- 486 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 01:42:21.95 ID:0YmrLuQ3o
- >>481
・・・
さて、『中身』と『外見』が入れ替わる大魔術の完成を阻止すべく、
上条当麻は必要悪の教会からやってきた魔術師・神裂火織と
魔術師兼クラスメイトの土御門元春と共に行動を開始するのであったが。
「……一介の学生たるわたくしめが参戦したところで、何の意味もありませんよねー」
これと言った進展はなく、既に晩御飯のお時間になるのであった。
一応、上条当麻を中心に魔術が展開されていたことから、
上条当麻に誰かしら接触する可能性を考慮して、神裂が護衛役をつとめることになったのである。
「いやあ、こんな外国の方とうちの息子が仲良くなるなんて、国際化がすすんでますなあ」
お近づきのしるしに、エジプトで買ってきたお土産いります?と瓶詰めにされたスカラベを取り出す上条刀夜。
和気あいあいとした食卓でふんころがしの死骸を出すとは何事かと上条は注意をするのだが、
神裂が、「これは魔術的意味がうんたんかんたら~」といつもの口調で懇切丁寧にお土産としての価値を解説した。
上条はどうでもいい豆知識としてへー、そうなんだー。と4へぇ位へぇボタンを押した。
とはいえ、他の人からしたら神裂は『流暢な日本語(ただし女性っぽい)を話す赤ロン毛の外国人』なわけでありまして。
散々上条ファミリーにやれ「大柄な男性の割に柔らかい所作ですね」だの、
「女性から習ったのか知らないけど、日本語が女性っぽい話し方になってるからちょっとずつ矯正した方がいい」だの、好き放題言われた次第であります。
そんな神裂は堪忍袋の緒が切れる前に風呂へと逃げるように向かうのだが。
「……見張っておいてもらえませんか?」
周りから男に見られても、精神的には女。
ぞろぞろと男どもが風呂に入って来るとストレスがマッハだろう。
上条もそれなら仕方ないか、と思い、見張りを請け負う事にした。 - 487 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 01:43:22.77 ID:0YmrLuQ3o
- ・・・
見張りと言ってもそんなに人が来るわけでもないので、風呂場の入口にしゃがんでぼけーっとする上条当麻。
そんな上条の元に抜き足差し足忍び足でやって来るアロハシャツが一人。
「……土御門か、今はこの辺にはだれも居ないみたいだからそんな安っぽい隠れ方しなくていいと思うぞ」
顔の部分に葉っぱが生い茂った木の枝をもってくると言う、何ともベタな隠れ方をして上条の元へと近づく土御門元春は、その枝をポイっと捨てると上条の隣にしゃがみ込んだ。
「いやー、人に見られないのが仕事みたいなところあるんだけど、
ここまでバレないように気をつけたのは久々だぜい?」
そう、今現在土御門は御使堕しによる影響を回避しきれなかったために、
周囲の人間から国民的アイドル「一一一」と認識されてしまっているのだ。
そのためただでさえスパイとして人目につかないようにしないといけないのに、その風貌のせいで更に人目に気を使うハメになってしまっている。
「つーかそんな悠長に構えてていいのか?時間制限がどのくらいあるのかもわからねえってのに」
「まー焦ったって仕方ないって。今はそれより別の話があるんだにゃー」
上条の意見ももっともなのだが、現状動きようがない。
それに土御門が何か話があるらしい。どうせ暇なので聞いてやろうと思ったのだが。
「テレビの話とねーちんを覗く話、どっちが良いと思う?」 - 488 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 01:44:25.03 ID:0YmrLuQ3o
- いつになく真剣な表情を浮かべ、『テレビの話』の部分を聞いた瞬間上条の顔も固くなったのだが、
『ねーちんを覗く話』と真面目な口調で言うものだから力が緩んだ。
「お前は真面目な顔して不真面目なこと言ってんじゃねえよ!!
アンバランスすぎだろうが!!」
「まーまー落ちつけってカミやん。せっかく肩の力抜いてやろうと思ったのにー」
へらへらと語るその顔からはおよそ緊張感は見られない。
上条もそんな様子に気を抜くが。
「カミやんはもうテレビの中に入っちまってる。最早当事者と言っても過言ではないだぜい?」
急に真面目な表情になる。おかげでペースが乱されっぱなしであるが、こう言った話術もスパイとしてのスキルなのだろう。
土御門の話に聞き入る。
「……そして、テレビの中でカミやんは『幻想殺し』を失った」
「……ああ、その通りだ」
「……」
土御門は急に黙りこむ。ひょっとして何か『幻想殺し』に関して重大なことを知っているのだろうか。
上条は次の言葉を待つ。 - 489 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 01:45:08.25 ID:0YmrLuQ3o
- 「……まあ、未だそれだけしかわかってないんだけどにゃー!」
「えっ」
「メインは『ねーちんを覗く』ことですからにゃー」
「なにそれひわい」
拍子抜けだった。何にせよ、土御門は上条の置かれている立場を理解している。そういうことだろうか。
「まあ何にせよ、カミやんはこの得体のしれない『テレビ』の中に足を突っ込むんだろ?
俺もなんか分かれば知らせるつもりだが……気をつけろ、言いたい事はそれだけだにゃー」
気の抜ける語尾だが、その言葉は本心からの言葉で、上条の事を心配していると言う事がよくわかった。
「……ああ」
上条は、小さくうなずくだけだった。
そして土御門は話は終わりだ、と言わんばかりに立ちあがると。 - 490 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 01:46:04.29 ID:0YmrLuQ3o
- 「さあ覗くぜい!」
「バカ野郎!!」
友人の犯罪宣言に黙って入られない上条は、土御門の自殺行為を必死で止めようとするのだが、
何処からともなく床を歩く足音が聞こえてきたため、土御門は忍者のように素早く飛び去って行った。
そんな土御門を見送った上条は、
「(見た目はアイドル中身は変態な土御門だから人目を避けてたんだっけかー)」
などとのんきに考えていると。
「おや、当麻じゃないか。何をしてるんだこんなところで」
上条刀夜が現れた。
「へ!?いやいや、何もしてませんことよ!?」 - 491 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 01:46:54.89 ID:0YmrLuQ3o
- 思わぬ登場人物に動揺して思わぬ事を口走ってしまう。
しかし、神裂の入浴に誰も介入しないか見張りしてますなんて言ったところで、
男同士裸の付き合いがうんたらかんたらとか言って風呂場に連行されるだろう。
そうなったとき、神裂のことだ。七閃とか言って刀を振りまわすに違いない。
これは非常に拙い。
脳内加速装置を発動させて思考を加速させるが、空回りするだけでちっとも打開策は見つからない。
どうするよ俺、どうする!?と自問しながら手札のライフカードを見てみても、手札には「諦めたら?」としか書かれていない。
成程、どうせ諦めるなら盛大に散れ。そういうことか!!
そっちがその気ならと好きなことしてきたしー♪
と、幸せについて本気出して考えながら風呂場に突入する。
―――しかし、そこには既に着替え終わった後の神裂さん。
刀夜は「やあ、良い湯でしたかな?」などとマッタリとした面持ちで話しかける。
神裂さんはチラリと上条の方を一瞥し、ちょっと溜息をついてから「ええ、良い湯でした」と返答した。
神裂の上条に対する評価がちょっぴり下がったものの、裸を目撃するよりかは、よっぽどマシだと上条は本気で神に感謝した。 - 492 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 01:47:41.14 ID:0YmrLuQ3o
- ・・・
「こうやって親子水入らずで風呂入るなんて何年ぶりだろうなあ」
のほほんと上条父こと上条刀夜は上条当麻に話しかける。
しかし上条は記憶喪失なのでそんなことは覚えていない。
よって身も蓋も無い言い方をすると、
「お前がそういうんならそうなんだろう。お前ん中ではな。」になってしまうのであいまいに笑ってうなずくことしかできなかった。
「それで、どうなんだ?学園都市での生活は」
「え?ああ、それなりに楽しいよ」
上条が記憶を失ってからと言うものの、周りは基本同年代の学生しかいなかったのでそれなりに距離感を保つ事は出来ていたのだが、
こうやって親と対面すると、申し訳ないことに歳の離れた大人、という印象が大きすぎて距離感を測りかねてしまう。
そんなわけで刀夜とこうして腰を据えて話すと言う事を躊躇っていると、何やら刀夜は、
「……すまないな、父親である私がふがいないばかりに、苦労をかける」
何故か謝罪された。 - 493 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 01:48:22.78 ID:0YmrLuQ3o
- 「……え、何が?」
思わず素で尋ねる。本当に何のことだ。
「……昔から、お前は『不幸』だと言われ続けたな」
何やら独り語りが始まった。無視するのもあれなので、聞くことにする。
「何とか普通の人と同じ幸運をもたらせないか、なんて考えて世界各国のお守りとか集めてみたりして……
結局、何も変わらなかった。最後は藁にすがる思いで、学園都市に送り込んでしまった」
嘆くように、懺悔するように、刀夜は心の内を吐きだす。
上条はただ、黙ってそれを聞く。
すると刀夜から、頬から一筋の水滴が流れ落ちた。
「私は……逃げていただけだった……!
見てられなかったんだ、どんな目に遭っても、どんな言葉を吐きかけられても、
それでも前を見て、笑うお前から」 - 494 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 01:49:31.03 ID:0YmrLuQ3o
刀夜は微笑んでいる。
しかしその笑みからはマイナスの感情しか読み取れなかった。
そんな刀夜をみて、上条は。
「わぷっ!」
手で水鉄砲を作り、お湯鉄砲攻撃を刀夜にかました。
「な、何をするんだ!」
刀夜は思わず抗議する。
しかし上条はそんな抗議を完全にスルーして口を開いた。
「俺の知らないところで、父さんがどんな思いをしてたかは知らねえけど……」
一拍置いて、声のトーンを上げる。
「俺は、今まで生きてきて、本気で不幸だなんて、思った事はない!」
まあ、不幸だは口癖になっちまってるけど。と笑いながら上条は語る。
「……多分信じられないだろうけど、俺は今、父さんの言う『不幸』、それの根幹を失った状態なんだ」
不幸の根幹。もちろん『幻想殺し』の事だが、そんなことは刀夜は知らない。
上条もその事について話すつもりはなく、独白は続く。
「だけど俺は、それを取り戻したいと思ってる」
「……確かに、このまま普通に生きていけば、俺はおおよそ『不幸』とは言えない程度の生活は送れるだろうな。
だけど……」- 495 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 01:50:01.50 ID:0YmrLuQ3o
「俺は、『あいつ』が居て初めて『俺は俺』だって断言出来るんだ!!
『あいつ』が居ないと、それだけで『俺は俺』じゃないんだ!!」
上条は叫び、心の内をさらけ出す。
刀夜がそうしたように。
上条の言葉は要領を得ないものだったが、刀夜には痛いほど伝わってきた。
「周りがなんと言おうと、俺は不幸なんかじゃない」、と。
そして、理解した。
「当麻は既に一人前の男になっていた」、と言う事を。
刀夜はつきものが落ちたかのように、晴れやかな顔だった。
「何だ……私がしてきたことは余計なお世話だったってことか」
「まあ、そこまで思ってくれるってのは息子冥利につきますことよ」
「はは、よく言うよ。……てことは家に置いてる108の魔術的お守り群は廃棄だなー」
「あんた無駄な事に金使うな!!俺が学園都市のやっすい奨学金でどんだけやりくりしてたと思ってやがる!!」
「何をいうんだ、当麻。お前はもう一人前の男だ。親からの援助なんていらんだろう?」
「うるせえ!お土産買う金あるなら仕送りくれ!!」
最初に勝手に感じていた刀夜との距離感は、『普通の親子』にまで縮まっていた。- 500 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:22:50.38 ID:0YmrLuQ3o
- >>495
同日、24時。神裂火織は砂浜に居る。何やら考え事をしているようだ。
そんな神裂の背後から金髪アロハサングラスの土御門元春がやってきた。
「どうしたんだにゃー、ねーちん。そんな考えこんじゃって」
「……土御門ですか」
神裂は土御門の事を一瞥もせずに、ひたすら思考を重ねている。
そして、意を決したかのように口を開いた。
「上条当麻は、確かに『御使堕し』を行った張本人ではなさそうです」
「まあ、実行する理由はないしにゃー」
「ただ……『幻想殺し』が無いのに、上条当麻に『御使堕し』の影響が行っていないのが気になります」
「……いつ気付いた?」
「先ほど、上条当麻が風呂場で彼の父に向かって『幻想殺し』が失ったと思わせる言葉を吐いていました。
まあ、確証はありませんが」
あいつは何を叫んだんだ、と土御門は思うものの、否定しても仕方が無いので神裂をからかう事にした。
「へー、ねーちんは親子水入らずの会話の中に裸の付き合いで混ざって行ったってことか?」
「ぶっ!!そんなわけないじゃないですか!風呂場の入口まで声が響き渡ってたんです!!」
「ふむふむ成程、入口の戸に耳をひっつけて盗み聞きしtぎゃあああああああああ!!!」
かんざきの こうげき!
アイアンクロー!
こうかは ばつぐんだ!
「こっちは真面目に話してんですよ!!そっちも真面目になりやがれ!!」
聖人の力を存分に発揮し、ぐるんぐるんと土御門を振りまわす(物理的に)神裂。
流石の土御門もふざけ過ぎたと思わず謝罪する。
「いたいいたいいたいぜよ!!わかった!わかったから放してほしいんだにゃー!!」 - 501 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:23:36.79 ID:0YmrLuQ3o
「次ふざけたら……千切ります」
ゴゴゴゴ、と背景から効果音を鳴らし、本気で威嚇する。
千切るという言葉に過剰反応した土御門は股間を隠し恐怖に震えながらも突っ込みを入れた。
「ナニをです!?」
そんな土御門を見て溜息をつきながら、汚いものを見るかのような冷たい目をして告げる。
「嫌ですね、ちぎるではなくせんきるですよ?」
「そんなに切られたら死んじゃうぜよ!!?」
1000回も切られたら出血死もしくは途中でショック死してしまう。
そういう問題でも無いが。
「大丈夫です、千キルですから」
1000回切るのではなく一騎当千宣言だった。
「もっとひどくなったぜい!?どこぞの吸血鬼並みの生命力ぜよ!?」
「……はあ」
土御門との下らない掛け合いをしている間にも、時間制限は迫っている。
だと言うのに捜査は最初から。溜息も付きたくなるだろう。
「どうしたんだにゃー?そんな溜息ついて」
「捜査が振り出しに戻れば溜息くらいつきたくなります」
「カミやんの周りにもあんな魔術かける理由ありそうな奴は居ないっぽいしにゃー」
インデックスと言う魔導図書館があるため、正しい手順さえ踏めば御使堕しを為す事は可能だろうが、
上条当麻はもちろん、周りの人間もそれを為す理由があるとは思えなかった。
というより、インデックスがそれを許さないだろう。
「やはり、上条当麻の『幻想殺し』が無い状態で『御使堕し』の影響を受けなかったというのがヒントになってると思います」
「確かに。カミやんのみ選択して『御使堕し』から除外したと考えたらありえる話だにゃー」
「ならば、何故上条当麻なのでしょうか?」
「ふむ……確かに『中身』と『外見』が入れ替わるこの魔術で、カミやんだけその対象から除外する理由がわからんぜよ……
何にせよ、今はカミやんの周りを洗うしかなさそうだにゃー」
引き続き、上条当麻の周辺を調べて行くしかなさそうだ、と結論付け、明日へと備えることにした。
「あー、そうそう。明日ここに『殲滅白書』の人間が一人よこされるらしいぜい」
土御門の言葉にピクリと反応した神裂。
「ロシアの誇る『幽霊退治』のエキスパートですか……」
殲滅白書。ロシア成教の内部組織。
『御使堕し』を解決するには宗派がどうたらなどとは言ってられない。そういうことだろう。
何にせよ人手も増えるに越したことはない。
とりあえずいつまでも砂浜に居ても仕方が無いので2人は、今日はもう寝ることにした。- 502 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:24:33.31 ID:0YmrLuQ3o
- ・・・
一方その頃
「バカが!今日は家族水入らずで川の字で寝るとしようじゃないか!
俺は真ん中だ!!きさんは隅っこで布でもかぶってろ!!」
確かに、確かに父と母の情事に口をはさむのは子供としてはあれだろう。
しかし、上条当麻からしたら見た目はインデックスなのだ。もちろんそんな真似はさせられない。
よってなりふり構わず全力で阻止にかかる。
「なぬ!?当麻貴様私達の睦言の交わし合いの邪魔立てをするというのか!?」
上条のあまりに大胆な行動に、刀夜も思わず本音を出す。
刀夜の本音を聞いてしたり顔をする上条。
「はん!この俺の目が黒いうちは触る事すらゆるさねぇよ!」
「カラコン買ったら触っていいか?」
「駄目だ!!」
「あらあら、当麻さん的には久々に私達に甘えたい年頃なのね」
いつ来るかわからないタイムリミットが近づいて行く中、能天気なやりとりをしていた。
・・・
翌朝。
夏の朝の空気と言うのは、爽快感にあふれており、清々しいものであった。
しかし、上条当麻の体は重たい。
それは昨夜、見た目はインデックスな母と父のめくるめく夜を阻止するために夜通し刀夜を通せんぼし続けたためだ。
そんな上条は、眠たいながらも何とか起きて外へと向かう。
何やら援軍として魔術師さんが来たので紹介したいらしい。
とりあえず旅館に居ても、見たくない顔(青ピ)が居るので奴が起きる前にさっさと外へ向かう事にした。
上条のどんよりした様子に神裂火織は心配をするのだが、実質一睡もしてないわーという話を聞いてジトっと上条を見る。
こんな時に何やってんだと言う神裂からの批判の目を浴び、気まずい雰囲気のまま援軍魔術師の到着を待った。 - 503 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:25:27.52 ID:0YmrLuQ3o
- ・・・
そして上条当麻と神裂火織は、1人の少女を迎え入れていた。
ちなみに土御門元春は、どうやら個人で行動をとっているらしい。
ミーシャ=クロイツェフと名乗るその少女は、全身を拘束具で身をまとい、
人類の最終兵器『バールのようなもの』を携え静かに佇んでいる。
上条は「何このカッコ」とか思った瞬間、ミーシャはそのバールをふりかぶり、
上条へ向かって振りおろした。
思わぬ奇襲を受けた上条だが、刀夜との攻防で一睡もしてない。いや、寝てたとしても反応できなかっただろう。
しかし神裂は、それを見た瞬間に素早く上条とミーシャの間に入り込み、刀でバールを受け止めた。
ガキィッ!!と甲高い音が鳴ると、ミーシャは怪訝そうな表情を浮かべる。
「問一。何故邪魔をするのか」
「彼は『御使堕し』の犯人ではありません」
神裂の言葉を聞き、一応話を聞く気があるのか、ミーシャはバールを下ろす。
「問二。それの証明は可能か」
ミーシャはチラリと上条の方を向く。
その瞳からはおおよそ感情は感じ取れなかった。
何を考えてるかはわからないが、その場しのぎの嘘をついても仕方がないだろう。
上条は正直に答える。
「証拠はねえけど……『御使堕し』の解決に協力する……っても大した力なんてねーし魔
協力するってのでそれの証明にならないか」
上条の言葉にミーシャは首をかしげた。
神裂はここで言い争うのももったいないと感じ、助け船をだす。
「一応、イギリス清教必要悪の教会の公式解答なら提示できますが?」
その言葉に反応し、ミーシャは続きを促した。
まず、超能力養成所である学園都市の学生たる上条当麻にとって魔術は毒のはずなのに、
その影響が出ていないと言う事。
次に、上条当麻は『御使堕し』の影響を受けていないが、
それは魔術を行使した張本人が何かの目的を以ってそれを為したのではないかと予測していて、
それの裏付けを今から行うと言う事。
「確たる証拠はありませんが、今ここで上条当麻に危害を加える事は私が許しません」
神裂がそう締めくくると、ミーシャは何やら考え込み始めた。
「評価。30・4・28・2。総評64。信用とまでは及ばないが、様子を見る価値はあると判断する。
ただし、その少年の容疑が晴れない場合は、白か黒、それをはっきりさせる為に実力行使も厭わない」
「……わかりました」
神裂の言葉に納得したのか、ミーシャは軽く上条に謝罪を入れ、話題を変えた。
流石の上条も謝罪表明を地の文で軽く流されるのには納得できないのだろう。
抗議しようと声を上げようとしたが、神裂が話をややこしくすんなと言う目を上条に向けた。
上条はうぐぅと呻き、そのまま黙りこむ。 - 504 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:26:15.37 ID:0YmrLuQ3o
- 「問三。今回の事件の中心点は確かにこの場にある。仮にそこの少年が犯人じゃないとして、他に犯人の心当たりはあるか」
あくまでもマイペースを貫くミーシャ。
上条は「ああ。マイペース娘。なんだなーなるほどなー」と一人納得し、ここから先は専門家の話だろうから、口を開かないようにした。
「先ほど申し上げました通り、上条当麻の周辺をもう一度洗い直してみるところです。
その作業は現在、土御門が行っています」
「問四。現在、すべき行動はあるか」
「今は有りません。強いて言うなら魔術の中心点、上条当麻に何らかのアクションがある可能性があるので、
土御門が戻るまでは護衛兼監視をするのが当面の活動指針です」
まだ疑われている事に上条はムッとするが、無罪の証明法も無いのでやっぱり黙りこむ。
ミーシャは少し考え込んで、再び口を開いた。
「問五。護衛も監視も、貴方が居れば十分なはず。よって私の個人行動は可能なはず」
「それでも構いませんが、貴方は元々『幽霊退治』専門の人間のはず。
『人間狩り』には慣れていないと思われます。
ならば『人間狩り』の専門たるイギリス清教の人間をガイドにつけておく方が後々有効だと私は考えます」
「……賢答。その申し出に感謝する」
ミーシャはおもむろに手を差し伸べる。
思わぬ行動に神裂は面食らうが、どうやら握手を求めているらしいと分かり、
クスリと微笑んで握手に応じた。
「さて、今後の方針が決まったところで……とりあえず、土御門の報告を待つしかありませんので、上条当麻は部屋で休んでいてください。
ミーシャと私は続けて協議を行いますので。結果は追って沙汰します」
「何か……良いのか?俺だけ休んでいて」
「良いも何も、私や土御門だったら仮眠はしっかり取っているので体力に関しては何も問題はありません。
むしろ貴方が一睡もしてないのが問題なのですよ。有事の際眠くて動けないじゃ話にならないでしょう?」
神裂の最もな意見にグゥの音もでない。でも仕方ない。
見た目インデックスの母の寝込みを襲おうとするおっさんが居たらそれは止めるだろう。
だが今更そんなこと言っても言い訳にしかならない。
なので申し訳なく思いつつも神裂の申し出を受け入れ、仮眠をとることにした。 - 505 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:26:52.38 ID:0YmrLuQ3o
- ・・・
仮眠をとるはずだった、とるはずだったのに。
「おきろおきろおきろー!!」
上条当麻が仮眠で布団に入ってから5分もしないで
御坂がフライングヘッドバッドを上条の腹に炸裂させた。
「寝させろ!!」
「何言ってんのおにーちゃん!朝だよ!」
そう。ミーシャ=クロイツェフを迎え入れたのは朝の6時。
1時間程度話しただけなので、旅館に戻っても朝なのだ。
「うるさい!夏休みに惰眠を貪らずしていつ貪るというのだ!!」
「せっかくの旅行で惰眠を貪っちゃ駄目だと思うんだけど!?」
「ええいクラゲしかいないバカンスなんて惰眠にも劣るわ!!」
「そんなこと言わないで遊んでよお」
「ふん!そんなぶりっこ作戦なんて通じぬわ!」
「じゃあいいもん!私も寝るから!!」
そう言って御坂は上条の布団へと潜り込んできた。
「何をする!」
「何をするじゃないよう!構ってくれないのが悪いんだから!!」
どうやら御坂は意地でも起こしたいらしい。
一睡もしてないのに起こすという表現もおかしな話だが。
何にせよそっちがその気なら意地でも寝てやろう。そう決心して毛布をかぶった。
しかし、毛布をかぶった事で、奴の現出に気付けなかった。
「あー!とーまったら私の知らないところで女の子とイチャイチャしてー!(テナー」
しまった。反応が遅れた。
そのせいで奴がこちらに向かってダイブするのをよける事は出来なかった。
結果として、神裂が起こしに来るまで気絶していた上条だった。 - 506 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:28:02.74 ID:0YmrLuQ3o
- ・・・
突然だが、上条当麻率いる魔術師御一行は上条邸へとやってきている。
それは何故か。
とりあえず今現在、全く浮かび上がらない容疑者に、二つのパターンが考えられる。
一つ、敵魔術師が巧妙に隠している。とはいえ、術者までもが魔術の影響下にあるとは考えられないし、この可能性に関しては十二分に調べたのであまり高くないと言えよう。
二つ、偶発的に魔術を発動させてしまったパターン。
こちらの可能性の方が、前者より圧倒的に薄いものだったのだが
(それも当然だ、本来秘匿するべき魔術がこんなホイホイとおおっぴらに使われるはずもない)、
前者がほぼ無いという結論になり、こちらの方が可能性としてありえるものとなってしまった。
何にせよ、偶発的に発動させるにも安定した術式を敷く必要がある。
魔術の素人にその辺の道端にそんな術式を敷けるわけがない。
ならば術式は何処に?
それは、上条刀夜の『お土産』に答えはあった。
刀夜は、上条の為に『お守りになる変なお土産』を大量に集めて家に置いているのだ。
それならば、そのお土産の中に『魔術的意味をもつお守り』が存在し、それらが偶発的に陣の形成と魔力の生成が為され、
何らかのトリガーで発動されていてもおかしくはない。
それに、よくよく考えると、上条はこの町に来る前、すなわち『御使堕し』の発動以前に、上条夫妻の顔写真を確認していたのだ。
上条詩菜は発動前後で姿が変わっていた。
それに対して、上条刀夜は。
何も、変わってはいなかった。
しかし、上条刀夜からおおよそ悪意の欠片も見られなかった。
もしあれが演技だとしたら相当な役者だ。
おそらく、本当に偶発的、それこそ宝くじで一等が当たるより低い確率で発動させてしまったのだろう。
そんなわけで、この考えの裏付けを行う―あわよくば術式破壊をする―為に上条邸へとやってきたわけだ。
こんなに展開が早いのも、ひとえに上条が写真を確認していたおかげだろう。
と言っても今の今までその事を忘れていたわけだが。
「にしても、事故で魔術を発動ってどんだけだよ」
上条は気だるげにつぶやき、玄関のカギを開けた。
どうやって家の鍵を入手したかというと、「我が上条邸に友達(魔術師)を案内したいんだ」という何ともそれっぽい嘘で見事鍵を入手したわけだ。
しかも都合の良いことに、つい最近引っ越したらしく、「当麻は新居の場所をしらんだろう」と言う事で地図まで用意してもらった。
この態度を見るからに、やはり魔術は偶然のものだと思われた。
そして玄関の扉を開くと。 - 507 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:28:54.85 ID:0YmrLuQ3o
「……これは悪趣味だろ……」
「見事なまでに置物それぞれに魔術的に見て意味を持たせてありますね」
「ひょっとして、半端に調べて半端な知識で半端に置物を並べてしまった結果かもしれんにゃー」
思わず上条は頭を抱えた。
亀だのトラだのトーテムポールだの、様々な置物が家のいたるところにおかれていた。
魔術がどういう原理で発動するか知らないが、置物全てに『魔術的な意味をもつ』のであれば、
偶然『術式の形』になってしまってもおかしくはないと思ってしまうほどだった。
と言っても、こんなケースは珍しいどころか奇跡的なパターンだと、土御門と神裂は口をそろえて話していた。
そして4人は、各々置物の位置を調べて行くのだが、
調べれば調べるほど、話がややこしい方向へと向かう事になるのだった。- 508 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:29:56.55 ID:0YmrLuQ3o
- ・・・
土御門元春と神裂火織は二階に上がって行った。
上条当麻に魔術の知識はないため、下手に置物はいじるなと厳命されたので、
今現在手持無沙汰な状態である。
そんな中、黙々とミーシャ=クロイツェフは置物を調べて行っている。
正直言って気まずい。かといってミーシャを一人にして二階に行くのも何か気が引ける。
何か話題でも無いかなと思うが、年齢もわからない(パッと見インデックスくらい?)上に、
ロシア出身の少女相手に何話せばいいんだと頭を抱えてうんうん唸るものの、何も思いつかない。
当然と言えば当然だが、本気で気まずい。どうしようかと思ってじーっとミーシャの背中を眺めていたら、
「問一。何か用か」
ミーシャの方から話を振ってきた。とはいえ、特に用は無い。
かといって馬鹿正直に何も無いと言ったら会話は二度と為されない気がする。
「えーっと、これ、食うかい?」
仕方が無いのでお近づきのしるしにポケットに入っていた板ガムで餌付けを試みた。
「問二。これは食べ物なのか?」
「食べるけど飲み込みはしないものだ」
「??」
何やらとんちみたいな言い回しになったが、とりあえず口に含んで良いものだと言う事は理解したのだろう。
そろそろと手を近づけ、ちょん、と板ガムをもつ上条の右手に触れながらも、そろそろとガムを手に取った。
そして、ガムというものは初めてだったのだろう。
銀紙をさわさわといじり、中身があることがわかると、中のガムを銀紙からとりだした。
しかし、そのまま食べるのかと思いきやフンフンの匂いを嗅ぎ、次に舌でチロチロとガムを舐め始めた。
どうみても警戒されてます。本当にありがとうございました。
毒味が終わったのか、手に持ったガムを口の中へと放り込んだ。
モグモグと咀嚼して行くうちに、実は美味しいと言う事に気付いたのだろう、もう一個頂戴と言わんばかりに手を差し出してきた。
上条はようやく気まずさから逃れられた!と思い板ガムを再び取り出すのだが、ミーシャはそこで先ほどまで口に含んでいたガムを飲み込んでしまった。 - 509 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:30:29.70 ID:0YmrLuQ3o
- 「あー!ガムは飲み込んじゃ駄目なんだぞ!口の中で噛んで、味を楽しむだけのもんなんだ!」
その言葉に何か拙いことをしてしまったのか、と言わんばかりに、
「問三。飲み込んだらあぶないのか?」
と、恐る恐る尋ねてきた。
そんなミーシャの事がちょっとかわいいと思いつつも、
一枚飲み込んだ程度なら大丈夫だろうと伝えてやると安心した表情を浮かべた。
そうこうしてるうちに、二階から土御門達が降りてきたので、術式について何かわかったのだろうと思い、上条は2人が口を開くのを待つことにした。
「術式を破壊するには―少しくらいの誤差は大丈夫ですが―ほぼ同時に全ての置物を破壊する必要があります」
置物が調べ終わったと思ったら、神裂火織は、上条当麻に向かって口を開いた。
「そんなこと出来るのか?」
魔術なら出来そうだなー、と魔術万能説を頭の中でとりあげていると、
「はっきり言って、この家ぶっ壊すくらいしないと無理だにゃー」
あっけらかんと言い放つ土御門に、上条は驚愕した。
「なあ、新居って言ってたよな……?ひょっとして、壊しちゃう系?」
「まあ確かに壊しちゃう系路線で行くのは忍びないけどにゃー。
とりあえずは、最後の手段、ってことにしとくぜい」
「そうですね……それにしても、偶然とは思えないほどの出来なんですよね」
どこか一つを動かせば、全体に影響を及ぼす。
そんな互いが互いを支え合うような術式だ、と神裂は説明した。
「成程な……」
上条は、昨日の風呂場での会話と合わせて考えると、何となくこの事件の全容を理解できた。 - 510 :トンデモ理論注意 ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:32:12.33 ID:0YmrLuQ3o
- このお土産達は、『上条当麻』の為の物だ。
すなわち、『どういう内容』の魔術かはさておき、『上条当麻』の為の魔術なのだから、
その中心に『上条当麻』が居ると言うのは当然と言うことだろう。
しかし、それでは『上条当麻』に術式の影響が無かった理由が説明できない。
これは魔術の素人たる上条当麻個人の見解なので、あてにはならないが、上条は以下のように考えた。
『御使堕し』は『上条当麻』を中心に展開された。その効果は『中身』と『外見』を入れ替えると言うもの。
いや、自身の『外見』と他人の『外見』を入れ替えるものと言った方が良いのだろうか。
そしてそれの効果範囲は、日本からイギリスにもわたっていると言う。もし仮に、地球全土が効果範囲内であるとすると、その効果範囲内の広がり方は、どういうものだったのだろう。
おそらく、『円状』に広がる、と言うものだと思われる。
すなわち、魔術の効果範囲の円周に触れた瞬間に魔術が発動し、
誰かの『外見』と自身の『外見』が入れ替わる。
つまりその円周状に居た人間と入れ替わるのではないか、と言う事だ。
この時効果範囲の広がり方は高速なため『円周』と言うよりも普通に『円』と考えていいだろう。
それでも、中心点である『上条当麻』は効果範囲が『点』だったため、『入れ替わる相手が居なかった』のではないか。
そして、術者である『上条刀夜』には普通に影響が及ばなかった。
と言っても、あの様子を見ると、『外見』は変わらなくても、『周りが変わったこと』には気付いていない。
言わば土御門達と間逆の状態と言うことだろう。どういう理屈かは知らないが。
とはいえ、やっぱり魔術は素人なのでこの理論には穴しかない。
例えば『入れ替わる相手が居なかった』としたが、『術式は今現在も発動しているのだから、誰かと入れ替わらないはずはない』とも考えられる。
が、結局『上条当麻は上条当麻のまま』だったのだから、そんなこと考えても仕方ないだろう。
なんにせよ、『上条刀夜』が『上条当麻』に『幸せ』になってもらいたい、
という気持ちだけは痛いほど理解できたので、これ以上この事件の原因を思考する事はしなかった。
ただ、『術式にかかった者たち』から見て『神裂火織』は『ステイル=マグヌス』に見える。
それに対して『上条当麻』から見て『旅館の亭主』は『ステイル=マグヌス』に見える。
この『術式にかかった者』と『かかってない者』との情報の齟齬は一体どうなっているのだろう。
などと真面目に考察を重ねて見るも、やはり魔術の素人にそんなことが理解できるはずも無く。
やっぱりまあいいや、と納得した。 - 511 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:33:27.13 ID:0YmrLuQ3o
- 「何が成程なんですか?」
1人納得する上条に神裂が尋ねた。
「いんや、なんでもない」
上条はそんな神裂に対して、意味深な笑みを浮かべる。
神裂はなんだこいつと言う顔をするものの、軽くスルーした。
「それで、結局どうしたらいいんだ?下手に物動かして発動中の魔術が変な事になったら駄目なんだろ?」
「おお、カミやん理解が早くて助かるぜい!」
すると、ここまで黙って聞いていたミーシャは、
「解答一、自己解答。標的を特定完了、後は解の証明のみ。行動を開始する」
術式がどうにもならないのなら、標的―間違いなく上条刀夜―をどうにかするつもりだろう。
上条達が止める間もなくミーシャは窓から庭へと飛び立ち、そのまま走り去ってしまった。
「おいおい……まさか……!」
上条はすぐに理解した。ミーシャの行動を。
「父さんが危ない!!」
うろたえる上条に、土御門は声をかける。
「カミやんとねーちんは、上条刀夜の元へ行け。この場は俺に任せろ」
「な、なあ!父さんは、父さんは大丈夫なんだよな!?」
とはいうものの、偶発的とはいえこの大事件の原因だ。
無事で済むわけないんじゃないだろうか。
「大丈夫だぜよ。殺さずにすむ方法があるなら、俺はそっちをとる。
今回だって例外じゃあない。ミーシャの奴はちと早計過ぎる。
殺せばそれで済むと考える人間の典型だな」
殺さずに済む方法をとると言うなら、それで一端は安心したものの、
殺せばそれで済む。土御門の言葉に上条はぞっとした。
これが裏の世界、殺し殺されが当たり前の世界か。
何にせよここでうだうだしている暇はない。
すぐさまタクシーを拾って、上条と神裂は旅館へと急ぐのだった。
・・・
ミーシャ=クロイツェフは途中で車を拾わなかったのだろうか、ミーシャより先に旅館へと戻れた。
上条当麻と神裂火織は上条刀夜の元へと急ぐ。
旅館に戻り、最初に目に入った御坂に刀夜の居場所を尋ねたところ、海の方に向かっていたと答えた。
上条達はそれだけを聞くと、一目散に砂浜へと向かう。
御坂はこの旅行で全然かまってもらえなかったのが不満だったのか、何か言おうとしていたが、上条達はそれを完全無視して走り去った。
砂浜にたどり着いた時、既にミーシャと刀夜は相対していて、ミーシャが何か一言口を開くと、バールを思い切り振りかぶった。
刀夜は思わず後ずさりし、足を引っ掛けて転んでしまう。しかしそのおかげで初撃をかわすことが出来た。
続いてミーシャは再びバールを振りかぶるが、それは神裂に受け止められた。
神裂は上条に刀夜を連れて逃げろと言う。
上条は逡巡するも、自分に力が無いと言うのはテレビの中でよく理解していたため、すぐに刀夜の手を引いて走った。
刀夜は訳がわからないと言った表情を浮かべているが、それを説明している暇はない。
上条が走るその数十m後ろでは、既に戦闘が始まっていた。 - 512 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:34:10.96 ID:0YmrLuQ3o
- ・・・
上条当麻は走る。
何処に行けばいいのかもわからず、何となく旅館に向かって走った。
するといつ戻ってきたのか土御門が並走していた。
「土御門!ミーシャは一体どうしたんだよ!!」
「いやあ、まず名前からしておかしかったんだにゃー!」
土御門はミーシャの行動に理解していたらしく、獰猛な笑みを浮かべ上条に事情を説明する。
「ミーシャってのは、ロシアにおいて男性に使われる名前なんだよ!偽名にしちゃもう少しまともな名前があるだろう?」
「は?それってどういう……」
「つまりあいつも、『術式の影響を受けた側』だったんだ!!」
上条の言葉を待たずに、土御門は続けて口を開く。
「ロシア成教に問い合わせをしたんだが、『サーシャ=クロイツェフ』ってのだけは居るみたいなんだ。
つまり、そいつと『ミーシャ=クロイツェフ』が入れ替わってんだろ!」
理屈はわかった。
しかし、それならばロシア成教・殲滅白書所属・ミーシャ=クロイツェフと言うのは、一体誰だ?
「居るんだよ、この世には。男性にも女性にもなれる存在、神によってつくられた存在ってのが」
神。急に話がうさんくさくなり眉をひそめる上条だったが、
「忘れたのか?カミやん、この魔術の正式名称<エンゼルフォール>を」
丁度旅館にたどり着いた。
その瞬間、神裂と対峙していたミーシャの目が、カッと見開かれる。
ドン!と言う巨大な音と共に地面が大きく揺れた。
上条は思わぬ揺れに目をつむってしまったが、すぐに揺れは収まったので目を開くと、
夕焼けに染まったオレンジの空は、いつの間にか暗く星の輝く夜景へと変貌を遂げていた。
すなわち、地球ないしは他の惑星を魔術によって動かした、と言う事だ。
それを理解した上条は土御門に叫ぶように尋ねる。
「魔術ってのは星を動かしたりなんてとんでもねえことができんのかよ!?」
「『人間』じゃあ無理だ!!言っただろ!?この魔術の正式名称は、エンゼルフォールだと!!」
エンゼル。
エンジェル。
天使。
フォール。
落ちる。
堕ちる。
「ま、さ、か……!!」
「その通りだぜい、カミやん」
土御門は一息つく。
刀夜は未だに状況を理解できていない。それも仕方のないことだが。
「『ガブリエル』。左手に『神の力』を携えし大天使が一人だ」
上条達の背後からは何かが崩れるような、低くくぐもった音が響き渡った。
戦闘は、最早ただの人間に介入できるレベルではなくなっていた。 - 513 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/15(水) 22:36:14.10 ID:0YmrLuQ3o
- とりあえず一端投下尾張。
ガブリエルさんvsかんざきさんじゅうはっさい、書きあげたら投下します。
今回の投下でエンゼルフォール編は終わらせたいです。つーか番外編だし。4巻丸々再構成なんて無理ィ - 517 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/16(木) 01:08:26.67 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
「成程、わざわざ空を夜に成したのは、自身の属性強化の為ですか。
『夜』で、『月』を主軸に置いているところを鑑みると……
水の象徴にして青をつかさどり、月の守護者にして後方を加護するもの。
すなわち、『神の力・大天使ガブリエル』」
土御門元春と同じ結論を導いた神裂火織は、ミーシャ=クロイツェフだったものを眺める。
だったもの、という表現は正しい。
先ほど天体操作によって夕方を夜へと変貌させた際、ミーシャの背中から、天使の様な羽根が生え、その双眸からは異様な光りが見て取れた。
神裂はいつ攻撃を来ても良いように刀を構えている。
ミーシャは、月を背に上空へと飛び立つ。そして誰にも聞こえない声。いや、音だろうか。
確かにそれを発した。
―――ペ、ル、ソ、ナ。
ガブリエル。
確かに土御門と神裂の解説は、正しいものだっただろう。
しかし、ここでは違った。
別に、天使が堕ちてきたわけではないのだ。
魔術の素人がたまたま造ってしまった術式に、そんな大仰な意味は宿らない。
しかし、目の前の現象が、余りにも本物の大天使のそれと似ていたため、気付けなかった。
いや、知らなかったと言った方が正しいだろう。
ペルソナ、と言う心の仮面を。誰にでも宿る人間の心の裏側を。
そう、ガブリエルと言うペルソナが、誰かの心の中から抜け出したのだ。
そして、ガブリエルは本来の宿主の元へと戻るべく、術式の解除の協力をしていた。
それだけのこと。
ガブリエルは宿主の元へ帰るべく、それの邪魔をする目の前の人間を排除する。
敵の排除。それを為すための力を発動させる。
ガブリエルを中心に半径50m程、真っ白な光に包まれた。
そして、その光の範囲内には大量の氷の塊が出現する。
―――アイスジハード
ガブリエルがそうつぶやくと、その全ては神裂へと殺到した。
流石の神裂も防戦を強いられる。いや、元々時間を稼げたらそれでいいのだろう。
土御門が、上条が、きっと何とかしてくれる。それを信じて、神裂はひたすら刀を振るう。
目の前の光景に、一抹の違和感を感じながら。 - 518 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 01:08:53.86 ID:OzzV5K4xo
・・・
何か膨大な光が生じ、そこから何かが地面へと殺到するのを上条当麻はただぼんやり眺めていた。
最早手に余る。そう感じさせる光景だった。
しかし、それでいいのだろうか?
力が無いから、力がある奴に任せる。
成程、実に合理的だ。
改めて自問する。しかし、それでいいのだろうか?
力が無い奴は、立ちあがってはいけないのだろうか。
今までの俺は、そんな些細なことを気にして動いていただろうか。
違う。
そんな理屈をこねて動く人間じゃない。
もっと単純に、自分がどうしたいか、それだけを考えて動いていたはずだ。
ふと、『影』の言葉を思い出す。
「俺がそいつの心ん中で何回殺されたと思ってやがる?
俺は怖い、辛い、痛い、止めろ、って何度も何度も叫んでたってのによぉ」
その言葉を思い出して、失われた『心の片割れ』がチクリと痛んだ気がした。
だが、再び空が白く輝いたことで、その痛みは霧散して行った。
「土御門!!」
上条は叫ぶ。
「入院費は何とかしてやる!!死んでなきゃ何でも治せるとかいう医者も紹介する!!
だから頼む!父さんを助けてくれ!!」
上条は、魔術の行使による術式破壊を土御門に頼んだ。
本来、それは上条当麻にとってありえない行為だ。
誰かを助けるために、誰かが犠牲を払う事を上条は病的なまでに嫌う。
その上条が、超能力者たる土御門に、魔術の行使を頼んだ。
たしかに、最良の策かもしれないが、上条の望む最高では無いのは明らかである。
だがしかし。上条の望む最高を演出する事は出来ない。そんな力はない。
だから頼るべきところは頼る。
「俺は、今から神裂のとこまで行ってくる!!盾位にゃなれるだろうから、俺や神裂が死ぬ前に何とかしてくれ!!」
上条の心からの叫びを、土御門は笑って受け取った。
「任せろ!!さっくり終わらせて、笑って入院してやろうぜい!!」
「入院確定かよ!!!」
上条と土御門は、ハイタッチをして別れた。- 519 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 01:09:20.93 ID:OzzV5K4xo
・・・
目の前の現象が全く理解できなかった。
だが、これだけはわかる。私の息子は、今から死地に赴くと言う事。
それを止める事は出来ない。なぜなら既にあいつは一人前の男だからだ。
親としては危ないことはしてほしくないが、子供と言うのはいずれ親を超えて行くもの。
それが今なのだろう。ならば私は、笑って見送らねばならない。
ただ、今までもこんな風に当麻は戦っていたのだろうか。何にせよ、そのうち武勇伝を聞かねば。
上条刀夜は、旅館の入り口で立ちつくしたまま、連続で発せられる謎の光を、ただ茫然と眺めるだけだった。
・・・
上条当麻は走る。
ガブリエルとやらと神裂火織が対峙している砂浜へ向かって。
何が出来るか?と聞かれたら何もできないだろう。『幻想殺し』だって存在しない。
盾どころか神裂の邪魔にしかならないかもしれない。
だがそれでも動かずにはいられない。
我動く、故に我あり。上条当麻が上条当麻たるゆえんだろう。
砂浜へとたどり着いた時、そこは最初の地形を保ってはいなかった。
数え切れないほどの氷の塊が地面に突き刺さっている。
その氷の上を淡々と移動する影が一つ。
ガブリエルはと言うと、最初に浮いた位置から全く移動せずに、ひたすら氷を生成し、操作していた。
それを見ていて「天体を操作できる」などと言う人間では不可能な業をもっているというのに、どうしてこの程度で済んでいるのだろうか、と。
その気になれば、術者の上条刀夜ごと、この地を消し去る事くらいたやすいはずだ。
しかし、それをしないのはどうしてだろうか。
手加減をしているのか、それとも……
「神裂ぃ!!」
思わず神裂を呼びとめようとする。しかし、目の前には氷が飛び交う戦地。
神裂に上条の言葉は届かない。
そもそも、呼び立ててどうするつもりだと上条は自重した。- 520 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 01:09:47.67 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
上条当麻が叫び声をあげた事で、ガブリエルがゆっくりと上条の方を向いた。
神裂はガブリエルの視線が変わったので何事かと思い、視線の先を追うと、そこには上条が居た。
こんなところで何をやってるんだと思うが時すでに遅し。
ガブリエルはふよふよと上条の方へ向かって行った。
神裂は拙いと思いつつも降り注ぐ氷のせいで前に進めない。
しかしガブリエルはゆったりと上条の方へ飛んでいく。
神裂は逃げて下さい!と叫ぶが、上条は茫然自失としてその場から動かない。
次の瞬間には、上条はその氷でバラバラに吹き飛ぶ。そんな図が脳裏をよぎったのだが。
「……?」
ガブリエルは、何もしなかった。ただ、ペタペタと上条の頬を触る。
上条はその間、されるがままだった。神裂もあっけにとられていた。
すると、ガブリエルから音が発せられた。
―――心を識る者がこんなところに居るとは思わなかった。
―――そなたならば、信用してもいいかもしれない。
―――我を、我が主の元へ
それだけ伝えると、ガブリエルから生えていた羽根はナリををひそめ、
宙に浮かんでいた氷も、地面に刺さっていた氷も、全てが消失した。
キラキラと星が輝いていた夜空は、
そしてミーシャ=クロイツェフに、戻った。
「……何だったんでしょうか……?」
「なあ、さっきのって、本当にガブリエルだったのか?」
「私も疑問に思っていました。魔法名も名乗っていない状態でしたのに、意外と何とかなったのは、手加減してもらっていたのか……
それとも、偽物だったのか」
心を識る者とは、ペルソナやシャドウの事だろうか。
心当たりと言うとそれしかなかった。そんなことをぼんやりと考えていると、一閃の光が上条家の方向へ向かって行くのが見えた。
おそらく、土御門が術式を行使したのだろう。それならばすぐに助けに行かなければ。
塗り替えられた世界は、再び元に戻った。
その瞬間に、全ての人間は元に切り替わり、ようやく終わったんだな、と嘆息をついた。
・・・
影は海の上で小舟に寝転がり、嗤っていた。
「ったく……偶然出来た術式が、どうしてこの世界に届くんだっての」
そう、入れ替わりの術式は、上条当麻も例外では無かった。
ただ、入れ替わる相手に『異能を打ち消す』右手があった。
そのために、入れ替わる事が無かったのだ。
しかしそんなことは上条当麻は気付かない。影も知る必要はないと思っている。
結果的に未曾有の入れ替わり術式は不発だったのだから、それで良いだろう。
影は、砂浜に現れた待ち人を見て喜びを示した。 - 521 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 01:10:19.60 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
NGシーン
一方通行の朝は早い。(最近は)
特に今日は、反射の膜に何か違和感を感じて目を覚ました。しかし周りを見渡してもいつも通り荒れた部屋。
昨日から上条は外に出ていると言うので、一方通行は1人でトレーニングをすることになる。
9982号はまだ寝ているようで、毛布を頭からかぶっていた。
起こすのも忍びないので、もそもそとジャージに着替えて台所で歯を磨き、ランニングを開始する。
やはり日が昇り始めの時間帯は丁度良い温度で涼しい。
とはいえこれから徐々に熱くなるだろう。キリの良いところで部屋に戻るとしよう。
一方通行は淡々と走る。
そろそろ一般人も活動を開始する時間になったのだろう、ぽつぽつと通行人が見え始めた。
ところが、何かがおかしい。明らかに男なのに、女性がきる服を着ていたりする人間をやたら見かける。
1人ないしは2人くらいまでなら、「あァ、そういう趣味かァ」で済ませたのだが、ここ10分で10人は多すぎる。
どういうことだろうと思いつつも、とりあえず暑くなってきたので部屋に戻ることにした。
部屋に戻ると、9982号の姿はなかった。置き手紙には「ちょっち病院行く」と書かれていた。
調整が残っていたのだろうか?何にせよ腹が減った。
そう感じた一方通行はベクトル操作で汗をはじき(シャワーを浴びようかと思ったが、何だか面倒くさかったらしい)、
私服に着替え、いつものレストランに向かう事にした。
いつものレストランに向かうと、いつもの……店員では無かった。
ウェイトレスの格好をしたガチムチのおっさんだった。
ウェイターの格好をした、以前アンチスキルのトレーニング所で御坂美琴と一緒に居た白井黒子の姿もあった。
話しかけようかと思ったが、そんなに仲も良くないのでスルーした。
向こうもスルーしていたのでそれでいいのだろう。
かくして、ガチムチウェイトレスは一目散にいつもの席へと案内した。
どう見ても初めて見る店員なのに、どうしていつもの席を知っているのだろうか?一抹の疑問を感じつつ、いつものメニューを頼んだ。
明らかにおかしいと感じたのは、アンチスキルのトレーニングジムについた時だ。
今日は冷やかしに芳川桔梗も来ると言っていたので、黄泉川愛穂か芳川のいずれかに会えるだろうと思ったら、一向に会えなかった。
どういう事だと首をかしげていたら、頭に花を乗っけた少女がじゃんじゃんと黄泉川の口調でなれなれしく話しかけてきた。
なンだコイツと思ったが、何やら黄泉川っぽいことを話している。
「さあ今日もボコボコにするじゃん」とか「さあ今日もヘトヘトにするじゃん」等だ。
こんな語彙力のなさはどう見ても黄泉川だった。しかし見た目はお花畑。 - 522 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 01:11:01.70 ID:OzzV5K4xo
- よくわからないままにトレーニングを命じられた。
納得いかなかったが、いつも通りのメニューだったので、黄泉川の代理でも頼まれたのか?と判断し、いつも通りメニューをこなす。
ゼェゼェ言いながら、腕立て伏せをしていると、何やら自分のそばでニヤニヤしながらしゃがみ込んでいる9982号がいた。
見せもンじゃねェ、帰れと言うと、つれないこと言うわね、とか言いながらトレーニングが終わるまで居座っていた。
お前もトレーニングの一つでもしたらどォだ?と忠告してやったら、頬を膨らませて悪かったわね、太ってて。みたいなことを言われた。
別に太ってはいねェよ、とフォローしておいたが、妹達の一人称って「ミサカ」だったような気がする。
まァ、どォでもいいか。
トレーニングが終わり、今日は黄泉川いねェし終わりかァ?とか思っていたら、黄泉川の真似をしている少女が「じゃあ実戦するじゃん?かかってくるじゃん!」と身構えていた。
はいはいワロスワロスと思いながら腕を伸ばすと、見事に一本背負われた。
この技の切れ、動きのよどみなさ、どう見ても黄泉川のそれだった。
まさか、黄泉川の愛弟子!?だとしたら好都合だ、まずは愛弟子からボコボコにしてやろう。
一方通行は意気込んで攻撃を繰り出すが、いつもの黄泉川のように軽々とあしらわれる。
愛弟子どころか黄泉川そのものと戦っているような錯覚に落ちる。
さて、結局お花畑にボコボコにされて、いつも通りフラフラしながらいつものレストランで晩飯を食べに行く。
いつもの店員はやっぱりいなくて、服装のおかしな連中は居た。
ちょっとさみしいと思いながらいつものメニューを食べ、部屋へと戻った。
9982号はやっぱり戻っていなかったが、携帯にメールは届いていた。
「今日は、病院に泊まる」とのことだった。
成程、なら今日はベッドを独り占めできると言う事か。
それなら存分に寝てやろォ、と言う事で体の汚れをベクトル操作し、ゴロリとベッドに横たわる。
眠りに落ちるまで、時間はかからなかった。
次の日、昨日はめんどくさかったからシャワーを浴びていない。
ベクトル操作があるとはいえ、精神衛生上何日もシャワーを浴びないのは気持ち悪い。
なのでフラフラと脱衣場へ向かうのだが。
「ハァ!?木ィィィィ原くゥゥゥゥンなァァにしちゃってンですかァァァ!!!?」
鏡には、木原くンがいた。
これは悪い夢だ、と思うが、ほおをつねると痛い。
思わず黄泉川に連絡を取り、今日は頭が痛いので休ませてほしいという旨を伝える。
すると昨日聞いた花畑の声でわかったじゃん、養生するじゃんと返答が来た。
黄泉川は電話すら愛弟子に任せているのか、と思いつつ、現実を逃避するために布団をかぶるのだった。 - 523 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 01:12:24.21 ID:OzzV5K4xo
- >>483を見て、NGシーンを書きたいがために番外編をがんばって完結させたようなものです
次回からは本編戻って、とりあえず布束さんの身に何があったのかから書いて行くよていです - 524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/16(木) 01:21:42.18 ID:OzzV5K4xo
- 皆既月食を見たいんですけど、雨降ってるんですけど
- 525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/16(木) 01:24:10.03 ID:OzzV5K4xo
- 誤爆なンですけどー
- 526 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 17:56:48.15 ID:OzzV5K4xo
- >>464
布束砥信は研究者である。
生物学的精神医学の分野でその才を見出され、第七薬学研究センターの研究機関に招聘されたのだ。
その際、妹達の『学習装置(テスタメント)』の開発を担当しており、量産型能力者計画に参加していた。
一度は研究チームから離れていたが、妹達が絶対能力進化計画に引き継がれた際に再び呼び戻されることになった。
布束はこれを「自身は研究が挫折した時の責任を転嫁するためのスケープゴート」なのだと感じつつも、
妹達を何とか救えないかと考え絶対能力進化計画に参加することを決める。
そして進みゆく実験の中、実験が行われそうな人目につかない路地裏などにマネーカードをばらまく事で、それを集める一般人による監視の目を作ってみたりした。
妹達に感情・心を植え付ける事で、一方通行の心を動かせないかと画策したりもした。
研究所のデータ移送作業に乗じてそれを19090号に行おうとしたが、それを察知されて逆に襲撃されてしまったのだった。
何とか隙をついて感情のインプットを行ったものの、上位個体の命令以外は受け付けない仕様になっていた為、それは為されなかったが。
そして捕まった布束は、別の研究所の地下に拘束されてしまう。
何とか脱出できないかと思考錯誤するものの、部屋には壁に埋め込まれているテレビしか存在せず、
食事やトイレなどの生理行動は全て誰かしらの監視の元行わされていた為に、
ドラマとかでよく見る「針金をひそかに持ち込んでうんたら」みたいな事は出来なかった。
というかあのセキュリティを針金ごときで解決できるわけがない。
部屋に戻るたびに金属探知機だの身体検査だのされると言うのに。
どんだけ脱出するのを不可能にしたいんだよ。
何にせよ、学園都市相手にプリズン・ブレイクをかますのは不可能だった。
そうこうしているうちに、情報も得られないまま地上では話が進む。
9981号が何者かに拉致された言う話を聞き、どういうことだと布束は思う。
実験を阻止するため?はたまた別の目的があった?その辺はよくわからないようだった。
しかし、不測の事態が発生したからか、実験は一時中断となったらしい。
そのまま中止にならないかとは思うが、それはないだろう。
何にせよ、妹達の1人が拉致される事で実験が中断、と言うのは何とも複雑だ、と布束は思うのだった。 - 527 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 17:57:52.75 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
明くる日の昼の事である。
この時間は食事の時間だったはずなのだが、急遽研究所に呼ばれることになった。
ついに終わりの時が来たか、と思い諦念しながら連れて行かれる。
たどり着いた実験場には研究者達がいた。
成程、自分は実験が中断された責任を取ると言う処分を受けた後は実験材料として使われるのか。
外道な研究者の末路としては上等だろう。と、布束砥信は無感情に思った。
実験の代表者と思われる白髪の男は、ニコニコと穏やかな笑みを浮かべている。
『自分だけの現実』と『心』の関連を調べるそうだ。
「その実験の被検体として選ばれたと言う訳だ」
「well、覚悟は既にできてるわ。するならさっさとして」
「良いだろう、君に『力』を与えようか」
―――狂気を目に宿したその男は、『ペルソナ』を布束砥信に植え付けた。
どうやってとか、何故ペルソナを知っているとか、どんな背景があったかはわからない。
しかし気がつけば、布束は心の仮面を植え付けられていた。
そして訳がわからないままに再び部屋へと放り込まれる。
チクリと痛む心と共に。 - 528 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 17:58:28.90 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
実験が進むうちに『自分だけの現実』が変質しているのを感じた。
心に何か別のものが存在している。
そしてそれは虎視眈々と布束の主導権を奪おうとしている。
しかし、どうやらその『力』を行使するには特定の状況下でないと出来ないらしい。
まず、『召喚器』が無いと何もできない。
次に、実験場で何かの装置を作動させ、その実験場内に居ないと『召喚器』を使っても何も起きないようだった。
どうやってその状況を作りだしているのかは知らないが、その実験場で『力』を発動させられ続けた。
『力』を使うたびに自分の中が侵されて行っている、そんな奇妙な感覚に陥る。
何にせよ、五体満足で生きられているのだ。諦めるにはまだ早い。
布束砥信は絶望的な状況の中、必死になって召喚器をこめかみにつきつけ、ペルソナを出し続けた。 - 529 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 17:59:02.04 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
いつものように頭に電極をさして、いつものように実験場でペルソナを発動させていた。
心は既に限界に近かった。頭痛が酷く、布束の顔は死人のように血の気が引いている。
いつもはこのようになる直前で終わるのだが、今日は引き続き実験が行われた。
いつもより酷い頭痛に耐え、ひたすら力を出し続ける。
実験は終わらない。
力を出す。
実験は終わらない。
頭が痛い。
実験は終わらない。
力を出す。
実験は終わらない。
心が痛い。
実験は、終わらない―――
「あぁああぁぁぁあぁあぁあ!!!!」
そして布束砥信は、初めての『暴走』を迎えた。
布束の背後に居た『ペルソナ』は、布束から『支配権』を奪おうと布束に手を伸ばす。
布束はそうはさせまいと心を御そうとして頭を抱える。
布束の必死の抵抗を前に、『ペルソナ』は更に『暴走』した。
そんな布束の様子をガラス越しに見ている実験の代表者は、嗤っていた。
『心』の可能性に。『力』の強大さに。嗤っていた。
しかし、これ以上暴走されてはたまらないのだろう。『制御剤』の投薬をさせ、布束の『暴走』を鎮圧した。 - 530 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 17:59:54.83 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
布束砥信が目を覚ますと、知らない天井だった。医務室か何かだろう。
布束を看ていたと思われる研究員に、何が起きたのかと言う事を聞くと、
どうやら布束のペルソナが暴走したらしい、と言う事がわかった。
どうやって鎮圧したのだろうと疑問を浮かべていたら、それを察したのか制御剤がある、と言う事を教えてもらった。
そんなものがあるのか、と感心しながら、布束はいつも閉じ込められていた部屋へと連れて行かれる
まだ目覚めたばかりだったが、まだ眠たかったので再び眠りについた。 - 531 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 18:00:30.54 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
目を覚ますと辺りは暗かった。どうやら消灯時間は過ぎているのだろう。
とりあえずもう眠くはないが酷く喉が渇いている。
暗くて何も見えないが、何とは無しに飲み物は無いかと視線を泳がせていたら、
突如として壁に埋め込まれていたテレビから映像が流れだした。
今まではいくらテレビをいじっても電気が通ってなかったらしく何も映らなかったのだが、
どういうことだろうとその映像を眺める事にする。
テレビには誰かが映っている。
何となく見覚えのある人影だったが、その人影は酷く苦しげだ。
はっきり誰かとはわからないが、余りに苦しそうだったので思わずテレビに触れた。
すると、テレビの中にずるりと手が潜って行った。
吃驚してすぐに手を戻してしまう。
人影の映っていたテレビは、それを境に消えてしまった。
一体何だったのか、と首をかしげつつ、もう一度手を伸ばすと、手は再びテレビの中に入ろうとする。
今まではそんなこと無かったのに、どういうことだろうと考える。
思い当たることは一つしかなかった。
『ペルソナ』だ。
ならばテレビの中に入った先には確実にこの『力』と関係するものが存在するはず。
自分は今囚われの身だ。助けも無いだろう。ならば自分で動くしかない。
だが手元には召喚器も、暴走した時にそれを抑えたと言う制御剤も無い。
ならば何としてでもそれらを手に入れるしかない。
どうやって言い訳を考えようか、そればかりを考えて朝を迎えた。 - 532 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 18:01:08.91 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
いつものように実験を終えると、絶対能力者進化実験が半永久凍結なされたと言われた。
はっきり言っておかしい。本当に実験をする気があるのだろうか?
