- 1 :ブラジャーの人 [sage]:2011/10/02(日) 00:00:14.00 ID:NTBu0Hh40
- まさかの2スレ目。
一方さんと打ち止めの未来設定。少女漫画みたいなものを(当初は)目指していたおっぱいスレ。
一方さんが、打ち止めのこと好きすぎて変態。
打ち止めがDカップを経て、ただいま絶賛Eカップ。彼女の辞書に反抗期は無い。
イチャイチャとほのぼのしかありません。 - 3 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/02(日) 00:12:37.06 ID:NTBu0Hh40
- とある休日の、もうすぐ太陽も中天に差し掛かる頃、一方通行はやっと目を覚ました。随分寝過ごした、と思う。
何度か打ち止めが起こしに来たような気がするが、今日はなんだか眠気が勝ったらしい。
もぞもぞと起き上がって、部屋のあちこちに体をぶつけながらトイレ、洗面所へ行く。
(……、黄泉川も、いねェな…)
芳川はまた病院に泊まり込むと言っていたし、移動の途中で見た玄関に靴が無かったので、アンチスキルの仕事だろうか、黄泉川も出掛けているようだ。
キッチンから、何やら料理を作っている物音といい匂いがする。きっと打ち止めが、自分のために朝食兼昼食を用意してくれているのだろう。
(今日は打ち止めと家でゴロゴロするかァ…、あわよくば…)
いかがわしい思いで顔を洗い、まだ開きにくい目をこすって歯を磨いていると、背後に人の気配がする。
彼女が、やっと起きたね、という呆れ顔で自分を見ているのだろう。そう思って振り向いたのに。
「おっす。おはよう一方通行、ちょうどお前の家のちか」
「ぶはァっ」
「ぎゃぁぁぁぁ目がぁぁぁスースーするぅぅぅー!」
「どどどーしたのカミジョー!?」
そこにいたのは、彼の大切なアホ毛の小さい少女ではなく、自分と同じ背丈のツンツン頭だった。
予想外の人物に、つい口から吹き出してしまった歯磨き粉の泡が、上条当麻に直撃する。
一方通行は、包丁を持ったまま駆けつけてきた打ち止めと、目を押さえて床にうずくまる上条を、歯ブラシを咥えたまま交互に眺めた。 - 4 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/02(日) 00:16:19.87 ID:NTBu0Hh40
- 「はーい、コーヒーですよ。もう、これで目覚ましてね、ってミサカはミサカは寝ぼすけなあなたに愛情たっぷりを淹れてみたり」
キッチンのテーブルに座り、一方通行は熱いブラックコーヒーを啜る。これからパン等も食べさせてもらえるそうだ。
上条も彼の正面に腰を落ち着け、砂糖の入ったコーヒーをご相伴している。
「…何か用か?」
「だから丁度お前んちの前通ったから…、ひょっとして俺が送ったメール見てない?」
「見てねェ」
たしか携帯は昨夜から、ベッドサイドに置きっぱなしにしていたと思う。上条は合点がいったような顔で溜息をついた。
「だよなぁ。見てたらもうちょっと違う反応あるはずだもんな」
「なンだ、もったいぶりやがって。早く言え」
メールを送った上に、こうして家まで来るような大事なのか?一方通行が眉をしかめるが、上条の様子はそんな深刻ぶったものではない。
「打ち止めにも先に挨拶しとこうと思ってさー」
「ん?ミサカにも関係あるお話なの?」
「そうそう。むしろ一方通行より打ち止めだよ、よく考えれば」
朝(じゃないけど)から楽しい予定をぶち殺されて、ただでさえ不機嫌な一方通行は相手が上条とあってその態度に容赦がない。
とっとと話とやらを聞いて、家から追い出したかった。
「あと三秒以内に喋らねェと窓から投げる」
「俺打ち止めの中学に先生しに行くからよろしくな!」
「ぶっふゥっ」
「ぎゃぁぁぁぁ!目がぁぁぁぁぁぁ!!」
またも予想外のことに、今度はブラックコーヒーを上条に拭きかけてしまった。
- 16 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/05(水) 03:31:55.57 ID:QBDpqJCD0
- 「…先生ェだとォ?どォいうことだ」
「コーヒーって目に染みるんだな…」
「ごめんねカミジョウ…。あ、まだ髪にも付いてるよ、ってミサカはミサカは拭き拭きしてみる」
「五秒以内に喋らないとォ」
「教育実習だよ!二週間だけ打ち止めの学校に教育実習生として通うことになったんだ」
一方通行は新しく用意してもらったコーヒーに手を伸ばす。また吹き出さないように、上条の回答を聞くまで飲まずにいたのだ。
(そォいや、去年打ち止めがそンなこと言ってたなァ。今年は三下が実習生ってわけか)
「何でよりによって打ち止めの中学なンですかァー?」
「知らねぇよ。俺が決めたわけじゃないもん」
「わぁー、カミジョウがミサカの先生なの?学校でカミジョウに会うなんて不思議なカンジ」
「つーかオマエ教師になンのかよ」
「なんのために俺が教育学部に通ってると思ってたんだ」
「オマエの学部、今初めて知ったぜ」
「打ち止め、苦労してないか?悲しいことがあったらいつでも先生に相談しろよ?」
上条は、タオルをたたみながら一方通行の横に座った打ち止めにだけ喋りかけた。視界から白い人を意識的にカットする。
打ち止めは恋人が分かりやすく眉をしかめた気配を感じ、苦笑を浮かべてトントン、と彼の足を優しく叩いて宥める。
「苦労よりも嬉しいことの方が多いから平気だよ、ってミサカはミサカは幸せなことをアピールしてみる。ご心配には及びません」
「……そっか。はははは、御馳走さま」
「何がだよ…」
「ん?コーヒーが」
「……」 - 17 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/05(水) 03:34:00.54 ID:QBDpqJCD0
- 「打ち止め、今日から上条が教育実習生に来るんだってー?まさかアンタのクラスに来たりしてね?」
休み明けの朝食の時間に、黄泉川が牛乳を飲みながら打ち止めに話題を振る。
自分が教えた生徒が、教師(仮)になるなんて、と彼女も感慨深く思っているのだ。ちなみに芳川は先に出勤しているのでこの場にはいない。
「そうだよ!楽しみだよねー。帰ってきたらヨミカワ達とあなたにも報告するから楽しみにしててね、ってミサカはミサカはリポーター気分に浸ってみる」
「うん、よろしく頼むじゃん!」
「…心底興味ねェな」
「またまた、あなたってばツンツンしちゃって」
興味がないわけでは無かった。しかし、何か気に入らない一方通行である。なぜ上条当麻が、打ち止めの中学に?
(打ち止めに不幸体質がうつったらどォすンだよ)
心配なのだ、彼女のことが。そう思ってコーヒーを喉に流し込み、席を立った。
「先行くぞ」
「え?今日は二限目からでしょ?」
「……図書館で論文仕上げようと思ってな」
「じゃあミサカももう行く!ってミサカはミサカは…」
「片づけは私がやっとくから。二人とも気をつけて行ってくるじゃん」
「ありがとーヨミカワ!」
お互いの学校への分かれ道、打ち止めはいつもどおりに手を振って去って行く。
普段はそんなことしないのに、一方通行は見えなくなるまで彼女の後姿を見送った。 - 18 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/05(水) 03:38:02.58 ID:QBDpqJCD0
- 「では上条先生、自己紹介をお願いします」
「は、はい。えー上条当麻です。少しの間ですが……」
(まさか本当にミサカのクラスに来るなんて、ヨミカワおそるべし。えへへ、なんだかムズムズするなぁ。
カミジョウが教壇に立ってるよ!ぷぷぷ、ちょっと緊張してるよねアレ!)
上条はみごと打ち止めのクラスに教育実習生としてやってきた。
これから二週間何かと面白いことになりそうだと、打ち止めはニヤける顔を隠そうともせず、上条先生を見つめた。
そこで彼と目が合い、二人は周囲に分からない程度に笑ってしまった。
実習生はほとんどの授業を、見学とそのレポートに費やす。
機会は少ないが教鞭を取る際には、打ち止めが自分を心配そうに見ているのを感じ、上条は嬉しいような、情けないような不思議な気分になった。
(最初は心強い気がしてたけど、こりゃなんか失敗したら恥ずかしいよな…。一方通行と黄泉川先生に筒抜けだし)
(あ、カミジョウ、字が違うよ字が…、ってミサカはミサカは国語担当なのにそれはどうなの?とツッコんでみる)
「上条先生、字が違いまーす」
「あ!?あぁスマン、俺緊張してて…」
案の定、誰かが指摘する。教室にクスクスという笑い声が響き、なぜか打ち止めが恥ずかしくなってうつむいた。
「っだー…、つ、疲れた…」
「お疲れ様、カミジョウ。うちの学食はあの人も認めた味なのよ?ごはん食べて元気だしてね。午後はもう授業ないんでしょ?」
「おう、そこは気が楽だな…」
打ち止めと上条は、学食で向かい合って昼食を食べていた。
気安そうに話す二人の元に、打ち止めのクラスの女子が数人近寄ってくる。手には各々料理が乗ったトレイを持って、同席する気満々だ。
「お邪魔しまーす。ちょっとミサカ、あんた上条先生と知り合いだったの?」
「そうじゃなかったら抜け駆けかい?」
「あははは、ミサカとカミジョウ…先生は、実は昔からの知り合いなのだ、ってミサカはミサカはもったいぶることもなく暴露してみたり」
「そうなんだ。俺もラ、ミサカのクラス担当になって驚いてるとこだったんだよ」
打ち止めは、みんなの興味の対象、上条の正面の席を譲り、友人達と楽しい時間を過ごした。 - 19 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/05(水) 03:43:20.35 ID:QBDpqJCD0
- 『今、上条と友達とごはんです!今日はきつねうどんだよ。上条はカレーライス食べてまーす』
「……」
わざわざ友人に携帯を貸して写真も撮ったのだろう。画像付きでメールが来た。
それを図書館で見た一方通行は、大層大きな舌打ちをかまし、丁度後ろを通りかかった学生と二つも席を離して座っている学生をビクリとさせる。
今日、彼は講義にも出ず、ましてや昼食も取らず、こうして図書館に籠って論文にとりかかっている。
約束の期限にはまだ日にちがあるが、三本も重なっているため、別に今のうちに一本完成させておいてもいいだろう。
(結局三下は打ち止めのクラスかよ…、黄泉川の勘が当たったなァ…)
これまた必要以上に音を立てて携帯を閉じ、さらにゴン、と机に置いて、またパソコンのキーボードを叩く作業に戻った。
周囲の人間が距離を取るほど、昼食に誘いに来た野次馬達が声をかけるのを躊躇うほど、彼はイラついていた。
「ねぇ、ミサカちゃん、どうして今日、一方通行あんな怖いわけ?昼飯いいのかな…」
「…んー、なんとなく理由は分かるけど…。ま、あと一週間以上はあんなかも」
「えぇー、せっかくシャーペンと消しゴム、ラッピングしてきたのになぁ。仕方ねぇ。これミサカちゃんから渡しといて?」
「なんだか小学生の誕生日プレゼントみたいよねぇ…」 - 20 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/05(水) 03:46:06.59 ID:QBDpqJCD0
- それから数日。毎日毎日、打ち止めは家で学校の様子を楽しそうに報告した。黄泉川も芳川も、笑顔で聞いている。
一方通行も楽しそうにしている少女を、わずかに目を細めて見ていた。
どうやら今の所、上条の不幸が彼女に災いをもたらすような事態は避けられているらしい。
「今日は階段から落ちそうな子をナイスキャッチしたんだって。おかげでカミジョウはお尻を打ったらしいけど」
「確か昨日は学食の中でこぼれそうな大鍋を支えたのよね?そしてヤケド…」
「んで、おとといは能力使ってケンカしてた男子生徒の仲裁だっけ?上条大活躍じゃん」
「そうそう。おかげで元気な男の子と一部の女子が、右手に挑戦状叩きつけてきたんだって。
カミジョウ大変そうだったよ、ってミサカはミサカは校内を走って逃げていた姿を思い出してみたり…」
「アイツはいまだにそンなことされてンのか…。五年前と同じだな。くだらねェ…」
こうして皆で、もしくは打ち止めと一緒にいる時はいいのだが、一人になるとどうにも心配というか、懸念というか、心が落ち着かない。
一方通行は自室で溜息をついた。
ここ数日、どうにも変だ… - 21 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/05(水) 03:48:45.75 ID:QBDpqJCD0
- 「あーなーた。入るよー」
「…おォ」
打ち止めがドアをノックする。風呂上がりの彼女が、恒例のお部屋訪問に来たのだ。
こうしてキラキラする目で見つめられるだけで、落ち着かなかった心が静まる。
一方通行は少女の手を引き抱き寄せると、床に置いてあるクッションの上に雪崩れるように座りこんだ。
このクッションは青年の部屋でも床に座れるようにと、打ち止めが持ち込んだものだ。
(わわわ、今日はいきなり近いなぁ、ってミサカはミサカはどきどきしてみる)
「……」
(え?え?え?ちょっとちょっとあなたどこ)
「どこ触ってるのっ?」
「…胸」
「そうですね。でもそういう意味じゃないの。ダメ…」
「だめか」
「ヨミカワもヨシカワもいるじゃない。二人とも起きてたし…、ダメ、だったら」
「……厳しィな、オマエ」
「ミサカは誰よりもあなたに優しいはずだもん、ってミサカはミサカは打たれ弱いあなたをなでなでしてみる」
一方通行は打ち止めを抱きすくめていた腕をゆるめ、立ち上がってポルシェのキーを手に取った。
打ち止めはクッションを抱えそれを見上げていて、その表情は若干影がかかっている。
「走りに行くの?」
「あァ。悪い…、ちょっと頭冷やしがてらな。俺は明日三限からだし。…先に寝てろ」
「うん、おやすみ。あといってらっしゃい…」
これだけはしておかないと、と打ち止めは一方通行に駆け寄ってキスをした。
一人彼の部屋に残された少女は首をひねる。
(あの人、ちょっと変だったかな?……よし、明日は頑張ろう!ってミサカはミサカは大胆な決心をしてみる…っ) - 22 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/05(水) 03:51:21.57 ID:QBDpqJCD0
- 次の日、打ち止めは放課後の教室で数人の女子に囲まれていた。
この教室は隣のクラスで、帰ろうと思ったら「ちょっといい?」と呼ばれて来たらこの状態である。
みんなが聞きたいことは一様に『上条先生との関係について』であった。
「上条先生と付き合ってないの?」
「昔からの知り合いなんでしょ?」
「名前を呼び捨てで呼ばれてたし、ミサカちゃんも上条って呼んでたよ…」
「あうあう、違うのー。ミサカには…っ。みんなも知ってるでしょー?授業参観に来てくれた人!あの白い髪の人がいるんだから。
カミジョウ、先生はその人と友達だからミサカとも仲いいだけ…」
(す、すごい…!わずか一週間でこのファンクラブの如き女子達の熱の入りよう…ってミサカはミサカはみんなの迫力に圧倒されてみたり…!)
いくら説明しても納得してくれない。今日は早く帰って一方通行にとっても優しくしなければいけないのに…
埒が明かないと思って、申し訳ないがこの事態を招いた張本人を生贄にすることにした。
高速で携帯を操作し、上条の番号を呼び出そうとしたら…
「あ、いたいたラストオ…、ミサカ、今度黄泉川先生に」
「あー!さすがカミジョー!先生!超絶タイミング!」
不幸体質健在である。生贄は自らやってきた。
打ち止めは「あとは直接聞いてね!」と言い残してダッシュでその場から逃走した。後から上条の悲鳴のようなものが聞こえたが無視。
(もうあの人帰ってきてるよね…っ。急がなきゃ…)
焦る心そのままに、打ち止めの足は速度を上げていった。 - 23 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/05(水) 03:53:04.21 ID:QBDpqJCD0
- 「た、ただいま…」
打ち止めは息を枯らして玄関からリビングに飛び込んだ。やはり一方通行は既に帰っていきていた。
ソファに寝転がっていたが、チラと目を開けてこっちを見たので起きている。打ち止めは鞄を床に置いて彼の足元辺りに腰を下ろした。
「はぁ…ふぅ。もっと早く帰ってこようと思ったんだけど」
「随分息上がってンなァ。何かあったか?」
こう訊いても、どうせ上条の話なのだろうが…、訊いてしまった。だって訊かなきゃおかしい流れだっただろう。
「大変だったんだよー?ミサカとカミジョウが付き合ってるんじゃないかって、みんなに疑われてね…」
そう言われて、一方通行の中で何かが吹っ切れた。というか、ブチきれた。
「うるせェ!ンな話は聞きたくねェンだよコッチはァ!」
「っきゃあ!」 - 24 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/05(水) 03:55:56.93 ID:QBDpqJCD0
- 飛び起きて打ち止めの両手を拘束し、怒りと、よく分からない感情が渦巻いて、衝動的に彼女を睨みつけてしまった。
誰もが震え上がるであろう赤い瞳に睨まれても、打ち止めはただ戸惑うだけである。
(…あ、やっちまった……)
彼女とは逆に、噴出した感情の勢いも激しければ、それが引いていくのも早かった一方通行の方が焦った。
打ち止めの茶色い目に見つめ返されて、何も言葉が出てこない。
(ど、どうしたのかな?ミサカ変なこと言った?急にこの人が怒って…ない?あれ?……)
握っていた彼女の腕を離し、青年は気まずそうに目をそらした。分かったのだ、ここ数日自分の心が落ち着かなかった理由が。
いや、本当は最初から分かっていたが、目をそらしていた。今みたいに。
(情けねェ…。くだらない心配しちまってよォ。……くだらなく、ねェ、か……)
妹達にとって、上条当麻は特別だ。一方通行の実験を止め、命を救われただけではない。
生きる意味を与え、それぞれの個性を見いだせと説いた彼女達の唯一無二の存在。
そして、打ち止めも妹達だ。
不安、不快、心配、そして怖れ…
自分がいない所で、打ち止めと上条が親しくすごし、仲を深めることが、一方通行は怖い。
子供っぽい、でも深刻な自分の心理を理解してうつむいていたいた青年の顔を、少女の温かく柔らかい手がすくいあげた。
ふたたび見た打ち止めの目は、泣きそうでいて、笑っているようにも感じられる。それがだんだん近づいてきて、右の頬に唇が押し付けられた。
その優しさに、自然と瞼が下りてくる。
何度も、何度も。左の頬にも。
- 25 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/05(水) 03:58:35.91 ID:QBDpqJCD0
- 「あなたがネガティブ思考だってことを忘れてた…。最近言ってなかったけど…、ミサカね、あなたのこと好きだよ」
「………」
(もっと…)
言葉の間にも、頬へ優しいキスは送られる。
「カミジョウにはこのミサカだって感謝してる。でも愛してるのはあなた。苦労も多いけど、あなたがいいの…」
(言ってくれ…)
「目あけて…?」
「………」
まだ頬は彼女に支えられたままだ。しばらくはそうしておいてほしい。
「あなたがいたから、ミサカ達は…、このミサカは生まれた」
「打ち止め…」
「でもね、最近は違うかもしれないと思ってる、ってミサカはミサカは新説を発表してみる」
「どンな?」
待っていた、唇へのキス。
「あなたはこのミサカ…私のために生まれてきたんじゃないの……?」
頭の芯が、ぼんやりする。胸が熱くなる、苦しくなる。手は震えていた。
「そう、かもな…」
一方通行の震える両手がゆっくり持ちあがるのを見て、打ち止めは彼の顔から手を離した。
お互いの背中に腕を回し、強く抱きしめ合う。
(優しく…できたかな…?ってミサカは、私は…)
- 26 :ブラジャーの人 [sage]:2011/10/05(水) 04:05:04.66 ID:QBDpqJCD0
- 一方通行の心配と、打ち止めの優しさの巻 完
聖母ぶりが表現できたら良かったのですが。
上条さんの活躍を期待した方々、すみません。やっぱ新スレ最初の話だし、通行止めでいきました。
いつか打ち止め、妹達も(全員じゃないだろうが)一人称が「私」になる日がくるんじゃないかな…?
アイデンティティーが無くなるようなさみしさがありますけどね…
- 27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 04:20:05.88 ID:0KZSza7DO
- >>1乙
一方通行がかわいいww
そして上条さんは相変わらずの一級フラグ建築士っぷりですな
- 35 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/06(木) 21:29:09.08 ID:4K2r/cQ00
- 「あなた…」
「ン……?」
「重いぃー…」
「ンー…悪ィ」
一方通行は腕に力を込めて打ち止めの上から身を起こした。まだ自分も彼女も、幾分息が荒い。最近部屋に取り付けたブラインドによって、
夕暮れ時だが室内はとても暗かった。おかげで恥ずかしさが軽減された打ち止めは、青年の視線を感じてもそれほど焦らない。
「あ」
「ふゥ…」
繋がっていた箇所を引き抜き、さっさと自分だけ後始末をする。打ち止めは毛布を探していたが、
実は情事の最中に床に蹴り落としてしまっていたので、裸を隠すものが何も見当たらない。
そうこうしている間に、一方通行だけが服を身に着けた。
「ずるい、あなただけ…ってミサカはミサカはこっちはまだこんな格好なのよ、と非難してみる」
「なにが。オマエも起きればいいだろォ?」
打ち止めは自分を抱きしめるように丸くなると、ジト目でベッドに座り直す恋人を見つめた。
部屋は暗い…が、完全な暗闇ではなく、目が慣れればある程度は視界が効く。
一方通行は丸くなった少女の体を、そのラインに沿って撫でた。
「ま、もうちょっとこのままでいてもいいと思うぜ…」
「うぅ…」
秋深まる季節だったが、いまだ体は熱く、彼の手も温かい。寒いことはなかったが、さすがに少し恥ずかしいと思う。
しかし、一方通行が本当に優しい表情で自分の体を撫でてくれる嬉しさが羞恥を凌駕したため、打ち止めは彼の言うとおりにすることにした。
方や一方通行は、その表情が思わせることとはだいぶ違うことを考えている。
(なンか…、最近打ち止めが……)
太った?
とは訊けない一方通行。以前より打ち止めの体が、柔らかく、丸みを帯びてきたような気がするのだ。
(あれほど足細くするとか言ってて、太るってこたァねェだろ。それに太ったっていうより…)
なんかイイ…と思う。 - 36 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/06(木) 21:33:43.57 ID:4K2r/cQ00
- 「打ち止め…」
「なぁに…?」
「痩せようなンて思うなよ」
「えっ?あの急にどうしたの?」
縮こまっていた少女の両腕を取って、シーツの上に縫いつけた。まじまじと見降ろす。やはり以前より、イイ。
打ち止めは服を着込んだ一方通行にそうされて、もじもじと体をよじらせたが、その動きは彼を更に感嘆させるだけだ。
そっと手を離すと、ありがたいことに打ち止めはそのままの態勢でいてくれた。
左手をベッドについて、右手で彼女の首、肩から胸、そして腹、足までをなぞる。
ゆったりと足を組み、揺れることのない青年の視線が穏やかだったので、打ち止めは大人しくしていた。
(触ってるだけで気持ちいいな…。馴染むっつーか…)
「変なの。今までこんな風に撫でてくれたことあったっけ?ってミサカはミサカはまるでペット扱いのようだとワンワン言ってみたり」
「褒めてンだよ。俺は…気に入ってる…。自分が硬ェせいか?」
「あら…、ミサカったらあなたを知らず知らずのうちにトリコにしてたのね?」
「……そォだな。だから、痩せる必要ねェよ…」
「素直~…、ってミサカはミサカは普段と違うあなたにビックリしてみる」
一方通行は上半身を屈めて打ち止めの首筋に顔を寄せた。触れるだけのキスをして、肌から匂い立つかぐわしい香りを吸い込んだ。
この匂いも、以前と違う気がする…
(これも…、馴染むなァ…)
(なんだろう、今日のこの人は本当に素直でかわいい…)
打ち止めは青年の髪を梳かすようにして頭を撫でた。素直な彼など珍しい。
そこで、今なら訊けるかもしれないと思ったので、何気ない風を装って訊いてみた。
「ねぇあなた、教えてほしいことがあるの」
「……」
一方通行は喋らなかったが、胸元を軽く吸われ、さらさらと彼の前髪が肌をくすぐったのを返事と解し、打ち止めは本題を切りだした。
「ミサカはもちろんあなたが初めてだったけど、あなたはミサカが初めてだった?」
「…、……」
彼からの返事はない……
- 49 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/09(日) 00:56:00.43 ID:paCRolq30
- 少女の胸元で息を飲む青年。
一方通行はゆっくりと顔を上げ、上体を起こして打ち止めを見降ろした。
(おぉ、こんなカオも珍しい、ってミサカはミサカはこの人の意外な一面を発見してみたり)
「急にどうしたは、こっちのセリフだな。そンなこと気になるのか?」
「うん、なる。教えて教えて!ってミサカはミサカは逃がさないぞ、とあなたを捕まえてみる!」
「ちょォ、オマエ…っ」
打ち止めは勢いよく腕を伸ばして一方通行の首に回し、自分の方へ引き倒した。
青年は誤って少女を押しつぶしてしまわないように気を配ってしまったので、体よくベッドへ転がされる。
打ち止めはさらに彼の胸の上にのしかかって、答えるまでは解放しない意思を伺わせた。
「じーっと見つめてプレッシャー…」
「言ってりゃ効果ねェよ…」
「ミサカだけバレバレで、あなたは内緒なのは不公平だと訴えてみる」
「男と女じゃ事情が違うンだ。あンまり公言するもンじゃねェ」
打ち止めの顔が、自分の胸の上で曇っていく。答えたくないということは、打ち止め以前に経験がある…と思わせてしまったのだろう。
「百面相だなまるで」
「………」 - 50 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/09(日) 01:00:48.35 ID:paCRolq30
- お互いに、相手のことを大切に想い合っている。
誰にも渡したくない。愛して、愛されているのは自分だけ。
他の男についていくな。他のひとを見ないで。
でも、過去は取り返せない。
一方通行は打ち止めより肉体的に五年以上も年上だ。出会ってから本格的に男女の仲になるまでの五年間、それに出会う以前の
彼の異性関係を、打ち止めは知らない。彼は女性にうつつを抜かすような暇も性格も、
持ち合わせてなかったとは思う(自分は除く)のだが、やはり心配である。
(教えてくれないかな…。でもそれってつまり、先にした女のひとがいるってこと?)
(まさかこンなこと訊いてくるとはなァ)
(知ってもしょうがないのに、訊かずにいられなかった…。うーミサカかわいくないかも)
(仕方ねェか…。気になるモンだよな、やっぱりよォ…)
一方通行は両手の指先だけで打ち止めの背中をつつつ、とくすぐった。
少女がその刺激に目を丸くして、体を弓なりにしならせ戸惑っている隙に、さらりと告げる。
「わわわ、やめてもぉ」
「俺もオマエが初めてだった」
「…ぉ?」
「聞いてたか?」
「…うん」
「じゃもォいいよなァ?ほら、そろそろ服着ろ」
青年は体を起こそうとしたが、打ち止めはそれを良しとしない。立てられた膝に自分の足を絡めて動きを封じ、少し強引に彼の首、頭を抱えるように抱きついた。
一方通行には彼女の顔は見えなかったが、安堵の気配が伝わってくる。
「寒くねェの?」
「寒くない…。ぎゅってしてくれれば」
「……」
彼女のご要望に応え、一方通行はできるだけ多くの肌が触れ合うように努めた。 - 51 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/09(日) 01:02:11.15 ID:paCRolq30
- ずいぶん前から気にかかっていたのだろうか。
その日は夕飯の時も、リビングでテレビを見ている時も、打ち止めは心晴れやかといった様子で絶えず笑顔だった。
芳川に「何かいいことがあったの?」と訊かれているほどである。よっぽど初めてどうしだったことを喜んでいるらしい。
(……、嬉しそうにしてるし、ああ言って良かったンだ…よな)
風呂につかりながら、一方通行は打ち止めの笑顔を思い浮かべる。正直、恥ずかしかった。
(どォして打ち止めはあンなに気持ちいいンだ…?)
肌を重ねるごとに、深く溺れていくような気がする。
打ち止めがあんなことを訊いてきたものだから、風呂を出てもそんなことばかり考えてしまう一方通行だった。
- 53 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/09(日) 01:08:10.04 ID:paCRolq30
- (そォいや今日は打ち止めが部屋に来てねェな)
夕方に、散々ここでひっついていたことではない。打ち止めは大抵風呂の後に一方通行の部屋に来て就寝前のひと時を過ごす。
自分が入浴する前に彼女も風呂に入ったはずだが…
(まぁ、疲れて先に寝ちまったか…)
自分も疲れていることだし、ベッドに入って照明を消した。しかし、いざ目をつむると眠気が遠ざかってゆく。
根気強く毛布を被ってひたすらじっとしていたら、ドアの外に人の気配が感じられた。打ち止めだ。
彼女はノックもなしにそっとドアを開け、足音を忍ばせて入って来た。そして手がベッドに触れたところで、
一方通行は壁際に体を寄せて、打ち止めのためにスペースを空けてやる。
「やっぱり起きてた?」
「あァ?起きてて悪ィか」
「はい、入れて入れて。今夜は冷えますなぁ、ってミサカはミサカは毛布のおすそわけを期待してみたり」
今夜は枕を持参の打ち止め。彼の横に自分も頭を並べた。
「はぁ、ぬくぬく…」
「冷てェなァ。裸足で来るなよ」
一方通行は打ち止めに向き直って背中に腕を、冷えた足には自らの足を絡めて体温を分け与える。なんだかいつもと逆だ。
打ち止めも彼の背中に手を回し、ベッドの中でお互いに抱きあう。これで安らかに眠れるだろう… - 54 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/09(日) 02:18:38.46 ID:paCRolq30
- 「っい!?」
「……」
「なンだよ!?」
背中を打ち止めにつねられた。しかも結構強く。
肉が無い一方通行の背中をつねるのは少々困難だが、成功した暁には大きなダメージが期待できる。
「なんでもない」
(なンでもないわけねェだろ…)
「…ん」
近付けていた顔を離し、彼女の真意を確かめようとしたのだが、打ち止めはおかまいなしで唇を突き出してキスを要求してきた。
一方通行は不満と困惑を抱えながらも、とりあえずキスをする。
「……ふ」
「ン……」
(おいおい、寝るンじゃねェのか)
濃厚な口づけは、中々終わらない。青年が肘をついて態勢を整えようとした時、不意に唇が離れていった。
打ち止めはもぞもぞと一方通行の胸に顔を埋め、寝る態度を表した。せっかく持ってきた枕は最早用無しらしい。
「おやすみ、あなた…」
「…おォ」
(……こりゃァ、…もしかしてバレてるのか?) - 55 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/09(日) 02:21:24.02 ID:paCRolq30
- あんなに真正面から、打ち止めに嘘をついたのは初めてだった。
大学に入って間もない頃だったと思う。一方通行はひょんなことから見知った同じ年頃の女性を抱いたことがある。
もう顔もあまり覚えていないが、たしか数回ほど会ったはずだ。なんとなく誘われたので、どんなものか興味もあったから試してみた。
打ち止めとのセックスが初めてではないことを彼女に告げれば、まず悲しませるか落ち込ませるかしただろう。
(打ち止めのためを思ってのことだったンだが…、バレてりゃ世話ねェな)
一方通行は打ち止めの頭を撫でた。香ってくる良い香り。触れ合った肌から伝わる柔らかさ。
比べるまでもなく、こんなに夢中にはならなかった。打ち止めが、打ち止めだから強く求めているのだと分かっている。
(だから、勘弁しろよ)
優しい恋人を腕の中に、青年は簡単に訪れた眠気に意識を手放した。
「……」
(ごめんね、あなた。ミサカはあなたの言ったこと、嘘かもしれないって疑ってるの。
でも本当なら嬉しいし、嘘でも、ついてくれたことが嬉しいからいいの……)
でも、もし嘘だったらやっぱり良い気はしないので、とりあえずつねっておくことにしたのであった。 - 56 :ブラジャーの人 [sage]:2011/10/09(日) 02:32:15.72 ID:paCRolq30
- 一方通行の嘘の巻 完
最近は脳内で一方さん、打ち止めと会話ができるようになりまして、聞き取りしたら上記のようなことでした。
お互い初めて派、経験済み派、真実は闇の中にとどめておいてほしい派… いろいろな方がいらっしゃるようでしたね。
結局「経験済み」でしたが、他の派閥の方々、ごめん。でもこうなってしまいましたよ、勝手に話が進んでいきまして。
ご容赦ください…
- 57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 04:45:15.73 ID:6tBGmmkDO
- 乙。
打ち止めが健気すぎて涙出るわ
- 66 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/12(水) 18:37:52.69 ID:U9NO6jzB0
- 打ち止めはぶらさげたコンビニ袋を揺らし、我が家への道を歩いていた。一方通行におみやげのアイスも買ったので急いで帰らなければ。
(この寒いのになンでアイスなんだ、って文句を言いつつ食べてくれるあの人が簡単に予想できるなぁ)
近道に近所の公園を横切ろうとしたら、園内の植え込みからガサガサと音がする。
猫でもいるのだろうかと、なんの疑問も持たずそこを覗き込んだ。
(……わぁー、どーしよう。困ったことがあるとすぐにあの人に頼っちゃおうと思うなんて、ミサカ甘やかされてる証拠だよね。でも頼っちゃえ)
(遅ェな…。たかがコンビニに行くだけで)
リビングで体だけをくつろげていた一方通行は、帰りの遅い打ち止めに電話しようと携帯電話に手を伸ばした。
とたんに着信音が鳴り、それは案じていた少女からだったので、一気に安堵がこみ上げる。
「なンだ?」
『あなたー助けてー』
「はァ!?」
『怪我してるの』
「!?どォした、今どこにいる!?」
『あ、怪我してるのはミサカじゃないからね、ってミサカはミサカは電話の向こうで血圧上昇気味なあなたを落ち着けてみたり』
「……で、どこにいンだよ」 - 67 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/12(水) 18:39:29.74 ID:U9NO6jzB0
- すぐ近くの公園にいるとのことで、一方通行は靴を履いてからベランダよりその方向へと飛び出した。
十数秒後には、眼下で手を振る打ち止めの姿が見え、隣に降り立つ。
打ち止めは「しぃー」と口に指を当ててから、植え込みの方を指し示した。
青年が一緒にそこへ近づくと、ガサゴソと何か動物が地面で動いているのが分かる。こちらが近づいたことに驚いて逃げようとしているのだろう。
打ち止めが一方通行の服の裾を引っ張り、二人してゆっくり、ゆっくり忍び寄った。
「ぐるっぽぅ」
「……鳩、だな」
「うん、鳩。ほら、血が出てるでしょ?ってミサカはミサカはこの子を助けてあげたいとあなたをウルウルおめめで見上げてみる」
「また面倒くせェことを…」
「だってぇ、この子真っ白だもん。あなたみたいだもん。見つけたからには放っておけないよ…」
「……はァ」
「ぐるぽー…」
- 68 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/12(水) 18:48:38.89 ID:U9NO6jzB0
- 「で、僕のとこに来たわけかい。でも一応僕は人間の医者なんだけどねぇ?」
公園で(能力を使って)鳩を捕獲した一方通行は、一度家に帰ってからいつもの病院にやってきた。
鳩をタオルに包み、ダンボール箱に押し込めて来たのだが、カエル顔の医者にそう言われてハタと気づく。
(そォいやそうだった。普通こういう時は動物病院だろォが。何やってんだ俺達は)
(怪我をしたらココ、という刷り込み意識が働いてしまった、ってミサカはミサカはうっかりさん)
「なんて顔してるんだい、二人とも。まぁっせっかく来たんだし、一応診せてごらん。頼ってくれて嬉しいよ」
(診るのかよ)
(結局診てくれるのね、鳩なのに)
動物の診察を人間用の病院内でするのはよろしくないので、中庭のベンチにて行うことにした。もともと人間には慣れている鳩は、
カエル顔の医者の手の中で大人しくしている。血が滲んでいる翼をかまっていた冥土帰しは、そっと鳩をダンボールの中に戻す。
診察が終わったと見て、打ち止めが心配そうに訊いた。
「先生どう?」
「うん、骨は折れてないよ。傷口を消毒して安静にしておけばそのうち飛べるようになるさ。野生動物だし」
「ではこちらに消毒薬を用意してありますので、あとはこの一九〇九〇号にお任せください、とミサカはナイスタイミングを自画自賛します」
「…後ろから気配を消して接近するのはやめろ」
「じゃ、僕はこれで失礼するよ。君達、この鳩を面倒みるならペットショップに寄って餌なんかを揃えてあげるんだね?」
いつの間にか傍にいた一九〇九〇号が、席を外した冥土帰しに代わって鳩の手当てをしようとする。
しかし、彼女が羽のあたりに触れたところで、ばたばたと箱の中で逃げるような素振りを見せる鳩。
- 69 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/12(水) 18:50:55.93 ID:U9NO6jzB0
- 「嫌がってるなァ」
「うぅ、やはり鳥類でもミサカ達が纏う微弱な電流を嫌って慣れてはくれないようです、とミサカは鳩なでなで出来るんじゃね?という期待が早くも崩れ去ったことに落胆します…」
「やっぱり…、あなたを呼んだミサカの判断は正しかった、ってミサカはミサカは一九〇九〇号と一緒にがっかりしてみる」
「仕方がありません。一方通行、これを」
一九〇九〇号が消毒薬とガーゼを摘まんだピンセットを一方通行に差し出した。オマエがやれ、という意味である。
彼は顔をしかめながらもそれを受け取った。打ち止めと一九〇九〇号が出来ないなら、自分がやるしかないだろう。
「そうです。まず血を拭いて…、それくらいでいいでしょう。あとはガーゼに消毒液を付けて…はい。
なかなか上手いじゃねーか、とミサカは上から目線で一方通行を称賛します」
「いちいち一言余計なやつだな」
「あとは安静にしてれば治るんだよね?ねぇあなた、この子のお世話してもいいでしょ…?」
打ち止めが一方通行の隣に座り、箱の中から彼の顔に視線を移す。
彼女にそんな表情をさせるつもりはない。一方通行とてこの白い鳩の面倒は、打ち止めが助けたい、と言った時から受け入れるしかないと思っていたからだ。
「ここまできてやらねェってわけないだろォ。…ペットショップ行くぞ」
「やったー!ってミサカはミサカは大喜びー!」
「あっぱれな心がけです。ミサカからはこの消毒液をタダで提供してやりましょう」
「どォも…」
「くるっぽー」
- 74 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/14(金) 21:47:13.66 ID:sEDUugVR0
- 鳩入りのダンボール箱を抱えた打ち止めと一方通行は、病院からペットショップへと向かう。金魚の水槽などはデパートで揃えたが、
さすがに野生の鳥のことは専門の店で任せた方がいいだろうと、ポルシェのナビで検索し一番近い所へと走らせた。
後席に置いた箱を、助手席に座る打ち止めがチラチラ伺って気にしている。
「そンな心配すンな。大人しくしてるみたいだぜ」
ルームミラーで箱を確認した一方通行が隣の少女を安心させようとしたが、おそらく無駄だろう。
動物好きの彼女は、これからしばらく鳩と過ごせるということで、心が浮き立っているのが丸分かりだ。
「うん…、でも暴れる元気もないのでは?とかえって不安になってみたり…」
「ンなわけねェだろ。アイツを捕まえるときにめちゃめちゃ走り回ってたじゃねェか」
「…そう、だよね……」
(やれやれ…) - 75 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/14(金) 21:49:44.99 ID:sEDUugVR0
- やってきたペットショップの店員に事情を話し、どのように世話をすればいいのか、餌はどれを買えばいいのか等を訊いた。
ダンボール越しならと打ち止めが箱を抱えているのだが、鳩は病院で一九〇九〇号に羽を触られた時のように嫌がる様子はなく、店内まで連れてきた。
「はぁ、鳩ですかぁ。特別気を付けるようなことはないっスねぇ」
「……、何かねェのか?食わせちゃいけないモンとか。飼う時のコツとか注意点とかよォ」
「いや、マジないっス。鳩なんでも食いますし。パンでも生米でも炊いたご飯でも…。
もちろん人間のお菓子なんかは、鳩に限らずアウトっスよ」
「あのあの、じゃあカゴに入れてテキトーにごはんをあげてればいいの?ってミサカはミサカは金魚ちゃん以上にアバウトな鳩の飼育方法に驚いてみる…」
せっかくやってきたペットショップの店員の説明は、とてもざっくばらんなものだった。打ち止めの言うとおり金魚の方が、手がかかりそうである。
「まぁ、お譲さんの見解でほぼOKっス。一応専用の餌があるんでそれをどうぞ。あとは籠を清潔にするとか、
数日に一回くらい水浴び…はダメかも。日光浴させるとか、フツーのことすりゃそのうち怪我も治りますよ」
「オゥ、気合いを入れていた分だけ脱力も激しいね、ってミサカはミサカは難しくなさそうなことにホっとしてみたり」
「あァ、楽な方が助かるけどな…」
- 76 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/14(金) 21:51:50.93 ID:sEDUugVR0
- ケージや餌を買い、それらを台車に乗せて運んでもらった。
「おぉーポルシェすげーっスねー」と、凄いと思ってないように褒める店員に、打ち止めが箱のふたをそっと開けて鳩を見せる。
「店員さん、この子がオスかメスか分かる?」
「うーん、雌雄を見分けるのは難しいんスよねぇ。卵を産めばメスってのは確実なんスが」
「どっちでもいいじゃねェか別に」
「よくないよ、名前決めるのに大事じゃない」
「はぁなるほど。ちょっと箱ごと貸してもらっていいスか?他の店員にも見せてみます」
買った物を車に積んっでから、三人は店舗へ逆戻りした。そこで専門的な判別法でも行ってくれるのかと思ったら…
「はーい、この鳩が雄だと思うひとー…ん、二人」
「じゃ、雌だと思うひとー……お、店長も雌に一票っスかぁ?こりゃ店長加点で、四人だけど六人に換算してもいいくらいだなぁ」
(鳩の飼い方がアバウトなンじゃなくて、この店自体がアバウトなンじゃねェのか、もしかして)
「よっしゃ、まぁ雌ってことでひとつよろしくっス」
「わぁ、女の子かぁ。どんな名前にしようかな、ってミサカはミサカは悩んでみる」 - 77 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/14(金) 22:20:43.94 ID:sEDUugVR0
- マンションに戻り、さっそくリビングにケージを設置する。夕暮れ時を過ぎ、珍しく芳川も早い帰宅をしたところであった。
「あぁ、これが保護した鳩ね。ふふ、真っ白じゃないの」
「一九〇九〇号から聞いてた?えへへ、白いから放っておけなくて、ってミサカはミサカはあの人を見つめてみたりー…」
「……さっさと手伝わねェか。餌食わすンだろ」
「はーい」
ひととおり準備が終わり、芳川が鳩を掴んでケージに入れる。相変わらず大人しい。
低い位置に取り付けた止まり木に、自ら足を乗せに行って首をすくめて丸くなった。
「まるで飼われていたかのように落ち着いているわね」
「おりこうさんだね、ってミサカはミサカはさっそくごはんをあげてみる。食べるかなぁ…」
ペットショップで買った餌を容器に入れて差し出すと、鳩はなんのためらいもなく食べ始めた。ガッツガツ食べ始めた。
「こりゃ心配いらねェな。あの店員やカエル医者の言うとおり、放っときゃ治るだろ」
「確かに、こんなに食欲あるなら大丈夫みたい。良かったね、ハト子」
「……」
「ハト子ォ?」
「あらあら、打ち止め、もう名前決めたのかしら」
「うん、どうも女の子みたいだからハト子」
一方通行は壁際の水槽を見た。水中では我が家のペット、三匹の金魚が気持ちよさそうに泳いでいる。
最近寒くなったので、ヒーターを稼働させたためか、三匹とも非常に快活だ。
そしてこの金魚たちにも、実は打ち止めがつけた名前があるのだ。
まず、『キンちゃん(コアカ)』そして『ギョっちゃん(コメット)』最後に『マルちゃん(流金)』である。
「オマエはほンっっとーに命名センスがねェ。驚くほどねェ」
「いいじゃない、分かりやすくて。鳩で雌ということが、すぐに想像できるわ」
「そうだよー、文句があるならあなたが名前つける?ってミサカはミサカは芳川の賛同を得て強気に出てみたり」
「……」
そう言われて、わざわざ鳩なんかの名前に頭を悩ます一方通行ではない。というか、生き物の名前を決めるなんて、彼はやったことがないのだ。
打ち止めのセンスが変ということは断言できるが、では自分なら…とはいかないのである。
「別に…なンでも構わねェよ」
「じゃ、やっぱりハト子だ。よろしくね、ハト子」
「くるっぽ」
- 87 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/19(水) 17:51:35.60 ID:rJH/tVS10
- 「いってきまーす。ハト子のお世話お願いね、ってミサカはミサカは主夫な旦那様に見送られるキャリアウーマンのような気分に浸ってみる。うふ」
「なにがキャリアウーマンだ。しっかり勉強してこい。中学生」
(まァ手は出してンだけどよ、中学生に)
保護者達が出勤し、打ち止めが学校へ行けば、この家は一方通行だけとなる。正確には保護中の鳩がいるのだが。あと金魚。
大学生という肩書を持つ彼が、一番時間の自由が効く。よって鳩の世話も彼にお鉢が回ってきた。打ち止めはハト子を可愛がっていたが、
体に纏う電磁波で嫌な思いをさせないように触れるのを自重しているので、怪我の消毒も主に一方通行がやっていた。
「おら、来い」
そう言ってケージの中に手を入れれば、自ら人差し指の上にとまりに来る。ソファの上にて消毒薬のビンを用意しても、鳩は一方通行の膝の上で大人しい。
これが終われば餌がもらえるとこの数日で学習したからだろう、と一方通行は思っているが、
彼以外の住人に言わせれば、ハト子は単に一方通行に懐いているそうだ。
「おし、…ほれ食え」
「くーっ」
この家に滞在する時間が長いのは、まず一方通行、ついで打ち止めだが、前述の理由で彼女は寂しいことにハト子にあまり触れられない。
長い時間を同じ室内で過ごし、餌をくれる一方通行に懐くのは必然であった。
ハト子の世話を終え、ソファに転がってテレビのニュース番組を見ている青年の腰の上には、鳩。
黄泉川家のリビングでは、見慣れた光景になりつつあった。
(十時過ぎたか…、そろそろ行きますかねェ)
二限目の講義に出席するため、一方通行はハト子をケージに戻す。
「ぽ」
「三時過ぎまでだ。その後また出してやる」
なんやかんやで鳥類に帰宅の予定時間を告げ、一方通行は大学へ向かった。同居人達(特に打ち止め)が可愛がっている鳩だ。それに自分に
(懐かれて…ンだよな?)
