出てたか?」


美琴「ふふん。インデックスはステイルの考えてる事、
   だいたいわかるなんて自慢してたけどね。
   私は当麻の考えてる事なんて、全部お見通しよ」


当麻「……良い嫁さん貰ったなぁ、俺」


美琴「今ごろ気付いたの?」


当麻「いいや、ずっと前から知ってるさ。
   俺の奥さんは、痺れるぐらいイイ女だってな」


美琴「………………とうまぁ」モゾモゾ

297 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:11:15.35 ID:7bmJ/CHi0


当麻「……おいおい、二人目はまだ早いって話し合ったろ?」


美琴「そんなの関係ないもん」ブー


当麻「はぁぁ。まだあったっけなアレ」


美琴「ね、とうま」


当麻「?」




「――――はやく、しよ?」




当麻(………………鉄壁と自負していた上条さんの理性も、脆くなったなぁ)


美琴「とうま、とうま? って、ふにゃああ!?」


当麻「……久しぶりだからな、覚悟しろよ美琴?」


美琴「んっ、やあっ!? い、いきなりそんにゃ
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
298 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:11:43.36 ID:7bmJ/CHi0



         _,、=:ニ;‐、、--――‐y、,_     ,,r;;;;''''=―--、、,_
       /´  ヽ,ヽ,.゙'l,.゙Y;--',r'゙'ヾ;'V.j   /∠,,.r_;'゙-‐-,<゙゙ヽ,'i、'‐、,
      ./_   .,,_j ゙l l,. Y/゙'ヾ、;、ノ,r;'|  /jフ,r-、ヽ、  _,,>.゙'ー;゙' ーi,. |'i,
      j.ヾ!  ト‐! | .| .|,_ ./,.〈. 〉| ./ .(゙   _>゙'゙ r''゙´'i,゙l, ,j レ! .|:|
      .|il,  __  j .j゙ .l  ト,゙',/ j.゙ r;| .レ'゙''‐ニ'''゙r''゙´ .゙l,ヽ,. ,ノ ゙ r''1.jノ
      .|.l,゙l, ゙ー゙.ノノ  / / ゙l ゙l,ヽr',r'l ゙;| .ト、,. /./´゙ヽ;.、 ノ ,゙rッ  .,Y';V
      | l,.゙ヽ--'゙ ,ノ  /  l, ゙'゙,,.l, ,j ゙| l,ヾ,、--、,,,、'_, r''゙ l   / li,;)
      l,. ゙'i,  /  ,rシ-、,ィ) l,゙i,V/゙j゙ /゙,,、、、,_  ゙\!.レ゙  .| Y゙
       ゙l゙i,・ヾi, ,/ィl、・_ノ ,;:: ゙シ'i.l,ノ ./゙    \  ゙Y:   .l /
       | `ラ´゙'''´ ''"'´  .|  |:.r'`V'''" ̄`゙ヽ、 ゙'i,  |.   ' /
       ゙'i,         .j  |./ ∧、, ゙̄ヽ、. \ ゙l. |\ ./
        ゙i,. r、,,,.、,_   / ノメ、 .j |ヾヽ,゙'ー---‐'''''ヾ-、,‐'
         .゙i,ヾ'-'ニワ.  / ./ノ .V j゙ |'i,. ヽ;-‐-、,_::::__ ::..>
        /:::l,〈`   //‐'´ ./.ヽ/ .j.ノ  .:ヾ、;:) ゙'i    `ヽ、
       /::::::::|ヾ‐;<;/__,、r'´ ./ .)='゙  ..::  ,ソ  .(:: _,,r‐''゙⌒`゙ヽ、,
      / l;::::::::::Y゙人゙l;:.    .,/,r'ニ゙   _,、r''´  ..:: ゙ヾ、     ::  ヽ,
     l  /,r:| j‐゙''l; ゙ニー‐'゙ (`l.(_,r‐'''゙´__,, ....:::::   .`ヽ、,....:::::..  ゙l,
     .!. .l゙l゙レ'>‐゙ | ト;゙i,l、ノ,r;;'ニ゙/´゙Y .,r'゙ ̄    .....::::::::::::::::::::::::.゙ヽ、:::    l,
     | 'ー;l.'i,.l゙  ,j 'シ'‐-ヘ;'V゙./  ゙l, ヽ, ......:::            ::::..ヽ,   ゙l
     .|._,rラl,.|  / ,i l,   .ノ , ゙i,   .゙ィ,.レ'                :.゙l,  .|
     / / ゙l l,゙l,/./ .l, l, ././ .゙l,゙l、  /.,ィ´ ,.r''ニ'' ヾ,            .:l, j゙
   .,rl´.'-‐ニ, .,、 L,,,,,゙l, V /   ヽ,゙'´/.|  .l゙/;=iミ;゙'i,. [        .:::::::::::::::Y゙
  .,r',、 「゙´  | .| jヾ、--、ヾl,    /,、 ゙l,.゙l、-';j;ノ::::::゙レ゙lj゙   ........::::::::::::::::::::::::::|
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 レ:'二i .i''゙゙´| .|:::::::)、V.l゙  ゙l,.゙'V /   ゙'i, ゙V゙ /ノ゙ /゙L,___,,,_   : : :: :::::l
..゙T´ .| |  ,.| .|::::::/ ゙'i,゙l,  `i , l,    〉,,.〈/  .ヽ、,,,,,、、-―‐-、ヽ、  ..:: .:/

299 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:12:28.88 ID:7bmJ/CHi0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


真理「zzzzzz」


美琴「ステイルってさあ」


当麻「ん?」


美琴「当麻の事嫌いよね」


当麻「…………あれでもかなりマシになったぜ?
   初対面の時なんて開幕炎剣ぶっぱされたからな」


美琴「やっぱりインデックスを間に挟んでるから?」


当麻「それは…………なんつーか、違うんじゃねえかな」


美琴「そうなの?」


当麻「アイツは多分さ、もっと根本的に俺を嫌ってるんだと思うんだよ」


美琴「うーん…………生理的嫌悪、って事かしら」

300 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:13:17.33 ID:7bmJ/CHi0


当麻「インデックスの事が無かったとして、なんて言い方は悪いけどさ」


美琴「確かに悪いわね」


当麻「話の腰を折るなよな……」


美琴「折れそうなポイント提示してきて何言ってんのよ」


当麻「とにかく! それで俺とステイルが仲良しこよしになれるのかって言われたら」


美琴「あー……想像つかないわね」


当麻「だろ?」


美琴「じゃあ当麻はステイルを好きじゃないって事?」


当麻「…………その質問にどう答えりゃ満足なんだお前?」


美琴「まあまあ照れないで正直に言ってみましょうよ」


当麻「照れてませんよ? 上条さん別にそういうキャラじゃないからね?」


美琴「じゃあどうぞ」

301 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:14:54.51 ID:7bmJ/CHi0


当麻「…………ただ一点を除けば、気にくわねー野郎だよ」


美琴「うーん。やっぱり」


当麻「やっぱりって何だよ」


美琴「当麻の口から、そういうマイナスの人物評が出るのって珍しいと思うのよ」


当麻「そうかぁ? 結構他人の行動にケチつけてると思うけどな」


美琴「(いや結構っていうか……)性善説論者でしょ、当麻」


当麻「そんな大仰なものじゃあありませんことよ」


美琴「大仰も大仰よ。当麻の『性善説』にどれだけの人が助けられたと思ってるの?」


当麻「結果論だろ、そんなの」


美琴「終わりよければ、大いに結構じゃない。今日の当麻、なんか弱気よ?」


当麻「………………」

302 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:15:44.41 ID:7bmJ/CHi0




美琴「でも俺は、ステイルとインデックスには何もしてやれてない」


当麻「!!」


美琴「…………言って? 思いのままにぶちまけて? 
   私だって、私の全部を当麻に打ち明けてる訳じゃあないけど」


当麻「……美琴」


美琴「わがままだよね。自分の汚い部分は知って欲しくないのに。
   当麻の事ならどんなに暗くて、狭くて、孤独な場所でも知りたいの」


当麻「美琴」


美琴「当麻の苦しみを分けて貰うのは、私の特権。そうでしょ?」


当麻「…………っ! 美琴、みことぉ!」


美琴「も、もう! 別にっ、そういう事しろって、わけ、ひゃあん
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303 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:16:25.30 ID:7bmJ/CHi0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

美琴「じゃ、次行きましょ」


当麻「え、まだ続けんの? いい加減上条さんも眠くて」


美琴「…………だ、誰が寝かせてくんないと思ってるのよ」


当麻「………………スイマセンデシタ」


美琴「よろしい。インデックスの事、どう思ってる?」


当麻「決まってるだろ、家族だよ」


美琴「便利な言葉よね、それ」


当麻「ぐ」


美琴「そこをハッキリさせるのが、当麻に出来る『何か』だと思うわけよ」


当麻(静かに淡々と説教されるのって、意外とくるなぁ)


美琴「だからってもっと暑苦しく説教されてもアレよね」


当麻「ぐはっ」

304 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:17:38.58 ID:7bmJ/CHi0


当麻「そろそろ丑三つ時だぞ、おい」


美琴「いいじゃん、明日休みだし」


当麻(……考えてみりゃ夜更かしは学生時代から慣れっこだったな)


美琴「一方通行とか、残骸の時とかね……それじゃあ、次でラストの質問にするね」


当麻「やっとかよ」


美琴「んん………………」


当麻「おい、どうした?」


美琴「あのね、当麻」モジモジ


当麻「だからいったい」

305 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:18:35.51 ID:7bmJ/CHi0





美琴「私の事、好き?」





当麻「」


美琴「ねえ、当麻」


当麻「…………おい待て。まさか今までの全部この為の前フリだったのか?」


美琴「答えてよ、私だけの当麻」





当麻「…………愛してるよ、俺だけの美琴」





306 :小ネタ「ピロートーク」[saga]:2011/07/22(金) 18:19:20.53 ID:7bmJ/CHi0


リビング



ステ(…………)ウイスキーチビチビ


ガチャ


イン(…………)ネレナイ



「「あ」」バッタリ


「「………………」」



イン「…………真剣に、遷るホテルの検討をしたいんだよ」


ステ「…………土御門に、掛けあってみよう」



オワリ



325 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:03:32.16 ID:NSPp6HZt0


路地裏に、ドロドロとした巨躯に抱かれた哀れなマリオネットの断末魔が響く。

目を逸らした佐天やすっかり泣き止んでしまった真理を尻目に、魔術師二人は淡々としていた。


「最大主教。解析は?」

「――基本理論はブードゥー。主要用途は敵性の排除。抽出年代は一九世紀。
 元魔術(オリジナル)に正教魔術の混合を確認。
 言語体系はフォン語からラテン語に変換。遠隔精密操作と構成より判断――だよ」

「…………ブードゥーの死霊崇拝か。ならば、これは死体を使っているんだな」


日ごろの温かみが極限まで排除されたインデックスの詳説にステイルは小さく舌を打つ。

イノケンティウス
『魔女狩りの王』に長々とその身を焼かれながらも、異形はいまだに原型を留めている。

摂氏三千度を軽く超える炎を間近に受けながら、恐るべき生命力――命などないが――であった。


「す、ステイル、インデックス! どうしてまだ日本に居るの!?」


専門家として眼前の事象を分析し続ける二人に、我に返った佐天が声を掛ける。

彼女の疑問は尤もであった。





イギリスから来訪した最大主教は七月十二日。

往路と同様に大勢のカメラに囲まれて、確かに日本を飛び立っているのだから。




326 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:05:15.37 ID:NSPp6HZt0


インデックスは困り顔で傍らの長身と顔を見合わせる。

神父は真面目くさった表情で巻き込まれてしまった女に警告した。


「悪い事は言わない。ここから先は聞かない方が良い」


ここまで来て無力な部外者扱いか。

そんな文言が浮かぶと、彼女の口は勝手に声を張り上げていた。


「いやだ!!」


ところが、寸刻も待たずに返った応えを聞いて二人は諦めたように笑った。

その反応は読めていた、と言わんばかりである。


「ごめんね、私たちの力不足でこんな目に遭わせちゃって」

「君には知る権利がある。今のは念のため意思を確認しただけさ」


こうなると慌てるのは佐天の方である。

二度まで命を助けられた恩人を感情のままに怒鳴りつけるなど、子供の癇癪そのものだ。

顔に血がのぼってくるのを自覚し、その重さに引かれたのか頭が自然に下がった。


「ご、ごめん! せっかく助けてくれたのに」

327 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:06:55.72 ID:NSPp6HZt0


場のムードは穏やかなものになったが、鼻をつく異臭に女性陣が顔をしかめる。

消し炭すら残さず焼き尽くされたのか、クリーチャーも魔人も既に姿を消していた。

その身に装着していた黒い鎧のような物体だけが、大地をも溶かす高温に耐えて残るのみ。

眉をひそめたステイルは、しかしかぶりを振って佐天に向き直った。


「礼だの詫びだのは全て終わってからでいいさ。まずは場所を移そう」


屍に残されていた脂肪分が飛散し、周囲の大気は嫌なべた付きを彼らの肌に伝える。

先導してこの場を去ろうとしたステイルだったが、


「…………失礼するよ」


一瞬歩みを遅らせて懐で震えた端末に即座に反応した。


「……ステイルは少し忙しいから、私から説明するね」


長くも短い逃走劇を終えた女性と幼子をいたわりながら、シスターが代わりに先頭に立つ。

彼女は真理を抱きかかえると血液の付着した部位を撫でながら、今回の一件の発端を語り始めた。



「――――事の起こりはね、三月にロンドンで起きた紛争まで遡るの」




328 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:08:16.45 ID:NSPp6HZt0







そもそもの端緒は、三月初めに倫敦を舞台にして起こった『戦争』の後始末にあった。

戦後交渉を担当したのは言わずもがな、土御門元春である。

味方の犠牲を最小限に抑えて、尚且つ敵を殲滅し尽くしたというわけでもない。

戦略的にも最上の結果をカードとして、土御門は第三世界をテーブル上で手玉に取った。

しかし一次大戦後の某体制でもあるまいし、

経済的根拠を持たない敗者に巨額の賠償金など求めるわけにもいかない。

とくれば、彼が欲したのは更なる優位性を確保するための戦略情報であった。


「土御門…………?」

「知ってるの?」

「あ、いや。話続けて」

「? そのもとはるが手に入れた情報の中に、学園都市への襲撃計画があったの」


元々第三世界の結社の標的はイギリスと学園都市であった。

三月の事件でイギリス清教は中南米のゲリラグループに対し壊滅的損害を与えたが、

それとはまた別の勢力による学園都市強襲計画の輪郭が、おぼろげながら明らかになったのである。

329 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:09:30.71 ID:NSPp6HZt0


土御門にしても多数の友人が今も在住する科学の街に

関わる問題だけに、無碍に政争の具にするつもりはなかったのだろう。

だがこの計画を知った彼の上司の学園都市に関する思いは殊に強く、

あまつさえ自らが赴いて支援するなどと言いだしたのだ。



上司とは勿論、インデックス=ライブロラム=プロヒビットラムその人であった。



過保護な聖人をはじめとする周囲は当然強く反対したが、

なんと清教派が誇る頭脳は最大主教の提案を作戦の一部に組み込む事でこれを了承してしまった。

更に聖ジョージ大聖堂のみならずロンドン全体を震撼させたのは、

君のために生きて死ぬの名フレーズでお馴染み、

筆頭護衛官ステイル=マグヌスが彼女の日本行きに賛成してしまった事であった。


「だけどこの情報のネックはね、相手がいつ頃『来る』のかが不明瞭だった事なんだよ」

「判明したのは五月の終わりぐらいだったんだがね」

330 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:11:22.92 ID:NSPp6HZt0


連絡を終えたらしいステイルが、インデックスの説明に補足する。

その後は二人がかわるがわる口を開いたが、佐天の理解は不思議とより明快に進んだ。


「そこで我らが今孔明の得意技、『釣り針』を張ったってわけさ」

「私の公式訪問を大々的に宣伝して、相手の決行時期を誘導しようとしたんだよ」


友好関係にある二つの大勢力の結びつきが強まるとなれば敵対勢力は黙っていないだろう。

しかも当日の第二三学区は学園都市始まって以来の一般への大開放を行い、

下らないバラエティー企画まで組んで付け入る隙をこれでもかと晒したのだが。


「でも、何も起こらなかった…………?」

「その通り。露骨に過ぎた、ということかな」


目論見を外された迎撃側は、雲川芹亜の献策で『餌』の攻略難度を引き下げる事に決めた。

それが科学サイド最強の超能力者、学園都市第一位『一方通行』と、

魔術サイドでは彼以上に恐れられる『幻想殺し』の戦線離脱である。


「細かい情報戦は僕らが担当したわけではないんだが…………。
 この事実をそれとなく流して、再び誘いを掛けたってわけだ」

「彼らの目的からすれば、千載一遇の好機に映ったはずだよ」

331 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:12:45.02 ID:NSPp6HZt0



「ちょっと待って。その…………テロリスト? の目標って一体なんなの?」


流れるようなプロのレクチャーに、初めて佐天が口を挟んだ。

失念していた、とインデックスとステイルが同時に額を叩く。

その息の合った仕草に、彼女は真理と一緒になって思わず吹き出してしまった。


「なぜ笑うんだい……まあ、重要なポイントを忘れていた事には違いないけど」

「……『それ』を聞いちゃったから、私も居ても経ってもいられなくなっちゃったんだよ」



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学園都市の行政機能が集中する第一学区でも、ひと際重要な施設である統括理事会本部。

その一室で雲川芹亜は、同盟相手への状況報告の最中だった。


『「アイテム」の大能力者が一人、重傷か』

「……第四位の怒り様といったらない。並の魔術師ならご愁傷様、なんだろうけど」

『止めただろうな。他の三人ならまだしも、「右方」には「原子崩し」では勝てん』

「正直言って、助かったよ。危うく無為に犠牲者を増やすところだったけど」

『薄気味悪いな』

332 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:15:43.90 ID:NSPp6HZt0


「感謝の気持ちぐらい素直に受け取って欲しいけど。
 『レーダー』の事も含めて……あれが無ければ救助は間に合わず、
 絹旗最愛は命を落としていただろうよ」

『…………それにしても、よく超能力者を統率なんてできたな。
 オレの知ってる「奴ら」は、第三位を除いて人格破綻者の見本市だったんだが』


その最たる例として元同僚の第一位を思い浮かべながら、土御門は話題を逸らした。

珍しい相手からの珍しい感謝の言葉に、彼も多少は照れを感じたのだろうか。


「それは間違ってると思うけど」

『アイツらの人格擁護か? あぁ悪い、アンタのダーリンは』

「そういう事じゃないんだけど」


雲川はつい先刻、その第三位に苦汁を嘗めさせられたばかりである。


『じゃあアレか、指揮官の人望ってやつか』

「皮肉はよしてくれ。まあ実際、最後には人徳が物を言った、という気がするけど」

『親船最中に、貝積継敏か。腐った大人ばかり見てきた実験体達には、
 彼らみたいな存在が眩しかったのかもな』

「特に貝積さんはな。あの人は、甘い上に優しすぎる」


かつて雲川が雇われブレーンを務めていた元理事、

貝積継敏は既に老齢を理由に政治の第一線からは退いていた。

助力を求められていた当時は厳しさの足りない姿勢に度々苦言を呈した彼女だが、

その性質が闇に浸かった高位能力者たちの心を解すに一役買った事は間違いなかった。

333 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:17:24.17 ID:NSPp6HZt0


元を糾せば雲川と『彼』が今の関係にあるのも、

貝積がその能力を解明すべく躍起になっていたことが切っ掛けで――――


『………………おい、聞いてるか?』

「……もちろん聞いているけど。続きをどうぞ」

『やれやれ、どこまで話したんだったかにゃー。そうそう、アンタの戸籍を改竄して「そぎい』

「貴様がアステカの女魔術師に『お兄ちゃん』と呼ばせた時の映像がこちらにはあるんだけど」

『…………マーヴェラスだぜい、雲川芹亜』

「もう止めようか、土御門元春。不毛なんだけど」


土御門が親船顔負けの『平和的侵略』で獲得した情報は大まかに分けて三つである。

一つ、襲撃計画の存在。

一つ、その目的とするところ。

一つ、襲撃者の規模。

彼がこの三ヶ月間追い続けてきたのは、三点目に関する詳報であった。

なにしろ概略では、十人以下の超少数精鋭で学園都市の心胆を寒からしめようという魂胆だったのだ。


「にわかには信じられなかったけど。『そんな目的』を、そんな人数で達成しようなんて」

『気持ちはわかるさ。だが「0930」の様な前例がある』


土御門にしてみれば、ロンドンでの一件のように大勢押し掛けてきてくれた方が都合が良かった。

少数であるという事は、それだけ己の力に自信を持っているに違いない。

魔術の世界には尚尚存在するであろう『怪物』級が混じる可能性は極めて高かった。

334 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:18:34.75 ID:NSPp6HZt0


なればこそ、敵に関するデータは鮮明にしておかねばならない。

地下に巡らせた諜報網を蟻の如く這いまわり続けて苦節三ヶ月。

遂に彼は先日、第三世界が外部の魔術師集団に協力を依頼した事実を突き止めた。




――――『神の右席』を名乗る四人の魔術師による、超能力者殲滅計画。

それが、事件の全貌だった。




「……示威行為としてはこの上ない効果があるんだろうけど」

「奴らの実力を持ってすれば、効率面から見ても悪くは無い」


現在の世界趨勢における科学と魔術の天秤は、

緩やかとはいえ成長を止めない科学側にやや傾いているとの見解が大方を占める。

そこに楔を打ち込むために、象徴たる超能力者を消し去る。

実現性は兎も角として、見事成った場合の科学側のダメージは計り知れないだろう。



そして土御門の知る『神の右席』には、絵空事を現実に変えるだけの力があった。



335 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:19:59.27 ID:NSPp6HZt0

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「そ、それじゃあ、美琴さんや隊長も狙われてるの?」

「…………うん。とうまとみことには、何も知らせてなかったんだけど」

「まこちゃんの事は?」

「あんまり考えたくは無いけど…………とうまに対する、人質のつもりなんだろうね」


インデックスに抱かれた真理は、泣き疲れたのかスヤスヤと眠ってしまっている。

その姿に目を細めてから、ステイルは彼女の問いに事務的に答えた。


「残念ながら、美琴も既に戦闘に入ってしまっている。彼女と削板は現在共闘中だ」

「それは一体どこで?」


聞いた佐天の目の色が変わるが、


「やめるんだ、勇気と無謀を吐き違えるんじゃあない。
 …………そんな馬鹿は、アイツ一人で間に合ってるよ」


すぐにステイルがそれを強く窘める。

忌々しい男の背中が脳裏に浮かんで、思わず煙草とライターに手が伸びかけた。

すると今度は神父がシスターのありがたい説教を受ける番だ。

336 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:20:58.82 ID:NSPp6HZt0


「………………すーているぅ?」

「!!! ち、違う!」

「没収だからね、コレ」

「Jesus…………」


肩を落としたステイルにつられて、佐天も張り詰めていた息を吐き出す。


「じゃあ次は、あなた達がこの街で何をしてたか聞きたいんだけど」

「はぁ…………いいよ、続けよう」


滞空回線という最強の目を手放した学園都市にとって、

少数でのゲリラ作戦に出られるのは最も忌避すべき事態であった。

能力者ならば第九位の力で銀河の果てであろうと位置を特定できるが、相手は魔術師だ。

そこで雲川らが欲したのが対魔術の精緻なレーダー、ステイル=マグヌスだった。

彼は計画の実行される一月も前に秘密裏に日本入りし、

地道に地道に、学園都市を己が知覚の行き届く陣地として再構築していった。





ステイルが三十五日掛けてばら撒いたルーンの枚数――――――実に五十万。





337 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:23:55.03 ID:NSPp6HZt0

ロンドンのように『天罰術式』の形成までは至らなかったものの、

彼は迎え撃つ能力者達の管制官として十二分にその役割を全うしていた。


「専門用語が多くてなかなかわかりづらいなぁ。
 私が会った時二人がIDを持ってなかったのは…………」

「僕らが学園都市をチマチマ造り替えているのを連中に察知させないためさ」


そもそも入国時の無茶苦茶(穴三)からして敵の目を欺くためのものだったのだ。

斯様な奇跡体験の果てに秘密入国しておいて、

内部に入り込んでからの隠蔽工作がお粗末だったら目も当てられない。


(と言うか、仮にそうだったら土御門のアホを生かしておくものか…………!)

