- ※未完作品
- 1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:29:56.98 ID:t+RGz2HZ0
- 「上条さんと美琴がレトロゲーム好きで、出会いがもしゲームセンターだったなら……?」
一言でいえば禁書(上琴)版ハイスコアガールです。
設定はもちろん、話の都合上キャラの性格も禁書本編と少し異なるところがあると思いますが、ご了承下さい。 - 2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:30:27.77 ID:t+RGz2HZ0
- 上条「はー、今日もこんな時間か。毎日が補習ってもうちょっと何とかなんねえのかな」
青髮「いや、カミやんがアホすぎるのが悪いんやないか。ボク、小萌先生には深ーい同情の念を隠せんよ」
上条「まあ、そりゃそうですが……つーか一緒に補習受けてる青ピに言われたくはねーよ」
青髮「いややなーカミやん、ボクは小萌先生とただただ一緒にいたいだけなんよ。小萌先生のためなら宿題忘れの一つや二つ」
上条「俺より完全にタチ悪りーじゃねえか!」
青髮「まあ、これも愛情表現の一つってことで。そういえばカミやん、今日も『あそこ』に寄ってくん?」
上条「ああ。小萌先生には悪りーけど、やっぱりあそこに行かないと一日が終わった感じがしないっていうかなあ。青ピ、お前も一緒に来るか?」
青髮「ボクはパスしとくわ。ボクの居候先、結構門限に厳しいんよ」
上条「そういやそうだったな。じゃあこの辺で別れるか。じゃあな青ピ」
青髮「はいはい、さいならーカミやん」
- 3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:30:55.04 ID:t+RGz2HZ0
- 青髮ピアスと別れた上条は、その足である場所へ向かった。
地下にある、学園都市にしては少し、いやかなり古ぼけたゲームセンター。そこが、上条にとっての『安息の地』だった。
上条「(あー、いつ来てもここの空気は癒される。ボロい外見、たむろしてる学生、そしてズラッと並べられたゲーム筐体……本当に最高だ)」
上条はそう思いつつ、目に留まったゲーム筐体にメダルを投入する。コインでなくメダル。これが上条にとっては実にありがたかった。
この店は主に80年代後半から90年代にかけてのレトロゲームを専門としており、半ば店長の趣味で成り立っているような店である。
そんなレトロゲームを正規のプレイ料金(1プレイ100円)で出そうものなら、このただでさえ技術が『外』の二、三十年は進んでいる学園都市では閑古鳥必至。
そんな訳でこの店ではゲーム筐体は全てメダル制を導入しており、100円で11枚のメダル、つまり1プレイ10円以下と実に貧乏学生の懐に優しい設定となっていた。
そのためレトロゲーム専門でありながら、毎日結構な数の学生で賑わっている隠れた人気店だったのである。
完全下校時刻のことも忘れてひとしきり遊んだ上条は、『本命』のゲームへと足を運ばせる。
ストリートファイターⅡ。通称ストⅡ。
90年代初頭に登場した、現在の対戦型格闘アクションの実質的な元祖となった作品である。
当時の熱狂を知らない上条ではあったが、時代を超える名作はこのゲームセンターでも当然のように愛されており、上条もかなりこのゲームをやり込んでいた。
上条「(さて、今日もストⅡで対戦三昧といきますか。今のところの勝ち抜き者は……な、27連勝!? 面白え……。
俺も『幻想殺し』と呼ばれたプレイヤー(自称)だ。いいぜ、お前があくまでその連勝記録を続けようっていうのなら……俺がその幻想をぶち[ピーーー]!)」
30分後。
上条「(う、ウソだろ、あっという間に7連敗……。強い、強すぎる)」
男子学生「どきな、俺が連勝記録を止めてやる!」
次の客に押し出される様にして席を離れる上条。その目はややうつろで、しばしの間、ただただ呆然とせざるを得なかった。
- 4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:31:31.58 ID:t+RGz2HZ0
- 上条「(くそ、連勝を止めるどころか伸ばしちまうとは情けねえ……。一体どんな奴がプレイしてるんだ?)」
少しして正気を取り戻した上条は、純然とした好奇心から反対側の筐体にチラッと目を向ける。すると、そこに座っていたのはーー
一人の女の子だった。
サマーセーターに半袖のブラウス、そしてグレーのプリーツスカートという制服に身を包んだ少女は、平然としたスティックさばきでゲームを淡々とこなしていく。
上条「(な、あんな奴が34連勝もしてるっていうのか!? しかもあの制服って確かお嬢様学校で有名な常盤台中学のだよな。
俺はお嬢様に負けたのか……しかも、ザンギエフで)」
少女が使っていたキャラは投げ技を得意とするソビエト連邦(現ロシア)のプロレスラー、ザンギエフだった。
見た感じ少し華奢そうな少女が使っているのが筋肉隆々のモヒカン男というギャップに上条は頭がクラクラしそうになる。
それでも彼女の腕前は紛れもなく本物で、対空や基本の連続技は勿論のこと、初心者には難しい「レバー一回転+パンチ」の投げ技『スクリューパイルドライバー』を軽々と出せるどころか
当てスクリュー、めくりスクリューなど連続技に組み込んでしまう始末。
ザンギエフは飛び道具がない上に近接専門なため、対戦では最弱キャラという有難くない名誉をこの初代ストⅡでは頂いていたが、そんなキャラとは思えない鬼神のような強さだった。
当然、彼女の連勝は止まらない。上条の次に入った男子学生からも次々とKOを奪い、いつの間にか少女の連勝は40に達していた。
- 5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:32:07.06 ID:t+RGz2HZ0
- 男子学生「クソッ、こんなのやってられるか!」
悔しそうに台を思い切りパンチしながら去っていく先ほどの挑戦者。その姿は上条から見てもあまりにも惨めに見えた。
上条「(さっきの俺もあんな感じだったのか……? いや、俺は台パンなんてマナー違反絶対にしねえぞ?
大体あんなことしたら店員が……ってうわ、早速店員に絡まれてる)」
こんな悲劇をこれ以上繰り返していいのか? いや、良いはずがない。
上条はこのゲームセンターが好きだった。値段の安さももちろん魅力的ではあったが、それよりこの場所の『雰囲気』というものがたまらなく愛おしかった。
いつもそこにいるのは上条と同じような境遇の、この街の授業についていけなかった落第生たち。店の雰囲気は決して良いとは言ず、連中と親しくなることもほとんどなかったが、
それでも言葉に出来ない奇妙な安心感がそこにはあった。
そんな上条を含めた落ちこぼれ連中におけるサンクチュアリ(聖域)が、明らかに場違いな一人のお嬢様中学生によって侵食されようとしているーーそれが上条にはたまらなく我慢できなかった。
そして上条は一つの覚悟を決める。この少女を止める。そのために、例え悪魔に魂を売り払うことになろうとも。
上条「(いいぜ、世間知らずのお嬢様に俺が世の中の厳しさって奴を教えてやる!)」
再び対戦台に身を投じた上条が選んだのはアメリカの軍人ガイルだった。
そして上条が取った戦法、それはーー
- 6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:32:39.73 ID:t+RGz2HZ0
-
しゃがみ中キック→しゃがみ中キック→しゃがみ中キック→遠距離ソニックブーム→相手飛び込み→サマーソルトキック
待ちガイル。
初代ストⅡで無類の強さを誇ったこの戦法は、あまりに簡単かつ反則的すぎるため禁止しているゲーセンも多く、このゲームセンターでも使用しないことが一種のマナーとなっていた。
それを破ってでも、上条は勝利に拘った。全ては勝つために。この楽園をお嬢様中学生の手から取り戻すために。
上条「(さっき台パンしたやつのこと、笑ってらんねえな……でも、それでも俺は)」
ザンギエフ「ウーウォアアァ……………」
YOU WIN!
上条「(この戦いに、勝つ!)」
初戦を見事勝利で飾り、リーチをかけた上条。恥も外聞もマナーも捨てて待ちガイル戦法を選んだ以上、負けることは許されない。
次も絶対に勝つ! そう気合を入れ直そうとした瞬間だった。
少女「待ちガイルとはやってくれるわね。いいわ、そういうつもりならこっちも本気を出させてもらうわよ」
小声だったが、確かに少女の声が聴こえた。上条は、ゾクッと背中に悪寒が走るのを感じた。
待ちガイル戦法にキレるだけならともかく『まだ本気を出してない』?
冗談だ、冗談に決まっている。上条は自分の中で必死にそう言い聞かせたが、どうしてか悪寒は止まらない。
そしてすぐに迎えた第2ラウンド。
- 7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:33:22.60 ID:t+RGz2HZ0
-
瞬殺だった。
待ちガイルをする暇もなく速攻で連続技→スクリューパイルドライバーを決められ、その後もボコボコにされる圧倒的な敗北。
とにかくザンギエフの反応速度が上条がこれまで経験したレベルを遥かに超えていた。
電気のバチッとする音が一瞬聴こえたような気もしたが、上条にとってはそんなことどうでもよかった。
待っているのは、数十秒後の圧倒的かつ確実な敗北。
上条には、通常技をガードして生まれる硬直時間中に投げを決め続ける最凶最悪の『投げハメ』(もちろん対戦マナー的には最低)という切り札がまだあったが、
この超反応ではそれすらも返されることは間違いない。
悪魔に魂を売り払ってでも遥かに届かない壁。次元の違い。
全てを諦めた上条は、ただこのゲームセンターが少女に蹂躙されるのを待つことしか出来なかっーー
男子学生「おいコイツだ、コイツのせいで俺はこのゲーセン出禁になっちまったんだ!」
先ほど聞いたことのあるような声が反対側の筐体から聞こえてきた。
チラッと視線を移した上条の目に飛び込んできたもの。
それはあの少女が、先ほど対戦で負かした学生を始めとする何人もの不良学生に絡まれている光景だった。
- 8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:33:48.21 ID:t+RGz2HZ0
- 男子学生B「マジか、お前こんな奴に負けちまったん? 情けねえなあ」
男子学生C「でも、結構可愛い顔してるぜ」
男子学生D「ホントだ、しかも制服見てみろよ、この娘常盤台のお嬢様だぞ」
男子学生E「うお、マジか! ボコボコにするつもりだったけど、こりゃ路線変更だな」
男子学生F「ねーキミ、これから俺とお茶でもどう? 悪くはしないからさ」
男子学生C「あ、テメ、抜け駆けはなしだぞ!」
下品そうな男達の声が、向こうの筐体から聞こえてくる。最終ラウンドが始まったが、当然二人ともキャラは微動だにしない。
先程までの激闘が嘘のような、あまりにも呆気ない勝負の幕引きだった。
これで必然的に少女の連勝は止まる。不良に絡まれるという恐怖体験を受けたお嬢様は、 もう二度とこのゲームセンターに足を運ぶことはないだろう。
当初の予定とは全然違ってしまったが、上条の目的は果たされたのだ。
不良に連れられながらゲームセンターを出て行った少女を見てこの聖戦が終わったことを実感した上条は、筐体の椅子から腰を持ち上げ、ヨロヨロした足取りで筐体から離れ、出口に向かう。
少女のことはもちろん気になったが、あれだけの人数だ。上条一人が行ったところで敵うわけがないのは目に見えている。
今日のことは忘れて、明日からまた充実したゲーセンライフを送ればいいじゃないか。
そうだ、今日のことは忘れるべきなんだ。上条がそう自分に言い聞かせようとしたその瞬間
離れたストⅡの筐体から、ゲームオーバー時のキャラの悲鳴が聞こえた。
次の瞬間、上条は不良の向かった方向に走り出していた。
- 9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:34:16.01 ID:t+RGz2HZ0
-
その頃、少女と不良学生六人は、店と店の間にある路地裏にいた。
男子学生B「なあさー、いつまでもそんなつっけんどんな顔しないでさ、俺達と遊びに行こうぜ?」
男子学生C「そうそう、あんなボロいゲーセンなんかより楽しいところに連れてってやるからさ」
男子学生D「ま、いつ帰れるかはわからねーけどな」
男子学生達「ヒアッヒアッヒアッ」
少女は周りをチラッと見る。路地裏とはいえ、すぐ先には大通りがあり、そこでは多くの人で賑わっていた。
当然、多数の不良に一人の少女が絡まれている様子も複数の人の目に停まっている。
しかし、一瞬目を合わせるような人はいても、申し訳なさそうにすぐ目を逸らすばかりで、この事態を止めようとするような者は誰もいなかった。
少女は当然か、と言わんばかりに半ば諦めのような気持ちで溜息を吐く。
誰だって我が身が可愛い。実際こんな場面に割って入ったところで怪我をするだけだ。
もし、見ず知らずの人間のためにそんなことをする人間がいるとしたら、それはただの馬鹿か、それともーー
上条「おーいたいた。こんなトコにいたのか」
少女は思わず、目を丸くした。
- 10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:34:58.50 ID:t+RGz2HZ0
- 少女を見つけた上条はすぐにその左手を掴んだ。
まともに行って何とかなるわけがない。どさくさ紛れで無理やり連れ出して全力ダッシュ。それが上条の考えた作戦だったのだが。
上条「いやー連れが世話になりました。はい通してーー」
少女「誰よアンタ」
少女からの思ってもいなかったリアクションに、瞬時にその場が凍りつく。
上条「おまっ、俺が一生懸命考えた『知り合いのフリして自然にこの場から連れ出す作戦』が台無しじゃねーか!
あと、俺さっきまでお前とストⅡ対戦してたから!」
美琴「対戦相手のことなんていちいち覚えていないわよ。ん? さっき……ってアンタ、もしかして待ちガイルしてたやつ?