そんな簡単にあきらめるとは。いや、諦めてくれることに越したことはないのだけれど。
ここまで来ると別の目的の為に妹達を生み出したのではと勘繰ってしまうほどだ。
とはいえ実験の責任は全て自分に回って来るのだろうなあ、
とここまで完璧に拘束したことに対する感想を抱いた。
だが、この完璧な包囲網にほころびがある。
もちろんテレビの事だ。
布束砥信は召喚器と制御剤をもたせてくれないか画策しようとしていたのだが、それはあっさりと覆された。
何と研究所側から召喚器と制御剤を渡されたのだ。
制御剤は合計で8錠。召喚器も、偽物ではなくいつも使っていた召喚器だった。
もし部屋に居る時何かあったらそれを飲め、と言われた。
どうみても怪しすぎるのだが、どうせ使いつぶされて死ぬのなら、虎穴に入ってやろうじゃないか。
―――布束はその日の夜、失踪を果たした。 - 533 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 18:01:37.24 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
テレビの中へと降りたった布束砥信は、ある確信を得た。
「この空間内なら、ペルソナが出せる」と言う事だ。
試しに出そうと思ったが、暴走されてはかなわないので何かあった時自衛の手段で出す飲みにしようと決めたのだが。
目の前には異形が数体うごめいていた。
どうみても敵意しか感じ取れない目の前の化け物を見て、布束は溜息をつきながら召喚器をこめかみにつきつけ、引き鉄を引く。
結果から言うと、召喚器も制御剤も本物であった。
何だかこのテレビの中に入る事すら予定調和だったのではと勘繰ってしまう。
あの狂った研究者どもだ、それくらいやってもおかしくはない。
何にせよ、布束以外にペルソナを扱える人間が居ないのならば、追手はこないだろう。
その点だけは安心できる。
しかし、制御剤の数が心許ない。 - 534 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 18:02:03.77 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
やはり、制御剤の数が少ないんです。
そう感じたのは数えるのも億劫に成程シャドウを殲滅した後だった。
どうやらこの空間だと、布束の中に居る者は更に暴走しやすい状態らしい。
御蔭さまで今制御剤を飲んだので、残りはあとひとつになってしまった。
これは拙いと思うものの、シャドウは待ってはくれないので、しばらくの間は逃げの一手に集中する事にした。 - 535 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 18:02:30.70 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
走って、走って、走り続ける。
そして、一見湖に見えるのだが、その水は海水で周りも砂浜という奇妙な場所へたどり着いた。
また、その湖(?)の中心には小舟がプカプカと浮かんでいた。
誰かいるのか?と布束はその船に向けて声をあげたところ、人の姿が見て取れた。
その人間は小舟から飛び立つと、どうみても人間の跳躍とは思えないほど、
というかほぼ飛行と言っても良いだろう。
何にせよその人間は、布束のすぐ近くにまで飛んできた。
しかし、目の前でその人間を見た瞬間、ある事を感じ取ってしまう。
これは、人間ではない。
人間改め人間では無い何かは、布束を見るとニヤッと笑うと、足を地面に踏み抜く。
瞬間、大量の砂が舞い上がり、辺りの視界を埋め尽くした。
何か来る、と布束は反射的にガルーラを唱え砂を払った。
しかし、目の前にはすでにその非人間の姿は無かった。
どこにいるのか辺りを見渡しても姿は見られない。
しかし、最初の跳躍を思い出し、すぐに上を向いた。
そこには巨大な太陽の様な、おそらくプラズマだろう。それを掲げている姿が見て取れた。
なりふり構わずペルソナを発動させる。しかし、それだけでは足らない。
もっと力を。
もっと風を。
もっと、もっと、もっともっともっと―――
瞬間、ペルソナは再び『暴走』した。 - 536 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/16(木) 18:02:57.03 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
「いやあ、久々に人間と巡り合えて、ちょっと遊びたいなあとか思って調子にのっちまったんだ。すまん」
影は布束砥信の肩を叩きながら、笑って謝る。
しかし当の布束からしたらたまってものでは無い。
遊びでペルソナを暴走させられたこっちの身にもなってほしい。
しかもおかげで数少ない制御剤が底を尽きてしまった。
「まあ、無くなったもんは仕方ないさ。なんなら俺が匿ってやってもいいぜ?」
と、影は魅力的な提案をして来た。
確かに、影の力は先ほど十分味わった。しかし、信用しても良いのか迷う。
だが既に命を一度諦めているのだ。それなら世話になられてやろうじゃないか。
布束は影の提案を受け入れると、影はオーケストラの指揮をとるように腕を動かした。
すると海の中から建物が現れた。どういう原理でそんなことに、なんて思うが、
影が言うにはテレビの中にそんな理屈は要らない、だそうだ。
それならこっちの好きなように作ってもらおうじゃないか。
布束は、影に本格的な忍者屋敷の設計を頼んだ。忍者屋敷なのは布束の趣味らしい。 - 537 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/16(木) 18:03:26.57 ID:OzzV5K4xo
- ・・・
布束「……とまあそんなわけで、上条くんの影から貴方達の話を聞いたから、
そのうち屋敷まで来るだろうと思って待ってたのよね」
布束砥信は、一方通行が持ってきた食料のうちの一つ(カロリーメイト・チョコ味)をもさもさと食べながら話を締めくくった。
一方通行「……成程なァ、やっぱり学園都市の中で既に『ペルソナ』に関しての研究は行われていたってわけか」
一方通行は、布束の話を聞いて『人工的にペルソナを扱える人種』がまだいるのだろうな、とあたりをつけた。
9982号「しかも下手したらこのテレビの中まで調べられているかもしれません。
と、ミサカは学園都市の異常さを改めて思い知ります」
9982号は、学園都市の異常性について再認識させられた。
上条「……こんなん、絶対おかしいぞ」
上条当麻は、どこかの魔法少女みたいなことを言う。
御坂「本当、狂ってるわね……」
御坂美琴は、9982号と上条の言葉に同意する。
布束「so、私は貴方達の力を貸してほしいのよ。
probably、テレビの事もこの街は知っているはずだから」
一方通行「あァ、なンの力も無い奴がテレビの中に放りこまれたら間違いなく死ぬ。
お前が力を貸してほしいってンなら喜んで手伝う」
まァ、既に2人やられちまったンだけどなァ……と、一方通行は自嘲気味に言い放った。
その言葉を聞いて布束は眉をひそめた。
布束「ひょっとして、夜中にテレビに映っていた映像は……」
御坂「……その映像、見てたのね?……あれは、妹達の一人よ」
9982号「おそらく、9981号と19090号のどちらかの映像を見たんだと思います。
と、ミサカは推測します。ちなみに、ミサカ達は19090号の方だけ見ました……」
御坂と9982号の言葉を聞いて、布束は静かに涙を流した。
布束「そう……あの子が……あの子たちが……」
妹達を守ろうとして来て、誰一人守れなかった。
挙句、19090号も死んでしまった。
これ以上学園都市の魔の手が妹達へ向かわないようにしなければ。
布束砥信は決意を新たにし、仮称特別捜査隊へと加わった。
・・・
布束「仮称特別捜査隊ってどうなの?」
御坂「ゲコ隊がいいなあって思ってるんだけど」
一方通行「別に名前なンざどォでもいいだろ」
上条「でも何とか隊って名前をつけるのは男のロマンだと思うんだ」
9982号「ミサカも別に何でもいいのですが、ゲコ隊はねーでしょう。
と、ミサカはお姉さまのセンスを真っ向から否定します」 - 538 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/16(木) 18:05:10.90 ID:OzzV5K4xo
- 尾張です
学園都市ってどう考えてもP4よりP3の方が近いよね。 - 544 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/17(金) 20:00:22.77 ID:X/Ke13DGo
- 平日である。
夏休みも終わり、平日の日中に外をフラフラする気にはならない一方通行は、
アンチスキル・ジャッジメント共用トレーニングジムで筋トレをしていた。
9982号も特にする事がないようでそれについて行って、一方通行のトレーニングぼけーっと眺めている。
こうやって一方通行が真面目にトレーニングしているのを見るのは、9982号にとって初めてのことだった。
確かに初めて一方通行に会った時よりも線が太くなっている気がする。
何よりどんなに息切れをし、どんなに汗を流そうとも淡々とトレーニングをこなす一方通行に思わずドキドキしてしまった。
と言っても、一方通行は黄泉川愛穂にボコボコにされるのが嫌だから必死こいて鍛えているのだが。
どうやら一通りトレーニングが終わったようで、一方通行は入念にストレッチをしている。
9982号はそれをみて、何となく「今この白いのと肉弾戦をしたらどっちが強いのだろう」と言う疑問を抱き、心の赴くままに手合わせを申し込んでしまった。
「筋トレで疲れた相手になんてこと言うんだ」と9982号はすぐさま訂正しようとするが、一方通行はまさかの乗り気。
それどころかかかってこいよ、と人差し指をちょいちょいして挑発してきた。
一応、9982号は軍用クローンと言う事である程度の近接格闘術も『学習装置』にてインプットされている。
そんな相手に疲れた体で挑む(と言っても喧嘩売ったのはこちらだが)とは何と愚かな。
9982号は軽くぶっ飛ばしてやると言う心持ちで手合わせに臨んだ。 - 545 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/17(金) 20:00:55.49 ID:X/Ke13DGo
- ・・・
ふたを開いて見てみると、9982号は一方通行に良いようにあしらわれていた。
9982号は流れるようなコンビネーションで打撃技をくりだすのだが、それの事ごとくを受け流されるのだ。
それどころか、その受け流した力をそのまま流用し、9982号へと跳ね返って行く。
ベクトル操作したんじゃね?とか思うものの、この技術はどう見ても合気のそれだった。
どうやら、相手の力を利用すると言う合気道が一方通行の性に会っていたらしい。
だがそれでも、まともにトレーニングを始めてまだ一月もたっていないと言うのに、随分と綺麗な動きである。
何だかあっさり自身の近接格闘術を破られて9982号は納得のいかない顔をした。
そんな9982号に対して、一方通行は軽く汗をぬぐいながら告げる。
一方通行「頭ン中に『戦い方』がインプットされてても、それを扱う『身体』が出来てなきゃ意味ねェだろォが……
それに、このくらい出来なきゃ……一方的にぼこられるンだよ……
『一方通行』の名を冠するこの俺に対して暴力の一方通行を行うあの女によォ……」
どんよりとした雰囲気でボソボソと呟いた。
よっぽど酷い訓練(リンチ)なのだろう。思わず合掌した。
9982号「成程……一方通行の能力だけでも十分かもしれませんが……
合気の動きと併用することで更に効率のいい能力の運用が見込めそうですしね。
と、ミサカは上から目線で褒め称えます」
一方通行「そこまで考えてなかったけどなァ……だが、『体の動かし方』を学んだのはデケェと思ってる」
9982号「だが……弱点が一つだけあると言ったらどうする……?」
9982号のしたり顔に一方通行は眉をひそめ、尋ねる。
一方通行「……どォいうことだ?」
9982号「ふん、知れた事。相手の攻撃を利用する『合気道』……。
ならばこちらから仕掛けなければいい」
さあ、かかってこい!と9982号は床に横になった。
一方通行「……」
一方通行は、道端に落ちてる犬の糞を見るかのような目線を9982号に落とし、足蹴にする。
9982号は痛い痛いゴメンゴメンと必死で謝っていた。 - 546 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/17(金) 20:02:29.34 ID:X/Ke13DGo
・・・
上条当麻は今現在補修を受けている。
本来今日は短縮授業で昼には終わるはずだったのだが、上条は夏休みの課題を一つもしていないのだ。
故の補修である。
そしてその補修には上条・土御門元春・青髪ピアスの3人はもちろん受けている。
まさに3馬鹿(デルタフォース)にふさわしいと言えよう。
それどころかクラスの3分の2が補修を受けてる有様だ。
皆一様に小萌先生が好きだからだ!と言いながら補修を受けてるのだが、上条にはそれが信じられない。
小萌先生人知れず泣いてるんじゃないのかと思ってしまうほどだ。と言っても上条自身も補修を受けているので何も言えない。
その3馬鹿を含めた生徒たちは皆、席に座ってぼけーっと小萌先生の講義を聞いている。
上条と土御門は自分の席に座っているのだが、青ピだけは何故かクラスメートたる吹寄制理の席に座っている。
何となくそれだけで青ピの変態度がわかってしまう気がする。心なしか青ピの息もハァハァしている気がした。
青ピが吹寄の席に座っている事で、上から見ると3人は丁度正三角形の頂点に位置していると言うのは余談である。
まさに馬鹿のバミューダトライアングル。
そのトライアングルの一角、上条当麻は思考の渦にのまれている。
もちろん授業内容ではない。テレビについてだ。
何となくついて行ったら何やら学園都市の暗部なんてものを知ってしまった。
知らなきゃ大食いシスターを匿うただの高校生として過ごせたのだろうか。
いや、変なシスターを部屋に置いてる時点でただの、という評価は正しくないが。
だがしかし、もう知ってしまった。
自分がへらへらして過ごしている間に、学園都市によって使い潰される人がいると言う事を。
だがしかし、もう知ってしまった。
自分がへらへらして過ごしている間に、上条当麻によって使い潰される心があると言う事を。
テレビの中ではいい思い出があるとは言い難い。
とはいえ、自分の心と真に向き合う機会を与えてくれたという点では感謝している。
だがしかしテレビの中での経験を考えると、いずれ自分の影と戦う事になるかもしれない。
確かに、今の自分には、ペルソナを扱う『力』を得られた。
それでもそれを扱う上条自身は、戦闘においてはまだまだ素人だ。
今日も鍛えてもらおう、そう思った瞬間。- 547 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/17(金) 20:02:56.06 ID:X/Ke13DGo
青ピ「せんせー!カミやんが小萌せんせーの話を聞いてなさそうでーす!!
これは由々しき事態やでえ~!」
あおピが かみじょうを こくはつした!
小萌「むう……」
こもえせんせいは いかっている!
小萌「先生の授業、つまらないですか……?」
こもえせんせいの なきごえ(泣き声) こうげき!
上条「す、すいませんでしたーっ!!」
かみじょうの りょうしんが ゆさぶられた!
ちなみに つちみかどは ねむっていた!(サングラスで めもとが みえない!)
クラスメートたちの フルボッコ こうげき!
こうかは ばつぐんだ!
その日、小萌先生の小さな泣き声と、上条当麻の断末魔が響き渡ったという。- 548 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/17(金) 20:04:14.62 ID:X/Ke13DGo
- ・・・
御坂美琴は溜息をついていた。
それもそのはず。この間上条当麻との関係を追及された際、劇的な逃走劇を繰り広げたために常盤台の女生徒達は更に盛り上がり、
意地でも御坂と上条の関係を明らかにしようと躍起になっているのだ。
故に常盤台中学の敷地内に居ると誰もかれもが「御坂様!あの殿方とはうんぬんかんぬん」と話しかけてくる。
昼休みはもちろん、授業と授業の合間や放課後にまで追手は迫って来た。
ちなみに、白井黒子も今回ばかりは御坂の敵だ。
「あんなウニ頭知らない、愛してるのは黒子だけよ」という言葉を聞くまで白井は敵で有り続けると宣言していた。
御坂はその言葉に対して、「だったらあんたは生涯敵よ」と言われて白井は灰と化した。
そして今、校舎の屋上で一人、溜息をついている。
もそもそと菓子パンを食べるその姿はさながら小動物のようである。ちなみにその隣にはだれも居ない。
確かに人望はあるのだが、高翌嶺の花と言うべきか、能力者のピラミッドの頂点に位置すると言うか、隣にならび立ってくれる人間がいない。
よく言えば孤高、悪く言えばぼっちだった。
まともな付き合いがあるのは黒子と捜査隊一同位だなあと思う。
一応御坂は、白井から派生して行った友人は居るのだが、あくまで白井という緩衝材が居たから仲良くなれたと言える。
そういう意味では自然と仲良くなれたのは白井と捜査隊一同しかいない、と言う訳だ。
御坂「どっかに友達おちてないかなあ……」
何とも言えない不思議な現象を、独り言葉にする御坂であった。 - 549 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/17(金) 20:04:51.38 ID:X/Ke13DGo
・・・
その少女は街をさまよっていた。
行く当ても無く、知る人も無く。
霧ヶ丘の制服を着たその少女は。
ただただ陽炎の街を歩き続ける。
―――人はその少女を『正体不明(カウンターストップ)』と呼んだ。- 550 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/06/17(金) 20:05:46.06 ID:X/Ke13DGo
・・・
インデックスは街中をうろついていた。
上条当麻が学校に行っていて、やることも無いので仕方がない。
一方通行は現在トレーニングに励んでいるのだが、そんなことは知る由も無い。
そんなわけで愛猫・スフィンクスを胸に抱き、散歩に勤しんでいる、というわけだ。
インデックス「暇なんだよ……」
スフィンクス「にゃあ」
インデックスはスフィンクスに話しかけるように独りごちる。
スフィンクスはあくびをするように返事(?)をした。正直暑いので放して下さい、と。
そう。インデックスは常に全身を覆う白い修道服。暑いに決まってる。
これが黒かったら救いようのないほど暑い思いをするだろう。
そんな白いインデックスは、フラフラと公園にたどり着いた。
どうせ涼むなら図書館にでも行けばいいのだが、スフィンクスがいるのでそれは叶わない。
仕方がないので木の影で涼む事にした。
しかし、その前に自販機を発見してしまった。
一応上条から「昼飯+足らなかった時の飯代1000円」を受け取っている。
昼飯は既に食べた。少々足らなかったけど。
後は1000円。如何にこの1000円でおなかいっぱいになるか、そればかり考えていたのだが、暑い。喉乾いた。目の前には自販機。
吸い寄せられるように自販機の元へ行く。
が、しかし自販機がお札を認識してくれない。
何度入れてもゲロゲロと野口さんを吐きだす。
成程、これは試練だ。
この炎天下の中飲み物を買うまでその暑さに耐えきれるかどうかの。
それなら耐えきった上で飲み物もgetしてやろう。
インデックスが腕まくりをして、くしゃくしゃになった野口さんを再び自販機にいれようとしたが、自販機は活動拒否をする。
そんな自販機に嫌気がさしたのかインデックスは頬を膨らませ無機物相手に説教をかました。
「あのー、大丈夫ですか……?」
その言葉にインデックスはパッと振り向く。
そこには学生服を着た気弱そうな少女が居た。
インデックス「だれ?」
おずおずと尋ねるその少女に、インデックスは質問する。
風斬「えっと、風斬氷華ていいます」
インデックス「そうなんだ、わたしはインデックスっていうんだよ!
それでね、この機械の飲み物が欲しいのに、この機械がいじわるするんだよ!!」
風斬「えっと……この自販機はちょっと古いみたいだから……
こうやって、お札をピーンと伸ばした方がいいよ」
風斬氷華と名乗ったその少女はインデックスから野口さんを受け取り、
野口さんを二つに折りたたみ自販機に通した。
するとあっさりと野口さんを受け入れ、ジュースの模型の下にあるボタンが赤く光自己主張し始めた。
インデックス「ひょうかすごいんだよ!一発でこの機械が言う事聞いた!」
キャイキャイと喜ぶインデックスを見て風斬もクスリと微笑む。
これが真っ白な修道女と、正体不明の少女の出会いだった。- 556 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/20(月) 08:46:39.25 ID:vQMDCEgEo
- 午後12時。
9982号は一方通行と軽く手合わせしただけだが、一方通行に関しては既におよそ3時間みっちり筋トレをしていた。
一方通行は、基本的には1日筋トレ2日合気道の型を学んでいる。
『超回復』と言う科学的理論に基づいて、だ。
だと言うのに黄泉川愛穂は「根性出すじゃん」とか言ってエブリデイヤングライフ筋・ト・レ♪を強要して来る。
流石にそれは非効率だろ、と抗議をしたところボコボコにされた。
曰く、「自分の限界を自分で決めないように、限界を越えて自身を追い込むじゃん!!」と真顔で言われた。
成程。
学園都市の能力者は、簡単に言えば『自分だけの現実』、すなわち『思い込みや妄想』の強さで能力の強度も変動する。
そう考えると、こういったトレーニングで『自身の限界』はまだまだこんなものではないと『思い込む』事で能力の強度が上がるのかもしれない。
と言っても飽くまで予測にすぎないが。
とはいえ、『学園都市第一位・一方通行』に対してそれを言っても仕方がないだろう。
能力開発に関しては、自身が色々された分だけそこいらの教師よりも詳しい自信がある。
どれだけ能力開発に時間を費やしたのだろうか。一方通行の半生は『一方通行』無しには語れまい。
と言うかそもそもトレーニングをしているのは純粋に身体を鍛えるためだ。
ならば科学的に効果が見られるトレーニングをした方がいい。
そんなわけで一見黄泉川に従っているように見せかけて黄泉川が居る時は合気道を学び、
居ない時に筋トレor合気道をすることで黄泉川の目を欺き続けている。
ばれたら多分ボコボコにされるだろう。しかしいつもボコボコにされてるので、そンなン怖くなンかねーし、と一方通行は語る。
そして一方通行と9982号はなんやかんやでトレーニングを終え、いつものレストランへと向かっていた。 - 557 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/20(月) 08:47:05.34 ID:vQMDCEgEo
- 9982号「あ」
一方通行「あン?」
9982号が何かに気づいたように突然立ち止まる。
本当に唐突で一方通行も思わず足を止め、疑問を顔に浮かべた。
一方通行「どォした?」
9982号「いやさ、上位個体が暇だっつって研究所から抜け出して迷子になったみたいです。
と、ミサカは何やってんだあのロリと愚痴ります」
一方通行「あァ……」
本当に何をしてるンだ。自分の立場をわかっているのだろうか。
一方通行は無表情相槌を打ちつつ内心舌打ちをする。
9982号「探しに行きましょうか。と、ミサカは上位個体に周りに何があるかとそこから動くなと伝えておきます」
この街で一人さまようのは危険だ。一般人なら裏路地に行かない限りそうでもないが、打ち止めは違う。
機密性の高い実験の要だったのだから、変な研究員に狙われてもおかしくはない。
一方通行はめんどくせェと頭を掻きつつ、2人は打ち止めを捜索に行くのだった。 - 558 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/20(月) 08:47:32.13 ID:vQMDCEgEo
- ・・・
御坂「はい?学芸都市?」
御坂美琴は現在職員室に居る。別に悪さを働いたとかそんなわけではない。
なにやら御坂と白井黒子に連絡事項があるらしく、2人でのこのことやってきたわけだ。
先生「あぁ。何か広域社会見学として複数の学校から何人かアメリカの学芸都市へ行ってもらうらしいんだが……
うちからお前と白井が抽選で選ばれたってわけだ」
白井「それで、いつから学芸都市へと向かいますの?」
先生「あ?聞いて驚け、明日だってよ」
「「はぁ?」」
いくらなんでも急すぎる。思わず聞き返したほどだ。
2人は驚きのあまり多くの言葉を口に出すことは出来なかった。
先生「いやさ、こっちもあんまり急でビビったんだけどな。
まあ夏休みが1週間伸びたと思って遊んでこいよ」
教師とは思えない発言が飛び出してきた。一応社会見学という名目なのだから遊び呆けるわけにはいくまいて。
何にせよ決定事項で覆せないとのことなので、御坂は渋々頷いて職員室を後にした。
白井「お姉さま……お姉さまとのバカンス……うふ、うふへへ……」
白井は何やらだらしない顔でぶつぶつ言っている。御坂は何言ってるのか大体わかったので何も聞かないことにした。 - 559 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/20(月) 08:48:26.02 ID:vQMDCEgEo
- 白井「おや」
御坂「んん?」
すると2人の携帯にメールが受信された。中身は「初春と私は明日から1週間アメリカいきまーす!」というお知らせだった。
差し出し人は御坂と白井の共通の友人たる佐天涙子。どうやらその友人の初春飾利も一緒らしい。
白井「これは何とも……」
御坂「すごい偶然ね……。まあ黒子と2人はちょっとあれだしよかったわあ」
白井「ひ、ひどいですの、お姉さま!!」
御坂「常盤台の寮なら、管理人が最強だからある程度安心(と言っても油断ならないが)出来たけど、
それが居ない状況だとどうなることやら……」
白井「ううっ」
白井の今まで犯してきた罪状は数多……。(ナレーション:立木文彦)
覗き!猥褻行為!盗み(下着)!脅迫(猥褻行為の強要)!(ナレーション:立木文彦)
罪状の一部を明らかにしたが、これらは全て御坂美琴に対して白井黒子が行った罪の数々である!(ナレーション:立木文彦)
己が罪に自覚があるのか!白井、反論できず!(ナレーション:立木文彦)
純然たる事実を前に!!白井、反論できず!!(ナレーション:立木文彦)
閑話休題。
それにしても、1週間もこの地を離れるのは痛い。おそらくその間にもテレビの事件は進んで行くことだろう。
何もなければ良いのだが、そう言う訳にもいかないだろう。
御坂「……(まぁ、一方通行達が何とかするか)」
一方通行達なら大丈夫だろう。
それに、アメリカなら『学園都市第三位』の肩書も無い。それこそ等身大の私(笑)を見てもらえるはずだ。
友達とか、出来ないかな、えへへ。
御坂の頭の中はテレビからリアル友達百人出来るかなへと移行して行くのだった。 - 560 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/20(月) 08:49:22.29 ID:vQMDCEgEo
- ・・・
上条「やっと終わった……」
小萌先生の涙、クラスメイトからの苛烈なる総攻撃。それらを乗り越え、上条当麻はようやく補修から解放された。
そんな上条の元に2人の紳士(へんたい)がやってきた。
土御門「かっみやーん!べんきょー終わったし遊びにいこうぜい!」
青ピ「今日はわいもバイトも休みやし、ラウンドファイナルで遊びまくろうやないかー!」
土御門元春に青髪ピアスである。
普段ならこの誘いに乗って、最近流行ってる新型対戦3D格闘ゲーム「ストリートブレイギルティーブラッドvsサムライヴァンパイアオブマーベルファイターズ」に興じているところだ。
「ストリートブレイギルティーブラッドvsサムライヴァンパイアオブマーベルファイターズ」略してストファイ。
このストファイは、全ての格ゲーファンが一度は妄想する「他会社の格ゲーキャラ同士の対戦」を完璧に網羅しているものであり、格ゲー製作会社側も一度やってみたかったのか利益や利権関係全てを無視して、手を取り合って本気で製作に取り掛かった。 - 561 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/20(月) 08:50:34.61 ID:vQMDCEgEo
- その心意気に学園都市が悪乗りして資金及び技術提供をしてしまったが為に、
他格ゲーキャラ同士の火力差を考慮した完璧なゲームバランス、2Dだったキャラの美麗3D化、
格ゲーにありがちな初心者狩りを避けるために完全会員制(登録費無料、年会費無料)でログインする際、指紋による生体認証にてログインし、
オンライン対戦を重ねる事でランクアップを果たし(店内対戦ではランクアップ無し)、
対戦をする際は基本的には(設定変更可)同ランクのものとしか戦えないという初心者に対するフォロー。
もちろん最初は初心者と上級者が同列になるため荒れるかもしれないが、しばらく稼働したらそれも減ることだろう。
更には対戦相手を決める前に使うキャラを選択しておき、あらかじめ「このキャラと戦いたい」という設定を行っておく事で、
指示したキャラを使う同ランクの対戦相手を選ぶことが出来る。
しかしそれでは自分にとって有利なキャラを選ぶことが出来るのでは?という意見もあるだろう。
そんなことが無いよう、そちらに関してもあらかじめ「『このキャラと戦いたい』という設定をした相手とは対戦しない」設定をしておくことが出来るのだ。
そんなわけで総製作費310億という途方も無い値段で製作されたそれは全てにおいて完璧である。
プロゲーマー・桜原小吾も「今世紀この格ゲーを超える格ゲーは出ない」とコメントしたことも相まって、
学園都市に投入された試作品段階で爆発的な人気が出た。
それにより晴れて完成版を全国へと送りだすことが出来たのだ。
ちなみにこのアーケード版は結果として大成功で、来年春には家庭用に移植されるらしい。
上条も土御門も青ピも、このストファイに関してはかなりうるさい。
実はかなりの猛者であり、「殴りの上条」「投げの土御門」「変態の青ピ」という名前は、
行きつけのゲーセン「ラウンドファイナル」においては結構名の知れたものである。
しかし、そんな上条も放課後はトレーニングをしなければ黄泉川愛穂にぶちのめされてしまう。しててもぶちのめされるが。
そう言う事だからトレーニング休みの日以外でゲーセンに行ける事はないだろう。
上条は、結局泣く泣く2人の誘いを断り、学校を発つ。 - 562 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/20(月) 08:51:01.48 ID:vQMDCEgEo
- ・・・
打ち止め「うー、まだかなーってミサカはミサカは待ち飽きたって叫んでみたり!」
打ち止め「ひまひまー!早く来てよってミサカはミサカは抗議してみる!」
打ち止め「えー?もう少ししたらつくから待て?一方通行居るんだから能力でひとっ飛びじゃないの?
ってミサカはミサカは疑問に思ってみたり!」
一見すると独り言を言っている不審な迷子にしか見えない少女、打ち止め(ラストオーダー)。
打ち止めはMNWを用いて9982号と一方通行に迎えに来させようとしているのだが、如何せん打ち止めの説明が下手と言うか、何処に居るのか特定できていなかった。
それもそのはず、「ビルがいっぱいある!」じゃ誰もわかるまい。
何にせよ、いつまでも同じ場所で何もしないでいるのは暇すぎる。
打ち止めは見晴らしのいい場所に行くと9982号に伝え、再び歩き出すのだった。 - 563 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/20(月) 08:51:40.24 ID:vQMDCEgEo
- ・・・
インデックス「それでね!とうまったらひどいんだよ!」
風斬「へえ、そんな人も居るんですねえ……」
インデックスは、先ほど公園で知り合った少女・風斬氷華に向かって愚痴を吐く。
風斬はそれをいやがるどころか、インデックスの話を穏やかな笑みを浮かべ聞いている。
たまに入れる相槌も、インデックスの事を考えたもので、普通の人なら初対面の相手にいきなり愚痴を聞かされるのは嫌なものだと思われるが、風斬はそんな様子をおくびにも出さない。
本当に楽しそうにインデックスの話を聞き入っていた。
そんな2人は今現在、街中を歩いている。公園でヤシの実サイダーを買い、それを2人で分け合った後、互いにする事が無いようで、何となくぶらぶらしていた。
インデックス「そうだ!とうまにひょうかを紹介しなくちゃね!」
インデックスはごそごそと胸元を探り、携帯電話をとりだした。
しかし、電池は切れていた。充電の仕方もわからなかったので電池が切れて以来充電していないらしい。
真っ黒な液晶を眺め、適当にボタンをぽちぽちおすが、携帯はうんともすんとも言わない。
インデックスが軽く涙目になったところで、風斬が電池切れのせいだ、と言う事を説明した。
インデックス「じゃあ、とうまの家で待っていればいいんだよ!」
突然の提案に、風斬は戸惑う。流石にそれはあれだろう。と言うか「とうま」なる人物は話を聞く限りじゃ男だ。
だと言うのにいきなり家に上がり込むのはどうなんだ。かといって理由も無く断るのも失礼だ。
風斬はどう断ろうか、と考えていたのだが、そこに1人の人物が現れた。
「あれ?インデックス?……と、どちらさま?」
ツンツン頭の高校生。
インデックスの言う「とうま」なる人物であった。 - 564 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/20(月) 08:52:43.17 ID:vQMDCEgEo
- ・・・
「くそ!くそが!!畜生!!!どうして猟犬の奴らに狙われるんだ!!?」
白衣を着た男は必死で車のエンジンをかけようとする。
しかしかからない。必死になってかける。逃げなければ。殺される。
何度か鍵を右にひねるとようやくエンジンがかかった。
これで逃げられる!男は嬉々としてサイドブレーキを落とし、ギアを入れ、アクセルを踏み込んだ。
ハンドルを握る手は震え、汗によって掌はベタベタになっている。
しかし、ようやく走りだした車の前に、一人の男が立ちはだかった。
「天井くーん、テメェは一体何しようとしてくれてんだあ?仕事増やすなっての」
その男は頬に刺青を入れ、必死に逃げようとする男と同様に白衣を着た研究者風であった。
そんな刺青の男を前に『天井』と呼ばれた男の嬉々とした顔は一転して、恐怖に歪ませる。
天井はギアを変えアクセルを更に踏み込む。そのまま引き殺さんとばかりに。
しかし、加速する車の前に立ちはだかった刺青の男は、後1秒もしたら轢かれるだろうと言うのに全く気にした様子も無く、ただただめんどくさそうに頭を掻いている。
瞬間、車のタイヤは何処からか狙撃されパンクし、車の軌道は一気にずれて、男の隣を通過した。
いきなり車の操作を乱されたために、それを制御しようと天井はハンドルを右へ左へ回すが、
そんな天井を馬鹿にするかのように、ふらつく車体をものともせず、正確無比に残りのタイヤ3つが打ち抜かれた。
制御を完全に失い、道路沿いに敷かれている金網の柵へと車は突っ込む。
天井はすぐに車を脱出して逃げようとするが、刺青の男はそんな天井へと近づいた。 - 565 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/20(月) 08:53:50.66 ID:vQMDCEgEo
- 「おいおいおーい、天井くーん。テメェ、自分のしよーとした事わかってんだろうなー?」
「ひっ……!違う、違うんだ……!私は何もしていない!!」
「そーだな。確かに見た感じ『未遂』だなぁ。だが、放っておいたら何かするんだろ?
だったらぶち殺しとかないとな!汚物は消毒するに限るってもんだ」
この時天井からしたら目の前の男は死刑執行を担当する死神にしか見えなかっただろう。
こうなった時点で、天井の命はもう終わったも同然だった。しかし、天井は無様に抵抗する。
そんな天井を刺青の男は鼻で笑う。
「つーか何もしてないっていうけどよお。だったらこれ何だよ?」
刺青の男は白衣のポケットからUSBメモリーを取りだした。
それを見て天井はぎくりとした顔をするが、すぐにその表情を消し、知らないふりをする。
そんな様子を見て刺青の男は表情も変えずに天井の太ももを拳銃で撃ち抜いた。
天井「ぐあああ!!!!」
天井は太ももを打ち抜かれた事でその場にしゃがみ込み、太ももを抱える。
刺青の男はそんな天井をニヤニヤしながら眺め、あまつさえその太ももを踏み抜いた。
あまりの痛みに天井は更に叫び声をあげるが、刺青の男は全く気にした様子では無い。
「なあ、『これの中身』も『誰がこれを作った』かも、『これを誰に使う』かも全部わかってんだぜ?」
天井「ぐうう……!!」
もはや痛みで天井は何も聞こえていない。既に天井の周りは包囲されて、逃げる事も出来ないだろう。
刺青の男はもう話すことも無いと、どこからか武装兵がやってきて、天井を連れて行った。
その兵士達の装備を見る限りでは、どうやらこの兵士達が車のタイヤを打ち抜いたようだった。
連れて行かれる天井の背を眺めつつ、刺青の男は誰かに連絡を取り始めた。
「おー、こちら猟犬部隊。天井亜雄の捕獲かんりょーしたぜえ。
ったく、なんでたかだか研究者なんかの為にうちのクソどもを使わなきゃなんねーんだよマジで」
刺青の男はぶつぶつと電話の相手に文句を言う。どうやら本来今日は非番だったらしく、いきなり命令されたため渋々天井亜雄の捕獲に当たったようだ。
「いやいや……すまないね。彼が秘密裏に研究していた事を下手に誰かに知られたら面倒だからねえ。
この研究については木原一族ですら君と私しか知らなかったというのに……
全く、彼は何処から知ったのやら」
「まぁ、天井に関する資料を見る限りじゃ、研究者としては優秀らしいからなぁ。
あんだけ妹達に近い立ち位置で研究してんだ。気づいたっておかしくはねーだろうよ」
「くく、何にせよ、彼はもう「知ってしまった」。彼についてはこちらで処分しておくよ」
「へいへい。俺ぁもう帰って寝るからなぁ……。俺の休日、これ以上邪魔してくれんなよ」
「また何かあったら呼び出させてもらうがね」
「うるせえ俺は寝だしたら誰にも止められねーからな」
刺青の男は携帯を切り、近くに控えていた兵士にその携帯を投げ渡す。
「あの爺に目をつけられるたあ、天井君も運が無いねえ」
刺青の男は、黒いバンの後部座席に乗り込み、発進させるよう指示を出す。
木原数多。
その刺青の男は、猟犬部隊という暗部部隊の隊長であり、それと同時に研究者でもあった。 - 574 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/22(水) 04:04:25.81 ID:PipSGV+Mo
- 一方通行と9982号は今現在、空中を飛びまわっていた。
打ち止めが迷子になったからだ。9982号がナビゲートし、一方通行が足役というわけだ。
しかし見つからない。と言うか「ビルがいっぱい」でわかるわけがない。
そんなわけで打ち止めが移動することを許容した。というかどっか行くの止められないし。
徒歩の打ち止めは研究所からそう離れた場所には行けないはず。
2人はそう考え、第七学区を中心に捜索を続けていた。
一応、目立つのを避けるため光学迷彩の要領で2人の姿は見えないようになっているので安心だ。
「チッ……マジでめんどくせェ……」
「せっかく昼ごはんの時間だったのに……と、ミサカは上位個体に愚痴っ……
何?未だ食ってないなら後でレストラン連れてけ?張り倒す」
こうして打ち止めとのんきにMNWを介して話が出来ているのが救いだろう。
少なくとも打ち止めの身に何かあるというわけではなさそうだ。
それでもさっさと見つけた方が良い。そんなわけでひたすら風を切り空中散歩を続けている。
そんな中、一方通行の携帯にメールが入った。御坂美琴からだ。
ひょっとして、たまたま打ち止めを見つけたけど、対応に困っているとかそんなのだろうか。
いや、それなら9982号にMNWで伝わるはず。一体何の用だ?
『拝啓、御坂美琴です。残暑の厳しい今日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか?
私は夏バテもすること無く、元気に過ごしております。これも日々のトレーニングの成果と言う事でしょうか。
さて、本日はどうしても伝えたいことがありまして筆をとらせていただきました。
と言うのも、明日から一週間、アメリカに社会見学することになったのです。
テレビの事が気になるので、本当はあまり気乗りしないのですが、
どうしても避けられないようなので、仕方なく、本当に仕方なく渡米いたします。
私がいない間捜査隊一同の無事を祈っております。敬具』
メールを見て、思わず携帯をへし折りそうになった。何だこのくどい文章は。 - 575 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/22(水) 04:04:58.03 ID:PipSGV+Mo
- 「……誰からですか?」
9982号はギリギリと携帯を握りしめる一方通行を見て、怪訝そうな表情を浮かべ尋ねた。
人がイライラしている時にあんなメールを送られたら誰だってキレる。
て言うか絶対アメリカ行くことに対して乗り気だろ。
「……明日から1週間、御坂の奴はアメリカでバカンスだとよ。
良い御身分だぜ全く……」
一方通行は、そのメールを無言で削除し、「楽しンでこい」という一文だけ返信した。
キレながらも返信はきっちりするあたり律義である。
「はぁ、そいつはうらやましい限りですね。
ミサカもそのうち世界各国に滞在するミサカ達の元に旅行行きたいです。
と、ミサカは願望を露わにします」
旅行。確かに学園都市の外に言った記憶は全くと言っていいほどない。
色々落ちついたら外を旅してまわるのも面白いかもしれない。
外に出る手続きが面倒……と言うか下手したら一方通行という能力の価値の高さから、外に出してもらえない可能性はあるが。
「……そのうちなァ」
「ありがとうござぶぶぶ!!」
せめて9982号の願望はかなえてやろう。
一方通行は正面から来る風の全てをちょっと強化して、それを9982号へと向けながら空を飛び続けた。 - 576 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/22(水) 04:05:44.23 ID:PipSGV+Mo
- ・・・
一方、打ち止めは。
「ミサカは助っ人さいきょーぐん!ミサカは助っ人さいきょーぐん!
きょーうもこの街かっぽするー!きょーうもこの街かっぽするー!
ミサカー、ミサカー、ミサカー、サンハイ!ミサカー、ミサカー、ミサカー!
ちょうのうりょーく!ちょうのうりょーく!たーのしーなー!」
打ち止めは何で知ってるんだという歌の替え唄を口ずさみ、何処から拾ってきたのか木の棒を振り回して歩いていた。
それだけなら非常にほほえましい光景なのだが、歩いてる場所がまさかの路地裏。
ロリコンが居たら間違いなくさらわれてしまうだろう。
というか「見晴らしのいい場所」に行くと宣言していたはずなのだが、すっかり忘れて替え唄を考えるのに夢中になっていた。
なんというNOPLAN。
「前略!ミサカネットワーク上より!」
セイヤ!セイヤ!と打ち止めの路地うライブは佳境を迎えていた。
「きょうも管理者ぶってます、わざとー20000号処罰するー♪」
何やら物騒な内容の替え唄だが、その声を聞いてどこからか数人の人間が遠巻きに打ち止めを眺めている。
75%がスキルアウト風のメンツだが、その組み合わせは中々に個性的だ。 - 577 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/22(水) 04:06:38.33 ID:PipSGV+Mo
- 「何?あの子。大体、どっから来たのかな。にゃあ」
フワフワした金髪に真っ白な肌。それに透き通った海の様な青い瞳。
その少女はまさしく人形の様な風貌で、特徴的な語尾を持つ少女だった。
「……ほぼ確実に、迷子か何かだろう」
その少女を肩に乗せる大男は、その体躯とごつい顔に似合わず陰鬱な口調で、変な替え歌を歌う打ち止めの事を評価した。
「ほら、新たな幼女が目の前にいるんだぜ……助けなくてどうするんだ?駒場さん」
「……浜面。お前とは一度じっくり話し合わねばならんと思っていた」
天然で金髪の少女とは違い、人工金髪なジャージを着たいかにも不良ですみたいな恰好をした男は、
大男の事を『駒場さん』と呼び、ニヤニヤとした笑みを浮かべながら駒場をからかう。
しかし駒場は、額に青筋を浮かべ、金髪ジャージ・浜面に対して背後から鬼がスタンドとして出てきそうな覇気を飛ばしている。
「はっは!今のは浜面が悪い!いいぞ駒場のリーダーやっちまえ!あ、でも迷子のロリはヤっちゃ駄目だぜ?」
「半蔵……お前もか」
浜面と駒場のやり取りを爆笑しながら聞いていたバンダナを巻いた少年・半蔵は軽薄な口調で、駒場に対する追撃の茶々を入れた。
基本的に浜面、半蔵の2人は駒場の事をネタにいじる機会が多いため、どちらかが駒場をいじると、ついついもう片方も一緒になって駒場のことをいじってしまう。
そんなわけで半蔵も駒場のターゲットへとなってしまい、しまったと言う顔をするが時すでに遅し。
駒場の掌は半蔵にも迫っていた。しかし、救いの女神(幼)は居た。 - 578 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/22(水) 04:07:43.62 ID:PipSGV+Mo
- 「むう……大体、先にあの迷子(?)を保護すべきじゃないの?にゃあ」
「…….それも、そうだな。それなら舶来…….あの子の歳に一番近そうなお前が話しかけてこい」
「わかった!!」
「「死ぬかと思った……」」
「舶来」と呼ばれた少女の話題転換により事なきを得た2人は安堵のため息をつく。
とてとてと、その金髪幼女は打ち止めの元へ話をかけに走って行った。
「おいつーめらーれて20000号!あとはー処罰のタイミング!
罪がーかぶーったどうしよう。どうにーかなーるさ、ごまかーしーてー!」
セイヤ!セイヤ!と歌の終りが見えたところで、金髪幼女は打ち止めに話をかける。
「にゃあー」
丁度いいタイミングの合いの手を入れた形で。
「え?何?ってミサカはミサカは丁度イイ合いの手を入れてくれた声の方を向いてみたり!」
「こんなところで、大体、何をしてるの?」
「え?んー……道に迷ってるかも!ってミサカはミサカは照れながら話してみたり!」
「そうなんだ!あっちに私の友達がいるからその人たちに、大体、案内してもらえばいいと思う。にゃあ」
「いいの?ありがとう!ってミサカはミサカは感謝の気持ちを露わにしてみたり!」
「じゃあ行こ!」
「うん!」
幼女と幼女が交わる時、物語は始まる――― - 579 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/22(水) 04:08:20.40 ID:PipSGV+Mo
- ・・・
「んで、インデックスと風斬はわたくしの家に行こうとしたところでタイミング良く俺が現れたってわけか」
「そのとおりかも!」
「あ……でも、初対面の方にそんな迷惑は……」
上条当麻は現在、インデックスに、インデックスが出会った少女・風斬氷華の2人とわいわい雑談していた。
インデックスは風斬と遊びたいらしいが、上条は今からトレーニングに行かねばならない。
よっぽどの事情じゃない限り、黄泉川愛穂のトレーニングを休むことは許されないのだ。
インデックス達をジムに連れて行ったとしてもする事が無いだろうし、そもそもこの街の学生でないインデックスがアンチスキル・ジャッジメント共用トレーニングジムに行くのは自殺行為だろう。
間違いなく不法侵入で臭い飯エンドだ。
いや、学園都市なら臭くは無く、むしろ上条家よりも上等なものが食べられそうな気がする。
いや、駄目だ駄目だ。そんなことしてみろ、インデックスを狙う魔術師が襲撃に来るに違いない。
Koolになれ、上条当麻。お前はいつも冷静沈着、頭脳明晰で口先一つでちょちょいのちょいだったじゃないか。
なんて思考が着実に脇道へ逸れて行ってるところでインデックスから声がかかる。
「とうま?どうしたの?」
「へ?いやいや、なんでもございませんことよ!?」
思考の渦にのまれていた上条は突然その思考を遮られた事で声を上ずらせながら返答する。
「やっぱり、迷惑ですよね……」 - 580 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/22(水) 04:09:33.93 ID:PipSGV+Mo
風斬はちょっとションボリとしていた。そんな庇護欲を掻きたてる風斬の表情を見た上条は、
「いやいやいやとんでもないです!むしろバッチ来いっていうか?!」
「ふぇ!?」
「とうま!またそうやって女の子に言い寄って!!」
「ああ!違う、これは違うんだ!!別に俺ん家来ても良いんだけど、俺この後用事があるから俺は居られないんだよ!」
「用事?また知らない女の子と遊ぶとかじゃないの?」
「違う違う、確かに相手の性別は女性だけどあれは違う」
「結局女の子だよ!とうまったら!!」
上条は、ジト目で上条を疑うインデックスに何とか弁解しようと言い訳を重ねるものの、墓穴っている。
「ええいトレーニングジムで体を鍛えてんだよ!!」
にっちもさっちもいかなくなり、上条は正直にこれからの予定を暴露した。
「体を……?」
何で、という疑問がインデックスの頭をよぎる。
しかし、聞いてはいけないものだ、とインデックスは何となく思った。- 581 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/22(水) 04:10:01.05 ID:PipSGV+Mo
- 「……わかったんだよ、とうま。頑張ってね」
「へ?お、おう」
あまりにあっさりと引きさがったインデックスに拍子抜けをする上条。
しかし、簡単に納得してくれるのはありがたかった。
「まあ、することねーなら風斬と一緒に俺んちで遊んでたらいいさ。
俺んちもなんにもねーけどな」
インデックスの事よろしくな、と上条は笑いながら右手を差し出した。
風斬は、おずおずとその右手を握り、握手をする。
「え、ええっと……よろしく、お願いします」
「おう!」
上条は手を上下にぶんぶんと振りまわした。
風斬は振りまわされる腕以上に、上条の右手に注目していた。
「……?」
何かが足りない。
風斬は何となくそう思ったが、その考えは一瞬で霧散した。
「……(まあ、いいか)」
風斬は、インデックスに手をひかれて上条家へと向かう。
上条は、2人の背中を遠目に眺めていた。 - 582 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/22(水) 04:11:43.86 ID:PipSGV+Mo
- ・・・
天井亜雄は目を覚ました。起き上がろうとするものの、診察台の様な所で拘束されていた上、足から鈍痛がする。
それもそのはず。天井は木原数多に捕獲される際に太ももを打ち抜かれたのだから、痛くない方がおかしい。
とはいえ、その足には治療された後が見られた。
一体誰が?そんな考えが頭をよぎった瞬間、目の前にはニコニコと穏やかな笑みを浮かべた研究者が居た。
「……あなたは……!!」
「おや、私の事を知っているのかね?」
「知ってるも何も……」
研究者の間では、『その名』は有名も有名だった。
先進教育局・木原研究所所長。胤河製薬・特別顧問。鎚原病院・木原研究室教。U.E.G.F・特殊客員教授。特殊学問法人RFO・会長。学園都・脳科学特別研究員。
その男の役職を軽く列挙したのがこれだ。しかもこれらは有名だった主な役職であり、まだまだ沢山の重役を担っている。
木原幻生。
『木原一族』という研究者達の中でも特に異端な存在の1人。
特にこの木原幻生と言う男は、天井も馴染み深い存在である。
と言うのも、幻生は数ある研究の中でも『レベル6』に至る道を熱心に研究していたため、天井も絶対能力者進化実験を行うに当たって幻生の研究に関していくつか調べた事があるのだ。
しかし、幻生は暴走能力の法則解析用誘爆実験以降、行方をくらませていたはずだ。
それが今、目の前に居る。天井は驚かざるを得ないのもうなずけるものだ。
「さて、君には『ある場所』へと行ってもらう」
「は……?」
そうだ、私は猟犬に捕まってここに来たのではないか。どう考えても私を処分するためだろう。
天井は現状を打破する策を考えるが、これはどう見ても詰みの状態だった。
「頑張ってくれたまえ。運が良ければ助けてもらえるから」
「は?……!!!?」
・ ・ ・ ・
天井の言葉を待たずして、幻生は天井を堕とした。
そして、残ったのは幻生に張り付いた薄っぺらな笑顔だけだった。 - 584 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/22(水) 04:13:38.47 ID:PipSGV+Mo
- ゴメン終わってなかった。あともう一レス
・・・
「とっても美味しいんだよ!ありがと、あくせられーた!」
「あ、あの……すみません、私にまで……」
「うめえうめえと、ミサカはソフトクリームをペロペロします」
何故か一方通行は、上条当麻の居候の白シスターとその友人と思われる巨乳、そして9982号にソフトクリームを奢っていた。
打ち止めはどうした?と言われたら、9982号曰く「いや、何か同年代の女の子達と一緒に遊んでる」らしいとのこと。
何にせよ9982号のMNWを介してその無事は明らかなので、焦って能力を行使する必要もなくなったわけで、
のんびりと打ち止めの元に歩いて行っていたのだが、その道中、インデックス達と出くわしたのだ。
ちょっと立ち話をしてその後別れるつもりが、インデックスの連れていた風斬氷華を見て少し疑問を抱いたため、少し一緒に行動することにした。
この違和感の正体を暴かなければ、インデックスが危ないかもしれない、そう考えたためだ。
危険が無いと判断したら打ち止めの元へ向かえばいい。
今現在、一方通行の優先順位は風斬>打ち止めとなっていたのだった。
結果としてその判断は正しかった、と言えよう。
一方通行の予想していた結果とは違っていたのだが。 - 588 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:49:45.01 ID:LwLGipPeo
- こちら『ラウンドファイナル』。
第七学区の地下街に存在するゲームセンターだ。
ここには学園都市の技術を結集したゲーム達が集まっている。
その為学生達は暇つぶしをするならとりあえずここに来たら暇する事はないだろう。
インデックスが最初にこの建物を見た時、「中からすごく音が聞こえてくるんだよ!ここはなにかな!?」
と、インデックスの興味の赴くままに入店するのに一同は着いて行ったのだ。
そんなわけで。
「……こォいうのは苦手なんだがなァ……」
ゲームセンターにやってきたはいいが、一方通行がこんな場所になじみあるわけも無く。
「ミサカは初めてなのだらけで目移りしますよ。と、ミサカは辺りを見渡しながらワクワクします」
9982号がゲーセンで遊んだ事があるわけもなく。
ゲーセン初心者な一同はキョロキョロと店内を見回していた。
「あくせたれーた!あれなに!?」
インデックスは何やら目を輝かせ大きな四角い筐体に指をさしている。
四角い筐体の両サイドには仕切るようにカーテンが下がっていて、そのカーテンには「激撮り笑顔さん」と書かれていた。どうやらプリクラらしい。
「ンあ?ああ、プリクラって奴だなァ。チッセェ写真が撮れる奴」
写真、と聞いてインデックスの目は更に輝きを増した。
多分撮りたいとか言い出すだろう。一方通行はそう考えポケットから財布を取り出そうとする。 - 589 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:50:40.02 ID:LwLGipPeo
- 「ホント!?じゃあひょうか、一緒にとろ!」
「へ?で、でもお金とか……」
「ンなこと気にすンな。俺が出す」
どォせ100円とか200円とか300円だろォが。と言いながらチャリンチャリンとお金を投入して行く。
金の使い道を知らない一方通行は、基本的に何かをする際は一緒に居る人の分まで金を出すのだ。
このままだと体の良い財布になりそうである。
「え、ええっと……あ、ありがとうございます……」
インデックスに続き、風斬氷華も四角い筐体へと吸い込まれて行くが。
「ほら、あくせられーたも、クールビューティーも早く来るんだよ!」
「あァ?」
「ミサカもですか?ていうかクールビューティて」
プリクラに興味がない一方通行はもちろん、何やらMNWで交信してたのか、虚空を見つめてぼけーっとしていた9982号も少しばかり驚きを示した。
正直嫌なンですけど、という気持ちを目線に乗せるものの、インデックスは意に介さない。
「……私と一緒があれだったら、私出て行きますけど……」
風斬の申し訳なさそうにションボリする姿を見て、考えを変える。
「チッ、わかったよ……(この分だと風斬にはなンの害もなさそォだな……)」
ただ、観測する限りじゃ体の構造はちと常人とはかけ離れてるみてェだが。と心の中で付け加えつつ、9982号と共に筐体の中に入って行った。 - 590 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:51:16.74 ID:LwLGipPeo
- 『それでは、「はい、チーズ」で撮りますねーっ!皆笑顔でお願いねー!』
軽快な声をした機械音が、4人に笑顔を勧めてくる。
その声につられてインデックスは満面の笑みを、風斬は柔らかな微笑みを、9982号は口角を少しだけ上げ、一方通行はすごく嫌そうな顔だった。
『ぶぶー!笑顔じゃない人がこの中に1人居ます。お前やろ!!』
「あァ!?機械風情が口答えするんじゃねェよ!!」
どうやらこの機械、学園都市製らしく、人間の表情を解析して、目の動きや頬の動き、口元の動きなどで笑顔かそうでないかを判断するAI付きであるようだ。
そして笑顔でない人間が筐体の中に居る場合、いつまでたってもプリクラは撮ってくれないという面白機能付きである。
『皆笑顔じゃないと撮りません。変顔は許しますけど』
「ンだよこいつ!!あれか!?学園都市上層部の差し金かァ!?」
機械に突っ込みを入れる一方通行だが、ここで天啓ひらめくっ……!まさに神の思し召しっ……!
「……まァいい、お前ら3人でプリクラ撮ってろォ」
一方通行はそそくさと筐体内から退場しようとするものの、
『させるか!!』
ウィーンガシャーンという機械音と共に両サイドからシャッターが現れ、完全に閉じ込められてしまった。 - 591 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:51:51.24 ID:LwLGipPeo
- 「わわっ!?閉じ込められちゃったんだよ!?」
「うおっすっげー。と、ミサカは学園都市の技術の無駄遣いに笑います」
『この中に入った人間は一様に笑顔を浮かべて立ち去ると言う……さあ、その白い顔に浮かべて見よ。
己が内に眠る本来の笑みを……』
「なンだなンだよなンですかァ!?そンなに俺の笑顔がみたいですかァ!?
だったら見せてやるよォォォ!!!クキコクカカコキコカァァァ!!!」
奇妙な叫び声と共に、凶悪な笑みを浮かべる一方通行。
ウィーンと一方通行の顔をスキャンし、少ししてからAIはこう言い放った。
『ブブー、そういう笑顔はダメでーす』
「ふっざけンなァアァァ!!自転ぶつけンぞコラァ!!!」
コイツぶっ壊してやる、と叫びながら自転から力を借りようとする一方通行。
こんな閉鎖空間でそんなもんぶっぱされたらたまったものではないとインデックスと9982号はは一方通行を必死でたしなめようとする。
風斬はあわあわして顔を真っ赤にしていた。
「お前らどけ!!そいつ殺せねェ!!」
「あ、あくせられーた?落ちつくんだよ?そんなことしても迷える子羊は救えないかも!(?)」
「そうですよ、ここでこの機械を殴ったところで、誰も幸せにはならないんですよ!
殴った後に残るのはこの機械、いやさこの店の請求書だけです!」
インデックスの良くわからない説得や、9982号の実にあり得る今後を説いた説得を以ってしても一方通行の怒りは収まらない。
ゲーセン内の騒音の上に筐体はシャッターで覆われて防音されているため、この筐体内で一方通行が切れている事を外の人間は誰も気づかない。
ここで止められなければ終わりだ!(ゲーセンが)と9982号が危機感を最大にまで募らせたその瞬間、
テンパりすぎてどうしていいのかわからず、緊張が頂点に達した風斬が行動に出た。
「一方通行さん、おちついてください!」
むぎゅ、と一方通行は、風斬の豊満な双子山に包まれた。 - 592 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:52:39.79 ID:LwLGipPeo
- ・・・
「おー!オムライスに旗が立ってる!ってミサカはミサカは感動してみたり!」
「グリーンピース。にゃあ」
「……舶来、好き嫌いは成長を妨げになる」
「駒場のリーダーはその子が成長しない方が良ごめんなさい」
「駒場さんは自分の欲望よりも子供の成長を優先する良い男なnごめんなさい」
打ち止めを保護したスキルアウト一同+幼女は、打ち止めが腹減ったと言うのでレストランに連れて来ていた。
場所は奇しくも一方通行達の行くいつものレストラン。
いつもの店員はスキルアウト風の3人に似合わないロリが2人と言うアンバランスさにリアクションに困ったり「あれ?この子いつもの人が連れてきてた子じゃね?」とか思ったりするものの、そこはやはりプロ(?)。
いつもの店員は、それらに関して表情には一切出さずに笑顔で席に案内した。まさに店員の鏡である。
「ところで、あなた達は誰?ってミサカはミサカは尋ねてみたり!あ、ミサカは打ち止めって言うんだよ!」
『打ち止め(ラストオーダー)』と、目の前の少女は名乗ったが、どう聞いても偽名にしか聞こえなかった。
一人称にミサカを使っている時点で打ち止めと名乗るのは間違ってるのではと一同は思うが、細かいことは気にしたら負けである。
「そうなんだ。私は、大体、フレメア=セルヴェインっていうんだよ」
打ち止めに続いて舶来―フレメア=セルヴェイン―が自己紹介を行う。
実はスキルアウト3人衆もフレメアの本名を聞くのは初めてで、へえーそんな名前だったのかー、と言った顔をしていた。 - 593 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:53:33.83 ID:LwLGipPeo
- 「そういやこいつの名前ずっと聞いてなかったなあ。
駒場さんがずっと舶来舶来言うから何となくそれで定着してたわ。
あ、俺浜面仕上な。ヨロシク」
「まあ最初の出会いが出会いだったからなあ。自己紹介なくても自然と慣れてたもんな。
俺の事は半蔵って呼んでくれ」
「……駒場利徳だ」
「そうなの、じゃあ改めてよろしくね!ってミサカはミサカはお辞儀をしてみたり!
それで、どんな出会い方をしたの!?」
自己紹介を促した打ち止めはもはや名前への興味は失われ、どうやら半蔵の言った「出会い」と言うワードに反応したようだった。
打ち止めの興味津津な反応に気を良くした半蔵は、浜面と共に面白可笑しくフレメアと駒場利徳との慣れ染めを語ろうとするも、駒場がものすごい形相をして圧力をかけてきた。
しかし、半蔵は思う。
「スキルアウト」すなわち「無能力者」ひいては「無能」の烙印を押された自分達は、いつだって虐げられてきた。
いつだって能力者に、教師に、周囲の人間に蔑まされてきた。
それに同調するかのように、浜面仕上は考える。
自分達は奴らの「力」に屈したつもりはない。
そんなスキルアウトの一員でもある浜面が、半蔵が、たかだか1人の「圧力」に、頭を垂れてどうする?
それだけは許されない。
屈する事だけは許されない。
例え、それが命を代償とすることになっても。
―――己に残された、最後の矜持に誓って。
浜面は、
半蔵は、
自身の矜持にかけて、駒場利徳を『全力でからかう』事になる。
それが、『血を見る結末』になるとしても―――
「……駒場さんについて語るには、その出生から話さねばならない―――」 - 594 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:54:23.66 ID:LwLGipPeo
- ・・・
「……で、結局そのボウガンを持ってフレメアのいる小学校に侵入した変態を、
比叡山に住んでいた師匠が駒場さんに遺した最後の業で駒場さんが跡形も無く消し飛ばしたんだよな」
「いやあ、まさか駒場のリーダーが現代に残された最後の「陰魔陽術師」だとは思わなかったぜ。
通りでデケエ図体してると思った。「神格」に釣り合う「身体」を考えたらその体躯でもミジンコレベルだもんな」
大仰に腕を振り熱く語る浜面仕上。それに相槌を打つ半蔵。
打ち止めは、明らかに作り話だろ、と言う話を本気で信じたようだった。
なにやら特撮に出てくるヒーローを見るような憧れの目線を駒場利徳へと飛ばしている。
「すっげー!!ってミサカはミサカは目を輝かせてみたり!!
それで、駒場さんはその火芳大僧正の遺した陰陽魔法『エレメンタルソードブレイカーχ』を使えるというの!?」
「私もそんな話は、大体、初めて聞いた。すごい!にゃあ」
実を言うと『ボウガンを持ってフレメアのいる小学校に侵入した変態』と『それを撃退した』と言うのはまごうこと無き事実である。消し飛ばしたのではなく、殴り飛ばしたのだが。
フレメア=セルヴェインはその事実を知っているはずなのだが、何故か浜面と半蔵の語る勧善懲悪式正義之味方物語を本気で信じたらしく、打ち止めと同じく駒場に尊敬の気持ちを抱いていた。 - 595 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:54:57.77 ID:LwLGipPeo
- 「残念な事なんだけど、その戦いによってエネルギーを使いすぎた駒場のリーダーはもう力を行使することは出来ないんだよな……」
「「えー!!?」」
打ち止めはもちろん、フレメアもその話を聞いてショックを受けた。
何せ自分を守るために駒場は力を失ったようなものだ。ショックを受けて当然である。
「うう……ごめんね……大体、私が悪いの……」
「大丈夫だ。駒場さんは、そんな事で後悔なんてしねーよ」
「え……?」
「そうだぜ。駒場のリーダーは例え自分にそんな力が無かったとしても、お前や、他の小学生達を助けに行ったはずだぜ」
「そうそう。駒場さんはなんてったって」
「「英雄(ヒーロー)だからな」」
浜面と半蔵は、語るべきことはもう無いと言わんばかりに、レストランの窓から見える、透き通った青い空を眺め、
力を失ってもなお英雄の生き様を魅せ続ける駒場の姿を想像していた。
陰陽英雄譚・駒場利徳物語
~完~
「フゴォオォオオオォォォオオオォ!!!!」
今まで置物のように口を閉ざして黙り込んでいた駒場が、ついに爆発した。
それもポケモンの技にある「がまん」のごとく、貯め込んだ分だけ浜面と半蔵に炸裂させたのだ。
「やべええ!!駒場さんが切れた!!」
「落ちつけ!駒場のリーダー!!頭を冷やすのにジュースでも持ってこようか!?それともロリ人形をやろうか!?」
「……お前は、何処の閣下だ……全然うまくないぞ……!!」
しかも、腹立つし。と半蔵の冗談を真に受けた駒場の勢いは更に増す。
火に油を注ぐどころか火に爆弾投げ込むようなものだった。
「「た、助けてくれ!」」
2人は情けなくもフレメアと打ち止めに助けを求めた。何と情けない。
しかし、当のフレメアと打ち止めは。
「「嘘ついたんだ……」」
打ち止めはしょんぼりとし、フレメアはジト目で2人に非難の視線を送っていた。
神は居なかった。
その日レストランに二つの断末魔が響き渡った。
いつもの店員のお静かになられてくださーい!という注意の声と共に。 - 596 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:55:49.60 ID:LwLGipPeo
- ・・・
一方通行は突如自分を襲った謎のマシュマロのようなふわふわタイムに驚愕した。
何故反射が効いているのに触れられるのか。今まででそんなことが出来たのはテレビの中のシャドウ位だ。
しかしここはテレビの中では無い。どういうことだ、と先ほどまで沸騰していた頭は急速に冷却され、思考を加速させる。風斬氷華の胸に包まれながら。
風斬の抱擁を振り払おうとじたばたするが、それも停止した。依然風斬の胸に包まれている。
まず風斬を観測することにした。今までは観察のみで風斬について考察をしていたが、今はしっかりとその身に触れている。
しかしその体の構造はおおよそ『ヒト』と呼べるものでは無かった。
思わずガバッと風斬の腕を振り切り、起き上がる。
何やら風斬は顔を真っ赤にし、インデックスも顔を真っ赤にし、9982号に至っては顔を真っ赤にして憤慨しているが気にしない。
違和感の正体。
それは風斬が人間ではなく、AIM拡散力場の塊であるということだった。
成程、一方通行自身も無自覚に発しているAIM拡散力場ならば自分の反射は無害だと判断するということか。
風斬が触れられる理由はわかった。
ならば、インデックスの前に現れた理由は?
一方通行が、更なる思考の渦にのまれようとしていた瞬間、
『ほら、早く笑顔になってください!』
空気の読めない機械が4人に笑顔を促した。
こんな時に笑顔なんてできるわけがない、一方通行を覗いた3人は苦笑するものの、
完全に思考の渦にのまれて上の空な一方通行は、機械に促されるままニコッと笑顔を浮かべた。本人は無意識である。
顔の筋肉が衰えていたらしく、少しぎこちない笑みではあったが、機械もこれを『笑顔』と判断し、パシャリと4人を撮った。
そして残ったのは、3人の苦笑と1人の純粋な笑顔だった。 - 597 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:56:20.28 ID:LwLGipPeo
- 「……何だか納得いかないかも」
インデックスはぶーたれていたが、9982号と風斬は何事もなくて良かったと溜息をついた。
一方で、このゴタゴタの中心であった一方通行は、未だに考え事に集中していた。
この上の空状態の一方通行をみた9982号は、「やっぱデカいほうがうれしいんや!」と何やら勘違いをして、一方通行の頭を軽くひっぱたこうとするも、反射された。
この事実に衝撃を隠せない9982号は、「やっぱデカいから受け入れられたんや!」と更なる勘違いを重ね、うなだれた。
上の空の一方通行、先ほどの出来事に顔を真っ赤にするインデックス、余りの衝撃にうなだれる9982号。
風斬は、どうしていいのか分からず印刷されたプリクラを手にしてオロオロとしていた。 - 598 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:56:51.99 ID:LwLGipPeo
- ・・・
さて、食事も終わったところで、これからどうするか話し合う一同。
そんな中、駒場利徳にフルボッコにされた浜面仕上と半蔵の表情は暗い。
というかcryしそうな表情である。
駒場はそんな2人を見ても何も感じてないようで、さっさと打ち止めと言う名の迷子を保護者の元へ返さねばと、フレメア=セルヴェインと話し合っていた。
「迷子なら、大体、アンチスキルに任せたらどうかな?にゃあ」
「……間違いなく変な勘違いをされてしまう」
「あの子に連絡をとる手段が無いなら、大体、手づまりな気がする!」
「……その通りだな」
うーむ、と駒場は唸り声を上げ。
うむむ、とフレメアは駒場の肩の上で首をひねる。
すると、先ほどまで何やらぼーっとしていた打ち止めは突如驚きの声をあげた。
「……どうした」
「酷いんだよ!ミサカのこと放っておいてゲームセンターで遊んでるって言うんだよ!
ってミサカはミサカは憤慨してみたり!」
いつ連絡取ったのか?と4人は疑問に思うものの、このタイミングでわざわざ嘘をつく理由も無い。
それならそのゲームセンターにこちらが出向けばよいだろう。
「……打ち止め、そのゲームセンターは何処のゲームセンターだ?」
「えっと……『ラウンドファイナル』だって。ってミサカはミサカはこたえてみたり!」
別に電話を取り出したわけでもなく、打ち止めは誰かに聞いた風にゲームセンターの名前を答える。
精神感応系の能力者か?と思うが、そんなことは些細な事だった。
場所はわかった。後はそこまで行くだけだ。
「……全く、こんないたいけな少女を1人放っておくなんてロリコンの風上にもおけない」
「……保護者の元へ行ったら説教の1つでもくれてやる」
その声を聞いた駒場は思わず声の聞こえた後方へ顔を向ける。
浜面と半蔵は駒場の後ろにしゃがみ込み、駒場の口調でそれらのセリフをはいていた。
駒場は、2人を足蹴にした後、打ち止めを連れてラウンドファイナルへと向かい、そこに残されたのは二つの死骸だけだった。 - 599 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/23(木) 17:57:27.93 ID:LwLGipPeo
- ・・・
テレビの中。いつも一方通行達が降り立つ空き地。そこには二つの影があった。
「well、この世界は興味深いけど、正直暇ね。あなた今まで何して時間過ごしてたの?」
「クマ?そうクマねー、基本的にはシャドウに襲われないように隠れてたから、かくれんぼ?」
「……そいつは随分素敵なご遊戯ね」
「そうクマ?でへへ」
「……皮肉よ」
クマと布束砥信は、暇を持て余していた。
何せ基本的にやることがない。たまに布束はペルソナを鍛えに忍者屋敷に行き、クマもそれについて行ったりはするのだが、それくらいしかすることがない。
すなわちこうして2人きりでダラダラと会話をするくらいしかできないのだった。
布束はもしこの空間でずっと一人なら気が狂うに違いない、と軽く身震いした。
「クマ?」
先ほどまで布束の皮肉を額面通りに受け取り顔をにやけさせていたクマは突如として遠くを眺めるようにどこかを見つめ始めた。
そんなクマを見て眉をひそめつつ布束は尋ねる。
「……一体、どうしたというの?」
「……また誰か放り込まれたみたいだクマ」
誰かが放り込まれた。すなわち誰かがこのテレビの中にやってきたという事か。
ならば助けに行かねばならない。しかし、今この場で戦力になるのは布束1人しかいない。
やはり、一方通行達が来るのを待つべきだろう。多分そのうち来ると思うし。
「anyhow、一方通行達が来るまで待つのが賢明でしょうね」
「そうクマねー」
布束は呑気にも、とりあえず寝ることにした。 - 604 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:34:06.84 ID:HYq+qO6lo
- 御坂美琴と白井黒子は今現在、第七学区の地下街にやってきている。
アメリカへと渡るにあたり、着替えや必需品など色々と買い物をするためだ。
本来この時間は未だ常盤台中学で能力測定をしていた時間なのだが、
教師が気を利かせて御坂と白井の能力測定を先に終わらせ、2人をさっさと帰らせたのだ。
教師曰く、
「女の子なんだからちょっとくらい準備したいだろ?こっちも急な事で悪かったと思ってるし」
だそうだ。御坂は別に放課後にのんびりと行けばいいのだが、
白井はジャッジメントの仕事があるためそう言う訳にもいかない。
その為教師の提案を受け入れて常盤台を後にしたというわけである。
さて、ここ第七学区は学園都市のほぼ中央に位置し、その面積は学園都市内でも1位2位を争うほどだ。
その広さを相まって、この学区には多数の学校や学生寮が点在する。
それこそ上条当麻が通う普通の学校だけではなく、御坂美琴の様なお嬢様達が通うようなお嬢様学校まである。
また、多くの学校が点在する。と言う事は、それだけ学生も多いと言う事で、学生間のいざこざもそれなりに存在するわけで。
すなわちそれだけ教員だけでなくアンチスキルの数も多い。つまり教員向けのマンションだの寮だのも多数存在している。
故にそれぞれの学生や教員のニーズに応えるためにも多岐にわたった施設がこの学区には存在しているのだ。
そしてその施設は地上だけでは足らず、地下にまで及んでいる。
すなわち、それほどの数の学生がこの学区に住んでいると言うことだろう。 - 605 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:34:49.51 ID:HYq+qO6lo
- ところで、普通の女の子が服の買い物、となるとセブンスミストが挙げられることだろう。
しかし、今回は名目上では旅行に行くわけではない。
そのため、御坂と白井は見た目よりも実用性を重視した服装を吟味するために多数の店舗が開かれている地下街へと赴いたわけだ。
「しかし相変わらず人ごみがすごいですわね」
もう少し施設を分散させたらよろしいのに。と、白井は交通心理学や環境心理学の見地に立って目の前に広がる地下街をバッサリぶった切る。
「まあ、同じような店をいろんな場所に何個も立ててたらそれにかかる費用も馬鹿にならないしね」
御坂は顔も知らない地下街の設計者への一応のフォローを入れているが、
御坂も同様にこの人がごった返す光景にうんざりしていた。
というか、おそらくこの場に居る人間の大部分が思っていることだろう。
空調は完備されているとはいえ、パーソナルスペースが狭すぎて、何か暑い。と。
ところで、学生の街なのだから平日の昼にこの地下街で人ごみにあふれているのは妙だ。
と思ったが大体の学校が今日は短縮授業で昼間に終わったらしいとの事で、
常盤台が優秀なのはこういうところで短縮授業などしないからというのが要因の一つになっているはずだ。
さて、こうしてのんびりと必需品を購入するついでにウィンドウショッピングを行っている御坂と白井である。
白井はデート気分を味わって昇天するかのような気持ちを味わっていたのだが、突如としてその逢瀬は、引き裂かれてしまう。
白井の本分は、ジャッジメントですの。
白井の携帯に連絡が入ったのだ。
『学園都市外部から侵入者有り。特別警戒宣言(コードレッド)発令。
至急侵入者の索敵及び捕獲を敢行されたし』と。 - 606 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:35:28.33 ID:HYq+qO6lo
- 内容はもう少し詳しく書かれていたが、大まかに言うと上記の様なものだった。
更に詳しく言えば、その侵入者は白昼堂々『門』へと攻撃を仕掛け、
その際『門』の警備に当たっていた20名のうち、重傷者3名、負傷者15名を出して強引に街の中へと入って行ったのだ。
これにより特別警戒宣言を発令し、ただちに侵入者を捕獲するよう全ジャッジメント・全アンチスキルに指令を出したと言う訳だ。
白井は大好きなお姉さまとのデートを邪魔されたこと以上に、既に18名の被害を出したという侵入者に対して憤慨し、ただちにポケットからジャッジメントの腕章を出した。
そして腕章を制服の袖に装着すると、携帯で連絡を取り始めた。
御坂は白井の行動を見て「ああ、仕事か」と納得するのだが、
白井の表情は険しく、どうやらいつも以上に厄介な事になっているのだな、と確信した。
手伝おうか、と提案しようとした瞬間、白井が「お姉さまは早く寮へと帰って下さいまし」と言って地上へ自身と共に御坂をテレポートさせた。 - 607 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:36:31.88 ID:HYq+qO6lo
- ・・・
地上につくと白井黒子はまず御坂美琴を部屋に帰そうと、有無を言わさずテレポートを繰り返す。
しかしそのテレポートは鳴り響く携帯電話によって中断された。
「初春ですの?」
「はいー、見つかりましたよー。と言っても、特別警戒宣言が出る直前に如何にも怪しいですって人を見つけてたんですけどね」
何となく間延びした声で話すそののんびりとした口調からは、おおよそ危機感が感じられない。
そんな声の主、初春飾利は情報収集及び情報解析のプロフェッショナルであり、
どうやら学校が終わった後すぐにジャッジメントの支部で仕事をしていたらしく、
その際たまたま侵入者を監視カメラ越しにみつけたようだ。
「だったら何でもっと早く知らせないんですの!?」
初春は優秀で後方支援が基本とは言え、危機感が足らないのではないか、と白井は叱咤するが、初春はやっぱりのんびりとした口調で答えた。
「いやあ、白井さんが何やらテレポートしてるみたいでしたので。
白井さん、御坂さんを帰すために寮に向かってましたよね?