「入国を会談当日だって公言したのもその一環なんだよ」

「…………でもさ、十字教のトップが一ヶ月も行方知れずだったら流石に不自然じゃない?」


詳細を知れば知るほど、疑念は後ろから湧いてくるだろう。

そんな佐天が重ねた質問に、赤毛の神父は苦り切っていた表情を一変、ニヤリと笑った。


「居るとも、最大主教なら…………ずっとイギリスに」

「へ?」

「さっきも言っただろう? ここに居るのはただの通りすがり、フリーの魔術師さ。
 イギリス清教の最大主教とその護衛は七月十日に来日し、七月十二日に帰国したんだよ」

338 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:25:13.90 ID:NSPp6HZt0

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ロンドン、聖ジョージ大聖堂。



荘厳に、厳粛にミサが執り行われている広間の最前列で、

『日本から帰ったばかりの』最大主教その人が常より幾分固い笑みを浮かべていた。


(ああああああ、何度やっても慣れない!!)


儀式を終えた彼女が疲労困憊で壇上から降りると、

脇に控えていた赤髪の神父が極力靴音を鳴らさずに寄り添った。


(お疲れ様でしたね、ショチトル)

(エツァリぃぃ、たまには変わってくれ……)

(無理です。その為にはもう一度彼らの皮膚を剥がないといけませんよ?)

(うう、そうも正論で諭されると)

(では、感情に身を任せて慰めてあげますよ。自分の部屋に行きましょう)

(お兄ちゃぁん………………)


今やイギリスでも一、二を争う話題のカップルの抱擁シーンに、

会衆のヒソヒソ話はもはやまったくヒソヒソしていない。

339 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:25:55.29 ID:NSPp6HZt0



「やっぱよう○べに流出した映像はモノホンだったんだ……」

「まあワシゃ五年前からこうなるんじゃないかと思ってたけどな」

「私のステイル様がぁ!」

「俺たちのインデックスちゃんがあああ!!」


『愛しのお兄ちゃん』の腕の中で恍惚としている最大主教は野次馬などアウトオブ眼中だが、

その『お兄ちゃん』の方は可愛い義妹を撫ぜながらしっかりほくそ笑んでいた。








(  計  画  通  り  )









340 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:27:54.43 ID:NSPp6HZt0

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「そういう訳だから、僕らをイギリス清教の人間としては扱わないでくれ。
 少なくとも、今回の一件が無事に終息を見るまではね」


自分達の外堀がもはや堀として機能しないほどに埋められてしまっている

危機的状況など露知らず、ヘタレの代名詞としてその名を轟かせる神父はしたり顔である。

そうこうしている内に四人はほの暗い路地裏を抜け、光溢れる世界に帰還した。

少年院や墓地など特殊施設の多い第一〇学区には、人影は殆ど見当たらなかった。


「っつ…………」


と、その時だった。ステイルが突然苦悶の声を上げると、額を抑えて蹲った。


「ステイル!?」

「ああ、気にしなくていい……わかってたことだろう?」


『魔女狩りの王』はステイルの行使する魔術の中で一、二を争う魔力消費を誇る。

ましてや今回の発動は学園都市中に張り巡らせたルーンのうち十万枚ほどをパワーソースとした。

それほどの火力で無ければ消滅させられない相手と踏んでの判断だったが

ステイルが払った代償は相当量に達し、軽い頭痛に一瞬平衡感覚を失うほどであった。

しかし彼はインデックスの気遣いにもおざなりに答え、再び立ち上がって歩き出した。




ドオオオオンッ!!!




341 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:29:22.52 ID:NSPp6HZt0

轟音と共に手近な施設の壁がガラガラと崩落した。


「しまった…………っ!! こんな近くまで一瞬で!」

「今度はなに!?」


度重なる異常事態に、佐天が顔色を失って轟音と粉塵の上がった地点を見た。

ステイルは咄嗟に二人を後ろ手に庇い、魔力の発生源を探る。

ついさっきまで二キロは離れていた反応が、

突如としてこの位置に『飛んで』来た事に彼も焦りを隠せなかった。

真理をその腕に護るインデックスは、もしもに備えて小さな身体を強く抱きしめた。



やがて砂煙が晴れると――――その場所には誰もいなかった。


「…………へ?」







「そう間抜け面をしなくてもいいだろう、警備員の女?」







――――三人の背後に、全身赤尽くめの痩身がにやにやと笑いながら現れていた。

その鮮やかな赤を目に入れた瞬間、佐天はインデックスの手を引いて一目散に駆け出した。

342 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:31:04.63 ID:NSPp6HZt0



「お、おい。ちょっと」

「…………自分の格好と彼女の現況を把握しているのか貴様。逃げられて当然だろう」

「ショボーン」

「黙らっしゃい!」



「ま、待ってるいこ! あの人は、違うの!」

「……………………………………へ?」


短い間に二度も間抜けな声を洩らしてしまった女性が、

百メートルほど走った先でようやく止まる。

思い切り引っ張ってしまったシスターの指摘に耳を良く傾けようとふり返ると、


「俺様は一応は命の恩人なんだぞ。そう脱兎のごとく逃げられては流石に傷付く」

「きゃああああああああああああああ!!!!!!」


またしても視界いっぱいに広がる赤。


「フィアンマ! あんまりからかわないで!」

「そのおかっぱ頭に脳味噌は詰まっているのかぁ!!!」

343 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:32:45.49 ID:NSPp6HZt0


一人だけ百メートルの彼方に置いて行かれたステイルが合流すると、

混乱が頂点に達している佐天を落ち着かせるため手短に事情の説明が為された。


「べ、別人?」

「まったく失礼な話じゃないか。この甘いマスクとあんな凶悪な魔術師を見間違えるとはな。
 誰が路地裏に逃げ込むお前達の助けになってやったと思ってる?」

「え、そ、その節はどうも?」

「雑談に耽ってる暇は無い。あと突っ込んでる暇も無い!! 『右方』はどうした!?」

「それはお前の役目だろう……と言いたいが、今は魔力精製を行っていないのだな」

「ああそうだとも、だから探知できない。貴様ならわかるんだろう、早く吐け!」

「す、ステイル…………ちょっと落ち着くべきかも」


凄まじい剣幕で詰め寄るステイルに対して、『フィアンマ』は飄々と受け答えた。

だが良く見ればその満身は、戦場を抜けてきたかのように傷と埃に塗れている。

インデックスが手当のために負傷の具合を訊こうとすると――



「そこに居る」



――フィアンマが殺気を纏った。


「―――――――――ッッ!!」


344 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:34:05.36 ID:NSPp6HZt0


急激に表情を変貌させた男につられて、全員が弾かれたように振り向く。

その先には確かに、『フィアンマ』と瓜二つの装束に身を包む男がいた。

今度こそ、佐天が恐怖に膝を折った。


(『アレ』だ…………!)


先刻感じた『死』は、間違いなく遠方に在るあの赤が齎したものだ。

佐天は自らの脳のどこかが麻痺し続けていた、と今更ながらに自覚し慄然とした。


「涙子、立てるかい? いいか、今すぐこの場から逃げろ」

「ごめんなさい。あなたとまことを、同時に護る自信が無いの」

「全員逃げてもいいんだぞ。『アレ』の相手は俺様にしか務まらない」


次々に、彼女の身を案ずる声が掛けられる。

しかし、立てない。怖い。恐い。こわい。

佐天涙子の反応は、認識し難い鬼胎に出逢ってしまった、正常な人間のそれに相違なかった。


ユラリ、と立ち上るような怒気を渙発させながら赤が一歩一歩とにじり寄って来る。

最悪の場合、おぶってでも佐天たちを逃がさねば。

ステイルがそう腹を括った時、遂に男が言葉を発した。


「ロートルが。どこまで俺様をコケにする気だ?」


345 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:35:31.51 ID:NSPp6HZt0


「ロートル、ロートル……はは、これはご挨拶だな若造。俺様はまだまだ現役の三十代だ」


男の暴言を二度、三度と噛み砕き、フィアンマは不敵に笑う。

二人の『赤』の間に射殺すような視線と口撃が飛び交った。

その場に居る他の誰一人として、口を挟めない。

ただポツリと、無力に震える女から独語が漏れ出したのみだ。


「なんなの、あなた…………?」

「科学の狗が。その心臓を動かす事を許可した覚えは無いぞ」

「よく言うなぁ、『右方のフィアンマ』? 主の許しも得ずにその椅子を手中にした罪人が」

「黙れ…………!」

「黙らん。何度でも言ってやる。
 お前は、自らの身勝手な判断で、神の領域を侵した――――盗人だ」

「…………死ね」


ストン、と一切の表情が抜け落ちた男の右肩から、『第三の腕』が顕れる。

佐天の口から音にならない悲鳴が上がった。


「逃げて!」


彼女はそう発音したつもりだったが、誰にも聞こえてはいない。

ステイルにもインデックスにも余裕がないのか、あるいは声が掠れているのか。

しかしただ一人、『フィアンマ』だけがくつ、と応じるように喉を鳴らした。

346 :神の右席編④[saga !red_res]:2011/07/23(土) 22:36:02.73 ID:NSPp6HZt0











――――同時にその右肩から、三本目の『腕』が顕れた。











347 :神の右席編④[saga]:2011/07/23(土) 22:37:11.26 ID:NSPp6HZt0


それは実像か虚像か、はたまた神の御業か。

科学の街に、天上から降りてきたと謳われても頷ける神々しい造形物が一対。


「……………………え?」


理解のまったく追いつかない女など目にもくれず――――




「では仕切り直しだ、『右方のフィアンマ』」




「神に祈る間など与えると思うなよ、『ただのフィアンマ』」








――――二つの『腕』が、ミシリと空間を軋ませながら交差した。









357 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 20:57:09.96 ID:FB/zXp6x0


およそ、三年ほど前の事になる。

ローマはバチカンの聖ピエトロ大聖堂に驚愕の来訪者があった。

第三次世界大戦を糸引いた大罪人、『神の右席』のリーダー格。

かつて教皇にさえ牙を剥いた『右方のフィアンマ』が、バチカンへ帰還したのである。


厳重かつ複雑な魔術防衛網を事もなげに潜りぬけたフィアンマは、

ローマ教皇ペテロ=ヨグディスに半ば強引に面会。

更に彼はペテロに対して前教皇マタイ=リースへの引き合わせを求めた。

退任後も全ローマ正教徒からの求心力に衰えは無く、

自らも敬愛するマタイの身に何かあってはと、ペテロは命懸けでこれを拒んだ。



しかしフィアンマは意外にも一切魔術に訴えることなく、

請願が聞き届けられるまで聖堂の一角に座り込むのみであった。



ローマ正教にとっての爆薬になりかねない危険物に頭を抱えたペテロは、

二人の魔術師に水面下で連絡を取った。

一人は英国王室に婿入りしたかつての『後方のアックア』。

そしていま一人は、隠棲するマタイの介助を買って出ていた『前方のヴェント』だった。

358 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 20:58:29.09 ID:FB/zXp6x0


『何のつもりでこの国に戻ってきた、フィアンマ?』

『前教皇に危害を加えようって腹なら、一戦交えても良いわよ』

『なんだお前、介護中もそんな堅苦しい呼び方なのか?』

『真面目に答えなさい!』

『いや、確かヴェントは「おじいちゃん」と照れながら呼んでいたのである』

『アックアーーーーーーッッ!!! 余計な事言ってんじゃないわよ!』

『おじいちゃんwwいやなかなか良いではないか。俺様も出来ればそう呼びたい』

『ふざけんじゃないわよ! 死んでも会わせるもんですか!!』


二人の説得(?)にも関わらずフィアンマは翻意せず、

やがて事の次第はマタイにまで伝播してしまった。

必死で押し留めるペテロとヴェントをやんわり振り払い、

マタイは聖ピエトロの大礼拝堂にてフィアンマと一対一で向かい合った。

最後まで渋って礼拝堂を出ようとしなかったヴェントが去り際に見たものは――



『な………………?』



――――マタイの正面で膝を付く、フィアンマの祈るような姿態であった。



359 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:00:04.42 ID:FB/zXp6x0

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第六学区、『前方のヴェント』と食蜂操祈、浜面理后の交戦地点。


「しょくほう、気絶した人たちを起こせないの?」


『心理掌握』で『天罰術式』を抑え込んで尚、戦局は侵略者に有利であった。

直接戦闘に適応できない食蜂と理后の能力では、

牽制用にと振るわれる『風の術式』でさえ致命傷になりかねない。


「…………ダメ、倒れてる人たちは科学的にはただの酸欠状態だもの、私の管轄外だわぁ。
 もう少し遅れてたら、浜面さんだって助けられなかったかも」


結果、二人は手近な大型アミューズメント施設に逃げ込んで

立ち並ぶアトラクションを盾に逃げ回る他なかった。

施設内は使役される暴風に切り刻まれ床はズタズタ、壁の配線が剥き出しという有様。

不幸中の幸いは、『前方』が正面からの対峙を避ける女達以外には眼もくれない事だった。


「ああもう、荒事は第六位が片付けてくれる予定だったのに!」


視界に入った一般人を片っ端から『操作』して無事に戦場を離脱させていた食蜂が、

苛立ちを紛らわすために艶やかなハニーブロンドを弄くる。

同時に彼女が身を隠すクレーンキャッチャー台が嫌な音を立てて軋んだ。


「…………それってつまり、二人で何とかするしかないって事?」


『能力剥奪』で『心理掌握』の有効範囲を補正していた理后が、呆れ顔でひとりごちた。

360 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:01:30.29 ID:FB/zXp6x0


「定かでない戦力を当てにしちゃ、やっぱり駄目よね……不幸だなぁ。
 それにしてもあの厚化粧、やっぱり私の操作力が届いてないみたい」


食蜂操祈が超能力者たる所以は、十徳ナイフに例えられる精神感応系能力の幅広さにある。

そもそも彼女にはごく一部の例外を除いて『敵』など

この世に居ないのだから、戦闘能力など身に付ける必要性もない。

しかし数年前に彼女の世界に新たに加わった魔術師という存在は、その原則の外にあった。

思い返せば数週間前、統括理事会ビルで会った二人の客人もそうだった。

そして今、理后によって強度の補正を受けた『心理掌握』でさえ、

精々『前方のヴェント』の思考を朧に読み取るのが限界なのだ。


(ちょ――かちょこま―と逃――って、大した――いわね、超能力―ってのも)


「っ、危ないなぁもう」


脳内をリードされている事を悟っているのか否か、敵は思考の内でさえ挑発を繰り返している。

自らの心理を騙しながらの防戦一方は荒事に慣れない食蜂にとっては全く未知の体験だ。

次なるバリケードを求めて視線を彷徨わせると、何やら携帯を耳に当てる理后が目に付いた。


(余裕あるわねぇ、浜面さん…………)

361 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:02:51.66 ID:FB/zXp6x0


自分とは違って血腥い事態にも慣れっこの理后を

羨ましいなどと思った事は無い食蜂だが、この時ばかりは話が別だ。

飛来した空気弾が後頭部を掠めた事に悲鳴を飲み込みながら、

通話を終えたらしいジャージの女性に彼女は問い掛けた。


「何の電話だったの浜面さん、ひゃっ!?」


先ほどより精度を増して放たれた一撃を避けられたのはひとえに神のきまぐれだった。

キャラに似合わぬ――いや、これはこれで――情けなくも可愛らしい悲鳴を上げて

飛び退いた先で、食蜂は理后の受けた『業務連絡』を汗だくになりながら聞いた。


「ほ、本当なのかしらぁ?」

「キャラを必死になって立て直さなくても。もうすぐそこまで来てるって」

「前半部分は心に仕舞っておいてもらえると嬉しいんだけどぉ!?」


まあ仕舞われたところで『心理掌握』には聞こえてしまうのだが。

言わぬが花、というヤツである。

などと緊迫した空気を無視して漫才などに興じている間に、

気が付けば二人が使える盾は、現在背にしているパンチングマシーンのみとなっていた。

その防護壁に集中して叩きつけられる風、嵐、暴風、突風、烈風。


「ちょこまかちょこまかと逃げ回っちゃって。大したことないわね、超能力者ってのも」

362 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:04:13.70 ID:FB/zXp6x0



「考えと言葉に大差の無い厚化粧さんに言われたくないわ」

「どこのファンデーション使ってるの? 変えた方が良いと思うよ」


障壁がその役目を果たさなくなる直前に、遂に理后と食蜂はその身を敵に晒した。

余計な一言で『前方のヴェント』のお株を奪う余裕を見せながら、であった。


「はん、観念したってわけじゃあなさそうね」


感情を煽りたてる物言いに対し過剰な反応を期待した二人だが、

『前方のヴェント』は目前の非戦闘員に対して油断している様子は無かった。

一方の超能力者たちはと言えば、態度に出したほどの楽観は持てていない。

ただ、事がここに及んだ以上は最後の博打を打たねばならなかった。


       メンタルアウト
「第五位、 『心 理 掌 握』こと食蜂操祈さまの掌握力、舐めないでもらえる?」

「観念するのは、あなたの方だよ」


第五位と第九位が能力を全開で行使し始める。

それを鼻で笑った『神の右席』は、トドメを刺そうと風切る大槌を頭上に掲げた。


女の闘いが決着を迎えようとしていた。

それ故に。

363 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:04:59.02 ID:FB/zXp6x0










「…………科学の狗にしちゃあ、いいわねぇ。女は諦めの悪さが肝心よ」










364 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:06:25.47 ID:FB/zXp6x0


横合いから第三者の声が掛かった事は『前方』にとっては予想外、そして。


「ああもう、折角やる気出したのにぃ」

「しょくほうにしては珍しかったね」

「あの浜面さん? 私が居なかったらとっくに
 昏睡状態にされてるって事実、憶えてらっしゃるぅ?」


即座に身と言を翻してその方向に逃げ出した二人にとっては、仰望していたものだった。

『前方のヴェント』の貌が戦闘開始以来、最も不格好に崩れた。





「――――何で此処に居るっ、ババア!!」





鏡を間に立てたように、同配色の黄色い女が空間の彼方と此方に陣取る。


「誰がババアよ小娘!! 私はまだ三十前半だあああ!!!」


口汚く罵り合いながら、二人の『ヴェント』がここ第六学区で睨みあった。


「まあピッチピチの私たちから見ればどっちも、ねぇ?」

(私もそろそろ三十路…………)




365 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:07:36.70 ID:FB/zXp6x0


「何故!? アンタはそこの能力者による『敵意』の抑制なんて受けられない筈!
 なのにどうして、私の『天罰術式』の影響を受けていない!」


ヴェントが『前方』との闘いに魔術師として臨む以上、

魔力精製によって食蜂のマインドコントロールは阻害されるはずだ。

だからこそ『前方』自身も『心理掌握』の支配下に置かれずに済んでいるのだから。


「はーあ、所詮勝手に『席』に収まったヒヨッコなんてたかが知れてるわね。
 あ、それともアンタが名前負けしてるのかしら? 
 『右方』はちゃーんと気付いてるみたいだし」

「…………ちいっ!!」


最大出力で振るわれた『風の術式』がヴェントに襲いかかる。

しかし同型のハンマーをどこからともなく取り出した女が

スラッガー顔負けのスイングを披露すると、両者を結ぶ中間地点で二つの風塊が弾けた。

爆発的な風圧に、そこらに散らばる遊具の成れの果てが全て店舗の壁際に吹き飛ぶ。


「……おわかりかしら? 今のと同じ事が起こってるってわけ」

「なんで、なんでアンタが『風の術式』を………………っ!?」


狼狽をはっきりと表に出した敵手を嘲笑い、素顔のヴェントが口角を持ち上げる。

その笑みは十年前より遥かに美しく――――その分だけ、酷薄であった。




「やっと気付いたの? 『右席』としての特性に干渉されてるのよ、アンタ。」




366 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:09:26.84 ID:FB/zXp6x0

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マタイとの対話を終えたフィアンマは、憑き物の落ちたような晴れやかな風貌だった。

