- 1 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/03/29(火) 22:50:47.88 ID:/PiAdqIY0
- ―――とある日、PM10:40、学園都市第7学区、とある路地裏……
今にも降り出しそうな曇天の夜空、
その翳り空すら見えない深い深い路地裏……
そしてそこに、3つの影。
一人は何処にでも居そうな、男(心無い能力者)。
一人は怯える無力な、少女(無能力者)。
もう一人は・・・・・・正体不明の【何か】。
『少しは加減して欲しいもんだな・・・・・・能力者』
正体不明の黒い【それ】は、男(狂人)に向い重々しくそう告げ……ゆらりぬらりと、立ち上がった――― - 4 :>> にかわりましてカキネがお送りします:2011/03/29(火) 22:59:05.02 ID:/PiAdqIY0
- ―――とある日、PM10:15、学園都市第7学区、とある路地裏……
一人の少女が走っていた。齢14、5程の女の子。
深夜のランニングや夜遊びの待ち合わせに遅れた故急いでいるわけではない。
追われている。
10時過ぎに近所のコンビニまで氷菓子を買いに行き、その帰りだ。
確かに最近通り魔事件が多発しているという情報は知っていたが、まさか自分がターゲットにされる事は無かろう。
そんな誰もが思ってしまう軽い気持ちで、数百メートル先のコンビニへ向かってしまった。
少女『ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・っ』タッタッタッ・・・
しかし、その『まさか』が起きる。
少女『な、何で・・・・・・』ハァハァ・・・
気付いたのはコンビニを出る瞬間。
会計を終え自動ドアを出る際に、擦れ違い様に入った男性とぶつかった。
何処にでも居そうな大学生くらいの男は律儀に『すいません』と謝ってきた。彼女も直ぐ『こちらこそ』と返す。
瞬間―――耳鳴りがした。
その時は『あれ?』と首を傾げる程度にしか思ってなかったのだが・・・・・・ふと、それが何時までも止まない事に気付く。
更に数十メートル先まで歩いた所で、環境音もしない事に気付く。
そして・・・・・・後ろから『どうしたの』という声だけが、合成音の様な聞こえた。
先程、ぶつかった男。
少女は急いで自分が何も聞こえなくなった事を伝えた。男は先程と同様、律儀親身に『うんうん』と聞いてくれる。
御蔭でいくらか落ち着き冷静を取り戻せた。しかし・・・・・・そこでまた、気付いた。
男の声は、聞こえる。
思わず『え』と声を上げてしまった。
その青褪めて表情が固まった少女の姿を見て、男は笑った。『やっと気付いた?』と言わんばかりに。
少女は走り出した。
家は近い。急げば直ぐに逃げ込める。大丈夫、そしたら警備員(アンチスキル)に連絡をして・・・・・・
??『急ぎ? どうして逃げるのかなぁ?』
息を呑む・・・・・・家まで、間に合いそうも無い。
それはそうだ。自分はただの女子中学生。相手は見目普通だが『能力者』らしき男性。
逃げ切れるわけがない。
少女は意を決して叫んだ。住宅街では無いとはいえ人は、居る筈。大声を聞きつけて助けに来てくれる人が、居る筈。
??『無駄ですよー』
男性がそう呟いた瞬間―――首根っこを掴まれた。そして、路地裏に投げ捨てるように転ばされる。
??『通りは人目に付くからさ、路地裏(コッチ)で・・・・・・ね!』
気味の悪い満面の笑み。不細工だとかイケ面だとか、そういう類じゃない。
本能が、コレは拙いと覚ってる。兎角、今は逃げねば何をされるか分からない。必死で走った。
……そして、今に至る。 - 6 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/03/29(火) 23:06:03.46 ID:/PiAdqIY0
- 少女『いや・・・・・・やめて・・・・・・』
まるで自分が世界から弾かれた様な感覚。自分以外、居ない・・・・・・違う。
自分と、アイツ以外、居ない。
只管(ひたすら)走る。死ぬ気で走る。
この路地裏が何処だか分からない。何処を逃げているのか分からない。
もしかしたら袋小路かもしれないし、逃げる先に奴の仲間が待機しているかもしれない。
そんなネガティブな発想しか出てこない。
だが今は逃げる他無い。
少女『だ、誰かあああぁっ!!』
もう一度、叫ぶ。しかし、虚空にさえ響かない。
??『無駄だって』
少女『っ! ひ、ゃ・・・・・・』
まるでいつでも捕まえられる得物を、態と逃がして追いかけっこを楽しんでいる狩人の様。
余裕の笑みで付かず離れずの位置をキープしている男は、少女にポツポツ告げてやった。
??『あー、僕の能力なんだよ。分かる? ちんけな能力だけどさぁ』
少女『こ、来ないでええぇっ!!』
コンビニで買った商品を袋毎投げつける。
男は『あ痛た』とおどける様な仕草を見せつけ、ジリジリ歩み寄った。
??『袋投げつけるかぁ野蛮だなぁ。君、無能力者? それとも攻撃に使えない能力持ち?』
少女『あ・・・・・・やだ・・・・・・こっち、来ないでよ・・・・・・』
??『無駄だって。僕以外の声聞こえないでしょ? 君の声も僕以外には聞こえてませーんから』
自分の声が、聞こえていない?
??『聞いてよ。僕の能力て「音源設定(ミキサーチェック)」っていうんだ。けどさぁ、周りの奴らったら――』
少女『や、だ・・・・・・っ!』
音源設定『――聞けよ』
声色が変わる。まるで仮面を外した有様。逃げようとした少女の腕を掴み、壁に叩き付け・・・・・・話を続けた。
音源設定『皆して「お前の能力は使い道が難しいんだ」って』
少女『し、知らないよ・・・・・・アタシに、関係無いよ・・・・・・』
音源設定『うん。関係無い。でも玩具(獲物)に決定権は無いでしょう?』
気が狂ってる。震える少女は身を縮めた。
音源設定『あ、もう僕の声は《オン》でいいか・・・・・・でね。それによって――」
少女(そうだ! 携帯で、メールを・・・・・・)
音源設定「――就職かしんg・・・・・・だから人の話最後まで聞けっつってんだろ! クソアマァアッ!!」
少女『い、ああああぁっ!!』
こっそりと弄っていた携帯を、右手ごと踏み付けられた―――絶叫。
しかし、男以外には(誰にも)……届かない。 - 7 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/03/29(火) 23:11:46.27 ID:/PiAdqIY0
- 音源設定「人が話してんのによぉ携帯なんか打ち込みやがってっ!! 親は何教育してんだっつのぉらっ!!」
少女『やめ、てっ。痛い・・・・・・もう、いやああぁっ!!』
音源設定「うっせぇボケカス!! 弱肉強食なんだよ此の街はっ!! いくら叫んでもテメェの声は《オフ》だァホウ!!」
少女『うぅ・・・・・・だからって、何で!』
音源設定「あー・・・・・・オマエ最っ低だ! 私以外の誰かが、とか考えてるわけ!? [ピーーー]し! 百辺[ピーーー]!!」
違う、そんなわけない。最低なのはアンタの方だ。
そう言ってやりたかったが・・・・・・怖くてこれ以上何も言えない。
男は地に這う少女を十数回踏み付けた後、息を整えながら我に返って、しかし狂人のまま、口を開いた。
音源設定「はぁはぁ・・・・・・ふぅ。取り乱したね、ごめんごめん」
少女『ぁ・・・・・・っ・・・・・・ぃや・・・・・・』
音源設定「とりあえず君は僕のストレス発散道具になってくれればいいだけ。簡単でしょ?」
少女『そんな・・・・・・警備員に・・・・・・』
音源設定「あのさぁ、君馬鹿? 最近の通り魔事件、普通なら解決してる筈でしょ? でもしてないじゃん」
コイツが・・・・・・件の通り魔。
音源設定「うーん・・・・・・そうであって、そうじゃない。通り魔(シリアルキラー)は一人じゃないからね」
少女『どっちにしろ・・・・・・殺人鬼・・・・・・』
音源設定「殺人鬼ねぇ・・・・・・まぁ兎も角、捕まらない理由は色々あるんだよ。WWⅢ(戦争)ばっかに気が行って、自治が疎かだったりさぁ」
少女『で、でも』
音源設定「警備員や風紀委員(ジャッジメント)は優秀だから直ぐ捕まる? ははは! 甘い甘い!」
学園都市の操作レベルなら、直ぐにでも犯人を特定できる筈である。
しかし捕まらない……何故なのだ。
音源設定「簡単だよ。理由は2つ」
少女の身体を無理やり掴み、壁に押し付ける。そして優しく、気味悪く、少女の顔を撫で、語り出した。
音源設定「一つ、今まで襲った奴らには顔を見られてない。大抵は男の無能力者だったね。女も少しはいたかなぁ?」
少女『っ!!?』
音源設定「そいつらは糞生意気なDQN不良だったから、懲らしめてあげたんだ。風紀は大事だよね!」
少女『・・・・・・意味、分かんない』
音源設定「ま! どんな形であれ、一度声を聞けば僕の能力が『スタート』ね。さっきの君と同じ様に」
その声を『覚えれば』使用可能という事か。
音源設定「そんでもって二つ目、殆どの女の場合は・・・・・・痛めつけてから、売り飛ばしたよ!」
平気でそんな事を抜かす、狂人。
少女『売り飛ば・・・・・・っ!!』
音源設定「コネに『裏仕事』やってる奴がいてね。君くらいの女の子って凄く高く売れるんだ!」
満面の笑み。
音源設定「でもその娘らは行方不明届けも出されない・・・・・・なんでだと思う?」 - 8 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/03/29(火) 23:15:09.83 ID:/PiAdqIY0
- 少女は恐ろしくて……混乱して……何も答えられなかった。
音源設定「その『裏仕事』の会社名義が私立の女子校なんだよ。薬漬けにして、本人に書類書き換えさせるんだ」
少女『っ!!?』
音源設定「理事役員や官僚さんにも『お得意様』がいるから根回しは完璧。親にはキチンとそれらしい事メールしてあげる」
少女『や・・・・・・やだ、よぅ・・・・・・』
音源設定「大丈夫! 安心して!」
本気で良かれと思ってそうな男の返答に、少女は気がオカシクなりそうな程怯えた。
その姿を見て更に、男の嗜虐心は高まる。
音源設定「ふふっ・・・・・・じゃあ如何しよっかなぁ。やっぱレイプが王道なんだろうけど・・・・・・」
少女『ッ!!』
音源設定「・・・・・・趣味じゃないんだ。どう? 偉いでしょ!」
少女『っ・・・・・・意味が、分かんない・・・・・・お願い・・・・・・帰して・・・・・・』
少女は顔をくしゃくしゃにしながら泣き出した。
嗚咽も徐々に大きくなっていくが・・・・・・その声は男にのみ、聞こえる。
音源設定「くううぅっ!! やっぱ良い顔!! 女の子の泣き顔って萌えるよね!」
少女『や、だ・・・・・・誰か・・・・・・』
音源設定「ははは。だから聞こえないって」
少女はもはや動かない。ただ身を守ろうと膝をたたみ、顔を手で覆っている。
その行為に、男は少々不満を抱いた。理由は単に、つまらない。それだけ。
故に、一つ質問をする事にした。
音源設定「・・・・・・あのさ。この通り魔事件の特徴って知ってる?」
少女『・・・・・・』
音源設定「突然皮膚が切り裂かれ、音が聞こえなくなる。そうニュースで言ってたでしょ。あ、これ僕の事件限定ね。他の『同業』は知らない」
確かに。噂によると、大気操作の風力使いか真空使いだと聞いている。
だが、それがこの男の仕業だとしたら・・・・・・
少女(『皮膚が切り裂かれ・・・・・・』・・・・・・え)
音源設定「ふふっ。気付いた?」
少女『多重・・・・・・能力者(デュアルスキル)!?』
音源設定「君は馬鹿か? 理論上ありえないでしょ」
見下すような表情。ふと・・・・・・腰から何かを取り出した。
形は折りたたみ式の警棒に似ている。
音源設定「能力開発で生み出された能力(チカラ)って、大人が利用するの知ってるでしょ」
発現された能力は何らかの形で、研究者達が役立たせる。
それが如何、役に立っているのかは殆どの学生が知らない。
音源設定「これ、その一つの試作品。真空操作能力を詰め込んだ道具なんだけど・・・・・・見てて」
そう言って、鞭を叩きつける様真下に警棒を振る男性。 - 9 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/03/29(火) 23:24:19.04 ID:/PiAdqIY0
- 条件反射的に身を縮める少女。刹那―――
バジンッ!!