その向かっている道中に丁度目標がいましたから……」
初春の言葉に白井はあたりを見回す。すると白井から10m程離れたところに、
携帯に送られてきた写真と同じ顔の人間が見える。
ここで白井は初春の考えを理解した。
「……成程、お姉さまを戦力に組み込んでしまえと、そういうことですのね」
「はいー。どうせ白井さん、侵入者見つけたらそれを見失う前に単独で行動しちゃいますよね?
だったら戦力はいくらでも居た方がいいと思いますよ?どうせ御坂さんも乗り気でしょう?」
白井は御坂を真っ先に安全地帯(寮監のいる場所)に帰そうとしたのだが、初春はその心理を逆手にとったのだ。
まあ、地下街から常盤台の女子寮をつなぐ直線上にたまたま侵入者が居ただけの話なのだが、
瞬間的にその作戦を考えるあたり、やはり初春は後方支援向きである。 - 608 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:37:29.11 ID:HYq+qO6lo
- 白井は御坂を戦闘に巻き込むことの申し訳なさよりも、
名も知らぬ一般人を巻き込む可能性のある侵入者の確保を優先する。
この正義感こそが白井が白井たる所以であり、
初春が白井を嵌めたのもその正義感が白井の首を絞める恐れがあるのを知っているからだ。
レベル5と言う戦力があれば、大抵の敵ならば早々遅れを取ることはないだろう。
それゆえ初春は御坂と白井が最も侵入者の近くにテレポートするまで何も言わなかった。
白井という同僚を守るために。名も無き一般人を守るために。
その力を持たない初春は、何にでも頼る。レベル5とはいえ、何の肩書もない一般人にすら。
「……わかりましたの。全く、あなたには敵いませんわね」
初春の想いを察した白井は、精一杯の賛辞と共に、精一杯の皮肉で応える。
「それじゃあちゃっちゃと終わらせて、明日から楽しくバカンスですよー。
あ、応援呼んどきますので捕獲できなくても足止めしといてくださーい」
最後まで呑気だな、と白井は思うものの、初春に感謝しつつ通話を終えた。
「ねえ、私も戦闘に参加して良いってことよね?」
御坂はニヤリと白井に笑いかける。白井は苦笑し、
「無茶は禁物ですの」と自分自身にも言いかけながら、懐から拳銃の様なものを取り出した。
それの銃口はおよそ3cmもありとてもじゃないがただの拳銃には見えない。
確かにそうだ。ただしその用途は武器としてではなく、信号弾などを上空に向けて飛ばすためのデバイス。 - 609 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:38:38.67 ID:HYq+qO6lo
- 白井はそのデバイスを用いて周りに居る一般人に避難勧告を行う。
白井が引き鉄を引くと、卒業証書を入れる筒のふたを開けるときの様な、
少しばかりコミカルな感じの音が鳴った。
銃口から飛び出してきた口紅ほどの大きさをした金属筒は6、7mほど上方へと向かって行き、
その直後、ボンッと音が響き渡り、人に向けて打てば目くらましになるほどの強い光が辺りを照らす。
それを見た辺りの人々はその光を遮るために目元を手で覆うが、光が消えた瞬間、行動を開始した。
悲鳴や怒号をあげつつ、周りのビルや店など、とにかく近場にある建物の中へと入って行く。
車で道路を移動していた人たちすら、その車を乗り捨てて避難するのだ。
この街の住人ならば、誰でも知っている事。また、外部から来た人間でも最初に説明されて知っている事。
これは、治安部隊による避難勧告である。これから戦闘を行うから、死にたい奴だけ残れ。と言うおおよそ治安部隊とは思えないような内容の意味が込められているのだ。
故に学生も大人も、誰彼構わず避難する。
そしてその場に残ったのは、2人の常盤台中学の少女と、1人の女だった。
白井と御坂はすぐさま臨戦態勢に入る。女は周りの騒ぎに表情一つ変えず、依然ゆらりと立っていた。
両者の距離はおよそ10m。見るからに異様な女だった。
あまり手入れをしてないのか、長々と伸びた金髪と褐色の肌は荒れに荒れている。
そして身なりにも頓着がないらしく、長いこと着続けていたのか裾も袖も痛みに痛んでボロボロであった。
黒を基調とした長いドレス、ゴシックロリータと呼べばいいのか、
それを身にまとっていたのだが、これをフレメア=セルヴェインが着ていたら、おそらく似合っていたであろう。
美人と言えば美人なのだが、ここまで女性としての身なりに気を使わない人間がゴスロリを着ていたら、
ゴスロリに対するイメージのブチ壊しにもなりかねない。
そんなある種の幻想(イメージ)殺しの姿をして辺りを見渡している女は、臨戦態勢に入っている御坂と白井を見て、気だるそうに溜息をついた。
レベル5とレベル4のタッグと言う、学園都市暗部でも中々お目にかかれないペアを相手に戦闘をするかもしれないと言うのに、金髪の女に動揺は見られない。
外部の人間なのだから当然と言えば当然なのだが、その余裕そうな態度に御坂は苛立ちを見せた。 - 610 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:39:27.79 ID:HYq+qO6lo
- 「あんた何者?てか何しにこんなとこに来てんのよ」
御坂の言葉にピクリと反応を示すが、御坂と白井よりも、一斉に非難したこの街の住人達に興味が行っているようだった。
「メンドクサ。手間かけさせんじゃねえよ」
金髪の女は明らかな侮蔑の意を言葉に込めて2人に発する。
そして懐から何かを取り出そうとしたので白井はすぐさまテレポートを行い、金髪の女の動きを止めにかかった。
「動かないでほしいものですわね。あ、日本語は大丈夫そうですので日本語で話させていただきますわ」
白井の急接近に、流石の金髪の女も少しばかり驚きを示した。
何せレベル4の「瞬間移動(テレポート)」だ。学園都市でも中々見られたものではないと言うのに、
白井はその力を以って10mは有った距離を一気に縮め、金髪の女の前へと迫ったのだ。
外部の人間がその力を目の当たりにしたら驚くのも頷ける。
しかし、金髪の女は驚きつつもとりあえず行動を続けた。
それを見た白井は、目の前の金髪は馬鹿か何かですの?と思いつつもドレスの袖から見える手首を掴んで仰向けになるよう地面にテレポートさせる。
少しばかりの驚愕を示した金髪の女は、目の前の事象に怪訝そうな表情を浮かべた。
だが、白井は説明するつもりはない。手札は切るべき時に切るものだ。無駄な情報は明かさないに限る。
実際、金髪の女は何が起きたのかよくわかっていないようだった。
それもそのはず、衝撃も痛みも感じさせずに地面に倒されたのだ。
テレポートを使う能力者がいることを知らない女からすれば、
得体のしれない武術か何かに見えたに違いない。
女はそれでも面倒くさそうに、立ちあがろうとして動きを見せるが、そうは問屋が卸さない。 - 611 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:40:11.84 ID:HYq+qO6lo
- 瞬間、女のドレスから、金属矢が生えた。
ドカドカッ!とアスファルトを貫き、裾や袖に存在する布の余剰部分に刺さった金属矢は12本。
これはテレポートを応用した攻撃である。白井はスカートの下に隠した金属矢を一斉にテレポートさせる事で相手を壁や地面に縫いつける。
これを服の布地にではなく、人体に行えば大抵の敵は一撃で沈められるだろう。
しかし、基本的にジャッジメントは犯人を撃破ではなく、確保しなければならない。
そのためこのように捕まえる方向に能力を鍛えているのだ。
そして女はそのまま地面に縫いつけられ、白井はその女を見下しつつ話しかける。
「ですから、動くなと言いましたの。それともfreeze、don’t moveとでも言った方がよろしくて?」
流石お嬢様。英語も嗜まれているようで、流暢な発音で静止を命令するものの、
動けなくなるよう地面に縫いつけたのだ。動きたくても動けまい。
御坂はあっけなく捕捉され捕獲された侵入者を見て、この分なら大丈夫かな、と気を抜いた。
しかし。
白井の力を目の当たりしてもなお。
女の表情は変わらず。
「ホント、手間かけさせてくれるわね」
地面に縫いつけられた状況を、危機にすら思っていないのか、余裕を感じさせる言葉を吐いた。
「「なっ……」」
流石にその言葉に御坂と白井は驚きを隠せない。
何を言ってるんだこいつと思いつつも応援がそのうち来るはずなので、しっかり捕捉すべく手錠を取りだした。
そして、その手に手錠をかけようとするのだが―――
「ッ!!?」
それは突如とした背後からの地面の隆起により阻まれた。
突然隆起した地面は、白井を空中へと打ち上げた。
訳も分からずテレポートを使う間もなく地面に叩きつけられた事で、
肺から空気を吐き出しつつも、ようやく背後を見ることが出来た。 - 612 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:41:08.17 ID:HYq+qO6lo
- そこには巨大な腕が生えていた。しかしその腕は人の形を模していたが、
その材料はアスファルトやガードレール等、辺りにあるものを何でも集めて粘土のごとくこねくり合わせたもので、
人の腕と言うよりは、重機のアームと表現した方が近いかもしれない。
兎にも角にも、その腕は、白井を叩き潰すべく、そのまま振り下ろされてきた。
白井は避けなければと思い、能力を発動させようとするが、発動できない。
先ほど地面にたたきつけられたことで、未だまともに息が出来ていなかったのだ。
白井の能力は「火を出せ」や「電気を出せ」など、単純な命令文(コマンド)によって出力されるようなプログラムではない。
『瞬間移動』とは、3次元を超えた11次元上にある座標を計測し、
そこから移動するために必要な分のベクトル量を演算しなければならないのだ。
その計算は先にあげた火や電気の演算とはケタ違いの量を頭の中で計算しなければならない。
『幻想御手』で演算能力の底上げが為されれば話は別だが、白井の脳はあくまで1人分。
その為、痛みや焦燥、混乱等だけでもその複雑な演算を平時通りに行う事は出来なくなる。
そう、今まさに息が出来なくなってしまっている時もまた然り。
目の前に迫って来る巨大な腕を前に、白井は能力を使わずに回避しなければならない。
白井はそれを不可能だと察して、キュッと目を閉じた。
しかし、金髪の女は知る由も無いことだが、白井は失念していた。
この場には『レベル5』が存在していたことを。 - 613 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:42:24.16 ID:HYq+qO6lo
- ・・・
完全に気を抜いていた。
御坂美琴は詳しいことは聞いてなかったのだが、
地面に縫いつけられていた金髪の女は『門』から堂々と侵入する程の手練なのだ。
そんな相手がちょっと拘束されたくらいで動きを止められるはずがない。
事実、金髪の女は仰向けに倒れたまま、手首のスナップのみで、何やら地面にチョークを使って何かを書きこんでいた。
それだけで周囲にある無機物を操り、白井黒子を窮地に追い込んでしまった。
御坂は目の前の現象に茫然としていたが、巨大な腕が白井に迫りくるのを見て、とっさに能力を発動させた。
アスファルトに含まれる砂鉄を磁力によって取り出して高速で振動させた。まるでチェーンソーのように。
しかしチェーンソーよりも高速で回転するそれは、切れ味は明らかにチェーンソーより上だ。
ガガガガガ!!と腕と砂鉄はぶつかり合うが鍔迫り合う間もなく腕は切り裂かれた。
白井に害が及ぼさないように、磁力によって切り裂かれた腕を操る。
御坂はこの切れ味を見てテレビの中に行く時は砂鉄を持って行こうと本気で思った。
「ったくこっちから仕掛けたとはいえ……」
最早白井に危険はない。ここから先は御坂の憂さ晴らしだ。
御坂は手にコインを持ち、キンッと空中へと飛ばす。
「私の後輩に危険を晒すんじゃないわよ!!」
瞬間、『超電磁砲』の本領を発揮した。テレビの中で制限されていたものとは違い、こちらのものは「本物」であった。
音速の3倍の速度を持ったコインは、最早レーザーと呼べるものであり、そのレーザーは二つに分断された手と腕を丸ごと飲み込んで吹き飛んで行った。
やはり避難勧告を出して正解だった。こんなところに一般人が居たら大変なことになっていたに違いない。
超電磁砲によって発生した土煙りは、これまた超電磁砲の余波による風で吹き飛ばされた。
その光景を白井はただただ圧倒される心持ちで眺める。
(この風は……もはやお姉さまは『電撃使い』という枠では測れませんわね……)
どれだけ人間止めてるんだと白井は思うが、そこに痺れる憧れる。
白井は最早金髪の女ではなく御坂に心を奪われていた。 - 614 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:43:20.73 ID:HYq+qO6lo
- 一方で御坂は悠々と白井の元に歩いてきて白井に手を差し伸べつつ言った。
「あー、今のはあの金髪が何かして腕を爆発させたみたいよ。
あわよくば私達を巻き込もうって魂胆でしょうね。その証拠に、ほら」
御坂が指をさした先。そこには本来地面に縫いつけられたはずの金髪の女が、居なかった。
大方作りだした腕を囮に逃げおおせたと言うことだろう。御坂はそう解説すると舌打ちをする。
どうやら久々に全能力をぶつけられる相手が居たのに、それが出来なくなった事に不満を抱いているようだった。
「お姉さま……ありがとうございますの……」
白井は御坂の手を掴み、立ちあがる。しかしその小さな体躯は、震えていた。
どうやら明確な『死』を感じ取って、後から恐怖がやって来たらしい。
御坂は白井の感情の機微を感じ取って、不安を消し去ってやるために白井の頭を撫でる。
「ごめんね、すぐに助けに入れなくて」
白井はキュッと御坂を抱きしめた。よっぽど怖かったらしい。
その表情は、白井が御坂の胸元で頭をぐりぐりしていたため見えない。
そんな白井の頭をひたすら撫でていたのだが。
「グヘヘ……」
その声を聞いて全ての白井への思いやりは霧散した。
「あんた……まさか……」
はぁ、はぁと徐々に息を荒くしていく白井。
そして、
「お姉さま!お姉さま!お姉さま!お姉さまぁぁあああうわぁああああああああああああああああああああああん!!! あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!お姉さまお姉さまお姉さまぁああぅうわああああ!!!「畜生!!やっぱりかああああ あ!!!!!」」
御坂は思わず電撃を放った。
零距離電撃を喰らった白井は、余りの気持ちよさに昇天した。 - 615 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:44:05.71 ID:HYq+qO6lo
- ・・・
上条当麻はフルボッコである。もちろん黄泉川愛穂の手によって。
一方通行と違い、ある程度身体が出来ている上条は、黄泉川が居る時はもっぱら組み手である。
一方通行が居る時は上条と一方通行にダメージが分散されるが、今は上条と黄泉川のマンツーマン。
黄泉川は美人で巨乳なので、マンツーマンと聞くと嫉妬の炎で上条の事を焼きつくせそうであるが、
内容は組み手なのでうらやましくはない。
ただし青ピなら上条の話を聞いて血の涙を流しながらうらやましがりそうである。
しかしそんなリンチは、唐突に中止になった。
「あー、上条よ。残念ながら今日のトレーニングは中止じゃん」
息を切らしながら、上条は疑問を浮かべた。
「はぁ……なにゆえ……?」
「いやな、何か外部からの侵入者らしくてな、アンチスキルの出番ってとこじゃんよ。
だから学生たる上条はとっとと帰るじゃん。なんならここで待っててもいいよん。ここは安全だし」
「え?ええっと……」
「それじゃあ、私は仕事行くじゃんよ!」
有無を言わさず走り去り、そこにはどういう事か考えている上条だけが残されていた。 - 616 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:45:10.84 ID:HYq+qO6lo
- ・・・
「たのしかったんだよ!また連れてって欲しいかも!」
「そォかい、そりゃ重畳だ」
白い修道女・インデックスはやたら巨大な袋を抱える。
その袋からは巨大なぬいぐるみの頭がはみ出していた。
どうやらUFOキャッチャーにて入手したらしい。
インデックスは非常にニコニコしていたのだが、対象に残りの3人は少し疲れた様子だった。
何せ何から何まで初体験のようなもので、インデックスがあっちへ行きこっちへ行き、
それについて行くだけで体力が持っていかれたのだ。
何にせよ、その間一方通行は風斬氷華を観察していたのだが、
どうやら自身の体の構造を把握してない様子であった。
特にインデックスに対する悪意も見えるわけでもなく。特に何か目的があるわけでもなく。
ようするにそこいらの一般人と考えても差し支えない、と言う事だ。
少し引っ込み思案であるが、顔を赤くしたり微笑んだり恥ずかしがったりと、
喜怒哀楽をはっきりさせていて暗部に蔓延る人間よりもよっぽど人間らしい、と一方通行は考える。
それならば、何も気にせずインデックスと風斬を一緒に居させたらいい。
一方通行は2人に別れを告げ、9982号と共に打ち止めを待つ事にした。
どうやら、打ち止めと一緒に居る奴が打ち止めを連れて来てくれるらしい、と9982号がMNWを介して教えてくれたのだ。
一応打ち止めを保護してくれたのだからその礼もしないといけない。ならば無駄に動くのもあれだろう。
そんなわけでその旨をインデックスと風斬を伝えようとしたが、それは辺りの喧騒の変化を感じ取り、中断された。
人の流れがおかしい。
明らかに誰かに誘導されて外に出て行っている感じがする。
何かあったのだろうかと一方通行が考えていると、4人の目の前にジャッジメントの腕章をつけた高校生が走り抜けて行った。
するとそのジャッジメントの腕章をつけた少女は立ち止り、ズンズンとこちらに向かって来る。 - 617 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/25(土) 15:46:16.63 ID:HYq+qO6lo
- 「……なンか用かよ」
好戦的な笑みを浮かべつつギロリとその三白眼でその少女を睨みつけた。
少女は一方通行から発せられる威圧感に少し後ずさりしたが、
すぐに持ち直し一方通行の前で仁王立ちになった。
「こら!人がこれだけ注意してるんだからさっさと逃げなさいよ!なにやってんの!」
「あァ?」
いつそんな注意をしたのか。今の社会「聞いてません」じゃ済まないが、流石にこれは横暴だと一方通行は感じる。
そんな一方通行の表情を見てジャッジメントの少女はムッとした顔をして、
「だからー!こんだけ念話(テレパス)で避難命令出してたのになんで聞かないの!?」
その少女がムムムと唸りながら顔を真っ赤にさせた途端、一方通行を覗いた3人が驚いた表情を浮かべた。
「あれ……どこからか、声が……?」
「おお、確かにこれは念話ですね。と、ミサカは頭の中に響く声を分析します」
「む。確かに頭の中に直接声が響いた気がするかも」
そんな3人のリアクションを見た一方通行は何か納得したように話す。
「あァ、成程なァ。反射は脳波に干渉する念話にも有効ってことだなァ。
だったら、これで大丈夫だろ」
一方通行は反射を切った後、もう一度念話するよう促した。
ジャッジメントの少女は一方通行の言う事を理解していなかったが、
言われるがままに念話をもう一度した。
「……成程、わかった。ホラ、さっさと仕事に戻りやがれェ」
一方通行は興味なさげにその少女に向かってシッシと手を振った。
ジャッジメントの少女は人がせっかく注意してるのに!ムキー!さっさと避難しなさいよね!と捨て台詞を残して走り去った。
やはり一方通行達だけに構ってる暇はないらしい。
「とりあえず、打ち止め達にはここにこねェ用に伝えとけ」
「そうですね。と、ミサカは念話の内容をそっくりそのまま上位個体に伝えます」
「それで、私達はどうするのかな?」
インデックスは一方通行に尋ねる。インデックスが不法侵入少女である事を一方通行は知っていた。
それに対するフォローを上条当麻に出来るはずが無いと言うのも容易に予想できる。
だとすると、何も考えずに避難するのは危険だ。おそらく地下街の出入口ではアンチスキルが張っているに違いない。
その場合インデックスが捕まる可能性が高い。更に言うなら、風斬も何かしらこの侵入者とつながりがあるのかもしれない。
後者に関しては万が一、と言う事でそこまで警戒してないのだが、事のついでに風斬の事も監視下に置いておけばいい。その方が非常時に守りやすいだろう。
そんな一方通行の思考は中断された。非日常を生きる一方通行に這い寄る新たな非日常の影によって。
「見ぃつけたぁ……」
どこからか、女の声が響き渡る。
しかし今度は念話ではなく、しっかりと音の振動を持っていた為、一方通行が張り直した反射の膜も通過した。
だが、誰も居ない。
この日、魔術師と、超能力者が、初めて交差する。 - 622 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:35:55.04 ID:T16Em+aeo
- 「うふっ、くふふ、うふふっふふふ!禁書目録に虚数学区の鍵に、第一位とさっき居た電気を使う女の子じゃない!
まさによりどりみどりって奴ね。迷っちゃうわあ」
女の声は、かすれているが、どこか妖艶な雰囲気を保っており、
喉を潰してしまった歌姫を連想させる。
この声が何処から聞こえてくるかと言うと、何やら壁に泥と土で作られた目玉の様なものがへばりついていて、
それはさざ波のように泥が振動し、スピーカーのように音声が発生していた。
しかしその声は一転する。
「まあ、ぶっ殺しちまえばいいよね。全部」
そこらのチンピラもはだしで逃げ出す程ドスの利いた声だった。
何にせよ問題は山ほどあった。インデックスの事を知ってそうな口ぶりに、『虚数学区の鍵』。
これはおそらく風斬氷華のことだろう。
そして自分のプロフィールを知ってる上に9982号とも面識があるらしい。
もしくは9982号の事を御坂美琴と勘違いしているのかもしれないが。 - 623 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:36:37.40 ID:T16Em+aeo
- 対して、相手の情報は、一切開示されてない。
戦闘において重要なのは、戦闘能力もそうだが、何より情報が大切だ。
馬鹿正直に戦闘能力を振るうのは、暴れ牛だけで十分である。
しかし、ここ学園都市で暴れ牛を地で行くと闘牛士にあしらわれるどころか、
その突進の力を別の事に利用されるのがオチなのだ。
ここで敵を叩き潰すのは、おそらく可能だろう。これは第一位の驕りではなく、純然たる事実。
しかし、相手の目的がわからない以上、自身の力を発揮するのはどうかと考えた。
姿の見えない敵への対応を考察していると、インデックスが目の前の現象を解説し始める。
「土より出でる人の虚像―――ユダヤの守護者たるゴーレムを無理矢理英国の守護天使にするあたり、うちの扱うアレンジ術式と似てるね」
「……これが、魔術って奴か……」
一方通行はインデックスの話を聞いて得心した。
魔術師ならばインデックスの事を知っていてもおかしくはないと言う事か。
これで知らない能力者すらインデックスの事を知っていたら色々と拙かった。
何せ『魔術』という、『科学』では説明できない現象だ。この街の科学者ならこぞって研究したがるに違いない。
そうなるとインデックスはあっという間に拉致されてあっという間に解剖されるかもしれない。
とはいえ、今こうして魔術の解説を出来ていると言う事はやはり魔術の事は知られてないと見ても良いのだろう。
何にせよ、目の前の泥を操っている本人をどうするべきか。
先に述べたとおり、撃退はおそらく可能だ。敵が攻め入るのを堂々と正面から突破し殲滅してやってもいい。
しかし、『科学』と『魔術』。この相反する二つの組織同士で争う事で何か弊害は起きないのか?
これが独断かどうかは知らないが、『魔術』側が勝手に攻め入ったとはいえ、『科学』側があっさり勝利してしまったら、『魔術』側の面目が無いだろう。
さらに言えば、この事件で魔術に関する事柄が科学側に露呈するかもしれない。
今まで生きてきた中で、『魔術』などと言うものは見たことも聞いたことも無かった。
それは何故か? - 624 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:37:46.05 ID:T16Em+aeo
- おそらく、秘匿するべきものだからではないだろうか。
『魔術』という『力』が普通の一般人にまで浸透した時、治安維持やら何やらで面倒な事になるに違いない。
それ故に、今まで『魔術』と言う存在は一部にとどめて世間に流出するのを防いでいたのではないか?
だとすると、魔術の事が学園都市に知られる、と言うのは相手側も本意ではないはずだ。
にも拘らず、敵はこうして学園都市に攻め入っている。
何が目的だ?
「お前……戦争でもしてェのかよ……?」
一方通行は唸るように低く冷たい声色で尋ねた。「うふふ」と、泥は嗤う。
「戦争。戦争!!戦争ってのは、こういうことかしら!?」
刹那、地下街全体が大きく揺れた。
「「!!」」
突如として地面が大きく揺れたため、全員がよろめく。
しかし、一方通行はすぐに立ち直り、能力を行使する事で3人を支える事に成功した。
「お前ら、俺から半径5m以上離れるなよォ……!」
揺れは収まったが、パラパラと大きな揺れの名残で天井から粉塵の様なものが落ちてくる。
チカチカと蛍光灯は不安定な光を地面に向かって注ぎ込む。しかし次の瞬間、その蛍光灯は同時に全てフッと消えた。
突然の揺れに突然の停電。避難が完了していなかった人垣が恐慌に陥るのは火を見るより明らかだった。
阿鼻叫喚。
先ほどまでのんびりと、たまに行われる避難訓練のようにのんびり避難していた人の波は、一気にパニックに見舞われる。
我先にと外へ向かって行くが、先の大きな揺れのせいかは知らないが、予定より早く出入り口がシャッターで封鎖された。
これによって先ほどまでドタバタと脱出を図っていた一般人達は完全に分断され、一方通行達はもちろん、逃げ損ねた学生達も暗闇の中に閉じ込められてしまった。 - 625 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:38:20.20 ID:T16Em+aeo
- 「さあ、パーティの始まりよ」
歌うように、愛を囁くように、泥は、一方通行達に向かって死刑宣告をする。
「―――コンクリ枕にしてピーピー鳴きながら土葬されやがれ」
ズドン!と一際大きな揺れが地下街を襲い、泥はその揺れに乗じて跡形も無く消え去っていた。
「チッ……」
元よりアンチスキルの前を通りすぎて脱出するつもりはなかったが、自分達の立ち位置からではどちらにせよ脱出は不可能だっただろう。
おそらくそれは敵の計算のうちで。
おそらく敵はこの場の構造を知り尽くしているのだろう。
厄介な敵だ。随分手馴れている。おそらく、魔術は大っぴらに使われるのではなく、秘密裏に暗殺などに用いられているのだろう。
やはり、一方通行の考えは正しそうである。
『魔術』は秘匿するべきものであり、無暗やたらと『科学』と交わらせてはならない。
おそらく、敵が本国へと帰らなければ、敵は学園都市に攻め入ることだろう。「秘匿すべき技術が奪われた」とか難癖付けて。
「面倒くせェ……」
一方通行は、心底面倒くさそうに、丁重にお帰り頂く方法を考える事にした。 - 626 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:38:47.03 ID:T16Em+aeo
- ・・・
『全く、何やってるんですかー、せっかく応援よこしてあげたのに』
電話の向こう側で、おそらくぶーたれているであろうその声の主、初春飾利は電話の相手、白井黒子にぐちぐちと文句を言っていた。
『面目ないですの……』
『御坂さんと言う援軍がありながら捕獲できないなんて、あれですか?
御坂さんに見とれてたんですか?全く、こっちに帰ったら書類私の分までやってもらいますからね』
『言葉もございませ……って初春、さりげなく仕事を押し付けないでほしいんですの』
『あ、バレましたぁ?てへっ』
『テヘッじゃありませんの!!それで、敵は見つかりましたの!?』
『あー、地下街に入って行った後見失いましたあ』
『地下街ですわね?わかりましたわ、それでは行ってまいります』
ブチッと電話を切る。白井は溜息を一つつき、そんな白井を見て御坂美琴は怪訝そうな表情を浮かべる。
「あいつはどこいったの?」
「地下街ですの。……はぁ、避難勧告のデバイス使ったのに捕まえられないだなんて……」
拳銃型デバイス。これを使うと基本的には始末書を書かされる。
それもそのはず、周りに被害が及ぶであろう大規模戦闘を行うと宣言しているのだから、理由はどうあれ色々と書類を提出しなければならないのだ。
だと言うのに捕獲に失敗したら始末書の書き損である。 - 627 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:39:30.04 ID:T16Em+aeo
- 「あー、この後挽回したらいいじゃないの……」
どんよりとする白井を慰める。御坂には関係ない事であるためあんまり説得力がない。
しかし御坂の慰めというだけで幾万の真言より価値があるといえよう。
その日、白井の世界に希望が舞い降りた。
それはさておき。
「それじゃ、さっさと行きましょ。罠の可能性も高いけど虎穴にいらずんばっていうしね」
「わかりましたの」
2人は、地下街へ向かってテレポートを開始した。 - 628 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:40:39.75 ID:T16Em+aeo
- ・・・
<???>
『人間』のアレイスターは、笑っている。
そんなアレイスターをみて、土御門元春は不機嫌そうにアレイスターを問い詰める。
「どういうつもりだ。アレイスター」
「何のことだ」
とぼけるアレイスターに苛立ちは頂点に達し、
彼もしくは彼女が浸っているフラスコに一枚の紙を押し付けた。
「一つしかないだろ。こいつの名前はシェリー=クロムウェル。れっきとしたイギリス清教の魔術師だぞ!!?
一方通行と魔術師をぶつけるとはどういう了見だ!!?
先月の錬金術師は流浪の魔術師だったからそこまで波風は立たなかったが、
今回はそれとはわけが違う!それどころか科学の頂点と魔術師をぶつければ、
どちらに転んでも面倒は避けられんだろうが!!」
土御門は一気にまくしたてる。
しかし、一方通行が予想していた通り、どちらかがどちらかを倒してハイ終わり。と言う訳にはいかないのだ。
身内での戦闘、例えば暗部同士やスキルアウトの抗争等、ならば適当に揉み消しも出来るだろう。
しかし、今回は外部の人間との戦闘だ。揉み消す等不可能だし、治外法権ですなんて言い訳通用するはずが無い。
何より、秘匿すべき技術が科学側に漏れてしまった、と言う可能性を示唆するだけで両者の間には簡単に亀裂が生じる。
下手するとそのまま戦争に発展するだろう。
そうなると危険なのはなんの力も持たない一般人だ。
土御門は、守りたい者の為に暗部に堕ちている。すなわちこの現状は本意ではない。
「……くくっ、なんだ。そんなことか」
土御門の考えを、アレイスターは、さも当然の事のように切り捨てた。
「そんな、こと、だと……!?」
ギリッと歯を食いしばり、アレイスターを睨みつける。
視線で人を殺せるのではないか、と言うくらいの殺意を込めて。
「問題ないさ。一方通行は負けないだろうしな。
それで今後何かが起きたところで、それは予測の範囲内。
何にせよ、これによってプランも2082から2377まで短縮が可能だ」
勝ち負けではないと、さっき言ったばかりだと言うのに、
アレイスターは土御門の話を全くと言っていいほど聞いていなかった。
アレイスターにとって重要なのは、「プランが進むか否か」、それだけである。
「そう言う事だから、土御門。君は手出し無用だ。魔術師と超能力者は一度邂逅してもらう」
「なっ……!」
「くくっ……一方通行の知らない未知の法則を操る者との相対で、彼は一体何を得るのだろうか?」
最早土御門の事など眼中にないようで、これからどうなるのかただただ楽しみに夢想している。
土御門は、忌々しげに一瞥すると、テレポーターと共に外へと出て行った。 - 629 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:41:19.79 ID:T16Em+aeo
- ・・・
「どォしたもンかなァ……」
一方通行は顔も知らぬ魔術師の事を考え、今後の対策を考えている。
そんな一方通行にインデックスは声をかけた。
「あくせられーたも、ひょうかも、クールビューティーも、早く非難するんだよ。
相手は魔術師なんだから、ここは私の出番かも」
「バカ野郎、よしんば撃退出来たところで、この学園都市内で魔術師を撃退する事自体がマズい事なンだよ」
一方通行はうんうんと唸りながら、インデックスの提案を却下した。
しかし、その言葉だけではインデックスは納得しない。今まで何度か学園都市内で魔術師と相対してきたのだから当然のことだろう。
そして9982号と風斬氷華は最早蚊帳の外で、ミサカ達いらない子ですよね?とヒソヒソと話をしていた。
「まず、確認してェ事がある。『魔術』ってのは今までもこれからも、一般人に知られるべきでない秘匿される事柄なンだよな?」
今まで散々予想を立ててきたものの、それを裏付ける知識のない一方通行は、インデックスに尋ね、答え合わせを行う。
「そのとおりだよ」
「なら、今回の敵は、どこかの組織に属してンのか?」
「多分、術式を見る限りは私の所属する『イギリス清教・必要悪の教会』と同じ所属だと思う」
「同じ所属だと言うのに、お前の事まで狙うってこたァいくらか派閥があるって事だなァ?」
「その通りかも。単に『イギリス清教』と言っても、宗教と言うのは多岐にわたって根を張っているから、穏健派とか強硬派とか、色々な方面に分類できるんだよ」
一方通行の考えを知るために、インデックスは素直に質問に答えて行く。
「成程なァ……やっぱ、完全に撃破するのは駄目だなァ」
「どうして?」 - 630 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:42:59.62 ID:T16Em+aeo
- インデックスはきょとんとしている。魔術に関して詳しくても、政治方面には疎いのだろう。
一方通行は、自身が予想したこれからの事について説明することにした。
「学園都市内で魔術師を撃破することの弊害についてなンだが……
『魔術』という秘匿すべき技術、それが学園都市にわたる事を敵は良しとしないだろォな。
ならば、俺みたいな能力者が魔術師を撃破したらどォなる?」
「……魔術が学園都市に知られた、って思われるかも」
「そのとォりだ。だから奴さンには互角の勝負の挙句何とか退く事が出来た程度でお帰り頂く必要がある。
つっても、俺や他の学園都市のメンツがたった1人の魔術師を撃破したくらいで戦争になるンならとっくの昔に戦争になってただろォし、
飽くまで可能性の一つにすぎねェンだけどな」
一応、最後の手段として一方通行が単独で撃破すると言う手段もあると言う事を伝えておく。
「能力者が駄目なら、私と言う魔術師がいるかも!」
ふんすと無い胸を張る。
確かに、それは有効だろう。魔術師同士の戦闘なら波風も少ない。
一方通行も悪くない手だと考えるが、インデックスに危険な目にあわせたくないと言う事もあってそれを止める事にする。
「あのなァ、能力者に倒されるのもマズいンだが、何より『学園都市内』で倒される事がマズいンだよ。
学園都市の人間に捕まって万が一の事が有ってみろ、あっちが仕掛けた事とはいえ、戦争は免れられねェぞ」
割と出まかせを言ったのだが、一方通行が言った事によってそれなりの説得力を持ったのか、
インデックスもうぐうと唸りながらも身を引いてくれた。
「わかったんだよ……でも、どうするの?」
「それは全く考えてねェ」
敵の姿もわかんねェし。と、一方通行は後手に出ないといけない現状に足踏みをした。
「あ、あの……私達に、何か……出来る事はない、の?」
恐る恐る、風斬は9982号と自分に何かできる事はないかと尋ねてきた。
「「ない」」
一方通行とインデックスは風斬が尋ねた瞬間シンクロしてその言葉を否定した。
風斬は二の句がつげず、そのままうなだれた。9982号も戦力外通告に、風斬と共にうなだれた。
その時身近な曲がり角から、不意にカツンと足音が聞こえてきた。
一方通行は、3人をかばう形でその曲がり角の前に立つ。
するとそこから見えてきたのは。 - 631 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:43:30.41 ID:T16Em+aeo
- 「あれっ。一方通行」
「……ンだよお前らか」
御坂美琴と白井黒子だった。
「あらあら、一方通行さんはこんな時間から女の子3人を侍らせッ……!!?」
白井は一方通行を一瞥すると、風斬、インデックスと視線を移して、次の瞬間。
「お、お姉さま……!?」
9982号の姿を見て固まった。そう言えば夏休み最終日に御坂と同じような顔をした人間が居た気がする。
ひょっとして姉妹……姉妹丼……うへ、うへへへ。
白井の思考は無意識のうち言葉にしていたらしく、駄々漏れだった。
「うわ、引くわー。と、ミサカは目の前の変態を罵倒します」
「流石の私もそれは引くわ」
「はうっ!!」
白井にしてみたら、9982号や御坂の罵倒は幾万の真言より勝る。白井は万能属性。
「それで、この二人は一体誰なのかな?」
インデックスはきょとんとした表情で尋ねる。
風斬も9982号も知らない顔が居るので互いに自己紹介でもした方が良いだろう。
全員を知る一方通行はそれぞれ自己紹介するよう促した。 - 632 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:44:04.24 ID:T16Em+aeo
- ・・・
「ふーん、一方通行は女の子3人を相手にデートしてたってわけ。イイ御身分じゃない」
ニヤニヤと、心底楽しそうに一方通行をからかう御坂美琴。
「ばっ!ちげェよ!!」
「みんなでプリクラ撮ったんだよ!」
インデックスはニコニコしながらイイ笑顔をした一方通行のプリクラを御坂と白井黒子に見せようとする。
「ヘイ!!」
「あぁっ!」
一方通行は自身の顔を見られまいと、器用にも自分の顔だけ穴を開けた。超能力の無駄遣いである。
「あくせられーた、酷いんだよ!!」
一方通行のあまりの仕打ちに涙目になるインデックス。
とてもじゃないが敵が潜伏している場所とは思えないほど和気藹々としている。
「久々葉さまとプリクラ……!?許せませんの……!!」
ゴゴゴとオーラをたぎらせる白井。しかし一方通行の懸念はそんなことではない。
「いやあ、イイ笑顔してましたよね、一方通行。と、ミサカはニヤニヤとあの機械にGJを送ります」
「え?どういうこと!?教えなさいよ!」
9982号の言葉に反応した御坂は事情の説明を要求した。今まで事あるごとに一方通行にからかわれてきたのだ。これはそれの復讐チャンス!
「あ、それなら……ここに余ったプリクラが……」
そろそろと余った分のプリクラを御坂に渡そうとする風斬氷華。
「そォい!!」
一方通行は、再びプリクラの顔部分だけ消去した。 - 633 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:45:18.85 ID:T16Em+aeo
- 「もう!何するのよ!!」
御坂はプンプンと怒りをあらわにする。風斬も思い出の品の一部を破壊された事でしょんぼりしていた。
風斬の顔を見て少し申し訳なく思うが、
あの顔は黒歴史なンだ。譲れねェ。一方通行は毅然とした態度であった。
「諦めろ、俺はあの顔だけは晒せねェ……そう、誓ったンだ……」
「くっ……!」
御坂は心底悔しそうにする。しかしそんなことしている暇はない。
「つゥかここに来てるってこたァ、お前らも外部からの侵入者絡みかァ?」
「え、ええ……その通りですの。一度交戦したのですが、捕獲に失敗しまして」
交戦した、と言う話を聞いてギョッとする一方通行とインデックスだが、
どうやら2人も魔術師もどう見ても無事なので引き分けたということだろう。
しかし、話をややこしくさせないために何も言わない。
「成程なァ」
一方通行としては、狙いは自分たちなのでさりげなくこの場を離れるのが好ましい。
「そォだな、正直戦闘に介入するのはあれだから俺らは帰るわ」
「「えっ」」
御坂と白井は何言ってんだコイツと言う顔をした。どうやら戦力として頼りにしようとしていたらしい。
「何言ってンだよ、俺みたいな一般人が介入してみろォ。
アンチスキルとジャッジメントの面目がねェだろォが」
確かにそうだが、白井は既に御坂を頼りにしている。
一度敵を取り逃がしたのだから、もういちいちそんな事気にするつもりはない。
「それにこっちにゃ非戦闘員がいるンだ。戦えねェ事もねェが、こいつらに害が及ぶのを俺は良しとしねェ」
とりあえずこの場から離れるための方便に過ぎないのだが、3人は一方通行の言葉に少なからず喜んでいた。
9982号はニヤニヤし、インデックスはちょっと照れた様子で、風斬は顔を真っ赤にしている。
「……か、勘違いすンじゃねェぞ。別に心配した訳じゃねェから!!」
ツンデレータ降臨。 - 634 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:46:17.31 ID:T16Em+aeo
- ・・・
「……駒場さん、どーすんだ?」
浜面仕上は、視界に入るシャッターを眺めながら駒場利徳に尋ねる。
しかし、駒場は未だ考えをまとめかねているようだった。
「……」
打ち止めの念話(のようなもの)で地下街に行く事を止められたスキルアウト一行は、
地下街に向かう入口のところで足止めをくらっていた。
既に閉鎖された後らしくアンチスキルがシャッターの前で警備をしている。
「一方通行と9982号は未だ中に居るみたいだね、ってミサカはミサカは現状を報告してみたり!」
あまり緊張感の見られない声色で元気に報告をする打ち止め。
どうやら閉じ込められてはいるものの、無事と言えば無事らしい。
ならば助けに行くべきか。どうすべきかの決定権は駒場にある。
「駒場のリーダー。俺は反対だぜ」
半蔵は地下街へ向かうのは反対らしい。
基本的に能力者と対等に立ち回るには、情報を駆使して常に相手の裏をかかなければならない。
そうした時、顔も知らない人間の為に、顔も知らない敵と戦う気にはならないのは当然だろう。
打ち止めが言うには外部からの侵入者、との事だが、はっきり言って実力は未知数。
とてもじゃないが相手にする気にはならない。
「うう……」
フレメア=セルヴェインも不安そうにしている。
そんな中、もっとも当事者に近いはずの打ち止めだけが笑顔を振りまいているという奇妙な状況であった。
「……行くか」
各々が黙り込む中、駒場は重い腰を上げた。 - 635 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/26(日) 20:46:59.99 ID:T16Em+aeo
- 「リーダー!!」
半蔵は駒場を止めようとするが、浜面は何も言わない。
「……助けに行くぞ、この子を届けねばならんしな」
駒場はポンポンと打ち止めの頭を撫でながら、地下街に行くことを決めた。
「はぁ、わかったよ……駒場のリーダーは頑固だからなあ……」
「……何と言っても、英雄(ヒーロー)だからな」
「「ぶふっ!!」」
まさか駒場の口からそんな言葉が聞けるとは思わなかった。
「ぷっ……ふふ……まさか駒場さんからそんな言葉が聞けるとは……!!」
「……!!……!」
浜面はプルプルしているが、半蔵は言葉に表せないほど爆笑していた。
そんな2人を駒場はギロリと睨むと、一瞬で立ち直った。全く、よく訓練されている。
「……浜面は、フレメアと打ち止めを頼む」
「……了解」
流石に打ち止めやフレメアを連れて行くわけにはいかない。
半蔵か浜面のどちらかに守ってもらう事になるのだが、運転技術に長けている浜面の方に任せる事にした。
「……駒場のお兄ちゃん。」
フレメアは不安そうな顔をしている。
「……大丈夫だ、この辺りはスキルアウトの庭だからな……外部の人間じゃわからないような裏道などいくらでもある」
駒場はフレメアの頭を撫でると、地下街の入り口を後にした。
半蔵もそれに追従するが、その前に浜面に一言。
「そいつら、しっかり守らねえと後でどやされるかんな」
「ああ、わかってるっての」
半蔵はそれから振り返ることなく、駒場の元へと走って行った。
「……大丈夫かな。にゃあ」
「心配すんな、あいつらは強いからな」
「そうだよ、きっと大丈夫だよ、ってミサカはミサカはフレメアを慰めてみたり!」
「……ってか何で打ち止めはそんなに余裕な感じなわけ?」
それだけは解せない。浜面は思わず打ち止めに尋ねた。
「だって、9982号には一方通行がついてるもん。ってミサカはミサカは信頼してみたり!」
はて。さっきから言っている一方通行?は能力名か何かだろうか。
スキルアウトになって以来能力に関する知識はゴミ箱にポイした浜面は、何の事かわからなかった。 - 641 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/30(木) 22:54:17.52 ID:C760LxxZo
- 「とりあえず」
平静を取り戻した一方通行は口を開く。
「白井はこの地下に残された連中を外に出してくれ」
「わかりましたの」
一応一般人の括りであるはずの一方通行が何故か指揮を執っていた。
9982号は別に文句は無いようでぼけーっとしていて、
インデックスは何か言いたいようで口をモゴモゴとしているが、一方通行の一睨みで沈黙。
風斬氷華は自分に出来る事は何もないと断言されていたのでションボリしている。
「あんた達はどうするの?」
御坂美琴は素朴な疑問をそのままぶつける。しかし、正規ルートで脱出するとインデックスに面倒な事が起きる可能性が高い。
と言っても仮IDは一応発行されているのでこの非常時にいちいち調べられる事はないだろうが、そんな事は一方通行の知る由もなく、
念には念を入れて、という意味も相まって一方通行一同は誰にも見つからないように地上に脱出する事にした。
「あー、色々訳有りだから、見つからねェよォに脱出する」
本当は一方通行達自身がターゲットになっている為、御坂と白井の元から離れたいのだが、
それを言うと間違いなくこの二人は首を突っ込んでくるに違いないと考え、適当にごまかす事にした。 - 642 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/30(木) 22:54:56.17 ID:C760LxxZo
「わかった。さっき侵入者と戦闘してきたけど、かなり手ごわいみたいだから、気をつけてね」
「わかってる。つゥか戦う気ねェし」
とにかくいつまでも居ても仕方ない。御坂と白井黒子に別れを告げ、一方通行はその場を立ち去る。
それに追従するように9982号とインデックス、風斬も2人に別れを告げた。
「……お姉さま、どうしますの?」
「……はぁ、どうみても狙いは一方通行達だと思うんだけど……」
侵入者の潜伏先に偶然にも、一方通行達。きな臭いってレベルじゃねーぞ。
一方通行が何も言わないからそのままスルーしたが、間違いなく彼らは侵入者と対峙する事になるだろう。
「黒子は、地下街に残された人たちの救助をお願い。それは黒子にしか出来ないことだから」
「わかっていますの。それで、お姉さまは……」
「もちろん、侵入者の相手をするわ」
白井は御坂の目をちらりとうかがうが、一目見てわかった。駄目だ、こうなってはテコでも動かない、と。白井はそう判断し、諦めたように溜息をつく。
「……無理だけは禁物ですわよ、お姉さま」
「わかってるわよ」
御坂は一方通行達が向かった方向へ歩いて行き、白井は一般人の救助へと向かって行った。- 643 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/30(木) 22:56:33.31 ID:C760LxxZo
- ・・・
地下街、と一言に行っても、その領域は割と広い。
蜘蛛の足のように枝分かれしていて、一般人は絶対に使わないだろうと言う通路はいくらでも存在する。
半蔵と駒場利徳は、その通路を進んで、まだ見ぬ打ち止めの保護者を探していたのだが。
「うわ、何あれどう見ても怪しさマックスだろ」
2人が影を、そして息をひそめ、視線を向けるその先。
「……確かに怪しいな……あれが『侵入者』か?」
ぼさぼさの金髪ゴスロリが壁に何かを書きこんでいた。
駒場は半蔵の言葉に相槌を打ちつつも、隠れるのに不向きな巨大な体躯を目いっぱいに縮こまらせながら発条包帯(ハードテーピング)を腕と足に巻きつける。
一方半蔵も「強くてカッコイイ」等と言うふざけた理由からマガジンの長さまで調整して作りだした三点バースト付きマグナムに銃弾を込めている。
問答無用で仕留めても構わないのだが、万が一、億が一であれが一般人だとしたら非常に拙い。
十中八九あれが侵入者だとは思うのだが、如何せん学園都市と言う場は変人が多く、
あのような格好をしていても浮きはするがそれだけなのだ。
故に実際にアクションが見られるまでは何もできない。
事前に侵入者についてのプロフィールを知れていたら良かったのだが、今更言っても栓無き事である。
侵入者の情報などよっぽどの事では入手できないだろうと言うのも一つの要因だが、
何にせよ半蔵は何も分からないと言う状況を極端に嫌っている為、現状に頭を抱える。
「……すまないな」
そんな心情を察したのか、駒場は申し訳なさそうに謝る。 - 644 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/30(木) 22:57:21.52 ID:C760LxxZo
- 「気にすんなって、確かに現状は本意じゃないけどさ、そんなあんただから俺たちは今までついてきたんだからさ」
へらっと笑いながらポケットから飴を取りだした。どうやらフレメア=セルヴェインや打ち止めにあげるつもりだったらしい。
「駒場のリーダーも飴ちゃん食べる?なんちって」
「……お前はどこの大阪のおばちゃんだ」
駒場は突っ込みを入れつつも、コロコロと飴玉を口の中でもてあそぶ半蔵から飴を受け取った。
「いちご味。この甘酸っぱい味は、甘酸っぱい青春を送れなかった俺達の鎮魂歌です」
「……俺は、お前らと馬鹿騒ぎするのは嫌いじゃないが……」
「おいおい、何でマジになるんだよ駒場のリーダーは……」
駒場の思わぬデレに半蔵の軽薄な口調もストップする。
別にBLとかそういうあれじゃないので安心してほしい。
そうこうしているうちに、何かを書き終えた金髪ゴスロリが何かを唱える。
瞬間。
バキバキと壁や周りにおかれている機械や物を巻き込んで何かが生成された。
「……住民が避難する中、こんな事をしてると言うことは……」
「間違いなく黒ですな……」
あれが100%黒だと事前にわかっていたら。
金髪ゴスロリが能力を使う前に無力化させていたのに。 - 645 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/30(木) 22:58:26.56 ID:C760LxxZo
- 今現在、2人が優位なのは、自分達に気付いていないという点だけだった。
武装しているとはいえ駒場と半蔵は無能力者で、侵入者は何かしらの異能を所持している。
それだけで大きな差があると言う事を、2人は熟知していた。
しかし、そんなたった一つの優位性すら、奪われてしまう。
「うふ。こんにちは。うふふ、うふふうふ」
金髪の声が響き渡る。こちらを向いては居ないものの、明らかに2人の存在に気付いていた。
そんな女の横には、周囲にあるあらゆるものを圧し固めて作られた石像が寄り添うように立っている。
その声を聞いた2人はすぐさま行動を開始した。
駒場は金髪の女の前に立ち塞がり、半蔵はその間にどこかへと向かう。
先ほどまでは身をひそめ、最低限金髪の女の姿しか捉えられていなかったのだが、
女の前に立つと、その周囲には破壊されたバリケードの跡があり、アンチスキルも何人か倒れていた。おそらく金髪の女がやったのだろう。
それらを見た駒場の顔は、元々いかつい顔であるが、眉をひそめる事で更に威圧感が増す。
「……少しは加減してほしいものだな、能力者」
もう少し早く手ひどくやられたアンチスキルの姿に気づいていれば、
女が能力を発動させる前に、即座に攻撃していたものを。
後手に出ざるを得ない状況はなるべく避けるべきだな、と反省した駒場は目の前の女を睨みつける。
しかし女は駒場の睨みよりも、先の言葉が気に障ったようだった。
「くふ、誰が能力者ですって?うふふふ……嗤わせんなよ、科学の街に飼われた犬が」
錆ついた声だったが、笑い声も相まって少し陽気な雰囲気を醸し出していた女の声が、突如として重くなり、その重圧感が駒場を襲う。
その辺のチンピラならその時点で戦意を失うところだろうが、駒場は一歩も退かなかった。
「うふ。これはね、超能力とかいうホイホイ量産できる代物じゃないのよ?
魔術、って知ってる?それを扱う魔術師ってのが私なんだけど。
うふふ、一般人にそれを知られたら口封じするしか無いから、死んで頂戴な」
冥土の土産、と言わんばかりにニヤニヤと自身の力の説明をする。 - 646 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/30(木) 23:00:56.11 ID:C760LxxZo
「ふん……無能力者の俺からしたら、異能という括りだから魔術師も能力者も変わらん」
駒場は全く気にした様子も無く、科学と魔術をひとくくりにする。
すると、その言葉に笑みを浮かべていた女の顔から、一切の色が失われた。
やはり宗教と言うものは自身の考えを否定される事が一番怒りを抱く原因となるらしい。
と言っても、女からすると宗教観の否定よりも、
自身の力が科学と同列に扱われた事に怒りを感じているようだが。
「くふふ、何でも出来ると言われる位進んだ技術を持つ学園都市ですら見放す無能力者が、この私に立てつくなんて。うふふ、お笑い草だわ!」
高笑いをしながらも、手に持ったチョークを横に振るう。
「エリス!!」
石像の名前だろうか、女が名前を叫ぶと、その石像は駒場へと向かって走る。
駒場は向かって来る石像を見て身を構えるが、
女は駒場の事など歯牙にもかけない、といった様子で笑っていた。
「くふ、存外に、衝撃吸収率の高い装備で身を固めていたのね。
まさか生き延びるとは思わなかったわ。まあ、おかげで結構楽しめたんだがなぁ!!」
アンチスキル達のことだろうか、倒れ伏す彼らの事を見向きもしないで戦った感想を述べている。
女の笑い声が、明るい色から残虐なものへと変貌した瞬間、
エリスの拳が駒場の居た床をとらえ、ズドン!という巨大な音と共に辺りを揺らした。
何の変哲もない無能力者なら、その重量に負けて潰されるだけだろう。
しかし、魔術師たるシェリー=クロムウェルの前に立つ駒場がただの無能力者なわけが無い。
そんな事は彼女自身もわかっていた事で、小手調べ程度にエリスをけしかけたのだ。
初撃で潰されるならその程度だし、耐えきるなら、まあ遊んでやっても良い。その程度のつもりだったのだが。
「……へぇ」
次にシェリーが漏らした声は、感嘆の念。- 647 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/30(木) 23:02:36.87 ID:C760LxxZo
駒場は、その体躯に似合わない程の素早い回避を行っただけでなく、
エリスの肩の上にまでのぼり、シェリーを見下ろしていた。
「……ふん」
駒場の嘲笑うかの様な笑み(無表情だが)を感じ取り、シェリーの表情は変貌する。
「……ちょっと避けたからって調子に乗ってんじゃねえぞ、犬」
再びチョークを振るうと、それに同調するようにエリスが駒場を振り切るべく暴れ出す。
しかし、駒場はエリスが暴れる直前には既にその場から離れ、地面に着地していた。
「……随分とおざなりな攻撃だな、魔術師。……あたらなければどうということはない」
駒場は反撃する気があるのかわからないが、とにかくエリスの攻撃を避け続ける。
しかし、シェリーからすると駒場は目的の人物では無いのでさっさと潰して目的へと向かいたいところで、シェリーは駒場の態度に非常にイライラさせられた。
「はん、ちょっとすばしっこいからって私から逃れられると思うなよ」
シェリーが平坦な口調で言い放ち、更にチョークを振るった。
するとエリスが駒場に向かってではなく、地面を思い切り叩きつけた。
それにより地面は大きく揺れ、駒場の足を取る。
駒場がよろめいた事でエリスが追撃で腕をふるい、駒場はそれに直撃してしまう。
何とか身体を後逸させる事で威力を弱めさせる事が出来たが、それでも威力は甚大。
駒場の巨体がいとも簡単に浮かび上がり、吹き飛ばされてしまった。
「地は私の力。そもそもエリスを前にしたら、誰も地に立つ事など出来はしない。
ほらほら、無様に這いつくばれよ。その状態で私に噛みつけるかぁ、負け犬?」
シェリーは勝ち誇るようにペラペラと喋る。しかし駒場は倒れ伏したまま、反応を示さない。
「あぁ?もう終わり?雑魚は雑魚なりに必死こいて立ち向かってこいよ」
拍子抜けした、と言った口調で駒場を挑発するが、
駒場は気にしていないと言った具合にフラフラと立ち上がった。
続いて口の中を切ったのか、つばと共に口の中にたまった血を吐きだす。- 648 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/06/30(木) 23:04:12.85 ID:C760LxxZo
「……スキルアウトを、舐めるなよ」
絞り出すように言ったセリフ。その言葉にシェリーは鼻で笑う。
しかしシェリーの背後から駒場の声に同調するように、
「そうそう、無能力者の戦い方を知らない他所者が粋がっちゃあ駄目だぜ?」
カチャリと音を立てながら、半蔵は三点バーストのマグナムをシェリーにつきつけた。
「テメェら……やってくれるじゃない。あんたは囮だったってことか……
最初2人いたうちの1人はとっくに逃げた物と思ったんだけど。
……随分とまあ身体に似合わずセコセコした事するなぁ」
シェリーは駒場達を嘲るが、2人からしたらただの負け犬の遠吠えにしか聞こえない。
策を弄し、相手を揺さぶり、力を発揮できない状況に追い込む事で完封する。
それが駒場率いるスキルアウトの戦い方。不意討ち闇討ち騙し討ち。
人はそれを卑怯と言うかもしれないが、立派な作戦である。
そんな事を言ったら圧倒的な能力や才能を以って努力しか出来ない人間をすり潰す超能力の方が非道で卑怯。
結局、物を見る角度で価値観などいとも簡単に変わってしまうのだ。
それはさておき。
「汚いは褒め言葉」
半蔵はヘラッと笑う。シェリーの言葉など馬耳東風。と言った様子の半蔵を見て駒場も口角を少し上げた。
しかし、背後から銃を突きつけられていると言うのに、シェリーはそれを全く気にした様子も無く。
「まあ、一番つぶしたい相手はここにはいないけど、自己紹介をしときましょうか」
突然の自己紹介。2人はシェリーの言葉に眉をひそめる。何にせよアンチスキルの応援なりジャッジメントなり何でもいいから人が来るのを待ちたい2人は、とりあえず耳を傾けた。
「イギリス清教所属、シェリー=クロムウェルよ。以後ヨロシク。
と言っても、もう会う事なんて無いんでしょうけど」
イギリス清教?宗教の派閥か何かだろうか。と2人は思案するが、
魔術に関する予備知識の無い2人はイギリスからやってきたんだな、と言う事しかわからなかった。
そんな2人を置いてきぼりにして、シェリーは話を続ける。
「火種が欲しいの。戦争の火種が。その為にこの街の住人に、イギリス清教の手駒である事を知らしめたいのよね。
それを成す為に、私はここにいる」
シェリーは銃を突きつけられていると言うのに、「戦争しにきますた」等と、ちょっとコンビニ行ってくる位の軽い口調で話し続ける。
「ははっ、この学園都市相手に戦争?止めとけ止めとけ。
狂った研究者どもにバラバラにされて生きたままホルマリン漬けで一生を過ごす事になるぜ?」
戦争、という言葉を聞いて半蔵は軽く驚きを示すものの、学園都市の軍事力にかなう相手が思い浮かばない。
故に軽いジョークをこれまた軽い口調で述べる。
「大人しくしてくれよ、王手って奴だ」
「……チェックメイト、と言った方がいいのではないか?」
駒場も余裕を感じたのか、半蔵に突っ込みを入れた。
戦況は『詰み』だ。
しかしそれはあくまでも「半蔵にとって」の『詰み』だ。
一方で「シェリーにとって」は、まだ「飛車落ち」程度のものに過ぎなかったようだった。- 651 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:37:48.31 ID:6YFlyLANo
- ・・・
一方通行達が向かった先は、まさに戦場。
血を血で洗うような、非日常の気配。地下街と言う事もあり熱気が立ちこめるその空間は、負の気配に満ち満ちていた。
どう見ても劣勢。
それが感じ取れる程、アンチスキルの一同はボロボロだった。
数にしておよそ20人。そこは野戦病院のような、応急処置をするためだけの空間だった。
どうやら侵入者に手ひどくやられたアンチスキルが集まっているらしい。
結局アンチスキルに見つかるのかよ、と一方通行は内心愚痴るが、
そんな事を考えていたら目の前に1人の人間がズンズンと向かってきた。
「げェっ、黄泉川!!」
「私は何処の武将じゃん?つーか何でここに居るじゃん!?クソッ上条しかジムに居ないと思ったら!!」
等と悪態をつきつつマシンガントークで一方通行を質問攻めにする黄泉川愛穂。
面倒な奴に見つかったと一方通行は溜息をつくが、どうやら黄泉川もそれどころでは無かったらしい。
「はぁ、まあいいじゃん。お前らはさっさと地上に避難するじゃんよ」
あっちから出られるじゃん、と黄泉川は出口へと向かう道を指差す。
「……この近くで侵入者が暴れてンのかァ?」
「その通りじゃん、前線は潰されちまってるけど、出口へと向かう道は死守してるから、アイツが外に出る事は無いじゃんよ」
黄泉川は時折息遣いを荒くして、一方通行達を帰らせようとする。
やはり黄泉川も手負いだったのだろう。すなわち、体術のみでは叶わない相手。
それはこの場で対抗出来る力を持つ者は、一方通行しかいないと言う事の証明のほかにならなかった。 - 652 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:38:50.56 ID:6YFlyLANo
- (めんどくせェ……)
治安部隊が外部の侵入者を撃退した、ならば1対多数と言う事もあるので波風も立ちづらいだろう。
しかし1対1。それも能力者と魔術師による異能対異能。この状況でしか撃退できないと言うのは非常に拙かった。
だが、アンチスキルは十分に被害を出してしまった。最早丁重にお帰り頂く必要はない。
とはいえやはりならば体勢が整うまで時間稼ぎをして、アンチスキル達が侵入者を撃退出来るように動けば良い。
飽くまで侵入者を撃退するのは、アンチスキル。これさえ達成できれば難癖付けられる事も無いだろう。
「仕方ねェ……お前らは、先に出口に行ってろォ」
一方通行はチラリと9982号を一瞥しながら、この場に残る宣言をした。
「「なっ!!?」」
「あ、あくせられーた?ももしかして、1人で魔術師の相手をするのかな?」
額に青筋を立てて、怒りからかプルプルとインデックスは身体も口調も震えていた。
「そうですよ……いくら一方通行さんが強いとはいえ、もし何かあったら……」
風斬氷華も同様に震えたような口調で一方通行を諭す。こちらは不安から震えているようだった。
「あー、わかりましたわかりましたぁ。この二人守ればいいんでしょう?
と、ミサカは都合のイイ女じゃないと愚痴りつつ踵を返します」
9982号は一方通行の意図を察して理解はしたものの納得はしていないので文句を言う。
と言っても異論は無いから文句を言うだけなのだが。
「何言ってるじゃん!?子供なんだからこういうのは大人に任せるじゃんよ!!」
学園都市の子供たちを守るために作られた大人達による自治組織。
それが子供に頼っていてはならない。そんな黄泉川のアンチスキルとしての矜持を感じ取るが。
「こォいう時に振るわねェでいつ力を振るえばイインだよ?」 - 653 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:39:37.78 ID:6YFlyLANo
- とはいえやはりならばってなんだよ
とはいえやはりは消してくれ - 654 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:40:43.29 ID:6YFlyLANo
- 一方通行から漏れる、懺悔の断片。
今まで力を持て余してきた一方通行。
その力の振るい方を知らず。
その力の振るい方を教わらず。
一万人もの人間を殺してきた。
しかし、9982号の心の欠片を垣間見た時、理解した。力をどう扱うべきか。
別に正義の味方になる、等と言うつもりはない。
強きを挫き弱きを助け、等と言うつもりはない。
罪滅ぼしをするために、等と言うつもりはない。
せめて自分の周り、この腕でつかめるだけでも守る。闇が光を侵さないように。
「何も倒すなンて言うつもりはねェよ……お前らの体勢が整うまでの時間稼ぎと思ってくれたらイイ。
つゥか学生どもを守りてェってンならなンでも頼れよ。そこにプライドなンざ必要ねェ」
「……守りたいのは学生じゃなくて、子供達じゃん……」
黄泉川はムスッとした様子で、未だに納得していない。確かに一方通行の言い分は理解る。
だがしかし、どんなに強大な力を持とうとも、黄泉川からしたら等しく子供なのだ。
だからこそ、黄泉川は第一位と言えど一方通行にも頼ってもらいたいのだが、
現状が現状なので何も言えない。
「……」
「うぐう……わかったよ……ただし、無茶は禁物じゃんよ」
一方通行の無言の視線に耐えかねたのか、結局出撃の許可をだした。 - 655 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:41:18.32 ID:6YFlyLANo
- 「悪ィな。こっちもさっさと侵入者を倒せたら良かったンだが、そォいう訳にもいかなくてなァ」
「……何か訳ありじゃん?そこのシスターっぽい服装してる子とか。何か魔術師とかよくわからん事いってたけど」
「……いや、あれは関係ねェ。それじゃ、適当に戦って来るからとっとと体勢立て直せよォ。
そしてお前らはさっさと地上に戻れ」
「了解です。と、ミサカは返事をします」
「わかったんだよ……でも気をつけるんだよ、あくせられーた」
「わかりました……」
かなり正解に近いニアミスをする黄泉川に一方通行は少し焦り、さっさと話を切り上げる事にした。
これ以上インデックスをこの場に居させると、どんな余計な事を口走るかわからん。
・・・
一方そのころ。
「あ゛あ゛あ゛道に迷った!!最初のとこ右行っておけばよかったのか畜生!!」
迷宮の様な地下街を、御坂美琴はひたすら走っていた。
地響きと言うか、戦闘が行われているだろうと思われる音は響き渡っているのだが、如何せんここは地下街。
反響して音源がどこにあるのか全く分からないと言う状況。
しかし、御坂閃く。圧倒的閃き。
「電話すればいいじゃん」
流石学園都市製携帯電話、地下だろうが電波ゆんゆんだぜ。
「出ろぉ~電話出ろぉ~」
電波が届こうが、相手が出なければどうという事は無い。
「ああもう!!」
思わず携帯に八つ当たりしてしまうところだったが、この携帯は十二分に仕事をした。
悪いのは通話に出ない一方通行なのだ。
「……黒子にあれだけ啖呵切ってこれじゃあね……」
御坂はトボトボと歩きだした。 - 656 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:42:24.84 ID:6YFlyLANo
- ・・・
「……そこの石像を動かそうと思うなよ。死にたくなければな」
「くふふ、とっとと撃てば良いのに。ひょっとして殺しはしたこと無いの?」
「……殺すだけならいくらでもできる。だがお前はアンチスキルに引き渡してそれで終わりだ」
「無傷で引き渡そうなんて優しいね。うふふふ!」
先ほどエリスに思い切り殴られた駒場利徳は、ようやくある程度回復する事が出来た。
駒場も動けるようになったと言うのに、シェリー=クロムウェルは未だに顔に浮かべた嘲るような笑みを止めない。
自身におかれた状況が分かっているとは思えなかった。
「くそっ!!」
瞬間、半蔵は後ろに大きく飛び退いた。
シェリーの背後から半蔵が銃を突きつけていたのだが、
その地点にツララの様な石の塊が降ってきたのだ。
身体を後ろに運ばせながらも半蔵はシェリーに向かって弾丸を放っていた。
しかし、それは降ってきた石のツララによって阻まれた。
「あっははは!!この私を止めたいなら四肢千切る位しないと駄目だっての!!!」
嘲るような笑みから一転、してやったりと言ったしたり顔で高笑いをしだす。
「マジでアンチスキル何やってんだよ!!」
いつまで待ってもやってこないアンチスキルに半蔵は悪態をつく。
しかし、すぐ近くで地に伏していたアンチスキル以外の人員も既にシェリーにやられていた為、
すぐさま立て直す、と言う訳にもいかなかったのだ。
「うふふふ、一気に劣勢に立たされたわね。劣等生だから仕方ないのかしら?」
「はは!こんなもん、コンビニでレジまで行ったのに!財布忘れた事に気付いた位の!
