2013年2月8日金曜日

あまくさっ!? ~ただいま。~ 6

727第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/27(火) 21:31:27.82 ID:aOOsrV5h0
 ―――とある4日目、PM04:00、学園都市第1学区、マンション『ニューディレクターズ』(香焼宅)・・・・・・





放課後の課外講義を早退し、急いで家に戻る。昨夜はあまりにドタバタ騒ぎ過ぎたので、正直、日中は落ち着けなかった。
彼女が寝ている内に家を出てしまったが、大丈夫だろうか。勝手に部屋の外に飛び出してはいないだろうか。

不安の念を抱きながらマンションに戻る。
駐輪場には五和のバイクが無い。という事は多分、浦上も居ないのだろう。余計心配になってきた。

帰り際に買ってきた食材と、羞恥心を堪えてカウンターに運んだ女性用下着が入った袋を片手に、自室に戻る。


香焼「珍しい……鍵閉めてる」ガチャッ・・・


普段、馬鹿姉共は鍵を閉めないどころか、近場への用事であれば戸を開けっ放しで外出する事もある。田舎育ちって怖い。
さておき、もしかしたらサーシャが起きてて鍵を閉めたかもしれない。ドチラにしろ正しい判断だ。


香焼「ただいまー」テクテク・・・


返事は無い。もしかして、まだ寝ているのか……仕方あるまい。あの怪我だ。やはり鍵を閉めたのは五和か浦上だったか。
彼女を起さない様、静かにリビングへ入る。


香焼「……寝てる?」ガチャッ・・・

もあい「なぅ」トコトコ・・・

香焼「もあい……って、アレ? サーシャは!?」キョロキョロ・・・


布団は蛻(もぬけ)の殻。丁寧に畳んで端に寄せて在る。まさか出て行ったのか!?
買い物袋を真下に置き、急いで五和に電話する……だが、通話中。次に浦上へ……電話に出ない。
焦る気持ちを抑え、冷静に辺りを見渡す。

ソファの上に置かれた昨夜彼女に着せた寝巻きと、手当に使用した物と思われる包帯。そして開いたベランダの窓。


香焼「……まさか」ダラダラ・・・


何も言わず、出て行ったのか。いや、彼女の靴(ブーツ)は玄関にあった。
という事はまさか……誘拐!? 昨夜サーシャをボロボロにした相手が、居場所を嗅ぎ付けてやって来たのやもしれない。


もあい「みー」フルフル・・・

香焼「……っ!!」バッ!!


振り返り、外に探しに行く。そう覚悟した瞬間だった。 
 
728第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/27(火) 21:49:40.49 ID:aOOsrV5h0


 ガチャッ……



香焼「え?」ピタッ・・・


洗面所のドアが開く。


もあい「みゃん」ジー・・・




サーシャ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぇ」ピタッ・・・




下着姿の、サーシャ。




香焼「…………、」ダラダラ・・・///

サーシャ「ぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うぇ!?」カアアァ///



互いに硬直。

729第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/27(火) 22:12:28.09 ID:aOOsrV5h0
頭の回転が追い付かず、言葉が出ない。一秒にも一年にも思える時間の後、先に声を出したのはサーシャだった。


サーシャ「そ、その……見ないで、貰えますか」カアアァ///

香焼「っ!! ご、ごめんっ!!」バッ!!


リビングへ戻ろう。そう考え急いで踵を翻した瞬間、足元に降ろした買い物袋を思いっきし踏みつけた。
体勢が崩れる。無理矢理立て直そうと、別の足場に左脚を落とそうとした刹那。


もあい「にゃっ!?」ビクッ!!

香焼「も、もあい!!」ズルッ!!


もあいの尻尾が置いてある。踏む訳にもいかない……故に、反動に身を任せ床に背中と頭を打つけ―――



サーシャ「っ!!」バッ!!



―――そうになった瞬間、サーシャが飛び込んで僕を支えた。


サーシャ「ぁ、うっ!!」ズキンッ!!

香焼「さ、サーシャ!? ってうわぁ!!」ゴロンッ!!


まだ傷が癒えておらず、僕の体重を支えきれなかったサーシャ。彼女がクッションになる形で、共に転がってしまった。


もあい「んなー」ジー・・・

サーシャ「つぅ……大、丈夫、ですか?」イタタ・・・

香焼「……う、うん」ダラダラ・・・///

サーシャ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゃ!?」ドキッ!!


ごめんなさい……頬の辺りが、その……とても柔らかいです。


サーシャ「」ボンッ/////////////////////////////////////////////////////////////////////////

香焼「ご、ごめ、今退ける!!」アタフタ・・・///

サーシャ「お……お願い、します。そ、早急に!」カアアァ///


彼女の腰の両脇に手を着き、立とうとした―――


五和「ただいまー。って、あれ、コウちゃん帰って……る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」ガチャッ・・・ピタッ・・・///

香焼・サーシャ「「なっ!!?」」ギョッ・・・ダラダラ・・・

浦上「お姉ぇ。立ち止まんない、で……ヨ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヒューッ」チラッ・・・ワァオ・・・


―――……最悪のタイミングで馬鹿姉2人が帰って来た。


五和・浦上・サーシャ「「「…………、」」」タラー・・・///

香焼「ちょ、待……か、勘違いするなよ、お前ら。これは!!」ダラダラ・・・

五和「ん……こ、こほんっ……ごゆっくり」スー・・・///

浦上「香焼……玄姦はアウトだヨ……まぁサーシャ怪我してるんだから、ほどほどにネ」ガチャッ・・・ニヤリ・・・


あー……不幸だー。

730 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/27(火) 22:40:12.56 ID:aOOsrV5h0
2人が無駄に空気を読んで出て行ってからすぐ、僕らはリビングに戻った。
サーシャ曰く、傷が気になったので包帯を取って確認しに洗面所を借りたとの事。水を流しっ放にしていたので僕の声が聞こえなかったらしい。
とりあえず、僕は自室に戻り、彼女が着替え終わるのを待った。


サーシャ「……終わりました」コンコンッ・・・

香焼「あ、うん。今行く」ポリポリ・・


邪念を殺し、リビングへ。
彼女は五和の寝巻きの上を着て、もあいを抱えソファの上にちょこんと座っていた。


香焼「あー、えっと……その」ポリポリ・・・

サーシャ「…………、」ムゥ・・・///

香焼「ご、ごめんね」ペコッ・・・///

サーシャ「あ、ぅ……だ、第1の提案ですが……わ、忘れましょう」タラー・・・///

もあい「みー」コクコク・・・


そうだね、そうです、そうしよう。


香焼「えっと……ご飯食べた?」

サーシャ「はい、頂きました」

香焼「うん、良かった。何時くらいに起きたの?」

サーシャ「第1の回答ですが、午前10時半くらいです」

香焼「そっか……暇じゃ無かった?」

サーシャ「第2の回答ですが、午前11時半くらいまで五和達が居ました。それから午後1時くらいから横になって居たので……、」コクッ・・・


もあいを撫で、小さく頷くサーシャ。
まぁ僕が此処から出るなと言ったのだ。『暇じゃ無かった?』なんて聞き方も可笑しい。

さておき……そろそろ本題に入ろうか。


香焼「サーシャ。昨日の事……話して貰える?」ジー・・・

サーシャ「…………、」タラー・・・

香焼「言えない事?」チラッ・・・

サーシャ「そういう訳ではありませんが……第2の提案として、五和達が戻って来てから話をさせてください」コクッ・・・

香焼「アイツらが?」

サーシャ「色々と複雑な事になっているのです。ですが、第1の願望として……何があっても彼女達を怒らないで欲しい」ジー・・・


真剣な眼。もしかして五和達には先に話したのか……別にそのくらいでは怒らないよ。
僕は了解、と微笑み何処かに素っ飛んで行った馬鹿1号2号に戻って来るようメールを入れた。


731 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/27(火) 23:18:53.24 ID:aOOsrV5h0
数分後、2人が帰って来る。
勘違いで頬を染め気拙そうな五和はまだしも、ニヤニヤと僕らを交互に見てくる浦上にはイラッときた。お前分かって笑ってるだろ?


香焼「ったく……サーシャがお前ら居る前じゃないと話せないってさ」ハァ・・・

五和「え、あ、うん。そっか……サーシャ。何処まで話した?」チラッ・・・

サーシャ「まったく何も」フルフル・・・

五和「そう……それじゃあ何処から話しましょうか」フム・・・

浦上「ドニエストルの話しちゃえば?」

香焼「へ? どにえすとる……ドニエストルってCIS、モルドバ内の?」ポカーン・・・

サーシャ「はい。では第3の提案、ドニエストルの問題は私から話しましょう……コーヤギー、少々長くなりますが良いですね?」コクッ・・・

香焼「え? うん」コクッ・・・


サーシャの説明が始まった。
まず、モルドバ・ドニエストル内で露SVR(対外情報局)の人間が殺された事。
そしてその殺され方が人の為せる業では無かった事。故に、彼女が特命を受け学園都市に侵入した事。


サーシャ「―――……此処までは分かりましたか?」

香焼「……CIS内でSVRの人間が殺された。停戦中のモルドバ・ドニエストル紛争に発破を掛けようとしたルーマニア側の工作か」ムゥ・・・

サーシャ「…………、」ハァ・・・

香焼「雇ったのは魔術師……でもドチラにしろ、ルーマニアはNATO側。モルドバ本国もNATOに肩入れをしようとしてるんじゃ」フム・・・

五和「あー。コウちゃん。重要なのはそこじゃないから」ハァ・・・

香焼「そうなるとこの件はルーマニアのマッチポンプ的殺人……え?」キョトン・・・

浦上「相変わらず理屈っぽい……そういう推理は下っ端魔術師たる私達の仕事じゃないでしょ。とりあえずサーシャの話、聞きなヨ」ヤレヤレ・・・


これは失礼。自分の世界に入ってしまった。


サーシャ「ん……では続けます」コクッ・・・

もあい「みー」コロコロ・・・


彼女はハバロフツクを発ち、都市へ向かったそうだ。先日のテロ紛いの騒ぎもロシアの囮・陽動作戦だったとか。
それから都市に侵入し……妹達(シスターズ)と優男風の魔術師と交戦。
超能力者らしい暴れん坊ヤングスーパーマンと、『駒場』と名乗る『マスクの男(ゴーストライダー)』に助けられ、此処に逃げのびた。


サーシャ「―――……とりあえず、以上です」

香焼「妹達、それに魔術師って事は海原さんか……でもサーシャ程の魔術師が何であんなにボロボロにされたんすか?」

サーシャ「第3の回答です。私は都市内での魔術使用と通信機の使用を禁じられました……正直、身体能力だけでは勝てませんよ」ハァ・・・

香焼「成程……それで、軍覇と……誰か分からないけど、仮面ライダー(?)に助けられたんだ」

サーシャ「肯定です……ところで、詳しいですね。第1の質問ですが数名は知り合いか何かで?」ジー・・・


一応、妹達と海原さんは(※①)結標さんと土御門繋がりで。              ※①(あまくさっ!:第4話参照)
軍覇は(※②)偶に家へ遊びに来る。そんでタダ飯喰らって帰ります。          ※②(同上:第8話、おまけっ!参照)


732 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/27(火) 23:37:47.71 ID:aOOsrV5h0
そうでしたか、と苦笑するサーシャ。


サーシャ「……では、五和。お願いします」

五和「そうね……コウちゃん……いえ、香焼。天草式若衆筆頭として告げます。今から言う事を冷静に聞きなさい」

香焼「……はい」


真面目な表情。自分も畏まる。


五和「率直に言います……私達……英国清教は今回の事件、そしてサーシャが都市に侵入する事を事前に知っていました」

香焼「……え」

五和「無論、私も知った。そして浦上も、他の若衆も知っていました」


五和が言ってる意味が、分からない……僕は知らないぞ。


五和「そうですね……ええ。貴方の耳には入らない様、一同に注意しました」

香焼「え……な……どう、いう」

五和「英国からサーシャ監視任務の命が下っていた。しかし貴方はその任務から外した……意味が分かりませんか?」


理解できない。


五和「…………、」ハァ・・・

浦上「あのさ……簡単に言えば、公私混同を恐れたんだヨ。私達も、女教皇様も、マグヌス神父も……そして」チラッ・・・

サーシャ「……ええ。私もです」

香焼「っ!!?」ズキッ・・・


なんて……馬鹿げてる。


香焼「い、意味が分からないっすよ! 何で!? 如何して自分をハブる必要有ったんすか!!」ギロッ・・・

五和「浦上が言った通りです……貴方は、8対1で袋叩きにされているサーシャを見て、黙っていられますか?」ジー・・・

香焼「っ……そ、れは」チラッ・・・

サーシャ「…………、」シーン・・・


任務で、そうしろと言われているのであれば。


五和「無理ね」サラッ

浦上「無理だネ」サラッ

サーシャ「…………、」ハァ・・・

香焼「っ」ギリリ・・・

もあい「……なぅ」ジー・・・


腹が立つ……本音を言う彼女達。そして、図星だと思ってしまった自分に。


733 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/28(水) 00:05:24.25 ID:rlxf2Yfe0
不貞腐れる自分。しかし、五和は気にせず続けた。


五和「謝罪はしません。貴方を外したのは英国の総意ですから」サラッ

香焼「…………、」フンッ・・・

浦上「……お姉、話戻そう。サーシャが此処に辿り着いた理由も説明しないと」

五和「そうね。話を戻すわ……サーシャ、自分で説明できる? 英国の方は既にアニェーゼが白状したそうよ」

サーシャ「そうですか……了解です」


アニェーゼ?


サーシャ「では第3の説明です。私が此処に来た経緯を話します」

香焼「……うん」コクッ・・・


そういうと彼女は携帯を取り出し、電源を入れ……一通のメールを見せてきた。


香焼「ウチの、住所? な……レッサーから!?」ギョッ・・・

サーシャ「はい。第1の補足ですが、コーヤギーの家だとは分かりませんでした」ペコッ・・・

香焼「じゃあ……あの時の」キョトン・・・


先日、レッサーから掛ってきた電話……アンジェレネに教えた住所。
そしてアニェーゼが言い残した意味深な数々の言葉。


香焼「『主は貴方に試練を課すでしょう』……『教義』……『贈り物』……そういう事か」タラー・・・

五和「はい?」ポカーン・・・

香焼「電話……この前、アニェーゼに言われた」

サーシャ「……私も、彼女とオリアナ=トムソンに貴方を頼るよう言われました」

浦上「やっぱりアニェーゼ達か……ってオルソラ姐御も!?」キョトン・・・

サーシャ「あ、え、いや……第1の訂正ですが彼女の場合、フリーの情報提供者としてお金を払って協力願いましたから」

五和「ウラ……そこは黙っておきましょう。英国には伝えないでおいて上げるわ」コクッ・・・

サーシャ「すいません。感謝します」コクッ・・・


とりあえず、サーシャの我が家訪問は……アニェーゼ達のコントロールだったという訳か。
遣る瀬無いが、一本取られた。流石一、部隊長。頭がキレる。

734 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/28(水) 00:37:25.97 ID:rlxf2Yfe0
さて、一通りの説明は終わった。
色々腑に落ちない点や、文句を言いたい事はあるが……既にサーシャが此処に居る手前、それを口にする事は憚れる。
とりあえず我慢し、五和の話に耳を傾けた。


五和「以上ね……では次に、サーシャ」チラッ・・・

サーシャ「はい」

五和「今朝言っていた会議で、出た新たな対応について説明させてもらうわ」

サーシャ「っ!!? 何か動きがあったのですか!?」ドキッ・・・


何でも、学園都市・英国・ロシアで話し合いが行われたらしい。
議題は勿論、サーシャと『吸血殺し』について。


五和「まずロシア、というよりモルドバ・ドニエストルの現状を伝えます」

サーシャ「部隊の? もしや新たに犠牲者が?」タラー・・・

五和「ええ。これを……資料を持ってきました。目を通して下さい」スッ・・・


『モルドバ・ドニエストル間<  >報告書』と書いてある。『<  >』とは例の吸血鬼だか魔術師だかのコードだろう。
自分も内容を見ていい様なので、目を通す。


サーシャ「犠牲者が10人に……遂に民間人も……代行者!? ローマが出張ってきたのですか!?」タラー・・・

五和「ええ。つまり『異端(人外)』の可能性を示唆しているわ。ローマの情報開示が無いので詳細は分からないけど」

浦上「異端審問軍……スペイン星教まで出てきたネ。態々御苦労な事を」ハァ・・・

香焼「これはもうロシアとか英国とかじゃなく、十字教としての問題じゃないんすか?」チラッ・・・

五和「ええ。そうみたい……そこでまず、新たな英国の対応を伝えます」


僕とサーシャは息を飲む。


五和「現状、関与しないの姿勢は続ける。だが監視は緩めるとの事……良かったわね」フフフ・・・

サーシャ「……問題は都市の対応でしょう」フム・・・

五和「では其方の対応……交渉権を認める。ただし、監視をつける……統括理事長の許可が降りたわ」クスッ

サーシャ「っ!!? ほ、本当に!?」パアアァ!!

五和「でも、あくまで交渉権よ。監視付きの……もし不要な戦闘、『吸血殺し(姫神秋沙)』本人の意思を無視する様なら……OK?」

サーシャ「も、勿論です! 上司からも無理矢理は禁止と言われていますから」ホッ・・・

五和「それから、コレも分かってると思うけど……交渉が成功した場合、彼女の『血』を悪用したり、ロシアで秘密裏に研究するのもNGよ」


それはそうだ。それこそ、姫神さんが一番恐れている事。


サーシャ「了解です……安心しました」ホッ・・・

香焼「まぁその……良かったね」フフッ

サーシャ「ええ。ありがとう、コーヤギー」フフッ


サーシャの安全が確保され一安心といった所か。心成しか、ハブられていた事も如何でも良くなってくる。

735 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/28(水) 00:53:08.33 ID:rlxf2Yfe0
だがしかし、一つ疑問が浮かぶ……サーシャは良いとして、自分の対応は?


サーシャ「あ……そうです。第2の質問ですが、コーヤギーは?」

五和「え? あ、うーん……特に言われてないわ。如何するんだろう」ムムム・・・

サーシャ「……第1の危惧ですが、これ以上、私が此処に居るのは拙いのでは」タラー・・・


確かに。別に自分個人としては構わないのだが、都市的に英国の関与になってしまうのでは無かろうか。
仮にも自分は今回の事件を知ってしまった。もう『無関係者』では無いと思うのだが。


五和「ええっと……如何なんだろう」タラー・・・

浦上「お姉。一応、土御門さんと建宮さんに連絡取ったら?」

五和「そうね……ちょっと待ってて」スッ・・・


立ち上がり、ベランダへ消える五和。
とりあえずこの間に、浦上は夕飯の準備を。自分はサーシャと今後の予想を立てる事にした―――

 *****************<五和side>******************


五和「―――……あ、もしもし。私です」Pi!

土御門『ん。何だ?』

五和「少々質問が……サーシャの今後についてです」

土御門『今後? 指令書通りだが……まぁアレはアバウト過ぎるか。具体的にって事だな?』

五和「はい。現状、香焼宅に居るのですが大丈夫でしょうか? 既に香焼にも今回の件を説明してしまいましたよ」

土御門『あー……別に如何でも良いにゃ』ハハハ

五和「え、ぁ……はい?」ポカーン・・・

土御門『如何でも良い。好きにさせろ。まぁ香焼ん家限定でな』

五和「ええっと……英国の干渉にはならないのでしょうか?」タラー・・・

土御門『気にすんな。事が済めば「些細な事」だぜぃ』

五和「はぁ」ウーン・・・

土御門『一応、今回の件を知ろうが知るまいが、香焼はフリー扱いにする。何なら、これからサーシャとデートしようが構やしない』ニャハハ

五和「そ、それは」タラー・・・

土御門『冗談だ。とりあえず好きにさせろ……んー、そうだ。じゃあこうしろ……―――』


736 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/28(水) 01:08:23.96 ID:rlxf2Yfe0
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長電話の末、五和が戻って来る。何とも戸惑いの表情。
一体何を言われたのだ。もしかして今すぐ追い出せとかか?


サーシャ「……何と?」チラッ・・・

五和「えっとね……此処居て良いって」

サーシャ「ほ、本当ですか!?」ギョッ・・・

五和「んー……何か私もよく分かんない」ポリポリ・・・


眉間に皺を寄せ、頬を掻く五和。


浦上「そんじゃー、香焼の方は?」

五和「それがさぁ……今一意図が掴めないんだけど」ムゥ・・・

香焼「土御門から言われた事っすか? それとも建宮さん?」

五和「土御門。建宮さんはその事に関して『そうか』だけ」

サーシャ「第3の質問です。一体、何を言われたのですか?」


言葉に詰まりながら、五和は答えた。


五和「サーシャの監視、コウちゃんがしろって」

香焼・サーシャ「「……へ???」」ポカーン・・・

五和「だから、付きっきり。サーシャの好きな様にさせる代わり、コウちゃんが監視だってさ」

香焼「え、あ……意味が分からない」タラー・・・

五和「私だって分からないよ。『下手に都市のホテルに泊まられるより、英国側の監視下(香焼宅)居てくれた方が良いかも』だって」


自分とサーシャはてっきり『自身で此処以外の寝床を確保しろ』とか『理事会指定の下、宿に泊まれ』とか言われるのかと思っていた。
というか都市側の監視は如何なってるんだろう。


五和「それも土御門に一任されてるから、代理で私達だってさ。ただ姫神さんや上条さんと接触する際には別の人間つけるけど、だって」

香焼「そっか……サーシャ、如何する?」チラッ・・・

サーシャ「私の好きにしろ、ですか……急に掌を返されたようで不気味ですね」ウーン・・・

浦上「まぁまぁ。とりあえず泊まっちゃえば? 行く宛ても無いんでしょ?」フフフ・・・

サーシャ「まぁ……しかしコーヤギー。良いのですか?」チラッ・・・


別に構わない。というより、正直危なっかしいこの街にサーシャを一人放り出したくないのが本音だ。

737 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/28(水) 01:26:45.35 ID:rlxf2Yfe0
素直に泊まって良いよ、と伝える。サーシャも御言葉に甘えます、と律義に頭を下げた。


浦上「ふふっ。まぁご飯とか風呂とかは『勝手に食べた』で通せるしネ」フフフ・・・

サーシャ「はい。第1の願望ですが、なるべく私が勝手にやった事として処理して下さい。これ以上、コーヤギーに迷惑を掛ける訳には」コクッ・・・

香焼「気にしなくていいのに」ポリポリ・・・

もあい「んなー」ジー・・・


サーシャは嬉しそうな、悲しそうな、怒っている様な……複雑な表情を見せ、僕に告げた。


サーシャ「……コーヤギー。第1の忠告です」チラッ・・・

香焼「ん?」

サーシャ「貴方の好意は嬉しいですが、自分の立場を弁えて下さい。言ってる意味、分かりますか?」ジー・・・

香焼「え……と」タラー・・・

五和・浦上「「…………、」」コクン・・・


彼女の言葉に同意するといった表情を見せる馬鹿姉2人。


サーシャ「仮にも貴方は英国傘下の人間なのです。敵では無いとはいえ、本来関与してはいけないのですよ」ジー・・・

香焼「それくらい分かってるよ……だけど、もう大丈夫なんでしょ」ウーン・・・

サーシャ「まるで分かってない……冷酷な事を言わせて貰います。ええ、互いの立場をハッキリさせる為にも言わせて貰いましょう」

香焼「……何」

サーシャ「第1の説教です……コーヤギー、貴方は馬鹿だ」ジー・・・

香焼「へ?」キョトン・・・


固まる。五和と浦上は笑う……かと思いきや、真面目な表情。


サーシャ「貴方は組織の人間です。私も、彼女達も組織の人間」

香焼「……分かってるよ」ムゥ・・・

サーシャ「分かってるくせに意図せずして公私を混同させる。貴方は無所属魔術師でも無ければ、上条当麻の様に好き勝手出来る立場ではない」

香焼「……だから、分かってるって」ジトー・・・

サーシャ「分かっていても、公私を混ぜる……そんなんだから任務から外される」ジー・・・

香焼「っ」グッ・・・

サーシャ「……嫌ってくれて結構です。今は、その方が互いの為でしょう」フイッ・・・


目を伏せるサーシャ。彼女の言葉に頷く五和と浦上……悔しいが、正論過ぎる。全部、僕が悪い。

739 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/28(水) 01:42:29.90 ID:rlxf2Yfe0
気拙い雰囲気。浦上が動かす包丁のリズムがやけに響く。


香焼「……ごめん」

サーシャ「謝らないで下さい……怒ってくれて結構ですから」

香焼「……でも、ごめん」

サーシャ「…………、」ムゥ・・・


自分がどんな顔をしているか分からない。だがサーシャの顔は困っているし、悲しそうな表情だった。


五和「コウちゃん……卑怯ね」ハァ・・・

香焼「……は?」チラッ・・・

五和「教えない。でも、卑怯……任務とか関係無しに、女の子にそういう表情向けるのは男として卑怯よ」

香焼「意味分かんない」ジトー・・・

浦上「お姉。言っても無駄……それからサーシャ。貴女も同じだヨ。香焼って人間を少しなりとも知ってるなら……分かるでしょ?」チラッ・・・

サーシャ「……むぅ」ハァ・・・


何だよ……女同士で意思疎通しやがって。


浦上「忠告も大事だけど、香焼には無意味だネ。別の方を素直に言った方が良いかもヨ」フフッ

サーシャ「そう……ですか」ハァ・・・

香焼「だから何を」ジトー・・・

サーシャ「……コーヤギー」ボソッ・・・


困った表情を崩さず、サーシャは告げる。


サーシャ「先程の忠告は訂正しません。マグヌスが言うとおり、貴方は私達にとって『猛毒』ですからね」ジー・・・

香焼「……止めてよ。そういう言い方」

サーシャ「ですが……純粋に、嬉しいです」ポリポリ・・・

香焼「…………、」ムゥ・・・

サーシャ「きっとアニェーゼやアンジェレネ、レッサーなら素直に感謝していたでしょう。『猛毒』を割り切って貴方と付き合ってますから」


ステイル曰く、『君は日蔭者……裏側の人間にとって猛毒でしかない。自分が日向(表)に居ると勘違いする』との事。
そんなのそっちの屁理屈だ。僕だって裏の人間で、組織の一員。勝手な事を言うな。


740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 01:48:16.35 ID:G5yWfCpeo
浦上さんがナゾの中国人みたいだヨ
741 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/28(水) 02:14:33.27 ID:rlxf2Yfe0
サーシャは悲しそうな目で、話を続ける。


サーシャ「やはり……今は感謝出来ません。冷酷な女だと思って貰って結構です」

香焼「そんな事……思わないっす」

サーシャ「っ……兎角、第1の要望です……割り切って下さい」

香焼「分かってる……嘘じゃない」

サーシャ「……信じます」コクッ・・・


目を合わせないまま、互いに納得……するフリをした。
重い空気。気拙い雰囲気。


五和「えっと……如何しよう」タラー・・・

浦上「如何しようっていうかさぁ……空気読めなくて悪いんだけど」ウーン・・・

もあい「にゃん」フシフシ・・・

浦上「何か……割り切りの筈だったのに、近付き過ぎてギクシャクしだしたセフレみたいな会話してるよネ」アハハ・・・

五和「ヴぁっ!!?」ギョッ・・・///

香焼・サーシャ「「っ!!?」」カアアァ///

浦上「にゃはは……あー……ぷふーっ!」クスクス・・・


貴様は何をほざいてるんだ? 打ん殴るぞ?