誰だって悪い気はしないだろう。 - 88 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/19(水) 17:56:55.30 ID:rJH/tVS10
- 「ただいまー!ハト子にごはん…っ」
「もォやった」
かわいいハト子に早く会いたくて急いで帰ったきたのに、既に先に帰宅していた一方通行によって餌もあげられてしまったらしい。打ち止めは口を尖らせた。
「えー、ミサカがあげたかったのにぃ。夜はミサカがごはん係だからね、ってミサカはミサカはあなたに先駆けて予約してみたり」
「そンなにやりたかったンかよ…」
「だって……」
テレビは音だけ聞いているのだろうか。打ち止めはソファに仰向けに寝る一方通行を見た。
規則正しく呼吸によって上下する彼の腹の上では、その動きに合わせてハト子も上下している。
「ハト子ってば、あなたにばかり懐いて…。ミサカ、ジェラシー感じちゃう」
「どっちに…」
「両ぉー方ぉー」
少女は青年の足にすがり付くように腰掛ける。そしてハト子の尾にそぅっと手を伸ばしてツンとつついた。
「く?」
「おォ?可愛さ余って憎さ百倍かァ?」
「違うよ、ただミサカだってハト子にちょっとでいいから触りたいの。羽キモチいいなぁ」
ハト子は打ち止めの方を振り向き、一方通行の腹の上を歩いて彼女へと近づいていく。 - 89 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/19(水) 18:01:22.46 ID:rJH/tVS10
- 「あら?あら?ってミサカはミサカはドキドキしてみる…」
傷ついた羽だが、少しは飛べる。ハト子は打ち止めの頭に飛び上がり、ぴょんぴょんとさらに背中へ。
「ふわぁぁぁ~あなたあなたハト子がっ、ハト子がぁ…ミサカに…っ」
「落ち着け、興奮して放電するなよォ?じっとしてろ」
「うん、うん。でもどうして?ミサカの電気平気なのかな?」
「しばらく同じ部屋に居て、接近もしてたからな。まさか電磁波に慣れたのか?」
「あぁ、ハト子の重みが背中に。くすぐったいけどあったかいよぉ~、ってミサカはミサカはハト子を乗せてるあなたの気持ちを実感してみたり」
「オマエの制服でクチバシ拭いてるぞ」
「それでもいぃー」
「くるくる」
そんなわけで、一方通行ほどではないが、ハト子は打ち止めにも慣れはじめた。打ち止めの喜びようたるや、今度は一方通行が嫉妬を感じてしまうほどである。
ハト子とあまり離れたくないということで、最近はろくにデートもしていない二人だった。
「やっぱりハト子はあなたの方に懐いてるのね、ってミサカはミサカは悔しがってみる」
「…なァ、明日あたり久しぶりに晩飯外で食って、ドライブ行かねェか?」
「んー、また今度にしようよ」
「……」 - 90 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/19(水) 18:04:15.19 ID:rJH/tVS10
- 打ち止めは今、一方通行の部屋にて彼についてきたハト子を追い、この鳥をニヤケ顔で観察中である。
おやつだと言い、食パンをちぎり少しずつ与えては、楽しい触れ合いに夢中だ。
やがてパンが尽きるとハト子は、クッションに座り雑誌を読む一方通行の右肩にとまり、白い髪をくちばしで啄ばみはじめる。
「むぅ、おやつが無くなった途端これなんだから、ってミサカはミサカは寂しいからあなたの反対側に失礼しまーす」
「右も左もくすぐってェなァ…」
鳩の傍に人差し指を近付ければ、こちらはお利口に飛び乗ってくれるのだが、反対側でじゃれついてくる少女はタチが悪い。
(鳩にやきもち焼くのか、俺に焼くのか、はっきりしろよ…)
鳩が自分にこうして懐けば「ずるい」と言われたり、まるで張り合うように、こうしてベタベタとひっついてくる。
二人きりで過ごしたいのでデートに誘うと「また今度」と断られるし。
(どォしろってンだ)
どうにも八方ふさがりであった。こうなると、ベクトル操作で羽の怪我をさっさと直して、空へ放してしまおうかとも思ったりする。
鳩に能力を使ったことなんてもちろん無いが、人間と同じ恒温動物だ、やって出来ないことはないだろう。
(でもなァ、コイツが泣くかもしンねェし)
怪我が治れば、別れもやってくる。それまではこの理不尽な状況にも我慢してやるべきか…
それに、打ち止めもそれを見越してこんな態度を取っているのかもしれない。
「んー、ちゅー。どぉ?ハト子とミサカのどっちがくすぐったい?」
「ばァーか。鳩はもう俺の足の上だぞ」
「あれいつの間に。まぁいっか、ってミサカはミサカはもう少しイタズラを続けてみたり」
(考えすぎかもなァ…) - 91 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/19(水) 18:10:02.43 ID:rJH/tVS10
- そんな日常を送ることさらに数日、ハト子は部屋の中を本棚からテレビの上、そこからソファへと飛べるまでになった。
黄泉川と芳川も、ハト子の回復ぶりを微笑んで見守っている。
「おぉ、ハト子もだいぶ飛べるようになったじゃん。一方通行と打ち止めが世話したおかげだね」
「世話っつっても、消毒と餌やりぐらいなンだがな」
「でも見てて立派だったわよ。しっかり愛情持ってめんどう見たから、こんなに懐かれているのでしょう?」
「……」
「あっははははは!ダメじゃんよぉ一方通行。そんなにこっち睨んでも頭にハト子乗せてちゃギャグにしかならないじゃん」
「ねー。白い髪に白いハト子だから同化して目がチカチカ、ってミサカはミサカは羨ましいからおやつでハト子をおびき寄せてみたり」
「ぽっぽ」
打ち止めがキッチンで、パンの切れ端を手に持ちハト子に見せびらかすと、黄泉川家のアイドルは一方通行の頭を蹴って、少女の前のテーブルに着地した。
首を振って「早くチョーダイ」とアピールしている。
「はい、あげる。うんうん、本当に飛べるようになったね、ハト子。……寂しいなぁ、これじゃもうすぐお外に放してあげないといけないね…」
切なげな打ち止めの声を聞き、リビングにいた三人は彼女へと視線を向ける。
一方通行を含め、黄泉川も芳川も、打ち止めが「離れたくない、このままハト子を飼いたい」と駄々をこねるのではないかと予想していたからだ。
しかし、この少女も考え方が大人に近づき、とっくに、…もしかしたら最初から別れを承知で鳩に接していたのかもしれない。
黄泉川が打ち止めの横に立ち、少女の肩を抱く。
「よしよし、良い子だね、打ち止めは…」
「……ん…」
一方通行は新聞へと目を戻したが、背後で黄泉川に慰められる打ち止めの様子は把握していた。
(やっぱ分かってたンだな……)
「打ち止めも、もう子供じゃないのね。ああして言葉に出して決心を固めているのかもしれないけれど」
「…あァ」
芳川もキッチンへと行くらしい。一方通行の横を通り過ぎる際に、こっそりこう告げてきた。
「君も、後で慰めてあげるのよ?」
「………」
- 93 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/19(水) 18:21:03.05 ID:rJH/tVS10
- 芳川に言われたからこうしているわけじゃない。もとより一方通行は、打ち止めが悲しそうな顔をしていたら、自然と体が動いていただろう。
打ち止めは床に座り、ケージの中で首をすくめて眠る鳩をじっと見つめている。深夜のリビングはまだ明かりが点いているので、
遮光性の高い布でケージを覆っていたが、正面だけめくったところから、ずっと飽きもせずに。
そして一方通行も、ずっと打ち止めを後ろから抱きしめていた。どれくらいこうしているだろう。
リビングでこんなことをしていては、保護者達に目撃されて恥ずかしい思いをするかもしれないのに、
一方通行はそれを顧みず、時折少女の頭を撫でながら優しく包み込み続けた。
「かわいいねぇ、ってミサカはミサカはハト子のお休みポーズに釘付けになってみたり」
「最近はコイツ、カゴから出してる時はいつも動き回ってるからな」
「ふふふ、でもあなたの肩やお腹の上では大人しくしてるじゃない」
「カイロ代わりにはなった」
「もう、ハト子をホッカイロと一緒にしないで、ってミサカはミサカは寒くなってきたから気持ちは分かるけど怒ってみる」
「寒い」という言葉が出たからか、一方通行の腕に力が入る。二人の体がさらに密着した。
「オマエの方があったけェ」
「ミサカのこともカイロだと思ってる?」
「馬鹿言ってンな」
「……あなたとは、離れたくない」
「俺は鳩じゃねェよ」
「白いけどね」
「この減らず口が。よっぽど黙らせてもらいたいンだなァ?」
「そうかも」 - 94 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/19(水) 18:22:56.11 ID:rJH/tVS10
- こんな風に言葉を交わし、近くでごそごそと動いていれば、照明の明るさも手伝って鳩が目を覚ますのも無理はない。
キスが終わった後でケージの中に視線を戻すと、ハト子が二人を見ていた。
「あ、ごめん、起こしちゃった」
「俺達も寝るか」
一方通行がケージの布を覆い直し、さらにリビングの照明を消す。立ち上がった打ち止めの腕を引き、当然のように自分の部屋へと連れて行った。
芳川に言われたからじゃない。今夜は彼女を慰めたいのだ。
ベッドの中でも、一方通行は打ち止めの背中や頭を撫でる。
「打ち止め……、俺は鳩じゃねェンだからな…」
「ありがとう、ってミサカはミサカはあなたの遠回しな言い方を理解して嬉しくなってみる…」
離れない。そばにいる。
言葉で想いを告げるのが不得意な青年の心は、打ち止めにしっかり届いていた。 - 95 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/19(水) 18:24:52.61 ID:rJH/tVS10
- 一週間後、すっかり傷が良くなった鳩を連れて、一方通行と打ち止めは近所の公園にやってきた。ハト子を見つけたここで、いよいよお別れの時が来たのである。
しんみりとした打ち止めと、さすがに寂しくない、とは言い切れない一方通行の二人は口数が少ない。
ところが、公園の入り口をくぐったとたん、そんな雰囲気は吹き飛んだ。
学校帰りなのだろう、ランドセルを背負った三人の小学生が園内を走り回っていた。それだけなら普通の光景だが、
少年たちは片手に小石を幾つか握り、それをひとつずつ狙い定めて投げては甲高い歓声を上げている。
狙っているのは、鳩だ。
群れて地面をついばんでいるものや、木の枝にとまっている鳩を追い回しては石を投げる。
「あ、あの子たち…っ」
「……っチ」
打ち止めが何か言う前に、隣の青年が飛び出した。電極のスイッチは能力使用モードになっている。
(あららら、あの人ってばやりすぎないかな!?ってミサカはミサカは心配してみる…けどハト子入りのダンボール持ってるから走れない…) - 96 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/19(水) 18:29:04.14 ID:rJH/tVS10
- 「よし、全員であの辺一気に狙うぞ!」
「うん!」
「せぇーの…」
少年達が放った小石は、突然頭上から降りてきた青年の手のひと振りによって軌道を変え、地面にコンコンコンとぶつかり転がった。
「悪ガキどもがァ…!くっだらねェ遊びしやがって、痛い目みねェと分かンねェかこりゃァ、あァ!?」
「ひぃ!?」
「だ、誰!?」
目の前に現れた白い髪と赤い瞳の怖そうなオトナが、自分達のイタズラを怒っている。
言ってることもすっごく怖い。しかもなにか能力を使って投げた石を操作された。脅える少年達。
(あの人、悪い子にはちゃんと『悪ガキ』って言うのね。ミサカは長らくクソガキだったけど、そこは区別があるんだ)
とりあえず、子供達を吹っ飛ばすようなことは無さそうだと、打ち止めは静観してみることにした。
「に、逃げよう!」
少年達が打ち止めの前を横切り、公園の出口へと駆け出す。一方通行は傍にあったベンチを掴むとそれを放り投げ、
彼らの行く手に、がっしゃぁぁん、と落下させた。黒いランドセルが同時に動きを止め、握っていた石がポロポロと落ちて行く。
ほぼ間を空けず、再び恐ろしいヒトが上から舞い降りた。
一方通行は鋭い視線で少年達をその場に縫いつけ、地面を蹴る。
ベクトル操作された三つの小石が、一直線に彼らに飛んでいったが、全て肩にかかるランドセルのベルトにぶつかった。
「わぁ!」
「ひゃ!?」
「今日はソコに当てるだけで勘弁してやるが…、次やったら分かってンなァ?」
「!!っ…」
三人はガタガタ震えて、もう言葉も出ない。全員涙を浮かべていた。
さすがに気の毒に思った打ち止めが、一方通行と彼らの間に割って入る。
「お姉ちゃん達ね、ちょっと前にこの鳩を拾ったの。羽の怪我が治るまで世話したんだよ。もしかして君達が石をぶつけたのかな?」
恐ろしい男の人とは段違いに優しそうなお姉さんが、箱のふたを開けて子供たちに鳩を見せた。
「あ、この前の白いヤツだ…」
「うん…」
「やっぱり。このお兄ちゃん怖かったでしょ?鳩をいじめるなんてヒドイことすれば怒られて当然なんだから。鳩だって君達と同じように怖いんだからね!」
「…ご、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「もうしません…」
「よろしい。さぁ行った行った。もう帰っていいよ」
少年達は最後にぺこりと頭を下げて、反対側の出口へと駆けていった。当然、一方通行の横を通る勇気は無い。 - 97 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/19(水) 18:32:54.36 ID:rJH/tVS10
- 一方通行は、打ち止めが説教を代わってくれた辺りから、「やりすぎたか?」と気まずく思ってそっぽを向いていたが、子供達がいなくなるとベンチを戻して打ち止めに近づいた。
「ベンチ壊れてなかった?」
「背もたれの部分がちょっとだけだ」
「ちょっと…ね、ってミサカはミサカは子供に対してもアレはちょっと…と苦言を呈してみる」
「…ふン」
「ふふふ、でもハト子のことを思ってあんなに怒ってくれたんでしょ?あなたが子供にお説教なんて、ミサカ嬉しいかも」
「うるせェ。…ほら、とっととやるぞ」
「……うん」
打ち止めがダンボールを開ける。一方通行が中に手を入れれば、ハト子はいつもどおり指にとまった。
「ほらハト子、久しぶりのお外だよ。元気でね、ってミサカはミサカは定番のさよならを告げてみる」
それを合図に、一方通行が反動をつけるように腕を振った。
鳩は青年の動きにタイミングを合わせて羽ばたいた…のだが、二人の頭上でUターンして、一方通行の肩に戻ってきてしまった。
「ぐるっぽぅ」
「こら、こっちじゃねェだろ」
「ダメだよ、ハト子…」
一方通行は再度、もっと勢いをつけて鳩を放る。今度は大きく飛び、ハト子は十数メートル離れた木にとまり、
更に高い街灯の上へと移動した。まだ二人の方を見ているが、もう戻ってくる気配はない。
「大丈夫そォだな」
「うん」
「帰るか」
「うん」
打ち止めは、心配そうな表情の一方通行に笑顔を見せた。空になったダンボールを折りたたみ、彼の手を取って自分から歩き出す。
「ミサカも大丈夫だよ。寂しいけど結構平気なもんだね。ハト子が元気に飛んでればそれでいいや」
「…そうか」
「そうなの。でもしばらくはあなたに甘やかされて、寂しいのをまぎらわしてもらおうかな、ってミサカはミサカはさりげなく要求を伝えてみる」
「さりげなくねェよ。大体ドライブも食事も却下してきたのはオマエの方だろォが」
「……ひょっとして、あなたもヤキモチ?」
「……寒い。早く帰るぞ」
帰宅後、打ち止めに淹れてもらったホットコーヒーを飲み、一方通行はかたわらの彼女と一緒に羽が残るケージを眺めた。
片づけるのは、明日でいいだろう… - 98 :ブラジャーの人 [sage]:2011/10/19(水) 18:41:24.36 ID:rJH/tVS10
- 通行止め、鳩を飼うの巻 完
鳩を可愛がる打ち止めと、じつはこっそり可愛がる一方さんの話。
そして鳥類にヤキモチ焼いたり焼かれたり。 …焼きトリ?
鳩の魅力にみんな気づけ!と思って書きましたが…
>>92 その必要はなかったんですね。すげぇなぁ。
- 99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/19(水) 18:56:48.54 ID:stqHXX8AO
- 乙!
鳩も打ち止めも一方さんもかわいいな
- 108 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/21(金) 23:12:03.15 ID:+tboAuqC0
- (まさか、三回もここに来るハメになるとはなァ…)
足取り軽やかな打ち止めの隣を、ノロノロと歩く一方通行。歩幅が違うので、こんな速度でも同じ歩みとなる。
「あなたってば、もう三度目だしいい加減慣れたら?ってミサカはミサカはお顔の暗いあなたを励ましてみる。がんばれー」
「コレに慣れたら男としてだめじゃねェかと思う」
「確かにあなたから進んで『行こう』と言われたら嫌かもしれないけど…。ほら、今日は平日だからあまり人もいないし」
一方通行と打ち止めは、『例の』下着専門店に来ている。華やかな売り場は、ただでさえ男性にとって居心地が悪いのに、
ここは初来店の折に、第三位の御坂美琴に鉢合わせてしまったという苦すぎる思い出の場所である。おまけにポルシェも壊された。
二度目の来店の時には、「どうしてもまた行きたい」とねだる打ち止めに根負けし、
万が一にも超電磁砲が来ていないかを調べさせた上、自分は店舗に併設されたカフェで待つことにした。しかし…
(ねぇ、奥の席の白い髪のお客さんて、前ウチで大騒ぎしてった人よね?)
(あぁ、あの胸がどうのでな…。第一位って噂だけどマジかな)
(うそぉ、まさか…)
「………」
(すっげェ覚えられてンじゃねェか…、クソ。超電磁砲の野郎ォ)
店員達のヒソヒソ話と視線がチクチクと突き刺さったため、三度目の今日は諦めて店内までついてきた。
「前回は外で待ってるあなたをあんまり待たせちゃいけないと思って、ゆっくり見られなかったの。
今日は初めて三階に行ってみるんだ、ってミサカはミサカはレッツゴー」
「ハイハイ、嬉しィー」
どうせまたデザインや色を審査させられるのだろう。一方通行のサングラスの色は、打ち止めによってまた薄くされていた。 - 109 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/21(金) 23:15:55.60 ID:+tboAuqC0
- 一階だけでも十分広いと思うのだが、この専門店はなんと三階建であった。カフェやエステが入っているにしても、本当に大きな店だ。
エレベーターで三階に降りたとたん、一、二階とは明らかに雰囲気が違うことに気づく。
他のフロアよりも照明が少しだけ暗く、通路から商品が見えくいようなディスプレイをされている。
「…おい、なンかこの辺の売り場、変じゃねェ?」
「うん、なんかヘン…だね」
とりあえず近くのテナントに入ってみると、そこには
「……あァ、オマエこォいうのが欲しかったのか」
「!!…ち、ちが、ちが!ミサっ」
「打ち止めさァん、エロいですねェ」
「ふぬぅぅぅぅ!!もぉ!知らなかっもん!あなたも分かってるクセにぃ!」
やけにケバケバしい色で、まるで下着としての機能を果たさないほど少ない布地面積。布ではなく、ほとんどがレースだけで構成されたもの。もはや紐。
打ち止めのような年頃の少女なら、目を白黒させてしまうようなセクシーランジェリーで溢れかえっているではないか。
そういう商品の店舗が集まった一角らしい。
「うわーうわー…、スゴイね。こんなゴテゴテしたのもある。上に服着たらもこもこで変になっちゃうじゃない」
「……たぶん上に何も着ない前提だからだと思うぞ」
「な、なるほど…、ってミサカはミサカはつい見入ってしまったけど、こんな恥ずかしいトコにいられないと我に返ってみるっ」
「まァな。まさかこのフロア全部がこうってワケじゃねェだろ。行くか」 - 110 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/21(金) 23:21:37.87 ID:+tboAuqC0
- しかし、結構な売り場面積でこんな店ばかりであった。
通路を歩いていれば、嫌でもセクシーなブラジャーやショーツやガーターベルトやストッキングやコルセットやスリップが目に入る。
「えぇぇぇ何アレ。丸見えじゃない。ワイヤー入ってないじゃない。意味が分からない」
「だからそォいう用途なンだ。実用性は…、ソッチの意味で実用性があンだよ」
「ふーん…」
「なンだよ」
「やけにあなたが落ち着いてるなぁ~って…」
「ここまで来ると逆に麻痺してくるモンだな。意識しねェようにはしてるが」
「そう…。あのー、実際どうかな?あなたはミサカにこういうの……着て欲しい?」
「はァ?」
打ち止めが足を止めた。あと十数メートル歩けば、この妖しいゾーンから抜けられるのに。
少女は隣の一方通行の顔を、こっそり下から覗き見るように伺っている。そんな仕草をしなくても、もとから頭一つ分近く背が低いのだが。
「……」
「えーと、ほら…コレなんてちゃんとカップがあるし、かわいいデザインだよね。スケスケじゃないし…」
返事をする前に、目を泳がせながら打ち止めは近くのマネキンを指さして喋り出した。
指の先には、確かに他に比べれば幾分、派手さ、いかがわしさは軽減されている下着がある。
それでもこの売り場の商品だ。打ち止めが普段身に着けているものとかなり趣きが違う。 - 111 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/21(金) 23:34:20.23 ID:+tboAuqC0
- まずブラジャー。ベースの色はピンク。カップやストラップは黒のレースでフワフワと縁取りされ、
脇のあたりから長い白レースのリボンが垂れ下がっている。ホックは無いらしく、フロントで黒のリボンを結ぶらしい。
ショーツはお決まりのようにTバックだが、ピンクと黒のフリルが段になって際どいところまでを覆っている。
ガーターベルトもピンクで、太ももから足先までは白いレースのストッキング。
「Tバックだぞ」
「で、でも見えにくいし、フリフリだし」
「……欲しいのか?」
「……あなたが、いいと思うなら、着てみたいかも、ってミサカはミサカはあなたの意見を求めてみる」
しばし黙ってそれを観察する二人。
(たまには色っぽいコスプレで悩殺すると喜ぶってハマヅラが言ってたし…。
さすがにバーニーガールは勇気がないけど、下着なら、ってミサカはミサカは挑戦してみたり)
(いつもと違うことしてマンネリ化を防ぐのが大事だと、前に浜面も言ってたしなァ…)
よもやこの冒険の後押しをしてしまったなんて、当の浜面は知る由もないだろう。
そして一方通行と打ち止めも、お互いの決断に彼の意見が反映されていることは知らない。
「…いいぜ。着てみれば?」
「…!!そっ、そう!?じゃ、じゃあ、あ、隣に色違いの黒もあるね。どっちがいいかな!?」
「ピンクと、黒か」
となりのマネキンには、まるで色を反転させたようなデザインのセットが飾られていた。ストッキングは黒。一方通行は自らサングラスを外して二つを見比べた。
頭の中で想像する。それらを着た打ち止めを。
「ンー…やっぱピンク…、いや…」
「あの、両方買う?ってミサカはミサカは、まさかそこまで悩むとは思ってなかったと驚いてみる」
「…だな。両方買うか」
- 118 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/24(月) 00:21:34.36 ID:yB/b7QE10
- 買うと決めたのなら、いつまでも目撃される通路に突っ立っていられない。
「じゃァ、カード渡すから買ってこいよ」
「ミ、ミサカ一人で行くの?」
「え、俺も行かなきゃなンねェの?」
「だって恥ずかしいじゃない…、ってミサカはミサカはレジへの同行をお願いしてみる」
「俺と一緒の方が明らかに恥ずかしいだろ。コレ貸してやるから早く行ってこい」
一方通行はサングラスのレンズをさらに薄くして、打ち止めの耳に掛けた。カードも手に握らせ、彼女の背中を押す。
渋々と、恨めし気に青年を振り返りながら、打ち止めは店の中に入っていった。
ディスプレイ品なので、店員を伴ってここへ来るかもしれないと、一方通行は数メートル離れた物陰へと移動する。
待つこと数分、買い物を終えた打ち止めが出てきた。彼女は一方通行を見つけると、小走りで近寄る。胸にはぎゅっとショップ袋を抱きしめて。
「買ってきちゃった…」
「さて…これからどォすンだ?普通のも買っていくか?」
「ううん、今日はそんな気無くなっちゃったよ。…帰ろ?」
「…おォ」
まだこの店に来てそんなに時間は経っていないが、特に打ち止めは普段の買い物よりも疲労が激しい。二人はどこにも寄らず、駐車場へと引き返した。
車内で袋の中身を気にしながらも、一方通行の横では覗いたりすることを躊躇う打ちどめ。
「そういえば買ったはいいけど、どこに隠しておこう」
「オマエ、くれぐれも黄泉川とか番外個体にバレるなンてことはないよォにな」
「う~ん…、ベッドの下?」
「絶っ対ェ見つかるぞ。まァ帰ってから考えりゃいい」
家族に隠さなければならない物など所有したことがない少女は、勢いで購入してしまった、このいかがわしいアイテムの隠し場所に苦心してしまう。
「広くもねェ部屋だが、意外に結構どうにかなるモンだ。そンなこと心配するな」
「うん、分かった、ってミサカはミサカはあなたを頼りにしてみたり」
(…これは、今度この人の部屋を家探ししてみるべきなのかな?ってミサカはミサカはこっそり企んでみる) - 119 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/24(月) 00:25:46.45 ID:yB/b7QE10
- 平日の放課後に出掛けたので、マンションに帰ってくる頃はすでに夕暮れだった。保護者達の帰宅にはまだ時間があるが、なんとなく「今じゃない」と二人とも思っている。
太陽が出ていない時に、二人きりでゆっくり過ごせる時に着用するべきだと、一方通行も打ち止めも思っていた。言葉に出して確認を取りあったわけではないが、通じ合っていた。
さっそく打ち止めの部屋のどこに隠すかをカップル会議し、袋から取り出す時だけ、ランジェリーがちらと二人の目に触れる。
(一体いつ着けることになるのかな、ってミサカはミサカはドキドキしてみたり。明日?明後日?)
(……最初はピンクだな)
しかし、待ち望むチャンスはなかなか訪れなかった。めでたいことだが黄泉川のアンチスキルの仕事がなかったり、芳川の泊まり込みがなかったり。
「まだ着られないね」「そォだな」というような会話は、やはりないが、あの下着を買ってからもう一週間になる。
(そろそろ待ちくたびれてきた…。いくらミサカがショートケーキの苺は後で食べる派だとしても、待ちくたびれたよこれは)
(いっそホテルでやるかァ?)
と思っていた翌日、唐突に機会はやってきた。
「今日は警備員一斉見回りってのがあるじゃん。朝まで戻らないから戸締りしっかり頼むじゃんよ」
「新薬の実験に付き合ってくるから、病院に泊まってくるわね。もしかしたらもう一泊するかもしれないからよろしく」
「あァ」
「いってらっしゃいヨミカワ、ヨシカワ!お仕事がんばってね、ってミサカはミサカは元気にお見送り!」
いつもどおりに徹する二人。でも心の中ではお互い『今夜だな』と感じていた。 - 120 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/24(月) 00:29:24.02 ID:yB/b7QE10
- その日の夕食の後、珍しく一方通行が先に風呂に入った。入浴後、リビングでテレビを見ていた打ち止めに声をかける。
「風呂あいたぞォ」
「はーい、入りまーす」
いそいそと立ち上がり、脱衣所へと向かう打ち止めの後ろ姿を見届けた
いつもならまだリビングでくつろいだりする時間だが、テレビも照明も消して、一方通行は早々に自室へと引っ込んだ。
部屋で待っていれば、きっと風呂上がりの打ち止めがあの下着を身に着けてやってくるハズだから。おそらく彼女もピンクを選ぶだろうと予想している。
(遅いだろうとは思ってたが、やっぱり遅ェ)
こんなにソワソワして彼女の来訪を待つのは、初めて抱いた時以来ではないか?
一方通行はベッドの上に大人しく寝転がって、ただひたすら待つ。さすがにもう脱衣所へ押し掛けたりはしない。
打ち止めが風呂へ向かってから五十分後、部屋のドアがノックされ、ゆっくり開けられる。
「お待たせしましたぁ~、ってミサカはミサカは顔だけでこんにちはしてみたり」
「おっせェなァ。しかも何やってンだよ。早く入ってこい」
「だって電気ついてるから恥ずかしいんだもん」
「……オマエここまできてそンなこと言うのかよ。さすがに見るだろ今日は。見るためのモンだろォが」
「そうだけどぉ…。せめてちっちゃい電気にしてほしいな、ってミサカはミサカは可愛くお願いしてみる、ウルウル」
苦い顔で溜息をつき、一方通行は部屋の照明を消す。そして机のスタンドライトと、ベッドサイドの簡易照明だけ点けた。光の強さは最大に調節してある。これ以上は譲れない。
「おら、これでいいだろ。とっとと…」
「よし…お邪魔します…」
「………」 - 121 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/24(月) 00:31:51.72 ID:yB/b7QE10
- ドスンとベッドへ座ると同時に、打ち止めがおずおずと部屋に入って来た。後ろ手にドアを閉めて、モジモジと照れくさそうにしている。
まるで、中学の制服をお披露目した時のようなシチュエーションだったが、あの時とは何もかもが違う。
まず、彼女が身に着けているのは『そういう用途』のために作られた、いやらしいフリフリの下着とガーターベルトとストッキング。
さらに、子供体型など今は遠い国のおとぎ話。豊かなEカップをピンクと黒のレースに包み、一方通行に「なンかイイ」と評された体を魅惑的に(そう見える)くねらせている。
「………」
「あのう感想はどうですか?つけ方分かんなかったし恥ずかしいし、大変な思いをしているミサカにお褒めの言葉とか」
「……ン」
青年はベッドに座ったまま、来い来い、と手招きする。打ち止めは素直に彼の前に立った。
両手が持ち上げられたのを見て、これから抱き寄せられるんだろうと、自らも態勢を整えようとする。
しかし、いつものように腰や背中に手は伸びてこず、なんと、黒とピンクのフリルの中に手を潜らせ、Tバックのため剥き出しになっていた打ち止めのお尻に指を食い込ませた。
「おわぁあぁいきなり!?」 - 122 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/24(月) 00:37:34.45 ID:yB/b7QE10
- そのままお尻を引き寄せ、打ち止めの腹に口を当て、舐めた。舐めながら一方通行は、ストッキングや、ガーターに指を這わせ、撫で、慣れない感触を確かめる。
「これは、ん、かなり大好評の反応ですね、ってミサカはミサカは……っ」
今度はちゃんと腰を掴まれ、打ち止めはベッドへと倒された。はみ出していた少女の足もきちんとシーツの上に乗せてから、一方通行はその体に馬乗りになる。
充分に視界が効く中で、まずはじっくりと、…見る。
「どンなモンかと思ってたが、こりゃなかなか楽しィなオイ」
「あはは…あなた本当に楽しそう」
暑くて、一方通行は寝間着代わりのスウェットの上着を脱ぎ捨てた。彼女に覆いかぶさってキスをすると、胸を飾る黒いレースが肌をくすぐってくる。。
待ち望んだ夜。二人きりの夜。
打ち止めは激しいキスに応えながら腕を青年の背中に回し、今夜は特別だねという思いを込めて、ゆっくりと撫でさすった。
「あぁ…あなた、もうちょっと優しく触って…。生理が近いと胸が張って痛いの」
「ふゥン…、こンくらいか?」
「う、ん…」
ピンクの布の上から柔らかい胸を揉んだ。布越しでも、その頂きが硬くなっていることが分かる。すべすべした生地の上からでは摘まみにくいので、指と爪先で擦る。いつもと違う感触が、いつもと違うのだと二人に実感させる。
「どォだ、こういう触り方は…」
「……」
「おい」
「ふ、ん…ん」
「声我慢しなくていいじゃねェか、今日は…」
フロントのリボンを解いて直接触ってやろうとしたが、ふと手を止めて結び直す。打ち止めがコレを着るのを一週間も待ったのだ。脱がせるのはもったいないような気がする。
ワイヤーが入ってないので、カップの部分は簡単に変形した。中に手を突っ込んで、乳房を無理やりブラジャーのカップ上部からから剥き出しにする。変幻自在のようなEカップが、いびつに揺れた。
「脱がなくていいの?」
「脱がない方向でやる」
「えぇ、なんか、なんかすっごいエッチ。でもパンツは」
「こンなのほぼ履いてないも同ォ然だから、これも脱がずにやる」
「……あなたってば…あん」
特別な夜は、まだ長い。 - 123 :ブラジャーの人 [sage]:2011/10/24(月) 00:42:55.39 ID:yB/b7QE10
- 通行止め、セクシーランジェリーを買うの巻 完
作中では頑なに認めないけど、この一方さんてホントおっぱい星人ですね。 - 124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/24(月) 00:47:10.41 ID:XTnMBzDAO
- 乙乙!
いやーこれはいいですな! - 140 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/26(水) 23:39:16.38 ID:8PdbJpUI0
- 「はい、そっち持って…。いい?よし、置いていいじゃん」
「ったく、足が悪い人間にこンな重労働させンなよ」
「文句言わないのよ、君が一番使っているのだから、準備くらいするべきでしょう?さぁ打ち止め、スイッチ入れてちょうだい」
「はーい、ってミサカはミサカはポチっとな!」
十二月に入り、季節は本格的に冬へと向かう。
よって、ここ黄泉川家でも恒例の炬燵がお目見えした。芳川が言うように、打ち止めがスイッチを入れたとたん、一方通行はさっさと布団をめくって潜り込んだ。
「ミサカもー」
「私も」
「私も入れてほしいじゃんよ。ちょっと足、一方通行、足邪魔」
「おい蹴るな。足が長いもンで、スイマセンねェ」
リビングの真ん中に置かれた炬燵。その四角いテーブルの一辺それぞれに四人は陣取った。
「あー…あったかいよー、ってミサカはミサカは数ヶ月ぶりに会うおこたにメロメロになってみる」
「さっそく今日は鍋にするじゃん。もちろん炬燵で。みんなも構わないよね?」
「賛成よ、愛穂。お味噌入れてほしいわ」
「ミサカも大賛成!もちろんあなたもお鍋でいいよね…アレ?」
さっきまで見えていた一方通行の姿がない。まさかと思って、彼の正面に座っていた打ち止めが背筋を伸ばして確認すると
「…すー…」
すでに一方通行は、自分の腕を枕にして眠っていた。四人も入っている炬燵で足を伸ばすのは困難なので、まるで猫のように体を丸く縮めている。
「早ッ!ってミサカはミサカはこの人の早寝スキルに驚愕してみたり!」
「この子、肉が無いせいか寒さに弱いのよね。炬燵を出せばこうなると思っていたわ」
「おこたを仕舞った時も怒って抗議してたもんね、ってミサカはミサカは春の乱を思い出してみる」
「かと言って夏の暑さにも弱いじゃん。まぁ数年前よりはマシになったかな?打ち止め、後でコイツ叩き起こして夕飯の買い物行って来て欲しいじゃんよ」
「はーい」 - 141 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/26(水) 23:42:39.67 ID:8PdbJpUI0
- 数時間後、夕暮れが迫る頃に一方通行は起こされた。
すでに炬燵に入っているのは彼だけで、いつの間にか自然と足を伸ばしていた。肩には冷えないようにと、打ち止めのストールが掛けられている。
「あーなーた。起きてー。ミサカと一緒にお買いもの行きましょー、ってミサカはミサカは…うふふ、まるで新婚さんみたい?お鍋食べたいでしょ?ほら早くぅ」
「…寒い」
「今行かないともっと寒くなるよ。それにごはんも遅くなっちゃうじゃない」
「…さっみィ…」
「もー…、しょうがないな。ヨミカワー、この人起きないからミサカが行ってくる。お金ちょうだ」
「なンだァ?鍋?肉入るンだろォな」
「あ、起きた」
部屋でコートを着込んで来た一方通行は、当然のようにポルシェのキーを手にしていた。
「あなた、スーパーだよ?すぐそこだよ?ポルシェちゃんでスーパー行くの?」
「寒いからな」
「それでよくロシアとか…」
「寒いのを防げるなら、出来ることはすべてやるぞ俺は」 - 142 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/26(水) 23:49:01.32 ID:8PdbJpUI0
- 一方通行が押すカートに、打ち止めが次々と食材を入れて行く。彼女のお気に入りのお菓子がドサクサにまぎれて放り込まれたが、一方通行はツッコまないでいてあげた。
あらかた食材がそろったが、野菜が並ぶ一角で、打ち止めがキョロキョロと何かを探している。
「何見てンだ?」
「あのね、…あったあった。はいコレも、ってミサカはミサカは問答無用でカゴに投入してみたり」
それは炬燵の友達、蜜柑であった。しかも十個入りの袋を、二つも。
「二つも買うのかよォ。どンだけ蜜柑好きなンだオマエは」
「ヨミカワ達も食べるでしょ?これでいいもん」
「俺はあンまり…」
「あはは、あなたは指が黄色に染まるもんねー。大丈夫だよ、ミサカがあなたの分も剥き剥きしてあげるからね!ってミサカはミサカは…今度はまるでお母さんみたい?」
「そりゃどォもォ」
やがて会計を済ませ、駐車場へ戻って来た二人。買い物袋を両手に持った打ち止めは、一方通行がポルシェの鍵を開けるなり、
我先にと荷物を積んだ。一方通行も左手の袋をトランクに載せる。
「ふぅ、重かったぁ」
「オマエが勝手に菓子やらジュースやら蜜柑やら買うからだ。やっぱり車出して良かっただろォが」
「あら、バレてたのね、ってミサカはミサカは笑ってごまかしてみたり、えへへへへへ。さて帰ろっか」
家に戻ったら、とっとと又炬燵に入ろうと、一方通行はスピードを上げた。
- 159 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/29(土) 00:48:55.66 ID:GATHmX7i0
- マンションに戻り、玄関を開けると、そこには見覚えのある靴が。
「あー、番外個体来てるのー?ってミサカはミサカは重い荷物に負けずに走ってみる!」
「こらオマエの袋に卵入ってンだから歩けェ」
人の気配がする台所では、黄泉川と番外個体が夕飯の準備を始めていた。待っていた食材の到着を歓迎する二人。
「おかえりじゃん。買いもらしはない?」
「よっ、最終信号。炬燵鍋に強制参加っつーから来たよ」
「ただいま。ちゃんと買えたよ!番外個体と一緒にお鍋なんだね、ってミサカはミサカは喜んでみたり」
「ちゃンとどころか、かなり余分なモンも買ったなァ」
そこへ一方通行も買い物袋を置きに、キッチンへやってきた。青年の言葉に、黄泉川が「んー?」と打ち止めを見る。
「あ、あなた…早々に告げ口なんてヒドイ。えへへ、おこたといったらミカンだよね?ってミサカはミサカはヨミカワにお供えしてみる」
「あ、ミサカ蜜柑好きだな。後でちょーだい」
「でしょでしょ?」
味方を得た打ち止めが波に乗ろうとたたみかける。さりげなく、お菓子とジュースが入った袋は背後に隠した。どうせすぐバレるだろうが。
なりゆきを最後まで確認せず、一方通行はさっさと炬燵へと向かう。目的の場所には芳川が先にいて、休日だがテーブルの上にパソコンを置き、何やら仕事中であった。
「おかえりなさい。寒い中御苦労さま」
「御苦労なのはソッチだろ。仕事のお持ち帰りたァ、そンなに忙しいのか?」
「まぁ、ひょっとして心配してくれているのかしら?」
「アホか」
「ふふふ、大丈夫よ、もう終わったわ。ここにはもうすぐ鍋が来るのだし」
芳川がパソコンをしまうと同時に、打ち止めが一方通行の隣に潜り込んで来た。
まだ炬燵は二面空いているが、今日の夕飯は五人なので、誰か二人は窮屈な思いをしなければならない。この少女は一方通行を巻き添えにして、進んで立候補するつもりらしい。
「せめェな…」
「あーあったかい。ミサカもお手伝いしようかと思ったけど、すぐ終わるからって追い払われちゃったの」
「鍋は凝ったモンじゃなければ用意が簡単だからな。……あの二人、まさか下ごしらえも炊飯器じゃねェだろううな…」
「とりあえず二台は動いてたよ、ってミサカはミサカはあなたに告げてみる」 - 160 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/29(土) 00:52:16.34 ID:GATHmX7i0
- 「お待たせー!熱いから気を付けるじゃん」
「ミサカの刻んだ肉と野菜と魚を心して…、おいそこ、当然のようにくっついてるんかい。最終信号を押しつけてからかってキレる第一位を堪能するミサカの計画が…!」
「…くだらねェ計画だが、崩れてくれて何よりだ」
「ほらほら、番外個体も座るじゃん」
熱々の湯気を生む鍋が、炬燵テーブルの真ん中に乗せられた。黄泉川が蓋を取り、温かく、美味しい夕飯が始まる。
「一方通行…、肉ばかりじゃなくて野菜も食べなさい」
「食ってるだろォが」
「野菜の割合が圧倒的に少ないじゃん」
「あなたは昔、ミサカに好き嫌いするなって言ってたじゃない」
「一方通行タンはお野菜キライでちゅ。…っぎゃぁーっはははははははは!ひぃーっひひひっ」
自分以外の四人から食事内容の注意をされてしまった一方通行は、歯を鳴らして不機嫌さを隠そうともしない。
打ち止めが、ひょいひょいと鍋から野菜を取って、青年の取り皿へと入れる。それに紛れて、ちょっと肉や魚もあげるのが、彼に甘い打ち止めらしい。
「はい、みんなあなたの健康を考えて言ってるのよ。もちろんミサカもね」
「約一名は明らかに違うがな…」
甲斐甲斐しい打ち止めと、それを大人しく享受する一方通行の様子を見て、番外個体はまた呼吸困難を起こしかけていた。 - 161 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/29(土) 00:54:00.74 ID:GATHmX7i0
- シメの雑炊も終わり、空の鍋が乗る炬燵で一息つく五人。大いに食べたので、あたたかいここで、腹休めをしなければ動き難い。
炬燵の中ではどれが誰の足かも分からずぶつかりあっているが、今はどうでもいいことだった。
「あー…苦しい…。第一位に笑わせられるわ、雑炊の残り一杯までミサカに押し付けられるわ。もう、いろいろ破裂しそう」
「何言っているの。食べたい人がいるか聞いたら番外個体が名乗り出たのでしょう?」
「だって黄泉川が食べ物残すのはいけないって言ってたもん」
「あー、ウチの子全員良い子じゃん…」
相変わらず、打ち止めも番外個体もよく食べる。一方通行は隣の少女に視線を向けた。
「あなた、その目はまるで『姉妹そろって食い意地はってるな』って言ってるみたいなんだけど」
「…気のせいだ」 - 162 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/29(土) 00:55:57.81 ID:GATHmX7i0
- 「ミサカ、デザート作ってきたけどこりゃ今夜食べるのは無理だね。シュークリームが冷蔵庫に入ってるから明日食べなよ」
「あら?もしかしてあなた帰るのかしら?」
「えー、泊まっていかないの?明日大学休みじゃんよ?」
番外個体の口ぶりに、てっきり彼女は泊まっていくと思っていた黄泉川がテーブルに乗り出す。
「学校はないけど、朝イチからバイトなんだー。準備もあるしアパートからの方が近いから帰る。あ、でもお風呂は入ってく。最終信号、洗顔と化粧水とか貸してよね」
「ガッテンだ。ねぇ、朝はこの人に送ってもらえばいいじゃない。やっぱり泊まっていけば?ってミサカはミサカは妹を誘惑してみる」
番外個体と一方通行は、えー、という顔を同時に少女に向けた。
「全然誘惑になってないよ最終信号。ますます帰る気になった」
「俺明日は昼まで寝るからだめだ」
「あう…ミサカの作戦あっけなく失敗…ってミサカはミサカは誘惑スキルの低さを嘆いてみる」 - 163 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/29(土) 01:00:28.46 ID:GATHmX7i0
- 番外個体は、くれぐれもシュークリームを食べるように一方通行に念押ししてから、蜜柑をお土産にアパートへ戻った。
芳川は自室へ。黄泉川は風呂へ。リビングの炬燵には打ち止めと一方通行だけが入っている。今日、この青年は、可能な限りを炬燵で過ごしていた。
二人は対面で座り、悠々と足を伸ばしテレビを見ているが、一方通行はあまり集中していないようでボンヤリしていた。彼のそんな様子を見て、打ち止めがイタズラをしかける。
「…!!っゥわ!?」
「にゃははははっ、驚いたかね?ってミサカはミサカはしてやったり~」
イタズラっ子は足を伸ばし、青年の足裏をくすぐった。すっかり脱力していた一方通行は声を出して驚いてしまう。これはかなり大成功だ。
「っこのクソガキィ…」
「うわっ?だって~。ビクっ、だって~」
「俺はなァ、やられたらやり返す主義なンだよ」
不敵な笑みを浮かべた青年は、左手で首のチョーカーに触れ、右手は炬燵の中に突っ込んだ。学習しない少女に、オシオキしてやるために。
打ち止めの細い足首を両方まとめて掴み、手前に引っ張る。その力に従い、打ち止めの体は絨毯の上に倒れて胸の下までが炬燵の中へ。
「きゃぁ、あははゴメン、ってミサカはミサカは…ありゃりゃ?ちょっと?おぉー!?」
打ち止めは、こうして引っ張られたら終わりだと思っていた。「こいつゥ」「うふふ」で済むと思っていた。
なのに、一方通行は足を離してくれるどころか、更に引いてくる。
「いやぁぁぁぁぁぁぁあなたどこまで…っ!やめ、やめやめてぇぇぇ」
「まだまだァー」
ズルズルと、ついに打ち止めは頭も見えなくなってしまった。反対に、すね辺りまでが一方通行の側に出てくる。
彼女は今日、レギンスを履いていたが、買い物から帰って炬燵に入ったら火照ってきたため、食事前に脱いでしまっていた。
絨毯に擦れて、打ち止めのスカートは容赦なく捲れあがり、生足が晒される。
「いやーっいやーっ」
「聞こえませェーン」
「絶対うそだぁぁぁ!ってミサカはミサカはおこたの中から抗議の雄叫びをあげてみるー!」 - 164 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/29(土) 01:03:41.66 ID:GATHmX7i0
- 膝、太ももが露わになり、完全にパンツ丸出し状態になってしまった。そしてそのパンツも、お尻と一緒に擦れて……食い込んでいる。
「ちょっと待って!今パンツが!」
「はい、いらっしゃァい」
いらっしゃい、と言うわりには、打ち止めの腹から上はまだ炬燵の中だ。このままでは熱いし危険だが、
一方通行は目ざとく早々に炬燵の電源を切っていて、能力を使って熱も火傷しない程度に下げていた。打ち止めは今、頭隠してパンツ丸見えである。
いっそ自分から彼の方に体を脱出させようと思ったが、そうすると益々食い込むというジレンマ。
「お、黒」
「えっちえっちえっちえっちいじわる!!」
「くくくくっ…」
「うひゃひゃはははセクハラー!」
右手は足首を掴んだまま、左手は打ち止めの足裏をくすぐる。明らかにやられたこと以上の仕返しだ。能力で押さえつけているので、打ち止めの足はビクともしない。
そしてとうとう、少女の全身が現われた。もし今日彼女がワンピースを着ていたなら、きっとブラジャーまで丸見えになっていただろうが、
幸いなことにスカートだったので、丸出しはヘソまでで回避された。
「うぁー…、電気の明かりがこんなに久しぶりに感じる…」
最後の方は諦めて万歳で引っ張りだされた打ち止め。大急ぎで起き上がり、まずお尻の食い込みを直していたら、一方通行が両手で頭を撫でてきた。
(おや?やりすぎって反省してる?)