少女『ッッ!!?』
―――表現するのは難しいが、敢えて云うのであれば地面が『弾けた』。
音源設定「名目上は『物質切断』の工具なんだよ。発売される前に見れて良かったね!」
少女『や・・・・・・や、だ・・・・・・やだあああああぁっ!!』
この街の『能力開発』はより良い未来と、新たな力(エネルギー)を創造する為に行われるべき行程だ。
それを大人が利用する為とか、犯罪行為に使用する為とか……戯事向けられたって、分かる訳が無い。
理解できる訳が無い。
音源設定「あはははは。いいねぇ・・・・・・僕にしか聞こえない最っ高の声!」
そして、男は腕を振り上げた。
音源設定「前置きはこれくらいにするよ。『恐怖には鮮度が有る』って大好きな脚本家が言ってたから」
少女『っ!!!?』
音源設定「極力気を付けるけど・・・・・・興奮して手加減出来なかったらごめんね!」
振り下ろされる手。唸る轟音。
少女は己の不遇を恨みながら、身構えて目を閉じ・・・・・・――― - 10 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/03/29(火) 23:26:44.76 ID:/PiAdqIY0
- ―――とある日、PM10:35、学園都市第7学区、とある路地裏……
巨大な破裂音はした・・・・・・だが何も、起こらない。
少女は恐る恐る目を開けた。
音源設定「っ・・・・・・何?」
男の手はきちんと振り下ろされている。しかし自分の居る地面から1メートル程横の方へ、クレーターを作っていた。
音源設定「君・・・・・・実は念動能力持ちとか?」
少女『っ・・・・・・知らな・・・・・・』
音源設定「マジっぽいね・・・・・・今、手ぇ弾かれたんだよ」
ほら、と警棒を持つ手の甲を見せ付ける男。確かに甲が赤くなっていた。
音源設定「・・・・・・そっちに誰かいるのかな?」
右斜め上の方を向いて話しかける通り魔。
弾かれた計算からいって此方の方向だろうと、意識を集中させたのだ。
少女は・・・・・・まさか、と神に感謝した。
音源設定「・・・・・・ふんっ」
少女『っ!!?』
再びバジンと風を斬る音。方向は右斜め上。真空刃が壁を打ち抜く。
数秒後ボロボロと瓦礫が落ちてきた・・・・・・が、何も、ない。
音源設定「おかしいね・・・・・・ま、いいか。続きしよ!」
少女『っ!!』
再度獲物に向き直り、再び狂った笑顔。今度は外すまいと、少女をガッチリ掴み、至近距離から警棒を叩き付けようとする。
少女はジタバタと抵抗するが、心地良いといった風な表情の通り魔。
真空刃の効果より、殴打に近い形になるであろう警棒を、少女に向けて―――
カツ・・・カツ・・・・・
音源設定「・・・・・・まったく、興が覚めるよ」
―――足音。
音源設定「・・・・・・そっちだね」
路地裏の更に奥。漆黒の影で何も見えない。しかし・・・・・・ - 11 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/03/29(火) 23:30:41.95 ID:/PiAdqIY0
- 音源設定「今度は・・・・・・外さないっ!!」
奥に向かって乱暴に腕を振るう男。狙いなど無い。ただ『面』で切り刻めば良い。それだけだ。
しかし・・・・・・またもや何も起こらない。
流石におかしい。男はそう考え『奥の手』を準備した―――瞬間。
ドシン・・・・・
5メートル程先に・・・・・・何かが落ちてきた。
音源設定「・・・・・・派手な演出ですね」
少女はハッと、目の前の【何か】を見遣る。
【それ】は人の形をしていた。
【それ】は黒い格好をしていた。
【それ】は・・・・・・『白いマスク』をしていた。
音源設定「何ですか、貴方は」
【それ】は何も話さない。
通り魔は、きっと先程自分が少女に話してしまったことを聞かれたのだと推察し、少し前の己のうっかりを反省した。
音源設定「警備員・・・・・・ではなさそうだね。見た目からすると、武装無能力集団(スキルアウト)の方かな」
黒い本革のライダースジャケット。黒いメタルブーツ。黒いインナー。
そして対極に栄える『白いマスク』と白い手袋。マスクには所々神々しいデザインの金色刺繍と装飾が入っている。
音源設定「それとも、まさかの正義の味方気取りさん? 今時いるんだ!」
???「・・・・・・」
音源設定「あ、正義の味方一人は知ってる。超能力者の第7位さん! あれ有名っしょ! マジで英雄ごっこしてるし」
2メートルは有る様に見える巨躯が、のそりと、一歩動いた。
音源設定「でもアンタは違うよねぇ・・・・・・あ! 昔、此処ら一帯指揮ってた武装無能力集団のボスに似てるかも!」
???「・・・・・・」
音源設定「でも、アイツ死んだって聞いてるなぁ。確か・・・・・・運動(テロ)の首謀者で人質取ったからズバンって」
???「・・・・・・」
少女『・・・・・・助けて』
只管無言の【それ】。
少女は無意味だと思いつつも、助けの声を上げてしまった。分かっていても、上げてしまった。
???「・・・・・・」
心成しか、マスク越しではあるが【それ】と目が合った気がする。
そして・・・・・・無言の頷き。
音源設定「っ!? ・・・・・・アンタこの子の声、聞こえんの?」
???「・・・・・・」
未だ無言。せめて一言喋らせればコッチのものなのに、と通り魔は心中舌打ちした。 - 12 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/03/29(火) 23:36:11.87 ID:/PiAdqIY0
- 音源設定「・・・・・・まぁいいや。アンタ何も出来ないっしょ? この道具。そして人質」
少女『ひっ・・・・・・』
???「・・・・・・」
音源設定「動いたら・・・・・・ヤるよ? いいの?」
???「・・・・・・」
何を言われようが【それ】はまるで、スイッチの入っていない機械の様に不動だった。
音源設定「そらっ」
少女『っ!!?』
刹那、通り魔が【それ】に向けて警棒を振るった。猛スピードで【それ】に奔る鎌鼬。そして・・・・・・直撃。
???「……」
しかし【それ】は揺るがない。
音源設定「おいおいぃ・・・・・・何だ、そりゃ」
不可解。意味不明……だがしかし、何を思ったか【それ】は・・・・・・遂に、言葉を発した。
???「・・・・・・喋りが過ぎるな。黙れないのか」
少女『あ、だ・・・・・・駄目!!』
音源設定「・・・・・・ははっ」
通り魔は、無言から解放された安堵と・・・・・・これで能力が発動できるという優越感に満たされる。
そして歪んだ笑みを【それ】に向け、嬉々とした声で放った。
音源設定「アンタの音・・・・・・覚えたよ」
【それ】の音を認識。その声は《オフ》。自分以外には聞こえない。後は一度でも身体に触れれば、環境音も《オフ》に出来る。
しかし【それ】は、まるでうろたえない。
???「それが、どうした?」
音源設定「どうしたって―――」
言葉を紡ぐ途中で【それ】は動いた。いや『消えた』。
音源設定「―――ッッ!!?」
少女『あ』
???「ふッ!」
通り魔と少女の目の前に『出現』し、少女の右手を掴んで強引に後ろへ引っ張った。
その動きは空間移動能力者(テレポーター)の如く、その腕力は身体強化か念動力者の如き。
少女は小さな悲鳴を上げ、【それ】の数メートル後ろに転がる。
通り魔は本能で『拙い』と覚り、反射的に警棒を【それ】の顔面に向けて振り下ろした。
0距離で放たれた鎌鼬の威力に【それ】の巨躯も、流石に吹き飛ばされた。 - 13 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/03/29(火) 23:40:03.37 ID:/PiAdqIY0
- 音源設定「っ!! ・・・・・・ハァハァ・・・・・・《オフ》ってない?」
少女『ぁ・・・・・・っ・・・・・・』
少女は腰を引きながら後ろへ下がる。その後、様子を確認すると・・・・・・【それ】は無言で立ち上がっていた。
彼の者は一体何者なのだ・・・・・・今現在、助けて貰っているという感謝より其方の不思議が優先されてしまった。
暫時、無言。
音源設定「ふぅ・・・・・・アンタ、何モンだ? 念動力か空間移動かは知らないけど、高位の能力者ってとこだろ」
???「そこのゴミ箱の裏に・・・・・・離れてろ。巻き込まれる」
少女『は・・・・・・はい』
音源設定「ああそう無視ですかぁ・・・・・・まぁいいや、『触れた』ぞ。今度こそアンタの全ての聴覚《オフ》だ!!」
通り魔はしてやったりという満面の笑みを浮かべ【それ】に警棒を向ける。
しかし【それ】はあろう事か、場違いな事を言い出した。
???「高位の、能力者か・・・・・・それは違うぞ、連続通り魔・・・・・・音戸、調叉(おと、ちょうさ)」
音源設定「っ!!?」
???「音源設定、強能力者(レベル3)・・・・・・コレだけ、派手に暴れたんだ。調べが、付いてない訳・・・・・・ないだろ」
通り魔の本名を知っていて当たり前のように告げる【それ】。更に言葉は続いた。
???「後は、貴様に・・・・・・全てを吐かせるだけだ。安心しろ、殺しは・・・・・・しない」
音源設定「ふ・・・・・・フザケんなよぉっ!!」
狙いを定め警棒を振る。されど【それ】に当たる気配は無い。
時に高く跳び上がり、時に壁を蹴り上げ、時に己の身体で鎌鼬を弾いていく。
見えない風の刃は、悉く霧消していった。
音源能力「クッッッソがぁああっ!! んだよぉいっ!! ざけんなよっ!! んな化けモン聞いてねぇぞぉっ!!」
???「バケモノ・・・・・・か」
落ち着いた様子で、静かに、堂々と・・・・・・【それ】は答えた。
???「オレは・・・・・・無能力者だ、能力者」
空気が、固まった。
音源設定「・・・・・・んだよ・・・・・・何だよ。何だよ何ダヨなんだよぉっ!! 何なんだよぅっ!!!」
少女『・・・・・・無能力者(レベル0)』
少女と同じ、能力(チカラ)無き、人間。 - 14 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/03/29(火) 23:43:18.31 ID:/PiAdqIY0
- 音源設定「嘘言うなよ……じゃあアレか? 実は駆動鎧人間(サイボーグ)とか超人(スーパーマン)ってオチかぁ?!」
???「生憎……普通の血が流れている。特殊な能力(チカラ)なんぞに、頼らなくとも……貴様程度潰すのに、数分と掛らん」
音源設定「マジ、ざけんなよ。・無能共は能力者の玩具だろ!! それがこの街の仕組み(システム)だろぉがよぉ!!」
???「・・・・・・下衆が」
それは一種の選民思想・・・・・・能力者は有能貴族。無能力者はゴミ平民。
エリート思考を持った能力者達は少なくない。この通り魔もエリート思考持ちの一人だった。
その通り、これまで貴族である自分は、平民共を足蹴にしてきた。ゴミ扱いしてやってきた。
自分は、選ばれているのだから。
しかし・・・・・・今、目の前で起こってしまった現実は如何だ?
???「・・・・・・大人しく、捕まれ」
圧倒。
音源設定「い・・・・・・嫌だ」
???「・・・・・・」
音源設定「嘗めるなぁっ!! 自称無能がああああぁっ!!」
我武者羅に警棒を振るいだした通り魔。
目標など無い。自分の目の前にある全てを消し去りたい。その一心だった。
そしてその刃の一部が・・・・・・隠れていた少女の方に。
少女『ひゃっ!!』
???「っ・・・・・・頭を、下げろ!」
【それ】が庇いに走る。しかし通り魔はその動きを見逃さない。
音源設定「[ピーーー]よおおおおっ!!」
少女『っ!!? 銃!!』
???「っ―――」
奥の手は隠す物。
元々、人を脅すには能力なんかより銃や刃物の方が効果的である。
通り魔はしてやったりと、【それ】の顔面に向けてコネから貰っていた不正支給のグロックの弾を撃っ放した。
銃声はしない筈。音源操作で《オフ》になっている。
消音で放たれた凶弾は・・・・・・今度こそ【それ】の顔面を確実に捉え―――
少女『ひっ・・・・・・や・・・・・・』
―――……【それ】を倒した。 - 15 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/03/29(火) 23:47:18.75 ID:/PiAdqIY0
- ドサッと音を立てて崩れる【それ】を見て、少女は神は死んだと云わんばかりに目を瞑った。
音源設定「はは・・・・・・あははははは。あははははははははははははっ!! ざまぁみろよぉ!! ゴミ平民!!」
少女『あ・・・・・・たすけ・・・・・・』
音源設定「あー・・・・・・最っ悪の気分なんですけどぉ・・・・・・君ぃ。やっぱ間違って殺すかも。先に謝っとくね!」
少女『いやだ・・・・・・やめて・・・・・・』
音源設定「無ううううう理いいいいいっ!!」
再び警棒を握り締め、気味の悪い微笑を浮かべる通り魔。少女に警棒の先を向け、軽快な足運びで歩き出す。
少女は出来うる限りの大声で叫んだ。声が枯れて血が出てしまうだろうというくらい叫んだ。
しかし通り魔の能力の前では無意味に終わる絶叫。寧ろ彼を興奮させる劇薬にしかならない。
音源設定「あー、ほら。立てよ。逃げなよ。折角だから遊ぼう!」
少女は頭を隠し、身震いする。歯が鳴る。聞こえる筈の無い通り魔の足音が響いてくる。
眩暈、吐き気、失禁感・・・・・・いっそ舌を噛み切ってやろうかと考えた。
逆に通り魔は在り得ない程、ハイになっていた。
まずは目の前で倒れている〔それ〕の屍骸に鞭を打とう。
それでボロボロにしてやった姿を、少女の目に焼き付けさせよう。
好い恐怖。鮮度が何時までも落ちない。今までで一番の狩りだ。
そうだ! 記念にこの覆面を刈ってやろう。そして自分の部屋にでも飾って――
音源設定「・・・・・・っ」
―――・・・・・・まさか、気の所為だとは思うが・・・・・・
音源設定「・・・・・・おい」
少女『っ』
音源設定「見てないか・・・・・・」
少女と自分を隔て、数歩先に転がる【それ】が・・・・・・動いた気がした。
自分は確かに眉間があるであろう場所を打ち抜いた。それは少女も見ている筈。
しかし・・・・・・動いた。
通り魔は屍であるべき【それ】を凝視した。
音源設定「・・・・・・っ!!!?」
指先が、ピクリと動く。そしてゆっくり、のっしりと・・・・・・――
『少しは加減して欲しいもんだな・・・・・・能力者』
――・・・・・・そう告げて、立ち上がった。 - 16 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/03/30(水) 00:01:47.26 ID:DGzwFny30
- 音源設定「ま、じで・・・・・・バケモン、なの」
少女『え・・・・・・何・・・・・・なの』
???「・・・・・・自分でも、驚いた。生きてるようだな」
眉間にめり込んだ、正確には『マスク』にめり込んだ銃弾が、カランと音を立て地面に落ちた。
【それ】はめり込んでいた部分を摩りながら、他人事の様に告げる。
???「何もかも無傷で済むと言われてたが・・・・・・本当とは」
音源設定「な・・・・・・」
改めて顔面……『マスク』を見る。傷一つない。
???「だが・・・・・・痛いものは、痛い。鉄パイプで……頭を突き刺された、感覚だったな」
音源設定「・・・・・・っ」
???「だが、まぁ確かに……音源設定(聴覚的能力)は無効に出来た・・・・・・完璧だよ。『道化師』」
此処に居ない『誰か』に呟く。
少女『すごい・・・・・・』
音源設定「ふ、不死身ってか・・・・・・有り得ねぇって・・・・・・」
???「不死身・・・・・・まぁその通りだ。一度、死んだ事がある。『コイツ』の分を合わせれば・・・・・・二度目、か」
