2013年11月24日日曜日

とある未来の通行止め 1

2 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/14(木) 23:59:46.40 ID:w3/+8O0b0
一方通行は眠っていた。昨夜ベッドに入ってからほとんど変わらない態勢で。
カーテンから漏れてくる明かりと鳥のさえずりが、まだ(彼にとっては)
睡眠時間の真最中であることを物語っている。
しかしこのマンションに住む住人は、彼の安眠を優先させてはくれない。

「一方通行―、起きろー、もう朝じゃんよ。朝食もできてるぞ」
「……」

「起きなさい一方通行。ちょっと、聞こえているんでしょう?……まったく」
「……」

保護者二人の呼びかけに完全無視を貫いた一方通行。本当に寝ているのか、
聞こえているのに返事をしないのか。
結局いつもどおり、アホ毛を揺らしながら一人の少女がノックもせずに入室。
元気な声で目覚まし役を務めることになった。


3 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:00:43.86 ID:WdcBs0Va0
「あなたーおきてー!もう朝ですよご飯できてますよ聞こえてるクセに
返事くらいしてよ、ってミサカはミサカは呼びかけてみる」

返事こそ無かったものの、一方通行の布団が大きく上下して、息を
吐き出した。その様子を見て打ち止めがトコトコとベッドへ近寄る。

「ほらほら、今年から火曜日は一時限目あるんでしょ?もう起きないと
遅刻しちゃうよ。ねぇ、目開けて?」

打ち止めは枕元に膝をつくと、瞼をつんつんとつついたり、白い髪を梳いて
額をあらわにしたりとちょっかいをかけて覚醒を促す。さすがに一方通行の瞼が
ゆっくりと上がって、赤い瞳がギロリと打ち止めを睨む。

「なァンでオマエが俺の時間割を把握してるンだ…」
「さてなんででしょう?教えてほしかったらミサカと一緒に朝ご飯食べて、って
ミサカはミサカは交換条件を提示してみたり」

一方通行の寝起きで掠れた声に少しもひるむ様子はなく、打ち止めはさらに
彼の肩を揺さぶった。あくびをしながら一方通行が起き上がる。

「どォせ番外個体から聞いたンだろうが。別にあんなモン出席しなくても
いいンだよ。寝かせろよ…」
「最初の授業くらいはちゃんと出るべきだよ。あなた、そんな風でよく
進学できたね、ってミサカはミサカは呆れつつも結局起きてくれるから嬉しかったり」

この家で、というか学園都市でこれほど簡単に一方通行を朝に起こせるのは
打ち止めをおいて他にいない。
じゃあコーヒー淹れて待ってるからね、と部屋を出て行った打ち止めを
見送りながら、一方通行は寝間着用のシャツを脱いだ。
ここ数年の能力無しの日常生活のせいか、一方通行の体にもうっすらと筋肉が付いた。
杖は必要だが、以前よりは不自由さも軽減されている。
家の中ではほとんど使用しなくなって久しい。
窓を開ければ、朝はまだひんやりと冬の面影を残す四月の空気。
適当に厚手の長袖シャツとジャケットを選び、少女が待つキッチンへ向かった。

4 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:06:50.59 ID:WdcBs0Va0
「あらやっと起きたのね。愛穂はもう出たわよ。君もはやく食べて
真面目に授業を受けていらっしゃい」
「はい、ミサカの特製ブラックコーヒーです、ってまだ眠そうなあなたに
愛情たっぷりを進呈」

芳川と打ち止めに相槌をうちながら椅子に座る。打ち止めの「いただきまーす」
に消されそうになるが、一方通行も同じように呟いて用意された朝食を食べる。
二人より先に食べ終わっていた芳川が鞄を肩にかけて出勤の支度を整え、
玄関へと歩きなが二人に軽く手を振った。

「それじゃあ私も先に行くわね。今日は愛穂も私も遅くなるから、
夕飯は君たちだけで済ませてちょうだい」
「はーい、いってらっしゃいヨシカワ!」
「おォ」

見送りの挨拶と了承の返事を二文字で終わらせる一方通行。とはいえ、
彼の昔をよく知る者にしたら、これでも目を見張る光景だ。
彼らは家族同然として、こうして自然に毎日を送っている。

打ち止めは手早く片づけを済ませ、玄関で待っていた一方通行と共に外へ
出る。マンションから数分歩いたところで、それぞれの学校へ向かう別れ道となった。

「じゃあミサカもいってきます、ってミサカはミサカは一緒に登校できて嬉しかったな。
毎日こうならいいのに。あなたも気をつけていってらっしゃーい!」
「気をつけろ、は俺が言いたいセリフだクソガキ、じゃ後でな」

「また後で」という約束が、今は簡単に口にできる一方通行と打ち止め。
文字通り、血の滲む思いでそれを得たふたりの日常は今日も続いている。
毎日毎日、小さな変化、大きな変化を含みながら。


5 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:09:38.93 ID:WdcBs0Va0
一方通行は大学の講義一限だけ受けた後、リビングで大して興味もないテレビをぼんやりと
見ていた。ふと携帯に黄泉川から着信が入る。ソファに寝転がったまま通話ボタンを押す。

「なンだよ」
「あ、一歩通行今ウチにいるか!?」
「あァ、いるが。どォした?」
「洗濯物!雨!もうすぐに降ってきそうじゃん!」

あわてた黄泉川の声につられて外を見ると、確かに厚く黒い雲が立ちこめている。

「降りそうだな」
「なに落ち着いてるじゃんよ!すぐに取り込んでくれ。頼んだぞ!」

やらないと今日の晩ご飯は君だけ肉抜きにするからな、と脅されて、
一方通行は溜息をつきながらベランダへの窓を開けた。

外の空気は多分に湿気を含んでいて、とりあえず一番近くに干してあった自分のシャツから
無造作にカゴに放り込んでいった。
これで濡らしては、同居人からどんな嫌味を言われるか容易に想像がつく。

黄泉川が、まさか本当に肉抜きなどするとは思わないが、ここ数年で
自分でも驚くほどに丸くなったもんだと実感する。

(アイツらのために…ってほど大げさなことじゃねェが、俺が素直に洗濯物をなァ…)

ひょいひょいと作業を続けていた彼の手は、可愛らしいピンクの花柄と
レースで構成された「ソレ」を前に停止した。
6 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:12:32.78 ID:WdcBs0Va0
「これって…」
その ブラジャー は、明らかに黄泉川のものでも、芳川のものでもなかった。

二人のものに比べてアンダー部分がやけに短く、何よりもこんな可愛らしい
デザインの衣類をあの二人が所持しているわけがない。

と、いうことはだ。

「クソガキのか…?」

今さらブラジャーのひとつやふたつ、何とも思ったりはしない。
しかし目の前のソレは、短いアンダーや肩ひもに比べてカップのサイズが
やけに、…大きいのではないか?
一方通行はカゴを足元に置くと、ブラジャーを手に取ってサイズを確認する。

(……D…、60の)

「D」
「A B C の次がD。その次はE」

声に出してみた。

(Dィィィ!?うっそだろォ!?いや、成長してるのは知ってるけどよォ!D!?
ちょっと前まで 無い胸 だったじゃねェか、急すぎンだろ)

そういえば、最近は打ち止めが自分に抱きついてくることが減った気がする。
加えて、初夏に入ろうかという頃なのに、異常気象なのか肌寒い日が続いていて、
学園都市の人々は、いまだ春物の衣服をほぼ誰もまとっていない。

もちろん打ち止めも。
だから気付かなかったのだろうか。
打ち止めの胸が、いつの間にか急成長していたことに。

(じゃァここ半年足らずで?)

ピンクのブラジャーを握りしめ、それを見つめながら深い思考に沈む一方通行は、
不覚にも玄関のドアが開いた音に気づけなかった。
7 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:17:15.22 ID:WdcBs0Va0
「わぁ~濡れちゃう濡れちゃうってミサカはミサっ…」
「うォ!?」

この曇天を見て大急ぎで帰宅したのだろう。洗濯物を取り込むために。
いつもの「たっだいま~」も言わず学生カバンを持ったまま、打ち止めが
タオルと緑のジャージの間から突然現れた。

「……」
「………オカエリィ…」
「ただいま…ってミサカはミサカはそれよりもあなたが持ってるミサカの下着が
気になるんだけど」

「あっ、いやっ、悪ィ」

ぱっと手のひらをゆるめ、一方通行は銃を突きつけられた人質のようなお手上げポーズをとる。
そのまま落下したブラジャーはぱさりと音をたてて、自分の裸足の足の甲にかぶさった。
彼にしては本当に珍しく赤い頬でうろたえている。

「わわっ、とミサカはミサカは急いで回収!」

彼の足から拾ったブラジャーを背中に隠して、打ち止めは一方通行と
目を合わせられなくて床ばかりを見ている。

(うぅ~~ちょっと恥ずかしいなぁ。なんであなたはミサカのブラジャーを
じっと見てたのぉ!?)

状況を見れば一方通行が洗濯物を取り込んでいたのは分かるが、なぜあんな風に、
明らかに自分のブラジャーを凝視されていたのか。
打ち止めも年頃の乙女なわけで、恥ずかしくてどんな反応をすればいいのかわからない。
彼が何か言葉を発してくれるのを待っていたのだが、一向にその気配がない。

「??」
「……」

不思議に思って顔を上げると、一方通行は真剣な表情で打ち止めを見つめていた。
いや、正確には、打ち止めの胸を。

「ななな、…なに?」
 
思わず両の手で胸元を隠す打ち止めだったが、
その手にブラジャーを持ったままだったことを思い出し、またすぐに背中に手をやる。

「!な、ンでもねェ」

フッと視線を手すりの外に移動させる一方通行。
二人の間に沈黙が漂う。

(アホかァ俺はっ!!なにじっと見てンだよ!そンでもっと気のきいたこと
言えよォォ!気まずいにもほどがあンだろォがァァァァ!)

(今この人ミサカの胸見てたよね?えぇっと、ひょっとしてミサカの
胸が要チェックなの!?やっぱり男の人だから、大きい胸がいいのかなって
ミサカはミサカはほっぺたが赤いあなたの顔を覗きこんだりっ)
8 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:19:46.16 ID:WdcBs0Va0
一方通行は瞳をキラキラ輝かせてこちらを見ている打ち止めに気付いて
困惑の表情を浮かべる。

(なンでこのガキはこンな嬉しそうな顔して俺を見てンだァ…?)

正直「変態!」とか言われたり、軽蔑の眼差しを浴びるのではないかと
心配していたので、そこに関しては安心した第一位だった。

「ねぇねぇあなたって…」

「おゥ…」

「やっぱりおっぱい大きい方が好きだよね?」

「っぐ!??ハァァ!?」

思わず奇声が出ちゃった第一位だった。


「ミサカね、最近急に胸が大きくなったんだよ!先月もサイズが合わなくなって
新しいブラジャーにしたの!ってミサカはミサカは将来有望株なのを
アピール!他の下位個体やお姉さまより大きいんだよ?」

突然何を言いだすのかこのクソガキは。
ぐいぐいと迫ってきて、自分の胸について聞いてもいないのに語りだす打ち止め。
一方通行は慌てて彼女を制した。
とにかく今は打ち止めの口を閉じさせることを優先させなければ。

「ば、ばかやろォ!言うな!それ以上言うなァ!」

今こそ自分を売り込むチャンス!と見極めた打ち止めだったが、
どうやらそれは違ったらしい。
9 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:21:56.38 ID:WdcBs0Va0
「え?…あなたってもしかして小さい方がよかったの!?
どうしよう、ミサカもうDカップになっちゃったよぉ」

「違ェ!いやだからヤメロっつってンだろォが!!オマエはもう喋るな!」

一方通行はカゴを打ち止めに押しつけると、あとはやっとけ、と
ズカズカと不機嫌そうにベランダから姿を消した。

「あれー?ってミサカはミサカはなんであの人が怒ったのか分かんないや」


眉間にいつもより深い皺を刻んで、一方通行は自室に向かおうとする。
しかし、足を止めてベランダを振り返った。

打ち止めが洗濯物を取り込んでいる。

いつの間にか伸びた背は、難なく吊るされたハンガーに手が届く(顔が近かったよなァ)
スカートからスラリと伸びた足(スカート短いだろアレ…)
髪は肩よりも随分長く伸びて、自重のせいか昔のように跳ねることなく
打ち止めの動きに合わせてサラサラと波打っている(さっきイイ匂いしたよな、
アホ毛は相変わらずだが)

意識して見ると、打ち止めは随分変わった。

(…急に、大人っぽくなった)

なぜだか目が離せない。
もうすぐ打ち止めが、全ての洗濯物を仕舞って部屋に戻ってくるのに。
何を話せばいいのか分からないから、自室に引っ込もうと思ったのに。

彼女から、目が離せない。
頭が妙にざわめいている。


結局一方通行は、黄泉川からの電話を受け取る前以上に興味を失った
テレビ画面の前に、再び陣取ったのだった。

10 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:24:53.92 ID:WdcBs0Va0
ベランダでのブラジャー握りしめ事件から二週間ほどが経った。
一方通行はあれからというもの、自分の感情がコントロールできず、戸惑いの日々を送っていた。
ついつい、いや、どうしても気になるのだ。打ち止めが。

もう少し正確に表現するならば、打ち止めの胸にいつの間にか視線が行ってしまうのだ。
この学園都市第一位を擁護すると、あくまで急に大人っぽくなった打ち止めを意識して
見つめてしまう時、最も『女性』を感じさせる分かりやすい部分が胸なわけであって

(だから決して俺が胸が好きだからってことじゃねェよ。うン)
(そうだったら黄泉川や番外個体にも反応するハズじゃねェか。クソガキが
急に変わったから戸惑ってるだけだ。それだけなンだ落ち着け俺)

「何ぶつぶつ言ってるのー?ってミサカはミサカはお風呂あいたよって報告してみる。
お先でした!」

「ン、わかった」

なんでもない態度をとるのは上手くなった。

一方通行はキッチンへと離れていく打ち止めを見送りながら溜息をついて立ちあがる。
自室から着替えを持って風呂場へと向かう途中、
打ち止めが嬉しそうな声を出して駆け寄ってきた。

「ねぇねぇ!黄泉川がアイス買ってきてくれたんだって!
あなたもお風呂出たらミサカと一緒に食べようよ!」

跳ねるようにして一方通行の傍ではしゃいでいる。ちなみに肌寒かった気候は、
本来の暦を思い出したかのように夏へ向けて気温を上げてきていた。
よって、ここ黄泉川家でも三日ほど前からやっと春、夏物の衣服が着用されている。

当然、打ち止めのパジャマも。
11 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:26:19.06 ID:WdcBs0Va0
(おいおいおいおいおいィ!!やめろ跳ぶンじゃねェ走るンじゃねェ!)

打ち止めのDカップが、黄色いパジャマの中で揺れている。
さらにそれはパジャマというよりは、露出の高い私服を寝る時用に着用しているだけなので、
鎖骨も二の腕もむき出しだ。おまけに身体にフィットしているから
ブラジャーを着けていない打ち止めの胸の様子が丸分かりになってしまっている。

「はいはい後でなァ。オラどけ。」

最近必要に迫られて身につけた技を最大限に活用し、一方通行はなんとか脱衣所まで移動すると

「っはあァァ~……もォ勘弁しろよ…」

その場に座り込んでしまった。

12 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:29:32.94 ID:WdcBs0Va0
一方通行が新技のスキルアップに(不本意ながら)励む日々が続いたある日、
芳川から話があると言われてテーブルに座らされた。

「授業参観?」

「そうよ。明日打ち止めの学校であるんだけど、愛穂は自分の高校があるし、
私が行こうと思ってたんだけど、どうしても外せない用事ができてしまったのよ」

「で、俺が代わりに参観してこいってか。ふざけンな。似合わねェ光景にもほどがある」

「ふざけてなんかいないわよ。その授業参観の後には、保護者に対しての進学説明会があるから
毎年外からほとんんどの親がやって来るのですって。むしろこっちがメインね」

「……」

「その説明会までになら、なんとか用事も終わるから私が出席するわ。
君は授業参観だけでいいの。クラスで打ち止めだけ家から誰も来ないんじゃ
寂しい思いをさせちゃうでしょ?」


かくして一方通行は明日、打ち止めの通う中学校へとスーツを着て行くこととなった。


「うわー!うわー!あしたあなたが来てくれるの!?ってミサカはミサカは
嬉しくってテンションがとどまることなくグングンとぉ~!!」

芳川から経緯を聞いた打ち止めはアホ毛をこれでもかと跳ねさせて喜ぶ。

「騒がしすぎンだろ。ちょっと落ち着けよ…」

「だってだって本当に嬉しいんだもん!あなたってば入学式にも来てくれなかったから、
まさか授業参観に出席してくれるなんて…」

「アホ。あンときゃ俺も大学の入学式だっただろォが。」

「そうでした。ってミサカはミサカは思い出したり。もーっ、とにかく明日が楽しみだよー!」

「そンなに嬉しいンかよ?」

「こーんなに嬉しいの!!」

「おォい!?」

ソファに座っていた一方通行の頭は、背後から伸ばされた打ち止めの腕に抱きしめられた。
口元にあったコーヒーの缶ごと。

13 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:32:33.50 ID:WdcBs0Va0
(あー…居心地悪ィ…)

一方通行は、なんとも落ち着かない心境だった。
まず周りには中年以上の父兄ばかり。我が子の授業参観なだけあって、
皆フォーマルファッションだ。
もちろん一方通行だってスーツでネクタイを締めている。慣れないそれが
益々違和感に拍車をかけているのだが。

もともと目立つ容姿の彼がそんな格好をしているものだから、注目度はかなり高い。
どう見ても若すぎるあの白髪の赤眼は一体誰だろうと、教室の机に座る生徒たちもチラチラと
後ろを振り返っては一方通行を見ている。

打ち止めは窓際の列、後ろから三番目に座っており、
クラスメイトやその保護者たちの反応を見ながら、終始満足そうな表情だ。

一度だけくるりと体ごと一方通行の方へ振り返ると、にっこりとほほ笑んで手を振った。
声は出さなかったが、口を アリガトウ と動かす。

それを見て内心はともかく、いたって堂々となんでもない態度を発動していた
一方通行の体がわずかに揺れて、肩と眉をすくめた。無意識に口角が上がる。

その様子を目撃した一部の生徒と保護者が、どうやら彼はあの娘の関係者らしい、
と見当をつけた。
さっそく一人の女子生徒が打ち止めの席へと身を乗り出して
話を聞き出そうとするも、教師が入ってきたために断念したようだ。


始まった授業は、外からの保護者を招いての授業参観なだけあって、超能力とか、
発達した科学技術を紹介するような「学園都市初心者」には興味深い内容である。

もちろん一方通行がそんなもの耳に入れるわけなく、
目はうち止めばかりを追ってしまう。
授業が始まれば、当然生徒たちは後ろを向くことはできない。
こんなにも彼女をずっと見つめているのは初めてかもしれない。

一方通行は視界に打ち止めをとらえながら、今朝のリビングでの会話を思い出していた。
14 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:34:35.29 ID:WdcBs0Va0
「おぉ~。あなたのスーツ姿って初めて見た、ってミサカはミサカは…」

「あれ?コイツの入学式で着てたじゃん。打ち止め見てないのか?」

「なンか文句あるかよ」

「だってあなたってば、ミサカよりも後に出かけたのに、ミサカよりも先に帰ってたんだもん!
だからあの時は貴重なスーツのあなたを心のアルバムに保存できなくて
どれほど悔しい思いをしたか…っ」

「心のアルバム…って、ネットワークのことでしょう?大げさね、打ち止めったら」

「ちょっと待てクソガキ、オマエまさかこの恰好ネットワークに流してンじゃねェだろうな?」

「んー、流そうと思ってたんだけど」「オイこら」

「でも止めたの。だってビックリした。あなたのスーツ姿、すっごく素敵だよ!」

「!?お、おィ」

「うん…、本当にかっこいいよ。他のミサカに見せたくないぐらい」

「……っ」

うっとりと一方通行を見上げる打ち止め。
その様子をニヤニヤと眺める黄泉川と芳川。そんな保護者たちの様子に気づかないほどに、
彼は動揺してしまった。

15 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:37:27.18 ID:WdcBs0Va0
(素敵、かっこいい、か…。なンなンだろうな、妙に浮ついてるよなァ)

今の慣れない姿と慣れない状況に、ドンと構えて(いるように見える)のも、
打ち止めの素直で一直線な賛辞があったればこそだ。
彼女がそう言うなら、それが真実なのだろう。今の自分におかしいところはない。
堂々としていればいいのだ。

思考の半分で朝のやり取りと、いくらか頬を染めた打ち止めの顔を思い出し、
もう半分で今の黒板に向かう彼女の姿をとらえる。

何分そうしていただろうか。一方通行は自分以外にも、
同じような視線を打ち止めに送る者がいることに気づく。

何人かの男子生徒が、打ち止めを見ている。

後ろから三番目の席なのだから、授業中に彼女を見られる生徒は限られている。
にも関わらず、厳しい表情に早変わりした一方通行がざっと見渡しただけでも
三人の男子生徒が、恒常的に打ち止めに視線を向けていた。

(なンだァ?アイツら…。クソガキばっかり見てるじゃねェか)

一方通行の表情が先ほどと打って変わって険悪に、また漂う雰囲気が禍々しいものに
変わったことで、傍にいた数人の保護者たちが驚いて彼から身を離す。
そのざわめきに最後列の生徒数人が、何事だろうと後ろを気にする素振りを見せるが、
彼はそんな様子にはおかまいなしだ。

結局一方通行の周囲だけ壁があるかのように無人地帯ができたまま、ようやく授業は終了した。

16 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:41:09.77 ID:WdcBs0Va0
チャイムが鳴ると、すぐさま打ち止めは一方通行に駆け寄ってきた。

(だから走るなって…)

始業前に打ち止めに話しかけようとした女子生徒や、気に食わない数人の男子生徒が
彼女を引きとめる間もなく、輝く笑顔で自分に近づいてくる。
それだけなのに、一方通行の顔が元に戻る。
最初はあんなに居心地が悪かった周囲の視線も、なぜか今は胸のすく思いだ。

「ちゃんと来てくれたんだね、ってミサカはミサカは大感激っ」
「来ねェわけねェだろ。こンな恰好までさせといてよォ」

親しげに、穏やかに会話する二人を見て無人地帯を形成していた数人がまたも驚く。
打ち止めのクラスメイトたちは興味深々といった様子でこちらを窺っていた。

「どうだった?ミサカの雄姿は?こうして日々勉学に励んでいるのだよ、
ってミサカはミサカはあなたの感想が聞きたいな」
「ばァーか、なにが勉学だ。ありゃ授業ってよりも観光客向けのガイドみたいなモンだろ」

「あっははー、やっぱりあなたにはつまらなかったよね。でも外の人たちは
楽しんでくれたんじゃないかな?ってミサカはミサカはみんなのパパさんや
ママさんの様子を…ってあれ?」

打ち止めが周囲を見回すと、保護者たちがゾロゾロと教室から出ていく最中だった。

「あァ、確かこの後、進学説明会があるンだろ?それがメインだって芳川が言ってたな」
「そういえばそうだった。あ、ヨシカワからメールが来てる。
…もう会場の講堂に入ってるんだって。」

「ふゥン、だったら俺はもういいな。オマエはこの後どうするンだ?説明会に行くのか?」
「ううん。今日のは保護者向けだから、別に出なくてもいいんだよ。
午後からは部活か、帰宅してもいいんだって、ってミサカはミサカは
先生のセリフを思い出してきた」

自分たちの父親、母親が教室から出て行ったことで、それまで二人に注意を払っていなかった生徒たちも、残っている一方通行に好奇心を隠しきれない様子だ。
もちろん『気に入らない男子たち』も、こちらの会話に耳を傾けているのが分かる。

なぜそんな気が起きたのかは自身でも分からないが、
打ち止めのクラスメイトたちの注目を集めていることを理解すると
一方通行の心の内に妙な高翌揚感が生まれてくる。
17 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:43:09.18 ID:WdcBs0Va0
一方通行は打ち止めに一歩近づき、今までよりも少し大き目な声を出しながら
左手を彼女の頭に置いた。

「じゃァ昼飯食って帰るかァ?オマエの食いたいもンでいいぜ」

指でアホ毛をぴょんぴょんと弄った後、さらにこめかみから髪を梳くようにして
耳や頬にもするすると手のひらを滑らせた。


その一方通行の行動に、教室がどよめく。


「ひゃ、な、なんだかあなた、機嫌がいいみたい?」
「さァてなァ。こんなカッコしてるからじゃねェの?」
「じゃあ、じゃあね!ミサカね、あなたと学食でご飯を食べたい!って…
だ、だめかな……?もう帰りたい?」

一方通行は一瞬だけで教室の反応を読み取り、満足げにうなずいて了解した。

「別にかまわねェよ。ほら、さっさと行こうぜ」
「いいの!?やったー!学食は外の体育館の横にあるの。結構安くて美味しいんだから!」

こっちこっちと、はしゃぐ打ち止めが一方通行の手を引いて教室から出ようとする。
背後で、女子生徒たちはこちらを見て華やかな噂話、数人の男子生徒は嘆きの声を。
浮かれている打ち止めはその様子に気づいていないようだが、それこそに神経を張っていた一方通行は、『妙な高翌揚感』が、純度を増して高まっていくのを感じていた。

それは今まで生きて、初めて味わう不思議な感覚だった。とてもイイ気分だ。


「あ、いけない。鞄持ってくるの忘れた、ってミサカはミサカはあわてんぼ」

教室を出たところで、打ち止めがちょっと待ってて、と引き返す。数秒してから
大勢の女子生徒に取り囲まれて驚愕、困惑する打ち止めの悲鳴が響く。

一方通行は思わず下を向いて口元を押さえたのだった。

18 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:46:39.62 ID:WdcBs0Va0
「うぅ~。お、驚いた。ミサカの友達が、まるでこの前見たゾンビの映画のようにミサカに……
ビックリしすぎて逃げてきちゃった」

揉みくちゃにされて乱れた髪を手櫛で整えながら、打ち止めは力なく一方通行の横を歩く。
アホ毛も、今は元気がなく下降気味だ。

それに比べて

「本当に今日はどうしたの?ってミサカはミサカは
ご機嫌MAXなあなたに不審の眼差し。じー…」
「別にィ、機嫌悪い方が良かったか?」


他愛無い会話を交わしながら、昇降口までやってきた。

打ち止めが自分のロッカーを開け、たと思ったら、バン!と音を立てて
勢いよく閉める。もちろん荷物など出し入れできていない。

「あ?何やってンだオマエ」
「え、えと、あの」

明らかに様子がおかしい少女。一方通行はすぐに反応した。
慌てる彼女をロッカーの前から押しのけ、だめぇー、と手を伸ばす打ち止めに構わず扉を開く。

そこには、白い封筒が落ちていた。

扉の隙間からそっと差し込んだのだろう。打ち止めの私物の上に無造作に
裏向きとなっていて、差出人のクラスと名前が読み取れる。

いくら一般的な常識や生活から遠ざかっていた一方通行にだって分かる。

これがラブレターだということは。

しかも、先ほどの打ち止めの反応は…

(…一瞬でこれが何なのか理解したみてェだな。見慣れた光景かよ)

どうやらこういったものを貰うのは初めてではないらしいことは、容易に想像がつく。
ロッカーの前で、二人はいつかのベランダで味わったような気不味い沈黙を、再び噛みしめた。

19 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:49:02.90 ID:WdcBs0Va0
一方通行と打ち止めは今、校内の学食で向かい会って食事を取っている。
予期せず訪れた突然の沈黙を破ったのは打ち止めだった。

「お腹すいたし…早くお昼に行こうよ?」
「…そォだな、案内しろ。コッチか?」

少しもさりげなくない様子の打ち止めとは対照的に、
一方通行はすぐに得意技と化した、なんでもない態度を復活させる。
二人とも、もう一度このロッカーを開ける気はなく、
打ち止めはいつもより多い荷物を持ったまま歩きだした。



「ね?ウチの学食けっこうイケるでしょ?ってミサカはミサカは学校で
あなたと一緒なのが不思議で嬉しくて楽しいな!」
「食べながら喋ンなクソガキ。まァまァだな」
「この安さでこのクオリティ、ミサカのおさいふの強い味方なのっ」
「なンだよ、小遣い足りねェのか?」

打ち止めが最近身に着けるようになったアクセサリーや、風呂上がりに
肌につけている化粧品などを思い出して一方通行が訊く。

(コイツもお年頃ってやつかねェ…?欲しいモンがあるなら言えばいいのに)

「う、だ、大丈夫…だよ?ってミサカはミサカはやりくりできる良い子だと見栄を張りたい」
「だから口に出てるっつゥの」

20 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:51:43.76 ID:WdcBs0Va0
示し合わせたように、先ほどのラブレターの件は頭の隅に追いやることにした二人。
小一時間前の記憶にだけフタをして、和やかに昼食を楽しむ。
周囲には遅れてやってきた打ち止めのクラスメイトの姿が、チラホラと確認できた。
箸を動かしながら二、三人でヒソヒソとこちらを気にしている。
これから部活なのだろう、ジャージを着た他のクラスや学年の生徒も、
二人を見るや昼食のトレイを持ったままポカンと足を止める者までいた。

打ち止めはさして周りの反応を気にしていないようだったが、
一方通行は逐一それらを把握している。 
そしてニヤリと笑う。なんだか急に、打ち止めを甘やかしたくなった。とても。

「おいオマエ、この後予定ないンだろ?」
「ん?うんないよ、ってミサカはミサカはうなずいてみる」
「よォし、感謝しろよォ?やりくりできないクソガキのために、第一位が一肌脱いでやる。
セブンスミストでいいか」
「??え?え?なにそれって一緒にお買い物に行ってくれるってこと!?
しかもミサカのおさいふ宣言!?」
「まァそういうことだな」
「やったあー!ってミサカはミサカは我慢できなくて、
もう食べ終わったから片付けちゃうね!」

打ち止めはテキパキと二人分の食器を返却スペースに運んでいく。
戻るなり、また一方通行の左手を掴んで立ちあがらせた。

「早く行こうよ!ああでもミサカ制服だ、全然おしゃれしてないぃ~」
「アホ。向こうで好きなモン選ンで着りゃいいだろうが」
「あそっか、ってミサカはミサカは本当に今日のあなたの優しさにびっくり」
「ふン。せいぜいこの機会を有効活用するンだな」
「ハーイ!ってミサカはミサカは元気にお返事してみたり」

仲良く学食を去る二人を、多くの生徒が見送った。一方通行の心は弾んでいる。
柄じゃないのは分かっているが、こうしたい、これでいいと
肯定する気持ちの方が勝っていることを自覚していた。
21 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 00:53:54.36 ID:WdcBs0Va0
バスで移動しセブンスミストへ着くと、打ち止めはさっそく
好みの洋服が置いてあるテナントへ入る。
何着か服を選び、それらを一方通行の前に突き出してどれがいい?と
瞳をきらきらさせてきた。

(なンでどれもこれも…)

打ち止めが持ってきた服は一様に露出度が高かった、と一方通行は思っている。
以前ならばどれでもいいと、投げやりな対応を取っていただろうが、今は状況が違うのだ。
どれが似合うかなんて考えず、とにかく布地面積が一番多いワンピースを指さした。
本当はすぐ横にディスプレイされている、首元まできっちりボタンがついた服を
あてがいたいくらいだ。しかしそれをやれば、
ここ数週間の自分の苦悩を、打ち止めに感づかれるかもしれない。
彼女の胸が気になっていたなんて、絶対知られたくない。

打ち止めは珍しく一方通行が積極的に選んでくれたことが嬉しくて、
すぐに試着室へと駆けこんだ。
会計を先に済ませた一方通行は、近くのベンチで彼女を待つ。

座った瞬間、番外個体が脇の植え込みから姿を現した。

「やっほう第一位」
22 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:00:57.85 ID:WdcBs0Va0
「……なンでオマエがここにいるンだ?大学はどうした」
「今日は一、二限だけだよ。ていうか全然学校に来ない第一位に言われたくないんだけど」
「ちゃンと単位は取ってる。問題ねェよ」
「なにさ、あんな論文でちやほやされちゃってさー。ムカつく」

番外個体はわざとらしく舌を出して一方通行をからかい、隣にどかりと腰を下ろした。

「で、なンの用だ」

このタイミングで番外個体が現れたということは、何か自分に話があるからだろう。
それも、打ち止めのことで。
早くしろ、と顎をしゃくって番外個体を促す。

「さっきさー、ラブレターを見つけたとき」

ピクリと一方通行の肩が揺れる。番外個体はそれに気づきつつ話を続けた。

「よっぽどだったんだろうね。ネットワークにものすごい負荷が掛かったよ。
しかも恥ずかしいとか、後悔とか、最終信号の感情がミサカに流れてきて
すっごい迷惑だった。どうしてくれるわけ?」
「…俺は関係ないだろう」
「何言ってんの?その場に第一位がいたからあんな事態になったんでしょうが」
「……」
「それほど第一位に知られたくなかったんだろーねー。まぁ結局時間の問題だったと思うけど。
あんだけ各方面から猛アタックかけられてりゃさぁ」
「猛アタック…?」

気になる単語に一方通行が眉をひそめる。

23 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:03:17.27 ID:WdcBs0Va0
番外個体は、ことさらに嘲笑を全面に押し出した表情でニヤァっと顔を歪ませた。

「最終信号ってさ、最近可愛くなったでしょ?」
「……」
「可愛くなったでしょ?」
「早く言え」
「ぎゃは!照れんなよ親御さん。 でさ、あっちこっちから
付き合ってぇー、恋人になってぇーって告白の嵐なんだよ」

番外個体とは逆に、一方通行の表情は険しく固まっていく。

「最終信号は全部断ってるんだけどさ、中には強引な馬鹿もいてね。
能力をカサにきて迫ってくるヤツが時々、ね」

一方通行が歯を噛みしめた。その音は番外個体にも届く。

「相手がレベル4の時は、ミサカが助っ人を頼まれたんだよ。安心して?
愉快なオブジェ・生きてるバージョンにしといたから」
「…ふン」
「おっともうすぐ最終信号が戻ってくるかな。つまりミサカが第一位に
何を言いたいかなんだけど、今日みたいなことで、いちいちミサカに
とばっちり食らわせないでほしいんだよね」
「どォしろってンだよ、俺に…」
「別にどんな方法でもいいし?もしもミサカが期末テスト中なんかに
同じ負荷が掛かるかと思うと、ちょっとシャレにならないから」
「……」
「じゃ言いたいこと言ったし、ミサカもう行くね。ほらほらぁ
、なんつー顔してんのよ第一位。せっかく今はネットワークが平和なんだから、
お姉ちゃんをガッカリさせないでよー?」
「うるせェさっさと行け」

ニヤつく番外個体が去った少し後、入れ替わるように打ち止めが戻ってきた。

24 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:04:56.56 ID:WdcBs0Va0
「お待たせしましたー!ってミサカはミサカはおニューな姿で一回転!どうかな?似合う?」
「制服はどうした」
「荷物と一緒に預けてきました、って感想は!?」
「……よくオニアイで」

(丈が短ェンだよ。それで走ンなよォ…)

「なんか心がこもってない気がするけどまぁいいや。
さて次はどこを見ようかなー?」

打ち止めは一方通行の横に寄り添うと、彼の左腕に自分の両手を絡めた。

「おい」
「腕を組むのはプライスレスです。おさいふさんの意見は受け付けません、って
ミサカはミサカは離す気がないことをお伝えするね」
「歩きにくいンですけどォー」

一方通行の表情はすでに穏やかなものに戻っていた。
ネットワークは今、とても平和である。
しかし一方通行の頭の中は、半身に感じる打ち止めの体の柔らかさに
意識を集中しすぎないよう努めることに忙しかった。

25 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:08:21.47 ID:WdcBs0Va0
太陽がビルの隙間に姿を隠す頃、ようやく二人はマンションに帰ってきた。
どさどさと床に置かれたショップ袋に、黄泉川と芳川が目を丸くする。

「随分遅かったじゃん。それに何その大量の荷物は」
「あら、かわいいわね打ち止め。似合っているわよ、そのワンピース」
「えへへ、ただいま!ヨミカワ、ヨシカワ。この人に選んでもらったんだよ、
ってミサカはミサカは自慢してくてもう一回転!」
「ほぅ…」
「まぁ、君が?珍しいわね」

保護者二人に、あらあら、へぇ~という顔をされ一方通行は舌打ちする。

「選べっつゥから選ンだだけだろ。その顔やめろ」
「あのね、ヨミカワとヨシカワにもおみやげがあるの、
ってミサカはミサカはお得情報をお伝えしてみる」
「ありがとう打ち止め。それに君もね」
「俺は別に…、クソガキが勝手にやったことだ」
「照れるな照れるな、どうせお会計はアンタじゃん?ありがとうな打ち止め!一方通行!」
「っチ…」
「それじゃご飯にするか。二人とも手洗ってこい。今日は暑かったから冷やし中華にしたじゃん」

26 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:10:45.22 ID:WdcBs0Va0
夕食は、今日一日を報告する打ち止めの笑い声が絶えない、楽しい時間となった。
慣れないことをした一方通行は少々気恥かしい思いをしたわけだが。

(昔はワガママばっかり言ってたクセになァ…)

彼女の弾む声を聞きながら、一方通行も今日の記憶をよみがえらせる。
打ち止めは自分の欲しいものはもちろんだったが、黄泉川と芳川への
お土産も楽しそうに選んでいた。
さらに行く先々で一方通行に欲しいものはないか尋ねてきたのだ。
打ち止めが投げてくる質問に答えていたら、いつの間にか自分の物が購入されてしまっていた。
ショップ袋の中には、買う気もなかった自分用の服や小物が入っている。
それらを自室のクーロゼットや棚に収めるのを面倒だと思う一方で、
保護者たちや自分に気を配っていた打ち止めの成長、変化を実感する一方通行だった。


27 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:12:44.48 ID:WdcBs0Va0
夕食、風呂と終わらせて、リビングの明かりも消された黄泉川家。
一方通行はまだ濡れたままの髪で、自室のベッドに横になっていた。
一人になると、どうしても今日知ってしまった事実が頭の中を巡る。
打ち止めのロッカーに入っていたラブレター。何よりも番外個体から告げられたこと。

(なンで俺に言わねェンだ)

知らなかった。打ち止めがそんなにモテていたとは。
番外個体は全部断っていると言った。
しかし打ち止めも学校に通うようになり、自分とは違う場所で新たな人間関係を築いている。
教室で見た『気に入らない男子生徒たち』の顔が脳裏にちらつく。

もしも打ち止めに恋人ができたら…?