サーシャ「だ、第1の意見です! わ、私とコーヤギーはそんな関係じゃにゃいでしゅ!」アタフタ・・・///

浦上「噛み噛みー。テンパり過ぎだヨ。だから比喩だってばぁ」ハハハ

サーシャ「だ、第一……せ、せ、せふ……って……その、不純な、快楽目的だけでの……性交は……いけないと思います」モジモジ・・・///

浦上「にゃはは! 可愛いー! サーシャって他のカルテッ娘と違ってウブだネー。まぁアンジェレネもそうかなぁ?」フフフ・・・

五和「ま、まぁ……コウちゃん……せふ……カキタレなんか作らない……と……み、皆平等に愛するんじゃないかな。一夫多妻的な」///

香焼「…………、」ビキビキッ・・・##

サーシャ「い、一夫多妻!? だ、駄目ですよ!! 東方(イスリム圏)では無いのです!」アタフタ・・・///

浦上「そうだよネー。女の子は男の子の『一番』が良いよネー」ニヤニヤ・・・

サーシャ「そ、その通り!! って違ぁー―――うっ!! そういう問題では無く!!」アワワワ・・・///

五和「あらあら……まぁまぁ。甘酸っぱい」ウフフ・・・

浦上「お姉、オルソラさんみたいになってるヨ」ハハハ

サーシャ「む、むきゅぅ……~~~~~~~~~~ッ」カアアァ///


浦上、貴様には『厳粛殺し(シリアスブレイカー)』の異名をくれてやろう。
あとついでに、表出ろ。粛清だ。


浦上「キャー。怒ったー」ニャハハ

もあい「にゃー」コロコロ・・・


ブチ切れ寸前の僕を五和とサーシャが宥め、この場を落ち着いた。
因みに、先程の重々しい空気はジャブロー辺りに吹っ飛んだらしく、忠告感謝云々なんて話は消え去ってしまっていた。
故に普通の団欒食事がとれ、普通の他愛無い会話をする事が出来た。

まぁ意図したモノかは分からないが……心の中で、浦上に礼を言った。でも、あんま調子乗んなよ?


748 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/28(水) 23:03:01.08 ID:88UDU01E0
 ―――とある4日目、PM09:00、学園都市第1学区、マンション『ニューディレクターズ』(香焼宅)・・・・・・



何だかんだで一先ず落ち着き、夕飯食べたり食後団欒したりで、午後9時くらい。
女性組は既に香焼に説教する事は止め、天草式の3人はサーシャを普通の『客人』として持成していた。

さて、お茶を啜りながらテレビを見ている最中、色々大事な事に気がついたので尋ねてみる事にする。


香焼「サーシャ、ちょっと良いかな?」チラッ・・・

サーシャ「はい?」ダバー・・・


緑茶の中に砂糖とミルクを投入する外国人少女。まぁ海外では緑茶をこういう風に飲む人もいるので特にツッコまない。
ただし、アンジェレネレベルの甘々緑茶(リ○ディ茶)は流石にヒく。


香焼「気になったんだけど、今後のプランは? あ、教えられる限りで良いけど」

サーシャ「ふむ……私も少々迷っていました」ゴクッ・・・

浦上「迷う?」ヘ?

サーシャ「はい。第1の困惑ですが、状況が変わり過ぎました。一度整理しなおさねばなりません」ムゥ・・・

五和「確かにね。私も若衆の監視シフト組み直さないといけないし」ハァ・・・

もあい「んなー」コロコロ・・・


確かに色々と面倒臭く……いや、単純になり過ぎた。
これからはスニーキングの様な行動を取る必要は無い。謂わば、直接交渉を持ち掛けるだけで良いのだ。
サーシャは自分のバックから都市の地図を取り出し、テーブルの上に広げた。


サーシャ「あ……五和。改めて、第1の質問です。今此処で私が任務の話をしても大丈夫でしょうか?」チラッ

五和「協力関係にならないかって事? うーん……大丈夫だと思うけど」ポリポリ・・・

浦上「じゃあアレだヨ! 英国を通して、交渉プラン提示を間接的に都市側へ……って事にすれば良いんじゃないカナ?」

五和「あー、そうだね。あくまで相談ではなく事前に監視者の私達へ、サーシャの計画を私達に伝えておくって事にすれば良いよ」コクッ


物は言い様だが……特に口出しはしない。2人の言う事は間違って無いからね。
サーシャは一言『ありがとう』と感謝を述べ、今後の計画について考え始めた。


749 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/29(木) 00:30:11.33 ID:hCLw235s0
サーシャはまず、現在地に○を点ける。
そして元から点けてあった赤○……『幻想殺し(上条さん)』宅との距離や交通手段を考え始めた。


香焼「あれ? 姫神さん……『吸血殺し』に直接行かないの?」

サーシャ「改めて第1の回答ですが、私は彼女の家を知りません」

香焼「あ、そっか」フム・・・

五和「だから彼女と縁が深い上条さんを頼ろうとしてたのよね」

サーシャ「肯定です。改めて第1の補足として、そのまま交渉の協力も頼もうかと思っていました」


成程。彼なら二つ返事で了承してくれそうだ。姫神さんとの交渉も楽に終わる。


浦上「……あー、ちょっと気になったんだけどさ」チラッ

サーシャ「はい」コクッ

浦上「禁書目録、大丈夫?」

五和「え?」


如何いう意味だ。


浦上「いや、今回の件に多少なりとも彼女を参加させるのは如何なのかなぁって。というか上条さんもだけど」

五和「あ……如何だろう。確認してみる」


交渉が許されているの『対姫神さん』であって、上条さんではない。
一応、上条さんの所属は都市側なので助力を請う際は、上の許可を取らなければならないのかもしれない。
加え、禁書目録は非常に中途半端な立ち位置に立たされている。上条さんが絡むとなると、嫌が応にも関わる可能性だってある。


香焼「五和。禁書目録の件については、自分がステイルに聞いてみるっす」

五和「了解。それじゃあ私は土御門だけね」


席を立ち、ベランダへ向かう五和。


サーシャ「……申し訳ありません。御手数おかけします」ペコッ

香焼「気にしないで。多分、このくらいは大丈夫だと思うから」

浦上「まぁサーシャの『禁止事項確認』を私達が代理したって事にすればOKだヨ」コクッ

もあい「みー」トコトコ・・・


別に英国・学園都市の不利益になる様な事はしてない。寧ろ事前にその手は取らない為に確認している分、善良な交渉人だろう。
兎角、僕はこの場でステイルに電話を掛ける事にした。

750 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/29(木) 00:55:35.72 ID:hCLw235s0
今英国は丁度お昼の筈。仕事で忙しくなければすぐ電話に出るだろう。
2,3コールの後……彼の落ち着いた声が聞こえた。


ステイル『―――……何だ』Pi!

香焼「こんにちは……開口一番怒られるかと思ってたよ」ハハハ・・・

ステイル『……用件を言え』


『また貴様は余計な問題を!』とか怒号が飛ぶものと思っていたが、案外冷静らしい。内心ホッとする。
ただ機嫌が悪いのか、何だか冷たい感じの声だった。


香焼「では……補佐殿に質問っす」

ステイル『だったら五和から建宮に通して、僕の所まで繋げ。組織の人間なら立場を分かっているだろう。公私を分けろ』

香焼「すいません、急なもので……サーシャの代理っすから」

ステイル『っ……携帯は……使えないんだったか』ハァ・・・


隣でサーシャが小さく頷いた。


ステイル『仕方ない。言ってみろ』

香焼「あ、はい。今回の件、禁書目録に知られるのは拙いっすか?」

ステイル『あの子に?』フム・・・

香焼「はい。サーシャが上条さんに姫神さんとの仲介を頼めた場合、禁書目録とも接触する可能性がありますから」

ステイル『……少し待て』ガチャッ・・・


保留音。多分、最大主教に話を持っていったのだろう。仕方あるまい……禁書目録は英国のS級重要事項だ。
一寸後、保留音が止み『待たせた』とステイルの声が戻った。


ステイル『上条当麻は如何でも良いが、彼女との接触は極力控えろ』

香焼「え?」

ステイル『今回の件の解決手段にあの子の知識は使わない。主教の方針だ』

香焼「いや、彼女には話を振らない筈っすよ」

ステイル『口では如何とでも言える。あと、上条当麻が少しでもあの子に今回の話をすれば嫌が応にも推理が始まる』

香焼「むぅ……それはそれで、早期解決に繋がる様な気が」ウーン・・・

ステイル『君は、主教の考えに口出しするのかい?』

香焼「……いえ、出過ぎた真似をしました。すいません」


自分は所詮、一、平教徒に過ぎない。図に乗ってはいけないのだ。

751 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/29(木) 01:19:32.35 ID:hCLw235s0
ステイルの言葉、英国からの注意をサーシャに伝え、電話に戻る。


香焼「以上っす」

ステイル『そうか』

香焼「あ……ついでに、ちょっといい?」

ステイル『……私用か?』


半々だ。自分とサーシャが気になっていた事を尋ねる。


香焼「アニェーゼ達の処遇は?」

ステイル『……処刑(ロンドン)塔送り』

香焼・サーシャ「「っ!!?」」ギョッ・・・

ステイル『……にしてやりたかったよ、個人的にはね』チッ・・・

香焼「お、脅かさないでよ」ホッ・・・

ステイル『脅し? あのな……彼女達は戦争の引鉄に指を掛けていたんだぞ! そして貴様もな!』ガッ!!

香焼「っ……ごめんなさい」タラー・・・


装っていた冷静の仮面が剥がし、遂に感情を表立たせてしまったステイル。


ステイル『チッ……とりあえずアニェーゼとアンジェレネは謹慎と罰金だ。嘱託のレッサー、ランシスは罰金上乗』

香焼「そう……あれ? ランシスも?」キョトン・・・

ステイル『ああ。誰かさんの代わりにカルテッ娘のリザーバーだとさ』ッタク・・・

サーシャ「…………、」ポリポリ・・・

ステイル『以上か? では切るぞ』


多分、ステイルが彼女達の事を庇って、罰を緩めてくれたのだろう。


香焼「うん、ありがとう。助かったっす」

ステイル『褒められる謂われは無いな……香焼』ボソッ・・・

香焼「ん?」

ステイル『君は…………いや……何でも無い……じゃあね』Pi!


含みを残して一方的に電話を切ったステイル。一体、何だったのだろう。
とりあえず自分の電話が終わる少し前に、五和の方も終わった様だった。

752 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/29(木) 02:07:34.94 ID:hCLw235s0
部屋に戻ってきた五和は指で『OK』サインを作り、上条さんとの接触許可が出た事を示す。
サーシャはホッと胸を撫で下ろし、再度地図に向き直った。


サーシャ「問題は禁書目録ですね」ウーン・・・

香焼「何なら上条さんにアポ取ったら?」

サーシャ「どうやって?」

香焼「如何って……別に自分がメールしても良いし、五和がメールしても良いし」

サーシャ「では、お願いしましょう」


了解、と五和は上条さんにメールを入れた。
内容は『明日、お時間ありますか? 英国からの大事なお話です。禁書目録は抜きでお願いします』との文章。

数分後……返信。


五和「『大丈夫だけど、補講があるから遅くなるよ。放課後でも良いか?』……だってさ」

サーシャ「第2の質問ですが、大体何時でしょう?」

五和「通常授業が終わるのは4時前くらいで、補講となると……大体5時くらいが丁度じゃないかな」

サーシャ「了解です。ではその時間に……場所は……ふむ」ウーン・・・ジー・・・

浦上「そのまま上条さんの学校で良いんじゃないの? 一緒に『吸血殺し』も居れば、色々手間も省けるし」


確かに、説明と交渉が一度に済むな。


五和「そんじゃ『明日5時過ぎ、上条さんの学校付近で待ち合わせ』……これでOKね。送信っと」Pi!

香焼「うん。何とか明日のプランが立ったね」

サーシャ「はい。存外順風で驚きました」コクッ

浦上「ふむふむ……因みに、服は如何する? 今のままじゃ外歩けないヨ」

サーシャ「……そういえば」タラー・・・


今の彼女は着る服が無い。因みに原因は僕。
一昨日の、彼女の救急の際……思い出すのは止めよう。色々アウトだ。とりあえず服を破いた。


香焼「あー、自分の服で良ければ貸そうか?」

サーシャ「そ、それは、ちょっと……サイズは合うかもしれませんが……その」タラー・・・///

香焼「え?」ポカーン・・・

五和「ニブチン……ドンマイサーシャ」ハハハ

サーシャ「ベ、別に、えっと……っ……だ、第3の質問です! 浦上の服は借りれませんか?」チラッ

浦上「良いけど、大きいんじゃないカナ?」ポリポリ・・・


困った……下らない且つ根本的なミスだ。如何しよう。

753 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/29(木) 02:34:47.57 ID:hCLw235s0
ふと、『そんじゃあ』と浦上が告げた。


浦上「明日買ってきなヨ」

香焼「は?」

浦上「だからお買い物してきなって。5時まで暇なんでしょ?」

サーシャ「で、ですが、その買い物に行く服さえありませんよ」タラー・・・

浦上「まぁそこまでは……香焼の服で我慢しなよ。ちょっとだけ、ね」ニヤニヤ・・・

サーシャ「……むぅ」///


サーシャがそれで良いなら構わないが。


五和「じゃあついでに、デー……街中ブラブラしておいでよ。2人で」フフフ・・・

サーシャ「っ!!?」ドキッ・・・///

五和「ほらぁ。ウラの言うとおり時間潰しとー、一応監視って事で香焼一緒にねぇ」ニヤニヤ・・・

浦上「さんせー! 香焼、明日学校休んでソッチの任務だヨ!」チラッ

香焼「……何だかなぁ」ハァ・・・


それって都市的に大丈夫だろうか。


五和「問題無い問題無い。サーシャも折角来たんだし、色々見ておいで。『暇潰しに外出ただけ』って報告しとくからさ」ニヤリ・・・

サーシャ「…………、」タラー・・・///

浦上「と、いう訳で……香焼、エスコートよろしくー」ポンッ・・・

香焼「え、エスコートって……監視だろ」タラー・・・

五和「細かい事は良(ry ちょっとゴダゴダ多過ぎたし、少しくらいリフレッシュしたって神様は怒らないわよ」フフッ

もあい「にゃー」ペシペシッ


この楽天家め……まぁでも、サーシャが少しくらい楽しみたいというのであれば、付き合おうか。
流石にアミューズメントパークなんかは許可できないけど、散歩や喫茶店に寄りたいというのであれば問題無かろう。


浦上「ほら。サーシャ、良かったネ」ニコニコッ

サーシャ「……よ、宜しくお願いします」モジモジ・・・///

香焼「え、あ、うん……何で緊張してるの?」ポカーン・・・

五和「まぁまぁ。カミやん病は放っておいて……言ってみたい場所とかリクエストしときなよ」


人を病気持ちみたいに言うな。
さておき、サーシャは地図をジーっと見詰め出し……とあるお店を指差した。


サーシャ「それでは……とりあえず、ホームセンター行きたいです」ビシッ!

もあい「みゃー!」カリカリ・・・


絶対、趣味の拷問具(工具)買う気です……仕事で来たんでしょ。
何やら勝手に盛り上がる女子組を余所に、僕は明日の準備をする事にした。明日は無事でいられますように。

754 :>>1 [saga]:2011/09/29(木) 02:36:05.65 ID:hCLw235s0
はい。すいません。今回は此処まで。
次回から五日目かな。とりあえず、コメよろ。では、ノシ!
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/09/29(木) 11:05:26.31 ID:9FhHLNjAO
乙~。
やっとタイトルにたどり着きましたね
756 :>>1 [saga]:2011/09/29(木) 22:32:03.15 ID:hCLw235s0
こんばんわ。続きー!
757 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/29(木) 22:47:19.70 ID:hCLw235s0
 ―――とある5日目、AM07:30、学園都市第1学区、マンション『ニューディレクターズ』(香焼宅)・・・・・・








一晩明け、交渉当日の朝。
昨晩は五和と浦上も泊まってくれたので、最愛の時(第⑤話)の様な問題騒ぎにはならなかった。

軽めの朝食を取り、今日の日程確認へ。


浦上「その前にー、香焼。いや、サーシャかな?」フム・・・

サーシャ「如何したのですか?」チラッ

浦上「下のポストに手紙来てたヨ。宛名はサーシャにネ」スッ・・・

香焼「……誰から?」エ・・・

浦上「それは自分で確認しなヨ」ハイッ


というか、いつの間に玄関に行ったんだ。てか、僕ん家のポスト勝手に漁んな馬鹿。


浦上「ダイジョブ、ダイジョブ。香焼は疚しいモノをポストに届く様しないでしょ」ハハハ

香焼「黙れ馬鹿」ジトー・・・

五和「……とりあえず開けてみたら」チラッ

サーシャ「はい……英語?」フム・・・


宛名からして英語。そして本文も全て英文だ。


サーシャ「『親愛なる侵入者様へ』……洒落た真似を」ムゥ・・・

もあい「なぅ?」ジー・・・

香焼「自分らも見ていいの?」

サーシャ「少々お待ちを……―――……多分、大丈夫です」スッ・・・


1人でザッと読み終えたサーシャは、手紙をテーブル上に広げた。


五和「『from Sisters』……これって、妹達(シスターズ)から?」タラー・・・

香焼「『修道女』じゃないだろうね……というか、多分妹達を通した海原さんからだと思う」コクッ


PCで書かれた様な、綺麗なペン書き。僕達はそれを読み通した。

758 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/29(木) 23:24:32.08 ID:hCLw235s0
それは業務連絡と、励ましの内容だった。


『サーシャ=クロイツェフさま。 

  こんにちは。本日は生憎の雨模様です。この度、我々が与えた傷は痛みませんか?

  本来、見舞と謝罪を入れるべきなのかもしれませんが、貴女に槍を向けたのも我々の任務。そういう訳にもいきませんので、ご了承を。

  さて、此処からは業務連絡です。これからの都市側の対応をお伝えします。

  まず先日の様に、貴女に対して迎撃姿勢を取る事はありません。その点はご安心を。

  その代わり、といっては何ですが、貴女の周囲に監視を付けます。監視者は我々(妹達)です。

  ただし、監視といっても付き纏う訳ではございません。遠目から監視を行います。分かり易くいえば、先日の天草式の様に、です。

  それから、交渉の際に<立会人>を設けさせて貰います。その点も監督者としてご了承ください。

  それ以上の関与は致しません。交渉までの間、暇が出来るようでしたら都市を観光して回っても構いません。無論、問題行動を起こさずね。

  では交渉が貴女方と我々、互いの友好・利益に繋がる様、期待しております。

                                                            妹達より』


何ともまぁ、律義なもので。


サーシャ「信用できるでしょうか?」フム・・・

香焼「大丈夫だと思う。あの人達、そんなに悪い人じゃないし」

サーシャ「……コーヤギーが言うのであれば、信用しましょう」コクッ


パタンっと手紙を畳み、鞄の中へしまう。
それから、昨日色々チェックを点けた都市マップをテーブルに広げ、日程の確認を始める。


サーシャ「では……まず第1の確認です。交渉時刻は午後6時、場所は第7学区○○(いつものイカれ自販機の在る)公園」ピッ・・・

五和「ええ。その際、上条さんには姫神さん(吸血殺し)も連れてきて貰える様、お願いしてあるわ」

サーシャ「感謝します。次に第2の確認です。その後、私は第3~第14学区間のホテルに向かいます」


確か『同志(協力者)』に合流するのだったか……それ、僕らに話して良いのか?


サーシャ「それは……第1の願望です。できればオフレコで」チラッ・・・

香焼「……自分の判断では決められないっす。五和?」チラッ

五和「まぁ何の為に向かうのか次第ですね……都市と英国に不利になる事は出来ないから」

サーシャ「いえ。ええっと……『血』を提供して貰えた場合、その同志にそれを渡します」

浦上「ロシアへの運び屋ってとこ? 速達の?」

サーシャ「多分、その様な人物かと。正直、私も詳しく聞かされてはいません。SVR(対外情報局)とだけ」

五和「……サーシャとその人物が接触する際、監視をつけても大丈夫ですか?」

サーシャ「はい。別に疚しい事は無いので」コクッ

もあい「んなー」ペシペシッ


寧ろ、まったく見覚えの無い工作員と2人きりにされるよりも、僕達が見守っていてくれていた方が安心する。
苦笑しながらそう告げたサーシャ。僕らもつられて苦笑い。

759 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/30(金) 00:35:17.62 ID:kUY1xXv50
とりあえず、仕事の確認は終わった。次に空き時間の予定についてだ。


五和「そういえばサーシャ、任務終わったら如何するの? 協力者に『血』渡すまでが仕事なんでしょ?」

サーシャ「『血』の提供が可能であれば、ですけどね……どちらにしろ、休みだそうです」

浦上「休暇? ロシア帰るの?」

サーシャ「うーん……好きにしろと言われています一旬(10日)は、特別休暇と」


これだけ密の濃い特別任務だ。正当な対価だろう。


浦上「じゃあサ! 少し都市観光していけば?」

サーシャ「ワシリーサ……上司にもそう言われました。ですが、その」ムゥ・・・

香焼「何か?」

サーシャ「……第1の不安として、お金が殆どありません」ハァ・・・


そういえばタクシーの修理代で殆ど吹っ飛んだとか嘆いてたな。


五和「まぁそういう事なら貸してあげるよ……コウちゃんが」チラッ

香焼「そ、そこは自分が貸すって言うとこだろ!」タラー・・・

五和「だってコウちゃんの方が貯蓄あるじゃん。全然給料使ってないみたいだし」フフフ・・・

香焼「お前の方が高給取りだろ!」ジトー・・・

浦上「まぁまぁ。お姉は倹約家に見えて衝動買いするタイプだから」ハハハ

サーシャ「あのー……別に貸して頂かなくとも」ポリポリ・・・

香焼「あ、いや……大丈夫。観光するってなったらお金貸すから」ハハハ・・・

浦上「やったねサーシャ! 香焼が観光費用全部持ってくれるってヨ!」ニヤリ・・・

香焼「なっ!?」ギョッ・・・

五和「流石コウちゃん! おっとこ前~!」フフフ・・・

もあい「みゃー」フシフシ・・・


コイツら……カオリ姉さんと建宮さん、対馬さんに言いつけてやる。


サーシャ「え、えっと……第2の不安を述べてもいいですか?」ポリポリ・・・

香焼「うん。コイツら放っといていいから」ハァ・・・

サーシャ「はぁ……では第2の不安です。その……これだけ迷惑掛けた私が、都市に長居しても大丈夫でしょうか?」ウーン・・・

五和「多分、大丈夫よ。別にもう敵対してるって訳じゃないし」コクッ

浦上「そだネ。さっきの手紙を見てもなるべく遺恨は無しにしようって書き方だったじゃん」ウンウン

サーシャ「……なら、考えます」コクン・・・


律義というか、お堅いというか……彼女らしいな。

760 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/30(金) 01:02:33.31 ID:kUY1xXv50
もしそれでも気になるというのであれば、都市ではなく日本内を観光してくれば良い。
日本全国僕らの仲間(隠れ十字教派)は居るし、東方(ロシア・ギリシア)成教会系の支部だって日本にはある。


サーシャ「それも考慮しましょう……ですが」ウーン・・・

香焼「まだ不安あるの?」

サーシャ「不安というか、心配というか……第1の懸念です。私の仲間(殲滅白書)が、まだ戦っています」コクン・・・


自分だけ休んで良いモノか、後ろめたさが有るという事か。


浦上「まぁそりゃ心配だよネー」

五和「そういう事なら無理に引き留めたりしないけど……でもせめて1日2日くらい都市でゆっくりしていったら?」

サーシャ「……現場の状況を見て判断します」コクン・・・

五和「そうね。私達でもモルドバ・ドニエストルの状況を仕入れて貰って、貴女に伝える」

サーシャ「感謝します」


NATO側とWTO側の関係に関わる事件・問題だ。確かに心配だろう。
自分がワーカーホリック的な考えをしている最中、五和と浦上が何やらサーシャに耳打ちしていた。


浦上「あ! 勿論、泊まるとなったら此処(香焼宅)使っていいからネ!」ゴニョゴニョ・・・ニヤリ・・・

サーシャ「え、あ、その」オドオド・・・///

五和「ふふふ……大丈夫。その場合は私達、来ないから……2人きりで、ね?」ニヤニヤ・・・

サーシャ「っ!!?」カアアァ///

浦上「フフフフフ。これを期に、アニェーゼ達と差をつけても良いんじゃヨ? 既成事実も……うふふ」ボソボソ・・・イヒヒ!

