とある未来の通行止め 2
- 462 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/11(木) 22:47:18.72 ID:lvD/O1u30
- その夜、夕食の席で宿題強化週間であることを話題に出すと、黄泉川と芳川がそういえば、しまった、という反応を示した。
「うっかりしてたわ…、夏休みには宿題というものがあったのよね。
愛穂、あなた高校教師なんだからその辺は特に注意すべきところじゃないかしら?」
「う、しょうがないじゃん。毎年夏休みはバカやらかすのがたくさんいるから、アンチスキルの方が忙しいんだって」
保護者としての責任をなすりつけ合う二人。
理由はどうあれ、彼女を手伝っている一方通行は自分の方がよっぽどよくやっていると思う。
「大丈夫だよヨミカワ、ヨシカワ。この人が手伝ってくれてるし、
今日一日ですごく進んだの、ってミサカはミサカは二人を安心させてみたり」
「うん!頑張るじゃん!明日はなにか精のつくご飯を作って応援するからな」
「私は目が疲れたときのアイマスク貸してあげるわ。スッキリして気持いいわよ、休憩の時に使ってみてね」
「ありがとー、二人のためにもミサカはやるよ!」
今日は昼から勉強し通しだというのに、打ち止めはそんなこと微塵も感じさせない元気さを見せた。次々と料理をたいらげていく。
「それにしても去年はこんな切羽詰まったことにならなかったのに、どうして今年はちゃんと宿題やってなかったんだ?」
「そういえば……ああ、なるほど。そういうことね」
「桔梗?」
一方通行は一足先に食事を終わらせ、小さく「ごちそォさン」と呟いて食器をシンクへ運ぶ。そしてリビングへ避難である。
「打ち止め、だめよ?彼氏ができたからって他の義務をないがしろにするのは、一人前の女性とはいえないわ」
「あーそれで。だったら一方通行が先生やるのは当然じゃん。責任はアイツにもある」
「えへへー、反省してます」
(無視無視…)
三人の会話は、リビングで新聞を読む一方通行にも届いていたが、全力で聞こえないふりをした。
何か言っても、益々からかわれるのは分かっている。
- 463 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/11(木) 22:49:50.78 ID:lvD/O1u30
- 入浴を済ませた後も就寝まで宿題を片付ける。
風呂上がりの打ち止めから漂ってくる良い香りが一方通行の鼻をくすぐるが、そこはぐっと我慢だ。
昼間よりも若干椅子を離して家庭教師を務めた。
「あれ?なんか変?」
「…ここで間違えてる」
「おお、なるほど」
「次の問題も同じパターンだから気をつけろ」
「了解です先生!」
「先生ェ…」
「勉強を教えてくれる人は先生だよね?それでミサカは優秀な生徒なの」
「優秀な生徒は宿題ため込ンだりしませン。馬鹿言ってないでほら、手ェ止まってンぞ」
「うー、この先生ちょっと厳しい、ってミサカはミサカはでも頑張るー」
「ハイハイ、この問題児が」
一度休憩を取り、日付が変わる近くまで二人は順調に宿題をこなしていった。キリがいいとこまで進んだので、初日はこれで終了となる。
「ふぅ、だいぶ片付いたよね。これもあなたのおかげだね!」
「明日もやるからな、寝坊するなよ」
「はーい、じゃあおやすみなさい、ってミサカは…」
「……」
「……」
- 464 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/11(木) 22:52:12.02 ID:lvD/O1u30
- こんな時はいつも、打ち止めが一方通行の腰に抱きついてお休みのキスをねだるのが常だった。
一方通行も身長差をうめるべく身をかがめてやって、少女のかかとが浮くほどに抱きしめてやるのに。
今日はできない。今日どころか、明日も明後日もできないだろう、打ち止めの宿題が終わるまでは。
「じゃ、もう寝ろよ…」
「うん…」
青年が静かにドアを開けて出て行った。打ち止めはそのドアをしばらく見つめたあと、ふらっとベッドへ倒れこむ。
「…こんなの厳しすぎるよぅ、先生のいじわる」
自室に戻った一方通行は、大きく息を吐いてこちらもベッドに横になった。
思い出すのは、自分に飛び付こうとするのを耐え、寂しそうな目をした打ち止め。
「あンなこと言うンじゃなかった…」
翌日も、二人は同じように宿題漬けの一日をすごした。
さらに翌日、二人は普通に会話するものの、お互い意識して目を合わせようとはしない。
そして、雰囲気がどこか刺々しい。
その日の夕食の席で、二人の様子がおかしいことに気づいた保護者達が心配する。
- 465 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/11(木) 22:54:07.86 ID:lvD/O1u30
- 「ねぇあなたたち、ちょっと根を詰め過ぎなんじゃない?まだ夏休みはあるんだから適度に力を抜いたらどう?」
「そうじゃん。心なしか二人ともやつれてるっていうか、生気がないっていうか…」
「大丈夫だ」
「大丈夫だよ」
息はぴったりだがやはり視線は合わせない。
黄泉川と芳川は顔を見合わせたが、もう何も言うことはなく、黄泉川家にしては珍しく静かな食事となった。
入浴後、打ち止めは一度も休憩を取らず、ひたすら問題集に意識を集中させた。
一方通行も「休め」と勧めることはなく、彼女が効率よく正解を導き出すための助けとなること以外は喋らない。
そして時刻はついに深夜三時。目標の五日を大きく早回るにも関わらず、すべての問題集を片づけることができた。
シャーペンを握りつづけて痺れた右手を下ろし、震える声で打ち止めが呟いた。久しぶりに出した声はかすれている。
「終わった…、やった…っ。あなた終わった、よぉ!?」
- 466 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/11(木) 22:56:42.75 ID:lvD/O1u30
- 打ち止めが彼の方を振り向く前に、一方通行が少女の椅子をグルンと回転させて自分と向かい合わせにし、有無を言わさず抱きしめた。
「あなた…」
「終わったな」
「うん、終わりましたぁ…」
「よくこンなに早くできたなァ」
「だってあなたにくっつけないなんて、そんなの辛すぎるもん、ってミサカはミサカはだから頑張ったの」
お互い椅子に座ったままでは、しっかりと触れ合うことは難しい。
一方通行は一度体を離すと、打ち止めの腰を持ち上げるようにして自分の方へ導いた。
その意思をすぐに理解した打ち止めが、スリッパを放り出して彼の膝に横座りとなる。
一方通行は床を蹴って椅子のキャスターを転がし、忌々しい宿題の山から少し距離を取る。
二人分の体重が乗っているため、床からいつもより大きな音がする。
彼の膝に乗った打ち止めが早く、と催促する前に顎を掴まれて、目を閉じる間もなく口づけされた。
- 467 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/11(木) 23:01:03.08 ID:lvD/O1u30
- (ああ、この人とのちゅうも久しぶり。くっつくのも久しぶり。もうこの瞬間をどれだけ待っていたことか…)
(はァ、やっと……。軽はずみで禁止なンて言っちまうモンじゃねェな。これほど辛いとは思ってなかったぜ…)
打ち止めが一方通行の首に手を回そうとしたが、その動きがぎこちなく、彼が唇を離す。
それを追うように、打ち止めが首を伸ばすが届かない。
「あ、ダメまだ…」
「右手、大丈夫か?」
「ん、痺れて動かしにくいだけ」
少女の右手を手に取って注意深く診察する。腕全体も力が入らないようで、シャーペンを握っていた部分が赤くなっていた。
この禁欲生活が耐えられなくて彼女に無理をさせてしまったと思うと、
打ち止め自身も望んでやったことだと分かってはいるが、罪悪感がこみ上げてくる。
気遣うように打ち止めの右手を摩り、それに甘えてやりやすいように腕を差し出す少女。
「大丈夫だよ、少し休ませればすぐ痺れもとれると思うから、ってミサカはミサカはあなたに心配ないと伝えてみる」
「……」
「確かにちょっと無理したけど、これ以上あなたを我慢する方が絶対体に悪いもん」
「途中でな」
「はい?」
「もう接触禁止なンて反故にしようかと、何度か思った」
「してくれればよかったのに」
「オマエも頑張ってたし、ここまで来たからには、なァ」
「ふふ、辛かったけど、でもこれで残りの夏休みは、気がねなくあなたと一緒にいられるよね!ってミサカはミサカは楽しみだー」
- 468 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/11(木) 23:05:06.57 ID:lvD/O1u30
- 打ち止めは青年の胸に頬をすり寄せ、左手も握って、とアピール。それが叶うと今度は上を向いて目を閉じた。
一方通行は椅子に座ったまま、打ち止めはその膝の上に抱きかかえられたまま、何度も何度もキスをした。
そのうち彼女がだんだんと静かになり眠ってしまったので、椅子をベッドの脇まで移動させて、そっと寝かせる。
今日は朝から深夜三時まで宿題ばかりやっていたのだ、無理もない。
自室へ戻ろうかと思ったが、どうしても打ち止めの傍を離れがたく、もォいいかと開き直って自分も彼女の隣で寝ることにした。
保護者達に目撃されるのは嫌なので、鍵をかけてからベッドに上がる。
打ち止めのベッドは一方通行の物より小さいが、今日のような時にはこちらの方が好都合というものだ。
枕は自分が使用して、彼女には腕を提供した。
これで目覚めた時には今度は自分の腕が痺れているだろうが、別にかまわない。抱きしめて眠るにはこの態勢が最もいい。
- 469 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/11(木) 23:08:14.94 ID:lvD/O1u30
- 翌朝、一方通行は腕の中の打ち止めに胸やら頬やらをつつかれて目を覚ました。まだ眠い。
彼女だって自分以上に眠いはずなのにどうしたのだろうか?
「なンだよ…。トイレか?」
「ち、違う!……あの、大変申し上げにくいのですが」
「……おォ」
打ち止めがもじもじと体を動かして、目も合わせられないのか胸に顔を埋めてくる。
「あのね」
「早く言え」
「まだ自由研究が残ってました、ってミサカはミサカは思い出してみたり…」
「……」
一方通行は枕になっていない左手を、ぽんと打ち止めの頭に置いて髪をグシャグシャに撫で回した。
「もう明日にしよォぜ……眠いし」
「そうだね…。えっとじゃあ、おやすみのちゅうを」
「顔上げろ」
「んー」
二人は昼過ぎまで、せまいベッドで安らかな睡眠を楽しんだ。
- 470 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/11(木) 23:15:16.49 ID:lvD/O1u30
- 夏休みの宿題と通行止めの我慢の巻 完
どこが試練か。結局甘さが後から追いかけてくるじゃないか。
それでは今日はこれで、さよ海原←流行らせたい
- 477 :ブラジャーの人2011/08/12(金) 20:28:48.00 ID:SUAhpCGc0
- 今度は芳川が起きてこない。
ちなみに黄泉川は昨夜から、夏休みのためヤンチャにはしゃぐな若者を取り締まるため帰ってきていない。
もう出勤時間を過ぎているのに、どうしたのだろうか。
打ち止めが芳川の靴が玄関にあるままで、さらにキッチンで朝食などを取った様子もないのを不審に思って彼女の部屋をノックした。
「ら、ラスト、オーダー…?」
部屋の中から芳川の弱々しい返事が。打ち止めは慌ててドアを開けてベッドに駆け寄った。
「ヨシカワ!?どうしたの!?具合悪いの!?」
「ごほっ!ええ…朝起きたら…。ちょっと、病院に今日は休むって連絡しておいてくれないかしら…」
「それどころじゃないよっ、今日はヨシカワが患者で病院に行くべきだよ、ってミサカはミサカは
自分を顧みないヨシカワを呆れてみたり!」
打ち止めは一方通行の部屋に飛び込むと、当然まだ寝ている彼を揺り起こした。
「あなた起きて起きて!ヨシカワが大変なのおーきーてーうわっ」
一方通行の腕が少女の後頭部を掴んで、自分の胸に押し付けた。
「あーうるせェ…。芳川が?何だって?」
「うー、むー、ヨ、ヨシカワが具合悪いって…。すごく辛そうなのどうしよう、ってミサカはミサカは心配で…」
「……」
- 478 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/12(金) 20:31:37.28 ID:SUAhpCGc0
- 一方通行は欠伸をしながら起き上がり、ドアが開けっぱなしの芳川の部屋に入って行く。後から打ち止めもついてきた。
芳川はさっきのままの状態で、荒い息と赤い顔で苦しそうにしている。
一方通行は能力を使用モードにし、手を芳川の額に当ててバイタルをチェック。
数秒してスイッチを切り、後ろで見守る打ち止めに指示を出す。
「熱が高い。こりゃさっさと病院連れていった方がいい。着替えてくるから、オマエちょっと芳川の準備手伝ってやれ」
「…ア、一方通行?」
「ヨシカワ起きた?今から病院行くから着替えよう、ってミサカはミサカはお手伝いの準備をしてみたり」
打ち止めはクローゼットを開けて、適当に服を選び始めた。
それをうっすらと開いた目で見ていた芳川が、部屋を出て行こうとした青年を呼び止める。
「だめ、一方通行、すぐ打ち止めをこの部屋から出してちょうだい」
「あ?オマエの今の状態じゃ一人で着替えなンて無理」
「インフルエンザかもしれないの…、昨日病院でインフルエンザの患者と接触したわ…」
「インフルエンザ?この真夏にかァ?」
「夏バテで抵抗力が弱ってる人には、ゴホっ、たまにあるのよ…。打ち止めに万が一感染させるわけにはいかないわ…」
「……」
迷いに迷ったが打ち止めが頑なに主張するので、着替えだけ手伝わせてすぐに手などを殺菌消毒させることにした。
用意を終えて芳川を抱きかかえ、打ち止めに病院に連絡を入れるよう頼んだ。
- 479 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/12(金) 20:36:39.07 ID:SUAhpCGc0
- 「オマエはこれ以上近づくな。診察終わったらとりあえず連絡するからそれまで待ってろ」
「わ、私の部屋にも入っちゃだめよ…、早くうがいしてきなさい」
「うん…、いってらっしゃい。あなた、ヨシカワ…」
「ふふふ…、そんな顔しないの。君、後で打ち止めもだっこしてあげて…、けほ」
「大丈夫そォじゃねェか。このまま病院まで飛んで運んでやってもいいンだぜェ?」
「もう、あなた!ヨシカワは病気なんだから!ってミサカはミサカは怒ってみたり。でもだっこはしてほしい!」
「やかましい」
ポルシェは狭く、病人には体の負担になる。さらに後で打ち止めを乗せるかもしれない事を考慮して別の車を出した。
病院に着いて玄関をくぐれば、すぐにカエル顔の医者が出迎えてくれた。
「やぁ、今日は君が患者だね?打ち止めから連絡はもらっているよ」
「本人はインフルエンザかもしれねェと言っているが」
「僕もおそらくそうだと思うがね、とりあえずは診察しようか。ここで立ちっぱなしもいけない、さぁこっちに運んでくれ」
「ごほっ、ごめんなさい。…迷惑かけるわね」
「黙ってろ、俺にうつす気か」
「君もありがとう、ふふふ…今反射してるくせに」
「チっ」
芳川が診察を受けている間、一方通行は待合室でこれからのことを考えていた。
打ち止めの体は、だいぶ安定しているとはいえ普通の健常者とはまだ違う。
なんなら芳川をこのまま入院させようとも思うのだが、ベクトル操作で免疫力を高めてやれば、
おそらく彼女の回復は早いと期待できるだろう。その間だけ打ち止めを家から離しておきたいのだが…
「あンまり、頼みたくねェけど…」
一方通行は携帯を持って外に出て、とある番号を呼び出す。コール音が続くが、相手はなかなか通話に出ない。
頼みたくない、とは思っていたものの、出ないとなると腹が立つ。
- 480 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/12(金) 20:42:34.26 ID:SUAhpCGc0
- 「クソ、何やってンだこの三下はァ…」
「悪い悪い、丁度お前がいるのが見えてたからさ、電話に出るより直接話しかけた方が早いと思って」
「……」
「俺に何の用?」
上条当麻が、着信音が鳴るままの携帯電話を持って一方通行の目の前に立っていた。
一方通行が呼び出しを中断すると、上条の携帯も同時に鳴り止む。
「俺さっきまでここに入院しててさ、丁度受付やってたらお前からの電話だろ?
一応病院だし、急いで外行こうと思ってたら一方通行が見えたから」
「そうかよ…、相変わらずだなァオマエ」
二人は再度待合室に戻って隅の席に腰を下ろした。
「で、一体どうしたんだ?一方通行から俺に連絡してくるなんて珍しいよな」
「芳川がインフルエンザにかかった」
「えぇ!?あのお姉さんが?大丈夫なのか?あ、だから病院にいるのか。…ん?でもそれで俺に何で電話を?」
「抗生物質と、俺がベクトル操作で治療してやりゃすぐ治ると思う」
「へぇー、やっぱ便利だなぁお前の能力。で、何で俺?」
「問題は打ち止めだ。あいつをウィルスに晒すわけにはいかねェからな」
「過保護…あ、睨まないでこわい」
「というわけで打ち止めを預かれ。一日でいい」
「いいよ」
「即答だなオイ」
「前インデックス預かってくれたじゃないか。お互い様だろ」
「あれは預かったンじゃねェ、押しかけてきたンだ。まァいい…」
「ご飯が美味かったって喜んでたよ、ありがとな」
「ウチの冷蔵庫空にしてったぜ」
「スミマセンです」
- 481 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/12(金) 20:45:06.38 ID:SUAhpCGc0
- 診察を終えた芳川が、カエル顔の医者に支えられながらやってきた。
一方通行がまたチョーカーのスイッチを切り替えて彼女を運ぼうとしたが、上条が彼に代わって芳川を背負った。
「…あら?上条君…?」
「こんにちは芳川さん、お久しぶりです」
「なんだ、君達会ってたのかい。一方通行、やはり芳川君はインフルエンザだったよ。
薬も渡しておくけど、これ以上熱が上がらなければ使わなくてもいい。抗生物質を打って、点滴をしておいた。あとは安静にするんだね?」
「分かった。急に世話かけたな」
「どうってことないよ。芳川君には早く良くなってもらわないとこっちも困るから」
芳川を背負った上条と一方通行は、車内でこれからの予定を芳川に説明し彼女もそれに納得したようだ。
「…、そうね、それがベストだと思うわ。ごほ、ありがとう、上条君」
「いえいえ、こんなのお宅の冷蔵庫を空にしたことを思えばちっとも…」
「先に上条を寮に送ってく。その後で打ち止めを連れていくから、明日までな」
「おう。打ち止めと会うのも久しぶりだなぁ」
- 482 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/12(金) 21:13:06.71 ID:SUAhpCGc0
- マンションに帰ってくると、打ち止めが廊下の向こうで出迎えた。言い付けを守ってこちらに近づかない。
「おかえりなさい、ヨシカワどうだった?連絡無いから心配してたんだよ?」
「そォいやバタバタしてて忘れてた。ちょっと待ってろ…」
一方通行は芳川を部屋に寝かし、リビングで待つ打ち止めにこれから上条当麻宅に預けることを説明した。
打ち止めは、じゃあお泊りだ!とはしゃいでみせる。
「芳川のことは心配するな。治療も受けたし、俺もベクトル操作で診てやるつもりだ」
「それなら安心だね、ってミサカはミサカはあなたを信頼してみたり。すぐ行くの?」
「あァ、一泊でいいから、準備してこい」
「はーい」
ポルシェに乗り込み、二人は上条の待つ寮に向かう。途中で暴食シスターのために、しこたま食料を買い込んだが、
一方通行も打ち止めも一日で無くなるかもしれないことは分かっていた。
上条当麻の寮の玄関に着き、チャイムを鳴らすとすぐに住人が出迎えてくれた。
「よぉ!待ってたぜ打ち止め。久しぶりだな。俺今日やけにこればっか言ってる気がする」
「こんにちはカミジョー!明日までお世話になります、ってミサカはミサカは行儀よくお辞儀してみたり」
「これ、シスターに食わせてやれ」
一方通行が買ってきた食糧を見せたとたん、上条の瞳が冗談ではなく潤みはじめた。
「え!?マジで!?いいのか?嬉しい、上条さんは今猛烈に感動してますよ!」
「こっちにもあるよ、ってミサカはミサカは更なる感動に誘ってみたり。インデックスはどこにいるの?」
「あぁ…夢みたいだ…。インデックスは今出掛けてるよ。夕方には帰ってくるから」
「大げさな野郎だな、じゃあ俺はもう行くぜ」
「ゆっくりしていけと言いたいところだが、早く戻って芳川さんの看病しなきゃいけないもんな」
- 483 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/12(金) 21:45:14.10 ID:SUAhpCGc0
- 玄関に買い物袋を置き、一方通行が戻って行く。打ち止めが「お見送りする!」とその後を追っていった。
上条は贈り物をせっせと冷蔵庫にしまっており、その姿からは幸福がにじみ出ていたという。
ポルシェを前に、打ち止めはしばしの別れを惜しんでいる。このお泊りはもちろん楽しいと思っているのだが、
それはそれ、これはこれとして彼と離れるのが寂しいのだ。
一方通行の左手を握って、もう少しだけ、と彼をその場に押しとどめていた。
「黄泉川もまだ帰れない、って言ってたよ。あなた一人で大丈夫なの?ってミサカはミサカはあなたも心配なの」
「病人っつってもただのインフルエンザだろォ?安静にさせとくだけでいいンだ」
「そうだけど…。困ったことがあったら電話してね?」
「ハイハイ、もう行くぞ…」
そろそろ一方通行が話を切り上げて帰る素振りを見せる。だが打ち止めはさらに青年に近づいて服を掴んだ。
「あなたにはこうして近づいてもいいんだよね?」
「…まァ、反射してたから大丈夫だ」
「ミサカから電話してもいいでしょ?っていうか、するからよろしくね、と予告してみる」
「誰が電話代払ってると思ってンだ。長電話するなよ」
- 484 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/12(金) 21:57:33.15 ID:SUAhpCGc0
- だんだんと、一方通行の腕が打ち止めの背中に回っていき、彼女が背伸びする。
「そう思うならあなたから切ればいいのに、って」
「もう黙ってろ…」
一方通行が唇を離そうとする気配がしたら、打ち止めがクイと彼の背中に回した手で服を引っ張る。
その度に応えてしまうのは、一方通行自身にも打ち止めと同じ気持があるからだ。
ぼと
なにかが地面に落ちる音がして一方通行が、ゆっくり振り向く。予想はついていた。
笑顔をぎこちなく張り付けた上条が、あわあわと落し物を拾って数歩後ずさりしている。
「あの、俺な、冷凍庫に保冷剤あったからさ、これ熱出した時にいいんだ。
今落としちゃったけどさ、良かったら芳川さんに使ってもらおうと思ってねぇ何で杖振りかぶってるんでせうか?」
「ホントに相変わらずだなァ!?この三下ァァァ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
「おぉ…、これが噂の不幸体質なんだね!ってミサカはミサカは感心してみたり」
- 490 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/13(土) 17:26:03.76 ID:0I7/TJr30
- 「イタタタ…、一方通行もあんな見事な投擲ができるようになったんだな…。昔はヒョロヒョロだったのに」
「カミジョー大丈夫?ってミサカはミサカはあの人に代わってごめんなさい」
上条と打ち止めは無言でポルシェに乗って走り去った一方通行を見送ったあと、二人で部屋に戻る最中である。
「浜面から聞いてたけど、お前ら本当に付き合ってたんだな」
「えへへ…、そうなのー。でもあの人の前ではあまり話題にしないであげてね。恥ずかしがり屋さんだから…」
「分かってる、それはみぞおちに突き刺さった杖の痛みの分だけ分かってるよ…」
部屋のドアを開ければ、どたどたと騒がしい足音が近づいてくる。
「とうまとうま!冷蔵庫の中がいっぱいだよ!?どうしたのかな!?食べてもいい!?もう食べてるけどっ」
「インデックス……、まぁいっか。お礼言えよ、一方通行と打ち止めが買ってきてくれたんだ。随分帰ってくるの早かったな?」
「わーい、インデックスだー!ってミサカミサカはお邪魔しまーす」
「もぐらすとおーだー?久しぶりかも!美味しいものくれてありがとうなんだよもぐもぐも。
スフィンクスが家に帰りたいっていうから戻ってきたのもぐ」
「食べながら喋っちゃいけません!何度同じこと言わせるんだ」
(カミジョーがあの人と同じこと言ってる、ってミサカはミサカは笑ってみたり)
- 491 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/13(土) 17:28:27.19 ID:0I7/TJr30
- 上条はインデックスに、今日一日打ち止めを預かることになった経緯を説明した。
打ち止めはその間に持って来た荷物を鞄から出して整理している。インデックスは(食べながら)説明を聞き終わると大喜びで万歳した。
「やったー、じゃあこの食べ物はらすとおーだー達が私のために用意してくれたんだよね!?すっっごく嬉しいかも!」
「そこが注目するべき所じゃないだろ!?」
「そうだよ、明日までよろしくね、インデックス」
少女二人はお菓子や、どうみても夕食のメインディッシュですよね?という串カツや空揚げ、
おにぎりなどを(主にインデックスが)食べながら楽しそうにおしゃべりしている。
上条はそれをBGMにしながらお昼の用意を始めた。食材はもちろん一方通行から差し入れられたものを使う。
「まさか米までくれるとは…。ありがとう一方通行…っ。美味しく炊いてみせるからな!」
(それにしても、まるで打ち止めの方がインデックスよりも年上みたいだな。急に背も伸びてるし、胸も)
そこで恐ろしい赤い瞳が自分を睨む映像が頭に浮かび、上条はぶんぶんと頭を振った。
(浜面も言ってたけど、たしかに可愛くなったよなぁ。何で御坂より胸が大きいんだろ?クローンなのに。
一方通行も普通に男だったんだな、上条さんは何だか親近感湧いちゃいますよ…)
「とうまー、今日のお昼ご飯は何かな?もぐ」
「串カツ食いながら聞いてくる質問じゃねぇだろ。
エビピラフですぅー、食べたかったらお皿出して冷蔵庫からエビと野菜出してくださいな」
「了解なんだよ!」
「ミサカもお手伝いする!ってミサカはミサカは実はお料理に興味があったり」
打ち止めが来たことにより、上条家は食事内容も雰囲気も、普段よりとても賑やかになったのであった。
- 492 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/13(土) 17:31:14.60 ID:0I7/TJr30
- 「芳川、入るぞ」
一方通行は芳川の部屋をノックし、返事はないがドアを開けて中へ入る。
芳川は起きているようで、顔をこっちに向け、すこし笑っているようだ。
「熱を出すなんて久しぶりだわ…。しかも君に看病してもらうなんてね」
「大したことはできねェよ、あまり期待するな」
そうは言いつつも、一方通行は持って来た袋からスポーツドリンク、それを飲みやすくするためのストロー、
タオル、そして何だかんだ上条から受け取った保冷剤を取り出した。
保冷剤をタオルで巻き、芳川の頭を持ち上げて首の下に敷く。
芳川の机から椅子を持ってきてベッド脇に置き、そして彼女の腕を掴み、首のチョーカーのスイッチを切り替えた。
「今からベクトル操作で免疫力を活性化させる」
「まぁ…至れり尽くせりじゃないの。大したことどころじゃないわ」
芳川がペットボトルのストローに口をつけた後で益々笑う。それを受け取りながら、一方通行も口角を上げた。
「クソガキの面倒見てたら、嫌でも身に着いちまったンだよ」
「ふふ、あなたもこうして、誰かを看病するのは久しぶりということね」
「本当にインフルエンザかオマエ。もう寝てろよ」
芳川は顔を天井に向き直し、目を閉じたが、その表情はまだ笑っているように見えた。
- 493 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/13(土) 17:33:12.37 ID:0I7/TJr30
- やがてバッテリーの残量が乏しくなってきたので、充電するために立ち上がり部屋を出る。
ついでに自分でコーヒーを淹れようと思ったが、結局冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して飲んだ。
ここ数年で缶のコーヒーを飲むことはめっきり減った。
(打ち止めは今頃どうしてンだか…)
そこで、先程上条に打ち止めとキスしている場面を目撃されたことを思い出し、握った缶がベコリとへこむ。
(やっぱ外でアレコレするのは控えるべきか…?いや、三下の体質が問題だったンだろォなあれは)
それに、打ち止めにねだられて断ることを想像できない。いつの間にか、こんなにも彼女に溺れてしまっている自分を自覚する。
昔から大切な少女だったが、最近はその気持ちがさらに強くなってきている。
(まァ…、それでいい……。これで)
- 494 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/13(土) 17:35:08.79 ID:0I7/TJr30
- 充電が完了し、芳川の部屋に戻った。寝ているものと思ってノックはせずに入り、また手を掴んで能力を使用モードにする。
もう一度治療すれば大丈夫だろうと思っていた。
「一方通行…」
「…何だ、起きてたのか」
「こんな…、私がインフルエンザにかかっただけで、打ち止めをよそに預けなくてはならないのよね、まだ…」
「……」
「だいぶ丈夫に、元気になったわ、あの子」
「…あァ」
目を開いた芳川が、また一方通行の方を向いて笑う。
一方通行は逆に目を閉じ、組んだ足にもう片方の肘をついて、まるで眠っているような風体だった。
「別に言う必要もないし君だって充分承知しているのは分かってるけど、打ち止めのこと、ちゃんと守ってあげてね」
「……」
「その代わり君のことは私と愛穂が心配してあげるわ」
「そりゃどォも」
「あら、意外に素直ね、ふふ…一方通行?」
「ンだよ」
「お腹が空いたわ」
「……ちょっと、待ってろ…」
食欲が出てきたのは回復の兆しだ。一方通行は棚の奥深くにしまい込まれた鍋を引っ張り出し、卵を落としたお粥を作ってやった。
芳川には、「美味しいわ、でもここで不味いのを持ってきてくれれば面白いのに」と言われ、
さらに打ち止めにも作ってやりなさい、とからかわれるのだった。
- 501 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/14(日) 15:42:32.30 ID:GkKfii4m0
- 「おいしかったー!ってミサカはミサカはカミジョーのお料理の腕に恐れ入ってみたり」
「おそまつさまでした。気に入ってもらえて良かったよ」
「はーこんなに美味しいもの沢山食べたの久しぶりかも…。とうま、らすとおーだー、ありがとうなんだよ」
上条家では三人が、特にインデックスが幸せな食後のひと時を味わっていた。
上条がテーブルの食器を片づけはじめたので、打ち止めがそれを静止させる。
「いいよ、ミサカがお世話になるんだからお片づけはまかせて、ってミサカはミサカは申し出てみたり」
「あ、私だってやるもん!」
「そうか?じゃあ頼もうかな」
少女二人は食器をシンクに運び洗い始める。そのやかましい音に、割らないでね?と心配になる上条だった。
テーブルに残っていたコップを取りに再度打ち止めが戻ってきたとき、彼女が上条の横に膝をついた。
「?どうしたんだ、打ち止め」
「えーと、カミジョーにお願いがあるの」
「俺に?できることなら何でもいいよ、何?」
「ミサカに、普通の料理教えてください!ってミサカはミサカはさっき食べたピラフの味に確信を持った!」
「へ?料理?」
- 502 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/14(日) 15:45:30.67 ID:GkKfii4m0
- そこに、手を泡だらけにしたインデックスも戻ってきて、打ち止めが握りっぱなしだったコップを横から取っていく。
「らすとおーだー、あくせられーたに手料理食べさせてあげたいんでしょ?」
「えー、インデックス何で分かるの!?」
「だってさっきから、あくせられーたの話ばっかり聞かされてたもん」
「そうだっけ?ってミサカはミサカは無自覚にノロケていた自分が恥ずかしかったり…」
インデックスがニコニコしながら台所に引き上げて行き、そのやり取りを眺めていた上条も、なるほど、と納得顔でほほ笑んでいた。
「ウチはヨミカワがお料理上手なんだけど、何でも炊飯器で作るから…。あの人は普通の鍋やフライパン使ったヤツがいいみたいなの」
「そっかー…。確かにあの炊飯器の群れには俺もびびったもんなぁ。ウマかったけど。
よし、いいよ。凄ぇウマイの作ってあいつを唸らせてやろうぜ!」
「ありがとう!さっそくだけど、さっきのエビピラフがいいな、美味しかったし」
「んー、でもエビを全部使っちまったからなぁ…。チャーハンにしようぜ。あと日本人の心、お味噌汁だな」
上条が冷蔵庫を開けて、中に入っている食材を確認する。その横からインデックスも声援を送ってくれた。
「頑張ってね!あくせられーたに、一生君の作った味噌汁を飲みたいって言わせてみてほしいかも」
「おー、プロポーズの定番だな!インデックスどこで覚えてきたんだ?」
洗い物を終えたインデックスと上条が、その光景を想像して大声で笑っていたが、打ち止めだけは控えめだった。
(実はすでに、『あなたのコーヒーはミサカがずーっと淹れてあげるからね!』と宣言しているとは恥ずかしくて言えない…。
あれってプロポーズになるのかな?ってミサカはミサカはこっそり悶えてみたり)
- 503 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/14(日) 15:47:26.13 ID:GkKfii4m0
- 夜になって、黄泉川が急ぎ足で帰ってきた。ガサガサと袋を持って、どうやらスーパーで買い物をしてきたようだ。
「た、ただいまじゃん!一方通行、桔梗は!?」
「落ち着けよ、もう熱もほとンど下がってる。今は部屋で寝てるぜ」
「はぁ、そうか…。打ち止めからインフルエンザだって聞いたから慌てた…良かった~」
黄泉川は買ってきたものも手早く冷蔵庫に詰め込み、そのうちの幾つかを抱えて芳川の部屋にそっと入っていった。
それらが一方通行自身が昼に用意したものとほぼ同じだったので、何となく彼は見ていたテレビの音量を上げる。
黄泉川はすぐにリビングに戻ってきて、持って行ったはずのスポーツドリンクをゴクゴクと飲み干した。
「っふー、私がすること何も無かったじゃん…。桔梗も気持よさそうに眠ってたし、お粥を食べた跡まであったな。
あれ一方通行が作ったのか?」
「…そォだ。芳川が腹減ったって言うからな」
黄泉川は一方通行と同じソファにどっかと座り、ペットボトルを持っていない方の手で彼の頭をわしわしと撫で回した。
一方通行が身をよじり、その手から逃れようとするが、黄泉川が立ち上がってそれを追う。
そうなると彼女から逃げられるはずもなく、一方通行は諦めてされるがままの体となった。
「…おい、いつまでやってンだ」
「あははははーっ、もう!ウチの子達は本当にイイコばっかじゃん!嬉しいからもう少し撫でさせろ」
「あーもォマジでやめろって!」
- 504 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/14(日) 15:50:30.90 ID:GkKfii4m0
- ひとしきり一方通行を弄り倒した黄泉川がキッチンへ行き、青年はぐしゃぐしゃになった髪の毛を、頭を振って元に戻した。
テレビの音量をさらに大きくする。
そこへ鍋を持った黄泉川が戻ってきて、
「お粥残ってるじゃん、これ私が食べてもいい?」
「…好きにすりゃいいだろ」
「やったー、あ、でも」
「なンだよ」
「打ち止めにも食べさせてやりたいなぁ…、せっかくだし」
保護者二人、揃って同じことを言う。
一方通行は呆れるような、面白がっているような、どちらともとれる表情でこう返事した。
「食っちまえよ、明日あいつが帰ってきたらまた作ればいいンだからよ」
「!……そうだな、作りたての方が打ち止めも喜ぶじゃん!」
黄泉川は温め直したお粥を、美味しいと食べながら絶賛した。しかもわざわざ一方通行の横に持ってきて。
悪い気はしないが、いかんせん恥ずかしい彼はテレビの音量をまた上げるが、
そんな心理など思い至らない黄泉川に、やかましすぎると元に戻されてしまうのだった。
- 505 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/14(日) 15:53:40.49 ID:GkKfii4m0
- 翌朝、一方通行が様子を見に行こうと芳川の部屋へ向かおうとしたら、芳川が自分で起きてこちらへ歩いてくるところだった。
「あらおはよう。昨日はありがとう、もうすっかり体調いいみたいよ」
一方通行がチョーカーのスイッチを入れたのを見て、芳川が自分から手を彼の方に差し出す。
一方通行はそれに触れて彼女のバイタルを再度チェックし、完全に熱が下がったことを確認した。
「そうだな、もういいとは思うが、まだウィルスは体内に残ってるかもしンねェから今日も病院は休んで寝てろ」
「はいはい、愛穂も帰ってきてるわね?寝てる?」
「あァ、おとといから出ずっぱりだったからなァ。今日は休みだとよ」
「そう…、ほら何してるの、早く打ち止めを迎えに行ったら?」
一方通行は舌打ちしながら、足で床をトンと蹴った。
すると眠っている黄泉川の部屋以外のドア、玄関、窓が全て空いて、風が家じゅうを吹き抜けた。
朝の気持のいい空気がさらさらと芳川の髪を揺らす。
「空気の入れ替えってわけね。これで打ち止めが感染なんてことはないでしょう。さ、いってらっしゃい」
「うるせェ、とっとと寝てろ…」
一方通行がまた床を蹴れば、今度は玄関以外の全てがバタバタと閉まり、彼は携帯を耳に当てながら出掛けていった。
姿が見えなくなる前に、打ち止めであろう通話相手に「今から行く…」と話しているのが聞こえる。
芳川が冷蔵庫の中のやけに大量にあるスポーツドリンクを飲んでいるときに気づいたことだが、
鍋に出来たてと見えるお粥が作られていた。昨日自分が食べたものより具沢山で豪勢だ。しかも大鍋、小鍋二つに分けられている。
「あらあら…、わざわざ早起きしてあの子のために作ったのね。こっちの大きい方は私達用かしら」
芳川はありがたく朝食として頂く。そして軽くシャワーを浴びてから再び自室へ戻り、一方通行の言い付けどおり寝ることにした。
- 506 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/14(日) 15:57:01.27 ID:GkKfii4m0
- 上条家では、一方通行からの電話を受け取った打ち止めが嬉しそうに帰宅の準備をしていた。
上条とインデックスはそれぞれ、昨夜打ち止めが一方通行のために作った料理を容器に詰めてお手伝いをしている。
「まさかこんなに早く迎えに来るとはなぁ、相変わらず過保護だなあいつ…」
「違うよ、とうま。あくせられーたは、早くらすとおーだーに会いたいから来るに決まってるでしょ。まったく鈍いんだから」
「いやいや、ご迷惑をお掛けしております、ってミサカはミサカは二人にあやまってみる」
「そんなことないんだよ!こんなに美味しいもに食べさせてくれて迷惑なことないもん。
それに昨夜はいっぱいおしゃべりできて楽しかったし」
「そうだぜ、今度は一方通行と二人で遊びに来いよな!」
「うん!ありがとう、カミジョー、インデックス!」
そうこうしてるうちに、打ち止めんの耳にポルシェのエンジン音が聞こえてきた。
特徴的なその音を聞き分けて、彼女は「来たみたい!」と慌てて玄関に向かう。
「やれやれ、まるで犬みたいだな」
「失礼だよ。彼氏の車の音でお出迎えに飛び出すなんて、乙女の憧れのシチュエーションなんだからね」
「ぐ、悪かったなぁ。どうせ貧乏学生の上条さんは車なんて所有できませんよ」
「あ、拗ねた?とうま拗ねた?大丈夫なんだよ、とうまはそんなの持ってなくても十分カッコイイから!」
「そ、そう…?」
「うん!ねぇ私達もらすとおーだーのお見送り行こう?」
そして二人も打ち止めを追って部屋をあとにする。
- 507 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/14(日) 16:00:44.19 ID:GkKfii4m0
- 「おはよーあなたー!ってミサカはミサカは飛び付きたいけど荷物が多くて断念!」
「朝からやかましいなァ。今トランク開けるから」
打ち止めが鞄を積んでいるときに、出発の時にはなかったバスケットが助手席にあることに気づき、
一方通行がこれも、と思って持とうとした。
「あ、それはいいの。ミサカがお膝の上に持つから」
「ふゥン、これ何だ?」
「いいものですー、ってミサカはミサカは後で見せてあげるとあなたを焦らしてみたり」
そこへ追いついた上条とインデックスがやってきた。
「おーい、久しぶりなんだよーあくせられーたー!」
「おはよう、昨日は悪かったな」
「…なにがァ?」
凍りつきそうな視線を浴びて、上条の背筋に冷や汗が伝う。打ち止めに隠れるように平行移動するヒーロー。
「あ、えっと、そう。食い物土産にくれたじゃねーか。すげぇ助かったからよ…」
「ふン…」
「あなたってば…、カミジョーは別に悪くないでしょ」
三人が、睨んだり睨まれたり宥めたりしているのをよそに、インデックス一人だけが、くんくんと鼻をならしてポルシェに近づいていく。
一方通行がそれを見て、打ち止め以外は珍しいと驚くであろう苦笑を浮かべた。
- 508 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/14(日) 16:03:15.48 ID:GkKfii4m0
- 「なんか…、いい匂いがするかも」
「オマエも大概相変わらずだなァ?ちょっと待て…。ほらよ」
一方通行がドアを開けて、リヤシートからコンビニ袋を二つ取り出した。
中にはフライヤーの空揚げやホットドック。お菓子やおにぎりが詰まっている。
「わー!いいの!?」
「おいおい、昨日も貰って今日もこれじゃさすがに悪いだろ…」
「とうま、人の行為は素直に受けるべきなんだよ!ありがとうあくせられーた!