上着(ライダースジャケット)の胸辺りを叩く。
音源設定「ま、まさか……本当に駒場利徳の【亡霊】だとでも言う気か……止めてくれよ……」
???「駒場の……【亡霊】……ああ。強ち、間違いでは無いのかもしれんな」
死して尚、志は死なず。
???「さておき……テストは、これくらいで良いだろう」
音源設定「なっ」
【それ】は拳を握り緊め・・・・・・
???「・・・・・・法の下で、裁かれろ。狂人」
・・・・・・重々と言い放つ。
その言葉がこれから始まる全ての始まりの合図であり、この事件解決の宣言となった――― - 26 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/02(土) 22:43:53.29 ID:WLx/fhQ30
- ―――とある日、PM11:30、学園都市第7学区、とある路地裏……
警備員、黄泉川愛穂は大分不機嫌だった。
本日は自分の現場復帰祝いで、たらふく飲み食いできる筈の日。
年齢不詳の同僚教師の音頭の下、グラスを掲げて『乾杯っ!』と叫ぼうとした矢先……この事件だ。
本来、自分は非番で駆けつける必要が無いのだが、そこは一応支部『隊長』として足を運ばねばなるまい。
御蔭で全額タダの宴会料理と銘酒の数々がパァである。
とある生徒の一人ではないが『不幸だ』と呟きたくなった。
鉄装「―――……あ! せ、先輩」
黄泉川「……手短に。即行終わらせるじゃん」
警備員の後輩、鉄装綴里が遅れて到着した黄泉川の下に駆け寄る。
鉄装「その、例の通り魔事件です」
黄泉川「その連絡は受けてるじゃん。まぁ数ある模倣犯の中の『どれ』かは分からないけど……んで、現場はこの先か」
鉄装「はい。被害者は○○高校に通う無能力者の女子高生。名前は――」
黄泉川「……あいよ。もういい、書類寄越すじゃん」
鉄装「――あ、え、はい。えっと、ただ……」
黄泉川「ん?」
随分と歯切れの悪い物言いだ。
確かに、事件後にヘラヘラしてるよりはマシだが、何やららしくない。
普段からオドオドしている奴ではあるが、真面目に仕事はこなせる筈なのだが。
ふと……路地の奥を見遣る。少女が女性警備員に保護されていた。
黄泉川「あの子が被害者じゃん?」
鉄装「え、あ、はい」
黄泉川「そうか、保護を……保護!?」
おかしい。
いや、警備員の仕事として無事保護できるのであれば何もオカシな話ではないのだが、これは例の通り魔事件だ。
大抵の被害者は目を当てられない程に襤褸糞やられていたり……公表されてはいないが、誘拐されたりしている筈。
だが、先に見える少女は怪我の様子は見えど、以前までの被害者より軽傷である。
黄泉川は鉄装から事件ファイルを受け取り、奥の方へ歩み寄った。
黄泉川「お疲れじゃん」
女性警備員「隊長。お疲れ様です」
黄泉川「ガイ者はこの子じゃんね……」
女性警備員「大分パニック状態でしたが、今は落ち着いています。事情聴取は読心能力者(サイコメトラー)の風紀委員が到着してから――」
黄泉川「……私がする。とりあえず書類纏めておいて」
女性警備員「――ちょ、隊長! 話を最後まで……もぅ」
女性警備員が困った様に黄泉川を引き留めたが、言っても無駄だと覚り、先を任せる。
黄泉川は巨大なダストボックスの横に毛布を被って、ちょこんと座る被害者の少女に話しかけた。
黄泉川「こんばんは」
少女「……」
黄泉川「君、名前は何ていうじゃん? 私は警備員の黄泉川っていうじゃん」 - 27 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/02(土) 22:47:33.62 ID:WLx/fhQ30
- 少女「……」
無言で、目を合わせず、静かに頷く少女。事が終わった後でも相当怯えている様だ。
黄泉川は『ふむ』と少々頭を悩ませたが、微笑みを絶やさず優しく語り続けた。
黄泉川「……もう大丈夫じゃんよ。安心して」
少女「……」
黄泉川「何があったか、話せるじゃん? 言えるとこまでで良いよ」
大きく括れば『暴行』事件だが、詳細には女性として心に傷を負う『行い』も含まれる。
下手に触れれば傷口が広がるだけだ。
しかし見目、少女は衣服を破かれたり、下を剥がされた様な形跡は無い。
黄泉川「……そういえば、君が自分で連絡したの? それとも誰かがしてくれたじゃん?」
少女「わ、たし……です」
黄泉川「そっか……怖かったじゃん。よく頑張ったね」
そっと少女の肩を抱いてやる。こういう時は母性が一番の安堵となるものだ。
さておき、自分で連絡出来たという事は犯人から逃げ切れたのか、それとも逃げる途中で連絡出来たのかだろう。
黄泉川「犯人の顔とかどっちに逃げたとかは覚えてるじゃん? 辛かったら後で読心(サイコメトリー)させて貰うけど」
少女「……あれ」
黄泉川「え」
少女が奥斜め上を指差す。そこには……
黄泉川「……あれ、は」
少女「……犯人、です」
屋上から縄で吊るされている犯人がいた。酷いやられようで、気絶している様に見える。
黄泉川「まさか、君が?」
少女「……」
首を振る少女。
少々事件が複雑になってきた……如何いう事だと頭を捻っていると、此方に鉄装が駆け寄ってきた。
鉄装「先輩、勝手しないで下さいよぅ……まだ現場検証とか終わって無いんですから」
黄泉川「鉄装……アレには、気付いてたか?」
鉄装「え? あ、はい……逮捕の前に病院に連れて行かないといけないようですね」
既に救急車は呼んであるらしい。
黄泉川「……順を追って、話せるじゃん? 分からない所は省いて結構だからね」
少女「わかりました……」
少女の説明がたどたどしくも始まった。黄泉川は上手く話を拾い、要点だけ何とか纏め上げる。 - 28 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/02(土) 22:56:16.40 ID:WLx/fhQ30
- まず、少女がコンビニへ買い物に。その帰り、通り魔につけられる。
奴の能力で音が『消され』路地裏へ引きずり込まれる。そして暴行を受けた。
それから試作段階の物質切断工具で撃たれそうになったその時……
少女「あの人が……来ました」
黄泉川「あの人? 助け?」
少女「……多分」
更に説明が続く。白いマスクを被った【何か】が、通り魔の前に立ちはだかった。
通り魔の攻撃は一切受け付けず、顔面に銃弾を喰らっても無傷で奴を圧倒。
黄泉川「身体強化……念動力者か」
少女「本人は、無能力者だと言ってました……でも」
黄泉川「ん?」
少女「……あれは、人間離れした動きです」
今でも信じられないといった顔。
少女「身体は丁度、小型の駆動鎧くらいの大きさ……だけど動きは、身体強化能力者のそれでした」
黄泉川「……そいつの顔は見てないじゃんね」
少女「白い、マスクをしてました……それ以外は黒い服装です」
黄泉川「具体的には?」
黒のライダースジャケット。黒いメタルブーツ。黒いインナー。白く所々神々しいイメージの刺繍と装飾が入っているマスク。白い手袋。
説明を受け黄泉川はふと、ある人物を想像する。だがしかし……『そいつ』が居る訳が無い。
『あいつ』は故人だ。
黄泉川「他に分かる事は?」
少女「あの男を攻撃している最中……色々質問……尋問って言うのかな。みたいな事してました」
黄泉川「それは覚えてるじゃん?」
少女「……所々」
始めに、あの子(少女)に掛けていた能力を消せと脅す。
次に、誘拐した少女達の居場所と人身売買を行っていた会社の詳細を言えと尋問。
詳しい名前は聞き取れなかったが、何でも私立の女子高名義だとか。
黄泉川「そこまで覚えていれば御手柄じゃん……鉄装っ!!」
鉄装「ふぁ、はいっ!!」
黄泉川「都市内の私立女子高を徹底的に調べるじゃん! 最近転入・編入生が多い学校を特に探れ!」
鉄装「わ、分かりました!」
突然の大声に驚きつつも、急いで警備車両備え付け機材で捜査を始めた。
黄泉川「ごめんごめん。大声出しちゃったじゃん。それで……全部終わった後【そいつ】は?」
少女「私に、警備員へ電話を掛ける様促して……それから上に」
黄泉川「は? 上って……上じゃん?」
少女「……このビルの屋上に、跳んで消えました」
真上を見上げる少女。
有り得ない……とは言い切れないのが学園都市。正直何が起こっても不思議ではない街だ。 - 29 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/02(土) 22:59:15.13 ID:WLx/fhQ30
- 兎角、とりあえず少女を病院へ送ってあげよう。先程の女性警備員を呼びつけ、待機していた救急車に誘導する様促す。
犯人の方も病院へ運んでから、取り調べを行う事にした。
黄泉川「……さて」
此処からは、警備員として動くべきか……黄泉川愛穂として動くべきか。
黄泉川「あー……しゃーないじゃん」
監視カメラのデータを見てから、二次会へ向かうとするか。
―――とある日~翌日、AM00:10、学園都市第7学区、警備員第73支部……
黄泉川愛穂は事件時現場の近隣監視カメラを漁っていた。大通りで少女が路地裏へ引き込まれる瞬間のビデオを何とか見つける。
少女の言うとおり、途中から少女が叫んでいる姿が見えた。しかし誰も気付かない。
その様子から通り魔の能力が詳しく把握できた。
加え、通り魔は極力カメラに映らない様に行動している。設置位置を確認済みだったのか、手際の良い犯行だ。
黄泉川「……この先か」
路地裏の浅い部分で行われている暴行は確認できるが、深い所で何が起きているのかは視認できない。
暫時、衝撃波らしいものによる砂埃や器物破損だけが映った……そこから早送りして、数十秒後。
黄泉川「……屋上?」
少女が言った通り【それ】が、映り込んだ。
黒基調の服装なのは分かる。しかし……顔が……
黄泉川「っ!! 映らない?! 顔だけが!?」
顔だけが、すっぽり映っていなかった。
黄泉川「理由は分からないけど、仕方ないじゃん……だけどこの服装……」
自分はこの服装、そして体格を知っている。
黄泉川「っ」
急いで携帯の電話帳を開いた。そして二人の人物へ連絡する。
まずは一人目……
黄泉川「……もしもし」
???『ドチラ様でしょうか?』
女性の声。 - 30 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/02(土) 23:01:08.90 ID:WLx/fhQ30
- 黄泉川「惚けんな、半蔵出すじゃん」
???『チッ……半蔵さまー、お電話でーす』
電話越しに『勝手に人の携帯出んな馬鹿女郎!』という叫び声。その後、本人が電話に出た。
半蔵『はい。ドチラ様で?』
黄泉川「私だ。黄泉川さんじゃん」
半蔵『よ、黄泉川さんっ!!? ど、どうして俺に連絡なんか!?』
驚いている。もしかしたら『アタリ』か。
半蔵『お、お茶のお誘いなら日が高い内にでも……あ! ま、まさか……こんな夜中に掛けてきたという事は!』
黄泉川「……おい」
半蔵『だ、駄目です! いくら俺が助平とはいえ、手順ってモノが……って痛ぁっ!! 郭! クナイで突くな!!』
やっぱり『ハズレ』っぽい。
黄泉川「あー、お茶程度なら何時でも一緒してやるじゃん。兎に角、今は質問に答えるじゃん」
半蔵『いいぃやっほぉーぅっ!!』
直後、『ゴツン』という鈍い音が聞こえたが、スルーする。
黄泉川「……今晩、第七学区で起きた事件、知ってる?」
半蔵『じりばぜん……いだいよぅ……』
黄泉川「ハァ……じゃあ最近『オマエら』の縄張り(シマ)で通り魔事件が起こってたの知ってるじゃん?」
半蔵『え……ああ、はい。困ってました』
因みに……警備員と武装無能力集団。
相反していそうではあるが、縄張りを守る(シマ持ち)という自警活動をしている点、アンチスキルとスキルアウトは類似していた。
黄泉川「今日の朝刊で出るとは思うが、犯人が捕まった」
半蔵『……黄泉川さんが?』
黄泉川「残念ながら私の検挙じゃないじゃん」
半蔵『へぇ。まぁ何にせよ、助かりました』
本当に知らないらしい。では……本題をぶつけよう。
黄泉川「率直に聞くじゃん」
半蔵『え』
黄泉川「……駒場は―――」 - 31 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/02(土) 23:03:45.24 ID:WLx/fhQ30
- ―――とある日~翌日、AM00:30、学園都市第3学区、とあるプライベートマンション一室……
毎度の事ながら暗部の部屋にしては派手過ぎるよなぁ、と、浜面仕上は溜息をついた。
今日は仕事で集まっているのではない。連携訓練……という名の『ゲーム』大会である。
因みに自分は女性陣の給仕係で呼ばれただけ。
畜生、少しは混ぜろよと悪態を付きつつも、滝壺マジ可愛いよ滝壺……と遠目でニコニコ眺めていた。
麦野「うっし、そろそろ……ってちょ、絹旗! 私の膝の上乗んな!!」
絹旗「このっ! えいっ! とわっ!」
滝壺「きぬはた、ゲームで動かすのはコントローラーだけでいいんだよ」
フレンダ「でも結局、動いちゃうもんは動いちゃう訳よねー」
非常に姦しい。これで性格も良ければ最高なのに……少年は嘆いた。
それから暫くして、誰かの携帯が鳴った。
麦野「おいおい。訓練中は携帯切っとくのがマナーっしょ」
浜面「何が訓練だっつの。真夜中にゲーム大会してるだけの癖に……俺の携帯だ」
絹旗「まったく駄目面ですねぇ。私達の気を削ぐような事しないでください」
浜面「やっかましい。良い子は寝る時間だろうが。電話出るから黙ってろ」
絹旗「私は超良い子です! ってぇゐ!!」
フレンダ「いやいやぁ、悪い子でしょう……寝てもいいわよー。寝落ちしちゃいなさいっや!」
絹旗「ちょーいーやーでーすーっとら!」
麦野「寝る子は育つのよ。私みたいなナイスバディになれないわよっと!」
滝壺「この前、『私って……まだまだね』とか嘆いてたむぎの可愛かったなぁ」
麦野「ぐっ……」
絹旗「やーいやーい。言われてやんのーっそぉぃいっ!」
麦野「アンタこそ……いつまでも貧乳で『お兄ちゃん』に女扱いしてもらえないでしょうがっってぅいっ!!」
絹旗「うっ……どうせ、私は……いつまでも超妹分なんですよー……」
フレンダ「ナイス麦野! 今の内に絹旗に攻め込めー!」
滝壺「大丈夫、そんなペタン娘なきぬはたを私はいつまでも応援するから」
絹旗「」
浜面「っせぇ!! テメェらお黙る!!」
麦野「テメェが表行けっつの!! 部屋で電話すんな!!」
……確かに、そうだ。という訳で、ベランダに出て電話を掛け直す。
浜面「……おっす」
黄泉川『一回で出るじゃん。仮にも社会人なんだろ?』
浜面「開口一番キツい説教どうも……それで、どうした?」
黄泉川『ああ。最近―――』
電話の主は知り合い馴染みの警備員(黄泉川)からだった。何でも今晩、巷を騒がしていた通り魔が捕まったらしい。 - 32 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/02(土) 23:08:11.71 ID:WLx/fhQ30
- 友人(半蔵)というか、嘗ての自分の縄張り(シマ)での騒ぎだった故、幾分ホッとするモノがあった。
浜面「―――で、それだけか?」
黄泉川『本題じゃん……駒場は、死んだか?』
浜面「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
意味が分からない。
浜面「駒場って……駒場利得か?」
黄泉川『共通の駒場はそいつだけじゃんよ』
浜面「いや、まぁそうだけど……」
アイツは死んだ。学園都市第一位に立ち向かって、殺された。