サーシャ「ば、馬鹿な事を言わないで下さい!!」プシュー・・・///

五和「まぁコウちゃん陥落させるのは米国国防省(ペンタゴン)攻略するより難しいけど、頑張りなって」クスクス・・・

浦上「後でフェロモン多めの香水とブース、貸してあげるネ」ニヤニヤ・・・


頼むから碌でもない事サーシャに吹き込まないでくれ。


サーシャ「あ、う……し、しかし……その……ひ、卑怯じゃないでしょうか?」アタフタ・・・///

浦上「ダイジョーブ。ばれないばれない。もし後ろめたいなら、正式にお付き合いしましたって事にすればおk」フフフ・・・

サーシャ「そ、それは、まぁ……し、しかし私はレッサー達とは違って、その……『そういう知識』は皆無です」モジモジ・・・///

五和「心配無い心配無い。全部コウちゃんに委ねなさい……まぁ『そこ』まで持ってけたらだけどね」ニヤリ・・・

サーシャ「で、ですが……婚前前に、その……せ、せ……せく……情を交えるのは」カアアァ///

五和「今時ローマでもそんなにお堅くないってば。安心してニャンニャンしちゃいなさい」フフフ・・・

サーシャ「あ、ぅ」//////////////////////////////////////


そこまでだ馬鹿共。


五和・浦上「「あ痛ぁ!!」」ゴツンッ!!

もあい「みゃー」ペシペシッ


まったく……やっぱ後で説教だ。カオリ姉さん込みでな。


761 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/30(金) 01:39:10.55 ID:kUY1xXv50
喧しい馬鹿1号2号を鋼糸(ワイヤー)で縛り上げた後、何故か頬を赤らめるサーシャの方を向いた。
ホント、一体何言われたんだか。


サーシャ「え、と……優しくして下さいね」モジモジ・・・///

香焼「はぁ?」ポカーン・・・

サーシャ「あ、え、いや、な、何でもありません!! 今のは忘れて下さい!!」カアアァ///

香焼「お、おぅ……とりあえず、確認の続きしよう」ポリポリ・・・

サーシャ「は、はい。そうですね」アハハ・・・///


再び地図に戻る。


五和「ふがががふがふががー! ふがががががふががふががー!(私達の縄解けー! 話し合いなら参加させろー!)」ジタバタ・・・

浦上「ふが、ふががががふがふががががふが?(てか、猿轡までする必要ある?)」ジトー・・・

香焼「うっせ。黙ってろ」ギュッ!!

五和「ふがあああぁっ!! がっ、ふがふががががふがふ!! ふがぃ!(痛あああぁっ!! ちょ、この縛り方止めて! 痛い!)」イデデ!

浦上「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふが?(変則小目掛け縛り+逆海老縛りのコンボ……何処で覚えたの?)」

香焼「五和黙れ!」グイッ!!

五和「ひぎぁっ!! ふ、ふがふがふふふ……ふが、ががふ……(じょ、冗談抜きで……股、痛い……)……ふぐぅ!!?」ビクンッ!!

浦上「……ふがぁ。ふががががふがふがが。(お姉。黙ってた方が良いよ)」チラッ


『対お前ら用』として、対馬さんに教わりました。黙ってないともっと際どくするぞ?


サーシャ「……何だか、私の普段着ている修道服の様な恰好ですね」タラー・・・

香焼「あー、まぁ日本古来の縄縛術だからね。放っといて良いよ」ヤレヤレ・・・

サーシャ「はぁ……しかし、キツそうですよ。あと……映像化したら色々危ない」タラー・・・///

香焼「コイツらの際どい姿見たって嬉しくない。あ、もし五月蠅かったら足首と両脇から出てる縄(ワイヤー)踏んでやれば黙るから」ゲシッ!

五和「ひぎいいいいいぃ!! ふ、ふがああぁ……ふ、ふがががぁ。(お、お股がぁ)」ビクンッ!!

サーシャ「や、止めときます」ダラダラ・・・


それじゃ、もあいを五和の上にでも置いておこう。
僕らは五和の豚の様な悲鳴をBGMにし、確認作業へ戻った。


サーシャ「で、では第3の確認です。とりあえず5時までは街中をぶらつくという事で」

香焼「うん。第7学区内でね……始めに服買いに行った方が良いんだよね」

サーシャ「はい。第1の要望として、まずは街中を歩ける服を所望します。香焼の服を借りるのは……その」ポリポリ・・・

香焼「あはは。まぁずっと男モノ着てるのはヤダよね」コクッ

サーシャ「そういう訳ではありませんが……ちょっと、恥ずかしいです」モジモジ・・・


普段の修道服(?)の方が恥ずかしいと思うが、まぁ言わないでおいてやろう。


もあい「みー」ツンツン・・・

五和「ふぁ!? ふが……ん……ふががががぁ!! ふ、ふがあ……んっ……ふぁっ……んんんっ! ふ、ひぎぁああああっ!!」ビクビクッ!!


もあいに色んなとこを突かれたり舐められたり、縄を弄られたりして騒ぐ五和。うっさい、黙ってろ。

762 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/09/30(金) 02:41:05.20 ID:kUY1xXv50
さておき、服以外に買いたいモノはあるだろうか?


サーシャ「ホームセンター」キッパリ!

香焼「あ、うん……他には?」タラー・・・

サーシャ「工具店」キッパリ!

香焼「……他」ダラダラ・・・

サーシャ「石村屋」キッパリ!


もっと、こう……女の子らしい店は? いや、せめて観光客らしい所とか。


サーシャ「ふむ……特に。もし浮かんだら歩いている内に決めます」コクッ

香焼「そだね。それが良いかも」ポリポリ・・・

サーシャ「あ。第2の願望ですが、もし在るなら為替両替にも行きたいです……ルーブル換金出来る銀行ありますか?」

香焼「え? お金貸すよ?」

サーシャ「一応、可能であれば金銭の貸し借りはしな方が良いと思いまして……例え友人間でもね」

香焼「まぁ確かににね」クスクス・・・


それでは午前中の内に服屋と理事銀(学園都市銀行)に向かおう。それからお昼を挟んで色々回ればいい。
でも多分、ホームセンターで5時間くらい潰れると思うけど。


サーシャ「本来はクレジットカードを使えれば良いんでしょうけど……都市の通貨は『円』でもないですからね。非常に厄介です」ムゥ・・・

香焼「確かにね。自分らも財布使い訳で厄介だよ」ハハハ

サーシャ「第1の質問ですが、今、1ルーブル辺り幾らくらいですか?」

香焼「今は都市通貨=1,6円くらいで、1ルーブル=2,4円だから……1ルーブル=1,5都市通貨だね」

サーシャ「ふむ……買い物する分にはラッキーですね」フフフ・・・


確かにルーブルは強い貨幣だからなぁ。それなりに安定してるし。
都市通貨は一応、円から離れ過ぎなよう日本政府から勧告を受けている為、2倍以上にはならない様押さえつけられているらしい。
まぁ経済談義をする必要も無かろう。


香焼「今は8時前……それじゃあ9時半くらいに出発しようか。今自分の服持ってくるね」テクテク・・・

サーシャ「申し訳無い。自身の服を購入し次第、すぐ着替えますので」コクッ

香焼「あはは。そんなに気にしなくていいよ。とりあえずシャワー浴びてきな」テクテク・・・

サーシャ「了解です。シャワーお借りします」テクテク・・・


学校には公欠の連絡はついた。さて……監視任務という名の観光案内、頑張りますか。


浦上「ふぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふががふがが、ふがががが。(はぁ……私達は、遅刻だね)」ヤレヤレ・・・

もあい「にゃんっ」グイッ・・・

五和「ひぁっ!! ふぎぃ……っ……ふ、ふが(も、もう)……んんっ……ふふがふ(許して)……ふぎぃ!!」グデェ・・・ヒクヒクッ


冷静に半ば遅刻を覚悟している浦上と色々ヤバい眼になって色々流れてる五和を無視し、出かける準備を進めた。


763 :>>1 [saga]:2011/09/30(金) 02:43:36.94 ID:kUY1xXv50
はい。短いですが此処まで……長編なっちまったなぁ。なるべく800前には終わらせたい。

次回は安価取るかもです。ではまた! ノシ” 
 
768 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/01(土) 20:20:34.75 ID:cizlhlyt0
 ―――とある5日目、AM09:15、学園都市第1学区、マンション『ニューディレクターズ』(香焼宅)・・・・・・




時刻は9時過ぎ。
そろそろ出掛けようと思ったのだが問題が生じた。流石に、僕の私服を適当にサーシャに着せるのは可哀想だという事である。
個人的にはそこまでファッションに凝らないし、天草式特有の『偶像術式』の関係上、恰好良い悪いで服装を定めたりしない。


サーシャ「あまりにブっ飛んで無ければ、そんなに気にしませんよ」コクッ

もあい「んなぅ」フリフリ・・・


と言ってくれるが、何だか申し訳無い。
仕方ないので、もはや遅刻確定の2人を鋼糸(ワイヤー)から解放し、今僕が持っている私服の中から女子にも合うようコーディネートさせる。


浦上「ぷはぁ! 苦しかったー。やっと解放されたヨ……うわぁ、鋼糸の跡残ってるし」フィー・・・

五和「」ヒクヒク・・・

香焼「ほら、さっさと選んで。これ以上遅れたら拙いでしょ」ジトー・・・

浦上「はいはい。そんじゃあー……―――」キョロキョロ・・・


半分白眼剥いてる五和は放置し、浦上にコーディネートを任せる。
数分後……完成。

7分袖Oネックシャツに半袖パーカー。それからピッチリ目ジーンズ。まぁまぁ普通だ。


サーシャ「むぅ……第1の感想ですが、恥ずかしいです」モジモジ・・・

浦上「んーアレだ。カオリ姉さんと同じく『私服恐怖症』だネ!」ハハハ

もあい「みー」ペシペシッ


説明しよう。
『私服恐怖症』とは……普段まともな私服を着ない人間が、普通の服を着るのを恐れたり恥ずかしがる症状である。
因みに、普段がブっ飛んだ服を着ていれば着ている程、比較的普通と呼ばれる服を恥じるのだ。


サーシャ「わ、私は上司に普段着せられている服が非常識だという事くらい自覚してます!」アタフタ・・・///

浦上「でも着てるよネ?」ニヤニヤ・・・

サーシャ「そ、それは、命令で仕方なく」ウー・・・

浦上「労働組合とか人事部に言えば良いのに。でも言わないって事は……フフフ」ニヤニヤ・・・

サーシャ「ち、違……うぅ」チラッ・・・

香焼「……助けを求めないで」タラー・・・


貴女の『修道(いつもの)服』については、何も申せません。


769 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/01(土) 21:10:59.67 ID:cizlhlyt0
真面目に2限には遅刻出来ない、と浦上は五和を何時の間にか着替えさせ、ヘルメットを二つ準備した。


浦上「あ。私服買うならセブンスマートの『この店』行っておいで。此処に置いてる服ならこの街で自然と振る舞える筈だから」ポンッ

香焼「あ、うん」


その後、浦上が五和を引き摺りながら登校(遅刻)する。
さて、では僕らもそろそろ出ようか。


サーシャ「あの、改めて第1の質問ですが、猫さんは?」

香焼「もあい? ベランダ開けとけば勝手に何処かに遊びに行くよ」

サーシャ「……此処、かなり高い階ですよね?」タラー・・・

香焼「まぁ上手い具合に階段側に飛び移るんじゃないかな?」

もあい「んなぅ」コクコクッ


猫のする事に対して一々細かい事は気にしてられませんよ。


香焼「とりあえず第7学区に向かおう。そろそろ丁度良くバスが来るっす」

サーシャ「はぁ……了解です」コクン・・・スッ・・・

香焼「ちょ、そ、その帽子(ベール)は被っちゃダメ」タラー・・・

サーシャ「え?」ポカーン・・・

香焼「色々おかしいよ。そのままで良いから」ハァ・・・

サーシャ「しかし……落ち着かないのです。流石に何から何までいつもと違うと」ウーン・・・


まさに私服恐怖症だな。こりゃいかん。


香焼「何も被らない方が新鮮だよ。健康的で明るく見えるっす」スッ・・・

サーシャ「あ、勝手に……し、仕方ありませんね」///

もあい「みゃー」フシフシ


無理矢理ベールを取り、帽子掛けに掛ける。
因みに、武器の携帯はさせていない。あくまで『交渉』の使者という姿勢は崩させたくないからだ。

一寸後、僕らは都市バスに乗り、第7学区へ向かった。


770 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/01(土) 21:41:08.95 ID:cizlhlyt0
※訂正:セブンスマート ⇒ セブンスミスト


*********************************************


 ―――とある5日目、AM11:30、学園都市第7学区、セブンスミスト・・・・・・



第7学区に入り、まずは理事銀(都市銀行)本店へ向かった。
開店時間から貸し借りだ投資だ、と忙しなく動いている巨大バンクだが、案の定、一般向けコーナーはガラガラだった。
まぁ学生が主体となるこの街で、授業時刻に一般窓口を使う人間なんてそうそういない。

サーシャは物の数分で為替両替引き落としを終了し、次いでセブンスミストへ向かう事とした。


サーシャ「しかし、何とも」キョロキョロ・・・ウーン・・・

香焼「如何したの?」

サーシャ「第2の感想ですが、コンクリートジャングルとはまさにこの事ですね」ジー・・・


高層ビルや高速道、風車(風力発電機)を見て、率直な意見を述べる彼女。
確かに、僕も初めてこの街に入った時は同意見だった。


サーシャ「ですが、思っていたより五月蠅くは無い」キョロキョロ・・・

香焼「まぁ車の普及率は少なめだからね。子供主体の街だから」

サーシャ「ふむ、なるほど」コクコク・・・


大人の人口が2割に満たない学園都市。車の保有数が少ないのも道理だろう。
更にもう一つ、騒がしくない理由として……今日が平日。つまり学生が授業中だという事であった。


サーシャ「改めて、第1の確認ですが、確かコーヤギーも学生なのですよね?」チラッ

香焼「一応ね。でもあくまで天草式の潜入学徒だから」

サーシャ「ふむ……第1の疑問です。では実家地元にも、コーヤギーが通う学校があるのでしょうか」

香焼「中学生だし義務教育だから基督教学院(ミッションスクール)に名前は置いてるよ」

サーシャ「成程。ただし、天草式に所属している為、出席免除になる……この様な感じでしょうか?」

香焼「そうだね。サーシャは?」

サーシャ「改めて、第1の回答です。飛び級……といえば聞こえが良いでしょう」ハハハ・・・

香焼「……ごめん」

サーシャ「いえ。謝らないで下さい」フフッ


彼女の生い立ちは知らないが、多分、ステイルみたいなものだろう。
彼がそうである様に、また彼女も『愛国者』なのだ……生らざるを得なかったのだと思う。


771 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/01(土) 22:05:04.92 ID:cizlhlyt0
さておき、目的地に到着。予想通り客数は少ない様だ。
仮に居るとしても、この人絶対学校行ってないな的な女子高生と暇を持て余した大学生くらいである。


サーシャ「第3の感想ですが、存外普通のデパートですね」キョロキョロ・・・

香焼「一体どんな店を想像してたのさ」アハハ

サーシャ「いや、まぁ異次元がドカーン的なものを」

香焼「いやいやいや。人の住む町だからね」タラー・・・


そげぶ(そんな幻想ぶっ壊せ)。


香焼「えっと、浦上に渡されたお店は……4階か」チラッ

サーシャ「改めて、第1の質問です。何というお店ですか?」

香焼「『BneCONOMO(ビーネコノモ)』だって」

サーシャ「はぁ……どんな感じの服なんでしょうね」


行ってみれば分かる筈。僕らはエレベーターで4階まで登り、店を探して回った。
登ってから気付いたのだが……このフロア、女性向けばかりだ。ぶっちゃけ居辛い。


サーシャ「ん? あそこでは?」チラッ

香焼「……そうだね。行っておいで。自分は自販機コーナーで待ってるよ」

サーシャ「は?」ピタッ

香焼「え?」キョトン・・・

サーシャ「へ?」ポカーン・・・

香焼・サーシャ「「…………、」」ジー・・・


ついて来い、と?


サーシャ「寧ろ、ついて来ないと?」ジトー・・・

香焼「えー……如何見ても、男子禁制の雰囲気っすよ」ダラダラ・・・

サーシャ「では、第2の疑問です……監視が、監視対象から離れるのですか?」ジトー・・・

香焼「ぐっ……ひ、卑怯だぞ」ダラダラ・・・

サーシャ「いえ、正当な意見を述べたまでです。さぁ行きますよ」グイッ

香焼「……うぅ」タラー・・・


強引に手を引かれ、如何にも『女の子』なお店に連れ込まれた。
自分にとって、この手のお店はトラウマでしかないのだが……仕方あるまい。


772 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/01(土) 22:20:06.33 ID:cizlhlyt0
いらっしゃいませ、とバイトのお姉さん的な人がレジから顔を覗かせた。
カオリ姉さんや麦野さんくらいに見える……多分、大学生だろう。


サーシャ「んー……改めて第1の質問ですが、此処は如何いった服を置いているお店なのでしょう?」キョロキョロ・・・

香焼「えっと……何だろう? 私服っていうより、制服の類に見えるけど」キョロキョロ・・・


つまり、彼女に制服っぽい服を着せて『森の中の木』状態にしろという訳か。
しかし既存の制服ではないが大丈夫だろうか。逆に目立ちそうな気もする。

とりあえず店内を見て回ろう。


サーシャ「…………、」キョロキョロ・・・

香焼「良いのあった?」チラッ

サーシャ「うーん……如何なんでしょう」キョロキョロ・・・

香焼「……え?」

サーシャ「……分かりません」キョロキョロ・・・


何それ?


サーシャ「第1の、暴露ですが……私、その……私服を持ってませんから」タラー・・・

香焼「…………、」タラー・・・


ずっと『あの修道服』なのか?


サーシャ「へ、変な想像しないで下さい! 寝る時くらいは寝巻きに着替えます!」アタフタ・・・

香焼「その、言っちゃ悪いけど……サーシャの上司さんってさ」タラー・・・

サーシャ「悪くないです。変態です、ド変態です。死ねって感じです。残念ながら死なないですけど」ムゥ・・・


どんな上司なんだ。興味本位で一度見てみたい。


サーシャ「第1の警告ですが、絶っっっっっっ対ッ! 駄目っ!!」ガシッ!!

香焼「へ?」タラー・・・

サーシャ「まず会う事は無いでしょうけど、もしアレに会う機会があったとしたら……第1の注意として、リアルに貞操の心配をしてください」

香焼「な……何それ」ダラダラ・・・

サーシャ「第1の予想ですが『2人目のショタ……いや、男の娘ゲットぉーーーー!!』とか訳分からない事口走る筈です」タラー・・・


なにそれ、こあい。


773 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/01(土) 22:40:10.44 ID:cizlhlyt0
サーシャの身内会話で盛り上がっている最中、1人の店員さんが、僕らに近づいてきた。


店員「こんにちは。何か気にいった服はありましたか?」ニコニコッ

香焼「え、あ、いえ。その……あはは」

サーシャ「…………、」ペコッ

店員「もし分からない事があれば相談に乗りますよ。必要であればサイズ等もチェックします」


気さくに話しかける店員さん。まず平日最中、学生っぽい僕らが店に来ている事に疑問を感じないのだろうか。
まぁ金になるのであれば、そんな細かい事はきにしませんよ、という事なのだろうか。

とりあえず、ファッション云々が分からない2人なので、店員さんにお任せするとしよう。


香焼「えっと、知り合いの紹介でこの店来たんすけど……全然如何いうお店か知らされてなくて」アハハ・・・

店員「お知り合い? どなた様でしょうか? 此方で存じ上げていれば、対応し易いんですが」

香焼「浦上っていうんすけど。あと五和っす」

店員「うらかみ、いつわ……ああ! 麦野さんのご紹介ですね! かしこまりました」フフフ

香焼「え?」タラー・・・

店員「麦野さんが連れて来てくれた子なら忘れる訳がありませんよ。あの清楚な姉妹でしょう?」


外面は清楚ですが、内面はヘドロです。


店員「それなら麦野さんが監修して下さった服が宜しいですね」

サーシャ「コーヤギー、第2の質問です。先程から出てくる『ムギノ』とは?」ハテ?

香焼「えっと……カオリ姉さんの都市での友達」アハハ・・・

サーシャ「え!? 神裂に友達がいるのですか?!」


姉さんが聞いたら泣き出します。


店員「神裂さんって、あの巨乳で美人なお姉さんね! 貴女の知り合いなんだぁ」ヘェ!

香焼「まぁその……姉みたいなもんっす」アハハ・・・

店員「あらあら! じゃあサービスしなきゃね!」フフフ


何故か勝手にテンション上がりまくりの店員さん。
というか、麦野さん……アンタ超能力者ってだけじゃないの? ほんと、何者ですか?


774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/10/01(土) 22:44:50.34 ID:b6HpuhDGo
繊維崩しですね
775 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/01(土) 23:37:49.38 ID:cizlhlyt0
一寸後……店員さんがカタログを見せてくれた。
大体のイメージを掴んで欲しいとの事。


サーシャ「むぅ……難しいです」ポリポリ・・・

店員「フツーの制服もあれば、ブレザーも有るし、セーラー服チックなのもありますよ」

サーシャ「第1の要望として、派手過ぎないのが良いです」

店員「色はどんなのが好き?」

サーシャ「第1の回答ですが、映える色なら赤や黄色が。基調とするなら黒っぽいのや茶色っぽいのが好きです」


結局、いつもの修道服(格好)ですね。


サーシャ「……何ですか、その目は?」ムゥ・・・

香焼「いや、らしいなーって」ハハハ・・・

サーシャ「んもー……では第3の質問です」チラッ

香焼「何かな?」

サーシャ「コーヤギーは、この中の型だったらどれが良いですか?」スッ・・・

香焼「自分で決めなよ。サーシャが着るんだし」

サーシャ「いいから」ジー・・・


先程のカタログの中を指差す。決まらないから僕に決めさせるという訳か。では……―――



①薄茶色の少し大きめなカーディガン・ネクタイ・紺基調のチェックスカート・黒タイツ

②AK○風ブレザー・赤基調のチェックスカート・ニーソー

③黒のベスト・赤基調のスカーフ&チェックスカート


   >>778


776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [hage]:2011/10/01(土) 23:40:35.49 ID:TP30r8uGo
踏み台
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/10/01(土) 23:41:53.31 ID:2PILXMjdo
ksk
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/01(土) 23:42:33.85 ID:/U2WzYuDO
779 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/02(日) 00:16:58.91 ID:9O2E82Bc0
―――……それじゃあ、今流行りの感じで。


サーシャ「了解です。では、この服を」チラッ

店員「はい、分かりました。きっとお似合いですよ」フフッ

サーシャ「ええ」ニヤリ・・・

香焼「……ん?」タラー・・・

店員「サイズは150……よりレディースのSにしておきましょう。それで、貴女は如何しますか?」

サーシャ「第1の注文として、私はこの赤茶の制服でお願いします。あ、薄めのタイツと茶色のローファーもあれば買います」

店員「かしこまりました。貴女は小物、何かチェンジしますか?」

香焼「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」ポカーン・・・

店員「お客様?」

香焼「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」タラー・・・


あんだって?


サーシャ「コーヤギー。質問されてますよ」チラッ

香焼「え……いや、は? えっと……ちょ、待……いやいやいやいやいやいやいやいやっ!!」アタフタ!