らすとおーだーもいつでも、いや毎日お泊りに来てほしいかもー!」
インデックスがビニール袋を両手にぶら下げたまま、一方通行の背中に抱きついた。
「あー!インデックスずるい!ミサカが我慢したのになんでー?ってミサカもアタック!」
「うォ!?ちょ、こらクソガキどもォ!」
なんとか両手で杖にしがみつき、転倒を免れている青年。
少女二人(とコンビニ袋二つ)をぶら下げてぶるぶる震えている様を、上条が懐かしむような表情で眺めていた。
「あ、なんかデジャヴ…」
「この三下ァっ、なに静観してンだァ!こりゃどう考えてもオマエが近くにいるせいだろうがさっさとこいつらどかせェ!」
「えぇーさすがに上条さんもそれは濡れ衣だと主張したい…」
- 509 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/14(日) 16:09:43.04 ID:GkKfii4m0
- 上条とインデックスに見送られ、一方通行と打ち止めは我が家であるマンションへ帰ってきた。
おそらく黄泉川も芳川も寝ているであろうことを告げられていた打ち止めは、小さな声で「ただいまー」と挨拶する。
「たった一日の外泊なのに、やっぱり我が家一番だね、ってミサカはミサカはしみじみしてみたり」
「…オマエ、朝飯食ったか?」
リビングのソファで足を伸ばす打ち止めに、キッチンから一方通行の声がかかる。
ウチ止めはチャンスと思って、バスケットに入った料理を抱えて彼の元に駆け寄った。
「まだだよ、あなたもこれからでしょ?ってミサカは…あれ?」
彼が、この家では珍しい鍋なんていうものの前に立って、器やおたまを手にしている。
「それ…」
「昨日芳川に粥作ってやったら、あいつも黄泉川もオマエも食わせてやれって言うからな」
「……」
バスケットを抱えたまま、自分をポカンと見つめる少女。一方通行が怪訝な顔をしたので、打ち止めはつい吹き出してしまった。
「なーんだー、あなたも?」
「はァ?どォいうことだ」
はい、と打ち止めがバスケットの中身を見せ、今度は一方通行が呆ける番だった。
- 510 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/14(日) 16:11:47.37 ID:GkKfii4m0
- 二人はお互いに作った料理を温め直し、テーブルに座って遅めの朝食を食べる。
一方通行はチャーハンを、打ち止めはお粥を。味噌汁は水筒に入れてあったのをお椀に移し、二人とも飲んだ。
「これは最早お粥というより、和風リゾットなのでは?とミサカはミサカはあなたのお料理スキルに驚愕してみたり」
「米が水分過剰で煮てあれば、それは全て粥だ」
「何でもいいや、すごく美味しいね!ミサカのチャーハンとお味噌汁はいかがかな?って感想を求めてみる…」
「…うまい」
今は黄泉川も芳川もいないため、向かい合う形で席についている。
一方通行は視線を皿の上から動かすことは無かったが、目の前の打ち止めが嬉しそうに頬を染めるのは分かった。
「ミサカ、もっともっとお料理覚えるからね」
「…あァ」
「あなたは何食べたい?何が好き?あ、アバウトに肉っていう回答は無しだからね、ってミサカはミサカは先手を打ってみたり」
「何でもいい」
「もっとアバウトじゃないの、もぉ…」
(オマエが作ったものなら)
- 511 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/14(日) 16:21:58.00 ID:GkKfii4m0
- 芳川の病気と通行止めのお料理の巻 完
今回はちょっとパパセラレータでしたね。能力も今までで一番役に立ってた。
パパでありながら、保護者にとっては子供はいつまでも子供っていうか。
最近は、黄泉川先生と結婚して、通行止めのお義父さンになるのが
最強ポジションなんじゃないかと思ってる。
- 520 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 12:51:06.94 ID:hZcuBRCF0
- 夏休みは終わった。
連日長い時間を一方通行と過ごしていた打ち止めは、果たして休みに入る以前の生活に戻れるのだろうかと不安だった。
しかし、始まってみれば意外になんとかなるもので、家に帰れば一方通行がいる、もうすぐ一方通行が帰ってくる、
と胸をときめかせるのもまた一興なのであった。
とある平日の学校が終わって間もなく、今日、恋人は大学の講義の四限目を受けていることを思い出す。
(今からあの人の大学に行けば、一緒に街を歩いて帰れるかもしれない!ってミサカはミサカは
あわよくばそのままデートに持ち込みたいと企んでみたり!)
セーラー服を晩夏の風になびかせて、打ち止めは小走りに一方通行の通う大学へ向かった。
彼がいつも人気の少ない裏門を利用していることも知っていたし、今日は車で行っていないことも
昼間にやりとりしていたメールで把握済みだ。
裏門の陰に隠れて、そっと構内の様子を伺う。通路と植木、遠くに立っている建物意外は何も見えない。
五分ほど待ってみたが、さすがに無謀だったかと諦めて携帯電話を取り出す。
(いきなりミサカが現われて、ビックリするあの人の顔が見たかったのになぁ、ってミサカはミサカはちょっと残念)
その場で彼へのメールを打っている時、意中のその人が曲がり角を折れてこちらに向かってくるのが見えた。
百メートル以上も離れていたが、杖と白い髪を間違えようはずもない。
打ち止めは大慌てで、さらに体を門柱に隠した。
(わー!キタキタ!これも二人の運命のなせるワザね!ってドキドキ…っ)
- 521 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 12:53:43.03 ID:hZcuBRCF0
- 自分を見つけた時の一方通行を想像して、打ち止めはにんまりと目を細め、だんだんと近づいてくる彼を見つめている。
ところが、あと三十メートルという所で彼がピタリと足を止めた。
不審に思っていると、植木の中から同じ大学の学生と思われる女性が出てきて、一方通行に近寄っていくではないか。
(あ…れ?ってミサカは)
すごく、身に覚えのある光景だった。それはどう見ても告白シーンである。
ここ最近は落ち着いていたが、学校の生徒達に一方通行という彼氏がいるらしいと知られるまで、
打ち止めもさんざん今のようにして愛を告げられてきたのだ。
声など聞こえなくても、今あの女性が、大好きな一方通行に何を言っているのか容易に想像がつく。
(え?え?何これ)
その女性は、おそらく手紙であろう物を彼に差し出しながら、非常に緊張した様子で何かを喋っている。
一方通行はそれを黙って聞き終え、二言三言彼女に告げてからその場を離れて再び歩き出した。
手紙も受け取っていないし、二人の様子からもちろん告白が断られたことが分かる。
打ち止めは弾かれるように駆けだした。門の前を横切ると一方通行に自分の姿を見られてしまうかもしれないので、
家とは逆方向になるが壁に沿うように走り、街の雑踏に飛び込んだ。
とにかく頭が混乱して、動くままに足まかせに走ってきたはずなのに、いつの間にか番外個体がアルバイトしているカフェまで来ていた。
- 522 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 12:56:46.93 ID:hZcuBRCF0
- (番外個体……いるかな…)
「あれ、妹ちゃんどうしたの?」
顔なじみのバイト店員が打ち止めに気づいて声をかけてきた。打ち止めが、番外個体が出勤しているか訪ねようとする前に、
「ラストオォォダァぁぁぁぁぁぁ!ちょっとぉぉぉ今のなんじゃこらぁぁあああっ!!」
怒りの形相で、打ち止め唯一の妹が自分に向かって突進してきた。
普段なら逃げ出すような状況なのに、打ち止めはその番外個体に自分も駆け寄り胸に飛び込んだ。
「ぐぇっ」
「番外個体ぉ~…」
番外個体は衝撃でせき込みながら、まだ自分より小さな姉を見おろした。
先ほど何の予告もなしにネットワークを吹き荒れた異常な、嵐ともいうべき感情の流出。
あまりのことに運んでいたジュースをぶちまけ、その場にゴロンゴロンと転がった番外個体は、
今丁度汚れた制服から着替えたところだった。
最近はそういうものを打ち止め自身がコントロールできるようになっていたので、番外個体は平和な日々を送っていたのだが…
いきなりどうしたのだろうか。
「ちょっと、最終信号?どうしたっていうの…」
「え…、分かってるんじゃないの…?」
「いや、とにかくもうグチャグチャだったから訳わかんねぇって。もう、こっち来な」
番外個体は店に今日は早退すると告げる。たった今救急車を呼ぶ勢いでぶっ倒れたおかげで、
むしろ歓迎するように、早く帰って休みなさいと店長に言われてしまった。
- 523 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/15(月) 12:58:25.73 ID:hZcuBRCF0
- 二人は静かな喫茶店のボックス席に陣取り、それぞれの飲み物が届くまで無言だった。
運ばれてきたジュースを一口啜り、番外個体が切りだす。
「どうせあの人絡みなんだろうけど、一体なにがあったの?襲われた?自家発電でも目撃しちゃった?」
「あはは…違うよ、いやーごめん。急なことだったからミサカ驚いちゃって…。
というか、今まで気づかなかった自分の鈍さにもビックリ」
打ち止めも、走りに走って乾いた喉を潤す。グラスの中身はいっきに半分ほどになった。
「あー、もしかして…、お姉ちゃんたら、今日うちの大学に行った?」
「うん行った。そして驚愕のシーンを目撃しちゃった、ってミサカはミサカは番外個体は知ってたんだな、と睨んでみたり」
「やっぱりかい…、怒らないでよ。だって絶対報告する義務があるわけでもないしさ。
そもそも最終信号が告白されてることだって、ミサカが自分からバラしたんじゃないよ?」
「むぅ、そういえばそうだった…ってミサカはミサカは反論できなかったり」
「ま、今回もバレるべくしてバレたんだし、いいよ。教えてあげようじゃない」
- 524 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 13:01:24.63 ID:hZcuBRCF0
- 番外個体は、ここ最近急に一方通行が大学内でモテはじめたことを語った。
三年生になってから登校日数、在学時間が増えたこと。人当たりが前より良くなったことが原因ではないかと考察している、と。
「大体さー、忘れがちだけど第一位って、学園都市第一位なんだよね。むかつくけど全能力者の憧れって言っても過言じゃないし。」
「そう、だよね…それにあの人かっこいいし…」
「それは同意しかねるけど、まぁとにかくウケはいいかな。
その裏門への道が、あの人への告白ロードとして定着しちゃってるらしいよ。告白ロードってぶはだっせぇぇぇぇって笑った」
だんだんと落ち着いてきた打ち止めだったが、予想以上に多くの女性が自分の恋人を狙っている状況に暗澹たる気分になってしまった。
「ねぇ、番外個体たちの大学って、何人通ってるんだっけ?」
「んーと、ざっと四千人くらいっだったかな」
「半分は、女の子だよね、ってミサカはミサカは当たり前のことをさらに確認してみる」
「当たり前だけど……女全員が第一位に惚れるわけないじゃん。しっかりしなよ、あの人は最終信号と同じで全部断ってんだってば」
大事にされてんでしょ?と励まされて、どうにかアホ毛の角度をいつもどおりの高さにまで持ってくることができた。
そうだ、あの人の恋人はミサカだもんね!と返事して、迷惑をかけてしまったお詫びにこの店のお茶代を奢り、打ち止めは家路についた。
- 525 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 13:05:15.50 ID:hZcuBRCF0
- (大丈夫大丈夫、だってほら思いだしてみなさいよミサカ。アレとかコレとか、指輪とか。
あんなにぎゅうって、ちゅうって……だから大丈夫だもん!ってミサカはミサカは
この心配は史上最大級の無駄なんだって自分に言い気かせてみる)
家に戻ってからも呪文のようにそう心の中で唱え続けて、風呂上がりに彼の部屋を訪れた。
いつもと同じ、他愛無い話をしてからドアの前でお休みのキスをする。
そろそろ唇を離そうと思ったのだが、今日は珍しく一方通行にそのつもりがないらしい。
かかとを浮かしたままでは辛く、ゆっくり体の力を抜いてようやく離してもらった。しかし相変わらず腕の中に閉じ込められたままだ。
「今日…オマエ帰ってくるの遅かったなァ?」
「え、あぁ、友達とお喋りに夢中になっちゃ」
「嘘だな」
「あっ」
打ち止めが言い切らないうちに、彼の唇がまるで噛みつくように首にあてがわれた。いや、実際に噛んでいる。
「教えたくないなら、別にいいけどな…」
(えーその代わりオシオキですか!?ってミサカはミサカはあなたのせいでつきたくない嘘ついてるのにぃっ。
でも何ですぐバレちゃうの!?)
- 526 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 13:08:39.02 ID:hZcuBRCF0
- ドアに打ち止めの背中を押しつけて、一方通行の口はだんだんと鎖骨へと降りてくる。
左手はパジャマの裾から侵入して腹を撫で回し、右手はぷちぷちぷちとボタンを三つ外していった。
「ちょ」
「コレは取りゃしねェから」
今日のブラジャーは薄いピンクに赤で花の刺繍がしてある。その肩にかかっているストラップを、一方通行はクイと引っ張ってから離す。
ゴムの力で引き戻ったそれが打ち止めの肌にぶつかり、ペチっと音を鳴らせた。
(ほうほう、つまりそれぐらいで許してやらァ、という意味ですな…え、いきなり?)
「んっ」
一方通行はブラジャーごと打ち止めの胸を両手で押し上げ、深く刻まれた谷間に舌を差し入れてから、
服の上からは見えない場所に次々と痕をつけていく。打ち止めが肩をすくめても手はまさぐるのを止めないので、
結局ストラップは肩からずり落ちた。
ひととおりオシオキが済むと、ブラジャーとパジャマを一方通行が元にもどす。
ずっと中腰だったのがこたえたのか、少し体を伸ばしてから少女の頭をポンポンと叩いた。
「じゃァな、オヤスミ。あまり悪いコトすンじゃねェぞ」
「…うー、ミサカはいつでもイイコです!ってミサカはミサカはあなたに反撃してみたり」
- 527 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/15(月) 13:12:03.10 ID:hZcuBRCF0
- まったく、誰のせいでオシオキされるはめになったと思っているのか。
自分のことを心配してくれているから、今日の帰宅が遅いことを問いただされたのは分かっている。しかし
(あなたのことも、心配なんだからね!)
打ち止めはいささか乱暴な手つきで青年のシャツのボタンも三つ外す。彼のようにはできないので、両手を使って。
一方通行は、彼女の珍しい行動に内心驚きながらも、それを止めようとはしなかった。
打ち止めは彼の胸の中心に唇を寄せ、チュウっと吸う。
「………」
(むぅ、あまりアトが残ってない…)
人一倍色白の肌なのに、慣れない打ち止めには上手にキスマークがつけられない。もう一度と思って、すぐ横に口を移動させる。
一方通行が少女の意図に気づいて、やり易いように胸をそらし腰を抱き寄せてやった。
四度目の挑戦で満足のいく赤色が出たので、打ち止めは「うん」と頷き、笑顔でおやすみと手を振ってから部屋を出て行った。
(ちょっとあの人にやつあたりしちゃったな。でもいいもん!これぐらい当然だもん!ってミサカはミサカは
意外と楽しかったことを正当化してみる。あの人がいつもミサカにアト残す気持が分かちゃった)
その後風呂に入った一方通行は、自分の胸につけられたキスマークを見つめながら、一人湯船の中でニヤついていた。
存外に、嬉しかったらしい。
- 538 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 18:36:09.05 ID:hZcuBRCF0
- それから数日、大丈夫と唱えつづける打ち止めだったが、心の底で燻る不安の炎は、鎮火どころか今や蝋燭大にまで成長した。
一方通行に抱きついても、キスしても、あの日彼に告白していた女性の姿が頭から離れない。
(うぁー…もう頭も胸の中もモヤモヤでぐるぐる~)
今日も、あの裏門への道で誰かに呼び止められているのではないか。
人気のない実験室や教室、はたまた論文を書くときに入り浸るという図書館とか…
自分より背が高くて、大人で、化粧もばっちりな彼と同じ年の女のひと達が、
一方通行に「好きです」「付き合ってください」「憧れてたんです」と告白している。
しばらく前から、そして今も…
打ち止めは大切に仕舞ってある指輪を取り出して、左手の薬指にはめた。
最初に右手にはめようとしたのを、一方通行が自らこの指につけろ、とやってくれたのだ。
(ミサカはあの人のことが好き…。あの人も、指輪をここにはめてくれたもん…)
でも、だめだった。ベッドに寝転がって、天井を背景に指輪を見つめていたのだが、視界がじわりと滲む。
(あっ)
ついに涙が出てきてしまった。慌てて起き上がり雫を拭う。
完全に情緒不安定だ。またネットワークに迷惑がかからぬように気をつけなければ…
ゆっくりと深呼吸して、ひたすら心を落ち着かせる。
「はぁ、恋する乙女は大変なのね、ってミサカはミサカは溜息をついてみる」
こんな時はアレだ。彼に特製愛情たっぷりコーヒーを飲んでもらって、美味しいと褒めてもらって、抱きついて甘えるに限る。
打ち止めはリビングにいるであろう一方通行の元へ足を急がせた。
- 539 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 18:38:51.54 ID:hZcuBRCF0
- 自分にべったりとしがみ付いてくる打ち止めの様子が、ここ数日変だ。
もうすぐ保護者達も帰宅する時間なのに、一方通行は「彼女にそろそろ離れろ」と言うことを躊躇ってしまう。
首をかがめて少女の顔を注意深く観察する。
自分の腕を抱えこんで目をつむり、寝ているように見えるが呼吸からそうでないと判断できる。
(ン?瞼が…赤くねェか?)
コーヒーの入ったグラスを置き、水滴がついたままの冷えた指で彼女の目元に触れた。
「なに?」
「どォしたンだ…」
(ありゃ、泣いたのバレちゃったかな?ってミサカはミサカはもっと注意するべきだったと後悔してみる)
アイスコーヒーによって冷やされた指が、少し腫れた目に気持ちいい。
こんなにも自分を心配してくれる一方通行。わずかな異変にも気づいて、こうして労わってくれる。
(…うん。だい、じょうぶ)
「ありがと……あなた…」
打ち止めは腕を離したと思ったら、今度は無理やり背中に手を回してきて胸に顔を埋めてきた。
その表情が幸せそうに笑っているので、一方通行はそれ以上何も訊かない。
ただ、本当にタイムリミットが近い。首の電極をONにして、彼女を抱きかかえると、少女の部屋へと移動した。
いつ保護者に目撃されるかわからない今のリビングでは、キスもできない。
- 540 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 18:40:31.82 ID:hZcuBRCF0
- 二日後、相変わらず不安定な心理から抜け出せない打ち止めは、ある決心をする。
一方通行には怒られるかもしれないが、このままの状態が続く方が、お互いに悪いと判断した。
明日は午前中だけで学校が終わるというのも、彼女の決断の後押しをする。
協力者が必要なのだが、あまり直接連絡を取る人では無かったので、まずは滝壺理后の携帯電話にコールする。
滝壺は快くお願いを聞き入れてくれた。その場で予定も立てて、明日会うことになる。
(ふー、これでもう後戻りはできなくなっちゃったぞ、とミサカはミサカは少しわくわくしてみたり)
- 541 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 18:42:35.31 ID:hZcuBRCF0
- 打ち止めが何やら計画を立てているその日、一方通行は大学内の学食で昼食を取るために構内の道路を歩いていた。
横には番外個体と、いつもの野次馬連中がぞろぞろとくっついてきている。
(何で俺はこいつらと飯を食うのが恒常化しちまってンだ…)
目当てのステーキセットがある学食まであと少しという所で、ここで耳にするはずのない声が聞こえてきた。
そのとたん一方通行はぐるりと進行方向を変え、走るような速さでスタスタと行ってしまった。
「あれ、おい一方通行?」
「第一位さま?」
呼び止められたが、そんなこと構っていられない。目標まであと数十メートル。
番外個体もキョトンとした顔をしていたが、彼が進む方向に何があるのか分かり
「あ…っちゃー…。ちょっとちょっと、無茶しないでよー」
小走りで彼のあとを追う。それに続いて野次馬達も番外個体に倣った。
- 542 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 18:45:07.78 ID:hZcuBRCF0
- (むむ、うかつでした。まさか学食が三つもあるなんて。
一体あの人はどこでお昼ごはんを食べるのかな?ってミサカはミサカは構内地図を前に悩んでみたり)
打ち止めは午前だけの授業を終えた足で滝壺との待ち合わせ場所に赴き、準備を整えてから一方通行が通うこの大学へやってきた。
今頃は学食で昼食のはずなので簡単に発見できると思ったのだが、地図によると馬鹿広い構内にそれが三つもあるではないか。
久しぶりにビビビ、とアホ毛を震わせてあの人の居所を探ってみて、
ここかな?と見当をつけた第二食堂へとやってきたつもりだったのだが…
歩き慣れない大学の敷地内、周りに立つ建物や学生達に気を取られていたら、いまいち道が分からなくなってしまったのだ。
道行く三人連れに「第二食堂はどこですか?」と聞いたら
「え?すぐそこに建ってるじゃん」
「え?あ?あれ、なんだすぐ近くまで来てたのね、ってミサカはミサカは恥ずかしかったり」
お礼を言ってそそくさと立ち去ろうとしたが、その彼らに呼び止められてしまった。
「ねぇ、君うちの学生じゃないの?あの、三年のミサカさんに似てるけど、…家族?」
「あ、そう。そうですミサカワ、は、このミ、私のお姉ちゃんです」
「おーやっぱり。じゃ第一位とも仲良い?」
「!……はい、すっごく!」
- 543 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/15(月) 18:48:39.59 ID:hZcuBRCF0
- ちょっとした立ち話をしていただけだ。あの人や番外個体の話を知らない人から聞くのは、非常に面白かったから。
それだけなのだが、
どん
どん
どん
おかしな、不自然な振動が近づいてくる。
「地震か?」
「いや、何か変よこれ」
どん!
「はあ!しまった先に発見された!ってミサカはミサカは大失敗!」
「ラァーストオーダー…、オマエ何やってンだァ…っ」
どっん!
一方通行が、恐ろしい貌で打ち止めの後ろに立っていた。
少女に対してだけ怒っているように見えたが、一際強く地面を踏みしめたその衝撃は、
打ち止めと話していた男子学生二人にだけ伝わって彼らをふらつかせた。一緒にいた女学生には何の被害もない。
そろそろ~と振り向く打ち止め。
「あ、あなた…テヘ、怒らないでね?」
「あ?なンだそのカッコ」
- 544 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 18:54:11.93 ID:hZcuBRCF0
- 向かい合った二人。うおぉなんか第一位怒ってる!?とその場から後ずさる不幸な三人連れ。
そこへ一方通行を追いかけてきた番外個体達も合流した。
周囲も、今の変な地震は?あそこの第一位がまたなんかしたんじゃね?とこちらに注目している。
「あーあーあーあなたってば、足跡がこんなにくっきり…。ちょっとぉ」
「わースゲー!これで突き刺さるフォークに続いてまた第一位名所ができるな!」
「よっしゃすぐに学生課に申請出そうぜ!」
「ミサカ、あのやけにアンタにそっくりなコは何?なんで第一位さまと空気築いちゃってるわけ?」
一方通行が地面に刻んだ足跡を、文句を言いながら確認していた番外個体はそう訊かれて、面白そうにニヤリと笑った。
第一位は諦めたように溜息をつく。
「ミサカの妹だよーん、カワユイでしょ?そんで、あんたらが噂してたらすとちゃん本人」
一瞬静まりかえったあと、
「「「えぇぇぇぇぇぇーーー!!??」」」
打ち止めは、「らすとちゃん」というのが何なのか分からず、一方通行と番外個体達を眺めるばかりだった。
彼らが一斉に自分を凝視してきたものだから、驚いて一方通行の背中にしがみついて隠れる。
らすとちゃんというのは、以前この野次馬たちと一方通行がランチの最中に、
番外個体がポロっとこぼした第一位の彼女かもしれない人の通称だった。
真実を知る番外個体と一方通行は、周囲がいくら尋ねても口を割らないので、
野次馬達の中では伝説の人物として、度々話題に上がっていたのである。
- 545 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 18:58:12.50 ID:hZcuBRCF0
- 「ま、じでー…?」
「おー…まさかミサカちゃんの妹だったとは…」
「はー…えー、かわいいやんけー」
「ちぇっ、ブラフじゃなかったのね。ミサカも人が悪いんだからー」
(あれあれ?ミサカ何だか有名人?もしかしてミサカはちゃんとこの人のカノジョとして認定済み?)
打ち止めがしがみつく一方通行の顔を見上げた。青年も彼女を見降ろしていたのだが、
かけられた言葉は彼女の思っていることとは若干違った。
「…その、格好はなンだよ」
「!」
違うのだが、それも打ち止め偉大なる計画の主要項目の一つだった。
今日のミサカは一味違うんだぜ、と一歩下がって胸を反らす。
「似合う?ってミサカはミサカはあなたのために変身してきたのー、どう?」
髪はかすかにクルリと巻かれている。一房をあの温泉旅館で買った髪飾りで留め、顔にうっすらと化粧。
ヒールの高いミュールを履いて、スカートはいつもより長いが代わりに胸はかなり大胆なデザインだ。
そのワンピースは普段彼女が好んで着る鮮やかな色ではなく、ブラウンと白、黒が基調である。
左手薬指には、もちろん彼に買ってもらったリングが光っていた。
「あー、おォ似合う似合う」
「投げやり!って予想の範囲内だけど!」
頬を膨らませる打ち止めの頭に、一方通行の手がぽんと置かれる。
もっとも右側は髪飾りがつけられているため、左の耳辺りを撫でるような形になってしまった。
- 546 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/15(月) 19:00:34.19 ID:hZcuBRCF0
- 「………」
「アレ誰?」
「アレ一方通行?」
「どう見ても第一位と、そのラブラブらぶりーらすとちゃんですごちそうさま」
「なにあの顔。第一位さまの知られざる一面発見すぎる」
野次馬達の視線に気づき、一方通行は一気に眉をしかめる。打ち止めから手を引き、彼らに向き直ってジロリと睨みつけた。
その迫力に、さすがに「う」と、たじろぐが、この大チャンスを逃すわけにはいかない。なんとかその場に留まる。
呆れたように手を上げた番外個体が、学食に向かって歩きだした。
「もー、とりあえずご飯にしようよ。第一位も諦めなって、こうなったら」
「……おら、行くぞ」
「ミサカもいいの?」
「置いていくわけにいかねェだろォが」
「わーい」
第二学食を目指す三人に、野次馬達も当然のようについていった。
- 560 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/17(水) 00:16:13.21 ID:k1ysWu2N0
- 野次馬四人と一方通行、番外個体、打ち止めは学食のテーブルに座っている。
それぞれの目の前には既に昼食が用意されていたが、食べ始めているのは一方通行と番外個体だけだった。
一方通行と打ち止めが隣合って座り、その他の五人は二人に対面している。
野次馬は興味と好奇と興奮と憧れの眼差しを打ち止めに浴びせ、彼らのご飯はどんどん冷めていく。
ちなみに打ち止めはもう軽く済ませてきたということで、一方通行がケーキとジュースを用意してやった。
「さて…まず何から訊くか」
「ウチら勝手にらすとちゃんて噂してたけど、なんて呼べばいいかな?」
打ち止めはジュースを置き、両手を揃えてかしこまる。
「ミ、周りからは打ち止め(ラストオーダー)って呼ばれてます。よろしくお願いします」
そしてペコっと頭を下げた。今日のワンピースは胸元が開放的で、野次馬の男三人から感心の唸り声が。
「さすがミサカちゃんの妹だわぁ…」
「ああ…」
「その格好で一方通行にノートを取るようにお願いしてくんねぇかな…」
ガンッ
一方通行がステーキを咀嚼しながらテーブルを蹴り上げ、男三人は慌てて水が入ったコップや、
背の高いビンに入った調味料が倒れないように押さえる。
その甲斐あって、どれもこぼれることは無かったが、テーブルの中心に刺さったフォークが振動の余韻を受けて、ビー…ンと震えた。
「あの、このフォークってあなたがやったの?」
「おーっ分かる?やっぱ分かる?そう、このフォークこそウチのガッコが誇る第一位名所その一」
一方通行が答える前に、野次馬が嬉しそうに打ち止めに教えてくれる。
- 561 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/17(水) 00:20:23.97 ID:k1ysWu2N0
- 「えーと、…ラストちゃんて呼んでもいいよね、俺らそれに慣れちゃってるし。
そして君のおかげで、ついさっき名所その二が作られたんだぜ!」
「名前どうすっか」
「怒りの足跡(そくせき)」
「いいね。それで学生課に申請出しとくわ」
そこで、トントンとテーブルを叩く赤い爪。
今日の野次馬紅一点が、話を元に戻す。
「このアホども、そんなことはどーでもいいのよっ。ラストちゃんに注目なのよっ。
こんなチャンスは滅多にないのよっ。第一位さまの真実にまた一歩近づくのよ!」
「お、おうすまん」
打ち止めは何を訊かれてもいいように、ジュースで喉を潤して準備を整えた。
一方通行も番外個体も、何も言わずにもくもくと食べ続けている。
(この人には悪いけど、今日は皆様にミサカのことをばっちり紹介してやるもん。
第一位には、もう打ち止めっていう素敵な彼女がいるって知らしめてやるんだから…!ってミサカはミサカは一大決心!…そうすれば)
あなたのこと、とられないで済むよね……
一方通行が打ち止めの中学に授業参観に来てからというもの、彼女への校内での告白はめっきり減った。
それは既に彼氏がいると知れ渡ったのが大きな要因で、年上であること、
遠慮なく振りまいていった、その異様な雰囲気や魅力的(だと打ち止めは思ってる)な容姿も味方したからだ。
つまり打ち止めも一方通行を授業(?)参観して、彼を狙う女性達を牽制しようという企みである。
しかし、自分はまだ所詮中学三年生だ。今日は精一杯のおしゃれと、大きな武器である胸を際立たせて乗り込んで来たのだった。
- 562 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/17(水) 00:23:48.87 ID:k1ysWu2N0
- 「えーと、まずやっぱ年よね。何歳?」
「じゅ…」
「十五歳だ」
打ち止めが口に出す前に、今までひたすら食べていたはずの一方通行が、ナイフとフォークを置いて答えた。
(え?ってミサカはミサカは……)
「うそぉ、見えない!十八歳くらいかと…」
「ん?十五?…ひょっとしてまだ中学生?」
「なンか文句あンのか」
「イヤ、ヤバ、…俺の彼女も十七歳だし、いい…のか?」
今日はなんでか知らんけど、第一位が喋ってくれる雰囲気かも?訊いてもいい雰囲気かも?とあたりをつけた野次馬達。
次々と質問を投げかけていく。
「いつ?いつ知り合ったの?やっぱミサカの紹介!?」
「えーと、お姉ちゃんよりミ、私の方が先」
「五年前にな、ちょっとしたことで関わったンだよ。それ以来アンチスキルのトコで一緒に世話になってる」
「ミサカが学園都市に来たのはその後だよ。一時期ミサカも同じマンションに居たけど、今はご存知自立中」
番外個体はカルボナーラを水で流し込むと、この場で初めて声を発したが、それだけで彼女はデザートを取りに席を立ってしまう。
「あー、前言ってた一緒に住んでる三人のうちの一人だったのーってマジかよ」
「五年前って当然ラストちゃん十歳だよな!?」
「ロリコン?」
「でも今はたわわわーんだし、いいんじゃないか?」
- 563 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/17(水) 00:27:39.01 ID:k1ysWu2N0
- この野次馬達、非常に失礼である。
打ち止めは一方通行にあらぬ汚名がかからぬよう、フォローに乗り出そうとしたのだが…
「ばァーか。俺は学園都市第一位だぜ?色々しがらみとか厄介な事情があったンだよォ。
オマエらの軽くてスカスカの頭じゃ思い至らないンだろォけどな」
「そ、そうっ、ってミサカはミサカはこの人を悪く言っちゃダメだと……っ、言わないでクダサイ…」
またしても打ち止めが何か言う前に、一方通行が全て答えてしまった。焦ってついつい我慢していた口癖が出てしまう。
(しまった、全然大人っぽくない…っ、ってミサカはミサカは上手くいかないなぁと嘆いてみたり)
しかし、野次馬達はそんなこと気にならなかったようだ。
しょんぼりと俯く打ち止め。
再びステーキを切り分けはじめた彼氏をチラチラ見やりながら、ジュースのストローにチュっと吸いついた。
「……」
「……」
「おい、カワイイぞ…」
「ねぇ、想像以上にカワイイわ…」
「…かわいいなにこのコ」
「これに第一位はしてやられたってことだな…かっわぇぇ」
この娘を励まさなければ。
野次馬紅一点が、手をひらひらとさせ明るく言う。
- 564 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/17(水) 00:33:06.50 ID:k1ysWu2N0
- 「つまりはこーよ。第一位さまは光源氏なの!幼いラストちゃんを保護して守ってきた光る君ね!」
「なぁる。ラストちゃんが紫の上ってことだな、いとをかし!」
「なぁでもそれじゃあ、一方通行が次から次へと女とっかえひっかえの超絶節操無し下半身の種まき野郎になっちまわねぇか?