浜面「……オマエだってアイツの墓参り行ったんだろ」
黄泉川『そうなんだけどさ……今からでも第七学区の73支部来れるじゃん?』
浜面「強制か?」
黄泉川『任意だけど、出来れば早く来て欲しいじゃん。半蔵も呼んだ』
浜面「……上司にすぐ行けるか聞いてみる」
黄泉川『申し訳無いじゃん。半蔵と一緒に来て貰えると、尚助かるじゃんよ』
それではと、電話を切り室内へ戻った。
浜面「……麦野」
麦野「あい?」
浜面「これから移動仕事、有る?」
麦野「んー……急なのが入らない限りは無いわね」
浜面「じゃあ休ませて貰うぞ。要り用入った」
麦野「何それ?」
浜面「警備員の詰め所行ってくる」
瞬間、女性陣が固まった。
麦野「……アンタ、何しでかしたの?」
浜面「別に悪い事じゃ無ぇよ。ただ――」
フレンダ「あーあ……結局運ちゃん交換って訳かぁ。浜面、何だかんだ言って良い奴だったのに」
絹旗「そうですか……それなりに、残念です。塀の中からでも手紙くらい下さい」
浜面「テメェら……マジ、ざけん――」
滝壺「はまづら……私はいつまでも、待ってるからね……」
浜面「」
滝壺にまで自分がやらかしたと勘違いされ、思考がフリーズしてしまった。
浜面「……いってきます」
4人『いってらっしゃーい』
笑って見送る女性陣。このまま帰って来なくていいかも、と割と本気で悩んでしまうぞ…… - 33 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/02(土) 23:15:12.90 ID:WLx/fhQ30
- ―――とある日~翌日、AM01:00、学園都市第7学区、警備員第73支部署……
夜遅くにも関わらず、消灯していない目立つ部屋が一つ。そこで一人の女性がPCと睨めっこしていた。
二人の人物を待っているのだが、中々現れない。時間を潰す為に2杯のブラックコーヒーと5本の煙草を消費。
そうでもしなければ、飲み会(二次会)へ参加できなかったストレスで物に当たりそうな心境である。
6本目の煙草に火を点けようとマッチを擦った時、ようやく署のインターホンが鳴った。二人の男……と一人の女性の顔が映る。
黄泉川「……遅いじゃん」
半蔵『スイマセン。浜面待ってたら遅れました』
浜面『しゃーねぇだろ。第3学区居たんだから』
黄泉川「まぁいい。今鍵開けるから二階の一般警備員室に来い」
電子ロックを解除してやり、一分後、三人が部屋に入ってきた。
黄泉川「夜分遅く申し訳無いじゃん……そっちの嬢ちゃんは、呼んだ覚えないけど」
郭「申し訳ございませんが、スキルアウト(ウチ)の頭(リーダー)を単独で警備員の詰め所に行かせる訳には行きませんでした故」
半蔵「すいません。付いて来るって五月蠅くって」
黄泉川「……ま、構わないじゃんよ。確かに私以外の警備員がいたら半蔵しょっ引かれるかもしれないからね」
仮にも警備員と相反する組織の頭だ。何も知らない馬鹿な警備員がいたら、容赦無く半蔵を捕まえようとするだろう。
因みに今彼を捕まえると、別スキルアウト組織とのパワーバランスが大きく崩れ、犯罪率が跳ね上がる恐れがある。
浜面「で、俺達を呼んだのは何故だ。電話だけで済む話じゃ無いって事なんだろうけど」
黄泉川「ああ……手っ取り早く、コレを見るじゃん」
PCの前から退き、二人に画面を見せた。
浜面「……何これ?」
郭「○丁目の大通り……10時過ぎですね」
黄泉川「事件の流れじゃん」
本来、一般人に見せることなどできない特秘映像。その中でも自分が視易い様弄った映像を流しっ放しにする。
そして黄泉川は先程火を点け損ねた煙草を再度咥え、紫煙を喫かした。
黄泉川「……ふぅ」
数分後、三人が難しい顔をして黄泉川に向き直る。
黄泉川は少女から聴いた路地裏で起きた事件の証言を、三人に聞かせた。
黄泉川「―――……感想は?」
浜面「何の、冗談だ?」
黄泉川「私が言いたいじゃん」
郭「……アレは……まさか、本当に?」
浜面「おいおい……そりゃねぇって!」
半蔵「……落ち着け、浜面」
冷静を装い、半蔵が煙草を咥える。空かさず郭が着火しようとした際、黄泉川が告げた。 - 34 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/02(土) 23:19:53.12 ID:WLx/fhQ30
- 黄泉川「煙草、逆じゃん……あと警備員の前で堂々と煙草喫うな。未成年」
半蔵「……すんません」
黄泉川「まぁいい……で、如何思う」
半蔵「……駒場の兄貴は死にました。これは確定事項です」
浜面と郭が頷く。
黄泉川「ハァ……だよね」
溜息を付きながら立ち上がり、三人にコーヒーを淹れる。それから無言で少年二人の前に灰皿を置き、再び自分の椅子へ座った。
考察する……例えばコイツらが駒場の死を隠蔽するにしても、メリットは有るのか。
駒場が生きていてそれがばれたら再び殺されるという可能性があるなら、それは理解できる。
しかし、それならば今更学園都市に現れる筈が無い。
第一、浜面と半蔵は今は別の仕事(組織)。利害が一致していない限り、話を合わせる必要も無い。
それに……多分コイツらは嘘を言っていない。
申し訳なさそうに苦笑しながら紫煙を喫かす少年二人に、再度質問した。
黄泉川「駒場は亡くなってる……じゃあ【それ】は何だと思う」
浜面「何って……分かんねぇよ。首から上が映って無ぇし」
半蔵「宛ら、兄貴の亡霊ってか……勘弁して下さいっての」
黄泉川「残念ながら、マジで人間らしいじゃん。証言じゃ『白いマスク』をしてたらしいわ」
浜面「マスク?」
素性を、ばらせないという事だろう。
郭「……何にせよ、動きが人間離れし過ぎです。そこまで高くないとはいえ、ビルの屋上までジャンプ? 能力者でもないのに、どうやって」
浜面「マジで駒場と同じく発条包帯(ハードテーピング)でもしてたってか?」
半蔵「おい、馬鹿野郎……」
黄泉川の目を気にする半蔵。浜面は小さく『ヤベッ』と声を上げた。
黄泉川「……時効じゃん。『何の為』に発条包帯を使ってたのかは聞かない。でも『如何』使用してたか、教えなさい」
浜面・半蔵「「……」」
気まずそうに口を開く両名。
発条包帯(ハードテーピング)……超音波伸縮性の軍用特殊テーピング、簡単にいえば筋肉を補強することができる。
種類には色々あるが、駒場が使用していたのは駆動鎧(パワードスーツ)の人工筋肉部分だったらしい。
実際、そんなものを利用したら使用者の身体に甚大なる負担をもたらすであろう。
何故そんな激物を使用していたかは聞かないが……危険な真似を。
黄泉川「駆動鎧の動きを人間で真似ようなんて、馬鹿な事を……」
半蔵「……言わないでやってください。兄貴には兄貴なりの考えがあった」
故に、死んだ、か。 - 35 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/02(土) 23:22:45.72 ID:WLx/fhQ30
- 黄泉川「兎も角【それ】は駒場の真似事をした。そういう事じゃん?」
半蔵「どうだか……ただ」
黄泉川「ん?」
半蔵「だとしたら、一度じゃ終わらないでしょう」
静かに告げる。
半蔵「……無能力者(力無き者)の為に働いているのであれば、ね」
弱き者の為。
暫時無言が続いた……ふと半蔵が黄泉川に尋ねる。
半蔵「それで【それ】を如何するおつもりで?」
黄泉川「……今は何とも。上の方針も決まって無いじゃん」
浜面「今日の今の話だしな」
郭「別に犯罪者という訳ではないでしょう。放置してもよろしいのでは?」
そういう訳にはいかない。もしこういった活動を続けていったのであれば、何れ人々に広まる。
不要なパニックを避ける為にも、早急に手を打たねばなるまい。
黄泉川「今後の出方次第じゃん……『無意味』な自警活動は混乱を作るだけ。半蔵(オマエ)んチーム(とこ)と違ってね」
半蔵「……俺んとこは、なーんもしてないですよ。郭に任せっぱでぇ」
郭「御謙遜を」
苦笑。
黄泉川「……とりあえず、以上じゃん。お前らが関係して無いのは分かった」
浜面「ああ。しかし……気になるな」
黄泉川「……心当たりも無いのか?」
半蔵「有ったら此処来ないって」
黄泉川「だろうね……ま、他当たるじゃん。何か情報入ったら報せて欲しいじゃ」
浜面「分かった。オマエも教えてくれよ。一方的ってのは無しだぜ」
黄泉川「あいよ」
こうして二人の事情聴取は終わった。
黄泉川は一人部屋に残って、頭を悩ませる。あの二人が知らぬとなると、残りは……
黄泉川「一応、連絡してみるか」
駒場と親しかった男に電話を入れる。
黄泉川「……出ない。寝てるか?」
コールしても出ない。
まぁこの時間だ。寝ててもおかしくない。あの二人が遅くまで起きていた事が僥倖だっただけだ。
また明日、その男に連絡する事にしよう……――― - 36 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/02(土) 23:26:20.33 ID:WLx/fhQ30
- ―――とある日~翌日、AM02:00、学園都市第7学区、とある廃ビル……
警備員の支部から離れ、浜面と別れて数分後、半蔵と郭は自分達のアジトへ帰って来た。
監視班の仲間から特に異常無しの報告を受け、自室である頭部屋へ足を運ぶ。
半蔵「……さて、俺の方は問題無しだな」
郭「浜面氏も騙せてましたね」
郭がコーヒーと緑茶をテーブルに運んでくる。半蔵はコーヒーを受け取り『ふぅ』とソファに腰掛けた。
反対側の椅子に郭が座り……ようやく肩の荷を下ろす事が出来たと、一服する。
それから紫煙を灯し、ある人物へ電話を掛けた。
半蔵「……おう。此方『影草』」
???『此方「道化」……終わった様だな』
半蔵「ああ。とりあえず第一段階終了ってとこだな」
バンダナを外し、眠そうに頭を掻く。
半蔵「んで? 今『仮面』さんは?」
???『まったく……止めたのに、早速行きやがったぜ』
半蔵「……は?」
???『通り魔さんから、奴らの塒(ねぐら)聞き出したろ。んで……今日中に潰すとよ』
半蔵「馬鹿ですかい……てかマジで止めろよ」
???『言っても聞かねぇですたい』
電話越しから虚しく苦笑が響く。
半蔵「如何すんだよ。長時間の戦闘は身体持たねぇだろ」
???『根性で何とかするとよ……とりあえず、病院直行するように言っておいた』
半蔵「大丈夫なのか?」
???『冥土帰しには一報してある。アレには何ればれるだろうから先に味方にしておくさ』
半蔵「……名判断で」
『仮面』の心配もさることながら、後は事後処理だ。
半蔵「アリバイ作りはオマエに任せて良いんだな」
???『あいよ。既に手は打ってる』
半蔵「じゃあ後は『頭脳』に任せるか」
???『……気に喰わんが、仕方あるまい』
半蔵「まだ納得して無いのな……賽は投げられたんだぜ。仲良くしろよ」
???『絶対に嫌だ。基本オマエに任せる』
ブツリと電話が切れる。まったく、協調性の無い奴だ。 - 37 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/02(土) 23:30:33.75 ID:WLx/fhQ30
- 多分これから掛ける『頭脳』も協調性は無いだろう。どうして自分が面倒役を受け持ったのか……半蔵は深い溜め息を付いた。
半蔵「……もしもし」
??『……此方「頭脳」だけど』
半蔵「こっちは須らく問題無しってとこ。『仮面』は今、人身売買会社で『パーティー』開いてるって」
??『大丈夫なの?』
半蔵「大丈夫じゃないだろうねぇ……組織の方は。明日中には新聞の一面だろうさ」
とある私立女子高が裏組織として潰されるのだ。大騒ぎになるだろう。
因みに『仮面』の心配はしていない。絶対の負けないという信頼が有るからだ。
??『そっちもだけど「彼」自身よ』
半蔵「病院直行するだろうって。土……『道化』が言うにはな」
??『……そ。ならいいけど』
半蔵「って事で、裏からの隠蔽等々頼んだぜ」
??『りょーかい。アンタもちゃんと現場サポートするのよ。「影草」さん』
これで、半蔵(自分)の仕事は終わりだ。
郭「……今から援護へ行きますか?」
半蔵「要らないさ。余計だ……それに」
この程度で潰れる様じゃ、今後やっていけないだろう。
半蔵「『影草』に『道化』、それから『頭脳』か……」
郭「もっとマシなコードネーム無かったのですか?」
半蔵「そうか? 各々ピッタリじゃね? あと漢字って恰好良いじゃん」
郭「浪漫主義ですか……呆れます」
名前は兎も角、仕事は完璧な連中だ。
『影草』が現場援護及び指示中継。『道化』が目標索敵及びアリバイ工作。『頭脳』が作戦参謀及び事後処理。
問題が有るとすれば『道化』と『頭脳』が馬鹿な意地の張り合いを続けている事くらいだ。
半蔵「まぁね。何にしろ頑張って貰わにゃいけないのさ……【駒場の兄貴】には」
郭「……」
半蔵「何が起こっても不思議じゃない学園都市(街)……死人が墓場からカムバックしてダンス踊っても、素敵じゃねぇの」
郭「……ま、なる様になるでしょうね。私は貴方様の御随意に従うまでです」
明日の朝刊が楽しみで仕方なかった……――― - 38 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/02(土) 23:33:16.99 ID:WLx/fhQ30
- ―――翌日、PM03:00、学園都市第7学区、風紀委員第一七七支部……
――……昨夜未明、第七学区○丁目大通り、××ビルの横裏にて、連続通り魔の犯人が現行犯逮捕されました。
犯人は**大学3年、音戸調叉(21)。自身の能力『音源設定』にて度重なる犯行を……――
白井「はぁ。やっと捕まりましたのね。まぁ悪い事をすれば捕まる、当然ですの」
風紀委員第一七七支部。
数名の少女達の溜まり場と化すこの場所で、正規の風紀委員である白井黒子がニュースの感想を簡潔に述べた。
それに同調するように遊びに来ていた少女も、己の意見をぶちまける。
佐天「何にしろ、安心できますね。これで夜中コンビニに立ち読みしに行けるや」
初春「駄目ですよ。最終下校時間過ぎてるのに、そんな御坂さんみたいな真似」
御坂「……私はいいのかい」
白井「駄目に決まってますの。お姉さまは相変わらず自分の立場というものを理解して―――」
御坂「あー、はいはい」
超能力者(レベル5)とはいえ、一、学生。ルールは守らねばなるまい。
姦しく事件談義なるものを続ける少女達に、この場の最大責任者が呆れた様に口を開いた。
固法「社会のルールを守らない人間は連鎖するモノよ。模倣犯ってヤツね」
佐天「もーほー、ですか?」
固法「模倣、よ。真似っ子……簡単にいえば、誰かさんが始めた事を自分もやってやろうって真似する事」
例えば此処をカフェテリアと勘違いしてる人を真似て屯(たむろ)人が増えるみたいにね、と付け足した。
4人の少女達は先輩からの尤もな指摘に苦笑せざるを得なかった。
御坂「でも、現行犯って……通り魔がヘマったのかしら?」
佐天「いや、もしかして御坂さんみたいにトンデモ無い人襲って返り撃ち喰らったとか!」
御坂「だったりしてねー。ま、警備員に囲まれて取っ捕まったってのが妥当じゃ無いかな?」
佐天「あはは。罠に引っかかったって感じですか」
有り得ない話ではない。この街では『強い者』に喧嘩を売って、襤褸雑巾にされるなど少ない話では無いからだ。
ただ、ハハハと笑い話にしている民間人二人とは打って変わって、真面目な表情の風紀委員3人。
白井「……初春。緘口令」
初春「分かってますよ……」
固法「……」
風紀委員である彼女達は、事の詳細を知っている。いや、風紀委員だから知っているのではない。
『初春飾利』という少女がいたから、知り得た事実が数点ある。