店員「はい?」ポカーン・・・


わけがわからないよ。


香焼「ちょ、な、何故自分に!?」ギョッ・・・

店員「え?」

サーシャ「はい?」

香焼「ハァ?」

香焼・サーシャ・店員「「「…………、」」」ピタッ・・・


何それ、怖い。


サーシャ「コーヤギー……第1の注意ですが、お店に入って何も買わないでは失礼ですよ」ポンッ

香焼「な、だ、おかしいでしょ!? 第一自分は――」アタフタ・・・

店員「おかしくないですよ。お姉さん方もお綺麗でしたし、貴女も十分可愛らしいです。自分に自信を持って、ね」フフッ

香焼「そ、そういう問題じゃ無くて! 自分は――」ダラダラ・・・

サーシャ「コーヤギー。折角ですから、ね?」ニヤリ・・・


こんにゃろぅ。面白がって……怒るぞ!


サーシャ「あ、会計はカードで彼……女の分も一括にしておいて下さい」スッ・・・

店員「かしこまりました。少々お待ちを」フフフ・・・

香焼「総スルー!!?」ギャー!!

サーシャ「あと第1の願望として、できれば此処で着替えていきたいです。あ、彼……女は結構ですので」

店員「あら、勿体無い。貴女も着替えていけばいいのに」ウーン・・・


止めて下さい。これ以上の虐めは……社会的に死にます。


780 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/02(日) 00:37:11.13 ID:9O2E82Bc0
数分後……結局、買わされた。しかも、おまけに……


店員「―――うん! やっぱり可愛いわよ!」フフフ!

香焼「」カアアァ/////////////////////////////////////

サーシャ「見せてー。見せて下さーい」ウーン!


無理矢理、試着させられた。何故男だと気付かん?
因みに、サーシャが必死に試着室の中を覗こうとしたが必死に阻止して貰った。それが試着の条件だからである。

店員さんが満足したところで、急いで着替える。


店員「ふふっ。ありがとうございした。また来てね」ニコニコッ

サーシャ「はい。機会があれば是非に」コクッ


絶対に二度と来ません。


店員「あ! そうだ……はい。これプレゼント」スッ・・・

サーシャ「え?」キョトン・・・

店員「シュシュよ。綺麗なウェーブ掛った金髪だから、この藍色の似合うと思うわ」フフッ

サーシャ「……ありがとう」フフッ


僕は要りません。男です。


店員「貴女は……もう少し髪伸ばしてからね。あ、でも花飾りなんかは似合いそうね」ジー・・・

サーシャ「ではそれを」チラッ

香焼「要りません!」キッ

店員「そう? じゃあヘアピンか何かを」

香焼「着けません!」キッ

サーシャ「ふむ。第1の意見です。彼……女は、頭に何も着けないタイプの様ですから」

店員「じゃあ……やっぱりシュシュで良いわね。腕に嵌めておくだけでアクセサリーになるもの。2人御揃いのにしてあげるわね」


だから、そういう問題じゃないと何度言えば。


サーシャ「お、御揃い……ですか」フム・・・///

店員「分けた方が良い? 折角一緒に来たからと思って」

サーシャ「……こ、コーヤギーが宜しければ、ハイ」モジモジ・・・///

香焼「もーなんでもいーっす」ハァ・・・

店員「あらぁ。百合百合ってヤツかしらぁ」キマシタワー


せめてノーマルカップルにして下さい。そろそろ心が折れそうです。

781 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/02(日) 01:33:28.86 ID:9O2E82Bc0
 ―――とある5日目、PM01:00、学園都市第7学区、とある大通り・・・・・・



何故か女性物の買い物袋を右手に、そして貰ったシュシュを左手に嵌め、街へ出る事に。

無論、返品したい気持ちは山々だったが既に代金を払ってしまっていた為、言い出せなかった。
そして更に、僕が『男だ』と暴露する素振りを見せようとする度にサーシャが怒り狂いそうな、泣き出しそうな……
何ともいえない表情と雰囲気を醸し出すので、やっぱり返品できなかった。

因みにサーシャも、シュシュを髪には着けず、僕と同じ様に左手に嵌めている。結べば良いのに。


サーシャ「良いんです。私の勝手ですから」フンフフーン♪

香焼「はいはい……てか、後で金返すからね。それからコレ、サーシャ持ちかえって私服にしなよ」スッ・・・

サーシャ「第1の返答ですが要りません。手間賃だと思って下さい……あと女の子からのプレゼントを無碍にする男子は最低ですよ」ジトー・・・

香焼「プレゼント……???」ハァ?

サーシャ「第1の節介ですが、ちゃんと五和達にも私がソレをプレゼントしたって事、伝えますからね」フフフ・・・


勘弁して下さい。色んな意味で死んでしまいます。


サーシャ「やれやれ。注文の多い人ですね」ハァ・・・

香焼「どっちがだ……それより、昼食如何する? 何か食べたいモノある?」

サーシャ「うーん……特には。日本食は英国で神裂に何度か食べさせて貰ってますから」

香焼「じゃあ中華とか韓国料理は?」

サーシャ「第2の確認です。私の祖国は?」

香焼「……成程。隣国の料理はしょっちゅう食べてるって訳だね」

サーシャ「肯定です。第1の補足として、韓国料理は肉が多いので苦手です」


そういえばサーシャは、刺激濃い物や化学調味料多めの物が苦手だったな。
それじゃあ簡単にパンでも食べよう。確か近くにプラント麦を使ったヘルシーを売りにしてるパン喫茶があった筈だ。


サーシャ「……プラント麦?」

香焼「うん。名前の通りプラントビルで栽培された麦だよ」

サーシャ「それは……何だか身体に良くなさそうですね」タラー・・・

香焼「逆だよ。プラント内を野菜に取って最適な環境に変えて栽培してるから、理想的な作物が育つんだって」


分かり易い例えをすると、廃棄汚染が無かった頃の空気・水・光で作られた諸々、といった感じだ。
サーシャは興味半分疑い半分といった感じの目をしている。まぁ食べてみれば分かるだろう。

結局、数分後……彼女は頬が落ち、逆に体重が増しそうなくらいパンやケーキを頬張っていた。


782 :>>1 [saga]:2011/10/02(日) 01:48:48.34 ID:9O2E82Bc0
すいません。幼女が泣いてるので今回は此処まで。
次回終わりたいなぁ……アンケ! サーシャが行きたいお店!


①\石村屋!/的なモノが置いてある作業・業務用本格店

②一つ一つの工具(金槌、鋸など)に魂籠る老舗の金物店

③『曰憑き』を取扱う少々ダークな雰囲気の中古・骨董店

④その他(工具に関係ある感じで)


協力よろしく! それでは! ノシ
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/10/02(日) 01:50:40.04 ID:qNuuXShAO
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/02(日) 02:20:31.61 ID:z0gux+OAO
乙です。
アンケは②で
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/10/02(日) 02:55:31.57 ID:13zgLI5Mo
乙でした
②でよろしくー
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2011/10/02(日) 06:44:01.29 ID:yR2Kf4uUo
乙です
③で
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 10:19:37.97 ID:+x0i842Vo
1
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/02(日) 10:27:26.69 ID:X6Jn9bIAO
2で
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 11:07:08.05 ID:xjSUffXDO
① \石村屋!/

あと本格的に女装・男の娘フラグが立ったねww
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 11:15:43.02 ID:fqQNN0wHo
3で
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/10/03(月) 20:14:42.06 ID:mqbrGBeD0
③で

①:2票
②:3票
③:4票(ここを入れて)
792 :>>1 [saga]:2011/10/03(月) 23:02:15.52 ID:Qpgc50i70
こんばんは……続き書きます。集計ありがとね……③で書きます。

私的な余談ですが、禁書に全く関係無いけど……ナツブラ(21)が終わるっぽいので、アンニュイな気分です……


それとは別に相談なんですが、そろそろ投稿ネームでも考えようかなぁと。
単なる思い付きなんで>>1のままでも別に良いんですが……何か良い案あります?



さておき、投下! 半オリ(クロスオーバー的な)出すけど、ご了承を! そんじゃスタート!
793 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/03(月) 23:25:55.64 ID:Qpgc50i70
 ―――とある5日目、PM02:30、学園都市第7学区、商店街・・・・・・



腹も膨れた所で、サーシャが一番楽しみにしているお店へ向かう事にした。目的のモノは……所謂、工具。
本人曰く、『私の杖です』との事だが、如何見たって工具類である。
尤も、これらは『処刑(ロンドン)塔の七つ道具』といって、実際に拷問で使われる道具だ。
サーシャが普段愛用しているそれらは魔術的な付加が掛けられているとの事。


香焼「でもさぁ」ウーン・・・

サーシャ「はい?」チラッ

香焼「魔術師っぽくないよね」ハハハ・・・

サーシャ「……第1の反論ですが、存在そのものが魔術師らしくないコーヤギーには言われたくありません」ジトー・・・


カチンっときたが……我慢してやろう。


サーシャ「それに改めて第1の補足ですが、アレらのベースは魔女狩り用の拷問具……いわば、英国のスタイルに影響されているのですよ」

香焼「あー、なるほど……でも何でそんなの選んだの? アニーみたいに魔女っぽい(?)杖でも良いじゃん」

サーシャ「改めて第1の回答……いや、テンプレですが、上司の趣味です」ハァ・・・


もはや何も言うまい。


香焼「でも、今日は何欲しいの? プ○ズマカッターのマガジン(※①)は定期的に補充してるよね」

サーシャ「第2の回答ですが、火炎放射気や釘打ち機、射出型ノコギリなどを生で見てみたいのです」キラキラ・・・

香焼「……さいですか」ハァ・・・


例え上司の趣味であっても、彼女にとってはすっかり染み付いた考えというわけで……相変わらず工具類を主武装にするのが好きみたいだ。
まぁ科学最先端技術を駆使した工具類が置いてある、この街のホームセンターは彼女にとってまるでテーマパーク感覚なのだろう。
※①・・・『あまくさっ!』第5話参照。


サーシャ「コーヤギーだって、高周波ナイフ(※②)買って喜んでたじゃないですか」ジトー・・・

香焼「べ、別に良いだろ」ムゥ・・・

サーシャ「第1の意見ですが、どっちもどっちです。同じ危険物を『杖』代わりにする同志でしょう」フフフ・・・


確かに『0』が6つも付いた高級ナイフを買ったのは事実。何も言い返せない状況だった。
※②・・・第⑤話参照。


794 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/03(月) 23:46:04.13 ID:Qpgc50i70
さておき、この学園都市にも他の街と同様に大型ホームセンター、業務用ホームセンターの様な店は多々在る。
日本で有名なチェーン店や、都市独自の工具店など。

市場原理に基づいて他の店と差を付けようと、低価格で勝負したり、最先端機具を取り入れたり様々だ。


香焼「それで、目当てのお店は?」

サーシャ「任せます。というか、この街素人の私にそれを聞きますか?」ジー・・・

香焼「そーですね」ハハハ・・・


では如何しよう。色んな店を回って歩こうか?
しかしサーシャの性格上、一つの店に連れて行ったら最後。約束の時間ギリギリまでその店に腰を据えようとするだろう。


香焼「うーん……最新工具が見たいんだよね?」

サーシャ「第2の意見ですが、別に最新では無くとも構いません」

香焼「そうなの?」

サーシャ「ええ。第1の説明ですが、正直、今使っている『杖』は結構ボロボロなのです」

香焼「まぁ……確かに」タラー・・・


サーシャの『杖(バール等)』をマジマジ見た事がある。
『魔術師の杖(ステッキ)』と銘打ちながら、明らかに鈍器として使用した形跡が……しかもかなり年季が入ってボロボロになってる。
君は一体これで何をしたの、と聞いた事があるが黒い笑みを浮かべ黙秘された。こわーい。


香焼「それじゃあ、普通のバールとか鋸とか鉈とかペンチとか……そんなのも置いてる店で良いかな」

サーシャ「ええ……出来れば壊れ難いモノを所望しますよ。普通の工具類では長期間、魔術付加に耐えられないのです」ヤレヤレ・・・


それは都市の道具を使っても同じです。多分、貴女の魔力と使い方が荒過ぎるのだと思いますよ。


サーシャ「むっ! 第2の反論ですが、使い方はまだしも魔力は荒くなど無いです。寧ろ、自身の魔力は高尚だと自負してます」ムンッ!

香焼「訂正。君の魔力は膨大なの。へっぽこ魔術師の自分でも分かるっすよ」

サーシャ「……ひ、否定はしません」ムムム・・・


ステイルも認める魔力値だ。多分、サーシャの『内生るモノ』は世界でも指折りの魔力量なのだろう。


サーシャ「わ、私の魔力云々は如何でも良いんです! さっさと行きましょう。時間が無い」ジトー・・・

香焼「はいはい。急ごうねー」テクテク・・・


しかし、改めて考えると……最新工具を扱いつつ業物も取り扱う店なんて、この街に在ったかなぁ?


795 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 00:06:36.12 ID:cS565wnB0
無闇矢鱈に探すのも難なので、携帯を使って検索する事にした。
まぁそう都合良く条件が一致する店など無いだろうけど、出来るだけ彼女の需要を叶えてやりたい。


香焼「因みに、最新と業物だったらどっちが良いの?」

サーシャ「第1の疑問ですが……ドチラが魔術付加に耐えられるのでしょう」

香焼「どっちもどっちだと思うよ」ポリポリ・・・

サーシャ「……では、お任せします」コクッ・・・


仕方ない。ナビに従い適当に行きつく先にしとこう。この辺だと……路地裏?


香焼「こっちか……こんな道、あったっけ?」キョトン・・・

サーシャ「え?」ポカーン・・・

香焼「うーん……でも店在る場所はこの路地裏抜けた先だなぁ」ムゥ・・・

サーシャ「改めて第1の質問です。潜入学徒の嘗帳(都市地図)には無い道なのですか?」

香焼「まぁ良くある事だよ。この街は常に変わるっていうか、進化してるし……でもこの道?」ウーン・・・


一応、最重要区画である第7学区は全て網羅している筈なのだが……知らない道だ。


香焼「……やっぱ別のとこにしとこうか」チラッ

サーシャ「ふむふむ……第3の意見ですが、面白そうです。もしかして『此方側(オカルト)』的な建物かもしれませんよ?」フフフ・・・

香焼「三沢塾みたいに? 本当にそうだとしたら危ないよ。都市側の許可取って、土御門の指揮下で調査入らないと」ウーン・・・

サーシャ「行きますよ」テクテク・・・

香焼「あ、ちょ……はぁ」ヤレヤレ・・・


意気揚々にサクサク進むサーシャ。この後大事な交渉があるっていうのに、何で別の事でノリノリなんだか。
まぁ自分の杞憂である可能性の方が高いし、とっとと店に行って、幼児を済ませてしまおう。


香焼「……でも」キョロキョロ・・・


路地裏に、誰も居ない。
普通の街なら当たり前の事だが、此処は学園都市。路地裏といえば浮浪者や不良、武装無能力者集団(スキルアウト)が屯しているのが常。
だが、まるで人気が無いのだ。人気だけではない。まさに無機質感。

不安になり、サーシャを見るも相変わらず楽しそう。この感じに気付いてないのか?


サーシャ「いえ……第3の回答ですが、何と言えば良いのでしょうか……冒険の匂いがプンプンします」フフフ・・・

香焼「やっぱり魔術的な?」

サーシャ「さぁ。しかし、この街の『感じ』ではないモノを感じます。楽しみですね」ニコニコッ


なぁにそれ?
というか、僕の携帯ナビは如何なっているのだ? これ、携帯会社に修理出して直るモンなのかな?

796 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 00:26:33.72 ID:cS565wnB0
一寸後、裏路地を抜けた。
そこは多少拓けてはいるが、店の様なモノは見当たらない。在るのは無駄に高いビルと、その間から見える一本道、それから上空の青色だけ。


サーシャ「第4の意見ですが、確実にホームセンターは無さそうですね」フム・・・

香焼「ねぇ。戻らない? 嫌な予感がする」タラー・・・

サーシャ「そうですか? 私は逆に良い予感がしますけど」ニヤリ・・・

香焼「……でもさぁ」ポリポリ・・・

サーシャ「やれやれ。第5の意見です……安心して下さい。コーヤギー一人くらいなら守り切れますから」フフッ


その台詞は、男として如何なのだろう。


サーシャ「メインヒロインが何を言ってるのですか?」ボソッ

香焼「は?」ポカーン・・・

サーシャ「あ、え、いや、何でもありません……改めて第1の提案ですが、とりあえずナビに従って進みましょう」テクテク・・・


よく分からないけど……今、サーシャ……魔術使えないんじゃね? とか言ってみる。


サーシャ「第4の回答ですが、別に杖等無くても術式は組めますよ。有れば面倒な手間を省けて楽なだけですからね」

香焼「……はぁ」ポリポリ・・・

サーシャ「んもー。心配症ですね……ほら、もう少しでナビが示す場所ですよ」チラッ

香焼「本当に店が在れば良いけどね」タラー・・・


在ったとしても、こんな場所に在る工具屋といったらまず個人経営だろう。
しかも都市開発以前から在る、旧西東京先祖代々受け継いだ土地を売り払いたくないとかいう類の頑固親父が営む店とか。

何にしろ、不安が募るばかり。


サーシャ「ん……あそこですね」チラッ

香焼「え? 本当にあるの?」タラー・・・


店……というより、一軒家? 独特の塀に囲まれた奇抜なスタイルの家(?)が建っていた。


香焼「……これ、入れないでしょ?」タラー・・・

サーシャ「ナビは?」チラッ

香焼「え……あ……此処、指してるけど」ウーン・・・

サーシャ「では入りましょう。第6の意見ですが、ナビの所為にしとけば言い訳できます」

香焼「いやでも、明らかに工具屋じゃないっすよ……大人しくホームセンター行こうよ」

サーシャ「まったく、チキンくんですね……第1の命令です。良いからついてきなさい」グイッ

香焼「うわぁ!?」ギョッ・・・


結局、その家の敷地へ足を踏み入れてしまった。

797 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 00:52:05.08 ID:cS565wnB0
敷地の中は、何処にでも在りそうな庭で……何処にも無さそうな雰囲気。
家の形は何処にでもありそうな和洋折衷な感じで……何処にも無さそうな造形。


サーシャ「……何でしょうか」キョロキョロ・・・

香焼「分かんない……でも、出た方が良いと思う」タラー・・・


工具とか何とか、そんなのは別にしても、此処に長居してはいけない。そう思う。


サーシャ「ふむ……行きましょう」テクテク・・・

香焼「っ!? ちょっと!」ガシッ!

サーシャ「……何か?」

香焼「何かじゃないよ! 何処行く気?!」タラー・・・

サーシャ「第5の回答ですが、無論、この店? 家? どちらでも構いませんが、戸を叩きに」

香焼「な、何考えてるのさ! 拙いって! 普通の民家だったら如何するの?」ダラダラ・・・

サーシャ「第6の回答ですが、間違いましたごめんなさい、で良いでしょう。何をそんなに焦ってるんですか?」


いや、その……兎に角、入っちゃダメな気がする。あくまで勘だけど。


サーシャ「杞憂ですよ……コーヤギーが来なくても私は行きますけどね」テクテク・・・

香焼「と、都市の暗部の隠れ家とかだったら!」タラー・・・

サーシャ「ありえません。もしそうだとしても、重要人物たる私においそれと手出しは出来ないでしょう」

香焼「…………、」タラー・・・


そういえば、妹達は僕らを追跡けてきている筈……彼女達が僕らに忠告しないという事は、そういう危ない場所では無いのか?
しかし、不安だ。


サーシャ「すいませーん」トントンッ

香焼「ヴぁっ!? か、勝手に叩くな!!」アタフタ・・・

サーシャ「コーヤギー。第1の注意ですが、五月蠅いですよ……少し大人しく―――」


 がらりっ・・・・・


香焼・サーシャ「「―――っ!!」」ピタッ・・・


突如、玄関が開いた。その中には……誰も居なかった。


798 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 01:14:25.56 ID:cS565wnB0
絶対にヤバい。今度こそ確証した。
無理にでもサーシャを引っ張って帰らないと……戻れなくなる気がする。


サーシャ「勝手に開いた? 監視カメラか何かで何処からか見ているのでしょうか……第1の予想ですが、誘っているのでしょうね」フム・・・

香焼「い、いや、そうだとしても、それに乗っちゃダメだって!」アタフタ・・・


もはや、科学か魔術かも疑わしい。


香焼「か、都市側(科学)だったらまだしも魔術師だとしたらホント拙いって!」ダラダラ・・・

サーシャ「第7の意見ですが、魔力反応は……『読み取れません』。科学だと予想立てて入りましょう」テクテク・・・

香焼「か、科学でも、狂気染みてる」キョロキョロ・・・

サーシャ「あぁもう。女々しいったらありゃしないです……私一人で行ってきますよ」テクテク・・・

香焼「ちょ、待……分かったよ」ハァ・・・


如何してこう、カルテッ娘の連中は思いっ発ったら吉日タイプばかりなのだ。困ったモノである。
結局、家(?)の中へ上がり込む羽目に。


香焼「中は普通の……いや、立派な御屋敷かな」キョロキョロ・・・

サーシャ「第2の予想ですが、この後……科学的な意味での<ゾンビ>がウジャウジャと沸いて出てくる展開が」フフフ・・・

香焼「サーシャ……その発想はキャーリサ様のゲームに付き合い過ぎだよ」


ゾンビは魔術的な化け物、って昔の君なら訴えてる筈なのになぁ。


サーシャ「いえ。第1の想像ですが……実は●ンブレラ製薬は学園都市と提携し、◎-ウィルス的なモノを!」ニヤニヤ・・・

香焼「勘弁してよ。何か出来そうで怖いし」タラー・・・

サーシャ「ふふふふ……そこの角を曲れば……ヤツらが!!」


はいはい、そりゃ怖―――



????『あぁああぁっ……肉~……人間だぁ』バッ!!

香焼「っ!!?」ギョッ!!

サーシャ「で、出たああああああああぁっ!! ゾンビいいいいいいぃ!!」ギャアアアアァ!!


―――いに決まってるだろ!! いきなり電気が消えて異形の存在が現れたらビビるわ!


??『血~……血ぃ吸うたろか~』ヨタヨタ・・・

??『がおー! 食ーべーちゃーうーぞー!』ウガー!

サーシャ「きゃあああああああああああああああああああぁっ!! 家畜人○プーぅううううううぅっ!!」ギャアアアアアアァッ!!

香焼「何そのチョイス!? って……あれ?」ジー・・・

???『ボルシチ怖いぞおおぉ~! ついでに純正ウォッカも怖いぞおおぉ~!』バアアァッ!!

サーシャ「いやあああぁっ!! こ、コーヤギー!! ウォッカを! ウォッカを投げつけて下さい!!」アタフタ!!


んなモノ持ち合わせてる筈無いだろ……というか落ち着いてコイツら見てみろ。

799 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 01:34:15.64 ID:cS565wnB0
とりあえずサーシャを落ち着かせ、目の前の『ヤツら』を冷静に分析させる。


???『ぎゃお~! シルバークイックだぞ~!』シュッ!シュッ!シュッ!

??『ぎゃーす! しるばーくい……え? シルバークイックって何?』キョトン・・・

??『クイックシルバーなら知ってるよー。ポルターガイストみたいなものだよー!』

??『それなら知ってるー! ねぇシルバークイックってなぁに?』キョトン・・・


僕達に聞かないで下さい。


香焼「というか、電気点けて下さい!」

????『きゃー! 怒ったー!』キャーキャー!

サーシャ「え、あ、こ、これは?」ポカーン・・・

香焼「いやいや……如何見たってゾンビのメイクしただけの女の子っすよ。こっちは布被った幽霊の真似してるだけ」ハァ・・・


宛らオバケ屋敷の真似事か。迷い人を脅かすのが彼女達の趣味らしい。
電気を点け、僕らの拍子抜けした顔を見て、ケラケラ笑い出した。


???『あらら、ばれちゃったぞ』アハハ

??「ばれたー! すぐばれちゃったー!」アハハ!

??「ばれてーら! ばってーら!」アハハ!


双子と……未だに布を取らない一名。そして状況を掴めない僕ら。


サーシャ「え、は? な、何が起きて……ふぇ?」ポカーン・・・

香焼「え、えっと……勝手に入った事は謝ります。すぐ帰りますので」ペコッ

???『えー? 折角来たのにもう帰るのかぁ?』ジー・・・

香焼「……其方の意図は分かりませんが、此方も意図無しで歩み寄ってしまっただけっすから」ペコッ


その言葉に、ゾンビの恰好をした双子が反論した。


??「ううん。意図は在ったはずだよ」

??「ううん。必要だから着たんだよ」

香焼「は?」ポカーン・・・


ミステリラスな事を告げる双子。サーシャは未だに放心状態。

800 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 02:05:54.81 ID:cS565wnB0
暫時、茫然状態。だが目の前の三名はキャッキャと騒いでばかり。


サーシャ「だ、第3の予想ですが……幻術、でしょうか?」ポカーン・・・

香焼「さぁ?」タラー・・・


わけがわからないよ。
戸惑う僕ら。敵意は無い様なので、逆に如何アクションを起して良いかも分からない。
先程の意味深な言葉も気になるが……キツネにでも抓まれたか?


??「キツネさーん! こんこんっ!」ピョンピョンッ!