あんなんされたらこっちの気持ちが冷めちゃうじゃない! せっかくいい気分でストⅡやってたのに台無しよ!」
上条「40連勝してた奴が言うことですかソレ!?」
男子学生A「おいお前ら、こっちを思いっきり無視してんじゃねーよ!」
不良達の視線は当然、割り込んできた上条の方に集まる。
男子学生B「なんだテメェ、こいつのツレか? ナメた真似しやがって」
男子学生C「なんか文句あんのか?」
男子学生D「どうなるかわかってんだろーな」
上条「あー……えーと……」
もう完全に積みである。あー、こりゃ数日間病院送りカナー、と覚悟した上条は、溜息を一つ吐いたあと、ヤケくそで開き直ることにした。
この状況を作った全てに対して。
- 11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:35:30.27 ID:t+RGz2HZ0
- 上条「ああそうだよ。恥ずかしくねーのかよてめえらは」
男子学生A「何だと?」
上条「ストⅡ負けたぐらいで、こんな大勢で女の子囲んで情けねえ。ゲーセン仲間の風上にも置けねえ」
男子学生A「んだとコラ!?」
上条「ゲームをやるときはなあ、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか……救われてなきゃあダメなんだ。一人で豊かで静かで……」
少女「いや、やってたの対戦台でしょ。一人じゃないじゃない」
上条「う……とにかくだ、あのゲーセンが好きな人間の一人として、お前らみたいな奴らは許せねえんだよ!」
台詞を言い切った瞬間、少女のこちらを見る目が少し変わったように上条は感じた。
だがそんなことは関係ない。そもそもこんな状況を作ったのは他ならぬこの常盤台のお嬢様でもあるのだ。
上条は勢いに任せて、溜まった鬱憤全てをぶち撒ける。
上条「だいたいお前らが声かけた相手良く見てみろよ。まだ『ガキ』じゃねーか。さっきも見ただろ。年上に敬意を払わないガサツな態度。見た目はお嬢様でもまだ反抗期も抜けてねーじゃん。
大体考えてみろ、あのザンギエフで40連勝もかますやつだぞ。どう考えてもマトモな神経の持ち主じゃねえに決まってんだろ!」
直後、ゲームセンターの時と同じような電気のバチッという音がまた鳴った。
だが、興奮している上条の耳には届かない。
男子学生A「うっせえぞテメェ!」
上条「それはこっちのセリフだ。お前らみたいに群れなきゃ『ガキ』も相手にできないような奴らはムカつくんだよ!」
その瞬間だった。
少女「……私が……一番ムカつくのは……お前だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
その少女を中心にして、閃光とともに放たれたもの。それは数百万ボルトはあろうかと思われる電撃の槍だった。
四方八方に広がったその攻撃は、容赦なく周りの人間全てを黒焦げに変える。
たった一人を除いては。
- 12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:35:59.89 ID:t+RGz2HZ0
- 少女「あーくそ。こんな雑魚共に能力使っちゃーー」
上条「っぶねーーーー。何だあ、今の? なんか電気がビリビリって……。お前、ブランカだったのか」
少女「誰がブラジルの野生児よ! っていうか何でアンタだけ無傷なわけ?」
上条「いやいや待てよ、俺はお前を助けようとしたんだぞ? 何で俺まで攻撃するんだよ!」
美琴「喧嘩売りにきた、の間違いでしょ? 大体んなもん頼んだ覚えないし」
上条「ひでぇ……ってのわっ、また電撃飛ばすんじゃねえ!!」
少女「(私の電撃を打ち消した?)……アンタ何者? 何よその能力」
上条「いや、何て言うか、能力と言っていいのか」
上条「身体検査(システムスキャン)では、『無能力者(レベル0)』って判定なんだけど」
その台詞にショックを受けたのか、少女は茫然と動きを止める。
上条は降って湧いたこのチャンスを逃さなかった。
上条「(とりあえず逃げだ、逃げの一手だ! 俺はマリオだ! うおお見やがれ俺の全速Bダッシュぅぅぅ!)」
少女「あ、ちょっとこら、待ちなさいよ!!」
少女は上条を追いかけようとするが、人混みのせいもあって先行した上条の姿を捉えることはできず、結局追いかけることすらできなかった。
- 13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/06(火) 23:36:27.52 ID:t+RGz2HZ0
-
一人残された少女は呟く。
少女「あの男……今度会ったら、絶対勝負してやる。そうじゃなきゃ気が収まらないわ!」
一方、無事に地下を離れた上条は。
上条「はぁ、はぁ…………もう追ってこないよな? しかし常盤台のお嬢様って皆ああなのか? 俺のお嬢様に対するイメージが……うう、不幸だ」
自らの幻想を壊され、肩を落としながら歩く上条は、トボトボと自宅である学生寮に向かうのだったーー。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
二◯××年六月。
少女「一日でも早く(勝負するため)アイツと会えますように」
上条「もう二度とあの子と会いませんように」
この出会いこそが今後長く続く因縁の始まりになることを、二人はまだ知る由も無かった。
- 29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/11(日) 23:19:36.89 ID:27qrCMrg0
- では、今から投下します。
あれから一週間後。
上条「はあ、今日も補習長かったなー。青ピもいねえし、この補習でたまりにたまったストレスを何とか発散できんものかね」
上条は例の事件以来、ゲームセンターには行っていなかった。件(くだん)の少女に会うことを恐れたためである。
上条「(あの子メチャメチャ怒ってたしな……。あの時はたまたま何とかなったけど、下手すりゃ俺死んでたぞ。
執念深そうだったし、あのゲーセン行くのはやっぱよした方がいいよな。うう、でも俺の禁断症状が……。)」
悩む上条だったが、ふと頭の上に豆電球がポッと浮かぶように一つの案が出てきた。
上条「(そうだ! 何もあのゲーセンじゃないとレトロゲーができないわけじゃねえ。別のゲーセンでプレイすればいいんじゃねえか!
あそこでやれないのは寂しいし金もかかっちまうのは辛いんだが、背に腹は変えられないよな。
そういや俺、どんぐらい金残ってたっけ? えっと、俺のメダル以外のお金は……と。)
残金87円。
それが、上条の財布の中身全てだった。
選択の余地など、最初からなかった。
- 30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/11(日) 23:20:32.52 ID:27qrCMrg0
-
上条「(ハァ、結局来ちゃいましたよここに……。うう憎い、自らのゲーセン狂いが憎い! ……とりあえず中にあの子がいないかだけでものぞいて見るか)」
上条はゲーセン内の人間に見つからないように、入口の影からこっそりと中を伺う。傍から見ると完全に不審者以外の何者でもない。
上条「(うう、何で俺はゲーセンでゲームしたいだけなのにこんな警察に追われる犯罪者みたいなことせにゃならんのだ……)」
だが幸い、例の少女はゲーセン内にはいないようだった。上条の表情が重たいものから一気に歓喜へと変わっていく。
上条「(うおおおおお神様はまだこの私上条当麻を見捨ててはいなかったんですね! 今だ、今こそ俺の小宇宙を燃やす時!!!)」
禁断症状のせいか妙にハイテンションの上条は早速ゲームセンターの中に入り、とにかく目に付いたゲームを片っ端からプレイしていく。
上条「(一週間ぶりのゲーセン、最高だ、最高すぎる! 補習という名の太陽の光で渇き切った俺の心に、潤いが取り戻されていくようだ……)」
これ以上ない幸せに浸る上条。スコアも好調で、どのゲームも自己ベストを次々と更新する。
そこで上条は、あることに気付く。
上条「(ん? よく見たらハイスコアが更新されてるな。M.M……見たことない名前だな。そういえばさっきもこの名前見たような気が)」
不思議に思った上条は、先ほどまでにプレイしたゲーム全てのハイスコアを確認してみる。
上条「(うわ、全部のハイスコアネームが『M.M』になってやがる。この分だと他のゲームも『M.M』になってるとか……まさかな。
しかし何とも恐ろしい奴が現れたもんだな)」
スコア更新したM.Mってだれだ?
気になる上条ではあったが、今はゲームプレイこそが本能が求めるもの。
その疑念は一度頭の隅に置き、別のゲームをプレイすることにした。
- 31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/11(日) 23:21:18.47 ID:27qrCMrg0
-
ファイナルファイト。
ストリートファイターⅡが対戦型格闘アクションの代名詞といえる存在なら、このファイナルファイトはベルトスクロール型アクションの代名詞である。
高い難易度ながら、無数に現れる敵をボコボコ倒していく爽快感、シンプルながら奥深い操作性などバランスの取れた傑作として名高い。
上条にとっても、ここ一週間後でたまりにたまったストレスを発散するにはうってつけのゲームだった。
上条「(ストⅡもやりたいけど、この前のことがあるからなあ……。今日はこのゲームをじっくりやるか)」
順調にステージを進めていく上条は、ステージ2ボス『ソドム』を迎える。
上条「(初心者殺しとして有名なコイツだが、まあこの程度ならこの上条さんに取っちゃ軽いもんだ。
しかし、なんて楽しいんだ。ゲームもそりゃ楽しいんだが、このボロっちい環境がそれを尚更引き立てててるんだよなあ。
特に音! ビデオゲームのピコピコ音、メダルゲームのガシャガシャ音、学生のはしゃぐ声…… )」
少女「ふっふっふ、ようやく見つけたわよ。今日こそは逃がさないんだから」
上条「そしてどこかで聞いたことのある少女のこ…………え…………?」
一瞬で全身からぶわっと冷や汗が出た上条は、サビついた鉄扉のようにギギギと首をゆっくり、声が聞こえた方に振り返る。
そこにいたのはもちろん、あの時の少女だった。
- 32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/11(日) 23:22:02.55 ID:27qrCMrg0
-
少女「ホント探したわよ。ここで待ってれば必ず現れるはずと思ったのに何日経っても来ないんだもの。
もしかと思って今日は別のゲーセンも探したけどいなかったし、もう会えないんじゃないかと思ってたわ。神様っているもんね」
上条「俺にとっては不幸の神様だよ! うう、また今日も俺は"不運"(ハードラック)と"踊"(ダンス)っちまうのか!?」
少女「何言ってんのアンタ……そんなことより勝負よ勝負」
上条「俺に選択権は!? 大体俺は今ファイナルファイトやってるんですけど」
少女「いや、もうゲームオーバーになってるわよ。画面見なさいよ」
上条「うわマジか、ってそりゃソドム相手にゲーム放置して話してりゃ当然か……。うう、不幸だ」
少女「はい、これで問題ないわよね。早速来てもらうわよ……って何よアンタその涙目は!?」
上条「だって、だってよ……これが人生で最後のファイナルファイトかもしれねえんだ。なのに、エンディングも見れないなんてあまりにも殺生すぎるだろ?
お願いだ、俺が1クレでこのゲームクリアするまで待ってくれないか? もしそれが終わったら、お前との勝負だろうがなんだろうがこの上条当麻必ず受けますから! お願い!」
少女「ちょ、ちょっと何よ大げさな! ハァ、いいわ……。これでアンタの願い聞かなかったら私スゴイ悪者みたいだし。
アンタがこのゲームクリアするまで待ってあげる」
上条「ホントか!? ありがとうございますビリビリお嬢様!」
少女「ちょっと、ビリビリって言わないでよ! 私の名前は御坂美琴!」
上条「ありがとうございます美琴様! このご恩は必ずなんとしても」
美琴「いいからさっさと始めなさいよ!」
上条「(ふふ、ふふふふ…………)」
上条「( 計 画 通 り )」
- 33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/11(日) 23:22:44.92 ID:27qrCMrg0
-
上条「(ついに取ったぞその言質っ……! お前は了承したんだ、『1クレでこのゲームクリアするまで待つ』と。
何を隠そうこの上条当麻、『1クレでは』ステージ5のアビゲイルが限界なんですよ! つまり何度プレイしてもクリアなんてできっこないわけで……。
あまりにクリアできない俺を見て飽きたお嬢様は勝負を諦めて帰るしかないってわけだ。
ゲームセ◯ターCXで有◯課長のプレイを眺めることしかできないスタッフの気持ち、とくと味わうがいい!!)」
上条の計画は完璧だった。そのはずだった。
だがここで上条にとって予想外のことが起こる。
美琴が上条の右隣に座り、おもむろにメダルを筐体に投入したのだ。
上条「お、おい、お前、なんでメダル入れたんだ?」
美琴「一人より二人の方が手っ取り早いでしょ? 見てるだけってのも私の性に合わないし」
上条「(しまったぁぁぁ!!! 協力プレイ、その手があったとは……上条当麻一生の不覚!!!!!)」
鼻歌を軽く鳴らしながらキャラを選ぶ美琴。彼女が選んだキャラは上半身裸の変態……ではなく、ファイナルファイトの舞台「メトロシティ」の市長ハガーだった。
攻撃翌力が高く強力な投げ技を持つが動きが全体的に鈍い、上級者向けキャラである。
上条「(コイツ、ストⅡの時はザンギエフ選んでたよな……筋肉親父フェチなんですかこの常盤台のお嬢様は!?)」
上条は美琴の趣味を少し疑いつつ、無難にバランスの取れた万能キャラコーディーを選択。
上条「(さて、問題はこのお嬢様の腕前だ。ストⅡは尋常ならざるレベルだったが、このゲームはどうなんだ?
大したことがないようであれば、俺の計画はまだ続行できるんだが……)」
しかし上条の幻想は、始めてわずか数十秒で破壊される。
- 34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/11(日) 23:23:36.10 ID:27qrCMrg0
-
上条「(な、あのハガーでパンチハメだと!? 有り得ねえ……どんな連射速度してんだコイツは?
移動や投げのタイミングの上手さも俺より遥かに上だし、これはどう考えても1クレで全クリできる腕前)」
美琴のスティックさばきはストⅡの時と同じく見事なもので、ほぼノーミスで次々と敵を倒していく。
最初はそのプレイに半ば見惚れていた上条だったが、しばらくしてある異変に気付く。
上条「(おかしい、アイツが上手いのはわかるが、いくらなんでも得点に差がつきすぎじゃねえか?
出てくるアイテムもアイツの方はダイヤや金塊といった高得点アイテムばかりだし……ん、高得点アイテム? そうか、そういうことか)」
上条が出した答え、それは。
上条「(コイツ、錬金術を使ってやがる!)」
錬金術。
それは、アイテムが出るドラム缶などの設置物を壊す際、0.33秒後にレバーやジャンプボタンを押すことにより、必ず高得点アイテムが出現するというスコア上げには欠かせない裏技である。
しかし同時に、使い過ぎると回復アイテムまで全て高得点アイテムに変わってしまうため、慣れてないプレイヤーが使い過ぎると痛い目に遭ってしまう、いわば諸刃の剣でもあった。
上条「(でもコイツは心得てやがる。確実に回復アイテムが出る設置物は(俺のために)わざと残し、それ以外の設置物だけ
確実に錬金……紳士だ、紳士すぎる。いや女だから淑女なのか?
とにかく、俺じゃ引っくり返ってもこのお嬢様には勝てねえ……いや、まてよ)」
ここで上条は、『あの時』のようにまたも悪魔に魂を引き渡すような戦法を考える。
上条「(『俺が』1クレクリア出来なきゃ俺の勝ちなんだ。いくらコイツが上手かろうと、俺さえ死んじまえば何の問題もねえ……。
そうさ、わざとやられちまえばいいんだ! 最悪その隙をついてここから逃げ出すことだってできるかもしれねえし。
罪もないコーディー君を失うのはゲーマーとして辛いが……スマン)」
そして明らかにプレイに手を抜き始める上条。敵の攻撃をあっさり受け、1機失った瞬間――
上条「いでェッ!」
右足に激痛が走った上条。思わずそこに視線を向けると、美琴が思いっきり足をぐりぐりと踏んづけていた。
- 35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/11(日) 23:24:23.53 ID:27qrCMrg0
-
上条「いきなりなにしやがんだ! 死んじまったのはそりゃ済まねえけど、だからって暴力は無しにしませんか?」
そう言ったものの、内心、上条の心臓は恐ろしいほどバクバクしていた。
まさか自分の考えが読まれたのか? いや、そんなはずはない、と上条は努めて冷静に振る舞おうとしたが、その心を見通しているかのように
美琴は上条に対して冷たい目線を向け、針を突き刺すような一言を告げる。
美琴「ねえ、アンタ、今わざとやられたわよね?」
こうかは ばつぐんだ!