その表情を一目見たヴェントがゴクリと息を飲んでしまった事は、

彼女が主の元に召される日まで絶対に口外するつもりのない最重要機密であった。

……フィアンマを除く全員に気付かれていた事などは、やはり知らぬが花である。

そして彼は一つの提言をペテロに向けた。



『ローマ正教秘密諮問機関、「神の右席」――――今代で廃するべきではないだろうか』



三年前の時点で、もはや『神の右席』というかつてのローマの影の象徴は形骸化していた。

それもその筈、『左方』は粛清され、『後方』は離脱、『右方』に至っては反逆者の身。

三次大戦以降新たにその座に就く者もペテロの指導下で居りはせず、

聖ピエトロの地下聖堂に調整用の儀式場が不気味に佇むのみとなっていた。

フィアンマの提案する所とは即ち、その禍々しい儀式場の封印、あるいは破壊だった。



元より教皇専門の相談役である『右席』の存在を知る者はローマ正教内にもごく少数だ。

先代と当代、二人の教皇に『後方』と『前方』の賛同があれば決断には十二分であった。

三人は影に刻まれた歴史に終止符を打つべくいま一度だけ儀式を行い、正式に『性質』を返上。

そして『右方』と『前方』は、自らが最後の『神の右席』である徴となるべく――



『俺様の事は、ただの「フィアンマ」と呼べ』



――今後の生涯を通じて、ただの『フィアンマ』、『ヴェント』と名乗ろうと定めたのであった。



367 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:11:11.62 ID:FB/zXp6x0


続いてフィアンマはヴェントと共に、彼女にとっての因縁の地、日本に渡ろうと決めた。

儀式場の完全なる破壊に必要なピースとして、あの上条当麻の力を借りようとしたのだ。

『神の右席』はかつて悉く彼と敵対関係にあったが、

故にそのパーソナリティについては(説教されたし)熟知していた。

目的を明らかにした上で真摯に頼みこめば、周囲は兎も角として上条自身は

協力を申し出てくれるだろう、というのが彼を知る者の一致した見解だった。



この旅程はもともとフィアンマの一人旅になる予定であったが、

なぜかニヤニヤ顔のマタイに『前教皇命令(権力的裏付け一切なし)』を

理不尽に下されてしまったヴェントも同行する羽目になった。

現在に至るまでの彼女の受難はここから始まったと言って過言ではない。合掌。



それはさておきローマから日本に向けて飛ぶ

航空機――搭乗に際してヴェントが散々駄々をこねた――上で、

二人は歴史に名を残す衝撃の事件の遭遇者となる。




第四次世界大戦――世に言う上条戦争の勃発である。



368 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:12:27.47 ID:FB/zXp6x0


彼らの乗る便は洋上で謎の対空砲撃によって破損、インド洋に不時着。

乗客を助けるため奔走したフィアンマとヴェントに吊り橋効果が――特に発生するでもなく、

結局彼らは一般人を救いこそしたものの上条当麻への対面は果たせなかった。



なんやかんやでバチカンに帰国した彼らを泣きっ面に蜂、更なるバッドニュースが襲う。

封印された地下聖堂に大戦の混乱を突いた何者かが侵入し、

儀式に必要な霊装や魔道書の類を全て持ち去ってしまったのだ。

バチカンに残っているはずだったアックアは折悪く

イギリスで起こった魔術師の暴動鎮圧のため帰国しており、

彼はその後の顛末を知らぬままロンドンを離れられない状態に陥ってしまっていた。








こうして十字教の歴史の闇を闊歩してきた『神の右席』の系譜は、


ローマ正教ですら杳として把握できない更なる深みにその姿を消したのであった。






369 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:14:19.73 ID:FB/zXp6x0

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現在、第一〇学区。


だがフィアンマは消えた『神の右席』を執念深く追い続けた。

世界各地に店舗にカムフラージュした拠点を築き、独自の情報網をゼロから形成し。

三年後の七月十五日、遂に彼自らが『後始末』せねばならないカルマを視界に捉えた。


「ふん」


次元が捻れる、歪む、軋む。

音を立てて空が崩れてくるとさえ錯覚させる『腕』と『腕』の衝突。

趨勢は、明らかに『右方のフィアンマ』に有利に運んでいた。


「はぁ…………はぁ……」


新たに『神の右席』の座に収まった魔術師たちを追う中、

その目的を知ったフィアンマとヴェントは彼らとの対決が不可避であると悟った。

いくら優秀とは言え回路を特殊術式専用に調整された自分達の通常魔術では、

『性質』を身に付けた彼らに勝利する事はかなわないだろう。


「笑わせるなよ、ロートル」


そこでフィアンマらが取った方策は、『右席』の座の再奪取であった。

新参者どもは正規の手順を踏んでその位置を手にした訳ではない。

記憶における儀式の様子や霊装を、バチカンの支援を受けて可能な限り再現。

その結果、『神上』に達するため各々一つしかない位置に干渉して

一部ながらその『性質』を奪い取るという快挙が、皮肉にもこの学園都市で実現したのだ。


370 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:16:11.42 ID:FB/zXp6x0


「今に吠え面を、かかせてやるさッ!!」


しかし足りない。まだ完璧ではない。つまるところフィアンマの行いは、

『右方』が既にどっかり腰かけている椅子に後から座ろうとするようなものである。

敵の『第三の腕』の出力を本来からすれば見る影もない程に減衰させる事には成功したが、

彼自身の『腕』はその半分にも満たない威力でしか振るわれない。

かつては数振りで空中分解の憂き目に遭うなど不完全だらけだった代物だが、

フィアンマ自身が四大属性の歪みを正した事でいくつかの弱点が解消されてしまっている。

勝負の帰結は誰の目にも明らかである――――はずだった。




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 T I A F I M H  I H T S O T S A I H T R O T C
「我が手には炎、 その形は剣、 その役は断罪!」


火炎が息吹き、二つの赤の狭間により一層煌々と盛る紅を躍りこませる。

『聖なる右』の押し合いに勝利した『右方のフィアンマ』は憎き邪魔者に

追撃を掛けようとするが、その度に取るに足らない炎の魔術師に時間を稼がれてしまう。


「鬱陶しい雑魚が……!」


炎剣の迎撃に適した出力調整が自動的に為され、『腕』が蠅を払うように一振りされた。

続けてもう一撃放てば、ステイルは無様に吹き飛ばされて戦闘不能だ。


371 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:18:03.15 ID:FB/zXp6x0


「余所見をするとは余裕綽々だな」


しかしまたしても妨害が入る。

『右方』とステイルを結ぶ破滅の射線上に、『フィアンマ』の姿。

今度は決して生身で受けるわけにはいかない『腕』による攻撃だ。


「寝ていろ、年寄りが!」


そして、膠着。

一度感情の消えた『右方』は激闘の中、見る間に色をなしていた。

それもそうだろう。魔術世界でも文字通り右に出る者のいない力を手に入れながら、

敵になるはずもない前任者と凡才相手に、こうも拮抗状態を作られているのだ。

その屈辱感たるや、ステイルに果たして想像がつくであろうか。


(知りたくもないな、そんな事)


恥を忍んで言ってしまえば、この敵はステイルの遥か格上であった。

『第三の腕』には敵対者の打倒に必要な分だけの威力を自動的に生み出す機能がある。

有史上『腕』のぶつかり合いなどというふざけた事象が

他に存在するのかどうかはステイルの関知するところではないが、

要するに現在目の前で繰り広げられている未曽有の血戦では、

少なくともフィアンマの『腕』はその最大出力を発揮していることになる。

372 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:19:34.83 ID:FB/zXp6x0


(何が完全状態の十%未満だ、『竜王の殺息』と比較してもなんら遜色ないぞ…………!)


喫茶店で事前に受けた説明を苦い顔で振り返りながら

ステイルが座標のサーチを欠かさないのは『歩く教会』の位置であった。

その近くには魔力こそ持たないので探知は出来ないが、佐天と真理も居るはずだ。


(彼女らの身の安全だけは、せめて僕が)


次元の違う攻防に直截に割って入るのは彼の実力では到底不可能であり、

出来る事と言えばフィアンマの援護に過ぎない。

元より人影の殆ど無いことだけが不幸中の幸いだったが、

第一〇学区の街並みはもはや紛争地域の如く荒れ果ててしまっている。


(…………勝てればいいんだ、それで。
 それで彼女を、最大主教を守れるなら何だって構わない)


少しでも気を抜けば鎌首をもたげる弱気に必死に抗いながら

しかしステイルは、いずれ必ず勝機が齎されると“信じて”いた。


「か、はあっ!!」


僅かにステイルが思索に耽った間に、十二度目の激突をやはり『右方』が制した。

その躰が跳ね飛ばされた先と『彼女』の位置を照合して――――心臓が止まりかけた。

373 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:20:56.40 ID:FB/zXp6x0




「最大主教ッッ!!!」




フィアンマが蹲るすぐ傍らに、インデックスの聖衣が揺らめいていた。

あの位置ではフィアンマが庇ったとしても、『腕』同士の激突の余波に巻き込まれかねない。


(いくら『歩く教会』と言えど――――!)


叫ぶ、駆ける、ルーンを翳す。

どの行動を初めに取ったのかはステイル自身にも知れなかった。

ただ、大切な人の身が危うい。その一心が身体を、脳を突き動かした。






「揺らいだな、虫けら」


見誤った。戦況を読み違えた。自分がすべきは、敵への牽制のはずだ。

そうステイルが認識した時には、『右方のフィアンマ』は哄笑しながら彼を標的に定めていた。

見上げれば、天高く『聖なる右』が掲げられていた。


――――死んでたまるか。


眼光で自らを殺そうとする相手にそう伝えるだけで、死にゆく男には精一杯だった。

374 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:22:51.15 ID:FB/zXp6x0



















刹那、澄み切った声が大気を震わせた。


 C T O O H R A T T R     A T T M P O
「『聖なる右』の軌道を右に! 出力を最低に調整!!」






『腕』が、不可視の衝撃に弾かれたようにその軌道と輝きを大きく変じさせる。


「!?」


――――ロンドンからその名を世界に知られる『魔道図書館』が、

とうとうローマ正教最大の秘術、『神の右席』の特殊術式を解析しきった瞬間だった。

375 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:24:43.55 ID:FB/zXp6x0


必中必殺である筈の『腕』が虚しく空を切り、『右方』が体幹を大きく崩す。


「ああああああっっ!!!!!」


好機を逃さずフィアンマが荒々しい雄叫びを上げ、

最強の矛のコントロールを失った『右方』に満身創痍の躰で迫った。



この一撃が決まれば、疑いようもなく決着だ。








「 舐 め る な あ っ ! ! 」
 




だが、だがである。

修羅の如き形相で『右方のフィアンマ』もまた、獣の如く吠えた。

『強制詠唱』の支配下に置かれ、右方に弾かれたはずの『第三の腕』が再起動する。

二人の『フィアンマ』は正面から十三度目の交錯をし。


      ・ ・
――――双方が、力の均衡点から弾き飛ばされた。

376 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:26:45.54 ID:FB/zXp6x0




「まだ、まだぁ、………………!?」


背中から強かに打ちつけられた『右方』が身を起こそうとする。

 T O F F
「原初の炎」


そこに、炎天下というだけでは説明のつかない熱気が渦巻く。

  T  M  I L
「その意味は光」


日輪にしては明らかに近すぎる灼光が瞬く。


「塵芥が、図に」


瓦解寸前の『聖なる右』がなお足掻こうとするが、

  F
「動くな!!」


怨念を浄化すべく聖歌の一小節が紡がれ、





「く、そおおおおおォォォォっ!!」


アスファルトに縫いつけられたかの様に、その動きは再び停止した。
377 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:28:02.98 ID:FB/zXp6x0







  D D A G G W  A  T S T D A S P T M
「優しき温もりを守り、厳しき罰を与える剣を――――ッ!!!」





「――――――――――――ぁぁっっ!!!?」






耳を、いや全身を劈く爆音が、上がるはずの悲鳴を掻き消した。










378 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:29:44.38 ID:FB/zXp6x0













天高く立ち上る火柱を見るともなく見ながら、フィアンマは地べたに身を委ねていた。


「おい、生きているかい?」


ステイルが、着火点から注意を逸らさず歩み寄る。

その足取りは失った魔力の割には、存外堅調であった。


「…………はは、心配してくれるのか、ステイル=マグヌス?」

「教科書通りのツンデレをやる気分じゃあないんだ。その様子なら心配ないな」


十年来の戦友のように軽口をたたき合うと、神父は止血に忙しいシスターに声を掛けた。

しゃがみ込んで黙々と作業に没頭する彼女の表情は、長身の彼には窺えなかった。


「あー、最大主教。その………………済まない。貴女に助けて貰っているようではね」


頭を下げるステイルの脳内天気予報では、土砂降りマークが全国的に点灯中だ。

己が為すべき役割を見失って護衛対象に救われるなど、全くもって笑えない話だった。


(情けないな、くそ…………)

379 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:31:21.93 ID:FB/zXp6x0


目元を掌で覆い隠し、どうしようもない無力感に浸るステイル。


「…………………………るよね?」

「え?」


その時、自己嫌悪の深みに沈み切っていた彼の耳に微かな声が届いた。

声量が小さすぎた為に内容は聞き取れなかったが。


「……生きてるよね、ステイル?」

「…………見ればわかるだろう、五体満足さ。
 僕の不甲斐なさについてはいくらでも謝るよ。だから顔を上げてくれないか?」


きょとんとした顔で返すステイルの言い草がまるで見当違いなのは、

脇で伸びてインデックスの手当を受けていたフィアンマにも、

物陰で行く末を見守っていた佐天にも、明白極まりなかった。

二箇所から同時にはあ、と吐息が空に逃げた。


「なあ、最大主教…………?」

「~~~~~っ!」


俯かせていた美貌が振り上げられると、勢いで白地に金刺繍の入ったベールが外れる。

白布を慌てて掴んだステイルの全機能が、それを彼女に返そうとした瞬間停止した。




――――聖女は滂沱の如く涙を流して、かんばせを濡れそぼらせていた。




380 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:32:10.81 ID:FB/zXp6x0



「………………へ、あ、え?」

「わ、私があんな所にいたから、すているが、あぶ、危ない目に遭って」



泣いている。自分の目の前で彼女が泣いている。

誰だ、誰が泣かせた? そんな奴は万死に値する。

地の果てまでも追いかけて、必ず消し炭にしてやる。

磔にして、串刺しにして、火炙りにして、屍体になろうが骨も残さず


「わた、しのせい、で? すているが……すているが! 
 後ちょっと、えい、しょうがお、お、遅かったらぁ……!」


そこまで考えたところで、ステイルはようやく大罪人の正体に辿りついた。


(――――僕か)


「いき、てるよ……ね? すているがし、し、しんじゃったら!! わ、わたしぃ…………」



僕が、泣かせたのか。彼女は、僕の為に涙を零しているのか。

参ったな。どうすればいい? 何をすべきなんだ?

この身体を力の限り引き裂けば、許してくれるのか? 無理だろうか?

いやそれ以前に、僕は僕自身を赦せるのか? 無理だろうな。

こんな罪深い――――

381 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:33:22.65 ID:FB/zXp6x0


「おい、ステイル=マグヌス……お前ちょっと、かふっ、げほっ!」


危険な方向にふらつき始めたステイルの脳内行程を見てとったのか、

フィアンマがお節介にも目的地の修正を図ろうと試みる。

が、肺をやられたのか上手く言葉を吐き出せない。

ポン、と自失状態の神父の肩に手を置いたのは、別の人物だった。


「あのさあステイル。まず、何よりも最初にやること、あるよね?」


震える四肢に鞭打って、こちらも何故か泣きそうな笑顔の佐天が叱咤を引き継いだ。

そして、彼女に抱かれる稚い体温も続いた。


「いんでっくしゅ、ないてるよ?」

「あ…………」


吸い寄せられるように長躯が屈んで、泣きじゃくる女にそろそろと右手を伸ばす。

すると柔らかな純白がたおやかな腕を強く強く胴に回し、男の衣服をしとしとと濡らした。

空中をしばし彷徨ったステイルの腕はおそるおそる角度を急にしていくが――


「ごめん」

「すている…………」

「本当に、ごめん」

382 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:34:47.51 ID:FB/zXp6x0


最終的には、流れるような銀髪の上に着地するに留まった。

そのまま、銀糸の上を慣れた手つきで滑る。


「すている」

「………………ごめん」

「謝らないで、すている」

「でも」

「悪いの、私だよ? …………それに」

「…………それに?」

「生きててくれたら、それでいいもん」

「……僕も、君さえ生きていてくれれば」


地固まった白黒コンビを妙な虚脱感と共に見届け、傍観者二人はまた溜め息をついた。


「はぁぁぁあぁぁ」

「心持ちは痛いほどわかるがな、警備員の女。
 …………やれやれ、いま一歩という所であのヘタレっぷりか」

「まあ、私はそれだけじゃあないんですけど…………あれ?」

「どうした? ………………ッ!! おい!!!」


あそこまで行っても尚先の長そうな二人に同情していた佐天が、ふとある地点を見やる。

フィアンマがその視線の先に何があるのか察して声を絞り上げた。

383 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:35:52.04 ID:FB/zXp6x0


「――――――――――」


寄り添い合っていたステイルとインデックスが事態に気が付く。

それは微かな幽かな、暗い昏い言霊だった。



「――――――――――――――」



息苦しい地の獄から、あるいは生の存在しない死体置き場から、這いずるような音吐。

多種多様な言語が代わる代わる、即席の火葬場から紡がれていた。



「――――――――――――――――――」



ルーン文字を極めた赤毛の神父でさえ聞き取れない言詞が幾つも混じった。

その全容はなんと、彼に身を寄せていた魔道図書館ですら把握しきれなかった。


フォン語。ワロン語。ブルガリア語。ア■ンブ■言語。グルジア語。カンナダ語。

ポルトガル語。フランス語。アルバニア語。蒙古語。トルコ語。トラキア語。

■■タプリ■■語。ラテン語。コプト語。ガ語。西フラマン語。ソト語。日本語。

広東語。チベット語。バルーチー語。ヒンディー語。C■語。イタリア語。


ステイルがルーンから炎を生み、阻止すべく走り出したのと同時に。

384 :神の右席編⑤[saga]:2011/07/25(月) 21:38:12.43 ID:FB/zXp6x0


最後の一節は、誰もが馴染み深いブリテンの言語で締めくくられた。






















                       D  C  A  T  E
                ――――死が最後にやってくる――――



393 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 20:48:27.05 ID:UA9AXkCa0


第七学区のとある公園。


『後方のアックア』と上条美琴、削板軍覇の激闘が
「だらっしゃああああああ!!!!」



……超能力者の中でも戦闘向きの能力者二人の共闘である。

第三位と一対一で互角だった『後方』に対してなら優勢であってもおかしくはな
「ドララララララァーーーーーッッッ!!!!!!」



…………しかし実際には削板の到着後、魔術師の動作は遥かに鋭さを増した。

美琴が手を抜かれていたと感じても無理からぬ事だろう。

女の不機嫌そうな態度に、『後方のアックア』は律儀に弁解を始めた。


「手加減していた、というわけではないぞ『超電磁砲』。
 この力は一度解放すると制御が困難、自爆の危険性も孕むのだ」

「いや別に、それで怒ってるわけじゃあ…………やっぱり手ェ抜いてたんじゃないのよ!」

「手加減ではなくて、温存と言うのだこれは」

「どっちにしろ同じこ「ワッショオオオオオーーーーーーーーーーイ!!!!!!!!!」



「ああもう、削板さん!! お願いだからちょっと静かにしてくれる!?」



394 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 20:49:17.28 ID:UA9AXkCa0


超能力者と言うこれ以上望むべくもない援軍を

手に入れられたのは、間違いなく美琴にとっては僥倖であった。

目に見えて動きの変わった筋骨隆々の大男に対して決定打となるような攻撃は、

彼女の反射スピードでは容易には放てなくなってしまったからだ。


そこに来るとこの第七位は常識の通用しないスピード、パワーの相手に

劣勢を強いられながらも真正面から拮抗しているではないか。

彼の到着しない内に『スティグマ』とやらを解放されていたらと思うと背筋が凍る。


「んぜぇ、はぁ、なんだ上条、俺に闘うなって言いたいのか?」

「叫ばなくても闘えるでしょうが! 
 どうして戦闘=咆哮に直結エレベーターが開通してんのよ!?」


だがこの男、兎にも角にもうるさい。

一にうるさく二に喧しく、三四が熱くて五にけたたましい。

美琴の鼓膜が破れるのが先か、敵を打倒するのが先かという残念な勝負に既になりつつあった。


「我吠える故に我在り!! 意味はよく知らん!!!」

「ちょっとアンタ脳神経いっぺんスキャンさせなさい!」

「…………もう良いか?」

395 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 20:50:30.72 ID:UA9AXkCa0


手持無沙汰に巨大なメイスを手入れしていた『後方』の問いに、

慌てて両足を肩幅に開き臨戦態勢を取り直す美琴。

一方の削板と言えば腕を組み、呑気にクエスチョンマークなど頭上に浮かべていた。


「しっかし上条! あいつが使ってる魔術ってのは水なんだろ?
 だったら電気とは相性が良いはずじゃないか?」

「……ちなみにそのありがたーい情報、参考資料は?」

「ポ○モン」

(んなことだろうと思ったわよ……)


何とも幼稚な相性論ではあるが、言っていることは尤もらしい。

水に濡れれば感電しやすいとは子供でも知っている初歩の物理だ。

しかし最大十億Vの雷撃を従える美琴ほどの『電撃使い』ともなれば、

濡れているどうこうなど関係なく相手は黒子げもとい黒焦げである――――本来ならば。


「……いい加減に、再開したいのだが」

「おお悪いな、いつでもいいぞ」

「私の台詞なのだが、それは」


聞いていて気の抜ける会話が交わされた次の瞬間には、


ブオンッ!!!


二人はマッハ三近い速度で再び一合、二合と打ち合っていた。

396 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 20:51:23.05 ID:UA9AXkCa0


バンッ、ガッ、キン!!


「――――――――――――――ダ――――ラァッ!!」

「――――――――――――――――――ヌンッ!!!」


木々が揺れ、地面が抉られ、高低様々の快打音が跳ねた。

それにワンテンポ遅れて裂帛の気合いがあちらこちらから反響してくる。


取り残された美琴は軽く目を瞑り、電子の領域で超人二人の激闘を追い続けていた。

邂逅時に美琴が察知した電磁波はいつの間にやら微弱なものになっていて追い辛いが、

最初から『第三位』を標的に定めていたのなら、レーダー対策を取ってきても不思議はなかった。

よって正確には削板が放つ、これまたおかしな波形で美琴は戦局を把握する。

頬を流れる汗を拭うための寸暇も今の彼女には惜しかった。


「―――――――――――――――――無駄、無駄、無駄ァァッ!!!!」

「―――――――――――――――――――――――」


ひとしずく、ぽたりと小粒が顎を伝って地表に滲んだ瞬間。



(喰らいなさい、一億Vッ!)



