- 1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/24(金) 23:24:59.91 ID:vgyV5FEb0
-
天井「――というわけだ。絶対能力者進化実験、一方通行には喉から手が出るほど受けたい実験だろう?」
薄暗い照明が何とも言えぬ雰囲気を醸し出している中、天井は言う。
いかにもモテない理系男代表のような顔に、気味の悪い笑みを浮かべながら。
それと対峙するは学園都市第一位、一方通行である。
こちらも顔は整ってはいるものの、どこか人を突き放すような空気を纏う少年だ。
天井は一方通行の鋭い視線を浴びながらも、気味の悪い笑みを絶やすことなく鼻を鳴らす。
その様も自分に酔っているようで気持ちが悪い。
天井「それでだ、一方通行。今日からでも実験を開始したいんだが――」
一方通行「無理だ」
当然了承を得るだろう。
そう確信していた天井は目を丸くすると、軽く片眉を吊り上げた。
天井「……何がだ」
一方通行はその老人じみた白髪を掻き分けると、小さく舌打ちをする。
そして天井にチラと目線をやると、そのまま踵を返して扉に向かった。
天井に背を向けたまま一方通行は言う。
一方通行「実験だよ。これは俺には無理だってンだ」
天井「何を言って……お前が負けることはあり得ない」
一方通行「そォだろうなァ。俺も負ける気なンてない。……だがそォいうことじゃねェ」
一方通行は扉に手を掛ける。
顔だけを天井に向け、言葉を続けた。その表情は――何が嫌なのか、渋いものだ。
一方通行「第三位は俺には鬼門なンだよ」
訝しげに目を細めた天井に、バカにするような酷薄な笑みを浮かべると、手にぐっと力を加えた。
天井は一方通行のその様子に慌てたように手を伸ばす。
その行動も虚しく扉の隙間からは徐々に光が射し込んでいき――
天井「しかし、もう呼んでしまったんだが」
一方通行「え」
――開かれた扉の先には、第三位である御坂美琴そっくりの少女が立っていた。
- 3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/25(土) 00:10:22.60 ID:iDYIWzj20
-
00001号「はじめまして、とミサカは適当であろう挨拶をかまします」
一方通行「……」
00001号は暗視ゴーグルを付け、片手を挙げ軽やかな挨拶をする。
一方通行は動かない。
それを疑問に思った天井は眉を潜めた。
天井「……一方通行?」
一方通行「……その、とりあえずコイツ下がらせてくれねェか」
天井「あ、あぁ。オイ、一端戻れ」
00001号「わかりましたとミサカは若干不満ながらも了解します」
無表情ながらも不満げにそう答えると、部屋から出て行く。
一方通行は00001号が出て行ったのを確認すると、安心したように息を吐いた。
一方通行「……」
天井「……鬼門って、どういうことだ?」
一方通行「……俺、第三位嫌いなンだよ」
- 7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/25(土) 00:36:01.53 ID:iDYIWzj20
-
天井「嫌いって――」
嫌いというよりも怯えているように見えたが――という言葉を飲み込む。
一方通行の憔悴しきったような青ざめた顔を見たからだ。
華奢な体型も相まって、そこには第一位といった風格はどこにもない。
天井は躊躇いがちに尋ねる。何か琴線に触れてしまうのではないかと慎重になりながら。
腰を屈めて、まるで幼い子どもに話しかけるように優しく言葉を吐き出す。
天井「……何で嫌いなんだ?」
一方通行「……」
天井「良かったら、話してくれないか」
弱みを握ろうなどと考えているわけではなかった。
あまりにも普段のふてぶてしい態度と違った一方通行に思わず同情してしまったというのが正しいかもしれない。
一方通行は眉間を寄せる。
一方通行「大した話じゃねェよ」
天井「だがそれだと実験を中止することはできない」
一方通行「……適当に理由でも付けとけ」
天井「言わないとクローンを連れて来るぞ」
そう言うと、一方通行は言葉を詰まらせた。
小さく舌打ちをすると、途切れ途切れに言葉を紡ぎ始めた。 - 8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/25(土) 01:01:31.14 ID:iDYIWzj20
-
**
今でこそ男か女かわからない外見の、女に一切の興味を持っていないかのような一方通行であるが、
そんな一方通行も過去一度だけ恋をしたことがある。
まだ一方通行の髪が黒かったことの話だ。
反射もまだ完璧ではなく、しかしその能力故に友達がいなかった一方通行の遊ぶものといえば公園での遊具のみ。
そして学生ばかりの学園都市には当然子どもも多く、人気の少ない公園というのは限られていた。
自分を囲う研究所の丁度裏に――今はもう取り壊されているが――一方通行の気に入る公園はあった。
そこには申し訳程度の大きさの砂場と、古びたブランコが二つのみという寂れた公園ではあったが、
他の子どもが友達同士で遊んでいる姿を見ずに済むという理由だけで一方通行には充分だった。
いつものように砂場で砂を寄せ上げていると、ふと影が射した。
「ね。何を作ってるの?」
明るい茶髪を跳ねさせた可愛らしい少女であった。
顔は耳まで真っ赤に染まり、上手くその問に答えることはできなかった。
言葉はボロボロ、汗はびっしょり。どもりにどもった結果、「やはfdkぉv」という意味のわからない言葉にしかならなかった。
有り体に言えばキモヲタのような、変態と言われても可笑しくないような返事しかできなかったのだ。
けれどそのとき少女は嫌そうな顔を表面に出すこともなく、一方通行に笑いかけたのである。
それは、同年代に厭われた続けた――しかも異性に馴れていない少年を恋に落とすのには充分であった。
その晩一方通行は練習をした。
少女に問われてもスムーズに答えることが出来るように。
会話を続けることが出来るように。
――しかし、次の日少女が公園に来ることはなかった。
一方通行はこのとき気がつくべきだったのかもしれない。
いや、べきだったのだろう。
少女が一方通行に笑いかけたのは本当に優しさからきたものだったのか。
少女が公園に来なかった理由を。
一方通行は少女を捜した。
それに時間はそうかからなかった。
何せ研究所からそう離れてはいない公園で、同い年ぐらいの子どもたちと高い笑い声を響かせながら遊んでいたのだから。
声を掛けることは出来なかった。
大勢に声を掛ける練習をしていなかったというのもあるが、何より初恋だ。
恥ずかしくて、見つめるという選択肢しか選ぶことができなかったのだ。
**
一方通行「――で、どうしたと思う?」
天井「だから、ずっと見ていたんだろ?」
一方通行「……あァ。けど俺にも勇気ってもンがあったみてェでな」
- 9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/25(土) 01:27:58.02 ID:iDYIWzj20
-
一方通行は自嘲するように嗤うと、
一方通行「一週間見つめ続けたあとに、告白を考えたンだ」
天井「一週間……なぁ」
**
高鳴る胸を抑えながらも、一方通行は公園のベンチに座っていた。
しかし待てども少女は来ない。
いつもならばとっくに遊んでいるだろうに――と疑問に思っていると、ようやく少女は現れた。
唇を歪ませて、不安そうに瞳を潤ませながら。
けれど「今から告白をする」そう決意した一方通行は緊張のあまり少女のその様子に気がつくことはできなかった。
一方通行は大きく深呼吸をすると、ベンチから勢いよく立ち上がった。
「おおおおオイ! オマエ!!」
少女は驚いたように肩を震わせる。
そして一方通行を視界に納めると、顔を歪めた。
「アンタ……やっぱり今日もいたの」
「は、はァ!? 今日しかいねェよ!」
「……そう。うん、でどうしたの?」
少女の瞳が一方通行の瞳を真っ直ぐにさした。
一方通行は生唾を飲み込むと、ぎゅっと眉間に力を込めた。
拳を握りしめる。
「……好きなンだ」
「へ?」
「好きだ! 結婚してください!」
瞼を強く瞑り、叫ぶように喉を張り上げる。
(言った――言った、言ったンだ――!!)
息を上手く吸うことが出来ず、心拍が耳の近くで鳴っているようだ。
しかし、いつまでたっても返事がない。
一方通行はうっすらと目を開けると、少女は一歩、一方通行から離れていて。
「ごめん――無理」
そのときの少女の目はまるで糞虫を見るような目であった。
- 10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/25(土) 01:40:18.59 ID:iDYIWzj20
-
**
一方通行「……こうして俺は心に深いトラウマを負ったわけだ」
天井「……悪かった」グスッ
一方通行「謝るなよ」
実際一方通行の自業自得であり、少女――御坂美琴は悪くはない。
幼い頃にストーカーまがいをされた恐怖は並大抵のものではなかったであろう。
それでも通報せずに一方通行の話を聞いてあげた美琴はむしろ天使だと言える。
そう思いながらも、一方通行が不憫であるのは変わりなく、天井は鼻水を啜りながら一方通行に言った。
天井「ずずっ……なぁ一方通行。もう一度クローンに会ってみないか」
一方通行「だから実験は無理だって「違う」……あァ?」
天井「確かに見た目は同じと言ってもいい。しかしクローンはオリジナルとは性格がずいぶんと違う」
一方通行「はァ」
天井「なぁ一方通行。お前はトラウマをそのままにしていいと思っているのか」
一方通行は黙る。天井は続ける。
天井「実験は中止にしよう。だが、これは一方通行のトラウマを治す良い機会なんじゃないか」
一方通行「怪しいなァオイ、いきなり親切になりやがって。何を企ンでンですかァ?」
- 11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/25(土) 01:56:16.57 ID:iDYIWzj20
-
そもそも実験体の話を聞くような奴ではなかったはずだ。
思わず脅しに負け話してしまったが、違和感が残る。
天井はギシリと椅子に体重を掛けた。
天井「単なる同情だ」
一方通行「殺されてェのか」
天井「……なぁ一方通行。誰にだってそういう経験はあるんだよ。そう、誰にだってな」
一方通行「……オマエ」
乾いた笑みを浮かべる天井に目を大きく見開く。
「そォか、オマエも……」
そう呟くと、一方通行は頭を振る。
そして瞳に強い光を宿すと、ニヤリと口角を上げた。
それは虚勢を張ったウサギのようではあったが、どこか頼もしくもあった。
一方通行「はっ! やってやろォじゃねェか」
――こうして一方通行のトラウマ治療が始まったのである。
- 25 :>>24一年前ぐらいに投下した焼き直し[saga ]:2012/02/25(土) 21:54:30.24 ID:iDYIWzj20
-
一方通行がトラウマ治療のために妹達に会うことを了承したその日の夜。
天井はある女の元に訪れていた。
陶器のマグカップにコーヒーを注がれる音が部屋に響く。
芳川は化粧気のない顔を軽く擦ると、欠伸のために口を手で覆った。
天井はその様子を見て微笑ましげに口元を弛める。
芳川はマグカップにコーヒーが入ったのを確認をすると、天井を横目で見た。
芳川「それで、何であんなに熱心だった実験を中止したのかしら?」
天井「ん? いや自分を見ているようだったものでな」
芳川「あの子があなたに似ているとでも言いたいの?」
天井「似たようなものだろう」
そう言うと芳川は不快そうに顔を顰める。
コーヒーの湯気が鼻にかかった。
芳川「あなたはあの子みたいに折れなかったけどね」
天井「いや折れたぞ? ただ回復が早かっただけだ」
芳川「そのまま折れたままなら良かったのに」
芳川はふぅと息を吐いて、コーヒーを啜る。
それにまた心の柱が折れかけたのを感じながら、自分で持ってきた缶コーヒーのプルタブを開ける。
- 27 :>>24一年前ぐらいに総合に投下した焼き直し[saga ]:2012/02/25(土) 22:11:28.16 ID:iDYIWzj20
-
芳川「けどあなた、借金はどうするつもり?」
天井「……一方通行のトラウマが回復してから考えるさ」
何も考えがないわけではない。
一方通行に同情したのは確かであるし、出来ることならトラウマを治してやりたいというのも本心である。
しかしそれで自身が破産するつもりも、天井には甚だ無かった。
けれど芳川にそう言ったのは、偏に「良い自分」をアピールするためであった。
芳川は感心したように目を瞬かせると、
芳川「あら優しいのね」
天井「そんな優しい男と今夜食事なんかどうだ?」
爽やかな笑顔で芳川に微笑む。
しかし天井がそう思っているだけで、実際には汚い歯を唇から覗かせるという軽く吐き気を催させるものであったのだが。
芳川もそう思ったらしく、軽く顔を引きつらせて言う。
芳川「……やっぱり気持ち悪いわ」
- 28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/25(土) 22:34:45.76 ID:iDYIWzj20
-
―――――
――
明るく照らされた広いホールの中に二人は立っていた。
00001号は暗視ゴーグルを額に押し上げると、一方通行に会釈をする。
00001号「さて改めまして、はじめましてとミサカは二回目の挨拶をします」
一方通行「……おォ」
00001号「まぁ若干ミサカはあなたに対して怒っていますとミサカはぶっちゃけます」
00001号「しかし彼から事情は聞いてまぁ許してやらんこともないとミサカは提案します」
一方通行「……そォか」
00001号「はい。けどですね」
一方通行「……何だ」
00001号「もっと近づいてくれませんか? とミサカは言葉だけだとミサカはふしだらに思われそうな台詞を吐きます」
- 31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/26(日) 01:11:44.61 ID:bDgSDwVu0
-
00001号の言葉に体を固くすると、一方通行は細く息を吐いた。
壁に寄りかかり、腕を組む。
一方通行「いやこの距離がベストだと思うンだが」
00001号「ありえませんもう一度言いますありえませんとミサカは発言します」
ホールの真ん中に立つ00001号は早口で言う。
00001号の発言も仕方がない。
人と人との会話に適した距離というものからおよそ離れているのだ。
というかホールに二人きりだからこそかろうじて会話が成立しているわけで、
例えばこのホールに他に何人もの人がいたとするならば会話すら成立することはなかったであろう。
ぶっちゃけ本当にトラウマを治す気があるのかと問い詰めたいほどである。
00001号「……仕方ありません。初日はこの距離でいいでしょう。けれどとミサカは首を横に振ります」
一方通行「あァ?」
00001号「この距離ではスムーズな会話すら困難です。そこでミサカは携帯電話での連絡を提案します」
制服のポケットからじゃん! という効果音(を口で言う)とともに、携帯電話を取り出す。
それにげっという顔をしたのは一方通行だ。
一方通行「第三位関係のデータを入れたくねェ」
00001号「それくらい我慢してください」
- 32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/26(日) 01:20:32.91 ID:bDgSDwVu0
- >>28訂正
誤 00001号「もっと近づいてくれませんか? とミサカは言葉だけだとミサカはふしだらに思われそうな台詞を吐きます」
正 00001号「もっと近づいてくれませんか? とミサカは言葉だけだとふしだらに思われそうな台詞を吐きます」
- 36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/26(日) 21:47:02.68 ID:bDgSDwVu0
-
堪忍が切れたのか、米神の血管をピクリと動かしながら00001号は一方通行の文句を切り捨てた。
実験の為に作られたというのに、
一方通行のトラウマを治すために働かなくてはいけないというだけでも不本意なのだ。
その上一方通行が協力的ではないだって? ふざけるなという気持ちになるのも無理はない。
00001号の濁った瞳の奥ではそのような思いが渦巻いているに違いなかった。たぶん。
00001号「ではデータの交換のため赤外線を発信しますとミサカは携帯電話を操作します」カチカチ
一方通行「……クソ、わかったよ。受信すりゃいいンだろォが受信をよォ」カチカチ
第一位と第三位のクローンが広いホールに二人きりで向かい合って(距離は離れているが)携帯電話を操作している。
なんともシュールな状況である。
一方通行は「しかしよォ」と言う。
00001号「何ですか? とミサカはもう少しで発信できることをついでに知らせます」カチカチ
一方通行「こンなに離れていても赤外線って受信できるもンなのか?」カチカチ
00001号「あ」
一方通行「ン? オイこっちは準備できたぞ」ホラ
携帯電話を突き出すと、00001号は今まで動かしていた指の動きをピタリと止めた。
学園都市は最先端の街である。
とはいえ何十メートルも離れている距離を飛ばせるような赤外線を付けている携帯電話があるわけもなく。
いや作ろうと思えば作れるのかもしれないが、そんな需要もないからにして――。
00001号「……よし糸電話にしようとミサカは再提案をします」
一方通行「オイ」
- 37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/26(日) 22:37:22.66 ID:bDgSDwVu0
-
00001号「違いますえぇ違いますとも。ミサカは失敗を認めたわけではなく、更なる良い案を見つけたのだと言い訳をします」
一方通行「それが糸電話ってオカシイだろ。……というか、口で番号を言えばいいンじゃねェのか」
何も赤外線で交換しなくてはいけないという訳はないだろう。
そう言うと、00001号は唇の両端を下げる。
00001号「本来ならそれが一番なのでしょうが……このミサカの携帯電話は特別製でして」
一方通行「特別製? って天井から渡されたってだけじゃねェのか」
00001号「赤外線でのデータ登録しか不可能ですし、連絡することも不可能なのですとミサカは説明します」
一方通行「ンでそンな」
00001号もわかっていないのか「はて」と首を傾げた。
一方通行は頭皮を爪を立てて乱暴に掻いた。
赤外線は近づかなくては交換が出来ない。つまりはそういうことなのだろう。
一方通行「……しかたねェな」
00001号「では糸電話をさっそく作りましょうとミサカは今この様子を見ているだろう彼に向かって――」
『ダメだ』
00001号「え?」
- 38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/26(日) 22:59:53.34 ID:bDgSDwVu0
-
『赤外線を使ってのデータ交換しか許可しない』
部屋の四隅に取り付けられたスピーカーから天井の声が響く。
一方通行はその声を聞いて眉間の溝を深めた。
一方通行「オマエ……」
『何を考えているかはわかるだろう? というか一方通行。お前は本当にトラウマを治す気があるのか』
一方通行「……っ」
00001号「しかしとミサカは挙手をします。無理をしても悪化するだけなのでは?」
『荒療治も大切だ。そもそもこれは第一段階なんだぞ? 無理ってほどでもない』
00001号「まぁ確かにミサカに近づけもしない一方通行には呆れましたが」チラッ
一方通行「……」
『……』
00001号「……」
しばしの沈黙。
一方通行は肩にのしかかってくるような空気を振り払うように、壁を叩く。
ビキリ、と拳が当たったところに大きくヒビが入った。
一方通行は吼える。
一方通行「……やりゃいいンだろやりゃァ!!」
『お前昨日も似たようなこと言ってたからな』
- 39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga ]:2012/02/26(日) 23:03:57.35 ID:bDgSDwVu0
-
step.01 妹達に近づいてみよう!
