2014年2月7日金曜日

垣根「お前が欲しい」初春「……は?」

 
※未完作品
 
1suzuna ◆XvsKHLIHQc2010/12/12(日) 14:07:32.99 ID:RcmkpT6o
注意。
もしかしたら、原作と大きく違う点があるかもしれません。
そう言った点がありましたら、指摘してもらって構いません。
後々分かっていく事~だった場合スルーする場合もあります。
スルーしたら、ああそういうことかって事にしておいてもらえると嬉しいです。

では、GOGO!!



「えーまたお使いですか」

第一七七支部。
下っ端風紀委員、初春飾利の文句が飛び交う。
「仕方ないですのよ、固法先輩からのお願いですのよ」
その初春の先輩にあたる、白井黒子はさらにその先輩からの命令だと言う。
結局一番下っ端の初春が、所謂「パシリ」に使われるのだ。

「うぐぐ…お、覚えておいてくださいね」
「どこの悪役ですのよ…」
「仕方ない…行ってきますね」

初春は、鞄を持ち出かける準備をする。

「ん?初春どっか行くの?」

それを見ていた、初春の親友である佐天涙子。その問いに初春は答える。

「はい、ちょっとお使いに。消耗品とか」
「あたしも行く!」


佐天は元気よく返事をした。

歩道を歩く二人。

「セブンスミストですね」
「まぁ基本的になんでもあるしねー」  


何気ない会話をする。
佐天は初春をからかい、初春はそれに対し天然的突っ込みをする。
さらに、その天然的突っ込みを佐天はカウンターで返す。そんな事をしながら、目的地であるセブンスミストへ向かう。
2 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2010/12/12(日) 14:09:09.44 ID:RcmkpT6o
数時間後。

「これで買い物終わり?」

雑貨のコーナーを歩き終える頃に佐天は初春に聞く。
少し時間がたってしまい、佐天は飽きてきたのだった。

「はい、あとはー…プリンターのインクと、A4用紙と、固法先輩からお願いされてた10色ボールペンですね」
「な、何それ!多過ぎでしょ」

オーバーリアクションで答える。
10色ボールペン。利便性はともかく、インパクトのある商品。

「こういうのが好きなんですよねー、固法先輩って」
「ふーん、ちょっと意外かも」

と、佐天が言う。

「まぁ、さっさと帰りま……!?」

何かが、初春の瞳を捕える。
見たくも無い何か。いや、この場合見てはいけない何か。
それは、現実だと思ってはいけないし、夢でも思ってはいけない。
未元…。存在しない…何か。

「…?どうしたの、初春?」

佐天が問うと、ハッと我に帰る初春。


「い、いや。なんでもな…いです」

シドロモドロに答える。
明らかに動揺をしているのがバレバレ。その動揺は顔にも出ていた。

「顔真っ青だよ…?荷物持つよ」

心配する、佐天。
親友である、初春がここまで青ざめるのはあまりない。
もしかしたら、急に気持ち悪くなったのかもしれない、とか、急性の病気かもしれない、とか。いろいろと考える。

「あ、ありがとうございます」

そう考えている佐天を安心させようとする。
佐天は、表情が戻ってきた初春を見て、

「お化けかなんか見たのかな?なーんて…」

と茶化す。
3 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2010/12/12(日) 14:10:32.28 ID:RcmkpT6o
しかし、それを聞いた初春はビクッと肩を上げる。
顔がさらに青ざめていく。
どうにかして、茶化さないとこの場をやりすごせないと感じる佐天は、

「いやいや、そんなに驚かれても困るんだけどなー…あはは、まさか本当に見ちゃった?」
「み、みみみ見てませんよ?」
「だよね、ほら元気出して」


と、シンプルに元気出させようとする。


「…」
「…」

黙る二人。
帰り道、行きとは全然違う雰囲気で帰る。
両手に、買い物袋をさげながら、ただ歩いていく。

(初春が、黙りっぱ…つまんないし、心配だし。よーし、ここは…)

佐天は佐天なりに考え、必死に話題を作ろうとする。

「10色ボールペンって、何色なの?」

「えっと、赤青黄色緑紫茶色黒橙水色に白です」

「し、白…?」

純粋に驚く佐天。
ボールペンに白などあって良いものなのか?と佐天はボールペン会社の考えている事がさっぱり分からなかった。

「はい、黒い紙に書けるんですよー」

「それって使うのかなぁー」

「…さァー…?」

やはり、いつもの初春とは違う何か。
いつもならここで、さまざまな例をあげてくれるのだが、興味無さそうにさらりと流す。

「……」

(また黙ってる。早く支部つかないかなぁ。もういいや聞いてみよう)
調子が狂う、佐天。
4 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2010/12/12(日) 14:11:30.28 ID:RcmkpT6o
思い切って聞いてみると、決意する。

「ねぇ……初春?」

「…はい?」

「さっき、何をミタの?」

「何も見てませんよ、何も何も」

隠しているのがバレバレだ。
初春は無表情。こういう時は何か嘘をついている証拠だ。

「…嘘つかないでさ、喋ったら楽になるって言うじゃん?」

裁判官のように言う佐天。

「何も見て無いって言ってるじゃないですか」

強気に出る初春。

ふっと足を止める佐天。
まっすぐ、初春を見つめ語り出す。

「…初春、私は今まで初春に隠し事した事あった。でも、最終的には打ち明けてた。それって今打ち明けても変わらないって事じゃない?」

「……」

「ねぇ!!聞かせてよ!!」

佐天は叫ぶ。かつて、自分が隠し事をして後悔したことから…親友を間違えた道へと向かわせないようにと。
その気持ちが伝わったのか、初春はゆっくりと静かに口を開き、雀の鳴き声のように小さな声で言う。











「その…えっと…死んだ人を見ました…」



5 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします[sage]:2010/12/12(日) 14:11:32.77 ID:610i8QDO
スレタイの時点で原作と違うじゃん
6 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2010/12/12(日) 14:13:06.99 ID:RcmkpT6o
「!?」

先ほどのボールペンの時とは何倍も違う驚き。
桁が違うのである。
死んだ人。つまり、この世界にはもう居ない人。
幽霊なのか?と佐天は考える。

「それは私を踏みつけた人です、子供をかばう私を踏みつけた悪魔のような人。だけど、その人は死んでしまったんです」

「……」

「だけど、私は見てしまったんですよ。セブンスミストで。楽しそうに、女の人と一緒に居ました」

「人違いじゃなくて?」

確認をとる、そこで初春が「そうかもしれません」と言ったほうがよかった。
しかし、注文の答えは帰ってこなかった。

「そんな訳ありません、だって会った時と同じ格好していたんですから…」

「……」

「お化けとか、そういうのじゃないんです。死んだって事になってる人間が学園都市に居るんです。その時点でおかしいんですよ」

「う、初春…?なんで、死んだ事になってるって知ってるの?」

「もちろん、調べたんです」

「…」

普通に言う初春。確かに、『書庫』のデータを開けば能力者の検索は可能である。
…だが、踏みつけた人間。ただ踏みつけただけ、それだけではたして能力は分かるのだろうか?と佐天は疑問に思う。
初春は続けて説明する。

「学園都市には存在してはいけない人間なんです」

「…でもさ、初春。どんだけ悪い人でも、死んでる扱いされてても、生きちゃいけない人間なんか…」

「佐天さんはあの人の事知らないから言えるんですよ!!」

「お、落ちついて!!」

佐天が少しでも、かばおうとすると初春は声色を変えて否定をする。
この話題が、早く終わる事を願う佐天。
7 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2010/12/12(日) 14:15:22.14 ID:RcmkpT6o
「名前は垣根帝督。学園都市第二位です」

「第二位!?し、死んだ事になってるって、じゃあえっと、御坂さんが現時点で2位って事…?」

「本当は機密なんです。…知りたくない情報を知ってしまったんです。ごめんなさい、佐天さん…巻き込んじゃうかもしれません」

「それは全然大丈夫だけど…」

少しだけいつもの初春に戻っていく。
あの『何かを見た初春』から、初春の様子は急変していたのだった。

「調べてみようと思います、第二位の事」

胸を張って言う。
親友である、佐天はもうこの言葉しか残って居なかった。

「初春」

「…?はい?」

「無茶…しちゃダメだよ?」

「大丈夫ですよ、明日にはいつもの私ですから」

「そ、そっか」

その言葉を聞いた瞬間に、佐天はホッとする他ならなかった。
――佐天は、初春が元に戻ったと思った。
9 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2010/12/12(日) 14:17:18.15 ID:RcmkpT6o
その日の夜。
第七学区にある、初春が住む寮。
初春の部屋には、パソコンが2つ。サーバーが1つ。
パソコンの一つは、タワーPC。もう一つはノートパソコン。
完全冷房が利くように管理されている。
さらに、もう一台。パソコンではないがPDAと呼ばれる端末。
PCに出来る事は、ほぼ…ほぼだが出来る。
初春は、タワーPCを見つめる。画面には、無数のウィンドウ。
独自で立ち上げたプログラムを、適当に動かし、学園都市のサーバーへとつなぐ。
偽装。それにより、初春は学生でありながらSランクの権限を持つ事が出来るのである。

「学園都市としての利用価値があるから、生き延びた…!?あの時あんなにぐちゃぐちゃになったと言うのに…」

独り言をぽつりぽつりと言う。
こういう作業をしている時は、頭の中で考える初春。しかし、この時ばかりは驚きのあまり喋ってしまう。
あまり長いは出来ないので、PDFをダウンロードした後に、接続を切る。
PDFを印刷し、ファイリングをした。

(噂には聞いた事があります…学園都市の技術により死にたくても死に切れない能力者。Level5はもちろん、Level4、3…素養と言う言葉。素養さえあれば、生き延びさせられる。それが…学園都市)

頭の中で整理をする。
初春は知りすぎた人間である。
知識故、守護神とされているが一歩間違えれば、学園都市の敵側に着く事も出来る。
素養。
その仕組みを知った瞬間には、佐天涙子の顔が思い浮かぶのであった。

「そういう事ですか・・・」

初春は、天井を見上げる。
自分は何をやっているのだろうか、こんな事を知ったとしても自分は学園都市に対して絶望するだけではないのだろうか。
頭の中で、ぐるぐる回る自分なりの考え。

その時。

「俺の情報を、舐めまわすように見てるんじゃねぇよ」

窓に人。羽の生えた人のような何か。
トラウマになりつつある顔、容姿、声。
初春は、信じられないような物を見る目で、ベランダに立つそれを見た。
10 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2010/12/12(日) 14:17:55.94 ID:RcmkpT6o
「よう、久しぶりじゃねぇか」

「…何をしに来たんですか、私は貴方ともう一生会いたくありません」

「つれないなぁ、はっは、そんなに俺の事が嫌いかね?」

「好きになると言う考えが出るだけで、貴方の考えは終わっていると思いますよ?」

強気の初春。
今の状況で、自分が殺されたとしても…きっとこの人は逮捕されない、とそう思う。
初春は学園都市にとって、それほど重要人物でない事を知っている。
守護神と言われても、その代わりはいくらでもいる。

「…で、私をどうする気ですか?」

「生憎、中学生に手を出す趣味は持ち合わせていねぇな」

からかうように言う、垣根。
ニヤニヤした顔が初春を不快にさせる。
初春は精一杯睨みつける。

「…怖い怖い、お嬢ちゃんそんなに睨みつけると可愛い顔が台無しだぜ?」

「どうでもいいんですよ!私を殺しに来たんですか!」

「[ピーーー]?はっは、勘違いしているようだな」

「…どういう事ですか?」

初春は睨み続ける。一度自分を足踏みした人間である、垣根。
一度死んだと思われた垣根。
罪無き子供を連れ去ろうとした垣根。
…つまり、初春の中では悪い所しか知らない。
その垣根から、言われる事…初春は想像が出来なかった。
12 :saga忘れた 畜生…  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:19:19.83 ID:RcmkpT6o
「お前が欲しい」

「……は?」

意味が分からなかった。
勧誘、ここで勧誘をする。さっぱり意味が分からない。

「お前は知りすぎた人間。統括理事会からは目をつけられている存在だ。自分で自覚しているな?」
「このファイルが、証拠です」

初春は、本棚から自分で作成したマル秘ファイルを取り出す。
垣根はそれを受け取ると、めくり見始めた。
途中、微笑をもらす垣根。その行為に初春はさらに苛立っていた。
目的はなんなのか?勧誘が目的なのか…?