敵が標的を削板から己に変えた事を瞬時に察知した美琴が、

溜めていた電圧を真正面二メートル地点と肉薄していた『後方』に解放した。


ギギギギギギギギギッ、ガアンッッ!!!!


397 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 20:52:43.87 ID:UA9AXkCa0


直撃。

しかし美琴はすぐさま横に身を投げた。


(人体に電流が流れたような音じゃないっ! 何か強い抵抗に邪魔されてる!!)


凄まじい白煙が同時に上がり、霧中を青い影が突っ切る。

棍棒が大気と、霞む世界に倒れ伏す人物を切り裂いた。


「む…………」


それは、砂鉄をひと固めにして模られた人形だった。

本物の第三位は自らの身体を電磁石の様にして、

ペンキのはげかけた電灯に吸い寄せられるように宙を舞う。

それを視界に捉えた『後方』が跳躍して追撃しようとするが、


「超ウルトラグレートすごーい!」

「!!」


緊迫感皆無だが危機感をあおる口上が、茹だるような暑苦しい声で唱えられる。

男が早急に防御術式を組み上げる間に、美琴は無事地面に降り立っていた。





「大車輪パアアアアアアンチ!!!!!!!」





398 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 20:54:40.84 ID:UA9AXkCa0



轟音をよそに、今得た情報を学園都市ナンバースリーの演算機が反芻する。



『幻想殺し』相手でもあるまいし、決して人間に向けて良い強さの雷ではなかった。

だがその殺人的な攻撃が相手にダメージを通していない事は美琴にはよく解っていた。

何をもって一億Vという桁外れの電圧を防いでいるのか、理解できないのはそこだ。


「やっぱり、『超電磁砲』を当てるしかないのかしらね」


御坂美琴時代から代名詞とする技に、実の所彼女はそう強い拘りが有るわけではない。

『超電磁砲』は美琴の真骨頂である戦術的多角性から目を逸らす為の、謂わば隠れ蓑なのだ。

しかし電撃というわかりやすい攻撃手段が防がれた今、やはり火力ではこれが一番だ。


(でも、どうやって?)


当たらなければどんな切り札だろうと持ち腐れである。

いくら『超電磁砲』の弾速が一千メートル毎秒に達した所で、狙いを付けるのは美琴自身だ。

先ほど『後方』が突貫して来たのも手中に弾丸が無い事を確認した上でのものだろう。

あんな好機がもう一度、最高の環境で到来すると思えるほど、美琴は楽観主義者ではなかった。


(待てよ? だったら、逆に考えれば)


                   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
――当てられないのならば、当てなければいいのでは?





399 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 20:56:25.67 ID:UA9AXkCa0


脳の一方で勝利への方程式を組み上げながら、

もう片方で同時に回転していた索敵レーダーが状況の変化を告げた。

緩まる点の移動速度。そして、停止。

魔術師と超能力者は、申し合わせたように闘争を中断していた。


「……………………ぶはああああっ!!!」


小休止中でさえ常人の五倍は喧しい削板軍覇。

一方の『後方』は距離を詰めて来ないところから見ると、一応消耗はしているようである。

ピリピリと圧迫して来た存在感が薄まったのは、『聖痕』の解放を止めた為だろう。


「やっぱりキツイわけ? そのナントカってのを使うのは」

「まあな。これ以上は危険なので一旦封印だ」

「その割には涼しい顔して、腹立つわね……」


苛立ち以上に危機意識で顔が歪む。

然程動き回っていない美琴が肩で息をしていると言うのに、

削板と音速の領域で激闘を繰り広げていたこの男は平常そのままの顔色だ。

ややもするとうっすら汗を掻いているのかもしれないが、

隆々とした体格さえ熱気に揺らめいて見える今の美琴では、どうにも把握しようがなかった。


(私だって、当麻と一晩中激しくやりあった事あるのに……歳なのかしら)


芳紀二十と四の女は聞き様によればどうとでも取れる呟きを脳内に留めながら、

『後方』とは対照的に滝に打たれたかのような男を気遣った。

400 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 20:57:21.16 ID:UA9AXkCa0


「大丈夫、削板さん?」

「…………はああああっ、ふううう、ぜええっ…………!
 モウ・マン・タイ!! 一分で元通りになってみせるぜ!!!」

「いや声の方は今ぐらいでいいです」

「えっ」


叫ぶためではなく回復の為に酸素を取り入れる削板の全身はびっしょりと濡れている。

気が付けば、美琴のベビーピンクのYシャツも首筋から胸元、脇腹まで汗だくになっていた。


(ああもう、真理ちゃんと一緒に早くお風呂入りたい…………!
 夏とはいえこんなぐしょぐしょになるほど汗掻くなんて初めて、――――――!!)





走った電流――能力の産物ではない――に息を呑む美琴。

天啓。

と言うほどのものでもなかった。

環境を読む、探る、分析して、計算する。

わかってみれば、実に呆気ないものだった。


(――――読めた、アイツの使用してる『抵抗』の正体!)


学園都市第三位の頭脳は、演算の果てに遂に一つの勝機を弾き出した。

401 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 20:58:28.63 ID:UA9AXkCa0


だがその時、どういうわけか『後方のアックア』がくるりと敵に背を向け、


「興が醒めた」

「…………は?」


平然とのたまって、激戦の中一つだけ運良く原型を保っていたベンチに腰掛けた。

当然、戦闘狂の気があると言われれば否定しきれない美琴と削板は納得しない。


「おいおいおいおいおい!! ここまで来てそりゃあねえだろう!!!!
 根性足りてるのか? そうか、足りてねぇのか!!!」

「ちょ、ちょっと静かにしてて。アンタ!!
 折角人が勝ちの算段付けたってのに逃げるワケ!?」


救いようの無いバトルマニアを同類を哀れむ眼で見つめたのち、

男は死合った相手に晒すにはあまりに“違う”穏やかな表情を形作った。


「そうではないのだが。これはコチラの問題でだな。
 そんな腐れた戦友を持つ気にならん、というだけの話だ」

「……………………は、はぁ? 指示語多すぎよ、何言ってんのかサッパ」

402 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 20:59:19.99 ID:UA9AXkCa0





――――そして『ソレ』は、前触れもなくやってきた。




「『ソレ』に殺されるようなら、特段惜しい相手とも思わんのだが」



誰に対してのものかは美琴と削板には知れないが、

魔術師の声色には明らかに侮蔑という名の画材が混ぜられていた。

残りの色は、期待か、それとも諦めか。



「頼むから、生き残ってくれよ」




403 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 21:00:39.43 ID:UA9AXkCa0

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第六学区。


白井黒子は旧敵かつ仇敵である結標淡希の助けを得て、

ひとまずは救援を求めるべく端末に手を伸ばしていた。


「無駄よ白井さん。あなた達の隊長なら、
 このエリマキトカゲ以上の化物と一戦交えてる最中だわ」

「いろいろと物申したいですねぇ、今の発言には」

「ああもう!」


やはり彼女とは相性が悪いなと考えながら、白井は携帯電話を胸ポケットに戻す。

気に食わないのは何もかもお見通し的な上から目線だけではなかった。


「お次はこれよ?」


上空四十メートルほどから、手榴弾のような物体が降ってくる。

敵の魔術の効果範囲をある程度把握したうえで

その射程外から射程外に向けて能力を発動、

重力に任せて武器をお取り寄せ、と言うのが白井の見立てである。

直接触れた物以外は転移させられない彼女の『空間移動』では真似しようのない芸当だ。


「やれやれ。第三優先、コンクリを上位に、手榴弾を下位に…………おや?」

404 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 21:01:41.51 ID:UA9AXkCa0


ところが物体の着地点から上がったのは、炎ではなく大量の白煙であった。

警備員が制圧に用いる煙幕弾。

『左方』の認識のズレが、『光の処刑』の有用性をゼロに変えてしまった。


(一言ぐらい相談してからやって欲しいですの、そういう事は!)


ブチブチ愚痴を口内で噛み殺しながら、白井は今度こそ金属矢を的中させるべく構えた。

いかに能力自体が発動せずとも、座標の把握はテレポーターにとってはお手の物だ。

緻密な計算に基づいて煙に消える直前の敵の位置を割り出す。

弓の達人がそうであるように人体の急所を知りつくす彼女は

命は奪わず戦闘能力を喪失させられる部位に狙いを定め、

名門女子校の卒業生らしく優雅に手首のスナップを効かせた。



「喰らいやがれですの、おおおおっ!?」


スッテーン。


結果は、全く優雅なものとはならなかったが。

突如何者かの足払いを受けた白井の必殺の一矢は、

明々後日辺りの方向に全力ですっ飛んで行くはめに相成った。

405 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 21:03:11.60 ID:UA9AXkCa0


「むぅぅぅすじぃぃぃめさぁぁぁぁんん!?
 何なんですの、アナタわたくしに恨みでもあるんですの!?」


淑女が披露してはいけないような鬼の形相で足払いの主の名を呪う白井。

どうにか後頭部だけは守るよう受け身をとった彼女は、

勢いよくブリッジ状態から腹筋をフル活用して跳ね起き。



ズガンッ!



その直後、彼女の頭蓋が一秒前まであった地点でアスファルトが破砕された。


「!?!?!?」

「あのね白井さん、あなたが私に対して真っ先に述べるべきはお礼なの。
 そのへんおわかり? ドゥーユーアンダスタン?」

「…………全く、醜い。美意識の欠片も感じませんねぇ」


パニック状態の白井がようやく現状を理解し始めた。

徐々に徐々に戦場を覆っていた白がフェードアウトしていく。

透明な空気と強い日差しが三人の前に戻ってくると。





――――そこには地獄があった。



406 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 21:04:31.56 ID:UA9AXkCa0


ぐちゃりと音の聞こえてきそうな荒れ果てた表皮。

両腕は重力に従って伸ばされ、指先から紫色の粘液がビチャ、と落ちた。

ハイライトの存在しない眼球は中空を彷徨ってその機能を果たしておらず、

顔面に開いた穴と表現した方がしっくりくる口腔からは、

声と呼ぶのも憚られる異音が漏れるのみだった。

そして胴体部には、時代考証を誤ったかのような黒光りする西洋鎧。


「これは酷いわね、イロイロと」


極限までグロテスクにリメイクされた人体模型が五、六、七体。

某保母さんが目の当たりにすれば黄色い悲鳴の上がりそうな

B級テイスト漂う光景が、二人の能力者を取り巻いていた。

その光なき眼はやがて、温度無き悪意を伴って一斉に結標と白井を捉えた。


「一大事ですねぇ。しかし私はあなた達に容赦するつもりはありませんのでご安心を」


ただ一人クリーチャーにターゲッティングされていない

魔術師は他人事のように絶体絶命の女性たちに笑いかける。


「そんな訳ですから、殺しますね。第二優先……」


すると二人のテレポーターは、ふてぶてしい笑みでもってそれに応じた。

407 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 21:06:08.99 ID:UA9AXkCa0


「白井さん、提案があるわ」

「多分わたくしも同じ事を考えてますの、結標さん」

「ほほぉ、何か手があるんですか?」


興味があるのか、『左方のテッラ』が行使しようとした優先権を一時保留した。

『後方』といいこの男といい、溢れる余裕と引き換えに緊張感が欠如し過ぎる嫌いがある。

それが学園都市側にとって珠となるか瓦となるかは、神のみぞ知る事だった。


「ええ、起死回生の策よ」

「とっておきの中のとっておきですの」

「凛々しいですねぇ。惚れ惚れしてしまいますよ、お嬢さん方」


結標と白井が前傾姿勢を見せると、流石に『左方』も口許を引き締めた。

術式の性質上チェスのような読み合いを得意とする魔術師は、

既にこれから起こり得る数十のパターンを構築、その全てで『詰み』に辿りついていた。


「嫌だ、照れちゃうわね」

「それでは行きますので、お覚悟を」


視線がぶつかり合って生まれる火花に熱されて、緊張が高まっていく。

先に待ちきれなくなったのは、能力者と魔術師の狭間の空間を埋める異形の群れだった。

それまでの緩慢な動作が一変、短距離スプリンターと見紛う突進。

白井と結標、二人の空間移動能力者の不敵な笑みは最高潮に達し――――

408 :神の右席編⑥[saga]:2011/07/27(水) 21:07:07.31 ID:UA9AXkCa0














次の瞬間、身を反転して全力疾走した。





「「逃げるんだよォォォーーーーーーッ!!!!」」





思考能力など皆無のはずのゾンビたちがあんぐりと口を開けて見事な爆走を見送った。

やや遅れて彼らも――彼女も混じっているかもしれないが、ともかく駆け出した。

その背にコミックテイストの汗模様を幻視した『左方のテッラ』が一言。



「………………ですよねぇ」



そうは言うものの、パターンには無い展開らしかった。



414 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/29(金) 20:30:18.98 ID:OyzbZpPg0

どうも>>1です

根性さんが活躍したところで今日は小ネタイム↓
415 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:32:05.86 ID:OyzbZpPg0



とある日 午後五時 統括理事会本部ビル



雲川「では、私はお先に上がらせてもらうけど」スッ


職員A「お疲れ様です、雲川理事」


職員B「あれ、いつもよりお早いですね。もしかしてデートとか?」


雲川「いけないなぁ、上司のプライベートを探ろうなんて。脅迫の材料でも掴みたいのか?」フフ


B「め、滅相もございません! 単なる興味本位ですよ」


雲川「よせよせ、こんな女に深く踏み込むと…………戻れなくなるぞ?」


B「……………………」ゴクリ


雲川「ははは。では諸君、また明日」



ツカツカツカ



B「………………ぶはぁっ!」

416 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:33:17.16 ID:OyzbZpPg0


A「お前も命知らずだよなー。雲川理事はそりゃあ美人だけどさ」


B「いいじゃんかよ、高嶺の花。フリーなんだろあの人?」


A「男の影がまったくチラつかないからな。まあ、何かしらの手段で揉み消してるのかも」


B「くうーっ! そのデンジャラスな香りがたまらねぇ!」


A「へいへい、一生やってろ。職場に厄介事持ち込まなきゃなんでもいいよ」


B「実はさ、いっぺん帰り際に尾けたことあるんだよ」


A「うわぁ…………マジないわぁ。お前そろそろ死ぬんじゃね?」


B「いやいや、ストーカーとかじゃなくて!
  そもそも途中で捲かれたって言うか、あの人の帰宅ルートわけわかんないんだよ!」


A「はあ? なんだそりゃ」


B「例えばだな…………」

417 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:33:58.14 ID:OyzbZpPg0


統括理事会本部ビル前



タクシー運転手「はいよ、どちらまで?」


雲川「このルート通りに行って欲しいんだけど」ピラ


運ちゃん「は? えーっと…………(なんじゃこりゃ)」


雲川「文句でも?」


運ちゃん「いや、お客さんの頼みならやりますよっと。
      …………まずは、第二三学区ですかい」


雲川「悪いが、読み上げないでくれ」


運ちゃん「え? あ、いやすいません。じゃあ出します」


雲川「正確に頼むけど」


運ちゃん「そりゃあ勿論、任せといて下さいよ」



ブロロロロロ


418 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:34:54.27 ID:OyzbZpPg0


運ちゃん(第二三学区から、ぐるりと…………十個も学区回んのかよ)


運ちゃん「途中で降りたりは」


雲川「ない」


運ちゃん「…………」


雲川「…………」


運ちゃん「は、はは。お客さんあのでっかいビルから出てきましたよね。
      スーツも上等だし、お若いのに結構なお偉いさんだったり?」


雲川「だったら何か」


運ちゃん「やっぱり? でもそんな人なら普通黒塗りで帰りません? 不思議だなぁ、と思って」


雲川「………………運転手、そこ右なんだけど」


運ちゃん「お、おおっと!」





A「ふーん、そりゃわかんねぇわ」


B「ミステリアスだよなぁ。どんな裏の顔があるのか、いつか暴きてぇなー!」
419 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:35:34.97 ID:OyzbZpPg0



午後八時 ??学区 ????



ツカツカ


雲川「…………ふう」


雲川(開いてる。今日は私が後か)


雲川「………………た、ただいま」ガチャ




??「お帰りいいいいい!!!!」ズギャアアアアン




雲川「」バタン


雲川「…………スーッ、ハーッ」


雲川「ただいま」ガチャ


??「おっかえ」


雲川「やかましいいい!!!!」イソイソ バタン! ガチャガチャ
420 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:36:28.34 ID:OyzbZpPg0


??「どうした、なんで一回閉めたんだ雲川?」


雲川「そのアブラヨタカも裸足で逃げ出すクソ喧しい声が
   どれだけ防音しようとドアから漏れるからなんだけど!!
   私がどうしてこういう暮らしを送ってるのか忘れたのか削板!!」


削板「忘れた」


雲川「このやり取り何回目だと思ってる!?」


削板「三二回目だな!」


雲川「何故そっちは覚えてるんだあっ!」




雲川「…………私は、人の恨みを買うのが仕事だ。
   学園都市の後ろ暗い部分を一手に引き受けると決めた以上、
   あらゆる弱みは隠しておかなければならないんだけど。そういうわけだから、いいか?
   私がこの『削板軍覇の家』で暮らしている、という事実はなんとしても」


削板「あと、恥ずかしいからだな!」


雲川「何でこの流れでそうなるのか意味不明なんだけど!」アタフタ


削板「お前がくどくどと言い訳始めたらこう言えって親船の婆さんが」


雲川「くうううっ、また統括理事長か!」

421 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:37:34.69 ID:OyzbZpPg0

削板「うーん。正直、俺はお前の言い分に未だに納得ができないぞ」


雲川「なんだと?」


削板「俺とこうやって向かい合って、飯食って、
   一緒に寝て、おやすみとおはようを言って。
   そういう生活が、雲川にとっては誰かに知られたくないほどみっともないモノなのか?」


雲川「そういう話じゃないんだけど。
   私が一つ“仕事”をしくじれば、お前や……………………その。
   いつか私たちに、こ、子供が出来た時、その子にまで危険が及ぶかもしれない」


削板「ふーん、やっぱりわかんねえ」


雲川「おい!」


削板「あのなあ、この際だからはっきり言っておくぞ」グイ


雲川「か、顔が近いんだけど…………じゃなくて、なんだ!」





削板「俺はなあ…………………… 強 お お お お お い ! ! ! 」





雲川「は?」

422 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:38:37.64 ID:OyzbZpPg0


削板「お前の心配はだな、あれだ、堀越ジローってやつだ!」


雲川「誰だ!? それを言うなら取り越し苦労なんだけど!」


削板「おお、良くわかったな!」


雲川(哀しい経験則なんだけど)


削板「俺はお前がやってる仕事に守られなきゃならない程弱い男じゃあない!
   っていうか逆だ逆! 俺が、お前やマイベビー(仮)を守って守って守り抜く!!
   ………………それを信用してもらえないなら、何処まででも強くなるのみ!!!」


雲川「そ、そんな単純に、簡単にいってたまるか」


削板「無理が通れば道理が引っ込む! 俺の座右の銘だ!」


雲川「……本当に、馬鹿な男なんだけど。こんな厄介な女のどこが良いんだか」グス


削板「ん、そうだな。まず第一に…………」







ギュルルルルルルルル ドッカーン! ギャアアアア メディーック!

423 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:40:10.58 ID:OyzbZpPg0


雲川(…………西部戦線の塹壕内で聞けそうな異音だったんだけど)


削板「おお、腹の虫が大合唱だな!」ハハハ!


雲川「合唱って言うか合掌した方がよさげな音だったんだけど!?
   …………あれお前、夕飯はまだ食べてないのか?」


削板「お前の手料理を一緒に食いたかったからな! 
   それまで筋トレして腹を空かしてた!」


雲川「ん、な………………」パクパク


削板「ああいや、疲れてるなら無理しなくていいんだぞ! 
   男の夜食、カップ麺の買い置きはまだまだ大量に」



ガタッ



雲川「つ、作るんだけど! だからちょっと待ってて、軍覇!」イソイソ


削板「はっはっは、そうかそうか流石の根性だ! 楽しみに待ってるぞ、芹亜!」


雲川「…………当然だ、軍覇の飯を用意するのは私の役目と決まってるんだけど」


削板(軍覇って呼ばれた後じゃないと芹亜って呼べない謎ルール、そろそろ解消してーなー)

424 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:41:07.50 ID:OyzbZpPg0


食事中



削板「そうだ、んぐ、俺が、べねっと、芹亜が良い、めいとりっくす、理由だったな」ガツガツ


雲川「咀嚼音に無理がありすぎなんだけど。で、なに?」


削板「っく、ぶはぁ! 一緒に飯食ってると、最高に美味いからだな!」


雲川「ふ、ふん。結局、原始的な欲求に基づいてるだけなんだけど」プイ


削板「ん? 駄目か、そんな男は嫌いか?」シュン




雲川「……………………きだ」


削板「え? 聞こえんなあ」


雲川(素か、それは…………!)


削板「もっかい、大きな声で言ってくれ。俺を見習って! プリーズワンスモア!」


雲川「あーもう、一回だけだぞ、良く聞け!」

425 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:41:53.46 ID:OyzbZpPg0







「軍覇あああ!! だ、大好きだーーーーーーっっ!!!!」







削板「…………」


雲川「はーっ、はあ、な、何か言ってくれないと凄く居た堪れないんだけど」


削板「………………」ダキッ


雲川「ひゃあっ!?」オヒメサマダッコ


削板「良く考えたら、芹亜と食うメシより好きなものがあった」


雲川「そ、それとこれと何の関係があるって」




削板「所謂一つの、『プロレスごっこ』だ!」

426 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:42:55.29 ID:OyzbZpPg0


雲川「なななななな、まだお夕飯の途中なんだけど!」


削板「思い立ったが吉日! 俺の座右の銘だ!」


雲川「もう…………まったく何個あるんだか、お前の座右の銘は」


削板「何個だ?」


雲川「私の知ってる限りじゃ、二七二個だな」ハァ


削板「つまり、それで全部だな!」


雲川「軍覇の言う事は八割方理解不能なんだけど」ボソボソ


削板「またまた、解ってるんだろう! お前は頭がトンデモ良いんだからな!
   俺の事で芹亜が知らない事なんてあるのか?」


雲川「…………………………な、ない。絶対に無い。軍覇の全ては私のモノで」


削板「芹亜の髪の毛から爪先まで俺のモノ、だな!」


雲川「どこでそんな艶っぽい言い回しを……いや親船さんだな、こういうのは」ハァ


削板「いや、貝積の爺さんが」


雲川「まさかの伏兵!?」

427 :小ネタ「飛龍乗雲」[saga]:2011/07/29(金) 20:44:17.91 ID:OyzbZpPg0


寝室


ポフン


削板「っしゃ、おっぱじめるか」


雲川「ううぅ」


削板「…………本音を言うとだな、俺もいい加減、
   職場に『愛妻弁当』ってヤツを持ってって自慢したいんだ」


雲川「うっ」グサ


削板「きせいじじつってのを作っちまえば、大手を振ってお前と歩けるんだよな」


雲川「!? あ、ちょ、今日はマズイんだけど」アセアセ


削板「好きだ、芹亜」ボソ


雲川「~~~~~~っ!!!!」


削板「まぁ、そんな訳だから。ここはちょっと根性出して……」







「本気で、やるぞ」



オワリ
428 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/07/29(金) 20:45:54.30 ID:OyzbZpPg0

Yシャツをはだけさせてベッドに押し倒されて涙目の雲川さんをご想像下さい
もれなくすごパが飛んできます なんてご褒美!