「オマエ髪ぼっさぼさ。鳥の巣かよ」
「アナタのせいでしょーが!ミサカの髪はあなたみたいにフルフルすれば元どおりってワケにはいかないんだからね!」
「難儀な頭だなァ」
「これが普通なのぉぉぉ!ってミサカはミサカは女子代表で怒ってみたり!」
- 165 :ブラジャーの人 [saga]:2011/10/29(土) 01:06:41.31 ID:GATHmX7i0
- 一方通行は風呂の後も炬燵に入り浸っていた。まだ起きているのは彼と、彼につき合っている打ち止めだけだ。
もっとも、昼寝をして余裕のある一方通行と違い、そろそろ彼女にも睡魔が訪れる。
「眠いなら部屋行けよ…」
「まだへーき。あなたは寝ないの?」
「俺は本当に平ェ気なンでな」
「じゃあミサカもまだ起きてる」
夕食の時のように隣合っていたが、やがて打ち止めはコックリと船を漕ぎだし、一方通行の肩へとしな垂れかかってしまった。
これも、毎年恒例のことである。
「そらみろ。どこが平気なンだか…」
「んー…」
去年までは、こんな時には打ち止めの部屋のベッドに放りこんでやっていたが、今年からは違う。
一方通行は少女を抱きかかえ、自分の部屋へと直行。
まだ眠くはないのに、彼女に合わせてベッドの中、目を閉じた。 - 166 :ブラジャーの人 [sage]:2011/10/29(土) 01:11:46.79 ID:GATHmX7i0
- 黄泉川家の炬燵の巻 完
セクハラレータ(副題)
あの映画がテレビでやってたから見ました。爽子と風早くんに土下座。7月の私どうかしとったわ。 なぜ目指した… - 167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 02:23:29.99 ID:3jh8ZhzDO
- >>1乙
…うん、黒はいいよね
チョーカーのスイッチは入れてもアッチのスイッチは入らなかったセクハラレーター△ - 168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 23:10:31.63 ID:StvPXW8y0
- 乙
黄泉川家に鍋が存在した事に驚いた
- 173 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/01(火) 21:39:02.77 ID:Lmmvws4L0
今日は午前だけの授業だったので、打ち止めは昼過ぎにはマンションに帰って来ていた。せっかく炬燵を出したというのに、
ここ最近は冬らしい寒さも遠く、今も燦々と降る太陽に温められたリビングは、暖房などつけていないのにとても暖かい。
(んー、テレビつまんないな…。早くあの人帰って来ないかなー、ってミサカはミサカは退屈モード)
着替えてソファに寝転んでいたら、昨夜は夜更かししたせいもあるのか、ポカポカの陽気に誘われて打ち止めはゆっくりと眠りの世界へ…
そして三時過ぎ、大学から戻った一方通行は、だらしなくお昼寝する打ち止めを発見した。
(コイツ…、今はまだあったけェが、すぐに日が沈んで寒くなるンだぞ。風邪引くじゃねェか)
普段の自分の姿なのだが、この少女にはそれを許さない青年だった。さらに冬の間、彼のリビングでの定位置は炬燵でもあるし。
- 174 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/01(火) 21:47:53.78 ID:Lmmvws4L0
打ち止めの意識は、大部分がまだ夢の中だったが、ほんの一部だけ覚醒していた。マンションの玄関が開き、いつものように遠慮のない足音で帰宅を告げる彼の気配がする。
(あ、あの人が帰ってきたみたい…、でも眠い…)
これも大きな音でリビングのドアが開けられたが、ソファで眠る少女を見たとたん、足音もドアを閉める音も静かになった。
(うふふ…優しいんだから)
一方通行は杖を置き、そっと打ち止め顔を覗き込む。どうやらぐっすり寝ているようだ。昨夜は遅くまで起きていたので仕方ないだろう。
これで今夜も、深夜まで眠れないとボヤくかもしれないが、明日は休みだし構わない。甘やかすことにした。
(しょォがねェな…)
一方通行は打ち止めを抱き上げ、彼女の部屋へと運ぶ。炬燵のせいで、彼女をこうして運ぶことが増えたが、もちろん苦になど思わない。
起きたら起きたで喜ばしいので大して気も使わず動いたが、それでも少女が目を覚ます様子はない。
(よっぽど眠かったンだな)
(あ、またミサカのベッドに宅配してくれるのね、ってミサカはミサカは眠り姫状態にうっとりしてみる…。ごめんねあなた、今日はなんだか眠く…て…)
打ち止めは相変わらず半分寝ているままだった。フワフワと心地いい感覚に、現実と夢の中を交互に行き交う。
やがてベッドに横たえられ、毛布が体に掛けられた。
(ったく、こンなカッコで…)
そこで、彼の手が止まった。暖かかったので、制服から着替えた彼女は簡素な室内着を着用していただけだった。
今みたいに脇腹をシーツにつけて横たわれば、豊かなEカップはワンピースの胸元に深い谷間を生み、それが見てとれる。
(あぁ、毛布が…。嫌だな、あなた、ミサカの傍にいてよ…)
自分をベッドに運び終えたら、一方通行は部屋から出て行ってしまうと思い、寝ているというのに理不尽なことを考える打ち止め。
しかし、毛布は腹の上あたりで留まってしまい、大好きな恋人が顔を近づけてくる。
(…もしかしてちゅー…、するのかな。えへへ…本当に眠り姫だ。アレ?白雪姫だっけ?)
むに
待っていた接触は、唇ではなく胸に与えられた。
- 175 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/01(火) 21:51:51.18 ID:Lmmvws4L0
(ちょっと、あなた…そこは胸なんだけど)
(…やわらけェ)
一方通行は右手の人差し指で、布地からハミ出している部分をつついた。胸の中心へ、もっと柔らかい所へ向けて力を入れる。
つつく、という表現では足りないほどに、指が埋まっていく。
(えー…、てっきりキスだと思ってたのに)
(…………服邪魔だな…)
幸いなことに、今日のワンピースは前にボタンがついている。それを外せば、すぐにはだけさせることが出来そうだった。
ひとつ、ふたつと手をかけていき、ゆっくりと、わずかに打ち止めの体を仰向かせる。
(もう、調子に乗って…)
(コイツ寝てンのになァ…。寝込みはNGなンだけどなァ…。でもなンか、すげー面白ェ)
一方通行は近くのクッションを引き寄せて座った。寝込みのイタズラを気に入ってしまった彼は、腰を据えて取りかかるつもりだ。
(さすがにブラジャーは取れねェ。どうすっか…)
(起こされるでもなく、完全に脱がされるわけでもなく。あなた…)
こんなことをされていても、打ち止めはまだ半分寝ていた。
一方通行に触られることに慣れているとはいえ、焦ったり怒ったりしない最大の理由は、信頼があるからだった。
信用はしているか?と聞かれたら少し言葉につまるのは、彼には内緒である。
- 182 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/02(水) 15:59:40.30 ID:L1SVG+lh0
- 一方通行は、眠る打ち止めのワンピースのボタンを四つ外し、胸元の布地を左右によけた。
現われたのは、黒い肌着で、『冬の寒さをこの薄さで防ぐ!アウターに響かない!』とCMされていたものだった。ちょっと捲れば、すぐに白いブラジャーが見える。
(この黒いのはよく伸びるから問題なさそうだが、ブラジャーは……)
(ミサカはこれからどうなっちゃうのでしょう)
(出来る…か?)
(うわ、入ってきた…)
黒い肌着は、強引に伸ばして胸の膨らみの下に引っかけ、一方通行はブラジャーの中にそっと右手を差し込む。五本の指と手の平に、スベスベとした乳房を押しつけるように。
彼は打ち止めが起きても構わないと思ってはいるが、禁止されている寝込みにケシカランことをする、というこのシチュエーションに興奮してしまっているので、
出来れば寝ていてほしいと、そっと、…優しく指を動かした。
(おかしィよな。もう何度も触ってンのに、どうしてだ?)
(あなた、ミサカ起きてるよ。別に遠慮しなくても、もう起きてるんだってば、ってミサカはミサカは心の中で呼びかけてみる)
悪くないな、と感じている二人。楽しいな、と喜んでいる二人。
可愛い恋人が寝ている隙に、いやらしいイタズラをする。
愛しい恋人が、寝た振りをする自分に欲情しているのか、こっそり体を触ってくる。
これは面白い。 - 183 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/02(水) 16:05:54.17 ID:L1SVG+lh0
- むにむにと、柔らかさを堪能していた彼の手が、動き方を変えてきた。乳房の下を持ち上げるようにして、さらに左手はブラジャーのカップを少々強引にずらす。
先日のセクシーランジェリーの時に覚えた技(?)を、ワイヤーが入っている普通のブラジャーで、しかも寝ている今にやろうとしているのだ。
だって、揉んでいるうちに、どうしても見たくなってしまったのだからしょうがない。
(…出た)
(明るいのにぃ…)
(まだこの前のアトが少し残ってンだな。夏になったらバレ易いだろうから気を付けねェと)
(見てる、あの人がすっごく見てる…)
(せっかくだから、もう片方も)
一方通行はボタンをもうひとつ外し、細心の注意を払って打ち止めの体を更に仰向かせた。
完全に上を向くと乳房の膨らみが少なくなるので、斜めをキープするために自分が座っていたクッションを彼女の背中に宛がう。
丁度良い態勢を作り出し、シーツ側になっていた手つかずの乳房も、同じように剥き出しにさせた。ワイヤーとカップに押し上げられて、胸は触ってなくても変形している。
(……やべェ)
右手には左の膨らみを、左手には右の膨らみを。ぴったり添えて、そうっと揉む。
腰を浮かし床に膝をついて、ほぼ彼女の正面から覆いかぶさるように。
(あー…あったかいなぁ、ってミサカはミサカは、また、眠く…)
情事の時の性感を高めるような触り方ではないので、熱くなった一方通行の手に、ただ優しく胸を揉まれる打ち止めは、とても心地よい気分になってきた。
再び意識は深い場所へと潜り始める。
- 184 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/02(水) 16:07:38.92 ID:L1SVG+lh0
- 「俺って、本当にオマエの胸が好きなンだな。寝てるのにこンなことしてるなンてよ」
「えへへ、ミサカのお胸に夢中なあなたが可愛いな、ってミサカはミサカは小悪魔のほほ笑み」
「大体、俺がオマエとこういう関係になったきっかけってのが、急にオマエの胸が育ったからだったなァ」
「そういえばそうだったね。ミサカおっぱい大きくなって本当に良かった」
「あァ…。おい、もう少し強くしてもいいか?」
「いいよ。でもその前にちゅーしてほしいな、ってミサカはミサカはおねだりしてみたり」
「後で」
「イヤ、今してー」
「今はこっちに集中してェンだよ」
「キスぐらいすぐできるじゃない」
「後、後…。あー、イイなァ、柔らけェ…」
「うぅ、さっきから胸ばっかり…。ちゅーさえしてくれないの?」
「………」
「あなたって、もしかして、ミサカよりミサカのおっぱいの方が好きなの?」
「………」
「ミサカが、もしも…胸が小さいままだったら、あなたは…」
「………」
「ねぇ…」
「うるせェな、どォでもいいじゃねェか。今はこうしてEカップなンだしよォ」 - 185 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/02(水) 16:10:09.07 ID:L1SVG+lh0
- 「う、ふぇっ」
「!!」
急に打ち止めの体が震え、静かな部屋に彼女のすすり泣く声が響いた。ぎょっとした一方通行が打ち止めの顔を見ると、目に涙が滲んでいて、ゆっくり瞼が開かれる。
(え、なンでコイツ泣いてンだ!?俺のせいか!?寝てるのはやっぱだめだったか!?)
「ひっく、バカ…あなたのバカぁ…」
耐えきれなかった涙が一筋頬を滑り落ち、それで一方通行は固まってしまった。両手は打ち止めの胸を掴んだままで。
「あ、悪ィ、つい…」
(まずいまずいまずい、まさか泣くほどショックを与えるとは思ってなかったぜ…っ。うわすげェ罪悪感が今更…)
悲しい夢を見てしまった打ち止めは、切なくなった胸の苦しみと、自分の鳴き声で目を覚ました。その瞬間、焦る一方通行の顔が目の前にあり、すぐにあれが悪夢であったことを理解する。
「嫌な夢見ちゃった…」
「はァ?夢ェ?」
「夢の中でね、今みたいにあなたは寝てるミサカの胸を触ってるの」
「……へェ」
「ミサカがキスして、ってお願いしても無視なの。胸に夢中なの」
「なンだそりゃ」
潤んだ瞳のまま、打ち止めは悪夢の内容を打ち明けた。ちなみに、まだ焦る青年の手は、柔らかな場所に留まっている。
「夢の中のあなたは、ミサカよりミサカの胸が好きなんだって。ミサカの胸が大きくなってなってなかったら……うぇ」
「おいおい」
「ミサカと、ミサカのこと好きにならないって…」
(最悪じゃねェか、夢の俺…)
切なさがぶり返してきて、また泣きそうになる。
まさかそんな馬鹿馬鹿しい夢を見ていたとは、そして泣かれるとは思わなかった一方通行は、ようやく彼女の胸から右手を離し、頬の涙を拭ってやった。
「あのなァ、夢だろそれは?悪かった、俺がこンなことしてるせいだとは思うが…、夢だ、夢。忘れろ…」
「分かってるよ、夢だって…。寝ボケただけだから心配しないで、ってミサカはミサカはえっちなあなたを安心させてみる。あなた、いつまで触ってるつもり?」
「……」
一方通行は、ようやく左手も離した。
- 186 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/02(水) 16:13:00.27 ID:L1SVG+lh0
「オマエいつから起きてた?」
まだベッドに寝転がったままの打ち止め。ブラジャーの中に乳房を戻し、ストラップを整え、肌着とワンピースのボタンを元どおりに直しながら一方通行が訊く。
「最初からだよ。あなたがマンションに帰ってきたところから、ってミサカはミサカは衝撃の事実をお伝えしてみたり」
「根性悪過ぎだろ…」
「正確には、半分起きてて、半分寝てた」
「あァそォ…」
服を全て着せ、首の下まで毛布を掛けてやる。バツが悪いのはどう考えても一方通行の方だ。何となく床で正座してしまう。
「ベッドに運んでくれるのは嬉しかったんだけどね」
「……」
「あなたってば、ずぅーーっと胸ばっかりで」
「……すいませンでしたァ」
「別にイヤじゃないし、今更寝込みはNGなんてミサカも言わないよ?でも他にすることがあるでしょ?」
いつの間にか寝込みが解禁されていたとは。
一方通行自身が思うよりも、打ち止めは自分を受け入れてくれているらしい。罪悪感が通りすぎ、代わりに期待と欲望が湧きあがってくる。
「あァそうだったのか。悪い、じゃコッチも」
青年は毛布の中に手を入れて、少女の太ももをなぞり、足の付け根に指を忍ばせた。
ピタリと閉じていた足だったが、あまりに素早い指の動きでわずかに侵入を許してしまい、打ち止めは飛び起きて彼の手から逃げる。
「わ!?ちがうちがうよ!?そうじゃなくてキス!キスしてくれると思ってたの最初は!もうバカ!」
「でもオマエ濡れて」
「っきぃー!」
恥ずかしさと怒りで、打ち止めは衝動にまかせておもいっきり一方通行の頬をはたいた。
テレビドラマや映画でしか見たことなかったが、とっさの時には、本当にこうして手が動いてしまうのだと、身を持って実感したのである。- 187 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/02(水) 16:27:37.55 ID:L1SVG+lh0
「ごめんね、まだ痛い?」
「大丈ォ夫…」
夕暮れが迫ってきて、リビングの気温も下がってきた。上着を羽織った打ち止めは、一方通行に膝枕をしてあげている。
下半身は炬燵に入ってぬくぬくしている青年だったが、その頬は真っ赤になって、氷水が入ったビニール袋で冷やされている。
保護者達が帰ってくる頃になっても腫れが引かなかったら、ベクトル操作で急速治療すればいい。それまでは優しい少女の膝に甘えさせてもらうことにした。
「見事にクリーンヒットしちゃったねぇ」
「あァ、早かった」
「手が勝手に動いちゃったの、ってミサカはミサカはおててに責任転嫁してみる」
「いや、別に怒ってねェよ。むしろ、オマエは怒ってねェのか?」
解禁されていたとはいえ、こっそりとイタズラしたことについては、やはりうしろめたい。
「寝てるミサカの服を脱がせて胸をモミモミしたこと?キスしないでもっとしようとしたこと?」
「……両方」
「…怒って、ないよ。ミサカもキモチよかったし」
「………」
「だからと言って、寝ている時はミサカの気分とかムードとか色々考慮しないとダメ!ってミサカはミサカはあなたが調子に乗らないように釘をさしてみる」
「ハイハイ」
- 188 :ブラジャーの人 [sage]:2011/11/02(水) 16:30:35.94 ID:L1SVG+lh0
- イタズラする一方通行と、寝た振りする打ち止めの巻 完
今まで書いた話の中で、最もアホらしいな。
一方さんの変態がとどまることを知らない。 - 189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 23:35:58.79 ID:/C6yXMAe0
- 乙
背徳感に揺れる一方通行
よく考えたら打ち止めは中学生 - 190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 02:13:58.27 ID:z2NIqNdDO
- >>1乙
おっぱいは素晴らしい
通行止めはもっと素晴らしい
- 195 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/05(土) 21:39:42.44 ID:GlU9ZadB0
「どこもかしこも賑やかだねー、ってミサカはミサカは毎年のことながらウキウキしてみる」
「同じ音ばかり流れてて、耳がバカになったみてェだ」
一方通行と打ち止めは二人して街を歩いていた。近くのパーキングに車を停めて、軽く散歩がてらウィンドウショッピングを楽しむ。
クリスマスを間近に控え、世間はだんだんとお祭りムードを強めてきていた。十一月からケーキの予約が始まり、打ち止めは甘い匂いが香ってきそうなポスターをうっとりと眺めていたものだ。
「あ、これも美味しそう、ってミサカはミサカは足が止まっちゃう…」
「またか…、そンなに食いたきゃ買うか?」
「見るだけ。本番にはヨミカワと番外個体がもーっと美味しいの作ってくれるからいいの」
「炊飯器でなァ…」
クリスママス一色にディスプレイされた街の中で、二人は結局手近な甘味所に入りケーキを頬張った。もちろん一方通行はコーヒーだけである。
「一口いかが?ってミサカはミサカは一応あーんの誘惑をしてみる」
「結構ですゥ。そのフォークに刺さってるのが肉なら迷うとこだけどな」
「お肉をあーん、ってあんまりロマンチックじゃないね」
ケーキを片づけ、紅茶を啜る打ち止め。歩き疲れたので、二人はここで休憩することにした。ティーカップを傾けながら、何気なく打ち止めが話題を振った。
「クリスマスには、やっぱりアレだよ」
「どれだよ」
「プレゼント。サンタなミサカから何が欲しい?あまり高いのは無理だけど…」
「……」- 196 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/05(土) 21:41:23.06 ID:GlU9ZadB0
そう言われても、一方通行はとっさに返事が返せない。そういえばクリスマスにはプレゼントを送り合う習慣が世間一般にあるのだった。ここ近年は、黄泉川家 で典型的なクリスマスの御馳走と、炊飯器製のケーキを食べさせられて騒いでいただけだ。改まって「はいどうぞ」と何かを送ったりした覚えはない。
(去年まではどォしてたっけか)
打ち止めには、クリスマスが近づくと「クリスマスプレゼントにこれちょうだい!」とおねだりされていた気がするが…
「あなたはいつも『別にそンなもンいらねェよ』って断られてたけど、今年はさぁ…、ミサカにも何かさせて」
(おォそうだ、そうだった)
「つってもなァ…。これといって欲しいモンが思い浮かばねェ」
「な、何かあるでしょ?ほら考えてみて、思い出してみて?」
ここで、めンどくせェ、などど言えば、打ち止めを悲しませるということは、さすがに一方通行も分かっている。いわゆる恋人同士になってからの、初めてのクリスマスなのだから、周囲の恋人達がやっている行事を、自分達でもやってみたいのだ。恋人ぶりたいのだ。- 197 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/05(土) 21:44:04.62 ID:GlU9ZadB0
「あ、車のスタッドレスは買わねェと、とは思ってる」
「ポルシェちゃんの?全然クリスマスっぽくないけど、それっていくらくらいするのかなぁ」
「浜面が六、七十万ありゃそれなりのホイールまで揃うって言ってたか、確か」
「高ぁ!」
「だろ?あとは……あー……えー…」
「ふー、あなたはお金持ちだから、欲しい物は大抵買えるもんね、ってミサカはミサカは意外にも困難な課題に項垂れてみたり」
「まァこの問題は置いといて、オマエは?なンか欲しいモンないのか?」
「え、ミサカ?」
一方通行はテーブル付近で揺らすコーヒーカップに視線を置いたまま、逆に訊く。コーヒーが冷めてしまうが、こうして気を紛らわせていないと恥ずかしい。
打ち止めがそういうつもりなら、そしてそれに付き合うならば、今年からはそれらしいものを、ちゃんと意識してプレゼントしなければならないだろう。
「えーと、えーと」
「なンだよ…早く言えよ。毎年なにかしらリクエストしてただろォが」
「そうなんだけど、いざあなたからそう言われるともう気持ちだけで、その、お腹…じゃなくて胸いっぱいっていうか」
「はァ?あるだろ?服とか、アクセサリーとか」
「それだといつもと一緒だし…」
「クリスマスって疲れるイベントなンだな」
「おかしいねぇ」
そんなわけで、お互い当日までに「とにかく何かを用意しよう。文句は言いっこ無し」という協定を結んで休憩は終了となった。- 198 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/05(土) 21:48:09.55 ID:GlU9ZadB0
黄泉川も芳川も、十二月二十四日、二十五日は両日仕事があるらしい。これによって、今年は十二月二十二日に黄泉川家のクリスマスパーティーが開かれることとなった。初めてのことではないので、慣れたものだ。
「でも今年はその方がいいじゃん?」
「えーどうして?ってミサカはミサカは当然の疑問を抱いてみる」
「一方通行も打ち止めも番外個体も、イブやクリスマス当日は友達や彼氏彼女と遊びたい年頃じゃん。打ち止めも一方通行とクリスマスデートでもしてきたらいいじゃんよ」
「や、も、もーヨミカワ!冷やかさないでよ!ってミサカはミサカはまんざらでもないなと照れてみたり」
キッチンで台所仕事をする黄泉川のお手伝いをしていた打ち止めは、手が濡れていることも忘れて彼女の背中をバシバシと叩いた。鍛えられた体と頑丈な神経をした保護者はそんなこと気にもならないらしく、顔を赤らめる少女と一緒に笑っていた。
そんな二人の様子はリビングに居る芳川と一方通行にも丸分かりである。
「言われているわよ」
「……」
「予約したい場所があるなら、早めにしておくことをオススメするわ」
「…うるせェ……」
- 203 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/08(火) 13:40:13.79 ID:2O4WqfUZ0
- 打ち止めは悩んでいた。一方通行にあげるクリスマスプレゼントのことで。一体何をあげれば喜んでもらえるだろうか…
(サングラスみたいに、あの人が気に入ってくれるもの。何か…)
部屋のベッドに寝転がり、打ち止めは考える。当日までまだ時間はあるが、もし用意に時間がかかるものなら、今から決めておかなければならない。
(いっそ気持ちが大事ってことで、肩たたき、いやマッサージ券?…それじゃまるで父の日でしょミサカ、ってミサカはミサカはセルフつっこみ)
一方通行のことを考えていると、知らず知らずのうちに時間が過ぎていく。楽しかったデートの思い出や、アレなことやコレなことまで、プレゼントとは関係ないことが甦ってくる。しかし、おかげであることを閃いた。
(あ、これいいかも…。ちょっと複雑だけど)
その頃、風呂の中では一方通行も悩んでいた。もちろん打ち止めにあげるクリスマスプレゼントのことで。いつもと違う物を用意したい、と思う。何をあげたってあの少女は喜んでくれるだろうが、結局力を入れてしまう自分を自覚する。
(俺も一丁前に浮かれてンのかねェ…?)
しかし、いくら考えても良いアイディアが出ない。仕方がないので、明日は午後からの講義をサボって色んな店を下見しに行くことにした。
(そォすりゃ何か目につくモンが見つかるだろ)
- 204 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/08(火) 13:44:17.67 ID:2O4WqfUZ0
- 次の休日、黄泉川家のリビングではツリーの飾り付けがされていた。街では十二月に入った直後から見かけたが、ここ黄泉川家では中旬から飾られる。
「だってその方が楽しみが凝縮されて、濃いクリスマスになるじゃん?」
「この行事に濃いとか薄いってあるのかしら…。打ち止め、そっち持って」
「はーい。もうサンタや鈴つけてもいい?ってミサカはミサカはウズウズしてみる」
女性陣は和気あいあいとツリーを賑やかにしていく。一方通行はというと、テレビを見るでもなく、新聞を広げるでもなく、彼女達の様子をソファに肘ついて眺めていた。
彼にはこの後、重要な仕事が用意されているのだ。毎年必ずやらされるので、今年も大人しく従う。
「よーし、出来た。あとは一方通行のでオシマイじゃん」
「はい、あなた」
「……ン」
立ち上がった一方通行は、打ち止めから手渡されたものをツリーのてっぺんに飾った。それはもちろん、金色の星である。
「これで一年ぶりにクリスマスツリーのお目見えね。買った時は打ち止めより大きかったのだけど、今はこのツリーがウチで一番小さいわ」
「そういえばいつの間にかミサカの方が背、高くなってたね?」
打ち止めは成長をアピールするように一方通行の横で背伸びした。まだまだ彼との身長差は大きく、もう少し伸びたいと考えている。
(俺も伸びたな。昔より星つけやすくなったもンなァ…)
日々の生活の中で、こうして金色に光るツリーの星を見るだけで、時の流れと体と心の成長を実感する。そんな普通を二人は手に入れた。
守りたい、絶対に手放さないと、お互いに誓っているかけがえのないものだ。 - 205 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/08(火) 13:46:04.92 ID:2O4WqfUZ0
- 一方通行が任されているクリスマスの仕事は、まだある。明確に言い渡されたわけではないが、そういう慣習になってしまっているので、パーティー当日の二十二日も自ら外に出掛けた。
(今年は車があるから楽だなァ…。もっと早く持っときゃよかったぜ)
それじゃあ体を鍛えられないよ、と、打ち止めに叱責される幻聴が聞こえたが、今は無視する。
彼の仕事とは、パーティー用の肉とシャンパン等の酒を買ってくることだった。これは一方通行一人でやらなければいけないらしく、粛々と任務を遂行する第一位。
自分も酒を呑むようになってからは、味の良い高級品を選ぶようになったので、保護者達は多大な期待を込めて帰りを待っているはずだ。
(今までは手抜きしてたのか、って突っかかってきやがって。本当に図々しいヤツらだ)
打ち止めにはジュースを買い、香ばしい焼いた肉の匂いがこもる車に乗り込んで家路につく。毎年のように、先に肉から購入してしまった。
(……買う順番間違えた)
初心者ドライバーには、よくあることである。 - 206 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/08(火) 13:50:28.00 ID:2O4WqfUZ0
- マンションの駐車場に着くと同時に、打ち止めが駆け寄ってきた。一方通行の帰りを、まだかまだかと窓辺で待っていて、ポルシェのエンジン音が響くと玄関を出て迎えにきたのだ。
「おかえりなさーい。運ぶの手伝うよ、ってミサカはミサカはデキル子をアピールしてみたり!」
「おォ御苦労ォ」
と言っても、打ち止めには肉をあずけて、重い酒やジュースは自分が持った。
「おかえりなさい、御苦労さま。今年はどんなの買ってきてくれたのかしら?」
こんな時だけ、玄関まで芳川も迎えに来る。そんなんだから毎年買う酒の量が増え、しまいには打ち止めがマンション一階まで手伝いに来てくれるようになったのだ。
「ほらよ…」
「あら、今年も美味しそう。ありがとう、一方通行」
芳川はお目当ての品を受け取り、足取り軽くキッチンへ向かった。そこを覗き込むと、一方通行が出掛けていた間に来ていた番外個体と、黄泉川が料理の準備をしている。甘い匂いのする炊飯器の中では、きっとケーキのスポンジが焼かれているのだろう。
「あ、おかえりパシリの第一位。ミサカが好きなの買ってきてくれた?」
「知るかンなモン。文句言わずに飲ンで潰れてろ」
「どれどれ…?ちゃんとあるじゃん。良かったな番外個体」
「やたー。んもぅ、本当にツンデレなんだから。あなたのケーキは一番大きく切ってあげるよぉ~」
「………」
一方通行はうんざりした顔で部屋に引っ込んだ。料理は黄泉川と番外個体が。会場(リビング)の準備は芳川と打ち止めが担当している。仕事が先に終わった一方通行は自室でパーティーの開始を待つことにした。 - 207 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/08(火) 13:53:42.53 ID:2O4WqfUZ0
半時間後、準備を終えた打ち止めも彼の部屋へやってきた。
「ミサカもここでゴロゴロするー、ってミサカはミサカは台所から追い出されたのであなたに不満を訴えてみたり」
「またか。まァいいンじゃねェの?オマエはあの変な料理を覚える必要ないからよ」
「ミサカが普通のに挑戦しようとするから追い出されるのかな、ひょっとして」
「だったら益々もォいい。アイツらに任せておけ」
「いぇーい。のんびりするがよい、の許可が出たー。堂々とゴロゴロしよ」
ベッドに寝転び雑誌を読む一方通行と、床のクッションの上で携帯をいじったり、同じく雑誌や持ち込んだ漫画を読んでいる打ち止め。
「ねぇねぇあなた、ってミサカはミサカは普通を装ってあなたに訊きたいことを尋ねてみる」
「あァ?ンだよ」
「……プレゼント。もう用意した?」
「……」
「……」
微妙な、だけどくすぐったい雰囲気が漂う。
「オマエ、今それ訊くか?あと二日だぞ?」
「え、ダメだったの?」
意外、という顔をされた。これではまるで一方通行の方が、初めて恋人と過ごすクリスマスを、打ち止めよりも楽しみにしているようではないか。
「…もう買ってある」
「おぉ…。なんか、なんかこう燃えるねクリスマス…っ。今すぐ欲しいのを我慢して、当日よ早く来い!ってミサカはミサカはこらえてみたり」
(コイツ、俺にムードを大切にしろって言うわりには…)
手にしていた雑誌は既に興味を失っていたが、視線はそこに置いたままで青年も訊く。
「オマエは?」
「うん?うふふふ、決まってるでしょ。ミサカも、もう用意してあるよ!」
そう教えられたら、自分も「今すぐよこせ、見せろ」と言いたくなってしまった。一方通行も、あと二日我慢しなければ。- 208 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/08(火) 13:56:46.02 ID:2O4WqfUZ0
黄泉川の号令が聞こえたので、二人もリビングへと出向いた。部屋は暗くされ、キャンドルがオレンジ色に空間を染め上げている。定番の料理と、主役の生クリームたっぷりのケーキが炬燵の上に陣取っていた。
「和洋折衷だよなァ…」
「何言っているの。ツリーと炬燵に、その上にケーキ。これが日本のあるべきクリスマスよ」
「はいはい、早く入るじゃん!もう私お腹ペコペコなんだって!」
お決まりのように、一方通行と打ち止めは同じ場所に足を入れた。
「さて、みんな飲み物持った?それでは、カンパーイ!じゃん!」
「メリークリスマース!」
クリスマス。何を祝うのかは置いといて、飲んで食べて騒ぐのがこの家のクリスマス。
ぐい、と、それぞれグラスを傾けて、打ち止め以外の面々が「ぷはー」と息を吐く。
一方通行が金にモノ言わせて買ってきた酒は、とても旨かった。みんなの幸せそうな顔が、彼の毎年の『仕事』の原動力なのかもしれない。
「あぁ、至福ねぇ。打ち止め、番外個体、今年もアレをやってくれるかしら?」
「あーアレね。いいけど、第一位には不評だよね」
芳川のリクエストは一方通行にとって楽しいばかりのものではなく、嬉しそうに番外個体が笑う。打ち止めは伺うように隣の青年を見た。
「構うな。やってやれ、部屋が暗いうちにな」
「うん!」
打ち止めは彼から少し体を離し、番外個体と一緒に空中に手をかざした。二人はタイミングを合わせ、青い光を空中に閃かせる。ぱちぱち、ばちばちと音を鳴らして紫電が躍る、何とも美しい光景だった。
「おー、キレイキレイ!さすが姉妹じゃん。息ぴったり」
「毎年腕を上げているみたいね」
保護者達の賛辞を受けて、姉妹はさらに電気を操る。時折、番外個体がわざと一方通行の周辺にちょっかいをかけ、打ち止めに注意されていた。年々、自分の体にまとわりつく青い光が、その距離を縮めてきているような気がしないでもない一方通行。
「ひひ、睨むなよ親御さん。最終信号にかばってもらって嬉しいクセにぃ」
「この野郎ォ、反射して髪焦がしてやろうかァ?」
「もう、今日くらいは仲良くしなさいな。我が家は打ち止めが一番良い子ね」
「ミサカは悪い子でいいもーん」- 209 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/08(火) 14:00:11.83 ID:2O4WqfUZ0
その後、部屋の照明もいつもどおりの明るさに戻り、本格的に腹を満たしにかかる五人。一方通行の目の前には、番外個体の宣言通り、一番大きく切り分けられた炊飯器製のケーキがある。打ち止めに手伝ってもらいながら、何とかノルマをこなす青年であった。
黄泉川と芳川は、料理よりも酒の方が多いかもしれない。番外個体も気に入りの酒と、高いシャンパンを飲んで顔が崩れてきていた。
「いいなー、ミサカだけお酒飲めないから、みんな美味しそうで楽しそうで羨ましい、ってミサカはミサカは例の事を忘れたわけじゃないけど羨望を抱いてみる」
打ち止めが、つまらなさそうに呟く。二人で初めてホテルに泊まった時に起こった事件を思い出すと、一方通行が飲んでもいい、と言うはずがない。
しかし、青年はしばし何事かを考えキッチンへと立ち、一、二分ほどしてコップに液体を一センチぐらい入れて戻って来た。
「なぁにそれ?」
「ウィスキー」
「?どうする気なの?ってミサカはミサカはドキドキしてみたり…」
一方通行は打ち止めが飲んでいた炭酸飲料にそれを注ぎ、ストローで軽くかき混ぜた。
「ほれ、こンくらいなら大丈夫だろ」
「わぁー、ありがとう!…おいしーっ」- 210 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/08(火) 14:03:13.94 ID:2O4WqfUZ0
一番良い子なはずの打ち止めが不良の代表的行為をしているが、最早ベロベロになった保護者達は大して気にとめなかった。
「あー、悪いんだ。第一位がお姉ちゃんに酒飲ませてるぅ。酔わせてヤラシイことする気だ。きゃー!黄泉川!変態が出たよ!」
「あー?変態?そんなの一方通行に捻ってもらえばいいじゃん。私は今日休業」
「だから、この人が変態なんだって!」
一方通行の眉間に皺が寄る。そもそも打ち止めが酔うと、どちらかといえば彼の方が貞操の危機を迎える可能性が高い。
「うるせェこの馬鹿。おらァ、まだあるぜェ?遠慮せずに飲め」
「う!?んぐぐ…っ」
一方通行は自分のグラスを番外個体の口に無理やり押し付ける。当然抵抗して暴れる彼女によって、お高いシャンパンはこぼれていった。
「こら、もったいないわね。罰として片づけは君達二人でやりなさい」
「あァ?ふざけたこと言ってンじゃねェぞ芳川」
「ごほ!そうだよ。んなことより、この人ミサカも酔わせる気みたい。たっけてぇ~襲われるぅぅぅ!」
「ぶーぶー、ってミサカはミサカは浮気者なあなたに非難を表明してみる!慰謝料請求!」
「ンな…っ」
「あっははははは!こりゃ一方通行逮捕じゃん!」
二十二日だが、日付など関係無い。いつもどおりのクリスマスの夜であった。
- 222 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:20:59.07 ID:fHmVVzKA0
さて、一方通行と打ち止めの待ち望んだイブがやってきた。一方通行の大学は既に冬休みに突入していたが、打ち止めは今日も学校に行っている。青年はたっぷりと昼まで惰眠を貪り、起きた後はリビングでのんびりしていた。しかし頭の中は、今日のことばかり。
(プレゼントなァ…)
実は、講義をサボって街に繰り出した日、早々に決めてしまっていたのだ。
場違いを覚悟で、彼女が好みそうな商品を揃える店を回って二軒目。新商品のポスターを見て、これがいいな、と即決した。だが、購入から日が経つにつれ、打ち止めが喜んでくれるだろうか、と不安が増してくる。
(……はァ、今更しょォがねェだろ。らしくねェ)
頭を振って迷いを払い、努めていつもどおりに過ごす。やがて午後になり打ち止めが帰ってきた。
「たっだいまー!」
「オカエリィ」
「あなた、今日だよ!ミサカ達の記念すべきクリスマスは!」
「いきなりすぎるだろ…」
「だって楽しみで楽しみで…。さーて、さっそく準備しようかな、ってミサカはミサカはあなたもお手伝いしてね、とお願いしてみる」
「ハイハイ」
どこか洒落た店でも予約して、二人で出掛けようかとも思ったのだが、結局自宅で慎ましく行うことにした。これ以上慣れないことはするものじゃない。
今日は打ち止めが(普通の)料理を作る。まだ修行中なので大したものは出来ないだろうが、入念にレシピを確認していたので、そこは期待しておこう。- 223 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:23:12.01 ID:fHmVVzKA0
「じゃ、いってくるからなァ」
「はーい、いってらしゃい。ケーキは小さいのにしてね?ってミサカはミサカは最近の高カロリー摂取を心配してみたり」
「ンー」
今日も一方通行は肉とシャンパン、それとケーキを買いに行く。今年二度目だろうがクリスマスとなれば、なんとなく同じことをしてしまうのだ。
(シャンパンは一本でいいよな)
先日のパーティーで買った酒は、すべて飲み尽くされた。余れば今日、自分が飲めばいいと思っていたが、それは甘かったようだ。
買い物の最中も、打ち止めに渡すプレゼントのことを考えてしまう。これほど誰かを真剣に思い、何かをあげるのは初めてのことだ。だから柄にもなく緊張しているらしい。
(あー、落ちつかねェ。だいたい何て言って渡すンだ?いつ渡すンだ?)