かみじょうは どうようしている!
上条「な、なんのことでせうか? や、やだなあ、この上条さんがそんな卑怯なことするわけするわけないでしょう」
美琴「しらばっくれても分かるのよ。ねえアンタ、私が何の能力者かは知ってるでしょう?」
上条「そりゃ忘れようと思っても忘れられねえよ……電気の能力者だろ?」
美琴「正確にいえば電撃使い(エレクトロマスター)だけどね。さて、ここで質問。ゲームの筐体は何で動いているでしょう?」
上条「いや、そりゃゲームなんだから電気に決まってるだろ……って、お前まさか」
美琴「へえ、バカだと思ってたけど意外と鋭いのね。
そう、ゲームは電気で動く。そしてレバーやボタン操作を行うと、その際に発生する電気信号がゲームの基板に伝わり、
キャラの動きに反映されるの。まあ、本当はもうちょっと複雑なんだけど。
そして電撃使いである私はちょっとその気になればその電気信号を全部把握できる。
だからアンタの動きを見ていなくても、アンタがどんな操作をしたのかは全部お見通しなわけ。
当然手抜きなんかしたら一発で分かるわよ」
上条「そんなのチートすぎじゃねーか! ってことはもしかして、この前のストⅡの時も……?」
美琴「ああ、勘違いしないでよ。毎回そんなことしてたら対戦の面白みが全くないじゃない。
普段はあえて電気信号は見ないようにしてるわよ。あの時のアンタみたいなマナー違反を除けばね」
上条「マナー違反……って待ちガイルのことか!?」
美琴「そうそう。あんまりムカついたから操作パネル通さず直接電気信号を(ゲーム基板に)送っちゃったわよ」
上条「あの時のザンギエフ、やたら反応がおかしいと思ったらそういうことだったのかよ!
レバー、ボタン通さずにキャラ操るような奴にそりゃ勝てるわけねえよな……不幸だ」
美琴「はいはい無駄口はここまで。まあそんなわけだから、今度手抜きなんかしたらただじゃおかないわよ」
上条「ぐ、具体的には?」
恐る恐る美琴に尋ねる上条。すると美琴はこの上ない満面の笑みで
美琴「この場で消し炭にするから」
上条は悟った。俺はもう積んでいる、と。
- 36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/03/11(日) 23:24:56.73 ID:27qrCMrg0
-
15分後。
上条「(スゲェ、俺という足でまといがいながらもう最終ステージとは。
あのアビゲイルもあっさり倒しちまったし、こりゃもう間違いねえな。
ああ、俺の人生のタイムリミットがまもなく訪れようとしているのか……。うう、涙で前が見えねえ)」
美琴「ちょっと動きが鈍いわよ。まさかアンタ、ここまで来て」
上条「いえいえそんなことありませんよお嬢様! お願いだからバチバチッて火花飛ばすのはやめて!」
美琴「まあいいわ。もう少しでエンディングなんだし急ぐわよ」
上条「(ハア、死ぬかと思った……。いや、クリアしたらしたらで死ぬから関係ねえのか? 不幸だ……)」
人は死ぬ間際に、これまでの人生の思い出が走馬灯のように駆け巡るとよく言われている。
それは上条にとっても例外ではないようで、上条はこれまで自分の人生で起こったことを振り返っていた。
上条「(ああ、たった15年の人生か……長いようで短かったような気がするというかなんというか。
ストⅡもまだまだやり込みきれてねえし、他のゲームだって……って俺、思い出すのゲームの思い出ばっかだな。
うう、もっとゲームしたかったぜ)」
そして、上条は今のシチュエーションからある一つの思い出に突き当たる。
上条「(そういや、状況が状況なだけに全く嬉しくないが、女子と肩を並べてゲーム、か。何だかあの頃のことを思い出すな)」
それは、上条が小学校に上がる前、まだ『外』にいた頃の話。
- 47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/02(月) 02:12:10.20 ID:cZa5yRpA0
- では、投下します。
-----------------------------------
疫病神。
それが、『外』にいた頃の上条のあだ名だった。
生まれ持った不幸体質からついたその不名誉な呼び名は、当時の同級生や周りの大人から忌避されるにはあまりに充分過ぎた。
幼稚園ではいじめられ、外で遊んでくれる友達もいない。
そんな上条の心の支えになっていたのは、家から少し離れたところにある、閑古鳥が鳴く古びた駄菓子屋だった。
上条「おばあちゃん、これとこれちょうだい」
老婆「はい、30円。上条ちゃん、いつもありがとうね」
上条「……どうも。それよりおばあちゃん、僕のこと、その……怖くないの?
僕がなんて呼ばれてるか、おばあちゃんも知ってるでしょ?」
老婆「こんな可愛い子のどこが怖いもんか。
私はそんなことより、こんな寂れたばばあのお店に来てくれる大事なお客さまがいなくなることの方がよっぽど怖いもんさ」
上条「……ありがとう、おばあちゃん」
老婆「こら、いい年した子が泣くもんじゃないよ。男の子だろ?」
上条「…………うん、ごめんなさい」
- 48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/02(月) 02:12:52.10 ID:cZa5yRpA0
-
外に出た上条は、店の軒下にあるゲーム筐体に目をやる。
当時は駄菓子屋にゲーム筐体が置いてあることは珍しくなく、この店でも6台のゲーム筐体が置いてあった。
とはいえ、閑古鳥が鳴く駄菓子屋とあって、置いてあるゲームは古いものばかり。
それでも普段辛い思いばかりしている上条にとっては、どれもまるで宝石箱のようだった。
上条「(よし、今日はファイナルファイトにしよう。でも、いつも2面のソドムでやられちゃうんだよなあ……。
いつかは3面以降のステージも見てみたいな)」
10分後。
上条「(やった、1面のボスを初めて1機も死なずにクリアできたぞ! この調子なら、今日こそはソドム倒せるかも)」
さらに10分後。
上条「(うう、やっぱりソドムは強いなあ。残機もないし、もう一発もらったらゲームオーバーだよ……。
でもあっちの方も残り体力少ないし、もしかしたらいけるんじゃ?)」
上条は夢中だった。
いつも苛められている上条にとって、ゲームをやっている時だけが辛いことも悲しいことも忘れられる唯一の時間だった。
限られたこの至福の中で、ただただ上条はゲームにのめり込んでいく。
だから、気付かなかった。
上条「(やった、ついにあのソドムを倒したぞ! 初めての3面……一体どんな)」
??「ねー、おにいちゃん、なにやってるの?」
上条のすぐそばで、上条のプレイをじっと見ている存在がいたことを。
- 49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/02(月) 02:13:26.85 ID:cZa5yRpA0
-
上条「!? うわ、ビ、ビックリした! き、君は誰………ってカエル!?」
上条に声をかけてきた相手。それはカエル――ではなく、顔が隠れてしまうほど大きなカエルのぬいぐるみを両手で大事そうに抱えた、小さな女の子だった。
女の子「えっとね、ターちゃんはあそびにきたの。でもあんまりひとがいなくてつまんなかったの。
だからね、あんまりいったことがないところにいってみたの。そしたらね、えっと……」
上条「(この子、やっぱり見たことない、よなあ。僕より1つ、いや2つぐらいは下っぽいけど……。
それにこの子、『疫病神』の僕が目の前にいるのに、なんで平気なんだろう)」
普段から顔を見ただけで大抵の人に避けられる上条にとって、誰かに近寄られるということはまずないことだった。
滅多にない体験に対して、当然の疑問が口を付いて出る。
上条「ねえ、君……僕を見て、何ともないの?」
女の子「??」
上条の問いに対し、目の前の女の子は不思議そうに首を傾げた。
上条「(……この分だと、僕が『疫病神』って呼ばれてること知らないみたいだな。それにこの子、ゲーム好きなのかな?)」
『疫病神』を知らないことに安堵した上条は、目の前の女の子に興味を持ち始める。
上条「ねえ、君、ゲーム好きなの?」
すると女の子は不思議そうな表情で
女の子「ほへ? ゲームってなに?」
予想してなかった回答に、上条は目を丸くする。
上条「え、ゲーム知らなくて声かけたの……? 僕が今やってるやつだよ。キャラを動かして悪い奴らを倒すんだ」
女の子「ふーん。なんだかよくわからないけどおもしろそう!」
上条「……なら、やってみる?」
女の子「え、いいの?」
上条「うん、いいよ。僕はソドム倒せただけでもかなり満足してるし」
女の子「? そどむ?」
上条「ああ、気にしなくていいよ。えっと、じゃあこのゲームの操作なんだけど、レバーとボタンがあって、
このボタンを押したら攻撃、このボタンを押したらジャンプ、それで……」
- 50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/02(月) 02:14:17.63 ID:cZa5yRpA0
-
3分後。
女の子「?? よくわからないけど、とにかくやってみる!」
上条「(やっぱりゲーム初めての子に、これはちょっと無理あったかな……。それに3面だし、多分すぐにやられちゃうだろうな)」
女の子はこれがゲーム初体験とあってか、レバーとボタンをデタラメにただガチャガチャしているだけの典型的な初心者プレイだった。
当然3面でそんなプレイが通用するはずもなく、あっという間に敵に囲まれ、なす術もなくキャラはボコボコにされていく。
上条「(うわ、やっぱり3面からってのはちょっと申し訳ないことしちゃったな。あ、でも何とかアンドレ1体のみになった。
ただアンドレはすごく体力あるし、攻撃翌力も高いからここまでかなあ)」
しかし直後、上条は信じられない光景を目撃する。
上条「(なんだあれ? パンチを数発打った後、一度反対方向にパンチを空振りしてもう一度パンチ打ってる……。
あれ、これってもしかしてハメなんじゃないか?)」
パンチハメ。
パンチ攻撃を途中まで続けた後、一度逆方向に攻撃を空振り再度攻撃を行うと、再び一段目の攻撃から始まることを利用し
永久に敵キャラにパンチを浴びせ続ける名前の通りのハメ技である。
このゲームの攻略に欠かせない裏技ではあるが、当時の上条はその存在をまだ知らなかった。
もちろんこれがファイナルファイトどころかゲーム初体験の女の子にとっても、そんな裏技を自らが実行しているとは思ってもいない。
レバガチャプレイが生み出した、あくまで偶然の産物だった。
上条「(スゴイ……これが出来るようになれば、ソドムどころかもっと先にだって……)」
女の子「えい! えい! この! この!えい! えい!」
- 51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/02(月) 02:14:44.76 ID:cZa5yRpA0
-
女の子「あーあ、おわっちゃった」
上条「(結局あの後はすぐに死んじゃったか……。でも満足してるみたいだし良かったのかな)」
上条「ゲーム、楽しかった?」
女の子「うん、とってもおもしろかった! ねえおにいちゃん、またこれできないの?」
上条「もう一度やろうと思ったら、お金を入れなきゃいけないんだ。君、お金持ってる?」
女の子「おかね? たしかママからもらったのがあったような」
女の子はそう言うと服のポケットの中をゴソゴソと探りだした。
そして少しして、「あったー!」の嬉しそうな声と共にポケットから50円玉を取り出した。
女の子「ねえねえおにいちゃん、これでまたできるの?」
上条「うん、50円ならちょうど一回プレイできるよ。ほら、そこにお金を入れる穴があるよね? そこに50円玉を入れるんだ」
女の子「えっと、こう?」
女の子は言われるままに50円玉をコイン投入口に入れる。
するとチャリンというコインの落下音と共に軽快なクレジット投入音が鳴った。
- 52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/02(月) 02:15:16.52 ID:cZa5yRpA0
-
上条「うん、これで大丈夫。あとはスタートボタンを押せばプレイできるよ」
女の子「スタートボタン、ってどれ?」
上条「そこの小さなボタンだよ。それを押したらキャラクターの選択画面が出るから、好きなキャラを選んでみて」
女の子「えっと、このボタンをおして……うわ、おとこのひとがみっつもでてきた。どれでもいいの?」
上条「本当はキャラによって色々と違いはあるんだけど……初めて選ぶんだし、なんとなくでいいから気に入ったキャラを選ぶといいと思うよ」
女の子「うーん、じゃあこれにする!」
そう言って女の子が選んだのはハガーだった。
上条「へえ、意外だなあ。てっきりコーディーかガイを選ぶと思ったのに。ねえ、どうしてそのキャラを選んだの?」
女の子「えっとね、パパみたいだから!」
上条「そ、そうなんだ……(この子の父親ってプロレスラーなんだろうか?)」
女の子「あ、そういえばレバーとボタンがみぎにもういっこあるけど、これはなににつかうの?」
上条「これは二人でプレイする時に使うんだ。だから今は使わないよ」
女の子「ふーん……ねえ、おにいちゃんはもうやらないの?」
上条「僕? うーん、お金はあと1プレイ分ならギリギリ残ってるけど、君のプレイを邪魔しちゃ悪」
女の子「だったらいっしょにやろうよ! ひとりでやるよりふたりでやるほうがたのしいよ?」
上条「え?」
- 53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/02(月) 02:15:49.32 ID:cZa5yRpA0
-
上条は戸惑っていた。
いつも孤独な上条は、誰かと一緒にゲームをするどころか誘われることすら今まで一度もなかった。
初めての体験を前に、好奇心はもちろんあったが、未知への恐怖の方が前に出てしまう。
上条「いや、僕はいいよ……。さっきやったし、君のプレイをじっくり見てるよ」
女の子「えー、わたしのやってるところなんてみててもつまんないよ。いっしょにやろうよ、ねー」
上条「いや、でも……」
女の子「いっしょにやろうよー」
上条「まいったなあ……」
上条の拒否反応に対しても女の子は一歩も引こうとしない。
その様子を見て、しばらくした後上条は諦めたように溜息をつく。
上条「……しょうがないなあ。僕も一緒にやるよ」
女の子「ほんと!? やったー、えへへ」
そう言って女の子は満面の笑みを上条に対して浮かべた。
上条「(この子、本当に嬉しそうだなあ。……僕も、あんな風に笑ってた時があったのかな)」
女の子「? おにいちゃん、どうかしたの? わたしのかおになにかついてる?」
上条「いや、何でもないよ。それじゃ一緒に始めようか」
『一緒に』。
その言葉を発した瞬間、上条の心の中に、今までになかった新しい感情が芽生えていた。
ただ、上条自身はそのことには気付いてはいなかった。
- 54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/02(月) 02:17:04.07 ID:cZa5yRpA0
-
コーディーを選んで追加参加した上条は、女の子と一緒にゲームを進めていく。
開始直後――
上条「(二人プレイだと随分筐体が狭く感じるなあ。ちょっと窮屈かも)」
女の子「えへへー。なんだかわくわくしちゃう」
最初の敵との戦闘で――
上条「(まあ、さすがにここは大丈夫だよなあ。適当にパンチさえ振ってればなんとかなるし)」
女の子「え、てきだー。うりゃうりゃー」