しかも紫ちゃん十四歳で手ごイタァっ!?」
「空気読め死ね!誰よ第一位さまを側室通い婚上等時代のタラシに例えるやつは!」
野次馬達が何やら自分達を褒めてくれてるようなので、ぐぐぐ、とアホ毛と共に笑顔を取り戻しかけた打ち止めだったが、
すぐさまその表情が暗くなった。
今、彼女にそのテの話題はタブーである。
一方通行は、若干眉がつり上がってきているものの、この記者会見のような、取り調べのような茶番に黙って付き合っていた。
そろそろ彼の皿の中身も少ない。そしてきっと心の許容も残り少ない。
「あー違う違う、丘の上の王子様だよ!」
「そうよアンドレのように一途なんだから!」
「ラストちゃんみたいな可愛いコは自信持って!」
「そうだよ!ミサカちゃんの妹って嘘だろ?って思っちゃうくらい!」
「あんたら、まーた髪の毛焦がされたいわけぇ?いいけどミサカは別にぃ?最近放電してなくてイロイロ溜まってたからー」
打ち止めと同じケーキを持った番外個体が、野次馬達が座る椅子を小突いた。
「いやいやいや、そっくりな妹さんです」
「そしてカワイイです」
「さすがミサカちゃんです」
「だからそのパリパリ早くやめて」
- 566 :ブラジャーの人[sage ]:2011/08/17(水) 00:39:37.82 ID:k1ysWu2N0
- 番外個体は一際大きな音で、ばちっと紫電を閃かせてから席についた。
ザクザクとケーキを大雑把に切り分け、メインの苺から大口開けて放りこむ。
食べながら一方通行と打ち止めの様子を見、そして野次馬達にこう言った。
「んで?他に訊きたいことあんの?もうすぐ三限目始まるし、その冷めきったご飯をいいかげん腹に入れろってぇの」
あ、しまった、と野次馬達は慌てて箸やらスプーンを動かし始めた。
一方通行は食べ終えた皿をそのままに席を立つ。え?どこに行くの?と見上げた打ち止めに顎で指図して
「行くぞ」
ただ一言告げて学食を出ていこうとする。打ち止めは結局手をつけられなかったケーキを残し、
野次馬達にまたペコっと頭を下げて彼を追いかけた。
「あー!?一方通行次の物理学はぁー!?」
悲痛な呼びかけを無視して、一方通行は打ち止めが駆け出してからドアを閉め、車が置いてある駐車場とは逆へと歩き出した。
- 567 :ブラジャーの人[sage ]:2011/08/17(水) 01:00:03.56 ID:k1ysWu2N0
- 補足説明
・野次馬その1 一方通行を「第一位さま」と呼ぶ女。番外個体と気が合う性格 「さま呼び」と命名 サマンサでも可
・野次馬その2 一方通行の頭脳に頼って、ノートのコピーや同じ講義の選択に余念がない男 「単位」と命名
・野次馬その3 一方通行の能力に興味深々で、もっと大学内に第一位名所を作りたい男 「名所」と命名
他に男が二人、女が一人いるはずだが、命名できるほど個性がない。
とりあえずここまで。
アンドレはともかく、丘の上の王子様はちとやりすぎたか…
君は光、僕は影って、通行止めっぽいと思います。
すして、それ以上に一方さんは光源氏だと思ってた。拾った幼女を育てて嫁にするとか…まじ一方=光る君
ただ浮気症なんだよな。そこがだめだ、このマザコンが。一方さんを見習え、一途が過ぎて天使になったぞ。
- 571 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/17(水) 17:00:40.71 ID:kFweLQTl0
- 一方通行は歩き続ける。後ろからついてくる打ち止めが時々小走りになり、髪飾りがシャラシャラ音を鳴らした。
どうも慣れない高いヒールが枷になって、いつもの早さで歩けないようだ。
それに気づき、一方通行はさらにスピードを落とした。
十分ほど経って大学の敷地のはずれにあるベンチに辿り着いた。
周囲の建物には丁度窓がなく、天井には葉が茂った藤棚に覆われて涼しくて人気もない。
一方通行がそこに座ったとき、三限目の開始を知らせるチャイムが響いた。
「…っはァー!ったく…。あのクソボケども…、好き放題言いやがって。オマエもなァ…」
「ご、ごめんなさい…。ミサカのせいで…」
(でも、後悔はしてないの、ってミサカはミサカは悪い子だな…)
打ち止めはチョップを食らう覚悟で彼の隣に腰を下ろした。香水だろうか、いつもと違う香りが一方通行の鼻に届く。
「…気は済ンだかよ」
「……え?」
「オマエが何でこンなことやってるのか、一応分かってるつもりなンだがな」
打ち止めが目を丸くして隣の青年を見つめた。無意識に、右手で指輪を弄ってしまう。
「あ…、だから、ミサカが言う前にみんなに色々答えてくれたの…?」
「アレで、よかったンだよな?」
当初さすがに驚いてしまった一方通行だったが、すぐに打ち止めが何を思ってこんな姿で大学へ押し掛けてきたのか察しがついた。
なぜなら身に覚えがあったから。
- 572 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/17(水) 17:03:46.09 ID:kFweLQTl0
- まだ初夏の頃、打ち止めの中学へ授業参観に行った自分の姿と、今の彼女が重なって見えた。
今にして思えば、あの時味わった高翌揚感や胸のすく思いは、
周囲に彼女への所有権や独占欲というものを誇示した子供っぽい行動の結果だった。
しかしそれで二人の中が進展したのも事実で、
打ち止めにしてみれば第三者に自分達の特別な関係をアピールしたい欲求があるのは無理からぬことだろう。
(俺だってアレは面白かったしな。打ち止めにも付き合ってやってもかまわねェだろ…)
これでこの少女も満足したハズだ。自分はかなりの疲労と羞恥をこうむったがかまわない。
後は軽く、足の負担にならない程度に構内を案内してやって帰ればいい。一方通行はそう思っていた。
なのに、打ち止めの顔がだんだんと歪むではないか。
「!?お、おい打ち止め?」
「あっ、ごめん、ってミサカは、う」
焦った。一方通行はかなり焦った。
なぜ泣く?自分のしたことは見当違いだったのか?
打ち止めは彼の困った様子に気づいて、あわてて涙をぬぐって笑った。今日は化粧をしているので、注意深く。
「嬉しいの。あなたがミサカをちゃんと紹介してくれたのが…。
もしかしたら怒られて追い返されるかもしれないと思ってたから、ってミサカはミサカは予想以上の結果にビックリしてみたり」
「おォ、そうかよ…」
(今頃になってすげェ恥ずかしくなってきやがった…、まァ打ち止めも喜んでる、ンだよな?でもよォ…)
「なにも泣くほどのことじゃねェだろ…?オマエ最近ちょっとおかしいぞ」
「ん、うん…。最近ちょっと情緒不安定っていうか…」
「あァ、ここ数日変だとは思っていたが…、何があった」
打ち止めは彼の方へさらに身を寄せ、肩にそっともたれる。
- 573 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/17(水) 17:06:33.86 ID:kFweLQTl0
- 「一週間ぐらい前だったかなぁ…。ミサカ、四限目が終わったあなたに会えるかもしれないと思って、
裏門までお迎えに行ったの、ってミサカはミサカは秘密を打ち明けてみる」
一方通行の体がピクリと震えた。一週間前、四限目後、裏門といえば…
「……」
「あなたが告白されてる衝撃のシーンを目撃しちゃってから、ミサカ不安で不安で…。
番外個体からあなたが急に女の子に人気花丸急上昇!って聞いたら余計に」
(番外個体にバラされるとこまで同じかよォ…、なンつう似たもの同士なンだ俺達は…)
「だから、分かってるのに、大丈夫なのに…。もういても立ってもいられなくなって…。あなたには、色々してもらってるのにね…」
打ち止めが一方通行から貰った指輪に目を落とし、それを愛おしそうに撫でた。
それを見て、一方通行の胸が苦しくなる。
打ち止めが告白されまくっていると知って、自分はすぐに嫉妬にかられて彼女に詰め寄った。
どォして俺に言わなかったンだ、と。
打ち止めはそんな自分に笑顔で言ってくれたではないか。
「あなただけ」「あなたのことが大好きよ」「いいよ、分かってるから」
(打ち止め…)
彼女は一週間悩んで、苦しんで、こんな指輪にすがって耐えていたのか…?
「こうして指輪も貰ったし、最近はちゃんとミサカのこと打ち止めって呼んでくれるし、いつもミサカのこと心配してくれてるし…」
「打ち止め…」
打ち止めが益々一方通行の肩に体を預けてきた。彼の手が、少女の腰に自然に回される。
- 574 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/17(水) 17:14:48.68 ID:kFweLQTl0
- 「どんなカンジどんなカンジ!?」
「押すなもぉっ、狭ぇんだよ」
「イタっ、アンタは物理学に行ってきなさいよ」
「いいんだ、こっちの方が重要だから。どうせ一方通行には試験のヤマ教えてもらうつもりだもんね」
野次馬達は結局二人を探し出して、こうして出歯亀している次第である。よほど一方通行のことが好きなようだ。
「上から見えればいいんだけどなー」
「ミサカちゃん、これ以上いい場所ないの?」
三歩ほど下がった所で番、外個体が打ち止めの残したケーキを食べながら面倒くさそうに答えた。
彼女は野次馬たちに急かされて、こうして皿とフォークを持ったまま学食から連れ出されたのである。
そして気は進まないものの、二人の居場所を案内させられ、覗きスポットまで指定してやったのだ。
「…無理だね、あの人はミサカ以上に勘が鋭いから。これ以上近づいたら絶対バレる」
「あ!?ラストちゃん泣いてる!?」
「うそっ」
「ひぇードラマチックが超特急でこの駅には停車しません」
「いや、大丈夫みたいだぜ…、あ!くっついた!」
「いやーん第一位さまがっ青春っ」
「……お!腰に手が!手が!」
「キスいきますか!?」
野次馬改め、出歯亀たちが盛り上がるあまりに身を壁から乗り出す。一方通行達までの距離は三十メートルだ。
「あ、ちょっとアンタたち」
番外個体が注意を促そうとフォークを亀達に向けるが、その体はすでに一歩も二歩も下がっている。
「きゃ」
「わ!?」
ごぉっ、と突風が吹いた。
しかしその風は亀四匹の頭上にだけ吹き荒れ、垂直に彼らを押しつぶす。
「あーあ…、バレた。ひひっ、第一位今どんな顔してんのかにゃー?」
番外個体は目を回す四人の前に、まるでお供えをするかのようにケーキの皿を置き、スキップでその場をあとにした。
- 575 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/17(水) 17:16:22.91 ID:kFweLQTl0
- 「?どうしたの、ってミサカはミサカは急に能力を使うあなたに問いかけてみる」
「なンでもねェ、なァ打ち止め…」
一方通行は電極のスイッチを切りながら、少女の腰をさらに抱きよせて軽くキスをした。
まさか、人気はないとはいえ彼が通う大学の中でキスされるとは思わなかった打ち止めは驚いた。
でもこれはさっき友達(?)に自分をしっかりと紹介してくれたのと同じように、
打ち止めという個人を「大切だ」と宣言してもらっているようで嬉しくなる。
でも、その直後耳元で囁かれた言葉が少女の頬を限界まで赤くさせた。
「え、あ、……」
「じゃ、行くか…」
「は、い…」
駐車場までの道のりを、一方通行は真っ赤なままの彼女に合わせてゆっくり歩いた。
二人が手をつないでいる姿は、授業中とはいえ構内にいた沢山の学生達に目撃され、
翌日さっそく掲示板に写真と記事が貼られたのであった。
- 576 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/17(水) 17:23:16.86 ID:kFweLQTl0
- 打ち止め、一方通行の学校訪問に行くの巻 完
この話は一ヶ月ほど前からやりたっかんです実は。
ちなみに打ち止めの変身を担当したスタイリストは麦野さんだよ。
- 592 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:30:13.99 ID:PscRFPRA0
- 一方通行に手を引かれ、駐車場の車に乗り込むまで、いや、乗り込んだ後も打ち止めの顔は赤いままだった。
それどころか益々ひどくなってきているようだ。
高いヒールが心もとなくて、そわそわと足を動かしてしまう。心臓は家が近づくほどに、その鼓動を速めた。
彼女は今日、一方通行の大学に押し掛け、何人かの学生に紹介され、藤棚の下で不安だった気持を打ち明けた。
そしたら彼が、学校の中だというのにキスしてくれて、その後こう言ったのだ。
『今すぐ帰ってオマエとセックスしたい…』
両手をぎゅうっと握りしめ、左手の指輪を確かめた。もともとマンションと彼の大学は近い。
車なら五分もかからず着いてしまうため、一方通行は毎日車で通学しているわけではなかった。
(それなのに、今日に限ってなんでポルシェちゃんで来てるのあなたぁ~、あぁもう着いちゃう!ってミサカはミサカは心の準備がっ!)
方や一方通行はというと
(あー今日車で来といて本当に良かったぜ)
と思っていた。
- 593 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:32:52.61 ID:PscRFPRA0
- 打ち止めが、そんなことあるわけないと彼女自身も分かっていながら、一方通行との関係に不安を持ち、
この一週間を悩んで過ごしていたという。
指輪なんかを撫でて、今まで一方通行が与えてきた思い出を噛みしめて耐えていたのを知って、彼はこう吹っ切れたのだ。
もう抱いてしまおう。どれほど大切に思っているか、傷をつけてもいいから刻もう。
打ち止めだけなんだと、もう不安に思わないでいいぞ、と。
そこに、純粋に彼女とシたいという欲望が湧きあがったことは否定しない。
どれだけ我慢したことか、よくここまでもったと称賛してほしいぐらいだった。
(まァ急ではあったな…、打ち止めのやつ、隣ですげェ顔してるし)
(うわぁ、着いた!帰ってきちゃったどうしよう)
ポルシェはいつもどおりに駐車場に停まった。一方通行がシートから降りるが、隣の打ち止めが動かない。
(あーあー、緊張しすぎだろォがよ…今まで散々あれやこれやしておいて)
「おい」
「う、うん」
打ち止めがもたもたとシートベルトを外している間に、一方通行が首の電極をONに切り替え、助手席側に回り込んだ。
そして、ドアが開けられるまで、彼の動きに気づかなかった打ち止めを抱きかかえて、行儀の悪いことに足でドアを閉める。
「おぉ、なんか恋愛映画みたいなカンジ?ってミサカはミサカはロマンチックな演出にドキドキしてみる…」
「アホ、このままじゃいつまで経っても部屋に辿りつけねェと思って仕方なくだ」
「そ、そんな、に…」
「あァ、割と焦ってるかもしれねェ」
打ち止めは一方通行の背中に腕を回して、彼の服を握りしめた。顔は肩に埋める。
今はこうして体を密着させるのは恥ずかしいが、顔を見られる方が耐えられなかったし、彼の顔を見られそうにもなかった。
- 594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)[sage]:2011/08/18(木) 23:34:52.86 ID:zSfpJunZo
- リアルタイム遭遇ktkr
- 595 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:35:35.14 ID:PscRFPRA0
- 「そンなにしがみつくな…」
「…今日のあなたは、ちょっと、強引で大胆すぎる…あれ?どこ行くの…?」
てっきりエレベーターに向かうと思っていた打ち止めだったが、青年は彼女を抱き上げたまま空の下へ。
「舌を噛まないように、口を閉じてろ」
そう言うや、腰をかがめて地面を蹴る。人に見られることなど気にしない。
数秒後には自分達の洗濯物が干される、我が家のベランダに降り立った。
(うそー!部屋に上がるまであと三分はあると思ってたのに、ってミサカはミサカはこの人の本気ぶりを実感してみたり)
吊り下がるタオルや服を掻き分け、またしても足で、今度は窓をコンと蹴って鍵を開けた。
解錠された窓の外に靴を置き、玄関まで行くと靴箱の上に打ち止めを座らせる。
(どうしてこんなトコに?)
「あの」
一方通行は打ち止めの足を掴み上げ、ミュールを脱がして踵や爪先の状態を確認した。
彼女が歩きにくそうにしていたので、足を痛めていないか心配だったのだ。
「大丈夫みてェだな」
そう言ってミュールをポイと玄関に放り投げたら、打ち止めから非難の声が。
「あーダメ乱暴にしちゃ!それムギノからの借り物なんだよ!ってミサカはミサカはあなたを叱ってみたりっ」
「はァ!?むぎのって……、原子崩しかよォ?まさかオマエ、今日の化粧は…」
「うん、タキツボにお願いして、ムギノにやってもらったの」
「…はァ……」
「髪もクルクルしてもらったし、ムギノも楽しいって言ってたよ」
一方通行は素直にミュールを揃え直し、打ち止めをフローリングの上に降ろしてやるのと同時に、チョーカーに触れてスイッチを切った。
- 596 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:37:18.54 ID:PscRFPRA0
- 「ね、ミサカこのカッコ、正直自分でも驚くぐらいにイイと思うんだけど、あなたはどう?
今度はちゃんと答えてほしいな、ってミサカはミサカはあなたの感想を求めてみる」
ワンピースの裾を持って、もう片方の手で巻いた髪を撫でつける打ち止め。
一方通行は彼女ににじり寄り、壁に押し付けるようにキスをした。藤棚の下で交わした、触れるだけのものではない濃厚なヤツを。
「ん…あの、感想は…?」
「…よく似合ってる。でももォ少し……」
一方通行の指が打ち止めの首に触れ、だんだんと下がってくる。胸元が大きく開かれたワンピースの生地を中指に引っかけ、
「露出は少ない方がいい」
「ん…分かった。…あは、口紅ついてる、ってミサカはミサカはごしごししてあげる」
「あァ、どおりでなンか変な味がすると思ったぜ。…オマエも口からはみ出してンぞ」
二人はお互いの唇に指を滑らせ、ピンク色を拭い取った。打ち止めは普段こんなに濃い口紅をつけないので、
この行為が非日常をより強調させる。
でも、不快感などもちろん無い。特別な儀式のようだと感じた。
- 597 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:38:25.77 ID:PscRFPRA0
- 「さて、そンじゃあ…」
打ち止めがビクリと緊張を走らせる。一方通行はそんな少女の頭を優しく撫で、ついでに髪飾りを抜き取った。
纏められていた一房が、彼女の肩にぱさりと落ちる。
「安心しろ。オマエにシャワーを浴びさせる余裕ぐらいある。いいならこのまま俺の部屋まで直行だけどな」
「~~あ、ぁ、浴びてくる!」
打ち止めがバスルームに駆け込んでいく。
一方通行は、家の中ではほとんど使わなくなった杖をついてキッチンに向かった。
冷蔵庫の中から黄泉川のビールを一本失敬し、それを三、四回に分けて飲み干した。
その後、打ち止めが作り置きしてくれているアイスコーヒーも一杯飲む。これで酒の匂いはごまかせるだろうか?
テーブルに両手をつき、大きく息を吐いた。
(俺も、緊張してンな…酒が欲しくなるぐらいに)
- 598 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:41:21.93 ID:PscRFPRA0
- 打ち止めは泡にまみれた体を洗い流し、曇る鏡に自分を映した。
五年前、一方通行と出会ってから、自分はかなり成長したと思う。
ずっと好きだった人。心の中で泣いていたのに、自分のために何度も何度も苦しんで、血を吐いてまで助けてくれた人。
昔と今では、彼を慕う思いに変化が起きている。体の成長と共に、以前は無かったしがらみや不安も持つようになった。
(ミサカも大人に近づいたってこと…?)
正直苦しいこともあるし、辛いと感じることもある。実際、この数日は何度泣いたことだろう。
でも、
(あの人が守ってくれたから、ミサカはここまで成長できたんだよね、ってミサカはミサカは
この苦しみは在って良いことなんだと言い聞かせてみる)
そしてこれから、思い続けた人が待つ部屋へ抱かれに行く。そう思うと足が震えた。
怖さからじゃない。万感の想いに心が打ち震え、それが足に出ただけだ。
鏡に映る瞳はしっかりと一直線に自分を見つめ返して、わずかに残っていた迷いをさらに削り取ってくれた。
(でも、緊張はするし、少し怖いのは仕方がないよね、無理もないよね、しょうがないよね、。
だってミサカ初めてだもん!あー!!きゃー!!)
- 599 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:43:19.98 ID:PscRFPRA0
- (おっせェェ…っ!いつまでシャワー浴びてンだよ、これじゃアルコール抜けちまうぞ)
女性の仕度は時間がかかるものだ。そんな決まり文句、常識は一方通行だって知っている。
しかし打ち止めは、そういったことで彼を特別に待たせたことはなかったので…
(怖気づいて膝でも抱えてンじゃねェだろうな…)
ベッドに座って打ち止めを待っていた一方通行だったが、中々彼女が来ないので、そんな心配が胸中をよぎる。
打ち止めがバスルームに行ってから二十分が経過していた。
『初めて』に臨む少女のシャワータイムが、それだけで済むはずないのだが、
はやる心を押さえきれなくなってきた一方通行には、とても長いおあずけに思われた。
さらに数分後。
(……来た!)
打ち止めの忍ぶような足音が聞こえてきた。全神経を耳に集中させていた一方通行には、裸足で歩く彼女の歩みも聞き分けられる。
ところが、
(あ?何で通り過ぎるンだ?)
打ち止めは一方通行の部屋の前を通り過ぎ、どうやら自室へ入っていったらしい。しかしすぐに戻ってきて、
(!……?………オイ)
足音はまたバスルームへ。
(何してンだよォ…)
それでも彼は待った。待った。待った。待った。
実際には三分しか経ってないのに、ついに待ちきれなくなった一方通行は立ち上り部屋を出た。
そして脱衣所への扉の前に立ち、躊躇なくその引き戸を開ける。
「んきゃ!?」
「遅ェ!」
- 600 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:46:39.89 ID:PscRFPRA0
- 丁度出てくるところだったのだろうか、打ち止めが目の前に立っていた。体には白いバスタオル一枚だけを巻き付けている。
「な、余裕あるんじゃなかったの!?ってミサカはミサカはいきなり入ってくるあなたに憤慨してみたり!」
「遅すぎるンだよ!どれだけ待ったと思ってンだ!今更どこ洗っても何も変わらねェよ、ほら行くぞもう!」
一方通行は打ち止めを抱きあげ、自分の部屋へと連れて行く。今日は電極のスイッチのON、OFFが頻繁だ。
「わぁまた!?でも全然ロマンチックじゃない!ってミサカはミサカはさっきとの差に驚いてみる!」
「はい到ォ着ー。観念しろォ」
「観念は最初からしてたもん!今丁度行くところだったもん!せっかく!ミサカがせっかくあーもう!?」
余裕を使い果たした青年は、少女をベッドに転がしてタオルをひん剥いた。
うつ伏せになっていたので、まず打ち止めの背中があらわになり…
「はァ?何でこンなモン履いてるンだ?」
打ち止めのショーツのゴムを伸ばしたり戻したりする一方通行。今日は珍しく黒だ。
「こ、これは乙女の最後の恥じらいなのっ。でも大人っぽく黒でキメて、あなたを喜ばせようというミサカの作戦で」
「ふーン、俺も脱がすのは嫌いじゃねェから別にいいけど」
「うひゃ…」
一方通行は打ち止めの腿の裏に座り、緩やかなカーブを描く背中に指を這わせ、それに舌を追従させた。
「う、まずちゅうだと思う、ってミサカはミサカは、背中はあんまりされたことないからぁ、」
「こっち向けるか?」
「うん…」
一方通行は僅かに体を浮かし、その隙間で打ち止めは身をよじらせ後ろを向いた。
ぴったりと唇を合わせたキスの後、ギラギラ揺れる赤い目と、僅かに潤む茶色の瞳が交錯した。
「そォだ、言い忘れてた」
「なに…?」
「優しくするからな…」
「あなたの言うことが信用できない日が来るなんて…、ってミサカはミサカは、それでもヨロシクオネガイシマス…」
- 601 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:49:05.38 ID:PscRFPRA0
- 一抹の不安を抱いた打ち止めだったが、一方通行は本当に優しかった。今まで触れられたどの夜よりも。
おかげで少女は、昼日中の薄暗い部屋の中のため、全てが見られているというのに、大いに乱れてしまった。
指が、爪が、手が、口が、舌が、歯が、肌を滑る白い髪までも、全て心地よかった。
いつもは体温低目な彼の体が熱い。息が荒い。目が怪しく光っている。
それなのに、必死に優しくされているのが分かり、打ち止めは申し訳ない気持ちになった。
とっくの前に、パンツはもう脱がされている。
「あ、な、たもう、もう」
「もう、いいか?大丈夫か?」
こくこくこくと、五回も六回も頷き、打ち止めはシーツを握って目を瞑った。
景気よく首を振ったが、先月の、露天風呂で触った彼のアレを思い出すと、どうしても身構えてしまう。
(大丈夫……女の子は、好きな人なら大丈夫なように出来てるんだから)
一方通行が膝の裏を持ち上げ、体を足の間に割り込ませてきた。
直後あてがわれた塊は、彼の体のどの部分よりも熱を持っている。湯の中で触れたときよりも、熱い気がした。
今まで絶えることの無かった青年の荒い呼吸が、一瞬止まった。打ち止めもまた、想像以上の激痛に息も動きも止まった。
(~~~あ、い!!痛い!痛い!痛いぃ~~やぁー!痛いよ…っ!あなた…っ)
- 602 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:50:35.83 ID:PscRFPRA0
- 部屋に響いていた少女の嬌声は消え、代わりに一方通行の呻き声が僅かに漏れ出ていた。
「う…、ァ…ァ…」
(熱い…、気持ちいい…、もっと入れたい……!)
自分の両腕の間で、打ち止めは体を小刻みに震わせ、息も吸えずに痛みを我慢している。
痛がるだろうと分かっていたので、努めて前戯に時間と労力を掛けたのだが、やはり痛いらしい。
その表情は、見ているだけで自分にも伝播する。
「…~ク、……」
(あなた、大好き、大好き、痛い痛い痛い…好き…)
打ち止めは涙も、声も我慢して、ただ耐える。耐えられないなんて、絶対にそんなことはできない。
彼を受け入れられないことなど、ありえなかった。
(そンなに痛いのか…。どうして泣かないンだよ)
切なくなる。
この少女はどこまで…。
一方通行は体を屈めた。動かれれば痛みはいや増し、打ち止めの眉がさらに歪む。
それでも、顔を彼女の胸に近付けて、気づけば一方通行は、こう呟いていた。
- 603 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/18(木) 23:54:29.54 ID:PscRFPRA0
- 「好きだ…っラストオーダー…っ!」
打ち止めの、涙を零すまいと、きつく閉じられた目が見開かれた。
今なんて言われた…?
(好きって言ったの?)
「愛してる…」
(愛してる?この人がそう言ってるの?)
シーツを握るばかりだった打ち止めの手が、そっと開く。
(ああ、あぁ…)
「あ、あぁ…あぁ~~~、あ、うぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あなた、ミサカもっミサカも!」
一気に涙が溢れだし、幾筋も幾筋も頬を垂れていく。しゃくりあげた拍子に、こめかみを伝って髪の中まで濡らした。
「っ、打ち止め…」
驚いた。これほど泣かれるとは。そんなに望まれていたのかと。
「うあ、あぁぁ、ふ、はぁ、あぁぁぁ~」
「泣くなよ…っ」
「あぅ、嬉しい!嬉しいよ…!ミサカも好き、愛してます…っ、あなたのこと、ずっと、あぁ」
打ち止めの腕が、一方通行の首に回された。
泣いていることで弛緩した体は、動いても先程までのような激痛を伴わない。
ぎゅうぅっとしがみつけば又、夢の中だけだと、貰えるとしてもずっと先だと思っていた言葉が降ってきた。
彼が、もっともっと奥に入ってくる。
「あなた、あなたぁ、ミサカね、ずっと」
「分かってる、もォ喋るな…、悪かった……」
「ぅ、うぅ謝らないで、謝らないで…」
一方通行の体が、自分の上に力なく落ちてくるまで、打ち止めの涙は止まらなかった。
二人の心は満たされている。今までよりもずっと。
- 604 :ブラジャーの人2011/08/18(木) 23:58:29.93 ID:PscRFPRA0
- 一方通行と打ち止めのはじめての巻 完
昔っからな、男はほろ酔い、女は湯上りって言ってなぁもぉぉ恥ずかすぅぅ!
誰じゃい、朝チュンが候補のひとつです、なんて言ってたのは!
では追記です…↓
- 605 :ブラジャーの人2011/08/19(金) 00:01:54.51 ID:UdXoIVdH0
- さて…このスレを立ててから一カ月とちょっと。
初夜どうしようなどと言っておいて、結局これか。ガッツリか。
思えば、来る日も来る日も、天敵のように嫌ったパソコンの前に座り続け、連日更新という荒行を…。
これまでの投下字数は、多分、十五万文字に近いかと思います。
だから間抜けな誤字脱字は許してほしいの。
友人間では死亡説が囁かれ、買い物もドライブも、娯楽とはほとんど距離を置いていました。
金は溜まりました。心も、心だけは潤っていまいた。
しかし、先日のお盆で、ついに無理が祟ったわたくしの体は……
みんな!オラにボラギノールを分けてくれ!!
という所まで来てしまったのです。
通行止め、恐ろしいですね。愛はとどまることを知りません。愛ーをーとめないでー
でも今日の更新で、大きな山を越えたはず。
あ、終わるって思った?えーって思った?
もしそう感じて頂けたなら、こんなに嬉しいことはありません。多分まだ終わりません。
でも、いかんせん尻とか、体とか、視力落ちまくったであろう目を、少し休ませたいと思っております。
あと人間関係やばい。
そういうわけなので、明日は来ない。明後日もきっと来ない。三日後はどうか分からない。
一週間後かもしれない。
……常連の方は、この予告がまったくアテにならんことは既に重々ご承知でしょう。
自分でも全然予想がつきませんわ。
しかし、少しの間は本当にお休みです。質問があれば、答えられることならお返事しますね。
それでは皆様、また投下する日まで、
さよ海原!! ←これ流行らせてよマジで。方々で拡散してほしい。
- 606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/19(金) 00:07:08.04 ID:f2RQpzzA0
- まってるぜ、いつまでも
ハンター×ハンターぐらいにな・・・!
- 607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/08/19(金) 00:07:51.90 ID:+9qEct59o
- >>605
超乙!めちゃくちゃよかった!!
充分休んでまた続き書いてくれ
- 608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/08/19(金) 00:11:20.90 ID:JaNxw2aHo
- しばしの間、さよ海原!!
>>1乙!!!!
- 634 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/21(日) 20:26:56.32 ID:/4G1HCK70
- 早く、彼女の上からどかねば…
そう思いながら、中々実行できない一方通行。最後の方はもう余裕など欠片もなくて、ただ本能のままに突き動かされてしまった。
自分も打ち止めも、まるで走り続けたあとのように息切れしている。
首に巻きついた少女の腕がかすかに動き、その細い指が、自分の髪と頬を撫でた。
けだるい体に喝を入れ、肘を立てて打ち止めの顔を見る。
彼女は目を閉じたままで、頬や髪が涙でベタベタしている。当然のことだ、あれほど泣かせたのだから。
そう、ついうっかり、恥ずかしいことを口走ってしまった。
(しょォがねェ…、しょォがねェだろありゃァ…!)
「打ち止め、大丈夫か?」
少女の瞼が、うっすら開かれる。うつろな眼差しに一方通行の胆が冷えた。
「!……っ、痛かっただろ。悪い…、水持ってくるから…、抜くぞ、いいな?」
「んんっあっ…」
また、かすかに眉間に皺がよる。よく耐えた、本当にありがたかった……
腰を引いて、彼女の中から自分を抜く。とろとろと血が垂れてきて、既に赤い染みを作っていたシーツにさらに零れていった。
(お、いおい…、こンなに血が出るモンなのかよ…)
- 635 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/21(日) 20:29:56.21 ID:/4G1HCK70
- 愛しい人の、あたたかい体温が遠ざかってしまう。
打ち止めは強引に目の焦点を合わせ、薄闇の中に光る赤い瞳に手を伸ばした。
「イヤ…」
一方通行は慌ててそれを握り返し、体を起こそうとさえした打ち止めを、再度ベッドへ横たわらせる。
「大丈夫だ…。ちょっと…、血がすげェから風呂いくぞ。そのまま寝てろ」
「…平気…、起きれるよ、ってミサカはミサカはそんなに心配しないでと、あなたを安心させてみたり…」
打ち止めはまずうつ伏せになり、そこから猫が背中を伸ばすような動作で、どうにかベッドの上に座った。
もそもそと、端に放り投げられていたバスタオルで恥ずかしい場所を隠す。
少女の意識がしっかりしていそうなのを確認し、一方通行もとりあえず自分の方の後始末を済ませることにした。
さっさとズボンまでを身に着け、ティッシュに手を伸ばそうとする彼女に、それを渡してやる。
気恥ずかしいので、打ち止めに背を向けて座った。
(さて…、なンて話しかけりゃいいンだ…)
ここも男の俺がリードしてやらないとな、と思案していると、背後の少女の方から喋りかけてくれた。
「あの、あなた…」
「、…なンだ」
甘いピロートークでも求められるのだろうか?すごく柄じゃないし、いたたまれないけど、打ち止めの気が済むまで付き合ってやろう。
「血が、止まらないんだけど、ってミサカはミサカはどうしようコレ」
「……なに?」
ピロートークどころでは無かった。
- 636 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/21(日) 20:36:02.83 ID:/4G1HCK70
- 振り向けば、血まみれのティッシュの塊がベッドの上に数個転がっている。
破瓜の血の量に個人差があるのはもちろんだが、これは多すぎだ。
ただでさえ、たった今彼女に激痛を与えてしまってイイ思いをした青年は、それを見て焦った。
「こりゃ、…やべェだろ。おい、ちょっと見せてみろ」
「は!?みみみ、み見せろ!?」
「ほれ足ィ開け」
バスタオルは一方通行によって再度ひん剥かれる。そして彼は彼女の両膝に手をかけ、
「いやぁーっ!!」
「っぐァ!」
顎を蹴りあげられ、あわや、ベッドから落ちそうになるのをこらえた。
「いってェなァ!何すンだァ!」
「ミサカのセリフそれ!えっち!ばか!変態!」
「はァァ?今俺がさんざん弄くり」
「きゃー!言わないでもぉー!」
打ち止めは枕を抱きかかえ、彼から離れるために膝でベッドの端へと逃げる。
しかし、急に下腹部に走った痛みに襲われ、顔をしかめてうずくまった。移動した跡には、点々と鮮血が滴り落ちている。
「あァもォ分かったから動くな!」
一方通行はバスタオルを肩から掛けてやり、腰を撫でさすって彼女を落ち着かせる。
存外に元気があるのにはほっとしたが、今はとにかくこの出血をどうにかしたい。
「う、うぅ…まだ止まらないよ~」
「あーオマエ、体起こせ」
「……」
「違ェよ!見せろとは言ってねェだろォ!?」
- 637 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/21(日) 20:38:04.30 ID:/4G1HCK70
- じとー、と睨まれた青年は、半ば怒りながら少女の肩を掴んで持ち上げたが、声音と違ってとても丁寧な手つきだった。
彼女が恥ずかしがって暴れないように、掛け布団をかぶせ、腰の下にタオルを敷く。
打ち止めを後ろから抱き、布団の上から彼女の下腹に右手を置いた。同時に左手は首の電極のスイッチを切り替える。
「……どうするの?ってミサカはミサカは不安であなたに質問してみる…」
「細胞の修復を促進させてキズを塞ぐ」
「何もそこまで…」
「しょォがねェだろ、見せたくもねェし逃げようとするしよォ。それに一番手っ取り早い方法だ。
貧血なンて起こされたらコッチが困るンだよ」
「うん…分かった。お任せするね」
数分後。
「よし、もういいか…」
「あ…、すごい、止まったみたい」
「まだ無理するなよ。急に動くとまた出るかもしれねェ」
「はーい。あのね、ついでと言ってはなんですが、もういっこあなたにお願いがあるんだけど」
打ち止めが、背後の一方通行を見上げて、ほぼいつもと同じ笑顔を見せ、それが彼の心を落ち着かせてくれた。
「どンな?」
「ミサカにもう一回『愛してる』って言ってぇー」
「………」
- 638 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/21(日) 20:47:28.29 ID:/4G1HCK70
- あまりにしつこいので、喉の奥から魂を絞り出す勢いで挑戦してみたのだが……
「ァ…、……あ、」
一方通行の正面で、打ち止めが目を輝かせて、手を胸の前で組んで待っている。しかも正座で。
「あ………、はァ……無理」
打ち止めは、やっぱりなぁ、と苦笑を浮かべて許してあげた。
ダメもとで言ってみたお願いだったので、それほど残念じゃない。
「それにさっきいっぱい言ってもらったし」
(そンなに言いまくってたのかァ俺……)
打ち止めは正座し続けていたので、、しばらく足の痺れをとることに専念する。
彼女に大人しくしてもらいたい一方通行としては、頑張った甲斐が多少はあったというものだ。
痺れがとれた後、少女はこの部屋に運ばれてきた時と同じように、タオルを巻き付け風呂へ向かう。
若干ガニ股になってしまうのが痛々しい。
「やっぱり運んでやる…」
「大丈夫だってば。今のあなたはさらに、洗ってやる、って言いそうだし…」
「洗ってほしいなら洗う」
「結構です、ってミサカはミサカはどちらかというと、シーツとかの後始末をお願いしたいと突き放してみたり」
「ハイハイ」
- 639 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/21(日) 20:54:56.59 ID:/4G1HCK70
- 夕方過ぎになって帰って来た保護者達。その二人の前ではなんともないフリをした一方通行と打ち止めだったが、
しかし後ろめたいような、気まずい思いがあったので、今日のお部屋訪問は自然と行われなかった。
深夜、眠れなかった一方通行は、たまたま目にとまったポルシェのキーリングに指をひっかけ、
それをくるくる回しながら、ぼんやりと部屋の床を眺めている。
思い出すのは今日の事、打ち止めのことばかり。
自分が今座るこのベッドで抱いた、ついに…
「はァ…」
(打ち止めも、もォ寝てるか…)
無性に彼女の顔が見たい。寝ているかもしれないが、…寝顔だけでもいい。
部屋のドアを開け暗い廊下に出ると、今会いにいこうと思っていた少女が、枕を持ってこちらに歩いてくるところだった。
(なンだ、コイツもか)
「こんばんはー…、ってミサカはミサカは小声で挨拶してみたり」
何も言わずとも、一方通行は自然と部屋に招き入れてやり、打ち止めもそれが当然のことのように躊躇いもしなかった。
「ふー、眠れません」
(俺も)
「どうせ眠れないなら、その時間を有効活用するべきだと思って参りました次第です、ってミサカはミサカは一応枕も装備してきたけど」
「オマエは明日普通に学校だからなァ…、とりあえず寝ろ」
「ミサカだって寝たいよ。でも眠くならないんだもん」
一方通行は、ベッドの隣に座った打ち止めを引き倒し、強制的に寝る態勢を取らせた。
「ぶーぶー、って……腕枕」
「…ほらよ」
自分も彼女の横に寝そべって腕を貸し出せば、打ち止めは嬉しそうに頭を乗せてきた。
結局枕は必要なかったようである。
そのまま、普段通りの他愛無い会話を続けていたら、三十分ほどして打ち止めは眠ってしまった。
一方通行も、いつの間にか瞼が重い。あれほど目が冴えていたというのに…
彼もやっと眠ることができそうだ。
- 640 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/21(日) 20:57:55.30 ID:/4G1HCK70
- 翌日の夕食は、黄泉川家一同で一方通行の奢りで焼肉屋に繰り出した。
早々にビールで保護者二人を酔わせた後は、一方通行によってレバーが次々に注文される。
「ミサカもカルビ…」
「オマエの今日の主食はレバーだ」
「タン…」
「お、このサラダブロッコリー入ってるな、これも全部食え」
「わーい…、鉄分とビタミンタップリ、ってミサカはミサカは喜んでみる…」
(あなたそんなに心配しなくても大丈夫だってば…)
(やかましい、昨日は血ィ出し過ぎだ。大人しく食え、どんどん食え)
- 641 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/21(日) 21:03:27.62 ID:/4G1HCK70
- はじめて直後の二人の巻 完
いやぁ、お久しぶりですの。久しぶりったら久しぶり。
他に貧血に良いとされる食べ物は、主に肉全般、魚、ホウレンソウやコマツナだよ。
鉄の包丁やフライパンで調理すると効果UP。
次回の更新は未定です(と言っておこう…)
- 642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/21(日) 21:45:57.98 ID:FwC1mEbDO
- どうせすぐ戻ってくるんだろうなと思ってたけど、ホントに早かったwwwwおいコラwwww
乙!そしてお帰りィ!
- 643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/08/21(日) 22:59:38.86 ID:tXYGtElD0
- 乙!復活はええええ!!