そこで、ふと頭の中である顔が思い浮かんだ。彼女にはアレをあげれば、いつも満面の笑顔と飾らない心からのお礼を言われた。予行演習、という訳ではないが、一足先にクリスマスプレゼントを渡して、本番のために心の準備でもしておこうか。
(今年から車があって楽だし)
だから、大したことじゃない。わざわざ出向くのは苦じゃないから。そう言い訳めいたことを呟いて、彼は急遽、買い物の量を増やした。- 224 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:27:58.36 ID:fHmVVzKA0
冬の夕暮れは早い。目的地に着く頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。その部屋を見上げると明かりが点いているので、留守ではないようだ。
路肩に車を停め、一方通行は慣れた様子で上条当麻の寮へと足を踏み入れる。
手には、大きな焼いた鳥肉と、特大のホールケーキを持って。
上条宅の玄関の前に立ち、呼び鈴を押す。「ピンポン」という音の「ピ」で、唐突にドアが開けられて、不覚にも一方通行は驚いてしまった。そして目の前に現れた人物を見て、益々驚いてしまった。
「はい。覚えのある気配だと思ったら、あなたは確か学園都市の第一位殿でしたね」
「あ、あァ」
「上条当麻、お友達がおみえですよ」
茫然と立ち尽くす一方通行には構わず、神裂火織(二十三歳)は部屋の中を振り向いて家主を呼んだ。「お友達」という言葉に、いつもなら反発を示す一方通行だったが、今は想定外の人物の登場と、彼女が着ている服に目を奪われて言葉がつげない。
神裂は、クリスマスにはよく見る、いわゆる「サンタコスチューム」を身に着けていた。それも露出度が大変高い物を。
「お、一方通行か?入ってこいよ」
「いらっしゃいなんだよ、あくせられーた!」
聞き慣れた声に導かれ、神裂の後について玄関をくぐる。そこにはいくつか靴が置いてあって、客人が一人ではないことを知ったが、長居はしないつもりなので、まぁいいだろう。
「……」
(コイツまで居るとは…)
しかし、部屋の奥側の炬燵に入っている男を見たとたん、つい顔をしかめてしまった。
「なんて面してるんだ?一方通行。俺が居てそんなに嬉しいのか」
「土御門…」- 225 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:31:56.55 ID:fHmVVzKA0
普段は上条とインデックスだけの二人住まいの部屋だが、今日はクリスマスイブだということで、親しい者が集まり、ここでもパーティーが行われているのだろ う。ちょっと考えれば予想できそうなことだった。他にも、赤い髪のかなり背の高い、見覚えのある神父服の男がいた。確か「ステイル」と呼ばれている、上条 たちの知り合いだ。
台所から濡れた手を拭きながら、上条が一方通行を出迎えた。
「どうしたんだよ、連絡も寄越さないで急に」
「…あー、…」
みんな、見ている。神裂も、ステイルも、目をキラキラさせて荷物に注目しているインデックスも。サングラス越しだが簡単に分かる、絶対ニヤけているであろう土御門も…
ここまで来て何も用が無い、などとウソはつけない。だってもう、美味しそうな匂いをシスターが嗅ぎつけているのだから。一方通行はぶっきらぼうに、持っていた袋を上条に突き付けた。
「え、な、何だ?」
「見て分からないのかい?彼はそれを受け取れと言っているんだよ。鈍いね」
戸惑う上条に、炬燵テーブルに肘をついたステイルが言う。口には火のついていない煙草が咥えられていた。
「分かってるよ。俺はどうして急に…えーと、これ肉?」
「あとケーキだ。シスターに食わせてやれ」
「……っ、やったぁー!ありがとー!あくせられーたー!」
期待どおり、インデックスが飛び上がって喜んでくれた。しかしここに見慣れない客人がいるとは思わなかった一方通行にとっては、いささか恥ずかしい。そして、見慣れすぎている土御門もいることで、更に強くそう感じられた。
「良かったですね、インデックス。御好意はありがたく頂戴して皆で食べましょう」
「うん、随分たくさんくれるんだね。彼女のことを良く分かっているじゃないか」
神裂が上条に代わって袋を受け取り、テーブルの上に中身を出していく。インデックスがそれと一方通行を交互に見つめ、手をわきわきと動かして、今にもつまみ食いしそうだ。ステイルはそんな少女を穏やかに眺めていた。- 226 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:34:22.46 ID:fHmVVzKA0
「ありがとな、一方通行。お前も一緒にやって…」
「いや、もォ帰る」
「な、なんで?だってコレ」
「本当に鈍いぜよ、カミやん。一方通行は打ち止めとクリスマスを過ごすに決まってるにゃー」
あえて見ないようにしていた土御門が、インデックスに先駆けて鳥モモ肉を掴んで齧りついた。一方通行は彼を睨みつけたが、土御門はどこ吹く風である。
「はしたないですよ土御門。インデックスも我慢しているというのに」
「硬いこと言わない、言わない。ねーちんだってもう飲んでるクセに」
「ぐ…、しかし飲まなければこのような格好できません」
「なぜ負けると分かっていてテレビゲームなんかしたんだい?神裂が勝てるわけないじゃないか。土御門はそれを分かっていて、その服を用意したんだろ」
「だってインデックスが私とやりたいと、あ、インデックスまで…」
「もう我慢できないんだよ!私も!」
一方通行が持って来たプレゼントによって、なし崩し的に上条宅のクリスマスパーティーは始まった。
「ははは…、今日はうち賑やかだろ」
「あァ、邪魔したな」
「そんなわけないだろ!ありがたいさ」
「あのサンタ女を見た時は、オマエがついに怪しい店にでも電話したのかと思ったぜ」
「ばっ、馬鹿言うなよ!あれは罰ゲームだって。インデックスと神裂の底辺の勝負、見物だったぞー」
「冗談だ」- 227 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:36:13.81 ID:fHmVVzKA0
一方通行は腰を落ち着けることもなく、これで帰ろうと背を向けた。あわてて上条が彼を追いかける。
「もう行くのか?お茶、あーっと、コーヒーぐらい飲んでいけよ」
「……打ち止めが待ってる」
「あ、そ、そうでした。ホント鈍い上条さんですみません…」
そこへ、インデックスも一方通行を見送りに玄関に駆けつけた。感心なことに、肉は置いてきたらしい。
「あくせられーた、もう帰っちゃうんだね」
「あァ、悪いな、こンなに大人数って知ってりゃ、もっと持ってきたンだが」
「ううん。すごく嬉しいクリスマスプレゼントだったよ。わざわざありがとう」
「ああ!?これクリスマスプレゼントだったのか!だからか!どうしよう俺、何もおかえしできるものが無い!」
「ばァーか。ンなモン期待してるわけねェだろ。じゃあな」
二人に別れを告げて、一方通行は歩き出す。まだ見送ってくれている上条と「良いクリスマスを!」と、大声で叫ぶインデックスに、自然と口角が上がった。
路肩に停めた車に戻り、上条の部屋を見上げれば、金髪の男がベランダからこちらを見下ろしていた。土御門は一方通行が顔を向けると同時に、ひょいと右手を掲げてヒラヒラと振る。
「ふン」
予定より帰りが遅くなってしまった。一方通行は急いでマンションに戻ろうと、いつもより強くアクセルを踏んだ。
- 228 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:39:25.34 ID:fHmVVzKA0
「おかえりなさーい!遅かったね、心配したよ?」
「ちょっと寄り道しててな。オマエの方はどォだ、順調か?」
家に帰り玄関を開けると、キッチンから打ち止めが出迎えに来た。一応良い匂いが漂ってくるが、少女の料理の腕前はそれほど優秀じゃないので、心配して様子を訊いた。
「んふふ、練習の甲斐あって中々上手くいってるよ、ってミサカはミサカはあなたの期待を盛り上げてみたり!」
「ほォ、大口叩いて後で後悔しなけりゃいいが」
「むむ、絶対後で、おいしいって言わせてやるんだから」
打ち止めはエプロンをパタパタさせ、気合いと共にキッチンへ戻る。一方通行は彼女の後を追い、ケーキを冷蔵庫に、肉を皿に出した。
「こっちは食べる前に温めるか。でェ?俺は何を手伝わされるンですかねェ?」
「料理はミサカに任せて。あなたはお部屋の準備をお願い」
「…部屋の準備ってもなァ、特にすることねェンだけど」
今日は二人だけ…、二人きりのクリスマスなので、一方通行の部屋でやろう、ということになっていた。彼はテーブルを打ち止めの部屋から持ってくるだけでいいと思っていたのだが…
「えーとね、まずツリーを運んでね。あとキャンドルも用意して。そこのテーブルクロスも敷くこと、ってミサカはミサカはてきぱきと指示をとばしてみる」
「…了ォ解」
軽く掃除してから、言われたとおりに働けば、一方通行の部屋はかなり狭くなった。特にツリーが存在感を放っている。
(とりあえず出来たか。打ち止めの方も大丈夫そうだったな)
こっそり覗いたキッチンでは、一方通行の目から見ても、夕食は順調に完成に近づいているようだ。しばらく待っていると、打ち止めが青年を呼びに現れた。
「あなた、できたよー。運ぶのは一緒にやって」
「おォ」
二人して、おぼんに料理を乗せて部屋に持ち込む。シチュー、サラダをはじめとした簡単なものばかりだが、初めて一人だけで打ち止めが作った、本格的なディナーだ。一方通行は素直に褒めた。
「美味そうじゃねェの」
「えへへ、まだ食べてないでしょ」- 229 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:42:31.99 ID:fHmVVzKA0
テーブルの上に料理を並べ、キャンドルと、ベッドサイドの簡易照明だけの薄暗い中、二人はクッションに座り、グラスをチン、と鳴らした。打ち止めはジュースである。
「どう?」
「……だから美味いって」
「よしよし。はい、あーん」
「おい、それをかァ?」
打ち止めは手の平ほどもある鳥モモ肉を掴んで、一方通行の口元にずい、と差し出した。
「だって前に、肉ならやる、ってミサカはミサカはそう言ってたことをずっと覚えて狙っていたのと明かしてみる」
「あれは別に、外だったから…」
「ほらほら、あーん?」
溜息ついて、口を大きく開けてかぶりつく。そのまま食いちぎる力につられて、打ち止めの手が引っ張られた。
「わぉ、ゴーカイ」
「……ン」
「あ、ミサカにも?ありがと」
一方通行は肉を噛みながら、自分もオカエシに同じことをする。肉じゃなくて、フォークにケーキを乗せて。
キャンドルの明かりの中、リビングでもキッチンでもない、一方通行の部屋で食べる打ち止めの手料理。飾り付けられたツリーが二人を見守って、恋人同士の、初めてのクリスマスは楽しかった。これでいいのかは分からないが、楽しいと感じることが重要だと思う。
打ち止めの嬉しそうな笑顔が見られるなら、それは何でも成功なのだ。
シャンパンのせいか、一方通行は自分も笑っているような気がしたが、打ち止めしかいないので気にしない。- 230 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:45:50.91 ID:fHmVVzKA0
やがて料理もたいらげて、テーブルは壁際によけられた。キャンドルは二本目が半分まで燃えているが、二人はベッドにもたれたまま、ずっと他愛もない話を囁き合っている。
そうしてどれくらい時間が過ぎただろう。ふと見た時計が、午後十時に迫っていることに気づいて、一方通行は驚いた。打ち止めも青年の視線の先にある時計を見て「あ」と声をあげる。
「わぁ、もうこんな時間だね。…お風呂入らなきゃ」
「…そうだな。先に入れ」
立ちあがった打ち止めは、部屋の照明をつけて食器を片づけはじめる。なんだかとても惜しい気分で、一方通行もツリーをリビングに戻そうとした。
「あ、キャンドルは…まだ出しておいてね」
「…分かった」
まだもう少し、自分達のクリスマスは続くらしい。
(だよな、だってまだプレゼント渡してねェし)
打ち止めに続いて一方通行も風呂に入ったが、まだ保護者達は帰って来なかった。特に黄泉川は、こんな若者達が盛り上がる行事の日は、日をまたいで警備員の仕事に勤しむことが多いのだけど、芳川までとは。
今日、外に出掛けないことは、黄泉川にも芳川にも打ち止めが告げているはずだ。
(まさか気を使ってンじゃねェだろうな)
もしそうだとしたら、恥ずかしいやら、気まずいやら。そしてちょっと、ありがたい。
- 231 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:49:54.70 ID:fHmVVzKA0
部屋に戻ると、まだ置いてあるテーブルの上のキャンドルと、簡易照明だけの薄暗い部屋に戻されていた。さっきまでの空間に、青年はほっと息をつく。
打ち止めはベッドの上に正座で待っていた。
「なにやってンだオマエ。足痺れねェか」
「もう待ちきれなくて」
「……」
一方通行もベッドに座る。わざと大仰に腰掛けたので、衝撃で打ち止めがスプリンングと一緒にゆらゆら揺れた。その拍子に、髪からの良い香りが青年の鼻をくすぐる。
「もう我慢できない。まだ二十五日じゃないけど、もういいよね!?」
「…いいと思うぞ」
「だよねっ。はいこれミサカからのプレゼントです!」
「………、どォも」
少女は背後から取り出した箱を、一方通行の目の前に差し出した。彼は一瞬手の動きを止めた後、軌道修正して両手でそれを受け取る。
「開けて開けて!ってミサカはミサカはあなたの反応を早く見たくて」
「落ち着け、今開ける」
黒いリボンを解いて蓋を開けると、中には革製のベルトが入っていた。手に取って、すぐに違和感に気づく。自分が持っているベルトより、だいぶ短い。
「それね、あなたのためにオーダーメイドで作ったベルトなの。あなたは悔しいことに……大変スタイルが良くていらっしゃるのでぇ、普通のじゃ長すぎるでしょ?」
「ふゥン…」
ためしに、軽く腰に巻いてみた。確かに丁度いい長さだと感心する。
「あなたが服着てるときに、明らかに長すぎだなぁ、ってミサカはミサカは羨ましく見ていたことを告白してみたり…」
「ンな辛そうな顔するなよ…、反応に困るだろォが」
「いかが?」
「………」
「わ、わわわ?」- 232 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 02:54:03.78 ID:fHmVVzKA0
一方通行はぐりぐりと打ち止めの頭を撫でた。そのままアホ毛の上に手を置き、よいしょ、と立ち上がって机に向かい、引き出しから小箱を取り出した。
(うぅ、髪がぐしゃぐしゃに…。でも気に入ってくれたみたいで良かった)
打ち止めが安堵のため息をつきながら髪を整えていると、再び一方通行がベッドに座り、今度は少女の前に可愛くラッピングされた箱が差し出された。それは片手に収まるほど小さなもので、打ち止めは満面の笑顔で受け取った。
「ありがとう、嬉しい!」
「まだ見てねェのに礼を言うか?」
「だって、このリボンとか、包装紙とか、あなたがこれを買っているシーンを想像するだけでミサカは大感動…」
「面白そうに笑ってンじゃねェか。いいから開けてみろ」
「…うんっ」
打ち止めは、もったいっぶって一度シーツに箱を置いてからピンクのリボンを解く。両手で蓋を外し、中に入っていたものは…
「口紅だ」
「口紅ですけどォ」
打ち止めはピンク色のスティックを持ち、まじまじと眺めた。嬉しそうな顔をしているが、未だ感想は無言である。いたたまれない一方通行は、訊かれてもいないのに説明を始めた。
「それ、最新技術を使った新作なンだと。塗ってもすげー落ちにくいらしい」
「へぇ…」
「カップやグラスにも付かないから、一度塗ればクレンジングするまでもつンだとさ」
「……」
「おい」
「あなた」
「おう」
「ありがとう…」
突然口紅から視線を戻され、その目があんまりまっすぐだったから、一方通行はついかしこまってしまった。打ち止めは口紅を握ったまま、固まる一方通行に抱きつく。
固まっていても、そうされれば青年の手は勝手に動いてくれた。- 233 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/10(木) 03:00:29.53 ID:fHmVVzKA0
「あー、嬉しいなぁ。この嬉しさをどうやって伝えてくれようか」
「お気に召していただけたよォで…」
「うん、とっても。さっそく塗ってみてもいい?」
打ち止めが、鏡を求めて部屋から出て行こうとしたので、腕を掴んでとどめた。
「やり方があンだよ。塗ってやる」
「え」
青年は有無を言わさず、スティックをとりあげキャップを外し、ベッドサイドの照明を最大に調整して明かりを強くした。緊張した面持ちの少女の顎を掴み、ピンク色を唇に乗せていく。
「ちょっと口開けろ…」
「ん…」
打ち止めはきょろきょろと、天井や床に目を泳がせていた。彼の手が離れてほっとしたのも一瞬で、またすぐ同じように顎を持ち上げられ、唇を見つめられる。
不意な事に、うっかり一方通行の顔を見てしまった。頬が熱くなるのを感じる。
「で、塗った後に反対側のココで、こうやって上からなぞると、色が唇の上で固定される。…落としたい時はクレンジングしなくても、もう一度なぞると簡単に取れる…、…聞いてるかァ?」
「聞いてる聞いてる。すべて了解しました大丈夫です」
塗り終わった後、打ち止めは赤くなっているであろう頬を両手で揉んだ。
(どんな演出?効果てきめん!ってミサカはミサカは想像以上のロマンチッククリスマスに心の中でガッツポーズしてみたり)
「似合ってンじゃねェか」
「ふふふ。これであなたにちゅーし放題なんだね」
「…まァな」
「どれどれ…」
色づかせた唇が、一方通行の頬に近づいてくる。「本当だー」と、はしゃぐ打ち止めを抱き寄せて、一方通行はプレゼントの効力をさらに証明するために、自分の唇を用いてみせた。
- 234 :ブラジャーの人 [sage]:2011/11/10(木) 03:10:26.02 ID:fHmVVzKA0
- 黄泉川家と通行止めのクリスマスの巻 完
神裂火織(23歳)とステイル、土御門が登場してくれて、とても嬉しい。
それにしても、本当に馬鹿っぷるですね。
一方さん、プレゼントに口紅って、王道のど真ん中じゃないですか。常識から遠い世界にいたのに、流石です。
…ありきたりなプレゼントで申し訳ない。
打ち止め(巨大リボン装備)「ミサカがプレゼントだよ!」 これを想像しなかったわけないでしょ。でもできないでしょ。
- 247 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/15(火) 01:26:14.30 ID:2iojqkFs0
クリスマスが過ぎれば、あっという間に正月である。僅か一週間ほどで、今年も終わってしまうのだ。
「一緒に初詣行こうね、ってミサカはミサカはおしとやかに着物であなたを悩殺してみせると意気込んでみたり」
「寒くなかったらな」
「寒くないわけないじゃない。だって冬だもん。ねー行こーよ行こーよ行こーよ」
「あーうるせェうるせェ、分かったから黙れ」
「やったー!ってミサカはミサカは行こうよコールがわずか三回で済んだことに、最近のあなたのデレっぷりが表れていると推察してみる」
「違ェ。学習したンだよ…」
いつものように、炬燵に入って年末のお昼を過ごしていた一方通行と打ち止め。
安心できる暖かい場所で、恋人とこうしていられる幸せを享受する。しかし、平和な空間に突如、鋭い刃が突き刺さった。
「はいはーい、そこの二人。イチャつくのはそこまでじゃん」
「ひゃぁぁぁ寒いぃー!」
「黄泉川ァ!急に窓開けンなァ!」
黄泉川はリビングのみならずキッチンも、それに打ち止めや一方通行の部屋の窓も開けに行っているようだ。
一気に風通しが良くなったリビングに、冬の冷たい空気が吹き荒れる。競歩のように勢いよく家中を一周して戻ってきた黄泉川は、きっぱりと宣言した。
「大掃除!するじゃん!」- 248 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/15(火) 01:28:34.60 ID:2iojqkFs0
ほかほかして、ぬくぬくして、すっかり年末の仕事を忘れていた二人。炬燵にしがみつきながら一方通行は反抗する。打ち止めは素直に炬燵から出て来て、黄泉川からバケツと雑巾を受け取っているというのに。
「この家は充分キレイじゃねェか。毎年毎年馬鹿みてェに大掃除なンてやる必要ねェよ。どっかのジャージは整理整頓が趣味だしな」
「屁理屈いわない。私がそうやってるから、この大掃除も楽に終わるじゃんよ」
「頑張って早くやっちゃおうよ、ってミサカはミサカは炬燵ヤドカリなあなたを促してみる」
「さすがにベッドの下とか棚の裏は普段掃除できないしね。いつもみたいに一方通行には、そういうの持って運んでほしいじゃんよ。アンタは足が悪いんだから、もとからコキ使うつもりないじゃん」
「ほらほら、まだ暖かい昼間のうちにね?ってミサカはミサカはあなたを引っ張り出してみたりぃぃ~」
服と絨毯の摩擦もあり、打ち止めの力では青年を動かせなかったが、緑ジャージの体育教師にとっては片手で済む作業だった。
「クソ、面倒臭ェ…」
「毎年結局やるんだから、これも学習するじゃん。それともやっぱり、お勉強は打ち止め関係しか出来ないのかなー?」
「やだぁ黄泉川もぉー!」
「面倒臭ェ上にウゼェ…」
最早このやり取りも、年末恒例行事のひとつのようだ。- 249 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/15(火) 01:31:16.52 ID:2iojqkFs0
動きやすい服に着替え、大掃除が始まった。ちなみに芳川は今日も病院に出勤しているので、他三名で行う。
(冷てェ風に吹かれて掃除するくらいなら、仕事の方がイイかもなァ)
番外個体が一緒に住んでいた頃は彼女も頭数に入っていたが、今は人数が少ない分作業も増える。とは言っても、一方通行が主張したように、ここ黄泉川家は普段の掃除がゆき届いているので、大掛かりなことはしない。
「ベッドや本棚を丸ごと持ち上げるのを大掛かりと言わないのはウチくらいだよね、ってミサカはミサカは床をゴシゴシしながら呟いてみる」
一方通行の能力を使い、重くて大きな家具をどかし、その隙に黄泉川、打ち止めが掃除機や雑巾がけをこなしていく。一方通行は家具が壁に接着していた面を軽く拭き、キレイになった場所へそれを戻す。
「私達のチームワークも年々上がってるじゃん。この調子ならあと一時間くらいで出来るかも」
「ふー、これでリビングはピカピカだね。次は?台所?」
キッチンは特に掃除する場所が多い。食器棚を持ち上げる時は皿が割れないように、さすがに慎重になる。
あとテーブルと、電子レンジを乗せた棚と冷蔵庫と…
「ちょっとちょっと一方通行っ、そんなに一気に動かされても、私と打ち止めの手は合計四本しかないじゃんよ」
「あ?あァ、じゃあ俺は先に他の部屋行ってる」
「…ん、こっちも急いでやっとくから」
「わぁ、冷蔵庫の下埃だらけだね、ってミサカはミサカは掃除機を構えてみる!」- 250 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/15(火) 01:37:00.71 ID:2iojqkFs0
- たくさんの家具を一気にどかしたのは、実はわざとだ。キッチンに黄泉川と打ち止めを縛り付けておいて、青年は自室へと急ぐ。
(まァ、家具どかしたくらいじゃ見つかるモンじゃねェけどな。一応念を入れて移動させとくか…)
一般的に、家人(特に女性)には見つかりたくないものを、さらに奥深くにしまい込んだ。能力も駆使して封印した。
急いでベッドと棚をずらし、キッチンへ戻り何食わぬ顔で掃除に加わる。
「冷蔵庫はもォいいみたいだな。打ち止め、危ねェぞ。コード引っかける」
「おっとっと…」
「さーて次は…、一方通行、アンタの部屋じゃん?」
「……おォ」
一方通行は「他の部屋に行く」と言って席を外したのに、さすが保護者。何かを感づいている。
見つかってもいないし、見つかるはずもないのだが、一方通行は外側の窓拭きを言い渡されても無抵抗だった。 - 251 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/15(火) 01:43:31.43 ID:2iojqkFs0
寒風に晒されるのが辛いので「高い所はこの方が早ェンだよ」という言い訳で能力を使い、あっという間に窓はピカピカになった。それなのに、いかにも働きましたァという様子で、炬燵でグッタリしている一方通行。
「あなた、ちょっとコレ見て?」
「あァ?」
「着物。合わせてみたんだけど、ちょっと短すぎるかなぁ」
「…あー、初詣な。……それ、去年も着てただろ?」
「うん。でもこれ四年前に買ってもらったやつだし」
ピンクの花柄の着物を羽織った打ち止めが、一方通行の前でくるくると回って見せる。一年前は丁度良い裾の長さだったが、今は少し足りないように見えた。
(確かにこの一、二年でデカくなったからな、いろんなトコロが)
「明日、新しいの買いに行くか…?」
「…いいの?」
「転ンで汚すなよ」
「…ありがとう、ってミサカはミサカは今度は大人っぽい柄で攻めてみよう…。これで悩殺しやすくなったぞー」
(脱げばあっという間ですけどォ)
少女が重視しているらしいムードを読んで、口には出さなかった。- 256 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/15(火) 21:16:55.42 ID:ZTw4HbS00
デパートの着物売り場に来た二人。学園都市では当然のことながら、和装があまり馴染みなくて店は閑散としていた。正月と成人の日を間近に控え、外の世界ではそれなりの賑わいを見せているのだろう。
(おかげでゆっくりと品定めできるけどなァ)
黄泉川も芳川も、正月は打ち止めに必ず着物を着せた。「カワイイ、カワイイ」とはしゃいで飾り付けて、もう何年目になるだろうか。初めて和風な少女を見た時には「馬子にも衣装だな」と一般的な感想を述べて三人の怒りを買ったものだ。
「あんまりお客さんいないね、ってミサカはミサカはこの値段なら当然かもと納得してみたり。着物ってこんなに高いの?」
「ピンキリだろォ?ほらコッチは安い」
「……他に比べたらね。これじゃあ普通の学生は買わないハズだよ。向こうのレンタルのお店は人が多かったもん」
「それに着る機会が少ないからな」
「…やっぱり今年は着物止めようか…?ってミサカはミサカは必要ない高額商品の購入を思い留まってみる」
必要無いといえば無いのだが、それでも一方通行は、正月には打ち止めに着物を着ていてほしいと思った。誰もが送る「日常」の風景に華やかな装いの少女を重ねて、今の自分達を彼女に実感させたい。それに
「黄泉川と芳川が承知するハズねェだろ…」
- 257 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/15(火) 21:24:53.68 ID:ZTw4HbS00
昨夜、新しい着物を買うと告げたら、一緒に行くと駄々をこねた黄泉川と、それを叱った芳川。
「私だって行きたいわよ。でもここは耐えるのよ愛穂。一方通行のセンスはアテにならないから、打ち止めがしっかりね」
「ちぇー、どーせお邪魔虫ですよ。やっぱり赤系の色がいいと思うじゃん。可愛いの、とにかく可愛いのね!一方通行はただの財布だと思って」
「やかましィし、なンて失礼なヤツらだ…」
「あはは…、ってミサカはミサカは苦笑い…」
保護者達は打ち止めの新たな装いを大層楽しみにしているのだ。これで「高いから買わなかった」となれば、落胆されるどころか(一方通行が)怒られる。それに、彼にとっては別に高い買い物ではない。
「どれでも構わねェからとっとと選べ」
「うん、ヨミカワとヨシカワ楽しみにしてくれてるもんね。小さくなっちゃったのは、二人と一緒に買いに行ったんだっけ。今回はあなたが隣に居てくれて…その、…」
「……なンだよ」
「幸せ…」
「…そォですか」
思い返せば、この一年は怒涛の一年だった。打ち止めとそういう関係になり、傍に居るだけではない、深い愛し合い方を知った。溺れるような快楽を知った。
同時に胸が苦しくなる切なさを味わった。それを乗り越える信頼も育てた。
くすぐったい空気を感じながら、二人は再びディスプレイされた商品たちに目を向けた。- 258 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/15(火) 21:27:43.05 ID:ZTw4HbS00
中々決められないで店内をウロウロしていると、冷やかしではなさそうだと女声店員がそっと声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。よろしければご案内しましょうか?」
「…そォだな。コイツのを新調したいンだが」
「新調」ということは、すでに今、一着以上は所有していることになる。いずれ着られなくなるサイズの和服を買うなんて、それなりに裕福な家庭なのだろうと店員は推察した。
「そうですか。もうお正月ですし、振袖でよろしいですよね?どのような柄がいいかお決まりですか?」
「……あの」
打ち止めが一方通行の傍から離れ、店員の耳元で囁く。
「大人っぽいのがいいんです」
何コソコソしてンだ、と不満そうな青年を横目に、恥ずかしそうにはにかむ少女は大変微笑ましかった。この娘のために良いのものを提供しよう、と決意する店員。
「大人っぽいのですか…」
(…この子には、華やかなピンクや赤の花柄が絶対に似合うと思うんだけど)
「でもピンクや赤が多くてミサカは…、うーん」
「そうですね。ここは学生さんの街ですし、どうしても…」
三人連れになった一行は、打ち止めが気に入る一着を求めて再びフロアを巡る。
黒や金、緑をベース色とした、落ち着いた柄のものもあったが、やはり打ち止めにはまだ早いデザインだと思われた。
「やっぱこォいうのがいいンじゃねェか?」
「あぁ、いいですねぇ。これはお客様によくお似合いになると思いますよ」
「うー、赤かぁ…」- 259 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/15(火) 21:32:19.47 ID:ZTw4HbS00
一方通行が指さしたのは、濃い赤が裾に白へとグラデーションして、金、桃、紫の花柄が足元へ向かうほど、だんだんと花弁を大きく開いていくという、派手な模様の振袖だった。
打ち止めも、これは自分に似合う、と感じるのだが、欲しかったものとは方向性が違う。
「でも、こんな派手なの、ミサカがもっと大きくなったら着にくいよ?」
「大丈夫だ。オマエはこれ以上大きくならねェよ多分(身長は)」
「そうじゃなくって!年をとったらってこと!もう!」
「そン時ゃババ臭ェ茶色のヤツでも買ってやらァ」
「なんだとー!ってミサカはミサカは乙女に対して失礼なあなたに憤慨してみたり!」
微笑ましいケンカを始めた二人に店員が笑いながら口を挟む。
「大丈夫ですよ、振袖はもともと結婚前の若い女性が身に着けるものですから。結婚されたら、また違うのをお求めになられたほうがいいでしょう」
結婚。
「それに和服というのは、その家庭と共に受け継がれていく、という日本の美徳を備えた伝統の民族衣装なので、お子さんが生まれたら、その子に着せてさしあげれば良いかと」
お子さん。
まだまだ未来の、でも想像しなかったこともない単語。いきなり夢に見た光景を思い出させることを言われて、青年と少女は言い合いを止めた。
急に気まずい空気になってしまい、女性店員は(しまった、失言かな?)と焦ったが、振り向いて見た二人の様子に、安堵と、さらなる微笑みが自然とこぼれてしまう。
「……そういうことらしい。コレでいいだろ…」
「……うん、ってミサカはミサカは日本人として正しい知識を得られたと胸を張ってみる」
胸を張るどころか、打ち止めは顔を赤くして俯いている。一方通行もあさっての方に目を向けて、でも頬がわずかに染まっているのは、色白の肌では隠しきれない。
- 260 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/15(火) 21:34:52.77 ID:ZTw4HbS00
帯などの一揃えを包むと大荷物になるので、それは明日にでも自宅に送ってもらうことにした。
さぁこれで用事は済んだ。思いがけず顔を染めてしまう事態になった一方通行は、早くこの場を去りたかったが、例の店員が打ち止めを引きとめている。
「あの、お客様ちょっとだけお待ちください」
「?はい」
店員に何事かを言われ、打ち止めは青年にちょっと待っててとジェスチャーして、見えない奥のスペースに消えて行った。
(何やってンだ…?)
五分ほど経って、打ち止めは見送る店員にお辞儀をして一方通行のもとに戻って来た。
「お待たせしましたー」
「遅ェな、…それ、何だ?」
打ち止めはこの店のロゴが入った袋を持っていた。まるで、自分には秘密というような様子だったので気になる。店を出てデパート内の通路を歩きながら訊いた。
「…オマケで貰ったの」
「だから何を」
「和服用のブラジャー」
「………」
「着物って、胸が大きいとあんまり似合わないし着づらいんだって。だからそれ用のブラジャー」
「へェ…。そォいうのがあンのか」
「ミサカも初めて知った。というわけで着物を着たミサカはいつもより胸が小さいです。がっかりしないでね?」
「するかボケ」
- 270 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/18(金) 00:34:09.85 ID:Tk27JJB+0
十二月三十日の午後、暖かいコートを羽織り、マフラーを巻き、スカートから覗く足には黒いレギンスを履いた打ち止めは、玄関で一方通行に見送られていた。
「じゃあ行って来るけど…、あなた、飲み過ぎないでね?ってミサカはミサカは心配してみる」
「何度同じこと言ってンだ。大丈夫だから早く行け、遅れるぞ。あとな、オマエは酒なンて絶っ対飲むンじゃねェぞォ。もし飲むヤツがいたら焦がせ。俺が許可する」
「はーい、わかってますって」
打ち止めは手を振って出掛けて行った。今日、彼女は学校の友人達と遊ぶのだそうだ。中学生が忘年会もないだろうが、要は理由をつけて集まり、騒ぎたいのだろう。
そして、一方通行も集まる予定がある。こっちは正真正銘の忘年会だ。
(アイツらと会うってェのに、打ち止めがいないのも久しぶりだな…)
夕暮れになり、彼もコートを身に着けて家を出た。出がけに黄泉川から「飲み過ぎないように」と、まったく同じことを言われてしまい、頭を掻く。
駐車場が少ない店だし、家からわりと近い居酒屋なので歩いて行ったら自分が最後だった。
「あ、やっと来た!遅いんだよ、あくせられーた」
「こらインデックス、ちゃんと集合時間より前だろ。文句言っちゃいけません」
「さっきから腹減った腹減ったって訴えてんだよ、早く座れって。一刻も早く注文しようぜ」
既に他のメンバーは座敷席に座って待っていた。インデックス、上条当麻、浜面仕上が、順々に一方通行に声をかける。滝壺はおしぼりを弄って、何やら前衛的 なオブジェを創作していたが、一方通行が正面に座ると中断して手を振った。彼も軽く手を挙げて応え、さっそく足を崩す。- 271 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/18(金) 00:39:19.01 ID:Tk27JJB+0
「早ェなオマエら」
「当然!今日は美味しいものたくさん食べるんだから!」
「もう一回確認したいんだけど、みんな本当に割り勘でいいんでせうか!?後悔しない!?」
「くどいなー上条は。今日は忘年会だぜ?小さいこと言うなよ」
「インデックスが食べてるとこ好きだからいいよ。かみじょうも気にせず楽しくやろう?」
「あ、ありがとう…っ」
「大げさなヤツ…。早く注文するンだろ?ほらシスター、メニューだ」
「必要ないんだよ。さっき見て全部覚えたもん」
「……そォですか」
「後悔しない!?」
ふふん、と胸を張るインデックスと、必死の形相の上条。一方通行は差し出したメニュー表を改めて目の前に開き、ドリンクのページに目を通しながら答える。
「しねェ、しねェ。俺はまず…ビールでいいか。浜面、ボタン押せ」
「おうよ。上条この話はこれっきりな」
「あう、ありがとぉぉ…っ」
「はまづら、ボタン私が押したい」
「ん、ほいよ」
店員が来ると、インデックスが矢継ぎ早に食べ物ばかりを注文するので、とりあえず全員で押しとどめた。
「待て待て、まずは飲み物が揃うまではエンジン全開にするんじゃねぇ」
「そうだぞ。混んでるし、いきなりは店も困っちゃうから。な?」
「忘年会はまず乾杯しなくちゃ。インデックスはジュースだよね?」
「うぅ、ごめん…。じゃあ、じゃあ…りんごジュース!」
「っつーわけでェ、後でこのテーブルから大量に注文飛ぶからな」
一方通行の「宣戦布告」に、男性店員の顔が引き締まる。背後に遠く、カウンター向こうの大将らしきヒゲダルマと目配せを交わし、うん、と頷き合った。
- 272 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/18(金) 00:41:09.41 ID:Tk27JJB+0
男三人にはビール、インデックスにはジュース、滝壺はジュースのような甘い酒を頼み、浜面の声で乾杯となる。グラスが触れ合う音の後は、五人が喉を鳴らす音が…、いや、男三人だけは張り合うように飲み続けている。
「っはぁーっ!イッキしちまった…。空きっ腹だってぇのに」
「浜面、初っ端からとばすなぁ。もうおかわりかよ」
「なンで睨みあって飲まなきゃなンねェンだ?酒が不味くなるだろォが」
「いや、何でだろ?ついつい…」
頭をひねる上条の袖を、インデックスがくいくいと引っ張る。
「ねぇ、もういい?」
「…よし、いけインデックス!今日は無礼講らしいからな」
「わーい!」
ボタンを押すまでもなく、傍に控えていた店員に、次から次へと料理を頼む。生中も、三杯追加。- 273 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/18(金) 00:44:51.10 ID:Tk27JJB+0
「枝豆…、たこわさ…、チャンジャ…。えい」
メニュー表を畳んだ滝壺が、注文用のボタンを押す。いやに細かい酒の肴ばかりを頼むつもりらしい。ピンク色のカクテルはまだ一杯目で、半分近く残っている。
「滝壺は大して飲ンでるわけじゃねェのに、やけに酒のツマミが好きだなァ」
「そうなんだよ。俺が頼んだの食ってたら気に入ったらしい」
「ビーフジャーキーも好きだよ。アクセラレータもお肉好きでしょ?」
「ジャーキーか…。俺は乾いてない普通の肉がいい」
串焼き(鳥モモ)に伸ばした手が、隣のインデックスの小さな手と皿の上で鉢合わせる。ラスト一本だったので、一方通行の方が引いた。
(お、やっぱインデックスに譲るんだ?最早習性か。条件反射か)
浜面が苦笑を浮かべて三杯目の生中を飲み干した。
「えへ、ありがとう、あくせられーた。美味しー」
「悪いなホント。あ、お兄さんこの串焼きもう一皿追加で。浜面は…また生?」
「おう」
「俺は熱燗。二合」
一方通行もジョッキを空にし、注文を控える店員の近くに返す。ビールは二杯で終わりにするらしい。
「熱燗て、おっさんかよ」
「あァ?日本人が日本酒飲ンで悪ィかよ」
「日本人に見えないあくせられーたが言っても説得力ないんだよ」
「…、いいだろォが、美味いンだから」
「俺もこれ飲んだら焼酎いこうかなー」
「とうま、飲み過ぎないでね?」
「インデックスは食べ過ぎないでね?」- 274 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/18(金) 00:50:30.87 ID:Tk27JJB+0
宴は進み、笑い声と顔の緩み具合が大きくなってきた面々。特に酒を飲んでいる男三人が顕著である。浜面、上条はいつにも増して賑やかだったし、一方通行も珍しく饒舌だった。
「そういえば、ラストオーダーは学校の友達と忘年会なんでしょ?」
ようやく二杯目のカクテルに口をつけた滝壺が、普段は一方通行の隣にいる少女を思い、その空間を見つめる。
「あ?あァ。アイツも付き合いってのがあるンだろ、ガキはガキなりの」
「平気な顔しちゃってぇ。寂しいクセにぃ」
「ばーか浜面、また殴られるぞ?水鉄砲食らうぞ?つーか上条さんアレもう一回見たい」
「水が無ェよ。あー…、まァな。寂しいけどよォ」
「………」
「今、あくせられーたが素直になったんだよ、もぐ…」
それは唐突のことで、思わずインデックスでさえ、口の動きを止めてしまうほどだった。
そういえば、二本目のとっくりを傾ける色白の学園都市第一位の顔が、うっすらと、…赤い。
- 283 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 03:31:24.79 ID:0StF3leq0
「いま、一方通行が『寂しい』って言った?上条聞こえた?」
「聞こえたけど…」
「アクセラレータの顔が赤い」
「もしかして…酔ってるのかも」
驚いた四人は第一位の顔をじっくり観察した。注目を浴びていることに気づいた一方通行は、怪訝な表情で見返す。
「?……ナニ見てンだよ?」
「あの、第一位さん酔ってる?」
「あァ?俺が簡単に酔うわけないだろ」
赤い瞳に睨まれて、浜面はのけぞって対面に座る上条に囁いた。
「酔ってないとのことです!」
「空耳だったのか?」
「アクセラレータ、ラストオーダーがいなくて寂しいんでしょ?」
「…あァ」
「そっかぁ、じゃあ今日はあんまり遅くまで忘年会につき合わせちゃ悪いね」
「…ンなことはねェが……、早く帰って会いたいことは会いたい。打ち止めは多分家に戻ってるハズだ」
女子二人は絡め手(というほどでもない)で一方通行の本音を聞き出した。「ほらね」という顔で上条と浜面を見た。
「酔ってないフリしてしっかり回っていたようです」
「何の前触れもなくな…」
一方通行が変な酔い方してる。なんか素直になってる。- 284 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 03:35:38.01 ID:0StF3leq0
浜面は滝壺に目で合図を送り、彼女は軽く頷くと反対側の一方通行の横に座った。
これで彼はインデックスとも隣合っていたので、両手に花状態である。滝壺はとっくりを手に取った。
「どうぞ」
「どォも」
ピンクのジャージちゃんが、白髪色白青年にお酌を始める。浜面は店員に熱燗を追加注文した。
「とうま、たきつぼは急にどうしたの?」
「一方通行をもっと酔わせて、楽しむつもりなんだろう。
止めた方がいいかな?と思う上条さんと、いいぞやれやれ、と、けしかける上条さんがせめぎ合ってるんだけど、どうしたらいい?」
「顔が笑ってるんだよ……」
「え?あはははは、正直だな俺」
「でも…私も素直なあくせられーたに興味あるなぁ…」
そんなわけで、インデックスと滝壺から代わる代わる酒を注がれる一方通行。ほんのり赤い顔以外はいつもどおりに見えるが、言ってることが驚愕である。
「打ち止めといつから付き合うことになったんだ?」
「春ぐらいから」
「きっかけってあんの?」
「打ち止めが告白されまくっててなァ、すっげェ焦った」
「他の男に盗られてたまるか!ってことか…」
「まァそういうことだな」
インデックスが、身を乗り出していた上条と浜面を手で制する。自分も質問してみたい。
「あくせられーたは、らすとおーだーのどこが一番好き?」
「どこが…?いや…、どこがって言っても…」
「選べない?」
「うン」
男二人は顔を伏せて震えていた。こっくりと幼い仕草で頷いた一方通行に、笑いが堪えきれない。
逆に女性陣たちは何か感銘を受けたらしく、白い頭を両サイドから撫でる。
「なンだ?オイやめろ…」
青年は顔をしかめて二本の腕を軽く払う。
「?こんなところは、まるで酔ってない時と同じような態度だなぁ」
「この野郎、俺の滝壺の手を拒否するとは、モノの価値が分からないヤツ」- 285 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 03:38:31.04 ID:0StF3leq0
その後も一方通行で楽しむ会は続けられた。上条が…
「あのー、いつも我々に美味しい差し入れをすみませんです助かります。何でそんなに良くしてくれるんでせうか」
「オマエらには借りがあるだろォが。あンなンで返せるとは思ってねェが、シスターは喜ンでるようだし、俺もコイツが食ってるとこは見てて良いと思ってる」
「一方通行…。ありがとう…」
「オマエが礼を言ってどォすンだ」
滝壺が…
「ラストオーダーはアクセラレータのこと、本当に、すごく好きなんだよ。悲しませちゃだめだからね」
「分かってる。俺だって打ち止めのことが好きだ」
「ごばはふっ」
浜面がビールを吹いた。
インデックスが…
「知らなかった。私が食べるのを、たきつぼみたいに気に入ってくれてたの…。あの、借りなんて思わなくていいんだよ?」
「俺が勝手に思ってることだ。迷惑ならやめるが…」
「ううん。やめないで」
「だよなァ」
浜面が…
「さっき『選べない』っつーことでしたが、改めて選択方式でお答え願いたいと思います!打ち止めの足、お尻、胸、どこが一番好きですか!」
「胸」
「ヘーイ!即答イェーイ!」
「一方通行…」
「あくせられーた…」
「はまづら…」- 286 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 03:42:23.71 ID:0StF3leq0
それから三十分も経っただろうか。素直な第一位を弄って、愉快な時間を過ごしていたが、突然彼の体がゆらりと傾いた。インデックスが慌てて支える。
「っ、ど、どうしたの?」
「ァ、なンか、眠ィ…」
「おいおい、大丈夫か?六合近く飲んだもんな。気持ち悪くないか?」
「いや、大丈夫だが、ね、むい…」
そのままインデックスの方へもたれ……と思われたが、一方通行は振り子のように体を揺らし、反対側にいた滝壺へと、ずるずるとしな垂れかかった。彼女は驚くこともなく、ゆっくりと白い頭を膝の上に導いてやる。
「あ、このやろ、人のカノジョに何してんだ」
「まぁまぁ落ち着けって。吐くとかじゃなくて良かったじゃねぇか」
「もしそこで吐いたら、さすがにタダじゃおかん」
「アクセラレータ、軽い…」
みんな滝壺の膝の上の、あどけない寝顔を覗いているが、インデックスだけは不満そうな表情で机を見ていた。
「なんであそこでフラ~って反対に行っちゃうの?変でしょ、どう考えてもおかしいんだよ」
(おっぱいの引力に引かれたんだな)
(インデックス、実は自分でも分かってるんじゃないか?)
