2014年4月18日金曜日

とある仮面の一方通行 1

1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 00:07:52.68 ID:0kcpvrlfo
仮面ライダーじゃないです
禁書とペルソナのクロスです

ほぼ初SSです

こうしたら良いじゃんよとかああするじゃんとか
さまざまな意見をじゃんじゃん求めるじゃん
 
3VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 00:12:57.89 ID:0kcpvrlfo
一方通行「……ンだァ?ここは」
 
帰ってベッドの上で寝たつもりだったが、などとと考えている一方通行。
確かに彼が今いる場所は彼自身の部屋ではない。
どうやら車内にいるようだ、この広さを考えるとベンツか何かだろうか。
目の前には鼻の長い爺と少し色の落ちた金髪の女がいる。

 
イゴール「ようこそベルベットルームへ。おやおやこれは……
フフ……どうやらかわった定めをお持ちのようだ……」

 
目の前の爺は嬉しそうに笑うが、一方通行にとって重要なのは、
どうしてここにいるのかと、どうやってここに連れてきたのか。
それが分からない一方通行は、その笑みが気にくわない。


一方通行「なァにわけわかンねェことのたまってンですかァ?
      ンで、ここはどこだ?どうやってこの俺を連れてきた?
      質問に答えねェとプチッとひねりつぶすぞコラ」

 
少しイライラした面持ちでイゴールを脅すが、イゴールは意に介していない。


イゴール「おっと、これは失礼。私の名は、イゴール。お初にお目にかかります。
      ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所……
      本来は、何かの形で”契約”を果たされた方のみが訪れる部屋……。
      貴方には、近くそうした 未来が待ち受けているのやも知れませんな。」

 
精神と物質の狭間?夢と現実の間?一方通行には全く意味がわからない。
それでも考えてみるが結論は出ない。

 
一方通行「それで?その夢と現実の間とやらにわざわざ呼び出して、なンのつもりなンですかァ?」

 
自ら進んで一方通行に関わろうとする輩は大抵碌な人種ではない、ということを一方通行はよくわかっている。
この爺も学園都市の暗部や科学者と同じような人間なのだろうか。
もっとも、あの長い鼻を見ると普通の人間ではないと言う事だけはよくわかるが。

 
イゴール「どれ……まずはお名前をうかがっておきましょうか……」
 
一方通行「ハァ?お前は俺の事知らないのかァ?」

 
妙だ。学園都市の人間でわざわざ一方通行に関わろうとするなら、ある程度の事は知っていてしかるべきだろう。
となると、学園都市は関係ない・・・?
 

一方通行「……一方通行(アクセラレータ)だ」
 
イゴール「一方通行さま、ですな。それでは、貴方の未来について、
      少し覗いて見ると致しましょうか。……あなたは占いを、信じられますか?」
 

一方通行に質問しつつ、イゴールはテーブルにタロットカードを並べ始める。
4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 00:15:00.67 ID:0kcpvrlfo
イゴール「常に同じカードを操っておるはずが、まみえる結果はそのつど変わる。
      まさに、人生の様ですな……おっと、『塔』正位置ですか……
      どうやら近い未来、大きな『災難』を被られるようだ。
      次にその先の未来を示しますのは……『月』の正位置。
      このカードは……『迷い』、『謎』を示すカードですな。
      ……実に興味深い。」
 
一方通行「(……何言ってンだ、この怪人鼻爺は。
      未来を覗く?未来予知?樹形図の設計者でもあるまいし、
      そンなことがたかが一個人に出来るのか?)」


わけのわからないことをのたまうイゴールを、一方通行は訝しげに見つめる。
 

一方通行「で、つまり何が言いたいんですかァ?」
 
イゴール「言い変えると、貴方はこれから向かう地にて災いを被り、大きな謎を解く事になる、という事ですな……
      近い未来、貴方は何らかの形で契約を果たされ、再びこちらにおいでになるでしょう」
 
一方通行「……あァ?誰がこンな不可思議空間に好き好んでやって来るかよ?いいからさっさと帰らせろ。」
 

いい加減イゴールの思わせぶりな話し方に飽きが来たのだろう。
表情に冷静さが失われてきている。
 
イゴール「ふふ、まあそう仰らずに最後まで聞いていただきたい。
      ……もし謎が解かれねば、貴方の未来は閉ざされるやも知れません。
      お客人がそうならぬよう、手助けさせていただく事が私の役目なのでございます」
 

イゴールが手を振ると、テーブルの上にあったタロットが消滅した。
 

イゴール「おっと、紹介が遅れましたな。こちらは私と同じここの住民の、マーガレットでございます」
 
一方通行「ンな自己紹介どうでもいいンだよ。さっさと帰さねえとその長鼻三等分にさばくぞコラ」
 

飽くまでマイペースを貫くイゴールに嫌気がさしたのか、一方通行は能力を発動させようとする。

 
一方通行「……ッ!?」
 
能力が発動しない。自動で展開していた反射も発動していなかったのだが、何故気付かなかったのだろうか。
この空間が普通じゃないのか、目の前の爺と女が普通じゃないのか。あるいは両方なのか。
思考を加速させるが、追いつかない。
 
イゴール「ふふ……お客人もこの対談に飽きが来たようだ。詳しくは追々に致しましょう……
      では、その時までごきげんよう」
 

イゴールが笑顔で別れを告げ、一方通行の視界がブラックアウトした。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:17:34.91 ID:0kcpvrlfo
一方通行「……夢、か」
 
一体何だったのだろうか、夢にしては鮮明に焼き付いている。いけ好かない長鼻に金髪の女。
考えるが、分からない。
すると携帯の着信音が鳴っている。芳川桔梗からだ。
 
一方通行「ンだァ?久しぶりに楽しい楽しい実験の再開ってかァ?」
 
思考は放棄された。
 
・・・
 
一方通行「何の用だ?今日も実験は無かったはずだろォが」
 
変な夢のせいで、正直何も考えたくないので、
さっくり実験再開でもしてくれないか、と期待していたのだが
 

芳川「突然だけど実験はもうしばらく延期よ」
 

その期待はさっくり裏切られた。
 

一方通行「はあ?ンだそりゃ簡潔すぎて意味分かんねェぞ詳しく説明しやがれ」
 

わざわざ延期の連絡の為だけに呼び出された事に納得のいかない一方通行は、芳川桔梗に説明を求める。
 
芳川「最近霧が多いじゃない?」
 

芳川は頬杖をつきながら、けだるそうな表情で返答した。
しかしその返答ではどうにも要領を得ない。


一方通行「そう言われりゃそうだな……で、それがどォしたってンだよ?」
 

一方通行は相槌を打ちつつも、内心舌打ちをして話を促す。
 

芳川「樹形図の設計者がその霧を予測しきれないのよ」
 

実験中断の延期の原因は、根本にある機械が原因らしい。
 

一方通行「あァ?つまり樹形図の設計者の予測が本当に正しいのかあやしいから、
      再計算が終わるまで実験はお預けってことですかァ?」
 

樹形図の設計図が使えないとなると、さまざまなところに影響が出るのではないか?
このような暗部の実験では特に。と、考えるが、そんなことは一方通行にとって、割とどうでもよかった。
 

芳川「ええ、そういうことになるわね」
 

一方通行は考える。あの樹形図の設計者でも予測があやしいから再計算、なんて事があるのだ。
爺の占いなど信じるに値しないのではないか、と。
しかし、あれはただの夢だった、と結論付けるのになぜか違和感を覚える。
その違和感が何なのかはわからない。だがもし仮に夢でないとするなら、再びあの爺と会うことになるだろう。
会う事が無いのなら夢だし、万が一会う事になったなら。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:19:05.90 ID:0kcpvrlfo
一方通行「(……くだらねェな)」
 

夢じゃないから何なのだろうか。結局その時にならねばわからないのだ。
ならば今は実験だけ考えていればそれでいいだろう。
一方通行は思考を切り替える。

 
一方通行「……たかが連絡ごときでわざわざ呼び出してンじゃねェぞクソが」

 
延期の理由は納得できたが、そんなことで呼び出す事には不満があったので一方通行は一言文句を言った。

 
芳川「ごめんなさいね、でも延期の理由はもう一つあるの」
 

芳川は謝りつつも、思わせぶりな表情で一方通行のリアクションをうかがう。

 
一方通行「……もったいぶってねェでさっさと言え。俺は眠いンだよ」
 

しかし、それが気に障ったのか、若干語気が強くなる。


芳川「失踪していた9981号が殺害されたの」
 
一方通行「どういうことだ?妹達はてめーらで管理してるはずだろォが、しっかりしやがれ」
 

ようやく理由を話した、と思ったら割と重大な事実に驚きを隠せないようだ。

 
芳川「そうね、まず最初に実験が中断されたのは9981号が失踪したからなんだけど、
    これは確認済みよね?」
 
一方通行「あァ」
 

芳川「それで9981号が見つかり次第実験を再開しようってことになってたのだけど……
   私だって詳しくは知らないわよ。殺害された、というのは今さっき報告が上がったばかりだから。
   で、9981号は殺された……みたいなのだけれど、死体が上がった場所が妙な場所なのよ」
 
一方通行「どこだよ?」
 
芳川「学園都市の外壁の上。最初に発見したのが暗部の部隊でよかったわ。秘密裏に処理できたから」
 
一方通行「ハァ……何だってまたその犯人とやらはそンなわけわかンねェとこにポイ捨てしてやがンだァ?
       はン、不法投棄はダメゼッタイってなァ」
 
芳川「……まあ妹達が自殺なんてありえないし、殺されたと見て間違いないんだけれど、
   犯人の情報が全くあがらないのよ」
 
一方通行「そりゃあ、てめーらが無能なだけなンじゃねェの?
      まァ学園都市のクソ暗部ども相手に情報を全く見つけさせねェってのは確かに不可解だな」
 
芳川「ええ……自惚れてるわけじゃないけど、ここまで何も分からないと言うのはありえないわ」
 
一方通行「それで?結局俺になにをやらせたいわけ?俺を呼び出すってこたァなんかあるんだろォが」
 
芳川「護衛よ」
 
一方通行「誰のだよ?」
 
芳川「9982号」
 
一方通行「アァ!!?なンでガキの子守なンざしなきゃならないンですかァ!?」
 
芳川「意図的に9981号を殺したと考えたら次は9982号が狙われるかもしれないからかしら?
    敵は未知数だし戦力が必要なのよ……あなたが負ける可能性もあるのが不安だけど」
 

ニヤリと笑みを浮かべる芳川に対し、軽く怒りが込み上げてきたので、

 一方通行「チッ……誰に向かってそンな口きいてンだよ……まァいい、やってやろォじゃねェか。
 どォせ実験がなきゃ暇だしなァ」
 
勢い余って任務を引き受けてしまった。
一方通行は自身の軽率な発言に少し後悔する。
 
11 :>>7の訂正の訂正 [saga]:2011/05/22(日) 00:23:49.95 ID:0kcpvrlfo
芳川「あなたならそう言ってくれると思ったわ、それじゃあ頼んだわよ」
 
一方通行「それで9982号はどこに居ンだよ」
 
9982号「ここにいます、とミサカはささやかに自分の存在をアピールします」
 
一方通行「てめェが9982号か?」
 
9982号「だからそうだと言ってるじゃないですかこのアンポンタン、
     とミサカは理解力が少し弱そうな一方通行を馬鹿にしてみます」
 
したり顔で話す9982号は、とてもじゃないが感情のない人形には見えない。
 
一方通行「あァ!!?ぶっころすぞコラ!!
      ……チッ、今まで殺してきた相手を護衛するとかわけわかンねェなァ……
      どこのB級映画だよ……」
 
9982号「ミサカも不本意なんです、我慢しやがれ、とミサカは嫌々一方通行を激励してみます」
 
一方通行「はいはい、クソむかつく応援アリガトウ。……さっさと行くぞ、来やがれ」
 
9982号「実験以外で死ぬのは困るのでしっかり守ってくださいね、
     と、ミサカは学園都市第一位の能力にだけは期待してみます」
 
一方通行「チッ……めンどくせェ……」
 
口の減らない9982号を護衛すると言うのは、本気で面倒だと感じる一方通行だった。
 
・・・
 
9982号「ところでどこに向かっているんですか?とミサカは黙々と歩いている白髪に尋ねてみます」
 
一方通行「飯食いに行くンだよ……こちとら起き抜けに呼び出されてなンも食ってねェンだ」
 
9982号「ほほう、流石の第一位も空腹には勝てませんか……
     これは打倒第一位作戦の一つになるかもしれませんね、とミサカは自分の知謀に恐れを抱きます」
 
一方通行「兵糧攻めされるとか俺はお前一人の実験にどンだけ時間費やしてンだよ!?」
 
9982号「ミサカの華麗な逃げ足を知らないからそんなことが言えるんですよ、とミサカは自信ありげな表情を浮かべてみます」
 
一方通行「追いつかれるかヘバるかのどっちかだと思うけどなァ……っと、お前もあそこのレストランで良いだろォ?」
 
9982号「そうですね、ミサカはこうやって娑婆で食事をすると言うのは初めてなのでどこでもいいですよ、
     とミサカは初めてのレストランに胸をときめかせながら同意します」
 
一方通行「はっ!娑婆ってなァ言いえて妙だなァ。あンな牢獄みてェな場所いつまでもいるもンじゃねェよ」
 
9982号「……ですが、ミサカにとってはあそこが世界のすべてでした」
 
9982号はうつむくと、その表情を少し曇らせた。
 
一方通行「……チッ、さっさとついてこい」
 
本当に目の前の9982号はただの人形なのだろうか、と一方通行は考える。
レストランに向かう道中で、周りの景色を見てコロコロと表情を変える姿。
そして今の悲しそうな表情。
果たしてこれのどこが感情のない人形なのだろうか。どう見てもただの人間にしか見えない。
 


―――なら、今まで殺してきた妹達は?
 
確かに、かつて手をかけてきた妹達からは、話し、脅し、害をなしてきても、感情の欠片も見いだせなかった。
しかし、目の前の少女の姿を目の当たりにすると、今までの妹達もこうなる可能性があった、いや、こうなれたのではないだろうか。
 
だとしたら、今まで自分のやってきた事は何だったのだろうか。
 
無敵になりたかった。味方がほしかった。ただ、それだけだったのに。
1万人近くの人間を殺し、これから更に1万人近くの人間を殺す。
1人殺せば殺人者、100万人殺せば英雄というが、
それはあくまでも戦時下における自国からの評価であり、敵国からしたらただの悪魔だろう。
なら、戦時下でもないし、敵でも無い。そんな人間を2万人も殺す自分は一体何者なのだろうか。
気の遠くなるような時間をかけて、千切り、潰し、引き裂き、殺し尽くした果てに、自分には何が残っているのだろうか。
 
一方通行「……クソったれが」
 
考えても、詮無きことだと切って捨てた。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 00:26:28.87 ID:0kcpvrlfo
レストランに入り、メニューを開くなり、9982号は高らかに叫んだ。
 
9982号「とりあえず、メニューにあるもの片っ端からもってこい、
     とミサカはどれが美味しいのかわからないので広く浅く行く道を行きます」
 
一方通行「……食えねー量を頼むな。勿体ねェだろォが」
 

実験やら何やらで経済力も学園都市第一位であり、
たとえいくら無駄遣いしても金が有り余る一方通行でも、
本当に無駄な事に金を使うのは躊躇われるようだ。
 

9982号「何ですか、ケチケチしやがって。金持ってんだろ?ホラジャンプしてみろよ、
     とミサカは昔の不良のごとく一方通行にたかります」
 
一方通行「たけェモン食うのはかまわねェンだが、最初っから食えねェ量を頼むのが許容できないンだよそン位わかれ!」
 
9982号「……仕方ないですね、あなたと同じものでいいです、
     とミサカはどれを食べるべきかわからないので思考放棄します。
     それでは、準備はいいですか?とミサカは尋ねてみます」
 
一方通行「……ハァ?何の準備だよ?」
 
9982号「もちろん、店員さんを呼び出す準備です、
     とミサカは目の前にあるボタンを見つめ、ドキドキしています」
 

あれもこれも何もかも初体験な9982号にとって、
目の前の店員呼び出しボタンも未知の対象らしい。

 
一方通行「ハッ、ンなもンにビビってどうすンだよ。いずれてめーはこの俺と対峙するってのによォ」
 

そう言うと、一方通行はすぐさまボタンを押す。
ピンポーン、と甲高い音がレストランに鳴り響く。
 

9982号「あ、あ、あなたという方は、乙女の初体験を何だと思ってるんですか!
     と、ミサカは一方通行の行動を批判し憤慨します!」
 
一方通行「バッ!テメェ何わけわかんねェ事言ってンですかァ!?
      つゥか何もしらねェ奴が聞いたら誤解するような言い方すンじゃねェよ!!」
 
9982号「ひ、酷いです……非常にワクワクしていたと言うのに……
     とミサカはうらめしそうにあなたを見つめます」
 
一方通行「なンだなンだよなンですかァ!?あれか!?
      てめェはバスのつぎおりますボタンを押そうとしてたら
      他の人が先に押しちゃって残念がるガキですか!?」
 
9982号「そうです、ミサカはまだ0歳ですから。
     そしてあなたが空気を読まずに先につぎおりますボタンを押しちゃう乗客です!
     と、ミサカはあなたをKYな乗客認定します」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/22(日) 00:28:27.57 ID:0kcpvrlfo
子供の様な言い合い(事実子供なのだが)をしていると、
メニューを聞きに来た店員が話をかけるタイミングをはかっていた。
 
一方通行「……チッ、下らねェ言い合いは終わりだ。おい、そこの店員いいかァ?」
 
店員「は、はい!お待たせしましたー!」
 

と、そこで一方通行は自分がメニューを決めてない事に気付いた。
自分で呼び出した手前、メニューを見て考えるのもあれなので、目に付いたハンバーグを頼むことにした。
 
一方通行「……和風ハンバーグの洋食セットにドリンクバーを二つずつ」
 
店員「は、はいかしこまりました!和風ハンバーグの洋食セットを二つですねー!少々お待ち下さい!
   ドリンクバーはお客様のご自由にお願いします!」
 

店員は元気に返事をすると、厨房へ向かって歩いて行った。

 
9982号「……和風なのに洋食セット……ブフッ」
 

なぜかツボに入った9982号はテーブルに突っ伏して笑いをこらえていた。

 
一方通行「和風ハンバーグ洋食セットのどこがおかしいンですかァ!?あァ!?」
 
9982号「和と洋という相反する二つがおりなすハーモニー……ブフフッ」
 
一方通行「……てめェのツボがわかんねェよ。つゥか語尾抜けてンぞ」
 
特に大きな出来事も無く、緩やかに時間は過ぎていく。
 
・・・

部屋に戻っても特にする事は無いので、適当に散策することで暇つぶしをしていると、
辺りはすっかり暗くなっていた。
 

一方通行「それで、てめェはこれからどこに泊まるンだ?」
 
9982号「もちろんあなたの家ですが?あなたは護衛の任務を忘れたのですか?
    とミサカはあなたの記憶力を疑います」
 
一方通行「チッ、どうなってもしらねェぞ……」
 
9982号「何か見られたくないものでもあるんですか?
    と、ミサカはあなたの弱点がつかめる可能性を発見してわくわくしながら尋ねます」
 
一方通行「あァ。俺の外出中に小人さんが部屋を荒しちまうからなァ。
      とてもじゃねェが普通の人間が住める場所じゃねェンだ」
 
スキルアウト等から多大な逆恨みを受けている一方通行の部屋は、
能力が暴走した直後なんじゃないかというくらい荒らされている。
初めはいちいち修繕や買い替えをしていたが、最近は面倒になったのでしていない。
おかげで学園都市という巨大都市の中で一方通行の部屋だけ世紀末。
まるでスキルアウトが跋扈する路地裏のようだ。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:29:25.21 ID:0kcpvrlfo
9982号「そんな訳で一方通行の部屋にたどり着いたわけですが。
     と、ミサカはドアの前で一方通行がドアを開けるのをハリーハリーとまってみます。
     ところで一方通行の部屋って表現、あれですね、二度と出られない部屋みたいな……ブフッ」
 
一方通行「ンだよそのホラーじみた部屋は……まあ確かに荒れ具合はホラーだがな」
 

軽く溜息をついて、若干形の歪んだ部屋のドアを開けると、そこは異界だった。

 
9982号「これはひどい、開いた口がふさがりません、どうしてくれるんですか
     とミサカは尋ねてみます」
 
一方通行「あァ?口を閉じてェなら縫いつけてやろうか?それとも優しくキスでもしてやろォか?」
 
9982号「なんですかそれは?まさか人形のミサカに欲情したというのですか?
     と、ミサカはあなたの趣味を疑います」
 
一方通行「ンなわけねェだろォが!真に受けンじゃねェよ!!」
 
9982号「ところでどこで寝たらいいんでしょう?流石に床は何か破片とかゴロゴロしてて嫌なんですけど。
     と、ミサカはベッドを要求しないあたりものすごく謙虚な自分をほめたたえます」
 
一方通行「あァ?テメェは勝手にそこのベッドで寝てろ。俺はそこのソファーを使う。」
 
9982号「おや、やけに素直ですね。……まさか寝込m「いいから寝やがれクソったれ」
     ……ノリが悪いですね、とミサカはしぶしぶ布団にもぐりこみます」
 
一方通行「チッ……めんどくせェ」
 
しばらくすると、二つの寝息が響き始めた。
15 :誰か見てる?誰も見てねーのにシコシコと書きこむの恥ずかしいンだけどォォ :2011/05/22(日) 00:32:49.00 ID:0kcpvrlfo
一方通行「……はァ?」
 
一方通行が目覚めると、そこは霧に包まれた空間だった。
霧しか見えないが、足場はしっかりしている。能力は……発動しない。
 
一方通行「イゴールとやらの時とは状況は違うが、似たようなモン……かァ?」
 

判断材料もないので、とりあえず前に進みながら考える。
しばらく歩いていると、頭の中に直接話しかけるように、声が響いた。

 
―――真実を知りたいか?
 

一方通行「……ハァ?何の真実だよ」
 
歩く。
 
―――それならば、捕まえてみたまえ
 

一方通行「……誰をだよ」
 

歩く。
 

すると、扉のようなものが見えてきた。
この先から気配がする。
おそらく、この先に居るモノが何かを知っているのだろう。
 

迷わず先へ進んだ。

 
「……追いかけてくるのは、君か?」
 
一方通行「……誰だ?」
 
「ふふ……知りたいなら、かかって来たまえ」
 
一方通行「あァ?」
 
どういう訳か知らないが、反射が発動している。
 
一方通行「ハハッ!能力がありゃこっちのモンだ!姿を見せやがれェ!!」
 

能力を遺憾なく発揮し、風を発生させ、霧を吹き飛ばそうとする。
が、霧は晴れるどころかいっそう濃くなっていた。
 

一方通行「ッ……!?(……どういうことだ……?能力は間違いなく発動している。
       ……という事はこの霧自体が俺にとって未知の法則で動いてるってのか!?)」
 
「成程……確かに、面白い素養だ。でも、簡単には捕まらないよ。……求めるものが真実なら、なおさら、ね……」
 
辺りの霧が更に深く、濃くなった。
 
一方通行「チッ……何も見えねェ」
 
「誰だって見たいものだけを見たいように見るものさ。」
 
―――霧が、濃くなる
 
「そして霧は何処までも深くなる」
 
―――霧が、深くなる
 
「いつかまた会えるだろうか?こことは別の場所で……フフ、楽しみにしているぞ」
 
―――意識が、遠くなる……
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:34:25.80 ID:0kcpvrlfo
9982号「おきなさい、とミサカはあなたの自堕落っぷりを見てあきれながらおこします」
 
一方通行「……あァ?」
 

9982号が一方通行の毛布をはぎ取っていた。
反射があるため、毛布をかぶる事にあまり意味は無いのだが、
精神衛生上そのようにしている。風呂もまたしかりだ。

 
一方通行「……夢、か……」
 
9982号「何時だと思っているのですか、とミサカはこれ以上空腹を抑える事は不可能だと言う事をアピールします」

 
現時刻、午後1時。
 

一方通行「あァ?まだ午後じゃねェか。後3時間待て」
 
9982号「ちょ、何言ってるのですか?ミサカが目を覚ましてから5時間は経っていますよ?
    というか後3時間も待ってたらそのままそれが晩御飯になってしまうじゃないですか!
    と、ミサカはあなたの寝起きの悪さに絶望します!」
 
一方通行「チッ……なら適当に食ってくりゃァいいだろォが。
      金ならやるから」
 
この男、育児放棄した親の様だ。
弁当箱の中に1000円札1枚入れて渡す親の様だ。
あれの絶望感は異常だ。 
 
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:36:01.68 ID:0kcpvrlfo
 ―――これは、ある中学校の体育祭での出来事である。
 
 少年は母の弁当を楽しみにしていた。
 
 暖かいご飯ももちろん好きなのだが、弁当の冷めてちょっと堅めなご飯も大好きなのだ。
 
 そして迎える昼休みの時間。
 
 ここで少年はある事に気付いた。
 
 弁当箱が軽いのだ。いつもの重量感が感じられない。
 
 嫌な予感がしたのだが、ふたを開けねば先には進めない。
 
 しかし、ふたを開けるのが怖い。ふたの先にある現実を見たくない。
 
 だが、友達の「どうしたの?大丈夫?」という不安そうな声で目が覚めたのか、
 
 意を決してふたを開けた!!
 
 
 
『ごめ、寝坊したから適当に買ってきてマジごめん ちあき』
 
 
 ポツンと置かれた手紙の裏に、夏目漱石さんのご尊顔。これには少年も苦笑い。
 
 ここで友達が一言、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「お前って紙食うん?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 少年のあだ名は羊になった。
 
 
 閑話休題。
 
 
9982号「あなたは自分の任務を忘れたのですか?とミサカは確認をとります」
 
一方通行「あァ。お前の護衛だろォ?」
 
9982号「だったらお金渡してポイは酷いんじゃないですか?と、ミサカはあなたの薄情っぷりに驚きを隠せません」
 
一方通行「だァから出前頼めばそれで済むだろォが」
 
9982号「おお、頭良いですね。ですがこの惨状を出前の人に見せるのですか?
     と、ミサカはあなたの恥知らずっぷりにも驚きます」
 
一方通行「あァー。それもそォだなァ……なら、なンか食いに行くかァ」
 
9982号「ところであなたは料理とかしないんですか?まぁ、冷蔵庫の中を見れば一目瞭然なのですが
     と、ミサカはコーヒーしか入ってない冷蔵庫に戦慄します」
 
一方通行「俺がエプロンつけて台所に立ってる姿を想像してみろォ……
      巨漢が女装する方がまだ様になってンぜ」
 
9982号「確かにあなたのエプロン姿……ブフゥ!!」
 
一方通行「まァた語尾が消えてんぞォ!!どンだけツボってンだよ!!」

依然顔を引きつらせる9982号を引っ張り、一方通行は部屋を出た。 
 
21 :オマエら…べ、別にうれしくなンかねェし! :2011/05/22(日) 00:38:29.61 ID:0kcpvrlfo
昨日訪れたレストラン。
その入口に立つ二人のうち、一人がポツリと愚痴をこぼした。
 
9982号「で、またこのレストランですか。と、ミサカは一方通行のバラエティの乏しさに残念がります」
 
一方通行「はン、俺とお前が綺麗な夜景の見えるイタリア料理店でロマンあふれる夜を過ごすってかァ?ありえねェありえねェ」
 
9982号「バラエティに乏しいと言ったからって、それは極端すぎでしょう……
    普通にラーメンとかそば屋とかうどん屋とかあるじゃないですか。
    と、ミサカはあなたの想像力を鼻で笑います」
 
一方通行「チッ、お前も麺類ばっかで他の提案を挙げれてねェじゃねえか」
 
9982号「麺類を馬鹿にすんなァァ!!!」
 
一方通行「何その麺類に対するただならぬ愛!?」
 
・・・
 
9982号「ところで変な噂を耳にしたんですが」
 
ズゾゾゾ、と大きな音を立てながらナポリタンを食べる9982号は、一方通行に話しかけた。
 
一方通行「……行儀が悪ィぞ」
 
この男、意外と面倒見はいいのかもしれない。
 
9982号「これは失礼。と、ミサカは淑女っぷりをアピールしつつ静かに食べます」
 
一方通行「で?噂ってなンだ?」
 
9982号「ええ、さっきレストランに向かってる道中で少し耳に入った程度ですが。
     と、ミサカは記憶をよみがえらせます」
 
一方通行「人の会話に聞き耳立てるとか、お前も案外俗物なのな」
 
9982号「ええい黙れ黙れい!……おっと失礼、続けますね。
     ここ最近霧が続いていますよね?と、ミサカは確認をとります」
 
一方通行「そォだな。その霧の予測がたてれねェせいで実験が中断されてるみてェだしな」
 
9982号「ええ。それでですね、霧に覆われた日の深夜0時に、
     テレビに運命の人が映るって話なんですが、どう思いますか?
     と、ミサカはワクワクしながらあなたの意見を促します」
 
一方通行「はン、そンなモンあるわけねェだろォが。樹形図の設計者でも予測出来ねェ事があンだぞ?
      なのにテレビごときに運命決められちゃたまったモンじゃねェよ」
 
9982号「……夢が無いですね。と、ミサカはあなたの冷めっぷりに冷めてみます」
 
一方通行「むしろ俺なんかについてこられる運命の人なんざいるのかねェ?」
 
9982号「私とかどうですか?と、ミサカはセクシーポーズをとりながら一方通行を見つめます」
 
一方通行は、鼻で笑った。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:39:51.50 ID:0kcpvrlfo
9982号「無言で笑うだけとか、流石に自信がなくなりますね……
     と、ミサカは自分のプロポーションに絶望します」
 
一方通行「まァ、与太話としてなら上等なンじゃねェの?
      ただし、オチとしてそれは運命の人じゃなくて実は次死ぬ人の予告とかだったらな」
 
9982号「一気にただのホラーと化した!と、ミサカはあなたの想像力に恐怖を隠せません」
 
一方通行「なンか前にそんな感じの話を聞いたことがあンだよ。
      深夜に砂嵐のテレビ見てっとだンだン砂嵐が弱まってくンだ」
 
9982号「ほ、ほほ~。つ、続きをどうぞ。と、ミサカはビビってねぇしアピールしながら続きを促します」
 
一方通行「で、だ。砂嵐が弱まったと思ったら、突然名簿みたいな感じのテロップが流れだしてよォ、
      最後の一人にあったンだよ。……自分の名前が」
 
9982号「そ、それで?全然怖くねぇし?と、ミサカは声を上ずらせながらも虚勢を張ります」
 
一方通行「したらテロップが消えて元の砂嵐に戻ったンだが、この後どうなったと思う?」
 
9982号「な、何が起こったんですか……?と、ミサカはあまり想像したくないので続きをお願いします」
 
一方通行はゆっくりと両手を広げ、そして一気に手を合わせた。
パンッ、と音が鳴り、その音に恐怖した9982号はヒゥ、と小さく悲鳴を上げた。
この時の一方通行は夏の風物詩、恐怖の語り部稲川淳二には及ばないものの、それに近い程の臨場感を持ち合わせており、
9982号はその異様な空気に当てられたのか、すっかりなみだ目である。
 
一方通行「……そいつがチャンネルを確認すると、NHKだったンだ。
      だから次の日、NHKに問い合わせたらよォ、受診料金未納者一覧が流れただけらしいンだ」
 
9982号「……は?いやいや、はぁ?どういうことですか?
     と、ミサカは若干納得がいかないので尋ねてみます」
 
一方通行「ただの受診料金未納者集を流しただけの話だァ」
 
9982号「ミ、ミ、ミサカの涙を返せェェエエ!!!」

一方通行「それよりどォだった?俺の語り部っぷりはよォ?
      茶うけ話には丁度イイだろォ?」
 
ニヤニヤしながら9982号に尋ねる。一方通行は絶対ドS。逆にドMな一方通行を見たい。
 
9982号「ふざけんなぁ!ホントに怖かったんだぞ!!」
 
一方通行「ハッハ!こいつ語尾が抜けてらァ」
 
ちなみに、そのテロップが次の日の犠牲者リストオチもあったのだが、
あの場で語れば9982号が失禁するのではと懸念した一方通行の優しさが、
NHKオチにさせたのだろう。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:41:16.30 ID:0kcpvrlfo
「ちょっと!あんたらうるさいわよ!!」
 
すると、騒がしくしたのが悪いのだろうか、
9982号と同じ常盤台中学の制服を着た茶髪の女の子が一方通行達を注意している。
 
一方通行「あァ?そいつァ悪かったなァ。もう出てくから勘弁してくれや」
 
9982号「納得いかねぇ……と、ミサカは怨念の炎をメラメラとたぎらせます……」
 
「ってアンタ……!?」
 
茶髪の女の子は、9982号を見て絶句している。
それもそのはず、9982号は絶句している女の子の遺伝子から生まれたクローンであり、
その女の子は常盤台中学の誇る第3位、レベル5の『超電磁砲』その人であったからだ。
 
一方通行「ンだァ?お前は……妹達か……何号だァ?」
 
一方通行はその事実に気付かず、あっさりと御坂の知らない事実の断片を漏らしてしまう。
 
御坂「妹達!?何号ってどういうこと!?そこに居るのは一体何!?」
 
一方通行「あァ~、オリジナルかよ……チッ、めんどくせェ……」
 
9982号「流石に今のは一方通行が迂闊すぎますよ。
と、ミサカはあなたに落ち度があると少し責めてみます」
 
御坂「私のことを無視すんな!!あんたら何者よ!?言わないとどうなるかわかってんの!?」
 
一方通行「どうすっかなァー……逃げても良いンだが……」
 
一方通行という人物は、その能力の性質上、善意も悪意も全て跳ね返して生きてきたので、
今御坂美琴が一方通行に向けている敵意も本来跳ね返していたはずなのだが、
なぜかそれをする気にはならなかった。
 
9982号「逃げてもこいつしつこそうですよ。ここは適当に嘘ついて煙に巻くのがいいんじゃないですか。
     と、ミサカは提案してみます」
 
御坂「丸聞こえよ!!」
 
煙に巻く作戦は初っ端から失敗に終わった。
 
一方通行「あのな、そこにいるのはお前の生き別れの妹の御坂久々葉(くくは)ってンだ」
 
9982号「それは私が9982号の998でしょうか。と、ミサカはあなたの若干残念なネーミングセンスを馬鹿にしてみます」
 
一方通行「コラッ余計な事言うンじゃねェよ」
 
この二人、ごまかす気が無いらしい。
 
御坂「あんたらホントの事言う気ないでしょ」
 
一方通行「あ、わかるゥ?わかるなら回れ右してゴーホームだ」
 
御坂「……ホントに、いい度胸してるじゃない……!!」
 
9982号「やべ、こいつ漏電してんぞ。と、ミサカは一方通行を盾にして逃げる準備をします」
 
一方通行「まァ、待て落ちつけよ。ここで暴れりゃ一般の方々に迷惑だぜェ。
      つか、お前にも連れがいるじゃねェか。さっさとそっちいけよ。
      後、俺ァ基本的に飯はこのレストランで食うからよ。
      適当な時間にまたここ来たら俺達いるだろォからよ。その時話しよォや」
 

実際、一方通行はこの店の常連であり、店員にも顔なじみが多い(別に仲はよくないが)。
なので御坂が店員に聞いたところ、
 

「はい、この方は良くこちらにお越しになられておりますね。いつもありがとうございます」


と、丁寧な対応をされた。一方通行は内心GJと店員を褒め称えた。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:42:55.00 ID:0kcpvrlfo
御坂「……なら、今日は引きさがってあげるわ。逃げたら、承知しないんだから……!」
 
一方通行「はいはい、さっさと行けよ。ダチは待たせるもンじゃねェ」

9982号「ダチ居ない癖に、とミサカは一方通行を内心馬鹿にしてみます」
 
一方通行「声出てンぞクソったれ」
 
9982号「クソたれてるときにカレーの話すんなよ。と、ミサカはレストランにあるまじき暴言をぶちまけます」
 
御坂「逃げんじゃないわよ!絶対逃げんじゃないわよ!!」
 

と、御坂は捨て台詞を吐き、友達と思われる集団の輪に戻って行った。
お姉さま、あの白髪とお姉さまに酷似したお方はどちら様!?と誰かがハスキーボイスで騒ぎ立てていたが、
電撃が走り、静かになり、少女たちは店を出た。
 

一方通行「チッ……なンだあいつハタ迷惑な奴だなオイ」
 
9982号「それで?一体どうするのですか?と、ミサカは一方通行に今後を尋ねます」
 
一方通行「あァ?あー……そォだな、アイツの為に飯食うとこ変えンのも癪だしなァ
      下手に嘘ついたり逃げたりすると、あの感じじゃ自分から首突っ込ンで来るだろォな」
 
9982号「そうですね……ならそれっぽい嘘をつくと言う具合で行きましょうか。
     幸い他の個体は外出禁止なので、下手にオリジナルと出くわす事もないでしょうし」
 
一方通行「それがいいだろォな。生き別れの妹って設定は悪くないだろうが、
      相手は『超電磁砲』だ。ハッキングなんぞお手のモンだろうしな……
      ちょっと調べられたら一発でアウトだ」
 
9982号「馬鹿正直に本当の事を話すのなんてもってのほかですしね。
     と、ミサカは案が思いつかない事に頭を抱えます」
 
一方通行「どォすっかなァ……まァ、今日はもう帰るか。眠てェ」
 
9982号「そうですね。問題は次あった時の私たちに丸投げしましょう。
     と、ミサカは思考放棄します」
 

二人は会計を済ませる前に、コーヒーを飲んで少し落ち着いてから会計に向かった。
そしていざ帰らんと店を出たところで、
 
御坂「それで、ちゃんと事情を話してくれるんでしょうね?」
 

御坂は、レストランの出入口で待ちかまえていた。
 

一方通行「ないわァ~、つかお前、連れはどォした」
 
9982号「レストラン出口で出待ちとか流石の私もそれは引きます、
     と、ミサカはオリジナルの執念にドン引きします」
 
御坂「なによ!?もう会計するってアンタ言ってたじゃない!
   すぐ出てくるかと思ったのに、いつまでも出てこないから皆帰らせたわよ!!」
 
一方通行「成程なあ。それは重畳」
 
御坂「ど、どういうことよ……?」
 
一方通行「ここで話せる内容じゃねェな……ついてこいよ、真実を教えてやる」
 
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:43:54.12 ID:0kcpvrlfo
9982号は一方通行の発言に驚き、ヒソヒソと尋ねた。
 
9982号「教えちゃっていいんですか?と、ミサカはオリジナルの心が折れるんじゃないかという懸念を抱きます」
 
一方通行「いいンだよ。どォせお前以外の妹達は研究所の中だからなァ。
      ある程度のホントの事を教えてやっといた方が、下手に調べられて妹達の群れに遭遇するよかイイだろ」
 

凶悪な笑みを浮かべつつそう言うと、一方通行はスタスタと歩きだした。
 

9982号「そうですね。なら特に言う事はありません。と、ミサカは一方通行に追従します」
 

続いて9982号が一方通行の隣にならんで歩き、
 

御坂「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
 

そして二人を追って、御坂が歩きだした。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:46:23.87 ID:0kcpvrlfo
一方通行が部屋の扉を開けると、そこは天外魔境だった。

御坂「うわっ、何これ空き巣?」

御坂美琴は一方通行の部屋の惨状に驚きつつも、ある程度無事なソファーに腰をかけて一方通行に声をかけた。

一方通行「いつもこンなンだよ」

御坂「はぁ!?あんたの部屋のセキュリティはどうなってんのよ?
    片付け下手ってレベルじゃないとこを見るとやっぱり誰かに荒されたんでしょ?」


どんな生活を送ればいつも空き巣状態な部屋が出来るのだろう?と、御坂美琴は考える。
なんだかんだでお嬢様な御坂の理解からは遠く離れている一方通行の部屋だった。


御坂「ところで、結局あんたらは何者なのよ?あんたらのリアクションからして私の事は知ってるみたいだけど、
   一応、自己紹介しとくわ。私は御坂美琴。第三位『超電磁砲』よ。」

一方通行「あー、そりゃご丁寧にどうも。俺ァ一応学園都市第一位をやってる、
      『一方通行』だ。呼び名も能力名でかまわねェ」

御坂「……はぁ!?第一位?……うそでしょ!?」

一方通行「嘘じゃねェよ。まあいい、続けンぞ。で、こっちに居るのが……
      あァー、多分信じねェと思うが、事実だぜ?
      テメェのクローンだ」

御坂「……は?」

9982号「そうです私があなたのクローン、御坂久々葉です
     と、ミサカはオリジナルたるあなたに自己紹介します」

御坂「……はぁぁあぁあ!!?」

一方通行「まァ、信じらンねェと思うが、事実だ。お前、俺らが嘘ついても絶対後で調べるだろォ?
      したらお前の知らなくていい事まで知っちまうかもしれねェからなァ。
      ある程度の質問なら受け付けてやる。なンかあるだろ?」

当然と言えば当然だが、御坂はその衝撃的事実に驚きを隠せないでいる。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:48:20.01 ID:0kcpvrlfo
御坂「……いつ私のDNAを採取したのよ?」

一方通行「その気になりゃどこでだって採取出来ンだろォ?
      髪の毛ならお前の部屋行けば取れるし、身体検査で血液検査だってしたことあるだろ?
      まァ、髪の毛からDNA採取すンのは困難だが……
      お前、幼少時に善意のつもりでDNAマップを提供した事あンだろォ?」

御坂「……ええ」

御坂は幼年時代に、筋ジストロフィーの治療の研究のために、
電撃使いたる自身のDNAマップを提供することで研究所に協力していたのだが、
まさか自分のクローンをつくられるとは思っていなかっただろう。

一方通行「でだ、なンでクローンなンぞ作ったかっつーと、お前レベル1から努力してレベル5になっただろォ?
      それは元々素質があったのかもしれないし、努力の結果かもしれない。
      その事実を調べる為、らしいぞォ」

さらっと嘘をつく。

御坂「……どうして私なの?」

一方通行「他のレベル5は能力が発現した時点でレベル5だったりするからなァ。
      逆に能力発現した時点でレベル5だったやつらのクローンを作って、
      レベル5じゃなかったらそれはそれで研究としてはおもしれェかもな。
      だが、実際にクローンを作ってそいつらを御せなかったら話になンねェしな。
      つまり能力の性質上お前の能力が一番制御しやすいってのが有るンじゃねェか?
      まァ、今のところは実験中断されてっけどな」

御坂「……実験はなんで中断されてるの?事故?」

一方通行「なンか最近樹形図の設計者が調子悪いみたいでよォ。
      実験内容に不備があるかもしンねェってことでしばらく中断だってよ」

御坂「樹形図の設計者が?あのスパコンに調子悪いとかあるの?」

一方通行「あァ。ここ最近霧の日が多いだろ?その霧の日の予測に失敗してるみたいだぜェ」

御坂「ふぅん。まあいいわ。で、肝心の実験内容は?」

一方通行「俺と戦闘。まァこいつと戦闘した事は一度も無いけどなァ。
      実験中断してるしィ。だからかしらねぇけど、こいつのレベルは1の電気使いだ」


他のクローンとは幾度となく戦闘してるし、こいつのレベルは2なんだけどなァ、
と、一方通行は心の中で付け加えた。


御坂「あんたと戦闘?ふぅん、それはいいレベル上げになりそうね……」

御坂は少し頭を抱えている。情報を整理しているようだが、一方通行の言っている事は信じたらしい。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:51:15.82 ID:0kcpvrlfo
一方通行「(……これで下手に詮索してこなきゃいいンだが)」


と、ここで沈黙を保っていた9982号が声を上げた。


9982号「あの、ちょっといいですか?と、ミサカはオリジナルに尋ねてみます」

御坂「ん?何?て言うかオリジナルって呼び名嫌ね……
   そうだ、あんた私の後に生まれてるんだから私の事はお姉ちゃんと呼びなさいよ!」

9982号「……どうして?私みたいなのがいるのって、気持ち悪くないんですか?
     と、ミサカはあなたの提案に耳を疑います」

御坂「……そうね、確かに私の知らないところで勝手にクローンを作って好き勝手やられるって、すごく嫌。
   だけどね、あなたはこうやって生きている人間じゃない。
   ……私は、あなたが生まれて、生きている事を、否定するつもりは無いわ。」

9982号「……人間、ですか?……そんなわけないじゃないですか。
     と、ミサカはミサカがただの人形であると否定します」

御坂「そんなわけないじゃない……こうやって顔合わせるのは今日が初めてだけど、
   あなたはどうみたって感情のある人間よ。それくらい私にだってわかるわ。
   どうやって生まれてきたって、あなたは人間なの。自分で自分のことを否定しちゃ駄目よ」

9982号「……私は……生きてても、いいんですか……?」


自分を人形と信じてやまない9982号の存在を「人間」だと、笑って認めてくれた。
ミサカはこの姉には一生勝てないんだろうな、とぼんやりと考えていると、
9982号の頬から一筋、涙が流れた。


御坂「あたりまえじゃない!あなたは、私の妹なんだから!」


御坂は優しい笑顔を浮かべながら、9982号の頭を撫でる。
その様子はまさに姉妹と言っても差し支えが無いと言えよう。
しかし、二人を見ていた一方通行は、


一方通行「(……っべー、マジっべーわ。本当の事ばれたらどうしよう)」

言い訳を考えていた。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 00:52:57.85 ID:0kcpvrlfo
御坂「ところでもう一個聞きたいことあるんだけど」

一方通行「あァ?言ってみろ」

御坂「マヨナカテレビって、聞いたことある?」

一方通行「あン?ンだそりゃ。しらねェ」

御坂「雨の日の深夜0時にテレビを見ると、運命の人が映るとか何とかって奴」

一方通行「ハッ!科学の街の頂点たるレベル5、その一人のお前がそンな与太話信じるなンてな!」

御坂「私だってそんなデマ信じてないわよ。でも、気になる事を聞いちゃって……。
    あんたら何か知らないかと思ったのよ」

9982号「気になる事、とは?と、ミサカはお姉さまに尋ねてみます」

御坂「お、お姉さまって……どこの黒子よ……いや、まあいいわそれで。
   えっとね、そのマヨナカテレビに、私に似た姿が映るって言うのよ……
   私テレビに映るようなことした覚えないし、あんたらに関係してるかと思ったの」

一方通行「なンだと……?それがマジだとして、俺らだって初耳だぜそれは」

9982号「マヨナカテレビの噂は聞いたことあるけどね、とミサカはどうでもいい補足をします」

御坂「どういう事なんだろう……」

一方通行「そンなら、とりあえず雨の日の夜を待とォぜ。その日の夜テレビ見りゃ全部わかンだろ」

御坂「それもそうね。なら連絡先聞いとかないとね。何かあった時の為に」

一方通行「あァ、かまわねェよ(やべェ、なンか有った時真っ先にここに連絡来るじゃねェか……
      かといって嘘ついたらそれはそれで疑われる原因になるし)」

9982号「私は連絡用の端末を持たされていませんので、と、ミサカは注釈しておきます」

御坂「あら、あんた携帯持ってないの?なら明日にでも買いに行かない?
   どうせ暇でしょ?一方通行も付き合いなさいよ」

一方通行「(えェ~……どンだけ関わりたがりなンだよ……マジで下手に疑われる事言わなくてよかった)
      あァー、いいンじゃねェの?そンなら明日適当な時間に連絡よこせ」

御坂「決まりね!それなら私は帰るけど……久々葉はどこで寝泊まりしてるの?」

9982号「えっ……ああ、そういえば私の名前は久々葉でしたね。
     私は一方通行の部屋に泊っていますよ。と、ミサカは一方通行との同棲を暴露します」

御坂「どうせっ……!?あんたやらしい事してないでしょうね!?この子に手だしたらただじゃおかないからね!」

一方通行「してねェしこンなンに興味ねェよ!!」

9982号「そこまで否定されるとそれはそれでショックですね……。
     と、ミサカはお姉さまの体を見て溜息をつきます」

御坂「なっ……!それ私に魅力ないって言いたいの!?どうなの一方通行!?」

一方通行「だァァ~!うるせェうるせェ!散れ!とっとと帰れェ!!」

御坂「言われなくても帰るわよ!!」

と、言いつつも、なぜか帰らずに一方通行を見つめている

一方通行「……ンだよ?」

御坂「もう日も暮れ始めてるのに、あんたはか弱い女の子に一人で帰らせるの?」

一方通行「ハッ、お前がそンなタマとは思えねェがな」

御坂「そう、なら決まりね。久々葉はこの部屋で待ってて。こいつと話したい事があるから」

一方通行「……チッ」


舌打ちをしつつも腰を上げる一方通行に、9982号は御坂美琴に聞こえないよう小さく声をかける。


9982号「大丈夫ですか?と、ミサカはミサカが一人になる事で任務に支障をきたす可能性を考慮します」

一方通行「……まァ、大丈夫だろ。すぐ戻る。だからお前はおとなしくしてろ」

一方通行もまた、小さく返答した。 
 
 
 
46 :2レスだけ更新 :2011/05/22(日) 04:29:02.12 ID:0kcpvrlfo
夕焼けで辺りがオレンジに照らされる中、学生たちはまばらになっている。
二人はここまで無言で歩き続けていたが、御坂美琴は一方通行に声をかけた。


御坂「ねぇ」

一方通行「あァ?」

御坂「あの子の事、よろしくね?」


一方通行は突然の事に、怪訝な表情を浮かべながら、御坂に尋ねる。


一方通行「どォいうことだよ」

御坂「ほら、あの子って人間とはいえ、作られた存在だから。
   友達もまだ全然いないんでしょ?だからあんたにあの子を守って欲しいなって」

一方通行「守りてェならテメェで守ればいいじゃねェかよ」

御坂「もちろんそのつもりよ。でも私だけじゃ力不足かもしれない。
   そりゃ学園都市第三位の肩書きは伊達じゃないって自負はあるわよ?
   でも所詮はただの人間なの。守ってくれる人が多いに越した事は無いじゃない?
   後あんたは第一位だし」

一方通行「ついでk……」
一方通行の言葉をさえぎるように、それに、と御坂が付け加えて話を続ける。



御坂「悔しいけど、姉たる私よりも、あんたの方にあの子は懐いてるみたいだしね。
   でも、あんたには負けないからね!」


御坂は快活に笑いながら、一方通行の胸を軽く叩く。反射した。


一方通行「勝手に言ってろォ。……もうこの辺でイイだろ?俺は帰る」

御坂「痛いっ、何すn……ってあんたの能力はそう言う能力だったわね……。
   まあいいわ、ありがと。……じゃあ、またね」


御坂は一方通行に向かって軽く手を振ると、そのまま帰って行った。


一方通行「……チッ」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 04:29:59.21 ID:0kcpvrlfo
一方通行は9982号について考える。
彼女はやはり人間と呼べるのだろう。オリジナルお墨付きなのだから確実に。
となると、およそ1万人もの人間を殺しておいて、自分だけ無敵になる―敵を無くす―なんて甘い事が許されるのだろうか。
そんなわけがないだろう。自分はただの人殺し。敵は世界で、味方なんているはずも、ましてや出来るはずなんてない。
そう考えると、自分が今までやってきた事の愚かさがよくわかる。


一方通行「……クソったれが」


味方が欲しい、という自分の欲求だけで1万人もの人間を殺したのだ。
自分だけのうのうと生きていると言う事自体おかしいのだ。
人を[ピーーー]―その罪は重く、更に[ピーーー]ことで、罪重なっていく。
いっそその重みで押しつぶされてしまえばいいのに、とも考える。
しかし、自分の『一方通行』という能力がそれを許さない。
全てを反射する『一方通行』は、罪の重さすら反射してしまうのだろう。


それならば。

罪を背負う事すら許されないのなら。


一方通行「……俺はクソったれの悪党だ」


―――悪になろう。

それもとびっきりの悪に。

中途半端な悪は全て吹き飛ばす。くだらない悪が、闇が、光を侵さないように。

光の住人が闇にのまれないよう、自分がその闇をのみこんでやる。


許されるつもりなど毛頭ない。
懺悔などもってのほかだ。


一方通行「だけど、あいつらに手は出させねェ」

これはただの自己満足だ。

一方通行「……守ってみせる」

一方通行の独白は、日の光と共に、闇の中に沈む。
しかし、その心には、確かな炎が宿っていた。







9982号「おかえりなさい、ホ・ア・タ(はぁと)。北斗にする?南斗にする?それともア・タ・タ?
と、ミサカは新妻ぶってみます」

一方通行「……貴様のような妻がいるか、とでも返せばいいのかァ?」

ちょっとシリアスぶって心機一転したと言うのに、当の本人はこれだ。
気が抜けて仕方ない。しかし、こんなくだらないやりとりも悪くない、と思う一方通行だった。
48 :ええいピーじじゅうしろ [saga]:2011/05/22(日) 04:30:31.97 ID:0kcpvrlfo

一方通行は9982号について考える。
彼女はやはり人間と呼べるのだろう。オリジナルお墨付きなのだから確実に。
となると、およそ1万人もの人間を殺しておいて、自分だけ無敵になる―敵を無くす―なんて甘い事が許されるのだろうか。
そんなわけがないだろう。自分はただの人殺し。敵は世界で、味方なんているはずも、ましてや出来るはずなんてない。
そう考えると、自分が今までやってきた事の愚かさがよくわかる。

一方通行「……クソったれが」

味方が欲しい、という自分の欲求だけで1万人もの人間を殺したのだ。
自分だけのうのうと生きていると言う事自体おかしいのだ。
人を殺す―その罪は重く、更に殺すことで、罪重なっていく。
いっそその重みで押しつぶされてしまえばいいのに、とも考える。
しかし、自分の『一方通行』という能力がそれを許さない。
全てを反射する『一方通行』は、罪の重さすら反射してしまうのだろう。

それならば。

罪を背負う事すら許されないのなら。

一方通行「……俺はクソったれの悪党だ」

悪になろう。

とびっきりの悪に。

中途半端な悪は全て吹き飛ばす。くだらない悪が、闇が、光を侵さないように。

光の住人が闇にのまれないよう、自分がその闇をのみこんでやる。

許されるつもりなど毛頭ない。
懺悔などもってのほかだ。

一方通行「だけど、あいつらに手は出させねェ」

これはただの自己満足だ。

一方通行「……守ってみせる」

一方通行の独白は、日の光と共に、闇の中に沈む。
しかし、その心には、確かな炎が宿っていた。



9982号「おかえりなさい、ホ・ア・タ(はぁと)。北斗にする?南斗にする?それともア・タ・タ?
と、ミサカは新妻ぶってみます」

一方通行「……貴様のような妻がいるか、とでも返せばいいのかァ?」

ちょっとシリアスぶって心機一転したと言うのに、当の本人はこれだ。
気が抜けて仕方ない。しかし、こんなくだらないやりとりも悪くない、と思う一方通行だった。
 
 
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:24:15.35 ID:0kcpvrlfo
御坂「ねぇねぇ、これ可愛くない?」


御坂美琴は、自身のお気に入りであるカエル型マスコットの「ゲコ太」……を模して造られた携帯電話を指差している。


一方通行・9982号「「えェ~……ないわ」と、ミサカはお姉さまのセンスを全否定します」


二人には不評のようだが、御坂は往生際が悪く、執拗にゲコ太を勧めてくる。


9982号「流石に子供っぽ過ぎるんじゃないですか?と、ミサカはお姉さまのギャップに萌えてみます」


一方通行「つか、なンでその機種なンだ?カエルの奴ならあっちにもあるだろォが。
      まァ、どっちもどっちなンだが」

どんなデザインでも、機能性が良いのであればそれでいい、
と考える一方通行でさえそのデザインはあんまりだろ、と思っている。
もっとも、あんまり否定するのもかわいそうだからそこまで口をはさむつもりはないのだが。


御坂「……いなの」


御坂は恥ずかしそうにうつむきながら、ボソボソと何かを言う。


一方通行「あァ?ンだよ聞こえねェし」

御坂「私のとおそろいなの!!おそろいがいいの!悪い!?」

恥ずかしさが一周して混乱に昇華したのか、大声で心の内を高らかに叫んだ。


一方通行「……だ、そうだが、その辺どォなンだ?」


一方通行はニヤニヤしながら9982号に話を振る。
9982号はというと、


9982号「ヘイヘイそこの子猫ちゃん、暇なら俺と遊ぼうぜ。
    とミサカは首輪のついてない野良猫を撫でようと試みますが逃げられました……」


全く聞いてなかった。


御坂「……」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:24:46.10 ID:0kcpvrlfo
一方通行「まァ、なンだ。……ドンマイ」


流石に居た堪れなくなったのか、御坂を慰めようと試みるものの、


御坂「もおおおおおお!!」


牛の鳴き声のような叫びを上げながら、漏電しながら、顔を真っ赤にしながら、
御坂は走ってどっか行った。


9982号「あれ、もう決まりました?と、ミサカはお姉さまがいない事をスルーしながら尋ねます」

一方通行「お前、案外酷いのな」


結局、御坂の提案したゲコ太携帯を購入して(なんだかんだで姉とお揃いがいいらしい)、帰路に就いた。


一方通行「今からアイツの連絡先と俺の連絡先をお前の携帯に登録すっから、
     アイツに連絡してやれよ?後フォローもしとけ」

9982号「そうですね、流石にかわいそうでしたから。
     と、ミサカはゲコ太携帯を買った旨を伝えるメールをしたためます」


9982号がゲコ太携帯を購入した事をメールで御坂美琴に伝えたところ、
十分ほどして「ありがと」と、一言書かれたメールが届いた。
おそらくなんと返信しようか考えに考えた挙句、恥ずかしかったからありがとうとだけ書くことにしたのだろう。
……というのは9982号の想像ではあるが、ツンデレ気質の御坂の事であるから、
それに似たような行動を取っただろうと言う事は何となく予想できる。
9982号は、御坂の照れる姿を想像して、クスリとほほ笑んだ。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:29:25.82 ID:0kcpvrlfo
シトシトと雨が降っている。「マヨナカテレビ」は雨の日に映るとのこと。
だが部屋のテレビは使い物にならないため、一方通行と9982号は現在芳川桔梗のいる研究所に出向いている。
テレビを借りるついでに、先日御坂美琴から聞いた「マヨナカテレビ」について意見を求める為だ。
一方通行は所詮噂だと口にしていたが、最近見た「夢」と何か関係があるのではないか、と実は考えていた。
根拠は無いし、「そンな気がする」というだけなのだが、もし「夢」が「現実」だったとしたら、

ほぼ確実に「マヨナカテレビ」と関係しているのではないか、と。

その事を芳川に話したところ、


芳川「「夢」と「マヨナカテレビ」、ね……。実は噂の方は既に知っているのよね。
   あれでしょ、雨の日の夜中にテレビを見てると~って奴。
   実際に確認する機会がなかったのだけれど」


どうやら噂は既に聞き及んでいたらしい。
好都合だ、と一方通行は考え、こう提案した。


一方通行「今日雨だしよォ、確かめてみよォぜ」

芳川「良いわね、どうせ暇だし」


暇だ、という理由で芳川は二つ返事で了承した。
一方通行は、仕事しろよと心の中で思ったが、(他人に)優しいのではなく(自分に)甘い芳川は既にニートの片鱗を見せていた。

そしてここから0時まで、特筆すべき事は無いので……
キングクリムゾン。
この世の時間はけし飛び……そして全ての人間は、この時間の中で動いた足跡を覚えていないッ!