流石は>>1だぜ…
だが体調にはホント気をつけろよ?
初夜も終わりバカップルが更にバカップルになっていくのか…
ちょっと無糖のコーヒー買って全裸待機するわ
- 658 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/23(火) 21:30:45.99 ID:2waOuT3y0
- 一方通行が大学から帰ってくると、リビングで打ち止めが寝ていた。
まだ制服のままで、クッションを抱きかかえてソファに沈み込んでいる。
寝ている間にズルズルとずり下がったからだろう、スカートがきわどいところまでめくれ上がっていた。
(アホ。もとから短すぎンだよ)
それを見ていたら、ムラムラと来てしまったので、忍びないが彼女を起こすことにした。
なにせ寝込みはNGなので。
隣に座って顔を覗きこんだら、打ち止めの目が開いていて驚く。
「なンだ、起きてたのかよ…」
「うん、起きてたよ。おかえりなさい、あなた。
コーヒー入れてあげるね、ってミサカはミサカはアイスとホット、どっちがいいか訊いてみる」
青年は、ソファから立とうとする少女の腕を掴んで、自分の方へ引き寄せた。今はコーヒーより欲しいものがある。
時計を確認すると、まだ四時台だった。保護者達が帰ってくるまでにはじゅうぶん時間があり、
これからのオタノシミに思いを馳せ、つい口角が上がってしまう。
- 659 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/23(火) 21:37:00.29 ID:2waOuT3y0
- 「後でいい。それより、…部屋に行こォぜ。あ、シャワー浴びてェか?」
「え、あのでも」
すこし前、初めて肌を合わせてからというもの、こうして気分がノれば事に及ぶ。
打ち止めももう痛いことはないらしく、一方通行から求めて嫌と言われたことはない。もちろん今だって。
そう思って、キスしながらセーラー服のリボンをするりと抜き取った。だが…
「ん、ダメ、今日はダメ!」
初めてだ、彼女から否と言われたのは。
「…なンで」
そう訊きつつも、青年の手は自然と少女の柔らかい部分に伸びてしまう。
打ち止めは容赦なくその手を掴み、「もう!」と怒りながら彼の胸に押し返した。
「そんな顔してもダメだからね、ってミサカはミサカは毅然とした態度であなたに告げてみたり」
一方通行は、自分が一体どんな顔をしているか気になったが、それよりも何故「ダメ」なのかが重要事項だ。
何か怒らせるようなことをしたか?昨夜打ち止めをおいてドライブに行ったことを根に持たれているのだろうか。
それとも前回シャワーを浴びさせなかったのがいけなかったのか?
さまざまな予想を巡らせながら、一方通行はとりあえず両手を自分の膝に落ち着けた。
とりあえずだ。納得できなければ、いつでも行動再開可能である。
- 660 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/23(火) 21:39:39.80 ID:2waOuT3y0
- 「だから、何でだめなンだよォ?」
「……」
打ち止めは再度クッションを抱き、それに顎を乗せて黙りこくった。じり、っと一方通行との間に隙間をあける。
(あ、本当にヤれそうにねェ…)
「生理中……なの」
「……せいり…」
「あなたの口からその言葉は聞きたくないな、ってミサカはミサカはなぜか恥ずかしくなってみたり…」
忘れていた。一方通行はすっかり忘れていた。女性にはそういう現象があるということを。
「あー…、なるほど」
「そう、だからあと二日ほどお待ちください…」
「二日……」
一方通行が、あからさまにがっくりと肩を落として俯く。よっぽど楽しみにしていたのだな、と思い、打ち止めは吹き出してしまった。
「ぷぷ、ちょっとあなた落ち込みすぎ…。もう、ミサカのこと好きすぎよ、ってミ」
「別にいいンじゃねェ?」
「はい?」
真剣な眼差しで、青年は赤い瞳を少女に向けた。そのまっすぐな視線に、つい「うん」と言わされてしまいそうだ。
「最初にした時だって血は出たじゃねェか。同じことだろ」
「あな、た何言ってるか分かってるの…?」
打ち止めはクッションを抱く腕に力を込めた。そして目を合わせたままゆっくりと立ち上がる。
「俺は別に気にしない」
「ぜっっったいダ!メ!」
それでも一方通行は、なんとか少女の了解を得ようと粘った。
怒った打ち止めは彼にクッションを投げつけ、ついには一方通行の代理演算を切って部屋に閉じこもってしまう。
その夜、一方通行はケーキやらプリンやら、彼女の好物を持ってご機嫌伺いに訪れた。
しかし、まず部屋に入れてもらうまでに数分を要したのであった。
- 661 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/23(火) 21:44:53.08 ID:2waOuT3y0
- 我慢できない一方通行の巻 完
だれか、木原クン…いや、エイワス持ってきて。これはイカンわ。
次回の更新は(略)
- 662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)[sage]:2011/08/23(火) 21:51:32.63 ID:sF/l4Dygo
- 乙!
一方さん…最低だな……
つーかホントに>>1はかまちーもびっくりの筆の速さだ
悪化しないようにな!
- 684 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/25(木) 21:54:50.76 ID:McueMHRC0
- 「お茶が欲しいな、ってミサカはミサカはあなたにリクエストしてみる」
「おゥ…」
ようやく打ち止めの部屋に入れてもらった一方通行は、彼女のためにお茶を用意しに退室。
三分後、彼女のお気に入りの銘柄のお茶を持って再入室。
「どォぞ…」
「わーい、楽ちん楽ちん」
テーブルにケーキを並べて、打ち止めは美味しそうにそれをいただいていた。今日の昼間のお詫びに、一方通行が買ってきたものだ。
二人はテーブルに向かい合っているが、食べているのは少女だけで、青年はあぐらをかいてニコニコ顔の打ち止めを見つめるのみ。
(もう…、怒ってねェ、か…?)
今が頃合いと見て、一方通行が本題を切りだした。
「今日は、悪かった…。あンなに嫌がるとは思わなかったからよォ…」
ザクっ、かん。
打ち止めの握るフォークが、乱暴にケーキに刺さる。それは皿にもぶつかって金属的な音を出した。
一方通行は思わず肩を震わせる。あれ?まだ、だめだったか?
打ち止めは切り分けたケーキをフォークに乗せて
「はい、あーん」
「いや、俺はい」
「あーん」
「……」
どうやらまだしっかり怒っているらしい。一方通行は観念して口を開けた。
「おいし?」
「甘い」
「よしよし」
「だァから悪かったって…」
打ち止めは最後の一切れを食べ終え、彼が持って来たお茶を飲んで居ずまいを正す。
それにつられて一方通行も、彼女に体を向けて手を膝の上に置いた。
「あのね、あなた」
「おゥ」
「生理中はダメ」
「…分かった」
- 685 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/25(木) 21:58:55.40 ID:McueMHRC0
- そこから打ち止めによる保健体育の授業が開始された。そういう常識を学校や集団生活で学ばなかった一方通行にとって、
まさか打ち止めにご教授願うことになるとは想定外だったが、興味深くはあった。
月経中の女性、パートナーに対しての気遣いとか、注意点を教えられ、
「女って大変なンだなァ」
と、当たり前の感想を述べた。
「長い人はきっかり一週間続くし、始まる一週間以上前からお腹が痛くなる子もいるのよ」
「へェ」
「特に二日目が痛い。でも個人差があって、ミサカの友達は痛みで気絶した。軽い子は体育やっても大丈夫って子もいるの」
「いろいろだな。オマエは?あまり痛そォにしてる様子は無かったと思うが」
打ち止めは、ちょっと頬を赤くして躊躇ったが、今ここでしっかり教育しておかなければ、
また生理中に迫ってくるかもしれないので、正直に教えることにした。
「ミサカは…、標準?だと思う…。薬飲んでるからそんなに辛くないけど、ってミサカはミサカは恥ずかしいのを正直に…」
「ふゥン。一週間くらいか?」
「え?あぁ、ミサカは短い方。五日で終わるの」
(よし…っ)
顔には絶対に出さないが、一方通行は心の中でグっと手を握った。
「も、もういいでしょ。あなたも分かったよね?ってミサカはミサカは最終確認を取ってみたり」
「ン、分かった」
「よろしい、それじゃあ…」
打ち止めは四つん這いになって一方通行の隣まで来ると、その腕に抱きついた。
「にへへへへ」
「どォしたンだよ…、おィっ」
- 686 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/25(木) 22:00:33.62 ID:McueMHRC0
- 打ち止めは青年の肩に手をかけて、容赦なく体を乗せて押し倒す。
さらに彼の腹の上に跨って、驚いて目を見開いたままの恋人にキスをした。二人はもう完全にクッションからはみ出している。
「んー…。はい、ぎゅってして」
「急に何だ」
今日は分が悪い一方通行は、言われるままに彼女の背中に腕をまわし、右手は腰をさすった。
さっきココが痛くなる、と教えてもらったからだ。
「あ、それあったかくてキモチいい…」
「重い…」
「む、反省の色が見えない!ってミサカはミサカは更なる試練をあなたに授けてみたり」
「はァ?試練?」
打ち止めは、息をして上下する青年の硬い胸板に頬を埋めながら、今晩の予定を発表した。
「お風呂のあとであなたの部屋に行くから、そしたらずっとこんな風にミサカのこと抱きしめて、また腕枕してね。で、それだけなの」
「ほォ、なるほど試練ねェ。キスは?」
「もちろん、決まってるでしょ」
なんと優しいオシオキがあったものだ。一方通行は左手を彼女の後頭部にかけて、自分の唇へと引き寄せた。
- 687 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/25(木) 22:07:02.37 ID:McueMHRC0
- 翌早朝、打ち止めは自分を抱きしめて眠る一方通行を起こし、その腕から脱出した。
「あなたも今日は一限目があるでしょ。このまま起きてた方がいいよ、ってミサカはミサカはまた寝そうなあなたにアドバイスしてみたり」
「あー…」
半分瞼が下がったまま返事をする彼を残し、
打ち止めは能力を使って黄泉川と芳川もまだ部屋から出てきていないことを確認してから、そっと自室へ戻る。
(昨日はあの人にちょっとイジワルしちゃったなぁ…。
かわいそうだったかも?ってミサカはミサカはしょんぼりだけど、優しかった昨夜のあの人を思い出してみる)
打ち止めは部屋で着替えながら、何か彼に「よくできました」の御褒美をあげようと考えていた。
(んーと、明日は学校がお休みだから…。そうだなぁ…、よし決めた!)
先日の日曜日は学校行事のために通学したので、明日は平日だけど休みになる。彼は大学へ行くだろうから、実行するならその時だ。
(大したことじゃないけど、きっとあの人喜んでくれるよね!ってミサカはミサカは想像してワクワクしてみたり)
家族の朝食の準備をして、保護者二人を送り出す。その後、やはり二度寝してしまった青年を叩き起こし、
一緒にご飯を食べてからそろって登校となる。
「もう目、覚めた?」
「ンー」
「はい、じゃ出発しましょー。もうそれほど暑くないし、あなたもあんまりポルシェちゃんで通学しないほうがいいよ?
筋肉つけるんでしょ?ってミサカはミサカは能力無しで抱っこしてもらえるのを楽しみにしてるからね」
「分かってらァ、じゃ行くか…」
それぞれの学校への分かれ道、彼に手を振って別れたあと、打ち止めは明日の計画のためにやることを、頭の中で整理する。
(まだお小遣いは充分あるし、今日の放課後お買いもの行って、明日の昼間に実行する。
で、あの人が帰ってきたら褒めてもらおー!ってミサカはミサカはそれが楽しみっ)
- 688 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/25(木) 22:11:14.48 ID:McueMHRC0
- とある計画を実行するその日、一方通行が大学へ行ったあと、打ち止めは必要な道具を持って玄関を出る。かなりの大荷物だ。
バケツと、新品のタオルと、じょうろ。あと昨日買ってきた物が入っている袋。
その中身には洗車用のワックスと、専用拭き取りクロスが入っている。
そう、打ち止めは彼の愛車を洗ってあげようとしているのだ。
「あ、あと脚立…、う、ちょっと重い…」
打ち止めはヨロヨロとよろけながら、エレベーターを使ってポルシェが駐車してある場所までやってくる。
大荷物をその場に置き、まずバケツとじょうろに水を汲む。
「よーし、まずは水をまんべんなくかけまーす、じゃ~」
本当はホースで水をかけたいのだが、水道が遠いのでじょうろで対応。その後絞ったタオルで丁寧に水気を拭き取っていく。
車高はわずか百三十センチの車だが、それでも脚立に乗らなければ屋根の中心まではしっかり手が届かない。
打ち止めは自分の膝ほどの脚立の上に立ち、ボディを拭いていく。
「ふぅ、こうして拭いてるとポルシェちゃんが結構大きいことがわかりますなぁ、ってミサカはミサカは
いつも乗せてもらってるお礼だと思って頑張るぞー」
拭いては絞り、また拭く。タオルを絞って滴った水が、脚立に垂れていく。
そして、打ち止めが脚立の上で体の向きを変えたとき
「っ、きゃ」
足をすべらせた打ち止めは、そのまま地面に落ちてしまった。
- 689 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/25(木) 22:14:02.53 ID:McueMHRC0
- その頃一方通行は、大学の講義室でいつもどおり授業を受けていた。眠そうなのはいつものことだ。
一応目を開けて前を向いている。それに机にはノートが広げられて…
「おい一方通行、せっかくノートプレゼントしたんだからちゃんと板書してくれよ」
「うるせェ…、まさかこンなモン貰うとは、さすがの俺も驚いてるところだ。黙ってろォボケ」
「あ、消しゴムとシャーペンも要る?」
「俺にノートをとらせよォと努力をするより、最初からマジメに授業受けろよ…」
野次馬にちょっかいを掛けられながら、講義の終わりを待つ。
耳で聞いたことは必要ならば忘れないためノートを取る習慣は無かったが、このうっとうしい男を黙らせるためなら、
やってもいいかと思い始めていた。
その時、マナーモードにしていた携帯電話が着信を告げ、一方通行は肘をつきながら待ち受け画面を開く。
電話してきたのは番外個体だった。
講義室の最後列に座っていたし、何より相手が番外個体だったので通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。
『今すぐマンションに戻って』
何も言わずに通話を開始したのだが、番外個体もいきなり話を切り出した。声は普段より一層緊張を含んでいる。
「どォした」
『最終信号に何かあった。さっきネットワークに一瞬だけ助けを求める声が流れて、今は応答がない。携帯もつながらない』
「!…分かった」
一方通行はそれだけで番外個体との電話を終え、野次馬から押し付けられたノートを鞄に突っ込んだ。
「おい、どうしたんだよ急に」
「帰る」
「え、まじで?明日の物理学は出るよな?」
その質問には答えずに、すでに電極のスイッチを切り替えて廊下に出る。
そして窓を開け放したまま、サッシに足をかけてマンションの方へと飛び出していった。
「あーあ、行っちまった…。ま、ノート持っていったしいいか。進歩進歩」
- 690 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/25(木) 22:17:22.95 ID:McueMHRC0
- 僅か一分足らずでマンション上空に辿り着いた一方通行。打ち止めはすぐに見つかった。
自分の車のすぐ傍に倒れている。
「!!」
(打ち止め…!ちくしょォ何が……っ)
大急ぎで彼女の傍に降り立ち、その体をそっと起こして状況を確認する。
こんな風に倒れている打ち止めを見るのは久しぶりで、昔の嫌な思い出が甦ってきて彼の心を焦らせる。
少女の左足ふくらはぎがザックリと裂かれていて、そこから赤い血が心臓の鼓動に合わせて、トクトクと流れ出していた。
「打ち止め!」
ベクトル操作でまずその傷からの出血を止める。同時に脈拍や脳波をチェックし、重大な異常がないか調べる。
(……、気絶してるだけ、か…)
とのかく病院に運ぼうと思って少女を抱きあげる。ポルシェのキーは持ち歩いていたが、
このまま飛んで行った方が早いので、衝撃を与えないよう細心の注意を払って地面を蹴る。
駐車場を離れる前に、チラと見たその場の状況ですぐに分かった。
散らばるタオルや脚立、そしてワックス。足は割れたバケツにぶつけて切ったのだろう。
「ばァーか…。ドジなクセして余計な気ィ効かせてンじゃねェよ…」
意識の無い少女をぎゅっと抱きしめて、一方通行は病院へと向かった。
- 701 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/27(土) 21:22:49.32 ID:4q6gP/Rm0
- とあるいつもの病院の廊下、一方通行は壁際に置かれた椅子に座っていた。
ふと視線を落とせば、自分の手に打ち止めの血がついている。
(打ち止め…)
ぐったりとした体、流れる血。大した怪我ではない、足の傷も重傷ではない。
それでも彼の気持ちは、心配や焦燥で落ち着かなかった。
「一方通行、もういいですよ、とミサカはあなたを招き入れます」
すぐ近くの病室から、一九〇九〇号が顔だけ出して彼を呼んだ。
「軽い脳震盪です。しばらくすれば目を覚ますでしょう。足の傷は、あなたが能力で止血と同時に治療もしていましたね?」
「あァ…」
血と零れた水で汚れた衣服は、一九〇九〇号が着替えさせたのだろう。
ピンク色の入院患者用の服を纏い、打ち止めが白いベッドに寝かされていた。
この光景も、あまり見たくない…
「傷口は本来なら縫うほどのものでしたが、それよりもあなたの能力で治療した方が完治は早く、
また跡が残らないと思い施術はしていません、とミサカは上司の体とあなたを気遣ってナイス判断を下したことをアピールします」
「あァ…」
「……」
- 702 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/27(土) 21:25:13.94 ID:4q6gP/Rm0
- 一九〇九〇号は打ち止めをぼんやり見つめるばかりの一方通行の手を取り、濡らしたガーゼで血を拭いた。
「あ?」
「これは上司の血ですか。一方通行ともあろう人がよっぽど慌てていたのですね。
屋上のドアをぶち壊したことは大目に見てあげます、とミサカはネットワークでウワサの過保護ぶりを
この目で確認できてラッキーぷークスクス」
「あァ!?噂だとォ?おいオマエら一体どンな」
一九〇九〇号は語気を荒げる一方通行から身を離し、打ち止めに掛かっている布団をめくった。細い足に、痛々しい包帯が巻かれている。
「消毒薬と替えの包帯、あと歩行補助の松葉杖を用意しておきます。
言っておきますが、この子の体に傷跡を残したら末妹を含めた全ミサカが、あなたに報復の不幸の手紙を送りつけますので
胆に銘じてください、とミサカはあなたに懇願します」
「どォこが懇願だァ…、言われなくても分かってる…」
「ならば結構です。あとは任せたぞ、こっちは忙しいので、とミサカは上司のめんどうをあなたに押し付けて仕事に戻ります」
「あァ…」
一方通行は、病室を出ていく一九〇九〇号を振り返ることもなく返事をした。
すでに椅子を打ち止めの枕元に持ってきて腰掛けるところであり、彼女から視線を動かさない。
「……」
(本当に過保護ですね。さっきの姫抱っこ乱入と合わせて、この光景もネットワークに流しておきましょう)
- 703 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/27(土) 21:28:38.84 ID:4q6gP/Rm0
- 一方通行は、打ち止めの前髪を梳きながら、能力を使って左足の治療をする。
バッテリーを残量数分まで使い、スイッチを切ったしばらく後、少女が目を覚ました。
「?……」
「起きたか…」
「あ、ミサカ…、落ちて…」
打ち止めは意識を失う前の事を思い出し、自分の頭を撫でる青年の手に触れた。
「また心配かけちゃったね…。ポルシェちゃん洗おうと思って…、ってミサカは、あっ、どうしよう…」
「なンだ」
一方通行の手を両手で握り、打ち止めの目にじわりと涙が…
「ポルシェちゃん、キズつけちゃったかも…」
(そンなこと…)
「大丈夫だ、ついてなかったぜ…」
実際は車体など確認してなかったが、一方通行はそう答える。自分の物を大切に扱う彼女が可愛くて、もどかしかった。
「そう…、よかった、ってミサカはミサカは一安心してみる」
「もう少し寝てろよ」
「うん、ここ病院だよね?今日家に帰れる?」
「あァ、軽い脳震盪だからな。だが、足の方がなァ…」
打ち止めはそう言われて、ベッドの中で、違和感を感じていた左足を動かしてみた。鈍い痛みが走り、顔が歪む。
「少しの間、松葉杖だとよ」
「あは…あなたとおそろいだね、ってミサカはミサカはこんな時にも嬉しいことを発見してみたり。杖のつき方教えてね?」
「俺のと大分勝手が違うだろォ?それに、ベクトル操作で治療してやっから、すぐ杖なンて必要なくなる」
「あなたの能力で病気を治してもらったり、怪我を治してもらったり…、ミサカ達はあなたのお世話になりっぱなしなのね」
(これぐらい、全然だ…。まだ…)
一方通行は何も言わなかったが、腰を浮かして彼女の額にキスをする。
滅多にされない場所だ。打ち止めは彼が「気にするな」と言っているのだと思った。
「一回家に帰って、オマエの着替えと車を持ってくる。それまで大人しくしてろよ」
「着替え…。あの、この服着せたのあなたじゃないよね?ってミサカはミサカは一応確認…」
「オマエはまだそンな事心配するンだな…、一九〇九〇号がやった。じゃ、後でまた来る」
打ち止めは一方通行が出て行った後、頭まで布団を被って赤い頬を隠した。誰もいないのに。
- 704 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/27(土) 21:36:54.38 ID:4q6gP/Rm0
- (ぶ、ブラジャーまである…っ!ってミサカはミサカはあの人が持ってきてくれた服の中に、
当然のように下着があることに驚愕してみる…)
バケツから零れた水は、下着にも浸透したらしく脱がされていて、
それを知っていたからこそ、一方通行はわざわざコレを持ってきたのだろう。
ショーツは一九〇九〇号が病院で販売されているものを履かせたのだと、ネットワークで確認を取った。
自分の部屋のクローゼットからワンピースを、箪笥からブラジャーを取り出す一方通行の姿を想像し、打ち止めの顔はまた赤くなる。
「おい、まだかァ?」
「はっ、あ、あと少し…」
一方通行が病室の隅で待っている。打ち止めはベッドの周りにカーテンを引き、その上で着替えていた。
彼を待たせぬよう急ごうとしたのだが、背中や腕も打ちつけたらしく、痛くてブラジャーのホックが上手くとめられない。
(ん、いた…。もういいや。せっかく持ってきてもらったけど着けないでおこう…)
ワンピースだけを身に着けカーテンを開けると、一方通行が近づいてきて、あっという間に抱きあげられた。
「っ、ミサカの杖は?このまま車まで行くの?絶対見られるよ?ってミサカはミサカは恥ずかしがってみたり」
「杖はもう受け取って車に積ンである。あとはオマエだけだ。この方が早い」
打ち止めの言うとおり、ポルシェに着くまで病院の職員や見舞客、患者達の注目を一身に浴びた二人。
そういう好奇の視線をあまり好まない彼が、それを顧みず自分を気遣ってくれるのが、打ち止めは嬉しかった。
- 705 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/27(土) 21:39:15.25 ID:4q6gP/Rm0
- マンションに帰ってきた後も、荷物は打ち止めが一方通行の背中に回した手で持ち、彼女自身は青年が抱いて運ぶ。
そしてようやくリビングのソファに座らされて、少女の両足は久しぶりに床に触れるのだった。
「大げさだよ…、ミサカ別に杖が無くても歩けるくらいなのに、ってミサカはミサカは、でも優しいあなたが嬉しかったり」
「切った場所が悪ィ。出来るだけかばって過ごせ」
青年も彼女の隣に腰を下ろし、そっと肩を抱く。いつもより控えめなその腕を安心させようと、
打ち止めは一方通行の胸に顔を埋めて抱きついた。もっと強くしても大丈夫だよ、という意思表示のつもりで。
それは上手く伝わったのだろう、一方通行は両手を少女の背中に回した。
「ン?」
彼の手が、打ち止めの背中を確かめるように撫でた。自分の腹に触れる打ち止めの胸が普段より柔らかく感じたからだ。
「着けてねェのか?俺ちゃンと持ってったよなァ?」
「あ、背中も打ったみたいで、上手く着けられなかったから」
「…そォか……」
一方通行は打ち止めの背中全体を、上から下、下から上へとさする。そして電極のスイッチを入れ、彼女の足の治療を始めた。
着替えを打ち止めに届ける前に、充電は完了させてある。今度は時間いっぱいまでやるつもりだった。
「今、足の傷治してるからな。じっとしてろよ」
「うん…。本当にごめん。ポルシェちゃんがキレイになったら、あなたが喜んでくれると思ったから…」
「あー、それなァ」
「?」
「あの車、買う時にガラスコートってのがかけてあってよォ。ワックスはやっちゃいけねェンだよ、何年間は」
「えっ」
「でも水洗いならOKだ。…きれいになってたな」
お礼のつもりだろう、一方通行が打ち止めの背中をぽんぽんと優しく叩いた。
一瞬顔を青くした打ち止めだったが、幸いワックスはまだかけていなかったので、ほっと息をつく。
「よかったぁ、ワックスやる前に落ちて、ってミサカはミサカはギリギリセーフ…」
「アホ、全然セーフじゃねェだろォが。このありさまは何だってンだ」
「面目ございません…、ってミサカはミサカは殊勝にあやまってみる」
「自分で言うな」
- 706 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/27(土) 21:42:06.75 ID:4q6gP/Rm0
- その夜、帰ってきた黄泉川は打ち止めの足の包帯を見て大層心配した。芳川は病院が職場なこともあり、
打ち止めが運ばれてきていたことは把握していたので、大したことはないと打ち止めと共に黄泉川を安心させる。
「足だから、念のための松葉杖なのよ。骨に異常は無いんだし、一方通行が能力で治療していくからすぐ治るわ」
「そ、そうか、でも傷が残ったらどうするじゃんよ…」
「大丈夫だよ、この人がキレイに治してくれるんだって!
できなかったら不幸の手紙が一万通ぐらい届くから絶対やってくれるよ、ってミサカはミサカはヨミカワの不安を取り除いてみる!」
「不幸の手紙?」
女性陣三人の横でテレビを見ていた一方通行の眉が跳ねあがった。
芳川は不幸の手紙の詳細を一九〇九〇号から聞いているのだろう、かすかに笑い声を吹き出している。
「オマエ何でそれ…、ネットワークかよォ…っ」
「あなたが焦ってミサカをお姫様抱っこで運んでくれてるとこ、すごく素敵だったよ、ってミサカはミサカはうっとりしてみたり…」
「こォのクソガキィ…!今すぐネットワークの情報止めろ!オマエならできンだろォ!?」
「やー!怒ったー!ってミサカはミサカは逃亡を図ってみるぅー」
一方通行がソファの端に座る打ち止めに手を伸ばしてきたので、彼女は右足だけで立ってぴょんぴょんと跳ねて逃げる。
「っだァー!じっとしてろォ!」
『不幸の手紙』の説明を芳川から受けていた黄泉川は、元気そうな打ち止めを見て、ようやく安堵の表情を浮かべた。
「おいおい、さすがに下の階に響くじゃん、二人とも大人しくしなって」
「だってこの人が追いかけてくるんだもーん!」
ドタドタとやかましい音を立てて、一方通行と打ち止めはリビングから姿を消した。
- 707 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/27(土) 22:01:18.33 ID:4q6gP/Rm0
- 「おらァっ、あれほど言ったのにオマエはなァ!」
「きゃぁ!能力使ってるズルイ、ルール違反!ってミサカはミサカは今日はよく抱っこされる日だから諦めてみる」
「いつ作ったルールだよ…、ったく…」
廊下で打ち止めの捕獲に成功した青年は、そのまま自分の部屋へと彼女を連行する。
そしてそっとベッドへ寝かせ、自分もその隣に横になった。
痛めた体に負担がかからぬよう、少女を優しく包み込む。
「打ち止め…、あまり危ねェことすンなよ」
「ふふ」
「何笑ってンだ」
「あなたがミサカのこと大切にしてくれてるんだなぁ、ってミサカはミサカは実感してみたり…ふぐっ」
一方通行の指が、打ち止めの鼻をつまんだ。
「反省してンのかァ?」
「ひてまふ」
ベッドに寝転がる打ち止めの左足は、今は一方通行の膝の上に乗せられ、今日何度目かのベクトル操作にて細胞の修復促進中である。
「明日学校休めよ。そうすりゃもう完治に近いだろ」
「松葉杖使ってみたかったんだけどなぁ」
「よせよせ、何もイイことねェぞ」
「う、ん……」
打ち止めの声が一気に沈んだ。しまったと思い、一方通行は電極のスイッチを切り、暗い顔をした少女の頬を撫でた。
「そォいう意味じゃねェ…。分かってンだろ?俺はこれで満足なンだからな」
打ち止めも、目の前にある彼の頬に手を滑らせた。少女に自然と笑顔が甦る。
「…ありがとう、あなた。いつもいつも、ありがとうね」
(そりゃ俺のセリフだ…)
唇に優しく降ってきた口づけ。今度はこの人も「ありがとう」と言っているのかな。打ち止めにはそう感じられた。
- 708 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/27(土) 22:05:45.84 ID:4q6gP/Rm0
- 打ち止め、怪我をするの巻 完
打ち止め抱っこ祭り開催してみました。
二日に一度、もしくは三日に一度の更新ペースでいきたい所存。
- 709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/08/27(土) 22:08:57.86 ID:T5BkJKPjo
- おひゅおおおおおおおおぉぉぉぉおおお
!!
- 712 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/29(月) 20:57:24.42 ID:m/nZ1lT70
- 打ち止めが足を怪我してから数日後の、とある週末。彼女の足は傷跡も分からないくらいに回復した。
それで全快祝い…というわけではないが、一方通行と打ち止めは、ちょっとお高いレストランでディナーを楽しむことにする。
その日芳川は病院に泊まり込み、黄泉川は同僚達と飲み会だというので、
丁度いいなんて言ったら保護者達のヒンシュクを買うかもしれない。
しかし、打ち止めが怪我をしてからというもの、ほとんど外でデートをしていなかった二人にとっては、まさに良い機会だった。
「うっふっふ~。今日は気合い入れてオシャレしてみた!ってミサカはミサカはムギノ直伝のメイクであなたを悩殺してみたり」
「ハイハイ、きれェだねェ」
打ち止めは今日、いつかのように髪を巻き、彼が希望したとおりの露出の少ないワンピースにスカーフまでしている。
それに、そろそろ季節は秋に近く、一方通行もジャケットを羽織り、ネクタイまで締めていた。
「もう、素直にメロメロしてくれればいいのに。あなたも今日はネクタイなんてして素敵よ、ってミサカはミサカはお手本を見せてみる」
「ドレスコードがあるほどのトコじゃねェが、今日行く店でシャツだけってのは流石に浮くぜ」
「おぉ、オトナのデートだね…っ」
「そンなこと言ってるうちはだめだなァ…、そろそろ行くぞ」
- 713 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/29(月) 21:00:34.65 ID:m/nZ1lT70
- 打ち止めは彼について、意気揚々と玄関を出る。
高いヒールも、自分の足にピッタリのものを手に入れたので、練習の甲斐もありスムーズな足運びだ。
一方通行の顔が普段よりも近く、今彼女の胸は期待と喜びに満ちていた。
予約したレストランが入っているビルの地下駐車場にポルシェを停めて、二人はエレベーターに向かう。
打ち止めは一方通行の傍らに寄り添い、彼の左腕に手を絡めた。
道すがらの鏡やショーウィンドウに映った自分達の姿が、テレビや映画の中の恋人同士のようで、とても嬉しくなる。
「えへへ…」
テナントが立ち並ぶビル中にはもちろん人が居て、少々恥ずかしいと思う一方通行だったが、
あまりに打ち止めの顔が喜んでいること、店までたかだか数百メートルの距離であることを考慮し、そのまま歩き続けた。
「いらっしゃいませ」
「予約していた一方通行だが」
「…お待ちしておりました。光栄でございます、ようこそ当店へ」
(ふわー!なんか本当に映画みたい、ドラマみたい!本当にドレスコードないの?この店)
豪勢な店構えと、丁寧な従業員の対応に面食らってしまった打ち止め。ますます青年の腕にすがり付く。
「…おい、口ィ……」
「あぅっ」
うっかりと口が開きっぱなしになっていた。さっそくオトナのデートにつまずいてしまった打ち止めである。
- 714 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/29(月) 21:04:57.60 ID:m/nZ1lT70
- 案内された席からは、眼下に灯り始めた学園都市の夜景が輝いて見えた。
店側は一方通行が学園都市第一位であることを考慮して、半個室になっているようなこの席を宛がってくれたらしい。
「わぁー、この辺は夜景がキレイだね、ってミサカはミサカはうっとり眺めてみる…」
「窓、手ェつけンじゃねェぞ」
二人とも席を立ち、一面ガラス張りの窓際にてしばし下界の美しさを堪能する。
実は一方通行だって、この久しぶりのデートは普段より特別な物にしようと意気込んでいる。
何より、自分との年の差を気にしている打ち止めが喜ぶ趣向を、と思ってこういう店をチョイスした。
「お料理の前にお飲み物はいかがですか。こちらからお好きなものをお選びください」
店員がそう言ってメニューを持ってきたので、席に戻る。打ち止めは馴染みの無い名称のドリンク達に、眉を潜めてしまった。
「俺は車があるから水だけでいい」
「かしこまりました」
(えーと、ミサカは……、あ、このピーチナントカでいいや。桃好きだもん)
「これ下さい」
打ち止めは指でメニュー表をなぞり、店員に注文する。
「はい。ではお料理もすぐに運ばせていただきます」
さっきまでロマンチックに夜景なんて眺めていたが、料理がテーブルの上に並べば、打ち止めは典型的な花より団子状態になってしまった。
「おいしー、おいしーねあなた!」
「おいおい、声がでけェよ。オトナはどこ行ったンだ」
「だっておいしー。おいしいに罪はないのだ、ってミサカはミサカはまたこの世の心理に辿りついてしまったと、しみじみしてみたり…」
食事の間に日はとっぷりと暮れ、完全な夜が訪れていた。
街の灯はますますその光を強めていたが、もはや打ち止めの視線が窓に向くことはない。
(あーァ、ま、喜ンでるしこれはこれでいいか…)
- 715 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/29(月) 21:12:21.59 ID:m/nZ1lT70
- もう、純粋に美味しい食事を二人でただ堪能することにした。これだって充分楽しい。
打ち止めも、もう笑いっぱなしだ。
(……?)
「あーおいしかったね、ふふふ」
「あ、あァ…」
「えへへへへ」
「打ち止め?」
打ち止めは、軽やかに笑いながら席を立ち、一方通行の横にまでやってくる。
そして、あろうことか腰をかがめて彼女を見上げていた一方通行に、躊躇うことなくキスをした。
「!?」
「んーふふふ、ちゅ、ん」
ここは周りから見えにくい位置にある席とは言っても、普通のレストランの中だ。
呆気にとられて三回もついばまれてしまった一方通行は、慌てて彼女を引き剥がした。
「っ、おいこら…」
「あぁ、もうなんで?ってミサカはミサカはあなたにぶーたれてみる」
「何でって…ン?」
打ち止めから微かなアルコールの匂い。まさかと思い、彼女の席に置いてあるジュースが入っていたグラスを手に取る。
(やっぱり、これ酒じゃねェかよ。コイツおかわりしてたな確か…。もしかして打ち止めが未成年に見えなかったのか?)
店側は、どうやら打ち止めを成年と勘違いしてアルコールを提供したらしい。
彼女もジュースのように甘いお酒を、酒と気づかず飲んでしまったのだろう。
そうこうする間も少女は青年の腰に抱きついてくる。
人の目を気にしながら、またも打ち止めの肩を掴んで、今度は椅子に押し付けるように座らせた。
「オマエなァ酒飲ンだンだ。分かるか?もう今日は帰るぞ。会計して来っから、このまま、座って待ってろよォ?いいな?」
「うん」
そう素直に頷いたくせに…
わざわざレジに来た学園都市第一位に従業員が焦って会計をしている所に、フラフラと打ち止めがついてきてしまった。
「あ、オマエ待ってろって…」
「待ちくたびれたー」
遠慮なく第一位にタックルをかます彼女を見て、店員が驚きの表情を浮かべる。
一方通行は差し出されていたカードを乱暴に引っ掴み、足早に店を後にした。もちろん仕方なく、電極はONにして。
- 716 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/29(月) 21:15:31.40 ID:m/nZ1lT70
- エレベーターに着くまで、地下駐車場の車に戻るまでも、数人が二人に視線を向けていた。
無理もない、一方通行は打ち止めを引きずるようにして歩いていたので。
とにかく一刻も早く車へ…、そう考えていた一方通行はようやく一息ついた。
(エレベーターの中、誰もいなくて助かった…)
今、周囲には他に人はいない。青年はニヤケ顔で体をすり寄せてくる打ち止めを、何とか車のシートに乗せようとする。
「こら、言うこと聞けェ酔っ払い」
「やーん、いやー、ってミサカはミサカはちゅー」
「ン、」
打ち止めは首を絞めるように一方通行にぶら下がり、そのまま濃厚なキスを仕掛けてきた。その手は彼の髪の中を蠢いて乱しながら。
やがて手は一方通行のネクタイをゆるめ、はだけさせた鎖骨に唇を移動させて吸いつく。
高いヒールが、その行為を容易にさせていた。
(おいおいおい、コイツまさか…)
ソノ気になっている?
さっさと帰って、能力を使いアルコールを分解してやろうと思っていた一方通行だったが、
(気が変わったぜ…)
月のものが訪れている打ち止めに迫って、代理演算を剥奪された数日前に、抱いて以来だったから。
打ち止めが怪我をして、足以外にも何ヶ所か打ち身を患っていたから。
ずっと我慢していたから。
一方通行は、このビルにホテルが入っていることを知っていた。
- 730 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/31(水) 17:16:57.97 ID:kKCpHH5E0
- 一方通行は、打ち止めの息がつまりそうになるほど抱きしめて、さっきのお返しとばかりにキスをする。
片手で耳や首をくすぐってやれば、青年が自分の期待に応えてくれると分かって安心したのだろう、打ち止めは大人しくなった。
開けっぱなしだったポルシェのドアを閉め、二人は再びエレベーターへと向かう。
最上階から下三階がホテルになっている。
カウンターでチェックインしている間も、大人しくなったとはいえ、打ち止めは一方通行のジャケットの裾を握って離さない。
時々ブンブンとそれを振り回して「早く」と彼を急かす。
(酒のせいとはいえ、こりゃ今日はどうなるンだァ…?)