(そンなこと、あるわけねェだろ)

なぜか根拠のない自信があるにはあるが、まるでシーソーのように、
でも、まさか…という不安が浮き沈みする。
今日心に湧きあがった『妙な高翌揚感』はそのままに、ドロドロ、イライラした
感情が自分を満たす。
思考がぐちゃぐちゃにかき混ぜられていく。
こんな苦しみは初めてだ。

打ち止めを守るため、何度も死線をくぐり抜けてきた一方通行だったが、
そのとき味わった辛さや苦悩とは、種類が違うように思う。

「っ…クソっ」

ついにベッドから起き上がったとき、ドアがノックされた。

「あなた、起きてるー?」

28 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:15:15.59 ID:WdcBs0Va0
一方通行は打ち止めの声を聞くやいなや、返事も忘れて素早くドアに近づき勢いよく扉を開けた。
無性に打ち止めの顔が見たい、と、抗いがたい衝動が一瞬で彼を支配したからだ。

「わっ、びっくりした。あのね、ミサカの方の袋にあなたの服が紛れ込んでたの、
って…どうしたの?」

様子がおかしい一方通行に、打ち止めが少し戸惑っている。

「いや…、どうもしてねェよ」
「?…、あーっ、あなたってば何あれ!開けてもいないの?」

一方通行の部屋の床に、今日買った物達が入っているショップ袋が
無造作に転がされている。それを見咎められたのだ。
もーっ、と憤慨の声を上げながら、打ち止めは持ってきた服を手渡しつつ一方通行を押しのけ、
ずんずんと部屋に入ってきた。

「せっかく買ったのに…」

包装紙を広げていく打ち止めを見ながら、一方通行は、ドアを、閉める。
ガチャリ、という音がやけに大きく聞こえた。


29 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:18:37.81 ID:WdcBs0Va0
仕方ない、どうしようもない。イラつくンだ。
こんな不快な思考のままではいられない、耐えられない。
この状況を打破する方法は簡単だ。
だから一方通行は打ち止めに訊いた。ド直球に。


「オマエ、そンなに告白されまくってンのか?」

打ち止めの手がピタリと止まった。ギギギと音がしそうな仕草で振りかえる。

「な、な、なん…」
「番外個体に聞いた。危ないこともあったようだな。なンで俺を呼ばねェンだよ」

目を泳がせつつ、打ち止めは座ったまま一方通行に体を向けた。
彼の厳しい眼差しは、ヘタな言い訳を許してくれそうにない。
彼女は今日も例の黄色いパジャマ(用の服。露出度高し)を着ている。
打ち止めを見下ろしていた一方通行は、この位置はよくないと思ってベッドへ腰を下ろす。
その動きに合わせて、打ち止めもすりすりと90度ほど体を回転させた。

「だって、あなたに知られるのは恥ずかしかったし、なんかイヤだったんだもん」
「なンで嫌だったンだ」
「……」
「答えろよ」

一方通行の声が不機嫌さを増していく。
そんなつもりではなかったのに、これではまるで彼女を脅しているみたいだ。
しかし、感情の抑制は、今は効きそうにない。うつむく打ち止めを急かすように
半分声を出しながら大きく溜息をつく。
やがて打ち止めは両手を握りしめると、ぐいと顔を上げて一方通行と目を合わせた。

30 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:21:35.14 ID:WdcBs0Va0
「あなたがね、ミサカがあなたから離れちゃうかもしれない、と思うことがイヤだったの」

一方通行の心臓がドクンと鳴る。さっき、まさにそう考えていた。

「それに…もしかしてあなたが、ミサカが他の誰かと付き合うのを、
いいと思ってしまうかもしれないって考えるのが、こわ、かったから…」

最後の方は尻すぼみになってしまったが、打ち止めは素直な気持ちを伝えた。
一方通行は息を詰まらせ、思わず握った手には汗がにじむ。
打ち止めの泣きそうな目が、自分を捕える。立場はあっという間に逆転した。
その潤んだ眼差しを前にして、ヘタな返答は許されない。

ミサカは話したよ?だから今度はあなたの番。
彼女のまばたきが、彼を急かす。


「そンなこと…俺が考えるわけねェだろうが…」

すごく言い辛そうだったが、学園都市第一位はなんとか素直に答えることに成功した。
彼の言葉を聞いて、打ち止めの目が丸くなる。

「ほ、本当に?」
「嘘ついてどォすンだよ」
「ミサカが他の男の人についていっちゃうのが、あなたはイヤなのね、
ってミサカはミサカは確認を」
「くどいぞ」
「んふふふふ~」

もういいだろうと、一方通行は舌打ちをして目をそらす。
打ち止めは今日一番の笑顔を浮かべると、こらえきれなかった笑い声を
喉の奥からこぼれさせる。そして勢いよく立ちあがり、ベッドに座る一方通行の膝に飛び乗った。

「!?おいっ、こら!」

慌てた一方通行の叱責を無視し、にこやかな打ち止めは足をバタつかせる。
ベッドのスプリングがギシギシと音を出すので、仕方なく彼は打ち止めの肩を支えた。
手の平からも、彼女の温かい体温が伝わってくる。
さすがになんでもない態度はその力を発揮しなかった。
それに、不器用ながらもお互いの心の内を確かめ合った今、
以前のようにとり繕う必要を感じなかったから。

31 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:23:27.12 ID:WdcBs0Va0
戸惑い顔の一方通行を背後に見上げて、打ち止めは弾んだ声で訊く。

「ねえねぇ、ミサカがモテモテだって聞いてどうだった?ヤキモチ妬いた?」
「ハァ!?」
「ヤキモチ妬いてくれたから不機嫌だったんじゃないの、って
ミサカはミサカは分かりきったことを訊いてみる」
「……」
「えへへー、安心してね!告白されても、ミサカにはもう将来を誓い合った
ヒトがいます、って一刀両断におことわりしてるんだから」
「待てクソガキ。誰がいつ将来を誓っただと?」
「ミサカとずっと一緒にいたいんだよね?って、ミサカはミサカは
あのときのこと、はっきり覚えてるのよ」

あの雪の中で交わした会話は、一方通行だってもちろん覚えている。
しかし、あんな昔のこと。打ち止めがまだ幼かったときのことだ。
今でも彼女はその思い出を拠り所にして、こうして自分の傍で、
その大きな瞳に俺を映して幸せそうに笑うのか。

一方通行の心に、打ち止めの体温と一緒に温かい感情が流れ込んでいく。
それが一般的には『愛しさ』と表現するものだと、さすがの彼も認めるしかない。
32 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:25:38.79 ID:WdcBs0Va0
もう片方の手が、自然と動く。
こうして打ち止めを自分の腕の中に抱くのはどれくらいぶりだろうか。
打ち止めも、彼の腕が自分を包み込むのに合わせて背中を一方通行の胸に預ける。

「……」
「……」

気不味くない、心地よい沈黙もあるンだな、と一方通行は目を閉じた。

数十秒後、打ち止めがもぞりと動く。彼女は眉をひそめ、顔を膨らまして自分を見上げている。
なンだよ?と視線だけで問いかけると、これみよがしにハァと溜息をつかれた。

打ち止めは身をよじらせて体を少しだけ持ち上げると、桜色の唇を一方通行の頬に押しつけた。

「!!」

落ち着いていた心臓が、また早鐘を打つ。

「ここはキスするところだと思うの、ってミサカはミサカはあなたの
恋愛スキルの低さに安心したりガッカリしたり」
「そりゃスイマセンでしたねェ…」

(マセガキが…)

仕方ない、どうしようもない。他の男に渡すなんて選択肢はあってはならないのだ。
だったらやることは簡単だ。

「ラストオーダー」
「!は、はい!」
「目を閉じろ」

一方通行は打ち止めの腰を抱く左腕に、一層力を込める。
見る間に首筋まで朱に染まった打ち止めは目をしばたかせると、
喉をゴクリとさせて、ゆっくりと瞼をおろした。

33 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:28:29.97 ID:WdcBs0Va0
一方通行は右手で打ち止めの顎を持ち上げ、自分の唇を彼女のそれに重ね合わせた。

(唇まで温かいンだな…)

触れ合ったところから伝わる柔らかさと温もりがもっと欲しくて
顎にかけた手を、うなじを這わせて後頭部に移動させた。
ぐいと自分の方に引いて、より強くキスをする。

「ん」

打ち止めがぶるりと身体を震わせたが、
きゅっと自分の手を握ってきたので構わず続けた。

やがて彼女が苦しそうなうめき声を上げたので、名残惜しいが唇を離す。

「…はぁ…」

打ち止めは大きく息をして呼吸を整えると、一方通行の膝の上で体を動かした。
完全に真正面に向かい合い、太ももで彼の細い腰を挟んでしまう。

打ち止めが態勢を整えるのを待ってから、一方通行はいつかのように
腕を背中にまわして、強く抱きしめた。
打ち止めも同じようにして、彼を抱きしめ返す。

「ありがとう。ミサカはあなたのことが大好きよ、って何度も言ってるけど改めて告白するね」
「そりゃどォもォ」
(何度も言われてたっけか…?)

「あなたは、ミサカが思っていたよりミサカのことが好きみたいだね、って
今日はそれがよく分かりました」
「…否定はしないでおいてやる」
「素直じゃないんだから、ってミサカはミサカはあきれちゃう」
「……」
「でもいいよ。分かってるから…」

素直じゃないのは性分だ。今さら変えようがない。
だから返事の代わりに行動で示す。
密着させていた体をわずかに離し、さっきよりも長い口づけを交わした。

自分の気持ちが、熱と一緒に打ち止めに伝わるようにと



34 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:29:59.10 ID:WdcBs0Va0
二度目の、少し長いキスの後、二人は相変わらずお互いを抱きしめ合っていた。
一方通行はベッドに座り、打ち止めはその彼の膝の上に。
言葉はなかったが、お互いの鼓動を交換するだけで溶け合うような幸福感が胸を満たす。

どれくらいそうしていただろうか、ベッドサイドの置時計がピっと鳴った。
深夜十二時を知らせる音だ。一方通行の意識がまどろみの中から浮上する。

自分の腰を挟み込む太もも。背中に回された腕。首筋にかかる吐息。
いい匂いのする髪。なによりも、押し付けられている柔らかい胸が。

「……」
(これはヤバイだろ…)

一方通行は唾を飲み込みながら腕をゆるめる。それでもまだ自分に抱きついている
打ち止めの肩を掴み、ゆっくりと体を離した。

「あれ…?」

抱擁が解かれたことにやっと気づいた打ち止めは不満そうに彼を見上げ、
もっとくっついていたい、と表情で訴える。

35 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:31:56.36 ID:WdcBs0Va0
(こっちの気も知らねェでそンな顔しやがって)

「重い、いいかげンどけ」
「えー、なにソレ!?ロマンチックが音速で飛んでちゃった、って
ミサカはミサカはあなたのデリカシーの無さに驚きだよ!」

一方通行は動こうとしない打ち止めの脇を持ち上げて、
強引に自分の横に放り投げるように座らせる。

「あーあ、さっきの甘々なあなたは一体どこに行ったのかしら、って
ミサカはミサカはがっかりしてみる」

「もう遅い。部屋に帰って寝ろ」
「明日はお休みです。夜更かししてもへいきだもん、って
ミサカはミサカは戻る気がないことを表明してみたり」

「寝ろ」
「イ・ヤ」

しかめ面であさっての方向を見る一方通行と、余裕の笑顔の打ち止め。
彼女はツンツンと一方通行のシャツの袖口を引っ張り

「今日はまだ戻りたくない。もっとあなたと一緒にいたいよ」
「!!!…」

これ以上このフワフワした感覚に身を任せていれば、
己の理性が限界を迎えるようなことになりはしないか、という危機感。
それと、自分だって打ち止めと二人きりで過ごしたいという欲求。
両者が今、学園都市第一位の頭の中でせめぎ合っている。

その結果、一方通行は己の理性を信用することにした。

36 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:35:59.54 ID:WdcBs0Va0
「それでね、番外個体が相手の人が泣いちゃってるのに、
ビリビリって足元から服を焦がしていったの」
「ふゥン…」
「焦がす場所と焦がさない場所を等間隔にしてね、
虫食いスーツ似合ってるねぇヒャハハ、ってすっごく楽しそうだった」
「その光景がリアルに思い浮かぶわ」
「ミサカがもうやめて、って止めなきゃどうなっていたことか…番外個体は、
同じことがあったらまたすぐに呼び出すんだよ、ってミサカをなでなでしてくれたんだよ」
「……」
「頼れる妹を持ってミサカは幸せ者ね、って実感してみる」

「…次からは俺を呼べ」
「!うんっ」


打ち止めは滞在の許可をもらうなり、今まで内緒にしていた秘密を語りだした。
一方通行が自分に隠されていたことを不服に思っていたようなので、
今のうちに一切合財打ち明けてしまおうとしているのだ。

そんな打ち止めの気遣いに思い至ることはなく、
一方通行はすべての思考を彼女の話に傾けてはいられなかった。

(どうも心配するような事態にはならねェよな…コレさえ耐えれば)

無理やり膝から下ろした打ち止めだったが、
今は自分の左腕を抱きかかえてしな垂れかかっている。

「あなたがヤキモチ妬いてくれたから、今こうしてラブラブしてるんだよね。
だから迷惑だと思ってフリまくった人たちにちょっと感謝かも、って
ミサカはミサカは心を入れ替えてみる」
「らぶらぶねェ…?」
「ぎゅってしてちゅーしてまたぎゅうっとしてちゅう、
これをラブラブといわずしてなんというの?ってミサカはミサカは問いただしてみる」

(否定できンのが辛ェなァ)

「とにかく結果オーライなんだけど、これまでは本当に困ってたんだから。
急に色んな人がミサカに告白告白告白。あなたより年上の人からもされたことがあったなぁ、
ってミサカはミサカは苦労を思い出してため息…」
「俺より年上ェ?」
「だから、全部一刀両断って言ってるでしょ?ミサカはあなただけ
なんだから安心してほしいな、って怖い顔やめてください」

困ったときはちゃんとあなたを呼ぶから、と諭されて一方通行は溜飲を下げた。
さすがに大人げなかったか、と自戒もする。
37 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:37:26.63 ID:WdcBs0Va0
「ふぅ、モテモテってやっぱり大変なのね。なんで急に
こうなっちゃったんだろう?」
「……」
「そういえば、番外個体とお姉さまが、胸が大きくなったせいだって言ってたかな」


なんだか雲行きが怪しくなってきた。

「特にお姉さまの力説ぶりはすごかった、って今思い出しても
ミサカはミサカはあの鬼気迫る表情を思い出してぶるぶるしてみる」

その話題は避けてほしい。全力で回避したい。

「バストは男性を惹きつける最大と言っても過言ではない強力な
武器なのよ手段なのよ少し私にわけなさいよぉ~!ってミサカに
襲いかかるお姉さまを番外個体が押さえてくれたの。大変だった…」

やばい、どんどんマズイ方へ話が進んでいく。あと何やってンだ超電磁砲。

「だから、せっかく念願の大きな胸も考えものだなー、って
ミサカはミサカは少し後悔してみたり。無いものねだりね」

打ち止めは前触れなく、ひょいっと屈んで一方通行の顔を覗き込んだ。

「で、あなたはどうなの?」
38 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:41:11.87 ID:WdcBs0Va0
一方通行の息がまた止まる。今日は(日付は変わったが)呼吸や鼓動に
急激な変動が起こりすぎだ。もう身がもたない。

「ミサカの胸が大きくなって嬉しい?それとも小さいままの方がよかった?って
ミサカはミサカは以前訊きそびれたことを確認してみる」

(な、なンて答えりゃいいンだよォ!?つーかなンつー質問してくるンだこのクソガキは!
俺にデリカシーが無いだと?その言葉そっくりそのまま脳天にお返ししてやりてェよ!)

「ねぇ、どっちなの…?やっぱり……」

打ち止めの表情が曇る。お姉さまは大きい方が有利だと言ったが、
必ずしもそれが一方通行にあてはまるとは限らない。もしも彼の好みと自分の胸の大きさが
一致しないのなら、これに一体なんの価値があるというのか。
まぁその心配は杞憂なのだが。

(どォすンだどォすンだ俺ェェ!?そンな顔すンなよっ。大きい方がいいって言うか!?
それじゃあクソガキの同級生どもと俺が同レベルだって認めるようなもンだよな!?
でも小さい方がいいって答えたらコイツ泣くだろ絶対!いやもォ泣きそうだし!
あ、やべェ泣く)

打ち止めに泣かれるのは困る。
どんな犠牲を払ってでも、それは避けなければならない最優先事項だ。
だから一方通行は進むべき道を選んだ。それが学園都市第一位である自分を、
打ち止めに群がったクソったれどもの位置にまで、おとしめることになろうとも。

39 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 01:42:27.18 ID:WdcBs0Va0
「……ぃい」
「え?」

「大きい、方が、いいンじゃねェの?普通…。そう思うぜ、俺も…」

打ち止めの表情がみるみる明るくなっていく。
そうだ、この顔のためなら、どンなことだって耐えてみせる。

「よかった…、えへへへへ…あなたがそう思ってくれるならとっても嬉しい、って
ミサカはミサカは一安心」
「おォ、いらねェ心配してンなよ」
「あなたもやっぱり大きいお胸が好きなんだったら」
「ああ、もォそれでいいわ、なンだっていい」

「触ってみる?ってミサカはミサカはよっこいしょ…」

打ち止めは一方通行に向き直り、両手で自分の胸を持ち上げた。
所有者によっていびつな変形をとげた魅惑のDカップは、鎖骨の真下にまで
深い谷間を出現させる。

「はいどうぞ、ってミ」

その直後、一方通行の久かたぶり連続本気チョップが振り下ろされた


40 :ブラジャーの人2011/07/15(金) 01:45:00.65 ID:WdcBs0Va0

「ううう…」

打ち止めは頭を押さえて唸っている。痛すぎて文句の言葉も出ない。
あまりのことについ力加減を忘れた一方通行は、ようやくやりすぎたことに気づく。

「あなたのチョップを貰うのは久しぶり…、ってミサカはミサカは、
いった~。そんなに怒らなくても…」
「うるせェマセガキ、今のはオマエが悪い。
あのな、大体オマエには恥じらいってモンがないのか?もっと発想と言動に気を遣え。
いきなり男に胸を触らせようとするな」

一方通行は血圧が上昇したまま、さらにお説教を続ける。
なぜ自分が年頃の少女の心構えを説いて聞かせなければならないのか。
これは本来同居している保護者たちの役目だろう。
彼女のオリジナル、超電磁砲でもいい。あ、無理か。

想い、想われ合っている男女の仲なのに、本当になぜ。

しかし、今ここでよく言い聞かせなければ後々非常にマズイことになると判断し、
一方通行の小言は続く。

「まったく、昔は寝込みを襲うのはNGだとか言ってたろォがよ。なンで成長してそうなるンだ」
「え?今だってNGに決まってるでしょ?」

両手を揃え、行儀よく座って叱られていた打ち止めがキョトンと訊き返す。

「いや、だから、起きてりゃ、意識があればいいってモンじゃねェだろ」
「??別にミサカがいいよ、って言ってるんだし…。
胸くらいなら構わないんじゃないかな、ってミサカそんなに悪い子だった?」

「………」
42 :ブラジャーの人2011/07/15(金) 02:04:21.65 ID:WdcBs0Va0
ここにきて、両者の意識にいささか隔たりがあることが判明した。
一方通行は今日押し寄せた怒涛の体験、打ち止めとの接触で、
自分の理性の限界を心配している。
こんなにすぐに、万が一にも一線を越えてしまわぬようヒヤヒヤしているというのに。
目の前の少女、彼の苦悩の元ときたらどうだ。
一方通行が危惧する事態を、まったく想定していないとみえる。

だんだんと、いや、益々腹が立ってきた。

「なンだそりゃ。俺が生殺しじゃねェか」
「はい!?なまごろし?」

(こいつは男を、俺を何だと思ってるンだ…こりゃちっと痛い目に遭わせねェと気がすまねェ)

打ち止めの奔放で無邪気で罪なアプローチは、自分を信頼しているからなのかも
知れないが、まるで男扱いされていないようで、沸々と怒りが湧いてくる。
ちなみに一方通行自身が、長年打ち止めを女扱いせずに彼女をヤキモキ
させたことは、高い高い棚に放り上げた。

打ち止めをいじめてやろう、と思い至ったところで、
久しく忘れていた本来の調子を取り戻した第一位。今なら感情も理性もキープできそうだ。

胸を触れ?上等だ。

好きな娘をイジメちゃうというのが未熟で幼い男子の特性だと、
彼は気づいているのか、いないのか。

43 :ブラジャーの人2011/07/15(金) 02:10:10.06 ID:WdcBs0Va0
「そォかそォか、そこまで言うならオコトバに甘えようじゃねェの」

久しぶりに見た一方通行の凶悪な笑みに、やっと打ち止めも何かを察したようだ。
彼と自分の認識に大きくズレがあったこと。そして、今訪れようとしている危機に。

「あの、やっぱり夜更かしはお肌に悪いので、ってミサカはミサカはお部屋に帰ろうかな~と」
「待て」
「きゃっ」

一方通行はそそくさと立ち去ろうとする打ち止めの腕を掴み、乱暴に引っ張った。
最初彼女からそうしてきたようにもう一度膝の上に乗せ、背後から抱きすくめる。
さらに足を打ち止めのすねに絡めて、逃げられないよう拘束。

「せっかくのお申し出だ。断っちゃ悪いよなァ…」
「あのあのあなた、さっきと言ってることが全然ちがうよ!?って
ミサカはミサカは、…動けない、ちょっ」
「うるせェ黙ってろ」

何の前触れもなく、打ち止めの胸に触れた。

(やっわらけェ……)

想像以上の柔らかさだった。打ち止めがおとなしくなったので、
拘束のために使っていたもう片方の手も参戦させる。
両手を押しつぶすようにあてがえば、瑞々しい弾力で跳ねかえってくる。
手の平で持ち上げてみる。重い。(肩が凝るってェのも納得だなこれじゃ)
左右から寄せてみる。深くなった胸の谷間に、黄色のパジャマが挟まれてしまう。
わし掴むように指を埋めてみる。第一関節までも見えなくなった。

44 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 02:13:22.48 ID:WdcBs0Va0
「ねぇ、も、もういいんじゃない?って
ミサカはミサカはそろそろ離してほしいとお願いしてみる」
「あ?あァ…もうちょっと」

しまった、つい夢中になってしまった。こうじゃなくて、
もっと打ち止めが焦るようなダメージを与えたいと思う。

一方通行は打ち止めの膝裏に腕を差し込むと、自身ごと完全にベッドの上に引き上げ移動する。
スプリングが大きく軋んだ。
背中を壁に預け、両足はさらに打ち止めの太ももや膝に絡めた。

「よし」
「何がよしなの!?ねぇ何なの!?」

打ち止めの質問には答えず、また手の動きを再開させる。
先ほどとは違い、明らかに彼女の性感を高めようとする触り方だ。

おまけに真っ赤になった頬や耳に口を寄せ、息を吹きかけつつ舌を這わせる。
びくびくと震える打ち止めは体を丸めようとするも
、一方通行の手が胸をまさぐっているのでそれも叶わない。
彼の唇が、舌がぬるりと温かく首やうなじを滑っていった。
その直後、濡れた個所が空気に晒されてひんやりする。

「っ…く、ん…」

ついに打ち止めの口から、たまらずに声が漏れた。一方通行がニヤリと笑う。
してやったりだ。やはりやられっぱなしは性に合わない。

45 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/15(金) 02:16:43.69 ID:WdcBs0Va0
「なァ…」

打ち止めからの返事はない。今は口を開けられないからだ。
一方通行は唇を彼女の頬に付けたまま、優しい声で囁いた。
指は打ち止めの黄色いパジャマの裾を引っ張っている。


「コレ脱がしていいか?」

「なぁ!?だだダメ!!それは絶対ダメ!」
「なンでだよ。胸は触ってもいいのに脱がすのはだめなのか?オマエの基準がよく分からねェ」

正確には、打ち止めは『こんな風』に触ってもいいとは言っていない。
さらに全身を抱きすくめられ、いやらしく口と舌で舐めまわされているではないか。
これは話が違う、約束(していない)が違う。
しかし、とてもじゃないが冷静になれない打ち止めの口からは、
同じようなセリフしか出てこない。

「ダメだよ!?ダメだからね!やったら怒るからね!?」

そんな打ち止めからは、充分に焦りと羞恥が伺い知れる。それが第一の目的、だった…はずだ。

ただ、一方通行は 見たい と思った。視覚でも堪能したい、と。

だから出るはずのない了承など待たず、強引に服の中に手を入れて脱がしにかかる。
打ち止めの素肌はしっとりと汗ばんでいて、手に吸いつくようだった。
普段は衣服に隠されているため、首や腕よりもさらにキメ細かく白い。

「!!っやーー!ちょっと!ダメって言ってるのにぃー!」

一方通行を止めようと、打ち止めは彼の手に自分の手を重ねる。
しかし彼はそんなことおかまいなし。
乱暴な動作で、ついに打ち止めのパジャマは顎のすぐ下までたくし上げられてしまった。

(あ、こンなところにほくろがあるンだな)


そう思った直後、一方通行の意識が途絶えた。



61 :ブラジャーの人2011/07/16(土) 00:26:45.77 ID:8kd3Xn8r0
打ち止めは一方通行の代理演算を切って、彼の魔の手から逃げ出してきた。
大きな音にもかまわず自室のドアをバタンと閉める。
そしてズルズルとその場にしゃがみ込んだ。

「はぁ~~」

いつまで続くの?と心配になるほど息を吐き続ける。すごくドキドキしている。
彼に触られた全身が熱い。
舌と口で舐められた首や頬。特に揉みしだかれた胸の感覚がリアルに残っていた。
まだ一方通行の手や舌が触れているようで、思わずその場所をゴシゴシと撫でさする。

…全然効果がない。
打ち止めはついに膝の間に顔を埋め、そのまま動かなくなってしまった。
ショックで泣いて……いるわけではない。
数十秒後、パっと上を向いた少女の目は、意外にも爛々と輝いていた。
62 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/16(土) 00:30:21.12 ID:8kd3Xn8r0
(ビックリした!ビックリした!ってミサカはミサカはとにかくビックリした!
あの人がミサカにあんな、あんなえっちなことするなんて…、驚いたけど、でも)

ショックはショックだったようだが、打ち止めは率直に 嬉しい、と感じていた。
長年の想い人である、一方通行に女性として見てもらえたこと、
強引に求められたこと(正確にはいじめられた、が正しい)
いつも心の奥で願っていたことだった。長らく子供扱いされることに慣れてしまったせいで、
つい「触ってみる?」とけしかけてしまったのだが、
今になって、一方通行にはなんて酷なことをしてしまっただろうと反省する。

(でもでも、いきなりすぎるっ、急すぎる!ってミサカはミサカは男女の仲には
ちゃんと順番があるべきだと思う!さっき初ちゅーしたばっかりだよ!?
それなのに……キモチよかったけどぉ~~っ)

ぶんぶんと頭を振りつつ立ち上がり、鏡の前に行って自分の全身を映す。
いつもと同じに見えるが、心臓はお祭り騒ぎだし顔はまだ赤い。

ふと、いつもパジャマ代わりに着ている黄色の服に意識が向いた。
よく伸びる素材で通気性が良く、暑くなってきたこの季節にぴったりだと思っていたのだが、
胸元は大きく開いているし、体のラインもよく見える。

(とりあえず着替えようかな、ってミサカはミサカは恥じらいのある乙女だし)

63 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/16(土) 00:35:37.23 ID:8kd3Xn8r0
クローゼットからえり付きのシャツを取り出して着替え、第二ボタンまでしっかりと留めた。

(よし、これで大丈夫だもん、ってミサカはミサカは、あ)

ナニが大丈夫なのか深く考えるのは避けて鏡で自分の姿を確認したのだが、
全然大丈夫ではなかった。

いまだ違和感がぬぐえないDカップが、内側からシャツを押し上げている。
肩も腰も大丈夫なのに、胸部分の生地だけがピンと張りつめて、
ボタンとボタンの間から肌を覗かせてしまっていた。

「うそ!?これもう着れないの!?」

胸が大きくなるとはそういうことだ。

仕方なくボタンの無い他の服を選んでシャツを脱ぐ。鏡に上半身裸の自分が映った。
打ち止めは、まじまじと自身を観察する。

(あの人…、ミサカのおっぱいすごく見たそうだったなぁ…。演算切らずに
見せてあげればよかったのかも、ってミサカはミサカは今更思ったり)

両手で、ここ半年のうちに急成長した自分の胸を支えてみる。
寄せてみる。押さえてみる。掴んでみる。

いろいろ試してみたが、どうも違うのだ。
一方通行から与えられた刺激には遠く及ばない。

否が応にも思い出してしまう。一方通行の手を、唇を、舌を。
全身を預けた彼の腕。キスされるとき、舐められるときに肌をくすぐった白い髪、彼の吐息。

64 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/16(土) 00:38:11.55 ID:8kd3Xn8r0
「!!~~~~っっ!うぅ~~!にゃぁあああああああ!!」

おさまりかけていた頬の赤色は、ふたたび耳や首にまで浸食した。
打ち止めは奇声をあげながらベッドへ倒れこみ、
そのままゴロンゴロンとまくらを抱えながら転がって悶える。

(やぁ~もう恥ずかしい恥ずかしい!思い出すだけでこんなになっちゃうなんて!
やっぱりあの人には悪いけど、見せることなんて出来るかな!?ってミサカはミサカは
これからどうしよう)

いくら考えても答えは出ない。仕方がない。なるようになるだろう。
『乙女の恥じらいを意識した服』に着替えて、すぅはぁ、と深呼吸。

「うん、もう寝よう!」

ベッドに横になる前に、ドアに視線を送る。

「寝込みはNGなんだもんね。あなたも分かってるでしょ?」

打ち止めは切断していた一方通行の代理演算を戻す。

鍵は、かけなかった。



85 :ブラジャーの人2011/07/16(土) 22:18:28.05 ID:hszjP0AF0
演算が再開され、正常な思考を取り戻した一方通行。
ガバリと身を起こし、部屋に打ち止めがいないことを確認する。

「あ~……」

やり場のない手を腰に当てたり、頭を掻いたり。その表情が、しまった、と物語っている。
演算を切って自分から逃げ出すほどに驚かせてしまったのか。
時計を見れば『あの最中』から二十分も経っていない。打ち止めがこんなにすぐに
演算を戻すということは、それほど怒っていないのだろう、多分、という希望的観測。

いや、怒っているぐらいならまだいい。一方通行は自分の行動を改めて思い返す。

打ち止めを抱きしめた。そしてキスをした。ここまではOKだ。
その後『そんなつもりではなかった』少女を逃げられぬように押さえ込み、
その胸を揉みまくった。さらに赤くほてった耳やうなじにもキスして舐め回した。
さらにさらに、激しく嫌がる打ち止めの制止を無視して無理やり服を脱がせる。
そして、じたばた暴れる打ち止めの動きに合わせて揺れる乳房の脇に、
ほくろを発見したところで演算を切られたのだった。
86 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/16(土) 22:22:05.29 ID:hszjP0AF0
やりすぎだ、さすがに。
まさか今頃、戸惑いと混乱に苛まれて泣いてやしないだろうか。

(やっべェな、アイツから誘ってきたからって悪ノリしすぎちまったか…)

代理演算切断なんて久しぶりすぎる。
そうだった、打ち止めにはいざとなったらその手段があるではないか。
一方通行は、自分の理性が限界を迎えた時が、打ち止めと一線を越える時と
勝手に解釈していた。でも打ち止めが嫌と思うなら、こうして自分を止めればいいのだ。
必然的に、二人の合意がなければそういう行為に及べない、及びようがないことになる。
つまり一方通行が危惧していた案件は、完全にとはいかないまでも、
かなり解決したということだ。

(くだらねェ、心配する必要無かったじゃねェかそういえば)

それなのに何だろうか、この、胸にじわじわと広がる感情は。
後悔、焦燥、未練、いろんなモノがぐるぐると…もやもやと…

認めざるをえない。一方通行は今ショックを受けている。
打ち止めには何をしても受け入れてもらえるだろうと思いあがっていたのだ。さすがの第一位も、年頃の小女の心の機微までは把握しきれなかったようである。

87 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/16(土) 22:24:23.30 ID:hszjP0AF0
(明日、どンな顔してアイツに会えばいいンだ…。それ以前に避けられるかもしンねェな)


まさか、もしかして、自分のことを怖がるようになったり、軽蔑されたり、
…嫌われたりしたら。
もっと恥じらいを持って俺を警戒しやがれ、という目的は、やりすぎなほどに達成したようだが、それで嫌われてしまったら本末転倒だ。

絶望。その言葉が脳裏をよぎる。色白の顔から血の気が引き、ますます白く、青くなる。

(どォすりゃいいンだ、そンなことになったら…、想像しただけで吐きそォ)

昔から打ち止めとケンカすることはよくあった。
どちらかといえば打ち止めが一方的に怒っていただけだったが。
そんなときは、彼女の我儘をきいてやったり、頭を撫でてやれば大抵は元どおり。

しかし今回は、頭を撫でようものなら最悪手を振り払われてしまうかもしれない。

一方通行の苦悩は深い。
それに比べて、当の打ち止めは今、幸せな夢の世界へ旅立とうとしている。
しかも、彼の一連の行動を実は喜んでいるなどと、一方通行は知る由もない。

一方通行はベッドに座り、ついに両手で顔を覆ってしまった。
ショックで泣いて……いるわけではない。泣きそうだが。

88 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/16(土) 22:27:10.13 ID:hszjP0AF0
溜息をついて目を開ければ、そこには自分の手の平。
この手でまさぐった、打ち止めの柔らかな胸を。
髪と肌から香ってくる、甘い匂いに酔いながらキスした首筋や頬。
無理やり脱がして(一瞬だけ)見た素肌。

単純なものだ。絶望とか後悔とか反省は隅に追いやられ、
さっきまでの濃密な触れ合いの記憶が頭を占めていく。

(馬鹿か俺は、こンなこと考えてる場合じゃねェだろうが……だめだ。
頭から離れねェ、どうやっても思い出しちまう。大体なンであんな柔らかいンだよ。
あったけェしスベスベだし、イイ匂いまでするし)

一方通行の体温が上昇していく。
あの感触をもう一度味わいたくて、無意識に手を握りこすり合わせる。

全然足りない、記憶だけでは。

違う意味での後悔が湧き上がってきた。
惜しいことをした、もうこんな機会はいつ訪れるかわからない。
もし次があるのなら、その時は慎重に慎重を重ねて、打ち止めが許容してくれるところまで、
いけるとこまでいこうと思う。
89 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/16(土) 22:28:48.60 ID:hszjP0AF0
(失敗したなァ…、あそこで脱がそうとしなけりゃもっと楽しめたのかもなァ、
それまでは大人しかったし。それにアイツだって声出してたしよォ)

正直、あの声は良かった。打ち止めからあんな声が出るとは。
独占欲、征服欲を大いに刺激された。
もっと鳴かせたい。あの可愛い、泣いてるような声をもっとあげさせたい、聴きたい。

打ち止めが許してくれるのなら、いつか…

そのためにもまずは明日、彼女のご機嫌伺いをしなければ。持てる力のすべてを賭けよう。
避けられませんように、と祈りながら寝る支度をする。

眠れるかどうかは分からないが。


96 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/17(日) 22:15:14.64 ID:RJCHX+Lf0
一方通行がリビングでくつろいでいると、いつものように打ち止めがコーヒーを淹れてくれた。

「はい、どうぞ、ってミサカはミサカはコーヒーを差し出してみる」
「ン」

カップを受け取って一口啜る。美味い。昔よりずっと腕前を上げた。
打ち止めが立ち去ることなく、お盆を抱えたままこちらを見つめている。
その顔は暗く沈んでいるではないか。

「どうしたンだ?」
「…もう、あなたにコーヒーを淹れてあげられなくなっちゃったの、ってミサカはミサカは
悲しい事実をお伝えしてみたり」
「はァ?」
「あなたがあんな狼さんだったなんて。ミサカはミサカの貞操を守るために
寮に入ろうと思うの」
「え、おい、ちょっと待て」
「せっかくあなたとヨミカワがこの家から通えるようにしてくれたけど、この間みたいに
怖い思いはもうしたくないから仕方ないの、ってミサカはミサカは…」

一方通行は口をポカンと開けて打ち止めを見上げるしかない。まさかあの事件が彼女に
この家から離れる決意をさせていたなんて。
一緒にいたい、俺のことを好きとあれほど言っていたのに。
その願いを曲げさせてしまったのは自分だ。なんと愚かなことをしてしまったのだろう。
今更打ち止めと離れて暮らすなんて…、いや、離れるだけじゃない。
軽率な行動でこの少女を脅えさせ、信頼を失ってしまったという事実が重くのしかかる。

「マジで言ってンのかよ…」(俺は離れたくない)
「もうオマエが嫌がることはしねェから」(だから出て行くなンて言うな)

打ち止めは、伸ばしたいのを必死に抑える一方通行の震える手に気づいた。
しかし彼女の決心は固い。

「ごめんね、あなた……」
97 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/17(日) 22:26:10.10 ID:RJCHX+Lf0
一方通行は握りしめた自身の手の痛みで覚醒した。
なんて恐ろしい夢を見てしまったのだろう。昨夜の苦悩と心配がこんな夢になって
現われるとは。
冷や汗で濡れた額に張り付いた髪をかき上げる。昨夜はなかなか寝付けなっかので
寝不足だ。まだ起き上がれそうにない。

打ち止めはどうしているだろう。怖い夢など見ていなければいいが。
そもそも眠れてなかったりして…

枕に伏せたまま、大きな溜息を吐く。今日、どんな風に話しかけようか。
目を合わせてくれるだろうか。 
俺を嫌いになっていたら… 、どうしよォ。

壁を向いていた体を寝返らせる。また溜息。

「はあー、やべェー…」

「大丈夫?うなされてたよ?ってミサカはミサカはあなたが心配」

「………」

「具合悪いの?お熱はかる?水持ってこようか」

「……なンで…、ココにいるンですかァー」
「え?来ちゃダメだったの?」
「そォいう意味じゃねェ」
98 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/17(日) 22:31:10.01 ID:RJCHX+Lf0
目の前に打ち止めがいた。枕元にしゃがみ込み、心配そうな顔でこちらを見ている。
体はだるいが、さすがに寝てはいられないので上半身だけ起こした。

一方通行は混乱する。昨夜演算を切らせてしまうほど脅えさせた男の元に、
なぜこうして平然と近づいてこれるのか?