上条「ちょ、ちょっと、僕にまで攻撃当たってるよ! というかこのゲーム同士討ちありなの!?」
女の子「どうしうち?」
上条「い、いや、言葉の意味はいいからとにかく少し離れて――ってあ、ゴメン! 筐体から離れるって意味じゃないから!」
最初の敵を全滅させて――
上条「(うう、同士討ちはキツかったな……あの子のサポートもしながらだったし、思ったより体力が減っちゃったよ。
もう少ししたら全回復アイテムの肉があるからいいんだけど、そこまで持つかなあ)」
次の場面に移動後、敵に囲まれて――
上条「(えっと、あの子が右側の敵を攻撃してるから僕は左側、と。
こういう時、二人プレイってのはありがたいなあ……ってあの子まで左側の敵を攻撃しだしちゃった!?)」
女の子「おにいちゃん、わたしもそっちにはいるー」
上条「いや、気持ちはありがたいんだけど、そうなると右側の敵がノーマークに、それにまた同士討ちの危険性が……ってあぁー」
何とか次の場面に移動して――
上条(うぅ、なんとか一機も死なずにここまで来れたよ……。二人プレイの場合、肉も二つあるみたいだし、早く肉取って全回復しなきゃ。
でも、少し先に敵がいるからなあ。肉を取るのはそいつらを倒してからにしよう)」
いつものプレイの癖で肉を画面端に残し、敵を倒そうとする上条。
しかし忘れてはならなかった。これが二人プレイで、しかももう一人は何も知らない初心者だということを。
女の子「あ、おにいちゃんまってー、さきにいかないでよー」
女の子も移動することによって、画面がスクロールする。つまり
上条「うわああああ肉が消えたあああああああ!!!!!!」
女の子「?」
- 55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/02(月) 02:17:37.62 ID:cZa5yRpA0
-
初めての二人プレイ。初めての他人とのプレイ。
それは、一人でのプレイに慣れていた上条にとっては色々な意味であまりにも刺激的すぎた。
上条「(はあ、二人プレイって単純に楽になるのかと思ってたけど、結構大変なものなんだなあ)」
今までになかった気苦労――それは、ゲームをしていて初めて覚える感情だった。
本来なら不快に感じてもおかしくないはずの感情。
上条「(………………………でも)」
女の子「このー、このー、えーい!」
上条「(楽しい、な)」
そこには、普段上条が見せることのない笑顔があった。
- 64 :12012/04/10(火) 00:51:54.90 ID:9Orqrb880
- では、投下します。
女の子「あーあ、またおわっちゃった」
結局、上条達は2面の途中でゲームオーバーとなった。
上条「実質初めてでここまでいければ上出来だと思うよ。僕なんか初めてやった時は1面で死んじゃったし」
女の子「そうなの?」
上条「うん。レバーやボタンの使い方もさっきよりずっと上手だったし、下手くその僕がいうのもなんだけど、
とても初心者とは思えなかったよ」
女の子「そう? えへへ、なんだかうれしいかも。でも、わたしもうおかねないし、これいじょうできないよ?」
上条「また今度やりに来ればいいよ。僕なんかよりよっぽど上手くなれるよ」
女の子「うん、またくる! ねえ、そのときはもちろんおにいちゃんもいっしょだよね?」
上条「え? いや、僕もさすがに毎日ここにくるわけじゃないから約束はできないけど……」
女の子「えー、おにいちゃんといっしょじゃないとやだー」
上条「まいったなあ……」
上条が困ったそぶりをしていると、女の子は思いついたように手をポンと叩く。
女の子「そうだ、わたしね、おこづかいもらえるのっていつもすいようびなの。
そのひはかならずここにくるから、おにいちゃんもそのひはかならずここにきて?」
上条「え……?」
女の子「だめー?」
- 65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/10(火) 00:52:27.70 ID:9Orqrb880
-
上条は複雑だった。
初めての他人とのプレイ。知らない女の子とだったとはいえ、それは上条にとってかけがえのない大切な思い出になった。
またこれからもこんなことができるなら、それはきっと夢のようだろう、と上条は思った。
でも、同時に思う。
目の前の女の子は、自分が『疫病神』であることを知らない。
もし、そのことが知られてしまったら、周りの人達のように、自分に対して冷たい目線を投げかけてくるのではないか。
上条にとって、それは何よりも恐ろしいことだった。
思い出は思い出のままに。
自分の中に残るこの女の子の表情は、いつでも笑顔であって欲しいから。
だから――
上条「ごめん、やっぱり」
女の子「むにゅー」
上条「ぶ!? ア、ハハ、アハハハハハ!」
上条が見たものは、両手で顔をグイッと思い切り寄せた女の子のなんともいえないほど変な顔だった。
予想外の不意打ちに、さすがの上条も笑いが止まらず、しばらく苦しそうに笑い続けるしかなかった。
- 66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/10(火) 00:53:19.26 ID:9Orqrb880
-
女の子「えへへー、おもしろかった?」
上条「いや……アハハ……どうして……ハハハ……いきなり……そんなことしたの……?」
先ほどの余韻を引きづりながら、何とか女の子に問い掛ける上条。
女の子「えーとね、おにいちゃんがなんだかむずかしそうなかおしてたから。
よくわかんないけど、じんせいってわらってたほうがたのしいんだぞってパパもいってたの。
いまのおにいちゃん、すごいたのしそうなかおしてた!」
上条「…………そっか」
なんて自分はバカなんだろう。上条はそう思った。
最初から最悪の結末を予想して、何が楽しいんだろうか。
それが怖いから逃げるなんて、どんなにもっともらしい理由をつけてもただの臆病者でしかない。
なら、その時が来るまで笑っていた方がよっぽどいい。
きっと、この女の子と一緒なら少なくともその時までは笑っていられるから。
今までになかった感情を、これからももっと味わえるから。
女の子「そういえばさっきのはなしのことわすれてた! ねえおにいちゃん、すいようびのことなんだけど――」
上条にもう、迷いはなかった。
- 67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/10(火) 00:53:51.74 ID:9Orqrb880
-
約束を交わしたところで、お金の残ってない二人は駄菓子屋を後にすることにした。
女の子「えへへー、つぎのすいようびがたのしみだなー。あ、そういえば、おにいちゃんって名前はなんていうの?」
上条「あ、そういえばまだ名前言ってなかったっけ。えっと、僕の名前は上じょ――」
そこで、あることに気付いた上条は口を止める。
上条「(あっ……名前を教えたらそこから僕が『疫病神』ってことがバレちゃうんじゃないか?)」」
女の子「? なんでとちゅうでとめちゃったのー?」
上条「あ、いや、ゴメン、えっとね……」
上条「(どうしよう……名前聞かれて答えないなんて間違いなく怪しまれるし、素直に答えたらそれはそれで問題あるし)」
女の子「ねーってばー」
問い詰められて焦った上条は、思わず苦肉の策に出た。
上条「まーくん」
女の子「へ?」
上条「僕は『まーくん』って友達から呼ばれてるんだ。だから君もこれからはそう呼んでよ」
真っ赤な嘘だった。
友達がいない上条にとって、このような愛称で呼ばれたことなど一度もなかった。
それでも本名を知られたくない上条は、こうすることしかできなかった。
- 68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/10(火) 00:54:25.78 ID:9Orqrb880
-
女の子「えっと……『まーくんおにいちゃん』?」
奇妙な呼び名に、上条は苦笑する。
上条「いや、『お兄ちゃん』の部分はいらないよ。それに僕一人っ子だし、これ以上『お兄ちゃん』って言われるとなんだか背中がむず痒くなっちゃうよ」
女の子「わたしもひとりっこだよ? あーあ、おにいちゃんとわたしがきょうだいだったらよかったのに」
上条「ハハハ………」
思わずまた苦笑する上条。
上条「(でも、僕にも弟か妹がいたら、こんな風に仲良く遊べたのかな)」
女の子「あー、またむずかしいかおしてるー。また『むにゅー』しちゃおうかな」
上条「いや、あれはもう勘弁してよ! う、思い出すだけでまた笑いが」
女の子「えへへ、じゃあやめてあげる」
上条「ハァ、敵わないなあ……。とにかく、僕のことはこれから『まーくん』って呼んで」
女の子「うんわかったー、まーくんおにいちゃん」
上条「わかってないなあ……」
- 69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/10(火) 00:54:51.33 ID:9Orqrb880
-
上条「そうだ、せっかくだからさっき買ったこれ、君にあげるよ」
そう言って上条が取り出したのは、ソースせんべいと梅ジャムだった。
そして梅ジャムをさっそく開けると、ソースせんべいの上に中身を広げ、もう一枚のソースせんべいをさらにその上に乗せた。
最後にサンドしたソースせんべいをグルグル回して中のジャムをまんべんなく広げていく。
上条「この食べ方、父さんに昔教えてもらったんだけど、僕の大のお気に入りなんだ。はい、食べてみて」
そう言って、上条は出来上がったものを女の子に手渡す。
女の子「わあ、わたしこんなのたべたことないかも。それじゃ、いっただっきまーす!」
嬉しそうな声と共に、女の子は上条が作ったせんべいサンドをパリパリモグモグと元気良く食べ始めた。
上条はその様子を見て安心していたが、少しすると女の子は食べる動きを止めてしまう。
上条「(あれ、もしかして合わなかったのかな……。この食べ方ってやっぱり変なのかな)」
上条「ね、ねえ、大丈夫? おいしくなかったなら無理せずに」
女の子「すっごくおいしい!!!!!!」
上条「え?」
ここまで14レス
女の子「ふわふわしてて、ぱりぱりしてて、くちのなかがあまくて、でもすっぱくて……。
なんだかよくわからないあじだけど、わたしこれだいすき!」
上条「ホント!? よかった、気に入ってもらえて」
女の子「ねー、これわたしもつくりたい! これってどこにあるの?」
上条「この駄菓子屋の中で買ったんだけど……。今日はお互いお金がないし、また今度ね」
女の子「えー……」
心の底からガッカリしたのか、女の子はうなだれて落ち込んでしまう。
上条「ほ、ほら、そんなに落ち込まないで? そうだ、次会ったらまたこれ食べさせてあげるから。もちろん僕のお金で」
すると女の子は、先ほどの態度が嘘だったかのように、くるんと頭を上に向けた。
それも、目を思いっきり輝かせながら。
女の子「……ホント?」
上条「うん、ホントだよ」
女の子「ホントにホント?」
上条「うん、約束するよ」
女の子「なんこでもいいの?」
上条「うん、なんこでも…………えっ!?」
返答した直後、自らの過ちに気付いた上条だったが、もう遅かった。
女の子「えへへー、そっかー。なんこでもいいんだー、やったー!」
一瞬否定しようとした上条だったが、目の前の無邪気に喜ぶ女の子を見ると、もはやこれ以上は何も言うことが出来なかった。
上条「(ハァ……今度の水曜は、貯金箱からお金おろしてこようかなあ……)」
- 70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/10(火) 00:55:45.98 ID:9Orqrb880
-
今度こそ駄菓子屋を後にした二人は、しばらくは同じ帰路だったが、少しして別れることになる。
上条「じゃあ、僕はあっちの道だからここまでだね」
女の子「えー」
上条「こればっかりはしょうがないよ」
上条「(でも途中で道が分かれてよかったな……。
本当は家まで送ってあげたいけど、一緒にいるところを見られたら、そこから『疫病神』のことがバレちゃうかもしれないし)」
女の子「うん、わかった……。じゃーねー、まーくんおにいちゃん」
上条「うん、君もじゃ……ううん、『ターちゃん』、じゃあね」
自分のことを名前で呼んでくれた相手に名前で返さないのは失礼だと思った上条は、途中から名前で言い直した。
しかし、返ってきた言葉は耳を疑うものだった。
女の子「わたし、『ターちゃん』ってなまえじゃないよ?」
上条「え?」
- 71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/10(火) 00:56:28.73 ID:9Orqrb880
-
上条「あれ? さっき会った時、自分のこと『ターちゃん』って言ってたよね?」
女の子「え、『ターちゃん』はこの子のことだよ?」
そう言って女の子が指を差したのは、左手に抱えている大きなカエルのぬいぐるみだった。
上条「ぬい、ぐるみ……?」
女の子「えへへ、かわいいでしょ。これね、このまえおとうさんからプレゼントしてもらったんだー。
おとうさん、いそがしくてあんまりいっしょにいられないから、これをおとうさんだとおもってかわいがってくれって。
ねー、ターちゃん?」
上条「(カエルのぬいぐるみがお父さん代わりって……この子も大変なんだな)」
上条「で、でも僕が尋ねた時『ターちゃんはあそびにきたの』って言ってたような」
女の子「え、だってまーくんおにいちゃん、この子(カエル)のことについて聞いてきたんじゃないの?
だからターちゃんのことしょうかいしてあげたの」
上条「あ、いや、いきなりカエルが出てきて驚いたのは事実だけど……」
女の子「でしょー?」
上条「…………」
言葉を失う上条。
女の子「でも、そういえばわたしのなまえまーくんおにいちゃんにいってなかった!
ひとになまえをきくときはじぶんからさきにいいなさいってママからもいわれてたのに……ごめんなさい」
上条「い、いや、謝らなくてもいいよ。勘違いしちゃった僕も悪かったんだし。
えっと、じゃあ君の名前、今度こそ教えてもらってもいいかな?」
女の子「うん!」
上条「(すごいいい笑顔だなあ……)」
女の子「えっとね、わたしのなまえはねー……」
- 72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/04/10(火) 00:56:55.32 ID:9Orqrb880
-
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上条「(懐かしいな……。あの子、今頃どこでどうしてるんだか――)って痛え!!!」
軽くノスタルジックに浸っていた上条だったが、足元を急に襲って来た激痛で我を取り戻した。
チラッと下を見ると、またも美琴が上条の右足を思い切り踏んづけていた。
美琴「ちょっとアンタ、さっきからボーっとしてんじゃないわよ! もしかして、懲りもなくまたわざと死ぬ気だったんじゃ……?」
上条「いやいやそんなわけないに決まってますから! お願いだからその右手のビリビリをしまってー!!」
美琴「……まあいいわ。もうベルガー(ラスボス)なんだし、気合い入れていきなさいよ。エンディング見たいんでしょ?」
上条「いや、そりゃ見たいことは見たいんですが」
美琴「なによ、その何か言いたそうな顔は」
上条「……なんでもないです」
上条「(はあ、これが俺の人生で正真正銘最後のプレイになっちまうのか。
しかもゲームがファイナルファイト(最後の戦い)だなんて、いくらなんでも出来過ぎじゃないんですか神様!?