修羅場終了なので投下ペースを少し早めようと思います
ではまた明日
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/29(金) 21:23:06.03 ID:Wea9qndAO
甘酸っぺえ!
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)[sage]:2011/07/29(金) 21:26:02.17 ID:8JNaFYCC0
やべー軍覇さんかっこいい
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/07/29(金) 21:31:26.50 ID:dRUUbiTPo
孕ませる気マンマンとかわっふるわっふる
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/30(土) 09:22:14.32 ID:HXVhUw7fo
わっふるわっふるわっふるわっふわhるわhh



435 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:07:01.93 ID:pX12BUB10

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『神の右席』同士の対峙が続くここ第六学区でも状況は概ね変わらなかった。

違いを挙げるとすれば、二人の『ヴェント』の競り合いにアンデッドが介入してこない点だ。


「んっ、のっ、年増ああっ!!!」

「んで、すってっ、ケバ女ああああっっ!!!!!」



ドギャギャギャギャ、ズガッ、メキメキメキッ!!!




…………いや別に、恐ろしいから割って入れないわけではない。


「………………おっかなぁい」


歓楽街全体を巻き込みつつあるたった二人の災害源を食蜂がそう評した。

トルネード、サイクロン、ダウンバースト、塵旋風。

およそ『風』と分類されるありとあらゆる現象が、

十年前とは違い『虚数学区』の下方修正抜きにフルパワーで荒れ狂っていた。


「お化粧がのってない日のむぎのはだいたいあんな感じだよ」

「やっぱり民間企業は怖いわぁ。学会で派閥争いしてた方がマシね」


異形の獲物にめでたく認定された食蜂と理后は暢気なものである。

『前方』ほどには魔力を身に纏っていないゾンビ共の動きを、

今度こそ妨害されることなく掌握した食蜂はあらゆる手を試した。

ヴェント達への『敵意』の移植は成功したが、『天罰』による酸欠状態など不死者には無意味。

一か所に集めて同士討ちするようにも仕向けるが、謎の黒鎧に邪魔をされた。

436 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:08:38.13 ID:pX12BUB10


「私たちってば今日、あんまり役に立ってなくなぁい?」

「一般の人を助けるのも大事な役目だよ」

「登場シーンがクライマックスだったなぁ…………」

「最初だけクライマックス」


結局十体程湧いて出た怪物撃破への決定打は得られず、

絶えずその異常な精神状態に干渉して木偶の坊を生産するので精一杯であった。

その一方で『天罰術式』の被害者を戦闘開始以降一人も

出していないだろう事を考慮すれば、彼女らの功績は決して小さくはないのだが。



ブオオオオオオンッ!!!



「甘い、のよ! 風遣いが荒いッ!!」


こうせき
美味しい所を掻っ攫っていった女は、無傷で『前方のヴェント』を追い詰めつつあった。

舌のピアスで変幻自在の擬態を見せる『前方』の風を、常に最適な術式で迎え撃つ。

魔術を知らぬ能力者たちからすれば了知は不可能だろうが、

それは拳銃の弾丸を弾丸で、しかもあからさまな後出しで撃ち落とすが如き神業だった。

437 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:10:07.55 ID:pX12BUB10


「なん、でっ?」

「次の行動が読まれてるのか、ですって? 自分で、考え、なさいよ!」


ヴェントは現在、『前方』と同じ椅子に座って性質を得ているのだ。

すぐ隣に腰かけている相手の風向きを読むなど、彼女ほどの術者であれば朝飯前であった。


(フィアンマには悪いけど、ラッキーな相手に当たったわね)


『前方のヴェント』は魔術師として少なくとも自分より下だ。

ヴェントがそう確信できるのは、再現版の儀式で掠め取ったに過ぎない自らの

『天罰術式』が敵のそれと相殺しあっている、という根拠がある為だった。

本来ならば先に坐していた方が有利なはずの椅子取りゲームを彼女が制しているのは、

『フィアンマ』達の奪い合いと違って『ヴェント』達の間に明確な実力差がある証拠だ。

遠からず、この対決はヴェントが制する。

それは一観衆に身をやつした二人の超能力者の目にも明らかだった。




「くうっ………………!!」

「降参するなら命だけは、ってね。常套の文句だけどウソは吐かないわよ」


遂に『前方のヴェント』が、身を切り裂く無数の裂傷に堪えかねて膝をついた。

ゆっくりと歩み寄って大槌をその首筋に突きつけたヴェントが降伏勧告を行うが、


「…………地獄に堕ちろ」


見上げた面から放たれたのは、受諾宣言ではなく呪いの言葉と唾だった。

438 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:11:44.95 ID:pX12BUB10


「ああまったくもう。じゃあ、痛い目見なさ、…………?」


処置なし、と言わんばかりに頬を拭ったヴェントの視界の隅で青白い火花が散る。

店中に張り巡らされた電線がショートしたのか、と彼女が認識した瞬間、黒い影。


――■■■■■■■!――


吐き気を催す風貌を持つ例のモンスターが、何かに向けて一直線に突進していた。

食蜂が動きを封じている連中の方向からやって来たものではない。

それは即ち、『心理掌握』の軍門に未だ下っていない兵隊である証明だった。



「…………え?」



瓦礫の隙間に埋もれて、意識の無い少年の姿をヴェントは見つけてしまった。

魂なき兵隊はその命を奪う使命を帯びていたが、少年は迫りくる死にも目を覚まさない。



――――死んだ弟も、あのくらいの年頃だった。



無意識に過去を重ねてしまった、その矢先。


「んっ、ああああああっ!?」


ヴェントの肉体が、唐突に宙を舞った。

439 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:13:10.66 ID:pX12BUB10




ようやく決着がついたのか、と緊張を微かに解いたのは

二十メートルほど離れた位置で不死者の群れを監視していた食蜂だった。

だが終曲にはいま少し早く、魔術師たちを挟んだ更に先に新たな亡者の影が。


「あらぁ? …………いけない!」


突然意識を敵対者から逸らしたヴェントを見て、食蜂が事態を察した。

コントロール下に置き損ねた守るべき命と打倒すべき敵が一組。

失態を自責する暇も惜しく即座に能力を発動しようとしたが、



ブオンッ!!



「えっ、ちょ」


直撃コースで吹っ飛ばされてきた黄色い女に、慌てて身を捩るも時すでに遅し。

咄嗟に痛覚を遮断して小柄な身体を受け止めるが、

人一人を飛ばす強烈な運動エネルギーを御しきるなど食蜂に出来るはずもなかった。



ドンッ!!




440 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:14:09.02 ID:pX12BUB10


「っ、あの子は!」

「くそ、しまった!」


壁に強かに叩きつけられてやっとのことで止まった二人は、

揺れる視界で彼方の惨劇を防ぐべく早急に行動を開始した。

油断を突かれて浅くはない傷を負ったヴェントが、風圧の後押しを受けて走り出す。

『心理掌握』もこの場の全異形の制圧権を再度確保しようと、演算機を回転させた。


「って、あれ? こんちくしょう!」


その時、地面を強く蹴って疾走していた女魔術師が呆気にとられた。


――■■■■■■■■■■■■■■■!!!――


少年に肉薄していたはずの人形は、既にその矛先を変えていた。

哀れにも生贄とされるはずだった少年は、勿論のこと無事であった。


「まだ私は負けてないわよ!」


しぶとく横槍を入れてきた『前方』に応戦するべく一旦静止。

同型の槌がガン! と鈍い音を立てて交差し、一瞬遅れて旋風が逆巻く。


「痛っ、まだやられ足りないってのかしら!?」


損害状況を脳に教えようと悲鳴を上げる全身を無視して、

ヴェントは殺意と風刃の渦巻く決闘に再び挑んだ。

441 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:15:45.87 ID:pX12BUB10






「…………あら? 私、間に合ったのかしらぁ?」


己に一直線、ロケットの如く突っ込んできたクリーチャーを

さっくり下僕にして跪かせた女王は釈然としない表情だった。

先ほどの『心理掌握』の発動は宙を舞ったヴェントを避けるために

意識を割かれて一瞬間に合わず、現在土下座中のしもべには届かなかった筈だ。


「違うよ、しょくほう。私がやったの」

「ひゃあ!? ちょっと、わざとやってな…………あ、その子」


彼女の疑問に答えたのは、すっかり存在感が薄まっていた浜面理后だった。

口元に手を運んで解を得るべく頭脳を働かせていた食蜂の耳元で、こっそりとウィスパーボイス。

どう考えても確信犯だろう。

涙目を生温かく見やってくる理后に憤慨したが、

その背には食蜂が存在を失念していた少年が負ぶわれていた為強く出られない。

逃げ口を塞がれた怒りが噴出する寸前、


「……待って、浜面さんが『やった』って事はもしかして」


第五位はその言葉の意味するところを瞬時に理解した。

我が意を得たと頷く理后が携帯電話をジャージの脇から取り出す。


「そう。このゾンビたちの探知目標は――――」

442 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:16:43.02 ID:pX12BUB10

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少し時を遡って、第十学区。



この世の暗がりを全て飲み込んだような呪詛が終わったと同時に、

ステイルが燃え盛る剣を倒れ伏す『右方のフィアンマ』に炸裂させようとした。


「くっ!?」


が、届かない。

赤熱する炎の鞭を防いだのは、足元からホラー映画のワンシーンのように這い出た異形だった。

路地裏で仕留めた筈のアンデッドが爆発の衝撃で吹き飛ぶが、

それ以上にステイルを驚愕させたのは彼の張る探知網の反応だった。

学園都市全域をとり囲む『陣地』の内部に、たった今掃除したものと同じ魔力が次々と現れる。

異常なのは、その数であった。


(バカな! 二百、三百、まだ増える…………!?)


不安げに黒衣の神父を見守っていたインデックスも、同様に焦燥していた。


「じゅ、術式が解析しきれないよ!?」


『禁書目録』の叫びは換言すれば、眼前の現象が全くの未知の魔術である事を表していた。

滅多に遭遇しない窮地にある彼女の焦りを鎮めようと、フィアンマが声をかけた。

443 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:19:02.75 ID:pX12BUB10


「バチカンの、結界のようなものか?」

「違う、単純に構成が複雑で、膨大すぎるの。こんなの一時間あっても読み切れない!」


ローマ正教の本拠地バチカンの魔術防衛網は、

多種多様の術式が複雑に絡み合って常時変化し続けると言う侵入者泣かせの代物である。

今回の事象はそれとは違い、単純に理論の構成パターンのみで彼女の解析処理を遅らせていた。

あえて類似したケースを挙げるとするなら、アウレオルスの『黄金錬成』が近かった。


「ど、どんどん増えてくよ!」


佐天の悲鳴に頭を抱えていたインデックスが周囲を見回す。

一つ、また一つと赤紫色の紋様が大地に刻まれ、怪異が湧き出てきた。

数は五十に達し、そのどれもが形成を逆転された彼らを睨んでいた。

立ち塞がる腐肉の壁に遮られ、術者である『右方』の姿は完全に隠れてしまった。


「クソッ!!」


強く歯噛みしながらステイルも後退して彼女らと合流した。

最初になぎ払った一体も例の鎧にダメージを逃がされたのか既に立ち上がっている。


「『魔女狩りの王』でなくては仕留められないか……しかし、この数は!」

「ここにいるので全部じゃないの!?」

「この街で学生がいるだろう、全ての学区に出没している」

「…………!!」

444 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:21:12.29 ID:pX12BUB10


佐天が街全体でこれから吹き荒れる悲劇を予見して、息を呑んだ。

しかし瞼を下ろしたステイルの検索結果は、更なる危機を告げていた。


「ようやく増加が止まった。…………総計、六六六体だ」

「ろっ…………!?」


インデックスもまた、喉から出かけた慄きを抑えて必死に対抗策を探った。

『魔女狩りの王』で一体一体駆逐していたのでは時間が掛かり過ぎる。

その前に現状で限界の近いステイルの魔力が枯渇するのは目に見えていた。

『右方』の特性、『第三の腕』であれば一掃は可能だろうが、それは――――



重苦しい沈黙が場を包む。

その時、フィアンマがよろめきながら起き上がった。


「お前達は逃げていろ。順番から言って、奴はまず俺様を殺しにかかるはずだ」

「待ってフィアンマ! その身体じゃ無理だよ!」

「最後の激突で『第三の腕』が崩れたように僕には見えたがね。死にに行く気か?」


ステイルとインデックスが、異口同音に彼の無謀を制止した。

二人の洞察通り、フィアンマの『聖なる右』は既に崩壊している。

それでも、己の血で着衣をさらに紅く濡らした男の執念は深かった。

445 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:22:42.03 ID:pX12BUB10


「俺様は、いや『右方のフィアンマ』もそうだろうがな、
 『知恵の実』を僅かに残しているのだ。
 つまり、ある程度の通常魔術なら行使可能だ」

「“ある程度”か、それはさぞかし大層な魔術なんだろうな?
 …………そんなモノで『神の右席』に勝てるのなら苦労はしない」


ステイルの冷静な判断も、


「問答の暇はない。俺様が『右方のフィアンマ』を殺せば」

「この術式が停止する、そんな保証は無いよ」


インデックスの理に適った反論も、


「…………お前達の御高説は、尤もだよ。だがな、これは“俺”の業だ」


フィアンマを止める事は出来ない。

彼の肉体を凌駕する信念を断ち切るには、明確な『力』が必要だった。


「どうやら、時間だな」



――■■■■■■■■■■■■■!!!――

      ――■■■■■■■■■■■!!!――

            ――■■■■■■■■■■■■■■■!!!――



そして、血肉を求めた『暴力』が遂にその進軍を開始した。

446 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:23:34.79 ID:pX12BUB10


「最大主教!」

「るいこ、まこと、こっち!」


ステイルが短く吠えた。

意を汲み取ったインデックスが真理を抱く佐天の手を引く。

哮び狂う怪異の荒波に正対して、男たちが防波堤となって立ちはだかった。

ステイルがルーンを眼前に構え、フィアンマは死に体で不敵に笑った。




(――――なんだ、これは)


だがその時、修羅場を幾度となく踏んだステイルの直感が囁いた。


(『熱』が無い。感情が有るとか無いとかそういう問題じゃない。
 この木偶ども、僕らに『向いて』いない…………まさか!)


耳奥で聞こえた声は、正鵠を射ていた。



――■■■■■■■■■■■■■■■!!!――



「こいつら……!?」


フィアンマも感付き、小さく呻く。

447 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:24:25.86 ID:pX12BUB10





全ての怪物が、彼らを素通りして背後のインデックス達を狙っていた。





「――――――――っっ!!!」


魔力の消費など露ほども考慮に入れず魔術師が渾身の爆炎を巻き起こす。

敵の八割はそれで足止めされるが、残りの二割はそのまま駆け抜けていった。

フィアンマも分厚い獄炎の壁を形成して迎え撃ったが、結果は大差ない。


「行かせるかァ!!!」


前方で持ち直した敵の事など頭から吹き飛んだステイルが、

壁を潜り抜けた波の後を追って地を蹴った。

見れば、先頭を行く人形は今にも彼の守護すべき光に手を伸ばさんとしている。




「――――――ァァァッッ!!!!!」




448 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:25:47.11 ID:pX12BUB10

-----------------------------


背中で想い人の悲痛な叫びを受け止めたインデックスは、

迫る悪意の気流を十年前の逃亡生活で垣間見た『死線』の記録から分析していた。

におい、温度、呼吸、足音、呻き、そして魔力。

天地に飛散しては消えゆくエントロピーを丁寧に手繰り寄せて導いた結論。



敵の狙いは、『無能力者』佐天涙子であった。



「るいこ、行って! 私は大丈夫!!」


決意した聖女が温かい手のひらを離して、身を軽やかに翻した。

そんな、とつられて立ち止まってしまった佐天の肩を、力いっぱい突き飛ばす。

身を挺して二人の盾となったインデックスの視線が、束の間ステイルと重なった。



――心配しないで、ステイル。私には『歩く教会』があるんだよ?


――そんな事は、わかっている! それでもッ!!



交差する、思いと想い。

女の眼に宿る灯火は亡びることなく燃え続け、男にその覚悟の固さを報せる。

怪物は、佐天と真理を守るべく両腕を広げて待つインデックスへ殺到し――――

449 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:27:38.97 ID:pX12BUB10




「……………………え?」




――――襲いかかりは、しなかった。

なんと彼女たちさえ通り越して、更に先へ先へ。

唖然としながら神父とシスターは、

確かに異形の軍隊の『向き』が別のなにがしかに遷った事実を感知していた。

その間にも濁流は第一〇学区の街並みを洗い流して進み続ける。


「あ、あれ…………!」


インデックスが五十メートル程の彼方に人影を発見した。

行軍の最終目標は、人気などある筈ない大通りを、何故か独り歩いていた女性だった。

死神に追い越されて初めて命拾いした事を悟った佐天も、その存在に気が付く。



――■■■■■■■■■■■■■■■!!!――



「逃げてぇぇっ!!」


彼女の必死の叫びも虚しく、瞬く間に女は蟻に群がられた餌のように姿を消す。

インデックスが顔色を失い、膝を地に落としそうになってステイルに抱きとめられた。

惨劇に顔を覆った二人の女性が、己が無力を嘆いた。

450 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:28:40.43 ID:pX12BUB10






カッ!!!






――■■■■■■■■■■■■■■■■■!!??――



その時、閃光。


「おい神父、インデックス」


醜悪な肉塊が集うその中心から、激しい閃光が無数に拡散した。

 ・ ・ ・ ・
「どいつだ?」


一体残らず滑稽な仰向け姿にされたアンデッドが、次々に聳立して唸る。

女はそれを一顧だにせず、地獄の釜を煮る魔女のような声を漏らした。


「絹旗をやったのはどいつなんだ?」


学習能力もなく突貫をかけた敵が、造作も無く光の奔流に飲み込まれた。

ようやく魔術師たちの視界に捉えられた片眼のみの妖しい赤光は、

目に入る万象を破壊し尽くさねば収まらない狂気を帯びていた。

451 :神の右席編⑦[saga]:2011/07/30(土) 20:31:29.40 ID:pX12BUB10







そして、激昂そのままに開け放たれた口腔から、美しい顔立ちに似合わぬ蛮声が爆発した。






「私にこれからブチコロされるのは、どこの腐れトマトかって聞いてんだよぉぉぉぉ!!!」







                        メルトダウナー
――――新たな局面を迎えた戦場に、『原 子 崩 し』麦野沈利が参着した。











460 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:32:02.80 ID:DDT05GK20


陽光が人類憎しとばかりにぎらつく学園都市第一〇学区。

しかし荒れ狂う麦野沈利の憎悪の対象は手の届かない太陽などではなく、


――■■■■■■!――


「笑わせんな出来そこないどもぉ!!!
 金玉どっかに落としてきたんじゃねえだろうなァ!!!!!」


先刻から幾度となく地べたを舐めさせられている肉塊どもだ。

彼女は辺り一面を覆う腐肉の海の猛攻を、一手に引き受けている真っ最中だった。


「うぜえうぜえうぜえうぜえうぜえうぜえ!!
 とっととママの腹ん中でも帰れよビチグソがァッ!!!」


いや正確には、一方的に群がられている、というのが正しい。

三人の魔術師にも、佐天にも真理にも反応する事なく、

意思なき兵隊はただ只管に『原子崩し』に飛びかかっては返り討ちに遭う、

そのワンシーンを焼き直しし続けていた。


「自動制御…………! それしか考えられない!
 きっと世界中の魔術体系から、優れた部分だけを抜き出して組み合わせてるんだよ」

「それなら納得だな。いかに奴が秀でた魔術師だろうと
 六百を超える傀儡を、あの性能で手繰る事など不可能だ」


魔術世界の誇る『禁書目録』が現況から最適解を導き出した。

ローマ正教最高の魔術師、フィアンマも同意見のようだ。

自然、彼らの視線は混乱の中で意識を外してしまった術者に注がれた。

461 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:33:38.09 ID:DDT05GK20


「フン、尻尾を巻いたか。おい、ステイル=マグヌス」


『右方』が伏していた地点には煤と少量の赤黒い固形が残るのみ。

其処を苦い顔で睨みつけたフィアンマがステイルの名を呼んだ。

『右席』の座へのリンクを切断された今の彼では、術者が何処に逃亡したのかはもはや知れなかった。


「聞いているのか、ステイル=マグヌス?」

「ステイル?」

「大丈夫? …………どこか怪我したの!?」


ところがその神父はと言えば、俯いていて呼びかけに応じようとしない。

怪訝顔の佐天も続けて名前を口にし、

負傷したのかと憂慮したインデックスが駆け寄った。




ガシッ!