「ミサカね、あなたに早く会いたくて早起きしちゃったの」
(は?俺に会いたかった?)

「それに昨日のこともあやまりたいし…」
(いやいや、謝るのは俺だろ?何言ってンだ)

「いきなり演算切っちゃってごめんなさい、ってミサカはミサカはぺこり。
でもあなたもいけないんだからね!急にあんなことするなんて、ビックリしたんだから」
(あれ?怒ってない?怖がってない?)
99 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/17(日) 22:41:48.77 ID:RJCHX+Lf0
打ち止めは唇を尖らせて一方通行を非難するも、その口調や雰囲気はいつもどおりだ。

「ずっとミサカのこと子供扱いしてきたクセに、いきなりそんな……なんて。
ミサカにも心の準備というものが必要なのよ、ってミサカはミサカは自己弁護してみる」

「びっくりしただけか?」
「ん?」
「だから、昨日だよ…、びっくりしただけなのか?他になンか思うことはねェのかよ」

怖くなかったか?あの後泣いたりしなかったのか?俺のこと…

「あと驚いた」
「同義語だそりゃァ… 他には?」
「恥ずかしかった、ってミサカはミサカはあなたを睨んでみたり」
「スイマセンでしたァ。あとは?」
 
えぇまだ言うの!?と打ち止めの顔が困っている。しかし今ここでしっかり確かめて
おかなければ安心できない。瞬きもせずにじぃっと見つめてプレッシャーをかける。
打ち止めは手をもじもじさせながら、だんだんとうつ向いてしまう。

どうした、言いにくいことなのか。

一方通行の不安がいや増す。

「き、モチよかった、…よ」
「あ?」
「だからぁ!キモチよかったの!ってミサカはミサカは、
恥ずかしいこと何度も言わせないで!もぉっ」

「……」

安堵と放心で力が抜けた一方通行。ぱたりとベッドに仰向けに倒れてしまった。
100 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/17(日) 22:47:00.72 ID:RJCHX+Lf0
(よかった…本当によかった……!)

「やだあなた本当にどうしたの!?さっきから変だよ!?」

膝立ちとなって心配そうに覗き込む打ち止めを、一方通行は顔を覆った腕の隙間から
睨みつけた。

「あれ?なんだか怒ってる、ってミサカはミサカは言ってはいけないこと言っちゃった?」

返事はない。その代わり指をチョイチョイと動かす『コッチ来い』
というジェスチャーが返ってきた。
怒ってはいないらしいことにほっとしつつ、打ち止めは、なになに?と身を乗り出す。

「もっとだ」

はいはい?とベッドに上がって、彼の腰あたりに正座する。一方通行は、ふぅと息を吐き出して、仰向けのまま両手を打ち止めに差し出した。
意味はわからないけど反射的に彼の手を取る少女。一方通行は軽く握り返すと、
優しい微かな力で引っ張った。打ち止めの体が少しだけ傾く。

「ん?なに?」

それでもやっぱり彼は黙ったままで、さっきより強く手をくいくいと引かれるのみ。

「あ、ぎゅってするのね?ってミサカはミサカはあなたの言いたいことがやっと分かった」

一方通行はまだ何も言わない。うんうんと頷くだけ。打ち止めは嬉しそうに彼に覆いかぶさる。
手は背中に回せないので、彼の両肩にかけた。頭を顎の下に埋めて、猫の仔のように頬を
すり寄せる。少女のアホ毛が一方通行の鼻先をくすぐった。
一方通行は打ち止めの笑顔を見てから、ようやく両腕を彼女の背中に置いた。

101 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/17(日) 22:49:30.68 ID:RJCHX+Lf0
「くすぐってェな、じっとしてろ」
「えへへ、ねぇ今日のあなたはなんだか様子がおかしいけど、どうしたの?って
ミサカはミサカは…ん?」

打ち止めの唇に一方通行の指が触れてセリフを止めた。突然のことに寄り目になって
その白い指を見つめる。

「…いいか?」
「え、あ、うん。い、いいよ…」

(ちゅーってするのね?ってミサカはミサカは
今度はあなたの言いたいこすぐに分かっちゃった!)

二人が口づけを交わすのは三度目だ(あんなことしておいて)
仰向けになっている彼の唇まで、よいしょよいしょと自分の顔を近付ける打ち止め。
気恥ずかしさと嬉しさで頬はかすかに赤い。そんな彼女を穏やかな表情で見つめる一方通行。
今度は彼の方が先に目を閉じた。

105 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/17(日) 23:28:43.31 ID:RJCHX+Lf0
「それで、ミサカは今日のあなたが変な理由を知りたいな」

唇が離れた直後、打ち止めからの質問が再開された。

「……」
「知りたいよー」

一方通行は舌打ちしてから、渋々語りだした。

「これでもなァ、一応反省してンだよ。悪かったな昨日は。やりすぎた」
「おぉ、まさかあなたからそんな言葉が聞けるなんて、ってミサカはミサカは
あまりの珍しさに驚愕してみる」
「演算切られるなンざ久しぶりだったからな。俺ァてっきりオマエが
怖がったり脅えてンじゃねェかと思ってたンだよ」
「なーんだ、だからさっきからミサカに色々訊いてたのね?ってミサカはミサカは
心配症なあなたに安心してほしいな」

打ち止めは、わざとぶっきらぼうに話す一方通行の肩をあやすように叩く。
そしてもう一度首を伸ばして、一瞬だけ触れるキスを落とした。

「…、おい」
「このミサカは、何度も言ってるけどあなたが大好きなので、あれくらいでは
あなたを嫌いになったりしません」

一方通行はあえて「嫌い」という言葉を避けて話したというのに、この少女には
彼が何を心配し恐れていたのかお見通しのようだ。

「でもね、この際だから今言うけど」
「なンだ」
「いきなりはダメ!いいよって言ってないのに脱がすのもダメ!」
「…ハイ」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/17(日) 23:59:15.27 ID:WRrK5BLU0
砂糖吐いた
107 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/17(日) 23:59:42.21 ID:RJCHX+Lf0
そこでふと疑問がよぎる。

「そうだ、不思議に思ってたンだが、オマエの中では触るのはOKで、脱がすのは
NGなンだよな?それはどういう基準でそうなンだよ」

それは暗に、脱がさないからまた触ってもいいよな?いいンだろ?
と言っているようにも聞こえる。
事実、打ち止めにもそう思われたようだ。

「ばっ、ちが、触られるのだって恥ずかしいに決まってるでしょっ、って
ミサカはミサカは、あなたが大きいお胸が好きだから我慢してたの!」
「おいおいおい、オマエ、それ…おィ」

そうだった…打ち止めの中では、一方通行は巨乳好きと認識されているのだった。
まぁそう思われても仕方ないことをやっている。実際また触らせろ、というような
ことも言ってしまっているし。

(柔らかくて具合がイイのは確かだしなァ…、ここは反論しないでおいてやるか)

「だから触りたいほうだいじゃないんだよ!?寝込みじゃなくても
急にえっちなことするのは禁止です!ってミサカはミサカは釘を刺してみる!」
「わかったわかった、わかってるって。だから今気を使ってこうしてるンじゃねェか」

傍に寄らせるのも、抱きしめるのも、キスをするのも
ちゃんと打ち止めに了解(と言えなくはない)を取ってやった。
これなら彼女が驚くことも、必要以上に恥ずかしがることもないだろう。
108 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/18(月) 00:47:08.28 ID:bAe+73Xc0
「まったく俺のために我慢してくれちゃって申し訳ありませんねェー。
こりゃ何かお礼をしなけりゃならねェよなァ?」
「お礼?」
「そォだ。……きもちよかったンだろ?次は昨日よりもっとよくしてやる。
…だから触ってほしくなったら遠慮なく言え」

一方通行は自分の胸の上に顎をつく打ち止めの頭を、アホ毛ごとよしよしと撫でた。
まるで、昔幼かった彼女にしてやったような仕草だったが、
言ってることはものすごく恥ずかしい。意地悪そうにニヤニヤしている。
打ち止めはすべての動きを止めて全身を赤くする。

確かに告げた。キモチよかったと。だって彼が真剣に「思うことはなかったのか」
と訊いてきたから。

昨日から振り回されっぱなしの一方通行のささやかな復讐だったのだが、打ち止めには
刺激が強すぎた。

「~~~!!!」

打ち止めは一方通行の上から飛び起きると、手近にあった時計やら本やらを投げつけた。
しまいには彼の頭から枕を引き抜いてその顔に押し付ける。

「なななな、なんてこと言うの!??信じられない!えっち!いじわる!」
「くはははっ慌てすぎだばァーか。期待してンのかァ?」

「もぉ~~!!っあ、」
「いいよな?」

一方通行は打ち止めの攻撃をかわして身を起こす。先ほどと同じように彼女の唇に
触れて黙らせた。これは了解を得ているように見えるだろうか?
打ち止めはまだまだ暴れ足りない両腕を下ろして、頬を膨らませている。
しかし結局許してしまうのだ。出会ったときからそうだった。
彼女は一方通行に我儘は言うけれど、とても優しい。


二人同時に目を閉じた五度目のキスは、調子に乗った一方通行が舌を入れてきたため、
打ち止めに肩と背中をつねられた彼が、悲鳴をあげて終わるという色気のないものだった。

122 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/18(月) 22:03:08.43 ID:OvKu2vmx0
夏祭り通行止め

打ち止め「あなたー!はーやーくー!」
一方通行「このクソガキ、こっちは杖ついてンだよ、無茶言うなバカ」
打ち止め「だってだって楽しみでミサカの足が勝手に
進んじゃうのぉ~、ってミサカはミサカはこらえきれないっ」
一方通行「そンなに急がなくても逃げねェよ祭りはァ…ハァ…」

夏祭りにやってきた打ち止めと一方通行。少女は浴衣の裾を翻しながらはしゃいでいる。
打ち止めは一体どうやって彼を連れ出そうかと思案していたが、
意外にも一方通行は、わずかに沈黙しただけで付き添いを了承した。
さすがに浴衣の着用は拒まれたが。

いろいろとイケナイことをいたしてしまったあの日から、一方通行はよく打ち止めの
我儘をきいてやるようになった。そもそも彼女の我儘とは、大抵が
「あなたと一緒にいたい、お出掛けしたい」というようなものばかりである。
如何に自分が彼女を様々な意味で大切にしているか思い知った一方通行にとっても、
それは願ったり叶ったりであった。口には出さないが。

打ち止め「わぁー、すごいすごい、たくさん人がいるね、って…わ」
一方通行「おい離れるな。迷子になるぞ、手ェ出せ」
打ち止め「あ、うん。ありがとう、ってミサカはミサカは
あなたから人前で手を繋いでくれるなんて珍しいなと驚いてみる」
一方通行「オマエが迷子になる手間と天秤にかけりゃ当然の選択だ」
打ち止め「むー、ミサカはもうそんな子供じゃないのに、って不服を表してみる。
それに迷子が得意なのはあなたでしょ?」
一方通行「へらず口叩きやがって…、このまま家まで引き摺って帰ってやろうかァ?」
打ち止め「いーやー、ご機嫌直して?ってミサカはミサカは
かわいく上目づかいであなたを誘惑!」
一方通行「言ってろクソガキ」


123 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/18(月) 22:07:14.43 ID:OvKu2vmx0
〈わたあめ〉

打ち止め「ふわふわー。そして真っ白―!ってミサカはミサカはあなたと
そっくりだって嬉しくなったり」
一方通行「ハイハイ、落とすなよ」
打ち止め「おいしい…、あなたも食べる?」
一方通行「ンな甘いモン俺が食うわけないだろォが」
打ち止め「まぁまぁそう言わないで、ちょっとだけでも、ほら、って
ミサカはミサカはあなたにわたあめを差し出してみる」

打ち止めは少しだけわたあめを千切りとり、一方通行の口元に手を近付けた。

一方通行「…しょォがねェな…」

眉間に皺を浮かべながら、一方通行は口を開けた。舌の上に乗せた
瞬間から甘い味が広がる。彼の顔が(うえ、甘ェ)と言っている。
打ち止めは嬉しそうにそれを見つめている。そして自分の指にまだ残るわたあめを、
無理やりその指ごと一方通行の口に押し込んだ。

一方通行「っン!」
打ち止め「これも食べて、ってミサカはミサカはキャ!」

一方通行が、無遠慮に侵入してきた打ち止めの指に噛みついた。

打ち止め「もぉ、なにするの、ってミサカはミサカは、歯形が
ついた指をなでなで、いたたた」
一方通行「なにするのは俺のセリフだバカ野郎が!」

テキ屋のおっちゃん「お二人さーん、よそでイチャついてくれよ。他のお客さんが近寄れねえよ」

一方通行「……」
打ち止め「あ、あなたの顔が赤くなったね、ってミサカはミサカは
実況中継してみたり」

124 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/18(月) 22:10:26.90 ID:OvKu2vmx0
〈金魚すくい〉

一方通行「もう諦めろよ、金がもったいねェから言ってンじゃねェぞ。
無理だから言ってるンだぜ」
打ち止め「ぐ、く~悔しいぃぃ。なんでどうしてすぐやぶれちゃうの、って
ミサカはミサカは金魚ちゃん欲しいよぅ」
一方通行「はァ…、仕方ねェ。なンで俺がこンな似合わないこと…」
打ち止め「あ、やってくれるのね!ミサカの代わりにっ」

十五分後

打ち止め「ねぇ…もういいよ?ミサカ金魚ちゃん我慢するから…」
一方通行「うるせェ…ここまでやって諦められるかよォ…」

できなかった。すくえなかった。人生で初めて挑戦する金魚すくい。
たかが紙に小魚を乗せるだけだろう、楽勝だぜ、と思っていたのに。
水が滴るポイを握りしめる手が怒りと悔しさ(と恥ずかしさ)で震えている。
大見栄切ってこれじゃ示しがつかない。

テキ屋のおじちゃん「もう好きなん三匹えらびな。それやるから…」

二人「……」


打ち止め「金魚ちゃん可愛いなー、ってミサカはミサカはあなたに
水槽もお願いしたいの。今度…」
一方通行「水槽だけじゃ足りねェぞ」
打ち止め「あ、うん餌も」
一方通行「あとポンプとフィルターも要るな。それとこれから夏は
水温も上がって雑菌が湧きやすいから薬浴用の薬に、冬に備えて水槽用の
ヒーターもどォせだから揃えちまおう」
打ち止め「なんでそんなに詳しいの!?」
一方通行「だってオマエ出掛ける前から金魚金魚うるさかったじゃねェか」
打ち止め「…それでわざわざ調べてくれたのね、ってミサカはミサカは
金魚マスターなあなたにありがとう」

125 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/18(月) 22:13:28.74 ID:OvKu2vmx0
〈射的〉

「きゃー!あなたすごいすごい!ねぇアレもとって!ってミサカはミサカは大興奮!」

一方通行は返事もせず、実に面倒くさそうに左手一本で次々に
的を射落としていった。彼が引き金を引く度に打ち止めの歓喜の雄叫びが響く。

一方通行(昔取った杵柄だなァ…)

パンっ!「やったーっゲコ太人形!うれしー!」

パンっ!「いぃえーい!うまい棒十本セット!なんと言ってもめんたいこ!」

パンっ!「あらカワイイ髪留め。あとであなたがミサカにつけてね!」

一定の間隔で迷いなく鳴り続ける発砲音と打ち止めの元気な声につられて、
二人の周囲にはギャラリーが集まってきている。

一方通行「やかましィ、もォいいだろ…あのオッサン涙目だぞ」

テキ屋のオッサン「……へへ、ぐす」

打ち止め「もうおしまいなの?ってミサカはミサカはつまんない。
じゃあミサカにもやらせて!やってみたい!」
一方通行「……」
打ち止め「どうしたの…?」
一方通行「ダメだ」
打ち止め「えぇ?なんでぇ?」
一方通行「オマエには…たとえオモチャでも、あンまり持ってほしくねェンだよ、
こういうモンはな…。まァくだらねェこだわりだが。
俺がいくらでもとってやるからそれでいいだろ」
打ち止め「あ、あう。あ…」
 
一方通行「あァ?今度はオマエの顔が赤いなァ」



135 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/20(水) 02:18:40.27 ID:Gv8eBzH70
「アレ」から一週間後、一方通行と打ち止めは「ソレ」以上の行為に及ぶことはなく
今までどおりに過ごしていた。以前と違うところといえば、
打ち止めがやたらと一方通行の部屋を訪れるようになり、他愛無いおしゃべりをしていくことだ。
保護者達の手前、なんとなく一方通行からは彼女の部屋を訪問しにくい。
また、リビングでは落ち着いてくつろげない。
万が一くっついていたり、キスしているところを目撃されたら
気まずいことこの上ないではないか。
なので必然的に打ち止めが一方通行の部屋へやってくるようになったのだ。
ただ、打ち止めは日付が変わる前には自室へ戻るし、思うことがあったのだろう、
例の黄色いパジャマ(用の服)は封印され、夜は露出の少ない本当の寝具用の
パジャマを着用するようになった。あとブラジャーもちゃんと着けている。

「どう?このパジャマ。あなたにとっては残念だったかな、って
ミサカはミサカはあなたをからかってみたり」
「あァ、すげェがっかりしてる」
「やっぱりぃ?」
「冗談だアホ」
136 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/20(水) 02:23:08.85 ID:Gv8eBzH70
お互い分かっていてこの距離を保っている。一方通行はあの夜、
こんな調子ではいつ打ち止めを押し倒してしまうのかと、不安と期待が混ざった
複雑な心境だったが、いざ一週間が経っても自分の理性がキープされていることに
内心拍手を送っていた。
もっとも、保護者と同居していること、打ち止めから刺された釘が効いていることが
助けとなっている。
しかし、彼を押し留めている最大の要因は『嫌ではなかった』とはいえ、
打ち止めに演算を切られたことだ。翌日には誤解が解けたというのに、
どんな理由にせよ彼女に拒絶されたことが心の底で足かせとなっている。
つまりはトラウマだ。

(だからって、なかなかちゅーもしてくれないなんて、ってミサカはミサカは……寂しい。
せっかくラブラブになれたのに)

やはりあの夜、我慢して彼のなすがまま服を脱がされておくべきだっただろうか。
いやいや、さすがに色々とすっ飛ばし過ぎだっただろう。
しかし演算切断はやりすぎだったかな?でもそれ以外に方法は無かったし…

というわけで、情けないことに第一位は(胸以外は)まだいたいけなこの少女に、
似合わない悩みを抱かせるに至っている。

(うーん。あの人は昔からネガティブ思考だったけど、まさか演算を切っただけで
こんなことになるなんて、ってミサカはミサカは予想外。
ちょっと前までは女の子扱いされないことが悩みだったのに、
今ではある意味、女の子扱いされすぎて困ってるなぁ…
どう転んでも結局手がかかるのね、あの人って)

さて、この状況をどう改善しようか。打ち止めは本格的に打開策を検討することにした。

自室に籠ってわずか二分、妙案が浮かんだ。
137 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 02:27:44.21 ID:Gv8eBzH70
また恥ずかしい声を出してしまうようなことは、まだ早いと思う。
かといってキスもしてくれないんじゃ寂しすぎる。
彼の足かせを、ほんの少しだけゆるめたいのだ。

(ぜんぶ取っちゃうのは絶対よくないと思うの、ってミサカはミサカは
そこのバランスが重要だと策士ぶってみる)

なんとも自分に都合のいい解釈で、さっそく打ち止めは作戦を実行することにした。


一方通行は二日ぶりに登校し、講義をひとつだけ受けて(寝てた)帰ってきた。
夕暮れ前のリビングは、夏の日差しが少しだけオレンジ色を落としている。

「おかえりなさーい!暑かったでしょ?コーヒー飲む?」
「おォ、飲む。冷たいのな」
「はーい」

打ち止めはキッチンでコーヒを淹れつつも、ソファにて待つ彼の
一挙一動が気になってしょうがない。
新聞を手に取る。置く。テレビをつける。ソファに座りなおす。
これから行う『作戦』のことを考えるとドキドキする。一方通行を見てるだけでソワソワする。

(わ~、わ~、緊張してきた!どうやって切りだそう)

「はいどうぞ、ってミサカはミサカは愛情たっぷりを差し出してみる」
「ン」

打ち止めはおぼんを抱えたまま立ち去らず、一方通行を見つめている。
彼女は知る由もないが、奇しくもそれは「寮に入ります」と打ち止めに告げられた
一方通行の悪夢を彷彿とさせるシチュエーションだった。

138 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 02:30:23.93 ID:Gv8eBzH70
嫌な夢を思い出して内心脂汗をかく青年、グラスに口をつけつつ怪訝な表情で問いかけた。

「どうした、ぼーっとつっ立って」
(エーなンだよこのデジャヴはァ…。心臓に悪すぎンだろォ)

「あ、ううん、なんでもない…」
(いけないいけない、自然なカンジで、自然なカンジで…)

打ち止めはおぼんをテーブルに置いて彼の隣に腰掛けた。
いつもどおりのその近い距離に、少しほっとする一方通行。

「どう?、そのアイスコーヒー。氷もコーヒーを凍らせて作ってあるんだよ、って
ミサカはミサカは覚えたてのテクニックを褒めてもらいたいな」
「ン?あァ、なるほど。まァ悪くねェよ」
「気に入ってもらえたみたいで何よりです、ってミサカはミサカは
素直においしいと言えないあなたに呆れてみる」

(なンだ、普通じゃねェか…、いやいや当然だろ。実際あンなことあるわけねェンだから)

肩の力が抜けて、グラスを傾ける手の動きが滑らかになる。
打ち止めはどんどん減っていくコーヒーに満足げな様子だ。じっとその様子をうかがっていた。
おかわりをもらおうかな、と一方通行が思ったとき、
打ち止めが彼の足に手をつきながら身を乗り出してきた。

「ねぇあなた、お願いがあるんだけど」
「っ、な、なンだ…?」

意味深な声音と表情の打ち止めに、一方通行の心臓が跳ねる。悪夢再びか!?


「キスして」
139 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 02:32:49.97 ID:Gv8eBzH70
残り少ないコーヒーを、なんとか噴出さないことに成功した一方通行。
口元をぬぐいながら隣の少女に目をやった。

(あれー?なんか全然自然なカンジで言えなかったなぁ、ってミサカはミサカは
さっそくつまづいちゃった。でもまだ作戦はここからだもん!)

「どォした急に…」
「いいでしょ。ミサカとあなた、まだ十二回しかキスしてないんだよ?ね?
はいほらちゅー、ってミサカはミサカは、ちゅー?」
「数えてたのかよ?呆れたヤツだな」

かわいらしく唇をとがらせてくる打ち止め。
一方通行は悪夢が彼方に吹き飛んだことに安心する。まだ保護者達の帰宅時間には
程遠いことを確認し、大した疑問も抱けずに少女の顎に手をかけた。

いつものように、ゆっくりゆっくり押し付けて、体温の低い自分に彼女の熱を分けてもらう。
何秒かして離れようとしたとき、それが何か一瞬で理解できたが驚かずにはいられない。
打ち止めが、離れる直前の一方通行の唇をぺろりと舐めたのだ。

舐めたことはあるが舐められたのは初めてで、青年はつい困惑の表情を浮かべてしまった。
140 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 02:35:44.71 ID:Gv8eBzH70
「今日変だぞ絶対…」
「もう、ムードがないなぁ。大丈夫だから、はい続き…」

打ち止めはソファの上に正座して、「ん?」とわずかに舌を出して
一方通行に目で語りかけた。ようやく鈍い彼も理解する。

ディープキス。

遠慮気味になっている一方通行に業を煮やしてなのか、ただ単純にしてみたくなったのか、
おそらく自分を気遣っての行動でもあるのだろう。
この少女は「オトナのキスをしよう」と言っているのだ。

実は何回か舌を入れようかと思ったことがある一方通行だったが、
最初につねられて怒られたので、これまたなんとなくしないままだった。

しかし今日は違う。許可が下りている。大丈夫だと言っている。
遠慮はいらない。

一方通行は自分も打ち止めに向き直り、少女の腰と背中に手を回した。
こうして強く抱きしめるのも一週間ぶりだ。髪に指を通して顔を埋める。
下校してから着替えていない打ち止めのセーラー服越しだが、
柔らかな胸の感触を自分の固い胸板で確かめる。本当は手で触りたいけど我慢した。

(あー、やっぱり柔らかいしイイ匂いがすンなァ…)

彼女が苦しいと言いいだしそうな手前まで腕に力を込める。
そして薄く開く唇を、固く尖らせた舌でさらに割り開かせて入っていった。

141 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/20(水) 02:38:58.17 ID:Gv8eBzH70
彼の舌は、自分よりも少しだけ冷たいかな?と思ったのは最初だけ。
すぐに混ざり合って、こすれ合って同じ温度になった。
下唇を、彼の唇で挟まれる。一本一本確認されるように歯を舐め上げられた。
強く吸い上げられて彼の口内に導かれてしまった自分の舌を、鋭い犬歯で柔らかく噛まれる。
二人の口と口の間から唾液がこぼれていくがそんなことは気にならない。
気にしていられない。

(えー!?えー!?えぇーー!??ってミサカはミサカは!!こんな、こんな。
うそー…うそ、………あ、あ)

打ち止めは、良く言えば天真爛漫。悪く言えば能天気。
そんな少女がたった二分で考えた作戦など、所詮こんなものだった。

アレ以上はちょっと、裸をみせるのもちょっと。でもディープキスなら大丈夫だろう。
この間は反省の色が伺えない彼を反射的につねって叱ってしまったので、
ほとんどその感触を覚えていなかった。

まさかこんな、思考が湖の底に沈んでしまうような心地になるとは。

…キモチいい。

142 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 02:43:04.00 ID:Gv8eBzH70
うまく息継ぎできない打ち止めのために、一方通行は時々口を離して呼吸させてやる。
その度に彼女の口から引き抜いた舌に銀糸が伝って顎にわずかな冷たさをもたらす。
それは自分の顎だったり、彼女の顎だったり、同時に両方に垂れることもあった。
唇を離している間に見る少女の顔が、一方通行の気分を盛り上げていく。

(うっとりした顔しちゃってまァ…、声が出てンぞ声が…)

打ち止めはまったく自覚がなかったが、漏れ出る吐息に
確かに恥ずかしい声が混ざっている。それが彼の耳には心地いい。
今はこの少女は自分だけのものだ。自分のことしか考えられない。
その証明の合図のようだった。

やがて自分の服を掴んでいた打ち止めの手が、力なくぽとりぽとりと落ちていく。
完全に放心状態だ。一方通行はようやく舌をあるべき個所に戻し、
口内に残る唾液を喉の奥に流し込む。打ち止めの濡れた顎や唇を指でぬぐってやった。

「よかったか?」

「…」

打ち止めは瞼を半分おろしたまま、こっくりと頷く。
唾を飲み込むことも忘れた彼女の口から、つつ、と残っていた唾液がこぼれる。

「こらこら」

手の届く範囲に拭くものがない。一方通行は急いでもう一度打ち止めの顎を持ち上げ、
チュー、と音をさせて彼女の口内からそれを吸い取った。

打ち止めはまだ何も言えない。ただ彼の腰にゆっくりと抱きつくと、
そのまましがみついて動かなくなった。

一方通行はつけっぱなしだったテレビの電源を切り、打ち止めの肩と背中を支える。


とっぷり日がくれて保護者たちが帰ってくるまで、二人はずっとそのままだった。




151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/07/20(水) 18:47:33.63 ID:S8OHf6Pdo

打ち止め「アイスコーヒーしかないけど、いいかな?ってミサカはミサカは聞いてみる(迫真)」

一方通行「あァ~いいねェ(棒読み)」

読んでる途中にこんなこと思いつく俺って…(反省)
152 :ブラジャーの人2011/07/20(水) 19:50:39.99 ID:swKieuoN0
こんな時間に書き込みするのって初めてかもしれません。
いつも深夜でしたから。
需要が無いかもしれんけど、書きたかった日常話ができたのでそれ投下。
153 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 19:55:23.21 ID:swKieuoN0
一方通行は、以前よりも大学に顔を出すようになった。
打ち止めと『そういう関係』になってからというもの、なぜか登校するのが
あまり億劫に感じなくなったからだ。
けして、家に居てもまじめに学校に通う打ち止めが
午後まで帰ってこなくてつまらないから、とか。
一人でいるとつい彼女のことを想像して精神が疲れるから大学に居たほうが、
気が楽とかいう理由ではない。

午前中からの講義にも顔を出しているし、寝ている(ように見える)ことも大分減った。
あまり使っていなかった学食も利用するようになり、そこのステーキセットが
意外に美味しいことも知った。三年目にして。惜しいことをした。

そうなると、必然的に対人関係に変化が起こる。
学園都市第一位である彼に気安く話かけられる度胸の大きい者は中々いなかったのだが、
最近はそうでもない。
もともとこの大学を選んだのだって、黄泉川と芳川に「とりあえず行っておきなさい」
と言われて「じゃあ一番近いところでいいわ」と適当に決めたのだった。
特別に偏差値が高いとか、高能力者が多く集まる一流大学というわけではない。

入学式の後、あっという間に彼が第一位の一方通行だと知れ渡り、
なんでこんなトコにいるんですか!?という疑問が構内を吹き荒れた。
しかしそれを直接訊ける勇気のある人間は少なかったし、そもそも一方通行があまりに
自主休講が多いので、学友など出来るはずもない。
たまに番外個体と立ち話したり、構内のカフェで捕まって嫌みの効いた雑談をするくらいだった。
それがどうだ、今、学食でいつものメニューを食べている自分が、
数人の男女と席を共にしているではないか。
横には番外個体が座っていてカルボナーラを堪能している。
154 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/20(水) 19:58:53.32 ID:swKieuoN0
「ねぇ、第一位さまの能力って具体的にはどんななの?」
「ンなことぺらぺら喋るかアホ」
「じゃあ一人暮らしじゃないのね。どんな人と一緒に住んでるの?」
「お節介教師と科学者とクソガキ」
「頼むよ一方通行、俺と同じ講義のノート写させてくれ」
「ノートはとってねェよ。諦めて留年しろボケ……、オイ番外個体、このうっとォしい
野次馬どもをどうにかしろ、落ち着いて飯が食えねェ。オマエが連れてきたンだから責任とれ」
「ミサカが連れてきたんじゃないよ。みんなが勝手についてきちゃったの。
きひひ、第一位はオトコにもオンナにも大人気で羨ましいなー」

こうして、まずは番外個体のクラスメイトや友人が、彼女を伝って一方通行に親しげに
接触を持つようになった。
それからよく顔を合わせる同じゼミの数人もやたらと話かけてくる
。慣れないことだが、これも『日常』だ。受け入れていくべきものだろう。
一方通行はそう思っている。


「第一位とミサカちゃんって、付き合ってるんじゃないんだね。
てっきりそうなのかなーって思ってたよ」
「やめろ」「やめて」
「ハモってるよ二人とも…アヤシイ」
「だいたいこの白もやしにはすでにカワイイ最終信号が」
「よけいなこと言うンじゃねェよこのくそったれがァ…」
「らすと?なに?」
「え、まさか彼女?これは聞き捨てならないわ」

155 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 20:01:50.72 ID:swKieuoN0
前の席に座る男女がガタガタと椅子や机を鳴らして身を乗り出してきた。
その目は興奮と好奇心で輝いている。
当然だ。今まで謎のベール(笑)に包まれていた学園都市第一位の素顔が、
在籍三年目にしてようやく少しあらわになってきたのだ。
そこに、若い彼らが最も注目すべき恋愛話となれば、その食い付きっぷりは凄まじい。

(おォなンだよ急にコイツら!?もう目の色がさっきと違うじゃねェかよ。
クソガキ×6ってところだな…)

「教えて教えて、彼女なの?年上?年下?」
「ウチに通ってる娘なの?」

次々押し寄せる怒涛の質問。あまりの迫力に一方通行は後ろにのけぞった。
それでも伸ばしたフォークでステーキの最後の一切れを口にし、
そのまま勢いよくそれをテーブルに振り下ろした。

ゴォン!という音がして、学食中が何事かと異常の発信源を探る。
いつの間にか一方通行の電極がONになっている。振り下ろされたフォークは、
まるで粘土に突き刺したかのようにテーブルに埋まっていた。

「ちょっとあなた大人げないよ、どうすんのよこれ」
「やかましい、俺はもう帰る」

一方通行は乱暴に椅子から立って出口に向かった、と思ったら、
ツカツカと戻ってきて置き忘れた鞄を引っつかみ、今度こそ立ち去った。


「…びっくりしたー。すごいねこのフォーク」
「能力でやったんだよね?いったいどうなってんの?
なんでこの力でフォークが折れてないんだろ」
「おぉ、本当だすげぇ。見てみろよ、そのまんま下に突き抜けてるぜ」
「ミサカちゃんアレって照れ隠し?さすが第一位はやることぶっ飛んでるね」

一方通行言うところの野次馬たちは、驚いたものの平然といつもの『第一位談義』を始めた。
脅しを効かせたつもりの一方通行だったが、突き刺さったフォーク以外はその顔も雰囲気も、
あまりに普通の青年のものだったので効果は少なかったようだ。

「ミサカは知ってるんでしょ?第一位さまの彼女。教えてよー」
「えー、勝手に教えたら絶対怒るからなぁ…、ま、そのうち機会もあるんじゃない?
そのうちね」

156 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 20:08:17.69 ID:swKieuoN0
一方通行はそのままの早い足取りで、裏門から出て行こうとしていた。

(まったく性に合わねェ…、むかつく。とっとと帰って昼寝するか)

もうすぐ午後の講義が始まる時間だ。ここは利用者の少ない裏門近くだし人気はない。
しかし、きれいに刈り込まれた植木の陰から彼を呼び止める者がいた。

「あの、あの一方通行さん、待ってください!お話があるんですっ」

「……」(またかよ…)

最近一方通行を困らせている現象がこれだ。なぜだか急に告白されるようになったのだ。
彼を呼び止めた女性は、緊張を隠せない表情で、赤い頬で。
震える手を胸の前で握り合わせている。


告げられた告白の言葉は、前にも言われたことと良く似ているものだった。
どうも自分の見ためは、若い女性にはウケがいいらしい。そして学園都市において
第一位であることは十分に『憧れる』要素なのは無理もないことなのだろう。

一方通行はいつものように付き合う気がないと断り、がっくりと肩を落とす相手に
「すまねェな」と去り際に小さく呟いた。
相手は少し驚いた様子で潤んだ目を丸くすると、歩きだした彼に頭を下げて見送った。


(なンで急にこの俺がモテてるンだ?前よりよく学校に出てるからってだけじゃねェだろコレ。
打ち止めじゃねェが、たしかにこりゃ苦労するなァ…)

そもそも、まず告白なんてされることがなかった。
一方通行は変わったのだ。彼の表情も、雰囲気も。打ち止めに触れて抱きしめて、
愛しさを実感するたびに、周囲が近寄り難かった彼自身を変えて。
結果、人が集まってくるようになっていた。
当の本人はそれにまったく気づいてないが。

慣れ、というのもおかしい表現だが、告白されるたびに打ち止めの顔、声、感触を思い出す。
そうすると、緊張して一大決心を実行している相手に対して、無碍な態度はどうしてもとれない。「すまない」なんて言葉が自然と出てくるなんて自分でも驚きだ。
以前の彼ならば、こんな時には相手の話さえ最後まで聞かずに立ち去っていただろう。

打ち止めの顔が見たい。

そう強い欲求が湧きあがり、一方通行はますます足早に岐路についた。


157 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 20:10:33.44 ID:swKieuoN0
とりあえず以上です。
打ち止め登場しなくて自分欲求不満。

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/07/20(水) 21:13:52.79 ID:ixXApJrAo
こんなリア充なんてセロリたんじゃない!
ああああああセロリたんのコンデンスミルクぺろぺろしたいお!!!!
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/20(水) 21:48:37.78 ID:Dw5zb8X/o
20000号はお兄さんと一緒に良いところに行こうね。
はーい、こっちだよ。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)[sage]:2011/07/20(水) 22:27:51.09 ID:qn0v/d190
通行止めに需要が無いわけがない!!

>>160 モチツケ チョット ジブンノカオヲ カガミデミナガラ オナジセリフヲイッテミロ
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)[sage]:2011/07/20(水) 22:32:51.17 ID:qn0v/d190
通行止めに需要が無いわけがない!!