そして来たる深夜23時59分。


一方通行「まさかあンなオチだったとはなァ」

芳川「ええ、流石の私もあれはスタイリッシュすぎると思ったわ」

9982号「何の話ですか。と、ミサカはさっきまで何していたのだろうと首をかしげます」


他愛のない話をしていると、ついに時計は0時を回った。
が、テレビはやはりというか案の定というか、いつもの電源オフなテレビだった。


一方通行「……なンもねェな」

芳川「そうね……暇つぶしにはもってこいだったけど」

9982号「所詮噂は噂にすぎないということですか、ははっ。と、ミサカは嬉しいような残念なような複雑な気分で半笑いします」


一方通行は、根拠のない考えとは言え、割と確信を持っていたにも関わらず、
「夢」と「マヨナカテレビ」についての予想が見事に外れたため、若干拍子抜けした表情でテレビを見つめていた。


すると、

「……!!~~……!」


テレビには誰かの形をした影が浮かび、その誰かは何かを叫んでいる。
芳川と9982号は驚いた表情を浮かべているが、一方通行はなぜかこうなることが当然だと感じていた。

そして、
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:30:04.22 ID:0kcpvrlfo
「我は汝……汝は我……汝、扉を開くもの……」

一方通行「ガァッ……!?」

突然頭の中で声が響き渡り、割れるような頭痛に一方通行は頭を押さえた。
その様子を見た芳川と9982号は一方通行に駆けよる。

茫然としていた一方通行は何かを思い出したかのように立ち上がり、
テレビの画面に手を伸ばしていく。

そして、一方通行の腕は、


芳川・9982号「「一方通行!?」」



そのまま画面の中に沈んで行った。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:32:10.27 ID:0kcpvrlfo
一方通行「……どォいうことだ?」


あの後どうしたかというと、画面に沈んだ腕は普通に戻ってきた。


芳川「画面が小さすぎて入れなかったみたいね」

9982号「いやいや、そもそもテレビの中に入るってどういうことですか。
    と、ミサカは一方通行の奇行もさることながら、画面の中に腕が入ったと言う事実に驚きを隠せません」

一方通行「……反射はきいていたはずなんだが……?」


そうぼやきながら、もう一度テレビに手を伸ばすと、


芳川「あら、また入ってったわね」

9982号「いやいやいや、なんであんたそんな冷静なんですか。
    と、ミサカは逆に芳川の冷静っぷりを高評価します」

一方通行「気になるなァ……おい芳川よォ、全身通りそォなデケェテレビ用意しろよ」

芳川「いいわね、面白そうだわ。来週までには用意しておくわね」


割と乗り気な芳川と、それがさも当然かの様に話す一方通行。
納得のいっていない様子の9982号。この中では9982号が実は常識人なのかもしれない。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:34:07.89 ID:0kcpvrlfo
次の日、御坂美琴に連絡を取った一方通行と9982号は、「マヨナカテレビ」の事を話すべくいつものレストランに集まった。


御坂「ねぇ、昨日のあれ。……見た?」

一方通行「おォ。すごかったぜェ?なンせ誰か人っぽい姿があるなァー
     って思ったら腕がテレビの中「一方通行!と、ミサカは声を荒げます!」」


昨日の顛末を話そうとしたところ、9982号が一方通行の言葉を遮った。


一方通行「ンだよ邪魔すンじゃねェよ……」

御坂「何よー、何隠してるのよー?」


御坂は話が遮られたことへの不満から、ジトっとした目で9982号を見つめる。


9982号「言ったって信じませんよ。ミサカ自身今だ信じられませんから。
     と、ミサカは昨日の出来事を振り返ります」

御坂「信じる信じないは置いといて、教えてよ。何あったの?」


元々信じてもらう気がない一方通行は昨日の出来事を丁寧に話した。


御坂「うっそだー!」


やはり信じなかった。


一方通行「はン、だからそれを証明するためにこれから家電量販店に行くんだろォが」

9982号「まてまてまて」


9982号は信じられないと思ってはいるが、昨日の出来事が事実である事は確かであるため、
人目の付くところでテレビの中にプラグイットされた日には大騒ぎ確実である。
9982号としては目立ちたくないため、一方通行の行動を阻止せざるを得ないのだが……


一方通行「ンだよ止めンじゃねェよ」


この男を止めるのは不可能というものだろう。
というか最初と随分キャラ変わってね?


御坂「そんなに自信満々に言うなら、本当なのかしら……?」


あっさり一方通行の言葉を信じる御坂。良くも悪くも純粋なのである。
兎にも角にも、テレビが無ければ始まらないので、移動することにした。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:35:20.66 ID:0kcpvrlfo
一方通行と、9982号、御坂の三人は家電量販店、DAMAYA電機に来ていた。
ここで一つ疑問が浮かんだ御坂は一方通行に質問する。


御坂「ねぇ、あんたんちの家電って買い換えたりするの?はっきり言って無駄じゃない?」

一方通行「おォ、最初は律義に買い替えてたんだけどなァ。
     たび重なる襲撃にうンざりして買い替えるのは止めてるンだわ」

羽振りのいい一方通行ではあるが、無駄遣いはしないのだ。

御坂「……あんたも中々壮絶な人生送ってるのね……」

一方通行「まァな……」


ところで、この町の名称は「学園都市」であるが、文字通り「学生の街」である。
住人の大半が学生であり、その大半が学生寮に住んでいる。
その学生寮というのは、学校のランクによって差はあるが、大抵家電完備だったりする。
何か有れば管理人にその旨を伝えればOKだし、ネット等での家電購入も利用できる。

ついでに、放課後の学生たちが何をしているかというと、大抵セブンスミストだったり、最新設備の整ったゲームセンターだったり、
暇つぶしをする空間は多数存在するのだ。

つまり何が言いたいのかというと、

学園都市の人間でわざわざ家電量販店に足を運ぶ人間など滅多に居ない、という事だ。


幸か不幸か周りに誰も居ないのを確認した三人は、


一方通行「見てろよ……」

御坂「え、ええ……」

9982号「す、少し怖いですが、頑張りましょう。と、ミサカは心を落ちつけます」


何をがんばるのかはさておき、一方通行は目の前にあるおよそ100インチ程度のプラズマテレビに手を伸ばした。


「「うわ!!」」


誰の声かはわからないが驚きの悲鳴と共に、
3人は科学とも魔術とも違う力の入り口、地獄の一丁目に足を踏み入れ、その場から姿を消した。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:39:48.05 ID:0kcpvrlfo
一方通行「お前ら、起きろ」


気絶している9982号と御坂美琴を叩き起こし、状況を確認する。


御坂「う、ううん……」

9982号「こ、ここは……?と、ミサカは知らない天井だというベタなリアクションはとりませんよ」

一方通行「うるせェよ。……つゥか天井って何処だよ」


辺りは霧に覆われていて視界が悪い。しかし、どこかのテレビスタジオである、という事だけは把握できた。
一方通行は、この間見た夢の霧を思い出す。能力を発動させるが、やはり霧は晴れない。
やはりと言えばやはりだが、焦っても仕方ないので、二人の能力がどうなっているかの確認も行う。


一方通行「チッ……お前ら、能力は使えるか?」

御坂「私は……うん、ちょっと変な感じがするけど、大丈夫よ。
この霧が悪いのかな……?」

9982号「ミサカは……駄目ですね。と、ミサカはミサカの微力すら発揮できない状況を嘆きます……」

一方通行「さァて……どォしたモンかな……」


テレビという入口があったのだから、たどった道を引き返せば元の場所に戻れるのだろう。
しかし、


一方通行「あァ~……俺達が落ちてきた道、というか出口、どこにあるンだ?」


( ^ω^)出口君が失踪したようです


9982号「言ってる場合ですか。と、ミサカはあなたの悠長っぷりに憤慨します」

御坂「そ、そうよ……帰り道、探すんでしょ……?早くしないと、門限が……」


御坂美琴は、現状よりも、別の事に恐怖していた。


一方通行「あァ?門限だァ?思春期のお子様は門限破ってナンボだろォが。違うか?」


それがさも当然かの様に尋ねる一方通行。


御坂「それが出来ればこっちだったこんなにビビらないわよ!!
   あんたはあの寮監を知らないからそんなことが言えるんだわ……」


―――戦闘特化型人型汎用決戦兵器、寮監大総統閣下
別名、常盤台の赤い稲妻(ジョニーライデンではない

彼女の体術はレベル4のテレポーターや、レベル5の電撃使いを軽く凌駕している。
それこそ一方通行の反射を体術で打ち破る事が出来るのではないかと御坂が考えている程である。

くだらない事を話している暇があったら、とりあえず歩きましょう。
という9982号のありがたい説教により、3人は周辺を探索することにした。


一方通行「つゥかよォ、ホントになンなンだろォな、ここ」

御坂「正直馬鹿な研究者が作った馬鹿な研究の産物だとかの方が信憑性有るけど……」

9982号「……入口がなんでもない売り場に置かれていたテレビ、なんですよね。と、ミサカは現状に頭をかかえます」


どう考えても科学サイドの介入はありえないだろう、というのが3人の結論であった。
もちろん、知らないこととはいえ、魔術サイドの方も関係ないのだが。

―――しばらくの間、あても無いまま迷宮をさまよった。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:41:54.84 ID:0kcpvrlfo
一方通行「お?なンだありゃ。変な入口みたいなのがあるぜェ?」


一方通行が指差した先には、壁の中に四角く切り取られた、禍々しい雰囲気をもつ赤と黒の空間があった。


御坂「……正直先に進むのが億劫なんだけど」


げんなりとした表情で御坂美琴がつぶやいた。
それに対し、相槌を打ちつつ、


9982号「ええ、私も行きたくないですけど、行くしかないんですよね……
    と、ミサカは恐怖を紛らわせるためお姉さまと腕を組みます……」


一方通行「ビビってねェでさっさと行くぞォ」


なんでもないようにスタスタと先へ進む一方通行に、
二人は何とかついて行くのであった。

先の入り口のような空間を抜けると、そこには実験室のような部屋があった。
広さにしておよそ24畳と言ったところだろうか。中央には診察台と両手足用の拘束器具や、
メスやペンチと言った、何に使うのか、あるいは使ったのか、わからない器具がある。


御坂「うわ……何あれ怖っ」


素直な気持ちを吐露する御坂に対し、流石の一方通行もそれに同意した。


一方通行「趣味悪ィことしてンだろォな……つゥか奥のパソコン、あれだけなンか表示されてンぜ?」
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:42:59.57 ID:0kcpvrlfo
一方通行が見つけた、電源の入ったパソコンには、
顔のない画像―着ている服は長点上機学園の制服だろう―が表示されていた。
それを見て吃驚した9982号がヒィッっと小さく悲鳴を上げた。


御坂「これって長点上機学園の制服よね?」

一方通行「あァ、間違いねェな。俺が通ってた頃はこンな感じの制服だったはずだァ」


サラッと高学歴アピールをする一方通行に御坂は突っ込みを入れる。


御坂「は?あんた長点上機だったの?!……まぁあんたの能力なら当然よね」

一方通行「はン、俺くらいになりゃあっちが土下座して入学してくれって頼ンで来るンだよ」

御坂「長点上機の白い悪魔め……」


こんな異空間にいるというのにどこか余裕のある二人は軽口を交わす。
レベル5が二人も居れば大抵の事は何とかなる、という自信の表れだろう。


9982号「なんだか……気分が悪いですね……と、ミサカは若干の体調の異変を訴えます」


しかし、9982号はこの空間の異様な雰囲気にあてられたのか、随分と顔色が悪い。


御坂「えっ!?大丈夫!?一方通行、最初のとこに戻ろうよ!ここ絶対おかしいわよ!!」

一方通行「そォだな……」


一方通行は御坂の意見に同意し、引き返すことにした。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:48:38.02 ID:0kcpvrlfo
帰り道は、一方通行が9982号と御坂美琴を抱えて元の場所へ高速で走っていった。
能力がどのくらい働くのか調べるため、である。
そこで一方通行は有る事に気づく。
先の9982号が能力を出せなかった事を鑑みても、この霧はおそらく能力者を阻害する効果があると考えられる。
本来なら「走る」という手段をとらずともベクトル操作で「飛ぶ」事が出来るはずなのだが、
どうにも「飛ぶ」力の調整が上手くいかない。「走る」でも気を抜いたら勢い余って飛んでしまいそうだ。
それで慎重に動いても、十分速く移動できるのでそのまま戻ったのだが。


御坂「ふう、やっと着いたわね」

9982号「こっちに戻ってきたら、少し気分が楽になりました。
    と、ミサカは人心地が付きます。」


二人も落ち着いたので、一方通行が先ほど気付いた事を言おうとした瞬間、
それを遮るように御坂が話しかけてきた。


御坂「ねぇ、あああそこにいいいるのって、だだ、誰?」


声が上ずっているのを聞いて、これは本当に何かいるんだろうなあ、
等と他人事な風に考える一方通行は、御坂が指をさす方向に顔を向いた。


一方通行「……ンだァ?このすっとこどっこい」


そこには、クマ?のようなきぐるみを着た何かがいた。
その何かが、一方通行の暴言に対し腹を立てて言い返す。


クマ「君らは何者クマ!?何でこんなところに居るクマか!?このひょっとこ!」

一方通行「あァ!?だァれがひょっとこだってェ!!?」


一方通行の剣幕に恐れを成したクマは、ボソボソと小さな声で弁明する。


クマ「いやぁ……ひょっとこっていったんじゃなくてぇ……
   ひょっとしてここに迷い込んだのかなぁ?って聞こうとしただけでぇ……」


その様子を御坂が眺めている。その目はゲコ太を見つけた時の目であった。


御坂「(可愛い……)」

9982号「お姉さま、まさかとは思いますがあの珍妙なのがカワイイとでも?
    と、ミサカはお姉さまのセンスを固く否定します」

御坂「えっ!?そ、そそそうよね!可愛くないよね!」


と、御坂は懸命に否定するが、9982号は「可愛いと思ってるんだろうなあ」と思ったがそれを口にはしなかった。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:51:02.94 ID:0kcpvrlfo
一方通行「で、お前は一体何者だ?というか何物だ?」


字にしないとわからないような暴言を吐く一方通行。
もっとも、クマはその暴言には気付かなかったが。


クマ「クマはクマクマ」

一方通行「ハァ?クマクマ言ってンじゃねェよ。知ってる事を全部吐け。
      こちとらこっから出られねェってンでクマってンだよ」


クマ語が一部うつってしまったようだが、それ以上に一方通行に迫力があり、誰も突っ込みを入れられない。
クマに至ってはビビり上がって震えている。

それに見かねた御坂が助け船をだす。


御坂「はいはい、焦ってるからってそんなにおどさないの。
   この子震えてるじゃない。ねぇ、あなたはここから帰る方法しらない?」

クマ「……知ってるクマ。というかクマはずっとここに住んでたから大抵の事は知ってるクマ!」


立場が逆転したことを察したのか少し態度が大きくなったクマ。


一方通行「ほォ、中々やるじゃねェか。だったらこっから出せよ。
     こいつが体調崩してンだ」


自分を気遣ってくれている事に気付いた9982号は、少し嬉しくなった。
が、次の一言でその思いは淡くも崩れ去った。


一方通行「こンなとこでゲロ吐かれちゃたまったモンじゃねェからな。
     さっさとこいつ寝かしつけてェンだよ」


なんだそれは、ゲロとは失礼な!
というか寝かしつけたいって何だ!!お前はお母さんか!と心の中で突っ込みを入れつつ、
一方通行をにらみつける。下手に叫んでクマの機嫌をそこねないように、という判断だ。


クマ「仕方ないクマねぇー……そうだ、最近誰かがココに人を放り込むから、
   クマ迷惑してるクマ!なんか知らないクマ?」

一方通行「はァン?人を放り込むだァ?生憎そンな話初めて知ったぜ。
     まァ良い。とりあえず俺らはそンな事は知らない。だから帰せ」


なんで一方通行はこんなに強気なのだろう、と9982号と御坂は疑問に思うが、
クマは良い具合にビビってるので、多分これが正解なのだろう。


クマ「わかったクマ」


クマが了承するとともに、3人の目の前にテレビが降ってきた。


御坂「……テレビ」

一方通行「入口もテレビってンなら、」

9982号「出口もテレビ、ですか。と、ミサカは笑えない冗談に苦笑します」

クマ「何をごちゃごちゃ言ってるクマ!早く帰るクマよ!こっちは忙しいクマ!」


クマは無理やり三人を押し込む。
一方通行は、「反射が……効かねェ!?」とか考えながらテレビに押し込まれて行った。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:54:01.78 ID:0kcpvrlfo
気づけば、元居た家電量販店のテレビ売り場のところで、尻もちをついていた。
どうやら帰れたらしい。


御坂「……はぁ~戻ったぁ……って、うーわ。もうこんな時間?まあ門限には間に合うだろうけど」

9982号「流石のお姉さまも疲労困憊の様ですね……。と、ミサカはお姉さまを労います」


いつまでもこの場にとどまっていても仕方ないので、
情報を整理するためいつものレストランに向かった。

・・・

情報をまとめると以下のようになった。

・入口も出口もテレビ。

・ひょっとしたら別のテレビから入るとさっきのスタジオとは別の場所に出るかも
 危険なので確認は出来ないが。

・謎の長点上機ポスター。

・今のところ出口はあのクマに頼るしかなさそう。

・長時間あの霧の中にいると気分が悪くなる。


一方通行「あァそうだ」


霧について話が及んだ時、一方通行は思い出したかのように二人に話しかける。


御坂「な、何?まだ何かあるの?」


さすがに疲れたのか、御坂はうんざりした顔だ。


一方通行「いや、さっきのテレビの中の霧についてなンだが……」


疲れたとはいえ興味深い話が聞けそうなので二人は身を乗り出して耳を傾けた。


一方通行「俺が能力を使って移動した時の感じで、あくまでも主観だからなンとも言えねェンだが」


と、前置きとして注釈する。


一方通行「あの霧、ひょっとしたら俺たちの能力を阻害する働きがあるのかもしれねェ。
     天然のAIMジャマーってとこか。まァ、厳密にAIMジャマーと同じ働きをしてるかっつったらそうでもねェンだが。
     表現として近いからAIMジャマーと言ってるだけで……
     そうだな、アンチAIMミストってとこかァ?」


一方通行があの霧の中で飛ぼうとした際、調整が困難な状態にあった、というのは前述したとおりだが、

AIMジャマーというのは能力者の力を意図的に暴走させると言う効果があり、それにより能力者の力の発現を抑制すると言うものなのだが、

このアンチAIMミスト―便宜上AAIMM(Anti AIM Mist)としようか―はAIMジャマーの効果だけではなく、微弱ながらもキャパシティダウンの効果も併発させるようだ。

本来のキャパシティダウンはレベル4程度の能力ならその発動を阻止できるし、レベル5でもかなりのところまで能力を抑制できるが、
AAIMMはレベル2か3程度までしか抑えられないようだ。それでも十分脅威なのだが。

更に、AAIMMは一方通行の知らない法則によって動いているらしく、一方通行が風で吹き飛ばそうとしてもそれは叶わなかった、と彼は話した。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/22(日) 11:54:45.70 ID:0kcpvrlfo
一方通行「いつもの状態で演算出来りゃあ解析も出来そうなもンだが……」

御坂「アンチAIMミストのせいでその演算能力が阻害されてるから、」

9982号「いつものように演算出来ないせいでアンチAIMミストはどうにもできないという事ですね。と、ミサカは意見をまとめます。」


演算阻害→能力ダウン→そのせいでAAIMMをどうにもできない→結論:演算が阻害されるのは必然
という堂々巡りな状況に陥るという寸法だ。


一方通行「やっかいなモンだぜ。最初から霧を反射するつもりで行っても、その霧自体が未知な物だから、触れて解析しなきゃなンねェンだが、
     触れた時点でアウト、演算が阻害されちまうからなァ。こればっかりはどう仕様もねェや」

御坂「というか……なんでこんなに真面目にあの空間について考えてるの?」


それもそうだ。クマ曰く「こっちこられてもクマる。」という事は別に行かなくて良いのだろう。
それなら疲れを押してまで無理に議論する必要も無い。


一方通行「そンなら、今日のとこは帰るとすっかァ」

9982号「そうですね。そろそろ疲れも限界ですし。と、ミサカは眠気をアピールします」

一方通行「あー、なら能力使って帰るかァ。おらオリジナル、こっちこいや」

御坂「……あんたねぇ、オリジナルって呼ぶくらいなら御坂って呼びなさいよね」


一方通行自身としては呼び方などどうでもいいのだが、
この二人の前で「オイ、みさか」と呼ぶと、
「呼びましたか?とミサカは返事します」と、
「なによ?」
……という返答が帰ってきてややこしくなりそうなのでオリジナルと呼ぶ事にしていた。
下の名を呼ぶほど仲が良いわけでもねェだろ、とも考えたので。


それでもオリジナルという呼ばれ方は嫌いらしく、結局「超電磁砲」と呼ぶことにした。

御坂は「美琴さまと呼んでも良いのよ?」とか何とか言っていたが、
一方通行はその発言を鼻で笑って受け流した。 
 
 
72 : ◆DAbxBtgEsc :2011/05/23(月) 03:36:18.49 ID:kHkwAj5ao
一方通行と9982号は、御坂美琴と別れ、部屋に戻ってきていた。
そして部屋に入るなり一方通行が口を開く。


一方通行「なァ……明日またテレビン中、行かねェ?」

9982号「へ?いやいやなんでわざわざ虎児の居ない虎穴に入ろうとしているんですか。
    と、ミサカはあなたの無謀っぷりを批判します。
    つーかお前はミサカの護衛役でしょうが」


一方通行はどうにもテレビが気になる。
クマの言う「人を放り込む」、そして「マヨナカテレビに映る人影」。
この二つに何らかの関係があるのでは、と考えているようだ。

9982号「そもそも、さっき入ったテレビから再び中に行ったところで
    クマのいるテレビスタジオに出られるとは限らないじゃないですか。
    と、ミサカは最悪の場合を予想して一方通行の諦めを促します」

別のテレビから入れば別の場所に出る、というだけならまだしも、
同じテレビから入っても別の場所に出る、という可能性もあるから下手な真似は出来ない。と言って、9982号は一方通行を全力で説得する。


一方通行「はン、芳川辺りに命綱持たせてテレビの前にたたせてりゃイイだろ」


効果があるかはわからないが、適当な策を挙げる。
それほどまでにあのテレビの中が気になるのだろう。
学園都市第一位の能力者は、好奇心も第一位だった。


9982号「無駄な気がするんですけど……と、ミサカはやっぱり怖い事をアピールします」


能力を阻害する霧の中に自ら向かう事はないだろう、と9982号は考えるが、


一方通行「ハッ、俺を誰だと思ってやがる?お前一人くらい軽く守ってやるよ」


どこぞのウニ頭のように、無意識口説き文句を垂れる一方通行。


9982号「……そうやって思わせぶりな発言をして何人の乙女を泣かせたのですか
    と、ミサカは内心ドキドキしながら尋ねます」


しかし、9982号の表情を見ても一方通行は意に介さず。


一方通行「生憎と俺についていける女を見た事がねェ」

9982号「それもそうですね。なら、ミサカのお姉さまは如何ですか?
    と、ミサカは一方通行と同じレベル5の姿を想像します」

一方通行「はン、あンなンじゃまだ足りねェなァ」


何が足りないのかは想像にお任せしよう。


9982号「……大きい方が良いのですか?と、ミサカは自分の体を見てうなだれます」

一方通行「大は小を兼ねるって言うだろ、違うか?」

9982号「なっ!それはすべての小さい方々への冒涜です!
    小さい方々は……そう、大きいのと違って密度があるんです!
    敷き詰まってますよ!!夢が!と、ミサカは必死アピールします」


なぜここまで9982号は必死になってアピールしているのだろうか。
それは当の本人にもよくわかっていないようだった。
73 : ◆DAbxBtgEsc :2011/05/23(月) 03:36:49.68 ID:kHkwAj5ao
一晩ぐっすり休み体力を回復させた二人は、芳川桔梗の待つ研究所に居た。
外は霧がかっていた為、二人の髪は若干湿っていた。
髪の毛を拭きながら、二人は昨日の出来事を説明する。それを聞いた芳川は、


芳川「ずるいじゃない、私に黙って勝手にイクなんて」


軽く拗ねていた。


一方通行「なンかイントネーションおかしいぞお前」

9982号「それで、結局どうするのですか?と、ミサカは正直行きたくねぇと内心を吐露します」

芳川「なら、一方通行と私の二人で行く?テレビ、今日届くんだけれど」

一方通行「あァー、それでもイインだけどよォ、
     昨日入ったテレビ以外のテレビから入ると、昨日の場所とは別のところに出るかもしれねェンだ
     それの実証を行うってンなら俺はかまわねェが」

芳川「私からしたらあなた達のいうテレビスタジオだろうと別の何かだろうと、
   謎空間には変わりないわ。テレビが着き次第入りましょう」


やはり研究者だからだろうか、芳川は、気になることは徹底的に追及する、そんな人間だった。
では、具体的にはどうするのか。めんどくせェから命綱持たせとけばイイだろ、と一方通行は提案しているが、
それだけではいささか不安が残る。


芳川「そう言えば携帯は圏外だった?」

一方通行「そういや確認し忘れてたわ、だからわかンねェ」

芳川「無駄だとは思うけど、無線でも持って行く?何となくこっちとあっちじゃつながらないとは思うけど、
   仮にその空間内だけでも無線が使えるなら、もし離ればなれになった時使えるかもしれないし」

一方通行「はァン、気休めにはなるだろうなァ」


着々とテレビ突入計画をまとめていく。
すると芳川の携帯に連絡が入った。


芳川「なんですって?……まあ仕方ないわ、それでお願い」


芳川は残念そうな表情で携帯を切った。
その表情を見て一方通行は尋ねる。


一方通行「どォした?」

芳川「……テレビ、持ってきてくれるの明日になるみたい」

一方通行「……チッ、仕方ねェな……かといって外に無線だ命綱だと持っていくのは目立つしなァ。
     テレビの中行くのは明日にしよォか」


完全に仲間外れにされている9982号は、いじけて芳川のパソコンをいじっていた。
すると、メールボックスに一通のメールが届いたのを確認する。


9982号「メールが届いてますよ。と、ミサカは芳川に報告します」

芳川「あら、ありがとう。……これは……!?」

メールを開いた芳川はその内容に驚愕する。




19090号、失踪。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/23(月) 03:37:20.36 ID:kHkwAj5ao
どうやって、とかどうして、とか考えるが、一つだけわかっている事がある。
19090号は、おそらくテレビの中にいる、ということだ。


それを確信へと至らせたのは、失踪の報告が上がった日の夜、マヨナカテレビに御坂の姿が映ったからだ。
はっきりと映ったわけじゃないが、あの影の形を見ると、十中八九そうなのだろう。
そして、おそらくこれは御坂美琴ではなく19090号なのだろう、と予測した。
と、ここで一方通行の携帯が鳴る。……御坂からだ。


御坂「ねぇ……今の、見た?」

一方通行「……あァ。見たぜ」

御坂「あれって……」


御坂は言い淀む。
なぜならテレビに映ったミサカの姿は酷く苦しんでいる様子だったからだ。


一方通行「……明日またテレビの中に行く。……来るか?」


御坂は迷わず了承した。
御坂との通話が終わるのを確認して、9982号は一方通行に話しかける。


9982号「私も行きます。と、ミサカは確固たる決意を表明します」

一方通行「あァ?あれだけ嫌がってたじゃねェか。無理すンな」

9982号「お気づかい感謝します。でも、ミサカもいかなくちゃならないんです。
    と、ミサカは自分の妹たる19090号を心配します」


姉が妹を助けるのは当然だから。と、9982号は付け加える。


一方通行「チッ……どォなってもしらねェからな」


と、一方通行は冷淡に返し、そっぽ向いた。
つっけんどんな口調とは裏腹に、一方通行の表情は穏やかだった。
そっぽ向いたのは、それを見られるのが恥ずかしかったためだろう。


芳川「良い雰囲気を作ってるけど……この分だと私は留守番かしらね。
    足手まといにはなりたくないし」


出番が減った、と心底残念そうな口調で一人つぶやく。
そして、優しくなったわね、と付け加えてつぶやき、小さく微笑んでいた。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/23(月) 03:39:11.23 ID:kHkwAj5ao
次の日、一方通行と9982号の二人と合流した御坂美琴は、昨日のマヨナカテレビについて尋ねる。


御坂「あんたはやっぱりマヨナカテレビとテレビの中が何か関係有るって考えてるのね?」

一方通行「あァ。おそらく……いや、十中八九関係有ると見てる」

御坂「そう。なら行きましょう、テレビの中」


あっさり信じる御坂に一方通行は首をかしげる。


一方通行「おいおい、そんな簡単に信じちまってイイのかァ?
     俺が嘘ついてるかもしれねェンだぞ?」


すると御坂は何を馬鹿な事を、と言いたげな表情で返答した。


御坂「そこまで付き合い長くはないけど、信頼はしてるから」


続いて、御坂はニヤッと笑い、


御坂「裏切ったら、怖いわよ?」

一方通行「おーおー怖ェ怖ェ」


これはマジで絶対能力者実験についてばれたら殺されるな、と一方通行は考える。

だが、信頼してくれている彼女に、いつまでも嘘をついていていいのだろうか。
おそらく、このまま御坂と事件を追って深いところまで行きつけば、きっと彼女は真実を知ることになるはずだ。

真実を知った時、彼女はどう思うだろう。
悲しみに暮れるだろうか。怒りで自分に立ち向かってくるだろうか。

自分の事はどうでもいい。ただ目の前に居る御坂にまで辛い思いはしてほしくない。


御坂が自分を[ピーーー]と言うなら喜んで受け入れよう。


御坂が一生苦しんで生きろと言うなら、一生苦しみにあえいで生きてやろう。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/05/23(月) 03:40:21.89 ID:kHkwAj5ao
だがそれは、9982号や残りの妹達が普通に生きる事が出来るようになるまでは出来ない。

今自分が[ピーーー]ば、妹達は必要なくなる。もしくは第二位辺りに研究が引き継がれるだろう。
そうなったとき、御坂と妹達が、学園都市の闇に飲まれるという最悪の結果に終わるだけだ。
一方通行には、それだけが許容できない。光の住民が、闇に侵される事だけは許してはならないのだ。


―――全て話そう。判断は御坂自身に委ねよう。


全て話して、自分を[ピーーー]と言うのであれば、無様に命乞いをして、[ピーーー]のを先延ばしにしてもらおう。
どんなに罵倒されても、足蹴にされてつばを吐きかけられても、
どんなに無様で惨めな末路を送る事になっても、





必ず守ると誓ったこの心だけは、信じてもらいたい。

・・・

芳川桔梗の私宅に、一方通行と9982号、御坂美琴の3人は居た。
御坂も来る、という事で急遽研究所からテレビを移したのだ。


芳川「それじゃあ、3人とも準備はいい?」


無線と命綱の準備も万端だ。
テレビの中では能力が使えない9982号は鋼鉄破り(メタルイーター)を手にしている。
レベル5二人に戦闘訓練を受けて武装している一人を加えたこの3人なら、大抵の事は何とかなるだろう。
3人は、芳川の問いに無言で肯定した。


一方通行「それじゃ、行くぜェ」


一方通行は反射を切り、9982号と御坂の手を握る。
3人は、再びテレビの中、地獄の一丁目に足を踏み入れた。


・・・

前回は驚いて気絶してしまったが、今回は3人とも綺麗に着地した。
辺りを見渡すと、前回見たテレビの中とは全く違った風景だった。


9982号「どうみてもテレビスタジオではないですね。
と、ミサカは周りを見て素直な感想を述べます」


目の前には空き地が広がっている。荒地と言うほどは荒れておらず、
それなりに小奇麗な地面に数本、こぢんまりと枯れ木が立っており、それが異様な雰囲気を醸し出している。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 03:41:53.16 ID:kHkwAj5ao


一方通行「無線は……おっ、一応使えそォだな。……芳川には繋がンねェけど」

御坂「どうにも変な所に出てきちゃったわね……
   ってか……命綱、千切れてない?」

「「あっ」」

9982号「ま、まあ、終わった事は仕方ありませんし。と、ミサカはまずは昨日のクマを探す事を推奨します」

一方通行と御坂に異論はなかった。

・・・
一方その頃、

芳川「あれ、命綱千切れてない?」

芳川「無線も……駄目ね」

芳川「……本格的に、出番無しなのね」

出番の少なさを嘆いていた。
78 :いっつもsaga忘れる。訂正はいりまーす [saga]:2011/05/23(月) 03:42:46.91 ID:kHkwAj5ao
次の日、一方通行と9982号の二人と合流した御坂美琴は、昨日のマヨナカテレビについて尋ねる。


御坂「あんたはやっぱりマヨナカテレビとテレビの中が何か関係有るって考えてるのね?」

一方通行「あァ。おそらく……いや、十中八九関係有ると見てる」

御坂「そう。なら行きましょう、テレビの中」


あっさり信じる御坂に一方通行は首をかしげる。


一方通行「おいおい、そんな簡単に信じちまってイイのかァ?
     俺が嘘ついてるかもしれねェンだぞ?」


すると御坂は何を馬鹿な事を、と言いたげな表情で返答した。


御坂「そこまで付き合い長くはないけど、信頼はしてるから」


続いて、御坂はニヤッと笑い、


御坂「裏切ったら、怖いわよ?」

一方通行「おーおー怖ェ怖ェ」


これはマジで絶対能力者実験についてばれたら殺されるな、と一方通行は考える。

だが、信頼してくれている彼女に、いつまでも嘘をついていていいのだろうか。
おそらく、このまま御坂と事件を追って深いところまで行きつけば、きっと彼女は真実を知ることになるはずだ。

真実を知った時、彼女はどう思うだろう。
悲しみに暮れるだろうか。怒りで自分に立ち向かってくるだろうか。

自分の事はどうでもいい。ただ目の前に居る御坂にまで辛い思いはしてほしくない。


御坂が自分を殺すと言うなら喜んで受け入れよう。


御坂が一生苦しんで生きろと言うなら、一生苦しみにあえいで生きてやろう。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 03:43:20.84 ID:kHkwAj5ao
だがそれは、9982号や残りの妹達が普通に生きる事が出来るようになるまでは出来ない。

今自分が死ねば、妹達は必要なくなる。もしくは第二位辺りに研究が引き継がれるだろう。
そうなったとき、御坂と妹達が、学園都市の闇に飲まれるという最悪の結果に終わるだけだ。
一方通行には、それだけが許容できない。光の住民が、闇に侵される事だけは許してはならないのだ。


―――全て話そう。判断は御坂自身に委ねよう。


全て話して、自分を殺すと言うのであれば、無様に命乞いをして、殺すのを先延ばしにしてもらおう。
どんなに罵倒されても、足蹴にされてつばを吐きかけられても、
どんなに無様で惨めな末路を送る事になっても、





必ず守ると誓ったこの心だけは、信じてもらいたい。

・・・

芳川桔梗の私宅に、一方通行と9982号、御坂美琴の3人は居た。
御坂も来る、という事で急遽研究所からテレビを移したのだ。


芳川「それじゃあ、3人とも準備はいい?」


無線と命綱の準備も万端だ。
テレビの中では能力が使えない9982号は鋼鉄破り(メタルイーター)を手にしている。
レベル5二人に戦闘訓練を受けて武装している一人を加えたこの3人なら、大抵の事は何とかなるだろう。
3人は、芳川の問いに無言で肯定した。


一方通行「それじゃ、行くぜェ」


一方通行は反射を切り、9982号と御坂の手を握る。
3人は、再びテレビの中、地獄の一丁目に足を踏み入れた。


・・・

前回は驚いて気絶してしまったが、今回は3人とも綺麗に着地した。
辺りを見渡すと、前回見たテレビの中とは全く違った風景だった。


9982号「どうみてもテレビスタジオではないですね。
と、ミサカは周りを見て素直な感想を述べます」


目の前には空き地が広がっている。荒地と言うほどは荒れておらず、
それなりに小奇麗な地面に数本、こぢんまりと枯れ木が立っており、それが異様な雰囲気を醸し出している。 
 
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 04:08:44.53 ID:kHkwAj5ao

3人はこの空間の異様な雰囲気を感じ取り、辺りを警戒している。
すると、一方通行があるものを発見し、拾った。


一方通行「これは……」


軍用ゴーグル。妹達の能力補助として支給されている電磁波を視認するための道具だ。
これがここに落ちていると言う事は、


一方通行「……(19090号がここに居た可能性が大きいな……)」


19090号の所在。それの可能性を一方通行は握りしめ、赤と黒に染まった空を仰いだ。
と、そこに聞き覚えのある声が響き渡る。


クマ「あー!君たち何をしてるクマかー!?」


クマである。


一方通行「あァン?調べ物だよ、調べ物。丁度イイ、お前ここに人を放り込む奴がいるとか言ってたな?」

クマ「そ、そうクマね……あぁ!!わかった!君たちが犯人クマね!!
   こうやってこの場に自分の意志で居る人間は初めてクマ!つまり君たちが一番怪しいクマ!!」


とんでもない言いがかりである。
この言い分にクマがちょっと好きな御坂美琴も流石に反論する。


御坂「ちょ、ちょ、ちょっとそれどういうことよ!!」


反論するが、一方通行がそれを制する。


一方通行「まァ待て。こっちも色々あって困ってンだよ。
     その困りごとを解決すると、お前の悩み事も解決出来るかもしンねェ。
     だから協力しろ」

クマ「どういう事クマ?君たちが犯人じゃないクマ?」

一方通行「あァ。俺らもその犯人とやらにゃ苦労させられてンだ。
     雨の日の夜にこいつらと似た顔の人間がテレビに出ててよォ。
     それがこの空間となンか関係あるンじゃねェか、って考えてンだ」

クマ「むむむ……テレビ、クマ?クマは知らないクマよ?」

一方通行「しらねェならしらねェでかまわねェよ。お前、ここに住んでンだろ?
     教えろ、ここがなンなのか」

クマ「ここが何かって言われても……ここはここ。別に名前なんてないし、何かの為の場所でも無い。
   ただここにあるだけクマ。そういう場所だから、勝手に人を放り込んできて場を荒されるのは勘弁してほしいんだクマ。
   おかげで最近騒がしくてかなわんクマー」

一方通行「で、最近ここに放り込まれた奴はいねェか?」

クマ「いるクマよ、でも気配でしか確認してないから、どんな人かは知らないクマよ。知ってる人クマ?」

一方通行「あァ、こいつらみたいな顔した奴だァ」

クマ「ふんふん、この子たちみたいな子クマね……わかったクマ!
   クマに着いてくるクマよ!」


それを聞いた御坂は驚きの声をあげる。


御坂「えっ、ひょっとして久々葉以外にも私の妹いるの?初耳なんだけど」
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 04:10:38.24 ID:kHkwAj5ao
真実の断片を漏らした一方通行に、9982号は思わず尋ねる。


9982号「……よろしいのですか、一方通行?と、ミサカは質問します」

一方通行「あァ、かまわねェ。いずれ知っちまう事だろォしな……
     それに、俺は自分がどうなっても良いと言う覚悟も出来てる」

御坂「ふーん……一方通行がそこまでいうなら、私は知っておくべき事なんだろうけど……
   そうね、ここから出た時にしましょう。そしたら全部教えてね」


御坂は二人に笑顔を向ける。
その笑顔には、二人に対する疑いの欠片も見られない。本当に信頼している証だ。
しかし、一方通行にはその笑顔がまぶしく、その真っすぐな目を見つめ返す事はできなかった。


・・・

<異様な研究所>

クマ「ここクマね」

一方通行「どっかの研究所みてェだな」

それは近未来的な建造物だった。
広さは目算でおよそ100平方メートル、と言ったところだろうか。
階層は3階、ひょっとしたら地下があるかもしれないが。


9982号「不気味ですね……と、ミサカはなんだか夜の校舎チックな不気味さを放つ目の前の建物に恐怖を覚えます」


夜の建物というのはどうにもそれっぽい雰囲気を醸し出すから困る。
一方通行が先日話したちょっとしたホラー(?)話に本気でビビっていた9982号は、やはり目の前の雰囲気ある建物にもビビっていた。


クマ「それで、君たちは大丈夫クマ?昨日霧が晴れたばっかりだから、シャドウもまだ暴れてるかもしれないクマ」

一方通行「あァ?シャドウだァ?ンだそりゃ」

クマ「シャドウはシャドウクマ。ここの霧が晴れた日が一番危ないクマよ。
   あ、こっちで霧が晴れた日は、そっちで霧が出てる日クマー」

御坂「ここの霧が晴れる日に、あっちでは霧が出る……ですって?」


一方通行は考える。確か9981号が死体で上がった日も、霧が出てなかっただろうか。
19090号が失踪した、という報告が上がった昨日も霧が出ていた。

こっちで霧が晴れるとシャドウとやらが暴れる。
あっちで霧がかかると死体が上がる。

この仮説が正しかったら、19090号は……

ここで考えを打ちきった。最悪の場合を想定して動くべきだろうが、何も常にネガティブに考える必要もあるまい。
何にせよ目の前の建物の中に入らねば何も分からないのだ。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 04:11:05.11 ID:kHkwAj5ao
一方通行「ンじゃ、ちょっくら行ってくっかァ。お前ら、準備はイイかァ?」


御坂と9982号は準備は万端と意気込んでいるが、それを聞いたクマは驚いた表情で一方通行の方を向く。


クマ「クマっ!?この中に入るクマか!?シャドウもいっぱいいるだろうし、危ないクマよ?」

一方通行「当たり前だろォが。虎穴に入らずンば虎児を得ずって言うじゃねェか。
     ……逃げンなよ?お前にゃナビゲートっつゥ重要な使命があるからなァ」


と、脅しをかける。クマは一方通行の凶悪な笑みに震え上がった。
その様子を見た一方通行はこの分なら逃げださないだろ、と考えクマに無線を渡す。
あらかじめ余分に持ってきていたのだ。


クマ「……仕方ないクマね……でも、本当に危なくなったら逃げるクマよ」


クマは渋々ナビゲートすることを受け入れた。
流石の一方通行も少し申し訳ないと思ったのか、余り無茶はさせないようにしようと考えた。


クマ「あ、忘れてたクマ」


クマは3人に眼鏡を渡す。


御坂「何これ眼鏡じゃん。なんで?」

クマ「これをかけると、周りの霧が晴れたように見えるクマ!」


それを聞いた3人は眼鏡をかけると、驚きの表情を浮かべた。


9982号「うおっ、すっげー、霧晴れてるよ。覗き界の革命児やー!と、ミサカはグヘヘと言いつつ温泉に向かいます」

一方通行「こンな場所にある温泉なンか入りたくねェよ!てか温泉あンの?
      つゥかこの特殊な霧専用の眼鏡かもしれねェだろォ?湯気にゃ効果ねェンじゃねェか?」

9982号「マジレス乙、と、ミサカは冗談がスルーされた事を憤慨します」

クマ「温泉あるクマよ?」

御坂「マジで?正直入りたくないけど」

クマ「嘘クマ」


御坂は無言でクマをひっぱたいた。
クマはポテン、と変な効果音を立てつつ倒れる。……起き上がれなくなっている。


クマ「起こすクマー!助けてクマー!」

一方通行「こ、コイツ……」

9982号「滅茶苦茶弱いんですね……と、ミサカはクマに戦力外通告いたします」

御坂「な、なんか……ゴメン」
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 04:13:03.26 ID:kHkwAj5ao
クマの戦闘力の低さに驚いていると、研究所の入り口から不穏な雰囲気を感じた。
4人は入口の方をふりむくと、そこには


御坂「うわっ!な、なに……これ……?」

一方通行「……仮面……?」

9982号「なんですか、こいつ。と、ミサカは仮面にヘドロが着いたような目の前の何かを指差します」

クマ「こ、これがシャドウクマ……クマはこの通り、弱いから後ろの方に居るクマね!」


クマは短い脚の割に素早く一方通行の影に隠れた


一方通行「あァ、もとより期待してねェよ……」


すると、突然シャドウが宙に浮かび、ドロドロした体は黒とピンクの縞模様がついた直径1m程の球体に変化した。
その球体に対して大きな口がついており、その口からは長い舌が垂れている。


クマ「失言のアブルリーって奴クマ!さっさと倒すクマ!」

一方通行「チッ……どォ言うモンかわからねェ以上、接近するのは危険だな……」

9982号「では、私の出番ですね。と、ミサカは鋼鉄破りを構えます」


9982号が射撃を開始する前に、御坂が電撃を放つ。


御坂「うわぁ……き、気持ち悪!」


どうやら相当気色悪かったらしく、思わず能力を発動させたようだ。


クマ「おお!どうやって電撃を出したクマ!?でも、どうやら電撃が弱点みたいクマね!」


弱点をついたのが功を奏したのか、失言のアブルリーは一瞬で消え去った。


御坂「き、消えた……?はあ、見かけ倒しじゃないの」

クマ「すごいクマ!あっさり倒すなんて見直したクマよ!」

御坂「そ、そう……?というか、あんたシャドウって奴の弱点はわからないの?」

クマ「う……残念だけど、クマは弱いから、弱点なんて知ってても意味ないクマ……」

一方通行「つまり、しらねェってことか……」

クマ「で、でも君たちがああやって攻撃して弱点を調べてくれたらちゃんと覚えるクマよ!」

一方通行「あァそうかい、期待しねェけど任せたぜ」

クマ「頑張るクマ!」

9982号「畜生、ミサカの出番が奪われました。と、ミサカは最近影が薄いのでここでアピールしたかった事をお姉さまにジト目で訴えます」

御坂「う……ごめんごめん。でも次があるじゃない、次が!」


御坂は9982号を励ますものの、正直あんなのが次々と出てくるとは考えたくなかった。


一方通行「よし、今度こそ行きますかァ」


御坂と9982号はそれに同意し、3人は、研究所の中に入って行った。


クマ「……大丈夫かな……クマ心配クマ」 
 
 
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 17:38:26.54 ID:kHkwAj5ao
>>84
研究所の中に入り、一方通行はある確信を得る。


一方通行「おいクマ、聞こえるかァ?」

クマ『聞こえるクマよ、どうしたクマ?』

一方通行「なァンであっちの世界に実在する建物がこっちにあるンですかァ?」

クマ『そうクマ、最近おかしな場所が出現しだしたクマ!
   ここもそれの一つクマ!』

一方通行「つまり、誰かが放り込まれるたびにおかしな場所が現れるってことかァ?」

クマ『多分、そう言う事クマね。すごく騒がしくて迷惑してるクマ』


ああそうかい、それは御愁傷さまァ、と言って一方通行は無線を切る。


御坂「ここってあっちの世界にもある建物なの?」

一方通行「あァ……外に居た時は確証はなかったンだが……中を見て確信した……
     お前も知ってるはずだぜェ……『樋口製薬・第七薬学研究センター』を」


御坂はアッ、と声をあげた。幼少時代に一度その場所に来ていたのだが、
一方通行の言葉でそれを思い出した。


御坂「な、何だってそんなのがここにあるのよ……」


当然、御坂美琴は疑問に感じる。


一方通行「わからねェ……わからねェが、クマが言うには誰かが放り込まれるたびにこンな場所が出来るらしい」

9982号「つまり、放り込まれた人に関係のある場所がこちらにも出現する、ということでしょうか。
    と、ミサカは推理します」

一方通行「かもしれねェな……何にせよ情報が足りねェ。
     ……ついてこい。この場所の内部構造は大体把握してる」


何か調べるあてがあるのだろう。一方通行は真っすぐ歩いて行く。
二人は一方通行の意図はわからないものの、とりあえずついて行った。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 17:39:40.46 ID:kHkwAj5ao
道中は特に問題はなかった。
出現するシャドウも最初に戦った失言のアブルリーのみで、むしろ電撃以外の弱点が無いか探す余裕すらあった。
そして3人はある一室にたどり着いた。一見ただの薬品室に見える。


御坂「ねぇ、ここがどうしたの?」


当然の疑問を抱き、御坂美琴は一方通行に尋ねる。


一方通行「……」


しかし、一方通行の表情は暗い。
御坂は首をかしげていると、一方通行が何か意を決したのか、口を開いた。


一方通行「……こっから帰ったら、って話。ありゃなしだ。」


御坂「え?」


一方通行「今から、真実を教えてやる」


一方通行は薬品の置かれた棚の一つの前に立ち、その棚を横にずらす。
すると、そこには隠し扉があった。


一方通行「ついてこい」


その表情は硬く、何かを覚悟したかのようであり、それでいて悲しげな雰囲気をまとっている。
一方通行の有無を言わさぬ様子に、二人は無言でついていった。

・・・

御坂「ここは……」


最初にテレビの中に入った時に見た実験室。
それよりも数倍広い実験所がそこにあった。


一方通行「……」


一方通行はパソコンに電源が入るかを確認し、舌打ちをする。


一方通行「使えねェ、か……まァ仕方ねェな」


続いて何やら棚から書類をあさっている。何かあるのだろう。
邪魔をしてはならないと感じた御坂は、9982号に声をかける。


御坂「久々葉も、一方通行が隠してる事知ってるの?」

9982号「……知っています。と、ミサカは肯定します。
    が、それは一方通行の口から聞いてください。と、ミサカは自分が話すべきではないと考え、口を閉ざします」

御坂「そう……ならいいわ」


御坂はそれ以上尋ねること無く、一方通行の作業を眺めた。
しかし、一方通行の作業は何処からともなく聞こえてきた声によって、中断された。


「量産型能力者計画(レディオノイズ)の件、聞いたか」

「あぁ。樹形図の設計者の計算によって、無駄だってことがわかったらしいな」

「このクローンどうするんだろうな」

「何か別の計画に使うらしいぜ」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 17:41:41.25 ID:kHkwAj5ao
一方通行「……!?」

御坂「何……これ……?」

9982号「……」


「マジかよ……一体くれねーかなぁ。見た目はあの『超電磁砲』で滅茶苦茶かわいいじゃん」

「やめろよ、趣味わりーな」

「だってよぉ、あいつら、単価18万だろ?買えるんなら、そりゃお買い得だっつーの」

「人形何かにそんな金かけんなよ、たまってんなら適当に見繕ってやろうか?」

「お、いいねぇ!お前センスいいもんなぁ!」

「はっ、誰にも必要とされない『チャイルドエラー』もこうやってお前に必要とされるなら本望だろうよ」

「はっはぁ!ちげえねえや!」


御坂「や、やめて……止めてよ!!」

御坂は耳をふさぎ、その場にしゃがみ込む。

一方通行「おいクマァ!」

思わず一方通行は無線を飛ばした。

クマ『どうしたクマ!?』

一方通行「誰も居ねェのに、俺らじゃねェ誰かがずっと話してンだけどよォ、こりゃなンだァ!?」

クマ『クマ……この空間は、ここに居る者にとっての現実クマ。
だから、放り込まれた誰かにとっての現実が、3人に聞こえているのかもしれないクマ』


放り込まれた誰かにとっての現実。つまり、これが19090号にとっての現実なのだろうか……


御坂「こんなの……こんなのってないよ!ひどいよお!!」


御坂は学園都市の暗部を垣間見て、泣いている。
一方通行に、その涙を止める手段は……なかった。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 17:42:57.31 ID:kHkwAj5ao
誰かの会話が終わったと思えば、今度はまた別の声が聞こえてくる。


「indeed、この子たちは作られた存在かもしれない。but、この子たちはこうやって生きている!それなら感情が芽生えないわけが無いわ!!」

「……あなたが何をしたいかは超わかりますが、こちらも超仕事なんです。諦めて下さい」

「……やはり、駄目みたいね。however、私は……あきらめない」

「……今度は超バレない様に動いてください。無理でしょうけど」


御坂「ねぇ……これは一体、誰の現実なの?ねぇ、教えてよ!一方通行!!真実を!!」


御坂は狂ったように声をあげる。
一方通行が教えようとした事が、まさかこんな形で。
しかもついでに暗部のクソっぷりまで教えられるとは思いもよらなかった。


「ずっと、言えませんでした。と、ミサカは心中を吐露します」


9982号「……私じゃないですよ、と、ミサカは一応弁明します」

一方通行「……わかってるっつゥの」


「ミサカたちを、家畜以下の扱いをする研究者たち。
このような生き方を当たり前のものと、理解はしていましたが、
 納得はしていませんでした。と、ミサカは衝撃的事実を告げます」


静かに、声は続ける。


「どうして、ミサカはオリジナルでは無いのでしょう。
どうして、ミサカは作り物の存在なのでしょう。
どうして、ミサカは何度も殺されて行くのでしょう」


徐々に、語気が荒くなる。


「許せなかった。ミサカを生んだ研究者も、同じく被害者とはいえミサカ達を何度も殺した一方通行も。」


その言葉に、御坂は息をのむ。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 17:44:40.12 ID:kHkwAj5ao
「……何が「絶対能力者」だ!2万もの犠牲の上で成り立つモノに何の価値があるんですか!!
ミサカは……!もっと!生きたかった!!いろんな事を知りたかった!!いろんな事に触れたかった!!」


叫ぶ。まるで今までの鬱憤を晴らすかのように。
もう2度と、心の内を明かす事が無いから、と言わんばかりに全てをさらけ出す。


「……皆、死ねばいい。皆皆、ミサカと同じように、無様に、惨めに、あっけなく死んでいけばいい!!研究者も、一方通行も、オリジナルも、そして、ミサカ達も!!」




言いたい事は言った、と言わんばかりに、辺りは平静を取り戻した。


一方通行「今のは……」

9982号「……おそらく、19090号でしょう。と、ミサカは予想します」


19090号。今だ姿を見せないが、おそらく……


御坂「……あ、はは……何、コレ……」


御坂は何が何だかわからない、といった表情で続ける。


御坂「う、嘘よ!こんなの絶対に、嘘!!こんなことあるわけないでしょ!!」


頭を抱えながら、全てに絶望したかのような声で、叫ぶ。


?「悲しいね……辛いわよね……私」


3人は、一斉に声のした方へ振り向く。そこには、御坂が二人居た。


御坂?A「あっはっは!チョーウケる!信じてた人たちに裏切られた気分はどうですかー?」

御坂?B「実験の真実、全部教えてあげようか?と、ミサカは哀れなオリジナルを眺めながらほくそ笑みます」


「「「なっ!!?」」」


御坂「ど、どういうことよ?!」

御坂?B「どーしたもこーしたもねーよ。なんのこっちゃない、ただ単にオリジナルは利用されて、
    そうして生まれたクローン2万体をぶち殺すことでレベル6に昇格するとかいうわけわからない実験をしていた、
    ただそれだけの事ですよ。と、ミサカは事実をカンタンにまとめます。
    あ、ちなみに9980体のミサカが今のとこぶっ殺されてますよ」

御坂?A「ウケるよねー!レベル1からレベル5に上がるのにどれだけ苦労したと思ってるんだろうね?
    頭に電極ブッさして、血便でるほど妙な薬をぶち込んで、文字通り血反吐吐くほど訓練重ねて、
    そうやって完成されたレベル5が、こんな形で利用されるなんてねー!!
    いや、もうそれだけでちょっとした鬱SS書けるっつーの!ぎゃは!」


突然の来訪者に、3人は狼狽する。


御坂「だ、誰よあんたら……わ、私はそんなこと思ってない!!」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 17:45:46.18 ID:kHkwAj5ao
御坂?A「あはは、カッコつけるねー!でも、いつまでカッコつけてるのかなー!?
     いい加減うざいんでしょ!?くっだらない授業に、くっだらない実験。
     望んでもねーのにお嬢様ぶるのを強要して来る教師!
     くだらないメンツの為にいやしい顔して近付く豚共!!
     挙句の果てに、クローン2万体!?あっはっは、気持ち悪!!
     もうさ、そいつらの事、うざいならうざいってはっきり言っちゃいなよ!」

御坂「な、何言ってるの……違う、私は、そんなこと……」

御坂?B「さっきから沈黙を貫いてるそこのあんたはどう思ってる?
     家畜にも劣る実験材料として生きていく事についてさあ。
     と、ミサカはそこの人形に声をかけます」

9982号「み、ミサカは……今は、とても楽しいです。一方通行と、お姉さまと過ごせてとてもうれしいです。と、ミサカは正直に思っている事を話します」

御坂?B「それは嘘だね。正直に言いなよ。普通の学生生活を送ってるオリジナルも、
     1万人近くの姉妹を殺しておいてのうのうと生きてる一方通行も、
     全部許せないってさぁ。と、ミサカは本当の事を認めるよう促します」

9982号「違います、そんなこと、思ってません!と、ミサカは声を荒げ強く否定します!」

御坂?A「あんたは、ただ誰かに認められたいだけなんでしょ!
     認められたいから、糞みたいな実験受けて、
     認められたいから、レベル5までのぼりつめて、
     認められたいから、つまらない授業を律義に受けて、
     認められたいから、学校では八方美人貫いて、
     認められたいから、利用されてDNAマップなんて持っていかれる!
     ……1人は寂しいよねぇ?皆に囲まれていたいよねぇ?」

御坂?B「あなたは、ただ死にたくないだけだよね。と、ミサカはミサカの心を暴露します。
     死にたくないから、一方通行の金魚の糞で、
     死にたくないから、研究者に媚びへつらい、
     死にたくないから、こんな場所に来るのに否定的、
     死にたくないから、実験延期のお知らせに小躍りする。
     ……死ぬのは怖いよねぇ?実験なんてつぶれて消えればいいのにねぇ?
     と、ミサカはあなたの願望を代弁します」

御坂?A,B「「19090号が居なくなって心配だからここに来たって?
       あはは、違うでしょ(よね)!そんなわけないじゃん(ですよ)!本当は……」
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 17:46:16.82 ID:kHkwAj5ao
御坂、9982号「「やめて(ください)!!!」」

御坂?A,B「「何焦ってるの(ですか)?本当の事でしょ?あなたの事なら何でもわかるよ!
だって私(ミサカ)は……あなたなんだ(です)から!」」

御坂?A「あっは!あなたはただ単に、認められたかっただけ!」

御坂「違う……」

御坂?B「あなたはただ単に、一方通行のそばに居れば死ににくくなると思っただけ!」

9982号「違います……」

御坂?A「ここへ来た理由なんて簡単だよ!力を示して、学園都市第一位に認められたかっただけ!」

御坂「止めて……」

御坂?B「ここに来たら体調を崩しやすくなるのに、わざわざついてきたのは、守ってもらうためだけでしょ?」

9982号「止めてください……」

御坂?A,B「「あわよくば19090号を助けて、ヒーローにでもなるつもりだった?」」

御坂?A「だとしたらチョーウケるんですけど!そんなのなれるわけないでしょ!
     あなたは2万もの人形を作るのに手を貸し、その事実を知らずに今までのうのうと生きてきたんだから!」

御坂「……違う!!あんたら、誰!?一体誰なのよ!!?」

御坂?A「あっはっはぁ!言ったでしょ?」

御坂?B「ミサカは、あなた……あなたの、「影」……」

御坂?A,B「「あなたのことは、全部お見通し(です)!!」」

御坂「……ふざけないで。私は、知らない!あんたなんか、知らない!!」

9982号「ミサカも、あなたの事など知りません。と、ミサカはミサカの偽物を糾弾します!!」

御坂「あんたなんか……」

9982号「あなたなんか……」

御坂、9982号「「私(ミサカ)じゃない!!!」」

御坂?A「はっはあ!言ったね!よくぞ言ってくれた!あんたは私じゃない!ザッツライトその通り!」

御坂?B「もう、ミサカは、あなたなんかじゃないよ。と、ミサカはそこのウソツキを見下します」



「二人」による存在否定の言葉により、
この瞬間から、「二人」は完全な個となった。

完全な個となった二人の体は、異形へと変化していく。
その変化の中で、否定した二人は気絶していった。


102 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:49:16.53 ID:27+WvYvUo
>>98

事を完全に静観していた一方通行は、


一方通行「……ンだァ、こりゃァ……」


目の前の変化についていけていなかった。
事情を説明しようとしたら、口調のおかしな御坂二人に横やりを入れられ、
かと思ったらその二人は異形になり果てた。


一方通行「「影」っつってたなァ、こいつら」


影、つまり……シャドウ。
シャドウとは、人間の心そのもの、ということだろうか。
ならば影の言い分は、全部二人が心に秘めていた思いそのものだというのだろうか。

などと思考を重ねていたら、頭の中にあの時の「声」が響いた。






「…… 我は汝 汝は我 双眸見開きて汝、今こそ発せよ!」

あの時は頭が痛かっただけだが、今は確かな「力」を感じる。
右手を見ると、タロットカードがある。裏面はイゴールが占いに使ったタロットカードと同じものだ。
表を開くと、そこには何も載っていなかった。しかし開くとすぐさまカードが青白く発光する。
一方通行は光るカードをみて、ニヤリと笑った。


―――これは「力」だ。


超能力とは違う、目の前に居る「影」と戦うためだけの。
そして言葉にする。「力」を発するための「合言葉」。










一方通行「ペ、ル、ソ、ナァ……!」
103 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:50:26.18 ID:27+WvYvUo
一方通行は、己を奮起するために叫ぶ。


一方通行「オォオオォアアァアァアァァアアァア!!!!」


青白い光と叫びと共に、一方通行の影からナニかが現れた。


一方通行「シナツヒコォ!!」


―――志那都比古神(シナツヒコ)。「神生み」において、イザナギとイザナミの間に生まれた風神。いっぽうさんが、かぜをつかうし、ちょうどいいかなっておもったとか、そんなんじゃねーから!