その程度のピンチだっつーの!」
「……それは……!中々の危機……だな……!」
チョークを一閃、二閃と振るってエリスを操るシェリーを前に、
それをなんとか避ける事しか出来ない2人はこんなときでも軽口を叩いていた。
「ほらほらほらぁ!!女相手に無様にケツ振って逃げてんなよぉ!!」
エリスが壁を、地面を、地下街のあらゆる場所を、殴る。殴る。殴る。
殴るたびに足がバランスを保てないほど辺りが揺れる。
しかし、シェリーのところだけぽっかり穴が開いたように平静を保っていた。 - 657 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:43:45.85 ID:6YFlyLANo
「ずるいぞ!何であいつのとこだけ揺れてねえんだ!?」
必死で回避し続ける半蔵は、駒場に対して思わず文句を吐く。
「……揺れるのが嫌いなら、あの女のところまで行ってきたらいい……」
「そりゃごめんだね!あんな女の元に行ったら愛ある英国式ハグでデッドエンドだろ!!」
「うふ、この私を前に随分と余裕そうじゃない?」
そろそろステップアップしようか。シェリーの言葉を聞いた時、
2人は誰か来たところで止められる奴居ないだろ、と頭を抱えた。
「今のはメラゾーマじゃない、メラだって言われたポップの気持ちがよくわかるぞ畜生!」
加速する苛烈な攻撃を必死になって避ける。
それでも駒場と半蔵、狙いが二つだったのでどちらかをねらっている隙に狙われていない側が攻撃をする事が出来ていた。
しかし、今になってエリスの動きは変化する。
「……狙いは飛び道具を持つ半蔵からという訳か……!」
2人同時に相手をするのではなく、1人ずつ潰す。
二兎を追うもの何とやら、という考えに行きついたのだろう。
半蔵も狙いは自分だと理解したのか、避ける事に集中する。
「駒場のリーダー!」
「……わかってる……!」
エリスが半蔵を狙っている間に、術者本体を叩く。駒場は一歩も動かないシェリーへと飛びかかった。- 658 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:44:38.00 ID:6YFlyLANo
- 「ふふ、こうなる事が今まで何度あったと思うの?」
ゴーレム使いの弱点。それはゴーレムを無視して操っている本人が直接狙われる事。
そんな事は数多の戦場で戦ってきたシェリーも重々承知していた。
シェリーがチョークを振るう。するとエリスも半蔵を狙った行動をするのだが、
シェリーを狙う駒場の足元からバキバキと音を立て腕が生えてきた。
その腕は駒場の足を掴み、思い切り放り投げる。
一度だけでは飽き足らず二度までもその巨大な体躯を宙へと浮かばせた駒場は、
何とか受け身を取るのだが、勢いを殺しきれずゴロゴロと地面を転がされた。
「大丈夫か!?駒場のリーダー!!」
半蔵は駒場の元へと向かおうとするが、エリスがいるので叶わない。
しかしその一瞬の逡巡を、シェリーが見逃すはずもなく。
「ごはっ……!!」
エリスが拳を叩きつける。そして叩きつけた地面から飛び出す瓦礫の破片に巻き込まれ、半蔵は地に伏した。
「うふ、うふふ。よく頑張ったと思うけど、敢闘賞じゃ誰も守れないのよ」
シェリーはとどめと言わんばかりにチョークを振り下ろす。
しかし、エリスの拳は、誰も叩き潰す事は無かった。 - 659 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:45:32.93 ID:6YFlyLANo
「はァ……どう見てもスキルアウトな2人が必死こいてるってのによォ……
アンチスキルマジで頑張れよなァ……」
駒場と半蔵の表情は驚愕の色に染められた。
何せ目の前の白髪の男は右手だけでエリスの拳を受け止めたのだ。
しかし明らかに運動エネルギーが釣り合っていない。
あの重量を受け止めるだけでも驚きなのだが、受け止めたと言うのに足元にはひび一つ入っていなかった。
「おいおい、何あれ?必死こいて避けてたのにあの拳は見かけ倒しかよ?」
「……そんなわけないだろう、この惨状を見たらわかることだ……」
ともすれば、エリスが弱いのではなく、白髪の男がすさまじい。そう言うことだろう。
「……何にせよ、援軍か。ありがたい」
「あーあ、来るならもっと早く来てくれよなー。まあ何にせよ、助かった」
「悪ィな。色々込み入った事情があるンだよ、こっちにも。
そのうちアンチスキルが来るだろォから、そいつらの案内頼めるか?」
「あぁ、任せとけ」
「……すまないな、この場は任せるぞ」
正直アンチスキルとは関わりたくないと2人は思っているが、
民間の協力者としてふるまえば良いだろうと言う事で一方通行の提案を受け入れた。
「あァ、よくここまで戦った。大したモンだぜェ」
とりあえず駒場と半蔵は敵では無いと一方通行は判断して、軽く会話を交わした。
しかし、そんな3人を見てクスクスとシェリーは笑う。- 660 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:46:19.70 ID:6YFlyLANo
- 「あらあら?これはこれは第一位様ではありませんか、ご機嫌麗しゅう。little lady?」
まるで紳士のようにふるまうが、その言葉の中にはトレーニングしたとはいえまだまだ線の細い一方通行への侮蔑の意が込められている。
一方通行は気にした様子ではないがとりあえず鼻で笑って返答する。
「ハッ、お前の眼は節穴か何かですかァ?」
「うふ、男だか女だかわかんねえようなひょろっちい身体してっから間違われるんだよクソガキ。
オスメス判別しやすいようにコーディネートしてやろうか?」
「おいおい、偉そうなこと言ってる割にファッションセンス0な服装してるお前に言われたくねェな。
アグリーベティも裸足で逃げ出す奇抜な格好してる癖によォ」
「うふふ、うふ。そうやってゴスロリを馬鹿にする人はたまにいたけど、今はもう居ないわ。
全部ぶちのめしてきたから。くふふ、あんたも例外じゃないわよ」
「はン、妄言はおうちに帰ってから言ってろォ。
……shall we dance、ugly lady?」
「なんだそりゃ、似合わねえしアグリーベティと掛けてんのか?ぜんっぜんうまくねえっての!!」
シェリーが再びチョークを振るう事で、戦闘は再開される。
そして駒場と半蔵はシェリーとエリスが一方通行に釘づけになっている間に離脱した。 - 661 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/01(金) 17:47:29.41 ID:6YFlyLANo
- ・・・
「むむ、一方通行が地下に残って、9982号達は地上に避難するみたいだよ!
ってミサカはミサカはナビゲートしてみたり!」
「じゃあ大体その人たちを保護しに行かなきゃいけないね」
パリパリと、呑気にポテチ(コンソメ)を食べながら、
2人の幼女は金髪ジャージのその辺に居そうな不良、浜面仕上に指示を出す。
「はいはい、かしこまりましたよお姫さま方」
何故俺だけこんなところで子守りをしているのか。
スキルアウトのアジトに戻り、車を一台持ってきた。
その際アジトに残っていたスキルアウトに「誘拐は駄目だって駒場さんに言われてるだろ」とからかわれたが。
そして今、9982号達が地上に出るだろうと思われる地点に車で向かっている。
「はあ、駒場さんと半蔵の奴は大丈夫かねえ……」
まあ、一方通行とやらと合流できればどうとでもなるか。とぼんやり思いながら運転を続ける。
・・・
一方そのころ。
「あれ……黒子……?」
「お姉さま、何をしていらっしゃいますの?」
御坂美琴は、一般人の避難を終えたばかりの白井黒子の元へとたどり着いた。
「道に迷ったの……」
「可愛いですの……(そうでしたの、ならば私と一方通行さんを探しましょう!)」
「え、何?」
「迷いながらもお姉さまは私の元へたどり着きましたの。
これはつまり私とお姉さまが運命の赤い糸でつながっている証拠!!
(何じゃありませんの!こうしている間にもアンチスキルの方々は戦っているんですのよ!?)」
本音と建前がエンゼルフォールしていた。 - 671 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/03(日) 00:02:14.48 ID:dLcdmaZco
- 「はぁ、はぁ、アイツ1人で大丈夫か?」
「……問題無いだろう、あの石像の拳を受け止めたのだからな……」
駒場利徳と半蔵は一方通行が通った道を逆走している。
アンチスキルを侵入者の元へと導く為だ。しかし駒場と半蔵は何度か少年院にお世話になった事がある。
故に顔見知りのアンチスキルに当たるとどんな事を言われるかわかったものではない。
「……最悪、黄泉川に出くわさなければ恩の字だな……」
「えっ」
スキルアウトの天敵、黄泉川愛穂。彼女さえいなければ適当に案内してとんずらしたらよい。
駒場はそのように考えていたようだが、半蔵は違った。
「……こんな時に、奴に会いたい等と抜かすつもりか……?」
「うぐっ……!」
実を言うと、スキルアウトとしての活動(主に盗み)で何度か黄泉川に捕まった事があるのだ。
しかし半蔵にとって、黄泉川の美貌と自分達を捕まえるための暴れっぷりとのギャップがどストライクだったらしく、
以降黄泉川になら捕まってもいいやと言わんばかりに、彼女を見かけた時は仕事量が半減したりしていた。
「……まあ確かに、この場に黄泉川が居たらお前のアピールするチャンスか……」
「そうなんだよな、間違って俺に惚れてくれないもんかね……」
「……」
何やら半蔵が走りながらも目を瞑り物想いに耽ると言う器用な事をしだしたので、駒場は口を閉ざした。
半蔵の妄想は続く。
「迫りくる拳に、彼女は目をキュッと閉じ、自身を守るように胸を抱きしめた。
しかしその拳はいつまでたってもやって来ない。恐る恐るその目を開くと、そこには」
「……颯爽と白髪の男が現れ、その拳を受け止めていた……」
「ヤメロオオオオオオオ!!!せっかくフラグ立ちそうなところまで妄想したのによおお!!!」 - 672 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/03(日) 00:04:05.71 ID:dLcdmaZco
- 「誰とのフラグが立つじゃん?」
すると、当事者の巨乳アンチスキルが現れた。
「「げえっ!黄泉川!!」」
「だから私は何処の美髭公じゃん!?」
どうやら下らない掛け合いをしている間にアンチスキル達の元にたどり着いたらしい。
半蔵は、いきなり思い人が現れて思わず叫んでしまった。
駒場は駒場で、
「どうせ黄泉川の事だからこんなことがあれば最前線に居るに決まってるだろうけど、
万が一居なかったらうれしいとか思ってたのにやっぱり居やがった」
と言う心境を一言で表したら上記のようになってしまったのだ。
「つーか何でここに居るじゃん?まさかまた何か悪さしてるのか?」
「俺ら=悪さって酷い誤解!!」
「……今回はただの民間協力者だ……侵入者が暴れているから、援軍を頼みたい……」
「……ふうん、確かに、嘘ついてる感じじゃないじゃん。
それなら案内してもらおうじゃんよ!」
こんなところにジャッジメントでも無い学生がいる事自体問題なのだが、今は一刻を争う。
アンチスキル達は何も言わずについてきてくれるようだ。
「おう、任せてくれ!」
半蔵は意気揚々と逆走してきた道を再び逆走し、駒場とアンチスキル一同は、それについて行った。 - 673 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/03(日) 00:06:13.46 ID:dLcdmaZco
- ・・・
「ほらほらどうしたぁ!?あんたもケツまくって逃げるだけの無能力者と同じかぁ!?
学園都市第一位の名折れだなあ!!」
「チッ……うるせェ女だなァ……」
一方通行とシェリー=クロムウェル、両者の距離はおよそ10m。しかしその間にはエリスが立ちふさがっている。
エリスごとシェリーを吹き飛ばせたらいいのに、と愚痴をこぼす。
しかし余計なところで対立したくないと言うのが本心だ。何せ学園都市の機構とはいえ、今や全世界に妹達が点在している。
もちろんイギリスも例外ではない。ならばこんな事で敵対して妹達の居る研究所を襲撃でもされたらたまったものではないのだ。
確かに研究所の事は秘匿にされているはずだが、魔術師の手が何処まで伸びるのかわからない。
故に退いてもらいたいのだが、はいわかりましたと言って退いてくれるならこんなところには居ないだろう。
ところで、半蔵を庇うためにエリスの右ストレートを涼しい顔して受け止めた一方通行だが、
実を言うと内心冷汗を流していた。
(石像の重さは受け止められたンだが、それ以外の何かが反射をすり抜けてきた……?)
これが魔術。
超能力とは別の法則を以って成り立つ異能の力。
テレビの中の事が無ければこの異能をそらす事が出来なかったかもしれない。
いずれにせよ、ここで魔術を知ることが出来てよかった。と、一方通行は思う。
(時間稼ぎがてら、暴いてやろォじゃねェか……目の前のしらねェ法則を……!)
瞬間、一方通行の身体はエリスの拳で包まれた。そしてその状態で、シェリーはチョークを振るう。
エリスはシェリーの指示に従い、一方通行を掴んだまま地面に壁に天井に、何度も何度も振るう。
そして振るわれた腕の赴くままに一方通行を投げ飛ばした。
その間、一方通行は抵抗の一つも見せず、一回二回とバウンドした後、
ゴロゴロと十数回転ほど転がされたところでエリスによって作られた運動は停止した。
エリスが暴れた事で辺りには土煙が舞う。 - 674 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/03(日) 00:08:05.77 ID:dLcdmaZco
- 「うふ、うふくふふ。もう終わり?第一位ってその程度なのかしら?」
こんなに簡単に仕留められるとは、シェリーは正直拍子抜けだった。
だがしかし、そんな考えはすぐに霧散する。
「はァ……こンなもンで満足してるたァ……哀れだなァ……抱きしめたくなっちまう位哀れだわ」
土煙が晴れる。まるで意志を持っているかのように。
シェリーの視線の先、そこには獣のように、地面スレスレに四つん這いになる一方通行が居た。
一方通行の顔には壮絶で獰猛な笑みを浮かべていて、
とてもじゃないがダメージを受けているとは思えない。
「は、はは」
そんな一方通行を見て、シェリーは笑い声を洩らし、
「あははははは!!!良いよあんた!!すっげえイイ!!」
それを皮切りに狂ったように高笑いをする。
そして嬉しそうに、楽しそうに、まるで恋人へ向ける愛のように、殺意を磨く。
鋭い殺意を向けられた一方通行もまた、
殺意をぶつけられる相手を見つけて喜びを殺意を以って表した。
「ひゃははは!!よかったなァまだまだ暴れられンぞコラァ!!」
一方通行は叫び声をあげると同時に両手両足に力を込める。
そのベクトルを操作し、ロケットのようにエリスに向かって飛びかかった。
「はっはァ!!転蓮華ってなァ!!」
一方通行はエリスの首を足で締めあげると、そのまま身体ごと側方に倒し、首から上をボキリと千切る。 - 675 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/03(日) 00:10:38.50 ID:dLcdmaZco
- 「うふふ、首をねじり切ったところで、止まらないわよ?」
「ハッ、そンなこたァ百も承知だっつうの!!」
千切られた顔は地面に転がると、そのままドロリと溶けていったが、
顔を無くした胴体からは、再びむくむくと顔が生えてきた。
(成程なァ……あの石人形は切り離された部分が近くに無ければ周りにある全ての物を使って再生するのか……面倒だなァ)
シェリーそのものを叩ければどンなに楽かと思考を逃げ(攻撃)に回そうとするが、それでは駄目だ。
(思うにあの石人形を操るためのラインみたいなモンが存在しているはずだ。
魔術と言う未知の法則とは言え、所詮はこの世に存在している法則。
ならこの俺に操作できねェはずはねェ)
エリスとシェリーをつなぐ、魔術的なライン。
シェリーがチョークを振るうのと同調してエリスが動いていると言う事はそれが存在しているはずだ。
もしくは、例えエリスが完全自律型の石人形だとしても、エリスを動かすための『核』があって然るべき。
なぜなら、先ほど千切り飛ばしたエリスの顔。それは胴体から離れた後泥に還り、一方胴体の方は顔が再生したからだ。
すなわち、エリスの胴体のいずれかに石人形に成る為の『核』があると言う事の証明に他ならない。
ならば、シェリーがエリスを操るためのラインかエリスに埋め込まれている『核』。そのいずれかをどうにかしたら良いはず。 - 676 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/03(日) 00:11:23.80 ID:dLcdmaZco
- (ならばアンチスキル共があの石人形を撃破するための手助けをしてやったら良いはずだァ)
簡単に言えば、表向きはアンチスキルが石人形を破壊し、
シェリーを撃破したというシナリオ。その裏で一方通行が動けば良い。
アンチスキルはしっかり被害を出していたので、
ちょっとくらいシェリーが怪我してもアンチスキルがした事ならば十分言い訳も立つ。
問題は、撃破後にどうやってさっさと帰ってもらうかだ。
(つゥかこれが一番の問題だよなァ……)
相手は単身で学園都市に乗り込んできた猛者。少し負傷した程度で退くわけがない。
一方通行が考えをまとめあぐねていると。
「よーしよくやったじゃんお前ら!と言う訳で2人はさっさと帰るじゃん!!」
「なに!?つーかこっちは人探してるんだけど!?」
「ああん!?一般人の避難ならジャッジメント達に任せてるじゃん?!
ここに居る民間人はお前ら2人とそこに居る一方通行だけじゃんよ!!」
「あれが一方通行!!?」
「……成程……道理で強いはずだ……」
「あァ?俺になンか用かァ?」
「……打ち止めが迷子になっていたから保護していたのは、俺達だ……」
「ってもここに連れてくるのはあぶねーから今は地上で待ってもらってるけどな」
「……そりゃありがてェ。後で飯でも奢ってやらァ」
「おー、そりゃありがたい。ゴチになるぜー!」
「あら?負け犬どもがゾロゾロと……またやられに来たのかしら?うふふ、マゾってやつ?」 - 677 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/03(日) 00:12:23.04 ID:dLcdmaZco
- 殺意と殺意のぶつけ合い。
それはアンチスキル達と2人のスキルアウトの介入によってストップさせられた。
なんとまあ気が抜ける。こっちはあれこれ考えていると言うのに。
一方通行は溜息を一つつき、ガリガリと頭を掻く。
「はァ……あの石人形をブッつぶす算段は付いてンのかァ?」
「かんがえてないじゃん?」
「……」
駄目だこいつ。
「まあ、一応あの金髪の背後にもアンチスキルを回すようにしてるから、
そいつらが到着するまで持ちこたえるじゃんよ」
挟み撃ち。あの石人形を出す前に動きを止められるのなら有効だろう。
「了解。適当にあの石人形の相手するから、あの女が逃げられねェように固めろよォ」
「わかってるじゃん!」
「作戦会議は終わった?うふ、どうせ無駄でしょうけど」
「わざわざ待っててくれるたァ悪者の手本みたいな奴だなァオイ」
「うふ、イギリス清教では相手の話が終わるまではちゃんと待ってなければならないと言う暗黙の了解があるのよ」
「はっ、なンだその特撮悪役の大原則みてェなルール」
「嘘よ」
「なンだ嘘か……よっ!!」
戦闘は、再び始まる。 - 679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 00:22:17.24 ID:dLcdmaZco
- ・・・
「音はあっちから聞こえたって!!」
「いいえこちらから聞こえましたの!!」
御坂美琴と白井黒子は、言い争っていた。
自身の聴覚が正しいと信じてやまない御坂と、
あれだけ迷っておいてどうして御坂の意見が信じられようか、いや信じられないと言う白井。
意見はまさに真っ二つ。たがいに反対方向が正しいと指し示していた。
「じゃあこうしましょう!二手に分かれましょう!!」
「なっ!!確かに有効な手段かもしれませんが……」
白井はお姉さまと離れるのイヤイヤオーラを出すが、御坂は完全スルーした。
「良いわね、何か見つかったら連絡する事!!」
「は、はいですの……」
結局意見を押し通された白井は渋々自分が正しいと思う道を行き、御坂と別れた。
・・・
「ほらほら、逃げてばっかりじゃいずれ後ろで構えてる蟻共を潰しちまうぞぉ!!」
一方通行はエリスの拳を避けつつも、アンチスキル達に被害が及ばないように周囲にも気を遣っている。
回避をしながら、飛び散る破片を全て叩き落とし、
今のところはアンチスキル達は一つも攻撃を浴びていないと言う状況だ。
「チッ……ガキみてェにじたばたしやがってよォ……少しはおとなしくしやがれってンだ!!」
エリスの拳を受け止める。
本来壁を殴れば壁が砕けたし地面を殴れば地面に穴があいているのだが、
一方通行が受け止めた時に限り、エリスの拳がひしゃげるのだ。
「うふふ、本当に、面倒くさい力をもっているのね、あんた!!」
「ハッ、そりゃどーも!!ついでにくれてやンよ!!」
地面に散らばっている瓦礫を軽く蹴りあげる。
するとそれはエリスに直撃し、エリスは勢いに負けて倒れてしまった。
「!!今じゃん!一斉掃射!!」
エリスが倒れた瞬間、エリスの影に隠れていたシェリー=クロムウェルの姿が露わになる。
その隙をついて射撃の用意をしていたアンチスキル達は、
黄泉川愛穂の号令に合わせ一斉に射撃を行った。 - 680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 00:42:04.88 ID:dLcdmaZco
「ちっ……エリス!!」
シェリーは射撃に当たらないように伏せながらも、チョークを一閃させてエリスを立ちあがらせた。
エリスが倒れているうちは射撃も通ったのだが、エリスが立ちあがった瞬間、銃弾はエリスに当たって辺りに兆弾しだした。
それもそのはず、エリスの体を構成する物質は、辺りに散らばっている何かの鉄塊やコンクリートの寄せ集めだ。
そんなトン級の重量を誇るエリスに向かって銃弾を飛ばせば、あちこちに跳ね返るに決まっている。
おそらく、それのせいで先ほどは、アンチスキルがなす術もなくやられたのだろう。
これではそれの二の舞である。
「オイ黄泉川ァ!!無駄弾ばらまくンじゃねェよ!!チャンスはまだあるからその時まで我慢しろォ!!」
「うぐっ、ごめんじゃん……」
一方通行の叱咤を受けて、黄泉川はちょっとションボリする。
援護のつもりが邪魔にしかなっていない現実と、子供にしかられる大人ってどうなのと言う二重の悲しみが襲ってきたのだ。
(チッ……解析が終わらねェ……戦いながら解析ってのはやっぱ面倒だなァ……)
と、内心愚痴る一方通行だが、ふとテレビの中の事を思い出した。
―――『鉄の騎士』の事。
―――毒のスピアに貫かれた事。
―――「体を操作」しながら、「体内に侵入した毒の排除」をした事。
あの時の感覚を思い出せ。
「体を操作」しながら、「体内に侵入した毒の排除」をした事の「」部分を、
「魔術を解析」しながら、「敵の攻撃を防ぐ」に置き換えれば良いだけの事だ。
とはいえ、「敵の攻撃を防ぐ」と一言に言っても対象が自分自身だけではなく周りのアンチスキル達や2人のスキルアウトも対象だ。
演算量はあの時よりも多いはず。
しかし、それをこなせなければ、学園都市から守りたいものも守れない。
集中しろ。
集中しろ。集中しろ。
集中しろ。集中しろ。集中しろ。
集中しろ。集中しろ。集中しろ。集中しろ。
集中しろ。集中しろ。集中しろ。集中しろ。集中しろ。
回避しろ、集中しろ、防御しろ、集中しろ、解析しろ、集中しろ。
集中、集中、集中―――
「っ……!」
カチリ、と頭の中で歯車が繋がった気がした。- 681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 00:54:50.89 ID:dLcdmaZco
- ・・・
「やっぱり、私が正しかったですの……」
白井黒子のおよそ50m先、そこで巨大な石人形が暴れていた。
その手前には金髪の女が何かを振るっている。
おそらくそれで石人形を指揮しているのだろうとあたりをつけた。
そう、一方通行の事は白井から見えてはいないのだが、
偶然にも白井と一方通行で挟み撃ちになっていたのだ。
白井は挟み撃ちが出来るとわかったのだが、一方通行がいるとはわからない為、
どうやってその事を伝えようか判断に困っていた。
とりあえず御坂美琴に連絡を取ろうかとも考えたが、おそらく迷子だろう。
挟み撃ち出来るのに、意外と手づまりで地団駄を踏む。
すると、白井の背後からアンチスキルの部隊がやってきた。
「君は……ああ、ジャッジメントの子か。丁度いい、君も挟み撃ちに協力してもらえないか?」
「と言う事は、あの背後では、アンチスキルの方々が戦っていらっしゃるので?」
「まあ、そうだな……多分第一位が協力してくれているはずだ」
「そうなんですの」
結局戦ってるんじゃないか、と心の中でクスリと笑うが、すぐに気を引き締める。
『こちらアンチスキル第八十四支部才郷良太。目標の反対側に到着しました』
『おっけーじゃん。それならあの石人形を一方通行が張り倒すから、それを合図武器を構えるじゃんよ』
『了解』
才郷良太と名乗ったアンチスキルは、どうやら向こう側に居るアンチスキルに連絡を取ったようだ。
「では、あの石人形が倒れ次第、行動開始だ。いいな?」
「「了解!(ですの!)」」
シェリー=クロムウェルにばれないよう小さな声で一同は了解の合図をだした。 - 682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 01:02:10.61 ID:dLcdmaZco
- それを合図に武器を構えるじゃんよ
に脳内変換ぷりーず - 683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 01:25:11.96 ID:dLcdmaZco
- ・・・
駒場利徳と半蔵の二人は、アンチスキルの後ろでただ茫然と戦いを眺めていた。
「はぁ、いやになっちまうよなあ……隣の芝は青いっていうけどさ、青どころか黄金に輝いてるよ、マジで」
「……確かに、あの巨大な石像と渡り合っている一方通行の能力はすさまじいだろうな。
……しかし、よく見てみろ、一方通行の動きを」
半蔵が無能力者と超能力者の差に嘆いているが、駒場は一方通行に関して何かに気付いたらしい。
それが何なのか半蔵にはわからないが、駒場の言うとおり一方通行の動きに注目する。
「んあ?何を言って……って、合気道みたいな動きしてんな。能力ありゃ十分じゃねーの?」
一方通行は、能力で力の向きを操作しながらも、習った合気道によってより簡単に力の向きを変更し、
その分の演算区域を出来るだけシェリー=クロムウェルの魔術の解析に使用していたのだ。
「……何故かはわからないが、能力に頼っているだけの人間では無い、と言うことだろう。
……すなわち、俺達無能力者の使う技術も、全く必要ないと言う訳ではない……
ならば俺達が今まで鍛えてきたという事実も、無駄ではないと言う事だ……」
魔術の解析をしている、と言う事を2人は知らないが、超能力者である学園都市第一位『一方通行』が、能力だけでなくそういった無能力者の使う技術も必要としている。
その現実が、2人の心を少しだけ救った気がした。
・・・
それを理解した時、喉に詰まっていた魚の骨がとれたような、
それか思い出せない言葉をパッと思い出したかの様な、そのような類のすっきりとした感覚が体中を廻った。
解けなかった数式が解けた時。
意訳に迷っていた英文を上手に噛み砕けた時。
一言でいえば、ピッタリとハマった。そう表現するのが正しいだろう。
「成程なァ……成程、成程」
急に黙りこんでうんうんと頷く一方通行を、シェリー=クロムウェルは怪訝そうな表情で見つめた。
「うふふ、どうしたの急に?」
「あァ?なンだよ人様がわからなかった問題を一つ解けてすっきりしてたってのによォ」
「問題?うふ、何を世迷い事……」
シェリーが言葉を紡いでいる最中に、一方通行はエリスの足を掴み、地面へと引き摺り倒した。
「今じゃん!構え!!」
黄泉川愛穂の号令によって、アンチスキル達は一斉に銃とバリケード用の盾を構え、
白井黒子もいつでも拘束できるように金属矢を手に取った。
「うふ、今更出てきて何をしようっての?」
いつの間に後ろに居たのやら、と言った具合で後ろを振り向きながらも、エリスを立ち上がらせようとした。
「撃て!!」
黄泉川はエリスの動きを見て、一斉に銃を乱射させる。
シェリーはまたやられに来たかと、この行動を鼻で笑いながら銃弾に巻き込まれないよう、地に伏せた。
しかし数百を超える銃弾は、
紙に穴をあけるように簡単に、
エリスを撃ち抜いた。 - 684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 01:46:59.96 ID:dLcdmaZco
- 「ッ!!?」
何故?
先ほどまでいとも簡単に銃弾をはじいていた、と言うのに。
何をされた?
わからない。
銃弾が変わった?
否。そんな動きは見られなかった。
なら、撃ち抜かれる前、何が起きた?
―――一方通行が、エリスを地面に倒した。
「……てめぇか……!!」
ギリッと歯ぎしりをさせながら、一方通行を睨みつけた。
「あァ?俺ですかァ?知りませェン。アンチスキルの方々の武器の威力がすごいンじゃないですかァ?」
いやァ、学園都市ってすごいですねェ。とニヤニヤしながら語る一方通行を見て、
シェリーはやっぱこいつが何かしたのか、と理解した。
実はその通りで、シェリーの扱う魔術の解析が終わった一方通行は、
エリスの足を掴んだ際、エリスを象った物質同士のつながりを緩めたのだ。
最早ただの塊を化したエリスを、学園都市製の銃弾が完全に瓦解させるのに問題は一つも無かった。
これで『パッと見アンチスキルが侵入者の攻撃を防いだ』と言っても差支えないだろう。
後はシェリーがゴーホームしてもらうのを待つだけだ。
「さて、そろそろお縄についてもらいますの。侵入者さん?」
怒りと殺意をぐちゃぐちゃに混ぜたような視線を一方通行に飛ばすシェリーに対して、
アンチスキルと白井黒子が一歩前に出た。
それによってシェリーは頭に冷水を被ったように、頭を冷やして急速に落ち着きを取り戻した。
そして辺りを見渡す。武装したアンチスキルに、未だ健在の一方通行。
ついでに一時とは言え初めて自身を拘束したテレポーター。
状況は、どう見ても絶望的だった。
「は、はは。なんだそりゃ。これじゃ、どこにも逃げられないじゃない」
「逃げなくても、お縄につけばいいじゃんよ」
黄泉川が銃を構えながらもジリジリとシェリーに向かって近づいて行った。
(はァ、流石にこれなら詰みだろォ)
一方通行は、さっさとなンかして逃げ帰れよ、それくらい余裕だろォが。と、心の中で念じた。
「あははははは!」
シェリーは思い切り笑いながら地団駄を踏む。
この行動に一同は疑問を浮かべるが、目的がはっきりした。
「「!!?」」
何とシェリーの足元にはぽっかりと穴があき、地下街の更に地下へと落ちて行ったのだ。
全員その穴へと走り込むが、走る足音が聞こえてきた為、逃走を図ったと判断された。 - 685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 01:51:07.24 ID:dLcdmaZco
- ―――一方通行が
って書くとあれだな、一がすげえ長く見えるな。
――― 一方通行が
って書いた方が良かったのね。
ちょっと休憩するね。疲れたもん - 686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 02:16:09.49 ID:dLcdmaZco
- ・・・
「黄泉川さん。どうしますか?」
アンチスキルの一員である才郷良太は、黄泉川愛穂の指示を仰いだ。
「これが罠である可能性が否定できないじゃん。
まさかこの下に地下鉄の線路が通っていたとは……ぬかったじゃんよ」
シェリー=クロムウェルは、地下街の更に下にある地下鉄の通路を利用して逃走をしたのだ。
おそらく、念には念を入れてこの場で戦ったと言うことだろう。何と用意周到な事で。
(これで帰ってくれればいいンだが)
一方通行はさっさと帰りたいという気持ちを抑えつつシェリー=クロムウェル帰れと念じる。
しかし、何かが引っかかる。根本的に解決していない気がする。
ふと、シェリーの言葉を思い出した。
「うふっ、くふふ、うふふっふふふ!禁書目録に虚数学区の鍵に、
第一位とさっき居た電気を使う女の子じゃない!まさによりどりみどりって奴ね。迷っちゃうわあ」
『禁書目録と虚数学区の鍵』
「まあ、ぶっ殺しちまえばいいよね。全部」
『狙いは第一位だけでは無い』
―――お前……戦争でもしてェのかよ……?
一方通行は、そこでハッと何かに気がついた。
「別に俺達を撃破する必要はねェンだよな……」
「ん?どうしたじゃん、一方通行?」
黄泉川は一方通行に尋ねるが、一方通行は何やらぶつぶつと呟きながら考え事をしている。
「なァ、あの金髪なンか言ってなかったか?」
一方通行は自身の考えの裏付けを求めて、長くシェリーと対峙していたとみられる2人に尋ねた。
「んあ?あー、何か言ってたような……」
「……戦争の火種が欲しいから、暴れ回ってるんだ、みたいな事は言っていたぞ……」
駒場の言葉にアンチスキルの一同はギョッとするが、一方通行は確信を得た。
「クソ!!ってこたァ逃げたンじゃなくてターゲット変えただけかよォ!!」
一方通行は悪態をつきながら穴の中へと飛び込んで行く。
話についていけない一同は、ただ一方通行の動きをぼんやりと眺めるだけで終わってしまった。 - 690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 02:35:18.29 ID:dLcdmaZco
- ・・・
「もぐ!もぐもぐもぐ!!うん、このポテチは中々かも!!」
「あー!大体そんなに食べちゃ駄目ー!」
「あなたはすっごく欲張りさんなんだね!ってミサカはミサカは呆れてみたり!」
「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ、
独り静かで豊かで・・・と、ミサカはこのやかましい中もしゃもしゃとビーフジャーキーを食します」
「ええいやかましいぞ貴様らッ!!!」
今現在、浜面組と合流した9982号組は、互いに軽く自己紹介をした後、
浜面仕上達が乗ってきたワゴンでドンチャン騒ぎをしていた。
フレメア=セルヴェインと打ち止め、インデックスの3人は後部座席できゃいきゃいとポテチの取り合いをしていて、
9982号はその取り合いに巻き込まれもみくちゃにされながらもげんなりとした表情で何処から持ってきたのかビーフジャーキーを食べていた。
そして。
「何だかすみません……お世話になってしまって」
「うへへ、別にかまわへんのよ……うふひひひ」
助手席に座る爆乳ガール・風斬氷華を見て、浜面の鼻は伸びっぱなしだ。
車は止まっているのにシートベルトをしている風斬。正直言って可愛い。
二つの丘に挟まれたシートベルトを見ていると、シートベルトが憎くて憎くてたまらないと感じる筆者。
今現在、浜面仕上は一方通行を越えるハーレムだった。
しかしその表情はイマイチ明るくない。
「はぁ……これが皆風斬ちゃんみたいだったらなぁ……」
「ミサカじゃ不満ですか?と言いたいところですが、あなたには言われたくねーです」
「うぐっ」
9982号の突き放した口調と、その言葉の節々に感じる「どうせあなたにフラグなんて立たない」と言う侮蔑。
「へっ……負け犬上等ォォ!」
浜面は自身のモテナイっぷりを鑑みて、それでも諦めずに奮起する。
「「!!?」」
しかし突如として、コンクリートで舗装されているはずの道路が、文字通り弾け飛んだ。 - 691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 02:53:38.41 ID:dLcdmaZco
- 「なんだなんだ!?」
浜面は思わずワゴンから降りてその弾け飛んだ道路へと向かった。
するとそこには、
「ッ!!?」
巨大な石像に乗る金髪の女がいた。
一目見てわかった。
―――侵入者だ。
どう足掻いても勝てないだろう。浜面は素早い判断を下し、ワゴンへと駆けこんだ。
「あらぁ?うふふ、第一村人発見、てかぁ?」
シェリー=クロムウェルは、目の前のワゴンをとりあえず叩き潰して、
暴れながら禁書目録と虚数学区の鍵を探そうと決めた。
とりあえず最初の犠牲者は、目の前のワゴンに乗っている人々だ。
シェリーは舌舐めずりをしながら、エリスに獲物を狩るよう指示を出す。
エリスはズシンズシンと音を立てて走ってきた。
浜面は慌てて車を発進させようとするが、エンジンがうまくかからない。
学園都市製の車がなんてベタな真似を!!と心の中で叫びながら必死で鍵を捻る。
しかし、背後からは見た事も無いほどの巨大な石像が迫ってきている。
これは車を乗り捨てた方がいいのではないか、と生死を分ける判断を迫られた浜面だが、
思考は白いシスターによって中断された。
「ここは私に任せてほしいかも」
インデックスは、ワゴンから飛び出して、エリスの前に立ちはだかった。
「ばっ!!ガキが無茶してんじゃねえよ!!」
「先に行って!!狙いは多分、私かひょうかだから!!」
「な」
に言ってるんだ、と言おうとしたのだが、その叫びはインデックスの透き通るような声に遮られてしまう。
「左方へ歪曲せよ(TTTL)」
一言、宣告した。
それだけで、エリスがインデックスに向かって振り下ろすはずの拳は、左にそれて地面を叩きつけた。
どういうことだ、と浜面は考える。同時に、エンジンがかかった。
「早く、私が時間を稼ぐから」
逃げて。とインデックスは視線で訴える。
そうだ、インデックスが何をしたのかなんて考えている暇は無い。
「クソッ!!適当なとこにこいつら放り込んだら、戻って来るからな!!」
女の子に守ってもらうなんて、本当に情けねえな。と自嘲しながらようやく走りだせる状態になった車を、前方へと進めだした。 - 692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 03:14:27.00 ID:dLcdmaZco
- ・・・
「あらあら、わざわざターゲットが残ってくれるなんて、ひょっとしてイージーモードかしら?」
得意気にチョークを振り回しながら、シェリー=クロムウェルは笑う。
「上方へ変更せよ(CFA)。左足を後ろへ(PIOBTLL)」
シェリーはエリスに、インデックスを叩き潰そうと指示をだすのだが、
インデックスの奇妙なアルファベットの羅列の朗読によって阻止されている。
彼女の発音法は、詠唱の暗号化と高速化を担うもので、
膨大な魔術の知識を頭に納めているからこそできる芸当である。
―――強制詠唱(スペルインターセプト)。
これは魔術を詠唱中の魔術師に対して、でたらめなアルファベットの羅列を囁く事で魔術師の思考を遮り、
詠唱をでたらめな状態で完成させると言うものだ。
目の前のゴーレムは、明らかにシェリーと言う術者が操っている。
ならばそれの邪魔をすれば、時間稼ぎが出来るだろう。
こんなとき、いつもは上条当麻が颯爽と現れて、魔術師を殴り倒すのだろう。
しかしインデックスは、何故か今日は一方通行が来るような気がした。
・・・
「あれ?地上だ……」
御坂美琴は、久々の日の光にうーん、と伸びを一つ入れた。
「ってなんでよ!!」
何故こんな結果になったのか。御坂には理解が及ばない。
思わずノリ突っ込みをしてしまったほどだ。
だがしかし、神は御坂に微笑んだ。
「あれ?侵入者と……白シスター!?」
前方で、巨大な石像がインデックスを追い回していた。
・・・
「あの……私も、行かせてください……!」
「ミサカは当然ついて行きますよ。と、ミサカは懐から銃を取り出し準備をします」
「まてまてまて!俺は戻るのは当然として、打ち止めとフレメアを守ってもらいたいんだが!!?」
3人は、誰がインデックスの元へ戻るのか揉めていた。
浜面仕上は、当然自分が戻らねばと思っているが、2人もインデックスを助けたいらしい。
9982号はただ単に出番が欲しいだけかもしれないが。
「何にせよ、じかんはねーから、風斬ちゃんと御坂ちゃんジャンケンでどっちか一人だけな!!」
「うぐ……仕方ないですね……じゃんけんしますよ。と、ミサカはグーを出すと宣言します」
「え、ええと……じゃあ、行きますよ……」
じゃんけんぽん。
9982号、チョキ。
風斬、グー。
「グー出すって言ったじゃないですか!!」
「で、でも……」
「ええい負けは負けだ!!打ち止めとフレメアの事頼んだからな!!」
おどおどする風斬を庇うように、浜面は叫び、3人をワゴンから降ろすと、猛スピードでUターンして行った。
「ああ……出番」
「だ、大丈夫?ってミサカはミサカは慰めてみたり……」
「私たちほど、でばんは大体少なくないと思う。にゃあ」 - 693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 03:30:29.53 ID:dLcdmaZco
- 「右方へ変更(CR)。両足を交差(BBF)。首と腰を逆方向へ回転(TTNATWITOD)!」
インデックスの強制詠唱によって、ゴーレムは滅茶苦茶な動きをする。
それはまるで初心者のダンスのようで、それはまるで酔っ払いがやみくもに手を振り回しているようで。
滑稽だった。
しかし、そんなエリスとインデックスを眺めていたシェリー=クロムウェルは、
「流石10万3千冊を誇る魔道図書館。強制詠唱はお手のものってかぁ?」
インデックスの知識量を褒め称えながらも、嗜虐的な笑みを浮かべてチョークを振るった。
瞬間、突如としてインデックスの命令を受け付けなくなったエリスは、予定通りインデックスを叩き潰すべく、拳を振るった。
それだけでインデックスは理解した。
―――ゴーレムは、遠隔操作から、自動制御に切り替わったのだと。
(ま、ずっ……)
まずい、と思う事すらかなわないうちに、拳はインデックスの元へと迫っていた。
「あんたこんな小さいのになにやってんのよ!!」
しかし、エリスの拳は、インデックスの目の前でストップした。
「あら?あなたはツインテールの子と一緒に居た電気の子!お久しぶりねえ」
「お久しぶりねえじゃないわよ!!こちとら地下街で迷ってたってのに、何で地上にでてんのよ!!?」
「そんなことより、エリスの拳、どうやって止めてるの?うふふ、是非教えてほしいわね」
「はぁ?私が電撃使いってわかってるんだったら簡単な話じゃない」
「電撃使い……ああ、なるほど。体の中に鉄とかも含まれてるからか……」
シェリーは突如として現れた御坂美琴の解説を聞き、得心した。
「つまり、エリスを完全にコンクリのみで構成してやれば良いのね?」
御坂に質問をしながらも、チョークを一閃させると、エリスの体から鉄筋やら何やら導電率の高い物質がボロボロと零れ落ちて行った。
「はい、これでほぼ導電率は0に近いものになったけど、どうする?」
「短髪、自分でペラペラと能力を語るのは頂けないかも」
「誰が短髪よ!どうせいつかばれる事でしょうが!!」
ぎゃーぎゃーと2人は言い争うものの、そんなことをしている暇は無いと理解しているのか、キッとシェリーを睨みつけた。
「「覚悟しなさい!(するんだよ!)」」
「……それは、こっちのセリフだっての!!!」 - 694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 03:41:30.71 ID:dLcdmaZco
- ・・・
「……つうかさ、俺もあっちに戻ったところで何もできないかもしれねえってのに、
風斬ちゃんはどうするつもりなんだ?」
浜面仕上は、自分で言ってて虚しくなるが、風斬氷華にはとてもじゃないがあのデカブツをどうにかできるとは思えなかった。
「確かに、何もできないかもしれない。けど……友達が、戦ってるから……」
弱弱しい口調で、フルフルと震えながら語る風斬は、おおよそ「頼れる」とは思えなかった。
しかし、
その言葉は、
まぎれもなく本心で。
「……そっか。でも、無茶はするなよ」
浜面も、風斬を止める事は出来なかった。
・・・
「ていうか!何であの金髪ブッ倒したら駄目なのよ!!?」
「事情はあくせられーたにきいてほしいかも!!とにかく、倒すのはこの街の治安部隊じゃないと駄目だって!!」
御坂美琴は超電磁砲を放つのは3度目である。しかしいずれも石人形が再生して終わるだけだった。
直接石人形を操る人間を狙った方が早い、と言う御坂の正論に対して、インデックスは真っ向からそれを否定した。
「ええい、とにかく一方通行かアンチスキルが来たら良いのね!!だったら時間稼いでやろうじゃないの!!」
御坂はぷりぷりと怒りながらも、4度目の超電磁砲の準備を始めた。
・・・
「!誰かと一緒にあのデカブツと戦ってる……」
「あれは……御坂さん……?」
「知り合いか?だったら早く行った方がいいな……
風斬ちゃん、ちょっとここでワゴンから降りてくんね?」
「え?どうして……?」
「ちょっと考えがあってな。あのデカブツぶっ飛ばしてやる」
「……?よくわからないけど、わかりました。気をつけてくださいね……」
風斬氷華が降りたのを確認すると、浜面仕上は再びワゴンを走らせた。その距離およそ100m。 - 695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 03:54:23.80 ID:dLcdmaZco
- ・・・
「ああもう、早く誰か来てー!!」
御坂美琴は再生を続ける石の塊に辟易していた。
それだけならいいのだが、実は御坂もそろそろ充電が切れそうなのである。
学園都市第3位とはいえ、能力の使用には限度がある。
何度も何度も超電磁砲などと言う大技をかませば、能力使用に限界が来てもおかしくは無いのだ。
更に今は平時ではなく戦時。精神的に限界が来るのもいつもより早くて当然である。
さてどうしたものかと思案しているところに、黒塗りのワゴンが突撃してきた。
「そこの2人―!!!どけえぇえええ!!!!」
「「!!?」」
その叫び声とワゴンのエンジンによる叫び声のシンクロを聞いて思わず横へと転がって行った。
「KUTABAREデカブツゥゥゥ!!!」
浜面仕上もまた、限界まで加速したところで車から飛び降り、転がって行く。
そして加速された車が、突然止まれるはずもなく。
エリスと言う巨大な石の塊にぶつかった事で、ようやく止まった。
その代わり、爆発したけど。
ワゴンと言う鉄の塊×速度×爆発=浜面の魂の叫び。
エリスだったものの破片は、パラパラと辺りに散らばった。
「あ、あんた中々ド派手な登場するじゃない……」
「あれ?御坂ちゃん?……じゃないなゴーグルしてないし、姉妹いるよね?」
「え?ああうん、いっぱいいるわよ」
「いっぱい居んの?まあいいや、俺浜面仕上。しがないスキルアウトです」
「私は御坂美琴よ、よろしく。こっちはインデックスって言うの」
「しあげ、さっきの登場はすっごくカッコ良かったかも!」
「へ?おう流石だろ?」
「ってあんたら知り合い……?どういう経緯で知り合ったんだか……」
と、和気藹々と会話を交わす。
「あ、あのー……」
「あ!ひょうか!!大丈夫だった!?」
「え、えと……何もしてないから無事、だよ……」
意を決してここまで来たと言うのに、本当に何もしていない風斬氷華は、しょんぼりしていた。
さて、ここで問題。風斬ちゃんは、シェリー編で何回しょんぼりしたでしょう。答えはSS読み返してね。 - 696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/03(日) 04:03:39.89 ID:dLcdmaZco
- ・・・
モクモクと煙が上がっている。
シェリー=クロムウェルはおそらく無事だろう。エリスの後方10m程の位置にいたし。
自己紹介もほどほどに、辺りの警戒を再開する。
何処から攻撃が来るかわからない。何せ相手はコンクリを石人形に変えるのだから。
「これで終わりならありがてえけど」
「……多分、終わらないわよ」
御坂美琴の言葉に、浜面仕上はゲンナリとする。
そう、あくまでも石人形は作られたもの。壊されたのなら作ればいい。
「エリスはこの程度じゃ、壊れないわ。うふふふふ」
ひゅん、と何かが空を切り、飛来してきた。
それは高速でインデックスへと向かって行く。
シェリーの言葉に気を取られたのか、それとも飛来した何かが速すぎたのか、或いは両方か。
いずれにせよ、高速で飛来する石に気付けなかった。
―――風斬氷華を除いて。
「!?危ない!!」
その石に気がついた風斬は、インデックスと石の間へと滑り込んだ。
しかし、それが精いっぱいだったのだろう。
パキン、と甲高い音を立てて、何かガラスが砕けるような音が響き渡った。 - 706 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/03(日) 23:55:58.57 ID:dLcdmaZco
- 「チッ!!あちこちに無駄に罠仕掛けやがってェエエェ!!」
盛大に愚痴を叫びながら地下鉄の通路を駆け抜ける。
何せ地下鉄の通路が無駄に枝分かれしていたせいで盛大に惑わされたのだ。
「あァもォいい!!一端外出るわ畜生ォォ!!」
面倒くさくなった一方通行は最初に見つけた駅から地上に出る。
そして高々と宙に飛びあがると、シェリー=クロムウェルが何かしていないか、周りに聞こえてくる音に集中した。
すると、先ほど嫌と言うほど聞かされた、ズシンズシンという地響きの様な音が響き渡ってきた。
音が響き渡る。
と言う事はすなわち戦闘が再開されているのだろう。
急がなければ。
9982号も付いて行っているがあの石人形とは相性が悪いはずだ。
すると大爆発が起きた。
何事かと眼を凝らすと、車が石人形にぶつかって爆発したのだろうと予測が出来た。
「っとよォやく見えてき……!!」
遠目からでもわかった。思わず目を見開く。
燃え盛る炎と煙を境目にして、シェリーが何かをして、石のような物を飛ばした。
高速で飛翔している今、まざまざと見せつけられた。
銃弾のように、インデックスに向かって突き進む石。
炎と煙の壁によって、それに気付かないインデックス。
一方で、一同の中で1人だけ気付いて石とインデックスの射線上に飛びこむ風斬氷華。
そして。
「風斬ィィィ!!!!」
風斬をとらえた、直径10cm程の石を、一方通行は止めることが出来なかった。 - 707 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/03(日) 23:56:36.61 ID:dLcdmaZco
- ・・・
シェリー=クロムウェルの攻撃を受けた風斬氷華は、糸の切れた操り人形のように、地面に倒れ伏した。
「ひょうか!!」
そんな風斬を見て、インデックスは心配そうに駆け寄る。
風斬は、うつ伏せに倒れたまま、ピクリとも動かない。
「ひょうか……?」
ゆさゆさと、インデックスは一つも動かない風斬を揺する。
少し強く揺すったせいかゴロンと、風斬の体が仰向けになった。
「ッ!?」
仰向けになり、風斬の顔が露わになる。
しかし、彼女の顔は、文字通り欠けていた。
彼女の顔には、ソフトボール大の穴がぽっかりと開いていて、その中は、空白。
人体が機能するために必要な部位が、何一つ無かった。
その代わり、その頭部の中では、三角柱の形をした何かが、かちゃかちゃと音を立てて稼働していた。
あまりの光景に、インデックスは言葉を失う。
浜面仕上や御坂美琴も、その異様な光景に開いた口を閉じる事は叶わなかった。
「え……?あ……」
誰とは無しに言葉にならない声を漏らす。すると、風斬が気付いた。
朧げな視線を辺り這わせると、眼鏡がないなあと言った具合でペタペタと顔を触る。
「~~!!?」
風斬もまた、自身の顔の異常に気がつく。
そして冷静に辺りを見回すと、驚愕の色を浮かべた3人。
自身の顔に出来た空洞の縁を、ゆっくりと指でなぞる。
ふと、避難するためかは知らないが、道路に乗り捨てられていた車を見つけた。遠目に見ると、自分の姿がぼんやりと見える。
ふらふらと、夢遊病患者のようにその車の元へと歩いて行った。 - 708 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/03(日) 23:57:12.23 ID:dLcdmaZco
「なに……これ……?」
黒塗りの窓ガラスから、風斬の顔が浮かび上がる。
ここにきてようやく、3人の表情の理由を理解した。
「う、そ……」
夢だ。そうにきまってる。そのように思いたかったが、インデックスに浜面に御坂と燃え盛るワゴン。
そして。
「ははは!何それ!!信じらんねえ!!学園都市ってのはこんな化け物作ってんのかよ!!趣味悪いなあ!!」
巨大な石人形を率いて高笑いをするシェリー。
これは風斬にとって、何処まで行っても、どうしようもない程に、現実だった。
「あ、ああ、」
自分が人外であるという事実を突き付けられた風斬は。
「うああああああああああ!!!!!」
今までの風斬とは思えない程の声量で叫び声を上げ、どこかへと逃げようするが。
「エリス!」
混乱のあまり、あろうことかエリスの正面へと向かって行く。
シェリーもその行動と叫びに驚きを示したが、冷静にエリスに風斬を殴り飛ばさせた。
エリスの拳を真正面から受け止めた風斬は、ピッチャー返しのように綺麗に真っすぐ吹き飛んだ。
そして無残に地べたを転が
……なかった。
「チッ……手間かけさせンなっての……」
ボロボロの布切れのようになった風斬を、一方通行が受け止めた。- 709 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/03(日) 23:57:46.79 ID:dLcdmaZco
- ・・・
「風斬ィィィ!!!」
一方通行は思わず叫び声をあげてしまったようだ。
4人にはその声に気付かなかったが、シェリー=クロムウェルだけはその声に気付いた。
「もう来やがった……」
自身の魔術は一方通行には通用しない。それを痛感させられた。
しかし何故一方通行がさっさと自分を倒さないのか。
答えは簡単。
戦争を防ぎたいから、撃退したのは表向きはあの蟻共が行ったと言う事にしたかったのだろう。
だから一方通行は大っぴらに自分に攻撃は出来ない。
シェリーはそのアドバンテージを利用しようとすぐに決めた。
決めてからの行動は早い。何せわざわざ一方通行を相手取る必要はないのだ。
民間人を囮に一方通行の動きを封じればよい。
戦争を避けたいのであれば、民間人の余計な被害は避けたいところだろう。
故にシェリーは辺りの建物に向かって攻撃を放つ。
中に避難しているであろう民間人めがけて。
「クソが!」
散弾銃で銃弾をばらまいたように、弾丸と化した小石が辺りの建物へと向かって行く。
一方通行はそれを見て舌打ちをしながら小石を止めにかかる。
視線の先では、風斬が自身の異変に気がついたようだ。
(自棄になって変な気起こすなよォ……)
風斬の事を気にかけながらも、一方通行は小石を防ぎ、少しずつ近づいて行く。
(あァ!?なンであいつはあの石人形に突撃してンだよ!?)
混乱しているのか、風斬はエリスの真正面に向かって走っている。
シェリーもこの場で風斬を仕留めたら良いと考えたのか、一方通行への足止めの為の攻撃はストップした。
(チッ……!!)
すぐに風斬の元へと向かうが、エリスの拳が風斬を捉えた。
「あァークソったれが!!」
思い切り足を踏み抜き、吹き飛ぶ風斬の所まで跳躍した。 - 710 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/03(日) 23:58:20.61 ID:dLcdmaZco
- ・・・
分からない。
誰が敵なのかも誰が味方なのかも。
分からない。
自分が何者かも、どうやって生まれたのかも。
分からない。分からない。
ただ、これだけは言える。
―――自分は、化物なんだ。
「あ、うう……」
風斬氷華は我に返る。
自身の体を見渡すと、右腕はひしゃげ、顔には穴が開き、腹部にはひびが入っていた。
「は、はは……」
ばけもの。
化物。
バケモノ。
この体は人体としてあるべき姿では無い。
こんな化物がへらへら笑いながら綺麗な白いシスターと仲良くなろうなんて。
表情は乏しいが、多彩な感情を持ち合わせているゴーグルをした茶髪の女の子と仲良くなろうなんて。
そして。
「どう、して……私、何か……助けるん、ですか……?」
何処までも真っ白な少年は、風斬を抱えて地に降り立った。
自分が助けられたと言う事に気付いた風斬は、目の前の少年に尋ねる。
「……」
少年は、何も答えない。
「私は、こんな姿の、化物なんですよ……?」
「……」
少年は、何も答えない。 - 711 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/03(日) 23:59:13.63 ID:dLcdmaZco
- 「クソッ……エリス!!」
何とか止めを刺そうとエリスを2人にけしかけるが。
「……お前らは黙ってろ」
片手で風斬を抱え、片手でエリスの拳を受け止めた。
「……私が消えれば、この戦いだって終わるかもしれないんですよ……?」
「……お前がこの戦いの行く末を決める必要はねェよ。黙って守られてろ」
「私は!!人間じゃないんですよ!!?」
助けてくれるのはうれしい。しかし、自分は人間では無い。
見ての通り、今こうやって一方通行に支えられている間も、逆再生するかのように傷が治って行っている。明らかに致命傷だったと言うのに。そんな異物が、彼らの輪に加わっていいはずが無い。
「……そォだな」
一方通行は、風斬の問いを、肯定した。
「確かに、お前はヒトでは無いなァ」
「ッ……!!」
自分でもそんなことは分かっている。しかし、他人からそれを言われるのは、やはり辛い。
「動物界後生動物亜界脊索動物門羊膜亜門哺乳綱真獣亜綱正獣下綱霊長目真猿亜目狭鼻猿下目ヒト上科ヒト科ヒト下科ホモ属サピエンス種サピエンス亜種。
……そォだな、確かに生物学的に見たらお前はこれには属さねェ」
だが、と付け加え、風斬が口を開く前に一方通行は話を続ける。
「そンな区分になンの意味があるンだ?」
「そ、れ……は……」
「初めてお前がインデックスと一緒に居た時、違和感を感じた。
その違和感の正体は、お前が『AIM拡散力場の塊』である、と言う事だった」
「なら……あなたは、私が人間じゃないと言う事を前から知ってたんですか……?」
傷が治ったと判断されたのか、一方通行は風斬を地面へと降ろし、エリスの拳を弾いた。
「ッ……エリ」
ス、と言おうとした瞬間。
「……手を動かせば殺す。足を動かせば殺す。言葉を発したら殺す。石人形が動けば殺す。他の魔術を作動させたら殺す。
お前に許された行動は呼吸だけだ」
冷たい、機械音のような声で、一方通行は宣告した。 - 712 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/03(日) 23:59:55.06 ID:dLcdmaZco
「……!!」
おそらく何かをしただけでシェリーはなす術も無く蹂躙される。戦争だの何だのと言った事情など知らない、と言わんばかりに。
そんな近い未来が脳内に浮かんでくる程、一方通行の冷たい殺意は本物だった。
例えこのまま戦争に発展しても、目の前の白い悪魔には勝てないと、そう感じさせるほど。
シェリーの呼吸は荒くなり、手からはじわじわと汗がにじみ出るが、動かないように必死になった。
「……話が逸れたなァ。そォだ、あのゲーセンに行った時点で、お前がヒトでは無い事は分かっていた」
「……どうして、何も言わなかったんですか……?」
「だから、ンなことにどンな意味があるってンだ?
それとも、お前はなンか下心あってあのシスターに近づいたってのかァ?」
「そんなわけ、ないじゃないですか……」
わたしだって。
「わたしだって、あの子と友達でいたかった!初めて自分のことを友達と呼んでくれたから!!
だけど、私はこんな化物で、致命傷の怪我だってすぐ治って!!そんなのとあの子は仲良くなりたいだなんて思いますか!!?」
風斬は、インデックスの表情を見ることが出来ない。
先ほど見た時は驚愕の一色に染まっていた。
確かにあんな物を見て驚かない方がおかしい。
それは別に構わない。
しかし、次の表情が、『恐怖』に染まっていたとしたら。
おそらく風斬の心は、崩壊する事だろう。
今の風斬に、それを確かめる度胸は、無かった。
「そォか、つまりあいつが今でも友達だと思えるなら、それで大団円って事だろォ?」
「えっ?」
すると、背後から、小さなぬくもりを感じた。
「……」
インデックスは、何も言わずに、風斬を抱きしめる。
「どう、して……」
風斬は、今にも涙がこぼれおちそうな顔をするが、
「友達だから」
インデックスは多くは語らず、ただただ抱擁を続けた。
「う、あ……うああ……ふわああああ!!」
風斬は、そんなインデックスの背中に腕を回し、貯め続けた涙を決壊させて、インデックスもそんな風斬に同調するように、もらい泣きを始めた。
「……別にヒトである必要はねェよ。ただ、心が人間なら、それで十分だ」
誰にも聞こえないほど小さな声で、一方通行は呟いた。ただ、風斬の耳はその呟きをとらえたのだが。- 714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 00:26:52.45 ID:SPhkPvUfo
- ・・・
インデックスと風斬氷華は、身を寄せ合って恥も外聞も無く泣いていた。
シェリー=クロムウェルは一方通行の命令に従って動けずにいる。
浜面仕上と御坂美琴は、よくわからないままに事態が収束して行くことについていけなかったのか、呆けている。
「……一体、どういう状況じゃん?」
ようやくやってきたアンチスキル+αは、目の前の状況がわからないと頭を抱えた。
「あァ……やっちまったァ……」
なンか気分が乗ってあれこれ言ってしまった気がする。
それは厨二病患者顔負けの役者っぷりで。
(なんだよあのくっせえセリフ!!?臭すぎて鼻が曲がっちまうぞォ!!?)
早速、刻まれし黒歴史に顔を真っ赤にさせた。
一方通行の持つ殺意は完全に薄れ、それによりシェリーは我に返った。
これ以上は無理だと判断したのか、エリスを壊し、それを目くらましにしてどこかへと逃げて行った。
「……逃げられたじゃん……」
「そりゃお前らアンチスキルがちンたらしてるからじゃンよォ」
一方通行はその場に座り込み、もう仕事しませンよオーラを飛ばした。
「仕方ない……第八四支部はジャッジメントと協力して監視カメラから侵入者を追うじゃん。
第七十三支部は私と直接動くじゃんよ」
黄泉川愛穂は、アンチスキルを率いて再び仕事を再開した。
しかし、一方通行は、おそらく学園都市外に逃げたンだろうなあ、とあたりをつけた。
何故なら、主だったターゲットはこの場に集まっているのだ。そこから逃げると言うのならば、一時撤退なのだろう。
アンチスキルとそれについてきた白井黒子は、職務を全うするためこの場から立ち去ると、
そこには一方通行、御坂美琴、インデックスに風斬氷華、そしてスキルアウト3人が残っていた。 - 715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 00:48:56.85 ID:SPhkPvUfo
- 「よう、お疲れさん」
「あ?あァ、互いになァ」
半蔵が一方通行に声をかけてきたので、適当に返答をした。
「ってそォだ打ち止めと9982号」
「あー、それならこっからしばらく行ったとこにある公園で待ってもらってるとこだぜ」
9982号って誰?と思いながらも打ち止めの事は知っているので、浜面はその居場所を教える。
一方通行はそれを聞いて9982号に電話をした。
『おォ、打ち止めは無事かァ?』
『ひょっとしてあなたはロリコンですか?と、ミサカはちょっと引きます。
あと上位個体は無事です』
『ンなわけねェだろォが……つゥかついでかよ。
まァいい、今からそっち行くから、動くなよォ』
『了解です。ミサカももう腹ペコなんで後でご飯にしましょう』
『あァ、わかった。じゃあな』
通話を終えつつも、そう言えば打ち止めを保護してたスキルアウトに飯を奢らねば。と、自身の発言を思い出した。
こう見えて律義な男・一方通行である。
(まァ、俺も腹減ってるし、全員連れてけばそれでイイか)
最早思考すら面倒になったのか、半蔵達への約束を今日行ってしまおうと決めた一方通行は、
「おし、打ち止め達を回収したら飯行くぞォ。全員奢ってやる。まァ行くのはファミレスだけどな」
「「マジで!?」」
やだ、第一位の財力ってすごいと感じるスキルアウトや、
感動の涙を流していたが突如として目を輝かせる全自動食事機の白シスター。
第三位が奢られるのってどうなんだとか思うがまあいいやと電撃娘。
そして。
「私も……ついて行きたいけど……」
おずおずと、眼鏡をかけた少女は声をあげる。
「あァ?来たら良いじゃねェか、今更恥ずかしがってンなよ」
「ううん、そうじゃないの……もう少ししたら、帰らなくちゃいけないから」
「じゃあ帰るまで一緒に居たらイイじゃねェか」
「皆が楽しんでる中、途中で帰るのは無粋な気がするから、先に帰りたいの」
「……そォか。そンならじゃあ、またなァ」
「うん!じゃあ、また」
風斬は、笑顔で別れを告げた。 - 716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/04(月) 00:50:03.63 ID:FwQrLGEVo
- 風斬さん食べられないのね
- 717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 00:52:01.65 ID:SPhkPvUfo
- ・・・
もう少ししたら、帰る。
どこに?