「これは凄いな、俺の知らない情報まで入ってやがる。知りたくなかった情報までな」

「もしかして素養の事ですか?まぁ、知りたくも無かったでしょうね。Level5が生かされている理由を知ってしまったんですから」

「ああ、お前の言う通りだな…本題に入ろう、俺が作り上げたスクールに入れ」

「…一度スクールは壊滅したと聞きました、そこにも書いてあります。スクール、メンバーは壊滅。アイテムとグループだけが残ったと情報は入りました」


初春は、垣根からまたファイルを受け取り、ページを見せる。
垣根は嫌な顔をする。

「壊滅ねぇ…だが、心理定規も生きているし俺も生きている。実質二人だが、あとの二人は補充すればいい。分かるな?」

頭の中で確定事項が出来た。
本当にこの男は、自分を勧誘する為だけに来たのだ。と。

「つまり、その補充されるメンバーが私と言う事ですね。暗部に堕ちろと?」

「さっきも言ったが、お前は風紀委員でありながら『知りすぎている』権限偽装はバレていないとでも思ったのか?上層部の奴らは騙せても、俺は騙せない」

「貴方も同じ立場の人間だからですか?」

「鋭いな、その通りだ」
13 :saga忘れた 畜生…  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:20:21.24 ID:RcmkpT6o
ニヤリと笑う垣根。
またファイルを取り上げ、興味心身に読む。
垣根は素養について詳しく知らなかったが為に、ここのページはかなり気になっていたのだ。
初春は、勧誘について考えていた。
この勧誘に乗れば、自分の生活は反転する。
風紀委員としての生活は終わるし、普通の一般学生としての生活も終焉を迎える事になる。
友達である…佐天涙子とももう会えないかもしれない。
佐天だけではない、先輩である固法や白井、Level5である御坂もその一人。
日常から非日常へ。
今更後悔する、なんで自分はこんなにも興味を持ってしまったのだろうかと。

「考えはまとまったか?」

「選択の余地がありませんね…これは勧誘ではなく脅迫です。結局は、知りすぎた人間である私がこの勧誘を断れば殺されるだけじゃないですか」

「ああ、それだけじゃないぞ。お前の周りに居る人間も…分かるな?」

「…」

今日佐天涙子に打ち明けてしまった事を思い出す。
自分はこんなにも口が軽い。自分の性格が許せなかった。
関係の無い人間も巻き込んでしまうなんて。

「考えがまとまらないのなら、それでいい」

「えっ…?」


「3日だ。3日間だけ猶予をやろう。3日後に答えを聞く。3日間は、自分の最後の日常を楽しむんだな」


言い終えると、垣根はベランダに飛び出し、羽を広げ空を飛んで行ってしまう。
初春は15分ほど立ちつくしていた。
14 :suzuna  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:21:16.15 ID:RcmkpT6o
翌日。
普段通り学校へ向かう初春。
休もうと思ったが、学校へ通えるのもあと3日と考えるともったいないと感じ、普通に学校へ向かった。

登校途中、佐天と顔を合わせる。

「おはよー!初春、どうしたの?やっぱり、昨日の事がって感じ…?」

佐天は自分の事を気づかってくれている。
そう思うのがいつもの自分だった。
しかし…心理状態は最悪だった。

「あ、はい。だ、大丈夫ですよ?」

顔が引きつっているのが自分でも分かる。
今の自分は最高に暗いだろう・・・。

「…そっか。うん、大丈夫なら良いかな」

気を使っている佐天。
これ以上聞いたらいけないと察知したのである。


その後佐天は、普通に接してくれていた。
三日後、自分がここに居なくなると考えると…胸が痛くなる。
佐天には…言おうか迷っていたのである。

『隠し事は無し無し!私たちって、隠し事しても結局言っちゃうじゃん?なら、今言っても変わらないって事だよね!』

そんな事を言っていたような気がする。
佐天の言葉が、胸を貫く。
隠し事…している自分に罪悪感が襲いかかる。
かすかに感じていた、自分が暗部に落ちると言う事。
実現してしまうと、こんなにも残酷なものなんて思いもしなかったのだ。
日常から非日常へ。
良い方にも悪い方にも、自分が利益を得る事はないのだ。
15 :suzuna  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:21:52.47 ID:RcmkpT6o
「る…うい…る…初春!?」

「は、はい!?」

佐天の呼びかけに気づかなかった自分。
休み時間、いつの間にか授業は終わっていた。
眠っていたわけでもなく、変に集中していたのだ。
やはり、佐天は心配そうな顔をしている。眉毛をハの字にして、自分を見つめてくる。
本当に…心配しているのだろう。

「初春…大丈夫?」

「大丈夫ですよ、佐天さん。ほら、次の授業始まりますよー?えへへ」

「う、初春?次の授業移動だよ?」

「あ…」


席を急いで立つ、勢い余って、机に脚をぶつけ机の中にあったものが床にばらまかれる。
何をしているのだろうか、自分は…と自己嫌悪をしてしまう。
昨日の出来事が、ここまで響くなんて。


翌日も、そんな感じだった。
暗部に入った自分がどうなるのか想像する形。
そこでボーとしてしまい、授業も頭に入らない。
夜は寝る事も出来づに、情報サイトを回るだけ。
自分が自分で無いかのように思えた。
そして…佐天の存在も忘れないといけないと思い始める。
16 :suzuna  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:22:49.29 ID:RcmkpT6o
三日目。とうとう、最終日。
これで初春飾利にとっての『日常』は終焉を迎える。

佐天涙子。この人物が自分の頭の中のモヤモヤになっていた。
今も本気で心配している佐天。多分携帯を見ればメールが来ているだろう。
しかし、私は暗部に堕ちる人間。
もう…関われないのだ。


「さて、初春ちゃんよ。答えを聴こうじゃないか」

「…」

答えは、Yes。
口を開く、そしてはっきりと…


「はい、暗部に…入ります」

と私は答えた。




その瞬間、風紀委員としても守護神としての初春飾利は全て殺されてしまった。
17 :suzuna  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:23:40.97 ID:RcmkpT6o
「別れの挨拶は重要だと思うがな」

垣根帝督は自分の部屋に居た。
暗部に好きな物を持ち込んでも良いとのことなので、自分のタワーPCとノートパソコンを持っていくのを手伝ってもらうのである。

「必要じゃないですよ、私が消えるだけですって。所詮私なんて、ただの学生にすぎませんから」

「でも風紀委員なんだろ?」

「データは削除しておきました、自分で」

「はーん、なるほどねぇ。生徒データもか?」

「そうですね、バンクには私のデータが無い状態です」

「やるねぇ、流石俺に立てつく女の子だ」


パソコンの配線をまとめる初春。
精密機械なので、ダンボールを4重にしてまとめる。
ここは空き家になる。本来だったら、荷物をまとめるのだが、する必要が無い。

「それにしても、衛星からの監視が無くて今はいいよなぁ。あったら、お前をこうやって連れ出せないし」

「まぁそのおかげで、セキュリティが悪くなって今の私が居るんですけどね」

樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)が破壊された事により、バンクのセキュリティはかなり軽くなったのである。
演算処理が追いつかないほど、負荷を与えてしまえば、こちらの勝ち。
しかし、演算処理がおいつかないと言う状況に、今まではならなかったのである。
その為、現在のバンクサーバーは至る所に隙間が存在している。
もっとも、それを発見出来るのは守護神である人くらいしか出来ないのだが。
18 :suzuna  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:24:13.19 ID:RcmkpT6o
「これで全部か?運び屋に運ばせるから、置いとけばいいぞ」

「ノートパソコンとPDAだけは持っていきます。問題ないですね?」

「ああ、大丈夫だ。むしろ、すぐにでも作業してほしいくらいだしな」

「つまり、早くここから抜け出し、さっさとアジトとやらに行って、仕事をしろって事ですか?」

「話しが早い、そう言う事だよ」
「…分かりました、さっさと行きましょう」

「外で車が待ってる、行くぞ」



部屋から、出る。
エレベーターに乗り、1階へと下がる、そこには……




佐天涙子が居た。




「え、あれ?う、初春?」

「……」

「だから言っただろ?別れは必要だってな。お前が必要じゃないと思っても、かならず別れってのは来るんだよ、それが運命ってもんだ」

「初春?」

佐天は、こっちを見ている。ジッと、いつもの格好。棚川中学の制服を着て。
自分もいつも通りの格好、棚川中学の制服。
いつもと違うのは…外で車が待っているのと、隣に第二位が居る事だ。
19 :suzuna  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:25:20.46 ID:RcmkpT6o
「別れって、何を言っているの…?」

「ごめんなさい、佐天さん。もう貴方は私と会う事は…無いと思います」

「何言ってるの、初春は明日も学校へ行って、あたしと会うじゃん…」

「…学校へ行く初春飾利は死にました」

「死んだって、初春は初春でしょ!!」


佐天は、とうとう怒り始める。
口調がどんどん悪くなっていくのが分かった。

「ううん、仮にその初春が死んだとしてもまだ風紀委員としての初春が」

「その初春飾利も死にました」


自分で殺した。つまり、自殺。
そして産まれたのが、暗部としての初春飾利。


「じゃあ、じゃあ・・・」

「お嬢ちゃん?初春ちゃんは急いでるんだよ」

「五月蠅い!!初春を返して!!」

「…」

垣根は、自分を踏んだ時と同じ顔をする。
そこで、焦る。自分と同じように、佐天を踏むのではないかと。

「やめてください、この子はその…関係ありませんから。早く行きましょう」

「やだ、やだよ!初春!!まだ残ってるよ!!」

「残ってなんか居ません!!貴方の知ってる初春飾利は全て死んでしまったんです!!」



「あたしの友達の初春は貴方だよ!!」
20 :suzuna  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:26:43.83 ID:RcmkpT6o
出したくも無いのに涙が出る。
こんな自分を友達だと良いはる佐天涙子。
何故泣いているのか、それはまだ自分に未練があるからなのだろうか。
垣根は、苛々していた。気が立っているのが分かる、このままだと佐天に暴力をふるいかねない。
マズイ。泣くな、涙出るな。

「初春…」

そんな声で呼ばないで。お願い、私をもう放っておいて。そう願う自分。
その願いは届く事は無かった。
そうして…。

「初春ちゃんよ、限界だ」

垣根が、翼を広げる。

「やめてください!!佐天さんには…手を出さないでください!!」

手を広げ、かばう自分。
もう自分でも何をやっているのかが分からなくなっていた。

「初春…」

「お願いします…もう、これ以上…苦しみたくないんです。佐天さんも…お願いだから、もう私の事は忘れてください…」


と、私はもしもの時の為にと思っていた手紙をポケットから出し、佐天に預けた。

 、、、 、、、
「いつも通りです。  それでは佐天さん さようなら。縁があったら、またどこかで会いましょう」

そうして、私は車に乗り込んだ。
座って呆然としている、友達の佐天を横目にして。
21 :suzuna  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:27:35.27 ID:RcmkpT6o
「案外、あっさりしてたな。あの手紙とやらに、思いを詰め込めた感じか?」

正直、鬱陶しい。
目の下が、泣いた後が残っている。だんだん、かぶれてきて痒い。
唐突に、考える。
自分が暗部に落ちたように、垣根帝督は何故暗部に落ちたのだろうか。
へらへらしている顔。明らかにチャラチャラしている雰囲気を醸し出す。
第二位である事が最大の理由だろうが、多分垣根は人に利用されるのが嫌いだ。
自分と同じように、脅されて暗部に落ちたのかもしれない。
そう考えると…と思ってしまう。

(変に同情している自分は何なんでしょうね、少しでもこの甘えを捨てないといけないのに。)

変に考えがまとまらない。
まだ、混乱しているのが分かる。

「…まぁいいか。お前がどう考えてようが俺には関係ない事だしな」

驚いた事に、ちょっと気を使っているらしい。
これから、暗部の『仲間』として受け入れられる自分。
認めたくないけど、これが現実。


垣根帝督。
人生を大きく変えた存在。
あの時、会って居なかったらどうなっていたのか。
想像しても無駄だった。


「ついたぞ、あとでGPSで確認して場所を把握してくれ」

「私の部屋は?」

「これがカギだ、自由に使え。後は…制服は禁止な。学生であるお前はもう死んだだろう?」

「もちろんです、部屋にはしまっておきます。いいですか?」

「問題ない、時間になったら呼びに来るから、好きにしていてくれ」
22 :書き溜めしすぎた、どこで止めよう  ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:28:38.92 ID:RcmkpT6o
そう言って、垣根は自分の部屋へと向かう。
見た感じ、綺麗な家。部屋が4つあり、リビング、ダイニング、トイレが共用である。
綺麗に整っている所を見ると、使っていないのか、あるいは業者に頼んでいるのだろうか。
元々スクールは4人。なので部屋が4つある。
部屋へ向かおうとすると、女が廊下を歩いていた。

「貴方が新しく『補充』された人ね」

外見は自分と変わらない。年齢は同じくらいだろうか。
服装は、ゴシック調。データによれば、ドレスを着ていたはずだが、家着なのかもしれない。
家着がゴスロリと言うのも、おかしな話しだが。
補充、と聞くと自分が物のように思えてくる。
暗部からしてみれば、人なんてただの物だろう。
この思い込みは正しいのかもしれない。

「ええ、そうです。戦闘はしませんけど、情報力には自信があります」

「へぇ、それじゃあ私の能力も分かるんだ」

「はい、心理定規。Levelは4。能力は他人に対して置ける心理的な距離を識別子、それを自在に操る事が出来る能力」

「素晴らしいわ」

パチパチと拍手をする心理定規。
ただのデータなので、何も嬉しくないのだが。

「ところで、こんな話があるのを知っているかしら?」

「はい?」

「立ち話もなんだから、リビングへ行きましょうか」

そう言うと、心理定規と自分はリビングのソファに座った。

「アイテム・スクール・メンバー・ブロック・グループと言う名前は知っているわね?」

「もちろんです。そのうちのメンバーとブロックは解散。ここであるスクールも解散とまで言われていました」

「話しが早いわ。その残党で新部隊を編成する話しは知っている?」

「…新部隊?」
23 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:30:02.79 ID:RcmkpT6o
多くの情報を知る自分であったが、流石に電話などの履歴まではたどらないので知らなかった。
確かに、その残党である4人が集まればまた新しく組織を作り上げる事は可能だ。
これは、本当につい最近連絡が来たらしい。

「だけど、この通り垣根は帰ってきた。だから私はその新部隊に加入する気はないわ。貴方も、スクールに入ると言うなら、また活動をするだけよ」

すると立ち上がり、冷蔵庫へ向う。勢いよく開けると、飲みモノを取り出しコップに注ぎ始めた。
話しが長くなるんだな、と実感する。

「垣根さん…いや、スクールが好きなんですね」

「そう見えるかしら?と言っても、私と垣根の距離は私自身が操れるから、何とも言えないのだけれどね」

「……」

心の距離を知ってしまうと言うのにも問題があると考える。
知りたくも無い情報が入ってくる…と考えると嫌気がさす。

「アイテムの麦野は生きているらしいけどね」

「それは知っています、垣根さんと同等の理由でしたよね?」

「そうね、あとは…普通に滝壺理后は生きていると言うし」

「スクールの目的であった滝壺理后…」


その名前に覚えがある。
以前見た『8人目を作り上げる計画書』に載っていた名前だ。
リストアップされた、「少しでもLevel5になる素養のある人物」。トップを飾るのは、能力追跡である滝壺理后だった。

「ただ、その滝壺理后は現在行方不明。どれだけ探しても居ないと言う事は学園都市自体に居ない可能性もある。私たちの目的であった人物はいないのよ」

「麦野沈利の居なくなったアイテムから滝壺を回収する事なんて簡単だったと?」

「その通りよ。滝壺の能力は垣根の能力を大きく引き立てる物がある…」

心理定規は、ソファによっかかり飲み物の入ったコップを回しながら言う。

「…あぁ、そうでしたね」

ハッと気づく。
24 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 14:30:40.43 ID:RcmkpT6o
そう、心理定規は『素養』の存在を知らないのだ。