>>160 モチツケ チョット ジブンノカオヲ カガミデミナガラ オナジセリフヲイッテミロ
164 :岐路じゃねぇよ帰路だよ馬鹿[sage]:2011/07/20(水) 23:06:47.82 ID:swKieuoN0
>>160
まさかの20000号さん登場にテンションあがったので、もう一本投下。
165 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/20(水) 23:20:58.98 ID:swKieuoN0
「いってきまーす、ってミサカはミサカは元気にしゅっぱーつ!」
「走ンなクソガキ…」

今日は黄泉川愛穂も芳川桔梗も、一方通行と打ち止めより出勤が遅い。
一時限目の講義があるため、打ち止めと共に玄関を出る一方通行の二人を見送る保護者達。

「はいよ、いってらっしゃいじゃん二人とも。
昼までにメールくれれば夕飯のリクエストに応えられるからな」
「じゃあ煮込みハンバーグがいい、ってミサカはミサカは先手必勝!」
「あら、もう今日のメニューが決まったわね。いってらっしゃい、
一方通行、打ち止め。車に気をつけてね」

軽く手を挙げて「いってきます」の意を現わし、一方通行は少女と一緒にドアの向こうに消えた。

いつもの光景、いつもの日常。
しばらくしたら黄泉川も芳川も、普段通りに出掛けるはずだったのだが。

先にサイを投げたのは芳川だった。


「ねえ愛穂、あなた気づいているかしら?あの二人って…」
「お、やっぱり桔梗も感づいてたか?ちょっと前からおかしいと思ってたじゃん」
「ふふ、気づかないわけないでしょ。ずっと一緒にいるんですもの」
「まぁ、いずれはこうなると思ってたけどねー。でもなー」
「そうね、やっぱり私たちの立場から、言うだけ言っておかなければいけないわよね」


一方通行と同じ大学に通う人間にだって、彼が変わったことによって接触を図ってきているのだ。数年を一緒に過ごしてきた保護者達に、それが分からないはずはなかった。
別に二人の交際をどうこう言うつもりなど、黄泉川も芳川も微塵もない。
むしろ、いつかそうなるだろう、そうなってほしい、と歓迎する親の心境だ。

だが、親だからこそ、やっておかなければならないことがある。
それは、男親ではなく女親ならばなおさらのことだった。
166 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 23:25:11.02 ID:swKieuoN0
その夜、打ち止めのリクエストである煮込みハンバーグを
美味しく仲良く平らげた黄泉川家の四人。
一方通行はリビングで新聞を読んでいる。打ち止めは彼の傍でテレビを見ていた。
黄泉川と芳川は、じゃあそろそろ…、とキッチンで目配せを交わす。

「一方通行、打ち止め、二人ともちょっとこっちへいらっしゃい」

「、…」
「んー?なーに?ヨシカワ」

新聞を持つ一方通行の手がビクリと震えるのを、芳川は見逃さなかった。

「はいはい、ここに座るじゃん。おい一方通行、君も早く」
「………」

なんの疑問もなくキッチンテーブルの席に座る打ち止めと、できるだけゆっくり
新聞を閉じて、さらに四つ折りにまでして中々立ち上がろうともしない一方通行。
しかし彼の他三人は、すでに所定の位置についてシラー、っと冷ややかな視線を
送ってきている(打ち止め以外)
仕方なく、渋々と、面倒ォくせェな、といった様子で一方通行も席に座に着く。

打ち止めとその横に座る一方通行に向かい合っている黄泉川と芳川。
二人はもう一度目を合わせて頷き合う。
その様子を見てキョトンとアホ毛を揺らす少女と、忌々しげな表情を隠しきれない一方通行。
この男、分かっているのだ。今から保護者達に何を言われるのかを…
167 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 23:30:09.45 ID:swKieuoN0
「単刀直入に言うわ。君たち、付き合っているんでしょう?」

「…、え、え!ヨ、ヨシカワ…っ」
「なんだ打ち止め、私達が気づいてないと思ってたのか?悪いけどそこまで鈍くないじゃん」
「一方通行、君は分かっていたみたいね」
「うそ!本当!?」
「……まァな」

そう、一方通行は保護者達が自分達の関係に気づいていることを知っていた。
ただこんな風に四人で、対面切って話し合いの場を持たれるとは思っていなかったが。

「な、なんだそうなのー。ミサカだけ何も知らなかったんだね、ってミサカはミサカは
内緒にしてたわけじゃないけど、何だか恥ずかしくって…。ごめんね?ヨミカワ、ヨシカワ」
「謝ることないじゃん、打ち止め。別に悪いことなんてしてないんだから」
「そうよ。むしろ私も愛穂も、君たちがそういう風になってくれたことを嬉しく思っているのよ」

(なンだよこれは。めちゃくちゃ気まずい。ものすっげェイタタマレナイ…)

ほんわかな女性陣三人に対して、黒一点の一方通行の精神は過度のストレスに晒されている。
この耐えがたい空気から、一刻も早く抜け出したい。

「文句がねェンならもういいだろ。こんな茶番にこれ以上付き合ってられるか」

有無を言わさず席を立とうとする青年を、芳川の冷たい声が引きとめる。

「待ちなさい。本題はこれからよ」
168 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/20(水) 23:41:31.83 ID:swKieuoN0
これ以上なにを言うことがあるというのだ。
一方通行の顔がもう解放してくれ、とげんなりする。
まだ手を出すなと釘を刺されるのか?
(言われるまでもねェよクソ)
いつからそういう仲になったのか根掘り葉掘り訊かれるのか?
(言えるかそンなこと)
まさか責任取って結婚とか言い出したりしないだろうな?
(だからセキニン取るようなことシテねェンだよまだ)

様々な予想が一方通行の頭を駆け巡る。しかし保護者達から投げかけられた言葉は、
彼の予想の遥か上空をロケットでぶち抜いていくものだった。

いや、正確には言葉ではなくて、テーブルにそっと置かれた小さな箱なのだが。

「はい、これ」

黄泉川がそう言って、年若い一組のカップルの目の前に置いたもの。
一方通行の思考がフリーズする。別に演算は止められてない。
打ち止めは「これ何?」という表情でまじまじとその箱を観察している。


幸せ家族計画。

つまりそれは、ごくごく一般的な避妊具だった。
169 :しまった白一点だった[sage]:2011/07/20(水) 23:49:48.79 ID:swKieuoN0
予想外だ。まさかこんなスーパーストレートな方法でくるとは。
一方通行はテーブルに顔をどんどん近付けて、『ソレ』を手に取ろうとする打ち止めに
チョップをくらわす。彼女にそんなモノ見せるのはやめてほしい。
恥ずかしさと(まだしてないのに)罪悪感がこみ上げてくる。

「これだけはしっかりしておいてちょうだい。
君はなんだかその辺の意識が薄そうだから心配なのよね」
「まさか打ち止めに薬を飲ませるようなマネはしてないだろうな?」

一方通行は動けない。膝の上で両手が震えていた。打ち止めは「これ」とか
「その辺」とか「薬」の意味がいまいち分からなくて、三人の顔をキョロキョロと見回す。

「ちょっと聞いているの?打ち止めを泣かせるようなことにでもなったら」
「え!?ミサカが泣く?」
「あと時と場所はちゃんと考えてするじゃん。
恥ずかしい思いをするのは打ち止めなんだから」
「恥ずかしいの?ミサカが?」

だからはい、ちゃんと使うのよ、とわざわざ立ち上がった芳川によって
ソレを握らされた一方通行。

ついに限界を迎えた青年は、神速でチョーカーのスイッチを切り替える。
170 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 00:17:50.32 ID:unqWomsn0
耳をつん裂くような破裂音と風圧によって、軽い家具は揺れて、花瓶やコップが倒れる。
女性陣三人の髪は大きく乱れてはためいた。

一方通行の手の中には僅かに粉微塵とかしたアレの破片が残るのみ。
俯いて肩で息する青年に、黄泉川と芳川は少しも動じていない。

「ちょっと何すんの、せっかく買ってきたのにもったいないじゃん」
「急に大きな音出さないでちょうだい。びっくりしたわ」

(あァァー!!なンなンだよコイツらは一体ィィ!?どンな話されるかと思ったら
コレはねェだろ!打ち止めがこンな風に育ったのも絶対コイツらのせいだ!間違いねェ!)

「恥ずかしいかもしれないけど、私達の心配も分かって」
「…るせェ…だよ」
「ん?」

「うるせェ!ってンだよ!いらねェよこンなモン!もう用意してあるわボケ!
この行き遅れどもちょっとは包み隠して言えねェのかァァァ!!」

一方通行はドアをけり破るように出て行った。その白い顔は、赤く染まっていた。

残された三人は顔を見合す。
黄泉川と芳川は、今日何度めになるだろうか、うん、と頷き合う。

「まだしてなかったみたいね…」
「あちゃー、悪いことしちゃったじゃん」
「でもまぁこれで安易な行動は慎んでくれるでしょう。
結果的には良かったんじゃないかしら?」

「あのあの、ミサカは何がどうしてこうなったのかよく分らないんだけど、って
さっきあの人が吹き飛ばしちゃった箱はなんなの?」

ひとり事態についていけない打ち止め。
さきほどの箱の中身の正体を保護者達から詳細に教えられた少女の焦る悲鳴は、
部屋でベッドにうずくまる一方通行の耳にもしっかり届いた。
171 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 00:24:34.50 ID:unqWomsn0
黄泉川先生と芳川さんにバレてるの巻 完

いちゃいちゃじゃなくてごめんね!
さりげにアレを用意してある一方さん紳士ですね。
そしてこの一方さんは、やっと能力使ったと思ったら照れ隠しでフォークをぶッ刺したり、
近藤さんを消し飛ばしたり。あまりにがっかりな使用方法でした…
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/07/21(木) 00:37:21.62 ID:Jg+rwTwso
わろたwwwwww
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]:2011/07/21(木) 00:42:00.81 ID:yZYxRQtAO
一方通行さんテラ紳士wwwwwwww
さすが童帝だなwwwwwwww
179 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/21(木) 20:15:01.99 ID:w6D7QS/H0
その日は朝から凄まじい暑さだった。ニュースは各地で今年の最高気温を更新したこと、
熱中症への注意をひっきりなしに伝えている。
一方通行は今日大学を自主休講して、涼しい室内で昼寝を楽しんでいた。
休講の理由はもちろん「暑いから」だ。羨ましいかぎりであるこのやろう。

同居人たちはもちろん普段通りに出掛けていて、今このマンションには彼一人きりだ。
非常に落ち着く…

黄泉川と芳川に「幸せ家族計画」を渡されて羞恥の極みを味わってから数日、
あまりの気まずさにロクに打ち止めに触れることができなかった。
あれ以来キスもしてない。
保護者達は「え、そんなことあったっけ」というように、今までと同じ態度で暮らしている。
そこはさすがに大人の女性だ、空気を読んでいる。
というか多分本当に何とも思ってないのだろう。
心配していた打ち止めも、露骨に彼を避けるようなことはしなかった。
次の日にちょっと顔を赤くして、照れ笑いを浮かべていただけだ。
(心底ほっとした)
180 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 20:18:24.55 ID:w6D7QS/H0
むしろ一方通行だけが普通でいられないのだ。

(なンでもう俺と打ち止めがやってる前提だったンだよ、しかも生で。
そンなに信用ねェのか?よく考えると失礼すぎるぞオイ。
さらにあンなモン渡してきて気をつけてヤレと言ってくるなンて、どォいう神経してンだ。
打ち止めも別に大して気にしてる様子がねェしよォ…、オンナってすげェな)

こんなことをどうしても考えてしまうので、特に黄泉川と芳川が家に居るときは
なんとも居心地が悪かった。一方通行だって表面上は普通にしているが、
内心は頭を抱えてゴロゴロと悶えている。
数日経って、ようやく少し落ち着いてきたが、こうして一人でいるときの方が
精神的に楽だと感じる。平常に戻れる気がしない。

(大体まだやってねェのがバレたのが痛い。
まァもうやってました、って思われたままでも痛いンだが)

というわけで、自ら打ち止めと距離を置いて数日、そろそろ…

「あーァ…」

欲求不満である。

181 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 20:21:24.50 ID:w6D7QS/H0
その夜、暗くなっても気温は僅かしか下がらなかった。
打ち止めは風呂から上がった後、火照る体を冷やしながら部屋で寝る支度を整えていた。
四人で話し合い?の場が持たれてからは、彼の部屋を訪れるのを控えている。
一方通行が気まずそうにしているのを分かっていたからだ。

(別にミサカはヨミカワとヨシカワにバレたってかまわないのになぁ。
二人ともミサカたちのこと「嬉しい」って言ってくれてたし。気にすることないのに)

まあ、彼は自分より年上だし、何より男だし、色々考え方が違うのだろう、と思う。
打ち止めは美容液の入った小瓶を手に取り、目元にちょんちょんとつける。
授業参観の日に、彼に買ってもらったものだ。もう中身は半分以下になっている。

(濃厚な一日だったな、ってミサカはミサカはあの日を思い出してみたり。
初めてちゅーして、あの人がミサカのおっぱいを揉んだり首や耳をナメナメしたり。
それに比べて今のこの状況は一体どういうことなの?もう四日もキスしてない…)

つまるところ彼女も

「はぁ~つまんない、さみしーよーあなたー」

欲求不満である。

182 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/21(木) 20:25:07.00 ID:w6D7QS/H0
その時、床を見つめる打ち止めの視界の隅を小さな黒い物体が横切った。
足を宙に浮かせたまま、びくりと体を震わせる少女。
それはすべての乙女の天敵、黒い彗星、恐怖の象徴である。

打ち止めはゆっくりゆっくり立ち上がり、少しの物音も出さないように
すり足でドアに近づき、またゆっくりと扉を開けて部屋を出た。


一方通行はすでにベッドに横になっている。明かりを消しているがまだ眠ってはいない。
大体昼間に惰眠をむさぼったので全然眠くない。
明日は暑くても大学へ行くか…、そうぼんやりと思っていた時、打ち止めが部屋を訪ねてきた。

「あなた、もう寝ちゃった?」

一気に心が跳ねる。彼女が自分の部屋にやってきた、夜中に。

「いや、まだ起きてる。どォした」
「た、助けてぇ…」

ドアの向こうから打ち止めの泣きそうな声が聞こえて、何事かと急いで起き上がる。
打ち止めは両手を胸の前で組み合わせて縮こまり、実際に目に涙を浮かべていた。

「あれが出たのぉミサカの部屋に早く早くお願い…っ」

一気に力が抜けた一方通行。

しかし彼女は本気で脅えている。とりあえずなんとかしてやらねばなるまい。
打ち止めに手を引かれるまま、彼女の部屋へ向かう。ドアを開けて中を確認しても、
例の黒い昆虫は見当たらない。
183 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 20:28:19.29 ID:w6D7QS/H0
「いねェぞ?どの辺だ?」
「そんなハズないもん、絶対見たもん。まだここにいるよ、って
ミサカはミサカは恐る恐る覗きこ」

打ち止めの周りにバチバチと電気が発生した。
恐怖の象徴が彼女の目の前を彗星よろしく羽ばたいて飛んだからだ。
悲鳴を上げることさえできず反射的に放った電撃は、焦っていたこともあり弱いものだった。
しかし例の昆虫を仕留めるのには充分だったし、
エアコンからぷすぷすと黒い煙を出させるのにも充分だった。

「あー…、やっちまったなァ」
「…どうしよう」

今日は熱帯夜だ。エアコンなしでは正直辛い。
打ち止めの部屋は大きくもない出窓が一つしかないので、
それを開けたって大して涼は得られないだろう。大体危ないから窓は開けて寝るなと、
一方通行と保護者達にきつく言われている。

今日は熱帯夜だ。

「…」
「…」

「暑いな…。オマエ、こっちに来るか?」
「うん…。そうしようかな」

別にエアコンは黄泉川の部屋にも芳川の部屋にも、リビングにだってある。
布団さえ持っていけばどこでだって寝られる。
しかしその選択肢はあえて言葉に出さなかった。

野暮は言うまい。二人は、欲求不満なのだ。

184 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 20:42:09.31 ID:w6D7QS/H0
一方通行の部屋は暗いままだった。急いで出たので明かりを点ける間もなかっのだ。
彼の後ろについてきた打ち止めは、
暗い部屋に浮かび上がる青年の白い背中を見るともなしに見てしまう。

「ね、なんで服着てないの?」
「ン?暑かったからなァ…」

一方通行は電灯のスイッチを押そうとして…(まァいいか)
代わりにベッドサイドの簡易照明を点けた。部屋が微かにオレンジ色に染まる。
何か上に着ようかと思いクローゼットに手をかけて…(まァいいか)
そのままベッドにドスンと腰掛けた。
そんな彼の行動をいちいち見守っていた打ち止めも隣に座る。

「あなたの部屋に来るのなんだか久しぶりだね」
(暗いのは初めてだなぁ)

「そうだな。正直黄泉川と芳川のせいでオマエと話しづらかったけどよ」
(四日ぶりだ。オマエが俺の部屋に来るのは)

「やっぱり気にしてたのね、ってミサカはミサカは恥ずかしがり屋さんなあなたを
可笑しく思ってみたり。二人とも別にダメなんて言ってないのに」
「気にするなってのが無理な話だろ普通…。オマエはよく平気でいられるよなァ」

打ち止めの笑顔が薄暗い部屋に浮かんでいる。
しかし彼女はそのまま一方通行の肩にもたれ掛かってきたので、
彼からはその表情はすぐ見えなくなった。でもまだ笑っているのは分かる。

「あーやっとあなたにくっつけた、ってミサカはミサカはけっこう我慢してたんだよ?」
「やばいこと言うなよ、クソガキ」
「あなたも?」
「まァな…」
「お、珍しく正直者ですなー、ってミサカはミサカは感心しちゃう」

一方通行も小さく笑う。
右手を打ち止めの腰に回し、こちらに顔を向けた彼女にキスをした。
185 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 20:45:56.86 ID:w6D7QS/H0
彼の舌を迎え入れるのにもだいぶ慣れた。
ときにはこちらからも差し入れて、一方通行の歯や頬の内側を舐める。
負けんと彼の舌を押し返す。息継ぎも上手になった。

糸を引かせながら唇が離れ、そのかわり二人はお互いの背中に腕を回してきつく抱きしめ合った。
走りこんだ後の水が美味しいように、疲れ切った後の睡眠が心地いいように、
我慢を重ねた後の触れ合いは、二人に今までの接触よりも大きな幸福感をもたらした。

もっと、実感したい。

「触って、いいか?」

「いいよ…」

自分よりもさらに細い打ち止めの体は、抱きしめても腕に大きく余裕が残る。
背中に回した左手で、そのまま彼女の脇腹に這わせてからゆっくり胸まで登らせた。
いつかのような柔らかさを期待していたのに、
少女が夜も着用するようになったブラジャーが邪魔をする。

「…これ取っていいか?」
「………」

(まさか、だめなンて言うなよ…)

「今日は、脱がしてもいいよ、く、暗いし…、ってミサカはミサカは
恥ずかしいけど勇気を出して大サービス」
「なンだよ、大胆じゃねェの」

軽口を叩いているが、一方通行の心は今、かつてないほどの期待と興奮で踊っている。
まさに黒い彗星さまさまであった。
186 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 20:49:39.75 ID:w6D7QS/H0
きちんと留められたパジャマのボタンを上から外し、するりと腕を通らせて床に落とす。
今日は白いレースの刺繍柄だった。暗い部屋ではよく映える。
背中のホックを外そうと手を伸ばすが、それらしいものが発見できない。

「あ、これ前についてるの」
「へェ、…いい。俺がやる」

打ち止めが自分ではずそうと胸元に持ってきた手を押しとどめて、
さっさと両手でフロントホックを外す。自然と喉が鳴る。

肩のストラップを掴んで、これも腕を通させて床に放り投げた。
現われた白い双丘をまじまじと見る。
打ち止めは暗い部屋でも分かりすぎるほど顔を真っ赤にさせて壁に視線をやる。
恥ずかしくて、彼も自分の体も見ることができない。

一方通行は打ち止めの肩を掴んで、ゆっくりとベッドへ押し倒す。
彼女からの抵抗はない。
裸を隠したいのを我慢して力の込められた細い腕が、
長い髪と同じようにシーツの上に広がった。
一方通行は打ち止めの腿の上にまたがり、両手で胸を下からすくうようにして寄せあげる。
仰向けになっているのに右と左の乳房に谷間ができて、両者が触れ合った。

(ほンとにでっかくなったよなァ…)
187 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 21:05:39.45 ID:w6D7QS/H0
柔らかな感触を楽しみ、片方の手で脇腹、鎖骨、首、臍の周りを撫でまわした。
滑らかな感触だったが、やがてしっとりと汗ばんで摩擦をより強くする。
打ち止めはぎゅっと目を閉じたままだ。手から彼女の早すぎる心臓の鼓動が伝わってくる。
自分の鼓動も激しい。

肌をまさぐりながら、彼女に覆いかぶさりキスをする。
二人とも自然と息が上がっていたので大きく息継ぎをしながら。
彼女の吐息に微かに声が混ざってきた。自分も出しているような気がする。

そのまま打ち止めの唇から、顎、首へと舌を滑らせた。
柔らかい胸は吸い上げれば口内に含むことができた。どうせ服を着れば見えない場所だ。
遠慮なく赤い痕をつける。
両手で乳房を揉みながら頂上の突起に噛みついた。

「ん!いっ」
「悪ィ、痛かったか?」
「ちが、大丈夫」
「そォかきもちいいか」
「っ、もう、あ、うぅ」

もっともっと声を出させようと、一方通行は打ち止めの反応を確認しつつ、
一番効果的な触り方、舐め方、噛み方を模索していく。
彼の熱い息を吹きかけられながら翻弄される少女。

ちょっと余裕がほしくて自分の胸の上で蠢く一方通行の頭を抱える。
彼女の意志を理解できないのか、分かっていて無視しているのか、
彼の愛撫は止むことはなかった。
188 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 21:17:13.79 ID:w6D7QS/H0
打ち止めの可愛い鳴き声がだんだんと大きく、絶え間なくなってきたころ、

(もう今日はこのまま終わりまでいくか。鞄の中に隠してある『アレ』もあるしな…)

そう彼が思い至ったとき、ふと忘れていた出来事がよみがえる。


『はい、これ』
『これだけはしっかりしておいてちょうだい』
『時と場所は考えてするじゃん』
『ちゃんと使うのよ?』

忌々しい、保護者達の声と姿が、否応なく思い出される。

あの二人がもう寝ているかは分からない。
大体壊れたエアコンを見て、打ち止めがどこで寝たのか疑問に思わないわけがないだろう。

(…………)

見下ろせば、涙を浮かべて、荒い息を吐いて、
赤い痕がたくさんついた胸をおおきく上下させる組み敷いた少女。

自分の限界も近い。……シたい。


「あー!クソっ!!」

一方通行は(保護者達の部屋には聞こえない程度の)大声で悪態をつく。
心底嫌そうに、大仰そうにチョーカーのスイッチを切り替えた。

ボスっと打ち止めの横のシーツに顔を埋めながら、非常に不本意だがその能力を行使する。
血流、脳内分泌物そのた諸々、ベクトル操作ベクトル操作…
打ち止めは急に大声を出して情事を止めてしまった彼に驚いて起きようとするも
その体で圧迫されているので動けない。
彼が能力を使っているのは分かるが、何をしているかまでは見当がつかなかった。

数十秒後、むくりと体を打ち止めの上からどかした哀れな青年。
はぁー、と大きく溜息を吐いた。無理やり衝動を抑えつけることに成功したのだ。

(成功と言っていいのかこれは…ちくしょォ…)
189 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/21(木) 21:32:58.35 ID:w6D7QS/H0
「どうしたの、ってミサカはミサカは急に止めちゃったあなたに疑問のまなざし」
「…、すっっげェ不本意だが、今ベクトル操作で我慢したところだ」
「なんで?」
「あの二人がまだ起きてるかもしンねェし…、今日は、な」

打ち止めはほっとしたような、ちょっと残念なような複雑な表情を浮かべた。
シーツで裸を隠しながら自分も身を起こす。

「そっか、ってミサカはミサカは、なーんだ。ほっとしたなぁ…」

手櫛で乱れた髪を整え、自分のパジャマはどこだろうとベッドの下を覗き込んだ。
ところが、伸ばされた白い腕に強引にシーツをはぎ取られ、
すぐまた先程とおなじように押し倒された。

「安心しろ。俺は我慢するがオマエはしなくてイイぞ」
「え!?やめるんでしょ!?しないんでしょ!?」
「あァしねェよ。でもオマエなァ…、あンながっかりした顔しやがって。
そンなに期待してたのにイケねェわヤらないわじゃ辛いだろォが」

一方通行は打ち止めの足首あたりのパジャマズボンを掴むと、
ぐいと引き下ろしてあっという間に脱がせてしまった。

「!や、いきなり脱がすのはダメだって」
「大丈夫だよ、これ以上は脱がさねェから」
190 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/21(木) 21:40:50.92 ID:w6D7QS/H0
これも白いレースの刺繍柄のショーツの中にそっと手を忍ばせる。
少女はいつかのように暴れたりはしなかった。演算も止めたりしない。

期待…しているのだろうか。

指を少し埋めれば、そこはもうぬるぬると潤っている。
細かく動かして全体に潤滑がいき渡るように塗りこんだ。

「すげェなこれ…、おい、どう触ってほしい?どこがイイ?」
「~~!あ!ちょ、ヒ!?」

そんな恥ずかしいこと答えられない。


数十分後、力なくぐったりと自分に体を預ける打ち止めを抱きしめて、
第一位は安らかな眠りについた。




200 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/23(土) 00:00:16.18 ID:x1SjRprD0
腕の中に抱いた少女が身動きしたため、眠りが浅かった一方通行は目を覚ました。
打ち止めも目を覚ましたのかと思ったが、すやすやと気持よさそうな寝息が聞こえ、
彼女が起きないようにそっと腕をほどく。
結局ショーツも脱がしたので、打ち止めはすっぽんぽんだった。

つまりは今、見放題である。

早朝の光がカーテンを透かしてくるので、昨夜と違って
彼女の体を視覚的にしっかり堪能できる。
二人一緒に被っていたシーツをするすると引っ張った。見えた…が、
打ち止めは右脇腹を下にして縮こまるようにしているので、
よりによって特に見たい所が隠れている。
起きませんように…、と祈りつつ肩と腰を掴んで少女の体を仰向かせた。

(おォ、まったく起きる気配がねェな。
無理もないか、昨日のあれで大分疲れてンだろうなァ…)

白いけど血色の良いキメ細かい肌。そのいたる所に昨夜つけた赤い痕がちらばっている。
特に念入りに愛撫した胸がひどい。いや、良い。
昨夜、結局自分を発散させることは見送ったが、替わりに指と舌でこの体を思う存分慈しんだ。
自分の腕や肩に爪を立てながら体を震わせて、未知の感覚に翻弄される少女の様は
彼の男としての矜持を大いに満足させた。

昨夜とは違う、ただ優しく、優しく打ち止めの体を撫でる。
滲んだ涙の跡を舐めてキスしながら。

「あ…」

さすがに打ち止めの意識が覚醒してきたようだ。一方通行は素早くシーツを彼女の体に掛ける。
201 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/23(土) 00:06:21.86 ID:x1SjRprD0
「ん、あなた…?あれ?」
「よォ、おはよォさン」

もぞもぞ動いていた打ち止めだったが、一方通行の赤い瞳と目を合わせているうちに
、記憶が甦ってきたらしい。どこまでいくんだ?とばかりに顔や首を真っ赤に染めて行く。

「うっわぁ~…、ちょっとこれはさすがのミサカも恥ずかしさで死にそう…、って
ミサカはミサカは隠れたくて、あ!?」

全身をシーツの中に隠そうとしていた打ち止めだったが、驚きの声を上げたとたんに飛び起き、
ベッドの上をよじよじと壁際いっぱいまで移動して、一方通行から距離を取る。
さっき舐め取ったばかりの目元にまた涙が浮かんできていた。

「やぁぁ~ミサカなんでパンツ履いてないの?なんで裸なの?やだぁ~ぁ~」
「覚えてねェのか?汚れそうだったから、オマエの了解とってから脱がせたンだけど」
「…そういえばそう言われたような…?」
「あと安心しろよ。まだちゃンと処女だからな。血も出てなかったし」
「しょっ!?」

打ち止めが目を白黒させて大声を出す前に、青年がシーツごと彼女を抱きかかえて黙らせた。

「大声出すなって。何のために俺が昨日我慢したと思ってンだよ…」
「うぅ、だってあなたがそんな恥ずかしいこと言うから」
「いや、大事なことだと思って言ったンだが」
「確かに大事だけど…、もう少し言い方があると思う、ってミサカはミサカは
あなたのデリカシーレベルが相変わらずなのを嘆いてみる。えっと…」

打ち止めがシーツの裏から彼の拘束を解こうと、手で一方通行の胸を押す。
彼は逆らわずに離してやった。

「あの、ミサカのパジャマどこ?着たいんだけど…、ちょっとあっち向いててほしいな」
「はァ?今更だな」
「いいでしょっ。大体今は明るいし、恥ずかしいものは恥ずかしいの!って
ミサカはミサカは言うこときいてくれないと怒っちゃうからね」
「……」

さっきしっかりと裸を目に焼き付けたことは黙っておこう。バレなくてよかったぜ。
そう思って素直に背を向ける一方通行だった。

202 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/23(土) 00:10:40.53 ID:x1SjRprD0
さて、嵐のような一夜からまた数日。
二人に次のチャンスが訪れたかというと、そうでもない。
打ち止めも、まさかあんな声が出てしまうような行為だと実感すると、家では遂行し辛いなぁ、
と思うようになった。別にやましいことをしていなくても、
彼の部屋で二人っきりで過ごすだけでソワソワしてしまう。
一方通行にしてみればようやく俺の気持ちが分かったか、という思いである。
分かったからといって、何の解決にもならないのだが。

(それに外で会ってても、やけに人目を引いちまうし。
イマイチどこにも二人で落ち着く場所がねェンだよなァ…)

とりあえず、もう少し落ち着ける空間が、場所が、時間が欲しい。
打ち止めと二人で過ごせる方法を、何か…


……



そうだ、車を買おう。


(そうだよ、そうだ。足があれば遠出だって気楽に出来るし、
バスや電車での移動中のことを思えば、その時間も有効活用できるじゃねェか。
大体この家は俺の大学も打ち止めの中学も近すぎるンだよな。
俺たちの面があまり割れてない学区に行けるのはイイな…)
203 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/23(土) 00:15:59.99 ID:x1SjRprD0
というわけで、とある休日。

「おい打ち止め、車買いに行くからオマエも来い」
「え?」
「なんだ?一方通行車買うのか?」
「あら、急にどうしたの」

なんだどうした、車?えー私も行く。何買うか決めてるの?外車?
デカイのがいいじゃん!私もついていっていいわよね?

なぜか黄泉川愛穂と芳川桔梗の二人が盛り上がっている。
あれよあれよという間に、四人は仲良く車屋さンの玄関をくぐることとなった。

学園都市に海外ディーラーはあまり出店できないため、あらゆるメーカーを
代理で一手に取り扱う業者がある。
外で所有していた車を持ち込む方が割安なので
、あまり需要がないからか店舗数は片手より少ない。

店構えは立派だが今日も閑古鳥が鳴くその店に、
騒がしい四人組が来店したのはちょうどお昼頃だった。

さあこれから昼飯にしようかな、と考えていた男性営業マン。
自動ドアの開閉音に向かって、顔は笑って心で舌打ち。

「いらっしゃいませー」
(……。変なお客だな…。緑のジャージとTシャツジーパンの女二人?
ウチに来るタイプとは思えないけど?後ろの子供二人は…、どちらかの娘?息子?
んなわけないよな。兄妹か?)

「えー、どのようなお車をお探しでしょうか?」

とりあえず黄泉川に的しぼって話しかける営業マン。

「ん?あぁ、買うのは私じゃないじゃん。
おい一方通行、あんた何買うか決めてきたのか?」
「一応な…」

「、失礼しました。こちらにカタログ一覧がございますので、どうぞ…」
(エー、こんな子供が?いや、この街はたしかに子供でも能力者ならお金があるって
知ってるけど!でもうちの主力商品下から三百万だよ!?マジで!?)

「えーと、なンだっけ」
「どれにするのー?ってミサカはミサカは興味津津!」

(あ、あの二人恋人同士か畜生。じゃあこっちのジャージとジーパンは何なの?)

ショールームの中央にズラリと並べられたカタログたち
。分かりやすいように国別で区切られている。フランスのスペースの前で
しばし考え込む一方通行。その彼の周りを、打ち止めがちょろちょろとまとわりついている。

「ちょっと静かにしてろォ、今探して…、お、これだ。確か」

そう言って青年が手に取ったカタログのページを見て、営業マンの営業スマイルが固まった。

216 :ブラジャーの人2011/07/24(日) 02:17:51.44 ID:iOjZLLBq0
というわけで、とある休日。

「おい打ち止め、車買いに行くからオマエも来い」
「え?」
「なんだ?一方通行車買うのか?」
「あら、急にどうしたの」

なんだどうした、車?えー私も行く。何買うか決めてるの?外車?
デカイのがいいじゃん!私もついていっていいわよね?

なぜか黄泉川愛穂と芳川桔梗の二人が盛り上がっている。
あれよあれよという間に、四人は仲良く車屋さンの玄関をくぐることとなった。

学園都市に海外ディーラーはあまり出店できないため、あらゆるメーカーを
代理で一手に取り扱う業者がある。
外で所有していた車を持ち込む方が割安なので
、あまり需要がないからか店舗数は片手より少ない。

店構えは立派だが今日も閑古鳥が鳴くその店に、
騒がしい四人組が来店したのはちょうどお昼頃だった。

さあこれから昼飯にしようかな、と考えていた男性営業マン。
自動ドアの開閉音に向かって、顔で笑って心で舌打ち。

「いらっしゃいませー」
(……。変なお客だな…。緑のジャージとTシャツジーパンの女二人?
ウチに来るタイプとは思えないけど?後ろの子供二人は…、どちらかの娘?息子?
んなわけないよな。兄妹か?)

「えー、どのようなお車をお探しでしょうか?」

とりあえず黄泉川に的しぼって話しかける営業マン。

「ん?あぁ、買うのは私じゃないじゃん。
おい一方通行、あんた何買うか決めてきたのか?」
「一応な…」

「、失礼しました。こちらにカタログ一覧がございますので、どうぞ…」
(エー、こんな子供が?いや、この街はたしかに子供でも能力者ならお金があるって
知ってるけど!でもうちの主力商品下から三百万だよ!?マジで!?)

「えーと、なンだっけ」
「どれにするのー?ってミサカはミサカは興味津津!」

(あ、あの二人恋人同士か畜生。じゃあこっちのジャージとジーパンは何なの?)

ショールームの中央にズラリと並べられたカタログたち
。分かりやすいように国別で区切られている。ドイツのスペースの前で
しばし考え込む一方通行。その彼の周りを、打ち止めがちょろちょろとまとわりついている。

「ちょっと静かにしてろォ、今探して…、お、これだ。確か」

そう言って青年が手に取ったカタログのページを見て、営業マンの営業スマイルが固まった。

ポルシェ 977 カレラS  3600CC 7速PDK 総額約1400万円

「どォだ?」
「わー!カッコイイね!スポーツカーだよね、ってミサカはミサカはワクワクしてみたり!」

打ち止めの嬉しそうな賛辞を受けて、一方通行は満足そうに頷き営業マンに向き直った。

「コレくれ」
217 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/24(日) 02:20:26.48 ID:iOjZLLBq0
その直後、営業マンが何か答える前にジャージとジーパンが割り込んでくるではないか。
ずいずいと一方通行に迫って、打ち止めはサンドイッチ状態になってしまった。

「ぎゅっ、ってミサ」
「えーこれ!?2ドアじゃん!」
「ほぼ二人乗りじゃないの。他のにしなさいよ」
「な、なンだよオマエら…。どれだっていいだろォ別に」
「よくないわ」
「よくないじゃん」
「くるし…」

打ち止めを具にしたまま、保護者達の熱弁は続く。
一方通行はカタログが鎮座した棚に背中をつけて困惑の表情を浮かべるしかない。
ちなみに営業マンは安全地帯へ避難中だ。

「あのね一方通行、車を買うっていうのはね?家族の一大イベントなのよ?
全員の意見をすり合わせて相応しい車種を選ぶのがあるべき姿なの」
「あんたはただ打ち止めとドライブできりゃいいなんて思ってるかもしんないけど、
私達だってたまには乗せてほしいじゃんよ。せめて4ドア!五人乗り!」

実は一方通行は、わざわざ黄泉川と芳川がついてきたのは、
自分の下心を見透かした上での牽制かと勘繰っていた。しかし実際は何のことはない。
この二人、単に自分達の好みの車を彼に買わせようとしてついてきたのだ。
218 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/24(日) 02:23:39.16 ID:iOjZLLBq0
それをようやく理解した一方通行。呆れてぽかんと口を開けていたが、
もぞもぞと助けを求める少女を脇に脱出させてから反論を試みた。

「オ、っマエら、何で一緒に来たのかと思えばそれが目的かよォ!図々しいぞマジで!
俺が何買おうが勝手だろうが。絶対コレにするからな!聞かねェからな!」

それでも二人の要求は止まらない。ますます声高に叫んで棚がグラグラ揺れるほど
彼に詰め寄っていく。何事かと、整備場から奥の事務所から店員達が集まってくる始末だ。
ついに面倒くさいゲージが限界を超えた一方通行も叫ぶ。

「あーもォうるせェよ!分かったもういい!買えばいいンだろォが買えばァ!
オマエらにも買ってやる、何でもいいから選べ!ただしっ、一台だけだからなァ!!」

その白い髪を逆立てんばかりの怒声に周囲がどよめくが、
黄泉川と芳川は年甲斐もなく大はしゃぎである。

「やったー!さすが第一位じゃん!細いけど太っ腹!」
「嬉しいわ、何にしようかしら…。大丈夫よ、五百万以下のにするから」

二人は青年の頭をぐりんぐりんと撫で回し、あーでもないこーでもないと
カタログを開き始める。終戦の気配を読み取った営業マンが
げっそりした一方通行に近寄ってきた。

「あの、こちらがオススメのオプションを含めたお見積りでございますが…」
「あァ…、もうこれでいいわ。さっさと契約したいンだが」
「っ、ありがとうございます。少々お待ちください。お支払いの方法はどうされますか?」
「車ってカード使えンのか?」
「!?だ、大丈夫です!」
(ブラック…!さっきの第一位ってやっぱり聞き間違いじゃないんだ!)