インデックスの、頭の中でぐるぐる回るまだ見ぬご飯の数々は、一気に霧散した。
急に不安になる。何気ない一言だが、そこに含みがあるように思われる。
まるで捨てられてしまった子犬のようなインデックスに、風斬氷華は優しく笑いかける。
「心配しなくても、私の本質は『AIM拡散力場』だから、仮に消えるとしてもそれは何十年何百年後の話だよ。
ただ触れられなくなるだけで、私は、あなたがわからなくても、ここに居るから……」
どうしてこのタイミングで告げるのだろう。まるで、今言わないといけないと言った口ぶりで、風斬が話す事にインデックスは疑問を浮かべた。
別に一生涯の別れを告げたわけでもないのに。
何の根拠も無いのに。
「ひょうか!!」
インデックスは、ゆっくり立ち去る風斬の背中に向かって、思わず叫んでいた。
「なに?」
クルリと振り返った風斬に向かって、
「また明日も、一緒に、皆と、遊んでくれるよね?」
インデックスは尋ねる。ぽろぽろと涙をこぼしながら。
風斬は、迷わず一言。
「もちろん!」
笑顔で応えた。 - 718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/04(月) 00:57:07.68 ID:SPhkPvUfo
- 最後すげえ駆け足になったけど、シェリー編あっさりおわりです。
風斬さんに関しては、後々重要なファクターになるんでペルソナ出てなくてもシェリー編はきっちりやっときたかったんです
原作ではもっと風斬さんについての心情描写とか、シェリーさんについてとか、アレイスターについてとか出てきてたけど、
そんなに書けない。
でも風斬さんが顕現した理由は後々書くつもりなんでまあ生温かいめで見てくれたらうれしいかなと思います。
「太陽」属性コミュニティである「風斬氷華」コミュを手に入れた。
「刑死者」属性コミュニティである「スキルアウト(半蔵、駒場、浜面)」コミュを手に入れた。
上条さんは、呑気に筋トレしてたけどそのまま忘れられてたのでファミレスには呼ばれてません。 - 724 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/06(水) 19:45:51.98 ID:3g1mfml1o
- 外では雨が降っている。何となく窓から雨雲を眺めつつ、一方通行は電話で誰かと話していた。
『天井亜雄が失踪した?』
天井亜雄と言えば、絶対能力進化実験に参加していた研究者だったと一方通行は記憶している。
それが今になって失踪したと言うのはどうにもきな臭い。
『……怪しいな』
『ええ、全く』
電話の相手、芳川桔梗も同意見らしい。何せ学園都市の研究者が失踪したのだ。
もし仮に、外部に学園都市内で行われている事が伝えられたら、間違いなく面倒な事になる。
一般の研究者なら、そこまで秘匿すべき事柄を知る由も無いが、
天井亜雄は絶対能力進化実験や量産型能力者計画にも参加していた。
これが外部に漏れるのは学園都市側も防ぎたい事だろう。
『もう消された可能性が高いが、一応探してみるか……』
とはいえ、一介の研究者が後ろ盾無しに外へ逃げると言うのは難しいと言うか不可能だろう。
失踪した、と言う事は既に殺された可能性が高い。
逆にテレビの中に入ったのだとしたら、それはそれで手がかりが増えるからありがたいのだが。
(もし仮にペルソナ能力に目覚めたとして、敵対された時。間違いなく面倒な事になるなァ)
何せ研究者だ。テレビの中の事について、何か知っているとしたら、是非とも話を聞きたいところ。
それが敵対するとなると、全く無駄骨になる可能性が高い。そう考えると、溜息も付きたくなるものだ。
『ええ、お願いするわ。あ、後打ち止めの調整は今日で終わるんだけど』
『あ?終わるならそれでいいじゃねェか』
『いや、9982号と一方通行が一緒に住んでるからか、打ち止めもその輪に加わりたいって言って聞かなくて』
『つまり打ち止めをうちのボロ家で引き取れ、と?』
確かに、打ち止めと言う存在は妹達の要と言えるだろう。
これが狙われた揚句、上位個体として妹達に逆らえない命令を送られた、等洒落にならない未来が一方通行の脳裏をよぎる。
『まぁ、そう言う事になるわね』
『あー……それならもっと広いとこに引っ越した方がイイよなァ……』
それならある程度セキュリティがしっかりした場所。出来ればアンチスキル等の教師達が住んでいる地区。
人の目による監視で、目立った動きが出来ないような場所が好ましい。 - 725 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/06(水) 19:46:34.02 ID:3g1mfml1o
- 『えっ、いいの?』
すると、芳川が意外そうな声をあげる。
電話の向こうでは目を見開いて、あら意外。みたいな顔をしているに違いない。
『何がだよ』
『打ち止めと住むの』
『……ンなこと言ったら9982号だってそォだろォが。
それに、妹達の上位個体を狙う奴だっているかもしれねェ』
『ふむ……それもそうね……』
『まァ何にせよ、調整が終わったらまた連絡しろォ。こっちはこっちで色々調べるからなァ』
『ええ、分かったわ』
一方通行は電話を切ると、ボロボロになったソファーに携帯を放り投げ、ベッドに転がった。
ソファーで丸くなっていた9982号の頭に直撃して、
「あいたっ」と言う声が聞こえてきたが一方通行は無視する。
ところで、部屋の中はある程度掃除したものの、家具は買い替えてないのでボロッボロである。
唯一買い替えたのは冷蔵庫。
これは重要で、気に入った一方通行は缶コーヒーを大量に購入するため、冷蔵庫は必須なのである。 - 726 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/06(水) 19:47:18.78 ID:3g1mfml1o
「芳川からですか?」
「あァ、そォだ……打ち止めも一緒に住む事になったから、引っ越すぞォ」
「ミサカの時はあんなに渋ってたのに、上位個体の時はすんなり受け入れるなんて……
やっぱロrあいたっ!」
「ちげェよ!……あの時と今じゃ、事情が違いすぎるっつゥの……」
「まあ、この部屋からおさらばして綺麗なとこ行けるなら何処でもいいですよ。
と、ミサカは劣悪だった環境を思い出してさめざめと泣きます」
以前、一方通行は金が無いと勘違いした9982号だが、
今の今まで目の前で一方通行がたくさん出費をする姿を見てきたので、
やっぱ金持ちなんだと認識を改めたのだ。
それゆえ、今回新しい部屋に引っ越すのは大賛成で、
気を抜いたら足に何かの破片が突き刺さるような部屋からはOSARABAしたいのである。
「まァ、その前に天井亜雄だなァ……」
「また失踪ですか?」
「その通りだァ」
一方通行は9982号の質問に適当に答えつつ、再び携帯電話を拾い上げ、電話をし始めた。
9982号はまた電話するなら、携帯電話放り投げるなよと内心愚痴るが、
言ったら言ったでまた何かされそうなので言わない事にする。- 727 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/06(水) 19:48:25.46 ID:3g1mfml1o
『おーっす、こちら半蔵ーでぇっす』
電話先の軽薄な口調の主は半蔵。
表でも裏でも行動出来る、そんなスキルアウトとつながりを持てたのは正直ありがたい。
とはいえ自分は能力者、それも第一位で、相手は無能力者のスキルアウト。
別に無能力者を馬鹿にするつもりはないが、相容れないと言うのは互いに理解しているため、
それなりに仲良くしているのは半蔵、駒場利徳、浜面仕上の3人だけである。
フレメア=セルヴェインと打ち止めはかなり気が合うらしいので、
そのうち打ち止めを連れて駒場達にも会いに行こうと思っている。
『よォ、ちと人探しを頼みてェンだが』
裏でもそれなりに動ける、と言う事でそのうち情報集めの依頼を頼む事になる、
と言うのは先日ファミレス貸し切って馬鹿騒ぎした時に了承してもらっていたのだが、
まさかこうも早く依頼を頼む事になるとは一方通行も思っていなかった。
『……誰をだ?ヤバい奴とか止めろよ』
学園都市第一位の一方通行の依頼となると、
そんな簡単なわけがないと予想していた半蔵は、あらかじめ釘を刺しておくが、
『問題ねェよ。どっかに侵入しろとかはいわねェ。後で顔写真を送るが、天井亜雄って研究者を探してほしい』
一方通行もそのようなつもりは無かったらしい。
『研究者?何でまた』
『詳しいことは聞くな。……とりあえず、失踪したらしい。見つからねェ可能性大だが、探すだけ探してくれ。
こっちはこっちで捜索にあたる』
『了解。期間はいつまでだ?』
『1週間。その間に見つからなかったら作業は打ち切りでかまわねェ。
もしくはこっちが先になンか手がかり見つけたら、そっちに連絡する。その時も打ち切ってもらってかまわねェ』- 728 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/06(水) 19:49:15.78 ID:3g1mfml1o
- 『あん?一緒に探した方がイイだろ?』
『まァ、下手したら面倒な事になるからな。俺が見つける手掛かりは面倒な事になる可能性大だ。
それでもイイなr『おっけー、深追いはしねぇよ』』
『……分かった。報酬は……そォだな、言い値で出そォか?』
『言い値っておま……難易度もわかんねーのに言い値でイイって言われても困るんだけど?』
『そンじゃ前金で30。見つかったら70上乗せで、見つからなくても20乗せでどォだ?』
『……それは俺達スキルアウトへの依頼か?それとも俺個人?』
『お前個人の依頼だァ。駒場と浜面までなら追加で報酬を出しても良いぜ。
出来れば信用のおける奴だけで捜索に当たってもらいてェ』
『分かった。そんなら俺個人で動く事にするわ』
『ヤバそうだと感じたらさっさと手を引けよォ。最悪天井亜雄のプロフィールを軽く洗ってもらうだけでかまわねェ』
『見つかんなくても50ももらうんだ。最低限の働きはしないと信用問題に関わるってもんだ。
まあヤバそうならさっさと逃げるけど』
『それでイイ。なンかあったらまた連絡するわ』
『おう、じゃあな』
電話を切ると、一方通行は再びソファーに向かって携帯を放り投げた。
ソファーで丸まっていた9982号は、「ふっ!!」と言う掛け声と共に見事に回避。
「ドヤァ…」と言わんばかりのドヤ顔をさらすものの、
回避した勢いそのままにソファーから転げ落ちた。ドヤ顔で。
あいたっ、と短い断末魔が響き渡り、今日と言う日が始まった。 - 729 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/06(水) 19:50:03.62 ID:3g1mfml1o
- ・・・
「また失踪者?」
上条当麻は一方通行の言葉を聞き返した。
「そォだ。まァ、テレビの中かどォかはマヨナカテレビを見ない事には始まらねェンだがな」
「それで、その半蔵ってのに失踪者に関して調べてもらってるわけか」
「失踪=テレビって考えるのは早計だからなァ。外で見つかればそれでかまわねェし、
テレビの中に居るってンなら見つけ出して色々聞きてェ」
先日の馬鹿騒ぎに1人だけ呼ばれず、しばらくいじけていた上条だが、
「今度なンか会った時は手伝え」という一方通行のフォローで元気を取り戻した。
「てかマヨナカテレビ待たなくてもさ、テレビの中行けばクマが居るんだから、
誰か放り込まれてるかどうかだけでも分かるんじゃないのか?」
「確かにそうなんですけどね。そう思ってミサカ達も上条が学校行ってる間に、布束の食糧送るついでに確認に行ったんです」
時はおよそ1時間前まで遡る。 - 730 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/06(水) 19:50:37.44 ID:3g1mfml1o
・・・
「良いんですか?上条を待たずしてテレビの中行っても」
芳川桔梗の部屋。
家主は研究所に居るため、今この部屋に居るのは9982号と一方通行の2人だけである。
「あァ?誰か放り込まれてねェかの確認だけだからなァ。それならさっさと行った方がイイだろ」
一方通行はぶっきらぼうに答えると、ニュルンとテレビの中へと入って行く。
9982号も、特に異論があったわけではなく何となく聞いただけなので、
一方通行に追従してテレビの中へと吸い込まれて行った。
「well、久々の登場ね」
「メタな事は言うンじゃねェよ」
「久しぶりクマー。さっそくだけど、人が放り込まれてるクマよ」
「……やっぱりかァ」
今までテレビの中に放り込まれてきた人物達は、それなりに絶対能力進化実験に関わってきていた。
ならば天井亜雄が放り込まれた可能性が高い。
「人が放り込まれたっぽいクマけど……何処に居るかまでは分かんないクマ」
「あァ?なンでだよ」
「最近、鼻のチョーシが悪いクマ。でも、放り込まれた人の人となりとか姿形みたいなのを教えてくれたら探せると思うクマ」
「つまり、天井亜雄について調べてきたらいいんですね?と、ミサカは確認を取ります」
「十中八九、天井亜雄が放り込まれたンだろォが、一応マヨナカテレビも確認しねェとなァ」
「確認出来たらまた来るクマー」
「finally、私の出番……これで終わりかしら……?」- 731 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/06(水) 19:51:08.84 ID:3g1mfml1o
- ・・・
「……と言う訳なんですよ。と、ミサカは回想します」
「成程なぁ。でも何か、1人出番に関して不満をお持ちの方がいらしたようですが」
「気のせいだァ。そのうち出番回って来るだろ」
あんまりメタな事を言うと誰かに消されるので、話を元に戻す。
「そンな訳で、半蔵の報告とマヨナカテレビ待ちってところだなァ。幸い、今日は雨だからよォ。
俺個人でも調べてみるが、上条に出来る事はトレーニングしかねェ」
「この時間行くと間違いなく黄泉川先生いるから、行きたくねえんだけどなぁ……」
とはいえ、一般学生である上条に、研究者のプロフィールを調べられるような情報網はない。
そのためいつも通りトレーニングするしかないのだが。
「御坂はいいよなー。今頃アメリカだろ?」
広域社会科見学、と言う名目の元、アメリカへと渡っている御坂美琴をうらやましがる上条当麻。
「お前もこの間海水浴行ってきたンじゃねェのか?」
一方通行はきょとんとした表情で尋ねる。
どうやらアメリカもその辺の街も、一方通行にとっては『学園都市の外』という括りにすぎないらしく、余り興味を持っていないようだった。
「いやいやいや、アメリカと何の変哲もない街を同列に見たら駄目です事よ!?
海外、と言うだけで何だかすごいってイメージがあるんです!」
海外旅行の経験など一度たりともない人間の、説得力の欠片も感じられない力説に、2人は首をかしげる。
「ミサカも一方通行も学園都市の外にはろくに出た事が無いのでイマイチ伝わりませんね」
「んじゃ、そのうちみんなで旅行行こうぜ、旅行」
「良いですね、この間そのうち学園都市外に出たいってミサカ達も話してたんですよねー。
と、ミサカは学園都市の外に想いを馳せます」
「……まァ、このバタバタしてンのが落ちついたらだなァ」
とりあえず、いつも通りトレーニングだなァ。と言う一方通行の提案に、2人はげんなりとした。 - 732 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/06(水) 19:52:35.25 ID:3g1mfml1o
- ・・・
「……」
芳川桔梗は、今現在研究所の一室にある高さ2m大の円筒器の前でキーボードを叩いている。
モニター上のコンソールには大量の文字列が書き込まれ、
円筒器内の培養液では手術服を着た打ち止めが、芳川のタイピングに合わせるようにプカプカと浮かんでいた。
「後はこのプログラムを更新して終わりね……」
芳川は調整に必要なプログラムのダウンロードとインストールを終えると、ファイルの整理を始めた。
打ち止めの調整ついでに、自身の研究に関する幾ばくかのレポート等もまとめて自宅に持って帰るためだ。
調整の時間も残りわずかだが、持ち変えるべきデータは元々多くない。
故に調整が終わるまで、少しの間手持無沙汰になる。
その為、ただ何とは無しに、引き出しに放置されていた絶対能力進化実験の概要を納めたファイルを眺めていた。
特に意味なんてない。何度も何度も読み返したファイルだ。最早内容など暗記したも同然だった。
それは他の研究員も同じ事で、芳川は久々に見るなあ、と何となくそのファイルの中身を眺めていた。
すると、ファイルの中にある数百枚の紙の中に挟まれた、奇妙な用紙が見つかった。
「このデータは見たこと無いわね……?」
更新日時は、8月20日と記されている。分からなくて当然だ。
自分がこのファイルを完璧に暗記したのはおよそ半年前。
それ以降このファイルを開く事は無かったため、分かるわけがない。
「自分だけの現実(PersonalReality)……?今更何の事を書いているのかしら」
何故、更新されているのか。
今更確認しても栓無き事なのだが、好奇心に負けて、そのデータを閲覧することにした。
そこには。
「これは……ッ!?」
突如として、芳川の後頭部に衝撃が走った。誰かに殴られたようだが、顔までは分からなかった。
そしてその部屋には更新が完了したと言うのに、培養液に浸り目を覚まさない打ち止めと、モニターに浮かんだsleepmodeという文字だけが残されていた。 - 733 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/06(水) 19:54:51.19 ID:3g1mfml1o
- ・・・
夜。
いつも通りトレーニングを終え、いつも通りいつものレストランで夕食を取り、
いつもと違っていつもの店員に「たまには別の物食べた方がいいですよ」といつものメニューにサラダが追加され(サービスだそうだ)、
それらを完食した後いつも通り部屋へと帰宅していた。
そしてマヨナカテレビ。久々に眺めるなー等と何となく気の抜けた感じで2人はテレビを眺めていた。
すると。
「「……!」」
やはり人影が映っている。顔は良く見えないが、誰かが何かかから必死で逃げている様子だった。
映像は、それだけだった。
「……これでは誰が誰だか分かりませんね。と、ミサカは残念な表情を浮かべます」
「そォだな……」
研究者の失踪。それはすなわち暗部に消された、と言う事も考えられるため、必ずしもこの映像の主が天井亜雄とは限らない。
とはいえ、他に失踪したという情報も挙げられていないため、お手上げである。
どうしたものかと俯き思案する一方通行は、9982号の呼ぶ声で思考を中断した。
「またテレビに違う人が映っています!」
「あァ!?」
慌ててテレビに視線を戻すと、成程、人影がまた写っており、先ほどは男性のような人影だったが、こちらは女性の人影であった。
その女性は椅子に座り、頭を抱えているだけで特に動きを見せないまま、映像は途切れた。
「これは……」
「また、失踪者が現れたと言う事でしょうね。と、ミサカは目の前の事象を冷静に分析します」
失踪者の情報が無いまま、2人目の失踪者が現れた。
どういう事か分からないが、とにかく天井亜雄がテレビの中に放り込まれたと仮定して動いた方がいいかもしれない。
一方通行は、すぐさま上条当麻へと電話を飛ばした。
・・・
男は、溜息をつきながらある用紙を眺めていた。
「まさか、やっと見つかったと思ったら先に見られちまうとはなぁ……」
どうせ絶対能力進化実験は凍結されているのだから、誰も動きようはないのだが。
念には念を入れておくべきだ。
「ついでに、実験材料にもなるしな!」
結果オーライだろ!と気分を良くしたその男は、机の上にその用紙を放り投げた。
用紙には、「Persona l Reality」と言うタイトルが新聞紙の見出しのように大きく強調されて書かれていた。 - 742 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/10(日) 22:29:40.33 ID:bp63CoTso
- <???>
落ちる。
落ちる。
何処までも落ちる。
こんな距離を落ちたらこの体もタダじゃ済まないな、などとぼんやりと思いつつも、
すぐに終わりが見えた。
落ちた高さの割に、そこまで痛くなかった。
でもこんな異様な場所には居たくなかった。
「ここは……」
異空間が、そこにはあった。 - 743 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/10(日) 22:30:27.82 ID:bp63CoTso
- ・・・
「芳川が電話に出ねェ」
起き抜けに芳川桔梗に電話をしたのだが、出ない。
仕事を失った芳川に、今までそのようなことは無かったのだが。
「芳川は犠牲になったのだ……」
「うるせェってばよこのウスラトンカチィ」
「ナルトかサスケのどっちかにしてくださいよ」
「俺はナルトとサスケの両方を良いとこどりした奴よりも強えンだよ」
どこからそんな自信が来るのだろう、と9982号は思うが、これが第一位と言う事だろう。
冗談はさておき、9982号は話題を元の路線へと戻した。
「天井亜雄もそうですが、2人ともテレビの中に行ったものとして行動した方がいいのではないでしょうか?」
「そォだな……この状況だと、そう考えるべきか……」
しかし、それならば考える必要がある。
何故、2人の研究者が狙われたのか。
テレビの成り立ちもそうだが、妹達や2人が狙われた理由が分かれば、今後先回りする事も出来るかもしれない。
とはいえ、考えた結果が正解とは限らない、と言う事を念頭に置かねばならないが。
そして、芳川が失踪したとして、それがいつなのか。
昨日は打ち止めの調整を行っていた。ならば、打ち止めの安否はどうだろうか。
その旨を9982号に伝えると、
「今は、調整用の機材の中で睡眠中……みたいですね。上位個体の保護と芳川、天井の探索……どれを優先すべきか。
と、ミサカは多すぎるミッションに辟易します」
「そォだな……打ち止めの調整に関しては芳川頼り……かといって研究所に放置で無事でいられるのかもわからねェし……
何にせよ、上条と合流したら行くか、テレビ」
「そうですね。と、ミサカは相槌を打ちつつ立ち上がります」
「とりあえず、飯だ飯ィ」
案外呑気な一方通行と9982号であった。 - 744 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/10(日) 22:31:56.49 ID:bp63CoTso
・・・
<???>
「さて……ここはどこ?私は芳川」
記憶喪失はしてないらしい芳川桔梗は、目の前に広がるおかしな空間を見渡した。
巨大なホテルの様な建物に、そこから広がる広大な敷地。
それだけ。それだけしか存在せず、建物の周りには何も存在していなかった。
こんな意味不明な場所、寡聞にして聞いた事も、ましてや見た事も無い。
しかし心当たりは、ある。
「これはひょっとして、所謂テレビの中、と言う奴かしら……?」
堂々と正面入り口からホテルの中に入る。
やはりホテルらしいその建物の一階は、ロビーの様な内装をしていた。
と言っても、そこにはホテルマンもホテルウーマンも居ないのだが。
強いて言うなら趣味の悪いライオンの石像くらいだ、その場に存在していたのは。
初めて一方通行がテレビの中に入って行ったのを見て以来、
一度は自分もテレビの中に入ってみたかった、と思っていたところなのだが。
「それはあくまで一方通行というボディーガードがあってこそなんだけれど」
1人でテレビの中に入るなんて思いもよらない。
(というか、一方通行や超電磁砲と、レベル5が2人も居たのにこないだはあんなにボロボロになってたし)
何も知らなかった当初ならば、入れるのならば1人で入りたかったところなのだが、ボロボロになった一方通行を見てその考えは霧散した。
それでも、入りたいという気持ちだけは変わらなかったのだが。
「何だか、嫌な気配がするわ……」
真っすぐ行って左に曲がったら、酷い目に会う気がする。
でも、真っすぐ行って右に行けば、大丈夫な気がする。
「どうせ駄目なら、大丈夫な気がする方に行った方が良いのだろうけど」
絶対能力進化実験に関与した時点で、いつでも死ぬ覚悟は出来ていた。
しかし、それでは駄目だ。
無為のまま死ぬわけにはいかない。
無意味のまま生きるわけにはいかない。
ならばどうする?
「この直感が吉と出るか凶と出るか……」
何かつかめるかもしれない。そう考えた芳川は、左の通路を進んだ。- 745 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/10(日) 22:34:30.38 ID:bp63CoTso
・・・
「はあ、スニーキングミッションなんて……」
面倒くさい。と、10032号はぼやいた。
9982号からMNWを介して頼み事を頼まれたと思ったらこれだ。
もっと適任者がいるだろうと思うが、一応上位個体に関する事なので、仕方なく、本当に仕方なく任務を請け負った。
「9982号は前々から何かを隠してるようですし……」
一体何を隠しているのだろうか。
おそらくそれは、頻繁に9982号がMNWから接続を切る事と関係がある気がする。
おそらくそれは、一方通行にも関係がある気がする。
それは、直感に近い確信。
「全く、いつまでも隠し通せると思ってるのでしょうか。
と、ミサカは9982号の嘘の下手っぷりに笑います」
9982号が自身の体の調整の為に病院に来た時、それとなく話を聞いたのだが、あの時の9982号の慌てっぷりには内心大爆笑だった。
とはいえ、隠したいから隠しているのだろう。それ以上追及するつもりはなかった。
「おっと、この部屋ですね」
おそらく無人だろうが、一応辺りを警戒しつつ進んだ先には、打ち止めの眠る円筒器が佇んでいた。
「ふむ……無事は無事みたいですが……スリープモード……
と言う事は、休止状態ですか」
一体誰がそんな事を、と言う10032号の疑問には、誰も答えなかった。- 746 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/10(日) 22:35:28.39 ID:bp63CoTso
- ・・・
上条当麻と合流した2人は、この後どうするかについて話し合っていた。
「どっちかって言うと、二手に分かれた方が良いんじゃないか?」
上条は素直な気持ちを答える。
「確かにそォなンだが……どンな不測の事態があるかわかんねェ」
「かといって上位個体を放っておくわけにもいきません。
一応、10032号に研究所へ向かってもらって安否は確認してるのですが」
確認だけは済んでいる。
調整は途中で中断されているが、中止されたわけでは無いので、再開出来れば問題ないそうだ。
それが不幸中の幸い、と言ったところだろう。
ただでさえイレギュラーなテレビの中で起こる不測の事態。
例えば、上条の影。例えば、上条のペルソナ。
「……上条関連ばっかじゃねェか」
誰にも聞こえないよう呟くと、一方通行は「お前やっぱ運悪いよな」と上条に同情した。
上条は、よくわかっていなかった。 - 747 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/10(日) 22:36:12.58 ID:bp63CoTso
- ・・・
<???>
「何これすごい」
芳川桔梗の視線の先、そこにはいつも一方通行達が相手にしているシャドウ達がうじゃうじゃいた。
嫌な予感の赴くままに向かった先にこれだ。
しかしそれだけでなく、その奥にもまだあると言う確信めいた予感があった。
「無いわー。本当、こんなのなら一方通行達について行かなくて良かったわ」
おそらく、こないだ一方通行達をボロボロにしたのは、目の前でうごめく異形達の相手をしたからだろう。
それ以外に心当たりが無い。
「ついて行かなくて良かったけど、結局テレビの中に来てるんだから世話ないわね」
と言いつつ自嘲した。
ついて行かなくてラッキーと思う反面、ついてないなあとも思う。
しかし、記憶をたどると、丁度打ち止めの調整が終わる直前から記憶がない。
「と言う事は、打ち止めが狙い……?」
これは拙いと冷汗をかくが、今更言っても仕方ない。
今はこの場を乗り切る事だ。あちら側の事は一方通行が居る。
「新ジャンル・戦う研究者、か……」
存外に、悪くない。
とはいえ戦う力など無いので、シャドウ達を避け、嫌な予感がする地点に更に近づいて行った。 - 748 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/10(日) 22:36:51.78 ID:bp63CoTso
- ・・・
いざテレビに向かった3人は、何やら慌てた様子のクマに迎え入れられた。
ちなみに、布束は寝ている。
「やっと来たクマか!また放り込まれた気配がしてるんだクマ!!」
「あァ、ひょっとしてコイツかもしれねェって奴について、1人だけ心当たりがあるンだ」
一方通行は芳川桔梗についての情報を、クマに語った。
「ふむふむ成程クマ……研究者だけど面倒くさがり、でも意外とおせっかい。それが芳川って人の人物像クマね?」
「まァそンなところだ」
「分かったクマ!……むむむ……」
一方通行からの情報を受け取ったクマは、頭を抱えてうんうんと唸っている。
「起きて下さい、朝ですよ。と、ミサカは布束に起きてもらうよう促します」
一方、9982号は布束を起こす為に、ゆさゆさと布束を揺らした。
「し、死んでる……」
「but、別にそんなことは無かったぜ」
布束は9982号の言葉を否定しつつ、眼をこすりながら起き上った。 - 749 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/10(日) 22:37:24.95 ID:bp63CoTso
- 「おはよう布束」
「well、やっぱり目を覚まして辺りが異空間だと、目覚めが悪いわ」
上条当麻は、のそのそと立ち上がる布束の手を取って挨拶を交わした。
こんな場所でよく眠れるなあと上条は苦笑しつつも、ペルソナについて尋ねる。
「なあ、起き抜けで悪いんだけどさ、ペルソナの扱い方……教えてくれよな」
「naturally、そのつもりよ。……ところで、御坂さんは?」
布束は以前約束した通り、上条の言葉に同意しつつ、御坂美琴について尋ねた。
御坂は現在渡米中。
「……それは随分うらやましいわね」
「ずるいですよね、今頃お楽しみ中ですよきっと。と、ミサカはお姉さまの事を妬みます」
「だからこの事件が落ちついたら、皆でどっか遊びに行こうぜ」
「well、それは面白そうね。私もほとぼり冷めたら外に出ようと思ってるし」
何だか戦闘前だと言うのに、和気藹々としていた。
今更変に緊張されても困るが、少し気を抜きすぎな気もする。
一方通行は、そんな3人を見つめ、少し溜息をつくとクマの方を再び向いた。
「むむ……あっちの方クマ!」
どうやら芳川はテレビの中に居たらしく、クマも芳川の事を捕捉できた。
「そォか……なら、行くぞお前ら」
3人も会話をすぐに中断し、気を引き締めた。
意外と切り替えが出来るンだな、とぼんやり一方通行は思いながらも、クマが向かう先について行った。 - 750 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/10(日) 22:38:13.07 ID:bp63CoTso
- ・・・
<???>
「本当、何なのかしら、ここは」
芳川桔梗は溜息をついた。
嫌な予感がする地点にまで足を運ぶと、そこには天井亜雄が横たわっていたからだ。
成程、今までの失踪者も、ひょっとしてこのテレビの中に入れられたと言う事だろうか。
と言う事は、布束砥信も?しかし彼女の死体は出ていない。
ならばどこへ?
流石の芳川も、テレビの中に留まりつつも生きているという選択肢は思い浮かばなかった。
それ程危険な場所である、と言う事を本能的に理解したからだ。
「さて、気絶してるだけならいいんだけれど」
おそるおそる、仰向けに倒れている天井に近づいて行くと、突如として天井が目を見開いた。
「んなっ」
ホラー映画の様なワンシーンを見せられた芳川は奇声をあげた。流石にビビる。
「ここは……そうだ……私は……あ、あああ、ああああああああ!!!!」
しかし、ビビっていたのは天井亜雄の方だった。
天井は芳川に気付いていなかったのか、一目散に駆けだして行った。
「なにこれ?」
芳川は訳がわからない、と言った表情で天井が走り去った方向を見やり、茫然とした。
意味がわからない。正気とも思えなかったが、あのようになった原因がここにあると言う事だろうか。
「ま、まあ元気そうだったし、大丈夫よね」
考えてもよくわからないので、先ほどの出来事は無かった事にしようとする。
しかし、そんな事をしなくても芳川の頭の中は、すぐにある事でいっぱいになった。
「……!!?」
ズキン、と鋭い頭痛が駆け巡って頭を抱える。
しかしそれはほんの一瞬の事で、すぐによくなったので顔をあげた。
すると、
「ドッペルゲンガー……?」
目の前には、自分が居た。 - 751 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/10(日) 22:39:33.66 ID:bp63CoTso
・・・
<ホテル・グランドデトロイト>
クマが連れて行った先には、ホテルの様な巨大な建物があった。
それはさながら海外の有名観光地の様な外観で、テレビの中では無かったのなら、楽しい旅行気分を味わえたのだが。
「おお……テレビの中とは言えこんな高級そうな建物の中に入っても良いのでせう?」
クマを除いた中で、一番貧乏な上条当麻は、目の前の立派な建物に尻込みしていた。
「見た目に騙されンな。どォせ中にはシャドウしか居ねェンだからよォ」
今までの中で一番捜索範囲が広いであろう目の前のホテルに、一方通行は溜息をつく。
新しい場所が増えるたびに面倒くさい構造になっていて、一方通行は、RPGじゃないンだから、もう少し楽させろよなと内心愚痴った。
「それが残念過ぎるんだよな」
上条もこんな立派な建物がテレビの中にあるという現実を嘆いているようだった。
「but、そのうち旅行するなら、こんなところに泊ってみたいわね」
先ほどどっか行く話をしていた布束は、どうせ行くならこんなところがいいなあとのんびり話す。
それには一同も同意するようだが、如何せん目の前のホテルに泊まろうと思ったら、一泊いくら位するのだろうか。
「ですがどう考えてもこんな場所に泊ろうと思ったら、一方通行頼りですよね。
と、ミサカは進みゆく一方通行の財布化を懸念します」
「あァ?あンなモン端金だっつうの。気にすンな」
一方通行の財力は本当にすごい。しかも財布化している事も気にしていないと言う。
流石一方通行。諭吉10や20人くらいどうってことないと言う事だろう。
「クマ?クマも旅行行けるクマか?」
「何言ってんだよ、当然だろ?……あ、でもクマってさ、外に出られるのか?」
テレビの外に出た事のないクマは、旅行に興味津々であった。しかし出られるのかわからない。
「そういえば確かめた事も無かったクマね。帰る時に試してみて良いクマ?」
「好きにしろ。帰る為のテレビはお前が出すンだからよォ」
「分かったクマ!」
「anyhow、このホテルを乗り切らない事には始まらないわよね」
「だよな。それじゃあ、行こうぜ」
5人は、適度に落ちついて、かつ適度の緊張感を持ってホテルの中へと入って行った。- 756 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/12(火) 04:14:08.17 ID:+6CEjqWDo
- 2人は相対した。
自分は自分を見つめ、一方で自分も自分を見つめている。わけがわからないよ。
「こんにちは」
「え、ええっと……」
穏やかな笑みを浮かべて佇む芳川桔梗(影)は、表情一つ変えずに芳川に対して挨拶する。
対して芳川桔梗(本物)は目の前の現象に理解が追いつかず、おどおどとしている。
ただでさえテレビの中という意味不明な空間に居ると言うのに、続いてドッペルゲンガーと来た。
ひょっとして、天井亜雄の元にもドッペルゲンガーが現れて、
ドッペルゲンガーを見たら死ぬとか言う迷信を信じていた天井は必死こいて逃げていたとか、そんな感じですか?
等とすさまじい勢いで目の前の自分について芳川は考察をしていた。
混乱は、必至と言えよう。
「ほら、挨拶されたら返答するのが礼儀じゃないの?」
ニコニコと、常識を教える母や教師のように、芳川の影は芳川に挨拶を促す。
「え、ああ、ごめんなさい、こんにちは」
思考が追いつかない芳川は、影の言うがままに挨拶を返す。
「よろしい」
芳川の影は、にっこりと微笑んだ。
そして芳川は尋ねる。
一見して悪い人間には見えなかったからだ。といっても見た目は自分だが。
「ところで、あなたは誰?」
「私は、あなたよ」
一言、言い放った。
私は、あなた。
私=目の前の人・・・1
あなた=私・・・2
2を1に代入すると、あなた=目の前の人。
あなたとはすなわち芳川桔梗自身であり、目の前の人とはすなわち芳川桔梗の目の前に居る人。
と言う事は芳川桔梗=目の前に居る人なので、あなたと私は同一人物である//
成程、分からん。
意味がわからないから、とりあえず。
「へえ、あんたも芳川って言うんだ」
自分の好きな漫画の名台詞をオマージュしておいた。
ちなみに、筆者は未読なので実際に原作中にそのセリフが使われているのかは知らない。 - 757 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/12(火) 04:15:24.71 ID:+6CEjqWDo
- ・・・
芳川桔梗は今まで相当に気を張っていたため、目の前の自分自身を見ると、気を張っていた自分が馬鹿らしくなっていた。
「それで、何で私……だとややこしいわね。何であなたはここにいるの?」
最も気になる事。何故現れたのか。
研究者としては「どうやって」も気になるのだが、やはりここは「何故」の方が大きい。
この事は芳川桔梗の知るところではないが、そもそもテレビの中の霧が晴れた時初めて影は凶暴化するのだが、
その時でなくとも、基本的には影は宿主から抜け出せるように誘導尋問のような行動に出る。
しかし、
「何でだと思う?」
ニコニコと子供の様な笑みを浮かべながら尋ねる影に、そのような意思は感じ取れなかった。
「……ここがそういう場所だから?」
どうとでも捉えられるような、割とアバウトな返答をしてみる。
「そういう場所ってどういう場所?」
しかし、逃げ道は防がれてしまった!
「なんて言うかこう……自分を見つめ直せよ的な?」
だが芳川は、ある種の正解を叩きだした。
上条当麻を例外として、御坂美琴も9982号も布束砥信も、自分の中に潜む影を見つめ直して、各々の影を受け入れて行ったのだ。
すなわち捉えようによっては、鏡は自身の外見を確認する物とすると、テレビは自身の内面を確認する物であると考えられる。
「ん、まあそんな感じでいいのかな?と言ってもこの世界の定義なんて曖昧だし、正解と思えば正解だし、不正解と思えば不正解なんだけどね。
ようは自分の心次第なんだよ、わかる?」
生徒の疑問を解消するべく、教師はゆっくりと丁寧に説明をするように、芳川の影は教鞭を振るう。
自分の心次第、ならば先ほど適当に挙げた「自分を見つめ直す為の世界」だと仮定すると。
―――なんとなく、わかる。 - 758 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/12(火) 04:16:03.54 ID:+6CEjqWDo
- 落ちついていて、諭すような口調。
物腰柔らかで、ゆったりとした態度。
まるで、小学生の頃、「こうなりたい」と夢見た憧れの―――
(これは、もし先生になった時の自分……すなわち、自分の願望の姿……?)
研究者になった時点で諦めた、夢。
絶対能力進化実験に加担した時点で霧散した、理想。
別に後悔はない。
許されるつもりもない。
許されていいはずが無い。
だがしかし、一方通行は、妹達は、打ち止めは、まだ子供だ。
罪を贖いたいと言う訳ではないが、3人が大人になるまでは、守ってあげたい。
おそらくは、芳川に残った夢の残滓。
それが今、目の前に居る。
それがわかった時、思わず笑みがこぼれてしまった。
「あなたは、私。ふふ……こんな私に、未だこんな感情が、姿が残ってるなんて。思わなかった……」
「良くわかったね、正解よ。私は、あなた」
芳川の影は、問題を正解させた生徒を褒めるように、微笑みを浮かべている。
しかし、残り物、みたいな表現を心の中でされたと感じ取った芳川の影は、一つ教えるついでにちょっと不満気味に口を開いた。
「ただ、「残滓」って表現はちょっと違うかなー。
だって、夢は自分の中に残ってる限りは、残りカスだろうと自分の大部分を占めてようと、等しく夢なんだから」
先程までは芳川を導く教師の様であったと言うのに、今ではまるでからかわれてむくれる子供の様であった。
そんな芳川の影の姿を見て、芳川は更に笑う。 - 759 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/12(火) 04:17:02.64 ID:+6CEjqWDo
- 「ふ、ふふ……随分とまあ、子供っぽいわね……」
「ば、馬鹿にしないでよね!こっちだってちゃんと教えようと必死で……!」
芳川の影が弁明をしようとした瞬間、ゾクリとした何かが芳川の中を駆け巡り、続いてホテルが大きく揺れた。
最初このホテルで感じた悪い予感を数十倍悪くしたような、そんな嫌な予感が芳川の脳内で警鐘を鳴らしている。
おそらく、一方通行達が、戦っている。
だがしかし、何故こんなことがわかるのだろう。
ふと前を見ると、芳川の影が先程までの必死そうな表情を消して、穏やかな表情を浮かべていた。
「あの子たちが戦ってるけど、どうするの?」
芳川の影が問う。
「どうするって、決まってるじゃない」
答えは、一つ。
「なら、私を使えばいい。あなたの中の、夢の残滓を」
最後の最後に、芳川の影は自虐して、笑った。
そして、芳川は。
「全く、存外に見所があるものね、私にも」
2人は、1人に戻った。 - 760 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/12(火) 04:17:52.33 ID:+6CEjqWDo
- ・・・
<ホテル・グランドデトロイトF1ロビー>
無音。
それもそのはず、誰も居ないのだから音の立てようが無い。
しかし、そんな静かな空間に、足音が5つ。
「無粋な罠はねェよォだな……」
一方通行は前回、布束と上条の影によって作られた忍術屋敷を思い出して、罠の有無を調べている。
「あれは酷かった……」
「屋敷内の構造が大きく変わっても意味が無いあの罠にはマジギレしたものです」
あの時の事を思い出してげんなりとする2人。
しかしあの場での経験によって鍛えられたのも事実なのでそれ以上文句を言う事は無かったが。
「indeed、あれはやり過ぎだと思ったけど、からくり屋敷なんだから仕方ないじゃない」
無粋とは失礼な。とやや憤った表情を浮かべつつも、布束砥信は壁をペタペタと触りながら歩いて回っていた。
一同はしばらくロビーを調べて回っていたのだが、特に何もなかった。
二階以降がどうなのかは不明だが、とりあえずこのフロアは安全そうである。
「さて……エレベーターがあるわけだが……」
扉を遠目に見ても分かるほどに、エレベーターは巨大だった。扉を見る限りでは、100人は入るのではないかと言うほど。
奥行き次第ではあるが、横幅だけ見ると、そのように感じられた。
一方通行は、奥に見えるエレベーターと、その左右に見える二階へと進む階段を見据えた。
こんな訳のわからない空間に存在するエレベーターなど、誰が使うのだろうか。
安全だと言う事が分かれば使うのだが。
いやしかし、以前行った研究所ではパソコンの電源が入らなかった。
だが一方で、からくり屋敷ではエレベーターが稼働していた。
なら目の前のエレベーターは?
興味本位で↑のボタンを押しそうとした。
すると一方通行がボタンを押す前に、テンプレな機械音を立てつつ階数を示すランプに光が灯り、エレベーターは最上階から1階に向かって近づいてくる。
まさか本当に動くとは思わなかった一方通行は、ポカンとしてエレベーターの扉を眺めた。
「おや、どうかしましたか?と、ミサカは一方通行に尋ねます」
「いや、動くかどォか確認するためにボタンを押そうとしたら、その前に動いた」
「……迂闊すぎませんか?何が出てくるかも分からないのに……
つーか押す前に動いたってことは」
「……虎穴に入らずンばなンとやらって奴だ」
誰か来るかもしれない。途中の階で止まるかもしれないが、何となく、それは無い気がした。何にせよ、エレベーターの行く先を見てから行動を再開したら良い。
そう考えた一方通行は、とりあえず何が起きても良いようにエレベーターから距離を取り、臨戦態勢に入った。
続いて9982号も新調した鋼鉄破りを構える。どこから入手したのかは聞かない。
そして残りの3人にも何か有るかもしれない、と呼びかける。
5人はエレベーターの扉に釘付けになっている裏で、ライオンの石像に埋め込まれた宝石が、ロビーを照らす光に当てられて、チカチカと石を持つように輝いていた。
しばらく待つと、エレベーターが1階に到着した。1階に降りてくるまで、他の階に止まることなく。
そして甲高い音が鳴り響き、エレベーターの到着を知らせた。
開かれる、パンドラの箱。
―――ようこそ、おいでませ。
手荒い歓迎だな、と一方通行はほくそ笑み、上条当麻は、思わず「こ、こんにちは」と呟いた。
それを皮切りに、エレベーターからシャドウ達が殺到する。 - 766 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:50:42.25 ID:nBkyBIRTo
- <ホテル・グラントデトロイト F10>
1人に戻った瞬間、芳川桔梗の掌には、白く光るタロットカードが握られていた。
そして芳川の影が自分の中に居る事を理解した芳川は、この場にたどり着くまで、何故自分が危険を察知できたのかを把握した。
「成程……ここまで来られたのも、あなたのおかげだったのね……」
己の勘に従ってここまでやってきたわけだが、勘では無く、観測した結果だったようだ。
「ふふ、まさに研究者向きの『力』ね」
夢の残滓の癖に、皮肉った力をくれたものね。と、虚空を見つめ、笑いかける。
タロットカードは、芳川を祝福するかのようにキラキラと輝き続けていた。 - 767 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:51:14.60 ID:nBkyBIRTo
- ・・・
<ホテル・グラントデトロイト F1ロビー>
「数えンのも億劫になる数だなァおい」
エレベーターの扉が開いた瞬間、蜘蛛の子を散らすようにシャドウが解き放たれ、誰も居なくなったエレベーターは、再びその扉を閉じた。
シャドウは一方通行達の存在を捕捉すると、獅子の様な咆哮を上げ、襲いかかって来る。
その動きを見た布束砥信はアトロポスを顕現させ、マハガルで威嚇した。
「anyhow、最低限、心を強く保つ事が重要よ!悲しみだったり怒りだったり、負の感情があなたを蝕むわ!」
布束のマハガルによって足を止められたシャドウを確認すると、その隙をついて布束は上条当麻に力の振るい方を解説する。
解説と言っても、力を使えば使う程、暴走しやすくなると言うのは布束自身良く体験していたので、なるべく力の消費を抑えるようにとしか言いようがない。
「and、力の消費を抑えたいのなら、効率良く力を振るうしかない。マハガルーラ!!」
敵一体に対するスキルを連発するよりも、全体攻撃が見込めるスキルを使った方が良い。
ただ、その分力のコントロールにも気を使わねばならないが。
「中には、私の疾風属性が効かない奴が居るかもしれない。でも―――」
更にコンセントレイトを唱えながら、チラリと全員を一瞥した。
ここまで説明すれば、全員が理解出来る。 - 768 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:51:40.56 ID:nBkyBIRTo
- 「俺や一方通行、久々葉がそいつらを潰せば良いってわけだな!!」
「まァ、俺のシナツヒコも疾風属性メインなンだがなァ」
「せっかくいい感じのチームプレイなのに水を差さないでくださいよ。
つーかペルソナを変更するとか言うチートがあるじゃないですか
と、ミサカは一方通行に突っ込みを入れます」
「クマ!あっちは疾風で、こっちは氷結が弱点クマ!
電撃は仕方ないとしても、美琴ちゃんが居たら火炎攻撃もできたんだけどクマ……」
マハブフーラ、マハガルーラ、電光石火。
広域範囲の攻撃が見込める技を、各々放っていく。
直接体を凍らされる。
吹き荒れる風に切り裂かれる。
鋭い拳撃と蹴撃に吹き飛ばされる。
風に煽られた氷塊に体を貫かれる。
そこらに居るようなシャドウでは、この全体への攻撃を抑えることなど叶わず。
中には吸収をするシャドウも居たが、吸収できない攻撃で殲滅される。
中には反射をするシャドウも居たが、反射できない攻撃で殲滅されるだけでなく、反射したスキルによって、周りのシャドウが殲滅される。 - 769 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:52:41.45 ID:nBkyBIRTo
最早、災害だった。
しかし、クマが言った火炎属性が弱点のシャドウが、電撃属性が弱点のシャドウが、4人の放った攻撃の合間を縫って襲いかかってきた。
「お前らはそっち側を足止めしてろォ!!」
一方通行は火炎属性が弱点のシャドウ達を足止めするよう指示を出し、自身は電撃属性が弱点のシャドウ達の前へと飛び立った。
「―――クイーンメイプ!!マハジオンガァ!!」
マハジオンガ。全体に電撃属性の中ダメージ。
御坂美琴程の威力を持っているわけではないが、かなりの高出力である電撃をシャドウ達へと向ける。
一閃、シャドウ達の横を紫電が通過し、遅れて来るように巨大な雷撃がシャドウを襲う。
雷は、それを弱点としているシャドウだけでなく他のシャドウをも巻き込み、ことごとく蹂躙して行った。
シャドウの消滅を待たずして、一方通行は更にペルソナを変更する。
「カハク、マハラギ!」
火炎属性の方は、高出力のスキルを覚えていなかったのか、マハラギでシャドウの動きを止め、その隙をついて上条達3人が確実に仕留めて行った。
「……incidentally、私と敵対した時そうやってペルソナをガンガン変えたら翻弄出来たんじゃないかしら?」
「本当だよ。俺なんかが無理して攻撃する必要なかったじゃねえか」
ペルソナチェンジと言うチート技を目の当たりにした布束は、若干ジト目で皮肉を言い放つ。しかし、あの時と今では状況が大きく違っていた。
敵対している人間に対して手の内を晒すのは愚の骨頂であるが為に後手に回った結果、味方達に余計な怪我を負わせるはめになったのだ。
最初から使っていれば、あそこまで被害は出なかったのだろう。流石の一方通行もあの時の戦闘は反省した。上条がペルソナを扱えるようになった、と言う事だけがあの時の戦利だろう。
とはいえ、暴走するかもわからない力をそう何度も振るわせるつもりはないが。- 770 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:53:17.54 ID:nBkyBIRTo
「バカ野郎、味方ですらあの時見せたのが初めてだってのに、敵対していた人間にそうホイホイと手の内を晒してたまるかよ」
本当は見せるつもりも無かったンだけどなァ。と、手の内を晒させざるを得なくさせた布束に対しての返答を、皮肉で返した。
この戦闘すらどこかで見られてるのではと考えると、余り使いたくはないのだが、余力は残しておきたい。
どの道、一方通行はシナツヒコより強いペルソナは今のところ所持してもいないのだから、ペルソナチェンジの存在を明かしている今、晒して困る手札は無い。
「それに、上条のペルソナの方が氷結属性攻撃の威力がたけェし、9982号のペルソナの方が物理攻撃の威力がたけェし、布束のペルソナの方が疾風属性攻撃の威力がたけェし。
なンつゥか、俺は器用貧乏属性なンだよ」
オールマイティだとか、万能だとか表現しないあたり、この空間では自分の力を過信出来ない事を良く理解していると言う事が見て取れた。
あの一方通行が、今までの経験上自身の力を器用貧乏などと断じてしまう程、この世界は甘くは無かった。
「とりあえずゥ……残り10匹ィ!!!」
一方通行の叫び声を合図に、上条達は再び動き出した。
しかし戦闘による土煙も相まって、誰も気づかない。
―――エレベーターが、知らぬ間に最上階まで上昇し、そして下降を始めていた事に。- 771 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:53:49.04 ID:nBkyBIRTo
- ・・・
<ホテル・グラントデトロイト F7-8階段>
「さて、一方通行達は1階に居るみたいね……」
芳川桔梗はエレベーターで1階まで降りようとか呑気に思っていたのだが、何故かエレベーターが作動してくれなかった(動いていたのに)ので、階段を使って下の階を目指していた。
「エレベーターがちゃんと動かないのも、この空間のせいなのかしら?
なんでも有り過ぎて考えるのが無駄に思えてくるわね……」
極力動きたくない芳川としては、エレベーターでガーッと1階まで行きたいところなのだが、如何せん何があるかもわからないのに密室空間に閉じこもるのは死亡フラグだろう。
とはいえ、この世界自体が死亡フラグだと思っている芳川からしたら階段で降りようとエレベーターで降りようとたいして変わらないので、どうせならエレベーターで降りたいと思うと言うことは自明である。
「1階にも強い気配を感じるけど、それとは別に強い気配がもう一つ……いや、二つ……?」
階段を下りつつも、うんうんと唸っている。
いくつか強そうな気配を感じとったようだが、どちらかあるいは両方がエレベーターに関わっているのだろうか。
逆にどちらも関わってないパターンも考えられるが、その場合はお手上げである。エレベーターの構造があちら側とは違うかもしれないし。
「何にせよ、一旦1階まで下りた方がいいかしら……?」
芳川は方針を決定すると、引き続き階段を下り続けた。 - 772 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:54:17.06 ID:nBkyBIRTo
・・・
音が止んだ。
そこには一方通行達しか残っておらず、かなりの広さを誇っていたロビーだが、戦禍の傷跡が無い場所が無い、と言った状況だった。
「お疲れクマー」
「いえーい。と、ミサカはしゃがんでハイタッチします」
クマと9982号はハイタッチをして互いを労っている。
しかしここはまだ1階。何処まで行けばいいのかわからないと言うのに、最初からこれだと先行きが不安である。
「はァ……1階からこンな目に遭うたァ、今後が不安になって来るなァおい」
一方通行は気だるげに自身の白髪を弄びながら愚痴を吐く。一見気を抜いた様子に見えるが、その実周囲を警戒していた。
そんな一方通行を横目に、上条当麻は完全にリラックスして布束砥信と会話をしている。
「上条さんもあんまり長時間戦闘すると、後が怖いんですことよ」
「indeed、暴走する可能性は否めないけれど、ある程度適性が合えばそこまでひどいことにはならないはずよ。
私の場合は、酷使しすぎたって言うのもあるし」
「へえ、成程な。それならマハブフーラよりも、普通にマハブフと武器使って戦った方がいいな」
「well、敵の弱点さえ付ければ威力が低くても、私達で追撃できるから、その辺はあなたのさじ加減に任せるわ。
どの程度の力を使えばいいのかって言うのは本人じゃないと分からないしね」
布束の言葉に、上条は少し思案する。
以前布束と戦った時と、先ほど戦った時、自分はどの位の力を発揮していただろう、と。
「そうだなー。強い威力のスキルは温存しておくとするよ」
今のところの最上位スキルは、『マハブフーラ』である。
しかし、鍛えればいずれはそれすらも使いこなせるようになるはずだ。ならば、少しずつ鍛えて行けばいい。- 773 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:54:45.28 ID:nBkyBIRTo
- 「何にせよ、さっさと移動した方がいいですね。かなり大暴れしましたし。と、ミサカは提案します」
「そォだな、とっとと上の階行くとするかァ」
「頑張って行クマー!」
一方通行の言葉を聞くと同時に、クマが階段に向かって駆けだした。
「クマッ!?」
すると、階段の手前で何か見えない障壁の様なものによってクマの通行は妨げられ、その光景を目にした一同は数瞬の間思考を停止させ、ポテンと倒れるクマを眺めた。
「あァ?」
最初に声を上げたのは一方通行だった。
しかし、どういう事かと考える間もなく甲高い音と共に、エレベーターの到着音が鳴り響いた。
そこから悠然と歩み寄る、2体の異形。
丸々と肥え醜い様相であるが、マントで身を包み、まるで女王の様な佇まいをしたシャドウ、『エンプレス』。
対して、長身に鎧を身に付けた、王冠を模した顔をして、まるで王の様な姿をしたシャドウ、『エンペラー』。
「新手クマ!すごく強そうクマよ!!」
2体のシャドウによって、ロビーの雰囲気は和やかな物から一変して、重苦しく、底知れない力を感じさせる物と成り変った。
しかし2体のシャドウは一方通行達の様子をうかがっているのか、これと言った動きを見せない。
先手を譲ると言う余裕を持っているのか、はたまたそのような事を考える知能は無いのか、何にせよ目の前のシャドウを倒さねば先に進めないようだった。 - 774 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:55:27.90 ID:nBkyBIRTo
- 一方通行は様子見でマハガルーラを放つ。
するとエンペラーは大きくよろめいたが、エンプレスには効いていないようであった。
エンペラーは疾風が弱点で、エンプレスには無効。ならば布束と一方通行でエンペラーを、上条と9982号でエンプレスを相手に戦闘したらよいだろう。
一方通行は瞬時にその思考を脳内で巡らせ、指示を出した。
「そっちの丸いのはお前らで相手しろ!細なげェのは俺と布束でやる!!」
その叫び声に反応するよりも早く、3人は行動を開始していた。どうやら同じ事を考えていたらしい。
いち早く動き出した上条は、未だに動く気配を見せないエンプレスに攻撃を放つべく、ペルソナを出す。
「オケアノス!剛殺斬!!」
上条が叫ぶと背後からオケアノスが現れ、その手には身の丈ほどの大剣が握られており、それを力任せにして横薙ぎに斬り払った。
その斬撃は「斬る」と言うよりは「打つ」と言った方が正しいだろう。
オケアノスの大剣を受け止めたエンプレスは、そのまま力の向きに従って吹き飛んで行ったのだから。
更にエンプレスが転がる方向に向けて、9982号が鋼鉄破りによる射撃を加えた。
1発1発が2000m先にある戦車をも撃破出来ると言うその弾丸は、全てエンプレスへと吸い込まれるように直撃して行き、広大なロビーの隅にまでエンプレスは追いやられて行った。
そこで一度、射撃を止める。
すると、ゴウ!とロビーを埋め尽くす音が鳴り響いた。
音の鳴った方を向くと、エンペラーが勢いよくエンプレスに向かって転がってきていて、勢いそのままにエンプレスと正面衝突した。 - 775 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:55:54.62 ID:nBkyBIRTo
- ・・・
<ホテル・グラントデトロイト F3通路>
「あらら」
芳川桔梗は目の前の状況を見て苦笑いした。
戦闘を避けて避けて避け続けて1階を目指していたのだが、如何せんこの建物の構造を把握していない。
その為シャドウの接近を許した時、何処に隠れたらよいのか、皆目見当がつかないのだ。
その上、ただ単に階段が1階まで続いて居たら良い物を、この建物の階段は階数おきにいちいち階段の場所が違う。設計者出てこいと叫びたくなるほど嫌な構造をしていた。
それでも何とか気付かれないように、戦闘にならないように、慣れない隠密行動を取っていたのに。
そのツケが早くも回ってきたのか、『強い気配』のする所にまでたどり着いてしまった。まるで誘導されるかのように。
引き返そうにも、後ろにもシャドウの気配を感じる。幸いこちらには気付いていないようだったが。
「さてと、私も覚悟を決めるしかないみたいね」
進めども退けども、確実に戦闘になる。
「私の力、過信するつもりは無いけれど」
信頼くらい、しても良いと思うわ。
芳川は、引き返すことなく前へと進んだ。 - 776 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/14(木) 12:56:22.52 ID:nBkyBIRTo
- ・・・
上条当麻と9982号が余裕を持ってエンプレスを相手取る一方で、一方通行と布束砥信はエンペラーと相対していた。
相手は一体でこちらは2人。
自然と挟み撃ちの体勢になっていた。エンペラーがどちらかを攻撃しようとした隙に片方がガルーラを放つ。
それにより大きく仰け反ったエンペラーに対して、
「「ガルーラ!」」
まるで事前に話し合っていたかのように感じられるほど、息の合った攻撃を放っていた。
2人の放つ強風によって板挟みにされたエンペラーは、身動きが取れなかった。
続いてその隙をついた一方通行は、ガルーラを圧縮操作した物を掌に作りだし、エンペラーの元まで一瞬で近づき暴風の塊を胴長なその身体にぶつけた。
繊細な操作によって圧縮されていたその塊は、エンペラーに直撃する事で捜査が乱れることによって暴風が一気に解放され、大砲のような勢いでエンペラーは吹き飛ばされる。
そして、吹き飛ぶエンペラーは上条と9982号によってロビーの隅に追いやられていたエンプレスとぶつかる事によって、ようやくその動きを止めたのだった。
そうして、4人の熾烈な攻撃によって大量の土煙が舞っている。
建物の中で土煙が舞う、と言う状況はおかしいとしか思えないのだが、華やかさを持っていたロビーは一転して、土煙が立つほどに廃墟のような空間と化していた為だ。
敵に反撃をさせる隙を与えずに攻撃を続けた。それ故に気付かない。
ただ単に、攻撃する気がなかっただけだった、と言う事に。 - 785 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/18(月) 21:52:44.29 ID:bvHREq1Lo
- 「なにこのインリンオブジョイトイ」
芳川桔梗は身を隠しながら、げんなりとした表情で言い放った。
視線の先には縦に半分、黒と白の色をした体と、その逆白と黒で二分割され染められた髪の毛を有する変態が居た。
その名は『プリーステス』。
エレベーターの扉を背にしてM字開脚をしたセクシーなシャドウであり、どこかの青髪ピアスなら「アリやな」とか言うに違いない。
しかし一見ただの露出魔に見えるが、芳川はプリーステスからただならぬ気配を感じ取っていた。
(こいつ……強い……!)
一度は心でつぶやいてみたいワードベスト16にランクインする、「こいつ……強い……!」を唱えられて芳川はご満悦であるが、
実際に力をひしひしと感じ取っているので気を引き締めた。
「さて、一発かましておきましょうか」
気負った様子もなく、それが当たり前のような気軽さで、芳川は口を開いた。
「行くわよ、カシキヤヒメ」
どこまでも自然体の芳川の背後から、心の仮面が現出する。 - 786 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/18(月) 21:53:23.04 ID:bvHREq1Lo
- ・・・
芳川桔梗は誰に言う訳でもなく、自分にしか聞こえない程度の声で、呟いた。
「……カシキヤヒメ」
―――カシキヤヒメ。いわゆる初代女性天皇と言われた推古天皇。
豊御食炊屋比売命(とよみけかしきやひめのみこと)だとか、豊御食炊屋姫尊(読みは前者と同じ)だとか呼ばれ、
甥である聖徳太子を皇太子と摂政に就かせた。
また、仏教とともに大陸文化を学び、 中国の隋からも文化をとりいれたと言われている。
別に芳川と何の関連も無い。ただ単に女帝コミュに芳川を据えるのに女帝っぽい推古天皇を使っただけで、別にこれと言って凄い逸話とかあるわけではない。
さて、ペルソナを出していつでも戦える状態にはなったのだが、如何せん芳川はただの研究員。
ペルソナによる補正がある程度かかるとはいえ、そんな簡単に動けるはずもなく。
(腰を据えて遠距離攻撃が良いんだけれど)
その意に反して自分のペルソナの特技(そのいち)は『観測』。
すなわち対象を観測、研究し、その弱点を導き出すと言う物。
微力ながら戦うためのスキルもあるのだが、残念ながら威力は高くない。
ちなみに、そのスキルはジオである。
(残念だけど、低出力。まあRPG的に考えて、弱いのは仕方ない、か……)
しかし、それを嘆いても無意味。今するべきは、目の前のシャドウを殲滅することである。
「あなたには悪いけど、その後ろにあるエレベーターは、止めさせてもらうわ」
芳川は、『観測』する力を以って自身の力と相手の力関係を測っていた。
しかし、単純に真正面から相対した場合、自身が勝つ可能性は、ほぼゼロ。
だと言うのに何故芳川は戦いに赴いたのか。
それはエレベーターにある。
別に楽して為等では無い。プリーステスを観測した結果、今現在このシャドウはエレベーターに何らかの干渉をおこなっている。
何をしているかまでは分からないが、何かしら目的があるはず。
その目的は?
恐らく、異分子の排除。
異分子とは?
芳川と、まだ見ぬ一方通行達。
それならば、芳川がここで叩かねばと言う思考に至るのは、自明。
だが、芳川では少々役者不足である、と言う事は芳川自身も良く理解している。
ならば、策を弄するしかあるまい。
(何とかエレベーターを捕りたいんだけれど……)
賭けに近い作戦しか立てられない現状に歯噛みしながらも、芳川は行動を開始した。 - 787 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/18(月) 21:54:06.90 ID:bvHREq1Lo
- ・・・
土煙が晴れる。
目線の先には変わらず2体のシャドウが泰然として佇んでいた。
かなりの力を以って打倒したはずだ。
にもかかわらず、結果は無傷。
一同の動揺は隠せなかった。
しかし、その隙はあまりにも大きく。
シャドウ達が行動を起こすに十分すぎるほどの時間を与えてしまった。
「ガッ!!?」
「うぐっ!!」
一番近くにいた上条当麻と9982号の二人が、エンペラーとエンプレスの標的となった。
エンペラーは手に持った両刃の剣を上条に向かって振るう。
オケアノスを召喚して何とか受け止めさせたが、エンペラーの長身から放たれた上から下への振り下ろしの威力はすさまじく、受け止めた上条も思わず膝をついた。
続いてエンプレス。
こちらは手に持った杖を振るい、マハガルーラのスキルを放つ。
これにより9982号だけでなく、その近くに居る膝をついた上条にまで凶刃の風が及び、2人して吹き飛ばされてしまった。
「2人とも大丈夫?!」
「どういう事クマ!?弱点が……」
うろたえる布束砥信とクマを横目に、一方通行は思考を加速させる。
最初に攻撃した時は確実に弱点をついた。
しかしいつの間にかその攻撃は弱点たりえなくなっていた。
ならばどうするべきか。
「こいつらの相手は俺が引き受ける!だからお前らは少し休んでろォ!!」
火炎・氷結・雷撃・疾風の4属性を扱える一方通行が、敵に通る攻撃としらみつぶしにするしかない。
「私も出るわ」
そんな一方通行の考えを知ってか知らずか、余力を残した布束もまた、戦闘に参加する事を申し出た。
「よし、なら布束は俺がペルソナを変える時の隙を埋めろォ!