??「あれれ? キツネさんって鳴くのかな??」ウーン・・・

???『キツネは鳴くんじゃないぞ! おでん屋の親子見れば分かるだろ』ハハハ

????「「あー、喋るねー」」ハハハ


意味不明な会話。やはり速やかにこの場を立ち去るべきだろう……そう考えた時だった。
奥の方から足音。はしゃぐ三名も振り向く。


サーシャ「だ、第1の実況です……今度は普通の男性、でしょうか?」タラー・・・

香焼「如何だろう」ジー・・・


大陸服に……エプロン(?)を着けた変な恰好の眼鏡男。歳は若くも見えるし、老いた様にも見える。


??「お前らっ!! いつまで遊んでるんだよ!」ガー!

????『怒ったー!』キャー!!

??「人が手を離せないから好き勝手して……いつもの様に客間に通しとけっての!」ジロッ

???『まぁまぁ。これは少々意趣を凝らしてだなぁ』フフフ・・・

??「黙れ潰れ饅頭」バッ!

???『きゃー! えっちぃ!!」キャー!

????「「きゃー! すけべぇ!」」キャー!

香焼・サーシャ「「っ!!?」」ギョッ・・・

??「喧しいっ!! 客が驚いてるだろ!! 少し黙っとけ!!」ウガー!


男性が布を払った中には……人形(?)が、動いていた。


??「ったく……これは失礼しました。お恥ずかしい所をお見せしましたね」

??「おみぐるしーところを!」ビシッ!!

??「失敬失敬!」ビシッ!!

??「黙ってろ」ワシャワシャ!

????「「きゃー!」」ジタバタ!


とりあえず……説明下さい。


801 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 02:20:55.68 ID:cS565wnB0
一寸後、何やかんやで客間に通された。
不思議な感じな部屋。サロンの様な、鳥かごの様な……兎角神秘的だった。


??「はぁ……本当に申し訳ない」ペコッ

香焼「い、いえ」タラー・・・

??「普段は何事も無く此処に通すか俺が来るのを待たせるかするんだけどね……相当暇だったんだろう」ヤレヤレ・・・


何だろう。とても苦労人の臭いがする。


サーシャ「あ、あの……質問、宜しいでしょうか?」ボソッ

??「ん? どうぞ」チラッ

サーシャ「では、第1の質問です……此処はお店ですか?」

??「一応。それから、俺が店主……かな」フフッ


簡潔に答える男性。僕らは此処に辿り着いた経緯を説明した。


店主「ふーん……まぁ必要だったんじゃないかな」スッ・・・

香焼「はぁ……えっと、此処工具屋じゃないんすか?」キョトン・・・

店主「工具を限定して置いてはいないよ。まぁ工具もあるだろうけど」

サーシャ「だろう?」

店主「此処は何でも有るし、何にも無いよ」

香焼「謎掛けっすか?」タラー・・・

店主「そうかもね」フフッ


随分曖昧な人だな。しかしまぁ、色々聞きたい事があるのだが……如何しようか。


サーシャ「では引き続き、第2の質問を……もしや此処は、魔術的な工房ですか?」ジー・・・

香焼「え!?」ギョッ・・・

店主「魔術、かぁ……そうかもね。でも俺は魔術師を自称してないからなぁ。謂わば、此処はただの『ミセ』だよ」


この人は『此方側(オカルト)』なのか?


店主「オカルト……うん。そうかもね」コクッ

サーシャ「第1の確認ですが……学園都市を拠点に?」

店主「学園都市……必要であれば学園都市だろうが何処だろうが。まぁ拠点なんて無いね」

香焼「貴方は……何者っすか?」

店主「何者だろうか……正直、自分でも未だに認識してないなぁ。まぁ心配してくれる友達くらいは要るけど」ハハハ


それだけでも、十分幸せな事だけど……店主さんはそう微笑んだ。

802 :第⑥,5話―――香焼「必然?」 サーシャ「縁(えにし)?」 [saga]:2011/10/04(火) 02:43:41.07 ID:cS565wnB0
さておき、とりあえず僕らの現状を知りたい。この人は分かっているのだろうか?


店主「うん。『此の街』は学園都市だろ? 科学の最先端……だっけ? そういう世界だよね」

香焼「え、あ、はい。(そういう世界?)」ポカーン・・・

サーシャ「あの第3の質問ですが……貴方は、日本人ですよね?」

店主「多分ね。ま、広く捉えてもアジア系であってる筈」フゥ・・・


面妖に煙管を吹かす店主さん。今時、煙管派か。


サーシャ「第4の質問です……率直に聞きますが、アレイスターは貴方の事を知っているのですか?」

香焼「さ、サーシャ!?」ギョッ・・・

サーシャ「コーヤギー……改めて第1の意見ですが、此処は都市的に見ても異様な場所です。彼が見逃すとは思えませんよ」

店主「…………、」ボー・・・

サーシャ「回答願えませんか?」ジー・・・

店主「アレイスター……アレイスター・クロウリーね……伝説の魔術師」モクモク・・・


彼が言うのは、全盛期に生きた『伝説』の事なのか。それとも統括理事長本人の事だろうか。


店主「クロウ・リーd……これは、魂が違うかな? まぁ彼と彼が同じとは思えないけど」ハハハ

サーシャ「……か、回答は?」

店主「知らないんじゃないかな。というか、この『ミセ』の存在は『この街』には知られないよ」

香焼「……空間転移の術式っすか? 自分達が入ったのはポイントの一つに過ぎない、と」

店主「ちょっと違うけど……説明すると長くなるからそれで良いかも」ハハハ


適当な人。いや、上手く話を逸らしているだけか。


店主「ま、この街には会合出来ない人物が居るからね……流石に『アレ』の力の前にはこの『ミセ』の結界でもアウトかな」

サーシャ「なるほど、結界……って、人物?」チラッ

香焼「うん……十中八九、彼だろうね」タラー・・・

店主「あはは。分かったみたいだね……あの『右手』は『どんな世界』であっても『ズル(チート)』だよ」ポリポリ・・・


上条さんマジぱねぇっす。

803 :第⑥,5話―――香焼「必然?」 サーシャ「縁(えにし)?」 [saga]:2011/10/04(火) 02:58:36.90 ID:cS565wnB0
苦笑する店主は、ふと立ち上がり、ついてきてくれと廊下へ向かった。
僕らは疑念を抱きつつも、如何する事も出来ないので後を追う事に。


店主「あ、そうそう。今更だけど俺の名前は教えられないんだ。申し訳無い」テクテク・・・

香焼「え、いや、はぁ」ポカーン・・・

店主「深い縁(えにし)が出来てしまうと厄介だからね……なるべくあの『右手』とは逢いたくないなぁ」ハハハ・・・

サーシャ「縁(えにし)?」ポカーン・・・


相も変わらず意味不明な事を話す人だ。


店主「同じくらい逢いたくないのは何処ぞの『魔眼持ち』2人だけど……おっと、余計な事だったね」ハハハ

香焼「魔眼っすか?」タラー・・・

店主「君らの世界の魔術師だって魔眼……まぁ目を合わせて術式を掛ける魔術師は居るだろ。それの究極版さ」

サーシャ「第1の確認ですが、魅了(チャーム)や石化などという事ですか?」

店主「そんな甘っちょろいモノじゃない……近いのはバロールの魔眼かなぁ」

香焼・サーシャ「「っ!!?」」ギョッ・・・


バロール……ケルト神話に登場するフォモール族の魔神。見たものを誰でも殺すことができる邪眼を持っている。
そんなヤツがこの世にいるのか?


店主「『この世』には居ないよ……あ、でも『魔人』と呼ばれる連中で化の『眼』を再現しようとしている輩はいるかもね」テクテク・・・

サーシャ「第1の仮説ですが、もしそんな輩が居たとすれば全世界から敵意の目を付けられますよ」タラー・・・

店主「『封印指定』ってヤツかい? 俺は君もそれに思えるけどなぁ」チラッ

サーシャ「っ!!?」ギョッ・・・


サーシャの内側……魔力を見抜いたのか……本当に何者だろう。


店主「まぁまぁ。とりあえず君達が此処に訪れたのは訳があっての事だろう? 店主としてはその『願い』を叶えるまでだよ」フフッ


楽しそうな、嬉しそうな……不思議な感じで縁側へ案内された。

804 :第⑥,5話―――香焼「必然?」 サーシャ「縁(えにし)?」 [saga]:2011/10/04(火) 03:14:46.02 ID:cS565wnB0
縁側に着くと、先の三名(双子と……一匹?)が庭に何かを広げていた。
ビニールシートの上に並べられた雑具の山だ。


??「四月n……ヌシさまー! これでOK?」オーイ

??「一応埃は払ったよー! これでOK?」オーイ

店主「うん。ありがとう……あ、この2人は……丸井さんと諸井さんとでも呼んであげて」クスッ

丸井(?)「あははー! 諸井さんだってー!」ハハハ

諸井(?)「マルだって丸井さんだってよー!」ハハハ

???「おーい! モコ……こっちもー!」ノシ

店主「あー……アレは饅頭ね」ジトー・・・

饅頭(?)「酷っ!! せめてもっと可愛い渾名にしろ!」ウギャー!

店主「大福」サラッ

大福(?)「却下!」ビシッ!

店主「月餅」サラッ

月餅(?)「もう一声!」ビシッ!!

店主「シュークリーム」ハァ・・・

シュークリーム(?)「GJだ!」ワーイ!

丸井・諸井「「わーい! シュークリームー!」」ハハハ

店主「やっぱ黒饅頭だ。お前シュークリームってキャラじゃないだろ」ジトー・・・

黒饅頭「うがーってむ!」ガーン・・・


何だ、コイツら。


店主「ああ、悪い悪い……さて、サーシャ=クロイツェフ」チラッ

サーシャ「え、あ、はい……って、あれ? フルネームを?」キョトン・・・

店主「ふふふ……それは追々、ね。とりあえず、この中から好きなモノを一つ選ぶと良い」バッ


庭に広がる雑貨の山を指差す店主さん……如何いう事だ?


店主「如何もこうも。欲しいモノがあって着たんだろう? だったらそれを売るまでさ」フフフ・・・

サーシャ「……コーヤギー」チラッ

香焼「敵じゃない、けど……分からない」タラー・・・


あまりにも奇妙な話すぎる。詳細を聞きたいのだが……教えてくれまいか。


805 :第⑥,5話―――香焼「必然?」 サーシャ「縁(えにし)?」 [saga]:2011/10/04(火) 03:35:28.94 ID:cS565wnB0
しかし、店主は静かに首を横に振った。


店主「構わないさ。何でも、好きなモノを一つ……ね」

香焼「何でも好きなモノをって……美味しい話過ぎませんか?」

店主「勿論、それ相応の『対価』は貰ってるから大丈夫だよ」

サーシャ「対価? な、何を? 誰から?」

店主「誰かは言えないけど、とある人物から『寿命』を受け取っている。それでもまだまだ不老不死に近いけどね」ハハハ


この人が、概念的な『何か』に思えてきた。


サーシャ「……仕方ありません。コーヤギー、一緒に」チラッ

店主「あぁ。彼は駄目だよ」スッ・・・

サーシャ「な、何故?」タラー・・・

店主「『対価』は多過ぎず、少な過ぎず……彼が関与したら、彼に所縁(ゆかり)のある何かを対価に貰わなければならなくなる」

香焼「……別に、自分が差し出せるものなら」

店主「うーん……今回、君が『ミセ』に来れたのはあくまで彼女の監督者(パートナー)としてだからね。それ以上はアウトだ」


もはやツッコむまい。
半ば彼のペースに呑まれたのを諦め、サーシャの選択を待つ事にした。


サーシャ「……それでは、失礼します」トコトコ・・・

黒饅頭「何でも良いぞ! わt……どんなに高価なモノを持ってってもヌシは怒らないからな!」ムンッ!

サーシャ「はぁ……何を、ね」キョロキョロ・・・


雑貨……ある意味ゴミ山に融け込むサーシャ。とても奇妙な光景だ。


店主「ゴミか……確かに必要とされなければ、それはゴミになるね。人間一人ひとりからいわせれば、殆どがゴミになるよ」

香焼「まぁ……えっと」ポリポリ・・・

店主「でも日本という国は不思議な処でね……そのゴミさえも神聖化するんだ。知ってるかい?」


九十九(つくも)神とか八百万(やおよろず)信仰の事か。


店主「正解。賢いね」フフフ・・・

香焼「女教皇……姉の受け売りっす」コクッ

店主「聖人か。まぁ彼女自体が殆ど現人神(あらひとかみ)だからね」フフッ


もう彼がカオリ姉さんを知っていようがいまいが驚かない。というか、この人何でもアリな気がしてきた。

806 :第⑥,5話―――香焼「必然?」 サーシャ「縁(えにし)?」 [saga]:2011/10/04(火) 04:03:19.80 ID:cS565wnB0
そこまで万能超人じゃないよ、と苦笑する店主。


店主「『全体のバランス』を見るのも仕事だからね。可も無く不可も無くって事」

香焼「よく分かりません」

店主「理屈っぽい君が諦めるとはね……さておき、彼女は目星をつけ始めた様だよ」チラッ

香焼「え?」


幾つかの雑貨……やはり工具だった。
周りには綺麗なブローチや高価そうなネックレスなんかもあるのに、そういうのを選ぶ辺りがやはり彼女だろう。


サーシャ「これか……これか、これ……悩みますね」フム・・・

黒饅頭「それは……鉈か? 鋸? 包丁?」

丸井「あと釘抜きー(バール)! トンカチー!」

諸井「あとチェーンソー! 金属バットー!」


見目は普通のそれら。だが先の店主の言葉から察するに……曰憑きか。


店主「『憑いて』はいないよ。『曰く』は否定できないけどね」

香焼「何が違うんすか?」

店主「簡単な説明だと……『曰くつき』ってのはネガティブ。でも『曰く』だけだと『伝えられた』って意味になる」

香焼「……えっと」

店主「これ以上のヒントは無しだ。情報のやり取りさえも過不足があるからね」


彼の言葉を深く考えないようにしながら、サーシャの選択を待つ。


店主「そうだな……サーシャ」ジー・・・

サーシャ「何か」

店主「難しく考え過ぎるなよ。それら全て、君のニーズは果たせるからね」

サーシャ「え……はぁ」ポカーン・・・

香焼「えっと……サーシャの魔力に耐えられるって事っすか?」

店主「それは応えられない。だが、選ばれたモノには必ず意味がある。選んだ者にも、ね」フフッ


まるで哲学。頭が痛くなってきた。


807 :第⑥,5話―――香焼「必然?」 サーシャ「縁(えにし)?」 [saga]:2011/10/04(火) 04:19:34.15 ID:cS565wnB0
店主の言葉は続く。


店主「ま、もっと簡単に言おう……あまり魔術とか何とか考えない方が良いよ」

サーシャ「はい?」ポカーン・・・

店主「君の選択次第で『もう一人の自分』を殺す事だってできる」ジー・・・

サーシャ「っ!!?」ギョッ・・・

香焼「何?」キョトン・・・

店主「はたまた……大切な人をも殺せる」


何だか物騒な話だ。


店主「残念ながら、君の対価はそういう『仕組み』だ。何が如何転んでも……血を見るだろう」

サーシャ「……理解しかねます」

店主「ああ。解かったら拙い……兎に角、選ぶと良い。悩んでも嘆いても……一つだけだ」

香焼「…………、」タラー・・・

店主「さぁ。選べば……『夢』は覚めるよ」


雰囲気に呑まれ、選択を急かされるサーシャ。


サーシャ「……では―――」



①一見普通の『バール』

②一見普通の『包丁』

③一見普通の『金槌』

④一見普通の『○○』  ※(当て嵌まるモノを具体的に)



彼女は、選択した……―――


808 :>>1 [saga]:2011/10/04(火) 04:24:00.69 ID:cS565wnB0
はい。今回は完璧に八割方禁書関係無しでした。すいません。
次回は遂に『交渉』です。


因みにアンケ協力お願いします。選択でエンディングが変わる、予定(苦笑)


①一見普通の『バール』

②一見普通の『包丁』

③一見普通の『金槌』

④一見普通の『○○』  ※(当て嵌まるモノを具体的に)


それではまた次回。ノシ
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 07:57:49.85 ID:9zRi5ycfo
まさかのxxxHolicかよwww
開くスレ間違えたかと思った…
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 08:48:15.59 ID:3d+PuPKB0
1のバールで
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage ]:2011/10/04(火) 12:03:28.63 ID:FKPRidZy0
④で、一見普通の『鎌』で
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/04(火) 12:08:20.06 ID:EOuuilRAO
③の金槌で
813VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2011/10/04(火) 12:22:27.63 ID:WXVtdSt2o
物理のほうそくがみだれる①で
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/04(火) 13:26:07.03 ID:S8oodMgl0
黒饅頭……俺はなすに近いと思ってたw
アンケは3で
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 16:10:21.25 ID:IDmTmWSDO
あのミセはクロスオーバーさせやすいよな。ちなみににバロールって直死の事か?

アンケは①で
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 16:11:36.17 ID:dAAGnuFOo
1で
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 19:02:10.82 ID:foG+GAMDO
>>1

なら3で

一見普通の金槌
だが実は勇気ある者のみが扱える、グラビティショックウェーブ・ジェネレイティング・ディビジョンツールだった!

これが勝利の(ry
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/04(火) 19:42:44.74 ID:R21Jf4mAO
エクスカリバールのような①で
819 :>>1 [saga]:2011/10/04(火) 20:10:33.90 ID:cS565wnB0
こんばんわ。アンケは①かな?


>>809・・・ホリックのSSってあんまりないよねぇ。誰か書かないかなぁ。

>>813・・・個人的には「物理法則もあったもんじゃねぇな」の方が好きです。

>>814・・・じゃあ白い方は白ナス?w

>>815・・・直視の魔眼と幻想殺しって、如何いう愛称なんだろうね?

>>817・・・そういえばGGGって工具を武器にしてますねw

>>818・・・それは静岡的な意味? それとも約束された勝利の釘抜き的な意味?


あと……今まで隠してましたが実は私、型月厨なんです。あと鍵っ子でもあるんです。
さておき、とりあえず今回で終わらせたいな。そんじゃボチボチ投下!
820 :第⑥,5話―――香焼「必然?」 サーシャ「縁(えにし)?」 [saga]:2011/10/04(火) 20:54:34.98 ID:cS565wnB0
―――……その一本を持ち、店主に渡す。


香焼「やっぱりバールにしたんだ」ジー・・・

サーシャ「はい。第1の感想ですが、やはり一番しっくりくる得物です」スッ・・・

店主「金梃(かなてこ)か……ふーん」スッ・・・


見目はバール。釘抜き……大分年季が籠っている。


サーシャ「第2の確認ですが、これを貰っても良いのですか?」

店主「うーん、ちょっと貸して」ジー・・・


サーシャからバールを受け取り、骨董品を鑑定する様にジロジロ見回す店主さん。
この店で取り扱ってるモノなのに、目を通していないのか?


店主「ははは、これだけの量だからね。流石に全部は知り得ないんだ。俺が店主になる前から保管してあったモノもあるし」ジー・・・

香焼「店主になる前?」

店主「おっと……とりあえず、必要になれば物(アチラ)の方から声を掛けてくれる」トントン・・・

サーシャ「……第5の質問です。それで、それはどんなモノなのですか?」

店主「どんなモノかぁ……これ自体は普通のバールだよ。九十九神にもなってないようだしね」ビィーン・・・


指でバールの中腹を弾く。しかし、先程『曰く』がある云々言ってなかったか?


店主「曰くはある。バール(コレ)は昨今、何故か『武器』として扱われる様になってきたからね」

サーシャ「ふむふむ」コクッ

店主「コレを神聖視する人数が増え、暴力行為に多用する様になってきた……俺にはその理由は分からないけど」

香焼「んー……ゲームや殺人事件で、よく取り上げられるみたいな感じっすか?」

店主「そうかもね……だけど、願いは受け取った……君に『逢う』バール(コレ)を出そうか」コンコンッ・・・

香焼・サーシャ「「え?」」ポカーン・・・


店主さんは双子に何やら指示をする。そして双子は古臭い『木箱』を持ってきた。
それを開け、中に入っていたモノを取り出す。


黒饅頭「釘……杭か?」ジー・・・

店主「ああ。どっちかといえば釘だな」フフッ


言われて気付いた。木製の……釘・杭。


821 :第⑥,5話―――香焼「必然?」 サーシャ「縁(えにし)?」 [saga]:2011/10/04(火) 21:13:44.88 ID:cS565wnB0
木製の釘・杭で思い浮かぶ『曰くつき』といえば、磔(はりつけ)用のそれらくらいだ。
主(キリスト)をゴルゴダの丘で磔にした聖釘なんかが有名だ。


店主「へぇ。キリストさんが磔られた杭を木製だと思うんだ」チラッ

香焼「諸説有るっすよ。聖釘は基本は金物だけど30本近く見つかった中の内に木製杭も有った、なんていう学者も居るっす」

店主「その話は面白そうだな。今度友人に調べさせよう」

黒饅頭「またお前の我儘にアイツがつきあわされるのか。可哀想に」

店主「アイツも相当我儘言ってるからいーの!」フンッ


饅頭さんをグリグリ潰しながら、木製の杭を床に置いた。
そして煙管を一喫……煙を吐き出す。


店主「…………、」フゥ・・・

サーシャ「……煙が」ジー・・・


先程のゴミ山(?)の中に、線を成して入っていく。


店主「……行っておいで」ジー・・・

サーシャ「第3の確認です……この先に?」

店主「ああ。目的の釘抜き(バール)さ」ニヤリ・・・


言われるがまま、再度中に入るサーシャ。
一寸後……布に包まれた先程のバール程の大きさの『何か』を持ってきた。

店主に確認を取り、それを開く。


サーシャ「こ、これは?」キョトン・・・

香焼「ええっと……ニッパー、じゃないし……ペンチでもない」ウーン・・・

店主「へぇ……『えんま』か。成程ね」フフッ

香焼・サーシャ「「えんま?」」ポカーン・・・


『えんま』というと、仏教ヒンドゥー的な『閻魔(ヤマ)』しか出て来ないが。


黒饅頭「ヤマさま……良い度胸じゃねぇの!」ザッ!

店主「そんなコアなネタ分かる人いないから黙ってろ。まぁその所縁で正解だよ。『えんま』は閻魔大王から名がきてる」ジー・・・

サーシャ「……えっと、色々意味が分かりません」タラー・・・


まずコレは何なんだ? サーシャは『バール』を所望した筈だぞ?

822 :第⑥,5話―――香焼「必然?」 サーシャ「縁(えにし)?」 [saga]:2011/10/04(火) 21:38:42.57 ID:cS565wnB0
じゃあ簡潔に、と店主さんはサーシャから『えんま』とやらを受け取る。
そしてその巨大なペンチ上の『えんま』を開き……間に木杭を挟んだ。


店主「こういう使用方法。用途は『和釘を抜く』こと」クイッ

香焼「あ、閻魔大王の持ってるペンチっすね!」ピーン!

店主「御名答。アレの名前はまんま『えんま』と謂うんだ」フフッ


死後、閻魔大王が罪人の下を抜くアレと考えて貰えれば分かり安かろう。
サーシャも多少は仏教ヒンドゥー今日の知識があるので納得したようだ。


店主「あくまで和名は『えんま』だ。英語に訳せば『Pincer(釘抜き)』だよ」

サーシャ「ふむ。しかし、第1の疑問ですが……何故これなのですか? バールが、と頼んだ筈ですけど」

店主「用途……まぁ君の場合は『閻魔』に近い使い方をするだろう?」チラッ

サーシャ「ぁ……なるほど」コクッ


要は拷問具、という訳だ。


店主「噂に寄れば『処刑塔の七つ道具』が得物なのだろう? それと同じくらい、これは用途に特化したモノ」スッ・・・

サーシャ「……ええ。気に入りました」フフッ


分かり易く形状を説明すると『長さ1m弱、重さ5kg強の巨大釘抜き鋏』といった感じだ。
使い方次第では相手の骨を砕けるし、肉を引き千切れるし、頭蓋をカチ割れる。
サーシャは早速開いたり閉じたり、振り回したり担いだりしている……様になってる姿が残念だ。如何見ても危ない少女だぞ。


サーシャ「ふむ、GJです。大きさを除けば完璧ですね」

店主「持ち運びに不便か……マr……丸井ー、諸井ー。大正琴用の鞄って有ったっけー?」チラッ

丸井「探してくるー!」タタタ!

諸井「それ持ち運べそうな容れ物なら良いのー?」ピタッ!

店主「うん、持ってきて」フフッ


何やらオマケがついてくるらしい。良かったね。


黒饅頭「コイツのナリは、伊達じゃねぇ! どっせえええええぇいっ!」ガンガンレオンッ! ガンレオンッ!!

サーシャ「こ、コーヤギー! 見て下さい! 饅頭さんが『えんま』を振りまわしてます!」キラキラ・・・

香焼「え!?」タラー・・・

店主「遊ぶな馬鹿なすび!!」ガー!!