まず、この事件を解決したのは風紀委員や警備員では無い事。そして『裏の立役者』がいるという事。
勿論この件は『知りえない』事である故、3人の秘密にしてある。
御坂「ん……どったの?」
白井「え、あ、いや。何にせよ、お姉さまが犯人探しするぞーって走り回らなくて安心でした」
佐天「もし御坂さんが犯人探ししたら、前みたいに囮捜査で面白かったかも!」
固法「面白いで済むなら良いけど……相手半殺しにするでしょ、御坂さん」 - 39 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/02(土) 23:56:50.41 ID:WLx/fhQ30
- 御坂「あはは。酷いなぁ……ちゃんと『話せる状態』で『捕獲』しますよ」
微妙に物騒な言葉が飛び出たが、敢えて無視した。
固法「……兎に角、気を緩めない事。御坂さんも一般人なんだからね」
御坂「分かってます。先輩達も、風紀委員とはいえ学生ですからお互い様ですよ」
固法「勿論、注意するわよ」
風紀委員に説教とは増せガキめとは思いつつ、御坂美琴(この子)の場合はそれに見合う『器』があるのだから仕方ないかと言葉を飲んだ。
それから暫時、遊び呆ける4人を後目に、固法美偉は先程初春が『発掘』した事件データを読み返していた。
犯人を捕らえたと思われる……見知った服装の、不審者。
この情報は自分の先輩に教えるべきかと、紙パック牛乳を啜りながら頭を捻る。
そして一寸悩んだ末、携帯を開きメールを打とうとした……刹那……部屋の扉が開いた。
打ち止め「おっ邪魔っしまーす!! ってミサカはミサカは例の如く既に定期的な遊び場と化したこの支部に跳び込んでみたりー!!」
御坂「あら、打ち止め。いらっしゃい」
オマエの家じゃ無ぇぞと総ツッコミ。
打ち止め「あ! 御姉様も来てたのね! ってミサカはミサカは……どる~んっ!!」
御坂「そぉいっ!!」
打ち止め「ぬぅあにぃっ!!? 止められた……だと……ミサカのミサカのタックルが……ってミサカはミサカは驚愕してみる!」
御坂「ふふふ。まだまだね、打ち止め。私を誰だと思っているの?」
打ち止め「くううぅ! 流石に元祖タッコォーの御姉様には程遠いかぁ……ミサカはミサカは更なる精進を目指してみたり!」
姉妹漫才はそれくらいにしろ、と誰かが苦笑した。
固法「打ち止めちゃん、如何したの? 今日は彼とお家で遊んでるって言ってなかった?」
打ち止め「うーん……急用が出来たからミィのとこ行けって追い出されたの。ってミサカはミサカはしょんぼり説明してみる」
御坂「……あんの白モヤシ。説教ね」
バリバリ青白い放電が視認できる超妹愛姉(スーパーシスコン)。
白井「それでは……不肖、この白井黒子めが、飽くる事無く遊んで差し上げますわ! 小姉さま!!」
初春「……白井さん」
佐天「始まった……」
固法「痛い目見る前に止めときなさいよー」
呆れる面々。
愛しのWお姉さまを目の前に、いつも以上にテンションを上げる淑女(変態)。
因みに美琴は例の如く御姉様と、打ち止めは小姉(ちいねぇ)さまと呼んでいる。他の妹達(シスターズ)は妹様だ。
御坂「ハァ……黒子、アンタねぇ」
打ち止め「……じとー」
白井「……あああんっ! その目っ! 御姉様と小姉さまから何とも形容し難い熱い眼差しを受けて、黒子は……黒子はもうっ!!」
非常に、度し難い。 - 40 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 00:18:35.55 ID:uCLf8oVy0
- 御坂「まったく……蹴るわよ?」
初春「喜ぶだけですけどね」
白井「イエスッ!! っという訳で……小姉さまあああぁっ!! モフらせて下さいましいいぃっ!!」
打ち止め「きゃー……ってミサカはミサカはもういつもの事なので溜息を付きながら棒読み悲鳴を上げてみる」
御坂「コイツ……」
小さな肢体目掛けて瞬間移動(テレポート)する超ミサコン。
※ミサコンとは……『ミサカコンプレックス』の略で、学園都市で最近広まってきている危ない思考である。
さておき白井黒子というなのお馬鹿さんが、打ち止めという小動物へダイブすると決まって姉にハイキックを喰らうのだが……この日は違った。
白井「アイキャン……ゲットゥアアァブベラアァッ!!?」
打ち止め「……ありゃ?」
御坂「……え」
キックではなく、単純に叩き落される白井。
移動(テレポート)の際のAIM拡散力場を予測して、移動点に平手を降ろした人物は……
固法「あら、那由他ちゃん」
那由他「打ち止めちゃんと一緒に御邪魔しました……何ですか? この変態は?」
打ち止め「ナユタンありがとー! ってミサカはミサカは救世主なナユタンに抱きついてみたり!」
白井「ぐ……ぬぬ……ポッと出が……ジェラシイイイイィッ!!」
御坂「黙ってろ変態」
ゲシッと踏み付けで追い打ちを掛ける御坂姉。
残念ながら初春の予想通り、歪んだ笑みを溢す対ミサカマゾヒスト。
そんな馬鹿は如何でもいいといった風な、別支部――先進教育局、特殊学校法人RFO所属の風紀委員、木原那由他。
固法「学校終わったの?」
那由他「うん。打ち止めちゃんがメールで暇だっていうから、合流しました」
佐天「……えっと、この小学生さんはどなた?」
打ち止め「ナユタンだよ! ってミサカはミサカはクロヅマファミリーの新入りさんを紹介してみたり!」
佐天「あー! 噂の!」
初春「先進教育局直属の風紀委員さんです。白井さんと並ぶ程のエースですよ」
那由他「そんなそんな……えっと木原……那由他です」
多少気まずそうに自己紹介する。『木原』と冠する苗字を持つ彼女は己の名を紹介する際、戸惑いを持っていた。
しかし最近では、少しずつ、己の名に恥じない挨拶が出来るようになってきている。
固法「あら、初めましてだっけ?」
初春「私と白井さんは名前だけは知ってましたけどね。佐天さんと御坂さんは初めてでしょう」
御坂「えっと……あはは……」
初めてでは無い。何故なら…… - 41 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 00:20:46.17 ID:uCLf8oVy0
- 打ち止め「御姉様は知ってるもんねー。前にナユタン虐めたからってミサカはミサカはジト目で御姉様を見詰めてみたりー」
御坂「あはははは……謝ったでしょぅ……」
打ち止め「御姉様は虐めっこーってミサカはミサカは姉の不良(ヤンキー)っぷりを嘆いてみる……ハァ」
御坂「ら、打ち止めー……許してよー……」
那由他「ま、まぁまぁ……(香焼)兄さんも(絹旗)姉さんも、私も、自業な点もあるしさ」
御坂「ほ、ほら!」
打ち止め「むぅ……調子に乗ってぇ……ミサカはミサカは御姉様を突いて懲らしめてみたり!」
御坂「ご、ごめっ、あひゃひゃ! ちょ、ラス、お……やめっ!! うひひっ!」
このこのっと仲睦ましく小さな攻防を繰り広げる電撃姉妹。
下に敷かれた白井の事などお構い無しだ。
佐天「白井さん、移動(ジャンプ)すればいいのに」
初春「いや、嬉しそうですから放っておきましょう」
ニヤけ顔の素敵淑女が、恍惚と潰されている。
固法「まったく……那由他ちゃん、何飲む?」
那由他「お任せで」
佐天「先輩に任せると牛乳しか出て来ないよ」
那由他「……麦茶を」
固法「なんか、失礼ね……」
那由他の手前に麦茶を、ついでに打ち止めの分のオレンジジュースを机に置く。
那由他「どうも」
固法「どういたしまして」
那由他「あの……失礼な事かもしれないけど、この支部はいつも『こう』なの?」
喧しい、という意味だ。
固法「……私としては悩ましいけどね」
佐天「でも何だかんだ言って先輩も楽しんでるでしょ!」
固法「……まぁね」
ニヤニヤと微笑む佐天に、ヤレヤレと苦笑する固法。
那由他は何となく、賑やかな雰囲気の此処が羨ましく思えた。
初春「木原さんの詰め所は、やっぱり静かなんですか?」
那由他「異様な程に真面目だね。人が少ない所為も有るけど……あの、出来れば名前で呼んで貰いたいな」
初春「あ……すいません……」
以前よりは吹っ切れたといえど、未だに『木原』の名で呼ばれるのには後ろめたいモノが有る。
佐天「ま、まぁほら! 親しみを込めて打ち止めちゃんみたいに『ナユタン』って呼んでも」
那由他「……それは、勘弁して欲しいよ」
初春「そ、そういえば春上さんや枝先さん達ともお友達なんですよね? 彼女達から前に聞きましたよ」
那由他「え、あ、うん。先進教育局で……」 - 42 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 00:22:31.19 ID:uCLf8oVy0
- そこで一寸、顔に翳りが入ったが……意を決したように口を開いた。
那由他「うん……『色々』あったけど、今はまた仲良く会えてるよ」
自分の伯母がしでかした『事件』も、今では過去の話。
その伯母ともぎこちなくは有るが、良い方向に、家族として……解決に向かおうとしている。
ただ、今此処にいる少女達には、後ろめたい気持ちが否めないという事実は、消えていない。
那由他「その……テレ姉……伯母の件では皆さんに迷惑を―――」
御坂「ストップ!」
那由他「―――え」
御坂「それは言わないの。あのねぇ、昔の事引っ繰り返し出したらキリ無いでしょ?」
那由他「……」
固法「そうね。昔は昔……今は今、でしょ。ね」
ポンと固法に頭を撫でられる。
御坂を始め、他の皆も遺痕無い笑顔で那由他を迎える……何とも器の広い人達だと感心した。
それから暫く、御坂姉妹と白井、初春、佐天が談笑していた。
固法、那由他は傍目からそれを眺め、別の話……固法達が先程していた事件について話しあっていた。
固法「―――……先進教育局(そっち)の風紀委員では、詳細入ってるの?」
那由他「……ある程度。普通の風紀委員以上の事は知らされてると思う」
警察レベルでいえば、那由他は警備員と同等の、謂わば都市外での公安レベルの情報を得ている。
つまり、一、支部レベルでは知りえない情報を持ち合わせていた。
それを他で漏らす事はタブーなのだが……
固法「……この画像も?」
那由他「……っ!!?」
この事件の重要参考人らしき人物の写真。
普通の風紀委員レベルでは知り得ない情報を、この支部は掴んでいた。
那由他「何処で、これを」
固法「……独自にね」
同じ風紀委員といえど、此方も易々と『切り札(初春)』をばらせない。
もし大っぴらに彼女の実力が知れれば、此処以上の重要部署へ飛ばされる可能性も無きにしも非ずだろう。 - 43 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 00:24:23.09 ID:uCLf8oVy0
- 固法は同等であるという風格を見せつけ、那由他への質問を続けた。
固法「事件の鍵だって事は、何となく分かる。【この人】について何か情報は?」
那由他「残念ながら、私もこの写真までかな……付け加えるなら、顔はマスクで隠してたって」
固法「そう……映像妨害の何かかしらね」
嘘では無いだろう。此処まで知っている人間に隠す事など有りはしまい。
那由他「ただ……」
固法「ん?」
那由他「今朝、とある人身売買組織が潰されました……誰の手によってかは、分からない」
固法「警備員や風紀委員では無いって事?」
知り合いのスキルアウトならしでかしそうだが、第7学区(シマ)内でのみだ。
外の縄張り(シマ)には進んで手を出さないだろう。
固法「もしかしたら……【この人】が、組織を?」
那由他「確定事項では無いけど、そういう噂も」
固法「……仮面の英雄(マスク・ド・ナイト)かぁ」
先輩が好きそうな話だ。
那由他「固法さんは、他に何か知ってるの?」
固法「……知ってるっていえば、知ってる。でも有り得ない」
那由他「へ?」
黒基調の服装に、この巨躯。
固法「死人が、蘇る訳ないよね」
那由他「し、死人?!」
固法「……何でも無い。とりあえず、何か分かったら伝えるわ。那由他ちゃんもお願い」
那由他「うん……分かった」
小さく頷く少女。そして苦笑しながら、姉貴分に告げた。
那由他「無茶、しないでね」
固法「え」
那由他「何だか、思い詰めてる様子だったから。この事件は緘口令敷かれてるし……不用意に足を突っ込み過ぎると危険だよ」
固法「……分かってるわよ。大丈夫」
微笑み、頭を撫でてやる。
幼いこの子に無粋な心配を掛けさせる様じゃ、母姉役失格だなと、固法は内心苦笑した。 - 44 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 00:27:20.30 ID:uCLf8oVy0
- 那由他「……ま、固法さんに何かあったら、黒妻さんが暴れるだろうけどね」
その方が心配である。彼一人で戦争しでかしかねない。ある種、特殊導火線付きの一人軍隊(ワンマンアーミー)だ。
那由他「身内逮捕したくないよー。ってことで、導火線の固法さんは火を点けない事」
固法「……生意気娘め」
那由他「あはは」
コツンとデコピン。人工骨格の彼女には少しも響かないが、それでも痛がるフリをして見せた。
打ち止め「あー! ナユタンがミィ一人占めしてるー! ってミサカはミサカは妬ましがってミィにダイブしてみたりー!」
那由他「わっ!!」
固法「ちょ、ら、打ち止めちゃん……」
打ち止め「むふふ……もにゅもにゅー……ミサカのミサカのベリーメロンをもにゅもにゅー」
固法「こ、こらっ!」
この場に男子が居たら、静かに退出しているであろう桃色空間。
その後も最終下校時間が来るまで姦しく談話が続いた―――
―――翌日、PM04:00、学園都市第7学区、とある高校・屋上……
7時限目終了の鐘が鳴る。
部活動・委員会等に所属していない生徒達はぞろぞろと校門を抜けて行った。
そんな中、本来立ち入り禁止の屋上に二つの影。
雲川「まぁ、初陣にしては上出来じゃない?」
土御門「さぁな……そんな感想交換の為に一々呼びだすな。貴様と違って暇人じゃないんだよ」
普通に見れば先輩後輩の関係だが……裏の裏に身を置く二人。
雲川「つまらない人。ま、私も慣れ合う気はだけど、ね……で? アリバイは如何処理したの?」
土御門「オマエが知る必要は無い。事後処理だけ徹底しろ」
雲川「それをする上で、必要な情報という事なんだけど」
土御門「……ふんっ」
利害関係のみの共闘。 - 46 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 00:34:54.48 ID:uCLf8oVy0
- 土御門「……昨夜は俺の家で麻雀大会という事にした。他に知り合い二人を言い包めてる」
雲川「貴方の身内?」
土御門「まぁな……口裏合わせには持って来いの輩だ」
雲川「誰かは教えてくれないのね」
土御門「必要であれば書面で送る。それよりオマエの方は如何なってるんだ」
あくまで他人。
雲川「暗部は手出し出来ないわよ。大本に釘を刺してるから」
土御門「大本?」
雲川「暗部ってのはスポンサーが要るでしょ。理事だったり役員だったり、企業だったり」
土御門「成程……女狐め」
雲川「褒め言葉として受け取っておく」
麗しい笑み……だが土御門元春にとって、腹立たしい事この上ない嘲笑にしか見えなかった。
今回の一件、解体させた組織のバックに理事会役員のお得意様(手)が有る。報復活動として【仮面】を詮索し兼ねない。
そこを根底から防ぐという意味での……雲川芹亜の事後処理能力が必要だった。
雲川「本当は退職させても良いんだけどね。年端も無い女の子を性欲の捌け口程度にしか思って無い連中ばっかだし」
土御門「……オマエも人並みの感情は有るんだな」
