2013年11月21日木曜日

ステイル「まずはその、ふざけた幻想を――――――」 1

1>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/09/23(金) 20:51:14.46 ID:dKFA4VgA0

当スレは

ステイル「最大主教ゥゥーーーッ!!!」

インデックス「――――あなたのために、生きて死ぬ」

からの続きものです
前スレを読んでいないとわりとイミフです
お読みになる際は以下の点にご注意ください

※ステイルが主役、相方はインデックス 
※十年後未来設定
※全体的に誰得
※つまんないギャグとなんちゃってシリアスが交差しきれてない
※勝手なカップリング多数
※稀にキャラ崩壊
※俺得ゥ

それでもいいなら↓へどうぞ

2天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 20:53:56.49 ID:dKFA4VgA0


炎が閃いた。

一瞬だけ走った凄まじい高熱に歯を食いしばり、

慌てて一方通行は演算補助デバイスに手を伸ばそうとする。


「――――――――!」


だが腕が、肩が、首が、重力に負けてカクンと落ちる。

それはすなわち、一方通行の生命線が完全に断ち切られた事を意味していた。

更に言いかえてしまえば。


「これで、形の上では君を戦闘不能に追い込んだ事になる。つまり」


筋肉を動作させる為の電気信号が回線不良を起こし、眼球すら満足に動かせない。

そんな一方通行の視界に、コンクリートをカツンと突く音。

投げ捨てられた前時代的なデザインの杖を支えに、ステイル=マグヌスが凝然と立っていた。

手品というものが得てしてそうであるように、種がわかってみれば何という事は無い。

先刻蜃気楼で消えたと思われたその位置から、ステイルは一歩たりとも動いていないだけであった。






「一応は、僕の勝ちだね。一方通行」






4 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 20:55:29.50 ID:dKFA4VgA0


「いやいやいや格好つけてんじゃねえよ! 
 お前だな、フィアンマに俺を投げ飛ばせって言ったの!!」


ステイルが高らかに、少々収まりの悪い勝利宣言をすると、抗議の声が割り込んだ。

貧相な第一位のボディを安々と払いのけてズンズンと迫る、上条当麻その人である。


「ああうんごめん申し訳ありませんでした許して下さい」

「臆せず謝れるなんて大人になりましたねー、先生はうれし、じゃねーーーっ!!!
 誠意が籠ってねーんだよ誠意が! 焼き土下座でもやれやってくれやりやがれ三段活用!!」

「大丈夫かい一方通行?」

「俺の心配が先だろ! 高さ15メートルから投げ出されたんぞ!?」

「すまないね、君のライフラインを遮断してしまって。
 こうでもしないとまるで勝ち目がなさそうだったからね…………これを」


猛烈に地団太を踏む上条をきっぱり無視して、

ステイルはポケットから“ある物”を取り出した。

膝を抱えて拗ねようとしていた上条が立ち上がって覗き込むと、

直径10センチ強の円環に超小型の精密機械が取り付けられている。


「俺今日こんな扱いばっかかよ………………ん? これって一方通行の首輪じゃんか」

「普通はチョーカー、と呼称するんだよバカ。
 僕の勝利パターンはこれ以外考えようがなかったから、
 予め『冥土返し』に頼んで予備をもらっておいたんだバカ」


さる七月十一日の診察時、インデックスを部屋から追い出した直後。

散々お小言をもらった挙句高額の請求書まで叩きつけられて泣きを見たが、

無駄にならなかったことだけが救いだな、とステイルは胸を撫で下ろした。

5 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 20:56:19.67 ID:dKFA4VgA0


バカバカうるせえ、という上条の嘆きを右から左にスルーして、

ステイルはゆっくりと、ナメクジが這うような速度で一方通行に歩み寄っていく。

勝利者の余裕を演出したい訳ではない。

いよいよ二肢から全身に伝播し始めた激痛が、意識を朦朧とさせているだけの話だ。


「はぁ、はぁ……………………さあ、これで矛先を収めてくれると嬉しいんだが」


一方通行にも会話の内容自体は聞こえているだろうが、

ステイルは念のため、実物を彼の眼前のアスファルト上に据えて反応を窺う。

しかし不幸な事に、ステイルはまるで気が付いていなかった。











「………………k…………」




6 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 20:57:29.44 ID:dKFA4VgA0


余裕たっぷりと言わんばかりに倒れ伏す敗北者に歩み寄る様、

指一本動かせない相手の命綱を眼前に垂らして反応を窺うというその態度。

顔を上げられない一方通行からは二メートル越えの長身である

ステイルの表情など見える筈がない、という点も災いした。


「? 悪い、よく聞こえなかった。何か言ったかい?」


そして極めつけが“勝ち方”だった。

ステイルは、倒れ伏す敗者が上条当麻に対して崇拝にも似た英雄視を向けているという秘密を、

これまた不幸な事に、この世で唯一その事実を知るだろう打ち止めから教授されていなかった。

その結果――――











「nuiehwo殺stasqobxuewkiiiiiiiiiiiiiiiiiiaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!」











背に一対の翼(あくむ)を負った一方通行の脳内で、ステイル=マグヌスは

ヒーローを体よく利用して勝ちを拾い、己を愚弄する、許されざる生ゴミだと認定されてしまった。

7 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 20:59:04.47 ID:dKFA4VgA0


「これ………………!? おいステイル、ヤバいぞ!!」


あんぐりと口を開けて束の間呆けた上条を尻目に、

ステイルは再びルーンを爆発させて、反動で一気に十メートル以上距離を開けていた。

こっそり自分と白い悪魔の直線状に『幻想殺し』を挟み込む事も忘れない。


「噂には聞いていたが、これが黒い翼………………」


イギリス清教所属となったアステカの魔術師が十年前、

半死半生へと追い詰められた一方通行が黒翼を示現させた現場を密かに観察していた事は聞き及んでいた。

エツァリの目撃情報には半信半疑だったがなるほど確かに、

これは強いて言えば“こちら側”に属する力だ、とステイルは直感した。









「へ?」


が、事態はステイルの分析など遥かな彼方に置き去りにして、更なる急展開を見せた。


「おいおい、この状況をどうか簡潔に説明してくれませんかねステイルくぅぅん!?」


学園都市最強、『一方通行』は未だ胎動を止めない。

禍々しい漆黒の翼が、ピシと音を立てて罅割れる。

脱皮――――蛹が成虫へと変容する過程を見せつけられているようだった。

8 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:00:18.57 ID:dKFA4VgA0


「は、はは…………今までが『蛹』だってなら、これから君は何になるんだい?」


――――――ああン? 知らねェよ――――――


鼓膜を通り越して直接脳が声を受け取った。

口調はお馴染みのチンピラ風味だが、受ける印象がまったくの別物だった。

これではまるで。


「――――――使?」


上条当麻が呟くと同時に、黒翼が弾け飛んで世界を黒く染めた。

ステイルは襲い来る一色の黒に思わず目を瞑る。

豪風が満身創痍の身体を軋ませるが、苦痛に耐えかねて洩らした悲鳴は轟音に掻き消された。


「―――――――――――――!」


再び目を開いたとき、そこには。

純白の閃光を全身から迸らせる、超越者の姿。

この世のものならざる力による、絶対的な存在の証明。







背に一対の翼(ひかり)を負う天使が、現世に降臨していた。







9 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:02:45.87 ID:dKFA4VgA0


「…………め、め、メルヘンティックな翼だね。垣根に対抗したのかい?
 そそそそこのプレゼントは、もしかして必要なかったのかな」


常人なら抗うという発想がまず湧かないだろう絶大なエネルギー塊を前に、

生還へ一縷の望みを託してステイルは対話を選択した。

黒翼を出現させた正にその瞬間よりは、自我を取り戻しているようにも見受けられる。


――――さあな、だが一つだけハッキリしてる事があるぜ?――――


問答無用で爆散させられることだけはどうにか避けられたらしい。

これなら、対話を引きのばしさえすれば生きる希望は皆無ではない。


「そ、それは?」


一秒、一瞬でも長く。

そうすればなんとか




――――テメエら二人とも、今からあのお星サマどもの

仲間入り記念パーティーに出席するンだよォォォォォォォ!!!!!!――――――




ならなかった。


「どうして俺までえええええ!?」

「いや、待って、落ち着いて話を聞いてくれ!
 そうだ、十秒、あと十秒だけでいいから手を止めろ! 大変な事になる!!」

10 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:03:44.47 ID:dKFA4VgA0


天蓋に直径など計れる筈もない大円陣が現出した。


ステイルと上条が観測できる世界の一切を、光の翼が白く染める。








――――――『一掃』――――――








天の光は全て星。


疎らに広がっていた雲海は一片残らず消し飛んでいる。


そして夜空を埋め尽くす瞬き一つ一つが、破滅の力となって二人に降りそそいだ。


11 :天使編⑥ [saga !桜_res]:2011/09/23(金) 21:05:31.06 ID:dKFA4VgA0












「   ア   ナ   タ   ♪   」












12 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:06:48.82 ID:dKFA4VgA0


目には目を、歯には歯を。

人の身では立ち向かい得ない極大のエネルギーを押し留めるなら。




「――――『神戮』pv vewy」



天使には、天使を。



「――――はああああああっっ!!!!」




水の象徴にして青を司り、月の守護者にして後方を加護する者。

『虚数学区・五行機関』の核を成し、友のために力を振るう優しき者。



「ガブリエル! 風斬!」



上条が歓喜の声を上げるのとほぼ同時に、天からの裁きは同質の力によって相殺された。

その余波だけで大地が抉れ、周辺の建築物の窓ガラスが残らず吹き飛ぶ。

衝撃のみならず、大量の礫から身を守ろうと構える上条とステイル。




「私の仕事、冗談抜きでゴミ掃除しか残ってないワケ?」




その頭上をマッハ4で、フルパワーの『超電磁砲』が駆け抜けた。

13 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:07:20.99 ID:dKFA4VgA0

























14 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:08:13.66 ID:dKFA4VgA0


一分後。

紙一重のところではあったが、危機は去った。


「美琴…………」

「なんで氷華さんたちは歓迎するのに私の顔見てテンション下げてんのよアンタ!!」

「…………いや、その。惚れた女に助けられるってのは、
 男として堪えるものがあるんだよ。でもありがとな、助かったよ美琴」

「え、あ、うん。け、怪我がないならそれでいいのよ!」

「け、けががにゃいにゃらそれでいいのよ!」

「真理いたのかよ!?」


夫の、父親のもとに娘を抱いた妻が駆け寄って、あっという間に一家団欒の空気が形成される。

気まずげに三人を一瞥してから、座り込んだステイルは二人(?)の天使に声を掛けた。


「ありがとう、二人(?)とも。大天使、君のその力は…………」

「一方通行さんが天使の力を使い始めたのを感じて、慌てて飛んで来たんです!
 そしたらミーシャさん……あ、ガブリエルさんを私はこう呼んでるんですけど、
 ミーシャさんもお店から出てきて、力を分けて欲しいっていうから。こう、パーっと」

「newgo力paw漲るyie!」

「そんな適当な…………! ガブリエルが完全な形で復活したらとんでもないことになるぞ!?」

「継続的な力の供給が行えないので、その点は心配ありません。
 私程度の疑似テレズマじゃあ、ミーシャさんの容れ物はとてもじゃないけど満たせないんですよ」

「…………次元が違い過ぎる話だね、まったく。あれでマックスでもなんでもないのか」


抑えがたい畏怖の念を呆れ口調で隠して、

ステイルは『虚数学区』を越える強烈な『界』の圧迫が発生している方向へ、荒い息を逃がした。


「だから言っただろう、『大変な事になる』って」


15 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:10:03.93 ID:dKFA4VgA0

「ねーえアナタ? いったい何やってるの? どうしてステイルさんは大怪我してるの?
 なんでお義兄様に『一掃』なんて使ってるの? ねえアナタ、教えて?」



絶体絶命だった男たちが平和な会話を楽しめているのは、

絶体絶命に追い詰めていた張本人が、いまや崖っぷちに立たされているからだった。


「くっ、クソガ…………ら、打ち止めさン? どうしてここに」


神々しい白翼もこうなっては芝居の小道具としか見えない。

濃口の陰影が落ちた打ち止めの表情は例えるなら、

猫を噛むどころか追い詰めてしまった鼠のそれだった。

一見弱弱しい女性に大天使級の怪物が詰め寄られてしどろもどろになる光景は、

滑稽を通り越してどこか感動的ですらある。


「なぁに、さっき君の視界を霧で奪った時に最大主教に通信しておいただけさ。
 『旦那が厨二病をこじらせたようだから、奥方を連れて来てくれ』ってね」

「マグヌス、テメ」

「私を無視してンじゃねェよ」

「すいませンンンンンッッ!!!」

(結婚って怖いなぁ………………)


ああはなりたくない、ステイルはぼんやりと思った。

いや、別にちょっといいなぁとか考えたりはしていない、断じて。


(世にも恐ろしい…………そう例えば、去年のクリスマスミサの時のように
 ドス黒く笑う彼女に罵られて詰め寄られて…………ってちがぁぁぁぁう!!!)


ステイルはどちらかといえば、日本の『亭主関白』なる文化に憧れを抱いている方だ。

日本人の知り合いに『亭主関白』を体現する男など皆無なのが不安要素だが。

16 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:11:20.22 ID:dKFA4VgA0


ステイルがとらぬ狸の皮算用に唸っている間に、一方通行と打ち止めの諍いに変化が。

防戦一方だった亭主が逆ギレを契機に反撃を始めていた。


「…………あーくそ、ったく! キレすぎだろテメエ!!
 ンだよ、向こうのどンちゃン騒ぎで弄くられでもしたンですかァ!?」


打ち止めも負けじと応戦しようと語気を強めるが、

鮮烈に輝く翼を目にした瞬間、唇を噛んで俯いた。


「それはインデックスさんの方だって、ミサカは………………。
 …………ミサカはアナタのその姿を見ると、やなこと思い出しちゃうのに……」


音量ツマミを最低限にまで絞られた小さな小さな涙声は、

胸倉を掴まれた一方通行の耳にさえ完璧には届かなかった。


「は? おい、なンか言ったか」

「あァ? いいから帰ンぞ、ってミサカはミサカは明日の支度について
 すっかり失念してるアナタに蔑みの目を向けてみたり」

「クッソガキが調子に乗ってンじゃ………………
 ゴメンナサイ調子に乗ったのは俺ですだから輪っか引っ張ンなァァァァァ!!!!」


天使が頭上にふわふわ浮かべた輪っかを鷲掴みにされて退場していく。

戦闘活劇の幕引きとしてはシュールに過ぎる光景である。

そうして月に照らされた恋人たちは家族や友人への挨拶もなしに、急ぎ足で家路についてしまった。

17 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:13:04.83 ID:dKFA4VgA0


(今夜中に誤解を解いておかないとな…………)


散々痛めつけられたのは事実だが、非は八割方ステイルの側にある。

あれではいくらなんでも一方通行が不憫であった。

もう少しこう、愛の力で正気を取り戻すみたいな展開を期待していたのだが。


(…………結果オーライ、か)


冷や汗を垂らして明日の主役たちを見送りながら、ステイルは首を回そうとする。

この場にはミサカDNA集団や天使たち以外に、先刻のゴタゴタに紛れるようにもう一人到着していた。


「最大主教、なにも君まで来なくとも良かったのに」


掌が震え出すのを感じながら、シャボン玉を吹くように優しくその名を呼ぶ。

後方二〇メートルほどのビル角に、ステイルの“夢”の篝火は佇んでいた筈だ。

今は亡き第一位からの手荒な激励を無駄にしないためにも、良い機会であった。

そう思ってステイルは、一つの決意を胸にインデックスと向き合おうとして――――




「………………すて…………る」




――――脳みそを混ぜ返されたような激震を感じた。

18 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:14:06.94 ID:dKFA4VgA0


「最大主教……?」


膝立ちで振り返るとすぐそこに、ステイルの愛しい人がへたり込んでいた。

問題は、その表情だった。

普段は輝かんばかりのかんばせが病的なまでに蒼白に染まっている。

不規則に乱れた呼吸から命が漏れ出してるとさえ錯覚してしまいそうだ。

小刻みに振動する体を己が腕で強く締めて俯く様は、明確な心身の異常を表している。


「っ!!」

「…………あ」


抱きしめた。

躊躇いが無かったと言えば嘘になる。

しかし四日前とは違い、意識的に、小さな四肢を震える腕の内側に閉じ込めた。

その乱れる呼吸を、怯える心を、吐き出す命を、一片も逃がさぬよう強く抱く。


「す、すている…………なにか怖い事があったの?」


それはこちらの台詞だ。

勢い込んで反論しようとして、ステイルは失敗した。

夜だというのに瞳孔が極限まで絞られた彼女の瞳に、言い知れぬ威圧感を感じたからだ。

19 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:15:39.71 ID:dKFA4VgA0


「私のせいで、震えてるの?」


僅かに冷静さを取り戻すと、上条一家と天使二人まで忽然と消えている。

空気を読んで退散したのだろうか――――いや、三本向こうの電柱の陰で此方を窺っている。

出歯亀どもめ、いや、今はあんなのに構っている場合ではない。


「私の、私の、私のせいで!」

「違うッ!! …………違うんだ。これは…………僕が悪いんだ」

「すているは、何も悪い事なんてしてないよ……!」

「いいや。僕は、罪人だ。『失敗』のツケなんだよ、これは」


今のインデックスは、どう見ても精神的に重篤だった。

狂乱して銀糸を振り乱す彼女を抱く腕に、より一層の力と想いを籠める。

やがて、カチカチと歯を鳴らすインデックスの呼吸が徐々に落ち着いていくのを、

痛いほどに密着した心臓を通して感じたステイルは腕を剥がそうとする。

その時、力なく垂れさがっていたインデックスの腕が驚くほど素早く、男の背中に回された。


「あ…………………ああっ…………!」


しかしそれも束の間、インデックスは我に帰ったように腕をほどくと、

顔を両手で覆って悔恨の念を絞り出すようにすすり泣きはじめてしまった。

20 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:16:26.51 ID:dKFA4VgA0


(なんなんだ…………?)


もう一度彼女の背中に腕を回しながら、ステイルもまた混乱し始めていた。

著しい内出血の痛みがぶり返し、休息をしきりに促してくる脳を回転させるが。


(どうして、彼女が震えてるんだ? 何が、彼女を怯えさせているんだ?)


わからない。

そう思った瞬間、ステイルの中で二つの怒りが気炎を上げた。


「ごめん」

「謝らないで………すているは、何も悪くないんだってば!」

「それでも、ごめん。君の痛みを解ってあげられなくて」


彼女の心に深く刻まれた未だ見ぬ傷の、その大きさすら把握できていない自分への怒り。

そしてもう一つは――――――――今は、やめておこう。


「君には泣いて欲しくない。君の泣き顔を見るのが僕には辛い。
 だから、君にはどうか笑っていて欲しい。いや、僕が君の笑顔をつくって、守り抜きたい」


『失敗者』が失った少女は、消え去って永遠になった。

もう、どこにもいない。

だがステイルの腕の中の女性は、そうではないのだ。

生きている。

生きているから、喜んで、苦しんで、愛を知る事ができる。

ステイルは、いま生きている彼女と共に生きたい。

21 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:17:29.45 ID:dKFA4VgA0


蒼褪めたインデックスを至近距離で見つめる。

あっという間に二つの顔が去来して重なった。

死に際になお自分と神裂を励まそうとした心優しい顔。

初恋の人の顔。

守ると誓った人の顔。

守れなかった人の顔。

消えない、消えてくれない。

しかし。



(これで、いいんだ)



ステイルは少女たちの魂魄を、この身を焼く悔恨を死ぬまで引き摺って生きていくしかない。

それは疑いようもなく、苦悶にのたうち回りたくなる様な地獄の茨道だ。

だがその地獄に飛び込んででも、ステイルは彼女を愛したい。

愛に翳りなどあったからいったいなんだというのだ。

震えるほどの苦悶なら、抑え込んでしまえ。

愛している事は、真実なのだから。

ステイルは無意識に呟く。

22 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:17:55.95 ID:dKFA4VgA0





「――――――ス」





「え…………?」





掻き抱いた心臓の温かな鼓動を感じながら、男はゆっくりと眠りに落ちていった。






23 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:18:53.08 ID:dKFA4VgA0

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「おい、打ち止め」


一方、真っ先に殺人(未遂)現場を去った二人連れ。

天使化を解除した一方通行はなおも打ち止めの為すがままに腕を引かれている。

その首にはステイルが放りだした演算補助装置がちゃっかり装着されていた。


「聞いてンのかクソガキ」


普段小幅な打ち止めの歩調は、その不安定な心情を表出化したように荒くなっていた。

栗色のロングヘアーを夜風に靡かせ、決して振り返らずに女は歩を進める。


「姉貴たちに一声かけなくて良かったのか?」

「……ッ!!」


淡々と、悪びれずに言葉を紡ぐ一方通行の態度に腹を据えかねたのか、

やっと打ち止めが足を止めて回れ右すると、


「誰のせいだとっ、ん」





距離がゼロになった。

24 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:19:40.41 ID:dKFA4VgA0


「~~~~~~!? ひゃっ、ふぁ、ふぁな、た」

「………………やっとこっち向きやがったな」

「んっ、はぁ…………こん、こんな道端でぇ」


淫猥な水音を口内でたっぷり三十秒は奏でてから、

男は女を解放してその顔を覗き込み、偽悪的に表情を歪めた。

杖は投げ出したのちステイルが持ったままなので、

直立するためには恋人の肢体に身体を預けなければならない。

その状況すらも楽しむように一通り打ち止めに“おいた”してから、静かに口を開く。


「悪かった。“嫌な事を思い出させ”ちまったって訳だ」

「ひぃ…………んっ、ずるいよぉ。お、怒れなくなっちゃった、ってミサカは……」


十年前の極北の地での、彼との“別れ”。

打ち止めは天を舞う男の冗談の様な勇姿を目にして、

またあの喪失感を味わうのだろうか、と頭に血が上ってしまったのだった。


「落ち着いたか」

「だから誰のせいだと……んもぉ! あの辺の建物だってボロボロにしちゃって!
 昔と違って誰かが後始末してくれるわけじゃないんだからね、
 ってミサカはミサカは“できる”女房らしくダメ夫を叱ってみたり!」

「あの一帯の権利書はもともと、まるごと全部俺のもンだ」

「自分のものだからって好き勝手していい訳じゃ、ってええええええええ!?」

25 :天使編⑥ [saga]:2011/09/23(金) 21:21:22.43 ID:dKFA4VgA0


「大天使が万が一暴れて裁判沙汰にでもなったら面倒だろ。
 だから先回りして片っ端から買収しといた」

「『ミサカの旦那がトンデモない成金だったんだけど、何か質問ある?』……っと。
 へ? 『惚気乙』? ふーんだ、『僻み乙ww』ww」

(まーたネットワークに繋いで碌でもねェ遊びしてンな)


歩みを再開した二人は、必然性がなかったとしても寄り添い合う事を選ぶ。

一方通行は、デバイスを能力使用モードに切り替えようとはしなかった。


「ねえ…………結局、あそこで何をしてたの?」


いつも通りのリスのような雰囲気を取り戻した打ち止めが、声を顰めて恋人の耳元に囁く。

男はまばたきを二度してから、脳裏に赤毛の神父の顔を蘇らせた。


「鏡像みてェな男と衝突して、互いの本当の姿を見つめ直した。
 罵声を浴びせて、古傷を抉りあって、一戦交えた。
 …………少なくとも、無駄な時間じゃあなかったな」

「そっか………………インデックスさんとステイルさん、幸せになってほしいね」


自分達の明日の事が先決だろうが。

そう言いかけて、去り際に一瞬だけ見たシスターの打ち震える様を思い出した。


「そォだな」


驚いて目を丸くした打ち止めの額を軽く小突く。

一方通行は柄にもなく、天の上にいるかもしれない、いないかもしれない誰かに、

あの優しいシスターが幸福であればいいのに、と祈った。



32 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/09/25(日) 20:24:45.39 ID:G2pdYI4Z0

第二部人物紹介①


ステイル=マグヌス(24歳)

なんか気が付いたらチートっぽくなってた人。
惚れた女にカッコイイとこ見せたい補正もある程度はかかったんでしょうが。
一方さんの記念すべき初説教を受けて、遂に全てふっ切ってインデックスに向き合うと決意。
ここからはひたすらステイルが攻めるターンですよ奥さん!


上条美琴(24歳)

とある電子工学研究所の特別研究員。言わずと知れた学園都市第三位、『超電磁砲』。
当初は所長待遇で迎えられる予定だったが、育児とのバランスを取った結果今の形に落ち着いた。
夫がドン引きするほど強烈に愛娘を溺愛しており、キャラ崩壊が激しい。

戦闘能力には十年前と比べて劇的な変化はないが、
これは本人に(戦闘狂の割には)強くなる気がなかったから。
超人的なスタミナは健在で夜の営みでは夫の精魂が文字通り尽き果てるまでゲフンゲフン。

行動理念が旦那そっくりでしばしば周囲に苦笑されるが本人には自覚が無い。
一言で表すなら愚直。頭の良いバカ。親バカ。一言じゃすまなかった。


上条真理(2歳)

当初予定ではあーうー言ってるだけだったはずのガチ幼児。
気が付けば異端の二歳児になってました。
果たして愛しのりとくんとの将来やいかに!?


一方通行(26歳)

統括理事長である親船最中の警備部隊隊長を務める。言わずと知れた学園都市第一位、『一方通行』。
長点上機をはじめ各方面から待遇の良い誘いはあったが、全て蹴って親船の直衛として志願した。

MNWに頼らず生活するだけの技術発展を遂げた学園都市で、
それでも『妹達』の補助演算を受け続ける道を選んだ。
時間限定の『最強』として君臨する学園都市第一位の実力は
『右方のフィアンマ』にガチで勝てるかもしれないレベルにまで到達している。
……故にバトル展開から外されたわけですが。

十年の時を掛けて光源氏計k…………愛を育んできた打ち止めとめでたく婚約。
お互い二十歳すぎたんだからセロリ呼ばわりはされてませんよ、多分。

33 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/09/25(日) 20:25:54.57 ID:G2pdYI4Z0


婚后光子(25歳)

株式会社「婚后航空」の常務取締役。
漫画版光子ちゃん可愛いよ漫画版光子ちゃん


月詠小萌(??歳)

高校教師。普通に転任とかもあるので現在は「とある高校」の教師ではない。
が、生涯教師。外見は十年前と一切変わらず。
ステイルには諦めずにアプローチもかけるなどそれなりに本気だったらしい。


姫神秋沙(26歳)

霧が丘大学の研究協力者。医学生でもある。
研究チームに『吸血殺し』が医学の発展に貢献する可能性を見出され、
遅まきながら医者を志す。■■って言ったやつ久キレ屋上。


麦野沈利(20代後半?)

株式会社「アイテム」代表取締役。そして学園都市第四位、『原子崩し』。
フレメアとフレンダの件がわだかまってはいたが、基本は図太く自己中心的。
守るべきものとして、『己のプライド』以外に『仲間』が加わった点で成長が見られる。
絹旗の負傷を聞いて狂乱し、視野狭窄に陥る点は成長がないが、人間としては正しい。
魔法淑女『パーフェクトむぎのん』目指して頑張れ! ちなみに独身。


垣根帝督(20代後半)

「DMホールディングス」会長。そして学園都市第二位、『未元物質』。
鉄のボディーに熱いハート、純白の翼と漆黒の頭脳を併せ持つ、
現代に舞い降りたダテ悪ダンディー(初春の考えたキャッチコピー)。
第二位の頭脳は伊達ではなかったらしく、僅か三年で自社を世界的大企業に育て上げた。
死亡、恋愛問わずフラグ塗れだが一向に回収する気配なし。刺されればいいのに。刺さんないけど。


心理定規(20代前半)

株式会社「Delight Measure」の代表取締役。
底知れぬ微笑を常に湛える妖艶な女社長として見合い話が絶えないが、
「心に決めた相手がいる」らしく一切を断っている。
実は健気な女性なのかもしれない。本心は不明だが。

34 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/09/25(日) 20:26:45.48 ID:G2pdYI4Z0


吹寄制理(26歳)

社会人野球の強豪、DM社野球部のエースピッチャー。普段は秘書課所属。
ちょww140キロのフォークとかねえよwwHPB(はやくプロ入りしろヴォケ)ww


佐天涙子(23歳)

第七三活動支部に所属する警備員。普段は中学校教師で担当教科は社会。
フラグが! フラグが立った! 
と言う訳でシリアス展開に絡んだ関係上、ヤニ神父にフラグを立てられてしまった人。
気が付いた瞬間には終わってたって言う感じの切ないアレ。深く描写する気はないんですが。
佐天さんファンの皆さんごめんなしあ;;


白井黒子(23歳)

第七三活動支部に所属する警備員。普段は大学準教授で専門は都市工学。
黒子が男に目覚めたら破滅的に可愛いだろうというのは衆目の一致するところだが、
今のところそういうフラグはないらしい。お姉様一筋。かと思いきやインデックスにも……
特に意識せずともシリアスもギャグも普通にこなしてくれる、なんつーか凄い便利な人でした。


削板軍覇(20代後半)

警備員第七三活動支部隊長。普段は高校教師で担当教科は勿論体育。そして学園都市第七位でもある。
ドラゴンボール世界で生きているような戦闘力の持ち主。多分ナッパぐらいになら勝てる。
一介の警備員であるが統括理事会の密命を受けて動く事もある。結構ダーティな過去がある、のかも。
内縁の妻のおなかが膨らみ始める前にはど派手な式を挙げてやろうと画策中。


鉄装綴里(30代前半)

警備員第二二活動支部隊長。普段は高校教師で担当教科は数学。
なぜ結婚できていないのか>>1にもまったく分からない。並以上のスペックはあるのに。

35 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/09/25(日) 20:28:26.97 ID:G2pdYI4Z0


フィアンマ(30代)

株式会社『ベツレヘム』CEO。公式にはローマ正教を追放された身である。だがメイド萌えだ。
『第三の腕』を失っても超一級品の魔術を使いこなす天才。だがメイド萌えだ。
死んだふり作戦で最後の最後に美味しい所を持っていった憎いヤツ。だがメイド萌えだ。
おちゃらけて飄々とした態度の裏に真意を隠し続けるペテン師(ステイル談)。だがメイド萌えだ。
土御門と意気投合した理由が窺えるというものである。だからこそ――――メイド萌えだ。


ヴェント(30代)

メイド喫茶『お客様は神様~(以下略)』の全メイドを束ねるチーフメイド。
意外に尽くすタイプの女だったらしく、前教皇マタイの策略でフィアンマの片腕にされてしまった。
科学への憎しみは完全には消えていないが、少なくとも『0930事件』への罪悪感はある。
フィアンマとはおそらく一生このまま、付かず離れずの距離を保つのであろう。


フレメア=セイヴェルン(20歳)

フィンランドの国立大に通う大学生。
こっそりむぎのんが学資を援助していたが、本人にはバレバレだったらしい。
記憶にあまり残っていない姉への思い入れがそれほど強い訳でもなく、
さりとて肉親を殺した相手を簡単に許すのもおかしいような気がする。
彼女も彼女で複雑な心境にあった事が、姉の墓参りになかなか訪れなかった理由だった。
麦野とは和解したわけではないが、ある程度は割り切ったらしい。


風斬氷華(??歳)

レストラン『虚数学区』オーナー兼シェフ兼ウエイトレス。つまり一人で切り盛りしている。
作中での描写を省いたが、ステイルとインデックスは度々彼女のレストランに訪れている。
親友(笑)じゃないよ! 親友(天使)だよ!


ガブリエル(?????歳)

居酒屋『神の力』店主兼料理長。大好物はチューインガム。
禁書界の戦力ピラミッドで最上位に位置してた御方。でもお茶目。
天上に戻ろうとする意思がなぜか皆無で、この十年学園都市で楽しく暮らしている。

36 :小ネタ「意匠権なら取れるかも」 [saga]:2011/09/25(日) 20:29:27.08 ID:G2pdYI4Z0


とある日 上条家


イン「ステイルってさ」


ステ「うん?」


イン「あの新しいルーン文字、論文にまとめて公表とかしないの?」


ステ「…………僕に何の得があるんだい、それ。
   自分の手の内を全世界に向けて御開帳とかどんな衆人環視プレイだ」


イン「魔術史に名を残すチャンスなのにー」


ステ「そういう名誉だとか名声やらには興味が無いんでね」ハン


イン「特許なり著作権なりを取れればその後の人生ウハウハ!」


ステ「取れる訳あるか!! どこの企業が欲しがるんだいったい!!
   ……大体、そんな馬鹿な知的財産がまかり通ったら僕は『必要悪の教会』を追放されてしまう」


イン「え!?」


ステ「驚くほどの事でも……そもそも第零聖堂区『必要悪の教会』は、
   日本で言うところの『毒をもって毒を制す』を体現したような集団だ。
   “基本的”に魔術の存在をタブー視している十字教勢力の一員が
   万が一にも魔術史を塗り替えなどしてしまったら、最悪異端審問にかけられてTHE ENDだね」


イン「そ、そっか…………そういえば『必要悪の教会』って、
   限りなく濃いグレーゾーンだったね………………残念なんだよ」


ステ「かつてその一員だった君が何故忘れているのか不思議でならないよ、僕には。
   そもそも、僕を有名人に仕立て上げて君は何がしたいんだい」

37 :小ネタ「意匠権なら取れるかも」 [saga]:2011/09/25(日) 20:30:07.71 ID:G2pdYI4Z0


イン「………………だって」


ステ「?」


イン「……そ、そうなったら…………もうステイル、危ないお仕事しなくて済むかな、って」カァ


ステ「………………へ」


イン「特許とか著作権とか印税の収入で暮らせるようになったら、
   魔術師として危険な橋を渡らなくても済むでしょ? だから……」


ステ「………………」


イン「………………」ソワソワ


ステ「…………一つ、はっきりさせておこうか」


イン「は、はひ」


ステ「仮に、仮にだよ。僕の編み出したルーン文字が一般大衆の
   生活を一変させるような利便性に満ちた発明で、
   それによって僕が一生遊んで暮らせるだけの収入を得られるとしよう」


イン「……うん」


ステ「それでも僕は、君の望みを叶えてやるつもりはない」


イン「な、なんで」

38 :小ネタ「意匠権なら取れるかも」 [saga]:2011/09/25(日) 20:30:37.31 ID:G2pdYI4Z0









「それじゃあ、君の側にいられなくなる」









39 :小ネタ「意匠権なら取れるかも」 [saga]:2011/09/25(日) 20:31:17.26 ID:G2pdYI4Z0


イン「」パクパク


ステ「異端審問を潜りぬけようと、追放は免れ得ない。それじゃあ意味がない」


イン「」パクパク


ステ「君が隣にいない人生なんて…………無意味だ」


イン「」パクパク


ステ「…………こ、この話は終わりということでいいかな」←ちょっと恥ずかしくなってきた


イン「…………は、はい、終わりでいいでふ」カァァァ





真理「リア充爆発しろ」ケッ


ステイン「「お前が言う………………」」




「「!?」」




オワリ



41 :小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」 [saga]:2011/09/25(日) 20:33:14.12 ID:G2pdYI4Z0


とある日 ロンドンのとあるカラオケBOX


~~~~~♪


火織「しょーおーねーんよ神話になーれ!」ドヤッ


ダラダラダラダラダラ(ドラムロール音)


「 9 7 点 ! ! ! 」


~~~~~♪


ステ「I wanna get back where you were
   誰もひとりではぁぁぁ生きられなぁぁぁぁい!!」ドヤッ


「 9 7 点 ! ! ! 」


火織「ぐぬぅ」チッ


ステ「むむ」ケッ


五和(五和ですがBOX内の空気が険悪です)タラタラ


建宮(アンタら魔術師辞めてデビューしろよ、なのよな)


オルソラ「お二人ともとてもお上手でいらっしゃいますね。次はどなたでございますか?」

42 :小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」 [saga]:2011/09/25(日) 20:34:24.84 ID:G2pdYI4Z0


イン「は、はいはい! 次は私の番なんだよ」チラッ


ステ「どうかしたのかい、露骨にチラ見してきて……いやらしい」ハン


イン「べ、別になんでもないんだよ!」


元春「どれ、曲目はなにかにゃー?」



『天使のミラクル』



ステ(? 聞いた事がないな)


元春(古っ!!)


火織(…………この子、イギリス人ですよね?)



~~~~~♪



イン「魔法の杖 ひと振り 赤いバラも 咲いたわ
   でもあなたに 恋して もう 魔法がきかない♪」チラッ

43 :小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」 [saga]:2011/09/25(日) 20:35:05.66 ID:G2pdYI4Z0





ステ「ブッ!!!」ゲホッゲホッ





元春「二十六歳が唄うには辛いものがあるぜい」


火織「それだけインデックスも本気と言う事でしょう」


ステ(外野だからって気楽に構えやがって……!)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



イン「恋に落ちた ミラクル天使 まるで迷い子 ミラクル天使
   あなた I Love You あなた あなた I Love You~♪」


ステ「」


イン「…………お、お粗末さまでした」チラッ


ステ「」


火織(この空気をどうしろと)


元春(おいステイル何とかしろよ、ステイルの嫁だろ!)

44 :小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」 [saga]:2011/09/25(日) 20:38:42.73 ID:G2pdYI4Z0


イン「…………」モジモジ


ステ「くっ………………割り込ませてもらいたいんだが、いいかな?」


ルチア「え、あ、どうぞ……(私のプリキ○ア……)」


ステ「Thanks」ピピピ


イン「…………」ゴクリ


イギリス清教一同「…………」ゴクリ





『Infinite Love(GRANRODEO)』





イン「!!!!!!」ガタッ


イギリス清教一同(((なん…………だと…………?)))



~~~~~♪



この広く深い宇宙を さまよい歩く迷子達

誰もがたった一人を探している そんな無垢な心のdesign

45 :小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」 [saga]:2011/09/25(日) 20:39:32.67 ID:G2pdYI4Z0


アンジェレネ「」ガタッ


シェリー「お前じゃねえよ座ってろ」


アン「´・ω・`」


アニェーゼ「もういい……! もう……休めっ……!
       休めっ……! シスターアンジェレネっ……!」ブワッ



運命という無くせぬ距離は二人繋がる為の絆

きっといつか見つけ出すだろう この想いが



ガタタタタタタッ!!!



元春(いま地面が揺れたぜよ)


火織(ロンドンで地震とは珍しい。あの二人は…………まったく気が付いてませんね)


元春(……処置なしだな、こりゃ)



Shinin' 貴女に逢う為にChasin' 幾千の星達を越えて

今 貴女を呼ぶ声がCallin' たどり着けたら 永遠を誓おう

46 :小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」 [saga]:2011/09/25(日) 20:40:21.92 ID:G2pdYI4Z0



イン「」ポー



Shinin' 貴女に逢う為にChasin' 奪い取るように抱き締めろ

ずっと 貴女を呼ぶ声がCallin' めぐり逢えたら 未来さえあげよう



イン「」ポー



Shinin' 貴女に逢う為にChasin' 巡り逢う奇跡は消えない

いつも 貴女を呼ぶ声がCallin' 二人の世界は砕けない



イン「」ポー



Shinin' 貴女に逢う為にChasin' 幾千の星達を越えて

今 貴女を呼ぶ声がCallin' たどり着けたら 永遠を誓おう



ステ「…………」ポリポリ


イン「…………」ボーゼン



イギリス清教一同((((((………………)))))))



47 :小ネタ「くそっ、イライラして壁殴っちまった」 [saga]:2011/09/25(日) 20:41:20.67 ID:G2pdYI4Z0






((((((  爆  発  し  ろ  ))))))







ガタガタガタガタッ!!!








地球「くそっ、ついプレート殴っちまった」








オワリ



59 :第二部 『学園都市編』 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 20:51:27.38 ID:XrKTSRGI0



七月二十日。



その日付に特別な意味を見出す者は、果たしてこの地球上に何人居るのだろう。

百人? 千人? 一万人? 一億人?

どんな高名な統計学者だろうと知り尽くす事は不可能だろう。

ただ一つ、確かな事がある。

七月二十日、とある少年と少女がこの地球上で果たした奇跡的な邂逅。



――おなかいっぱいご飯を食べさせてくれると私は嬉しいな――


――でさー、何だってお前はベランダに干してあった訳?――



それを痛みを伴った経験として想起できる人間は。



――私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?――


――地獄の底から引き摺り上げてやるしかねえよな――



もうこの世に“二人”しかいない、という事だ。



60 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 20:52:51.90 ID:XrKTSRGI0


七月二十日 午前八時 第一二学区 とある教会


当麻「はあ!? 夕方の便で発つ!?」

ステ「声を張り上げるな、やかましい」

美琴「ちょ、ちょっと。明日ゆっくりお別れ会やって、明後日出発、の予定だったでしょ?」

イン「うん…………でも、ロンドンから帰還要請が来ちゃったから」

ステ「終戦記念日も近い事だしね」

美琴「あ、なるほど…………」

真理「いんでっくしゅ、ばいばいなの?」ウルウル

イン「ごめんねー、まこと!」ダキッ 

当麻「最大主教に命令できる奴なんているのかよ?」

ステ「君の仕事相手である世界各国の首脳を見渡してみろ。
   自分の都合で好きな時に好きなように動けるトップなんているか?」

当麻「お前らは現に来たじゃんかよ」

ステ「『外交』の一環としてだ。私情を挟んだのは否めないがね」

イン「だからこそ、もう限界なんだよ。沢山の人に迷惑をかけちゃったから、
   少しでも早く帰ってこいって言われたら、拒む事なんてできないの」

美琴「…………ゴメン。私の思いつき、迷惑だったみたいね」

イン「そ、そんなこと!」

ステ「最終的には僕らが『問題なし』と判断したから予定を入れたんだ。
   本国も出席をキャンセルしろとまでは言ってきていない、
   というかむしろ配慮してくれている節まである。だから君が気にする事はないよ」

61 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 20:53:32.90 ID:XrKTSRGI0


当麻「なんつーか…………お前が紳士ぶってると違和感あるっつーか、
   理不尽をかんじるっつーか。ちなみに仮に提案したのが俺だったらどうしてた?」

ステ「とりあえず、イノケンティウスの熱いハグを贈らせてもらうよ」ハン

当麻「それが理不尽だっつってんだよ! 美琴と真理には妙に優しい癖に!!」

ステ「自然の摂理だ、受け入れろ。ちなみに仮に僕が、二人に君と同じように当たってたら?」

当麻「ぶん殴って空中で五回転ぐらいさせる」キリッ

ステ「世界はそれをこそ理不尽と呼ぶんだよ! 軽くトラウマだからやめろォ!!」



ギャーギャー ドッカーン! ソゲブ!



美琴「このやりとりも今日で最後かと思うと寂しいわねぇ。ねえインデックス?」

イン「………………」

美琴「…………インデックス!」

イン「へっ!? な、なーにみこと?」

美琴「朝早くから準備してたから疲れてるでしょ? ちょっとその辺ブラブラしてきたら?」

ステ「それはいい。街で知り合った顔もチラホラ見たし挨拶まわりでも兼ねようか」

62 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 20:54:50.30 ID:XrKTSRGI0




イン「あ、うん。じゃあ…………また後でね、とうま。みこと」

当麻「…………おう、また後で」




美琴「………………」

ステ「………………」

真理「ままー、しゅているー、どうしたの?」キョトン

ステ「ん、ああ。それでは後ほど」

美琴「十時には正式に受付始めるから、それまでには戻って来なさいねー」



ピョコピョコ スタスタ



ステ「大丈夫かい、最大主教?」

イン「ステイルこそ脚の怪我があるんだから無茶しないでね」アハハ

ステ「…………君がどんな結論を出そうと、僕のなすべき事は、そしてなしたい事は変わらない」

イン「!」

ステ「それだけは、忘れないでくれ」

イン「………………」

63 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 20:56:08.48 ID:XrKTSRGI0


移動中…………


絹旗「インデックスさんに超(スーパー)ステイルさんじゃないですか、お久しぶりです」

ステ「かませ犬臭がプンプンするからその呼び方は止めてくれ! ルビを振るな!」

イン「退院おめでとう、さいあい!」

絹旗「ふふふ、私の『窒素装甲』に超常識は通用しませんので。
   大したことはありませんでしたよ、あんな魔術師!」

ステ(超常識……常識なのかそうでないのか……?)

黒夜「へっ、目ぇ覚ました直後はブルってた癖によ」

絹旗「ブルってませんー! リベンジに燃えて武者震いしてたんで…………いっ」

布束「Good Heavens,大丈夫かしら?」

理后「くろよる…………?」ゴゴゴゴ

黒夜「ひっ!? ご、ゴメンよ最愛…………」

絹旗「まあまあ理后さん、いつもの事ですから私は気にしてません。
   なんだかんだで海鳥に超一番心配してもらいましたしね」フフ

黒夜「………………」プイ



ステ「そちらのレディーは? 新郎と新婦、どちらかの御友人なのでしょうが」

イン「あ、ていとくの会社で見かけた人なんだよ」

布束「え? However,私はあなた達と初対面だと思うのだけれど。
   …………いえ、つい最近どこかで、そうお茶の間辺りで見たような」

ステイン「!」ギク

理后「この人たちは新郎新婦に共通の友人なの。
   ぬのたばの会社を観光がてら見学してたんだって」

布束「……………………そう。In that case,そういう事にしておきましょうか」

ステイン(ほっ)

64 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 20:57:31.24 ID:XrKTSRGI0


布束「あらためましてはじめまして。
   私はDM社企画開発部の布束砥信と言うわ。新郎とは昔ちょっと、ね」

イン(前々スレ>>774にこっそり出演してたんだよ!)

絹旗「どういう風な“ちょっと”なのか、布束さん超ちっとも教えてくれないんですよね」ジトー

布束「そうね………………but,あなた達とも“ちょっと”色々あったし……」

絹旗「う」グサ

理后「ぐ」グサ

布束「ふふふ。あまり触れない方がお互いの為でしょう?」

「「「?」」」



ステ「そっちの窒素姉妹は一方通行とはどういう関係だい?」

絹旗「コレと超一括りにしないでください!」

黒夜「ひでぇ」

イン「みことは家族だって言ってたけど?」

絹旗「はっきり口にされるとなんか恥ずかしいですね…………」

黒夜「アイツ自身は兄貴面してくるわけじゃないけどなぁ。そういうのはキモ面の担当だし」

布束「この二人の能力は『一方通行』に由来するものでね。To sum up,妹みたいなものよ」

理后「それで昔ね、むぎのとあくせられーた、
   どっちが二人の法定代理人になるかで揉めた事があるの」

ステ「………………それはどっちかというと親の行いで」

イン「………………夫婦が離婚する時に起こる問題じゃないかな」

65 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 20:58:40.83 ID:XrKTSRGI0


黒夜「そう、まさにそれ! バカの浜面がその場にたまたま居合わせてさ。
   喧嘩する二人を見て考えなしにそんな感じの事を言っちまったんだよ!」ギャハハハ!

絹旗「懐かしいですねー。二人とも五分ぐらい口をパクパクしてたかと思ったら、
   鬼の形相で浜面に襲いかかって。なんか合体技とか出してましたし!
   あれは私のB級視聴歴を手繰っても他に類を見ない超傑作シーンでした!!」キャハハハ!

布束「Really? それは私もぜひ見たかったわね」

理后「笑い事じゃないよ。それを聞いたらすとーおーだーが
   ツンデレを通り越して一気にヤンデレにワープ進化しちゃって大変だったんだから」

イン(わりと本気で見たいワンシーンなんだよ)

ステ(合体技を炸裂させられた夫のその後については触れないんだな)ホロリ



イン「あれ、そういえばりとくは?」

理后「むぎのとふれめあと一緒に、家でお留守番してるよ」

黒夜「私が言うのもなんだけど、本当にあの二人だけで大丈夫かよ」

ステ「……麦野とミスセイヴェルンには、過去に何かあったのかい?」

絹旗「それは…………私の口からは、どうにも。
   個人的にはフレメアがやけに裏篤を気に掛けるのが不思議なんですよね。
   理后さん、どうしてか知ってますか?」

理后「さあ。しあげは何か知ってるみたいだけど」

黒夜「……………………」

ステ(……どこにでも、一筋縄でいかない問題はある。そういう事なのかな)

66 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 20:59:49.77 ID:XrKTSRGI0


移動中…………


ステ「ん? あれは……………………………………」スッ

イン「もとはるだ、日本に来てたんだ」


「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」


イン「!?」


「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり

 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり

 その名は炎、その役は剣」


イン「え、ちょ、あ、そうだ」ピコーン


「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ! イノケンティウ――――」



    Y  Y   W   W
イン「はいはいワロスワロス」

イノケン「ンゴーッ! ンゴ!? ンゴ…………」ズーン




ステ「えええええええええええええええええええ!?
   イノケンティウスがショック受けて帰ったぁぁぁーーーーっ!?」ガビーン!