「何かしら?急に」

「まぁ、これでも見てください」

ファイルから、紙を取り出し心理定規に渡す。
受け取った心理定規は黙々と読み始め、次第に表情が変わっていく。

「やっぱりね」

「分かっていたんですか?」

「私の能力からしてね、研究者とも接触があったのよ。多分このデータは研究者の間では回っている。つまり、研究者と被験者である私達の心の距離は素養によって違うのよ」

「…なるほど」

納得する、こういう能力の使い方もあるのだなと感心してしまう。
能力は使い方次第なんだなと思う。

「出来れば信じたくなかったのだけれど、しっかりとデータがあるのなら信じざるおえないのね」

「そうですね」

「そのファイルを見せてくれるかしら?大丈夫よ、私もスクールの一員。燃やしたりなんかしないわ」

「仮に燃やされたとしても、バックアップはしっかりとっているので平気ですよ」

最後にそう言い残し、自分の部屋へと向かった。
 
29 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 16:13:59.19 ID:RcmkpT6o
こうなったら、スクールに協力しスクールを最も強い組織に仕上げる。
準備しながら、そんな事を思っていた。
自分が強い組織の一員になれば、安全であるし、何より情報が入りやすい。
情報の海から、学園都市の裏を見る情報を探すのはとても難しい。
だが、裏に居る事により探知は信頼度を増す。
…そこには、以前興味本位で探している自分の姿ではなく、裏の顔である自分が居た。

制服を脱ぎ、私服に着替える。
もう着る事も無いだろう、制服はクローゼットの奥深くに入れる。
…出来れば、そのうち着る事を期待しながら。
しばらくすると、ドアからノック音が聞こえる。
垣根だろう。

「準備は出来たか?」

「はい、とりあえずは」

「よし、リビングに集合だ」

「今行きます」

ドアを開きリビングへ向かう。
まだ、心理定規が自分の渡したファイルを読み拭けていた。
知らない情報だらけなのだろう。

「心理定規、そろそろいいか?」

「ええ、読みながら聞いているから平気よ」

「…まぁ出来ればこっちに集中してほしいんだがな」

「貴方じゃないんだから、ちゃんと聞いてるわよ」

「チッ…」

どうやら、垣根のほうが言い負かされるらしい。
立場を把握する。
30 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 16:14:53.39 ID:RcmkpT6o
「新しいメンバーだ。ってさっき話してたみたいだから、紹介はいいか?」

「ええ、大丈夫よ。興味深い資料を貰ったし、相当凄い腕を持っているのも把握しているわ」

自分が褒められていると言うのに、あまりいい気がしない。

「話しが早いな。初春ちゃんには情報仕入れをやってもらう。今まで通り、こういう文書を集めてほしい」

垣根はファイルを指さし言う。
後のこのファイルは、裏の目録と名付けられる。

「俺の知らない、素養について初春ちゃんは知っていた。素養については、学園都市ではトップシークレットとされているだろう」

「そうですね、何も知らない学生、先生は黙々と勉強していくだけですから」

「…これは学園都市の交渉材料にならないか?」

垣根は険しい顔をして言う。

「それは危険だと思います、知っているのは私たちだけ。私たちが消されれば知る人間は居なくなると言う事ですから、それに…」

「それに?」

「交渉をして何を得るんですか?」

これが一番聞きたかった。
当初の目的は滝壺理后の回収。
そして…真なる目的は垣根自身がメインプランへのシフト。
それを言う。
言うと、垣根は表情一つ変えずに語り始めた。

「そうだな、昔の俺はそう思っていたかもしれねぇな」

一息。
「だが、今は違う。一方通行と対立するのには、そもそも俺とでは『次元』が違う。その名の通り『次元』だ。奴は、学園都市と戦っているのではなく、また違う何かと戦っている。だから、今はメインプランになる事が目的ではない」

「じゃあ、何が目的だと言うのですか?」

「学園都市が、俺に対する使用問題についてだよ」

コップに入った飲みモノを口に放り込む。
色からして、酒だろうか?と考える。

「奴らは俺に、未元物質の生産を求めた。あの時俺は身体が無かったが、交渉し身体を求めた。こうして今の俺はここに居る。だがなんだ?奴らは、俺に永遠と未元物質の生産を求める。それはだ…」

「もしかして、最近ささやかれている」

「ああ、その通り。未元部室を使用した武装兵器の作成の為だ」

ギリッと歯ぎしりが聞こえる。
31 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 16:15:34.87 ID:RcmkpT6o
「確かに俺の未元物質は無限と生産可能だ。だが…扱いが気にいらねぇ」

「……」

黙って、聞く自分。

「それが、武装兵器の作成の為だけだ…?」

この人は何を考えているのだろう。
自分の事しか考えて無いのだろうか…?だから、他人の為、いや学園都市の為に武装兵器を作るのが嫌なのだろうか。
そうだとしたら…また、自分はこの人に絶望をしないといけない。

「これは俺の能力だ、俺が自由自在に使える能力」

ああ、やっぱりなと自分は頭の中で納得する。
やはり、この人は自分の事しか考えていない。
第二位と言う、コンプレックスを背負っている自分を支えていくのに精一杯なんだ、と確信する。
――誰にでもコンプレックスは持っている。
自分は思う、垣根は贅沢なコンプレックスだなと。
生まれながらして、Level5を手に入れられる素養を手にし、しっかりカリキュラムをこなすことによりLevel5へとシフト。
だが、自分はもっと身近に生まれながらにして、素養0の存在を知っている。
きっと、この人は素養が0の存在なんて、ゴミとしか思っていない。

「だが…俺は第一位のクソ野郎と戦い、負け。身に付けた物が一つだけある」

少しだけ興味がある。
勝った事により得られる物は、達成感と負けた者からの贈り物だ。
負けた事により得られる者は、憎しみと、勝った者への対策だ。
つまり、垣根は対策を得たと言う事。
これが、何なのか…とても興味深かった。
しかし、垣根は自分の考えを180度違った方向で話しを進める。

「俺は第一位には勝てない」

あのコンプレックスを背負った、彼が。
完全に敗北を認めた瞬間である。

「勝てないからと言って、奴への憎しみは変わった訳じゃない。今でもあいつを殺したくてしょうがない」

「…すみません、私には何が言いたいのかが分かりません」

少しだけ手を挙げて言う。
本当に何が言いたいのかが分からないからである。
矛盾している、勝てないと言った、つまり諦めたと言う事。
…だが、この男はこの状況で笑っている。
32 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 16:16:14.24 ID:RcmkpT6o
「なぁ、初春ちゃんよ。なんで、俺がお前を欲しがったんだと思う?」

「ま、まさか、私が第一位を倒すキーパーソンだって言うんですか?」

「大正解、正解者にはキスをプレゼント」

「近寄らないでください…」

後ずさる。
本気で気持ち悪かったからである。

「はぁ、とんだ茶番ね。いいから、その理由を言ったら?」

冷たい声がした。
心理定規が、ファイルを全て見終え垣根の方を向いていた。
もしかしたら、妬いた?と思いながらも、この人が心理定規だと言う事を思い出し考えるのをやめる。
垣根と自分に対する距離が縮まったのかもしれないが…考えただけで、少しだけ寒気がする。

「理由は簡単だ、初春ちゃんにはあのクソ野郎が使ってる『ミサカネットワーク』をのっとってもらう」

「ミサカ……ネットワーク…」

「まさか、知らないとは言わないよな?」

「知っているに決まってるじゃないですか、今年一番のニュースですよ」


ミサカネットワーク。
2万体ものクローンが作りだすネットワーク。
意思の疎通、感覚の共有、情報の伝達、全てにおいて他のネットワークに勝るネットワーク。
また、そのネットワークを使い、補助演算をしていると言う噂の、現在の第一位こと一方通行。
つまり、そのネットワークにアクセスし、のっとる事が出来れば

「あのクソ野郎は倒せるかもしれねぇ」

「無茶です、あのネットワークに接続するなんて…アホ毛ちゃんが管理下なのはご存じですよね?」

「打ち止めか」

「はい、権限はすべてあの子にあります。他のミサカが暴走しない為に、あの子は居るんです」

「根本的に考えが違うな、何も『ミサカネットワークを壊せ』って言っているんじゃない、『代理演算機能を壊せ』って言ってるんだ」

「……」
33 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 16:17:06.54 ID:RcmkpT6o
少しだけ考えてみる。
あのアホ毛ちゃんに、何かをするのは少しだけ抵抗がある。
暗部に落ちたからと言って、まだ良心は残っているのか子供には手を出したくない。
…この人は子供である私に手を出したが。

「甘い考えを持っているなら、捨てろ。前にも言ったはずだ、仲間には優しいが敵には厳しいんだよ」

「…分かってます、ですが時間が必要です。あまりにも、無謀すぎます」

「なんだったら、ミサカネットワークを作るにあたって研究していた研究者を連れてきてもいい、そうだな個体が必要ならばミサカを連れてこよう。最悪打ち止めが必要ならば、その願いも叶えよう」

「第一位がアホ毛ちゃんを手放すとでも?同じ事になるだけですよ」

後ろで心理定規が笑う。
嘲笑っていた。

「だが、前の二つは可能だ」

「…分かりました、私なりに頑張ってみます。本当時間が必要です、まずミサカネットワークの仕組み自体を知らないといけないので」

「アクセス権限は全て解除されてる、ランクはAだ」

「Aでも足りません、SSじゃないと無理です」

「それをするのがお前だろ?」

「…」

当たり前のように言われる。
自分は既にそういう立場になってしまったのだ。

全て言い終えると、垣根は自分の部屋へと戻っていく。

「大変ね、貴女も」

と、心理定規は言い残し、心理定規も自分の部屋へと戻っていく。
残ったのは、自分と自分の作ったファイルだけ。
これからすることは、ミサカネットワークの解析。
…私一人で出来るのだろうか?
と、思ってしまう。
34 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 16:17:50.65 ID:RcmkpT6o
自分の部屋へ戻り、パソコンを開く。
次第にデスクトップが表示され、起動する。
いつもの画面、パソコン自体はいつもと変わらない。
だが、やる事は違う。
自作ソフトウェアを起動し、『書庫』にアクセス。
アクセスをしても、何も問題はない。
ランクFからSSにするのは困難だ。権限が元から低すぎる為である。
だが、AからSSにするのは簡単だ。権限が元から高いからである。
だから、楽々とアクセスをする。
目ぼしい情報が無いかと、探す。

「ミサカネットワークによる、ANGEL計画…ああ、0930事件の時のですね。この時に打ち止めに妙なデータが入ったと…今は除去されたみたいですね」

PDFを淡々と読んでいく。
印刷をし、ミサカネットワーク用ファイルにファイリング。
データもUSBメモリとPDAに送信する。
バックアップを何重もしていく。

「流石に、ICには入れなくてもいいですよね…」

ICチップが搭載されている機械には、こういったデータを入れる事が可能である。
例えば、ゲーム機やテレビ、そこに置いてあるプリンタにも可能。
だが、それは最も必要であり最も機密にしなければいけない内容だけ。
『素養』に関してのデータは、ほとんどの機器に入っている。
PDAを除いて。
「PDAに入れると、もし紛失した場合即バレですからね。PDAにはあんまり入れたくないんですけど…」
PDAは普段持ち歩く為に、機密データをあまり入れない。
もし、電車に置いてしまったり、盗まれてしまったら…理事会に即バレ、留置所に放り込まれる。
書庫のデータを不正に見て、逮捕された人を何人も見ている。
むしろ、自分が逮捕させたと言っても過言じゃない。

「…ッ!?」

またデータを探して行ったのだが、自分に関係のある文書を見つけてしまった。
35 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 16:18:22.86 ID:RcmkpT6o
風紀委員の行方について。
先日、一人の風紀委員が行方不明になった。
書庫のデータも削除され、能力、名前、学籍番号まで全て削除。
学園都市から居ない事になった。
住んでいた寮も、パソコンなど精密機械以外は全てそのまま。
風紀委員の支部から、捜索願いが出された模様。
現在捜索を続けている。
見つけ次第、第七学区警備員本部まで。

名前:初春飾利
学校:棚川中学一年
能力:定温保存

自分の記事が確かに載っていた。
これは警備員の緊急メッセージのログである。
捜索願いを出したのは、固法先輩だろうか。

「余計な事してくれましたね…私、外歩けないじゃないですか」

そもそも、外に出してくれるかも分からないが。
この事を、あの人は知っているのだろうか。
知らないだろう、あの人は自分の事しか考えていないのだから。

数分後、欲しい情報は見つからなかった。
莫大なログを辿っていったので、少しだけ目が痛くなる。
目をごしごしとこすると、時計を見る。時刻は既に22時。
眠くなってくる時間である。

「リビングに行ってお茶でも飲みましょう…」

立ち上がり、ドアから出てリビングへと向かう。
36 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 16:19:17.66 ID:RcmkpT6o
と、そこには垣根帝督が居た。

「何か見つかったか?」

「まだ、得には。そうですね、代わりに自分が捜索願いを出されている事は分かりました」

「はっは、誰が出したんだろうな。あの女の子かな?」

多分、垣根が想像しているのは佐天涙子の事だろう。
この人に佐天の事を触れられると、少しだけ苛々する。
本来関わるべき相手ではないから。自分が関わらせてしまったから。

「…多分、捜索願いと言うのは建前なんですよ」

「ほう、つまり?」

「私は、基本的にICチップにバックアップを取ります。素養に関してはほとんどのICチップにバックアップを取っているんです」

「だから、ゲーム機や炊飯器までここに持ってきたのか」

「はい。寮は捜索されたみたいなので…」

「あっち側も感づいたって事か」

「そもそも、私は疑われる身でした…私は知りすぎたんですよ。学園都市の全てを」

垣根はコップに入った、酒を飲みながら。

「ああ、そうかもしれねぇな。素養の存在を知っている人間なんてお前くらいじゃないのか?」

「そうです、私が見たログにはデータベースへアクセスし、そこまでたどり着いた人間と言うのは私くらいですから。ここまで欲が出てしまった事に恥じらいを持っているくらいです」

「いや、それは誇っていいだろう」

「…誇って良いと言うなら」

聞いてみる。
暗部に入るにあたって、最も聞きたかった内容を。


「言うのなら?」
37 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 16:20:14.35 ID:RcmkpT6o






「垣根さんは……私を守ってくれるんですか…?」







少しの間、だがすぐに答えは帰ってきた。


「当たり前だ、何度も言わせるな。仲間に対しては全力を尽くす。お前は戦場では役にたたねぇ、だが戦略を考える事ならできる。オペレーターにだってあんれる。そういう人間は必要だと言う事が良く分かった。
              