そンで、クマは上条と9982号の事をしっかり見とけ!!」
「分かったクマ!がんばるクマよ!!」
クマは一方通行の言葉を聞くまでも無く、上条と9982号の元に駆け寄っていた。
それを見た一方通行はすぐさまシャドウ達に視線を合わせる。
「行くぜ布束ァ……」
「え、ええ……」
獲物を見つけた獣のような唸り声を上げた一方通行。布束は、ちょっと引き気味に追従する。
そして一方通行と布束は、上条達を遠ざけるようにシャドウ達を誘導させ、戦闘を再開した。 - 788 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/18(月) 21:54:56.37 ID:bvHREq1Lo
- ・・・
「とりあえず」
芳川桔梗はチラリとプリーステスの後ろに有るエレベーターを一瞥しつつ呟いた。
「エレベーターごとこのM字開脚女を何とかしたいわね」
それは異形でありながらも立派なプロポーションであった。
そこに芳川の嫉妬が見え隠れしていたのは内緒である。
「まずは注意を惹きつけたいわね」
芳川は白衣の中から護身用の小型拳銃を取り出した。
「しかしどうして拳銃を持っているのかしら……」
テレビの中に来る事になってしまった原因を知らない芳川は、疑問に思う。
偶然こんなところに来るはずが無い。ならば誰かがここに来るように仕向けたはず。
おそらく、明確な殺意を持って。
しかし御覧の通り、手元には武器がある。この程度の武器では役に立たないと判断したのか、それとも、「殺意を持って」と言う仮定が間違いなのか。
「何にせよ、使える物は何でも使いましょうか」
考える事は、後でもできる。
まずは生き残った後に考えればよいのだから。
思考を切り替え、目の前の異形を駆逐する方法を考えることにする。
「御坂さんの超電磁砲としての力があれば良いのに……」
と、芳川は溜息をついた。
エレベーターを『観測』した結果、最大定員は150人、容量は1トンに及ぶ建築基準法をガン無視した造りになってはいるが、
その内部構造と機能は一般的なエレベーターと同じである事が分かっている。
「とりあえず、初手は頂いておきましょうか……ジオ!」
壁際に体を寄せ、プリーステスの死角に身を置いていた芳川は、一気に駆けだしてその身を露わにした。
プリーステスもそれにすぐに気がついたようだが、芳川のジオにひるんだらしく、再び身を隠した芳川を捕捉するかのように髪の毛を目まぐるしく動かしていた。
「やっぱり、エレベーターからは動けないようね……」
再び壁に身を寄せて、芳川はプリーステスから見えない位置に座り込んだ。
やはり芳川の予想通り、エレベーターに何らかの細工を施す為に、エレベーターの前から動けないらしい。 - 789 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/18(月) 21:58:30.49 ID:bvHREq1Lo
- 「エレベーターを操って何の得があるのかしら」
1階での出来事を知らない芳川は、プリーステスの行動に首をかしげた。
「まあ、どうでもいいわよね」
芳川を捕らえるべく伸びてきたプリーステスの髪の毛を避け、再びジオを放つべく駆けた。
「ジオ!」
威力にして妹達の『欠陥電気(レディオノイズ)』程度だろうか。
しかしそれでも、妹達の放つ雷撃の電圧は5万ボルトに達する。
とはいえ媒体が無ければその威力は半減するのだが。
「狙いはあなたじゃなくて、エレベーターなのよね」
芳川はエレベーターにジオが直撃した事を確認すると、手に持った小型拳銃をカシキヤヒメに投げ渡した。
それを受け取ったカシキヤヒメは、1発エレベーターに向かって発砲する。
すると弾丸は、エレベーターのボタンを直撃し、エレベーターが3階に向かって移動を始めた。
プリーステスは、移動を始めたエレベーターを見てそれを止めるためか、髪の毛をエレベーターの扉の間に滑り込ませる。
「そんな隙を作ったら、攻撃したくなるに決まってるでしょうに」
カシキヤヒメは着物を着ていたのだが、手に持った小型拳銃を袖の中へと滑り込ませた。
すると何かの骨を砕いたかのような鈍く低い音が鳴り響く。
音が鳴りやんだと思ったら、カシキヤヒメの着る着物の袖から、再び小型拳銃が出てきた。
「何か、ハガ○ンっぽい能力よね」
カシキヤヒメの能力そのに、『作成』。
『観測』した物を材料にして、任意の何かを作り出す事が出来る。
ただし、無から有を作る事は出来ないし、例えば、鉄原子から炭素原子を作りだすなど、ある元素を別の元素に造り変えることなども出来ない。
また、カシキヤヒメが触れた物でないと『作成』は発動しない上に、発動までタイムラグがあるので、最低でも5秒は触れないといけない。
「そんなわけで、擬似レールガン!」
芳川の言葉に反応したカシキヤヒメは、手に持った小型拳銃にジオをかける。
すると短い銃身に視認出来るほどの強力な電気を帯び、そしてカシキヤヒメが引き鉄を引くと、摩擦熱やジュール熱等の大きな熱量を帯びた弾丸が銃口から飛び出した。
音を置き去りにしたその弾丸は、プリーステスを捉え、エレベーターの扉を破壊してプリーステスをその中に吹き飛ばした。
プリーステスがエレベーターの通路に体をうずめているのを確認すると、芳川はカシキヤヒメの握る小型拳銃に目をやった。 - 790 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/18(月) 22:00:51.89 ID:bvHREq1Lo
「あー、間に合わせで作ったからこうなるわよね……」
先述したとおり、弾丸を発射するにあたって、その時に発生した熱によって銃口の中はドロドロに溶けてしまった。
時間をかければ電磁投射砲を作りだす事も出来たかもしれないが、そこまでする時間は無かった。
と言うよりは、最早擬似レールガンなど、不要。
「エレベーターだッ!!」
プリーステスが芳川の立つ通路まで戻ろうと髪の毛を伸ばすが、その頭上からエレベーターが降りてきた。
急な事に対応しきれなかったプリーステスは、何とかエレベーターを受け止めようと試みるが、その質量によって下へ下へと押しやられて行く。
「無駄無駄無駄、と言いたいところだけれど」
そんなラッシュ出来るほど芳川のペルソナは力に長けていない。
その為、とどめはどうするかと言うと。
「『観測』していたのは、あなたと拳銃だけではないのよ」
エレベーターに『作成』をかける。
しかし目的の物の質量が大きすぎる為、完成まで時間がかかりそうだ。
この『作成』の力、材料さえ有れば万能に見えるが、案外そうでもない。
なぜなら作る物の質量・大きさに応じて目的の物の完成に時間がかかるのである。
それゆえこのような世界で巨大な物を作ろうと思うと、芳川単独では造る事は出来ないだろう。一言で言えば隙が大きすぎるのだ。
更に言えば、より大きな質量の物だったり、より精度の高い物だったりと、物の『質』によって『作成』するのに、より大きな『力』を使う。
故にあまり派手な事をすると『暴走』する恐れがある、と言うのは余談である。
エレベーターがプリーステスを下へと追いやり、芳川の目の前に現れる。
それを確認して芳川はエレベーターへと乗り込んだ。
「さて、それでは下へまいりまーす」
エレベーターガールの様に1階のボタンを押すと、壊れた扉が閉じるふりだけをして、エレベーターは下に降りようとした。
しかし、それは叶わなかったが。
「やっぱり抵抗するわよねー」
のんびりと焦った様子も無く、芳川はエレベーターの天井に穴をあけ、その上へと登った。
しばらくするとエレベーターの床に穴が開き、白と黒の長い髪の毛がエレベーターの至る所に張り付く。そしてそれによってプリーステスの体を持ち上げた。
プリーステスは芳川の姿を探す。するとすぐに天井の穴を見つけて、髪の毛を伸ばした。
だが、髪の毛は芳川に及ぶ事は無かった。
「あなたの敗因は……ただ一つよ……プリーステス……たった一つのシンプルな答え……
『私の力の丁度イイ実験台だった』」
憐れプリーステスは『エレベーター』と言う名の『弾丸』に詰め込まれて、1階に向けて放たれた。
芳川は、エレベーターとその通路を利用して、レールガンを『作成』したのだった。
これにより弾丸と化した女教皇『プリーステス』―完全敗北・死亡!- 791 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/18(月) 22:01:34.38 ID:bvHREq1Lo
- ・・・
攻撃が通らない。
たまに攻撃が通ったと思った矢先、すぐに通らなくなる。
この現象を一方通行は「まるでパラダイムシフトだな」と評した。
「さァて……ここまで弱点がわかんねェとなると……」
少し思案するような顔を浮かべる。布束砥信は、一方通行に何か策があるのだろうかと思い、その口が開かれるのを待った。
「うン、勘で行くしかねェ」
布束は思わずこけそうになった。
「……indeed、何の策もない私が言える事でも無いけれど」
「仕方ねェだろ。わかンねェもンはわかンねェンだよ」
完璧な人間なンて、居ねェンだよ。と、哲学っぽい言い訳をする一方通行。
確かにその通りだとすんなり納得した布束。
イマイチ緊張感に欠ける戦場だった。
しかし、突如としてその妙な空気は破られた。
エレベーターの扉が吹き飛び、膨大な熱を帯びた風が吹き荒れる事によって。 - 792 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/18(月) 22:03:25.32 ID:bvHREq1Lo
・・・
「なンだなンだよなンですかァ!?」
突然吹き飛んできたエレベーターの扉と熱風を見て、自身の背後に居る上条当麻や9982号、布束砥信とクマの4人を守るためにそれらを防いだ。
しかし、エレベーターに最も近い位置に居たエンペラーとエンプレスは、やはり効いた様子では無かったが。
上条と9982号が背もたれに使っていたライオンの石像に埋め込まれた宝石の輝きは、いつの間にか失われ、エレベーターの中に居たはずのプリーステスも、消滅していた。
そしてそのエレベーターからは、
「芳川ァ!?」
芳川桔梗がのんびりと現れた。
「あら、やっぱり一方通行達だったのね」
どこまでもマイペースな芳川は、チラリと2体のシャドウを一瞥した。
「そっちの王様みたいなの、『エンペラー』って言うんだけど、氷に弱いみたいね。
あっちの女王みたいのは、『エンプレス』。こっちは殴る蹴るとかの、普通の物理的な攻撃が効くわね」
さも当然のように2体のペルソナの弱点を言い放った芳川に、一方通行達の動揺は隠せなかった。
「どォいう事だ?」
一方通行は怪訝そうな表情で、芳川に尋ねた。
「なんの事は無いわ。まあ、論より証拠って奴ね……カシキヤヒメ!」
説明するのも面倒だったのか、芳川はカシキヤヒメを呼び出した。
そのペルソナを見て一同は眼を見開き驚愕する。
「何か私のドッペルゲンガーが出て……あ、そんなことより、早く攻撃して欲しいんだけど」
芳川の言葉通り、ゆったりと会話する余裕など有るはずもなく。
エンペラーとエンプレスが、芳川に向かって走ってきていた。
「え?何でこっち来るの?」
芳川は、実を言うと既に限界だった。
初めてのペルソナに初めての力の行使。それだけでなくエレベーターを使ったレールガンは、威力・質共に高レベルなもので、非常に大きな力を使わされた。
故にこれ以上の『作成』は実質不可能。『観測』もあまり多用は出来ないだろう。
芳川の顔からは、フルマラソンを終えたランナーの様に大量の汗が噴き出ていた。- 793 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/18(月) 22:05:37.80 ID:bvHREq1Lo
- 「そりゃお前が一番近くて手頃だったからだろォが!!」
何て呑気な奴だ、と内心愚痴りながらも一方通行は芳川の元へと駆ける。
そして2体のシャドウに追いつくと、まずエンプレスを思い切り蹴り飛ばした。
続いて、その蹴った勢いに乗ってエンペラーへと向かいながら、叫ぶ。
「ジャックフロストォ!!」
一方通行の背後から、雪だるまの人形のような可愛らしいペルソナが現れた。
御坂美琴が見たら目を輝かせる事間違いなしだろう。
しかしそのペルソナが放つ攻撃は、非常に強力。
ジャックフロストから、全てを凍てつかせるブフーラが放たれた。
「エターナルフォースブリザード(笑)」
芳川が爆笑している。
一方通行の強面からあんな可愛らしいのが生まれるとは思っていなかったのか、
かなりツボにハマっていた。
芳川は「ペルソナチェンジ」を知らないため、一方通行=ジャックフロストだと勘違いしたからというのも爆笑する要因になったのだろう。
呑気な芳川の相手をすると気が抜ける。
一方通行はそのように判断を下し、エンペラーとエンプレスに目をやった。
どうやら一方通行の一撃を受けたエンプレスは、今まで勘で放ち続けた攻撃も相まって限界が来たらしいが、
エンペラーに関してはまだ力は残っているらしく、手に持った剣を一閃させ、軽く地面を切り裂いた。
「あら、変わってるわねこのシャドウ。弱点が変わったわ。今度は風に弱いみたいね」
一方通行は成程、と思う。過程はどうあれ、芳川は「研究員」。ならばそのペルソナは「調べる」事に長けていると言う事だろう。
その過程に関しては、後で聞く事にしよう。
一方通行は、最後の一撃を放つ。
シナツヒコの風と、自身のベクトル操作を使って。
「well、オーバーキル過ぎない?」
元気玉を作るかのように両手を掲げる一方通行を横目に、布束はエンペラーに対してガルーラを放った。
その暴風を受け止めたエンペラーは、エンプレスと同様に消滅の運命を辿る。
そして戦闘は、ようやく一つの終わりを迎えた。
・・・
「俺のこの滾る思いは何処にぶつけりゃイインだよ?」
「well、ラウンドファイナルにむかつくプリクラ機があるらしいから、それにぶつけたら?」
「そいつは最高に楽しそうだなァ」 - 794 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/18(月) 22:06:08.93 ID:bvHREq1Lo
- ・・・
<???>
男は走る。走る。走る。
何かから逃げる。
ナニかから逃げる。
しかし、光ある所には影がある。
光が影から逃れられるはずもなく。影が光を逃すはずもなく。
「あはっ」
ナニかの笑い声が響き渡り、男は何処にも居なくなった。 - 803 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/19(火) 18:12:35.12 ID:RlPjrsIWo
- 「ここが噂の研究所ですかっと」
半蔵は身を潜め、息を潜め、体を無人の研究所へと滑り込ませた。
目的は、天井亜雄の行方。
こんな所に居るとは思えないが、何かしらの情報が掴めたら上出来。
と言っても、後1週間もしたらこの研究所は取り壊されるらしいので、ろくな資料も残っていないだろうが。
「はぁ……研究者って表と裏の境界線が曖昧だからなあ……」
何処まで深追い出来るのか。その境目を見定めるのが難しいことこの上ない。と、半蔵は溜息をつく。
今現在、天井亜雄に関するの情報はある程度集まってはいる。
概要は不明だが、ある研究で失敗した事による責任を負わされ、借金を重ねた所で路頭に迷っていた所を別の研究に据え置く事で拾われたようだ。
こちらの研究に関しても概要は不明で、察するに人様に言えないような内容の研究をしていたと言う事だろう。
研究内容についてはこれ以上調べるつもりはない。
そして失踪。
これは時期的には『侵入者』が学園都市外部からやってきた時の事らしい。
すなわち失踪してからまだ1週間経つか経たないか程度。
半蔵は、最後に天井が居たと思われる研究所を調べて、ここまでやってきたのだが。
「うん、何も無いな」
やはりというか案の定というか、研究に関わる重大な資料は全て回収もしくは消去されたようだ。
こちらとしてもいらん事を知って狙われるのは本意では無いので、ありがたいと言えばありがたいのだが。
しかし、半蔵は見てしまう。知ってしまう。
命を狙われるに値する、『いらん事』を。 - 804 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/19(火) 18:13:02.03 ID:RlPjrsIWo
・・・
「成程なァ」
一方通行は芳川桔梗に起きた出来事を聞いて、納得する。
確かに表裏の無い性格だと思っていたが、ここまでとは思わなかった。
芳川もその影も平常運行。確かに無駄な戦闘を避けられたのは僥倖ではあるが。
(俺も最初からペルソナは使えたが、自身の影とは出くわしてねェ)
今まであまり考えてなかったが、異常な事である。
芳川に関しては、既に自分を受け入れていたから、すんなり影も受け入れられたと納得できる。
他の面子に関しても、紆余曲折を経て、何とか自分を受け入れられた。
なら、一方通行は?
柄にもなく色々考えてはいたが、自分を受け入れられるか?と問われたら、正直なところ、否である。
イゴールに聞けば何か分かるだろうか。
いや、その前に何か重大な事を忘れている気がする。
思い出せない。霧。夢。深い霧。夢。何かの声。
一方通行の思考は、芳川の発言により遮られた。
「ところで、天井亜雄が居たわよ。何か血相抱えて逃げ出したから、今は何処に居るか知らないけど」
「何?」
天井亜雄がこの場に居る。
やはりテレビの中に放り込まれたのだろう。
しかし、こちらは手負いが2人に、体力を使い果たしたのが1人。
とてもじゃないが探索する余裕などない。
「but、このくらいでへこたれてたら、これから何かあった時、すぐに動けなくなると思うわ」
布束が立ち上がると、一言唱えた。
―――メディラマ。- 805 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/19(火) 18:13:50.44 ID:RlPjrsIWo
「お?おお!すげえ、体が滅茶苦茶軽くなった!」
「ハァー、こいつはイイモンだ。と、ミサカは消えた外傷を見て驚きを露わにします」
「indeed、失われた体力だとか、怪我とかは回復できるけど、スキルを使った事による精神力は回復してないから、スキルの使い方には注意してね」
「へえ、こんな力もあるのね、ペルソナって」
回復した力を確認するかのように自身の手をニギニギしながら、芳川は布束の力を感心した。
それと同時に、やはり自分は何処まで行っても研究者であると言う事を理解する。
「どうして」だとか「どうやって」だとか、そんな事ばかり知りたくなるのだ。楽しいからそれはそれで構わないのだが。
「ていうか、早く天井ってやつを追った方が良いんじゃないのか?」
上条がストレッチをしながら提案する。
芳川の安否が確認できた上に、天井の居場所まで分かったのだ。
なるべく早く天井の元にたどり着く事については、誰にも異論はない。
「そォだな、芳川が上の階で天井の野郎を見かけたってことは上の階のどこかに居るって事だろォ?」
「ええ、何かすごいおびえた様子で、私の事を目もくれず何処かに逃げてったわ」
「あ、でも上位個体の事も気になるんですが。と、ミサカは上位個体の安否を心配します」
「そしたら、クマがヨッシーをあっち側に返すから、皆は先に行けば良いんじゃないクマ?」
「よ、ヨッシー……?まあいいわ。調整があと一息で終わる所だったんだけれど……うん、そこから先の記憶が無いわね」
「だが、打ち止めは無事っぽいンだったよなァ……目的がわかンねェな……」
「空いた時間に実験の資料を眺めてたとこまでは覚えてるんだけれど……」
「成程なァ。だったらなおさら研究所まで行った方が良いな。何か思い出すかもしンねェ」
「ですが、芳川1人で研究所まで戻るのは危険ではないのですか?
と、ミサカはミサカも芳川について行く事を提案します」
戦力が整ってきてはいるが、それを二分する事に不安を覚える一方通行。
しかし、今現在、天井も打ち止めも、どちらも急ぐべき案件である。
「……そォだな。クマと芳川、9982号の三人は、一旦いつもの空き地まで戻れ。
俺達は先に上に行く。そンで、打ち止めの調整が終わり次第、こっちに戻ってこい」
「中々人遣いが荒いのね」
「うるせェ、そンだけ切羽詰まってンだよこっちも」
考えるべき項目は山ほどある。それこそ考え出したら精神と時の部屋が必要になるほどに。
そんな中戦力を分割すると言うのは危険な賭けでもあるのだが、そうも言ってられない。
一方通行は、本当に仕方が無しに、二手に分かれる事を了承した。
「それじゃ、さっくり調整終わらせて来るわ。
あ、後このホテル?の中にもう一つ強そうな気配があるから気をつけてね。それ以外は問題なさそうだけど」
芳川は一言告げると、スタスタと出て行ってしまった。
それに続いて9982号とクマがついて行き、ロビーには一方通行と上条当麻、布束砥信の3人だけになった。
「よっし、この面子じゃ俺が一番活躍してないから、頑張るぜ!!」
「well、張りきり過ぎて文字通り『暴走』しないようにね」
「は、はい……」
「さっさと終わらせて、帰るぞォ」
3人は、ボロボロになったロビーを後にし、そこには光を失ったライオンの石像だけが残された。- 806 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/19(火) 18:14:19.26 ID:RlPjrsIWo
- ・・・
<???>
研究者風の白髪の男は、液晶に映し出された光景を見て、笑った。
「成程……精神的に成熟していたり、『影』を受け入れられる度量があれば、『影』が離反することはない、と言う事か……面白い」
「『ペルソナ』に目覚める条件は、受け入れられるか否か、と言う事か。そこに能力者としてのレベルは関係がない。
強いて言うなら、確固たる『自分だけの現実』を持っている事が条件か……?」
「余計な事を知られる前にテレビの中に入れたが、面白い『力』を手にしたようだね……。
どうやらテレビに放り込まれる前後の記憶も無い様だし、しばらく様子を見ようか。
一方で、天井君はやはりというか何と言うか……」
男は1人考察を止めると、別の液晶に目をやる。
そこには一体の影が、存在していた。
「あっという間に飲まれたか……だが、『心』とは……実に興味深い」
研究者は狂った笑みを浮かべる。 - 807 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/19(火) 18:14:51.07 ID:RlPjrsIWo
・・・
「さて、ミサカもそろそろ帰りましょうか」
しばらくの間、眠り続ける打ち止めを横目に、何か9982号に関する資料は無いものかと研究所捜索をしていたのだが、特に何も無かった。
9982号と一方通行は、何か隠している。その疑いは今回の件で、更に深まった。
こういった場合、余計な事を調べてしまって死亡フラグを立てるとか、ミステリー小説によく見られるが、10032号はそんな事気にしなかった。
今までは自由意志など有ってなかったようなものだったが、今は違う。
自分で考え、行動をする事ができるのだ。それによって死亡フラグを立てようとも、後悔は無い。
そのように考え、色々と調べては見た物の、特に進展は無かった。
故に、もう帰ってご飯食べて寝よ。そんな事をぼんやりと思っていたのだが。
「ッ!?」
人の気配を感じる。数は1人。敵か味方か。はたまたいずれでも無いか。
一先ず10032号は、見つからないように身を隠す。
このようなスニーキングスキルも脳内にインプットされているのでかくれんぼやケイドロ等はお手のものである。
(帰ろうとした矢先にこれですか……面倒ですね……)
いざとなれば他の妹達を呼べばいいのだが、かなり個人的な事情なので、余り巻き込みたくは無い。
そう考えた10032号は息を潜め、侵入者を待つ。
(あれは……)
9982号のMNWで見た記憶がある。確か名前は半蔵とかいう、すごく忍者です……って感じの……。
その半蔵は、培養液に浸る打ち止めを見て驚きを露わにしていた。- 808 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/19(火) 18:15:33.34 ID:RlPjrsIWo
- ・・・
「打ち止めちゃん……?」
半蔵は困惑していた。なぜ、こんなところに打ち止めが居るのか。
それも培養液に浸かるという、明らかに異様な状態で。
どうみても厄介事である。
それも天井が居た研究所に居ると言う事は、打ち止めも何かしら関係があると言う事か。
これで打ち止めが知らない人間だったら放っておいてスタコラサッサ、なのだが。
「もう、知っちまったからなあ……見捨てるって選択は……やっぱ出来ないか」
駒場のリーダーの事を知らなかったら、やっぱり見捨ててたんだろうなあ。と、ぼんやり考える。
「毒を食らわば皿まで、です。と、ミサカは一蓮托生できそうな相棒を見つけた事に歓喜します」
「!?」
この場に至るまで、誰とも遭遇しなかった半蔵は、少し気を抜いていたらしい。
何せ、10032号の存在に気付けなかったのだから。
「……ってあれ?御坂さん?」
半蔵の目の前には、『侵入者』の件で知り合った御坂美琴もしくは久々葉がいた。
と言ってもどちらでもないのだが、事情を知らない半蔵にそれを求めるのは酷であろう。
「あー、それに関しても説明した方が良いですよね……と、ミサカは面倒くさげに語ります。
ただし、先ほど申し上げました通り、『毒を食らわば皿まで』です。
この件に首を突っ込む覚悟はお有りですか?」
10032号の冷たい視線が半蔵を射抜く。
はっきり言って事情を知らないのに、首を突っ込むも何も無いのだが、何となくここで退くと負けた気分になる。
半蔵は、首を縦に振って、肯定の意を表した。
「良かったです、ありがとうございます。こちらとしても事情を知る人材は有りがたいですからね」
そして10032号は語る。自身の存在理由と、一方通行を取り巻く環境について。
赤裸々に。有無を言わさず。何もかも。
こうして、半蔵は蜘蛛の巣に捕まった。
10032号と言う名の蜘蛛によって。
「何ですかその地の文は。と、ミサカは悪役っぽい感じになってるのが納得できません」
「何言ってんだ?」
「……なんでもありません。それでは、語らせていただきますよ」 - 809 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/19(火) 18:16:05.49 ID:RlPjrsIWo
- ・・・
「……話のスケールが予想以上にデカかった」
半蔵は10032号の語る話を全て聞いて、溜息をついた。
ここまで聞いたからには、逃げられないだろう。
それを踏まえて覚悟があるかどうかを、10032号は尋ねたと言う事か。
「つまり、お前は俺と協力して、一方通行と久々葉ちゃんが何やってんのか調べたいって事だろ?」
「Exactly(そのとおりでございます)」
「あー、ここまで聞いたら、退くに退けないよなあ……」
「だから最初に言ったじゃないですか」
「そんなん、知ってたら初めから退いてたっつーの」
「知ってたら退くに退けないんじゃないですか?」
「そんな鶏と卵はどっちが先に生まれた、みたいな問答は止めてくれ……」
ここからは逃げられんよ。と、噛ませ犬もといトレヴェルヤンの様な口調で半蔵に笑いかける。
半蔵はその笑顔を見て思わずドキッとするが、すぐに平静を取り戻した。
「しかし、ミサカも大概ですが、あなたも中々の物ですよね」
「ん?何がだ?」
「あんな話を信じるだけではなく、一方通行の事も何とも思ってないようでしたから。
と、ミサカは本当にミサカの話を信じてるのか疑います」
「あー、半信半疑っちゃ半信半疑なんだが、こんな所に来てまで嘘をつくとは思えないし、
こうして打ち止めちゃんが眠ってるわけだし」
それでも、一方通行の事が怖くないのか。と言う視線を半蔵に飛ばすが。
「一方通行が今まで何してきたかは知らねえけど、そんな極悪人でも無いと思うぜ?
実際に会って話してる俺が言うんだから間違いないね。こう見えて意外と人を見る目はあるはずだ」
それに、規模は違えど人の生き死にに関わる悲劇なんて、この街じゃたまによくある光景だからな。
と、半蔵は笑った。
「……やはり、あなたも大概ですよ」
「俺を巻き込んでおいて良く言うよ」
一瞬にして、重苦しい空気は和やかなムードへと変貌を遂げた。
「さて、それじゃあ今日のところは一端帰りますか。と、ミサカは連絡先を渡しながら帰宅を促します。
スニーキングは家に帰るまでがスニーキングです」
2人はひとしきり笑いあうと、10032号が帰宅を促した。
「あれ?打ち止めちゃんは?」
どう見ても普通じゃない打ち止めを放っておくのか、と半蔵は尋ねる。
とはいえ、知識も何も無いので半蔵に出来そうな事はないのだが。
「大丈夫です、いずれ保護に来ます。むしろこの状態から動かす方が危険なのです」
どうやら誰かが保護に向かって来ているらしい。
それならそいつが来るまで待った方がいいのでは、とも提案するが。
「出来ればミサカ達が色々と首を突っ込んでる事は隠しておきたいのです。
と、ミサカは誰にも余計な心配をかけさせたくない心中を吐露します」
「成程な……それなら、もう何も言わないさ。俺も色々調べたい事があるしな」
「それなら、誰かに見つかる前に、帰りましょう。と、ミサカはすたこらさっさします」
そして2人は、再び息を潜めて身を潜め、研究所を後にした。 - 810 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/19(火) 18:16:40.54 ID:RlPjrsIWo
・・・
「2人は先にホテルの方に戻って頂戴」
「今更何を言ってるんですか。と、ミサカは疑問を浮かべながら尋ねます」
「そうクマ、何か危ないらしいんでしょ?クマは目立つから行けても行けないクマけど、
久々葉ちゃんは連れてった方がいいクマよ」
「多分大丈夫と思うわよ。だって打ち止めが狙いだったら、そもそも手遅れだろうし。
でもそう言う訳でも無いみたいだから、誰かが私を狙うってことは無いと思うわ」
「確かに……それはそうですね……ですが、それならどうしてホテルに居る時にそれを言わなかったのですか?」
「それでもここに戻るまで何があるかわからないから、その護衛が欲しかったのよね」
私ってほら、頭脳労働派だし。と、のんびりした口調で語る芳川桔梗。
「分かりました……それじゃあ先に行きますけど、結局芳川がホテルに戻るのに1人になってしまいますよね?
と、ミサカはその時はどうすんだと尋ねます」
「その時はまあ……ペルソナを存分に使うわ。と言っても、ホテルに来るまで何も居なかったみたいだし、大丈夫とは思うけれど」
「……そこまで言うなら、分かりました。でも気をつけて下さい。と、ミサカは注意を促しておきます」
「分かってるわ。それじゃあクマさん、お願いね」
「あいさー!」
クマは威勢のいい返事をすると、何処からともなくテレビが降ってきた。
「これで帰れるのね……面白いわね」
「はいはい、早く行くクマよー」
「ちょ、ちょっと押さないでってあわー!!」
奇妙な断末魔を残して、芳川は旅立った。
「うっし、それじゃあホテルに戻るクマ!!」
「……クマのテレビはもう少し大きくした方が、皆余裕持って通れると思います」- 811 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/19(火) 18:17:11.61 ID:RlPjrsIWo
- ・・・
<ホテル・グランドデトロイト F3>
「芳川の奴どォやってこのシャドウの中を潜り抜けたってンだ?」
「それが彼女の力ってことでしょう」
「芳川さんが居たらこれから探索が楽になりそうだな」
「まァ、今は居ねェンだけどな……」
見渡す限り、シャドウ、シャドウ、シャドウ。
芳川は10階から3階までは階段で下りてきたそうだ。
しかし怪我と言う怪我は見られなかった。というか戦闘らしい戦闘は1度しかしてなかったそうだ。
すなわち、それこそが芳川の力。観測する力は周りに居るシャドウすら捕捉できると言う事だろう。
これなら芳川を待った方が良かったかもしれない。
何にせよ、そんな事を言っていても仕方がない。一気に駆け抜けるとしよう。
一方通行達が意を決した瞬間、無線に連絡が入った。
『どォした?』
『芳川が空き地までで護衛は十分だそうで、今からクマと共にそちらに向かいます。
と、ミサカは事後承諾で連絡します』
『……あいつがそう言うなら、大丈夫なンだろォな。それなら、今ホテルの3階に上った所に居るが……』
『出来ればそこで待っていてもらえませんか?すぐに合流します』
『了ォ解』
一方通行は無線での会話を終えると、階段の段差に座り込んだ。
「9982号とクマが来るらしいから、少し待つぞォ」
「あれ?早くね?」
「なンかテレビの外に行ったのは芳川だけらしい」
確かに、どちらかと言うとホテルからいつもの空き地の方が危険だろう。
そもそも打ち止めが狙いなら10032号の報告ももっと重大な物になったはずだ。
ならばクマと共に9982号が戻って来る、と言うのは悪くない。
「もう逆に一旦帰るのもありな気がするんだけど」
「そォだなァ……どォせ天井クンは出られないもンなァ……」
「いや、そういう問題でも無いんだけど」
「well、どうせ天井亜雄は悪徳研究員だから。私が言えた事でもないんだけど」
「助けるつもりはねェンだが、正直情報は欲しいンだよなァ……」
一同はげんなりとした様子で、その場に座り込んだ。 - 812 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/19(火) 18:17:57.89 ID:RlPjrsIWo
- ・・・
<???>
「全く、僕の城に一体何の用だってのー。マジさっさと帰らないかなあっ!折角自由になれたのに!」
最上階のスイートルーム。
それはワイングラスを片手に、窓から見える不安定な景色を眺めていた。
「いや待てよ……あいつらがあれを助けに来るとは思えないから……」
求める物は、何だろう。
「僕が自由になれるきっかけを作った、『あの事』かな?」
多分、そうだろう。それ以外、心当たりが、ない。
「そうときまれば話は早いよね。どうせ僕には関係のないことだし」
それは立ち上がると、机の引き出しを開ける。
そこには1枚の紙が収められていた。
「Project.Tartaros、ねぇ……面白そうな事を考える人間が居た物だけど」
「―――人間が考えるような事じゃないよね。ははっ」
それは心底楽しそうな笑みを浮かべてその用紙を綺麗に折りたたんだ。 - 819 :投下する ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/23(土) 21:23:33.57 ID:8F0fn2D4o
- <ホテル・グランドデトロイト F3大宴会場>
「どォしてこォなった」
一方通行は頭を抱え。
「おぉー、すごいクマね!クマ食べらんないけど」
クマは食べられないと知りつつも目の前の光景に感動を抱き。
「ファミレスばっかで栄養バランス偏ってるのに、こんな料理食べて大丈夫か?
と、ミサカは不安になります」
9982号は栄養バランスを気にして。
「indeed、カロリーはとても高いでしょう。but、食べられる時に食べるべきでしょ」
布束砥信は今日くらい良いだろう、と紙じゃないナプキンで手をぬぐい。
「つか、芳川さん待たなくていいのか?」
上条当麻は打ち止めの調整を行っているであろう芳川桔梗を気にしていた。
何が起きたのか?
クマと9982号が到着するのを待っていた一方通行達なのだが、2人が到着するのを見計らっていたかのように、「それ」が現れたのだ。
一同は身構えるものの、「それ」から敵意が見られなかった為、迂闊ではと思う物の、既に敵地のど真ん中なのだから、行ってやろうではないか。
と言う事でそれの後について行ったのだ。 - 820 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/23(土) 21:25:03.39 ID:8F0fn2D4o
- そして今現在、目の前に広がるは、豪華絢爛。
一流の材料をふんだんに用いて作られた一流の料理の数々。
「人の心を感動させることが出来るのは、人の心だけなのだ。材料や技術だけでは駄目だっ!!」
という名言が頭をよぎるが、美味いものは美味いだろうと思うのは自分の舌が未熟だからだろうか、などと下らないことを考えてしまう。
初めここに案内された時は罠か何かかと勘繰ったものだが、シャドウがそのような手の込んだ事をするとは思えない。
更に言えば自身の能力「一方通行」にて料理の成分を解析した結果、普通に普通の高級料理だった。普通の高級料理ってどういうことだろう。
その旨を一同に伝えた所、上条当麻は目を輝かせて「こんなものを食べていいんでせう?」と、餌を前にした犬のような態度で感動を露わにしていた。
布束は布束で、「こんな物食べるのは久しぶりだ」とこの場に招いた主催者が、目の前に広がる料理の数々を食す事を許可するのを今か今かと待ち続ける。
9982号は頭の中でカロリー計算を行い、クマはキョロキョロと料理の数々を眺めていた。
そして当の主催者は、
「やだなあそんなに警戒しなくても良いじゃないかー」
天井亜雄。
しかし研究者が着るべき白衣はそこにはなく、灰色のスーツに赤色の派手なネクタイ。何処かの社長の御曹司の様な恰好をしていた。
「うるせェよ天井くン。研究職は止めて、ホテルのオーナーにでも転職しましたかァ?」
「あはっ。確かに研究なんてつまらない事はもう止めたよ。ここのホテルに居れば、飽きるまでは楽しめるからねー。
そんなわけで、このご飯食べたら帰ってくれない?あ、カジノでもやってく?6階に行けばあるよ」
陽気そうな口調に、人懐っこい笑み。
それを浮かべるのは、テレビの外で一方通行が見た時は、陰鬱そうな態度で笑顔など欲望をごちゃまぜにした醜い物だったと記憶していたはずの、天井亜雄だった。
明らかに、一方通行の知る天井亜雄ではない。
そして、一方通行は知っている。
明らかに『自分』では無い『自分』の存在を。 - 821 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/23(土) 21:25:38.87 ID:8F0fn2D4o
- 「お前、『影』か?」
ストレートに、明確に、単純に、目の前に居るそれに、どのような存在か確認を取った。
「まあ、そうだね。『元』影って言った方がいいかもね。君らからしたら『影』ってことには変わりないけど。
残念ながら、『光』は僕が喰っちまいましたあ。だからもう光も影も、何も無いよ。
とどのつまり、『僕』は『僕』であって、他の誰でも、何でも無いのさ。あははっ」
そう、僕は自由なのだー!と、天井の影は椅子の上に立ち、ワインをボトルごと一気飲みをし始めた。
ああ、天井クンはストレスを貯め込んでたンだろォなァ。
等と場違いな考えを一方通行は巡らせるが、天井の乾杯の音頭をし始めた事で中断された。
「えー、本日はおひがらも良く……あー、なんだ、飯だけはいっぱいあるから……食ってけ!!」
天井の影のその言葉を聞いた上条と布束は……音を置き去りにした。
目の前に広がる食べ物を口の中に次々と放り込んで行く。よほど『美味い食事』に餓えていたのだろう。
て言うか、クマは数に入れて良いか迷うが、まだ見ぬ芳川桔梗を含めて6人が集まったところで、
目の前に広がる料理の数々は、どう見ても食べきれるレベルではない。
どちらかというとインデックスすらお腹いっぱいと言えるレベルである。
それにしても敵陣の中だと言うのに、随分と気が抜けている。
と言うのも、天井の影から、敵意や殺意と言った負の感情が全く見られないのだ。
とてもじゃないが、天井亜雄から、その存在を奪ったとは思えない。
「あはは、彼から抜け出せて、こうやって好き勝手出来るだけである程度満足してるからねえ。
君らが敵対しない限りは、何もする気は無いよ」
「……その割には、このホテルにいるシャドウどもはやたらめったら襲いかかってきたンだが?」
「酷い目にあったクマよ」
食指が働かない一方通行と、食べ物を食べられないクマが、天井の影に話しかける。何か情報が得られないか尋ねるために。
「それはシャドウとしての本能だろうねえ。僕は見ての通り、天井君を『喰った』事で自我があるから、それを抑えられるけど」
「シャドウの本能?」
考えた事も無かった。何故、シャドウ達が人間を襲うのか。
シャドウが人を襲うのは、「そういうものだ」と決めつけていた節がある。
「あはは、考えた事も無かった、て顔してるね?」
「うるせェよ。襲ってくる敵の事なンざ、いちいち考えてられるかってンだ」
と、口で言いつつも、テレビの成り立ちを考えるにあたって、シャドウの存在は切っても切れない存在だろう。
そしてそのシャドウの事を良く知っているシャドウそのものが、目の前に居る。
「ははっ、それもそうか!それで、シャドウってのはだね……」
そのシャドウ、天井の影は、口をつぐんだ。
一方通行は、天井の影が再び口を開くまで、黙りこむ。
そして、天井の影が、再び言葉を紡ぎ出す。 - 822 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/23(土) 21:26:05.06 ID:8F0fn2D4o
- 「……秘密☆ミ(ほしみ)」
イラッ。
「あははっ、怒った?ねえ怒った?怒ったの?おこた入る?」
イライラッ。
「張り倒して良い?なァコイツ張り倒して良いかなァ?」
「流石のクマもイラッと来たクマ。菩薩と呼ばれたクマですら百烈張り手するレベルですクマ」
一方通行は自身の隣に座るクマに、一応の了解を求めた。
例え止められても張り倒すのだが。
「まぁまぁ、落ちつきなよ。天井君がここに落とされた原因となる情報がここにあるんだけど」
天井の影は、ふざけた態度を改め、懐から一枚の紙を取り出した。
「まあ、あんまり情報を渡すと、消されたライセンス的な事になりそうだから、危険が及ばない程度にしか教えらんないけどねー。
これだけなら意味わからないから、信じる信じないは自由だぜ?」
「意味わかンねェ事言ってンなよ」
あからさまに嫌悪感を表情に表しながらも、天井の影から紙を受け取ると、
そこには。
(よ、読めんクマ……ペーソナレアリティ?あ、プロジェクトは読めるクマ。プロジェクト……ターターオス?)
「ハァ……?personalrealityとproject. tartaros……?前者は分かるが、後者は一体なンだよ?」
「そう、パーソナルリアリチーとプロジェクトタルタロスクマよね。常識クマ!!読めん奴居たら今すぐここに来るクマよ!!」
二つの単語が書き込まれていた。 - 823 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/23(土) 21:27:22.96 ID:8F0fn2D4o
- 「だからそれを言ったら僕が消されるんだって」
「消されろよ」
「あはは、そりゃ手厳しい」
「tartarosってェと、『奈落』を意味する神、だったかァ?」
『project』と言う事は、何かの実験の計画か何かなのだろう。
そちらはいいとして、パーソナルリアリティ(自分だけの現実)……意味は分かるが、なぜここでその単語が出てくるのか。
一方通行はどちらかと言うとそちらが気になっているようだった。
「さあてね?どう捉えるかは君次第だし、僕は何も知りませんがな。
食うだけ食ったら帰れ帰れー。ここまでもてなしてあげたんだから何もしないで帰れー」
イライライラッ。
「……つゥか、お前一応シャドウなンだろォ?なンでそんな理性的なンだよ?」
すごくむかつくけど。
「さて何でだろうね。実験で放り込まれたから?それともなんかの突然変異?
まあそんな事は、僕にとっちゃ些細な事さね、あはっ。ここで好き勝手出来ればとりあえず満足だし」
「実験で放り込まれただァ?ってことはやっぱ学園都市の実験とここが関係があるのかァ?」
「それはあっちに帰って自分で調べたらいいんじゃない?」
「お前から聞くのがてっとり早いだろォが」
「あれあれ?僕の言う事信じちゃうの?味方になったつもりないんだけどなー」
「……まァ、確かにそォなンだが」
かといって敵には思えない。
幼少時から「敵意」や「悪意」、「殺意」など、おおよそ負の感情を一身に受けてた一方通行だからこそわかる。
とはいえ警戒はするのだが。 - 824 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/23(土) 21:27:54.28 ID:8F0fn2D4o
- 「ていうかさ、なんでそんな頑張ってんの?」
「あァ?」
「いやさ、別に君らが僕に迷惑かけないってなら別にどうだっていいんだけどさ。
何か意味あんの?」
「お前にゃ関係ねェよ」
「クマの平穏の為クマ。あとクマの中身についても」
「自分の為だろうと、他人の為だろうと、どーせいつか皆死んじゃうんだし。書く言う僕だっていつ自我が消えるかも分かんないんだし。
それならたった今を楽しんだ方がよくない?目的は知らないけどさ、こんな危険な場所に来てまでやりたいことなの?」
「あれ?クマの事無視クマ?」
「今を楽しむ余裕がねェンだよ、俺らには。
あいつらが心から今を楽しめるよォな状況に持っていく為に危険を冒して動いてンだ」
「え?クマの平穏と中身は?クマの事忘れてないクマ?」
「……ふうん。まあ別に興味ないんだけどねえ」
一方通行の言葉を聞いて、興味を失ったかのように表情から色を消し、クマの方を向いた。
「所で、クマクマ言ってる君は、何が目的なのかな?」
「クマ?だからクマの平穏をですな……」
「いや、そうじゃなくて、君はさ、どっちかってーとこっち側の存在じゃないの?」
「……クマ?」
「ハァ?お前何を……」
突然話の方向転換をされた2人は、天井の影の言葉に首をかしげる。
天井の影の言う『こっち側』とは、『シャドウ』を指し示すのだろうか。
「君は自分の『中身』が何なのか知りたいんだっけ?多分何も無いんじゃないの?だってシャドウだし」
『光』のない『影』なんてただの虚無じゃん。
と、天井の影は、当たり前のことを当たり前のように語り、クマですら忘れていた現実を、爆弾を投下した。 - 825 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/23(土) 21:28:25.32 ID:8F0fn2D4o
- ・・・
「さて、一方通行達は無事かしら」
芳川桔梗はのんびりと研究所内を歩き、先ほどまで体験した、非日常について思いを馳せる。
「しかしあのクマ?君は……」
チラリと感じた『力』の断片。それは「ペルソナ」と言うより「シャドウ」よりの力だった。
「でも悪そうな感じじゃないし……」
悪そうな子では無かった。その為、芳川が感じた事を、クマに伝える事は無かった。
しかし、芳川は知らない。そんな配慮が元同僚の影によって覆された事を。
「成程。打ち止めは無事だけれど」
スリープモード。
文字通り休眠状態。
「本来、後は待つだけの段階だったから、とっくに調整は終わってるはずなんだけど……」
何故か、中断されている。
その原因を探るために、しばらくの間キーボードを叩き、調べていたのだが、特に異常は見られず、ただ単に中断された状態である、と芳川は判断した。
「スリープモード……とはいえ勝手にいじっていいものか……」
芳川はこのスリープモードが、芳川をテレビの中に放り込んだ『誰か』の罠か否かを判断しあぐねていた。 - 826 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/23(土) 21:29:27.80 ID:8F0fn2D4o
・・・
「クマが……シャドウ……自分なんて何処にも……無い……?」
「あっ、やべっ。これ地雷だった?ごめんね、あははっ」
「……どォいう事だ?」
「どういうもこういうも無いよ。だってこの世界は、本来シャドウしかいないんだよ?」
シャドウしかいない世界。そこに住むクマもまた、シャドウだったと言う事か。
「クマはシャドウ……本当の自分なんて……居ない、クマ」
「おいクマ、あンなのの言う事なンざ気に……」
所詮は怪しい奴の戯言。と、一方通行はクマに声をかけようとするが。
「『本当』?『自分』?ククク……実に、愚かだ……」
それは不吉そうな、低く、重たい声によって遮られた。
その声によって、料理に夢中になっていた上条当麻と9982号、布束砥信も、声の聞こえた方向に視線を這わせる。
「「!?」」
「何がどーしたクマ!?……っておわあ!?」
「あははっ、シャドウからシャドウだって!こいつは傑作だ!僕がまだ研究者だったら喜んで研究してたろうね!」
クマの中から、『クマの影』が現れる。
その異常事態を前に、天井の影は、クマにとっての地雷を踏んでしまったことへの後ろめたさよりも、目の前の現象で頭がいっぱいになっていた。
「あ、でも何か僕のせいみたいになっちゃ嫌だし、僕はここでお暇をば……」
そそくさと部屋から出て行く天井の影を、誰も止められなかった。
それ以上に、目の前のクマの影に、視線が釘付けになっていたのだから。
(チッ、あの野郎、次会ったら問答無用でボコしてやる)
一方通行は天井の影をいつかボコすと誓い、クマの影を睨みつける。- 827 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/23(土) 21:29:55.94 ID:8F0fn2D4o
「『真実』を得る事など不可能だ……『真実』はいつも霧の中に隠されている……
手を伸ばし、何かをつかんだとしても、それが『真実』であるかどうか確かめる術などない……
なら、真実を求める事に何の意味がある?目を閉じ、己をだまし、楽に生きて行く……その方がずっと賢いじゃないか……」
真実など誰にも分からないし、確かめる術などない。
ならば何かを考えるよりも、刹那的に生きた方が、楽だし楽しい。
先の天井の影の様な事を、クマの影は重苦しい口調で語るが。
「お前何言ってるクマ!?全然分からんクマよ!?
クマがあんまり賢くない事を知ってて、そんな難しい事を言って馬鹿にしてるクマ!?
失礼しちゃうクマ!クマはこれでも精一杯考えてるの!!」
「……それが、無駄だと言っているのさ……君は、初めから『からっぽ』なんだからね……」
その言葉で、クマは更に動揺した。
自分など存在しない。なぜなら、初めからからっぽなのだから。
クマの影の言葉を反芻させる一同をよそに、クマの影は語り続ける。
「君は心の底で気付いているはず……でも認められず、別の自分を作ろうとしているだけさ……
そして、その事実を、今の今まで隠し続けて、気付かないふりをし続けていた……」
「そ、そんなの……嘘クマ……」
「クク……さっきも言われただろうが……もう一度言ってやろうか……?
君は、私なのだからな……その方が信じられるだろう?
……君はただの……」
「~~ッ!!やめろって言ってるクマー!!」
クマは今まで聞いた中でも一番大きな声で、悲鳴のような叫び声を上げ、クマの影の発言を止めにかかる。
「「クマ!!」」
しかしそれは叶わずクマの影が発する何かによって、弾き飛ばされてしまった。
「君達も、同じ事さ。真実など探すから、辛い目に遭う……
そもそも、この深い霧に包まれた世界……正体すら分からないものを、この中からどうやって見つけるつもりだ?」
「あァ?真実はいつも一つって言うだろォ?どっかにあるンじゃねェ?」
と、投げやりに回答する一方通行。クマの影に対する敵愾心に満ち満ちていた。
「……真実が欲しいなら、簡単な事さ……君達が、何かを見つけた時、それを『真実』だと思いこめば良いのだからな」
クマの影の言葉に、全員が何も言い返さず、ただ考え込む。
「では、一つ真実を教えてあげよう」
「……君達は、ここで死ぬ。知ろうとしたが故に、何も知り得ぬまま……」
クマの影は、もう言う事は無いと言わんばかりに、体にまとったどす黒い気配を、更に黒に染め上げる。
バキゴキ、と鈍い音を立てつつ、クマの影が異形へと変貌を遂げて行く。
顔は崩れ落ち、崩れた顔から、闇と、光を見据える目が覗きこみ、巨大な体を這わせて、にじり寄ってくる。
「……お前ら、こいつをさっさとかたずけて、帰るぞォ……」
結局ろくな情報も得られず、新たに得た物は単語二つとクマの影。
一方通行は怒りながらも、もうやってらンねェ。と言った疲れた雰囲気を出すと言う器用な事をしつつ、言葉を発した。
3人は、ただ首を縦に振る事だけで、了承の意をしめした。- 828 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/23(土) 21:32:09.18 ID:8F0fn2D4o
- とりあえず尾張。
クマとの戦闘が終われば安価が出来る……
天井君の影をどう扱おうか迷ったけど、戦闘を何度もかけなry大人の事情でただ情報をちょっと漏らすだけの存在にしました。
後で出てきそうだけど。
27時間テレビはまだまだ続くので、のんびり続きを書こうと思うけど、かくいう自分も27時間テレビを最後まで見切ったこと無いので見続けるのと同時に書き続けられるかは不明。
故に切りの良いとこで尾張。 - 830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/23(土) 23:30:32.06 ID:8F0fn2D4o
- NGシーン
「tartarosってェと、『奈落』を意味する神、だったかァ?」
「ならクマ?」
「鹿せんべえで有名な県みたいな言い方をするンじゃねェよ。『ならく』だ」
「失礼、噛んだクマ」
「違ェ、わざとだ」
「噛みまクマ」
「やっぱわざとだろォ!?」
「貸しだクマ」
「ちょっとカッコイイなオイ」
……ゴメン、書き溜めてきます - 833 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:26:35.78 ID:La72vZnuo
- 巨大な穴に身を埋め、クマの影は唸る。
まるで呪詛を呟く術師のように。絶望を体現するかのように。
「我は影……真なる我……君達の好きな真実を与えよう……」
そして、一呼吸置いて、叫ぶ。
「ここで死ぬと言う、逃れ得ぬ定めをな!!」
その声を皮切りに、一方通行達はクマの影を包囲するように四角を埋めた。
一方通行はガルーラを放ち、上条当麻はブフーラを放つ。
風の刃と氷の塊を浴びたクマの影は、顔をしかめ、わずらわしそうに攻撃を払おうと手を振る。
一応効いているようだ。その隙に布束砥信はコンセントレイトを、9982号はタルカジャを唱えた。
「クク……私を倒したところで、一体何になると言うのかね?逆もまた然り。
無為で無意味のまま、無作為に消えるが良いさ……」
布束と同様に、クマの影もコンセントレイトを唱えた。
「まだまだァ!!」
一方通行は、邪魔な料理とテーブルを一掃するべく、マハガルを唱えて、それらを動かした。
それだけではなく、料理とテーブルを一点に集めて、圧縮。
これによりあっという間に何かの塊と化したそれは、料理の良い匂いを振りまきながらクマの影へと投合された。
「お残しはゆるしまへんでってなァ!!」
インデックスも満足する程の量だ。重量は十分。更に圧縮する事で硬度も十二分。
鉄球をぶつけたかのような威力を持つそれは、クマの影を大きく仰け反らせる。
「ガルーラ!」「ブフーラ!」「デッドエンド!!」
三者三様の声色と、攻撃。
そのことごとくがクマの影へと吸い込まれて行き、ホテル全体が揺れているような地響きが鳴り響いた。
「クク……存外に出来るみたいだが……」
クマの影は巨木の様に太い爪を携えた巨大な手を上にかざし、唱える。
「凍てつくせ……マハブフーラ……」
力をセーブしている上条のそれよりも、明らかに力が上回っていた。
そしてそれだけではなく。
「ぐっ……うっ……やはり、氷は効きますね……と、ミサカは歯を食いしばります」
9982号のワカヒルメは、氷が弱点であった。
膝をつきそうになるのをこらえる9982号支えようと、上条が駆けよるが、それを逃す程クマの影は生温くはない。
「マハラクンダ……」
マハラクンダ。敵全体の防御力を下げるスキル。
それを受けた一同は、戸惑いを覚えた。
見た目には何の異常も見られないのだ。 - 834 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:28:56.95 ID:La72vZnuo
「おらァ!!!」
クマの影の言葉を待たずに、一方通行は行動を開始していた。
空中に高々と舞い上がり、ガルーラで加速を与え、更には重力をも味方につけたかかと落としを、クマの影の脳天へと突きさした。
「むっ……!」
無防備な状態でそれを受け止めたクマの影は、自身の下半身を埋めていた巨大な穴の中に更に埋め込まれる形になり、その威力の高さに顔を苦痛でゆがめた。
「……中々、効いた」
ぽつりとつぶやき、片手を天井に向けて掲げる。
再びマハブフーラが来るかと思った一同は、それぞれ防御できるような態勢を取った。
クマの影は、何か呪文を唱えるわけでもなく、単純にその巨大な手を地面へと振り下ろした。
瞬間、圧倒的な熱風と衝撃に、床を砕いた事による破片が一同を襲う。
「「!!!」」
それは、マハブフーラでは無く。
「……ヒートウェイブ」
ヒートウェイブ。敵全体に物理属性の中ダメージ。
一瞬にして大宴会場を廃墟に変化させたその攻撃は、一同に大きな損害を与えた。
布束や上条、9982号の3人がその攻撃を受けてしまうのは良い。
しかし、それだけでは無かった。
その熱風と衝撃は、一方通行の反射を平然と貫いていた。
今までは、ある程度のダメージは有った物の、逸らすなり何かしらの回避法でダメージを減らす事が出来ていたのだ。
しかし、今の攻撃は。
(完ッ全に反射を貫いてンぞォ……!?)
吹き飛ばされながらも、どうにか態勢を立て直し着地をした。
上条も日ごろの訓練の成果か、上手い事受け身を捕れたのだが、そう言った訓練を受けていない布束や、破片をまともに受けた9982号は受け身も取れずに、床を転がって行った。
「クソッタレがァ!!」
地面に横たわる2人を見て、一方通行は激昂し、スキルを唱える。
「ッ……!!?……!!ンだこりゃァ!!?」
しかし、唱えられない。ペルソナを召喚しようとしても、何故かその言葉だけ抜け落ちたかのように、口にする事が出来なかった。
一瞬で状況を理解した。
クマの影が、何かをしていた、と言う事を。
「……愚者のささやき……」
愚者のささやき。敵全体に一定確率で魔封状態(ペルソナ召喚不可)状態にする。
自身がペルソナを出せない事を理解した一方通行は、他の3人がペルソナを出せそうか聞こうとする物の。
「クソッ……!」
布束と9982号は地面に倒れ伏しながらも、スキルを放とうとするが、出来ない。
必死な表情を浮かべ、何かを叫び続ける2人を見て、一方通行はクマの影に対して更なる怒りが生じた。
「ブフーラ!!」
そんな中、上条だけはペルソナを出す事が出来た。
どうやら必ず魔封状態になる訳ではない、と言う事を一方通行は確認する。
「落ちつけ、一方通行!しばらくは俺が何とかするから!」
そうして、上条は更にブフーラを放つ。
その間に、一方通行は布束と9982号を拾い、クマが倒れ伏す壁際まで運んで行った。
「あの野郎ォぜってェ張り倒す」
一言怒りを凝縮させて呟くと、上条の元へと飛び立った。- 835 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:30:48.23 ID:La72vZnuo
- ・・・
「うーん、スリープモードをどうにかしようと思っても、動かせないみたいね……」
研究所の一室、打ち止めが眠る部屋で、芳川桔梗は頬杖をついていた。
モニターには、何かのプログラムだろうか、流れるように多数の文字が、上から下へと落ちている。
「おかしーし」
おかしい。
プログラムが書き込まれているモニターとは別のモニターに目をやる。
そこには「Production rate in the brain」と書かれており、その下では目まぐるしく数値が変動していた。
「脳内稼働率が常に90%を超えているのは、明らかにおかしいわ」
眠っている状態。にもかかわらず、打ち止めの脳は盛んに活動していた。
芳川がテレビの中に放り込まれる前、すなわち調整をしていた頃は4~50%で落ちついていたはず、と芳川は考えるが。
「こんなの絶対おかしいわ」
明らかに何らかの負荷がかかっている。
それが何なのか、ひたすら流れゆくプログラムを見てデバックを試みるものの、
間違いが一つも見当たらないのだ。
「何だか嫌な予感がするわね……」
ポツリと一言、不安そうな口ぶりで呟くと、再びモニターに目線を集中させた。 - 836 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:33:32.49 ID:La72vZnuo
- ・・・
「……!!ッ……!?……ガルーラァ!!」
ようやくスキルを発せられるようになった一方通行は、ガルーラの呪文を唱えると、布束砥信に向かって叫ぶ。
「布束ァ!!」
「well、分かってる!メディラマ!!」
魔封状態が解けた布束が、回復スキルを唱え、一同の体力や外傷を治していった。
「自ら苦しむ時を長引かせるとは……」
やれやれ、と言った具合にクマの影は嘲る。
そして、巨大な穴から大きく身を乗り出して、手をかざすと、
「無駄な抵抗は止めろ……抗っても何も見えはしない……」
手の中で得体のしれない力が凝縮されていく。
それは一目見ただけで、受け止められないと確信が持てるほどの力の塊で、見ているだけで絶望を覚えるような威圧感を放っていた。
「舐めンじゃねェぞ畜生が……」
ギンッ、と一方通行は双眸見据え、クマの影の手に浮かぶ力の塊を睨みつけた。
「上条……お前は9982号達を頼むわ」
「分かった。……お前はどうすんだ?」
上条は、分かり切った事ながらも、一方通行に尋ねる。
「ンなもン決まってンだろォ」
両手を掲げ、ガルーラを唱える。
―――力比べだ。 - 837 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:35:49.10 ID:La72vZnuo
クマの影が更なる力を凝縮しているのを前に、一方通行は大量の風を一つに集めた。
闇と光。
クマの影が集める力は、まるで全てを飲み込む闇の様で、辺りを暗くして。
一方通行が集める風は、まるで全てを包み込む光の様で、辺りを照らした。
「無駄な事を……」
そして、クマの影は振り下ろす。全てを飲み込むべくその闇を。
そして、一方通行は振り上げる。全てを包み込むべくその光を。
「……魔手ニヒル」
「オオオアアアァアァァアァアァアァア!!!!」
クマの影の囁きを遮るように、一方通行は叫ぶ。
そしてその叫び声すらかき消す剛音で、部屋は満たされていった。- 838 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:37:05.17 ID:La72vZnuo
- ・・・
「おっ、やってるやってるう」
影は、笑う。
一方通行達の成長を見て。
「……あぁ?何であんなんが出て来てんだ?」
しかし、自身の予想とは違った光景だった。
「成程、『あいつ』の干渉を受けたってことか」
別に一方通行達の味方をするつもりはないのだけれど。
「だとしたら、ちょーっと反則だよなあ」
影は最後にもう一つ、笑った。 - 839 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:38:26.31 ID:La72vZnuo
- ・・・
「……驚いたな、まさかこれが防がれるとはな……」
クマの影は今までの戦闘の中、一番の驚きを示した。
なぜなら自身持つ攻撃手段の中で、一番強烈な攻撃を相殺されたのだから。
とはいえ、それを防いだ代償は、如実に表れていた。
「ハァ……ハァ……」
一方通行の、戦力は半減。
明らかに体力が削られていた。
「何故だ……」
「何故、無駄な事の為に、何処からそんな力が湧いてくるのだ……?」
クマの影にとっては、理解が出来ない。
何故このような異形の巣窟に入りこむのか。
命を賭ける程の物なのか。
「……まあそれもまたいとをかし、か……」
クマの影は興味を失ったかのように、落ちつきを取り戻し、唱える。
―――虚無への導き。
「ガッ!?」
意味がわからない。
いつ攻撃を喰らった?
いつ攻撃を放った?
わからない。
わからないまま、一方通行の意識は途絶えた。
「一方通行!!?」
3人は突然気絶した一方通行を見て、クマの影に向かって攻撃を放とうとするが。
「「ッ……!!……!ッ……!!!」」
しかし、またしても愚者のささやきによって、阻止された。
「君達は黙っていてもらおうか……」
クマの影は再び力を凝縮させる。
今度は一方通行という邪魔もなく、存分に力を振るえる。
そして、一方通行が意識を取り戻すのだが。
「嘘だろオイ」
既にクマの影に集まった力は、今から一方通行がプラズマを作成してもどうにもならないほどに、巨大な力と成っていた。
「終わりにしようか……」
クマの影が呟く。
「それには及ばないぜ」ホムッ
影が、戦闘に介入を始め、瞬間、音が消え去った。 - 840 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:40:30.62 ID:La72vZnuo
- ・・・
「……?」
おかしい。
あれほどの力を以って攻撃を為されれば、生きているはずがない。
誰とは無しに、何かに気付いたかのように声を上げる。
「お前は……」
「お前らちょっとだらしなさ過ぎないかあ?」
上条の影、それの右手がクマの影の攻撃を受け止めていた。
しかし幻想殺しを以ってしても消せない力の塊が、目の前で全員を押し潰さんと突き進もうとしている。
「ああもう、これうっとーしーし!」
上条の影は煩わしそうな顔を浮かべて、虚空に向かってそれを放り投げる。
その巨大な力の塊は、ホテルの壁と砕きながら、何処かへと消えて行った。
そんな光景を目の当たりにした一同は、クマの影も含めて茫然としている。
「おいおい、ホントしっかりしろよな」
床に座り込んだ一方通行達を、上条の影は右手を差し出し、立ち上がらせようとする。
「……何たくらンでンだァ……?」
疑いの目を向けつつも上条の影の手を取る。
すると甲高い音が鳴り響き、「愚者のささやき」の効果を失わせた。
「ほら、お前らもスキルだせねーんだろ?」
残る三人も次々と愚者のささやきによる効果を消してもらい、立ちあがった。
「……お前は何しに来たんだ……?」
上条当麻は、尋ねる。
何故助けたのか。自分が居なくなれば本当の意味で上条の影は『上条の』影ではなくなるはずなのに。
「あ?あー何だ、気まぐれ?」
上条の影は歯切れの悪い返答をして、4人の首をかしげさせる。
そんな上条の影を見て、クマの影も声を上げた。
「君は……何故こんな所に居る……?」
「そりゃこっちのセリフだぜ?」
「……何の事だ……?」
「お前が出てくるのはまだ早ェって言ってんだ」
「くっく……君にはお見通し、と言う訳か……」
話が見えない。
一方通行は怪訝そうな表情で2体のやり取りを見ていた。 - 841 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:41:10.96 ID:La72vZnuo
- 「……結局、今は味方するってのかァ……?」
「まあ、手伝いはするけどよ。倒すのはお前らだ」
ほら、気張ってけよ。
と、上条の影はその場に座り込んで、手を振った。
「チッ……まァいい……さっきは助かった」
一方通行は舌打ちしつつも、少しだけ感謝して、再びクマの影と相対し、布束と9982号もそれに続いて行った。
そして、上条はと言うと。
「……」
未だに自身の影を見つめて、何かを考え込んでいた。
「……おいおい、俺がお前の元に戻ったところで、別に隠された力が覚醒して~……
なんつーご都合主義的な展開は無いぜ?強いて言うなら幻想殺しが使えるようになるくらいか?
まあ、お前はまだこの力を理解出来てねえみたいだが」
「どういうことだ?」
「それがわかんねーうちにゃわかんねーよ。ほら、あいつらの事手伝ってやれよ」
「……分かった。悪いな、助けてもらって」
「気にすんな。今回の件で貸し一つだから」
「おいおい、俺お前に滅茶苦茶貸し有るのに、これ以上どうやって返せっていうんだよ?」
「今までの分は俺が外に出られた事でチャラだよ、チャラ。これで貸し一って事でイイだろ。
借りも貸しも作り過ぎるもんじゃないってな」
「そっか……そうだな。じゃあ俺んとこ戻ってきたら借りた分返すけど?」
「はっ、ふざけんな俺を戻したきゃ張り倒して引っ張って行く位しろよ」
「はは、それじゃあ今日のところは見逃してやるよ」
「言ってろひよっこが」
双子の様に同じ姿形をした2人は、元に戻る事なく戦禍の渦にのまれて行く。 - 842 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:43:16.67 ID:La72vZnuo
- ・・・
「オラオラオラァ!!」
「はぁあぁあぁあああ!!」
「KUTABARE怪物ゥゥ!と、ミサカはあああああ!!」
ガルーラガルーラガルーラデッドエンドガルーラ鋼鉄破りガルーラガルーラ。
3人は持てる攻撃手段を合わせて攻撃を続ける。クマの影に反撃する隙を与えないように。
この攻撃で決着をつけるかのように。
「ぐっ……むうっ……」
その猛攻を前に、クマの影は防御に回らざるを得ないようだ。
そこに更に上条当麻が加わった。
「お前ら……暴走しちゃったら、すまん」
唱える。
今出せる最強の氷のスキルを。
「ブフダイン!!」
瞬間、部屋の温度は氷点下に達し、オケアノスの世界と化す。
クマの影の巨体と同じ大きさに達する氷塊が出現し、クマの影を押し潰さんと突き進んで行った。
「ぐあっ……!!」
その氷を真正面から受け止めたクマの影は、苦悶の色を浮かべ、氷を何とかしようとする。
しかしそうはさせない。
「もういっぱああああつ!!」
再びブフダインを唱える。すると次は、数えるのが億劫になるほど、
鋭いドリルのような大量のツララが、クマの影を貫かんと降り注いだ。
「があああああああ!!!」
十数本のツララが体を貫き、更に貫通しきらなかったツララが体中に突き刺さったまま、
まるでハリネズミの様な姿になってしまう。
それにより氷を抑える力が失われ、氷塊に押し潰されてしまった。 - 843 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:45:47.37 ID:La72vZnuo
- 「やったか!?」
「上条さん上条さん、それはフラグですよ。と、ミサカは上条を諌めます」
「そんな漫画みたいなことが……」
肩で息をしてふらつく上条を、布束が支える。
「anyhow、上条、あなたはもう休んだ方がいいわ」
これ以上は、暴走の危険がある。
本来なら、上条の攻撃に、一方通行のプラズマも合わされば倒せただろう。
しかし、最早それを為す事は叶わない。力の限界だった。
「……影、君は私が4人を殺す事になっても、止めはしないだろうな?」
「まあ、力を貸すだけだからな。その上で負けるってなら、そりゃこいつらが弱すぎただけの話だし」
「それなら、このまま殺してしまっても構わんな」
土煙が晴れた先には。
クマの影が、満身創痍ながらも、両手を掲げ、力を集めていた。
一同は未だに余力が残っていた事に驚愕しながらも、魔手ニヒルを防ぐべく、行動を開始しようとした。
「待った!」
だがそれは、上条によって防がれた。
一方通行は思わず上条の方を向き、疑問を浮かべた。
「……お前今の状況わかってンのかァ?」
「分かってる上だって。お前ら、下がっててくれ」
と、上条は3人に後ろに下がるように促した。
何か策があるのだろう。3人は素直に従う。
「……オケアノス!」
そして上条の後ろに顕現する、オケアノス。
「今回の件で貸し一つ、って言ったよな」
「その通りだ」
上条は、影に向かって確認をとり、影はそれに対して肯定の意を唱えた。
「暴走するから、抑えとけよ」
「「なっ!?」」
「はっは!つーかそのつもりで来たんだし」
上条のその言葉に、3人は驚愕して止めようとものの、
影は当然のごとく、了承した。
「それじゃあ、行くぜ」
上条は一言言うと、そのまま意識が暗転して行った。 - 844 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 17:49:40.64 ID:La72vZnuo
- ・・・
オケアノスの背を破り、ナニかが這い出てきた。
「あれは……」
一方通行が、布束砥信が、9982号が茫然として上条のペルソナを眺める。
以前忍者屋敷で見た、初めて召喚したペルソナが、上条の背後に現れていた。
「ははっ!俺が貸し一つって言ったのを良い事に好き勝手やりやがって……」
上条の影は悪態をつきながらも、その口調は、非常に楽しそうなものであった。
「まさか、自らその状態になるとは……」
クマの影は興味深そうに、それを眺めていた。
「……ク、ろ……ノ、、ず……」
上条の様子は、明らかにおかしい。
意識があるように見られないが、それでも自身の足で床を踏み、クマの影を見据え、背後に佇むペルソナの名を呟いた。
まるで自己紹介をするかのように。
そしてその声に反応して、『クロノス』は動き出した。
それに呼応して、クマの影も、両手に掲げた力の塊を、クロノスに向かって放つ。
ゴウッ、と今日一番の地響きと効果音が響き渡り、それが止んだ瞬間、先ほどまでの音量差で辺りがより静寂に感じられた。
・・・
「……ク、ろ……ノ、、ず……」
あれ?俺は確か……?
ああ、自分で『暴走』状態に持って行ったのか。
力がみなぎる感じがするけど、動かせない。
というか、勝手に動いてる。
そして目の前にはクマの影。怖いなあ、怖い。
でも、負ける気は、ない。
「ジ、お、ダい、ン……」
ジオダイン?雷撃属性なのか?ブフダインじゃなくて?
なんだろ。やっぱり、ペルソナって良く分かんねえや。 - 846 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/24(日) 18:06:39.17 ID:La72vZnuo
- ・・・
その時、打ち止めの脳内稼働率は、平時の数値に戻った。
「あれ?」
常に90%を超えていたその数値は、徐々に低くなり、40~50%で落ち着いたのだった。
「どういうことだろ……」
芳川の疑問は解決されないまま、打ち止めの調整が完了した事を示す音が鳴り響いた。
・・・
「ぐうあああああああああああ!!!」
クロノスの放ったジオダインは、クマの影の力の塊を打ち抜き、そのままクマの影へのとどめとなる。
クマの影は、ボロボロと崩れ落ち、その巨体は徐々に小さくなって行った。
「さあてと」
上条の影は立ち上がり、肩を回す。
まだ終わりでは無かった。
クロノスを止めなければならない。
「お、あ、、あああああああああああ!!!」
クマの影を倒す、という明確な目標を失われたクロノスは、雄叫びをあげる。
まだ足りない。戦いが足りない。と言わんばかりに、上条の影へと迫って行く。
「まあ、なんだ。その幻想をぶちころす!ってか?」
何の変哲もない右ストレート。しかし威力は強烈。
それをクロノスではなく、上条本人が受け取り、ゴロゴロと5m程吹き飛んだ所で、
上条は糸の切れた操り人形のように倒れ伏し、クロノスは消え去っていた。
「……!」
声も無く吹き飛ぶ上条を前に、一方通行達は外道を見るような眼で上条の影を見た。
「え?イヤイヤ何?俺が悪いの?」
「いやァあれはちょっと……」
「やりすぎじゃないのかしら」
「流石のミサカもこれは引いた」
意識を刈り取るのが一番分かりやすいんだって!
と、必死で説明をするが、3人の冷たい視線に上条の影はいたたまれなくなる。
「まあなんだ、あれだよ、貸しは無しって事で!HAHAHA、じゃあ僕はこれで!!」
言うだけ言って、影はどこかへと消えて行ったのだった。
「……あいつはマジでなンなンだ」 - 848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/24(日) 18:26:04.72 ID:La72vZnuo
- ・・・
「クマ?」
クマは目を覚ます。
その後ろには、クマの影が一言も発さず佇んでいた。
「クマは……」
クマは意を決して、自身の影に向かって語りかける。
「クマは、今まで自分が何なのか分からなかったクマ……」
「ひょっとしたら、答えなんて無いのかも……なんて思った事もあったクマ……」
「結局、クマはシャドウだったけど……だけどクマは、ココに居るクマよ……
今ココで、生きているクマ……」
「……シャドウだからなンだってンだ」
「一方通行の言うとおりです。と、ミサカは同意します」
「anyhow、あなたは私たちの仲間。それでいいんじゃないかしら?」
「それじゃあ、クマはもう、一人で悩まなくて良いクマか?」
「つゥか悩んでる位なら相談しろってンだ。言われなきゃわかンねェ事なンざいくらでもある」
「クマ……およよよ、クマは果報者クマァ……」
すると、クマの背後に控えていたクマの影が、陰鬱な光を放っていた状態から、青白い光を放つようになった。
「「ペルソナ……?」」
その光を見て、直感的にそれがペルソナである事を理解する。
クマは、一歩ずつ、クマの影へと向かって行った。
「……」
支え合う仲間への想いが、立ち向かう『力』へと変わる……
クマはもう一人の自分……困難に立ち向かう為の人格の鎧、ペルソナ「キントキドウジ」を手に入れた!