雲川「当たり前でしょ……ま、でもお得意様の一部は理事運営を行う上で重役を担っている輩もいたし……無闇に跳ばせないのよ」
故に、警告のみ。
雲川「だから闇雲に手出しはしないでしょ」
土御門「鉄砲玉を雇う可能性だってあるぞ」
雲川「そん時はそん時。貴方が準備したあの『マスク』は完璧なんでしょ? じゃあ大丈夫じゃない?」
土御門「……殺しはしないという吟示が有る以上、絶対は無い」
雲川「だったら貴方か、貴方のお友達が出張れば良い。簡単じゃない」
それこそ簡単に言ってくれると、舌打ちした。
雲川「それで……『彼』は今何を?」
土御門「黄泉川愛穂に事情聴取を受けている。警備員では無く、あくまで個人的なものだが……如何すんだか」
雲川「私は彼女にばらす分には問題無いと思うんだけど」
土御門「それは俺らの判断じゃない……本人が決める事だ」
雲川「……あっそ」
自分達は冷静且つ慎重に、ケース・バイ・ケースで身を振るだけ。
かったるそうにフェンスに寄り掛る少年と、棒立ち腕を組み対面する少女。やれやれと溜息を付き……同時に貯水タンクの方を向いた。
雲川「貴女は今回の件、如何思った?」
土御門「……隠れなくても良いにゃー。告げ口する様な悪いお嬢さんだと思ってないから」
オドオドと身を表し、二人の前に歩み寄る一人の……『正体不明』。 - 49 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 00:44:44.83 ID:uCLf8oVy0
- 風斬「え、えっと……その……」
雲川「怖がってるの? 私達より貴女の方が格上の存在の筈だけど」
土御門「虐めるなよ『先輩』さん。オマエさんと違って繊(かよわい)少女なんだぜぃ」
風斬「そ、そんな……私は、別に……」
雲川「……不思議な娘」
風斬氷華。
土御門「まぁ風斬の個人的な意見を聞いても仕方ないか……」
風斬「す、すいません……ただ……」
雲川「ん?」
風斬「ヒーローみたいで恰好良いかもしれないけど……でも純粋に危ない事ですよね。【あの人】身体ボロボロなんじゃ……」
土御門・雲川「「……」」
場違いな事を抜かす不思議ちゃん。
風斬「大丈夫、なの?」
土御門「……まぁ問題無い。ガタが来たら『同じ目的』持った一方通行が残業(ボランティア)するとよ」
風斬「それは、それで……余計危ないんじゃ」
土御門「ま、殺さず捕えろって約束だけどにゃー……何なら監視してもいいぜ?」
むぅ、と可愛らしく小首を捻る少女。
雲川「貴女個人の意見はOKだけど……その『上』は如何いう判断?」
風斬「え……」
土御門「……話せないよう強制(プログラミング)されているなら仕方ないが、俺個人から理事長殿(アレイスター)に聞けないんでね」
風斬「……えっと」
一寸考え、口を開いた。
風斬「その……『興味無い』って」
土御門「アイツらしい」
風斬「でも、ね……もし上条くんが関わるのであれば……ちょっと考えるって言ってる」
雲川「でしょうね。でも関わらない筈だけど」
土御門「まぁでもカミやんだから何とも言えないけどにゃ……予想外の行動はいつもの事だし」
関係無くても話が出てくる幻想殺し。
雲川「けど、上条当麻が如何関われば問題?」
風斬「えっと……何て言うか、今回……じゃなくてコレから皆さんがしていこうという計画は、『純粋』に、対犯罪者でしょう」
雲川「そうだけど、何故?」
風斬「うーん……上手く言葉が出て来ないんですけど……」
土御門「ま、はっきり言ってカミやんは異端やアクシデントには強いが、『当たり前』とか『普通』に弱い」
雲川「普通?」
如何いう事だ。 - 50 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 00:50:10.69 ID:uCLf8oVy0
- 土御門「例えば、純粋にボクサーと戦う。純粋に傭兵と戦う。純粋に殺人鬼と戦う」
雲川「……成程」
彼自身それなりに喧嘩や格闘は出来る方だが、やはり上には上がいる。
首を圧し折られれば死ぬ。長刀で心臓を付かれれば死ぬ。銃で脳味噌ブチ撒けられれば普通に死ぬ。
風斬「死なない限りは……○○先生(冥土帰し)が何とかしてくれます。でも……」
土御門「オーライ。分かった。危険には晒さない」
雲川「そうね。彼が危険にならなければ問題無い、けどもしも……って事だ」
風斬「はい。でも、もう一つ」
今度は二人が首を傾げる。
風斬「もし、上条くんが……アナタ達の計画とは関係無く、そういった脅威に曝された時は、第一優先として助けろ……との事です」
土御門「……火野神作の様な人物にフラグ建てたらって事か」
純粋なシリアルキラーに襲われた場合。
雲川「つまり非常事態(イレギュラー)? それはまぁ言われなくても助ける筈だけど」
風斬「そう思って頂いて結構です」
面倒が増えたなと、少年は苦笑した。
とりあえず、話は以上だ。
風斬「私も、個人的には応援します……直接、手は出せませんが、情報操作等なら」
雲川「助かるわ。ありがと」
土御門「さぁーてと……んじゃ帰るぜぃ」
雲川「そうね。あ、『彼』は放っておいてもいいの? 黄泉川先生相手じゃちょっと心配なんだけど」
土御門「んー……必要なら俺も呼びだし喰らうだろ。教室戻ってカミやんの補習でも馬鹿にしに行くかなー」
本当は小萌センセのプリチーな怒り顔を拝みにだけどにゃー、と笑いながら消え去った。
雲川も風斬に手を振り、屋上の扉を潜っていった。
風斬「……何もなきゃいいけど」
劃して天使は切に願う。
こんな私でも、友人と呼んでくれる人達の為に、少しでも協力したいという思いは有る。
風斬「黒妻さん……陰ながら、ね」
そしてAIM拡散力場の集合体は、とある高校の屋上から消え去った……――― - 51 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 00:53:35.33 ID:uCLf8oVy0
- ―――翌日、PM04:20、学園都市第7学区、喫煙所……
空気清浄機が静かな音を出して稼働する部屋、二人の男女が無言で煙草を喫っていた。
一人は黄泉川愛穂。警備員であり、この学校の教諭でもある。もう一人は黒妻綿流。元不良の、バイト事務員だ。
カップのブラックコーヒーを一啜りし、黄泉川が口を開いた。
黄泉川「ニュース、見たじゃん?」
黒妻「……何のすか?」
黄泉川「通り魔事件の」
黒妻「あー……半蔵の縄張りで暴れてたヤツね。それの処理で学校来んの遅れたんすか?」
黄泉川「まぁね。事件が連鎖して、さ」
気だるそうに、返答するツナギ姿の青年。
黄泉川「随分眠そうじゃん。昨日は平日なのにニャンニャンか?」
黒妻「……セクハラっすよ」
ニヤニヤ問題発言をするセクハラ教師。
黒妻が知り合いの風紀委員と付き合っている事を知っている。このネタで絡んでくるのは今に始まった事ではない。
黒妻「違います。昨日は徹夜(オール)で……ふぁあぁ」
黄泉川「今日仕事なのに別のバイト?」
黒妻「……麻雀」
呆れる。コイツは駄目大学生か、と黄泉川は苦笑した。
黄泉川「しっかし、起きてたんなら電話に出るじゃんよ」
黒妻「朝気付いたんすよ。酒入ってたんで……御蔭で二日酔い。身体痛いのなんのって」
黄泉川「鞭打ってでも仕事しろ……てか、上条混ぜて飲んでたのか?」
黒妻「……上条『は』混ざってません」
真上の住人は麻雀出来ないですから、と付け加えた。
そういう問題では無く、未成年を酒の場に置くなと内心注意したかったが……その程度のヤンチャについて、黄泉川は寛容だった。
さておき、まぁいいと数枚の写真を取り出し渡した。無言で受け取った黒妻は、それをじっくり見つめる。
黒妻「……コレは?」
黄泉川「何だと思う」
黒妻「……駒場、か」
故人である、昔馴染み……の恰好をした〔何か〕。
黄泉川は昨夜起きた話を彼に説明した。風紀委員でも警備員でも無い黒妻に秘匿事項を話すのは信頼足る人物故である。
因みにこの件については警備員の中でも緘口令を敷いており、秘匿中の秘匿だった。
黒妻「コイツが、犯人を……」
黄泉川「らしいじゃん」
黒妻「……駒場が、生きてる?」
この様子だとコイツも知らない様だ。自分の宛ては外れたなと、写真を回収した。 - 52 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 00:57:29.64 ID:uCLf8oVy0
- 黄泉川「まったくもって分からないじゃん。墓を掘り返す訳にもいかないし」
黒妻「……」
黄泉川「死人が蘇る……在り得ると思う?」
黒妻「……オレにそれを聞くんすか」
苦笑する黒妻。自分は一度『死んでいる』。
黄泉川「オマエと同じケースだったらだが……」
黒妻「まぁ出てきても不思議じゃないでしょうね。でも、それだったら死体鑑定した医者に話聞いた方が早いんじゃねぇのかな」
自分の場合は死亡したと思われた後、誰も追求はしなかった。故に冥土帰しに助けられた後、身を隠す事が出来たのだ。
書類上は死亡扱いにしてもらい、ゾンビの如くフラフラ放浪していた……その為に今現在、住民票・免許・保険等々厄介な事になってはいる。
黄泉川「むぅ……」
黒妻「兎に角、オレも気になります。半蔵と一緒に捜索しますよ」
黄泉川「……了解じゃん。何か分かったら連絡しろ」
黒妻「そちらもね」
溜息を吐きながら、天井を仰ぐ黄泉川女史。
黄泉川「あとは冥土帰し(先生)だけか……」
黒妻「……しかし」
黄泉川「ん?」
率直な感想を述べる。
黒妻「首から上が無いってのは、亡霊みたいっすね……不気味だ。何で写真に写って無いんだ?」
黄泉川「ああ。理由は分からないじゃん。ただ、『マスク』していたらしいね」
黒妻「マスク?」
黄泉川「白い神々しいマスクだと」
黒妻「……」
苦虫をかみつぶしたような表情を見せる青年。
黒妻「何で、マスクなんかを」
黄泉川「身元を隠すって事以外、思いつかないじゃん」
黒妻「……下らねぇ。堂々とやりやがれっての」
胡散臭いやり方は嫌いだと、男は毒づいた。 - 53 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:00:32.43 ID:uCLf8oVy0
- 黒妻「目的は何なんすかね」
黄泉川「分かんない。でも……多分、また出てくるじゃん」
黒妻「それは、如何して?」
黄泉川「仮説だけど……駒場の真似事をする輩かもしれないじゃん」
つまり……無能力者(力無き者)の為、理不尽な暴力から彼らを救うという意味での活動。
一部の人間から言わせれば、駒場利徳という男は無能力者のシンボルだった。
やり方は如何在れ、極端にいえば『英雄』活動をしていたということにもなるだろう。
ただし警備員側からしてみれば心無い能力者(力有る者)と同じ、暴力でしかない。見逃してはおけないのだ。
この街で警察行為をする為には、警備員か風紀委員になるしかない。
それ以外は例え、自警団活動をしているスキルアウトであっても……犯罪者である。これが学園都市の一般論だ。
黒妻「……黄泉川さんは、理解ある方っすけどね」
黄泉川愛穂という人物は、自警団活動について肯定派だった。
都市外(日本)でいう、桜田組(警察)とその他の組(ヤクザ)の関係。
公的に認定された組織か、そうで無いかの違いに過ぎない。そういう解釈も有る。
黄泉川「何にしろ通り魔だけでなく、犯罪組織も潰してるじゃん……重要参考人として話を聞かなきゃいけないじゃんよ」
黒妻「参考人ねぇ」
黄泉川「今後如何出るかだが……」
黒妻「……黄泉川さんの読みで合ってそうですが」
駒場の真似事。
黄泉川「……」
口には出さないが、実はこの男を疑っていた。しかし……この様子だとその雰囲気では無い。
黄泉川「……個人的には、取っ捕まえたくないかな」
黒妻「は?」
黄泉川「まぁ今後次第だけどね」
黒妻「そうですか……でもどんな大義を掲げようと、犯罪者は犯罪者でしょう」
黄泉川「それでも、じゃん」
どうやらこの男は【仮面の人物】を嫌っている様だ。まぁ無理もない。亡き友人の姿を模した【何者】かが、好き勝手仕出かしたのだ。
【それ】が駒場本人ならまだしも……賛同できるものではないだろう。
黄泉川「とりあえず以上じゃん」
煙草を消し、職員室の方へ戻る黄泉川。黒妻は一人、コーヒーを啜った。
黒妻「捕まえたくない、か……」
そんな生温い言葉を言う様になったらアンタも終わりでしょう、と……呆れ半分、感謝半分で毒づいた――― - 54 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:06:40.61 ID:uCLf8oVy0
- ―――翌日、PM06:30、学園都市第7学区、とあるアパート(黒妻宅)……
黒妻が家に帰ると、既に電気が点いていた。
自分の後輩……彼女が夕飯を作っている。他には妹・娘分の少女達が二人、テレビの前で屯していた。
黒妻「ただいま」
固法「おかえりなさい」
エプロン姿の彼女が料理の手を止め家主の上着を受け取る。それから風呂が沸いている事を告げ再び火の下へ戻った。
黒妻がグダグダと風呂へ向かおうとした時、二人の少女達が黒妻へ挨拶する。
那由他「おかえりー」
絹旗「超お疲れ様です」
黒妻「ん。打ち止めちゃんは?」
那由他「彼が迎えに来たよ」
彼とは打ち止めの保護者係……黙ってれば何の危険性も無い核兵器くんの事だ。
黒妻「そっか……最愛ちゃん、今日『バイト』は?」
絹旗「入ってません。まぁ夜中に『緊急』が入らない限りは超暇人です」
黒妻「そりゃ僥倖。二人とも泊ってくのか?」
絹旗「姉貴さんが泊るなら、そうしようかと」
那由他「でも固法さん、明日学校でしょう? 私達は『特殊学級』だから、問題無いけど」
黒妻「あいよ」
学校というシステムに疎遠な子供達だ、と黒妻は考えた。
絹旗は付属の『研究所』にレポート提出するだけで、那由他は所属の『教育局』の手伝いをすれば単位を貰える。
因みに打ち止めちゃんは黄泉川さんの保護下で学業免除扱い、香焼は成績優秀生と定期交換留学生という名目らしい。
普通の学生なら羨ましいと考えてしまう所だが、元不良的には割とどうでもいいと思えてしまった。
那由他「兄さんは海外だって」
黒妻「知ってる。今回は……何処だっけ? イギリス?」
絹旗「はい。そう言ってました」
此処にいないもう一人の『家族』。多分、この中で一番『非日常』的な存在かもしれない少年。
黒妻「英国って特に土産無ぇからなぁ」
那由他「期待してるんだ……」
黒妻「まぁな。前の土産良かったなぁ……香港からの紹興酒」
絹旗「兄貴さんしか飲めませんって」
黒妻以外未成年である。固法は飲めるが……子供達の前で飲む訳にはいかない。
固法「せんぱーい。お風呂入っちゃってくださーい。上がったらご飯にするんで」
黒妻「ん。あいよー」
踵を翻す。少女達も立ち上がり、固法の手伝いに足を運んだ。 - 55 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:08:43.23 ID:uCLf8oVy0
- 黒妻が風呂場の引き戸を開いた瞬間、こっそり固法が近づいてきた。
黒妻「どうした。一緒に入りたいってか?」
固法「……馬鹿」
絹旗・那由他「「……わぁお」」
耳年増な少女達の目を気にしながら小さく告げる。
固法「……後で、お話が」
黒妻「改まって何だよ」
固法「……兎に角、あの子達が帰ってから」
それだけ言い残し、台所へ戻って行った。
少女達にニヤニヤからかわれているが、何処か深刻そうな表情が窺える。
黒妻「……はいはい」
多分、黄泉川さんと同じ事を言われるだろうと内心苦笑し、浴槽に身を下ろした。
―――翌日、PM07:00、学園都市第7学区、とあるアパート(黒妻宅)……