                        お前は―――俺にとっても守るべき存在だな」
38 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/12(日) 16:22:04.93 ID:RcmkpT6o
安心したのかもしれない。
素養を知った人間は自分しか居ない。そう思っていたのは、もう数カ月も前から。
それから自分は学園都市に居る事に対し、とても恐怖を覚えた。治安維持を守る為に風紀委員をする、だけどそれだけで罪は消える訳じゃない。
知りすぎた事による罪を消すには、忘れる事しか出来ない。それすら出来ない自分に恐怖を覚えた。
そして、いつ消されても仕方がないと思われている自分。
街を歩いて居る事自体も、少しだけ怖かった。

だけど、今は違う。
学園都市第二位である、垣根帝督が守ると言った。
ならば、それを信じるだけだ。

「分かりました、ありがとうございます。検索を続けます」

「おう、頑張れ。期待している」

私は自分の部屋へと戻った。


49 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/13(月) 15:30:07.37 ID:8AC639.o
自分は解析をする時に花を想像して解析をする。

根の先端から水や栄養の流れを想像し、大きな全体像を頭の中で仮定することにより、解析する。
そもそもは、守護神としての解析術だったが、逆にも応用が利く。
ミサカネットワークはどうだろうか?
例えば、葉から得られる光は根から得られる水と合わさる事により栄養となる。
葉を、下位個体、根を上位固体と考える。
根は葉を支える者。茎がネットワークだとすると、ただ単に現在のミサカの数が葉の数と言う事になる。
葉から集まる光、根(この場合情報は上位固体、打ち止め)と合わさる事により、葉を強くしていく。情報がまた葉へと伝わる。

となると、上位固体と下位個体の関係は両方とも無くてはならない存在である。
根は葉を失えば、光を吸収する事が出来ない。つまり情報が集まらない。
葉は根を失えば、水をもらいうける事、情報が無くなる。
片方が、無くなれば情報のバランスが乱れ、自然とそのネットワークも消えていく。


仮説するとなれば、一方通行はその葉にすぎないのでは?
代理演算。これは他の妹達に演算を任せる事によりなりうるもの。
しかし、一方通行が葉の存在となるならば、打ち止め経由で、妹達に演算させる。
つまり、二度手間なのだ。
管理下に居る打ち止め。やはり、重要人物になるのは変わりない。
「だけど…この考えで行くと、茎と言う存在は…」
一方通行は、代理演算をするにあたって電極を使用する。
これが根と葉をつなげる茎となっている。他の妹達には最初からこの茎が備わっているから必要無い。
…多分、自分が考えている「茎を切る」と言う考えはいくつもの人がやってきただろう。
だけど、それでも一方通行は生きている。

「恨みはないんですけどね…むしろあの時助けてもらいましたし」

初めて垣根と会った時の事を思い出す。
垣根に踏まれ、一方通行が助け(?)てくれた。
なのに今はその助けてくれた一方通行を殺す為に、協力。しかも協力する相手は踏んだ垣根帝督。

「矛盾してるなぁー…」

と、思う。
50 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/13(月) 15:30:46.68 ID:8AC639.o
日が昇る。
気が付いたら眠っていたようだ。
パソコンの前にうつぶせになり、眠っていた。
以前からよくあることで、所謂「寝オチ」と言うもの。
データベースへのアクセスは、そもそも操作が一定時間無かった場合自動的に切断される。

「身体がダルいですね…お腹がすいてきました」

むくりと起きあがり、のそのそと動く。
パソコンの電源を切り、リビングへ向かう。
人の気配がしない、心理定規と垣根は居ないのだろうか?
適当に冷蔵庫の中を探り、適当に料理を作る。

「野菜炒めくらいですね・・・お米はあるようですが・・・」

勝手に料理はしていいと言われたので、料理をする。
そういえば垣根は料理をするのだろうか?と考える。
材料があると言うのなら、するのだろうと推測するが、あの人は未元物質で何でも作れる。
もしかしたら、食べ物だって作れるかもしれない…と思うと、心理定規が料理をするのかもしれない。

「まぁどうでもいいんですけどね…」

誰が作ろうが関係ない。いろいろ考えたら、前に居た面子が作っていたのかもしれないとか思っていた。
一応3合炊いておく、もしかしたら二人が食べるかもしれないから。
こういう所は、無意識にやっている。人に気を使って生きていく人生と言うのも、風紀委員で培ったきたものだ。

朝食を追えると、またデータベースにアクセスをする。
心理定規と垣根がどこで何をしていようが関係無い。
もしかしたら、また新しくメンバーを補充するかもしれない。
時間が解決するだろう。

「よし」

意気込み、カタカタとキーボードを動かす。
基本的に操作はキーボードで行っている。マウスではレスポンスが悪いからである。
無音の部屋にカタカタと言う音が響くだけ。
音楽などを流しても何の問題も無いのだが、集中している自分はそんな所に気が回らなかった。
ミサカネットワークと言う単語ではなかなかヒットしない。
そう思った私は、もしかしたら別の名前でヒットするかもしれないと考える。

「隠語として現されてる…もしくは、コードネーム…?同じか」

Misaka Net Work.
MNW…?
考えつくと、検索のダイアログボックスに記入していた。

「あ…あった」

あまりにも簡単すぎたので拍子抜けをした。
51 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/13(月) 15:31:36.78 ID:8AC639.o
MNWの仕組みについて。

先ほど、考えていた内容とほぼ同じであった。
しかし、これはあくまで妹達のネットワーク。
第一位との代理演算については一切記載がなかった。

「一応保存して、印刷ですね…バックアップもとっておきますか」

いつも通りの作業、これだけは変わらない作業。
ファイリングし、しっかり保存。
USBメモリ、外部HDDにも保存をした。

「はー…」

一息つく。とりあえず、今日の収拾は終了。このデータから新たなるヒントを探して行く。

「…そういえば、垣根さんからは一方通行と戦った時の事を聞いていないんですよね」

情報が足りない。
一方通行は、電極の電気が無くなった場合どうなるのか…。

「今まで、そこまで陥った人はどれだけいるのでしょうか…これは個人の経験からする…それに電極を作り上げたのは冥土帰し。データがあるわけない」

冥土帰しはデータをネット上に出さない。
本当に渡す時は、USBメモリかなんかで研究者に渡す。
基本的にパソコンをネットワークにつながない人間なので、クラックも不可能。
よって、電極がどんな構造になっているのかも分からなかった。

「冥土帰しは鉄壁すぎます…」

体を楽にする。
少しだけダレてみた。
あの電極の秘密がわからない限り、進まない。
他の策とすれば、AIMジャマーを使うという手があるが、それは垣根帝督自身の能力も暴走させる危険があるので、やらない。できない。

「はぁ…」

ため息が出る。
やはり、無謀すぎる。
52 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/13(月) 15:32:10.02 ID:8AC639.o
だいたい、どこで何をしているのかもわからない一方通行を倒すだなんて。

「一方通行…」

無性に眠くなり、ちょっとだけうつ伏せになって目をつぶる。
少しだけ、5分だけ寝ようと思う。
「…」
時計の音がカチカチと鳴ってるのが聞こえる。
少しだけ耳障り、それぐらい部屋が静かなのだ。

起きると、30分くらいたっていた。
涎が、出ていて机が汚れていた。ティッシュで拭くと、またため息が出てしまう。

「垣根さんと心理定規さんどこ行ったんだろう…」

昨日「守る」と言われたのに、放って置かれている状態。
人肌が恋しいだけなのかもしれない。独りは自分を不安にさせる。
もし、急に攻めこまれたら自分はどうなるんだろう、とか考えてしまう。

「…まだかな」

さっきは、別にどうでもいいと思ったが、考え直すとどうでもよくなかった。
自分は能力がLevel1で、交戦には向いていない能力。

ガチャリッと玄関から音がする。
誰かが帰ってきたのだ。
鍵が開いたことから、二人のどちらかだろう。
この家の鍵は全部で四つ。自分と心理定規と垣根が二本持ってる。
もっとも、垣根は自分で鍵すらも作ってしまうので必要が無いのだが。
誰が帰ってきたのかが気になり、部屋をでる。
そこには、三人の姿があった。

「ただいま」

垣根、心理定規……あと独りは知らない。
もしかしたら、補充されるメンバーかもしれない。
背は低く、どこかで見たことあるような顔。
茶髪の短髪で、自分と同い年くらいの顔立ちをしていた。
ただいまと言ったのは、垣根。心理定規は無言で部屋に入っていく。
すたすたと三人がリビングへ向かう。自分もそれについていく。

66 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2010/12/14(火) 23:26:19.53 ID:9/e8V9ko
「紹介しよう、元アイテムの絹旗最愛だ」

なるほど、見たことあると思ったらやはり組織の人間だった。
以前見た資料とは少しだけ顔立ちが違うように思えたので、わからなかったのである。

…ただ、垣根の紹介からするとまだスクールに入るわけではない。
紹介の仕方は、これからメンバーに入る~だったので違うようだ。
つまり、まだ悩んでいるということなのだろうか。

「…」

黙っている、ここの空間に合わないようだ。
自分も最初そうだった。
ここは自分の居場所ではないと思っていた。
今は、日付をまたいだせいかなのか、違和感を感じなかったのだ。
もう体が慣れてしまったのかもしれない。

「お前をスクールに入れたいんだ」

「超お断りします、私はまだアイテムとして生きていきます。アイテムは…まだ壊滅していません」

「だが、麦野沈利、滝壷理后は行方不明、フレンダはリーダーである麦野沈利によって死亡。滝壷理后に至っては生きているかもわからねぇよな?」

「…」

心理定規が前に出る。

「そもそも、貴方は新部隊として駆りだされるわけだったんだし、スクールに入っても何も問題無いのでは?」

「貴方達の仲間になりたくないって言ってるだけです。フレンダが殺された原因は貴方たちなんですよ?超お断りです…そもそも、スクールさえ居なければ…」

肩が震えていた。
もしかしたら、この子は出来ることなら垣根と心理定規を殺したいのかもしれない。
それぐらい殺意が漏れていた。

「つってもな、お前がどう言おうと、心理定規の能力でどうにでもなるんだけどな?」

「そ、それだけは超やめてほしいです。仲間を裏切るような事は…」

なんだか見ていて痛々しい。
このスクールに入れば、裏切ることになる。
寝返るのと一緒だ。

「…お前はすごいんだよ。暗闇の五月計画は伊達じゃない、能力を最大限まで活用する戦闘スタイルは驚かされる」

垣根がここまで人を褒めるのは、あんまりない。
自分の時も、褒めてくれた。
勧誘するのであたりまえの行動なのだが、的確に褒めているような気がする。
67 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2010/12/14(火) 23:27:42.04 ID:9/e8V9ko
「私がこの組織に入るメリットがありません。もし麦野が帰ってきたら私は合わせる顔が超ありませんよ!!それに…」

絹旗は眼を閉じて、うつむきながら言う。

「私は、一度裏切り…そして殺された人を知っていますから」

垣根はニヤリと、笑っているような気がした。


「フレンダか」


それを聞くと、ハッと顔をあげる絹旗。
そう、フレンダはスクールに口を割ったことにより、アイテムのリーダー麦野に殺された。

「だったら、その麦野沈利を[ピーーー]だけだな」

簡単に、学園都市第二位は言った。
実際にそれが出来るから…言うのだ。

「…」

場が凍る。
絹旗という子は拳を握って、震えだしている。
今にも攻撃しそうな感じ。

「か、考えさせてください」

「わかった、3日だ 3日後にお前をまた向かえに行く」

自分と同じだった。
3日間の猶予を与え、精神的に整理させる。
垣根は断ったら、絹機を[ピーーー]かもしれない。

そう思った。
話が終わると、絹旗はここから居なくなってしまった。
68 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/14(火) 23:28:47.36 ID:9/e8V9ko
場の空気に耐えられなくなり、自室に戻る。
結局は、スクールという組織に縛られているのだが、ここはまだ開放されているような気がする。

「はぁ・・・」

ため息が出てしまう、またため息。ここ最近増えたような気がする。
気になったことを検索する。絹旗最愛についてである。
以前、組織であるアイテムについて調べていたときに、写真だけは見たことあった。

だが、能力経歴については調べておらずに、そのまま放置。
その時は、滝壷理后について調べていた。そして、麦野沈利。
いずれも、あの「素養」にて重要人物であることから、興味があったのである。
もちろん、データは既にファイリング済み。

心理定規も垣根も眼を通しただろう。
そして、新たに増える絹旗最愛。
データベースにアクセスし、調べてみる。


「暗闇の五月計画ですか…」


説明欄に書かれた、暗闇の五月計画。
それにより、絹旗は置き去りであることが明らかになる。
そうして・・・実験の被害者であることも明らかに。


「置き去り・・・」


置き去り、いろいろな記憶が頭をよぎる。
かつて、同居人であった春上も置き去りだった。
そして…暴走能力の法則解析用誘爆実験。

置き去りという単語から、ここまで出てくる。
それが、木原一族の陰謀であることも知っていた。
ここまで、知っている私は何度学園都市に絶望したのだろうか…?
69 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/14(火) 23:29:21.29 ID:9/e8V9ko
絹旗最愛に戦闘術が優れているのを把握した。
あれだけ垣根が、絹旗に対し賞賛していたのも納得出来る。
それほど、絹旗という存在は戦闘スキルが高いのだ。

何が高いか。
それは、能力の応用である。
麦野沈利は、能力で攻撃するにあたり、照準が定まらないことにより放出するのが遅れる。

一方通行や、垣根は別とし(そもそも次元が違う)、常盤台のエース御坂美琴…かつて友達だった、Level5よりも戦闘スキルに関しては上かもしれない。
能力のメリットを最大限まで引き出し、相手を陥れる。
窒素という、扱いにくいものをいとも簡単に使い攻撃、防御に活かす。
それが、もしかしたらLevel5を超える可能性があるという最大の強みだった。

「…そう考えると、アイテムはとても強かったのかもしれませんね」

麦野の照準が定まらないのを埋める、滝壷理后。さらに、能力追跡から先手を取りやすい。
絹旗による、戦闘スキルを活かし近接は絹機に任せる。
サポートとして、兵器を使うフレンダを交えれば…。

「まぁ足りなかったのは、チームワークですかね」

想像するだけして、結論づける。
もし、アイテムという組織がチームワークにおいて最高に値する組織であった場合…。スクールなど、簡単に潰していた…かもしれない。
独りでどうにでもなる、垣根。
しかし、Level5と言えど…無敵ではない。Level6(絶対能力)では無いのである。