黒饅頭が自分の3倍はありそうな『えんま』を振り回している……これが『物理法則無視現象』か。 
 
824 :第⑥,5話―――香焼「必然?」 サーシャ「縁(えにし)?」 [saga]:2011/10/04(火) 22:04:20.25 ID:cS565wnB0
※訂正:下を抜く ⇒ 舌を抜く  ・・・なんか下品になっちまったw



 *****************************



一寸後、双子が丁度良さそうな大きさのケースを持ってきてくれた。
サーシャはそれに『えんま』を容れてみる……良い感じでピタリと嵌まった。


店主「まぁこれの対価はお酒でも送って貰うとしようか」フフッ

サーシャ「ええ。ありがとう。大事に使わせて貰います」ポンポンッ

店主「ふふっ。道具も喜んでくれるよ」


物にも魂が宿るからね、と店主は微笑んだ。


店主「さて、じゃあ最後に用途じゃなく『意図』を教えよう」

香焼「意図?」

店主「『えんま』が舌を抜く理由は知ってるかい?」

サーシャ「……私は深い所まで仏教等は知りません」フルフル・・・

香焼「えっと確か……嘘吐きの舌を抜く?」

店主「ああ。舌を抜かれるのは『三悪道(三途)』、所謂『地獄・餓鬼・畜生道』に逝く様裁かれた者だ」

香焼「……それで?」

店主「彼女は『えんま』を拷問、または武器に使うのかもしれないが……拷問具であると同時に、釘抜きでもある」

サーシャ「……よく、分かりません」フム・・・

店主「分からなくて良い。だがこの言葉を覚えておいて欲しい……『釘抜きは罪(罰)抜き』だ」


2人で首を傾げる。その様子に店主さんは苦笑し……ふと、物憂げな表情を見せた。


店主「……サーシャ。君は、今からそれを必要とする場に遭遇するだろう」

サーシャ「……第6の質問ですが、戦闘でしょうか?」チラッ

店主「教えられない……だが、かならず来る場面だ」


その場に座り込み、煙管を吹かす。


店主「その時、今の言葉を思い出せ」

サーシャ「……了解です」コクッ

店主「うん。じゃあ話は終わりだ……2人とも、少し目を瞑ってくれ。出来れば手を繋いで欲しい」

サーシャ「はい……って、うぇ!?」ドキッ!!

店主「1人ずつは面倒だからね。さぁ早く」ニヤリ・・・


良く分からないが、言われた様にする。心成しかサーシャが震えている様に思えるが気の所為だろうか―――


825 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 22:17:44.75 ID:cS565wnB0
―――……目を開けて良いよ、という声。


香焼「―――あ、れ?」ピタッ・・・

サーシャ「こ、此処は?」キョトン・・・


空き地。何も無い。ただただ広いそこに、僕らは立っていた。


サーシャ「な、え、待……ええぇ!?」ギョッ・・・

香焼「げ、幻覚……じゃないね」チラッ

サーシャ「え、あ……これ」スッ・・・


サーシャはちゃんと『えんま』を手にしている。
一体何が起こったのか分からないが……もしや転移術式か何かで飛ばされたのだろうか。
そう考えGPSを見るも、場所は変わっていない。


サーシャ「うーん……第1の感想ですが、とても不思議です。きっと彼は凄腕の魔術師だったのでしょう」タラー・・・

香焼「そう捉えるしかないね……あれ?」チラッ


『えんま』が入ったケースから紙切れが飛び出てる。


サーシャ「店主からですね」パラッ・・・

香焼「えっと……『全ては偶然ではなく必然。その然るべく来るモノから逃げてはいけない』……必然?」

サーシャ「改めて第1の予想ですが、仙人か導師の類だったのかもしれませんね」

香焼「あはは。そうかも」クスクスッ


縁があれば、また逢えるかもしれない。


香焼「さて……満足した?」チラッ

サーシャ「ええ。十二分に。良い土産話も出来ましたからね」フフッ

香焼「誰も信じてくれないんじゃない?」アハハ・・・

サーシャ「……じゃあ、貴方と私だけが知り得る第1の秘密という事で」ボソッ

香焼「え?」キョトン・・・

サーシャ「あ、いや、な、何でもないですよ」アハハ・・・///


それなら良いが……とりあえず、丁度良い時間だ。そろそろ約束の場所へ向かおう。


826 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 22:55:32.95 ID:cS565wnB0
 ―――とある5日目、PM05:30、学園都市第7学区、とある公園(イカれ自販機の在中)・・・・・



約束の公園自販機前。一応先方より前に着くのは礼儀だろうと早めに到着した。
辺りは放課後暇を持て余した学生や、野良猫がチラホラ居るだけ。


サーシャ「……大丈夫でしょうか」ハァ・・・

香焼「多分ね……ただデリケートな問題だから」


姫神さんの『血』は彼女のトラウマ。簡単な問題ではない。
だが、サーシャには『平和の為に』という理由がある。きっと無碍にはしない筈だ。

一寸後……人影が現れる。


香焼「……着たよ」チラッ

サーシャ「彼が、先ですか」ジー・・・


ウニ頭の高校生。


上条「お。居た居た! 悪い、待たせたか?」テクテク・・・

サーシャ「第1の回答ですが、そんなに待ってません……お久しぶりですね。上条当麻」コクッ

上条「うん。五和から連絡着てビックリしたけどさ。マジでサーシャ来てたんだ」ハハハ


まるで平和そうな表情。まぁもともと、裏側に関わる筈の無い人間だからな。


上条「というか……いつものコスプレ姿じゃねぇんだ」ジー・・・

サーシャ「こ、コスプ……変態!」ギロッ・・・

上条「あ、いや……あははは。えっと、そっちの方が自然だよ。なぁ、香焼」タラー・・・

香焼「え!? あ、うん……そうっすね」アハハ・・・


ぶっちゃけ、普段の服装に慣れたので、結構違和感あります。


サーシャ「第1の提案です……2人纏めて新しい『杖(えんま)』のカカシにしてやりましょう」ジトー・・・

上条「はい?」タラー・・・

香焼「さ、サーシャ! ジョークだって! ジョーク!」アタフタ・・・

サーシャ「……改めて第1の意見ですが、ゲスい冗談は嫌いです。言葉を選んでください」ジトー・・・


やれやれ。別に僕らが悪い筈じゃないんだけどなぁ。

827 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 23:17:14.54 ID:cS565wnB0
その後、ベンチに座り一服しながら姫神さんを待つ事に。


上条「ところで、そのケース何だ? バイオリン?」ジー・・・

サーシャ「第2の回答ですが、先程言った新しい『杖』です」

上条「あー……前見たバールとかか」タラー・・・

サーシャ「いえ。『えんま』です」コクッ

上条「えっと……よく分からないです」ポリポリ・・・


練乳サイダーというゲテモノ飲料を飲みながら、上条さんは小首を曲げた。それ美味しいんですか?
因みに自分はムサシノ牛乳(缶)で、サーシャは濃厚パンプキンジュース。相変わらず碌なモノが置いてない。


上条「まぁいいや。そういう類のモノなら見たくないよ……おっかねぇ」ハハハ

サーシャ「ふむ……では第1の質問です」ニヤリ・・・

上条「ん?」

サーシャ「彼の、紙袋の中身は気になりませんか?」フフフ・・・

香焼「ぶっ!!?」ダラダラ・・・

上条「紙袋って……セブンスミストの? 何か服買ったのか?」チラッ


あの……サーシャさん?


サーシャ「はい。彼に『お似合いの服』ですよ」ニヤニヤ・・・

上条「へぇ。何買ったんだ? いつもパーカー着てるけど、そういうの以外か?」ジー・・・

香焼「うわあああぁ!! の、覗かないでええぇ!!」キャアアァ///

上条「良いじゃんかー! 見せろよー」ウイウイ!


肩を組んで僕を抑え込む上条さん。止めて下さい! 社会的に死んじゃいます!


香焼「や、止めてえええぇ! は、恥ずかしいとかそういう次元じゃないんすよおおおぉ!!」イヤアアァ///

上条「大丈夫だって。五和達には内緒にしといてやるからさ。ちょっとだけ、ちょっとだけ」グニグニ・・・

香焼「ふぁ、ふぃふぁふぇふふぉおぉ! (い、いやですよぉ!)」ウググゥ///

サーシャ「…………、」イラッ・・・


頬をムニムニ抓んだり伸ばしたりしてくる上条さん。
あと、何故か目が座ってらっしゃるサーシャさん。何で機嫌悪そうなの? 貴女が嗾(けしか)けたんでしょうが!


サーシャ「や、やっぱ駄目です! 第1の忠告ですが、コーヤギーから離れなさい!」ムキー!

上条「えー。ちょっと見るだけだってば」ツンツン・・・

香焼「か、上条ふぁん。(頬っぺた)弄り過ぎっふよぅ」ムニュニュウ・・・

サーシャ「」プツン・・・


何を考えたか、鞄から『えんま』を取り出……さずに、ハンマー投げの要領で僕らにそれをブン投げてきやがった。
緊急回避。当たり所が悪ければ本当に死んでましたよ、ええ。

828 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 23:37:05.36 ID:cS565wnB0
結局、野郎2人して正座させられ『同性愛』が如何とか何とか説教されました。マジ意味不明。


サーシャ「―――……ったく。油断も隙も有りませんね。同性にまで旗建を行うとは」ブツブツ・・・

上条「あのー、サーシャさん……私めには何故に怒られているか理解できないのですけど」ハァ・・・

香焼「……自分もっす」ヤレヤレ・・・

サーシャ「お黙る!」ゲシッ! ゲシッ!

香焼「あべしっ!」ウワッ!

上条「おわっ!」グヘッ!


僕の頭を踏まれた……やる事がアニェーゼ化してますよ。
てか何故上条さんを踏まない!?


上条「こ、こらこら。友達の頭をそんな風に……って……あー」ダラダラ・・・

サーシャ「何ですか?」ジトー・・・

上条「足、降ろした方が……色々、丸見えですよ」コホンッ・・・

サーシャ「」ボンッ////////////////////////////////////////////////


咄嗟にスカートの裾を掴むサーシャ。しかし何故か僕の頭から足を退けない!


サーシャ「ど、退けたら見るでしょう!」カアアァ///

香焼「痛たたたたぁ! み、見ないよ!」イデェ!

上条「あーえっと……今の内に紙袋の中身見て良いか?」チラッ

サーシャ「お好きにどうぞ」フンッ!

香焼「何考えてんだぁあ痛たたたたたたぁっ!!」グリグリ・・・

上条「サーシャさん。あんまりグリグリやるとまた下着が見えますよ」ヨイショット

香焼「よ、余計な事を言わないたたたたたたっ!!」グシャッ!

上条「まぁ上条さんは今更パンツ一枚くらいじゃビクともしませんけどねー。さて、と……うわぁ……マジか?」アハハ


アンタは女性のパンツ見慣れ過ぎなんです! てか中身見やがった!!?


上条「あー……香焼、遂にそっちに走るのか」タラー・・・

サーシャ「ふんっ。第2の忠告です。これで分かったでしょう! 貴方にはコーヤギーに旗を立てれません!」ムンッ!!

香焼「どういう理屈だ!! ってかいい加減解放してよぉ!」グヌヌ・・・///


各々勝手に満足した様だ。何で僕だけ不憫な目に……こういうのは貴方の役目でしょう、上条さん。

829 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/04(火) 23:56:32.30 ID:cS565wnB0
さておき、姫神さんが来る前に真面目な話をしておこう。
砂を払い、サーシャにその旨を告げる。


サーシャ「そうですね……上条当麻。第2の提案ですが、そろそろ今回の件をお話しておきます」チラッ

上条「ん。あいよ」

サーシャ「では改めて……第1の質問です。今回の件は、何処まで聞かされていますか?」

上条「いや全然知らないぞ。サーシャが俺に用事有るって事だけ聞かされた」

香焼「土御門からは何も?」

上条「え? アイツも関わってるのか?」


まったく知らないと……一から説明か。
サーシャは言葉を選びながら、簡潔に今回の要件を伝えた。


サーシャ「―――……以上です」

上条「え、あ、うーん……もるえすとら? MVR? 吸血鬼? 魔術師?」ポカーン・・・

サーシャ「貴方という人は……すいません、コーヤギー。第1の願望ですが、代わりに簡単な説明を」ハァ・・・

香焼「あ、うん。とりあえずロシア近隣国の紛争を再戦させない為に、姫神さんの『血』が必要なんすよ」コクッ

上条「あー、成程な……姫神のって……例の『吸血殺し』か」ジー・・・

サーシャ「肯定です……第1の仮説として、問題の魔術師は『死徒』化しているかもしれないのです」


一応、簡単に死徒の説明もする。
人間の身で魔術を極めるには限界がある。故に人であることを辞め、バケモノに生り下がった輩をそう呼ぶ。


上条「……そいつに姫神の『血』が効くのか?」

サーシャ「確証は有りません……ですが第1の状況として、最早頼るしかない現状になっています」

上条「逼迫してるって事だな。もしアレなら俺が手伝うぞ。まぁ俺如きで退治できる相手ならな」ハハハ

サーシャ「そ、それは嬉しい話ですが……遠慮します」


貴方が動くと余計大変な騒ぎになるんです。
あと死徒は肉体的にも人間を超越しているので、色々危険でしょう。


サーシャ「兎角、第1の要望として、交渉の際に『吸血殺し』を説得して頂けないでしょうか?」ペコッ

上条「うーん。まぁ姫神次第だな。アイツの言い分も聞きたいしね」


尤もな事を言う。とりあえずは彼女を待つしかないという訳だ。


830 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 00:12:58.37 ID:svC+LibI0
 ―――とある5日目、PM06:10、学園都市第7学区、とある公園(イカれ自販機の在中)・・・・・




6時を回り、数分後、二つの影が現れた。
一つは『吸血殺し』……姫神秋沙さん本人。もう一つは……意外な人物。


香焼「え、あ……淡希さん」キョトン・・・

結標「……こんばんは」テクテク・・・

サーシャ「知り合いですか?」チラッ

香焼「うん」コクッ


もしかして、都市側の監督役か。


結標「そうね。まぁ秋沙のSPってところかしら」フフッ

姫神「何がSPよ。ドジっ娘属性のくせに。頼りないたったらありはしない」ハァ・・・

結標「ヴぁっ!? わ、私はバリバリの敏腕女仕事人よ!」ムムム!

姫神「はいはい」フッ・・・


対称的な2人。だけど、相変わらず仲良いな。


姫神「さて。それで……上条君をメッセンジャーに使ったのは。どなた?」チラッ

サーシャ「私です。初めまして、ロシア成教殲滅白書(Annihilatus)の修道女、サーシャ=クロイツェフといいます」ペコッ

姫神「ロシア……遥々遠くから。お疲れ様ね」コクッ

サーシャ「いえ、仕事ですから。では早速、第1の説明を。今回私が貴女を尋ねたのは―――」


サーシャの説明が始まった。
先の上条さんへの説明とは違い、懇切丁寧、隅々まで詳細を伝えている。まるで会議の企画説明だ。


結標「うーん……ねぇ、香焼くん」チラッ

香焼「はい?」

結標「もるえすとら? って何処?」キョトン・・・

上条「あ、うん。俺も気になってた。ロシアの何処ら辺だ? シベリアの方?」ポカーン・・・


少しは文系も勉強しましょう。場所はうろ覚えでも、せめて国の名前は間違いない程度に。
あと淡希さん……四国4つ言えるようになりましたか? 今の僕はそれだけが心配です。

831 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 00:39:52.57 ID:svC+LibI0
自分がチョークで地面にざっくりとユーラシア大陸を描き、モルドバの位置を説明し終えた頃、アチラの説明も終わった様だった。
予想通り、姫神さんは複雑な顔をしている。


サーシャ「―――無論、貴女自身がモルドバに来てくれとは言いません。可能であれば『血』を提供して頂きたいのです」ペコッ

姫神「…………、」ジー・・・


無言で虚空を見遣る姫神さん。ふと……胸に着けたケルト十字を取り出した。


姫神「そいつは。本当に吸血鬼?」チラッ

サーシャ「第1の回答ですが……絶対、とは言い切れません」タラー・・・

姫神「そう」ジー・・・

サーシャ「ですが、第1の解析として『血肉を喰らうモノ』であるのは確かなのです」

上条「ふーん……姫神の『吸血殺し』って、吸血鬼にだけ効くのか?」

姫神「え?」チラッ

上条「いや。前にインデックスに聞いた事があるんだけど、吸血鬼って親吸血鬼とか子吸血鬼ってのがいるんだろ?」


所謂、ゾンビとかグールとか言われる下級の化け物だ。
親とは『真祖』と呼ばれる貴族(伝承ではそう定義付けしている)や先程話した死徒なんかがいる。


姫神「……どっちも効果ある。須く。灰に」ジー・・・


村一つを壊滅させた……彼女のトラウマ。


サーシャ「……では、第1の質問です。『吸血種』には?」

姫神「霧ヶ丘(女学院)に居た頃の実験では。ヒルや蚊には効果が無かったわ」

サーシャ「そういう動物ではなく……魔術的な」

姫神「全く分からない。試した事が無いもの」


まず試す機会すら無いし、試そうとも思わないだろう。


サーシャ「ふむ……では失礼を承知で正直に告げます。第1の願望ですが、これは賭けです」ジー・・・

姫神「ええ。分かるわ」コクッ

サーシャ「貴女の『血』で紛争の再発を止めれるかもしれない。だけど、まったく無意味かもしれない」

姫神「……分かってるつもり」コクッ


分かっていても……抵抗はあるに決まってる。彼女の『力』を使えば、そこには悲劇(灰)しか残らないのだ。

832 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 00:54:18.69 ID:svC+LibI0
もうこれ以上サーシャには説明のしようが無い。あとは彼女の決断を待つだけとなった。


姫神「……上条君」チラッ

上条「ん」ジー・・・

姫神「如何思う」

上条「……お前の好きにすべきじゃないか」コクッ


しかし、答えは出ないだろう。


姫神「じゃあ貴方が私の『力』を持ってたら。如何する?」

上条「え? うーん……如何だろう。多分、力とか関係無しにその場に出向いちゃうんだろうなー」ハハハ


確かに、と僕とサーシャと姫神さんは苦笑した。


上条「でもまぁ、単純に考えれば……その『力(血)』で争いが止まるかもしれないし、助かる人達が居るかもしれないんだろ?」

サーシャ「ええ。ただし、賭けですが」

上条「それでも何もしないよりは良いさ。俺はきっと動いちゃうよ。まぁ血を渡すだけっていう他力本願になるかもだけどね」ハハハ

姫神「アンタ簡単に言うわね」ハァ・・・


でも、それが上条さんだ。


姫神「……ロシアの十字教は。信用できるの?」

上条「ロシア云々は知らないけど、サーシャは信頼できるんじゃないか? なぁ、香焼」チラッ

香焼「ぇ……はい。彼女が監督すれば、貴女の『血』は悪用される事は無いっす」コクッ

サーシャ「誓いましょう。決して悪用しないし、させません」コクッ

姫神「……そう」ジー・・・


暫時、無言。


姫神「一つ……お願い」ジー・・・

サーシャ「え?」

姫神「この世には。良い吸血鬼も沢山居る」サラッ

香焼・サーシャ「「っ!!?」」ギョッ・・・

結標「……何言ってるのかさっぱりだわ。ゲームの話?」ポカーン・・・

上条「まぁ、色々あるんですよ」アハハ・・・


事の真偽は別として、彼女は吸血鬼を『知っている』らしい。

833 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 01:25:19.17 ID:svC+LibI0
彼女の説明は続いた。


姫神「彼らは人と共存している。だから。貴方達が心配する『吸血鬼が魔術を覚える』とか。そんな馬鹿な話は無いから」

サーシャ「……そ、そうなのですか」キョトン・・・

姫神「勿論。貴方達が想像する様な吸血鬼(化け物)も居る。でも勘違いしないで。人間に善悪がある様に。彼らにも善悪がある」

上条「つまり、『血を吸う』って事だけが人間との違いか?」

姫神「私から言わせれば。吸うじゃなく『飲む』だと思える。あくまで分けて貰った血を。定期的に摂取するだけ」


アルコール依存症の人間だって、禁断症状が起きた時に少量のアルーコルを摂取しなければ危ない。
それと同じで生まれながらの吸血衝動を抑える為に必要な『薬』の様なモノだと彼女は告げた。


姫神「兎に角。殆ど人間なの。ただ人間と少し違う生理があるだけで。迫害されてしまう……だからひっそりと暮らしてる」

上条「へー……詳しいんだな」

姫神「自分の『血』に関係する事だもの。嫌が応にも勉強するし。調べるわ」フフッ・・・


乾いた笑み。


姫神「話を戻すけど。知っての通り……私の『血』は彼らにとって猛毒」

サーシャ「はい。存知でいます」

姫神「だから怖いのは……モルドバの隣。ルーマニアに居る吸血鬼(人々)の事」

サーシャ「え」タラー・・・

姫神「人間と混じって普通の生活をしている吸血鬼が居る可能性だってある。『血』は。彼らの吸血衝動を惹き起す」


つまり……無関係の一般人(吸血鬼)に迷惑を掛ける可能性がある、と。


姫神「約束して。『一般人』には迷惑を掛けないって」

サーシャ「ど、努力はします。ただ、その、第1の困惑ですが……私共には正直、理解しきれない話でもある」アタフタ・・・

姫神「分かってる。魔術師は彼らを認めたがらないものね。でも貴方達は彼らを恐れ過ぎよ。私からすれば魔術師の方がよっぽど怖いのに」

香焼「因みに……死徒については知ってるんすか?」

姫神「勿論。好き好んで『病気(迫害対象)』になる魔術師(愚者)でしょ。愚の骨頂よね」

サーシャ「では第2の質問です。死徒には、効果がありますか?」

姫神「これも試した事無いけど……多分。有ると思う。アイツらは身体の生理構造を無理矢理吸血鬼に寄せてる筈だから」

サーシャ「っ!! で、では、確率が上がります!」グッ・・・

姫神「喜んで貰えても正直。嬉しくないわね」クスッ・・・

サーシャ「あ、す、すいません」タラー・・・


しかし、交渉は上手くいきそうだ。


834 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 02:15:30.24 ID:svC+LibI0
その後サーシャと姫神さんは『血』の取り扱いやアバウトな効果範囲の確認をして、交渉を終える。
因みに、上条さんと結標さんは紙袋の中身を広げたり、自分に着せようとしたり馬鹿やってた……帰れお前ら。


姫神「―――……とりあえず。こんなところ。もし分からない事があれば直接電話して。私が直接指示を出すから」

サーシャ「はい。協力感謝します」ペコッ

姫神「ううん。私の力が役に立てる機会なんてそうそう無いから……誰かの為に使えるっていうのも。良い事なのかもしれない」

サーシャ「そう言えってもらえると助かります」


それでは、と鞄から注射器を取り出すサーシャ。
今時古臭いバキュテナー入れ替えタイプを2本分、採血する。


姫神「っ……今度機会があったら。銃(ガン)タイプにして頂戴」イツツ・・・

サーシャ「はい。善処します」コクッ

上条「終わったみたいだな」チラッ

姫神「ええ……クロイツェフさん。さっき言った通り。使い方を誤らないでね」

サーシャ「はい。第1の確認ですが、吸引紙に少量湿らせ貼り付けるだけで効果がある……でしたね?」

姫神「そう。少量含まれていれば。確実に灰になる」


禁止事項として『血』の散布、バラ撒きをしてはいけないらしい。『一般人』も巻き添えにしてしまうからだとか。


姫神「悪者を。退治する為だけに使う事。一般人(普通の吸血鬼)は見逃す……OK?」

サーシャ「了解です。第2の確認ですが、余った『血』は魔術処理の下、消し去ります」コクッ

姫神「うん。もし約束を破ったら……『何が起きても』保証できないわ」

サーシャ「分かっています。国一つがゾンビだらけになられても困りますからね」タラー・・・


吸血衝動を抑えられなくなった吸血鬼は当たり構わず暴走を始める。
そして人間を喰らい眷属(ゾンビ)にし、ネズミ算式に増えていく……まさに生物災害(バイオハザード)だ。
そうなったら最後。増殖を止める為に、核でも用いなければなるまい。


香焼「姫神さん、優しいんすね……その……彼らに襲われたのに」

姫神「生存本能よ。人間が黒死病(ペスト)を撲滅させようとしたのと同じ。私は彼らにとって災害悪そのものだから」

サーシャ「貴女は、強い人ですね」

姫神「ううん。逃げるのに疲れただけよ。運命って言葉にしちゃうと臭いかもしれないけど……そういう星の下に生まれちゃったんだ」


『原石』の宿命なのかもしれない。軍覇に聞かせてやりたい悟り話だ。


姫神「きっと意味があるんだって。上条くんの『右手』の様に。私の『血』も。ね」フフッ

上条「うん……そうだな」コクッ

結標「ふーん……やーい。秋沙のメルヘン女ー」ワーイ

姫神「黙れメンヘラ女」ジトー・・・

結標「メンヘ……くっ……リアルに精神科通ってるから否定できない」クソゥ・・・


彼女は僕らに想像出来ない『何か』と向き合ってきた。幻想に近い『何か』と向き合う事で、強靭な精神を持ったのだろう。



ふむ… 
 
841 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 21:19:16.05 ID:svC+LibI0
 ―――とある5日目、PM06:30、学園都市第7学区、とあるアパート(五和宅)・・・・・




仕事の書類や資料だらけの8畳一間。そこに人が生活できるようなスペースはない。
唯一空いているのは作業用のデスクくらいで、その机に突っ伏す家主。


五和「…………、」


そして、玄関辺りから彼女を見詰める同僚兼妹分。


浦上「……命令でしょ」

五和「…………、」


ノートPCの画面に開かれている、仕事用のメールボックス。
そこに指令書、というよりも『決定事項』が書かれた報告書が送られてきていた。


五和「……何で、私じゃないの」

浦上「さぁ。まぁ筆頭(お姉)は悪い事してないからネ」

五和「勝手過ぎる……部下の責任を負うのは私でしょ」

浦上「上には上の事情があるんでしょ」


送り主は『必要悪の教会』とだけ。詳しくは最大主教ならび補佐、そして補佐次席の名前。


五和「何で……姉様が、許可してるのよ」グッ・・・

浦上「『姉様』じゃなく、女教皇様(プリエステス)ですヨ」

五和「……納得いかない」ギリッ・・・

浦上「そんな五和の性格を上も知ってるから、貴女にハンコを押させる様な真似させなかったんでしょ」


立ち上がり、折り畳み式の『矛』を持って―――


浦上「ねぇ……『尚、邪魔した場合はサーシャ=クロイツェフを排除する』……だってさ。戦争起こるし、悲しむだろうネ」


―――……力無く、座る。


五和「……如何したらいいの」

浦上「さぁ。祈るしかないんじゃないカナ」クルッ・・・ガチャッ・・・


それ以上何も言わず、浦上はアパートから出て行った。
五和は『その場から動くな』という命令を……姉貴分から出された冷酷な命令を、ただただ恨んだ。


842 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 21:41:46.35 ID:svC+LibI0
 ―――とある5日目、PM07:00、学園都市第7学区、とある公園(イカれ自販機の在中)・・・・・




交渉は終わった。あとは『血』を持って第3~第14学区間のホテルに持っていくだけだ。


サーシャ「ええ……これで終わりです」ホッ・・・

香焼「お疲れ様」フフッ


彼女も安堵の笑みを溢す。


サーシャ「しかし姫神秋沙……改めて第1の確認ですが、本当に謝礼は要らないのですか?」チラッ

姫神「ええ。約束さえ守ってくれれば。それで良いわ」

結標「バッカねぇ。折角相手が下手に出てるんだからハチャメチャな要望してやりなさいよ」フフーン

姫神「貴女みたいに。がめつく無いのよ。ボランティアは大事でしょ」

結標「ちぇっ。私だったらとりあえず礼金の交渉しとくのにー」


まったく、結標さんは相変わらず残念な美人さんです。


結標「さーて! そんじゃ帰りますか。さっさとしないと暴食シスターに肉全部喰われちまうわよ」ヤレヤレ・・・

姫神「むっ。それは困る。今日は鉄分が沢山欲しい」ムンッ!