一同『いただきまーす』
固法「召し上がれ」
本日の献立はチンジャオロースに海鮮サラダ、そしてシジミの味噌汁。
禁書「もぐもぐ……チンジャオロースは長谷苑かな?」
そして何故かいる、上の階の居候。
黒妻「……今更だけどよぉ」
固法「ま、まぁまぁ」
絹旗「超図々しい貪欲シスターですね」
禁書「ん! もあい! 私は敬虔なシスターなんだよ! そんな事言ってると罰が当たるかも!」
絹旗「罰が当たるのはドッチでしょうね。あと『さいあい』ちゃんだっつってんでしょうこの超ドベシスター」
因みにこの修道女―――禁書目録(インデックス)の自称保護者である神裂火織から香焼を通して幾らか食費を貰っている。
そうでなければ……数日と足らずで金欠になるだろう。 - 56 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:12:37.77 ID:uCLf8oVy0
- さておき居候では無く、上の家主の方が気になった。
禁書「とうまはまだ帰って来ない」
那由他「……最終下校時間過ぎてるけど」
箸を停めムスッとした表情に変わる禁書目録。
禁書「なんでも……『ビリビリに捕まったから遅くなるー!』だって」
絹旗「また超電磁砲ですか……暖簾に腕押しなのに、懲りない人です」
那由他「本来彼女、補導されても可笑しくないくらい不良行動してるよね……」
固法「あはは……ちゃんと注意しとく」
一同苦笑。虚空から『不幸だー!』と心の叫び声が聞こえた。
それから暫く楽しい食事が続く。各々の近況等を話しつつ、話題が無くなった所で、禁書目録が新しい話題を振った。
禁書「むぐ……そういえば、昨日通り魔捕まったみたいだねー」
刹那の一言。風紀委員二人の手が止まる。
絹旗「そういえばテレビで超やってましたね。ニュースそればっかりです」
黒妻「……」
絹旗「その事件で、二人は忙しかったんですか?」
固法「うーん……そこまで、仕事は回って来なかったかな」
那由他「私も……現場調査くらい」
適当な返答をする風紀委員。黒妻は我関せずで、飯を喰らっていた。
禁書「うーん……警察組織がしっかりしてるこの街でも、悪い事する人は悪い事するんだね」
絹旗「逆ですよ。悪い事する人が沢山いるから、警察組織が超しっかりするんです」
黒妻「言い方悪いが、馬鹿にでも潜在性がありゃ能力(武器)与えられっからな」
個人の人間性(人格)と能力の強度(レベル)は比例しない。
そして一種の都市論。一つの社会として機能させる為には、墓場と牢屋が必要である。
禁書「それでも、立派な警察が多いかも。お腹空いて倒れてたら無償でパンを恵んでくれる警備員のお姉さんがいっぱい!」
絹旗「……超呆れます」
那由他「憐れみだって、それ……アナタ宗教人なんだから、そこんとこと私達より詳しいでしょ」
禁書「詳しいけど、普通じゃないよ」
不思議な回答。
禁書「この街っていうか……この国は困ってれば衣食住が提供される。違う?」
那由他「え?」
禁書「無償とは言わないけど、それに近い形で。凄いよね。無宗教の国なのに」
絹旗「む、むしゅー? ……そ、そうですね! 日本は超凄い国なんです!」
首を捻る少女二人。絹旗と那由他は天才と呼べるほど頭が良いが『大人』という訳ではない。
難題な数式や化学式はスラスラ解けても『社会』的な事象・仕組・知識については年相応だった。 - 57 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:15:28.40 ID:uCLf8oVy0
- 因みに黒妻と固法は『そういえばインデックスちゃん(この子)って日本人じゃ無かったな』といった顔。
黒妻「だが……インデックスちゃんが思っているより、福祉は普通だぞ」
禁書「そうなの?」
固法「インデックスちゃんが見てきたのは殆ど平和な所でしょ? 第十学区のストレンジとか見てみたら、考え方変わるかもね」
禁書「へぇ。この街でもストレンジなんて在るんだ」
捨て去られた街。
絹旗「私にとっては研究所のイメージしかないですけどね……あと死体処理場」
那由他「私も実験施設と墓地かなぁ」
黒妻「……別に行く必要は無ぇよ。伊達や酔狂で住む場所じゃねぇからな」
固法「……」
では、そこに居た貴方は何者なのか……と固法は無粋な質問を心中で考えてしまった。
禁書「それでもまぁ、アフリカや南アメリカの浮浪層よりはマトモな生活が出来てると思うよ。警察も優秀だし」
黒妻「……その警察が、今回の事件も解決してくれたっと。これで平和だ。良かったな」
固法・那由他「「……」」
何とも歯痒い警察組織所属の二名。
禁書「んー、でも何で今更捕まったんだろう。犯人がドジしたのかな……お腹空いて倒れたとか」
黒妻「オマエじゃねぇんだからよ。ま、囮捜査とか何かじゃねぇのか? もしくは『力相応』以上の相手に喧嘩売ったとか」
絹旗「私や那由他に喧嘩売ったらそういう派目になりますね」
那由他「あはは……」
那由他に手を掛けたら手を『捕縛』され、絹旗に手を出したら手を『潰されて』しまうだろう。
禁書「弱い者虐めばっかしてた通り魔が、今回に限って力量間違える?」
黒妻「ははは。インデックスちゃん、中々面白い観察眼持ってるな。シスターやめて探偵にでもなったらどうだ」
禁書「むぅ。別に誰でも考える事なんだよ」
確かに少し考えれば分かる事である。
固法「……兎も角、事件が終わったからといって遅くまで遊び歩いちゃダメよ。模倣犯出る可能性だって有るんだからね」
那由他「そうね。一応最終下校時刻っていうルールがあるんだし」
禁書「私は自宅警備員だから問題無いんだよ!」
絹旗「……自慢できませんって、それ」
一同苦笑。こうして黒妻家の夕食は幕を閉じた――― - 58 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:18:56.31 ID:uCLf8oVy0
- ―――翌日、PM07:45、学園都市第7学区、とあるアパート(黒妻宅)……
カチャカチャと食器を洗う音。ガヤガヤとバラエティ番組の賑やかな音。バタバタと上の住人が帰ってきた音。
それをBGMに黒妻は一人、ベランダで煙草を喫っていた。紫煙が星の見えない夜空に消える。平和な一時。
テレビ番組のエンディングテーマが聞こえ出した頃、カララとベランダの窓が開いた。
絹旗「兄貴さん、ビール飲みますか? だそうです」
黒妻「んー……要らない」
絹旗「了解です」
そっけない返事をし、煙草を消す。
黒妻「インデックスちゃん、帰ったか」
絹旗「はい。超図々しく幻想殺しの夕飯とマーライオンの餌を持って」
スフィンクスだろとツッコミを入れてやる。
黒妻「そういえば……仕上、何か騒いでなかったか?」
絹旗「何かって?」
黒妻「さっきの話」
絹旗「ああ……まぁそうですね」
途端表情が変わる少女。
絹旗「何やら超不可解な事件らしいですから」
黒妻「何処まで情報入ってる?」
絹旗「私はそこまで聞かされていません……麦野と浜面は色々知ってるみたいですけど」
黒妻「……謎の人物についてか?」
絹旗「っ……まぁ兄貴さんならそこまで知っててもおかしくないって、浜面言ってましたね」
駒場絡みなら黄泉川に聞かされていても不思議ではない、という意味だろう。
絹旗「私が教えられるのは兄貴さんが知っているラインまでです。それ以上は麦野に『干され』ます」
黒妻「……■■女子学校」
絹旗「殆ど知ってるんじゃないですか」
ハハハと乾いた笑みを漏らす。
黒妻「オレも仕上と同じルートから聞かされたよ」
絹旗「成程。兎に角、身体強化能力者ばりの超暴走だったそうですよ。組織潰しの方は」
暴走ねぇと、黒妻は呟いた。
絹旗「監視カメラの映像を入手しましたが……戦闘スタイルは私と似ています」
黒妻「というと?」
絹旗「基本銃弾には当たりませんが、当たっても無傷。それから超ゴリ押し」
黒妻「ふーん」
というか見た目可愛らしい少女が戦闘スタイルって如何なのだろう。 - 59 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:21:30.20 ID:uCLf8oVy0
- 絹旗「それから、人質を盾にされた際の対処法が超凄かったですね」
黒妻「人質が盾になってるのにか?」
絹旗「心理戦のプロというか……いや、違いますね。アレは超異常です」
むぅ……と小さく唸る少女。
絹旗「可能であれば投げナイフの様なモノで正確に奴らを伸しますが……それでも上手く人質を取る連中がいます」
黒妻「だったら人質取らせる間も無く片付けろっつの。まだまだだな」
絹旗「いや、殆どは人質取らせる前に対処してましたよ。天井からの奇襲だったり、奴らの仲間を逆に人質にしたりって」
割と悪党だなと毒づいき、新しい煙草を咥えた。絹旗は楽しそうに話を続ける。
絹旗「それでも二回程、人質取られてました……さて問題です。犯人側としてその人質を殺されたら如何なるでしょう」
黒妻「盾が消えるな」
絹旗「そう! 結局、警察組織が出来ないヤクザ者の手口なんでしょうけどね。私や麦野なんかもそうするでしょうし」
そんな言葉は聞きたくないのだが……今は目を瞑ってやる。
黒妻「へぇ……だけど自暴自棄で人質殺そうとする輩もいるんじゃねぇの?」
絹旗「そこも超凄かったんですよ! とりあえず脅しを掛ける。それで逃げ出した弱腰から討伐」
何故か目を輝かせて説明する可愛い現役『殺人鬼』。同業というかそれに近い人物の話がそんなに面白いのだろうか。
……歪んでる。残念だ。
絹旗「要は人質を人質として機能させなきゃいいんです! ミスターXが、先に人質を殺しちゃいますから!」
黒妻「駄目じゃねぇか……最低だろ」
絹旗「だーけーどー! 死んでないんですよねぇ、コレが!」
右手で銃を構える真似をする絹旗。
絹旗「超早打ちでズドン! ズドン! でも……ペイント弾。塗料超多めの!」
黒妻「何でだよ」
絹旗「血飛沫が超沢山出るんですよ。平静じゃない輩はそれで怖じ気づきます。後は同じ要領で……成敗!」
一転、シャドーボクシングの真似事。
絹旗「他には爆発しない手榴弾でビビらせてましたね……いやぁ、ダークヒーローみたいでした」
黒妻「……馬鹿馬鹿しい」 - 60 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:26:59.24 ID:uCLf8oVy0
- 咥えたままの煙草に火を点け、感想を述べた。
黒妻「もっと凶悪な連中や、ホンマもんの軍属なんか相手にしたら如何すんだかな」
絹旗「もぅ。浪漫がありませんね……」
黒妻「浪漫で正義の味方気取ってる輩なら堪んねぇよ。兎に角、そいつぁ完璧じゃない」
絹旗「そりゃ一方通行みたいな完璧超人なんて、そうそういませんよ」
アイツもアイツで人質取られりゃ苦戦するだろうとツッコンでやった。
さておき、人質を取る犯罪者には大きく2パターンある。
一つは苦し紛れ時間稼ぎの甘ちゃん思考。もう一つは自暴自棄自爆覚悟の心中野郎。
前者は如何とでも対処の仕様出来る。しかし後者はどうしようもない場合が多い。
黒妻「やるなら……徹底的にだな。前提から覆さなきゃ」
絹旗「前提?」
黒妻「人質を作らせない。つまり犠牲者が出ない」
理屈は簡単。だが事前事後の関係も有る故、屁理屈になるやもしれない。
絹旗「そんなの超ケース・バイ・ケースですよ」
黒妻「だけどそれを見込んで動かにゃ……仮にも偽善活動するならな」
絹旗「偽善って」
黒妻「心持だろ。最愛ちゃんも……『表』の世界で生活したいって考えるなら、少しは理解しろ」
絹旗「……むぅ」
首を捻る少女。
この子は……『殺人』で生計を立てる様育てられた故、歪んだ生命倫理を持ち合わせている。
戻すには多少強引な矯正が必要だろう。
簡単な事を難しく悩む少女の頭を、男はワシワシと撫でてやる。
絹旗「私が……表に出れる日が有るんでしょうか……」
黒妻「ああ。きっとな」
ただし、今のこの子のままではいきなり表で生活させるのは危険かもしれない。少々『日常』を叩き込まねば……
一寸後煙草を消し『戻るぞ』と絹旗の背中を押して、室内へ戻った――― - 61 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:30:18.50 ID:uCLf8oVy0
- ―――翌日、PM09:00、学園都市第7学区、とあるアパート(黒妻宅)……
パタパタと忙しなく固法が明日の弁当の準備をしている。どうやら今日は帰るらしい。
固法「すいません。明日、風紀委員の朝番で」
黒妻「ああ。大丈夫だ」
少女達は帰り支度の最中。
固法「朝食はシリアルでいいですね。あと、お弁当はタッパーにしてきます」
黒妻「ん」
固法「インデックスちゃんには冷蔵庫の炒飯チンするように書き置きしました」
黒妻「……助かる」
米三合分の炒飯に一番時間を喰ったのは言うまでもない。
固法「それからさっきの件ですが……」
黒妻「……多分、黄泉川さんと同じ事言うんじゃねぇのか」
固法「……やっぱり、言われましたか」
これで共通の情報だ。
固法「率直に……如何します?」
感想では無く、これから如何動くつもりか問うてきた。
黒妻「民間人のオレが勝手に動いていいのか?」
固法「止めても【駒場くん】の事、探るんでしょう? だったら事前に聞いておきます」
黒妻「……とりあえず、半蔵と一緒に動くよ」
固法「じゃあ何か分かったら連絡を」
真剣な眼差し。そうか、と相槌をうった所で少女達が歩み寄ってきた。
那由他「準備できました」
絹旗「浜面が迎えに来てくれるそうなので、大通りから二人の事も家まで送ります」
固法「ありがと。じゃあ今日はこれで」
黒妻「おう。気をつけてな」
少女達が仲良く玄関に向かう。 - 62 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:34:12.19 ID:uCLf8oVy0
- 黒妻「……美偉」
固法「はい」
黒妻「深追いし過ぎるなよ」
固法「……分かってます。先輩も」
黒妻「ああ……それから」
一寸置いて、告げる。
黒妻「今のオマエは、何だ?」
固法「今の……私は……――」
暫し考える。そして……
固法「――……風紀委員です。先輩」
語気を強めて宣言した。
黒妻「おう……それでいい。立場を間違えるなよ」
黒妻は彼女に念を入れる。
知人関係……彼女彼氏云々の前に自分は風紀委員であると言う事を忘れてはいけない。
絹旗「姉貴さーん」
固法「あ、うん。今行くー」
少女達をこれ以上待たせる訳にはいかない。
固法「それじゃ……先輩、また明日」
黒妻「また明日」
少女達の別れの挨拶も聞こえた。
黒妻「……」
部屋に、一人。
黒妻「……オレも大概、道化だな」
一日を振り返ってみる。どれだけの人を騙しただろう。
黒妻「偽善活動、か……」
大の字でベットに横たわり、先程自分が溢した言葉を反芻する。
彼―――駒場利得の行動は偽善なんかではない。ましてや独善でもない。
ふと、ベットの下に手を伸ばす。そこにあるのは、透視能力者(自分の彼女)でも中を覗けない頑丈なトランクケース。
それを開き、中から……
黒妻「……ダークヒーロー、ねぇ」
仮面を取り出した。 - 63 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:37:02.17 ID:uCLf8oVy0
- 独り善がりでも、自分勝手でも、自慰行為でも、偏見的でも、何であっても、やると決めた。行動に移した。
投げ出す事は無い。彼の志を継ぐ為に、自分は奔る。
黒妻「絶対に……妥協しない」
暫時、目を瞑った……
―――ありゃりゃ。お眠かにゃ?