イン「ふぅ……『強制詠唱』が無かったら即死だったんだよ(もとはるが)」

ステ「そんなスラングですらないノタリコン成立するかぁぁぁぁ!!!」

67 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 21:01:05.49 ID:XrKTSRGI0


当麻「なにやってんだよ、教会でボヤ出す気か!?」

青ピ「今の巨人さんが暴れてたらボヤじゃ収まらんけどねー。
   インデックスちゃんお久しぶりでんなぁ! 今日は青の修道服なん?」キャッホーイ

イン「全身白尽くめじゃあ花嫁さんに対して失礼だもん。
   でも、『歩く教会』じゃない修道服なんて生まれて初めてで落ち着かないんだよ」ムズムズ

青ピ「似合うてる似合うてる! 真っ白の清楚な感じもエエけど、
   クールビューティーって感じの青も相当にそそるわー!」イヤッフー!

ステ「………………」チッチッチッ

浜面「ハハッ、騒がしい奴らだなー」

元春「いやいや全くだにゃー」

ステ「元を糾せば君のせいだろうが!」

元春「………………?」クルッ

ステ「貴様だシスコン軍曹ぉぉぉぉぉ!!!」



イン「もとはる、久しぶり。まいかは元気?」

元春「おう、大食い最大主教から解放されて日々をゆったりと…………
   過ごしてくれないんだよなぁ。もっといちゃつきたいぜい舞夏ぁぁ……」

ステ「彼女は生粋の仕事人間だからね」ハハッ

イン「………………」シラー

元春「お前が言うな」

当麻「お前が言うな」

浜面「お前が言うな」

青ピ「あんさんが言うてもあきまへーん」

ステ「後ろの三人乗っかっただけだろうが!!」

68 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 21:02:38.46 ID:XrKTSRGI0


ステ「それにつけても土御門、昨日はよくもやってくれたな」

イン「? 昨日どうかしたんだっけ?」

元春「へ? …………おいステイル、ちょっとツラ貸せ」クイクイ






ステ「なんだい」イライラ

元春「インデックスの様子が、俺の想定とはだいぶ違うんだが」ボソボソ

ステ「何を想定してたんだい君は。本人曰く、昨晩の記憶が飛んでるらしくてね」

元春「…………ふーん、そりゃ残念だぜい。予定通りにいってりゃ今ごろ……」ブツブツ

ステ「だ・か・ら・この上どんなトラップを仕掛けて僕らを弄ぶつもりだったんだ!
   余計なお節介ってレベルを気軽に逸脱しすぎだろうが!!」

元春「そんな事言って、実際良い機会になっただろ?
   わだかまってたもん、残らず燃やし尽くしたか?」



ステ「…………ちっ。ああそうだよ、僕の心は決まった。もう立ち止まりはしない」



元春「そうか、良い面構えになったな。頑張れよ」

ステ「ぐ…………あ、ありがとう」

元春(何とか丸めこめたぜい)フゥ

69 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 21:04:17.64 ID:XrKTSRGI0


当麻「へー。あいつらってただの仕事仲間だと思ってたら、意外と仲良いんだな」

イン「………………」

青ピ「インデックスちゃーん、あかんわ男にまで嫉妬丸出しでガン見してぇー」

イン「…………え? さ、流石に男の人にはJealousyしたりしないんだよ!」アタフタ

浜面「女には剥き出しだって認めたな」

イン「はううっ!!」

青ピ「スーさんとはその後どうなん? ちゃんとやる事やっとりますか自分らぁ?」

イン「ややややや、やる事っていったい何なのかな!?」

浜面「またまた奥さん惚けちゃってー! 決まってんだろ、一緒のベッドに飛び込んでセ」

当麻「言わせねーよ!? オイお前ら、ステイルが死ぬほど睨んでるからその辺にしとけ」

ステ「………………………」ボボボボボボボッ

青ピ&浜面「」



ンギャアアアアアアアアアアッ!! ×2



イン「そっか、青ピがなんでいるのかと思ったららすとおーだーのお姉さんの旦那さんなんだよね。
   デルタフォースなんて呼ばれてた三馬鹿もみんなそれぞれ
   立派に所帯を持つようになって、おねーさんは嬉しいんだよ」ホロリ

当麻「だからお前同い年だろーが!」

元春(ここでの『お前が言うな』は地雷のかほりがするにゃー)

70 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 21:06:08.66 ID:XrKTSRGI0


移動中…………


食蜂「ねぇねぇ雲川さぁん、勿体ぶってないでその超小型キャパシティダウン外してよぉ。
   どうせ私の絶対運命決定力にかかればお見通しになっちゃうんだからぁ」ユサユサ

雲川「そのコイントスの裏表を自由自在に操れそうなパワー、
   どう考えても人の“そういう”秘密を見破れる類の代物とは思えないんだけど」

食蜂「またまたそうやって話を逸らそうとするぅ。
   ねえ親船さん、上司として一言注意してあげてくださいよぉ」

雲川「統括理事長! 御承知の事と思いますがこの女に対外秘の
   トップシークレットを盗まれたら取り返しがつかないんだけど。どうかご熟慮を」

親船「………………芹亜さん、私を誰だと思ってるのかしら? 
   あなたの負担を悪戯に増やすような真似はしないわ」

雲川「…………これは失礼しました。差し出がましい口を聞いたようで」




親船「操祈さん、実を言うと芹亜さんは今……………妊娠二カ月なの」




雲川「統括理事長ぉぉぉぉぉ!!!!!???」

親船「母親になるという実感が湧いたばかりでとても不安定な時期だから、
   あまり心身を揺さぶらないよう、でも友人として側に付いて居てくれないかしら?」

食蜂「んまぁ。あらあら、あらあらあらぁ、おめでとぉ!! 
   く、雲川さん! 困った事があったら何でも言ってねぇ?
   そうだ私、長点上機医大にちょっとしたコネがあるのぉ!
   例の病院にいる世界一のお医者様はいつでも忙しい身だしぃ、
   学園都市で二番目の産婦人科医に雲川さんの専属になってもらうわ!!」ウキウキ

雲川「余計な事をしないで欲しいんだけどっ!!
   く、くうっ、もしこんな事が土御門の、いや魔術サイドの誰かの耳にでも入ったら……」

71 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 21:08:03.68 ID:XrKTSRGI0


ステ「………………」

イン「………………」

雲川「」



イン「…………えっと、おめでとう? せりあならきっと良いお母さんになれるよ。
   私の友達にも今度新しくお母さんになる人がいるんだけど、よかったら紹介しようか?」

親船「まあインデックスさん、お気遣いありがとうございます! 
   やはり持つべきものはいいお友だちよねえ、芹亜さん?」

雲川「  」

ステ(………………可哀想に。ん、待てよ? 
   妊娠……『せりあ』……つい最近どこかで聞いたようなワードの羅列だな……)ウーン

雲川「    」



食蜂「雲川芹亜は生まれて初めて心の底から震えあがった……
   真実の暴露と決定的な情報流出に……。出産への不安と絶望に涙すら流した。
   これも初めてのことだった……雲川はすでに羞恥心を失っていた」

雲川「オイ! 勝手にナレーションを付けないで欲しいんだけど!!
   それからとりあえず羞恥心は失いたくないんだけどーーーーーーっっ!!!」

食蜂「私の改竄力にかかればナニだろうと、どうとでもなっちゃうわぁ」

雲川「何を改竄するつもりだぁぁぁ!!!」

72 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 21:10:18.90 ID:XrKTSRGI0


ギャーギャー!


ステ「統括理事長、いらしていたのですね」

親船「ええ。この度はお二人にもご助力いただきありがとうございました。
   学園都市二三〇万の学生を預かる身として、改めて深く感謝申し上げますわ」ペコリ

イン「お力になれて光栄です、統括理事長。
   しかしやはり全ては、かつて『学生』だった彼らの尽力あっての事と思います」ペコリ

親船「ええ、ええ。頼もしい子供たち……いえ、もう立派な大人なのだと、つくづく実感しました」



ステ「…………今日はあちらの二人と、職場の関係で?」

親船「それはもう、一方通行くんは私の警備主任ですから。
   常日頃お世話になっている身として当然の事ですよ。
   これで披露宴形式だったなら上司として一席、職場での彼の心温まる
   エピソードをお集まりの皆さんのお耳に入れようかと思ってましたのに」

イン「あたためられーたの心アクセル話…………? それは興味津津にならざるを得ないかも」

ステ「なんだい一方加熱(アタタメラレータ)って。コンビニ弁当か」

親船「そう、あれは彼が初めて職場に手製のお弁当を持参してきた日の事です。
   私や他の警備チームの面々がその包みはどうしたんだと声を掛けると、
   彼は努めて不機嫌そうな顔で『クソガキに無理矢理持たされたンだよォ』、と」

ステ(今のはまさか、一方通行のモノマネか…………?)

イン(結構似てたんだよ)

親船「私たちが生あたた…………温かい視線を向けると彼は益々不機嫌になって背を向け、
   可愛らしいクマさんのプリントされた包みを解きました。
   しかし、その次の瞬間! ……一方通行くんはスケルトンの蓋越しに
   垣間見たお弁当の中身に、全身を凍りつかせてしまったの」

イン「い、いったいなにが!?」

73 :第二部 エピローグ [saga]:2011/09/29(木) 21:12:05.46 ID:XrKTSRGI0


親船「……………………………………おでん」

ステ「……………………は?」

親船「何の変哲もない白いプラスチックの直方体を彩る、
   こんにゃく、がんもどき、はんぺん、ちくわぶ、ゆでたまご。
   それは一切の妥協も容赦も差し挟む余地のない、完全なるおでんでした」

イン「……………………う、うーん…………」

ステ「あー…………それは…………あれじゃないですか。
   昨晩の残りものを弁当に詰めこむ主婦の知恵を早くも体得していたとか」

イン「こ、コンビニおでんも捨てがたいんだよ! 一品70円であの味わいは
   ジャパニーズ・ジャンクフードの究極形態だと私は思ってるかも!」

ステ「経済観念が身に着いたのは実に結構だが、
   ロンドンに帰ってから信徒の前でそんな事を熱く語らないでくれよ」

親船「ところがどっこい、そのおでんは…………」

イン「そのおでんは…………?」ゴクリ



親船「打ち止めさんがお弁当のためだけに原料からこつこつ仕込んだ、
   一分の隙もないハンドメイドだったのよ!」

ステイン「な、なんだってーーーー!!??」ΩΩ

親船「一方通行くんが打ち止めさんのそんな健気な努力を無碍にできる筈もありません。
   結局彼は周囲の好奇の眼差しを真っ赤になって堪えながら、愛妻弁当を完食したのでした」

イン「うう…………泣けるお話なんだよ」ウルウル

ステ(………………確かに、泣ける。………………別の意味で)ホロリ



親船「こういう挿話をざっと二〇ほど用意していたのだけど……
   教会で式を行うと聞いた時はとーっても残念でしたわ」

ステ(一方通行が人前式を選ばなかったのはこれが原因だな、間違いなく)

イン(まあ、二次会に戦場を移されたらチェックメイトなんだけど)



80 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:03:01.19 ID:Ky/G7vJy0


移動中…………


美琴「あ、二人とも。どう、知った顔には会えた?」

ステ「会えたというか、この教会知った顔で埋め尽されてるんだが」

イン「今のところ一人を除いて全員だもんね……あと、そっちの二人も」



初春「どうもー、おはようございます」

結標「あら、五日ぶりねインデックス」

イン「そっか、あわきはもとはるの昔の同僚なんだもんね。一方通行とも……」

結標「そ、奇妙な縁で結ばれてるってわけよ。いま新郎控室に顔出して来たんだけど、
   ぷぷっ! 永久保存したくなる阿呆面だったわー。
   私たち『グループ』に宛てた招待状は奥さんに無断で出されたみたいね」

ステ「よく考えれば当然の事だね。君ならまだしも、
   一方通行が土御門を呼ぶなんておかしいとは思ってたんだ」

イン「かざりも、あくせられーたの友達なの?」

初春「私は昔、花嫁さんの方とちょっとした事で知り合いまして。
   美琴さんの妹さんと知ってからはちょくちょく一緒に遊んだ仲なんです」



美琴「初春さんはともかく、結標さんとまで顔馴染みだったなんてね……。
   インデックスって意外と顔広いわよね。例の事件でも一緒だったんでしょ?」

ステ「戦場は街のあちこちにばらけていたから、合流したのは最後の一幕だけだがね」

初春「ウチのビルでやった最大主教さんの大食いワンマンショーですねー」ニコニコ

イン「!? ちょ、かざり、それは秘密にって」

美琴「ほーう? それは楽しそうじゃない、是非私も呼んで欲しかったわねー?」

イン「」タラタラタラ

81 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:04:24.31 ID:Ky/G7vJy0


美琴「私ってばステイルくんからもなーんにも教えてもらってないわー」

ステ「…………ほ、報告の義務など負った覚えはないね。
   だいたいあの日は戦闘に次ぐ戦闘で半日以上も腹を満たす暇がなかったんだし」タラタラタラ

結標「そっちの神父さん、『今日ばかりは我慢しなくても構わない』
   とか言ってむしろ煽ってたわね」

ステ「んがっ!!」

初春「本社の備蓄食料全部使い切っちゃって、
   地下シェルターから非常食まで持ち出しましたもんねー」アハハ

美琴「………………」バチバチバチバチ



イン「みみみみみこと、冷静になって欲しいんだよ! 
   いくら私がイギリス清教の宇宙胃袋(ブラックホール)と呼ばれてたところで
   数百人分の食料なんてとてもじゃないけど食べきれないかも!
   あの日あのビルには百人ぐらい避難してた人が残ってたから、
   私はあくまでその余り物を頂いたのであって」

美琴「(X-1)百人分を全て吸い込んだって事でしょーが
   余り物ってレベルじゃねーぞゴルァァァァァァ!!!!!
   そんなド派手なスーパーイリュージョンを人様んちで披露してんじゃないわよ!!」

イン「うう……だってだって、ていとくがいくらでも食べていいって言うから!」

美琴「人のせいにしないの!」プンスカ

イン「人じゃないもん冷蔵庫だもん!」プンスカ

美琴「冷蔵庫がひとりでに開いて食事を振る舞うわけないでしょうが!」


「「「「プッ!!!」」」」


82 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:08:06.17 ID:Ky/G7vJy0


美琴「へ?」

ステ「み、美琴…………! すまないが、今のはツボだ…………! プッ!!」ブルブル

イン「の、脳内ていとくが、お腹の中からご飯、出してきたんだよ! 
   あっ、あははははは! ひーっ、ひーっ!! おなか痛い!!!」バンバンバン!

結標「あの、羽で、くくっ、ど、どうやって料理すんのよぉ! 
   エプロン付けてるとこ、想像しちゃっ、くっ、くくくくく!!!!」ププププ

初春「メルヘンクッキング(笑)…………!
   俺の未元料理(ダーククッキング)にじょ、常識は………………!!」プルプル

美琴(こ、この疎外感はなに…………?)



十分後



イン「あー、落ち着いた。たくさん笑ったらおなか空いたんだよ」フウ

美琴「なにをそんな馬鹿ウケしてんのよアンタら……? とにかく今晩は食事抜きだかんね!」

イン「へっへーんだ、残念でしたー! 
   私たちの今日のディナーは優雅に機内食と決まっ……て…………」ハッ



初春「この間のお話では美琴さんが妹的ポジションで、
   インデックスさんマジ聖母! って感じだった筈なんですけど、おかしいですね」ハテ

結標「挙動不審っぷりの方がもっとおかしい事になってきてるけどね。
   あの子の身体チャンスで稲葉に回った時の札幌ドームぐらい揺れてるわよ」

83 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:09:11.61 ID:Ky/G7vJy0


イン「」ガクガクピクピクブルブル

美琴「ちょ、インデックス!? お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんかー!」

冥土返し「僕を誰だと思ってる?」ジャーンジャーンジャーン

美琴「げえっ、リアルゲ…………ああ先生! どうか、どうかインデックスを!」



ステ「ちょっとしたトラウマが呼び起こされただけだよ…………。
   あればかりは、彼女が自分の力で乗り越えるしかないんだ」トオイメ

結標「もう少しシチュエーションが良ければ共感できなくもないんだけどね、その台詞」

初春「『実の親の仇は育ての親だった! この葛藤を如何にして乗り越える!?』みたいな。
   それにしてもステイルさん、愛しのシスターさんがあの様子なのに意外に冷淡な反応ですね」

結標(DM社の厨二ネーミングはこの子が汚染源なんじゃ……)

ステ「訪日以来、飛行機と耳にするだけで拒絶反応を起こしてるからもう慣れっこで……。
   なにせ『ウルリッ“ヒ! 攻強(こうき”ょう)皇國機甲を呼べ!』ってセリフに
   反応して稲葉ジャンプを始めるぐらいだからね、もう僕も諦めてるんだよ」

結標「その謎のシチュエーションについての説明が何より欲しいわよ!!」

初春「む、次回作のインスピレーションがむくむく湧いてきました!
   『時は地球(グランドコア)暦300X年、外惑星(サテライト)の住人である
   凶星主(ヒドラ)の同化(グランドフォール)で両親を失った主人公ウルリッヒは、
   志(クリード)を共にする仲間(バーディ)と「攻強皇国機甲」のパイロットとして』……」メモメモ

結標「長い長い長い!! 無駄なルビ振り過ぎ! あなたいったいどこの世界の住人なの!?」

初春「実を申しますと私、『スク○ニ』への転職を視野に入れていまして」

結標「プリント裏の妄想で大作RPGが作れるなら誰も苦労しないわよっ!!」

84 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:11:28.08 ID:Ky/G7vJy0



治療中…………(美琴たちはどっか行った)



イン「…………はぁ、はぁ…………!」

冥土「気分はどうかな?」

イン「な、なんとか食欲が戻ってきたかも」ゼェゼェ

冥土「君の気分は食欲にしか左右されないのかな?」ヤレヤレ

10032「朝早くから司祭役として詰めておいでですのでお疲れなのではないでしょうか、
    とミサカはベテラン看護士としての経験から忠言させていただきます」

ステ「どうもありがとうございました、先生。ミス御坂もありがとう」

冥土「君の方も、昨夜は応急処置で済ませてしまったが具合はどうかね?」

ステ「おかげさまで、すっかり痛みはありませんよ。
   一方通行が手加減してくれたというのもあるのでしょうが」

10032「あれがそんな可愛い性格をしているとは思えませんが、とミサカは懐疑の眼差しを向けます」

ステ「…………そちらは?」





エツァリ「ご両人、二か月ぶりですね。とんだ再会になりましたが、任務お疲れさまでした」

ステ「…………誰だい、君は」ジロ

エツ「酷いですねぇ。あなた方が不在の間、誰が代役をこなしたと思ってるんですか」

ステ「……代役、という事は」

85 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:13:01.37 ID:Ky/G7vJy0


イン「声も顔も記憶に無いけど、その抑揚の付け方はエツァリのものだね」

エツ「ああ、そうでした。ステイルさんに扮して以降『海原光貴』に
   接触する機会など当然ありませんでしたから、
   これが自分の素顔という事になります。お見せするのは初めてでしたかね」

ステ「やはり君も招待されていたのか…………新郎本人は寝耳に水のようだったがね」

エツ「ええ、先ほど土御門さんと一緒に彼を訪ねたんですが、
   問答無用でエンジェルフェザー(笑)をお見舞いされて追い出されまして。
   せっかくですからショチトルたちの恩人にご挨拶に参ったという訳です」

ステ(よく生きていたな……さすが、腐っても魔導師)

イン「ショチトル、私の代役で大変じゃなかった? 病み上がりなのに…………」

エツ「神裂さんからもお墨付きをいただきましたし、自分の見る限りは立派にこなしていましたよ。
   多少の気疲れはあるでしょうが、体調は自分が四六時中傍について管理しましたので」

イン「ほっ…………」

ステ(四六時中…………ねぇ)



冥土「それでは、彼女の身体にその後異常はないんだね?」

エツ「ええ。全てはあなたと最大主教が御力添えくださったおかげです」

冥土「僕は仕事をしただけさ。心のケアは大丈夫なのかな?」

エツ「焦らずにゆっくりやっていきますよ。完全に落ち着いたら、あなたをイギリスに御招待したいのですが。
   ショチトルとトチトリがのびのび生きる様を、是非あなたにも見て頂きたい」

冥土「ふむ、楽しみにさせてもらうよ?」

ステ「それはもしかして、特別な催しに招くという意味かな」ニヤニヤ

イン「例えば、今日みたいな?」ニヤニヤ

エツ「………………自分たちの“それ”よりも先に、他の催事が執り行われる可能性大、ですがね」ニヤリ

ステイン「え?」

エツ「ふふふ、ロンドンに帰ってからのお楽しみですよ」

86 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:14:03.79 ID:Ky/G7vJy0


ステ(…………おおよその見当が付いてしまった自分が、幾分悲しい……)

イン「ねえ、くーるびゅーてぃー。他の『妹達』は来てないの?」

10032「誠に遺憾ながら、ミサカたち全員はとてもこの教会に入りきりませんので。
    その代わりと言ってはなんなのですが、お姉様の時にやった“アレ”を趣向を変えて再現してみようかと、
    とミサカは悪代官面をして極秘事項を打ち明けます」フッフッフ

ステ「ああ、“アレ”か。確か美琴は号泣してたね」

イン「そっか…………あの、それから」

10032「番外個体の事でしょうか」

イン「! う、うん」コクリ

10032「彼女なら、いま………………」




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番外個体「んっ、ひっく…………ひっ、く、う」ギュッ

美鈴「んー、よしよし。我慢しないでいいのよ」ナデナデ

旅掛「……………………ん? 君たちは」

イン「…………ど、どうも」

番外「!!」


ガバッ タッタッタッ

87 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:15:31.80 ID:Ky/G7vJy0


イン「わーすと…………」

美鈴「追い掛けなくても大丈夫。…………と言うより、今は放っておいてあげて」

ステ「申し訳ありません。邪魔をするつもりではなかったのですが」

旅掛「気にする事はない。あの子も心の中ではしっかり区切りを付けているんだよ。
   いまの涙は、最後に残ってしまった想いの一欠けらなんだ。…………罪な男だな」

美鈴「……ああそうそう、今日は二人ともありがとう。
   あなたたちにリードしてもらえば最高の門出になると思うわ」

イン「ここは結婚式専用の教会だから、あまり形式ばった事はしないつもりだけど。
   ………………せいいっぱい、二人が幸せになれるよう、頑張ります」ガチガチ

美鈴「ふふ、テレビで親船さんに挨拶してた時はあんなに凛々しかったのに。カワイー!」ダキッ

イン「あ、あわわ!」ワタワタ

旅掛「…………ステイル君、ちょっと二人でいいかな」

ステ「? 構いませんが」



旅掛「一方通行から聞いたよ。拳を交えて語り合ったって?」

ステ「厳密には違いますが、主旨はそうなりますね。しかし貴方はよほど彼に信頼されていると見える。
    あの一方通行が昨夜の対話を誰かに打ち明けるとは思ってもみませんでした」

旅掛「信頼、か。それは彼だけが知る事だな。ただ君も知っての通り、
    俺は一方通行に一〇〇三一回拳を叩きこんでる。もちろんその度に言葉も交わした。
    そういう中で、少しずつあの青年の心を覗いて来たんだ。
    …………そしてその俺の目から見て、君と彼は心の在り様がそっくりだ」

ステ「………………慧眼、ですね」

旅掛「なあステイル君。つまらない男の人生訓など、聴いていく気はあるかな」
   
ステ「是非、拝聴させていただきます」

88 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:17:04.51 ID:Ky/G7vJy0


旅掛「辛い今に堪えられなくなって膝が折れてもいい。ただ、その先に夢を抱え込んでくれ。
    一方通行が真の意味で俺の息子になったのは、彼が打ち止めと歩む未来を見据えながら、
    俺に殴られ、そして前に向かって倒れ込む事を選択したからだ」

ステ「…………僕は今まで、過去の“誓い”と“罪”に囚われて生きてきました。
    いけない事だとはわかっていても、どうしても振り払えなかった。
    昔の思い出に振り回されて、未来はおろか現在(いま)にさえ背を向けて」

旅掛「…………一方通行も言っていたんだがね。鏡のようだよ、君たち二人は。
    まるで他人だと思えない。だから俺は彼の眼に映った君の像を見て、
    今こうして君との対話に臨んだんだ…………もう、君は大丈夫なのかい?」

ステ「はっきりと悟りました。自分はもう、この過去を打ち捨てることはできない。
    できるものなら、十二年前のあの日にやっていた。だから僕は、この重荷を引き摺ります。
    いつの日か雁字搦めにされて身動きがとれなくなっても、目指したい“夢”があるから」

旅掛「………………そうか、心配する必要はなかったようだな。
    君との対話の中で一方通行も、また少し変わったような気がするよ。
    では最後に、人生の先輩として少しだけ良い顔をさせてもらおうかな」

ステ「?」

旅掛「君の人生はまだまだこれからだ。もしにっちもさっちもいかない事があったら、
    いつでも俺を…………俺達『ミサカ』を頼ってくれ。
    地球上のどこだろうと駆け付けて、こう聞かせてもらうからな」





「君たち二人の世界に足りないものは、なーんだ?」





89 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:18:35.76 ID:Ky/G7vJy0


美鈴「男同士の秘密のお話は終わったー?」

イン「………………ふーんだ」

ステ「何を拗ねているんだい、君は」

イン「拗ねてないもん」プイ



スタスタ スタスタ



黄泉川「おや、最大主教とその腰巾着じゃんよ」

イン「…………るいこの上司の、ヨミカワ、さん?」

ステ「い、いきなり辛辣ですね……確かにあの時は茶を濁して悪かったとは思いますが」

黄泉「はっはは、冗談じゃんよ! まあ、警備員本部ぐらいには
   情報開示して欲しかったけど、お前達に言ってもしょうのないことじゃん」

ステ「そう言って頂けるとありがたいのですがね」フゥ

芳川「あら愛穂、この子たちと知り合いなの?」

イン「子供扱いはしないで欲しいんだよ…………っていうか、
   あくせられーたと理事会ビルで漫才してた人に言われたくないかも」

ステ「あの後結局、上条当麻と雲川女史に飯をたかったらしいですね」

黄泉「桔梗…………どういう事だか後で説明するじゃん」

芳川「私に檻の中なんて厳しい環境は堪えられないわ」

黄泉「あんたの現生活環境は既にブタ箱同然じゃん! っていうか本当に何をやった!?」

90 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:20:07.99 ID:Ky/G7vJy0


旅掛「黄泉川先生、芳川さん。お久しぶりですね」

黄泉「こちらこそ、御無沙汰しております。誠にめでたい日を無事迎えられましたね」

美鈴「お二人はアーくん……一方通行くんの御家族として?」

芳川「ええ。私たちは今日、彼の妹さんたちと一緒に新郎親族席ですわ。
   普段は口が裂けてもそんな事認めないんですけど、あの子」フフフ!



美鈴「…………芳川さん」

芳川「はい?」

美鈴「ご無理はなさらないで下さいね」

芳川「!!」

旅掛「俺のもので良ければ、このハンカチを。雫が溢れそうですよ」

芳川「…………申し訳ありません、あなた達の前で、こんな。
   ご迷惑なのはわかってます。でも、嬉しいんです。
   きょ、今日という日に、こんな女を、あの席に、呼んでくれて」

黄泉「桔梗……」

旅掛「芳川さん。子供たちもそれぞれに、重荷と不安を背負って未来に歩き出すんです。
   せめて私たち親は、笑顔で送り出して、見守ってやろうじゃありませんか。
   ………………『実験』が、本当に決着を迎えるその日まで」

芳川「御坂さん…………ありがとう、ございます」



ステ(……最大主教)

イン(……うん。これ以上ここにいても、お邪魔になっちゃうだけかも)

91 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:21:34.13 ID:Ky/G7vJy0

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外の空気を吸いたいと言って、インデックスは教会の裏庭に出た。

傍らには勿論、この五年間を最も多く共に過ごした大切な男性(ひと)。


「九時三十分。そろそろ戻った方がいいね」


取り留めのない雑談に終始して、ステイルが掲げた懐中時計を合図に屋内に引き返そうとする。

花嫁がくぐり、花婿と共に出ていくだろう教会正面の大扉へと回って――――




「あ………………」




そこに、上条美琴と彼女に抱かれた愛娘――――そして、上条当麻がいた。

四人の男女の時が一斉に止まったように、インデックスには感じられた。









「行っておいで」


呼吸さえ止むような重苦しさの中で、最初に動いたのはステイルだった。

肩をそっと押されて、ようやくインデックスは“ある事実”を悟った。

92 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:23:42.25 ID:Ky/G7vJy0


(あの時……)


三ヶ月ほど前の、ロンドンでの事だった。

土御門がインデックスの提案を組み込んだ作戦を清教派の主だった面々に明かすと、

火織をはじめとして天草式やアニェーゼ部隊までもがリスクが高すぎると反対してきた。

苦笑いした土御門に彼らを説得する妙手があったのか、今となっては解らない。



『僕は賛成だ。要は、僕が彼女を護ればいいんだろう』



最も声高にインデックスの安全を主張する筈の男が、静かに賛同の意を示したからだった。

彼がどうして、庇護すべき対象を危険に晒す可能性のある日本行きに賛成したのか。


(ステイル、あなたは、私の為に)


ステイルは、自分と上条当麻を引き会わせる為にあらゆる苦難を被る事を。


(私が、とうまと向き合うチャンスを作る為だけに)


――――既にあの時、決意していたのだ。


それを悟った時、インデックスは踵を返して彼の無上の愛に甘えたくなってしまった。

この終わりの見えない懊悩が終わる瞬間から逃げ出して、彼の胸に飛び込んでしまいたかった。

93 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:25:44.84 ID:Ky/G7vJy0


「………………うん、行ってくるね」


しかし、逃げる訳にはいかない。

このままではインデックスは彼に、偽りの、贋物の愛しか傾けられない。

それはステイルの誠心を著しく乏しめる行為だ。

だからこそ、どんなに苦しくとも前に進まなければならない。

一歩踏み出す。



  T P I M I T S P F T
「これよりこの場は彼らの隠所と化す」




そう唱える声を最後に、ステイルは蝋燭を吹き消すように気配を絶った。



「…………じゃ、あんたも行ってらっしゃい」



インデックスが一人で歩み出すのを見て、美琴が上条の肩をポン、と叩いた。

美琴はくるりと二人に背を向けて、真理に何事か語りかけながら青空を眺める。

インデックスと美琴の視線は、一瞬たりとも交わらなかった。

94 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:27:10.58 ID:Ky/G7vJy0


「とうま」


そしてまた上条当麻も、一歩ずつ、足の裏で大地を噛みしめるように進む。


「インデックス」


己の呼びかけに答えて、羽のように軽やかに名前を呼んでくれた。


一歩。

一歩。

一歩。


やがて二人は、大扉の真正面で出会う。

今にも密着しそうなその距離、十五センチ。

インデックスはかつてよりだいぶ背の伸びた青年を見上げた。


「とうま、聞いてくれる?」


誰かを守るために闘って闘って、その度に傷を刻まれ続けた逞しい肉体。

どんな権力や暴力にも屈さない生き様を体現したかのようなツンツン頭。

時に敵を慈しみ、時に味方さえ喝破して、感情のままにくるくる回る表情。

95 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:28:16.15 ID:Ky/G7vJy0


「なんだ、インデックス」


胸の奥から湧き上がる信念を、何よりも強く、如実に映し出す瞳。

そしてインデックスを、御坂美琴を、星の数ほどいる何処かの誰かを、

ひたすらに苦境から、不幸から、地獄から、引きずり上げてきた右腕。





その全てが、インデックスには無性に愛しかった。





わだかまり続けていた上条当麻への想いを晴らすために来たこの街で、

しかしインデックスはステイル=マグヌスといくつもの昼と夜を越えた。

ぶつける感情を避わさず受け止めてくれるようになった彼に対して、

何度言っても己を守るために無茶を重ねてしまうステイルに対して、日増しに想いは募っていった。

上条への思慕を、このまま行けばすんなり諦められるのではないか。

ステイルの手を初めて握って、握り返してもらったあの日、確かにインデックスはそう思った。

96 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:30:26.25 ID:Ky/G7vJy0











しかし、それは叶わぬ夢(げんそう)だった。






「インデックス=ライブロラム=プロヒビットラムは、上条当麻を愛しています」







97 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:31:55.09 ID:Ky/G7vJy0


ステイルへの恋慕が募れば募るほど、上条当麻への想いも何故か同時に膨らんでいった。

二つの風船は熱情を吹き込まれて際限なく膨れ続ける。

彼女の身体は二人の男性へと勝手に注がれる愛と、罪の意識で、破裂する寸前だった。



「十一年前のこの日、『あなた』に初めて逢ったあの日から、
 学園都市で過ごした五年の間も、ロンドンへ“渡って”からの六年も」



インデックスは、あまりに『愛』の広すぎる女だった。

善にも悪にも富める者にも貧しい者にも分け隔てなく愛を与える事のできる、

聖書に説かれるような『無限の愛』の持ち主だった。

だから上条当麻という少年が目の前に現れた時、

その広大な愛をたった一人の男性に向ける事に戸惑い、持て余した。

かくしてインデックスは、御坂美琴との恋の鞘当てに敗れた。

本人も理解していない彼女の本質を、十二年間彼女の為に生き続けてきた男は知っていた。

そして、もう一人。



「ずっとずっと、あなたが好きでした」



今こうしてインデックスが、砕けるさだめの愛を消え入るような声で告げているのは、

皮肉にも彼女の愛の正体を見抜いてしまった恋敵に、背中を押されたからだった。

98 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:34:09.48 ID:Ky/G7vJy0


(みこと)


気を抜けば鎌首をもたげそうになる『ある感情』を必死に殺しながら、

決して長くはない、しかし凝縮された思いの丈を絞り出し終えて、インデックスは呼吸を大きく乱していた。

懺悔にも似た告白の間、上条は瞬きせずにじっと彼女の翠玉と射線を重ねていた。

だが数多の対峙者にその信念をぶつけてきた弾丸は、何時まで経っても銃口から放たれなかった。



「とうま」



最後に、あと一度だけ。

それでこの想いを捨て去ろう。

身震いしながら決意したインデックスは深呼吸を繰り返す。

息を整える間も、上条は一言も発さず、ただ彼女を見つめていた。



「インデックスは、あなたを一人の男性として、あいしています」



全てを告白したインデックスは瞼を下ろす。

そうして、十年越しの愛が真に破れる瞬間を待った。

99 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:35:01.11 ID:Ky/G7vJy0




待って、




待って、












待ち続けて。


















100 :第二部 エピローグ② [saga]:2011/10/02(日) 21:36:37.42 ID:Ky/G7vJy0



「ああ、俺もだ」



目を見開く。

耳がおかしくなったのかと思った。











「お前を一人の女として愛してる、インデックス」












全身に走った、締め付けられるような痛み。

それでインデックスはようやく、自分が上条当麻に抱き締められている事に気が付いた。




108 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:36:49.14 ID:8dWE3JNo0


日本に渡って、最初の夜だった。


『私はね、みこと。まだ、とうまを――――――未練がましく、愛、してるの』


インデックスが醜い『熱』を告白したその瞬間、美琴は。


『――――――――』

『え…………?』


倒れ込むように、純白の法衣にすらりとした身体を密着させてきた。

第三者がいれば、美琴がインデックスを抱きしめているようにも、その逆にも見えただろう。

インデックスは言葉を失い、そろそろと真横にある美琴の耳元に視線を移す。


『………………あとちょっとで、謝っちゃうところだったわ』


心臓が、大きく跳ねた。

上条当麻を射止めた“女”に同情丸出しの謝罪をぶつけられたら、

インデックスはより一層醜い激情を暴露して、更なる自責の念にかられていたかもしれない。

その事を上条美琴は、あるいはインデックスよりも正確に理解していたのだ。


『そうよね、忘れられる訳なんて無いわよね、あんな無茶苦茶な男。
 私だって、当麻以外の男に焦がれてる自分なんて想像できないもん』


それは、同じ男を愛したが故の極めて精緻な共鳴だった。

インデックスは美琴が彼から貰う幸せを自分の喜びとして捉えられたし、

美琴はインデックスが彼に抱くどうしようもない愛惜を自分の悲哀として受け止められた。

109 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:37:53.48 ID:8dWE3JNo0


『ねえ。あなたは六年前、イギリスに帰る前にちゃんと当麻に告白した?』

『そ、そんな事できるわけないんだよ! だって……』


過去を問うてきた美琴に息せき切って言い返そうとして、

インデックスはその先の言葉を六年間飲み込み続けてきた自分を発見した。


『だって?』

『だっ、て………………』




――だってとうまには、私の事を忘れて幸せになって欲しかったから――




たったこれだけの胸中を、今までインデックスは一人を除いて誰にも晒した事がない。



忘れて欲しいのに、忘れて欲しくなかったから。

忘れたいのに、忘れたくなかったから。



二律背反する命題に苛まれて複雑にねじ曲がった懊悩が心にもない、

否、心の底からの咆哮を導いてしまわないか、恐れていたからだった。

黙りこくったインデックスに、美琴が眦を下げた。


『…………インデックス、提案があるわ。
 私には、これ以外にはない、と思える「あなたのやるべき事」が見えた』

110 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:39:16.82 ID:8dWE3JNo0


『それ、それって、私がとうまを諦める方法、って事?』


美琴は正しい。

それはインデックスにも理解できていた。

この想いは六年前に決着がついていてしかるべきだったものであり、

先延ばしにすればするほど身動きがとれなくなってしまうだろう。

冷徹で残酷な、しかしインデックスの事を心から慮っている提言だ。

それでも『ある感情』が内側で胎動を始めるのを、彼女にはとても止められなかった。

美琴がそっと触れ合っていた体温を押し離す。



『当麻に、告白しなさい』



そして正面から向き合ったインデックスに、心の臓を貫くような雷光を解き放った。

インデックスは再び言葉を失って、だらしなく口を開け閉めするので精一杯だった。


『私の存在も、ステイルの存在も関係なしに。
 当麻に、いまあなたが抱えてるこんがらがった心情の“全て”をぶっつけるべきよ』

『玉砕、しろって、こと?』

『………………………………そう、なるのかしらね』

『…………ぁ、っ!!』


そこから先は、よく覚えていない。

酷い暴言を吐き出してしまう前にソファを立って、バスルームに向かったような気がする。

結局その後インデックスと美琴がこの話題を蒸し返す事は、七月十九日まで一度たりともなかった。

111 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:40:36.32 ID:8dWE3JNo0

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あの時の美琴の、どこか遣る瀬無いような表情を今更ながらに思い出して、

インデックスは自分がどこまでも救いようのない女なのだと悟った。

共鳴の中でも、響いてこない音がある事に気が付かなかった。

己の懊悩にのたうつばかりのインデックスはステイルの決意に続いて、

美琴の、大好きな妹分の厚意を、好意を、見過ごしていた。


「愛してる、インデックス」


インデックスの邪恋も甚だしい告解に、愛する夫がどう応えるのか。




(みことは、最初から、知ってたんだ)




五年間、最も多くを共に過ごした彼女が気付いていない筈がなかったのだ。


「あ、あ………………と、とう、ま」


ずっとずっと魂の根源から求めていた男性(ひと)に、自分はいま抱かれている。


(そっか。今日は、『歩く教会』じゃ、ないんだ)


良く考えれば再び日本の地を踏んでから、当麻に初めて触れてもらった。

二人を隔て続けていた純白の衣を、花嫁の為に今日だけは脱ぎ捨ててきたからだ。

もう、何一つ障害などありはしない。

このまま彼の温かな心の海で溺れてしまいたくなって、インデックスはゆっくりと瞼を下ろした。

112 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:41:26.37 ID:8dWE3JNo0



















『行っておいで』





「――――――――――――――――――――ッッ!!!」




113 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:42:57.60 ID:8dWE3JNo0


これだ。

これだから、インデックスという女は救われないのだ。

つい先ほど鼓膜の奥に刻み込まれた声を聴いて、

身を委ねていた大海は瞬刻すら待たず、底なし沼へとその姿を変えていた。

肌を火照らせ、同時に湿らせる、恥知らずの微熱だけは変わらぬままに。

しかし、このまま浸っていれば――――


(これ以上、この熱に身を委ねてたら)


美琴は、真理は、彼は、どうなってしまう?

解りきっている事だ。



破滅。



こんなつまらない女が一時の快楽に身を任せようとしたために、

大好きな『家族』を破滅に追いやりかねない。

美琴と真理の輝かしい未来に、永久に拭えない泥を被せてしまう。

当麻が家族を捨てる可能性など億が一にも産むわけにはいかない。



そして、“彼”はおそらく一生――――――



114 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:43:57.22 ID:8dWE3JNo0





「とうま! 離してッ!!!」





懇願は、絶叫となって広々と晴れ渡る蒼空に抜けていった。

身を捩って、愛する人の拘束を振り払おうとする。


「離して、離してっ、離してえ!!!!」


求めていたものを自ら遠ざける行為が、

抱かれる身体の更に内側の、心臓まで締め付けているようだった。

しかし、今すぐにでもこの爛れた熱を手離さなければ、待っているのは――


「なんでぇ…………?」


それでも。

愛を告げた女性の嘆願が空気を鋭く裂こうとも。




「どうして、離してくれないの、とうまッ!!!」




上条当麻はインデックスを狭い檻に閉じ込めて、放とうとはしなかった。

115 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:45:00.53 ID:8dWE3JNo0


「『どうして』、か」

「………………え?」


膂力で女が男に敵う筈もない。

インデックスが体力尽きて抵抗を中断した時、上条が頭上で囁いた。


「そりゃ俺の台詞だ、インデックス」


女は腕の中に閉じ込められているため、男の表情を窺い知る事はできない。


「どうしてお前は、俺に離して欲しいんだ?
 どうしてお前は六年前、何も言わずに行っちまったんだ?」


「とうま、なにを」







「どうしてお前はいつも、大事な気持ちを胸に溜めこんだまま――――逃げようと、するんだ?」







116 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:47:09.18 ID:8dWE3JNo0


浸かっていた沼が零下まで冷え込んだ。

肺の奥底から絞り出されたような声が、明らかに糾弾の色を帯びていた。


「――――逃げた? わ、私が?」

「ああそうだ。六年前、突然お前はロンドンへ“行く”なんて言い出した。
 俺と美琴は必死で説得したけど、お前は他には何も言わずにただ笑うだけで。
 そうやって、学園都市を去っていった。逃げたんだ、お前は」


一度も己に向けられた事のなかった、上条当麻の心底からの憤怒。

インデックスは言い知れぬ恐怖感に身を縮こませる。

すると彼女の反応を感じ取ったのか上条は、遂に両腕の力を抜いてインデックスを解放した。


「俺には、お前を追いかけるって選択肢もあった。でも俺は、美琴を選んだ後だった。
 その上ロンドンにはお前の事を一番に考えてくれる奴が二人もいる」

「――――――俺も、逃げたんだ」

「世界で一番守りたい女の子への気持ちに、立ち向かう事を止めて逃げたッ!!」


語気は少しずつ弱まっていき、しかし最後に後悔の念を孕んで爆ぜる。

それでもインデックスは動けなかった。

恐ろしくて彼の顔を見上げられなかった。


「俺はずっと、お前の事で悩んでた。今でさえ、一人の男としてお前を守ってやりたい。
 お前は俺を愛してくれてて、俺はお前を愛している」


愛している。

たとえ嘘でも、そう言ってくれて嬉しかった。

たとえ嘘でも、告げさせてはいけない言葉だった。

インデックスが蒼白になりながら面を上げると、彼は自嘲するように微笑んでいた。


「それでも」
117 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:47:55.90 ID:8dWE3JNo0





「俺は、お前の気持ちにはどうしても応えられない。
 家族を、美琴と真理を愛する気持ちは、幻想なんかじゃ決してあり得ない真実だから」





それこそ、インデックスが一番欲しくない言葉だった。

















そして、上条当麻に一番告げさせたかった言葉だった。



118 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:50:04.81 ID:8dWE3JNo0


終わった。

インデックスの初恋は、完膚なきまでに破れた。

これで、良かったのだ。

――――――なのに。


「これが俺が六年前、お前から逃げ出した挙句に、伝えられなかった言葉さ。
 なあインデックス。お前の澱は、あれで本当に全てなのか?」

「やめ、て」




それでも上条当麻は内側で鼓動する信念のままに、前進を止めようとはしない。


「もう、終ったの。とうまにはみこととまことがいるから、
 もし本当に私を愛してくれているんだとしても、どうにもならないんだよ。
 そんな事は、最初から、ずっと昔から解りきってた!! 
 なのに、とうまもみことも―――――――っ、もう、もういいでしょ!?」


インデックスは、それを死に物狂いで押し留めようとする。

そして――――


「今、口ごもったよな。何を言おうとしたか、教えてくれないか」

「放っておいてよ!! 私は今日ロンドンに帰って、もう二度とこの街には来ない!
 もう二度と、あなた達家族の邪魔はしない!! それで、それで良いじゃない!!」

「俺が、俺たちがいつ、お前が邪魔だなんて言った?
 俺たちはお前が望むなら、いつだって傍に居てやる」

「――――――――――――ぁ、わ、」

119 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:51:52.23 ID:8dWE3JNo0



痛切な叫びを包み込むように男が放った一言が、とうとう女の触れてはならない琴線を断ち切った。



「私は、もう………………あなた達の傍になんか居たくないのッ!!!」


やめろ。

 
「とうまと、みことと、まことが、家族そろって幸せそうに生きてる光景が」


言うな。








「妬ましくて妬ましくて、仕方がないのッッ!!!!!」








それこそインデックスがこの二ヶ月間、闇の中深く深く深く深くに埋めて、

一度たりとも、億尾にも出そうとしなかった、偽らざる本心だった。

120 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:54:03.44 ID:8dWE3JNo0



「どうしてとうまは、みことを選んだの?」



御坂美琴が、綺麗で、真っ直ぐな、上条当麻に良く似た瞳をしていたからだ。

時に同じ方向を向いて、時に背を預け合って闘える、そんな二人だったからだ。



「どうしてみことは、私からとうまを奪ったの?」



笑わせるな。

上条当麻は、誰のものでもなかっただろう。



「どうしてとうまは、私の気持ちに気が付いてくれなかったの!?」



インデックスには、この『愛』をどう扱っていいか解らなかったからだ。

ライバルを慮るなどという名目で、あらゆる意志表示の手段を自ら放棄したからだ。



121 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:55:15.61 ID:8dWE3JNo0



「もっと、美琴が嫌な子だったら良かったのに!
 思う存分嫉妬して、憎めて、とうまを躊躇いなく奪いにいけるような、
 どうしようもない娘だったら良かったのに!!」



どうしようもない女は、どっちだ。



「もっと、あ、あの人が、卑怯な人間だったら良かったのに!
 私の隙間に付け込むような、意地悪で、穢くて、卑劣な人だったら!!
 強引に、私をめちゃくちゃに壊してくれれば、こんな思いせずに済んだのにいっ!!」



挙句の果てに、世界中のどんな宝石よりも己を大事にしてくれる男性(ひと)まで乏しめる。



「とうまが、みことが、私が、私は…………私はぁっ!!!」



インデックスは心の底に沈めた澱を掬いあげた。




そして心の底の底から、自分という女の救いようのなさに絶望した。




122 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:56:42.70 ID:8dWE3JNo0

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上条当麻は、妻から何一つ教えられてはいない。

『女同士の秘密』とやらも、先刻美琴が自分の肩を叩いた事も、

全ては上条のあずかり知らぬ流れの中で起こっていた事だった。

それでも、最後の最後にステイルが背中を押しただけでは、

インデックスが一人で歩き出せなかっただろう事は想像がついた。


(お前ってつくづく自分を追い込みたがる女だよな、美琴)


それほどに美琴も、このシスターが大好きだったのだろうと上条は思う。

愛すべき家族。

護りたい、泣かせたくない特別な女の子。

そのインデックスは、いま。




「ごめんなさい、ごめんなさい。こんな事、言うつもりじゃなかったの。本心じゃないのぉっ!」




泣いていた。

絶望に打ち震え、膝をつき、さめざめと昏く冷たい涙を地面にこぼし続けていた。

口内に鉄の味が広がる。

いつの間にか上条は、千切らんばかりに唇を、舌を噛みしめていた。

123 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 21:59:07.18 ID:8dWE3JNo0


「違うよ、インデックス。それが、それこそがお前の本音なんだ」

「違う違う違う!! こんなキタナイ、腐った事、私は考えてなんかない!
 私はとうまもみこともまことも大好きで……だ、大好きだもん!!」

「お前が俺達家族を大事に思ってくれてる事を、疑ったりなんてしないさ」

「だったら、だったら解ってくれるよね? さっきのは真っ赤なウソなの。
 お、思わず、心にもない事言って、私、ごめ、ごめんなさい」


どもりながら、首を横に何度も何度も振り続けるインデックス。

正視を避けたくなるほどに、彼女は憔悴しきっていた。

ベールはとうに脱げ落ち、心なしか色褪せて見える銀髪は乱れている。

見る者が見れば、緊張型の統合失調を発症していると判断するだろう。

前髪が幽鬼の様な表情を浮かべる顔にかかるが、それすらも息を飲むような美貌を演出していた。


(インデックス…………)