せめて、出来ることなら)」
その瞬間、かつての思い出が上条の脳内を再び駆け巡って――
上条「(もう一度だけ、あの子とプレイしたかったな)」
数分後、ベルガーの断末魔がゲームセンター内に小さく響いた。
- 83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/06(日) 03:32:31.80 ID:nORAyO7B0
- では、今から投下します。
ファイナルファイトをクリアした上条と美琴はゲームセンターを離れ、人気のない河原にいた。
美琴「よし、ここなら誰の邪魔も来ないわね」
上条「来てくれた方が上条さん的にはありがたいんですが……」
美琴「いいから勝負しなさいよ勝負。約束したでしょ? ファイナルファイト1クレクリアしたらなんでも言うこと聞くって」
上条「うっ……」
自分が言ったことなだけにぐうの音も出ない上条は、大きな溜息を吐く。
上条「(もうこうなりゃヤケだ。どうせ散るなら男らしく、潔く散ってやる。
せっかくだから俺はこの男坂を登るぜ!)」
上条「いいぜ、相手になってやるよ。いつでもかかってきな」
何かが吹っ切れたように、急に強気になった上条。それを見て、美琴の表情も変わる。
美琴「言われなくても、こっちはずっとこの時を……待ってたんだから!!!!!」
その言葉と共に、美琴は身体中に纏わせた電気を一つの電撃の槍と変え、上条に叩きつけた。
ドォン!! という衝撃音が河原に響き渡る。
しかし――
上条「どうした、この程度かよ?」
上条には、傷一つ付くことはなかった。
- 84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/06(日) 03:33:54.45 ID:nORAyO7B0
-
上条「(怖えええええーーーー!!! あんなのマトモに喰らったら即地獄めぐりじゃねえか!!!
俺はまだ乱心した閻魔大王には会いたくねえぞ!?)」
先ほどの言葉とは裏腹に、上条の内心は全くもって穏やかではなかった。
心臓はその鼓動音が1つ1つ聞こえてくるほどバクバク鳴り、冷や汗も尋常でないほどかいている。
しかしその事を悟られたくない上条は、あえて強気で振舞う。それが、上条のせめてもの男としての意地だった。
美琴「やっぱり電撃は効かないか……なら」
美琴はそう言うと、右手に改めて電気を纏わせる。すると電気が生み出す磁力によって、地面から砂鉄が美琴の右手に集まり出した。
そして集まった砂鉄は、一つの大きな剣へと姿を変える。
上条「ちょっ……オマエ、エモノ使うのはズルいんじゃ?」
美琴「能力で造った物だもん。問題無し」
上条「いやそういう問題じゃなくてだな……げっ!」
その瞬間上条が見たのは、砂鉄の剣の近くに舞い降りてきた木の葉がスパッ! と音を立てて真っ二つになる姿だった。
自身がそうなってしまうことを軽く想像してしまった上条は、恐怖で顔面蒼白となってしまう。
美琴「ああそうそう、砂鉄が振動してチェーンソーみたいになってるから、触れるとちょーーっと血が出たりするかもね」
上条「どう考えてもそれじゃ済まないと思うんですけど!? っておわっ! 振り回して来んな!!」
砂鉄の剣をヒュンヒュン振り回してくる美琴に対し、上条は何とか紙一重で攻撃を避け続ける。
美琴「ちょっと、ちょこまか逃げ回るんじゃないわよ!」
上条「アホかお前は! こんなの逃げ回る以外の選択肢ねーじゃねーか!」
美琴「アホとは何よ失礼な! いいわ。コイツには、こんな事も出来るんだから!」
上条「な……剣が伸び…………っ!?」
上条との距離を詰めるように、砂鉄の剣はギュインとその身を伸ばした。
まるで獲物を狙う蛇が如く、剣は螺旋を巻きながら上条へと向かっていく。
美琴「(入った? 躱せるタイミングじゃ……)」
そして、剣が上条の身に突き刺さろうとしたその瞬間――
- 85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/06(日) 03:35:35.37 ID:nORAyO7B0
-
パンッ!!
その音と共に、剣は強制的に砂鉄へと戻された。正確には、上条の右手に触れた瞬間に。
上条「(うおお助かったー! というか今の刺さってたら明らかに『勝負あり』だったぞサムスピ的な意味で!)」
美琴「(当たる瞬間に止めるつもりだったけど……これも効かないか。でも、ここまでは予想通り)」
九死に一生を得た思いの上条だったが、その心臓は先ほどにも増して小刻みにビートを刻んでいた。
これ以上の戦いは耐えられそうもないと感じた上条は、美琴に対してやんわりと停戦を申し出る。
上条「しょ、勝負あったみたいだな。電撃も砂鉄の剣も効かなかったんだ。もういいだろ?」
藁をもすがる気持ちで、この申し出に応えてくれるよう上条は心の中で祈った。
しかし現実は残酷である。
美琴「さあ、それはどうかしら?」
上条「(まだ終わらせてくれないのかよこのお嬢様は! ん? なんか空中でジャリジャリって音が……)」
空を見上げる上条。そこで見たものは、先ほど砂鉄に戻したはずの剣の残骸だった。
上条「オマエっ!? まさか風に乗った砂鉄まで操…ッ」
ズズズズ…と音を立てながら砂鉄は再び剣状へと姿を変え、上条に対して襲いかかってくる。
上条「くっ、でもな。こんな事、何度やったって同じ結果じゃねーか!」
先ほどのリプレイを見るかのように、上条は砂鉄の剣による攻撃を難なく右手で打ち消していく。
しかし、上条は気付かなかった。美琴の狙いは別にあったことを。
- 86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/06(日) 03:36:30.65 ID:nORAyO7B0
-
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美琴「(私はこの時を待っていた! アンタに出来るその一瞬の隙を!)」
砂鉄の剣を迎撃することに集中していた上条は、完全に視点を美琴から外していた。
それを見計らっていた美琴は、瞬時に上条の背後を取る。
上条「……ったく。あれ? アイツはどこに……」
迎撃を終えた上条もようやく美琴が自分の視点から消えていることに気付いたが、もう遅かった。
背後から近づいてきた美琴に、上条は右腕を掴まれてしまう。
美琴「(取った!! このまま電流を直に流す! 飛んで来る電撃は打ち消せても、これならいくらアンタだって……)」
美琴は勝利を確信した。はずだった。
しかし目の前の男の能力(ちから)は、美琴の想像を遥かに超えていた。
美琴「(電流が……流れない……!?)」
- 87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/06(日) 03:38:08.40 ID:nORAyO7B0
-
美琴「(何なのよコイツーー!! はっ、マズッ!? これじゃ反撃が……)」
上条の右手を掴んでいるだけの美琴は、完全に無防備な状態だった。
上条はそれを見て、やや戸惑った様子ながらも残った左手の拳を振り上げる。
その瞬間、殴られることを察知した美琴は思わずビクッと体を縮こまらせてしまったのだが――
上条「ギャーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!」
美琴「????」
いきなり悲鳴を上げた上条は、バタッとその場に倒れた。
上条「マ……マイリマシター」
呆然とする美琴。
そのあまりの展開の前に、リーリーと鳴く虫の声と共に静寂がしばらくの間この河原を包み込んだ。
- 88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/06(日) 03:39:17.47 ID:nORAyO7B0
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上条「(見たか、上条さんのこのオスカー賞受賞クラスの演技を!
これでビリビリご所望の勝負も無事上条さんの負けで決着ついたわけだし、俺も死なずに済んだしで完璧だろ常識的に考えて!
さようならビリビリ、そしてこんにちは平穏な日常! やっぱりあなたは上条さんのことを待っていてくれてたんですね!
さて、ビリビリの様子は……と)」
確認のため、チラッと横目で美琴を見ようとした上条だったが――
美琴「ふ……ふ……」
上条「(アレ………なんか様子が…………?)」
美琴「ふ・ざ・け・ん・なぁぁッ!!!!!!!!!」
上条「だあああああああっ!!!!!!」
上条を待っていたのは、美琴の怒りの一撃だった。
- 89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/06(日) 03:40:13.77 ID:nORAyO7B0
-
美琴「マジメにやんなさいよっ!」
上条「な、この上条さんのオスカー賞ばりの演技が通じないと言うのか……ビリビリ、恐ろしい子」
美琴「あんた絶対私のことバカにしてるでしょ! それにさっきのはどういう了見よ!」
上条「いや……だってオマエ、ビビってたじゃん」
美琴「ビ、ビビってなんかないわよっ!」
顔を真っ赤にしながら、必死で否定する美琴。
しかし上条は、そんな美琴を挑発するように両手を自らの目の前に持って行き
上条「嘘つけっ! どう見ても涙目になってこんな風に、ビクってしてたら……はっ」
美琴「[ピーーー]ーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
上条「だあああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!」
- 90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/06(日) 03:42:14.45 ID:nORAyO7B0
-
何とか美琴の一撃を避けた上条は、美琴から逃げるべく河原を走っていた。
美琴「逃げんなーーーーーーっ!!!!!!」
上条「オマエ、さっきの直撃してたらフツー死んでたぞっ!!」
美琴「どうせ効かないんでしょーがあ! 私だって、今まで人に向けてこんなに能力使ったことないわよ!」
上条「何で俺だけーーーーっ!?」
美琴「ちゃんと私の相手をしろーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」
上条「不幸だーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
こうして上条と美琴の河原での(生死をかけた)追いかけっこは、一晩中続いたのだった――。
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結局上条に逃げられた美琴は、自らの住まいである常盤台中学生学生寮、203号室へと戻っていた。
黒子「お帰りなさいませお姉様。寮監の目を誤魔化すのも大変なのですから、夜遊びは程々にして欲しいですのー」
美琴の目の前に現れたのはルームメイトの白井黒子だった。
ネグリジェ姿の彼女は、眠たそうな目をこすりながら美琴に苦言を呈する。
美琴「別に……遊んでた訳じゃないわよ……」
肩で息をしながら心底疲れた顔をルームメイトに見せた美琴は、そのままベッドへ自らの体をダイブさせる。
美琴「登校時間まで寝かせてもらうわ。朝食はパスするからテキトーに理由言っといて。
アンニャロウ……いつか……かなら……ず……」
台詞も言い終わらないうちに、スピーと寝音を立てながら夢の世界へと入っていく美琴。
黒子は、そんな美琴を見て軽く溜息をつく。
黒子「もしかして、お姉様が前に言ってた『あの殿方』ですの?
夜通し追いかけっこするなんて非常識な行動をお姉様がとられるなんて。
お姉様ご自身自覚されてないようですが、黒子にはその方との諍いを楽しんでおられるように見えますのよ」
黒子の言葉が美琴に聞こえていたかどうかは定かではない。
しかし美琴の寝顔は、なぜか少し嬉しそうなものだった――。
黒子「わたくしとしては少々嫌な予感がしますけど……。まさかお姉様に限って……ねぇ」
- 98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:19:38.02 ID:wSKF33Iy0
- では、今から投下します。
キーンコーンカーンコーン。
授業の終わる鐘の音が校内に響き渡る。上条はそれを聞いて、安心したように両手を思いっきり上に伸ばした。
上条「あー、ようやく授業も終わったか。今日は久しぶりに補習もねえし、気分も高まるぜ」
土御門「カミやん……『久しぶり』って言葉に哀愁が漂うぜよ」
上条「ほっとけ」
青髪「そういやカミやん、さっきのHRの話聞いてたん?」
上条「ああ。確か近頃『連続爆破事件』が発生してるってやつだろ」
土御門「正確には『連続虚空爆破(グラビトン)事件』っていうらしいけどにゃー。
何でも、犯人はアルミを爆弾に変える能力を使ってるらしいぜい」
青髪「犯人はまだ目星もついてないそうやし、発生場所も無差別っていうんやから、ほんま危険極まりないわなー」
上条「確かになあ。最近ただでさえ大変なのに、そんなのにも出くわしちまったらたまったもんじゃねえよ」
土御門「ん? カミやん、最近大変な目にあってるのか? なんなら話してみるぜよ、友達だろ?」
青髪「そうや、ボクら三人『デルタフォース』の仲やないか」
上条「あ、いや、そこまで言うほど大変なわけじゃねえから気にするなって」
上条「(こいつらのことだ……。ビリビリ少女とはいえ女子中学生に追い回されてるなんて言おうものなら
『うわー、またカミやんにフラグが立ったー!』やら『カミやん、お前は今まで立てたフラグの数を覚えているのか?』とか
意味分からんこと言ってくるに違いねえ)」
青髪「そうなん……? なら話を元に戻すんやけど」
上条「ああ、済まねえな。話脱線させちまって」
青髪「いや、ええってええって。それでな、さっきのHRの時の小萌先生の顔なんやけど」
上条「そういや小萌先生、今にも泣きそうな目してたっけ」
- 99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:20:30.50 ID:wSKF33Iy0
-
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(小萌「――なのです。ですから皆さん、学校が終わったらなるべく寄り道はせず、まっすぐお家に帰って欲しいのです。
もし、皆さんに万が一のことがあったら…………もう、先生、とても…………ヒック、生きていけないのです…………」)
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土御門「ホント、あんなに俺達のこと想ってくれる担任なんて世界中のどこ探してもいないぜい」
上条「そうだよなあ。このクラスの担任が小萌先生で、俺達本当に幸せ者なのかもな」
青髪「何を当たり前のこと今更言っとるん? ボクは小萌先生を初めて見たその日から毎日が幸せでたまらんで?」
土御門「ロリコンは黙ってろだにゃー」
青髪「シスコンのつっちーにだけは言われたくないで。それにな、ボクは『ロリが』好きなんとちゃう、『ロリも』好きなんやでー」
上条「属性広いだけじゃねえか」
青髪「ああ、それにしてもホンマ、あの目に涙を浮かべてる小萌先生、最高にたまらへんかったわあ……。
ボク、先生のあの目をまた見れるなら、爆破事件に巻き込まれて全身グチャグチャにされてもかまへんで……
ああ、小萌先生……ボカァ……ボカァもう!!」
上条「ダメだこいつ、早くなんとかしないと……」
土御門「もう手遅れだにゃー」
- 100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:21:07.21 ID:wSKF33Iy0
-
青髪ピアス、土御門と別れた上条は自宅である学生寮への道……ではなく、その反対方向の道を歩いていた。
上条「(家の食いもん空っぽなんだよなあ。小萌先生には悪いけど、スーパーだけは寄ってかないとな……ん? 何だあの子?)」
上条が発見したのは、道の隅っこでションボリと肩を落としている見た感じ5、6歳ぐらいの小さな少女だった。
右手には、何やら店のチラシのようなものを持っている。
上条「(あの子、何だか困ってるみたい……だよなあ。
爆弾魔のこともあるし、このままここで一人にさせとく訳にもいかないよな)」
上条「なあ、君、どうかしたの?」
少女「え……?」
呼び掛けに応えた少女はクルリと上条の方に体を振り返ると、期待と怯えの両方が入り混じった複雑な表情で上条を見つめてきた。
上条「ああゴメン、決して怪しい者じゃないから。
ほら、学生証だってあるし、ただの善良な男子高校生ですよ…っと」
少女「そうなの?」
警戒心が少し解けたのか、少女は恐る恐る上条に尋ねる。
少女「あのね、わたし、ここにいきたいんだけど、みちにまよっちゃったの……」
そう言って少女は右手に持っていたチラシを上条に渡す。
上条「どれどれ……。へー、服屋に行きたいのか。
店の名前は……セブンスミスト? なんだ、ここから近くじゃねーか」
少女「おにいちゃん、ばしょしってるの?」
上条「まあ、そこそこ有名なところだしなあ。
万年金欠でエンゲル係数高めの上条さんには縁遠いとこですけど」
少女「? エンゲルけいすうってなーに?」
上条「子供にはまだ早い大人の言葉ですよ……」
- 101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:21:59.15 ID:wSKF33Iy0
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セブンスミストの場所を知っている上条は、少女をそこまで案内することにした。
道すがら、上条は先ほど借りたチラシに改めて目を通す。
チラシ(今、学園都市の流行りの最先端はこれ! 90'sリバイバルフェア実施中!)