「ひゃい!?」




するとその肩が、痛いほどの力で正面から鷲掴みにされた。


「最大主教…………っ!」

「す、すている…………?」

462 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:34:58.57 ID:DDT05GK20


彼女の額に触れんばかりの位置に、護衛の魔術師の真摯な表情がある。

インデックスの頬が紅潮し、目が左右に泳いだ。

余談だがフィアンマと佐天、ついでに真理は男が動き始めた瞬間から空気に徹していた。


「心臓が、止まるかと、思った」

「だ、だから大袈裟なんだよ? あんなの『歩く教会』なら」


理屈の上ではそうなる。

理はインデックスの側にある、それはステイルにも解っていた。

彼女を一年間追いまわして傷つけた男に、その勇気を咎める資格が無い事も。

必然的に、彼は胸の裡から溢れる感情に身を任せて口を動かすしかない。


「恐ろしくは、なかったのか?」

「怖くないわけないよ。でも、あの時はあれが正解だったって、私は信じてる」

「…………君も大概、頑固者だな」


勝てない。

優しくしなやかな彼女の決断を、自分が謗る事など不可能だ。

ステイルは悟り、全身で、そして心で項垂れた。


「……………………それなら、すている」

463 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:36:48.55 ID:DDT05GK20


慈しむ、聖女の音声。

神父が欲しいのは、そんなものではなかった。


「なんだい」


それでも、聞き返す。

ステイルは彼女の声になら、いつまででも耳を打たれていたかった。


「ぎゅって、して。私を離さないで、すている?」

「っ…………」


男がなぜか、小刻みに震える自らの手掌を虚ろな目で、しかし凝視した。

女はその挙動を、もの言いたげに見据える。

やがて男の腕がゆっくり、ゆっくりと愛しい女性を抱こうと












「い・ちゃ・つ・い・て・ん・じゃ・ねえええええ!!!!」








464 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:38:27.46 ID:DDT05GK20


カカッ、という擬音と共に、男女が勢いよくバックステップして身を離した。

隣接するホールで静かなラブ・ストーリーが三人の観客に上映される中、

ただ一人バイオレンスアクションに興じていた麦野の堪忍袋の尾がとうとう切れたのだ。

KYと責めるなかれ、現在■■歳独身の彼女にしては大変辛抱したと、

麦野沈利という女を良く知る『アイテム』の面々なら高評価する筈だ。


「おいおい、もう少しだったというのに」

「えーっと、麦野さんでしたっけ? 後十秒で良いから黙っててくれません?」

「しずりん、けーわい!」

「オーケイ、コイツら始末したらアンタらの番だかんなコラァ!!!」


しかし当然、初対面のフィアンマや名を知っている程度の佐天は白い目である。

現状で最大の功労者は口から泡を飛ばして不遇を嘆き、もとい喚いた。


「始末、なぁ? 一向にその兆候は見えないがな」

「忌々しい『Equ.DarkMatter』のせいだッ!!!
 まさか第二位が絡んでるんじゃねえだろうなあ!?」

「ご、ゴホンッ!! …………やはりあの鎧は『未元物質』なのか?」


我に返ったステイルが咳払いをして会話に加わる。

路地裏で燻る黒塊を見た時から、彼の胸には確信に近い疑念があった。

片手間で五十に達するアンデッドを圧倒する制圧力を存分に見せつけながら、

頭に上った血が多少は引いたらしい麦野が受け答える。

465 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:41:07.16 ID:DDT05GK20


カアッ!!!


          ――■■■■■■■■■■■■!!!!――


――■■■■――


                    ――■■■■■■!?――



「…………超能力の物質への付与ってやつよ。
 私が昔遭遇したのとは外見も性能もかなり違うけど、な!!」


開放された『原子崩し』がまたも『Equ.DarkMatter』に叩きつけられた。

よく観察すれば、電子を強制操作して生み出される粒機波形高速砲を、

黒い鎧からのうっすら発生している膜が受け流しているのが確認できた。


「科学と魔術の融合か、下らん」


侮蔑の念を隠さず、フィアンマが吐き捨てた。

それにつけても恐るべきは、

怒れる『原子崩し』の直撃を受け続けて尚活動を続行できるその防御性能とタフネスである。

第四位が致命傷を与えられないとなれば、現状学園都市に不死軍を打倒する術は無い。


「ちょっと待って、そう言えば」


発言したのは、自らの場違いに少々縮こまっていた佐天涙子であった。

彼女に抱えられる真理は、激動の都市の行く末など気にせず健やかに眠っている。

466 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:43:30.15 ID:DDT05GK20


(彼女と真理もいい加減、安全な場所に逃がさなければな)


ステイルは思案するが、この敵の攻撃目標がハッキリしないうちは危険だ。

それならば、この場に留まった方が幾らかマシな可能性さえあった。

すると佐天は魔術師たちに、思いもよらぬヒントを齎した。


「さっき聞こえたアレ、『詠唱』、でいいのかな? 
 あの中に、プログラミング言語が混ざってた気がするんだよね」

「プロ…………るいこ、詳しく聞かせて!」


聞きなれぬ単語に飛び付いたのは、

先ほどの詠唱を完全に解析する事のかなわなかったインデックスだった。

自らの図書館に蓄えられていない知識の存在は、

こんな時に不謹慎ではあるが彼女のプライドを擽っていた。

何より、この未知の魔術を攻略する糸口になるかもしれない。


「い、いや、そんな期待しないでね? 
 私はそういうのに詳しい友達からちらーっと聞いただけだし」

「それでもいいよ! ほら早く!」


インデックスの気迫に押されて、佐天が自信なさげに説明を始めようとする。

それを慌ててステイルが遮った。

467 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:44:34.12 ID:DDT05GK20


「ダメだ、忘れたのか最大主教!
 能力開発に準ずる行為を受ければ、魔術の行使にリスクが出るかもしれない!」

「…………私は、魔術なんて使えないよ」

「っ!! 僕や、フィアンマの話をしているんだ!」


ほんの五分前までの甘い空気はどこへやら、男女は諍いを起こしてしまった。

特にステイルの剣幕はフィアンマや佐天から見ても少々不自然なほどである。

おそるおそる、能力開発の経験者が二人の間に入った。


「あのー…………」

「なに?」

「なんだ!?」


同時に、その首が闖入者に向けて勢いよく振られた。

こんな時まで相も変わらず息ぴったりな二人である。

はは、と苦笑した佐天がステイルの杞憂について言及した。


「えーっと、プログラミング言語はコンピュータの用語なの。
 能力開発とは全然、一切関係ないからね? (…………多分)」

「え」

468 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:45:52.72 ID:DDT05GK20


色をなして喧々諤々だった男の動作が凍った。

専門的にはフリーズと言う。

カクカク、と再起動したステイルの表情はばつの悪さで赤くなっていた。

専門的にはオーバーヒートと


「やかましい!!」





たどたどしい佐天の解説を、砂が水を吸うように取り込むインデックス。

横で膝を抱えるステイルの肩を、ニヤニヤしながらフィアンマがポン、と叩いた。

忘れそうになるが、麦野沈利はいまだバヒュンバヒュンと光線を撒き散らして交戦中である。


「C言語、アセンブリ言語、インタプリタ言語…………」

「人間が喋ってるのなんて初めて聞いたから、いまいち自信ないけど」

「十分だよ、るいこ。ありがとね」


佐天が最後までまごつきながら締めくくる。

些少だが理論の構築を前進させたインデックスが、一定の結論に至った。

469 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:46:50.43 ID:DDT05GK20


「科学的記号を取り入れた魔術……前代未聞かも、そんなの」

「確かに。だがそれなら、一つ仮説が立てられるね」


自分で言っておいて不可解そうな彼女だが、復活したステイルが補足する。

愚直に超能力者へ突撃を繰り返すのみの怪異に対する仮定だ。

魔術師よりも佐天を、佐天よりも麦野を優先して追跡しているという事は。


「こいつらの探知目標は――――」



prrrrr!!



全員の視線が一点に集中する。

電子音の発生源は、ステイルの懐だった。

話の腰を折られたが、管制官の役割もこなす神父は無論応答せざるをえない。


「もしもし。…………そうか、了解した」


短い通信を終えたステイルに、インデックスが視線で問うた。

頷きが返る。



「ミセス浜面が確認した。奴らは、『AIM拡散力場』を自動的に追撃している」


470 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:48:11.35 ID:DDT05GK20

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第二学区のビル陰で、二つのキンキン声が木霊する。


「結標さん? あの見るに堪えないお人形さん達、
 どちらかというとあなたを追ってらっしゃるようにわたくしには映るのですが」

「気のせいじゃない? 仮にそうだとしたら、私の美貌も罪よね」

「御同類だと思われて親近感溢れるスキンシップを求められているのではありませんことぉ?」

「私の身内にあんな可愛げのないショ…………子はいないわよ」

「ショ? その先なんと? ほら今なんと仰られようとしたんですの?」

「さらさらショートヘアーが私のタイプだってだけの話よ?」

「んまー度し難い! これだからショタコンは」

「だだだだ誰がショタコンやねん!!! 口を慎みなさいよこのレズビアン!」

「己の嗜好を公言できずに何が特殊性癖か! ですの!」

「無い胸自慢げに張ってんじゃないわよ!」

「ちょっと屋上来いやワレ」


『左方のテッラ』と対峙していた時から好調ではあったが、

『光の処刑』の射程範囲から外れて益々緊張感を失ったが故の醜い争いであった。

ただし此度は、幸か不幸か仲裁役が到来していた。


「ヒャッハァー! なってて良かったレベル0!
 いや好きでなった訳じゃないけどってアレェェェェ!?
 どこ行っちゃったのお二人さん!? 俺を置いてかないでカムバーーーーック!!」

471 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:49:55.59 ID:DDT05GK20


表通りからの情けないSOSが、低レベルにいがみ合っていた女たちの耳に届く。

直後にビルとビルの隙間の空間に、金髪のチンピラが駆け込んできた。

すぐ後ろには件の人形がダース単位で連なっている。


――■■■■■■■■■■■■!!!!――


「いやんなっちゃうわね」

「それ俺の台詞ううう!!」


能力の封印が解けた今なら、応戦は存分に出来る。

しかし彼女らの真のターゲットはあのニヤケ面の魔術師ただ一人である。

無駄な体力の消耗を避けたい二人の空間移動能力者は、

男を伴って林立するビルの屋上までヒュン、と跳躍した。


ドサリ。


「んぎゃっ!」


音とくぐもった悲鳴を立てて投げ出されたのはチンピラ一人で、能力者二人は華麗に地を踏んだ。

白井がビルの縁から下界を覗き込むと、遠く二十メートルは離れた異形と一斉に目が合う。

生きた心地のしないままに顔を引っ込めた。

472 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:52:48.77 ID:DDT05GK20


「……本当にレベルの強い能力者に引き寄せられて来るんですのね」

「確かめる為に俺を置き去りにした訳ですか!?」

「この目でしかと裏付け取らなきゃなきゃ気の済まない性分なのよ」

「この一大ニュースを届けてやったの俺よ!? 
 ちくしょうだから理后の方に行きたかったのに!」


統括理事会からの指令を不本意だと嘆くチンピラ風の男――――浜面仕上。

不死者から逃げ回る彼女たちの前に現れて、妻が暴いたカラクリを伝えたのは彼であった。

理不尽な女どもの言い草に浜面はガァンガァンガァン! と右の義手を思い切り

強固なコンクリートに叩きつけて、金属音を鳴らしながら人権侵害を訴える。

視線はあくまで『左方のテッラ』の現在地と思われる方角に固定して、

その座標を逃走距離から概算しつつ、結標は無慈悲にも男の訴訟請求を無視した。


「理事会……っていうか雲川さんに文句を言いたいのは私だって一緒よ。
 『光の処刑』とやらの性能が事前情報と食い違ってるじゃないの!」


正しくは結標の元同僚、土御門から提供された情報ではあるのだが。

さておき『左方』によって振るわれる『光の処刑』の猛威が、

十年前に土御門の味わったそれと異なっているのは事実だった。


「モノとモノの間の優先順位を変えられる魔術なんだってな?」


うってかわって真面目顔になった浜面が頭を切り替えて、唸りながら質問する。

憤りを誰でもいいからとにかくぶちまけたい結標が即座に噛みついた。


「聞くところでは『優先』は一個のはずなのよ?
 だってのにあのムカつくニヤケ面、『第三優先』まで晒してきて。
 …………でも、おかげで一つ掴めたかもしれないわね」

473 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:54:59.50 ID:DDT05GK20


首を捻った浜面が口を開こうとすると、もう一人の女が割り込んだ。


「『事前情報』だの『理事会』だの、
  何やらわたくしの存ぜぬ所で色々動きがあるようですが」


どうやら全てを承知の上でこの紛争に臨んでいるらしい二人に

不満げな声を横から挟み込んだのは、純粋に正義感から魔術師に挑んだ白井黒子である。

会話から無意識に彼女を締め出していた事に気が付いた浜面が苦笑した。


「ああ悪いな、嬢ちゃん。今は詳しい事情は省かせてくれや。
 ここまで首突っ込んじまった以上何かしら説明があるとは思うけどな」

「じょ、嬢ちゃん…………!? ま、まあいいでしょう。
 わたくしが体感したのもまさにあなたが先ほど仰ったそれですの」


三次元と十一次元。

革とコンクリート。

コンクリートと手榴弾。

そしてなにより白井と結標が逃げ出す直前の――――


「っと、もうちょっと詳しい話を聞かせてくれ。奴の戦闘ぶりについてだ」


滔々と流れる二人のストーリーテーリングを、一段と表情を引き締めた浜面が制止した。

ズブの素人――いや、そこらのスキルアウトだろうと出来る顔つきではない。

白井は自らの凶悪犯との対峙経験からそう感得した。

そして彼女には知る由もないが、

“これ”こそ浜面仕上が統括理事会に戦力として数えられる所以であった。

474 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:57:16.54 ID:DDT05GK20


「…………私はそういうチームプレーは苦手だわ。白井さん、お願い」

「え!?」

「あなたの方が先に交戦してたでしょ? だったらあなたが説明すべきよ。
 私はあのエリマキトカゲの位置を見張るわ」


どこからともなく――などという文句はアポート能力者には失笑モノだが――

双眼鏡を取り出した結標が首を振って白井にバトンを渡した。

そのまま彼女は、返事も聞かずに『左方のテッラ』が居るであろう座標を監視する。

結標が戦闘中に収集したデータでは『光の処刑』の有効範囲は三二・二メートル。

彼らの目的から考えればそうそう市民を手にかけるとも思えないが、

万が一の為につかず離れずの距離を保つ事が肝要だった。


「は、はあ。まあ、そうですわね。
 では、わたくしの記憶の限りをお話すればよろしいんですの?」

「ああ、どんな些細な事でも頼むぜ」

「ただし手短にね。この場所もいずれゾンビさん達が殺到するわよ」


結標の注釈に二人して顔を顰める。

そもそもあの連中との邂逅は精神衛生上よろしくなかった。


「…………一度、場所を変えましょうか」

「だな」

475 :神の右席編⑧[saga]:2011/08/01(月) 20:59:40.07 ID:DDT05GK20


そして僅かに五分ののち。



「これで、イケる筈だ」

「……しかし、その仮説が間違っていたら?」

「三人仲良く御陀仏、ってとこかしらね」



偶然も奇跡も望まず、ただただ残酷に現実だけを見据えて。



「まあ安心してろ、超能力者サマに大能力者サマよ」




                     イレギュラー
『左方のテッラ』攻略のプランが、『無能力者』の手で組み上げられた。





「底辺のそのまた底床を舐め尽くした負け犬の意地、見せてやるよ」



482 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:14:02.02 ID:7j680ZQF0

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「もういいだろう。今度こそ、俺様は奴を仕留めに行くぞ」


亡者の怨嗟が学園都市で最も色濃く蔓延る第一〇学区。

自らに最低限の治療魔術を施したフィアンマが一人、神父の探り当てた座標へと踏み出した。

『右方』は匍匐前進のようなスピードで『目的地』に進んでいる。

水平方向限定の瞬間移動も出来ないほどに『第三の腕』が瓦解している事は間違いなかった。


「待てよ……赤アスパラ。私も、行くに、決まってんだろ。
 って言うかな、ハァ、この手で、八つ裂きにしなきゃあ収まらねぇんだよ!」


その肩を掴んで強引に引き止めたのは麦野沈利だった。

彼女が息を弾ませているのは、興奮と痛憤のせいだけではない。



            ――■■■■■■!?――


――■■■■■■■■■■!!――



四方八方に散らばる腐臭の源を、単独で戦闘不能に追い込んだ疲労ゆえであった。


「……第四位を侮ってたね、正直」


仮想敵として『原子崩し』との対決もシミュレート済みのステイルが呟いた。

激昂に任せて狙いを付けなかった初撃以外、彼女の攻撃は全て怪物の脚部に集中していた。

いかに『未元物質』の防御が鉄壁とはいえ、全力で、それも一点集束された

『原子崩し』の照射を十回どころではなく浴び続ければ劣化は免れない。

結果、下半身を失った異形の軍団は還るべき大地の上で不格好に這うのみの木偶と化した。

483 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:14:39.84 ID:7j680ZQF0


「戦果と実力は認めよう、麦野沈利。
 しかし、ここから先は天上――――いや、『神上』の領域だ」

「ほざいてんじゃねえ、くたばりぞこないが。
 上条だか神浄だか知らないけど、私がやるっつった以上はやるんだよ」

「…………お前達、見ていないでこの女を止めたらどうなんだ」


実際の所立っているのもやっとのフィアンマが、

女とは思えぬ膂力の麦野に詰め寄られて微かに額に皺を寄せた。

苛立ちを押し殺して、拱手傍観する三人にあくまで高飛車に救いを求める。


「あ、あはは、私にはちょっと。おっかないし…………」

「私たちだって散々あなたを止めたのに、聞かなかったよね」

「連れて行かなければ君を殺してでも、彼女は進むだろうよ。
 ここで無駄に摩り切れるぐらいなら共闘を選択すべきだ、と僕は思うね」


しかし三者三様の発言はどれ一つとして、フィアンマを擁護するものではなかった。

特にステイルのそれは寒々しい程の現実味を帯びている。

最後に物を言ったのは結局、超能力者という明快な『暴力』であった。


「………………いいだろう、まったく。愚者、愚者なる故を知らず、だな」

「そりゃあそうだろうよ、ぐしゃぐしゃの魔術師野郎?」


下品な女だ、と呆れ果てたフィアンマは冷笑して今度こそ踵を返した。

もはやインデックスたちを顧みる事も無い男だったが一つだけ、懸念について確かめる。

『右方のフィアンマ』が魔術の檻から科学という名の庭に放った猛獣たち。

484 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:16:33.67 ID:7j680ZQF0


「残りの六一六体は、お前が何とかするんだな?」

「ああ、一計、と言う程のものでもないが…………考えがある」


フィアンマが希望を託すのは魔神に達する可能性を秘めた者、

『禁書目録』ではなく、一介の魔術師に過ぎない神父だった。

多くを語りはしないが、ステイルの双眸には毅然たる意志と自信が宿っている。


「そうか。では武運を祈らせてもらう、ステイル=マグヌス」


誰の目にも入らず、彼自身自覚してはいなかったが、

フィアンマは僅かに唇の端を持ち上げて信頼に満ち満ちた笑みを零していた。

その後ろ姿に、捻くれた激励が投げかけられる。


「僕は祈らないよ。精々無様に生き残れ、『ただのフィアンマ』」




世界を救いそこねた男と、ただ一人を救いそこねた男。

しかし彼らの物語に、一度や二度の失敗でピリオドが打たれたわけではない。

いま再び、ヒーローが播いた希望の種を絶望の嵐から護り抜くためにも。



二人の失敗者は背を向けあい、視線も交わさず――――各々の戦場に身を投げた。


485 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:17:27.93 ID:7j680ZQF0


言葉以外の何かで語り合った二人の男を切なげに見やってのち、

インデックスも死地に赴こうとする麦野に一歩近づいた。


「気をつけてね、しずり」

「誰に向かってモノ言ってんのか考えなさいよ。
 アンタも無事で帰らないと…………理后とか、第三位とかが泣くわよ」


男とは逆に脚を止めて受け答えた科学の申し子は居丈高に鼻で笑った……かと思えば、

後半部分でデレる流石のツンデレベル5ぶりであった。

その様子に顔を綻ばせたインデックスが、慈愛溢れる眼差しを向ける。


「しずりは泣いてくれないのー?」


口ぶりはお世辞にも慈母のそれではなかったが。


「シャラップ!! ねえ、そっちのアンタ。警備員なんでしょ?」

「へ!? な、なんでしょう?」


火照った麦野が怒鳴り散らすが、シスターは破顔一笑取り合わない。

業を煮やしたツンデレが、袂で悠然と真理のおしめなど変えていた警備員に牙を剥く。

近年の学園都市のコンビニは実にコンビニエンスであった。

486 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:18:04.77 ID:7j680ZQF0


「………………そのシスター、一応さ。その……私の、アレなのよ。だから」

「! 任せてください! 御友人は必ずこの佐天涙子が守って見せます!
 っていうか、私にとっても大事な大事な友達ですから!」

「言ってねえ!! 誰が友達だってええええ!?」


女三人姦しい。

先人の言葉は実に偉大で、明敏だった。


「こんな時でも賑やかだな、女という生き物は」

「まったくだね…………はぁ」











フィアンマと麦野、魔術と科学の超人二人を見送ったステイルたちもまた、

己が為すべきを為そうと行動を開始する。

まずは、一連の殺劇にその身を絡め取られた佐天と真理を解放する事であった。


「僕らも行こうか。案内してくれ、涙子」

「うんうん、佐天さんにまっかせなさい! 
 第ニニ支部には知り合いもいるから、多少なら融通きかせてくれると思うよ」

487 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:19:09.56 ID:7j680ZQF0


気丈に胸を叩いて請け負う佐天だが、

今日一日で彼女の世界観はまたしても劇的に変貌してしまった筈だ。

死神が幾度となく吹きかけてきた吐息、垣間見た天上の力。

何もかもが未知で、人知を超えた現象に触れながら、尚も佐天涙子は快活に笑う。

地に在って太陽の如く人々を勇気づける、蒲公英の逞しさだな、とインデックスは感じた。


「それでステイル、どんな手があるの?」

「問題は、『未元物質』の鎧だね」


颯爽と前を行く佐天に目を細め、インデックスは問題提起を行う。

『禁書目録』をもってしても陥落せしめる事のかなわなかった術式を

如何にして破ろうというのか、未だ聞かされていない彼女にも興味があった。


「『原子崩し』でさえ一撃必殺とはならないあの守備力。
 『幻想殺し』も『一方通行』も、そして『未元物質』本人も不在の現状、
 この街にあれを完全に貫く事が可能な『要因』は存在しない」