「じゃあ、あそこのうるせェ女どもに預けとく。アイツらが選んだ車と一緒に払うから。
あと、出来るだけ早く用意してくれ」

そう言い残し、酸欠気味の少女を支えながら青年は、
いつの間にか傍に控えていた店長以下数名に見送られて去っていった。
219 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/24(日) 02:25:53.08 ID:iOjZLLBq0
ところで当然だが、一方通行はまだ自動車運転免許証を持っていない。
持ってないんだったら教習所に通って取得すればいいのだが、そこは彼の十八番、
面倒くせェ…である。
しかし、どんな人だって面倒くさいのを我慢して取っているのだ。
如何に彼が第一位だからって、無免許で車を運転するのは良くない。
運転は知識だけじゃない、経験が最も大切なのだ。やはり真面目に教習所に通うべきだろうが、

「って仕上は仕上は思ってみたり」
「ミサカのまねっこ?ってミサカはミサカはちょっぴりショック」
「うぜェこと言ってンじゃねェよ殴るぞ」
「え!?ミサカうざい!?」
「オマエはいいンだよ」
「よくねぇよ。同じセリフでこの扱いの差は何なんだよ。
つーかいきなり運転教えろってお前が頼んできたクセにあんまりじゃね?」

ある日、浜面仕上は第一位・一方通行に呼び出され、とある公園駐車場にやってきた。
何事かと思えば、いきなり「車買ったから運転教えやがれ」とお願いされたわけである。
しかし一方通行は無免許なのだ。昔ならいざ知らず、
今そんな危ないことには関わりたくない。だって来年には

「人聞き悪ィなこの野郎。ちゃんと特別許可は出させてあンだよ。
学園都市内なら免許がなくても大丈夫、ってやつをよォ」
「はぁ?そんなの聞いたことねぇぞ。どこで取れるんだ?」
「どこでも取れねェと思うぞ。前例は無いそォだ」
「………第一位、恐ろしい子…っ」
「なンか久しぶりに誰かを思いっきり投げ飛したくなってきましたァ。星にしてやろうか」
「落ち着けよ。大体車買ったって、どこにあんだよ」
「もうすぐここに届けられるんだよって、って…、ほらあなた来たよ!」

220 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/24(日) 02:30:08.74 ID:iOjZLLBq0
積載車に乗せられて、銀色のボディを鈍く光らせたポルシェ977カレラSが
駐車場に入ってきた。なぜかすぐ後ろを一台のセダンがつけてきている。
三人の目の前でやかましいモーター音を鳴らしながら、
ゆっくりとポルシェが地面に下ろされた。

上品なスーツに身を包んだ中年男性がセダンから降りてきて、
うやうやしく一方通行の前でおじぎする。

「お待たせしました、一方通行様。ようやくお届けに上がることができました。
こちらがメインキーでございます。どうぞ」
「おォ、ごくろうさン」

浜面はポルシェとその光景を交互に見ている。

(えー…、ちょっと前に一方通行が、「車って何がいいンだ?」って聞いてくるから
ポルシェって答えたんだよな俺。んで、やけに細かくグレードとか質問してきて、
カレラSぐらいがいいんじゃね?って答えたんだよな俺。)

……

(なんだよ、あん時俺がそう言ったから本当に買っちまったのかよ…。
あ、やべぇ。一方通行がちょっとかわいい…)

にやにやと自分を見ている浜面に気づき、一方通行がギロリと睨み返した。

「なァに気色悪い顔してンだよ。やっぱり彗星になりたいンだな?」
「何でもねぇって。やけに車のこと聞いてきたと思ったら、こういうことかよ。
でもあれから二週間くらいしか経ってないよな?これ新車だろ、
よくこんなに早く納車できたな」
「なンか国内の在庫を搬入するより早いからって、店長がドイツに飛ンだらしい。
それで一緒に船で帰ってきたンだとよ」

浜面は中年スーツの胸のネームプレートを見る、そこには店長の文字。

「店長ぉ…!お互い苦労しますねレベル5には…っ」

浜面は、戦場を共にくぐり抜けた兵士のような顔で店長の手を握り、
うんうんと頷きながら握手を続けた。
その頭を、一方通行の杖で殴られるまで。
221 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/24(日) 02:33:16.38 ID:iOjZLLBq0
苦笑いの店長を見送ったあと、残された三人は早速ピッカピッカのボディに乗り込んだ。
しかし

「えー、ミサカは乗っちゃダメなの?ここで待てなの?ハマヅラはいいのに?ずるーい」
「ばかやろォ、俺は今日初めて運転すンだぞ。万が一のことがあったら危ねェだろうが」
「そうだぜ、打ち止め。それにポルシェのリアシートなんてただの飾りだ。
狭くってお前でもとても乗れたもんじゃねぇよ」
「ぶーぶー、ってミサカはミサカは不満を表してみたり!でも分かった。
気をつけてね?あなた」
「ン、とりあえず少し流して戻ってくるからな」
「おう。じゃあ一方通行、基本動作をとりあえず教えるからエンジンかけてくれ。
左ハンドルだし、日本の道路では特に右折に注意しろよ?全然見えねぇぞきっと」
「わっかてンよそれくらい。第一位舐めてンのかオマエは。スペース[ピザ]リになりてェのか」
「だから扱いの差が激しすぎるんだよ!
俺にも打ち止めの十分の一でもいいから優しくしろよ!」


浜面は一応の基礎を一方通行に教え、駐車場から出発させた。
さすがにレベル5の第一位、浜面の説明を一度聞いただけですんなり覚えてしまったようだ。
そもそも

「説明書だけ先に貰って読ンどいたからな」

だそうだ。

(コイツがそう言うってことは、たぶん一言一句暗記してるんだろうな…、
しかもきっとその説明書ドイツ語だろ…)

今のところ順調に走行している。初心者の運転とは思えない。
一方通行も非常に落ち着いていて、緊張している様子は見られなかった。
222 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/24(日) 02:35:19.13 ID:iOjZLLBq0
(ていうか、なんか、…楽しそうじゃね?目ぇきらっきらしてね?)

そう、一方通行は今、とても楽しかった。
今までの移動手段といえば、誰かが操縦する乗り物か、自らの足。
そして能力を使ってというのがほとんどだった。
自分の手と足で機械を操り走行する行為が、なんだかすごく新鮮で面白い。
アクセルを踏んだらエンジンがそれに応えて唸って加速、
ステアリングを切れば切った分だけタイヤホイールに動力が伝わって曲がる。

(あれ?けっこう…面白いンじゃねェかコレ)

浜面はそんな一方通行を見てまた思う。かわいいなコイツ、と。

「なぁ一方通行」
「なンだよ」
「楽しいだろ?運転するのって」
「…まァまァ」
「へへ、だろー?いい車だしなぁ!羨ましいぜ、これで打ち止めとドライブするんだろ?
絵に描いたようなデートじゃねぇかよ」
「な、」

今日初めて、とういか普段まったく聞かない第一位の焦った声と顔を見て、
浜面がキョトンとする。

「え?打ち止めと付き合ってんだろ?さっき見ててそう思ったけど」
「……っチ」
「おいおい、まさか、あんだけいちゃついてて分かんねぇとでも思ったのか?」
「あァ!?誰がイチャついてるってェェ!?ヅラァ!」
「ヅラじゃねぇよ地毛だよ!お前全然自覚ないんだな…」

気まずいのか、一方通行のアクセルワークが激しくなる。彼に自覚は本当に無い。
打ち止めと恋人関係になってからというもの、
雰囲気や目つきが以前より柔らかくなってきていることに。
昔なじみの浜面が見ればそれは一目瞭然だった。
223 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/24(日) 02:39:41.12 ID:iOjZLLBq0
「あの、第一位さん?ちょっとスピード出し過ぎですよ?ブレーキブレーキ」
「ふン」
「まぁ、気持はわかるぜ。可愛くなったよな、打ち止め。
実はさっき久しぶりに会ってびっくりしたもんよ。急成長だよなぁ…特に胸が」
「…、なに見てンだよ」
「そう言うなって。オトコはみんな結局女の子の胸に弱いんだよ。そういう宿命なんだ…」
「馬鹿じゃねェのかオマエ。いや、馬鹿だな」
「滝壺もなぁ…中々だぞ。いい勝負だと思う。
そうだ、俺来年結婚するんだよ。だから御祝儀くれ」
「はァ!?急に何言ってンだこの宇宙ゴミは」
「まだ上条にも言ってないんだぜ。俺、結婚する、滝壺と。御祝儀、ちょうだい」
「はァ…、まァオメデトォー」

浜面と一方通行は話に夢中になってしまい、つい本線から外れて有料道路の入り口に
入ってしまった。眼下には学園都市の街並みが一望できる。

「あちゃーしまったなぁ…次の出口でUターンして戻ろう。
打ち止めにはちょっと遅くなるって俺から電話しとくな」

(結婚…、コイツがねェ…。でも別にありえねェ話じゃないよな、俺らの年なら。
……でも打ち止めはまだ中三だから…。おい、何まじめに考えてンだ俺は)

そんな未来の光景をつい思い浮かべてしまっていて気がつかなかった。
助手席で浜面がとんでもないことを喋っている。
握った携帯電話の通話相手は、もちろん打ち止めだろう。

「そうそう、いつから付き合ってんの?まじで?…すげぇ積極的じゃん。
へー、へー、じゃあ今度バニースーツ着てみなよ。え?いやいや、
男はみんな例外なくバニーが好きだから問題ないさ、ホントホント。
その胸を最大限に活かせる衣装だよ。一方通行も絶対よろこ」

「浜面ァァァァァァァァああああ!!何言ってンだ貴様ああァァァ!!」
224 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/24(日) 02:41:51.86 ID:iOjZLLBq0
一方通行の右手がステアリングから離れ、浜面の髪を掴んで振り回す。
その拍子に、ポルシェは対向車線に大きくはみ出した
。幸か不幸か、中央分離帯がない場所だったので、何にもぶつかる事は無い。
しかしすぐ目の前には対向車が迫ってきている。

「わぁぁぁ!?ア、アク、前!前!前ぇぇぇ!」
「あ、やべ」

一方通行は首のチョーカーに触れて能力を使用モードにする。
そして何を思ったかさらにアクセルを踏み込み、左足で床をドンと蹴った。
彼の左足から伝わったわずかな衝撃が増幅されてタイヤに届く。
本来ならばありえない方向に力が加わり、
ポルシェは発射台から飛び出したミサイルのように宙へ飛びだした。
地面から離れる瞬間に、衝撃はすべてアスファルトへ伝わるように演算したので
大きく抉れて飛び散ったその破片が僅かに下回りにぶつかった音が聞こえる。

「飛んだぁぁぁぁぁぁ!ポルシェが飛んだぁぁぁぁぁ!!?」
「うるせェな、横で叫ぶなよ」
「叫ばずにおれるかぁ!どうすんだよこれから!死にたくねぇよちくしょおお!
滝壺ぉぉぉぉ愛してるよぉーーー!!」
「馬鹿が。えーと…お、あそこでいいかァ」
225 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/24(日) 02:45:39.88 ID:iOjZLLBq0
ポルシェはそのままゆっくりと放物線を描きながら落ちて行く。
一方通行が車体の周りの気流も操作しているのだ。
そして一般道の脇に立っている照明用街灯に運転席下のタイヤを狙い澄まして接着させる。
突然のことに、そこを走っていたドライバー達が驚いてブレーキを踏んで唖然としていた。
一方通行は周囲の交通がストップしたのを見計らって、
静止させていた車体を地面に降ろしていく。
街灯に一本だけタイヤの乗せたままの状態で、彼が膝を指でトントン、トントンと叩く度に、
街灯がズズ、ズズ、と地面に飲み込まれていく。
じわじわと車体が下がってきて、やがて何事もなかったかのように、
ポルシェは再び四輪全てを地につけた。

「うっわ、みんな超こっち見てるよ…。俺こんなシーン魔女の宅急便で見たなぁ…」

覚悟していたような衝撃がなかなか訪れないので、しばらく前から浜面も冷静を取り戻していた。ハっと握りっぱなしだった携帯電話を見れば、通話口から打ち止めの慌てた声が聞こえている。

「打ち止め?あ、ああ、大丈夫だって、ちょっと空飛んだだけで。怪我なんか」

浜面も慌てて電話に耳をあてて無事を知らせる。
ところがまたも伸びてきた一方通行の右手によって、浜面の手から携帯が奪い取られた。

「悪ィな遅くなって。今から戻るからもう少し待ってろ。あァ、なんでもねェよ。じゃあな」

そして公園駐車から出発してきたのと同じように、
カレラSは颯爽とその場から走り去ったのだった。

打ち止めが待つ公園へ向かう車内で、恨みがましく浜面が呟く。

「御祝儀、はずめよな…、まじで」

「………」



239 :ブラジャーの人2011/07/24(日) 23:16:42.28 ID:rhtucTvI0
一方通行は今、よく晴れた夏の太陽の下を家路についていた。とても疲れた様子である。

(あー暑っちィ…、やっぱ車出した方が良かったかァ?
でも今運転すンのはどう考えても危ねェ)

なぜ彼が運転をためらうほどに疲れているのかというと、
昨夜は納車されて間もない愛車で深夜のドライブに出掛けたはいいが、
楽しくてついつい朝日が顔を見せるまで走ってしまったのだ。

そしてようやく家に戻ってシャワーを浴び、ひと眠りしようとしたところで
今日提出する約束だった論文があることを思い出した。慌てて大学まで行き、
図書館に籠って壊れそうな勢いでパソコンのキーボードを八万回ほど叩く。
そのまま担当教授にデータを渡してきた帰りである。

バスの時間にも中途半端だったので歩いてきたが、朝と違ってこの暑さ。
タクシー呼べばよかった、と後悔してる内にマンションが見えてくる。
早く涼しい屋内へ…そう足を急がせてエントランスをくぐると、後ろから誰かに抱きつかれた。
自分にこんなことをしてくるのが誰かなんて決まっている。打ち止めだ。

「おかえりなさーい!」
「なァンでこンな時間にオマエがここにいるンだよ」
「言ったでしょ?明日から夏休みだから今日は午前中で終わりなの、って
ミサカはミサカは忘れんぼなあなたに再告知」

(そォいえばそうだっけ)

「ねー、だからねー?ミサカといっぱい遊んでよね?って今からお願いしてみたり。
さっそく今から映画かお昼ご飯食べに行くのってどうでしょう?」

打ち止めは学校が休みに入ることにより、一方通行と長い時間を共にできることが
心底うれしいようだ。彼もじきに夏休みが始まる。その長い期間を彼女とどう過ごそうか、
と考えてはいた。しかし、とりあえず今はちょっと…
240 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/24(日) 23:20:12.33 ID:rhtucTvI0
「あー、悪い。俺今疲れてンだよ…。朝まで走って、寝ないで学校行ったからなァ…」
「えー!?ミサカを置いて出て行ってそんなに走ってたの?
もう昨日から全然構ってもらってないんですけど!ってミサカはミサカはがっかり」

こんなやり取りをしながら部屋へ帰ってきた。
打ち止めは怒りながらも一方通行のためにアイスコーヒーを淹れてあげて、
ソファにぐったりと身を沈める彼にグラスを渡して隣に腰掛けた。

「明日はミサカとお出掛けしてね?って予約させてもらうんだから」
「はいはい了ォ解」

暑さに参った体にアイスコーヒーの冷たさが気持ちよくて、あっという間に飲み干す。
打ち止めは頬を染めてその光景を見ている。

「こうしてると、初めて大人のちゅーした日のこと思い出すね。
あなたはこのソファでコーヒーを飲んでて、ミサカは隣でそれを見てるの」

空になったグラスをテーブルに置いて、一方通行が打ち止めと目を合わせる。
もう一杯淹れてもらおうと思ったが、あの日と同じようにそれは諦めねばなるまい。

「なに思い出してンだか。したいのか?」
「あなたこそ、したいんじゃないの?ってミサカはミサカは質問返し」
「したくない、ことはない」
「ミサカも」

二人は同時に顔を寄せ合った。

あとは初めてディープキスをした日の繰り返しだ。また、コーヒーの味がする。


251 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/25(月) 23:45:54.84 ID:C6LSLmdn0
熱を交わしながら、一方通行が後ろに倒れていく。
打ち止めも彼の腕に抱かれたまま、一緒になって倒れこんだ。

「ふゥ…」
「ん…、あなたとってもお疲れなのね、ってミサカはミサカはちょっと心配。お昼寝する?」
「あァ…、眠いことは眠いンだが、こりゃどっちかってェと運転疲れだなァ。足と腰がヤバイ」
「もう、朝までなんていくらなんでもやりすぎだよ。ミサカを連れていけば
こんなことにならなかったのに、ってミサカはミサカは嫌みを言ってみる~」
「反省してますゥ」

目を閉じたままの一方通行の顔は、確かに疲労で少しやつれている。
打ち止めは大好きな彼の役に立ちたくて、喜んでほしくて、ごく普通に思ったことを言った。

「お疲れなあなたのために、ミサカがいいことして癒してあげよっか?」

「……は?」

ゆっくり開かれた赤い瞳に危険な揺らぎを感じ、打ち止めは精一杯に眉を吊り上げて釘を刺す。

「言っとくけど、えっちなことじゃないからね!」
「そォですか…」

252 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/25(月) 23:49:04.73 ID:C6LSLmdn0
少女は一方通行のベッドを指さして、後ろで佇む青年に言う。

「はい、寝て」

「……」

一方通行は言われるままに、いつものようにベッドへ寝そべろうとしたが、
打ち止めがそれをさえぎった。

「違うの、そうじゃなくって、うつ伏せになって」

そこでようやく彼女が何をしようとしているのか見当がつき、
青年からほっとしたような声出る。

「もしかして、マッサージでもするつもりか?」
「ピンポンあたりー!ってミサカはミサカは正解の御褒美をあげる!ほら早く寝てったら」
「ハイハイ」
「よろしい。じゃあ失礼しまーす」

打ち止めは一方通行の腰辺りに跨り、そこへ手をつく。
むしろその柔らかい少女の太ももに集中してしまいそうな青年だったが、
そんなこと気にしない彼女は、さっそく親指で指圧を開始した。
ぐ、ぐ、と押してみる。ぐぐー…と押し続けてみる。

枕に顎を乗せていた一方通行だったが、自然とシーツに顔を埋めて眉を寄せ、
歯をかみしめてしまう。

これは…

(…お、ク、…効く。…マジか)

「どう?キモチいい?ってミサカはミサカはあなたに感想を求めてみる」
「…悪くねェ」
「どうやら気に入ってもらえたみたいだね」
253 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/25(月) 23:52:06.19 ID:C6LSLmdn0
ひととおり腰をほぐし終えて、打ち止めは一方通行の背中へ移動する。
今度は背骨の両脇に手の平全体で圧力をかけた。

これも

(あーきもちィ…)

「これはどう?」
「もう少し、強くできねェか?」
「ん、やってみるね」

軽すぎる打ち止めでは力が足りなかったようだ。彼女はもっと体重をかけるべく、
体を浮かせて手に力を込めた。せっかくの柔らかい太ももが離れてしまうが、
青年に最早それを気にしている余裕はない。ついに声が出てしまった。

「うァ」
「あ、ごめん痛かった?」

打ち止めが勘違いをして手を止めてしまい、一方通行はそれは困ると慌てて弁解する。

「いや、大丈夫だ。続けろ」
「でも」
「いいから」
「……ひょっとして、もしかして、かなり気に入ってもらえたみたい?」
「……」
「やめちゃおっかな」
「…、気に入った。効く」

254 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/25(月) 23:55:38.65 ID:C6LSLmdn0
とうとう観念した一方通行。
自分の背中の上で打ち止めがニンマリしているのが手に取るように分かった。
少女は嬉しそうに体を揺らし、気合い(?)を入れて態勢を立て直す。

「ふふふ~、よーし、ミサカ頑張っちゃうからねー。えいえい、ぎゅうー~」
「う、く、…っはァー…」
「わぁ、すっごい。今あなたの体がふわーって膨らんだよ、おもしろーい」

一方通行は心地いい刺激をより良く享受するため、左頬だけをシーツに押し付けて
大きく呼吸した。これでは打ち止めに顔を見られてしまうが、…もういいや。
今はこの快感を素直に受け入れよう。
そう吹っ切れてしまえば、ああだこうだと注文が出てくる。

「もうちょっと上」
「はいはい、この辺?」
「そこ、指だけで押してくれ」
「ん~~、ふぅ。もっと強いほうがいい?ってミサカはミサカは
まだ力に余裕があることをアピール。うりゃ~」
「頼む」

やがて打ち止めの手が肩甲骨から肩へ登ってきたとき、
一方通行から驚きの声が上がると同時に体がびくりと震えた。

「っ!おわ!か、肩はいい!くすぐってェ」
「そうなの。あなたって肩は凝らないのね?」
「あァ、時々能力使って血行とか操作してるからなァ」
「なるほど、あなたの能力にそんな活用方法が。だからお肌もスベスベなのね、って
ミサカはミサカは羨ましい…、
あれ?じゃあミサカがマッサージしなくても大丈夫なんじゃないの」
「それとこれとは別だ」
「えへへ…、あなたはミサカにこうしてもらう方がいいのね?」
「そう解釈したけりゃそうしろ。次、足」
「そういう風に解釈します、ってミサカはミサカは得意になっちゃうな。どこからやる?」
「ン…、ふくらはぎ」
255 :ブラジャーの人[saga]:2011/07/25(月) 23:58:30.20 ID:C6LSLmdn0
打ち止めは体を逆に向けて、一方通行の太ももの裏に座り、手の平を片足ずつにあてがう。

「いかが?」
「もう少し下だなァ」
「はーい。えい」
「いったァ!いてっ、ちょ、強すぎる!」

打ち止めは彼の腰や背中にしたように、親指でふくらはぎをつかむように押しあてたのだが、
長時間のアクセルワーク、ブレーキングで疲れた青年の足には痛すぎたようだ。
バタバタと足を跳ねさせて抗議された。

「ごめんごめん、もっと優しくゆっくりするから、って
ミサカはミサカは暴れるあなたの足を押さえつけてみる」
「ったく…」
「こうかな?……これならいい?」

指で一点集中に力を加えるのは痛すぎるらしいので、人差し指と親指のカーブしたラインを
押しつけて滑らせる。摩擦しながら、ふくらはぎ全体に優しい力が加わるように気をつけた。

「……あァ、それなら大丈夫」
(すげェじわっとくる…、打ち止めが乗ってる腿の裏もジンジンしてンなァ…)

しばらく続けて、少しずつ力を強めていく。
先ほどと同じように親指で指圧してみたが、一方通行から抗議は出なかった。

「痛くない?」
「…平気」
「おぉ、ほぐれたねぇ。ミサカすごーい」
「ほぐれたなァ…、もう一回腰やってくれ」
「ふふ、あなた、すっかりマッサージ師なミサカの虜ね?って
ミサカはミサカは小悪魔のほほ笑み」
「…早く、腰」
256 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/26(火) 00:02:26.87 ID:IufvjwSf0
打ち止めが再度彼の腰を揉みほぐしていると、ふと一方通行の口数が減ってきたことに気づく。
青年の表情を覗きこめば、それはいつになく穏やかなものだった。

「あなた?」
「……ン……」
「寝ちゃいそう?」
「…あァ、もう…寝る」
「そう。ミサカどうだった?キモチよかったよね?」
「あァ、気持ちよかった」
「またしてあげるね」
「…そうしてくれ」
「えへ…おやすみなさい」
「……」

もう返事はなかった。打ち止めは一方通行の上から身をどかし、
くしゃくしゃになった彼のシャツを申し訳程度に整える。
そして自分もベッドに横になって、一緒にお昼寝の態勢に入った。
まだ制服のままだったが、どうせ明日からは夏休みなんだから、皺になったってかまわない。
別に打ち止めは寝不足ではなかったが、そう時間が経たないうちに、
安らかな寝息は二人分に増えて、静かな部屋を満たしていった。



264 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/26(火) 23:08:01.82 ID:UZa3IkAV0
ある夏の夕暮れ、一方通行はソファに横になってウトウトとまどろんでいた。
時々髪の毛や額を打ち止めの手が撫でていって非常に気持いい。ふぅと息を吐きながら、
彼女の膝に乗せている頭を身じろぎさせて、もっと撫でてくれと催促してみる。
その度に、打ち止めがかすかに笑う気配とともに、
望んでいた温かい手が今までよりも長い時間自分に触れてくれた。

しかし、少し経つとそれは離れていってしまう。
どうやら催促し続けないとおあずけになるらしい。だから眠れない。
打ち止めの目的はまさにそれだった。自分だけ残して眠ってしまわないでほしい。
青年の要求にずっと応えていたら、たぶん彼はこのまま遅目の昼寝に入ってしまうだろう。
今日はまだ一緒に起きていてほしい気分なのだ。
それにこうして意地悪しておけば、少女にたくさんおねだりしてしまった証拠が
積み重なっていく。
いつかこの借金は利息をつけて返してもらうつもりだ。

「ねぇ、どこなでなでしてほしい?」
「……その辺…」

髪を梳かれるのが特に好きらしい。
質問に答えさせることによって、睡眠を遠ざける思考の必要が生じ、
さらにリクエストに応じてもらうという、ますます高い買い物をさせる。

「これでいい?ってミサカはミサカは両手で大サービス。あなたの髪はさらさらでキモチいいね」
「あと…、手」

一方通行がテーブル側になっている手を、重たそうに持ち上げて差し出す。
打ち止めはそれに指をからめて、支えるように握りしめた。
手をキャッチしてもらえた瞬間一気に力を抜けば、
手は重力に従って自分の胸の上にどさりと落ちる。
ただ二人の指はからまったままで、
少女の指が、きゅっ、きゅっ、とやさしく握る、緩めるを繰り返す。
これも心地いい。

そのあたりで、一方通行の意識はついに途切れてしまった。

起きた時も、少女の膝の上にいたらいいのに。最後にそう思って幸せな眠りにつく。

265 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/26(火) 23:11:21.28 ID:UZa3IkAV0
結果から言うと、一方通行は打ち止めの膝枕のままで目覚めることができた。
しかし気分はあまりよろしくない。
なぜなら番外個体が目の前にいて、自分の鼻をつまんで呼吸をさまたげていたからだ。

「おはよー第一位。最終信号のすべすべ生足の感触はいかが?
すっげぇ気持よさそうだったよぉ~ひゃっははははは」
「このやろォ…」(鼻声)

打ち止めはどうしたのかと思い、上を見上げてみれば
彼女もいつに間にかスヤスヤと寝息をたてている。背もたれに預けた体が今にもずり落ちそうだ。
一方通行はそっと身を起こし、傾いた打ち止めの体を支えてやった。
できれば寝かせたままでいたかったが、もともと眠りが浅かったのだろう。
すぐに少女の目が開いた。

「ん…、あれ?番外個体?早かったねぇ、ってミサカはミサカはいらっしゃい。待ってたよ」

「はぁい、最終信号。膝枕ごくろうさま。バイトが早めに終わったから来ちゃったよ。
お昼寝タイム邪魔してごめん…、とは言わないよ。どう?体ばっきばきじゃない?」
「え?…、あいたっ!ってミサカはミサカは、イタタタ」
「当然だよ、こんな重いもん乗っけられて身動き封じられてりゃ
体中凝っちゃうに決まってるでしょ」

番外個体は一方通行の頭をツンツンとつついて、この考えなし、という非難の視線を送った。
彼も、痛がる打ち止めを見て後ろめたいのか反論はしない。

「大丈夫だよ、ちょっと痺れただけだから。それにミサカが勝手に寝ちゃったんだから、
別にこの人が無理強いしたわけじゃないの。だからあんまりいじめないでね、って
ミサカはミサカはお願いしてみる」
「はいはい、最終信号に免じて許してあげるよ」
「そりゃどォも…」
266 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/26(火) 23:13:40.84 ID:UZa3IkAV0
今日は番外個体が黄泉川家に泊まりにくる日だ。
大学進学とともに一人暮らしを開始した彼女だったが、こうして時々遊びにくる。
もっとも最初は強制的に黄泉川や打ち止めに連行されていたが。
どうあがいても連れてこられることが分かったので、最近は自主的に訪れるようになっている。

「あ、なんだかいい匂い!ってミサカはミサカはくんくんしてみたり」
「お、もう気づいたの?さーすが成長期。よく食べるんだから。
今日はオーソドックスにクッキーだよ」
「どこがオーソドックスだ。炊飯器で作ってるクセによォ」

以外にも番外個体は料理が趣味となった。腕前も中々である。
しかし調理方法は黄泉川直伝なので、彼女の部屋には今、炊飯器が三個ある。
とりわけお菓子作りが特に好きらしく、こうして手作りの品をよく持参してくる。
もっとも、べらぼうに甘いので、一方通行にとっては苦痛のイベントだが。

嫌なら食べなければいい、と思うが、なぜか自分以外の同居人たちの
「もちろん君も食べるわよね?せっかく作ってくれたものを拒否するなんて礼儀知らずじゃん」
という非難を浴びてしまい、結局いつも強制味見するハメになっていた。

「わー、美味しそー!ってミサカはミサカはさっそくいただきます!おいしーよ番外個体!」
「うわ…甘過ぎるンだよ番外個体ォ…」
「あー、第一位のそのウンザリした顔を見るだけで落ち着く。作った甲斐があったなぁ、ぎゃは」



273 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/27(水) 22:39:59.47 ID:7uFP+zx70
番外個体と打ち止めは、これも恒例だがゲームを始めた。対戦型ゲームは良い勝負だったが、
番外個体が優勢なのは数年間変わらない。

「もぉ~番外個体には何でどうしていつまでたっても勝てないの、ってミサカはミサカは悔しい!
でも今度こそ…っ」
「ふふん、まだまだ天真爛漫お子ちゃまな最終信号に負けるなんてできないからね。
ほらほらほらほらぁ、はいオワリー」
「やぁー!あと少しだったのにぃ!」
「やかましィ…、もう少し静かに遊べねェのか。オマエら成長しねェなァ」
「はぁ…、やっぱり今日もあなたにお願いするしかないのね、って
ミサカはミサカはコントローラーを、はいどうぞ」
「またか…」

仲良くじゃれあう姉妹のそばでソファに寝転がっていた一方通行に、
コントローラーが手渡される。こうして打ち止めの仇討ちを任されるのも恒例だった。

「お、やっと第一位の登場?でもこれは新作だからやったことないでしょ。
ミサカのが有利なんだからね」
「まァ見てたから大体分かる」
「あなたがんばれー!ミサカの無念を晴らしてね!ってミサカはミサカは後ろから応援」

果たして勝敗は…
274 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/27(水) 22:41:24.24 ID:7uFP+zx70
「むっっかつく…、最終信号、コイツの演算止めちゃってよ、三分でいいから。
その間に顔に落書きしてやる、油性ペンで」

最初の一戦は番外個体が勝利したものの、後の五戦はすべて一方通行に軍配が上がった。
番外個体は非常に不機嫌、不愉快、不快感な様子だった
。その手には嘘か本気か、ペンが握られている。しかも既にキャップは外されて。

「それはちょっと、それにミサカの仇討ちだったんだし」
「最終信号も第一位にいろいろイタズラすればいいじゃん。
パンツ脱がして写真でも撮って、手帳に入れておきなよ」
「えっ、そんな…、えーでも」
「オマエら、冗談でもそれくらいにしておけ。怒るぞ」
「冗談じゃないよ、ミサカ本気だもん」
「タチ悪ィな」

(ミサカもほんのちょっと本気でした、って言ったらこの人どんな顔するかなぁ、って
ミサカはミサカはイケナイ子。でもやっぱり少~~し興味ある。きゃー)
275 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/27(水) 23:16:25.93 ID:7uFP+zx70
こうして過ごしているうちに、黄泉川愛穂と芳川桔梗が帰宅した。
番外個体は黄泉川と共に台所に立って夕飯の支度を始め、師匠に修行の成果を披露している。
しかし、いまいち彼女達以外には理解しがたい世界である。
黄泉川は炊飯器クッキングの後継者ができたことを大変喜んでいて、
この番外個体のお泊りには新しい技の伝授に余念がない。

「さぁーできたぞみんな、席につけー。今日は番外個体が手伝ってくれたから豪勢じゃん!」
「あら本当ね、ありがとう番外個体。ますます腕を上げてる…のよね?私達には分からないけど」
「うんうん!日々の努力が伺える上達っぷりだったじゃん」
「へっへー、さぁ遠慮はいらぬ。皆の者、ミサカの手料理、食べるがよいよい」
「はーい!いっただっきまーす!ってミサカはミサカはさっそくかぼちゃに突撃っ」
「オマエさっきあンだけクソ甘ェクッキー食って、よくまァ…。太るぞ」
「!!うぅっ、…、大丈夫だもん。ミサカはまだせいちょうき、だもん」

打ち止めの箸の動きがいっきに鈍くなった。あ、ひょっとして気にしてたのか?
女性陣の厳しい目が一方通行にそそがれる。しまった、と思った時にはもう遅い。
芳川達が打ち止めに優しい声をかけて励まし始めた。代わりに一方通行には冷たい視線が。


「大丈夫よ打ち止め、あなたの身体データは毎月ちゃんと正常の範囲内に伸びてるわ」
「そうじゃん、くれぐれも無理なダイエットなんてしちゃだめだぞ?
かえって肌が荒れたり、体調を壊したりするからな」
「まったくデリカシーがないね、第一位は。お姉ちゃんになんてこと言うのさ。
あとで仕返しに、クッキー口の中に押し込んでやるから覚悟しなよ」
276 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/27(水) 23:37:18.93 ID:7uFP+zx70
この、体重に関する女性達の結束力は何なのか。
過去何度か同じような過ちを繰り返してきた一方通行だったが、
どうやら今夜も地雷を踏んだらしい。ちくちく、ざくっと視線が突き刺さる。
もうよけいな事は喋らないでおこう…

「そうそう、さっき食べたクッキーも美味しかったわ。先月のプリンとゼリーも…、
あなたが来てくれるたびに御馳走になっているわね。ありがとう。
一方通行、あなたもちゃんと食べたの?
「食いましたよォ」
「ねーねー番外個体、ミサカ今度はケーキがいいな、ってリクエストしてみる」
「いいよー、生クリームたっぷりのあまーいの持ってくるね。
第一位も楽しみにしてなよひゃひゃひゃひゃひゃ」
「………」
「打ち止めも料理覚えるか?私が手とり足とり教えてやるじゃん。
そろそろ花嫁修業してもいい頃じゃんか」

よけいなことは喋らない、そう誓った一方通行だったが、これは言わずにはいられない。
打ち止めにはこの珍妙な調理方法はマスターしないでほしいと思う。

「やめろ、言っておくがすげェ変だからなこの料理。味は置いといて。
打ち止めも覚えるンなら普通のやり方で覚えろよ」
「え、う、うん…」

その瞬間、黄泉川、芳川、番外個体の箸の動きが止まった。
打ち止めは頬を染めて俯きながら口をもぐもぐさせている。

突然雰囲気が変わって(また地雷踏ンだ!?)と身構えた一方通行だったが、
芳川の言葉を聞いて、自分も動きが止まった。

「一方通行、あなたこの流れでそのセリフ。まるで打ち止めは自分の花嫁なんだから、
自分好みの料理を作ってもらうんだって言ってるようなものよ?」

青年の箸から鳥の空揚げが転がり落ちたのを見て、黄泉川と番外個体の大爆笑が食卓に響いた。



286 :ブラジャーの人2011/07/28(木) 17:51:35.78 ID:ZAWSvV6B0
夕食の後、いつもどおりにリビングで新聞を読んでいる一方通行と、
その横でファッション雑誌を一緒に眺める打ち止めと番外個体。
そこに風呂からあがった芳川が髪を拭きながら戻ってきた。

「君達もお風呂に入りなさい。もう遅いわよ」
「あれ、ほんとだもうこんな時間だね、ってミサカはミサカは時計を見てビックリしてみる。
じゃあ番外個体、ミサカと一緒に入ろっか。いい?あなた」
「おォ、俺は別に遅くなってもかまわねェから先に行けよ」
「ミサカのかぐわしい残り湯に第一位をつからせるのはシャクだけど、
最終信号がそう言うなら入ってあげるよ」
「アホが。とっとと行け」

二人が浴室へ入ってから数分後、あることに気づいた一方通行は新聞を持つ手を握りしめた。
グシャリと紙面が歪む。芳川と黄泉川はキッチンにてビール片手に晩酌中で、
一方通行の様子に気づいていない。

(しまった…、うっかりアイツらを一緒に風呂に行かせちまったが、
あの痕がまだ残ってるンじゃねェか…?)
287 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/28(木) 17:53:19.80 ID:ZAWSvV6B0
二日前の夜だった。おやすみのちゅーをしに来た打ち止めに、
少々エスカレートしてしまった一方通行は、パジャマとブラジャーのストラップをはだけさせて、
ついつい彼女の胸元に赤い痕をつけてしまったのだ。
もしかしたらその痕がまだ残っているかもしれない。
そして番外個体がそれに気づいたら…?

(……多分すっげェからかわれるな)

二人が風呂に行く時に、一人づつ入れ、なんて命令するのは不自然すぎたし、
どの道この事態は回避できなかっただろう。打ち止めとの仲はとっくに周知の事実なので、
気にする必要は無いといえば無いのだが、相手はあの番外個体である。
せめて彼女がキスマークに気づくのか否か、それだけでも先に情報を得て、
対策を取りたいところだ。

一方通行はキッチンで順調に酔っ払う保護者達を確認してから、そっとリビングを出て行った。

288 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/28(木) 17:57:02.08 ID:ZAWSvV6B0
「はぁ~良い湯ですなぁー、ってミサカはミサカは定番のセリフを言ってみたり」
「確かにこの家のお風呂はでかくて気持いいよね。二人で入ってもそんなに窮屈じゃないもん。
ミサカの部屋ももう少し広かったらいいのに」
「ふふふ、じゃあ番外個体がもっとここに泊まりにくればいいじゃない、って
ミサカはミサカはナイスアイディアを披露してみる」
「やだよ、これ以上第一位のしかめっ面見てらんない。」
「もう、あの人も番外個体も素直じゃないのね」

湯船に浸かる打ち止めと、洗い場でシャンプーをする番外個体。
その声は脱衣所の前で耳を澄ます一方通行にもしっかり聞こえていた。

(今の時点ではセーフか?もう痕は消えてンのかもしれねェな…)

「はーさっぱりした。最終信号ちょっとつめて、ミサカも入る」
「はーい、おーすごいお湯が増えたー」
「ミサカの体積が異様に大きいみたいな発言は控えてくれる?」
「ははははーごめーん。でも番外個体の方がミサカよりいろいろ大きいのは本当だよ。
ねぇちょっとお胸触らせてくれる?」
「自分の触ればいいじゃないの」
「違うのー、他人と自分のじゃなんか違うのー。いいでしょ?
ミサカのも触らせてあげるから、ってミサカはミサカは交換条件を提示」
「そんな許可いらないよ。……勝手に揉んでやるぅぅぅぅ!!ホレホレどうだ感じるかぁ!?」
「きゃあー!やぁん!いやぁっもう!ずるいミサカも揉む!」

バシャバシャと湯が飛び散る音と、かしましくも微笑ましい姉妹の裸の触れ合い。
脱衣所の外でその一部始終を聞いていた第一位は、ただ茫然と立ち尽くしていた。

(……なにやってンだコイツら)
289 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/28(木) 18:00:21.50 ID:ZAWSvV6B0
ひととおり仲良く揉みっこが終わった後も、二人の話題は中々変わらない。
むしろお年頃の娘達が一緒の風呂に入っているのだから、このテの話題にならない方が少ない。
しかしそんなことに思い及ばない一方通行は、知ってはいけない世界の秘密を
覗き込んでしまった罪人のようにその場に立ちすくんでいた。

「そこを十回ぐりぐり押して、そう。次は五本の指全部で掴むんだよ。これも左右十回ずつ」
「ちょっと痛いね、ってミサカはミサカは弱音をはいてみる」
「慣れだよ慣れ。慣れれば一セットやるのに二分もかからなくなるから。
最終信号はたった半年ちょっとでこんなに胸が大きくなったから、まだきっと成長するよ。
今のうちからちゃんとお手入れしとかないと、早くから垂れちゃうぞぉ~?」
「えー嘘、やだぁそんなの。あの人のためにもミサカ頑張る!次はどうするの?」
「そうそう、第一位のためってのがむかつくけど、その心意気だぜ。
次は両手で下から持って、右手左手右手左手…もっと早くてもいいよ」

(そこで俺の名前を出すなよォ…っ、ほンとなにしてンだコイツらァ…!)