上条「(はー、そんなのやってるのか。
そういやあのビリビリ中学生、ルーズソックス穿いてたよな。あれも確か90年代に流行ったやつだっけ?
学園都市の流行りは『外』の流行とは少しズレてるって前に聞いたことはあったけど、ホントその通りなんだな。
どうせならゲームの流行りもそうなってくれりゃなあ……ま、有り得ないことですけどね)」
少し自嘲しながら、再度チラシに目を通す上条。しかし当然ながら上条の目を引くようなものは載っていない。
上条「(分かってはいたが、どうしても食指がなあ……大体服なんて生きるためには数着あれば充分じゃないんですか?
まあ、上条さんに服屋なんて猫に小判、豚に真珠みたいなもんだ。
この子を送ったらさっさとスーパー行かないとな……ん?)」
上条の目が止まった。
服に興味がないはずの上条が、チラシのある文面に目を釘付けにされる。
その内容とは――
チラシ(特別企画としてなんと、90年代に大ヒットを飛ばした『あのゲーム』が期間限定、ここセブンスミストで稼働中!
服と共に、当時のゲームの流行りの最先端を君も体験しよう!)
- 102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:22:44.34 ID:wSKF33Iy0
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時を同じくして、二人の女子中学生がセブンスミストに向けて歩を進めていた。
佐天「いやー、服買いに行くのって久しぶりだなー。テンション上がっちゃうね、初春?」
初春「そうですねー。でもお金の関係もありますし、買い過ぎは禁物ですよ佐天さん」
佐天「チッチッチッ、ダメだね初春は。
もうすぐ夏なんだし、ワンピース、キャミソール、ミニスカート、ハーフパンツ、それに水着……。
この年でファッションに力入れないなんて、女捨てちゃってるようなもんだよ?」
初春「悪かったですね、どうせ私は女捨ててますよ」
佐天「ああゴメン初春、ヘソ曲げないでよー。どれ、そんなご機嫌ナナメな初春の今日のパンツは何色かなー、と」
初春「佐天さん、何いきなり人のスカートめくろうとしているんですか!?」
ギャアギャアと騒がしげに歩く二人だったが、佐天がある人影に気付く。
佐天「あれ、御坂さんだ。おーい、御坂さーん!」
- 103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:24:24.78 ID:wSKF33Iy0
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佐天に呼び止められた美琴は、和やかな笑顔を二人に見せる。
美琴「あら、佐天さんに初春さんじゃない。どうしたの、こんな所で?」
佐天「私達、これからセブンスミストに夏服買いに行くところなんです」
美琴「へえ、そうなんだ。……そうだ、どうせなら私も一緒していいかしら?」
佐天「え!? そりゃもちろん大歓迎ですけど、私達行こうとしてるの、フツーのチェーン店ですよ?
常盤台の御坂さんが行くようなところじゃ……」
美琴「いや、あんまりそういうの関係ないわよ。
ウチって外出時は制服着用が義務付けられてるから服にこだわらない人結構多いし」
佐天「そうなんですか?」
美琴「ええ。だから服買いに行くっていっても、大抵は部屋着とか下着ぐらいだけなんだけどね」
初春「何だか少し寂しいですね……。お嬢様学校も大変なんですね」
美琴「もう慣れちゃったし、これはこれで楽でいいわよ」
佐天「そういうもんですかー。あ、そういえば白井さんは今日は一緒じゃないんですか?」
美琴「あの子は『連続虚空爆破事件』の対応で忙しいみたい」
佐天「あー、風紀委員(ジャッジメント)ですもんね。あれ? じゃあなんで初春はここにいるの?」
初春「今日は非番なんですよ。糸口も掴めてないような状況ですから、根を詰めすぎるより一度リセットするのも大切だそうで」
佐天「そっか。早く犯人、見つかるといいね」
初春「はい。これ以上の被害は防がないといけませんから。……すみません、少し湿っぽくなっちゃいましたね。
こんな所でずっと立ち話もなんですし、そろそろ行きましょうか」
美琴「ええ」
佐天「賛成ー」
- 104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:25:29.83 ID:wSKF33Iy0
-
セブンスミストに着いた三人は、早速店内の商品を色々と見て回っていく。
佐天「お、紐パン! 初春、こんなのどうじゃ?」
初春「はい!? 無理無理無理です! そんなの穿けるわけないじゃないですか!!」
佐天「でも、これならあたしにスカートめくられても、堂々と周りに見せつけられるんじゃない?」
初春「見せないしめくらないでくださいっ!!」
佐天「ありゃ残念。そういえば御坂さんは何を探しに?」
美琴「あ、私はパジャマかな」
初春「確か寝巻きはこっちの方に……」
美琴「最近、色々回ってるんだけどあんまいいのが置いてないのよねー」
パジャマコーナーに移動した美琴は、軽く愚痴りながら何気なく展示品に目を向けた。
しかしその瞬間。
美琴「(な、なに、アレ…………か、か、可愛い!!)」
美琴が心を奪われたもの。
それはピンクの柄に花のシルエットがところどころに散りばめられ、上着の裾にはフリルもついた実に可愛らしいパジャマだった。
展示品を指差しつつ、佐天と初春に同意を求めようとする美琴だったが――
美琴「ね、ね、コレかわ……」
佐天「アハハ、見てよ初春このパジャマ! スッゴイセンス」
美琴の幻想はほんの数瞬でぶち壊された。
- 105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:26:32.87 ID:wSKF33Iy0
-
初春「小学生の時くらいまでは、こういうの着てましたけどねー」
佐天「でも、こんな子供っぽいのいまどき着る人いないっしょ。ましてや中学生にもなって。ねえ、御坂さん?」
美琴「そ……そうよね! 中学生にもなってこれはないわよね!」
佐天「ですよねー。あ、あたし水着も見ておこうと思うんですけどいいですか?」
美琴「え、い、いいわよ」
初春「ええと……水着コーナーはあっちですね。
じゃあ御坂さん、私達は水着コーナーにいますんで、じっくりパジャマ選んでくださいね」
美琴「え、ええ」
初春と佐天が水着コーナーに向かうのを見届けた美琴は、再び先ほどの展示品に目を向ける。
美琴「(いいんだモン。どうせパジャマなんだから他人に見せるわけじゃないし!
初春さん達は向こうにいるし、一瞬、姿見で合わせてみるだけなら……)」
喉をゴクリと鳴らしつつ意を決して展示品を手にとった美琴は、そろりそろりと鏡の前に向かって行き――
美琴「(それっ!!)」
上条「何やってんだオマエ」
美琴「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
背後からの予想外の声に、美琴は声にならない叫びを上げるしかなかった。
- 106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:27:21.17 ID:wSKF33Iy0
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すかさず持っていたパジャマを恥ずかしそうに後ろに隠した美琴は、顔を真っ赤にしながら上条に問い掛ける。
美琴「な、な、何でアンタがこんな所にいんのよっ!!」
上条「いちゃいけないのかよ」
不服そうに返答する上条。
するとそのタイミングで、小さな少女が上条と美琴の元に駆け寄ってきた。
少女「おにーちゃーん、このおようふく……あ、トキワダイのおねーちゃんだ」
美琴「あれ、あなた確か、この前のカバンの子?」
上条「なんだ、コイツとも知り合いなのか?」
少女「うん、このまえわたしがなくしたカバン、いっしょにさがしてくれたの」
上条「へえ……お前にもそういうとこあんのな。意外だ」
美琴「アンタ、私のことどういう目で見てんのよ! それにさっきの『おにいちゃん』って……アンタ妹いたの?」
上条「ちがう。俺はこの子が服屋探してるっていうから案内しただけだ」
少女「あのね、オシャレなひとはここにくるってテレビでいってたの。わたしもオシャレするんだもん!」
美琴「へえ、そうなんだ。可愛い服、見つかるといいわね」
少女「うん!」
返事に応えるように少女に向けて優しい笑みを浮かべた美琴だったが、すぐに上条の方を振り向く。
怨念が滲み出たかのようなその表情は、まるで百面相の如き変わり様だった。
美琴「さて、それはさておき、この前の決着を今ここで」
上条「オマエの頭ん中はそれしかないのか……。大体、こんな子供の前で始めるつもりかよ」
美琴「うっ……」
正論を言われた美琴は、思わず顔を真っ赤にしてしまう。
上条「文句があるならすぐに視界から消えてやるから。じゃーな」
そう言って、上条は背を向けてこの場から立ち去って行った。
少女「よくわかんないけど、なかよくしなきゃダメだよ?」
美琴「…………」
- 107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:27:57.62 ID:wSKF33Iy0
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初春「どうかしたんですか?」
ここで美琴に気付いた初春と佐天が、上条と入れ替わるように美琴のところに寄ってきた。
美琴「…………別に」
少女「あ、フーキイインのおねえちゃんだ」
初春「あら、あなたはこの前の……コラ、いきなり抱きつかれたら驚いちゃいますよ」
少女「えへへー」
美琴「……私、ちょっと外すわね」
そう言って、バツの悪い顔をしながら美琴は一人でトイレへと向かった。
美琴「(我ながら見境ないなあ……。どうもアイツが相手だと調子狂うのよね。
ん? あそこに張ってあるの何かしら?)」
トイレを済ませ手を洗っている最中、壁に張り紙がしてあることに気付いた美琴。
何気なくそれを眺めていた美琴だったが――
美琴「こ、これは……」
- 108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:28:36.05 ID:wSKF33Iy0
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その頃、上条は『あのゲーム』が稼働している特設コーナーにいた。
畳数畳分のそれほど広くないスペースに、ポツンと一台のゲームが置かれている。
上条「(周り誰もいねえな……まあすぐプレイできるのはいいんだが、同志がいないのはちと寂しいな)」
beatmania。
90年代の終わりに突如ゲームセンターに現れ、空前の大ヒットを飛ばした所謂『音ゲー』の記念すべき第一作目である。
上から降ってくるオブジェクトを叩くことによって音楽を演奏するというこれまでになかった斬新なゲーム性は
当時のゲーマーを虜にし、一時は社会現象になるほどだった。
当時ほどの人気はさすがにないものの、今でも派生作品であるbeatmaniaIIDXはシリーズを重ね続けており、実に息の長い作品でもある。
上条「(昔『外』にいた時、デパートとかで少しだけやったことあったっけな。
それにしてもバージョンが『2ndMIX』なあたり、これ置いたやつなかなか分かってるじゃねーか。
1プレイ200円なんて子供にはあまりに天文学的な料金だったから、両親いる時しか出来なかったんだよなあ。
そういやここは1プレイいくらなんだ? 安けりゃいいんだが……)」
上条が恐る恐るコイン投入口の近くにあるプレイ料金が載ったラベルを見てみたところ、『1プレイ50円』と書かれていた。
上条「(50円か……まあ許容範囲内だな。ゲーセンメダル5枚分と考えるとちと割高だが、筐体がデカイせいか
いつも行ってるあのゲーセンじゃ置いてくれてねえし、仕方ねえか。しかしプレイするの本当に久しぶりだな。
昔やった頃は全然出来なかったが、あれから俺もゲーマーとして腕を積んだんだ。成長しているところを見せてやるぜ!)」
数分後。
上条「(ステージ2で死んだ……)」
筐体に両手をつきorzのポーズで落ち込む上条。すると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
美琴「やっぱりここにいたわね」
- 109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/07(月) 02:29:26.40 ID:wSKF33Iy0
-
クルリと振り返って美琴を見た上条は、相変わらずといった調子で溜息を吐く。
上条「またかビリビリ中学生。まだ何か用でもあんのか?」
美琴「ビリビリ言うな! 私には御坂美琴って名前があるって前にも言ったでしょうが!」
上条「へいへい。つーか何で俺の居場所分かったんだ?」
美琴「たまたまここのチラシ見てたのよ。そしたら期間限定でゲーム置いてあるって宣伝文句があったからピンと来たの」
上条「何てこった、不幸だー」
美琴「アンタ、この私を目の前にして不幸だとはいい度胸ね……。いいわ、やっぱり今この場で勝負を」
上条「わー、ここで電撃はやめてくださいお願いします!」
美琴「電撃? 何言ってんのよ、勝負は『あれ』ですんのよ」
そう言って美琴が指差したもの。それは、上条が先ほどプレイしていた『beatmania』の筐体だった。
- 125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/17(日) 22:24:52.01 ID:i26+D70C0
- では、投下します。
上条「(まさかコイツとまた二人プレイするとはなあ……。これを二人でやるのは正真正銘初めてだな)」
上条「そういやビリビリ、これプレイしたことってあんのか?」
美琴「だからビリビリ言うな! 多分プレイしたことはないわよ」
上条「なっ……未プレイの分際でこの上条さんに勝負を挑もうとは、お前もいい度胸してるじゃねーか」
美琴「アンタさっき死んでたじゃない」
上条「あ、あれは久しぶりで感覚が鈍ってたからであってだな、本気出せばあんなもんじゃないですからねこの上条さんは?