条件は整った。後は目の前の二体の怪物を倒すだけだ。
二対の影は、互いに手を取り合い、歌うように言う。


御坂と9982号の影「「我は影…真なる我…」」

御坂の影「認めてもらえないなら、ぶっとばす!」

9982号の影「殺されたくないから、殺します!」


そう宣言すると、体から炎が噴き出してきた。


一方通行「ハァ?ンだそりゃ、てっきり電気使う奴らかと思ったのによォ」


御坂の影「はっはあ!もう私はそこで寝てる奴とは違うんだよ!
      たとえ元が同じだったからって、同じ力のままとは限らないっつーの!」

一方通行「ご丁寧な説明アリガトウ。ンじゃとっととくたばりやがれェ!!」


一方通行は疾風属性のスキル「ガル」を唱える。
シナツヒコによってつくられた一陣の風は、一方通行の能力によって増幅され、
御坂と9982号の影へと向かう。


御坂の影「クハッ……!へぇ、結構やるじゃない……んじゃ、こっちも本気だから!!」

9982号の影「行きます、覚悟はいいかな?と、ミサカは見敵必殺の心構えで迎えます。
       まあ、敵は目の前に1人なんですけどね」


そんな二対の影からの言葉を無視して、一方通行は考える。


一方通行「……!?(無意識のうちに風を操作したが……はン、どォやら新たな「力」の発現によってクリアランスを新たに取得。
      自分だけの現実を再設定してコイツの風を操作できるようになったってとこかァ?
      なンにせよ、好都合だ。霧の方は操れっかなァ?)」


一方通行は力の拡大を確信し、内心高笑いしながら(何だかんだ言って強い力は嬉しいようだ)眼鏡をはずして霧の操作を試みる。


一方通行「チッ、霧は使えねェか……だがまあ、霧を操作できるかもしれないって事実を知れただけ上出来だァ」


一瞬だけ、意識を完全に霧だけに向けていた。
その隙を9982号の影が突く。
104 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:51:09.47 ID:27+WvYvUo
9982号の影「よそ見なんかしないで、こっち見てよね。と、ミサカは存在をアピールしながらドーン」


ドーン、などと、間抜けそうな効果音を言いながらする攻撃は、実に苛烈なものだった。
9982号の影は両手を突き出すと、腕のいたるところから重火器が生み出され、
重火器からは火を噴くように銃弾が飛び出してくる。


一方通行は反射を試みるが、


一方通行「ガァ……!!」


反射しきれずに、受け流すだけにとどまる。受け流せはしたが、衝撃を完全には抑えられなかった。
それによりひるんだ一方通行は、次なる攻撃を回避する事は出来なかった。


御坂の影「はっはあ!隙みっけ!」


くたばれ、と言いつつ御坂の影はどこからともなく巨大な岩石のようなものを持ってきていた。
それを思い切り殴ると、岩石は炎をまとった隕石のようなものになり、一方通行へと向かう。
9982号の攻撃は、量は多かったが威力自体は弱かったので、たとえ未知な力での攻撃でも十分耐える(衝撃までは抑えられなかったが)事が出来た。
しかし、この隕石は。


一方通行「~~!!(デカすぎだろォが!!)」


直径5m程だろうか、中々に大きなその塊は、地面をとかすほどの熱量を帯びて一方通行に向かって飛んできた。

避けられるか?即座に無理と判断して、受け止める覚悟を決めた。
岩石そのものも未知の法則にしたがっている可能性がある。そう考えると反射に頼るのは論外だ。


一方通行「舐ァめンなァァアァアァァアァァ!!!!」


シナツヒコを呼び出し、ガルを何度も使用する。
そして、一方通行のベクトル操作で幾重にも風を重ね、空気を圧縮する。
一方通行はその気になれば、街一つ分の風を操る事が出来る。
時間をかければ街の風を集め、圧縮することでプラズマすら作る事が出来るだろう。

しかし、敵の攻撃が向かってきている今。そんなことをしている余裕はない。
そもそもこっちの世界の風がどうなっているのかもわからない。

だが、今の一方通行には「力」がある。風の神と呼ばれるシナツヒコの力が。
演算しやすいように一定量の風を何度も何度も生成し、その都度圧縮する。
ここで風がほんの少しでも乱れたら一方通行の目論見は失敗するだろう。

それでも、一方通行はそれを成した。繊細な演算を要求されながら、時間にして1秒にも満たない時間で大量の風を一つにまとめ上げ、それによりプラズマを生成。


流石に二対の影も驚きを隠せていなかった。
105 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:51:57.06 ID:27+WvYvUo
御坂の影「な!何その技!?ただの人間がやっていいレベルじゃねーっての!?」

一方通行「はっはァ!!ニンゲン、死ぬ気になりゃなンでも出来るってことだなァ!!」


一方通行はプラズマを隕石にぶつけた。
隕石とぶつかったことで風が乱れたため、プラズマが消滅するが、隕石も一緒に消滅した。
それの余波は強烈な突風となって表れ、実験室に置いてあった物だけでなく御坂の影をも吹き飛ばした。

風が吹き止むと、静寂が訪れる。
9982号の影は最初は吹き飛ばないよう踏ん張っていたが、
運悪く(こちらにとっては僥倖だが)吹き飛んでいた巨大な瓦礫と正面衝突した上、
その勢いのまま瓦礫一緒に壁まで吹き飛んで、瓦礫と壁に挟まれ、力尽きていた。

一方通行はプラズマを生成するためにガルを大量に使ったが、
それによって「力」が消費されたため、休まなければガルは使えないな、と感じ取った。

それだけではない。プラズマの生成にあたり、かなり無茶な演算を要求されたため、少しばかり知恵熱で頭が痛い。
出来ればもう瓦礫に埋もれてそのままきえねーかな、とか思っていたら。


御坂の影「クソッ……こんな……ところで……終わってたまるかぁああ!!!」


御坂並みにしつこいな、やはり御坂から生まれた存在だからだろう。と、考え。


一方通行「はっ!!わりィーが、こっから先は一方通行だァ!」


一方通行はふらついている御坂の影に向かって飛ぶ。
そして右手の拳をふりかぶり、


一方通行「おとなしく尻尾巻きつらいて、元の居場所へ引き返しやがれェ!!!」


右ストレートを叩きこみ、御坂の影は10m先の壁まで吹き飛ぶ。
その壁に体をめり込ませたところで、御坂の影は止まった。
106 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:53:04.80 ID:27+WvYvUo
と、ここに騒ぎを感じ取ったクマがやってきた。


クマ「クマッ!?何があったクマ?!」

一方通行「あァ……?そこで伸びてる二人の……「影」と名乗る奴らに……襲われたァ」


一方通行は肩で息をする。よほど疲れているらしい。
クマが一方通行を気遣う中、気絶していた二人が目を覚ました。


御坂「うう……私は……」

9982号「ここは……と、ミサカは記憶をさかのぼr……!?」


目を覚ました二人の前には、それぞれの「影」が立っていた。


御坂「ッ……あんたなんか……私じゃ、ない……!」

クマ「……この二人は、元々、君たちの中に居たモノ、クマ……
   認めてあげないと、「暴走」するしかないクマ……」

9982号「そう言われても……と、ミサカはやはり認めたくないことを主張します……」


やはり二人は認めたくないようだ。
しかし、認められないと、抑圧された「影」は再び暴走することになるだろう。
先程は運よく止められたが、本当に運が良かっただけなので、今度も無事で終われるとは限らない。


一方通行は、二人に声をかけた。

一方通行「……別に、その「影」が言ってる事がお前らの全てとはおもわねーよ。
     誰だって隠したい事はある。俺だってそうだ。
     だからよォ、例えお前らがどンな思いを抱えてようと、」


一方通行は一息つく。


一方通行「……俺はその思いを否定したりはしねェよ」


意を決したのか、御坂はポツリとつぶやく。


御坂「……私ね、……最初からわかってたんだ。この子は私の一部だって」


御坂の言葉に相槌を打つように、9982号が続ける。


9982号「ですが、自分の汚いところを、受け入れられませんでした。と、ミサカは自分の弱さを認めます」

御坂と9982号の影「「……」」

御坂「あはは、難しいわね、自分と向き合うのって。でも、この子は私で、私はこの子。そうよね!一方通行!」

9982号「あなたはミサカで、ミサカはあなた、か。全部まとめて、これがミサカという事ですね。と、ミサカはありのままの自分を受け入れます」

二人の、自分自身と向き合える強い心が、「力」へと変わる……
107 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:54:30.14 ID:27+WvYvUo
御坂はもう一人の自分……困難に立ち向かうための人格の鎧、
ペルソナ「オオヒルメ」を手に入れた!

―――大日霎尊(オオヒルメ)。アマテラスの別称。太陽の女神であり、天神の代表神の一柱。
漢字の読みはおおひるめのみこと。みことがつくからちょうどいいとおもってえらんだわけではない。
ほんとだよ。


9982号はもう一人の自分……困難に立ち向かうための人格の鎧、
ペルソナ「ワカヒルメ」を手に入れた!

―――稚日女尊(ワカヒルメ)。若い太陽の女神。アマテラス大神の分身もしくは妹的存在であると考えられている。
アマテラスのいもうとてきそんざいだからちょうどいいとおもってえらんだわけではない。
ほんとだよ。こいつらみたいな姉妹関係にある神で雷神が居なかったせいだ(探し不足かもしれないが)


余談ではあるが、二体の影のところを二対の影、と表現したのはオオヒルメとワカヒルメの相互関係からだ。
姿形は異形の一言で片づけたが、これは作者の表現力が足りないせいであるからして、読者諸君には各ペルソナやシャドウの姿形を好き勝手に想像してもらいたい。
という言い訳という名の保険。
108 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:55:10.52 ID:27+WvYvUo

御坂「はぁ……それにしても疲れたわね……」


疲労困憊のところを申し訳なく思いつつも、一方通行は御坂美琴に声をかける。


一方通行「なァ、俺h「言わないで」」


御坂「実験の事とか、久々葉以外の妹達の事とか、聞きたい事は山ほどあるけど」


でもね、と続けて、御坂はとても透き通った笑顔で、こう言った。


御坂「私はあなたを信じるわ」


流石の一方通行も驚く。
まさか御坂の思いを踏みにじった自分がそんな言葉をかけられるとは思っていなかったからだ。


御坂「確かに、実験で何があったかはさっき久々葉の影から聞いたわ。
   でもね、それはただの事実、客観的な事実にすぎないの。
   私が聞きたいのは……あなたの主観。一方通行が何を思って、何を考えながら実験を受けたのか。
   正直に話してほしい。……あんたは多分、自分ひとりで罪を背負う気なんでしょうけど……」





御坂「あんたと一緒に、その罪を背負うわ」

一方通行「ンだァそりゃァ……ふっざけんなァ!」


一方通行も、御坂の言葉が冗談ではない事を理解しているため、声を荒げて反論する。


一方通行「俺はあいつらを、お前の妹達を1万人近く殺してきた殺人鬼だぞォ!?
     そんなクソったれ以下の外道に向かって、なンつーこと言ってンだ!アァ!?」

御坂「はっ、何言ってんのよ、確かに実行犯はあんたかもしれないけど、
   そんな実験計画立案した研究者が諸悪の根源だし、
   私が迂闊なことをしたせいでそんな事態に陥ったわけだし、
   所詮あんたと私は同じ穴の狢、一緒に地獄に落ちるべきなのよ」


御坂は一息ついて、更に口を開く。


御坂「それに、私がDNAマップ提供しなくちゃ、あんたという超能力者がいなくちゃ、
   久々葉や他の妹達は生まれてこなかったじゃない。
   私たちはそれだけは誇りに思うべきなのよ。
   確かに、妹達を殺したということ、それは許されていいものじゃない。
   だからあんたは一生かけて罪を償いなさい。私も一緒に償う」


それでいいわよね、共犯者♪と、御坂は笑った。
そこまで言われてしまっては、一方通行は何も言い返せない。
109 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:56:51.88 ID:27+WvYvUo
一方通行「はっ、イイ度胸だ。だったら必死こいてついてこい。
     ついてこれねェなら容赦なく一般人に戻すからなァ」

御坂「誰に向かってもの言ってんのよ!こちとら学園都市第三位よ!」


一方通行は御坂の覚悟を受け取り、ニヤッと笑うと最後に一言、


「やる事全部終わったら、教えてやるよ。なにもかも、な」

と、告げた。

このようなやりとりを、クマと9982号はボーっと眺めていた。


クマ「ねぇねぇ、あれって、愛の告白って奴クマ?」


確かに、見る人が見れば勘違いしそうな言い合いではあったが。イイ愛かどうかまではわからない。


9982号「おのれオリジナル……!ミサカの出番どころかヒロインの座まで狙うとは……!
    と、ミサカは歯ぎしりさせながら恨めしげに二人を見つめます……!」

クマ「う、うわー、久々葉ちゃん、こ、怖いクマ……」


血走った眼で二人のやりとりを見つめる9982号は、さながら浮気現場を目撃した女のような、鬼の形相だった。
110 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:57:26.67 ID:27+WvYvUo
4人は疲れた体に鞭打って、情報を整理をしに、最初に出てきた空き地まで戻った。


一方通行「……結局19090号は見つからず、かァ……」


研究所には居なかった、そして前日はあちら側で霧の日だった。
それを鑑みると、


御坂「私たちの様に、もう一人の自分を認められずに……」

9982号「助けてくれる人も居ないまま、一人ぼっちで……」

クマ「多分、そうだと思うクマ……ここに居るシャドウは元々、人間から生まれたんだクマ……
   そして、霧が晴れると暴走する。さっきみたいに、「意思のある強いシャドウ」を核に大きくなって宿主を殺してしまうんだクマー」


意思のあるシャドウ。すなわち心の奥の奥。
もし妹達が作られた心のない人形だったなら……シャドウは発生しなかっただろう。
皮肉にも、人間であったため己が心に殺されることとなってしまった。
それを理解した一方通行は、何とも言えない気分になる。


一方通行「……クソったれが……」


手がかりも無く、全員疲労の限界に近付いていたので、これ以上考えても無駄だと判断し、今日のところは一旦帰ることにした。

クマは、少しさみしそうにしていた。何だかんだで一人で過ごすのは寂しいらしい。
また来てくれるクマ?という質問に対し、あァ、多分なァ。とぶっきらぼうに返した。
111 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:58:50.97 ID:27+WvYvUo
クマのテレビから現実の世界に戻ってきた3人に芳川桔梗が声をかける。


芳川「あら、お帰り。命綱も無線も使えないからどうしようかと思ったわ」


一方通行が、あァ、そォだな。と気のない返事をしている。
続けて芳川は報告があるわ、と言いつつ御坂美琴を見つめ、悪いけどここから先は部外者禁止、と言った視線を送る。
その様子を見た一方通行は、


一方通行「あァ、こいつも既に共犯者だ。事情は知ってる」

芳川「あらそう。なら、このまま話すわね。……残念だけど、19090号の死体があがったわ……」


やはり、と3人は思う。覚悟はしていたが、こうして事実を告げられると、
どうしてもっと早くに行ってやれなかったのか。と、口惜しそうな表情を浮かべる。


芳川「でね、一方通行は9982号の護衛をそのまま続けてもらうわ。
   でも、実験の方は無期限凍結」


無期限凍結、と聞いて、御坂はホッとした表情になる。
しかし、一方通行と9982号は納得がいっていない。


9982号「なぜ、実験の中止がほぼ確実になっているのに、護衛はそのまま継続なのでしょう。
    と、ミサカは当然の疑問を投げかけます」

芳川「実験をやらないからと言って、妹達が狙われないとは限らないしね。
   9982号が希望するなら、護衛は終わっても良いけど……
   これから妹達の調整が行われて……妹達は、実験で殺される、というのが規定事項だったからね。
   何もしなくても短命なのよ。調整ってのは寿命を延ばすための措置」


妹達の調整、と聞いてムッとする御坂だったが、延命措置と聞いて安心する。


御坂「寿命はどのくらいのびるの?」

芳川「そうね、少なく見積もっても20年は余裕ね。
   調整が終わったら、世界各地の学園都市の研究機関に向かう事になるわ。
   実験の為でも無いのに1万人近くもの人間を養う事つもりはないみたいね。
   勝手に生みだしておいて無責任極まりないけど。
   あ、でもこれだけは安心して。もう妹達を悪用する事はないはずだから」


少なくとも20年。これだけあれば、更にはこれから技術も伸びるだろう、きっと普通の人間と同じように天寿を全うできるはずだ。
そう考えると、御坂は安心して涙をこぼす。
112 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/24(火) 05:59:25.67 ID:27+WvYvUo
御坂「よかった……もう、実験の為の道具なんかじゃ、ないのよね……」

芳川「ほら、愛しの超電磁砲が泣いてるわよ。慰めなくて良いの?一方通行」


二人の会話をボーっと眺めていた一方通行は、突然の無茶ぶりに狼狽する。


一方通行「あァン!?だァれが愛しいってェ!?」


そうして芳川を怒鳴っている間も、御坂はグズッている。


芳川「目の前に泣いてる女の子がいるのに、慰める事も出来ないの?……情けない人ね」


そこまで言われたら、慰めないわけにはいかないだろう。
一方通行は御坂の目の前に立つ。


一方通行「チッ……ほら、泣くンじゃねェよ。……泣き止ンだらゲコ太でもなンでも買ってやらァ」


ゲコ太、と聞いてピクリと反応を示す。


御坂「こ、子供……じゃ、ないんだからぁ……」


結局、一方通行は御坂が落ち着くまで、頭を撫で続けた。





9982号「……なぜか、姫神。という単語が浮かびました。
    と、ミサカは急速に影の薄くなりつつある事に焦りを覚えます」

9982号が■■■■号になる日も、そう遠くはないのかもしれない。 
 
 
117 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/05/24(火) 18:12:00.92 ID:27+WvYvUo
各キャラのステータス

一方通行 <シナツヒコ> 愚者 武器:特になし
スキル ガル マッハパンチ 圧縮圧縮空気を圧縮(一方通行固有スキル→ガル+疾風ハイブースタ 今のところ一度使うのが限界)

物 火 氷 雷 風 光 闇
耐 耐 耐 耐 耐     (耐は反射稼働時に限る。反射が切れたら耐→弱になる。もやしなので)


御坂美琴 <オオヒルメ> 女教皇 武器:特になし
スキル アギ ディア ビリビリ~超電磁砲(御坂美琴固有スキル→ジオ~ジオダイン 威力は御坂の任意で変更可能。ただし威力が高いほど使用回数に限度がある)

物 火 氷 雷 風 光 闇
  耐 弱 耐


9982号 <ワカヒルメ> 戦車 武器:鋼鉄破り(メタルイーター)
スキル 二連牙 タルカジャ めっちゃすごい弾幕(9982号固有スキル 敵全体に小ダメージ2~4回与える。連射性のある武器のみでしか使用不可)

物 火 氷 雷 風 光 闇
耐 耐 弱


このままでは9982号の戦力外通告なので、何とか違う感じのスキルを考えた。
何かこンなン↑思いついたけど、これを活用する機会は、なさそうです……
ステータスまで考えてるとキリが無いのでステータスの概念は無視してます

とりあえず19090号はどうしようかすごく迷った。すっごく迷ったけど、ただでさえ今の登場人物で一方さんハーレムだったので……


頑張ってこの話を完結させて、完結させるころには「すごい!めっちゃ上手!抱いて!」と言われる位文章力をあげたいです 
 
 
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 23:49:06.38 ID:27+WvYvUo
悔しいから投下して寝る

>>112

芳川桔梗の家から出て、御坂美琴とわかれた二人は一方通行の部屋に戻るなり、疲労の限界だったのだろう、倒れるように眠りこんだ。


一方通行「ここは……」


またあの夢だ。目の前には鼻の長い爺……イゴールと、金髪の女……マーガレットだったか。とにかく、あの時の二人が居た。


一方通行「……またお前らか」

イゴール「御心配めさるな。今現実の貴方は、眠りに着いていらっしゃる」

一方通行「はっ、ンなこと心配してねェよ。一体何の用だ」


敵ではないかもしれないが、まだ信用するには早すぎる。
一方通行はそれを見定める為、ストレートに用件を聞いた。


イゴール「そうですな、前置きはさておき……」


イゴールから引き継ぎ、マーガレットが口を開く。


マーガレット「ここは、何らかの形で「契約」なされた方のみが訪れる部屋……
       貴方は日常のなかで目覚めを促され、内なる声の導く定めを選びとった……
       そして見事、「力」を覚醒なされたのです……」


一方通行からしたらよくわからない話を繰り広げる二人。
どうにもここの住人(というか二人)は比喩表現が過ぎるきらいがあるようだ。
「力」とは、おそらくペルソナの事なのだろうが。


イゴール「これをお持ちなさい」


そう言うと、何処からともなく青い鍵が出現した。
何の鍵だろうか、と考えていると、イゴールが説明をする。


イゴール「今宵からあなたは、ここ「ベルベットルーム」のお客人だ。
     あなたは「力」を磨く運命にあり、必ず私共の手助けが必要となるでしょう」


随分な自信だ。ここまできっぱり言われると、そうなんだろうなと思ってしまう。


イゴール「貴方が支払うべき代価は一つ
     「契約」に従い、ご自身の選択に相応の責任を持っていただく事です」


「契約」が何の事かわからない以上、はいそうですかとうなずくわけにはいかない。
しかし、「契約」は既に為されているのだろう。ここでイゴールに「契約」とは何か、と聞いたところで本当の事を話してもらえるかはわからない。
ならばとりあえず後悔しない選択をすればいいだろう。


一方通行「要領を得ねえが……俺が選んだ道は、俺で責任取れってことだな。問題ねェよ」
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 23:50:08.37 ID:27+WvYvUo
イゴールはその言葉に満足そうにうなずいた。


イゴール「結構。さて、貴方が手に入れられたその「ペルソナ」……
     それは、貴方が貴方の外側の事物と向き合った時、表に現れ出る「人格」
     様々な困難と相対するため自らを鎧う、「覚悟の仮面」……とでも申しましょうか」


やはり、ペルソナも己の心なのだろう。
シャドウも同じく己の心であるが、ペルソナとシャドウはどこで袂を分かったのか。
おそらく自身の心を「認める」か「認めない」かでペルソナとシャドウにわかれるのだろう。
そう考えると、御坂美琴と9982号の身に起こった出来事は納得できる。

しかし自分はどうなのだろうか。知らないうちに自分の心を認めていたと言うのだろうか……?
自分のことながら、よくわからない。そう考えながらも、イゴールの言葉には耳を傾ける。


イゴール「しかも、貴方のペルソナ能力は、「ワイルド」……。
     他者とは異なる特別なものだ。からっぽにすぎないが、無限の可能性も宿る。
     言わば……数字のゼロのようなもの」


数字のゼロのようなもの……
つまり、ゼロはどの数字に足しても増えも減りもしないから、何処にでも属する事が出来る、そう言うことだろうか。 
と、一方通行は考えるが、やはり何の事かすらわからない。


イゴール「ペルソナ能力は「心」を御する力……「心」とは、「絆」によって満ちるもの。
     他者とかかわり、絆を育み、貴方だけの「コミュニティ」を築かれるがよろしい。
     「コミュニティ」の力こそが「ペルソナ能力」を伸ばしてゆくのです」

一方通行「はっ、学園都市第一位たるこの俺が有象無象の雑魚どもと仲良しこよしってかァ?
    そりゃ木原の野郎も大爆笑だぜ」


口ではそういうものの、「絆」とやらを育めば、二対の影と相対した時に感じた「力」をより大きく感じる事が出来る。
一方通行は、それはとても面白そうだと思った。


マーガレット「コミュニティは、単にペルソナ能力を伸ばすためだけではありません。
       ひいてはそれは、お客様を真実の光で照らす輝かしい道標ともなってゆくでしょう」

イゴール「貴方に覚醒した「ワイルド」の力は、何処へ向かう事になるのか……
     ご一緒に旅をしてまいりましょう……フフ」


イゴールは最後に微笑みを浮かべ、別れのあいさつを述べた。



結局、何が言いたかったのかよくわからないまま、夢から覚めた。



一方通行は、<契約者の鍵>を手に入れた。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 23:52:37.77 ID:27+WvYvUo
いつものレストラン。
3人は一晩休み、体力を回復させてから再び集まった。
もちろん話題はテレビの中についてだ。


一方通行「シャドウは人から生まれるってことは、これからもし放り込まれたりしたら、
     ほぼ確実にシャドウの餌食だろォな」

9982号「そうですね、お姉さまや私ですら最初はあの影を受け入れられませんでしたし。
    と、ミサカはあの時の恐怖を思い出し身震いします」


9982号はコーヒーカップを手に取ると、カップが震えている。本気で怖かったらしい。


御坂「深層心理としてああ思っていたのかもしれないけど、それがあたかも自分の思ってる事の全てみたいに言われたら、否定せざるを得ないわよね……
   もしかすると、シャドウたちは宿主から切り離される為にああいってるのかもね」


霧が晴れると暴走する。
理由はわからないが、とにかく霧が晴れるとシャドウは宿主から抜け出すように行動するらしい。


一方通行「まァ何にせよ、テレビの中自体は問題ねェ。「マヨナカテレビ」っつう情報源があンだからな」

9982号「しかし、それでは対応が後手後手に回りませんか?と、ミサカは19090号の事を思い出して悔しさで顔をゆがめます」

一方通行「あァ、確かにそうだ。だけどな、一つ不可解な事がある」

御坂「不可解なことって?」

一方通行「芳川ンとこに19090号が失踪した事実が知らされたのは、俺らがテレビの中に行く前日だ」

9982号「それが知らされたその日のマヨナカテレビに、19090号と思われる人物が映ったから、我々はテレビの中に行ったのでは?
    と、ミサカは事実確認をします」

一方通行「あァ、まァ元々テレビン中は行く気満々だったわけなンだが、この際それはどうでもいい。
     とりあえず、俺らの対応は間違いなく最速だったと、言っても良い。
     だが、最速ですら間に合わなかったのは何故だ?」
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 23:53:11.91 ID:27+WvYvUo
何かに気づいたように御坂美琴は声をあげる。


御坂「失踪したって事実を知らされたのが、19090号が殺されたと思われるその日じゃ、対応しようが無いわよね」

一方通行「その通りだ。シャドウが暴走するのはこっちで霧の晴れた日、という事を踏まえると、19090号を助けられなかった理由は何パターンか考えられる」


と、ここで一方通行は何処から取り出したのか、紙とペンでサラサラと何かを書いていく。


・19090号がテレビの中に行った(偶発的か人為的かは不明だが)のが運悪くテレビの中で霧が晴れるその日だった。

・19090号が失踪した日はそもそももっと前だった(人為的な情報の封鎖)。

・そもそも19090号じゃない。


御坂「ねぇ、一番最後のってどういうことよ?意味がわからないんだけど」


簡潔極まるその文章に要領を得ない御坂。
一方通行は説明を補足する。


一方通行「あァ、一番上のはわかるな?最有力パターンだ。これがただの不慮の事故だったってンなら、もう2度と同じような事は起きないだろォな。
     だが、もし仮に、霧の日にシャドウが暴走する事を知ってる奴が居たら、それは不味い」

9982号「そうですね、決行は難しいかもしれませんが、霧の日にあっちにぶち込んでしまえばほぼ確実に宿主からシャドウが切り離されますしね。
    それが事実なら、恐ろしいです。と、ミサカは人間の悪意に身をふるわせます」

一方通行「今回は19090号の失踪自体はしらされたが、もし意図的に情報が封鎖されたら?」


それを聞いた御坂は、顔を悔しそうにゆがませる


御坂「……なにもできないわね」

一方通行「まァ、霧が現れる前に失踪したってンなら、マヨナカテレビもあるし、いくらか手の施しようがある。
     クマっていうレーダーもある事だしなァ。定期的にテレビの中に行って誰か入った気配が無かったか聞けば良いンだからなァ」


それを聞いた二人は少し安心する。
しかし、まだ最後の一つを聞いていないので、それについて尋ねる。


御坂「で?そもそも19090号じゃないってどういうことよ」

一方通行「19090号はそもそもテレビの中に行ってなくて、別の妹達かもしれないってことだ。
     19090号の死体が上がった。ってのは確実だろォよ。暗部が間違った情報を送るなンてのはほぼありえねェ。
     つまりテレビにかこつけて19090号を殺したって可能性だ」


少し考えこんでいた9982号はそれに反論する。


9982号「しかし……それはいささか暴論ではありませんか?
    だってそもそも、テレビの事知っている人ってミサカ達以外に居るのでしょうか?
    テレビの事を知らないのなら、テレビをフェイクに使う意味はありませんし……
    また、仮にそれが事実だとして、別のミサカは何処に行ったのでしょうか?
    と、ミサカは流石にありえないと否定します」

一方通行「そォだな。まァ、そもそもこれらはあくまで推論であって、正解ではないからなァ。
     しかし、俺らだけしかテレビの事しらねェって可能性は捨てた方がイイ。
     なンせ暗部の人間は狂った連中が多い。どっから持ってきた情報かしらねェが何でも知ってやがるからなァ。
     つまり、そォすることで得する連中がいるかもしれねェってことだ。
     19090号以外の妹が失踪したって事実も、隠蔽しちまえば探さないとバレないしなァ」
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 23:54:07.72 ID:27+WvYvUo
ここで、二人のやりとりを聞いていた御坂が口を開く。


御坂「でも確かにその可能性はあるけど、相当薄いところなんじゃないの?
   私は暗部がどうとかはよくわからない。でもそう簡単に起きる事じゃない、ってことくらいはわかるわよ?」

一方通行「あァそうだな。俺も正直最初のパターンで鉄板だと思ってる。
     それでもわざわざ説明したのは……暗部はそれすら可能にするほど、力があるって事を知っててもらいたかった。
     ……腐ってやがるけどなァ」

御坂「成程ね。暗部相手に無茶すんなって事?心配してくれたんだ、やさしーわね!」

御坂の言葉に、一方通行は顔を真っ赤にして否定する。

一方通行「ばっ!ちげェよ!」

9982号「ツンデレ乙。と、ミサカは男のツンデレは罪と称します」


一方通行は照れ隠しにホットコーヒーを一気に飲み干して、あっちィ……とつぶやいた。


御坂「何にせよ、もっかいクマのとこに行って情報を整理しましょ。
   他にテレビの中に人がいないかも調べてもらわないとね」

9982号「そうだ、どうせですからこのテレビの中調査隊の正式名称を決めましょう。
    と、ミサカはグッドアイディアを提案します」

一方通行「あァン?ンだそりゃ遊びじゃねェんだぞォ?」

御坂「良いわね!チームtheゲコ太にしましょう!」

9982号「いやいや、それは流石にねーよ。と、ミサカはお姉さま提案を断固拒否します」

御坂「な!なによそれ!ねえねえ、一方通行はイイと思うでしょ?これ!」

一方通行「ハァ……俺ァなンでもかまわねェよ……好きにしろォ」

一方通行は力なくつぶやく。しかし、それに反論するのは9982号。

9982号「なんでもいい、が一番困るんですよ?と、ミサカは晩御飯のメニューを尋ねる妻のごとく一方通行を叱ります」

御坂「つ、妻!?あんた達いつからそんな関係に……!」


9982号の冗談を真に受ける御坂。


一方通行「バカ野郎そンな関係なわけねェだろォが。
     つゥか9982号の理論だと、俺が何言っても結局9982号の意見に沿う形になっちまうだろォが。
     今日の晩御飯何が良い?っつって希望通りになった試しなンざ聞いたことねェよ」


ボケが二人になるとさばくのもめんどくせェ、と思う一方通行であった。
とりあえずチーム名は保留にして、とりあえず芳川の家からテレビの中に向かうことにした。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 23:56:22.12 ID:27+WvYvUo
芳川の家に向かう道中、御坂美琴はツンツンヘアーの男子高校生を見つけた。
その男は「げっ、ビリビリ」と言うと、御坂は「ビリビリ言うな!」と怒りながら、
男に向かって能力を放っていた。


一方通行「……何やってンだ、あいつら」


別段急いでいるわけではないが、いささか気を抜きすぎではないだろうか。
というか、学園都市の第三位がその辺に居るような高校生に遺憾なく能力を発揮するとは……
と、ここで妙な事に気づく。仮にもレベル5な御坂美琴の能力に、傷一つなく逃げ回るあの男は何だ。
御坂が手加減してるにしろ、あの男は何らかの能力があるのだろう。
そう考えていると、ラインナップが確実におかしい自販機の横に、急に扉が出現した。

あまりに急だったので、一方通行は声をあげる。


9982号「……どうしたのですか?と、ミサカは急に声をあげられた事に驚きつつ尋ねます」

一方通行「あァ、なンでもねェよ。オラ、金やるからそこの自販機で飲みもンでも買ってろ」


どうやら9982号はこの扉が見えてなさそうだ。
9982号は自販機のラインナップを見てげんなりとしているが、一方通行からもらったものだからと渋々飲み物を買う。
しかし、比較的まともそうなヤシの実サイダーは、売り切れていた。
その事実に愕然としている9982号を横目に、扉について考える。
すると頭の中にあのいけ好かない鼻爺の声が響く。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/24(火) 23:56:44.97 ID:27+WvYvUo
芳川の家に向かう道中、御坂美琴はツンツンヘアーの男子高校生を見つけた。
その男は「げっ、ビリビリ」と言うと、御坂は「ビリビリ言うな!」と怒りながら、
男に向かって能力を放っていた。


一方通行「……何やってンだ、あいつら」


別段急いでいるわけではないが、いささか気を抜きすぎではないだろうか。
というか、学園都市の第三位がその辺に居るような高校生に遺憾なく能力を発揮するとは……
と、ここで妙な事に気づく。仮にもレベル5な御坂美琴の能力に、傷一つなく逃げ回るあの男は何だ。
御坂が手加減してるにしろ、あの男は何らかの能力があるのだろう。
そう考えていると、ラインナップが確実におかしい自販機の横に、急に扉が出現した。

あまりに急だったので、一方通行は声をあげる。


9982号「……どうしたのですか?と、ミサカは急に声をあげられた事に驚きつつ尋ねます」

一方通行「あァ、なンでもねェよ。オラ、金やるからそこの自販機で飲みもンでも買ってろ」


どうやら9982号はこの扉が見えてなさそうだ。
9982号は自販機のラインナップを見てげんなりとしているが、一方通行からもらったものだからと渋々飲み物を買う。
しかし、比較的まともそうなヤシの実サイダーは、売り切れていた。
その事実に愕然としている9982号を横目に、扉について考える。
すると頭の中にあのいけ好かない鼻爺の声が響く。
128 :ンが、連投しちまったァ [saga]:2011/05/24(火) 23:57:54.88 ID:27+WvYvUo
イゴール『ついに始まりますな』


一方通行は、何が始まるンだよ、と思いつつもイゴールの言葉に耳を、というか意識を傾ける。


イゴール『では、しばしお時間を拝借するとしましょうか』


この扉の中に入れと言うのか。しかし、鍵穴があると言う事は鍵が存在するはずだ……
と、ここで「鍵」の事を思い出す。するとそれに呼応するように、ポケットに入れていた「契約者の鍵」が発光する。


ガチャ、と鍵の開く音を最後に、意識が遠くなった。

・・・


一方通行の目の前には、またもイゴールとマーガレットが居た。
イゴールは無意味に一方通行を呼び立てる事はしない。何か伝えるべき事があるのだろう、という事で、イゴールが口を開くのを待つ。


イゴール「お待ちしておりました。……貴方に訪れる災難は、既に人の命を奪いながら迫ってきております……
     ですが、恐れる事はございません。貴方は既に抗う「力」を手にしております。
     いよいよ、貴方の「ペルソナ能力」を使うときが来ましたな……フフ」

マーガレット「貴方のペルソナ能力は、「ワイルド」……それは、正しく心を育めば、
       どんな試練とも戦いうる「切り札」となる力……
       私共も、その為のお力添えをしてまいります」

イゴール「私どもの仕事、それは新たなペルソナを生み出すこと。
     お持ちの「ペルソナカード」を複数合わせ、一つの新たな姿へと転生させる……
     言わば、「ペルソナの合体」でございます」


ペルソナの合体、すなわち、ペルソナは複数扱う事が出来ると言うのか。
だとしたら、つじつまが合わない。ペルソナ、すなわち心の鎧。
心とは、一人に一つと相場は決まっているのではないか。
その事について尋ねると、それが「ワイルド」の能力である。と答えられた。
どうやら、自分に備わった特殊な力らしい。
戦力はあって越したことにはないので、ありがたく使うとしよう。


一方通行「で、そのペルソナカードってのは何処で手に入れンだ?」


当然の疑問である。
イゴールはまた比喩表現で遠まわしに説明する。要約するとこうだ。

敵を
倒すと
出てくるよ。

敵倒出。なんともわかりやすい事を何行にもわたって説明するイゴール。
何にせよ他者との「絆」を育むことで、ペルソナを生み出した時に能力を付加でき、
ペルソナを生み出すには敵を倒してカードを手に入れればよい。

RPG等によく見られる「敵を倒すと経験値」みたいなものだろう。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 23:58:32.01 ID:27+WvYvUo
マーガレット「こちらに見えますのが、「ペルソナ全書」でございます。
       こちらは、手に入れたペルソナを記録し、再び引きだす事が出来る仕組みでございます」


何と便利なことだろう。マーガレットが言うにはペルソナによって値段が異なるらしい。
これは心すら金で買えてしまい、それも心によって価値は異なる……
ところで現代では、金があれば大抵の事が出来てしまう。
……と言う事に対する風刺とか皮肉か何かだろうか。
などと下らないことを考えていると。


イゴール「フフ……以前私が申しました事を覚えておられますかな?
……もし謎が解かれねば、貴方の未来は閉ざされるやも知れません。
     言葉の通りでございます。戦いに敗れる以外にも、終わりはありうる……
     努々、お忘れになりませぬよう」


イゴールは一息つき、一方通行を見据え、全てわかっているかのような表情で続ける。


イゴール「次にお目にかかります時。貴方は自らここを訪れることになるでしょう。
     フフ、楽しみでございますな」


正直、こんなところに何度も足を運びたくはないが、新たな「力」を手に入れられると言うのであれば、再び自分の意志でここに来ることになるのだろう。
イゴールの言うとおりになるのは癪ではあるが。


ではその時までごきげんよう。その声と共に、意識が再び遠くなった。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 23:59:01.35 ID:27+WvYvUo
一方通行!と、自分を呼ぶ声を感じ、意識を取り戻す。
目の前には9982号と、御坂にツンツンの高校生が居た。


一方通行「あァ?どォしたってンだ?」


サラッと返答したことに安心したのか、9982号が言う。


9982号「どうしたもこうしたも、ずっとボーっとしてるから、どうしたのかと心配しましたよ。
    と、ミサカは一方通行の集中力に感嘆の念を抱きます」

御坂「久々葉が急に呼ぶからどうしたのかと思ったわ」


もう少しでこいつ仕留められると思ったのに。と御坂は不満そうな表情だ。
一方で、仕留められるという言葉を聞いて表情を青くする高校生。


「あはは、あんたがボーっとしてたおかげで助かったぜ。あ、えーっと、俺は上条当麻だ。よろしくな」


よくわからないが感謝されている。握手を求めてき手を差し出してきたので、こちらも無意識に手を出す。
すると、甲高い音が鳴り響き、そのまま握手した。


一方通行「……!?」


目の前の男に触れるとともに反射を切り忘れていたことに気付くが、その反射が発動していない。
この事実に驚きを隠せない一方通行の表情は硬い。その様子を見ていた御坂は笑いながら説明した。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 23:59:37.38 ID:27+WvYvUo
御坂「あっはっは!まさか一方通行が握手くらいでそんな表情するなんて思わなかったわ!
   こいつ、「幻想殺し」っていう変な右手を持ってて、どんな異能でも打ち消す事が出来るのよね」


無能力者ってくくりのくせに、この私を完全にあしらってるのが許せない。と、御坂は言う。
9982号「つまり、目の前のウニ頭をぶちのめせば、ミサカ>>>>越えられない壁>>>>ウニ>お姉さまの図式が成り立つわけですね。
    と、ミサカは鋼鉄破りを構えて戦闘準備します」


上条「おいおいおい冗談は止めてくれよ!こちとら右手なかったらやんごとなき一般人なんですことよ!?」


一方通行「……多分お前は「自分はただの男子高校生だ」って事を言いたかったンだろォが、
     やンごとなきって「高貴な」とか「ただものではない」とかそンな意味だぞ」


自分で自分をただものではないと言う男子高校生。
一見してただの厨二病患者にしか見えないが、先ほどの右手を見たらその評価は一変する。
学園都市第一位の能力ですら打ち消すというその右手。
やんごとなき高校生という評価は正しいものだろう。
にもかかわらず無能力者というのは、おそらく「幻想殺し」という特殊性を隠蔽するための工作か何かだ。

なら、レベル5の中でもかなり目立つ位置に居る自分と一緒に居れば、この幻想殺しを目立つ場所に立たせてしまうことになるだろう。
とはいうものの、この幻想殺しの少年は、困ったことに困った人を助けるとズブズブと深い所まで行ってしまい、
何だかんだで事件の中心に立ってしまう困った性格なので、知る人ぞ知る原石(原石かどうかすらわからないが)、のような扱いになっている。

しかし、そんなことを一方通行が知る由も無いので、一方通行は幻想殺しを巻き込むべきではないと感じ、さっさとこの場を立ち去ろうとするが、次の御坂の言葉に驚愕する。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 23:59:59.65 ID:27+WvYvUo
御坂「ねぇ、こいつテレビの中連れてったら役に立たない?」

一方通行「なンだなンだよなンですかァ?学園都市第一位であるこの俺をして役者不足だってンですかァ?」


御坂はそんなこと無いわよ、と言いながらもチラチラと幻想殺しを見ている。
どうやら御坂は上条当麻に気があるらしい。


上条「うげっ、だ、第一位!?おいおいすげえな、230万分の7のうち二人がこの場に居るのかよ……」


上条は一方通行と御坂の顔を交互に見て何だかめんどくさそうなことに巻き込まれそうだ、とつぶやいた。

そんな上条とは裏腹に、巻き込むべきではない。と、一方通行は考えるが、そう考えるのは彼だけだったようで、9982号も


9982号「良いですね、そいつがいれば上条×御坂の図が成り立ち、ミサカは一方通行と……
    と、ミサカはぐふふと笑いながら一方通行との輝かしい未来予想図をうちたてます」


等と意味のわからないことを述べている。
事情を知らない上条はというと、


上条「なんだ?何か手伝ってほしい事があるのか?今日は特売も無いし、遅くならないなら構わないけど」


乗り気ではないが、断るつもりもないらしい。
一方通行はボケが3人になってしまう事を危惧して、頭を抱えた。 
 
 
142 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:37:21.03 ID:f+s/LOMfo
テレビの中、と聞いて上条当麻は訝しがっていたが、
実際にテレビに手を突っ込んだところでそれを信じた。


しかし、幻想殺しがあるとなると、どうなのだろうか。


上条を連れてみてはと提案した御坂美琴は、「あーそこまで考えてなかったわー」という表情で一方通行を見ていた。
それでも一方通行なら……一方通行ならきっと何とかしてくれる。そう言いたげな表情で一方通行を見ていた。


その視線に気づいた一方通行は溜息をつく。


一方通行「手袋でもつけてみたらどォだ?」


などと適当なことを言ってみたところ、それを真に受けた芳川桔梗は、黒いレザーの手袋を持ってきた。
どうみてもメンズなのだが、芳川は何故持っているのだろう、という素朴な疑問を抱いた一方通行は、素直に聞いてみる。
芳川は、「男っ気が無くて悪かったわね」と少しご立腹の様子だった。理由は聞けなかった。

兎にも角にも、手袋を装着した上条当麻の右手に軽く触ってみたところ、能力は打ち消されなかった。
これなら大丈夫だとは思うが、テレビの中に幻想殺しを放りこんだらどうなるのだろうか。
どう見ても普通の空間ではない異空間だ。
そんな場に幻想殺しの効果が及べばどうなるのか。

そう考えると幻想殺しを使う訳にはいかない。
幻想殺しを使えないなら上条当麻はただの一般人。

その旨を伝えて、わざわざ呼び立てたことを謝罪し、
財布からいくらか金を掴ませて口封じして、帰らせる事にする。
143 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:38:13.05 ID:f+s/LOMfo
しかし当の上条はと言うと、


上条「うわ、ななななんだこれこれだけあれば3カ月は生きていけますことよ?!ま、マジでいいのか?
   というか、お前ら何か困ってることあるんだろ?だったら見過ごせねえよ!」


固有スキル「おせっかい」を発動させていた。

しかし、受け取った現金はしっかり財布に入れていることから、
よっぽど貧困にあえいでいたらしい。
逆に、こんな現金受け取っちまったら、手伝わないわけにはいかねーよ、と言ってきかなかった。

それなら金を返せ、と一方通行が突っ込みを入れるが、
上条はそれはできませぬ!できませぬぞ、殿ォ!!とわめいていた。

どちらかと言うと突っ込み属性持ちの上条であったが、今日はボケ属性らしい。
一方通行は、突っ込み属性専門の人間が欲しいと本気で考えた。

仕方が無いので連れて行く、と上条に言うと、彼は顔をほころばせていた。
改めて、よろしくな!と言って握手を求めてきたので、
一方通行は、今度は反射をしっかり切ってから、握手をする。


すると、心に小さな「力」を感じた。
あの時感じた「力」程ではないが、確かにそこに存在している。



―――上条との間に、ほのかな絆の芽生えを感じる。


我は汝…、汝は我…


汝、新たなる絆を見出だしたり…


絆とは、まことを知る一歩なり。


汝、「正義」のペルソナを生み出せし時、


我ら、更なる力の祝福を与えん…



上条との絆に呼応するように、「心」の力が高まるのを感じた。

「正義」属性コミュニティである「上条当麻」コミュを手に入れた。

一方通行は、これが「ワイルド」の能力なのだろう。と、イゴールの説明を思い出しながら考えた。
144 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:40:28.60 ID:f+s/LOMfo
・・・

4人は、テレビの中に入る。
これでもし幻想殺しがきいたらどうなるのだろうかと、一抹の不安を感じながら。
いつぞやの空き地に出たが、やはり同じテレビから入ると同じ場所に出るようだ。

それ以上に無事にテレビの中に入れたことにホッとする一同。
しかしクマの姿は見当たらない。


一方通行「チッ……この場所に来るってことは伝えてなかったからなァ……」

御坂「あ、でも無線があるじゃない、使えないの?」


御坂美琴は無線を使い、クマに呼び掛ける。が、反応はない。


9982号「何処をほっつき歩いてるんでしょう。と、ミサカはクマに対し仕事しろよと愚痴ります」


状況を把握できてない上条当麻は、辺りを見渡して、仮想空間か何かなのだろうか、等と考えていた。
それなら異能でも無いし、手袋を外しても良いんじゃないかと思い、一方通行に提案するが、とりあえずつけとけ。と一蹴された。


上条「へ?ここって電脳世界とか、仮想空間とかそういう類のものじゃないのか?
   て言うか霧すげえな」


上条はこの空間が何なのか把握していないので、一方通行の否定に首をかしげる。


一方通行「ここがどンな空間か、俺達ですら把握できてねェンだよ。
     把握できてない以上、不用意に幻想殺しを使う訳にはいかねェだろ。
     あとこの眼鏡が無いと視界は晴れねえ。これをくれた奴がこの場にいると思ってたンだが…
     今は居ねェみたいだから、視界に不安があるなら超電磁砲の手でもつないでろォ」


一方通行の言葉に御坂は顔を真っ赤にして、「べ、べべべ別にててて手なんて」とどもっていたが、
上条はそれをやんわり断る。


上条「じゃあ、俺っている必要ないんじゃないか?この手が無けりゃ一般人だし。
   前見づらいっつってもそこまでひどくはないから、御坂も気にすんな」


御坂は少しションボリした顔をする。ツンデレは損気である。


一方通行「……それはさっき説明しただろォが。だから帰れっつったンだよ、俺は」

上条「え?マジ?……わ……わりぃな、なんか……」


上条は目の前の金に浮かれて、一方通行の説明を全て忘れていたらしい。
一方通行は、端から期待してねェよ、と冷たくあしらった。
申し訳なさそうな顔をする上条に、御坂が声をかける。


御坂「な、何か……ごめんね?」

上条「いや、良いんだ……金もらっといて足手まといって、流石に笑えねぇよな……」


事態を重く受け止めた上条は、ますます意気消沈している。
それを見た一方通行はバツが悪くなり、


一方通行「チッ……お前一人守る位朝飯前なんだよ。それにさっきの金はあくまで口封じのための金だ。気にすンじゃねェよ。
     ただ、こっから帰せる奴が今ここに居ねェから、すぐには帰れねェが、とりあえず我慢しやがれってンだ」

9982号「そうですよ。あなたはお姉さまに守られて、お姉さまに惚れてしまえばいいのです。
    と、ミサカはお姉さまの恋路を全力で、まさしく全ての力を持って応援します」


9982号の言葉に御坂は顔を真っ赤にして本気で慌てて否定するが、
上条は一方通行の気づかいに感激したのか、二人のやりとりを全く聞いていなかった。
145 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:41:15.02 ID:f+s/LOMfo
・・・

<異様な研究所>

とりあえず何か情報が残ってないか探すため、
樋口製薬・第七薬学研究センターにやってきていた。

地下は探ったが、2階と3階には見向きもしなかったので、
今日はそこを探る。と一方通行は提案した。


御坂「そういえば、一方通行はこの研究所の事知ってたみたいだけど、なんで?」


先日この研究所に来た時は、真っすぐ地下の隠し通路までたどり着いたが、
疑問に思ったのだろう。御坂は質問する。


一方通行「あァ、ここでも実験につきあわされてたんだよ」


さらりと実験について話す。御坂は申し訳なさそうな顔をするが、
一方通行は気にした様子ではない。

上条は何のことかよくわかっておらず、辺りをキョロキョロと見回している。
そんな様子を見た9982号は、


9982号「勝手な行動は死に直結すると思いなさい。と、ミサカは鬼軍曹のごとくツンツンヘアーを叱咤します」

上条「へ?お、おう。何かやばそうな雰囲気だしな。俺は何もわかんねーし勝手なことはしねーよ」

一方通行「ンじゃ入るぞ。あンまりしゃべるンじゃねェぞ。何がいるかわからねェ」

4人は、静かに研究所内に足を踏み入れた。




上条「んがっ」

9982号「どうしました?と、ミサカは突然の奇声に少しだけ驚きます」


ここまでかなりのホラー体験をした9982号にとって、
最早奇声など恐怖の対象どころか、ちょっと躓いた程度の驚きなのだろう。
それはさておき、上条は突然の頭痛に頭を抱えたのだが、一瞬だったので無視した。
146 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:41:52.26 ID:f+s/LOMfo
・・・

<異様な研究所F2>

一階は異様なまでに静かだった。先日突入したときは数十匹の「失言のアブルリー」と戦闘したと言うのに。
その事情を知らない上条当麻は、


上条「何か出てきそうで怖いなー」


などと、のんきなことを言っていたが、3人としては何も出てこなくてよかった、という心境だろう。
しかし、2階に上がってから状況は一変する。


上条「げっ、なんだありゃ!?」


と、騒ぐ上条の前には、どう見てもシャドウが居た。しかし、こちらには気づいていない。


一方通行「静かにしろォ。こちとら戦いに来てンじゃねェ。情報を集めに来てンだ。
     なるべく見つからないよう行動しろ」


なるべくバレないようにするため、静かに移動するように諌める。
上条もそれを理解し、口を閉ざす。


9982号「あのシャドウは初めて見るタイプですね。と、ミサカはいつ戦闘になってしまっても良いよう準備を確実にします」


クマがいないため、二種類シャドウがいるが、どちらもシャドウと呼んでいる。
一体、クマは何処に行ったのだろうか。しかし、居ないものを今さらどうこう言っても仕方が無い。
これからどうしたものかと思考していると、御坂美琴が提案し、9982号がそれに激しく同意した。