ステイルの列挙した要素の一つ一つが、悲観的な結末を匂わせるスパイスでしかない。

垣根ではないが、打破の為には常識にとらわれない発想が必要だった。





「ならば、破壊という『結果』を先に持ってくればいい」



488 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:20:09.81 ID:7j680ZQF0


ステイル=マグヌスが“この着想”に到達したのは

ひとえに十二年間力を追求し続けた、自己研鑽の賜物。

魔術の本分である、持たざる者への恩情ゆえであった。


「あ!」


因果律の逆転という大規模魔術。

瞬時に思い至ったらしいインデックスに、男はさすがだ、と頷いた。

彼女は記録から引き出したデータを局勢と照らし合わせ、しかし否定する。


「無理だよ。確かに私は昔、実物を見たけど…………」

「僕もかつて、使用者本人に尋問した事がある」

「だったらわかるでしょ! あれを本当の意味で行使するには『鍵』が必要で」


ジャラ、と鎖の音。

ステイルが懐から取り出したのは、魔道図書館の蔵書には記されていない霊装だった。

二つのエメラルドが束の間、その輝度を落とす。


「これなら、どうだい」

「…………そ、そんな、どこで?」


男の眼が得意げな表情とは裏腹に鋭く尖った。

その棘に気付かないインデックスの翠玉に、やがて光が帰ってくる。

女が声に詰まった。

489 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:21:42.54 ID:7j680ZQF0


「拾ったんだよ」


事もなげにのたまったステイルの様子に、瞬刻インデックスが絶句した。

だがその首は未だ、縦には振られない。


「…………ダメ。それでも、もし構築に失敗したら…………!」


術式の発動のために封入された魔力が行き場を失う。

そうなれば甚大なリバウンドが術者を襲って、ほぼ確実に死出の旅へと誘うだろう。

『禁書目録』、いや一人の女として肯んじられないインデックス。

今この瞬間科学の街の人々に齎されている悲劇の存在よりも、

彼女は目の前の愛しい人の喪失を恐れてやまない。



それはインデックスという聖女の本源の、緩やかな変質を意味していた。


「“無理”ではないんだね?」

「それ、は……………………」


ステイルは初志を貫くと定めてしまっている。

フィアンマと立てた、十字架と言う名の誓いも彼の背を押しているようだ。


「君の一〇万三〇〇〇冊と、僕の持つルーン文字三八種。そして、『これ』」


頭を垂れた女の苦悩を振り払って、神父は解放への道筋を示す。


「聖書に語られる炎の雨を、再現しようじゃないか」

490 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:22:52.92 ID:7j680ZQF0

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嵐の止まぬ学園都市第六学区で、食蜂操祈が突如頭を抑えて膝を付いた。


「しょくほう、大丈夫?」


気遣った理后にヒラヒラ手を左右させて、煌びやかに食蜂は笑う。

それは二十五年の人生で脆弱を余人に曝け出したことのない、女王の虚勢だった。

『天罰術式』から自分と理后の意識を保護する為、

そして円環状にズラリと跪かせた下僕どもの制御の為に、

『心理掌握』の連続使用時間はとうに一刻を超過している。

第五位という叙階に足を乗せて以来、未知未踏の領域に食蜂は倒れ込んでいた。


「他人の心配してないで、お仕事ちゃんとしてねぇ?」


理后は学園都市を覆う暗雲を払うという大役を担っている。

それとて、『心理掌握』による『敵意』の抑制が失われるか、




「動きが鈍くなってるわよ、『ただのヴェント』さん!」

「囀ってなさい、ヒヨッコ!!」




激しさを増すばかりの台風の目で、ヴェントが斃されれば露と消える。

誰一人欠けても、この戦争を制する事は不可能であった。

491 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:23:22.10 ID:7j680ZQF0

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「辛そうじゃない、介護は御入り用?」


『前方』の操る突風がうねり、形をスピア状に変えた。

右脚に力を込めて跳ねとんだ敵手へ、穂先が曲がって更なる追撃。

ヴェントは一瞥して唾を吐くと、十年ぶりに通したピアスで己の疾風に意志を伝えて迎え撃つ。

包み込むように広がった大気の塊が、槍をのみ込んで自らもはじけ飛んだ。


「私は介助する方よ、この厚化粧!」


傲岸不遜にヴェントは格下の魔術師を嘲笑うが戦況は伯仲していた。

先手を取っても劣勢だった一度目の対決とは明らかに、『前方』の術式の精度が違う。


(『座』へのリンク……こんな小細工で散々嘗めた態度とりやがって!)


この思考も伝わっているのだろう、と同じ土俵に漸く上った『前方』が臍を噛む。

するとヴェントが無駄の削ぎ落とされた風捌きを分析しつつ、ハンマーを二度振った。

ゴオン! と金属音を立てて地に激突した暴風が、剥がれかけた床板を巻き上げる。

ワンテンポ遅れて、二撃目が堅固なパネルを弾丸に変えて射出した。

492 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:24:05.14 ID:7j680ZQF0


「そんなのが効くと思ってんの!?」


『前方』が迎撃に選択したのは単純明快な巨大空気弾。

ビリ、と大気が悲鳴を上げて、その風船に吹き込まれた衝撃の凄まじさを予感させる。


グシャアアアアッ!!!


交わった攻撃と迎撃の結末を碌に見届けもせず、

『前方』は攻守交代とばかりに鋭利な刃を無数に投げ込もうと構えて――俄かに目を見開いた。

忌々しい先達の姿が、忽然と消えている。


「どこに…………!?」


瞬きと変らぬほどの一瞬の瞑目。

『前方』が一再瞼を持ち上げると、風圧の均衡する点に向き直った。


バリバリィッ!!!!


風化したかのように粉微塵にされた床板のすぐ背面にヴェントの姿。

身を隠して肉薄した女が風塊を避けるべく宙を舞い、

華麗に身を捻りながら直接命中させるべく大槌を一閃した。


「らあっ!!」

「ちいっ!!」

493 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:26:09.09 ID:7j680ZQF0


雄叫び二つ。

本格的な鍔迫り合いを制したのは不意を突き、上方を取ったヴェント、


「っ、ああ!」


ではなく、『前方のヴェント』の烈風であった。

押し飛ばされ地に吸いこまれるヴェントの小柄な身体。

墜落の寸前に風に乗って、どうにか二本足で着地した女の左手が一瞬横腹に伸びた。


「内臓、イッちゃった? それとも骨ェ?」


バッと勢いよく引かれ、左腕は大槌に添えられるが後の祭りである。


(わかる、読める、筒抜けだ、お見通しだよぉ!)


肺臓に火掻き棒を突っ込まれたような激痛に、ヴェントは正気を保つのでいっぱいだ。

彼女の艱苦と焦燥が、『前方のヴェント』には手に取るようだった。

クロスレンジ。

最も目の前の女を苦しめて殺す手段を侵攻者は選ぶ。

後方で空気圧を爆発させ、突貫。


「調子に、っつ!」


ヴェントの迎撃行動が初めて、且つ明確に、一手遅れた。

踏ん張り切れずに跪いた敵を見て、『前方』が喜悦を膨らませた。

精神を支配する残虐そのままに兇器を左腹部へスイング。

494 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:27:42.36 ID:7j680ZQF0


「があああああああああああっ、あああ、っつがあっ!!!!」


獣の叫びが谺した。


「かっ、が、あああ、くうううう!!!!!」


怒りでも憎しみでもなく、ただただ苦痛に悶える山彦が無機質な機械の里を吹き抜ける。


「んっ、んがああ!!! っの、カハッ!?」


性欲にも似た愉悦に脳を犯されながら、殺戮者が振る、振る、鈍器を振り下ろす。


「か…………」


咆哮が、止まった。

ヴェントはもう動かない。

『右席の座』へのリンクを確認。

魔力反応無し。

死んだ。



死。




「死んだ、死んじまった、殺してやった!」




狂ったように笑いながら、死者を更に辱しめるべく槌を構え、

495 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:28:16.87 ID:7j680ZQF0



バァンッ!!!!



「あ?」


銃声。

魔術の世界には存在しない殺しの産声。

食蜂操祈が、ヴェントに震える銃口を向けていた。



















「…………アンタに、注意を払ってないとでも思った?」


オイル缶に詰められて腐ったような、停滞した風が空気を伝う。


「そんな鉛玉、逸らすのに指一本要らないんだよ」


表情を彩る殺意の色だけは塗り替えず、『前方のヴェント』は冷静に冷徹に健在だった。

496 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:31:31.13 ID:7j680ZQF0


『前方』の目に映る範囲には、拳銃を取り落とした第五位のみ。

しかし彼女は空気の淀みから第九位の位置をあっさり把握した。

食蜂の後方、百メートル以上。

戦場となったゲームセンターを出て別の施設でしゃがみ込んでいる。


(仲間を見捨てた? それともまだ足掻く? だが、動きが無い)


どのみち、次の犠牲者は膝をガクガク言わせて大量の脂汗を流す『心理掌握』だ。

絶望に武器を握っていられなくなったのだろう、その顔には笑みが――――笑み?





「別にあなたにプレゼントしたわけじゃあないのよ。
 ところで、電気伝導率の一番高い金属って何か知ってるぅ?」


突然余裕の、しかし意味不明の講釈を垂れる女。

嫌悪感以上の何かが『前方のヴェント』の背筋を昇って消えた。


「いま撃ったのは鉛玉じゃなくて、いわゆる『銀の弾丸』よぉ。
 とぉっても良く『電気』を通すの」


バチリ。

間違いなく後背から鳴った、雷の弾ける耳障りな音。


「どうしても、『彼女』が欲しいって言うからパスしたの…………ねえ」


金属、弾丸、電気。

連想ゲームの正答に、『前方』は辿りついた。

497 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:32:33.25 ID:7j680ZQF0














『「『超電磁砲』って言葉、知ってる?」』








振り返った先に第三位、上条美琴がいた。








498 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:36:05.18 ID:7j680ZQF0


「馬鹿な、アックアは…………!?」


親指に紛れもない『銀の弾丸』を乗せ準備万端の第三位に向かって、狼狽して構えをとる。

マズイ、撃たれる、今すぐにでも発射される。

『後方のアックア』はとうの昔に敗れ去ったというのか。

戦場に生き、戦場に死ぬあの男が。






あり得ない。





思ったと同時に、凛々しく佇む『超電磁砲』の輪郭が薄れた。




(――――――――やられたッ!!!)




徐々に消えゆく第三位の体を通して見えた、銃弾を撃ち込まれて中破し、放電する配電盤。

言い聞かせるような口調、丁寧に与えられたヒント。

何より彼女の能力『心理掌握』と、魔力の壁を潜るほどにその強度を補正する『能力剥奪』。

全ては脳内に、ありもしない上条美琴の幻を産む布石。




連想ゲームは、解かせる為に出題されていた。




499 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:37:17.72 ID:7j680ZQF0


そこまで悟った『前方のヴェント』のすぐ背後に気配が一つ。


(第五位が、接近戦だと?)


違和感が肌を這うように撫ぜるが、今度こそ他の解は導出し得ない。

『超電磁砲』の幻影に怯え上がって、隙だらけになると甘く見られたのか。


「人をおちょくるのもいい加減にしな、『心理掌握』ッ!!」


再び百八十度回転。

怒りに吠えてその華奢な身体から血の花を咲かせてやろうと――――







「御存じなかったかしらぁ?」


癪に障る猫撫で声の発信元は先刻と変らぬ位置、およそ十メートル。


「ん、な」


唸る豪風は、眼前一メートル未満。

500 :神の右席編⑨[saga]:2011/08/02(火) 21:38:37.44 ID:7j680ZQF0











「女王蜂はね、自分では働かないものなのよ」











驚愕する『前方のヴェント』の五体を、蘇った『ヴェント』の風撃が派手に吹き飛ばした。











504 :「前方のヴェント」[saga]:2011/08/04(木) 00:08:41.91 ID:UJbio0VK0


十年前、少女はロシアという国に暮らしていた。

極寒の大地は自然の厳しさを幼い少女に刻み込んだが、それは同時に家族の温もりを際立たせた。

父と母、三人だけの寒くても暖かい日々。


しかし穏やかな日常はある時、日記のページを破り捨てたかのように切り裂かれた。

第三次世界大戦。

いつも通り幾重にも毛布をかけてベッドに潜る少女は、轟音に呼び覚まされた。

鉄と硫黄と――――血の匂い。

一つ夜を越えて陽が昇る間に、少女は何もわからぬまま全てを失った。

ただ、己の命だけを除いて。


戦争が終わって少女は、親戚の伝手を頼ってイタリアへ渡った。

遠縁の新しい家族は優しく接してくれたが、少女は夜毎に魘された。

救いを求めた少女はやがて、世界最大の宗教にのめり込んでいく。


科学が憎い、わけではなかった。

ただ、恐ろしかった。

忘れられなかった。

家族の鼓動を、絆を、暖かい暮らしを断ち切ったにおいが、焼き付いて消えなかった。

抑圧された恐怖は、いつしか裏返って破壊への衝動に変わり。



そうして少女は、『前方のヴェント』になった。



505 :「前方のヴェント」[saga]:2011/08/04(木) 00:10:50.99 ID:UJbio0VK0

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「………………なんで」


重なるように倒れ込んだ二つの黄色。

下敷きにされた方の女が、心底不思議そうに呟いた。


「どうして、科学を、受け入れられた……?」


勝利しながら指一本動かせないヴェントは、すぐには口を開かなかった。

瞼を閉じてその裏側に何を――――誰の顔を、描いたのか。


「こ、たえ、なさいよ」


屍に身を偽装した際、魔力精製を止めたからこそ彼女は『前方』を欺けた。

その状況で『天罰術式』を回避する方法はただ一つ。


「さあ、ね」

                      かがく
ヴェントは、憎んでやまない筈の『心理掌握』に己の生命を委ねたのだ。

『敵意』を鎮めると同時に、骨という骨を粉砕されて湧き上がる痛覚を一時的にカット。

疾走し、『前方のヴェント』に最後の一撃を加える直前、『風の術式』を再発動したのだった。


「しあわせ、そうなツラしやがって。ほんと、むか、つく…………ぁ」


言葉に乗らない返事を聞いた『前方』は悔しげに唇を尖らせ。

その貌が、重力に従ってカクンと落ちた。

506 :「前方のヴェント」[saga]:2011/08/04(木) 00:11:49.89 ID:UJbio0VK0




「お疲れさまぁ」

「アンタもね」


二人の『ヴェント』のすぐ脇に、食蜂がふらふら歩み寄ったかと思うとへたり込んだ。

女魔術師が苦境に立たされた最大の原因であった、白壁への凄まじい激突。

本来、より大きなダメージを身体に遺しているのは

彼女と障壁のサンドイッチにされた食蜂のはずだ。

ゆとり溢れる物腰を崩さない女の口元から、ツ、と一筋赤が伝った。


「お互いさまよねぇ。ところであなた、さっき厚化粧さんに訊かれた事だけど」

「…………マジでえげつないわね、『心理掌握』って」


鉄の匂いがする紅を妖艶にしなを作って塗りながら、突如ガールズトークを切り出す女。

ヴェントは勝利への報奨として、心理を掌握されるというこの上ない大金を支払う事と相成った。

居なくなれ、と願えば願うほど精密に脳内で焦点を結ぶ『アイツ』の像。

繕っても第五位相手では無駄だ、と開き直った女はおバカな雇い主の声を耳奥で再生した。




『なんだヴェント、意外と似合うじゃないか』




507 :「前方のヴェント」[saga]:2011/08/04(木) 00:12:52.67 ID:UJbio0VK0


声をリードしたのか、食蜂がしめやかなムードなど気に掛けず豊かな肢体を揺さぶる。


「惚れた弱み、ってヤツぅ? いいないいなぁ」

「そんなんじゃないわよ」


そう、そんなものではない。


『見ろ、ヴェント。俺様の知らん事が世界にはまだまだ満ちているな』


恋だの愛だのでは、間違ってもない。

ただ、世界を救うなどと豪語する阿呆の生き様を、見届けたくなっただけなのだ。

自分が居なければ、妙に世間知らずのアイツは長生き出来そうもなかった。


『おい、俺様は何も諦めたつもりなどないんだぞ』


もしもアイツが世界を救ったら、自分の憎しみも消えるのだろうか。





『いつか、お前も救ってみせるさ。上条当麻が、誰かにそうしたようにな』





508 :「前方のヴェント」[saga]:2011/08/04(木) 00:13:44.49 ID:UJbio0VK0


誰に『敵意』を向ける事も、向けられる事もない。


そんな優しい世界が、アイツとの日々の先に待っているのだろうか。



(…………なーんて、ね。馬鹿みたい)



下らない妄想に自嘲して、意識を手放す直前。



「ふふ、そうねぇ。馬鹿だとは思うけど」



食蜂が心理を読んで放ったであろう弾むような一声が、妙にヴェントの耳に残った。








「だけど、すっごく羨ましいなぁ」







509 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/08/04(木) 00:14:37.69 ID:UJbio0VK0

続きに否定形はない


超超短いですが決着後の一幕、ということでどうか
ヴェントさん可愛いよヴェントたん
そう思わせる事が出来たなら>>1の勝ちです
513 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/08/05(金) 23:03:51.27 ID:dHE4AjcI0
ヴェントさんよりた……食蜂さんの方に注目が行ってるっぽいので敗者になった>>1ですどうも
もっとヴェントさんの魅力をわかってもらわなきゃならないので今日は小ネタです↓
514 :小ネタ「メイドオブメイド」[saga]:2011/08/05(金) 23:07:42.32 ID:dHE4AjcI0


とある休業日 メイド喫茶『ベツレヘムの星』 従業員控室



ガラッ


フィ「おお、居たな」


ヴェ「そりゃ居るわよ、明日の営業チェックもあるし」


フィ「メイドさんがかなり板に着いてきたじゃないか」


ヴェ「うるさいわよ! 好きでやってんじゃないっつってんでしょ!?」


フィ「そうは言うが、お前のご奉仕ぶりは素人のそれではないと思うけどな」


ヴェ「当然でしょ、介護士の資格持ってんだから。こちとらプロよ」


フィ「冗談は顔と厚化粧だけにしておけ」


ヴェ「ウソじゃないわよ! あの化粧は術式の為だって言ったでしょうが!
   っていうか全体的にどういう意味よ今のはぁ!!!」


フィ「それより聞け、ヴェント」


ヴェ「アンタが私の話を聞け! そっちが振ったんでしょうが!」

515 :小ネタ「メイドオブメイド」[saga]:2011/08/05(金) 23:12:59.98 ID:dHE4AjcI0


フィ「ん? 今日はやけに喧嘩腰だな」


ヴェ「アンタがそういう顔してる時にね、ロクな目に遭った試しがないのよ」


フィ「そういう顔? どういう顔だ」


ヴェ「いい歳こいてガキみたいに目ェキラキラさせてるそのアホ面よ!」


フィ「男は常に少年を胸に抱いてなければ革新を起こせないんだ、ヴェント」


ヴェ「したり顔で良い台詞吐いてんじゃねーよ。
   言っとくけどアンタの口から出た時点で胡散臭さが五次関数で右肩上がりだからね?」


フィ「と、言う訳でだな」ゴソゴソ


ヴェ(希望溢れるヴィジョンを幻視できない自分が、幾分悲しいわね…………)






フィ「この『神にご奉仕☆メイド風あーくびしょっぷ』のプロトタイプを試着しろ」


ヴェ「少年は少年でも思春期真っ盛りの中学生だろうがそれはああああ!!!!
   露出度ヤバすぎでしょイメクラにでも方針転換する気なのかァァーーーーッッ!!!!!」


フィ「ッ! 天啓………………ッ!!」


ヴィ「天罰ゥゥゥゥーーーーーッッッッ!!!!!!!」ドグシャアッ!