- 44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/02/28(火) 00:50:41.63 ID:Zycmn0280
-
育成ゲームのような始まり方であるのは置いておいて、ようやく一方通行のトラウマ改善が開始された。
まずは至って簡単。
妹達に近づいて携帯電話のデータを赤外線通信を用いて交換する。それだけだ。
しかし一方通行は一歩を踏み出せないでいた。
おや? 先ほどまでの会話を考えると、少しの間近づくくらい平気なのではないか。
そう思わずにはいられないが、それは違う。
一方通行が先ほどまでの会話を比較的スムーズに進められたのには、
照明が00001号の暗視ゴーグルに反射して一方通行へ向かい、一方通行がそれを反射し――とまぁ一方通行からは00001号の顔が見えづらかったからという理由があった。
それに加え、妹達の声である。
起伏に乏しい妹達の声はオリジナルである御坂美琴とは声帯が同じでもずいぶんとイメージが違った。
そして性格。これは言わずもがなであろう。
けれど近づくとそうはいかない。
なんたってクローンだ。顔なんて見た日にはもう「ひゃー」と思わず叫んでしまうレベルである。
事実昨日の一方通行は「ひゃー」とは叫ばないものの固まってしまった。
そのときのことを思い出し、一方通行はぐっと喉を詰まらせた。
一方通行(クソ天井の野郎……トラウマが回復したらぶっ殺してやる)
スピーカーを睨みつけ、そして視線を00001号に移す。
茶髪、そして短髪。
顔はまだ見えない。
一方通行(……顔がずっと見えなけりゃなンとかなンだけどな)
人にのっぺらぼうになれとでも言いたいのだろうか。
- 45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/02/28(火) 00:53:13.98 ID:Zycmn0280
- >>44
誤:そのときのことを思い出し、一方通行はぐっと喉を詰まらせた。
正:そのときのことを思い出し、一方通行はぐっと息を詰まらせた。
- 47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/02/28(火) 01:07:19.96 ID:Zycmn0280
-
一方通行(……ン、待てよ。顔がずっと見えなければ、か)
一方通行(今クローンの顔が見えねェのは光の反射が関係してる)
一方通行(つまり、光の屈折を上手く利用すれば近づいても顔が見えることはねェってことじゃねェか?)
根本的な解決になっていないことに気がついていないのか、一方通行は妙案だとばかりに瞳を輝かせた。
第一位といえどまだ子どもである。
都合の悪いことからはすぐに目を逸らす。そして逸らしていることにも気がついていない。
一方通行(だが問題点がいくつかあンな……)
まずこの部屋の様子は天井に見られているのだ。
そんなことをして気がつかれないはずがない。
やぁならばこうすればいやあぁでもない、さてはや、いやいや。
一方通行は自然と床に目を落としながら、思考に耽っていた。
その集中力は凄まじいもので、
00001号「さて早速交換しましょうかとミサカは携帯電話をあなたに突き出します」ビシッ
一方通行「ひょふァ!?」
自身に近づく影に気がつくことができなかった。
- 48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/02/28(火) 01:46:13.32 ID:Zycmn0280
-
00001号「うげぇ何ですか今の声はとミサカは頬を引き攣らせます」
一方通行「うううううううううるっせェ! なンでオマエちかっ」
00001号「いつまでたっても動かないので、ならば逆転の発想。ミサカから近づけばいいのでは? という考えに辿り着いた結果ですとミサカは現状に至るまでの過程を説明します」
無理をしたら悪化するんじゃないかと天井に言っていたわりにはずいぶんな考えの至り方である。
「……やりゃいいンだろやりゃァ!!」という一方通行の言葉を素直に受け止めただけだと思いたい。
00001号は一方通行を真正面から真っ直ぐに捉えながら、携帯電話の先を向ける。
その間の距離は一メートルもない。
当然光りの反射で顔が見えないということもない。
何より、昨日とも違って、今は00001号にじっとその目で見つめられている形になる。
その感情の読めない瞳はまた何を考えているようにも見え――。
聞こえないはずの声が頭の中でぐるりと巡る。
(無理――気持ち悪い――このストーカーが――ゴミ虫――ッ)
一方通行は00001号の顔を見つめたかと思うと、指先、腕、顔と――身体を痙攣させ始めた。
一方通行「あ、あァあ……ッ」
00001号「あ?」
一方通行「俺を見るなァああああァァあああ!!!!」
ドガンッッ
その叫び声の勢いのまま壁を殴りつける。
壁はベニヤ板のようにベキリと音が鳴ったかと思うと、大きな穴を空けて崩れた。
土埃が舞う。
一方通行「うわァァああああああああああああああ!!!!!」
『お、おい一方通行! どこへ行く!!』
一方通行が逃走しました。
- 53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/02/29(水) 15:25:37.43 ID:YbuDJ+rDO
-
ポツーン
00001号「……ミサカはどうしたらいいのでしょうかとミサカは残された部屋で呟きます」
『……はぁ、一旦戻ってこい』
00001号「了解しましたとミサカは頷きます」
場所は変わってモニタールームでは、天井が深い溜息を吐いていた。
一方通行が妹達に中々近づかないのは予想していた。
業を煮やした妹達の方から近づくのは少々予想外ではあったが、「よくやった」と膝を叩いたものだ。
しかし天井は舐めていた。
一方通行のトラウマを。拒否反応を。
せいぜい「第三位さんあかん嫌いだわー」程度の拒否反応かと思っていたのだ。
何たって、フラれただけ! たった一度フラれただけなのだから!
いや、確かに一度フラれただけでも傷つくだろう。しかし――。
前途多難だ、と天井は頭を抱える。
告白が断られるというのは――極々一部を除き――誰にでもある経験だ。
天井だってその気持ちの悪い顔と性格が理由で何度フラれたことかわからない。
しかしその経験を繰り返すことで、簡単には挫けない心が出来てくる。
天井もそうして何度振られても諦めない、非常にたちの悪い性質を手にするようになったのである。
そして一方通行にはこの経験が、圧倒的に少なかった。
天井(しかし、step.01から大きな壁になるとは思わなかったな)
天井「……」
思考にダイブしようと思い、寸前芳川を思い出す。
このモニタールームに誘ったのだが、用事があると断られたのだ。
もしここに芳川がいたら、これからの対策について話し合っていたかもしれない。
天井(もし、もし誘いが断られなかったとしたら――)
天井「……そういえばあの子は女の子全般がダメなのかしら?」
天井「ふむ? 一方通行は第三位が、と言っていたが……」
天井「あら、でもそれなら考えようがありそうね」
天井「確かにそうだな。……まずは出ていった一方通行を追わないとな」
天井は裏声を駆使した呟きを終えると、はふぅと満足げに吐息を洩らす。
喉を優しく撫でると、目を狐のように曲線を描かせた。
そうだ、もう用事は済んでいるかもしれない。
ぐいと壁に取り付けられた所内電話に腕を伸ばす。
ボタンを押すとカチリとした機械音が鳴る。
ジリジリと呼び出し音がしばらく鳴り響くと、
『……何かしら? プライベートな用件なら切るわよ。今忙しいの』
TVの音声が聞こえる気がしたが、それには耳を塞ぐ。
天井は目頭が熱くなりつつも、
天井「違う。いや出来ればその話もしたいが……一方通行が逃げたんだ」
『えっ?』
- 54 :saga2012/02/29(水) 15:33:49.48 ID:YbuDJ+rDO
-
受話器の向こうで芳川はすっとんきょうな声を出した。
天井「どうした?」
『あ……いえ。それでどうして私に連絡してきたのかしら』
天井「……だから仕事で」
『私はあの子のトラウマ治療には関係はないはずだけど』
天井「声が」
『聞きたかったなんて言ったら切るわよ』
天井「……協力してほしいことがある」
『それって、トラウマ治療の協力かしら? ……ねぇ私はあの子のトラウマを治さなくてもいいと思っているのよ。もちろん治してもいいのだけれど、それであの子が辛い思いをするのならね』
天井「何だと……?」
『私はどうしても甘いのよ。優しくなれない。だから、あなたの期待に沿えないかもしれない。それでもいい?』
天井「……あぁ。頼む」
『そ。わかったわ。じゃあ詳しいことを教えてもらえるかしら』
伝えたいことを伝えると、「案外単純なのね」と言われたが了承を得ることができた。
天井はそれを聞いたとき顔を渋めたが、芳川の声の柔らかさに気がつき一転気分が良くなった。
今は下手くそな鼻歌なんて歌っている。
本当に単純な男である。
- 55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/02/29(水) 21:39:11.17 ID:YbuDJ+rDO
-
天井(さて、次はあの人のところに電話するか)
天井はデータを起こして、再び連絡を取るための操作を開始した。
**
一方通行は走っていた。
一歩踏み出せば壁を駆け、もう一歩踏み出せば空を駆けるといったように。
それが目立たないわけもなく、しかしそれを気にする余裕もない。
あの冷たい目を思い出す。
頭を掻きむしりたくなるような、どこかの穴に埋まりたくなるような、いっそ殺してくれ! と叫びたくなるような。
大切なものが一瞬にして踏みにじられてしまったような絶望感と共に襲いかかる。
違う、あれは違う。
あれは御坂美琴とは違う。
それに、俺はあのときの自分とは――。
走り、走り、走って、頭が落ち着いてきたころに――
ぎゅむっ
ようやく足を止めた。
一方通行「――ンだァ?」
- 56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/29(水) 21:48:48.01 ID:YbuDJ+rDO
-
一方通行はこのあと誰に会うか
1.学園都市に逃げてきたばかりのインデックス
2.パトロール中の黒子
3.パン屋で働き中の青ピ
明日の夜までに一番多かった人を出します
また、何もレスがなかった場合はアミダくじで
- 122 :選択:黒子[saga]:2012/03/01(木) 22:48:25.93 ID:rN2JyczDO
-
何かを踏みつけた。
それが何かと確認しようと目線を足下に送る――前に、くぐもった声が耳に飛び込んだ。
黒子「ど、どいてくださいまし……」
一方通行「はァ?」
見ると、少女の背中を自身の足がしっかりと踏みつけていた。
故意の行動ではなくとも、最低だと非難されそうな格好である。
一方通行は何故少女が道路に寝そべっていたのか疑問に思いつつも、少女には今一方通行の能力によって過度の負荷がかかっていることを思いだし、すぐに足を退けた。
黒子「ふぅ、ありがとうございますの。――ってどこに行きますの!?」
額を拭った少女をそのままに背を向けて歩きだす。
それに慌てたのが黒子だ。
用事など何もない。
けれど自分を踏んでおいて――道に倒れていた言い訳もできないまま――何も言わないというのはどうも気分が悪い。
そう考えたのかはわからないが、少女は
黒子「ちょっと待ってくださいまし!」シュンッ
一方通行の目の前に空間移動した。
- 123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/01(木) 23:41:16.49 ID:rN2JyczDO
-
一方通行は基本的には他人に興味を持たない。
いや、深く他人に関わることを嫌うといった方が正しいだろう。
入れ込めば入れ込むほど裏切られたときの傷が深いことを知っているからだ。
とまぁここまで暗い背景があるように書いてみたはいいものの、事実単なる臆病者。ガリガリチキンだ。
だからこの行動はこの少女に対してだけでなく、誰に対しても同じ対応である。
けれどそれが少女に伝わるわけもない。
一方通行は目の前に現れた少女――黒子を見ると、目を大きく開いた。
黒子「な、何かおっしゃることはありませんの……?」
空間移動をしてまで一方通行の歩みを止めたが、一方通行の表情に少したじろいでしまう。
無表情で初対面の男に見つめられるというのは、結構心にくる。
黒子は艶やかな髪を揺らしながら、下唇を噛み恐る恐る口を開いた。
黒子「……あ、あの……わ、わたくしは謝って欲しいというわけではありませんのよ?」
黒子「その、わたくしが道に寝そべっていたのが悪いわけですし」
黒子「そう! そうですわ! わたくしは別に石につまづいて転んでしまったというわけではなく――えぇ淑女がそんなことをしてしまうわけがありませんの」
黒子「じゃ、ジャッジメントの仕事で道に寝そべらなくてはいけなかったといいますか――」
一方通行「うェ……」
黒子「え?」
一方通行「うぼェェェえええええええッ」ビチャビチャ
- 124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/02(金) 01:32:12.42 ID:FILoZE2DO
-
黒子「え、えっちょっと大丈夫ですの!?」
黒子は慌てて一方通行に駆け寄った。
それにいっそう一方通行は吐き気を催したが、黒子はそれに気がつかない。気がつくわけがない。
少しでも気分が良くなるようにと一方通行の背中を優しく撫でる。
しかし当然それで一方通行の嘔吐はおさまることはなく、道を黄色い液体で汚していく。
どのくらい吐いていただろうか。
一方通行は肩を上げて息を荒げると、疲れたように壁に凭れかかった。
倒れかかったといってもいい。
黒子は心配そうに一方通行に目線をやると、携帯電話――にはとても見えないが――を取りだした。
黒子「もしもし初春? 体調不良の方がいらっしゃいましたので、今からそちらで休ませます。ポカリなどの準備をお願いしますわ」
あと濡れタオルも。
そう言って切ると、黒子は一方通行に触れながら演算を開始させた。
そして違和感に気がつく。
黒子(演算が……どこかで狂う……?)
空間移動は複雑な演算を要する。
他人と一緒に能力を行使する場合は尚更だ。
だからこそ黒子は「病人を送る」という理由から普段よりも丁寧に演算を始めようとした。
だが、何故か途中で演算が狂うのだ。
黒子「どうして……」
一方通行「ンだ……オマエ何して」
一方通行が額に汗を浮かしながら、霞む目で黒子に向く。
そして再びえづいた。
一方通行「うェッ」
黒子「あっお休みになられてて下さいな。わたくしが今から空間移動であなたを休憩場所に送らせていただきますので」
一方通行「……大丈夫だ。目ェ瞑ったから……あァ、えっと、空間移動?」
黒子「え、えぇ……わたくしの能力ですの……」
先ほどから絶えず演算を繰り返しているのだが、それを悟らせて不安にさせるわけにはいかない。
黒子の唸っている様子を感じとると、一方通行は「あぁなるほど」といったように頷き呟いた。
一方通行「……わかった、頼む」
シュンッ
二人はその場から消えた。
あとに残されたのは一方通行の吐瀉物のみ。
それも清掃ロボットがすぐにやって来て片付けてしまう。
あれやこれやというほどの時間すら与えぬ間に、すぐに元通りのゴミ一つない道に戻ったのだった。
- 131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/02(金) 23:27:33.18 ID:dAoAFKr/0
-
**
シュンッ
黒子(あ、あら? 空間移動が出来てる?)