(アクセラレータが予想以上に……だった。良かったね、ラストオーダー)
一方通行が軽いとはいえ、いつまでも滝壺に膝枕をさせておくわけにはいかない。使っていない座布団を頭の下に敷き、さらに掛け布団として四枚ほど体の上に乗せた。
しばらく心地いい寝息を立てさせておいて、他の四人は、また酒と料理に舌鼓を打つ。たった今、珍しい一方通行を見られたこともあって話題は尽きなかった。
- 287 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 03:45:55.92 ID:0StF3leq0
「ンン…」
「お、起きたか?どうだ、気持ち悪くない?」
「あー…、今何時だァ?」
上条は携帯で時刻を確認して驚いた。もう十時をとっくに過ぎている。楽しい時間はあっという間だ。
「うわ、いつの間に。もう十時過ぎだよ」
「…、十時か。俺はそろそろ…」
「あくせられーた、帰るの?」
上条とインデックスの後ろで、座布団をバサバサ落としながら一方通行が起き上がる。若干ふらつく足取りだったが、そばの壁にかけてあったコートを羽織る動作は素早い。
「あァ、金は払ってく。じゃあな」
「一人で帰れるのかよ。送って行った方が良くないか?」
上条が腰を浮かして引き止めようとして、一方通行は財布から紙幣を出しながらそれを断った。
「心配しすぎだろォが。どうってことねェよ、これぐらい」
(心配にもなるだろ普通)
(心配なんだよ。やっぱりとうまか、はまづらに送ってもらって、ってお願いしようかな…)
(今ならコイツに全額払わせることが出来るかも)
(アクセラレータは酔ってる自覚が全然ないんだね)
各人、思うことはあれ、さっさと歩いて店の出口に向かう青年を見送ることしかできなかった。
一方通行が寝ていた、わずか一時間足らずの間に、酔いが急激にさめたのかもしれない。
「大丈夫みたいだし、俺たちはもう少し飲んでいこうか?」
「そうだな」
その直後、レジの辺りから悲鳴が聞こえた。四人は一瞬だけ視線を交錯させると、男達は靴も履かずに飛び出した。
滝壺とインデックスもその後を追う。大体予想はついていたが…
「お客さん!ちょっと大丈夫ですか!?ちょっと!」
「あーあーやっぱり…。すみません、そいつ俺達のツレです」
「今急に倒れて…!」
「おい、一方通行…」
おたおたする女性店員を立たせ、浜面が仰向かせた一方通行の体を揺さぶる。規則正しい呼吸が聞こえた。
「…寝とる」
「色々と唐突だな今日は…」- 288 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 03:51:55.24 ID:0StF3leq0
またもいきなり睡眠してしまった青年を、浜面が背負った。これで忘年会はお開きになるだろうと、上条はまず自分と浜面の靴を取りに戻り、途中すれ違った女子に、簡単に事情を説明する。
「…本当だ。アクセラレータが寝てる」
「あははははは、おんぶされてるよ!」
「仕方ねえだろ。床に転がしとくわけにいかないし、店も迷惑だし」
床に倒れていたということで、女子達は一方通行の髪や服を軽くはたいたが、それにも構わず彼は寝ていた。
「さーて、この手のかかる第一位を、打ち止めのトコに送り届けて帰りますか」
浜面が、よいしょ、っと一方通行を背負い直した。手のかかる青年はかすかに呻き声を出したようだが、やはり起きる気配はない。
「浜面、コート着ないと寒いだろ。まず俺にパスして着ろよ。あとは交代しながらおんぶしてこうぜ」
「そうだな、じゃ…ほい、パス…」
「っとと…。寝てる男の受け渡しって結構難しいな」
「待って待って、私が腕持ち上げるから…」
インデックスの手助けを借りて、今度は上条の背中に落ち着いた第一位。浜面は滝壺からコートを受け取り、歩きながら身にまとった。
「今日は楽しかったね」
「なー。予定より早い解散になりそうだけど、中身は濃かった」
「うん。あくせられーたが素直に話してくれて、すごく嬉しかったんだよ」
「あぁ…、早く送ってやらねぇとな」
荷物を背負った上条が、その足を速めた。他の三人も歩調を合わせる。彼の帰る家まで、待つ人がいる場所まで…
- 289 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 03:54:49.45 ID:0StF3leq0
滝壺からの着信に、きっとあの人のことで連絡があるのだろうと、打ち止めは急いで通話を始める。
「もしもし?」
『ラストオーダー?アクセラレータを持ってきたよ。もうすぐ着くから玄関開けてくれる?』
「…はい?」
『アクセラレータが酔って寝ちゃったから、はまづらとかみじょうが、交代でおんぶしてきたの』
「えぇー!?ってミサカはミサカはあれほど飲み過ぎないでと言ったのに!ご迷惑おかけしておりますぅぅぅ!!」
ドアを開けて通路を覗くと、浜面に背負われてぐったりした恋人の白い頭が見える。打ち止めは四人(と寝てる一人)に駆け寄った。
「ごめーん!ハマヅラ!カミジョー!みんな忘年会だったのに…。この人のせいで終わりになっちゃった?」
「気にすることないんだよ。あくせられーたのおかげで、すっごく楽しかった!」
「そーそー、このノロケ第一位め、打ち止めのことで頭がいっぱいってことがよく分かったぜ。愛されてんなぁ」
「え!?へぇ!?ノロケ!?この人が!?ってミサカはミサカは信じられない情報にあからさまに驚いてみるっ」
インデックスと浜面にはやし立てられ、打ち止めはこれだけ騒いでも目を覚まさない一方通行の顔を覗き込んだ。
「もう、あなた、ノロケるならミサカの前ですればいいのに…」
うらめしげに、でも少し嬉しそうに、打ち止めは青年の頬をつつく。上条は一人先行して、玄関のドアを支えた。
「とりあえず、コイツをベッドに寝かそうか。玄関に置いといても重くて運べないだろ?」
「うん。黄泉川はアンチスキルのお仕事で居ないし、そうしてもらえると助かるよ」
「ほいよ、ほんじゃ失礼しまーす」- 290 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 03:59:33.51 ID:0StF3leq0
騒がしい様子に、芳川が自室から顔を出した。
「こんばんは。ウチの問題児は一体どうしたのかしら?」
「あ、こんばんは芳川さん。一方通行が酔い潰れちゃって…」
「あらあら…ふふふ、この子がねぇ…?ごめんなさいね、重かったでしょう?」
芳川、打ち止めに導かれて、浜面と上条は一方通行の寝室に入った。滝壺とインデックスは邪魔にならないように、玄関で待機中である。
打ち止めが掛け布団をめくり、浜面が背中から一方通行を降ろす。体をぶつけないよう、上条がサポート。
「ありがとう、上条君、浜面君。疲れさせちゃったわね、お礼を言うわ」
「いや、こいつ軽いから、そんなに大変じゃないっすよ」
「じゃあ、もう遅いから俺達これで失礼します」
男二人は引き止める間もなく退室。それぞれの連れが待つ玄関へと向かった。
「あぁ、あのえっと、なんのお構いもできませんで、ってミサカはミサカはお決まりのセリフを…」
焦ってお見送りする打ち止め。四人はニヤリと笑って声をそろえた。
「いやぁ、これ以上二人のお邪魔はできないよ」
「馬に蹴られて死ぬっつーの」
「アクセラレータと仲良くね」
「早くそばに行って看ててあげて?お酒いっぱい飲んだから、具合が心配かも」
さすがに打ち止めの顔も赤くなった。
「っあ、あの人一体どんなこと言ったの!?」
「覚えてるようだったら、後で本人に訊いてみな。じゃあな」
「よいお年を~」
「ばいばーい…ってミサカはミサカは不完全燃焼ながらも了解してみる」
手を振る打ち止めの背後では、芳川が可笑しそうに笑っていた。
「私は明日も病院に行かなくちゃならないから、もう寝るわ。打ち止めは起きてるなら、シスターさんの言うとおりにした方がいいかもしれないわね」
「うん、おやすみなさいヨシカワ」
- 291 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 04:02:59.96 ID:0StF3leq0
一方通行を送り届け、そのマンションから去ろうとする上条達。その彼らの前方から、千鳥足の人物がやってくる。
「あれ?番外個体か?」
「んー?ヒーローさんじゃなーい。ミサカの実家になんか用ぉ?」
鞄とマフラーを振り回すようにして、番外個体が行く手に立つ。
「用は終わったよ。今、酔い潰れた一方通行を運んできたと」
「酔い潰れた!?第一位がぁ!?」
「わ、私達忘年会してたんだよ。それで、楽しくてついお酒飲ませすぎちゃって…」
急に大声出した番外個体に驚いて、インデックスが上条の背に隠れながら弁解する。お酌しまくって飲ませたことを、咎められているような気がしたのだ。
「あの白モヤシ、こっちの忘年会は断っておいて…。……でも、ひひひひ、酔い潰れてる、ねぇ…?」
「お、なんか悪いカオ。大概にしとけよ?」
言葉だけで、浜面も番外個体と同じような表情をしている。
「カワイイいたずらだよ。裸に剥いて、油性マジック(細)でリアルなスネ毛胸毛脇毛髭を描くだけだもん」
「最悪じゃねぇか。ぜひ写真撮って送ってくれ」
「こら、はまづら」
「こっちに参加してたら、絶対酔わなかったと思うんだ。ありゃりゃとぉー!じゃーねぇーん」
番外個体は、千鳥足をさらに激しくして実家に入って行った。
「……打ち止め、大変だな」
上条の言葉に、他の三人は大きく頷いた。
- 292 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 04:05:55.75 ID:0StF3leq0
「ねぇあなた…?どんな忘年会だったの?ミサカのことなんて言ってくれたの?」
返事は無いのは分かっているが、打ち止めは声に出して呟いた。酔っ払いの世話には慣れているので、水やタオル、薬、洗面器を傍らに置き、一方通行の枕元に肘をつく。
(キレイな髪…)
うっとり眺めて、さらさらと指を潜らせる。
(ちゅーするぞー。起きろ眠り王子!ミサカを見ろー)
膝立ちとなって、彼の顔に覆いかぶさった。
「この痴女~、夜這いとはイイ趣味しとんのぉ」
「うわぁぁぁぁ!?番外個体ぉぉぉ!?おかえり!」
「たらいらー。明日は大晦日だからー帰ってきたよー」
いざ、酒くさい唇にキスしようとした時、気配を殺した番外個体が背後から抱きついてきた。こっちもかなり、酒くさい。
「おうおう、第一位の寝込みを襲うなんざぁこりゃ大物じゃ。乳も大物に育つわけだぁ」
「お、お、襲ってなんかないよ!もー番外個体も酔ってるのね?ってミサカはミサカは離してほしくてもがいてみる」
その場で姉妹でじゃれあっていたら、二人とも予想していなかった場所からのアクションに、簡単に倒されてしまった。
「…うるせェ」
「やぁっん」
「うぎゅ」- 293 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/21(月) 04:11:04.93 ID:0StF3leq0
ベッドから伸びた一方通行の手が、打ち止めの腰を抱え込んで引き寄せた。姉妹もろとも、青年のベッドへダイブ。
「あなた起きたの?具合どう?」
「あぁん、この人姉妹丼でもするつもり?」
「………」
「ちょっと?あなた?」
「最終信号ぁー、どうしよ、ここはゆりんゆりんな濡れ場で盛り上げてみる?ぎゃははは」
「えぇいこの愚妹静かにしてなさい!」
「お姉ちゃん怒っちゃいやー」
番外個体が、一方通行の腕に抱えられていた姉の体を自分の方へ奪おうとする。
「こらぁ!変なとこ触るなぁー、ってミサカはミサカは、…わ、あなたもぉ!?」
返事さえ無かった一方通行も、少女を奪われまいとさらに腕に力を込める。
「これなんかで見た!あいや先に手を離した方が真の母親!ってやつだ!」
「静かに、じっとしてねェか……」
「最終信号うるさい…」
「え、ここにきてまさかの共同戦線?ってミサカはミサカはがっちりホールドされて動けないから口で抗議をしてみたりぃ~」
「しょォがねェな…」
「っ、あ」
億劫そうな様子で、一方通行は体を丸める。足の方には番外個体が圧し掛かっているので、ベッドは大きく軋んだ。
抗議する少女の口を自らの口で塞ぎ、大人しくなったのを確認してから離れる。
(きゃぁぁぁもぅ番外個体がいるのに…!?あれ?)
打ち止めは、自分の太ももを抱き枕にしている妹に視線を向けた。
(さっきまであんなに元気だったのに、これがお酒の力なのね、ってミサカはミサカはすやすやな番外個体に、毛布を…、かけてあげてみる…っ)
ぐちゃぐちゃになった毛布を自由の効かない手で、どうにか番外個体に掛ける。
一方通行は体の下から引き抜いた布団の中に自分と打ち止めを収め、これで終いだと言うように、大きく息を吐いた。その目は閉じられたままで、「寝る」という意思を強く表しているようだ。
(まぁいっか。おやすみなさい、あなた、番外個体…。来年もこんな風に、ミサカと仲良くしてね…)
一方通行のベッドが大き目だといっても、さすがに三人では狭かった。でも、全然嫌ではない。
- 303 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/24(木) 23:36:36.80 ID:64VhFCT30
一方通行は目が覚めても、すぐに動くことができなかった。体がだるい。慣れてはいないが、何度か味わっている、『飲み過ぎの翌日』であった。
(頭痛ェ…、昨日は……クソ…、なンつー失態だ…)
一部はっきりしない記憶もあるが、大体は思い出せる。昨夜、酒の許容量を逸脱してしまった自分が、上条達の前で随分な醜態を晒してしまったことを…
(オマケになァンで打ち止めと一緒に寝てンだァ?俺もコイツも服着たままじゃねェか。あ、……俺が無理やり引っ張り込ンだンだっけか…)
体調の悪さに顔をしかめている自分とは違い、穏やかな打ち止めの表情を見るうちに、さらに昨夜の記憶を思い出した一方通行。それにつられて、かるく布団をめくって足元を見る。
(やっぱりかよ…。どォりで体が動かしにくいと思ったぜ)- 304 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/24(木) 23:41:05.30 ID:64VhFCT30
一方通行のふくらはぎに頭を乗せた番外個体が、打ち止めの足を抱え込んで寝ている。最初は青年と打ち止めだけが被っていた布団だったが、いつの間にか番外個体も潜り込んでいたらしい。
(窒息しねェかコイツ)
急激な喉の渇きを覚えた青年は、ゆっくりゆっくりと足を引き抜いた。こてん、と番外個体の頭がシーツの上に落ちたが、目は覚まさなかったようだ。
足は抜けたが、さてこれからどうやって床まで行こうか。壁と打ち止めの間で思案する。
ただでさえ不自由な足と、今のようなフラつく体調では、気持ちよく眠る姉妹を踏みつけずに遂行できる気がしない。
(仕方ねェ。馬鹿馬鹿しいが…)
結局彼は首の電極のスイッチをONにして、音も衝撃もなく床に降り立った。部屋を出る前に、布団の中に全身を埋める番外個体のために軽く『穴』を作ってやる。こうして、わずかだが、掛け布団を歪めて空気の通る場所があれば、息苦しいことは無いだろう。
適当に着替えを持って、水を飲んだ後にシャワーを浴びる。熱い湯をかぶっている最中に電極のスイッチは戻した。体内に残るアルコールは大体処理できたが、まだ少しスッキリしない。
(だいぶ飲ンだからなァ…。番外個体も忘年会だったはずだ。…クク、起きたら頭ァ抱えて唸ってンじゃねェか?)
そして、打ち止めに呆れられながらも看病されるのだろう。その光景が思い浮かび、自然と口元がニヤける。
(…俺も、小言いわれるかもしれねェな)
その光景が思い浮かび、溜息が出た。- 305 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/24(木) 23:43:36.49 ID:64VhFCT30
シャワーを終えて、また水を飲む。黄泉川はまだアンチスキルの仕事から戻っていなくて、芳川はすでに病院に出勤したようだ。
(年の暮れの暮れまで御苦労ォなこった)
自室を覗けば、まだ姉妹はぐっすり状態。誰がポケットから出してくれたのか(おそらく打ち止めだろう)携帯端末がベッドサイドのテーブルに置いてあり、メールの着信を知らせるランプが光っていた。
『おはよう。きっと君が一番早く起きると思うからメールしておきます。愛穂も私も昼過ぎには帰れます。夜はみんなでおそばを食べるので、どこにも出掛けちゃだめです。その後は打ち止めとデートでも初詣にでも、好きな所へ行きなさい』
芳川からのメールを読み終え、一方通行は舌打ちして頭を掻く。なんだかすごくおちょくられたような気分だった。
うるさくしたつもりはないが、打ち止めが目を覚ましたのか、もぞもぞと動き始めた。
「んー…?番外…個体…。やーん離してぇ…」
「もう蹴飛ばしてソイツも起こせ」
「あぅ、おはよう、あなた。…具合はどう?」
「…だいぶ良い」- 306 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/24(木) 23:45:38.32 ID:64VhFCT30
打ち止めは先程の一方通行のように、番外個体を起こさぬよう、そっと足を動かして体をベッドから抜け出させた。適当に髪を手櫛で整え、青年の腰にすがりつく打ち止め。
まず怒られるのではないか?と心配していた一方通行には意外な行動だった。
「オイ」
「昨日はカミジョウ達とミサカの話、したんでしょ?……どんな風に?ってミサカはミサカはノロケたという噂の真相を確かめてみたり」
「………」
寂しい。
俺だって打ち止めの事が好きだ。
胸。
(言えるかァァァ!)
「ねぇねぇねぇ、ってミサカはミサカは焦るあなたの顔が全てを物語っているけど、具体的に知りたいと懇願してみる」
恥ずかしい醜態の詳細は、絶対に打ち止めには知られたくない。上条、浜面達にも情報を漏洩させないよう手を打たねば。そんなことを考えている一方通行の腰に纏わりつく打ち止めは、ますます彼の体をゆさぶって「ねぇ」を繰り返していた。
ゴン
一方通行のこめかみに、突然衝撃が走った。
がん、ごろごろと床を転がったのは、ベッドサイドに置いてあった、片手で掴める程度の時計である。それが投げつけられたのだ。
「このバカップルどもめ、朝っぱらから頭ガンガンのミサカの前でイチャついてんじゃねーよ。もっと痛くなるじゃない…」- 307 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/24(木) 23:51:12.35 ID:64VhFCT30
番外個体が、布団から青ざめた顔と右腕だけを出して二人を睨んでいた。普段なら避けられる強襲に打たれたこめかみを摩り、一方通行は布団を、ばさぁっとはぎ取る。もう打ち止めの腕からは解放されて、話題の転換も図れそうだった。だからこの程度で勘弁してやるつもりだ。
「よォ酔っ払い、人に投げる前にブツを確認しなかったのか?もォ朝じゃねェ、起きろ」
「あー寒いよぉ、第一位がいじめる最終信号助けて頭も痛いよぅぅぅ~」
番外個体は残されていた毛布を掴んで体にかけようとし、それさえも取り上げられるとシーツの上で丸くなった。
「大丈夫?薬いる?ってミサカはミサカは番外個体の具合を心配してみたり」
優しい姉は、一方通行から毛布を受け取って番外個体に被せてやる。ぐしゃぐしゃになった髪をよけて見た顔は、やはり青い。
「うん。持ってきて」
「もう、お酒飲み過ぎ!ってミサカはミサカは叱りつつも甲斐甲斐しくお世話してみる」
ぺち、と番外個体の額をはたいてから、打ち止めは薬と水を取りに部屋を出て行った。一方通行もドアを開けようとした時、イヤミの効いた声が後ろから追いかけてくる。
「大丈夫だよ、あなたは多分怒られない。ノロケてもらったのがよっぽど嬉しいみたいだからねぇ?ぎゃは!役得ってヤツかぁ?」
舌打ちして、一方通行はリビングに移動した。- 308 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/24(木) 23:52:57.99 ID:64VhFCT30
番外個体の看病を済ませた打ち止めもシャワー浴び、スッキリした姿で彼の隣に座ったのはおよそ一時間後。ニコニコとして、番外個体が言ったように怒られることはなさそうだ。
「テレビはどこも年末特番だね、ってミサカはミサカはチャンネルを回しながら大晦日を実感してみる」
「リモコン弄ってりゃ面白ェ番組がやるワケじゃねェ。もうソレにしとけ」
「うん。…あなた、今年は色々とお世話になりました」
「…今年はまだあと半日ある」
「うふふ、あなたはミサカに半日後、なんて言ってくれるのかな?ってミサカはミサカは期待してみたり」
「期待ぐらいはさせておいてやるが……」
たくさんの人で賑わう街の様子を報道するニュース特番。それをただの音声以上に理解するつもりはない。こうして、打ち止めとソファにくつろげているだけでいい。
やがて帰ってきた黄泉川と芳川。まだフラつく足取りの番外個体。今年最後の一日が、暮れようとしていた。
- 318 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/28(月) 00:31:57.20 ID:XfWg2Shm0
今年最後の一日なのだが、一方通行は特に普段と変わりなく過ごしている。ソファに寝転がって、いつものように番外個体と打ち止めの対戦型ゲームを観戦していた。やはり打ち止めの方が勝率が悪い。
「最終信号もちょっとは成長したかなー?」
「…!っ、くっ。そう!?」
「胸の成長と比例してんね。もっと大きくなれば、ミサカに楽勝になるかもよ」
「そう!?じゃあ頑張るね!?」
(……必死だから何言われて、何言ってンのか分かってねェンだよな?)
いつもより、一方通行による打ち止め仇討ちの出番が遅い。とっぷり暗くなった頃、番外個体は仮眠から目覚めた黄泉川に、料理の手伝いを請われて戦線離脱した。
黄泉川家のおせちは、もちろんほぼ炊飯器製だ。年越し蕎麦も炊飯器を使って作られている。
番外個体がキッチンへ行くと、一方通行は炬燵に入った。入るなり、目の前にゲームのコントローラーが突き付けられる。
「面倒臭ェ、やらねェぞ」
「対戦モノじゃないよ?のんびりまったり、ミサカと遊びましょー、ってミサカはミサカはあなたをお誘いしてみる」
「のンびり、ねェ…?」- 319 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/28(月) 00:36:46.19 ID:XfWg2Shm0
ゲームの中で、一方通行は牧場の主だった。打ち止めはその近くに住む獣医。
一方通行は、朝には牛の乳しぼり、昼は鶏、羊の世話。時々動物が病気になり、打ち止めが診療に来てくれる。仲良くなった二人は食事を共にしたり、休日にはデートをするようになった。
(『何を着て行きますか』だとォ?……ナニ着ても牛糞臭ェンじゃ様にならないだろ。アホか)
(セクシーワンピースぅぅぅ!ってミサカはミサカは高かった必殺のアイテムを使用してみたり!)
「なのにあなたは何でTシャツで来るの!?現実じゃ結構オシャレさんのクセに!あぁぁドクターミサカの高感度が下がっちゃうじゃない…」
「…それに比べて牧場主はなンか嬉しそうだな?」
「ドクターミサカのラブリー度にメロメロみたいね…」
珍妙なデートを重ねたり、二人で動物を看病したり、地上げ屋に脅される獣医を牧場主が助けていたりしたら…
「オイ、なンだこの選択肢は。どォいうことだ」
『結婚してください』
『一緒に暮らそう』
『愛してる』
「ぐふふふふふ、ついに、ついにドクターミサカがアクセラ牧場に嫁ぐ日が来たぁぁぁ!大丈夫よあなた、ミサカは動物大好きなの。あなたも大好きなの。立派なお嫁さんになるからね」
「お、一番下に『また明日』って選択肢が隠れてた」
「なぜ躊躇なくそれを選ぶかな!?ってミサカはミサカはつれないあなたに焦らされてみたりっ」
「君たち、楽しいかしら?そのゲーム」
いつの間にか、二人の背後でゲームの様子を見守っていた芳川が問う。
「なンだ、居たのか芳川」
「結構前から居たわよ。で?楽しい?」
「まァ退屈で眠くなることはないな」
「楽しいよー。芳川もやる?一緒に四人までプレイできるし」
「遠慮するわ。どうやってその牧場主と獣医に絡めというの。どんな職業になっても出来る気がしないわ。不可能よ」
「そこまで言うことかよ?」
「言い足りないくらいなのだけど」
芳川が呆れの境地を味わった時、夕飯を知らせる声が響いた。
「ごはんだよー!そこの獣医と牧場主もさっさと来るじゃんよー」- 320 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/28(月) 00:41:26.20 ID:XfWg2Shm0
「わーい、おそば、おそば。年越し蕎麦~」
「シスターの真似みたいなこと言ってンなよ」
黄泉川の号令で、今年最後の夕食、毎年恒例の年越し蕎麦を食べる。しかし、蕎麦だけではとうてい物足りない食べ盛りの若者達がいるので、肉やサラダなど、いつものメニューも並んでいた。
「あー、この後おせちも完成させないとな」
「おせちってさぁ、正月に台所を休むための料理なんでしょ?結局年末に二倍働かなきゃいけないんだね。日本の伝統厳し!」
「あら、番外個体も愛穂を手伝ってあげるのでしょう?」
「ミサカもお手伝いさせて?ってミサカはミサカはさすがに今回は追い出さないでほしいとお願いしてみる」
クリスマスはキッチンが狭いから、という理由で手伝いを許可されなかった打ち止め。一方通行の方針もあり、炊飯器料理は積極的に覚えるつもりが無いことが原因ではなかろうかと勘繰っているのだが、おせちくらいは関わりたい。
「そうだねぇ、おせちは下拵えもたくさんあるから、テーブルで出来ることは打ち止めにも頼もうかな。よろしくじゃん!」
「おまかせじゃん!ってミサカはミサカは参加できて嬉しいとはしゃいでみる」
そういうわけで、女性達はキッチンと、食卓でおせち作りを始めた。芳川でさえ、打ち止めの助手として働いている。ただ一人、手持無沙汰な一方通行は、珍しく一番最初に風呂に入った。
風呂から出ても、彼のやることと言えば、リビングの炬燵でテレビを見るか雑誌を読むかネットでも見るか、隣のキッチンの様子に耳をそば立てるか。もういっそ寝れば?と思うのだが、なにせ今日は大晦日。あと二、三時間で新年となる。
そういう行事は強制参加な黄泉川家なので、自室に引っ込むという発想は持てども、実行はし難い体となってしまっていた。- 321 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/28(月) 00:47:35.64 ID:XfWg2Shm0
やがて十一時も迫って来た頃、おせちは何とか格好をつけられたらしい。
「ふふーん、なんか去年より立派じゃない?どぉ黄泉川これ」
「番外個体が腕を上げたからじゃん。それに打ち止めも手伝ってくれたしね」
「愛穂、私も手伝ったのだけど?」
四つの御重につまった、色鮮やかなおせち料理を満足そうに眺める女性達。こんなに綺麗な仕上がりだと、食べるのが惜しくなってしまう……のは保護者達だけらしい。
打ち止めと番外個体は、ちょっとつまみ食い、と手を伸ばす。
「こら!これは明日食べるじゃん。もう蓋するよ」
二人の手がはたかれ、小気味の良い『ぺち』『ぺち』という音が連続する。
「あーぁ、ってミサカはミサカは虚しく空を切る手を泳がせてみる」
「黄泉川のケチ。しょうがない、さっさとお風呂入って新年を待つか。最終信号、一緒に入る?もう遅いし」
「あ、もう十一時だっ。大変、お風呂の中で新年なんてイヤだよ。早く入ろう!」
おせちに蓋を被せる保護者を残し、打ち止めは部屋へ駆けて行った。番外個体も後を追うが、途中で日課のように、炬燵の一方通行をからかっていく。
「ぜんぜん声も姿も見えないから、もう寝たのかと思ってた。暇ならとっとと寝るか、手伝えばいいのに」
「…寝たら起こしに来るだろォが」
「ぶっはー!なに?輝かしい新年を迎える時には、絶対自分にお声がかかるだろうって?あひゃひゃははははは自信満々かよ!」
「起こされてンだよ、過去に実際に」
大笑いする番外個体と、不機嫌そうな一方通行。そのリビングにパジャマを持った打ち止めがやってきて、番外個体の腕を引っ張って風呂場へ連行し、さらに後から声が追いかけてくる。
「あなたー?まだ寝ちゃダメだからね!ミサカとハッピーニューイヤーだからねっ?」
(ほら見ろ…、だから眠れねェンだ)
脱衣所で番外個体がまた吹き出した声が聞こえる。おまけに、料理を終えて炬燵で休憩を取る正面の黄泉川と、右側の芳川も笑っていた。
- 322 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/28(月) 00:55:58.27 ID:XfWg2Shm0
「お風呂出たよーまだお正月じゃないでしょ!?ってミサカはミサカは確信を持ちつつも訊かずにはいられなかったり」
パジャマ姿の打ち止めと番外個体も、一方通行達と同じように炬燵に潜り込む。
「大丈夫よ。あと十分近くあるわ」
「だから言ったじゃん。髪乾かしてからでも大丈夫だってさ。これで最終信号が風邪引いたらミサカが怒られるかもしれないんだよ、まったく」
隣の一方通行の見咎めるような視線に気づき、打ち止めはまだ濡れた髪をあわてて髪止めで、ひとくくりに纏め上げた。
「こうしとけばあんまり冷たくないし、後でちゃんと乾かすから大丈夫だよ、ってミサカはミサカはあなたのお小言を事前に回避してみたり」
「……ったく」
それぞれが暖かい飲み物を手に、テレビ中継を見ながら年が明けるのを待つ。画面と背中合わせの位置にいる番外個体は、絨毯に肘をついていた。
「あと二分じゃん。今年も色々あったなぁー。うん、良い一年だった」
「それ毎年言っているわよ」
「と、ヨシカワがツッコむのも毎年恒例なのでした」
- 323 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/28(月) 01:02:33.06 ID:XfWg2Shm0
今年もあと一分を切り、テレビ中継でカウントダウンが始まった。五十秒…、四十秒…
(ン…?)
(えへへ…、ってミサカはミサカはぎゅう、ってしてみる)
炬燵布団の中で、打ち止めが一方通行の手を握る。みんなテレビを見ているし、炬燵に隠れてバレることはないだろう。一方通行がチラリと打ち止めを伺うと、彼女はにっこりと笑って目で応えた。
(コイツは昔っから恥ずかしげも無く…)
はじめは躊躇いがちに、そしてすぐ、一方通行も握り返す。
五、四、三、二、一.
強く強く、手を握り合ったまま、二人は新しい年を迎えた。
(今年も、ううん、来年も…)
(オマエと…)
「はい!明けましておめでとうじゃん」
黄泉川が画面に向けていた顔を戻して、新年のあいさつをし、炬燵の各辺から返事が。
「おめでとう」
「はいおめでとー」
「明けましておめでとうございまーす!ってミサカはミサカは元気な今年の第一声!」
次はあんた、きみでしょう?早く言えよ、あなたは?
女性達は青年を見た。四人の声なき声が、一方通行に降りかかる。
「…あァ」
「あぁ、って何。そんな明けましておめでとうがあるか。ま、勘弁してやるじゃんよ」
「とりあえず何か喋っただけでも進歩ね」
保護者達の寛大な評価に、一方通行の眉間に皺がよる。
「…もォ寝るぞ」
「明日はミサカと一緒に初詣行ってね?」
「ハイハイ」
実はまだ繋いでいた手を離して、一方通行は炬燵から出て部屋へ引っ込む。それを機に、他の面々もリビングから解散し始めた。- 324 :ブラジャーの人 [saga]:2011/11/28(月) 01:07:50.98 ID:XfWg2Shm0
一方通行が部屋のベッドに入り照明を消そうとしたところ、申し訳程度のノック後、返事も待たずに打ち止めが入ってきた。
(番外個体と寝るンじゃねェのか?)
少女はベッドの側に立ち、ちょいちょい、と手で彼の顔を呼ぶ。青年は素直に従い、柔らかい唇にキスをした。
「おやすみのちゅーと、ミサカだけの明けましておめでとうだよ」
「ン」
打ち止めもベッドに座り、一方通行の肩に身をすり寄せた。
「去年は、…ありがとう、ってミサカはミサカは幸せをたくさんくれたあなたにお礼を言ってみる。今年もよろしくお願いします」
「…こちらこそ」
ちょっと驚いたように、打ち止めが青年の顔を見上げる。無表情なのは、照れるのを隠しているのだろうか。
もう一度キスをしてから、打ち止めは立ちあがりドアへ向かおうとした。しかし、一方通行に腕を掴まれたので足が止まる。
「番外個体が、ベッドが冷たいって文句言ってたから戻らなきゃ」
「………」
「明日はこっちで寝るからね?ってミサカはミサカはあなたの目力に負けそうになりながらも誘惑に抗ってみたり…」
少女の惜しそうな顔を見て、一方通行は手を離してやった。
明日が待ち遠しくなる日がくるなんて…。怖いとも思える幸福感を胸に、一方通行は眠りについた。
- 340 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/01(木) 00:26:27.01 ID:JupGwmMf0
(ミサカを見て、この人なんて言うかなぁ、ってミサカはミサカは期待できないけど褒めてもらうためにユサユサ揺らして起こしてみる)
打ち止めは、そっと忍び込んだ一方通行の部屋、そのベッドに眠る青年を起こそうと肩に触れた。元旦の早朝、ひんやりとした空気の中で、彼女の頬は赤い。
「あなた、あなた、朝だよ~」
「ンァ?……まだ眠ィ…」
「起きてー、ってミサカはミサカはほっぺをうりうりしてみたり」
「っ、やめろォ分かった起き、……」
観念して目を開けた一方通行は、いつもと違う打ち止めに、一瞬戸惑う。彼女は既に、二人で買いに行った赤い振袖を身に着けていた。髪も綺麗に纏められ、鮮やかな飾りで彩られている。目を瞬かせる彼の様子に、打ち止めは待ちきれなくて訊いた。
「このあいだ買ってもらった新しい着物だよ?ヨミカワもヨシカワも大絶賛だったけど、あなたはどう思う?」
上半身だけ起こした一方通行は時計を見る。彼にとっては、まだ就寝時間である七時前だった。
「もう着つけしたのかよ。早すぎだろ…」
「だって今日しか着られないんだもん。早起きして二人に着せてもらったんだー、ってミサカはミサカはそうじゃなくて!褒めてもらいたくて訊いてるのに」
お正月らしい装束の打ち止めは、一方通行の目から見ても、とても可愛らしく映っている。しかし素直に「可愛いぞ」などと言えるわけないので、
「まァ、中々…」
「なかなか?」
これ以上困らせないでほしい、と、一方通行は覗き込む打ち止めの頬に手を添えた。唇が触れる直前、ふと思い留まる。
「大丈夫だよ…、あなたからもらった口紅だから…」
せっかくの色が落ちる心配はない。遠慮なくキスした。- 341 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/01(木) 00:30:53.29 ID:JupGwmMf0
打ち止めは眠そうな一方通行をリビングへ連れて行く。彼をソファに座らせ、続いて寝癖がついたままの番外個体も引っ張ってきた。
「ね、む…」
「ほら番外個体もここに座って、ってミサカはミサカは真ん中に陣取ってみたり」
打ち止めを間に挟み、三人は仲良くソファに並んだ。真ん中の子以外は、まだ覚醒しきっていない。
「お、揃った?御苦労さまじゃん、打ち止め。コイツらを起こすのは大変だったでしょ」
「さぁ君達、手を出しなさい」
見計らったように、黄泉川と芳川が三人の前に立った。番外個体よりは目が覚めている一方通行は、これからの流れを予想して、つい顔をしかめた。
「はーい、お年玉じゃん」
「大事に使うのよ?貯金してもいいし」
「わーいありがとうございます!ってミサカはミサカはお礼を言って受け取ってみる!」
「あーそういやいつも貰ってたっけ。さんきゅー」
黄泉川が女の子二人に、芳川が男の子に白い封筒を手渡す。一方通行のものには『お年玉』『一方通行君へ』と書かれていた。意外にも青年は無言で手に取る。
数年前、初めてお年玉というものを手渡された時、一方通行が「要らねェよ、そンなモン」と押し返そうとしたら、次のような事態になってしまったことがある。- 342 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/01(木) 00:33:29.73 ID:JupGwmMf0
「オマエらから金を恵ンでもらう必要はねェ。どォしても出費したきゃ、そこのクソガキ達にやれ」
そう言って一方通行はリビングから出て行こうとした。
「待つじゃんよ」
「!?なっ」
黄泉川に腕と足を掴まれ、何がどうなったのか定かではないが三秒後には、彼は絨毯の上に組み伏せられていた。しっかりホールドされ、電極のスイッチに触れることも出来ない。
「子供は素直に受け取るものよ?番外個体と打ち止めを見習いなさい」
彼の前にしゃがんだ芳川が、『一方通行君へ』と書かれたお年玉袋を目の前に突き付ける。
「離せェクソ!」
「んー?私達からお年玉貰うならどいてやる」
まだ幼かった打ち止めは、その様子を楽しそうに見守っている。番外個体は大笑いで腹を抱えている。
十秒ほど待っても一方通行はジタバタと悪あがきしようとするので、仕方なく保護者二人は強硬手段に出た。
「おいィ!?どこ触ってンだこの年増どもォォォ!」
「暴れないでちょうだい。…、ほら、袋が曲がってしまったわ」
黄泉川と芳川は、一方通行の服の中、ズボンの中にお年玉をねじ込み始めた。
「大人しく…っ、するじゃん」
「やめっ…」
「うふふ、こんなことしてると、何だかアヤシイお店に遊びに来た有閑マダムのようね、ふふふふふ」
「こーら、桔梗、打ち止めも見てんだから教育上良くない発言は控えるじゃん」
「笑って言われても説得力ないわよ、愛穂」
「………」
一方通行は抵抗を止めた。- 343 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/01(木) 00:37:58.85 ID:JupGwmMf0
そんなことがあってからは、一方通行は文句を言わずにお年玉を受け取るようになった。彼女達は彼に数百万の外車を買わせたりもするが、こんな場面ではこぞって保護者の役目を全力投球するのである。
「毎年仏頂面ね。でもちゃんと受け取るようにはなったから、よしとしましょう」
「ミサカは出来れば前みたいに、いかがわしいプレイ見たいから、この人には素直に受け取ってほしくないな」
「もしそんなことになったら、これからはミサカだって参加する!ってミサカはミサカはあなたの所有権を主張してみる!」
一方通行のチョップが打ち止めに、不機嫌を隠さない視線がその向こうの番外個体に向けられた。もっとも番外個体は全然こたえなかったし、打ち止めは髪をセットしていたので、彼のチョップは触れるか触れない程度のものだった。
番外個体は顔を洗うこともなく、二度寝するためにベッドへ向かった。一方通行も彼女に倣いたい気持ちだったが、振袖を振り振り振って楽しみを表す打ち止めを見てしまっては、出来ないことだった。
(寒いよな、まだ朝だしよォ)
急いで仕度をし、いつもより服を着こんで出掛ける準備をする。今日は徒歩で近くの神社まで初詣へ行くのだ。
科学の街だって神社はある。数は少ないし、普段は無人で、こうした参拝客が増える時だけ外から神職が派遣される社がほとんどであったが。
「もう行ける?ってミサカはミサカはうずうずして待ち切れなかったり」
「あァ」
二人は揃って玄関へ。丁度、廊下を通りかかった黄泉川が、
「打ち止め、せっかくの新品なんだから転ばないように気をつけるじゃんよ」
「それさっきヨシカワにも言われたよ。大丈夫だもん、ってミサカはミサカは耳にタコ」
マンション一階に着いて道路を歩きだした時、一方通行はニヤリと笑って少女に言った。
「転ぶなよ」
「…タコが増えた」- 344 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/01(木) 00:42:11.49 ID:JupGwmMf0
「わぁ、さすがにお正月。もうたくさん人がいるね」
「和服も結構いるな」
「でもミサカが一番でしょ?ってミサカはミサカは一番のあなたにひっついてみたり」
「そォですねェ」
近所の神社に到着した二人は、既に列を成す参拝客の後ろに並んだ。周りでは屋台も出ているのか、醤油の焦げるいい匂いと、耳慣れないお囃子も聞こえる。
「着物は女の子ばっかりだね。男の人は少しだけ…。あなたが率先して着物男子を流行らせてみたら?」
「浴衣ぐらいならともかく、あんな動きにくそうなのはゴメンだな。杖が使い辛そォだ」
「番外個体も動きにくいって言って、着てくれないもんなぁ…」
(アイツが打ち止めみたいに着物を着てるところがまったく想像できねェ。同じ顔なのにできねェとは…)
そうして待つこと十分ほど。打ち止めと一方通行は賽銭箱と鈴の前に立った。二人は財布から小銭を出して投げ入れる。
足元のプレートに絵描かれた『参拝の仕方』を見ながら、打ち止めはガランガランと鈴を鳴らし、おじぎをし、手を合わせた。
お願い事をしつこく心の中で呟いてから隣を見ると、左手をポケットに突っ込んで自分を眺める一方通行と目が合った。
「ちょ、あなたお願い事は!?ってミサカはミサカはずっとこっちを見てただけ感を漂わせるあなたに何しに来たのとツッコんでみたり」
「こンなンに真剣なオマエが面白くてなァ…」
「…もー」- 345 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/01(木) 00:44:32.09 ID:JupGwmMf0
後ろで順番待ちをする人に迷惑になるので、打ち止めは不満ながらも移動を始めた。人が少ない敷地の隅で、青年に頬を膨らませる少女。
「初詣に来てお願いしないなんて…。並んで、お金をまで入れた意味ってなんなの?」
「俺がそンなことする柄じゃねェのは分かってるだろ。大体、欲しいモノは自分で手に入れてきたしなァ」
「むー、欲があるのか無いのか…」
「せっかくの晴れ着なンだろ?ブスな顔ばっかしてンじゃねェよ。次は…おみくじだったか?」
打ち止めは慌てて両手で唇の端を持ち上げた。
「うふふ、ひょうでふね、ってミサカはミサカは惚れた弱みにつけこむあなたを睨んでやりたいけどできない、にっこり」
再び人混みに戻り、二人はおみくじを引いた。一方通行は以前も打ち止めや保護者達に初詣に連れて行かれ、おみくじを引いたことがある。しかし、毎度毎度、数日経てば何が書かれていたのか忘れてしまっていた。
「なにがでるかなー、なにがでるかなー」
お互い、白い紙をほどいていくと…
「大吉だー!ってミサカはミサカは勝利を約束されてガッツポーズを取ってみたり!あなたは?」
「凶」
「おぉぅ…」- 346 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/01(木) 00:48:38.49 ID:JupGwmMf0
打ち止めは『凶』を引き当ててしまった青年をどうフォローするか慌てたが、一方通行本人は、なんとも思っていない。
「こンなのはただの験担ぎだ。良けりゃ信じればいい。悪けりゃ信じない。それぐらいに考えとけばいいンだよ」
「…あなたって実はポジティブなの…?」
「毎日毎日テレビの占いコーナーで一喜一憂してるオマエが変なンだ」
「だって気になる…。あ、見て、あなたのおみくじのココ…」
『恋愛運…好いた人、決まった人がいる場合はそのままにせよ』
「だってさ。凶という悪い結果だけど、ココだけは信じて欲しいなぁ、ってミサカはミサカはお願いしてみたり…。それに、これはミサカのお願い事そのものだよ」
自分をずっと好きでいてほしい、という少女の希望であった。
一方通行は紙を雑に折りたたみ、コートのポケットに仕舞う。残念そうな打ち止めを安心させるため、ここは流石に素直な態度を取った。
「そンなことは…、言われなくてもずっと前から分かってることだ」
「……、うん…。ミサカだって…」
「そうか。なら俺もオマエも、おみくじなンて必要なかったンじゃねェの」
「それはそれ、これはこれ。初詣には欠かせないの。大丈夫だよ、凶なあなただけど、隣には大吉のミサカがいるんだもん。御利益いっぱい!」
鼻で笑う青年と一緒に、神社を後にする打ち止め。しかし、途中で屋台の誘惑にまんまとハマり、おみやげを買ってしまったので手は繋げなかった。- 347 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/01(木) 00:51:02.89 ID:JupGwmMf0
「だから家に帰ってから美味しく食べようと思ったのに…」
「打ち止めー、お餅は何個入れるじゃん?」
「うぅ、に、三個…、ってミサカはミサカはお雑煮大好きな自分を恨めしく思ったり…」
香ばしいイカ焼き、タコ焼きがあるのに。あと可愛らしい模様の、色とりどりの飴。
「打ち止め、あなたの身体データは順調に、正常の範囲内に伸びているのだけど、さすがに高カロリー食品の過剰摂取は…」
「ヨシカワ…、言わなくていいんだよ…」
項垂れながらも箸を握る手は力強く、打ち止めは一方通行が何と言おうとも、休み明けはダイエット週間にしようと決心した。
「あれ、あなたは食べないの?」
「ちょっと、後で」
一方通行はテーブルに手つかずの雑煮を残し、まずは自室へ向かう。おみくじというものは、境内の木に結ぶ風習があるらしいが、一方通行と打ち止めはそうせず持ち帰って来ていた。
青年はそのおみくじを折り直し、机の中の箱に丁重に収めたのである。
(打ち止めも俺と同じことしそうな気がすンなァ…)
コートを脱ぎ、一方通行も雑煮を食べるためにキッチンへ戻った。幸運の少女の隣へと。
- 348 :ブラジャーの人 [sage]:2011/12/01(木) 00:54:46.00 ID:JupGwmMf0
- 黄泉川家と通行止めの年末年始の巻 完
おかしいな、年始編の更新が一回で終わってしまったぞ。年末編のしつこさは何だったのか…
次回の更新は未定です。雑煮食べたい。 - 349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 01:13:17.71 ID:QJ9WmDrIO
- 乙乙!