御坂「二手に分かれない?3階探す班とこのまま2階を探す班と。
   無線でやり取りすればいいことだし」


二手に分かれる。悪くない案だ、と考えるが、それは戦力が均等に分散できる場合だ。
だがしかし、上条は右手が使えない。となると、自分と上条、御坂と9982号という組み合わせが良いだろう。

この別れ方でどうだろう、と一方通行は提案する。
上条は納得したが、御坂と9982号は若干不満がっていた。
お前ら姉妹なンだから仲良くコンビネーション技でも編み出してろ、と一言残して、
一方通行と上条は3階へ向かう。
147 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:42:39.91 ID:f+s/LOMfo
・・・

<御坂・9982号side>

あわよくば上条当麻と二人きりに。

あわよくば一方通行と二人きりに。


利害の一致を果たした二人は、全力で一方通行に二手に分かれる案を通そうとした。
一方通行も悪くない、という顔をしていて、二人は作戦の成功を確信した。

しかし、ここで期待を裏切るのが一方通行という男だ。

こちらの意図に全く気付かず、男二人女二人にわけてしまった。
しかし戦力的にはそれが一番いいと理解出来るので文句も言えない。

二人は渋々それに同意して、2階の探索にあたる。


御坂「うまいこと分けられなかったわね……」

9982号「仕方ないです……でも、チャンスは今後探せばいくらでもあるはずです。
    と、ミサカはお姉さまと上条をくっつける策を全力で考えることを宣言します」


ここに、みさか同盟なる同盟が結成された。


<異様な研究所F2・資料室>

二人は、19090号や、他の実験などに関する資料が無いか探す。


御坂「……ないわね」

9982号「薬品に関する資料ばかりですね。と、ミサカは表向きは薬学研究センターであることを思い出します」


が、しかしめぼしいものは見当たらない。やはり表向きは通常の研究センターだからだろう。
あの時行った地下研究室になければ、ここにはないのだろう。

そう判断し、一方通行に無線で連絡を試みる。
が、それは叶わなかった。


御坂「久々葉!伏せて!」


9982号の背後に、シャドウが迫っていた。御坂美琴は迷わず電撃を飛ばす。
失言のアブルリーとは若干色の異なるシャドウは、
こちらも同じく電撃が弱点だったのか、その場で消え去る。

しかし、騒ぎを感知したシャドウたちが、次から次へと現れ、二人を囲う。


9982号「……不覚を取りました。と、ミサカはお姉さまの足を引っ張ったことを謝罪します」

御坂「構わないわ、これから挽回したら良いじゃない!」


もう隠れても仕方ない。そう考えた二人は、目の前のシャドウ達を殲滅する事に決めた。
148 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:43:43.38 ID:f+s/LOMfo
・・・

<一方通行・上条side>

二人は無言で研究所を歩く。

一方通行は何かを探している様子だが、上条当麻は何をしたらいいのか分からず、ただ一方通行について行くだけだ。
それに耐えきれなくなった上条は、一方通行に尋ねる。


上条「なぁ、何を探してるんだ?」

一方通行「あァ?資料だよ、実験の資料。詳しい事は聞くな、説明がめんどくせェ」


一方通行は19090号に関する資料が無いか探しているようだが、上条には教えない。
下手に事情を知って深いところまで来られたら互いに困るだろうと考えたからだ。

今回、上条をここに連れてきてしまったのは自分の過失だ、
と、考える一方通行は、上条を確実にあちらへ帰すと誓う。

しかし、そんな思いの一方通行とは裏腹に、上条は自らの意志で深入りしようとする。


上条「なあ、どんな事情を抱えてるか知らないけどな。困ったことがありゃ相談してくれよな?俺ら友達だろ?」


誰が友達か。一方通行はすぐさま否定しようとするが、なぜかそれは出来なかった。
一方通行はただ無言でうなずく。上条はそれに満足したのか、再び無言になった。

<異様な研究所F3・主任室>

一方通行は部屋の機器が使えないか調べる。が、どれも電源が入っていない。
どうやら電気が通ってないようだ。当然と言えば当然だが。
御坂美琴を使えば無理にでもパソコンの電源をつけられたかもしれないが、今更言っても栓無きことである。

仕方が無いので棚に収納してある書類に手をつける。
こちらも表向きは薬品研究センターだけあって、薬品に関する記述しかない。

ここで、ふと名簿が目に入ったので、手に取り目を通す。
すると、研究者の中に長点上機の人間がいるではないか。

能力に限らずある才能に関して秀でたものがあれば通ることのできる長点上機。

ならばそこに通う学生が研究者であったとしてもおかしくはないが、
なぜか、この写真に既視感のような違和感を覚えた。

何処で見たのだろう。

何処かで見たはずだ。
149 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:44:40.12 ID:f+s/LOMfo
そうだ、初めて「ココ」に来た時、パソコンの画面に表示されていたな。
顔のない長点上機の生徒。

「長点上機」しか共通点はないが、おそらく同一人物だと思われる。
なぜかその確信があった。

同一人物だとして、なぜあの時パソコンの画面には顔のない画像が乗っていたのだろうか。
そもそも同一人物かどうかなど、自分の根拠のない確信でしかないため、
これ以上考えても仕方ない、と思考を打ちきる。

すると下の階から銃弾が炸裂する音が聞こえる。
上条もそれに気付いたようで、すぐにこの部屋を立とうとする。


一方通行「待て、こっからシャドウにバレないように戻ろうと思うと面倒だ」

上条「じゃあ、どうするんだよ!?」


一方通行「俺を誰だと思ってやがる?学園都市第一位の「一方通行」だぜェ?
     床の揺れや物音から、あいつらの居る場所の把握なンざ朝飯前なンだよ」


捕捉したらここの床ぶち抜いてショートカットだ。と、言いながら、床に掌を置く。

その様子を眺めていた上条に、またも鋭い頭痛が襲う。


上条「ッ……!」


今度は先ほどよりも酷い痛みが上条を支配した。
まるでこめかみにボルトをねじ込んだような痛みに、流石にうめき声をあげ、膝をつく。


一方通行「……どォした?体調でも悪いか?」


初めて入った時も、9982号が体調を崩していた。
なら、目の前の上条も体調を壊しておかしくはない。
何故こんな簡単なことに気付かなかったのか……

一方通行は己の浅薄さを恥じる。
しかし、休ませようにも二階で戦っている二人が心配だ。
かといってこんなところに上条を置いて行くのも論外である。
どうしたものかと思考していると、


上条「あぁ……もう、大丈夫だ」


少し冷や汗をかきながら上条は立ち上がる。


一方通行「わりィな……合流したらすぐ帰る」


クマをなんとかして見つけなければならないな、と一方通行は気を引き締め、
床を破壊し、上条を抱え下の階へ向かう。
150 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:45:41.39 ID:f+s/LOMfo
・・・

<異様な研究所F2・資料室>

御坂美琴と9982号はひたすらシャドウを殲滅する。
火か雷が弱点なら御坂が、その二つがあまり効かないなら9982号が、どちらでも無いなら早い者勝ち。

二人はペルソナで戦うのは初めてであるが、やはり戦闘慣れしているからだろう。
すぐに順応し、息の合うコンビネーションを見せていた。


御坂「こうやって!背中合わせで!戦うってのも!!悪くないわね!!」


御坂は正面の敵「トランスツインズ」にアギを唱えつつ、左に見える「虚言のアブルリー」に電撃を放つ。


9982号「そうですね!ならば!どちらがより多く倒せるか!競争でもしますか?!
    と、ミサカは!素敵な!提案をしてみます!」


9982号は御坂と背中合わせになり、正面に見える3体の「ブラックレイヴン」に向かって銃弾を放つ。

たまに「攻撃を反射」や「吸収」する奴がいてこれがまた厄介であった。
それでも流石は学園都市の学生。
相手に攻撃が効かないと見るや、二人の配置はくるりと入れ替わり、
相手に効く攻撃をそれぞれ繰り出す。

二人の戦いぶりは、さながら舞いのようであった。

弱点がある相手にはもちろんそこを突き、
特に弱点が無い相手にはタルカジャで攻撃力を底上げして一斉攻撃。

「失言のアブルリー」の亜種みたいなやつ。鳥みたいなやつ。
サイコロみたいなやつ。十字架みたいなやつ。王様みたいなやつ。
王様が召喚したへんなの。手みたいなやつ。

ひたすら殲滅していた。

しかし、ようやく敵の数が少なくなったのだが、異変に気づく。
151 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:46:19.33 ID:f+s/LOMfo
御坂「ねえ、あのテーブルみたいなの、どの攻撃も効いてなくない?」


「笑うテーブル」の事なのだが、このテーブル、弱点は風のみで他の攻撃は全て無効である。
そんなこと御坂と9982号が知っているはずもなく、
敵はほぼ殲滅したが、テーブルが5、6台残っている。

どうしたものかと思考をするが、敵はいつまでも待ってくれない。
とりあえず逃げようと二人は決めるが、そこに上条当麻を抱えた一方通行が現れる。


御坂「ナイスタイミング!こいつ私らの攻撃効かない!」

9982号「や、やあ!良いところで会った。グッジョブ!と、ミサカは正しい真田明彦先輩を演じます」


こいつら意外と余裕あるな、なら上条の方をもっと気遣えばよかったか。
と、考えつつもとりあえず目の前のテーブルにガルを放つ。


テーブル<バシュッ


一発で退場なされた。
これには御坂と9982号も苦笑い。一方通行はあきれた目で二人を見ていた。
152 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:47:03.38 ID:f+s/LOMfo
一方通行「オイオイ、あれですかァ?MP切れましたってかァ?疲れたンなら宿屋行って一晩休ンでこい」

御坂「な、何よ、あいつには炎も電気も銃弾も効かなかったのよ!!仕方ないじゃない!」

9982号「そうですよ、奴にはきっと風しか効かないんです。と、ミサカはあなたの援護を高評価します」

御坂「ていうか、そいつどうしたのよ?」


上条の様子がおかしいことに気づく御坂。


一方通行「あァ、ここの瘴気?にあてられて頭が痛いらしい。クマと連絡取るからこいつの事見ててやれ」


と、御坂に上条の面倒を見させることにする。
御坂は上条の肩を持ってあわわわ、とゆでダコのようになっていたが、
上条の様子に本気で心配しているようだった。

クマに無線で声をかける。するとようやくつながったが、焦った声をしている。


クマ『ゴメンクマ!ものすご~く考え事をしてたら無線に気付かなかったんだクマ!』

一方通行『言い訳なンざどうだってイイ。とりあえずこないだの研究所、来れるかァ?』

クマ『クマ!今から行くクマよ!でも気をつけて!何だか研究所の方から強いシャドウの気配がするクマ!』


クマの言葉と合わせるように、9982号が銃を構える。
そいつは、入口を破壊してゆったりと入ってきた。
153 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:48:13.79 ID:f+s/LOMfo
一方通行「ンだァ……?こいつは……?」


騎士。一言でいえばこういい表わすだろう。
巨大な体躯に、身の丈ほどのスピアを携え、
それは宙に浮く鉄の馬のようなものにまたがっていた。

しかしその体には中身が見られない。
どちらかと言えば鎧が一人歩きしている感じだ。

騎士の発する威圧感に思わず後ずさる。
強いシャドウの気配とはおそらくこいつのことだろう。
それを判断した一方通行は、先の戦闘で消耗している二人を上条の護衛に回す。


一方通行「チィ……」


一方通行は舌打ちする。もしクマと連絡がつくまで待っていれば、
クマというレーダーさえいたら。ここまで窮地に追い込まれることはなかっただろう。
しかし、今更後悔しても遅い。

思考を切り替え、目の前の鉄の塊をどうするかに集中する。
出来れば余力を残しておきたい。そう考えたのが甘かったのか。

先手は騎士に奪われてしまう。
騎士は一方通行に向かい、真っすぐスピアを伸ばす。

反射に頼るのは危険と、以前の戦闘で理解した一方通行は、
盾として壁の一部をはぎ取り、スピアに向かって放り投げた。
スピアは恐るべき速度で向かった壁の一部をあっという間に貫く。
154 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:49:05.58 ID:f+s/LOMfo
しかし、貫いた時に壁は砕け散り、散弾となり騎士を襲う。
その隙をついて一方通行はガルを唱えつつ、身近な破片を手に取り、再び放り投げる。

破片は騎士にぶつかるが、騎士には効いた様子ではない。
一方通行は更に床を蹴りあげると、床の一部がはがれ飛ぶ。

それを目くらましに騎士の背後に回り込み、
ベクトル操作で何十倍にも威力を高めた回し蹴りを喰らわせた。

騎士はそのまま壁を突き抜け、隣の部屋まで行ってしまう。
御坂と9982号は辺りを警戒しつつも、一方通行を一瞥し、注意を促す。

一方通行もその視線に気づき、無言で答えるが、壁に出来た穴からスピアが飛び出してきた。

2人は一方通行へ向かって叫び声をあげるが、時すでに遅し。

反射をなんとか稼働させたため、貫通には至らなかったものの、
やはり完全に操作することは出来ず、腋の下辺りに裂傷を負う。

一方通行は気を抜いた、と内心舌打ちをするが、まだ戦える。
再び足元にある瓦礫を掴み、隣の部屋にいる騎士に向かって投げようとするものの。


一方通行「ガァ……!?」
155 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:49:38.94 ID:f+s/LOMfo
体に異変が生じる。
先ほどのスピアに毒があったのだろうか、体が急に重くなり、めまいもする。
思考が定まらない。体、動け、体、動け。

動かない。

しかし目の前にはスピアを携えた騎士。

スピアを構える。

動かない。

動け。

動け。

いくら動かそうとしても動かないなら。

一方通行「ちったァ働きやがれクソがァァァ!!」

己を能力によって操作する。
思考が定まらないせいで、うまく動かない。

それがどうした。俺は誰だ?学園都市の第一位、レベル6に最も近い人間、「一方通行」だ。
普通の人間が匙を投げるようなことすら、鼻歌交じりで出来なくてどうする。


「体を操作」しながら、「体内に侵入した毒の排除」をするくらい造作も無いことだ。


―――体を動かせ、体内の異物を排除しろ。


―――敵が目の前にいるぞ、攻撃をしろ。


―――攻撃がやってくる、回避しろ。

極限の状態に追い込まれた一方通行は、ここにきて一つ成長する。
156 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/26(木) 18:50:26.90 ID:f+s/LOMfo
今までは反射+操作の同時進行は行っていたのだが、反射はあくまでも自動であり、
操作は触れたものについて一つの事柄でしか操作が出来なかった。


分割思考による演算の最適化。これにより複雑な操作の同時進行が可能となる。


一方通行は毒を抽出すると、演算区分に余裕が出来たことを感じ、
騎士に瓦礫を飛ばして迎撃をしつつ、ガルを少しだけ集めて、小さな力の塊を作った。

この場でこの塊をぶつけると、3人に被害が及ぶかもしれない。
そう考えた一方通行は騎士のスピアを回避しつつ懐まで近づく。

そして先ほど穴を開けた隣の部屋に押し込み、自らを穴の開いた壁代わりとして、
手にした力の塊を、ぶつけた。


ゴウ!!と、大きな音を響かせ、巨大な竜巻が渦巻く。
一方通行は3人には被害が及ばぬよう抑え込む。
隣の部屋の様子は見えないが、おそらく存在するもの全てを巻き込み、全てを蹂躙しただろう。

風が鳴りやんだ頃にはボロボロとなった騎士が転がっていた。

あれだけの攻撃を喰らってもなお、原形をとどめているのは称賛に値するが、
これ以上相手にするのは危険なので早々に止めを刺しにかかる。
あれ程の苦戦を強いた騎士は、一方通行の攻撃を前に、あっけなく消え去った。


一方通行「……ぶっはァ!!なンだありゃ!?マジで死ぬかと思ったわ!!」


今回は本気で命の危険を感じたのか、滝のように冷や汗を流す。


9982号「流石一方通行!よっ!天下の第一位!と、ミサカは称賛の嵐を送ります」

御坂「あんたって、ホント規格外よね……同じレベル5とは思えないわ……」


二人は騎士が消えたことに安心をおぼえるが、上条の様子は一向に良くならない。
クマが早く来ないものかと連絡を取る。


一方通行『おいクマァ。早くこねェか、敵は倒したぜェ?』


しかし、クマの一言に、一方通行は驚愕する。


クマ『強いシャドウの気配はまだ残ってるクマ!ひょっとして、うまいこと隠れてるクマ?
   何とかそこから脱出出来ないクマか?』


先ほどの騎士。あれほどの強敵は居なかった。
あれより強いのがまだいると言うのか。
御坂と9982号にここから脱出する旨を伝えようとしたその時。





上条の体がビクン、と跳ね上がり、




何かが現れ、それは右手の力を根本から掠め取って行った。 
 
162 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 01:58:57.80 ID:etWuCrr8o
海原「ペルソナ……」

海原「テクパトルゥゥゥゥ!!!!」


ゴメンなンでもない
透過する
163 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 01:59:27.49 ID:etWuCrr8o
上条当麻は不幸である。


一歩歩けば財布を落とし、

二歩歩けば靴紐千切れ、

三歩歩けば不良に絡まれ。


気づけば疫病神、等と揶揄されるようになっていた。

それでもすくすくと真っすぐな心根を持った少年に育ったのは、
ひとえに両親のおかげであろう。


そんな上条当麻という人間は、両親の教育の賜物であろうか、
ものすごいおせっかいな人間であり、
不良に絡まれるのは人助けの結果である、という事が大半である。


よって人助けをしなければ、不幸の一端を減らすことが出来るのかもしれないが、
上条当麻にとっては人を助けるのは当たり前の事である。

どんなに相手が多くても、強い能力を持っていたとしても。
相手がどんなに固い信念を持っていても、どんなに強い思いを抱いていたとしても。
誰かが涙を流す結果を、上条当麻は許さない。



例え、その結果、自分が死ぬこととなっても。



こうして上条当麻は、己が信念の元、一度死んだ。
そして、とある少女の笑顔を守るため、自分の心を殺し、他人の心を欺き続けながら今を生きる。


どんなにおそろしいことだろう。

どんなにさみしいことだろう。

どんなにつらいことだろう。

どんな、きぶんなのだろう。

―――心を殺して生きていく、というものは。
164 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 02:00:06.78 ID:etWuCrr8o
・・・

上条当麻の体がビクン、と跳ね上がり、3人は一斉に上条のことを見る。
本人は周りの様子を把握できていない。


一方通行「おい、大丈夫か?」


と、上条の事を気にかけるが、先ほどまでの頭痛で歪んでいた顔が、嘘のようにさっぱりしている。
一方、9982号が何かに気付いた様子で、一方通行の背後を見ている。
残りの3人もそれに気付き、驚愕する。


上条?「ははっ……あーっはっはっは!!やっとあの騎士ブッ倒したんかよ、
    一方通行ならさっさと倒せると思ったんだけどなぁ!!!」


御坂「こ、これは……!?」

9982号「上条当麻の、影……でしょうか?と、ミサカはあの時の記憶が蘇ります」


上条当麻の影。完全に失念していた。テレビの中、という場にいるんだ、出てもおかしくなかった。
むしろ、今まで出てこなかった方がおかしい。まさか……


一方通行「テメェ……」

上条の影「あははは!!気付いた!?おめーらが勝手に消耗してくれんの待ってたんだよなぁ!!」

上条「て、てめえ……てめえは一体、何だ……?」


ありえないものを見た、という顔で上条は問う。
上条の影は、上条のリアクションを見て大喜びをしている。


上条の影「はは……はははは!!ここは、「ハジメマシテ」っつったほうがいいかなぁ!?
     ええ!?上条くぅん!?」


4人は、どういうことだ、という顔をして、上条の影をにらむ。
上条の影は、何故だかわからないがいたく上機嫌で、勝手にペラペラと話し始める。


上条の影「てめーらには感謝するぜぇ!?何せこいつの中から抜け出す機会をくれたんだからなぁ!!
     悪ィが、俺は端からお前なんかじゃねぇ!!」


その言葉に3人は驚愕し、上条は意味がわからない、と言った顔をし続けている。
165 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 02:02:45.07 ID:etWuCrr8o
本来、シャドウは宿主に「存在を否定」されることで宿主から離れる。
一方で上条の影は、「最初から宿主から離れている」という言動をした。

どういう事かわからない。幻想殺し、という特殊性がそうさせたのだろうか。
しかし考えたところで、相手は既にシャドウ。いつでも戦える様に警戒する。


上条の影「おいおい、そんな警戒しねーでくれよ、俺は感謝してるんだぜ?
     お前らの消費を待ったのだって、お前らから無傷で逃げる為だしなあ」

一方通行「どォいうつもりだァ?お前は上条から生まれた存在だろォが。とっとと宿主の元に戻りなァ」

上条の影「それは恩人たる一方通行の願いでも出来ねぇなあ。
     俺がそいつの心ん中で何回殺されたと思ってやがる?
     俺は怖い、辛い、痛い、止めろ、って何度も何度も叫んでたってのによぉ」


上条の影は、何か薄汚いものを見るかのように、上条当麻を見降ろした。


上条「はぁ……?どういうことだよ!?」

上条の影「はん、てめえが人助けと称して、てめえの恐怖心押さえつけて偽善やってたのは何のためだ?
     嫌われない為だろ?怖がられない為だろ?一人になりたくないからだろ?
     嫌だよなあ?疫病神扱いされるのは。
     嫌だよなあ?俺でも無い奴にお前は不幸だな、と同情されるのは。
     嫌だよなあ?自分の不幸に他人を巻き込むのは。
     嫌だよなあ?+になることして、それでやっと0になれるってのは!!」

上条「な、なに意味分かんねー事言ってんだよ!?お前は、一体誰なんだよ!!
   勝手に人の心決めつけてんじゃねえ!!」

上条の影「どうしたもこうしたもあるかあ!!お前はあの時一度死んでんだ。
     あの時既に俺とお前は切り離されたは別モンなんだよ。
     俺が言ってんのは、あの時以前のお前の事だよ。
     お前の事なんかじゃねえ、俺はお前じゃないんだからな。
     お前の事なんか知らねえよ!」

御坂「あ、あの時死んだって、どういうことよ!?こいつは現にこうして生きてるじゃない!」

上条の影「あぁん?んだぁ?知らねえのか?ほんなら、教えてやろうか?」
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/05/27(金) 02:02:45.17 ID:12lOQS16o
ほうこうくるか
167 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 02:03:56.34 ID:etWuCrr8o
上条の影は、ニタニタと普段の上条とはかけ離れた笑みを浮かべている。
あの時、の事は覚えていないが、上条の影が言おうとしている事はわかる。
それを言わせないように、上条は、やめろ!と大声をあげるが。


上条の影「はっ、止めねえよ!こいつ、7月24日に記憶喪失してんだよなあ」


ニタニタと、表情を変えないまま、上条の影は、上条当麻の抱える爆弾を投下した。
続いて誰にも聞こえない声で小さく、それがただの記憶喪失だったら、俺もこうはならなかったっての。と、ぼやいた。


・・・


上条の影は、「ほんじゃま、あとはごゆっくり」と、言いつつ手をひらひらと振りながら去ろうとしたが、
一方通行がそこに立ちふさがった。


一方通行「わりィがこっから先は一方通行だァ。シャドウの類は進入禁止ってなァ!!」


一方通行はガルを唱え、ベクトル操作によりそれを圧縮する。
それは

一方で上条の影は、そんな一方通行を歯牙にもかけずに、


上条の影「ははっ、あんなへっぽこ騎士なんぞに苦戦する時点で優劣は決まってんだよ」


と、言う。すると上条の影の右手から竜のようなものが現れ、
それは唸り声を上げながら、大きく口を開く。
そしてそのままプラズマを飲み込んでしまった。
168 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 02:05:35.00 ID:etWuCrr8o
竜を目の当たりにした全員が信じられないものを見る目で上条の影をみる。


一方通行「お前……それ、一体何だ?」


一方通行は再びプラズマの作成を試みる。
しかし、既に限界が来たのだろう。何も起きない。
体力もつきている為足が震えだす。「一方通行」の能力による庇護すら得られなくなり、立っているのもやっとの状態だ。

それでも、立ち続ける。せめて後ろにいる連中の盾くらいにはなれるように。
そんな様子を上条の影は、見世物を笑うように眺める。

 
上条の影「あっはっは、流石にそれは企業秘密だぜ?
     強いて言うなら、あの時以前の俺の方が、その右手について理解があった。とでも言おうかね。
     ああそうそう、君らのその勇気に免じて、見逃してやるよ。
     つっても元々お前らの相手なんぞする気なかったんだがな!
     お前らがちょっかい出すからそうなるんだぜ?」


さらばだ、明智君と4人に告げ、上条の影は姿を消す。
辺りは静寂に包まれ、しばらくの間全員が茫然として動けなかった。
169 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 02:06:23.48 ID:etWuCrr8o
・・・

一方通行「……何だったンだ、ありゃあ……」


9982号「命拾いした、と言う事でしょうか……と、ミサカはあの影の実力を目の当たりにして恐怖を隠せません……」

御坂「分からないわ……あ、あんたは体に異変とかないの?」

上条「……ああ、大丈夫だ……」


上条当麻はいまだに何が起こったのかわからない、と言った表情だ。


一方通行「……とりあえず、クマが来たら帰るぞ。上条も、「シャドウ」って奴の事、気になるだろ?説明は後だ」


上条「ああ……でも……」


上条は御坂美琴を気にしている。
どうやら記憶喪失がばれた事を気にしているらしい。


御坂「あんたにも聞きたいことはあるけど……今は疲れてるでしょ?詳しい事は、また今度にしましょ」


気持ちの整理もしたいしね。あんたもそうでしょ?と、御坂は弱弱しく笑った。


9982号『おいこらクマ早くこいってんだ。と、ミサカはマジで気まずい空気を吸いたくないですと叫びます』


クマ「お?もう入っていいクマ?」


クマは物陰に隠れていた。

9982号「オイ貴様、何でもっと早く来なかった。と、ミサカは職務怠慢の容疑で断罪します」

クマ「ま、待つクマ!クマは足手まといにならないようにですねクマ……!」

9982号「正直に答えないと鋼鉄破りのさびになるぜ……?クマ、てめーはいつからそこにいた?と、ミサカは尋問は既に拷問に変わっていることを示します」

クマ「え、えーっと、丁度騎士が倒れたあたりですかねクマ……」


9982号は親の仇を見るような眼でクマをにらむ。
170 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 02:07:13.67 ID:etWuCrr8o
クマ「わわわ、助けて一方通行ン!」

一方通行「だァれがアクセラレータンだぁ!?」

9982号「ぶふっ、良いですね、あくせられーたん……と、ミサカはクマのネーミングにGJを送ります」

クマ「へ?そうクマ?へっへへー、やっぱクマはすごいクマね!あ、そこのツンツンも霧の中見えるように眼鏡いる?」

上条「あ、ああ……もらっとくよ、ありがとな」


やはりあのようなわけのわからないことがあった上に、
ひた隠しにしていたことがばれたせいだろう。普段の上条からは考えられないほど気が落ちている。


一方通行「つゥかよォ、クマお前何処行ってやがったンだ?
     これからはあの空き地に居やがれってンだ」

クマ「ゴメンクマ……前シャドウは何から出来てるんだろって話した時に、
   人の心から出来るって話だったクマよね?だったらクマは何から出来てるんだろうって思って……」

9982号「そういえばそうですね、クマのきぐるみの中は何ですか?と、ミサカはきぐるみをt――!!」


中身が無かった。
これには気落ちしていた上条の顔もこわばる。


御坂「な、なな……なにそれ!?」

クマ「クマー!クマは見ての通り空っぽクマ!だからそれ返すクマー!」


きぐるみの頭を再び装着するクマ。
4人の表情は上条の影を見た時のような表情である。


一方通行「変だ変だとは思ってたがここまでとはなァ……」

上条「あ、あはは……ここまでトンデモ体験したのは流石の上条さんも初めてですことよ……」

一方通行「あァ、そうだ。上条、お前これからどうする?」

上条「へ?どうするって?」

一方通行「いや、お前の分身だよ。あれ、放っておくのか?」
171 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 02:08:02.27 ID:etWuCrr8o
上条「あいつな……あのままでも、良いと思うんだ」

御坂「なっ……!何言ってんのよ、あんた!」

上条「だってそうだろ?アイツ言ってたじゃん、俺はもうお前じゃない、って。
   それなのにいつまでも俺の中に閉じ込めてたんじゃ、かわいそうだと思わないか?」

御坂「それなら……!」


あんたの心はどうなる。自己犠牲も甚だしい。
自分の為に自分を犠牲にすると言うのか。
御坂は再び異を唱えようとする。


一方通行「良いのか、それで?」


しかし、そんな御坂を一方通行が止める。


上条「ああ」

一方通行「後悔しねェか?」

上条「ああ」

一方通行「本当に?」

上条「~~ッ!ああ!!」

一方通行「……お前、言ったよな?困ってる事があったら、頼れって。ダチなんだからって。
     だったらよォ、頼れよ。俺を、俺らを!!」

上条「でも、あいつは……!俺から出て行きたいって…!」

一方通行「……シャドウってのは、お前が表なら、あいつらは心の裏側だ。
      もしあいつがお前じゃないってんなら、
      お前からはもう一体、お前の心として、シャドウが出ないとおかしい。
      でもよォ、いつになったらお前の心は出てくるんだ?
      それが何よりの証明だ。アイツはどこまでいこうと、お前なンだよ。
      ……例えお前が死ンでも、なァ」
172 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 02:08:33.46 ID:etWuCrr8o
上条「……いいのかよ、俺が絡むと確実に面倒なことになるぜ?」

一方通行「あァ、問題ねェよ。事のついで程度にやってやる」

上条「ははっ、俺の不幸も第一位なら片手間に片付けてくれるってか、そりゃ助かる。
   ……俺は、あいつともう一度話し合いたい……
   今まで押し殺してきた事を謝って、もう一度、一緒にやり直してえよ……!!」


上条がギリッと悔しそうに歯を食いしばる。
一方通行はそれならどうする?と尋ねる。上条は既に決意を固めている。
その目には再び燃えていた。


上条「一方通行、御坂、えーっと御坂妹、そんでクマ?
   ……力を、貸して下さい。頼む!」


4人は迷わず同意した。
173 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 02:11:24.69 ID:etWuCrr8o

・・・

クマ「それじゃあ、これからはちゃんとここにいるクマねー」

一方通行「おォ、ちゃんと居やがれ。ほぼ確実にまたひと悶着あるに違いねェからなァ」

御坂「当面の目標はか、かみ…あ、あんたの影を見つける事と、」

9982号「実験に関する情報収集にマヨナカテレビの監視、ですね。
と、ミサカは心機一転気を引き締めます」

上条「え、えーと、俺だけほぼ戦力にならないのは確実だから、鍛えてもらえるとありがたいかなーなんて」


5人は決意を新たにし、「仮称特別捜索隊」を結成した。

―――4人との間に、ほのかな絆の芽生えを感じる。


我は汝…、汝は我…


汝、新たなる絆を見出だしたり…


絆とは、まことを知る一歩なり。


汝、「愚者」のペルソナを生み出せし時、


我ら、更なる力の祝福を与えん…



4人との絆に呼応するように、「心」の力が高まるのを感じた。

「愚者」属性コミュニティである「仮称特別捜査隊」コミュを手に入れた。



クマと別れテレビから戻り、4人は各々自分の部屋に帰って行った。

・・・

<???>

「良いのか?」

「何がだね」

「一方通行と幻想殺しについてだよ。幻想殺しに至ってはその能力を全部影に持っていかれてるじゃないか」

「ああ、そんなことか。問題あるまい」

「ッ……!幻想殺しはプランの要ではないのか!?それをあっさり奪われて!」

「あれは奪われてなどいないよ。あの力は、上条当麻に宿っていなければ、正しく力を発揮できない。
 良くも悪くも、あの影もまた、上条当麻なのだよ」

「……いつか強くなりすぎた影が貴様の喉笛を噛み切る事になっても、俺は知らんからな」

「それこそ要らん心配だよ、いざとなったら影も取り込む。
 あれは今の上条当麻よりも幻想殺しを理解し、使いこなせている」

「チッ、貴様の不幸と不穏を祈ってるよ」

「あぁ、それらも計画に取り込んでみせよう」


男が別れを告げ、その人間の前から消えた。 
 
 
190 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:13:45.15 ID:etWuCrr8o
上条当麻は、不幸だった。


一歩歩けば財布を落とし、

二歩歩けば靴紐千切れ、

三歩歩けば不良に絡まれ


……ていたのだが、ある日を境に、財布も落とさないし靴紐もちぎれない。
不良に絡まれるのも自分から首を突っ込む場合のみだ。

しかし、不幸になりにくくなったと言うのに、上条の表情は暗い。


上条「俺って、幻想殺しが無いと、無力なんだな……」


幻想殺しと言う異常。
これの恩恵を得られなくなった上条は、相手が能力者とわかるや否や、
1対1でもなるべく逃げるようにしようと思う。もちろん助けた相手が逃げたのを確認してからだ。

幻想殺しの力に頼りきっていたんだなあと実感したのは、
自分から影が居なくなった日の次の日だ。

力が無くなったと言うのに、それでも人助けの為に動けると言うのは流石としか言いようが無い。
しかし、力が無くては何も出来ない。

いくら立派な理想を掲げても、

力が無ければ、

ただの高望みだ。
191 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:14:28.11 ID:etWuCrr8o
しかし、上条当麻はそれでも抗う。
守るために。

力が無ければどうするか。
そう、鍛えればいい。


一方通行「成程なァ……言いたい事はわかった。けどよォ……」


一方通行は、上条の言い分に理解を示す。
しかし、納得はしていない。


一方通行「言っとくが、俺なンか能力に頼り切ってきたせいで、
      自分で言うのもなンだが、滅茶苦茶弱いぜェ?」


俺を鍛えてほしい。と、上条が一方通行に頼みに来たのは、自分の無力さを痛感したその日だ。
行動力があるのは立派であるが、いささか早計ではないか、と一方通行は思う。

だが、一方通行にはアテがあった。鍛えてもらえそうなアテが。
あわよくば自分も体を鍛えられたら、とも考える。
テレビの中に行って実感させられた。


一方通行「俺には、体力がねェ。つゥかなさすぎる」


テレビの中、あの場を戦い抜くには能力一辺倒ではいざという時困ったことになる。
「能力はもう使えないンで、ここは見逃して下さい」なんて、笑い話にもならない。
192 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:15:09.43 ID:etWuCrr8o
こうして一方通行と上条は、とある人物のコネを頼ることにした。

ちなみに、9982号は、体の調整の為、とある病院に足を運んでいる。
護衛の任はどうしたと言いたいが、基本的にはミサカネットワークによって、
互いの動向は互いに監視できるので、普段からそこまでピッタリくっついている必要はないらしい。

そんなわけで、9982号が泊りがけで病院に行くと一方通行に告げた時、
ついてくる気配のなかった一方通行に若干の不満を抱いていたのは余談である。
193 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:15:55.56 ID:etWuCrr8o
・・・

芳川桔梗の知り合いにアンチスキルがいるらしい。
その情報を頼りに一方通行と上条当麻の二人は芳川に事情を説明し、アンチスキルを紹介してもらうよう頼み込んだ。

芳川は一方通行のもやしっぷりはすさまじいけど、
立派な能力があるせいで何も言えなかったこともあったのか、喜んでその人物を紹介した。


上条「……黄泉川先生?」

黄泉川「おー、鍛えて欲しいってのは月詠センセんとこの3馬鹿じゃん?
    こっちは……誰?私は黄泉川愛穂、教師じゃん」


黄泉川愛穂は自分が教鞭をふるう学校で、いつも馬鹿をやらかしてる3人の一人を見る。
これは面白そうだと喜びを示すが、もう一人はうちの学校の人間じゃないと察し、自己紹介を求めた。


一方通行「「一方通行」だ。呼び名もそれでいい」

黄泉川「一方通行ってーと、第一位じゃん?どうしてそんな大物としがない学生であるはずの上条は友達やってるじゃん?」

上条「……まあ、長い人生生きてれば第一位の一人や二人と仲良くなりますよははは」

黄泉川「いや、相当珍しいと思うじゃん、その体験は……」

一方通行「で、俺らを鍛えてくれるのか?くれねェのか、どっちだよ」


頼む側だと言うのに高圧的な頼み方をする一方通行。
黄泉川は、私らの訓練に一緒に参加するってことなら構わないじゃん、と返答するとともに、
この超能力者の高圧的な態度も、死ぬほど鍛えて変えてやろうと心に決めた。
194 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:16:37.64 ID:etWuCrr8o
上条「ホントですか!?ありがとうございます!」

一方通行「まァ、よろしく頼むわ」


思い切り嬉しそうに喜ぶ上条と、表情は変えないが嬉しそうな雰囲気を出す一方通行。
全然違うタイプに見えて、意外と似てるとこもあるかもじゃん、と思う黄泉川だった。

・・・

今日は顔合わせだけで、そのうち吐くほど鍛えてやるから、
今日のところはジムで筋トレでもやってるじゃん。
という黄泉川愛穂のありがたい言葉の元、一方通行と上条当麻はジャージに着替え、
アンチスキル・ジャッジメント共用のトレーニングジムに足を運んでいた。

黄泉川を紹介した芳川桔梗は、二人がサボらないか監視する役、という名目で一緒にジムについてきて、二人が死にそうな顔になっているのを鼻歌交じりに眺めている。


上条「お前……マジで大丈夫かよ……?はぁ……魂抜かれたみたいな顔してんぞ……
   顔面蒼白っていうか……あぁ、元々白いんだっけか……」


と、肩で息をするものの、軽口を話す程度には余裕がある。
流石に喧嘩慣れしているだけあって、ある程度の土台は出来上がっているようだ。

しかし、一方通行の方はというと


一方通行「……」


上条の言葉に返答する余裕すら無くなっていた。

最初の腹筋で既に肩で息をし始め、続く背筋で汗だくになる。
上条はその辺の段階ではまだまだ余裕があったのだが続く腕立て伏せ当たりで、
流石の上条の表情にも疲れが見え始め、

今現在、ランニングマシンで死にそうな顔をしている。上条ですらこのざまだというのに、一方通行がどうして無事でいられようか。いや、いられない。

すると一方通行の携帯から着信音が鳴り響いた。
一方通行は無言で芳川の方を向き、携帯を持ってこさせるよう手で指示をする。

どうやら走るのを止める気はないらしい。
一方通行は電話を手に取る。9982号からだ。
195 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:17:22.02 ID:etWuCrr8o
9982号『もしもし、一方通行ですか?と、ミサカは一応確認します』

一方通行『……あン?9982号か……』


一方通行は返答するのに精一杯である。走るのを止めないあたり、根性は十分ある。体力はないが。


9982号『信じてますからね、とミサカは本心を打ち明けます』

一方通行『……あァ?』

9982号『用件はそれだけです、ではまた明日。と、ミサカは軽い挨拶を述べて電話を切ります』


意味がわからない。何しに電話をしに来たのか。
正直こちらはそれどころではないので、通話が切れたのを確認して、携帯を芳川に投げ返した。


9982号との通話が終わって早30分。ランニング終了の狼煙は今だ上がらない。


上条「はぁ……筋トレは……「回数」っていうはっきりとした……ノルマがあったからよかったけど……
   このランニングは……芳川さんが「終わり」って言うまで……続けろってどういうことだよ……」

一方通行「……」


芳川はニヤニヤしながら眺めている。いつになったらこの地獄から解放されるのか。
一方通行は上条の言葉にも答えないで走り続ける。


その様子を疑問に感じた上条は、そーっと一方通行に手を触れる。

上条「あ!こいつ能力使ってやがる!!」

一方通行「あァ!?お前言うんじゃねェよ!!」

根性はあるけど体力はない。その評価は根性無しの上に体力無し。に変更された。
196 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:18:15.54 ID:etWuCrr8o
芳川「あらあら、それは困ったわね……じゃあ、後一時間ね。
   ずるをしたらノルマが倍になると思えば良いわ」

上条「お前……ぜってー能力……使うんじゃねえぞ」

一方通行「あァ?……だったらお前……さっきだって……
      黙ってたら……よかったじゃねえか」


心の底から楽しい、と言う様子でノルマを課す芳川。
二人はこいついつか張り倒すと誓いを立て、無言で走り続ける。

・・・

2人がノルマを達成した時、既に19時を回り、辺りが暗くなり始めていた。
一方通行は上条当麻に飯でも食いに行かないかと誘いをかけるが、


上条「あー、悪い!居候が腹すかせて待ってんだよな!」


と、言って帰る支度をしている。


一方通行「あァ?その居候は飯の一つも作れねェのかァ?」


人の事を言えない癖に、一方通行はストレートにその居候を批判する。


上条「あー、家事の一つでも手伝ってくれりゃうれしいんだけどなぁ……」


と、本気でガックリきている。


一方通行「まァ、人ンちの事とやかく言うつもりはねェよ。
      つゥか急いでンなら、能力使って送ってやろォか?」

上条「お、マジかよサンキュー!」


一方通行は家まで能力を使って上条を送り届けることにした。
空を飛んでいたのはほんの少しの時間だが、他愛のない話で盛り上がり、
あっという間に上条の部屋の前に着地する。
197 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:18:52.41 ID:etWuCrr8o
そして一方通行はじゃあな、と告げ、通路から飛び降りて行った。
上条も飛び降りた一方通行に向かって、またなー!と声をあげる。

上条が部屋に入って行ったのを確認して、一方通行はその場を去る。
すると、上条の部屋から不幸だー!という叫び声が響き渡った。
一方通行は、あいつは居候と何やってンだ、と言った顔であきれながらも、
口元には笑みが浮かんでいた。

・・・

一方通行は帰路につく。が、部屋は荒れ放題で、食べ物も無い。
引っ越したほうがいいかな、と思うが、それを今思っても仕方が無い。
したがっていつものレストランに向かうのだが。


店員「あれ、今日はお一人様ですか?」

一方通行「お?あァ、たまにはな」


と、気づけば打ち解けていたいつものレストランのいつもの店員に、いつもの席に案内され、
いつも通り肉を頼もうとしたが、いつもとは違い、サラダも頼んだ。
店員はこれまた珍しい、と言いながら厨房へと向かう。

……最近は誰かと飯を食うのが当たり前になっていた。
今まで、そんなことがあっただろうか。誰かと飯を食って、下らない雑談をする。
一方通行が望んでやまなかった事が、ここ最近ではそれが当たり前のように為されていた。

幸せか?と、問われれば、幸せだ。と答えられるだろう。
198 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:19:52.36 ID:etWuCrr8o
しかし、それでいいのだろうか。
自分が今まで何をやってきたのか、忘れられるはずもない。

自分のような大罪人が、何故こんな人並みの幸せを得ているのか。

あのツンツン頭のお人よしなら、「お前は罪を償わなくちゃならない。でも、だからってお前が幸せになってはいけない理由なんてない」などと説教をかますだろうか。
確かに、それは一理あるかもしれない。だがそうじゃないんだ。

自分が殺した妹達が、一方通行に何を望むだろう。

死か?

苦しみか?

はたまた何も望まないか?

違う。そうではない。死んだ妹達は、「望むことも、望まないことすらも、何も出来ない」のだ。
だからこそ、これからどうするのか、と言う事を決めるのはいつだって生きている者達だ。

故に一方通行は考える。自分はこのままでいいのか、と。

分からない。本当にどうしたいのか、どうするべきなのか。
と、ここで注文した料理が届いたので、一方通行は一端思考を打ち切った。
199 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:20:26.13 ID:etWuCrr8o
・・・

御坂「はぁ……」


御坂美琴は常盤台のロビーのソファーに座りこみ、物思いにふけっていた。
実験の事、テレビの事、上条当麻の事、そしてこれからの事。

既に妹達の生存権は獲得できた。後は学園都市の闇が再び妹達に目をつけないか見張るだけだ。
しかし、それだけでは駄目だ。死んだ妹達の分まで、生きている妹達には幸せになってもらわなければならない。


童話とは違い、囚われのお姫様を、そこから救うだけではハッピーエンドにはならないのだ。


いつか妹達と、笑って昔話が出来るように。そのための環境を作らなければならない。

しかし、忘れてはならない。自分が、一方通行が、妹達を勝手に生んで勝手に殺した、と言う事実を。

御坂の結論は、こうだ。
いずれ自分が死んで、妹達の元へ行った時。
笑ってこんなことがあった、あんなことがあった、と言えるような人生を送ろう。
その為には、まずはテレビと、妹達のことだ。

上条当麻の事も気になるが、言いたくないことを無理矢理言わせる趣味はない。
自分で話してくれるまでゆっくり待とう。

決意を新たにした御坂は、9982号の元へ向かうべく、ソファーを立つ。
9982号は今日、病院に泊りがけで調整を行うらしい。
流石に泊まるわけにもいかないが、軽く話でも、と思う。
200 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:21:03.89 ID:etWuCrr8o
「おねぇさまぁぁ~!!(ハスキーヴォイス)」

すると聞き覚えのあるハスキーボイスが飛んでくる。


御坂「ってどこさわってんだコラァ!」


彼女もまた、常盤台屈指の能力者で、レベル4のテレポーターである。
更にジャッジメントに所属しているため、基本的には犯罪者を拘束するために能力をふるう。

しかし、御坂を相手にすると能力の使い方は一変する。
如何に不意をついて御坂に触れるか、揉みしだくか。
この欲望に忠実に生きる少女の名は。


白井「はぁああん!!」


御坂の後輩の、白井黒子だ。彼女は御坂を強く慕っている。
その思いが行きすぎることが多々あるのが玉にきずだが。


白井「ところでお姉さま、どちらに向かわれますの?」


よろしければお送りしますが、と白井は言う。

確かに、黒子のテレポートは便利だ。
しかし、向かう先に私とほぼ同じ造形をした人がいるとなると、話は違う。

十中八九、いやほぼ確実、いや百発百中で黒子は暴走するに違いない。
そう考えた御坂は事情を悟られぬよう、やんわりと断る。しかし、


白井「お、お姉さま、もしや……あの白い殿方との逢引を……!?」
201 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:21:39.37 ID:etWuCrr8o
御坂「は、はぁ!?何言ってんの!?」

白井「私、知ってますのよ!ここ最近白い殿方とよく一緒にいるのを!」


こないだは寮の近くまでお姉さまを送っていらしておりましたわね、
ああなんて優しい殿方なのでしょう、むきー!!いつかぜってーコンクリに沈めますの!!
と、この世の終わりはその白い殿方のせいだ、と言わんばかりにハンカチを噛む。

白い殿方。間違いなく一方通行だ。しかし御坂からしたら一方通行はただの友達で、
あちらは自分の事を友達と思ってるかどうかすらあやしい。


御坂「違うわよ、あれはただの友達」

白井「あら、珍しいですわね。
   お姉さまが友達だ、などと言いきれるほど、その白い殿方は素晴らしい人物なんですの?
   成程、それは一度でいいのでお目にかかりたいですわね。
   お姉さまともっと仲良くなるための参考になるやもしれません」
202 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:22:16.23 ID:etWuCrr8o
本当にこいつは軸がぶれないな。
と、目の前のストレートに自分の気持ちをさらけ出す白井を見て、クスリと笑う。

自分が思う事をはっきり伝える事の出来る白井の事を、御坂は少なからず尊敬している。
しかしそれを補って余るほどの変態っぷりを発揮しているので、素直に褒める事の出来ない御坂であった。


御坂「悪いけど、その白いのは関係ないわ。そのうち紹介してあげる。
そして今日はただのお見舞いよ、お見舞い」


と、御坂はヘラッと笑ってこれからの予定を教える。


白井「あら、そうでしたの。その方と何か話したい事でもあるのですね?」


白井は変態だが、空気は読める。ついて行くと言いだすと思ったが、あっさり引いてくれた。


御坂「まあ、そんなとこよ。悪いわね、気を使わせちゃって」

白井「いえいえ、お気になさらず。私はお姉さまの事を第一に思って行動いたしますから」


それでは、門限は守って下さいまし。と白井は別れを告げ、部屋に戻って行った。


御坂「……いつもありがとね、黒子」


御坂は白井への感謝を告げ、座りっぱなしで固くなった腰の為に伸びを一つして寮を出た。
203 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:22:43.60 ID:etWuCrr8o
・・・

9982号は現在、病院にいる。生きていくために体を調整するためだ。
体の調整が終わると、各妹達は世界中の学園都市の機関へ向かう事になった。

実際に会う機会は減ってしまうから少しさみしい気分になるが、ミサカネットワークでいつでも話せるのでそこまでではない。

それぞれミサカ達も、急に実験が凍結されたことへの戸惑いがあったが、
終わってしまったものは仕方なく、どうせ拾った命だからという事で、
これからは自分の為に生きてみよう。と、ネットワークを介した大会議でこれからの生きる道を決定した。

そんな中、9982号を含め、4名のミサカ達が学園都市に残る事になっている。
番号の若い順から、9982号、10032号、10039号、13577号である。
彼女らは各自病院や研究所での手伝いをする事で生計を立てることになるのだが。


13577号「どうにも納得が出来ません。と、ミサカは9982号の待遇の良さに不満を抱きます」
204 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:24:02.80 ID:etWuCrr8o
9982号は一方通行の元で暮らすことになる。
実際は、妹達が世界中に散らばるのが終われば、最早護衛は必要ない。と言う話だったのだが。
本人たっての希望で、護衛と言う名目でそのまま一方通行の元に9982号を置くことを決定した。

ところで、一方通行は学園都市第一位だ。実験などに大量の時間を費やしていた。
故に趣味など皆無。その上実験による報酬で金は山の様にある。
玉の輿も良いとこだ、学園都市第一位というブランドも相まって人生最早怖いもの無し。
その上顔も良いときている。それらが13577号にとって不満なのだろう。


9982号「とはいったものの、一方通行だって別にいやがってませんでしたし。
    と、ミサカは別に金の為何かじゃねーしとアピールします」

10032号「ミサカは別に9982号の処遇に不満はありませんが、
     最近9982号はミサカネットワークにつながらないことが多くないですか?
     と、ミサカはその間何やってたのだろうと素朴な疑問をぶつけます」

9982号「そ、それは……」


言えるはずもない。と言うか信じてもらえないだろう。テレビの中にいたなどと。
言えるはずもない。もしかりに信じられたとして、他のミサカ達を巻き込むわけにはいかない。

そう考える9982号は、10032号の質問に言い淀む。
205 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:24:53.44 ID:etWuCrr8o
10039号「ひょっとして……9982号は一方通行としっぽり通行……!?
     と、ミサカは全ミサカにこの事実を伝えねばなりません」


流石にそのダジャレはネタとしても品位としても駄目だ。


9982号「おいカメラ止めろ」

13577号「ず、ずるいです!と、ミサカも一方通行の寵愛を受け、金を―――」

9982号「何が寵愛か!!違います!事情は言えませんが!!と、ミサカは……」


と、弁明をしている最中、13577号は何かを思いついたようで、提案する。


13577号「一方通行の9982号への思いが本物か、テストしましょう。
     と、ミサカは3人に提案します」


テストの内容はこうだ、と13577号は説明する。
9982号とは別のミサカが一方通行の元へ帰り、9982号ではないといつ気付くか。
206 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:25:36.80 ID:etWuCrr8o
13577号「結構な時間を9982号と過ごした一方通行なら、朝飯前ですよね?
     と、ミサカはドヤ顔で提案します」

9982号「ぐぬぬ……これをクリアしたらもう文句はないのですか?と、ミサカは確認を取ります」


3人は、それで異論はありません。と同意した。
決行は翌日、と話し合った後、3人と別れる。

すると3人と入れ替わりのタイミングで、御坂美琴がやってきた。


御坂「おーっす、ゼリー買ってきたけど、食べる?」

9982号「おお、丁度いいところにお姉さま。実は相談があるのですが」

御坂「へ?ああ良いわよ」


じつはかくかくしかじか時価二億とミサカは事情を説明する。


御坂「あっはっは、面白いじゃない!良いじゃない、一方通行が気づけばいいんでしょ?」

9982号「それはそうですが……見分けなんてミサカ達でもつかないと言うのに……と、ミサカは……ミサカは……」


一方通行の事は信じたい。でも、見分けつかなかったら、悲しい。
9982号はもしもを想像して、うなだれる。


御坂「大丈夫でしょ、だってあんたにはこれがあるじゃない」


と、御坂は自身のゲコ太携帯を取り出し、9982号に見せた。


9982号「成程、そう言えばゲコ太がいましたね!と、ミサカは希望を見出せたことに喜びを表します!」

御坂「あ、でも、他の妹達は携帯持ってるの?」

9982号「あ」

御坂「まあ何にせよ、決まったことなんでしょ?一方通行の事信じてあげなさいよ」

9982号「ぐぬぬ、仕方ないですね……と、ミサカは一方通行への信頼を示すため、ここは引きます」

御坂「事の顛末、終わったら教えなさいよね」


御坂は9982号と軽く話した後、持ってきた見舞いの品を置いて帰って行った。


9982号は、その品をベッドのそばにある戸棚の上に置き、屋外へ向かう。
207 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:26:19.24 ID:etWuCrr8o
9982号『もしもし、一方通行ですか?と、ミサカは一応確認します』

一方通行『……あン?9982号か……どォした?』


一方通行は何やら肩で息をしている。9982号は、とりあえず言いたい事だけ伝える。


9982号『信じてますからね、とミサカは本心を打ち明けます』

一方通行『……あァ?』

9982号『用件はそれだけです、ではまた明日。と、ミサカは軽い挨拶を述べて電話を切ります。』


プチッと電話を切る。
はっきり言って一方通行には何一つ伝わらなかっただろう。
電話をした途端、言いたいことが全部吹っ飛んで行ったのだ。仕方が無い。


9982号「まあ……なるようになるでしょう。と、ミサカは後は静観するのみ、と言う事で高みの見物を決め込みます」


そして再び病院の中へと、吸い込まれるように入っていった。
208 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/27(金) 22:27:06.10 ID:etWuCrr8o
・・・

一方通行は既に体力の限界だと言うのに、軽くランニングをしながら帰路につく。
今までは能力に頼った生活をしていたので、
こうした日常から能力に頼らず生活することで体を鍛えようという考えだ。

するとそこに御坂美琴が現れた。


御坂「あれ、一方通行?どしたの?」


一方通行がランニングなど珍しい。と言うか奇跡?と言った具合でじろじろと一方通行の服装を見る。
見事にその辺でランニングしてそうな人のジャージ姿そのものである。

だと言うのに髪の毛は真っ白肌も真っ白なのだからものすごく目立つ。
一方通行は気にしていないようだが、はっきり言って


御坂「に、似合わない……」


似合わなすぎて笑える。
御坂の様子を見た一方通行はというと


一方通行「うるせェ……ンなこと、分かってンだよ……」


割と真剣にランニングをしていた。


御坂「ねぇ、ホントにどうしたの?第一位なのに体なんて鍛えて」

一方通行「あァ?俺はその能力に依存していたせいでこンなンなってンだよ……
     「もう能力使えませンから勘弁してください」で罷り通る世界にいるわけじゃねェンだ。
     それをあのテレビン中で改めて実感させられた」

御坂「成程ね……あんたも、色々考えてるんだ……」


御坂は邪魔しては悪いと思い、そこで別れを告げる。
一方通行は、ゆっくりだが、確実にペースを落とすことなく走り去って行った。


御坂「……私も、能力だけじゃなくて体鍛えないとなあ」


妹達を守る。口だけならどうとでも言えるだろう。しかしそれには力を伴っていなければただの夢物語だ。

御坂はその日、白井黒子に頼んでジャッジメントのトレーニングに混ざらせてもらうよう頼み込んだ。 
 
 
218 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:08:10.81 ID:rQrStusWo
とりあえずこれから一方さんが魔術サイド介入した時、違和感ないていどにキャラと絡ませて行こうかな

今日も日常パートです 
 
219 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:08:50.23 ID:rQrStusWo
<一方通行side>

何かがおかしい。一方通行がそう感じたのは調整を終えた9982号が一方通行の元へ戻ってきてから間もなくの事である。
違和感を感じたのは9982号の行動や言動だ。

9982号が一方通行の部屋に入るなり、何だこれは、と叫び声を上げた。

何だこれはと言われるのは仕方が無い。
一方通行の部屋はスキルアウトが逆恨みして荒して行ったのでものすごく荒れている。
ここ最近はそんなに無いのだが、いつ荒されるかわかったものではないので部屋はそのままにしている。

無駄な労力は使わない主義なのだ、一方通行は。

しかし、そんなこととうの昔に知っている9982号が何故今さらそんな新鮮なリアクションを取るのか。
ひょっとしてこの荒された部屋に大概嫌気がさしたのだろうか。

確かに、自分も一人ですむならまだしも、9982号と一緒に住むのだ。
いつまでもこんな荒れた部屋にいるわけにもいかない。

その考えを9982号に伝えたところ、なんだかものすごく嫌そうな顔をした。
わけがわからない。
220 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:09:16.73 ID:rQrStusWo
何にせよいつまでも部屋にいたところで空腹からは逃れられないので、いつものようにレストランへと足を運ぶ。
すると何を思ったのか9982号が腕を組もうとしてきた。反射した。

9982号は不満そうな顔をしたが、飯の話をしたら顔を輝かせた。そんなに腹が減っていたのだろうか。

しかし、いつものレストランに連れて行ったところ、表情が一変した。
いつもこの店で飯を食っていたというのに、何だその金持ちがケチケチしやがってみたいな顔は。

よくわからないが、とりあえずいつも通りドリンクバー券を二枚店員に渡す。
9982号はなにやらものすごくショックを受けた顔だ。いつもは喜んでドリンクバーへと向かうと言うのに。

9982号はしょんぼりとハンバーグを食べ終え、自分も完食したので会計へと向かう。
と、そこで財布を開いた時、カードを落としてしまった。ブラックカードだ。

9982号はそのカードを見て目を輝かせている。ブラックカードだけあって珍しかったのだろう。
しかし正直なところ、クレジットカードと言うものは使いたくない。

どこで誰が見ているかわかったものではないからだ。情報は残さないに限る。
よっていつも通り小銭を確認して、小銭では足らなかったので普通に夏目漱石さんを二枚差し出す。

昔の紙幣はさっさと使うに限る。つい最近は新渡戸稲造とも別れを告げた。
学園都市第一位たるもの、常に時代の最先端を行かねばならないのだ。

しかし、9982号の表情は暗い。ひょっとしたら去りゆく夏目漱石を悼んだと言うのだろうか。
やはり、妹達は感情のある人間だ、と改めて思う。

こんな紙幣にすら別れを惜しむのだ。そんなこと普通の人間にだってできやしない。
どうして人形が人間にすら出来ないことを出来るのだろうか。いや出来ない。
221 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:09:45.92 ID:rQrStusWo
一方通行は9982号の感情を再び知ることで、その表情に影をさす。

9982号が訝しげにこちらを見ている。
どうやら自分の表情が暗くなっているのを見て気を使っているのかもしれない。
自分は、9982号に何と言ってやればよいのだろうか。

その答えは、まだ一方通行には出ない。

しかし、ついポツリと、9982号に向かってつぶやく。
すまん、にくまずにはいられねェだろ……と。
だが、9982号はしばらく黙り込むと、そんなことはない、ありがとう。と返した。

ありがとう、だと?あれだけ殺した自分に向かって、ありがとうなんてありえない。

しかしここで、御坂美琴の言葉を思い出す。

「私がDNAマップ提供しなくちゃ、あんたという超能力者がいなくちゃ、
 久々葉や他の妹達は生まれてこなかったじゃない。
 私たちはそれだけは誇りに思うべきなのよ」

そうだ、9982号はおそらく、自分が生まれたのは一方通行や御坂がいたおかげだ、と言いたかったのだろう。
だがそれで勘違いしてはいけない。それでも一方通行は一万人近くの妹達を屠ってきたのだ。

つまり、今まで殺してきた事は許さないが、生まれた事それ自体には感謝をしている。

やはり、妹達はまごうことなく人間だ。しかし、お世辞にもその将来は明るいとは言えない。
一方通行は、妹達の将来を切り開くこと、それが唯一の贖罪である、と再確認して。

もう一度、すまない、と9982号に向かって謝った。
222 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:10:35.56 ID:rQrStusWo
・・・

<13577号side>

一方通行と9982号の関係を明らかにするため、
13577号が9982号と代わって一方通行の元へと行くことになった。
というか立候補した。なぜなら第一位の生態に興味がわいたからだ。

実験漬けにより、一方通行は金持ちのはず。
ならば普段の生活にそれがにじみ出る事請け合いだ。
13577号は、9982号の事よりも、一方通行の金で軽く遊べたら良いや程度の気持ちで一方通行の部屋へと向かう。

確か9982号の案内ではこの部屋のはずだ。

しかし13577号の表情は硬い。
なぜなら目の前の扉は本来の形を逸脱して大きく歪み、
その扉には死ねとかファックとか、汚い罵倒の落書きで占められていた。

扉はさておき外装は立派なマンションだ。内装も良いに違いない。
そう思って扉を開けると、そこは魔空間だった。

思わず何だこれはと叫んでしまった。
223 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:11:03.01 ID:rQrStusWo
荒された?誰に?まさか一方通行自身がこれを?
しかしそれだと扉の落書きの説明がつかない。
混乱する13577号をよそに、一方通行は何を今さら、と言った顔をしている。

一方通行は少し考えこみ、13577号はその様子をしばらく眺めていた。
すると一方通行は、こんな汚い部屋にいつまでも居るのも居心地悪いだろうから、引っ越しでもするか?と、13577号に尋ねた。

しかし、自分は9982号ではない。自分を差し置いて9982号が良い部屋に住むのは許せないと思い、嫌そうな顔をした。

一方通行は、何やら納得のいかない表情だ。だがすぐに切り替え、飯を食いに行くぞ、と13577号に伝える。
13577号は待ってましたとばかりに顔をほころばせる。
第一位の食事だ。質も第一位に決まってる。
そう考えると気分も上がり、思わず一方通行の腕を組もうとする。反射された。

こんな美少女捕まえて腕組み拒否とはなんて男だ、と憤慨した。
224 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:11:31.30 ID:rQrStusWo
さて、一方通行と13577号は、レストランについたわけだが、13577号は愕然とした。

―――天下の第一位様が、ファミレスだと?ケチケチしやがって!!