上条「あのー……上条さんも御愛想させてもらえないでせうか? お肉食べたいなー、なんつってー」ジー・・・

結標「香焼くんなら良いわよ。というか来なさい」フフフ・・・

サーシャ「ハ?」ギロッ・・・


サーシャさん、何故僕を睨むのさ。鞄から『アレ』取り出そうとするの止めて下さい。


姫神「やれやれ……それじゃあさっきの謝礼の件。焼肉パーティーセット2パック。できればレバーとホルモン多め。お願いできる?」チラッ

サーシャ「え?」キョトン・・・

姫神「賑やかな方が楽しいでしょ。あと。小萌先生も喜ぶ」フフッ

上条「姫神さんマジありがとおおおぉうっ!!」ヤッホーゥイ!!

結標「チッ……ウニ条! アンタは豚バラだけよ! あと食べながら暴食シスターの監督しなきゃダメだかんね!」ビシッ!


どうやら僕らも食べに来いという事らしい。姫神さん、良いお姉さんだ。

843 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 22:19:31.44 ID:svC+LibI0
御誘いは嬉しいが、まずはサーシャの用事を済ませねばなるまい。
8時過ぎでも良いか、と尋ねると『上条君がインデックスを押さえ切れたら。ね』と苦笑された。上条さん、真っ白ですよ?


姫神「ふふっ。冗談。ちゃんと待っててあげるから。早く用事済ませて小萌先生のお家で待ってる」

結標「ウニ条! いや、監督係! アイツのこと1時間半くらい我慢させなきゃダメよ!」ビシッ!

上条「死んでしまいます」キリッ


上条さんの為にも、急ぎましょうか。


サーシャ「ええ。では改めて第1の提案ですが、タクシーを捕まえて……―――っ!!?」バッ!

香焼「っ!!」バッ!!

上条・姫神・結標「「「え?」」」キョトン・・・


気配……いや、人払いの結界だ。
誰だ? まさか都市側の人間ではあるまい。交渉権は認めた筈だぞ。


サーシャ「複数の気配……魔術師か」キョロキョロ・・・

結標「チッ、敵なの? ったく……上条当麻。秋沙の盾くらいにはなりなさいよ」スッ・・・

上条「え、な……何事だ」タラー・・・


そして、足音。


結標「……は?」ポカーン・・・


拍子抜け。我々一同の知り合いだった。


土御門「まったくお前らよぅ……誰が聞いてるか分からねぇんだから結界ぐらい張って交渉しろよな」ポリポリ・・・

上条「え? 土御門?」ポカーン・・・

土御門「せいかーい。一応、そこの破廉恥女同様に『監督者』だぜぃ」ニコニコッ


飄々と此方に歩み寄って来る土御門。今更何だ?


土御門「いやはや。無事交渉は成功したようだな。おめでとう、サーシャ=クロイツェフ」チラッ

サーシャ「はぁ」ポリポリ・・・

土御門「カミやんと姫神にも迷惑掛けたなぁ。『魔術サイドと科学サイドのイザコザ(コッチ)』の話なのに申し訳無いにゃ」ハハハ

上条「いや、別にこの程度なら構わないさ。話し合いで済んだ分、いつもより楽だったぞ」

姫神「……そうね。彼女が約束さえ守ってくれれば。このくらい如何って事ないわ」

土御門「そう言って貰えると助かるぜぃ。あ、結標も一応御苦労さん。まさかボランティアで姫神の警護してくれるとはねぇ」ニヤニヤ・・・

結標「ヴぁっ!!? ち、違っ!!」カアアァ///

姫神「……ふふふ」クスクスッ


この人も何だかんだで友達想いなんだなぁ。まぁ基本『日常』を崩されるのが嫌いなタイプだからね。

844 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 22:31:43.52 ID:svC+LibI0
しかし、違和感。
何故このタイミングで出てきたのだろう。まさか都市側が新しい方針でも出したのか。


土御門「さて……サーシャ=クロイツェフ。確認するが、終わったんだよな?」チラッ

サーシャ「第1の回答ですが、殆ど終わりました。あとは『同志』に『血』を届けるだけです」

土御門「あいよ。十分十分」コクコクッ

サーシャ「……第1の疑念ですが、まさか私より先に『同志』を見つけ出して『始末』してたりしませんよね?」ジトー・・・

土御門「いやぁまさか。都市側は交渉を容認しただろ。『血』をロシアに運ぶまでが約束なのに、裏切ったりはしないぜぃ」クイッ・・・

サーシャ「……信じましょう」コクッ


この道化師の言う事は少々不安だが、今は信じるしかない。


結標「ところでアンタ、何しに来たのよ。まさか『一緒に小萌先生ん家で飯食うにゃ!』とか言い出さないわよね?」ジー・・・

土御門「そいつぁ魅力的な提案だが、生憎『後片付け』が残っていてなぁ……残念ですたい」テクテク・・・

サーシャ「後片付け?」ポカーン・・・

土御門「そうそう……『ケジメ』ね」スッ・・・

香焼「え――――」



ポスッという、呆気無い音が……3回。



香焼「――――」

一同『え?』キョトン・・・


皆が固まっている。それから……何だか、寒くて……暗くて…………痛くて……怖くて…………―――


845 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 22:48:14.68 ID:svC+LibI0
 <サーシャside>


何が起きたか理解が出来なかった。
土御門がゆっくりコーヤギーの背後に歩み回ったと思うと、糸が切れたマリオネットの様に……コーヤギーが倒れた。

唖然。思考が、回らない。

うつ伏せに床に転がった彼を見遣ると……肩、背中、臀部に3ヶ所……穴が開いてた。


サーシャ「……は?」キョトン・・・


血が出てる。


結標「な、に」チラッ

土御門「…………、」ジー・・・


土御門の手には……サイレンサー付きの拳銃が、煙を上げている。
よくよく見ると、転がるコーヤギーの脇腹辺りに、空薬莢も転がってる。


香焼「――――」

姫神「……っ!! 淡希! 救急車!」バッ!!

結標「え、あ……な、んで」ダラダラ・・・

土御門「『後片付け』も……終わりだ。あとは好きにしろ」ガチャッ・・・


何、が。


上条「つ……土御門おおおおおおおおおおおおおぉっ!!」ガッ!!

土御門「怒るなよ、部外者。そう何度も殴られてやんないぜ」サッ・・・ビイイイィ!!


上条当麻の右ストレートを避け、電子笛の様な物を高らかに鳴らす道化師。
刹那……銃を構え周りを取り囲む、大人数のクローン兵(シスターズ)。あの優男(海原)も中に居た。


結標「う、海原!!?」ギョッ・・・

海原「…………、」ジー・・・

上条「っ……道理でおかしい筈だ。『結界』って言葉を聞いた瞬間、違和感があった……お前の仕業か、海原!!」ギロッ・・・

海原「……はい。僕の魔力で展開した結界です」

土御門「こういう時は俺の代わりに働けるお前が重宝されるぜぃ」クイッ・・・


展開が、分からない……とりあえず……コイツら全員……―――殲滅しよう。


846 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 23:09:27.85 ID:svC+LibI0
鞄から『えんま』を取り出し、始めに土御門から潰そうとした瞬間、銃口を……コーヤギーに向けた。


土御門「因みに、取り囲んでる連中の銃口は香焼に向いてるぜ」ジー・・・

サーシャ「っ!!」ギリッ・・・


姫神秋沙が止血を試みているコーヤギーの様子を伺う。
まだ、生きてる。致命傷は免れた様だ。


上条「……如何いう事だ」ギロッ・・・

土御門「なぁに。ケジメだよ……英国側としてのな」クイッ・・・

サーシャ「英、国……だと」ギロッ・・・

土御門「ああ……教えてやろう。この件はステイルも神裂も……承認済みだ」ジー・・・

一同『っ!!?』ギョッ・・・


嘘だ。


サーシャ「う、嘘です! マグヌスは、あんなんでも……コーヤギーの大事な友人です! というか唯一の男友達でしょう!」ギロッ・・・

結標「神裂が、承認? じょ、冗談でしょ……アイツは、香焼くんの……お姉ちゃんなのよ」アタフタ・・・

土御門「そうか。『だから、何だ?』」ジトー・・・

上条「っ……私縁の前に……必要悪の教会(ネセサリウス)の人間って事かよ」ギリリ・・・


彼らは、コーヤギーの上司……駒として動かす、プレイヤー。


サーシャ「な、何でコーヤギーが!! 何で私を直接狙わない!!」グイッ・・・

土御門「勿論、一から説明してやる……だがその前に」チラッ

サーシャ・上条・結標「「「っ」」」バッ・・・



姫神「っ……血が。止まらない……電話も繋がらない!」グッ・・・

香焼「―――」



土御門「そろそろ、死ぬかな」ジー・・・

上条「っ!! 海原あああぁっ!! 結界を解けええぇ!!」ギロッ・・・

海原「一般人に見られますよ。それに、電波妨害は妹達の力です」

上条「ぐっ……御坂妹!! 居るんだろ! 香焼が死んじまう! 止めてくれ!」バッ・・・

御坂妹「っ……土御門(クライアント)」チラッ

土御門「まぁ良いだろう。だが銃は降ろすな」チラッ


了解、と頷くクローンの一体。姫神秋沙を見る……やっと携帯が繋がった様だ。


847 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/05(水) 23:40:16.64 ID:svC+LibI0
姫神秋沙が救急車を要請している間、もう一人の女がコーヤギーの介抱を試みる。


結標「一先ず、弾を……転移させれば」ジー・・・

土御門「そんな事をすれば『蓋』が無くなって多量失血で死ぬぞ……あと、一応『呪』が仕込んである弾だ」

サーシャ「な……の、呪い?」タラー・・・

土御門「安心しろ。致死性のある呪いじゃない……精々、半身不随くらいで済むだろう」ジー・・・ツツー・・・


何を抜かしやがる。冗談じゃない。


上条「お前、自分の魔力をその呪いに……説明しろ」ギロッ・・・

土御門「順を追おう……まず、そいつがサーシャ=クロイツェフに手を貸してしまったのは紛れも無く『方針会議前』の事だ」ジー・・・

上条「……は?」

サーシャ「っ……し、しかし! 彼は何も知らなかった! そう連絡が行っている筈です!」

土御門「ああ。伝わってる……だが、そんな『詭弁』を都市側が納得するか?」

サーシャ「っ……外道が」ギリリ・・・

土御門「何とでも言え。勿論、潜入教徒の監督者として……俺にもペナルティはある。だがそれは教えてやらない」

上条「……香焼が、何をしたんだ」ジロッ・・・

サーシャ・土御門「「…………、」」


私は一昨日の晩の事をざっくり説明する。話を聞き終えると、上条当麻は……再度土御門を睨んだ。


上条「何が、悪いんだよ」ギロッ・・・

土御門「……そいつは組織の人間だ。そして、組織の意志に反する行動を――」


上条「友達助けるのを躊躇う馬鹿が居るかっ!!」ガンッ!!


土御門「――……、」

サーシャ「か、上条……当麻」


静寂。聞こえるは、女性の嗚咽だけ。


上条「……姫神。電話は?」

姫神「よ。呼んだわ。もうすぐ来る筈……でも此処に入って来れるの?」チラッ・・・

結標「うっ……うぅ……っ……ごぅやぎくぅん……しっかりしてよぅ」ウワーン・・・

土御門「……残念だが、救急車は来ない。暗部(此方)の関係車で病院に運んでやる」

上条「じゃあさっさとしろ!」

土御門「まぁ待てよ……『呪い』の効き目が……っ……広がってからだ」タラー・・・


サングラスの奥から血が流れる。自らを『贄』にして、呪いを掛けているというのか。

848 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/06(木) 00:50:31.09 ID:FRrrVr/20
だが、彼の身体が蝕まれるのをおめおめと見逃す訳が無かろう。
一旦冷静さを装い、土御門に告げた。


サーシャ「第1の警告です……全力全開で、暴れてやりましょうか?」ギロッ・・・

土御門「その脅しには乗らん……逆に、ヤツの死期を……っ……高めるだけ、だぞ」ダラダラ・・・チラッ


クローン達の銃口。


上条「ふざけんなよ! こんな事して誰が得する!!」バンッ!!

土御門「さぁな。だが……英国と都市のメンツが……いくらか回復するんじゃないのか?」フゥ・・・

結標「う、ぅ……早く……助けてよぅ」ポロポロ・・・

姫神「っ……いい加減にしなさい! 土御門くん。貴方のやってる事は。狂ってるわよ」ギロッ・・・

土御門「自覚済みだ……あと結標、いい加減香焼から離れろ。悪いが、お前はコッチ側にいて貰わないと困るんだ」ダラ・・・ダラ・・・

結標「ぅぅ」フルフル・・・

土御門「チッ……情弱が」ジトー・・・


一体……如何すれば良い。何も出来ないままなのか。


上条「っ! 俺が香焼の傷口を触れば!」ダッ!

土御門「成程なるほど。まぁ『呪い』は解けるかもしれねぇが……それだけだな」ジー・・・

サーシャ「はい?」

土御門「媒介として『薬(毒)』も塗ってある……俺もそれと同じ『薬』を飲んで、呪いを共有させているからな」ダラダラ・・・

サーシャ「心中を!?」

土御門「尤も、俺は何れ回復する……仮にも『能力者』でもあるからな」ダラダラ・・・


しかし、コーヤギーは普通の人。魔術師としては低レベル。
呪いの効力がどれ程かは分からないが、半身不随にでもなれば……タダの『障害者』になってしまう。


結標「ぅ……っ……、」グッ・・・ギュッ・・・

土御門「おっと結標。空間転移(テレポート)なんかするなよ? てめぇまで『始末』する羽目になる」ギロッ・・・

結標「ぁ、ぅぅ……っ」ポロポロ・・・

上条「勝手過ぎる……香焼にテメェらの『都合(罪)』を擦り付けて……結局、政治利用の捨て駒扱いじゃねぇか!」グッ・・・

土御門「汚い世界だ、嫌気がさす。だが誰かが『生贄(罰の対象)』にならなきゃなんねぇんだ……今回は偶々香焼だったんだよ」ジー・・・

結標「何、で……なのよ」ポロポロ・・・

土御門「残念ながら『貧乏籤(偶然)』を引いたんだ……さて、そろそろ『呪い』が回り切る。安心しろ、そうすれば病院行きだ」ダラダラ・・・


罪……罰……偶然―――

849 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/06(木) 01:12:06.36 ID:FRrrVr/20


―――残念ながら、君の対価はそういう『仕組み』だ。何が如何転んでも……血を見るだろう。



サーシャ「……っ!」ピタッ・・・



―――全ては偶然ではなく必然。その然るべく来るモノから逃げてはいけない。



サーシャ「……『えんま』」チラッ



―――君は、今からそれを必要とする場に遭遇するだろう。



サーシャ「選ばれたモノには必ず意味がある。選んだ者にも……これ(えんま)の意味」



―――かならず来る場面だ。



サーシャ「これが……必然……なんですか」ゴクッ・・・



―――その時、今の言葉を思い出せ。



サーシャ「店主の言葉……『釘抜きは罪(罰)抜き』……っ」グッ・・・



私は……彼を助けたい。

850 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/06(木) 01:28:13.70 ID:FRrrVr/20
全てが繋がる。この『えんま』の真の用途が分かった。だが……使い方が分からない。


―――必要とあらば、道具の方から応えてくれる。


サーシャ「っ!」チラッ・・・


イメージが浮かぶ……最早、試すしかない。


サーシャ「上条当麻……第1の、願望です」フー・・・

上条「何だ」チラッ・・・

サーシャ「今から私のする事を、邪魔させないで下さい」グッ・・・

上条「……分かった」コクッ


『えんま』を担ぎ、倒れるコーヤギーの下へ歩み寄る。


土御門「……何を」ピタッ・・・

結標・姫神「「え」」チラッ・・・

香焼「―――」


身体中に魔力を巡らせた後、『えんま』に集中させる。


サーシャ「フゥ……っ」グッ・・・


罪は釘。罰は杭……磔られた罪人に打ち付けられた釘を引き抜く。


海原「っ!!? な、ん……ですか」タラー・・・

土御門「っ!!?」ギョッ・・・

一同『え……、』キョトン・・・


想像する。彼に討ち込まれた罪罰、『釘(弾)』を抜き取るイメージ。
彼の真上で『えんま』を開き……『釘』を掴み……引き抜く。


土御門「な、何をしている!? サーシャ=クロイツェフ!!」ギョッ・・・

サーシャ「…………、」グググ・・・

香焼「―――…――」


まず……一つ目。何とか取り出せた。

851 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/06(木) 01:49:02.77 ID:FRrrVr/20
続けて二つ目に取り掛かる。


結標「た、弾が香焼くんの身体から、出てきた……念道力!?」ギョッ・・・

海原「っ……土御門!」チラッ・・・

土御門「し、知らねぇ……おい、妹達! あのデカい挟みみてぇなのを撃て!」グッ・・・

上条「止めろっ!!」ガッ!!

土御門「……っ」ギリリ・・・


私と背中合わせになる様に立つ幻想殺し。


上条「確かに、お前らの言い分は分かった……納得いかないが、理解は出来たよ」ジー・・・

土御門「……じゃあ退け」

上条「だけど、もう十分だろ。香焼は罪を被ったし、罰も受けた」

結標「……アンタ」ジー・・・


彼が時間を稼いでくれたおかげで、二つ目もクリア。では最後の一つ。


海原「土御門! 彼女は弾丸だけではなく『呪い』まで引き抜いています! 解呪術式……いや、概念武装です!」ジー・・・

土御門「邪魔するな、上条当麻!」クッ・・・

上条「退かねぇよ。悪いが、俺は香焼の『筋(すじ)』に賛同する。苦しんでる友人を助けるのは当然だ」

土御門「だからそういう感情論如何こうの問題じゃねぇんだよ!」ギロッ・・・

上条「それはお前らの都合だろう!」ダンッ!!


あと、少し。



上条「もしこれ以上……お前らの、都市の、英国の、政治云々下らねぇ幻想(メンツ)で……信念を貫いた香焼を苦しめるってんなら―――」



弾は終わり……あとは『呪い』だけ。



上条「―――俺が、その不抜けてフザけて馬鹿げた幻想を……ブチ壊してやる!!」ギロッ・・・

土御門・海原「「っ……、」」タラー・・・

姫神「……上条くん」ジー・・・



よし! 終わった!

852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/10/06(木) 02:18:18.22 ID:WXWtMMDQ0
あれ、引き抜いた呪いって消滅するのかな?
それとも…………!?
853 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/06(木) 03:16:07.13 ID:FRrrVr/20
『えんま』を降ろし、コーヤギーに駆け寄る。


サーシャ「コーヤギー……コーヤギー!!」ガシッ・・・

結標「ちょ、ゆ、揺らしちゃ駄目だって」アタフタ・・・

香焼「―――……、」ヒュー・・・ヒュー・・・

サーシャ「っ! い、息が安定してきた!」ホッ・・・

土御門「くっ……如何しろってんだ」ギリリ・・・

上条「諦めろ土御門……もう良いだろう」ジー・・・


あとは病院に運べれば安心だが、この状況。


海原「……土御門。此処は引いても良いかと思います」チラッ・・・

土御門「っ……少し待て」

姫神「待てない。血は止まりきってないわ。直ぐに病院へ運んであげなさい」ギロッ・・・

土御門「……撤退だ。海原、バンを呼べ」

海原「結界は?」

土御門「バンを呼んでから解け。さっさと帰るぞ」フン・・・


道化師は静かに立ち去った。優男も苦笑しながら、ゆっくり引いていった。


サーシャ「兎に角、すぐにでも医師へ!」アタフタ・・・


彼を救えます様に……――― 
 
857 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/06(木) 23:32:59.23 ID:FRrrVr/20
 ―――とある6日目、深夜未明、学園都市第7学区、とある病院・・・・・



何故か、知らない部屋の中で目が覚めた。
此処は何処だろう。あと今の時間はいつだろう……まったくもって先日のサーシャ状態だ。


香焼「……患者服?」チラッ・・・


もしかして此処は病院か?
よく見ると、服の下に包帯が巻いてある。それも一か所じゃない。


香焼「うーん……何があった?」ポカーン・・・


最後の記憶は、公園で交渉を終え……土御門が現れて、そして……3回乾いた音を聞いて……そこまでだ。


香焼「とりあえず、部屋を出よう」グッ・・・


布団を退け、床に足を降ろ―――


香焼「っ!」ヨロッ・・・


―――せなかった。何故か身体の踏ん張りが利かず、カーテンにしがみ付く形で、床に倒れた。
何とか立ち上がろうとして、壁に寄り掛かる。しかしその際、背中をぶつけ……激痛が走った。

あまりの痛さに小さく悲鳴を上げてしまう。
その時だった……部屋のドアが勢いよく開き、2人の女性が飛び込んでくる。


五和「っ!! コウちゃん!」バッ!!

香焼「つつぅ……五和?」チラッ・・・

御坂妹「何をしているのですか! とミサカは無茶する患者さんを叱ります!」ムンッ!


無茶? 患者?


御坂妹「はぁ……詳しい話は後ほど。とりあえず今はベットに戻って下さい。とミサカは忠告します」ジー・・・

五和「コウちゃん、ちょっと痛いかもしれないけどごめんね」ヒョイッ!

香焼「わぁ! ちょ、ちょっと!」アワワ・・・///


五和にお姫様抱っこされてベットに戻されてしまった。しかも人が見てるのに……超恥ずかしい。死んでしまいたい。


858 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 00:35:39.71 ID:rufkjsd30
一応抵抗したかったが身体の自由が効かない。無理矢理ベットに戻され、止むを得なく布団を被ってやる。
さて……とりあえず、現状を知りたいのだが。


御坂妹「では、今の貴方の身体について」サラッ

香焼「え? 身体?」

御坂妹「右肩甲骨および右わき腹、右臀部に銃傷。多量出血により危険な状態で病院に運ばれました、とミサカは説明します」

香焼「じゅ、重症?」

御坂妹「銃。発砲による怪我です……今は麻酔で動けない、とミサカは簡潔に述べます」


銃で撃たれた? いつ? 何処で?