こんな夜中にイカ焼きだのたこ焼きだの雑煮だの……ヨダレが出てくるじゃねーか! - 350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/12/01(木) 01:15:43.68 ID:Y+ewN8680
- >醤油の焦げるいい匂い
うおおおおおおおおおおおおおおおい
[ピーーー]気かあああああああああああああああ
乙 コンビニ行ってくる
- 356 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/03(土) 02:06:26.36 ID:AFo9I8ju0
三ヶ日を待たずに、黄泉川はアンチスキルの仕事に出掛けた。翌日の一月三日には芳川も病院へ。一方通行、番外個体、打ち止めはおせちを消化しながら、新年を家の中でゴロゴロ、ダラダラと過ごしていた。
「あー、休んだ休んだ。ミサカは明日朝からバイトだから、夜にはアパートに戻るよ」
「了解。おせち持って行くかい?ってミサカはミサカはドラマで覚えた実家のお母さんの如きセリフで訊いてみる」
「いらなーい。もう食べ飽きたよ」
「だよねー。だから番外個体が持ってってくれたら嬉しかったんだけど」
「でも栗きんとんだけ持ってく!」
「全部はダメだよ!?」
タッパーに甘いおせち料理を詰める番外個体に纏わりつき、彼女を牽制する打ち止め。騒がしい姉妹の声を炬燵で聞きながら、一方通行はあることを期待していた。
(番外個体は今夜戻る。きっと明日も黄泉川と芳川は仕事のハズだ。……明日は、久しぶりに…)
年末に大掃除で働かされて以降、一方通行と打ち止めは男女の営みをしていない。正直、青年はかなり我慢していた。
- 357 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/03(土) 02:08:40.21 ID:AFo9I8ju0
保護者達と打ち止めに見送られ、番外個体が帰った後、一方通行は廊下で打ち止めとの就寝前のあいさつを終えた。今夜は一緒に寝ると手を出してしまいそうなので自重する。久しぶりの交合を保護者二人にバレないよう、気を使いながら出来る気がしがない。
「あなたからおやすみのちゅーはめずらしいね、ってミサカはミサカは廊下でするのも希少だとちょっと驚いてみる」
「そこまで珍しいことじゃねェだろ。俺はもォ寝るからな」
「うん、おやすみなさい、ってミサカはミサカはもう一回…」
(タチ悪ィ…)
耐えられそうにないので、廊下でさっさと済ましてしまおうとしているのに。一方通行、さらに忍耐の時である。- 358 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/03(土) 02:11:58.23 ID:AFo9I8ju0
(うー?なに?電話…?)
翌日の朝、打ち止めは携帯端末の着信音で目が覚めた。黄泉川も芳川も、お正月休み中の子供たちを寝かせておいてくれるので、一方通行と共にお寝坊をしている少女。といっても彼とは違い、打ち止めは遅くとも九時には活動していた。
時計を見ると八時で、覚醒すると同時にネットワークから番外個体の応答を求める声が。携帯の着信も彼女からで、打ち止めは慌ててネットワークを介して妹に応える。
(はいはいはーい何かな?ってミサカはミサカは番外個体を落ち着かせながら訊いてみ)
(やべぇぇぇぇぇバイトちょー忙しいちょぉぉぉー手伝って最終信号!!)
(わぁ、……うわこんな朝からどういうこと!?まるで満員じゃない)
(近所のデパートが初売りセールやってるんだよ!みんなウチみたいなカフェや喫茶店で朝ご飯だから手伝ってよぉぉ!)
(わ、分かったすぐ行く!)
日本語が若干おかしい妹の焦りっぷりに、打ち止めはベッドから飛び起きて洗面所へと走った。- 359 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/03(土) 02:15:40.02 ID:AFo9I8ju0
打ち止めが走り回る騒がしい音に、一方通行も目を覚ます。
(うるせェな…、あ)
今日は久しぶりに『楽しいこと』が出来る日だということを思い出し、青年は身を起こした。昼間だろうと構わない。こういう時のために部屋にブラインドを取り付けたのだから。
「あなたぁー!ミサカを送ってってぇー!」
「うォ、なンだ急に」
期待に胸膨らます一方通行の部屋に、ぜぇぜぇと胸を上下させる打ち止めが駆けこんできた。手には櫛と歯ブラシを握ったままだ。
「番外個体のカフェがデパートのセールのせいで忙しいの!お手伝いに行くからポルシェちゃんお願いします!ってミサカはミサカは返事も待たず着替えるために部屋へと…」
全てを言い終える前に少女は去った。呆然とする一方通行は、寝起きの回らない頭で、今聞かされた情報を整理する。
(打ち止めが番外個体の店に助っ人しに行く。そして俺は送って行く。だからヤれない)
「番外個体ォ…っ」
番外個体と、あの店が憎らしい。それにムカつく店員の男どもも憎らしい。きっと大忙しの中、慣れ慣れしく打ち止めに接するのだろう。自分がおあずけを食らっている最中に。
早く早く、と打ち止めに急かされ、一方通行は着の身着のままでタクシー役を務めた。
「おら、着いたぞ」
「ありがと!」
今もネットワークでは番外個体の悲鳴が打ち止めを呼んでいる。それでも少女は運転席に座る不機嫌な恋人に『いってきますのキス』を忘れなかった。それが一方通行にとっては嬉しくもあり、残酷でもあることを彼女は知る由も無い。
ふてくされた一方通行は、正月休みでガラガラの道路をポルシェですっ飛ばして、かなり遠回りしてからマンションに帰った。- 360 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/03(土) 02:17:57.21 ID:AFo9I8ju0
「忙しい」と打ち止めから聞いていたので、もしかしたら夕方までバイトが終わらないのでは?と、諦める心の準備をしていた一方通行だったが、意外にも昼過ぎにお迎えの要請が来た。
これなら帰ってからできるだろうし、途中でホテルに寄るのもいいかもしれない。しっかりと避妊具を(複数)用意して、いそいそとカフェへ向かった。しかし…
(……こりゃ、無理か…?)
待ち合わせの場所で、打ち止めはぐったりと座り込んでいた。恋人が運転するポルシェのやかましいエンジン音が鳴り響いても、顔さえ上げられないようだ。車体が彼女の前で停車した時、ようやく立ち上がって助手席に乗り込む。
「ありがとう…。疲れたー。あなた、ミサカに労いのちゅうを…、癒しをプリーズ…」
少女は瞼を半分だけ開けて、彼の方へ顔を向けた。身を乗り出させるのも億劫らしい。
一方通行はわざわざシートベルトを外してご要望に応えた。
「えへ、ちょっと復活、ってミサカはミサカはあなた成分を補給して元気が出てきた…」
(俺はさらに弱ってきた…)- 361 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/03(土) 02:25:37.53 ID:AFo9I8ju0
走り出した車内で、少女がぽつぽつと語り出す。
「まるで嵐のようでした…。めちゃくちゃ忙しかった…」
「そンなにヤバくて、先に帰って大丈夫なのか?」
「嵐はお昼までだったの。セールが目当てのお客さんは、さすがに晩御飯までは取らないから」
「まァそうだな」
「お正月で帰省してた学生さんたちが、だいたい四日から戻ってくるからセールは今日からが本番なんだってさ」
帰省という概念が無い一方通行と打ち止めだったが、納得できる理由だった。そこで心配になることがひとつ。
「まさかオマエ、明日も手伝うンじゃねェだろうなァ?」
「ううん、明日からは正規のバイトさんがたくさん出勤できるから大丈夫だよ」
とりあえずこれ以上の危機は回避されたらしい。しかし今現在でも一方通行の我慢が、かなりキていることに変わりはなく、今日も忍耐を強いられることになった第一位。
(あンなに疲れてる打ち止めに無理させンのはなァ…、畜生ォ)
打ち止めはリビングに入るなり、どさっとソファに倒れ込んだ。
コートを部屋に置き、遅れて来た一方通行が彼女の姿に目をみはる。
打ち止めの足が、太ももが、捲れあがったワンピースの裾から覗いている。バイトに行く前にはストッキングを履いていたような気がするが、きっと制服から着替える際に面倒臭くなって着けなかったのかもしれない。
だが、そんな推測はどうでもいい。重要なのはそれを見た一方通行の手が、勝手に動いてしまっていることだ。
ソファにうつ伏せで体を投げ出す打ち止めの、その足に触れる。
「ん…?」
すり、と足をこすり合わせる少女。しかし嫌がられたり、抵抗される様子はない。そのまま指を太ももと尻の方へと登らせていく。しっとりとした肌に、思わず喉が鳴った。
「うぅん、あなた…」
「………」- 362 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/03(土) 02:28:05.99 ID:AFo9I8ju0
ついさっきまで「無理はさせられない」と殊勝な事を考えていたというのに、すでに青年は自分が止まれないことを自覚していた。欲情に飲まれてぼんやりする頭の隅で、よっぽど飢えていた己を分析する。
「っ、あんまりアトつけちゃダメ…」
「…ン」
床に膝をつき、太ももの一番柔らかい所に吸いついた。首を伸ばして、奥の足にも平等に唇と舌を這わせる。
「…あ、きもち…」
「もっとな」
「きゃ」
ワンピースの裾から手を突っ込み、強引に背中へと伸ばす。青いショーツが現れ、これも柔らかそうなお尻が見えた。しかし、まずはそこよりも柔らかいところを愛でてやろう。一方通行は服の中でブラジャーのホックを外し、左手で彼女に仰向けになるように促す。
「もう、待って、ってミサカはミサカはただ今反転、う」
彼女が完全に態勢を立て直さないうちに、一方通行の手は乳房を掴んだ。まだソファの背もたれに顔を向けたままの打ち止めの体が弓なりにしなった。背後から一方通行が上半身に覆いかぶさってきて、頬や首にキスされながら、胸をまさぐられる。- 363 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/03(土) 02:33:08.26 ID:AFo9I8ju0
「あ、ん、待って」
「……ふー」
「ふふふ…」
「悪ィ」
「……いいよ、しばらくしてなかったもんね」
制止の呼び掛けには、耳に吹きかけた息で否と答えた。服の中で緩んだブラジャーの下に潜らせた手が、打ち止めの優しい言葉に後押しされて、動きを強く大胆にしていく。少女の衣服は既に胸より下を覆っていないが、熱くなった体は寒さを感じない。
「ミサカも久しぶりだから、ドキドキしちゃう」
「あァ」
早まる鼓動を確かめようと、一方通行が胸を押しつぶすように揉む。甘い吐息が漏れ始める頃を見計らって、指で先端を摘まんだ。
きゅ、きゅ、とリズムをつけて。
こねこね、こねて。
つんつん、とつついて。
びくびく震える打ち止めの体。一方通行は腰をくねらせる打ち止めの下半身にも左手を派遣する。ちなみに右手は胸担当である。
お尻からショーツの中に侵入し、割れ目の中をかき分けて行く。一瞬体を強張らせた打ち止めだったが、すぐに力を抜いて長い指を迎え入れた。
(いつもより濡れてンなァ…。コイツも多少は我慢してたのか?)
(あぁどうしよう、いつもより…、あ、あ、キモチいい)
打ち止めはショーツが汚れることを嫌うので、早めに脱がせる。下半身だけが裸という、二人にとっては珍しいシチュエーションとなった。- 364 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/03(土) 02:38:31.47 ID:AFo9I8ju0
「オイ、こっち向けよ」
「ミサカがそうしようとしたら、待ちきれなくて狼さん暴走させたのはあなたでしょ?ってミサカはミサカは余裕の無いあなたの行動を指摘してみる」
「オマエは余裕あるみたいだなァ?」
「ないよぉ。だから久しぶりなんだってば」
一方通行だけが求めていたわけではない。打ち止めもまた、彼を求めていた。
気を良くした一方通行は打ち止めにキスをする。舌を差し入れて、卑猥な音を響かせた。
「…、はぁ…はぁ、優しく、してね?」
「こうか?」
「!!あー…あ」
求めてくれていたのは嬉しいのだが、自分と比べてどちらが飢えていたのかは明白である。そこは悔しい一方通行は下半身担当の左手を、奥へ、奥へと進ませた。
そう時をおかずに、「ベッド!」と訴える打ち止めを抱きあげ、一方通行は自室へ入っていった。万が一のことを考えて、床に落ちていた青いショーツは忘れずに回収。
だって、次はいつ部屋のドアが開けられるか分からなかったから。
- 365 :ブラジャーの人 [sage]:2011/12/03(土) 02:45:58.65 ID:AFo9I8ju0
- 一方通行と打ち止めの姫初めの巻 完
おっぱいは、やはりいいものだ。足もいい。
あー楽しかった、自分はやはり偽れないねぇ。 - 366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 03:13:13.21 ID:B8o/XtAio
- 乙っすー。 あぁ、一方さん達はこんなんなのに俺は男友達と同じ布団に寝ている… 誰か!誰か!この若人に癒しを! おっぱい!おっぱいを! ストレスではきそうなので、打ち止めのような可愛いこのおっぱいを! 年も近いよ!お得だよ! …色々入ってるから欲望丸出しだぜ…ハハッ。
- 367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 04:10:21.06 ID:T1eEi+qIO
- 乙だぜ
こんな時間に更新とはな
姫初めってなんだろと思ってググったがそういうことか…DTにはつらい単語だ…
┌○┐
│お|ハ,,ハ
│断|゚ω゚ ) お断りします>>366
│り _| //
└○┘ (⌒)
し⌒
- 371 :ブラジャーの人 [sage]:2011/12/06(火) 15:31:24.08 ID:Mf+JW+bo0
- >>369 お勉強お疲れ様です。清涼剤になるのか分からんけど…
>>370 ナニがあったの。癒しになるのか分からんけど…
お待たせしました、オマケ書いてたから。ではどうぞ。
- 372 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/06(火) 15:33:05.38 ID:Mf+JW+bo0
一方通行と打ち止めが体を重ねるようになってから、早数ヶ月。今では打ち止めから堪えきれない嬌声が自然と上がるようになった。我慢しようとしても出来ない、コントロール不可能な快感に味をしめた少女はそれを受け入れ、順調に適応していった。
今だって、一方通行の部屋のベッドで組み敷かれ、彼の動きに合わせて、あられもない姿と声で喘いでいる。
(あァ、やべェ…。打ち止め、打ち…止め…)
(ぁ、~~~~~~~あー、あ、ぁ、な、た…っ)
夕暮れをブラインドでさらに暗く演出し、二人きりの甘い時間に酔いしれる。酒は飲めない打ち止めも、これには大いに酔う。
二人とも一糸纏わぬ姿で、ベッドの上で揺れた。一方通行が態勢を変え、より早く、強く繋がろうとする。その刺激に打ち止めが体をしならせて震えた。一瞬のことだが、背中が全てシーツから浮く。
少女の痴態を見降ろしていた一方通行の視界から、彼女の顔が消える。代わりに、上向いた顎と細い喉が現れ、そこから今日一番の、悲鳴にも似た歓喜の叫びが飛び出した。
(うォっ、オマエそりゃ反則だろおいィィィ!!)
青年が歯を噛みしめ、ギリ、と軋む。その隙間から漏れ出た声は、少女のもので掻き消された。目一杯に顔をしかめ、しばし不動を保ったかと思うと、力なく柔らかな胸の上に崩れ落ちていった。
うつ伏せでは間違いなく窒息する。汗ばむ乳房に右耳と頬を押しつけ、ドクドクと早鐘を打つ彼女の鼓動を感じる。
- 373 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/06(火) 15:34:47.75 ID:Mf+JW+bo0
(クソ、畜生ォまたかよ)
打ち止めの両手が一方通行の頭を掴み、わしわしと髪をかき混ぜた。それは抗議の意を込めて。
青年は文句も言わず、ゆるゆる伸ばした手で、打ち止めの腰から太ももを優しく撫でた。それは謝罪の意を込めて。
「ずーるーいー、ってミサカはミサカは『まだ』なのにぃ」
「……悪い」
ここ最近、一方通行の『負け』がこんでいる。アッチの学習能力が高かった少女は、回を重ねる毎に青年を縛り付けて虜にさせた。以前は、ほぼ必ず満足させてあげられたのに、今はこうして一方通行が先に限界を迎えることが増えてきている。
「ンな顔するなよ、ちょっと待ってろ…」
「んふふ、顔はご機嫌ナナメになってる?でも内心では結構嬉しいんだよ」
「なンで」
「あなたがミサカに夢中な証拠みたいだから」
(違う、オマエの具合が良くなってンだよアホ)
とは言えない。そしてある意味、合っているし。
一方通行は体を離し、勝者の笑みを浮かべる少女の体が冷えてしまわぬよう、二回戦に向けてウォーミングアップを開始した。
- 374 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/06(火) 15:35:50.18 ID:Mf+JW+bo0
「このままじゃだめだろ、どォ考えても」
湯船の中で一人呟く一方通行。打ち止めに引っかかれて薄皮向けた二の腕に、お湯が染みる。いいトコまでいったのだが、今日も黒星を記録してしまった。
もちろん自分以外の男を、打ち止めに経験させるなんてあり得ないが、耳年増な彼女のことだから、いつか『情けない』とか『ヘタクソ』とか『○○』という烙印を押されやしないかと不安になってくる。
由々しき事態である。
(いくら心配したって結果は変わらねェ。ぐだぐだ言ってねェで、明日からは練習だな…)
そう。人はいつも、努力と研鑽、工夫を重ねて、あらゆる困難を乗り越えてきたのだから。
- 375 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/06(火) 15:37:33.58 ID:Mf+JW+bo0
「っ、あなた、どうしたの…?」
「どォも、してねェよ…!」
「でもっ、なんかヘンだよ、って、ミサカはミサカ、あぁ」
「無駄口、叩いてないで、集中してろ…っ」
「だっていつもみたいに」
「………っ」
「~~~!!」
(ミサカに夢中ってカンジじゃないもん…っ)
一方通行は誓いのとおり、翌日から練習を始めた。といっても、コレの練習は打ち止めと二人でないと出来ないので、機会があれば全力投球しないように注意して一生懸命に取り組むという、よく分からない心得で臨んだ。
心と体を全て欲に流されてしまわぬよう、どこか一部に冷静さを保ったままで行為に及ぶ。打ち止めの反応ひとつひとつを観察する。自分が簡単に達してしまわないように、快感を可能な限り制御する。
(…ここ、か?……ゆっくり?)
(変。変だけど、キモチいい…!)
打ち止めの乱れ髪がシーツに叩きつけられて音が鳴る。今だ、と狙い定めて、一方通行が勝負に出た。
果たしてその見極めは正しく、見事に完璧なまでの勝利を収めることに成功した。それ以降、一気に勝率を増やした青年は波に乗って乗って乗りまくる。それはもう、色々なことを試した。
- 376 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/06(火) 15:40:39.69 ID:Mf+JW+bo0
(練習開始からカウントして、負けたのはわずか二回か。やれば出来るじゃねェか)
このまま常勝不敗の男になりたいと、ベッドの中で口の端を持ち上げた。明日になれば打ち止めの月経も終わっているだろうから、また練習再開だ。
照明を消してからしばらく、ウトウトしかけたところで部屋のドアが開けられた。
(ン…?打ち止め?)
ノックも無しに、練習相手がベッドに近づいてくる。そして、まるで小さな子供のような仕草で、乱暴に服を脱ぎ捨てると布団の中に潜り込んできたではないか。
「おいおい」
「お邪魔します」
潜り込んできただけではない。一方通行のスウェットの上着の裾から手を忍ばせて、腹と腰を撫で回し、柔らかな胸を真上から押し付けてくる。
情熱的なお誘いだが、保護者がいる時はこの家でするのはあまり良くない。今夜は芳川は不在だが、黄泉川がいるはずだった。
「こら、黄泉か」
「さっき出掛けたよ、ってミサカはミサカは耳より情報をお伝えしてみる」
「……」
「電話があってね。せっかく晩酌しようとしてたのに、涙を飲んで我が家の警備員は使命を果たしに行きました」
「ふゥン」
だったら何も問題はない。練習大好きな青年は、態勢逆転を狙って体を起こそうとした。
「だーめ、ってミサカはミサカは先手必勝」
それを素早く察知した打ち止めに肩を押されて失敗に終わる。にじにじと、打ち止めのお尻が腹まで登ってきて、口を口で塞がれた。その時感じた微かな匂い…、これは…
「オマエもしかして酒飲ンだかァ?」
「グラスに注がれたものを瓶に戻すのはいけないかなーって」
「捨てろよ…」
「もったいないかなーって。ほんのちょっとだったし」
以前、図らずも飲酒してしまった打ち止めに、こんなふうにして押し倒されたことがある。その時ほどではないが、また青年は襲われてしまうらしかった。- 377 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/06(火) 15:42:55.55 ID:Mf+JW+bo0
(別にいいけどよォ。吐きそうな様子もねェし)
しかしその予想は外れた。彼女の方から色々な仕草で促されて、すぐにいつもどおりのポジションに収まっていた。
(飲ンだ量が少ないからか?今日は俺が上でいいンだな?)
今は一回でも経験が欲しいので、心おきなく覆いかぶさる。そしていつものようにしていたら、突然打ち止めが手を突きあげてきて、中断を求められた。
「やー!もぉー!」
「あァ?なンだよ急に…」
一方通行の胸や顎を押しのけようと、下から張り手をかます打ち止め。仕方なく動きを止めて、少女の訴えに耳を傾ける。
「どうして?どうして最近のあなたはエッチする時に静かなの?」
「はァ?」
「前はミサカだけを見てて、なんていうか、うまく言えないけど、もっと…」
「……アー…」
一方通行は頭を掻いた。つまりこの少女は、我を忘れるように溺れる一方通行を感じていたいらしい。どこか冷静に、第三者の目線で愛の営みを観察するようなことは、彼女の精神面を充実させない要因となっていたのだ。
「でもオマエがなァ…」
「ミサカのせいだっていうの?」
「そうだ」
「ガーン、ってミサカはミサカはこれが倦怠期なのかと驚愕してみたり!」
「イけてなかっただろ?最近…」
「………」
「なンか言えよ…」
ベッドサイドのわずかな照明でも、打ち止めがポカンとして呆けている表情がよく分かる。
「そんなこと気にしてたの、ってミサカはミサカは予想外」
「普通気にするだろォが」
「気にしなくていいのに…」
「相容れないようだな」
「ですねぇ。しょうがないなぁ、ここはミサカが折れてあげる…」
打ち止めが、再び腕や足を絡めてきた。再開の合図に、できるだけご要望に応えられるよう努める。打ち止めのことだけに気を取られ、危うくまた負けそうになり慌てて押し返す。
「あ、りがとう、ミサカのこと、気にしてくれて…」
「一応、プライドってやつだ、男のな」
「これが幸せってやつかな、女の」
「もォ、黙ってろ…っ」
「それはできな、あぁ、ん、ん」
「そうやって鳴くのは、いいンだよ、馬鹿」
今夜の成績、(なんとか)一方通行の勝ち。- 378 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/06(火) 15:45:10.38 ID:Mf+JW+bo0
心地よい疲れに身を浸しながら、一方通行と打ち止めは、遠ざかった眠気が訪れるまで、オレンジ色の微かな光の中で小さく囁き合っていた。
「知らなかったなぁ…、あなたがそんなこと思っていたなんて…」
「俺は全然気にしてなかったオマエに驚いてンだが」
「そりゃミサカだって……けど、あなたとああしていられるだけでいいの、ってミサカはミサカは正直に気持ちを伝えてみる」
一方通行がシーツに膝をつき、上から打ち止めを覗き込んだ。
「何?『ミサカだって…』?なンて言ったンだ?」
「え、そこに注目なの?」
「俺にとっては重要ォだ」
「いいから、スルーしてそこは、ってミサカはミサカはえっちなあなたから目を逸らしてみる」
彼とは逆の方へ顔を向けるも、顎を掴まれて強制的に目を合わせられる。ぎゅっと目をつむれば、わざとリップ音を立ててキスをされた。
ちゅ、と鳴っては「言えよ」
ちゅ、ちゅー、と吸っては「言うまで寝かさンぞコラ。遅刻してもいいのかァ?」
「う、うぅもう自分は明日遅いからって…」
「ほれ、言え」
「……ミサカだってイきたいけど」
「だろ?だったら協力しろ」
「どうやって、ってミサカはミサカは危険な臭いを感じ取って警戒してみたり」
「おいおい考える…」
(しかしなァ…、ヤればヤるほど良くなるンじゃ、俺が追いつかねェよ)
より一層の努力が求められる青年であった。
- 379 :ブラジャーの人 [sage]:2011/12/06(火) 15:54:41.80 ID:Mf+JW+bo0
- あなたとミサカのラブゲームの巻 完
可愛いオマエの強がりを~
一方さんが○○という話。
>>378がオマケ。本当に腹の立つ第一位だ…
明日更新できる、はず。 - 380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/12/06(火) 17:18:30.56 ID:wgxMy6pwo
- ……一方さんは能力使って自由自在とか思ってたけど、そんなこと無かったのね…紳士だわぁ。
- 381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 21:47:24.85 ID:g33kqe7Y0
- 乙
※打ち止めは中学生です
- 386 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/07(水) 19:30:12.78 ID:/CgsXlsW0
「あ、今日は成人の日なんだ、ってミサカはミサカはテレビのニュースに注目してみる」
朝食を食べ終え、リビングで腹ごなししていた打ち止めがそう言った。炬燵の対面に座っている青年からの返事を期待して彼を見る。
「そォだな」
「去年はあなたが記念すべき一人前の成人として、堂々と式に出席したんだっけ」
「………」
「凛々しいスーツ姿で『行ってくるぜ打ち止め。帰ってきたらオマエだけのお祝いをくれよな』ってミサカに」
「どンな捏造記憶だコラ」
一方通行は成人式に出席しなかった。番外個体も。
あの第一位が現れたら会場が騒ぎになるかもしれないし、素直に面倒臭いと思ったからだ。黄泉川も芳川も、彼の歩んできた人生を鑑がみると、強引に連れて行くことはできなかったので断念したのだった。
『ミサカは培養器から出て五年だしね。成人式って言われてもピンとこないよ』
番外個体も冷めたもので、保護者二人と打ち止めは、せっかくのイベントなのに…、と残念がり、せめて三人でお祝いしてあげようと、レストランのディナーと腕時計をプレゼントしたのである。
一方通行がその腕時計をしているのはあまり見ないが、大学の入学式には着けていたし、机の中に大切に仕舞ってあるのをみんな知っている。- 387 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/07(水) 19:32:55.44 ID:/CgsXlsW0
「ミサカは…、あと五年経ったら成人式出てもいいかな」
打ち止めがテーブルの上にあった蜜柑を手に取りながら、一方通行を伺うようにチラと視線を送る。どうしてそんな顔をするのかと、青年は一瞬いぶかしむが、すぐに思い至った。
「出席したきゃすればいいだろ。黄泉川と芳川も喜ぶンじゃねェか?」
「うん!…あの、あなたもお祝いしてくれる?ってミサカはミサカはそれが訊きたいことの本命だったり…」
蜜柑の皮が、ぺりぺりとゆっくり剥かれ始めた。
「……何して欲しいンだよ」
それはもちろん、肯定の意味である。蜜柑の皮を剥く早さが増す。
「おめでとうって言ってくれるだけでいいよ」
打ち止めは蜜柑を持って炬燵を出た。同時に一方通行が僅かに体を動かし、空いた場所に少女が身を滑り込ませる。丸のままの蜜柑を割り、ひとつ摘まんで隣の青年の口元に近付けた。
「はいあーん」
「………」
一方通行も朝食を食べたばかりで、全然腹は空いていないが、嬉しそうな打ち止めの顔を見ては断れない。まるで鳥の雛に餌でも食べさせているかのような「あーん」は、蜜柑が無くなるまで続く。打ち止めに握られたままなので、最後の方はだいぶ温まってしまっていた。
「早く、成人式出たいなぁ、ってミサカはミサカは五年という年月の長さに眩暈を覚えてみる」
ようやく蜜柑が片付いたと言わんばかりに、打ち止めが一方通行の腕にしがみつく。
一方通行と釣り合うように、背が高くなりたいと言う少女。
彼と同じ年頃の女性を警戒し、大人っぽい装いに努めたりもした。
(そンなことしなくても…)
いつも感じているのだが、それを止めさせるのもどうかと思って彼女のしたいようにさせてきた。それに一方通行自身も、実は嬉しかったので。
「五年なンてあっと言う間だろ」
「そう?」
「だってオマエが俺と会ってから五年じゃねェか」
「むむ、そう言われると短かったような、でも長かったような…」
首をひねる打ち止めの肩を抱き寄せて、一方通行はキスをした。打ち止めも素直に目を閉じ、体を預ける。
「…すっぱぁい……」
「オマエが蜜柑食わせるからだろォが。…打ち止め、別にな…えー…」
「??」- 388 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/07(水) 19:34:38.91 ID:/CgsXlsW0
一方通行もテーブルの上で蜜柑を弄り始めた。別に食べたいわけじゃない。恥ずかしい(と彼が思う)セリフを絞り出すために、気を紛らわせているのだ。
「あンまり、焦らなくてもいいぞ」
結局こんなのしか出てこなかった。そのままのオマエでいいと、他の女に気が向くことなど無いと伝えたかったのだが…
しかし打ち止めには効果てきめんだったらしい。
「そっか。ふふ、それもミサカが剥いてあげる!」
鼻歌を口ずさむ打ち止めによって、青年の手から蜜柑が奪われる。もう一個食べるハメになってしまった。
半分ほどに減ったところで、もうその味に飽きてきてしまった一方通行。もぐもぐと口を動かしながら、手をクイクイとさせる。打ち止めは素直に蜜柑を渡した。
「ン」
「あーん」
今度は打ち止めの口に、ひとつずつ食べさせてやる。お互いに蜜柑味の口になれば、キスしても「すっぱい」と文句を言われることはないだろう。
- 389 :ブラジャーの人 [sage]:2011/12/07(水) 19:37:58.75 ID:/CgsXlsW0
- 成人の日の通行止めの巻 完
学園都市でも成人式はあるよねきっと。 - 390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 00:40:38.16 ID:WNV6Wh9uo
- 乙
- 400 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/11(日) 21:54:29.48 ID:Yp/zGqD90
ある平日の夜のこと、
「あなた、ちょっといい?」
「あァ?」
炬燵でゴロゴロする一方通行の元に、数学の教科書とノートを持った打ち止めがやってきた。感心なことに部屋で勉強していたらしい。
「ここ、少し難しくて…」
「どれ…」
冬休みが明けて、受験を控える打ち止めは、にわかに勉強に力を入れ始めた。彼女が狙っている高校は、中学を決めた時と同じく『家から近い』を優先して選んだ所である。
幸いそれほど偏差値が高い高校ではない。ごく一般的な可も無く、不可も無く、という普通の共学高であった。
打ち止めの成績は優秀なので、何の心配もいらないのだが…
「…で、こォ。分かったか?」
「おぉなるほど。やっぱり早いやり方があったんだね、ってミサカはミサカは感心してみる。さっすがあなた」
「真面目ですねェ。別にオマエなら楽に受かるだろォ?」
「でも、みんなが受験勉強してると、なんかね…。ミサカもやらなきゃいけない気がしてくるの、ってミサカはミサカは不思議な気負いを感じてみたり」
夏…、いや、早ければ三年進級直後から、受験受験と勉強漬けのクラスメイトはいたが、お正月が明けたら、打ち止めも目を丸くするような受験モードの友達ばかりで、何か不安になったらしい。
「まァそれが普通なンだろォな」
「先生も、もっと上の高校を目指しなさい、って言ってたけど…。遠いし…」
「……うちにはうちの事情がある。気にするな」
そんな心配はもういらないと思うが、一方通行と打ち止めの壮絶な過去は、まだ遠い昔のことじゃない。出来るだけこの家から近い場所で生活をした方が良いだろうとの、保護者達を踏まえた相談の結果だった。
(大体、遠くの学校に行かせるなら、女子高じゃないと俺が納得しねェよ)- 401 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/11(日) 22:01:30.70 ID:Yp/zGqD90
「勉強はいくらしても悪い事じゃないし、念には念を入れてということで。また教えてね?ってミサカはミサカは家庭教師なあなたに期待してみる」
「おやすい御用で……、ところで思ったンだが、ミサカネットワークで訊いた方が早いンじゃねェか?宿題をカンニングさせろってワケじゃねェから、今度はアイツらも協力するだろ」
教科書を畳んでいた手を止め、少女は青年の隣で足をくつろげる。ちょっと休憩でもするのだろうか。
「そうなんだけど…、みんな忙しそうだし」
「俺が暇みたいな言い方だな」
「だってあなたはまだ冬休みじゃない、ってミサカはミサカは炬燵の一部のように寝ていたあなたを思い出してみる」
「いいだろ、それが冬休みだ」
「それに、…ミサカからのお礼要らないの?ってミサカはミサカは下心を明かしてみる…」
「……要る」
打ち止めはキッチンへつながる扉を、一方通行は廊下へとつながる扉を、それぞれ注視する。黄泉川も芳川も部屋にいて、出てくる気配はなさそうだ。
「んー」
「……」
実は今日、打ち止めは家に帰ってから夕食の時以外はずっと勉強をしていたので、こうして触れあうのは(二人にとっては)久しぶりなのだ。
二人とも体をよじり、上半身だけ正面から向き合う。ちょっと長めのキスをした。
「……あ、まだ?」
「家庭教師代にしては足らねェな」
「高い…ぁ…」
まだまだ支払いを要求してくる一方通行の肩を掴み、かなり力を入れて引き剥がした。
「っぷは、もーダメ!ミサカは真面目に勉強するのです、ってミサカはミサカは厳しく告げてみる。明後日のお休みには、どこかおでかけしよう?それまではツケで」
「どこでツケなンて覚えてきた?優等生ェ。今どき無ェよ、そンなモン。利子がつくからな」
「いいけど別に、ってミサカはミサカはあなたに対してはお金持ちだからと余裕ぶってみたり」
(いきなりホテルに行ったらコイツ怒るか?)
(でも、いきなりホテルとか言い出したら支払い拒否だよ?)