さっきから同じようなツッコミしか思い浮かばない一方通行。
どのようなことをしてるのか、ぺちぺちと、おそらく手の平と乳房が触れる音まで聞こえる。
なんだかすごく気まずい、でもここから動き難い。
けして、「見たい」とか「俺もやりたい」から動けないのではなく、
目的は番外個体が打ち止めのキスマークに気づくかどうかを確かめることなのだ。

290 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/28(木) 18:05:26.79 ID:ZAWSvV6B0
「はいこれで終わり、できれば毎日やること」
「ふぅ、ちょっと痛かったけど、なんだかすっきりしたみたい。
番外個体はこれどこで覚えてきたの?」
「お姉さまに教えてもらったんだけど」

(それ効果あるのか?)

「でも最終信号に教えたってバレたら、きっとお姉さま怒るからね。内緒だよ」
「うん、分かってる、ってミサカはミサカは
お姉さまの鬼の貌がまだトラウマでぶるぶるしてみる」
「お姉さまもあんまり気にすることねぇのに。足も腰もミサカ達より細くて羨ましいよね」
「それに背も高いもんねー、ってミサカはミサカはまだ身長が伸びることを望んでみたり」
(あの人とちゅーしやすくなるし、えへ)

しばらく二人の会話を盗み聞きしていた一方通行だったが、
どうやら危惧した事態はさけられたようだ。きっとこの二日で打ち止めにつけたキスマークも
消えたのだろう。ほっと一息はいてから、青年はリビングへ戻って行った。

「でもね最終信号、結局男は細いよりむちむちのぷるぷるが好きなんだ。
第一位なんて絶対そうだね。だから黄泉川も言ってたけど、
必要無いダイエットはしちゃだめだからね。やり方間違えると胸から減ることもあるから」
「むむ…、確かにあの人も大きいお胸の方がいいって言ってた。
ミサカは恵まれてるのね、って天の采配に感謝してみる」
「何正直にぶっちゃけてんのよ第一位…。思ってた以上にムッツリかよ。
……ふーん、だからこーんなアトつけられちゃってるのねー?最終信号ってばぁ、ひひひひひ」
「え?」
291 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/28(木) 18:09:01.19 ID:ZAWSvV6B0
番外個体が湯にたぷたぷと浮かぶ打ち止めの胸を、何ヶ所か人差し指でつつく。
その意味が分からなくてつつかれたところを凝視していた打ち止めだったが、
やがてぽっと頬を染めた。うっすらと、かすかにだが、彼につけられたキスマークが見える。

「わぁっ、わー、あのそのこれはぁ…」
「照れんなよぉ、ねぇどうなの実際?第一位のって大きい?小さい?普通?
週に何回ぐらいヤってんの?黄泉川と芳川がいると難しくない?やっぱホテル行ってる?」
「ばっ!ちょっ、なんてコト言うの!?番外個体はしたない!お姉ちゃんは悲しい!」

まだ一方通行とシてないとも、もう経験済みとも言うことができなくて、
打ち止めは真っ赤になって胸を隠す。しかし勘が鋭い番外個体には通用しなかったようだ。
焦る打ち止めを数秒間じぃっと見つめ、顔を覗き込む。
その表情は珍しく困惑というか、怪訝というか、つまりはマジで?と言っている。

「もしかして、……最終信号ってまだバージンなの?」

背を向けていた打ち止めが、そのままゆっくり頷いた。
嘘をついてもバレるだろうし、どっちみち恥ずかしいことに変わりはない。

「え…なんで?」
「タイミングというか、いろいろありまして。でももう少しで、っていう場面もあったんだよ!?
それ以外にもこうしてミサカにたくさんちゅーしてくれるしっ」
「いやいやいや、男なんて出さなきゃ意味ないんだから、それ変だよ…。第一位大丈夫かよ」

ついに俯きすぎてアホ毛が湯に浸ってしまった打ち止め。
番外個体はあれやこれやと、誘惑の仕方を説いて聞かせるのだった。



299 :ブラジャーの人2011/07/29(金) 20:43:12.96 ID:XrQScCxw0
番外個体が泊まりにきた翌日、一方通行は非常に不機嫌な様子であった。
打ち止めが淹れてくれたコーヒーを受け取るときも返事さえせずに、
見てもいないテレビ画面から視線を動かさない。
打ち止めはいつもより少しだけ離れてソファの隣に座っている。
彼女も見ていないが、顔はテレビを向いていた。
ちらちらと一方通行のことを気にしている。

午前中に番外個体が帰るとき、ちょっとちょっと、と一方通行を手招きして
とんでもないことを言っていった。

「ねぇ、あなたってインポなの?だから最終信号とヤらないの?医者にはかかった?」

何がむかつくかというと、番外個体が本当に心配した様子だったことだ。
バレたことはもちろんだが、それが一番こたえる。
とりあえず彼女には特大チョップを食らわせて追い出した。

一方通行は打ち止めに何も言わなかった。その場面を傍で見ていた打ち止めは、
昨日のお風呂での一件が彼に知られたことを悟り、怒られる…っ、と戦々恐々としていたが、
いつまでたってもチョップも無いし小言もない。
ただとっても不機嫌な事だけは確かで、こうして気まずい時間を過ごしているわけだ。
300 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/29(金) 20:45:11.06 ID:XrQScCxw0
別に一方通行は打ち止めに対して怒っているのではない。
恥ずかしい勘違いをした番外個体には少し怒っていたが。
彼がうんざりしているのはこの状況である。保護者達にも番外個体にも、自分達の状況がなぜか
バレバレなことが、気まずくて、恥ずかしくて、いたたまれない。
こうなると、打ち止めと一線を越えてもバレバレになるような気がする。
こんなに近くにいるのに、ましてやお互い夏休みで長い時間を二人きりで
過ごしているというのに…

(ますます手ェ出しにくい状況に追い込まれてねェか…?)


「ねぇあなた…」

おそるおそるといった感じで打ち止めが話かける。二人の距離はまだいつもより遠い。

「なンだよ」
「ご機嫌直して、ってミサカはミサカはお願いしてみる」
「……別にオマエに怒ってる訳じゃねェぞ」
「あなたのご機嫌が悪いと、つまんないし、怖いし、寂しいし…」
「…あー、」

ついつい不機嫌オーラを全開にしてしまっていたが、打ち止めは何も悪くないのだ。
悪いのは黄泉川と芳川と番外個体と自分である。それなのに彼女の前でこんな態度はない。
ようやくいつもより距離を置かれていることに気づき、一方通行は反省する。

「分かった、直す。だからこっち来い」
「っ、うん!」
301 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/29(金) 20:49:14.45 ID:XrQScCxw0
あっという間に笑顔になった打ち止めが、一方通行に抱きつくようにくっついた。
離れていた反動だろうか、いつもより近い。
悪いことをした、と思い彼女の頭をヨシヨシと撫でる。ついでに昨日のことも
清算しようと思って、一方通行は打ち止めの肩と腰を抱いて体を倒させた。

「わ、急になに?」
「昨日のオカエシ。悪かったなァ、体まだ痛いか?」

打ち止めはソファに座る一方通行に膝枕されていた。
実は、番外個体に鼻をつままれて起こされた後、凝り固まった体を痛がる打ち止めを見て
ずっと済まなかったと思っていたのだ。確かに華奢な少女が、同じく細いとはいえ男の自分を
膝枕したまま数時間も動けないというのは苦痛だったろう。
一方通行だけイイ思いをして、打ち止めだけアレじゃ申し訳ない。
というわけで、俺もやってやる、という結論らしい。

「なーんだ、気にしてたの。ミサカが好きでやってたんだから別にいいのに、って
ミサカはミサカは、それでも嬉しかったり」
「そりゃよかった。固い膝で物足りないかもしンねェがな」
「そんなことないよー、丁度いい高さです」
「そォか」

つまらないこと(でもないのだが)はひとまず頭の端っこに追いやって、
今はこうして二人のときを満喫しよう。それが最も有効な時間の使い方だ。
打ち止めは足をパタパタさせて上機嫌である。

「大人しくしてろよォ、落ちるぞ」
「だってうれしーんだもん。実はミサカもしてほしいなって思ってたんだから」
「してほしかったなら言えばよかっただろォが」
「そこは遠慮というか、謙虚なミサカなの。
いじらしいでしょ?ってミサカはミサカは乙女らしさをアピール」
「自分で言って謙虚もクソもねェだろ。オマエは遠慮するべきところを間違えてる」
「それって、遠慮しないでもっともーっと甘えてこいって意味?」
「やっぱり全然謙虚じゃねェな…」
302 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/29(金) 20:52:20.20 ID:XrQScCxw0
昨日してもらったように打ち止めの額を撫で、髪を梳いてやった。少女の顔は緩みっぱなしだ。
ん、と手を差し出され、これも昨日のように握って構ってやる。

「確か俺はこの辺で眠っちまったンだよな」
「そうだよ。ミサカになでなでされて、あまりのキモチよさに夢の世界へ旅立ってしまったのよ、
ってミサカはミサカのテクニシャンぶりに、我ながらアッパレと言ってみる」
「いろいろとツッコミてェことはあるがまァいい。舐めンなよ、
俺だってオマエを眠らせることくらいできる」

一方通行は握っていた手を離し、打ち止めの体をくるんと反転させた。
そしてうつ伏せになった彼女の背中を、右手の中指と薬指の二本でぎゅうっと押す。
これも普段からのオカエシのつもりだった。最近覚えた新しい楽しみ、
打ち止めにマッサージをしてもらうことへの。

「うう、また今日はあなた大サービスじゃない?どうしてミサカが
してほしかったこと分かるのぉ、あ、ちょっと痛い。ん」
「こうか?」
「そこは親指で…っ、ハーいいカンジです、ってミサカはミサカはうっとり」
「チョロイな」
「む、マッサージに関してはミサカの方が先生…、っ……、くぅ」
「背中より腰かァ」
「肩…、肩やってぇ…。お願い…」
「……」
303 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/29(金) 20:56:29.70 ID:XrQScCxw0
一方通行は肩コリはしないので、打ち止めにも肩を揉んでもらったことはない。
背中と腰はいつもやってもらっているから、今のはそれをマネただけだ。
なので肩はどうやってしてやればよいか、正直わからない。
ただ肩の方が自分の膝すぐ近くに位置しているので、やり易くはある。
とりあえず、右手の親指以外の四本で打ち止めの右肩を押してみた。

「あぁー…」
「…なンだよ」
「もっと」
「おゥ…」

気に入ってくれたようだ。

やはり急に胸が大きくなってからというもの、打ち止めも肩が凝るようになったらしい。
普段は気にしていないが、こうして揉んでもらうと、じんわりほぐれていくのを実感する。
打ち止めはこうして、ああして、もっと強くそこは弱く。もう両肩いっぺんに揉んで、
と遠慮なくリクエストの嵐だった。
とうとう膝枕も中断され、一方通行は今、床に膝をついて甲斐甲斐しく彼女の肩を揉んでいる。
今はもう肩だけではなく、肩甲骨や背中の上部あたりにまで揉む範囲が広がっていた。
打ち止めは悠々とソファに寝そべったまま、天国気分である。

(どこが謙虚なンだか…)
304 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/29(金) 20:59:37.09 ID:XrQScCxw0
「はぁっ、ふぅ、…あーキモチいい、あなた大好き…」
「なンて安い言葉だよ、肩揉んで好きってオマエなァ」
「ほんとにキモチいいんだもん。マッサージしてもらうのって
こんなに素晴らしいことなのね、ってミサカはミサカは真理のひとつに辿り着いた、あぁ」
「まァいつもやってもらってる身で、うるせェことは言わねェけどよ…」

打ち止めのうっとりした表情や、ついつい漏れてしまう声を聞いているのはかなり気分がいい。
彼女に喜んでもらっていることを実感できる。
打ち止めも、いつもこんな気分だったのだろうか?一方通行がマッサージしてほしいな、
というそぶりを見せると、たいていは彼女から「揉んであげよっか?」と言ってくれていたから。

「ん?あれー…なんか変、ぽかぽかする…」
「今能力使ってオマエの血行操作しながら揉ンでンだよ」
「あ、本当だいつの間に。おー…これすごい…!今ミサカ流れてるっ、じわじわしてるぅ」
「多分、欠陥電気でも同じようなこと出来ンじゃねェか?」
「できると思うけど…、はぁ、でもあなたにやってもらった方が絶対キモチいいと思うか、ら、
今後ともよろしくお願いします、ってミサカはミサカはぁ、あん先に予約を…」
「何だよそりゃァ…、一応挑戦してみろ」
「そうじゃなくって、あなたにしてもらい、う、たいの。
それを言ったら、あなただってミサカがやらなくたって自分でできる、でしょ」
「………」
305 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/29(金) 21:04:41.04 ID:XrQScCxw0
確かに。他の誰かに、打ち止めにしてもらうのは気持ちいい。だからいつも頼んでしまうのだ。
ひとりだけでは知ることが無かった幸福。知らなくても生きていけるであろう感情。
でも知ってしまったら二度と手放せない。それらはすべて彼女が一方通行に教えてくれたことだ。
昨日と普段のお返しどころではない。
この少女には莫大な借金をしてしまっている、しかも無利子無期限の。


打ち止めはやがて、いつかの一方通行のように眠ってしまった。とても幸せそうな寝顔だった。

(そら見ろ、俺にだって出来ンじゃねェか)

電極をONのままに、打ち止めを抱きかかえてベッドへ運ぼうかと思ったが、
リビングへ引き返す。そして先程と同じように膝枕をしてやった。
これはあくまで昨日のオカエシなのだから、もう少しするべきだろうと思って。


数十分後、彼も打ち止め同様眠ってしまい、結局体がばきばきになってしまった。

その夜は打ち止めが「お礼だよ」と言って、固まった体をいつものように
マッサージしてくれたので、まだまだ一方通行の借金は減る気配がない。


311 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/31(日) 00:44:51.29 ID:9sV81Lqa0
八月に入って間もないある朝早く、一方通行は同居する女性達全員によって起こされた。

「起きろー一方通行!出掛けるぞ!」
「起きなさい一方通行。早く支度して」
「あなたー起きてー!ってミサカはミサカはゆさゆさ揺さぶってみたり!」
「あー…?」

何が何やら分からぬまま、寝ぼけた顔で車に乗せられた。
黄泉川の運転で走る車内の後部座席にて、打ち止めからコーヒーを受け取る。

(なンで水筒持ってるンだ?)

半分寝た状態で、水筒のフタに口をつけ、隣に座る打ち止めに目で疑問を投げかける。

「あ、これね、出掛けるっていうから急いで作ったの。
やっぱりあなたはミサカのコーヒーを飲まないといられない体かなと思って」
「…そォじゃなくて、あーどこ行くって?」
「え、あなたも知らなかったの?ってミサカはミサカはビックリしてみる」
「知らねェよ、俺まだ眠いンだが」
「そういえば一方通行にも言ってなかったじゃん」
「あらそうなの。まぁもういいのだけど」

どうやら自分以外の三人は目的地を知っているらしい。
一方通行は前の席に座る黄泉川、芳川にも聞こえるように声を張り上げた。

「だァから、どこに行くンだよ、いいかげン教えろ!」
「温泉じゃん」
「温泉よ」
「温泉なんだって、ってミサカはミサカはわくわくするぅ~!」

「は?」

312 :ブラジャーの人[sage]:2011/07/31(日) 00:49:18.39 ID:9sV81Lqa0
家族は夏休みには旅行に出掛けるものらしい。そういえば去年は
強制的に海へ連れ出されたのだった。あれも家族旅行だったのだろうか。
気をつけていたのに、極端に日光に弱い肌が焼けてひどい目にあったことを思い出す一方通行。

「そうそう、だから今年は温泉にしたじゃん。しかも一泊だぞ!露天もあるし、
料理も美味しいって評判の旅館、あー楽しみ」
「去年は君に申し訳ないことをしたから、愛穂と相談して決めたの。
おかしいわね、一昨日あたりに打ち止めと一緒に伝えたと思っていたのだけれど」
「あァそォ…見事に伝わってねェよ。ン?一泊?俺着替えなンて持ってきてねェぞ」
「大丈夫だよ、ミサカがあなたの服と、それに財布と携帯とコーヒー持ってきてるから、って
ミサカはミサカは有能ぶりを発揮」
「…オマエいつ知った?」
「あなたと変わらないよ?今朝だけど」
「すげェ適応能力だな」

その後渋滞もなく順調に車は走り続け、とある山奥の温泉旅館に着いた。
黄泉川も芳川も、シーズンオフを狙って休みを取ってこの旅行に臨んだそうで、
駐車場はガラガラだ。
一方通行は打ち止めに鞄と杖を受け取って、はしゃいで先行した保護者達を追いかけた。
普段目にしない純和風の建物に、打ち止めは「ほぇー」と口を開けて立ち止まっていて、
一方通行は彼女の背中を押して旅館の玄関をくぐった。

案内された部屋からは、目の前の山がよく見え、眼下には急流の川。夏だというのに
とても涼しく、女性陣は、おー、わー、すごーいと感嘆の声をあげている。
荷物をどさりと床に置いて一息ついた青年。慣れない畳にようやく遠出した実感が湧いてきた。

(温泉ねェ…、ま、海でヤケドするよりいいかァ…、打ち止めも喜ンでるしな)

そのまま畳に仰向けに寝そべってさらに一休み、しようと思ったら、右手を打ち止めに、
左手を黄泉川に引き上げられ強制的に起こされた。さらに芳川には
「はい、あなたの分よ」と浴衣を押しつけられる。

「さっそく行くぞ、何はともあれ温泉じゃん!」
「早く起きて。あ、貴重品は金庫にいれなさいね」
「露天風呂―露天風呂―、早く行こうよあなた!」
「はァ?もう風呂いくのか?」
「当たり前でしょ、ここは温泉旅館なのよ。温泉に入るための宿なんだから、
最低三回はつかりたいわ」
「そォいうモンなのか…」
「そういうもんだ。だからほら行くぞ!」



322 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/01(月) 00:03:26.65 ID:fMw+edZ20
(湯が白い……)

引きずられるようにして温泉まで連れてこられた一方通行。
しかし、もちろん男湯の方は彼一人だ。淵で佇んでいると、
それを見越したかのような芳川の声が仕切りの向こう、女湯から聞こえてきた。

「大丈夫よ、これはにごり湯といって、もともとこういう色なのよ」
「そうそう、だからさっさと入るじゃん。ちょっとぬるめでいい感じだぞ」
「白いお湯に白いあなたがつかって真っ白になるねー、ってミサカはミサカは
想像して笑ってみたり」

一方通行は軽く湯をすくって体にかけてみる。別に熱すぎることはない。
ゆっくり、足からつかっていく。

「どうだ?気持いいだろー?」
「疲れが取れる気がするわよね」
「じわーっとしみますなぁ、ってミサカはミサカはのんびり」

だからなぜ見えているかのようなタイミングで声を掛けられるのか。
とにかく彼の人生初の温泉は…

「まァまァ…いいンじゃねェの…」

「おー、あなたも気に入った?ミサカも気持よくてただいま顔しかお湯から出ていません」
「打ち止めー、おっぱいも出てるじゃーん?この成長期め」
「いやね愛穂ったら。どこかの中年オヤジみたいなこと言わないでちょうだい」
「そうだそうだー!だいたいヨミカワの方がびっぐでらーじでぽよんぽよんなんだからね!って
ミサカはミサカは一緒にやろうと誘ってみる」
「こういう所じゃ泳ぐのは良くないんだけど…、他に人も居ないし、いっか!」
「子供ね二人とも…」

(………)

賑やかな同居人達の声をBGMに、ゆったりと足を伸ばす青年だった。
323 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/01(月) 00:07:16.96 ID:fMw+edZ20
女湯の方は三人だけらしいが、男湯には少し経ってから二人づれの客が入ってきた。
彼らは女湯から聞こえるあられもない会話を気にして、苦笑いで顔を見合わせている。
チラチラと仕切りに視線を向けていたが、赤い瞳と白い髪の青年が
自分達を射殺しそうなほど睨んでいるのに気づき、ぎょっとしてその場から移動した。

「ふン…」

「あなたーそろそろ上がりましょうだってー」
「おォ」

隅で縮こまっていた二人づれが、
女湯から聞こえてきた打ち止めの「あなた」にぴくりと反応した。

(嫁さん?)
(あの若さで…、でも声もえらい若かったなぁ?)

ごく小さな内緒話で二人は聞こえていないものと思っていたが、
それは一方通行の耳にしっかり届いている。
しかし、彼はもう二人の方を見ることもなく湯から上がって出て行った。

「おぉ、ちゃんと浴衣着られたじゃん。合わせが逆とか、
帯がリボン結びだったら面白かったのに」
「空気を読みなさいよ一方通行。男はあなた一人なんだから、
家族旅行においてはその役割は重要なのよ?」
「きゃーきゃーあなたの浴衣姿だーきゃー!ってミサカはミサカはハイテンションっ」
「うるせェ…、特に芳川は俺に間違った常識を刷りこもうとしてンなよ」
324 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/01(月) 00:09:33.80 ID:fMw+edZ20
合流した四人は庭園や旅館の周囲を散策したり、土産物屋で買い物をして
夕食までの時を過ごした。打ち止めは大きな池の鯉に餌をあげて、
「ウチの金魚ちゃんもここまで大きくさせる」と言っていた。

土産物屋では、何に使うのかさっぱり分からない小物やお菓子、おつまみを買い漁る保護者達に、
しばし圧倒される一方通行。杖をついている彼に、容赦なく荷物が手渡される。
ふと打ち止めが赤い髪飾りを手に取ってじっと見ているのに気づく。
赤と金の細かい細工が施され、揺らすと飾りどうしが触れ合ってシャラシャラと音が鳴った。
学園都市ではあまり目にしないデザインだ。一方通行は彼女の傍に近寄り、
無言で髪飾りを手から拾い上げてレジへ向かう。
包装を断って戻ってくると、打ち止めの右耳の上あたりにきゅっとつけてやった。

「あ、ありがとう…、似合うかな?」
「それなりにな」
「えへへ…、嬉しいな、ってミサカはミサカは宝物にさせていただきます」
「大げさなやつだなァ…」
325 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/01(月) 00:12:37.29 ID:fMw+edZ20
夕焼けが迫ってきたころ部屋に戻ると、テーブルには所狭しと豪勢な夕食が並べられていた。
簡単な準備だけ仲居にやってもらうと、水入らずで楽しみたいからと断って退席してもらう。
黄泉川の音頭でいただきますの合掌を終え、四人はさっそく箸を手に取った。
もっとも、黄泉川と芳川はなにはともあれビールだったが。
いや、ビールだけではない。日本酒、焼酎も瓶で何本か用意されていた。

「なンだよこの大量の酒はァ…、いくら何でも飲みきれねェだろ…」
「あははは、ついつい頼みすぎちゃったじゃん」
「大丈夫よ、君も手伝ってくれれば片づくわ。飲めないことないんでしょ?」
「……、別にいいけどよ」
「ミサカもちょっと欲しいなー…」
「絶対だめだ」
「やっぱりぃ?」

季節の山菜と海の幸、珍しい雉や鹿の肉。そして、酔っぱらう保護者達。

「打ち止め…、ピーマン食べられるようになったんだな…、あんなに嫌いだったのに、
うぅ、大きくなったじゃん。本当に成長したじゃん」
「ヨミカワ、これそら豆だよ?ピーマンじゃないよ。大丈夫?」
「ふふふ、ははははは、そら豆でもないわよ。それはグリーンピーシュよ。
愛穂の馬鹿、大馬鹿はははふふ」
「……、あなた、なんか二人ともいつもより変だよ、ってミサカはミサカはちょっと怖い」
「旅行っつぅことで普段より盛り上がってるだけだろ。相手にしなくていいぞ」
326 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/01(月) 00:15:09.95 ID:fMw+edZ20
黄泉川と芳川の手は休まることがない。
料理も酒も順調に消費されていき、酔いも順調に進んでいった。
打ち止めはちょっと怖くなってきた二人から離れて、一方通行の隣に座る。
保護者達ほどではないが、彼もグラスに焼酎を注いでは傾けるのを見て、
不安定ながらも瓶を持ってグラスに足してみた。

「気をつけろよ」
「ん…、ミサカお酌ってやってみたかったんだ。おいし?」
「まずくはない」
「やっぱりちょっとだけ欲しいよ、ってミサカはミサカはおねだり」
「…、一口だけな」

一方通行の飲みかけを、大仰に両手で受け取る打ち止め。
ゆっくりと、恐る恐る口に含んでごくりと飲みこんだ。

「どォだ?」
「…まずくは、ないね」
「ククっ、無理すンな、顔がブサイクになってンぞォ?」
「喉が熱い~、お、お水…」

その後も、ちょくちょくと青年のグラスにお酌をする打ち止めは、
この行為が大人っぽくて、恋人っぽくて楽しかった。
だから手にした一升瓶が、いつの間にかだいぶ軽くなっていたことにようやく気がついたのは
一方通行の腕が肩に回されたそのときだった。

327 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/01(月) 00:15:09.96 ID:fMw+edZ20
黄泉川と芳川の手は休まることがない。
料理も酒も順調に消費されていき、酔いも順調に進んでいった。
打ち止めはちょっと怖くなってきた二人から離れて、一方通行の隣に座る。
保護者達ほどではないが、彼もグラスに焼酎を注いでは傾けるのを見て、
不安定ながらも瓶を持ってグラスに足してみた。

「気をつけろよ」
「ん…、ミサカお酌ってやってみたかったんだ。おいし?」
「まずくはない」
「やっぱりちょっとだけ欲しいよ、ってミサカはミサカはおねだり」
「…、一口だけな」

一方通行の飲みかけを、大仰に両手で受け取る打ち止め。
ゆっくりと、恐る恐る口に含んでごくりと飲みこんだ。

「どォだ?」
「…まずくは、ないね」
「ククっ、無理すンな、顔がブサイクになってンぞォ?」
「喉が熱い~、お、お水…」

その後も、ちょくちょくと青年のグラスにお酌をする打ち止めは、
この行為が大人っぽくて、恋人っぽくて楽しかった。
だから手にした一升瓶が、いつの間にかだいぶ軽くなっていたことにようやく気がついたのは
一方通行の腕が肩に回されたそのときだった。

328 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/01(月) 00:18:29.03 ID:fMw+edZ20
「打ち止め」
「な、なに?わぁ!?」

一方通行は何も言わず、両手で彼女の腕を掴んで引きよせながら畳に倒れこんだ。
手と足でがっしりと少女を抱え込み、あろうことか浴衣の前合わせの部分に顔を押しつける。
打ち止めはじたばたと暴れたつもりだったが、あまりに強く抱きしめられていて、
実際は大して動けていない。

「あらぁ?愛穂、ウチの子が二人とも消えちゃったわよ。
事件よ、アンチスキルの出動よ」
「助けてヨシカワ!この人も酔っちゃったみたわぁぁぁやっぱり来ないで
助けなくていいです!ってちょっとー!?」
「なにどうしたじゃん打ち止め……あははー」

一方通行は打ち止めの浴衣に噛みつき、ぐいぐいと引っ張り、
あらわになった素肌にさらに顔を埋めていた。そんなことをすれば呼吸が苦しくなるのは当然で、
だからといって離すこともなく、深呼吸のように吸っては吐いて…、
打ち止めの胸は彼の息で湿っていく。

「もーもー離してぇ!って言ってるのに!二人とも見てるよ!?」
「ラストオーダァ…」
「だからなに!?」
「……」
「もおぉぉー…」

329 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/01(月) 00:22:56.30 ID:fMw+edZ20
一方通行は打ち止めを抱き枕にしたまま離す気配がない。
保護者達も笑いながら見ているだけだ。
この場で正気なのは自分だけなんだ、そう思うと無性に寂しくなってくる少女。

「誰でもいいからミサカをたすけてよぉっ」
「わーん、つー、すりー、いっぽーん!一方通行の勝ち~」
「ふふ、こらこら愛穂、これはプロレスでも柔道でもないのよ。
待ってて打ち止め、今一方通行をどうにかしてみるから」
「ヨ、ヨシカワぁ…お願い~」

芳川が一方通行の背中の帯を両手で引っ張る。びくともしない…
頭をバシバシとはたいてみる。無反応。

「だめねぇ…、もうこのままでいいのじゃないかしら、はははうふふふふ」
「いやー!もうちょっと頑張って!ってミサカはミサカは諦めが早すぎるヨシカワを応援!
あ、あなた頭動かさないで…っ」
「仕方ないわね。ほら愛穂手伝って」
「えーせっかく面白いのに~」

黄泉川が渋々、よろけながらも先ほどの芳川のように一方通行の帯を引っ張ると、
腕も足も打ち止めから離れることなくズルズルと畳の上を二人一緒に引きずられていく。
帯は解けかけ、浴衣も畳に擦れてほとんど脱げている。
それなのに一方通行は打ち止めを離さない。それを見て黄泉川、芳川はさらに爆笑。

「うふふふふ愛穂、こっちよこっち。ふふ、もうここに寝かせておきましょう」
「あいよー、…よいしょっと!はい、ちゃんと布団で寝るじゃん」

くっついたままの二人は、既に敷布団が敷かれた隣の寝室まで引きずられて放りこまれた。
そして無情にもふすまは芳川によってぴしゃりと閉められる。
打ち止めは引きずられている間に、いろいろと諦めていたのでもう何も言わなかった。
隣からは酒盛りを再開する大人二人の声が聞こえてくるのみ。

「ふふふふふ、やっぱりお酒は心の内をさらけ出すものね。
今日は面白いものが見られたわぁ。あれでこそ家族旅行の男ね、よくやってくれたわ」
「あはははは桔梗写真撮ったか?後で見せてほしいじゃん!」

(心の内……)

「あなた?」
「……」
「ミサカどこにも行かないよ?」
「ン」
「うん……」



339 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/02(火) 00:15:04.25 ID:uFJEIPk+0
青年は暗闇の中、目を覚ます。体が異様にだるくてすぐには起きられない。
何度か深呼吸して周囲の状況を確認しようとした時、腕の中に打ち止めがいることを知った。
今日は黄泉川も芳川も同じ部屋にいるというのに自分は何をやっているのか。
吸いこんだ息を注意深く吐き出し、闇に慣れた目を配れば二人とも布団など関係なく無造作に転がって眠っていた。
黄泉川に至っては一升瓶が枕である。
だんだんと記憶が甦ってきた一方通行は、打ち止めを起こさないようにそっと体を持ち上げた。

(……何やってンだ俺は…、この二人も酔っぱらっててくれて助かったぜ…)

振った頭がフラフラする、グラスが空になる度に打ち止めが酒を注いでくるので、
つい飲み過ぎてしまったらしい。体調はご覧のあり様だし、酒臭い…。
脱げかけた浴衣を整え、電極のスイッチをONにして急速にアルコールの分解を行う。
一分ほどしてスイッチを切り、三人が起きないように気をつけてふすまを開けた。
アルコールはまだ残っているようだが、これくらいなら問題ないだろう。
夕食を取った部屋に転がったままの杖を拾い、時計を確認すると時刻は深夜二時過ぎだった。

(確か露天は二十四時間入れるンだったな…)
340 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/02(火) 00:21:31.66 ID:uFJEIPk+0
「はァー…」
きっと、打ち止めを抱きしめたまま何時間もあの姿勢でいたのだろう。
この間の膝枕の反省は少しも活かされていない。薄暗い露天風呂の中で、自然石に背を預けて体をほぐす。
目を閉じた直後、脱衣所への引き戸がカラカラと開かれる音がした。

(っチ、誰だよこンな夜中に入ってくるヤツは。他の客はかなり少ねェはずなのに、よりによって…)

せっかく一人でゆっくりしようと思っていたのに、と一方通行は
さらに奥へと身を隠すように移動した。今は誰の顔も見ないでいたい。

湯の中に人が入ってくる気配がしたが、どうもおかしい。
パシャパシャという水音が途切れることなく移動し続けている。
そしてそれ以外のある音が耳に入ったとき、思わず目を開いた。
シャラシャラと、金属が触れ合うような音がする。これには聞き覚えがあった。
今日、土産物屋で買った髪飾りの音ではないか?

「打ち止め?」

「あ、いたいた。こんな隅っこにいたのね、ってミサカはミサカはこっちは広いし暗いし、ちょっと怖かったよ」
「……何してンだオマエ」

入ってきたのは他の宿泊客などではなく、なんと打ち止めだった。
彼女は両手を底につけて、泳ぐように近づいてきて一方通行の隣に身を落ち着けた。
髪は買ってやった髪飾りで器用に纏め上げられていて、
白い湯に隠れているとはいえ、体にはタオルのひとつも着けていないことが分かる。

「あなたのあとを追っかけてきたの」
「ここは男湯だぞ?」
「大丈夫だよ、あなたの他には男の人のお客さんは四人しかいないんだって、って
ミサカはミサカは仲居さんから聞いてた情報を公開してみる」
「そォいう問題じゃねェ」
「今日はミサカね、あなたの傍にいたい気分なの。一緒のお風呂に入るのはすごく久ぶりだね」
「………」

341 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/02(火) 00:29:17.45 ID:uFJEIPk+0
一方通行の頭に、意識を手放す前に聞いた言葉がよみがえる。


『ミサカどこにも行かないよ?』


もしかしてこの少女は……

「俺に気を使ってこンなことしてるンじゃねェだろうな」
「んー…、使ってないと言ったらウソになるけど、本当に、普通に、あなたと一緒にいたいのも
ウソじゃないからね、ってミサカはミサカは正直な気持ちを伝えてみる」

「…そォかよ」

お互い、そう思っているのなら、別にいい。
こうして近くにいたいと願うのは自然なことだろう。しかし…

「ちょっと大胆すぎたかなぁ…」
「ちょっとどころじゃねェなァ…」

随分と思いきった行動だ。何度も言うが、ここは男湯である。
真夜中とはいえ、一方通行以外の男性が入ってくる可能性はゼロではない。
夜の露天風呂は照明が少なく薄暗いのと、にごり湯であることが幸いしている…と言っていいのか、
打ち止めの体は肩までしか見えないが、全裸は全裸だ。


「あんまり、じっと見ないでほしいんだけど…」
「見せるために入って来たンじゃないのか?どうせ湯につかってりゃ見えねェけど」
「そりゃ絶対見せません、というわけじゃないけど、ってミサカはミサカは複雑な乙女心に、我ながら苦労してみたり」

ますます体をかがめて、少女は顎までも湯につかってしまった。
一方通行は手を伸ばして打ち止めの頭に触れ、シャリシャリと指先で赤と金の飾りを弄った。
これで髪を纏めているため、普段は隠れているうなじや耳がよく見える。

「ああ、髪を濡らしたくなかったから…」
「ふゥン…」

青年は体の向きを変え、顔を彼女の頬に寄せて、そっと触れるだけのキスを首や耳、うなじに落としていく。
いつも鼻先をくすぐる髪の香りが遠いことや、それを手ですくってよける必要がないのが新鮮だ。
ついつい強く吸ってしまいそうになる。

「あなた…、ねぇ」
「なンだ」
「くち…、普通のちゅーも、キスもして…」
「ン…」
342 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/02(火) 00:33:58.48 ID:uFJEIPk+0
口づけを交わしながら肩を抱き寄せると、湯の中で軽くなった打ち止めの体はふわりと簡単に浮いた。
お互いの手が背中や腰に触れる直前、かき回された湯が揺らめいて体を撫でていく。
不思議な感覚だ、こんな広い風呂で、お湯の中で、誰かとこうして抱きしめ合うのは。
ゆらゆらと、たゆたうお互いの体を安定させるため、
一方通行はさっきまでもたれていた岩に、今度は打ち止めの背を押しあてた。
さらに打ち止めの腰をつかんで持ち上げ、お腹あたりまでをお湯から上に出す。
滑らかな肌の上を、水滴がしたたっていった。
今まで隠していた所が急にあらわにされて、少女の頬は赤くなったが、両手は一方通行の肩に置かれて抵抗はない。

「声、あンまり出すなよ…」
「っ……」

期待は…、していないわけなかった。

また、以前のように気持よくしてほしいという下心があったからこそ、こうして裸で彼を追いかけてきたのだから。
343 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/02(火) 00:39:48.69 ID:uFJEIPk+0
膝立ちとなった打ち止めの体を下から見上げる。
こうして視界のきく場所で彼女の裸を見るのは二度目だ。
一度目はベッドで仰向けに横たわる体を、朝日に照らして見たのだった。
今のように仰向けになっていない打ち止めの胸はより一層丸みを帯びていて、
肩を除けば体のどこよりも早く水が滑り落ちて、早くに乾きそうだった。

一方通行は、自分も身を乗り出して打ち止めの腹に舌を這わせ、そのまま胸へ向かって登らせていく。
打ち止めがその舌の感触に気を取られているうちに、両手で乳房をわし掴んだ。
覚悟していたのよりも早く、異質な感触を与えられ、少女の体がぴくりと跳ねる。髪飾りも震えてシャランと鳴った。

指で様々な刺激を与え、少女の息がだんだんと上がっていくのを実感する。
こうして自分の愛撫が効果的に作用していることを純粋に嬉しいと思う。もっと、彼女を喜ばせたい。
親指、人差し指、中指で両胸の突起をこね回す。
分かりやすい性感帯を集中的に責められ、打ち止めはたまらず声を漏らす。
ただここは露天の、しかも男風呂だ。彼の言い付けを素直に守って、くぐもった吐息に混じらせた。

「!…ん、ん、ふ…は、ぁ」

反射的に体は前かがみになろうとするが、一方通行が指の動きはそのままに、少女を岩に押し戻す。

「ぁっ、~~」
「そォそォ、声…我慢な…。じっとしてろよ…」

やがてすぐに舌も胸までやってきて、指と一緒になって乳首を可愛がった。
一方通行の肩に置かれた打ち止めの手が、震えて強く握られる。

いい気分だ。
彼女は今、自分が与える快感に支配されている。そう思うと、言い知れぬ満足感が彼を満たす。
344 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/02(火) 00:44:32.09 ID:uFJEIPk+0
口だけ離して、どんな表情をしているのか見てやった。
打ち止めは顔を背けて目をぎゅっと閉じていたが、胸から彼の口が離れたのに気づいて、そっとまぶたを上げる。
一方通行と視線が合い、カっと頬が熱くなった。
打ち止めの顔からは、恥ずかしさ、喜び、快感、色んな感情が読み取れる。
目は「恥ずかしいから顔を見ないで」と語っていたが。

「こっち向け」
「や、あ、んん」

一方通行は打ち止めの顎を持って強引に正面を向かせ、最初から舌を差し入れるキスをした。
今度は口内を這いまわる舌に少女が気をとられている隙に、
するりと右手を湯の中に戻して、彼女の足の付け根に潜り込ませる。

「あっ」
「こら足閉じンな」
「だって」
「ほら…、湯の中なのにすげェなァ?ほら」
「っ…はぁ、は、はぁはぁぁ…ぁっ」

ぴっちりとくっつけられた太ももに挟まれた一方通行の手だったが、
あきらかに湯とは違う、ぬめる液体を湛えた少女の秘所は、指を動かせば簡単に滑らせることができた。
打ち止めは、これから訪れる快感の記憶を思い出してしまい、心と体が期待に膨らむのを抑えられない。
彼の指がぬるぬると蠢く度に出てしまう声を、大きくしないように呼吸を急がせた。

ゆるゆると下半身に込めた力を抜けば、見計らったように左手も忍び込んでくる。
キスされながら、胸や腹を舐められながら、
彼の両手はせわしなく、時にゆっくりと、そこを責めることを止めない。
少女の体が一層大きく跳ねて一方通行の胸に倒れこむまで、前回よりも時間はかからなかった。


355 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/03(水) 01:58:08.30 ID:A2kxXXXi0
大きな波が去った後、打ち止めは一方通行の腕に抱かれて呼吸を整えていた。
彼の手が気遣うように背中を撫でてくれて心地いい。ときどき余韻が不意に訪れて、まだ体が震えてしまう。
どうしようもないのだが、彼が見ていると思うと恥ずかしさがぶり返す。
それを振り払うように荒い息を吐きながら顔を上げれば、赤い瞳と目が合った。

「大丈夫か?」
「…はい、だ、いじょうぶデス…」

可愛らしい鳴き声を我慢しながら自分の指で達した少女は、直後、体を支えることも出来ずに倒れこんできた。
纏めあげた髪がほつれて、いくらか湯にひたっている。
ドクドクと早い鼓動が胸から胸に伝わってくる。
時々小さく体が震え、それを恥ずかしそうにして顔を俯かせる。
その様子、仕草すべてが、一方通行の心をくすぐった。

くすぐったのだが、ここはいつ誰が来るとも知れない旅館の露天風呂で、しかも男湯である。
こんな夜空の下で、あられもない、我慢しきれないであろう声が響く場所では、これ以上どうしようもなかった。

(ゴムもねェしなァ…、またかよ…)

泣く泣く、突き上がってきた欲望を無理やり押さえ込めるため、
打ち止めの背中から右手を離してチョーカーに触れようとした時、彼女がそれをさえぎった。
あらかじめ彼の行動を予測していなければ不可能だったろう、
まだ力が戻らない腕をよろよろと伸ばして、青年の手を掴んだ。
356 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/03(水) 02:02:19.83 ID:A2kxXXXi0
「…?、オイ」
「…待って、ってミサカはミサカは、あなたに」

打ち止めの表情が、さっきまでとガラリと変わっている。
切ないような、責めるような、求められているような、こんな不思議な表情は初めて見る。
思わず目を丸くして見つめてしまう。
だんだんと、打ち止めが近づいてくるのに、一方通行は動けなかった。

「目開けたままなの…?」
「!……」

言われるままに瞼を下ろすと同時に、彼女からキスされた。
両手で頬を挟まれて、いつになく積極的に舌が入ってくる。
様子が変なことは分かるが、どう対応するべきなのか判断がつかない。
少女にいいようにされて、情けないことに一方通行はそのまま流されてしまいそうになる。
打ち止めの舌が与えてくる快感に意識を集中させ、もう右手はチョーカーに触れようとはしなかった。
いつもと違う打ち止め。たった今見た彼女の裸と痴態、それらが一方通行の頭の中を駆け巡る。
打ち止めは彼の頬を押さえていた手を、その白い肌をなぞりながらするすると、ゆっくり降ろしていく。
白く濁った湯の中に入っても、その動きは止まらなかった。

まさかと思い、青年はのけぞってキスを終わらせ、少女の顔を凝視する。
目を開けた打ち止めは、彼を動揺させた表情のまま見つめ返してきた。

「オマエ」
「お願い…あなた」

357 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/03(水) 02:04:39.58 ID:A2kxXXXi0
その声はもはや、ほとんど息にかすれてようやく聞き取れるものだった。
いつもより低い、艶のある響きにどきりとする。
ついに彼女のちいさな手が青年の下腹部を通りすぎて、すでに興奮で昂っているモノに触れた。

(まさか、打ち止めが…!?おい…!?)
(すごい…、お湯より熱い気がする…)

(止めろよ、コイツの肩を掴んで引き離すだけだろォが)
(止められない…。いいんだよね?あなた、このまま触っててもいいんだよね?)