奢ってもらう手前、もっと高いもん食わせろ等と言えるはずもなく。
しぶしぶ一方通行について行くのだが。

更にショックを受けたのは、店内に入ってからだ。

―――天下の第一位様が、ドリンクバー無料券だと!!?ケチケチしやがって!!

イメージ崩壊。金持ちから庶民へと、一方通行株は暴落していった。
13577号はしょんぼりしながらハンバーグを食べる。美味しい。
あわよくばこのまま9982号と成り変って玉の輿を狙ってやろうとも思ったのだが。

幻滅だった。まさに幻滅びる。勝手に期待されて勝手に失望された一方通行からしたら迷惑以外の何物でもないのだが。
225 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:12:03.42 ID:rQrStusWo
2人は食事を終え、会計に向かう。すると一方通行が財布からカードを落とした。
あれは……




―――黒き富の象徴ッッッ!!!(ブラックカード)




あれをお目にかかるのは初めてだ。
ザ・金持ちの代名詞たるブラックカードを持つ一方通行は、やはり金持ちだ!


一方通行株急上昇ッッ!!復活ッッ!!一方通行株復活ッッ!!


そのまま会計で「じゃ、このブルァァック(巻き舌)カードで」とか言って支払いをするのだろうか。
これはかっこいい。濡れた。抱いてほしい。

そう思ったのもつかの間。一方通行はカードをしまい、小銭を確認しだした。
226 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:12:35.25 ID:rQrStusWo
……あれ?なんで小銭?貨幣は持たない主義だと思ったのに。

すると二枚の夏目漱石を取りだす。ふ、古い……
これが二人の夏目漱石ではなく、裏には紫式部、表には守礼門が描かれた紙幣を取りだされていたら、
一方通行株は間違いなく崩壊していただろう。

それほどの衝撃だった。

金持ちは貨幣を持たないんじゃなかったのか!

持っていたとしても諭吉オンリーじゃないのか!

期待させやがってファッキンジャップめ!

13577号は憤りを感じるが、すぐに考えを改める。
227 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:13:25.88 ID:rQrStusWo
ひょっとしたら、実験中止になったことへの責任で、多額の賠償金でも請求されたのだろうか。
いや、そうじゃないにしても、13577号を含む妹達の生活が安定するまでの費用を、
一体だれが払っていたのだろうか。

学園都市がそこまでしてくれるとは思えない。
だとすると、それは目の前で財布の中身を確認している白髪なのではないか。

それならつじつまが合う。

荒れた部屋は、おそらく研究中止になったことへの恨みを一方通行にぶつけたものだ。

そしてブラックカードがあるのに使わないのは、現金しか使わない事で、確実に出費を把握するためだ。

これらが意味する事は一つ。



一方通行は今現在、金を持っていないッッ!!



13577号は、途端に悲しくなった。
自分達を養ってくれていたのは、目の前の男だと言うのに、
勝手に金持ちだと思いこみ、勝手に失望した。こんな最低な話があるだろうか?
228 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:13:58.36 ID:rQrStusWo
おそらく、目の前の男は妹達に罪を感じて、そのような行動を取ったのだろう。
確かに、一方通行のしたことを、13577号は許すつもりはない。


だが、一方通行は真剣に妹達の事を考えてくれている。


実験道具でしかなかった妹達にとって、思ってくれる人がいると言うのは、新鮮であり、とてもうれしいものであった。
なのにその思いを踏みにじるような考えをしたことを、13577号は恥じ、その表情は暗くなる。

それを見た一方通行は、ぽつりとつぶやいた。

13577号はそれを余り聞き取れなかったが、「すまン……にくまず……」という部分は聞きとれた。
にく、というと先ほど食べたハンバーグの事だろうか。
そして一方通行の申し訳なさそうな表情。
これらが示す答えは一つ。
229 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:14:37.11 ID:rQrStusWo


―――すまン……肉、不味かったか……?



うわあああああああああ申し訳ねええええええええええええええ
奢らせといて肉不味いなんていえるかああああああああああ!!!
つうか普通に美味かったしいいいい!!!

思わず、そんなことはない、ありがとうと返した。

一方通行はそんな13577号を見て、あっけにとられていた。
しばらくしてもう一言、すまない、と言ってきた。

ああ、まさか妹達の一人であるミサカに感謝の言葉を言われるとは思っていなかったのだろう。
そうだ、確かにミサカは彼が行ったことを許すつもりはない。
しかし、少ない時間しか過ごしていないが、彼がミサカ達のことを思ってくれているのは確定的に明らかであった。

今日は、そのことを知れただけでも十分だ、と思う。

13577号は、病院から呼び出しを受けた、と一方通行に告げ、レストランで別れた。
230 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:15:06.75 ID:rQrStusWo
・・・

13577号「……と、言う訳で、一方通行がミサカ達の事を思ってくれているのは確定的に明らかです。
     と、ミサカは3人に結論を述べます」

10039号「つまり……どういうことだってばよ……?」

13577号は、もはや当初の目的など存在していなかった。

10032号「もうめんどくさいから9982号は一方通行の元で過ごすってことでいいんじゃないですか?」

9982号「それにしても……一方通行がミサカ達にそんなことをしてくれてたなんて……
    と、ミサカは実は金欠な一方通行に同情を隠せません」

9982号はなるべく金のかからない生活をしよう。
と心に誓うのだが、実は13577号の見当違いな勘違いであった。

しかし、妹達の生活費を捻出していたのは一方通行、という予想は見事に的中していたのだが、
それでも財力が底をつく事はなかった、とだけ注釈しておこう。

こうして、一方通行の預かり知らぬところで一方通行は妹達と絆を育んでいた。

以下略

一方通行は、「戦車」属性のコミュニティである「9982号(with妹達)」コミュを手に入れた。
231 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:15:32.38 ID:rQrStusWo
・・・

9982号(13577号)と別れた一方通行は、そのままトレーニングジムへと向かった。
今日はなにやら黄泉川愛穂と実戦形式で組み手をするらしい。

ただし、能力使用は一切禁止だ。
一方通行は考える。

はたして能力のない自分に何が出来るだろうか。
相手はアンチスキル。能力者を能力なしで抑えるプロフェッショナル。

おそらく何もさせてもらえずボコボコにされるのだろう。
自分に出来るのは、歯を食いしばって相手の動きを見て、吸収していくしかない。
実戦で戦えるようになるには、やはり実戦で学ばなければならないのだから。

痛いのは嫌だな、と思いつつも、この痛みに慣れておく事で今後役に立つはずだと考え、一方通行はジムの中へと入って行った。

黄泉川「おー、よく来たじゃん。上条はもうトレーニングはじめてるじゃんよ」

黄泉川は額の汗を軽くぬぐうと、仰向けに倒れている上条を一瞥する。
232 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:16:02.78 ID:rQrStusWo
一方通行「し……死ンでる……」

上条「死んで……ねぇ、よ……」

一方通行に突っ込みを入れつつも何とか立ち上がる上条当麻。
その姿はさながら生まれたての小鹿である。
よっぽどしごかれたらしい、と言う事が見て取れる。

黄泉川「それじゃあ、着替えて来るじゃんよ」

一方通行は黄泉川の言葉にうなずき、更衣室へと向かう。


すると、女子更衣室から思わぬ人物が現れた。

御坂「あれっ」

一方通行「あァ?なンで居るンだよ」

御坂美琴である。先日御坂は白井黒子に頼んで、アンチスキル・ジャッジメント共用のトレーニングジムへ通う事を許されたのだ。
ただし、その場合は白井も一緒に行くという条件付きで。

白井「あら?あらあらあらあらあら?あなたもしやお姉さまのご友人の……」

一方通行「あン?……まァ、そォだな」

一方通行は御坂の友達。本人がそれを認めてくれて御坂は少し嬉しくなった。
233 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:16:42.52 ID:rQrStusWo
白井「何でその貴方がこんなところにいらっしゃるのですか?
   よろしければ教えていただけませんか?」

一方通行「あァ、知り合いのコネでなァ。ここ使って体鍛えても良いってンでな」

白井「そうなんですの……あ、申し遅れましたわね。
   私、白井黒子と申しますの。おもにお姉さまの露払い役を仰せつかっておりますわ」

御坂「それはあんたが勝手に言ってるだけでしょうが」

一方通行「……「一方通行」だ」

白井「一方通行、ですの?それは能力名でしょうか」

一方通行「まあ、そうだ。呼び名は能力名でかまわねェ」

白井「それで、どうして一方通行さんは体をお鍛えに?」

一方通行「ン?そりゃあれだ。俺の能力の性質上、体なンぞ鍛えなくても問題ないンだが、
     能力に頼りすぎたせいで……自分で言うのもなンだが、虚弱体質なンだよ」

白井「それは……なんとも……」

一方通行「あァ、そうだ超電磁砲。上条もここに居ンぞ」

御坂「へ?嘘!?……いや、あいつなんて関係ないわよ!」

白井「まぁ!お姉さまったらあの類人猿などとお付き合いなさってますの!?」

御坂「そ、そんなことないわよ!!」

一方通行「まァ、アンチスキルの奴にしごかれてるからなァ。
     今頃他界してるかもなァ」

御坂「そ、そんな!!今すぐ行かなくちゃ!!」

白井「お姉さま……焦らなくてもアンチスキルの方がそんな暴挙に出るわけありませんの……
   それでは一方通行さん、ごきげんよう」

一方通行「あァ、俺も着替えたら上条のとこ行くんだけどなァ」

白井「あ、お姉さまはジャッジメントの方で一緒にトレーニングすることになっておりまして、
類人猿と会う事はないと思いますのであしからず」

御坂「え、なんでy」

二人はテレポートしてその場を去った。
234 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:17:15.67 ID:rQrStusWo
一方通行「……テレポーターか」

もし少しはまともに動けるようになったら、あの白井という少女にも組み手を頼むことになるかもしれない。
何にせよ今は着替えて黄泉川に鍛えてもらわねば。
一方通行は男子更衣室へと入っていった。

・・・

死線はある程度越えている。
実戦もある程度こなしている。

しかしそれは、能力ありきでの話だ。
同じ無能力者という条件でなら。

黄泉川「ほらほらどうしたじゃん、攻めないと勝てるもんも勝てないじゃん」

一方通行「……ゼェ……ハァ……」

一方通行は例え自分が100人になっても目の前の巨乳には勝てないと感じた。
だがしかし。突破口はある。おそらく黄泉川はその突破口をわざと見せているのだと考える。
観察眼。一方通行のそれを養うために。
ヒントは示すが、そこから答えに持っていくのは生徒が自分で考える。
成程、黄泉川ほど教師に向いている人物はいない。

目まぐるしく状況が動く実戦のように見えて、実は黄泉川の動きには一定の法則があった。
235 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:17:57.10 ID:rQrStusWo
黄泉川「来ないならこっちから行くじゃん!」

黄泉川から攻撃を仕掛ける時、拳か足かはわからないが、
右左右右左右左左、と言う具合で一定のリズムの攻撃を8回放つ事がわかった。
それがわかるまでに随分とボコボコにされたが。

一方通行「ッ……!(右左右右左右左……!)」

ここしかない。そう感じた一方通行は、黄泉川の左ストレートに合わせる。
すると黄泉川は笑った。その笑みは、突破口を見つけた一方通行を褒めるものではなく。


罠にかかったな、と言う獰猛な狩人の笑みだった。


黄泉川「お前今、私がわざとヒントあげてるとか思ったじゃん?」

一方通行は何が何だかわからない。

黄泉川「実戦はそんなに甘くないじゃんよ!」

黄泉川は、一方通行がはなった左をかわす。
更に自らの左ストレートの勢いそのままに、一方通行の懐へと潜り込む。
ジャージの襟をつかむと黄泉川は一方通行の足を払いそのまま床へ倒した。

一方通行「ガフッ……!!」

黄泉川「いやあ、私が攻撃する時の攻撃パターンを読んだのまでは良かった。
    だけどそれは一方通行へのヒントじゃなくて、ただの罠じゃん」

ひょっとして、私の事良い教師だ。とか思っちゃったじゃん?ぷっぷぷー
と言うむかつく答え合わせを聞いて、一方通行は意識を手放した。
236 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:18:48.39 ID:rQrStusWo
・・・

目を覚ますと黄泉川愛穂と上条当麻が組み手を行っていた。
やはり一方通行と比べると、肉弾戦では上条の方に軍配があがるようで、
黄泉川は上条に対してはかなり熾烈な攻撃を放っていた。

黄泉川「おっ、ようやく気付いたじゃん」

黄泉川は上条の攻撃を片手で払いながら一方通行の方へと向く。
その余裕っぷりに頭に来たのか、上条は黄泉川の死角からハイキックを放つ。
しかし何処に目があるのか、明らかに見えてなかったはずなのに、ちょっとしゃがんで回避する。
驚愕する上条の顎にそのまま体ごと浮かび上がるアッパーをぶつける。

上条は何とかガードを試みるも、黄泉川はガードごと殴り抜け、
上条の体は宙へ浮き、そのまま地へ落ちた。

黄泉川「いやあやっぱり上条の方が喧嘩慣れしてるじゃん?
    土台は結構出来上がってるじゃんよ。まあ筋トレはやってもらうけど」

一方通行の方はまずは体作りからじゃん。と、

一方通行「あァ、端からお前に勝てるなんて思っちゃいねェよ」

いずれぶっ飛ばす。と黄泉川に向かって言うと、その調子じゃん!と一方通行の頭をがしがしと撫でる。
普段なら反射をするところだが、今日は何故かされるがままだった。
237 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:19:15.31 ID:rQrStusWo
黄泉川「なーんかいつもと違って素直じゃん……?
     ははーん、ひょっとして、こうして褒められるの、初めてじゃんよ?」

一方通行「あァ!?余計なお世話だっつーの!!」

黄泉川「あっはっは!照れるな照れるなじゃん!可愛げない奴じゃんって思ってたけど、
     こうしてみると結構可愛いとこあるじゃんか!」

黄泉川は更に強く頭を撫でる。頭に来た一方通行は反射した。

一方通行「うるせェうるせェ!!俺ァ筋トレすっからなァ!!
      お前らは勝手に殴りあってろォ!!」

ずんずんとその場を立ち去る一方通行。黄泉川は、その背中をクスリと笑いながら見送った。

以下略

一方通行は、「剛毅」属性のコミュニティである「黄泉川愛穂」コミュを手に入れた。



黄泉川「さぁて……上条はこのまま実戦形式を続けるじゃん……?って、どこいくじゃん?」

上条「い、いやあ……上条さんも筋トレをしてこようかなーなんて思っちゃったりしてるんですが……」

黄泉川「何言ってるじゃん、上条は土台はそれなりなんだから、戦う技術メインで鍛えるんじゃんよ」

上条「あ、あはは……じゃあちょっと休憩がてらランニングマシーンでも……」

黄泉川「さあさあ、どこからでもかかってくるじゃん!」

上条「……不幸だー!!」

上条の断末魔は、誰にも届かなかった。
238 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/05/29(日) 03:19:45.28 ID:rQrStusWo
・・・

一方その頃

御坂「はぁ……はぁ……能力ないと、やっぱり黒子のが強いわね……」

白井「うふふ、当然ですの!それなりに鍛えてますので……」

白井黒子は歓喜していた。
組み手と言う名目の元、あこがれのお姉さまに触れたい放題なのだ。
ココはひょっとして天国か何かか?と勘違いしてしまうほどである。

しかし相手は常盤台のエース。運動能力もかなりのもので、寝技ばかりかけていた白井の技は既に見切られてしまったようだ。

白井「(流石お姉さま……ですが、まだまだですの)」

見切られたなら、別の攻撃を使えばいい。
例えば打撃技をもっと多様し、フェイントとして使って、寝技に持ち込めばいいのだ。

しかしそれもすぐに看破される。

御坂「あんたさあ」

白井「なんですの?お姉さま」

御坂「私に触れたいがために最終的に寝技に持ち込んでるんじゃないでしょうね」

白井「ギクッ!……そんなはずありませんの!!
ジャッジメントの性質上、相手をとらえる術に長けているために、
寝技になりやすくなっているだけですの!」

御坂「成程ね……じゃあ、寝技禁止ね」

白井「そんな!殺生な!!」

御坂「……」

ジトーっと御坂は白井を見つめる。
その視線に耐えられなくなった白井は。

白井「ッ……!お姉さまぁ~~!!」

しらいの こうげき!
ルパンダイブ!
しかし こうげきは はずれた!

みさかの こうげき!
かみなりパンチ!
こうかは ばつぐんだ!


あぁ~ん!と、艶めかしい声が響き渡った。 
 
 
248 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/01(水) 06:22:45.95 ID:JPTGxBfao
シリアス編導入部です 
 
249 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/01(水) 06:24:05.94 ID:JPTGxBfao
上条当麻はお人よしである。
困っている人が居れば誰でも助けるという性癖を持っているため、
気づけば重大な事件に巻き込まれていた、なんてことが多々ある。

つい先日も、御使堕しなどと言う事件に巻き込まれた。
そこで、センスの悪い恰好をした巨乳の魔術師に幻想殺し消失の事実がばれてしまうのだが。
しかしその事件自体には一方通行は関与してないので、ここでは割愛させてもらう。

何にせよ、気づけば事件に巻き込まれていた。などと言うのはただの言い訳にしかならず、
夏休みも次の日は始業式だと言うのに、上条は宿題を一つも終わらせていなかった。
故の土下座である。学園都市第一位の頭脳を持つ一方通行相手に。


一方通行「いや……確かに今日は黄泉川もトレーニングは休みじゃンとか言ってたけどよォ」

9982号「……見事な土下座ですね。と、ミサカは全身から漂う誠意から本気を感じます」


どうしたものか。

ここ最近はマヨナカテレビに人も映らないし、テレビの中を探索しても大したものは得られなかった。
対シャドウとの実戦にも慣れてきていた。
とは言っても、上条はここ最近学園都市外部に強制退去させられていたので、余り実戦はこなせていないのだが。

ところで、毎日が夏休み状態の一方通行には関係ないことだが、御坂美琴や上条は学校がある。
それゆえ、8月31日、すなわち今日くらいは休みにしようと昨日決めたのだが。


一方通行「……宿題くれェ出てからすぐに終わらせとけよなァ……」


と、呆れた目で上条を見つめる。


9982号「夏休み始まって1週間で宿題は終わらせとくものですよ。
まあ、きっーとまーいにーちが日曜日なミサカ達が言っても説得力皆無ですけどね。
    と、ミサカは説得力半減な説教をします」

上条「はい。その通りでございます、閣下、公爵夫人」


一方通行と9982号の機嫌を損ねないように気を使う上条。
こんな交渉する暇があれば問題の一つでも解けばいいのに、と二人は思うが。


一方通行「まァ、わざわざこンなとこまで来て収穫無しじゃお前も報われないわな。つゥか9982号が夫人とかありえねェし」


そう、今現在上条は土下座をしている。一方通行の見るも無残な部屋の中で。


9982号「痛そうですね。幸い血は出てませんが。と、ミサカは能天気に上条当麻の身体を分析します。
    つーかそんなにミサカが不服ですか?」
250 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/01(水) 06:25:14.70 ID:JPTGxBfao
ところで、本当にすまないという気持ちで胸がいっぱいなら、どこであれ土下座はできる。
例えそれが肉焦がし、骨焼く、鉄板の上でも。という名言がある。
肉焦がし、骨を焼く、鉄板の上……ではないが、何かの破片が散らばっている床の上で上条は見事な土下座を成している。

ここまでされて帰れはないだろう。そう考えた一方通行は。


一方通行「何にせよ、こンなとこで勉強なンざ出来ねェだろ。場所を変えるぞ」

上条「本当か!?サンキュー!!」


一方通行の言葉を聞き、まるで祖国の英雄が凱旋したかのように歓喜する。
どれだけ宿題を貯め込んでいたんだろう、と一方通行は思うが。


一方通行「(まァ、最近の学生が何を勉強してっか見てみるのも悪くねェ)」


だが、メンドクサイ方がデカいわなァ。と気だるげにつぶやきつつ、部屋を出る。
こうして、一方通行と、9982号、上条当麻の3人は上条の自宅へと向かった。
そォいえば、居候は?と上条に尋ねるが、それなら担任の教師に預けてきた。と言う。

別に居ても良いのに、とは思うが、おそらく居候は何か訳有りなのだろう。


一方通行「……なンかその居候に関して困った事があれば……相談くれェ、乗ってやる」

上条「……あぁ、ありがとな」


急にしんみりとした雰囲気になる二人をみて、9982号は


9982号「(何これ?まさかのBLルート?あかんあかんそれはあかんて)」


見当違いな思考をしていた。
251 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/01(水) 06:26:21.39 ID:JPTGxBfao
・・・

御坂美琴の朝は早い。
というのも、淑女たるもの優雅な朝を過ごすためには準備が必要ですの、
などというありがたい説法の元、白井黒子が無理矢理起こすからである。

御坂は特に朝が弱い、と言う訳では無いが、別に早起きする必要も無い日に早起きするのは好きではない。
故に休みの日はゆっくり眠りたいところなのだが、起きなければ白井が目覚めのキッスを、などとふざけた真似をするために、嫌々ながらも早起きをするのである。

かくして、ラジオ体操が行われる程度の時間に起きた御坂は、今日はテレビ探索も白井との組み手もお休みなので、特にやることがない。

とりあえず朝食をとり、身だしなみを整え、後は部屋でごろごろ(雷的な意味では無い)するだけなのだが。


白井「いけません、いけませんわお姉さま!常盤台のエースと言うものは、
   常盤台中学の生徒たちにとって看板であり、模範となるべき存在。
   そんなお姉さまが部屋でごろごろするなど、許されるわけありませんわ!
   残念ながら私、本日はジャッジメントのお仕事があるので、お姉さまと一緒にはいられませんけども、
   お姉さまはちゃんと外にでて女を磨かねばなりませんのよ!」


白井がものすごくうるさいので、渋々外に出ることにした。

女を磨く。と言われたところで何をすればいいのかさっぱりである。
そもそも、1日や2日で立派な淑女になれるかと言われたらそうではない。
日々の生活の中で少しずつ積み重ねていくものである。

淑女は一日にしてならず、なのだ。しかしこれは裏を返せば、今日一日くらいサボったって問題ないのではないか?
どうせ一日単位で見た時の淑女経験値(?)は微々たるものである。
0,001くらいならニアリーイコールで0と考える事が出来るんだし。

などと微分というか極限っぽい思考を重ねていると。
252 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/01(水) 06:27:41.30 ID:JPTGxBfao
海原「おや、御坂さんではありませんか。奇遇ですね、今日はどこかおでかけですか?」


目の前には背の高い、さわやかイケメンボーイがいた。
御坂は正直言って、目の前のイケメンが苦手だ。
奇遇ですね、とか言う割には常盤台の寮の前に居る事が多々あり、どうみても狙ってんだろと突っ込みを入れたくなる。

今までは街中であった時軽く立ち話をする程度だったのだが。何が彼をここまで積極的にさせたのだろう。
ひと夏がおりなす魔法か何かだろうか。夏の魔法。マジカルサマー。マジカルサマナーは悲しいけど糞台。


御坂「あー、まあそんなところねー。待ち合わせしてるの」


棒読みで嘘をつく御坂。海原は鈍いのかそれとも察したけど気づいてないフリなのか。


海原「そうですか。でしたら、道中ご一緒しても?」


普通に振る、と言う考えもあるが、この海原光貴と言う男、常盤台の理事長の孫息子なので余り邪険にするのも気が引ける。
と言うか普通に良い人だ。自分には合わないが。

まず、御坂は自分が感情的な人間であると理解している。そのため失礼にもいつも自分をビリビリなどと呼ぶ人間を相手にした方がやりやすい。
一方で海原は理知的な人間で、御坂と比べ「大人」なのである。
年齢的にもそうだが、精神的に成熟している海原を相手にすると、何だか頭が上がらないのだ。
友達相手と言うより優しい上司というか。何にせよ白井や上条、一方通行や9982号と比べて何だか気を遣ってしまうのだ。

故に長時間目の前の温厚そうな男を相手にするのはとても疲れるので、適当に切り上げてこの場を去りたいのだが。
しかし、そうは問屋がおろさない。
253 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/01(水) 06:30:19.19 ID:JPTGxBfao
海原「あれ、どうしたんですか、待ち合わせ場所に今から行くのでは?」


どうみても、ついてくる気満々である。
本当はコンビニ行ってちょっと本立ち読みした後ふらふらとセブンスミストでも行こうかなーなんて思っていたのだが、隣に海原が居ると非常に気まずい。

海原の方は全く気にしてないのだが、御坂が勝手に気まずい気分になるのだ。

兎にも角にも、待ち合わせなんていう約束はしてないため、待ち合わせ場所など存在しない。
適当な場所に行っても、おそらく海原は来ない待ち人が来るまで待ち続けるだろう。

これは非常に拙い。拙いって使うと文章っぽいよね。
それはさておき、目の前の男をどう撒こうか。思考はそちらへと向かって行く。

・・・

夏季休暇課題掃討大作戦を決行することとなった一方通行と上条当麻、9982号の3人は、
何もない上条家よりも冷房効いたファミレスで勉強した方が勉強もはかどるのではないか?食べ物もあるし。
と言う事で急遽いつものレストランに向かうことにした。


上条「いやあ、悪いななんか。勉強教えてもらう上に奢ってもらうなんて」

9982号「そうですよ、どこにそんなお金があるんですか?と、ミサカは一方通行の財力に不安を覚えます」


先日の13577号と入れ替わり時に一方通行は金欠と言う勘違いをしている9982号は、見当違いな心配をしている。


一方通行「はン、お前らの飯代なンぞ痛くもかゆくもねェ」


非常に心強い発言をする一方通行。
しかし、近い未来、吸引力の違うただ一人のシスターと出くわすことになるのを、この時は誰も知らなかった。


上条「つーかお前らって学校とか行ったりしねえの?」

一方通行「俺は行く必要ねェなァ。実験してたら必要な情報は全部覚えたしよォ。
     それに能力を操る為に昔は必死こいて勉強したからなァ。もう学ぶ事なンざねェ」

9982号「ミサカも特に行く必要はないですね。必要な情報は全て学習装置(テスタメント)で得ていますし。
    と、ミサカは自身の有能さを自信持ってアピールします」

上条「成程なあ……てか一方通行の事情はわかるけど、テスタメントって何だ?」


聞き覚えのない単語に疑問を浮かべる上条。9982号は、簡単に説明する。


9982号「そうですね、一言でいえば情報を植え付ける機械、でしょうか」

上条「何だそれ!ずるいぞそれ!チートよくない!」


知識を植え付ける機械。そんなものあれば勉強いらずではないか。
そう考えた上条は9982号を羨む。しかしこれは、人格形成をするための機械でもあるので普通の人間用としては使えない。
その旨を説明するとガックリする上条。
254 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/01(水) 06:31:43.42 ID:JPTGxBfao
一方通行「まァ、勉学は一日にしてならず、だぜェ?
      だがこの第一位が教鞭をふるうンだから、今日は覚悟しとけよ?」


一方通行は、ニヤニヤとどんな風にいじってやろォか、などと非常にどSな思考をしている。
そんな思考を察したのか上条は、その一言に恐怖した。自分は始業式に無事に出席できるのだろうか。これから始まる地獄を想像して、肩を震わせた。

すると、目の前の曲がり角から青髪にピアスをした少年と、金髪サングラスのアロハシャツを着た少年が現れた。


青髪「おや?あそこに見ゆるはカミやんやないですか、しかも可愛い女の子も連れとる!死ね!
    リアルで充実略してリアみつるは死ね!」

土御門「これは絶対に許せんぜよ!このフラグ男、一体どうしてくれようかにゃー?」


如何にも怪しいです、と言わんばかりの風貌をした二人を見て、一方通行と9982号は眉をひそめるが、
どうやら上条の知り合いだと言う事を知り、少し表情を和らげた。


上条「うげ、お前らかよ」


上条・土御門・青髪ピアス。この3人は三馬鹿(デルタフォース)と呼ばれる程の馬鹿猛者である。
そんな3人が夏休みの課題など終わらせているはずもない。


青髪「なーこの子ら誰なん?紹介したってやー」

土御門「それはきっと叶わないぜよ。絶対カミやんのお手つきに決まってるにゃー」


その軽薄そうな態度にイラッと来た一方通行は、


一方通行「なァ、こいつら張り倒して良いかァ?」


凶悪な笑みを浮かべ、能力を発動させようとする一方通行を何とか上条はなだめるようとするが、


9982号「確かにこいつらなんかイラッと来ますね。と、ミサカは何処からともなく鋼鉄破りを取りだします」

上条「だああああ!ストップストップ!!落ちつけお前ら!こんなんでも一応友達だから!」

青髪「こんなんってカミやん酷いこというわあ。というか目はきっついけどアルビノ美人に張り倒されるなら文句はないでぇ!」

土御門「あっはっは、こいつ多分男ぜよ?」

青髪「んな!?そ、そんなはずは……いやむしろこんなに可愛い子が女の子なわけが無いっちゅーことか……!?
   なあ、どっちか確認したいから……
   ―――下、脱いでmうぎゃあああああ!!!」
255 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/01(水) 06:32:43.70 ID:JPTGxBfao
余りの変態っぷりに耐えきれなくなった二人はそれぞれの持ちうる最大の攻撃力をもって、青髪を沈めた。
しかし、その顔には苦悶の表情はなく、余りの気持ちよさに昇天してしまったかのような恍惚の笑みを浮かべている。
二人は、本気で引いていた。


上条「とりあえず、こいつらは友達だ!一方通行と、御坂久々葉だ」


これ以上放っておくと一方的な虐殺になりかねないので、上条が仲裁に入る。


一方通行「……一方通行だ」

9982号「……御坂久々葉です」


青髪に対して強く敵対心を露わにする二人だが、そんなことは全くお構いなしに青髪ピアスと土御門は続いて自己紹介する。


青髪「どーも、青髪ピアスって呼んでやー。好きなものは女の子。嫌いなものは男。ただし可愛ければ大丈夫やで
   好きなジャンルはあげたらキリないから割愛させてもらうわ」

土御門「土御門元春っていうんだにゃー。まあ、よろしく頼むぜよ。
    つーか御三方はこれから何かするのか?」

上条「ああ、こいつらに勉強教えてもらおうかと」


すると青髪ピアスと土御門の表情が一変する。


土御門「カミやんは……デルタフォースを裏切る気ぜよ!!?」

青髪「裏切るだけじゃなく、可愛い子らに勉強教えてもらう形で裏切るなんて……
   うらやm……けしからんでぇ!!」

一方通行「おい今の話し方、俺もふくンでやがったろォ?
     なあ張り倒して良い?張り倒して良い?」

9982号「こんな濃い連中これ以上相手してられるか、ミサカは部屋に帰るぞ!それが絶対安全なんだ!!」

上条「ご乱心!ご乱心めさるな!陛下!殿下!!」
256 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/01(水) 06:33:55.00 ID:JPTGxBfao
一方通行「だァれが陛下だァ!!」

9982号「あ、ミサカが一方通行の子供って設定ですか。と、ミサカは逆の方が良いなあとどうでもいいことを考えてみます」

土御門「俺らは宿題なんぞする気はないぜよ。
    カミやんの邪魔しないようにここは退散しとくにゃー」

青髪「せやなー、これから僕らとらのあな行かなあかんねんて」


とらのあな。皆ご存じとらのあなだが、一方通行はそんな店の事など知らず、


一方通行「ほォ……自ら虎穴に向かうたあ存外に根性あるじゃねェか」


天然ちゃんな発言をする。


9982号「多分一方通行が想像するのとは違うと思いますよ。
と、ミサカは目の前の青髪ピアスがそんな大それたことできるわけないと断言します」

上条「そ、そうかそうか!じゃあな、土御門、青髪ピアス!」


これ以上一方通行を怒らせたら面倒だ、と言う事で3人は速やかに土御門達と別れた
257 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/01(水) 06:34:56.14 ID:JPTGxBfao
・・・

御坂美琴は思考を加速する。ここで海原光貴と後腐れなく別れる方法を。
しかし思いつかない。ここで電話をかけるのもあやしまれそうだ。

御坂は海原のことを苦手としているが、かといって嫌いと言う訳ではない。
故に何も言わず逃げ去るという方法がとれないのだ。

このように思考を重ねている間にも、やれ美味しい寿司屋があるだの、
やれ流行りの服がどうだの、やたらとデートのお誘い攻撃を海原は繰り出す。

これ以上断り続けるのも忍びなく感じ始めたその時、神は舞い降りた。

目の前に、いつものレストランへと向かう3人組が居たのだ。
これは僥倖と言わんばかりに、3人へと駆けよる。











御坂「どるーん、待ったぁ~?」


その時、3人に電流奔る。

目の前の乙女オーラ全開で背景にキラキラが満遍なく振られてそうな、
そんな完全無欠に怪しい御坂を完全無視する事を瞬時に決定した。


そして無視。
258 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/01(水) 06:35:54.80 ID:JPTGxBfao
御坂「って、無視すんなやゴルァアァアアァア!!!」


レスラー顔負けの見事なタックルを炸裂させるものの、
怪我しないようにやんわりとベクトル操作された。

反射では危険だと判断されるほどの威力を持ったタックルだった。
上条は自分に特攻してこなくて良かったと本気で思った。


海原「その方々が待ち合わせ相手ですか?」


待ち合わせ相手、何のことやらと首をかしげる3人。
御坂は話をあわせて!と、小声で囁く。何だかわからないがとりあえず合わせることにする。


上条「ああ、今から俺の宿題終わらすの手伝ってもらうんだ」


ここで9982号は閃く。現状を打破する圧倒的閃きっ……!
ざわざわと言う効果音の元ヒソヒソと御坂に提案する。


9982号「ここでお姉さまが上条当麻に勉強を教えたら良いんじゃないでしょうか?
    と、ミサカは上条当麻と二人きりになる策をさずけます」


御坂はその提案にハッとした顔になる。


御坂「乗った!」

即決だった。

9982号「そう、そこの男は我が姉御坂美琴に勉強を教えてもらうのですよ」

一方通行は怪訝そうな表情をするが、9982号に話を合わせろ、と言われたので黙っておく。

御坂「そう!わたくしこれからそこの男と勉強会するのよ!!2人きりでな!!」


上条がハァ!?と、どういう事やねんとリアクションを取る。
9982号もそれは演技力悪すぎだろ……と言った呆れ顔をしている。
一方通行は無表情で事の顛末を眺め、海原はなんだか気まずそうな顔だ。

そして御坂の声に呼応するように窓がバタバタと開けられる。
実は御坂は常盤台の寮の前からほとんど移動していなかったのだ。

その窓からは常盤台の女生徒の姿が。なにやらヒソヒソと小声で話している。
御坂に瓜二つな9982号の姿もそこにあるのだが、全ての視線は御坂と上条に集中していた。
どう考えても御坂の彼氏がどうたらとかそんな話だろう。
ついでに白井黒子は白目をむいている。

すると、窓の一つから、寮の最高責任者が現れた。

寮監との距離は離れている。故に声までは聞こえなかったが、口の動きから何となく何が言いたいかわかった。

『寮の前で逢引とはイイ度胸だな。覚悟は出来ていると言う事か、面白い』

その後妬ましい、とつぶやいたのだが、そのつぶやきは誰にも届かなかった。
どなたかお客様の中に寮監様とお付き合いして下さる殿方はおりませんか?

それはさておき。

顔を真っ赤にして頭から煙を噴きだす御坂は、ヤケクソ気味に笑いつつ、上条の手を引き走り去った。
一方通行も9982号が常盤台の前に居ると怪しまれそうなので、能力を使って早々に離脱する。
そこにはポカンとした海原だけが残された。哀れ。 
 
265 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/02(木) 20:31:57.07 ID:khmnQkzHo
常盤台の寮から離脱した一方通行と9982号の二人は、とりあえず飯を食べるためにいつものレストランへとやってきた。

いつもの店員が案内にやってきたが、どうやらいつもの席には先客がいるようだ。
仕方が無いので2人は適当な場所へと案内してもらった。


9982号「しかし平和でいいですね。と、ミサカはこんな日が続けばいいなあと願望を露わにします」


食事を終え、ドリンクバーでソーダ+なっちゃんオレンジを混ぜたものを飲みながらのほほんと話す9982号。
一方通行はズズズ、とコーヒーを飲みつつ無言で頷く。

今は、学園都市暗部の事もあるため、毎日こうやってのんびり過ごす事は出来ない。
しかし、いつかは毎日こうやってゆったりとした時間を過ごせるようにしなければならない。
そのためにはまずマヨナカテレビと暗部に関連が無いか調べなければならない。

『マヨナカテレビ』と『暗部』。この二つの単語が頭に浮かんだ時、何かが引っかかった。
何か簡単な見落としをしている。そんな気になるのだ。



―――何を見落とした?



状況としては、9981号と19090号は、おそらくマヨナカテレビに放り込まれて、死んだ。
……そうか、放り込まれて、これがおかしい。

だってそうだろう。初めてテレビに入った時、9982号や御坂美琴は自分の力ではテレビに入れなかったのだから。

それならば、最初から入れた一方通行と、二人の違いは?
おそらく、ペルソナだ。

そう考えるとやはり暗部にもペルソナを扱える人間が居る?
もしこれが事実だとして、妹達の殺害の動機は?

とここで、芳川桔梗から連絡が入った。伝えたいことがあるから来い、だそうだ。
一方通行は、残ったコーヒーを一気に飲み、一旦思考を終える。
266 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/02(木) 20:32:26.05 ID:khmnQkzHo
一方通行「芳川から連絡が入った。何か知らせたいことがあるらしい」


9982号「何でしょうか、嫌な知らせじゃなければ良いのですが……
    と、ミサカは万が一を想像して気を引き締めます」


妹達が更に失踪した、などという知らせだけは聞きたくない。
一方通行は携帯を閉じ、そのままギュッと握りしめた。

さて、芳川から連絡が来た、と言う事で2人は会計をすまそうと席を立った。
するといつもの席に居た先客から声が聞こえた。


「結局、サバ缶が一番キてるってわけよ」

「あんたはいつもそれじゃない。まあ私もいつも鮭弁だけど」

「どうしてそこまで超魚好きなんでしょうか。いや、別に超悪いってわけじゃないんですけどね」

「……南東から信号が来てる……」


―――アイテム。麦野沈利と可愛い滝壺理后、可愛い絹旗最愛とフレ/ンダの4人からなる暗部組織。


ぼんやりとそのやりとりを聞いていたのだが、超、超、と特徴のある口調に何やら聞き覚えのある一方通行。
それは誰だったかと思い出そうとするのだがその前に、鮭弁がどうたら言っている客を見て顔が強張る。
9982号はそんな一方通行の様子を見て頭にはてなマークを浮かべている。



―――学園都市第四位『原子崩し(メルトダウナー)』麦野沈利。
267 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/02(木) 20:32:52.32 ID:khmnQkzHo
その名前は以前聞いたことがあった。
実験中に能力が暴発して以来姿を消したとも聞いていたが、おそらく暗部入りを果たしたのだろう。

超能力者は大なり小なり暗部と関わりを持たざるを得ない。

たとえ、それを超能力者自身が望まないとしても。
御坂美琴がいい例だろう、あれは暗部被害者も良いところだ。

何にせよ、ここであの4人組に見つかると面倒そうなので、さっさと会計をすませて店を出ようと一方通行は考えた。

しかし、フレンダが一方通行の姿に気づいてしまった。


フレンダ「あれ?あそこに居るの『一方通行』と『超電磁砲』じゃない?」


面倒なことになりそうだ、と内心舌打ちをする。
しかも、9982号の事を『超電磁砲』だと勘違いさえしていた。

一方通行の方に喧嘩を売るならまだしも、9982号の方を狙ってきたら不味い。
そう考えすぐにこの場を立ち去ろうとするが。


麦野「ねえあんたたち、一方通行と超電磁砲よね?
ちょーっと面貸してほしいんだけどなー?」


ここは2人にとって行きつけのレストランだ。余り迷惑をかけて出禁になったら困る。
面倒になりそうだと頭を抱えつつも、仕方ないので麦野達を外へと誘った。
268 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/02(木) 20:33:53.27 ID:khmnQkzHo
・・・

いつものレストランを発ち、一方通行と9982号は麦野率いる謎の4人組と相対していた。
と言ってもやたら好戦的な麦野を除き、フレンダと絹旗はものすごく面倒くさそうな顔をしている。
特に、絹旗に関しては一方通行に対して嫌悪感をあらわにしている。
ちなみに、滝壺はぼけーっとしている。可愛い。


麦野「で、なんであんたらはそんな仲良しこよししちゃってるのかにゃーん?」


ありえない、どんだけビッチなのよ、と下卑た笑顔を浮かべ尋ねてくる。
9982号は何か言おうとするが、一方通行はそれを抑える。


一方通行「で?お前みたいな格下がわざわざ何の用だ?自殺願望あるなら首でも吊ってろォ」


どこまでも無感情に、どこまでも突き放した口調で言い放ち、一方通行はしっしっと追い払うしぐさをしてあしらう。
周囲への被害を考えると、こんな街中で目の前の「原子崩し(火力馬鹿)」を相手にする気にはならない。
しかしそれは麦野と言う名の火に油を注ぐ行為でしかなく、麦野はプルプルと震え青筋を立てている。


麦野「第一位だからって……チョーシこいてんじゃねーぞコラァ!!!
   その真ッ白な素肌を綺麗な小麦色に仕立てんぞアァ!!?」

フレンダ「ちょ、麦野落ちついてってば!」

絹旗「……どうあがいても、第一位と第三位を超同時に相手するのは、
   流石に超無謀だと思います」

滝壺「……」


フレンダと絹旗最愛は麦野を止めようとするが、滝壺はボーっとしている。可愛い。
だが、麦野は今にも噴火しそうな火山の状態である。どうあがいても戦闘は免れない雰囲気だ。
269 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/02(木) 20:35:03.84 ID:khmnQkzHo
一方通行「結局、何が望みなンだよ?遊ンで欲しいのかァ?
      俺なンかに構ってる暇あったら暗部の犬らしく上層部に尻尾振ってろってンだ」

今この場に居たら、麦野からブチッという効果音が聞こえたに違いない。


麦野「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」


一文字ずつ強調するように言うと、腕からバチバチと光が発せられ、今にも能力が発動されそうだ。


フレンダ「ああもうなんで第一位は煽る方向にもっていくの!?
     結局、気付かないふりをしてたらよかったわけよ!」


先の自分の迂闊な発言を呪うフレンダ。
絹旗は諦めたかのように目をつむっている。
滝壺は相変わらずボーっと空を仰いでいた。

どう見ても、やる気があるのは麦野だけで、流石に任務でも無いのに街中でドンパチやらかすほど馬鹿でも無いらしい。
麦野はドンパチやらかしそうな気配だが。


一方通行「あのなァ、こンな街中で超能力者が暴れてただで済むと思ってンのかァ?
     任務ならもみ消せるだろォけどよォ」

麦野「関係ねえよ!!カァンケイねェェんだよォォォ!!」


麦野は右腕を前に突き出し、「あいまいなまま固定された電子」を強制的に操る。
これにより本来「粒子」か「波形」かどちらかの性質を示すはずだった電子はいずれの反応も示さず、
「その場にとどまる」という性質になり、質量をほとんど持たない電子が擬似的な壁となるのだ。
そしてそれが発射された時、初速を維持したまま対象を叩き潰す。
270 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/02(木) 20:35:29.66 ID:khmnQkzHo
原子崩しによる青白い光はその対象を破壊するべく一方通行へと突き進むが、相手はあくまでも『一方通行』。

その能力はベクトル操作。

一方通行は一歩も動かず、それどころか腕一本すら動かさずにあくびをしながら麦野の攻撃を受け止める。
そして周囲を考慮したのか、原子崩しによる光は空へと向かい、そのまま虚空へと消えて行った。


一方通行「……満足かァ?」


一方通行は心底どうでもいい、と言った表情で麦野を見つめる。
しかし、麦野はというと。


麦野「ッ……!!(糞が!手加減された手加減されたふざけんな畜生反射しないとか舐めてんのかこの白豚があ!!!)」


ギリッと歯ぎしりをする麦野の心はまさに業火と言っても過言ではない。
今の自分では一方通行には勝てないと理解してしまうが、それが麦野にとっては我慢できない。

心底憎い、という殺気を視線に乗せて一方通行向かい飛ばすが、それすら歯牙にもかけない。
一方通行はめんどくせェ、と溜息を一つつく。
すると一瞬にして全員の視界から消えて、瞬く間に麦野の背後へと回り込み、首筋を指先で軽く叩く。
首筋を叩いた時に生体電気を乱して失神させたのだ。
271 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/02(木) 20:36:06.60 ID:khmnQkzHo
フレンダ「麦野!!」


慌ててフレンダは失神して倒れそうな麦野を支える。


一方通行「失神させただけだ。さっさとそいつ連れて消えろ」


元々相手をしたくなかったらしく、フレンダは麦野を担いでその場を立ち去ろうとした。
滝壺もそんなフレンダの後ろについていくのだが、絹旗は足をとめたままだ。


絹旗「……あなたは、暗闇の五月計画について超どう思いますか?」


―――暗闇の五月計画。一方通行の演算パターンや精神性の一部を植え付け、被験者の人格を蹂躙した暗部の実験。
これにより被験者の自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を最適化、能力の向上を目指したプロジェクトである。


一方通行「あァ?……そォか、お前、被験者か……」

絹旗「……はい」

一方通行「……悪かった、とは思ってるが……お前を助けることは、出来ねェ」


先ほどまで無表情で一方通行を見つめていた絹旗だが、この発言を聞き目を見開く。


絹旗「なんでですか……!私が、私たちが、一体超何をしたって言うんですか!!どうして!?」


叫ぶ。

心の底から。

思いの丈をぶつける。

今まで一方通行は、そんな思いすら反射していたと言うのに。

今は、その思いを、ただ受け止める。
272 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/02(木) 20:36:32.50 ID:khmnQkzHo
一方通行「悪ィな……お前や、他の生き残りを助けることは……出来ねェ。
     この俺だけじゃあ……力不足だ」


暗部の闇は、学園都市の頂点に立つ超能力者ですら掴んで離さない。
それほど深い闇だ。超能力者とはいえ一人の力では何もできないだろう。

一方通行は、先の発言に、だが、と付け加え続ける。


一方通行「お前らが、助かりたいってンなら……力添えしてやる。
     助かるかは……お前ら次第だ」


自分のせいでこンな事になってるのに偉そうだな、と一方通行は思う。


一方通行「過程はどうあれ……俺たちはクソったれの悪党だ。
     そンなクソ野郎を助けてくれるヒーローなンて居ると思うな。
     なンでも利用しろ。俺の力すらなァ……」

1人だけでは無理でも。

2人いれば。

3人いれば。

絹旗は眉間にしわを寄せて考え込む。
そして覚悟を決めたように声を出す。


絹旗「なら……いつか私が超助かるのに、力を、貸して下さい……」

一方通行「……あァ」


ぺこりと絹旗は一方通行にお辞儀をすると、走って滝壺達の元へと向かった。


9982号「……良かったのですか、あれで?と、ミサカは走り去る背中を見つめつつつぶやきます」

一方通行「……あァ。過程はどォあれ、あいつも俺も同じ悪党だ。
     そンな奴が助けを求めるだけのお姫様になるなンぞ許されるわけがねェンだ」

9982号「あの方も一方通行もそれでいいのなら、ミサカは何も言いませんが……」


話はこれで終わりだ、と言わんばかりに無言で歩きだす一方通行。
9982号もまた、それに無言でついて行く。 
 
273 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/02(木) 20:37:52.58 ID:khmnQkzHo
--------------------
書込み中・・・
--------------------
ERROR!
ERROR - 593 25 sec たたないと書けません。(1回目、25 sec しかたってない)

あと0秒経てば書けるようになるです。連投スクリプト対策です。

(Samba24-2.13)


え?