降り立ったのは黒子が行こうとしていた支部内であった。
今まで何かの障害――流れる水が壁にぶつかり押し返されるように演算が上手くいかなかったものが、
いきなりその壁が取り払われたように能力が行使できたことに疑問符を浮かべる。
もしかしたら自分の能力に何か問題でも起きたのだろうか。
それならば一度検査に行く必要もある。
それとも、と黒子は考えた。
黒子(この殿方が「頼む」と仰った瞬間に、壁が取り払われたような……)
黒子は一方通行に目を落とした。
黒子(もしかしたら、この方の能力なのかも……いえでもそんな)
一方通行「う……」
一方通行が青ざめた顔で、眉間を歪める。
黒子は思考から引き上げられると、慌てて一方通行の背中から手を離した。
黒子「あっすみません。ソファーで申し訳ありませんが、横たわって休んでくださいまし」
一方通行はその言葉に目を瞑ったまま小さく頷くと、おぼつかない足取りで立ち上がった。
黒子は一方通行の手を取り、ソファーへと導く。
一方通行がドサリと腰をソファーに沈ませると、黒子は部屋の中をくるりと見渡した。
デスクトップの明るいパソコンが小さな電子音を立てているだけで、誰もいない。
黒子「……とりあえずとなりますが、お水でも持ってきますわね」
一方通行はソファーに横倒れになると、「おォ」と力ない声で返事をした。
- 132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/02(金) 23:55:44.17 ID:dAoAFKr/0
-
黒子「はいどうぞ」
水を入れたコップを横たわる一方通行の手に握らせる。
一方通行は少しだけ水を口に含ませると、しばらく口の中で転がすようにしてから飲み込んだ。
黒子「えっと、お風邪を引かれているんでしょうか? 市販のものでよろしければ風邪薬はありますわよ」
一方通行「……いや、いい」
黒子「そ、そうですの」
会話が途切れる。
沈黙が重い。空気が肩にのしかかった。
黒子はチラリと扉の方に縋るような目線を送る。
そのとき、勢い良く扉が開いた。
バンッ
初春「た、たっだいっま、買ってきましたー!!」
ぜぇはぁと肩で息をしながら、ぐたりとしゃがみこんだ。
両手に抱えられた袋が重い音を立てる。
黒子「初春!」
初春「え、へへへっ。いろいろ買ってきましたよー、領収書も貰ってきましたー」
ピラリと指先で摘んだ領収書をテーブルに置いた。
ゆらりとテーブルに手をつきながら立ち上がると、
買ってきたものをテーブルの上に次から次へと並べ始めた。
初春「まずはアクエリアスですね、それでポカリに、ついでにカルピス」
それにそれにと、あっというまにテーブルの上はペットボトルで溢れてしまう。
一方通行が飲まなかった場合は自分がタダ飲みしてしまおうという魂胆が見え隠れする。
黒子は何も言わず、だが呆れたように眉尻を下げた。
- 133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/03(土) 14:07:58.54 ID:hNxgvbGDO
-
初春「それで、えっと病人の方が――」
黒子「そちらのソファーでお休みになっている殿方ですわ」
きょろりと目玉を動かした初春に、黒子は一方通行を指差す。
初春は一方通行の元に歩み寄ると、横たわる一方通行の目線と近くなるようにしゃがみこんだ。
無論一方通行は瞼を閉じたままである。
ペットボトルと一緒に買ってた即席蒸しタオルの封を切り、一方通行の額にそっと乗せる。
初春「こんにちは。飲み物――スポーツ飲料をいろいろと買ってきましたが、何か飲みたいものとかありますか?」
一方通行「……甘いもンはいらねェ」
初春「……難しいですね。全く甘味がないものはありませんが控えめなものなら」
一方通行「コーヒーはねェのか」
掠れた声で遮るようにそう言った一方通行に面を食らう。
黒子も初春と同じように目を真ん丸くしていた。
そしてすぐに眉を吊り上げる。
強い口調で言った。
初春「胃が弱っているときにコーヒーなんて飲ませられるわけがないじゃないですか!」
黒子「本当ですの。しかもあなたは吐いたばかりで、胃袋は空っぽですのよ? 更に具合が悪くなるに決まっていますわ」
一方通行は押し黙る。
初春はいくつかのペットボトルを腕に抱えて、
初春「一応甘さが控えめなものです。この中から選んでくださいね」
一方通行に尋ねた。
一方通行は口を曲げるが、有無を言わせぬ口調に渋々と頷く。
黒子と初春はその反応にほっと息をついた。
初春は選びやすいようにペットボトルを床に並べる。
カラフルなラベルが横に並ぶ。
初春「さ。どれがいいですか?」
見て選べということだろう。確かにそれが一番早い。
しかし、と一方通行は躊躇った。
初春はいつまでも目を開けない一方通行に首を傾げる。
- 134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/03(土) 14:10:48.36 ID:hNxgvbGDO
-
初春「どうしたんですか?」
一方通行「あー……オイ、オマエらは常盤台か」
初春「へ? い、いえ常盤台は白井さんだけですが」
黒子「初春は柵川中学ですわ」
一方通行「そォか。じゃあ、その……白井」
唐突な質問に驚きながらも律儀に答える。
学校なんて聞いてどうするのだ。
制服マニアの変態だとしても、あまりにも脈絡がない。
一方通行はその様子を気にすることなく、言葉を続けた。
一方通行「オマエ、制服脱げ」
- 147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/04(日) 18:56:49.64 ID:BB85Yjh20
-
黒子「は……?」
文字通りの絶句。
初春は赤くなったり青くなったりとリトマス試験紙のように顔色を変化させている。
一方通行は返事がないことに眉を潜めた。
何せこの第一位、珍しく気を遣っての発言なのだ。
端から見ればとんでもないが、
「自分を気遣ってくれた少女」に対して「再び吐くわけにもいかない」という気遣いであった。
普段ならば御坂美琴が普段着用している制服と同じものを見たからといって吐くまでではない。
けれど現在は状況が違う。
妹達によって、トラウマが心の表面層にまで浮き出ている。
治すどころか悪化してんじゃねーか。とのご指摘はもっともだが、これも一方通行がチキンのせいである。
一方通行「オイ、脱がねェのか」
黒子「わ、わたくしにここで脱げと……?」
黒子は混乱していた。
自分が連れてきた病人、それが一方通行だ。
黒子は責任感の強い少女である。
仕事をこなさねばならない。ではその仕事とは一体なんだ?
「一方通行を看病すること」なのか、それともこの一方通行は「補導すべき変態」なのか。
いやでももしかしたら、体調不良によって意識があやふやなのかもしれない。
そう考えたのか、黒子は一方通行に問いかけた。
黒子「その、もしかして、わたくしを踏みつける前にどこかで頭を強打されたとか……そっそれでご気分が悪くなったんですの?」
初春「あ、あぁそれならもう少し寝ていないとダメかもしれませんね!」
一方通行「あァ? どこも打ってねェよ。気分が悪いのは確かだがな」
台無しである。
一方通行は焦れったくなってきた。
そもそも一方通行はあまり気が長くない。むしろ短い。
そして一方通行は少女がここで着替えることに何の不思議も覚えていなかった。
だって目ェ瞑ってるし。
ガキの身体にゃ興味ねェし。
一方通行「そンなにその制服は脱ぐのに手間取ンのか?」
黒子「いえ、そ、そういうわけで」
一方通行「仕方ねェな」
瞬間。突風が吹き抜けた。
それも黒子の足下からという極めて局地的な地点で。
さまざまな方向が加わったその風は、意思を持っているかのように――
黒子「……え?」
初春「し、白井さん……やっぱり派手な下着ですね……」
風に飛ばされた制服は、ゆっくりと床に重なるように落ちていった。
- 148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/04(日) 19:15:08.43 ID:BB85Yjh20
-
ここで弁解させていただきたい。
一方通行は何も黒子を脱がしたままにするつもりはなかったと。
ここは風紀委員の支部である。
当然何らかの着替えはあるものだと考えていた。
一方通行は黒子に言う。
一方通行「じゃ、目ェ開けて良くなったら教えてくれ」
黒子は小刻みに震えた。
頬は耳まで朱色に染まっている。
いくら愛しの先輩相手には下着姿で飛びかかることが出来ても、それが初対面の男性ともなろうと話は別。
どんなに仕事に対する責任感が強くとも、黒子は年頃の少女なのだ。
さてここで一方通行が何故黒子の空間移動によって支部内に運ばれることが出来たのか、考えて貰いたい。
そして一方通行はその設定をやり直すまでの体調的な余裕もなく――
黒子は大きく手を振りかぶると、
黒子「目を開けていいときなどありませんの!!!!」
渾身の力で一方通行の顔を殴りつけた。
**
天井「何、だと……」
モニターは、ようやく見つけ出した一方通行の姿を映していた。
教えてもらった一方通行の行動パターンを参考にしながらやっとのことで見つけ出したのはつい先ほどのことである。
・・・・・・
天井(一方通行が、殴られている?)
- 157 :>>150行動パターン+監視カメラ+データ照合[saga]:2012/03/04(日) 21:55:09.79 ID:BB85Yjh20
-
まず驚いたのは一方通行の能力の特性上どうして殴られたのか。
それ以上に気になったのが、「一方通行が女性に何かをやった」ということだ。
基本的に一方通行がトラウマを作る原因となったのは自分自身の行動である。
御坂美琴しかり、このモニターに映る少女もそうなのだろう。
天井(ガキの裸には興味はないが……最近のガキは凄い下着を着けるもんだ)
一方通行を殴り、怒りか興奮か。
肩を激しく上下させている少女が身につけているのは、
黒紐で支えられている半透明の黒いショーツとブラジャー。
黒レースだけで編まれているキャミソールがそれらを申し訳程度に隠している。
しかし身体はまだ幼い子どもで、そのアンバランスさがこう、クる人間もいるのだろうと容易く想像させた。
天井「……というか、これでまた一方通行はトラウマを悪化させてたりしないだろうな?」
これで御坂美琴だけでなく女性全般がダメになったりしたらますますトラウマ改善への道のりが遠くなってしまう。
せっかく芳川に頼んでいる案件もダメになる可能性もある。
天井(いや逆に上手くいくのか?)
とりあえず、何故一方通行が殴られたのかは知る必要がある。
だが一方通行に直接聞いて、素直に答えてくれるものとも思えなかった。
天井は再び、虚空に向かって溜め息を吐いた。
- 162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/05(月) 20:47:05.96 ID:eSFcD1VW0
-
―――――
――
美琴「で、何があったのよ」
詰め寄る美琴に黒子は小さく頭を振った。
見るからに落ち込んでいる。
黒子は上目遣いで美琴を見ると、ぽつりと言葉を零した。
黒子「……お姉様におっしゃるようなことではありませんの」
その言葉に思わず美琴の眉はつり上がる。
勢いをつけて、椅子の背もたれに背中を預けた。
美琴「――っもう! 悩んでいるなら私に相談してくれたっていいじゃない。ねぇ初春さんは何か知らないの?」
初春「えー、とですね……」
黒子「初春」
視線を逡巡させながら、話しかけた初春を制する。
初春は苦笑いをしながら頬を人差し指で掻いた。
初春「あ、はは……でもその、白井さんが悪いわけではないと思いますよ?」
黒子「いえわたくしの思慮不足ですわ……その、アレは許せたことではありませんが。ですがあの方に理由を尋ねずに手を出してしまったのは、……大変申し訳なかったと」
初春「でもあの状況で理由を聞こうとなんてしないと思いますけどねぇ」
黒子「ですが……っ」
黒子は初春のフォローを否定する。
初春はそんな黒子を見て、優しげに目を細めた。
黒子「……何が、おかしいんですの」
初春「違いますよ。ね、白井さん。白井さんは悪くない、で白井さんは気が済まないんですよね? じゃあどうしたら白井さんの気は済むんですか? 何か、考えはあるんですか?」
黒子「……」
初春「あの人を助けたい? でもどうしたらいいのかわからない? そもそも理由を聞いたら逃げるように出て行ってしまいましたからねぇ。あの人が誰なのかもわかりませんし」
黒子「……わたくしは」
初春「御坂さんも言いましたけど、相談してくれたっていいと思いますよ? 白井さんは、一人で何でも抱え込む癖がありますから」
黒子「でもこれはわたくし個人の感情で」
初春「白井さんの、あなたの個人の感情も吐露できないなんて、そんなパートナー……友達がいますか?」
黒子「……初春」
初春「はい」
黒子「……えぇ、そうです、わね」クスッ
初春「はい!」
微笑んだ黒子に初春はにっこりと笑って、嬉しそうに返事をした。
- 163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/05(月) 21:15:04.94 ID:eSFcD1VW0
-
美琴「だーっ!! もう! だから何があったのよー!!!」
佐天「ほんとですよ! 仲間はずれダメ! 絶対!!」
一斉に大声をあげた二人に、初春は手を顔の前でひらひらと上下に振る。
黒子は照れくさそうにこほんっと咳をして、美琴の顔を見て、佐天の顔を見た。
黒子「その、昨日の、ことなんですが」
**
**
黒子「……ということがありましたの」
美琴「……それって、変態じゃないの?」
佐天「……どう考えても」
初春「まぁ変態ですよね」
少女たちは頷きあう。
話から膨らませたその変態のイメージ像が頭に浮かび上がる。
(ただし初春は一方通行の顔を思い浮かべている)。
美琴と佐天はそれぞれ想像したものに嫌な顔をした。
どんな想像をしたのか一方通行の顔と比べてやりたいものである。
黒子は「まぁそう思って補導しようと思ったんですが」と前置きをして、ゆっくりと瞬きをした。
黒子「何故そんなことをしたのか、理由を聞いてみたんですわ」
佐天「理由って、女の子を裸にしたかったーとかじゃないんですか?」
黒子「それなんですの。あまりにも状況が不可解だったんですわ」
美琴「まぁ嘔吐が演技ってのも考えられても、ジャッジメントだってわかってからやるのも不自然よねぇ」
初春「そういうスリルがイイって人もいるかもしれませんけどね」
佐天「うぇ。それってドMってこと?」
初春「どちらかというと露出狂の心理に近いんじゃないでしょうか?」
- 171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/06(火) 19:29:51.03 ID:t9dx0bY80
-
散々である。
これを第一位だと知ったらどうなるのだろうか。
おそらく学園都市の風評が悪くなるだけだろうが。
黒子は言う。
黒子「何でも、彼が言うぶんには」
初春「『違ェよ! 俺はただ! その制服が見てらンなかっただけだ!!』」
黒子「……そっくりですわね」
初春「えへへ」
殴られた後、しばらく一方通行は白目を剥いて気絶をしていた。
いくら鍛えているとはいえ、女の子の一発にノびてしまうというのはあまりにも情けない。
しかしそれは少女たちを落ち着かせるのには丁度良かった。
ハッと我に返った黒子は、慌てて制服を着ようと――と、そこで一瞬考え、支部に置いていたジャージに着替えることになったのだ。
目覚めた一方通行に問うたのは初春だ。
「あなたは、白井さんの裸が見たかったんですか……? それだとちょっと補導しないとなんですけど」
それに答えたのが、初春の言う言葉であった。
佐天「えー? 何ですかそれ。意味わかんない」
初春「まぁただの言い訳みたいなんですけど、ちょっと嘘を言っているようにも思えなかったんですよ」
黒子「それで、その殿方に電話がかかってきましてそのまま帰ってしまったんですが……その殿方の電話での受け答えが、そのですわね」
初春「何らかの事件に巻き込まれているんじゃないかっていうほど、せっぱ詰まっていたのと……これは言っていいのかわからないんですけど」
黒子「『御坂美琴』、お姉様の名前を仰っていたんですわ」
佐天「……どういうことですか? それに、それがどうして助けたいに繋がるんです?」
黒子「おそらく、彼は『常磐台』の制服を何らかの理由で見ること出来なかった。そしてそれはお姉様に関わる事件に巻き込まれている可能性もある。助けたいというのは……そうですわね、単なるわたくしの自己満足ですわ」
黒子は一呼吸を置く。
黒子「それに、最近気になる噂――単なる噂だとは思いますが――がありまして」
佐天「……それってもしかして」
初春「知っているんですか!?」
佐天「何てったって涙子ちゃんは都市伝説サイトの常連さんだよ? でも、あんな信憑性のない噂」
黒子「そうなのですけれど」
美琴「……ねぇ」
今まで口を閉じていた美琴が、顔をあげた。
その表情は、もどかしいもので
美琴「初春さんの声マネ、私どこかで……聞いたことがあるような」
ぽつり、と呟いた。
- 172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/03/06(火) 21:02:08.92 ID:aV5f344Do
- もうやめて!とっくに一方さんのライフはゼロよ!