(!!っ、両手…っ)
(こんな太いの!?長いの!?どうやってこんなのパンツにしまってるの…?)

温泉の端で向かい合って目を合わせていた二人だが、ついに一方通行が眉を寄せて俯いた。

(痛そう?違う?もしかしてキモチいいの?)
(確かに、顔は見られたくねェ…、うわっ)

打ち止めは初めて触るそれの形や硬さ、手触りをよく確かめようと、根元から先端までをなぞって握る。
どくどくと脈打って、別の不思議な生き物のようだが、
時々びくりと跳ねるのと同時に肩も震えるので、間違いなく彼のものなんだと思う。

(どうしてこんな形になってるの?こんなの、本当にミサカの中に入るかな!?
……えー?なんかさっきより、太くなってる?硬い?)
(やばい、これはやばい。…やばいってェェェ!)
358 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/03(水) 02:08:04.80 ID:A2kxXXXi0
打ち止めは好奇心旺盛な少女だ。長年思い続けてきた最愛の人と恋人同士になれて、
体を弄られて全てを見られ、それなのにまだ最後の一線を越えられていないこの現状。
怖いことは確かなので、どこかで安心もしているのだが、心の底の方で
「知りたい」「実感したい」「あの人のこと、ミサカもさわりたい」という欲求があるのも偽りない真実だった。
そこに来てこの温泉旅行、そしてアルコールの力を借りてあらわになった一方通行の、願いとも言える抱擁。
保護者達の前だというのに、なりふり構わず抱きしめられて、
分かってはいたが、彼が自分を強く求めていることを実感した。
普通とは縁遠い日々を送ってきた二人だったが、
好きな異性をもっと知りたいと思う本能は、学ばなくても普通に持っていた。
特に打ち止めは、好奇心旺盛、なのだから。

「あなた、どう?…キモチいい…?」
「っ…」

(言えるかァァ!)

「びっくりした…。こんなになるんだね、ってミサカはミサカは興味深々で触ってるんだけど、大丈夫?痛く、ないですか…?」

何も言えないし、顔も見せられない一方通行は、両手を握りしめてガバっと打ち止めの肩をかき抱いた。

「あっ。……あの、もっと強く握った方がいい…?」

青年は何も答えなかったが、代わりに腕に力を込めた。それを肯定の合図と受け取って、
打ち止めは両手の動きをより強く早くすろ、さっき彼がしてくれたのをお手本に。
そうすれば、きっとキモチよくなってくれるだろうと思って。
359 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/03(水) 02:10:10.46 ID:A2kxXXXi0
打ち止めからは一方通行の顔は見えないが、息遣いや歯を噛みしめる音から、彼の様子が読み取れる。
何よりも、両手で摩擦を与えているものの反応が素直で分かりやすい。
それらに神経を配り、この行為を続けてどれくらい経っただろうか。
一方通行が大きく息を吸い込み、ぐいっと打ち止めを引き離した。温泉の湯が大きく揺らめく。

「?」
「はァ…はァ…はァ、ちょっと…はァ、あっち、向いてろ……っ!」
「え?わっ」

向いてろ、と命令した割には結局自分で彼女の腕と肩を掴んで、投げるよう体ごと反転させた。
そして能力を使用モードにして、すごい勢いで湯の中を駆けて出て行った。
途中からもう湯の上を走っている。
打ち止めが振りむいた時には、ガラガラバン!と脱衣所への引き戸が開けられる音が響いた後で、
上から、辺り一面に彼が巻き上げたお湯が大粒の雨のように降り注ぐのみだった。

360 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/03(水) 02:13:52.65 ID:A2kxXXXi0
『男なんて出さなきゃ意味ないんだから』

以前聞いた番外個体のセリフを思い出す打ち止め。湯から手をだしてじっと見てしまう。
思いだしてしまう、形とか、硬さとか、大きさとか。
あと苦しそうな呼吸や、びくりと震える一方通行の様子とか。

(だ、だして、るのかな?今…)

ここは温泉の中だし、打ち止めの前ではこういうことの弱みを見せたがらない彼のことだから、
ここでこんな風に果てるのは回避したかったのだろう。

とりあえず、待っていることにした。

三分、五分……

………

…………

(帰ってこないっ、ってミサカはミサカはもしかして待ちぼうけ決定!?)

どうしよう、お湯から出て彼を探すべきだろうか。
しかし、男湯に入ってくる時は脱衣所に置いてある浴衣と杖で、中に一方通行しかいないことを把握できたが、
でも出る時は違う。もしも他の男性客と鉢合わせしてしまったら…

そう逡巡しているうちに引き戸が開く音がして、ドキっとして岩の陰に身を隠す。
湯の中ををばしゃばしゃと歩く音は、まっすぐ打ち止めの方へ向かってくる。

「あっ、……おかえりなさい…」
「……」

「遅かったから心配してたの」
「……」

一方通行は何も答えずに少女の隣に腰を下ろした。ちなみにタオルを巻いている。
超高速で露天風呂から出た後、すぐに然るべき場所で然るべき処置を施した。
限界ギリギリだったのですぐに済んだのだが、どんな顔で打ち止めのもとに戻ればいいのか。
それに胸に込み上げてくるこの罪悪感、やるせなさ、そして興奮と高翌揚感。
その場にうずくまって頭を抱えていたら、いつの間にか時間が過ぎてしまっていたのだ。
さっきは焦るあまりに大きな音を出してしまった、。
男湯に中に打ち止めをいつまでも一人にしておけないので、とりあえずこうして戻ってきたのだ。
361 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/03(水) 02:16:57.63 ID:A2kxXXXi0
「あのぉ…お、怒ってる…?」

目も合わせてくれない一方通行が、自分に怒っているものと勘違いして、打ち止めが恐る恐る訊いてくる。
その声がいつもどおりで、一方通行は内心ほっとした。

「いや…、怒ってねェよ」
「なら、よかったんだけど、ってミサカはミサカは元気がなさすぎるあなたを心配してみる」

打ち止めは一方通行の腕にしがみついて体を浮かし、彼が湯の中でしていたあぐらの上に座った。
底が浅くなったせいで、際どいところまで胸が出てしまうが、さすがに今日は今更だと彼女も思う。
青年の両手が、湯の中で彼女の背中と足を支えれば、いわゆるお姫様だっこの状態だ。

「おぉ、そうかこういう水の中なら、あなたに軽々と抱っこしてもらえるのね、って
ミサカはミサカはいいこと発見した」
「しょっちゅうあってたまるか、…、こンなこと」
「あ、やっとミサカを見て喋ってくれたね」
「実は気まずいのを我慢してるンだが」
「ミサカも実は自分の行動にびっくりしてるの」
「…、まァ余裕しゃくしゃくでいられるよりマシだな…」
「まだ、どきどきしてるよ。だって…、熱くてお」
「やめろ、その話はするンじゃねェ」
「はーい」

しばらく他愛無い会話をして、お互い疲れてしまった体を休めていた。
打ち止めは一方通行の胸に顔を埋めて、背中や足を撫でてもらってリラックスしている。
だんだんと、いつもの調子を取り戻した一方通行も珍しく饒舌だった。

そろそろ戻るか、そう言われてがっかりした表情の打ち止めだったが、
「俺だってまだ戻りたくねェけど、そろそろまずいだろォが」と一方通行に苦笑いされて、すぐに笑顔になった。

「いつかまた二人で温泉はいろうね、ってミサカはミサカは約束してみる」
「いつか、な」
362 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/03(水) 02:20:34.42 ID:A2kxXXXi0
黄泉川家の温泉旅行の巻 完

これで通行止めの新婚旅行は世界温泉巡りに決定ですね。
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/03(水) 05:05:03.85 ID:M8YfMbHo0
ここまでパイズリ無し
よーしパパ怒っちゃうぞー
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/03(水) 14:49:43.40 ID:ywUnmMODO
>>1乙!

今のうちに童貞処女ライフを満喫しとけばいいと思うのね
どうせなくなるんだから
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/03(水) 15:24:30.92 ID:7I0lt3FNo
自然に童貞扱いされてるが童貞なんだろうか
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/03(水) 15:39:02.72 ID:iZag6OLz0
乙~ このお湯は濁り湯。さすが>>1わかってる

371 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/04(木) 00:41:31.14 ID:Tqt2NIHJ0
ある夏の夜、一方通行はいつものようにポルシェのキーを持って玄関へ向かった。
チャリチャリとキーを鳴らして靴を履いていると、背後から不満を隠そうともしない少女の声がする。

「また一人でドライブ行っちゃうの?ってミサカはミサカは一緒に連れてってよとお願いしてみる」
「まだ起きてたのか。オマエは明日学校があるだろォ?もう寝ないと起きれねェぞ」
「ちょっとだけなら大丈夫だよ」
「俺はちょっとで戻るつもりじゃねェンだよ。夜の方が他の車がいなくて走りやすいからなァ」
「ぶーぶー、ってミサカはミサカは連れてってくれないあなたに非難のまなざしを送ってみる」
「そう言うな。明日はオマエと一緒に行く。学校終わったら電話しろよ、迎えに行くから」
「うー…、じゃあ許してあげる、あとね…」

行ってきますのちゅうをしなさい、と命令されて、
一方通行は保護者達の気配がないことを確認してからそれを遂行した。
372 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/04(木) 00:44:52.25 ID:Tqt2NIHJ0
打ち止めも一方通行も、今は長い夏休みの真っ最中だ。
ただ打ち止めは中学三年生なので、受験のために夏期講習が行われるので、こうして休み中も学校に行かなければならなかった。
二人が特別な関係になってから初めての夏休みなのだが、二十四時間ずっと一緒に居られるわけではないのである。
それに、一方通行はこうして度々打ち止めを置いて、一人でドライブへ出掛ける。
だいたい彼女と二人ですごしたいがために買った車だったが、純粋に走らせる面白さに目覚めてしまったらしい。

打ち止めが部屋に戻って窓を開くと、彼が運転するポルシェがエンジンと四本のマフラーから、
やかましい音を出して道路を走り去っていくのが見えた。
無機質なはずのそのボディから楽しそうなオーラというか、雰囲気が伝わってくる。

(あの人ったら、本当にドライブが好きなのね、ってミサカはミサカはポルシェちゃんにちょっとヤキモチやいちゃう。
明日はミサカたくさんワガママ言ってやるんだから)

そう思いつつも、打ち止めはハンドルを握る一方通行が好きだった。
楽しそうだし、車内という狭いところに邪魔されないで二人きりでいられるし。

(それに、運転中のあの人は、カッコイイし…。でも抱きつけないのがタマにキズ。
……そうだ。うっふっふ~ミサカいいこと思いついちゃった!そうとなったらすぐ寝よう、さぁ寝よう!)


この少女は一体なにを思いついたのか。
いそいそとベッドに入って明かりを消し、今頃はどこを走っているのか分からない恋人におやすみの挨拶をしてから眠りについた。

373 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/04(木) 00:49:02.78 ID:Tqt2NIHJ0
次の日、約束どおり一方通行は夏期講習を終えた打ち止めを迎えにやってきた。
昇降口まであのうるさいエンジン音を轟かせるのはさすがに目立つので、校門を出た道路の路肩で待ち合わせをする。
左ハンドルのポルシェは車道側が助手席になるので、一方通行の合図を待ってから急いで乗り込んだ。

「さて、どこに行きたいンだ?」
「んーとね、そうだなぁ…そうだ、まずお昼ごはんにしようよ。あなたはもう食べちゃった?」
「いや、どうせオマエがそう言うと思ってまだだ」
「いやーん、あなたってばミサカのこと考えすぎよ、ってミサカはミサカは照れちゃう」
「アホ。どこで食うかなァ…」
「…番外個体のお店に行こうよ!ミサカあそこのサンドイッチ好きだもん」
「エー…」
「そんな顔しないで、さぁさぁしゅっぱーつ!」


「おや第一位とお姉ちゃんじゃないの。仲良くデートぉ?」
「わーい番外個体いたーっ、てミサカはミサカはいつものサンドイッチが食べたいよー」
「俺もそれでいいわ」

二人は番外個体がアルバイトしているカフェへとやってきた。打ち止めはここの常連客である。
屋外にテラス席もあるが、暑いので室内のテーブルへ座ると、番外個体がまず水を持ってやってくる。

「運がよかったね、さっきまでランチのお客さんで混んでたんだ。最終信号は制服だけど、学校だったの?」
「うん、夏期講習。さっき終わってこの人に迎えにきてもらったところだよ」
「へぇー、そういえば受験生だもんね。…せっかくの夏休みなのに寂しいねぇぇ?」
「……さっさと仕事してろよ、さぼってンな」
「ね、ね、番外個体、今はお店大丈夫なんだよね、ってミサカはミサカはちょっとお話があって、こっちこっち…」
「ん?ちょ、最終信号?」

打ち止めは番外個体の手を引いてこそこそとカウンターの向こうへ消えていき、
後に残された一方通行は、グラスに口をつけながらその光景を見送った。
374 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/04(木) 00:51:13.10 ID:Tqt2NIHJ0
(……そォいえば、打ち止めのヤツ、番外個体に俺達のこと喋ってねェだろうな…?
あっちが勘づくのは仕方ないとしても、まさか自分からイロイロと教えるようなマネしてたりとか…)

最近覚えたマッサージとか、この間の温泉旅館での出来事とか、
その他諸々の、イロイロなことが頭をよぎる一方通行であった。

サンドイッチが運ばれてくる頃、打ち止めがニコニコしながら戻ってきた。
美味しそうにそれを食べながら、一方通行に次の行き先を提案している。
その様子からは、彼が心配していた情報の漏洩は感じられなかったので、一安心というところだ。
やがて番外個体がデザートを運んできて、二人の前にクリームたっぷりのケーキを置いていく。

「俺は頼ンでねェだろ」
「さ・あ・び・す。ぎゃはっ」
「…だからここには来たくなかったンだよなァ」

しぶしぶとケーキにフォークを刺す第一位。文句を言いながらも結局食べるのでサービスされるというのに。
打ち止めが可笑しそうに一方通行を見て笑っていた。

381 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 00:07:44.17 ID:qbgwZJPk0
昼食後、一方通行と打ち止めの二人は適当に街中をドライブし、そして人気のない森林公園の池を望むベンチで休憩となった。
以前一度来たことがあって、気に入ったのか打ち止めがまた行きたいとリクエストしたからだ。
三メートル四方を柱とベンチが囲っていて、屋根もあって薄暗い。さらに植え込みが周囲からの視線を遮ってくれる。
小さな滝が落ちる音、木々がざわめく音が響いて、近づかなければ会話が難しい。
すぐ見える所に車を置いておけるのもいい。駐車してあるのが知れれば、ここに人がいると思われて、ますます他人が近寄らないからだ。

「やっぱりここはキモチいいね、ってミサカはミサカは池の傍は涼しくて快適!」
「あと周りに木が多いからな、夏でもあまり気温が上がらないンだろ」

打ち止めは手すりから身を乗り出し、池を覗き込んで鯉を見ている。夏祭りで金魚をすくって(貰って)からというもの、
どうも魚類を愛でる傾向があるようだ。
ベンチに座る一方通行に背を向けて、じーっと水面に釘付けである。青年の行き場のない腕が、そわそわと膝の上で動いていた。

(あー…カワイイっ、餌用意してくればよかったな、ってミサカはミサカは悔やんでみたり)
(コイツまさか鯉が見たくてここに連れてこさせたんじゃねェだろうな?)

「…打ち止め」

一方通行がそっぽを向きながら人差し指でベンチをトントンと叩く。鯉ばっか見てねェで座れ、という意味だ。
打ち止めは、あ、という顔をしてから、いそいそと彼に駆け寄って隣に腰掛ける。嬉しそうに笑って、彷徨っていた腕をつかまえた。

「ごめんねーあなた、ついつい大きな金魚ちゃんに見とれちゃったの」
「何が面白いンだ、あンな魚の」
「いまいち説明しにくいけど、なぜか好きなの、ってミサカはミサカは言い表せないもどかしさを味わってみる」
「まァいい」
382 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 00:16:02.18 ID:qbgwZJPk0
一方通行が、捉えられていた腕を少女の肩に回そうとすれば、引き寄せる前に打ち止め自身が胸にすり寄ってきた。

(……落ち着く)
(落ち着くなぁ、ってミサカはミサカはここが定位置になるつつある幸せを実感してみたり)

周囲は木々と、水の音。誰もいない昼でも薄暗い公園のベンチ。自宅からは遠く離れたこの場所で、二人きりでゆっくりと過ごす。
車を買って、本当に良かった。一方通行がそう思う瞬間だった。

「ねぇ、ここでこうしてると…」
「…こォしてると?」
「露天風呂でのこと思い出しちゃわない?」
「………まァな」

確かに、雰囲気は似てると思う。しかしあの温泉(しかも男湯)での出来事は一方通行にとって良い思いでばかりではない。
いささか気まずく、情けないエピソードとして心の底にずっと仕舞っておきたいものだ。

打ち止めが、普段は見せない類の笑顔で青年を見上げてきた。それはあの露天風呂での表情を彷彿とさせる。
最近分かったことだが、この妖しい笑顔はいけない、と学んだ一方通行は内心あせって話題の転換を図った。

「そォいやオマエ、その温泉のこととか番外個体に言ったりしてねェだろうな?」
(しまった、あンまり話がそれてねェ…)

「な、言うわけないでしょっ、あ、あんな、恥ずかしいことぉ~。どうしてそんな事思ってるの!?」

しかし少女にとっては有効だったようだ。頬を赤く膨らまして抗議の視線が向けられ、例の笑顔はとりあえずなりを潜めてくれた。

「あ、いや、言ってねェならいい。さっきオマエが番外個体とコソコソ話してたから」
「違うよ、あれは直接会って話した方がいいことがあったから…、
だいたい内緒話ならネットワークにつないでした方がいいに決まってるでしょ、ってミサカはミサカはこれで疑いが晴れたよね?」
「分かった分かった。ちょっと心配しただけだろォが、そンなに怒ンなよ」
「ならよろしい。あのこと、そのこと、例のことは、ミサカとあなただけの秘密なんだからね!
あなたこそハマヅラやカミジョーに言っちゃだめよ?」

話題の転換には成功したが、思いがけず怒られてしまった一方通行であった。
383 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 00:19:36.85 ID:qbgwZJPk0
「で?」
「なぁに?」
「番外個体に直接話した方がいいことってなンだよ?」
「……、秘密」
「……教えろ」
「怖い顔してもダメだからね、ってミサカはミサカは脅しには屈しない強い子なんだから」
「ッチ」
「拗ねないでよー」

しばらくこのベンチでおしゃべりした後、二人してポルシェに戻ってきたが、一方通行が助手席が半ドアになっていることに気づく。
窓から車内を覗き込むと、案の定ルームライトがつきっぱなしになっていた。
キーを回すと、あとちょっとというところでエンジンが掛からず、打ち止めがオロオロと一方通行とボンネットを交互に見る。

「どぉしよう、ごめんなさい、ミサカのせいだね…。しっかりドア閉めなかったから」
「落ち込むなよ、コイツのドア重いからなァ。ただのバッテリー上がりだ、気にすンな」
「バッテリー換えれば大丈夫なの?」
「いや、換えるまでもねェと思う。ここにいいバッテリーがいるし」

そう言って一方通行が打ち止めを指さした。

「え?ミサカ?……あ、そっか」
「そォそォ、ほらボンネット開けるからどけ」

打ち止めがボンネットを開けたポルシェのバッテリーに両手をかざす。
すでにパチパチと電気を纏って準備万端の状態だ。
384 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 00:21:38.42 ID:qbgwZJPk0
「いいか?12ボルトだぞ。こっちがプラスで、こっちがマイナスだ」
「りょーかいりょーかい!12ボルトだね、ってミサカはミサカはオトシマエつけることができて一安心…」
「回すぞ」

見事エンジンは掛かった。打ち止めは一方通行に頭を撫でられてご満悦である。
帰りの車内でもその話題で盛り上がる少女。よほど能力で役に、というか責任が取れたことが嬉しかったようだ。

「えへへー、ミサカ役に立ててよかった!やっぱりミサカを連れてくるのに限りますなぁ、ねぇあなた?」
「そもそもオマエが半ドアにしたのが原因なンだがな…。まァ一人で走ってるときにもあり得ない話じゃねェけど」
「そうそう、そんな時はミサカが」
「そン時は自分で車持って飛んで帰ってくるわ」
「……なるほど」

385 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 00:25:49.34 ID:qbgwZJPk0
次の日、一方通行が朝目覚めると、打ち止めはすでに居なかった。今日は夏期講習はないはずなのにどこへ行ったのだろうか。
ケータイを確認すると彼女からメールが届いていた。

『今日は友達と遊んでくるね!ごはんは冷蔵庫に入ってるのでチンして食べて、いってきまーす』

実際にはハートや賑やかな絵文字がふんだんに使われているそのメールを見て、一方通行はどうしたものかと頭をかく。
たまには打ち止めだって友達と遊びたいこともあるだろう。しかし、休みの日に彼女がいないだけで
この手持無沙汰の有り余った時間はどうだ。春まではいつもこんな生活のはずだったのに、物足りないにもほどがある。
こんな時は……

「寝るか」


また次の日、打ち止めは午前中はいつもどおり家で過ごしていたが、昼になるとお姉さまと買い物に行くといって
また一方通行を残して出て行ってしまった。

(まァこンなこともあるだろ…)

さすがに昨日たっぷりと寝たので、今日はどこかに出掛けようと思い車を出した。
ついでと思ってポルシェを買った業者にバッテリーの点検をしてもらうが、
まったく問題は無いとのことで、店長と整備士に不思議がられた。
おとといの出来事を話すと、能力でバッテリーを充電するという発想が無かったらしく大層驚かれたのが愉快である。
もともとわずかな需要を受けて、外から学園都市に出店している業者である。
ここに住んでいても、能力に対しての考え方が柔軟ではないようだ。

「社員に電気使いはいねェのか?やらせてみろよ。多分機械でやるより早くて確実かもな」

とアドバイスしておいた。
386 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 00:29:24.64 ID:qbgwZJPk0
またまた次の日、今日は打ち止めはずっと家にいるようだ。
一緒に映画に行って、いつもは寝てしまう恋愛映画も最後まで起きていたので彼女に感心される。
もっとも内容は大して頭に入っていないのだけど。

しかしその夜。

「今日は番外個体のお家にミサカがお泊りに行くので、あなたに送って欲しいなとお願いしてみる」
「はァ?…いいけどよォ別に。オマエが泊まりに行くなンて珍しいな」
「たまには姉妹水入らずで絆を深めようと思って」
「そォかよ。でェ?迎えはどうするンだ?」
「あー、えっと、お迎えは大丈夫だよ。たぶん夜遅くなるかもしれないから…。
番外個体に送ってもらうと思う、ってミサカはミサカはあなたのお気づかいにありがとうなの」
「だから、遅くなるなら尚更だ。アイツ足ねェじゃねェか」
「いいのいいの、大丈夫だから。はい、ミサカもうお泊りセットの用意できてるの、さっそくタクシー一方通行お願いします!」


強引に押し切られて、迎えの約束は取り付けることなく番外個体が住むアパートへと着いた。
打ち止めは笑顔でまたね、と手を振って確かに番外個体の部屋に入っていく。
それを確認してから、一方通行は帰路についた。
車内で考えるのは、最近様子がおかしい打ち止めのことばかり。

(アイツ一体どうしたってンだ?ここ二、三日、夏期講習も無いのに家に全然いねェ。さっきも態度がおかしかったしよォ…)

結局、つまらないし、心配だし、寂しい第一位なのだ。

(明日は、ちょっと打ち止めが何やってンのか探りを入れてみっかな…)


393 :ブラジャーの人2011/08/05(金) 19:37:44.07 ID:qbgwZJPk0
翌日、一方通行はポルシェを番外個体のアパート三百メートルほど手前で停めて、あとは徒歩で彼女の部屋の前までやってきた。
中の様子を伺うと、誰もいないのかしんと静まりかえっているし、もちろんドアもロックされている。
外からは窓にカーテンがかかっているのが見えたので、おそらく二人はどこかに出掛けたのだろう。
時刻は朝の十時である。もっと早くに来るべきだったと後悔する一方通行。

行き先を知りたいのなら、番外個体か打ち止めの携帯電話にでもかけて直接訊けばいいのだが、なんとなく気づかれないで探りたいと思う。
しかし二人がどこに行くかなんて皆目見当がつかないため、仕方なく携帯を取り出してアドレス帳を開き始めた。

ほどなくして目的の番号を見つけ、ためらいながらもコールする。数秒後、興奮した声で相手が通話に出た。

「第一位さま!!?」
「ちょっと訊きてェことがあるンだが」
「いやーっ、まさか第一位さまからかけてくれるなんてぇ、アタシドキドキしちゃうんだけど!」
「おいきけコラ」
394 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 19:40:38.12 ID:qbgwZJPk0
それは番外個体の大学での友人の一人で、一方通行を第一位さまと呼ぶ女性だった。
もっとも呼称だけは丁寧だが、その他の態度は周りの数人と大差なく、むしろなれなれしい方である。
以前無理やりに携帯にアドレスを登録されたことを思い出し、彼女が特に番外個体と親しくしているので、
何か手掛かりがないものかと思って電話してみたのだ。

「え、一方通行から?」
「おい代われ、後期の物理学の講義を選択するようにお願いするんだ」
「ちょっと、アンタらうるさいっ、第一位さまはアタシをお求めなんだから邪魔するんじゃねぇわよ!」

どうやらいつもの野次馬連中と一緒にいるようで、通話口からあの賑やかな声がする。そこである可能性に気づき、
一方通行は思わず声を低くして尋ねた。
コイツらが一緒にいるということは、番外個体も同席しているのではないか?彼女が複雑な事情の姉を伴っているとは思えない。

「…そこに、…ミサカはいるか?」
「ん?ミサカ?ううん今日は一緒にいないよ。なーんだー、第一位さまミサカに用があってアタシにかけてきたのー?やっぱりアヤシイ…」
「やかましい、いないならいいンだ、そうか…。アイツが今日どこに行ってるか知らねェか」
「えーと…ちょっと待ってて、みんなー今日ミサカの予定知らないー?」
「ミサカちゃんなら今日のボーリング断られたんだよな」
「誘ったの誰だっけ?」
「俺。今日は朝からバイトって言ってたぜ」
「ふんふん了解、あのね第一位さま、ミサカ今日は」
「聞こえてる、もォいい分かった」
「あー待って切らないでアタシ達と一緒にボーリング大会をっ」

相手の話を最後まで聞くことなく、一方通行は通話を終わらせた。
395 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 19:43:56.11 ID:qbgwZJPk0
(てっきり打ち止めは番外個体と別行動を取ってるンじゃねェかと思ったが、やっぱり二人で一緒にいるのか?しかし…)

番外個体が野次馬達と一緒にいないなら、やはり昨夜二人でここに泊まった後、打ち止めとどこかへ出掛けたと考えるのが妥当だ。
だが番外個体は遊びの誘いをバイトだと言って断ったというではないか。そうなると打ち止めはどこにいるというのか。

考えていても仕方がない。とりあえず番外個体のバイト先のカフェへ行ってみることにした。
駐車スペースに車を停めてそのカフェの前まで来ると、あっさり番外個体が見つかった。
テラス席の空いた食器を片づけているところで、電話で聞いたとおり普通にバイトをしているようだ。

一方通行は、できれば彼女がバイトをしていないで欲しいと思っていた。
適当に遊びの誘いを断るための常套句として言っただけだと望みを持って来たのだ。今頃は打ち止めと二人で、
買い物やゲームセンターにでも繰り出していればいいと。
そうじゃなければ、打ち止めの行動が理解できない。

打ち止めは番外個体の部屋に泊まってくると言った。
今日は遅くなるから、迎えはいらないと断られた、番外個体に送ってもらうから、と。

(どォいうことだ。打ち止めは俺に嘘をついて、一人でどこかへ行ってるのか?)

焦燥が彼を襲う。最近様子がおかしかったこと、嘘をつかれて単独行動を取られていること。
一方通行はいてもたってもいられず、体裁など考えずに番外個体に早足で詰め寄った。
396 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 19:45:39.06 ID:qbgwZJPk0
「おい番外個体ォ!」
「ありゃー第一位じゃないの。やっぱり来たんだね。ひゃははははは、あーおもしれぇ、なにその焦ったカオ」
「……やっぱり、だとォ…?」

彼女の態度は、まるで一方通行がここへ来ると分かっていたというようなものだった。
出足をくじかれた青年は舌打ちして、とにかく訊きたいことを質問する。

「今日は打ち止めと一緒なンじゃねェのかよ。アイツ今日はオマエに送ってもらうと言っていたぞ。なンでバイトしてンだ」

番外個体は何も答えず、ただニヤニヤといつもの笑みを浮かべるのみ。
食器をテーブルに戻すと、イライラして今にもつっかかりそうな一方通行の手を取って屋内席への入り口へと引っ張っていく。


「ちょ…」
「いいから、静かにしなよ。愛しの最終信号がどこにいるか教えてあげる、っつってんだよ」
「……さっさと教えやがれ」

ずっとニヤついたままの番外個体は、壁の陰に隠れて一方通行を手招きしている。
仕方なく彼女に近づくと、今度はクイクイと店内の方を指さされたた。

(まさか…)
397 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 19:50:18.80 ID:qbgwZJPk0
「オレンジジュースとコーラ、八番テーブルだよ~、妹ちゃんお願いねー」
「はーい、ってミサカはミサカはおぼん持ってダッシュ」


いた。打ち止めが。


番外個体と同じウェイトレスの制服を着て、厨房とテーブルを行き来している。
ときどき客の注文を聞いたり、空いた食器を片づけたりしながら、そこそこ忙しそうに働いていた。

「何やってンだアイツ」
「見りゃ分かるでしょ。アルバイトしてるの、ここで」
「妹?」
「ややこしいから、最終信号がこのミサカの妹ってことにしてんの」
「で、なンでバイトしてるンだ?」
「本人に訊けばいいと思う」

一方通行は番外個体を押しのけ、杖の音をわざと消して歩き打ち止めの背後に立つ。

「ちょっといいですかァ」
「はーいただいま、ッ……い、いらっしゃいませぇ、えへへへ…」
「おォ来てやったぜ。まずは理由を教えろ」
「あのー、でもー、そのー、ってミサカはミサカは困ってみたり」

振り向いたら明らかに不機嫌な恋人の顔があって、打ち止めはもじもじとおぼんを弄りながら目を背けた。
その様子を見ていた他のバイト店員が、打ち止めがからまれていると勘違いしたのか、三人も厳しい表情で駆けつけてきて、
それが全員若い男なのが一方通行の神経を逆なでる。

「ちょっとアンタ何やってんですか」
「うちのコに…」
「あれ?お客さんもしかして」
「あァ?なンだオマエら」
「待って待ってあなた、ケンカしちゃダメだったらっ」

一人は客としてこのカフェに数回連れてこられた一方通行のことを覚えていたようだが、あとの二人はそれを知らず、
青年の鋭い赤い目にびびりながらもその場から引かない。
打ち止めがオロオロしていると番外個体がやってきて、睨み合う男達の間に割って入った。
少女の顔がそれでほっとしたものだから、一方通行はますます不機嫌になる。

「はいはい、そこまで。この白くてヒョロイのはミサカ達の知り合いなの。君たちさっさと仕事に戻った戻った。
あなたもっ、お客でもない人は迷惑なんでなんか注文してくれますぅ?」
「おい、番外個体…」
「本当なの?妹ちゃん」
「う、うん本当だよ。だから…」
「そうなんだ、ごめん勘違いしたね」
「なんでミサカが言うことをすぐに信じないわけ」
398 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 20:19:56.93 ID:qbgwZJPk0
なんとか番外個体のとりなしで事なきを得た打ち止めは、一方通行が案内された端のテーブルを気にしながら仕事に戻る。
番外個体が特大のケーキを持って彼に差し出していたので、急いでブラックコーヒーを用意して持っていった。
彼にジロリと睨まれ怯んだが、そっとグラスを置けば飲んでくれたのでちょっと気が楽になる。

「ごめんね、アルバイトのこと内緒にしてて…。
もう少しで休憩時間だから、それまで待っててくれる?ってミサカはミサカはお願いしてみる」
「……分かった」


一方通行がコーヒーの助けを借りてケーキを処理している間も、打ち止めはくるくると動き回っていた。
店員たちからは、妹ちゃんと呼ばれて親しげに話しかけられ、客ウケもいいようだ。……おもに男の。

打ち止めの学校では授業参観の時に一方通行の存在が明らかになり、
校内での告白ブームは落ち着いたと彼女から聞いていたが、外ではこれだ。
久しぶりに、認めざるをえない。嫉妬が一方通行の胸に湧き上がってくる。

(だいたい打ち止めだけ異常にスカートが短いのはなンでだよ…)

やがて打ち止めがエプロンを外して、自分用のドリンクが入ったグラスを持って一方通行の前に座った。やっと休憩時間になったらしい。

399 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 20:26:17.21 ID:qbgwZJPk0
「お待たせしましたー、ってミサカはミサカは待ちぼうけなあなたにもコーヒーのおかわりをあげるね」
「さァ聞かせろ。なンで急にアルバイトなンか始めたンだ」

二人の様子を、例の若いバイト店員達がチラチラと覗いてくる。あの娘と仲良さそうな一方通行がどうしても気になるのだろう。
しかし番外個体が料理でふさがった手の代わりに、足で店員達の尻をはたいて仕事しろと叱り飛ばしたため、
やがて視線は感じられなくなった。

「なんでと言われれば、もちろんお給料が欲しいからに決まってます」
「俺に内緒にしてたのは?」
「あなたに言ったら、絶対許してくれないだろうな、ってミサカはミサカは分かってましたから」
「……何か欲しいモンがあるなら」
「いいの、あなたはミサカをすぐ甘やかすんだから。嬉しいのでぜひ続けてほしいと思うけど」
「なンだそりゃァ…」

そこへ、同じく飲み物を持った番外個体も二人に同席する。彼女も休憩を取ったらしい。

「ちょっと前にあなたと最終信号がランチしに来た時、急にこの子がここででバイトしたいって言いだしてさぁ」
「あァ…、アレか」
「そうそう。うちの常連だし、人手も足りなかったし、ミサカの姉だけど妹ってことで通ってたし、店長もその場で採用決めたわけ」
「次の日から、さっそく働かせてもらってたの、ってミサカはミサカは正直に白状してみる…」
「第一位にはすぐにバレると思ってたら、案の定だったねぇ。
でもあの焦った顔ぉぷぷぷ、期待以上に面白いものが見られてミサカは大満足」
「うるせェ」
「そうだったの、あなたに心配かけちゃったんだね…」
「……」