ええ?
こんなの絶対おかしいよ!
滝壺可愛いよ!?
あと一番最後、それに無言でついて行った。で脳内補完お願い。尾張なんで

短めだったけど、続きは明日か明後日 
 
276 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/03(金) 07:30:08.57 ID:BHgbFR2Ko
番外編:上条当麻の華麗なる日常と題して、幻想殺しに家出された上条が、魔術サイドにどうやって介入するのか?
そんなのを妄想しようとしたら、初っ端のエンゼルフォールで挫折した。 
 
280 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:42:27.10 ID:t+fNUzNho
正義 上条当麻
愚者 仮称特別捜査隊
戦車 妹達
剛毅 黄泉川愛穂

ちょっとメモ用に。やっぱ女多いな
今から投下する。 
 
281 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:45:34.60 ID:t+fNUzNho
芳川桔梗が提示した情報は、一方通行を少なからず驚かせた。


長点上機学園所属・布束砥信が失踪した。


布束の資料を見た時、テレビの中に入った時に見つけた写真と同一人物だという確信をもった。
テレビ、で思い出したが、おそらく絹旗は声だけテレビの中で聞いたはずだ。
だとすると、絹旗ないしはアイテムが何かしら実験に関与していた、と言う事か。


何にせよ、テレビが一枚かんでいる事は間違いないだろう。
そう考えた一方通行は御坂美琴と上条当麻に連絡を取ろうとしたのだが。

御坂は電話に出ないし上条は通話中らしい。
常盤台で別れた後なにかあったのだろうか。考えても仕方が無いので思考は布束へとむかう。
一方通行の勘が告げている。ほぼ確実に布束とテレビは関係あると。
ならばテレビに今すぐにでもいきたいところだが。

何があるかわからないのに、戦力が無い状態でテレビに行くのは自殺行為だ。
今にして思うと初めてテレビに入った時は無謀も良いとこだっただろう。

兎にも角にも、今は布束について情報をもっと集める必要がある。
布束について情報を集める事で、自分達以外にテレビについて知っている人物が居るかどうかわかるかもしれない。
そう考えた一方通行は、芳川の研究所にある情報端末から、布束について調べることにした。
282 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:47:16.31 ID:t+fNUzNho
―――布束砥信。長点上機学園3年に在学中。幼少時に生物学的精神医学で頭角を現す。
第七薬学研究センターの研究機関にて研究を重ねた後、長点上機に復学した。

9982号によると、学習装置にて妹達に知識を植え付けたと言う。
ただ、布束にあったことのある個体は19090号のみで、
その時の19090号の記憶はミサカネットワークにも流れていないそうだ。


軽く調べただけだが、簡単なプロフィールのみで、これ以上の情報は出ないと一方通行は判断した。
探そうと思えば探せるのだが、更に情報を突き詰めようとすると、更に深く潜る必要がある。
そうなると芳川にも迷惑がかかるかもしれない。

それならば、布束に近しい研究を行っている人間を洗えばいい。
生物学的精神医学に連なる、バイオ関連を研究する人物から何か話が聞けるかもしれない。
そう考えた一方通行は、生物学的精神医学だけでなく、
遺伝生物学、神経生化学、精神薬理学、脳生理学など、多岐にわたる分野を調べ、片っ端から連絡を取って行った。


しかし、これと言っためぼしい情報は得られず、研究者の名前ばかり無駄に覚えるだけに終わった。

危険を覚悟して『書庫』へハッキングしてしまおうか、とも考えるが、それは最終手段としてとっておくべきだろう。
何せ学園都市には『守護神(ゴールキーパー)』が居るのだから、下手なハッキングは命取りだろう。


ここで、改めて生物学的精神医学について考えてみる。
生物学的精神医学とは、自然科学の方法論に則り、脳科学の方面から、精神異常を研究する。と、言うものである。

脳科学から心の異常を調べる。

ならば脳内での生理的な出来事を研究する脳生理学の研究者などを更に突き詰めていけば良いだろう。
脳生理学の分野を更に詳しく調べる。

すると、一人の女性の名が目に入った。
283 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:47:59.50 ID:t+fNUzNho
―――木山春生。大脳生理学専門チーム所属。AIM拡散力場制御実験にて、実験を成功させる為、
置き去りの子供達に教鞭をふるい、子供達の成長データを仔細に取っていたとされている。


AIM拡散力場制御実験。
これの実態は確か、木原幻生を主導者とした暴走能力の法則解析用誘爆実験だったはずだ、
と、一方通行は記憶している。

何にせよ、この女性には連絡を取っていない。ならばとりあえず連絡先を知らねば、
と思ったが、どうやら既に大脳生理学のチームからは去っているようだった。

どうしたものか、と考えていたが、木山春生は水穂機構病院の院長から招聘されたらしい、と言う事を知り、院長と連絡を取った。
すると丁度良いことに、木山春生はその病院に入院しているそうだ。


それならば、と見舞いがてら話を聞きに行くことにした。
284 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:49:05.54 ID:t+fNUzNho
・・・

木山春生は暴走能力の法則解析用誘爆実験で意識不明に陥った置き去りの子供たちを治すために、幻想御手を開発した張本人だ。


そんな木山は今現在、絶賛入院中である。


それはなぜか。それを説明するためにも、
ここで木山春生が開発した幻想御手について話をしよう。

幻想御手は能力者のレベルを上げる、という触れ込みだが、
その実脳波のネットワークを構築する、というものだったのだ。

なぜ能力のレベルが上がるのか?
それは同じ脳波のネットワークに取り込まれることで、
演算速度が向上及びその幅と演算能力上昇が見込まれるのだ。

また同系統の能力を持つ者同士が思考パターンを共有することによって、
より効率的な能力の使用が可能となった。
285 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:49:56.94 ID:t+fNUzNho
一見これだけならば良い事尽くしじゃないか、と思われるが、それは違う。
脳波と言うものは、それこそ妹達の様にクローンでなければ各個人でそれぞれ違う。
その違う脳波の上に、ある特定の(今回は木山春生の)脳波を上書きするとどうなるか。


そう、体がその脳波に合わずに拒否反応を示し、結果として意識不明の状態に落ち込むのである。


そして、複数の人間の脳を繋げた「一つの巨大な脳」状のネットワークを構成することで、
高度な演算能力―樹形図の設計者に匹敵する程のもの―を持った演算装置が出来上がるのだ。

それを用いて意識不明になった置き去りの子供達を救う方法を調べさせようとしたのだが、御坂美琴によって阻止されてしまう。

しかし後に、御坂達と協力し、テレスティーナ・木原・ライフラインとの交戦を経て、
子供達を救う事ができたのだ。
その際怪我をした為、子供達と共に入院していた、と言う訳だ。
286 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:50:26.93 ID:t+fNUzNho
そんな木山は物憂げな表情で溜息をついている。
黙っていれば美人なのだが、それを自覚していないのが残念でならない。

科学者らしいといえば科学者らしいのだが、基本的に自身については無頓着で、
服が汚れたりすると、男性の前だろうと汚れた服を脱ごうとするのだ。
そんなん俺の前で脱いでほしいわ。おっとごめんよ、理后も可愛いよ。


閑話休題。


何故木山は物憂げな表情なのか。
それは周りでキャッキャと無邪気な笑顔を浮かべつつじゃれついてくる子供達だ。
とても可愛らしい子供達なのだが、如何せん以前と比べ成長しているため、少し重たいのだ。

だが、じゃれついてくる子供達を振り払うような事はしない。子供達は、そんな木山を見て喜ぶ。

失った時間を取り戻そうとするかのように。

足りないものを補うかのように。

木山の元から離れない。

あんな非道な実験を子供達に施したと言うのに、未だに子供達は彼女を信じている。
ならばそれに応えて、子供達に与えなければならない、愛を。教えなければならない、優しさを。

この子たちが大人になるまでは、休む時間はなさそうだな、と子供達を撫でながらクスリとほほ笑む木山。

するとそこに二人の来客がやってきた。
その二人を見て少し驚いた表情を浮かべる。
287 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:51:32.78 ID:t+fNUzNho
木山「一方通行に、超電磁砲か。……君には、世話になったな」


木山は9982号をちらりと一瞥すると、子供達を救ってくれたことに感謝をする。
しかし、9982号が装備している軍用ゴーグルを見て顔をしかめた。


木山「ん……?そのゴーグル……君は、本当に超電磁砲か?」


流石科学者、やっぱこいつ頭良いなと思いながら、9982号は一方通行にアイコンタクトを取る。

正体を明かすべきか否か。
しかし嘘をついても下手な嘘は見破られそうだ。そう考えた一方通行は素直に話す。


一方通行「クローンだ、超電磁砲の」

木山「そうか、絶対能力者進化実験……成程、クローンか……」


木山は一人納得するが、一方通行達を見て、子供達は不安そうな表情になる。
そんな子供達を安心させる為に、木山は穏やかな表情で子供達を撫でた。


一方通行「今回、9982号の事は関係ない。……率直に聞くが、布束砥信と言う名に聞き覚えは?」

木山「布束……ああ、学習装置の開発者か。以前装置を開発している時に一度だけ会ったことがある、その程度だな」

一方通行「布束砥信が研究していた内容については?」

木山「……残念だが、生物学的精神医学、と言う分野を研究していた、と言う程度しか知らないな……
   私が彼女と会う事になったのも、私が大脳生理学を専攻するチームに所属していて、
   それぞれの分野に共通する項目について議論するためだったしな」


話を聞く限り、嘘をついている様子はない。本当に知らないのだろう。


一方通行「そォか……それならもォ聞く事はねェ。精々養生しろォ」


じゃあな、と告げ、一方通行達は見舞いの品として持ってきたのだろう、紙袋を置いてあっさりと立ち去った。
288 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:52:51.00 ID:t+fNUzNho
・・・

9982号「結局、大した情報は得られませんでしたね。と、ミサカは精神的疲労を露わにします」


一端芳川の家に帰り、休憩をとることにした二人。
9982号はソファーに深く座り込み、溜息をついた。


一方通行「とりあえず手づまり……だなァ」


コーヒーを飲んで一息つく一方通行。
ハッキングと言う手段があるが、実力が未知数な『守護神』を相手取るよりも、テレビの中を探索する方がまだマシなように思える。

ただでさえ科学者達に連絡を取って暗躍しているのだ。
これ以上目立つ行為は避けたい。

とりあえず、テレビに入るのは明日でも構わないだろう。
外を見るともう日が落ちそうになっていた。
夕飯を食べながらでも情報はまとめられる、と言う事でやっぱりいつものレストランへと向かう。



そしていつものレストラン。
いつもの席に案内されようとしたが、またいつもの席には先客がいた。
しかしいつもの店員はいつも通り席に案内するので、どういうことだろうと首をかしげつつもそれについていくと。
289 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:53:34.89 ID:t+fNUzNho
上条「よぉ……来てくれると、信じてたぜ……」


虚ろな目で横たわっている上条当麻が居た。


9982号「どうしたのです、そんな世界の終りみたいな顔をして。
    と、ミサカは明らかにおかしい様子の上条当麻を心配します」

一方通行「いや、それよりもだなァ……」


ちらりと、上条の正面を一瞥する。
そこにはオムライスを頬張っている白い修道服を着た少女が居た。


インデックス「もご、もごご、むぐもぐもご!」

一方通行「食べながらしゃべるンじゃねェよ行儀悪ィ」


インデックスは何か言おうとしたのだが、初対面の相手に行儀を注意されたため、
一方通行の言葉にうなずくと、再びオムライスを相手にし始めた。

飲み込んでからしゃべるのかと思っていた一方通行はその様子を見て溜息をつく。


一方通行「こいつが噂の居候って奴かァ」

上条「ああ、そうだ……」


科学の街で修道女。どう考えても訳有りだろう。
それを匿う上条は相当なお人よしであったが、そんな上条の顔は今も暗い。
290 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:54:19.95 ID:t+fNUzNho
一方通行「こいつを連れてきてるってことは……」


何か込み入った事情があるのだろう。そう考えた一方通行は、上条の発言を待つ。


上条「いや……インデックスは関係ない」

一方通行「インデックス?あァ、そいつの名前か……
      それじゃあ、なンでまたそんな深刻そうな顔してンだ」


インデックス、おそらく偽名か何かなのだろう、訳有りだし。
と一方通行はあたりをつけ、あからさまに変な名前に関してはスルーして本題に入る。


上条「課題が……全く終わってねえんだ」


重々しく、消え入りそうなほど小さな声で、それでいて確かに聞こえる声で、上条は話す。


「「は?」」


ここまで思わせぶりな態度を取っておいて、夏休みの課題とは何事か。
というか御坂美琴はどうした。一方通行と9982号はその疑問をぶつける。


上条「いや……お前らと別れた後さ、色々あって……その、一個もやってねぇんだ……」

9982号「つまり……お姉さまとにゃんにゃんしてたから、課題はしてないと?」


ジト目で上条を見つめる9982号。その視線には呆れと若干の批判が乗せられていた。
それを察し、上条は気まずそうに眼をそらす。
まァ、何かあったのだろうな。こいつお人よしだし。一方通行はそう考え、助け船を出した。


一方通行「大方変な事件に巻きこまれたンだろ。お前結構運悪いもンなァ」

上条「ああ、そうだ……最近はあんまり不幸だって言う事は減ってきたんだけどなあ」
291 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:55:13.43 ID:t+fNUzNho
幻想殺しは神の加護すら打ち消しているのでは、とインデックスが予想したが、
どうやらその予想は当たっていたらしく、幻想殺しを失ってから、不幸な目にあう事が減っていたのだ。
と言っても、上条自身幻想殺しがあろうとなかろうと、どちらかと言えば運の悪い人間だった、というのは余談である。


それはさておき、上条が幻想殺しを宿していた頃、魔術師と大立ち回りを演じた名残で、魔術師から命を狙われることもしばしばあった。
今回も、その名残の一端だったのだが、上条はそこまでは言わない。

科学が全てのこの街に、『魔術』などと言う非科学の代表的存在を受け入れられるとは思わない。
故に訳有りシスターを匿っている、という事だけを伝えるにとどまった。


しかし、そんな上条の思惑(幻想)は、オムライスを完食したインデックスによってぶち殺された。


インデックス「とーまはいっつも私に隠れて厄介事に首突っ込むんだよ!!
       今日だって私の知らないところで魔術師と戦って!!」


その言葉を聞いて一方通行と9982号は首をかしげる。

まじゅつし。

魔術師。

魔の術師。

魔術の師。

魔術……?

そんな非科学が存在するのか。

何も知らない学園都市の住民はインデックスの発言を一笑に付すだろう。
上条自身も、魔術を目の当たりにするまではそういった態度だった。


しかし一方通行と9982号は、すでに「テレビの中」と言う非科学を体験していたので、割とあっさり受け入れた。
292 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:56:13.99 ID:t+fNUzNho
一方通行「へェ、超能力の他に異能を操る人間がいたンだなァ」

9982号「まぁ確かに、学園都市の軍事力を相手に、普通の力をふるっていたのでは勝機なんてありませんしね。
    と、ミサカは学園都市ないしは日本を相手にする諸外国を想像します」

上条「あ、あれ……?学園都市の人間がそんな非科学、信じちゃっていいんでせう?」

一方通行「じゃああのテレビをお前は科学の結晶だ、とか言うのかァ?ありえねェありえねェ」


まァ、あンなテレビがありえてるンだから、魔術の一つや二つあるだろ。と一方通行は言う。


9982号「そうですね、それなら日本にも陰陽師とか居るんじゃね?
    と、ミサカはテンプレっぽい平安の服装をした人物が妖怪を滅する様を妄想してみます」

インデックス「ふふーん、とーまと違ってこの人たちは頭が柔らかいみたいだね!」


ドヤ顔で話すインデックス。上条はぐぬぬと顔をゆがませるが。


一方通行「魔術は別にイインだけどよォ。インデックス、っつったか?
     お前のその修道服の安全ピン、ひょっとしてなンか魔術的な意味みたいなもンがあるのかァ?」


一方通行が聞いてはいけない質問をしてしまい、上条の顔はピシッと固まった。


上条「い、いいいやそそそれはの、ののっぴきききならねねぇ事情ってものがでですね……」


言い訳を考えながら話したため、どもる。


インデックス「聞いてくれる!?ホントは安全ピンなんて要らないし、
        ホントはこの修道服、強力な防護がかかった結界だったんだよ!!」

9982号「ほお、それは素敵ですね。ですがその口ぶりだともう失われてるようですね。
     と、ミサカは安全ピンが刺さった元強力な防護結界を見て同情します」


一方通行はインデックスの発言で大体の顛末を把握したが、インデックスの口からそれを聞くことにして、黙っている。
続いて9982号も察したのだろう。インデックスに同情して、話の続きを促した。
293 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:56:54.93 ID:t+fNUzNho
インデックス「それでね、それでね!とーまったら魔術の事全然信用してくれなくて、
       それでこの結界、『歩く教会』って言うんだけど、この歩く教会の事話しても全然信用してくれなかったの!!
       そしたらとーま、「俺の右手は異能なら神の奇跡だろうと打ち消せる」とか言ったの!!
       私もそんなバカな話あるわけないじゃないって思って歩く教会にその右手を触らせたの!!
       そしたら歩く教会が……バラバラになったの……!!」


一気に捲し立てて疲れたのだろう。インデックスは手元の水を飲んで落ちつく。


一方通行「成程なァ……つまり、上条はか弱い幼女の服をひんむいたことを反省して、
      アンチスキルの元へ行こうとしたが、その前に懺悔しに来た。そう言う訳か?」

上条「違いますよ!!?」

9982号「駄目ですよ、罪を犯したら償うものです。さあ早く自首するのです。さすれば神もお許しになられるでしょう。
    と、ミサカは目の前の性犯罪者を汚らわしいです、近寄らないで妊娠させられちゃうという本音を暴露します」

上条「違う、違うんだ……あれは、事故だった……不慮の事故だったんだよ……
   まさかあんなことになるとは思わないじゃないですか……
   大体あの頃は魔術なんてもの知ってるわけないじゃないですか……
   だからあんなことになるなんて思いもよらなくて……」


ぶつぶつとうなだれながら呟く上条。

と、ここで上条当麻は記憶喪失だから、そんなこと知らないのでは?という疑問が浮かんだことだろう。
その通りだ。上条はその時の事は記憶にない。
しかし、上条が記憶喪失してからしばらくしたとき、上条も一方通行と同じ疑問をインデックスに抱き、質問したのである。


「なあ、なんで安全ピンなんてしてんだ?変過ぎるだろ」
294 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 13:58:12.23 ID:t+fNUzNho
覚えてないこととはいえ、それをした張本人からそんなことを言われて黙っている程インデックスはお人よしではない。
こっぴどくかみつかれた揚句、普段の愚痴も含め1時間ほど正座させられて事の顛末を細かく説明されたのだ。
インデックスはそんなことを疑問に思う間もなく頭に血がのぼっていたのだろう。
ゆえに上条は安全ピンの話題はインデックスの前でしないよう心掛けたのだった。
と言っても、安全ピンの話題が浮かぶ事などなかったのだが、今日までは。


何にせよ、追い詰められて逃げ場のない上条は机に突っ伏して頭を抱えた。
その様子を見て流石にからかいすぎたか、と一方通行と9982号は反省する。


一方通行「まァ……なンだ、わざとじゃないンだろ?
      上条もこうやって反省してることだし、この話題はこの辺で終わらせよォじゃねェか」

9982号「そうですね、流石にミサカも言いすぎました。と、ミサカは素直に謝罪します」

一方通行「俺もまさかこンな事になるとは思ってなかったンだ。
     そォだ、謝罪の意もこめて、今日の飯は俺が奢ってやるよ。インデックスの分も含めてな」


いつも一方通行が奢っていたのだが、一方通行の言葉に上条は感激する。
感激のあまり課題の事など頭の隅のタンスの奥へとしまいこまれた。
そしてインデックスの方はと言うと。


インデックス「こっからここまで持ってくるんだよ!あ、ご飯は洋食セットがいい!」

店員「は、はあ……お言葉ですがお客様、そんなに召し上がられるのでしょうか……?」

インデックス「問題ないんだよ!心配ならメニューにある順で一品ずつ持ってくるといいかも!」

店員「か、かしこまりました……では一品ごとにメニューを追加して行く、という形で注文を取らせていただきますね」


全部一気に注文をとって、食べきれないとなると常連のお客様が困るだろう。
そう考えた店員は手間がかかるのを承知で完食するたびに注文を追加して行く、という機転を利かせた。
そんな配慮は無駄だった、と知るのはインデックスが腹2分目辺りに到達した頃であったそうだ。
それはさておき、当のインデックスは、


インデックス「了解だよ!」

容赦なく注文していた。 
 
295 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 14:00:15.67 ID:t+fNUzNho
>>294
上から3行目訂正:インデックスは、上条はそんなことを覚えていないのか、と言う事を疑問に思う間もなく頭に血がのぼっていたのだろう。 
 
296 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 14:00:58.64 ID:t+fNUzNho
結局、インデックスはメニューを二周させたところで、久々にお腹いっぱい食べれたんだよ!ありがとう!と、笑顔で感謝を示した。
ここまで遠慮なしだとむしろ清々しいくらいだ。

一方通行は、なんだかすごい見世物を見た、そんな気分で伝票を開く。


一方通行「……ファミレスでの会計で、そこいらの料亭で支払う金より多い金を払う事になるとは思わなかった」

上条「その……なんだ……すまん」


インデックスの胃の限界を知る代償は大きかった。
これならバイキングでもいった方が良いのだろうが、そんなことをしたらバイキングがつぶれてしまう。
そう感じさせられるほどの、食べっぷりだった。
297 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 14:02:02.03 ID:t+fNUzNho
・・・

結局、課題の一つもこなさずに、ただダラダラと駄弁っていた。
ここで、上条当麻はトイレへ行くと告げ、席を立つ。
9982号も新しいドリンクを開発すると告げ、席を立つ。
こうして、そこには一方通行とインデックスが残った。


インデックスはデザートのパフェをパクパクと食べ進めている。これで5杯目だ。
初めは、先ほどお腹いっぱいだ、と発言したとは思えないほどのインデックスの食べっぷりに感心していたのだが、いい加減あきた。
かといって特に話題も無いので一方通行は黙ってコーヒーを口にする。

すると、インデックスの方から話を振ってきた。


インデックス「とーまは、私に何か隠してるみたいなんだけど、あなたは何か知らない?」


おそらく上条は、基本的に厄介事に首を突っ込む事を、インデックスには隠しているのだろう。
学園都市で修道服を着ている、と言う時点で目立つのだから。
上条とともにインデックスまでもが厄介事巻き込まれたら、更に面倒なことになるはずだ。


一方通行「……いや、俺は何もしらねェ」


インデックスを巻き込むまいとする上条の意図に沿い、一方通行もしらを切る。


インデックス「そうなんだ……ところで、あなたもこの街の能力者なんだよね?」

一方通行「……その通りだ、一応この街で一番の超能力者をやってる。一方通行と呼べ」

インデックス「あくせられーた……うん、あくせられーただね。分かったんだよ。
        それでね、あくせられーた……突然だけど、とーまの事を……守ってほしいの」

一方通行「あァ?なンでまたそンなこと」

インデックス「私は……魔術の事なら何でも分かるけど、この街の超能力に関しては門外漢なの。
       だからとーまを狙う魔術師の力を知れても、
       この街にとーまが狙われたら、きっと守ることができないと思う。だから……」



力を、貸してほしいの。



インデックスは真っすぐ一方通行を見つめる。
その瞳は何処までも綺麗で、果てしなく澄んでいた。
298 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 14:02:48.38 ID:t+fNUzNho
一方通行「……そォだな、それくらいなら、かまわねェよ」


その言葉に、インデックスの顔は綻ぶ。
ああ、上条はこの笑顔を守るために、動いているんだろう。
そう感じさせるほど、インデックスの笑顔は美しかった。
この笑顔を守るためなら、力くらい貸してやろう。一方通行は、そう思った。


インデックス「ありがとう、なんだよ」

一方通行「気にすンな。事のついでだ」

インデックス「……やっぱり、今も何か厄介事に首を突っ込んでるんだね」


インデックスはジトっと一方通行を見つめる。
一方通行は口を滑らせた事にしまった、とした顔をしたが、インデックスは身を引いた。


インデックス「まあ、いいんだよ。魔術側は私がなんとかするから、科学側はあくせられーたがなんとかしてくれるんでしょ?」


あって間もないと言うのに、それはいささか信用が過ぎないか?そう感じた一方通行はそれをそのまま質問した。


インデックス「大丈夫なんだよ、だってあくせられーたって、とーまと似てるもん」


そう言ってインデックスは、一方通行に笑いかける。


一方通行「はっ、あンなお人よしとこの俺の何処に共通点があンだよ」

インデックス「んー……優しいところ、とか?というか、何となく似てると思っただけだから、気にしなくていいかも!」

一方通行「あァ、そォかい。つゥかパフェ溶けてンぞさっさと食え」


一方通行の言葉に、インデックスは驚き溶けきる前にパフェをかきこむのだった。

以下略

一方通行は、「魔術師」属性のコミュニティである「インデックス」コミュを手に入れた。
299 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 14:03:44.35 ID:t+fNUzNho
・・・

一方通行とインデックスが話をしている間、いつまでも帰ってこない上条当麻と9982号は何をしていたかと言うと。


上条「なあ何であいつらのとこ戻っちゃいけないんだ?」

9982号「それはですね、インデックスの真の目的を知るためですよ。
    と、ミサカはインデックスの動向に注目してみます」


2人は一方通行とインデックスの会話に水を差さないよう、ドリンクバーの前でたむろしていた。
ドリンクバーの前でたむろするのは、周りの人たちに迷惑なので、良い子も悪い子も真似しないように。

どうやらインデックスが、大量の食事を取る最中に、一方通行のことをチラチラうかがっていたのを9982号は察知していたらしい。
そのためあえてインデックスと一方通行を二人きりにすることで、インデックスの行動を監視しようと目論んだのだ。
と言っても、そのたくらみを考えたのは上条がトイレに行くと言って席を立った時思いついただけなので、かなり行き当たりばったりである。

実際、ドリンクバーからでは会話はうかがえない。
しかし、どうやらその会話は終わったらしく、インデックスはパフェに手をつけ始めた。


9982号「ふん、ボディタッチの一つも無いのですか。まあどうせ反射されるでしょうが、
     どちらにせよその程度でヒロインの座を狙おうとは片腹痛い。
     と、ミサカはインデックスの事を非ライバル認証します」

上条「何のことかよくわからねーが……そうだな、あいつら二人とも白いし、意外とお似合いなんじゃねえの?」

9982号「なっ!その発想はなかった。ですが見た目で全てを決めたら駄目です!
     と、ミサカはありえる未来を想像して身をふるわせます」


一方通行とインデックスに関して、見当違いな勘違いをしていた。
300 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/04(土) 14:05:14.09 ID:t+fNUzNho
尾張。

木山さん幻想御手について長々と説明した割にl今回はチョイ役。
今後再び出る予定はあるけども。
つーか展開遅すぎワロチ

魔術師コミュは、インデックスさんにしました。
俺の中でのthe・魔術師はステイルさんだったんだけれど

絡ませ方が分からなかった。でも上条さんコミュ、インデックスさんコミュで絡んでくるはず。きっと。 
 
302 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:24:51.59 ID:t+fNUzNho
番外編を勢い余って書いてきました。
その導入部です。ですが番外編なので下げて投下です 
 
303 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:25:38.38 ID:t+fNUzNho
上条当麻が自身の『影』と遭遇してから1週間ほど経過した。

現在彼とその居候のインデックスは、ドナドナと学園都市外部へと運ばれている。

何故、そんなことになったのか。

それは「学園都市第一位・一方通行」と「たかが無能力者」とつるんでいる、という噂から、
その「無能力者」を盾に打倒一方通行を掲げるスキルアウトが増大したからだ。


将を射んと欲すればまず馬を射よ。と言う訳で、大幅な無能力者狩りが発生したのだ。


一方通行を狙うスキルアウトを探すよりも、ほとぼりが冷めるまでその無能力者を学園都市外部へ放り出した方が早い。
と判断されたため、無能者狩りの事態を重く見た学園都市の上層部が、
「落ちつくまでどっか行ってろ。その間に情報統制をおこなうから」という判断を下したわけだ。


本来学園都市は、学生からの情報流出を避けるため、余り学園都市外部に学生を出すことを好まない。


もし仮に外部に出る事を希望したとしても、3枚の申請書に直筆サインを書き、
保証人を用意して、更には血液に微小の監視用機械を注入して初めて外に出られるのだ。

それほど外に出すことに対して厳しい学園都市が、自ら「外に行ってろ」と命令するパターンは大変珍しい。
上層部がそれほどまでに迷惑した、と言うことだろう。


それはさておき。正式な手続きの元、堂々と出所した上条と違い、インデックスはそうではない。

この白いシスター、元々学園都市に密入国した魔術サイドの人間であり、そんな人間が正式な手続きなど踏める訳もなく。
故に「インデックスはお留守番。
ただし飯は小萌先生のとこに行け」と説得を試みたのだが、
インデックスはなみだ目でカチカチと口を開いたり閉じたりしていた。
304 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:26:04.94 ID:t+fNUzNho
このままでは出国する前に骨の髄まで食いつくされると危惧した上条は、こうしてインデックスを密出国させようとしているのだ。
と言っても、タクシーで外に出るための「門(ゲート)」を通過するときに、後部座席で横になって隠れるという、随分お粗末な隠れ方だったが。


案の定インデックスは門を通過するときにアンチスキルに見つかった。
さらば学園生活、こんにちは臭い飯生活。と上条は思ったのだが。


何故かインデックスに対して「仮ID」が発行されていたため、事なきを得た。

仮IDも発行するには正式に手続きを踏まねばならず、やはり密入国者であるインデックスにそんな芸当は不可能なわけで。


一体誰がそんな親切を?という一抹の疑問を残し学園都市を後にした。

・・・

海。夏と言えば海である。
上層部が上条当麻に提示した避難先は、海のある町だった。

学園都市は内陸部に存在する。そのため基本的には海とは縁が無い。
といっても、海に近い水質のプールはあるのだが、それでも本場とは気分が違う。

そういうわけで割とワクワクしていた上条は、町に到着してさっそく海へ向かった。


しかし、海水浴客が一人もいない。


どういうことだと考えたものの、夏休みも残りわずかだから最後は家ですごそうとか考えてる人が多いのか?
などと考えつつも、とりあえず旅館へと向かった。
305 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:26:44.22 ID:t+fNUzNho
・・・

良く言えば老舗。悪く言えば古ぼけた旅館。


上条当麻とインデックスの前には、木造の古い旅館があった。
台風が来たらビニールハウスのごとく吹き飛ぶのではないか、と言うほどボロボロな旅館を見て、上条は上層部のケチっぷりに泣いた。

とはいえ、わざとではないにしろスキルアウトを騒がせる、という事態の原因の一端を担う上条を無料で旅行させているのだから、文句は言えまい。

何にせよここに泊まることは規定事項なので、さっそく中へと入る。


「あのー、予約してた上条と申しますー。誰かいませんかー?」


旅館に入った上条は、人の姿は見えなかったので、誰かいないか確認を取った。


「誰もいないんだよ」


良く言えば老舗。と言うだけあって、外観はザ・日本っぽい旅館を見て大いに喜んだインデックス。
しかし誰も出迎えない従業員、埃のたまった棚、その上に乗れば抜けてしまうのではないかと思ってしまうほど脆そうな床。
マイナスポイントが次々と発見され、更にはその間プラスポイントが一個も見つからない事に不安を覚えた。


しばらくすると、旅館の亭主らしき人が現れ、二人は部屋へと案内される。
やたらと体の弱そうな亭主で、しきりにせき込んでいたので、客のはずの二人が亭主を気遣っていた。
306 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:27:14.83 ID:t+fNUzNho
「そういえば、海水浴客が誰も居ないのはどうしてなんですか?」


素朴な疑問を解消するため、亭主に聞いた。


「ああ、それはですね……ゴホッ実はゲホッ今年はクラゲが謎のゲホゴホ大量発生いたしましてなあガッハゴエエ!!」


疑問は解決したが、これ以上亭主に口を開かせないようにしよう、と二人は思った。

クラゲのせいで海水浴はろくに楽しめそうにない。
その上学園都市外部へ行くには保証人―詰まる所両親―の同行が必要で、明日にでもこの旅館に到着するそうだ。
高校生にもなって何が悲しくて両親とクラゲの居る海水浴を楽しまねばならないのか。
残念過ぎる海水浴に、不幸だ、とつぶやいた。

そしてそこまで考えると、これはひょっとして上層部の仕返しか何かなのか、とすら邪推をしてしまう。それが事実なのかどうかは不明だが。

兎にも角にも、部屋に荷物をまとめて、さあ遊ぶぞ!などと意気込んだところで、特にする事は無いため、部屋でインデックスとダラダラ過ごすのであった。
307 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:27:41.51 ID:t+fNUzNho
「むむ、このちゃぶ台におかれている煎餅は食べての良いのかな!?」


ちゃぶ台の上には、湯呑が何個か逆さまにおかれている。
その隣にはポットと急須、煎餅が皿の中にあった。


「なんだか食べるのに不安を感じるのはわたくしだけでせうか……?」


まあ、インデックスなら大丈夫だろ。と思い、食べたいなら食べたらいいじゃん。とある種の毒見を促す。


「むっ、なんだかとーまの目線があやしいかも!」

「いやいや、そんなことはないですことよ!さあさあ、こちらのお茶もどうぞ!俺は腹減ってないしな!」

「とーまにしては気が利くね!」


噛みつき攻撃が来る前にお茶を勧めることで気をそらす。
そしてインデックスはバリバリと煎餅を食べ始めた。
308 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:28:08.57 ID:t+fNUzNho
「このお茶と煎餅、すっごく食べ合わせいいかも!!」


ニコニコと笑顔を浮かべながら煎餅を咀嚼するインデックス。

その勢いは破竹。

煎餅を取る手は止まらない。

その様子をみて、最初は「ああ、ちゃんと食えそうだなー」などと能天気なことを考えていたが。


「……(いくらなんでも食べすぎじゃない?)」


そう、目の前に居るシスターの胃袋は宇宙。

そんなインデックスが食べ物を目の前にして残すなどありえない。


「待て待て、俺の分は?」

「だって、とーまはおなかすいてないんでしょ?」


迂闊。圧倒的迂闊。インデックスの興味をそらすための発言が裏目に出てしまう。
こうしている間にも煎餅はその数を減らしている。
これはどうしようもないな、という結論に至る頃には、煎餅は絶滅していた。


「……(インデックスの魔法名はblackhole000―大食女な子羊は食べ物を喰らう―とかいいんじゃね?もしくはdelicious000)」
309 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:28:48.74 ID:t+fNUzNho
魔法名はラテン語を使うものだが、ラテン語など知ってるわけも無い。
そんなわけで英語でインデックスに似合いそうな英語を考える。

dedicatus545がインデックスの魔法名らしいので、綴りが似ているdeliciousとか良いのでは、いやでもインデックスは美食家ではなく大食らいだし、とか結構失礼なことを思い浮かべた。
インデックスはそんな上条の思考を感じ取ったのか、


「……とーま、何か失礼なこと考えてない?」

「え?いやいや、そんなこと考えてるわけないじゃないですか」

「むう……それならいいんだけど」

そしてインデックスはあっさり煎餅を完食すると、他にはないのかな?と上条に聞く。

「oh……gluttony000……」


上条は思わずグラトニー、すなわち暴食の罪の名を呟いた。
310 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:29:15.16 ID:t+fNUzNho
「むう~!それひょっとして魔法名のことかな!?だとしたら失礼かも!
 そもそも魔法名と言うのは己の信念を英語ではなくラテン語にして魔法名に込めるもので……」

「いや、でもインデックスって滅茶苦茶食うじゃん」

「そっ……それは10万3千冊の原典がカロリーを求めてるのかも……」


上条の突っ込みに思わずうろたえるインデックス。
それを見て自身の優位性を感じ、畳みかける。


「だって俺、インデックスが魔術師として働いてるところをあんまり見た事ねーし……
 どっちかっていうと食ってるとこの方が多いって言うか」


するとインデックスはプルプルと震えだす。
しかし調子に乗っていたため、その様子には気付かない。


「つまり食べる事に関する言葉を魔法名にしたら良いと思うんだ。
 例えば、大食い選手権とか、時間内にこれを食べたら賞金出します、みたいなときに名乗ればいいと思う」

「うがー!!!」


堪忍袋の緒が切れたのだろう。上条に向かって飛びかかってきた。

インデックス は かみつく こうげき を くりだした!
きゅうしょに あたった! こうかはばつぐんだ!


「うっぎゃあああああああ!!!!」


上条の悲痛の叫びは、クラゲの多い海に沈む太陽と共に消えて行った。
311 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:29:44.86 ID:t+fNUzNho
・・・

<???>

影は溜息をついた。

影がいるその空間には何もなかった。

ただし、周りにはシャドウだけはいっぱいいたが。
どうやら人間の姿をしている自分が、最近持ち場を荒す人間だと思われているらしい。


「やれやれ……幻想殺しは幸運すら打ち消すんだったか」


やってられん。影はひとりごちるが、よくよく考えると、幸運を打ち消すからとはいえ不幸になるのはおかしい。
となると、不幸なのは体質なのだろう。不幸を回避する、という幸運が幻想殺しによって打ち消された。そう考えるとつじつまも合う。


「こういうときは、こう言えば良いんだったよなー」


間延びした緊張感の無い声で、叫ぶ。


「ふーこーうーだー!!」


そして一息つくと、ギラっとした目をシャドウ達に向け、獣のような唸り声をあげる。
312 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:30:22.41 ID:t+fNUzNho
「……オマエラがなぁああ!!」


跳躍。空中で宙返りし、回転した勢いでかかと落としをシャドウのうちの一体に喰らわせる。
かかとを叩きこまれたシャドウは、グチュリとグロテスクな音をあげる。
すると体液だろうか、黒い何かが、バケツの水を床にぶちまけたかのように辺りに広がった。


それを皮切りにシャドウ達は声かどうかよくわからない音を上げ、影に向かって魔法を放った。


「はっはあ!お前らみたいな脆弱な攻撃に幻想殺しなんぞ使う必要はねえんだよ!!」


シャドウが放つ炎や雷などの異能を目の当たりにして異能を打ち消す幻想殺しは不要と断じ、攻撃の全てを回避行動のみで避けて行く。

それらを避けたことにより、流れ弾が別のシャドウに直撃した。
影がひるんだシャドウ達に体術を叩きこむと、それを食らったシャドウは、一様に消滅して行く。


「ひゃっはー!!バカどもが!勝手に自滅してんなよ!!」


世紀末のモヒカンのような叫び声をあげる。
続いてもっと楽しませろよ、と獰猛な笑みを浮かべ、挑発する。
知能があるのかは不明だが、その挑発を見て一斉に影へ襲いかかるシャドウ達。
313 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:30:49.00 ID:t+fNUzNho
「はっ、この空間はもう、てめーらの現実じゃなく、俺だけの現実なんだよ!!」


上条は再び跳躍し、どういった原理か不明だが、そのまま空中にとどまる。


「俺だけの現実には、てめーらみたいな雑魚は存在しねえ」


消えろ。と一言つぶやくと、影は右腕を掲げた。
すると右腕から火、水、雷、風などありえないほど大量な現象が発生し、それらはシャドウを蹂躙して行く。


全ての減少がおさまった時、辺りには影しか存在しなかった。


「ははっ、雑魚ばっか」


空中から降りた影は、先ほどまで存在したシャドウ達を馬鹿にする。
それほどまでに力の差が存在した。
子どもと大人、と言うレベルでは無い。もはや神とその他の有象無象と言っても良いだろう。それほどまでに圧倒的な差だった。


「はぁ、ひまだなー」
314 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:31:25.48 ID:t+fNUzNho
この世界には基本的にはシャドウしかいない。

一方通行達というイレギュラーが居るが、いつもいるわけではないので、こうやって自我をもった存在は今現在、影しかいないのだ。


「海水浴とかしたいなー」


一人で泳ぐのってどうなんだ、と影は思うが。
何にせよ何も考えずに何かに没頭するのは悪くない。
そう考えた影は何もない空間。その中心(と言っても何処が中心かはわからないが)らしき位置に立つ。


「自分だけの現実<妄想>が支配する世界、か」


心の集大成。すなわち自分だけの現実の集まり。影がそれを理解するのに時間はかからなかった。
そして、それをする必要があるかは不明だが、片足を上げ、ダンッと地面を踏み抜く。
すると影を中心にして、周りの地面が水で埋め尽くされた。
半径100m程度だろうか、綺麗な円形の湖に、その端には砂浜が広がっている。


「海の完成っと」


影は水、もとい海の中心から飛び立ち、砂浜へと着地した。


「……いや、実際目の当たりにしたら別に泳ぎたくはないな……」

クラゲとか居そうだわ、と呟く。
偶然にも、影と光は、同時に海に対して残念な感情を抱いたのだった。 
 
315 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/04(土) 20:33:28.13 ID:t+fNUzNho
尾張。
影サイドで何かについての考察が出ました。
考察についていろんないろんがあるかもしれないですが、
ここではそういうものだとなっとくしてください。


本編の合間に書いて行こうかなと思います 
 
321 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:37:27.95 ID:vKM9F3iGo
9月1日。
全国的に始業式である。

故に学生は夏休み気分の抜けない体を気だるげに学校へと向かって行く。
その中で、学校へ行くどころか私服姿で街中を歩いている一組の男女が居た。

9982号「……やはり常盤台の制服でないと、落ち着きません。
    と、ミサカは自身の体を眺めてそわそわします」

一方通行「我慢しろォ。学校が始まった今、平日の日中に制服姿で街中うろついてたら怪しまれンだろォが」

どちらにせよ、平日の昼間に見た目中高生位の男女が外を出歩いているだけで相当怪しいのだが。
私服姿になるのは単なる気休めだろう。常盤台の制服でなければなんでもよかった、そんなところだ。

9982号「しかし暇ですね。と、ミサカは男なら率先してエスコートしろよと一方通行を批判します」

一方通行「うるせェ、こうして街中連れてきてやってるだけ感謝しろォ」

そう。本来上条当麻と御坂美琴の始業式が終わり次第テレビの中に行く予定だったのだが、
それまで空き時間があるので、9982号が出かけたいと駄々をこねたのだ。
一方通行は嫌々ながらも時間になるまで出かけることにしたのだが。

9982号「かといって街に出て何をしたいかなんて、ミサカにはおもいつかないんですけどねー」

一方通行「……そォだな、俺らに年相応の遊び方なンぞ知ってるはずもねェ」

能力を鍛える事だけを考えてきた。

能力を鍛えさせるためだけに生きてきた。

そんな2人が集まったところで何をするかなど分かるはずもない。

仕方が無いので、結局いつものレストランで上条当麻と御坂美琴を待つことにする。
2人はそのうち上条と御坂に普通の学生の暇つぶしの仕方を教えてもらおう、と思った。
322 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:39:04.26 ID:vKM9F3iGo
・・・

9月1日。
始業式を終えた上条当麻は、いつものレストランへ向かっていた。
もちろんテレビの中へ行くためだ。

インデックスには帰って来るのが遅くなるかもしれない事、
昼飯・晩飯は冷蔵庫に入れてある事、
もし全部食べてしまった場合は月詠小萌を頼る事、この三点を伝えた。
一応小萌先生にも三点目に関しては了承を得ている。

と言うのも、今日から姫神秋沙が上条の通う高校に転校してきたのだが、姫神は訳有りで小萌先生の住むアパートにやっかいになっていた。
そして転校した際、学生寮へと移住していたのだ。
そのため、小萌先生自身も一人きりのアパート暮らしは少し寂しいと感じていたらしく、
上条の頼みを喜んで聞きいれた、と言う訳だ。


自分の我儘―影を取り戻すこと―でインデックスには寂しい思いをさせてしまうのが申し訳なく感じる上条だが、
普段のインデックスとは思えないほど上条のお願いを快く受け入れていた。

こういった時、インデックスなら「またとーまは私だけ除け者にして!」みたいな感じでかみつく攻撃を繰り出すはずなのだが。
と、上条は疑問に思うのだが、インデックス曰く、


「あくせられーたが、とーまを守ってくれるから」


と言って笑顔を投げかけた。
おそらく昨日のレストランでの会話はこの事だったのだろう。
それにしても顔合わせは昨日が初めてだったはずだと言うのに、インデックスは随分一方通行の事を信頼している。
上条はそんな2人を少しだけ嫉妬しつつも、一方通行と9982号が待ついつものレストランへと向かうのだった。
323 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:39:53.73 ID:vKM9F3iGo
・・・

9月1日。
御坂美琴は現在困惑している。


とりあえず、「現在」という時間軸から遡り、時は8月31日。
この日は色々ありすぎたせいで、寮へと戻った後、寮監にこっぴどく叱られた。
叱られた際の肉体言語によって、気づけば朝になっていた。

ひょっとして1週間くらい気絶してた?などと考えてしまうが(それ程恐ろしい折檻だった)そんなことはなく、一晩気絶しただけだった。
一晩気絶すると言うのもすさまじいが、何にせよ朝と言う事は、もう少ししたら始業式がある。

まだ始業式まで時間はあるが、とりあえず着替えようと思い布団から出ようとした。
しかし何やら布団が自分の体の面積よりも広くこんもりしている。

死んだように気絶していた私、人の気配を感じさせない隣の布団。
この二つの符号意味するものは……一つ……!


御坂「黒子ォォ!!」

白井「ヘブンッ!!」


自身の布団を思い切り引っぺがすとそこには白井黒子が丸まっていた。
それだけなら小動物的な意味で可愛らしいのだが。
その姿は黒いネグリジェであり、黒の布地であってもものすごく薄い布地で、いろんな部位が透け透けであった。
そんな白井の姿をみて思わず能力を発動させてしまう。白井は電撃を喰らって変な声を漏らした。


白井「な、何をなさるのです!?お姉さま!」


お姉さまがお望みならこういうプレイも……と言ったところで御坂が白井の発言を阻止した。
324 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:40:53.27 ID:vKM9F3iGo
御坂「あ、あ、あんたって奴は私が気絶してるのを良い事に何してるのよ!!?」

白井「あら?私、こんな格好ですけどお姉さまを介護した後に添い寝しただけですわよ?こんな格好ですけど。
   ひょっとして、私とめくるめく夜をご想像なされて、照れ隠しに愛の鞭を……!?」


お望みでしたら、いつでもウェルカムですのに。と白井は言うが。


御坂「そんなわけないじゃない!!てか起きたら自分の布団の中にネグリジェ姿の人がいたら誰だってビビるわ!!」

白井「では普通のパジャマなら潜り込んでも良いのですわね?」

御坂「んなわけないじゃない!」

白井「それならば、どうやったら私とお姉さまは結ばれるんですの!?物理的に!」

御坂「物理的にって何よ!」


ぎゃーぎゃーと口論を交わす二人。朝から騒いでいると、奴が来る事を忘れて―――


『何を騒いでいる』


ででんでんででん。ででんでんででん。ででんでんでー(にゃあ)。
そんなBGMと共に部屋の扉が開かれた。


寮監「御坂、貴様反省が足りないようだな……?」

御坂「イエ、深く、実に深く、ハンセイしてオリマス。ダウラギリの谷よりも深く」

寮監「ならば何故騒いでる?白井もだ。何か弁明はあるか?」


背後に鬼が見える寮監の気迫に圧倒された白井は、部屋の隅に思わずテレポートしてしまった。


寮監「ほう、寮内での能力使用は厳禁だ、と言う事を忘れたか?それとも……」






―――抵抗する気か?
325 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:41:29.17 ID:vKM9F3iGo
寮監の冷たい目が白井を貫いた。

その鋭い殺気のみで白井の戦意は根こそぎ奪われてしまう。

いや、別に白井は戦うつもりなど到底なかったのだが。


白井「あ……ああ……」


放心状態。

ジャッジメントとして最前線に立ち続けた白井がひと睨みで震え上がった。

白井は御坂の前では変態だが、ジャッジメントとしては一流だ。
どんなに凶悪な犯罪者相手でも一歩も引かないその姿は他のジャッジメントに勇気を与えいるそうだ。

兎にも角にも、そんな白井が、寮監の威圧のみで恐怖にかられたのだ。
寮監の実力はそれだけで説明可能だろう。

さて、寮監の注目が白井に行っている隙に、御坂はゲコ太パジャマのままソロリソロリと部屋を脱出しようとしていた。

寮監「おや、寝間着のまま何処へ行くと言うのだ?」

御坂「いや……ちょっと自分探しの旅に行こうかと……」

寮監「ほう、自分を探しにな……ひょっとして、記憶喪失か何かか?
   だとしたら頭に衝撃を与えたら自分を見つけられるかもしれんぞ?」
326 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:42:19.87 ID:vKM9F3iGo
嗜虐的な笑みを浮かべて、指ポキする寮監。
絶望的な笑みを浮かべて、涙を流す白井。
諦念的な笑みを浮かべて、その場にしゃがむ御坂。


ここが地獄か。そう思った瞬間には、意識がブラックアウトした。




御坂「はっ!?」


気付いたらまたもや自分のベッドの上だった。時計を見るとそろそろ部屋を出た方がいい時間だ。

御坂は基本的に化粧などをあまりしない。
それゆえ、自身の身だしなみを整えるのに時間はさほどかからないのだ。
白井も目を覚まし、騒がないようにそそくさと着替えを始めたのだった。
327 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:42:56.56 ID:vKM9F3iGo
・・・

そして時は「現在」へと戻る。

最初にも言ったが、御坂美琴は困惑している。
始業式を終え、教室へ帰った御坂に、女生徒達が群がっているのだ。

基本的に、御坂はレベル5と言う事で、周りが気を使って御坂を敬遠している。
別に御坂は嫌われているわけではない。むしろ多くの同輩後輩達が羨望の眼差しを送っているくらいだ。

しかし白井が「輪の中心に立つことは出来ても、輪に混ざることはできない」と評している通り、多くの生徒が恐れ多いと感じてしまう為に、本当に仲のいい友人は数えるほどしかいない。

そんな御坂が何故か女生徒達に囲まれていた。

「昨日の殿方とは如何なさったのです!?」

「寮監様に真っ向から逆らうほど心酔なされてるのですね……」

「今朝も寮でひと悶着あったらしいですわね、それも昨日の事で寮監様に逆らっての事ですか?」

「「キャー!」」

御坂をおいてけぼりにして騒ぐ女生徒達。やはり女学校だからだろう。
こういった恋愛話は大好物なのだ。しかし御坂と上条は残念ながらそういう関係では無い。
328 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:43:31.65 ID:vKM9F3iGo
昨日だって、御坂に対する告白まがいの言葉を海原に扮した謎の人物に上条は吐いていた。

が、それを上条が意識して言ったわけではない。と言う事を御坂はよく理解しているため、
周りの女生徒達の質問攻めにうまく答える事が出来なかった。

そんなわけで御坂は女生徒達の制止を振り切って常盤台中学を走り去った。
向かう先はいつものレストランである。


「成程……流石の御坂様も恥ずかしがっておられますね」

「嗚呼、照れる様の何と愛らしいこと……」

「それにしても、御坂様をあそこまで惚れさせた殿方と言うのも一度お顔を拝見してみたいものですね……」


御坂が派手な逃走をかましたため、誤解は更に深まったのだった。
329 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:44:26.35 ID:vKM9F3iGo
・・・

かくして、4人はいつものレストランへ集まった。
とりあえずテレビの中へ行く前に情報を整理することにした。


上条「えーっと、その布束?って人を調べにテレビの中行くんだよな?」

一方通行「あァ、そうだァ。」

9982号「あ、上条クゥン、ちみは実戦も兼ねて射撃の練習もしますから覚悟しといてください。
    と、ミサカは戦力を増やすために鬼軍曹になります。
    そんなわけで、後で渡しますが、鋼鉄破りに何かあった時の為にハンドガンを懐に忍ばせといてください」

上条「うえっマジかよ……いや、まあそうだよな……」


力不足だもんな、と呟く。


御坂「そんなことないわよ!何かあったら私が守るから!」


御坂美琴が上条当麻をフォローする。
しかし上条の表情は暗い。やはりテレビの中を体験したというのに、力不足を理解したうえでテレビの中に行くのは躊躇われるようだ。


一方通行「お前はあの影を取り戻したいンだろォが。そのために強くなりてェならいくらでも頼れ。
     お前が力をつけるくらいまでは守ってやるからよォ」

上条「ああ……ありがとな!」

一方通行「さて、布束砥信についてだが……」


さて、元気を取り戻した上条だが、一方通行はそれをさっくり流して話を続ける。


一方通行「こいつは、妹達に知識と人格を植え付ける『学習装置(テスタメント)』ってのを開発した奴だ。
     そして以前テレビに入った時、あの研究所にあった名簿の中にこいつの名前があった」

御坂「つまりその布束って人がテレビと何か関係ある可能性が高いってことね」

一方通行「あァ、その通りだァ。さらにこいつは19090号とも関連がある」

9982号「布束砥信がテレビの中に居るとしたら、うまいこと接触しなければなりません。
    と、ミサカは真実に近づく為の一歩を踏み出します」


布束砥信に関する事を軽くまとめた後、4人はテレビの中へと向かう。
330 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:45:30.85 ID:vKM9F3iGo
・・・

4人が地面に着地すると、クマが待ちわびたかのように出迎えた。


クマ「いやあ遅かったクマね!寂しかったクマよー」


一応レギュラーだけれど、久々の登場である。


一方通行「あァ、色々情報を集めてたもンでなァ」

クマ「クマ?つまり何か情報を得たからここに来たってわけクマ?」

御坂「まあ、そういうことね。それで、ここ最近放り込まれた人は居る?」


御坂がクマの質問に首を縦に振った。
そしてここ最近は雨が降らずマヨナカテレビを見れていなかった為、誰かテレビの中に来てないか確認を取る。


クマ「いやー、それらしい気配は無かったクマよ?あ、でも普通の人とは違った気配は感じるクマ」


その言葉に上条が反応した。


上条「そ、それって何処から反応するかわかるか?」


普通の人とは違う反応。上条はそれを自身の影の事かと思ったのだが、
クマが言うには「普通の人とは違うけど、人の気配であることには変わらないクマ」だそうだ。

ゆえに可能性としてそれは布束である可能性が高い、と言う事で上条は少しがっかりした。


一方通行「普通の人とは違うってのはどういう事だァ?」

クマ「いやさ、何だか普通の人にしては力を感じるクマよ」


『力』という言葉に反応する一同。この場で『力』というと答えはそう多くない。
4人は頭に思い浮かんだ単語を思わず口にする。


「「ペルソナ……?」」


布束の影、と言う可能性もあるが、今までとは違う反応を示したクマを見て、その可能性は薄い、と全員が考えた。


クマ「まあ何にせよ、力の感じるところまで行ってみないと分からないクマよ」


クマは大まかな気配を察するだけで、そこまで索敵能力は高くない。
結局その場まで行かないと何も分からないのだ。

一方通行「それもそォだな……そンなら、とっとと行くぞォ」

一方通行がリーダーとして仕切る。

「「了解!」」

こうして、仮称特別捜査隊(未だに正式名称は決まってない)の多分布束救出大作戦がスタートした。
331 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:46:08.87 ID:vKM9F3iGo
・・・

<不思議な忍者からくり屋敷>

屋敷。どうみても屋敷だった。
観光に来た外国人が見たら「oh!ニンジャフジヤマHAHAHA!」とか言いそうなくらいの昔ながらのジャパニーズ屋敷だった。

江戸時代によく見られる長屋門、その入口に立つと、木彫りの看板には「砥信流忍術屋敷」と書かれている。


一方通行「これはどォ見ても……」

9982号「布柄砥信ですね……と、ミサカは忍術ってどういう趣味してんだと突っ込みを入れます」

御坂「同名の人……は無さそうよね、「砥信」なんて名前そういないでしょうし」

クマ「おお!これが噂に聞くジャパニーズニンジャでーすクマー!?」

上条「お前はどこのミーハー外国人だよ……」


入口の門の前に立つと、勝手に門が開く。
何と言う自動ドア、江戸時代の様式の建物にはオーバーテクノロジーだろとか学園都市組の4人は思うが、クマは大興奮であった。
開いた門の先、そこには屋敷まで真っすぐ通路が伸びていた。

しかしその通路の左右は、


上条「うわっ!何だこりゃどこの厳島神社だっての」


海で覆われていた。屋敷のまわりは長屋門で囲われていた為、屋敷の上層部しか見えなかったので気付けなかった。
それでも門が開かれるまで、潮の匂いすらしないと言うのは奇妙であるが、テレビの中なら仕方ない。
仮称特別捜査隊の一同は屋敷の敷地内へと足を踏み入れた。
332 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/06(月) 15:48:07.60 ID:vKM9F3iGo
9982号「いやあ、実に面白い造りをしてますね。と、ミサカはわざわざ門の内側を海で覆う事の無駄さに笑います」

御坂「そうよね、普通外堀と内堀だけで十分よね」

一方通行「テレビの中の建造物に突っ込み入れるなよなァ……」

クマ「へー、これって人間にとって普通じゃない建造をしてるみたいクマね」

一方通行「つゥかこういう場所って、放り込まれた奴にとっての現実、っつってなかったかァ?」

一方通行の疑問の声をあげる。

上条「そうだぜ、こんな建物みたことねーよ」

テレビの中に降りたった時に渡された鋼鉄破りをいじりながら、上条も一方通行の疑問に便乗した。

クマ「あっちにある建物が必ずしも出てくるわけではないみたいクマよ。
   あくまでも『その人にとっての現実』なんだクマ」

御坂「じゃあ極端な話、その人自身の妄想とか願望が、『その人にとっての現実』になるってこと?」

『その人にとっての現実』。その言葉の意味を考えた御坂はクマに聞いた。

クマ「そう!そうクマよー。美琴ちゃんあったまいー!」

どうやら正解だったらしく、素直な称賛を浴びて、御坂は少し顔を赤くして照れている。

9982号「では今回は、布束砥信の願望か何かが具現化したと言う事ですね。
    と、ミサカは結論を述べます」

とここで、屋敷の扉までたどり着いた。

クマ「皆準備は良いクマ?無線も持ったクマ?」

一方通行「あァ、つゥか無線持ったか?っていう確認はクマが一番しねェといけないンじゃねェの?」

クマ「むむ!失礼クマねーちゃんと持ってるクマ!」

全く、失礼しちゃうクマね!とクマは無線を手にずんずんと扉の中へと進んだ。
クマが屋敷の中へ足を踏み入れた瞬間。


クマ「あれ?」


クマの立つ床がパカッと開いて、クマは物理法則に従って落ちて行く。
床が閉まりそうになったので思わず一方通行が床の中へと飛び込んだ。
バタン、と床が閉じた時、再び床を開ける事は出来なかった。


上条「あ、あれ……?」

9982号「いきなり分断されましたね。と、ミサカは現状をまとめます」

御坂「ま、まあ……一方通行もいるし、大丈夫じゃない……?」


残された3人は、その床を避けて屋敷内へと足を踏み入れた。 
 
 
340 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:42:26.40 ID:HjS62ufeo
<一方通行・クマside>

周りが海なのに落とし穴があるってどォいう事だよ!と内心突っ込みを入れつつ、
一方通行は先に落ちたクマを何とか抱えて着地した。

しかし着地した先は、牢屋だった。

とりあえず一方通行は、自分達が落ちてきた天井を見据え、軽く跳躍し拳を突き刺そうとする。
しかしベクトル操作を以っても、天井は傷一つつかなかった。

自分達が落ちてきたところを逆走出来れば簡単に戻れると思ったが、そこまで甘くないらしい。
仕方が無いので、目の前の木でできた牢を壊そうと試みるも。


一方通行「……ハァ?ンだこりゃ」

クマ「牢屋クマね」

一方通行「ンなもン見りゃわかるっつゥの。問題はここが開かねェってことだ」

クマ「つまり……閉じ込められたクマね!」


一方通行「なンでそンな悠長に構えられるかねェ……能力が阻害されてるとはいえ、
      この俺の能力ですらこじ開けらンねェって異常だぜェ?」

クマ「まあ今のとこシャドウがいる感じはしないから問題ないクマー」


現状どうしようも無いと判断したクマは、その場に座り込んで無線を取りだした。


一方通行「あァ、そういや無線で連絡とらないとなァ」

クマ「クマクマ。今回のクマは前回のミスを反省してるクマよ!」


ドヤ顔で話すクマにイラッとするが、クマが無線で話そうとする前に残った3人から先に連絡が来たので話すことにする。
クマはちょっと残念そうな顔をしていた。
341 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:43:19.74 ID:HjS62ufeo
御坂『あんた達無事?こっちは一応3人そろってどっかの一室に居るけど』

一方通行『おォ、こっちは無事だ。なンか俺の力でも出られねェ牢屋の中に居るけどなァ』

御坂『そう、とりあえずあんた達の事は何とか見つけるから、何とか耐えててね』

一方通行『任せたぜェー。こっちもなンとか出られねェかやってみるわ』

御坂『了解。出られたら連絡頂戴。こっちも何かあったら連絡入れるから』


了解だァ、と言って無線を切る。クマは恨めしそうにこちらを見ている。
無視しますか? はい← いいえ


クマ「クマ!クマの貴重な活躍シーンだったのに!!」

一方通行「おいおい、お前はあンなンで満足だってのかァ?
      こっからの脱出方法考えるとかよォ、もっとあるじゃねェか!」

クマ「……クマ!?そうクマね!クマ頑張るクマ!」


一方通行の言葉に奮起したクマは、木の牢の前に立ち、体当たりを始めた。
しかし こうかはないようだ……

一方通行も何とか現状を打破するために周りの壁や床をペタペタ触って抜け穴でも無いかと調べてみるものの、
人を閉じ込めておくための牢屋の為に抜け穴があるわけが無い、と納得する。

よくよく考えると、周りは海のはずだ。
それならこの地下牢の周りはそこまで複雑な構造では無いはず。

ならば目の前の牢を何とかした方が良いだろう。
一方通行もクマと同じく牢の前に立ち、ペタペタと牢の構造を解析していく。

こうして一方通行とクマは、しばらくの間牢屋で過ごすことになった。
342 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:43:52.69 ID:HjS62ufeo
・・・