- 173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/06(火) 22:43:35.28 ID:ReL3Q+cDO
-
初春「知ってるんですか!?」
一斉に向けられたら顔に少し退く。
美琴は唇に指をもっていき、首を傾げた。
美琴「んー、ううん。昔、そんな口調の奴がいたような……でも嫌な思い出だった気がするのよねぇ」
指を強く唇に押し付ける。
幼いころの記憶がフラッシュバックした。
夕焼けに染まった公園。誰かの視線。
眉間の皺を深める。
それに気がついた佐天は不安そうに美琴に声をかけた。
佐天「嫌な思い出なんですか?」
美琴「えぇ。なーんか、気持ち悪い奴で……何だったかしら」
初春は顔を乗り出す。
初春「それって、白髪で赤目だったか覚えてますか?」
美琴「えっ、なにそれ」
黒子「そういった外見の殿方だったんですわ」
白髪に赤目の変態。
理由があったということはわかっても、変態というイメージは拭い去れない。
佐天「うわー……」
佐天は正直すぎる声を思わず漏らす。
しかしそれを否定することも、その言葉も思いつかず、黒子は話題を進めようと促した。
黒子「それで、お姉さま」
美琴は首を横に振った。
美琴「……あー、はは。ごめん、違ったみたい。そんな変わった外見じゃなかったわ。顔は覚えてないけど、そんなんだったら覚えてるもの」
黒子「……そう、ですわよね」
美琴「ごめん黒子」
- 186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/08(木) 00:04:38.77 ID:Fnfhk3KB0
-
美琴が申し訳なさそうに謝ると、黒子は「大丈夫ですわ」と微笑む。
そもそも一人でやろうとしていたのだ。
情報が全くないのは承知の上である。
黒子「それで、危険なことをしていただくわけにはいきませんし……都市伝説とその方がどんな方なのかから調べていきたいと思うのですが」
佐天「いいですよ! 面白そうですし」
初春「佐天さんはお休みしていていいんですよー? 課題終わってないんじゃなかったですっけ?」
佐天「ちょっと初春、大丈夫だって! 夜にぱーっと寝る前に」
初春「……写させませんからね」
美琴「私もいいわよ。……都市伝説が少しでも真実が混ざっているっていうなら、私も関係してそうだしね」
黒子「……お姉さま」
美琴(場合によっちゃあ、……この子たちをそれから遠ざけることも必要でしょうし)
美琴は影で独りごちた。
さてこの女子中学生四人、一方通行について調査を始めたわけである。
子どもといえどその探索力はお粗末なものではなく、表面に浮いた上澄みを拾ってしまうかもしれない。
そんな不安要素を抱えながらも少女たちは笑う。
先に待ち受けている暗雲に気付くこともないまま――。
佐天「っていうか、裸にしたのに理由があるとしたって、その人変態臭くないですか?」
美琴「まぁ最低男よね」
- 187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/08(木) 00:05:37.98 ID:Fnfhk3KB0
-
**
天井「で、昨日は何があったんだ」
椅子の上で胡座をかく一方通行に、苛立ちを抑えながらも尋ねる。
何せ数時間だ! それも昨日一方通行を研究所に戻してから尋ね続けているというのに、一方通行は黙りのまま。
まぁ確かに話しづらいだろう。
事情を話してしまったら、第一位の尊厳(というのがまだあるのかは疑問だが)が崩れてしまうのは目に見えている。
しかし少女が裸になった時点からしか見ていない天井はそれを察することも出来ず、答えない一方通行にただ苛立ちを募らせるだけだ。
天井「オイ、一方通行!」
一方通行「……なァンですかァ? そンなに苛々してっと禿げンぞ天井くゥン」
その言葉に慌てて薄い髪の毛を抑える。
近頃頭を洗う度にごっそりと両手に髪が絡みつくだけに、耳が痛い。
髪を一房指で摘むと、頼りない髪量が落ちていく。
天井「……禿げてない」
一方通行「あァ?」
天井「禿げてない!!」
この中年、必死である。
ちなみに禿げているか禿げていないか。
そのことにも顔が重要部分を占めることを記述しておこう。
要するに禿げている男前は硬派なイケメンに見られるわけで、世の中って不公平だよね。
一方通行「……いや、別にハゲとは言ってねェよ」
天井「――っ昨日の話はとりあえずは置いておく! とにかく、思ったよりも治すのが難しそうだということでだな! 妹達を見つめることから今日はやってもらうぞ」
- 188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/08(木) 00:11:11.69 ID:Fnfhk3KB0
-
step1に入る前のもう一段階というわけだ。
天井はポケットから一枚の写真を取り出す。
天井「それとは別にもう一つ、これだ」
一方通行「ンだ……それ」
天井「ある男から買い取った、第三位の写真だよ。これを常に持ち歩いておけ」
そこに写った美琴は、緑色の縫いぐるみを蕩けるような笑顔で抱きしめており――
一方通行「……」カチンッ
石のように固まってしまった一方通行にそれを予想していたかのようにさっさと近づくと、
そのポケットに写真を押し込んだ。
パンッパンッ
天井「……よし」
二礼二拍手一礼を終えると、天井は一方通行の肩を叩く。
当然のごとく反射によって手の平に衝撃が返ってきた。
完全防御である。
そのくせ心はガラスのハート。面倒くさい男だ。
天井(そういえばどうやって起こせばいいんだコイツ)
- 197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/10(土) 18:05:26.36 ID:5ZtdPsMr0
-
大声を出す。
これはただ音が戻ってくるだけ。
殴る。
これは自分の拳が痛くなるだけ。
電気を浴びさせる。
機械が壊れる上に後が怖い。
一方通行の反射はほぼ完璧だ。
特例を除き、基本的には外的刺激を受け付けない。
例えばウンコを思い切り投げつけたとしても、それはウンコだけでなく臭いも彼には影響を及ぼすことすらできないのだ。
むしろ投げた方がうんこまみれになる。恐ろしい。
天井(一方通行自身が自分で起きるのを待つしかないか)
天井は一方通行を起こすことを諦め、ふと考える。
本当に一方通行のトラウマは治るのだろうか。
天井は医者じゃない。
さして調べることもせず一方通行への治療法を考案してきたが、効果は怪しいもので。
天井「……芳川に頼んでいることが、上手くいくといいんだが」
天井は天井をぼうと眺めると、そんなことを呟いた。
天井(だがそこに行くまでに……step01にすら到達出来なかったら)
考えるだけでも面倒な事態だが、一方通行のこの様子を見ていると有り得ないことでもない。
むしろそちらの方の可能性が高い。
実のところ、一方通行に伝えた内容は全く正しいものではない。
嘘ではないが、伝えていないこともある。
けれどこれも上手くいかないかもしれない。
step01を達成することができなくても、できなかったとしても。
そのときは――。
天井は未だ動かない一方通行を見やる。
白い肌が照明に当てられ、ぼんやりとした光を纏っていた。
- 198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/10(土) 18:06:31.26 ID:5ZtdPsMr0
-
ガチャッ
「あ、あのぅとミサカは控えめながらも遠慮なく扉を開きます……」
「目的のポスターも持ってきましたとミサカは腕に抱えたポスターを見せます」
天井「00002号と00003号か。予定よりずいぶん遅いな……あぁいや、ちょうどいいタイミングだ」
扉を開けて入ってきた妹達に天井は目線だけを移す。
一方通行が気絶をしていて良かった。
妹達は暗視ゴーグルを頭の上にズラすと、横並びに天井へ向いた。
00002号「は、はいとミサカは別行動をしている別個体の代わりに来た検体番号00002号であることに頷きます……」
00003号「この個体は何をすればいいのでしょうか? とミサカは尋ねます」
気の弱そうな個体と、やや固めの印象を抱かせる個体だ。
ここまで個体の差が出ているとは、微調整が上手くいかなかったのかもしれない。
いや、それとも芳川が考えてのことだろうか。
そう頭の隅で考えつつも、
天井「一方通行の部屋はわかるな?」
唇をニヤリと歪めた。
- 199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/10(土) 18:07:38.04 ID:5ZtdPsMr0
-
**
00003号「なるほど。了解しましたとミサカは敬礼のポーズを取ります」
00002号「お、同じくとミサカは敬礼のポーズをとります……」
天井の説明を受けた妹達は同時に敬礼する。
それを確認した天井は「あぁ」と思い出すように言った。
天井「そういえば何故遅れてきたんだ」
00003号「トラブルが発生しましたので、とミサカは簡潔に答えます」
00002号「そ、その、ミサカがポスターを落としてしまいまして、とミサカは聞かれなければ黙っていられたのにと残念な気持ちになりつつも補足します……」
00003号「落としたという言葉は正しくはないのでは? とミサカは検体番号00002号の言葉を指摘します」
00002号「えぇぇ、アレは落としたでいいんじゃないですかとミサカは検体番号00003号の指摘に焦ります……っ」
言い合いを始めた妹達に天井は米神をひくつかせる。
大本の思考は1つのはずだというのに、何故こうケンカすることができるのだ。
どんどんとヒートアップしていく目の前の妹達。
そして気絶したままの一方通行が音響を増幅する機械となり、ますます音は大きくなっていく。
天井は耐えきれず叫んだ。
天井「いい加減にしろ! 一言で言えぇええええ!!」
- 200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/10(土) 18:12:52.18 ID:5ZtdPsMr0
-
妹達がポスターを持ち帰ってくる過程で会ったのは誰か
1.食蜂
2.絹旗
3.垣根
明日の朝までに一番多かった人を出します
また、何もレスがなかった場合はアミダくじで
- 251 :選択:食蜂[saga]:2012/03/11(日) 06:44:49.81 ID:/aIsOa3DO
-
「やだぁ。うるっさいわねぇ、女の子に対して優しくないと男はモテないわよ?」
開かれたままだった扉の影から、耳を手のひらで抑えながら顔を出す。
食蜂操祈、第五位。常盤台中学の女王蜂。
男の騒ぎ声は苦手なのだと、ぶつくさと文句を言う。
突然現れた食蜂に、天井は顔をしかめた。
精神操作系の能力者と、こんな能力に対して無防備な状態で会いたいものではない。
天井「……何でお前が」
食蜂「だからぁ、あ。一言で言うんだったかしら?」
天井「それは妹達に」
食蜂「しすたーず?」
天井がしまったという顔をする。
それに食蜂はにんまりと笑った。
食蜂「あは、知ってるわよ。だってぇ、この子たちの頭の中から見ちゃえばいいんだもの」
その言葉に天井は妹達を慌てて見た。
00003号は無表情のまま食蜂を見ると、
00003号「00002号が吹っ飛ばしたポスターを食蜂様に拾っていただいたのです、とミサカは一言で説明します」
- 258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/11(日) 22:28:06.33 ID:DIvk6W1o0
-
00002号「あ、ち、ちがうんですよぉとミサカは検体番号00003号の言葉を誤魔化そうと」
00003号「ポスターを振り回しながら歩いたりするから手からすっぽ抜けるんですとミサカは検体番号00002号の言葉に被せて発言します」
00002号「あ、あぁあうとミサカは言葉にならない声を漏らします……」
手をばたつかせている00002号の頭を抑えながら00003号はキツイ口調で叱咤する。
それを視界の端に押しのけ、天井は爪を噛んだ。
食蜂は面白そうに妹達を見ている。
天井(食蜂さま……だと?)
――嫌な考えに至った。
表情が微かに変化したことに気がついたのか、食蜂はその笑みを絶やさぬままに天井に話しかける。
食蜂「んー、違うわよぉ?」
天井「……何がだ」
食蜂「だからぁ、別に私はこの子たちを操ってなんかないわよ。失礼しちゃうわねぇ」
食蜂は少し考えるように瞼を閉じる。
食蜂「心を読んだって言ったでしょ? 精神が大きすぎて、ちょぉっと操るのが面倒なのよねぇ」
妹達の精神を操るには、大本の精神、そしてそこから枝分かれする精神を全て把握する必要があるわけで。
とはいえレベル5、出来ないことはないのだが本人が言うように手間がかかってしまう。
天井は心の中でほっと一息を吐いた。一番最悪なパターンは避けられたようだ。
しかし、と新たな不安要素を思い返す。
天井「……どうして研究所までついてきた?」
食蜂「聞きたいかしらぁ? あぁでもそれより先にこの子たち、もう行かせた方がいいんじゃない?」
ヒョイと妹達を指さす。
天井は舌打ちをすると、まだじゃれついていた妹達に早く行くように命令する。
ポスターを抱えて出て行った妹達の背中を見送りながら、食蜂は言う。
食蜂「そろそろ、目を覚ますと思ったのよねぇ」
固まっていた一方通行の頭が、ガクリと肩に落ちた。
- 259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2012/03/14(水) 22:47:02.53 ID:QsL+i6/M0
- マダー?
- 260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/15(木) 11:12:03.74 ID:Tf3WCbHDO
-
食蜂「お目覚めかしらぁ、第一位さん?」
一方通行「……オマエは……うぐっ」
ゆっくりと瞼からその赤い双眸を覗かせる。
視界が食蜂を捉えると、一方通行は眉間を狭めた。
胃からこみ上げてくるものを飲み込む。
食蜂は胸の大きさからか、シルエットが御坂美琴と被ることはない。
昨日学んだこともあり、何とか吐き気を押さえ込むと、一方通行は食蜂を睨みつけた。
一方通行「第五位、か。どうしてこンなところに」
一方通行の疑問を被せるように天井は叫んだ。
天井「そ、そうだ! 早く答えろ!」
食蜂「……何よぉ、2人して同じことばっかり言って。気持ち悪ぅい。っていうかぁ、ワカメみたいな髪の毛を振り回さないでくれるぅ?」
天井「わ、ワカメだと……っ!? こ、このウェーブはお洒落であってだな……!」
食蜂「なんか頑張っちゃった感じが丸見えで痛々しいのよねぇ」
天井「……っ」
一方通行「……ぶっ」
天井「一方通行!?」
一方通行「くくっ……いや、俺はいいと思うぜェ? 薄毛にはワカメがいいって言うしよォ」
食蜂「えぇ……その髪の毛で更にハゲなの?」
もはや涙目である。
天井は下唇を強く噛み、震えていた。
可哀想な男だ。
食蜂「あ、それでねぇ。ここに来た理由なんだけどぉ」
天井のその様子を気にすることもなく、食蜂はクスクスと笑う。
食蜂「……面白そうだから、私にも手伝わせてくれなぁい?」
一方通行「……あァ?」
- 263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/16(金) 01:20:08.48 ID:Gp0nn9KDO
-
一方通行は呆けた声を出した。食蜂はそれに不満そうに眉を顰める。
そして間延びした口調で続けた。
食蜂「だからぁ、お手伝いようお手伝い。なぁんか関わると面白そうだしぃ……それに、御坂さんが絡んでるんでしょぉ」
キラリと食蜂の瞳に一筋の光が入る。
何を隠そう食蜂と美琴の間には深い因縁が――いやそこまで深くはないが――あるのは有名な話である。
食蜂が妹達から読み取った記憶は、一方通行のトラウマが御坂美琴であること。そのトラウマを治すために天井や妹達は目下治療中であること。
大まかにはこの2つ。
そして食蜂にはそれで充分であった。
食蜂(第一位と第三位の関係、なんて面白いじゃなぁい)
御坂美琴本人には食蜂の能力は効かない。
これは御坂美琴に関わる貴重な足掛かりになるかもしれない。
第一位と関係を持っておくのも悪くない。
そして何より。
食蜂(――妹達、よねぇ)
食蜂はほくそ笑んだ。
- 264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/16(金) 01:23:33.96 ID:Gp0nn9KDO
-
一方通行「……面白そうだから、なァ」
食蜂「えぇ。だぁってぇ、天下の第一位さんが第三位にトラウマを抱えてるなんておっかしいじゃない」
一方通行「……オマエ」
一方通行の低くなった声に、一瞬びくりと身体を震わせる。
しかしすぐに胸を張り、「ふふっ」と笑った。
食蜂「ね。私の能力を知ってるでしょぉ? この治療にうってつけだと思わなぁい?」
天井「――確かに!」
落ち込みうなだれていた姿勢から一転、突然天井は声をあげる。大変ウザったい。
一方通行は舌打ちをしてそれを黙らせた。
一方通行「オマエがマトモに能力を使うなンて保証がどこにある? 信用ならねェな」
任せて気づかぬ合間にマインドコントロール、なんて洒落にもならない。
反射を解く気には到底ならなかった。
一方通行のそんな疑いは当然のもので、食蜂は「そうでしょうねぇ」と微笑み続けたままだ。
食蜂は人差し指を真っ直ぐに立て、一方通行の顔前に近づける。
食蜂「でも、あなたに能力をかけないにしてもぉ……私がいて損をすることはないと思うわよぉ?」
一方通行は黙り込む。
確かに、便利かもしれない。
何よりここで第五位と関係を持っておくのも悪くない。
けれど一方で、天井――はともかく、食蜂がこのことに関わることで妹達や第三位に危険が及ぶかもしれない。
食蜂の行動は明らかな善意での行動とは思えない、興味本位だけの行動でもないだろう。
そこから考えられる可能性として、食蜂の狙いは第一位である一方通行。
または第三位に関すること。もしくは両方。
けれど一方通行に何らかの害を与えられる能力を食蜂は持っていない。
ゆえに危険が及ぶとするならば、とここまで考えたところで一方通行は首を振った。
一方通行(何で嫌いな奴とそのクローンの心配なンてしてンだ俺は……ッ)
食蜂「どうかしらぁ?」
一方通行は食蜂を見る。
ぎゅ、と強く拳を握りしめた。唾を飲み込む。
一方通行「あァ、……いいぜ」
視線が交差する。
一方通行「……手伝ってくれ」
食蜂「ふふ、よろこんで」
- 265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/16(金) 01:37:59.80 ID:Gp0nn9KDO
- 訂正>>264
誤:一方通行のそんな疑いは当然のもので、食蜂は「そうでしょうねぇ」と微笑み続けたままだ。正:一方通行のそんな疑いは当然のもので、しかし食蜂は「そうでしょうねぇ」と微笑み続けたままだ。 - 269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/19(月) 18:03:07.87 ID:UWqy8hFDO
-
一方通行「――で、オイ天井」
天井「!? な、なんだ!?」
黙れと言われ、律儀にも発言を控えていた天井は一方通行に呼ばれ跳ねるように顔をあげた。
天井は一方通行の様子を窺うように一方通行の顔を横目で見る。
治療をしてやる、と言い出したときはまだ一方通行も大人しかったため軽く調子に乗っていたが時間が経てばこの通り。
基本的な構図としては、一方通行が断然上でありそれが徐々に戻ってきたと言えよう。
これでは一方通行がトラウマを克服したとき、妹達を使っての脅しが出来なくなったら、天井はどうなるのだろうか。
何か手段を考えていない限り生き延びることは難しいかもしれない。
一方通行は食蜂から天井に目線を移す。
一方通行「今日の治療……始めンだろ」
食蜂「あらぁ」
天井は縦に激しく首を振った。
その情けなさといったらない。
天井もそのことに気がついたのか、心を立て直そうとしてか咳払いをする。
そして一方通行と食蜂を見ると、壁に取り付けられた呼び出しボタンを押した。
鋭い音が数秒間鳴る。鳴り響く。
天井「……ッよし、始めるぞ」
天井の宣言と共に、
00001号「こんにちは、とミサカはフランクな挨拶をかましてみます」
00001号が扉を開けて入ってきた。
- 270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/19(月) 18:04:07.06 ID:UWqy8hFDO
-
姿は先ほどまでいた妹達と見た目は何ら変わらない。
クローンなのだから当たり前とはいえ、驚くのには変わりない。
食蜂は小さく目を見張る。そして豊満な胸を潰すように腕を組んだ。
食蜂(……むぅ。この子は、さっきの子たちとは違うのよね。全くややこしいわぁ)
食蜂「まぁ、蟻だと思えば区別する必要もないんでしょうけどぉ」
誰にも聞かれないほど小さな声で、食蜂は呟く。
肩に斜め掛けをしたポーチの中に指を滑らせると、リモコンの端にそっと触れた。
食蜂(ふふ――ん……?)