一刻も早く、そのかんばせに光輝く笑みを取り戻してやりたい。

逸る気持ちを抑え込みながら上条は、なにが彼女の為になるのかを第一に考える。

どんな相手にも自分勝手な『独善』を叩きつけてきた『上条当麻』らしくないな、と頭の片隅で呟きながら。


「好きな相手だからこそ、妬むんだろ。
 誰かを大切に思う事と、嫉妬心を抱く事は、何も矛盾なんかしてない」


それはきっと、相手がインデックスだからなのだろう。

他の誰が、たとえ美琴が相手だろうと、説諭にこれ程慎重になる事はない筈だ。

124 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 22:01:27.53 ID:8dWE3JNo0


「お前は………………妬む心がありふれたものだっていう
 『当たり前』から目を逸らして、堕落したものだと思いこもうとしてるんだ」

「あ、はは。とうまがそんな難しい言葉を使うなんて、びっくりしたんだよ。
 でもね、我らの主は既婚者に対して、恋焦がれることさえ不貞の罪として断じてるの。だから」

「――――だから、自分は罪人だって言いたいのか?」

「…………っ」


インデックスはゴクリと喉を鳴らす事で、たった今吐いた自嘲が自白だと認めてしまった。

頑として自身の奥底に向き合おうとしないインデックスに、認めさせる事に成功した。

理性的な思考力を取り戻したようでいて、彼女は上条の簡単な誘導尋問すら見抜けていなかった。


「その様子だと、自覚が無かったんだな」

「そん、な。私…………?」


上条は涙さえ涸れ果てた女の前に片膝を折って、一つ一つ言葉を選んでは柔らかく放つ。


「もう一回、よーく観察してみろよ。世界で一番鮮明な、お前のアルバムのページを捲ってみろよ。
 どんな時に、誰が、どんな顔をして、どんな声で、どんな風にお前のレンズに収まったのか。
 その時に、お前は、どんな目をして、何を言って、何を感じたのか。
 全部全部思い出して、もう一回、お前が存在を認められなかった感情を見極めろ」


肩にそっと左手を置く。

今度は、背中に腕を回す必要はなかった。


「それでもまだ、お前が自分の心を許せないって言うのなら」


インデックスの虚ろな瞳の前に、上条は右の掌を翳す。

かつて『上条当麻』が、少女を地獄から引きずり上げた右腕。

くすんだエメラルドに、微かに生気の光が帰ってくる。

125 :第二部 エピローグ③ [saga]:2011/10/07(金) 22:03:05.65 ID:8dWE3JNo0











「そんな幻想は、俺が壊してやるからさ」













131 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:38:10.99 ID:r1vkQCkc0


一昨年の誕生日に贈られた懐中時計の蓋を開けて、インデックスは驚愕した。

十年間溜めに溜めた想いを目の前の男にぶつけてから、まだ十分しか経っていない。

教会脇の、純白に塗装された木製のベンチに腰を下ろして、

インデックスは学園都市を訪ってからの諸々を滔々と物語り続けていた。


「イギリス清教からのお礼金の話、覚えてる?」

「ああ…………本来受け取っていいようなものじゃなかったんだけどな」

「とうまにとって、私は家族だから。五年前と何も変わらない顔で、そう言ってくれたよね?
 それを聞いて私、泣きそうだったんだよ? 気付いてた?」

「………………悪い」

「期待なんてしてないよーだ」

「だから、悪かったって」

「…………今思えば、あの時目の奥からせり上がってきたのは喜びだけじゃなかったんだ。
 どう足掻いても、頑張っても、私はとうまの『家族』以上にはなれないんだっていう、悔しさ」


その時は結局、気が付かないふりをしてただ涙粒を殺し、微笑むだけだった。

防衛本能、だったのかもしれない。


「とうまとみことが、玄関先でキスしてるのを見た時、嬉しかった。
 二人が幸せそうで、私も幸せだった。これは、嘘なんかじゃないんだよ」

「疑ったりなんかしねえって言ったろ? ……見られてたのかと思うと、恥ずかしいけどな」

132 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:39:07.07 ID:r1vkQCkc0


「ふふ…………でもね。その時同時に、胸じゃなくて、喉がちょっとだけ痛んだの。
 朝ご飯は焼き魚だったから、小骨が刺さったんだろうな、なんて割と本気で思ってた」


泣きたかった、悔しかった、痛かった。


「二人一緒にお仕事に出かけて、まことを私に託してくれた時。
 腕に抱いたあの子の重さが、そのまま二人の信頼の大きさみたいに思えて。
 まことが無邪気に笑ってくれると、何故だか鼻がツン、ってしたの」


嬉しかった、くすぐったかった、むず痒かった。


「ああそうそう、私があくせられーたの家に泊まった日だけど、
 あの露骨すぎる気遣いは流石のとうまでも分かったよね?
 …………あの日の夜、とうまとみことは今ごろ何してるんだろうってモヤモヤしてたの。
 自分でお膳立てしておいて、勝手に嫉妬なんて変…………そっか、私、あの時にはもう……」


苦しかった、切なかった、妬ましかった。


「一回だけ私の方が遅く帰って、三人におかえりって言ってもらった日があったよね。
 るいこやくろこを困らせた私にみことがカンカンになって、ホント大変だったんだよ。
 …………ああ、みことは良いお母さんなんだなぁって、ちょっと感動しちゃった」


温かかった、誇らしかった、羨ましかった。


「みこと達と三年前の結婚式の話題で盛り上がった事もあったなぁ。
 式より『後』に色々大変な事が起こり過ぎて色褪せちゃってたけど、
 あの時の私は、今よりずっと素直に泣けてたのかもしれないね」


楽しかった、懐かしかった、悲しかった。


「とうまの歌を聞いてみことが泣きだしちゃった時なんて…………。
 大好きな人の胸で泣けるみことが、羨ましくて、破裂しそうだったの」


微笑ましかった、狂おしかった、張り裂けそうだった。

133 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:41:07.12 ID:r1vkQCkc0


相反どころではなく、何重にも入り組んだ感情の迷路を解きながら、

インデックスは記憶に伴う情動の全体像を、ゆっくりゆっくり掴んでいく。

上条はその間、何も言わずにただ見守ってくれた。

許された時間が十分を切った頃、ついにインデックスは彼の顔を真正面から見据えた。


「………………わかったよ、とうま。認めるんだよ。
 私は上条当麻が、上条美琴が、上条真理が、三人揃った上条家が好き。大好き。
 これだけは絶対不変の真実だって、信じて欲しい。
 ……………………でも、でも、辛いのも一緒なの。
 心臓が、いっそ止まっちゃえばいいのにって思えるぐらい、苦しいの、痛いの」


俯瞰し直した自身の醜い熱は、羨望と悋気を足して二で割ったようだった。

上条の言うとおり、己の想像ほど醜く見苦しいものではなかったかもしれない。

慙愧の念が、ほんの少しだけ安らいだのを感じた。


「…………よく、今まで堪えたな」


かぶせ直してもらったベールの上から頭をポン、と優しく叩かれた。

しかしインデックスの心臓を尚も焼けつかせる熱は、

彼女自身の依怙が纏わせたグロテスクな鎧を脱ぎ捨てて、一層燃え上がっていた。

134 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:42:08.56 ID:r1vkQCkc0


「ううん……気付かないふりをしてただけなんだよ。じっくり向き合って、
 “それ”が何なのかに気付いちゃったらどうなるか分からなくて、怖かったの。
 大きすぎる感情に振り回されて、私が私じゃなくなっちゃいそうで、だから、私!」

「そんなでっかい気持ちを、見過ごしたりできるもんなのか」

「…………きっと、大きいからこそ、直視するべきじゃなかったの。
 人は大事な気持ちほど、心のより内側に閉じ込めるものでしょ?
 私にとっては、この思いを誰かに知られちゃう事が、どんな問題より重要で」











「待てよ、インデックス」

「え?」


強い制止の声。

怒りではないが、慈しむものでもない。

上条当麻という男にはまるで似合っていない、冷たく真実を突きつける声。


「…………だったらさ、お前が“我慢しなかった”気持ちってのは、
 俺達に向ける嫉妬に較べりゃ、小さいものだって言うのか?」

135 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:43:20.50 ID:r1vkQCkc0

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「我慢、しなかった気持ち…………? 
 い、言いにくいけど、日本に来てから私はたくさんの隠し事をしたんだよ。
 大変な事ほどひた隠しにして、とうまの言うとおり、目を背けたの」


インデックスは冷静だった。

冷静に、沈着に自分の内面と向き合って、感情を整理して。

その上で――――本気で気が付いていないのだな、と上条は思った。


「わからないか? ヒントはお前自身の言葉の中にある」

「え? え?」

「“ある”っていうか、“ない”んだな。
 お前の物語には、不自然に欠落した登場人物が、本来なら出てくる筈なんだ」



『まことを“私”に託して』

『“私”があくせられーたの家に泊まった日だけど』

『“私”の方が遅く帰って』



「“お前達”は、いつだって寄り添って日々を越えてきたじゃないか。
 どうしてその名前をさっきから呼ぼうとしないんだ?」


本棚に綺麗に収められた無数の感情の中で、ただ一つ行き場を失った熱。

たった今彼女の心で、隠れて燻っている炎の名を、上条当麻は万感の思いを籠めて呟いた。

136 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:44:20.14 ID:r1vkQCkc0





バトンを、今こそ渡す時だ。








「その懐中時計、ステイルが持ってるのとそっくりだよな」








「………………………すて、いる?」







137 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:45:24.54 ID:r1vkQCkc0


未知の単語に触れたようにたどたどしく発音した女の頬に、はっきりとした赤みが差す。

この道は間違っていなかったのだと、上条は確信した。


「土御門から聞いたよ。誕生日のお返しに、お前がお揃いのヤツをステイルに贈ったって。
 さっきあいつが土御門と兄弟みたいに接してた時のお前の顔、写真に撮っとけばよかったぜ。
 ステイルの隣に自分以外の誰かが居るなんて認められない。
 ――――――そういうおっかない顔してたんだぞ、お前」


それだけでは勿論ない。

理事会ビルで彼女は、ステイルが食蜂に恭しく名を尋ねただけで眉尻を上げてみせた。

青髪や、一方通行、打ち止めたちも嘆息するほどに、

この科学の街のいたる所でインデックスは、ステイルを懸想しては突拍子もない行動に出ている。

そこまで強く狂おしい想いから目を背けてまで、幸せから遠ざかろうとする彼女が上条には許せなかった。


「神様が許してないからって理由で秘めた気持ち。それもでっかいもんだろうさ。
 でも、ひとりでに滲み出してくる気持ちの方も、もう一度だけ見つめ直してみろよ」


忍んだ想いと、忍びきれずに発露し続ける想い。

足し引きできるような単純なものでない事はわかる。


「較べてみろよ。重さがなくても、手に持ってみろ。形がなくても、測ってみろよ。
 自分の心から目を逸らさずに、その上でお前が出した答えになら、もう俺は何も言わない」


だが、隠しきれずに滲みだすインデックスのステイルに向ける愛が、

そうでないものに劣っているなどとは、上条にはどうしても思えなかった。


「インデックス。お前は自分自身の、ステイルへの愛の大きさを、過小評価してないか?」


138 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:46:25.49 ID:r1vkQCkc0


そこまで一息に吐き出すと、上条は立ち上がって蒼穹に浮かぶ陽に向かって目を細めた。

これ以上は、いけない。

これ以上の誘導は彼女の意思そのものまで捻じ曲げかねない。

上条はインデックスの、『聖女』という名の衣を剥いで心の深奥を曝け出させた。

しかし『聖女』が『ただの女』として振る舞うのは、自分の前であってはならない。

できるだけの事はやった。

後はインデックスが出す答えを、満身で受け止めてやるだけだ。


(インデックス)


十一年前の七月二十日、自分ではない『偽善使い』が

彼女と出会ったのだと言う事はだいぶ前に知らされていた。

上条自身、あの二人に負けず劣らずの壮絶な葛藤に苦しんだ時期があった。

そしてそれを自分の脚で踏破したからこそ、今があるのだ。


(俺の、大切な)

                             いま
二度とは戻れない過去の上に積み上げられた、現在が。




「ありがとう、とうま。私の本当の心を、見つけてくれて」




過日の懊悩に思いを馳せていたのは、刹那の間だけだった。

そのあまりにも短すぎる時間で、インデックスは一つの解を見つけたようだった。

139 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:47:17.39 ID:r1vkQCkc0





「あなたが好き」


























「でも今は、すているがもっと好きなの。愛してるの」




140 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:51:57.06 ID:r1vkQCkc0


「二つの気持ちを、どっちが上で、どっちが下かなんて、較べた事なかった。
 『愛』は、天秤にかけちゃいけないものだと思ってた。
 …………でも、いつかはそうしなくちゃいけなかったんだね。
 それがどんなにすているを、とうまを侮辱するような行為でも、選ばなきゃいけなかったんだね」


「なんにも、急ぐ必要なんてないぜ。ゆっくり、確かめよう。
 ステイルのどんなところが好きなんだ? 俺の知らない面もいっぱいあるんだろうな」


「……好きな食べ物を前にしてそわそわしてる顔も、私の膝の上ですやすやお昼寝してる顔も。
 それから、子供っぽい負けず嫌いの顔も、大人っぽい頼れる顔も、努力してる顔も、怒った顔も。
 私にしか見せてくれない優しくはにかんだ顔も、ぜんぶぜんぶぜんぶ、大好きなの。
 あの人の事を、もっと知って、もっと沢山の顔を『記憶』したいの」


「俺よりも?」


「うん、とうまより」


「やっべえ、悔しいな」


「ふっ、ふふ」


「………………やっと、笑ってくれたな」


世界を照らさんばかりの眩い笑みに、そっと上条は手を伸ばした。

太陽とは違って、触れる事ができるあたたかさだった。

その輝きの裏側で何を思い、何を考えたのか、本当のところは上条にはわからない。

ただ一つ、確かな事は――――――

141 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:53:24.20 ID:r1vkQCkc0



「俺の人生の始まりに在った、俺の好きなインデックスの笑顔だ」



「……………………とうま」



少女の人生という歯車が少年に掬い上げられて初めて廻りはじめたように、

少年の人生は、少女に笑っていてほしい、その一念から始まったのだ。

少年と少女は、互いが互いにとっての永遠の“特別”――――――だった。



「お別れだね。私の人生が始まったこの季節、この街で、終わるんだね」


                    ものがたり
「ああ。俺たちが二人で描いてきた 幻 想 は、もう終わりだ 」



成長した少年と少女は、望む望まざるに関わらず、大人になった。

男と女になって、互いに相手ではない誰かを“特別”に選んだ。

ならば、次にやるべき事も決まっている。



「インデックス」



「とうま」



142 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:54:13.85 ID:r1vkQCkc0





   「俺の傍にいてくれて、ありがとう」            「私と一緒にいてくれて、ありがとう」





  「俺を好きになってくれて、ありがとう」            「私を愛してくれて、ありがとう」









                      はつこい                  はつこい
        「さようなら、俺の大事な女の子」   「さようなら、私の大切な男の子」










143 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:55:53.80 ID:r1vkQCkc0

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『人払い』された空間から男が現れるのを視認して、ステイルは術式を解除した。

此方に向かってくる男とは真逆の方向へ、女が駆け出して行く。


(………………あの二人の人生が、心が)


長い交差を遂に終えたのだな、とステイルはぼんやりと思った。






「インデックス……」

「もう、みことってば。なんで…………そんな顔してるかなぁ」


二〇メートルほど先の会話が耳に入る。

インデックスの行く先で、上条美琴が目元を掌で抑えて断続的に嗚咽を漏らしていた。

聖女は腕を伸ばして美琴の頭を下げさせると胸に抱いてあやし始める。


「なんで、みことが泣いちゃってるのかなぁ。普通それって、失恋した私の役目なんだよ」

「だって、だって! あんたが…………インデックスがぁ…………!」

「うん、うん。私の事、心配、してくれてるんだよね?
 そんな優しいみことが、おねーちゃんは大好きだからね」

「ママ、なかないでー……?」


美琴の腕に抱かれたままで二人の女性に挟まれる形となった真理が、

母親の泣き声を聞いて不安に駆られたのか、こちらも涙声で母親を慰める。

その様を、母子の繋がりの強さを目の当たりにして、インデックスの瞳まで潤みはじめていた。

144 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:57:30.79 ID:r1vkQCkc0


「インデックス、真理…………んっ、う、えぐっ」

「ままぁ………………うっ、ええええええええええんん!!!!」

「ああ、もう、泣か、泣かないでよ、ふた…………二人ともぉ…………」


三人の女は身を寄せ合いながらすすり泣いて、青空の下に俄か雨を降らせる。

自分以外の誰かを思いやって流される、優しくあたたかい雨だった。






「レディーを三人も泣かせて。万死に値するね、上条当麻」


女三人寄り添い合っているのでは、抱き締めるために割り込むのも多少憚られる。

それ以前に、あの情景を邪魔するべきではないように思えてきて、

仕方なくステイルは、涙の素をつくった男に対して棘のある声を投げかけた。


「いいんだぜ、一発ぶちかましてくれて」

「…………この上、君への借りを増やしてたまるか」


返す刀に想像していた以上の鬱屈さを見てとって、ステイルは気勢を削がれた。

この男も今日、長年秘めてきた愛に別れを告げたのだと今更ながらに思い出す。


「おそらく彼女は…………そして君も、正しい『失恋』を迎えられたんだろうな」


ステイルは、悟り澄ました穏やかな表情でインデックスだけを見つめて独り言ちた。

友人と義妹の晴れの舞台であることを意にも介せず天を突く頭髪を掻きながら、

上条当麻はそれに対して不貞腐れたように口を尖らせる。

145 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 22:59:20.15 ID:r1vkQCkc0


「なんでわかるんだよ」

「忘れたのかい? これでも僕は、なかなかに救いのない失恋の経験者でね。
 君たちはあの頃の僕が鏡の向こうに見たような顔はしていない。
 なら、少なくとも最悪の形ではないと思うよ。
 …………もっとも、現在の僕は既に半ば以上は救われているんだが」

「惚気てんじゃねーよ」

「昨晩僕に何をやらせたのかよーくそのウニ頭を引っ掻き回して思い出してみろ」


果たしてステイルの言に従ったのか、上条がこめかみに指を当てて唸り出す。

しかし僅かの後にその口腔から飛び出たのは、嫌味に対する切り返しではなかった。


「お前、俺があいつに未練を残してたってのは…………知ってたのか?」


肺が石化でもしたのかと思わせる重く硬い声で、上条当麻は躊躇いがちに問うた。

妻子ある身で、遠くに在りてインデックスを想う。

それは彼にとってもまた、息が詰まるような懸想であったのだろう。


「一月前、僕が心情を晒してもお得意の説教を垂れてこなかった時点で、薄々とは。
 十年前の君の、彼女に対する執着は相当なものだった。それこそ病的なまでにね。
 負けるつもりはないが、それだけは認めてやってもいい。そう思っていた時期もあったからね」

146 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 23:00:44.15 ID:r1vkQCkc0


だからこそステイルは、上条当麻と御坂美琴から結婚式の招待状を受け取った三年前のあの日、

日本まで飛んで上条に詰め寄ったのだ。




『どうしてだ。どうしてあの子を選ばなかった?』




実に無意味な問いかけを、必死で、無様に、何度も繰り返しながら。





「…………やっぱりかよ、お前よく我慢できたな。
 仮にインデックスが俺に靡いて、俺がそれを受け入れちまったらどうするつもりだったんだよ?」

「起こらなかった『仮に』の話をしてどうなる?」

「二時間前はそれでギャーギャー殴りあったじゃねえか」

「…………推測の域は出ないが、僕には確信がある。美琴もおそらく、同じ事を考えていた筈だ、とね」

147 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 23:02:06.05 ID:r1vkQCkc0


上条美琴は、夫の心が十全に自分に向いている訳ではないと知っていたのだろう。

七月二十八日、病院のベッドの上で“生まれて”から五年を、すぐ傍で過ごした少女の存在。

彼女へと上条の心が馳せるのを、時折敏感に感じとっていたのだろう。

その上で美琴は、インデックスの背中も、上条当麻の背中も平等に押した。

出会ってから二月と経っていないというのに、ステイルはそこに上条美琴の“らしさ”を感じて苦笑した。


「………………だから、どうするんだよ」


核心をなかなか切り出さずに一人頷くステイルに、上条が苛立たしげに先を促す。

美琴の性質を考慮に入れればそれほどの難問でもないだろうが、

基本的に絶望的な朴念仁であるこの男に百点満点の解答を求めるのは酷というものだろう。


「決まってるだろ。“奪う”んだよ。君を愛する彼女を、君に愛される彼女を、ね。
 必ず僕の方に振り向かせるべく、破滅的な泥沼に嵌まろうと僕は闘いを挑む」
 

獅子の如く飢えた目つきで、ステイルは上条を睨みつけた。

感情は付随しない。

いざ闘いになれば奪って奪って奪い尽してやるという、剥き出しの野性だけがそこにあった。


「………………美琴も、か」


勿論、実際には闘いになどならなかった。

ステイルの眼光を柳のように受け流した上条の家族への愛は、

この五年でインデックスへのそれを明確に上回っていたのだから。


「美琴も、土俵に乗るか乗らないかはあくまで君たちの心に委ねた上で、
 “その時”がくれば彼女から君を奪い返すための、正々堂々の勝負を望んだだろうね」

148 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 23:03:08.20 ID:r1vkQCkc0


「………………はぁ。美琴のフェアプレー精神にも困ったもんだ」


呆れて特大の溜め息をつきながら、上条は妻をみやった。

流石に落ち着いたのか、美琴とインデックスは和やかに談笑している。

それはとてもとても美しい情景で、聴衆がいたなら百人中百人が大団円だと拍手するだろう。




「俺は間違いなく、俺に伝えられる全てをあいつに伝えられたって確信してる。
 …………だけどな、まだ。インデックスにはまだ何か、“ある”気がするんだ。
 心当たりはないか、ステイル?」




――――しかし、どこか飲み込みきれない。

心の奥底まであと一歩、ストンと落ちてこなかった何かがあると、上条当麻はそう言った。

そして、ステイル=マグヌスも。


「……………………おそらく、君の感性は正鵠を射ている。少なくとも僕はそう思う。
 そしてそれが正しいとすれば、君の出る幕はもう無い、というわけだね」

「そうだな…………そう、なんだよな」


どうあれ、上条はバトンを“次”に送り終えていた。

ここから先は、受けとった者の――――ステイルの役目だった。

149 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 23:04:50.18 ID:r1vkQCkc0


「さて、俺は一方通行のところに行くかな」


何の気なしに言って一つ大きく伸びをし、上条は脇の小口から教会内へと歩き出す。

神父の長身とすれ違おうとしたところで、小さく小さく、しかし力強く、一言。





          ヒーロー
「後は頼んだぜ、主人公」






――――な? 脇役なんかより、主人公の方がいいに決まってるだろ――――






世界で二番目に気に食わない男の背中を、ステイルは思わずまじまじと見つめた。

もう地球上のどこにもいない、インデックスを助け、ステイルを殴り、

そして消えていった男の声が聞こえた気がして。

たった十日足らずでその存在を自分達に刻み込んでいった、

世界で一番気に食わない男の幻影(かげ)を見た気がして。

150 :第二部 エピローグ④ [saga]:2011/10/10(月) 23:07:02.65 ID:r1vkQCkc0


届けるなら、今しかないと思った。

インデックスが、そして神裂と自分が、終ぞ伝えられずにいた言葉。









「ありがとう、『上条当麻』」









――――どーいたしまして。誰もが望む最高なハッピーエンド、期待してるぜ――――










「……………………やれやれ」


随分と都合のいい幻聴を聴いてしまったな、と天を仰ぐ。

十一年前の七月二十日はどんな空模様だったか思い出そうとして、

ステイルはしばらくの間、空を泳ぐ雲の行き先に思いを巡らせた。





151 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/10(月) 23:13:10.28 ID:r1vkQCkc0

いい最終回だった
そこそこ自画自賛できるぐらいには綺麗にまとまったと思います









でももうちょっとだけ続くんじゃよ

これで第二部(笑)でやりたかった事の99%は消化しました
大本としてあったプロットは
『激情に任せてステイルを説教する一方さん』と
『静かにインデックスを諭す上条さん』の
普通なら逆だろオイ、という二本立てでした
そこに至るまでのあれこれは全部おまけです

あとは蛇足を残すのみ、もうちょっとだけお付き合いくださいな
では次回投下は土曜夜の予定となります
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/10/10(月) 23:15:24.46 ID:Ekqm1w8H0
乙!乙!乙!

うん、パパ○ラシリーズのトラウマが癒されたよ!
俺もこういうのが書きたかったなあ。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/10(月) 23:20:19.52 ID:xUW6YTVAO
泣けるね
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 23:28:04.42 ID:A/AW4rUL0
乙! まさに天晴れな幕引きでございました!  残すエピソードも愉しみにお待ちします
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 00:32:24.72 ID:VHHcRbpno
そうだよなぁ
この物語の主人公はステイルで、ヒロインはインデックスなんだよな
それなのに、それ以外のキャラは脇役の筈なのに、なんでここまで丁寧に描写しきれるんだろうね
おかげで毎回とても幸せですありがとう

159 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/15(土) 22:44:42.82 ID:pgorGjlM0

どうも>>1です

皆さんどうもありがとうございました
いやあ、ハッピーエンドっていいものですね
まあこれから蛇足に入っちゃうわけなんですが↓
160 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:46:36.77 ID:pgorGjlM0


教会の一室を新郎控室として宛がわれた一方通行は、

次々に訪れる来客――呼んだ覚えのない元同僚まで何故かいた――に辟易して、

柔らかいソファに腰まで沈めて一息ついていた。

学園都市に申し訳程度に置かれたレベルの教会にこれ程上質な家具がセットされているのは、

元からこの一室が、というより建屋全体が『挙式』のみを使命とした造りだからだ。


「………………なンだ、ピンピンしてンじゃねェかテメエ」


ギ、と蝶番が微かな悲鳴を上げて最後の来訪者を伝えた。

振り返りもせずに、一方通行は開口一番悪態を浴びせる。


「おかげさまでね。朝から大量の鎮痛剤を飲まされて思わず眠りたくなるぐらいハイな気分だよ。
 医者は二、三日で完治するとは言ってくれたがね」


悪態には嫌味を。

ステイル=マグヌスの見事なカウンターに満足げに口角を吊り上げて、一方通行は腰を上げた。


「ほォ。さすがは『冥土返し』ってところか」

「僕は人体にそれほど詳しくはないが、『治しやすい壊し方』だったらしくてね。
 骨折でもあるまいに、なんと治った後の方が強靭になるというから驚きだ」

「器用なイジメ方だよなぁ、まったく」


癪に障る二ヤケ面を割り込ませてきたのは、本日付で義理の兄になってしまう男、上条当麻だった。


「よう、気分はどうだ、緊張してるか? 進行の手順は頭に入ってるか?」

161 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:47:30.58 ID:pgorGjlM0


「君じゃあるまいし」

「三下じゃあるめェし」

「ひどいよお二人さん!? もしかして俺の事嫌い!?」

「ヘラヘラ笑うなぶっ殺すぞ」

「死ね」

「やだ怖いぃぃ! こんなのを義理とはいえ弟にすんの俺!?」


上条のオーバーリアクションを目の当たりにしながら、一方通行は内心で舌を打った。

この男に緊張を解そうなどという気を遣わせる程度には、自分は平常の顔色ではないらしい。


「万が一そこの花婿の頭脳が花嫁の美しさにフリーズを起こしたところで、
 進行は僕ら二人に従ってくれれば何の滞りもなく進むんだ。安心したまえ」

「チッ。本職の癖にリハーサルに散々時間かけた奴がよく言うぜ」


ステイルまでもが茶番を引き伸ばそうと口を開いたのを見て、今度は声に出して舌打ち。


「自慢じゃないが司式二人の挙式なんて、寡聞にして存じ上げないものでね。
 僕らに言わせれば結婚とは厳粛なる『秘跡』なんだが……まあ、無粋なことかな」

「日本人の信心なンざそンなもンだ。一宗教のトップに形だけの十字教式を
 執り行わせるっつうのも、洒落が効いてて俺は嫌いじゃねェがな」

「そう考えると俺ら、もしかしなくても結構とんでもない事してんだよなぁ。
 …………あ、髪型崩れてら。ちょっと鏡貸してくれ」

「スカスカの頭蓋を考えもなしにシェイクするからそうなるんだよ」

「うるせえ」

162 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:48:51.29 ID:pgorGjlM0


部屋の隅の鏡台に向かう上条と呼吸するように嫌味を放つステイルの間に、

一方通行は比較するように視線を滑らせる。

顔さえ合わせればどつき漫才を繰り広げている二人の男の幼稚な行動は、

昨晩酒を飲み交わした際とまるで変わらない。


「…………やっべ、なかなか決まらねーな」

「いっそ剃髪すればスッキリするんじゃないかい。
 風通しがよくなれば頭への血の廻りの悪さも多少なりとも改善する可能性が無きにしも非ず」

「仏門に入ってその煩悩をぶち殺す! ってやかましいわ!!」


言動は変わっていない。

しかし、何かが上条とステイルの間で変化している。

それは二人の関係性が主体となって変化したものではなく、

各々に“何か”を乗り越えた結果の副産物だと一方通行には思えた。

上条とステイルが共通して抱える“何か”があるとすれば、この世に唯一つだけだろう。


(………………インデックス=ライブロラム=プロヒビットラム)


あの男たちはそれぞれに違う形で彼女の幸せを願っている。

上条当麻は願いを託した。

ステイル=マグヌスはそれを願いから望みへと昇華させた。

そしてまた一方通行も、かの純白の聖女が幸福であれば、と祈った。

『家族』以外の者へと斯様な心願を自分に抱かせたインデックスという女性の性質に、

一方通行は途方もない儚さと逞しさを見出し――――同時に、畏怖した。

163 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:50:21.98 ID:pgorGjlM0


「昨日は色々とすまなかったね、一方通行」


声を掛けられる。

見れば、珍しく群青色の神父服に身を包んだ長躯がすぐそこにあった。

上条は鏡の前で呻きながら、ツンツンヘアーとの長期戦の様相を呈している。


「まったくだ。今日を最後にその面、俺の前に出すンじゃねェぞ」

「司祭役を降りろとは言わない癖に……それより昨晩は花嫁殿と仲直りできたかい?
 何度コールしても出ないから、もしかして何かお取り込み中だったのかな」

「余計な世話焼くな、鬱陶しい。テメエはテメエの女だけ気にしてろ」


辛辣な糾弾に、ステイルは表情を引き締める。

妥協することを知らない信念を、夢を秘めた男の顔だった。


「……………………一方通行。僕は、“引き摺る”と決めたよ」

「そうかい。狡い生き方のできねェ、不器用な神父さンらしい阿呆な答えだ」


期せずして、ステイル=マグヌスは一方通行と同じ道を選んだ。

一方通行も、全身にこびり付いて消えない血の臭いを一生背負っていくと、

地の下で眠る一〇〇三一の躯の前で決意していた。

それは時に目を逸らして逃げ出したくなるような重荷だろう。

だが、それでも歩を止めないと誓った。

一方通行は一人でその荷を背負うわけではないのだから。

164 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:52:22.42 ID:pgorGjlM0


「もう一度だけ言わせてくれ。ありがとう、一方通行」


一方通行は今日、更に先へと進むために人生に一つの区切りを引いて、栞を挟む。


「手前勝手にスッキリした面になりやがって。もう一度だけいうぞ、礼を言われる筋合いはねェ」


ステイル=マグヌスがその線を引く日はまだ先の筈だ。

何もかも終わらせた気になど、間違ってもなるな。

言外に、そして研ぎ澄ませた眼光に意図を籠めて、ステイルを見据える。

伝わったのだろうか、ステイルはゆっくりと小さく頷いてから頬を緩めた。






「そうだね。礼を言うなら君がらしくもなく、
 君にできる最大限の恩義を感じているらしい最大主教に言うべきか」

「おい! 余計な事言いやがったら今度こそ全身の体液っつう体液逆流させンぞォォ!!」


緩めた結果、口から嫌味が飛び出すのはこの神父のライフワークか何かなのだろうか。

ようやく常より鋭く尖らせたウニ頭のセットを済ませた上条も戻ってくる。


「…………意外と、ステイルって友達作るの上手いよな。インデックスが面白くない顔するわけだよ」

「人を没コミュニケーション呼ばわりするな。絶対に許さない。訴訟も辞さない」

「そこまで!?」

「さあて、そろそろ時間だ」

「裁判の!?」

165 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:54:00.96 ID:pgorGjlM0


壁掛け時計に目をやると、時刻は十時半をそろそろ回ろうとしていた。


「漫才はその辺でいいだろォがイノケンブレイカー」

「おい、何だその地方局で燻ってる売れない芸人みたいなコンビ名」

「こいつとバリューセット扱いなんて、僕は死んでも御免被るよ」


心底嫌そうに溜め息を吐いて、ステイルがドアノブに手を掛ける。


「心の準備は万端かい?」

「べ、別にビビってなンかねェンだからな!」

「余裕があんのか本当にテンパってんのか分かりづらいな」

「冷静に分析しないで下さいますかお義兄サマァ」

「…………大丈夫そうだね。そうだ、その白タキシードだけど」

「あァン?」

「絶望的なまでに似合ってないよ」

「うっせええええ!!! 自覚はあるンだよ黙ってろォォォォ!!!!!」


男たちは軽口を叩き合いながら、次々に扉を潜っていく。

先導しながら、ステイルは不良神父らしからぬ慈悲を伴う、よく響く声を発した。

一方通行はこれから昨夜とは真逆に、この男に導かれて一つの『線』を引く。


「さあて、祭壇の前で花嫁を待とうじゃないか――――花婿殿?」

166 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:54:40.02 ID:pgorGjlM0

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「打ち止めー? 居ないのー?」


眼に痛くない程度の彩り鮮やかな装飾に溢れた室内。

ノックの音が響いている事に打ち止めは三度目で漸く気が付き、慌てて声を上げた。


「ど、どうぞ!」

「おじゃましまーす、なんだよ」

「おねーちゃん、きれい!」

「アンタはそんなに緊張しいじゃないと思ってたけど、やっぱ今日は格別、って事なのかしらね」


勢いよくドアが開け放たれて、姉と姪、そして姉の親友が晴れやかな顔で現れた。

三人して、泣きはらしたように白目が赤くなっている。

それらには気が付かないふりをしながら、一方で打ち止めは姉の洞察力に目を瞠った。

あるいは、ノックの回数はもっともっと多かったのかもしれなかった。


「流石のミサカも今日ばっかりはちょっと、ね。
 ………………まあ、一番浮かない顔してるのはお姉様だけど」

「…………っ」

「みこと?」

「ままー?」


口を噤んで唾を飲んだ美琴を、彼女の娘と本日の儀を司る聖職者が揃って覗きこんだ。

真理は今は、インデックスの腕の中で心地よさげにしている。

167 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:55:15.12 ID:pgorGjlM0


「みこと、やっぱりさっきの事で何かあるの? 私のせいで」

「それは違う。断言するわ」


インデックスが然程に察しの悪い女性だとは打ち止めも勿論思っていないが、

自分の懊悩に精一杯で、美琴が抱える別ベクトルの煩悶を見逃していたのかもしれない。

その過剰に自己を卑下する態度に違和感を感じた打ち止めが口を開く前に、

美琴はインデックスの偽悪じみた自責を切って捨てていた。

しかし歯切れが良いのはそこまでで、美琴は目を伏せて次なる言葉を丹念に探り始める。

姉の苦しむ姿を見ていられなくなった打ち止めは、彼女の胸中を遠慮なく暴露する道を選んだ。




「お姉様は、苦しいんだよね。あの人を絶対に許しちゃいけないって枷を自分に課してる。
 でも、私の幸せの為にあの人を許してあげたいっていう気持ちにも挟まれてる」




この十年、彼女と一方通行が一対一で正対する機会が、まるでなかった訳ではない。

ただその中身を一方通行が打ち止めに語った事は、それこそ一度たりともなかった。


「…………わかっちゃうもんなのね、やっぱ」

「みこと……」

「お姉様。私はもちろん、お姉様にもあの人との結婚を祝福してもらいたいの」

168 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:55:51.38 ID:pgorGjlM0


美琴は両目を一度ギュッと、強く瞑ってから瞼を上げた。

やはり姉は、彼を心の奥底から受け入れられてはいなかったのだと、打ち止めは確信を強める。


「許してあげて、お姉様」

「でも、私の心は、アイツの心は、それを望んでなんかいないわ」


美琴の言う通りであった。

一方通行は『赦し』など望んではいない。

美琴が下せるであろう『赦し』は、誰も幸せになどできはしない。

それは打ち止めとて、十二分に承知していた。


「その代わり」


打ち止めは語気を強めて、美琴に反駁すべく一呼吸。






「その代わり、私が一生、許さないから」






美琴のみならず、インデックスまで目を見開いて、驚愕を露わにした。

169 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:56:44.47 ID:pgorGjlM0


「らすとおーだー、今のはどういう」

「私が許さない。世界中の全ての人があの人を許してあげたとしても、
 私はあの人を、一方通行を“許してあげない”って決めたの」


インデックスは困惑して美琴に顔を向ける。

その美琴はと言えば、鬼気せまる覚悟を示した妹の表情を、悲しげに見つめていた。


「あの人は、お姉様と死んだ『妹達』に許される事を、何より怖がってたから」


一方通行が弱音や弱みを曝け出す事は、打ち止め相手ですら滅多にない。

しかし打ち止めには理解できる。

この世の他の誰にも理解されなかったとしても、打ち止めにだけは理解できる。

彼女の人生は、『彼を知りたい』という些細な関心から、好奇心から始まったのだから。


「…………辛い生き方になるわよ、その道は」

「わかってる。でも、それを上回るぐらいの喜びがこの道の先にあるって信じてるから。
 そういう事を望める世界を、お義兄様たちが創ってくれたって知ってるから」


あの人と一緒に笑って生きたい。

死んだ『妹達』に裏切りを罵られようと、

生きている姉妹に恥知らずと謗られようと、その気持ちに蓋などできなかった。

悲しみも喜びも一つのリュックに詰めて、不格好でも二人で背負って、この世界を歩んでいく。

そのための誓いを立てるべく、今日この日、打ち止めはブルーカーペットを進むのだから。

170 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:57:30.11 ID:pgorGjlM0


美琴はまたも瞑目し、形の良い口唇から細く長い吐息を洩らした。

再び目を開いたとき、彼女は軽やかに、そして優しく微笑んでいた。


「私が言う事なんて、もうないわね。我が妹ながら良い女だわ。
 ………………でも、最後に一つだけ、言わせてね」

「なあに、お姉様?」




「すごく綺麗よ、打ち止め。一方通行と、幸せになりなさい」




「――――――っ、うん!」


やっと、本当の意味で認めてもらえた。

一方通行と『妹達』は、御坂美琴の純粋な善意を踏み躙った、あの『実験』の“加害者”だ。

誰が被害者で、誰が加害者なのか。

何が善で、何が悪なのか。

答えは二万通りではきかず、各々の立ち位置次第で目まぐるしく入れ替わるだろう。

だが少なくとも一方通行と打ち止めの認識の中では、自分達が加害者で、美琴が被害者なのだ。


「ありがとう…………お姉様ぁ」


誰よりもあの実験で深く深く傷付いた美琴が、今こうして自分達を祝福してくれた。

待ち望んだ情景に感極まり、瞳に湛えた涙を拭おうとすると、清潔な白布がそっと差し出される。


「お化粧が崩れちゃったら晴れ姿が台無しなんだよ? 気を付けて拭いてね」

171 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:58:15.47 ID:pgorGjlM0


インデックスのふわりとした慈しみを皮切りに、張り詰めた空気が抜けた。


「さっきから微妙に空気だったわねアンタ。さすがメインヒロイン(笑)」

「みことたちが割って入る隙間ないくらいギッチギッチに
 Sisterってるからタイミング逃しただけかも! さすが隙間潰しの得意な行間ヒロイン(笑)」

「ぎょぎょぎょぎょぎょ魚魚魚、行間ちゃうわ!!!
 いとも容易くえげつなく人のトラウマ穿り返すんじゃないわよ!
 新必殺技『十倍超電磁砲』の実験台にされたいみたいねえぇぇぇ!!」

(バトル展開の時に使っとけよ、ってミサカはミサカは内心ツッコミ)

「ふふーんだ、私の『歩く教会』に常識は通用しな………………あ、ああ!?
 し、しまったんだよ! 今日はギャグ補正以外の装備を忘れてきたかも!」

「っていうかシスタるって何用語? ってミサカはミサカは時間差ツッコミ」

「みさかはみさかはー」


女三人なんとやら、とは言うが四者四様に騒ぎ立つと姦しいどころの話ではない。

新たな形容表現が必要になるのではないか、と打ち止めは朗らかに破顔しながらそう思った。





「じゃあ、そろそろ時間なんだよ。私は先に行ってるね」


壁掛け時計があるにもかかわらず懇ろに、そして愛おしげに、

インデックスが懐中時計をさすりながら言った。


「パ……お父さんももうすぐ来る筈よ。他のみんなは挨拶に来てくれたわよね?」

「………………それが、その。あと一人……」


口籠って目を逸らす。

そんな打ち止めの奇妙な態度に、美琴とインデックスは揃って首を傾げた。

172 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 22:59:42.21 ID:pgorGjlM0






「…………番外個体が、まだ来てないの」






173 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 23:01:02.91 ID:pgorGjlM0

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祭壇に向かって右側に、黄泉川愛穂や芳川桔梗をはじめとした新郎側列席者がずらりと坐している。

同様に左側では、女性比率のやや高い新婦の関係者たちが、興奮気味に何事か捲し立てている。

最前列の御坂美鈴と目が合って、ステイルは軽く会釈をした。


「………………き、緊張してきたかも」

「いつもはもっと広い聖堂で、もっと沢山の会衆を前にしているだろう」

「むう。その落ち着きはらった態度はちょっとイラッとくるなぁ。
 二人の大事な門出に責任を持つんだから、もっとこう、気合い入れないと駄目なんだよ!」

「気合いが空回りしても仕方がないだろう。直前の当事者というのはだね、
 そこの男の頭髪の色のように頭が真っ白になるものなんだ。
 故に司式者には粛々とした態度が求められるものなんだよ、初心者さん?」


花嫁入場まではあと十分ほど猶予がある。

ステイルはポケットからあるものを口許へ運んだ。


「こ、この男……ガチガチの新郎の為に気の利いたセリフの一つも言えねえのか……。
 …………と、以前のインデックスなら容赦なく噛みついただろうが…………」

「おい、誰がガチガチだ」


フッ、とインデックスが背を向けてシニカルに笑った。


「ステステ先生。電子タバコ、逆さかも」

「誰がステステだステテコみたいに聞こえるから止めてくれ! 
 この向きであってるから! 緊張も動揺もしてないから!!」

「テメエら、人の話を」

174 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 23:03:44.96 ID:pgorGjlM0


「YYWW」

「気に入ったのかその『強制詠唱』……」

「対イノケンティウスの他にもメンタルの弱い相手に試す価値ありなんだよ」

「イノケンェ……」



「聞けやァァ!! 誰が愛が哀しくて壊れかけたRadioだゴラァァッ!!!」



  Y  Y  T  F   T  F 
「はいはい徳永ファン徳永ファン」

「うるせえェェェェェェ!!!!!」

「効き目が薄いじゃないか、話が違うよ」

「どういう意味だァ!?」


似合わない事この上ない白のタキシードに身を包んで息を荒げる、

件のガチガチ花婿――――一方通行がいつもの調子を取り戻したのを見届けて、

ステイルはインデックスと達成感に満ちたハイタッチを交わした。

全ての準備を整え、父親に手を引かれる花嫁の入場を待つだけとなったこの時間、

一方通行は列席者にニヤニヤ顔でチラ見されるほどに緊張しきりであった。


「クッソ野郎が……テメエの問題を一つ片したからって余裕ぶってンじゃねェぞ……」

「だが、いい余興だっただろう?」

「あくせられーたが肩の力抜いてくれないと、上手くいくものもいかなくなっちゃうもん。
 …………でもでも、あなたがそんなに緊張してるなんて思わなかったかも。
 こんな時だからこそKoolに格好つけるのがあくせられーたかな、って」

(KじゃなくてCだろ)

「………………悪ィかよ」


ギリリと音がしそうなほどに前時代的なデザインの杖

――今朝ステイルが返却した――を握り締めて、一方通行は吐き捨てた。

よくよく観察してはじめて分かる程度にだが、その耳朶が紅潮している。

175 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 23:05:16.84 ID:pgorGjlM0


ステイルがふと隣のインデックスを見やると、視線が合った。

彼女も一方通行の耳たぶ辺りを盗み見てからクスリと笑う。

それに気が付いた新郎が凶悪に表情を歪ませて口を開こうとする直前、



「ご静粛に」



ステイルが機先を制して声を張り上げた。

列席者が示し合わせたように静まり返る。

十一時ちょうど。



「ベストマン、メイドオブオナー、御二方とも前へどうぞ」



インデックスの、聖堂全体を鎮めるような、それでいて柔らかく反響する声。

同時に左右席の二列目から、上条当麻と上条美琴が歩み出てきた。

上条はステイルの真正面、一方通行の右隣りに陣取った。

大事に抱えこんだケースに、二人の愛の証であるリングが鎮座している。


「頑張れよ、一方通行」

「打ち止めに恥かかせんじゃないわよ」


夫婦がそっと、花婿の肩を叩いて交互に囁いた。

美琴は歯ぎしりする一方通行に上機嫌を隠さず、インデックスの正面まで来てから大扉へ向き直る。

176 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 23:06:31.93 ID:pgorGjlM0


教会備え付けのオルガンが、それなり以上の高級感を醸し出す音色で優美に唄う。

曲目はオーソドックスど真ん中、W.R.ワグナーの『婚礼の合唱』。

慣れた手並みで鍵盤を一音一音、滑らかに、時に跳ねるように弾くのは美琴や打ち止めと同じ顔の女性。

両親から平等に愛を注がれる御坂家の一員である事には間違いないのだろうが、

これまでに相見えた中の誰かであるかどうかは、ステイルには判別しようがなかった。



「新婦入場」



教会一番の大扉が耳障りな音を上げて、少しずつ陽光を聖堂内に招き入れる。

扉が最大限まで両開きになった時、そこには父親――――御坂旅掛に手を引かれた花嫁がいた。

普段は背にかかるほど長い栗色の頭髪を後頭部で結上げ、露わになる筈の項はベールで覆われている。

黄みの強い肌色にアイボリーカラーのドレスが実によく映えていた。

長トレースのマーメイドラインに隠された脚を、擦るようにそっと一歩踏み出す。

途端に、祝福の声と拍手が燦々と降り注いだ。


「おめでとぉ! 私の祝福力が火を噴いちゃうゾ★」

「物騒な真似は止してほしいんだけど」

「小さい御坂さん…………白髪頭には勿体ないですねぇ……!」

「相変わらず変態ねぇ海原は。素直に祝福してあげなさいよ」

「Absolutely,幸せになりなさい」

「あ、う、もう、打ち止め、一方通行ぁ…………」

「いつまで泣いて、んじゃん、桔梗……ああくそ、私まで……」

177 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 23:07:29.15 ID:pgorGjlM0


まったく気の早い連中ばかりだ。

できれば退場時にやってほしい、とステイルは苦笑したが無粋な口は挟まない。

一向に止まない善意の雨を全身に浴びながら、旅掛は打ち止めとブルーカーペットを進み、

やがて愛しい末娘の手を、一〇〇三一の対話を経てこの場に立った男に渡す。





 「――――――」  刹那、二人の男の視線が交差した。  「――――――」





かと思えば父親は僅かに目を細めて、一片の未練も露わにせず、自席へと戻っていった。

自然、全ての視線が新郎新婦に集中する事となる。

ステイルも束の間、生涯で一、二を争う輝きを放っているだろう花嫁の晴れ姿を眺めた。

こうして見れば見るほど、上条美琴と同位存在なのだと実感させられる。

しかし彼女は上条美琴ではない。

彼女は二〇〇〇三人の姉妹の誰とも異なる人生を歩んできた、“打ち止め”その人だ。

軽く目を瞑り、隣のシスターに睨まれる前にステイルは式次を進める。



「ここに、開式を宣言します。列席の皆さま、ご起立を」



178 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 23:08:28.19 ID:pgorGjlM0


オルガンの音色がフェードアウトし、インデックスが賛美歌斉唱についての簡単な説明を行う。

典礼聖歌391、「ごらんよ空の鳥」。

口語調の歌詞と十字教色の薄さから、日本の教会結婚式で広く唄われ継がれる一曲である。

新教の賛美歌としての側面がやや強いためステイルたちはいくらか言葉を飲んだが、

確かに特定宗教に染まらない学園都市の住人にも馴染みやすいセレクトではあった。



「…………では皆さま、声と心を合わせて」



インデックスが締めくくり、奏楽の開始に合わせてステイルが腕を振る。

おお、と抑えた歓声が上がったのは、中空に焔色の文字で歌詞が浮かび上がったからだった。



ご覧よ 空の鳥 野の白百合を

蒔きもせず 紡ぎのもせずに 安らかに 生きる

こんなに小さな いのちにでさえ 心を かける父がいる

友よ 友よ 今日も たたえて歌おう

すべての物に 染み通る 天の父の いつくしみを



科学の街の住人達のぎこちない歌声を、広がる波紋のような清廉な音色がまとめ上げる。

ステイルの肩先にすら及ばぬ高さから発せられる至上の聖歌に、誰もが徐々に酔いしれていく。

初めのうちはもごもごと表情筋の収縮運動を繰り返すのみだった一方通行さえ、

いつの間にか瞼を下ろして、囀るようなテナーで打ち止めのソプラノと唱和していた。

179 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 23:09:09.16 ID:pgorGjlM0


「皆さま、ありがとうございました。では御着席ください。
 生きとし生ける万物への感謝が、愛しあう二人の先行きを照らさんことを」


斉唱が終わりを告げ、ステイルは極めて略式の『愛の教え』を説く。

本来なら聖書から抜粋した有難い主の教えの朗読が必要だが、

学園都市ではどうやらマイノリティーらしいのでこの形式に落ち着いた。

そしていよいよ、式のメインイベントとして世に認知される『誓いの言葉』の時間が訪れる。

二人の式はどこまでも面白みのないポピュラーな形式に沿っているが、

世にも数奇な運命に絡め取られた男女の節目とは、案外こういうものなのかもしれない。

まずはステイルが新郎に、次にインデックスが新婦に、それぞれに言葉を掛ける手筈となっている。

一方通行の戸籍上の名前を脳裏で反芻しながら、ステイルが厳かに口を開いた、


「新郎――――」


その時。










バアンッ!!!!