- 410 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/15(木) 00:09:30.48 ID:oPkVYrpO0
よく晴れた一月の空。降り注ぐ日に暖められた車内はとても快適だった。
今、一方通行と打ち止めは、特に目的地もなく休日の街中をドライブしている。そろそろお腹が空いてきたので、どこか目についた所で昼食を取ろうと、窓の外に目を向けていた。
「わぁ、なんてレトロなラーメン屋さん。まるで昔のドラマに出てくるやつみたいだよ、ってミサカはミサカはあなたに賛同を求めてみる」
「あ?……あァ、確かに」
丁度赤信号で停車中の時、ビルとビルの隙間に、埋もれるように建つ茶色い木造作りの店舗を指さす打ち止め。普通に走行していたら、おそらく気づかなかっただろう。扉の前には『営業中』の看板と、『ラーメン』と赤地に黒い文字で書かれた暖簾がかかっている。
「やってるみたいだな」
「…あー、いい匂いがするぅ、ってミサカはミサカは窓を開けた途端に襲いかかってくるスープの香りに空腹を刺激されてみたり」
「寒いから早く閉めろ。……あそこに駐車できそォだな」
今日の昼食はラーメンに決定。
- 411 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/15(木) 00:13:17.58 ID:oPkVYrpO0
「らっしゃーせー」
暖簾を手でよけながら、引き戸を開けて店に入る一方通行。ちなみに打ち止めは何もしなくてもアホ毛しか暖簾に触れられないので、背をかがめることもなくついてきた。
既に時刻は昼を過ぎているものの、休日のため席があるか心配していた青年だったが、狭い店内には片手で収まる人数しかいなかった。テーブル席に数人と、カウンター席に一人。
「あれ?」
「……げェ」
そのカウンターで、もくもくとラーメンを食べ続ける男。二人は彼を知っている。
「んぉ?おぉ!一方通行とアホ毛の末っ子じゃねえか!奇遇だな!」
口の中に麺やナルトを入れたまま、振り向きざま大声で喋りかけてきたのは、学園都市第七位の削板軍覇だった。- 412 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/15(木) 00:15:13.02 ID:oPkVYrpO0
「お前達も昼飯か、ここ空いてるぞ」
箸を咥え、自分の横の席をバンバン叩く削板。そこじゃなくても、空いてる席は沢山あるのだが。
「末っ子じゃないって何度も言ってるのになぁ、ってミサカはミサカは言われるままに隣に失礼してみたり。あなたも早く」
「…チっ」
知り合いに「この席どうぞ」と言われれば、素直に座るのが当然だと思う打ち止めは、削板の隣に腰掛けようと…したところを一方通行に腕を掴まれてさらに隣の空席へ導かれた。
「あらら、ってミサカはミサカは…」
「食い過ぎだろ、ナンバーセブン…」
「あと三杯食う予定だ」
打ち止めと削板の間に座った一方通行は、改めて第七位の前に積み上げられた丼を眺めた。すでに四杯片づけているというのに、まだ食べるつもりである。
「へい塩一丁ぉお待ちー。次は坦々ね」
削板が手に持った丼のスープを飲み干した直後、新たなラーメンが追加された。どうやら最初にいくつもの種類のラーメンを注文しているらしい。若い男の店主は、一方通行と打ち止めに、軽く頭を下げて注文を訊く。
「らっしゃい、初めてのお客さんだね?何にする?削さんの友達ならサービスするよ」
「おう、偶然だがせっかく会った友人だ。良くしてやってくれ!」
「友人じゃねェ」
「ミサカは味噌ラーメンください!メンマトッピングで」
「そっちの白い兄さんは?」
「醤油…」
「この人にはチャーシューをトッピングしてあげて、ってミサカはミサカは以心伝心で注文してみたり」
一方通行の反論は全員にサラっと流され、勘違いを訂正する暇も無く、店主は調理に取りかかった。- 413 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/15(木) 00:17:04.14 ID:oPkVYrpO0
「第一位達は今日どうしたんだ?」
削板が塩ラーメンに胡椒を振りながら二人を見る。口を開こうとしない一方通行に代わり、箸とコップを並べる打ち止めが答えた。
「ミサカ達は普通にデートの最中だよ」
「ほぅ、お前達付き合ってんのか」
「えへへー、仲良しカップルさんなのだ、ってミサカはミサカはソギイタにラブラブ具合をアピールしてみる」
一方通行は注がれた水を無言で飲んだ。
「そうか、幸せそうで何よりじゃねえか。いいことだ」
「うん!ソギイタは?彼女いないの?」
「っ!?お、俺か!?俺は…今は修行中だから」
「修行中だと彼女いちゃダメなの?ってミサカはミサカは疑問を口にしてみる」
一方通行は無言で足を組み替えた。
「……、ほら、カノジョ、なんてトレーニングに集中できなくて根性が出ないし」
「そんなことないと思うけどなー。大事な人がいれば、その人のために頑張ろうと思えるものだよ、ってミサカはミサカは精神論を述べてみる。これはコンジョーにも関わることだと思うの」
「こ、根性か…」
「へい、味噌と醤油お待ちー。トッピングはそれぞれオマケしといたよ」
一方通行は無言で箸を割った。
- 414 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/15(木) 00:20:13.41 ID:oPkVYrpO0
「おいしそー!ってミサカはミサカは元気よくいただきます!……ミサカは今受験勉強中なんだけどね」
「そういえば今は、受験生が最も根性入れてる時期だったな」
「んぐ、そう。ミサカは彼氏がいても勉強が出来ないことなんてないし、むしろ張り合いが出るぐらいだよ」
「張り合い?そンなモン出してたのかよオマエ」
久しぶりに喋った第一位。打ち止めが合格はほぼ確実な高校の受験に、それほど力を入れているのは何故なのだろうかと、少し不思議に思ったのだ。
「偏差値が特別高いワケでもねェ、能力開発もごく一般的な高校だろォ?オマエなら余裕で受かるって何度も…」
「そうだけど、せっかくあなたがミサカに勉強教えてくれてるんだから…。ミサカはトップで合格してみせる!ってミサカはミサカは宣言してみたりっ」
「トップ合格か。そりゃいい目標だ。末っ子も中々根性あるぞ」
「あは言っちゃった!もう後戻りできない!」
床に届かない足をぱたぱたさせて、打ち止めは両手で持ったコップの水を一気に飲み干した。一方通行は知らぬ間に掲げられていた打ち止めの目標を知り、箸の動きを止める。
「だって先生やってるヨミカワの家で暮らしてて、第一位のあなたが家庭教師なのよ?これで不甲斐ない成績じゃカッコ悪いもん」
「ンなこと気にする必要ねェよ。大体黄泉川は体育教師だろォが。世間体ってやつか?」
「それも無いわけじゃないけど、ただミサカが頑張りたいだけなの。あなたがいるから、ミサカから勝手にやる気が湧いてきてるだけなの、ってミサカはミサカはこれは一種の自然現象にも等しいと解説してみる」
やる気を再確認して、打ち止めは残りの味噌ラーメンに取りかかった。まずは腹ごしらえ。何事も体が資本である。一方通行も中断していた食事を再開させた。- 415 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/15(木) 00:23:10.86 ID:oPkVYrpO0
「なるほど…、末っ子の言いたいことが分かったぜ。お前は一方通行のために勉強を頑張ってんだな、頑張れるんだな!」
「そう!そうだよソギイタ!ミサカが言わんとしていたことは正にそれ。だからソギイタも彼女できたらもっとトレーニングがはかどるよきっと」
「だからって、急に作れるもんじゃ…」
結局話は一回転して戻って来た。このテの話題になると、削板軍覇はいつもの勢いが失せてしまうらしく、店主が坦々麺を置いたのに、まだ手元の塩ラーメンが完食できていない。
「はい坦々麺お待ちー。削さんはねぇ、もっとその辺に力入れれば、すぐ彼女できると思うよ?ほら俺を助けてくれた時みたいにカッコ良くカワイコちゃんも救ってあげればさぁ」
慌てて塩ラーメンを掻き込む削板の前で、うんうんと腕を組む店主。ちゃっかり三人の話を聞いていて、ちゃっかり話題に混ざってきた。
「去年の夏だったかな、すぐ近くの会社で仕事してる常連さんからの頼みで、普段は断ってる出前を運んだ帰りのことだったよ…」
「なんだか急に回想シーンがやってきたよあなた」
「訊いてもねェのにな」
「夜の遅い時間だったからか、その会社を出た途端、俺は数人の男達に囲まれたんだ。もしかしたら、最初からつけられてたかもしれねぇ」
語り続ける店主に対して、当の削板は坦々麺を啜っている。顔はそんなことあったっけ?というような疑問符が張り付いていた。- 416 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/15(木) 00:26:05.96 ID:oPkVYrpO0
「ベタベタな展開だよあなた」
「しかも長そォだな」
「配達ごくろうさん、その売り上げ寄越せや、っていうセリフを言い終わらないうちに、突進してきた削さんによって、そいつらは彼方に吹っ飛ばされて俺は一難を逃れたんだ」
「意外にもすぐ終わったよあなた」
「相変わらずワケの分からねェ野郎だ」
「いやぁ、ワケが分からなかったけど、とにかくあん時の削さんはカッコ良かったよ!俺が女なら惚れてもおかしくなかったね」
店主は空になっていた削板のコップに水を足して「ねぇ?」と彼に相槌を求めたが、やはり削板はますます疑問符を顔に浮かべるだけで、はて?と首をかしげた。
「えぇぇぇぇぇぇ、削さん覚えてないの!?それが縁で俺んちの店の常連になってくれたじゃん!?」
「なるほど、だから俺はこのラーメン屋に通うようになったのか」
「えぇぇぇぇ…、えぇー…削さぁん…、削さんらしくて何も言えねぇ」
店主はしばし肩を落として項垂れていたが、すぐに背筋を伸ばすとコンロの前で再び調理に戻った。ある程度、削板軍覇という人となりに触れて、理解があるのかもしれない。
- 417 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/15(木) 00:29:33.20 ID:oPkVYrpO0
「うーん、これはソギイタに彼女が出来る云々以前に、改善するべき問題があるのかも、ってミサカはミサカは悩んでみる」
「くだらねェことに頭ァ使う前に、オマエはオベンキョウに集中しろよ」
「おい一方通行、自分が幸せだからって、こっちをぞんざいにするのは良くないぞ」
「あァ?やっぱり一丁前にカノジョが欲しいのか?ナンバーセブンは」
「そう、いう意味じゃねぇ。ただ俺は彼女がいても根性が鈍るとは限らないという末っ子の意見を尊重してだな」
辛そうな赤色を口の周りにつけたまま、削板は弁解する。彼女が欲しくない、というわけではないらしく、急に現実味を帯びてきた『まだ見ぬ恋人がいる自分』を意識してしまう。
「なんにせよ、まず相手だよ。ソギイタは好きな人いないの?ってミサカはミサカはそれが基本だと原点に立ち返った質問をしてみる」
「……好き、な人……」
第七位は両手を膝の上に置いて、ウーンと唸って考えた。一方通行と打ち止めは、彼からどんな返答があるのかと見守る。果たして第七位の心に浮かんでくる異性とは?- 418 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/15(木) 00:32:03.90 ID:oPkVYrpO0
「あ、麺がのびちまう」
「だめだコリャ、ってミサカはミサカはわざとらしく溜息をついてみたり」
「もうやめとけ」
「ううん、まだ桃色世界への可能性として、大きなポイントが残っている。ソギイタを好きな女の子がいるかもしれないってこと!」
打ち止めは既に食べ終わった一方通行の胸の前に身を乗り出す。青年は醤油味のスープが残った丼がひっくり返らぬよう、カウンターの上に片づけてやった。
「ねぇねぇ、さっきの話みたいに女の子を助けてあげたことはないの?それでお礼をさせてとか、連絡先を教えてとかさぁ。これ少女漫画でもお約束の恋のはじまりイベントだよ?」
「えー、どうだったかな?あったような…?んー?」
出前帰りのラーメン屋店主を助けた記憶を重要と思わない彼が、打ち止めの質問にきっぱりと答えられるだろうか。一方通行は打ち止めの頭を掴んでカウンターの正面に座り直させた。彼女の味噌ラーメンは、まだ少し残っている。
「早く食っちまえ。……大体な、…思うンだが、オマエが言ったようなトラブルは、どっかの三下が専任で請け負ってるンじゃねェの?」
この街で起こる、女性が巻き込まれるような事件や厄介事を全てあのツンツン頭の青年が解決しているなんて、そんな馬鹿なこと…と百パーセント笑い飛ばせない打ち止め。
「そ、そうかも…ってミサカはミサカはカミジョウの罪深さに今更ながら戦慄してみる。そのせいでソギイタみたいな健全な男子が彼女不足だなんて…」
「半分冗談だったンだが…」
「でもチャンスはきっとあるハズ!ってミサカはミサカは出会いを逃さないでね!とソギイタの正義感を信じて応援してみたり!」
「おうよ、応援ありがとうな!根性出てきたぜ!」
果たして彼に恋人ができる日が来るのだろうかと、一方通行は限りない困難に立ち向かおうとしている第七位を残して、打ち止めと共に店を出た。
- 419 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/15(木) 00:36:12.70 ID:oPkVYrpO0
少し離れた場所に停めたポルシェに戻るまで、打ち止めに左手を組まれて歩く青年。さっき、削板に恋人ができることを『困難』と評してしまったが、それは本来一方通行自身にこそ言えることだろう。
(俺は打ち止めと一緒にいられて…)
用意された絶望の中で、それに抗い自分を見つけてくれた少女。まさか、血にまみれる己に大切な女性ができるなどと、昔の自分が知ったら一体なんと言うだろう。
「ん?なぁにじっと見て、ってミサカはミサカはあなたのアツイ視線に気づいて見つめ返してみたり」
打ち止めが隣の青年を見上げる。前をしっかり確認できてない二人の歩みは、自然とゆっくりになった。
「いや…、俺は幸運だったな、と思ってよ」
「……大凶だったのに?ってミサカはミサカはあなたのおみくじについて記憶違いだったのかと初詣の思い出を蘇らせてみる」
「大凶じゃねェ、凶だ。悪くしてどォする」
一応睨んでやると、打ち止めはイタズラっ子のように笑った。ますます腕を絡めてもたれかかり、さすがに一方通行の体が傾いた。
「あなたが幸運なのは当たり前です。だってミサカがそばにいるんだもん」
「幸運って重ェな…」
「まぁ!失礼しちゃう!ってミサカはミサカは罰を与えるべくもーっとぶら下がってみたり!」
「あー幸せですゥー。だからヤメロって…」
美味しいラーメンで腹も心も一杯になった一方通行と打ち止め。
彼女の受験勉強の合間を縫ってのお出掛けであるため、受験終了までは、まだ心おきなくデートはし難いかもしれない。今日という機会を有効的に過ごすため、さてこれからどこへ行こうか…
- 431 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/18(日) 23:15:03.85 ID:yeJUHYer0
一方通行は知らなかった。打ち止めが受験勉強を頑張っているのが、自分(と黄泉川達)のためだったなんて。
『トップで合格してみせる!』『あは言っちゃった!もう後戻りできない!』
いつからそう考えていたのか。たった今、第七位のナンバーセブンとの会話の流れでサラっと宣言された。
(俺のために…ねェ)
だから、厳密には一方通行だけのためじゃないのだが…。
彼女を決意させた要因の多くは自分にある、とノロけられるぐらいには、一方通行も自惚れているのだ。
そう。今この第一位は、密かに喜んでいる。
(俺がいるからやる気が湧く、だとよ)
「あなた、何か良いことあった?笑ってない?ってミサカはミサカは横顔しか見えないけど、目を細めるあなたを笑顔と判断してみたり」
「ン?……何でもねェよ。それより、これからどこ行きてェンだ?」
ラーメン屋を後にし、二人はまたポルシェに乗って、あてのないドライブをしていた。
「えーと…どうしようね…」
「……、デパートにでも行くか?高校に入ったら要り用になるモンがあるンじゃないのか?」
「それはちょっとまだ気が早いよ、ってミサカはミサカはまだ合格さえしてないんだからと苦笑してみる」
「じゃァどこがいいンだよ」
「見たい映画も特にないし…、お外を散歩するのも寒いし…。むむむ、勉強のしすぎでデートのやり方を忘れてしまったかも」- 432 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/18(日) 23:25:12.19 ID:yeJUHYer0
助手席の打ち止めが、腕を組んで考え込む。
「………」
一方通行には、実は行きたい場所があった。しかし、大手を振って「行こう」とは言い難い。なぜなら、彼が望む場所とは、ずばりホテルだから。
(コイツが受験勉強でイロイロ耐えてる時に、俺から誘うのは気が引ける…)
「どこがいいかなぁ、ってミサカはミサカは……」
早く早く。早く思いついてくれ。でないと、どうしようもない男が、恋人を幻滅させるようなこを口走ってしまいそうだ。
打ち止めは携帯端末のデータ等を見て、目的地を決める助けにならないかと、次々に目で画像などを追っていく。
二、三分後、。ぱ、ぱ、ぱ、と早送りしていた指が止まり、いくつか巻き戻る。
その画面に映っていたのは、秋に保護した白い鳩の写真であった。
「わぁ、懐かしい!あなた見て、ハト子だよ!ってミサカはミサカはあなたとのツーショットもあるのよとケータイを突き付けてみる!」
「危ねェよ、運転中ですゥ」
「えへ、そうでした。…あ、……鳩見たい」
「は?」
「鳩見たいよぅ、ってミサカはミサカは愛しさと切なさと懐かしさで胸がいっぱいだと告げてみる」
可愛がったハト子の写真を見て、急に強い欲求が起こったようだ。鳩ならそこら辺の公園にいるだろうが、なにせ一月の冷たい風に受験生を浸らせるのは良くないし、至近距離で見ることも難しいだろう。
(普段なら、却下したくなるようなリクエストだけどな)
今はもうどこでも構わない。ポルシェを路肩に停め、一方通行は自分の携帯端末で検索をかけ、ナビの地図でルートを確認した。
「どこに連れていってくれるの~?」
「クソでっけェペットショップ」
そこに鳩がいるのか不明だが、とりあえず動物はたくさんいそうだった。
そのペットショップは期間限定で学園都市に出店していて、大型のドームを店として借り、様々な動物を取り扱っているらしい。一月いっぱいまでということで、今日その存在に気づけたのも何かの縁だ。
「素敵!!ってミサカはミサカはテンションが上がってきた!れっつごー!」
「へいへい。鳩がいなくても文句言うなよォ」- 433 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/18(日) 23:30:34.92 ID:yeJUHYer0
休日ということもあって、駐車場には車がそれなりに停まっていた。車を所有していない学生が多いこの街では、駐車場が半分近く埋まっていれば御の字だろう。
スキップするような足取りで、アホ毛を揺らして打ち止めが先行する。その楽しそうな後ろ姿に、一方通行の邪念が少し晴れた。
(はしゃいでくれて何よりだ。…いい息抜きになれば、今日はそれで良しとすっかァ)
まず入口に入ってすぐのスペースは、二人に馴染みの深い鳥類のコーナーであった。
「わおぉぉスゴイ!この鳥さんおっきいねぇ!?クチバシもご立派!ミサカの手なら全部口に入れられちゃいそう」
「この小っせェインコなンて食われちまうンじゃねェの?一緒のカゴに入れてていいンかよ」
「どう見ても肉食じゃないよ、ってミサカはミサカは小さき者に優しいあなたを安心させてみる」
端から順に巡っていくと、打ち止めが求めた鳩がいた。白い個体はいなかったが、この大きさ、耳に残る鳴き声、特徴的な首の動き…
「あぁ…やっぱりカワイイ。ハト子のこと思い出しちゃうなぁ、ってミサカはミサカはセンチメンタル」
「乗せるとあったけェンだよなァ」
「一番先に出てくる思い出がそれ?ってミサカはミサカはでも仕方ないのかと思い直してみたり。ハト子はいつもあなたの上でリラックスしてたもんね」
「お、…鳩のレースがあるンだとよ」
「レース?どれどれ…」
鳩が入っているカゴに取り付けられていた説明書のプレートを読む二人。数百キロメートルもの距離を飛び、その早さを競う鳩のレースがあるのだそうな。
「うちで飼ってたヤツを見た限りでは、こンなことできる鳥だとはとても信じらンねェわ」
「いつものほほんとして、ゴハンチョーダイって顔してたし、あなたのお腹や頭でじっとしてたし、ってミサカはミサカはフォローできなかったり…」
「ぽっぽっぽっぽっ!」
俺たちは違う!という主張のように、鳩達が騒ぎはじめたので、名残惜しいが次のコーナーヘと行くことになった。
ここに訪れるきっかけは鳩のためだったのだが、この広い空間に、普段は生で見ることができない動物たちがいると思うと、時間はたっぷりあるとはいえ足が速まってしまうのだ。- 434 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/18(日) 23:40:16.13 ID:yeJUHYer0
「にゃーん!猫だぁ!ってミサカはミサカはその愛らしさにメロメロになってみたりにゃーん」
「なンだコイツ。耳が無ェ」
「ぎゃぁあああああラブリー!お耳が丸くなってるっ。あ、見て、ミサカ達においでおいでしてるよ」
「引っ掻こォとしてるンじゃねェか?」
顔の高さに設置されている透明なプラスチックケースの向こうから、一匹の猫が二人の方へしきりに前足を繰り出してくる。
カリカリと爪がケースに当たり、これが肌に触れたらくすぐったいでは済まないな、という感想を持った冷静な第一位と、最早骨抜きの上位個体。
「ン?おい、あっちで猫さわれるらしいぞ」
「よし行こう」
「すげェ即答ォ…」
周りから仕切られた部屋の中で、自由に猫達と戯れることが出来るという。逃亡防止だろうか、二重になった扉を開け、人工芝が敷かれた二十畳ほどの小部屋の 中へ入る。仕切りとなっている壁は一メートル間隔で透明になっており、放されている猫たちと、彼らと遊ぶ客の様子が通路から見える仕様になっていた。
淡い期待を抱き、おそるおそる足を踏み入れた打ち止めだったが…
「あーぁ、やっぱりダメか…、ってミサカはミサカは逃げて行くニャンニャン達にさみしく手を振ってみたり」
「ナンバーセブンじゃねェが、電磁波なンぞ気にしない根性のある猫が一匹ぐれェいてもいいのにな」
オモチャや、大きな木をかたどった遊具で遊んでいた猫に打ち止めが近づくと、猫たちはサっと飛びのいて彼女から離れてしまう。
溜息をついて一方通行の左手に縋る打ち止め。せめてこの安心できる場所で、可愛い姿を、許してくれる距離から眺めよう。さみしい笑顔を浮かべる少女の頭を、一方通行はわざわざ杖を収納して右手で撫でた。
「………」
ところで、もちろんこの部屋は一方通行と打ち止めの二人きりではない。今日は休日なのだから、他にもしっかり人がいる。さらに、透明な壁の部分からは通行人もこちらを見たりするわけで、
「…おい、もォ行こうぜ…」
「え?もう次?」
「図太い神経してンなオマエ。周りの視線が痛ェンだよ」
「あ、あらら…失礼しました、ってミサカはミサカは照れ笑いでごまかしてみる」- 435 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/18(日) 23:46:25.02 ID:yeJUHYer0
次に二人が出会った動物は、
「全然動かねェ。生きてンのか?」
「ひゃーうひゃーぁぁぁ…、ぬるってしてるっ、ぬらってしてる…っ」
ここは爬虫類のコーナーである。じぃっとしてまったく動かない蛇を、鋭い眼差しで凝視する一方通行。この学園都市第一位のメンチ切りをかわすためには、爬虫類並みにならなければいけないのだろう。十秒ほどして、蛇はちょろりと舌を出して、にょろりと動き始めた。
「やっと動いた」
「……ふぅ…っふおぉ…」
一方通行の後ろから怖々と覗き込む打ち止め。嫌なら見なければいいのに。
「蛇も猫みたいにフワフワモコモコしてたらカワイイのかな?ってミサカはミサカは動物の可愛さの秘密は『毛』にあり!と予想してみる」
「それは最早爬虫類じゃねェよ」
他にも、イモリ、カエルなどの両生類も一緒のコーナーにいて、打ち止めはかろうじて小指の先ほどのミニカエルを直視できたのであった。
あと、客寄せだろうか、体長四メートルのニシキヘビが展示されており、ここまで大きいと感覚が麻痺するものなのか、打ち止めはポカンと口をあけて見つめていた。
「この写真の人、首に蛇巻いてるよ…」
「生写真じゃねェか。つーか、背景ここだよな?」
大きな展示用の檻の前で、体にニシキヘビを巻き付けてピースする人たちの写真が並んでいる。もしかして遊園地で、マスコットの着ぐるみと一緒に撮る記念写真と同じ趣旨なのだろうか。そう思った時、店員に連れられて、二人の高校生らしき男が近づいて来た。
「どちらの方から撮りますかー?」
「この馬鹿だけで。俺は見物です」
「四メートル!四メートル!フーゥ!」
あれよあれよと言う間に、店員はあっさり檻の鍵を開けて中に入り、蛇を掴んで出てくる。打ち止め達までの距離が、わずか数歩しかない所で、大きなニシキヘビが蠢いていた。
「……っっ!!あ、あなた…」
「落ち着けよ。大人しいモンだ」
「いつでも逃げられるように、ってミサカはミサカは腰を落として警戒のポーズをとってみる…」
「いや、これは俺を囮にして自分だけ助かるポーズだろ」
打ち止めはへっぴり腰で一方通行の上着を腰辺りで掴み、顔だけを背中から出している。はたから見るとすごく怪しい。- 436 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/18(日) 23:54:16.47 ID:yeJUHYer0
「あふぅ、この重み、この冷たさ、そして体表の滑らかさ…。快感だぜぇぇぇ…っ」
「はーい、撮りますよ笑ってー。…はいスネーク」
(今、チーズのかわりにスネークって言ったよねあの店員さん、ってミサカはミサカはこの人に同意を求めたいけど声を出す余裕がなかったり)
恍惚とした表情の男子高校生からヘビを取り外した店員が、ふと一方通行達に目をとめる。
「お客さんも記念に一枚どうですかー?」
スーパーの試食のように、店員がにこやかに蛇ネックレスをオススメしてくる。鳥肌立てて首を振る打ち止めと、そんな彼女を見降ろして、何か言いたげな青年。
「?あの、その視線はナニ?ってミサカはミサカは…まさか」
「俺は別に蛇嫌いじゃねェし」
「!!?ふぁ!?」
どォせだから撮るか?という意味である。奇声を上げた打ち止めのアホ毛がささくれ立った。
「ダメ!イヤ!もしそんなことしたら、ミサカもうあなたと手繋がない!抱きつかない!ってミサカはミサカは断固拒否!阻止!禁止ぃぃぃぃ!!」
「分かった分かった…」
こういうやり取りは、店員からしたら珍しいものじゃないのだろう。ニシキヘビを檻に戻すと、笑顔のまま「ではごゆっくり」と言って立ち去る。打ち止めも一方通行の手を引いて、危険な場所から足早に移動した。
- 448 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 22:41:27.77 ID:i0CCvDlZ0
金魚、熱帯魚を見て回った後、二人は犬のコーナーへやってきた。さすがペットの一番人気。展示面積も最大のようで、客も今まで見た中で最も集中していた。
「や、やっとモコモコに戻ってこれた…、ってミサカはミサカは蛇のダメージを引きずってみたり」
「犬か。キャンキャンやかましィ…」
「わーい、しょっぱなからかわうぃーよ。豆芝だって」
さっそく透明なケージの壁に張り付く打ち止め。中の子犬の尻尾と同じように、アホ毛が揺れている。
「きゃんきゃんわんくーん」
「はぁぁぁぁぁ連れて帰りたいぃ…、ってミサカはミサカは…!!」
少女の顔はすっかりトロけていた。このような光景は、水族館の幼児に多く見受けられる。
打ち止めが歩くそばから幼児化するので、中々進めない。特にミニチュアダクスフントの前では三分以上留まったため、ついに一方通行が引き剥がす必要まであった。
屋根の無い柵だけの檻に入っている犬達もたくさんいた。犬種も値段もディスプレイが無く、不思議に思って通りすがりの店員に訊くと、この一角の犬達は飼い犬で、トリミングされた後、飼い主のお迎えを待っているということだった。言われてみれば、成犬ばかりである。
「みんな人懐っこいからね。撫でてあげれば喜ぶよ」
「え、さわってもいいの?ってミサカはミサカはよその家のワンちゃんをかまえることに驚いてみる」
「はい。飼い主さんにあらかじめ待ち合い場所の希望は訊いてありますんで。奥の立ち入り禁止の部屋で待ってるコもいますけど、ごく僅かです」- 449 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 22:44:17.03 ID:i0CCvDlZ0
打ち止めは恐る恐る、一匹のビーグル犬へと手を伸ばした。彼女の手が柵を越える前に、ビーグルは後ろ足で立ち上がって匂いを嗅いでくる。
「わぉ、積極的ね、ってミサカはミサカはたじろいでみたり」
「…逃げねェな」
「う、うん」
「我々のトリミング店は、このドームの近くで通常営業してまして。今だけここで出張店舗やってるんですよ。協賛企画ってやつです。常連の犬達だから、人見知りはしないと思いますけど」
打ち止めには、この犬が人に慣れていようが、いまいが、関係無い事情がある。
犬は一瞬だけぴくりと鼻先を震わせたが、フンフンと鳴らした後、頭を撫でさせてくれた。時々上を向いて打ち止めの手を確認するような仕草をするのは、やはり彼女が発する微弱な電磁波のせいだろうか。しかし、それでもさわらせてくれた。
「あったかい…かわいい…」
心底嬉しそうな打ち止めと、それを見守る一方通行。そばで説明をしてくれた店員が、二人を(決して否定的な意味では無い)困った顔で眺めていたが、やがて仕事を思い出して離れて行った。- 450 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 22:46:54.99 ID:i0CCvDlZ0
「なんか、小さなコは特に電磁波に敏感みたい、ってミサカはミサカはネットワークで報告するべく情報収集に努めてみたり」
「確かに。デカイ犬ほどフレンドリーな傾向にある。アイツら俺の方まで乗り出してくるからな」
先ほど、実際に身軽な犬が、身を離す一方通行を追って柵をピョンと飛び越えてしまった。慌てた二人だったが、犬は逃げるでもなく、ただ嬉しそうに一方通行の足元で彼の匂いを嗅ぐだけだった。柵は簡単に開いたので、「おいで」と呼べば、大人しく自ら中に戻って行く。
「すごい、自分で入っていったよ。お利口さん!」
「利口といえば、利口…かァ?」
「ばいばーい、ってミサカはミサカはフリフリ尻尾に手を振ってみる」
「お、犬でもあるだろォとは思ってたぜ。打ち止め、見ろよ」
猫にふれあいコーナーがあったように、犬でも同様の部屋が用意されていた。広さは二倍ほどあり、小型犬から、大型の成犬まで、様々な犬種が中を走りまわっている。
打ち止めは一方通行を置いて走っていってしまい、苦笑して彼女を追う青年。- 451 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 22:52:57.98 ID:i0CCvDlZ0
人工芝の上に新たな人間が足を踏み入れた直後から、小さいの大きいの中っくらいのがワラワラ近寄ってきた。目を輝かせる打ち止めと、対応に困っている一方通行。
中には、打ち止めの周りをぐるぐる回ってから離れていく犬もいたが、「でんじは?なにソレ」という態度の犬が何匹か残っている。
「あー!!この喜びどうやって言葉にすればいいの…!?後でたっぷりネットワークで自慢してやるもん!ってミサカはミサカはキミのお腹をうりうりしてあげる~!」
やはり大きい犬種が懐いてくれる傾向が強いようだ。少女はお腹を見せてゴロンと転がるゴールデンレトリバーを、わしゃわしゃ撫でまくっている。
幸せそうな打ち止めに比べ、一方通行はというと…
(……くすぐってェ…。……ほれ、俺はオマエらにやれる愛想なンて無ェぞ。あっち行っとけ)
靴を脱いでいるので、踏まれる足や触れる鼻がくすぐったい。「撫でれ」というように、図々しく前足を膝にひっかけてくる怖いもの知らずを、シっシっ、と追い払おうとする一方通行。
(違う、じゃれてンじゃねェよ、この)
「?噛んでもいいの?遊んでくれるの?」と勘違いしたコーギーと紀州犬。犬だけど、笑っているような表情で、ぷらぷらする白い手に向かってジャンプジャーンプ。
(ったく馬鹿犬…っ、俺の手ェ噛もうってかァ?)
ぐるりと部屋を見回すと、犬用のオモチャが入った箱がすぐ背後にあり、一方通行は二匹の犬を引き連れて中を見に行く。適当に拾い上げた白いボールに、犬達の様子が一変した。
他に客もいるので、軽く転がすようにボールを放った。怖いもの知らずのコーギーと紀州犬は、争うように走りだす。
(やれやれ…)
床に置いてあった物や、若い女性客のお尻にぶつかって、ボールは不規則な軌跡を描いた。それを追って疾走する二匹に、周りから驚きの声が上がる。この広い とは言えない空間で犬にボールを放ればこうなると容易に想像できるので、みんな控えていたのだと、一方通行はやっと察したがすでに遅い。
(仕方ねェ、でもこれで落ち着けるだろ…)
そして、彼はこの後のお決まりの事態も、もちろん分かっていなかった。- 452 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 22:58:34.80 ID:i0CCvDlZ0
「オマエらなァ……」
「へっ」
「フンフン、へっ」
打ち止めの隣で、(子供用か?)小さい椅子に座って休憩に洒落込もうとしていた青年の足元に、さっき投げた白いボールがある。足の長さで勝ったのか、紀州犬が咥えて持って帰ってきたのだ。コーギーと共に、「もう一回!」と訴えているのは間違いない。
「あら?いつの間にかあなたもワンちゃんと遊んでたのね?ってミサカはミサカは珍しい光景に感動してみる」
「遊ンでねェよ…、困ってンだよ…」
紀州犬の尻尾に叩かれて、打ち止めがやっと恋人を振り返る。どう見ても、構ってあげて、さらに懐かれているようにしか思えない。
打ち止めが撫でていたゴールデンレトリバーが、背年が拾い上げたボールを見て起き上がる。青年はあわてて手を伸ばしてボールを箱に戻した。
「あーん、こっちのコまであなたに盗られちゃう、ってミサカはミサカは、まさかワンちゃんにまでモテモテのあなたに嫉妬を覚えてみたり」
「げ…、おい来るな」
「わふふん」
紀州犬よりもずっと大きなゴールデンは、もう持っていないのに、ボールを求めて一方通行の手に顔を近づける。逃げるように万歳しても追ってきて、届かない位置に手がいってしまうと、今度は一方通行の顔の匂いを嗅ぎ、べろっと舐めた。
「っ!?」
たまらず立って後ずさる青年。打ち止めは彼に代わってコーギーと紀州犬と遊んでいたが、決定的瞬間はばっちり目撃していた。遠慮もなにもない動物に、普段は周囲からとっつき難いと思われている一方通行が戸惑っている。その姿はとても面白く、愛おしいものだった。
「あなた、そんなに逃げなくても大丈夫だよ。こうやって撫でてあげれば喜ぶよ、ってミサカはミサカは目が点なあなたにアドバイスしてみる」
「………、はァ…」
そんなこと言われても…。
構ってもらえないことを察したのか、ゴールデンは舐めさせてくれる人間を求めて歩き出して行った。- 453 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 23:05:56.16 ID:i0CCvDlZ0
しばらくの間、一方通行は犬達と戯れる打ち止め見て過ごした。どの人も少女のように各々犬と触れ合って楽しんでいたが、何気なく見渡した室内に一人で、いや、一匹だけでウロウロする白い影を発見した。
(…確か…、シベリアンハスキー、だったか?)
わりと有名な犬種なので、一方通行も知っていた。そのハスキー犬は、人間に近づいては離れ、近寄っては逃げられ、を繰り返していた。
(なンで人に逃げられてンだ?)