「ここに、一方通行を倒すために必要なヒントがあると思うんですけどねー」

自分の考えをまとめてみた。
ワープロソフトを使い、まとめる。
印刷して、自分が強調すべき場所にメモを入れておく。
忘れそうなことは付箋をモニターに貼る。

結局、今日もそれの繰り返しだった。


78 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/20(月) 17:04:38.83 ID:kVDJm5Eo


―――春ー――初――。




初春―――ちゃ――ぞー――


「初春スカートめくっちゃうぞー!!」
「うわぁ!?!」

びっくりする、聞きなれた声がしたからだ。

「さささ、佐天さん!?」

目の前には、佐天涙子。
友達でもなんでもない、他人。
もう交えることのない…と思っていたのに、目の前に居る。

「ふふ、びっくりした?スカートめくっちゃえばよかったなー」

「や、やめてくださいよ!」

「コミュニケーションだってばー、あはは!」

佐天はお腹をかかえてケラケラ笑う。
…私の日常がそこにあった。

スーと何かが抜けていく。
幽体離脱するような感覚。
私が私でなくなる、空を飛んでる?私はそこで佐天と話している、楽しそうに…笑ってる。
だけど、私は?
どんどん離れていく、笑い声がどんどん 遠くなって。
やがて…。

「……嫌な夢です」

覚醒する。
眠ってしまっていたようだ、また寝落ちしてしまった。
やはり、未練があるのかこういう夢ばかり見る。
もう一人の自分が、楽しそうに佐天と話している夢。
そのもう一人の自分から、自分が抜けていき遠のく。
泣きたくないのに、涙が出る。
未練ダダ漏れである。
79 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/20(月) 17:05:15.35 ID:kVDJm5Eo
「はぁ…いい加減忘れないと。私はもう縁の無い人間なんだから」

ふと、佐天に渡した手紙を思い出す。
『いつもどおり」と言ったが、気づいているのだろうか。
別に、特別何か隠したわけではない…ほんの、些細な私の抵抗。
気づかなくても何も問題ない。
私を探しても、ここにはこない。絶対に来れない。それが、常盤台のエース御坂美琴、風紀委員の先輩である白井黒子だとしてもだ。
願わくば、来ないでほしい。
これ以上、誰かを巻き込む事をしたくないからである。

なら、私は何故佐天へ手紙を送ったのだろうか。
考えても無駄だなと気づいたのは、15分後だった。


三日後。
絹旗最愛は、約束通りスクールにやってきた。

「あくまで、アイテムが再結成されたら私はそちらに戻るつもりです」

それを聞くと、垣根はニヤリと笑って絹旗の要求を受け入れた。
心理定規もとなりで笑っている、どうせ何かしたのだろう。
これで、スクールは4人となる。
組織として、動くには最適な人数。
メインである垣根帝督。
相手の心理状態をおかしくする、心理定規。
能力を最大限まで活かす事のできる絹旗最愛。
情報管理をする、私、初春飾利。
かつてのスクールよりは、良いのかもしれない。

「さっそくだが、初春。情報のほうはどうだ?」
「すみません、さっきから超気になってたんですけど、その人は誰なんですか?」

絹旗はこちらを向いて言う。
そりゃそうだろう、私は数日前まではただの学生、そして風紀委員に所属していた。
暗部のほうで活動をしていた絹旗とは何の接点もない。

「紹介とかまだだったな、うちの情報管理をしてくれる初春飾利だ」
「どうも」

軽く会釈、絹旗もつられるように頭を下げた。
これが礼儀というものである、風紀委員で学んだ事。
80 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/20(月) 17:05:52.88 ID:kVDJm5Eo
「一体、どれぐらいの情報処理ができるんです?」
「そうですね、書庫のデータはもちろん、権限をSSまで持つ事ができるくらいには」
「…」

黙る絹旗。
自慢する気ではなかったが、少しだけ気持ちがいい。

「超凄いですね、よくこんな人材を見つけたものです」
「だろ?」

垣根も嬉しそうにしている。
褒められるというのは、気持ちがいいものである。

「ところで、もう一つ気になったんですけど」
「はい?」

まだ何かあるようだ。

「頭の…それはなんですか?」
「なんのことですか?」
「…!?」

何のことやら。




話は戻り、垣根がまた仕事の話に戻した。

「情報はミサカネットワークに関しての資料を入手しました」

自慢のファイルを渡す。
垣根は受け取ると、熱心に読み始めた。

「そのファイルは?」
「私が作った、学園都市に関するデータです。隠蔽されているデータばかりで、多分読んだら衝撃的でしょうね」
「…」

垣根が読み終わると、絹旗も続いて読み始める。

「それで、初春の考えがこの植物の原理なんだな?」
「はい、正直アホ毛ちゃんを倒せばいいんですけど…」
「なるほどなるほど、まぁそれは前回で失敗したからな」

と、言われるとチラッと私の方を見てきた。
なるほど、私のせいだった。
81 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/20(月) 17:06:25.31 ID:kVDJm5Eo
「…」
「まぁいい、今となってはどうでもいいしな」
「それで聞きたかった事があるんです」
「なんだ?」
「一方通行と戦ったときの記憶ってあるんですか?」

一番気になった事だ。
私が聞くと、垣根は残念そうに

「無い」

と答えた。

「統括理事会はその記憶を消している。どんな能力者を使ったのかは知らないがな。あの時の記憶はさっぱり、戦ったと言う記憶はあるのだが、どうやって戦ったのかがさっぱり消えている。経験として残っていない」

これで納得が行く。
あの時垣根は、能力を開花させたと言う。
心理定規から聞いた話しだ。今まで以上に能力を使いこなせていた…と言うのだ。
だが、今はその記憶が無い。
つまりスタートに戻っているのと一緒なのである。
82 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/20(月) 17:06:58.78 ID:kVDJm5Eo
その時、急にバタンッと言う音がした。
絹旗のほうからである。

「そんな、こんな話し超信じられません」

ページは、素養についてのページ。

「こんな事…超あってはいけないんです…浜面達は…超頑張って…」

いろいろと思うところがあるのだろう。
私もそうだったように。

「こんな仕組みが無かったら、浜面達は暗部に落ちることなんてなかった…私だって、素養さえなければあんなくだらない暗闇の五月計画に参加することなんて…それに…プロデュースだって、超必要無かったんです」

ぶつぶつと下を向きながら言う。
目には涙が溢れていた。


「この学園都市は腐ってるんだよ」


垣根は言う。
今日の報告は以上だった。
 
 
100 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/22(水) 22:17:01.68 ID:R1HuUC6o
報告が終わった後は、また調べる作業に入る。
垣根と心理定規、絹旗は話し合いをしているらしい。


何の話し合いだかは、だいたい想像がつくが…。
ファイルは現在、リビングに置いてある。あの絹旗は何回絶望したのだろうか。
そして、ここにその絶望が当たり前になっている人間が居るのは知っているのだろうか。
そこまで考えているかは定かではない。





ミサカネットワークの記事をさがしているうちにある物が見つかる。
それは応用だとか、ミサカを使った原石の回収などだ。
原石の回収については、未確認の物が多い。正直言うと、統括理事会はあまり関係無いのかもしれないと思う。
個人でやっているとしたら、冥土帰しと同じように見つけるのはとても困難になる。

自分が見つけられる範囲は統括理事会が仕切っている物だけ。


…逆に考えると統括理事会は私に見せている?


いや、そんなはずはない。そもそもメリットが無い。ここは、自分の技術力が優れているとだけ考えておこう。

情報を更新すると、Newと書かれた物が出てくる。
これは新しい記事が追加される時に出てくる物だ。
科学者の間での情報交換サーバーだが…内容に少しでもミサカが入っていれば検索は引っかかる仕様だ。
101 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/22(水) 22:17:54.17 ID:R1HuUC6o
「第三次製造計画…?」

第一次は、ミサカネットワークを作り出す時に出された『量産能力者計画』
第二次は、『絶対能力進化』に必要になった開発。
そして…第三次。


つまり、統括理事会はまた御坂美琴のクローンである妹達がまた必要になったということ。
その内容は…

「一方通行を処分する為に作られた…?ということは、統括理事会は第一位を必要としていない!?」

垣根が言うには、アレイスター・クロウリーには何通りものプランが有る。
そのプランの主軸に居るのが一方通行と言う。


その主軸を処分するということ。
つまり…



「別の主軸を用意したということですか?」



垣根である可能性は、0%に等しい。
一方通行も処分ということは…新しい存在が見つかったということ。


…だが、正直今はどうでも良いのかもしれない。
あくまで、目的は一方通行を倒す事。
それが私の仕事だから。

「第三次製造計画のミサカは打ち止めの命令を無視できる装置を持っている…ここらへん突き詰めれば打開策が見いだせるかもしれませんね」

第三次製造計画についての資料を印刷した。
102 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/22(水) 22:22:44.11 ID:R1HuUC6o
そうして、一段落を終えファイルを取りにリビングへ向かう。
自分で作成した、ミサカネットワーク用のファイルもリビングにあったからだ。
ドアを開け、リビングへ向かうとそこには絹旗が一人でファイルを読んでいた。

「…」
「絹旗さん?」
「え、あ、すみません、読み老けていたもので」


難しい顔をしていた。と、同時に顔が少し赤いような気がする。

知恵熱だろうか?
考えすぎると、まれに起きる知恵熱。
あれだけの隠された情報を見たなら、起きるのも不自然ではない。

そう思っていると、絹旗は手をこめかみに当て、ふらふらと立ち上がった。
見ていられない。

「大丈夫ですか?」
「え、ええ、超平気ですよ」

どうやら、絹旗はなんでも「超」とつけるのが口癖らしい。
先程の会話でも、やたら強調されていた。

「自室へ行って、少し眠ったらどうですか?」
「…そうですね、少し…いや、超疲れましたし。お気遣いありがとうございます」
103 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2010/12/22(水) 22:25:17.83 ID:R1HuUC6o
そういうと、絹旗は自室へ向かう。
やはりふらふらしていて、心配になる。

現実を魅せつけたのが悪かったのだろうか、だがグループに入ってもらうからには…知らなくてはならない情報だ。
今思うと、垣根や心理定規はアレを見ても何も思わなかった。
精神面では、かなり強いのかもしれない。



ミサカネットワーク用ファイルを取って、第三次製造計画についての文書をファイリング。
報告しに、垣根の部屋へと向かった。



124 :suzuna って、コテあってた…  ◆XvsKHLIHQc[sage]:2011/01/09(日) 16:12:28.20 ID:RFTfpRYo
「なるほど」

ファイリングした資料を読み終えると一息つきそのセリフを漏らした。
何に納得をしたのかは知らないが、何かに納得したらしい。
それは自分と同じ所で納得したのか、はたまた違う所で納得したのか。
すぐに答えは出てきた。

「つまり、この第三次製造計画のミサカを使えば奴の電極を封じる事が出来るかもしれねぇんだな?」

着眼点は一緒だが、重要な点が一つだけ抜けていた。
垣根は頭がキレる天才だ。
しかし、私と違う点が一つだけある。

それは常識が有るか無いかだ。

「確かに、打ち止めの命令を無視出来るこの妹達を使えば電極を封じる事は出来るかもしれません。演算を切ってしまえば、相手は倒れるだけですから」

常識。常識とは、社会の構成員が有していて当たり前のものとしている価値観、知識、判断力のこと。
この場合垣根は全て当てはまらない。
私は最後に聞いてみる。

「では、聞きます。仮に電極を封じ演算を切った状態の一方通行がいるとします。しかし、それは貴方と一方通行が戦った時と何の変わりも無いんです…貴方はなんで負けたんですか?」

「…」

答えは既に知っていた。
知らない。
覚えていない。
以前に聞いた話である。
だから私は答えを求めずに、話を続けた。

「お答えできないのは、分かっています。これで答えられたら、私が驚きますから」

垣根はイライラしていた。
それがよく伝わってきた。私もそろそろこの人と会話することに慣れてきたせいかもしれないが。

「待て」

垣根が言い出した。
これもまた予想できたことである。今の会話において、疑問点は必ず出てくるだろう。
たとえ、常識の無い垣根帝督にでも。

「何故、お前が一方通行があの戦いにおいて電極が切れた事を知っている?」

やはり。
ため息混じりの呼吸をして

「私、あの場に居ましたから」

そう言うと、垣根はまた納得したのである。
125 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2011/01/09(日) 16:13:36.64 ID:RFTfpRYo
昔話。
私は、興味本位で調べるという事をした。
親の都合上、身近にインターネットは存在していたので、パソコンに触れる機会があったのだ。
タイピングやマウス操作には慣れて、次第にそれが「楽しく」なってきたのだ。
私は小さかったので、楽しいことは率先としてやるのである。
しかし、それが仇となる。

サンタクロースは存在している。
それがその時の「自分だけの現実」だった。
だが、いざインターネットの世界へ飛び込むと、そこには自分だけの現実は通用しなかった。
自分だけの現実ではなく、世界の常識がそこには広がっている。
私は絶望した、だけどそれと共に知るという快楽を得た。
もしかしたら、友達はまだ信じているかもしれない。もしかしたら、クラス中で私だけがサンタクロースの正体を知っているのかもしれない。
そう思うと、そのような知識をどんどん知りたくなった。

そうして、私はまたそれが仇となった。
まず一つは、学園都市は世界の常識を捨てろと言うもの。
サンタクロースは存在しない。
しかし、自分だけの現実を広げればサンタクロースは存在する。
シュレティガーのネコ。
存在するかもしれないし、存在しないかもしれない。生きるか死ぬか。
重なりあった状態、確率解釈。
また私は自分だけの現実が崩壊したのである。
何故か、世界の常識が通用しないからだ。

その結果が垣根帝督と言っても過言ではないと思う。


少し長くなってしまった。
垣根帝督と言う存在は今だにサンタクロースの存在を信じているのだろうか?
信じていたとしたら、それはまたメルヘンな話しである。
だが、この常識の通用しない学園都市ならば…垣根帝督はサンタクロースを創り上げるかもしれない。
「かもしれない」という自信の無さは、自分なりの抵抗なのだ。

翌朝。
リビングに行くと絹旗最愛がご飯を作っていた。
チャーハンを作っているみたいだ。量は四人前。ということは、ご馳走してくれるのだろうか?
数分後に、その答えは出てきた。やはり、ご馳走してくれるらしく皿にもって各席に置いていった。