御坂妹「それは……すいません。私(ミサカ)の口からは何とも」フルフル・・・

香焼「……はぁ」キョトン・・・

御坂妹「その……先生に知らせてきますね。お姉さん、あとはどうぞ、暫く2人きりで。ミサカはお暇します」コクッ

五和「……はい。御世話を掛けます」ペコッ


一礼し、部屋から出ていくナース服の妹さん。
残された五和は無言で立ち尽くしたまま。とりあえずどっか座りなよ。


五和「ん……大丈夫、なの?」ジー・・・

香焼「多分。ただ正直『浦島状態』っす。撃たれたとか言われてもなぁ」ムゥ・・・


実感が沸かない。まさに『5W1H』の説明が欲しい。あと、そういえば今何時だ。


五和「○○日(6日目)深夜3時頃……コウちゃん、倒れて6時間以上眠ってたわ」

香焼「そんなに? 6時間前って昨日の……っ!! サーシャは!? 彼女は如何なった!?」ギョッ・・・

五和「落ち着いて……彼女は無事任務を終えたわ」ポンッ・・・

香焼「……そっか。良かった」ホッ・・・


一安心。彼女が無事ならば、とりあえず他の事は如何でも良かろう。


香焼「それで……何が如何なったの?」

五和「……っ」グッ・・・


険しい顔をする五和。下唇を噛み……微かな声で呟いた。

859 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 01:04:54.82 ID:rufkjsd30
五和「……ごめんなさい」ボソッ・・・

香焼「は?」

五和「ごめんなさい……っ……ごめん、なさい」ポロポロ・・・

香焼「ちょ、な……えぇ?」タラー・・・


いきなり泣き出した。何が起こったんだ!? 僕は何か変な事聞いたか!?


五和「っ……違う……でも、ごめん」ポロポロ・・・

香焼「あ、ぅ……よ、よく分かんないけど、泣かないでよ」アタフタ・・・

五和「ん……粛、清……っ」グズグズ・・・

香焼「え」ピタッ・・・

五和「制裁……なのよ……止められなかった」グズグズ・・・


粛清? 制裁?


五和「兎に角……っ……ううぅ……香焼が、犠牲に……っ」ポロポロ・・・

香焼「……そう」ジー・・・

五和「だから……ごめんなさい」ポロポロ・・・

香焼「五和が謝る意味が分からないっすよ」ハハハ・・・


何となく察しがついた。要は今回の件の『責任持ち』が、サーシャを助けてしまった僕になったというだけの話だろう。
交渉を認めてしまった以上、都市側はサーシャを罰する事はしにくい。
かといって、この事件を『何事も無し』で片付けてしまえば、メンツが廃る。そこで見せしめ対象になったのが……僕か。


五和「うううぅ……ごめんなさい」ポロポロ・・・

香焼「泣くなよ。馬鹿みたいだ」クスッ・・・

五和「だってぇ……私が……っ……止められなかったから」ポロポロ・・・

香焼「所詮下っ端って事だよ……まぁ名誉の『鉄砲玉』さ」フフフ・・・

五和「馬鹿! そんな事言わないでよぅ……死んでたかも、しれないのに」ウウゥ・・・


多分、五和は『上』のその決断に反論したのだろう。だが無意味だった……まったく、御人好しめ。


香焼「謝るのはもういいから、そろそろ詳細教えてよ」チラッ・・・

五和「うぅ……っ……分かった」グズッ・・・


860 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 01:30:37.50 ID:rufkjsd30
涙交じりの五和が説明を始めようとした時、ガラリとドアが開く。


結標「香焼くんっ!!」バンッ!!

香焼「え、淡希さん」キョトン・・・

結標「よ、良かった……ふぇえ」ヘニャ・・・ヘニャ・・・


ヨロヨロと此方に歩み寄って来る結標さん。そのままベットの上に倒れ込んだ。
そして……布団越しに僕の足にしがみ付き、これまた泣き出す。


香焼「ちょ、待、ええぇ?」タラー・・・

結標「うわあああぁん! 良かったあああぁ……ふぇええぇ」ポロポロ・・・

香焼「あ、あのー」ポリポリ・・・

姫神「淡希。落ち着きなさい。彼。困ってるわ」ハァ・・・

香焼「姫神さん」チラッ・・・


一礼し入室してくる姫神さん。あくまで冷静。2人とは違い落ち着いた赴き。


姫神「とりあえず安心したわ……その。御見舞申し上げます。かしら?」テクテク・・・

香焼「いえ……あの、何が起こったのか分からないんすよ。今から説明して貰おうかなぁって」アハハ・・・

結標「うううぅ……土御門の糞野郎の所為よぅ!!」ビエエェン!

香焼「土御門?」キョトン・・・

五和「……香焼。落ち着いて聞いてね」ハァ・・・


自分は落ち着いてる。お前らが興奮しっ放しなんだろうが。


五和「とりあえず私が経緯を説明します……現場の状況は、2人からお願いします」チラッ・・・

姫神「ええ。任されました」コクッ


そして3人(淡希さんは終始愚痴ばかり)の説明が始まった。


861 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 01:45:48.42 ID:rufkjsd30
一寸後……話が終わる。つまり予想通りであり、下らない理由(メンツ)の所為という訳か。


姫神「余談だけど。あの後。上条君と土御門君が盛大に喧嘩をおっ始めたわ……ホント。馬鹿よ」ヤレヤレ・・・

香焼「上条さん……、」///

結標「ううぅ……今度、土御門の顔みたら……香焼くんにした様に身体中風穴開けてやるわよ」ウルウル・・・


物騒な事言わないで下さい。


結標「それにしても……神裂のヤツ、こんなに薄情者だと思わなかったわ」グズグズ・・・

香焼「え」キョトン・・・

五和「っ……結標さん……それは」チラッ・・・フルフル・・・

結標「何よ、私はアイツの事情なんか知らない。肩持ちなんてしないわよ」フンッ・・・


女教皇様が、何だって?


結標「糞も何も、香焼くんが殺されるかもしれないってのを容認したんでしょ!」ギリリ・・・

香焼「…………、」

五和「結標さん。お願いです……それ以上は」フルフル・・・

結標「悔しくないの!? 裏切られたのよ! アイツ……不良神父だって同じ様に黙認したっていうじゃない!」ギロッ・・・


ステイルも、か。


姫神「淡希……少し黙りなさい。此処。病室よ」チラッ・・・

結標「仲間を売ったのよ! 悔しくないの!?」ギリッ・・・

五和「そんなに……簡単な問題ではないんです。女教皇様……姉さんやマグヌス神父は、感情論で動ける立場の人間ではありません」

結標「そっちの事情なんか知らないっつってんの! こればっかしは上条当麻と同意見よ」フンッ・・・

姫神「まったく……すいません」チラッ・・・

五和「……いえ」


ありがとう、淡希さん……だけど、怒らなくて良いです。

862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 01:49:00.25 ID:xDA5z50mo
香焼頬染めんなww
863 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 02:01:34.94 ID:rufkjsd30
自分が組織的に悪い事をしたというのは分かっている。だけど、個人的には間違った事はしてない筈だ。
きっとそれは皆分かってくれてる……僕はそれだけで十分だ。


結標「っ……馬鹿よ……大甘よ!」ギリッ・・・

香焼「今更っすね」ハハハ・・・

姫神「そう? 私は強いと思うわよ。それに。少なくとも淡希よりは大人よ。この子」フフッ

香焼「い、いえいえ」ポリポリ・・・

結標「くぅ……と、兎に角……私は許さないから」ギロッ・・・

五和「御好きに。何と言われようが……公私混同は出来ません」ペコッ・・・


コイツから素の真面目口調を聞かされると鳥肌が立つな。


結標「……次は無いわ」フンッ・・・クルッ・・・

姫神「淡希……もぅ」ヤレヤレ・・・

香焼「あの、色々迷惑掛けちゃってすいません」ペコッ

姫神「ううん。えっと……淡希を嫌わないであげてね。あの子。友達少ないから」

香焼「勿論っすよ。今日だって感謝してるっす」フフッ


部屋から出ていこうとする寸前の淡希さんに聞こえる様、告げる。


結標「っ……今度こんな機会があったら、問答無用で私の『チーム』にスカウトするからね」フンッ・・・

香焼「自分は今の天草式(チーム)から離れないっすよ。絶対にね」クスクス・・・

結標「まったく……帰る。また御見舞くるわ。行くわよ、秋沙」テクテク・・・

姫神「んもー……それじゃあ御大事に……あ」ピタッ・・・

香焼「はい」

姫神「結構無茶苦茶な事言うけど。土御門くんの事も許してあげてね」チラッ・・・

香焼「…………、」

姫神「彼。敢えて『悪者』役やろうとするから。ホント。天邪鬼ね」ハハハ・・・


分かっている。僕は誰も恨まない。


姫神「ありがと。それじゃあ……『彼女』にも宜しく」ノシ

香焼「え?」ポカーン・・・


意味深な言葉を残して消えていく姫神さん。彼女って、何?

865 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 02:18:41.93 ID:rufkjsd30
さておき、再び2人きりになる。五和は相変わらず、ただ無言で立ち竦んでいた。


香焼「あのさ……何も気にしてないから。気に病まないで」

五和「…………、」グッ・・・

香焼「事故みたいなもんすよ。結局、怪我したの自分だけで済んだんでしょ」

五和「自分『だけ』じゃない……犠牲者『が』出てしまったわ」シュン・・・

香焼「言葉遊びっす。同じ事だろ」フフッ


まぁコイツが大人しくなるなら今のままでも良いか。


香焼「そういえば、サーシャは今何処に?」

五和「……下の待合室に来てる」

香焼「そう……起きてるかな」

五和「呼んでくるわ……あとそのまま先生の所に行って、少し話をしてきます」テクテク・・・


別に変な気遣いしてくれなくても良いのだけどなぁ……まぁ、ありがとう。


五和「……コウちゃん」チラッ・・・

香焼「ん?」

五和「女教皇様の事……カオリ姉さんの事……嫌いにならないでね」

香焼「……馬鹿なお願いするなよ。ばか」フフフ・・・


少なくとも、あの方の為に成れた。それだけで満足だ。
ステイルに対しても同じ。魔術的な力や立場的な云々では役に立てないけど、『駒』として、アイツの力に成れた。


五和「……歪んでる」ボソッ・・・

香焼「うん。自分でもこんなに狂信者だなんて思ってなかったっす」ハハハ

五和「……っ」テクテク・・・


それ以上、言葉は無い。五和は無言で部屋から出て行った。


866 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 02:44:42.00 ID:rufkjsd30
 ―――とある6日目、AM04:00、学園都市第7学区、とある病院・・・・・




五和が出ていき数分後……小さく4回、ノックの音。『どうぞ』と返事をする。
静かにドアが開き……サーシャと、もう一人女性が入ってきた。まるで知らない人である。


香焼「あ、れ?」ポカーン・・・

??『また子供か……ほら、サーシャ』スッ・・・

サーシャ「…………、」ジー・・・


無言のサーシャの背を押し、此方に歩み寄って来る女性。歳は30代半ばといったくらいだろう。
日本人には見えない。気軽にロシア語でサーシャへ話しかける姿を見ると、例の『同志』さんだろうか。

不思議に思っていると、彼女が英語で話しかけてきた。


??「まったく……坊や。此度はクロイツェフ特尉が世話になった。礼を言おう」コクッ

香焼「え、と、とくい?」ポカーン・・・

??「しかし、いや、やはりというべきか。都市潜入員の『同志』……SVR(対外情報局)の馬鹿を探してみて正解だったよ」

香焼「え、あの……貴女がその『同志』さんじゃないんすか?」ポリポリ・・・

??「元々此処に潜入していたSVRの輩は、サーシャから受け取る予定だった『血』を、何やら良からぬ事に実験しようとしていた」フンッ

香焼「え!?」ドキッ・・・

??「尤も、親元をゲロさせてから『粛清』してやったよ……安心しろ。『血』は私の部隊が確実に届けてやる」フフフ・・・


SVRの人間ではないらしい……何者だ。


??「私はソ連のとある士官よ……それじゃサーシャ。何かあれば電話して。既に携帯の使用は可能だから」ノシ

サーシャ「…………、」コクッ・・・


部屋から出ていく女性……残されたサーシャは先程の五和同様、無言で佇むだけ。


867 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 03:05:27.60 ID:rufkjsd30
香焼「……こっちおいで」チラッ・・・

サーシャ「…………、」ジー・・・

香焼「まず座りなよ。そこの椅子出していいから」コクッ

サーシャ「…………、」ジー・・・

香焼「……えっと、さ」ポリポリ・・・


無言は困る。


サーシャ「私には」ボソッ・・・

香焼「ん?」

サーシャ「……私には……貴方と喋る資格すら、ありません」ジー・・・

香焼「は?」キョトン・・・

サーシャ「…………、」ジー・・・


おまえは、なにをいってるんだ?


サーシャ「それだけではなく……アニェーゼ達にどんな顔をして謝れば良いか」ジー・・・

香焼「…………、」ハァ・・・

サーシャ「いえ、彼女達にも顔向けできません……極力、英国に出向くのは控えるべきでしょう」シュン・・・

香焼「サーシャ……怒るぞ」ギロッ・・・

サーシャ「っ……、」


馬鹿な事言うな。良いからまずこっち来い。


サーシャ「し、しかし」ムゥ・・・

香焼「椅子持って此処来て」ジトー・・・

サーシャ「……はい」トボトボ・・・


パイプ椅子をベット脇に置き、チョコンと座る。


香焼「自分、怒ってるよ。何でか分かるね」ジトー・・・

サーシャ「……でも」モジモジ・・・

香焼「あのなぁ……まず、アニェーゼ達の『やつあたり』を受けるのはステイルだ。君じゃない」

サーシャ「…………、」

香焼「アイツは何だかんだで馬鹿だから、僕と君の為に殴られる……殴られてくれる」


アイツは、そういうヤツだ。表には出さなくても、そのくらい器が大きな男なのだ。

868 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 03:23:34.55 ID:rufkjsd30
それから、自分が全ての元凶の様に言う。それも止めろ。


香焼「仕事だろ? だったら公私混同させちゃダメだよ……サーシャの言葉でしょ」

サーシャ「っ……何で……こんな時ばかり……冷静なんですか」ジー・・・

香焼「何でだろうね。普段があやふやだからじゃないかな」ハハハ

サーシャ「卑怯です……っ……狡い」グズッ・・・

香焼「そうでもないよ」

サーシャ「いっそ、私を悪者にしてくださいよ……っ……ううぅ」ポロポロ・・・

香焼「……泣かないで」ポンッ・・・


長めの前髪で目元が見えないが、頬には確実に雫が毀れていた。


サーシャ「貴方は……誰かを恨んで良い筈です……っ……ぅぅ」ポロポロ・・・

香焼「皆、それぞれの正義の為にだろ? 何処にも悪なんて無いっすよ」

サーシャ「しかし……それでは、貴方だけが『救われない』です」ウウゥ・・・

香焼「そうかなぁ。別に不幸とは思わないよ」


確かに何も知らないまま『駒』にされてたのは腑に落ちないけど、しかし皆が心配してくれた。それに……サーシャが無事だった。


サーシャ「っ……人の心配、しないでくださいっ!!」グッ!!

香焼「さ、サーシャ」ビクッ・・・

サーシャ「貴方は……貴方は……死にかけたんですよ……っ」ポロポロ・・・

香焼「でも……死んでないから」ポン・・・ポン・・・

サーシャ「結果論です……ううぅ……例え死ななくとも『捨て駒』なんです! 嫌がって下さいよ! 『鉄砲玉』ですよ!!」ギュッ・・・

香焼「まぁ……カタギじゃない以上、覚悟しなきゃね」フフッ・・・

サーシャ「っ……バカです……ううぅ……うわああああぁんっ!! 何で……っ……何でええぇ!」ポロポロ・・・


少なくとも、自分の為に泣いてくれる人が居た。これほど嬉しい事は無いんだ。


869 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 03:52:58.82 ID:rufkjsd30
しがみ付いて泣くサーシャを撫で、話を続ける。


香焼「それに……サーシャは、自分の事助けてくれたんだろ?」ポンッ・・・

サーシャ「っ……それは」ポロポロ・・・


姫神さん曰く、『身体から弾丸を引き抜いた』との事。


香焼「ありがとう……でもどうやって取ったの?」

サーシャ「っ……『えんま』です」グズグズ・・・

香焼「え?」

サーシャ「『必要な時』……私にも、未だに理解出来てません……しかし……『必然』だったんです」グズッ・・・


あの『店』での出来事。


サーシャ「使い方は分からないし、正直用途もピンッと来てなかった……でも、分かったんです」コクン・・・

香焼「分かった?」

サーシャ「『えんま』は罪人の舌(罪)を抜き……釘抜きは磔られた罪人または生贄の釘(罰)を抜きます」

香焼「それは、用途だね」フム・・・

サーシャ「使い方はドチラも同じなんです……といっても、イメージしただけなんです」ジー・・・


彼女は頭に思い描いた方法で僕の身体の中にあった銃弾……そして『呪い』と抜き取った。
ただし、抜き取ったモノの処理までは分からなかった故、後始末は上条さんが右手を使ってくれたとか。

何にしろ、呪いが残らなかったのはサーシャのおかげだろう。


香焼「ありがとう」フフッ

サーシャ「……ごめんなさい」ペコッ・・・

香焼「だから、謝らないでよ」ハァ・・・

サーシャ「…………、」フルフル・・・


やれやれ。流石カオリ姉さんレベルのお堅い性格だ。


870 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 04:11:31.00 ID:rufkjsd30
それから、暫く沈黙が続いた。
サーシャは僕の太腿辺りを掴んで、ずっと突っ伏したまま何も話さない。僕も僕で、如何して良いか分からない。


サーシャ「……明日」ボソッ・・・

香焼「え?」

サーシャ「明日……やはり、祖国(ロシア)へ帰ります」

香焼「そっか……観光、出来なくてごめんね」ポンッ・・・

サーシャ「……そんな事で、謝らないで下さい」ギュッ・・・


結局、仕事か。


香焼「機会があれば、またおいで。遊びに行こう」フフッ

サーシャ「…………、」チラッ・・・

香焼「もぅ……気にしないの」トントン・・・

サーシャ「……はい」コクッ


犬……いや、狼娘か。


サーシャ「この借りは、必ず返します。何だって言う事聞きます」グッ・・・

香焼「大袈裟だなぁ……気にしてないってば」ハハハ

サーシャ「駄目です……私が納得しません」ガシッ・・・

香焼「痛っ」ビクッ・・・

サーシャ「わ……っ!! す、すいません」アタフタ・・・


存外、痛むな……麻酔が抜けてきた証拠か。痛みの勢いで前のめりになってしまった。


サーシャ「だ、大丈夫、ですか……(か、顔、近いっ!)」アタフタ・・・///

香焼「ご、ごめん……少し横になるよ」フゥ・・・

サーシャ「は、はい……(か、可愛い……って! 何考えてんだ私!!)」///

香焼「どのくらいで退院だろう。早めに出たいけどなぁ……もしかしてリハビリもあるかな」

サーシャ「……もし、車椅子生活になったら……一生、押してあげますから」グッ・・・

香焼「サーシャ……、」チラッ・・・

サーシャ「そ、その……~~~っ」カアアァ///


縁起でもない事言わないで下さい。

871 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 04:27:15.55 ID:rufkjsd30
サーシャ「え、えっと……その……っ」ジー・・・///

香焼「ん?」

サーシャ「…………、」///


心成しか、顔が赤い。もしかしてサーシャこそ隊長を崩してるんじゃないのか?
頭に乗せていた手を、額にズラす……少し熱いかな。


サーシャ「っ!! (ど、どうしよう……き、キス……しちゃうかも)」アタフタ・・・///

香焼「大丈夫かなぁ……明日一日くらい、ゆっくりしていけば良いのに」フム・・・

サーシャ「ん……(アニェーゼ、アンジェレネ、レッサー! 御先に失礼します!!)」カアアァ///

香焼「サーシャ……今日くらい(都市に)泊まれない?」チラッ・・・

サーシャ「っっ!!? そ、その……ふ、不束者で、全然知識はありませんけど……頑張りますので……その、優しく、してください」カアアァ///

香焼「……は?」キョトン・・・


サーシャの言動が変だ。少々息が荒いし、此方に寄りかかったきた。やはり風邪かもしれない。
一度、先生に診てもらうよう勧めようとした時……部屋のドアが開いた。


上条「香焼! 目が覚めた、ん……だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぁ」ガラッ・・・ピタッ・・・

香焼「あ、上条さん!」チラッ・・・

サーシャ「っ!!?」チッ・・・


急に背筋を伸ばしたサーシャ。大丈夫なのか?


上条「ええっと……とりあえず元気そうで良かった……また来るよ」イソイソ・・・

香焼「え?」キョトン・・・

上条「あー……無茶するなよ? 傷口開く様な激しいのは控えるべきだぜ」タラー・・・///

サーシャ「チッ」ギロッ・・・

上条「お、御大事に! そんじゃまた!」ピシャッ!!

香焼「あ、ちょ……何しに来たんだろう?」ポカーン・・・


まぁまた来てくれるって言ってたし、それで良いか。

872 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 04:39:22.41 ID:rufkjsd30
さて、じゃあサーシャに診察に行く様伝え……あれ?


サーシャ「…………、」ムスー・・・


何故か、ぐでんっと布団の上に頭だけの乗せて転がっていた。


香焼「あれ? さ、サーシャさん?」ポカーン・・・

サーシャ「……寝ます」フンッ・・・

香焼「へ!?」キョトン・・・

サーシャ「疲れました。おやすみ!」ムンッ・・・ペタン・・・

香焼「あ、ちょ……やれやれ」フフフ・・・


ちゃんとベットに寝なきゃ疲れるだろうが、まぁ仕方あるまい。
近くにあったタオルケットを彼女に被せてやり、その後、自身も床についた。


香焼「電気、消すよ」チラッ・・・

サーシャ「…………、」ジー・・・

香焼「おやすみ、サーシャ」

サーシャ「……おやすみなさい、コーヤギー」ボソッ・・・


明かりを消す。

色々、大変な数日だった。だけど……貴重な経験も出来たし、初めて姉さんやステイルの為になれた。
こんな状況になってはいるけど、悪くない日々だったと思う。


サーシャ「…………、」グッ・・・


救われない者に救いの手を。その礎となる為だったら、自分の身体程度、主にくれてやろう。
それで友を救えるのであれば……例え、偽善だ独善だ自己満足だと言われようが、構わない。

現にほら、僕は生きてる……世界はそれほど残酷ではない筈。悲観する必要なんて、何もないのだから……―――


873 :第⑥話―――サーシャ「とりあえず、ホームセンター行きたいです」 香焼「仕事で来たんでしょ」 [saga]:2011/10/07(金) 04:56:37.77 ID:rufkjsd30
    <おまけっ!>


 ―――とある数日後、とある時間、ロシア・モスクワ、救聖主ハリストス大聖堂のとある一角、殲滅白書(Annihilatus)部署内・・・・・



ワシリーサ「―――……ふーん」ジー・・・

クーニャ「……以上が、『血』の、実績です」タラー・・・



『親吸血鬼(死徒魔術師)1体、および子吸血鬼(ゾンビ)66体……全滅(灰化)』



ワシリーサ「……吸血鬼、か」

クーニャ「この報告書を学園都市と英国にも回しておけば宜しいのでしたね?」

ワシリーサ「ん……私がやっておくわよん。とりあえず、クーニャちゃんは首相とSVR・FSBに報告を」コクッ

クーニャ「了解です。あ、それから……サーシャは如何しましょう。帰ってきた様ですが」

ワシリーサ「休暇を与えたもの。好きにさせなさい」

クーニャ「了解です、それでは」ペコッ・・・



ワシリーサ「……姫神秋沙……学園都市に居なければ、駄目ね」ジー・・・


ワシリーサ「本物の対吸血鬼決選用兵器の『原石』」ジー・・・


ワシリーサ「魔術の世界の人間が、徒に彼女を掘り起こしてはいけない……それこそ熾烈な争奪戦になる」フム・・・


ワシリーサ「ローラには悪いけど、少々、情報を弄らせて貰うわ……あれは貴女達の所有物であってもいけないわ」



『「血」の効果は無し:ルーマニア側に雇われたフリーランスの死霊魔術師。成教特殊部隊の手に寄り「殲滅」。死霊も祓い済み』



ワシリーサ「まぁ……店主さん、ありがとう……対価は『前店主の捜索手伝い』で良いわね?」フフフ・・・


店主『…………、』ジー・・・


ワシリーサ「そんな顔しないの……とりあえず、皆で幸せになりましょうよ♪」クスクス・・・


874>>1 [saga]:2011/10/07(金) 05:02:05.56 ID:rufkjsd30
はい……やっと終わった。気付けば残り100ちょい。あと一話分だなぁ。その後如何しよう。

とりあえず次回は病院話かなぁ。問題はその後だ。
まだ終わってないアニェーゼ・アンジェレネ編などを書く為に『3rd Season』突入すべきか、一度止めるべきか。悩むぜ。


さておき、質問意見感想罵倒リクエストなどなど、よろしくお願いします! では! ノシ 
 
875VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/07(金) 17:11:03.58 ID:FO26jFgAO
そろそろアニーをだな
色々とだな
弄くっちゃったりしてだな
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 18:34:23.33 ID:Fpbz6l1DO
できれば『あまくさっ』シリーズ続けて欲しいけどなぁ。

ところで……親戚、生きてるかい? サーシャ話やったから『サーシャ・アフター』できるよね!(笑) 
 

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