00001号「さて一方通行とミサカは優しい瞳で一方通行に近づきます」
言葉通りに、目を細め00001号は一方通行に近づく。
昨日の今日で何があったのだ。
明らかに軟化している態度に、天井は訝しむ。
一方通行も恐怖よりも戸惑いが上回ったようで、瞳を揺らした。
食蜂(……あららぁ、何この態度?)
一方通行の貴重な姿を目に焼きつけつつも、食蜂は天井と一方通行の態度に違和感を感じるようで首を傾げる。
天井はそれを食蜂も知らないものと勘違いをする。
先ほどまでの食蜂の言葉は嘘で、妹達をマインドコントロールしていたのかもしれない。
その可能性が天井の中では潰れた。
ならばこの妹達の急激な変化は何か。
天井は一方通行と同じように戸惑いの視線を送る。
00001号「……はぁ。仕方ないですね、あなたに近づけないのは残念ですが今回の治療内容は別ですものね、とミサカは一方通行の様子に諦めて歩みを止めます」
天井(ん? ……んんん?)
00001号「さて! 一方通行!」
一方通行「あァあ!?」
00001号「このミサカを存分に見つめなさい! とミサカは高らかに叫びます!」
天井「正しい、正しいが何かオカシイぞ!?」
00001号「何を言ってるんですかミサカはあなたに指示された通りのことをやっていますよ、とミサカは一方通行に微笑み続けたままに反論します」
一方通行「……ッ!?」
もはや誰だ。
一体何がどうなってこうなった。
一方通行が後退りをする。00001号は近づかない。
食蜂「ねぇあなた」
00001号「はい? とミサカは」
食蜂「ちょーっとごめんねぇ……ッあなたの精神、操っちゃうぞ☆」
素早く取り出したリモコンの先が00001号に向いた。
- 271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国四国)[sage]:2012/03/19(月) 22:30:28.89 ID:Dq1WmQo70
- 終わり?
乙乙 - 272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/20(火) 23:12:27.81 ID:bpgrzNCDO
-
一方通行「……」
天井「……」
派手なアクションをしたわりに、何も起こらない。
リモコンの先から大量の星がシャワーのように出てくるのを期待していたせいか、肩すかしである。
リモコンを向けられた妹達でさえもそんな顔だ。
食蜂「……ふぅん。んー……」
一人食蜂だけが満足そうな顔でリモコンを納めると、はてと首を傾げる。
食蜂「んー……んーうー? ねぇ第一位さぁん」
一方通行「……ンだよ」
食蜂「あなたってぇ……えぇ……でもそうは……見えるかしらぁ……んぅー?」
一方通行「なンだよ」
00001号「……あ、なるほど。人は見かけによらないということですよ、とミサカは食蜂さまに伝えます」
食蜂「ん、んー? あぁあなたたちは記憶を共有してるのよねぇ」
一方通行「だから何だってンだ」
天井「……あぁ!」
天井が納得したように手を叩く。
その動作に腹が立ったのか、一方通行は天井を睨みつけ舌打ちをする。
天井「……ぐっ、いや、そのだな」
一方通行「下手なこと言うとぶっ殺すからな」
天井「……おそらく、だが……芳川が何かをしたんだと、思う」
一方通行「芳川が?」
天井(あまりの衝撃で忘れていたが、さっきの妹達の個性も芳川の仕業だろうし)
天井「ん、ん……? だがさっきので妹達は操られて……?」
食蜂「あ、操ってないわよ。ただのお決まり、みたいなぁ?」
魔法少女の決めポーズのようなものだと言う。
食蜂はパチリとウインクを決めてみせる。
- 277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/28(水) 01:04:22.56 ID:JWvf39800
-
一方通行(うぜ……)
一方通行が眉を顰める。
まだ芳川が何をしたのかまではわかっていない。
芳川を信用することもできない一方通行は胸に燻りを残したままだ。
何しろ近くに妹達がいる今、心に余裕もない。
貧乏揺すりをする一方通行を見て、食蜂は下唇を噛み眉を寄せた。
食蜂(でもやっぱイメージが違うっていうかぁ……んー? ……ま、これが正しいとも限らない、か)
00001号「さてミサカとの治療に取り組みましょうとミサカは両手を大きく広げます」
一方通行「だァああ! 圧迫感与えンな!!!」
さぁカモンとでも言いだしそうなその仕草に、一方通行はますます顔を顰める。
手を広げることによって、動物が身体を大きくして威嚇するのと同じような効果があるのだろう。
声を荒げ始めた一方通行に、天井は苦い顔をした。
天井「おいここでやるなよ。昨日みたいにここで壁を破壊されたらたまらん」
00001号「……それもそうですね、とミサカは首肯します。では移動しましょうか」
一方通行「じゃあオマエが先導しろ。俺は後からついてっから」
- 278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/28(水) 01:04:56.93 ID:JWvf39800
-
目を合わせないまま早口で言う一方通行を見て、00001号はこくりと頷く。
そして踵を返した。
00001号「了解しました、とミサカは歩き出します」
部屋から出て行く00001号と一定の距離を開けながら、一方通行は重い足取りでついていく。
ちらり、ちらりと食蜂と天井に目線を送りながら。
00001号、そして一方通行の姿も見えなくなる。
食蜂は出て行った扉を見つめながら言った。
食蜂「あれって逃げ出さないかしらぁ?」
天井「……大丈夫だろう」
逃げたとしても。そう言うと、食蜂に向き直る。
天井「で、だ。第五位」
食蜂「……なぁにぃ?」
唇を指で遊びながら、食蜂は瞼を半分落とす。
天井はゆっくりと口を開いた。
- 279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/28(水) 01:05:35.40 ID:JWvf39800
-
天井「芳川に直接聞く前に、妹達の記憶から何を見たか教えて貰えないか」
食蜂「ふぅん。二回聞く意味はあるのぉ?」
天井「情報は多方面から見られるだけ見ておいた方がいい」
食蜂「……いいけど。でもぉ、うぅん。やっぱり私ぃ、この記憶に違和感を感じるのよねぇ」
天井「違和感?」
食蜂「そ。違和感」
天井(芳川が妹達の脳に影響を及ぼすようなパッチを仕込むとは考えづらいが……)
天井は少し考えるかのような仕草を見せる。
しかしすぐに顔をあげた。
天井「それは」
食蜂「――第一位さんってぇ」
- 280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/28(水) 01:06:13.89 ID:JWvf39800
-
**
00001号「そうですね、ここがいいでしょうとミサカはようやく足を止めます」
迷わず歩を進めていた00001号が、突然立ち止まる。
影が斜めに伸びた。
00001号「さて本日の治療についてはどのぐらい説明されていますか? とミサカは怖がらないように優しく一方通行に話しかけます」
幼児や小動物に対するような態度に軽い苛立ちを覚えつつも、意識せず肩の力が緩んだことに舌打ちをする。
けれど昨日ほどの恐怖を覚えないのは、00001号の態度が変わったからであろうか。
もしくは単なる二人の間の距離の問題か。
しかし、00001号に必死について行くことに集中していたからか気がつかなかったが――。
一方通行は口端をヒクリと動かした。
一方通行「……なァ」
00001号「はて? どうされましたとミサカは一方通行に問いかけます」
一方通行「……俺の勘違いだったら悪いンだが、ここってよォ」
裏路地を歩き、白い壁に沿って階段を昇り。
辿り着いたのは細く伸びる廊下。均等な間隔を開けてドアが並べられている。
- 281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/28(水) 01:07:08.62 ID:JWvf39800
-
見覚えがある、どころではない。
00001号はその中の一つであるドアに手を翳した。そして一方通行に顔だけを向ける。
00001号「あぁ、はい。そうですね。ここはアナタの部屋ですよとミサカは微弱な電気を操って玄関の鍵を開けます」
ガチャリ、と鍵の解かれる音が響いた。
一方通行「ッオイ!?」
慌てる一方通行とは対照的に落ち着いた様子で00001号は小さく頷く。
そしてドアノブに指を置くと、ゆっくりとドアを開こうと力を込めて――、
00001号「……その様子だと聞かされていないようですね。それでは中でゆっくりと説明しましょうかとミサカはドアノブに手を掛けながら話を続けます」
00002号「あっえっもうですかとミサカは」
――勢いよくドアを閉じた。
00001号「……」
一方通行「……オイ待てどォした」
- 282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/28(水) 01:07:40.50 ID:JWvf39800
-
00001号「……中ではなく、ここで説明しましょうかとミサカは部屋の中にまで聞こえるように大きな声で方向転換を宣言します」
00001号は身体を反転させて、ドアを背にした。
00001号(長くても五分です、とミサカはミサカネットワークで00002号と00003号に連絡します)
00002号(りょ、了解ですとミサカは応対します……)
00003号(ミサカは先に抜け出しておきますねとミサカは窓からの脱出を始めます)
00002号(え、えっちょっと待ってくださいよとミサカは慌てて引き留めます……っ)
00001号(……本当に急いでくださいね? とミサカは念を押します)
黙る00001号に痺れを切らしたのか一方通行は――距離を開けたまま――言う。
一方通行「さっさと言え」
00001号「あっはいとミサカはアナタに意識を向け直します」
さて00001号が説明したことは何かと言うと、実に簡単なことで「00001号と一方通行が一緒に過ごすこと」このただ一つであった。
赤外線交換よりも難易度が高いんじゃないかって?
いや、「一緒に過ごすこと」この他に何も制限はないのである。
とにかくこの治療の目的としては、「見られる」こと「見る」ことに馴れること。
もちろんこの治療の過程でstep01がクリア出来るのならばそれが一番良い、しかしまずはと天井は考えていた。
- 283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/28(水) 01:08:18.82 ID:JWvf39800
-
説明を受けて青い顔をしていた一方通行は、やっとのことで声を絞り出す。
一方通行「……なるほど、なァ」
00001号「もちろんこの治療は受けていただきますが、無理は禁物ですとミサカは前置きをしておきます」
一方通行「……わァってる。大丈夫だ、おォ……うン。やってやらァ」
一方通行もわかっているのだ。
スイッチを切り替えるように頭をコツンと叩く。
さまざまと蘇るのは昨日の記憶。
一方通行(本格的に治さねェと……無敵も何も、ねェしな)
息を飲み込むと、一方通行は距離を縮めるために一歩を踏み出した。
00001号(……もう大丈夫ですかね)
00001号「あ、じゃあ入りましょうかとミサカはドアを開けます」
一方通行「おォ」
再び開かれたドアからは光が漏れる。
- 284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/28(水) 01:08:57.13 ID:JWvf39800
-
00001号は身体をドアから離し、一方通行に先に入るように促した。
一方通行は部屋の中へと足を踏み入れる。
そこに広がっていたのは一方通行の見慣れた部屋であるはずで――しかしこれから00001号と過ごさなくてはいけないという一方通行にとっては地獄のような――。
そう、あるはずだったのだ。
一方通行の覚悟はものの数秒で崩れ去ることとなった。
一方通行「」
実に本日二度目の硬直である。
00001号は、一方通行の顔を覗き込む。
00001号「……彼の予想通りでしたねとミサカは硬直した一方通行を部屋の中に運びます」
えっさ、ほいさ。
一方通行を肩に担ぎ、部屋に入った00001号は軽く部屋の中を見回した。
00001号「おぉ……これはこれは、とミサカは感嘆します」
御坂美琴の幼少期――丁度一方通行にトラウマを与えたころの――写真が大きく引き延ばされ、部屋の壁に余すところなく貼られている。
簡易キッチンや冷蔵庫にさえ、プリントされたシールがもともとそういった商品だったようにぴったりと貼られていた。
右左上下、どこを見ても御坂美琴と目が合う。
言うならば御坂美琴ルームだ。
00001号(しかしお姉様の顔に囲まれながら生活するというのは……いやはやミサカがナルシストみたいですね、とミサカは若干不安に思います)
00001号は一方通行をベットに寝かせると、御坂美琴のプリントされた布団をそっと掛ける。
ポンと頭を撫でようと頭に触れた。
00001号「アナタは……」
- 285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/28(水) 01:09:23.14 ID:JWvf39800
-
**
天井「……いや、それは無いだろう」
食蜂の口から語られた言葉をゆっくりと噛み砕き、ようやく天井の口から出たのはそんな言葉だった。
食蜂の語った内容はまさに言葉の羅列というもので、更にその全てが一方通行についてというもので。
食蜂「あ、やっぱりぃ? 不自然なまでの『実はいい人エピソード』……オカシイものねぇ」
天井「我々に見せている姿が作られたものという可能性もなくはないが……しかしなるほどな。確かに、それなら一方通行に好印象を抱かせるというのには手っ取り早いか」
個性が発現しやすくしたのもその好印象を抱かせるためであろう。
好印象、は感情がなくては生まれない。
だが感情がありさえすれば、ましてや生まれたばかりだとすれば、好印象を抱かせることなど容易い。
一般知識をインストールされている妹達なら尚更である。
天井は年寄りの荷物を運んでやっている一方通行を想像して思わず吹き出した。
食蜂「でもぉ、……実際そうじゃなかったらぁ」
天井「……印象が逆転するかもな」
食蜂「そうよねぇ」
- 286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/03/28(水) 01:09:49.91 ID:JWvf39800
-
食蜂は悩ましく身体をくねらせる。
中学生らしからぬプロポーションはますます色を持った。
天井は首を振る。
天井「だがそんな危ういことを芳川がするとは思えない……何らかの予防策は採っているはずだ」
食蜂「……」
天井「……何だ」
食蜂「べっつにぃ。……ふぅん、第一位さんに好印象を持たせる、ねぇ。私もアドバイスするわよぉ? ……そのためにも妹達のことについて詳しく教えてくれないかしら」
天井「ふん、まぁいいだろう」
レベル5に本気で調べられたとしたらどうせわかることなのだから。
それならば取り捨て選択をして自身の口から話す方がよっぽど良い。
天井(何故直接記憶から読み取ろうとしないのかは分からないが……小娘のことだ。そこまで深い意味もないだろうしな)
- 287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/28(水) 01:47:23.57 ID:slSzGQpDO
- 訂正>>284
誤:ポンと頭を撫でようと頭に触れた。
正:ポンと頭を撫でるように頭へと触れた。
- 289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/28(水) 02:02:59.72 ID:slSzGQpDO
- 訂正>>287
正:ポンと撫でるように頭へと触れた。 - 291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/04/15(日) 10:41:27.16 ID:zmr+DoKDO
-
さて、ところ変わって常盤台。今ここではある噂で持ちきりであった。
その噂というのも、超電磁砲は極度のナルシストであるというもので。
しかもこの噂には信憑性があるというのだ。
あるものが言うには「御坂美琴が等身大の鏡で自分の顔をマジマジと見つめていた」やら「御坂美琴が自分のポスターを大量に抱えて歩いていた」やら。
挙げ句の果てには「御坂美琴の部屋は自分のポスターやら写真やらで埋め尽くされている」。なんて!
身に覚えのない美琴には不本意極まりない。同級生のみならず上級生下級生にまで好奇の目で見られるのだ。
しかも、やった覚えなど全くないというのに!
今、御坂美琴は大層ご立腹であった。
美琴「あー……ッもう! 誰がナルシストだってぇ!?」
黒子「わたくしも今日だけで何度質問されたかわかりませんの……」
説明的にそう言うと、黒子はほうと溜め息を吐いてみせる。
美琴は拳を握ると、悔しそうに歯軋りを鳴らす。
美琴「くぅ~ッ私がそんなことするわけないじゃない!もうみんな私のことどう思っているのよーっ!」
黒子「愛していますわ!」
間髪入れずに力強く美琴の言葉に応えた黒子に、だがしかし美琴は嫌そうに半眼になる。
美琴「……ねぇ。アンタが噂の発端だったりしないわよねぇ?」
黒子「お姉様!」
美琴「あ、う、ごめ」
黒子「ポスターなんかで黒子の愛を表せるとお思いで!?」
美琴「……」
勢いよく身体を前のめりにした黒子に、美琴は口端をひくつかせる。
それを見て黒子は我にかえるようにハッ目を開くと、誤魔化すように咳払いを一つ。
黒子「ま、まぁ確かに……お姉様のお写真を引き伸ばして部屋に飾ろうとしたことはありますのよ?