「超自信あります、是非食べてみてください」

あれほど、仲間に入るのを拒んだ絹旗最愛だが、まさかチャーハンをご馳走してくれるとは思わなかった。
…しかし、チャーハン。あまりに簡単に出来る料理である。
嫌いではない。むしろ、好きな方だ。
スプーンを手に取り、チャーハンを口に入れる。
噛み締めると、口の中にある米粒から熱い湯気が出てきて、ほくほくとほうばる。
なんとか、冷ましてから喉を通す。
甘みと塩っ気が絶妙である。
簡単にいえば、美味しいのだ。
126 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2011/01/09(日) 16:14:37.05 ID:RFTfpRYo
「超よかったです。恨みは無いですけど、一方通行を倒すのが仕事ならきちんとこなしてもらわないといけませんから」

恨みがないと言うのは、嘘だろう。
プロデュースの件を知らないとでも思ったのだろうか。
あのファイルには挟んでいなかったのかもしれない。

後者である、仕事ならきちんとこなす、と言うのは事実だろう。
自分の仕事に誇りを持っているのかもしれない。そんなもの私は持ち合わせていないのだが。
仮に、それを持ち合わせたとしたら私はもう学園都市の暗部として板がついてきてしまったのかもしれない。

「はぁ」

またため息をつく。
タイミングが悪かったからなのか、絹旗はこちらを見て残念そうな顔をしていた。
誤解を与えてしまったのだろうか。

「いえ、違いますよ?」

さっさと誤解を解く。
自分はコミュニケーション能力的に低くは無いと思っている。高いとまでは思っていないが。
風紀委員で兼ね備えた気遣い方は大いに役に立つ。

「え、あ、大丈夫ですよ。私そういう事は超気にしませんから」

相手も気遣い方と言うのは習得しているらしい。
それもそうだ、アイテムで部下をしていたのだから。
部下として生きていくには、そういうのを気にしないと生きていけない。
かと言って、今は私と絹旗との間に格差があるというわけでもないが。
部下だった同士、相手を気遣うと言うのはなんだか笑えてくる。
風紀委員と暗部、形が違えど基本は一緒なのだ。

「ごちそうさまでした、凄く美味しかったですよ」」

チャーハンを食べ終わり、絹旗におれいをする。
この御礼は、嘘でもなんでもない事実である。
実際に美味しかったのだから。

「ありがとうございます、そういって貰えると超作りがいはありますね。アイテムだった頃は、作ってもらうのが当たり前になってましたから」
「ああ、よくありますよね。部下でもなんでもないのに…だけど、大体そういう環境を作るのは自分で自業自得なんですけど」
「そうですね、超イライラするんですけど、体が自然と動いていつの間にか作ってたりするんですよね。超自己嫌悪です」

話しが盛り上がる。

もしかしたら、立ち位置が似ているからかもしれない。
絹旗は、片づけを始める。
私はというと、それを手伝っていた。
癖、と言うものは恐ろしいものである。自然と人にために何かしないとと思っている自分がそこに居る。
自己嫌悪という訳ではないが、そんな癖を持っている自分が憎らしい。
一緒に片づけを始めるときに絹旗は驚いていた。
127 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2011/01/09(日) 16:15:17.39 ID:RFTfpRYo
「いいですよ、私がやっておきます。初春さんは情報集めのほうに専念してください」

と断られてしまった。
しかし、それは私のやり方に反する。
なんなら自分が使った食器を洗わないと気がすまないと言う、潔癖症を用意しても構わない。
仮を作るのが嫌だとか、その他適当な理由を並べた。
言いくるめて、絹旗は承諾する。
私は納得する。

はたして、今まで私に気遣ってくれた人間は居たのだろうか。
と、思うと数々の旧友が頭をよぎる。
白井黒子、御坂美琴、そして佐天涙子。
そして考えるのをやめた。


片づけを終え、部屋に戻る。
そろそろ単純作業に飽きる自分がそこに居た。
何度見ても、情報は同じ。
たまに更新されたとしても、全く違う内容。
そこのアナタも飽きてきた頃かもしれない?

と思うと、急に事はやってくる。

「仕事だ」

垣根帝督が言う。

「上の人間は変わった、統括理事会であることには変わりねぇがな・・・」

沈黙。
体を縛るような緊迫感。

「仕事内容は、VIPの護衛。前と変わらない…といいたいが、絹旗と初春はしらねぇな」

私と絹旗は頷く。

「VIPと言うのは外部の人間だ」
「組織名は?」
「学園都市PTA」
「…親ですか?」
「ああ、そういう事だ」

PTA。または父母会。
代表者は御坂美鈴。
第一位と第二位はそれぞれ置き去り扱いなので、第三位である御坂美琴の母親である御坂美鈴が代表者となっている。

「以前、スキルアウトの連中に狙われた事件があった。その延長戦みたいな感じだな。御坂美鈴自身が、統括理事会に申し出たらしい」

つまり、以前狙われたから今回はちゃんとした護衛をつけて学園都市を歩きたいという事。
学園都市の信用が落ちているのがよく分かる。
128 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2011/01/09(日) 16:16:04.24 ID:RFTfpRYo
「それで、今回は御坂美鈴を狙う連中は居るのかしら?」

心理定規が言う。
垣根はチラッとこちらを向いてきたので、PDAで適当に調べてみることにする。

「今回も居るみたいですね。スキルアウトの連中は堂々と掲示板で情報交換していますから」

暗号化などしなければ、堂々と情報を公開しているスキルアウト。
まるで、狙うので守ってくれと言わんばかりに。
…少し考えすぎだとは思うが。

「どこのスキルアウトだ?」
「第七学区・・・だけで分かりますか?」
「まぁどのスキルアウトだろうがやることは変わりないからな、そもそも俺はスキルアウトには興味がねぇ」

絹旗がピクリッと動いたような気がした。
浜面仕上の事が浮かんだのだろうか。
そもそも、前回の御坂美鈴を狙ったのは浜面仕上であることが今分かった。
だとすれば…その残党なのかもしれない?

「護衛が第二位となんて思っていないようなので、簡単だと思います」
「だろうな」

短く返す垣根。
当たり前の事を言ってしまったと後悔。


数日後。
仕事の日である。
御坂美鈴の護衛が始まるのは午前10時から。
御坂美鈴は地理には自信があると言って、途中までは車で来るとの事だった。
それだと護衛の意味があまりないと思うのだが…まぁ自身がそういうのならばこちらは従うだけ。

今回私はバックアップを担当。
今回、だけじゃなくてこれからもそうなのだが…。
暗部初の仕事だ。その初の仕事が旧友である御坂美琴の母親からの依頼というのも…。
しかし、面識が有るという訳ではない。もし、御坂美琴が現れたとしても、私はバックアップなのだから。

耳に、ヘッドセットを付け。
垣根の、ヘッドセットに取り付けられているカメラから様子を伺う。

しばらくすると、美鈴の乗った車がやってきた。
自分の車なのか、それとも仕事の車なのかは分からない。
調べようと思えば、ナンバープレートから調べられるが正直どうでもよかった。
129 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2011/01/09(日) 16:16:52.58 ID:RFTfpRYo
『待ってました』

垣根が言う。

『ありがとう、今回は内容が内容だから頼んだけど、こんなイケメンさんだなんて嬉しいわね』
『はっは、そりゃどうも』
『それじゃあ行きましょうか』

垣根と、心理定規、絹旗は車の乗る。

『四人と聞いたのだけれど?』
『ああ、一人はバックアップですから』

運転するのは御坂美鈴。
助手席に、垣根。後ろに心理定規と絹旗が座っていた。
向かう場所は、第七学区の常盤台中学。
スキルアウトが常盤台を狙うと言うのは、そもそもおかしな話。

なので、今回重点するべき場所は移動中である。

予想通り、彼らは移動中に襲ってきた。

「垣根さん、現在スキルアウトの集団が次の曲がり角で待ち構えています」
『っは、分かりやすい奴らだな』

カメラを元に、把握する。
学園都市には風紀委員用のカメラがいくつも仕掛けられているので、すぐに分かった。

「左に曲がったら出くわしませんけど…」
『面倒だ、ここで降りて片付ける』
『ちょっとどうしたの?』

美鈴が心配そうに垣根に言う。

『悪いな、ちょっとばかし集合時間は遅れておくって言っておいてくれ』

垣根は、無理矢理サイドブレーキを踏んだ。
車は急停止する。
その次に絹旗が。

『超ごめんなさいね』

と言って、美鈴をその場で眠らせた。
130 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2011/01/09(日) 16:17:20.63 ID:RFTfpRYo


「来ます」
『分かってる』

垣根はドアから出る。
スキルアウトは、異変を感じたのかこちらにやってきた。

「まったくよ、運がねぇよな。お前等」
「くっそ、なんで止まった」
「そりゃお前等が居るからだろ」
「そうじゃねぇ!なんでバレてるんだよ!!」
「白昼堂々、掲示板でやり取りをしていたのはお前等だろう?」

そう言うと、スキルアウトの連中は手に持っていた拳銃を撃った。
初めは、車を狙いアシを消そうとしていたのだが…。
そうは行かずに、垣根の羽で車は守られてしまった。

「おいおい、冗談じゃねぇぞ・・・」
「だから、言っただろう?お前等はついてねぇってな」

垣根はテキトウに、スキルアウトを片付ける。
あの時の、一方通行との戦いとは違う汚い戦い方。

「く、ぐ…ぁ…」

スキルアウトの人数も、残り少なくなってきた。
すると垣根は最後の忠告を下す。

「ここで引き下がるのなら、見逃す。どうする?」
「ち、畜生!!」

最後に、その一言を残して去っていった。
垣根はそれを追わない。
無意味に殺しても無駄だと分かっているし、余計な三下には手を出さないのが垣根のやり方。

『終了だ』
「お疲れ様です、御坂美鈴が起きしだい、常盤台に向かってください」
『了解』

今回の仕事は難なく終了した。
131 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2011/01/09(日) 16:17:58.61 ID:RFTfpRYo







はずだった。














「ちょっとアンタ達、何やってんのよ!!」





「あ?」



153 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:10:26.13 ID:eGmlvHHwo

現状況は、御坂美鈴が車で眠っている。
そして、スキルアウトは辺りに倒れている。
心理定規が片付けをしていたが、手遅れ。

その一言を言ったのは…。


御坂美琴。
学園都市第三位の人間。

「私の母親に何やってんのって聞いてるの」
「あーまったく、メンドーだなオイ」

垣根は面倒くさそうに言い返す。

「第三位のお母様を護衛ですけど?」
「そんな冗談が通じるとでも思ってんの!?」

美琴は、雷を起こす。
雷撃は、垣根のほうに向かっていった。それは、あまりに子供らしく…冷静では無かった。
が、垣根は羽で自分自身を守る。

未元物質。
この世には存在しない物質。ありえない物質。
雷撃を打ち消す事など、たやすい事。

「なんなのよ!アンタ!なんで私の電撃が食らわないわけ!?」
「まぁ序列が物語ってるよな」

美琴はハッとする。

「な、まさか…」
「初めまして、第三位。学園都市第二位垣根帝督です」

ニッコリとした表情、しかしすぐに…

「話しは聞くもんだよなぁ?」

表情を崩す。
風紀委員専用カメラなので、鮮明には見えないが確実に怒っているのは確かだ。
154 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:10:57.42 ID:eGmlvHHwo
「な、なんでアンタが」
「だから、最初から護衛って言ってるだろ」
「ママが、こっちに来て…前回襲われたのも隠してたから、心配になってと思ってたら、やっぱりこの座間じゃない」
「そう思ったから護衛を付けたんだろ」
「ざけんなぁああ!!」

理解出来ないのか、自分が間違えた事を認めたくないのか。
どちらにせよ、面倒な事に代わりはない。
私は、指令を出す。

「絹旗さん、美鈴さんを起こして説明させてください」
「それしか無いみたいですね」

絹旗は、美鈴に呼びかけ、頭を押さえながら美鈴は起き上がった。
外では、美琴と垣根が戦っている。
とは言っても、一方的な戦いで美琴がただ垣根に攻撃をしているだけだ。

「み、美琴ちゃん!?」
「待ってて、今助けるから!」
「ちょ、ちょちょちょ 待って!なんで美琴ちゃんは護衛の人と戦ってるの!?」
「……え?」
「だから言っただろ」

場は収まった。

「ほんっと、申し訳ないです…ほら、美琴ちゃんも謝って?」
「…ごめんなさい」

ムスッとした顔で言う。
垣根は作りスマイルで

「いやいや、別に良いですよ。お母さん思いな子をお持ちで素晴らしいですね」

これは、明らかに作った褒め言葉。
私でもわかるような、褒め言葉だった。

「あっはっは、早とちりな所あるからねぇ…この子は。それじゃあ常盤台に向かいましょう。時間も、結構たってしまってるから」
「そうだな、あー…」
155 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:11:48.15 ID:eGmlvHHwo
あっ

重大なミスを犯した事を思い出す。
この状況で…垣根帝督が私の名前を読んだら…?
