つーかお前、さっきのプレイ見てたのか?」
美琴「最後の方のみだけどね。要するに、上から落ちてくるオブジェに合わせてボタンを押していくだけじゃない。簡単よ」
上条「何だと? いいぜ、テメエがこのゲーム簡単だと思ってるなら、まずはその幻想をぶち」
美琴「ハイハイ、御託はいいからさっさと始めましょ」
美琴は上条をあしらうように言葉を遮り、コイン投入口に50円を投入する。
その様子を見た上条は面白くない調子だったが、渋々と続けて50円を投入した。
美琴「えっと、この5つの鍵盤がボタンで、あとはこのターンテーブルね。
ターンテーブルも操作デバイスの一つだなんて面白いわね」
上条「その分難しくもあるんだけどな。家庭用を普通のコントローラで練習したやつがいざゲーセンでやってみるも、
鍵盤はともかくターンテーブルに全く対応できずズタボロなプレイに終始した、って話もあるぜ」
美琴「ふーん。まあとにかくやってみなきゃね。選曲はアンタに任せるから、好きなの選んでいいわよ」
上条「へいへい」
beatmaniaは4ステージ制となっており、ステージ毎に異なる楽曲を選び、クリアすることで次のステージに進める仕組みである。
また、ステージ毎に選べる楽曲は変化し、ステージが進めば進むほど難しい楽曲が選べるようになっていく。
上条「(逆を言えばステージ1はそんなに難しい楽曲はないってことなんだが……。まあ、まずはこの曲だよなあ)」
上条が選曲したのは『HIP-HOP』。
難易度は最低の☆1で、初心者の誰もが通る道。いわばbeatmaniaの入門曲である。
上条「(ビリビリはこのゲーム楽勝とかのたわりやがったが、いきなり難しい曲じゃアイツも大変だろうしな。
我ながらなんて優しいんだ……くう、涙が出ちまうぜ)」
しかし曲終了後――
上条「なっ………………パーフェクト、だと?」
上条は別の意味で涙を流していた。
- 126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/17(日) 22:27:03.19 ID:i26+D70C0
-
上条「ビリビリ、お前このゲームやったことないとか嘘だろ嘘だよな嘘ですよねの三段活用!」
美琴「だからビリビリ言うなっていってるでしょ! あとなによその口調!? 本当に初めてよ」
上条「なんで初めてのプレイでいきなりパーフェクト取れちゃうんだよ!?
ハッ、まさかお前、勝負に勝ちたいがためにまた直接基板に電気を流したのか?」
美琴「そんなことしてないわよ失礼な! ちゃんと真面目にやった結果よ」
上条「うう、信じられねえ……。普通、初心者はオブジェに対応したボタン押すだけでも四苦八苦するというのに」
美琴「まあ、一応ピアノも授業とかでやってるし、5つの鍵盤ぐらいなら片手で楽なものよ。
さすがにスクラッチはやったことないから少し苦労したけど」
上条「ええい、常盤台のお嬢様は化け物か!」
美琴「人を化け物呼ばわりすんじゃないわよ! それよりアンタ、早く次の曲決めなさいよ。もう時間ないわよ?」
上条「やべ、そうだった忘れてた! ええと、次の曲は……と」
気を取り直して挽回しようとする上条だったが、1曲目で明らかな実力の差を見せ付けられた上条は動揺もあってか続く2曲目もあっさり敗北。
それどころか3曲目では――
上条「死、死んじまった……」
再び筐体に両手をつき本日2度目のorzポーズを見せる上条。
この瞬間、上条の敗北が決定した――
はずだった。
- 127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/17(日) 22:27:49.58 ID:i26+D70C0
-
美琴「アンタ弱すぎ。まさか最終ステージに行く前に勝負がつくとは思わなかったわ」
上条「ちくしょう、だから何でお前は初めてなのに難易度☆5のHOUSEまでクリアしちゃうんだよ!」
美琴「そんな事言われても、クリア出来ちゃうんだからしょうがないじゃない。
大体今の曲はアンタが『やっぱこの曲やんなきゃbeatmaniaやってる甲斐がないよなー』ってノリノリで選択したくせに、
それで自分が落ちてちゃ世話ないわよ」
上条「正論過ぎてぐうの音も出ねえ……」
美琴「そういやアンタが死んだってことは、最後のステージは私だけでプレーするのよね」
上条「まあ、そうなるな」
美琴「まさかとは思うけど……私がプレーしてる間に逃げたりとかしないでしょうね?」
上条「な、な、なにをおっしゃられますか御坂サンは!
このワタクシ上条当麻、天地無用に誓ってそのようなことするはずがありませんのことよ!」
美琴「目が思いっきり泳いでるわよ。あと『天地神明』ね。アンタ引っ越しでもする気なの?」
上条「冷静なツッコミありがとうございます」
美琴「んー……そうだ、このステージでもし私がクリアできなかったら、お互いクリアできなかったってことで
この勝負引き分けにしてあげるわ。それならアンタも逃げ出さずに済むだろうし」
上条「なん……だと……?」
美琴「もちろん曲はアンタが選んでいいから。正直難易度的には今のところ少し物足りないし、
とびっきり難しい曲やってみたいのよねー」
上条「……いいじゃねえか、その勝負乗った!」
美琴「そうこなくちゃ。じゃあ選曲時間も少ないし、さっさと選びなさいよ」
上条「(ふ……ふふ…………。ビリビリ、お前はこのゲームの本当の恐ろしさをまだ知らねえ。
いいぜ、お前がそんなに高難易度を求めるのなら、望み通りにしてやる。
お前の鼻っ柱をへし折るのは…………このお方だ!!)」
上条が選んだ曲、それは――――――
『SKA』。
- 128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/17(日) 22:29:34.34 ID:i26+D70C0
-
美琴「あれ、星が6つ……ってことは難易度6? このゲームの難易度って5段階かと思ってたわ」
上条「あー、そっかビリビリ、お前初プレイだもんな。このゲームの難易度、実は6段階なんだよ。
普段は星の数は5つまでしか表示されてねえけど、今のみたいに☆6の曲を選ぶと1つ増えて表示されるってわけだ」
美琴「つまりこの曲が最高難易度ってことね……面白いじゃない。腕がなるわ」
上条「ふ、見せてもらおうじゃねえか、常盤台のお嬢様の実力とやらを」
美琴「アンタ、さっき死んだくせに何偉そうにしてんのよ……。
まあいいわ、アンタに言われるまでもなくさくっとクリアーしてやろうじゃない!」
こうして上がった最終ステージの幕。
しかし、美琴はこれまでと全く変わらない順調なペースでミスなくゲームをこなしていく。
最初は気分良くプレイしていた美琴だったが、曲の中盤に入る頃には怪訝な顔を浮かべるようになり、思わずそばにいる上条に問い掛ける。
美琴「ねえアンタ、これ本当に☆6なの? 曲のスピードは速いけど、さっきやった曲より難易度自体は楽じゃない」
しかし、上条は黙ったままそれに答えようとはしない。
美琴「ちょっと、聞いてんの?」
上条「……」
美琴「無視ですか」
リアクションをとらない上条に対し、露骨に不満げな顔を見せる美琴。
しかし上条には理由があった。
上条「(ビリビリ、笑ってられるのも今のうちだ。お前は知らない、この曲にはまだ隠された顔があるってことを。
数十秒後、お前を待っているのは)」
曲の終盤を迎えーー
美琴「(あの馬鹿が反応してくれないのは面白くないけど、このままいけば楽勝ね。いっそのことパーフェクト狙おうかしら……
あれ、曲調が少し変わった?)」
上条「(地獄だ!!)」
この曲の本当の恐ろしさが、牙を剥く。
- 129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/17(日) 22:32:19.28 ID:i26+D70C0
-
美琴「く、何よこれ、さっきまでと全然違うじゃない!」
これまでに比べ明らかに激しいリズムを刻むパーカッション。
それに合わせるように、ゲーム画面上のオブジェも一気に数を増す。
美琴「なるほど、☆6ってのもあながち伊達じゃないみたいね。でも残念だったわね、このくらいならまだなんとかなるわ!」
その宣言通り、オブジェの密度が高く一つリズムを崩せばゲージを大きく減らしてしまう中、美琴はこのパーカッション地帯も何とかこなしていく。
その姿はとても初心者とは思えぬ見事なもので、プレイを見ている上条も改めて感心してしまう。
上条「(やっぱコイツすげえな……☆6を初プレイでここまでやっちまう奴なんて間違いなく見たことねえ。
悔しいが、コイツの腕前には本当に惚れ惚れしちまうな)」
スト2での驚異的な40連勝。ファイナルファイトでの鮮やかな錬金術&サポート。
そして今、beatmaniaで見せる才能の片鱗。
美琴のゲーマーとしての才気煥発さに、同じゲーマーである上条が心を奪われるのも無理はなかった。
上条「(でもな、ビリビリ)」
パーカッション地帯も佳境を迎え、もうすぐ曲が終わりを迎えようとする中。
上条「(これは無理だ。無理なんだよ)」
美琴を襲ったもの、それはーー
美琴「な、なんなのよ、これ……」
『滝』だった。
- 130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/17(日) 22:32:56.84 ID:i26+D70C0
-
密集するオブジェ。複雑な処理を要求される譜面配置。
bpm160というスピードで16分の交互連打を叩かせながら別のオブジェも叩かせるという、今日、美琴がこれまでにプレイしたどの曲をも圧倒的に上回る驚異的な難易度。
それは正に、『オブジェの滝』と呼ぶにあまりにも相応しいものだった。
美琴「……」
プレイを終えた美琴は、しばらくその場から動くことが出来なかった。
美琴の耳に聞こえてくるのは、筐体から鳴り響く観客のブーイング。
それは、クラブDJシミュレーションというこのゲーム特有の、クリア失敗時に流れてくるSE音だった。
- 139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/25(月) 23:55:27.34 ID:cIpgOPZx0
- では、今から投下します。
上条「(さすがのビリビリも、やっぱりあれは無理だったか。ホッとしたような、残念なような)」
ゲームをやってへたり込む美琴。それは、上条にとって初めて見る光景だった。
狙い通り美琴の鼻っ柱をへし折った格好の上条ではあったが、不思議と湧いてくるのは勝利感ではなかった。
それとは何か別の、哀れみとも愛おしさとも言えない奇妙な感情が、上条の心を支配していた。
上条「な、なあ、元気だせよビリビリ。お前初プレイなんだし、こんな曲クリア出来なくて当たり前だって。
つうかこれでクリアされちまったら上条さんの立場があまりにないわけでして……」
上条「(なんで俺、ビリビリ励ましてんだ? 本来俺にとってコイツはいつも絡んでくる面倒な奴のはずなのに……)」
美琴「……」
上条「そ、そうだ、これで勝負は引き分けだったよな。
申し訳ないんですが、上条さんはスーパーのタイムセールに行かなきゃならないんですよ……じゃ、じゃあな」
そう言って上条は美琴から振り返り、そそくさとその場を出ようとしたのだが
上条「グェッ!?」
その瞬間、美琴に首根っこを思いっきり掴まれてしまい、思わず奇声をあげてしまう。
上条「何しやがんだビリビリ! 上条さんは養鶏場のニワトリかなにかですか!?」
美琴「……………………い」
上条「ん? 何だビリビリ、よく聞こえないんだが」
美琴「……………しなさい」
上条「ん? もう少しですね、大きな声で」
美琴「 もう一度勝負しなさいって言ってんのよ何度も言わせんじゃないわよこの大バカ!! 」
それは、上条の耳を思い切りつんざくような金切り声だった。
- 140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/25(月) 23:56:54.46 ID:cIpgOPZx0
-
上条「お、お前………至近距離でそのボリュームはねえんじゃねえか……。鼓膜破れるかと思ったぞ……」
美琴「うっさいわね! こっちは恥をしのんで言ってんのに、アンタが聴こえないフリすんのが悪いんでしょうが!」
上条「無茶言うな! あんな小声、超高性能のICレコーダーでも聴き取れねーよ! 上条さんの耳は集音マイクか何かですか!?」
美琴「う、うっさい! とにかくもう一度勝負よ! あんな形で引き分けだなんて絶対に許さないんだから!」
上条「いや、クリア出来なかったら引き分けっていったのそもそもお前じゃ」
美琴「な・に・か・い・っ・た ?」
上条「……………何でもありません」
こうして、美琴による半ば強制的な形で2回目の勝負が始まった。
- 141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/25(月) 23:57:40.78 ID:cIpgOPZx0
-
上条「(やれやれ、お嬢様のワガママにも困ったもんだ。
しかし俺に初めて勝負吹っかけてきた時といい、コイツ本当に負けず嫌いだな)」
プレイ中ふとそんなことを思った上条は、一瞬だけチラリと美琴の横顔を覗いてみる。
上条「(さっきに増して真剣な顔してやがる……上条さん相手の勝負でそこまでしなくてもいいでしょうに。
案外コイツ、勝負ってのは方便で本当はただ『SKA』にリベンジしたいだけなのかもな)」
そしてあれよあれよという間に迎えた最終ステージ。
当然選曲されたのは『SKA』。
美琴「それにしても、アンタがここまで残ってるとは驚いたわ」
上条「ふ、上条さんだって本気出せばこれぐらいは余裕なんですよ?」
美琴「さっき、ボーダー(ギリギリ)クリアでものすごい嬉しそうな顔してたのはどこの誰よ」
上条「あ、あれはボーダーボーナスの5730点を狙った頭脳的プレイであってですね……」
美琴「はいはい、そういうことにしといてあげるわ」
そう言って呆れながら溜息をつく美琴。しかし直後、その空気を切り裂くように最終ステージの音楽が流れ出す。
美琴「……来たわね!」
上条「(ビリビリのやつ、一気に目の色が変わりやがったな……。
この曲に賭ける執念ってやつがこっちにもヒシヒシと伝わってきやがる。俺も負けちゃらんねえな)」
上条「よし、せっかくここまで来たんだ。俺だってゲーマーの端くれだ、意地って奴を見せてやるぜ!」
気合を入れ直す上条と美琴。しかし、そんな二人に襲いかかって来たのは――
上条「な、なんなんだよ、これ……」
美琴「な、なんなのよ、これ……」
- 142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/25(月) 23:58:17.58 ID:cIpgOPZx0
-
曲終了後。
美琴「ちょっと、どういうことか説明して欲しいんだけど」
上条「いや、どういうことかと言われましても」
リザルト(結果)画面に映っていたもの。
それは、途中までは緩やかな上り坂だったものの、終盤でガクンと滑降した1P(上条)のゲージ推移グラフと、
綺麗な上り坂を描き、最後までその位置を保ち続けた2P(美琴)のゲージ推移グラフだった。
上条「お前、クリアしてるのに何の問題があるんですか!? 上条さんのゲージはごらんの有様だというのに」
美琴「あんなのクリアしたうちに入んないわよ! なんなのあのラスト? さっきと違って簡単すぎるじゃない」
上条「ハァ、何言ってんですか? さっきと今のラスト、一体どこがどういう風に違ってたんだよ」
美琴「違ってたって次元じゃないわよ! あの密集したオブジェはどこにいったのよ!?