けれどお姉様……中々写真を撮らせていただけませんし。そもそもこの噂を流すメリットはわたくしにはございません。
……流したからといって、そう実現するとは思いませんもの」
美琴「……そうよね。なぁんか微妙な気分だけど、……ま、言ってみただけで黒子はそんなことするような子じゃないし。でもそれじゃあ……」
一体誰が、そこまで言おうとしたところで心当たったのか言葉を止める。
美琴の頭にはたっぷりとした金髪がたなびいていた。
- 292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/15(日) 10:50:09.23 ID:zmr+DoKDO
-
美琴「もしかして……」
黒子「いえ……いえお姉さま。わたくしは、これはあの都市伝説が関わっているのではないかと思いますわ」
口にしかけた考えを否定した黒子に美琴は眉尻を上げる。美琴も普段の食蜂からいろいろと鬱憤が溜まっているのだ。
あの女なら私の評価を下げるために何をやってきてもおかしくない。
美琴「でもこんなことをしそうなやつなんてッ」
思わず声を荒げると、黒子はゆっくりと首を横に振った。
黒子「確かに彼女の能力ならば可能ですの。その可能性も充分。
けれど、彼女が能力を使うならばもっと手っ取り早い手段があるのではないでしょうか。
それに……わたくしたちが調べている都市伝説……お姉さまではない御坂美琴の目撃情報、似ていませんこと?」
美琴「……つまり」
黒子「彼女の能力でしたら無駄足、ですが……目撃証言のあったところを調べる価値はありません?」
黒子は片目をぱちりと瞑った。美琴は顎に指を添える。
美琴「……私のクロー……ドッペルゲンガーがいるってことか」
黒子「あくまで可能性ですけどね。実際本当に彼女なのかもしれませんわ。
……もしくは」
美琴「両方関わっている」
黒子「――かもしれませんわね」
中々得られなかった情報を、不本意な形であるとはいえ、きっかけが掴めそうなのだ。
黒子は瞳を揺らして、唾を飲み込んだ。
- 295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/19(木) 08:48:03.64 ID:RTONsUoDO
-
さてそう決まったことには
まず目撃情報の洗い出し、そのためにはさて噂の出所を見つけ出さなければ始まらない。
これは大変厄介だ。
噂というものは出所のわからないから噂であって、「友だちから」「友だちの友だちから」果ては「友だちの兄弟の友だちの親」からの情報を友だちから聞いた、なんてことも珍しくない。
さらにはその聞いた人物だって、噂の出所であるとは限らない。
これは難航しそうだ――なんて、考えていた矢先のことであった。
「あら、早いですわね。御坂さん」
婚后光子――、その姿を認識し――早い? はて。
何を言っているのだと目を瞬かせる美琴である。
一方で黒子は「やれこの女か」と顔をしかめる。
光子は不思議そうな顔で続けた。
婚后「わたくしの方がずっと先に着くものかと思いましたわ。……裏道でもあるんですの?」
「だってわたくしの方がずっと先に歩き始めていたはずですもの」と光子は扇子を口元に当てた。
裏道でもないと考えられない。それとも狐に化かされたかしらん、なんて。
その言葉に、ぴくり、と黒子と美琴は耳を動かす。
もしかして、と確信にも似た思いを寄せながら――。
美琴「ねぇ婚后さん」
婚后「な、なんですの……?」
「「そのいたという場所、案内してくれない?(くださいません?)」」
一つの言葉を吐き出した。
- 296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/19(木) 13:12:32.11 ID:RTONsUoDO
-
「い、いいですわよ? 案内してさしあげますわ!」
と、染まった頬を扇子で隠しながら言う光子に感謝しつつ、
案内を受けた二人は光子にお礼を言った。
せっかく帰ったのに、もう一度戻らせるなんて、悪いことをした――。
しかし覗かせる顔はどこか嬉しそうだ。
頼られて浮かれているのだろう。
そのおかげで「御坂さんが知っているんじゃ?」などと聞かれなくて助かった。
おそらく、ではあるが――彼女は噂を知らない。
良くも悪くも、婚后光子はそういう人間である。
ならばわざわざ知らせる必要もない。
黒子(しかしこれで、彼女の仕業ではない可能性があがった――けれど本当に――クローンなんて、ありえませんの)
何らかの道具、または能力を使って御坂美琴に何者かが化けている。
噂が本当ならば、ポスター収集はお姉さまの熱狂的ファンだから。
そしてその方はあの殿方に関係がある。
黒子(――お姉さま、の姿――熱狂的ファン――常盤台――の制服――)
と、そこで思考がまとまりかけたが
婚后「ここですわ」
光子の言葉がそれを遮った。
思考を中断させ、ここはどこかと視線を巡らせる。
美琴「……普通のマンションね」
婚后「あら? 御坂さんのお知り合いが住んでらっしゃるとかじゃないんですの?」
だってさきほど――。
美琴は不思議そうに首を傾げた光子に慌てて笑い返す。
美琴「あー、うん。そうよ、立派なマンション住んでるわよね、本当に」
婚后「……はぁ」
ハハハ、と乾いた笑いだ。
下手な演技、である。
黒子はこほんと一つ咳払いをした。
黒子「それより、どういう風に――その、お姉さまとここで?」
- 297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/19(木) 16:11:59.79 ID:RTONsUoDO
-
婚后「どうもなにも……御坂さんがその、上から飛び降りてきたんですわよね?」
あんな衝撃的な出会いはない。
何という理由はない。
評判になっていたクレープを食べ、満足してゆっくりと帰り道の歩を進めていた。
ふと、耳に風の音が聞こえたのである。
ヒュオゥ、ビュオウ!
その激しく何かを斬る音は空からのもので。
空に視線を送る、がそこには何もなく。再び視線を戻そうと
――ダンッ
したときだ。
00002号「ふぅ、やりましたね。とミサカは自身の健闘を褒め称えます……っ」
婚后「」
光子の前には、明らかにいなかったはずの少女が立ち上がろうとしていた。
00002号「さて帰らねばいけませんね。とミサカはおいて行かれたことに悲嘆しつつもさぁ帰ろうと――」
婚后「み、御坂さん……?」
00002号「」
げぇっ関羽! 思わず漏らしかけた声を00002号は塞ぐ。
今度こそ無事任務を果たせると思ったのに――また失敗! また失敗か!
あぁまた常盤台の制服じゃないか。
一体何の因果が――とまぁこう考えたかは定かではないが、
とにかくも光子に見られたことで00002号は焦っていた。
いや見られただけなら問題ない、ないのだ――この任務、それがバレなければ!
00002号「あの!!」
00002号「ミサカは×××号室から出てきたわけでは決してありませんとミサカはアナタを誤魔化します……っ」
それにきょとんとしたのは光子だ。
そんなことは聞いていない。
それにそれを聞いたからって何があるというわけではない。まぁ飛び降りてきたのは気になるが――わざわざ詮索するなんてことをするつもりはない。
今前にあるのは確実に普段と様子の違っていた美琴(実際は00002号であるのだが)の姿だ。
何か関わられたくないことがあるのかもしれない、そう考え先に帰路につき――美琴たちに会ったというわけだ。
- 300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/20(金) 10:27:38.76 ID:sql/AxZDO
-
つまりにして、どうとでも言い逃れの出来るだろう「お知り合い」と言ったのも光子の気遣いでもあった。黒子にバレたくない可能性――お付き合いされてある殿方かもしれない。
あぁマンションからの飛び降り――実際戦闘用に身体能力が特化されているわけでもない美琴にそれが出来るかは甚だ疑問だが――だって淑女らしくはない。
だからこそ黒子に話してもいいのか逡巡したわけだが、今の二人の顔を見るにそこは問題ではないようだ。
黒子に無理矢理に問い詰められ仕方がなく光子に――というわけでもないようだし。
ならば、何故美琴は案内をさせたのか。
案内しているときはそんなことは考えなかったが、ふむと光子は首を傾げた。
美琴「あ、婚后さんありがとうね」
婚后「いえ――……」
婚后(……まぁ、わたくしには関係のないことですわね)
もし殿方関係だとすれば、巻き込まれては厄介だ。
人の恋路は犬も食わない。
光子は思考を断ち切ると、扇子を勢いよく広げた。
バッと風を切る気持ちのよい音が響く。
婚后「ではそろそろ、わたくしはここで――」
**
わざわざ案内をさせて、なのにここまで。というのも考えてみれば酷い話だ。
帰ってしまった後すぐに気がついたが、しかし気がついたからといって一緒に「そのミサカ」について調べるわけにもいかない。
黒子「あとで……何らかのお礼はしなくては、ですわね」
ぼそりと呟く。
それが聞こえたのだろう美琴は「そうね」と頷いた。
美琴「けど話を聞く分には、本当に、私そっくり、みたいね」
せいぜい遠目でそっくり程度、もし近くで見てもわからないくらい似ていたとしても――。
黒子「――声もそっくりとなると、肉体変化……としてもかなりの高レベル者、ですの」
美琴「……うん」
- 305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/22(日) 13:14:48.97 ID:PmpcUyxDO
-
そう頷いたものの、美琴は納得しきれずにいた。
でも、そうは言っても、さすがのこの学園都市でもそんなクローンなんて、ううん。
しかしいまいち否定しきれないのも事実であって。
この学園都市は、裏の一面がある。
それはつい先日のレベルアッパー事件で判明した。
クローンじゃないかもしれない、けれども。
能力者よりもその「私そっくりの誰か」が実在する、という方がしっくりときたのだ。
黒子「とりあえずはその部屋に様子を見に行ってもいいかもしれませんわね」
美琴「へっ、あ、うん! そうねっ」
黒子「……? では、初春に連絡しておきますの」
ひょっとぼけた声が出てしまったことに赤くなりつつも、美琴は黒子の提案に頷いた。
何が起こるかわからないときに、予防策を取っておくのは悪くない。
そう考え、大人しく電話が終わるのを両手をぶらつかせながらも待っていると、黒子の驚いた声が耳に入った。
黒子「――あの殿方が、第一位?」
「えぇ、はい。……かもしれない、と。……はい。はい、わかりましたの」
と、眉を顰めて電話を切る。
黒子「お姉さま、これは正確な情報ではないのですけど――」
黒子は美琴に向き直ると、そう前置きして話し始めた。
何でも、白い髪・赤い瞳、この2つのキーワードで探したところ、あるスキルアウト間での情報ネットワークが拾えたらしいのだ。
そして確証はないが――それが第一位かもしれないという噂が蔓延っていること。
けれど第一位自体を調べようとすると、その実体は不明。
これからより深く調べるとのこと、そしてこのマンションについても調べてくれるとのこと。
それを聞いた美琴は口を閉ざした。
美琴(表に現れない、第一位――やっぱり)
先ほどから考えていたパズルのピースが、少しずつ嵌っていくような感覚がした。
- 306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/22(日) 17:43:39.45 ID:PmpcUyxDO
-
――暗転。時は少し遡る。
再び目を覚ました一方通行は、ぼうとしばらく空を見つめていた。
何だろうか、とても嫌なことがあった気がする。
まぁ大したことではないだろう、そう自己完結させると布団をどかして立ち上がろうと手に力を込めた。
――布団?
いや――そも、何故自分は寝ているのか。
一方通行「……」
一方通行「……何もなかった……ッ」
思い出しかけた記憶を無理矢理に押しとどめる。
――しかし。
00001号「アナタが倒れた以外には、ですが。とミサカは補足します」
一方通行「――ッ!?」
ぼうと現れた顔に身体をすくめ――そして記憶を押しとどめていた堰がはずれたのがわかった。
一方通行「ッ、……オマエか」
00001号「はい、ミサカですよ。とミサカは優しい声色で言葉を返します」
一方通行「全然優しくねェ……って言いたいところだがなァ、オマエ」
00001号「言ってるじゃないですか。とミサカは憐れみの目で見つつもアナタだから仕方がないと許します」
一方通行「……ッオマエは何がどうなって!」
00001号「は? ひ? とミサカは首を傾げます」
一方通行「だから……なンか、オマエ……違わねェか」
00001号「はて何がですか、とミサカはアナタのおっしゃっている意味がわかりません」
一方通行「……」
さすがこの一方通行、コミュ障である。
ついには閉口してしまった一方通行に00001号も呆れたのか、それとも哀れんだのか、会話の転換を図ろうと視線を泳がせ――。
パンと両手の平を叩いた。
瞬間、空気が変わる。
一方通行は驚いたのか、片方の眉をついと上げた。
00001号はその様子に満足げに頷くと言う。
00001号「しかしまたミサカの顔を見て倒れるかと思いましたが、とミサカは普通に会話が出来ているアナタに驚きます」
一方通行「……あァ?」
- 309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/23(月) 16:49:54.80 ID:a3nDoxODO
-
00001号は美琴の姿であるのに、一方通行は今現在普通に話せている。
一方通行は00001号の指摘に、顎を指に置き考えるような仕草をとった。
一方通行(コイツはあの女の顔……ってェのは変わってねェ。服装……は、って)
一方通行「ンでオマエが俺の服着てンだよ!?」
00001号「似合いますか? とミサカは似合いたくはないという気持ちを隠しつつもアナタにミサカの可愛らしい姿を見せびらかします」
そう言って00001号は変な模様のTシャツの裾を指で軽く引っ張る。
残念なことに下は制服のスカートままであり、しかもトップスのサイズもそう変わらないため彼シャツにもならない。
身長もそう変わらない上に一方通行は細身、むしろガリガリ。
この結果は当たり前と言えよう。
一方通行は顔を歪めた。
一方通行「……だ、か、らなァ!!」
00001号「これも彼の指令です、とミサカは一転真面目に返答します」
一方通行「……天井のかよ」
00001号「いわゆるペアルックというやつですね、とミサカは更に追撃します」
何の追撃だ。
一方通行は込み上げてくる声をぐ、と飲み込み、すぅと息を細く吐いた。
何とか心を落ち着かせる。
そして気がつく。
話し方は一方通行をおちょくっているようにしか感じられないが、これは。もしかして。
一方通行(コイツは俺に悪感情を抱いてない……?)
だから、コイツを見ても拒絶反応が起こらなくなったのだろうか。
単に重ね重ねの妹達ショックによりトラウマが改善したという可能性もあるが、一方通行はそうは思えなかった。
一方通行の中で、御坂美琴はイコール一方通行に対して決して良い感情は抱いていないものであった。
そう、――何とも哀れなことに、
一方通行を好いている御坂美琴は御坂美琴ではない。と一方通行は思い込んでいたのである。
- 312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/24(火) 08:17:36.37 ID:f67Dg/GDO
-
そう考えると何ともまぁ可哀想な男だ。
そして気持ちが悪いほどに自虐的な男である。
しかし良いことに芳川、共に天井の考えも当たっていたということになる。
そのことを知らされていない00001号も、何か知らんがこりゃあいい機会だ、とばかりにポンと手を打った。
00001号「この距離で吐きもしないということは、大丈夫そうですね。とミサカは携帯電話を取り出します」スチャ
一方通行「……おう」
何を考えたのか一方通行は口元をゆるませる。
しかしすぐに表情を戻すと、携帯電話を取り出した。
学園都市製の最新モデルである。
連絡をしてくるのは研究者くらいのものだろうに、そうも携帯電話にこだわる必要があるのか。
いやまたこれも一種の娯楽なのだろう。
00001号は頷くと、一方通行の携帯電話の赤外線に合わせた。
00001号「ではデータを送りますよ。とミサカはようやく一歩踏み出せたことに感動を覚えます――」
――ピピッ!
――step01 クリア!
- 313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/24(火) 09:01:49.75 ID:f67Dg/GDO
-
携帯電話をポケットにしまいながら、一方通行はほ、と一息をつく。
よっぽど気張っていたのか肩の力が抜けている。
一方通行「……じゃ、この治療はひとまず終わりだな」
00001号「えっ?」
一方通行「あァ?」
00001号「いえ。ミサカとこのお姉さま部屋で過ごす、という治療はこのまま続行ですよ? とミサカは何やら勘違いをしているアナタに説明します」
一方通行「は?」
00001号「ですから」
何をわからず屋なことを言っているんだ、小奴は。
と言いたいように00001号は言葉を重ねる。
00001号「step02、ということですね。とミサカは河合らしく人差し指を立てます」
一方通行「――ッ!?」
一方通行は声にならない叫び声を上げた。
このときの一方通行の気持ちを代弁するならば、「クローンはともかく、第三位部屋とか無理に決まってンだろ!?」といったところか。
――一方通行は 逃げ出した!
――しかし 回り込まれてしまった!