「一方通行ぁっ!!!」


閉じられた大扉が勢いよく押し開かれ、呼吸を乱しに乱した番外個体が、前触れもなくその姿を現した。

180 :第二部 エピローグ⑤ [saga]:2011/10/15(土) 23:10:37.10 ID:pgorGjlM0


「……番外個体」

「番外個体っ!?」


新郎と新婦が、ほぼ同時に、しかしトーンのまるで違う声を上げた。

番外個体はおかまいなしに、ずんずんと肩をいからせて祭壇へと歩み寄ってくる。

聖堂にはしばし、トスントスン、とカーペットが吸収しきれなかった足音だけが響いた。

誰も番外個体を止めようとはしない。

女の表情に、ただならぬ気迫と――――ヤケクソ気味の赤みが差していた。


「一方通行、最終信号」


遂に祭壇の前へと辿りついた女が、花婿に挑むような眼光を向けて対峙した。

ステイルもインデックスも、列席者に右ならえ状態で呆けることしかできない。

唖然として、番外個体の一挙一動を見守るだけの彫像と化した彼らの眼前で――――


「…………ん」

「っ、!? な、な、!?!?!?」







女が、男の、唇を、奪った。







190 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:51:54.21 ID:4+U5mH4x0


凍れる時の呪法やら、ヨーグルトの超能力やら、『THE・世界』やら、

以前インデックスから聞かされた、『こことは異なる世界』に存在するらしい

特殊能力の名前を次々に脳内モニターに投影しながら、ステイルはこめかみを抑えた。

突如として式に乱入し、新婦に捧げられるべき新郎の唇を奪った女――――番外個体の暴挙。

恋愛にありがちなドロドロの三角関係が生み出した悲劇にしてもショッキングに過ぎるが、

事態はこれだけには収まらなかった。


「…………んっ」

「………………て、めえ」

「あ、あばばばばば……番外個体、これってどういう…………!!」


新婦が色をなすのも当然の事である。

打ち止めの顔色は赤くなったり蒼褪めたりビリジアンになったりで実に忙しない。

そんな混乱の極致へ叩き落とされた彼女に、

叩き落とした張本人が男との口づけを終えて次にしたのは、ウエディングドレスの肩口を掴む事だった。


「最終信号」

「…………え? ちょ、ま、さか、そんな」

「ん」


ズギュウウウウウウン。


「「「えええええっええええぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇえ!?」」」


悪夢再び。

ステイルに認識できたのは自らを襲う強烈な目眩と、

会場のそこかしこから上がる黄色い悲鳴だけであった。

191 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:52:34.12 ID:4+U5mH4x0


インデックスに袖を引かれたステイルが我に帰った時、永遠よりも長い五分が既に経過していた。

遺伝発生上の姉、戸籍上の妹になにをトチ狂ったのか

啄ばむような接吻をし終えた番外個体はモジモジと身をくねらせている。

相変わらず、誰も、一言も発しようとしない。

恋人たちの一世一代の大イベントで大胆極まりないテロ行為をやらかした番外個体に、

憤りを見せる年配者はいないかとごった返す出席者にステイルは目を向けるが、

御坂夫妻も黄泉川愛穂も親船最中も、ちりほども動く気配がない。

当事者たちの真後ろに控える上条夫婦も目を白黒させていて当てにできそうもない。

ちなみに芳川桔梗には誠に遺憾ながらはじめから何も期待していない。



指一本分のアクションでさえ衆目を一斉に集めてしまいそうな空気だったが、

司式者としてこの気まずい沈黙を良しとするわけにもいかないだろう。

ステイルは大きくかぶりを振って、大きく溜め息をつき、これまた大きく息を吸い、


「――――――君ぃぃッッ!!! いったい何の真似なんだ、これは」

「マグヌス」

「ん、な?」


大音声を張り上げながら番外個体に詰め寄ろうとして、一方通行に制止された。

次の瞬間、フリーズ状態が続いていた打ち止めが涙ぐんで番外個体に抱きつく。


「ありが、と……ありが、とぉ……!!」

「やり方っつうもンがあンだろ淫乱娘が……クソッ」

「よ、喜んで、もらえた?」

192 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:53:13.64 ID:4+U5mH4x0


泣きじゃくる打ち止めと疲れ切った顔の一方通行、おずおずと妹の表情を覗きこむ番外個体。

そこだけ切り取れば美しい光景なのだろうが、

三人だけでほっこりされてもステイル達には何が何やら意味不明である。

空気を読むことにも限界が来たのか、たまらずインデックスが疑問を発した。


「…………そろそろ、説明が欲しいんだよ」


結婚指輪を抱えっぱなしで放置された上条当麻も追従する。


「そうだぞお前ら! 最悪のタイミングで修羅場に入ったのかと思ってワクワ……ビビっただろ!」


二人が声を上げた事で、ようやく場が時の流れに再び身を委ね始める。

良くも悪くも非常事態が日常茶飯事な学園都市クオリティー、

上へ下への大騒ぎとはならなかった事は不幸中の幸いだった。

とは言え、このままなあなあで済ませるつもりはステイルには毛頭なかったが。


「一方通行」

「…………わかってる、説明する。じゃなきゃ収拾がつかねェ」


会衆の耳目を一身に浴びながら白髪頭に手をやった一方通行はしぶしぶ、という態で語り始めた。

専門でない相手に専門知識を伝えられてこそ頭の良い人間だとはよく言ったもので、

一方通行の解説は科学知識に明るくないステイルたちにも明快であるよう、

十二分に噛み砕かれた、それでいて懇切丁寧なものであった。

この男、意外と教師に向いているんじゃないかと脳の一方で考えながら、ステイルは頷く。

193 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:53:54.39 ID:4+U5mH4x0


「つまりこれは、三年前に美琴を号泣させた『電報』のリメイク版というわけだ」

「だ、誰が号泣したって言うのよ!!」


すかさずメイドオブオナー、上条美琴が抗議するが、

今日この式場に居合わせた者の大半は三年前の挙式にも参列している。

彼らからこぞって微笑ましげな視線を向けられた美琴はたじろいでまごついた。




「だ、だって…………しょうがないじゃない!!
 妹達全員からネットワークを通して、『おめでとう』の嵐をもらって、泣かないワケないでしょ!?」




九九七一回の、愛に満ち満ちた『おめでとう』。

そしてインデックスのバースデーに上条夫婦から届けられた、二つの『おめでとう』。


「みこと、誰も悪いなんて言ってないんだよ。現にらすとおーだーだって……ね?」


それらと何ら遜色のない、『妹達』が末妹に浴びせた『おめでとう』。

涙の堤防を100%の確率で決壊させてきた実績を持つ、祝福という名の大雨。

それこそが番外個体から愛する男女への、渾身の結婚祝いだった。


「う、ん。いま、今なら、あのと、あの時のお姉様の、きもぢがわかるよぉ……!
 嬉しいよ、嬉じいよ、嬉じくて、死んじゃいそうだって、ミサカはミサカは、ひっく」

194 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:54:26.67 ID:4+U5mH4x0


花嫁は、妹であり姉である女の胸の中で目を赤くしていた。

声はひくつき、化粧は崩れ、それでも美しく、あたたかい雨に身を打たれて泣いていた。


「いつまでもみっともなくベソ掻いてンじゃねェよ」


手厳しく花嫁を窘める花婿だが、責める声は上がらない。

杖を突いていない左手が目頭を一瞬だけ押さえたのを、誰もが目撃していたからだ。

ご多分に漏れず目撃者の仲間入りを果たした番外個体も満足げに口許を緩めた。


「たださ、二番煎じじゃ感動も半減でしょ? だからこういう超絶サプライズ形式を取ったってワケ!
 今回は圧縮した映像データと音声データを一回バラして、
 生体電流に乗せて渡してから、後頭葉と側頭葉に直接送りこんでデコードしたの。
 おかげで伝達は一瞬で終了、余計なお時間は極力とらせない企業努力でーっす」


『生体電流に乗せた受け渡し』とは即ち、

微量の唾液を媒介とした粘膜接触――――有り体に言わなくとも、キスである。


「…………何をしたのかはわかった」


懐から今すぐにでも電子タバコ、ないしルーンカードを抜きたい欲求に必死で抗いながら、

ステイルは重低音を二メートル越えの長身をフル活用して響かせた。


「それにしたって他にいくらでもタイミングは、やり方はあっただろうッ……!」

195 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:55:25.91 ID:4+U5mH4x0


ステイルが堪えている、辛うじてやり場を失っていない憤りの根本はそこに尽きる。

ある事情からステイルはこの十年、脳と記憶についての知識はそれなり以上に修学している。

電波を飛ばす、と言えば言い方がアレだが、なにせここは全世界の科学を牛耳る先鋭、学園都市なのだ。

他にどうとでもやりようはあった筈だ。

ないわけがない。


(………………ないよな?)


ましてや打ち止めには脳波リンク技術の代名詞、ミサカネットワークがあるのだ。

直接接触に拘る必要などあるのか。

そしてなにゆえ、ステイルの胃潰瘍を最大速度で促進するであろう、このタイミングなのだ。


「あ、あはは、怖い顔しちゃやーよ神父さん!
 そんな熱い視線で睨まれたらミサカ思わず濡れちゃいそう☆」

「あ゛?」

「ゴメンナサイシスターサンナンデモアリマセンヨミサカハセイジュンハデスカラ」


ドスの聞いたドス黒い唸りが、ステイルに負けず劣らずの超低音で番外個体の心臓を鷲掴んだ。

一斉に発生源から半歩引き下がる関係者一同。

196 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:56:15.78 ID:4+U5mH4x0


神父がおっとり刀で、群青色のベールの上からポンポンとシスターの頭を軽く撫ぜる。

その間に正常な言語機能を取り戻した番外個体が、はにかみながら新郎新婦を振り返った。


「………………だってさ、伝えたかったんだもん。
 どんな言葉よりもこの気持ちを伝えられる手段はないのかって、ずっとずっと探してた」


その鮮烈なまでに真っ直ぐな視線は、果たして親譲りか、姉譲りか。


「それで辿りついたのが、コレ。大勢の人に“観測”してもらいたかったんだ。
 ミサカのこのふらふらした不確かな気持ちを、“事象”として確定させたかった。
 誰かに見られてなきゃ自信が持てないなんて、我ながら情けない話だけど」


番外個体の、ともすると弱気ともとれるらしくない態度。

しかし一方通行と打ち止めは、その裏に隠れている、“覚えのある”信念の正体を即座に悟った。






『言っただろ、見世物だと思ってのンびりしてろ』


『私たちはね、これからやることを誰にも、
 それこそ世界中のどんな人にも恥じることが無いって宣言したいの』






「百点満点の解答だなんて自分でも思ってないけどさ、これがミサカの――――私の、精一杯」

197 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:57:00.02 ID:4+U5mH4x0




「姉さん、義兄さん」




生まれて初めて、『妹』から親愛を籠めてそう呼ばれて、『姉』と『兄』は肩を震わせた。




「結局さ、私は“これ”を言う勇気が欲しくて、自分を追い込んだだけなのかもね」




血と憎悪に塗れた『存在理由』を与えられた筈の少女が、その手で掴み取った表情。

彼女と彼らの始まりの地に降っていた、雪のようにまっさらで、純粋な笑顔。






「二人とも、だいすき。幸せになってね」






気恥ずかしさからか林檎のように染まった頬は、まるでしもやけにでもなったようで。

これから夏を迎える学園都市の片隅で場違いに、しかし程よく、にっこりと融けて弾けた。

198 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:57:32.41 ID:4+U5mH4x0









――――それで丸く収まるのなら、(主にステイルにとって)どれほど楽であっただろう。


「いい話だ 感動的だね だがオトシマエはつけてくれよ」

「えっ」

「えっ、じゃないだろうが!! この状況と自分の行動をよーく顧みろ!!
 挙式真っただ中の新郎新婦の唇を奪ってイイハナシダナーで済むなら三三九度は要らないんだよ!!」

「ステイルステイル、それ十字教式ちゃう。それ神前式なんだよ」

「お、オトシマエってなにさ!? まさか私のカラダが目当てなんじゃ、この性職者!」

「やかましい! ……君、神の御前でもう少し本音をぶっちゃけるなら救いがないわけじゃあないよ。
 正直に言ってみたまえ、実はほんのちょっとだけ役得だと思っていただろう?」


番外個体が一方通行に想いを寄せていた事は、あの上条当麻にすら周知の、羞恥の事実である。

下心がなかった訳がないとステイルは踏んで、せめてもの復讐を謀る。

案の定、番外個体は紅潮させていた頬を更に一段と昂らせて、消え入るような声で、






「……………………ご、ゴメンナサイ。
 本当は姉さんのぷりぷりした唇の感触を貪りたいって私利私欲も働きました、ハイ」

199 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:58:25.26 ID:4+U5mH4x0


っておい。



「そっちかああああああああああああああああああああ!!!!!!」



そして始まる阿鼻叫喚地獄。


「あ、あわわわわ、番外個体!? 
 私にそういう趣味はないのよ、ってミサカはミサカはミサカがミサカでミサカ! ミサカ! 御坂!」

「うォォォい!! クソガキがシステムエラー起こしたぞォ!?」

「ままま、マリアさまが見てる前で /(^o^)\ナンテコッタイ なんだよ!」

「と、とにかく! ダメだ、ダメダメだ! 許されざるよこんなの!! 僕は認めない!」

「ええ!? 折角正直に懺悔したのにぃ!! だったらどうすればいいのさ!」


地団駄を分厚い絨毯に踏み付けながら、ステイルは深呼吸を繰り返す。

息を整えて番外個体を射殺すように睨むと、祭壇に向かって右側の席を顎で指す。


「……だったらそこにいる先生に頼んで、
 ロンドンに『冥土返し』特製の胃薬を郵送するよう手配してくれ。それでチャラだ」

「え、いや、そういうのって薬事法で規制されてるんじゃ」

「だーかーらー。そこを何とかなるように君が何本でも骨を折れ、と言ってるんだよ僕は」

「そんなぁ!?」

200 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 22:59:28.49 ID:4+U5mH4x0


そこに、列席していた件の名医が鷹揚に笑いながら番外個体に助け船を出す。


「僕は別に、処方することにやぶさかではないんだね?」

「さ、さっすが先生! そこに痺れるぅ、憧れ」

「統括理事会の承認がいるから、君の方で何十本でも骨を折ってくれたまえ。
 心配しなくとも、骨折ならいくらでも僕が治してみせるさ。
 ………………それ以外の面倒事は、僕の関知するところではないけどね?」


助け船は、泥舟以外の何物でもなかったが。


「うわああああああんんんん!!!! 労働基準法が息してないいいぃぃぃぃ!!!
 またミサカの残業時間倍プッシュですかそうですか本当にありがとうございました!!」

「いいからさっさと自分の席に戻れッッッ!!!!」

「皆さまご迷惑おかけしましたァァァァァーーーーッッ!!!!」



そのやけっぱちな叫びを切っ掛けに、そこかしこから笑いが噴き出す。



割と本気の涙声で嘆く番外個体と、憤懣やるかたなく吠えたステイル。

彼らとは対照的に、出席者は一様に暢気に腹を抱えて笑っていた。

ステイルがふとインデックスに横目を流すと、彼女はその光景を眩しげに見やっていた。

つられてステイルも、笑いの絶えない科学の街の片隅にもう一度視線を戻す。

201 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 23:00:17.99 ID:4+U5mH4x0



子供の未来を真摯に思う大人たちがいる。



「よぉくやった! それでこそ私の娘よ番外個体!」

「一方通行ぁぁぁ!! なんでお前ばっかウチの娘に愛されるんだよぉぉぉ!!!」

「まあまあ、幸せ者ねぇ一方通行くんは」

「心労でまたウチのベッドの世話にならないでくれよ?」



家族とのこれからの為に闘う男たちがいる。



「ハハッ!! 両手に花ってレベルじゃねーぞこの若白髪ァァァァ!!」

「落ち着けって浜面! 気持ちはわかるけど!!」

「カミやん……今日のお前らが言うなスレはここかにゃー」



『闇』の中からその犠牲者を掬い上げようとする者がいる。



「ていとくんにいい土産話ができたわなー。な、初春ちゃん?」

「…………百合も意外と悪くないかもしれませんね」

「初春さんんんん!!!!? あなたまで黒子と同じ修羅道を歩まないでお願いだから!」

202 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 23:01:21.26 ID:4+U5mH4x0



自らの過去と、恐れず向き合った者がいる。



「麦野が二次会で上映されるスペシャルビデオを超見たがってましたが……」

「なんつーか、この話を持って帰るだけで腹いっぱいって感じだな」

「ふれめあもきっと喜ぶね」



取り返しのつかない事を取り返そうとする人々がいる。



「さっきからギャーギャー好き勝手言ってるクソ野郎どもォ!!
 脳下垂体前葉グチャグチャにしてホルモン分泌停止させてやろうかァァ!!!」

「ぎゃははっ☆第一位サマの『俺って頭良いンだぜ』アピールいただきましたぁ!」

「もー! アナタも番外個体も大概にしなさい、ってミサカはミサカは」




――――今を、強く生きる人間の営みが、確かにそこにある。




ステイルとインデックスがほんの一週間前、

病院の待合室で思いを馳せた脚本と、キャストは何も変わっていない。

だというのにこの落差はなんだろう。

数多の悲劇に吹きさらされた人々の笑顔の、なんと美しいことだろう。


「やれやれ………………ご静粛に、ご静粛に! 式を再開します!」

203 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 23:02:15.94 ID:4+U5mH4x0


あの時は、自分達の物語が安っぽい悲劇に思えてならなかった。

この世に生きる誰もが、多かれ少なかれどこかに傷を抱えて生を送っている。

自分達だけが心の内側の問題に囚われてぐずぐずと苦悩し続けるのは、

単なる自己満足に過ぎないのではないか、と。


「…………ご静粛にお願いしますと言っているんだ貴様らーーーーーっ!!!!」


しかし今なら、ステイルは胸を張れる。

自分の懊悩がありふれていようといまいと関係がない。

他者との相対的な尺度に意味などない。

第一位(ぼうぎゃく)という名の目の粗い篩にかけられて、

なお心臓の底に残されたものさえ、見失わなければそれで良い。


「本当なら指輪交換が先だけど…………アクシデントを有効活用してこそプロなんだよ!
 番外個体のサプライズの余韻が冷めないうちに、誓いのキス、いってみよー!!」

「どんな理屈だ! それでいいのか最大主教!!」


それは無邪気に笑って無茶苦茶を言いだす彼女への、絶対的な愛おしさ。


(…………そうだ、どんな理屈も、意味を成さない。
 これまでもそうだったし、これからも、これだけは)



この心だけは、永遠に不変だ。



「さあさあお二人さん、パーっといってほしいんだよ!」

「おいィ? マグヌスくンよォ、これでいいのかイギリス清教」

「…………済まない、諦めてくれ。では、誓いのキスを」

204 :第二部 エピローグ⑥ [saga]:2011/10/19(水) 23:04:04.85 ID:4+U5mH4x0




「あ、あはは、ってミサカはミサカは今さら緊張してきちゃって……」


「打ち止め」


「………………はい」


「俺は、ずっとお前と一緒にいたい」


「う…………うん!」


「お前はどうだ?」


「み、ミサカも、私も。ずっと、ずっと――――ずっと一緒にいてって、お願いしてみる」


「ああ、約束する――――――愛してる、打ち止め」


「――――――」


「――――――」






「ここに二人は、正式に夫婦となりました。どうか皆さま、盛大な拍手を――――」






205 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/19(水) 23:11:03.66 ID:4+U5mH4x0

俺も、ずっと一緒に続けたかった


というわけで次回、エピローグのエピローグとなります





えっ
インデックスに散々形式にはこだわらないと言わせておいたのでセーフということでどうか一つ
張ってて良かった予防線!

>>188
>>1は心底胸糞の悪くなるクズ野郎を書けない病気を患ってます
そういう悪役がいるほうがメリハリがつくのはわかってるんですが、性分なのかどうにも
木原一族って偉大ですよね

他の皆様もありがとうございました
次回投下は週末までお待ちくださいませ
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/19(水) 23:36:31.31 ID:4XY/WI7AO
乙!
番外個体が悪役にならなくてよかったほんとよかった番外個体可愛すぎてしねる
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/10/20(木) 00:57:23.68 ID:IskSlj1b0
乙! なんだよ。
番外個体にも愛の手を!
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/20(木) 01:30:21.59 ID:SeaM2ljAO

笑い泣きとはこの事か
結婚式の出てくるSSは数々見たけど、ここのが自分の中で一番になった
212 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:18:04.58 ID:jWsYjZqS0

ここまで長かったな……と感慨にふけっている>>1ですどうも



他の皆さんもありがとうございました
みんなが泣いて笑ってる、いかにもな最終回は演出できたでしょうか?
ではそろそろ投下します↓
213 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:20:15.53 ID:jWsYjZqS0



十七時間後。



イギリス清教の手配したチャーター機で、ステイルとインデックスは雲上の人となっていた。

土御門とエツァリはいない。

彼らには、生き残った『神の右席』の護送という任務がある。

故に現在、この空間は。


「二人っきり…………だね」

「時折やってくる専属CAを除けばね」

「もう、ロマンティックが足りてないなぁステイルは!」

(ティックときたか……)


盗聴器やカメラが(土御門によって)仕掛けられていないかは念入りにチェック済みである。

つまるところ、換言するまでもなく、聖女と守護者の、正真正銘、混じりっ気なしの二人きり。

久方ぶりのムード溢れるシチュエーションに、二人の頤の動きは――――鈍かった。


「……よく、『ちゃーたー機』を用意する予算があったよね」

「……まあ、任務達成の御褒美と思えばいいんじゃないかな。
 そういえば君、何でもないようにひこ…………その、空を飛んでるけどだいじょ」

「…………なるべく考えないようにしてるの!」

「あ……すまない」

「うん……」

214 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:21:19.80 ID:jWsYjZqS0


会話が弾まない。

甘い沈黙、というわけでもない。

だいたいにして、この二人の無言が甘ったるい空気に満ちていた過去など片手の指で足りる程度だ。

背景事情を考慮に入れなければ中学生並みのロマンスしか経験していないステイルとインデックスに、

浜面夫婦のような熟年アベックの醸し出す手触りを再現するなど土台無理な話である。

やがて辛抱の利かなくなったステイルが、豪奢な個室のドアへ目線を走らせた。


「…………ドリンクでも、貰ってくるよ。君は何がいい?」

「え、っと…………それなら、私も一緒に」


二人してぎこちなく立ち上がる。

その時、乱気流にでも飲まれたのか機体が激しく揺れた。


「あ、わわ!」

「おっと」


白衣が平衡を失って、黒衣に抱きとめられる。

それはどこまでも自然な流れだった。


「大丈夫かい?」

「ありがとなんだよ…………あ」

「ん?」


――――ごくごく自然に、ステイルの右腕はインデックスの背に回されていた。


「ハグ…………してくれたね」

215 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:22:15.22 ID:jWsYjZqS0


「…………そう、だね」


ステイルは空いた左手を顎にやって、束の間瞑目する。

少し長い瞬き程度の時間で瞼が開いたとき、輝度の低い紅玉が一直線にインデックスを捉えた。


「僕が今まで、君をこの腕に抱けなかったのは――――『君』を殺した感触が、残っていたからだ」

「……っ」


ひゅっと息を短く飲む音が、静寂を保つ機内に一際大きく響いた。

インデックスの翠玉が、反射的に瞳孔を絞る。


「君ではない、『君』を、君に重ねていた」


一言一句を、鉈を振り下ろすかのように、ぶつ切りにして吐き出す。


「それは彼女たちを未だ恋い慕っている、なんて生易しい情動じゃあない」


十二年間、思いの丈を溜め込み続けた堤を、少しずつ切っては崩す。


「僕は、彼女らを、君ではない『君たち』の死霊を、背負っている」


一瞬たりとも、真摯な視線が外れる事はなく。


「そしてこれからも、この荷を下ろさずに永久に引き摺って生きていく」

216 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:23:39.57 ID:jWsYjZqS0


「…………もしも君が、君さえ、そんな僕でも良ければ」


そして遂に、ダムの底に最後に残った、限りなく大きな一滴を、愛する人の心へ注ごうとして――




「――――そう言えば!」




遮られた。


「……なんだい?」


ステイルは急かさない。

インデックスは満面の笑み。


「来月、ステイルの誕生日だね! 今日の式みたいに、いっぱい友達呼んで、パーっとやろ?」

「必要ない」

「………………え? そ、そんなこと言わないで、皆にお祝いしてもらって」

「君がいればいい」

「――――――――あ」

「百人の友人も、億千万の祝福もいらない」

「ん、えぁ? す、すている……?」

「僕の欲しいものは、たったひとつだ。ひとつだけなんだ」

217 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:24:13.89 ID:jWsYjZqS0









「君さえいれば、他に何もいらない」










218 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:25:17.51 ID:jWsYjZqS0


コンコン。

ノックの音。

少し遅れて女性の声。


「お客様、よろしいでしょうか?」

「…………ああ、入ってくれ」


言って、ステイルは即座に腕を解く。


「ひゃ、あ」


――――直前に、インデックスを強く掻き抱いてから。


「先ほどは気流の乱れにより大変ご迷惑をお掛けいたしました。お怪我などございませんか?」

「問題ないよ。それだけかい?」


洗練されたCAの所作に無感情に対応しながら、ステイルは窓際のシートに着いた。

インデックスも慌ててその隣――――ではなく、やや距離のある座席を選んで着座する。


「当機は間もなく着陸態勢に入ります。
 シートベルトをお締めの上、電子機器の電源をお切りくださいますよう」

「……ん、もう着いたのかい? 心なしか、予定より早い気がするが」

「現地時間で午後六時、フライトスケジュール通りに運航しております」

「…………確かに。失礼、妙な事を口走ったようだ。
 行きが“あんな”だったから感覚が麻痺してるのか……?」

219 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:26:13.70 ID:jWsYjZqS0


機内の時計は到着地の時刻に合わせられている。

間違いなく、予定通りの午後六時。

軽く手を振ってCAを退出させると、指示に従って着陸の準備を済ませる。


「到着のようだね」

「…………うん、そうだね」


沈黙が再び、上空一万メートルを滑空するスイートルームを支配した。

ステイルはこれからチャーター機が飛び込むであろう雲海をただただ観望している。

インデックスはといえば、面を上げて唇を震わせようとしては

力なく項垂れるだけの無為な反復運動を繰り返していた。


「す…………すている、さっきのって、わっ」


鼓膜の奥がキンと鳴った。

機内の気圧が段階的に調整されていく。

ガラスの外の世界が白一色に染まってのち、やがて逢魔が刻を迎えた街並みを映し出した。

落ち着かない浮遊感と、車輪と路面とが擦れる際の微振動。

それらもほどなくしてフェードアウトし、懐かしきロンドンの大地が直ぐ足下にあるのだと報せてくれた。

無事の着陸を告げる機内放送を聞いて、ステイルは荷物をまとめて立ち上がり――――


「行こう」


インデックスの眼前に毅然と佇んで、その大きな掌を差し出した。

220 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:26:47.62 ID:jWsYjZqS0



「今すぐ答えを出してくれなくてもいい」



「ただ、僕もそう長くは待てない。待ちたくない。我慢がきかなくなる」



「だから、そうだな。その懐中時計」



「その懐中時計を、僕から君に贈ったあの日。それがもうすぐだったね」



「君の『もう一つの誕生日』に、二人きりで話がしたい」



「僕たち二人にとって、とてもとても大事な話を」







「午前零時。聖ジョージの聖域に、来てくれるかな」








221 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:27:54.57 ID:jWsYjZqS0


黒衣の守護者が優しく笑う。


初恋を殺し、辛酸を舐め尽くし、絶望に心折られ、一度は逃げ出した。


それでも少女を想って闘い続け、女への変わらぬ愛をいま一度確かめた。


もう迷うものか。


差し伸べた手に無窮の決意を宿し、男は笑う。





「…………うん、わかった」





潤んだ鈴の音とともに、その手が握り返される。


羞恥に堪えかねてか、白銀の聖女のかんばせは上がらない。


それでも、重なる体温が途方もなく愛しくて。


恭しく、どんな水晶細工を扱うよりも丁寧に、女の前髪を払いのけて。

222 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:28:46.59 ID:jWsYjZqS0












――――その額に、口づけを贈った――――













223 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga !美鳥_res]:2011/10/22(土) 22:29:41.48 ID:jWsYjZqS0


------------------------------------------------------


愛し合う男女は幾多の障害を乗り越えて結ばれ



世はなべて事もなく



めでたしめでたし














HAPPY END




224 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga !美鳥_res]:2011/10/22(土) 22:33:21.27 ID:jWsYjZqS0









                              そ
                              れ
                              で
                              は
                              困
                              る
                              ん
                              だ
                              よ











225 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga !美鳥_res]:2011/10/22(土) 22:38:12.37 ID:jWsYjZqS0


それでは私が困るんだ


とは言え、実際のところ憂慮などしてはいないがね


見たまえ、ステイル=マグヌスの悦びに満ちた顔を


自分だけ全てを吐露し終えて、一人身勝手に重荷を下ろしたあの表情を


滑稽なものだ


彼はまだ何も知らない


彼女の頑なに俯いて動かない美貌が、蒼白に染まっている事実も


彼女が己以外に打ち明けた事のない、底なしの絶望の正体も








己が手で『禁書目録』を深淵に突き落とす未来も








――――彼はまだ何も知らない

226 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:42:52.80 ID:jWsYjZqS0



       -----------------第二部 『学園都市編』 完-------------------



                    ⇒ TO BE CONTINUED ……








                    …… ADVANCE BILLING⇒
227 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:45:35.95 ID:jWsYjZqS0


彼はまだ、何も知らない。


「僕には、知っておくべきなのに、知ろうとするべきだったのに、知らない事があまりに多すぎる」

「最近になって、とみに痛感するようになったんですよ――――僕はまだ、何も知らないんだ、とね」


故に、真実を欲する。


「答えろ」

「『禁書目録』とは何なんだ?」





愛する人の、涙の理由を変えるため。






「彼女はいったい、“誰”なんだ?」







228 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:47:05.07 ID:jWsYjZqS0


先を生きた者の声も。


「君の事はよくローラから聞いていたよ」

「………………成程。もう、あなたも子供ではないのね」


共に生きた友の声も。


「私では、あなたたちの力にはなれませんか?」

「いいか。絶対に、死ぬなよ」


どこにもいない筈の誰かの声も。


「私はただ、あの子の幸せそうな姿を、一目見られればそれで良い」




全ては届かず。




「ステイル………………その人、だぁれ?」


「ああそっか、その人もそうなんだ」


「その人も――――――――」


229 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:49:46.59 ID:jWsYjZqS0


「何故だ」


「どうしてだ?」


「なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでッッッ!!!!」





聖女は絶望に沈む。





――――よかったじゃあないか、ステイル=マグヌス――――



「どうして、こんな…………………っ!」



――――ヒーローになる、チャンスだよ?――――





『あああああぁぁぁぁぁああああぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』





230 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:55:02.10 ID:jWsYjZqS0


「十年ぶりですね、ステイル=マグヌス」

「やはり、君だったのか」


ステイル=マグヌスが最後に越えなければならない壁。

最初に越えなければならなかった壁。


「貴方は、ただ見ているだけでいい」

「ふざけるな。繰り返す気なのか、あんな事を」


またも、立ち塞がった選択肢。


「お解りですか」

「………………そん、な」

「“これら”は全て、貴方が彼女に贈ったものです」


突き付けられる現実。







「貴方が彼女を殺すんですよ、ステイル=マグヌス」







231 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 22:58:44.70 ID:jWsYjZqS0


「私が、この子を護りたいと思ってはいけないのですか」

                                     「君が、彼女を護る、だと?」




                  同じ夢を抱き、同じ天を戴く、隣接面。




「知ったような口を利くなッ!!! 貴方がこの子の何を知っている!?」
 
                               「知っているとも。僕は、全てを知った」




               直ぐ隣に在る、しかし決して交差しない、平行線。




「いみじくも貴方が先ほど言ったとおりです。人間はいつか死ぬ」

                                     「ならば、人間など辞めるさ」



           
                 火花散り、情動がぶつかり合う、臨界点。




「――――貴方が、妬ましかった」

                                    「――――君が、憎かったよ」



                  ならばきっと、この激突は必然だった。




232 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 23:02:17.53 ID:jWsYjZqS0


                   「知らないのならば、教えてあげましょう」


                         少年は青年になった。 


                     「“貴方”では、“私”に勝てません」


                          誓いは夢になった。


                             「いいさ」


                         ならば、『失敗者』は。


                     「“僕”が“君”に勝てないと言うのなら」







                        『主人公』に、なれるのか。



                    「まずはその、ふざけた幻想を――――」




233 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 23:06:03.47 ID:jWsYjZqS0




                         Last Chapter







                     と  あ  る  神  父  の


                       ■  ■  ■  ■





234 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 23:08:37.52 ID:jWsYjZqS0


        「私は、私はあなたを、あなたの! あ、あなたのために、生きて――――――」


             女の想いの、最後のひとかけらは、言葉にはならなかった。

                 そして、男はゆっくりと、その耳元に――――




           ――――たとえ君はすべてを忘れてしまうとしても――――


                「                          」



                ――――僕はなにひとつ忘れずに――――


        「                                          」



                ――――君のために生きて死ぬ――――


                      「             」





                      最期の言葉を、囁いた。

235 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 23:10:24.65 ID:jWsYjZqS0





                     「愛してる、『      』」






236 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/22(土) 23:15:11.24 ID:jWsYjZqS0


※画面は開発中のものです。


やだ……サーバーの御機嫌悪すぎ……


というわけで一度はやってみたかった予告編でした
厨二魂ほとばしる最終章は終始このテンションで進行します
一応>>222で読了していただければ普通にハッピーエンドになってるとは思いますけどね
いくつか重要なフラグを立て忘れるとそのままスタッフロールに突入、みたいな

最終章はこれまで馬鹿のひとつ覚えでばら撒いてきた伏線の回収などに
じっくり取りかかりたいので、投下はしばらく先になるかと
それまでは最終決戦前のサブイベント的な小ネタでお茶を濁してまいります

次回は一週間以内になりますかねー
ではまたお会いしましょう
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/23(日) 00:13:49.53 ID:uXjSpqoAO
おおう
2スレ目の最初の辺りで多分ラストだとかほざいてたのはどこへ

期待して待つけどね
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/10/23(日) 00:15:46.81 ID:a6c7il3y0
乙!

ひいぃぃぃいいい!?

それなんて――悲喜劇……

241 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/28(金) 22:28:38.38 ID:nQZwt5Do0

どうも>>1ですよ

勢いだけで書いたこの予告ですが、いま見ると胸より顔が熱くなってきますね
絶賛黒歴史量産中の>>1が本日お送りするのは人物紹介+小ネタ一本です↓
242 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/28(金) 22:29:30.13 ID:nQZwt5Do0


インデックス=ライブロラム=プロヒビットラム(26歳)

顔良し、スタイル良し、頭脳明晰、人気絶大、セレブと五拍子揃った正真正銘のチートスペック。
だってのに色々といらん悩みを抱え過ぎている不幸属性。ちょっとねらー入ってる。
とっくにデレてるのに不穏なフラグをオンパレードしすぎたような気がする。
誰も彼も、地の文でさえシスターシスターと呼ぶが、正確には司教(ビショップ)である。
最近妹萌えに目覚めたらしい。私の妹(スール)がこんなにビリデレなわけがない。


上条当麻(26歳)

学園都市統括理事会の一員で、外交担当。学園都市が世界に誇る英雄。
親船と雲川に三顧の礼で迎えられたものの、
人脈と広告塔としての役割しか期待されていない事は承知の上である。
名前に実力が追いつくように精進中。

後ろから刺される事もなく才色兼備の妻と可愛い娘に恵まれた幸せ者。どこが不幸だ。
インデックスを除くフラグについては本当に気が付いていないのでオール放置である。
…………そのせいで四次大戦まで起こってるのに。

バトルからハブられたのは勿論パワーバランスが崩壊するから。
ぶっちゃけ『神の右席』とかいまなら楽勝、かも知れない。
その一方でちょっと屈強な一般人数人に囲まれたら大苦戦なわけですが。


打ち止め(10歳 外見20歳)

MNWの管理人にして、御坂家の末娘。普通の大学に通うごく普通の大学生として日々を平和に過ごす。
婚約者とすることはとっくに済ませている。つまり非処わっふるわっふる
戸籍上の御坂○○という名前も持っているが学友以外には呼ばれない。

専業主婦に憧れる一方で姉の研究を手伝えないかと思案中。
どのみち未来はバラ色の人生が約束されているようなもの。
前半生で散々苦労したから仕方ないね、でも爆発しろ。

物理的にも心理的にも対一方通行最終兵器として君臨。ある意味学園都市最強。
『妹達』からMNWで日々やっかみを向けられてはm9(^Д^)で返す勝ち組。

243 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/28(金) 22:30:23.26 ID:nQZwt5Do0


結標淡希(20代後半)

霧が丘大学に所属する研究員……という事に表向きはなっている。
その正体は(別に隠してないけど)学園都市第八位の超能力者、『座標移動』。
暗部解体後の能力測定でレベル5認定を受けた。
ショタコンじゃないよ! 仮にショタコンだとしても淑女と言う名の(ry


浜面仕上(20代後半)

『アイテム』総務課長。要するに雑用。一応重役なのに。
みんな大好き世紀末帝王HAMADURA。永遠にもげててくれ浜面。
ハーレム形成せずに奥さん一筋で通した事は評価されるべきだと思う。
職場には生意気な妹分二人、顔だけは良い上司、家に帰れば天然系巨乳嫁が待っている。
…………やっぱりもげるべきかもしれない。


浜面理后(20代後半)

兼業主婦。そして学園都市第九位の超能力者、『能力剥奪』。
体晶の副作用なしで能力を封じるも強化するも他者に付与するも思いのまま。
普通に一方通行にも垣根にも勝てちゃったりするが、
市場利益を生むタイプの能力ではないのでこの順位に留まっているのだが本人は別にどうでもよさそう。


浜面裏篤(5歳)

浜面家の長男。幼稚園の年中さん。
既に幼なじみとの「大きくなったらお嫁さんにしてね」イベントを通過済みというリア充。もげろ。
『アイテム』の面々(プラスフレメアお姉さん)からもなんだかんだで愛されている。もげろ。

244 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/28(金) 22:31:10.16 ID:nQZwt5Do0


絹旗最愛(23歳)

一方通行の戸籍上の妹で託児所職員兼、『アイテム』非正規社員。
子供は好きだが長年親しんだコミュニティも捨てがたく、現在の生活スタイルを選んだ。
『アイテム』は裏で人に言えない仕事も請け負っているが、彼女と黒夜には知らされていなかった。


黒夜海鳥(22歳)

絹旗最愛の戸籍上の妹で『アイテム』副社長。
繰り上がり的に今の地位に就いたが、先輩のはずなのに部下にされた浜面は不満タラタラである。
なにげに絹旗より料理が上手く普通に家庭的な女性。彼氏持ちで面食い。


青髪ピアス(26歳)

DM社営業部主任。ちょっと偉くしすぎたかも。
学園都市が世界に誇る、あらゆる属性を受け入れるHENTAI紳士。
心理定規とは別ベクトルで底が知れない。全く見えない。


布束砥信(28歳)

DM社企画開発部所属。会社ではゴスロリの上から白衣。
一方さんと過去に云々はおそらくお得意のハッタリ。多分ハッタリ。


初春飾理(23歳)

DM社システム開発部主任。生ける伝説を創ったコンピュータ技術を見込まれ現在の地位に。
発言の60%が黒い。どす黒い。これが対ていとくんとなると99%黒。
バリバリのキャリアウーマン人生を歩みすぎて結婚できるかどうか今から不安になっているらしい。

245 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/28(金) 22:32:15.04 ID:nQZwt5Do0


親船最中(60代中盤)

三年前、アレイスター=クロウリーの失踪を受けて学園都市統括理事長に就任。
柔和な笑みと温和な言動は絶やさぬままに交渉の主導権を握る辣腕政治家。
最近の趣味は雲川弄りと一方通行弄り。大変な上司を持ってしまったものである。


雲川芹亜(28歳)

学園都市統括理事会の一員で、行政全般担当。
裏で相当に汚い仕事にも手を染めている。時の為政者の側に必ず一人はいるタイプの策謀家。
…………の筈なのに気が付けば>>1によって弄られキャラにされていた。
孔明ポジションも親船さんに奪られて踏んだり蹴ったり。内縁の夫にベタ惚れ。


食蜂操祈(25歳)

長点上機大学で心理学教授を務める才女。そして学園都市第五位、『心理掌握』。
ドラマとかでありがちなドロドロの派閥抗争を心の底から楽しんでいる人格破綻者。
でもごくごく普通のガール(?)ズトークにも憧れているそうな。
結標、理后、雲川あたりとは茶飲み友達。美琴や白井も誘いたいが避けられている。


芳川桔梗(30代)

ニィィィィィィトッ説明不要!!! 無職歴11年! 月収ゼロ!!
厳密には就活してるのでニートではない。通行止めの結婚を陰で一番喜んでた人。


黄泉川愛穂(30代)

警備員本部所属の結構偉い警備員。普段は高校教師で担当教科は体育。
結婚できていない方がおかしいスペック。だから既婚。
それでも常に一方通行たちを気に掛ける面倒見の良さ。結婚してくれ。

246 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/10/28(金) 22:33:31.42 ID:nQZwt5Do0


御坂旅掛(40代後半)

自称『統合コンサルタント』で御坂家の大黒柱。
『実験』について全てを知ったのち、9971人全員を娘として正式に迎え入れる。
彼女らの生活費については、親として責任を持ちたい旅掛に対して、
『加害者』である一方通行が賠償責任を果たしたいと真っ向から対立。
激論を交わした結果、しぶしぶ折半する事とした。


御坂美鈴(40代)

専業主婦。十年前通っていた大学は卒業済み。
どう色眼鏡をかけても20代にしか見えない外見で、娘たちと並んでも完全に姉妹。
しかしご近所に上条詩菜という規格外がいるのでイマイチ自信が持てない。


ミサカ10032号(10歳 外見24歳)

第七学区のとある病院に勤める看護師。あだ名はくーるびゅーてぃー(インデックス専用)。
十年前時点で学園都市在住だった『妹達』は全員が看護士となっている。
その中では比較的表情の変化に乏しい方である。くーるびゅーてぃーにキャラが引きずられたのかも。


番外個体(10歳 外見20代後半)

第七学区のとある病院に勤める看護師。対一方通行専用ツンデレ兼ヤンデレ。
一歩描写を間違えればビッチルートまっしぐらだったお人。
ヤンデレを悪化させずにすくすく育った結果、あっけらかんとした人好きのする性格に。
そのため番外個体を愛でるのが最近のMNWの流行となっている。
もしかしたら一生独身かもなー、と実年齢10歳にして軽く悟りを開きかけてるらしい。
誰か貰ってやれよ! お前らの嫁だろ!!


カエル顔の医者(年齢不詳)

第七学区のとある病院の医者で通称『冥土返し』。
禁書界における元凶のそのまた元凶であると同時に、>>1的に禁書一カッコイイ大人。
後進への指導は行っていないが、彼のオペをすぐ近くで見たいという若者を拒む事もしない。
医師としてのスタンスは「そこに患者がいるなら救う」。



247 :小ネタ「りとく」 [saga]:2011/10/28(金) 22:34:57.67 ID:nQZwt5Do0



七月十六日 午後五時 浜面家 



フレメア「おじゃましまーす…………」キョロキョロ


理后「いらっしゃい」ニコニコ


仕上「何してんだ? さっさと上がれよ」


フレ「いやぁ。浜面の癖にセレブな暮らしぶりだなー、って」


仕上「お前はアレか、俺が甲斐性なしだって言いたいのか?」


フレ「え? まさか浜面の稼ぎだけでこんな高級マンションに入居できてるの?」


仕上「………………」


理后「大丈夫、兼業主婦の月収に敵わないしあげの年収でも私は応援してる」つ通帳


フレ「oh……」


仕上「丸が綺麗に並んでるだろ? それ、月収なんだぜ?」

248 :小ネタ「りとく」 [saga]:2011/10/28(金) 22:35:29.16 ID:nQZwt5Do0


フレ「oh……oh…………強く生きてね、浜面」ポンポン


仕上「レベル5に腕っ節で勝ててもなぁ、関係ないんだよ!
   カァンケイねえんだよぉぉぉぉ!!!!」ウワアアアアアン


フレ(女の子に慰められてガチ泣きしちゃう男の人って…………)





理后「そう、関係ないよ?」


フレ「え?」


仕上「り、理后?」


理后「いくらしあげの稼ぎが私の研究協力費と較べて
   おトイレの鼠の糞程度の価値しかなかったとしても、関係ないの。
   だってしあげは私とりとくに、お金で買えないプライスレスをくれるから……」ポッ


仕上「り、理后……」


理后「しあげ…………」


仕上「理后!」


理后「しあげぇ」

249 :小ネタ「りとく」 [saga]:2011/10/28(金) 22:36:17.23 ID:nQZwt5Do0


イチャイチャ イチャイチャ


フレ(どうみてもヒモです、本当にありがとうございました………………あ)





裏篤「………………おかえり、父さん」ボー


フレ「あ…………も、もしかして、君」


理后「りとく。この人はお父さんの友達のフレメアお姉さん、って言うの。挨拶して?」


裏篤「……浜面裏篤です、はじめまして」ペコリ


フレ「ん、んっ! 私は、フレメア=セイヴェルン。よろしくね、裏篤?」ニッコリ


仕上「…………理后」


理后「?」


仕上「夕飯の用意、はじめてくれ」


理后「え、まだちょっと早いよ?」


仕上「いいから。フレメアの為に、ちょっと手間かけてやってくれよ」


理后「…………ん」コクリ パタパタ

250 :小ネタ「りとく」 [saga]:2011/10/28(金) 22:37:01.90 ID:nQZwt5Do0


裏篤「……フィンランドって、どんな国?」


フレ「そうだねー。大体フィンランド人は他の国の軟弱な連中と違って寒さに強いのよ。
   -273℃で『くそっ、今日はずいぶん寒いじゃないか!』とか文句言いはじめる感じね」


仕上「それ絶対零度じゃね!? …………おい、フレメア」


フレ「なによ浜面、いま裏篤と楽しくお喋りしてるんだから」


仕上「会社に大事な書類忘れてきたの思い出してさ。理后は飯作ってるから、裏篤の相手頼むわ」


フレ「…………!」


仕上「七時ぐらいには帰るから、よろしくな」



ガチャ イッテキマース



フレ「………………あ。さ、さあ裏篤! なにして遊ぶ?
   こう見えてもおねーさんは日本文化に精通してるから、かくれんぼでもなんでも」


裏篤「……フレメアさん、ききたいことがあるんだ」


フレ「なになに? スリーサイズ? ちなみに彼氏イナイ歴はにじゅ」


251 :小ネタ「りとく」 [saga]:2011/10/28(金) 22:37:28.40 ID:nQZwt5Do0




裏篤「………………『こまばりとく』って人、しってる?」




フレ「!!!」


裏篤「……しってるんだ、やっぱり」


フレ「誰から聞いて…………って、一人しかいないか」


裏篤「……父さんが、ねものがたりに一回だけはなしてたことがあるんだ」


フレ(難しい言葉知ってるなぁ、じゃなくて! 浜面、バカじゃないの!?)