それどころか他のところも全体的に簡単になってて、まるで☆5、いや☆4ぐらいのレベルだったんだけど」
上条「そんなバカな……俺の方のラストは、紛れもなくあの凶悪な『オブジェの滝』だったぞ。どういうことなんだ?」
美琴「だから説明して欲しいのは私の方なんだけど……」
上条「(うーん、ビリビリが嘘をついているようには見えねえし、もちろん俺自身が嘘をついてるわけでもねえ。
なら、どうして同じ曲の難易度についての感想がこうも違うんだ!?
ん、まてよ。確かビリビリはさっき、1人でプレーしてたよな。そして今回は…………ハッ!)」
上条「そうか、そういうことだったのか」
美琴「??」
- 143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/25(月) 23:59:01.15 ID:cIpgOPZx0
-
美琴「どうしたのよアンタ、いきなりスッキリしたような顔して。何かわかったの?」
上条「ビリビリ、何も言わずもう一度このゲームをプレーしてくれないか? 頼む」
美琴「ビリビリ言うな。まあいいけど、アンタはどうするの?」
上条「俺はここで見てる」
美琴「ホント? ……アンタ、今度こそ逃げる気じゃないでしょうね」
上条「あのなあ、少しぐらいは人を信用してくれてもバチはあたんねーだろ?」
美琴「アンタみたいな逃走本能の塊、信用できるわけないじゃない」
上条「ひでえ言われよう……。まあ安心してくれ。別に今回は逃げねえよ。
俺の予想が本当なのかこの目で確かめたいし、それに」
美琴「それに?」
上条「お前のプレー見てるのも、結構楽しいしな」
美琴「…………え?」
- 144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/25(月) 23:59:49.93 ID:cIpgOPZx0
-
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美琴にとって、上条の一言はあまりにも予想外だった。
一瞬、上条が何を言っているのか理解できなかった美琴だが、すぐにその意味に気付き、顔がなぜか紅潮してしまう。
美琴「……………!? な、な、ナニ言ってんのよアンタは!」
上条「? 何って、言葉の通りですが。悔しいけどお前、俺より明らかに上手いからなあ。
上手いやつのプレーって参考になるし、見てるだけでも結構面白いんだよ」
美琴「で、でもこのゲーム期間限定なんでしょ? ならアンタもやれるうちにやっといた方が……」
上条「まあ、そうしたいのはやまやまなんですが、俺の『予想』のこともあるからなあ。
それに、これ以上金を使いすぎるとスーパーで買い物をする金が最悪なくなってしまうわけでして……」
美琴「アンタそんなにプレーしてないでしょうが」
上条「上条さんにとって1プレイ50円がどれだけ家計にダメージを与えるかおわかりなのですか!?
まあ1回ぐらいならまだ大丈夫なんだが、3回はさすがに辛いのですよ。
150円あれば特売の卵やもやしがどれだけ買えることか……」
美琴「アンタ、案外大変な生活送ってんのね……」
こうして、上条に言われる通り再びbeatmaniaをプレーする美琴。
これまでの実力が示す通り美琴は難なく3ステージをクリアし――
美琴「本当に大丈夫なの? さっきみたいなことにはならないわよね?」
上条「まあ、この上条さんを信じろって。ほら、大船に乗ったつもりでドーンとな」
美琴「タイタニック号に乗ってるような気分ね」
上条「そうサラリと上条さんをDisるのはいい加減やめてもらえませんか!?」
美琴「冗談よ冗談。半分ほどは」
上条「残り半分は本気ってことじゃねーか! お前はバファ◯ンをもうちっと見習え!」
美琴「アンタの減らず口も大概よね。まあいいわ、そろそろスタートだし、集中しないと。
それじゃ……いくわよ!」
三度、最終ステージの『SKA』に挑戦する。
- 166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/08/21(火) 02:24:04.61 ID:Wx+iYeql0
- では、投下します。
1度目のプレーと同様、美琴は中盤まではほぼノーミスでゲームをこなしていく。
美琴「(今のところは、初めてプレーした時と同じ難易度……のような気がする。
でも、問題は)」
オブジェの滝。
先ほどのプレイでは、とうとう最後まで見ることのできなかった最凶の難所。
美琴「(アレを乗り越えない限り、この曲をクリアしたなんてとても言えない。
アイツは自信満々だったけど……本当に来るのかしら)」
疑心暗鬼になりながらも、美琴は懸命にプレーを続ける。
クリアゲージは100%をキープしたまま、いよいよ最後のパーカッション地帯を迎えようとした、その瞬間だった。
上条「ビリビリ、来るぞ!」
鶴の一声だった。
美琴「だから私はビリビリじゃなくて御坂美琴――」
そう上条に叫ぼうとした美琴だったが、その瞬間目の前に現れたもの。
それは――
『オブジェの滝』だった。
- 167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/08/21(火) 02:25:18.89 ID:Wx+iYeql0
-
美琴「(アイツの言う通り本当に来た! く、でもやっぱり譜面が全然見切れない……それなら!)」
上条「(ああ、ゲージがクリアラインを割っちまった。
『オブジェの滝』はあともう一回くるとはいえ、一回目でこれだけゲージを減らされちまうようじゃ……)」
『オブジェの滝』は、16分交互連打の強烈な難度の譜面が『二度』に渡って降ってくるという構成である。
つまり、一度目に対応できなくても二度目で対応できれば一応クリアは可能なのだが――
上条「(一回目より二回目の方が簡単ならまだ希望はあるんだが、こいつは一回目も二回目も全く同じ難易度ときたもんだからなあ。
残念だけど、さらにゲージを減らされて終了だろうな)」
明らかに諦めの色を顔に見せる上条。
しかし、美琴の考えは違っていた。
美琴「よしっ、これならいけるわ!」
上条「なに!?」
- 168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/08/21(火) 02:26:11.34 ID:Wx+iYeql0
-
美琴「(対応は出来なかったけど、譜面はしっかり確認できた。
よく見たらこれ、左の白鍵盤と中央の白鍵盤の交互連打がメインで、他のオブジェは定期的にほんの少し混ざってくるだけじゃない)」
美琴は全く諦めてはいなかった。
譜面が見切れないのであれば、譜面を見切ることに集中してしまえばいい。
実にシンプルな答えではあるが、それをいざ実際のプレイ中に、しかもクリア不可にならないよう適度にゲージを残しつつ行うのは至難の技。
今日初めてこのゲームに触れ、しかもわずか3プレーでその境地まで到達できるのは、正に天性というに他ならなかった。
そしてその天性は、さらなる輝きを見せる。
美琴「(それなら、交互連打だけを片方の手、それ以外はもう片方の手で担当すれば……?)」
上条「な、なんだ……あの打ち方は!?」
- 169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/08/21(火) 02:26:55.42 ID:Wx+iYeql0
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ここで時を少し戻し――
セブンスミスト内、水着コーナーにて。
初春「そういえば佐天さん、御坂さんまだ戻って来ませんね」
佐天「どっか別のところ行っちゃったのかな? もしかして迷子とか」
初春「何言ってるんですか、佐天さんじゃないんですから」
佐天「初春、それどういう意味?」
初春「冗談ですって。でも心配ですね。
さっきの御坂さん、なんだか様子も少し変でしたし……」
佐天「そうだねえ……。じゃあ初春、買い物は一旦やめて御坂さん探しに行こっか」
初春「そうですね」
- 170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/08/21(火) 02:27:42.64 ID:Wx+iYeql0
-
二人が美琴を探し始めて、しばらく経過したが――
佐天「うーん、なかなか見つからないねー」
初春「ここ、結構広いですからねえ。この時間って学生も多いですし」
佐天「どこ行っちゃったのかなー……あれ、あのサマーセーターってもしかして御坂さん?」
初春「え、どこですか佐天さん?」
佐天「ほら初春あそこ。ちょっと遠いし後ろ姿だからわかりづらいけど、あれって御坂さんの制服だよね?」
初春「あ、ホントですね。佐天さん、よく見つけましたね」
佐天「ふっふっふ、『千里眼の佐天』の異名を持つあたしにかかれば、こんなのお茶の子さいさいよ」
初春「……その異名、明らかに今考えましたよね」
佐天「あ、バレた?」
初春「当たり前です。それより御坂さん、なんであんな所にいるんでしょうか?」
佐天「何かやってるように見えるけど……この角度からじゃわかんないなあ。
もうちょっと近くにいかないと」
そう言って、視点を変更しようと少し移動した佐天だったが――
佐天「!!!!!!!???????」
初春「さ、佐天さん、どうしたんですか! そんなに驚いて、何があったんですか!?」
佐天「(う、初春! ちょ、ちょっとこっち来て! 早く!)」
初春「佐天さん、なんでいきなり小声になって」
佐天「(いいから早く!)」
初春「?」
急かすように手招きする佐天に戸惑いを感じつつも、佐天と同じ位置に移動した初春。
すると、その視界に飛び込んできたのは――
初春「あれ、御坂さんの隣にいるのって…………男の人!?」
- 171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/08/21(火) 02:28:28.99 ID:Wx+iYeql0
-
初春「さ、佐天さん! こ、これ、一体どういうこ――ムギュッ!?」
佐天「だー、初春声大きい! いくら離れてるからって、大声出しちゃバレちゃうって!」
初春「ヴぁヴぁらっヴぇ、ヴヴぃヴぉヴヴぁヴぁらくらっヴぇヴぃヴぃんヴぁヴぁいヴぇすヴぁー!
(だからって、口を塞がなくたっていいじゃないですかー!)」
佐天「ゴメン初春、何言ってんだか全然わかんない」
初春「ヴぃヴぃヴぁら、ヴヴぃヴぁらヴぇヴぉヴぁヴぁヴぃヴぇヴヴぁヴぁい!
(いいから、口から手を離して下さい!)」
――――
―――
――
美琴に見つからないよう、初春と佐天は近くにあるコンクリート製の円柱に身を隠す。
初春「ぷはっ。うう、ヒドイです佐天さん……」
佐天「だからゴメンって初春。いやー、あたしも結構動揺しちゃったからさ」
初春「それでもいきなりはないですよ……。あ、そういえば御坂さんは!?」
佐天「大丈夫、あたし達のことには気付いてないみたい」
そう言うと佐天は、円柱の陰から改めて美琴達の姿を覗き込む。
佐天「……隣の男の人とやってるのはゲーム、なのかな? あんな筐体見たことないけど」
初春「何だか古そうですね。というか、そもそもセブンスミストにゲームなんか置いてましたっけ?」
佐天「いやー、聞いたことないなあ。
あ、でもそういえばここのチラシに、フェアの一環で何か懐かしいゲーム機を置くって載ってたような。
もしかしたらアレがそうなのかな」
初春「ああ、なるほど……って佐天さん。そんなことより御坂さんと一緒にいる男の人、一体誰なんですか?」
佐天「いや、そんなのあたしが知ってるわけないじゃん」
初春「……ですよねえ」
佐天「制服着てるし、中学生か高校生なのかな? 顔は……この位置じゃあんまり見えないか」
初春「もうちょっと近づいてみますか?」
佐天「さすがにこれ以上はヤバイって。しかし初春、やたら積極的だねえ」
初春「だって、あの御坂さんが男の人と一緒にいるんですよ!? や、やっぱり、こ、これって」
佐天「『彼氏』だよねえ」
初春「『彼氏』ですよねえ」
初春「うわああああハモらないでくださいよ佐天さん! で、でも、やっぱりそうですよね!?
ハッ! ってことはひょっとして御坂さん、もうあんなことやこんなことも……ぬっふぇぇぇぇ~~」
佐天「ちょっとどーしたの初春!? いきなりへたり込んじゃって」
初春「ふぇ~~」
- 172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/08/21(火) 02:29:13.15 ID:Wx+iYeql0
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佐天「まったく、初春ってば興奮しすぎ」
初春「そういう佐天さんだって、さっきから顔ニヤけてるじゃないですか。
でも御坂さんのお相手かあ。きっと王子様みたいに素敵な方なんでしょうねえ」
佐天「後ろ姿見る感じ、あんまり王子様っぽくはなさそうだけどねえ。
それより、御坂さんは自分を一人の女の子として見てくれる人に惹かれるタイプだと思うなー」
初春「そういうものなんですか?」
佐天「そういうものなの。初春はその辺がちょっと乙女なんだよねー」
初春「乙女でもいいじゃないですかー。佐天さんには夢が足りないんですよ」
佐天「夢……ねえ。
でも正直意外だったなあ。まさか御坂さんに彼氏さんがいるなんて。
白井さんにバレたらエライことになりそう」
初春「……間違いないですね。このことは二人だけの秘密にしておきましょうか」
佐天「さんせー。じゃあ御坂さんにバレちゃ色々とマズそうだし、そろそろ戻ろうか」
初春「そうですね」
こうして、美琴達のいる方向に背を向け、元いた場所に戻ろうとする二人だったが
『うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!』
初春「!?」
佐天「!?」
後方から聞こえてきた絶叫に、思わずその方向に顔を振り向ける初春と佐天。
その先にあったものは、正に恋人同士がするそれのように、嬉しそうにハイタッチを交わす美琴と上条の姿だった。
- 173 :1[saga]:2012/08/21(火) 02:31:33.79 ID:Wx+iYeql0
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以上となります。
実はこの初春と佐天サイドの話はこの話が終わった後の番外編として入れようかと考えてたんですが、
ネタの関係とかもあってこのタイミングで入れてしまいました。
小説において時系列を戻すのは基本タブーというのもあるのでちと反省です。
それを言うと前にやった回想はどうなんだという気もしますが(汗
次回は……前回の更新で「二週間後までには」といいながら二ヶ月近く更新できなかったので、ハードルを少し下げて一ヵ月後までには更新したいと思います。
本当に超スローペースで、待ってくださってる方には本当に申し訳ありませんが、
何とか少しづつでも書いていきたいと思ってますので、気を長くしてお待ちいただければ……。それでは。
- 174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2012/08/21(火) 03:05:33.20 ID:lO4xZhcAO
- 乙乙!
- 175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/21(火) 03:06:33.58 ID:nwBkDohDO
- 落ちない程度に書いて完結してくれればいいよ
>>1 乙 - 176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/08/21(火) 22:47:39.59 ID:pUb/GJHI0
- 乙!
- 183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/10/06(土) 03:29:59.81 ID:0GpLzpfUo
- はよ
- 184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/10/18(木) 17:16:43.33 ID:DFNFLn2Fo
- ソニックブー
- 185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/10/18(木) 20:28:35.84 ID:9P3OyVnBo
- そろそろきてくれー
2014年6月12日木曜日
上条「またかピコピコ中学生」 美琴「ピコピコ言うな!」
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