ふと、ハスキーが一方通行の方に顔を向けた。
(……なるほど)
怖い。顔が。
細く釣り上がった目。つんと立った大きな耳。真っ白な体には、目の上と耳の端、背中の一部と尻尾だけ灰色の模様。狼を彷彿とさせるシルエットは可愛いとは 言えず、ワイルドという表現がしっくりくる。先程、顔を舐められたゴールデンレトリバー並みに大きいのも要因か。今も子供たちと無邪気に遊んでいる愛嬌 たっぷりのそのゴールデンとは、対照的な雰囲気だった。
ちょっと気になったので、十メートル以上も離れた所から、さらに観察を続けた。ハスキーが近づけば、子供はあからさまにビクついてしまい、大人は軽く撫でてやるだけで、彼(一方通行はなぜかオスだと思った)からすぐ視線を外してしまう。
トコトコと、ハスキーがこちらに歩いて来て距離が縮まり、さらに目が離せなくなった。
(おいおい…)
- 454 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 23:10:00.71 ID:i0CCvDlZ0
「あのコ、あなたにソックリね、ってミサカはミサカはあなたの心の中を読んでみる」
いつの間にか打ち止めが隣に立って、同じハスキーを目で追っている。彼女が言葉を発するまで、隣にいることに気づかないほど、一方通行はあの犬に見入っていたらしい。
それほど、近づいてきたハスキー犬の目が赤いことに驚いてしまった。白い体といい、まるで一方通行と同じようなカラーリングではないか。
「あァ…」
おどけた風に両目を指さす打ち止めに、素直に相槌を打つ。
「おや、ミサカたちのこと見てるよ」
二人してその犬に視線を向けていたので、さすがにあちらも一方通行達に気づいたようだ。打ち止めは、まだじいっと犬を観察するだけの一方通行の様子を確認してから、床に膝をついて「おいでおいで」と招き寄せた。
「……わんっ」
ハスキーは二、三秒の後に、小走りで駆けてくる。まず両手を広げて迎えてくれた少女の胸に飛び込み、次いで隣の青年を見上げた。
「う~ん、近くで見ると、ますますのソックリ具合ですなぁ、ってミサカはミサカはあなたの弟ですかとツッコんでみたり」
「アホ、似てンのは配色だけだろォが」
「わう」
「だよねぇ、似てるよねぇ?ってミサカはミサカは犬語を理解してみる」
「あう」
「ねー」
「言ってろ」- 455 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 23:11:59.59 ID:i0CCvDlZ0
だらんと垂れていた尻尾は、今は勢いよく左右に振られ風を感じるほどだった。行儀よくおすわりをしたハスキー犬は、優しい少女に頭や体を撫でられて、いたくご機嫌である。時々一方通行の顔を伺ってくるが、目を合わせるだけで、青年から手が伸びてくることはない。
「コイツは何で俺の方見てンだ?」
「あなたにもさわって欲しいからだと思う、ってミサカはミサカはそんな分かりきったこと訊くあなたに溜息ついてみたり」
言葉が分からない犬の気持ちなど、どうして分かりようがあろうか。責めるような表情の打ち止めに、一方通行はそう思いながらも反論できない。
「ほら…ふわふわでキモチいいから…」
精一杯冷たい口調でけしかけてみた打ち止めだったが、それでも一方通行が動こうとしないので、彼の手を握ってハスキーの頭へ導く。
「どう?」
「…毛」
「どういう感想ですかそれは、ってミサカはミサカはたった一文字で反応されるとは予想外だと呆れてみる…」
「あうぅ」
呆れたが、ハスキーはやっと構ってもらえて嬉しそうだし、打ち止めが青年の手を離しても撫で続けてあげているので、自然と笑みがこぼれる少女なのだった。- 456 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 23:19:14.63 ID:i0CCvDlZ0
小さな椅子に座る一方通行の膝の上に顎を置いて、気持ちよさそうに赤い目を細めるシベリアンハスキー。青年は頭だけでなく耳の裏や眉間も掻くように撫でてくれる。いちいち彼の手の方へ顔を押しつけて、危うく膝から顎を落としそうになっている。
(あーらら、すっかり仲良しさんになっちゃって…、ってミサカはミサカは羨む心を押しとどめてカメラマンに徹してみる)
携帯端末のカメラ、ムービーモードで記録。ミサカネットワークに記録。もちろん今この瞬間の光景も、心にしっかり焼きつける。
(足が痺れたな…)
一方通行が立ちあがると、ハスキーは至極残念そうに彼を見上げた。知り合って(?)半時間も経っていないのに、なぜか今は一方通行も犬の心が分かる。
(ンな顔するなって…)
なんとこの青年、犬の表情まで読めるようになってしまった。
すぐに床にあぐらをかいて、ぽんぽんと膝に呼ぶ。間髪いれず、ハスキーがまた顎を乗せに来た。犬は知る由もないが、本来はおいそれとお目にかかれない学園都市第一位の足を枕にするイヌ科イヌ目。リラックスしきってゴロリと転がれば、長い鼻が青年の腹にぶつかった。
(あー、ミサカだってあんなに甘えたことないんじゃない!?ってミサカはミサカは今度真似しようと目論んでみる)
仰向けになった顎の裏、腹もゴシゴシ、カリカリしてやると、つい後ろ脚が反応して動かしてしまうハスキー。自分でかゆい所を掻く時の状況を思い出しているのだろう。
空を切るだけのその足を見て、「くくっ」と一方通行の喉から笑いが漏れる。
「あうわう」
「がうー、ってミサカはミサカは流石にイチャつきすぎだと隠す気もない嫉妬の炎でメラメラ燃えてみる」
「………」
恋人の存在を忘れ、迂闊にも犬に夢中になってしまった。だって思いのほか可愛くて楽しかったもんだから。柄にもない姿を晒してしまった一方通行は、わざとらしく咳払いをして、ハスキーとは反対の膝に手をつく打ち止めの頭をぐりぐり撫でた。
「クン」
「いいのよ、ハスキーちゃん。ミサカは後でオトシマエつけてもらうから、ってミサカはミサカは君のポーズをキープさせてみたり」- 457 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 23:22:04.49 ID:i0CCvDlZ0
先程ボールをしまった箱の中には、まだ色々なオモチャが収まっていた。もうボールを投げるわけにはいかないので、三十センチほどの綱引き用の紐で戯れてみることにする。
「ふぐぬぬぬぬうぅ……スゴイ力だぁぁぁ、ってミサカはミサきゃん!あわ!ちょ、ブンブンしちゃあぁぁぁあ!うわっ」
「おい、パンツ丸見えェ」
「うぎゃ!」
「わんっ」
奮闘虚しく、引っ張りっこに負けてしまった打ち止め。尻もちをついた拍子に捲れあがったスカートを慌てて直す。頬を膨らませて一方通行を睨み、床に落ちた紐を彼にグイと差し出す。
「俺かよ…」
「だってミサカじゃ太刀打ちできないもん」
「わうわう!」
青年が紐を掲げた途端、ハスキーはガブっと噛みついていざ勝負。一方通行が平均より細いとはいえ、そこはさすがに成人男性。床に座っていることもあり、片手でハスキーと綱引きするのは容易いことだった。
「ハフ、ハフっ」
「おォ、本当にすげェ力だな…」
「ね?ミサカが負けちゃうのもしょうがないでしょ?ってミサカはミサカは自己弁護してみたり」- 458 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 23:26:22.51 ID:i0CCvDlZ0
こうしてシベリアンハスキーと遊んで過ごすこと、さらに一時間近く。二人と一匹を、小学生ぐらいの兄妹らしき子供達が見ていた。
「ん?どしたのそこのおチビちゃん達、ってミサカはミサカは殊更にお姉さんぶって話かけてみる」
「…かわいいねぇ」
「うん、かわいー。しろーい、おおきーい」
「あぅ?」
打ち止めに声をかけられて、遠巻きに見るだけだった子供が手を繋いだまま近づいてくる。一方通行はハスキーの顔を撫でていた手を止め、首根っこを掴むようにして、犬に二人の方を向かせた。
「……おら、新しい遊び相手だぞ」
小さな子供たちは、最初は怖々と、やがて笑顔で白い体を撫ではじめた。床に伏せたまま、ハスキーの尻尾は大きく左右に動く。ぱったん、ぱったんという音を聞いて、よっこらしょ、と立ち上がる一方通行。
「…そろそろ行くか」
「うん、…行こうか、ってミサカはミサカは後ろ髪引かれすぎだけど気丈に振舞ってみたり」
そっと離れたつももりだったが、部屋を出るところで後ろから既に耳慣れた足音が追いかけてくる。「えーー」という顔でハスキーが二人を見ていた。
軽く犬の頭に手を置いて、一方通行は先に通路に出る。振り返るとドアのガラス越しに、打ち止めが犬にぎゅっと抱きついていた。
このひと時で、すっかり情が湧いてしまっていた。
(そりゃ俺にも言えるか…)- 459 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/21(水) 23:30:25.33 ID:i0CCvDlZ0
「あーぁ、かわいい分、別れる時のダメージが大きいね…」
打ち止めのしな垂れるアホ毛が痛々しい。
駐車場に戻ると、外は夕暮れになろうとしていた。一方通行はポルシェの前で、打ち止めの背中を励ますように叩く。
「このペットショップは一月いっぱい…、次の週末までだ」
「…だから?ってミサカはミサカは…」
「来週、もう一回来るかァ?」
「っ、うん!」
一気に上機嫌になった助手席の打ち止め。シートベルトを締めながら、青年も次の休日を密かに心待ちに思う。
「さて、そンじゃ帰るとしますかねェ」
「え?帰るの?家庭教師代のツケは払わなくていいの?」
「………」
そういえば、そんな話を一昨日したような。いや、でも、しかし…
「ヨミカワとヨシカワには、今日はあなたとデートで晩御飯も外で食べるって伝えてあるけど」
「………」
そういうことなら。
「二人ともチクショーって言って、今日はオトナのオンナ水入らずで、近くの和族で飲みまくるそうです、ってミサカはミサカは勝手に予定を組んでいたことを告げてみる。迷惑だった…?」
迷惑なんて、そんなこと思うわけないだろう。
「利子も返せよォ?」
「なんの、あなたこそさっきのオトシマエつけてよね」
ぶぉん、ぶぉん、とうるさいポルシェのエンジン音。マフラーから昇り立つ白い水蒸気が、犬が振っている尻尾に見えないこともない。
- 460 :ブラジャーの人 [sage]:2011/12/21(水) 23:36:47.17 ID:i0CCvDlZ0
- 受験勉強とその息抜きをする通行止めの巻 完
犬、大っっっ好きなんじゃぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!特に大きいのが、もふもふもふわふわふふもっふ。
経験上、あいつらなら打ち止めの電気など屁ぇとも思わないんじゃないかな?と思う。震度3でも寝続けるもの。野生など皆無だったもの。
ところで、どこが受験勉強なんでしょうね?いやいや、書いてないところでは励んでますから、きっと。 - 461 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 23:44:25.98 ID:phggzGkS0
- やだ・・・一方さんかわいい・・・
- 462 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 23:47:38.59 ID:FCgHI8Kr0
- 思わず家の愛犬(故)のことを思い出してしまった……
わんこと戯れる一方さんに超癒されました!! - 463 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/22(木) 00:17:55.59 ID:BLbc2uRIO
- おつ
なんかいろいろかわいすぎる
- 479 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/26(月) 01:14:23.75 ID:Sd30CJSi0
二月に入り、ここ黄泉川家では番外個体も含めて夕食の後に節分の行事が行われた。今年の鬼は、ジャンケンで負けた黄泉川愛穂である。とは言っても、軽く豆をぶつけてはしゃぐだけなので、それほど苦になる役じゃない。
ちなみに五年前に初めて節分をやった時には、一方通行が鬼になってしまい、彼はたかが豆を数十個ぶつけられるのをしゃくに思って『反射』を使い、大いにひんしゅくを買った。
「さて、鬼は追い払ったし、みんなで豆を食べましょうか」
リビングの炬燵の上に皿を置き、そこから各自豆を数えていく。芳川が、やり易いように蜜柑が入っていた器にも豆を移し、子供達の方へ差し向けてやる。打ち止めと番外個体の手が豆を掴んだあと、億劫そうに一方通行も数えはじめた。
「年の数だけ食べると、その年は病気しないっていうじゃん。ちゃんと数えるように」
「そうよ、特に打ち止めは受験生なのだから、やれることは全てやっておきましょう」
「はーい、ってミサカはミサカは十五個ゲットだぜ」
「おい芳川、科学者がそンな迷信に振り回されていいのかァ?」
- 480 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/26(月) 01:18:35.47 ID:Sd30CJSi0
豪快に豆を口に放りこみ、さっさと二十一個食べ終えた青年が訊く。ひとつひとつ丁寧に口に豆を運んでいた芳川は、右手に座る打ち止めに微笑んだ。
「いいじゃない、打ち止めが勉強を頑張っている時くらい迷信に縋ったって。それに、こういう象徴的な行いをした…、という事実が、案外身体に良い影響を与えるものよ」
一方通行に次いで、豆を完食した番外個体が、避けられた蜜柑に手を伸ばす。皮をを剥きながら悪気も何もなく、思ったことを言った。
「つーか、ミサカ達って一応書類上の年齢と同じ数食べてるけどさ、出自が出自なだけに、いくつ食べるのが適当なのか判然としないんだよね。毎年感じてるけど」
打ち止めの口が動きを止める。芳川も一瞬戸惑ったような表情を浮かべた。
「それはそうだけど、私はやはり肉体の年齢で自己を定義していくのがいいと思うわ。心は体と密接な関係にあるのだし」
「まーどっちでもいーんだけどね。二十一個でも、五個でも。ミサカはミサカだもん」
打ち止めは手を開いて、残りの豆を見た。十五個取って、残りは六個。すでに九年分を消費してしまった。今更やっぱ五個だよね、と言われても修正が効かない。第一それはしたくない。
「気にすンな、早くそれも食っちまえ」
隣の青年が、少女の心を読んだように助け舟を出してくれた。
「ほーほー、打ち止めは十五歳。番外個体は二十一歳。ほれでいいじゃん。小難しいことは置いといて、むぐ、そうやって実感していけばいいじゃんよ」
行儀悪く豆を噛みながら、黄泉川も少女を後押しする。頷いた少女は、残りの豆を一気に口に入れて噛みしめた。今はもう中学三年生の十五歳として生きていくのだ。そう決めたのだ。
- 481 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/26(月) 01:20:33.30 ID:Sd30CJSi0
「この行事にあやかって、みんなが健康に過ごせるといいわね。特に打ち止めは、受験が終わるまではくれぐれも効いてくれることを祈るわ」
「自分でちゃんと体調管理するじゃん?一方通行と番外個体も気をつけて見ててあげるじゃんよ」
「ハイハイ分かってますよォ」
「ミサカが見なくても、他の妹達が勝手に色々やるし大丈夫だって」
打ち止めが志望校へのトップ合格を狙っていると知り、保護者達は俄然応援モードになっていた。その理由を訊いた一方通行も嬉しいと思ったが、それは黄泉 川、芳川も同じだったらしい。一方通行が不在の時には、芳川も少女の勉強中に家庭教師を買って出ることがあるそうだ。もっとも、いざとなったらミサカネッ トワークで容易に調べられるので積極的ではない。
「なんだかみんなに心配されて感激ってミサカはミサカは気合いを注入してみたり」
「それはいいことだけど、無理にプレッシャーに感じることないじゃん?打ち止めが出来る範囲で頑張れるとこまででいいじゃんよ」
「うん。暖かい声援を受けて、ミサカは静かな闘志を燃やしてみる。めらめら」- 482 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/26(月) 01:22:38.83 ID:Sd30CJSi0
深夜、リビングの炬燵でいつもどおりに問題集に向き合っていた打ち止めの元に、番外個体がやってきた。今夜は黄泉川家に泊まっていくとのことで、お肌のお 手入れを終え、もう後は寝るだけという状態だ。荒れやすい指先にクリームを刷りこみながら、少女の横へと体を潜り込ませた。
「調子はどうよ、最終信号」
「ありがと、大丈夫だよ、ってミサカはミサカは番外個体の気遣いに笑顔というお礼で応えてみたり」
「別に、あんだけ期待されて実際に一位合格できなかったらカッコ悪すぎると思ってさ」
「やっぱりヨミカワもヨシカワも期待してるかなぁ…、ってミサカはミサカは宣言したことを少しだけ後悔してみる…」
一方通行に宣言した翌日、さっそく保護者達にも「頑張ってトップを取るね」と告げた。その場はただ「へぇ」で済ませられていたが、どうやらその後一方通行から何か聞いたらしく、色々と勉強の世話を焼かれるようになったのだ。
(きっとあの人が、ソギイタと話した時の事喋ったのね。ヨミカワ達、ミサカの考えてること喜んでくれてるんだな…)
(体育)教師の黄泉川、学園都市第一位である一方通行、そして芳川も一流の科学者である。そんな家族と同居していて、不甲斐ない成績は残せないという打ち止めのやる気に、少なからず感動を覚えた保護者達であった。
- 483 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/26(月) 01:26:13.60 ID:Sd30CJSi0
「今はナニやってんの?…国語か」
「漢字だよ。番外個体はこれ読める?」
問題集を覗き込む番外個体。打ち止めは妹の前に本をずらし、一か所をシャーペンで指し示した。
「…しののめ、はえ、こち…」
「おぉ、せいかーい」
「ナメんなよ、中学生」
しばしお勉強に付き合っていた番外個体だったが、不意に問題集を打ち止めの前に返して立ち上がった。わざとらしくあくびをひとつ。
「ふぁー…、ミサカは今日もバイトで疲れたから寝るよ。そろそろ部屋の暖房も充分効いた頃だろうし。最終信号が来るまでつけとくから消しといてね」
「分かった。ミサカはまだ社会科もやりたいから…。おやすみ、番外個体。付き合ってくれてありがとうね」- 484 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/26(月) 01:28:30.00 ID:Sd30CJSi0
番外個体が退室して数分後、いつも最後に風呂に行く一方通行がリビングに入ってきた。
「やってるか?」
「やってるよ先生、ってミサカはミサカは真面目な子」
一方通行はタオルで髪をぬぐい、それを肩にかけて、さっきまで番外個体が座っていた少女の横に腰を落ち着けた。いつもの、夜のお勉強の時間である。
保護者達も部屋に戻り、二人きりのリビングでこうして過ごすのが、最近のお決まりだった。
別に付きっきりじゃなくても、打ち止めの自習に大きな支障は無いが、それでも一方通行は家庭教師を務めている。打ち止めも、彼が横にいるとペンが進むと言って大いに甘えていた。
「今ね、番外個体もミサカの勉強みてくれたんだよ」
「……ほォ」
「先生がたくさんいて、ミサカは幸せ者ですなー、ってミサカはミサカはより一層励んでみたり」
「………」
番外個体は、一方通行が風呂から上がる頃合いを見計らって席を外したのだろうか。邪推かもしれないし、本当に偶然かもしれない。
(ま、もォどっちでもいいか)
考えても詮無いことだ。思考を切り替え、一方通行は彼女の解く問題に集中しはじめた。- 485 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/26(月) 01:31:02.73 ID:Sd30CJSi0
一時間後、きりのいい所まで進んだので休憩を取ることにした。二人でお茶を飲み、背伸びをする。一方通行はそのまま後ろに倒れ、絨毯に寝転がった。
「ミサカもゴロンと失礼しまーす」
青年の真似をして少女も体を横たえる。自分の頭の下に一方通行の腕が宛がわれるであろうことに、いささかも疑いを持たない。
「炬燵で寝ないように気を付けなきゃね、ってミサカはミサカは二人してヨミカワに怒られた数日前を思い出してみる」
「…あれは一時間だけ仮眠を取るつもりだったンだ。たまたまアイツが夜中にそれに遭遇しただけだ」
「とても言い訳くさい。…今日はこれぐらいで終わりにしておこうか?」
「そォだな…」
勉強が終わっても、一方通行が部屋へ戻る様子はない。打ち止めも。
少女はよいしょ、よいしょ、と体を動かし、青年の胸に顔を寄せた。反対側にあった腕に肩を抱かれて、自然と笑みが浮かんでしまう。こうして、何も言わずともお互いの心が分かる瞬間がたまらなく嬉しい。
「受験が終わったら、あなたにどんなお礼をすればいい?ってミサカはミサカはリクエストを募集してみる」
「礼が欲しくてやってるワケじゃねェよ」
囁くような会話。くぐもる声が体に響く。
「じゃあミサカが勝手にあなたに何かするね」
「好きにしろ…。くれぐれも怪我とかすンなよ」
「大丈夫です、ってミサカはミサカは一応言っておきます」
「一応かよォ…」
- 486 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/26(月) 01:33:11.30 ID:Sd30CJSi0
今夜は番外個体がいるので、打ち止めはきっと自室で寝るはずだ。だから、もう少し炬燵でくっついていたいと思う一方通行の目に、ある物が映る。夕食後に、黄泉川にぶつけた物の拾い残しであろう大豆だった。
それを見たら、豆の数に動揺していたような打ち止めの様子を思い出した。
「オマエ、そンなに年の差が気になるか?」
「……、うん」
かなり間を置いて、打ち止めが腕の中で頷く。
「焦らなくていいって言っただろォが…」
「…うん。でもミサカの心が自然と悩んじゃうの、ってミサカはミサカは乙女心に翻弄されていることを素直に明かしてみたり」
「………」
「あなたとこうしていられるようになった後も、時々なんだか焦っちゃって…。早くオトナになりたいよ。子供でいたくない…」
打ち止めが一方通行のために背伸びすることを嬉しいと思う青年だったが、そこには同時にもどかしさも僅かに混ざっている。どうして大丈夫だと完全に信じられないのだろうか。
それは一方通行が渡している証明や誓いが足りないからである。彼も薄々分かってはいた。
(もうちょっと、言わなきゃだめかァ…?)- 487 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/26(月) 01:38:14.42 ID:Sd30CJSi0
青年は枕としていなかった腕で、少女の背中を撫でた。
「コドモねェ…。ふゥン…?」
「?あ、ちょっと…」
幾度か往復し、やがて上着の中、パジャマの中に手を滑り込ませる。滑らかな背中。中心の背骨を中指、薬指でなぞり、ブラジャーがされていなにことを確かめる。
「最近着けてねェのは何でだ?」
「…その方があなたが喜ぶかなと思って…ってミサカはミサカは寝苦しいという理由もあると付け足してみたり」
「…だから、子供は普通そンな事考えねェってンだよ」
風呂上がりにブラジャーを着けるのを止めたのが、一方通行のためだという。少々、いや、かなり気まずい。しかし「触りやすい」と、素直に肯定する自分がいることも確かである。
お言葉に甘えた青年は、背中にあった手を腹へと持っていく。
期待か躊躇いか、少女の体が弓なりに反れた。
(触りやすくなるだけなンだが)
人が歩く時のように、人差し指と中指を人間の足に見立てて登らせていく。
「……あ、あなた」
「なァ…、どォこが子供だよ」
脇腹を床につけて寝る打ち止めの胸は、右と左がすっかり寄せ合わされている。もはや谷間という表現では足りないほどに密着した肉と肉の間に指を埋めていっ た。胸板にチョップをするように手を当てたのに、小指、薬指、中指、人差し指が完全に閉じ込められてしまう。心地よい圧迫に、口の端が持ち上がる青年。
「つ、つまりミサカは既にあなたキラーな魅惑のレディーってことなの?ってミサカはミサカはあなたの言いたいことを代弁してみる」
「どォしてそう両極端な思考なンだよ。立派なオトナです、とは言えねェが、『コレ』で子供って無理があンぞ」
余っていた親指で、硬さを持ち始めていた頂きをくすぐってやる。
「や…、ぁ…はぁ」
「子供はそンな声で鳴きはしねェ。ったく嬉しそォな顔しやがって…」
「っ、いじわる~、ってミサカはミサカは」
「こら声気をつけろ…。……俺はそォいうオマエがいい、って意味だ」
「あ、そ、うですか。ありがとう…ございます?」
「だから、いちいち落ち込ンだりするな…、打ち止め…」
「ん、…ん」
炬燵テーブルの上に置かれたままのお茶がすっかり冷えるまで、一方通行は得々と、キスと指で説いて聞かせるのだった。
如何に自分が、現状のままの少女に満足しているかを。
- 488 :ブラジャーの人 [sage]:2011/12/26(月) 01:42:16.06 ID:Sd30CJSi0
- 節分の日の通行止めの巻 完
もうすぐ春ですね。
あーもう、おっぱいの部分だけスラスラ書ける。自分の変態性を認識させられて、ガッカリしてしまう… - 489 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 01:45:44.93 ID:I1Y3ooOIO
- ?「天国から乙なのよな」
ところで黄泉川と芳川の豆の数はやっぱ40個以jうわなにをするやめ - 490 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 01:50:59.30 ID:3Byws6VEo
- 一方さんがおっぱい星人なおかげでしょっちゅう打ち止めのおっぱいを堪能できるので幸せです!
アザーッス!
……別に悔しくなんかないやい
- 499 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/28(水) 03:07:02.33 ID:XT1TelJe0
「受験票持ったか」
「持ったよー」
「筆記用具は?」
「えーと…あるよー」
「弁当はァ?空腹で午後か」
「あるある。ヨミカワが作ってくれたトンカツ弁当があるってば」
「……そォか…」
「あの、もう行っていいかな?ってミサカはミサカは終わらない忘れ物チェックに本番前だというのに疲労を感じてみたり」
「ン…、じゃ終わったら呼べ」
ここは打ち止めが受験をする高校の来客用駐車場。そこに止めたポルシェの中で、送って来た一方通行と、送られてきた打ち止めは話をしていた。あと一時間で 入学試験が行われる。打ち止めの体が冷えないようにと、暖房を効かすためにエンジンを切らずに停車しているのでやかましい。後ろの壁に音が反響している し。
「こんなに家から近いんだから大丈夫なんだけど……。分かった電話するね、ってミサカはミサカは応援してくれるあなたやヨミカワ達を励みに頑張ると誓ってみる」
うるさくてみんな見てるから早く行って、と急かされ、一方通行はマンションへ帰った。誰も居ない自宅に戻り、テレビをつけて……消す。缶コーヒーを冷蔵庫から取り出して、一口飲んだだけで置く。そういえばまだ暖房をつけていなかったので寒い。
(………落ち着かねェ)
おかしい。打ち止めの高校受験なんて、最初は全然気にしていなかったのに。いつの間にやら番外個体も含めて、がっちり応援モードになってしまった。昨日は 珍しく、その番外個体からメールが来て「明日は試験会場まで送って行けよ親御さん。あゴメン彼氏さんかwww」と言われた。ムカついた一方通行だったが、 もとより送迎はするつもりであった。
(あと少しで始まるな)
時計を確認してから、つけたばかりの暖房を消し、青年は自室へ。もう考えるのは疲れるから、寝る。
- 500 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/28(水) 03:12:02.83 ID:XT1TelJe0
(わーぉ、あの人との勉強ライフのおかげかな?ってミサカはミサカは走り出すペンの滑らかさに絶好調を実感してみたり)
冬休み明けからの勉強が成果を出しているのか、試験に臨む打ち止めは順調に問題を解いていった。周りではライバル達が、鉛筆を止めて熟考する気配がするのに、少女はスラスラと澱みなく回答を記入していく。
(これは…もしや、マジで主席合格四日前?)
残り時間があと三十分もあるのに、全て解いてしまった数学のテストを見つめる少女。いくら見直しても、間違えている箇所はなさそうだ。
(国語も社会も、一個か二個間違えてただけだもんね。あと二つ、お昼の後に頑張れば本当にミサカがトップ合格かも!)
一科目終わり休憩時間になる度、待ってましたと言わんばかりに、世界中から妹達の答え合わせが始まる。今のところ二科目で三か所の不正解があるだけだった。
(みんな、このテスト見てウズウズしてるのかなぁ。ミサカは完璧だぜ、と悦に入ってるけど、『上位個体そこぉぉぉぉ!間違えてるぅぅぅ』って悶えてたりして)
一方通行達と同じく打ち止めの高校受験を、心配し、応援する妹達に採点された二科目の結果は至極順調である。自分を奮い立たせるために掲げた『トップ合格』が、現実の物となってきて、そうとなれば落ち着いていた心が急にソワソワしてきてしまう。
(もし本当にトップだったらどうしよう、ってミサカはミサカは……今は試験に集中するべきだからと頭を振って思考を切り替えてみる)
チャイムが鳴り、解答用紙が集められる。早速ミサカネットワークに下位個体からのアクセスが集中し始めた。- 501 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/28(水) 03:15:03.10 ID:XT1TelJe0
『お疲れ様です上位個体、とミサカ一〇〇三二号はもっともらしくねぎらいの言葉を述べてみます』
『今の数学のテストの答え合わせですが、とミサカ一二七八四号は』
『待って待って待って!ってミサカはミサカはストーップ!!制止を求めてみたり』
『何ですか?とミサカ一九七三六号は眠い目を擦りながら要求に応えます』
『あ、そっち今真夜中なんだね。わざわざ起きて見守らなくても大丈夫だよ?ってミサカはミサカは恐縮してみる』
『さっきから他のミサカたちもそう言っているのですが聞きゃしねぇので放っておいて下さい、とミサカ一〇〇三二号はそれよりも、上司が我々を止めた理由は何かと尋ねます』
三科目終わり、これから一時間のお昼休憩となる。周囲では、昼食を机に広げる者、教室から出て行く物、参考書やノートを開いて最後まで勉強に励む物など様々だ。
数人の生徒が、座ったまま何もしようとしない打ち止めを不思議そうに見ていたが、今はライバルに気を取られている場合じゃないので、すぐ視線を元に戻す。- 502 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/28(水) 03:19:14.70 ID:XT1TelJe0
『ミサカの試験の結果なんだけど、もしかしたら本当に主席合格できそうじゃない?』
『そうですね、現にこの数学の』
『だぁぁぁぁ!!言わないで緊張する!ってミサカはミサカはプレッシャーを回避するために、みんなに家に帰るまで答え合わせを待ってほしいとお願いしてみる!』
ガバ、と頭を抱えて机を揺らす少女に注目が集まる。ナニあの子…と不審そうな表情の男子生徒が、その直後頬を染める。その数三人。
『なるほど。このヘタレが、とミサカ一六六六九号は度胸の無い上位個体を可愛く思いつつ、希望に添うつもりだとを報告します』
『でしたらいっそ、試験が終わるまでは感覚共有を切っておいては?ミサカ達も気になってしまうので、どうしても喋りたくなりますから、とミサカ一二七八四号は進言します』
『えー、でもー、終わったらすぐ結果知りたいもん。このまま感覚共有は続けて、みんなはミサカにだけ何も言わないでおいて?ってミサカはミサカは都合のいいお願いをしてみる』
『このワガママ上司め。ミサカ達にだけ我慢と忍耐を求めやがりましたよ、とミサカ一〇〇三二号は焦らしプレイなど、どこで覚えてきたと追及します』
試験の結果は、四日後に発表される。それまで待たなくても、こうして下位個体にチェックしておいてもらえば、今日の試験が終了次第、自分の点数が分かるので、ある程度見当がつく。
『そんなこと言わないで、ってミサカはミサカは人生の一大イベントだから多少の無理は聞いてもらえるであろうことを見越してみたり』
結局『しょーがねーなー、とミサカ○○号は…』と、妹の要望を承諾した数千人の姉達なのであった。
- 510 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/31(土) 15:07:43.44 ID:iouLPri10
「おぉ…さすがヨミカワのトンカツ…。作ってから数時間が経っているというのにカリっとサクっとジューシー。学園都市の炊飯器の力も関係してるのかなぁ…」
「御坂、カツを見つめてうっとりとは余裕じゃのう。国、社、数、どうだった?」
打ち止めがやっと机に弁当を広げた頃、同じ中学に通うクラスメイトの女子が話かけに来た。彼女はもう昼食を終えて、打ち止めの様子はどうだろうと、他の教室から見に来たらしい。
「んむんう」
「食べてから返事しなよ。つーかまだ食べてなかったとは驚きだよ」
「……ミサカは絶好調だよ!このまま逃げ切って…ぐふふ、一位合格も夢じゃないかも、ってミサカはミサカは野望実現が近いことを明かしてみたり…」
「まじでー?急に勉強に力入れ出したと思ったら本当に…?まぁ、この偏差値の高校なら、御坂は元から余裕だしね」
打ち止めはパクパクと口を動かし、お弁当を消化していく。横で開けられた口に、なけなしの卵焼きを与え、容器を片づけた頃には、お昼休憩の残り時間はあと十分になっていた。
「ほら、もうすぐ次のテストが始まるよ」
「あ、やばい。戻るね、お互いがんばろーぜ」
「おうよ!ってミサカはミサカは気合いの返事で別れを告げてみる」
(あなた…、ミサカはやるよ。あなたに家庭教師をやってもらったんだもん、ってミサカはミサカは愛の力でこの試練を乗り越えると誓ってみる…!)- 511 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/31(土) 15:10:17.33 ID:iouLPri10
昼食後の二科目も、自分ではバッチリ出来たと思う打ち止め。妹達は彼女の希望どおりに、家に帰るまで答え合わせを待ってくれている。今すぐ結果を知りたい 気もするが、このまま試験会場に留まってしまうほどネットワークで盛り上がっても困るし、とにかく一番先に一方通行に知らせてあげられるよう、家に帰るま で我慢するのだ。
(さーて、あなたー終わったよー)
携帯端末で一方通行のお迎えを呼び出そうと電話を掛けたら、ワンコールで繋がって驚く。
「わぉ早い。あの、あなた試験終わったから」
『もォ駐車場にいる…』
「うそ!?あ本当だ!階下に見えるは我が家のポルシェちゃん!ってミサカはミサカはダッシュであなたの元に」
『馬鹿走ンじゃねェ』
教室の窓からは来客用の駐車場が見え、そこに恋人の愛車を発見した打ち止めは鞄を引っ掴み昇降口へと駆けだした。『急がなくていいから歩け!』「はーい」で通話を終わらせ、早歩きで外へ。
(ミサカのこと心配で、先にお迎えにきて待っててくれたんだなぁ、ってミサカはミサカはあの人の思いやりにジーンとしてみる)
「お待たせ。ありがとうあなた」
「別に。よく考えたら終了時間は分かってるからな」
「寝る」と決めて部屋に籠った一方通行だったが、どうにも打ち止めのことが気にかかって安眠できなかった。じっとしていられなくて、こうして先にお迎えに来てしまったのだ。
打ち止めがシートベルトを締めたのを確認し、一方通行はポルシェを発進させる。- 512 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/31(土) 15:12:28.69 ID:iouLPri10
「……でェ?試験の出来はどォだったよ」
「えへへー、ってミサカはミサカはこの笑顔でよくできましたと語ってみたり」
「ほォ…、じゃあ自信はあるわけだ」
「うん、家に帰ったら下位個体が答え合わせをしてくれるの」
なるほど、ミサカネットワークか。と、一方通行が赤信号で停車中に納得していた時、ふと気配を感じ取ってルームミラーを確認した。そこに映っていたものは…
「はァ?番外個体ォ?」
「え?番外個体がどうかした?ってミサカはミサカはネットワークを繋いであの子を確認してみたり」
「なンかこっちに向かって爆走してるンだが。後ろ見てみな」
「え?」
「あ、もう横ォ」
「えぇぇぇ!?」
「最終信号ぁぁぁー!!」
自宅のマンションはすぐ近くなので、ポルシェのドアはロックしていなかった。助手席ドアがいきなり開けられ、目を爛々と輝かせた番外個体が体を屈めて車内に頭を突っ込んできたではないか。
明らかに興奮して様子のおかしい彼女が、打ち止めの頭を撫でまくる。
「すごいよえらいよ頑張ったねぇぇぇ!!もう絶対主席合格だよ!」
「ふぉぉおおぉぉ~!?ちょっと落ち着いて番外個体ここは車道だよ!ってミサカはミサカは頭がガクガクあわわわわわ」
いつからポルシェを追い掛けていたのだろう。番外個体が、半ば混乱状態で浮かれている。- 513 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/31(土) 15:18:36.54 ID:iouLPri10
『上位個体、番外個体が暴走していますが大丈夫ですか、とミサカ一三五七七号は…間に合いませんでしたね』
『あぅあぅこれは一体どういうことなの!?ってミサカはミサカはみんなに聞いてみるっ』
『試験終了まで命令どおり待機していた我々なのですが、上位個体の成績がすこぶる良かったものですから…』
『もうウチの上司がトップ合格確実じゃね?とネットワーク内で盛り上がりました、とミサカ一九七三六号は…もうだめだ、寝ます…おめでとうございま…』
打ち止めの試験結果を受けて、ちょっとしたお祭り状態になったミサカネットワーク。その感情の影響を受けた番外個体がこうして暴走してしまったのであった。
『今、一〇〇三二号と一九〇九〇号がそちらに向かっています。ご安心ください、とミサカ一三五七七号はすでに対応策を取っていたことを報告します』
そろそろ青信号に変わってしまう。ポルシェの後続車のドライバーが、何事かと窓から顔を出していて、このままでは危険だと、一方通行が電極のスイッチに手を伸ばそうとした時…
「この末っ子が、抜け駆けとはいい度胸じゃねーか、とミサカ一〇〇三二号は番外個体の右腕を拘束します」
「律儀に上司の命令に従って損しました、とミサカ一九〇九〇号は文句を言いながら左腕を拘束します」
「はぁーなぁーせぇ~!もっと最終信号褒めるぅぅぅぅぅぅ~!!撫でるぅぅぅぅぅ!!」
髪の毛ボサボサの打ち止めと、茫然とする一方通行を残し、妹達三人は、揉みくちゃになりながら歩道へ移動していった。
後続車のクラクションに我を取り戻した打ち止めは、あわててドアを閉める。一方通行は百メートルほど先の路肩に駐車し、打ち止めと共に車外に降りた。
「どォやら目標は達成できそうだな。番外個体の様子からすると」
「そうみたいだね、ってミサカはミサカはあの子もすごく応援してくれてたんだと喜びを実感してみたり」
一方通行と打ち止めが、路上でこんがらがって息を上げる一〇〇三二号、一九〇九〇号、番外個体の隣に辿り着いた時には、末っ子は少し落ち着きを取り戻しているようだった。- 514 :ブラジャーの人 [saga]:2011/12/31(土) 15:21:19.27 ID:iouLPri10
「番外個体、もう大丈夫?ってミサカはミサカはお揃いのようにボンバーなヘアスタイルの番外個体を起き上がらせてみる」
「……うん」
「ふぅ、手こずらせやがって、とミサカ一〇〇三二号は汚れた服をはたきます」
「番外個体も砂だらけですよ。年頃の女性にあるまじき姿です。早く身なりを整えては?とたしなめつつ、ミサカ一九〇九〇号はお手伝いしましょう」
「……うん」
恥ずかしかったのか、疲れたのか、やはり一方通行に暴走されたシーンを目撃されたのが堪えたのか、番外個体は消沈した様子でノロノロと立ち上がった。
年齢や身長、あと胸のサイズに差異はあれど、大騒ぎしていた同じ顔の女性が四人も揃っているので、通行人がこちらを注視している。とにかく場所を変えようと、一方通行は周囲に手ごろな店舗か施設はないかと見回した。
「一方通行、あそこはどうですか?とミサカ一〇〇三二号は料理が特に美味しいと評判のカラオケボックスを指さして提案します」
青年の思考を読んだのか、一〇〇三二号が個室のある施設に向かおうとする。
「おい、別にカラオケじゃなくてもいいだろォが」
「ミサカはポテト盛り合わせとピザとタコ焼きを所望します。摂取したカロリーはその場で歌って消費すればよいのです。合理的な判断だぜ、とミサカ一九〇九〇号はたかる気満々で一方通行を振り返ります」
「聞けよオマエら」
番外個体を両脇から抱え、一〇〇三二号と一九〇九〇号はさっさと歩を進めていく。打ち止めは困った笑顔で青年を見上げ、「諦めようよ」とコートの裾を引っ張る。
一方通行は大きな溜息を吐いた。
- 521 :ブラジャーの人 [saga]:2012/01/02(月) 03:05:03.87 ID:vsszXONb0
-
一〇〇三二号があっという間に受付を済ませ、一方通行と妹達四人はカラオケボックスの一室に腰を落ち着けた。受付の店員がそっくりな女性達に驚いていた が、彼女達にとっては慣れっこなのか、我関せず、な態度だったので、一方通行が「…姉妹だ」とボソリと呟いてフォローを入れておいた。
(さァて、ここで番外個体の回復を待って、さっさと帰りたいところだが…)
「はい、そうです二人前です、タコ焼きも。あと野菜スティックとポテチとメロンソーダと……、一方通行はコーヒーでいいですね。コーヒーを下さい」
内線電話で次々に食べ物を注文する一九〇九〇号。隅の椅子に座って項垂れる番外個体。そして…
「わーミサカそんなにパーフェクトだったの!?ってミサカはミサカはテストの点数を聞いて舞い上がってみたり!」
「はい。五教科で不正解の回答が四個。数学と理科は満点で、合計点は四百九十二点です。おそらく上位個体が主席合格と見て間違いないかと、とミサカ一〇〇三二号は試験結果を具体的に報告します」
「やっほぉぉぉー!あなたミサカ四百九十二点だったよー!ってミサカは」
「やかましい聞こえてるっつゥーの」
一〇〇三二号に自分の点数を教えてもらった打ち止めは、一方通行の横に勢いよく座る。靴を履いたまま正座し、無理やり青年の手を取って、一緒に「バンザーイバンザーイ」と喜んだ。
一方通行は三度目の万歳で右手を振り降ろし、少女の頭へチョップを食らわせる。
「はぅ!」
「オマエも興奮してどォする。見ろ、番外個体が震えてるじゃねェか。大概にしとけよ」
「あっ、いけない、いけない…」
打ち止め、今度は妹の横へ。慌ただしい限りである。
「ごめん番外個体、せっかく落ち着いてたとこだったのに、ってミサカはミサカはぜぇぜぇする番外個体を気遣ってみる」
「……だ、大丈夫。でも早くネットワーク静かにしてほしいぃぃぃ…」
こうして打ち止めが番外個体の肩をさすっている時に、丁度飲み物、料理が運ばれてきた。一九〇九〇号が入店前に食べたいと言っていた物より、明らかに多い。一方通行はコーヒーを手に取り、今日何度目かの溜息をついた。
(なンでか知らねェ俺が奢る流れだったよな。遠慮ってモンが無いのかねェ)
- 522 :ブラジャーの人 [saga]:2012/01/02(月) 03:11:56.86 ID:vsszXONb0
-
「はい、ウーロン茶でいいかな?飲む?ってミサカはミサカは番外個体に水分の接収を勧めてみる」
「うん、……ねぇ」
「なに?」
「よかったね、試験。宣言どおりじゃん。これで恥かかなくて済むよ」
「……えっへへー。ありがとー!番外個体も勉強みてくれたもんね」
番外個体は頭を振った後、適当に手櫛で髪を整える。そしてテーブルの向こうから自分達のやり取りを見守る一方通行と視線を合わせ、ニヤァ、と口元を歪ませた。彼女は小さな姉の両頬を軽く摘まんで引っ張る。
「やーんにゃににゃに?ってミハカはミハカは…」
「まったく、最終信号の家庭教師は第一位でしょぉー?ミサカはちょっとしか先生やってないし。ほらぁ早くあの人に『先生ぇ、ミサカの感謝のキモチ受け取ってぇん』って言ってきなよ。セーラー服上だけ着てスカーフゆるめて突撃しなよ」
番外個体が打ち止めのスカーフを抜き取り、ひらひらと一方通行に向けて見せびらかす。青年はすかさず野菜スティック(にんじん)を投げつけた。
「お、ビタミンとカロチンだアリガトウ。お姉ちゃんも食べる?」
「あーん」
にんじんを空中でキャッチした番外個体は、一本を仲良く打ち止めと半分こして食べる。やっと本調子に戻ってきたようだ。こうして番外個体にからかわれるのは毎度のことだが、それでも一方通行の眉間に皺がよらなくなる日は来そうにない。
そんな不機嫌顔の学園都市第一位に、一〇〇三二号が躊躇なく話しかける。
「いいのですか一方通行」
「あァ?何が」
「上位個体が通う高校はセーラー服ではありませんよ。ブレザーです、とミサカ一〇〇三二号は衝撃の事実をお伝えします」
「セーラー服好きという特殊嗜好を持つあなたにとって、これは上司への想いが薄れるきっかけになりはしませんか、とミサカ一九〇九〇号は心配します」
大人しく曲目を選んでいたはずの一九〇九〇号まで、大変失礼な認識でもって会話に割り込んできた。一方通行の眉間に、さらなる皺が刻まれる…
(おぉ、今ならあの人の眉間にこのポテチが挟めそうだな、ってミサカはミサカはコンソメ味を堪能しながら事態を静観してみたり)
- 523 :ブラジャーの人 [saga]:2012/01/02(月) 03:16:22.14 ID:vsszXONb0
-
「なにがどうして俺がそンなありもしない嗜好を持ってることになってンですかねェェェ!?」
大きくはないが、充分に恐ろしいと思わせる声を上げる一方通行を、番外個体が活き活きとした表情でさらに煽る。
「あっれー?違うの?第一位は最終信号の翻るセーラーと際どく捲れあがるスカートに欲情してんじゃないの?オトナとコドモの狭間で妖しくゆれるおっぱいを包むそのセーラー服に。ぎゃっははははははー!」
「オマエいい加減にしねェと尻を百回叩くぐらいじゃ済まねェぞ」
「あぁーん、ミサカの豊満ボディのドコをぺんぺんする気?おっぱい?やっぱりおっぱい?」
「そしてやはり巨乳好きという疑惑も本当だったのですね、とミサカ一〇〇三二号は一九〇九〇号と共に確信します」
「だから『も』ってなンだよ!さっきの特殊嗜好と併せてよォ!違うって言ってンだろォが」
ここまで静観していた打ち止めが、さすがに恋人が可哀そうになってきたので、上位個体らしく妹達をたしなめる。
まず、番外個体のおでこをちょっと強めに叩き、さっきから失礼極まりない姉二人には、ミサカネットワークを使って負荷をかけた。
「いったぁ~」
「うぐぅ、とミサカ一〇〇三二号は頭を抱えます」
「ふぬぅ、とミサカ一九〇九〇号は全身を震わせてのけぞります」
「もー!みんなこの人をイジメすぎだよ!ってミサカはミサカはぷんすかしてみる」
名誉棄損も甚だしい妹達が打ち止めに叱られ、ようやく一息つけられるだろうかと、一方通行はこっそり少女に感謝した。一番年若い彼女に、しかも恋人に庇ってもらうなんて少々気まずいが、それは打ち止めの立場なら当然のことだと己に言い訳する。
「この人はそんなアブない人じゃありません!ミサカが何着てても大丈夫なの!」
よし、もっと怒ってやれ。言ってやれ。
「それに大きなお胸が好きなのはミサカ限定も同然なんだからね!ってミサカはミサカは情報の不正確さにもっとぷんすか!」
一方通行は電極のスイッチを切り替えた。
- 524 :ブラジャーの人 [saga]:2012/01/02(月) 03:19:39.40 ID:vsszXONb0
-
「さぁみなさん、ここはカラオケボックスという施設なのですから、それを正しく堪能しましょう、とミサカ一〇〇三二号はたんこぶをさすりながら提唱します」
「はーい!ミサカにデンモクぷりーず!ってミサカはミサカは一九〇九〇号にパスをお願いしてみる」
「ちょっと待って下さい。実はもう歌いたい曲が決まっていましたので…、とミサカ一九〇九〇号もたんこぶをさすりながら一番手を願い出てみます」
「あ、そうなの?じゃお先にどうぞ」
「番外個体も構いませんか?」
四人の妹達は、それぞれ一方通行にお仕置きされた。一〇〇三二号と一九〇九〇号はゲンコツを。打ち止めがやけに元気なのはデコピンで済まされたからである。
「ミサカが歌えるワケないじゃん。今はこの人にどつかれた頭から両手が離せないもん。なんでミサカだけ二発?」
番外個体だけはゲンコツをダブルで頂いた。最強の〈一方通行〉を発動させた青年は、わずか三秒で四人の女性へのお仕置きを完了。食べ物が乗ったテーブルに 靴を履いて乗るのはどうかと思ったが、今回は教育的指導を優先させた。一瞬のことだし、皿やコップには少しも触れなかったので許容してもらいたいと思う。
「ほォ、まだ文句たれる元気があンのか」
「うわ、お姉ちゃん考え直した方がいいよイロイロと。この人そのうちDV(ドメスティックバイオレンス)彼氏になるかも?」
対面の一方通行に睨まれた番外個体は、彼には効果抜群な盾の後ろに身を隠す。打ち止めは苦笑して妹のたんこぶを撫でてあげた。
「あぃっ、もっと優しく…。マジ痛いんだってば」
「はいはい。番外個体はちょっとお口を閉じておいた方がいいかな。歌う時以外はね」
その後、少女はムスっとした一方通行の横に腰掛ける。
「あなた、ご機嫌直してね?」
「アイツらがこれ以上余計な事言わなきゃ大丈夫だろォよ」
笑顔の打ち止めが、一方通行の肩を宥めるようにポンポンと叩く。単純にもそれだけで表情が和らいでしまうのは、もうどうしようもない習性だった。
- 525 :ブラジャーの人 [saga]:2012/01/02(月) 03:23:42.55 ID:vsszXONb0
-
『上位個体、(たぶん)主席合格おめでとうございます、とミサカ一〇〇三二号は大音量で祝福します』
『これは全ミサカからのお祝いの気持ちを込めた歌です。こっち見やがれ、とミサカ一九〇九〇号は注目を呼びかけます』
うっかり二人の世界に入ってしまうところだった。マイクを通してスピーカーから流れる声に、一方通行と打ち止めは一段高くなっているステージに目を向ける。
一〇〇三二号と一九〇九〇号が並んで立っていた。二人で歌うらしい。
『なりゆきで訪れてしまったカラオケですが、せっかくなので、歌で上位個体を称えましょう、とミサカ一九〇九〇号はマイクを構えます』
『聞けば一方通行の指導あっての勝利だとか。ネットワークで我々を頼ることが少ないのは少々寂しいのですが、これも上司の成長の現れですね、とミサカ一〇〇三二号は納得します』
照れたように髪を掻きあげる打ち止めと、前振り長すぎだろ、いつ歌うンだ、と呆れていた一方通行だったが、急に自分の名が挙がったので内心どきりとする。
『そういうわけで一方通行、これはあなたにも聴いてもらいたいのです、とミサカ一〇〇三二号は訴えます。よろしいでしょうか』
(じーん…、ってミサカはミサカはみんなの心遣いに感動してみたり。しかもこの人にまで…)
(……、まァ、聴けっていうなら聴くがよ…。………クソ、柄じゃねェ)
二人の神妙な様子を受けて、いよいよ一〇〇三二号と一九〇九〇号のマイクを握る手に力がこもる。
『それでは…、おめでとうございます上位個体。ありがとうございます一方通行。祝福と感謝を込めて、ミサカ達の歌をお送りします、とミサカ一九〇九〇号は音楽を再生させますぽち』
- 526 :ブラジャーの人 [saga]:2012/01/02(月) 03:29:41.13 ID:vsszXONb0
-
『『セぇーえーラぁふーくっを!ぬーがーさーな・い・でっ』』
まだ痛むであろうたんこぶ二つを庇うこともせず、番外個体は椅子の上で転げまわって大笑いしていた。
『『今はダーメーよ 我慢なーさってぇぇー』』
(あ、あなた…)
今度こそ一方通行が大暴れしやしないかと、打ち止めはやっとの思いで首を動かし、青年の顔を覗き込んだ。
意外にも第一位は無表情で、少女と目が合うと僅かに肩をすくめるのみ。
(……もォいい…。俺は疲れた…)
静かに、静かに目を閉じる。
『『胸のリーボーン ほどかなーいーでねーー』』
打ち止めは優しく一方通行の手を握る。力なく握り返してくる恋人の大きな手。それが、痛々しかった…
- 527 :ブラジャーの人 [saga]:2012/01/02(月) 03:33:02.82 ID:vsszXONb0
-
哀れな青年は、今は自宅のリビングで全身をソファに投げ出していた。結局、とんでもないお祝いソングが終わった後、打ち止めに促されるようにして先に退散してきたのだ。
よって室料、飲食代は一銭も払わずに帰ってきたのだが、そんなこと非難されるいわれはさすがに無いだろう。
「あなた、コーヒー淹れたよ」
「おォ…」
打ち止めがテーブルに淹れたてを置いた。少女は絨毯の上に座り、仰向けに寝転がる一方通行の額から前髪をどかす。
「なンだ…」
「さっきデコピンされたから仕返しー…。ちゅ、ってミサカはミサカはあなたのおでこにカワイく攻撃してみたり」
額だけじゃなく、頬や鼻にも攻撃が降ってくる。心身(特に心)共にダメージを負った恋人を元気づけようとしているのだろう。思わず一方通行の喉から笑い声が漏れる。
「っくくく…」
「どうして笑うの?」
「俺も、オマエも単純だよなァ?」
「あ、ちょっと元気出た?ってミサカはミサカは成果ありだとはしゃいでみたり」
青年の指がクイクイと少女を呼ぶ。
打ち止めは彼の腹に腹を、胸に胸を乗せて上から圧し掛かる。もっと元気づけてあげようと、背中と首に回された腕に導かれるまま、幾度もキスで励ますのだった。
- 528 :ブラジャーの人 [sage]:2012/01/02(月) 03:41:03.45 ID:vsszXONb0
- 打ち止めの受験、本番の巻 完
妹達大暴れ。
昔の歌って本当にヤバイですよね、卑猥ですよね。
2スレ目立ててから、一方さんが一番可哀そうな話だったかも。
本年もこんなカンジで宜しくお願い致します。さっそくバレンタインすっ飛ばしたことに気づいた私ですけどね。 - 529 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R b)[sage]:2012/01/02(月) 03:51:21.13 ID:/ozmZNBpo
- 乙
今年も宜しく!! - 530 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R b)[sage]:2012/01/02(月) 13:15:08.01 ID:rLgBis9Ro
- 乙
新年早々イチャイチャしやがって…いいぞもっとやれ
今年もよろしくおねがいします!おっぱい!おっぱい! - 531 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R b)[sage]:2012/01/02(月) 15:23:26.03 ID:+x2I4erIO
- 乙!
今年もよろしくおっぱい!
2013年11月26日火曜日
とある未来の通行止め その2 1
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