自分の目がぎらついているかもしれないと思い、一方通行は打ち止めから貰ったサングラスの色を薄くしてかけていた。
受付の人間の好奇の視線(そう見える)はもう仕方ない。もうそれどころじゃない。手早く済ませ、カードキーを受け取って部屋に向かう。
「うふふ~、ミサカが一番乗りなのだっ、ってミサカはミサカはゴー~」
打ち止めは青年の手からキーをかすめ取り、部屋番号を確認してそこへ先行して駆け足。
しかしさすがに酒が効いた状態でヒールは難しく、廊下の途中でポイポイと脱ぎ散らかしていった。
「あーあー…」
それを屈んで拾った一方通行は、体を起こしてぎょっとした。
(おォい!?オマエはここで全部脱ぐつもりかァ!?)
打ち止めはスカーフも放り投げて、なんとワンピースの背中のチャックに手を伸ばそうとしている。
一方通行は能力を使い廊下を疾駆して、打ち止めを肩に抱え上げて部屋へ飛び込んだ。
そして薄暗いままの部屋の床に彼女を降ろし、廊下からヒールの片方とスカーフを回収して打ち止めの待つ部屋へ戻るが、
彼女が見当たらない。
- 731 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/31(水) 17:19:51.74 ID:kKCpHH5E0
「打ち止め?どこだ?」
ベッドに拾ってきたものを置いた時、背後から裸足の足音が…
「突撃ぃあなたー!」
「おォ!?」
振り返った一方通行の胸に打ち止めが飛び込んできて、二人はベッドへとなだれ込んだ。
スプリングが軋み、しばらくふわふわと揺れる。
「おい、いつの間に脱いだんだオマエ。出掛ける前に俺に背中のチャック上げさせたじゃねェかよ…」
一方通行を押し倒した打ち止めは、もうブラジャーとショーツしか身に着けていなかった。
白い生地に黒のレースが刺繍され、照明が点いていないこの部屋では、まるで肌に黒い花が描いてあるように見えた。
「あなたも脱いで?」
打ち止めは一方通行の顔からサングラスを外し、ベッドサイドのテーブルにひょいと投げて置いた。
「あ、あァ…。脱ぐからちょっとどけ」
「ミサカが脱がしてあげるね」
「は?いや、こら待て」
ネクタイは既に駐車場で彼女に外されている。シャツのボタンに手を掛けようとした一方通行の手は、
細い少女の手に掴まれ、シーツの上に縫いつけられた。
「じっとしててぇ」
「だからま」
打ち止めは彼の手を押さえ込んだまま覆いかぶさり、喋っている最中だというのにキスをして黙らせた。
(立場逆じゃねェかよォ…)
- 732 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/31(水) 17:21:41.40 ID:kKCpHH5E0
溢れた唾液が、一方通行の頬を伝っていく。組み敷かれるというのはこういう感じなのだと、彼は初めて知った。
打ち止めの柔らかな胸が、自分の胸に押し付けられている。手で触りたいのに、叶わない…
別に打ち止めの細い腕などすぐに振り払えるのだが、なぜかそうし難い。いつもと違い積極的な彼女に期待しているのだろうか?
口を離した打ち止めは、一方通行のジャケットの襟を両手で握り、無理やり脱がせにかかる。
「こらァ、やぶれるゥ」
「うー…」
一方通行は上体をわずかに浮かし、腕は万歳してやった。
「やったぁ、脱げた!ってミサカはミサカは今度はコレもぬぎぬぎさせてみたり」
「ボタンちぎるなよ…」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
ぷちぷちちちちと、打ち止めは今までにないほどの速さで、一方通行のシャツのボタンをはずして、肌をあらわにさせた。
(はえェ…、俺より速いかも…。いつの間にそんな風に出来るようになったンだ)
「はぁ、あなたの肌は真っ白ね。しかも無駄なお肉が無い!ってミサカはミサカは羨ましくてなでなでしてみたり…」
なでなで、と言うわりには、唇が一等先に触れてきた。指先まで柔らかい彼女。その手が脇腹やへその周りを滑っていく。
「はァ…」
「キモチい?」
「ン…」
- 733 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/31(水) 17:24:04.34 ID:kKCpHH5E0
一方通行は自分の体に跨って、口と手で優しく触れてくる少女の頭を両手で撫でる。
単にこの小さな恋人を可愛いと思って自然とそうしたのだが、彼女は気に入らなかったようだ。
「もう、ミサカのこと子供扱いしないでほしいな、ってミサカはミサカは更なる大胆攻撃を仕掛けてみる!」
打ち止めがグルっと体を反転させた。青年の腹の上に、容赦なく打ち止めのお尻がドスンと乗っかる。
「っ!ちょ、重ォ…」
青年が息を詰まらせている僅かな間に、少女は一方通行のベルトを、これも早業で外してしまった。
「!あっおい」
「あれー?いつもより小さいよ?」
まだ下着の中に収まっているソレを握るようにして、男に対してとても失礼なことを言う打ち止め。
「…っ、ったりめェだろ、まだ勃ってねェよ!」
「わかってますぅーだからミサカが頑張るんですぅー。きゃー、えいっ」
「うァ」
打ち止めは一方通行の下着の中に両手を突っ込み、下着をずりおろしながらソレを取り出し優しく握った。
露天風呂での経験を活かし、まだ硬くなりきっていないが、同じように刺激を与えていく。
一方通行の腹の上で、打ち止めのお尻が揺れている。彼の視界には今それしか映らない。
「わぁ、わぁー…、大きくなってきたぁ」
(何かもォすげェ…)
- 734 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/31(水) 17:27:38.09 ID:kKCpHH5E0
悔しいので打ち止めのショーツも脱がしてやろうと思い、両手で引っ張ってみたが、なにぶん自分に跨っている最中なのでうまくいかない。
「むむ、往生際悪くミサカにいたずらしようとしているな!?ってミサカはミサカはあなたに最後のとどめを刺してみる!」
「ぐェ」
お尻に反動をつけて、よいしょぉっと飛び上がった打ち止め。下では恋人が腹を押さえて呼吸困難を起こしているが気にしない。
一方通行の足元に移動し、彼のズボンの裾を掴んでグイー、と一気に抜き去った。
立っている打ち止めに引っ張られたので、彼の足も上に引き上げられ、直後またベッドに墜落した。
「では、…どきどきするけど、い、いきます…」
「げェっほ、えほっ、待て」
彼女を一旦止めようと、上半身を起こした一方通行だったが、その時にはすでに打ち止めは自分の腰の横に正座していた。
「あ」
「ア」
「…ん…ふ」
「お、…い、…は、ァ…」
止めようと思っていたのに、我慢を重ねていた一方通行は、結局彼女が与えてくれる心地よさに即流されてしまった。
(どうなるンだと期待してたが、まさかこンなことになるとは思ってなかった…)
打ち止めは口に彼のモノを含みながら、右手でずるずると、腿まで下ろしていた一方通行の下着をさらに脱がしていった。
青年も、打ち止めの手の動きに合わせて足を持ち上げてやり、膝下まできたところで最早邪魔にしかならなくなった布地を
蹴ってベッドの下へと放り投げた。着ている、と表現するには無理があるシャツが、滲んできた汗に湿っていく。
「う、…く…ら、ラスト、オーダー…」
「…チュ、…」
- 735 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/31(水) 17:30:39.08 ID:kKCpHH5E0
拙い舌の動きだったが、艶めかしい背中に背骨と鎖骨を浮かび上がらせ、長い髪を自分の腰と太ももに流し、
一生懸命にそれに没頭している打ち止め。髪が肌を滑るくすぐったさなど、今は気にならなかった。
いくつもの快感が、本流となって高まっていくのに抗えない。それどころか「もっと」と思う。
青年がさっきのように少女の頭を右手で撫でると、さらに喉の奥へと吸い込まれた。
「っ!……」
息がどんどん荒くなっていく。やはり悔しい一方通行は、打ち止めの頭から首筋をなぞって背中に手を這わせていった。
背骨の両脇を何往復かさせて、障害物となるブラジャーのアンダーに指を突っ込み、
そのままクイと引っ張り上げ、親指、人差し指、中指の三本で二つのホックを外す。これも今では片手で簡単にできるようになっていた。
その時、打ち止めが不意に顔を上げ、唾液が糸となって一方通行と彼女の唇に一瞬の橋を作った。
(なンで…、あと少し…っ)
今日、自分は何もしてはいけない日なのだろうか?それともいつもの仕返しか?
せっかくイイところまで登りつめていた一方通行は、恨めし気に少女を見やった。
「………っ」
「おい、どォした…」
「うぇ」
打ち止めが、ぱし、と音が出るほどに両手を口に宛がった。
「!!?ま」
「おぅええぇぇっぇぇっぇえぇぇげほっぉ」
「あああァァァァァ!?っこの馬鹿まじかよォォォォォォおお!!」
- 736 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/31(水) 17:38:50.45 ID:kKCpHH5E0
「………」
たった今「おいしー」と食べた料理たちが、桃の香りの酒にまじって、すべて一方通行の一物の上にぶちまけられた。
あまりのことに、茫然自失の青年。
しかし苦しそうにえづく打ち止めの声に、すぐに我を取り戻して電極のスイッチを切り替えた。
「もォ信じらンねェ…、何だってンだこれはよォ…っ、打ち止め、大丈夫か?」
手を振って、部屋中の全ての照明を点ける、もちろんバスルームも。
そして青い顔をした打ち止めを抱え、そこに駆け込んだ。
まず反射を利用して、お互いの体についた吐しゃ物を吹き飛ばす。
シャワーでそれを洗い流して、取れかけていた打ち止めのブラジャーを脱衣所に放り、ぬるくしたお湯で彼女の口をゆすいだ。
「ほら、気持ち悪ィだろ、口洗え」
「ん…」
言われるままに、打ち止めは数回口にお湯を含み、手でぬぐった。
「はぁ、はぁ、ごめん、ごめんねぇあなた…、うぅ、う~、ぇぇぇん」
「……、気にするな、もう吐きたくないか?」
泣きそうな気分の一方通行だったが、打ち止めは本当に泣いていた。
気持ち悪さからなのか、苦しさからなのか、はたまた恋人に対して、申し訳なさすぎるからか…
打ち止めに触れながら、彼女の体内のアルコールを分解処理していく。初めてあんなに慣れない酒を飲んだのだから無理もない。
欲望に任せて少女の体調をないがしろにしたことを、一方通行は大いに反省する。
打ち止めの体をさすっているうちに、自分の分身はひとまず落ち着きを取り戻していた。
濡れた体を、また反射で一気に乾かす。部屋のクローゼットから備え付けのガウンを羽織り、打ち止めをソファに寝かせた。
ベッドから汚れたシーツを引っぺがし、これもバスルームに持って行って、能力を使い綺麗にしてからベッドルームへ戻る。
「打ち止め、どうだ?」
「うん…、能力使って何かしてくれたんでしょ…?もう平気、ってミサカはミサカは元気をアピール…」
シーツを剥がしたベッドに少女を運び、ガウンの上から優しく体を撫で、まだ青い頬にも手を伸ばす。
「嘘言うな、気にしてねェからゆっくり寝てろ…」
「……っぁなた…」
打ち止めは一方通行にしがみ付き、顔を彼の胸に押し付けて鳴き声を殺している。
青年はもう少し強く背中を撫で続け、数分後、また手を振って照明を落とし電極のスイッチを切った。
- 737 :ブラジャーの人[saga]:2011/08/31(水) 17:41:01.15 ID:kKCpHH5E0
翌朝のまだ薄暗い頃、一方通行は打ち止めに体を揺らされて目を覚ました。
彼女の体調はすっかり良くなったらしく、いつもの血色の良い頬で彼を安心させてくれた。
「泊まっちゃったね…、ヨミカワ達に怒られるかな?」
「さァてな…、もうどうでもいい気がするけどなァ」
体を起こしてあくびをする一方通行に、打ち止めが抱きついてくる。
彼女のガウンは前がゆるめられていて、柔らかい胸が直接押し付けられた。
「そうだよね、今さらだよね?じゃあ、だから…ね」
「打ち止め…」
打ち止めは彼の首に腕を回し、自分の方へと引き寄せた。長い髪が、今度はベッドの上に広がって波打つ。
「…無理してねェか?」
「してないもん」
やはり押し倒されるより、押し倒す方が性に合っている。
昨夜、更なる我慢を強いられた一方通行は久しぶりの恋人とのひと時に、大層熱を持って取り組んだ。
日がすっかり高くなってしまった中、若干緊張しながらマンションの玄関を開けた二人。
視界に飛び込んできたものは、靴を履いたままそこで眠る黄泉川だった。
「すげェとこで寝てるなコイツ」
「う、お酒くさい…、ってミサカはミサカはトラウマを思い出しちゃう…」
「芳川はまだ病院から帰ってきてねェようだな、靴がない」
「なーんだ、怒られそうにないね?」
「そォみたいだな」
無断外泊を叱られ、昨夜のことを感づかれるという恥ずかしい思いはしなくて済みそうだ。
二人は顔を見合わせて笑った。
「ねぇあなた」
「なンだ」
「…、ま、また行こうよ…、ね?」
「…ン」
- 738 :ブラジャーの人[sage]:2011/08/31(水) 17:46:32.97 ID:kKCpHH5E0
打ち止め、飲酒するの巻 完
一方さんが株下げまくってるので、打ち止めの株も下げないとこりゃバランス悪いな、と思って。
読者がさざ波のように引いて戻ってこない悪寒…。
次回の更新は(略)
- 739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)[sage]:2011/08/31(水) 17:51:11.96 ID:GFyCa1fe0
- ま、まぁ、ほら、最初に色々吐き出した方が楽っていうじゃないか!
>>1乙
- 754 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/03(土) 00:15:56.98 ID:wS2ZkLMD0
一方通行は、打ち止めが妊娠する、という夢を見た。しかも二回も。
夢の中で打ち止めに「妊娠したの」と告げられて、自分はどんな反応を示したのか定かではないが、
次の瞬間には病院で打ち止めが分娩中、という場面だった。
二回目の夢では、出産を終えた打ち止めに、自分の子を手渡され、恐る恐る抱いていた。
実際に赤子など触ったことはないので、夢の中での感触は覚えていない。自分の感情もイマイチ記憶にない。
しかし、二回も夢に見るということは…
(俺は打ち止めに子供を産んで欲しいと思ってンのか……?)
この俺が?と、二回目の夢を見た後、つまり昨日から青年はそのことばかり考えていた。
(打ち止めとセックスするからには、そォいう可能性が無いわけじゃねェ…。ただ早すぎるだろ。アイツまだ中三だぜ…。避妊もしてるし)
だからこそ、こんな夢を見るのだろうか。妊娠しないように気をつけているから、叶わない願いが夢となって深層心理に表れたのでは?
(家族…かァ)
とある平日の夕食後、リビングのソファでぼんやりと天井を見ながらそんなことを考えていた一方通行は、
打ち止めに呼ばれる声で思考を中断された。
「あなた、ねぇねぇちょっと、ってミサカはミサカはこっそりあなたを招き寄せてみる…」
風呂から上がった打ち止めが、薄く開けたドアから顔と手だけを出して一方通行を手招きしている。
(何やってンだアイツ)
芳川は自室に居るし、黄泉川はアンチスキルの仕事が入って家から出て行ったので、別にリビングでも内緒話は出来るだろうに。
(……、もしかして誘われてンのか)
彼女に「早く来てよ」と睨まれて、若干期待しながら腰を上げた。
声や物音に気をつければ、ヤれないことはない。不自由なはずの足が、気分だけ軽やかに動いた。
- 755 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/03(土) 00:20:53.81 ID:wS2ZkLMD0
「なンだ」
「…、ココじゃダメなの。こっち…」
打ち止めは青年の手を掴み、足早に自室の方へと廊下を急ぐ。その様子に、いよいよ予想的中か、と口角が上がってしまう一方通行。
「おいおい、早すぎる。も少しゆっくり歩けよ、今は杖ねェンだ」
「……」
黙ったままの打ち止めに背中を押され、彼女の部屋に押し込められた。
打ち止めはベッドに座り、立ったままの一方通行を見ながら自分の横をぽすぽすと叩いて「座って」と促す。
その表情は真剣で、どうも青年が抱いた期待とは、少々趣きが違うような…
一方通行は素直に彼女の横に座り、何をするつもりだろうと様子を伺う。
打ち止めは俯いて、両手を腹の前、胸の前で組んでもじもじしている。
(…ま、さか)
『妊娠したの』
夢の中で聞いた打ち止めの声がこだまする。
コンドームの避妊は百パーセントではない。ごく稀に、失敗することがある。それは知っていた。
「あのね、ミサカね」
胸の前でもじもじしていた打ち止めの手が、下腹の上に落ち着いている。
(妊娠、子供、俺と打ち止めの)
一方通行の全身に力が入り、握りしめた両手に爪が食い込む。額に油汗が浮き出てきた。
正夢、三度目の正直、仏の顔も三度まで…これは違う。三三九度…これもちょっと違う。
(その腹に居るのか?こ、子供…?)
心臓が早鐘を打ち、少女の腹部を凝視する一方通行。
「あなたは喜んでくれるかなぁ…?」
打ち止めが、隣の青年を見上げる。
一方通行は自分の表情が知りたかったが、彼女の反応からして、顔には何も出ていないようだった。
(喜ぶ?嬉しいのか俺は…?子供、結婚、父親……俺がァ!?)
「またおっぱい大きくなったの」
「………」
「Eカップだよ?ってミサカはミサカは胸を張ってあなたに成長を報告してみる」
「………胸?」
「嬉しい?」
打ち止めがEカップになった。
一方通行は放心して、思考回路が一時中断した。
- 756 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/03(土) 00:25:38.33 ID:wS2ZkLMD0
- とりあえずここまで。
この話は、このスレを立てる前からやりたかった、悲願ともいうべきエピソード…
やっと、やっと打ち止めが……っ!
長かったなぁ!そのためにここまで頑張った!と言っても過言ではない、本当に。
- 757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]:2011/09/03(土) 00:57:11.77 ID:y513KhlAO
- 乙!
通行止めの子ども見てみたい。
何故かお父さんスイッチで遊ばれる一方通行が脳裏に浮かんできたよwwwwww
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
- 758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)[sage]:2011/09/03(土) 01:06:08.85 ID:xxDTi+pqo
- 乙!
子供ネタは微笑ましいとともに見てて不安になるな
投薬や電極、クローンに強制成長。。。
幸せになって欲しいな
- 764 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/05(月) 22:03:51.81 ID:O9nAmdS50
- 一方通行は長すぎる溜息をこれでもかと吐いたあと、がっくりと、膝に頭が触れんばかりに俯いた。
そして今度は息を大きく吸いこみながら後ろに倒れ、どさりとベッドに仰向けになる。芯から脱力していた。
残念だったのか、ほっとしたのかは彼自身も分からない……
「はァー…、おどかすンじゃねェよ…、俺の心臓止める気ですかァ?」
てっきり打ち止めが自分の子供を身籠ったと早とちりした青年は、ジロリと隣の少女を睨んだ。
「えぇー?あなた嬉しくないの?Eカップだよ?ってミサカはミサカは期待はずれでしょんぼりしてみたり…」
「へェすごいねェ。……ン?…E?ナニ?」
「Eカップだってば、ミサカのお胸が!さっきから言ってるでしょ」
一方通行は天井から自分を見降ろす少女……の胸に視線を移した。彼女は彼の反応にいたく不満げだ。
「むー…、あなたは喜んでくれると思ったのに」
「……E…」
一方通行はおもむろに彼女の柔らかな膨らみに手を伸ばした。
「っ、ちょ、いきなり……」
「どこまで成長すンだよオマエは」
青年は体を起こし、身をのけぞらせようとする少女を捕まえて腕の中に閉じ込めた。
「やーんこれちょっと懐かしいんですけど!」
「大人しくしてろォ、ブラジャー着けてねェな?」
「う、うん、だってサイズが…ん」
「あー、言われてみれば春より…」
- 765 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/05(月) 22:06:38.60 ID:O9nAmdS50
- 一方通行は打ち止めを背後から抱きしめ、わしっとその胸を掴んだ。懐かしい、初めて彼女の胸を触った時の再演だ。
同じ条件を揃えれば、その違いがはっきり分かるだろうと思ってこうした。
両手で押しつぶしてみても、手の平で持ち上げてみても、左右から寄せてみても、春に揉んだ時より大きくて更に柔らかい気がする。
「っ、ふふふ…あはは」
「あァ?何笑ってやがる」
恋人に抱きしめられて、豊かな胸を揉みしだかれているというのに、打ち止めは堪えきれないという様子で声をあげた。
「だってぇ、あの時あなたってば、ミサカがダメって言ってるのに無理やり脱がそうとして…」
「……あン時ゃァよくも演算切ってくれやがったなァ?」
「当然の仕打ちだと思う、ってミサカはミサカは自分の正当性を主張してみる」
「なァこれ本当にEなのか?」
「サラっと話題を逸らされた!ってミサカはミサカはそのスキルを覚えたいものだと羨んでみたり。本当にEだもーん、ちゃんとお店の人に測ってもらったんだから」
「店?新しいサイズの買ってこなかったのか?いつも風呂上がりにも着けてンだろォ?」
打ち止めは一方通行の手を取って頭上に持ち上げ、その腕の中から脱出した。そして彼の方に正座で向き直る。
「それです」
「どれだ」
「ミサカのサイズのブラ…、普通のお店にあんまり置いてないの」
「……はァ」
「あっても全然可愛くないの」
「……ほォ」
「なのにすっごく高いの!」
「……へェ」
「責任とって!」
「…エー」
- 766 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/05(月) 22:09:24.83 ID:O9nAmdS50
- 打ち止めのようにEカップという、日本人女性の平均よりだいぶ大きいサイズになると、
需要と供給の観点からあまり商品数が豊富ではなく、さらにデザインも限られている。
彼女はアンダーも細いため、それは特に顕著だった。
大量生産されない製品は値段も高く、お小遣いだけで数着揃えるのはとても無理だったし、
やはり可愛く、自分が気に入ったランジェリーを着けたいものだ、年頃の少女ならば。
「責任ってオマエ…」
「だってどう考えてもあなたがミサカの胸をモミモミしたせいでしょ?
ここは男らしくミサカに可愛いブラジャーを買ってくれるべき、ってミサカはミサカは持論を展開」
「俺のせいなのか…。しっかし、無いものをどォやって買えっつーンだ。オーダーメイドか?」
「違う違う。大きいランジェリー専門店があるから、ミサカをそこに連れてって!けっこう遠くにあるの」
「……」
想像してみた。打ち止めにショッピングへ連れていかれるのはいつものことだ。しかし、下着専門店?
いつもこの少女が着けていたような、カラフルな花柄やレースのアレで溢れかえっているであろう、
男にとって居心地悪さ満点の店に一緒に…?
「すげェ嫌だ…、カードやるから一人で行ってくれ」
「ダメー。だって遠いし……。あ、あなたが、ミサカにどんなの着けてほしいか聞きながら選びたいしぃ……」
「俺は何も着けてなくても構わねェよ」
そう言った瞬間、べちっと、打ち止めに両頬を両手で挟むようにはたかれた。
一方通行、ランジェリー専門店に強制連行決定。
- 767 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/05(月) 22:12:26.29 ID:O9nAmdS50
- (たかが下着で、この店のデカさは異常だろ…)
打ち止めの案内で着いたその店は、とても大きかった。三階建のこの建物全てが店舗だという。
駐車場にポルシェを置き、せっかくの休日だというのに、一方通行は重い足取りでスキップしそうな少女のあとを追っていく。
「あなた早くー。ココ凄いらしいよ?バストアップのエステやカウンセリングもあるの!
あとオーダーメイドもやってて、それのデザインも決められるんだってー!」
「スゴイスゴイ。なァ、カフェもあるじゃねェか。まずはあそこで一休みしよォぜ…」
カフェには自分と同じような理由だろうか、数人の男性の姿があった。
一人で居る者は、おそらく連れの女性が買い物を終えるのを待っているのではないか?
できれば自分もそうしたいと、一方通行はまだ往生際悪く逃げ道を模索していた。
「何言ってるの。こんなに大きなお店なんだよ?早く回っていっぱい見たい!ってミサカはミサカは
セキニン取る人に権利はないのだ、と強気に出てみたり」
一方通行は溜息をつき、上着の内ポケットからいつものサングラスを取り出して掛ける。レンズの色は濃い目に設定した。
こっそりと緊張しながら店内へ入ると、意外なことに男も普通に歩いていた。
それもそのはず、ここは男性用の下着も取り扱っているのだ。もちろん女性用の商品より売り場はかなり少ないが。
(こンなに赤の他人を心強く思ったのは、初めてかもしンねェ…)
多くの男性は、彼女か妻だと思われる女性と歩いていたが、
一人でショップ袋を持って歩いている強者(だと一方通行は思う)までいるではないか。
くじけそうな心を奮い立たせ、青年はウキウキとしている少女の隣に足を進めた。
- 768 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/05(月) 22:15:52.81 ID:O9nAmdS50
- (あ、やっぱだめだ。すっげェ居づらい。なンか大事なモンが流れ出ていってる気がする)
「どっち?このデザインなら水色?ピンク?ってミサカはミサカはさっそくあなたにアンケート!」
打ち止めは自分のサイズに合うブラジャーが豊富に揃っているのが嬉しくて、大いにはしゃいでいる。
さっそく一着購入し、ピッタリ合うものを試着室で着けたばかりである。
華やかすぎる売り場を練り歩き、打ち止めは手に取るもの全てを彼の目の前に突き付けてくる。
男の一方通行の姿を見て、さっと移動する女性客もいれば、全然動じない女性もいる。
たまに自分と同じように、恋人に引っ張られている哀れな男性客ともすれ違った。
「…、水色……」
とりあえず早く買い物を終えて、この拷問も終わらせたい。
いちいち目の前のブラジャーを着けた打ち止めを脳内に作りだして答えるこの作業…
(おかしい、これ絶対おかしいだろ…。俺は今何してンだ?打ち止めのブラジャーを責任取って買うために、
下着専門店でブラジャーに囲まれて選ばされて色をしっかり見るためにサングラスの色も薄くされて)
そろそろ思考が混乱してきた第一位。
「もう、何か投げやりだよ?ちゃんと見て選んでくれてる?ってミサカはミサカは不満を訴えてみたり」
「うるせェ、俺はもォ色々と限界超えてンだ。色々越えてンのに色なンて見られるわけねェだろォが」
「おぉ…、あなたがおもしろいことになってる…!ってミサカはミサカは慈悲の心で休憩を許可してあげようと思います」
「ありがとよォ。でも帰るンじゃねェンだな、休憩後はまだ付き合うンだな俺…」
- 769 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/05(月) 22:18:59.87 ID:O9nAmdS50
- おめがねに叶ったモノを買い、袋を抱えてご満悦の打ち止め。少しフラフラしている一方通行。
二人はポルシェが停めてある駐車場の近くにあったカフェで休憩しようと、店内を出口に向かって歩いている。
打ち止めはその間もきょろきょろと、周りの様子を楽しそうに観察していた。
「あ、あそこだよ、バストアップのトコ。へぇーへー…」
「オイ、何見てンだよ。オマエはもう充分ごりっぱだろうが、必要ねェだろうが」
「もー、だからこそなの!形が崩れないようにお手入れしないといけないし、
自分に本当に合ったブラつけないとワイヤーで肌を痛めたりするのよ。そういうレッスンもしてくれるの」
「あっそォ」
すりガラスで仕分けられたそのブースを覗き込む少女。
一方通行は、まさかここにも寄るハメになるのでは?と危機感を抱き、さっさとカフェに向かおうとした。
しかし自分の手を掴んだ打ち止めの足は、その場の床にくっついて離れそうもない。
「やっぱりもっとお胸のこと大事にしなきゃ、ってミサカはミサカは決心してみる。ねぇねぇ、後でここにも行きたい」
やっぱりか。苦虫を噛み潰したような表情の一方通行である。
「クソ、いいかげンにしろよォ?さすがにそこまで付き合ってられるか」
「わ、分かってるよ。だからあなたはどこか別の場所で待っててほしいの。この中にあなたが入っていったら警備員呼ばれるし」
「……なら、まァ…」
「ミサカはあなたのために頑張ろうとしてるんだから、スポンサーとしてちゃんと応援してほしいな、ってミサカはミサカは
非協力的なあなたを責めてみたり」
「俺のためェ?」
- 770 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/05(月) 22:21:06.63 ID:O9nAmdS50
- この拷問に神経すり減らして耐えてやってるのに、自分のためと言われた青年は、ついオウム返しに応えてしまう。
「またまたぁ、あなたってば」
打ち止めはツツツ、と彼の体に身をすり寄せ、芝居がかった動作で一方通行の耳元で囁いた。
「ミサカの大きいお胸好きでしょぉ?あなたにためにも、ずーっと素敵バストでいることを目指すからね!」
一方通行は久しぶりにチョップを恋人の頭に振り下ろした。が、全然痛くなかったので打ち止めは笑顔のままだった。
「ったく、とりあえずコーヒーだ、コーヒー。行くぞ」
「はーい」
打ち止めの足はやっと動くようになったらしく、二人は再び歩きだした。
その時、丁度すりガラスの壁の一角のドアが開いて、中から人が出てきた。
「ん?」
「あァ?」
「!!あっ!?」
その人は、打ち止めにとてもよく似た女性だった。
ただ彼女よりいくつか年上に見える。肩の上で切り揃えられた茶色い髪。打ち止めよりも高い身長、そして、控えめなバスト……
「…アンタ達、こんなとこでなぁーにやってるのかなー?」
「お、お姉さま…」
「げェっ、超電磁砲…」
御坂美琴が、仁王立ちで二人の前に居た。
- 784 :ブラジャーの人[sage]:2011/09/07(水) 18:48:29.97 ID:R20xNf2P0
- 「あ、お、わぉ…奇遇だねお姉様、ってミサカはミサカは平静を装って自然に挨拶してみたり」
(全然自然じゃねェよ…)
「全然自然じゃないわよ」
打ち止めは一方通行の背中に隠れながら、さらにショップ袋を自分の後手に持った。
できれば一方通行こそ、打ち止めの後ろに隠れたい思いだったが、そこは男のプライドで我慢した。
昔の負い目があるので、できるだけ御坂美琴には会いたくないのだ。
御坂は明らかに挙動不審の打ち止めに近づく。少女は青年の右側から覗いて来た姉から逃げるように、左側へぐるりと移動する。
御坂も妹を追いかけて一方通行の周りを走った。
「こらこら、なんで逃げるのよ打ち止め」
「なんで追っかけるのお姉様」
「やめろオマエら、不審者丸出しだぞオイ」
まるで衛星のように、一方通行を恒星として回っていた姉妹だったが、不利なヒールを履いている打ち止めはすぐに捕まってしまった。
「はい捕まえたわよ」
「あーん、あわわわわ…」
打ち止めが腕に抱え込んでいる袋を、御坂がひょいと掴んで持ち上げる。
小さな妹は取り返そうとして手を伸ばすが、ヒールを履いているというのに届かない。
「か、返してお姉様っ、それミサカのだもん。あなたも見てないで何とかしてぇ」
打ち止めは佇む青年に助けを求め、その視線を受けて足を動かそうとした一方通行だったが、御坂に一睨みされて「う」と詰まった。
「打ち止め連れてこんな店に来るなんて、何考えてるの。いやらしいわね」
「な、俺は無理やり引っ張られて来てンだよ!拷問に耐えてたところだアホ!」
「拷問!?ひどいあなたっ、ミサカはあな」
「黙ってろ、余計なことは言うンじゃねェ」
一方通行が打ち止めの口を塞いでいる隙に、御坂は袋の中身に目を移す。
「まったく、打ち止めったら相変わらずこんな大人っぽいデザインばっか…」
「あっ…」
「?」
打ち止めがさぁっと顔を青くし、その様子を見ていた一方通行は意味が分からなくて、きょとんとしている。
「た、大変あなた、逃げよう!ってミサカはミサカは…っ」
「はァ?そりゃ逃げてェけど」
「何なのよこれ。打ち止め?何でEなの?」
「ひぃっ」
「…!?レ、超電磁砲…?」
- 785 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/07(水) 18:52:00.81 ID:R20xNf2P0
- 御坂の纏う雰囲気が一変した。その迫力に、一方通行さえ打ち止めと共に後ずさった。
「鬼気迫る」
打ち止めから、御坂がバストに対して並々ならぬ執念を燃やしていることは聞いていたが、
まさかここまでとは思っていなかった第一位は、第三位の脅威に易々と陥落してしまう。
そもそも過去の過ちが、ただでさえ分を悪くしているのだ。
「おい…、急にどォした超電磁砲…」
「なんで」
「きゃ!?」
なんという身のこなしだろうか、
あっという間に二人に接近した御坂は、一方通行を盾にしていた打ち止めを引っ張り出し、その胸に両手を押しつけた。
「なんでなんで!?私がこんなに努力して頑張ってお金もかけてやっとCが目前だっていうのに!どうして打ち止めがEカップなの!?」
「ややや、やめてお姉様みんな見てるよ!?ってミサカはミサカはこのままじゃ警備員が来ちゃうのではと心配してみたりーっ!」
「あぁーむかつくわ羨ましいわ柔らかいわー!これがEかEなのね、このぉ~」
打ち止めはぐいぐいと迫ってくる姉に押され、すりガラスにぶつかった。逃げ場がなくなり、御坂は存分に未知の領域に手を這わせる。
(身長と胸が)大小のそっくりな女性が、方や襲い、方や襲われ、買い物客達が何事かと注目し始めていた。
「……」
一方通行は床に落ちていたショップ袋を拾い上げ、どうやってこの混乱を収拾するべきか頭を悩ませていた。
とりあえず場所を移動しようと思い、姉妹に近づく。
「あー、ちょっと落ち着けオリジナル。このままじゃ婦女暴行で前科一犯だぞオマエ」
「うるさいわね!姉と妹の和やかなスキンシップよ!」
「ミサカ達カフェで休憩しようとしてたのっ、とりあえずそこに行こうよお姉様、ってミサカはミサカは
この人の意思を汲んでお姉様を宥めてみたりぃ~」
「二人して私から逃げようとしてない!?」
「逃げたいの我慢して付き合ってやるっつってンだよ!大人げねェな第三位!」
「大人げないのはこの子の胸でしょお!?」
「そりゃそうだがとにかく落ち着けェェェ!」
一方通行は仕方なく能力を使って、打ち止めから興奮状態の御坂を引き剥がした。
- 786 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/07(水) 18:55:26.58 ID:R20xNf2P0
- 目的地のカフェに着き、三人は隅の席に腰を下ろす。
御坂美琴の鋭い視線をちくちく感じ、一方通行と打ち止めは大変居心地悪かった。
一方通行のサングラスは「あなただけズルイ」と、打ち止めによって没収されている。
(なんでよりによって超電磁砲に会っちまうンだよ…、こンな店でよォ…)
「さて…、どういうことなの打ち止め。なんで妹達の中でもっとも幼いアンタがEカップなのかしら?」
「えー…、なんでと言われましてもミサカが何かしたわけでもなく、去年辺りから急に…」
「アヤシイわ…。大体エステコーナーの前に居たのは、それ以上を目論んでたからじゃないの!?」
「ちが、それはお手入れとかマッサージのレッスンに興味があって…」
「くぅ~、強者故の余裕か!?この店のこと打ち止めに教えるんじゃなかったわ!」
(打ち止めのやつ、ここのことオリジナルから教えられたのかよ…。そンな危険な店に俺を連れてきやがって)
「お姉様こわい、ってミサカはミサカは黙りっぱなしのあなたに助けを求めてみたり」
「俺を巻き込むな」
如何に大切な少女の頼みとはいえ、この問題に一方通行が口を挟みようがない。
可哀そうだが、コーヒーの入ったカップを持って目を逸らした。
「うぅ…、ねぇお姉様、そんなにお胸のことで悩んでるなら、ここは学園都市だよ?
豊胸手術とか、矯正下着の技術も外より大分進んでるんだし…」
「私は、まがいものじゃない、真実が欲しいのよ…」
「お姉様…」
「お願いよ、打ち止め…。私を助けてよ…」
「助けてあげたい、ミサカも助けてあげたいよ…!でも…っ」
(何やってンだこの姉妹は)
「馬鹿じゃねェのオマエら」
つい心の声が口から滑り出てしまった一方通行。御坂は妹から彼に厳しい顔を向けた。
「ちょっと…、一方通行。アンタ何『俺は関係ない』みたいにしてんのよさっきから」
「あァ?まじで関係ェねェだろォが」
「…、私、実は疑ってることがあるのよね…」
「どうしたのお姉様…?」
- 787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/07(水) 19:00:21.49 ID:OTy/cmLGo
- Cが目前って大分育ってるな、もう十分じゃないか?
- 788 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/07(水) 19:00:22.66 ID:R20xNf2P0
- 御坂はジュースを一口飲み、真剣な表情で一方通行を見据えた。
ズキ、と彼の胸が痛む。御坂にこういう目で見られると、振り切ったはずの迷いや、取り返せない罪の思い出がじわりと心に滲んでくる。
例え御坂にその気がなくても。
「アンタが打ち止めの胸に能力で何かしてるんじゃないの?」
一方通行のシリアスな苦悩に対して、投げかけられた質問は実に対極的なものだった。
うっかり口の中のコーヒーを飲み込むことを忘れてしまった第一位。
代わりに打ち止めが御坂に反論してくれた。
「ちょちょちょ、…お姉様、そんなことするわけないじゃない…、ってミサカはミサカはあり得ない仮説を苦笑いで否定してみたり」
「だってどう考えても打ち止めの胸の急成長は異常でしょ?それに番外個体だって…。
一方通行の近くにいる妹達二人だけ巨乳なんて、疑いたくもなるわよ」
「なるほど言われてみれば…!?」
あっさりと姉に言いくるめられた打ち止め。
自分の胸が大きくなったのは、知らない間に彼が能力を使って、
自分好みに成長させてくれていたからなのかも?と、驚愕の表情で隣の青年を見つめた。
「この阿呆ォ!」
今度のチョップはしっかり痛かった。
「オマエが流されてどォすンだ。あのなァ超電磁砲、俺は何もしてねェよ(Dまでは)その変態的な発想はどこから出てくるンだ」
「だってアンタはムッツリなイメージが…。ベクトル操作でなんでもできそうだし…」
「どうしてそういうレッテルが貼られてるンだ俺は…?」
思えば保護者達、番外個体、浜面にまで、一方通行はとっくに打ち止めに手を出してるに決まってるよね、と勘違いされていた。
自分はあんなに耐えていたというのに。
そして今度は御坂に「あんたはムッツリでしょ」という評価を下された。
第一位の能力をもって、恋人の豊胸までやってる変態じゃないの?と。
これが御坂じゃなかったら遠慮なくぶん殴るところである。
空になったカップを置き、ついに額に手を当てて項垂れる青年。この暴走する長女をどうやってあしらおうか…?