<上条・御坂・9982号side>

目の前で2人が罠の餌食となった。

とりあえず無線も通じて無事は確認できたものの、流石忍術屋敷と言ったところか。罠が満載の様だ。

3人はこれからどうするかを考える。


上条「とりあえず無事は確認できたけど、まずは一方通行達の救出に向かった方がいいのか?」

9982号「助けに行くと言ってもここの構造を全く把握してませんしね……」

御坂「うーん、地図でもあればいいんだけど……そうね、構造を把握するついでに地図でも無いか探すってのはどう?」

上条「それしかなさそうだな」

9982号「そうですね。では探索がてら上条に銃の扱い方を教えましょうか。
    と、ミサカは上条にこちらのハンドガンを構えるよう指示します」


ハンドガン、と聞いて上条は9982号に質問をする。


上条「鋼鉄破りじゃないのか?」

9982号「これは随分とじゃじゃ馬なので、上条にも渡してはいますが、今はまだトレーニング用の重り、という認識で良いですよ。
    と、ミサカはまずは初心者コースをお勧めします」

上条「成程なー。分かった、じゃあこれは背中にくくって行けばいいってことだな」


先頭を御坂、その後ろに9982号と上条がハンドガンを構えて並列した隊列となり、3人は探索を開始した。

別に9982号にそんな気はないのだが、上条に手とり足とり拳銃の扱い方を教えている様子を見た御坂は。


御坂「……(あんなにべたべたして……いや、別にうらやましくなんかないんだけどね!)」

軽く嫉妬していた。

御坂は考える事すらツンデレ。

どうせなら頭の中くらいデレデレすればいいのに。
343 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:44:54.49 ID:HjS62ufeo
・・・

<不思議な忍者からくり屋敷F1>

3人は通路内を慎重に歩いている。

通路は複雑に入り組んでおり、気を抜いたら何処から来たのか忘れそうになる。
しかし、御坂美琴は自分達の来た道を完璧に覚える程度には記憶力があるので、そこは問題ない。

問題は仕掛けられた罠だ。

例えば床の通路に足跡が刻まれていて、明らかに怪しいのでそれを避けて通ろうとすると、
横の壁から竹やりが飛び出してきたり。

慌てて避けたが今度は足跡を踏んでしまい、何か来ると思った3人は身を構えるものの、何も出てこなかった。
どうやらその足跡を踏んで行けば罠が出ないようだ。

安心してその足跡をたどって曲がり角を行ったすぐ先に今度は落とし穴があったり。
どうやら曲がり角の直前まで行けばもう竹やりは出てこないようだった。

しばらく罠も無く安心して通路を行くと、またも足跡が刻まれていた通路があり、今度は逆に足跡が罠かも?
と思った御坂はポケットに入れていたコインを足跡の上に乗せると足跡から刃が飛び出してきたり。

警戒しながら歩いていると、躓いて倒れそうになった上条が、体を支えようと壁に手をついたら、その壁がスイッチの様にへこんだ。
何も起きないからどういう事だと思ったら、ゴゴゴ、と屋敷全体が揺れ始めた。

しかし揺れただけで3人に被害は一つもなく、不思議に思った3人が辺りを見回すと、
何と屋敷の地形が変わったらしく、引き返そうとしても知らない場所だった。
これは拙いと思ったが、もう一度へこんだ部分を押すと、屋敷が元の形に戻った。
344 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:45:41.07 ID:HjS62ufeo
紆余曲折を経てようやく地図らしき紙が置かれている部屋を発見し、嬉々としてその紙を取りに行こうとする上条。

どう見ても罠だろ、と突っ込みを入れる間もなく上条は地図を手にする。

すると部屋の襖が勝手に閉まり、開かなくなったと思ったら壁がクルリと回った。
そこから太った猿に警官の服装をさせたかのようなシャドウ「収賄のファズ」が7体程現れた。

シャドウを見て御坂と9982号はすぐさま戦闘態勢へと入る。
続いて上条もハンドガンを構えつつ手に取った紙を開くと、



      | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
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    /    は ず れ(笑) ../
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   /   ____     / 
  /             ./
/             ./
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


と書かれていた。
これにキレた上条は、紙をぐしゃぐしゃにしてシャドウへ放り投げ、紙ごとシャドウを打ち抜いた。

この時の事を、9982号は「あの時の上条の射撃には目を見張るものがありましたね」とコメントしている。
345 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:46:30.42 ID:HjS62ufeo
上条の見事な射撃で収賄のファズは残り6体。その6体は3人を囲うような形で円陣を組んでいる。

ここで、御坂がなにやらトライアングル・フォーメーションだー!とか叫ぶ。
上条と9982号は何言ってんだこいつとか思うものの、言いたい事はわかったので、3人はシャドウの陣の中心で三角形にならんだ。

それにしてもこの御坂、ノリノリである。


9982号「いやしかし、上条は中々筋が良いですね。と、ミサカは素直に腕前を称賛します」

上条「へ?いやあ、夢中だったからなー」


この分なら鋼鉄破りの扱い方を教える日も近いな、と9982号は思う。

戦力はあって越したことにない。
早く上条にも鋼鉄破りを笑いながら振り回すくらいにはなってもらわねば。
どうやって鍛えてやろうか考える9982号は、それはそれは嗜虐的な笑顔だったそうだ。

こうしてる間にもじりじりとシャドウ達は円陣を縮めて行く。
3人はぎりぎりまでシャドウを引きつける。


御坂「今よ!一斉掃射!!」


御坂の号令を聞いた瞬間、上条のハンドガン、9982号の鋼鉄破りから火を噴くように銃弾が飛び出す。
シャドウ達が3人との距離を縮めていたため、銃弾を当てるのは非常に容易であった。

号令を出した御坂も2人に負けじと電撃を放つ。
それだけでシャドウのうち3体はあっという間に沈黙した。
346 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:47:13.94 ID:HjS62ufeo
9982号「ふん、雑魚どもめ。と、ミサカはさっきのシャドウを他愛も無いと切り捨てます」

上条「あー……よかった、当たって……正直ひやひやしたぜ。先走って打ちそうになったしな」

9982号「よく我慢できましたね。と、ミサカはリーダーの指示をしっかり聞く事は良いことだとほめたたえます」

御坂「まだ出てくるかもしれないから、警戒は怠らないでね」


何だか急激に仲が良くなっている上条と9982号を見て何だかやきもきした御坂は、2人に警戒を促す。
上条は了解了解、と再びキリッとした表情になるが、9982号は何やらニヤニヤした表情をして御坂を見ていた。
そんな9982号の視線を感じ、御坂は思わず声をあげる。


御坂「な、なによ」

9982号「お姉さま、ひょっとして妬いてます?と、ミサカはお姉さまも銃撃講座初心者編を上条と学びますか?と尋ねます」

御坂「ややや妬いてねーし?別にあんなの何とも思ってねーし?」


9982号の指摘にあたふたする御坂。
やっぱお姉さまって面白!と9982号は思いつつも、ツンデレってやっぱ損気だよなあ、としみじみ思った。
347 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:48:37.96 ID:HjS62ufeo
下らないやりとりをしている間に、シャドウ達は3人へと襲いかかってきた。
御坂と9982号はそれぞれオオヒルメとワカヒルメを現出させる。


御坂「へっへー、これ見てよ、これ!新技新技!……マハラギ!!」


御坂はマハラギ―敵全体にアギを喰らわせる魔法―を唱えた。
すると3体の影は炎によって焼かれる。しかし、火ダルマになりながらも3人へ向かうシャドウ。

9982号「根性だけは認めましょう。ですが、これで終わりです。
    と、ミサカは電光石火と言う名の新技を放ちます」


御坂に続いて9982号も電光石火―全体に1~2回小ダメージ―を放つ。
ワカヒルメは電光石火の言葉に反応し、9982号の体力を贄に、
目にもとまらぬ速さで火ダルマになっている3体のシャドウを殴り、蹴り飛ばした。


上条「す、すげえ……」


上条はペルソナの圧倒的な力を前に感嘆の念を表す。
その力を前に、少し自信をなくしそうになるが、自分が御坂達に見合うくらい強くなればいい、と考え再び奮起した。
奮起したがシャドウはもう居なくなっていたため、少しがっかりした。
348 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:49:09.75 ID:HjS62ufeo
しばらく周りに気配が無いか探る。
しかしシャドウは居ないようだったので、警戒レベルを下げてその場に座って、休息をとることにした。


上条「はあ……それにしても何だよ外れって……馬鹿にしてるだろ畜生……」

御坂「ていうかどう見ても罠じゃないの、どうして引っかかるようなことしてんの」


9982号「ま、まあ落ちついてくださいお姉さま。
     『はずれ』と言う事はどこかに『あたり』なる紙が存在するはずです。
     と、ミサカは『あたり』が地図だったらいいなあ、という願望を露わにします」


上条「てことははずれ引くたびに戦闘になるってことか?」

御坂「今回の事を考えると、そういうことになりそうね……今回は7体だけだったから何とかなったけど……」

9982号「当たりを引いたら更に強敵が出てくるかもわからんですね……
    と、ミサカは一層気を引き締めます」


結局手掛かりは『あたり』の紙を探すしかなさそうなので、再び探索を始めるのだった。
349 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:49:51.83 ID:HjS62ufeo
・・・

<不思議な忍者からくり屋敷・地下牢>

詰んだ。

一方通行とクマは本気でそう思った。

だって、出られないんだもん。

仕方が無いので何かアクションが起こるまで牢の中でダラダラしよう、と言うのが一方通行とクマの結論なのだが。


一方通行「なァンでお前がいるンですかァアァ!!?」

影「何だよ、そう邪険にすんなよー」


牢を挟んだ閉じ込められてない側、そこには日本の城には似合わない洋風のテーブルで紅茶に砂糖を入れる上条の影がいた。


一方通行「これもお前の仕掛けた事かァ?」

影「んにゃ、俺は場所を提供してやっただけだぜ?」


ここまで造り上げたのはアイツの力だ。と影は言う。
アイツとは、布束のことだろうか……?


クマ「ちゅーか、なんでここに居るクマ?」

影「いやさ、初っ端の罠にハマった馬鹿の顔を見にな。
  あれだけは自作なんだよねー。上出来だろ?」
350 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:50:19.60 ID:HjS62ufeo

影はドヤ顔で語る。一方通行はその顔にイラッと来るが、逆らったところで何にもならないのでグッとこらえる。
「つうかてっきり上条の野郎が落ちたかと思ったんだが」と、影は厭味ったらしく一方通行を眺めた。


一方通行「はン、悪かったなァ。上条よりも不幸で」

影「はっは、むしろここの方が安全って考えたら上に残ってる3人の方が不幸かもなー」

一方通行「……あいつらになンかあってみろォ……!
      全身引き裂いて海の底に沈めてやるからなァ」


ギンッと眼に力を込め、影を射ぬく。
しかし影は意に介さず、飄々とした様子で紅茶をすすった。


影「言ったろ?あの落とし穴以外は知らねえよ。まあ罠の設計図を見たらすげええぐいなとは思ったがな。
  つっても、布束の元に行きたいなら、あんな罠くらい鼻歌交じりで通過出来ないとな。やっぱ話になんねえよ」

一方通行「じゃあ、初っ端で引っかかった俺らは不合格ってかァ?」

影「あっはっは、そんな事ねえよー。ここに来たのは……
  まあなんだ、敗者復活のチャンスみたいなのをもってきたんだよな」
351 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:51:13.27 ID:HjS62ufeo
牢の前に立ち影は鍵を2人の目の前にぶら下げる。


影「こっから出るための鍵だ。要る?」

一方通行「……どォいう風の吹きまわしだ」


不自然すぎる。確かに現状手づまりで何もできないとはいえ、影の提案を受け入れるのもどうかと思う。


一方通行「……(と言うか、影に借りを作るのが嫌だっつゥの)」

影「まあ、俺としてはどっちでもいいんだが、あのままならあいつら確実に死ぬだろうしなー
  力バランスをとるためにもお前らにはあいつらと合流してほしいんだよな。
  そっちのが見てて楽しいし」


気の抜けた口調だが、物騒な内容を吐く影の言葉に、一方通行は驚愕した。


一方通行「ハァ!?どォいう事だよ!?」

影「そのまんまの意味だよ。あいつらじゃ布束には勝てねぇっての。
  俺もそれなりに楽しい戦闘をさせてもらったしな。
  楽しませてもらった礼として、この空間貸したんだしなー」


ニヤニヤと一方通行へ向け笑みを浮かべる影。
352 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:51:47.17 ID:HjS62ufeo
影の戦闘力は未知数だが、確実に強いだろう。おそらく、今の一方通行よりも。
そんな影が認めた力だ。弱いはずが無い。それを理解できてしまう一方通行は、

一方通行「……こっから出してくれ。頼む」


迷わず素直に頭を下げた。


影「ハハッ……イイね、ちょっとでも俺に頭下げるの迷うようなら鍵はあげなかったけどよ、」




―――イイ悪党だ。




影はガチャリ、と牢を開ける。

影「じゃ、もっと俺を楽しませろよー」

2人に一言残して、光(かげ)も形も無く消え去った。

一方通行「……なンだったンだ、あいつ」

クマ「いやーあいつって実は良い奴クマ?」


2人は牢を出た。

すると影の残したテーブルの上に1枚の紙が置かれていた。
その紙には『あたり』と書かれていて、裏面にはこの屋敷の見取り図と思われる図が描かれている。
353 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/07(火) 18:52:28.45 ID:HjS62ufeo
一方通行「……見取り図?」

クマ「この屋敷の地図っぽいクマね」

一方通行「まァ、参考程度にした方がイイだろォな。それが罠かもしれねェし」

クマ「そうクマね、とりあえず美琴ちゃん達に連絡した方が良いクマ?」

一方通行「どォしたもンかなァ……」


今連絡を取って大丈夫なのだろうか。影の口ぶりなら、まだ無事なはずだが。
隠密行動をしている時に無線の声で敵に居場所をばらす、なんてことになったら笑えない。
今は3人の力を信じるしかないと判断し、牢を出た2人は罠が無いか調べるが、ここはあくまでも牢屋。
人を閉じ込める事を前提とした場所に罠など仕掛ける必要はないと言うことだろう、罠らしい罠は無かった。
そして地図を見るまでも無く、上へ向かう階段は一つしかなかったので、2人は階段を上っていった。

・・・

<???>

「finaly、あなたは彼らに力を貸すのね」


屋敷の一室、茶室と思われる部屋で、和風の部屋に似合わないゴスロリの服を着た少女は、
茶杓で茶器から抹茶をすくい、茶碗に入れる。
続いて抹茶にお湯を加え、茶碗の中でかき回して均一に分散させている。


「そういうなよ、俺はいい勝負が見てえんだ。虐殺は趣味じゃねえ」


先ほどまで牢屋に居た影は、その少女前で胡坐をかき、ぶっきらぼうに言い放つ。


「but、あのままでも相手はあの『超電磁砲』。良い勝負は見れたと思うけど?」


お茶が完成したのか、手慣れた動きで優雅にお茶を影へと差し出した。


「俺はこういうのよりコーヒーとかのが好きなんだけどな……ああ、結構なお点前で」


コーヒーの方が好みらしいが、社交辞令として賛辞の言葉を述べる。


「それはどうも。……anyhow、彼らの力を知りたいからね。
 therefore、こうやって罠とかいっぱい仕掛けたんだけど」

「はっ、よく言うぜ!殺す気満々だったじゃねえか!」

「indeed、その通りよ?……死んだらその程度だった。それだけのことなのよ」


……出来れば、力を貸してほしいのだけれど。
少女の小さな願いは、果たして届くのか。 
 
 
364 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:10:49.87 ID:J0t8MhH5o
<不思議な忍者からくり屋敷F2>

1階は調べ尽くした。それどころか変なボタン押す事で屋敷内が変形した後も探索し尽くした。
内部構造が変わっただけで、基本的に部屋の中自体に変化はなく、
よってはずれの紙すら見つけられないので、再びボタンを押して屋敷を元に戻した。

そして2階。2階も1階と同じような罠ばかりで、最早慣れた。
罠自体には慣れたのだが、普通にシャドウの数が増えた。
それも以前の研究所で戦ったシャドウ達よりも数段強力なシャドウだ。

しかしそれすら3人にとっては、戦闘の練習台に過ぎないようだ。

上条当麻はたどたどしい手つきで敵を打ち抜き。
9982号は手馴れた様子で敵を蹂躙し。
御坂美琴は作業の様に敵を焼きつくした。


―――そして10枚目のはずれを手にした時、数えるのを止めた。


もはや3人には当初の目的―布束砥信と接触すること―は無い。

『あたり』を見つけるその時まで、布束の事など頭の片隅にzip形式で圧縮されてることだろう。


上条「ふぅ……俺らって何で戦ってるんだっけ……?」

9982号「え?『あたり』を見つけるついでに上条を鍛えるんじゃなかったでしたっけ?
    と、ミサカは当初の目的をおさらいします」

御坂「あれ?そうだっけ?なんかあった気がするんだけど……」


本気で忘れている。布束どころか、一方通行達の事すら頭にない。
もはや『あたり』を引くまでバーサーカーモードが続くことだろう。
3人は再び屋敷の探索を始める。
365 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:11:31.81 ID:J0t8MhH5o
・・・

<不思議な忍者からくり屋敷・離れ>

一方通行とクマはようやく外に出られた。
……と思ったら屋敷から少し行ったところに位置する離れ屋敷に出た。


クマ「あっちに最初通ったところが見えるけど、ここの事も調べとくクマ?」

一方通行「そォだなァ……なンかあるかもしれねェしな……」


御坂達から何かしら連絡があるまで下手に動かない方が良いかもしれない。
とはいえ御坂達の身に何かあれば連絡できるはずもなく。


一方通行「しばらくこン中調べて、連絡が来なければ屋敷の方に戻る、ってのはどォだ?」

クマ「むむ、これからの采配をクマに託すクマ!?これはクマ大活躍の予感クマ!」

一方通行「成程わかった、ならとりあえずこの離れを調べることにしよォか」

クマ「あ、あれ……?聞いといてそういう事言っちゃうクマ?」


クマは不満そうな顔をするものの、最初から一方通行の考えに文句は無かったらしく、離れを調べることにした。

……と言ってもこの離れ、その辺にありそうな二階建の一軒家みたいな感じで、
調べるところどころか、そもそも罠の類すらなかった。


一方通行「……あっという間に調べること無くなったなァ」
366 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:12:25.36 ID:J0t8MhH5o
シャドウも居ない、罠も無い。むしろ住めるレベル。
と言ってもここにあるのは2階へ向かう階段と窓と壁だけだから住めるか?
って言われたら家具とかないと住めないって答えちゃうけど。

とりあえず本当に何もない空間だった。

確かにこれだけ何もないと安心して休憩できるな、とは思うが。


クマ「逆に怪しすぎるクマよね」


何かを隠蔽している可能性すら感じられるほど、
テレビの中とは思えない平和さだった。
367 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:13:33.96 ID:J0t8MhH5o
・・・

<不思議な忍者からくり屋敷F2>

特筆すべき事が無い。

それほどの作業ゲー状態だった。

『はずれ』の紙を引いてデストロイ。
『はずれ』の紙を引いてデストロイ。

目標をセンターに入れてスイッチを入れる少年のごとく、
レイプ目でシャドウを倒す作業に明け暮れた。

そして今現在。
目の前には今までのシャドウとは一線を画したシャドウが存在している。

ボディビルダーも裸足で逃げ出すほどの鍛え抜かれた筋肉。
そしてそれを見せつける為の服装なのか、海パン一丁の半裸。「闘魂のギガス」だ。

それは部屋の中央でポージングをしていた。
こちらにも気付いているはずだが、動く気配はない。
ふと「闘魂のギガス」の足元を見ると、『はずれ』とも『あたり』とも書かれてはいないが、何やら文章が書かれている。
これは確実に何かあるだろう、と3人は思うものの、目の前には筋骨隆々としたシャドウ。
なんだか妙に胸板がテカテカ光っていて、余り近づきたくない。
とはいえ、話を進めるには紙を拾うしかなさそうだ。


「「「じゃんけん、ぽん!」」」


じゃんけんで拾いに行く人を決めることにした。
368 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:14:16.89 ID:J0t8MhH5o
 


上条「うあああ!いやだ!!お近づきになりとうない!!」


案の定上条当麻が負けた。上条はどっちかって言うと不幸だからね。
嫌がる上条を前に、2人はニヤニヤしながら筋肉ダルマの元へと行かせようとする。


御坂「なによー、言いだしっぺが負けたんだから弁明のしようがないじゃないの」

9982号「そうですよ、男なら覚悟を決めなさい。と、ミサカは激励します。あー良かった負けないで」

上条「御坂妹は本音が漏れてんぞ!ああ畜生やってやる!」


大体ダッシュで拾ってダッシュで逃げれば問題ないじゃん、と上条は覚悟を決め、
ギガスの元へ駆ける。
そして紙を拾い上げ再び御坂達の元へと逃げ帰ろうとする。
しかし、今まで無言でポージングをしていたギガスの顔が、グルンと上条の方へと向いた。

上条からするとホラー以外の何物でもない。
実際に「闘魂のギガス」がそんなこと言ったわけではないのだが、
上条の耳には「やらないか」という幻聴が聞こえてきたそうな。

それはさておき、上条の方を向いた「闘魂のギガス」は、おもむろに自身の両腕を持ち上げる。
369 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:14:51.74 ID:J0t8MhH5o
 


そして、こぶしを床へと叩きつけた。


畳の床は簡単に貫通し、その穴からは下の階が覗かれる。

畳に穴が開く、という結果から上条は避けられた、と言う事がわかるが、間一髪のところであった。
上条もそれを理解していたため追撃が来るかと思ったら、再びポージングをして動かなくなる。


上条「し、しぬかとおもった……」


冗談抜きであんなパンチもらったら千切れると思った上条は、心を落ち着ける為に何度も深呼吸をする。
「闘魂のギガス」との距離はおよそ20m。3人にとっては射程圏内だが。


御坂「なんでアイツ攻撃してこないのかしら?紙は取ったのに……」


いつ攻撃が来るかもわからない為、上条は紙の内容は見ないでポケットにしまう。
攻撃してこないなら放っておいて逃げたいところなのだが、やはり襖は閉ざされて開かない。


9982号「やっぱあいつ倒さないといけないんですね。と、ミサカはガチムチを見て溜息をつきます」


手の内が読めない。あのポージングに何の意味があるのか。
近づいたら攻撃を仕掛けてくるのか、はたまた一定の時間過ぎると攻撃を仕掛けてくるのか。


上条「何にせよ、後手後手に回ったんじゃ勝てるもんも勝てねえよな」


上条はハンドガンを構え、「闘魂のギガス」の足をめがけて銃弾を放った。


しかし、カキンッと甲高い音が鳴り、はじかれる。
370 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:15:19.35 ID:J0t8MhH5o
上条「え?何あれ」

9982号「たまにいるんですよね、魔法とか物理攻撃を反射する奴。と、ミサカは敵の能力を分析します」

御坂「てことは、あいつも反射持ち?」

上条「なんだそれ反則だろ!どこの一方通行だよ!!」


しかし本来、「反射」持ちのシャドウに反射が有効な攻撃をした場合、その攻撃が自分に帰って来るはずだ。
だが、今回の上条の攻撃は反射はせずにあらぬ方向(見えたわけではないが)へと銃弾は飛んで行った。

続いて御坂がオオヒルメを出し、アギを唱え、御坂自身も電撃を放つ。
これらは普通に当たった。相も変わらずポージングをしているのでダメージの大きさは不明だが。


御坂「うーん、何か体力がバカ高いってだけな気がしてきたわ」

上条「筋肉か!筋肉が悪いんか!!」


これじゃ俺いる意味ねーじゃん!と叫ぶ上条。そんな上条を御坂がなだめる中、9982号が提案する。


9982号「そうですね……ならばこれはどうでしょう。と、ミサカは鋼鉄破りを構えます」
371 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:16:07.82 ID:J0t8MhH5o
鋼鉄破り、今持てる物理攻撃の中では一番強力な武器だ。
しかし、鋼鉄破りが火を噴く前に、「闘魂のギガス」は再び動き出した。
狙いは鋼鉄破りを構える9982号。

9982号の顔よりも大きなこぶしは、真っすぐその体をとらえようとしている。
思わぬ攻撃に動けない9982号は、鋼鉄破りを盾にした。
この鋼鉄破りはその性能を発揮するために、最早鈍器と言えるような鉄の塊と化している。
しかし、「闘魂のギガス」のこぶしは、そんな鉄の塊すらへし折った。

9982号は、殴られる直前に後方へジャンプしていたため何とか衝撃を殺すことが出来たが。


9982号「次殴られたら為す術もなくちぎれますね、物理的に。と、ミサカはあの攻撃力を目の当たりにして恐怖を覚えます」


そして再びポージングを始める。


御坂「どうやら、一定時間過ぎると攻撃してくるみたいね」

上条「あのポージングにも何か意味があるのかもな」


ほら、お前らのペルソナだって攻撃力上げるタルカジャとか言うのあるじゃん。と上条は言う。
2人は、その発想は無かった、と言う顔をした。
372 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:16:46.27 ID:J0t8MhH5o
9982号「成程、そう考えたらつじつまも合いますね。攻撃力上げてから殴る」

9982号の言葉に合わせて御坂も続ける。

御坂「ただし攻撃をしたら攻撃力は元に戻るってことね」

上条「なら今のうちに総攻撃しようぜ。鋼鉄破りならもう一丁あるんだし」


と、上条は9982号に鋼鉄破りを渡した。
今度はちゃんとぶつけられる。そのための時間は「闘魂のギガス」自身が与えてくれるからだ。
9982号は鋼鉄破りを構え、狙いを定める。
「闘魂のギガス」はポージングを止め、再び動き出す。


9982号「跪け!と、ミサカはシャドウの足を止めさせます!」


9982号の放った強烈な銃弾は、「鋼鉄のギガス」の膝を砕き、その場に倒れ伏せさせた。
強力な筋肉の天然アーマーを装備していたとはいえ、
流石に鋼鉄破りの威力には勝てなかったのか、見事に膝を打ち抜いた。
しかし、足を止めたとはいえ、まだ戦えるはず。9982号は今度は頭に狙いを定める。

だが、まだ「闘魂のギガス」は動くことが出来た。
373 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:17:28.60 ID:J0t8MhH5o
片膝だけでで立ち上がり、そのまま跳躍した。
その跳躍は、足に重傷を負っているとは思えないほどだ。
そしてそのまま9982号へ向かってこぶしを叩きつけようとしている。

9982号は突然の出来事に迎撃をしようとするが、鋼鉄破りを空中にいる敵に向けるのは難しい。
鋼鉄破りを持って避けるのは不可能と判断し、鋼鉄破りを放棄。

「闘魂のギガス」は鋼鉄破りを破壊し、再びポージングに戻った。


9982号「すみません……最終兵器がやられました。
     と、ミサカは後はお姉さまの超電磁砲しかなさそうです、と言う事実を告げます」

御坂「テレビの中じゃ本来の威力を出せないから不安があるんだけど……」


御坂は不安そうにポケットからコインを出すが、それでも攻撃するからには気合いを入れてコインを空中にはじく。


御坂「吹っ飛べ!!!」

御坂の叫びと共にコインが射出される。
強力な電気を帯びたそれは一直線に「闘魂のギガス」へと向かい、
その直線状にある全てのものを巻き込んで消失させた。
あまりの衝撃に煙が立ち上がり、辺りを覆う。
374 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:18:01.76 ID:J0t8MhH5o
・・・



煙が晴れた時、3人は愕然とした。



上条「まだ……生きてやがるのかよ……」


上条は思わず弱気な口調でしつこい奴だ、と言う。
「闘魂のギガス」は、全身ボロボロではあるものの、未だにポーズをとっていた。


9982号「マズいです、また攻撃が来ますよ!と、ミサカは2人に警戒を呼びかけます」


再びその巨体は動き出す。
身近にいる敵を殴り飛ばすため。
そして今回のターゲットは。


御坂「うげっこっちくる!」


足を引きずりながらもズシンズシンと御坂のところへやって来る。
逃げられれば良いのだが、この室内に逃げ場など無い。
直前で避けるか、迎え撃つしかない。その2つしかない選択肢に御坂は。


御坂「どんとこい超常現象!!」


迎え撃つ事を選択した。
375 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:19:10.41 ID:J0t8MhH5o
・・・

あれ?なんだか急に静かになった。


目の前には迫りくるこぶし。



スローモーションになる世界。




そして。






御坂「あれ……走馬灯ってやつ?これって」


もうこぶしは目と鼻の先だ。しかし一向に御坂の端正な顔がグシャグシャになる気配はない。


御坂「ちょっとまってよ、まだやらなくちゃいけないこといっぱいあるんだけど」


などと軽口を頭の中で叩くものの、時間は遅い。
研ぎ澄まされた集中力によって圧倒的なまでに時間が濃縮される。


御坂「走馬灯が流れる時間あるなら、敵を倒せばいいじゃん」


どうやって?御坂は自問する。


御坂「劣化版とはいえ超電磁砲すら耐えきった奴なのに」


耐えた、とはいえ体力は削れたはずだ。
それなら、出しうる最高の力で電撃をお見舞いしてやるしかない。


御坂「といってもなー、より大きな電流をお見舞いするには、何か媒体が欲しいのよねー」


より効率よく電流を相手にぶつけるにはどうしたらいい?
今手元にはコインとアギによる炎の力、そして自身の電気を操る力。これだけしかない。


御坂「……いや、これだけあれば十分じゃない」


最早これが効くかは一種の賭けだ。

出来る出来ないではない。やるしかないのだ。


生き残るために。


御坂「うぅ……あぁああぁあぁあああぁあああああぁあぁぁぁ!!!!!!」


御坂の咆哮と共に、最後の攻撃が放たれた。
376 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:19:50.04 ID:J0t8MhH5o
・・・

致死性のある電圧の大きさとはどれくらいなものだろうか。
100V?はたまた1000V位だろうか?

答えは否(と言っても一般的には余裕で危険な電圧値なのだが)。
どちらかと言えば電流値の方が重要であり、致死に当たる大きさは50mA程だ。
というのも一般的には電気抵抗、と言うものが存在するためだ。

電圧=抵抗値×電流というオームの法則は、
学校の授業や、どこかの教育番組で聞いたことがあるはずだろう。

電圧1000Vに対してこの抵抗値の数値が非常に大きな値、
例えば10万Ωとしよう、の場合、電流値は10mAである。
これではまだ致死性を持った電気とは言えない。

と言っても、10mAの電流を喰らうと随意運動が不能になる程の威力はある、と言うのは余談であるが。

逆に電圧値10Vに対して抵抗値が小さい値だと(例えば10Ωとする)、
電流値は1Aとなり、簡単に死に追いやってしまう。

故に大きな電圧を持った電撃を作るのも重要なのだが、
それよりも周囲の環境を、電気を流すのに適した状態にする方が重要だったりするのだ。

さて、そのための環境作りなのだが、ここで「炎」という現象に着目する。
実は、炎と言うのは電気を通す性質を持つのだ。
何故かと言うと、「燃焼」という現象を起こす際に火炎はイオンや自由電子を持つことになるからだ。

つまり、何が言いたいのかと言うと、普通の空気に電気を流すよりも、
炎の中に電気を流した方が、効率よく高い電流値を持った電気を流す事が出来る。
(というか空気は基本的にほぼ絶縁体と考えても良い。)

とはいえ、ただなんとなく蝋燭にでも火をつけてそこに電気を流すのでは話にならない。
プロパンやブタンなどで起こす、温度が高くて強い火炎でないと抵抗値は小さくならないわけだ。

ちなみに、炎には一定方向にしか電流を流さない性質があって、早い話が炎には整流作用がある、
というのは完全に余談であり、ここでは取り上げないことにする。
377 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:20:21.74 ID:J0t8MhH5o
さて、「電気」と「炎」について説明が終わったところで、
御坂美琴が行った事は大体お分かりいただける事だろう。

そう。

御坂はアギによる炎で電撃に確実な指向性を持たせ、
その上で電撃の威力を最大限に向上させる、と言う所業を成したのだ。

電気は抵抗の低い方に流れる性質があるため、
空気よりも炎の方に電流が行くので、うまく炎を操れば周りにも被害は出ない。

炎と電気の性質を理解した上で、その作戦を一瞬で思いつき、
確実に電流を流すための炎を作成して電撃を放った御坂の知識と、
そんな不確かな作戦に身を委ねた御坂の胆力に軍配が上がった、と言うことだろうか。




アギによる炎も相まって、「闘魂のギガス」は炭化し、ボロボロと崩れ去った。




上条と9982号は一瞬の事に唖然としている。
そんな中、御坂が声をあげた。


御坂「……死ぬかと思った」


あの研究所で騎士と戦った一方通行も、こんな気分だったのだろう。
「何だあの筋肉んの耐久力、反則でしょ」と、御坂は思った。


9982号「お姉さま、一体何をやったのですか?
     と、ミサカはあの電撃は明らかにあちらの世界の電撃よりもすさまじかったと感嘆の念を表します」

上条「すげー!流石レベル5だな!つーかこのテレビの中って能力阻害されてるとか言ってなかったか?
   なのにあんな威力の電気出すとかマジですげえよ御坂!」


あの筋肉ダルマとの戦いで走馬灯が見えたりと激戦を繰り広げた為御坂はとても疲れていたが、2人の称賛の言葉に素直に喜んだ。

でも御坂の貴重なデレシーンはカットします。
378 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 00:20:53.72 ID:J0t8MhH5o
・・・

上条「で、この紙には何が書いてあんだろうな」

9982号「と言うか、あたりともはずれとも書かれてませんね。と、ミサカは目の前の文章を眺めて何これと感想を述べます」

御坂「何々えーっと……」



有の世界から離れた場所に無の世界がある。

そこには東西南北4つの穴がある。

無心になって穴の下に潜り込め。

その中で持ちうる破壊の力をふるえ。

さすれば新たな道が開かれん。

p.s. わなびー「おーる」でぃすわーるど by布束砥信 



「「「……暗号?」」」

紙の中には謎の暗号文?が書かれていた。
と、ついでに布束砥信という存在を思い出した。 
 
382 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 17:28:20.83 ID:J0t8MhH5o
<不思議な忍者からくり屋敷F1>

「闘魂のギガス」を倒した後、一方通行達と連絡を取った3人は、屋敷の入り口で落ち合うことにした。


御坂「あんた達無事だったのね。てかあたりの紙やっぱ地図なのね……」

御坂美琴は一方通行の持つ地図をみてガックリとうなだれる。

9982号「というかその紙何処で見つけたんですか?と、ミサカは激戦の数々を思い出してうなだれます」

一方通行「……まァ、この紙見つけたのは偶然っつゥか必然っつゥか……」


この時一方通行は、上条の影と遭遇したことを伝えるべきか迷っていた。
特に上条当麻に伝えたら、独断専行してしまう恐れがある。
しかし、クマはそんな空気を読めなかった。


クマ「クマクマ、上条の影が塩を送ってきたクマよ!何か良い勝負見てえーとか言って!!」


クマの言葉に3人は驚愕し、一方通行は頭を抱えた。
一方通行はクマに、上条がこれで勝手な行動に出たらどォすンだ!と、ヒソヒソと怒鳴る(←?)。
クマもその事に気づいてしまったと言う顔をするが、上条は。


上条「そうか……あいつがここに……」

意外と冷静だった。

一方通行「……いいのか?」

あまりの冷静っぷりに思わず尋ねた。

上条「ああ、いいんだ。……まだ、な。今行っても力不足でお前らに迷惑かけるだけだし」

一方通行を見据え、上条はそのまま続ける。

上条「……もっと強くなって、足手まといにならなくなったら……あいつと話に行くよ」


成程、既に上条当麻は捜索隊の一員としての覚悟を持っていると言う事か。
ならばこンなことを聞くのは野暮だった、と一方通行は思う。


一方通行「……そォか、そンなら、言う事はねェ」

上条「それよりよ、その地図見る限りじゃ多分大体回ったはずだからさ、後はこの暗号だけなのですが」

上条達は謎の暗号文を一方通行に読ませた。
383 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 17:30:00.97 ID:J0t8MhH5o
御坂「「無心になって穴の下に潜り込め」、これは多分窓の事だと思うのよね」


「穴」の下に「ム心」すなわち「窓」と考えたようだが、他の部分がわからないようだ。


一方通行「有と無の世界……『何か』がある世界から離れた所に『何か』がない世界が存在していて、
     そこに東西南北四方向に窓があるから、それを壊せってことか……」


この時点で一方通行は、答えが大体分かった。
後は事実を一つ確認するだけである。


一方通行「俺ら、牢から出た後、この屋敷とは違う『離れ』に出たんだよなァ。
     で、その『離れ』には本当に何もなくてよォ……なンだこりゃって思ったンだが……
     この屋敷、『罠』でいっぱいだったろ?」


御坂と9982号は理解したようだ。3人は「離れ」の存在を知らないため、
暗号が解けなかったのもうなずける。


御坂「う、うん……ってまさか『わなびー「おーる」でぃすわーるど』の『わな』って……」

9982号「『wanna』ではなく『罠』と言う事ですか?それで「おーる」は「有」と言う言意味でしょうか?
と、ミサカは何と言うダジャレに苦笑いです」

上条「……ああ、成程!」

御坂と9982号の言葉でようやく上条も理解したようだった。

一方通行「さっき俺らが居た「離れ」にある窓をブチ壊せば良いって事だな。
     そしたらなんか有るはずだァ」

クマ「そうときまれば、クマについてくるクマ!」


こうして、仮称特別捜索隊は再び「離れ」へと向かうのだった。
384 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 17:30:43.41 ID:J0t8MhH5o
・・・

<不思議な忍者からくり屋敷・離れ>

離れに到着した。

上条当麻と御坂美琴、9982号は、その罠も何もない空間を見て納得した。
ここが暗号文に書かれた「無の世界」であると。


御坂「本当に何もないわね……」

9982号「窓も一階と二階合わせて4か所、東西南北として考えられる位置にありました。
    と、ミサカは離れを調べた事実を述べます」

一方通行「それなら、クマを除いた4人で窓をぶっ壊す。これでどォだ?」

クマ「クマー!クマはおいてけぼりクマ!?」

御坂「クマは戦えないじゃない」

9982号「こないだミサカとぶつかった時倒れて立ちあがれませんでしたよね?
    と、ミサカはあの時の間抜けな姿を思い出して笑います」

フルボッコである。しかし事実なのでクマは言い返せない。

上条「クマは攻撃力が……残念と言うか……」

そして、上条からすらフォローがもらえなかったクマは。

クマ「もう良いクマ……この辺でおとなしくしとクマ……」

部屋の中央でいじけた。

一方通行「……クマはほっといて、各自窓ンとこ行くぞォ」


「「「了解!」」」



行動開始。
4人はそれぞれ窓の前に立ち、各々の持つ力をふるう。
一方通行はシナツヒコによる風を。
御坂美琴はオオヒルメによる炎を。
9982号はワカヒルメによる蹴撃を。
上条当麻は、


上条「あれ、銃弾ねえし!!もうこれ一般人だろ俺!」

仕方ないと、覚悟を決める。
そして上条は右ストレートを放ち、ガラスを砕いた。
385 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 17:31:31.24 ID:J0t8MhH5o




クマ「おろ?」


窓が破壊された瞬間。
部屋の中央に鎮座していたクマの下の床がパカリと開く。
クマは物理法則に従って、下へと落ちて行った。

あまりにもデジャヴな光景だったが、開いた床は開きっぱなしだった。
おそらくは降りてこい、ということだろう。

一方通行「……行くしかねェだろォな」

一方通行の気だるげな言葉に、御坂が気合いを入れて応える。

御坂「虎穴にいらずんばなんとやらって奴ね!」

しかし、どのくらい深いのかわからない。何も考えず飛び下りれば上条などは特に危ないだろう。
仕方が無いので一方通行が3人を抱え、下へと飛び降りた。
386 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 17:32:30.91 ID:J0t8MhH5o
・・・

<不思議な忍者からくり屋敷・地下茶室>

3人を抱えた一方通行は、能力を使って衝撃を殺し着地した。
クマは先に落ちたせいであおむけに倒れ、起き上がれないでいる。


クマ「起こしてほしいクマー!助けてクマー!」


緊張感の欠けるクマの姿に苦笑いしつつも上条当麻がクマを起こした。
そんな様子をクスクスと笑いながら眺める少女が居た。


一方通行「お前が布束砥信、だなァ?」

布束「indeed、私が布束砥信よ。ここまでよくたどり着いたわね」


語頭に接続詞をつける変わった口調の少女は、のんびりとお茶を作っている。


御坂「あんたは、絶対能力進化実験やこのテレビについて何か知ってるんでしょ?
   それを教えてほしいの。というか何でこんな場所に居るの?危ないでしょうに」


御坂が代表して聞きたい事を尋ねる。


布束「そうね、ここに来たのは不本意ながらだけど。
   but、事情を教えるには、あなた達が私の力になれるかどうか知らないといけないわ」


その言葉に一方通行と御坂が反応する。
御坂は超能力者としてのプライドが傷つけられた気がして、頭から電気をビリッと出した。


一方通行「へェ……目の前に居るのが誰か分かってねェよォだな……」
387 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 17:34:33.51 ID:J0t8MhH5o
一方通行と御坂の脅しにも気にせず、布束は歌うように話す。

布束「indeed、学園都市第一位と第三位を相手にして勝てる道理はないわ」

however、と布束は逆説の接続詞をつけて続ける。

布束「このテレビの中では、その道理は捻じ曲げられる。それはあなた達はよく知ってるはずよ」


お茶が完成したのだろう。しかし、そのお茶は一人分しかない。
誰が飲むのか、と何となしに上条は思うが。
次の瞬間、上条の表情は驚愕の色に染められる。


影「だから、お茶は苦手だっての。まあ、結構なお点前で」

気がつけば、目の前には上条の影が存在した。

上条「お、お前……」

影「よお、上条君元気かなー?」


お茶を一気に飲み干して、影はニヤニヤしながら挨拶をかわそうとする。
しかし上条は驚きのあまり何も言えない。


影「さあさあ、こんなところまでやってきて、お前は一体どうしたいんだ?
  俺を連れ戻したい?どうやって?力づくで?」


矢継ぎ早に質問をする。しかし答えは聞いていない様子だ。


上条「俺は……多分お前が戻って来るにふさわしい人間じゃない。
   だから……このテレビの中でお前は好きにやってろ。俺はいずれお前を認めさせる」

影「はは、そうかい。それなら特に言う事はねえ、後は高みの見物と行こうかね」


上条の言葉や、決意に満ちた目を見た影は満足そうに言って、布束の後ろへと飛んだ。


布束「well、力比べをしましょうか」


布束はおもむろに拳銃を取り出す。

拳銃を見た4人はさっと身を構えるが。



布束は、



その拳銃を、



自身のこめかみにつきつけ、




「「「!!?」」」



迷わず引き鉄を引いた。 
 
394 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 20:54:39.22 ID:J0t8MhH5o

布束砥信は言葉にする。

この世界で力を行使するための「合言葉」。


布束「ペルソナ……!!」


布束はこめかみにつきつけた拳銃を下ろす。
その背後には薄手の布をまとった女性のようなペルソナが居た。


布束「アトロポス……!」

―――アトロポス(atoropos)。曲げられない女。人々の運命を決める女神の3柱のうちの1柱。
運命を「糸の長さ」で表し、3柱はそれぞれ糸を「割り当てる者」、「紡ぐ者」、「断ち切る者」にわかれた。
アトロポス(変えられない者、という意)はそのうち「断ち切る者」に当たり、割り当てられた糸を断ち切る役割を果たした。
オリジナル造ろうと思ったら既存のペルソナでした。悲しいけどこれって現実なのよね。


クマ「やっぱり……ペルソナを扱えるクマね……」


クマは納得しているが、やはり他の4人は混乱を隠せていない。
395 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 20:55:21.07 ID:J0t8MhH5o
布束「ふふ……どうして?って顔をしてるわね……
   anyhow、これが現実よ。ペルソナを扱えるのはあなた達だけじゃない」


but、あなた達みたいに天然じゃないけどね。
と、小さくつぶやく。その表情には若干影をさしている。
その言葉を一方通行は聞き逃さなかった。


一方通行「……何にせよ、ここで戦るってンなら、やってやるよォ!!
      (天然じゃない……?人工的にペルソナを扱えるようになるってンのかァ……?)」


獰猛な笑みを浮かべ威圧的な口調で叫ぶものの、頭の中では冷静に布束について考察した。

しかし情報が足らない。

布束が知っている事を教えてもらうしかないらしいと判断し、思考は戦闘にのみ集中する。

しかし、布束は動く気配が無い。
そして布束はぽつりと一言、


布束「……『コンセントレイト』」


コンセントレイト。日本語訳で「濃縮する」。
すなわち次に放つ魔法を濃縮する事で威力を大幅に向上させるスキルだ。
そして、今まさに強力な魔法を放つために、布束は集中する。

コンセントレイトを知らない一方通行達は、布束の出方を見るためか、一向に動く気配がない。
しかし、「闘魂のギガス」と戦った上条が布束の様子に嫌な予感が頭の中を廻った。


上条「おい……あれって、さっきの筋肉と同じようなことしてるんじゃねえのか……?」
396 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 20:55:49.29 ID:J0t8MhH5o
「闘魂のギガス」を知らない一方通行は何のことやら、と言った顔をするが。
御坂美琴と9982号はギョッとした顔をする。


御坂「だとしたらヤバい!一方通行!ひょっとしたらあいつ、攻撃力を大幅に向上させるスキル使ってるかもしれない!」


御坂のその言葉を聞いて一方通行も事態を把握したのか、布束に向かってガルを放つ。


布束「私の目的に気付いたみたいね……but、もう遅い」



―――マハ、ガルーラ。(敵全体に疾風属性で中ダメージ―ガルより強力―を与える)



暴風、吹き荒れる。
この部屋には茶道具くらいしかなく、巻き込まれるのはその茶道具と。



「「「~~~ッッ!!!」」」



仮称特別捜索隊のメンバーのみだった。

全てを蹂躙する風が止んだ時、その場に立つことが出来たのは……

攻撃を放った布束と。

布束の後ろに控えていた上条の影。

そして、


一方通行「……」


一方通行のみだった。
397 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 20:56:17.36 ID:J0t8MhH5o
布束「well、流石は第一位と言ったところかしら。ガル……いえ、ガルーラかしら?
   anyhow、疾風属性の攻撃を能力で操って壁を作ったみたいね……
   however、周りを守りきれるほどの壁はつくれなかったみたいだけど」


一方通行の後ろには、ピクリとも動かず倒れ伏せた仲間達が居た。


一方通行「クソったれがァ……!」


明らかな力量差。それを理解してしまう。
1対1なら確実に完封されるだろう。しかし、全員が揃えば何とか出来たかもしれない。

後手に回った時点で、負けが決まったようなものだ。
だが、まだ確定したわけではない。
一方通行にはまだ手札があった。その手札を切るのは今だろう。

為さねばならない理想があった。
そのためには生き延びねばならない。
ならば考えなければならない。

一方通行が行動を起こす前に、御坂と9982号はゆっくりだが、確かな意思を持って立ち上がった。
これはほとんど意地みたいなものだろう。例えギリギリでも、戦う意思を持って、布束と相対する。
398 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 20:56:57.15 ID:J0t8MhH5o
御坂「ハァ……こんなところで、倒れる予定はないのよ……!」

9982号「まだ……終われません……我が同胞の為にも……」


そんな2人を値踏みするように眺めて、布束は小さく笑みを浮かべる。


布束「根性はあるみたいね……incidentally、ツンツン頭の男の子は、もうダウンかしら?」


布束の言葉に反応し、御坂と9982号はゆっくりと上条の方を向く。
おそらくペルソナを所持してない為に、御坂達と比べ、耐久力に差があったのだろう。
頭から血を流し、目覚める気配が無い。

動かない上条を見て御坂は。


御坂「ううぅ……うぁあぁぁあぁあああぁあああ!!!」


逆上した御坂は「闘魂のギガス」の時と同じく、炎を媒体とした電撃の威力を向上させる―火炎整流器とでもいおうか。―技を放った。
しかし、迫りくる強力な電気を保った巨大な炎を目の前にしても、布束は慌てる様子も無く。


布束「undoubtedly、手持ちのカードで電気を効率よく扱う、と言うのはとても良い考えね。
   but、これでは炎を退けるだけで電気もその炎に追従してしまうわ」
399 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 20:57:27.16 ID:J0t8MhH5o
生徒に教える先生の様に丁寧な説明をしながら、布束は電気を帯びたアギをガルで逸らす。
アギはそのまま空中に霧散し、電気も一緒に消えて行った。
しかし御坂の攻撃はそれだけに終わらない。
あえて消耗を無視して巨大な炎を作る事で、それを眼隠しとしたのだ。

御坂は既に自身の代名詞たる『超電磁砲』を放つ準備は完了していた。

攻撃力なら、火炎整流器の方が高いだろう。
しかし、速度なら。圧倒的に『超電磁砲』に軍配が上がる。

そして御坂は高い攻撃力を持った上で高い速度も持った最大限の攻撃を布束へと放つ。
御坂が攻撃を放つその瞬間。


布束の口元は。



―――笑っていた。
400 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 20:58:01.21 ID:J0t8MhH5o
・・・

超電磁砲は、直撃した。


御坂美琴は自身の攻撃が確実に当たった、と確信をもった。


だがしかし。


この言い知れぬ不安は何だ?


そうだ、「闘魂のギガス」よりも強いだろうと思われる少女相手に。




―――ただ一度の攻撃で倒れるわけがないじゃないか。




煙が晴れた時、布束砥信の服は、腹部が裂け、裂けたその部分からは血が噴き出していた。

明らかな致命傷である。

それでも布束の目は全く死んでいない。
それどころか口元には笑みが浮かんでいた。


布束「……イイ攻撃ね……but、こんなに激しいと、彼氏さんも大変じゃないかしら?」
401 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 20:58:30.48 ID:J0t8MhH5o
敢えてもう一度言おう。明らかな致命傷である。
だが、布束からは軽口を叩くほどの余裕が見られた。

最大限の威力では無い、とはいえ生身の人間に初めて超電磁砲を直撃させた御坂は。


御坂「な……なんでそんなに、余裕なの……?」


自身の手で人間を傷つけたことによる恐怖と、目の前の布束の態度に対する戸惑いを隠せなかった。


布束「unfortunately、この世界では……回復スキル、と言うものが存在するのよ」



―――ディアラマ。ディアの強化版。体力を中回復する。



布束が『ディアラマ』を唱えると、腹部の傷はみるみるとふさがって行き、超電磁砲によって乱れた服装以外は綺麗に回復した。
そんな回復スキルを間のあたりにした一方通行達は驚愕した。


一方通行「成程……『ディアラマ』ならその程度の傷は完治出来るわけか……」

布束「but、回復量は能力に依存するけどね。
   therefore、『ディア』ですら使い手によっては、
   他の人間が使う『ディアラマ』よりも強力な回復スキルになることもあるわ。」


一方通行の言葉に、布束は聞いてない事まで丁寧に答える。
実を言うと、一方通行だけはこの回復スキルの存在を知っていた。

しかし、それを使う事はなかった。
「あたらなければどうということはない」という言葉もある。
どのくらい回復するのかわからないスキルに頼って攻撃を喰らうわけにはいかない。
そう考えた一方通行は、御坂達に攻撃が当たらないように今までは配慮していたのだ。

だがしかし。それもついさっき破綻した。

今更手札を出し惜しみしても仕方がない。
だが、通用するかはもはや賭けだ。


一方通行「……ペルソナチェンジ」


他のペルソナ使いとは一線を画した特殊な能力。
『ワイルド』たる一方通行は、それを存分に発揮することにした。
402 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 21:00:47.50 ID:J0t8MhH5o
・・・

「ここは……?」

確か忍者屋敷の地下で布束砥信と相対していたはずだが。
そして、布束の攻撃に倒れたはずだ。

「……ようこそ、ベルベットルームへ」

ツンツン頭の少年の前には、一方通行の前に現れた長鼻の爺と、金髪の女がソファーに座っていた。 
 
403 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/09(木) 21:01:21.81 ID:J0t8MhH5o
尾張。
上条さんにどんなこじつけでこんなことになったのか。
それは次回。 
 
407 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:32:11.20 ID:5DeiJsCBo
おっしゃー投下すんぞこらー!