「初春、一旦通信を切るぞ」

















どうなってしまうんだろう?
156 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:12:17.69 ID:eGmlvHHwo



「え、うい…はる?」

美琴は、信じられない顔で言う。
カメラからでもはっきりと分かる、青ざめた顔。
「ちょ、ちょっと!アンタ今なんて!」
「また突っかかるのかよ…」
「美琴ちゃん、どうしたの?ほら、一緒に常盤台行きましょう?」
「待って!!どうしてそこで初春さんの名前が出るのよ!!ねぇってば!!」

垣根は感づいたのか、そこから私の名前を出す事は無かった。
その問に答える事は無い。
垣根も暗部の人間。
頭のキレも良い。

私はというと……何故だか目から涙が溢れていた。



その後御坂美琴がどうなったかは知らない。
バレてから、通信を切ったからだ。
正直、私自身焦っていた所もあるのかもしれない。
後で、通信を切った事に対し凄く怒られても、どうだってよかった。
今はただ、この溢れる涙をどうにかしないといけなかった。

「…うぅ」

御坂美琴は私をまだ覚えている。
其処か、私の名前を聞いた瞬間に血相を変えて垣根に追求してきた。
つまり、彼女達は私を探しているのだろうか…?
佐天さんにはしっかり手紙を送った。だけど、それでも諦められないか?
…今ここで考えた所で答えは見つからない。
事情を説明しなかった、自分にも責任がある。
垣根は悪くはない。
だから、やはり私は通信を切断した事に対し怒られるべきだろう。



「誰が怒るかよ」
「え?」

帰ってきた垣根を迎える。心理定規と絹旗も一緒だ。
私は、真っ先に謝りに行く。
だが、垣根はこのようにどうでもよかったと言っている。

「俺も気づかなかったしな、正直あの第三位は見境ねぇな…初春の名前が出てきた瞬間にかなり聞いてきやがった。車まで止めやがったんだぜ?親が乗ってる車だったのによ。つっても、急停車じゃなくてゆっくりと停車したがな。むちゃくちゃだ」
「あ、あのだからそれは私のせいで…」
「だから、オマエのせいでもなんでもねぇ」

少しだけホッとした自分がそこに居た。
やはり、私もまだ子供なのだ。こういう気遣いに慣れていない。

「オマエは情報を集めるのに専念しろ。余計なことを考えるな、いいな?」
「は、はい」

少しだけ、優しい面を見える垣根。
…根はもしかしたら良い奴なのかも?と頭をよぎったが、すぐに打ち消された。
157 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:12:48.20 ID:eGmlvHHwo
数日後。

「一方通行が発見された」

垣根が全員に言う。

「へぇ、どこの情報?」
「私です」

リビングで全員が揃っていた。
会議という訳ではないが、私が報告しに来たら自然と集まってきたのだ。

一方通行。
発見された、というのは現在行方不明になっていた為に攻め用にも攻められなかったのだ。
だが、そんな行方不明の一方通行を発見した。
そのきっかけとなったのは、数分前に……


「一方通行、一方通行っと…このワード面倒なんですよね、普通にニュースとしての情報も出ますし、交通情報とかも出てくるので」

お菓子をつまみながら、テキトウにニュースサイトを見る。
行方を発見するのは、こういったニュースサイトの写真とかも参考になるのだ。

「ロシアとの戦争が終わって…行方不明になった。ということはまだ、ロシアに居るんでしょうかね」

ロシアとの戦争は数ヶ月前に終了した。
一時期、世界的に変動が起きたが、詳しい情報は出回っていない。
どうも調べようとしても、学園都市のバンクには存在していないのだ。
武装情報や、外部からの人間の受け入れ情報。正直、そういう情報は今の私には必要がない。
…そして、何よりバカバカしいと思ったのが

「魔術ですか。魔法使い?科学的じゃないですね」

漫画やアニメみたいなの。
魔法を使えば、空も飛べるし、火だって手から出せる。
158 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:14:04.02 ID:eGmlvHHwo
「って、能力者にもそれは出来ますね」

吹き出してしまった。
漫画やアニメだけの事かと思っていたが、こんなにも近くに能力っていう概念が存在するのだから。
それが当たり前になっている自分に笑ってしまう。

魔術などの情報などが載る。
しかし、私たちには理解出来ない。本当に存在するのなら…。

「バカバカしいですね、今は関係無い上に、私たちがその情報を手に入れた事により得るものは何一つありません」

一方通行が魔法を使いました、と言うのなら話しは別だが。
そんな話しあるわけもない。

「…あれ、これ」

ふと、ロシアの新聞が学園都市のデータベースが入ってきた。
終戦を伝える新聞である。

だが、何故その新聞がデータベースに…?
しかし、その写真には。

「一方通行!?」

顔には見覚えがあった。
以前会った顔立ちよりも、しっかりしているように見える。
そして、酷くやつれていた。
ロシアに居るということは、やはり彼も戦争に巻き込まれたのだろう。
学園都市の兵器として。

第一位という兵器として。

「あれ、これって…」

女性二人と、男性一人。
独りは顔立ちがとても綺麗な女性。
もう一人は、右目に何かをつけている女性。

三人目の男性は、どこにでもいそうな普通の男性。

いずれも日本人。戦争に駆り出された…?それにしても、何かがおかしい。
えらく待遇されている。

「この記事は印刷しておきましょう」

プリンタから、印刷をする。
後々、仲間に言うからである。
159 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:14:54.18 ID:eGmlvHHwo
そうして今に至る。

「ちょ、ちょっと…待ってください、これって…」

絹旗が震えている。

「むぎ…の……?」
「なんだって」

垣根が凝視する。
右目が隠れているせいで、誰だか分からなかったが。

これは学園都市第4位の麦野沈利。
行方不明とされていたが、ロシアに居たのだ。
絹旗はさらに震える。

「滝壷さんも…浜面も…よかった、生きてた…超…良かった…」

目からは涙が出る。
この新聞はまだ公にされていない。

ロシア側は何故、こうも学園都市にとって大事な人間を撮影したのだろうか。
そして、何故学園都市は野放しにしているのだろうか。

分からない点は山ほどあった。

「あの野郎は、ロシアか」
「これは一昨日の新聞です。もう学園都市に居るかもしれないし、まだ居ないかもしれません。確証は…持てませんね」

自信無さそうに私は言う。
実際に自信が無いからである。

「まぁこうして、見つける事が出来たんだ。上出来だ。ありがとう、初春」
「え」

素直に驚く。
その眼に嘘は無く、感謝される。
…珍しい。
よっぽど嬉しかったのだろうか。
160 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:17:10.01 ID:eGmlvHHwo
「……お前等に話したい事がある」

垣根は深刻そうな顔で言う。

「バカバカしいかもしれねぇが、これは事実だ。よく聞いてくれ」

しっかりと顔を上げて言う。

「俺は最近夢をみる。記憶が改変され、俺の記憶は一方通行と戦闘する前の記憶だ。だが、消されたと言っても…夢に出てくる。一方通行と戦い、"何故か負け"そして、その後…」

ゴクリと唾を飲む。

「俺は、未元物質だけを産む、機械になっていた。学園都市の武装兵器の資源を作り出す機械だ。あくまで夢。夢なんだが…妙にリアルな夢。数日間考えた、何故あんな夢をみるのか。それは実際にあったから、という結論に至った。そして、俺がこの身体に戻ったのは…」

皆の顔を見る。
私は思わず答えてしまう。

「戦争が…終わったから?」
「その通りだ。多分、不必要となったからだろう。俺が産んだ事を知らない未元物質が必ずどこかにあるはずだ」

未元物質。この世には存在しない物質。
確かに、その物質で武装をすれば…どんな攻撃をも弾き、どんな攻撃からも身を守るだろう。
垣根がそれを証明している。

「だから、俺は学園都市を許さねぇ。絶対にな」

垣根は拳を作り、握りしめる。
心理定規は新聞を読んでいた。読めるのだろうか?
絹旗はまだ泣いている。ボロボロと涙をこぼし、鼻をすすっていた。
私はと言うと……また学園都市に絶望していたのかもしれない。



「垣根さん」

話が終わった後に、個人的に垣根に話したくて話しかける。

「なんだ、他に何かいい情報でもあったのか?」
「い、いえ…そうじゃないんですけど」

どう言えばいいのだろうか。
これはずっと聞きたかった事。

「垣根さんは………




一方通行を殺した後はどうするんですか・・・・?」



聞いちゃいけないような気がして、ずっと聞けなかった。
一方通行を殺せば、メインプランとなる。
だが、今の一方通行はメインプランとしての一方通行じゃないかもしれない。
それは統括理事会にしか分からない。

だから、垣根に聞く。
仮に殺せたとしても、どうするのか。

「………さぁな」

その答えは分からない。

「あの野郎を倒した所で、どうにもならないのかもしれねぇ。単なる自己満足。滅茶苦茶な理由かもしれねぇが、そうでもしねぇと自我が保てねぇ。俺は一回死んだ人間。一回あいつに殺された人間。本当はここに居てはいけない存在。だから……」

「まさか、殺したら自分も死ぬとか言いませんよね」

「……」
161 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:17:38.13 ID:eGmlvHHwo
図星らしい。
心中でもするつもりだったのだろうか。
だが…

「ふざけないでください、そんな事私が許しません」
「許さない…?てめぇ、オイ どの口がきいて――」
「私だから言えるんです、貴方は私を暗部に落とした。それなら、責任をもってくださいよ!それなのに目的を達成したら死ぬんですか、それは逃げてるって事じゃないですか!?」
「お前の事なんて知るか。暗部に落ちたのも、お前がこの学園都市の事を知りすぎたからだ。自業自得だ、俺にそこまで背負わせてるんじゃねぇぞ」
「そうかもしれません、けど・・・やっぱり逃げてます」
「……俺が怒らないうちに部屋に戻れ」
「でも…」

「早くしないと、[ピーーー]ぞ」

殺意に溢れる睨みつけ。
後ずさる。

私は仕方がないので…部屋に戻る。

垣根の言い分はこうだ。
一方通行を殺したら、自分は死にグループは壊滅する。
その訴えは、私の憶測からするとこれ以上学園都市に利用されたくないから。
学園都市なら、死んだ後でも利用しそうだが、垣根の自我というのは死ぬ。
その後の事なんて、垣根は知る由もない。

だが、残った私たちはどうだろう。
絹旗はアイテムというもどるべき場所がある。
麦野も浜面も滝壷も生きていたので、ちゃんと戻るべき場所が。

心理定規については分からない。
身元も不明だし、何をしているのかも知らない。

私は……何もかもを捨てたから戻る場所が無い。
戻れたとしても、受け入れてくれる人間に迷惑をかける。

つまり、今の垣根が死んだ場合…私には居場所がなくなる。
居場所がない、ということは生きている意味が無いという事。
もしかしたら、この情報処理の腕を買ってくれる人間は居るかもしれない。
しかし、それは私にとって本当に有意義なのだろうか?
私は有意義だとは思わない。
それでは、ただのロボット。垣根が未元物質を出すだけの機械になったようになるだけ。
居場所がなくなるということは、社会的に死ぬということ。

「………」

膝をかかえて、ベッドに座る。
本当に一方通行を殺してもいいのだろうか。
殺したら…私たちはどうなるのだろうか。
考えが無限ループする。
後に思考は停止し…いつの間にか私は眠っていた。
162 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:18:16.92 ID:eGmlvHHwo
翌朝。昨日の事もあったので、垣根とは顔を合わせづらい。
だが、垣根は至って普通だった。
いつも通りの垣根。もう見慣れたものである。
リビングには心理定規と、垣根が居た。絹旗は姿が見えない。
聞くと、朝すぐに出かけたらしい。

今日はオフ。仕事は無い。
休んで良いと言われた。なので、朝からパソコンをつけるという事は無かった。
…後で普通にサイトを閲覧するといった事はするが。
テキトウに朝食を済ませる。

そして、また私は垣根を怒らせようとしている。
昨日の話の続きだ。

「垣根さん」
「あん?」
「一方通行を殺した後ですけど…」
「またその話しか、昨日も言ったはずだ。その話しについては、俺を怒らせる事になる。分かってるな?」
「……」

少しだけ考える。
私は……説得したかったのだ。

「あ、貴方は…」

少しずつ考えて、考えて。答えに至る。
私と垣根に共通するもの……。

「居場所が…無いんですか?」



「………」

黙る垣根。

「テメェはそんなに怒らせたいのかよ」
「怒らないでください。くだらないなんて思わないでください」
「ああ、そうだよ。居場所なんかねぇよ。そもそも暗部に居た時点からな。それがどうした、だからなんだ」
「居場所が無いと思っているのは大間違いじゃないですか!!」

思わず声を大きくしてしまう。
近くに居た、心理定規は会話を聞いていた。

「ここが…グループが唯一の私の居場所なんです。ここがなくなったら、私が帰る場所はありません…」
「知るかっつってんだろうが」
「いいえ、私は貴方を巻き込みます。絶対に貴方を殺さない、絶対に死なせない。一方通行は死んでも、貴方は死なない。地獄の底までついてきてもらいます」

きっぱり言う。
言いたかった事。責任をもって、ついてこいということ。

「…は、バカバカしい」

垣根は立ち上がり、部屋へ戻ろうとする。
私は泣いていた。涙が溢れていた。もう泣かないと決めたのに泣いていた。
醜い、凄い醜い。
居場所が無いから死んでしまう人間。私と垣根。

きっと、かつての旧友は今の私にこういうかもしれない。
163 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/01/29(土) 11:19:37.30 ID:eGmlvHHwo





『居場所が無いならさ、作ればいいんじゃないかな?初春が、中心になって居場所を作るんだよ。そうやって、友達とか仲間の輪ってできていくんだと思うな』






かつて言われた事でもある。
二回も言われてしまう、笑いものだ。


私も部屋に戻ろうとした。
これ以上醜い顔を見せたくなかったから。
戻ろうとすると、心理定規が話しかけてきた。

「貴方と、垣根帝督の距離……面白い事になってるわね」

意味が分からなかった。
今の私には……さっぱり理解が出来なかったのである。


181 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[sage]:2011/02/11(金) 19:28:46.98 ID:DWJH7Xero
後日。
先日御坂美琴に私が垣根と関係ある事がバレた。
それはしょうがないと思い、もう考えない事にしたが、一つだけ気になる点があった。

「御坂美琴は、ロシアに飛んでいたのに何故今学園都市に居たのか……?」

文書からは、第一位、第三位、第四位はロシアに居るとの事だった。
そして、あの新聞。第一位と第四位に関してはしっかりと証明されている。

そもそもロシアには行かなかったのだろうか?
これがダミー文書であるならば、納得が行く。
それとも……同じように、第一位と第四位は帰ってきているのだろうか。


と思っていると、客がやってきた。


「はぁい、第二位。お久しぶりね、私の可愛い部下を返してくれるかしら?」

右目が見えない、そもそも無いから。
右手も義手。

噂をすれば、なんとやら。
第四位は、ここにやってきた。

どうやってここが分かったのか、簡単だ。
後ろに滝壺理后が居る。

滝壺理后の能力は、能力追跡。
あとは説明をしなくても分かるだろう。

「む、むぎ…むぎの……!?麦野ーー!!」

絹旗が顔を出す。
そして、麦野に抱きつく。
微笑ましい光景だ。いわゆる感動の再開というもの。

垣根は舌打ちをする。

「お出迎えが早いな」
「私の可愛い部下を引きぬきなんて、本当ならブチ殺し確定だけど」
「はん、お前じゃ俺には勝てねぇよ」

「それはどうかな」

後ろには、浜面仕上が立っていた。
否定したのも、浜面。
182 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/02/11(金) 19:29:23.42 ID:DWJH7Xero
「あぁ?……お前は」
「久しぶりだな、第二位」
「浜面仕上か……」

浜面仕上。統括理事会から狙われている存在。
統括理事会は浜面をイレギュラーとして扱っている。
第四位に何回も勝った事や、滝壷理后とロシアに逃げ込んだ事など。
だから、処分が決まっていた。ロシアに殺し屋(?)を送り、処分するつもりだった。
しかし、それは出来ないままに終わった。
出来ていたら、今現在浜面がここに居る事自体ありえないのだが。