「私にもやってよ」
「………」
「今なンか言ったか?」
「私もベクトル操作で胸大きくしたい。やって」
- 789 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/07(水) 19:03:26.54 ID:R20xNf2P0
- 第三位とんでもないこと言いだした。打ち止めはオレンジジュースのグラスを握って、姉と恋人とを緊張した面持ちで見比べている。
「オマエがここまで馬鹿だとは知らなかったぜ。
そして俺を勝手に変態にしてンじゃねェよ…。ンなことやってねェって言ってンだろォがァァ!」
「もうどっちでもいいのよ!やってようがいまいが、とにかく私の胸に能力使ってみなさいってことよ!」
「よくねェよ、やってねェンだからなァ!?」
ヒートアップしてきた二人。こんな所でレベル5同士のケンカなんかされたらたまったもんじゃない。
打ち止めは隣の青年の肩に手をかけて押しとどめた。
「あ、あなたダメだよケンカしちゃ…?」
「俺よりオマエの馬鹿姉をどォにかしろォっ」
「打ち止め、アンタは引っ込んでなさい…、これは私と一方通行の交渉よ」
「お姉様も落ち着いて、この人本当にそんなことやってないの、ってミサカはミサカは恐怖に耐えて仲裁を試みてみるぅ…」
最年少の少女に震える声で諭された二人は、どうにかまた椅子に座りなおした。と思ったのは束の間だった。
「どうして…?」
御坂も声が震えている。いや、声だけではない、肩も…。
俯いた顔を上げ、その目にはなんと涙が滲んでいるではないか。
「!」
(うそぉ!?お姉様泣いた!?)
(げェっ、泣きやがったぞコイツ!?)
「いいじゃない!ものは試しよやってみなさいよ一方通行!減るもんじゃなし。
むしろ増える前提じゃない!打ち止めはEだからそんな余裕があるだけ!私の身になって考えてみてよぉっ」
「おい声がでけェ…」
「お姉様電気漏れてる電気…」
- 790 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/07(水) 19:07:19.06 ID:R20xNf2P0
- できるだけ他の客から離れたテーブルを選んだのだが、さすがに騒ぎ過ぎだ。三人はここでも周囲の注目を集めはじめていた。
まさかあの御坂美琴が、こんなことで泣くとは思わなかった打ち止めと一方通行は焦った。
それほどまでに彼女の悩みは根深いものだったのかと、面食らってしまう二人。
「早く…」
おたおたする二人にも、ざわざわする周りの一般客達も構わない様子で、御坂は席を立って一方通行の前に移動した。
そして彼の両手を掴み、自らの胸元へと導く。
「おォォおい!?正気かオマエェ!?」
「真剣なのよこっちはぁぁぁぁ!ほらやんなさいよ!」
「ダメぇぇ!あなたはミサカのお胸以外さわっっちゃダメぇ!」
「やっぱりムッツリじゃない!この子まだ中学生よ!?」
「っあァァァァうるせェェェ!この馬鹿姉妹!!離せ一等馬鹿ァ!」
一方通行は何とか御坂の手を振りほどき、首のチョーカーのスイッチを切り替える。最強の能力を発揮して何をするのかといえば
「行くぞ打ち止めァ!」
もう付き合っていられない、とっとと退散だ。
打ち止めはすかさず新品のブラジャーが入っている袋を握った。
一方通行は少女を小脇に抱え、伝票と一緒にポケットから掴み出した何枚かの現金札をカフェのレジへ放り投げ、
ピタリとこちらを見ている店員の目の前に落とす。
それを最後まで確認せず、一方通行はすぐ傍に駐車させてあるポルシェまで走った。
打ち止めが助手席に身を滑り込ませている間にエンジンをかけようとして
バチぃ!
後ろのエンジンルームから不吉な音が…。キーを回してもキュルキュル音が鳴るだけで掛からない。
- 791 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/07(水) 19:12:30.45 ID:R20xNf2P0
- 「あはははは、所詮エンジンなんて電気の力で始動するのよ。イグナイター…だっけ?
えへ、壊しちゃった。私の目の前で車で逃げようなんて馬鹿ねアンタ」
「っ!しっンじらンねェコイツ…!暗部でもなかったクセになンてことに手慣れてンだァ…!?」
「ポルシェちゃん動かないの!?」
余裕の表情でこちらに近づいてくる御坂。一方通行は仕方なく車から降り、助手席の打ち止めを抱きあげた。
もう車を乗り捨てて飛んで逃げるしかない。
「待ちなさい…!」
御坂が手を差し出す前に、一方通行が風を操り、彼女にだけ風圧を浴びせる。
ほんの少しの隙が出来たところで、打ち止めが同行していることを考慮した上の全速力で、その場から空高くへと飛び去った。
「もぉ、逃げられた…!まさかなんの躊躇もなく車を置いていくなんて。これポルシェよね?そんなに私から逃げたかったのかアイツ…」
御坂は開けっぱなしのポルシェのドアを閉め、
「アニメのシールでも貼って痛車ってヤツにしてやろうかしら」
つんつん、とタイヤを足で小突いた。
- 792 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/07(水) 19:15:03.40 ID:R20xNf2P0
- 「つ、疲れたァ…」
「怖かったぁ…」
一方通行と打ち止めは、またマンションのベランダから帰宅した。行儀が悪いが今はさっさと部屋で休みたい。
「あらあら、すごい所から帰ってきたわね二人とも。なんだか疲れてるみたいだし、何があったの?」
のんびりとテレビを見て、休日をだらけて過ごす芳川が、様子のおかしい二人を出迎えた。
「ただいまヨシカワ…。ちょっと、お姉様と会っちゃって…」
「……御坂さんと…?ちょっと一方通行……」
芳川も、昔に行われた絶対能力者計画の主要人物の一人だ。御坂美琴には本当にすまないことをしたと思っている。
一方通行がオリジナルと会い、このような状態で家に帰ってくるものだから、何かひと悶着あったのでは、と心配になってしまう。
「……安心しろ、そんな顔するよォな理由じゃねェ…。すっげェばかばかしいやり取りがあったンだよ…」
一方通行はそう言い捨てて自室に引っ込む。打ち止めは彼の靴を玄関に運びながら、その背中を寂しそうに見送った。
「…ヨシカワ、心配しないで。ミサカもあの人も、お姉様だって大丈夫だよ。もちろんヨシカワだって……」
「打ち止め…、そうね。そうだったわね、ごめんなさい。雰囲気暗くしちゃったわ。早く一方通行の所に行ってあげて」
「うん!でもね、その前にね、ヨシカワに相談があるの、ってミサカはミサカはそもそもの原因を解決するために、
科学者の意見を仰いでみる」
「あら…、何かしら?」
なんでミサカと番外個体だけ、同じ妹達なのに胸が大きいのか?
そう問われても、芳川だって知りたいぐらいだ。明確な回答はしようがなかった。特に打ち止めについては、番外個体以上に説明できない。
「どうして急にそんなこと聞くの?」
先程起こった第三位と第一位の、あわや超能力者対決かと思われた一幕の一部始終を聞き、
芳川は彼女にしてはめずらしく大きな声を出して笑ってしまうのだった。
- 793 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/07(水) 19:18:37.02 ID:R20xNf2P0
- 数日後の昼間、一方通行はマンションの前で再び御坂美琴と相対していた。ただし二人きりではない。
ポルシェを買った業者の店長と、整備士が数人居て、積載車から彼の愛車が降ろされているところだった。
「では一方通行様、修理は完了しましたので。料金はこちらの御坂様から頂いております…」
店長はそう言って鍵を彼に手渡した。第一位と第三位に挟まれて、いたく恐縮している。
「当ォ然だな」
「悪かったわよ。だから反省して弁償の上、こうして立ち会ってるんじゃないの」
「反省してるように見えねェンだが」
あのカフェで一方通行と打ち止めを取り逃がした後、ちょっと冷静になった御坂は自分でレッカーを手配し、
リヤガラスに貼ってあるステッカーを元に、この業者へとポルシェを運んで修理の依頼をかけた。
突然、顧客である第一位の愛車を伴って現れたのが第三位と分かり、この店がまた、大いに騒がしい事態となったのは余談だ。
店長達も去り、一方通行は御坂に背を向けて戻ろうとする。打ち止めが学校から帰ってくる前に御坂と別れていたかった、なんとなく。
「待ってよ、一方通行」
なのに、御坂が彼を呼び止める。青年は無言だったが、足を止めて振り向いた。
「相変わらず無愛想ね。打ち止めから聞いてるのとやっぱり違うじゃない」
「……」
一体あの少女は、自分の事を姉になんと話しているのだろうか?今度もっと徹底的に、プライバシー保護について教育してやらなければ。
そんな苦い顔の一方通行には構わず、御坂は喋り続ける。
「あの後ねぇ、私、打ち止めに叱られちゃったのよ」
「はァ?」
「あの人はミサカの彼氏なんだから、誘惑するようなことしちゃダメ!だって」
「……ぐ…」
自分は打ち止めの彼氏だし、打ち止めは自分の彼女だろう、どう考えても。
しかし、それをよりによって御坂美琴に面と向かって言われるとなると、気まずいと表現するには甘過ぎる心苦しさがこみ上げてくる。
「ヘンな顔…」
「何だとォ?」
「別に、私の前でも笑っていいのよ?」
「!!……」
「アンタのことは許せないし、アンタだって許されたいわけじゃないんでしょうけど…
それでも、私の前でそんな辛そうな顔し続けること、ないんだからね」
「……そォかよ」
「そうよ」
「こっちの気分が悪くなるんだから」最後にそう言って、御坂は一方通行の前から立ち去った。
- 794 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/07(水) 19:20:56.26 ID:R20xNf2P0
- 「たっだいまー!あなた居るー?
ポルシェちゃん帰って来てるね!ってミサカはミサカはさっそくドライブに行こうとデートのお誘いをしてみたり!」
夕方になって、賑やかな声がリビングへと近づいてくる。
一方通行は少女が扉を開ける前にこちらから接近し、廊下で打ち止めを抱きしめた。
「…どうしたのあなた……」
「……」
青年は口、耳、首へと情熱的なキスをして、少女がどうかその気になってくれるように促す。
「ん……あなた」
実は、打ち止めが妊娠する夢を見てからというもの、彼女を抱いていない。
だからだろうか、今、ものすごく欲しい。
打ち止めもそんな青年の心を汲んでくれたらしく、優しく背中に手を回してくれた。
「今日は…、シャワー無しな…」
「仕方ないなぁ…」
その日以来、一方通行は彼女が妊娠するという夢は見ていない。
- 795 :ブラジャーの人[sage]:2011/09/07(水) 19:29:14.49 ID:R20xNf2P0
- 打ち止め、Eカップになるの巻 完
めんどくせェから、一方さんの苦悩や迷いは全てなんとか乗り切りました、という脳内設定で始めたこのスレですが、
御坂さんを登場させるとなると、ちょっとシリアスにせざるをえない(シリアスだったよね?)
なぜ打ち止めが妊娠する夢を見たか、という一方さんの複雑な胸の内と
打ち止めの胸が念願のE!!ひゃっほォォォォーという話でした。
次回の更新は(略)
- 796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/09/07(水) 20:21:33.70 ID:2zqvk5X+0
- 乙!
おwwねwwえwwさwwまwwwwwwww
とか思ったけど、最後かっこよかくて安心した
仲良し御坂姉妹は二次限定だけど、やっぱり好きだわ
- 797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/09/07(水) 20:55:36.89 ID:B9aJhoS5o
- お姉様アホすぎワロタwwwwww
- 798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/07(水) 22:13:46.40 ID:1BJko9VDO
- 乙乙!
お姉様暴走し過ぎで、お腹痛い
- 805 :ブラジャーの人[sage]:2011/09/09(金) 21:56:54.26 ID:LKrtMwBn0
- 一方通行はリビングでコーヒーを飲みながらテレビを見ている、わけではない。
打ち止めが床にクッションを敷いてそれを見ているので、なんとなく自分も視線を向けているだけだ。
あまりテレビから流れてくる情報に意識が向かないのは、同じソファに座る客人が話し掛けてくるせいもあるだろう。
「いやぁー悪いな、いきなり押し掛けて。それにまたこの家の食糧が…。上条さんは恐縮しちゃいますよ」
「…ま、別にかまわねェよ。慣れてるといえば慣れてる」
「本当にごめん。こんなこと慣れさせてごめん」
打ち止めの横では、まったく同じ姿勢でインデックスがテレビを見ていた。
違うところといえば、彼女の前に置かれたおぼんの上には大量のおにぎりと、卵焼きやタコさんウィンナーなどの
簡単なおかずが山と積まれていることだ。しかもキッチンでは、新たなご飯を黄泉川の愛器三台が絶賛炊飯中である。
休日をまったり過ごしていた一方通行と打ち止めだったが、彼女が近くのコンビニに出掛けて帰ってきたら、
そこで会った上条当麻とインデックスがひっついてきたというわけだ。
「おじゃましまーす!」
「お、お邪魔しますです。ごめん来ちゃった一方通行」
「ただいまあなたー!素敵なお土産があるのよ!ってミサカはミサカはカミジョーとインデックスをお招きしちゃった」
「……はァ」
そうやって一方通行が、今日一回目の溜息をついたのが二時間ほど前。
- 806 :ブラジャーの人[sage]:2011/09/09(金) 21:59:04.12 ID:LKrtMwBn0
- 黄泉川は早速、魔の胃袋を持つインデックスのために大量のごはんを拵えた後、アンチスキルの仕事に出掛けた。
ちなみに芳川は、昨夜徹夜したので部屋で爆睡している。なので、もうすぐ炊きあがるご飯を誰がおにぎりにするのかといえば
「アレが炊けたらオマエがなンとかしろよ」
「はいそれはもう」
一方通行におにぎりを作らせるなんて恐ろしいこと、上条は考えてもいなかった。
「とうま、あくせられーた、出来れば私、おにぎり以外が食べたいかも」
「あー、随分そればっかりだったもんね、ってミサカはミサカは空になりそうなおぼんを見て驚愕してみる」
両手に花…ではなく、おにぎりを持ったインデックスが、遠慮なく青年二人に振り向いてリクエストする。
「……キッチンと冷蔵庫好きに使っていいから、オマエがなンとかしろよ」
「はい、はいそれはもう…、ありがとう」
しかし高い棚の奥や食器棚の上に、フライパンや鍋等の一般的な調理器具が押し込まれていたため、
それを取り出してやった一方通行も、なし崩し的に手伝うハメになってしまった。上条は戦々恐々である。
「ったく。結局俺もかよォ…」
(この一方通行に料理させるなんて、インデックスってすげぇな。そんで一方通行の手際の良さもすげぇな)
やがて、丼物やチャーハン、リゾットなど、ご飯を中心とした腹にたまるメニューが完成した。
さすがにこれらをリビングで食べさせるのは行儀が悪いので、一方通行がインンデックスを呼びに顔を出す。
(暴食シスターのことだから、てっきり匂いを嗅ぎつけてキッチンに突入してくると思ったンだがなァ…)
「オイ、出来たぞシスター。打ち止めもついでだから昼飯…」
「うん…」
「わかった、ってミサカはミサカは…」
二人の少女は、テレビに釘付けだった。
青年が何を見ているのかと画面を確認すると、先程までやっていたバラエティー番組ではなく、別のドラマが始まっていた。
「おい上条」
「あーちょっと待っててもうすぐ全部皿に」
「アイツら面倒臭ェこと言いだしたぞォ」
「んー?ステーキ食いたいとか?」
「もっと厄介だな」
- 807 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/09(金) 22:01:07.96 ID:LKrtMwBn0
- その日、打ち止めとインデックスが見ていたドラマは、数人の男女が山でキャンプをして大いに笑い、
アクシデントに襲われつつ交遊を深めるという内容だった。
再放送とはいえ、秋がすぐそこまで来ているというのに、なんと季節外れな番組だろうか。
まぁつまりは、そのドラマが面白かったので
「私も(ミサカも)キャンプ行きたい!」
とのことだった。
「キャンプかぁ…、楽しそうだけど季節外れだし、諦めろよインデックス」
「えー…もぐ」
「だいたい道具が要るんだぞ?テントや、アウトドア用の調理器具も無いし」
「うー…もぐもぐ」
四人は今、キッチンで昼食中である。もっともテーブルに並ぶ大量の料理は、主にインデックスのための物だったが。
打ち止めは彼女と共にキャンプに行きたいと訴えていたが、上条の話を聞いていると諦めないといけない気になってくる。
(やっぱり急に無理かなぁ、ってミサカはミサカは残念がってみたり)
先程のドラマで見た楽しそうな光景が甦り、リゾットをすくったスプーンを咥えてしまう。
- 808 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/09(金) 22:04:19.82 ID:LKrtMwBn0
- 「……」
一方通行は、テレビ画面を見つめていたさっきの打ち止めの様子を思い出し、また、今隣でスプーンを咥える彼女を観察していた。
この少女は昔に比べると、こういったわがままで彼を困らせることがめっきり減った。
気を遣えるようになったし、周囲に合わせる協調性も身に着けた。大人になったんだな、と喜ぶべきことなのだが…
「打ち止め、行きてェか?」
「え?」
「キャンプだよ」
複雑なものだ。打ち止めには、わがまま言ってもらいたい、なんて。
一方通行の赤い瞳に見つめられて、打ち止めはスプーンを口から離して笑顔を浮かべた。
彼が「連れてってやるから、遠慮すンな」と言ってくれていると理解したからだ。
「行きたい!ってミサカはミサカは優しいあなたに感謝の気持ちを表してみたりー!」
すでに食事を終えてテーブルに肘をついている青年に少女が抱きついた。
一方通行の目の前で、上条とインデックスが「あらあら、オアツイことウフフ」という顔をしているが、予想の範囲内なので我慢。
一方通行、本日二回目の溜息である。
「みんな一緒だよ?インデックス達もだよ?」
「分かってる分かってる。俺もドラマは少し見た…」
オマエ達も行けよ?という一方通行の視線を受けて、今度はインデックスが喜ぶ番だった。
「やったぁ!キャンプ行けるんだね!とうま!」
「お、おう良かったなインデックス!」
インデックスも打ち止めを真似して上条に抱きつこうと立ち上がる。
それを察知して上条が照れながらも体をよじらせて両手を差し出したのだが…
インデックスが手の一部のように持ちっぱなしだった箸が、容赦なく彼の背中に刺さった。
上条の悲痛な叫び声を聞き、一方通行は久しぶりに大声を出して笑った。
- 820 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/12(月) 21:55:41.47 ID:6zoTgGwM0
- 一方通行はパソコンの前に座り、一体どこにキャンプへ行くべきか検索していた。
この時期テントで寝るのはさすがに寒いだろうと、コテージがある所を探していたが、これがなかなか見つからない。
(ま、夏でも打ち止めを地面の上で寝かすなンてのは許さねェけどな)
キャンプはさっそく次の連休に行くことにした。打ち止め、上条、インデックスは必要な道具を買いに出掛けている。
「これで何でもとにかく買ってこい」と言って、一応年長者である上条にカードを渡そうとしたら、
「…いやいや、一方通行さん、黒いじゃないかこのカード」
「あ?黒いがどォした」
「怖くて触れない」
「……じゃ、打ち止め、オマエが持ってろ…」
「はーい、ってミサカはミサカは無駄遣いの誘惑と戦いながら行ってきまーす、と手を振ってみる」
「シスターの好きにはさせるなよォ?」
「む、それどういう意味?」
すでに玄関の外で待っていたインデックスが、耳ざとく会話に割り込んできた。
「食い物ばっか買うなってことだろ…」
いつもどおりインデックスに噛みつかれた上条達を送り出し、
一方通行はスポンサーとして、(打ち止めが)楽しく快適に過ごせるキャンプ地を探しているというわけだ。
「…お、ここがいいかァ……?」
釣りができる川がある。電気も通っている。水道も引かれている。コテージも新しく綺麗そうな写真が載っていた。
ここまでくると、もはやキャンプとは言えそうにないが、そこはスポンサーの強みで押し切るつもりだ。
(電気があるってェのが心強いな。よし、決めちまうかァ。大体打ち止めも、とりあえず大勢で騒げりゃ満足だろ)
ネットで予約できるようなので、そのまま手続きをした。あとは買い物に出掛けた三人をのんびり待とう。
携帯電話を手に取りながら、一方通行はソファに寝転んだ。
- 821 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/12(月) 21:57:53.71 ID:6zoTgGwM0
- 「やっぱキャンプといえばバーベキューかカレーだよな。…この時期にバーベキューはないか。よしカレーを作ろう」
打ち止め達三人は、大きなショッピングッセンターに来ていた。
上条の先導で、打ち止めとインデックスは買い物カートに次々とアウトドアグッズや調理器具を入れていく。
「ねーとうま、肝心の食べ物は?」
インデックスが大鍋を抱えて不安そうに聞いてきた。ちなみに目につくモノの中で、一番大きな鍋を勝手に選んだのは彼女自身である。
「食糧は今買ってもなぁ…。肉や野菜が痛むかもしれないぞ。出発する前日か、道中に買った方が新鮮だろ?」
「おぉ、さすがカミジョウだね。ミサカもあの人もキャンプなんてしたことないから、いまいち何をどう買えばいいか分からなくて…」
「いやー、さすがなんて言われるようなことじゃないし、これくらい」
「あー、楽しみだな!早く行きたいな!ってミサカはミサカは待ちきれない衝動をスキップという行動で表現してみたり」
嬉しそうな打ち止めに対して、ちょっとつまらなさそうなインデックス。上条はそんな彼女の背中を軽く叩いて微笑んだ。
「カレーは夜のメインだけど、朝食なんかは簡単なインスタントにしようと思ってるんだ。
あと、おやつも欲しいだろ?それは今買ってこうな」
「…うん!」
彼に背中を押されるようにして、インデックが食糧品売り場に駆け出す。上条と打ち止めも彼女の後についていった。
- 822 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/12(月) 22:00:49.93 ID:6zoTgGwM0
- 手に持ちきれない荷物は宅配を依頼した。軽いものだけ持って、一方通行が待つマンションに戻ってきた打ち止め達。
エレベーターを降り、通路に出ると、我が家の玄関の前に誰かが立っていたので、
打ち止めが足を止めて背後の上条とインデックスを振り返った。二人もその人物に気づいて顔を見合わせる。
その誰かは携帯電話らしきものを手にしながら、玄関の前をせわしなくウロウロし、頭を掻いたり、腰に手を当てたり。
近づいて行くうちに上条が「なんだ」と気安い様子で駆け寄っていった。
「おーい!浜面―!」
それは浜面仕上だった。彼は上条達に気づき、こちらからも近寄る。
「よぉーっ、上条久しぶりだなぁ!打ち止めにインデックスも…」
「あれー?ハマヅラうちの前でなにしてたの?ってミサカはミサカは不審者じゃなくて良かったと安堵してみる」
「一方通行に呼び出されたんだよ!それなのにアイツ居ねぇのか?誰も出てきてくれないし、アイツの携帯もつながらねぇし…。
今打ち止めに電話しようかと思ってたとこ」
「あくせられーた、出掛けたのかな?」
インデックスが、途中で買ってきたホットドッグを頬張りながら玄関を覗き込む。
「あの人が何も言わずにお出掛けなんてしないと思うけど…」
打ち止めがロックを開けて部屋に入っていく。一行の最後尾となった浜面が、前を歩く上条に問いかけた。
「なぁ、お前らぞろぞろ何してたんだ?それに大荷物だし。…俺、なんで一方通行に呼ばれたか知ってる?」
「一方通行お前に何も言わなかったのか?」
「あいつはいっっっつもそうだぜ…」
「あはは、まぁ今回は悪い話じゃないと思うから、そう機嫌悪そうな顔すんなよ」
二人がリビングに辿りつくと、ソファの周りに少女達が集まって、眠りこける一方通行を見降ろしていた。
打ち止めに頬をつつかれ、インデックスには足の裏をくすぐられている第一位。浜面の不機嫌顔は、さらに険しさを増した。
「ン…、あー?なンだァ?」
「なんだ、じゃねえだろぉ!人を呼び出しておいて優雅にお昼寝とか!俺が不審者になるとこだったんだからな!」
「……、そォだっけか…」
「もう第一位キライ!」
- 823 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/12(月) 22:05:09.32 ID:6zoTgGwM0
- 打ち止めに淹れてもらったコーヒーを飲み、ようやく一方通行の意識がはっきりしてきた。
その頃には浜面も他の面々にキャンプの計画を聞き、その楽しそうなレジャーに自分も誘われたことを知る。
「何だよぉ、そうなら電話で先に言えよ一方通行、このぉ」
「タキツボも連れて来てね!ってミサカはミサカはハマヅラにお願いしてみる!」
「おう、もちろんだぜ。いいなぁ、青春してる感じがする…」
「はまづら達も誘ってあげるんだね。やっぱり口は悪いけどあくせられーたは優しいなぁ、ね?とうま」
「そうだな。でもそう言うのはもうやめてくれ。一方通行がなぜか俺を睨んでくるんだ…」
一方通行はカップの中身を飲み干してテーブルに置く。プリントアウトした資料もその隣に並べ、まず上条が手に取った。
「行き先はそこだ。もう予約した」
「へぇ…、いたれりつくせりだな。サバイバル的な事は出来なさそうだけど、キャンプ初体験者もいるし丁度いいよ。でも随分遠いな」
「おォ、だから浜面呼ンだ」
「え?それどういう意味?」
友情っていいな、と噛みしめていた浜面が、滝壺へのメール作成を中断する。
「オマエが運転手」
一方通行は学園都市内でしか車を運転できない。上条も免許を持っていない。
「あそっかー、だからはまづらに運転してもらうんだ」
交通手段を考えていなかったメンバー達が、がうんうんと頷いた。
「……やっぱり第一位キライ!行くけど!」
- 834 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/15(木) 03:36:28.30 ID:j5fGotIi0
- 出発の日、八人乗りのレンタカーの前に一行は集合した。荷物はすでに男連中(除く一方通行)によって積み込まれている。
インデックスはいつもの白い修道服ではなく、動き易いパンツルックだった。
打ち止めも同じようにジーンズを履き、髪をポニーテールにしての張り切りようだった。
「二人ともやっぱりいつもと違うカッコでやる気満々だな。ほら、滝壺も張り切ってるだろ?」
浜面が連れてきた滝壺の背に手を添えて、少女達に挨拶する。
他の男性陣達も、その様子を見ていたが、普段通りのピンクのジャージを着た滝壺に首を傾げるばかりだった。
「いつもとおんなじに見えるんだけど?ってミサカはミサカは疑問の眼差し…」
「よく見ろよ。濃いだろ?ジャージの色が」
「ぶい」
浜面に紹介されて、滝壺はビシィっとブイサインをかました。言われてみれば、ピンクはピンクでも色が若干濃い気がする。
「………」
「……じゃ、行くかァ…」
「そ、うだな。早く出発して、その分遊ぼうぜ。浜面、運転よろしく」
「おう、一人であそこまではキッツイけど、しょうがねぇからな…」
- 835 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/15(木) 03:38:20.84 ID:j5fGotIi0
- 六人は車に乗り込み、ナビを見ながらの浜面の運転で、順調に目的地に向かった。後部座席では、トランプに興じる男女四人。
そう、滝壺だけは助手席で運転手の恋人の横に居てあげたのだった。
「はまづら、お茶飲む?」
「あぁ…、ありがとな滝壺。後ろの四人と違ってお前はほ」
「たきつぼ、一緒にババぬきやろう!さっきからあくせられーたばっかり勝って悔しいんだよ!」
「顔に出過ぎンだよ、どいつもこいつも…」
「わかった。私にまかせてインデックス。ぽーかーふぇいすには定評がある」
「どこ評だそれ!?っつーか白コンビに俺の嫁さんあっさり攫われたし!」
孤独に耐えるしかない浜面の安全運転のおかげで、予定より早くにキャンプ場に着いた。
受付でコテージの鍵を受け取り、まずは荷物を置きに行く。
上条は男部屋のクローゼットにてきぱきと荷物を入れ、足の悪い一方通行の物も代わりに彼の荷物もしまってやった。
「二部屋取ったんだな。俺はてっきり一つのコテージに六人泊まるんだと思ってたよ」
(上条はまぁいいとして、浜面を打ち止めと同じ部屋に寝かせる気にはならねェ)
「なんで一方通行は俺を無言で睨んでるんだろう。言わんとしてることは分かってるけど、あえてそう疑問を口にしてみる俺」
それは浜面を知る者には常識であること、彼がバインバイン派だからである。
- 836 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/15(木) 03:41:36.47 ID:j5fGotIi0
- 「よーし、晩飯のカレー作りにはだいぶ時間があるからな。なんかして遊ぼうぜ」
「えーと…、パンフレットによるとアスレチックがあるらしいけど、九月までで閉鎖だとよ。
池とかの水に濡れると寒いからか?いやん濡れちゃったぁっていう女子が見られるのは夏だけかぁ…」
キャンプを経験したことがある上条と浜面。自然と引率の先生のような役割を買って出ていた。
集合した六人は、さてこれから何をしようかと相談中である。
「アスレチックはこの人の足じゃ出来ないから、どっちみち却下だったもん、ってミサカはミサカは
閉鎖してて良かったといろんな意味で安心してみる」
「…能力使えばブッチギリですけどォ」
「あくせられーたが能力の無駄使い出来なくて良かったんだよ。
さっき看板に山の中を歩ける遊歩道があるって書いてあったし、そこはどうかな?」
「それもコイツの足にゃ負担だろ。そういえばキャンプなんて動いてなんぼな遊びしかないな」
そう浜面に言われて、打ち止めはハタと気づく。一方通行は足が悪いのだった。
忘れたわけでは無かったが、楽しみにしていたキャンプのために、うっかりしていた。
この元気すぎるメンバーで、大自然の中、一緒に何をして遊べるというのか。
分かりやすくしょんぼりした打ち止めの頭を、一方通行がおなじみにポンポンと撫でる。
「釣り」
「はい?おつり?」
「すぐそこの川で釣り出来ンだとよ。竿もレンタルやってる」
「お、ホントだ。パンフにも書いてあるぜ」
「釣りなンてシロウトで何の保証もないけどな。オマエらはシスターと一緒に行ってこいよ。俺は河原でノンビリさせてもらう」
滝壺も、打ち止めの頭を撫でた。
「ラストオーダーもアクセラレータと一緒に釣りする?」
「…そうしてもいい?」
打ち止めは他の面々を見回し、最後に一方通行の顔色をうかがう。みんなニコニコしていたが、彼はどうだろうか?
「別にいいけど、オマエ魚好きなクセにいいのかよ?」
「ん?ミサカは金魚ちゃんや大きい金魚ちゃん(鯉)が好きなわけであって、
海や川の魚はおいしく食べるものだと思ってるよ?ってミサカはミサカは情報を訂正してみる」
「なンだその区分け…。初めて知ったぞ」
(あなたの方がもーっと大切で大好きだし!)
- 837 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/15(木) 03:45:11.04 ID:j5fGotIi0
- そういうわけで、一方通行と打ち止めの二人は、河原の大きな岩の上に座って、初めての釣りに挑戦していた。
釣り針につけるグロテスクな餌は、打ち止めに代わって一方通行が付けてやった。彼もあまり気持ちのいいものではなかったので、
何度もやるのは勘弁してほしいと密かに思っていたのだが、それは杞憂で終わりそうだった。
「ぜんっぜん釣れないねぇ…ってミサカはミサカは釣りの難しさを実感してみる」
「だァから所詮シロウトだってンだ…。諦めろ」
「でもでも、カミジョウが、釣りたての川魚はめちゃめちゃ美味しいんだって言ってたよ?
ミサカはそれをインデックスに食べさせてあげたいの。あ、あなたにもだからね?」
「おまけみたいに言われてもなァ…。俺肉のがイイし」
「魚だって立派な魚肉…、ちょっと、あなたってば…。ここで?」
一方通行は石で釣り竿を固定し、少し強引に打ち止めの太ももに頭を乗せてきた。
彼女も戸惑いの声をあげつつも、結局青年が良い具合になるように態勢を整えてあげる。
かなりシーズンオフということで、このキャンプ場には客はほとんどいないようだったし、
目撃される危険性がある上条当麻は、今は山の中。岩場の陰になっているようなこの場所で、こうしてくつろいでも支障はないだろう。
「大丈夫?背中痛くない?」
「平ェ気」
そういうつもりで用意した訳ではなかったが、一方通行はコテージのベッドから毛布を持ってきて、それを岩の上に折って敷いていた。
汚れたら川で洗濯すればいいと思って、遠慮なく有効活用させてもらっている。
ベクトル操作が洗濯にも大いに効果を発揮するのは、打ち止めのおかげで証明済みであった。
- 838 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/15(木) 03:49:10.95 ID:j5fGotIi0
- 「毛布、汚れちゃうかな」
「汚れたら洗うし、浜面に使わせるから気にすンな…、それより…」
「はいはい分かってますぅ、ってミサカはミサカは釣りを放棄してみたり」
「ただ川を睨むより、こっちの方がいいだろォ?」
打ち止めも石で竿を固定し、足の上から自分を見上げてくる青年の前髪を指で梳いた。
確かに硬い釣り竿より、この触り心地のよい髪を撫でている方が楽しいかもしれない。どうせ釣れてないし。
せせらぎ、というには大きな川の流れの音。鳥のさえずりと虫の声。
気温は高くないが、よく晴れた空からの温かい日差しが、木々の隙間から降ってきている。
こんな自然の中で、好きな人とのんびり、くっついて過ごせるなんて…。来て良かった、と打ち止めは満足していた。
(あなたもそう思ってるよね?ってミサカはミサカはキモチよさそうなあなたの顔をじっと見つめてみる…)
一時間近くたっても、二人の竿に釣果はなかった。別に釣れなくても、充分楽しい思いはしているが。
膝枕される人と、する人が交代して、今は打ち止めが彼の足に頭を預けている。
ただ、脇腹を下にして川に顔を向け、ついつい糸が垂れ下がる辺りを見ずにはいられなかった。
「いくら見てもしょォがねェだろ…」
「でもぉ、いつパクってするか分からないじゃない」
一方通行にしてみれば、もっと自分に意識を向けてほしいと主張したい。しかしそんな事は言えない。
つくづく魚類には良い思い出がないな、と、魚にとっては迷惑な逆恨みまで抱いてしまう。
(確かに、やっぱり釣れなかったなって、あの三下どもに呆れられるのはしゃくかもしれねェがなァ…。
そォだ、これ…いいンじゃねェか…?)
そこで、ふと素晴らしい思いつきが浮かび、コテージに戻る前に実行してみることにした。
しばらく少女のまとめられた髪や耳を弄っていたが、そろそろ戻る時間が近づいてきたので彼女を起こす。
バサバサと毛布についた砂や葉っぱを振るい落とし、帰り仕度を整えた打ち止めを、川の水に触れられる場所から呼んだ。
「おい、ちょっとこっち来い」
「?なぁに」
「いいから…。水に手ェ漬けてみな」
「?」
- 839 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/15(木) 03:51:02.45 ID:j5fGotIi0
- 彼が何をしたいのか良く分からないが、打ち止めは言われるままに右手の先を水にひたした。
一方通行はしゃがんだ少女の肩に手を置き、もう片方でチョーカーのスイッチを切り替える。
「!?あぁーっ?」
一方通行は打ち止めに流れる微弱な電気を操作し、それを強力に増幅させて水の中に流した。
なんの音もしなかったが、すぐにプカ…プカ…と魚が腹を向けて水面に浮かんでくる。
青年がこんこんと足元を蹴るたびに、それらが打ち止めの頭上を越えてバケツの辺りに落ちていった。
「え?え?もしかして電気で?」
「そォそォ。すげェうまくいったなァ?こンだけありゃァシスターも喜ぶンじゃねェの?」
「おぉ~、何か釣りってカンジがしないけど、ここは素直に大漁だー!ってミサカはミサカは万歳してみる!」
バケツ一杯の、腹を見せて気絶、昇天した魚たちを見せられ、インデックスはとても喜んでくれたのだが…
「それはビリっていう禁止漁だぁぁぁ!しかも打ち止めにやらせるなんて何考えてんだよ!
少し考えればヤバイ方法だって分かるだろぉぉ!?」
一方通行はかなり久しぶりに上条に説教されてしまうのだった。
- 848 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/17(土) 22:21:14.98 ID:fjCD/fXC0
- 「……怒られちゃったね、ってミサカはミサカはカミジョウのお説教にぐったりしてるあなたを励ましてみたり」
コテージに一番近い炊事場の椅子に座り、一方通行は両手両足を投げ出している。
隣に打ち止めも腰を下ろしていた。自分が魚を釣りたいと駄々をこねるようなことを言ったせいだと、少し責任を感じているのだ。
こうして彼女に慰められるのはカッコ悪いので、彼も早々に立ち直りたいと思っているのだが、
上条の説教によって受けたダメージがまだ抜けない。
(クソォ…、あンなに怒らなくてもいいじゃねェかよ…。ビリ、だっけか?知らねェっての)
やがて他女性陣二人もやってきて、細くて白いのの周囲はハーレムと化す。
「元気出して、あくせられーた。私はすっごく嬉しいんだよ。魚たくさん取って来てくれてありがとう」
「今日の夕飯が豪勢になったね、楽しみにしてるから。かみじょうとはまづらも、美味しく料理するために今かまどを作ってる」
「ンだよ…、結局食うンだな?」
「だっていくら違法でも、もうそうするしかないじゃない、ってミサカはミサカは
食べ物を粗末にしちゃだめだという黄泉川の教えを思い出してみる」
一方通行は調理台に預けていた体を起こし、少し離れた場所でコンクリートブロックと自然石を組み合わせている野郎どもを眺めた。
一方通行曰く体力馬鹿の彼らは、それぞれテキパキと作業をこなしている。
ごはんとカレー、さらに魚のために、かまどひとつでは足りないのだろう。
- 849 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/17(土) 22:25:41.34 ID:fjCD/fXC0
- 「やっぱこの量を焼いて煮るには、火元が一個じゃ足りねェよな」
「ああ、アレは…コレもあるから。焼いて食べよう。カレーにも入れてほしいな」
そう言って滝壺がどさっと台の上に乗せたビニール袋。その中にはキノコがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
さらにインデックスも同様の袋を置く。
「うっわぁー…、スゴイねこのキノコ。キノコのこのこ…。どうしたのこれ」
「…、あァ、オマエら山で採って来たンかよ」
「そうそう。つってもほとんどそこのシスターが一人で見つけたんだけどな…」
土木作業に一区切りつけた浜面が汗を拭き拭きやってきて、袋から無造作に一掴み取り出し、打ち止めの前の台にコロコロと並べた。
その様子をじとりと見ていた一方通行に、一応断っておく。
「言っとくけど、これは違法じゃねぇからな?