00001号「いくら逃げても無駄ですよ、この部屋以外はお姉さまの写真で埋め尽くされていますからね。
とミサカは心を鬼にして、さながら悪役のごとくアナタに言い放ちます」
一方通行「ぐっ」
追い詰められたら一方通行。
奥歯を強く噛んだ。
ちなみにこの一室に写真が貼られていないのは、天井なりの気遣いである。
引きこもったらどうするつもりだったのか。
一方通行「――オイ、ここはどこだと思ってる?」
00001号「は……? 窓際の部屋ですが――まさかッ!? とミサカはある可能性に辿り着きます」
一方通行「俺は誰だ? 何で絶対能力者進化実験が回ってきたと思う?」
一方通行は背中の空をバックに両手を広げた。
太陽光が逆光になり、一方通行の姿が影になる。
一方通行「――俺が、第一位だからだよ」
- 319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/26(木) 00:32:45.77 ID:TKvDJX8DO
-
一方通行の自信満々な様子に思わず後ずさる。
00001号は目を大きく見開いた――ただし瞳に光は入らないままだ――。
00001号「まさか……ッとミサカはオーバーアクションで返します」
一方通行はくいと唇を上げる。
赤い舌を覗かせた。口を裂くようにして笑う。
一方通行「そのまさかだよォ!」
そう叫ぶと拳を握り――窓を突き破った。ガラス片が飛び散る。
床に細かな光が広がった。
一方通行はそれを気にすることもなく軽く床を蹴る。そしてそのまま勢いよく空に身体を投げ出した。
そのまま身体が落ちてしまうということもなく、直線上に一方通行の身体は凄まじい速さで上空へ上がっていく。
そのスピードは止まることなく、ぐんぐん、ぐんぐんと――。
もはや豆粒となった一方通行は笑う。
ミサカ部屋から解放された充足感からか、あるいは。
一方通行は遠い空に消えていった。
00001号「……くっ逃がしてしまいましたか。とミサカは悔しげに唸ります」
00001号「けれどミサカは諦めませんよ。とミサカはいない一方通行に向けて宣言します」
さながらヒーローアクションのごとく、00001号は一方通行の消えた空を仰ぐ。
その心は青く高い空のように、清々しいものであった。
それはお互いに認め合った宿敵――と書いてライバルと読む――ならではの心境か。
00001号は思うのだ。
次こそ、捕まえてみせると――。
00001号「――と、まぁここまで彼の態度に付き合ってはみましたが。とミサカはやれやれと首を振ります」
そもそもここは一方通行の部屋である。
逃げてどうするというのか――しかも何度もいうが、一方通行のための治療であるというのに――。
もちろん、一方通行の部屋はここ一つだけではない。
ホテルを借りることも可能だろう。
しかし、考えてほしい。
妹達は何人いる?
およそ一万体、一万体である。
本来なら二万体造られるはずであったが、その前に本来の実験が停止されたためにその半分。
けれどこの場合、一万体いれば何の不足もない。
一方通行の部屋に、宿泊先全てを写真まみれにすることも容易である。
いや、その前に。
00001号「この学園都市で、妹達から逃げられると思っているんですかね。
とミサカは彼に捜索許可を貰うため携帯電話を操ります」
この学園都市、巨大といえど一つの都市。一つの区程度の大きさしかない。
一万という勢が、一斉に探せば見つけることなどそう難しいことではないのである。
携帯の画面に目を通し、携帯を閉じると00001号はポケットにそれを突っ込んだ。
00001号「さて、ミサカも捜すとしますか。とミサカはMNWで情報を共用しつつ、行くべき探索ルートを見極めます」
- 322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/04/26(木) 12:19:09.65 ID:TKvDJX8DO
- >>313訂正
誤:00001号「~ミサカは河合らしく~」
正:00001号「~ミサカさ可愛らしく~」
>>320打ち止めは出る
- 323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/26(木) 12:19:56.16 ID:TKvDJX8DO
- >>322
誤ミサカさ
正ミサカは - 327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/26(木) 21:59:25.71 ID:TKvDJX8DO
-
そう言ったそのとき――ピンポーン、とチャイムが鳴らされた。
ピクリと身体を硬直させる。誰だろうか。さぁ行かんとしていたところへ突然降ってかかってきた呼びかけである。一方通行の知り合い――なんているのかしらん。
「あの、すみません。どなたかいらっしゃいますの?」
高く澄んだ、女の子の声である。
あの男、御坂恐怖症というのに他に関しては軟派な男なのかもしれない。
一瞬その考えが首をもたげたが、すぐに妹達の中に植え付けられた一方通行のイメージが否定をする。
00001号(あの人は硬派な人のはずです。とミサカは首を横に振ります)
00001号(……まぁそれに、このままいなくなるまで居留守をしていればいい話ですしね。とミサカは物音をたてないように細心の注意を払います)
00001号は頷くと、ゆっくりと腰をベッドに沈めた。
そして玄関に耳をすませる。
さぁ、早くどっかに行け――
――キィイ
00001号「は?」
聞こえてきたのは遠ざける足音でも、諦める声でもなくて。
「あら、開いてますわね」
――扉の開く音であった。
00001号(そういえば、鍵を閉めていませんでした。とミサカは最大のミスに気がつきます)
- 330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/27(金) 15:24:10.40 ID:4HT6SlLDO
-
**
只今、ある部屋の玄関前である。
あの男が第一位かもしれない。
その可能性が出てきたものの、今は目撃情報に沿っては噂の真偽を確かめる方が先だ。
第一位であるかどうかはひとまず置いておこう。これが二人の総意であった。
美琴「とりあえず、部屋を調べるのが第一よね」
黒子「そうですわね……あの、お姉さま」
美琴「何よ」
黒子「これはわたくしがお姉さまに頼られている、ということですの?」
「それならば嬉しいのですけれど」と黒子は小さく言葉を付け足す。
二人は、美琴が黒子の肩に手を置き、まるで電車遊びのように連結していた。
美琴は慌てて手を離した。
美琴「あ、ごめん」
そう言ったものの、黒子を前にした体勢は変わらない。
普段の美琴らしからぬ態度に疑問符を浮かべる。
しかし聞くのも憚られた。
美琴が――自身でも気付いてはいないだろうが――とても不安げな顔をしていたからである。
黒子「じゃあ、わたくしがチャイムを鳴らしますの」
黒子は、指に力を込めた。
ピンポーン。
何ともわかりやすい音が鳴った。
黒子「……」
美琴「……」
黒子「……いないんですの?」
誰も応答する様子がない。
次に黒子が呼び掛けるが、それにも返事はない。
静かなままだ。
黒子(留守、運が悪いですわね……)
美琴「……ねぇ、黒子」
黒子「お姉さま? ――って何を」
――ガチャリ。
美琴が押したドアノブは簡単に下がった。
そのまま力を込めるとドアの隙間が出来る。
黒子「……あら、開いてますわね」
黒子は呆けた声を出した。
- 332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/28(土) 17:20:46.31 ID:E4biZVMDO
-
黒子(……えぇ、開いてますわね)
自身の言った言葉を反復するかのように、黒子は頷いた。
開いてるからといってどうだというのだ。
返事がないということは留守。
もしや鍵をかけ忘れて出掛けてしまったのかもしれない。
ならばやはり、ここは一旦退くのが正解ではないか?
さすがに住人の居ない部屋に勝手に入るのはマズいだろう。
黒子「出直しましょう、お姉さま」
そう思って言った瞬間、中から、
――ガタッ
という音がした。
美琴と黒子は顔を見合わせる。
美琴「……いるわね」
黒子「いますわね」
黒子は目を見開きながら、美琴はやっぱり、といった顔で。
ドアを開いた。
- 333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/28(土) 17:34:10.78 ID:E4biZVMDO
-
扉はチェーンがかかっているというわけでもなく、すんなりと開いた。
足をそろり、と踏み出しながらも美琴は思案顔を見せる。
美琴(もしクローンが本当に、本当だったら――ここに私がいっぱいいる、なんてことがあったら――)
ぞっと、美琴の背中に冷たいものが伝った。
なんていうホラーだ。
けれど、そのホラーになる可能性が高い。
能力者によるものだろうと考えている黒子と違って、美琴は本当に私のクローンである、という考えに予想が寄っていた。
顔がひきつる。
美琴(入ったら――私がいっぱいいた、なんてことになったら、私はどうする――?)
黒子「お姉さま? 入らないんですの?」
美琴「あ、ううん! 入る! 入るわよ!」
慌てて答えると、身体を部屋の中に入れた。
ごくりと唾を飲み込み、部屋の中に目をやる。
美琴「……は?」
黒子「まぁ!」
――美琴が、たくさんいました。
- 336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/28(土) 19:04:18.04 ID:E4biZVMDO
-
美琴「えっ――え?」
思わず二度、声が出る。
玄関に備え付けられた靴箱に始まって、廊下の壁、天井、
――おそらくリビングに繋がるだろう扉、果ては照明にまで美琴の顔がプリントされているのである。
いやよく見ると直接プリントされているわけではなく――シールだろうか。
とにもかくにも、部屋の中は美琴の顔で溢れていた。
美琴「何よこれ……」
美琴の顔に初めに出たのが、困惑の表情――であった。
「私にそっくりな人が出てきた部屋に行ったら、私の写真で溢れてました」
――なんて、戸惑い以外、何の感情を出せばいいというのか。
その感情が、別のものにシフトしようとしたそのとき、美琴は横の人物が黙っていることに気がついた。
黒子「……」
美琴「く、黒子?」
黒子は顔を俯かせて、身体を震えさせていた。
恐る恐る、声をかける。
と、黒子は勢い良く顔をあげた。手は神に祈るかのごとく、胸のところで指が組まれている。
黒子「す――素敵ですわ!」
美琴「はぁあ!?」
黒子「お姉さま部屋! これはつまりお姉さま部屋ということですわね!」
偶然にも――ルビは違えど――正解を出す黒子である。
瞳を煌めかせながら、壁に頬を擦り付ける。
黒子「このお姉さまは体育時間にしか見られないレアなお姉さま! ああぁん麗しいですのぉ!」
涎を垂らさんばかりの勢いだ。
しばらく頬ずりをしていたかと思うと、写真の美琴の唇に「写真のお姉さまにマウストゥーマウスを……」と言いながらキスをしようとする。
美琴はそれを必死で引き剥がすと、疲れたのかはぁっと深く息を吐いた。
美琴「アンタは何してんのよ……もう」
黒子「申し訳ありません。ちょっと興奮してしまいまして」
あれはちょっとか? と思いつつも、「まぁいいわよ」と返す。
すると黒子は真面目な顔に戻り、少し躊躇うようにしてから――言った。
黒子「……しかし、この写真、どこで撮ったんでしょうか。
わたくしはこのお部屋――素晴らしいと思いますが、若干、気味が悪いですわ」
黒子は続ける。
黒子「わたくし、このお部屋を見て思いついた――そうですわね。
推測したことがありますの」
「聞いてくださいます?」そう黒子が尋ねると、美琴はコクリと頷いた。
- 337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/04/28(土) 23:05:20.04 ID:E4biZVMDO
-
黒子「まずあの殿方――ひとまずあの殿方、とお呼びしますわね。
あの殿方がわたくしに会ったとき、何に注目されていたか。
そう、制服ですの。このお姉さまと同じ、常盤台の制服ですわ。
あの殿方はわたくしが着用していた制服を脱がせ――いえ、欲しがった。
これの意図を考えてみますの。
これはあくまでわたくしの考えでしかありません――けれど、
わたくしはあの殿方が「熱狂的なお姉さまファン」だと推測しますわ。
そう、そう考えると辻褄が合いますの。
常盤台の制服。そして――お姉さまの、同じ姿の少女。
これはお姉さまの姿、そう。あの殿方が能力で変身した姿ではないでしょうか。
これはあの殿方の能力でなくても、どなたかに変えてもらった――もしくは整形。
あの殿方はとても華奢な方でしたから、それも可能かと思いますの。
――ファン心理というものは複雑ですわ。
けれど、憧れと捉えるならば、お姉さまと同じ姿になりたい。
そういった気持ちがあの殿方には強く、あったのではないでしょうか?
あの殿方は憧れのあまり――お姉さまが好きなあまりに、お姉さまと同じ姿になりたかった。
しかしそれには顔身体だけでは足りない。
常盤台は制服の着用が義務付けられていますの。――そう休日も。
だからこそお姉さまと同じになるには制服は不可欠。
けれど常盤台の制服は入手困難――だから、わたくしの制服を手に入れようとした――えぇ、手に入る予定はあったけれど、実際に目にして抑えきれなくなったんでしょうね。
……それに加えて、
彼がおっしゃっていた「その制服を見てられなかった」
これは、「その制服(をオマエなんかが着ているのを)見ていられなかった」
――こう解釈できますわ。
つまり目撃情報のあったお姉さまはあの殿方が姿を変えた姿。
そしてあの電話は「姿を変える準備が整った」旨を伝える電話だったのではないでしょうか。
えぇ、わたくしは彼の様子からすっかり事件かと思いましたが――こう考えた方が自然ですわ。
何でも事件に結びつけるのは職業病かもしれませんわね。ふふ。
少し話がズレました。
――あの殿方がお姉さまの熱狂的ファンだというのはこの部屋を見ても一目瞭然ですの。
あとはどこからこれらの写真を用意したか――ですが。
もし、あの殿方が第一位なら、入手は簡単のはずですわ。
姿を変えるコネ、そして費用についても同様です。
――これでQ.E.D.、ですの!」
ビシリ、とどこに向けるわけでもなく、人差し指を伸ばした。
- 342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/05/01(火) 15:13:03.50 ID:XzMK3N6DO
-
さながら名探偵のごとくポーズを決めた黒子。
実際彼女がしてみせた推理――推測は、真実とは正反対。
明後日の方向に飛んでいった名探偵には程遠いものだったが。
美琴は眉間に深い皺を刻む。
美琴「……気持ち悪い」
この部屋も。この部屋に住んでいる人も。
美琴はそう吐息と共に、吐き捨てる。
が、黒子はその呟きに気がつかない。
黒子「では! 先に進みましょう! 写真の出所などを尋ねる必要がありますわ!」
あぁでもまた彼に会うのならばわたくしはまた着替える必要があるかもしれませんわね。
黒子はそう言うが、一方通行はもう部屋にいないためその心配は杞憂である。
美琴は厭そうに、黒子は意気揚々と対照的な様子で奥へと進む。
扉を開けたら、まぁ溢れんばかりの美琴づくし。
目を輝かせていた黒子であったが、
黒子「あら、まぁ……あらあら」
あるものに目をとめ、ピタリと動きを止めた。
黒子「……これは」
美琴「……なによ、どうしたの?」
黒子「い! いえ! 何でもないですわっ。そ、それより、……ほら! あちらの扉の奥とか怪しくありません?