516 :小ネタ「メイドオブメイド」[saga]:2011/08/05(金) 23:19:05.40 ID:dHE4AjcI0


フ※■■※「」※残酷描写につきお見せできません


ヴェ「なんなの!? アンタの生甲斐って私を弄る事なの!?」


フィ「人の嫌がる事は積極的にやれっておじいちゃんが」ケロッ


ヴェ「それただの嫌がらせぇぇぇぇぇ!!!!
   私が嫌がってる事わかってたんかいアンタあああ!
   そのおじいちゃんいま何処にいるのか教えなさいしばいて来るから!!」


フィ「バチカン」


ヴェ「前教皇ォォォーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!」





フィ「他人行儀な言い方だな、お前にとってもおじいちゃ」


ヴェ「ちっがああああう!! そのそれは、ええっと、罰ゲームとかそういうアレで負けたアレであって」


フィ「もしもし、おじいちゃん? おじいちゃんの可愛い可愛いヴェントが実はこんな事を言って」ピポパ


ヴェ「やめて私が悪かったああ誤解しないでおじいちゃんこれは違うの!」


フィ(なるほど、前教皇の言うとおりだ。結構可愛いな)ホノボノ

517 :小ネタ「メイドオブメイド」[saga]:2011/08/05(金) 23:25:27.46 ID:dHE4AjcI0


ヴェ「ゼェ、ハァ…………くそ、アンタのせいよ!」ピ


フィ「何が」


ヴェ「今度帰った時に、メイド服で介護するって約束させられたのよ!」


フィ(あの古狸は全部計算の上だろうがな)


ヴェ「はぁ………………そういえばアンタ、さ」


フィ「なんだ?」


ヴェ「メイド喫茶なんて営んでおきながら、自分では侍らせないわよね、メイド」


フィ「ほう、良い心がけだな。ご褒美に思う存分俺様に跪く権利をやろう」


ヴェ「気持ち悪い勘違いしてんじゃないわよこのノータリン!!」


フィ「とりあえず、紅茶を一杯もらおうか」


ヴェ「誰が!」


フィ「だったら棚の空けられた茶葉はなんだ? あれは確か昨日買った新品だ」

518 :小ネタ「メイドオブメイド」[saga]:2011/08/05(金) 23:30:37.81 ID:dHE4AjcI0


ヴェ「わ・た・し・が一人で飲むのよ! 自分の分は自分でどうにかしなさい」


フィ「CEO命令だ。メイド、茶を一杯よこせ」


ヴェ「………………少々、お待ち、下さいませ!」


フィ「よろしい」



コポポポポ



ヴェ(雑巾の絞り汁でも入れてやろうかしら)


フィ「あまり俗な『天罰』を行使すると格が知れるぞ」


ヴェ「ああもう! お熱いのでご注意ください!!」


フィ「おお、なんという偶然だろうな? 俺様の愛するダージリンではないか」


ヴェ「~~~~~っ!! 神にでも感謝してなさい!」


フィ「まずは淹れた相手を労うのが礼儀だろう。頂くぞ」ズズズ

519 :小ネタ「メイドオブメイド」[saga]:2011/08/05(金) 23:35:13.64 ID:dHE4AjcI0


ヴェ「どこで礼儀なんて言葉覚えてきたのよ世間知らずが……」ズズズ


フィ「………………」ズズ


ヴェ「………………」ズズ



カチャ



「……美味かった。ありがとう、ヴェント」



「…………どういたしまして」



520 :小ネタ「メイドオブメイド」[saga]:2011/08/05(金) 23:39:36.29 ID:dHE4AjcI0


ヴェ「で? 私に茶を淹れさせるためだけに来たわけ?」


フィ「だからこの新作を試着してだな」


ヴェ「全メイド率いてストされたいのね」


フィ「遂に我が社にも労使対立問題が……」


ヴェ「主に私とアンタの対立よ!!」





フィ「なに、今度行く学園都市店で現地のスカウトを担当してもらおうと思ってな」


ヴェ「……………………本気で殺されたいの?」


フィ「ははは。やれるものか、お前にそんな事」


ヴェ「どうかしらねぇ? 私の役目は危険分子の監視だもの、
   いっそ消しちまえばお役御免、晴れて自由の身だわ」

521 :小ネタ「メイドオブメイド」[saga]:2011/08/05(金) 23:41:43.78 ID:dHE4AjcI0


フィ「そうか、じゃあ好きにしろ」


ヴェ「!」


フィ「驚く事は無いだろう、お前が言いだしたんだ。
   今の生活に堪えられなくなったらいつでも俺を殺してバチカンに帰っていいぞ」


ヴェ「………………わざわざアンタに促されなくたって、その気になればやるわよ」


フィ「なら、構わないさ。じゃあ俺様は仮眠をとるから、一時間したら起こせ」ヨッコイセ


ヴェ「人を、おちょくってんの…………!」


フィ「zzzzzz」


ヴィ「警戒感を少しは持て! の○太か!」


フィ「zzzwww」


ヴィ「起きてるわねアンタァーーーーッッ!!!!」


フィ「………………zzzzzz」


ヴェ「クソッ!」


フィ「zzz」


ヴェ「……………………」

522 :小ネタ「メイドオブメイド」[saga]:2011/08/05(金) 23:43:10.19 ID:dHE4AjcI0


スタ スタ スタ



「…………私は、アンタの監視役よ、フィアンマ」

「世界を救うなんて誇大妄想に浸ってる大うつけの死に顔は、絶対私が鼻で笑ってやるわ」



「だから」



「馬鹿みたいに何年も何十年も足掻いてもがいて、その挙句に」

「そうね例えば、ベッドの上とかで」







「私の見てる前で、死になさいよ」







523 :小ネタ「メイドオブメイド」[saga]:2011/08/05(金) 23:44:26.61 ID:dHE4AjcI0


ガチャ バタン



「…………己の死を厭うには、屍を踏み越え過ぎた。そう思ってたんだがな」

「誰か一人がそう言ってくれるなら、俺の人生もまだまだ捨てたものじゃないらしい」



ゴロリ



(任せておけ、ヴェント)

(だったらお前は、俺より先に、下らん罪悪感などで死ぬなよ)

(まあ、死なせるつもりもないが)

(見てて飽きないその慌てふためく面を)








「いつまででも、目に焼き付けていたいからな」



オワリ

528 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/08/07(日) 20:22:33.96 ID:9RV1vt1d0

どうも>>1です

無駄にヴェントさんをプッシュしてしまいましたがここから先の出番はほぼ皆無ですゴメンナサイ
今回はある意味山場かもしれません↓
529 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:24:34.64 ID:9RV1vt1d0


第一〇学区の警備員活動支部に無事到着したインデックスとステイルは、

佐天の協力でスペースを空けた装甲車両の駐車場に巨大な魔法陣を組もうとしていた。


「…………解釈の歪曲を完了」

「元がローマの術式で助かったね、ラテン文字からなら転写は容易い。
 じゃあ土台部分から、位置と一緒に読み上げてくれ」


全長にしておよそ七、八十メートルに及んだ“オリジナル”には

比肩すべくもないが、スペースは十分確保できている。

後はインデックスの記録に収められた術式をステイルのルーンで十全に再現すれば。


(…………出来ないわけがない。僕一人ならまだしも、彼女がいてくれるなら)


彼がフィアンマにも披見した自恃の根源は、まさにそこにあった。

完全コピーのみならず、環境に合わせた応用まで自由自在にこなすインデックス。

ステイルに言わせれば、彼女の真価は莫大かつ迅速な記憶力ではなく、

柔軟で創造性に富む処理能力にこそあった。


「さあ、最大主教」

「………………Laguを足元に置いて起点に。
 南に四センチ刻みでEolh、Is、Yr、Nyd、Cen、これを七セット」


清廉な鈴の音を強張らせて、インデックスが構築の指示を始める。

失敗は術者の、即ちステイルの死に繋がる。

だから震えているのだろうか、と彼女の笑顔を曇らせた自分を呪いつつも、

一方でステイルは不所存と知りながら喜びも感じていた。

530 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:25:45.02 ID:9RV1vt1d0


(彼女を安心させたければ、やり遂げればいいんだ)


インデックスが自分の身を案じて一喜一憂している。

その苦くも幸福な事実はステイルの自制心を微かにだが緩めた。

さりとて現在の作業は一瞬たりとも気を抜けない。


「次は起点に戻って、北に二、三、一、三の間隔でGeofu、Is、Is、Eolh…………」


ただでさえ得意属性の大いに異なる、特殊霊装が不可欠の魔術を空手で再構築しようというのだ。

世の魔術師一般からしたら正気の沙汰ではない。

精緻に精密、厳格な配置が歪めば彼女を悲しませることになる。

ステイルにとってそれは、自らの命が失われる以上に許容しがたい事であった。


-----------------------------------------


「鉄装先生、無理言ってすいません!」


頭を下げて支部に詰めていた顔なじみに礼を述べたのは、

防護服に身を包んで警備員らしい装いとなった佐天涙子である。

大事な愛娘を行きがかり上とはいえ保護した上条夫妻への責任感、

そして麦野と交わした違える事の出来ない約定を胸に、彼女は駐車場の入り口に陣取っていた。


「まあ、それは別にいいんだけど…………あの二人って、この間テレビに出てた」

「ど、どうかその点については触れないでもらえるとありがたいかなー、なんて、はは……」

531 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:27:45.91 ID:9RV1vt1d0


人の良さそうな顔にタラリと汗を流した第二二支部の隊長、

鉄装綴里は本部からの指示で解禁された実弾ライフルを点検していた。

高位能力者が狙われているという情報は既に警備員各支部にも降りてきており、

彼女を除く二二支部の隊員は出払って街を埋め尽くすゾンビ軍団の対処に向かっている。

AIM拡散力場に反応する以上、能力に依存しない武力を持つ警備員と不死者の相性は抜群であった。


「美琴さん…………ダメだ、繋がんないか。旦那さんの番号は知らないし……」


一息ついた所で、支部内にて頑是なく眠りこける真理の現状を

両親に伝えようと連絡を取るも、そう上手くはいかない。

やはり美琴はこの騒動の首魁と直接対決しているのだろう。

上条当麻に至っては日本国内にさえいないのだが、佐天が知る筈もない。


「鉄装先生、人的被害はどれくらいになってるんでしょうか?」

「いまの所死者は出てないみたい。でも、重傷者は十や二十じゃ利かない数に上ってるって……」


心優しい女教師の一面を覗かせた鉄装が沈痛に言葉を絞り出す。

被害の中心は比較的高い強度(レベル)でありながら、

自衛に足りるだけの能力を持たない強能力者(レベル3)だという。


「でもね、ついさっきから被害報告がパタリと止まったの。
 何でも敵勢力が、問題のレベル3以下を狙わなくなったんだって」

「そ、そうなんですか?」

532 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:29:12.93 ID:9RV1vt1d0


暗いニュースばかりが続く学園都市にも、一縷の救いは残されていたのだろうか。

そういえばステイル達の話では、魔術師の目的はあくまでレベル5狩りのはずだ。


(まあ、『かみのうせき』? の目標からすればおかしくはない…………かな?)


そもそも魂なき兵隊が振るう暴虐こそが、彼らの目的と微妙に合致しない。

高レベル能力者の犠牲は少なく抑えられているのだから、戦略目標は達成されていないのだ。


「私が考えても、仕方がない事かなぁ」

「どうかしたの?」

「な、何でもありません!」


何にせよ根本的解決への最も重要な鍵を握るのは、

恐ろしいほど真剣な眼差しで次々に地にカードを投げていく二人の魔術師だ。


(あの二人の邪魔さえさせなければ、それで私たちの勝ち、だよね)


相身互いに強く深く、複雑に想い合っていることが

短い付き合いの彼女にも理解できてしまうほど結び付いた男女。

もはや錯覚などと誤魔化せないほど狂おしくなった胸の痛みを押し殺しながら、

意気込みを新たに特殊装備を構え直す佐天。



その時彼女の背後に、黒い影が忍び寄った。



533 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:31:03.96 ID:9RV1vt1d0

---------------------------------------------------


「順調かしら、浜面さん?」


科学と魔術の異色タッグが死闘を制した第六学区は、未だ亡者の巣窟であった。

しかし現在彼女らを取り巻く魔窟は、意図的に作り出されたものだ。


「学園都市の全レベル0からレベル3のAIM拡散力場を剥奪完了。
 …………しょくほう、もっと“上げ”ても大丈夫?」

「もっちろぉん」


学園都市を襲う悪意の嵐を防ぐのは、『学園個人』こと浜面理后。

彼女は被害が甚大になりつつあった強能力者から優先的に力場を抑制、剥奪し、

更に目の前の超能力者の強度を上方補正して撒き餌とした。

“レベル5.5”とでも称すべき現在の食蜂を越えるアトラクションなどこの街には無く、

後は飛んで火に居る夏の虫、女王の御前に跪く奴隷ピラミッドの一丁上がりである。


「他の皆はどうなのかしらねぇ」

「まぐぬすにさっき確認したよ。
 むすじめとしらい、みこととそぎいた、それにむぎのはまだ闘ってるって」


瑕疵を敢えてあげつらうとするなら、

超能力者からターゲットを強制変更させる程の引力は供給できなかった事か。

残る三人の『神の右席』と尚も対峙しているだろう彼らへの援護は、事実上の失敗に終わっていた。

534 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:33:57.16 ID:9RV1vt1d0


「あの人は大丈夫なの?」

「痛みがぶり返す前に安らかにおねんねしてもらったわ。
 それに学園都市には世界一のお医者様がいるしぃ?」


決着後間もなく『前方』同様に限界を迎えたヴェントは救急車に運ばれて既にこの場を去った。

搬送先は論ずるまでもなく、第七学区のとある病院である。

あそこでは今日も、黄泉路を行く旅人を現世に送り返すべく、生涯を医に捧げた戦士が闘っている筈だ。


「うん、そうだね。あの先生なら安心。
 私たちの仕事は、ここで囮になって皆の負担を減らすことだね」

「…………不安じゃないの? 私が管理を少しでもミスれば、それでジ・エンドよぉ?」


理后の泰然たる態度に、呼吸の荒さを隠しきれないほどの能力行使の疲労から棘を含ませる食蜂。

そんな彼女に、母としての強さを知る女性が固くなった気を解すように笑いかけた。


「大丈夫、そんなしょくほうを私が応援するから」

「う………………もう、知らない!」


第五位にもどうやら、ツンデレベル5の素質が開花しつつあるようだった。

耳をそれとなく赤くして金髪を梳かし始めた食蜂を慈しんでのち、

浜面理后は大切な人と明日を生きる為に戦地にある仲間たちに、愛する夫に想いを馳せた。



そして、遥かな魔術の地から肩を並べに訪れてくれた二人の同盟者――――いや、友人。

535 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:35:07.57 ID:9RV1vt1d0


「あとはまぐぬすといんでっくすが、この火を必ず消してくれるよ」


お節介で、お人好しで、頼まれてもいないのに駆け付ける。

能力者たちの参謀、雲川芹亜が苦笑交じりにそう評定した彼ら、と言うより彼女の人となりは、

学園都市はおろか今や世界でもその名を知らぬ者などない、とあるヒーローにとてもよく似ていた。


「御信任が厚いのね…………浜面さん、どうかした?」


ほんの二度、公の場で対面しただけの魔術師たちの姿を思い返したのか、食蜂が首を捻る。

するとその脇で理后が目を細めて、いきなり真夏のぎらつく太陽を見上げた。


「何だろう、強い? ううん、多いんだ。束ねてる」


疑問を口にしてあっという間に自己解決してしまった彼女を胡乱気に見やって、

付いていけるはずもない食蜂が電波発言の真意を尋ねた。


「えっと、説明はしていただけるのかしら」

「たった今、上空四十メートルを飛行した物体があった」


四十メートル。

ヘリコプターなどより遥かに低い高度である。

何かが通過すれば陽の光が遮られて、その存在は自ずと認識される筈だ。

しかし理后の感知した未確認飛行物体は、音を立てなければ、影も産まなかった。




「…………これは、AIM拡散力場の集合体?」




536 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:36:33.75 ID:9RV1vt1d0

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「配置完了、間違いない」


枚数にして三万を超えるルーンを配置する事二十分。

場所が場所なら激賞されて然るべき驚異的な早業で描かれた陣が薄蒼く輝き始めた。

二、三度と目を瞬かせて確認してのち、ステイルは次なる行程に突入する。

インデックスが祈るように、無言で両の手を胸前で組む。

彼女の不安を晴らそうと男は首だけを回して笑いかけようとして、







「後ろだっ!!」


言うが早いか、駆け出した。


――■■――


『それ』の肩越しに、額から血を流す佐天ともう一人の警備員の姿を認めたステイルは

よろめき、地に伏したがる肉体を精神の支配下に置いて、呆然とするインデックスに飛びついた。

ざらざらしたコンクリート上を横転する間も、自身が下敷きになる事は忘れない。


「怪我は?」

「だ、大丈夫」

537 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:37:46.10 ID:9RV1vt1d0


構築に集中するあまり探知術式が疎かになっていた。

悔みながら三度遭遇してしまった異形を睨みつけるステイル。

アサシンと呼ぶに相応しい細くもしまった躰つきは、他の亡者とは一線を画していた。


「また構成が違う! 多分、今度は遠隔操作なんだけど」

「だから、僕らを、正確に狙ってくるんだな…………ルーンの痕跡を辿られた、か!」


情報交換の暇を与えず、腐敗した葡萄色が俊敏に毒々しい鉤爪をかざす。

陣が乱れるのも止むを得まい、とステイルが炎剣を抜こうと構える。

が、鞘を出る直前にその刃は止まった。



バッ!!



――■■、■■?――

「な、なに?」

「るいこ!」


遠隔操作ゆえの弊害か、強靭なネット弾を避けられずまともに浴びた暗殺者。


「へへ、ざまーみろ……無能力者を甘く見ないでよね」


死角から息も絶え絶えの佐天が放ったのは女の、レベル0の意地、という名の弾丸。

彼女もまた、誓いを胸に使命を果たそうとする立派な戦士だった。

538 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:39:45.11 ID:9RV1vt1d0


「二人とも、今のうち…………ステイル!?」


しかし、好機を生んでくれた佐天の声が、ステイルには異常に遠い。

瞼が落ちてもいないのに視界が闇に染まり、脳髄が内側から殴られたように痛む。


(さい、あくだ…………! よりにもよって、今!)


ステイルの全身を襲った虚脱感の正体は、魔力枯渇を訴える脳からのシグナルだった。

足に力を籠めるが、立てない。

隣の大事な人の気配さえ朧だ。

どうにか拘束を抜けだしたらしいアサシンの怒号だけが、腹の立つことに実によく聴こえた。


――■■!!――


幻聴だろうか、それに重なる、人を人とも思わぬ無感動な音吐。


――――滅しろ、非力な虫けらが――――


路地裏で掛けた宣戦布告は、処刑宣告になって跳ね返って来た。

異形が浮かべた嘲笑は、『右方』の傲然たる相貌そのものだった。




「安心して、すている。私が必ず守るから」




そして、ステイルの全身が、脳が、心臓が。

急激に、冷えた。

539 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:41:32.88 ID:9RV1vt1d0


解析している時間が無いと判断したのだろうか、聖女が咄嗟に守護神の前面に回った。

無謀な献身ではなく、『歩く教会』の防護力を計算に入れた上での冷静で、勇気ある決断だ。

ステイルも客席に立てば、合理的な行動だと納得するだろう。


(………………ふざけるな)


理屈の上ではそうなる。

彼女が傷つくのが嫌だったなら、上条家に閉じ籠っていればよかったのだ。

そもそも、彼が日本行きに反対していれば今回の作戦が実行に移されることはなかった。

ステイルの理性がインデックスの強さを認め、頷いたからこそ現状がある。

理屈の上では、彼も納得しているはずだったのだ。


だが、衝動は、本能は、心は。


(ふざけるなよ)


賢しい理などに説き伏せられるはずがない。




(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなァッ!!!)




540 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:43:15.32 ID:9RV1vt1d0


合理的な、正しく賢いやり方などクソくらえである。

ステイル=マグヌスは護るべき女性を己の盾とする事など、決して是とは出来ない。

これはどこまでもくだらない、男の意地の問題だった。


(何だ、動くじゃないか。このポンコツめ)


腕をやわらかで無垢な躰にそっと、壊れものを扱うように回す。

背後から抱きすくめられた彼女が肩を強張らせたことを

肌越しに感じながら、ステイルは身をくるりと反転させた。

その目的を数瞬遅れて理解したインデックスが何事か短く叫ぶが、関係ない。


(…………君さえ)


腕の中の世界一愛しい女性さえ、無事ならば。

男の脳裏を原始的な喜びと使命感だけが埋め尽くす。

              かくご
背に走るだろう激痛を計算に含めて、止まらない腕の震えを押し殺した。












「ごめんなさい」

541 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:44:54.06 ID:9RV1vt1d0


覚悟した痛みは、微塵も生じはしなかった。

ステイルの視界に黄金色の、無機質な羽がひらりと舞入ってくるのと。


「バカッ!!!」


頬に、華奢な手のひらが聖女の悲しみを刻んだのは、ほぼ同時であった。







「ごめんなさい、『あなた』を助けてあげられなくて」


光の刃を携え凛然と立つ人工の天使。


「でも、私の大切な友達を傷つけるのならば」


インデックスが、科学の街で得たかけがえのない親友。


「容赦はしません」


降臨したヒューズ=カザキリ――――風斬氷華の一刀が、

哀しきマリオを『未元物質』ごと両断した。

542 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:46:40.30 ID:9RV1vt1d0

---------------------------------------------------------------


麦野や美琴のように、膂力のない己が恨めしい。

いくらその胸板に縋りついて、血液が逆流したかのような怒りを叩きつけようと収まらなかった。


「バカバカバカ、ばかあっ!!!!」


気障で、ヘタレで、短気で、微妙に鈍感で。

感情のまま、命を自分の為に投げ出してしまうこの救い難く愚かな男を。

それでもインデックスは。


「私は本気で怒ってるんだよ!?」



愛してしまっていた。



愛しい、愛しい、こんなにも愛おしい!

いなくなって欲しくない。

永遠に、傍にいて欲しい。

その喪失に堪えられるだけの心のしなやかさは、もう彼女の裡の何処にも無い。


「……僕は、謝らないよ」


ああもう、絶対に■■になど■■■ないのに!

543 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:48:39.38 ID:9RV1vt1d0


「僕は君の命を預かっている。
 君を護らなければならない。
 同じ目に遭えば、何度でも同じ事を繰り返すだろうね」


まだ言うか。

この想いはまるで伝わっていないのか。

こんなにも近くに、心臓の鼓動が聴こえるというのに。


「もうやめて、やめようよステイル!
 軽々しく自分の命を放りだしちゃうような人に、絶対にこの魔術は使わせられない!!
 魔力だってもう、立てないぐらいギリギリなんでしょ?
 やめよう、後はしずりやフィアンマ達に任せて、ロンドンに帰ろう?」


崩れる、崩れる、音を立てて崩れ落ちる。

彼女はこの五年大事に温めてきたパーソナリティを、己が手で粉々に砕いた事を自覚しない。

目の前の男に死なないで欲しいから、この街の友人を見捨てて逃げ出そう、そう言ったのだ。

もはや、インデックスは聖女でも何でもない、ただの女だった。


「お願い、死なないで。私は、あなたが生きててくれればもう」

「だったら」


なおも懇願を重ねようとすると、ステイルの腕が抱かれた時と同様にそっと解かれた。

そういえば、彼に初めて抱きしめられたな、とインデックスはぼんやり思った。


「だったら今日は、君が僕の命を護ってくれ」


代わりに十指に指輪の嵌められたごつごつとした手が、滑らかな曲線を描く両肩に置かれた。

544 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:50:14.59 ID:9RV1vt1d0


「え?」


仄暗くも誠実な焔色が、眼球同士が触れ合うほどの間近にある。


「僕を死なせたくないなら、君の持てる全てで僕を支えてくれ」


耳元で囁かれるよりずっと熱を帯びた吐息が頬を撫ぜる。


「魔力が足りないのならば、君のそれを貸してくれ」


そして、物理的距離を離したはずの心と心が不可視の糸で繋がる。


「僕の命を、君に預けさせてくれ」


ステイル=マグヌスは、魂の最も深く澄んだ部分からインデックスを欲している。


「僕たちで、行き場の無いあの魂を、解放しよう」


根源からの叫びを満身で受け止めて、彼女は歓喜に震えた。


「今、この瞬間だけでいいんだ」


叶う事なら、この人のためだけに。

545 :神の右席編10[saga]:2011/08/07(日) 20:51:14.14 ID:9RV1vt1d0







「僕のために生きてくれ」







あなたのためだけに、生きたい。
























ああ。


叶う事なら、そうでありたいのに。


546 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/08/07(日) 20:52:24.85 ID:9RV1vt1d0

続くのでしょうか、とミサカは(ry

二人ともなんかデレすぎてヤンデレっぽくなってきました
ヤンデレ×ヤンデレって業界初だったりしません? しませんねハイ
とりあえずインさんは早くご友人にお礼を言ってあげてください
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/08/07(日) 22:10:30.42 ID:XjU12DV2o
マリオにクスッときた
548 :>>1 ◆weh0ormOQI[saga]:2011/08/09(火) 00:10:31.17 ID:dL59mA310

どもども>>1です

>>547
あかん、そこ笑うとこちゃうんや

夜も更けましたが本日の投下ですん↓ 

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