山歩いてる途中で会ったここの従業員が、採ってもいいっつーからキノコ狩りしてきたの。合法なの」
「ふン」
「でな、採ってもいいけど、毒キノコにあたっても責任はとれないってことで、打ち止めさんの出番です」
「え?ミサカ?」
毒キノコと食べられるキノコ、ミサカネットワークで調べてもらおう、という上条の提案により、
山組の四人はインデックスの誘導のもと、手当たりしだい採って採って採りまくってきたのであった。
「なるほど、えーとちょっと待っててね。キノコ…、菌類に詳しいミサカはいるかな?あ、いたいた……。
では今から鑑定を始めまーす」
「何でもアリだなァ、ミサカネットワーク。何号か知らねェけど」
「何でもアリなのはあなたもじゃないの、ってミサカはミサカはベクトル操作の万能性を論じてみたいけど、
高知のミサカが早くしろとうるさいから諦めてみる」
目の前に差し出されるキノコを次々に鑑定していく打ち止め以外の四人は、
「可」「不可」という打ち止め(高知ミサカ)の判断でそれらを選り分けていく……はずだった。
- 850 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/17(土) 22:29:25.18 ID:fjCD/fXC0
- 「可、可、可、可、可、可、可、可……もーかーかーかー」
「すごい…、さっきから可しかないよはまづら。今日はキノコパーティーだね」
「えぇー、コレえぇー…?怖くねぇ?本当かよ、テキトーに鑑定してるんじゃ…」
「いや…、このシスターならあり得るだろォな…」
「このミサカも他のミサカ達も今衝撃を受けてるところ…。数人のミサカによる多重判定の結果だよ」
「可」しかないキノコの山にが調理台の上に築きあげられていき、ついに最後のキノコも「可」で鑑定は終了。
一応「不可」のために新品のビニール袋を用意していたが、それは無用の長物となる。
その成果に「どうだ」と鼻が高いインデックスと、半ば茫然とするその他。そこへ軍手を持った上条も合流した。
「お、やっぱりキノコは全部食えるみたいだな。エライぞー、インデックス。よくやった!」
「でしょ?わーい、褒められちゃった」
「まるでこの結果が分かってたような言い草だなァ?」
「ん?まぁこういうことにかけて、インデックスの能力は間違いは犯さねぇと思う」
「能力者じゃねェだろォが」
つんつん、と滝壺が一方通行の背中の服を引っ張る。振り向いた彼に、彼女は大まじめな顔でこう言った。
「茸追跡…!(マッシュルームストーカー…!)」
「………」
- 851 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/17(土) 22:32:57.53 ID:fjCD/fXC0
- 秋の山の夕暮れは早い。かまどが出来たので、六人はそれぞれ夕食のために調理を始めた。
上条はカレーのダシ取りに、浜面は、はんごうで飯炊きに…
「なぁ、何で炊飯器があるんだよ」
「はんごうだけじゃ足りないかもしれないから、あの人が心配して持ってきたんだよ、ってミサカはミサカは浜面に教えてみたり。
コテージのコンセントに刺してくるね」
「なんであの第一位は、インデックスの胃を満たすことに一生懸命なの?」
かまどの前で灰をかぶりながら、浜面は慣れないはんごう飯に臨む。
しかしコテージの中では学園都市製の炊飯器が、美味しいに決まっている銀シャリを全自動で作っていると思うと、なにか腑に落ちない。
女性陣と一方通行は、炊事場の屋根の下で肉、野菜やキノコを洗って切っていた。時々「大きさを揃えろォ」等の、先生の指導が入る。
「私は魚焼いてくるね。ラストオーダー、火点けてくれる?」
「はーい、ってミサカはミサカは大活躍!」
滝壺が魚を持って浜面の横のかまどに歩いていく。打ち止めもその後を追いかけ、電気で燃料と薪に点火して、すぐに戻ってきた。
「二人の邪魔しちゃ悪いからさっさと退散してきた、ってミサカはミサカは気を使ってみたり」
「…それって、もしかして私に言ってるのかな?」
たった今先生に包丁を取り上げられ、ふてくされたインデックスが、もっと頬を膨らませる。
一方通行は眉を片方歪ませただけだったが、打ち止めは慌てて弁解を始めた。
「違うってば。ハマヅラとタキツボが仲良さそうにしてたから」
「だから何言ってもそう聞こえるんだよ。いいもん、もうカレーの具は切れたから、私はとうまのトコにこれ持ってこうっと」
ザルにどっさりと具を乗せて、インデックスも炊事場から立ち去った。
上条に駆け寄って行く彼女の足取りは楽しそうで、打ち止めはホっと胸を撫で下ろす。
「結局カミジョウの傍に行く口実だったのかな?ってミサカはミサカは女優なインデックスにからかわれたのかと思ってみる」
「単に早くカレー食いたいだけじゃねェか?」
「そんなわけないじゃない、って自信満々に反論できない…」
一方通行がデザートに用意した果物をつまみ食いして、使った調理器具を洗っている。
キャンプ場へ向かう道中のパーキングエリアで昼食を取って以来、ほとんど何も食べてないので空腹だった。
打ち止めも、彼の隣で洗い物を手伝うフリをしてリンゴを頂く。
「ミサカ達は向こうのテーブルでお皿の準備してよっか」
「ン…、その前に俺もリンゴよこせ」
「はいどーぞ」
一方通行は、かまどの前のメンバーがこちらを向いてないことを確かめてから口を開けた。
丁度今、手に泡がついてるから仕方ないのだ。
- 852 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/17(土) 22:35:52.38 ID:fjCD/fXC0
- 炊事場の周囲には、丸太の椅子が置かれた食事用のテーブルが点在している。
屋根が無い物もあったが、すでに辺りは薄闇が迫ってきていたので、電灯のある屋根付きのテーブルを選ぶ。
「はぁーい、お待たせー。メインディッシュのカレーですよー」
「わーいわーいわーいわーいわー」
「やかましィィ!静かに待ってろォ」
上条が大鍋を抱えて、既に魚とキノコ、サラダ等が並べられているテーブルにやってきた。
インデックスがご飯の乗った皿を持ってカレー(上条)の周りをスキップで周回している。
「煮込む時間は少なかったけど、しっかりダシ取ったからウマイぞー。はい皆お皿出してちょうだい」
「上条が食堂の給食おばさんみてぇだ。あ、俺大盛りにして」
「ミサカもー」
「よしよし、たくさんあるから遠慮すんなよ。一方通行も大盛りでいいな?」
「おォ」
全員の前にカレーが行き渡ったところで、上条の号令により夕食がはじまった。
若い彼らとインデックスによって、山と積まれた料理がどんどん減っていく。
「はまづら、はんごうのご飯上手に出来たね。全然焦げてないよ」
「滝壺が食べてるのは実は炊飯器で炊いたヤツなんだ…。でも俺が炊いたのも別に焦げてねぇぞ?ほら」
「この魚ってお塩しか振ってないんでしょ?カミジョウの言ったとおりだ!おいしい~。
海の魚と違うんだね!ってミサカはミサカは法を犯しておきながらも後悔はしない」
「キノコもイケるんだよ。醤油つけてるだけだけど美味しい!」
「それに関してはシスターが合法で活躍したからなァ。ホレ、こっちはバター醤油味だ、食え」
- 853 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/17(土) 22:39:09.03 ID:fjCD/fXC0
- 鍋の中身が半分くらいになった頃、浜面が席を立って、コテージの中から小さなクーラーボックスを持ってきた。
その中から缶飲料を取り出しテーブルに並べていく。
「やべぇ、キノコと魚のせいだ。今飲もう」
「おい馬鹿。これビールじゃねェか」
「チューハイもあるよ?」
「酒には変わりねェだろ」
「一方通行は飲まないのか?」
当然のように上条がビールを手に取り、いい音させて封を切る。彼もアルコールが持ち込まれていたことを知っていたようだ。
未成年のインデックスと打ち止めの前にはジュースが配られた。もちろん一方通行にはビールが。
「まァ…、飲む…」
「あなた飲み過ぎないでね?ってミサカはミサカはいつかの浴衣で拘束事件を思い出してみる」
「今なんかすごいフレーズ言わなかった?」
「気に、す、ン、な」
一方通行に睨まれて、まだ飲んでないのに体の芯を冷やした浜面であった。
「はぁ~…お腹いっぱい。外で食べるごはんって結構いいかも」
「インデックスがこんなに幸せそうな顔してる…。一方通行、違法だけど魚といい、そもそもこのキャンプの企画自体、ありがとな」
「別に、シスターを満足させるためだけに来たわけじゃねェぞ」
(いいや、お前はかなりそこに力をかけてる、どう見ても)
さっき睨まれたばかりなので、浜面は心の中だけでツッコミを入れた。
その彼の肩を、滝壺がポンと叩く。
「ん?どした?」
「ここって、お風呂はどうなってるの?無いわけじゃないよね。パンフに書いてあった?」
「あァ、風呂なら…、コテージの鍵受け取った近くに個室のシャワーが」
「温泉だよ」
「はァ?」
「温泉があるの!?ってミサカはミサカは耳より情報に食いついてみたり!」
- 864 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/20(火) 13:56:08.07 ID:pps1sSyS0
- 温泉。それは一方通行と打ち止めにとって、特別な思い出として心に残っている。
まだ二人が一線を越えていない夏の日、一線を半分くらい踏んで、かなり大胆で赤裸々な行為をしてしまったあの秘め事。
打ち止めは、素敵な楽しい二人の愛のメモリーだと思っているが、一方通行にしてみれば、封印するべき恥ずかしい黒歴史である。
「この馬鹿、温泉なンてどこにあンだよ」
「ここにはねぇけど、ほら、キャンプ場に登ってくる途中の坂にあったじゃん」
あったっけ?と頭をひねる浜面以外の五人。
「そりゃそうだろうなー!お前らその時ウノに夢中だったもんね!俺が、『あ、温泉があるなぁ』って話しかけても総無視だったもんね!」
「ごめんね、はまづら…。寂しかったんだね」
「お前だけはいいんだよ、滝壺…」
滝壺が彼の背中をよしよしと撫でる。他の面々は温泉がすぐ近くにあることを知り、今日の汗を流す楽しいイベントに思いを馳せた。
一方通行だけは、無邪気にはしゃぐ打ち止めを不機嫌そうに横目で見ていたが。
- 865 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/20(火) 13:58:45.49 ID:pps1sSyS0
- 「そっか、そんなに近くに温泉があるなら行くか。インデックス達も別にいいよな」
「温泉なんて面白そう!行くー!」
「温泉は最高にキモチいいのだ、ってミサカはミサカは行くに決まってると挙手してみたり!」
「おい、浜面、そこまでどれくらい距離あるンだ?」
「んー、二キロくらいか」
「運転手ゥー、今ビール飲ンでたよな?」
「散歩と思って歩いても平気だよ。アクセラレータは飛んでくればいいんじゃない?」
もちろん滝壺も浜面達に賛成だ。なんとか温泉を回避したい一方通行はそれでも反論を試みる。
「こンな暗い山道…、絶対転ぶぞ。特に打ち止め、オマエはなァ」
「平気だもん。もう昔のようなおチビじゃないんだから」
「あと三下は崖とかガードレールの下に落ちる」
「え?断言?俺転落すること必至なの?」
「だーいじょうぶだって。ビール一本なんて二時間もありゃ抜けて運転できるって。どうせ今は胃が爆発しそうで風呂に入る気はしねぇし」
「そうだね。食べてすぐお風呂に入るのは体に良くないって、こもえが言ってたもん。さすがに私も、今日はお腹を休憩させたいんだよ」
五対一で、明らかに分が悪い。
しまいには打ち止めの「あなたがハマヅラに能力使ってアルコール分解してあげれば車で行けると思うの」発言で温泉行きは決定となる。
(こォのクソガキィ…、誰のせいで俺が反対してやってるか分かってねェな…)
- 866 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/20(火) 14:01:46.07 ID:pps1sSyS0
- 今、六人は女子部屋と男子部屋に分かれて、食後の休憩と温泉への準備をするために過ごしている。
ポーチにお風呂セットや着替えの下着を詰めていた打ち止めの携帯電話が鳴り、確認すると一方通行からメールが届いていた。
(??『ちょっと外に出てこい』?直接入って来てミサカのこと呼べばいいのに、ってミサカはミサカはあの人の行動を不審がってみたり)
「あれ?らすとおーだー、どこに行くのかな?」
「あの人が呼んでるからちょっとお外に行くだけー」
「ふーん」
一方通行は、誰にも知られたくない事情があったので、わざわざメールで恋人を誘い出したというのに、
打ち止めはそんな彼の心理を少しも分かっていなかった。
しかしそれを知ったからといって、黄色い声を上げてはやし立てるようなインデックスと滝壺でもなかったのである。
「いたいた。どうしたのあなた…」
「いいから…コッチ来い…」
コテージの壁に隠れるように立っていた一方通行に手を引かれ、ただでさえ少ない宿泊客の気配が、さらに遠い隅の一角まで連れていかれた。そこのコテージの鍵を、一方通行が能力を使い開ける。電気を点け、打ち止めを部屋の中に入れてから扉を施錠した。
部屋の間取りはまったく一緒だが、当然無人なはずのこの部屋のベッドはマットレスだけで、布団はない。
- 867 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/20(火) 14:08:33.18 ID:WWvJIgRO0
- 「もう、いいかげん何をしたいか教えてほしいな、ってミサカはミサカは黙りっぱなしのあなたに問いかけてみたり」
「分かれよ…」
「えー…」
バツが悪そうな青年の顔と、すぐ横のベッドの間で視線が踊り、打ち止めの頬がポっと赤くなる。
「…っ、い、今!?ここで!?ダメダメ!昨日シたじゃないっ。もうあなたってば狼さんなんだから、」
「違ァう!」
打ち止めがチョップの振り落ちた頭をさすっている隙に、一方通行によって彼女の服はあっという間に前をはだけられてしまった。
「あ!違わないじゃないっ、やっぱりそうじゃない!」
「このアホ!昨日のこと覚えてて、どォしてコレは覚えてねェンだよ!?」
「……おぉ。…これはいけませんどうしよう」
「ったく…」
一方通行が指さした個所、つまり打ち止めの柔らかな胸に、昨日の行為の証が色濃くバッチリと残っていた。
先ほど心中で『誰のせいで…』と悪態ついていたクセに、結局は自分のせいだったわけである。
このキャンプ場の入浴施設は、個室のシャワールームしか無いことを調べていたので、
昨日は遠慮なく彼女の肌を存分に味わったのが裏目に出た。何より浜面が裏目すぎた。
「あとココとか、コッチも…」
「や、ちょっと」
バナナの皮でも剥くようにして脱がされ、打ち止めはもう腕に服を引っかけているだけの状態だ。
いつものセーラー服やワンピースと違い、ボタンで留められたシャツと、ファスナーのパーカーは脱がせやすい。
さらに肩をトンと押され、打ち止めはマットレスの上に座らされた。
- 868 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/20(火) 14:12:39.01 ID:WWvJIgRO0
- 「足の方もつけたなァ確か…」
「えぇー、ジーパンも脱ぐの?明るいしちょっと恥ずかしいんですけど」
「明るくないと見えねェンだよ」
「見てどうするの、えっちぃ」
もちろん二回目のチョップをくれてやった。
「キスマークなんて所詮は毛細血管からの出血だ。ンなモン、ベクトル操作ですぐ消せる」
「なんてムードのない言い方。でも、なーんだ、そういうつもりだったのね、ってミサカはミサカは狼さん疑惑を抱いたことを反省してみる。
よかったぁ、これで安心して温泉入れるよ…」
青年は電極のスイッチを能力使用モードに切り替え、とりあえず胸元の痕から処置していく。
指を何回か肌の上に滑らせるだけで、ほとんど色が消えていった。
「これも外せ」
「…ブラも?」
「……この下が一番ひどいンだ」
一方通行に言われたわけではないが、何故か自然とベッドに寝転がってしまう打ち止め。
わざわざ夜に、煌々と電灯を点けて情事に及んだことはなく、思いがけず裸を晒すことになってしまった。
しかも理由が、せっかく(?)つけたキスマークを消す、という、普段と逆の行いで違和感満載だ。
(あら?別にベッドに寝なくてもよかったんじゃない?ってミサカはミサカは、これも一種の条件反射なのかと自己分析してみる)
(お、寝たな。よォしこれでジーパン脱がせやすくなったぜ)
服からはみ出すような場所には、痕をつけないように気を付けている。だから決して純粋な欲望で、とか、
趣向が偏っているから胸に最も痕が多い、というわけではない。首やうなじにできない分、どうしてもここにつけてしまうのだ。
そう言い訳しながら、一方通行は両手で作業を進めていく。
作業というには、あまりに官能的で、扇情的で……そそられる。
「クソ…、オマエ…、キャンプから戻ったらなァ…おい」
「…、うん…」
(やっぱり狼さんでしたぁ…っ)
- 877 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/23(金) 01:00:52.26 ID:/nAryvtw0
- 「よし、じゃあやってくれ一方通行。い、痛くしないでね?」
「……ろしてェ…」
レンタカーの前に集まった六人。
一方通行は浜面の体内に残るアルコールを分解するために、電極のスイッチを切り替え、ガシィっと彼の顔にアイアンクローをかました。
「きゃぁぁぁあああ!痛くしちゃイヤって言ったのにぃぃぃぃぃ第一位のいじわるぅぅぅ!上条コイツ止めてぇぇー!」
「うるせェェ!」
(オマエのせいでオマエのせいでェェェ!)
もちろんアルコールを分解してやるのにアイアンクローをする必要はない。
一方通行は個人的な恨みを込めて、ギリギリと浜面のこめかみに圧力をかけた。
「ごめんな浜面。やっぱり飲酒運転は良くないし、万が一事故しちゃシャレになんねぇから耐えてくれよ」
頼みの幻想殺しは出番を拒否した。殺したい幻想でもなかったし。
「という訳だおらァァァ!」
「いたいいたい本当にイタイって第一位のドSぅぅぅ!」
悲痛な叫び声がこだまするが、いつものことなので心優しき乙女たちは平然と落ち着き払っていた。
滝壺は「はまづら頑張れ」という視線で彼を応援し、インデックスに至っては車内に荷物を積み始めている。
(この人はよくSって思われがちだし、まぁ実際Sっぽいんだけど、ミサカにはめちゃくちゃ優しいんだよねー。
ミサカが痛がること、嫌がること絶対しないし、ってミサカはミサカは心中でノロケてみたり)
- 878 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/23(金) 01:04:15.43 ID:/nAryvtw0
- 浜面の運転する車で坂を下ること数分、来る時にはまったく気づかなかったが、確かに温泉の看板がある。駐車場へ車を停め、入口に立った六人だったが…
「誰もいないみたい…、営業してるのかな?」
「電気は点いてるけど、く、暗いし…ちょっと怖い、ってミサカはミサカは怖気づいてみたり」
他に車は停まっていなくて、人の気配もしないが、照明が点いてるからには営業しているのだろう。
じゃりじゃりと敷石を踏みしめ、竹製の柵で拵えられた入口を進んでいく。すると『入湯料一人700円』の看板と小さな現金投入機があり、上条が説明書きを読む。
「…これにお金を入れるみたいだな」
「もしかして無人かここ。監視カメラがあるとも思えねぇし、タダで入っちゃうヤツいるだろコレじゃ」
「だめだよはまづら、ちゃんと払わないと」
「分かってるって、六人で四千二百円…、五千円札しかねぇな」
とりあえず浜面が五千円札を機械に入れる。上条が「あ」という顔をして彼を止めるような素振りをし、一方通行は「あーァ」という表情を浮かべた。
「ん?アレ!?釣りが出てこねぇぞ!?」
釣り銭を出すレバーをいくら動かしても八百円が出てこない。
「上条が一緒にいるからもしかしてとは思っていたがなァ…。釣りはオマエ持ちってことでェ」
「そんなような気はしてたんだ。止めるのちょっと遅かったな、ごめん…」
「俺、今日はなんだかアイアンクローされたり、機械にぼったくられたり散々だなチクショー…」
- 879 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/23(金) 01:09:06.77 ID:/nAryvtw0
- 一行はコンクリートで固められた幅一メートル強の通路を歩く。足元をぽつぽつと照明が照らすのみで薄暗い。
周囲に迫る山肌と生い茂る草木に気押され、打ち止めは右手に通路の手すり、左手は一方通行の服を握っていた。
「歩きにくいンですけどォー」
「だって暗いし怖い!」
「ンなこと力一杯宣言すンなよ…」
「あれ、見てとうま、道が別れてるよ?」
「どれどれ…、右が女湯で左が男湯だってさ、打ち止め怖がってるけど大丈夫か?」
無人だし、照明は最低限だし、大自然からハミ出してきた葉っぱが、チクチクと体を刺してくるほどだし、どうもここはいわゆる秘湯らしい。
男湯と女湯を分ける際、こうして大地の形状にならった通路になってしまったのだろう。
「えーーー、混浴じゃないのか?」
「この馬鹿野郎ォっ」
「そういうつもりで来たのかよお前はっ」
「いやらしいんだよ!」
「そんなはまづらは応援できない」
打ち止め以外の四人から総スカンを食らう浜面。男二人には足と頭をはたかれた。
しかし打ち止めは下衆な浜面の下心より、一方通行とここで離れなければならないことが心細いようだ。
薄暗い中に、かすかに見える脱衣所らしき二つの扉は、二十メートルも距離があるように見えた。
「男湯と女湯ってあんなに遠いの?」
「温泉温泉はしゃいでたヤツが情けねェなァ…」
「大丈夫だよラストオーダー、私とインデックスが一緒だから」
「そうそう、ほら早く行こう?」
お姉さんぶった二人に背中を押され、打ち止めは右の通路へと足を進める。ちらと恋人を振り返り、寂しそうな顔で手を振った。
「あー…、さようなら天国。こんにちはむさくるしい男だらけのポロリもあるよってか…」
「いつまで言ってんだよ。お前も、は、や、く、行、け!」
上条に背中を全力で叩かれ、男達も脱衣所へと歩きはじめる。
一方通行は電極のスイッチをONにして辺り一帯の状況を確認したが、自分達以外に人間の存在は確認されなかった。
(ま、滝壺とインデックスもいるし大丈夫だろ…)
「おーい、一方通行も早く来いよ。こいつ全然進まなくてうっとうしいんだ、手伝ってくれ」
「もォ引きずってけよ」
「ヤだよこんな重いの」
- 880 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/23(金) 01:12:42.71 ID:/nAryvtw0
- 滝壺が開ける引き戸を、インデックスの後ろから覗く打ち止め。脱衣所の中も暗い…。滝壺は躊躇なく入っていき「ぱち」と音をさせて電灯を点けた。
「良かったね、電気があったよ。ほら明るくなった」
「おぉ、ありがとータキツボ。やっぱり電気は素晴らしい、ってミサカはミサカは実感してみる」
「さすがにここはちゃんと明るくて良かったんだよ。お風呂の方はどうなってるのかな…」
脱衣所の床は通路と同じようにコンクリート製だが、脱衣籠が置かれた棚の側だけは、
水気が残らない木製の板(三人は知らないが、すのこである)が敷かれていた。インデックスが向かい側の、おそらくは湯船があるであろう方を見に行く。
「わぁー、来て来て二人とも!」
驚きと興奮の声に、滝壺と打ち止めもいざ温泉へ。
目の前は断崖絶壁がそびえていた。そして絶壁の前は幅十メートルほどの川が流れていて、これはキャンプ場で釣りをした川につながっているように思われた。
肝心の湯船はさらに川の手前にあり、自然石で出来ているようだが、縁の上の方だけは木で囲われている。
足元には『大雨などで川が増水中には入浴しないで下さい』の防水性のプレートに書かれた注意書きがあって、いささかぎょっとするが、それよりも
「すごい!早く入ろう!ってミサカはミサカはもうここで脱ぎ始めちゃえ!」
「こらこら、はしたないんだよ、らすとおーだー」
「そう言うインデックスだってもう脱いでるくせに」
「たきつぼこそ…」
結局、はしたない女子三人だった。ぽぽぽーい、とおざなりに籠に脱いだ服を突っ込み、彼女達は温泉へ突撃する。
- 881 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/23(金) 01:18:07.58 ID:/nAryvtw0
- 「わぁ、ここ急に深いよ気をつけて!ってミサカはミサカは二人に注意を促してみる」
「さすが大自然の中のお風呂なんだよ。ワイルドに出来てる」
「…暗いから底の方があんまり見えないね…。あ、ここ、椅子みたいになってる。ここに座ろう?」
湯の中は、浅い所は五十センチ、深い所は一メートル以上にもなった。広さは十畳ほどあるだろうか。
滝壺と打ち止めは、うまい具合に椅子状になっている場所を見つけ、そこに身を落ち着けた。
背後は岩と、さらにその後ろは竹藪になっていて、まさに秘湯といった趣。
「私はまだこっちでいいもーん」
インデックスは長い髪を打ち止めに縛り上げてもらい、底が深いスペースで、バシャバシャ、スイスイと泳ぐように温泉を彼女なりに堪能している。
その姿を見ていた打ち止めから溜息が洩れた。
「はー、あー、はぁーぁ」
「……、な、何かな?らすとおーだーから負の感情がこもった視線を感じる…」
「ほっそい足…、ほっそい腕…、首も長くてスラー…って……腰のくびれ!!」
「はいぃ!?」
「なんか、ほくろさえ見当たらないんですけど、実はぴちぴち全身スーツを着ているのでは?ってミサカはミサカは疑ってみたり」
「ら、らす…?」
「髪もサラサラだった…、あの人といい勝負かも……そしてくびれ!!」
打ち止めは、インデックスのプロポーションが羨ましいらしい。特にウエストがかなり羨ましいらしい。
「ミサカは、ありえないし絶対大丈夫なんだけど万が一のこともあるし、あの人よりウエストが太くならないように努力とドキドキで過ごしているというのに。
どうしてあんなにフリーダムに食べてて、そんなにくびれてるの?羨ましい!」
泳ぎを止めて、あっけに取られていたインデックス。打ち止めの羨望と嫉妬のマシンガントークを聞くうちに、顔を赤らめて腕で体を隠し始めた。
「な、な、それなら私だって言わせてもらうけど!そんな特大肉まんみたいなおっぱいプカプカさせてるらすとおーだーにだけは羨ましがられたくないんだよ!」
「ミサカはくびれも欲しいの!もう少し足も細くしたいの!あの人とつりあい取れたラブラブお似合いカップルになりたいのっ」
「贅沢!贅沢なんだよらすとおーだー!ソイツは敵だってとうまが言ってた!私だっておっぱい欲しいのに!」
熱く語りあう二人から、少し距離を取る滝壺。元気な少女達の声と川のせせらぎを聞きながら、雲間に覗く星を見上げた。
「ふぅ、気持ちいいな…、はまづらはどうしてるんだろう…」
- 882 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/23(金) 01:24:46.40 ID:/nAryvtw0
- その頃、しっとりしどけない恋人に、星空を背景に思い出されていた浜面は
「この温泉作ったヤツ天才だな…」
「……」
「……」
「そっか…、インデックスは美肌でくびれか…。よかったな上条」
「……え、いや、まぁ…」
「……」
「打ち止めが一番年下なのにアレだもんなぁ、インデックスがああ言うのも無理はねぇ。それにしても愛されすぎだろ一方通行。ちょっと太れば?」
「……」
「……黙らねェと川に流すぞこのボケ」
「あー、楽しぃー。温泉最高ぉー。滝壺は大人しく静かにしてるみたいだな、さすが俺の滝壺。でも何かぶっちゃけトーク聞きたいなー」
脱衣所の入り口は二十メートルも離れていたくせに、湯の場所はわずか二メートルほどしか離れていないというこの温泉。
いかに岩と竹藪で阻まれていようとも、女湯からの甲高い彼女達の声は、男湯までしっかり聞こえていた。
(キスマーク消しといて本当に良かった…)
- 899 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/26(月) 06:12:46.24 ID:nll9EBb90
- 「うぅ、このすべすべお肌…。ほら見て!お湯から出すと水が粒になってつるつるーって!
腕だろうが背中だろうがつるー!ってミサカはミサカはインデックスのお肌の凄さをタキツボに訴えてみる」
「うん。すべすべだなぁ」
「らすとおーだーのおっぱいの方が絶対凄い!柔らかい!マシュマロなのにプリン!」
「うん。ラストオーダーが一番年下なのに凄いよね」
何故か審査員のような役割を求められてしまった滝壺。大して困っている様子でもなく、自分より幼い二人の相手をしてやっていた。
「すべすべつるつるだとよ…」
「……」
「マシュマロプリンかぁ。さっきからインデックスは食いもんばっかに例えてるな。素でやってんだろうけど、…かえってヤバイよなぁ」
「……」
賑やかな女湯にくらべて男湯ときたら。浜面以外の二人は、複雑な思いでただ静かに湯につかっているのみ。
この岩と茂る竹の向こうから響いてくる、若く健康で可愛らしい女の子達の赤裸々トークに耳を澄ましてしまう以外過ごしようがなかった。
交わす会話は、意識しなくても小声になってしまう。
「…ははは…、まさかこんなに女湯と近いとはなぁ。あの通路すげぇフェイントだ」
「上条もそう思う?これ絶対狙って作られてるぜ。俺は礼を言いたい」
「………」
「一方通行も何か言えよ、プリン大好きィとかさぁ」
「随分楽しそォだなこの馬鹿は」
「おう、猛烈に楽しいぜ。これぞ青春。生きてる喜び。おっぱいは正義」
「……」
「ナニその目…。いまだかつて、一方通行にそんなに悲しそうな目で見られたことない」
「無理もねぇよ浜面…。今のお前は最高にバカだよ」
上条は、一方通行が浜面にベクトル正拳突きでも食らわすかと危惧したが、思った以上に彼の対応は大人びていた。
今まで体験してきた打ち止めとの日々が、彼を押しとどめているのだ。
保護者に幸せ家族計画を渡されたことや、彼女達と番外個体に、自分達の夜の生活進捗状況がバレてしまったことや、
大学の野次馬どもにロリコン扱いされたことが、一方通行をある意味我慢強い男に成長させたらしい。単に慣れた、とも言う。
- 900 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/26(月) 06:15:51.25 ID:nll9EBb90
- (思えば、番外個体にキスマークを気づかれた経験があるからこそ、今最悪の事態を回避できてるンだよな。
特にインデックスには見られたくねェ、なンとなく)
彼の言う最悪の事態とは、能天気な打ち止めが自身のキスマークに気づかず滝壺とインデックスに発見され、はやし立てられて騒がれて、
隣の上条や馬鹿に「へぇ~」とか「え、あの、気にしなくてもいいんじゃねぇ?」とか「お盛んだなぁ」とか
「悪いな、インデックスがやかましくして…」とか言われることだ。
もしそんなことになっていたら、自分は一体どんな心境で何を喋っただろう。
(恐ろしくて想像もできねェな)
「まったく、らすとおーだーはそんなに胸が大きいのに、他にもまだ欲しいなんて一体どういうつもり?
あくせられーたに甘やかされすぎなんじゃない?」
「ミサカはただあの人のために素敵なレディになりたいだけだもん。
それにタキツボだって、『もっと贅沢になっていい』ってこの前言ってたもん。その方があの人も喜ぶって!」
(ちょっと意味が違う気がするけど…、別にいいか。アクセラレータは幸せ者だね)
(俺はどっちかってェと柔らかい方がいい…、痩せられてもなァ)
打ち止めを抱きしめるときや、膝枕してもらうとき、マッサージのときに背にのった彼女の太ももの感触を思い出し、
一方通行は伝わらないけど男湯からそう強く希望した。
- 901 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/26(月) 06:21:56.19 ID:nll9EBb90
- 「ねぇ、そのくびれとお肌や髪とか…、どうやったらミサカも手に入れられるのかなぁ…」
「知らないよ。らすとおーだーこそ、私に胸を大きくする方法教えてほしいんだよ…」
滝壺を真ん中にして、打ち止めとインデックスはようやく大人しくなった。湯の中でばっしゃばっしゃ暴れたので、疲れたせいもある。
「ミサカだって知らないもん…。去年ぐらいから勝手に大きくなりだしたの」
「はぁ…、とうまもやっぱり巨乳が好きだよね…」
「どうだろうね。はまづらは、男はみんな胸が好きって言ってたけど」
「あの人も大きいお胸が好きだよ、ってミサカはミサカは、暗にあの人はミサカのことが好きなんだよ、とノロケてみる」
その時男湯では
「そのとおりだ滝壺…。な!一方通行!上条!」
「いやでも俺別にそんな大きさばかりにこだわるつもりは…」
「あのな、打ち止めが言ってることを全て真にうけるなよ?」
「じゃ嫌いなの?」
「はァ?」
「打ち止めの巨乳だけど、嫌じゃねぇだろ?いいだろ?」
そう聞いてくる浜面の顔も声も、すごく普通だった。
まるで明日布団を干すつもりだからさぁ、と天気の話でもするかのような雰囲気だ。なので殴りにくい。
上条は、一方通行が何と答えるのか興味があるのか、耳を澄ましている。
「……、まァ…悪くはねェと思ってるけどよ」
(…あ、…答えちまった)
「やっぱり一方通行もそう思うんだな…。上条さんまた親近感湧いた」
「だよなー。俺たち男の子」
(そうか。…俺も、普通か…)
- 902 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/26(月) 06:28:17.17 ID:nll9EBb90
- 「そうだ、インデックスもカミジョウに揉んでもらいなよ!ってミサカはミサカはナイスアイディアを披露してみる!」
「うえぇ!?」
「きっと大きくなるよ!」
「そ、そんな恥ずかしいこと…!ら、らすとおーだーのエッチ!」
(今、インデックス『も』って言ったよな打ち止め…。っていうか、俺に揉めって?オイオイ何言ってるのあの子…)
(あ、一方通行が目ぇ逸らした。第一位のこんなシーン中々お目にかかれねぇ)
(打ち止め…、もう少し中身も成長しろよォ…)
「……そういえば、ラストオーダー…。前より胸大きくなってない?」
滝壺が、湯の中でいつもより軽くなった打ち止めの胸に視線を落とした。
「ん?…えへへー分かりますぅ?実はちょっと前にEカップになったのー、ってミサカはミサカは成長を自慢してみたり」
「Eかぁ、はまづらが喜びそうだな…」
「やっぱりらすとおーだーの方が凄くてずるいんだよ…」
インデックスは鼻までつかって、ブクブクと羨望がつまった気泡を生んだ。
逆に男湯では浜面が腰を浮かし、一方通行の肩をつかんでガクガク揺らしている。
「ちょっとちょっとちょっと一方通行さんどういうことですかEって何ですか」
「聞いたまンまだろ。おい揺らすな。あンまりデカい声出すと向こうに聞こえるだろォが」
「すげぇな…。他の妹達はそんなことないのに、何でなんだ?」
上条が興奮した浜面を取り押さえ、一方通行は頭を振って濡れた髪から雫を飛ばす。
浜面も、上条によって湯に沈められそうになったので頭が濡れているが、そんなこと気にもしない。
「一方通行は幸せ者だな…。彼女がEカップって、そんな幸福…っ」
「ほら落ち着けって。滝壺にチクるぞ」
「それは勘弁して。……なぁ一方通行、ひょっとしてお前ベクトル操作で打ち止めの胸を成長させてんじゃないだろうな?」
「浜面しっかりして。死にたいの?殺されたいの?すげぇ睨まれてるぞ。もう尊敬するぜお前」
馬鹿がどっかで聞いたようなこと言いだした。このアホらしい疑惑を持たれるのは、驚くことに二度目だ。
(…まじかよ。超電磁砲やべェ。浜面と発想が同じって相当じゃねェか。いや、むしろ浜面がすごいのか…?)