400 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 20:29:12.09 ID:qbgwZJPk0
打ち止めの済まなさそうな、でもどこか嬉しそうな顔が照れくさくて、そっぽを向く一方通行。

「安心しなよ、第一位。最終信号は今日でバイト終わりだから」
「はァ?」
「うん、もともと最初からそういう約束でやらせてもらってたの。来週から夏期講習も再開するし」
「そうそう、だからこの色っぽいミニスカートも今日でオシマイ。惜しいでしょ?ミサカのコーディネイトだよこれ」
「あー!ひどい番外個体っ、急だったからこれしか制服が無いって嘘だったの、ってミサカはミサカはまたもしてやられた!」
「そォいうことかよ…」


打ち止め達の休憩時間が終わる前に、一方通行は駐車させてある車まで戻ってきた。当然のように打ち止めがついてくる。

「じゃあね、また後で。もうバレちゃったし…、やっぱり今日はお迎えに来てくれる?」
「どうすっかなァ…」
「いじわる言わないで、ってミサカはミサカは結局来てくれるあなたに期待してみたり」
「電話かメールしろ」
「うん!」

シートに座ってエンジンをかけると、打ち止めがコンコンと窓をノックして、開けて、と催促してきた。
窓が下がりきらないうちに彼女が車内に頭を突っ込んできて、その意図を察していた一方通行は顔を寄せてやる。

「…今度はミサカがいってきますのちゅうをしてみました」
「…おォ、イッテラッシャイ」

ポルシェが見えなくなっても、打ち止めは赤い頬のまま彼が走り去った方向を見つめていた。

401 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 20:32:53.02 ID:qbgwZJPk0
夕方すぎ、打ち止めからの連絡を受け取った一方通行は番外個体のアパート前に車をつけた。
外で彼を待っていた打ち止めがさっそく助手席に乗り込み、一方通行は自宅に向けて発進する。

「待って、ちょっと寄り道しようよ、ってミサカはミサカはデートのお誘いをしてみる」
「あ?別にいいけどよォ。オマエ今日はずっとバイトだったンだろ、疲れてンじゃねェのか?」
「平気だよ、またあの公園に行きたいな」

寄り道にしては少し遠い場所だが、一方通行にしてもここ数日は彼女に飢えていたこともあり、快諾し進路を変えた。

昼でも薄暗いその森林公園のベンチは、夕暮れ時を過ぎてオレンジ色の照明がつけられている。
ぼんやりとした視界の中で、いつもの場所に座った二人はどちらともなく肩を寄せ合った。

「ちょっと久しぶりかな?こうして二人でゆっくりするのって」
「そォだな…」
「ふぅ、やっぱり疲れた…」
「だからいいのか、って聞いただろォが」
「いいの、こうして不足してるあなた成分を補給した方が元気出るの、ってミサカはミサカはもっとくっついてみたり」

(なンだ、コイツも同じかよ…)

一方通行は彼女のご要望に応えて、肩を抱く手に力を入れた。
そうなると、なぜ彼女がそこまでして自分に内緒でアルバイトなどしていたのか気になる。
402 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 20:35:30.86 ID:qbgwZJPk0
「なァ、オマエはバイト代で何が欲しかったンだ?」

自分には言いにくい買い物でもあったのだろうか?教えてもらえるか不安だったが、一応訊いてみた。
打ち止めは意味深な笑顔を向けてきて、知りたい?と焦らす。

「知りたい。今度こそ教えろよ」
「なんのためにあなたに内緒にしてたと思ってるの。はいこれ」
「は?」

打ち止めは鞄から手の平より少し大きいぐらいの箱を取り出し、一方通行に手渡した。
それを見つめたまま彼が動かなくなってしまったので、ちょっとちょっと、と打ち止めが足をたたく。

「ミサカからのプレゼントだよ。早く開けてみて、ってミサカはミサカはあなたの反応にわくわくしてみる」
「あァ…」

まさか自分へのプレゼントがくるなんて思っていなかった一方通行は、呆気にとられながらも箱を開ける。
リボンなどの包装がないのは、彼の性格を熟知した打ち止めらしいところだ。
 
箱にはさらにプラスチックのケースが入っていて、それをあけると中には…

403 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 20:38:12.90 ID:qbgwZJPk0
「サングラス?」
「そう。あなたドライブ好きでしょ?これ、専門店のドライビング用サングラスなの」

ポルシェと同じシルバー縁のサングラスを打ち止めが持って、彼の顔にそっと掛ける。
一方通行は、やりやすいように下を向いて目を伏せてやった。

「おぉ、かっこいい!すごく似合ってるよ!ミサカのセンス最高だね、ってミサカはミサカは自画自賛」
「……」
「あとね、ここを指で触ると…、ほら凄いでしょ!レンズの濃さが変えられるから、夜でも掛けられるんだって。
エアコンの風から目を守ってくれるのです」

少女が嬉しそうに一方通行が掛けているサングラスを構う。
レンズの色がほぼ透明になった時、薄暗い中で彼の赤い瞳にじっと見つめられているのに気づいて、もはや反射のように目を閉じた。

キスのあとは苦しいほどに抱きしめられて、彼が予想以上に喜んでくれているのが分かった。
十秒…二十秒…三十秒…

「あなた、ちょっとそろそろ息が…」
「あ、悪ィ」

腕を弛めてもらったが、相変わらず抱きしめられたままで、打ち止めは一方通行の顔が見られないままだった。

(やべェ…。めちゃくちゃ嬉しい…)

「打ち止め…」
「なぁに?」
「ありがとな」
「どういたしまして」
404 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 20:47:00.36 ID:qbgwZJPk0
やっと抱擁を解き、一方通行は慣れないサングラスを弄って色を変えたり鼻あての位置を確認したり。
打ち止めはニコニコとそれを見守っている。

「よかった、気に入ってもらえて。いつも色々買ってもらってるから、たまにはミサカが素敵なプレゼントをしようと思って」
「オマエにしちゃいいサプライズだ」
「だからってますますミサカを置いて一人でドライブ行っちゃイヤだよ?」
「分かってるって。ところでコレなァ……」
「な、なにか?ってミサカはミサカはドキっとしてみる」
「キスするときは邪魔だよな」

クレームでもつけられるのかと身構えた打ち止めだったが、苦笑いで彼の顔からサングラスを外してあげた。

あとは再び長い長い口づけと、水音と木々のざわめきの中で、二人はしばらく抱きしめ合っていた。

405 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/05(金) 20:50:22.17 ID:qbgwZJPk0
通行止めのデートと、打ち止めのアルバイトの巻 完

二人のまともなデートがやっと書けた。いろいろ順番間違ってますね。
打ち止めのプレゼントは自分も欲しいと思ってる。超便利そうです。

406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2011/08/05(金) 20:53:10.43 ID:VIsWu26So


>>番外個体が料理でふさがった手の代わりに、足で店員達の尻をはたいて仕事しろと叱り飛ばした

このバイト、特別ご褒美まで出るのか……
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/06(土) 00:27:42.01 ID:RFbp86yL0

順番、なにそれ? 二人が幸せならいいンだよ

413 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/07(日) 23:47:11.35 ID:w9y+6xjl0
八月も半ばを過ぎ、夏休みも残り少なくなってきたある日、打ち止めが

「今日はミサカのお友達が来るの、ってミサカはミサカはあなたとお出掛けできないことをお伝えしておくね」

と言うので、彼女がこの家に招く人物は限られているが、果たして誰だろうと一方通行は考えていた。
打ち止めはお茶の用意を始めていて、グラスが三つということは二人来るのだろうと予想はつく。
一緒に一方通行のコーヒーも淹れてくれたらしく、それを受け取る時に誰が来るのか訊いてみたが「秘密」と言われてしまった。

昼前に玄関のチャイムが鳴って待ち人が訪ねてきたことを知るが、丁度彼女はお菓子を取り出すために、
椅子の上に立って棚をあさっていたところだったので、リビングのソファでくつろいでいる一方通行に声がかかる。

「あなたー、ちょっとお出迎えしててー、ミサカ今手が離せないのー」
「…めンどくせェなァ……」

一方通行は本当に面倒臭そうに玄関まで行きドアを開けるが、そこに立っていた人物を見るなり無言で静かにガチャンと閉めた。

「おぉぉい!!何か言えよぉ!こっちは呼ばれて来てんだぞ!どうしてお前は俺だけ扱いがヒドイんだ相変わらずだなもぉ!」
414 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/07(日) 23:49:59.83 ID:w9y+6xjl0
「はまづら、落ち着いて。…あくせられーた、今日はらすとおーだーに遊ぼうって言われて来たんだよ。開けて」
「なんだオマエがいるのかよ。馬鹿がでかくて見えなかったぜ」

訪ねてきたのは浜面仕上と滝壺理后だった。
滝壺の声が聞こえたので、一方通行はドアを開ける。浜面はかなり不服そうな顔だったが、
もう何も言わずに靴を脱いで部屋に上がった。

「あーっ、タキツボ久しぶりだね、ってミサカはミサカは再開の喜びを表すために抱きついてみたり!」
「ひさしぶり、らすとおーだー。また背が伸びた?」
「ほんと?そう見える?うれしーな。はまづらもいらっしゃい!この間はこの人が怖い思いさせちゃってごめんね?」
「いいよ別に、ポルシェで空飛ぶくらい人生で一回は起こることだ。良い子だなあ、打ち止めは…、それにくらべてお前はなぁ」
「こっち見ンな」
「これだもんな」

一方通行は、打ち止めがこの二人をわざわざ招くなんて珍しいな、と思いながら、またソファの定位置に座ってテレビをつけた。
あとは三人でどうにかして過ごすのだろう。自分はのんびりとうたた寝でもしようかと考えていた。

「おっと、立ちっぱなしだったね。
外暑かったでしょ?ってミサカはミサカはお部屋へ案内してみたり。冷たいお茶もあるから、早く早く」
「嬉しい。喉が渇いてたから」

打ち止めが滝壺の手を引いて自室へ向かうのを見て、一方通行が腰を浮かせる。

(オイオイ、打ち止めの部屋に行くのかよ、滝壺は問題ねェが、この馬鹿まで入れる気かァ!?)

一瞬、不安に思った一方通行だったがリビングから出ていったのは女性陣だけで、
浜面はソファの端に座ってお茶を飲んで「ぷはー」とやっていた。

415 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/07(日) 23:51:58.12 ID:w9y+6xjl0
「……何やってンのオマエ」
「え?お茶飲んでるんだけど」
「質問を変えてやる。オマエは今日ウチに何しに来たンだ?」
「え?だから遊びに来たんだろ?」
「打ち止めに呼ばれて来たンだよな?」
「おう。でも正確には滝壺に連絡があってな、あいつが俺にもついてきて欲しいって言うから来たんだよ。
打ち止めも喜んでたみたいだったけど?」
「でェ?なのに何でここに一人でくつろぐ態勢になってるンですかァ?」
「一人じゃねぇだろ。お前がいるじゃん」
「は?」

同じソファに座りながら、噛み合わない会話を続ける青年二人。
浜面のお茶は最初から当然のようにリビングに置いてあったので、
打ち止めも彼を自室へ伴う予定ではなかったことは、一方通行も理解した。

「打ち止めが、たまにはあの人と遊んであげて、って仕上は仕上はお願いされていってぇ!」
「だから気持悪いマネしてンじゃねェよ…、どォいうつもりだ?打ち止めのヤツ」
「くそ、手加減しろよな…、別にお前が嫌なら俺も滝壺のとこ行くからいいけど」
「死にたいのか」
「だろ?だから…、お、けっこうゲーム揃ってんじゃねーか!」
「……はァ」
416 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/07(日) 23:55:37.51 ID:w9y+6xjl0
「はい、ここにどうぞ、ってミサカはミサカはクッションを差し出してみたり」
「ありがとう。おかしおいしそう、食べてもいい?」
「うん、ミサカも食べようっと」

女の子二人組は、リビングの二人と違って実に和やかだった。お茶とお菓子をつまみながら、さっそくおしゃべりに花が咲く。
滝壺がテーブルの菓子皿に手を伸ばしたとき、打ち止めが彼女の左手薬指にはめられた指輪に目をとめる。
なんとなくグラスを両手で握りしめて、今日の本題と決めていた話題を振った。

「ねぇタキツボ。あの人から聞いたんだけど、ハマヅラと結婚…するんだよね?」
「そうだよ、来年だけど」
「わぁ!おめでとう!ってミサカはミサカは心からのお祝いを伝えてみる」
「ふふ、ありがとう。らすとおーだーもあくせられーたと付き合えたんだよね?おめでとう、よかったね」
「えへへ…うん、そうなんだ。ミサカも今幸せなの」

打ち止めはとろけそうな笑顔を浮かべたが、すぐにそれを引っ込めてしまう。
そして床に座ったまま滝壺ににじり寄って、小声で呟いた。

「でね、それでね、年上で人生の先輩なタキツボに色々訊きたいことがあるの、ってミサカはミサカは打ち明けてみたり…」
「うん、何を訊きたいの?」

「あのね?……初めてした時って、どうだった?やっぱり痛いよね…」

今日、打ち止めは男子禁制のガールズトークをするために滝壺をお招きしたのであった。

425 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/09(火) 00:48:14.23 ID:IdBzOhtS0
打ち止めの質問の意味が分からなくて、滝壺はもぐもぐと口を動かしながら天井を見ること十秒。
打ち止めはその間ずっと下を向いて同じ姿勢を取っていた。

「はじめて…って、せっくすのこと?」
「せ、そ、そう。痛い、でしょ」
「……もぐ、らすとおーだーはまだあくせられーたとしてないんだね。不安なの?」
「っ、秘密!…ごめん、ミサカだけ教えてなんてズルイよね、ってミサカはミサカは反省…」
「いいよ、そんなこと思ってないから」
(ばればれだよ?あくせられーた…)

滝壺は打ち止めの頭を落ち着かせるように数回なで、正面を向いて語りだした。打ち止めは聞き漏らすまいと真剣な面持ちである。

「はじめてかぁ…、うん、すごく痛かったよ」
「すごく…」
「でも平気だったな。はまづらだったから」
「すごく、なのに平気?」
「うん。きっと好きな人なら大丈夫なんだね。女の子はそういう風にできてるんだと思う」
「そっか、そうなんだ。そうだよね…そうできてるんだ…」

うんうんと頷いて納得した様子の少女を、滝壺は微笑ましそうに見ていたが、
珍しく彼女も少しだけ頬を染めて打ち止めの耳に顔を寄せた。
内緒話の姿勢である。

「それにね、痛いのは最初の数回だけで、今は、すごくきもちいいんだよ…」
「え…、そんなに?」
「うん」
「どんな?どんな感じ?ってミサカはミサカは興味深々…」
426 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/09(火) 00:51:35.69 ID:IdBzOhtS0
女子二人は、もはやお菓子にさえ手をつけないで恥ずかしい話に夢中となっていた。
その頃リビングでは、まさか自分の夜の営みが恋人によって暴露されているなどとは知らない浜面と、
またも打ち止めとの進捗状況が広まってしまった一方通行がテレビゲームに興じていた。

「…おい、おいおい、どういうことだこりゃ。勝てねぇにもほどがあるだろ…」
「何回かやってるとクセとかパターンが見えてくるンだよ。俺に勝てる気でいたのか?ばァーか。
でもまァ番外個体とはいい勝負じゃねェの?」
「っかー、腹立つなー!そのつまんなそうな顔で、全然興味ありませんな態度でプレイしてるクセによぉ…。
あーもうヤメだヤメ。格闘系じゃないヤツやろうぜ。」
「何系やっても対戦型なら結果は見えてンぞ」
「…もういっそ協力して同じ敵を倒して世界に平和をもたらすゲームにしようぜ…。俺がつまんなすぎるだろ」
「プライド無さ過ぎねェか?」
「うるせぇ、レベル5を相手にプライドなんてこだわってられるか。…よし、コレにしよう。
一方通行、俺トイレ行ってくるからセットしといてくれな」
「しょォがねェな…」

なんだかんだいって、一方通行と浜面は仲良く遊んでいるではないか。
素直にゲームソフトを入れ替える第一位を見て、浜面は見えないように小さく笑う。

(やっぱりコイツ時々かわいいんだよな。レベル5ってそういうもんなのか?)


用をたした後、足早にリビングへ戻ろうと廊下を歩く浜面の耳に、打ち止めの悲鳴のような声が聞こえてきた。
たが緊急性は感じられない楽しそうな声なので、慌てることはない。
そっちも二人して仲良くしてんだな、程度に思ったくらいだ。しかしそれも一瞬のことである。
427 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/09(火) 00:54:17.25 ID:IdBzOhtS0
「やーっきゃー!そんな恥ずかしいことするの!?怖くない?」
「大丈夫。慣れるから」
「でもでもぉ、体が痛くなったりしない?」
「終わると痛い時もあるけど、そんなの気にならないくらい」
「きゃあ、ミサカには刺激が強すぎる!ってミサカはミサカはベッドへダイブっ」
「もうこの話おしまいにする?」
「まだするー!」

(な、な、なに、なに言っちゃってんの滝壺ぉぉぉー!?そんなコトよその人に言っちゃいけませんよぉ!?
しかもお前アレいつも嫌がってる風だったのに実は気に入ってたんだな!そうかいいこと聞いた、ってそうじゃねぇぇー!)

男子禁制の部屋の前で、出せない声を心に轟かせて音もなく悶える浜面。
まさか滝壺と打ち止めがこんな話で盛り上がっていたとは…
知ったところで、この部屋のドアを開けて注意することなんて不可能だ。いっそ知らないままでいたかった。
重い足取りでリビングへ戻る。
すでに一方通行はゲームを始めていて、浜面の方を見ることもなくコントローラーを操作していた。

「遅かったなァ、オマエもさっさと」
「一方通行」
「…なンだよ」

(今この家で、俺だけがこんなに恥ずかしくて辛い思いをしている。
滝壺も、打ち止めも楽しそうにしやがって、コイツはのほほんとゲーム。腑に落ちん…、俺だって)

428 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/09(火) 00:56:39.33 ID:IdBzOhtS0
「なぁ、お前打ち止めとどんな風にヤってんの?」
「…急にどォした」
「いいじゃねぇか、俺も教えてやっから、お前もぶっちゃけろよ」
「いや、聞きたくねェから言わねェ」
「滝壺ってさぁ、着痩せするタイプなんだよな。脱ぐとすごい。
あの胸を活用しないわけにはいかねぇ、おっぱいに対する冒涜だからな」
「コラ、なに勝手に語り始めてンだ馬鹿。オマエが喋ったところで俺はなにも言わねェぞ」

浜面が出した答えは、俺も男どうしで恥ずかしい話して盛り上がる!だった。

テレビの液晶画面に映る敵を次々と倒しながら、一方通行は浜面の話に意識を集中するしかなかった。
手はただの流れ作業のようにコントローラーを叩いているだけだ。
実際の話で、しかも知り合いの赤裸々なエピソードの数々に、顔にも態度にも出さないが、内心穏やかではない。

(この阿呆がァ…、こっちは据え膳耐えてるってのに、どうしてオマエのエロい実体験を聞かなきゃならねェンだよ。
でも無理に遮ると打ち止めとまだしてねェってバレるよなァ…。コイツもなぜか俺達がしてるという大前提で話振ってきたし)

429 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/09(火) 01:00:38.45 ID:IdBzOhtS0
思い出すかのように、浜面は目を閉じて話し続ける。
その数々の痴態に無意識に打ち止めの顔や体を当てはめてしまい、一方通行はこれはいけないと思って語りを中断させる。

「はァ…、もォいい。どうしていきなりこンな話になったンだ?盛ってるなら滝壺連れて今日は帰れよ、この万年発情期が」
「……それがな、さっきトイレから戻ってくる時に聞こえちまったんだけどよ……」
「…なにが」

突然俯いてしまった浜面に、ただならぬ雰囲気を感じ取った一方通行。
相手は手で顔を覆って、ボソボソと呟いくだけでよく聞き取れない。

「あ?聞こえねェ」
「滝壺と、…ダーが、俺…エッチを」
「は?え?」
「猥談してたんだよ、あの二人で!それはそれは楽しそうになぁっ。
まさに今俺が話してた内容と丸被りだよ、だって当事者だもん!俺が一方通行みたいな男と語り合うのとは違うんだよ、
なにこのダメージ!打ち止めにアレもばらしちゃうなんて!滝壺のばかっ、エロいお前も好きだけどっ!」

「………」

「マジか」
「マジよ」

(打ち止め…、俺にはさんざん他言すンなって言ってたクセによォ…
いや、でも浜面は俺達が経験済みって勘違いしてるよな?どンな状況だ?)

ゲームはさすがに続けていられない。一方通行はコントローラーを浜面に押し付け、件の部屋へ自分も偵察に行く。

「あんまり長く聞き耳立てるなよ。心に重傷負うから。気をつけろ」

一方通行に代わり世界の平和を守りはじめた浜面から、激励の言葉が背中に投げかけられた。



439 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 03:23:56.00 ID:nWXOigWT0
「あードキドキしちゃった、ってミサカはミサカはまだ落ち着かなかったり。
タキツボはよく平気そうな顔してるねぇ?オトナだなー…」
「そんなことないよ。私もどきどきした。でも」
「えへへ、楽しかったね」
「うん。らすとおーだーが恥ずかしがってるのが可愛かった」
「もう、だってタキツボが恥ずかしくなるようなことばっかり言うんだもん」
「だって、ラストオーダーがそういうのばかり聞きたがるんだもん」

そして同時に漏れる笑い声。それは平和の象徴、守るべき光。

話の内容にさえ目をつぶれば。

番外個体と打ち止めの風呂を監視した時を彷彿とさせるシチュエーションだった。
一方通行はここ最近の己の行動に溜息を吐きつつ、気配を消して部屋の中の様子を探る。

(……どォやら猥談はひと段落か。聞き逃しちまったなァ。良かったような、良くないような。
しかし、滝壺の話を聞くばっかだったようだな、打ち止めは。
それが聞きたくて滝壺を呼んだのか?で、浜面は俺に押し付けて…と)
440 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/10(水) 03:26:06.05 ID:nWXOigWT0
『そういうこと』に興味があるのは無理もない。
エアコンを壊した夜も、露天風呂でも、一方通行は打ち止めに女の喜びを教えてやった。
そこまで連れていかれながら、今なお処女である打ち止めに、はしたないマネするな、とは叱れない。
ほとんど一方通行自身の責任と言えるだろう。

(打ち止めがセックスに興味を持ってて、馬鹿のエロ話と同じ内容を聞いて知識だけ豊富になったわけだよな。
そう思うと、なンか…こう、くるモンがある)

さきほど浜面が勝手に語っていったことで、思い浮かべてしまった打ち止めのいかがわしい姿や、色っぽいポーズやらセリフ。
その他にもアレやコレやがリピート再生されてしまい、ドアの前で耳を澄ます青年は頭を振った。
丁度女子二人も次の話題に移ったようだし、それに意識を集中して妄想を払拭しようと試みる。

「その指輪って、婚約指輪だよね、ってミサカはミサカは今度はプロポーズのこと教えてほしかったり」
「…うん。婚約指輪……」
「どうしたの?」
「ちょっと、恥ずかしい」
「え、これは恥ずかしいんだ…、タキツボって…」

441 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 03:29:30.02 ID:nWXOigWT0
(そうだった。普通、結婚するためにはプロポーズってのを男がするンだった。似合わねェな、浜面よォ…)

打ち止めによって強制視聴させられた恋愛ドラマのシーンが思い出される。
シラフでは、とても口にできそうもないセリフのオンパレードだった。
打ち止めは真剣な表情でのめりこんでいたが。

「浜面がお休みの日にね、怖い顔して机に座れっていうから、なにか怒られるのかなと思ったの」
「うんうん、それでっ?」
「でもずっともじもじしてて、私がお腹すいたって言ったら机に箱を置いて、開けてって言われた」
「おぉ!」
「お菓子が入ってると思ったのに指輪だったから、変だなと思ってコレ何って訊いたら浜面が真っ青になって、だめかぁぁえーん」
「泣かせちゃったの?」
「ちょっとだけだよ。俺は滝壺と結婚するのが夢だったんだ、って言ってくれたから、私も浜面と結婚したいって答えた」
「ふぉぉ…っ」

(全然ドラマと違うンだが。打ち止めは楽しそォだけど)

「浜面、すごく嬉しそうだった。指輪をはめてくれて、ずっと…」
「ずっと?」
「俺のこと、好きでいてくれ、俺はもう滝壺のことを愛しつづけていくと決めてる、って」
「っきゃー!素敵!ロマンンチック!」

(気まずゥ…、女二人とも少し顔合わせ辛いと思ってたのに、馬鹿とも気まずくなっちまったぞ。
それにしても打ち止めの声が浮かれまくってンな)

イケナイ妄想は彼方に飛んで行ってくれたが、浜面とは違う理由でリビングに戻る足が重くなりはじめた一方通行だった。
442 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 03:31:30.67 ID:nWXOigWT0
「指輪、もう少し近くで見せて、ってミサカはミサカはお願いしてみる」
「はい」
「……いいなぁ…ミサカも…」

打ち止めが、滝壺が浜面から送られた婚約指輪を見て切なそうに、羨ましそうにしている。
姿は目にできなくても、この声音だけで今打ち止めがどんな顔をしているのか簡単に想像できて、一方通行の胸が苦しくなった。

(やめろ、そンな声…)

「大丈夫だよ。らすとおーだーも」
「贅沢になっちゃったな、ってミサカはミサカは自己嫌悪」
「贅沢?」
「前は一緒に居るだけで満足だったの。でも最近はもっといろいろ欲しくて困っちゃう」
「…それは当たり前のこと。もっともっと、贅沢になっていいんだよ?きっとあくせられーたもそう思ってる」
「いいの、かな?」
「いいよ。それが普通」

(そォいや、指輪はねだられた覚えがねェ…、コイツはホントに変なところで遠慮するヤツだなァ…。
もしかしなくても、指輪をすっげェ意識してたのか?)

ネックレスも、ブレスレットも、アンクレットもイヤリングもおねだりされたことがあるのに。
一方通行は、今まで打ち止めに買ってやった品々を思い返しながらそっとドアの前から離れた。


443 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 03:35:12.80 ID:nWXOigWT0
「よお、どうだったよ、秘密の花園は。大丈夫か?精神的に」

リビングでは、順調に世界を守り続ける浜面が一方通行の帰りを待っていて、ソファに座るなりもうひとつのコントローラーを手渡される。

「あー、まァ…」
「元気出せよ第一位。俺達は同じ傷を持っちまったんだな。よりによってお互いの彼女が原因で。
もう俺打ち止めと話すの怖ぇよ。アレも知ってるんだぜ?バレちゃったんだぜ?」
「自業自得だな」
「ちくしょー、いい思いしたあとでこんなしっぺ返しが待ってるなんてよ…
ところでいいかげん一方通行も教えてくれよ、正直めちゃ興味ある」
「まだ諦めてなかったのか」

浜面はゲームを静止させ、一方通行に向き直るが、殴られないように距離を保っているところが彼らしい。
おそらく滝壺には、打ち止めがまだ処女であることを感づかれていると思う。だが彼女はそれを浜面にわざわざ言ったりしないだろう。
ここで浜面をやり込めば、とりあえず自分達の状況を把握する人物の増殖を防ぐことができるはずだ。

一方通行は顔だけを浜面に向けて目を合わせる。お、ついに喋るのか?という期待の眼差しに嘲笑の笑みを返して、
棒読みでこう言ってやった。

「オレハモウ滝壺ノコトヲアイシツヅケテイクトキメテル」

テレビの液晶画面のように、今度は浜面が静止した。一方通行は、フンと鼻を鳴らしてゲームを再開する。
浜面が操るキャラクターが、敵のモンスターに無抵抗で攻撃されているが、知ったことか。
ソファの端で膝を抱えた浜面は、また同じ文句を呟いていた。

「滝壺のばかぁ……」

444 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 03:38:16.23 ID:nWXOigWT0
肩をがっくりと落とした浜面と、終始普段通りの滝壺が帰っていってから二日後、
一方通行と打ち止めは、いつものドライブに出掛けた先で昼食をとった。
ショッピングモール内にあるそのレストランから駐車場に戻る途中で青年が足を止めたので、
傍らの少女も立ち止まって、どうかしたのかと彼の様子をうかがう。
一方通行はちらりと打ち止めを見たあと、スタスタと目の前の店舗の中へ入って行ってしまった。

「え?あれ?待ってあなたっ」

打ち止めは店の看板と、彼の背中を交互に確認しながら小走りで後を追っていく。自動ドアのすぐ内側で一方通行が待っていた。
品の良い女性店員たちのいらっしゃいませの声に出迎えられ、打ち止めは店内を見回す。

看板はアルファベットが羅列してあるだけだったので確信は無かったが、予想どおりここはジュエリーショップだった。

「急にどうしたの?ってミサカはミサカはあなたに質問してみる」

一方通行は何も言わず打ち止めの手を引き、あるショーケースの前まで連れて行った。
握ったその手が、たまたま鞄で塞がっていた右手をよけただけ、とは言い訳しない。
左手を選んだのは、意識してのことだ。

「指輪……」
「買ってやる。好きなの選べ」
「……」
445 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 03:40:59.30 ID:nWXOigWT0
打ち止めが強く手を握り返してきた。
一方通行は気恥ずかしくてそっぽを向いていたが、彼女の顔を見ると唇を噛みしめて、頬を少し染めている。
これは驚きと喜びが同時に起きた時の表情だ。
ショーケースの中に並んだ色とりどりのリングを見つめていた少女が、はにかみながら一方通行を見上げる。
うっかり視線を合わせてしまい、内心でしまった、とまだ少し往生際が悪い第一位。
あれからずっと打ち止めが滝壺の指輪を羨む、切ない声が頭から離れなかったので、
たまたま見つけたこの宝石店に衝動的に飛び込んでしまったのだ。
今だって失礼がない程度に、微笑ましくこちらを見守る店員達の目がくすぐったい。

「あなたが、…あなたに選んでもらいたいな、ってミサカはミサカはお願いしてみる」
「あァ?俺が?」
「お願い…」
「……文句言うなよ」
「あなたが選んでくれたのがいいの」

一方通行は、指輪を端から順にひとつひとつ吟味していく。
あまりに真剣な表情で選んでくれるものだから、打ち止めも恥ずかしくなって視線を彼からショーケースに戻した。

「これ…だな」

何の石かも知らないし、値段ももちろん確認してない。ただ、メインではまっているオレンジの石と、
その周りとリングにも散らばる緑の石が、彼女の茶色い髪と目に似合うと思っただけだ。

「きれい…、ありがとう」

446 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 03:43:53.49 ID:nWXOigWT0
見計らったように一人の女性店員が近づいてきたので、サイズを確認しその場でカードで会計を済ませる。
すぐさま、つないだままの手を引いてドアをくぐり、歩道のベンチに腰を下ろした。

「開けていい?」
「おゥ」

打ち止めはじれったくなるようなほどに、ゆっくり丁寧にリボンを解き箱を開ける。
ケースの中に収まっていた指輪を左手で取り出したのを見て、一方通行が彼女の手からそれを奪い取り、
ちょっと乱暴な動作で指にはめてやった。
打ち止めは驚いた顔で、左手と一方通行を何度も見比べている。

「口、あいてンぞ」
「だって、嬉しい…」
「嬉しいと口が開くのか」
「うん、開いちゃうの」
「ほォ…」

ポルシェまで戻る道中も、打ち止めは薬指にはまった指輪をうっとりと眺めているので通行人や物にぶつかりそうになって危ない。
一方通行は仕方なく彼女の鞄と杖を一緒に持って、左手で打ち止めの右手と組んで歩くことになった。


447 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 03:50:57.37 ID:nWXOigWT0
浜面、滝壺の来訪と打ち止めの指輪の巻 完

ブラックカードに動じない店員。一方さん、いくらの指輪買ったの。
あと打ち止めにピアスホールはありません。そんな気がする。

451 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 21:55:48.86 ID:gqpyKVWN0
珍しく昼近くになっても打ち止めが起きてこない。
一方通行はさすがにおかしいと思って彼女の部屋をノックするが、返事はない。

「入るぞ」

一応声をかけてから入室。打ち止めはベッドではなく、机に伏せていた。
ぎょっとして駆け寄り少女の状態を確認するが、どうも眠っているだけのようだ。
一応チョーカーのスイッチを切り替え、能力を使って本当に体に異常がないかも確かめたが、問題は見当たらない。
ほっとして、よくよく机の上を見ると問題集が広げられたまま、打ち止めはシャーペンを握った状態で、
その表情は苦しそうに歪められている。

「おい、起きろ」
「んー…」
「寝るならベッドに行けよ」
「あ、れ?あなたおはよー、ってミサカはミサカは朝の挨拶をしてみたり」
「もう昼だ。どォしたんだ、勉強してたのか?」
「はう!?しまったいつの間に!?」

打ち止めがシャーペンを握ったままガバっと起き上がったので、それに刺されそうになった一方通行が身を避ける。

「危ねェなァ、お勉強は感心だが力尽きるまでやるこたァねェだろ」
「あははは、ごめん。でもこれ別に勉強してたわけじゃないよ?夏休みの宿題をあ」
「宿題?」
「ミサカも受験生だし?ここはしっかりと学生の本分を全うしようという見上げた心意気の表れ、ってミサカはミサカは真面目な子」
「宿題…」

452 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 21:58:56.65 ID:gqpyKVWN0
机の上にあるのは広げたままの問題集だけではない。折り目が一切つけられていないものが何冊も積み上げられている。

「オマエ、まさか」
「うう、うっかりだったの、ぼんやりしてたの…」
「全然やってなかったのか?」
「だって、だってだって、毎日あなたと遊んだりお出掛けしてたら楽しくって、この辛い現実を忘れさせてくれてたからぁー」
「俺のせいにすンな…」
「さすがにまずいかな?とゆうべから取り組んでみたのですが、
この量を終わらせるためにはちょっと無理しないといけないかな、って危機感を募らせていたところです…」
「それで徹夜したってわけかよ」
「最初はね、ミサカネットワークで協力してもらおうと思ってたんだけど」
「コラ」
「怒らないで。どのミサカも、甘えてんじゃねーよ、自分の力でやってこその宿題だろーが、毎日遊んでるからだザマ―ミロとか…、
ちっとも協力してくれなかった、ってミサカはミサカはしょせん名ばかりの上位個体なのさ……」

一方通行は机の上から一冊の問題集を手に取り、ぱらぱらとページをめくる。
打ち止めは成績はいい方なのだが、さすがにこの量を二学期が始まるまでに終わらせるのは難しいかもしれない。
これは一応彼女の監督責任を、多少なりとも持つ自分としても望ましい事態ではない。
というのはタテマエだ。要は、残りの夏休みを宿題なんぞに奪われてなるものか、という手前勝手な理由で彼は宣言する。

453 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 22:01:34.90 ID:gqpyKVWN0
「とりあえず飯を食え。それから宿題やるぞ。五日だ、それだけで終わらせる」

打ち止めはシャーペンを振り回して頬を膨らませていたが、そこからぷしゅーと息を絞りだして青年を見上げた。

「手伝って、くれるの?」
「俺がやるわけじゃねェからな。あくまでオマエが全部やるンだ」
「わーそれでもいいの!ありがとう、ってミサカはミサカはあなたにぎゅうって」

腰に抱きつこうとした打ち止めの額に青年の手が伸び、その行動を押しとどめた。

「あれ?あなた?」
「宿題が終わるまでは、俺にひっつくの禁止」
「え?何そのおあずけ作戦」
「そうでもしねェとオマエ本気出さねェだろ」
「……そんなぁ、ちゅうはぁ?」
「だめに決まってンだろォが」
「いやぁー!」

こうして二重の意味での苦行が始まった。

食事を取ったあとは机に向かって、ひたすら問題集に取り組む打ち止め。
一方通行も自室から椅子を持ち込んで隣に座り、彼女の手が止まると横から口を出してサポートしてやる。
彼女はそれを真剣に聞いて、順調に課題を消化していった。

(もっと駄々をこねるかと思ったが、意外と真面目にやってンな…)
454 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 22:04:01.51 ID:gqpyKVWN0
一方通行が時計を確認すると、始めてから既に三時間を経過していた。
そろそろ休憩をとった方がいいだろうと思い、打ち止めに声をかける。

「ちょっと休むか」
「まだ大丈夫…」
「休憩はさんだ方が効率いいンだ。自覚が無いかもしれねェが、こんだけやってて疲れてないはずないからな」
「ん…分かった、ってミサカはミサカは、のびーと体を伸ばしてみる…」

打ち止めは手を置くと、机から椅子を離して体をほぐし始めた。一方通行も首や肩を回してそれにならう。
彼もずっと宿題に付き合っていたため、体が固まっていた。その様子を打ち止めが済まなさそうに見ている。

「ごめんなさい、ミサカのせいであなたに迷惑かけちゃったね。
これ終わったらいっぱいマッサージしてあげるから、ってミサカはミサカは恩返しするつもりです」
「…別に気にする必要はねェ。俺と遊び呆けて宿題に手を着けられてないってのは事実だしなァ」
「はぁ~…」
「なンだ?」
「今すごくあなたに抱きつきたいのに」
「…そう思うなら、さっさと終わらせようぜ」
「はーい」

一方通行が用意してくれたお茶を飲み、リフレッシュした打ち止めは再び宿題に取りかかった。


455ブラジャーの人[sage]:2011/08/10(水) 22:07:22.20 ID:gqpyKVWN0
とりあえずここまで。
夏休みなのに宿題してる様子がない打ち止めに、試練を与えてみました。
456VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/08/10(水) 22:24:55.37 ID:Owa6EHNDo
>>1

ミサカ遺伝子の爆乳中学生と一緒に暮すだけでも罪深いのに、指輪を買い、一緒に夏休みの宿題をやるという年に一度のイベントまで堪能するとは…
一方通行め…許せませんねこれは
457VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2011/08/10(水) 22:38:27.44 ID:stVRv3q5o
>>456
落ち着け、皮かむり
458VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/11(木) 00:13:22.82 ID:2sgPeHUDO
浜面以外にこれを言う事があるとは

一方通行爆発しろ
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/08/11(木) 01:31:32.92 ID:g+lInOnm0
打ち止めが上目使いでちゅーは?
とかいってんだろ?
俺なら断れねー
とりあえず>>1乙
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/11(木) 22:38:45.71 ID:Zw5C/hxI0
打ち止めが我慢してるのに、我慢の出来ない一方さん

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