―――キントキドウジ。まさかり担いだ金太郎。
「クマ……疲れたクマ……」
「そォだな。さっさと帰るか……」
未だに気絶している上条をかついで、一同はホテル・グランドデトロイトを後にする。
旅行に行く時は、ホテルじゃなくて旅館に泊まろうと誓って…… - 849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/24(日) 18:29:06.74 ID:La72vZnuo
- ・・・
「あれ?」
上条当麻は、いつもの空き地に戻ったところで目を覚ました。
「おォ、丁度いいとこで起きたなァ。もう帰るとこなンだわ」
「え?終わったの?まあ見た感じ無事って感じだけd……痛ッ」
頬から感じる鋭い痛みに、上条は顔をしかめる。
すると奥歯がポロリと落ちてきた。
「あれ?なんで歯抜けたの?痛いんだけど……」
どうやらあの時の記憶は無いらしい。
そっとしておこうと、4人は思った。 - 859 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 01:37:26.17 ID:s9+RLLLco
- さて、クマがペルソナを得てから二日程経った訳だが、これと言った進展は見られなかった。
マヨナカテレビも、誰も映らなかった為、天井亜雄はやはり死んだと見て良いのだろう。
少し気の毒ではあるが、別にそれだけで天井に対して何の思い入れも無いので気にしない。
その為天井亜雄を調べる必要も無くなったので、半蔵に天井の件は終わっていいと伝えて、
半蔵もそれに了解した事で、この失踪事件は一応の終わりを見た。
そんな訳でつかの間の落ちつきを取り戻した一方通行達だが、すっかり忘れていた問題があった。
―――部屋を探さなければならない。
新居探し。
今打ち止めは9982号と共に病院に行っている。
調整は終わったものの、その後の経過を確実に調べる為だ。
研究所にそれを行うための設備は整っていないので、
打ち止めもまたカエル顔をした名医の世話になっている。
と言う事で、9982号は今現在不在で、トレーニングも休みで、何より暇なので、
一方通行の独断と偏見により住居探しを終わらせてしまおうと考えたのだが。
「何でお前が居るんだ?」
「あら、何か問題でもあるのかしら?」
芳川桔梗が、一方通行の新居探しについて行っていたのだ。
「なンですかァ?ひょっとして、保護者の代わりでも務めよォってのかァ?」
だとしたら、ンなモンいらねェよ。と、シッシと手を振りながら嫌そうな顔をする一方通行。
しかし、芳川の返答はそんな一方通行の予想の斜め上を行っていた。
「いや、私も御同伴頂けないかと思いまして」
「……ハァ?わんもあぷりーず?」
「私も新居に住ませろって言ってんのよ言わせんな恥ずかしい」
「なンでだよ……?」
「研究職を追われて、貯金も確実に減って行くだろうから、今住んでる部屋にいつまでも居る訳にはいかないのよ」
だったら早く引っ越した方がいいでしょ、とドヤ顔で語る芳川。
どうみても家賃を折半などする気は無く、全部一方通行の負担にしようとか考えているに違いない。
「……盗人猛々しいと言う言葉を口にするのは始めてだわァ」
「ケチケチするなよ」
「そりゃこっちのセリフだっつゥの」
「そんなこと言われても、うち無職ニートやし」
そんなこと言われてもうちポンデライオンやしみたいな口調だが、
ポンデライオンとは違って物すごくイラッと来る。 - 860 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 01:39:31.01 ID:s9+RLLLco
- 「ンな事言ったら俺だってニートだっつゥの」
思わず芳川の言は言い訳にならないと、突っ込みを入れた。
退路を奪われた芳川は、考える。
ニートとニート。社会的地位は、同率。
ならばどうする?答えは簡単、一方通行の社会的地位を向上させる。
それにより一方通行>芳川の図式が成り立ち、芳川は「キミは社会的地位が私より上なんだから、私に施しの一つでも与えるべきなのよ」と一方通行に合法的にたかる事が出来るはずだ。
と言った具合に瞬間的に脳内で結論を叩きだした。
そして芳川は、提案する。
「……あなたはまだ若いんだから、長点上機退学した後、別のとこに復学しなさい?
そうだ、上条君のとことかどう?あそこなら黄泉川先生も居るわよ?」
一応、一方通行は長点上機学園に在学中、であるのが書類上の設定なのだが、
『実験』から手を引き足を洗うには、少しでも『実験』に関わった場所全てを遠ざけなければならない。
もちろん、長点上機もその一つだ。
故に長点上機を止めたら、今住んでいる部屋(長点上機の寮)からも出て行かなければならない。
もっと早く出て行くべきだったのだが、色々とバタバタしていたり、
引っ越す事に難色を示していた9982号が居た為、なんやかんやでココまで遅れてしまったのだ。
「こんな時だけ真面目になるなっつゥの。お前が働くってンなら学校行ってやっても良いぜ?」
芳川の思考を知らない一方通行は、突然芳川がシリアスモードに入ったと勘違いして、そのノリにはついていけねェと切って捨てた。
そして冗談交じりに芳川に働くよう促したのだが。 - 861 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 01:40:19.54 ID:s9+RLLLco
- 「そうね、私と一緒にニート生活を謳歌しましょう」
一瞬にして芳川は掌を返した。
「お前は妖怪手のひら返しかよ」
「妖怪とは失礼しちゃうわね。どっちかって言うと集利盛(たかりさかり)ね」
「ンな力士みたいな言い方すンじゃねェよ」
「そんなことより、部屋を探しましょう、部屋を。出来れば即日入居出来るような所。
私の部屋、最後の家賃は日割だから」
日割で余った分は戻って来る。ならば早めに引っ越すに越した事は無い。
何処までも金にこだわる芳川に呆れ100%の視線を飛ばして、どんよりとした口調で突っ込みを入れる。
「お前どンだけ金に困窮してンだよ……」
「むしろ一方通行に生活費をたからずに、こうやって節約を考えてる事を評価してほしいわね」
「いや、たかり盛りとか言って俺から家賃たかろうとしていた時点で台無しだから」
評価すべき点を挙げる前にゲームセットだった。
9回3アウトの時点でネクストバッターずサークルに入って素振りをしているようなものだ。
お前はもう負けている……一方通行はそんな視線を芳川に飛ばすが、全く意に介していなかった。
「それじゃあ私食事係するから、あなたは掃除係ね。9982号と打ち止めは洗濯係で買い物は最低2人で暇な人が行くと言う事で。
あらやだ一方通行ハーレムじゃない」
「何勝手に将来設計してンだ」
「お姉さんから年頃の女の子、更には幼女までよりどりみどり!更には姉妹丼だってついて来る!お買い得ね!」
「お姉ェ……さん、だと……?」
色々と突っ込み所が多すぎたが、一方通行が何より気になったのは、「お姉さん」だった。
芳川って何歳なンだ?と頭の中でぐるぐると思考の渦にのまれてしまったため、思わず「お姉さん」発言に疑問を呈してしまう。
「あぁん?」
そんな一方通行に対して、芳川は普段の眠たそうなジト目をカッと見開き、威圧した。
その威圧感は以前一方通行がシェリー=クロムウェルに向けたそれと、互角。
戦闘モードに入ってなかった一方通行も、思わずたじろいでしまう。
「イヤ、何でもねェです……おb……お姉さん……」
「よろしい」
おbの続きが気になるものの、一応お姉さんと呼んだので、芳川は一方通行に及第点を与え、威圧を止めた。
「さあ、部屋探しにれっつごー」
いつの間にか芳川主導で部屋探しをする事になっていたのだが、一方通行は考える事を止めた。 - 862 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 01:41:20.66 ID:s9+RLLLco
- ・・・
「見つからないわね」
不動産屋を回り始めて5件目が終わった。
しかしこれと言ってめぼしい物は無く、芳川桔梗はやれやれだぜ、
と言った具合に一仕事終えた作業員のごとく額から流れる汗を拭う。
「見つからねェのは」
一方通行は溜息をつきながら、芳川を睨みつける。
「お前が「あれもほしいこれもほしい」っつって我儘抜かしまくるからだろォが!!
何処のブルーハーツだよお前は!!」
「あらやだ、どうせ探すなら完璧な物件がいいでしょ?後になってこれがよかった……
とかなるのは私の本意じゃないし」
「俺はそンな些細な事にはこだわらねェンだが」
「私がこだわるのよ」
「住まわせてもらう分際で何言ってンだ」
「何!?食事係だけじゃなくて、掃除係もさせようっての!?
分かったわよ、あなたは部屋では何もしなくていいわ!私が食事と掃除を兼任するから!!」
まさかとは思うが、食事と掃除で家賃代分は稼いだとぬかしおるつもりだろうか。
いや、家賃を払うそぶりを見せないことから、恐らくそうなのだろう。
だがそれ以上に、一方通行は納得できないことがある。
「逆切れかよ!?」
朝の10時位に家を出て、今現在、17時。
ここまで何も得られないままひたすら芳川につきあってやったと言うのに、この仕打ちは何だ。
一方通行の中に溜まってゆくもやもやはとどまるところを知らない。
9982号から、「打ち止めの調整はこれにて終了」と言う旨のメールが届き、
いよいよ部屋を見つけなければと言う段階に差し掛かってきたのだが、突如として、後ろから声をかけられる。 - 863 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 01:44:03.93 ID:s9+RLLLco
「おっ、一方通行に芳川じゃん?こんなとこでどーした?あれ?不動産屋?ひょっとして2人でどうs」
「違うこいつがたかって来るだけだ」
黄泉川愛穂。芳川の友人であり、一方通行の師匠でもある。
そんな黄泉川だが、2人が不動産の前で立ちつくしているのを見て妙な勘違いをしたようだった。
「……一体、どーゆー状況じゃんよ?子供にたかるなんて大人としてどうなのさ」
「仕方ないのよ、これは仕方ないの。でもちゃんと食事係と掃除係を兼任するつもりだったのだからいいでしょう」
「どうせしばらくしたら飽きるじゃん?そしたら結局一方通行が色々動く羽目になるじゃんよ」
「ギクッ」
どうやら徐々に仕事を減らして、さりげなく全ての仕事を一方通行に押し付けよう、等と考えていたらしい芳川は、黄泉川の指摘に図星だった。
「お前……」
そんな指摘を目の当たりにした一方通行は、芳川に視線を合わせる。
料理は出来ないと言う思いと若干の侮蔑を乗せて。
一方通行の視線に居たたまれなくなった芳川は、この空気を何とかすべく、話を方向転換させようと試みた。
「そうだ!それなら、あなたの家は駄目なの?」
「「えっ」」
黄泉川の部屋は1人暮らしにしては随分広い。その上その部屋は13階に位置していて、高い。
どう見ても、削減されゆく公務員の給料では賄えないレベルの家賃の部屋である。
にもかかわらず、普通に高級マンションに住まう黄泉川であった。
それは何故かと言うと、そのマンションが建築方面の実地試験を兼ねた施設であるため、何かあった時の為に学生がそこに住まう訳にもいかないわけで、
試験を実施している側が家賃の何割かを負担する事で、黄泉川等の教師に住んでもらっている。と言った状況なのだ。
そして実地試験だけ有ってセキュリティ面も万全。
それだけでなく、住んでいるのは大人ばかりなので、いろんな意味で安全だろう。
流石に教師だけでなく、アンチスキルが何人も住まうマンションに襲撃をかける馬鹿(スキルアウト)はそうそういまい。- 864 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 01:44:44.25 ID:s9+RLLLco
- 「この子ってば色々問題抱えてるから、出来れば近くに大人が居る状況を作りたいのよね」
割と本音を黄泉川に伝える芳川。
自身が担当するクラスは良い子ちゃんばかりで、月詠小萌が抱える問題児を見てきた黄泉川は、
こうやって問題児を担当する事に対して割と乗り気になりやすい。
それ故に以前一方通行や上条当麻が、自分達を鍛えてほしいと申し出た時は軽く歓喜したほどだ。
すなわち、芳川が冗談っぽく提案したのだが、一方通行が許容するなら喜んで受け入れたいと、黄泉川は思っている。
だがしかし、それに対して一方通行は難色を示した。
これ以上誰かを巻き込む訳にはいかない。
ただでさえいろんな所に目をつけられているのだ。
そんな中、黄泉川の部屋に居候など、余計な被害が飛び火する恐れがある。
確かに黄泉川の部屋は色々とセキュリティ万全だろう。
だが、そんなセキュリティを無にするのが、暗部だ。
何があるか分からない。
自分や芳川ならまだしも、光の住人である黄泉川が、わざわざ自ら闇に片足を突っ込む必要などは無いのだ。
そんな訳で、割と乗り気な顔をしている黄泉川には悪いが、この話は無かった事に
と言おうとした矢先。
「子供が遠慮するんじゃないじゃん」
先手を打たれた。
「そうそう、子供なんだからもっと大人に甘えなさいな」
お前は黙ってろ。
「お前今、「俺がいると迷惑が~」とか考えてるじゃん?そりゃ私を舐めすぎだ」
「うるせェよ、俺に関わると本当の地獄はこれからだって言うベジータの気持ちがよォくわかるぜェ?」
試してみるか?と、獰猛な表情を浮かべ、挑発する一方通行。
しかしそんな100人見たら99人が逃げだすだろうその表情を見ても、動じない黄泉川。
一方通行の目の前には1%側の人間が居た。
「学園都市第一位って名前は、裏でも良く聞くじゃん。だけど、それがどうした?
そんな理由で、「導く事が出来る子供」と「出来ない子供」なんて区別は出来ないしするつもりもないじゃんよ」
子供はもっと我儘抜かせばいいんじゃん。と黄泉川。
芳川は流石に空気を読んだのか、2人の会話を聞き入っていた。 - 865 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 01:45:12.97 ID:s9+RLLLco
- 「言っておくが、問題児は俺だけじゃねェぞ」
黄泉川は芳川を自身の元に引き寄せて肩を組む。
「こいつのことじゃん?」
「イヤ、それもだが違う」
「私も……だと……?」
衝撃的真実を知ってしまった、と言う表情を浮かべ、うなだれる芳川。
しかし芳川に構っている暇はない。
「お前は俺と芳川の2人だけだと思ってるが、それは違ェ。あと2人、訳有りが居る。
そいつらも間違いなく一緒に住めば面倒な事になる事請け合いだぜェ?」
「無問題じゃん。むしろ問題児をいっぱい引き受けたっつって小萌先生に自慢してやるじゃんよ。
あれならきっと血の涙流して悔しがる事請け合いってね」
危険?むしろウェルカムだ。と言わんばかりにサムズアップする黄泉川。
「つーか、トレーニングジムで十二分に一方通行とは絡んでるんだから、同居なんざ今更じゃんよ。
むしろ今まで同居しなかった方が不思議じゃん!」
「いやなンでだよ!?」
ばしばしと芳川の背を叩く黄泉川。恐らく一方通行を叩こうとすると反射されると思ったのだろう。
芳川は非常にわずらわしそうな顔をしていた。
「ま、とりあえずうちに来たらいいじゃん?そーだ飯とかまだ食べてないだろ?
その2人も連れてきたらいいと思うじゃん!」
最早一方通行では黄泉川を止める事は出来ない。
なぜなら基本的にはトレーニングジムで上下関係が構成されているからだ。
頼めるほど頼りがいは無いが、頼みの綱?の芳川も、「冗談のつもりがこんなことになるとは」と言う顔をしていたので、詰みだろう。
「……わかったよ。行ってやる、行けばいいんだろォ?その代わり、覚悟しとけよ?」
「覚悟なんざとうの昔に出来てるじゃん。『生きる』覚悟をな!」
「……ハッ、ンだそりゃ馬鹿じゃねェの」
「それもとうの昔から知ってるじゃん」
口では黄泉川の事を馬鹿にする言葉を吐く一方通行だが、その割に顔では悪い気はしない、と言った笑みを浮かべていた。
しかしそれは本人も無意識の事で、割と自然な笑みを浮かべていた一方通行に、黄泉川と芳川も笑った。 - 866 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 01:45:40.52 ID:s9+RLLLco
- ・・・
「つゥか、テレビはどうすンだよ」
「ああ、すっかり忘れてたわね」
「テレビ?なんの事じゃん?」
「あァー、あれだ、あれ。最近流行りのプラズマテレビを買おうぜェって話」
「それなら問題ないじゃん!うちのテレビも試供品でモニターも兼ねてるから、その辺の電器屋で売ってるのよりも普通に新しいじゃんよ!
妙な機能がついてるのは御愛嬌だけど!」
(つか、テレビは場所が変わっても同じテレビの中に入るなら、同じ場所に出れるのかァ?)
そんな疑問が頭をよぎったが、芳川の力があれば問題は無いだろう。
そう判断した一方通行は、黄泉川に引っ張られて黄泉川邸へと向かって行く。
(……セキュリティとかガン無視で良いから、テレビの中に入る用の部屋を借りた方がいいな……)
流石にテレビの中に半身を突っ込むと言うマジックのような現実を黄泉川に見られる訳にはいかない。
結局、黄泉川の部屋に住むことが決定したと言うのに、後日部屋探しをする羽目になった一方通行だった。 - 867 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/25(月) 01:47:16.24 ID:s9+RLLLco
- 尾張です。
なンつゥか、芳川と黄泉川の絡みと言うより、
一方通行と芳川、一方通行と黄泉川の絡みって感じだった……
すまン……
今週も1週間気張って行きましょう今度こそお休みなさい - 877 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 17:33:49.77 ID:s9+RLLLco
- 「どォしてこォなった」
こんなはずじゃなかったのに。
と言うか、こんなことしている暇は無いと言うのに。
学園都市外部への外出許可を無理矢理ぶんどって、1週間だけ外に解放されたと言うのに。
何故。
何故『目的地』に1ミリたりとも近づかずに、こんな所で道草食ってるのか。
そんな不満を乗せて、目の前の『シスターさん』に突っ込みを入れる。
「だからバスに乗っても学園都市にはつかねェって言ってンだ!!
こっからなら歩いて7、8分もありゃ着くから、適当に歩いてろってンだ!!」
「あらあら、そうなんでございますか?ご忠告ありがとうございます」
何故か、「学園都市外部への用事」を済ますのではなく、迷子のシスターを拾っていた。 - 878 :そうなんでございますか?→そうなのでございますか? ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 17:35:04.45 ID:s9+RLLLco
・・・
時は少し遡る。
天井亜雄の影から得た『タルタロス』と言う単語に、シャドウやテレビに関する実験。
それを調べるべく、学園都市の暗部の情報源を片っ端から洗って行った。
もちろん足がつかないように、海外のサーバーを何重にも経由してみたり、ダミーを配置してみたり、兎にも角にも体を鍛えること以上に力を注いだ。
そのお陰だろうか、肝心の実験内容まではわからなかったが、学園都市創設から『超能力』とは別に『心』に関する実験も行っていた、と言う事は分かった。
そして12年前、学園都市外部から、新たに実験の協力者として『桐条グループ』と手を結んだようだ。
桐条グループ。これは学園都市外部にある有名企業で、今では世界有数の複合企業だったと一方通行は記憶している。
それが学園都市の実験に加担していたようだ。資金提供の代わりに学園都市から人材を提供してもらっていたのだろう。
表向きはよくある相互協力にて行われる技術向上、と言った所だろう。これだけなら『表』の情報源からでも調べられた。
しかし、『裏』では違うようだった。
11年前、桐条グループは「実験事故」を起こしている。それも大量の研究者を巻き込んだ未曾有の実験事故だ。
そのような危険な実験を、学園都市外部で普通に行われたとは考えにくい。
更にこの事故の原因はひたすら秘匿されているようで、原因は分からずじまいである。
このような危険な実験の内容は、一方通行にとって一つしか思い浮かばなかった。
すなわち、この桐条グループは、『シャドウ』に関して何らかの実験を行っていた可能性が高いのだ。
故に一方通行は、無駄かもしれないがこの桐条グループに直接赴き、色々と調べることを決めた訳である。
学園都市に残された桐条グループに関する情報では、まだまだ足りないのだ。
だがしかし、一方通行という能力の希少性では、外に出してもらえない可能性が高い。
それでも、この『桐条グループ』。一つ調べておかなければ気が済まない。
そうして一方通行は、「色々と色んな所に脅しをかけて」、1週間の外出権をもぎ取ったのであった。
しかし、良い事尽くめではない。
今回の件で確実に暗部に目をつけられたはずだ。
実害と言う実害は出していないので、何かを請求されると言った事は無いだろうが、
確実に警戒の度合いは上がるだろう。
ならば、なおさら桐条グループで情報の一つでも得ないと割に合わないと言うのに。
一方通行は、一人のシスターと出会ったのだった。- 879 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 17:37:13.42 ID:s9+RLLLco
- ・・・
一方通行は監視用のナノマシンを体内に注入され、外出用書類をアンチスキルに見せて、晴れて『門』の外に出られたとさ。
何だかアバウトなチェックで、アンチスキルは何か別の事で頭がいっぱいになっているようだった。
と言うのも、もうすぐ学園都市最大のイベント『大覇星祭』が行われるのだ。
その準備の為に、外部から内部からひっきりなしに業者が行ったり来たりするので、そちらを厳重に管理しなければ侵入者を容易に許してしまう事になるわけで。
1人の学生が外に出る程度の事で、アンチスキルの手を煩わせるわけにはいかないのだった。
「あァ、娑婆の空気は久々だァ」
あっさりとチェックを抜け、外に出ると、対して違いは無いのに何だか良い空気を吸えた気がする。
特に感慨深い訳でもないのだが、1人旅と言うのも中々そそるものがある。
「学園都市の外に行ってくる」と、黄泉川邸に居る面々に言い放ったところ、
「自分探しじゃん?」とか「ミサカも行きたいです」とか「お土産よろしくね」とか「ミサカはミサカは」とか、
黄泉川とゆかいな居候達が思い思いの言葉を吐いてきたので、耳をふさいでさっさと出てきた。
とりあえず9982号に、「御坂とかも帰ってきてるみたいだから、上条と一緒にペルソナ鍛えとけよ」と伝言を残して。
学園都市の外に出るには、一方通行の様に「合法的」に出て行くか、「違法的」に出て行くかしかない。
9982号や打ち止めが後者を行うような、そんな無謀な真似をするとは思えなかったが、
一方通行も、これはとても重要な事で譲れない事でもあったためきつく忠告しておいたので、まあ大丈夫だろう。
唯一気がかりなのが、打ち止めが変に動いて暗部を刺激しないかどうかだ。
今は黄泉川邸に居候している、と言う事でアンチスキルの住む部屋ならそうそう手出しは出来ない、と考えている。
しかし、その気になればアンチスキルの一人や二人、「居なかった」事にするなど容易いのだ。故に9982号には打ち止めのストッパー役を頼みこんだ。
そうして渋々だが、9982号は一方通行の頼みを、お土産を買って来ることで受け入れたのだった。
さて、桐条グループと一言に言っても、文字通り「グループ」なので日本どころか世界中に企業が点在している。
そんな中、どうやって情報を探し出すのか。
方針は既に決まっている。
―――『学園都市』、である。 - 880 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 17:37:44.68 ID:s9+RLLLco
- 学園都市と言っても、先ほどまで一方通行が居た学園都市ではない。
別の場所にもあるのだ。
学園都市が。
これもまた桐条グループが関係している。
11年前の『実験事故』によって、全てが蹂躙され尽くした土地。
桐条グループは、その土地を中心に学園都市を設立した。
まるで何かを埋め立て、隠すかのように。
恐らく、『実験事故』の隠蔽工作なのだろう。
ひょっとしたら昨年、その学園都市発生した『集団無気力症事件』も何か桐条グループの実験と関係があるのかもしれない。
更に言えば、この学園都市に、桐条グループのご令嬢が住んでいるようだ。
と言っても「ご令嬢」なので、11年前の事など知る由も無いかもしれない。
だが、桐条グループを片っ端から洗うよりも、本拠地に乗り込んだ方が早い。一方通行はそのように判断したのだった。
「停留場はこっから……」
そして今、一方通行はバス停を探していた。
桐条グループの学園都市に行くまで、バスと電車とバスと電車とモノレール、と言った具合に乗り継いで乗り継いで、ようやくたどり着けるのだ。
能力でさっさと行きたいところだが、学園都市外部でそんな目立つ事などできない。
次の日の朝刊に「宇宙人!?空飛ぶ少年」などと言う見出しで新聞に載るなど、許容できるはずがない。
故に時間をかけてマッタリ移動しようと言う考えだ。1週間あるし。
下調べしていた情報を頭の中で整理していると、ようやく停留所を発見した。
一応最初に乗るべき停留場は、視線の先にあるおんぼろ停留場である。
こんなバス停から、誰がバスに乗り込むのだろう。俺以外に。とか考えていたのだが、別の乗客が、居た。
(……シスター?)
インデックスでは無い、別のシスターが居た。
ここ最近シスターだの宗教だの、非科学と関わる機会の多かった一方通行は停留所でキョロキョロしているシスターを見た時、絶対なンかある。と嫌な予感が頭をよぎったのだが。 - 881 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 17:38:20.18 ID:s9+RLLLco
- 「あのー……」
そのシスターが、話をかけてきた。
「あァ?」
なるべく印象に残らないように、一般人を心がけて対応しようとしたのだが、無理だった。
何せ既に目立つ容姿なのだから。
「恐れ入りますが、学園都市へと向かうならこのバスに乗ればよろしいのでしょうか?」
流暢な日本語。今までに見た魔術師関連の人間もまた、流暢に日本語を話していた。
ついでに言えば、変な格好もしてた。目の前のシスターはどうだろう?
残暑の厳しい中、暑さと真っ向勝負するかのような黒い修道服。
もちろん長袖長スカートで、それでも肩口や膝上20センチの所で着脱できるようにファフナーがついているのだが、前述した通り長袖長スカートのフル装備である。
どう見ても、変な格好であった。人当たりの良さそうな笑みすら、一気に胡散臭く感じられる。
何だかとてつもなく面倒な事になりそう。
一方通行の脳内で警鐘が鳴り響いたのだが、ここで上手に乗り切れば問題はあるまい。
「あァー、学園都市ってのは色々と警備が厳しいから、学園都市外部の公共機構では学園都市までいけねェよ。
唯一行ける乗り物ってーと、契約されたタクシー位なもンだぜ?
こっから歩いて7、8分くれェだから、金を節約してェなら頑張って歩くこったなァ」
と、ここで、丁度いいタイミングでバスがやってきた。
これに乗っておさらばしてしまおう。一方通行はバスに乗り込もうとする。
「あら、そうなんでございますか?わざわざありがとうございます。
それであなたは学園都市からここまで歩いてきたみたいなのですね」
何故か、そのシスターは一方通行に伴って、バスに乗ろうとしてきた。 - 882 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 17:39:29.34 ID:s9+RLLLco
- 「いやアンタ、話聞いてましたかァ?」
「はい?」
「バス乗っても学園都市行けねェって言ってンだ。だから歩いて行けって言ってンだ!」
一方通行は、目の前の黒シスターと永久の別れを成し遂げるべく、
バスからやんわりとそのシスターを降ろす。
「まあ、そうなんですのね。すみません、ご忠告感謝します」
と、シスターは苦笑いを浮かべながら、一方通行に伴って、バスに乗ろうとしてきた。
「だァアアァ!!!人の話聞いてますゥ!?歩いて行くかタクシーしかないンですよォォ!?」
これでは埒が明かない、と言った具合に、一方通行はそのシスターの両脇を抱え、共にバスから降りた。
するとバスの運転手は、2人がバスに乗る訳ではないと判断したのか(それともいつまでも乗るか乗らないかはっきりしないのは迷惑なのか)、プシューと扉を閉じて、発車させてしまった。
ちなみに、次のバスまで2時間半。
「どォしてこォなった」
時は冒頭まで戻る。
「あらあら」
そのシスターは、ニコニコと柔らかい笑みを浮かべ、
次のバスが来るのを待つつもりなのか、停留所のイスに座った。
「だからバスに乗っても学園都市にはつかねェって言ってンだ!!
こっからなら歩いて7、8分もありゃ着くから、適当に歩いてろってンだ!!」
「あらあら、そうなんでございますか?ご忠告ありがとうございます」
全く話を聞いていない。このシスターは笑顔で馬耳東風なのだろう。
とはいえ、行ってしまった物は仕方ない。と言う事で一方通行も苛々した面持ちでイスに座った。 - 883 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 17:40:04.73 ID:s9+RLLLco
「あら?何やらイライラしているように見えるのでございますが、大丈夫でございますか?」
「あァ、おかげさまでなァ……」
駄目だ、このシスターは天然記念物級の天然ボケだ。
いちいち言う事為す事に口をはさんでいてはいずれ円形脱毛症にでも陥ってしまうだろう。
頭をガリガリと強く掻く一方通行を見たシスターは、懐から何かを取り出した。
「それではこちらの飴玉など、如何ですか?」
「いらねェ」
「はい、どうぞ」
「いや、いらねェって」
そう。このシスターは人の話を聞かないのだ。
何だかんだで飴玉を渡された一方通行は、渋々その飴を口にする。
「苦ッ!!?ンだこりゃ苦すぎンぞォ!?」
「渋柿キャンディだそうでございますよ?」
「誰だそンなもン開発した野郎は!?学園都市に招聘されてもおかしくねェぞォ?!」
斬新過ぎる商品の試供品が蔓延る学園都市。
その外に来てまでこんな斬新な物を口にする事になるとは思っていなかった。
「詳しい事は良くわからないのでございますが、喉が乾きにくくなるみたいでございますよ」
「そォだな、飴舐めりゃ唾液が出て喉乾きにくくならァな。
俺には関係ねェ話だが、この炎天下で体内の水分が消費されてる状態ならあまり意味はねェけど」
「成程、すなわちあなたは喉がお渇きになられている、と言う事でございましょうか」
「なンでそォいう話になるンだよ」
「俺には関係ねェ話」の部分を突っ込まれなかった事は良かったのだが、
やはりこのシスター、掴み所がなく扱いづらい。
ホントなンなンだ?と思っていた所、シスターは今度は袖の中から魔法瓶を取り出した。- 884 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/25(月) 17:40:43.90 ID:s9+RLLLco
- 「お前の修道服の中は一体どォなってンだよ……」
「淑女のたしなみでございますよ」
「そォか、だが別に水分なンぞ欲してねェ」
基本的に余計な熱は反射しているので汗もかかない。その為のどなど渇くはずもない。
だが、そんな事情を知る由も無く。一方通行の話など聞く由も無く。
「はい、どうぞ」
「だァからいらねェって……なンでカップから湯気が立ってンだよ」
さっきから一方通行の考えの斜め上を行き過ぎである。
何故こんな炎天下の中、熱い茶を飲まなければならないのか(ベクトル操作によって暑くないし熱くもないけど、精神的に)。
とりあえず一気飲みで口の中にカップのお茶全てを含み、水分子の動きを抑制して、冷ました。
能力の無駄遣いである。
「あらあら、よっぽど喉がお渇きになられていたようでございますね」
「……」
最早、何も言うまい。
「それでは、学園都市まで案内していただけませんか?」
魔法瓶を再び袖の中に吸い込ませながら、シスターは提案した。
バスに乗らずに学園都市に向かおうと考えたらしく、すこしシスターが成長したように感じられたが、何故にそんな事をしなければならないのか。
「あァ?なンでそンな面倒な事を……」
確かに、さっさとこのシスターを学園都市に連れて行ってしまった方が精神衛生上良いのかもしれない。
そこまでする義理は無いのだが、このままではこのシスターは一方通行と共に学園都市(桐)の方まで行ってしまう事請け合いである。
このシスターの現在地を考えると、目的地は学園都市(桐)ではなく学園都市の方なのだろう。
どうせ歩いて10分もかからないのだ。次のバスまで時間はたくさんある訳なので、案内してしまおう。
学園都市に入ってからはもう知らない。目の前のシスターは歩いて5分で迷いそうだが、そこまではもう知らない。
そう考えた一方通行は立ち上がり、シスターについて来るよう促した。
「行くぞ。手間かけさせンなってンだ」
「連れて行って下さるのでございますのね、何度も何度もご迷惑をおかけします」
「気にすンな。こっちも時間が出来たから協力してやるだけだからなァ」
と、皮肉を吐く一方通行。
しかし、シスターはその皮肉に気付かず、普通に感謝を示す。
「そうなのですか、それはありがとうございます。
あ、私の名前は、オルソラ=アクィナスと申しますのでございますよ」
「……鈴科だ」
さらりと偽名を教える一方通行。
外部では飽くまで一般人を装うつもりなので、名前を尋ねられたら鈴科と名乗る事にしていたのだ。
「鈴科さん、ですね。それでは、バスの路線図の読み方を……」
「なンで話がバスに戻ってンだよ!?」
話が巻き戻っている。
超能力を開発するより、オルソラの脳内を調べた方が色々と研究がはかどるのではないか、と言う程マイペースさんであった。
「……まァいい、兎に角ついてこい。もォ相手してらンねェ」
マシンガンのごとく天然ボケを放つオルソラに、一方通行は辟易した。
さっさと案内してしまわないと次のバスすら乗れないのではと危惧して、学園都市に向かってオルソラを引っ張っていくのだった。 - 891 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:13:58.94 ID:RC+OOi9Lo
- 「だからなー、2学期と言うのは忙しいのだぞー。
大覇星祭に一端覧祭。遠足宿泊学習修学旅行、芸術鑑賞祭や社会見学、
大掃除に期末試験追試補修とよりどりみどりなんだんだからなー。
上条当麻が忙しそうなのも仕方のないことなんだぞー」
と、土御門舞夏はのんびりとした声でまくしたてた。
彼女はインデックスと同年齢程度の容姿に、何故かメイド服を着ていた。
更にそのメイド服ガールは、ドラム缶型清掃用ロボットの上にちょこんと正座し、掃除させろと自己主張するロボットをペシペシ叩いて、
手にしたモップを前方に突き刺してその場から動かないように操っている。
有り体にいえば奇妙だった。
「でも、暇だし退屈だしおなかがすいたんだよ?とうまはちっとも構ってくれないし」
インデックスは口をとがらせながら、修道服の懐でじたばたする猫―――スフィンクスを両手で抱き抱えながら愚痴る。
テレビとトレーニングと学校。何気にハードスケジュールな上条当麻は、インデックスと中々遊んでやる事が出来ていなかった。
インデックスも上条が忙しいのは理解しているし、邪魔をしてはいけないと言うのも理解している。
それでも、寂しいものは寂しいのだ。
それもそのはず、学園都市内での話し相手は主に上条で、上条がいなければ暇なのである。
もちろん、上条当麻はインデックスを自身の部屋に軟禁……等と言う事はしていない。
合い鍵はもらっているので、日中は街中を散歩して会話相手を探している。
そしてここ1週間での厳選された調査(機械がいっぱいある所には近づかなかったという点で厳選)によると、
服屋さんのお姉さんなら、商品の入れ替え時以外だと気さくに話しかけてもらえるけど、これは何だか違う。
後、一方通行ご用達のファミレスのいつものウェイトレスさんも、ランチタイムを終えて落ちついた時は話してくれたりする。
インデックス&一方通行のコンビは店の売り上げに多大過ぎる程に貢献している、と言う事で、ドリンクバーと軽食を奢ってくれる程だ。
一度そのウェイトレスさんがインデックスにご飯あげてるのが店長にばれた事があるのだが、インデックスを見て「いつもありがとうございます」と、恭しく一礼して行った。
これだけ見ればどれ程一方通行がこのファミレスに投資してきたかが分かることだろう。
とはいえ満足行くほどの食事ではないのだが、タダでもらっておいて更に要求する程図々しくは無い。 - 892 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:14:28.06 ID:RC+OOi9Lo
- また、学校に行ってない同年代の人は一方通行や9982号もいるのだが、そちらはそちらで何やら忙しそうにしている。
たまに街中で会ったらご飯食べさせてもらったりしているのだが、最近は出くわす事自体が無かった。
兎にも角にも、学生の街、と言うだけあって日中は街の8割が学業に専念していて、
1割が教鞭を振っているため、絡む相手が滅多にいなく、とどのつまり暇なのである。
しかし、インデックスの目の前に居るメイド服は、そんな制限が無いように思える。
ある時は道路のゴミ掃除、ある時はパン屋さんでパン作り、ある時はレストランで給仕、と言った具合に、神出鬼没、多岐多端なまでにメイドさんであった。
それがインデックスには理解できない。
自身はこの街の学生で無い為、学校に行く事が無いと言うのは仕方ないのだが、土御門舞夏は何故学校に行っていないのか、と。
「そりゃあ、私が例外だからなのだよー」
そんなインデックスの疑問にドヤ顔で回答する舞夏。
「どういうこと?」
「私の通う家政学校……まあ、メイドさん育成学校は現地実習が基本だからなー。
論より証拠、百聞は一見に如かず。事件は会議室でなく現場で起きているのだよー」
「つまり、私もメイドさんになれば、時間を気にせず場所を気にせずとうまに会えるってことかな?」
「メイドさんは一日にして成らずなのだよー。というか人に会う為に成るモノじゃないぞー」
「むむ……」
舞夏の突っ込みにインデックスは考え込む。
そして舞夏は更に追撃を与える。
「それに、家庭的スキルゼロな女の子には厳しいと思うなー」
「むぐっ……なら、とうまを私のメイドさんにする!!」
「それは色々と素敵過ぎる提案だけど……上条当麻の前でそれは言ったら駄目だからなー」
多分、泣くぞー。と舞夏。
「うん、そうだね。悪いけど君も奴もメイドになる時間なんてないしメイドにするつもりもないんだ」
唐突に、土御門舞夏とインデックスの会話が終わりを告げた。 - 893 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:15:08.01 ID:RC+OOi9Lo
- ・・・
「……あのクソ不良神父、一体何の用だってんだよ……」
上条当麻は、盛大に愚痴を吐く。
それは何故か。
何やら用事があるらしく、わざわざご丁寧にインデックスを誘拐してまで、
上条を学園都市外部に呼び出しなさった。
土御門舞夏に伝言を残していたようで、上条が帰ってきたところに必死そうで泣きそうな顔をして突っ込んできた時はどうしたのだと焦ったものだ。
今日も今日とていつも通り授業に頭を抱え、軽くトレーニングを行い、お勤めを終えた所にこれだ。
つまらん用事だったら、泣いて許しを乞うまで殴って差し上げよう。
上条だけでなく、インデックスにも手を出しただけでは飽き足らず、更に紛らわしいことをして舞夏も泣かせたのだ。許せるだろうか。いや許せない。
土御門舞夏の義兄である、土御門元春もそれを望むはずだ。土御門元春の代わりに自分が奴をボコす。
幕の内コールが脳内で鳴り響き、デンプシーロールを赤毛不良神父にぶちかます自分を想像しながら、
上条は外出用書類を片手に『門』へと向かって行った。 - 894 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:15:50.97 ID:RC+OOi9Lo
- ・・・
「はァ、なンだって?もう一度言ってみろ」
一方通行は学園都市に向かって歩きながら、思わず尋ね返した。
「はい、実を言うと追われているのでございますよ。
ちょっとしたいざこざがありまして、学園都市なら教会勢力も手を出せないとかなんとか、と言う事を小耳にはさんだ次第でございます」
追われている、およそ穏やかではない現状を、さも当然のように土御門舞夏とは異なるゆったりとした口調で語る、黒い修道服のシスター。
その名を、オルソラ=アクィナス。
そのマイペースっぷりは会って間もない一方通行ですら頭を抱える程だ。
今もふらふらと路地裏に向かって、学園都市から離れようとしている。
それを一方通行が止め、学園都市に向かって引っ張っていく。
何度同じ事を繰り返しただろうか、10分もあれば学園都市に到達出来ると言うのに、
既に20分は経過していた。
そんな彼女は、今現在追われているらしい。
誰に?
一つ、心当たりがあった。
「……魔術師、か」
一方通行から漏れた、断片的なキーワード。しかしそれだけで十分だった。
それを聞いたオルソラは、軽く身震いして、何故一方通行がそんな事を知っているのか尋ねる。
「何故、魔術師の存在を認めておられるのでございましょう?」
「俺ァ魔術師って職業の人間を2人程、知ってる」
「そうなのでございますか。それで、お茶の味は如何でしたか?」
「あァ、美味かったよ。そのうちまた頼む」
「はい、いつでも申しつけくださいね」
このように、突如として話が切り替わるのも、慣れた。
しばらく話をしていて分かったのだが、どうやら会話の中に一定のアルゴリズムが成立しているらしく、大まかな規則性を把握する事は出来た。
しかし、学園都市第一位の頭脳を以ってしても、その規則性を十全に把握する事は未だ出来ていない。
一定時間が過ぎると一定の規則を以って変化して行く暗号のごとく、オルソラの会話における法則は常に変化して行っている。
反射すら切って、今ある演算能力を全力で用いてオルソラの会話アルゴリズムを検証してみるのも面白いのでは、と本気で考えてしまう程だ。
やはり、超能力などに力を注ぐよりオルソラの脳内を調べた方が、研究がはかどるのではと思う。 - 895 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:16:32.62 ID:RC+OOi9Lo
- 閑話休題。
話を元に戻そうとしたところ、携帯電話からメールの受信を知らせる音が鳴り響いた。
「つゥか、魔術師の手から逃れるために学園都市に来たってンなら、止めた方が良いぜ?」
一方通行は携帯を開き、その内容を確認しながら、話を戻す。
メールの差出人は、上条だった。
何やら上条も学園都市外部に用事が出来たらしく、下手したらしばらく戻れない恐れもある、との事だ。
「あら、何故なのでございましょうか?」
きょとんとした顔を浮かべ、ベンチに座っているオルソラ。
何だかんだで学園都市には近づいているが、かなり遠回りをしていると言えよう。
たまたま目に入った公園に腰を落ち着け、オルソラの話を聞いているという状況であった一方通行は、
上条に対する返信メールを打ちこみつつも、オルソラの質問に答える。
「その気になりゃァ、魔術師はいくらでも学園都市に侵入してくるからだ」
一方通行は忌々しげに舌打ちしながら、ぼさぼさの金髪ゴスロリ女を思い出していた。
そしておそらく、上条当麻もまた、一方通行の知らない魔術師と遭遇した事があるのだろう。
そう考えると、学園都市が安全地帯かと問われれば否と答えざるを得ない。
「それでは、私は一体どうしたら……」
オロオロとし、眼にはうっすらと涙を浮かべるオルソラ。
上条当麻だったら、迷わず助けようと行動を起こすのだろうが。
一方通行には、そこまでする理由がない。
会って間もない人間を助ける程、お人よしになったつもりはないのだが。
(……いつからこンな甘っちょろい人間に成り下がったンだかなァ)
頭の中で嘆息しながら、一方通行はオルソラに向かって口を開いた。
「あー、それなら、俺とついてくるかァ?」 - 896 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:17:39.12 ID:RC+OOi9Lo
「はい?」
突然の提案に、オルソラも良くわからない顔をする。
「こォ見えて腕は結構立つから、護衛役くらいにはならァな。
それに今から向かうところでは、魔術師もそうそう動けはしねェと思うぜ?」
桐条グループという、『表』の世界でも有数の企業。
これのお膝元で暴れようなどと言う馬鹿は、そうそう居ないだろう。居るとしたらそれはただの戦闘狂だ。
そしてオルソラは、そんな戦闘狂に狙われるような人間には見えない。
少なくとも一方通行と一緒に居るうちは、下手に学園都市に潜伏するよりかは安全であるはずだ。
とはいえ、この提案を断るなら別に引きとめるつもりはない。
上条なら有無を言わさず助けるために、自分の手を差し出すだけではなく自分から掴みに行くのだろうが。
(流石に差し出した手を払う人間まで、助ける気にはならねェよなァ……)
そう考えると、上条のお人よしっぷりがよくわかる。
断られたら、学園都市まで案内して、それで終わりだ。
一方通行が提案すると、オルソラはその言葉をしばらく反芻していたのか、何やら考え込んでいる。
そう言えば、オルソラは学園都市に入る為の許可証を持っているのか?
等と一方通行にとってはどうでもいい思考が頭をめぐり始めた頃、ようやくオルソラが口を開いた。
「あの……不束者ですが、よろしくおねがいいたします」
「そのセリフは何か誤解を招きかねねェが……まァいい。とっとと行くぞォ」
「はい、ありがとうございます」
一方通行が立ち上がり踵を返すと、オルソラもそれに追従して、再びバス停へと向かって行く。
こうして再び、超能力者と魔術師が交差したのだった。- 897 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:18:34.22 ID:RC+OOi9Lo
- ・・・
「今日は何かあれだな」
警備甘くね?と呟く上条当麻。
今現在、『門』ではひっきりなしに業者が行き来している。
そう考えると警備すべき相手の比重も変わって来るのだろう。
記憶を失っている上条には、何故こんなに業者が来ているのか分からなかったが、
そういえば「大覇星祭」と言うのが近づいてきているとかなんとか、街中で聞いた。
話を伺う限りでは、かなり危険なイベントらしい。
端的にいえば、「能力有りの運動会」。
学園都市に住まう者ならば、その危険性は簡単に理解できることだろう。
そして上条当麻は、無能力者。
以前ならば『幻想殺し』も使えたのだが、無い物ねだりをしても仕方あるまい。
更に今年の大覇星祭では、ゲストに外部からアイドルを呼び寄せたようである。
それは、何やら最近CMなどでよく見かける「りせちー」だそうだ。
青髪ピアスも大ファンらしく、先日その情報を青髪が聞きつけた時は狂喜乱舞していたのは記憶に新しい。
だが、学園都市は割と治安がよろしくない。
そんな中で、外部からやってきた人気アイドルが間違って怪我でもしてしまったら大事である。
故に今年の警備は更に厳重なもので、外部からやってくる業者の方に警備の比重が偏るのは仕方ない事だと理解した。
かくして、あっさりと学園都市の外に出られた上条は、
赤毛魔術師―――ステイル=マグヌスの指定した『薄明座』とか言う3週間程前に潰れたらしい劇場へと向かっている。
一応、いつ戻ってこられるかわからないので、一方通行にその旨を伝えるべく、携帯電話を開く。
すると、割とすぐに返信が来たのだが、一方通行も現在学園都市の外に出ているらしい。
第一位なのに良く出られたなあ、などと考えるが、色々手まわしをしたのだろうな。
と思いつつも、一方通行からのメールは「実験に関して調べ物がある」との事なので、
上条は自分の事に巻き込まないよう、それに対する返信は「了解、頑張れよ」と簡単なものにして携帯電話を閉じた。
そうして、おんぼろのバス停を通りすぎ、携帯のGPSによる地図を睨みつけながら『薄明座』を目指して行く。 - 898 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:19:01.26 ID:RC+OOi9Lo
- ・・・
上条当麻がバス停を通りすぎて数分後、一方通行とオルソラ=アクィナスはそのバス停に到着した。
「それじゃ、しばらく時間はかかるがここで待つぞォ」
ドカッ、とバス停のベンチに座り込む一方通行。
そのベンチは老朽化によって一方通行の軽い体重すら支えるのに一苦労していた。
「あのー」
「あン?」
「歩いて行くか、タクシーに乗らないといけないのでございませんでしたか?」
「ほォ、学園都市の行き方をよく知ってるじゃねェか。
外部から来る人間は、その事を知らずに結構苦労するってのによォ」
「ふふ、ありがとうございます」
「だが、これから行く場所は、バスに乗って行ける場所だから心配すンな。
何個か乗り継がなきゃならねェがなァ」
「そうだったのでございますか。これはこれは、ありがとうございます。
それでは、私はそろそろ学園都市の方へ赴かなくてはなりませんので……」
「オイ待て」
最早、この問答に意味を問うのは野暮だろう。
一種の様式美と化しつつある2人の問答は、バスが来るまでのんびりと続いた。 - 899 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:20:16.77 ID:RC+OOi9Lo
- ・・・
こちら『薄明座』の大ホール。
「卑怯者」
「返す言葉も無いし、必要もないかな」
インデックスは頬を膨らませながら、赤毛の魔術師、ステイル=マグヌスを批判した。
その敵意ある視線に一瞬ひるみかけるもののすぐに平静を取り戻し、
「禁煙」の注意書きが貼られている場所でゆらゆらと吹かし、タバコの煙を弄ぶ。
そんな中、インデックスは先ほど説明された内容を思い返していた。
状況としては、イギリス清教が他教であるローマ正教の人間と手を組む程に、厄介である。
―――『法の書』が、一人の人間によって解読された。
解読した者の名は、「オルソラ=アクィナス」。
彼女は誰にも解読できないはずの『法の書』を解読したわけだが、
この『法の書』は、解読できれば十字教のパワーバランスを崩しかねない程の術式、『天使の術式』を手にする事が出来るかもしれないのだ。
故にオルソラは狙われた。
―――天草式十字凄教に。
オルソラが『法の書』と共に日本へと赴いた時に、それは起こった。
天草式十字凄教による、オルソラの誘拐。
ローマ正教はすぐさまオルソラの奪還へと動いた。
しかし、世界113カ国に教会を持ち、20億もの教徒が居る魔術サイドでも最大勢力を誇るローマ正教を以ってしても、天草式十字凄教は一歩も退かなかった。
オルソラを奪還したりされたりを幾度となく繰り返したところで、いつの間にか当のオルソラが逃走を図って居なくなっていたのだ。
話半分に聞く限りでは、随分と間抜けな話だが、ローマ正教を相手にこのような特殊な状況まで持って行った天草式が優秀だった、と言う事だろう。
ところで、何故インデックスを誘拐したかを一言で表すと、『動機付け』だそうだ。
学園都市内で起きた魔術師関連の事件。
この場合は科学側の人間と魔術側の人間が戦闘になっても飽くまで『自衛』と言う言い訳が立つが、今は違う。
学園都市外部で起きている事件に、学園都市の人間を巻き込もうと言うのだから、
上条当麻をそれに介入させようと思うのなら、『インデックスがさらわれた』と言うくらいの『動機付け』が不可欠だった。
とはいえ、状況を理解したはいいが、納得などできるはずがない。
「どうして一般人のとうまが魔術師同士の抗争に巻き込まれなくちゃいけないのかな?」
「そればっかりは僕も納得が出来ないし、承服しかねる命令だったんだが……
まあ、お上からの指令だったんでね。嫌々ながらそれに従ったまでさ」
別に許されるつもりもないし、許されたいわけでもない。
心底どうでも良さそうな口調で語るステイルに、インデックスは更に憤る。 - 900 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:21:01.84 ID:RC+OOi9Lo
「一般人に頼らざるを得ないなんて、イギリス清教もおちぶれたものかも」
皮肉を言い放ち、イギリス清教をバッサリと切り捨てたインデックスに、
ステイルは苦笑いしながら、深いため息をつくかのように大きく煙を上空へと吐きだした。
「と言っても、基本的には天草式の元女教皇である神裂の監視が主だった任務だから、
奴が戦闘に赴く事はよっぽどの事が無い限りは、あり得ないと思うけどね」
「どーだか」
ステイルの言葉を聞いて、少し安堵したインデックスだが、「神裂の監視」と聞いて訝しげな表情を浮かべた。
「うん?どうして神裂を監視するんだって顔をしてるね。
これはまだ教えてなかったんだけど、神裂火織と今連絡が取れない上に、
なにやら日本で不穏な動きを見せているらしいんだ」
ローマ正教と共闘体制に入った理由。それが神裂の存在だった。
「イギリス清教の人間は、イギリス清教でなんとかしろ」、つまりはそういうことだ。
「……それで、これからどうするの?とうまの到着を待つのかな?
それともその監視の任務を全うする?それかオルソラ=アクィナスの救出に向かうの?」
「そうだね、一度に全部出来ればそれがいいんだけど」
そんな事は不可能である。
とはいえ、一度逃げたオルソラが天草式に捕まった場合、「逃走する気を削ぐ」為に何をされるか分かったものではない。
優先順位は、明白だった。
「出来れば上条当麻にも急いでもらいたいのだが、状況が悪い。
今更ここに来いという命令を変えるわけにもいかないし……
彼とはローマ正教の協力者がやって来る前に合流しておきたかったのだが……」
ステイルは何かに気付いてタバコを床に吐きだすと、足でその火種を消し去った。
それと同時に、2人の居る大ホールの出入口の一つに、人影が現れる。
その人影は、ローマ正教の協力者であった。- 901 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:22:22.17 ID:RC+OOi9Lo
- ・・・
ステイル=マグヌスとインデックスは、『薄明座』の大ホールを抜けて、
元はチケット売り場だったと思われるロビーまで出てきていた。
その2人を先導するは、ローマ正教の協力者。
アニェーゼ=サンクティスと名乗っていた。
「情報は錯綜してやがりまして、滅茶苦茶です。
天草式に捕まってるだのどっかに逃げてるだの、正しい情報を見つけるのに一苦労してまして、
こっちも結構ヤバめなんですよ」
3人とも日本人では無いのだが、日本語を話す。
こういった異国人同士の会話だと、どちらかの母国語に合わせて話すよりも、両者にとっても『異国』の言葉を使った方がいいのである。
その方が言葉の訛りに関していざこざが起きたりしないから、とアニェーゼは話す。
とはいえ、その理論だと彼女は日本人に話しかける時どうするのだろう、とかいらぬ心配をするステイルであった。
それはさておき、アニェーゼは何とかまとめた現状を、粗暴さと丁寧さが同居した口調で語っていった。
その内容は概ねステイルが事前に知らされていたものと大差なく、状況はあまり変わっていないようだ。
しかし、その均衡がいつ崩れるか分からない為、今は性急に動く必要がある。
先程から黙りっぱなしのインデックスをチラリと一瞥すると、
ステイルはアニェーゼに向かって再び口を開いた。
「それで、『法の書』を解析したと言うオルソラ=アクィナスを拝借した天草式だけど、
君達が手を焼く程の勢力なのかな?」
「それは暗に「世界最大勢力を誇る癖に」と言ってますよね。いや、まあ返す言葉もありませんがね。
確かに、数や武装はこちらが余裕で上回っています。ですが奴らは地の利を生かして、こちらをひっかきまわすんですよ。
自力では上回ってると言うのに、こちらが手傷を負わされる状況と言うのはとても腹立たしいのですが……
とにかく、奴らは十分につえーです」
「……ローマ正教の武力に屈しないか。それは厄介だね」
再びタバコに火をつけてそれを口にくわえる。何処までもスモーカーである。
ただでさえローマ正教を相手取り上手く立ち回れていると言うのに、
その背後に『聖人』神裂火織の姿が見え隠れしている。
これほど厄介な物は無い、とステイルは思う。
これなら下手に戦力を消費するのではなく、
不意打ちによる電撃戦で一気に殲滅してから話し合いに持って行った方が楽なのではと考えるほどだ。
「まあ何にせよ、まずはオルソラ=アクィナスの保護が最優先ですね。
目的は天草式ではなく、オルソラ=アクィナスなのですから」
確かに、その通りだ。とステイル。
「それで、僕達は一体どうしたらいい?」
話を聞く限りでは、アニェーゼは250人体制でシスターを率いて、ここ日本にやってきているそうだ。
オルソラ=アクィナスの探し方。それは単純明快で「人海戦術」で探しているらしいのだが、
だとしたらそのままオルソラ=アクィナスを見つけて本国に連れ帰って終わりでは無いのだろうか。
ならばステイルとインデックスが呼ばれた理由がわからない。
そう言ったもろもろの疑問を含めての、先ほどのステイルの質問である。
「そうなんです、一つだけ捜索出来ねえと言うか、しづらいとこがありまして、
そこの捜索をお願いしたいのですが」 - 902 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 07:23:04.49 ID:RC+OOi9Lo
- 捜索し辛いところ。
日本におけるイギリス側の許可が無ければ捜索出来ない場所なら「イギリス大使館」が挙げられる所だが、捜索し辛いところとなると……
「……ああ、成程。すまない、僕も焦っていたらしくそこまで気が回って居なかった。
少し昔の僕に言って聞かせたいところだ」
学園都市。
インデックスを学園都市内で保護していることから分かる通り、
イギリス清教と学園都市では一応の取り決めと言うか、細かい糸でつながっている。
対して、ローマ正教側にはそう言ったものがない。
「つまり、学園都市と何のつながりも無いローマ正教が学園都市に連絡を入れるよりも、
一応のつながりがある僕達イギリス清教が行った方が波風立ちづらい、と言う事か」
アニェーゼはステイルの言葉に同意した。
結局学園都市に赴くと言うのならば、上条当麻を呼び出す必要も、インデックスをさらってくる必要も無かった。
もっとよく考えればよかったと苦々しげな表情を浮かべるステイルに、少し申し訳なさそうにアニェーゼは口を開く。
「こちらも前もって教えられていれば良かったのですが、何分オルソラ=アクィナスが学園都市に行ったかもしれない、という情報は新しすぎましてね……」
「……その情報が本物だとしたら、厄介だね」
「まあ、あくまで可能性の話なんで。うちのオルソラ嬢にその辺の判断が下せる心の余裕がある事を祈りましょう。
で、連絡……つか、確認の為の時間はどのくらいかかります?」
「そうだね……電話一本で直接学園都市に連絡する訳にもいかないか……
一端、聖ジョージ大聖堂に連絡を入れて……それを経由して学園都市につないでもらわなければならないから……
緊急とは言え遅くて10分はかかるかもしれないね」
「少なくとも確認だけでもしてえんで、もちっと早めにしていただけるとありがてーのでs……」
不意に、アニェーゼの言葉が止まった。
それを見たステイルは首をかしげ、アニェーゼの視線を追う。
するとそこにはロビーの出入口があり、そこから駐車場の跡地が見える。
その駐車場跡地なのだが、人通りも無く誰かが居るとは思えないのだが、誰かが居た。
遅れて、インデックスも駐車場跡地を向く。
そこには、
「とうま?」
上条当麻がやってきていた。 - 915 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:06:54.75 ID:RC+OOi9Lo
- マリー&ガリー……?
マリカが滅茶苦茶可愛い……!脳髄に直撃したァアァァアァア!!!!
>>913-914その案頂くかもしれん。マジ感謝
投下します。
注意:一方さんキャラが崩壊する場面がございます。
それでもイイと申されるのであれば、どうか読んでやって欲しいのでございますよ - 916 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:08:18.54 ID:RC+OOi9Lo
- (よくよく考えたら、学園都市の外では『一般人』を装うつもりだったンだよなァ……)
オルソラ=アクィナスとの会話も途切れ、
9月に入ってから徐々に早くなりつつある夕暮れをぼんやりと眺めながら、一方通行は考える。
『一般人』とは、すなわち『超能力などと言う不思議パワーなんて使えない人』、だ。
学園都市の中なら能力者を見ても、なんだ能力者か。程度のものだが、外では違う。
それ故に、目立つ容姿をしている一方通行だがせめて目に見えるレベルの能力は使うまい、と思っていたのだ。
しかし、状況が変わってしまった。
(追って来る魔術師の事を考えたら、能力を使わざるを得ないよなァ……)
しかし、それをしてしまってよいものなのか。
科学の徒が、魔術の子を匿う。どう考えても互いに禁忌を犯している。
今はまだ能力を使ってないから、
「何も知らない一般人が、シスターに道案内している」とでも言えば苦しいながらも言い訳も立つだろう。
だが、能力を使ってしまったらどうなる?
超能力者と魔術師が、何の取り決めも無しに共に行動する。
これはすなわち裏切りと思われても不思議ではない。
ただでさえ敵に追われていると言うのに、味方すら敵に回る事になったら、余りに救われない。
(……やっべ、俺今すげェ勢いで墓穴掘ってるなァ……)
どう考えても、一方通行がオルソラを保護するのは、下策だった。 - 917 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:09:14.83 ID:RC+OOi9Lo
- だがしかし、あの状況ならどうしようも無かったし、仕方ないか。と考えを切り替えた。
今のうちに「反射の無い自分」に慣れておかなければならないので、反射を切る。
ただ単に桐条グループへ赴くのなら戦闘に入る事はほぼ無いと考えていたので、
反射はそのままで良いと思っていたのだが。
魔術師と関わった今、万が一反射から能力者であるとばれる事は避けたい。
すると、なにやら横から視線を感じる。
その方向を向くと、オルソラがジーッとこちらを見ていた。
「なンだよ」
「いえ、ボーっとしておられるようでしたので、
ひょっとしたらこの暑さに負けてしまわれたのではと思ったのでございますよ」
「……俺ァどっちかって言うと、お前の服装を見てる方が暑くなっちまうよ」
真黒黒助だった。
どう考えても、熱がこもるだろう。よくもまあそんな恰好で居られるものだ。
そんな一方通行の言葉に対してニコッと笑みを浮かべ、オルソラは語る。
「はぁ。肉の苦など心の痛みに比べたらどうということはございませんから」
「……笑顔でマゾ宣言してンなよ」
「あの、学園都市にはこのバスに乗って行けばよろしいのでしょうか?」
「あァ、そォだ。まァ学園都市っつっても学園都市(桐)だけどなァ」
「成程……あら?鈴科さん」
「なン……」
一方通行がオルソラの問いかけに返答しようとした瞬間、一方通行の顔が布で覆われる。
そしてオルソラはグリグリとそれを動かすと、一方通行の顔もそれに合わせてグリングリンと振りまわされた。
息が苦しくなり始め、一方通行が本気で抵抗を始めた所で、オルソラの手から解放された。 - 918 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:10:24.93 ID:RC+OOi9Lo
- 「ッ……なにすンだよ!?」
反射を切っていた一方通行は、純粋に自身の力で抵抗を試みたのだが、
割とオルソラにされるがままだった。
これは一方通行がまだひ弱なのか、オルソラが常人より強いのか……
一方通行的には後者であってほしいと願うばかりである。
「何、と申しますと?」
オルソラの手にはハンカチが握られていたが、
彼女は何故一方通行が怒っているのか理解できていないらしい。
「今さっき、した事だっつゥの!息が出来なかったじゃねェか!」
「いえ、額から汗が流れておられましたので……ご迷惑をおかけしたようでございますね……
申し訳ございません……」
夕暮れ時で涼しくなり始めては居たのだが、
どうやらまだ暑かったらしく、一方通行も気付かないうちに汗を流していたようだ。
それに気付いたオルソラが、汗を拭こうとしてくれたらしい。
そんなオルソラなのだが、一方通行の怒りようを見て、しょんぼりしていた。
「……イヤ、悪ィな。助かった」
天然ボケではあるが、基本的に悪気がある訳ではないのだ。
一方通行も、反射に頼り過ぎていたせいで思わぬ不意打ちに気が動転していただけなので、すぐに謝る。
このように反射が使えない状況下に陥った時、如何に落ちついていられるか。
何気ない日常の中で反省する事になるとは思っていなかった。
「!……はい、次からは気をつけるのでございますよ」
オルソラは、一方通行の言葉を聞いて再びいつものニコニコ笑顔に戻ったのだった。
「あァそォだ。声上げたら喉乾いちまった。……お茶、もらっても良いかァ?」
「はい、こちらにございますよ」
バスは、未だ来ず。 - 919 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:10:59.75 ID:RC+OOi9Lo
- ・・・
上条当麻がようやく『薄明座』に到着した。
上条の目の前には知らないシスターと知っているシスター。
そして、赤毛不良愛煙家神父。
「よおおし!!何で俺を呼び出したのか説明しろしやがれしくさりやがれええ!!!」
うがあああ!と雄叫びを上げながらステイル=マグヌスの足を払い転ばせた。
あまりに突然の事に、アニェーゼ=サンクティスはもちろん、インデックスも茫然としている。
「がっ……!?君は焼きつくされたいらしいね……良いだろう、焼き加減だけは選ばせてやる!!
ミディアムか!?レアか!?」
「黙れ下郎ッ!!」
「うごっ!!」
ステイルが懐からルーンの刻まれたカードを出すのだが、
それを使う前に上条が腋腹にボディブローを打ちこみ、動きを止めた。
「座れェェエェエェ!!まずは座れェ!!そこに直れ!!従わないなら蹴り捨てる!!」
怒涛の勢いでまくしたてる上条にひるんだステイルは、
その隙を上条に突かれて無理矢理正座の体勢にされた。
「き、君は一体どうしたというんだ!!?」
上条のあまりの迫力に、ステイルさんは14歳らしいリアクションを取る。
この年代の子供は、ちょっと年上の人に凄まれると大抵ひるむものなのだ。
それは、この百戦錬磨の魔術師にも適用されていた。
「どうしたもこうしたもあるかぁ……!!一体何の用だぁ……!?