注意点
・多分予想と違います
・ペルソナに関してねぼし的な理論が展開されます

以上の事を御理解いただけたうえで読んでいただくようお願いします 
 
408 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:33:12.81 ID:5DeiJsCBo
戦力は拮抗していた。いや、拮抗しているという表現は正しくないだろう。
布束砥信は、疾風スキルを得意としている。ならば疾風無効の力を持ったペルソナに変えればよい。

今現在の一方通行の手持ちのペルソナには、その力を持ったペルソナが1体いる。
と言っても、火炎、氷結、雷、疾風の、4属性それぞれを無効のペルソナを1体ずつ用意していたのだが。
敵の得意な属性に合わせてペルソナを変えていく、という作戦は前々から考えており、今回はそれを実行したのだ。

しかしこの作戦には問題が一つだけあった。

どのペルソナも、シナツヒコに比べたら火力が無かった。と言うより鍛える時間が無かった。
故に今装備しているペルソナは『法王・アンズー』なのだが、イマイチ決定打に欠ける。(というか全く鍛えてないので、布束との力量差が著しい)
だがしかし、疾風属性が効かない布束も決定打に欠けるのは同じ事で、互いににらみ合いの状態になっていた。

隙をついて一方通行がシナツヒコに戻し攻撃を仕掛けるのが先か。
はたまたそれを見切って布束がカウンターを仕掛けるか。

均衡状態は、長引きそうだった。
409 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:33:56.69 ID:5DeiJsCBo

・・・

所変わって、こちら車の中。

上条当麻は困惑していた。
それもそのはず、先ほどまで和室の中で暴風に吹き飛ばされた。……はずだったのだが。


上条「えーっと、どちらさまで……?」

イゴール「ふむ、お取り込み中のところをお呼び立てしてしまったようですな……」


これは申し訳ない、と鼻爺は謝罪する。
しかし上条が欲しいのは謝罪ではなく、情報だった。
そんな上条の気持ちを察したのか、イゴールは続けて話す。


イゴール「申し遅れましたな。私の名はイゴール。こちらに控えておるのがマーガレットでございます」

上条「ああ、そりゃご丁寧にどうも……ってそんなこと知りたいわけではないのでございますよ!?」

イゴール「おっと、そうでしたな。本来、貴方様はこちらにお呼び立てする事はなかったのですが……
     『イレギュラー』が発生しましてな」


ふっふっふ、と思わせぶりな笑みを浮かべる。
しかし上条には話が理解できない。何にせよすぐに皆の元へ戻らねばと思うが。


イゴール「貴方様は現在『イレギュラー』によって『自身の片割れ』を失われておられます……
     そのような状態で皆さまの元へ戻っても……」


言いたい事はわかる。その通りだ。
力のない自分が行っても足手まといにしかならない。
だが、力がなくたって、目の前で仲間が苦しむのを許容できるほど上条の諦めは良くない。
410 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:35:00.71 ID:5DeiJsCBo
上条「例え俺が行くことが無意味でも……何か出来る事があるかもしれねえ!あいつらの盾にだってなれる!
   力が無いからって……守ることを諦めて良いことにはならねえだろうが!!」

イゴール「確かに。その通りでございます……ですが、少し落ち着きなされ。
     私がここにお呼び立て致したのには、ちゃんとした意味があるのです」

上条「意味……?」

イゴール「然様でございます。しかしながら、『力』を与えられるわけではないのですが……」

上条「『力』?ペルソナの事か?」

イゴール「その通り。『力』は与えられませんが、『力』の使い方をお伝え致すことができるのです」

上条「どういうことだ……?俺は俺の『片割れ』を失ってるんだから、ペルソナは使えないんじゃ……?」

イゴール「確かに、お客人は『片割れ』を失った状態にあられる。
ですが、『心』とは複雑怪奇……貴方様の『心』もまた、『片割れ』だけが全てではないのです」

上条「つまり……俺でもペルソナの能力を使う事が出来るのか?」

イゴール「然様。ですが悠久の時を漂う『心の海』では、貴方様の『片割れ』の代わりを成せる『力』を見つける事は困難……
     その『力』を引き出すための道具が必要なのでございます」

上条「道具……?」

イゴール「ふっふ……先ほど、あちらでご覧になられたはず」

上条「あっちで……?」


道具、道具。そんなもの使ってる奴……そういえば一人だけ、居た。
成程!と言おうとした瞬間、世界が暗転した。
再び薄れゆく(覚醒していく)意識の中、イゴールが言う。


イゴール「『片割れ』を失った状態で『心』を御す事は困難……
      さて、お客人はどのような選択を為し、進んで行くのか……
      いずれにせよ、自身のご選択に後悔のあらぬように、
      よくよくお考えになられますよう、お願いいたします」
411 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:35:44.45 ID:5DeiJsCBo
・・・

上条当麻は目を覚ました。しかし、体は既にボロボロで、頭がやたら重たい。
どうやら倒れてる間に血を流し過ぎたようだった。
しかし、軽い応急処置は為されていた。御坂美琴と、9982号によるものだ。

そして目を覚ました上条を見て、その2人は少し安心する。


御坂「よかった……目を覚ましたのね……」


御坂は軽く涙目である。9982号も、無表情であるがホッとした様子であった。


9982号「全く、情けないですね。男が女を心配させるなんて。
    と、ミサカは男の甲斐性無しは話にならんと説教します」

上条「ああ……悪いな……心配かけた」


体は重たいが、まだ動かせる。
後は召喚器だが……


上条「やっぱ、彼女が持ってるあれを何とか奪い取れなきゃなあ……」


よくよく考えると、布束砥信の持つ召喚器を奪い取れたなら、最初から上条にはペルソナは必要ないはずである。
だと言うのに、あのタイミングでイゴールが召喚器について話したのは何か意味があるのだろう。
そう考えた上条は、体力を温存するために、一方通行と布束との戦いを静観することにした。
412 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:36:11.14 ID:5DeiJsCBo
・・・

さて、一方通行と布束砥信との対峙は、未だに拮抗している。
どちらも動くに動けない状況だ。
そんな2人を遠目に眺める上条の影は、新しいおもちゃを買ってもらった子供のように非常に楽しそうな顔をしている。


影「おっ、上条君が目を覚ましたか……」


しかし上条の雰囲気を見て、影の表情が曇る。


影「ちっ……『力』の御し方を理解したか……?
  まあ、使いこなせるかどうかは別なんだけどなー」


どこのどいつだ、『ペルソナ』の扱い方を教えたのは。と影は憎々しげにつぶやき、
再び一方通行達のにらみ合いを眺め出した。


影「こいつらもこいつらでまどろっこしいなあー」


いい加減にらみ合いにも飽きが来たのだろう。
しかし、それでも何故か影はにらみ合いを眺める事を止めない。


影「俺を楽しませてくれた『あれ』、出てこないかなー。
  『あれ』の時の布束自身は記憶になかったっぽいけど」


あの時の『あれ』、そろそろこないかなー。と、影はニヤニヤしながら眺め続ける。
413 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:36:40.25 ID:5DeiJsCBo
・・・

一方通行「なァ……いつまで睨みあい続けンの?」

布束「well……私も疲れてきたわ……」


互いに何か何で戦ってるんだろう?とか疑問に思うようになった。
ホントに何で戦ってんのこいつら。


布束砥信は一方通行達の力を知りたかった。

一方通行達は布束砥信から情報を聞き出したかった。


ある種の利害が一致したと言うべきだろうか。
戦うべくして戦ったのだろうが、『闘魂のギガス』を撃破した3人に、『ワイルド』の力を以って布束とにらみ合いを続ける一方通行。

布束はもう十分に一方通行達の力を知ることが出来たはずだ。
クマは……よくわからない。

布束は戦いを止めるタイミングを逃していた。
ペルソナも結構な時間発動させていて、疲労も蓄積している。
414 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:37:54.91 ID:5DeiJsCBo
ところで、布束は最初に言った通り、一方通行や御坂美琴、9982号とは違って、
『自身の影』と向き合って、『自身の影を認めることの恐怖に打ち克った』わけではない。
拳銃型の召喚器を頭につきつけ、引き鉄を引く事で『恐怖に打ち克ち』、ペルソナを引きずりだすのだ。

『恐怖に打ち克つ』すなわち擬似的に『自身の影を認める』行為を成すことにより、
ペルソナを扱う事が出来るようになるのだ。

この『恐怖に打ち克つ』と言う行為は、前者と後者で全然違う。
前者は『自分にとっての根本的な恐怖を受け入れている』のに対し、
後者はただ単に、『恐怖を飲み込む』だけなのだ。

故に後者の場合、『召喚器』が無ければペルソナは扱えないし、
一歩間違えれば文字通り『恐怖に飲み込まれる』結果になる。



この『恐怖に飲み込まれる』結果と言うのは、
先ほど上条の影がひとりごちた『あれ』のことである。
それはすなわち。







影「おっと……来た来たっ♪」








―――ペルソナの『暴走』だ。
415 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:38:48.73 ID:5DeiJsCBo
布束「ッ!!?……あああッ!!ううッああぁああああ!!!!」

「「「!!?」」」


それは突然訪れた。
突如として布束は頭を抱える。何かにもだえ苦しむようだ。
布束の背後にいたアトロポスも苦しそうに喉をかきむしっている。
そんな様子を一方通行達は呆然として眺め、上条の影はワクワクした顔をしている。


影「これこれ、これだよ俺を楽しませてくれた『力』は!」


アトロポスの背中から、蝉の脱皮の様に、『何か』が現れた。

それは天使の様で、悪魔の様でもあり。
女神の様な微笑みを浮かべ、死神のような叫び声をあげた。

明らかに異様なその光景を前に、誰も動く事は出来なかった。
布束は諦念した顔で目の前の『何か』を見上げた。


この『何か』の狙いは。

布束砥信の。

『存在』そのものだ。


『何か』は布束へと手を伸ばす。
自身が布束と成り変る為。そのためには布束の存在は邪魔だ。
この行動はまさに、御坂や9982号の時と同じだった。
『宿主』から抜け出し、『自身を認めない宿主』を殺す。



―――すなわちペルソナは、シャドウへと堕ちた。
416 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:39:36.56 ID:5DeiJsCBo
そんな布束と、布束の影を見て、一方通行はいの一番に動いた。
布束の影を止めるためだ。

しかしそんな一方通行を見据え、布束の影は嗤う。


布束の影「what’s up?邪魔する気?ぶち殺すぞ?」

一方通行「何言ってンだ、そりゃこっちのセリフだっつゥの。俺はそいつに聞きてェ事がある。
     だからそいつに手ェ出されちゃ困るンだよ」

布束の影「why?何言ってんの?これは当然の報いだよ?
      私の事分かった気になって調子にのっちゃってまあ……」


布束の影は布束を、心底憎い、と言った目で射抜く。


布束の影「『あんな計画』に利用されてこんなところにまで追いやられちゃってまあ……
     all very well but、 もう我慢できないよね。過程はどうあれ、この『私』をいっぱい使いやがった」


借りたものは清算しないといけないよね?と布束の影。
『あんな計画』が何のことかわからないが、話を聞くためにも布束を保護しなければ。
そう考えた一方通行は布束と布束の影の間へと入った。


布束の影「after all、君らは私の邪魔しちゃうんだね」


そっちがその気なら、こっちもこの気で行くからね。と布束の影は嗤う。


布束の影「我は影…真なる我…」


一呼吸置いて、叫んだ。


布束の影「邪魔をするなら、ぶっころす!!」


こうして、風の力をもつペルソナ使いとシャドウは激突する。
417 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/10(金) 00:40:07.29 ID:5DeiJsCBo
・・・


影「さあて、面白くなってきたなあ!
  あの時は力の片鱗だけ見てから速攻制御剤飲ませたからなあ……」


今回は全力を見られそうだ、と楽しそうに呟く。


影「つか、この場所って実質海の中なんだよな……」


これ以上暴れると、この室内は間違いなく崩壊するだろう。
この事を伝えるべきかな。いや、別にいいや。


影「そっちのが、イイリアクション見れそうだしなー」


それはまるでドッキリを計画するスタッフのような、悪だくみをおもいついたいたずらっ子の笑みだった。 
 
422 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 00:58:19.89 ID:KMhRWGEJo
一人と一体が放つ風は、互いに互いを屠るための威力を伴っていた。
そして2つの暴風は、互角。風がぶつかるたびに互いを打ち消した。

しかし。


布束の影「まだまだまだああああ!!!」


一体は余力を残していて。


一方通行「ゼッ……ハァ……オオァアァアァアァアアアアァァ!!!」


一人は全力を出していた。


布束の影「heyhey what’s up?もう限界?まだまだ行けるんだけどなー」


布束の影は軽口を叩きながらガルーラを放つ。
一方通行はそれを抑えるのに精いっぱい、と言ったところか。
このままではジリ貧なのは火を見るより明らかだった。

そんな一方通行を見て御坂美琴と9982号は支援しようとするが。


布束の影「邪魔すんなよコラァ!!」

御坂・9982号「「きゃあ!!?」」

一方通行「!?御坂ァ!!9982号ォ!!!」


布束の影は御坂と9982号の攻撃ごと、一方通行ですら抑えきれない暴風を以って吹き飛ばした。
423 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 00:58:53.16 ID:KMhRWGEJo
・・・

上条当麻は布束砥信の持つ召喚器を見つめていた。
ふるえる手でその拳銃を手にする。

銃口は樹脂か何かで防がれていた。
銃弾は出るわけがない。それは分かっている。

なのに。


上条「なんで引き鉄が引けねえんだよ……!」


黄昏の羽根。『死』の象徴たる『月』から届けられたオーパーツ。
それを組み込んだ召喚器は、人間の根源的な恐怖を刺激する。

その恐怖を飲み込んで初めてペルソナを引きずりだすことが出来るのだ。
故に拳銃から弾が出ないことが分かっていても、
こめかみにつきつけて引き鉄を引く事は自殺することと同義である。

上条がこうやって逡巡している間にも、3人は布束の影に蹂躙されて行く。

・・・

クマはあわあわと上条と一方通行達を見てキョロキョロしている。


クマ「どうしよう……どうしてクマには何も力が無いクマか……?
    力どころか、どうしてクマには中身すら無いクマ……?」


力が欲しい。

だが、クマの願いは、届かない。
424 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 00:59:26.58 ID:KMhRWGEJo
・・・

絶対的な『死』がそこにはあった。
この拳銃を躊躇いなく引ける布束が不思議でならない。それが上条の見解だ。

『死』を踏破してでも、力が欲しい。
目の前で窮地に立たされている3人を前にこうして黙って座り込んでいることがもどかしい。
目の前で苦しんでる仲間を目の前にして、どうして手を差し伸べられないんだ。

今までだって、死ぬかもしれないと分かった上で様々な困難に立ち向かっていたではないか。

それなのに、どうして今それを発揮できない。

どうしてこんなに怖いんだ。
どうしてこんなに力が無いんだ。
どうして、どうして、どうして―――




すると、唐突に何かを理解した。




嗚呼、そうか。
今までは、この恐怖を『あいつ』が肩代わりしていたんだな。
今までは、この恐怖を見て見ぬふりして、押しつけていたんだな。

最低だ。
何が苦しんでる奴を目の前にして手を差し伸べないと、だ。


こんなに苦しんでいた奴が目の前どころか自分の中に居たと言うのに。

上条は考える。「俺は一体、今まで何回あいつを殺してきたのだろう」と。
ここまでされて愛想を尽かさないわけがないじゃないか。
それを理解して、自嘲の笑みを浮かべた。
自身の影には謝らなければならない。


上条「だけど、それはそれ、これはこれだ!!」


仲間を助けたい。この気持ちは本物だ。
ならば今からでも、乗り越えてやろうじゃないか。『死』への恐怖を。


上条は召喚器をこめかみにつきつける。
もはや手は震えていない。


銃を綺麗に構える必要はない。
標準を定める必要もない。
鉛もそれを飛ばすための火薬だって必要ない。



―――ただ、そこに決意の弾丸を込めればいい。




今なら自身の影に、本気で言える。




―――ごめんな。




上条当麻は、引き鉄を引く。 
 
429 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:42:16.50 ID:KMhRWGEJo
どうする、どうする、どうする。

一方通行は考える。

せめて仲間達だけは逃がせないか。
しかし出口は自分たちが落ちてきた天井の穴しかない。
そこを通るには隙を見つけなければならない。
だがその隙がない。

逆に、布束の影を打倒できるだろう方法は一つだけあった。

―――プラズマの生成。

これが出来ればおそらく行けるはずだ。
だが、大技を放つ隙があるはずもなく。

布束の影の風を抑えるだけで、無為に体力が削られて行く。

あと手札をもう一枚あれば―――


一方通行「ッ……!!?」


唐突に『力』を感じた。
しかし自分からでは無い。
思わず『力』を感じる方向に振り向いた。
致命的な隙を自身で作ってしまったが、布束の影も攻撃を止め、茫然とその方向を見ている。


一方通行「上、条……?」


一方通行は上条当麻に尋ねる。
目の前の人間は本当に上条なのか。
いや、確かに上条だ。そんなことは見ればわかる。


だが、しかし。


上条の背後に居るのは、何だ?
430 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:43:00.39 ID:KMhRWGEJo
・・・

『力』を感じる。

これが『ペルソナ』か。

これが『力』か。

勝てる。そんな確信が持て……る……

上条の意識は、暗転する。


上条「お……あ……」


だが、意識を失ってもなお、上条は動き続ける。
何かに操られるように。
何かに縛られているように。

布束のペルソナの時のリプレイを見るかのように、
上条が出したペルソナから、『何か』が這い出てくる。
431 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:43:39.85 ID:KMhRWGEJo
・・・

<???>

そこには男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』がいた。
培養液の中に逆さまになって浸り、目をつむりながらも、どこかを眺めているようだった。


「『天空神・ウーラノス』を屠った存在である、『クロノス』……
 『神浄』の拠所たる上条当麻なら召喚できて然り、か……
 むしろ『天空神』そのものを召喚してもおかしくは無いんだが……」

「……しかし、完全に支配下に置くには力が足らないと言ったところか……」

「と言っても、あの調子なら次に召喚する際、再びクロノスが顕現する可能性は薄いか……クロノスと彼では、性格が合うまい」

「まあ、何にせよ『片割れ』が上条当麻から抜け出したのは正解だったな……」

「間違いなく、このイレギュラーは私のプラン短縮の要因となるだろうな」

「くくっ……今後が楽しみだ……」


『人間』は、心から楽しそうに笑う。
432 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:44:22.50 ID:KMhRWGEJo
・・・

影は上条から現れた『何か』を見て、驚きつつも笑う。


影「なんだありゃあ!上条クンはとんでもねーもんだしやがったなあ!!」

影「だが、力量差を考えずにあんなもん出すから使役するどころか逆に操られちまってるところが抜けてんだよなあ……」


普段の小馬鹿にした笑みではなく、出来の悪い弟を慈しむような笑みを浮かべる。


影「……いつまでもこんなところに居たらあれだな……この場所が崩壊しちまう」


海に沈む前にさっさと消えちゃおう。
上条の影は、もう十分に楽しんだ、と言う事であっさりと消え去った。
433 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:44:49.02 ID:KMhRWGEJo
・・・

布束の影は初めて恐怖する、目の前の人間に。
明らかに目の前の人間は『支配権』を『ペルソナ』に奪われている。
だと言うのに、『ペルソナ』は『宿主』を殺すどころか、布束の影を見据えていた。


しかし、『ペルソナ』は動く気配がない。


―――本当に、『支配権』は奪われているのか?
434 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:45:17.35 ID:KMhRWGEJo
・・・


どこだ、ここは。

何も見えない。暗い。昏い。冥い。闇い。
だがしかし、すぐに確信を得た。


上条「ここは俺の中だ……」


と言う事は、表には『片割れの代わり』が出ているのか。だとしたら拙い。
初めてのペルソナ召喚なのだ、布束砥信と同じく暴走していたっておかしくない。



上条「俺が勝手に呼び出しといてあれなんだけど……」



―――邪魔を、するな!!!



上条は右手をのばす。

何かをつかむように。

何かを引きずり降ろすように。



上条のペルソナから這い出てきた『クロノス』。
そこから更に上条のペルソナがクロノスの体の中から右手が突き破ってきた。
435 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:45:54.17 ID:KMhRWGEJo
・・・

一方通行も、気絶から覚めた御坂美琴と9982号も、布束砥信も、布束の影すら。
目の前の光景に、息をのんだ。

そんな中、上条当麻は、自身のペルソナの名をつぶやく。


上条「……オケアノス」

―――オケアノス。ウーラノスとガイアの間に生まれたティーターン一族の長兄。海の神で、オーシャンの語源とされている。
謀略を嫌う性格とされ、ウーラノスとガイアの間に生まれた末弟たるクロノスがウーラノスから王位を奪った時には、ティーターンの中でも、謀議に加わらなかったという。


一方通行「上条……お前、それは……」

上条「一方通行……俺が、時間を稼ぐ」


一方通行の言葉を無視して、上条は一方通行が望む「時間稼ぎ」を申し出た。


一方通行「ハァ?お前、いきなりそいつを使って……大丈夫なのかァ?」


確かに、プラズマを生成する時間を稼いでは欲しかったが。
先ほどまで上条の背後に居た『クロノス』は、非常に危険な力を秘めていた。
すなわち、上条のペルソナが暴走した時、止められる術は、無い。
そんな一方通行の懸念を察したのか、上条は笑う。


上条「大丈夫だ、あいつはもう出てこねえよ。なんつーか多分……性格が合わねえ」


根拠のない上に要領を得ない答えに、一方通行は首をかしげる。
しかし、その言葉には、何故か大丈夫だという確信が持てた。


上条「それに……今の俺なら、全力で攻撃を放てばあいつを倒せるかもしれないけど……
   むしろそっちの方が危ないんだ。多分、制御しきれねえと思うから……とどめは、頼んだ」


上条の言葉に、一方通行は首を縦に振る。


一方通行「分かった。……それじゃ、技を放つまでの盾役を頼むぜェ……!」


一方通行の言葉に、上条は無言で応えた。
436 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:46:36.87 ID:KMhRWGEJo
・・・

上条当麻は、布束の影の前へと降りたつ。
もはやその目には『死』への恐れはない。
あるのは目の前のシャドウを、どうやって足止めするかの算段だけだ。


布束の影「は、はは……あははは!!!」


突然の布束の影による狂った笑い声に、上条は眉をひそめる。


上条「どうした、何か面白いことでもあったんかよ?」


上条は軽口を叩く。
別にペルソナを使って戦わなくても、時間さえ稼げれば良いと言わんばかりに。


布束の影「what’s going on!?嗤わずにはいられねえっての!!
     え?何それ?マンガみたいなご都合主義の覚醒とか!」


ありえないっつーの!と布束の影。


上条「覚醒なんてしてねーよ。ただ……」


一つ、学んだだけだ!と上条当麻。


布束の影「anyhow、あんたの後ろにいる白いのが何かする前にあんたを倒せば私の勝ち、
      出来なきゃあんたの勝ちってことでしょうが!!」

上条「まあ、その通りだな!!」


一人と一体は、戦いの渦の中へと潜り込んだ。
437 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:47:05.43 ID:KMhRWGEJo
・・・

布束の影「そこをどけええぇえぇぇええぇええええ!!!!」


布束の影は、一方通行のプラズマ生成を阻止すべく、上条当麻に向かってガルーラを放つ。


上条「だぁれがどくかぁあぁあぁあぁあ!!!!」


しかし、上条は目の前の暴風をブフーラ(氷結属性のスキル・ブフの上位スキル)を放ち、氷の盾を作りだした。
上条の氷は、暴風の前に崩れ去るものの、暴風も氷の前に霧散する。

先ほどは、一人は全力を出し、一体は余力を残していたのだが。


布束の影「くそおおおおおおおお!!!!」


一体は全力を出し。


上条「それで終わりかああぁあぁ!!!!」


一人は余力を残していた。
438 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:47:37.02 ID:KMhRWGEJo
そんな戦いを、布束砥信はただ茫然と眺めていた。
その布束の元に、御坂美琴と9982号が近付いてきた。


布束「……何か、用かしら?」

御坂「……何よ、あれ」

布束「何、とは?」


御坂の端的な質問に、布束はとぼける。
そんな布束に御坂は食ってかかった。


御坂「ふざけんじゃないわよ!!あんたがペルソナ召喚に使ってた拳銃、あれは一体なんなのよ!?
   あいつは、自分の『影』を無くして、ペルソナ出せないんじゃないの!?」

布束「well、目の前の事実を信じたくなくても、事実は事実よ。
   「どうして」なんて事情を追及するよりも、「どうやって」現状を打破すべきか考えた方が良いんじゃない?」


まあ、私の召喚器は彼の元にあるから、私は協力できないけど。と布束は残念そうに言うが。


9982号「とは言っても、貴方の影とミサカ達の力量差は明白……
    と、ミサカは援護したくてもできない事実を述べます」


9982号の言葉に、御坂も9982号自身も悔しそうな表情を浮かべる。
しかし、布束の表情は変わらない。


布束「indeed、先ほどまでの戦いで分かるように、私の影は結構強いみたいね。
   だけど、弱点はあるわ。あれは私自身なんだから、弱点なんてよくわかるもの。
   ……炎よ」

御坂「炎?でも、私のアギじゃ簡単にかき消されちゃう……」

布束「well、あなたの炎ではあの影は倒しきれないわ。
   but、影に攻撃が当たろうと、影が攻撃を防ごうと、必ず隙が出来るわ。
   because、あくまでも『火炎属性』は弱点なのだから」

9982号「成程、分かりました。あなたを信じましょう。
     と、ミサカはミサカがお姉さまの攻撃を放つ隙を作りますと宣言します」


9982号の言葉に御坂は耳を疑う。
それもそうだ。自分の大切な妹を一人であの影の前に立たせたくない。
御坂の思いを9982号も察したのだろう。9982号はクスリと微笑む。


9982号「大丈夫です、お姉さま。私が出るのは、上条ですら抑えきれなかった場合のみですから。
    と、ミサカは急激に成長を遂げた上条に期待します」

御坂「……分かったわ。でも、無茶はしたら駄目だからね!」


こうして、2人は再び上条達の戦いをハラハラしながら眺め始めた。
439 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:48:05.77 ID:KMhRWGEJo
・・・

布束の影は焦っていた。このままではプラズマの完成を許してしまう。
それを阻止するにはどうしたらいいか。考えても答えは出ない。
いや、そもそも答えを出す時間を、目の前のツンツン頭が許さない。
布束の影は、現状を打破するべく、再びガルーラを放つ。


上条当麻は焦っていた。布束の影の攻撃は言わずもがな、苛烈なものである。
それを抑えられるレベルのスキルを放つ事はできるのだが、気を抜いたら『飲まれそう』になるのだ。
やはり、本来使役するはずのペルソナではないからだろうか。
この戦いが終わったらペルソナの扱いを学ばねば、と本気で思った。
上条当麻は、布束の影の放つガルーラを抑えるべく、再びブフーラを放つ。


一方通行のプラズマは、未だに完成しない。
それもそのはず、一方通行は布束の影との戦闘により、既にボロボロなのだ。
プラズマの形を成すのに精いっぱいで、それだけでは布束の影を倒せる程の威力は見込めない。


戦闘は、長引きそうである。
440 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:48:40.99 ID:KMhRWGEJo
・・・

布束の影「はぁ……はぁ……」

上条「はぁ……クソ……まだか……」


布束の影も上条当麻も、既に限界が近かった。
このままだと布束の影が自棄になって何か仕掛けてくるかもしれない。
しかし、一方通行の方を一瞥すると、もう少し待てばプラズマは完成しそうな雰囲気だった。
あと一息。そう感じた上条は気合いを入れ直す。


すると布束の影は。


布束の影「ははっ……あははははは!!!!」


笑った。

突然狂った笑い声をあげる布束の影にギョッとする上条。
すると布束の影は、ガルーラを上条に向けるのではなく、壁に向けて放った。

上条はその行動を不可解に思うが、すぐに理解した。


上条「てめっ……!この部屋を……!!」

布束の影「あははは!やっと気付いた!?」


こんな部屋、海で埋めてやる!と笑いながら壁を破壊していく。
壁はその破壊の力に耐えきれず、次々と決壊して海の水が流れ込んできた。


上条「海の神を相手に海の水が効くと思ってんじゃねえええ!!」


上条は全力で海の水をせき止めるための魔法を放つ。マハブフーラだ。
そのマハブフーラによって決壊した壁から流れる海の水が一瞬にして凍りつくものの。


上条「ッ……!!」


布束の影にはなっていたスキルよりも明らかに強力なスキルを使った事により、上条の負担が増える。
ペルソナの発動を止めなければ今すぐにでも『暴走』しそうだ。


布束の影「ははは!!さっさと自分に飲まれちまえ!!」


布束の影は再びガルーラを壁に向けて放ち続ける。
上条は、もはや海の水をせき止めるので精一杯であった。
441 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:49:19.38 ID:KMhRWGEJo
・・・

9982号「やべえ、アイツ自棄になりやがった。と、ミサカはお姉さまにタルカジャかけてアデュー」


9982号はふざけた口調で御坂美琴に攻撃力上昇のスキルをかけると、
布束の影の元へと向かおうとする。


御坂「……無茶はしないでよ!!」

9982号「……お姉さまこそ、隙作るから逃さないでくださいよ」


9982号と御坂美琴は互いにこぶしをコツンとぶつけ、布束の影へと向かって行くのだった。
442 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:49:54.57 ID:KMhRWGEJo
・・・

立場は再び逆転した。
上条は最早この部屋が水に埋もれないようにするのに精いっぱいだった。
後は一方通行のプラズマをつぶすだけでチェックメイトだ。
それを察して一方通行は、「クソが……」と声を漏らす。
しかし愚痴をこぼしたところでプラズマは出来ないし攻撃も止められない。

そんな一方通行と布束の影の間に、9982号が躍り込んだ。


一方通行「なっ!?お前なにやってンだよ!!下がってろォ!!」

9982号「うるさいですね、一方通行は黙って元気玉つくってりゃいいんですよ。
    と、ミサカは目の前の影はミサカ達に任せろとアピールします」

布束の影「what's wrong?お涙頂戴の3文芝居してる暇はないんじゃないのかな?」


一方通行と9982号のやりとりにニヤニヤと嗜虐的な笑みを浮かべながら茶々を入れる。


9982号「うるさいですね、貴方は黙ってボコられてなさい。
     と、ミサカはワカヒルメに攻撃を指示します」


9982号の声に同調して、ワカヒルメが布束の影へと向かう。
それを余裕の表情で待ち構える布束の影。

しかしワカヒルメは途中で立ち止まり、床のボロボロになった畳をひきはがして布束の影へと投げ飛ばした。
この行動に布束の影も驚いた。
と言っても、はっきり言ってダメージにならないのでその畳を軽く叩いて退ける。
すると畳を目隠しにして、後ろからワカヒルメが飛び込んできた。


布束の影「はっはあ!目隠しは悪くないけど!そんなんじゃ倒せるわけないでしょ!!」


ガルーラなど必要ないと言うことだろうか。
軽くガルを唱えるだけでワカヒルメを吹き飛ばした。
だが、そんなワカヒルメに目が行っていたせいで、気付かない。


―――御坂美琴が、布束の影の背後から、火炎整流器による炎と電撃を放っていたことに。


布束の影「ぐっがぁあああぁああ!!!」


焼ける背中に反応し、背後に向かってガルーラを放った。
御坂は既にその場から離脱していた為当たらない。
そして布束の影に出来た大幅な隙を、上条当麻が更に広げる。


上条「おっらあああああ!!!!」


海の水を抑えるのを一旦止め、布束の影にブフーラを放つ。
それによって、海の水が今にも流れ込みそうになるが、再びそれを抑えつけた。


布束の影「がっはぁ……!!」


後一撃。これで決まる。


「「「一方通行!!」」」


全ての視線が、一方通行へと注がれる。


一方通行「ッ……!!良い仕事してンぜお前らァ!!」


感謝の気持ちをプラズマの完成を以って表す。
そして、両手に掲げたプラズマが圧倒的なまでの破壊の力で、布束の影を蹂躙し尽くした。 
 
443 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/11(土) 19:51:48.46 ID:KMhRWGEJo
尾張。

布束の影撃破しました。
書きあげるのに苦労したわあ 
 
454 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/12(日) 22:26:30.30 ID:dAAlNo4yo
エピローグ・プロローグ。
投下終わったら、すっかり忘れてry上条さんの番外編の方をちょこちょこ投下しようかな。 
 
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:30:41.95 ID:dAAlNo4yo
風が止み、煙が晴れた。
そこには、ボロボロになった布束の影が横たわる。

その布束の影の元に、布束砥信はフラフラと近づいて行った。
そんな布束に対して、影はかすれた声で、自嘲する。


布束の影「……はは、家出は、終わりってところかなー……」

布束「well、我がままは止めて、さっさと帰ってきなさいな。
   ……お帰り、『私』」

布束の影「……ただいま、『私』」


布束の影は青白い光と化して、布束の胸元へと還る。
その神秘的な光景を前に、一同は息をのんで見守る。


御坂「ハタ迷惑な家出だったわね……」

9982号「……そうですね」


御坂美琴と9982号は、ようやく終わった戦闘に溜息をつくものの。


上条「あのーいつまでもここに居たら海に沈んじゃうのですが……」
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:31:27.34 ID:dAAlNo4yo

もうペルソナ出すの無理、と弱音を吐く上条当麻。
そんな上条に空気読めよと9982号が突っ込みを入れるが。


一方通行「上条のペルソナが暴走する前に帰ンぞ」


一方通行の言葉に一同は恐怖してさっさと帰ることにする。
出入り口が天井にしかないと思っている一方通行は、
一同を風で地上まで飛ばそうとするが。


布束「come、こちらにエレベーターがあるわ」

「「「えっ」」」


エレベーター。
まさかの文明の利器。


布束「……この部屋に、私はどうやって入ったのかしら?」


布束の尤もな言葉に理解はするが、何となく納得できない。
屋敷の入り口にあった自動ドアならぬ自動門もそうだが、
なんだかオーバーテクノロジーであるが、テレビの中でそれを言うのは野暮だろう。

何にせよ、地上に戻る手間が省けるのだ。こんな場所からはさっさと帰るに限る。
そんなわけで一同はエレベーターに入るのだが。


一方通行「……おいクマァ。さっさと帰ンぞォ」
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:31:59.32 ID:dAAlNo4yo
クマはボケーっと崩れそうな壁を眺めていた。
何か考え事をしているようだ。


クマ「……どうして力が、どうして中身が、クマには無いクマか……?」


先の戦闘で、目の前で傷つけられて行く仲間を前に、
何もできなかった無力感を噛みしめ、悔しさで、悲しさで、眼から涙をこぼしている。
『力』も『中身』も持っている一方通行には、クマの思いは分からない。

だが。


一方通行「……いつかお前がどういった存在かわかったとしても。
      ……俺たちは、お前の仲間だ。少なくともそれだけは変わらねェよ」


一方通行は言う事は言った、と言う事でエレベーターへと乗り込む。
クマもそれについて行くが、その顔は先ほどまでの悲しみに暮れていた表情ではなく、
初めて褒められた子供のようにはにかんだ表情であった。

以下略
一方通行は、「星」属性のコミュニティである「クマ」コミュを手に入れた。
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:32:38.49 ID:dAAlNo4yo
・・・

さて、時間もかなりいい時間になってることだろう。
と言う事で、さっさとテレビの中から抜け出すことにした。

流石に全員疲労も限界に達していたようだった。

布束砥信の処遇についてだが、本人たっての希望でテレビの中に残ると言うので一同の顔は驚愕の色に染められた。
何やら訳有りでテレビの中に逃げ込んだらしく、詳しい事情は一方通行達が再びテレビに来た時に話すそうだ。
クマと一緒にいつもの広場で待っているそうなので、今日は帰って休もう。と言うのが一同の総意だった。


布束「well、帰る前に適当に食べ物放り込んできてほしいの。
    こっち来て何にも食べてないのよね」

上条「ああ、任せとけ……ってああ、そう言えばこの召喚器返しとかないとな」


上条当麻は手に持ったまま返しそびれていた召喚器を布束に渡すが。


布束「……あー、それあげるわ」

上条「へ?だってこれないとお前がペルソナ使えなくなるんじゃねえのか?」

布束「今まではそうだったわ。
    but、私も今さっき『影』が帰ってきた時、召喚器無しで召喚できるようになったみたいなのよね」


次来たら召喚器でペルソナ扱う時のコツを教えてあげるわ。そう言って再び上条に向かってポイっと投げ返した。
上条はわたわたと召喚器を受け取る。


布束「次来た時に話すわ。ここに来た理由も、召喚器がある理由も、何故ペルソナを使えるのかも。
    so、貴方達も今日はもう帰った方がいいと思うわ」


布束の言葉にウソはないだろう。そう感じた一同は今日のところは帰ることにした。
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:33:11.06 ID:dAAlNo4yo

・・・

テレビからようやく戻ってきた一同。
そこには、芳川桔梗が待ち構えていた。


芳川「今日は結構な時間潜ってたわね。と言うか、その服装何とかした方がいいわ。
   特に御坂さんは常盤台でしょう?その状態で帰ったらこってりしぼられるんじゃないかしら?」


4人はぞれぞれ顔を見合わせた。
一方通行はまだマシだが、他の3人はボロボロだった。
この格好で外に出たら、間違いなく通報されてしまう。
御坂美琴の場合、それだけではなく、寮監に更なるトラウマを植え付けられてしまう。
そう感じた4人は芳川に着替えを借りて帰ることにした。もちろん、適当な食料を放り込む事も忘れずに。



一方通行「なァ……なンで男物がry芳川「うるさい」」
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:33:54.99 ID:dAAlNo4yo

・・・

辺りは既に暗くなり始めている。

御坂美琴はこの間寮監に折檻された事を思い出し、一人で猛ダッシュして帰って行った。

上条当麻は月詠小萌に連絡を取ったところ、
インデックスが小萌先生の元に居るとのことなので、そちらに向かって行った。

そして残った一方通行と9982号は。


一方通行「……飯、食うか」

9982号「……そうですね。さっさと食って寝ましょう。と、ミサカは一見ぐーたらな感じの発言をしてみます」


いつものレストランへと向かうのだった。

・・・

そしてこちら、一方通行達の背後30m地点。


「……居た居た。ってミサカはミサカはドッキリさせる為にMNWは切って追跡してみたり!」


そこには小さな少女がアホ毛を携え、一方通行の元へと向かっていた。
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:34:29.99 ID:dAAlNo4yo
・・・

そしていつものレストラン。
いつもの店員が案内にやってきたところ、
「妹さんですか?」と9982号に質問してきたので、一方通行が代わりに「あァそォだ」と返した。

店員は別に気にした様子も無くいつもの席へと案内する。
さて、その「妹さん」と言うのは。


打ち止め「いやあ、初めてのいただきまーす!ってミサカはミサカはハンバーグに下鼓をうってみたり!」

一方通行「……で、このちンちくりンが妹達の上位個体ですかそうですかァ」


かちゃかちゃと、慣れない手つきでハンバーグを食べて笑顔を浮かべる少女。
その少女は成程、どこか御坂美琴の面影が見て感じられる。


9982号「……ミサカ達に万が一の反乱を防ぐための上位個体が扱いにくいと駄目ですからね。
    と、ミサカは上位個体のちんまさの説明をします」


ちんちくりんだのちんまいだの、どう聞いても馬鹿にしてるとしか思えないが、
打ち止めはハンバーグ(チーズイン)に夢中で気付かない。
こんなのが上位個体で大丈夫なのか?と言う一方通行の質問に、9982号は何も答えられなかった。


打ち止め「いやあごちそうさまでしたってミサカはミサカは行儀よくあいさつしてみたり!」

一方通行「……口周りにソースついてンぞ」
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:34:57.44 ID:dAAlNo4yo

行儀よく、と言う割には口周りも汚いし、ハンバーグのあった鉄板周りも汚い。
と言ってもこれが初めての外食なのだから仕方ないのだろう。
とりあえずそのソースで汚れた口をナプキンで拭きとる。


打ち止め「むうう」


打ち止めはされるがままであった。
やはり一方通行は、子供の扱いが上手な気がする。


9982号「ところで、上位個体はわざわざMNW切ってまで何しに来たんですか」


9982号の尤もな質問に、拭かれ終わった打ち止めが答える。


打ち止め「いやあ、実験が中止されたってことでミサカは調整中の段階だったんだけど、
      外に放り出されちゃったってミサカはミサカは嘆いてみたり!
      あ、MNW切ってたのはドッキリだよ!」


よよよ、と崩れ落ちるその姿からはおよそ緊張感が感じられない。
しかし、調整が終わってないと言うのはいささか危ないだろう。
そう考えた一方通行と9982号は芳川の自宅へと打ち止めを連れていくことにした。
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:35:28.97 ID:dAAlNo4yo

・・・

芳川「あら?ここに連れてこられても私もう研究者首になってるんだけど」

「「えっ」」

芳川「研究所から資料とか荷物とか持って帰ったらあの研究所とは完全に縁切りですが」

「「なにそれこわい」」

芳川「絶対能力者進化実験は結構金かけてたからねえ。
   中止になったことによる損失で研究者達は軒並み首になったのよね」


まあ貯金あるしやってることは外道だったし別にいいんだけど。と芳川桔梗。
しかしあまりにあっさり首になった宣言をするもので何だか申し訳なく感じる一方通行。


芳川「気にしないで良いわよ。どっちかって言うと首になった事で自棄になる研究者達に気をつけた方がいいと思う」


と言うと?と相槌をうつ9982号。芳川は続けて話す。


芳川「研究者ってのは自分の研究を自分の子供か何かと勘違いしてる人とかいたりするからね。
   研究がおじゃんになる位なら周りを巻き込んでーなんて考える人も居るのよ。
   そうなると危ないのは誰だと思う?」

一方通行「成程、打ち止めか……」

打ち止め「ミサカ?」

芳川「上位個体としての権限を利用して、世界中の妹達を暴れさせるなんて事も可能でしょうしね」


芳川の穏やかな口調に反する穏やかでない内容の話に一方通行は眉をひそめる。
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:36:11.79 ID:dAAlNo4yo

一方通行「……お前は違うンだろォが」

芳川「私はそう言うめんどくさいのはお断りだから。
   まあ明日辺り研究所行こうと思ってたし、調整の機材を勝手に借りるわ」

一方通行「……任せたぞ」

芳川「ええ、まかされたわ」

打ち止め「じゃあ、よろしくお願いしますってミサカはミサカは丁寧にお願いしてみたり!」


話はまとまった。
これでようやく帰って眠れる。

そう思った一方通行と9982号はフラフラと部屋へと向かって帰るのだった。


・・・

一方通行と9982号が芳川の部屋を出たのを確認すると、
研究者風の白衣を羽織ったその男は舌打ちをする。
そして自身が乗っている車を運転し、どこかへと走り去った。 
 
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/12(日) 22:38:29.78 ID:dAAlNo4yo
尾張。
上条さん番外編をかきてとうかします 
466 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:09:11.98 ID:0nWfPeTOo
>>310
番外編です。 
 
467 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:09:44.48 ID:0nWfPeTOo
>>310
上条当麻は極度の不幸体質だったが、最近はどちらかと言えば運の悪い部類の人間。と言う程度に落ち着いていた。

そのため、自分から首を突っ込まない限りは変に不良に襲われたりとか、歩いてて靴紐千切れるとか、財布落としたりとか、携帯トイレに流したりとか、そういうベタな不幸はそうそう起こる事はなかった。

そんな上条は今現在、絶賛頭を抱え、「不幸だー!」と心の中で叫んでいる。

上条の身に一体何があったのか?
実を言うと、上条の身自体には、何も起きていない。



何かがあったのは、周りの人間全てだった。
468 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:10:23.11 ID:0nWfPeTOo
・・・

上条当麻の朝は遅い。
と言うのも生活習慣が悪いと言うか、夏休みの影響でだらけているだけだ。
故になれない旅館の布団でもなんのその。日が昇って結構な時間がたつが、未だに眠っている。

するとそこに元気な声で、上条にのしかかり攻撃をかまして上条を起こす少女が一人いた。

「ふごっ!?」

思わぬ攻撃を食らった上条は肺から空気が漏れる。

「おきろおきろおきろー!!」

のしかかりをした少女は、声を聞く限りどうやらインデックスでは無い。
眠気まなこをこすりながら目の前にいるだろう少女が何者かを確認する。

「んなっ!?御坂!?」

そこには御坂美琴がいた。

「むうっ、御坂って誰だー?ひょっとして、寝ぼけてる?
可愛い妹分の前で他の女の子の話なんて許さないからな!」

おかしい。

そんなはずはない。

学園都市を出る前に、御坂は「あんたが外行ってる間にテレビで鍛えてるわ」などと非常に頼もしい発言をしていた。

そんな御坂がわざわざこんな僻地まで来るはずが無い。

目の前の事態を受け入れられない上条は、思わず御坂(?)に突っ込みを入れた。
469 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:11:15.28 ID:0nWfPeTOo
「いやいやいや、いつ俺がお前の妹になった!!?」

「そりゃあ、私が生まれてきた時?」

「最初から!?」

「ていうかどうしたの?朝からテンション高すぎない?」

「そりゃ高くもなるわ!!」

「あー、成程なー。私に会えたのがうれしかったんだー!」

頬に手を当てながらイヤイヤをする御坂(?)。

「ホワイ?何故?いや別にうれしくないなんてことはねーけども!!」

「はいはい、とりあえず目が覚めたなら一階に降りといでよー」

上条に朝ご飯の用意が出来ている事を告げ、御坂(?)はパタパタと下へ降りていった。
470 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:11:42.30 ID:0nWfPeTOo
「……(わっつごーいんおん!?どういうこと!?意味分かんねーっ!!)」

目の前の現象に頭を抱える上条。
落ちついて考えると、御坂も学園都市上層部から追い出されたクチなのか?とか思ったりするものの。

「いやいや、俺がここに来た理由は『無能力者』だったからだろ……?」

御坂はその条件には当てはまらない。と言うかレベル5を倒すためにレベル5を狙うっておかしな話だし。
それなら後者のレベル5を最初から狙えばいーじゃん、とか思ったりする。
しかし、死屍累々とした不良たちの中に一人立つ、頭から電気をビリビリだしながら魔王のような笑顔を浮かべる御坂が思い浮かんだ。

「……やっぱ御坂がここに居るのはありえねーよな……」

でも実際にありえていた。
ありえないなんてことはありえないと言う名言を思い出したが、何にせよこの空腹を解消しなければと思い、着替えた後、一階へと足を運ぶ。
471 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:12:15.20 ID:0nWfPeTOo
・・・

そして時は冒頭へと戻る。

先ほど不幸の一端を垣間見た上条当麻だが、一階へ降りた時の衝撃は桁違いだった。
赤髪ロン毛の、イギリス清教の魔術師、ステイル=マグヌスが、あたかも旅館の亭主のような服装をしている。
修道服ばかりきていた白シスターは何故か薄緑のワンピースで上条の母を名乗っている。
御坂美琴は相も変わらず妹キャラで、亭主の女房役みたいな御坂妹。

訳がわからない。


これは壮大なドッキリなのか?と思うほどだ。


その中で上条の父、上条刀夜だけは上条の知り合いの顔をしていなかった。


改めて説明しておくと、上条当麻は記憶喪失である。
友達も、思い出も、自分の名前も、産みの親すら忘れてしまっている。
そのため両親と会うのはこれが初めてである。


どうやら上条刀夜だけは事前に写真を見たとおりの姿をしているようだった。


とはいえ、それ以外は全員知り合いの顔してはいるものの、中身は違う。と言った様子だった。
訳がわからないまま朝食を取ろうとするものの、そこに白い修道服を着た男が現れた。
あえてもう一度言おう。白い修道服を着たお・と・こが現れた。

「とーま!私を置き去りにしてご飯食べようなんてどういうつもりなのかな!?(テナー)」
472 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:12:53.92 ID:0nWfPeTOo
青髪ピアスだった。
見事にインデックスを演じきっている青髪ピアスだが、正直言って吐き気がする。
テレビの中、という珍事を体験していた為そこまで困惑することは無かったのだが、流石にこれは反則だ。

「ッ……うっぎゃあああああああああああ!!!!」

思わず叫び声をあげ、朝食をかきこんだ上条は旅館から全力ダッシュで逃走する。

「あらあら、当麻さん的には朝食後には運動をしたい派なのね」

と、自称母のインデックス。

「元気ですねぇ……うらやましい限りですゲホッ」

と、自称亭主のステイル=マグヌス。

「何であんな朝からハイテンションなのかな?やっぱり久々の再開だからかなー」

と、自称妹(実際は従妹)の御坂美琴。

「むうう、話はまだ終わってないのにー!」

と、自称インデックスの青髪ピアス。

カオスが、そこにはあった。
473 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:13:34.95 ID:0nWfPeTOo
・・・

上条当麻は今現在絶賛ランニング中である。
現実から逃げるため。しかし現実はベン・ジョンソンよりも、タイソン・ゲイよりも高速で迫ってきている。

逃げられるはずが無い。

街中にある電器屋をふと見る。ショーケースにはテレビが並べられており、その中のニュースを何となく眺めていると。

「えー、それでは続いてのニュースです」

小萌先生がニュースキャスターとして本日未明がどうたら言っていた。

「……」

最早驚くまい。理解した。
この超常現象、心当たりがあった。

「……おのれ魔術師!!」

そう、魔術師だ。
自分がこんな目にあうのは多分最近魔術師と関わり合いがあったからだ、間違いない。
悪いのは魔術師だと責任を丸投げしたところで気分が楽になった。
何にせよ情報が無い。

かといって魔術師に知り合いなんていない。
いやインデックスがいるのだが、正直インデックスの格好をした青髪ピアスが自称インデックスだ。話しかける気にならない。
どうしたものかと考えていると、携帯にメールが届いた。

『今から海に行くから、お前も旅館に戻って準備して浜辺まで来てくれ by父さん』

成程。海か。泳いで頭を冷やすのも悪くない。
と思ったがクラゲがいるから止めておこう。
何にせよ、来いと言うのだから行ってやろうじゃないか。
474 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:14:10.44 ID:0nWfPeTOo
・・・

時間は上条当麻をおいて進む。
さっきのあれは夢だったのではと思い、一縷の望みを賭けて海へと向かうが。


「とーまー!とーまー!たのしいよー!(テナー」


現実は無常である。
思わずその場を走り去った。
後ろからは野太いテナーボイスが響く。
その声を聞くまいと耳をふさいで全力走行をする。
その走りはウサイン・ボルトよろしく運動科学者高岡英夫が認めた『トカゲ走り』のフォームだったという。

全力で走ったところで「あー、やっぱ運動って良いなあ!ストレスたまった時なんて特に!」などと一人すっきりしていると。

「にゃー!こんなとこにいたんだにゃー!」

擬似猫ボイス。
何だ猫かと思って振り返るとそこには、

「何だ土御門か」

土御門元春。同じクラスメイトだった。
いや、見た目は土御門、心は別人かもしれない。と思って気を引き締めるが。
475 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:14:49.31 ID:0nWfPeTOo

「そこいらににゃーにゃー言う擬人化猫が居てたまるか!!」

つまりお前は、土御門元春本人だ!!と、どこぞの名探偵のようにズビシと指をさす。

「いやあ見事な名推理だにゃー。そうです私が土御門ですってにゃー」

「やっぱなー。いやあ別人じゃなくてよかtt……いや!何でお前が『外』にいるんだよ!!」

そんなホイホイ外に出られてたまるか!と上条は突っ込みを入れる。

「とりあえずその口ぶりからすると、カミやんは俺の事「土御門元春」に見えてるぜよ?」

「はぁ?何言ってんだお前当然だろ。他の奴らはおかしいが」

「なるほど、なるほどにゃー。とりあえず話は他でしようか。
ここにはねーちんが近付いてきてる。もうすぐここは戦火に包まれることだろう。そう、一人の聖人によって」

ねーちん?成人?何を言っているんだこの金髪エセ猫は?

「良いから早く来るぜよ!狙いはカミやん、お前なんだにゃー!!」

「狙い?!やっぱり……俺の周りがおかしいのも……!って何でその事をお前が知ってんだ!!?」

「何だか物分かりが良いカミやんは不自然だにゃー!まあいい!にげrッ……!」

土御門は突如諦めたようにうつむく。
慌てたり諦めたり忙しい奴だなと上条は首を傾げる物の、上条の背後からズシン!という音と共に砂浜の砂が舞い上がった。

「上条当麻……見つけましたよ……!!」
476 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:15:25.16 ID:0nWfPeTOo
オーガがそこには居た。
何やら親の敵と言うか恋人の敵と言うか、とにかく憎々しげな視線を上条へとぶつける。
しかしこんな巨乳で変な服装の女性に恨まれるような事をした記憶はない。
と言うか初対面だ。(記憶失う以前に会っていたのかもしれないが)

「ええっと、そちらのサムライガールが『ねーちん』?」

ひょっとして記憶失う前になんかやったのか?
ヤることヤったのか?おれ?と自問する上条。
そんな上条をみて土御門は注釈しておく。

「あー、大丈夫だぜよ、カミやん。カミやんに落ち度はない」

落ち度はない!?何かこう……酔っ払った勢いで何かやっちゃったのか!?
だとしたら男として……腹をくくらないわけにはいきますまいて!!

「男・上条当麻!既に覚悟はできておりまする!!」

上条の言葉に巨乳で変な服装の女は怪訝そうな表情を浮かべる。

「成程、よくわかりませんが、罪を認めると言う事ですね……」

「安心しろ!こう見えて今年誠実そうな男ナンバーワンを獲得するんじゃないかと言う声が上がって止まないこの俺だ!
 お前の事、一生幸せにしてやるからな!!」

土下座。見事な土下座をかましてプロポーズをする。
土下座をしながらプロポーズなんて前代未聞だ。
土御門は笑いを何とかこらえているが、女の方が顔を真っ赤にして七閃とつぶやいたところで、一人爆笑の渦にのまれていた。

「うわ!なんで!?不幸だー!!!」

幻想殺しを失ってもなお。その不幸さに衰えは見られない上条当麻であった。
477 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:16:09.65 ID:0nWfPeTOo
「上条当麻、何か申し開きはありますか?」

巨乳で腰に刀を携えて、ジーンズの片方を太ももの付け根まで千切っている奇抜なファッションセンスをしたサムライガールは、上条当麻を砂浜の上に正座させて問うた。

「えーと、酒とかあんまり飲まないんですけど、ひょっとして酒の勢い余って色々やってしまったらしく、非常に、非常に申し訳なく思っております。
 つきましては未だ学生の身分であれど、あなたを幸せにするという覚悟はできております。」

土御門は爆笑している。
サムライガールはぽかーんとしている。

上条が勘違いしていると気付くのに、時間はかからなかった。
478 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:16:36.53 ID:0nWfPeTOo
・・・

「で、この新ジャンル「侍女」な女性は何者でせう?」

「まったく、やれやれです。そんな安っぽい演技でこの私をだまそうなどと。
 先ほど貴方も私の事を「ねーちん」と呼んだではないですか。
 と言うか、以前一度だけ相まみえましたよね?もうお忘れですか?」

こんな奇抜な格好をした女性を忘れるわけがない。
しかしそんなことを言うと刀でバッサリ行かれそうなので何も言わない事にする。

「(記憶を失う前の俺は何をやったらあんな女性と知り合いになるんだ??)」

しかし、その心当たりは一つあった。

「……魔術師」

上条の答えに女は頷く。

「そうです。『必要悪の教会』の魔術師、神裂火織です。お久しぶりですね」

『必要悪の教会』。確かインデックスや、吸血鬼騒動のときに共闘したステイル=マグヌスが所属していた対魔術師専用の特殊部隊みたいなやつだ。
それがここに居ると言う事は。

「やっぱり、この騒動の原因は魔術師か」

「その通りです。と言うか私は貴方を疑っています」

神裂のその言葉に上条は驚愕した。

「はぁ!?俺?!魔術なんて知らねえよ!つうか俺魔術の反対に位置する超能力者養成都市の住人だぜ?!」

……つーか、と付け加え、土御門の方をジロリと睨む。

「何でその魔術師と、土御門がお知り合いなのか、俺はそっちの方が気になって仕方ねえよ」

「そりゃあ俺も『必要悪の教会』所属の魔術師だからだぜよ」

土御門が、爆弾を投下した。
479 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:17:22.66 ID:0nWfPeTOo
・・・

土御門元春が言うには、こうだ。
・本来学園都市のスパイとしてイギリスからやってきた魔術師。
・能力開発を受けたせいで魔術使うと体はボロボロになる。
・今回の事件でも、その影響を逃れるために魔術を使ったせいで体は既にボロボロ。
・しかも魔術を使っても、完全にはその影響を逃れられなかった。

確かに、科学と非科学が相容れるわけがない。
それなら敵地にスパイを送り込むのは当然だ。
ものすごく身近に非日常があるんだなあ、とぼんやり思っていると。

「カミやん。俺の事は別にいい、それよりも解決すべき問題が目の前にあるんだぜい?」

なんか気づいてる事あるだろと土御門。
なんかも糞も無いだろ、と上条当麻。

「いや、見た目と中身が合わないだろ。お前らは魔術でそれをかわしたんだろ?
 だったら俺は何d……」

何で魔術の影響を逃れたのか、それを聞こうとしたところで上条は言い淀む。
難を逃れた原因に一つ思い浮かぶ単語があった。

『幻想殺し』だ。

しかしそれは既に失われた。それを言っても良いのだろうか。

今、インデックスは上条当麻の保護下にある。と言う事になっている。
それは『幻想殺し』なら魔術師から守りきれるだろう、という判断の元それが認められたのだと思う。

もし、その力を失ったとしられたら?

いや、むしろインデックスを守りたいなら、上条は手を引いた方が良いのだろうかと考える。

だがそれでインデックスの心はどうなる?

『必要悪の教会』は、インデックスの心も守ってくれるのだろうか?
何となく、それは無いんじゃないか、と思う。自惚れかもしれないが。
何にせよそれならば、上条自身が力をつけなければ、と考えるのだった。

上条が『幻想殺し』に関して言葉に出来ないため、口をもごもごしていると。

「それで、ねーちんは『中身』と『外見』が入れ替わる『御使堕し(エンゼルフォール)』、
 こんな大魔術をシロートたるカミやんが引き起こせると思うか?」

口をもごもごしていたが、その言葉を聞いて上条はピシッとかたまった。
480 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:18:00.54 ID:0nWfPeTOo
「まてまて、さっきから聞いてりゃ疑いやがって!魔術なんて使えねえっての!」

当然の怒りを2人にぶつけるものの。

「こんな大魔術の中、一人何もしないで難を逃れるなんて、怪しいとしか言いようがありません」

「むむ」

確かにそれはそうだ。だが、自分は犯人じゃない。と言う事は自分で理解している。
しかし、そんなことを言ったところで信じてもらえるわけがない。

「カミやん、何か言わんと冤罪押しつけられちまうぜい?」

「冤罪とはなんですか?現に御使堕しの影響下で一人無事じゃないでs―――」

「ちょっと待てよ、さっきから言ってる御使堕しってなんだよ?それがこの事件の原因の魔術ってことで良いんだよな?」

「その通りだにゃー。で、その魔術がカミやんを中心に展開されてて、それのせいで容疑者がカミやんになっちまってんだぜい」

「その通りです。さあ認めなさい早急に罪を認めなさい、そして元に戻しなさい」

神裂は上条の肩をつかみ、ぶんぶんと揺らす。しかしそんなことを言われても困る。

「だ、だ、だから!し、しらね、え、もん、は、しらねえ!!」

上条は必死になって否認する。
例え無い罪をあると言ったところで、魔術が無くなるわけではない。
実際には魔術なんて使ってないのだから。
481 :上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:18:50.24 ID:0nWfPeTOo
「まー何にせよ、『御使堕し』は未完成らしいからな。止めるなら今しかないんだにゃー。
 カミやんの『幻想殺し』でも、燃えた後の灰を元に戻すことが出来ないように、
『御使堕し』が完成したら最後元には戻せないんだぜい」

土御門のその言葉に事態を理解するも、土御門が耳元でぼそりと
「と言っても、カミやん、今は『幻想殺し』を失ってるから関係ないだろうけどにゃー」
と言ったことにより、表情が一変する。

「な……お前……」

「こっちもこっちで色々調べて知ってるってことだぜい。三沢塾も、禁書目録に関しても。……『テレビ』に関しても。
ま、『幻想殺し』についてはトップシークレットってことで誰にも言わないから安心してほしいんだにゃー」

「……この際なんでそんなことまで知ってるのかは聞かねえ。
何にせよ、どうしたらこの事態を解決出来るんだ?」

「一つは術者を倒す事。もう一つは儀式場を崩す事。
時間制限もあるし、カミやんがぼこられる事で無罪の証明をしてもいいんだが……」

流石に冤罪で気絶するほどフルボッコは嫌に決まってるよにゃー?と土御門は言う。
当然だ。そんなわけで、否応なしに事件の解決の協力を余儀なくされてしまった。
と言っても、『幻想殺し』は無いので、協力できそうにないのだが。


・・・


「そういや、完全に魔術から逃れたわけではないっつってたけど、どういうことだ?」

上条は2人に尋ねる。

「あー。俺らやカミやんを例外として、他の『入れ替わった』奴らには俺らが『入れ替わった』ように見えてるみたいだぜい?」

「成程……誰に見えてるんだ?俺は土御門は土御門に、神裂は神裂にしか見えないんだけど」

「……一一一(ひとついはじめ)だにゃー」

「……ステイル=マグヌスです」

「えっ。あのアイドルと魔術師?」

「そうだにゃー!しかも一一一は最近人気女優との交際をすっぱ抜かれてたせいで!
 俺は知らない女から釘バット片手に追われるハメになってんだぜい!!?」

「私は!やたらと日本語が上手な!赤毛外国人神父に見られてるんですよ!!」

2人の必死な形相に、上条は思わずたじろぐ。

「あー……なんだ……その、事件解決を目指して、頑張りましょう……」

「「当然!」 だにゃー!」 
 
482上条当麻の華麗なる日常 ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/13(月) 01:21:22.91 ID:0nWfPeTOo
尾張。

なんだこれ誰得?読む人いてはる?居なくても書くんだけどねー。
御使堕し編を終わらせたら布束と上条の影の慣れ染めを書こうと思うます。 
 
483VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/13(月) 01:36:35.69 ID:wL2qc9wUo
エンゼルフォールでしっかりと姿が違う事を認識できている……
ペルソナ効果? それとも今は失くしてるけど幻想殺しの影響?
前者なら学園都市で「なンだなンだよなンなンですかァァァァああああ!?」と誰かの絶叫が響いているだろうなww
 

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