裏篤「……父さんのそんけいしてる人で、おれのなまえもその人からもらったって」


フレ「な、なんで、私がその人の事を知ってるって思ったのかにゃあ?」


裏篤「……………………なんでだろ、わかんない」ボー


フレ(お母さんに似て電p…………感受性が強いのかな? 顔はお父さん似なのにね)クス


裏篤「……なあ」


フレ「……なに?」

252 :小ネタ「りとく」 [saga]:2011/10/28(金) 22:38:10.77 ID:nQZwt5Do0


裏篤「……こまばさんは、フレメアさんのたいせつなひとなのか?」


フレ「そうだよ。そう“だった”」


裏篤「イケメン?」


フレ「どう“だった”かなぁ。大体、その頃私まだ十歳だったし。
   ああでも、顔は厳つかったけど、優しくて強い人“だった”事だけははっきり覚えてるよ」


裏篤「…………じゃあ、おれににてる?」





フレ「…………裏篤はお利口さんだね。こんな小さいのに、お姉さんを心配してくれて」


裏篤「!!」


フレ「裏篤。自分のお名前、言ってみて?」


裏篤「…………“浜面裏篤”」


フレ「そう。私みたいな未練タラタラの大人がどんな目で君を見たとしても、
   裏篤は“駒場利徳”じゃなくて“浜面裏篤”なの。
   お父さんとお母さんに愛されて生まれてきた、この世にたった一人しかいない人間なの。
   だからね、胸を張ってごらん? 誰かのまねっこじゃなくて、裏篤らしくすればいいんだよ?」

253 :小ネタ「りとく」 [saga]:2011/10/28(金) 22:39:07.21 ID:nQZwt5Do0


裏篤「…………」


フレ「あはは、子供相手になに言ってんだろ私! そういうわけだから、ね?
   裏篤には、駒場さんの事とは関係なしで、お姉さんとお友だちになってほしいにゃあ!」


裏篤「……うん、わかった。でも、こまばさんのことは聞かせてほしいな」


フレ「どうしてかな?」


裏篤「……………………だれにも言わないでくれるか?」


フレ「大体、友達は約束を守るものだにゃあ」


裏篤「……父さんのそんけいしてる人だから」


フレ「…………?? どういう意味?」


裏篤「……だ、だから。父さんのそんけいしてる人がどんな人なのかわかったら、
   お、おれも、父さんみたいに好きな子をまもれる、つよい男になれるかな、って」マッカ


フレ「……ほうほう。好きな子がいるんだ? 最近のお子ちゃまはませてるなぁ!」ニヤニヤ


裏篤「……むっ」イラッ

254 :小ネタ「りとく」 [saga]:2011/10/28(金) 22:39:50.93 ID:nQZwt5Do0


フレ「お母さんが大好きで、そのお母さんを守れるぐらい強いお父さんを尊敬してて。
   結局は一周してその女の子が大好きだ、ってところに戻ってくるんでしょ?
   照れない照れない! お子ちゃまの癖に生意気だなもー!!」ニヨニヨ