「よしよし」

麦野の胸で泣く絹旗の頭を撫でる麦野。
よしよしと優しい声をかけ、慰めていた。
浜面はそれを見て、凄いニコニコしていたが、急にこちらを向いて言い出す。

「絹旗が世話になったな」
「仕事は1回しかしていないけどな」
「折り入って話がある」
「お前が?俺に?」
「ああ」

交渉。
アイテムは、家に入ってきた。
そこには私含めて、全員揃っている。
心理定規は退屈そうに本を読んでいた。

「話し、っていうのはな。協力してほしいんだ」
「…あ?」

あまりの事にバカみたいな顔をする垣根。

「これから俺達はふざけた統括理事会は潰す」
「そんな事出来ると思ってるのか?」
「出来る、確証はある。これだ」

出してきたのは、封筒。

「素養ってのは知ってるか?」

浜面が言い出す。

素養。これは以前に、私が統括理事会から盗み出した情報。
最大級に学園都市に対して絶望した資料。
183 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/02/11(金) 19:29:59.15 ID:DWJH7Xero
「ああ」
「…ああ、知らないだろうな。俺もおど………え?」

浜面は驚いていた。
私たちが知らないと思ったのだろう。

「知っている…だと?」
「俺らが知ってから、そんなに日はたっていないけどな。一番よく知っているのはこいつだ」

垣根が私を指さす。
と同時に、浜面と麦野、滝壺は私の方を見る。

「あ?つか、スクールにこんなの居たっけ?」

麦野が言う。

「最近入れたばかりの新人だ」
「レベルは?」
「1」
「……」

腕を組む麦野。
何か考えているみたいだ。

「戦闘経験でもあるの?」
「全くない」
「……はぁ?じゃあなんで入れたの」
「情報を持っていたからだ」

私は統括理事会の知ってはいけない情報を知っている。
もしかしたら、統括理事会は私が知っているのを知っているのかもしれないが、何もしてこないところから知らないのだろう。
私は足がつかないように、必死に努力してハッキングをしてきた。
努力のたわものだろう。

「…つまり、その子が素養について知っていたと」
「そういう事だ」
「名前は?」
「初春」
「初春…さんだったか?なんで素養について知っていたんだ?」
184 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/02/11(金) 19:30:28.81 ID:DWJH7Xero
浜面が私に問う。
少し怒っているようにも見える。予想外だったのだろう、私というイレギュラーが存在すること自体が。

「どうして?と聞かれても、私は答える権利がありません」
「れ、冷静だな…」

チラリッと垣根を見た。
言っていいのか分からなかった、判断はリーダーである垣根に任せたかったのである。
見られたのに気づいたのか、こちらを向いてきた。
垣根は頷く。

これで、話してもいいことが分かった。

「…はぁ、統括理事会にハッキングして文書を手に入れたんですよ」
「は、ハッキング!?足が割れてバレ無いのか?」
「そんなヘマはしませんよ。もともとシステムの立案者は私でもありますし」

花形については私が創りだしたモノ。
勝手に統括理事会に盗まれていたのだから、私には見る権利があるのだ。



223 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/08/03(水) 18:10:13.90 ID:W20y/3cAo
「……、」
「素養について、あんたらの意見が聞きたい」

静かになったと思ったら、浜面が口を開いた。

「割とどうでも良い」
「……なんだと?」

垣根がポケットに手を突っ込みながら言った。

「確かに、統括理事会のやり方は気に入らねぇ、クソみたいな素養資料を見ていたらムカムカしてきたな」
「……、」
「だが、レベルは関係ねぇ」
「なんだと」

垣根がこっちを見た、ような気がした。
どういう事だろうか。
私にも理解出来ない発言をした。

「レベルが低くとも使える人間は使える人間だ。確かに、電子系のレベルを持ち合わせた場合のほうがハッキングは楽だろうな。第三位がよくやっているケースだ」
「そんな事していたねぇ、あのクソみたいな第三位は」

麦野が口をはさむ。
それを垣根は無視をし話しを続けた。

「だが、コイツはどうだ。たったレベル1なのに足も付かずにハッキングをしっかりこなしている。学園都市第三位と同じ事をしてんだよ」
「……、」

驚いた。
垣根帝督が私を褒めていた。
いや、もしかしたら彼自身も変わったのかもしれない。私はそう感じた。

「俺達はあんたらと同じ考えだ、クソみたいに暗部を使い、クソみたいな事しかしない統括理事会が憎い、だがそんな弱々しい文書じゃ何も出来ねぇと俺は判断した」
「……せっかく手に入れた物を邪険にしやがって」

浜面が悔しそうに言った。
だけど、それは事実かもしれない。
私はレベル1なのに暗部にいる。それもグループという上位クラスの暗部。
『レベルなんて関係無い』
……、そういえばどっかの誰かもも同じような事を言っていたような気がする。
だけど、私にとってはもう過去の事だった。
224 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/08/03(水) 18:14:42.06 ID:W20y/3cAo
「分かった、それがグループの考えなんだな」
「そうだ」
「……だったら、俺たちアイテムは違うやり方で統括理事会を潰す。それだけだ、絹旗は返してもらうがな」
「好きにしろ」

浜面はそれを言うと背を向けて出ていこうとした。
絹旗もそれについて行こうとしたが、最後に私に紙を渡して行った。

「あー、別に良いんですけどね。超そっちのホスト野郎には見せないでくださいね」
「ど、どっちなんですか?」
「あなたに任せると言ってるんです、それくらい超把握してほしいですね」
「……分かりました」

垣根は嫌そうな顔をしていたかもしれないが、私はそれを見る事がなかった。
渡すと、絹旗も新しいアイテムの元へと戻っていった。
絹旗は笑っていた、私たちグループに居た時には見せない笑顔で。




「さて、やかましいアイテムのクソ野郎共もいなくなった事だ」
「新しい人はいるんですか?」
「そんなの後から考える、今はお前のやるべき事をやれ」
「……はい」

そういうと垣根は自分の部屋へと戻っていった。
私も自分の部屋へと戻った。
225 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/08/03(水) 18:24:16.54 ID:W20y/3cAo
絹旗から貰った紙にはメールアドレスと電話番号が記載されていた。
どういう風の吹き回しだろうか。あの絹旗は私を好んでいたようだった。
絹旗最愛個人としてのデータを見る事は可能だが、しっかり情報用のファイルにファイリングしておいた。

垣根に言われた通りに、仕事に没頭する。
第一位の弱点を見つけ出す為に。


──数週間後。


手当たり次第情報を探しだそうとしたが、全く見つからなかった。
見つかったのは第一位が学園都市にいるという事だけ。
それも堂々と道を歩いているので、あっさり見つかった。
風紀委員の監視カメラにバッチリ写っていたのだ。

そして、一つの事件が起きたこともしっかり情報に入っていた。

「チャンスだな」

垣根が唐突に口を開けた。
心理定規はつまらなそうに本を読んでいる。

「何のですか?」
「新しく人を補充するチャンスだ」
「……、」

どうせあの事件を起こしたあの子を拾うに違いない。

「負け組の集まりみたいに言うんじゃねぇ」
「何も言ってませんよ」
「まぁいい、病院行くぞ」
「第一位がいるかもしれないのに……?」
「……、」

心理定規が吹き出したような気がした。
垣根にしては、珍しく勢いだけの行動である。
それほど補充を早める必要があるのだろうか?

「アイテムが動いたって話しだっけな」
「しかも新アイテムでしたか」
「新だろうが旧だろうがどうでもいい」
「……、」
226 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/08/03(水) 18:26:21.20 ID:W20y/3cAo
ぶっきらぼうな感じがした。

「前々から目はつけていた。関わりは無かったがな、目的が同じだからな」
「……暗闇の五月計画に関与していたようですが」
「大体関与してる奴は、第一位に殺意持ってるだろ」
「絹旗最愛もその一人でしたね」

これは先日調べたミサカネットワークにも関係している事だった。
第三次製造計画。
そこに仕組まれているのが、暗闇の五月計画だった。
暗闇の五月計画を調べ上げた結果、悍ましい結果が出たのは言うまでもない。

「……つーか、今取らないでいつ取るんだよ、オイ」

やはり、いつも通りでは無い。
こうなった垣根を止める術は無いので、諦める事にする。
ここ数週間付き合って、わかってきた事である。

思いつきで行動はしていない。常に垣根は考えて行動をしている。

「行くぞ」
「はい……」
「留守頼むぞ」
「はいはぁ~い、ごゆっくりぃ」

甘ったるい声で、心理定規が見送った。
227 :suzuna ◆NyIM8lnb8dlY[saga]:2011/08/03(水) 18:33:09.75 ID:W20y/3cAo
暗部による、暗部のための病院にその子は居た。

「……なんの用だ」
「顔くらい知ってるだろ、日本人形」
「誰が日本人形だ」
「じゃあ千手観音か?」
「……うぜぇ」

黒夜海鳥。
先日の『フレメア強奪事件』の中心人物となった張本人。
ガトリングレールガンを集中砲火しても生き残ったタフな所がある。
暗闇の五月計画の被験者でもある。

先日垣根に報告した内容だった。

「第二位がなんの用だよ」
「暗部が好きで好きでたまらないお前に朗報だよ」
「……、」
「グループに入る気ねぇか、いや拒否権なんてねぇんだけどな」

初めから聞く必要が無い。

「……嫌だと言ったら?」
「拒否権ねぇって言ってんだろ、つーかこのままだとお前死ぬぞ?」
「そうだな、もう私は死んでいるよ。一度死んだ人間がこれ以上の事が出来るか?」
「ならお前は俺と同じだ」

場が静かになった。
聞こえるのは、点滴が落ちる音だけ。
この場にいるだけで息苦しかった。

「……チッ、そういえばアンタもそうだったな」
「ふん、まぁ今となっては大能力者のお前を入れるなんざ意味ねぇ事だが、人手不足でな。しっかり働いてもらうぞ」
「……、」

黒夜は黙ったまま、天井を見上げた。
と、思ったら笑い出した。

「ひっはは、アンタの目的はなんだよ」
「第一位をぶっ潰す事に決まってんだろ」
「気に入った、ついでにあの三人のヒーローもぶっ潰してやる」

こうして、黒夜海鳥はグループに加入した。
あっさりと、目的の合致から。
228 :suzuna ◆XvsKHLIHQc[saga]:2011/08/03(水) 18:39:52.96 ID:W20y/3cAo
───数週間後。

黒夜は完全に身体が治り復帰した。
これでグループはまた4人に戻ったのである。

軽く自己紹介が済んだ後は、また作戦会議であった。
いつもとは違う、黒夜海鳥が入った作戦会議である。

「私はいろいろ研究した、研究者であり暗部だったからな」
「その研究成果とやらを見せてもらおうか」

すると黒夜はUSBメモリをポケットから取り出した。

「私の全てが入ってるよ」

私はそれを受け取り、PDAに取り付けた。
中には莫大な量の研究結果が入っていた。

「凄い……一方通行に関しての戦闘データが全て入っています」
「……、」
「あ、垣根さんとの戦闘データも」
「見えてみろ」

細かく載っていた、どのような所で第一位は傷を負ったか。
何が原因で『暴走』を起こしたのか。
その『暴走』を止めたキッカケは何か。

「前回の『フレメア強奪事件』に関しては完全に上からの命令だからな。私個人としては、打ち止めを狙ったほうが楽そうなんだが」
「いいえ、それだと第一位にすぐにバレますから」

私は即座に突っ込んだ。
こういうのは速さが大切だからである。

229 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/08/03(水) 18:40:34.42 ID:W20y/3cAo
あ、間違えた、グループじゃないスクールだ。
すげぇ凡ミス。訂正で頼むぜい。 
 
230 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/08/03(水) 18:46:17.99 ID:W20y/3cAo
「どういう事だ」
「ミサカネットワークに異常があるという事は第一位にも異常が出るという事です」
「……、」

ミサカネットワークの事を知らないのか?
と思ったが、すぐに回答が出てきた。

「確かにその通りだが、打ち止めを崩す事により一方通行も崩す事にはならないか?」
「なりません、すぐに暴走しますから」
「チッ……」

大きな舌打ちが聞こえた。
ともかく、今は第一位の暴走についてを詳しく調べないとお手上げなのだ。

「……!?映像か、見せろ」
「私はずっと第一位を追ってきたからな、すぐに飛んでいった。アンタと戦闘したって聞いた時にはな。もちろん録画もした」
「……、」

PDAには、あの時の戦闘がしっかりと映し出されていた。
黒夜は一切逃げる気配を見せなかった。
どれだけのガラスが落ちてこようが、どれだけの流れ弾が来ようが。
所々で傷を負うような声が聞こえたが、カメラだけはしっかりと持っていたのだ。

これが執念というものなのだろうか。

最後に打ち止めが暴走を止める所で終わりを告げた。

「……、」
「……なるほど、意識が無かったから一部記憶が無いが……」
「私はしっかりと見ていませんでしたし」
「ふーん、こんな戦い方をしてたんだ」

三人して見入っていた。
どうにかして、第一位の弱点を見つけ出す為に必死だった。 
 
 
231 :suzuna ◆XvsKHLIHQc2011/08/03(水) 18:48:29.26 ID:W20y/3cAo
くは、疲れた。
ここまで!!
長らくおまたせしてすまない、黒夜はスクールに介入する予定だったので、なんとかなった。
すげぇ雑だけどね!

ぶっちゃけ、途中で書いてたファイルどっか言ってからモチベーション凄い下がったんだけども、pixivで垣春見てたらモチベーション上がって、即興でも書いてやるって気になったお^q^
本当頭上がらないけど。

新約2巻出たらまた止まりそうだけども……しばらくは続けたいです。
もうしばらく続くみたいなので、見てくれる人は付き合ってくれると大喜びします、黒夜ちゃんに踏まれながら。

それでは、またっ 
 
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県)[sage]:2011/08/03(水) 20:24:17.01 ID:br8F1ShHo
きたあああああああああああああああああ 信じてたよおおおおおおおおお
233VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/05(金) 01:13:45.47 ID:ke5jmU1lo

やればできる子だって信じてたようん!
 
 
 
 
237VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/10/08(土) 00:45:42.62 ID:4Hhp5bgMo
ほす
238VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[sage]:2011/10/08(土) 19:49:41.89 ID:IOZS1/Ivo
俺「投下が欲しい」
239VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)[sage]:2011/11/06(日) 13:15:19.71 ID:50Es+fnh0
‥‥‥

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