ここまでで誰もいらっしゃらなかったことですし」
何かを庇うように背に隠すと、正反対の方向の扉を指差した。
美琴は疑問に思ったようだが、「それもそうね」と素直に応じる。
黒子はほっと息を吐いた。
黒子(さ、さすがに水着姿がプリントされたグラスなどは……お姉さま本人に見せるわけにはいきませんわ)
- 348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/05/07(月) 15:17:34.83 ID:aXN/anbDO
-
「ミサカは……っミサカは何も知りませぇえん! とミサカは必死に誤魔化します……っ」
「本当にか」
「ほ、本当です、とミサカは言い切ります……っ」
「あらぁ? また常盤台の生徒に見られたのねぇ」
「はう!?」
「しかも部屋のナンバーを教えちゃったのかしらぁ」
「はうはう!?」
「……00003号」
「はい。何でしょうか、とミサカは敬礼をします」
「芳川のところで再調教させてやれ」
「わかりました、とミサカは00002号の首根っこを掴み引きずります」
「嫌ぁああ、とミサカは切ない声で訴えかけます……っ」
妹達が出て行き、天井と食蜂は顔を見合わせる。
「あの子、どうするのぉ?」
「躾だ、躾」
00001号がピンチのとき、研究所ではそんなことをやっていた。
事のあらましとしては、任務を終えて戻ってきた00002号の様子がおかしかったこと。
何があったと尋ねたところ、といった次第である。
先ほど「一方通行が逃げ出した」との連絡もあった。
次から次へとどうしてこうなるのだろうか。
天井は頭を抱えた。
食蜂はコロコロと笑いながら天井の頭を叩く。
「どうするのぉ? あの子たちが言っていたみたいに他の妹達を動員して探すつもりかしらぁ」
「そんなわけがないだろう。まだ調整が終わり切ってないんだ」
「無理矢理使っちゃえばいいじゃない」
「……駄目だ」
天井は首を横に振った。
いくらでも替えがきくのだろうと食蜂は首を傾げる。
「妹達一体にどのくらい金がかかると思う?」
「んぅー……18万だったかしらぁ? うん。はした金じゃない」
――さすがのレベル5さまといったところか。そう軽く言ってのけた食蜂に、ピキリと額の血管を浮かべる。
とはいえ研究者だってそれなりの給金はもらっているはずである。
というのにこの反応は何か。
天井は声を張り上げた。
「――借金が! 借金が、あるんだ……っ。そんな使わんでも済むような金を使うつもりは――ない!」
- 349 :>>348訂正[saga]:2012/05/07(月) 15:47:40.08 ID:aXN/anbDO
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**
「ミサカは……っミサカは何も知りませぇえん! とミサカは必死に誤魔化します……っ」
「本当にか」
「ほ、本当です、とミサカは言い切ります……っ」
「あらぁ? また常盤台の生徒に見られたのねぇ」
「はう!?」
「しかも部屋のナンバーを教えちゃったのかしらぁ」
「はうはう!?」
「……00003号」
「はい。何でしょうか、とミサカは敬礼をします」
「芳川のところで再調教させてやれ」
「わかりました、とミサカは00002号の首根っこを掴み引きずります」
「嫌ぁああ、とミサカは切ない声で訴えかけます……っ」
妹達が出て行き、天井と食蜂は顔を見合わせる。
「あの子、どうするのぉ?」
「躾だ、躾」
00001号がピンチのとき、研究所ではそんなことをやっていた。
事のあらましとしては、任務を終えて戻ってきた00002号の様子がおかしかったこと。
何があったと尋ねたところ、といった次第である。
先ほど「一方通行が逃げ出した」との連絡もあった。
次から次へとどうしてこうなるのだろうか。
天井は頭を抱えた。
食蜂はコロコロと笑いながら天井の頭を叩く。
「どうするのぉ? あの子たちが言っていたみたいに他の妹達を動員して探すつもりかしらぁ」
「そんなわけがないだろう。まだ調整が終わり切ってないんだ」
「無理矢理使っちゃえばいいじゃない」
「……駄目だ」
天井は首を横に振った。
いくらでも替えがきくのだろうと食蜂は首を傾げる。
「妹達一体にどのくらい金がかかると思う?」
「んぅー……18万だったかしらぁ? うん。はした金じゃない」
――さすがのレベル5さまといったところか。そう軽く言ってのけた食蜂に、ピキリと額の血管を浮かべる。
とはいえ研究者だってそれなりの給金はもらっているはずである。
というのにこの反応は何か。
天井は声を張り上げた。
「――借金が! 借金が、あるんだ……っ。そんな使わんでも済むような金を使うつもりは――ない!」
- 350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/05/07(月) 16:01:58.41 ID:aXN/anbDO
-
最後はいかにも苦しげな表情であった。
そうも言われては食蜂も出す口はない。
自腹を切ってまでその計画を勧めようというつもりもない。
天井は「それに」と切り替えるように、接続詞を繋げた。
「一方通行を見つけ出したタイミングで妹達が倒れ――まではしなくても、ゾンビみたいに這い寄ってきたらトラウマが悪化するかもしれんだろう」
「あー、まぁ確かにそうかもしれないわねぇ」
大量のゾンビが這い寄ってくる映像を思い浮かべる。そりゃあ怖いと食蜂は顔を歪めた。
「しかしどうするか」
「……何がよう」
まだ気味の悪さが抜けないのか、食蜂は小さく唸りながらも言葉を返す。
天井は深く溜め息を吐いた。
「一方通行の部屋に誰かが訪れるかもしれない、しかも常盤台の学生ってオマケ付きだ」
「ふぅん」
「――つまり、何とかするにも妹達は使えん。誰が行くか、だが……相手が常盤台のお嬢さまとなると厄介だ」
傷つけるわけにもいかないからな、と続ける。
しかし食蜂はつまらなそうに、髪の毛を指に絡ませたり、解いたり。
「――第五位!」
「……なによう」
「協力するなら、お前も考えろ!!」
天井は怒鳴りつけるが、食蜂はどこ吹く風。
その態度に苛立ってもう一度怒鳴りつけようとすると、
「じゃあ、私が行けばいいんじゃないかしらぁ?」
よい提案だとばかりに、にんまりと笑った。
**
- 351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/05/13(日) 11:07:24.64 ID:iXHzW7hDO
-
**
「じゃあ開けるわよ」
(この先はもっと酷かったらどうしよう)
「わかりましたわ」
(この先にお姉さまの姿をした殿方が……)
二者一様に不安を覚えながらも、奥の扉を開けた。
美琴はまぶたを閉じながら、であるが。
「あら?」
「何よう」
黒子は目を瞬かせる。
「いえ、存外、シンプルなお部屋でしたので」
「へ――?」
その言葉に目を開けた。
黒を基調とした部屋は、なかなかにセンスがいい。
乱れたベッドのシーツ。はためいているカーテン。
――窓が、開いている。
「……というか」
「逃げられましたわね」
今考えるとあの大きな物音は逃げ出したときの音か、と美琴は後悔すると同時にほっと息を吐き出した。
と、そのとき
ピーンポン
リズムの狂った間抜けな音が部屋に鳴った。
二人はピクリと肩を震わせる。
当たり前だ。
この二人、よく考えても考えなくても不法侵入者である。
黒子は慌てて言う。
「わ、わたくしが出て誤魔化してきますの!」
「黒子、でも!」
「……いえ、お姉さま」
黒子は美琴の手ぎゅっと指を絡めた。
力強く頷く。
「黒子に行かせてくださいまし」
玄関に駆けていく黒子。美琴は行き場のなあ手をさまよわせた。
(アンタの空間移動で逃げた方が早かったんじゃ……)
玄関で黒子がドアを開けた音がした。
- 355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/05/15(火) 15:58:05.98 ID:5TgVGqaDO
-
さて、この状況を見直してみよう。
奇しくも00001号と同じ状況。誰かに見られるわけにはいかない、ところにやってきた訪問者。
このまま美琴の思うように黒子の空間移動を使って逃げていたら、何も起こらなかったかもしれない。
しかし、黒子は玄関に向かった。
これがまた、大きな勘違いを生むこととなるとは知りもせずに。
「はい、どなたですの……、って」
「ん、んー? あらぁ、あなた……」
ドアを開けた黒子の前には、
「あ☆御坂さんのぉ……腰巾着?」
「」
常盤台の女王が立っていた。
食蜂は口をあんぐりと開けたままの黒子を見ながら、むぅ、と眉を顰める。
細い指先を唇に添わせる。
(えっとぉ……つまりぃ――うわぁ、御坂さんがいるってことぉ?)
よくもまぁ、こうも厄介な人物に。食蜂は細く息を吐いた。
妹達のことが本人にバレても食蜂は構わない。
そもそも、いずれバレることだ。
情報を得ることなど、――あの伝説のハッカーには負けるかもしれないが――彼女にはお手のものだろう。
しかし、それは今じゃない。
バラすにしても、もっと美琴がより自責の念にかられるタイミングでなくてはいけない。
そもそも、何故妹達が造られたのか。
目的ではなく、そもそも。
何故、造ることができたのか。
それは彼女が自身のDNAマップを提供したからに他ならない。
もちろんクローンを造り出そうだなんて――微塵も思ってはいなかったわけだが。
だがそれでも美琴の心の闇となることは間違いない。
だからこその、妹達の利用。
食蜂が、さてどうするかと頭を捻っていると、呆然としていた黒子がハッと目を大きく見開いた。
「何であなたがここに……っ」
「あ、んーとぉ」
「もしかして――あの殿方の恋人ですの!?」
「え」
この黒子、止まらない。
食蜂の身体は一瞬硬直してしまう。
顔に浮かぶは困惑の表情である。
(何よう、この子。どうしてそんな考えに至ったわけぇ?)
白人間の顔が思い浮かび、すぐに頭を振った。
ふん、と鼻をならす。
指先を鞄の中に滑り込ませる。
リモコンが触れたのを確認すると、
(まぁそれも――全部、読みとっちゃえば)
キラリと瞳に光を走らせた。
(いいわよねぇ……ッ)
- 357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/05/20(日) 01:25:28.75 ID:IVdZqZ8b0
-
――――
――
黒子の口から出させた言葉は食蜂に面白いと思わせるには充分なものであった。
話を聞いた食蜂の口は知らず弓を描いている。
食蜂「……うん、うん。あ、もういいわぁ」
その一言を合図に、黒子はぼうと操られたかのような虚ろな目に光を宿す。
黒子「――……っな、なにを」
食蜂「何もしてないわよぉ? それより、あなたたちはどうして私の彼氏の家にいるのかしら?」
私の彼氏、第一位さんの――
そう暗に言う食蜂に、黒子は得心のいった顔をする。
その心の動きがわかるだけに、耐えきれない笑いが食蜂の肩を震わせている。
黒子「……やっぱり、そうでしたのね」
食蜂「……くっ」
黒子「?」
食蜂「な、なんでもないわぁ!」
黒子「ではあなたにお聞きしたいんですの。何故、彼氏である殿方が……その、あなたが嫌っているお姉様のファンでいることを許しているのか」
食蜂「えっ」
黒子「は?」
食蜂(……それよりもっと聞くことがあるんじゃないかしらぁ。いいけど)
- 358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/05/20(日) 01:25:57.14 ID:IVdZqZ8b0
-
そもそも、第一位は御坂美琴のファンなどではない。
つまりはでっちあげの理由をつくる他にない。
別に嘘をついて心が痛むような相手でも、性格でもない。
食蜂は髪を指に巻き付けながら、平然とした顔で言う。
食蜂「あなた勘違いをしているようだけどぉ……別に、御坂さんのこと嫌いじゃないのよぉ? 私」
黒子「えっ」
食蜂は笑う。
食蜂「確かに、ちょーっと目障り……ううん。私の目的には邪魔な存在なのは確かだけどぉ」
食蜂(あ、あと能力が効かないのもウザいわねぇ)
変なバリアで能力を防ぐなんて反則である。
それを思い出して、食蜂は少し眉間に皺を寄せた。
黒子は尋ねる。
黒子「それは嫌い、とは違うんですの?」
食蜂「もちろん」
食蜂(嫌いだけど☆)
なんて本音を言うわけもない。
黒子はその言葉を追求することもなく、神妙な顔で頷いた。
黒子「……そうでしたか。わたくし、ずっと勘違いしてまいりましたわ」
食蜂「ま、仕方ないわよねぇ。御坂さんがそう思ってきたんでしょうしぃ」
黒子「いえ、本当に……あなたがお姉様フェチだったなんて思ってもみませんでしたの!」
食蜂「はい?」
拳を握る黒子である。
瞳は星飛雄馬のごとく輝いていた。
黒子「だって彼氏である殿方がこんなお部屋に住んでいてそれを止めないなんて!
……彼女であるあなたもよっぽどのお姉様フリークでなければ理解できませんわ!!」
食蜂「え、……とぉ」
黒子「世の中はお姉様への愛で溢れてますのね……ふふっ」
食蜂「……そうねぇ」
楽しそうに微笑む黒子を見て、食蜂は相づちを打つしかなかった。
柄にもなく押され気味である。
- 385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/09/09(日) 21:34:34.52 ID:m5eGrFuDO
-
黒子の猛攻もそこそこに、食蜂は御坂の居所を聞かねばならぬと、うぅむ眉をしかめた。
この部屋にいるのは確かであるが、ならば何処にいるのだろうか。
寝室? リビング? はて、それとも。
それによって御坂への第一声も変わってくるというもの。
食蜂が能力範囲を広げて場所を割り出してもいいが、そうすると御坂にも能力を使ったことがバレてしまう。
残る選択肢は1つであった。
食蜂「じゃ、お邪魔しまぁす」
黒子「どうぞどうぞ!ゆっくりお姉さまコレクションを見てくださいまし!」
▼普通に入る
食蜂(まぁ、これしかないわよねぇ……)
先導する黒子はリビングに入ったところでピタリと動きを止めた。
黒子「あら?」
食蜂「え?」
黒子「いえ、お姉さまがいらっしゃらないので……おかしいですわね。リビングにいたはずなのですけど……奥の部屋に入られたのかしら」
黒子はそう言い奥の部屋への扉を開く。
美琴がベッドのシーツに顔をうずめているのが目に入った。
黒子「お姉さま!?」
美琴「黒子……」
食蜂(私もいるのにぃ)
食蜂は2人の呼び合う姿に不満そうにぷくりと頬を膨らませた。
しかし美琴が手に持つものを見て、表情を変える。
美琴「この写真……」
黒子「何ですの、って――まぁ可愛らしい!お姉さま、これはおいくつの」
美琴「……私、やっぱりその男、知ってるかも」
黒子「――え?」
食蜂(――あはっ)
美琴がベッドで拾い上げていたのは、天井が一方通行のポケットに入れたはずの写真であった。
さて、ここでまた一区切り。やたらと区切りが多いのはご容赦いただきたい。
美琴は一方通行のことを思い出した。
一方通行がここにいなくて良かった。
もしいたならば更なるトラウマを植え付けられていただろう。
美琴の心情は想像に容易い。
- 387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/09/13(木) 00:04:20.49 ID:bUBJXo8DO
- そんなこんなで、美琴たちは食蜂を通じて(少々ねじ曲がった)事の顛末を知ることとなる。
美琴は戸惑い、黒子は自分の勘違いに気がつき顔を赤らめつつも「あの殿方がああいった反応をした理由」を知る。
その中食蜂は美琴を一方通行へとけしかけようと更なる追い討ちをかける。
それは、一方通行がトラウマを克服したら「妹達を利用して本来行うはずだった実験」を再開するのではないかという疑いの種を植え付けるということだった。
言わずもがな、一方通行に良い印象を持っていなかった美琴は簡単に乗った。
しかし実際に会ったことのある黒子は別れ、独自に調べるという。
美琴はそれに不満を覚えつつも、一方通行のもとに走ることとなった。
そのころ、天井サイドでは、芳川からある連絡が入る。
最終手段の用意が出来たという。
一方通行のもとに向かわせている。これで進展するだろう。――とのことであった。
そして、逃げていた一方通行へと視点は移り変わる。
- 388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/13(木) 00:05:06.57 ID:bUBJXo8DO
-
逃げるという行為は不思議なもので、何度やっても慣れるということはない。
まして対象がそこにあるもの、ではなく脅迫という観念であったら尚更のことである。
前回は地上を走り、常盤台の生徒に会うという失敗を犯した一方通行は、現在空を駆けていた。
白い髪は風で乱れ、ビルの屋上の床を蹴る度に派手な轟音が響く。
いくつものビルを飛び回ったあと、前回と同じように、ようやく足をとめた。
キャッチーなイラストの描かれた広告が貼られた、ビルの屋上である。
足をとめるまでにかかった時間が前回とほぼ同じだったことから、どうやら一方通行が頭を冷やすにはある一定の時間が必要のようであった。
一方通行は細く息を吐く。視線をキョロリと周囲に回す。誰もいない。来る気配もなさそうな寂れた屋上だ。
一方通行は腰をおろし、そしてガバッと頭を抱えた。
一方通行「あァァァ!!ンだよアレ!!治療っつゥか嫌がらせじゃねェか!?」
ごもっともである。
天井はともかく、妹達に若干楽しそうな感情があったかもしれない、ということは否定できない。
一方通行は、髪を乱暴に掻き乱すが、はたとその動きを止めた。
一方通行「つゥかよ……トラウマ治療って過去の失ぱ……自分の行為を認める、とかよォ、過去の原因と向き合うもンだろ」
一方通行「現在の第三位の姿でやってもトラウマが加速するだけじゃねェか!!」
実際には、だけしかない、というわけではないだろう。実際多少のトラウマの改善は見られている。
しかし被験者本人がそう思うのならば、改善してないのかもしれない。
まぁ、そもそもそれなら自分でやれよ、と。そこまでしなくても提案ぐらいはしろよ、と。
思わざるを得ないだろうが、そこはやはり第一位である。
悪い意味での。
ヤケになって叫んでいた一方通行であったが、ピクリと身体を強張らせた。
視線を屋上のドアに向ける。
カン、カンと足音のような音がドアの向こうから聞こえた。
そして足音が止まったかと思うと、
――キィイ、と錆びれたノブがゆっくりと引かれる。
「本当に……に……いる……って……みたり」
隙間から聞こえる途切れ途切れの声。幼い、子どもの声。
一方通行は顔をしかめて、また違うビルに移ろうかと逡巡する。
しかし妹達とも天井とも食蜂にも似つかない声に、
気にすることもないかと思い直した。
子どもならば、一睨みもすれば出て行くだろう。
一方通行も自身の目つきが悪いのは自覚している。近づきがたい容姿をしているということも。
そう。このときの一方通行は考えが足りなかったとしか言いようがなかった。
何故こんな錆びれた屋上に、何もない屋上に一人で子どもがやってくるわけがあるのか。いやない。
そして、一方通行は気がつくべきだったのだ。
その声に聞き覚えのある響きはなかったのかどうかを。
開いたドアから栗毛の髪がぴょこりと覗く。
ゆっくりと歩いてきた少女は大きな目をパチリと瞬かせた。
入ってきたことがわかった一方通行は少女を追い出そうと顔をあげ、少女に視線を向ける。
一方通行「オイガキ。ここ、は――……」
「……はじめまして、アナタ。ってミサカはミサカは初対面に心臓を高鳴らせてみたり」
一方通行「――……あ」
自分にトラウマを与えた少女、そのものの姿が、そこにはあった。
- 389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/13(木) 00:05:39.58 ID:bUBJXo8DO
-
一方通行は顔を歪める。薄く開いた唇の隙間から、ようやく声を洩らした。
脚に力が入る。それを見た少女は首を振る。
打ち止め「逃げちゃダメだよ。ってミサカはミサカは優しく諭してみる」
一方通行「……オマエは」
打ち止め「ミサカは打ち止め(ラストオーダー)、名前の通り、最後の妹達だよ。ってミサカはミサカは固まっているアナタに微笑んでみたり」
打ち止めはそう言って、愛らしい笑みを見せた。
ただでさえ白い顔が一層青白くなっている一方通行に、その華奢な手を差し出す。
打ち止め「ね。アナタ――一緒に、遊ぼう?」
「ってミサカはミサカは照れ笑いをしてみる」、打ち止めはそう小さく付け足すと打ち止めは照れくさそうに頬を掻いた。
- 390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/09/13(木) 00:12:30.46 ID:bUBJXo8DO
- で、なんやかんやで一方通行に敵愾心を抱いた美琴は一方通行らと敵対する。
そしてなんやかんやで仲直りするのであった。
完!
- 391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/09/13(木) 00:14:04.06 ID:sIHOY/4H0
- おい
- 392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/09/13(木) 00:15:48.83 ID:bUBJXo8DO
- 放置も長いし、このままダラダラと続けるよりもってことで
このスレは落としたいと思います
正直すまんかった
依頼出してくる - 393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/09/13(木) 00:16:17.56 ID:4qzZaQZ6o
- 乙
- 394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/09/13(木) 00:17:38.32 ID:sIHOY/4H0
- まあしょうがないか
乙!
2014年6月6日金曜日
一方通行「……好きなンだ」美琴「ごめん無理」
ラベル:
とある魔術の禁書目録,
一方通行,
御坂,
白井黒子
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