裏篤「……かれしイナイれき二十年のフレメアさんとはちげーし」


フレ「え」


裏篤「……きすだってしたことあるし」


フレ「え、え」


裏篤「……おれとまことはけっこんのやくそくだってしてるし」


フレ「え、え、え」


裏篤「……図に乗んなよヴァージン」プークスクス


フレ「なんですってえええええええええええええええ!!!!?
   そっちこそ調子に乗ってんじゃにゃいわよクソガキいいい!!
   ブービートラップでバラバラに引き裂いてやろうか!?」


~~~~~~一時間後~~~~~~


仕上「ただいまー…………何やってんだアイツら」


理后「ふふふ」ニコニコ

255 :小ネタ「りとく」 [saga]:2011/10/28(金) 22:40:35.84 ID:nQZwt5Do0


裏篤「……はくらいさんまじぱねぇっす……二十歳にもなって『にゃあ』とか……ちょ……ww」


フレ「おい、やめろ馬鹿。私の『にゃあ』はフィンランドのとある大学で
   ミスコンを獲る切り札になった神聖なるジャパニーズMOEの結晶体であって」


裏篤「……かれしイナイれき二十年のミスコンとか聞いたことないんで^^」


フレ「だってだってーーーーっ!!! 折角優勝したのに集まってくるのが
   ジャパニーズコスプレ目当てのオタクばっかりなんだもん!! 私悪くないもん!!」


裏篤「……だったらアンタはオタク票を狙ってなかったっていうのかよ」


フレ「ぐ、ぐはあああああっ!!!」グサグサッ!


裏篤「……見ろ、みごとなカウンターで返した。ちょうしに乗ってるからこうやっていたい目にあう」


フレ「う、うええええええええんんんん!!!!!
   ちょっとした出来心だったんだもん! 普段は猫かぶってるもん!!」




理后「あんなにイキイキしてるりとく、まことで……まことと遊んでる時ぐらいだよね」ニコニコ


浜面「いま“で”っつった!? ねえいま真理“で”って言ったよね!?」


理后「お友だちが増えたよ。やったねりとくん」ニコニコ


浜面(…………イイハナシナノカナー)



オワリ




263 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:06:42.24 ID:gpbVqgKs0


とある日 第七学区のとある病院



お爺ちゃん「ミサカちゃんや、ご飯はまだかの?」


番外個体「はいはい、さっき食べたでしょおじいちゃん」


少年「ミサカねえちゃん、お、おれ、注射こわい…………」


番外「もう、男なんだからシャキっとしなよ! 
    そりゃあミサカだってはじめての静脈注射は怖かったけどさ……」


男「ナースさんナースさん、『はじめては怖かった』ってとこ、おどおどした感じでリピートプリーズ」


番外「死ねば?」ギロ


男「ありがとうございます、ありがとうございます!」ゾクゾク


お爺ちゃん「ご飯はまだかの?」


番外「さっき食べたでしょおじいちゃん」


医者「おーい御坂くん、302号室の患者さんだけど」


番外「あ、はい! いま行きまーす」


お爺ちゃん「ご飯マダー?」(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン


番外「さっき食べたでしょ」

264 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:07:54.57 ID:gpbVqgKs0


ナースステーション



番外「ふぅ………………」クター


ベテラン看護師「御坂さん、最近ちょっと根詰め過ぎじゃないの?」


番外「あっはは! 私が新米だった頃は散々働け働けってお尻叩かれましたよ。
    看護師の仕事なんてこんなもんでしょ?」


ベテラン「…………それにしても、ちょっとねぇ」





10032「番外個体の言うとおりです、とミサカは書類の山を積み上げます」ヌッ


ベテラン「ちょ、あなたたち!?」


19090「統括理事会から『輸出用医薬品製造届』が来ていますが」


番外「ああ、神父さんに送るヤツか。そのへん置いといて」


10039「私たちはこれでシフト終了ですので、とミサカはパパッと帰り支度を済ませます」ノシ


番外「さよーならー」ノシ

265 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:08:37.42 ID:gpbVqgKs0


チョットキイテヨムギノンッタラマタゴウコンドタキャンシタノヨ トミサカハ

エーマジーチョーアリエナーイ トミサカハ

カエリニマックヨッテカナイー? トミサカハ




ベテラン「…………この頃、妹さんたち冷たくない?」


番外「いやぁ、ウチのは常日頃からあんなもんですよー」グデー



ビーッ! ビーッ!



番外「あ、ナースコール鳴ってる」ガタ


ベテラン「……私が行くからちょっと休んでなさい!」


番外「むぅ……はーい」



スタスタ



番外「………………」

266 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:09:09.45 ID:gpbVqgKs0


(休めって言われてもなぁ…………)ハァ


(正直、仕事で頭埋め尽くさないと身動き取れなくなりそうなんだよね)


(油断すると、あの二人の事考えちゃいそうで)





「………………一方通行」





(カッコ悪ゥ。満面の笑顔で送り出したってのに、ミサカってばこんなにも未練タラタラじゃん)


(っつーかさ、私、あんなもやし野郎のどこが良かったんだろ?)


(外見は…………悪くはないけど、良くもないよね、アレ。
  整ってて、女が嫉妬するぐらい綺麗な白い肌してるけどさ。
  学園都市よりエルム街が似合いそうな、悪夢に出演してそうな凶悪なツラで全部台無しだし)ププ


(性格………………なんてもっとアレじゃん。
  人肉抉ってほぼイキかけちゃうような異常快楽者。
  そーいえば、最終信号(ねえさん)とくんずほぐれつする時とかどうして)





「ってもおおおおお!! 結局アイツの事考えてるじゃんミサカのバカバカバカァ!!!」

267 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:09:41.70 ID:gpbVqgKs0




「うわあああっ!?」スッテンコロリン




番外「へ?」キョトン


青年「あ…………ど、どうもお久しぶりです」ペコ


番外「えっと、アナタどこかで…………ああ! 513号室にこないだまで骨折で入院してた!」


青年「覚えててくれたんですか!」パアッ


番外「患者さんの顔と名前を一致させるのは看護師としての嗜みだからねー」ケラケラ


青年「………………そ、そうですか」ガックシ


番外「ん? それで、今日はどうされたんですか? 外来なら一階ですよ」


青年「きょ、今日はそういうのじゃないんです。
    入院中お世話になった御坂さんに、せめてもの気持ちというか」つ花束


番外「んえ? こ、これはご丁寧にどうも」ペコリ


青年「……………………」ガチガチ


番外「どうかした? 震えてるけど、やっぱどこか具合が」

268 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:10:45.87 ID:gpbVqgKs0


青年「み、御坂さん!」ガバッ


番外「は、はい? そんな身を乗り出さなくても」


青年「今日は僕の、心からの気持ちを御坂さんに伝えたくて……」


ガラガラガラガラガラガラ・・・・・・


番外(? 何か音が……)


青年「僕は、御坂さんの事が」




10032「はいはいちょっと通りますよー」



青年「ウボァーーーーーッ!!!!」ドグシャァッ!!


番外「轢いたぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」ガビーン!

269 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:11:45.55 ID:gpbVqgKs0


青年「」ピクピク


10039「19090号、脚を持ってください。私は上半身を」


19090「いっ、せー、のー、せ!」ヨイショ


番外「あの、アンタら何やってんの?」


10032「川´_ゝ`)  なに、気にすることはない。少しこの青年をお借りしますよ番外個体」


番外「……その人、私に言うことあったみたいなんだけど」


19090「事が済めばお返ししますよ」


10039「まあ、“済んだ”後で同じ台詞を吐く気概があれば、の話ですが」クフフ


番外(意味分からん)(´・ω・`)



ガラガラガラガラガラ



番外「…………行っちゃったよ」ポカーン


番外「…………あ、この花良い匂いする」ポワーン

270 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:12:18.37 ID:gpbVqgKs0

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とある病院 霊安室



青年「………………ん? ここは……?」




10032「お目覚めですか」


青年「御坂さん! …………じゃないや、妹さん?」


10039「その覚え方は没個性的で少々気に食わないですね」


19090「一応、ミサカたちも『御坂』なんですけどね」ションボリ


青年「あ、すいません…………それで、僕はどうしてこんな場所に、ってええ!?
    ちょっと、どうして手足縛られてるんですか僕!?」


10032「地下の霊安室ですよ、とミサカは親切ににこやかに情報提供を行います」


青年「このシチュエーションで微笑みながらそんな事教えられても!
    なんなんですかいったい!? 僕ナニカサレちゃうんですかぁ!?」


10039「どうどう、どうか落ち着いてください」


青年「だったらこの手枷足枷外してください!!」


19090「……10032号、10039号。私にもこの方を拘束する意味がイマイチわかりかねるのですが」

271 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:13:06.21 ID:gpbVqgKs0


10032「相変わらず悪だくみとなるとノリが悪いですねぇ19090号は」カチャカチャ


青年(この一番スレンダーな人は、まだ話が通じそうだ)ホッ


ガチャン


青年「は、外れた……」


19090「さて、貴方」ズイッ


青年「うわぁっ! か、顔が近いですよ!///」


10039「ふむ。惚れた女と同じ顔に迫られて、やはり悪い気はしませんか?」


青年「なっ! どどどどど、どうしてそれを!?」カァァ


19090「私は番外個体の行動範囲には全て盗さ……監視カメラとマイクを仕掛けていますので。
    先ほどの告白未遂もばっちり記録に収めました。ああ番外個体可愛いよ番外個体」ハァハァ


青年(へ、変態だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! 比較的まともだと思ったのにぃ!!)


10039「今は自重しなさい19090号。
    私たちがあなたをこの場にお呼びしたのは、その告白未遂の件なのです」


青年「…………それって、いわゆるアレですか。『可愛い妹をどこの馬の骨~』的な」


10032「察しが良くて助かります」


青年「助けが欲しいのは僕です! ぷりーずへるぷみー!」

272 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:13:43.16 ID:gpbVqgKs0


19090「お黙りなさい!! 現在の可愛いくぁいい
    デレ番外個体を獲得するまでに私がどれだけ苦労したのかも知らずにぃっ!!」


青年「なに言ってんのこの人!?」


10039(おい、こいつさも自分一人の手柄のように騙る気じゃねーか、とミサカは(ry)


10032(…………ま、別にいいんじゃね? マンドクセ、とミサカは(ry)





19090「果てはビッチかヤンデレか、と将来の危ぶまれた時期もあったのです!
    それをミサカネットワークの総力を挙げて時に猫可愛がりし、
    時に突き離して、時にこちらから甘え、だからこそ今の番外個体があるのです!」


青年「はぁ」


19090「それをどこの馬の骨とも知れぬ男に、そう安々と渡せますかってんだ、とミサカは(ry」


青年「そ、そんなの、御坂さんの自由意思を無視してるじゃないか!」


10032「心外ですね。私たちは友人レベルのお付き合いにまで口出しする気はありません。
    しかしその先にある幾つかの線を踏み越えようというなら、
    ちょっとした関門を潜っていただきたい、というだけの話です」


青年「…………関門?」

273 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:15:17.06 ID:gpbVqgKs0


19090「なにもミサカは、問答無用で番外個体に近づくなと言っているのではありません。
    半端な覚悟であの子を弄ぶことは許さない、と忠告しているのです。
    …………お気付きですか? あの子はつい最近、決定的に失恋したばかりなんですよ」


青年「!!」


19090「番外個体はああ見えてなかなか初心です。十年越しの初恋が破れたあの子の心はズタズタ。
    そこを吐き気を催すようなチャラ男につけ込まれて、傷口に広げられたらたまりません」


青年「僕はそんなことしません! 心の底から、そう、け、けけ、結婚を前提に御坂さんと」カァ


10039「お付き合いしたい、と。ハイ、では恋人になるにあたっての第一関門を発表します」パチン


青年「へ?」



ダラダラダラダラダラ(ドラムロール音)



10032「…………ジャーン。



    『チキチキ! 九九七一人のミサカ大集合! 番外個体の恋人候補に集団面接!!』



     …………です」トミサカハ

274 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:16:15.63 ID:gpbVqgKs0


青年「……………………あの、すみません。よく意味がわかりません」


10039「我々が番外個体から見て戸籍上の妹である事実はご存知ですね?」


青年「二〇〇〇三人姉妹、なんですよね。にわかには信じ難かったですけど」


19090「そのうちの九九七一人で一斉に、あなたが番外個体に相応しい男かどうかを審査します」


青年「何その物理的圧迫面接!?」


10032「ああいえ、説明すると長いのですが……平たく言うとネット上での面談です、ご安心を」


青年「ほっ…………」


19090「某大型掲示板形式で>>1になってもらって、
    それに九九七一人がやんわりと誹謗中傷を投げかけますので。
    見事千スレ目まで心折れず全レス返しを成し遂げれば合格となります」


青年「それタダの集団イジメじゃないですかァァァァァーーーーーッッッ!!!!」


10039「こんなのは序の口ですよ? 第二関門では接吻許可を得るため、お父様とお母様に……」


青年「第二関門でもうご両親お出でになっちゃうんですか!?
   そういうのって普通は『娘さんを僕にください』的な場面じゃあ」


10032「どうしても最終関門だけは、と言って譲らない頑固な方々がいまして」ヤレヤレ


青年「そ、それはいったいどこのどちら様ですか………………?」オソルオソル

275 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:17:06.81 ID:gpbVqgKs0


19090「『超電磁砲』って言葉、知ってますか?」


青年「知ってるもなにも、学園都市屈指の有名人で、
   御坂さんの実のお姉さん……………………あの、まさか」


10039「そのまさかです」














10032「第三位、『超電磁砲』上条美琴とガチでタイマンを張っていただきます」


青年「」( ゚д゚)


10032「善戦して男意気を見せる、とかじゃ駄目ですよ。
    バルバ○ス(1)みたいなイベント戦でももちろんありません。
    ラスボス戦ですから普通に勝ってください」


青年「」( ゚д゚)

276 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:18:18.05 ID:gpbVqgKs0


10032「ちなみにお姉様を倒せたら、次は第一位『一方通行』がEXボスとして控えていますので」


「」( ゚д゚)


「」( ゚д゚ )


「」(゜д゜)













「」( ゚д゚ )

277 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:19:28.88 ID:gpbVqgKs0


青年「あの」


10039「諦めますか?」


青年「すいません、少し考えさせて下さい」


19090「ほう…………別に構いませんよ」


青年「…………迷うぐらいなら止めろ、とは言わないんですね」


10032「言いませんよ。ごくごく一部の例外を除けば、
    こういう場面で即決するような男ほどいざという時頼りにならない、
    とこの十年でミサカたちも学習しましたので」


(……まあ、その『例外』に命を救われたミサカの台詞ではありませんが)





青年「わかりました……今日のところは帰るので、
    御坂さんによろしく言っておいてください……」


10039「それは自分で言いなさいこのチキン野郎、とミサカは養豚場のブタを見る目で蔑みます」


青年「うう…………」スゴスゴ

278 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:20:25.96 ID:gpbVqgKs0


ガチャ



10039「…………どうなりますかね、あれは」


10032「私は見込みがあると思うのですが」


19090「いいえ、裏にどんな本性を隠しているか知れたものではありません」フン


10032「相変わらず19090号は番外個体絡みとなると豹変しますね。……おや、誰か来たようだ」


10039「死亡フラグおt」



ガチャ



番外「やっほう。半殺しに来たよ馬鹿姉ども」




妹達「「「!?!?!?!?」」」




279 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:21:54.39 ID:gpbVqgKs0


十分後 ナースステーション



番外「まったく、何してるのかと思ったら……」ブツブツ


19090「ごごご、ごめんなさい番外個体! お願いだから嫌いにならないで!」(´;ω;`)ブワッ


番外「いや、別にそういうんじゃないけどさぁ」


10032「……おや、怒らないのですか」


番外「怒られるような事してるって自覚はあったんだ?」


10039「ぐぬぅ」グサ


番外「………………まあ、ねぇ?
   世間一般的に見れば、時代錯誤もいいところの余計なお世話なんだろうけどさ。
   生憎ミサカってば世間知らずの箱入り娘だしー?」キャハハ


19090「番外個体…………」


番外「それにさ、こんな事言ったらあの患者さんには失礼だけど」


妹達「「「?」」」


番外「こんな女を好きになってくれる男の人がいて、
    こんなにも大事に想ってくれる家族がいて」

280 :小ネタ「おまえちょっとそこ代われ」 [saga]:2011/10/30(日) 23:22:36.59 ID:gpbVqgKs0







「わたしいま、すっごくしあわせだよ」







オワリ




307 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/01(火) 23:42:09.52 ID:HtFTR3Ud0
【いままで通り】



「…………ん?」


半日ぶりの大地を踏みしめたステイルが最初に感じたのは、珍妙な違和感であった。


「どうかしたの、ステイル?」

「ここは…………ガトウィックじゃない」

「え、そうなの? 私はロンドンに降りるとき、いつもヒースローだから……」


ヒースロー空港とは二人がロンドンを発つ際にも利用した、

イギリス最大の、そして国際線利用者数世界一の大空港である。

しかしながらチャーター便の離着陸を行えないという数少ないデメリットがあるゆえに、

今回ステイルたちは国内第二のエアポートであるガトウィック空港に降り立った――――はずであった。


「違う…………ここはヒースロー空港でもない」


ステイルは職業柄、国内外を行き来した経験も豊富である。

そして彼が仕事を終えてイギリスに帰還する際は、

必ずと言っていいほどどちらかの空港を利用するのだ。

完全記憶能力者でなくとも、この滑走路に見覚えがないことだけは間違いなかった。

機内のCAに向かって叫ぶ。


「君!! この機はガトウィックに着陸するはずじゃなかったのか?」

「え? 失礼ですがお客様、何をおっしゃって……?」

「……君に言っても仕方がない。飛行計画書(フライトプラン)を見せてくれないかな」

「しょ、少々お待ち下さい」

308 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/01(火) 23:42:38.88 ID:HtFTR3Ud0


機長室へと足を運ぶCAを見送って、インデックスがボソと呟いた。


「どういうことなのかな、ステイル……?」

「わからない。最も濃い線としては毎度おなじみ
 土御門マヌーバーなんだが……それも少し、違う気がしてならない。
 しかし最大主教、心配はいらない。何が起ころうと君は僕が守る」

「あ……………うん……」


小さな手をしっかりと握って、安心させるように凛と言いはなつ。

CAが戻ってきてもステイルはインデックスの手を離さなかった。


「お客様、お待たせしました。こちらがFSSに提出した飛行計画書の写しとなります」

「手間を取らせて済まないね、もう行ってくれて構わない。
 さて…………Departure Pointは学園都市第二三学区空港で、合っている。
 問題はDestinationだが…………………………は?」

「ど、どうかした?」


素早く書類の上を滑っていた眼球がある一点で止まる。

309 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/01(火) 23:43:38.79 ID:HtFTR3Ud0
【変更後】



「…………ん?」


 半日ぶりの大地を踏みしめたステイルが最初に感じたのは、珍妙な違和感であった。


「どうかしたの、ステイル?」

「ここは…………ガトウィックじゃない」

「え、そうなの? 私はロンドンに降りるとき、いつもヒースローだから……」


 ヒースロー空港とは二人がロンドンを発つ際にも利用したイギリス最大の、そして国際線利用者数世界一の大空港である。
 しかしながらチャーター便の離着陸を行えないという数少ないデメリットがあるゆえに、今回ステイルたちは国内第二のエアポートであるガトウィック空港に降り立った――――はずであった。


「違う…………ここはヒースロー空港でもない」


 ステイルは職業柄、国内外を行き来した経験も豊富である。そして彼が仕事を終えてイギリスに帰還する際は、必ずと言っていいほどどちらかの空港を利用するのだ。
 完全記憶能力者でなくとも、この滑走路に見覚えがないことだけは間違いなかった。
 機内のCAに向かって叫ぶ。


「君!! この機はガトウィックに着陸するはずじゃなかったのか?」

「え? 失礼ですがお客様、何をおっしゃって……?」

「……君に言っても仕方がない。飛行計画書(フライトプラン)を見せてくれないかな」

「しょ、少々お待ち下さい」

310 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/01(火) 23:44:26.02 ID:HtFTR3Ud0


 機長室へと足を運ぶCAを見送って、インデックスがボソと呟いた。


「どういうことなのかな、ステイル……?」

「わからない。最も濃い線としては毎度おなじみ土御門マヌーバーなんだが……それも少し、違う気がしてならない。しかし最大主教、心配はいらない。何が起ころうと君は僕が守る」

「あ……………うん……」


 小さな手をしっかりと握って、安心させるように凛と言いはなつ。
 CAが戻ってきても、ステイルはインデックスの手を離さなかった。


「お客様、お待たせしました。こちらがFSSに提出した飛行計画書の写しとなります」

「手間を取らせて済まないね、もう行ってくれて構わない。さて…………Departure Pointは学園都市第二三学区空港で、合っている。問題はDestinationだが…………………………は?」

「ど、どうかした?」


 素早く書類の上を滑っていた眼球がある一点で止まる。




319 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/04(金) 22:23:52.88 ID:GesQCTog0



八月某日 学園都市 上条家


ピンポーン


美琴「はいはーい、いま開けまーす」

当麻「真理、じいちゃんとばあちゃんが来たぞ」

真理「じーじとばーば?」

美琴「え、えっと、寝ぐせとかついてないわよね……」ソワソワ

当麻「あのなぁ、ウチの親はそんなこと気にしないって」

美琴「上条家の嫁としてはそうかもしんないけど、
    御坂家の娘としてはお義父さまとお義母さまに失礼なことはできないの!」


ピンポーン ピンポーン


当麻「言ってる暇あったら開けてやれよ……もういい、俺が」

美琴「お出迎えは嫁である私がするのー!」タッタッ

当麻「よくわかんねえこだわりだなー。な、真理?」

真理「?」

320 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:24:41.77 ID:GesQCTog0


ガチャ


美琴「お、お待たせしましたお義父さまお義母さま! 
    遠いところをはるばるよくいらっしゃいました!」

刀夜「やあ美琴ちゃん、元気そうでなにより。
    遠いと言っても東京と神奈川だからね、大したことはないよ」

美琴「お義父さま、お疲れでしょうからお荷物お持ちしますね。
    お茶の用意ができてますから、どうぞ居間でくつろいでください」イソイソ

刀夜「…………つくづく、当麻は良い嫁を貰ったなぁ」シミジミ



詩菜「まあまあ、実は刀夜さん的には
    美琴さんみたいな甲斐甲斐しい子が奥さんに欲しかったのかしら?」ウフフ

刀夜「…………か、母さん? まさか息子の嫁をちょっと褒めたぐらいで」

詩菜「美琴さんは一段と綺麗になったわねぇ。
    お母さんになった強さ、みたいなものがひしひしと伝わってくるわ」

美琴「お、お義母さまこそ相変わらず、とてもお若くて羨ましいです」テレテレ

詩菜「あらあら、美琴さんこそとってもとっても可愛いらしくて、羨ましいわ私」

美琴「そんな、お義母さまだって」

詩菜「もう、美琴さんこそ」

321 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:25:29.64 ID:GesQCTog0


キャピキャピ



刀夜(…………さ、さっきのあれは不問とされたようだ……)ホッ

詩菜「刀夜さん」

刀夜「はいぃぃぃぃ!? ななな、なんでございましょう?」

詩菜「今晩、二人きりでゆっくりお話ししましょうね。主に人生の儚さについて」

刀夜「それならたったいま感じてる真っ最中です…………」ブルブル

詩菜「あらあらまあまあ」ウフフ



美琴「上条家の嫁として、いつか私もあれくらいできるようにならないと……!」グッ

当麻「いや『グッ』じゃねえよ頼むから勘弁してくれしてくださいお願いします」

美琴「あ、当麻」

当麻「三人ともいつまで玄関先で立ち話してるんだよ」

詩菜「当麻さん、お久しぶり。当麻さんも元気そうでなによりね」

当麻「母さんもいつも通り妙に若々しい…………っつうか俺が歳とった分、
    相対的に若返って見えるんですが。今年でいくつだった、うおおおおお!!??」


ズッドーン!! キュピーン


322 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:26:26.76 ID:GesQCTog0


美琴「デリカシーが足りてないところはほんっと成長しないわねアンタは!
    女性に年齢を尋ねるとかどういう神経してんの!?」プンプン

当麻「だからって家の中で『超電磁砲』ぶっぱなすんじゃねえ!!
    だいたい実の親に対してデリカシーもクソもある、あひいいいい!!!!??」


バチバチバチッ!! キュピーン


美琴「………………」

当麻「………………すんませんでした」

美琴「よろしい」ニッコリ

詩菜「あらあら」ウフフ



刀夜「当麻、お互い強く生きていこうな」ポンポン

当麻「ああ父さん……これも上条家の男に課せられた天命だと思うさ、
    思わなきゃやってられないさ」

刀夜「…………」

当麻「…………」



上条親子「「不幸だ…………」」

323 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:27:10.94 ID:GesQCTog0


美琴「じゃあお二人とも、上がってください」

当麻「真理が待ちくたびれて、おもちゃ片手に突撃してくる前にな」

刀夜「では、お邪魔するよ」

詩菜「うふふ、おじゃまします」

美鈴「おっじゃまっしまーす!」

旅掛「お邪魔しますよ美琴ちゅわああああん!!」

美琴「ふふ、どうぞどうぞー………………」






美琴「ってちょっと待たんか後ろ二人ぃぃぃぃ!!」

美鈴「? どうかした?」キョロキョロ

旅掛「不審者でも見たのか!?」キョロキョロ

美琴「実の娘に不審者呼ばわりされたいんかいアホ親ども!」

324 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:27:46.78 ID:GesQCTog0


当麻「み、美鈴さん、旅掛さん!? どうして!?」

美鈴「やだわ当麻君、美鈴さんなんてた・に・ん・ぎょ・う・ぎ♪
    遠慮なくお義母さんって呼んでちょうだい?」

美琴「娘の旦那に色目使ってんじゃないわよ馬鹿母ァ!」

旅掛「いやー、上条さんが真理ちゃんを
    愛でに学園都市行くっていうから。つい、着いてきちゃった☆」テヘペロ

美琴「我が親ながらキモいから止めてくんない?」

旅掛「!?」

当麻「…………二人とも、先月も先々月も来ましたよね?」

美鈴「六月は恒例のアーくんしばきだったし、七月は二人の結婚式だったし、
    真理ちゃんを主役に据えてたわけじゃないじゃない」

旅掛「今回は一日中、心行くまでマイラブリーセラフィム真理ちゃんを堪能したくてな!」

当麻「いやいや、毎回毎回真理と半日ぐらい子供部屋にこもってる気がするんですが」

美琴「爺バカ婆バカもいい加減にして欲しいわよね」ハァ



当麻「………………」

美琴「当麻?」

当麻(ああなるほど…………遺伝だったんだな、美琴の親バカ)ナットク

325 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:28:39.18 ID:GesQCTog0


刀夜「ふふふ、御坂さん。いくら御坂さんといえどもこれは譲れませんね」

詩菜「お二人とも、二か月連続で真理ちゃん分は補充なさってるんでしょう?
    だったら今回は私たちこそが優先権を行使するべきだと思いますの」ウフフ

当麻「いや、別に四人でかまってやればいいじゃん」



美鈴「もう、詩菜さんってば冗談がお上手なんだからぁ!
    奇々怪々なのは妖怪じみたお肌の張りだけにしてくださいな!」

旅掛「これは異なことをおっしゃる。真理たんの殺人的愛らしさの前では
    ターンチェンジもフェイズ進行もちっぽけな問題ですよ上条さん。真理ちゃんペロペロ」

美琴「あんまり不穏当な発言が目立つようだとジャッジキルするわよボケ父」



四人「むむむ……………………」



当麻「…………ジャンケンしてください」ハァ

美琴「普段は仲良いのに、どうして真理を挟むとこうなっちゃうのかしら」ハァ

326 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:29:59.36 ID:GesQCTog0


五分後


旅掛「っしゃあああああああ!!!! やった、やったぞ美鈴!!
    ねんがん の はつまご(と先に遊ぶ権利)を てにいれたぞ!!」

刀夜「たのむ ゆずってくれ!」

当麻「二年前から持ってましたよねそれ」

美琴「ころしてでもうばいとられないように精々気を付けてね」

美鈴「あなた……私いま、心の底からあなたに着いてきたよかったって、そう思えるわ」ホロリ

美琴「こんなシーンで夫婦の絆再確認されても娘として情けないだけなんだけど」



詩菜「………………」ニコニコ

刀夜「か、母さんスマン!! どうか、どうかSEKKANだけはご勘弁をぉぉ!!!」ガクブル

詩菜「…………しょうがないわ刀夜さん、勝負は時の運だもの。
    順番は御坂さんたちの次でも、真理ちゃんへの愛情に貴賎なんてないでしょう?」ウフフ

刀夜「あ、ああ…………ああぁぁあああ!! 
    ありがとうございます! ありがとうございます!」ペコペコ

当麻(…………これ、俺の未来の縮図とかじゃねえよな)チラ

美琴「?」キョトン

327 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:31:19.27 ID:GesQCTog0


旅掛「では行くぞ美鈴っ!」

美鈴「真理ちゃあーん、美鈴ばーばですよー♪」


ドタドタドタ


美琴「頼むからハメ外しすぎないでよ孫狂いども! ……はぁ」


クルッ


美琴「それじゃあお義父さまお義母さま、テーブルにどうぞ。
    すぐにお茶とお菓子を用意しますから、少々お待ちくださいね」ニッコリ


スタスタ


当麻(あの変わり身の速さはさすが、本家本元ツンデレベル5だよな)

詩菜「本当、美琴さんは気配りの行き届いた良い娘ねえ」フフ

刀夜「ご両親には少しつっけんどんだが、やはり親御さんの教育が良いんだろうなぁ」ハハ

当麻「当のご両親に対して教育の成果が発揮されないのはどうなんでせうか……」

328 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:32:22.58 ID:GesQCTog0


上条家 子供部屋


ガチャ ソー


美鈴「……真理ちゃーん、いまちゅかー?」^^

旅掛「じーじとばーばでちゅよー」^^




デデンデンデデン デデンデンデデン




ターミネーター「I've been backed.」



----------------------------------------------


「そのネタまだ引っ張るんかいッ!!」

「す、ステイル? 急にどうしたの?」

「…………いや、なんか義務感にかられたというか」

329 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:33:07.57 ID:GesQCTog0

----------------------------------------------


旅掛「ぬおおおおおおおおおおっっっ!?」ドキッ!

美鈴「…………三回目だってのに慣れそうにないわねこのオモチャ。心臓に悪いわ」ドキドキ

真理「あ、みすずばーば!!」

美鈴「真理ちゃん久しぶりー! 元気でちたかー?」ダキッ

真理「ばーば、ばーば!」キャッキャッ

旅掛「ま、真理真理! おじいちゃんの名前も呼んでごらん?」ワクワク

真理「たび、たびが、たびぎゃけじーじ!」キャッキャッ

旅掛「」

美鈴「プッwww」

旅掛「笑うな! も、もう一回言ってみようね? おじいちゃんのお名前は、せーの」


「たびがけ!」

「たびぎゃけ!」


旅掛「…………『みさかじーじ』でいいです」(´;ω;`)

美鈴「wwwwwww」

330 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:34:23.89 ID:GesQCTog0


真理「ごめんね、じーじ」ショボン

旅掛「いいんだよ真理ちゃあああんん!!! そんな細かいこと俺は気にしてないからね!」

美鈴「(ウソつけ)……ささ、じじばばと遊びましょ真理ちゃん。
    なにしたい? かくれんぼ? 鬼ごっこ? おままごと?」

真理「おままごと! まことがママで、みすずばーばがまこと!」

美鈴「あらー、真理ちゃんがばーばのお母さん役?
    私の肌年齢もまだまだ捨てたもんじゃないわね」フフン

旅掛「ファンデーションで隠しきれてないシミは正直だぞ、五十路間近の婆さん」クク

美鈴「んですって」ギロ

旅掛「~~~♪ じゃあ俺は、余った真理たんの旦那ポジションってわけだな!!」

美鈴「はあ!? そっちこそ歳考えなさいよアナタで真理ちゃんに釣りあう訳ないでしょうが!!
    アナタに渡すくらいだったら私が真理ちゃんを嫁にもらうわ!」

旅掛「なにを!?」

美鈴「なによ!?」

331 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:35:14.72 ID:GesQCTog0


真理「じーじ、ばーば、どっかしたの?」キョトン

旅掛「真理たん! 真理タンはみさかじーじと結婚したいよな!」クワッ

真理「え?」

美鈴「はっ、誰が! 真理ちゃんを真に愛し愛されるのは、
    『名前を間違えずに呼んでもらった』このみすずばーばこそが相応しいのよ!」フンス

真理「え、ええ?」

旅掛「ガハッ!! こ、細かい点をいつまでもぐちぐちと! 器が知れるぞ美鈴ぅ!」

美鈴「メンタル弱すぎで吐血しちゃう男の人って(笑)」





ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド





真理「だ、ダメェっ!! ダメダメダメなの!
    まことは、じーじともばーばともけっこんできないの!!」

御坂夫婦「「へ?」」

332 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:36:10.40 ID:GesQCTog0


旅掛「ど、どういうことだ真理?」

美鈴「お、おままごとの話だからね? 本当のお話じゃあないのよ?」

真理「でも……でもぉ…………」

御坂夫婦「「でも?」」



真理「まことは、まことは、もうおよめさんになる『ゆびきり』しちゃったの」



旅掛「…………ゆび?」

美鈴「…………きり?」

真理「うん、そうだよ。

    ゆびきりげーんまん、ウソついたら『ぼんばーらんす』せんぼんのーます♪ ゆびきった! 

    …………って。もあいせんせーからおしえてもらったの!」

御坂夫婦「「…………」」




「「  !  ?  」」

333 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:36:58.16 ID:GesQCTog0


二時間後


ガチャ


刀夜「…………御坂さーん、そろそろ交代してもらえませんかね?」ソーット

詩菜「美琴さんの淹れてくれた玉露、とっても美味しかったですよー。お二人もぜひ……」ソーット





真理「それでねそれでねー、りとくんったらそのふれめあおねーちゃんに、『まことはおれのよめ』せんげんしちゃったんだって! きゃー、きゃー!  ………………あ、かかか、かんちがいしにゃいでよね!! これはわたしのびぼーがつみぶかすぎるってだけのはにゃしで、べつにキモづらに『かんぱくせん げん』されたのがうれしいってわけじゃにゃいんだからね!!! ……あとね、あとねー」

旅掛「…………あー」ゲッソリ

美鈴「うん…………」ゲンナリ



刀夜「み、御坂さん!? いったいなにがあったんですか!」

旅掛「き、気を付けろ上条さん……あの五歳児め…………
    おそろしいほど順調にデレ調教を進めてやがるっ……!!」ワナワナ

美鈴「待望の初孫が齢二にして男を知ってるだなんて…………胸にくるものがあるわ」ヨヨヨ

詩菜「まあまあ、大丈夫ですか美鈴さん?」
334 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:38:42.41 ID:GesQCTog0


真理「あ! とーやじーじだ!」キャッキャッ

刀夜「そうですよー、とーやじーじですよー」デレッ

真理「とーやじーじがいるってことはぁ……」

旅掛「くっそいいなぁ、俺ももっと呼びやすい名前に戸籍いじくろうかなぁ……」イジイジ

美鈴「バカなこと言ってんじゃないの。それじゃあ交代しましょ上条さん。
    …………詩菜さん、くれぐれもお隣のお子さんの話題は口にしないように」

詩菜「あらあら、真理ちゃんがどんな男の子とラブラブなのか、私も知りたか」





真理「………………やっぱりー! しーなおねーちゃんだー!!」キャッキャッ





美鈴「」ピシッ

刀夜「へ」

詩菜「あらあら」

旅掛「………………wwwwwwwwwwwww」

335 :「まことちゃんとじーじとじーじとばーばと???」 [saga]:2011/11/04(金) 22:39:26.83 ID:GesQCTog0


十分後 居間


美鈴「」

美琴「ママ、ねえママ? ちょっと、お茶冷めちゃうわよ?」

美鈴「」



美琴「…………ダメだこりゃ」

当麻「…………あの、お義父さん。お義母さんはどうしたんですか?」

旅掛「くっ、くっくっく…………くくくくくくく! 
    なに、肌年齢の神秘と、世の無情と、子供の純粋さに打ちのめされているだけさ」

上琴「は?」




美鈴「」




オワリ

342 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/08(火) 22:50:49.94 ID:Z0ia8pMJ0


一方「………………」

垣根「………………」

美琴「………………」

麦野「………………」

食蜂「………………」

削板「………………」



美琴「え、なにこの空気」

一方「つうかココどこだ」

麦野「だいたいなによ↑の(旧)って。まるで私たちが使い古しの劣化能力者みたいじゃない」

垣根「テメエに関しちゃ大正解じゃねえか第四位」

麦野「ああん!? 粗大ゴミが図に乗ってんじゃねえぞ!!」

削板「両者落ち着け!! いきなり喧嘩腰とは感心しないぞ!!!」

343 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/08(火) 22:51:28.59 ID:Z0ia8pMJ0


食蜂「まあまあ皆さん落ち着いてくださるぅ?」

一方「なンでオマエが仕切ってンだよ」

食蜂「それはもちろぉん、私がレベル5の中でも飛びきり社交性に長けた人格力の持ち主だからよぉ」

美琴「はぁ? どの口が人格者とかほざいてんのよ、唯我独尊の女王様?」

食蜂「美琴さぁん、今回私はこの場の取り仕切りを上から委託されてるのぉ。
   逆らったらどうなるかわかってるぅ?」

垣根「おもしれえ、第五位ごときが俺の『未元物質』に“どうする”のか見せてもらおうじゃ」

食蜂「…………ごめんなさぁい、あなた誰? 私の手元の資料だと、第二位の顔写真には
   ○芝のV○GETAがアへ顔ダブルピースしてる奇跡的な一枚が採用されてるんだけどぉ」

垣根「!?」



一方「ちょwwwこれwwマジぱねェwwww」

削板「やや、なかなか根性溢れるショットだな!!」

麦野「ぷ…………っ…………っ………………!!!」←呼吸困難に陥るほど爆笑中

美琴「これ、かなりよくできた合成写真ね。
   よほど技術力がないとこうも自然にはならないわよ」カンシン

垣根「花頭ぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 帰ったら頭上のお花畑に
   枯葉剤まいてやるから覚悟しとけよおおおおおお!!!!!!!」

344 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/08(火) 22:52:18.60 ID:Z0ia8pMJ0


食蜂「それではオチがついたところで仕切り直しといきましょうかぁ」

垣根「ふざけんなクソアマ!」

麦野「結局あんた、どうしてまた人間ボディに脳味噌移したのよ」

垣根「超能力者が集まる円卓に一機だけ冷蔵庫が鎮座ましましてたら
    シュールってレベルじゃねえだろうが!! 俺なりの気遣いだよ!」

一方「余計な心配すンな、羽が生えてなくてもオマエ現時点でプカプカ浮きまくってるから」

垣根「誰が上手いことを言えと!」



美琴「話がぜんぜん前進しないわ……もう食蜂さんが司会でいいから、さっさと進めてくれる?」

食蜂「今回は学園都市から外部に向けた広報の一環として、
    レベル5座談会と題した会合を開かせていただきましたぁ…………っていう、建前よぉ」

削板「建前?」

食蜂「ぶっちゃけ私たちって横の繋がりが割と希薄でしょお?
    全員を一か所に集めるシチュエーション設定を>>1が面倒くさがったのよぉ。
    ついでにこれだけいると自然に会話をつなぐのも大変だから、
    適当なお題を設定して、それに対するテキトーなトークに興じてもらいまぁす」

美琴「メッタメタね……」ハァ

一方「適当の上にテキトーを重ねるとかイヤな予感しかしねぇ…………」ハァ

345 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/08(火) 22:52:54.19 ID:Z0ia8pMJ0


食蜂「時間も押してるしぃ、>>1のやる気の問題もあるからお題一個で終わっちゃいそうねぇ。
    じゃあ『各々の面識と関係性を整理』してみましょうかぁ。はい一方通行さんから」

一方「俺ェ? めんどくせェな……」ポリポリ

食蜂「今後も秩序だった会話を継続するため、基本的に発言は序列順になりまぁす」

削板「なにっ、じゃあ俺は毎回最後なのか!!」ガーン!

麦野「この面子で『秩序だった会話』とか成立すんのかしらね」

垣根「無理だろうな、特に第七位の根性バカ」

美琴「…………なにを言ってもブーメランになりそうな気がするからノーコメントで」

食蜂「ほらもうそうやって脱線するぅ! ほら一方通行さん、早く早く」



一方「ちっ……第二位と第三位とは昔ドンパチ殺し合いました、
    第四位と第七位とはちっとばかし顔合わせたことあります、
    第五位とは一応職場の同僚ですゥ…………これで満足か」

垣根「早っ!」

削板「なにやら一行目に不穏当な文字が踊ってるが、きっと気のせいだな!!」

麦野「やる気ないわねー」

美琴(ま、新婚だもんね…………早く帰りたいかそりゃ)ニヨニヨ

一方「ンだオリジナル、その顔はよ」ギロ

美琴「べっつにー?」

346 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/08(火) 22:53:58.63 ID:Z0ia8pMJ0


食蜂「はい、それじゃあ次は第二位さん」

削板「進行のほうにも淀みがないな!! 素晴らしい根性だ!!!」

垣根「それが良いか悪いかは分かんねえがな。
    ……第一位にはその昔ぶっ殺された恨みがあるからな、いずれは同じ目に遭わせてやるよ」

一方「はン。やれるもンならやってみろや」

麦野「その理屈でいくと、私もアンタには隻眼隻腕になってもらわないといけないんだけどね」

垣根「…………」

食蜂「みんな殺伐としてるわねぇ」

美琴「…………この話題、止めにしない? 私もあっちこっちで複雑な事情抱えてるし、
    ここを掘り下げるといくら時間があっても足りないわよ」

削板「せっかく平和な時代を生きてるんだから、今を楽しもうじゃねえか!!!」



一方「……それが建設的だな」

麦野「……大人になるって嫌よね。処世術なんてものを自分が身に付ける日が来るなんて、
    これっぽっちも思ってなかったし」

垣根「……水には流さねえぞ」

食蜂「はいはぁい、それじゃあほのぼのトークさいかぁい☆」

347 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/08(火) 22:55:21.50 ID:Z0ia8pMJ0


垣根「第三位とは……………………特になにも接点がねえな」

美琴「あれ? でもあのDMの会長さんってことは、初春さんの上司なんでしょ?」

垣根「ああ、そんなプログラマー雇ってたかもな」シレッ

美琴(会長直々にヘッドハンティングされたって聞いたんだけどな……)



垣根「第四位とは、あー……」

麦野「はいはい、そこもカットカット。また空気悪くなるわよ」

垣根「お前、意外と割り切ってんのな」

麦野「最近、思うところが色々あってね」



垣根「第五位ねぇ。こいつとも当然何もなしだ」

食蜂「…………あなた、もしかして友達少ない?」

垣根「ああん!?」


プッww


垣根「クソセラレータと麦野だってのは分かってんぞ後で覚えとけやコラァ!!」

削板「その二人とは仲が良さそうだな!!!」

垣根「誰がじゃ!」

食蜂(結構的を射てると思うけどぉ)

348 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/08(火) 22:56:03.76 ID:Z0ia8pMJ0


垣根「第七位。こないだ飲み屋で一緒になった。以上」

削板「おいおい水臭ぇな、酔い潰れるまで飲み比べた仲じゃn」

食蜂「言いたいことがあるならご自分の番にお願いしまぁす。じゃあ次美琴さぁん」



美琴「一方通行は…………ま、義理の弟ね。それ以上のコメントは差し控えるわ」

一方「…………」

美琴「やだもーそんな暗い顔しないの! お義姉さんって呼びたいならいつでも……
    あ、どっちかって言うと当麻をお義兄さんって呼びたい?」

一方「誰が呼ぶか!! オマエ最近母親に似てきたンじゃないですかァ!?」

美琴「とまあ、私たちはこんな感じよ」アハハ

一方「……年下の女に振り回され(ry」



美琴「垣根さんは右に同じで面識なし。初春さんの上司だっていうのも最近知ったわ。
    初春さんも何も言ってくれなかったし、彼女も知らなかったのかしら」

垣根「…………当然だろ。まともな奴なら俺の事情には首突っ込んじゃこねえし、
    そもそも俺のほうから関わり合いにはなんねえよ」

美琴「そ。こんなこと言ったら垣根さんには失礼だけど、ちょっと安心したわ」

垣根(ぐ…………なけなしの良心が痛むぜ)チクチク

349 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/08(火) 22:56:50.68 ID:Z0ia8pMJ0


美琴「麦野さんとも、出会いはあれだったけど今ではいいお友だちね。
    お隣の浜面さんの友人だった、っていうのにはちょっと縁を感じるかも」

麦野「私はあくまで滝壺……じゃなかった、理后とお茶しに行ってるんであって、
    第三位と仲良し小良しになった覚えはないっての」

美琴「そのわりにはウチによって真理の相手してくれるじゃない。
    こないだ『カナミンR4なりきり変身セット』贈ってくれたけど、あれ麦野さんの趣味?」

麦野「実は喧嘩売ってるでしょアンタ」



美琴「…………」

食蜂「やだもー美琴さんったらぁ、人の顔ジロジロ見てぇ」ポッ

美琴「パスで」

食蜂「んもぉ、しょうがないなぁ。こうなったら
    私の番で美琴さんに対する熱いパトスを思う存分ぶちまけて」

美琴「お断りします」( ゚ω゚ )

一方(あの第三位に毛嫌いされるって、結構な偉業じゃねェか)

垣根(お前が言うな)



美琴「削板さんとはこのあいだの事件で共闘した仲ね」

削板「……ん、そうだな…………稀に見る強敵だったな」

美琴「うん……」

350 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/08(火) 22:57:50.27 ID:Z0ia8pMJ0


麦野「らしくもなくテンション低いわね」

食蜂「ローテンションの第七位とか絶滅危惧種だと思ってたわぁ」

垣根「その方がこっちとしちゃやりやすいがな」

美琴「よく考えなくても黒子の現上司だし。
    さらに言うと十年ぐらい前に二人で一戦交えてるのよね」

削板「…………む、むむむ! 確かにあれもまた、血沸き肉躍る好勝負だった!!!
    どうだ第三位、また機会があったらあの公園で一汗流さねえか!!!!」

美琴「お断り(ry」

一方「あーうるせェうるせェ、音量下げてェから誰かリモコン貸してくれよ」

食蜂「ドゾー」つリモコン

美琴「それ食蜂さんの自己暗示用でしょ」



食蜂「さくさく行きましょお、続いて第四位さぁん」

麦野「これって後半行くにつれて喋ること減ってかない?」

削板「なにいっ!? じゃあ俺は一言も喋らせてもらえないのか!!!???
    ちっくしょおおおおおお!!!! 夕陽が今だけは目に染みるぜぇえええええ!!!!」

食蜂「…………つまり、そういうことだから。お察し下さぁい」

四人((((ああ、そういう…………))))

351 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/08(火) 23:00:46.28 ID:Z0ia8pMJ0

小ネタのくせに長すぎるのでここで区切りますの
続きはまた明日
しっかしこいつらホントに喋らせてて飽きません
別スレでもさンざン絡ませた後なのにネタが尽きる気がしませンよォ
352 :さ、寂しくなんか(ry [saga]:2011/11/09(水) 08:58:05.70 ID:7JEA+nY/0


麦野「じゃ、やかましい第七位は放置プレイの方向で。
    まずは第一位ね。こないだの結婚式でハブられました」

一方「仕方ねェだろォが終わったことをグチグチ蒸し返してンじゃねェぞ年増ァ!」

麦野「…………あんたとはいずれ決着つけなきゃならないとは思ってたけど。
    今がその時ってことでいいんだな貧弱殺すもやし野郎ぉぉぉぉぉ!!!!」


ワーワーギャーギャー


削板「この二人も『意外に仲良い』枠なんだな!!」

食蜂「統括理事会の調査によると数年前、絹旗最愛さんと黒夜海鳥さんの
    法定代理人の座を賭けて、裁判沙汰になる寸前までいってるわぁ」

垣根「…………そりゃ、刑事裁判か?」
   ・・
食蜂「一応、民事止まりよぉ」

美琴「二人とも、『出るとこ出』たら後ろ暗すぎる身の上だもんね……」



一方「きょ、今日のところはこの辺にしといてやらァ」ゼェゼェ

美琴「素が虚弱体質の癖に無理してんじゃないわよ」

削板「お前には根性根性根性根性根性根性根性根性、そしてなにより根性が足りねえ!!!!」

一方「根性根性うっせええええ!!!! ちょっとコイツ誰か黙らせろ!!」

353 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/09(水) 08:59:19.70 ID:7JEA+nY/0


麦野「ぜぇはぁ、つ、次は第二位のクソ野郎ね……」ゲホゲホ

垣根「そのコンディションでどうして俺に喧嘩売るの!? バカなの死ぬの!?」

麦野「にっくきライバル会社のトップ。以上」

垣根「喧嘩売った上にガンスルーとかマジ勘弁しろ名誉棄損で賠償請求すっぞコラ」

食蜂「はい次いってみましょー」

垣根「どいつもこいつもおおおお!!!」



麦野「第三位か……いつかの研究所の借りを返したいって気持ちも、ないでもないんだけどね」

美琴「あの頃は私も色々と立てこんでて必死だったから……
    その、今にして考えれば失礼だったと思うわ、ごめんなさい」ペコリ

麦野「こいつがこの調子だから、そういう感情も薄れちゃったのよね」

美琴「そんなこんなで今ではいいお友だちです」ニッコリ

麦野「いや、そこは認めてないから。……ほんと、調子狂うわね」ハァ



削板「……あれが巷で言う、ツンデレってやつか?」

食蜂「ちょっと素直力足りてない人を指してなんでもかんでもツンデレって呼ぶ風潮、
    わたしはいかがなものかと思うのよねぇ」

垣根「禿同。やっぱりツンデレは黄金比率9:1を守ってこそ至高だな」

一方「超電磁砲で言うとどの時期になンのかねェ。
    俺と三下がやりあった後だと8:2から7:3ぐらいに見えンだよな」

美琴「……あの、全部聞こえてるんだけど。っていうかその事件以降原作で一度も
    私と邂逅してないアンタがどうしてその時期の私のツンデレ比知ってんのよ」

354 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/09(水) 08:59:48.61 ID:7JEA+nY/0


麦野「第五位、食蜂操祈だっけ?」

食蜂「はじめまして、麦野沈利さぁん。今後ともよろしくぅ」

麦野「ハジメマシテショクホウサン。じゃあ次いきましょ」

食蜂「ひっどおい。独り身同士もうちょっと腹の内を見せあいっこしましょうよぉ」

麦野「互いの傷口に塩塗りこむ未来しか視えないわよ!」

食蜂「ちぇー。お茶友だち一人確保かと思ったのにぃ」ブーブー

麦野(暗部時代から『心理掌握』の悪評はそれとなく
    伝わってきてたからね…………関わり合いにならないに越したことないわ)

食蜂「んもう、ますます失礼力全開なこと考えてるしぃ」

麦野「…………だから嫌なんだよ。んで、第七位か」



削板「…………」ワクワク

麦野「ハジメマシテサヨウナラ」

削板「おい!! そりゃねえだろ!!!」

麦野「いやだって。アンタとは本気でなんの接点もなきゃ共通の話題もないし」

削板「そんなものは根性で補えばいいだろう!!!!」

麦野「司会、さっさと進行お願い」

削板「くっ、これも俺の根性が不足していたが故の結末かっ……!!!
    まだまだ精進が必要だ、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

麦野(マジうっせえ)

355 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/09(水) 09:01:21.79 ID:7JEA+nY/0


食蜂「はぁい、ではいよいよお待ちかね!学園都市二三〇万人が待ち望んだスーパーアイドル!
    『心理掌握』こと食蜂操祈が、あなたのハートも操っちゃうゾ☆」キラッ☆



一方「うわァ」

垣根「カメラも入ってないのにこのカメラ目線である」

削板「素晴らしいプロ意識じゃねえか!!」

一方「いや何のプロだよ」

美琴「…………オフレコにしとくからさ、この際ここでぶっちゃけちゃわない?
    正直、二十代半ばにもなってそのキャラ辛いでしょ。ゆうこ○んじゃあるまいし」

食蜂「………………」

麦野「そのゆ○こりんもとっくにカミングアウトしちゃったしね」

食蜂「……………………」





「…………ペルソナ被ってないとね、やってらんないこともあるのよ」ハン





四人「「「「…………」」」」

削板(ぺるそなってなんだ? 根性の亜種か?)
356 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/09(水) 09:02:22.48 ID:7JEA+nY/0


食蜂「それじゃあみさきちのフリートーク開始でぇす☆ 皆楽しんでいってねぇ♪」キラッ☆



一方「……あれが、アイツの生き方なのかもな」

麦野「よく考えれば若くして名門大学の教授なんてやってんのよね。
    風当たりは私たちの中でも一番の所にいるかもしれないわ」ウンウン

美琴(ちょっとほだされてしまった自分を殴りたい…………
    でも、これからはもうちょっと仲良くしようかな……)ウーム

垣根「プロ意識ってのもあながち間違ってなかったのかもな。
    根性バカの直感も侮れねえもんだ」

削板「???」



食蜂「第一位、一方通行さんとは出向先の理事会ビルでときどきお会いするわぁ」

美琴「一方通行は親船理事長のSPで、食蜂さんは諮問機関の一員だっけ」

一方「会議室でよく顔会わせるけどよ、その物理的眩しさどうにかなンねェのか。
    おかげで最近サングラスが手放せないンですけどォ」

食蜂「? なんのお話かしらぁ?」キラキラ

一方「……なンでもねェ、もういいわ」

357 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/09(水) 09:02:59.02 ID:7JEA+nY/0


食蜂「第二位、垣根帝督さんとは今日初めてお会いしたわぁ。
    学園都市の中枢に曲がりなりにも携わる者として、前々からお写真だけは拝見してたけど」

垣根「…………その写真ってのは、さっきのアレみたいなアレじゃあねえだろうな」オソルオソル

食蜂「うふふ、まっさかぁ。十年前のものとはいえ、れっきとした人間ボディだったわぁ」

垣根「ほっ」



食蜂「某C県東京ディ○ニ○○ン○上空を六枚羽で滑空してる合成写真だったけどぉ」

垣根「メルヘェェェェェンンン!? 自覚はあるんだからそろそろ誰か許してくれよおお!!」

一方「イヤでェす」

麦野「イヤよ」

食蜂「イヤねぇ」

削板「イヤだ!!!」

垣根「ちっくしょおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
    救いは第三位だけか! オイこの薄情者どもになんか言ってやってくれ!!」



美琴「出遅れた………………」(´・ω・`)ショボーン

垣根「おいぃぃいぃぃぃぃぃいいい!?」ガビーン!

358 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/09(水) 09:03:49.14 ID:7JEA+nY/0


食蜂「美琴さんとは常盤台中学の先輩後輩の仲よぉ。
    もうちょっと仲良し力アップできると私としては嬉しいんだけど、
    残念ながら美琴さんには嫌われちゃってるみたいでぇ……」

美琴「……あの、食蜂先輩」

食蜂「…………へ?」

美琴「今度、よかったらお食事でも一緒にどうですか?」ヒキツリワライ

食蜂「 ! ? 」コウチョク



五分後



食蜂「…………はっ!! い、いま確かに五分ほど時が飛んだわぁっ!!」

一方「キングクリムゾン凄いですねェ」

削板「だ、第三位のお誘いにはそんな能力が!?」

美琴「そんなにショック受けるほど私の態度ってアレだったのね……」ズーン

食蜂「つつつ、次行きましょうか次ぃ!!」アセアセ

麦野(面白いぐらい動揺してるわねこの性悪女)ニヤニヤ

垣根(弱み一つ握ったぜ)ニヤニヤ

359 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/09(水) 09:04:22.35 ID:7JEA+nY/0


食蜂「お、お次は第四位、麦野沈利さんねぇ。えっとお……」

麦野「特に話すことないわね」

垣根「テメエこそダチ少ないんじゃねえか」

食蜂「ぼっちじゃありませぇん!
    第八位さんと第九位さんとは週一でスイーツ食べに行ってますぅ!
    たまたまこのメンバーだったから少なく見えるだけですぅ!!」

一方「スイーツ(笑)」



食蜂「第七位、削板軍覇さん…………この度は結婚おめでとうございまぁす」ペコリ

削板「……あれ? 第五位には教えたんだっけ?」キョトン

麦野「!?」

御坂「え、マジマジ!? 削板さん彼女いたの!?」

垣根「そういやこないだ飲み屋でんなこと言ってたな」

一方「酒席の戯言じゃなかったのか……今年一番のサプライズだわ」

麦野(……え、ウソ? ウソでしょ? あんなのですら結婚すんのに私って私って)ブツブツ

美琴「麦野さん? 顔色悪いわよ?」

麦野「」ブツブツブツ

一方「ほっといてやれよ。オマエに同情されたら余計にミジメだろ」

美琴「はぁ」

360 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/09(水) 09:05:43.72 ID:7JEA+nY/0


食蜂「それでは私の手番も終了ということで、そろそろ」

削板「よおおおおおおおおおおおし!!! とうとう俺の出番というわけだな!!!!
    男削板軍覇がレベル5の面々を熱く語る『熱血!! 軍覇塾!!!』を」

食蜂「の、はずでしたがぁ」

削板「へ?」

食蜂「脱線や与太話で予定された誌面を使い切ってしまったので、座談会を打ち切りまぁす」

削板「」



美琴「ちょっと待ってよ、これ雑誌に載るの!?」アセ

食蜂「最初っから広報活動の一環だって言ってるじゃない」

垣根「建前じゃなかったのかよ」

食蜂「予想外に面白いことになったから、
    最後に私が軽ぅく検閲を加えて出版する運びになると思いまぁす」

麦野「で、出たー! 自分に都合の悪い所だけカットしようとする職権濫用!!」

一方「だいたい検閲とか憲法違反だと思いまァす」

食蜂「嫌だわぁ。ここは事実上の独立国、学園都市なのよぉ。
    日本国憲法の括りなんてこの塀の中では些細なことだわぁ」

一方「日本中の憲法学者に録音して聞かせてやりてェわ、今の台詞」

361 :「(旧)超能力者だよ! 全員集合!」 [saga]:2011/11/09(水) 09:06:36.96 ID:7JEA+nY/0


削板「おいおいおいおいおいおい!!!! ちょっと待ってくれ!!!」

美琴「どうかした、削板さん? 血相変え……いや、いつも通りか」

削板「俺のターンだけカットなんてそんな不公平なことが許されるのか!?」

麦野「いいんじゃない別に?」

垣根「俺ら五人で一回ずつお前に言及してるしよ、問題ねえだろ」

削板「ぬ、ぬぬぅ…………そ、そうなのか……」

食蜂「大丈夫よ削板さぁん、カットした分は根性で補うから」

削板「おお!! 根性だったら仕方がねえな!!!」

一方(嫁さンともども削板くンの将来が心配でならねェわ)


ガチャ


削板「ははは、なんだかスッキリしたぞ!! そんじゃ帰るか!!!」

垣根「最初っから最後まで字面のうぜえ奴だな。じゃあ俺も」

一方「こンな茶番これっきりにして欲しいぜマジで」

美琴「あ、時間あったら皆でハンバーガーでも食べに行かない?」

麦野「高級マンションの入居者にあるまじき発言ね」

食蜂「それじゃあ皆さん、さようなら~」


パタン




オワリ



367 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:10:20.64 ID:nlntP7Sh0


――約束の名前――


368 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:11:43.13 ID:nlntP7Sh0


妹同然の少女が住まいとするリノリウム造りの館を、勝手知ったる顔で闊歩している時だった。


『……なんですか、これ』

『おやぁ? アステカの魔術師さんは俺が思っているほど日本語には明るくなかったのかにゃー』

『そういうことではなくてですね』


人様の家に図太い顔で転がり込む野良猫のような気軽さで、
突如としてかつての同僚が姿を現し、一通の封書を押し付けてきたのは。


『連中の「御用件」なら、ちゃぁんと一番上等な一枚に書いてあるぜよ』


「謹啓」。


差出人の片割れが醸す印象とはまるで不釣り合いな、堅苦しく丹念な書き出し。
眼球を左から右へ、右端へ辿りついたら下段へ、丁寧に丁寧に動かしていく。

369 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:12:28.84 ID:nlntP7Sh0


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謹啓
紫陽花が雨に映えるこの季節
皆様には益々ご健勝のことと心よりお慶び申し上げます
このたび私たちは結婚式をあげることになりました
つきましては日頃のご厚情に改めてお礼を申し上げますとともに
あらためて末永いご厚誼をお願いしたく
心ばかりの披露宴をご用意いたしました
ご多忙中誠に恐縮でございますが
ぜひご出席賜りますよう お願い申し上げます      敬具







                               上条当麻
                               御坂美琴


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370 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:13:40.93 ID:nlntP7Sh0


『………………表の名前は、自分のものではありませんよ』


深々と溜め息をつきたい気持ちをこらえて、そうひねり出すのが精いっぱいだった。


『んー、おっかしいなぁ? 俺の目の前にいる男の顔は、確かに「海原光貴」のなんだが。
 「書庫」にクラッキングかけて確かめてもいいぜい』


頬に手を触れる。
黄色人種の肌の色も、ここ七、八年で随分と慣れたものだと思う。
しかしどれだけ身体に、心に馴染もうともこれは、仮初の借り物だ。



かぶりを振って苦笑した男――――エツァリのものではなかった。



『で、受けとる気はあるのか?』

『どうして、貴方がこれを自分に?』

『質問を質問で返すとキラさんに怒られるぜよ……ま、いい。親友に頼まれたんでな。
 「住所も本当の名前も知らないが、招待したい奴がいる」ってな』

『…………貴方は、それにどう返事したんです』


わずかに、エツァリは声を強張らせる。

それに対する元同僚は、チェシャ猫のような笑みをさらににんまりと深めた。


『心配しなくても、余計なことは言ってない。
 「難しいかもしれないが、一応やってみよう」……そんな感じだったかにゃー』

371 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:14:10.84 ID:nlntP7Sh0


安堵の息を隠し通せるだけの気力はなかった。


『……お気遣い、感謝します』

『お気になさらず、だぜい。それで結局どうするんだ? 出席する気があるんなら、
 昔の仕事仲間の誼で返事の仕方から当日のマナーまでレクチャーしてやりますたい』


歩み寄ってきた男が、封筒から返信用の葉書を抜きだして裏面を見せてきた。
右上に記された文字を、土御門が諳んじる。


『「御出席、または御欠席。どちらか一方に丸をおつけください」。
 …………俺が引き受けた仕事は宛先に封筒を渡して、この葉書を持ちかえることのみ』


親の仇を見たような目で、その一文を睨みつける。
押し黙ったエツァリに、土御門元春は最後通牒を叩きつけてきた。


『決めるのはお前だ、アステカの魔術師エツァリ』


手を伸ばす。


『…………自分、は……』


声と身体を震わせながら、エツァリは“選択肢”を指差した。

372 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:14:55.29 ID:nlntP7Sh0



それが、いまから三年前の六月の事だった。



373 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:15:27.41 ID:nlntP7Sh0

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土御門元春とはまた別の元同僚――より正確にはその奥方――に招待されて、
エツァリはここ、学園都市は第一二学区の小さな教会を訪れていた。
早朝から二人の司式者が予行演習を行っていた中央聖堂には、いまは誰もいない。
長椅子に腰かけてなんとなしに祭壇を眺めていると、背後から声。


「海原、か?」






【すいません、日本語わからないんです】


褐色の肌の男は母国語でそう返すと、そそくさと席を立った。
大扉の前で声をかけてきたツンツン頭の男性とすれ違おうとして、


「――――――」


目を見開き、足を止めた。
立ち塞がった男性が、見覚えのある葉書を一葉、掲げていたからだった。


「やっぱり海原だよな、偽海原。他にどう呼んでいいかわからないけどさ」

「…………よくもまあ、“そんなもの”を後生大事に保管していましたね」


わずかにでも反応を示してしまった以上、もはや取り繕うことはできなかった。