それはインデックスをさらう程重要なのか……?それは舞夏を泣かせる程重要なのかあ……?」
土御門の代わり兼俺の憂さ晴らしに馳せ参じた……!と、凄惨な笑みを浮かべて語る。 - 920 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:11:52.54 ID:RC+OOi9Lo
「……はぁ、何馬鹿やってやがるんですか?」
「あぁん?」
ギロリと鋭い視線を、先ほどの声の主、アニェーゼに向ける。
「悪いけど、人の生き死にに関わる案件だから、これ以上あんたにつき合ってる暇はねーんですよ」
生き死に、と聞いた上条もその表情が固まった。
残念ながら、上条が怒りを爆発させる時間すら惜しいのである。
「……そう言う事だ。インデックスを使った事は謝るよ。
だが、それほどに事態は深刻なんだ。あ、この人が現場の責任者で、ローマ正教アニェーゼ=サンクティスだ」
ごほん、と咳払いをし平静を取り戻したステイルは、適当にタバコの端で指し、アニェーゼの紹介をする。
するとアニェーゼは「どーも」と、一礼する。
日本人はしょっちゅう頭を下げる、という事前情報を頭に入れていたらしく、
口調は荒いが、一礼はとても綺麗なものだった。
「……それで、一体何させようってんだ?」
訝しげな視線を2人に送る。
流石の上条も、事情もわからないまま魔術師の抗争に巻き込まれるのは御免なのだ。
「人探しですよ。それもVIP級の」
アニェーゼは端的に説明した。
恐らく上条に魔術の事を説明しても仕方ないし、時間の無駄だと判断したのだろう。
「人探し……?なんでまた俺なんか……」
「君は学園都市の人間だろう?ひょっとしたら学園都市にその探し人が居るかもしれないんだ。
だから君には学園都市でそれの捜索を頼みたい」
「……だったら俺、わざわざここに来る必要なくね?」
「そうだね」
と、ステイル。
「そうだよ」
と、インデックス。
「ですね」
と、アニェーゼ。
「……」
三者三様の同意を前に、最早何も言えなかった。と言うより今さら言っても栓無き事である。- 921 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:12:48.18 ID:RC+OOi9Lo
- 「まぁ、とにかく学園都市に戻って某(名前聞いてないので便宜上)さんを探せばいいのな!?」
「そうですね、名前は某さんではなく「オルソラ=アクィナス」です。
私と同じ黒い修道服を着たシスターなので、学園都市では浮くと思います」
「分かった。……はあ、何かどっと疲れた。
インデックス、今日の晩はおざなりモードで適当に作った飯になるわ」
「えええ?!」
インデックス、本日一番の驚愕だった。
何とか上条に仕事させようと、インデックスは上条のご機嫌取りに回る。
しかし、それを行う前に、アニェーゼの部隊の人間から報告が一つ上がった。
「……どうやら、学園都市には入ってねーみたいです」
その言葉に一同は眼を見開き反応する。
どうやら、魔術師とは別の協力者を得たのか、はたまた一期一会で偶然の出会いなのか。
オルソラ=アクィナスともう一人、白髪の男が学園都市付近のバス停のベンチに堂々と座っているらしい。
「……白髪の男?」
上条は、何となく一方通行を思い浮かべる。
何となくなのだが、何故か確信めいたものがあった。
「何だ?君は白髪の男とやらに覚えがあるのか?」
「ん?あーいや、別にそういうわけじゃねーんだけどな」
頬をかいて、一瞬よぎった考えを霧散させる。
「それでは、もうあなたはぶっちゃけ必要ねーんですけど、どうしますか?」
オルソラが学園都市に入っていない、と言うのなら上条はもうお払い箱である。
とはいえ、勝手に呼び出して勝手に追い出されるなど、屈辱以外の何物でもない。
「ここまで来といて帰る気にはならねぇよ。俺も手伝う」
「そうだね、盾代わり位にはなれよ、幻想殺し」
ステイルの言葉に、上条はピクリと肩を揺らした。
幻想殺しという単語に反応したのだろうか。しかしその表情に変化は見られない。
「……そーだな」
ぶっきらぼうにステイルの言葉に首を振った。 - 922 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:13:19.13 ID:RC+OOi9Lo
- ・・・
「……なンかおかしい」
全身を奇妙な感覚が襲う。
いつか体験した、この感覚。
初めて触れた異能の感覚。
それは、土人形で。
シェリー=クロムウェルのゴーレムで。
すなわち、魔術師。
魔術―――
「……魔術師かァ……?」
ポツリと呟くと、オルソラ=アクィナスはビクリ、と肩を震わせ辺りを見回した。
「……これは、人払いの術式と言うものでございます」
「成程、文字通り人を払うってことか」
と言っても、この辺りに人はいなかったのだが、用意周到な事だ。と、一方通行は舌打ちする。
超能力を目に見えるレベルで使う事は出来ない。
例えば、魔術による攻撃を反射したり、人に触れるだけで気絶させたり等。
だが、「自身の体を操る」のならバレはしないはずだ。
一方通行は身構える。いつでも動けるように。
『やっぱり、ローマ正教の指揮官を追っていて正解だったのよな。
こうしてオルソラ=アクィナスを見つける事が出来た。後は奴らの先回りをするだけで十分なのよなあ!!』
瞬間。オルソラの周りに、3本の刀身がアスファルトを貫いてきた。
それらはサメの背びれのようにアスファルトを泳ぐ。
一辺2メートル長の切れ込みが入り、正三角形に切りぬかれた。
「……!」
恐怖する前に重力が失われてしまった為、オルソラの目には戸惑いの色が映っていた。
そして切りぬかれたアスファルトと一緒に、地下へと落ちて行く。
「チッ!!」
まさか下から来るとは思わなかった。
相手は刃物を持っているので、このまま下に降りたら串刺しだろう。
だが、選択の余地は無かった。 - 923 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:14:51.58 ID:RC+OOi9Lo
- ・・・
「「なっ!!?」」
天草式十字凄教の一同は、余りの驚愕によってろくな声が出なかった。
ローマ正教の指揮官を追う事で、そこに集まったオルソラ=アクィナスの情報を集めて先回りした所までは何も問題はなかった。
だが、問題はオルソラと一緒にいた白髪の男だ。
追ってこないなら放っておくし、追ってくるなら地下に降りてきた瞬間、串刺しだ。
そのつもりで待機していたと言うのに。
「……」
今天草式の面々の目の前に居る白髪の男。
彼は迷わず地下へと飛び降りてきたのだ。
勇敢と蛮勇は紙一重という言葉を思い浮かべながら、
天草式十字凄教が教皇代理・建宮斎字は白髪の男を串刺しにするべく指示を出した。
しかし、そのことごとくを受け流されたのだ。まるで流水を行く柳のように。
「……貴様は一体、何者なのよな?」
位置的には、学園都市の能力者と言う線が濃いが、
能力者と魔術師が一緒に居ると言うのはどういう事なのだろうか。
疑問と警戒を均等に混ぜた目線を、建宮は白髪の男に向けた。
「……」
「無言を貫くか。名乗る名など無いと言いたいのか!?」
フランベルジェ。全長180センチを誇る十七世紀フランスの両手剣。
それを一方通行に向けながら、建宮は叫ぶ。
武具として用いるのなら、本来は鉄を使われているはずなのだが、その刃の色は、白色。
触れば何の素材か分かるだろうが、別に一方通行は、それに興味は無い。
とにかく、超能力者だとばれないように、適当に名乗りを上げる事にした。 - 924 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:16:34.96 ID:RC+OOi9Lo
- 「……柳生新陰流(やぎゅうしんかげりゅう)が師範・柳生厳生の門下生が一人、鈴科洪隆と申す。
此度は学園都市におられると言う名医に、師匠の治療を願いに馳せ参じた次第」
お前誰だ、超ノリノリじゃん。というおおよそ服装に合わない口調でまくし立てる。
天草式には突っ込みを入れる暇すら与えない。
「だがァ!その名医の元まで赴く前に為さねばならン事がある!!……貴殿らの所業、許し難し!!
我が恩人たるオルソラ=アクィナス殿に斯様な事を行った償い、その身体に刻んでもらう!」
一方通行は慣れた動きで、茫然としている身近な天草式の人間を無造作に投げ飛ばした。
どう聞いても嘘にしか聞こえなかった名乗りの声。
だが、一方通行のおおよそ武人には見えない見た目に騙されてしまう。
今現在、一方通行は自身の能力による恩恵を受け、身体能力が大きく向上している。
更に黄泉川愛穂に扱かれる事で培った「力の向きを逸らす力」。
最早、是非も無し。
どちらかが倒れるまで、戦闘は続くのだと天草式の一同は理解させられた。
……と思ったら。
「悪いが、先程申し上げた口上は、嘘だ。オルソラ殿は、返していただくぞ」
嘘ってのは、ホントに全部嘘なンだが、騙されてくれれば幸いだ。
等と考えながら、一方通行は闘争ではなく逃走を開始した。
「なっ!?」
『戦闘』に気を取られていた天草式は、『オルソラ』の完全な捕獲を怠った。
故に、その隙を突かれたのだ。
建宮が一方通行を捕まえるように指示を出すが、時すでに遅し。
すぐに切り開かれた三角の穴から飛び出して行ったのだった。
「……くはっ!くっく……何なのよな、あれは!どう考えても、魔術師ではないのよなぁ!」
かといって学園都市の人間か?と問われたら、不明。
それもそのはず、天草式の面々は学園都市の人間と面識はないし、超能力を目の当たりにした事も無い。
故に先程一方通行が見せた動きも、「鍛えれば辿りつける領域」だと思いこんでしまったのだ。
「人は見た目によらず、てのは本当なのよな!」
あんな痩せた人間が、あのような動きをするとは。
更に、いけしゃあしゃあと嘘をつき堂々とオルソラを奪還すると言う胆力。
敵としては申し分ない。
「……お前らぁ!!天草式の誇りにかけて、奴らを必ず捕獲するのよな!!」
応!と言う決意を込めた声が、地下水路に鳴り響いた。 - 925 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:17:03.14 ID:RC+OOi9Lo
- ・・・
「ハァ……ここまで逃げりゃあ……大丈夫か……?」
人払いの結界を抜け、適当に拾ったタクシーにオルソラを押し込み、自身もそれに乗り込んだ。
「ッ……」
オルソラ=アクィナスは、肩を震わせている。
やはり今になって恐怖が遅れてきたのだろうか。
一方通行は何と声をかけようか思案していたのだが。
「ふふ……何でございましょうか、あのお芝居は?」
「……あン?」
「……面白過ぎでございます。あの場で笑いをこらえるのにどれほど苦労したか……」
「……」
肩を震わせていたのは、一方通行の変貌っぷりを目の当たりにしたからだ。
オルソラは、天然ボケであるが、かといって馬鹿と言う訳でも無い。
そのため、あの演技が悪ふざけではなく、自身の正体を眩ます為の隠れ蓑だと言う事は理解出来る。
だが。
―――面白いものは、面白いのだ。
「……学園都市まで。あァー、あっちに見える方じゃなくて、桐条グループの方だァ」
返す言葉も無い一方通行は、タクシーの運転手に行き先を指定したのだった。 - 926 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/26(火) 22:18:05.05 ID:RC+OOi9Lo
- 尾張です。
ホントゴメンホントマジごめん調子乗り過ぎたゴメンマジ
でも演技をするならあの位じゃないと駄目かなって思ったんだ。駄目……カナ? - 927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 22:27:07.57 ID:2zptcQRqo
- お前誰だwwwwwwやっべ腹筋いてぇwwwwww
- 937 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 17:29:53.54 ID:ZsHX3CDOo
- 「はぁ……」
階数を数えるのも億劫になる程の高層ビル。
その頂上の一室を陣取って、書類に目を通しながら溜息をつく女性が居た。
彼女の名は、桐条美鶴。
名字から分かるように、桐条グループの人間だ。
桐条グループの前代総帥・桐条武治の一人娘であり、
今現在はその総帥の座を若くして引き継いでいる。
その背景には色々と悶着があったのだが、
それに関して言及していると時間がいくらあっても足りないので、割愛する。
兎にも角にも、桐条グループ現総帥である美鶴は、その地位も相まって非常に多忙であった。
桐条グループは以前から研究やらシャドウやらによる事件や事故が起きていて、
一言で言えば、ボロボロだった。
故にそれの立て直しを図る為、美鶴は尽力している。
さて、そんな訳で母校を卒業して以来多忙な日々を送っていた美鶴なのだが、
今溜息をついている理由は、そちらには無い。
「「『実験事故』に関する資料は残っていないか?」か……」
最近、桐条グループと協力体制にあった学園都市の研究者が、
11年前の件について資料を請求してきている。
何に使うかはわからないが、実験内容自体が非常に凶悪なものである為、
はいわかりましたと言って渡すわけにはいかない。
「かといって頭ごなしに追い返す訳にはいかない……」
あのような事故があってもなお、学園都市と桐条グループは提携関係にある。
学園都市は技術を。
桐条グループは資金を。
しかし、学園都市のパトロンは桐条グループだけではない。
何だかんだ言って桐条グループは、学園都市の技術力には世話になっていたので、
ここで提携関係を打ち切られるのは非常に拙い。
厄介な事になりそうだ。
美鶴は、机の引き出しを開けると『拳銃』らしきものが中に収められていて、それを手にする。
「少なくとも相手の目的さえ把握出来ればな。
こちらも対応の仕方を決められると言うのに……」
広い部屋。
その部屋の窓際に置かれた如何にも社長専用みたいな豪勢なイスに座り、
美鶴はその拳銃を手で弄びながら、本日何度目になるかわからない溜息を、盛大にはいた。 - 938 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 17:31:48.27 ID:ZsHX3CDOo
- ・・・
ポロニアンモールに店舗を広げている喫茶店、シャガールのフェロモン珈琲に砂糖を入れてかき混ぜる。
そしてそれを一口口に含むと、ピンクのカーディガンとハートを象ったチョーカーを身に付けた茶髪の少女、
岳羽ゆかりは一緒にシャガールに来ていたアイギスと山岸風香に尋ねた。
「アイギスと風花ってさー、卒業した後どうするか考えたりしてる?」
「どうする、とは?」
サラサラとした金髪。人形のような容姿。
フレメア=セルヴェルンとはまた違った美しさを持つ少女―――アイギスと呼ばれた少女は、岳羽の質問に対して疑問を浮かべた。
対して、風花と呼ばれた青みがかったショートカットの髪の毛の少女―――山岸風香は少し考えるそぶりをして答える。
「卒業後の進路って事ですよね……私は大学に進もうと思ってますよ」
3人の共通点としては、同じ高校の制服を着ている、と言う事だろうか。
同級生のガールズトーク、と言ったところか。
そんな3人だが、会話の内容は恋愛だのファッションだの女の子らしい話ではなく、今後の進路。
高校生でいられるのも、あと半年程しか残っていない。
そんな受験生もあわただしくなる季節が近づく中、3人もまた将来について考えていたのだった。
「風花も進学か……私と違ってやりたいこと決まってるんでしょ?」
「そうですね、工学部のある大学に進学しようとは思っていますが……」
どうやら岳羽は進学希望のようだが、山岸は何か明確な目標があるに対して、
岳羽はとりあえず進学しておこう、位の気持らしい。
「成程、お二方は進学希望をなさっているわけですか」
「わけですかってあんた……」
岳羽は、マイペースな口調で他人事のように語るアイギスにげんなりとした様子で突っ込みを入れる。
「そうですね……強いて言うなら私は……世界を見て来たいと思ってます」
少し思案したアイギスは、今一番やりたい事をそのまま言葉にした。
それを聞いた2人は、やや驚いた様子で聞き返す。
「「世界を?」」
「はい。私はまだまだ知らない事が沢山あります。見た事のない物だって沢山あります。
私は、もっと見たい。もっと知りたいんです」 - 939 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 17:32:32.57 ID:ZsHX3CDOo
アイギスの真剣な眼差しを見た岳羽は、納得したように呟く。
「……そっか」
「と言う事は、卒業したらしばらく会えないかもしれないですね……」
少し寂しそうにしながらも、それぞれの夢を邪魔をしたくない山岸は、素直にアイギスの応援をした。
「順平の奴も、なんだかんだで進学するって言って息巻いてるし」
順平と呼ばれた男。
その名を伊織順平と言うのだが、岳羽が言うには彼もまたやりたいことが決まっているらしい。
「吉野さんを支える、そんな男もとい漢になるって張りきってましたね」
その時の様子を思い出したのか、山岸はクスリと笑った。
吉野さん―――本名を吉野千鳥と言う名の少女なのだが、
彼女は今現在記憶喪失の真っただ中で、記憶を失う前は伊織順平がいなければ生きる希望すら無かっただろう。
しかし、記憶を失った今もなお心に残る「優しくて暖かい『あの人』」を探しだすと言った具合に、生きる希望を見出している。
「優しくて暖かい『あの人』」とはまさに伊織の事なのだが、いつか互いに報われる時がくるだろう。
そんな2人に思いを馳せた後、岳羽はコーヒーを手に取り、それを飲む前に別の名を口にした。
「真田先輩や桐条先輩も、自分の進む道を行ってるんだろうなあ……」
コーヒーを一気に飲み干した岳羽は、卒業して以来会っていない2人の先輩に思いを馳せる。
割愛するが、本当に色々あったのだ。
幾多の出会いも経験したし、たくさん、笑った。
そして。
別れも、体験した。- 940 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 17:33:25.85 ID:ZsHX3CDOo
- 「はぁ……何だか、ネガティブになるなあ……」
「あはは……ゆかりちゃんもきっと何か見つかると思いますよ」
と、山岸。
「そうです、諦めたらそこで試合終了ですよ」
と、アイギス。
自分だけ何も決まっていない、と言うのは些か悲しい。
何だか皆と離れているようで。
そんなネガティブ思考が頭をよぎり、どんよりとする岳羽を2人が慰める。
「だって順平ですら「これ」っていう夢が定まってるのに……」
「順平ですら」と呼ばれるだけあって、伊織はかなりのお調子者だと分かる。
そんな彼も、今はすっかりなりを潜め、勉学に打ち込んでいた。
岳羽のどんよりとしたオーラに押され、
空気が少しどんよりし始めた頃、その空気が壊れる出来事が起きた。
いらっしゃいませー。という店員の声を聞き、岳羽が何気なくそちらを向くと、
「何あれ?シスター……?」
シスターが居た。
「うわあ、本物のシスターさんでしょうか……初めて見ました」
山岸も少し興奮した様子で口を開く。
本場のシスター。修道服に身を包み、そこから見える顔は、美人の外国の女性だった。
その美しさと、優しげな笑顔も相まって、まさにシスター!って感じのシスターだった。 - 941 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 17:34:12.13 ID:ZsHX3CDOo
- 「隣の白い方は何をなさってる方なのでしょうか?」
そんな中、アイギスだけはそのシスターの連れと思われる白髪の男に目をやっていた。
白髪・アルビノ・三白眼と、明らかに目立つ容姿のその男は、
キョロキョロと不機嫌そうな顔をして辺りを見回し、周りに客があまりいない席に向かって歩き出し、シスターもそれに追従して行った。
「綺麗な人でしたねー」
山岸はキラキラと憧れの様な視線を、そのシスターの背中に注ぐと、正直な感想を述べた。
「あれじゃあ、コスプレと言うより本場の人って言った方が信じられる位似合ってたよね」
岳羽は、そのシスターがコスプレか何かだと勘違いしていたが、実際は本場の人である。
それよりも、その隣の男が気になるアイギスは、窓際の席に陣取った白髪の男をジーッと見つめていた。
「アイギス、どうしたの?……まさかあの白いのが気になるの?」
確かにカッコイイ感じだったけど。まさかアイギスに……二度目の恋の季節!?でも、ライバルは美人外国人シスター……!
と、一人妄想してもだえる岳羽を見て、アイギスはまた始まったと溜息をついた。
この岳羽、アイギスに関しては事あるごとに恋愛事に絡めようとするきらいがあり、
ある日にその理由を尋ねたところ、「そうしたら彼は私だけの……」と少しばかりヤンデレじみた発言をしたので、その事は記憶の奥底に封印した。
兎にも角にも、別に白いのは気になるだけで好きか嫌いか聞かれたら「どうでもいい」と答えるだろう。
「いえ、正直どうでもいいんですけど、少しだけ気になったので」
何故気になったのか。
多分目立つ容姿をしていたからだろうとアイギスはあたりをつけ、白いのから視線を外したのだった。 - 942 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 17:35:10.78 ID:ZsHX3CDOo
- ・・・
時は少し戻る。
「わあ、すごいでございます。私空飛ぶ列車など初めてなのでございますよ」
オルソラ=アクィナスはその光景に感極まったのかイスから身を乗り出して、
外に見える風景を見て興奮した面持ちで語る。
「違ェよ。空飛ぶ列車じゃなくて、見えねェけど上にレールがついてンだ。
ちなみに、モノレールと呼ぶ」
確かに、窓から外を見る限りでは空を飛んでいるようにしか見えなかった。
とはいえ、駅でモノレールの上につながっているレールを見ていたはずだろうに、
オルソラの記憶からレールの事は消え去っていたようだ。
このモノレールの行き先は、ポロニアンモールとか言う桐条グループが開発した学園都市の中でもかなり大きなショッピングモールだそうだ。
上記の事から分かるだろうが、もうじき学園都市(桐)の中枢部にたどり着く。
もう学園都市(桐)自体には着いたのか、と思われる読者もいるだろうが、
ここに来るまでの移動の間に、魔術師が襲ってくる事は何故か無かった。
確かに、たまに視線の様な違和感は覚えたりしたのだが、
結局その視線も消えたり現れたりで、学園都市(桐)に辿り着くまで、特筆するような出来事は起きなかったというわけだ。
「はあ、ものれーる。と呼ぶのでございますね。この飛行機は」
「……」
列車から飛行機にジョブチェンジをしていた。
突っ込みを入れようか迷ったが、ニコニコしながら下に広がる街並みを眺めていたオルソラを見て、開きかけた口を閉じる。
そして、思考を切り替えた。
(たまに飛んできた視線は、敵意のあるものと、そうでないものの二種類だった)
すなわち、敵と味方が、交互に一方通行達を見つけるが、互いに互いの邪魔をする、と言ったところだろうか。
それから察するに、敵も味方も実力は互角、と言う事だろう。
そして今は、学園都市(桐)の敷地内。
表立った攻撃や行動は出来ないだろう。何より目立ちすぎる。
今から向かうポロニアンモールは、日中も夜も割と人が居る。
人を隠すなら森の中、とも言うが、裏を返せば一般人の目による天然の監視も多いということだ。
ならば人払いの結界とやらも、急に人が居なくなった事に違和感を覚える人間だっていると思われる。
まあつまり、こんな大勢の一般人が居る中、堂々と武器を持って襲ってくる事などありえないはずだ。
何より、味方ではないが背後に桐条グループが居る。
桐条グループは表の世界でも有数の企業で、その影響力は多岐の分野に渡る。
つまり、桐条グループに手を出せば、直接は影響でなくても、間接的に影響を及ぼす可能性が高い。
そう考えると、大半が寝静まった夜、秘密裏に動くだろう。だが、それにも周到な準備が必要だ。
何にせよ、時間が出来たのだから、何とかして桐条グループに接近したいと考える一方通行だった。
そして、予想通り魔術師による襲撃も無いまま、
学園都市の中枢部に位置するポロニアンモールに到着した。 - 943 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 17:36:16.85 ID:ZsHX3CDOo
- ・・・
「俺は、『喫茶シャガール』に、行かなくちゃならねェ。意地でもだ」
「はあ、私はどちらでも構いませんが……」
チラリと目の前に見える喫茶店に目をやるオルソラ=アクィナス。
「私の見間違いでなければ、女性向けそうな外観なのでございますが……」
外観。と言っても見た目は普通の喫茶店だ。
問題は、そこに貼りだされているポスターにあった。
フェロモン珈琲。文字通り飲むと魅力が上がると言われ、女性に大人気のコーヒー。
それ故に女性向けのポスターが所狭しと貼られていて、何だか男子禁制の雰囲気をまとっていた。
「……フェロモン珈琲。『coffeetime』の記事にも乗っていた、有名なコーヒーだ。
その名の通り、飲むと魅力が上がると言われているが……このコーヒーの本領はそこにはねェ」
一方通行は荘厳な気配を漂わせ、語る。
その語りっぷりに思わずオルソラも硬くなり、話に聞き入った。
「特殊な焙煎技法と焙煎度合いによる、フェロモン珈琲独自の味わい深さ……
喉越しの良い苦みによる強めのフレーバー……あの記事を読んだ時に思ったンだ。
「ポロニアンモールに訪れる事があるならば、ぜってェここに来る」ってなァ!!」
「そ、そうなのでございますか?でしたら、その望みを叶えるべくは、今でございますね?」
あまりにアツく語る一方通行に、流石のオルソラも少しばかり引きつった笑みを浮かべて、
話を切り上げるべく店の中に入るように促した。 - 944 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 17:37:29.59 ID:ZsHX3CDOo
- そして、時は現在。
一方通行は、『フェロモン珈琲』を前に、息を呑んだ。
店の中に入った時点で分かったが、既にコーヒー豆の匂いで埋め尽くされたそこは、一方通行にとってまさに楽園だった。
しかし、そこに『異物の匂い』を感じ取った。
一方通行は思わずあたりを見回す。
「この甘ったるい匂いは……sugar(砂糖)……だと……?
誰だそンなもンでこの神聖な空気を汚す輩は」
コーヒーの良い匂いによって良い気分だったのに、一気に不機嫌になる。
お前は犬かと突っ込みを入れたくなるが、ことコーヒーに関しては一方通行はうるさいのだ。
一方通行の意外な一面を見たオルソラは、
クスリと笑いながら何も言わず一方通行の様子を眺める事にした。
砂糖は、邪道。
苦いのが嫌なら、コーヒーなど飲むなと針の筵の上に正座させて言ってやりたいところだが、
聖なる地にて暴力沙汰は許されないだろう。何より、そんな事をして出禁になりたくない。
そういう問題でも無いのだが、一方通行はせめて匂いが届かないように、
客の少ない窓際の席にまで移動するのだった。
そしてようやく、一方通行の元に辿り着いた珈琲。
それは神々しいまでの輝きを放ち、2人を圧倒した。
砂糖によって一気に不機嫌になった一方通行の顔も、少しばかりゆるんだ。
まだだ、まだ笑ってはいけない。まだこの味を味わっていないのだから。
フルフルと手を震わせながら、一方通行はカップを手に取り、口をつける。
「う、うめェ……」
感極まった様子で、もう一口。
「うめェよ……」
その日、世界が変わった。
何か熱いものが込み上げて来て、頬から一筋水滴が流れ落ちた。
ちなみに、オルソラは紅茶を頼んでいた。砂糖付きで。 - 954 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 22:45:59.33 ID:ZsHX3CDOo
- 「なンでこンなうさんくせえとこに行かなくちゃならねェンだよ」
喫茶シャガールにて、珈琲の真髄を味わった一方通行は、
街中を散策して11年前の事について何か知っている人間が居ないか探していた。
昔からこの地に住まう人間なら、何か知っているかもしれないと考えたからだ。
その過程で、オルソラがあそこに行きたいとか、あの機械は何とか、
オルソラの赴くままに街中を歩きまわっていたのだが、これと言って何か良い情報が得られた訳でも無かった。
そして、なんやかんやでたどり着いたのが、ここ。
「眞宵堂、ねェ……」
骨董品屋か何かだろうか。
ガラス張りの中に所狭しと展示されている品々は、好事家が喜んで収集しそうな骨董品であった。
「こういった骨董品屋さんには、魔術的な意味のある品々が置かれていたりするのでございますよ」
一方通行は少し得意げに語るオルソラの横顔を眺めつつ、興味なさげに相槌を打った。
「こういった事には、興味がございませんか……?」
少し目をうるっとさせて尋ねるオルソラ。
何も知らない人なら、もしも「では、この幸せになれる壺は如何ですか」と言われても喜んで買うだろう。
なぜならオルソラの庇護欲そそられる顔を見られた時点で幸せだからだ。
「……まァ、どっちにしろここの住民に色々聞かなきゃならねェからなァ」
その言葉を聞いて、花が咲くようにパァッと顔を明るくさせるオルソラ。
何だかんだ言ってここまで連れてきたのは一方通行自身なので、特に文句も無かった。
そしてそのまま、骨董品屋へと吸い込まれて行く。 - 955 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 22:46:25.59 ID:ZsHX3CDOo
- ・・・
一方通行は一口コーヒーを口に含むと、ただただその味に感動し、涙を流した。
「ねえねえ、あの人コーヒー飲んで泣いてるんですけど」
岳羽ゆかりは、興味深そうに一方通行達の動向に注目していた。
まさかコーヒーを飲んでなくとは思っていなかったらしく、
想像以上に面白そうな人たちだ、と岳羽は思う。
「よっぽどコーヒーが好きなんでしょうねえ……」
朗らかな笑みを浮かべてその様子を微笑ましそうに眺めるは、山岸風香。
「……」
アイギスは、ただ黙して眺め続けている。
すると、2人とも飲み終えたのか、少し会話を交わすと会計へと向かっていた。
「あ、あの人たちもう行くの!?アイギス、風花、追うわよ!」
「「えっ!?」」
その言葉に2人は驚愕した。
何故追うのか、何がしたいんだと2人して岳羽に突っ込みをいれるのだが。
「だってあんな面白そうな人たち、滅多にいないでしょ!」
単純明快な回答だった。
この3人は、ある理由から戦いと言う名の非日常に身を投じていて、
数か月前にようやく落ち着いたのだが、それ以来日常も嫌いではないが少々物足りなく感じているようだった。
そして、そんな岳羽の目の前には。
「あんな人たち、見た事無いでしょ?興味が湧いてこない?」
「……そうですね、追いましょう!」
「ええっ!?」
岳羽の一言であっさりと意見を覆したアイギス。
山岸では2人を止める事が出来なかった。 - 956 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 22:47:26.09 ID:ZsHX3CDOo
- ・・・
「私、あの人たちの目的がわからないんだけど」
「私もです……」
一方通行とオルソラ=アクィナスを尾行することを提案した岳羽ゆかりは、
心底疲れた口調で口を開き、山岸風香も迷わず同意した。
岳羽の提案で2人をつけて行ったは良いが、正直何がしたいかわからなかった。
デートにしては行く場所がデートっぽくない。
かといって仲が悪いかと言えばそうでもない。
とりあえず言える事は、シスターさんの気の向くままにいろんな場所に行っているのだろう。
迷子の子供を親元まで返したり。
猫に餌付けしているところをその猫の飼い主らしきひとに見られたが、一緒になって餌をあげたり。
カツアゲしているヤンキーを締めあげたり。
共通点としては、いずれも白髪の男が最後に何かを尋ねていた、と言う事だろうか。
何かを探しているのかもしれないが、会話の内容までは聞きとれなかったので、目的は分からなかった。
そうこうしているうちに、渦中の2人は骨董屋へと吸い込まれて行った。
「あれは……」
岳羽の視線の先。
そこには『眞宵堂』があった。
その店は、『彼』が足繁く通っていた古美術店で。
何となく、胸が締まるような痛みが走った。
とりあえず3人は、相手にばれないよう近くにある噴水のふちに座り込んだのだった。 - 957 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 22:48:05.77 ID:ZsHX3CDOo
- ・・・
眞宵堂の中に入った2人は、店内を見回して嘆息する。
壺だの絵画だの土偶だの、およそ昔に存在した遺物は全て網羅しているのでは、と言う程の品ぞろえだった。
「なーンか雰囲気ある店だなァ」
「そうですね。何かがありそうに思えるのでございます」
「……そう言ってもらえたらありがたい限りだね」
すると店の奥から店主らしき女性が現れた。
鋭い目つきながらも見た目麗しいその女性は、「白衣の似合いそうな知的美人」と言ったところだろう。
とはいえここは古美術店で、白衣とは全くの無縁な場所なのだが。
「あンたここの店主かァ?」
「それ以外の何に見えるってんだい?」
「いや、随分とまァ白衣が似合いそうな美人が出てきたもンだって思ってなァ?」
「こんなおばさん捕まえて何言ってんだい?
口説きたいのなら、10年早く生まれて出直してきな」
「ハッ、お世辞だっつうの。手厳しいババァだぜ」
「鈴科さん?女性に向かって「婆」などと言ってはいけませんでございますよ」
「ははっ、気にしなくていいよ、お嬢ちゃん。むしろ変にお世辞を言われても困るんだよ。むず痒い」
女店主は口角を少し上げながら気にしていないと言う。
それでもオルソラ=アクィナスは納得していないのか、まだ何か言おうと口をもごもごとさせていた。
すると女店主は、「そんなことより」と会話を打ち切り、その鋭い目つきで2人を射抜いた。
「こんなボロッちい店に何の用だい?
そっちのお嬢ちゃんはともかく、あんたの方はこんな場所に興味があるとは思えないんだが」
「まァ、そォだな。とりあえずこの街で出くわした住人に話聞いていってンだ」
「へぇ、てことは私にも何か聞こうってことかい?」
「まァそォだな。……単刀直入に聞く。『11年前の桐条グループについて』だァ」
「ッ……。いや、私は何も知らないね。その頃はここいらには居なかったからね」
その時、一瞬の動揺を、一方通行は見逃さなかった。
と言っても、こっそり能力を使って擬似的に嘘発見器の様な事をしていたのだが。
―――ビンゴだ。 - 958 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 22:50:02.93 ID:ZsHX3CDOo
- 能力の事は言えないので、口で揺さぶりをかける事にする。
「へェ、「ここいら」で「桐条グループがなンかしてた」ってのを知ってたのに、かァ?」
「そりゃあんたがここの住人に色々聞いて回ってるっていうから、
11年前もここに桐条グループが居たんじゃないかって思っただけさ。
何にせよ、知らないものは知らないよ」
一方通行の言葉に肩を少し振るわせるが、それはパッと見ただけでは分からない程度で、
自身の能力がなければ、誰にも動揺したと言う事を悟らせないだろう。
しかし、一方通行だけはその動揺を感じ取れたので、それだけで十分だった。
(よォやく当たりか……どォせしらみつぶしに回るンだから、オルソラの好きなよォに動いてみたが……)
予想以上に、早くたどり着いた。
とはいえ相手は一筋縄ではいかなそうだ。年の功、とでも言えば良いのだろうか。
いや、そんな事を言ったらオルソラが怒りそうだ。女性に云々とか言って。
それはさておき、畳みかけるなら今だ。
「おいおい、否定するべきは「ここいら」じゃなくて「桐条グループがなンかしてた」って部分だろォが。
それじゃあまるで「桐条グループがなンかしてた」のを知ってるみてェじゃねェか」
言いがかりも良いところだが、女店主が内心動揺しているのを確信している一方通行にとっては、この言葉だけで十分だった。
「……若いくせに随分と動揺を誘うのが上手だね」
まるでギブアップするかのように両手を挙げる女店主に、一方通行は首を縦に振る。
「はン、腹芸の一つも出来ねェよォじゃ、生きていけねェ場所で生きてきたからなァ」
朝飯前だ、と一方通行。
「それで、実験に関して何が知りたいんだい?」
「お前の知っている事全部だ」
「ははっ、そういうことはストレートに聞くんだ。……いいね、気に入った」
女店主は満足そうにうなずくと、話を始める前に一つ一方通行に尋ねる。
「実験に関して聞くと言う事は、『あれ』を知ってるんだろう?」
「あァ、嫌ってほどになァ」
「……教える代わりに、あんたもその事を何処で知ったのか教えてもらうからね」
「言える範囲までならなァ。それ以上は危険だってとこは俺が線引きするが、かまわねェか?」
「あぁ、それで構わないよ。それで……」
チラリとオルソラの方を向く。
空気を読んで黙っていたオルソラを、この会話に混ぜても良いのか、と言う意味を込めた視線と共に。 - 959 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 22:51:50.24 ID:ZsHX3CDOo
「……そォだな、オルソラ。お前はこの件に関わらせるつもりはねェ。
かといって少しの間でも離れるってのはなァ……」
一方通行は考える。
オルソラにシャドウに関しての話を教えるつもりは無いのだが、
かといって話が聞こえないようにするべくオルソラに外に出て行っていてもらうと言うのも危険だ。
警戒する事に越した事は無いので、風呂だのトイレだの以外の時に一人にするつもりはない。
それが一方通行から同行を申し出た事から発生した義務であり仕事である、と考えて。
「大丈夫でございますよ」
そんな一方通行の懸念事項を読みとったのか、笑顔で返すオルソラ。
大丈夫、と言ってもどちらの意味なのだろうか。
話を聞く覚悟があるのか、はたまた万が一の可能性を否定して外に出るつもりなのか。
「このままお話を続けて頂いても大丈夫、ということでございます」
本気か冗談か分からない微笑みを浮かべるオルソラだが、
その瞳からは純粋な気持ちしか感じ取れなかった。
「……ハァ。分かったよ」
一方通行もまた、先程女店主がしたように両手を挙げた。
そんな2人を見て、女店主は楽しそうに言う。
「ははっ、この私をあそこまで動揺させられる癖に、女の笑顔には弱いんだね」
まだまだガキだ。と、女店主は呵々大笑した。
「なっ!うるせェ馬鹿早く話進めろ馬鹿!」
女店主のからかうような口調に、一方通行は顔をやや赤らめ捲し立てた。
先程のお返しだ、と言わんばかりにニヤリと笑う女店主を見て、
「あァもう、俺の負けだよ。だからさっさと話せってンだ」
投降した。
流石に自分の半分かそこらしか生きていないような少年に良いようにされたのが腹立たしかったのだろうか、
一方通行の投了を見て女店主は満足したようだ。
「分かった分かった。それじゃあ続けるが……恐らく、お嬢ちゃんには分からない単語が出てくると思うが……」
「後で、鈴科さんにお伺いしたらよいのでございましょうか?」
「ん。分かってるならそれで良いよ。さて、それじゃあ何処から語ろうかね……」
少し思案した後、女店主は口を開く。
―――初めは、私もただの研究員の一人だった。- 960 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 22:53:08.71 ID:ZsHX3CDOo
- ・・・
建前としては、『人工島を発展させる為』の研究。
しかし、当時その概要を知らなかった私にとっては、不思議にしか思えなかった。
人工島へ、新たに電源の増設完了の報。
ただ学園があるだけのこの島に、どうしてこんな量の電力が必要なのだろう、と。
・・・
次に思った事は、「この島で、何かが始まろうとしている」と言う確信めいた予感。
桐条グループの傘下である研究機関、「エルゴノミクス研究所」がこの島に新たに研究所を設立する。
と言う報告を聞いた。
先程言った通り、ただ学園があるだけなのに、人間工学研究所がわざわざこんな場所にラボを置くと言うのは、明らかに不自然だ。
その時に、思ったんだ。
この島で、何かが始まる……ってな。
・・・
それで、特に問題も無く新たにラボが出来た訳だが……
予算額がありえない数字で、当時の私は声を上げて驚いたものだったよ。
この時点で嫌な予感しかしなかったのだが、私にもそのラボに参加するように通達が来てね。
最初は断ろうかと思ったのだが……今度はそのラボの人間が直接私に参加するよう頼みに来たんだ。
それも……私の恩師に当たる人が。
・・・
心の弱い愚かな私は、彼の傍に居られると、研究の参加を了承してしまったのだが、
そこで初めて知ったよ。『シャドウ』って存在を……。
嫌な予感が現実になった瞬間さ。当主の顔を見た瞬間確信したね、
これにつき合っていたら命がいくつあっても足らないってな。
当時、桐条の当主は、桐条鴻悦って名前なんだが……話に聞く限りでは、南条の分家として桐条が興って以来、
桐条を本家・南条と並び称される一大ホールディングスにまで発展させた、天才的経営センスの持ち主だったんだ。
だったってことは、当主の顔を見た時にはもう駄目な奴だったって思うだろ?
だが、それも違うんだ。狂ってるようで、でもそのセンスはやはり本物で、
それに惚れてどこまでも付いてきますって奴が沢山いたんだよ。
だから、私一人が騒いだところで、状況が変わるはずも無くてね。
そのまま、なし崩し的に研究に参加する事になったのさ。 - 961 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 22:55:05.13 ID:ZsHX3CDOo
- ・・・
結局、しばらくの間その研究所に身を置いていたんだが、
その間ただ馬鹿みたいに研究に参加していた訳じゃない。
『シャドウ』とは何なのか、ずっと考えていたのだが……。
おっと、その顔を見る限りでは、『シャドウ』がなんなのか大体は分かってるみたいだね。
……『シャドウ』とは、人の心から生まれる物だ。
そして、桐条鴻悦の立てた計画の全貌を知った時、本気で奴は狂ってるって思ったよ。
その背景にどんな事情があったかは知らないが、
どうしたらあそこまで狂えるのか、それを研究した方が面白いのではと思う程に。
確か……その頃だったかな、桐条鴻悦の元に学園都市……
ああ、ここの事ではなく、別の場所にも学園都市があるんだが、知ってるか?
科学の街って呼ばれてる程技術が進んでいるそうだ。
……話が逸れたね。とにかく、その学園都市から派遣されてきたとか言う研究者が居たんだが、
奴もまた狂ってるとしか思えなかったよ。
名前は確か、『木原幻生』と言ったかな……?とにかく胡散臭い笑みを浮かべる男でな。その笑顔は今でも印象に残ってる。
笑顔なのに、全く善意というか、おおよその正の感情が見られなかったからな。
それと同時に、希望を持てそうな話も聞いた。
『シャドウ』とは、人の内から生まれるもので、それを人間が自身の内で御する可能性だ。
確かに、話を聞くと十分に合理性があると感じられた。
それが救世の力と成りうるのか、私には分からなかったが。
・・・
結局、私はこの研究所を出る決心をしたよ。このまま居ても先が見えてる。
「滅び」で終わると言う未来がな。
彼は……私とは一緒に来なかったよ。最後にあった時、言っていた。
「あれを止められるのは、最早僕しかいない」ってね。
私が『それ』を止められるはずもないし、かといって彼を止める権利も無い。
それで私だけが、出て行ったよ。
もう研究者として生きるつもりがなかった私は、趣味の骨董品集めのついでにこの店を開こうと思ったんだ。
その後すぐだったよ。世間を騒がせた『爆発事故』が起きたのは。
・・・
『爆発事故』の責任は全て彼―――岳羽詠一郎に押しつける形で落ちついたみたいだけど……おかげで岳羽家は滅茶苦茶になったよ。
世間ってのはマスコミの良いように流した情報を鵜呑みにするからね……。
詳しい情報は流れなかったから、真相は私には分からなかったけど……これだけは分かったよ。
あの計画を終わらせる代償が、あの『爆発事故』なんだって。
事件の概要に関してなら、あんたも調べてきてるんだろ?
あの災害レベルの事故が『それ』を止める代償だなんて、『それ』はどれ程の計画なんだって思うよな。
だけど、『それ』は下手したら実現していた。それどころか「全て」を滅ぼしていた所だ。 - 962 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/27(水) 22:56:00.08 ID:ZsHX3CDOo
- ・・・
女店主は、そこまで語ったところで言葉を切った。
これで話は終わりなのだろうと思い、一方通行が口を開こうとしたところ。
「待った。話を聞こうと思ったが……相当に厄介な話なんだろ?
互いの為に何も聞いてないってことにしようか。
私は何も教えてないし、あんたは骨董品をあさりに来たただの客」
「……そォだな、俺もここまで教えてくれた奴が『消える』ってのは流石に心苦しい」
「それで、私の知っている事はここまでなんだが……」
「……まだなンかあるのか?」
「『桐条美鶴』。桐条グループの現総帥だ。それと会うのに橋渡ししてやろう」
「ッ!」
その言葉に、一方通行は眼を見開く。
なにせ今回ここまで来た目的が、今すぐにでも達成できそうなのだから。
「お前にそんな事が出来るのか?って顔をしているな。まあ確かに私一人じゃ無理なんだが……」
チラリと出入口を見つめる。
すると、女店主は出入口までスタスタと歩き、勢いよく引き戸を引く。
そこには、岳羽ゆかりと山岸風香、そしてアイギスの3人が聞き耳を立てて佇んでいた。
「「……誰(なのでございましょうか)?」」
一方通行とオルソラ=アクィナスの疑問の声が、店内にこだました。 - 972 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:20:34.87 ID:kQbivQgpo
- 「おそいですね」
アイギスは、ぼんやりと空を飛ぶ鳥を眺めながら呟く。
一方通行達が眞宵堂に入店してから、結構な時間が経過していた。
3人の位置は眞宵堂から15m程離れている為、話している内容が聞こえるはずもなく。
今までは監視対象が外に居て動向をうかがう事が出来ていた為、
尾行にも飽きがこなかったのだが、今は全く見えない。
とどのつまり、ただ座っているだけと言う状況に飽きたのだ。
「そうですね……」
山岸風香もアイギスの言葉に同意した。
一方通行達の動きについてをネタに会話をしていたのだが、それも品切れ。
自分達は一体何をしているのだろうか。
頬から伝う冷たい何かは、噴水の飛沫だと思いたいところである。
「……よし!」
状況は手詰まり。それを打破すべく岳羽ゆかりは決意の声を上げ、アクションを起こす。
「2人とも!話を聞きに行くわよ!」
「「えっ」」
尾行は止めなのだろうか、と言う疑問が2人の言葉として現れる前に、
岳羽はズンズンと眞宵堂の引き戸まで近づいて行き、堂々と耳をくっつけた。
……怪しい。
黒岩巡査が見たら間違いなく、「……程ほどにしておけよ」とかぶっきらぼうに言い放つ物の、
その目は世話のかかる妹を見る目だった。みたいな感じの描写が描かれるに違いないだろう。
「尾行とは見失う事以上にまず見つからない事が重要ですよ?」
尾行の初歩の初歩です。とドヤ顔で語るアイギスを岳羽は無視して、引き続き戸に耳をつける。
すると岳羽は『シャドウ』と言う不穏な単語が聞こえてきたので真剣な表情になり、聴力に全精力を注いだ。
そんな岳羽を見たアイギスと山岸は結局、2人も一方通行達が眞宵堂の店主とどんな会話をしているのか気になったので、岳羽と同様に聞き耳を立てるのであった。 - 973 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:21:36.52 ID:kQbivQgpo
- ・・・
オルソラ=アクィナスに引っ張られて街中を歩いて居た時に感じた視線の正体。
それが一方通行の目の前に居る3人だった。
警戒はしていたものの、魔術師の尾行とは思えない程気配が駄々漏れだったので、
実際に手を出して来るような事があればそれなりの対応を取るつもりだったのだが。
「……こいつらが、あの『桐条』に橋渡し出来るってのかァ?」
正直頼りないンですけど。と言わんばかりの疑惑的な目を3人に向けた。
「ゆかりさん、風香さん、私たちの実力を示す為の示威行為の許可を」
一方通行の挑発的な視線に青筋を立て(実際には立たないけど、精神的に)指ポキ(鳴っていないけど、精神的に)をするアイギス。
アイギスの指から銃弾を飛ばすと言う装備を知っている岳羽と山岸は、
「「止めて!」」
本気でアイギスを止めにかかるのだが。
「……あァ?返り討ちにしてやンよ」
アイギスの言葉に反応したのか、
一方通行は人差し指をチョイチョイとさせ挑発を重ねる。
「「煽らないで!」」
アイギスの実力を知らないからそんな挑発が出来るんだよ!
と岳羽は自身の頭の中で捲し立てながら、2人は一方通行を諌めた。
一方でそんな4人の掛け合いを、オルソラと眞宵堂の女店主は微笑ましそうなものを見るかのような目で、大人な会話を交わす。
「ふふ、面白い方達でございますね」
「まあ、あいつも私みたいな年増と話すよりああいう若いのと話してた方が楽しいだろうさ」
「あら、貴方様もまだまだお若いでございますよ?」
「止めて頂戴な、むず痒いって」
「ところで、『シャドウ』とは?」
「……最初に、あいつに聞くって言ってなかったか?」
「はあ。そうでございましたか、わざわざありがとうございます」
「あ、ああ……」
オルソラ節について行けない女店主。
しかし、そんなことより『シャドウ』だ。
オルソラの口からその単語が飛び出した時、岳羽たちは表情を変えた。 - 974 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:22:12.16 ID:kQbivQgpo
- 「そうだった!ねえ、あんた達はなんでシャドウの事なんか調べてるのよ?」
聞き耳を立てた物の、断片的な単語しか聞こえなかった為、
会話の全貌は分からなかったが、一方通行達はシャドウについて調べている事だけは分かった。
その『シャドウ』にはただならぬ因縁がある3人は、
その単語が聞こえてきたからこそ、最後まで聞き耳を立てたのだ。
「……お前らもシャドウについて知ってンのかよ」
間が良すぎて作為的な物を感じる。
と、一方通行はため息交じりに呟いた。
「知ってる、何てもんじゃないわよ」
自信満々に語る岳羽ゆかり。堂々とした口調だったが、
その表情に一瞬の陰りがあったのを一方通行は見逃さなかった。
「……はァ、そりゃ悪かったなァ。嫌な事ほじくり返すよォな真似して」
一方通行は店内を見渡し、パッと目についた十字架のアクセサリーを手に取り、
財布から諭吉さんを何枚か取り出した。
「こォいう品がどン位値段すンのかわかンねェンだが、足りるかァ?」
「……1万円札1枚でも多い位だよ」
「じゃ、情報料って事で頼むわ。行くぞォ、オルソラ」
「あら?」
3人に目もくれず、一方通行はオルソラを引っ張って店内から出て行った。
それを見た3人は慌てて店の外へと出て行く。
そうして、店内には女店主だけが残されたのだった。
「あー、やっぱあの白髪小僧はお人よしだな」
女店主は、会って間もない一方通行の事を「お人よし」だと判断する。
一方通行のぶっきらぼうな口調から、3人への配慮を感じ取ったのだ。
恐らく、一方通行の抱える事情に巻き込まない為に。
そう考えると、女店主が3人を紹介した事は蛇足だったかなと思った。
しかし、一方通行の考えは間違いだ。
「だが、あいつらはそんなに弱くないぞ」
それこそ、見知らぬ他人に心配されるようなタマじゃない、と女店主は笑う。
女店主の呟きは、ただ店内に響くだけだった。 - 975 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:23:06.09 ID:kQbivQgpo
- ・・・
「ちょっと!ねえ、待ってよ!」
「あン?ンだよ高校生。お勉強はしなくて良いんですかァ?」
「やはり、この白髪には天誅を下すべきではありませんか?」
「あ、あの2人とも落ちついて……」
「あらあら」
図らずも一方通行ハーレム。
しかし当の一方通行の思考は、如何にして桐条グループ本社に潜入するか、これしかなかった。
後ろで何やら騒ぎ声が聞こえるが、気にしない。
こういった手合いは、間違いなくタダで何かを教えるわけがない。
絶対こちらの事情を聞いてくるはずだ。普通に話せる内容なら話してそれで終わりだが、そうはいかない。
『シャドウ』と『ペルソナ』。
岳羽達がどのような事情を抱えているかは知らないが、岳羽から一瞬垣間見た陰り。
それだけで十分だった。
だからこそ、これ以上面倒な事情に巻き込ませる訳にはいかない。
とはいえ、桐条美鶴はそうはいかない。
どういう事情があったかは知らないが、あれだけの事を「やらかした」のだから。
(まァ、責任をとれとか下らねェ事は言わねェが、情報位はタダでもらわなくちゃなァ)
1万近く殺した自分が、誰かを糾弾するなど出来るはずがない。どちらにせよそのような意志は無いのだが。
そう自嘲して、一方通行はオルソラと泊っていたホテルへと戻ろうとするのだが。
「……私は、岳羽詠一郎の娘よ」
その言葉を聞いて、一方通行はその場に立ち止り、振り返った。
「なンだって?」
「岳羽詠一郎の、娘よ。私は」
「なンで言い方の順番を変えた」
「……なんとなく」
「そォか」
「そうよ」
岳羽詠一郎。先程の女店主の話に出て来ていた、『スケープゴート』にされた男だ。
それの娘が、目の前の茶髪だと言う。 - 976 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:24:31.74 ID:kQbivQgpo
「……大人の尻拭いを、子供がする。かァ……」
ままならねェな、世の中。と一方通行は興味なさげに呟いて、再び踵を返す。
「ッ……!待ちなさいよ!その通り、私は父の尻拭いをしなきゃいけない!
だからあんたの抱える事情を知らなきゃいけないの!!」
「……シャドウはペルソナを使えば倒せるよなァ」
「?」
一方通行の突拍子の無い言葉に、岳羽は頭に「?」を浮かべるが、
何を当然な事をと言った具合に肯定の意を示した。
「おそらく、お前らは……いや、俺もだが、シャドウを倒すにはペルソナが要る」
一同は一方通行の話に聞き入る。
オルソラはシャドウやペルソナを知らないようなので、良くわからない顔をしているが。
「だが、『人間』はどォする?とびきりの悪意を携えた『人間』を、お前らはどォするつもりだ?」
その言葉に、岳羽は固まった。
人間。確かにそれの相手をした事は無かった。
幾月修司と言う男がいる。
それが裏で手を引いて、岳羽達にシャドウを倒させるよう仕向けていたのだが。
結局、幾月の野望は阻止した形にはなった。
しかし、実際に幾月を自身の力を以って手にかけた訳ではない。
「今からお前が踏み込もうとしている領域は、シャドウと戦うだけじゃねェ。
シャドウを、ペルソナを使って何かをやろォとしている。
そンなクソッタレ共の相手が出来るってのかァ?」
つゥか学生なンだからこの場から離れらンねェだろ。と呆れた様子で3人をつき放す。
「そっちの青髪はどォだ?せっかく戻った日常を崩したくはねェだろォ?」- 977 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:25:27.97 ID:kQbivQgpo
「そ、それは……」
いきなり話を振られて戸惑う山岸。
確かに、あのような命のやりとりに参加したいかと問われれば、否。
だがしかし、あの時の出来事と似たような事をしている人間がいると言うのに、
自分は何もしないのか、とも思う。
そう簡単に、「はい」か「いいえ」で答えられる訳がなかった。
「ですが、私には……私達には、『力』があります。私は、戦闘向きではありませんが……
とにかく、そんな力があるのに、何もしないで、そもそも何も知ろうとしないでいるなんて……できません」
その言葉を聞き、一方通行はしばらく思案するような表情を浮かべた後、視線の向きを変えた。
「……お前はどォだ?その身体の武器は、シャドウの為のもンかァ?
それとも人間を手にかける為のもンかァ?」
「……気付いていたのですか」
「当たり前だ、足音で分かるっつゥの。まァそンなンで判断出来る奴はそうそういねェだろォが。
まァ、今はそンな話はどォだって良い。今重要なのは、日常を崩すか否かだ」
「私は……知るべきだと思います。またあのような事を繰り返そうとしている人間がいる、と言うのならば」
「それは機械として命令(コマンド)された機能(プログラム)かァ?
それとも、人間としての心からかァ?」
「……はァ。後悔すンなよ……」
「「!」」
後悔するな。すなわち事情を話すと言う意だろう。
「それじゃあ……」
岳羽は少しそわそわとした面持ちで、一方通行の次の言葉を待つ。
「いや、桐条美鶴に話を聞きてェ。恐らくその時に事情の説明を求められるだろォから、その時に話す。
……2度も同じことを話すのは面倒くせェ」
「わ、分かったわ!すぐに桐条先輩に連絡取るから!」
3人は一方通行達から少し距離を取ると、何処かへと連絡を取り始めた。
「良いのでございましょうか」
「あァ?……ンな事言ったら、お前だってそォだろォが」
むしろ、会って間もない俺なンかを信用しているお前の方がおかしい。と、一方通行は言うが、
「それは、貴方様も同じ事でございましょう?」
何せ会って間もない少女達や私に、ご自分のお抱えになられている事情をお話になられるのでございますから。と、オルソラ。
一方通行の事情を知る、と言う事はすなわち学園に潜む影―――『暗部』と敵対すると言う事だ。
それはすなわち、『暗部』に狙われる原因となる為、一方通行が守るべき対象が増える、と言う事で。
何故、守るべき対象、ひいては一方通行の弱点となりうる対象を自ら作ったのか。
それはひとえに、一方通行の信頼の証だった。必ず守る、と言う意思を以って。
「……どいつもこいつもお人よしの馬鹿ばっかで、そいつらにあてられちまったのかもしれねェなァ……」
本当、甘くなっちまった。と、一方通行は思う。
オルソラは、そんな一方通行にただ微笑みかけるだけだった。- 978 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:25:56.46 ID:kQbivQgpo
- ・・・
しばらくの間、3人がどこかへと電話をしていたようだが、
それを終えるとすぐに黒塗りの長い車、いわゆるリムジンがさっそうと現れた。
「……ホントに桐条と知り合いなのな」
一方通行はそのリムジンの後部座席に腰をおろしながら呟く。
「何よ、あれ程の物を見て信じてなかったの?」
あれ程の物、とはアイギスの対シャドウ用の武器と体の事だ。
(エルゴノミクス研究所……学園都市に戻ったら似たような研究所が無いか探さなきゃなァ……)
人間工学研究所。そういった施設は学園都市にいくらでもあるだろう。
その中でアイギスのような存在を造ろうとしている研究所があるかもしれない。
無いに越した事は無いが、仮にあったら面倒な事になりそうだ。
そうして、一方通行達を乗せたリムジンは、桐条美鶴の待つグループの総本山へと向かって行く。 - 979 : ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:27:23.32 ID:kQbivQgpo
- ・・・
「で、なンでこンなに人が増えてンですかァ?」
げんなりとした様子で、いつもの勢いのある突っ込みは見込めない。
それは何故か?
「当然だ、シャドウと聞いて黙っている訳にはいかないからな」
運動後なのか、白のロングショーツに黒のTシャツ。
桐条の豪奢なビルには似合わない、その辺でランニングしてる人の様な恰好をしたショートヘアのイケメン。
その名を真田肉彦。じゃない明彦。
彼はどうやら大学に進んでボクシングを続けているようで、いずれはプロを目指すそうだ。
それはさておき。
「で、そっちの髭も同じ意見かァ?」
「髭って……まあ、その通りだけどさあ……」
「髭」と、余りに単純明快、どこまでも端的に自身を表現されたのが気にくわないのか、
その場にしゃがみ込んでいじけた。
坊主頭に帽子をかぶり、顎鬚を蓄えた何だかラッパーっぽい顔をした少年。
その名を伊織順平。チドリラブの純愛男である。
「で……」
チラリと一方通行は下を向く。
「わう?」
「この犬っころもかァ?」
コロマル。私は猫派なので語るべき点は無い。
「ワン!」
「そォかい、そりゃ重畳だ」
「あなたはコロちゃんの言葉が分かるのですか?」
少し驚いた様子でアイギスは口を開く。
勿論ノリで返答しただけなので、分かる訳が無い。
「ノリだ」
「へえ、ノリですか。なるほどなー……っておい!」
「おい、こいつはこンな俗物でいいのかよ」
あまりに機械っぽくないアイギスを見て、
一方通行はこの部屋の一番奥にある豪勢なイスに座っている女性に尋ねた。
「ああ、それでいいんだ。彼女は人間だからな」
桐条美鶴。
桐条グループの現当主であり、真田や伊織、コロマル達を連れて来るように要請した張本人である。
と言っても、真田や伊織にも岳羽達があらかじめ連絡を飛ばしていたのだが。
3人とも電話をしていたのはそう言う訳か、とどうでもいい事に得心が行った一方通行は、とりあえず話を聞くべく口を開いた。 - 980 :やべェ天田きゅんの事忘れてた。彼とは連絡がつかなかったということにしてくr ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:29:49.49 ID:kQbivQgpo
「まず、この部屋に盗聴・監視の類はねェだろォな」
「そのような事はありえんよ。この部屋を何だと思っているんだ、君は」
所謂社長室。最も警備が厳重な部屋だ、聞くまでも無いのだが。
「一応だ」
「そうか、ならいいんだ。それで……」
チラリと一方通行を見やる。どうみても手ぶらだった。
「君が「ペルソナ」を扱えると言う事実を確認したかったのだが……『召喚器』は無いのか?」
「あァ?ねェよンなモン。上条位か、召喚器を使ってンのは」
「「は?」」
召喚器を使っての召喚が当たり前だと思っていた(一応タカヤと言う少年が召喚器無しで召喚していたが、それは特殊な例である)一同は、その言葉に開いた口がふさがらない、と言った様子だ。
いち早く平静を取り戻した美鶴が話を聞く。
「ま、待て、ならここで召喚してみてくれないか?」
「ハァ?この世界でそンな事が出来ンのかァ?」
そのような事、試した事もそもそも考えた事も無かったと言った様子で一方通行は美鶴の質問に質問で返した。
「……ンン、多分出せねェなァ」
美鶴や他の面々が考える中、一方通行は少し唸り声をあげると、ペルソナは出せなさそうだと判断する。
そんな一方通行に猜疑心を抱いた美鶴が尋ねる。
「……君は本当にペルソナを使えるのか?」
「『マヨナカテレビ』っつゥ場所があるンだが、そこでなら」
どうやらペルソナの発動条件が一方通行と他の一同とは異なるらしく、
一方通行から自身の抱える事情を語った。
オルソラにも分かるよう、新しい単語が出るたびに解説を加えながら。
・・・
「……成程、やはり学園都市はそのような実験をしていたのか」
一方通行の話を頭の中で噛み砕きながら、美鶴は納得したように頷く。
「どういう事だァ?」
「ああ……最近な、学園都市から研究者が来ててな……」
「……そいつの名前は?」
「田木原一(たぎはらかず)と名乗っていたが……どうにも偽名臭くてな、イマイチ信用の出来ない男だったよ」
聞いた事のない名前だった。知っている研究者だったらすぐにでも学園都市に帰ってボコにしていたところだが、帰った後に調べなくてはならないようだ。
とはいえ桐条家の総帥が偽名臭いと疑っているのだから、恐らく検索にかかる事は無いだろうが。
「しかし鈴科君って言ったっけか?学園都市ってーと超能力者を育成する!って奴だろ?
お前も何かつかえるの?なら見せてくれよ!」
伊織は何やら憧れの戦隊物のヒーローを見たかのような子供じみた笑顔で、能力を使用する事を頼む。
「……そォだな、一応の信用の証として、少し位見せても良いか……」
「一応のってオイ」
伊織の突っ込みの後、オルソラは楽しそうにクスクスと笑った。
その心は、恐らく素直じゃない一方通行に対しての笑いだろう。- 981 :やべェ天田きゅんの事忘れてた。彼とは連絡がつかなかったということにしてくr ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:30:48.69 ID:kQbivQgpo
すると、一方通行の姿が、唐突に消え去った。
「「!?」」
突然の事に一同は辺りを見回した。
しかし、一方通行は変わらず同じ場所に居て、
「まァこンな感じだなァ」
「凄いです……光学迷彩って奴ですか!?」
ものすごく興奮した様子で一方通行に詰め寄る山岸。どうやらどストライクだったようだ。
一方通行は若干引き気味に頷いた。
「なあ!俺らにもそう言うの使えるの?!」
伊織もまた興奮した様子で尋ねるが、一方通行はその幻想をぶち殺すべく口を開く。
「どォだかな。頭に電極ブッ刺して何本も注射をぶち込んで、
毎日毎日勉強と、毎日毎日実験を繰り返した揚句能力なんてほとンど使えませンって奴も居るからなァ……」
「……諦めろ、お前には無理だ」
真田は伊織の肩を叩いて、同情した。
伊織は、泣いた―――。
「とりあえず、これが俺の力だ。つっても力の一部なンだが……
つゥか俺が能力者だって事、周りに言いふらすなよ?」
「え?なんで?」
こんなすげーのに、と伊織は疑問に思うが、何処で誰が見ているのかわからないのだ。
一応この部屋の周りは安全の様だったが、他ではそうはいかない。
そんな訳で一方通行は自分が能力者である事は知られたくない、と言う事だけを伝える。
流石にオルソラの事までは語らなかったが。それとこれとは話が別だし。
「とにかく、学園都市には注意しろ、と言う事だな?」
「そォだ。つゥか情報だけくれてりゃそれで良い。実際にお前らに動いてもらうつもりはねェしな」
「じゃあ何で私達をここに連れて来たの?」
岳羽は、何故もっと頼ってくれないのかと憤った様子で尋ねる。
およそ半分はお前らが連れてきたのだろう、と一方通行は突っ込みを入れたくなったが、
いちいち反応していてはキリが無い。
「お前らにはさっきも言ったが、『シャドウ』も怖い存在だが、何よりそれを実験材料にしている『人間』のが怖ェンだよ」
それに、と付け加え一方通行は続ける。
「俺はこの世界でペルソナを出せねェが、お前らは出せる。
逆に俺は『マヨナカテレビ』でペルソナを出せるが、お前らはどォだ?」
「……試してみないと分からないわね。試して使えなかったら役立たずだし」
岳羽は手を顎にやり、考え込む。
如何にして一方通行の手伝いをしようか、などと考えているのだろうか。
「まァ、今後の事は後で考えるとするとして……」
―――お前らの話を、聞かせろ。
そして一方通行は知る事となる。
この世界を、文字通り命をかけて救った英雄と。
本当の『強さ』と言うものを。- 982 :やべェ天田きゅんの事忘れてた。彼とは連絡がつかなかったということにしてくr ◆DAbxBtgEsc [saga]:2011/07/29(金) 01:32:17.58 ID:kQbivQgpo
- 天田きゅんの事をすっかり忘れてたけど、正直すまンかった。
後でにじファンに投降する分は修正かけとく。なのでそっちを読んでね(いかにも自然な宣伝)
とりあえずスレ立てのタイミングわかンねェけど、次の投下の時に立てるわ - 983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 01:41:49.56 ID:kQbivQgpo
- >>977
訂正
「それは機械として命令(コマンド)された機能(プログラム)かァ?
それとも、人間としての心からかァ?」
「……人として、です」
「……はァ。後悔すンなよ……」 - 984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/07/29(金) 02:06:01.41 ID:SaX2FbFAO
- 乙
アイギスの関節の機械部品ペロペロしたい - 992 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/29(金) 08:55:17.49 ID:kQbivQgpo
- そうだな、残りレスはあれだ、あの適当に見てみたい絡みでも書いてってくれ。
気が向いたら書くから。気が向いたらね、気が向いたら。
だから期待するなよ、気が向いたらだから。 - 993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/07/29(金) 10:26:04.41 ID:MlcWlfJAO
- スキルアウト達の日常とか
- 998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 17:03:29.10 ID:kQbivQgpo
- 私は店員です。名前はまだありません(設定的に)。
今日は、いつもうちの(私のじゃないですけど)しがないファミレスに来て下さる常連さん達を紹介させて貰おうと思います。
べ、別に今お客様が居なくて暇だからってわけじゃないんですからね。
「いらっしゃいませー」
と思ったらその常連さん達が本日も来店して下さいました。
大体この時間に来てたので予定調和なんですけどね。
「おォー」
さて、そんな私のテンプレ挨拶に対して気だるげな返事を下さったこの方、一方通行さんと仰るのですが、
実は学園都市第一位の能力者だと言うのだから驚きです!
ですが、気だるげとはいえ高々店員のあいさつに対して返答をなさるということは、
それなりに信頼されてると思っていいのでしょうか。
だとしたらうれしいですね。
すると、そんな一方通行さんの背後からぞろぞろと沢山のお客様が!
「い、いらしゃませー」
どういう組み合わせなのでしょう、今日のお昼に物凄く騒がれていたお客様と一緒にご来店なさいました。
思わず動揺を隠せず噛んでしまいました。
とはいえ、アホ毛のちっちゃい子が共通の知り合いっぽいのでそこから派生して知り合ったと言う事でしょうか。
一方通行さんは人脈が広いですね、としみじみと思いました。
第三位の御坂美琴さんとその妹さんもおられますし、なんだかアホ毛の子とこのお二方、似てますね……
何にせよ、これほどの大御所帯でのご来店はこのファミレス創設以来(創設2年)初めてかもしれません。
いえ、人数的には多くは無いのですが……
「ねえ、何でも食べても良いのかな!?」
目をキラキラさせながら一方通行さんに話しかけているシスターさん。
彼女の名をインデックスさんと言うらしいです。
変わったお名前ですが、外国の方の名前は詳しくありませんので、これも普通にあるお名前かもしれないです。
でも、そんなことはどうでもいいんです。
彼女の本領は、『食べる』事なんです。
「おい店員良いかァ?」
とここで、一方通行さんが私に声をかけてきました。
あなたは次に「今日、貸し切りなァ」と言います!!
「貸し切りなァ、今日」
……ほぼ正解でいいじゃないですか。
「うおっ、やっぱ第一位の言う事は違うなー」
忍者っぽい顔(←?)をしてるくせに、軽薄な口調で話すこの方は、昼間におっきい人をからかってボコボコにされていた方ですね。
そのおっきい方はアホ毛の子と金髪の子を肩に乗せてのしのしと歩いて行かれました。
美女と野獣ってわけじゃないですけど、それに近いワードが頭をよぎりました……。
昼間の時も、忍者っぽい人とジャージの人はそれをネタにおっきい人をからかっていましたが、あながち間違いではない気が……
いやいやいや、お客様に何て事を。
「それでは、いつもの席周辺って事でよろしいでしょうか?」
「おォ、頼ンだぜェ」
一方通行さんはそれだけ言うとドリンクバーのコーヒーコーナーまで向かっていかれました。
まだ注文も取ってないのに。
ですが私は何も言わずにドリンクバー人数分を注文として最初に書きくわえます。
最早いつも通りの光景です。「いつもの」って注文する必要すらありません。
それが信頼、すなわち信じて頼ると言う事なのです。
所で、一方通行さんの影響でコーヒーの味が格段に上がりました。彼は非常にコーヒーにうるさいのです。
おかげでこのファミレス、ファミレスなのに喫茶店並みにコーヒー通の人が好んでご来店なさるようになりました。本当にありがたい話です。 - 999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 17:04:11.46 ID:kQbivQgpo
- さて、私はドリンクバーという注文を書きくわえた後、店長に連絡を入れました。
「ホワイトイーター」
私は一言店長に伝えると、「すぐにそちらにむかう」と返答が来ました。
『ホワイトイーター』って何?と思われる事が多いのでしょう。
これは、暗号なんです。
要約すると、「いつもの方がインデックスさんと伴ってご来店なさりました。材料が足らなくなるおそれあり」ということです。
コードレッド、エマージェンシーなのです。
店長が初めから店の中に詰めていたのであればすぐさま材料を入荷すべく行動を起こせたのですが……
バイトの私にそこまでの権限はありません。
ですが私もこのファミレスの創設時からのベテラン(2年ですが)。
店長の判断を仰ぐまでも無く「貸し切り」という札を入り口に貼りだしました。
さあ、これから忙しくなりますね。
店長と言う援軍が来るまで、インデックスさんの胃袋を満足させ続けることが出来るのでしょうか。
久々にレベル2ながらも、それなりに便利な私の能力を使う時が来たようです。
続かない - 1000 : ◆DAbxBtgEsc [sage]:2011/07/29(金) 17:05:31.38 ID:kQbivQgpo
- 店員さんのイメージとしては、「宙のまにまに」の美星ちゃんみたいな感じでお願いします。それでは次スレで会いましょう
2014年4月18日金曜日
とある仮面の一方通行 2
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一方通行
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