- 903 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/26(月) 06:33:14.37 ID:nll9EBb90
- 女子たちの赤裸々トークはひと段落し、今は正しい方法で温泉を満喫している三人。
インデックスが湯から乗り出して、脱衣所の近くに設けられた洗い場の方を見た。
「…ね、あそこに椅子と桶があるよ」
「さすがにシャワーはないけど、排水はしっかり整備されてるみたいだね」
「じゃあ!みんなで背中の洗いっこしようよ!」
「いいですなぁ、ってミサカはミサカは賛成を表明してみたり!」
「よし、覗きに行こう」
洗いっこ、と聞いて浜面が強い意志を込めて立ち上がった(タオル装備)
「どうして浜面はここに俺と一方通行もいるのに、そういうこと言うんだ?」
「浜面だからだろォ?」
「は?あの三人がキャアウフフって背中ゴシゴシきゅっきゅってやるんだぞ?二人とも見たくねぇの?それでも男かよ」
「オマエが正しい男の姿だってェなら、俺は男じゃなくてもかまわねェよ。大体滝壺の裸を俺と上条が見てもいいのか?」
「だめ。お前達はインデックスと打ち止めだけ見るように」
「あぁ、コイツもうだめだな。どうしようか一方通行?」
浜面は、立ち上がろうとしない非男達を置いて、一人岩によじ登ろうと手と足を掛けた。
この向こうには天国があるんだ、俺は行くんだ。と目が燃えている。しかし天国へは亡者が溢れぬように、恐ろしい門番が見張りをしている。
「上条そこどけ」
「あいよ」
「ぶぎゃ!?」
一方通行の手元から、大量の湯が噴射されて浜面に直撃した。彼は水圧によって数秒岩に押し付けられた後、
朦朧とした意識のまま湯の中に墜落し、大きなしぶきをあげて、ゆらゆらとたゆたっている。
- 904 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/26(月) 06:36:15.76 ID:nll9EBb90
- 「すげー。何いまの」
「ベクトル水鉄砲ォ」
「あれが水鉄砲かよ。消防車みたいだ」
昔、打ち止めがどこからか『水鉄砲』を覚えてきて、得意げにご教授たれてくれたことがある。
彼女の危機は、彼女自身の過去の行いによって守られたわけだ。
今の水音は、きっと女湯にもしっかり届いただろうが、もう気にしないことにした。一方通行は湯が浅い場所に移動して、ゆったりと足を伸ばす。
「なに?今の音…ってミサカはミサカは忘れていた怖さが蘇ってきたり…」
「男湯の方でとうま達が遊んでる音じゃないかな?」
「……あ」
洗い場で一列に座っていた女湯の三人は、突然の大きな水音、に洗いっこの手を止めて顔を見合わせた。
先頭の滝壺はその能力故だろう、意外と男湯が近かったことに、ただ一人今気づく。
「インデックスの言うとおりじゃない?あっちも温泉ではしゃいでるんだと思うよ」
(アクセラレータ、ごめんね…)
赤裸々トークによって、一番ダメージを受けたのは間違いなく一方通行だろう。滝壺は心の中で謝った。
- 905 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/26(月) 06:41:58.14 ID:nll9EBb90
- 温泉からあがってほかほかになった五人と、いささかのぼせ気味の浜面。
キャンプ場へ戻ってくると夜の十時近くで、夜更かしする気満々のメンバーは、女子の方のコテージに集まってトランプ大会を行っている。
なぜトランプなのかというと
「どうせみんな帰りはまた俺のことほっぽって、後部座席で楽しむんだろ?俺だってトランプとウノやりてぇよ。今やらせてくれよ」
「お願い、はまづらにも遊ばせてあげて?」
という、滝壺の申し出があったからだ。
三つのベッドをずらして合体させ、その上で全員が車座になってゲームを楽しむ。
たまにペアになって争ったが、本気の一方通行と組んだ打ち止めは負け知らずだった。
やがて日付も変わる頃、まず車を長距離運転してきた浜面がダウン。
続いてインデックス、上条も船を漕ぎ始めてきたので、本日はこれでお開きとする。
「もうみんなこっちで寝ちゃってもいいんじゃない?ってミサカはミサカはそれも合宿の定番だという情報を元に進言してみる」
「だめだ。こいつらはちゃンと向こうの部屋で寝かせる」
一方通行はドアの前でお見送りをする打ち止めの提案をすっぱり却下した。左手には不本意ながら浜面を抱えている。
滝壺の手前、足を持って引きずるのは自重してやった。先にフラフラと歩いていった上条の後を追おうとしたら、打ち止めに呼び止められる。
「あなた」
「ン?」
「おやすみ。あと…キャンプ連れてきてくれてありがとう、ってミサカはミサカは優しいあなたにお礼を言ってみる」
「……気にすンな。じゃあな、オヤスミ…」
自分達の部屋に戻って来た時、小脇に抱えたヤツがぼそりと喋る。
「そこはおやすみのキスだろ」
ベッドに向けて浜面をブン投げたら、可哀そうなことに丁度自分の寝床に入ろうと、前を横切った上条と激突してしまった。
男二人の悲鳴が響き、一方通行は宿泊客が少なくて良かったと胸を撫で下ろした。
「うーん、帰りも仲間はずれにされるかと思ってたんだが、これも寂しいもんだな」
翌日、学園都市へと戻る車内は最初こそ活気があったものの、一時間もしないうちに運転手の浜面以外全員が、気持ちの良い寝息を立てていた。
「ま、行きのことを思えばこっちのがいいや」
助手席では、滝壺が穏やかな寝顔を彼に向けていた。浜面はよそ見をしないよう、安全運転に必至である。
後方確認のために覗くルームミラーには、上条とインデックスの足、それと、
寝顔はあどけない一方通行、その膝を枕にする打ち止めの姿が映っている。幸せそうな表情をしていた。
(次のパーキングで写真撮っとこー)
学園都市まで、もうしばらく。
- 906 :ブラジャーの人[sage]:2011/09/26(月) 06:46:25.60 ID:nll9EBb90
- みんなでキャンプ!の巻 完
あー長かった。
断っておきますが、浜面のこと、すきですよ?応援してますよ?
もう、どんな話を書こうとも胸は外せないんだな。諦めよう…
- 925 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/27(火) 23:35:16.51 ID:K/d3y97g0
- 一方通行と打ち止めは、よく晴れた休日にドライブへ出かけた。
昼食を出先のカフェで取っていると、打ち止めが店の向かいにある建物を指さしてこう言った。
「ごはん食べたら、あそこに行こう、ってミサカはミサカは次なる目的地を提案してみる」
「……」
そこはよくある普通のカラオケルームだった。別にこれからの明確な行き先があったわけではない。二人でドライブへ行くと時は大抵いつもこうだ。
目についた所で時を潰したり、行きつけの公園などで休んだり、ただ道路を流したり。こうして行きあたりばったりに目的地が決まることも多い。
「いいけど、俺は歌わねェぞ」
「分かってるよ。ただミサカが歌いたいだけなの。あなたはミサカの美声に酔いしれてメロメロになっててね」
「アホ」
カラオケには、保護者達と夕飯を外食した後などに連れていかれたりするので、馴染みが無いわけではない。
それに打ち止めによくテレビドラマを強制視聴させられたり、映画館へ一緒に行くので流行りの歌は知っていた。
だから彼女の歌う曲は、一方通行の耳にも覚えがあるものばかりである。打ち止めが車に持ち込み、たった今聞いていたCDの曲もあった。
「さぁ、次はどんな歌がいい?あなたのリクエストなら何でも応えちゃうよ!ってミサカはミサカはあなたのアイドルだもん」
「自分で言ってて恥ずかしくねェのオマエ」
「そうですか、ラブラブラブソングがいいのね、ってミサカはミサカはあなたの言葉の裏を読んでみたり」
「好きにしろォ」
- 926 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/27(火) 23:39:16.77 ID:K/d3y97g0
- 一方通行は打ち止めの声に耳を傾け、彼女が歌っていない時には画面に流れるCMを一緒に見て、二人で他愛無い世間話をして過ごした。
やがて指定した二時間が近づいてきたので、打ち止めが最後の曲を厳選し始める。
「んーどれにしよう…。カラオケなんてあまり来ないから悔いのないようにしないと」
「カラオケなンざいつでも来れるだろ。どれでもいいじゃねェか」
「だってあなたは歌わないし、ここはやっぱり気合いを入れて…」
どうやら打ち止めは、自分も一緒に楽しめるレジャーでないと気が引ける、と思っているらしい。
実は彼女の歌声を聞いているのは、とても気分がいいのだ。こうしてとにかく狭い場所で、二人きりで過ごせていられるのも好きである。
しかしそれを正直に言える一方通行ではなく、所在なく足を組みかえて黙ってしまった。
「あ、あった」
「良かったな見つかって」
「しかし問題が…」
「なンだよ」
「これデュエット曲なの」
「……」
「……ねー。…ねーってば」
「…他のにしろ」
「今から選び直してたら時間が無くなっちゃう。あなたも知ってる曲だよ?ほら」
一緒に歌って?という願いの込められた視線を、にべもなく突き放したが、打ち止めは諦めない。彼女が選んだ曲は確かに知っていた。
以前黄泉川、芳川と一緒に行ったカラオケで、彼女達がノリノリでノっていたからだ。しかも男声パートと女声パートを交換して二回も。
古い曲で覚えやすいメロディーだったので、一方通行も歌おうと思えば歌えるだろう。
しかしデュエット曲ならではの、どっぷりのラブソングである。
(ンなこっ恥ずかしいことできるかよ…)
- 927 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/27(火) 23:41:56.88 ID:K/d3y97g0
- だめだ、ねー、お願い、しつこい、と押し問答を繰り返したが、ここはやはり打ち止めが一枚上手だった。
ぷくーっと膨らませた頬から吐いた息を青年の肩にかけ、さらにそのまま耳元に口を寄せ、何事かを囁く。
「……だから、ね?いいでしょ?」
「……分かった」
いったいこの少女は何を告げたのだろう。あれほど嫌がっていたのに、一方通行はあっさりと承諾した。
携帯などで記録しないこと、もちろんミサカネットワークにも流さないことを注意して、嬉しそうな彼女からマイクを受け取った。
打ち止めは彼の左手に腕を絡め、限界まですり寄る。保護者達を真似ているのか、自然とそうしているのか。
この格好でラブソングを歌うなんて柄じゃないにもほどがある第一位だったが、提示されたご褒美のために文句は言わないし言えない。
ほどなく部屋に流れはじめたイントロ。まずは打ち止めのパートだ。女声パートの方が多いのも、快諾した理由のひとつである。
(どうってことねェ…、たかが五分程度のことだ)
- 928 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/27(火) 23:46:59.29 ID:K/d3y97g0
- 打ち止め『恋人よ 今受け止めて 溢れる思い あなたの両手で』
(やーん、まさにミサカの心そのまま!ってミサカはミサカは期待と興奮で顔がニヤけちゃう!)
一方通行『…恋人よ 今目を閉じて 高鳴る胸が二人の言葉』
(あーー…、歯が浮くゥ…)
打ち止め『あなたがいれば 生きていける』
(むしろあなたがいないと生きていけない)
一方通行『君とだったら 生きていける』
(まァ…確かに…)
一方通行『恋人よ この腕の中 悲しみさえも打ち寄せないだろう』
(……俺は、守れてきたよな?オマエのこと)
打ち止め・一方通行『恋人よ もし嵐でも 二人は同じ入江の小舟』
(ずっと一緒にいようね。いつもありがとう、あなた…)
打ち止め『天窓の星より近くが美しい 世界で一番輝く過去を』二人『過ごしている』
(ロマンチックここに極まれり!粘って良かった!ってミサカはミサカはこの瞬間を心のフォルダに永久保存してみる!)
打ち止め・一方通行『愛が生まれた日 この時に永遠がはじまるよ…… めぐり会えた(ァ)…』
(お、終わった…クソ。なンつー歌だ)
長いような短いような五分間が終わった。
打ち止めはマイクを放り出すと、両手で一方通行にしがみついた。顔のニヤけ具合は最高潮に達している。
対して一方通行はマイクを握ったまま固まっていた。恥ずかしさと、ほんのちょっとの感動で動けない。
歌詞の意味が打ち止めとの関係にトレースされて、色々と思うこともあるのだ、彼だって。
- 929 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/27(火) 23:53:36.15 ID:K/d3y97g0
- 「えへへへへへへ、にへへへ…」
「気持ち悪ィ声出すなよ…」
「あぁーん、だって嬉しいんだもん、勝手に声が出ちゃうんだもん。あなたがあんなの歌ってくれるなんてぇ~」
「……」
とっくに男女のアレコレは済ましているが、一方通行が言葉で思いを伝えたことはほとんどない。
以前一度だけ、過去最高に盛り上がった時に「愛してる」と口を滑らせた時には、打ち止めは大泣きに泣いて彼を仰天させたものだ。
(やっぱりコイツもドラマみてェにして欲しいのか?歌ぐらいでこンなにはしゃいじまってよォ…)
普段の言動を改めて思い返した一方通行は、握りっぱなしだったマイクを置いて、こちらからも打ち止めを抱き寄せた。
そして先程の彼女のようにして、今度は自分がそっと囁く。
「!!!……っ」
その直後、打ち止めは表情も動きも呼吸もフリーズした。
「?おい、打ち止め?」
せっかく多大な労力を振り絞ったというのに、彼女からのリアクションがない。
初めて彼女を抱く前にも似たようなことがあったが、それでもまだ、まともな反応があったはずだ。
一方通行は腕を緩めて打ち止めの様子を確認しようとした。
「あなたぁー!!」
「うォ」
少女の体当たりを食らい、一方通行は椅子に押し倒された。
すりすりすりすりと、胸に顔をこすりつける打ち止めによって、シャツはぐしゃぐしゃになる。
「おいおいおいこらこらこらァ」
「だってだってだってもーもー不意打ちすぎる!ってミサカはミサカはあなたの大サービスに悶えてみたりっ」
頑張った甲斐以上に喜んでもらえたらしい。
一方通行が打ち止めの背中を撫で、きつく抱きしめると、ますます鼻先のアホ毛が揺れてくしゃみが出た。
- 930 :ブラジャーの人[sage]:2011/09/27(火) 23:59:31.00 ID:K/d3y97g0
- 一方通行、ラブソングを歌うの巻 完
おい、選曲が古い!!
でもいい曲でしょ?ね?
………何の歌か分からない人なんて、いないですよね?超有名ですよ。
あ、ちなみにご褒美は大したことじゃないです。
- 946 :ブラジャーの人[sage]:2011/09/29(木) 23:17:34.12 ID:VdvAmin80
- 今日はドライブへ出掛けた一方通行と打ち止めだったが、まだ昼間だというのに家に帰ってきた。
一方通行は部屋へと一直線でベッドに寝転がる。打ち止めも後からついてきていると思ったのに、なかなかやってこない。
「…おい、…打ち止めァー、早くしろォー」
「はいはーい、もー、着替えてたの。あんなカッコでできるワケないでしょ?ってミサカはミサカはワガママなあなたを可愛く思ってみたり」
「うるせェ。今日はオマエの我儘に付き合ってやったンだから当然だろォが」
たった今、打ち止めにしつこくねだられてラブソングをデュエットするという似合わないことをやらされてきた一方通行。
その代わりに彼女が提示したご褒美を、これからもらうというわけだ。
「分かってますって。ほら寝て寝て」
「ン…」
「じゃ、失礼しまーす」
改めてベッドへ横になった一方通行はうつ伏せだ。打ち止めは彼の腰の上に跨って、両手を背中に押し当てた。
デート用のワンピースを脱ぎ、打ち止めは部屋着の簡素なものを着用している。
それでも剥きだしの柔らかい太ももが一方通行の腰を心地良く圧迫するが、今は彼女の手の方が重要だ。この、二人の定番のマッサージでは。
「アー…」
「いかがですかー?」
「……いい」
「肩はやらないんだよね?」
「おゥ。次は足ィ」
「肩コリしないなんてホント羨ましい…、ってミサカはミサカはあなたの背中をぎゅーってイジメてみるっ」
「おォ、もっとやれ。遠慮すンな」
『一緒に歌ってくれたら、あなたが満足するまでずーっとモミモミしてあげる』
そう言われて、ラブソングを歌い切った一方通行。頑張ったんだから、存分に堪能してやる。
あと、足裏と腕と手の平と頭もやってもらうつもりだ。
一方通行は、すっかり打ち止めのマッサージに心酔してしまっている。彼女の腕前は時を経るごとに、回数を重ねるごとに上達していった。
素直に「気持ちいい」と告げてしまうほどに。
- 947 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:19:35.10 ID:VdvAmin80
- 「っ…ぐゥ…、なンだ、そりゃァ…っ」
「…っふふふミサカの、新技、だよ~」
打ち止めは一方通行の右足を持ち上げ、膝を折り曲げつつ爪先は脛側に反らせる。左手は足裏のツボを指圧しながら。
「左…足も…、」
「…ん、了ぉ、解…」
いつのまにこんな技を身に着けたのか。彼女が益々こうして素人離れしてくれるなら、協力は惜しまない。
「あ、うゥ、そこキツ…」
「おっとと、失礼。…こぉ?」
「あァ…」(あー…歌った甲斐が…あったぜ…)
打ち止めは膝を一方通行の太ももの裏に乗せ、裸足の指で彼のふくらはぎを圧迫。さらに両手の親指は腰や背中を指圧。
なんと一人で六点ものポイントを押さえる荒技を繰り出した。
(俺は今どンな状態なンだ…、めちゃくちゃ、効く…)
本当に、こんな実験なら喜んでいくらでも付き合おう。
そうして一時間ぐらい過ぎただろうか。すっかりほぐされた一方通行の瞼は、半分閉じかけている。最終的には眠ってしまうのも定番だ。
打ち止めはさすがに疲れたのか、彼の上で腕を上げて体を伸ばしたあと、その背中にかぶさった。
(すげェ当たってる…けどだめだな。もォ眠い…)
打ち止めのEカップが背中に感じられるが、どんどん押し寄せてくる睡魔に勝てそうもない。
せっかく保護者達も不在で好都合のシチュエーションだったが、そっちのご褒美はまた次回にしよう。
- 948 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:21:35.30 ID:VdvAmin80
- 青年はそのままベッドでうつ伏せになって、やはり眠ってしまった。
さらに彼の上には、打ち止めが背中面積の半分以上に覆いかぶさって、これまた眠っている。
心ゆくまでマッサージしてもらった青年はそのまま寝落ち。テクニシャンな少女も、揉み疲れたので一緒に昼寝、というわけだ。
平和である。
しかしそんな二人に忍びよる怪しい影が…
「……フ。いいモンめっけたぁ~」
番外個体はベッドの上を舐めるように見つめて、吹き出しそうになる声をこらえた。一方通行は勘がするどいから静かにしないと。
(ここは起きられる前に、コッチから起こしちゃうのがいいよね)
一方通行は眠りに落ちる前、背中の少女もおそらく一緒に寝てしまうだろうと分かっていた。
こうしたことは初めてではなかったし、今更保護者達に目撃されても、お互いどうということはなかったので構わない。
一方通行だけはつい最近までいたたまれない恥ずかしさを(少しだけ)感じていたが。
しかし、それが番外個体だとちょっと話が違ってくる。
(コイツは全力でからかってくるからなァ…。畜生、油断したぜ…)
「おはよ~第一位。最終信号の巨乳布団の感触はいかがぁ~?」
「この野郎ォ…、またかよ…」(鼻声)
- 949 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:23:41.15 ID:VdvAmin80
- 番外個体は青年が完全に覚醒したことを確認して、鼻から指を離した。
だんだん息が苦しくなってきて、ゆるゆると目が覚める途中から、青年は嫌な予感を感じていた。たぶん番外個体がまた目の前にいるだろうな、と。
「いやぁ、ポルシェが停まってたからさぁ。休みなのにあなた達がいるんだと思ってコッソリ入ってきたら、案の定面白かった。ひゃはははは」
「……あァそォかよ。喜ンでもらえて何よりだ。でェ?何か用かよ」
「そんなに睨んでも、背中にお姉ちゃん乗せたまま寝っ転がってんじゃ迫力無ぇって」
「……」
背中ですやすやと夢の世界の打ち止めを起こすのが忍びなくて、目を覚ましても敷布団の態勢をキープしていた一方通行だったが、
さすがにこのままでいることはできない。
彼は打ち止めが圧し掛かっていない方の手を背中に回し、ぺしぺしと少女の脇腹を叩いた。
「んぅ、ん、ん、……」
起きない、もう一回。今度は声も掛ける。
「おい、起きろ打ち止め」
「うー…んふ、……」
「だめだねコリャ。よーし、ミサカが起こしてあげるぅ!」
- 950 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:25:26.78 ID:VdvAmin80
- 番外個体は一方通行が止める間もなく両手を振りかぶってベッドへ突撃する。わきわきと指を動かし、遠慮なく姉の全身をくすぐった。
「うひゃあぁあ!?あぁやめてあなたいやーんもぉあはははははははは!」
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁ寝ぼけてる時までノロケやがって!この色ボケ上位個体めぇ!ほらほらええか!ええのんかぁ!?」
「うがァァァああァァこっの馬鹿どもォ!いってェなクソ!人の上でおご!あば、暴れてンじゃねェェェェ!!」
寝ているところを急にくすぐられ、びっくりした打ち止めは、自分がどこに居るのかも忘れて体をよじらせ、魔の手から逃れようとした。
大体にして、恋人にくすぐられていると勘違いしているようである。番外個体は容赦なくそんな姉の体を追い詰めていく。
一方通行の上であることなど考慮しない彼女は、せっかくほぐれた彼の背中を、腰を、お尻を、ふくらはぎを、果ては頭までをも踏んで、乗って、姉妹でじゃれあう。
やがてベッドから、ほうほうの体で這い出てきた青年が床に転がり落ちる頃、打ち止めはようやく状況を把握した。
「……いらっしゃい番外個体…、おはよー。もう少しソフトな起こし方だと嬉しいな、ってミサカはミサカは息も絶え絶え…」
「死に、そうなのは、こっちだァ…」
「っふー。いい汗かいたぁー!」
- 951 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:28:04.81 ID:VdvAmin80
- 三人はリビングのソファでくつろいでいる。秋の夕暮れは早く、外は暗くなり始めていたが、まだ保護者たちは帰ってこない。
打ち止めは一方通行にブラックコーヒーを、自分と番外個体には甘いカフェオレを拵えた。
それぞれのカップに口を付け、一息ついた所で一方通行が番外個体に再度訊く。
「用事は何だったンだよ?今日は泊まりにくる日じゃなかったよな?」
「ナニその顔。せっかく愛しの最終信号とイチャコラしてたの邪魔したのは、悪かったと思ってないけど、誰のせいで来てやったと思ってんのさ」
「ん?今、日本語おかしくなかった?ってミサカはミサカは番外個体のイタズラは激しすぎだと、改めて怒ってみたり!」
「だって全然起きないんだもん。ああするしかなかったもん」
「そんなわけないでしょ!番外個体はただこの人を踏み踏みしたかっただけじゃないの?」
「否定はしない」
「やかましいわオマエら。おい、…早く、要件を言え」
ひどい目に会った上に、一向に話が進まない。いい加減我慢の限界も近かった青年は、本気の不機嫌オーラを滲ませた。
最近は色々な許容範囲が大きくなった彼をこうさせるとは、さすが番外個体というところか。
「大した用事じゃないよ。はいコレ」
全然動じていない番外個体が、上着のポケットから小指ほどの大きさのプラスチック製に見えるケースを取り出した。
「第一位、きのう四限目の政治学サボったでしょ。
教授がこのデータ渡そうと思ってたのに来なかったから、ミサカに託されたんだよ。明日も学校休みだしさ」
「…、あァ、そォいや次の論文の資料がどうとか…」
「まったくいいメイワクだっての。貸しひとつだからね」
一方通行が舌打ちしながらそれを受け取ったら、横からその手を打ち止めがパシっとキャッチする。
「あなた…、昨日の四限目は休講って言ってたじゃない…」
めずらしく厳しい視線が注がれ、一方通行は反対側を向いた。これはいけない。
「……自主休講ォ…」
「ぶはははは!もしかして最終信号に嘘ついてデートにでも行ったの!?」
「もー!最近はまじめに学校行ってると思ったのにっ。嘘つくことないでしょ!ってミサカはミサカはお母さんかっ」
打ち止めは掴みっぱなしだった青年の手をブンブンと振って叱責する。
ますますそっぽを向いた一方通行。リビングには番外個体の笑い声が、耳に痛いほどに響き続けた。
やっぱり平和である。
- 952 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:30:37.71 ID:VdvAmin80
- 「はひー、ひ―…くるひぃ…ひひひ、面白すぎんでしょ第一位…。小学生かよ…」
番外個体は五分間ほど笑いっぱなしだった。
最初は苦々しい顔をしていた一方通行も、ここまでくると、一体いつまでこの状態でいるのか、興味と感心が湧いてくる。
「大丈夫かオマエ、酸欠起こしてるぞ」
「だい、だいじょーぶにゃにゃい…」
「番外個体、顔色が…。はい、お水飲んで」
「あんがと、お母さん…」
カラカラになった喉に水分を流し込み、無理やりに呼吸を落ち着ける。
ソファの背もたれに顔を伏せ、一方通行を見ないように気をつけなければ、壊れてしまった笑いのツボが、またぶり返しそうだ。
「はー…、笑い死にとか勘弁してほしい。危うくあなたに殺されるところだった」
「オマエはちょっと性格の悪さをあの世に捨ててきた方がいい」
「そもそもなんであんな変なカッコで寝てたの?いくら最終信号の胸が好きっつっても、重いでしょあれじゃ」
「わざとあの格好にしたわけじゃないんだよ?マッサージし」
「おい、他に反論することがあるンじゃねェのか。俺はあるぞ」
一方通行の意見はあっさり聞き流され、番外個体はこの二人が『マッサージ』という健康的な行為を頻繁に行っていることを知った。
一方通行は、自分が打ち止めに揉まれてほぐされていいようにされて、ついには寝落ちしてしまうほどだということが、
よりによって番外個体にバレてしまい非常にこの場に居づらい。実は黄泉川と芳川にも見られないように、一応は気をつけていたというのに。
- 953 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:33:55.72 ID:VdvAmin80
- 「へぇ~、マッサージ」
「……」
「最終信号の小さなおててでモミモミってか」
「……」
「ちょっと、それぐらいにしないと怒るよ、ってミサカはミサカは羨ましいなら番外個体もやってあげようか?とお姉さんらしい優しさを見せてみる」
もはや不機嫌を隠そうともしない一方通行と、彼をいじる番外個体。
それを見かねた打ち止めが、妹の関心を逸らそうと誘惑する。
うっかり喋ってしまったが、彼がこのマッサージを秘密にしておきたかったらしいのを感じ、責任を取ろうと思ってのことだったのだが
(……馬鹿か俺は。他のヤツを揉むな、なンてよォ…。ホントにガキじゃねェか)
どうにも一方通行の心、打ち止め知らずである。少女の試みは、ガキっぽい青年にとってあまり嬉しいものではなかった。
「別に羨ましくなんてないもん」
「…、……おい、番外個体」
反撃のポイント発見、と見極めた一方通行。子供じみた嫉妬は頭の隅にしまい込む。
否定の返事をしようとした番外個体を制止し、指でチョイチョイと合図した。
「…なに、気色悪いんだけど」
「コイツのマッサージなァ…、まじで、すげェンだ」
「………」
(はぅぅこの人がミサカのことすごいって褒めてるぅぅぅ!やっぱりミサカの魔法の手にメロメロなのね!)
青年は一転してニヤニヤと余裕の表情を浮かべる。足を組み、肘をついて全身で優越感をアピール。
「やってもらえばァ?オマエも……」
「味わってみたいだろォ?眠っちまう程の気持ちよさってヤツを…」そう言われて、番外個体は渋々と首を縦に振った。
一方通行は(勝った…)と確信する。同じ場所まで落ちれば、彼女はもう自分を馬鹿にできない。いや、この場合「昇る」という表現が正しいだろうか。
- 954 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:38:03.16 ID:VdvAmin80
- 打ち止めはクッションを二つリビングの床に置く。さらにその上に、部屋から持って来た毛布を敷いた。
人が寝れば、丁度クッションが膝と腰に宛がわれる形になっている。
番外個体は言われるままにそこに腹をつけたが、面白そうに見ている一方通行のことが気になるらしい。
「変態…。姉妹の触れ合いを、そうやって視姦してオカズにするつもりなの?」
「減らず口叩いてられンのも今のうちだぜ」
「そうそう、ほら、早くしっかりゴロンして、ってミサカはミサカは番外個体の上に乗ってみたり」
「もう、お手柔らかに頼むよ?」
(床だとベッドの上と違って硬ェから、余計に押される力が加わって効くンだよなァ…。俺もさっき床でやりゃあ良かったか…)
打ち止めはいつもどおりに腰の上に跨ると、まずは、さわさわと背中を撫でるように押さえた。相手はいつもの硬い男性ではなく、女の子である。
気を付けなければ痛い思いをさせるかもしれない。しかし、すぐにツボや力加減に当たりをつけた少女が、容赦なく本領を発揮。
一方通行は見た。毛布の上で番外個体の手がぎゅうっと握りしめられていくのを。
おそらくは声も我慢しているだろうし、歯を噛みしめて眉を寄せているに違いない。
(懐かしィなァ…、最初は俺もあンな風だった)
しかし、今の打ち止めはあの頃のままではない。愛する人に尽くすため、満足してもらうため、日々そのテクニックを磨き続けた彼女である。
ほどなくして、番外個体の口から吐息とも、喘ぎ声ともつかないものが漏れ始めた。
「ふぅ、ん。はぁ、あん、そこぉ…、すごい…最終信号すごい…!」
「腰だねー?ってミサカはミサカはご希望のポイントをうりうりしてみる。腰は床の方が効くんだよー」
(そォなンだよな。ベッドだと沈むから、腰をやるにはあンまり適してねェ)
「っ…んーー…効くぅぅ、ううう、…うわ、何、乗ってるの!?最終信号が全部乗ってるの!?」
(お、さっきの新技その二か。ハタから見るとすげェな)
「ふふふ、どうかね、お姉ちゃんは偉大だろう」
「はぁ、あー…、はー…」
とうとう番外個体から、まともな言葉が出なくなってきた。「あー」とか「うー」になってきた。
あまり聞いていてよいものではないと思ったので、一方通行は一人そそくさと退室…
- 955 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:39:32.20 ID:VdvAmin80
- 一方通行が自分の部屋で暇を潰すこと半時間。打ち止めが彼の元にやってきた。
「あなた、番外個体寝ちゃったよ。ミサカの部屋に運んであげて」
「やっぱりなァ…」
二人でリビングへ戻ると、はしたないことに番外個体はいささかガニ股の態勢で毛布に突っ伏していた。しかも
「こいつヨダレ垂らしてンぞ」
「あぁぁ…ミサカの毛布がぁぁ…」
とりあえず、彼に運んでもらう前に、妹の口からだらしなく垂れている涎を拭く打ち止め。起こさないように、そうっと。
「もう、毛布にまで付けちゃって。仕方ない子ね…ってミサカはミサカはまたもお母さんかっ」(小声)
打ち止めが大きな子供の世話をやいている時、玄関のドアが開いた。黄泉川と芳川が帰ってきたのだ。二人はそろって出掛けていたらしい。
「ただいま」
「ただいまじゃーん…あれ、番外個体?」
「しぃー、番外個体が寝てるから静かにしてね。お帰り、ヨミカワ、ヨシカワ」
リビングの様子を見て、保護者達の顔がほころんだ。子供達がそろって、なにやら遊んでいたのかと思ったからだ。
- 956 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:43:09.17 ID:VdvAmin80
- 「あらあら。この子がこんな風に寝てるなんて珍しいわね」
「毛布なんか持ってきて何してたじゃん?」
当然そう訊かれるだろう。打ち止めは何と答えていいものか迷い、ソファに腰掛ける青年の顔色を伺った。
一方通行は顎と目で、言っていい、と合図する。
これで自分が打ち止めにマッサージしてもらっていることを、大っぴらに公表するのも同然となってしまった。
こうしてだんだんと、近しい者達に自分達の事が明らかになっていくのだろうと思う。
「ミサカがマッサージしてあげたの。そしたら天国気分で眠っちゃったんだよ」
「ほぉー、よっぽど気持ちよかったんだな…。見てこの顔」
「へぇー、打ち止め上手なのねぇ…。あら、本当にうっとりした顔しているわ」
黄泉川と芳川が、番外個体の様子を覗き込むついでに、一方通行の方を見たような気がするが、彼は素知らぬ態度を貫いた。
(番外個体を揉ませる段階で、予想してたことだ…、こォなりゃ…)
「おい、いつまでソイツを床に寝かしとく気だ。運ぶからどけ」
一方通行は電極のスイッチを切り替え、毛布ごと番外個体の抱えあげる。
起こさぬように気をつけているからか、違う理由があるからか、いやにゆっくりとした動作だった。
女性達の視線を集めているのを確認すると、わざとらしくこう言った。
「あァ、たしかに天国って顔だな。全然起きる気配がねェし、よっぽどイイ感じだったわけだ。打ち止め…すげェなオマエ」
意味深な微笑みを残し、彼はリビングを後にした。
その後、黄泉川と芳川がどうしたのかというと、呆れたことに自分達の毛布を部屋から引っ張ってきて「私もやって」と、この家最年少の少女におねだりである。
どうしたって、味わってみたくなったのだろう。あの番外個体を無防備に眠らせ、一方通行をして「すごい」と言わせる、魔法の手を。
一方通行がキッチンから様子を覗けば、芳川がほぐされているのを、傍で黄泉川が行儀よく座って順番待ち、という状況であった。
呆れるような、笑えるような…
- 957 :ブラジャーの人[saga]:2011/09/29(木) 23:46:41.98 ID:VdvAmin80
- 「ふー、さすがに今日は疲れたよ…、まさか四人も天国送りにするハメになるなんて、ってミサカはミサカはぐったりしてみる…」
同じように寝落ちしてしまった保護者二人を、一方通行が部屋に運び終えてリビングに戻ってくると、打ち止めがソファに座り疲労を訴えている。
黄泉川と芳川にも打ち止めのマッサージを体験させ、彼女の手を求めるのも無理はない、と思わせることには成功したようだが、
少女はすっかりお疲れになってしまったようだ。
自分の体裁を取り繕うために労働をさせてしまったようなもので、一方通行は済まない事をした、とちょっと反省する。
「…、飯どうすっか…」
「適当でいいんじゃないかな、みんな寝てるし。お出掛けする気にもならないし…」
「じゃ、その後でなァ……」
青年は少女の背後に回り、肩に手を置いてキュっと摘まんでやった。
「っ…はぁ、キモチいー…」
「久しぶりに、俺がやってやろうか」
「わお、ホント?うれしー!ってミサカはミサカはそう聞いて、にわかに元気が出てきちゃった」
現金なもので急に生気をみなぎらせた打ち止めは、足をパタパタさせて喜ぶ。一方通行は、ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ、とリズムをつけてさらに揉む。
「ついでに、風呂も先に、入っちまえ。どォせ、オマエの、ベッドは、先客が、いるンだから、よ…」
「うん、そう、…するー!わー、いぃ」
つまり、気持ちよくしてやるから、今夜はずっと俺の部屋にいろよ、という意味である。
- 958 :ブラジャーの人[sage]:2011/09/29(木) 23:58:48.16 ID:VdvAmin80
- 一方通行と打ち止めと黄泉川家の日常の巻 完
↑打ち止めモミモミ天国 というタイトルにしようかと悩んだ。AVみたいなのでやめました。
政治学と宗教学は面白かったです。アレと違って。
微妙にレスが残ってるけど、話が途切れる恐れがあるので、近いうちに2スレ目を立てますね。
ここは適当に埋めていければ…と思います。
さぁこれで この1スレ目からの、卒業 です。
- 959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/30(金) 00:05:00.95 ID:WVRj1FTZ0
- 乙、なんて桃色空間
面白かった、次スレでも期待してる
- 960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/09/30(金) 00:21:16.35 ID:9xELJ6SYo
- 乙乙、次も期待してる
消費早かったなあ
- 961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/30(金) 00:54:23.52 ID:h2gPEfODO
- 乙です
打ち止めちゃんにモミモミしてもらうにはどうしたらいいですか?
- 962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/30(金) 07:08:08.14 ID:t2G24+vDO
- >>1乙
ちょっと壁殴り代行に夜の校舎の窓ガラスオプション頼んでくる
「打ち止めのモミモミ天国」…俺も黄泉川家の住人になりたいぜ…
- 963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/30(金) 08:30:17.09 ID:frMf1u3DO
- >>962
殴る壁ないから地面殴りますね
フンッ!
うわ、なんだこれ!熱っ!
マグマ!?マグマだ!
- 964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/09/30(金) 09:32:55.88 ID:RxvpdUVAO
- 審議中
- 965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/30(金) 12:27:29.84 ID:HgUtkqrIO
- 打ち止めの毛布は俺が責任持って洗っとくわ
- 975 :ブラジャーの人[sage]:2011/10/01(土) 21:14:18.98 ID:Ix6t3TU00
- 〈駄文〉
一方通行と打ち止めが、またカラオケに来たようです。
打ち止め『あーなーたーに おーんなのーこーの 一番、大切なぁ~ ものをあげるわー』
一方通行「こらァ、そンなはしたねェ歌、歌うンじゃねェ」
打ち止め「……、いらなかった?」
一方通行「そ、そういう話じゃねェだろ」
打ち止め「いらなかったの?」
一方通行「……欲しかったけどよォ…」
打ち止め「ふふふふ…」
一方通行と打ち止めが、またデュエットをするようです。
一方通行『三年目ェーの浮気ぐらァい 大目に見ィろよォー』
打ち止め「……」フルフルウル
一方通行「おい、歌わねェのか?」
打ち止め「うぅー」ウルフル
一方通行『しねェよ!浮気なンかァ!』アァーァーァ…←エコー
打ち止め「うん…、選曲失敗したね」
懐メロか、歌謡曲でしかネタが浮かばない不思議
- 987 :ブラジャーの人[sage]:2011/10/03(月) 14:27:56.76 ID:PJww4/WS0
- 〈駄文〉
一方さんの洗車風景
まずボディに水をかけます。そして、周りに他人の財物がない場所に移動します。
そのまま車内で電極ON。水が汚れと一緒に吹き飛びます。ホイールまでピカピカ。
完了
打ち止め「ミサカの出番がない!」
一方通行「また怪我されちゃ、かなわねェンだよ」
- 988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/10/03(月) 21:06:57.05 ID:U2/VaHORo
- 打ち止めさんマジ天使
せめて遠くからそのワガママ☆ボディーを見守っていたい・・・
- 996 :ブラジャーの人[sage]:2011/10/04(火) 21:39:28.62 ID:icdvGcYs0
- やべぇ流れです。
〈駄文〉
打ち止め「ヨミカワー!はいこれ!」
番外個体「ミサカ達からのプレゼントだよ」
一方通行「………」
黄泉川「…は?え?」
打ち止め「もう、今日は母の日でしょ?ってミサカはミサカはカレンダーを指さしてみる」
番外個体「ひひひ、びっくりしたー?」
一方通行「……はァ…」
黄泉川「あ、あんた達…」ウルウル
打ち止め「ほら、あなた早く…」
番外個体「恨みっこナシでじゃんけんOKって言ったでしょ。男らしくないなぁ」
一方通行「……クソ。お、お母さン、いつも、ありがとうございますゥ!」顔赤火
黄泉川「……」ポカーン
一方通行「…おい」
黄泉川「あ、ありがとうじゃん…、めちゃめちゃ嬉しいじゃん。でも」
一方通行「?」
黄泉川「お姉さんパンチ!!」
一方通行「ごはァっ!」
できなかった母の日ネタ
- 997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]:2011/10/04(火) 21:56:54.78 ID:uFlUm1CAO
- >>994
桁違いのエロさってことか
- 998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]:2011/10/05(水) 07:46:13.56 ID:VtykWj8AO
- 埋め
>>1000なら打ち止めがちょっと小悪魔になる
0 件のコメント:
コメントを投稿