エツァリの心臓を強く打った紙切れを、男性は懐かしそうに人指し指の腹で撫ぜる。

374 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:16:24.70 ID:nlntP7Sh0

                              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「そりゃあそうだろ。“こっち”に丸付けときながら顔を見せなかった
 失礼な奴のこと、忘れるわけにはいかなかったからな」


『御出席』の『御』と『御欠席』に引かれた二重線は、
三年前に『海原光貴』が返した答えを如実に示している。


「そのことについては…………申し訳ありませんでした、としか」


『出席』を丸で囲んだはずの男は、しかし披露宴会場に顔を見せなかった男は、
深々と頭を下げる。
詰ったはずの相手のほうが、焦って手を振る始末である。


「お、おいおい。本気で怒ったわけじゃあ」

「…………ふふふ」

「え?」

「いや、失礼しました。話には聞いていましたが、貴方は本当にお変わりないようで」

「…………謝罪したいのか怒らせたいのか、どっちなんだよお前」


白眼視されたが、エツァリのくつくつという低い笑いは止まらなかった。




「さあ、どうなんでしょうね――――――上条当麻さん」




たった一度邂逅しただけの魔術師からの、無責任な『約束』を見事果たした主人公。


上条当麻に対して、エツァリは十一年ぶりに向き合った。

375 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:17:25.75 ID:nlntP7Sh0


男が二人、一つの長椅子の端と端に腰を下ろす。


「三年前、どうして来てくれなかったんだ?」

「…………実を言うとですね、あの会場に居たことは居たんですよ、自分」

「マジか? 俺はあの日、お前の姿が見当たらないかって結構必死で探して……あ、そうか」

「ええ、御推察の通りでしょう。式場のスタッフに紛れこんで、お二人の晴れ姿をこっそり、
 眺めさせていただきました」

「……俺らの挙式は見たかった。でも、顔は合わせたくなかった。そういうことか?」

「歯に衣着せず、はっきり言ってくれますね」

「悪い、性分なんだ」

「存じ上げております」

「正解、ってことで良いんだな」

「…………ええ。きっとそうなのでしょう。とっくの昔に割り切ったつもりだったのに、
 あの招待状を見た瞬間、情けないことに身体が竦み上がってしまいまして。気が付けば、
 貴方たちに顔を合わせずに済む方法を模索していました」

「それで、後悔しなかったのかよ」


軽く、目をつむった。


「大なり小なり、人間は後悔して生きる生き物です」

「したんだな」

「……ええ」

「今でも、か?」

376 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:18:27.67 ID:nlntP7Sh0


「………………己が心だというのに、計りかねています」

「だったら俺が代わりに言ってやる。お前は少なくとも今日、
 俺たちに会いたかったんだ。俺は、そう思うぞ」

「自分はつい先ほど、逃げ出そうとした男ですよ?」

「だったらその“顔”はなんだよ」

「十一年前に一度出くわしたきりの魔術師のことなど、とうに記憶の彼方だろうと、
 そう思ったんですよ。貴方の人生はその後も波瀾万丈であったようですし」


エツァリは褐色の素顔に笑顔の仮面を付けて、上条に見せつける。


「嘘だな」

「…………ほう、その心は?」

「本気で俺から隠れたいならそれこそ三年前みたいに、まったくの別人の仮面を付けてくれば
 よかったんだ。見つけてほしくはないけど、見つけてくれたら嬉しいな、みたいな……
 そんな心境だったんじゃないのか、お前」

「複雑なオトコゴコロ、というやつですか……ふぅむ」


まるで他人事のように、エツァリは呟いた。


「ふふふ。貴方にそんな心の機敏を見抜く観察眼があったとは、上条勢力の監視者だった
 自分もついぞ知りませんでしたよ」

「十年の研鑽の賜物、ってやつさ」

「奥様相手にしっかりそれを発揮しているようなら、自分としても言うことはないのですが」

377 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:19:21.83 ID:nlntP7Sh0


「ちぇっ。どいつもこいつも俺に対する評価が、十年前から更新されてないんだよなぁ」

「ご自分の日頃の生活態度を顧みてはいかがでしょう」

「…………いーさいーさ、だったらこれから」


ふて腐れていた上条が突然にやりと口角を吊り上げた。
同時に立ち上がるとエツァリに背を見せ、大扉に向かって歩き出す。
エツァリはそれを、目を丸くして見送った。


「上条さん流の空気の読み方ってやつを、アステカの魔術師殿にご覧にいれてやりませう」


言うが早いか、上条は取っ手を握ってぐいと引っ張った。
ゆっくりと大扉が開くと、ほどよくまぶしい斜光が聖堂に差し込みそこかしこを跳ねる。
幻想的な光景だったが、エツァリが目を奪われたのはそんな光の精のいたずらではなかった。




「海原さん……じゃあ、おかしいわよね。とにかく、お久しぶりです」




女神が、薄汚い魔術師に向かって、どういうわけだか頭を下げた。
少なくともエツァリは、二流脚本家でも書かないであろう馬鹿げたワンシーンが、
なんの手違いか実際に現世で起きてしまったのだと、束の間本気でそう信じた。






「みさか、さん?」






378 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:20:23.86 ID:nlntP7Sh0


妻と入れ替わりに扉をくぐろうとする男に向かって、エツァリは声を張り上げていた。


「いつ、奥様に連絡を?」


いまとなっては無意味な質問だったが、聞いておかずにはいられなかった。
この実直で、お人好しの代名詞のような青年にまんまと嵌められたのかと思うと、
怒りなどより先に一スパイとしての矜持が揺らいで仕方がない。


一番には、眼前の女性との会話を少しでも先送りにしたいという、打算だったのだが。


「教会に入ってったお前の後ろ姿を見たそのときに、さ。背中見ただけで確信持てる程度には、
 お前は俺の中で大きな存在だったってこと、これで証明できたんじゃないか?」


人懐っこい表情で、男はしてやったりとばかりに笑う。


「…………それはさておき、お前の目の前でケータイ取り出したら、断固阻止されそうな
 予感がしたんだよ。だから前もって美琴に連絡したら、十分ぐらい足止めしてほしい
 って言うからさ」


エツァリは、美琴に視線を移した。
この女性(ひと)が、自分と話をしたがっていた?


「じゃ、今度こそ俺は行くぜ」


エツァリが呆然としていると、上条は気楽に言った。
止める暇もなく、上条当麻は――――上条美琴のただ一人の伴侶は、妻と男を同じ空間に
残して、あっさりと立ち去ってしまった。

379 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:21:08.99 ID:nlntP7Sh0


重苦しい沈黙。


「…………ふっ」

「海原……さん?」


この期に及んでどう誤魔化そうかなどと考えている自分に気が付いて、
エツァリは自嘲気味に肩を震わせた。


「貴方に、この顔をご覧に入れた覚えはないのですが」


エツァリは、彼女の前ではいつでも『海原光貴』だった。
行く先々にしつこくつきまとうだけの、ストーカーじみた優男だった。
にもかかわらず自分を追い求めてこの場に来た、ということは。


「……ごめんなさい。これは、当麻にも恋人になった後で打ち明けたことなんだけど」

「八月三十一日、『約束』。…………聞いて、いらっしゃったんですね」




――いつでもどこでも駆けつけて、彼女を守ってくれると約束してくれますか?――




「ふっ、ふふ…………自分としたことが、これは痛恨のミスでしたね」

380 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:21:52.74 ID:nlntP7Sh0


美琴は、いまにも泣きそうな顔をしていた。


「自分などのために流しては勿体ないものですよ、それは」

「そんな、そんな…………っ!」


歯を食いしばって、何度も何度も首を振って、固く目をつぶって。
やがて落ち着いた女は、一度天井を見上げてから、眦をわずかに上げてこう言った。


「…………私、謝りません」

「ふむ?」

「インデックスに、あなたの今の上司にも言ったんです。私は謝らない、って。
 沢山の女の子の、純粋な行為を踏みにじって、私はあの人と結ばれた。
 だからせめて、いまこの場所にいる事実を誇るためにも、私は絶対に謝らないって、そう」


強い決意の言葉とは裏腹に、美琴の口調は途切れ途切れだった。


「…………それが良い事なのか悪い事なのか、自分の口からは言及しかねます」


美琴がそう出るなら、自分も下手な言葉は吐けない。
そう思ってエツァリも、丁寧に次の文句を探る。


「ただ……………………らしい、と思いますよ」

「…………え?」

381 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:22:32.21 ID:nlntP7Sh0


「辛くとも苦しくとも、自らの意志で選択した道だけは、決して否定しない。
 実に貴女らしい――――“貴方たち”らしい、信念だ」


美琴は、目をぱちくりとしてしばし呆然とした。
エツァリの言わんとするところを理解したのか、その表情が花開いたようにほころぶ。


「当然、ですよ。だって私――――――上条当麻そっくりの、独善者ですもん」


十一年前の、八月三十一日。
突拍子もない『約束』を強要した魔術師に、にかりと笑って頷いた少年。


(貴方たちは、まったくもって似た物夫婦だ)


記憶の中と眼前。
二つの笑顔を重ねながら、エツァリは心の底からそう思った。






「だから私が贈る言葉は、もっと別の…………ああ、そうだった」


ポン、と女が手を合わせる。


「名前。まだ、聞かせてもらってませんよね」

382 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:23:23.79 ID:nlntP7Sh0


「ここまできて、教えてくれない、なんて事はないですよね」

「…………エツァリと、そうお呼びください。メキシコの出身で、現在はイギリス清教に
 籍を置く身です」

「エツァリさん、エツァリさん……ちょっと言いにくい名前ね」

「歯に衣着せぬ物言いまで、夫婦で似なくとも良いと思うんですがねぇ」

「エツァリさんは、その…………いま、恋人とかは」

「常人では聞きにくいであろうこともズバリと尋ねる。いやはや清々しい」

「……ご、ごめんなさい」

「おや、謝らないのではなかったんですか?」

「…………エツァリさんって、Sだったんですね」

「貴女が十年前に会ったのは、あくまで『海原光貴』ですからね」

「はぁ。それで、質問の答えは」

「いますよ」

「本当ですか!?」

「みさ……美琴さんにウソなどつきません」

「じゃ、じゃあ。その人のこと、世界一好きですか?」

383 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:24:28.81 ID:nlntP7Sh0


エツァリは、ほんの刹那の間だけ口を閉じて思慮した。


「……ええ。自分の人生に、“二つ目”の、極めて大きな転機をもたらした、かけがえのない、
 妹のような――――――しかし、気が付けば」


心臓に手を当てて、『原典』の鼓動を確かめながら、素顔のまま微笑む。


「誰よりも愛しい女性になっていた………………………………貴女、よりも」

「…………わかりました」


最後の一言を絞り出すのに途轍もない時間と気力を消費した事実は、
ご愛敬で見逃してもらいたかったが。


「だったら。これを、受けとってほしいんです」


そう言って美琴は、手に持っていたセカンドバッグから二つ、取り出した。
なんの変哲もない郵便はがきと、先の細い筆ペン。
良く観察せずとも聖堂に入ってきた時から浮かんでいた玉のような汗を、女は誇らしげに拭う。


「夫から聞いて、ひとっ走り探してきました」


この炎天下を、自分のために。
目頭が熱くなって、視界が軽くぼやける。
その間にも美琴はすらすらと、なんとも流麗に葉書に文字を書きつけていく。
最後に裏返すと、それまでより大きく筆先を動かして、シュッと真下に滑らせた。


「どうぞ」

384 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:25:07.21 ID:nlntP7Sh0


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謹啓
梅雨も明け夏の太陽がまぶしいこの季節
皆様には益々ご健勝のことと心よりお慶び申し上げます
このたび私たちは結婚式をあげることになりました
つきましては日頃のご厚情に改めてお礼を申し上げますとともに
あらためて末永いご厚誼をお願いしたく
心ばかりの披露宴をご用意いたしました
ご多忙中誠に恐縮でございますが
ぜひご出席賜りますよう お願い申し上げます      敬具


                               上条当麻
                               御坂美琴


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「これ、は?」

「時候の挨拶以外は、三年前の文面を再現できたとは思うんですけど…………
 それよりも裏を見てくださいね。ちょっと結婚式のマナーからは外れるけど、
 正式なものじゃあないし、いいでしょ」


言われるがままに裏返して――――

385 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:25:47.63 ID:nlntP7Sh0



「――――――ッ」



途端に瞼に降りる露が、土砂降りに変わった。











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              エ
              ツ
              ァ
              リ
              様




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386 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:26:44.92 ID:nlntP7Sh0


駄目だ。


「やっと、渡せた」


止まらない。


「もしこれを受け取ってくれて、その上でもう一度、『出席』に丸をつけてもらえるなら」


次から次へと、眼球の奥からせりあがってくる大粒が、噴水のように。


「私はこの教会で、生涯でもう一度だけ、ウエディングドレスに袖を通そうと思います」


もしかしたら、我慢をしなくても、いいのだろうか。


「だから、そのときは」


心おきなく、泣いてもいいのか。


「あなたの大切な人と一緒に、私の花嫁姿を」


心ゆくまで、喜んでもいいのか。


「今度こそ、素顔で祝ってくれませんか?」

387 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/12(土) 01:27:20.52 ID:nlntP7Sh0


「喜んで、ご招待をお受けします」


震える手で、エツァリはペンを受け取った。
三年前に土御門に教わった通りに、筆を走らせて。
二重線を二度引いて。
覚束ない指先で、小さくいびつな円弧を描いて。
三年前は、人に託してしまった『選択肢』の答えを。
今度こそ、素顔で、ありのままの自分で。


「ああ――――――」





直接、手渡した。






「貴女を好きになって、良かった」






約束の名前――――END



399 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 22:53:19.88 ID:hZ1L3yqZ0


七月二十一日 一方通行宅



黄泉川「さーて、全員グラスもったじゃん?」

打ち止め「準備完了! ってミサカはミサカはフライング気味に、むぎゅ」

一方通行「こらえ性のねェところはいつまで経ってもガキのまンまだな、オマエはよ。
      音頭のときくらい空気を読んでくださァい」

番外個体「へー、そういう第一位は随分と協調性あふれるイイコちゃんになったじゃん」

一方「うっせェ」

芳川「はいはいあなたたち、喧嘩しないの。それでは、一方通行と打ち止めの式が
    無事終わった事を祝って。乾杯」


女三人「「「カンパーイ!」」」

男一人「…………カンパァイ」ボソッ


一方「っつーかここ俺ンちなンですけどォ。どうしてクソニートが仕切ってンだおい」グビ

芳川「失礼ね。求職活動中の人間は定義上ニートからは外れるのよ」チビチビ

一方「どっちみち完全無欠の無職だろォがゴク潰し」

芳川「やだ、無職ってなんだかニートより言葉の響きが重いじゃない。呼称改正を要求するわ」

一方「だったら就職さっさと決めるか就活止めるかにしろ」ケッ

芳川「これからも末永くよろしくね、一方通行」ゴクゴク

一方「俺が養うのは打ち止めと妹達(のうちの半分)だけだクソアマァァァ!!!」

400 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 22:54:21.25 ID:hZ1L3yqZ0


番外「二人ってさ、よくも飽きずに毎度毎度同じ話題で喧嘩できるね」グイ

黄泉「十年経っても変わらぬ黄泉川家の日常風景じゃん」ゴキュッゴキュッ プハー

番外「いや、ここ一方通行の家だし」

打止「や、やだもうアナタったら…………
    一万人の連れ子ごとまとめてミサカを食べさせてくれるなんて……」テレテレ

番外「誰がコブじゃい元幼女。しっかし昔ならこれも妄想乙、で済ませられたのにねぇ。
    …………っていうか姉さん、酔っぱらうの早くない?」

黄泉「乾杯と同時に大ジョッキでビールイッキだったじゃん」

一方「見てたなら止めろやアホ警備員!!」



打止「続けて二杯目、いっきまーす!!」グビッグビッグビッ



一方「そしててめェは何をしでかしてンだクソガキィィ!!」

番外「おお、やれやれー」ヤンヤヤンヤ

芳川「あら、心なしか顔が青いわね打ち止め」

一方「打ち止めァァァァァァァーーーーーッッッッ!!!??」

401 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 22:55:11.78 ID:hZ1L3yqZ0


五分後


一方「…………アルコール分解完了ォ」

黄泉「ベクトル操作ってつくづく便利な能力じゃん」

芳川「私にもソレがあれば今頃は悠々自適のニート暮らしが送れたのかしら」

一方「仮に能力と序列を誰かに譲れたとしてもオマエだけには渡さねェよ自堕落の化身が」

番外「そりゃロクなことにならないねきっと。主に物凄くくだらないベクトルに」

芳川「失礼ね。せいぜいテレビのリモコンに手が届かないとき、気流操作で手元に持ってくるぐらいよ」

番外「想像以上にくだらなかった!?」

一方(俺らからすりゃあ)

黄泉(想定の範囲内じゃん)



打止「ちぇー。せっかく良い気分で酔っぱらってたのにー、ってミサカはミサカは猛抗議!」

一方「そのまま良い気分に浸ってたらあの世行きだったンだよクソガキ!!」

番外「……ねーねー、義兄さんってさ」

一方「…………その呼び方ヤメロ」

番外「姉さんのこと、この歳になってまで“クソガキ”って言ってるよねー」

402 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 22:55:47.66 ID:hZ1L3yqZ0


黄泉「そういやそうじゃんよ。十年前に較べりゃ頻度的にマシになったとはいえ、
    打ち止めもいまや立派なレディー。嫁にまでしといてクソガキ呼ばわり
    ってのはどうかと思うじゃん」

一方「実年齢は十歳だ。なンも間違ってねェだろ」

芳川「あらまあ。ここにきてロリコンのカミングアウトかしら」

番外「ぎゃっはは、そういう事になっちゃうね!」

一方「ふざけンなこンなン誘導尋問だろォが! ハメやがったな番外個体ォォォ!!!」



黄泉「打ち止めはこんな旦那に対して思うところはないのか?」

打止「照れ隠しだと思えばカワイイものなのよ、ってミサカはミサカは経験則から呟いてみる」

一方「捏造ォ! 捏造反対ィ!!」

芳川「お酒ぐらいもう少し静かに飲ませてくれないかしら」チビチビ

一方「てめェの酒代を十年間立て替え続けてる相手に向かってよくンな口が聞けるよなオマエ」

芳川「図太さには自信があるって、面接でも何回もアピールしたのだけど」フゥ

403 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 22:56:41.47 ID:hZ1L3yqZ0


番外「照れ隠しと言えばさー」

一方「なにその方向で話まとめようとしてンだオイ」

打止「MNW内ではその方角に向かってとっくに舵を切ってるのよ、ってミサ」

番外「姉さんのツンデレ時代、見てて飽きなかったよねー」グデー

打止「カはミサーカはぁぁっ!!?」ブホォ

一方(なンか一瞬聞き捨てならねェ単語が聞こえたような)



芳川「あったわね、そんな時代も……」シミジミ

黄泉「ま、スキルアウトどもに較べれば可愛い反抗期だったじゃん」シミジミ

一方「中学上がってしばらくした頃だったか……
    ちょうどオリジナルのツンデレ史と時期が重なンだよな」シミジミ

打止「っ、ちょ、ま」

番外「とある朝、自室から出てきた第一位に向かって姉さんが開口一番」



『い、今までのミサカのデレはあくまで命の恩人に対するものなんだからね!!
 ミサカはアナタに心と体を許しちゃったことあるけど、そ、そういう意図は
 ないんだから、かか、勘違いしないでよね!!』



番外「…………だもんねぇ」シミジミ

打止「」パクパク

404 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 22:57:44.57 ID:hZ1L3yqZ0


芳川「その後の一方通行の返しがまた傑作だったわね」

黄泉「冷静だったよなぁ、お前。真っ赤な顔の打ち止めをスルーして、
    トースト焼いてコーヒー淹れて、一口ずつ口に入れたところでボソッと」



『通行許可もらったのは脳内だけですゥ』



一方「ツンデレテンプレの中に『デレ』なんてワード混ぜてくるもンだからよ、
    あまりに斬新かつ革新的すぎて逆に頭が冷えたわァ」

番外「ぷっ、ぷぷ、確かに! 自分がデレてたこと自覚してるツンデレとかww」

打止「もうやめてェェェェーーーーッッッ!!!!
    ミサカ史上最大最強の黒歴史をそれ以上ほじくり返さないでーーーっ!!!」

一方「むしろそれまでの、『ミサカはミサカは~』とか恥ずかしげもなくのたまってた
    あの時代のほうが黒歴史だと思ってたンだがな、俺は」

芳川「最終的には二年ぐらいで収まったんだったかしら」

黄泉「よくぞまあ、純真で天真爛漫なデレ期に回帰してくれたじゃん」ホロリ

打止「うわぁぁぁぁああああぁぁぁあああ」

番外「精神的負荷がかかりすぎて鯖が落ちかけてるねー、こりゃ大変大変」ケケケ

黄泉(鯖?)

405 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 22:58:21.58 ID:hZ1L3yqZ0


打止「」プスプス

番外「黒歴史と言えばさ」

一方「オマエの『言えばさ』、さっきからロクな結果生ンでないンですけどォ」

番外「昨日の二次会で上映されたスペシャルビデオ、姉さんたちは見てないよね」

一方「ビデオだァ?」

打止「ちょちょちょ、番外個体! アレのことはこの人には内緒だって言ったでしょ!
    そのためにも昨日はいち早く帰ったのに……」コソコソ

番外「(一番の理由は新婚初夜を楽しむためでしょ)……いやー、実はさ。
    姉さんに無断で、MNWの総力を挙げて再編集したんだよね、直前に」

打止「!? ………………ま……さか…………」ガクブル



黄泉「ああ、昨日のアレのことか? 懐かしき打ち止めの中学時代を心行くまで堪能できたじゃん」

芳川「会場中爆笑の嵐だったわね」

打止「やっぱりぃぃぃ!?」

番外「あ、そうそう。あんまり好評だったからブルーレイに焼いて皆に配っちゃった☆」テヘペロ

打止「色々終わったァァァーーーーーッッッッ!!! ってミサカはミサカはぁぁぁ!!!」

番外(もやもやしてたのがちょっとスッキリしたわー)フゥ

一方(結局なンの話してンだ…………べ、別に蚊帳の外で寂しいわけじゃ(ry)

406 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 22:58:54.23 ID:hZ1L3yqZ0




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




黄泉「そういや二人とも、ハネムーンに出発するのは明日の午後だったか?」

一方「ああ」

番外「ひゃっほーい! だったら今日は夜更けまで飲み明かせるんじゃん!」ウキウキ

芳川「でもいいのかしら、新婚ホヤホヤ夫婦の愛の巣にいつまでも居座るなんて」

打止「…………その台詞、間違ってもヨシカワだけは言っちゃいけないと思う」

芳川「あら?」キョトン

番外「いーじゃんいーじゃん、どうせ昨日の夜さんざん乳繰りあったんでしょお?
    今日ぐらいミサカたちに付き合いなよお!」キャハハ

黄泉&芳川(………………)

407 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 22:59:31.62 ID:hZ1L3yqZ0


一方「そうだな、今日ぐらいはいいか」

番外「え? ちょ、ちょっと、そんなマジにとられるとミサカ困っちゃうんだけど☆
    邪魔なら邪魔って言ってくれればいつでも出てくし」

打止「…………そうだ番外個体。昨日、返事し忘れてたよね」

番外「返事? なんの?」

打止「だから、昨日の“アレ”」

番外「…………あ」






――――二人とも、だいすき。幸せになってね――――






408 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 23:00:20.59 ID:hZ1L3yqZ0


番外「べべべ別にあんなの、ミサカが勝手にぶつけた言葉なんだから、気にしなくても」ワタワタ

一方「ああそォですか、だったらクソガキも手前勝手に喋くるだけだ。なァ?」ククク

打止「そうそう! 心して聞きなさい番外個体、ってミサカはミサカは演説ポーズ!」ガタッ

番外「いや、その」

黄泉「おっ! いいぞ打ち止め、なかなかサマになってるじゃん!」

芳川「理想的なアジテーターの姿勢ね、ヒトラーあたりでも参考に」

一方「やめろ馬鹿」

番外「やめてほしいのはコッチなんだけどー!?」



打止「私の大切な妹、番外個体」

番外「……な、なんだよ」カァ

打止「私もこの人……一方通行も、アナタのことが大好きよ。だからアナタも、
    いつの日かちゃあんと幸せを掴まないと承知しないんだからね!
    ってミサカはミサカはお姉さんぶってみたり」ウフフ

番外「…………」

409 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 23:01:18.46 ID:hZ1L3yqZ0


一方「だ、そうだぜ」グビ

打止「なに他人事みたいに言ってるのー!
    ミサカはあなたの内心も一緒に代弁してあげたのよ、って(ry」

一方「そりゃオマエの言い分だろ。俺はノーコメントですゥ」

黄泉「はっはは、相変わらず第一位サマは素直じゃないじゃん! 打ち止めたちに負けて
    ばかりいられないぞ、桔梗! 私たちも親として愛してるじゃん、番外個体ー!」

番外「…………んっ、く、ば、馬鹿じゃないの、どいつもこいつもぉっ……!」フルフル

打止「おめめが真っ赤だよ、番外個体」フフ

番外「違いますぅ! 慢性的寝不足だから充血してるだけですぅ!!」プイッ

一方「教科書に載ってそうな古典的言い訳だなオイ。…………ン?」



芳川「………………」ウーム

一方「どうした芳川、明日の面接の脳内シミュレートか?」

芳川「そんなの一度もしたことないわ」キリッ

黄泉「…………頼むから一回はやっといてほしかったところじゃん、そこは」

一方「確かに履歴書に書いていいレベルの図太さだわオマエ」

打止「それで、どうかしたのヨシカワ?」

410 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 23:02:34.46 ID:hZ1L3yqZ0


芳川「別に大したことじゃないのよ? ただ、さっき打ち止めが言った『返事』って……」






『本当は姉さんのぷりぷりした唇の感触を貪りたいって私利私欲も働きました、ハイ』






芳川「姉妹が開きかけた禁断の花園行きチケットに対する返事だとばっかり思ってたわ、私」

一方「」

黄泉「」



打止「ちょおおおおおおお!!! なんでその話蒸し返しちゃうのおおおお!?」

番外「ああそっか、それもあったっけ……」チラッ

打止「その流し目こころなしかマジに見えるからやめてぇぇぇ!!!」

411 :「ヨミカワさンち(あたしンちのイントネーションで)」 [saga]:2011/11/15(火) 23:03:39.74 ID:hZ1L3yqZ0



ネーサンネーサンマタイッキノミシテー?

ナンカメノイロガアヤシインダケド!?

キャピキャピ



一方「…………こンな『卒業』はイヤだなァ」

黄泉「ま、こういうオチが付くあたりが、ヨミカワさンちらしいんじゃん」つコップ

芳川「なにかあったら、たまには“こっちの”家族も頼ってちょうだいね、一方通行」つコップ

一方「……………………おう」つコップ





コツン♪





オワリ



416 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:18:44.17 ID:A9imqgUj0

ねーちゃん! 週末っていまさッ!

気が付けばあの頭を掻き毟りたくなるような予告編から早一月が経ちました
ここから先は今までに輪をかけて

※原作に対する独自解釈
※厨二病

要素を含みますので一応、ご警告申し上げておきます
要するに予告のあのノリが延々続いちゃうわけです
それでも良いという方、くどくどと前口上を並べてすいませんでした
お待たせしたのかどうかはわかりませんが、やっとこさ最終章の投下です
ステイルとインデックスの行く末をどうか温かい目で見守ってあげてください↓
417 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:20:06.06 ID:A9imqgUj0



――――これは、ヒーローになりきれない男と、ヒロインになりそこねた女の物語。



418 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:21:01.49 ID:A9imqgUj0

-----------------------------------------------------------------------------


たとえ君はすべてを忘れてしまうとしても


「いやだ、いやだよすている」


僕はなにひとつ忘れずに


「おねがい、いっしょうのおねがいだから」


君のために生きて死ぬ――――か


「しなないでぇ、すているっ!!」


まったく本当に、最初から最後まで





「い、やっ、いやあああぁぁぁぁあああああぁぁあああああああああ!!!!!!」





僕らの物語は、くだらないことだらけだったな――――

419 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:21:39.99 ID:A9imqgUj0





                         Last Chapter






                     と  あ  る  神  父  の


                       ■  ■  ■  ■





420 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:22:35.29 ID:A9imqgUj0


――Passage1――



「…………ん?」


半日ぶりの大地を両の脚で踏みしめたステイルが最初に感じたのは、珍妙な違和感であった。


「どうかしたの、ステイル?」

「ここは…………ガトウィックじゃない」

「え、そうなの? 私はロンドンに降りるとき、いつもヒースローだから……」


ヒースロー空港とは二人がロンドンを発つ際にも利用したイギリス最大の、そして
国際線利用者数世界一の大空港である。
しかしながらチャーター便の離着陸を行えないという数少ないデメリットがあるため、
今回ステイルたちは国内第二のエアポートであるガトウィック空港に降り立った
――――はずであった。


「違う…………ここはヒースロー空港でもない」


ステイルは職業柄、国内外を行き来した経験も豊富である。
そして彼が仕事を終えてイギリスに帰還する際は、必ずと言っていいほどどちらかの空港を利用する。
完全記憶能力者でなくとも、この滑走路に見覚えがない点だけは疑いようもなかった。

機内のCAに向かって叫ぶ。


「君!! この機はガトウィックに着陸するはずじゃなかったのか?」

「え? 失礼ですがお客様、何をおっしゃって……?」

「……君に言っても仕方がない。飛行計画書(フライトプラン)を見せてくれないかな」

「しょ、少々お待ち下さい」

421 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:24:33.93 ID:A9imqgUj0


機長室へと足を運ぶCAを見送って、インデックスがボソと呟いた。


「どういうことなのかな、ステイル……?」

「わからない。最も濃い線としては毎度おなじみ土御門マヌーバーなんだが……それも少し、
 違う気がしてならない。しかし最大主教、心配はいらない。何が起ころうと君は僕が守る」

「あ……………うん……」


小さな手をしっかりと握って、安心させるように凛と言いはなつ。
CAが戻ってきてもステイルはインデックスの手を離さなかった。


「お客様、お待たせしました。こちらがFSSに提出した飛行計画書の写しとなります」

「手間を取らせて済まないね、もう行ってくれて構わない。さて…………Departure
 Pointは学園都市第二三学区空港で、合っている。問題はDestinationだが…………
 ………………は?」

「ど、どうかした?」


素っ頓狂な声が滑走路上にまぬけに響く。
素早く書類の上を滑っていたステイルの眼球が、ある一点でピタリと止まっていた。

422 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:25:39.66 ID:A9imqgUj0




「れ、れ、レオナルド・ダ・ヴィンチ国際空港………………だと……?」

「え……え、えええ!? じゃ、じゃあここって!」


紙切れをくしゃりと握り潰して、ステイルの音吐は呻きと雄叫びの狭間でさまよった。







「十字教最大勢力の本拠地――――イタリア首都、ローマだ………ッ!!」







423 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:26:47.14 ID:A9imqgUj0


一時間後、ステイルとインデックスはタクシーをつかまえて、車窓から覗くローマの
歴史ある街並みを横目で流していた。


「そろそろ見えて来るんだよ」

「……くそ、何故こんな事に……」



----------------------------------------------------



二人して語学に堪能であったのは不幸中の幸いだった。
ステイルは欧州圏の言語なら一通り日常生活レベルまで操れるし、インデックスは言わずもがな。
右も左も分からぬ異国に放り出されたわけではないのだから、冷静に戻るにそう時間はかからない。
いつもの癖で煙草をふかそうとして空振りしたステイルが次にしたのは携帯電話のアドレス帳を
呼びだして、『T』の欄まで十字キーを連打し続けることであった。


『土御門…………土御門……よし』


国際電話には馬鹿げた額の通話料金が付き物だが、背に腹は代えられない。
この一件に土御門元春が噛んでいるにせよそうでないにせよ、あのイギリス清教一の曲者に連絡を
付ければなにがしかの糸口にはなるはずだ。


そう考えたステイルが通話ボタンを押そうとした、その時だった。


『待って、ステイル』

424 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:28:12.56 ID:A9imqgUj0


キーにかかった親指が止まる。
振り向くと、インデックスが難しい顔で首をひねっていた。


『なんだい、最大主教』

『さっきの飛行計画書の、Destination Contactのところなんだけど』


Destination Contact――――目標地点における連絡先。
その欄に何か彼女の目を引く記載があっただろうか。
ステイルは一度しわくちゃにしてしまった紙切れを丁寧に広げ直して――――目を剥いた。

一一桁の番号。


『………………なるほど、“彼女”の仕業か……!』


インデックスには当然及ばないながらも、ステイルも記憶力にはそれなりに自信がある。
優秀なメモリーが、記された番号の意味するところを即座に教示してくれた。



----------------------------------------------------



ローマ市内を縦横に走る市道はさながら山頂から湧き出る流水のごとく、中枢から郊外に
向けて放射状に延びている。
『Destination Contact』に連絡を取った二人の次なる目的地は、その中心点からやや西に
行った先にある世界最小国家であった。


「あれが…………」

425 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:29:22.62 ID:A9imqgUj0


行く手に現れた荘厳な建築物を視界に入れて、インデックスがうわ言のようにつぶやく。
“以前”の彼女がどうであったかはステイルにも知れないが、少なくとも“現在”の
彼女がこの国境線を越えるのは初めてであろう。


「すでに此処は“彼ら”の懐の中だ。一応、念のため、万が一に備えて、警戒は怠らないでくれ」


運転手に気持ち多めにチップを支払って、二人はタクシーを降りた。
国境線をまたぐとは言っても“この国”への入国に煩わしい検問や検疫は一切必要ない。
簡素なドレスコードと、一部施設への入場に荷物検査が設けられているだけの解放的空間である。


(その“一部施設”に、これから入ることになるわけだが)


しかしステイルもまた、この開かれた国家の大地を踏んだ経験はこれまでの人生で記憶にない。
なぜなら、この地の支配勢力が――――



「――――――――――――――――――ウゥーーッ!!」

「…………ちっ」

「あ」


甲高い叫び声がステイルの思索を遮った。
『Destination Contact』のお出ましらしい。
時刻は午後七時、観光客もまばらな時間帯ではあるが、これほどまでに他人の振りをしたい
衝動に駆られたのも初体験である。
だが災厄というものは、目のみならず全身をいっぱいに使ってそっぽを向いたところで、
あちらから降りかかってくるものと相場が決まっている。

426 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:31:02.47 ID:A9imqgUj0





「インデックスウウウウウウゥゥゥ、ごっ、がああああああああっ!!!!!??」





バッチカァァァァァン。





そんな愉快な擬音を幻視できた気がする。
キラリ、一条の流星が盛夏の夜空にまたたいた。


「ろっ、ローラぁぁぁぁあ!!!! す、すすすす、ステイル!? 
 なんでローラをイノケンティウスで場外ホームランしちゃったの!?」

「………………ふぅ、良い汗掻いた」


ステイルからすれば、降りかかる火の粉を避けずに払っただけのことである。

かつての上司にして前イギリス清教最大主教ローラ=スチュアートを、バチカンの夜空を飾る
流れ星にムーンプリズムパワーメイクアップさせたステイルの表情は至極爽やかなものであったと、
のちにインデックスは語った。

427 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:31:33.62 ID:A9imqgUj0



Passage1 ――ローマの休日――



428 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:34:41.56 ID:A9imqgUj0


ステイルを縦に三人、余裕を持って並べられそうな高大な天井。
獅子をあしらった緻密なエンブロイダリーがあちこちに散りばめられた豪華なクロス。
美しい直線形の木目と黄金色の光沢を併せ持つ全長5メートルほどのウッドテーブルは
もしやマホガニー製だろうか。

質素さの欠片も見受けられない、ホストの趣味を反映したような毒々しく煌めく空間で――――


「まったく、愛情表現にしてもステイルはやり過ぎだわ!!」

「そうだよステイル! 久しぶりにあった友達にあの態度は酷いんだよ!」

「誰と誰が友達だあああああああ!!!!」


ステイルは今日も絶叫調だった。

聖ピエトロ大聖堂のとある一室、というよりは広間。
当然のように無傷で帰還したローラに案内されて、二人は紅茶をもてなされていた。
無性に破壊したくなるほど見覚えのある銀のティーセットと豪華な茶菓子の数々に、
インデックスがつぶらな瞳をランランと輝かせて十人掛けはできそうなソファに着いている。


「ふむん、そろそろ頃合いなり。さあさ二人とも、ローラ様手ずから淹れたる
 レディグレイを召し上がれい!」

「いっただっきまーす!」

「え、ちょ、できれば紅茶を先に」

「申し訳ない、ローラ=スチュアート産の紅茶は口にしない主義でしてね。英国紳士として」

「そ、そう……英国紳士なら仕方なきにつき……」

(アルツハイマーにでも冒されたんだろうかこの女狐)


涙目の淑女に憐憫を微塵も抱けないのは紳士としてはいかがなものかと思うが、
ステイルにはこの女狐に対して、たとえ細切れ一片ほどの情けだろうとかけてやる
理由の持ち合わせがないのであった。

429 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:35:47.23 ID:A9imqgUj0


「で? 貴女は一体全体、異宗派の総本山などで何をやっているんです? 最先端の脳治療を
 受けるなら学園都市へ向かわれた方がよろしいかと愚考する次第ですが」

「そういうのを慇懃無礼と言いしよステイル」

「なにをいまさら」


ステイルは肩をすくめて、キツネ色にこんがりと仕上がったクッキーを摘まんだ。
鎖型に成形されたこのプルパーテという名の焼菓子は“切れない絆”を象徴しているのだと、
横合いからインデックスが注釈を加えてくれた(うんちくのお披露目とも言う)。
この女が料理をするなどとは思えないので、ローラ手製でないことだけは間違いないだろう。
安心しきって、とまではいかないが、小腹が空いているのも事実なのでとりあえず口に運ぶ。
一口、素材を生かした素朴な味を堪能してから、眼光鋭くローラをねめつけた。


「挙句チャーター機にまで手を回して、僕らをたばかるとは。
 こんな回りくどい真似をせずとも、直接呼びつければ良いでしょう」


冷静になってみれば、土御門の仕業でなかったとすればこの女こそが最有力候補だった。
なんだかんだで清教派の利益――ひいては舞夏の身と心の平穏――を最優先に全戦略を
組み立てるあの男をまんまと出し抜いて、飛行計画書をすり替えるなど並大抵の策士の
所業ではない。


「呼んだら来てくれたのかしら?」

「まさか。世界胡散臭い女ランキング第一位の誘いなど金塊を積まれて乗るものか」

「うう…………いんでっくすぅ、すているがイジメるぅ……」

「よしよしー」


その神算鬼謀の策士はと言えば、実の姉妹以上に過剰なスキンシップをインデックスと図っている
真っ最中だった。
頭を撫でられてふんにゃりした顔を豊満な双球に埋めて、ぐりぐり押し付けては息を荒く、っておい。

430 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:37:11.16 ID:A9imqgUj0


「ひぃん!? ろ、ろーらぁ…………そ、んっ、なところ、うんっ! いきっ、息吹きかけ、んぁっ」

「むふふ、あなたまたもや育ちけりたのではなくて? けしからん、なんとけしからんおっぱい!」

「んんんんっっ!! く、悔しい! でも感じちゃ」

「セクハラで訴えられたいのかこの痴女がァーーーーッ!!!!
 君も実はけっこうノリノリでやってるな最大主教ゥゥーーーーーーーーッッッ!!!!」

「この子、大きさに比して感度が抜群なりしよステイル。今後の参考にするとヨロシ」

「参考ってなんの!? いまエセ中国人っぽくなったぞオイ!! この数カ月どこを
 ほっつき歩いてたんだ貴様ぁ!!! じゃなくていい加減に頭を引っこ抜け
 さもないと首を切り落とすぞ女狐ええええええ!!!」

(いつものステイルが帰ってきたんだよ…………!)


ローラが煽ってステイルがツッコミ、インデックスが被せる。
ローマ正教の総本山をつんざく乱痴気騒ぎが収まるのには、もうしばらく時間が必要だった。





「はぁぁ、やっぱりステイルで遊ぶと肌がつやつやになりけることよー。
 この玉のお肌を維持したるにはステイル健康法が欠かせなし」

(人の生気でも吸い取ってるんじゃないかこの妖怪ババア…………っ!)

「落ち着いた、ステイル?」

「…………ああ、もう大丈夫だよ」


インデックスに背中を擦られながらカエル印の胃薬を飲み下す。
大小様々なことを有耶無耶にされた気がして、ステイルとしては悔しくてならなかったが。

431 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:39:01.76 ID:A9imqgUj0


「…………ふふふ」

「なにがおかしいんです」

「しばし見ぬ間にあなたたち、また一段と距離が近くなりしよ。気が付きて?」

「…………僕らは左右も分からぬ子供ではないんです。貴女になにくれとなく
 世話を焼かれるいわれは……」


からかわれるのは御免とローラを睨みつけようとして、ステイルは毒気を抜かれた。
きな臭い笑みを引っ込めたその表情が貴い慈愛に満ちている。
見たこともないはずの柔らかな微笑に既視感を覚えて、ステイルは一瞬前後不覚に陥った。


「……っ?」

「ステイル、どうかした?」


肩越しにインデックスに顔を覗き込まれて、ステイルは我に返った。
エメラルド色の瞳の内側に己が映りこんでいるのを確認してから、ローラに目を向ける。
いつも通りの陰謀めいた悪役面がそこに在った。
かぶりを振って、白昼夢――午後八時を回っているが――でも見たのだろうとビジョンを払う。


「…………貴女へ仔細丁寧に語る義理などありません! それよりも、なぜこんなことをしたのか
 そろそろ説明をいただきたいのですが」

「どうして定職にもつかずにフラフラしてて、その上後ろ盾もないローラが聖ピエトロの一室を
 我が物顔で占拠してるの?」

「この悪趣味な家具の数々も、どうせ貴女の仕業でしょう、成金趣味」

「………………………………あの、私も一応人間であるからして、罵詈雑言に傷付く繊細な心が
 このかわゆいお胸の内側にちゃぁんとあるのよ?」

「いいからさっさと吐けよ」

「ハリハリハリアップ!! なんだよ」

432 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:41:03.26 ID:A9imqgUj0


フルボッコここに極まれり。
ゴン! と鈍い音。
ローラがテーブルクロスに突っ伏した際の顔ドラム音である。

好感度がマイナス方向に振り切っているステイルはまだしも、良好な関係を築いていると
自負しているらしいインデックスにノリ半分、勢い半分とはいえ言葉の暴力を浴びるのは
こたえたようだ。


「もうローラの事は許してやりけれよ…………」

「絶対に許さない。絶対にだ」

「…………まあ、ステイルがローラ相手にデレるなんてこと、観測問題に決定的な解決解釈が
 与えられるぐらいあり得ないんじゃないかな」

「うー! だったら噂の学園都市第一位にその観測問題とやらを解かせるまでよ!! 
 DOGEZAしてでも!!!」

「やめてください。そんな事をされたらイギリス清教の恥です。っていうか過去から現在に
 至るまでの貴女の連綿たる軌跡そのものがイギリス清教の恥です」

「うわああぁぁあああんんんん!!!!! 」


いかにわんわんと哀れっぽく喚かれようが、ステイルに手ごころを加えてやる慈悲心は一切ない。
この機に積年の溜飲を底打ちさせてやろうと身を乗り出す。
流石に見かねたインデックスが神父服の袖を引いた、その時。

433 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:42:58.31 ID:A9imqgUj0


二人の背後で、築数百年の重みがこもった軋みと共に扉が開いた。



「あまり後進には慕われていないようだな、ローラ」



ステイルとインデックスはそのしわがれた声を耳に入れた瞬間、われ知らずに立ち上がって
居住まいを正していた。
ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らしたローラだけが、いつの間にやら面を上げてそっぽを向いている。


「車椅子で失礼させてもらうよ。最大主教、マグヌス神父」


――――現世で聖人と呼ばれるに足る人間が、全世界で一人しかいなかったと仮定しよう。


他愛もない思考実験である。
だがその場合、選ばれるのは聖母の慈悲を受けた二重聖痕の傭兵ではなく、
救われぬ者に救いの手を差し伸べる女教皇でもない。


「こうして実際にお目にかかるのは初めてかな。昇叙の折にはフィアンマを遣わすに
 留めてすまなかった。なにせ、この身体なのでな」


目の前の車椅子の老人をして、真に聖人と呼ぶに相応しい。
少なくとも二十億人口のローマ正教徒は末端から現教皇ペテロに至るまで、彼を選ぶはずだ。


「ぜ、前聖下でいらっしゃいますか…………!」

434 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/18(金) 23:45:05.17 ID:A9imqgUj0


他を圧倒するような存在感を放つでもなく、その四肢は枯れ木のようにか細い。
魔術の腕は超一級品と聞くが、それもこの様子では過去の栄光だろう。
インデックスやロシア成教総大主教、クランス=R=ツァールスキーのように、存在そのものが
神々しさを醸しているわけでもない。

しかし、それでも。
ステイルとインデックスは最大限の敬意を、至極自然なこととして彼に払う。


「おいおい、そう畏まらなくとも。私などなんの取り柄もない楽隠居なのだから」


確かにそうなのかもしれない。
彼は別段、これといったカリスマ性や才能に恵まれたわけではないのだろう。
先天的に与えられた何かで、“彼”と言う男を説明することなどできはしない。

なぜなら彼はただただひたすらにその善良なる人格と尊い行いで、『救済』の何たるかを
体現し続けてきた聖者だからだ。
二十億のローマ正教徒が一信徒にまで降りた彼を敬ってやまないのは、その“行動”と“言葉”の
正しさを、数十年に渡る“実績”が裏打ちしているからだ。

彼の信ずる主ではなく、人々に愛され、愛を返すことで、万人が認める廉潔の象徴となった男。

インデックスが、それが当たり前だと言わんばかりに彼に向かって頭を下げる。
 



「そういうわけには参りません、マタイ=リース様」


苦笑してその低頭を見送った老人――――ローマ正教前教皇、マタイ=リースとはそういう人物だった。





Passage1――――END



441 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:19:13.26 ID:x3P/IsQm0


――Passage2――



最大主教と二人きりで話がしたい。
マタイの口から頼まれたステイルは、その馬鹿げた提案を即座に切り捨てることができなかった。
通常であれば論ずるに値しない議題である。


「コーヒーとジャパニーズソイソースをとり違えて飲んだような顔よ、ステイル」

「マタイ=リース様に限って、彼女に危害を加えるような暴挙に出るとは思えない。
 そう信じてしまっている自分が嫌でしてね……いや、信じさせられたと言うべきか」


しかし現実にはステイルは、マタイの車椅子を嬉しそうに押して別室に向かった
インデックスを無為に見送ってしまった。
一人の宗教人として、マタイに対する尊敬の念は無論ステイルとて抱いてはいる。
あの齢になるまで一途に主の教えを守り続け、純粋に信徒の幸福を願うその清廉。
はたして己に真似できるかとステイルが自問すれば、答えはノーだ。

ステイルには、それ以上に護りたいものがあるのだから。


「まったく、今日出会うたばかりの二人のハートをたやすく鷲掴みにしてしまうのだから。
 ……………………まこと、あやつは度し難い男だわ……ふん」

「日頃の行いの差でしょう。この言葉がこんなにも似合う組み合わせは貴女とマタイ様
 以外にはあり得ませんね。光栄に思うべきでは?」

「あ、あのような若造とセットメニュー扱いされても嬉しくなんてないわっ!」

「え?」

「……あ」

「…………貴女、まさか」

442 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:20:03.78 ID:x3P/IsQm0


胡乱な顔つきでおそるおそる舌を外気に晒そうと試みるステイル。
禁忌の果実に触れてしまったような名状しがたいためらいと、怖いもの見たさの好奇心。


「――――そう言えば!」


だからステイルは満面の笑みのローラ――冷や汗が丸見えだったが――が己の疑念を
必死でさえぎった時、心の底から安堵した。
藪をつついて蛇を出すマゾヒズム全開の趣味を、幸運なことにステイルは持ち合わせていなかった。


「なんです?」


歩調をローラに合わせることで、ステイルは進路を日常への帰り道に向かって定める。
この女狐が自分を(主にインデックス関連で)冷やかして、ステイルが顔を赤くして
噛みつくと最後には迂遠な言い回しで煙に巻かれる。
ステイル=マグヌスとローラ=スチュアートの関係とはそうあるべきだ。





「『電話相手』は、見つかったかしら?」

「…………!」


だがローラは、『こちらの世界』に戻ってくる気など毛頭なかった。
金髪青目の女が再び浮かべた、この世のものと思えぬ慈母のごとき微笑み。
ステイルは先ほど見たものが幻覚ではなかったのだという事実と同時に、ローラが
自分たちをこのバチカンに呼んだ意図をようやく悟った。

443 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:21:08.40 ID:x3P/IsQm0


「…………状況証拠のみですが、僕の中では決定解が組み上がりつつあります。
 しかし答え合わせのためだけにこんなまどろっこしい真似をしたわけではないでしょう」

「…………ええ。その通りよ」


迂遠な言い回しを駆使せず、ローラは明快に頷いた。
ロンドンで彼女が好んで使っていた真銀のティーカップの縁が、常なら妖艶なカーブを
描く口唇になめらかに触れる。
琥珀色の液体が空になって器が下ろされるまで、ステイルは腕組みをしてそれを見つめていた。



「私は今日、あなたがこの十年間溜めこんでいたであろうすべての疑問に答えるべく、
 この席を設けたのよ」



十年前なら倒錯的な空気を纏って放たれたであろう言の葉は、なおも人間的な温度に満ちていた。
妖しさとはまるで意を異にする、目の前の女に間違っても抱いてはいけない、母の腕に
抱かれたような心地に囚われてしまいそうでステイルはこめかみを押さえた。


「ローマの前教皇聖下を僕から彼女を引き離す為の出汁に使ったわけですか、
 無茶苦茶ですね。おおかたこの部屋の内装も、先方に駄々をこねたんでしょう。
 まったく、まこと清教派の汚点ですよ貴女は」


聞きたい事ならいくらでもあるのに、そんな悪態をつくので精一杯であった。


「マタイとは旧知の仲であるからして、多少の無茶ならまかり通るのよ。
 まあ、あやつがインデックスと話をしたがっていたのもまた、事実であるのだけれど」

「何が、目的だ? またいつもの後ろ暗い企てですか? どういう風の吹きまわしで、こんな」

「ステイル」


微笑は崩れず、現実を受け入れられない子供の駄々のような罵倒は正面から受け止められる。

444 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:22:24.79 ID:x3P/IsQm0



「これがきっと、最後になるから。我慢してちょうだい?」



445 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:23:31.99 ID:x3P/IsQm0

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湯気が鼻孔をくすぐる香りを引き連れて部屋全体を仄かに包む。
美琴に習った手順を頭の引き出しから丁寧に一つ一つ拾って、インデックスは飾り気の
ないティーポットと格闘していた。


「マタイ様、その、私の淹れたお茶なんかでいいんですか? お口に合うか……」

「若く美しい女性が真心を尽くしてくれれば、それだけで男は満足するものだ」

「まあ、マタイ様ったらお口が上手でいらっしゃいますね!」


魔術師と魔女がいまにも破裂しそうな風船を間に挟んで向かい合うのとは対照的。
二人の聖者はマタイの私室で、和気あいあいと談笑に耽っていた。
後進に道を譲ったマタイが聖ピエトロ聖堂内に室を構えているのもおかしな話だが、
それも彼の人徳のなせる業と思えばインデックスには納得であった。


「最大主教、ここには君と私しかいない。そのように堅苦しい物言いをせずとも良い」

「い、いえ、そのような畏れ多いことは」

「ははは、畏れ多いとはどういうことかな。私は一介の十字教徒にすぎず、かたや君は
 イギリス清教最高指導者。不敬というなら私のほうではないかね、最大主教様?」

「おやめください! マタイ様のご功績は全世界に轟いておいでなのです!
 私ごとき若輩者が対等に口を利こうなどと…………おこがましい話です」


頑なに拒みながら、インデックスはマタイにほだされつつある自己を否定しきれなかった。
容姿に似合わず腰の強いこの老人に無数に刻まれた皺の、一つ一つが親愛をこめて
囁いてくるようで、それでいてまったく不快な気分にならない。

446 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:24:24.09 ID:x3P/IsQm0


「……この歳になると、青春を分かち合った旧友から音信よりも訃報が多く届くようになる。
 空疎な心を埋めてほしくて、ついつい若者の時間を奪おうとしてしまうのだ」


そして、その皺の奥の細められた眼にまぎれもない『善』を見て。


「だがこのようなジジイの戯言に付き合うのは、うら若き女性にはさぞ苦痛なのだろうな。
 …………すまない、君の望まぬ時間を強要するつもりはなかったのだ。もう戻ってくれても」

「わわわ、わかりまし………………わかったんだよー!! ローラに接するみたいに
 フランク全開でいくからそんな悲しそうな顔しないでほしいかも!! それと、
 どうせなら私のこともインデックスって呼んでくれると」


インデックスは、あっさり折れてしまった。





「おお、おお! それでは、遠慮なくインデックスと呼ばせてもらうよ。
 うむうむ、また一人孫のような友人を得られてますます長生きできそうだ!
 そうだインデックス! できれば『おじいちゃん』と呼んではくれまいか」


マタイ=リースという男が聖者の仮面の裏側に隠した、本性を見抜けぬままに。


「は、はい? あの、マタイさま?」

「おじいちゃん」

「いやその、だから」

「ゲホゴホガホッ!!! じ、持病のひざがしらむずむず病がっ……!」

(ひざがしらむずむず病でなんで咳が…………?)

447 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:25:27.00 ID:x3P/IsQm0


しわがれた顔をもう一段くしゃりと歪ませた老人に、インデックスは思わずぐい、
と上半身をのけぞらせた。
ドSモードアニェーゼも顔負けの豹変ぶりである。
そういえば、ヴェントもこの狸爺にはめられたからこそ現在の境遇(メイド)にあるのだった。
もう少し早くに記憶から引き出しておくべき事実だったが、時すでに遅し。


「おじいちゃん、と呼んでくれれば、ガホッ!!
 気道の通りが良くなって咳が、ゲホヘフゥ! とま、止まるかも!!」


チラッ、チラッ。

咳き込んでうつむいた狸が時折、これ見よがしにチラ見しては期待の眼差しを向けてくる。
これが全ローマ教徒からの敬愛を一身に集める、『生ける列福(※)候補者』かと思うと頭が痛い。


(う、うーん…………)


痛い、のだが。





「………………お、おじいちゃん」





結局、インデックスは再び根負けした。
いつの間にやら咳を止めていたマタイが浮かべた、『期待を裏切るには忍びない』と
見る者すべてに思わせるであろう、せつなげな表情に負けた。

448 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:26:20.04 ID:x3P/IsQm0


生涯に一片の悔いなし、とばかりに老人が莞爾たる相貌でつぶやく。



「……………………ああ、この為に生きてるなぁ」



インデックスやクランスが無意識に人を引き寄せるのは、ひとえに生まれ持った
『助けたいと他人に思わせる才能』の恩恵である。
それら生得的なカリスマとは次元の違う、修練の末に会得したであろう『民衆を導く力』を
思いもよらぬ形で見せつけられたような気がして、インデックスは情けない声を上げた。


「えぇぇぇぇ…………」


仮面を脱いだマタイの素顔に触れられたことを僥倖と取るか、知りたくもなかった聖者の
ちょっとアレな趣味を知ってしまったことを薄倖と受け止めるか。


「インデックス、手間をかけるがもう一度だけ頼む。
 英語では何と言うのだったかな……そうそう、プリーズワンスモアー!」

「…………おじいちゃん、なぁに?」

「Please twice more!」

「おじいちゃんおじいちゃん、さっき『もう一度だけ』って言ったはずなんだよ」



どう考えても後者です、本当にありがとうございました。



※徳と聖性が認められ、聖人に次ぐ福者の地位に上げられる事。
 通常列福審査は死後でなければ行われない。

449 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:27:34.07 ID:x3P/IsQm0








「はっはっは、役得、役得。まあ、冗談はこのあたりにしておこうか」

「本当に冗談だったのか、怪しいもんなんだよ…………」


ホクホク顔のマタイに対面する形で、嘆息しながらあらためて座り直すインデックス。
疲れきったゲンナリ顔が、質実剛健を地でいくホワイトオーク製のテーブルを挟んで
少々残念なコントラストを形成した。
二人してインデックスの淹れた紅茶に口を付け、具合のおかしくなった空気の調整を図る。
カップに添えられたレモンを絞って上質なダージリンを嗜むのが、イタリアでは一般的だ。


「インデックス、君のことはよくローラから聞いていたよ。天真爛漫で、清廉潔白な、
 実の娘のようにかわいがっている女性がいる、とね」


柑橘系の爽快な香気にインデックスが唾液腺を激しく刺激されていると、マタイがいかにも
好々爺という風情で目を細めた。
慌てて唾を飲み込む。


「私も、マタイ様のお話なら」

「おじいちゃん」

「……おじいちゃんのお話なら、何度もローラから聞かされたんだよ。その…………」

450 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:28:44.37 ID:x3P/IsQm0


が、その先が続かない。
社交辞令で口から出まかせをして困っているわけではない。
ローラからは何度も何度も、耳にタコができるほど(と、日本では言うらしい)彼の事を聞かされた。

…………だからこそ困っているのだが。


「遠慮なく言ってみたまえ。どうせローラのことだから、私の悪口ばかりだっただろう?」

「そそそそそ、そんなことないんだよ!!」


バレバレだった。
本当にローラときたら『マタイ』と『悪態』をセットで定型文登録しているのかと
疑いたくなるほど、彼については口を開けば罵詈雑言の嵐で、インデックスも
この話題だけは常々避けるようにしている。

やれ『死ねばいいのに』だの『理想を抱いて溺死すればいいのに』だの『超教皇級のお人好し死ね』だの
『死に際に看取ってくれる家族もいないのよアイツプギャーwwm9(^Д^)』だの
『…………ま、まあ、彼奴がどうしてもと頼むなら、わ、わ、私が家族の代わりとして……』だの。


                S  N  T  D
(………………あれ? それなんてツンデレ?)

「ふふ、彼女とも長い付き合いだからな。互いの腹の内が透けて見えてしまうのだよ」

「……そういえば、おじいちゃんとローラはどこで知り合ったのかな?
 やっぱり二人とも十字教の元最高権威者だし、その関係で?」


言ってから、我ながらこれはないな、とインデックスは心中でかぶりを振った。
マタイがローマ教皇位に就いてから退くまでの間に、ローマ正教が他宗派と積極的な
交流を図ったという公式記録は存在しない。

451 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:30:26.04 ID:x3P/IsQm0


「そういうわけではないのだが……」


案の定、マタイはきっぱりとそれを否定した。
かと思えば、顎に手を当てて何事か考えこみはじめる。
しばらくののちマタイは、インデックスの瞳を、顔を、姿を、順番に見据えてふっと息を吐いた。


「ふむ………………君になら話してもいいかな。私と彼女の出会いは、
 君の生まれるよりさらに昔に遡る」

「むかしむかし?」

「そうそう、その昔、お爺さんとお婆さんがまだ若かりし頃の…………。
 おっと、ローラがこんなことを聞いたらへそを曲げてむくれるな、ははは」

「オヘソ曲げられるだけで済んじゃうんだ…………」


『必要悪の教会』のメンバーがやったらもれなく全裸でビッグベン吊るし上げの刑だろう。
肉体的、精神的、社会的に人間一人をこの世から抹殺する奇跡の三重殺である。
などと思考の海で迷子になりかけているインデックスを、咳払いが陸地に押し戻した。


「オッホン…………いまより六十年以上……いや、そろそろ七十年ほどになるのか。
 私はローマの神学校を卒業したばかりでね。司祭となって本格的に神の教えを説く
 立場となる前に、世界を回って見聞を広げようと思ったのだ。異宗派を認めない
 傾向がいまより顕著だった当時のローマ正教では、懐疑的な目で見られたがな」


無理もない話であった。
七十年前といえば、東西冷戦による世界対立構造の黎明期である。


「イギリスの片田舎の小さな農村に立ち寄った日の事だ。巡礼の途中だと告げると
 村の人々はあたたかく私を迎えてくれた。払った代金より上等の宿を
 宛がわれそうになったので、そこだけは慎んで辞退させてもらったがね」

「マタ……おじいちゃんらしい話かも」

452 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:31:31.67 ID:x3P/IsQm0


老人の悪戯っぽいウインクには嫌味がまるでなかった。
つられてインデックスもクスリと笑みをこぼす。
二つの微笑が交差したその時、ふいにマタイは遠い目をした。


「就寝前の祈りを終え、床に就こうかという時だった。なんの気なしに窓に目をやって、
 私は腰を抜かした。すぐそこに、空から降りてきた“月”が輝いていたのだ」

「え?」

「ふふ、当時の私がそう錯覚したというだけの話だ。実際にそこにたたずんでいるのが
 みすぼらしいうすずみ色の布切れをまとう、くすんだ金髪の女性だと私が気が付くまでに
 たっぷり一分は要したように思う。しかし私は、その貧相な旅装の女性に目を奪われた。
 ………………いや、もう時効だろうから正直に言おう」


老人の貌が一瞬、遠い日の青年の昂りを憑依させたかのように生気に溢れ返る。
女は思いがけぬ光景を映した眼球を検めるように、目を二度三度と瞬かせた。


「――――心を、奪われた。手入れをしているようにも見えぬのに、透きとおるような
 ブロンドが月明りを反射して、彼女の全身を薄光で包みこんでいた。私の信ずる主だけを
 愛すべき私が、この女性にすべてを捧げたいと思えた、生涯でただ一度の経験だった」


老人が、否、“青年”が、恍惚とした表情で溜め息を吐いた。


「気が付けば、不用心に窓を開け放して名を尋ねていた。おかしな話だ。
 他に訊くべき事などいくらでもあったはずなのに、私はその女性の名を、
 なぜだか何よりもまっさきに知りたくなったのだ」


マタイの語り口調には、現世に滲み出してくるような確固たる記憶の手触りがあった。
六十年前マタイが目の当たりにした光景が網膜に投影されるかのように、
インデックスにも“彼女”の煌めきがはっきりと“見えた”。


「すると彼女は世界から裏切られたような、悲しみに沈みきった瞳で私を見据えて――――」

453 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:32:26.74 ID:x3P/IsQm0




「『ローラ=ザザ』と、そう名乗ったのだ」




454 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:33:17.33 ID:x3P/IsQm0

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「最、後?」


ステイルも本心ではわかっていた。
ローラが至誠から、己の積もりに積もった疑念を晴らそうとしてくれていることは、
わかっていた。

まずもって、自分を騙すことに合理的なメリットが存在しない。
三年ほど前――ちょうど四次大戦の終結期――から利権争いに執着を見せなくなった
この女が、いまさらかつての謀の真意を恣意的に歪めて語ったところで、得をするとも
思えなかった。


(ああそうか、僕は…………)


表層的な善悪論にさして魅力など感じはしないが、少なくともステイル=マグヌスにとって
ローラ=スチュアートは冷酷非情の“魔女”でなければならない。

自分を、インデックスを、神裂を、上条当麻を。
列挙しきれないどこかの誰かを弄び続けてきたこの女狐は、絶対的に、不変的に、
“悪”でなければならない。


――――否、そうであってほしかった。


そうであってほしいという懇願にも似た願いに視界を曇らされていた。
ステイルは業腹ではあったがそれを認める事にした。
溜め息を大きくついてから、ゆっくり口を開く。


「僕には知っておくべきなのに、知ろうとするべきだったのに、知らないことが
 あまりに多すぎる。最近になって、とみに痛感するようになったんですよ――――
 僕はまだ、何も知らないんだ、とね」

「素直が一番よ。ささ、何から聞きたいのかしら?」

455 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:33:58.66 ID:x3P/IsQm0


いまこの瞬間の心情に従えば、つい先刻の『最後』という言葉の真意を質したいところだ。
しかし、優先順位を違えてはならなかった。
眼前の魔女に問うべきことなら、それこそ山ほどあるのだ。
その中でも、ステイルが他を二の次にしてでも優先すべきは。





「『禁書目録』という、“システム”について」





どこぞの傭兵の言葉を借りるなら、その涙の理由を変えるため。
愛する人を、インデックスという女性を、知り尽くすことであった。


「……“システム”、といまあなたは言ったかしら」

「本当は、最初からわかってたんだ。わかっていた上で、目を逸らし続けてたんだ。
 彼女の完全記憶能力を利用して『魔道図書館』を創り上げるなどという野望は、
 どこもかしこも穴だらけで、その上不自然と不思議にあふれていた」


怖かったのかもしれない。
彼女の深淵を覗いてしまえば、取り返しのつかないことになるような気がして。
自分と彼女が、根本から別の存在なのだと思い知らされそうな、そんな不安に押し潰されるようで。



だが、得体の知れぬ恐怖に怯える時間はもう終わったのだ。



456 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:35:02.64 ID:x3P/IsQm0


「例えば、“一〇三〇〇〇”」


懐かしい、明彩色に満ちあふれていた最初の一年。


「僕と神裂があの子と一緒に過ごした二年間において、彼女ははたして何冊の『禁書』を
 蔵に収めた? 『原典』はそこかしこに転がっているような代物じゃあない。貴女に
 指定された書庫から書庫へと渡り歩くのに、一日できかなかったことなどザラだった」


力を得るべくあらゆる犠牲を払い、しかし最後に『失敗』を繰り返した次の一年。


「その上で見つけた原典はせいぜい、多いときで十冊といったところだ。つまり甘めに
 見積もってもあの子は、一年間で千冊程度しか記録できていないはずなんだ。
 だったら“一〇三〇〇〇”なんて数字は、いったいどこから出てきた?」


――ステイル。今日からこの子が、あなたの『仕事』よ――


「そうだ。貴女が、そう言ったからだ。僕らが彼女に初めて出会った、十四年前に」


――この子の脳には、十万を越える魔道書の『原典』が収められているの――


「これは推測だが、貴女はもしかすると歴代のパートナー全員にそう告げていたんじゃないのか?
 彼女の蔵書は十万冊を越えている、とだけね」


ステイルは、自分と神裂の一代前のパートナーと対峙した日を思い返していた。
そうだ、確かに“あの男”も言っていた。


――“一〇三〇〇〇冊”もの魔道書を一身に背負い、決してその呪縛から逃れることのできぬ少女――

457 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:35:56.28 ID:x3P/IsQm0


おかしいではないか。

何故“あの男が”、彼が側に居なかった間にインデックスが記憶した『原典』の冊数を
あそこまで正確に把握していた?
ステイルと神裂と少女の二年間の結晶である“一〇三〇〇〇”を、当然のように口にした?
インデックスを救いたい一心で地下に潜った挙句、情報の遅さゆえに無様を晒した
“あの男”がそんな事を知り得るはずがないのだ。

ならば、可能性は一つ。



“あの男”とインデックスが共に過ごした一年間で辿りついた数もまた、
“一〇三〇〇〇”だったのだ。



「なぜ、『魔道図書館』の蔵書量を増やすためだけに生きていたあの子の『原典』が
 増えていない?少なくとも僕が初めて彼女に会った瞬間から、一冊たりとも増えて
 いないのは明らかだ」


ローラは口を閉ざしていた。
答える気がない――――訳ではないことを、遺憾ながらステイルは悟っていた。
ステイルの疑念にはまだまだ続きがある。
すべてを吐き出し終えるまで、まずは見に徹する腹づもりなのだろう。

458 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:37:43.22 ID:x3P/IsQm0


「まだある。そもそも『禁書目録』というシステムは、『人間』に搭載する意味が薄い。
 いかに完全記憶能力者といえども、その生涯で記録できる『禁書』の数には
 どうあがいても限界がある」

「容量の問題ではなく、時間の問題、ということかしらね」

「それに、仮に世界中の『禁書』を彼女の前に並べてかたっぱしから覚えさせたところで
 利用可能な年数は彼女の寿命に縛られ、百年を越えることはまずない。…………どう
 考えても、労力に対する代価が見合っていない」


目の前の女狐が幾年分の時の流れをその身に刻んだのか、正確なところはわからない。
しかし世界には確かに存在するのだ。
『枠』をはみ出してしまった、ローラ=スチュアートのような怪異が。
そして彼女らのような人種に、常識は通用しない。
ローラの計画はその規格外の生に見合った、百年単位のスパンを見込まれていて然るべきだ。


「だと言うのに貴女は、彼女に作業を続けさせた。彼女が死ねば、全ては無に帰す。
 それまでのたかだか数十年の栄光のために『禁書目録』を完成させようとした。
 それがどうにも、僕には腑に落ちない」


腑に落ちないということは、なにかしらの前提条件に誤謬があるのだ。
その“なにか”について、ステイルはすでに幾つかの仮説を立てていた。


「答えろ、ローラ=スチュアート。『禁書目録』とは何なんだ?」


そして今日、ついに『答え合わせ』の時が訪れた。
エリザードの別邸で語らったときには踏みとどまった、インデックスとローラの心の内側。
その一線を、とうとう越える日が来たのだ。

459 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:38:55.38 ID:x3P/IsQm0







「彼女はいったい、“誰”なんだ?」








ステイルの問いが終わったのを受けて、“魔女”は。


「話の出鼻に一つ、訂正しておきましょうか」


ローラ=スチュアートは笑っていた。
楽しげに、嬉しそうに、怒ったように、苦しそうに、悲しげに。
およそ人の手で感情と名を与えられたであろう全てを内包して、凄絶に笑っていた。


「システム名、『禁書目録』。これは二十六年前の四月に、私がうった銘なの。
 それ以前はかのシステム――――いえ、“プラン”は、こう呼ばれていたのよ」

460 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/20(日) 16:39:34.74 ID:x3P/IsQm0



「『魔女白書』計画、とね」








Passage2 ――聖女と魔女――









END


466 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:25:38.45 ID:qWiQAuqX0


――Passage3――



『魔女白書』にの全てを一刻を越える時をかけて聴き終えたステイルは、深く深く
深呼吸してテーブルの陶器に手を伸ばそうとする。

目の前には、魔女――――否、魔女“だった”女。

すべてを知った今、もはやステイルには彼女を魔女だとは断じられなかった。
それにしても、喉がカラカラだ。


「あら? 『ローラ=スチュアート産の紅茶』には口を付けない主義でしょう?」

「…………やはり貴女は、生粋の魔女ですよ」


黒い微笑と共に、数時間前にステイルがふっかけた嫌味が数倍になって返ってくる。
察するにこの女狐、もっとも効果的なタイミングで利用するためにカウンターを
温存していたらしい。
悔しさに唇を噛むと柑橘系の味を脳内にトレースし、唾液腺を活性化させる。
素直に頭を下げて茶に口をつけようとしないのはせめてもの『男の意地』である。
世間一般的に鑑みれば『子供の依怙地』にしか見えないだろうな、という自覚は一応あった。


「はぁぁ………………今までの話は、すべて真実なんですね? 正直、『うっそだよ~ん』
 とでも言ってもらえればどれほど気が楽になることか」

「うっそじゃないわ~ん♪ だいたいそれでも、あなたは信じてくれるのでしょう?
 ………………インデックスが、そうしてくれたようにね」

「……あいっっっっかわらず、狡い女狐だ、貴女は!」


鬱憤晴らしに拳骨を机に思いきり落とす。
インデックスを引きあいに出された際のステイルのくみし易さは、某大型動画共有サイトの
活躍もあっていまや万国共通の社会通念と呼んで差し支えない。

知らぬは本人ばかりなり、である。

467 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:26:41.48 ID:qWiQAuqX0


「はよう告白してくっついてしまえば良きことと思うのだけど」

「…………いや、その、ムード、というものがあるでしょう? 僕もせっかくだから、
 一世一代の挑戦ぐらいシチュエーションを整えて臨みたいんですよ」

「なにを思春期じみたことを言ひているのかしらこの子は」

「やかましい、余計なお世話だ…………じゃないだろうが! 話をそらすんじゃない!!」

「ふふふ……ぷっ、ふふふふふ」

「笑うなあ!!」

「あは、あははははは!!」


怒鳴ろうが蹴ろうが炎剣をぶちかまそうが、ローラの稚児のような朗らかな笑いは止まらなかった。
嬌声に我に返ったステイルは、その異様な反応に対して怪訝そうに顔をゆがめる。
するとローラはとても――――とても嬉しそうに言った。


「だってあなた、あんな話を聞いてもまだ、あの子を愛する気持ちに変わりはないのでしょう?」

「……当然でしょう。彼女がどこの何者であろうと、僕には関係ない」

「その“当然”という言葉の価値を、あなたはしかと理解しているのかしらね」


態度を180度、とまではいかないまでも120度ほど翻して、ローラは表情を引き締めていた。
ステイルは額に手を当てると、わずかののちに力強く啖呵を切る。


「それはほかの誰かの口から出る“当然”との間で計った、相対的な価値でしょう。
 僕の彼女への“当然”とは、イコール“絶対”にほかなりません」

468 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:27:16.38 ID:qWiQAuqX0


ローラが、目をパチパチと見開く。
宇宙人からロンドンの下町英語(コックニー)で話しかけられた宇宙飛行士のような間抜け面だった。


「………………なるほど。もう、あなたも子供ではないのね」

「さっきからくり返しそう言っているでしょう」


三度慈母のように微笑みかけられて、ステイルは途端に足場を失ったような居心地の悪さに襲われた。
上手く言葉を見つけられずに目を伏せていると、ローラがポン、と手を叩いた。


「私からも一つ、あなたに伝えておくことがあるわ、ステイル」

「なんですか」


先刻から度々ローラが向けてくる、裏のない笑みを正視できない。
“裏が見えない”のではなく、“裏が感じられない”、だ。
いまこの状況では無言こそが最も堪え難い拷問であり、嫌々という体を装って応えた
もののステイルはひそかに人心地ついていた。




「『右方のフィアンマ』。私はここ半年ほど、彼の動向を追っていたわ」




だがローラは、ステイルの胸中などお見通しとばかりににんまり顔で爆弾を放り込んできた。

469 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:28:16.40 ID:qWiQAuqX0


気が付けばステイルは椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、女の胸倉を掴んでいた。
含みをたっぷり持たせたその口調から、“どちら”の『フィアンマ』を指しているのかは明白だった。


「知っていたのか? 貴女は知っていたのか、『神の右席』が学園都市を襲撃する事を!
 知った上で、僕と最大主教が日本を訪れるのを静観していたのかッ!!」


唾を散らして喚く。
一方で冷静な客観視を続けるもう一人の自分が、お門違いもいいところだと窘めてきた。
学園都市への公式訪問において最終的な判断をくだしたのは、ステイルとインデックスである。
ローラにはなにひとつ責任などない。


「落ち着きなさい」

「………………失礼しました、レディー。まずは最後までお話を伺いましょう」


掌を開いて憎らしいほど平然とする女をゆっくり離し、努めて他人行儀を保つ。
元から掛けていたチェアーに乱暴に腰を下ろした。


「そうそう、それでよろしい。順序立てて話していきましょうか」


正確にはローラは、最初から『右方のフィアンマ』を追跡していたわけではない、らしい。
彼女の追跡対象は『ある期間』に『ある場所』を訪れた、不特定多数。


「もっとも、のちに『右方のフィアンマ』と名乗ることになるその青年には、最初から
 “例外”として目星を付けていたのだけれど」

「…………どうしてです」


他に質したい事はあったが、この女の性質上核心に触れるまでははぐらかされるのだろう。
経験則から察したステイルは、一先ずは優秀な聴講生に徹し、合いの手を入れるに留めた。

470 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:29:07.69 ID:qWiQAuqX0


「“青年”は、本来専属の『案内人』なくしては入りこめない……つまるところ、
 先方の認可なくしては侵入不可能な『その場所』にまさかまさかの侵入を果たした、
 きわめて例外的な『招かれざる客』だったからよ」

「『案内人』……ですか」


聞き覚えのあるフレーズに、ステイルにもようやくローラの言わんとするところが見えてきた。


「私は青年が『その場所』に侵入した時点を軸に、彼の過去と未来を探りはじめた。
 未来方向へと追跡調査した結果、偶然『右方のフィアンマ』に辿りついた、という
 だけの話なのよ」

「偶然、ね。どうだか」


つまりローラは、『神の右席』を追ったフィアンマとも、『学園都市襲撃計画』を
探った土御門とも別のルートで、『右方のフィアンマ』に到達したことになる。
“偶然”の真偽はさておくとしても、三つの巨大な因果が『右方』に収束したのは
歴然たる事実であった。


「それで、あなたから見て『右方のフィアンマ』はどのように映ったかしら?」


釈然としない思いに眉をひそめていると、そう問い掛けられた。
ステイルは、傲岸不遜を絵に描いたような若き魔術師の一挙手一投足を思い返す。


「……………一言で表現するなら、『得体の知れない男』でしたよ。奴には不可解な点が
 あまりに多すぎた。知識といい、技術といい、出所がまったく不明、ではね」


結局「0715」終結から日本を発つまでのわずかな時間では、詳細の捜査までは行えなかった。
以降の調査は日本に残った土御門らの領分であり、ステイルにできるのはその結果を待つ
ことのみである。

471 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:30:28.83 ID:qWiQAuqX0


「……では、あなたがもっとも解しかねる最大の疑問点を一つ挙げるなら、
 どういう箇所かしら?」


ねっとり絡みつくような視線。
あれはステイルがどう答えるのか、最初から知っている顔だ。
癪ではあったが、同時に微かな期待もこめて予定調和の回答を行う。



「『科学と魔術の融合』」



そうだ。
最終的にこのストーリーの落下点はそこに収束する。
そしてそれは『禁書目録』の真実にも深く結び付く、重要なファクターだった。


「はい、よくできました♪」

「ちっ…………そろそろはっきりさせてくれませんかね。『青年』が『ある期間』に
 もぐりこんだ『ある場所』とは、いったいどこなんですか?」

「またまたステイルったらぁ、とっくにわかりているくせにぃ」

「気持ち悪いひっつくんじゃあない鬱陶しいんだよ! もったいぶってないでとっとと
 吐いてください、ほら早く!!」

「はいはい、せっかちな子ねぇ」


くねくねと縋りついてきた肉感的な女体をあっさり押し退けた。
女としてのプライドを傷つけられたとでも感じたのだろうか、ローラが仏頂面を覗かせる。

472 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:31:13.55 ID:qWiQAuqX0


しかしそれも刹那の出来事であった。


「不特定多数とは、『第四次世界大戦の開戦から、遡ること半年までの期間』に」


人差し指を唇に当てるあざとい仕草。
ステイルのよく知る、怪しく妖しいローラ=スチュアートがそこにいた。


「学園都市第七学区、通称『窓のないビル』を訪れ」


『窓のないビル』。
ステイルもかつて一度だけ訪れたその場所。
とくれば、次は。







「当時の学園都市統括理事長――――アレイスター=クロウリーに面会した人物、よ」







――――――――――――――。


473 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:32:19.62 ID:qWiQAuqX0



Passage3 ――アレイスター=クロウリー――



474 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:33:14.49 ID:qWiQAuqX0



『ふざけんな、魔術師野郎にあんな高度な化学処理ができるわけあるか』

『確かにな、それは俺も気になってた所だ。魔術師、てめえ…………いったい何者だ?』



垣根帝督や麦野沈利も訝しがっていた、『未元物質』の加工技術。



『こっちサイドの情報は蓮根みたいにきれいサッパリ筒抜けで、与えられたデータは
 まるで使いものになんなかったわよ!!』



結標淡希が憤慨した、情報の非対称。



『奴が何故、あれほどまでに豊富な科学知識を持っていたのかについては?』



AIM拡散力場の自動追跡という離れ業をやってのけた、科学に対する深い造詣。

そして――――



475 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:33:49.06 ID:qWiQAuqX0





『無駄だ、「禁書目録」。貴様らの行為などもはや何事でもない。貴様に科学と魔術を
 越えた、この「腕」の解析など不可能だと知れ』





『科学』と『魔術』の融合という、正気の沙汰とも思えぬその着想。





476 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:35:44.39 ID:qWiQAuqX0


「それらはすべて、他ならぬ科学の総帥…………アレイスター=クロウリーに
 与えられたものだった、ということですか?」

「少なくとも形の上では、“盗んだ”あるいは“奪った”というのが正確よ。先ほども
 言った通り、彼は『窓のないビル』への『招かれざる客』だったのだから」


ローラの言い草には引っかかりがいくらでもあったが、ステイルの疑問は一人の女性に
ついてだった。


「あのビルの『案内人』は、十年以上前に暗部から足を洗っているはずですが」


『窓のないビル』は完結した空間だ。
ありとあらゆる生活必需品を酸素に至るまで外部からの供給なしで揃えられるため窓もドアも
通気口も設けられておらず、出入りには 『空間移動』系能力者の助力が不可欠である。
十一年前にステイルが統括理事長と面会をはたした際は、結標淡希がその役目を担っていた。


(…………ん? それじゃあ僕と彼女は、あのレストランが初対面じゃあなかったのか……
 すっかり忘れていたな)


まあ、向こうも忘れていたようだしおあいこだろう。
あのビルは全体的に薄暗かったし、十一年前にたった一度きりでは長期記憶に結び付かなくとも
無理はない、多分。

閑話休題。


「閑話休題とはいっても、別にこっちも本筋ではないのだけれど…………あなたは
 『超能力の物質への付与』という研究の存在は知っているかしら」

「麦野が言っていた…………」

477 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:36:35.43 ID:qWiQAuqX0



『やはりあの鎧は「未元物質」なのか?』

『超能力の物質への付与ってやつよ。私が昔遭遇したのとは外見も性能もかなり違うけど、な!!』



取るに足らないはずの不死軍団の攻略難度を劇的に引き上げ、ステイルや能力者たちを
散々苦しめた『未元物質』の鎧。
三次大戦時にはすでに雛型が出来あがっていたというあの技術も、いまにして考えれば
召喚魔術との『融合』のもとで運用されていた。


「『座標移動』とは別のテレポーターの能力を模した、全身装着型のスーツを新しい
 『案内人』が身に付けていた、という話よ」

「『右方』はそれを奪って、『窓のないビル』への侵入を果たした、というわけですか」

「ほかの方法を取っていたとしたら、驚きね」


ローラがわざとらしく肩をすくめる。
ステイルがここ二週間ほど頭を悩ませていた、『右方のフィアンマ』への“HOWDUNIT”は
これで解決したことになる。


「…………なぜ、です?」


しかし、まだ。
一つほどけばまた一つ、延々と懐疑の連鎖は続く。
次なるクエスチョンは、“WHYDUNIT”。

478 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:39:44.04 ID:qWiQAuqX0


「“どちら”への、“なぜ”かしら?」

「アレイスターが新たな『案内人』を配置してまで、『ビル』に不特定多数を
 招き入れていたというのも気にはなりますが。…………右方のフィアンマは
 そこまでして、いったい何を渇望したのでしょう」


動機。
ついぞフィアンマからは聞き出すことの叶わなかった、あの青年の成したかった“夢”。


「そうねぇ……彼の過去について知れば、あるいは理解は可能かもしれないわね」

「…………! 彼の経歴を、全て洗ったのですか!?」


この短期間で?
そう続けようとして、ローラは自分達より遥かに手前から『右方』を追っていたのだと気が付く。
それでも流石であると感嘆したくなる手並みには違いないのだが。


「ローラちゃんの手腕を持ってしても、なかなか骨の折れる仕事だったわー。
 ベナン共和国の出身というところまではすぐに突きとめたのだけれど」

「ベナン共和国……アフリカの、少数民族が割拠する小国ですか。現地固有の宗教は
 祖霊信仰の典型…………ブードゥー、教」

「青年はどうやら、とある少数部族の長の息子だったらしいのだけど………………
 そこから先は、実に難航したわ」

「? 出身部族までわかったのなら、後はたやすい事でしょう」

「そうはいかないのよ」


むしろ、そこまでの過程をローラがどうなぞったのかの方がステイルには気にかかった。
相変わらず魑魅魍魎の主のごとき、面妖なる情報網を持っている。
そのローラをして調査困難と言わしめる『右方』の過去とはいったい――――?

479 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:40:48.67 ID:qWiQAuqX0






「なにせその部族は――――五年前に、滅んでいるのだから」






息を呑んだ。
陳腐な表現だが、想像を絶していた。


「交流を持っていた他部族がある日、集落の存在した一帯が焦土と化していたのを発見したわ。
 生き残りは、のちに国内唯一の空港で目撃情報が出た青年を除けば、一人もいなかった」

「まさ、か?」


『右方のフィアンマ』は、己の故郷を滅ぼしていた、ということなのか。
大きく息を吐いて荒くなった呼吸を整えると、目線で先を促す。


「集落が壊滅する一週間ほど前に、青年の恋人が行方不明になっているわ。そして、
 これは噂の域を出ないのだけれど…………かの村落には、黒魔術じみた、本義を
 大きく外れた『死霊崇拝』が伝わっていたということよ」


『右方』の過去を垣間見たという、フィアンマの言葉が蘇る。

480 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:42:07.46 ID:qWiQAuqX0


『「右方のフィアンマ」が最後に振るった「腕」は、お前達全員の
 「生」と「死」の境界を破壊せんとするものだった、と俺様は見ている』

『……そ、それが成功してたら、どうなってたのかな?』

『生者が黄泉路を行くか…………“死者が帰ってくる”のか? あるいはさらに想像を
 絶する事態となるのか、それだけは全くもって計り知れんな』


――――まさか、“消えた”恋人を?


『世界がどう、などと自分をも誤魔化していたようだが、そんなたいそうな野望ではなかった』


――――もし自分が、彼の立場だったら?


『奴の目的は、夢は。もっと“ちっぽけ”なものだった』




――――もしも自分が、彼女を失ったら?




481 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:43:06.14 ID:qWiQAuqX0


「なにもかも、私たちの想像の域を出ないことよ、ステイル」


とめどない思考――妄想?――を、鋭い声が寸断した。
今日はまこと、前最大主教猊下の珍しい表情を次々と拝見できる厄日である。
悪戯した子を母が叱りつけるような、しかしどこか焦燥を孕んだローラの表情など、
この先一生お目にかかれないであろう。


「………………わかっています」


しかし一度捕捉してしまった観念は、鉄錆のごとく心にこびり付いて離れてはくれなかった。
自分がこの状況に陥ることが分かっていたから、フィアンマは口を噤んだのかもしれない。

ぼんやりと考えていると、本当にわかったのか、そう糾弾するローラの視線が突き刺さる。
ステイルは思わず、飲んでたまるかと定めていたはずのティーカップを口許まで運んでいた。
慌てて皿上に戻そうとすると冷めたレディグレイが数滴、鴉色の聖衣に跳ねた。


「そして青年は数年後、学園都市でアレイスターの『プラン』を奪って姿を消し……
 そこから先を説明する必要は、もうないかしらね」


そんなステイルの見苦しい姿態を笑うでもなく、ローラは強引に論を先に進める。
いつの間にやら急かす側と脱線する側が逆さまになっているな、とステイルは苦笑して、

482 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:44:04.60 ID:qWiQAuqX0



「待ってください」



突然、一つの信じ難い事実に突き当たった。


「『右方のフィアンマ』は、アレイスターの『プラン』を模して動いていたんですね?」

「ええ。アレイスターの“失踪”後、私の手の者に『ビル』の内部を隅々まで捜索させたわ。
 その結果、外部に『計画書』が持ち出された痕跡を発見したのよ」

「では、では…………こういうことですか?」






“アレイスターの『プラン』は、『神の右席』の利用さえも視野に入れたものだった”






483 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:44:53.85 ID:qWiQAuqX0


「…………厳密に言えば。無数の選択肢の中の一つに、“それ”があったということよ」


だったとしても、ステイルは二の腕に粟が生じるのを抑えきれなかった。
『腕』の脅威がまざまざと脳裏に甦る。
学園都市やステイルらが万全の迎撃態勢を整えたにも関わらず、あざ笑うかのように
凡てを一蹴したあの絶対的な力。

仮にフィアンマが『神の右席』の追跡に手間取って、あの日学園都市に不在だったら?
きわめて高い確率で『右方のフィアンマ』の至上目的は達成され、科学の街は地図から
消滅していたであろう。


それほどの、魔術と科学の究極と呼びたくなるような極地が。


(…………あれが、代替の利く予防線の一つにすぎなかった、だと? いや、あるいは)


あれすらも、アレイスターにとっては価値無き『廃棄案』だったのではないか。
考えたくはないが、その可能性を導く状況証拠の存在をステイルは認めていた。


「ローラ=スチュアート」

「なにか?」


女狐は優雅に紅茶など淹れ直して啜っている最中だった。
罅割れの入りはじめている喉が先ほどから水分を欲してやまないと訴えかけてくるが、無視する。

484 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:47:29.39 ID:qWiQAuqX0


「貴女はこう言った。
 “アレイスターは四次大戦の直前期、『ビル』に不特定多数の人間を招いていた”」

「ええ、確かに言ったわね」

「ちなみに彼ら『不特定多数』は、その後どうなったんです?」

「私の調査した限りでは、全員が一年以内に不可解な死を遂げたわ」

「…………そうですか。話を戻しましょう」


その事実はステイルの推論の正しさを裏付けてくれるものだった。
心は、痛まない。
どこの誰とも知れぬ相手の死に哀悼を感じる人間など、そうそういるはずもない。
人間とは元来そういう生き物であり――――だからこそ、“彼女”は特別なのだ。


「こうも言った。                                   ・ ・ ・ ・ ・
 “『右方のフィアンマ』は、『ビル』に侵入して『プラン』を盗んだ――――形の上では”」


そこからして、真っ先に疑問を抱くべきだった。
アレイスターほどの男が自らの根拠地へと侵入した鼠を、はたして取り逃がすであろうか?
いかに『神の右席』になるほどの資質を備えていたとしても、当時の青年は『第三の腕』も
備えていない一介のはぐれ魔術師である。
『世界最悪の魔術師』アレイスターにとってすれば、討てない相手では決してないはずだ。

と、すれば――――


「……総合すると、二つの仮説が成り立ちます」


アレイスターは、『右方のフィアンマ』が『プラン』を持ち逃げするのを、故意に見逃したのだ。

485 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:48:14.13 ID:qWiQAuqX0


「アレイスターは迫る第四次世界大戦における自らの敗北を予期して、『プラン』を
 受け継がせる相手を捜していた」


“受け継がせる”、という言い方には語弊があるかもしれない。
これまた表現は悪いが、死期を目前にした身辺整理、という可能性も考えられなくはない。


「あるいは」


――――どのみち、それらは全て失敗に終わったわけであるが。


「第四次世界大戦での彼の敗北は、アレイスター=クロウリーの『プラン』の一環だった」


考えたくはない可能性。
しかし同時に、最も現実味を帯びている可能性。


「つまり」


『不特定多数』の不審死も。
『右方のフィアンマ』の学園都市襲撃も。
全てが彼にとっては予定調和の、デウス・エクス・マキナである可能性。

486 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:49:16.95 ID:qWiQAuqX0


「アレイスターはいまなお生きて、この世界のどこかで『プラン』を継続している」


それ自体は、ステイルにとっては取るに足らない瑣事だ。
ステイルの使命は、誓いは、望みは、夢は。
アレイスター=クロウリーの生死などに“基本的には”左右されない。


「そして」


だが。
仮に。
ローラから聞いた全てが、真実であるのならば。







「『魔女白書』計画を――――彼女を、利用しようとしている」







ステイル=マグヌスにとってアレイスター=クロウリーは、不倶戴天の大敵となる。


487 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:50:13.45 ID:qWiQAuqX0


コチ、コチ、と大きな柱時計が時を刻む音だけが暫時、静寂に読点を打っていた。


「…………全ては仮定の上に積み上がった推測であり」


ページ数にすれば見開き程度にはなるであろう白紙をめくり終えたのち。


「そして同時に、否定しきれない可能性よ」


ローラが厳粛に言葉を記しはじめた。




「しかし私は、どんな些細な可能性であろうと叩き潰す」




サファイアブルーの双眸に青白い炎が灯っているのを、ステイルは確かに見た。
信じ難い光景だったが、もはや幻覚とは思うまい。
愛情と、恩讐と、希望と、絶望とを、ない交ぜにして注がれた火。
ローラの眼差しは言外に、手出しは無用だと告げていた。


「それは僕とて同じことだ! 彼女に害なす存在など、可能性から焼き尽して」

「あなたはインデックスの側に居てあげなさい。あなたはあの子を知った。
 それならば、自分がなすべきこともわかるでしょう?」

488 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:51:32.42 ID:qWiQAuqX0


一度は語気を強めるも、漠然とだがそう諭される予感はしていた。
この数時間でステイルは、思いの外ローラ=スチュアートという女を理解してしまっていた。


「わかりました…………“最後”に、あと一つだけ」


インデックスは、自分が護る。
天地が開闢の時代の混沌を再現しようと、この命を懸けて護りとおす。
それは、ローラから何を聞かされようと聞かされまいと、確認するまでもないことであった。

確認しなければならないことは、他にある。


「『これで最後』とは、どういう意味ですか」


いつでも胡散臭く、回りくどく、己を惑わすこの女狐の語る“最後”。
想像がつかなかった。


「あら、そんなことだったの。あなたは賢い子なのだから、少し考えればこのくらい
 いと易くわかるでしょう?」


いや、違う。
想像できないのではない。


「いいから…………言ってください」


想像、したくなかったのだ。

489 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/23(水) 00:52:09.75 ID:qWiQAuqX0


「ステイル」


まただ。
またあの顔で笑った。
ローラ=スチュアートという魔女には甚だ不釣り合いの、母の様な、娘の様な、姉の様な。


――――■を慮り、そして慕う■のような、痛々しいまでに朗らかな笑顔。


その顔のまま、ローラは数秒後の未来に、きっとこう唄うのだ。
それが、たまらなく悔しいことに、ステイルには理解できてしまっていた。
想像、できてしまった。










「私は、もうすぐ死ぬわ」











Passage3――――END

495 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:46:50.22 ID:fJgwpGdU0


――Passage4――



死ぬ。


「私は、もうすぐ死ぬわ」


死ぬ。
誰が?


「あなたとインデックスに見えるのは、今日が最後。だからこそ、私の知る限りをあなたに
 伝えておきたかったの」


死ぬ。
彼女を、自分を、果てのない懊悩の輪廻に叩きこんだ、根本の大本を産みだした魔女。
ローラ=スチュアートが、死ぬ。
疑いようもなく、慶ぶべき報せである。

だが、ステイルは。


「ふざけるな!! 貴様は、いつかこの僕の手で――――」

「無理よ、あなたには。だってあなたは、あなた自身が思っている以上に優しい子なのだから」

「黙れッ!!!」


納得できなかった。

こんな、こんな形で、この女に、永久に手の届かないところへと逃げられるのか。

496 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:47:55.88 ID:fJgwpGdU0



「今までありがとう、ステイル。あの子をよろしくね」







Passage4 ――もう一人の失敗者――



497 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:48:47.04 ID:fJgwpGdU0

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「…………ル、ステイル? 聞いているのですか?」


凛とした声に何度となく名前を連呼されて、ステイルは肩を震わせた。
見れば、すっきりした目鼻立ちの大和撫子――――旧姓、神裂火織がそこにいた。


「あなた、五分はそうやって呆けていましたよ? …………私の知らぬところで、
 また何事かあったのですか」


時は七月二十七日正午過ぎ、ここはロンドンのとあるオープンカフェ。
(予定外の寄り道はあったものの)日本での大仕事を無事終えて帰国してから
そろそろ一週間が経とうというこの日、ステイルは眼前の姉のような戦友に呼び出されていた。
その最中に、バチカンでの衝撃的な告白を回想してトリップしてしまったらしい。


「……そのあたりは、おいおい話すよ。とりあえずは君の用件から聞かせてもらいたいね」


ステイルにとってはもはや仕事や義務ですらない、生命維持活動に等しい重みを持つ
最大主教の周辺警護は、ロンドンに戻って以来休暇を貰っている。
年に一度あるかないかのステイルのホリデイには、代理としてこの聖人がインデックスの
護衛に就くのが暗黙の了解となっているのだが――――
498 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:50:03.80 ID:fJgwpGdU0


「だいたい君、身体の方は大丈夫なのかい? いくら安定期に入ったとは言ってもだな……」


火織には現在、どうしても愛刀を振るうことのできない理由がある。
それは一見しただけの通行人にだろうと、その特徴的な装いから明々白々だった。
下腹部の布地に大きな余裕を持たせた、浅葱色のワンピース。




「あなたが心配することなど何もありませんよ、ステイル。なにせ、私とあの人との
 ――――――赤ん坊、なのですから」




――――いわゆる一つの、マタニティドレスだった。



常の毅然たる佇まいとはまた違う、包容力あふれる『母』の破顔にステイルは目を瞠った。

そう、『母』。

ステイルとインデックスにとって姉のような存在であり続けたこの女性の腹部には現在、
受胎から五か月になる新たな命が宿っている。

499 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:50:39.23 ID:fJgwpGdU0


「君が母親だなんて…………今でも実感が湧かないね。加えて父親が騎士団長殿とくれば、
 来たる近未来の超人誕生に鳥肌を禁じえないよ」

「む……確かにこの子には武士道と騎士道を二人で叩きこむ心づもりではありますが。
 というか、前半部分はどういう意味ですか」

「君の挙式のときにも言ったと思うがね。ヘタをすれば上条当麻以上に色恋にうとかった
 壊滅的朴念仁がとうとうここまで漕ぎつけたのかと思うと……ふふ」

「わ、私より年下で恋愛経験もつたないくせにぃ! その幼子の成長を感慨深く見守る
 足長おじさんのような眼差しはやめてくれませんか!!」

「どちらかといえばこれは、失笑をこらえている顔なんだが…………くっ、くく」

「なお悪いですよ!!!」


ステイルは膝を打って呵々大笑した。
自分やインデックスの上に幾年の月日が降りそそいでも、かの聖人は変わらず実直で
素直で、そしてからかいがい抜群である。
彼女の夫も案外、このあたりの可愛らしさと、常の凛たる居住まいとのギャップに
やられたのではなかろうか。
騎士団長と久方ぶりに酒でも酌み交わそうか、とステイルが予定表を脳内でめくっていると、


「まったく、もう……………………それにしても、あなたたち」

「ん?」


火織が、少々複雑そうに、しかし喜ばしげに口角を緩めた。

500 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:52:20.71 ID:fJgwpGdU0


「あなたたちは、『上条当麻』を自力で乗り越えてしまったのですね」


いかにも神裂火織らしい、直球ど真ん中の物言いだった。




「――――――乗り越えるもなにも、僕はあんな奴、歯牙にも掛けていなかったよ」


鼻で笑って彼方を向いた。
半分は強がりであるし、半分は事実である。

ステイルの懊悩に『上条当麻』は直接関与してはいなかった。
反面、インデックスの苦悩の核心にはたゆまずあの男がいたことを、ステイルは当然
承知していた。


「ふふ……どうあれあなたたち二人は、この六年抱え続けた煩悶を、己が力のみで
 踏破してしまった」

「………………それは、違うさ」


それは、間違っている。
あの人々の力強い営み絶えぬ街で、ステイルとインデックスは多くの希望と絶望に触れた。
重荷を引きずるだけの力を、あるいは想いを凝視するだけの覚悟を貰った。
決して、自分たちだけでどうこうできる問題ではなかった。


「そうですか……………どうあれ、寂しいですね。そして、途方もなく悔しい」

「なに?」

501 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:53:23.38 ID:fJgwpGdU0


「私はこの六年間、あなたたちのすぐ傍にいたというのに、なんの力にもなれなかった」

「その点に関しては多分に、君が致命的な石部金吉であるという事実が影響していると思うが」


なにせほんの一年前まで、ステイルとインデックスの間に横たわる、えも言われぬ
アンビバレンスの存在を完全にスルーしていた女である。


「茶化さないでください、ステイル」

「これは失礼」


男女の複雑怪奇な心の機敏を捉えてさえいなかったのに助力などできるはずもないだろう、
とステイルは思ったが口には出さなかった。
これも処世術である。


「コホン…………それを、ただの二ヶ月滞在しただけの学園都市で解消されたと聞けば、
 直截に言って私の心中はおだやかではありませんでした」

「…………君はそう言うが。しかし、それでも……」


それでも、ステイルとインデックスが越えてきた幾千の昼夜をもっとも長く傍で
見守ってきたのは、やはり彼女なのである。

どこまでいこうと所詮は秀才止まりの魔術師であるステイルや、基本的に戦闘要員に
数えるべきではないインデックスが火織の隔絶した戦闘能力に救われたことは、
両手両足の指をすべて使っても到底追いつくものではなかった。

しかし、ステイルとインデックスが互いを男と女であると意識してからはどうなのか。
少なくともステイルには己がうちの懊悩を解決するべく、能動的に彼女を頼った過去は
一度たりともない。


「だから、悔しくて、寂しい、か」

502 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:54:06.49 ID:fJgwpGdU0


「ステイル。“あの子たち”を死なせたのはあなた一人の罪過ではないのです。
 私もまた、インデックスを助けられず、あげくに彼女を傷つけた罪人です。
 それを身勝手にもあなた一人に抱えこまれては、“私が”堪ったものではありません」


清澄な声音の裏側に見え隠れする、苛烈で鋭い鞘音。
烈火のごとき怒りをすんでのところで留めている火織に、ステイルは腰を浮かしかけた。
彼女はまたもや心の澱を暗い灯影に隠そうとしていたステイルに、そしてなにより
愛する弟分、妹分から頼りにされなかった己の不甲斐なさに、癇を立てていた。


「神裂、それは違う。君に非などない。僕が――――僕たちが、弱かっただけなんだよ」


神裂火織はステイルやインデックスよりもはるかに早く、失われた二年間を克服していた。
それがイコール、彼女の薄情さに即するのかといえば答えは否だ。
インデックスがロンドンに居を移してから、すでに六年である。
その間に神裂はインデックスと新たな絆を充分に時間をかけて育み、過去の罪と向き合った。

一日二日ではなく、六年あったのだ。
それだけの月日を無意味に、苦悶の殻に閉じこもって過ごした二人こそが異常なのである。


「それでも、私は二人の助けになりたかった…………いえ。今からでもいい、なってあげたい」

「………………“今から”? なにを言っているんだい、君は」

「ステイル…………ッ!」


人でごった返す真昼のロンドンに、ギリ、と歯ぎしりする音だけが不穏に響いた。
雑踏を行く市民は二人の魔術師が醸成する対峙の緊張を気にも留めない。
ステイルも火織も互いの姿だけをじっと見据えて、次の言葉を絞る時機を計りあっていた。

503 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:54:56.58 ID:fJgwpGdU0


先に形を歪めたのは、紅を差すでもないのに名刀の光沢を放っている、女の口唇の方だった。


「あなたはこの二カ月で、覚悟を定めた良い目つきになりましたね」

「…………それはどうも」


おざなりに目礼だけして、男は対照的に口を閉ざした。
だがしかし、ステイルは迷ってもいた。
彼女に、自分がローラから聞き出したすべてを晒してしまうべきだろうか、と。


「では、今あなたの奥で燻る炎とは、果たして“何”に対しての覚悟ですか?
 “何か”との、近い未来の避けられない闘いを予見しているのではないですか?
 ――――――――私の存在を、視界に入れようとしないままに」


そのようなことは断じてない。
ステイル=マグヌスは神裂火織を心の底から信頼している。
彼女が自分を、というよりもインデックスを裏切ることなど、あり得ないと信じきっている。




「ステイル。私では、あなたたちの力にはなれませんか?」




このどこまでも心優しい女性なら、命を賭してでも、自分たちのために至大なる『聖人』の
力を振るってくれると、そう信じている。

504 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:55:47.74 ID:fJgwpGdU0


だからこそ、それは叶わぬ願いなのだ。


「あなたたちが『神の右席』と交戦するとの報せを受けて、私がどれほどにもどかしかったか
 わかりますか? すべての柵を取り払ってすぐにでも、日本に飛んでいきたかった。
 誰も彼もがこぞって止めるので、断腸の思いで断念しましたが」

「…………当然の、ことだろうが!! 君の身体はいま、比喩でもなんでもなく君一人の
 ものではないんだぞッ!!!」


イギリス清教の核弾頭、神裂火織が最大主教護衛の任を外れた最大の理由。
あの土御門元春が、聖人の絶大な戦術的価値を議論の端にさえも上らせようとしなかった訳。

決まりきっているではないか。
彼女が、妊娠から三ヶ月を経た尊き母体であったからだ。


「無理に、決まってるだろう……! もし君と胎児の身に万が一があったら僕は、
 君の夫にも、天草式の連中にも申し訳が立たない…………っ!」


数カ月前、火織の妊娠が発覚した日が思い出される。

聖ジョージ大聖堂で執務中だったインデックスと自分のもとに、夫に付き添われた
彼女が飛びこんできたあの日。
聖人であるがゆえの業に苦しみ、一度は故郷を捨てた彼女が、第二の祖国でつかんだ幸せ。
日本人街の桜の木の下で、火織が求婚を受け入れた際にはやっかみ半分だった天草式の
男衆が、今度こそ純度100%の歓喜に満ち満ちた酒宴を張り。
父親になる男の親友が、王室オールスターという豪華絢爛きわまりないゲストを引き連れて現れ。


そして、新たに人の親となる夫婦が感涙にむせび泣いてやまなかった、あの日。


505 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:57:22.92 ID:fJgwpGdU0


「あの光景を、そして君たち家族の明日を邪魔する因子の存在など!
 ………………認めるわけには、いかないんだよ」


周囲の視線を多少なりとも集めてしまっていると悟って、最後は声をひそめる。
代わりに、譲るつもりはないという意思を、鋭く砥ぎ上げた眼光に込めた。
なおも議論が白熱するようなら『人払い』を施すべきだろうか、とステイルが逡巡していると。


「…………やっぱりあなたは優しい子ですね、ステイル」

「……………………は、はぁ!?」


うってかわって白い歯をこぼした火織が、素っ頓狂なことをのたまった。
彼女は知る由もないであろうが、奇しくもその主張は一週間前のローラと重なっている。
顔を赤らめたステイルは奇声をあげてのけぞり、ドン! とテーブルに手をついて立ち上がった。


「藪から棒になにを言い出すんだ、君は!?」

「脈絡ならありあまるほどにあるではないですか。あなたはやや、必要以上に悪ぶる
 ところはありますが、根は純心な正義漢であるというのが『必要悪の教会』の面々の
 一致した見解ですよ。ほら、なんと言いましたか。テオドシアがいつか語っていた、
 バードウェイの妹御を救った際の武勇伝などいい例じゃないですか」

「勝手に人のキャラを『雨に打たれる子猫を見すごせない不良』テイストに味付け
 するなあああああああああ!!!!!!」

506 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:58:23.20 ID:fJgwpGdU0


昼下がりのオープンカフェを包む空気の、穏やかな色相が絶叫に震えて揺らぐ。
そう的外れな見解ではないのだが、ステイル的にそれを認めるのは死ぬほど我慢がならない。
何事かと大衆が我先に首を伸ばすが、喧騒の中心にいるのが頭を抱えてのたうちまわる
黒衣赤毛の神父と知るや、肩をすくめてこう口を揃えた。


「「「「「「何だ、またヘタレ神父か」」」」」」

「やかましい燃やされたいのかおんどれらぁぁーーーーーーーっっ!!!!」






この程度の漫才と殺気を失笑で流せないならロンドン市民はやっていけない。

とばかりにステイルの怒気にも平然とした面で、思い思いの日常に戻っていく野次馬ども。
なおも幾人かが携帯を片手にシャッター音をパシャパシャさせているのを一瞥して、
ステイルはためらわずに『人払い』を行使した。
げっそりと頬のこけた、心なしか一時間前より痩せて見える風貌で火織に向きなおる。


「き……君は当然知らないだろうから、教えてやるよ。僕はかつて上条当麻に対して、
 こう宣言したことがある。『彼女を守るためならなんでもやる、誰でも殺す』とね。
 ………………君とて例外ではないんだぞ、神裂」


なるべく凶悪に見えそうなアングルを心がけて、犬歯を(そんな物はないが)剥き出しにする。

507 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 19:59:15.40 ID:fJgwpGdU0


だがいかに凄んだところで今の火織には火に油、飛んで火に入る夏の虫も同然であった。


「ええ、知っていますとも。あなたは口だけの男ではありません。私が彼女にとって
 害悪になりうると判断すれば、あなたは間違いなく私の敵に回るでしょう。
 ことこの点に関しては、インデックスよりも私の方が心得ているという自負がありますよ」

「だったらそのニコニコ顔を今すぐやめろ! っていうか撫でるなぁーーーっっ!!!」


いましがた危険な殺人鬼にもなり得ると認めた男の頭に向かって、身を乗り出して手を伸ばす聖人。
ステイルは飛びのいて、神経を疑う目つきで彼女をねめつける。

が、いまやその相貌は頭に乗せる灼髪に負けず劣らずの紅蓮色に塗りつぶされていた。
全身から火を噴きそうな様子で口を開閉しても、火織の微笑をより色濃くさせるのが関の山だった。



ステイルの呼吸が落ち着くのも待たず、女は畳みかける。
こういった間合いに対する駆け引きの上手さは、さすがに熟練の剣士らしかった。


「あなたとて、私のことは良くご存じでしょう? 私はもう決してあの子を悲しませは
 しません。つまりあなたと私は、未来永劫仲の良い姉貴分、弟分ということです」

508 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:00:05.75 ID:fJgwpGdU0


ここまで話術に習熟していたとは、ステイルはまるで存じ上げていなかったが。
ポンと手を合わせて浮かべた、絶妙に作り笑いっぽさあふれる表情が、再び清教派の誇る
キングオブ女狐に重なる。
土御門か建宮あたりの薫陶を受けたのかもしれない。


(クソッ、あの愉快犯どもめ! よくもロンドンでの数少ない心のオアシスを
 涸らしてくれたなぁっ……!)


激しく貧乏ゆすりしながら、元凶の現在の座標を確かめる術はないかとローブの内をまさぐる。
そういう思考が現実逃避でしかないと気が付いたのは、カードを求めてさまよっていた指先が
真鍮製の懐中時計のひんやりとした感触を脳に伝えた時だった。


「と……とにかくだ!」


口調とは裏腹に、やおら腰を下ろす。
言行の些細な不一致は、己の心を映し出す鏡なのかもしれない。
第三者の位置から自身を客観視して、ステイルはそう結論した。


「僕は君を、最低でも向こう一年は戦場に赴かせるわけにはいかない。これは決定事項だ」


口では神裂火織が相手であろうと死合ってみせる、と豪語することは可能だ。
万一そのような事態に陥ったとして、実践する覚悟もとうの昔に決めている。
しかし、しかしそれでも――――

509 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:00:45.49 ID:fJgwpGdU0


「…………後生だ。理解してくれないかい、神裂」


それでもステイルは、神裂火織とは闘いたくなかった。

年端もいかぬ未熟な少年魔術師と、神に愛され人を愛した聖人。
邂逅を果たしてからもう何年になるのか。
いったい幾つの戦場を共に駆け抜けたのか。
ステイルが“少女”を救えず、絶望に心折れたあの日。
すぐ隣で同様に現実から目を逸らし、同じ罪を負った心弱き女は誰だったのか。


「………………ならば、せめて。一つだけお願いがあります」


すべて、目の前の心優しい女性ではないか。


「お願いです、ステイル。どうか、真実を隠さないで打ち明けてほしい」


“彼女”さえ護れるのならば、他の、世界の全てを焼き尽してもいい。
ほんの十日前までは、掛け値なしにそう腹を固めていた。


「あなたたちの手を煩わせるような真似は、決してしません」


だがステイルは、愛を知った。
少年の抱いた盲目の“恋”に別れを告げ、青年は真実からの“愛”の何たるかを知った。
いざとなれば、“彼女”のために“世界”をも天秤にかけてみせよう。
だがステイルは、そんな二者択一とは限界線の縁に至るまで向き合いたくはない、
そう考えている己を知った。

510 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:01:55.76 ID:fJgwpGdU0


誠実と切迫を体現したかのような表情で、姿勢で、火織が次第次第に語気を強めていく。


「だから、もしもあなたが、私のことをいまだ戦友と呼んでくれるのならば」

「――――――――――僕は、隠さない」


ステイルは、被せるようにその口上を断ち切った。
女がはじけるような笑みをこぼす前に、



「君に明かせない秘密があるのだという事実を、隠さない。それが、ステイル=マグヌス
 から戦友神裂火織への、精一杯の誠意だ」


返す刀で、さらに一閃。



「身勝手なことを言っているのはわかっている。それでも僕は、君と、君の子に
 “もしも”が起こったら。…………その可能性を、考慮しないわけにはいかない」


ステイルは、心中密かに自嘲した。
かつて至上の誓いを立てた唯一の少女さえも護れなかった男が、その腕をさらに遠くへ
伸ばそうなどとは。

しかし、しかしそれでも。
ステイルは神裂火織とその家族に、消えない痕など背負ってほしくはなかった。

511 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:02:45.25 ID:fJgwpGdU0


「すまない、神裂。どうかすべてが決着を見るまで、僕を…………僕たちを信じて
 待っていてほしい」


彼女を信じているからこそ、打ち明けることはできなかった。

もしもここでわずかな取っ掛かりの一つでも火織に与えてしまえば、その魔法名が表す
信念のままに、彼女は走り出すであろう。
ステイルはそれを痛いほどに心得ていた。
『手は煩わせない』などという、彼女らしからぬまどろっこしい言い回しが良い証拠である。

故にステイルは、『秘密』があるのだという事実だけは隠さない、そういう道を
選ぶことでしか火織の誠実には応えられないと、思惟の果てに結論付けたのであった。


「そして叶うならば、どんな形であれ、闘いを終えた僕らを、一番に出迎えてくれないか」


頭を深く深く下げる。


「僕と、彼女の――――――――姉代わり、として」


そして、彼女の答えを待った。







「…………同じ事を繰り返すようですが」

512 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:03:52.24 ID:fJgwpGdU0


駄目か。

自分では、彼女の信念を曲げられないのか。
そう、ステイルが忸怩たる苦みに歪んだ面を上げようとした時。


「やっぱり、さびしいですねぇ」


頭髪に櫛を通されるような耽美な触覚が走った。
女の、刀を常日頃から振るっているにもかかわらず白く細い指先が、頭を滑るように
撫でる感触だった。
ゴルゴンに睨まれたかのように一瞬だけ硬直して、ステイルは弾かれたように頭を跳ね上げる。
名残惜しそうに、虚空に掲げられた右手を眺める長髪の佳人がそこにいた。


「もう、十五年近くになるのですか。私が初めて出会ったころは生意気盛りだった
 背の低い少年が……図体ばかり大きくなって、私同様に心は強くならなかった少年が。
 …………一人前に、私の身を案じてくれる日が来るなんて」


火織の右手がゆっくりと膝上で左手と重なるのを、ステイルは呆然と見送った。


「寂しくて、寂しくて、寂しくて…………そして何より嬉しくて、泣いてしまいそうですよ」


だから、その瞳が微かに潤いを帯びていると気が付くのがわずかばかり遅れた。
とっくに泣いているじゃないか、という言葉を飲み込むだけの思慮分別は、辛うじて残っていた。
目玉を飛び出さんばかりに丸めたステイルに誇らしげな視線を投げかけて、火織は涙を拭った。



「承知しました。お言葉に、甘えましょう」



513 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:05:14.13 ID:fJgwpGdU0


「申し訳ありません、若干誇張しました。“万人”は言いすぎでしたね。
 それでも私個人の意見としては決して虚言などではなく」

「持ち上げてから落とすな!! どこでそんな高等テクニックを習得した!?」

「つち」

「ゴメンぶっちゃけ聞く前からわかってたよ土御門のクソ野郎おお!!!」


翻弄されっぱなしだ、すこぶる悔しい。
反撃の糸口が転がっていないかと女の怜悧な美貌を睨みつけていると、突然その美貌が
ステイルに寄せられて、悪戯っぽくほころび――――







「今だから、そして『人払い』が効いているから言ってしまいますが。
 …………私はあなたの事を、一人の男性として見ていた時期もあったのですよ?」


トンデモナイ囁きで、男の鼓膜と心臓と肩とを、同時に大きく震わせた。

514 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:05:52.32 ID:fJgwpGdU0





「んあっ!!? なっ、な、なななななな何を!!??」

「あ、言うまでもなく現在の私は夫一筋ですので。貞淑な女であるとの自侍にゆらぎは
 ありませんよ」

「そんなことは聞いてないわぁーーーっっ!!!!」


だったらなにが聞きたかったのか、ステイル自身にも杳として知れなかったが。
と言うよりは、聞くのが非常に恐ろしい。
こんな得体の知れない恐怖相手なら、世界が滅ぶその瞬間まででも部屋の隅で主に祈りを
捧げながらガタガタ震えていた方がマシというものであった。


「照れない照れない。しかし月詠小萌女史しかり、シスター・アンジェレネしかり、
 パトリシア=バードウェイしかり、国内に多数存在する私設ふあん倶楽部しかり。
 ………………あなたという人は意外や意外、なかなか隅に置けませんね」


触れてほしくなかった問題に言及されて、ステイルは舌打ちを返事に選ぶ。
だれだれに想いを寄せられている現実は十分承知しているが、その誠意に応える気など
ステイルにはまるでないのだから、彼女らに対面すると気まずさが先に立つのである。

515 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:06:35.69 ID:fJgwpGdU0


「どうなんです、実際? あなたに想いを寄せる女性はそれなりの数にのぼるはずですが、
 そのあたりはどう処理するつもりですか?」

「処理という言い方はやめてくれ。彼女らに失礼だ」

「その容姿に似合わぬフェミニストぶりも、現況を成している一因だと思うのですが」

「色々と余計なお世話だッ! …………だいたい君に心配されずとも、僕は僕で
 やるべきことはやっている」

「と、言いますと?」


嫌に食いついてくる、嫌な予感しかしない。
しかし隠し通せることでもなければ隠す意味も薄かった。


「数日前、パトリシアとシスター・アンジェレネには、明確に僕の意思を伝えた。
 日本を発つ直前には、小萌と二人きりになる機会もつくった」


ひっぱたかれるのも覚悟の上の行動であったが、結果はステイルの想像を大きく裏切った。

小萌は終始笑顔で、ステイルの頭を強引に下げさせると火織のようにナデナデしてきた。
恥ずかしかった。

アンジェレネの場合は号泣させたあげく何度も何度もお幸せに、と逆に激励されてしまった。
ちなみに、物陰で出歯亀していたアニェーゼ部隊に袋叩きにされたのは想定の範囲内である。

パトリシアからは涙声で祝福されたが、実姉にかつて『恐るべき泣き虫』と形容された女性は
決して泣き顔をステイルに見せることなく走り去っていった。
…………目下、姉による報復が最大の懸念事項だが、いまのところそういった兆候はない。

516>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:07:48.73 ID:fJgwpGdU0


「ふむ。それはそれはさぞかし面白、もとい大変だったでしょうね。あなたがめずらしく
 有給など取ったかと思えば、そのような事情があったのですか」

「労組の連中め、ためこんだ有給をさっさと消化しろと脅、もといせっついてくるものでね」

「日本人でもあるまいし、消化率100%を目指しましょうよ……」


ステイルの有給消化率は一月前を基準に算出すると0.5%。
三年前、上条当麻と殴り合い宇宙するために日本へすっ飛んだのが最初で最後の
ホリデイウィズペイであった。
ステイルが遠い日の青春群像劇に思いを馳せているかたわらで、火織がおもむろに首をかしげる。


「しかし…………それでもなお、まだ一つ謎は残っていますね……」

「君はいったいなにを言っているんだ」


話題の順序に脈絡も系統性もあったものではない。
オーバーアクション気味に肩をすくめて失笑するとあらかじめ頼んでおいたコーヒーの
存在をいまさらながらに思い出して、すっかり冷めたそれを一口、二口と啜る。


「とぼけなくても良いではないですか。帰国した翌日でしたか、あなたが
 オックスフォード通りのメイド喫茶から出てきた件についてですよ」

「ぐぶふおぉぉぉぉっっ!!! がっ、な、えぇ、がほごほおおっ!!」


哀れ、一杯八ポンド(約九六〇円)のぼったくりコーヒーは汚いアーチを描く噴水に化けた。
ステイルのただいまの財布事情からするとあまりに痛すぎる散財である。
液体を入れてはいけない器官に流し込んでしまった男はしばし激しく咳きこんでから、
おそるおそる女に向きなおった。

517 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:08:53.30 ID:fJgwpGdU0


「ま、ま、まさか、よもやとは思うが、この事を最大主教に喋ってはいないだろうね……?」

「え、まずかったですか?」

「なんでそこだけ素でキョトンとしてるんだ君はッ!! パトリシアたちに関しては事前に
 それとなく告げておいたからいいが、その、そのようなソレだけは途轍もなくマズイんだよ!
 空気を読んでくれぇ!!」

「いえ、まあ、世間話の一環としてポロとこぼれてしまいまして。

 『ステイルはいつの間にか、インデックスの人称を“貴女”から“君”に改めていますね』

 みたいなやりとりからあなたの話題にシフトするうちについ。そういえばあのとき、
 心なしかインデックスの表情がカチコチに固まっていたような」

「…………きっと、周囲の空気も同時に固着したんだろうね」

「ななな、なぜわかるのですか!?」


わからいでか。
二人の人称問題は土御門やローラですら触れようとしなかった、デリケートきわまりない禁忌である。

518 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:10:31.41 ID:fJgwpGdU0


「神裂、君はアレだな、ピンポイントで地雷を踏む能力でも持っているんじゃないか?
 紛争地域の不発弾処理に重宝しそうなシックスセンスだね」

「あなたさっき私の身体を心配してくれましたよね!?」

「出産を無事終えたら中東あたりへの派遣を僕の方で検討しておくから頑張ってくれ」

「決定事項!? あなたもしかして本気で怒ってません!?」

「半分は僕の自業自得だ、堪忍袋の尾は半分しか切ってないよ」

「半分マジ切れじゃないですか! あ、ちょっと! 人と話している最中に携帯を
 いじくるなど」



「………………もしもし、最大主教? いや、大したことじゃあないんだが。神裂がね、
 ちょっと。ああそうなんだ。彼女少しおかしなことを言ってたかもしれないが、
 その辺のしっちゃかめっちゃかな戯言は妊婦特有の『虚言をたれ流すストレス発散法』
 なんだよ。うん、うん…………ああ。それじゃあ今晩、例の場所で」



「…………あの、私の人間としての尊厳がしっちゃかめっちゃかにされた気がして
 ならないのですが」

「100%純正で君の自業自得だ」

「うぅ」

519 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:11:52.12 ID:fJgwpGdU0


本質通りの天然ボケをかました聖人にひとしきり罵声を投げかけてから、ステイルは
カフェテーブルにぶちまけた闇色の液体を律儀に拭いはじめる。
すると火織が再び首をひねって、こう問いかけてきた。


「今晩、インデックスと逢引でもするのですか?」

「………………そうだな。これぐらいなら言ってもいいか」


返事になっているようなそうでないような、曖昧な独り言を呟いてから手を止める。
まっすぐ見つめた女の表情が凛と引き締まっていたのは、向かいあう己のそれもまた、
強張るほどに粛然としていたからだろうか。



「今夜、日付が変わるころ、つまり明日の零時…………彼女に僕の想いを、すべて告げる」



目を瞑って、まるでそれ自体が愛の告白であるかのように重々しく言い切る。
そっと瞼を開くと、『聖母の慈悲』など持たぬはずの聖人が慈悲深く微笑んでいた。


「肩の力を抜きなさい、ステイル。無責任な言葉を吐くのは好きではありませんが…………
 きっと、何もかもうまくいきますよ。あなたは、あなたたちは、これまでずっとがんばって、
 悩んで、苦しみ続けたのですから。その分しっかり報われなければ、嘘というものです」

「…………さすが、神に向かって啖呵を切った聖人サマは言うことが違うね」


カウンセラーの常套句のような文言も神の『とりこぼし』を余さず救うと公言して
はばからないこの聖人にかかれば、聖書の一節にすら等しく輝く。

520 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:12:42.58 ID:fJgwpGdU0


「ありがとう、神裂。明日は一番に、吉報を携えて君のもとへ行くよ」


笑って、泣いて、悩んで、苦しんで。
最後に『失敗』したあの二年を、共に過ごしたのが彼女で良かった。
ステイルは心の底から、そのささやかな偶然に感謝して微笑を返す。


「その際は、必ず二人で、ですよ? お姉さんとの約束です」


ぴんと人差し指を立てて秋波を送ってくる火織。
似合ってないぞという言葉を飲み込むだけの分別も、いまだけは投げ捨ててもいいだろう。


「似合ってないぞ。歳を考えろよ、にじゅうはっさい」

「インデックスには間違っても言ってはいけませんよ、その手の冷やかし」

「君じゃああるまいし、誰がやるか」

「はいはい。そう言えば、インデックスは今日はなにを?」

「明日の式典の準備に追われて…………とはいっても、今日の彼女に大した仕事は
 割り振られていないが。やはり僕が側に付いていないと、仕事がはかどらないからね」

「ノロケつつ自惚れるとか、器用なことですね」


先刻とは一転して、和やかな軽口の応酬。
インデックスとすごす愛しい一時ともまた違う、気心の知れる戦友とのかけがえない時間。


「しかし……そうですか、“明日”ですか。今の今になって何ですが、
 こんな偶然があるものなんですね」

「ん、どうかしたかい?」

521 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:13:29.70 ID:fJgwpGdU0


そんな中で、何の気なしに火織が放った瑣末な一言が。






「四次大戦の終戦記念日が、“あの”七月二十八日と重なるだなんて」






俄かに、急激に、ステイルの肺腑を冷やした。



522 :>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/24(木) 20:17:42.06 ID:fJgwpGdU0

⇒ TO BE CONTINUED ……


というわけでかんざきさん回でした
いい加減この二人の絡みを原作でもう一度見たいものなのですが

投下ペースと文量で皆さまを置いてけぼりにしていないかだけが心配です
速さが足りてると思ったら遠慮なく罵ってください
足りないと感じた場合でも遠慮なく罵ってください

ではまた土曜に
523VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 20:39:11.56 ID:ml8IDzjM0


待ってるぜー
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(三重県) [sage]:2011/11/24(木) 21:12:23.20 ID:oj9D9+ac0


おそるべし>>1
この速さにしてこの内容……。
ここの>>1は化け物か!?

529>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/26(土) 00:31:51.40 ID:7JZrLjMN0

ツッコもうと思ったら先にツッコまれてた……別れたい

とりあえず>>512>>513の間に投下忘れがありましたので
↓を脳内補完しといてください
530>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/26(土) 00:32:22.18 ID:7JZrLjMN0


ついに引き出した言質に、ステイルは半信半疑の態を隠さず反問した。


「……ほ、本当か?」

「あなたが切りだしてきたことだと言うのに、なにを怪訝な顔をしているのですか。
 ……その代わり。事後報告でかまいませんから、いつかすべてを話してくださいね」

「あ、ああ! それは神かけて言ってもいい、約束する!」


火織の言う通り、散々闘うなと迫っておきながら奇妙な態度だという自覚はある。
悪しざまに言えば、頑迷固陋。
そうとも取れるこの聖人を説得できたのだという現実に、脳の認識が追いついてこない。


「あなたは、もっと自分に自信を持ってもいいと思いますよ。インデックスが上条当麻
 よりもあなたに惹かれたという事実が、いまとなってはまったく不思議ではない。
 そう万人が納得する程度には、あなたは“いい男”に成長しました」

「………………そう、なんだろうか?」


こちらの内心を読んだかのような、全面的に自らの生き様を肯定する台詞を吐かれて、
ステイルは頬に血潮が集まるのを抑えられなかった。
なんとなくだが背筋に怖気を感じて、眼球をせわしなくキョロキョロさせる。
対する火織は、二呼吸ほど間を置いてからしれっと返した。

531>>1 ◆weh0ormOQI [saga]:2011/11/26(土) 00:34:51.71 ID:7JZrLjMN0

これが若さゆえの過ちってやつですかね
こういうミスがあると時々修正の効く外部サイトに行きたくなっちゃいますの
まあ台本形式たっぷりなので無理なんですけど

ちなみに>>1はファーストガンダム世代ではありません 

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