耳に障る声。
黒妻「……何だ」
土御門「ベランダの鍵開けっ放とは不用心だぜぃ、センセ」
道化師。
土御門「身体の具合は如何かにゃ?」
黒妻「……大丈夫な訳無ぇだろ」
最新モデルとはいえ、使用者の身体に甚大な負担が掛る発条包帯を累計1時間以上フル稼働させたのだ。
本来なら数週間動けなくなる程の筋肉痛。もしくは最悪、筋断裂を起こす危険性のある行為。
事が終わった後、急いで病院に行って理学療法を受けていなければ如何なっていた事やら……
土御門「まぁまぁ。結果オーライだにゃー。『マスク』も役に立ったみたいだし」
黒妻「まぁ『仮面』の頑丈さは認める」
歩く教会、といったか。
銃弾は勿論、どんな能力者の能力(チカラ)も受け付けない。
精神・五感干渉能力や広域能力であっても、それが『仮面』で覆われている部分(耳、目、鼻、口)である限り無効になる。
要は脳、そして首から上が無敵状態といった所だ。
黒妻「だがなぁ気軽に言ってくれるよ。痛いっちゃ痛いんだからな」
土御門「ふふーん、気軽ねぇ……残念ながら俺はその『痛み』が分かる人間なんで文句付けれるばい」
そういえばコイツは、無能力(レベル0)だが『肉体再生(オートリバース)』持ちだったか。 - 64 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:39:26.31 ID:uCLf8oVy0
- 黒妻「ヒーリングファクター……確かに便利だな」
土御門「いやぁ再生するっつっても激痛なのよー、コレが」
黒妻「ははは……で? 本題は?」
土御門「んー……」
口籠る道化師。
土御門「ぶっちゃけ、どれくらい連続行動可能?」
黒妻「昨日の時点で、限界はまだ先だったな」
土御門「ふむ……」
一回の行動で累計フル可動3時間。休憩は最低でも二日といった具合だろう。
土御門「……納得かにゃ?」
黒妻「……駄目だな」
フル可動時間の延長はいらない。だがせめてインターバルのスパンを短縮したい。
土御門「発条包帯抜きで行ってみる?」
黒妻「そうだな。相手見て決めた方が良いかもしれない」
昨日の通り魔程度であれば、発条包帯のサポートは必要無かった。
だがその後の裏組織潰しの際は、やはり対物量戦だったので保険は必要だと思う。
ただ相手に関わらず……発条包帯で、ガタイを『駒場(巨躯)』っぽくしている点もある。
『亡霊』作戦でもある為、外すに外せない。
土御門「ふむふむ。じゃあ警備員の新型チョッキを使ってみるかい?」
黒妻「成程……物は試しだな。準備してくれ」
土御門「あいよー」
土御門は、夜なのに何故か外さないサングラスをクイッと持ち上げ、何やらメモった。
土御門「うっし。OK! それじゃあ明日までには持ってくるぜぃ」
黒妻「助かる」
土御門「いいのいいの。センセには『働いて』もらうからにゃ」
ニシシと笑う。
この活動を行う上で、土御門(コイツ)との約束は2つ。
一つは表と裏の『中間』で起きる事件を捜査。
もう一つは……土御門舞夏(義妹)に『何か』あったら、イの一番で『如何にかする』こと。
黒妻「そういえば……雲川から連絡は?」
土御門「……今は無い」
急に語気が無くなる。そんなに嫌いなのか……
因みに雲川(アイツ)との約束も2つ。
一つは『原石』とやらが事件を起こした場合、オレが止めに入る事。
もう一つは『とある理事』の、『公』では無い会合で警護をする事。 - 65 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/03(日) 01:40:36.56 ID:uCLf8oVy0
- 土御門「……悪いが、俺はアイツを信用できない。絶対に」
黒妻「半蔵もか?」
土御門「服部は……今は何の問題もない」
服部―――半蔵。本人はそう呼ばれるのを嫌がるが、とある銘家(伊賀)の統領息子らしい。
半蔵との約束事も、これまた1つ。
一つ、半蔵のチーム(スキルアウト)の縄張り(シマ)自警活動。
そして……『駒場利得』という男の『恐怖』を、再度、犯罪者共に見せつける事。
半蔵にしては珍しく大胆な考えだった。それだけ『駒場』の自治活動における存在の大きさが名残惜しいのだろう。
土御門「兎に角……賽は転がった」
黒妻「ははっ。目は沢山有りそうだがな」
土御門「理事長殿も関与しないらしい。センセさん……やるからには徹底的にだ。誰にも出来ない事をしてみせろ」
黒妻「……ああ」
絶対に、妥協しない。
警察組織とも暗部とも違う『自治』をしてみせる。
土御門「良し……じゃあ、また来るにゃ。しっかり休めー」
黒妻「おう。お休み」
微笑み消える道化師。
黒妻「……頼りにしてる」
覚悟は決まった。『未練』は無い。一つ『後悔』があるとすれば……
黒妻「ごめんな……美偉」
最愛の者への『嘘』だけだった……――― - 66 :>>1にかわりましてカキネがお送りしました [saga]:2011/04/03(日) 02:04:06.76 ID:uCLf8oVy0
- <おまけっ!>
―――とある日、時刻不明、学園都市第7学区、とある病院地下・とある部屋……
垣根「出番がー……無いよー……」ルールルー・・・
テレスティーナ「ハァ?」ポカーン・・・
垣根「まぁ期待してないけどさぁ……何だか伏線回収作業に忙しいみたいだしね」ハァ・・・
テレス「……意味分かんないわよ」
垣根「アニメでオレ出んのは2~4クール後の3期だろうし」
テレス「間に超電磁砲の2期入るかもね」フフッ
垣根「……オマエは出ねぇよーだ」
テレス「分かんないわよ? 最近『木原』ブランド人気じゃない」クスッ・・・
垣根「何調べだよそれ……ハァ」グデェ・・・
テレス「何かホントに元気無いわね。気味悪い」ジトー・・・
垣根「うるへぇ……新約まだ読めないし、地震で未だに風呂入れないし、昨日まで夜警連勤だったし」
テレス「それ、>>1の事でしょ」
垣根「スレ二つも立てる無謀っぷり……半月ROMってたから溜めて入るんだけど……先に新約見ないと気が済まない」
テレス「そこまで言うなら通販で買いなさいよ」
垣根「来ないんだよぅ……宅急便サービスがぁ……本屋探して歩き回るしかねぇしよー……」ハァ・・・
テレス「あっそ……ま、頑張りな」タラー・・・
垣根「……」ジー・・・
テレス「何よ」
垣根「買い物付き合って。デートキボンヌ」
テレス「寝言は寝て言え」
垣根「つまんねぇ女郎だなぁ……しゃーねぇか……んじゃ次回予告兼アンケート」ビシッ
①引き続き【仮面】の自警活動。希望するシュチュあればよろしくー。
②浜面のトレーニング手伝い。兄貴が浜面と特訓するよん。
③雲川の御使い……謎の仕事(未定)。
④その他。リクエスト。
テレス「ただ『所用』で送れるかもしれません。御了承を」
垣根「ま、コッチはなるべくシリアス&エロ路線で行くかもしれないからな」
テレス「それでは例の如く感想質問意見罵倒提案リクエスト等々、コメントお願いします」
垣根「それじゃあ、また次回!」ノシ! - 67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/04/03(日) 02:31:52.44 ID:Gam+/YZgo
- ②で
- 68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/03(日) 10:28:04.14 ID:zjFu+BuDO
- 乙! いやぁ、そういえばナユタンもチート性能だったよな。
アンケは②で。 - 69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/04/03(日) 22:04:41.38 ID:qIfHG9c10
- ②
- 70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/04/04(月) 09:25:11.47 ID:vv+DNF46o
- 4.香ちゃん危機一髪(勿論性的な意味で)
- 71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/04/05(火) 14:32:53.88 ID:IEsvbi3ko
- しばらく来てないと思ってたら来てた
おかえりなさいから見返してくる
アンケートは②で - 73 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/06(水) 23:03:52.41 ID:CBarEwko0
- ―――とある日、時刻不明、学園都市第7学区、とある病院地下・とある部屋……
垣根「こんばんは。やっと新約読めました。アンケの結果は②になりそうですね……しかし今回は書き溜めしてた短編を投下します」キリッ!
テレスティーナ「……オマエはまたメタい事を」ハァ
垣根「っせーし! どうせ本編で二度と出番無ぇんだから二次創作くらい好き勝手やらせろし!」ウガー!
テレス「はいはい……私はもしかしたら有るかもね」ニコッ
垣根「あー! ウゼぇ! 無ぇよ! 絶対ぇ無ぇよ! オレらは脱落組だよ!!」ベー!
テレス「……はいはい」タラー・・・
垣根「ったく……こほんっ。今回の主役は……何と! まさかの! 御坂美琴です!」ジャーン!
テレス「黒妻も固法も超電磁砲キャラなのに『先輩』シリーズで超電磁砲主役で出るの初めてじゃないかしら?」アハハ
垣根「そりゃまぁ>>1が『上条美琴』見飽きて書きたくないって思ってるからだろ? 一番メジャーなのに」
テレス「でも今回カミコトなんだろ?」
垣根「……良いの! 色々あって『先輩シリーズ』だから良いの!」ウガー!
テレス「あっそ。とりあえずレス返すわね―――」サラッ
レス返信!
>>70・・・『アンジェレネ・わふたー』まで御待ちを。
>>72・・・Yes,he's.
テレス「―――以上」
垣根「因みに、今回は22巻直後の話になります……オレ、またハブられた……」ショボーン・・・
テレス「ウザぇ……とりあえずさっさと投下しなさい。私とアンタの絡みなんて誰も見たくないでしょ」
垣根「垣根×テレスティーナとか誰得だよ! 両方ともラスボスコンビってかっ!?」ハァ・・・
テレス「勝手に言ってろ……じゃあ、どうぞ」ペコッ
垣根「あー! おーれーのーせーりーふーとったーぁー!」ギャーギャー!
テレス「……不幸だわ」ヤレヤレ・・・
垣根「うー……まぁいいや。所々に入る【―――】はオレの歌声だと思ってね!」キラッ★
テレス「……御坂美琴本人だと思って下さい」ハァ・・・
では投下! - 74 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/06(水) 23:08:15.72 ID:CBarEwko0
- ―――十月三十日、PM10:30、ロシア、とある小さな漁港……
寒い。
それだけしか、考えられない。
御坂10777号「……御姉様(オリジナル)」ザクザク・・・
妹達(シスターズ)の一人が歩み寄って来る。此処、ロシアで合流した妹。
先程までは777(スリーセブン)なんて洒落た名前をつけて呼んでみたりしてた。
しかし、御姉様と呼ばれた少女―――御坂美琴はその声にピクリとも反応しない。
御坂777「此処に居ても、無意味です。一度移動しましょう、とミサカは提案します」ピタッ
御坂「……」ボー・・・
御坂777「ノボシビルスクの変た……20000号が援護に来ました。近くの農村で仮屋を確保したそうです、とミサカは奴のマトモな働きに――」
御坂「……ねぇ」ボー・・・
御坂777「――に驚きつ、つ……何でしょう」チラッ
地面にヘタレ込んだまま、振り向かず、呟く。
御坂「……此処の海って……どの位、深い?」ボー・・・
御坂777「っ!!? お、御姉様ッ!!」ギョッ!?
御坂「……水温は、どれくらい?」スタッ・・・テクテク・・・
御坂777「何を……ッ!!」バッ!
幽鬼の様に海の方へフラフラ歩き出す御坂。
沈んだと思われる『彼』を、無謀にも泳いで引き上げる為か……もしくは後を追う為に。
御坂777「馬鹿な真似は止めて下さいっ!!」ガシッ!!
御坂「……」ピタッ・・・
妹に掴まれ、大人しく……というよりも、無気力故、あっさりと止まる姉。
御坂777「分かっているでしょう……死ぬ気ですか……」グイッ・・・
御坂「……っ……ぅぅ……」クタッ・・・
今の御坂の状態は、何を仕出かすか分からない。
777は急いでセーフハウスを確保している20000号に連絡を入れた。
御坂777「っ……此方、777。二万号(末っ妹)……直ぐ其方に向かいます」ボソッ・・・
御坂末妹『緊急事態でも? とミサカは777に尋ねます』エ?
御坂777「御姉様が、拙い……とミサカは簡潔に説明します。兎に角、シャワーと寝巻きとベットの準備、お願い」ボソッ・・・
御坂末妹『へ、あ、うん。了解……あとセロr……一方通行と運営様が無事との報告がミサカの下に届きました』サラッ
御坂777「そうですか、良かった……とりあえずオーバーと、ミサカは連絡を切ります」スッ・・・
此方とは別に動いていたらしい組の安否が取れた。
それはそれで嬉しい事ではあるのだが…… - 75 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/06(水) 23:12:28.20 ID:CBarEwko0
- 御坂「ぁ……っ……うぁ……うううぅ……馬鹿ょ……ああぅ……」ポロポロ・・・
小さなゲコ太の限定ストラップを握り緊め、胸に抱える姉の姿を見詰めると、素直に喜ぶ気持ちが湧いて来なかった。
御坂777「……御姉様。行きましょう」ギュゥッ・・・
御坂「うぁあぁ……っ……アイツ、が・・・・・ぅぅ……当麻がぁ……」ポロポロ・・・
御坂777「ッ……行きましょう」グッ・・・
悲しいのは同じ。だが、悔しいが……自分と姉ではその『大きさ』が違う。
今は自分がしっかりするしかないと、777は姉をそっと抱き、ヘリまで歩き出した……―――
【 ――貴方は……今どこで何をしてますか……この空の続く場所に居ますか……―― 】
―――数週間後、とある土曜日、お昼過ぎ、学園都市第7学区、風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部……
第三次世界大戦終了後、世界、そして学園都市は何事も無かったかのように回っていた。
此処、風紀委員第177支部もいつもと同じように、自分達の溜り場と勘違いした女子中学生が集まって駄弁っている。
少し前までは治安維持の為、警戒レベルを上げて忙しなく動いていた風紀委員も最早普段と変わらない風。
今はお昼ご飯を終え、呑気にお茶など啜っていた。
白井「―――……しかし、お姉さま。戦争中(今回)は馬鹿な真似をしてくれましたの」ジトー・・・
御坂「え!? あ、いや、その……あははは」タラー・・・
初春「皆心配したんですよ? 都市中探しても居ないって大騒ぎで。白井さんなんて今にも死にそうな顔してましたからね」モー・・・
御坂「ごめんごめん。ちょっと、ね……」ポリポリ・・・
佐天「しっかし、ロシアに飛んでたなんて。もしかしてアレですか! 超能力者に課せられた特殊任務とか!」キラキラ・・・
御坂「そんなんじゃないわよ。ただ……私情で、かな……」シュン・・・
話の中心に居る超能力者(レベル5)第三位―――超電磁砲(レールガン)こと御坂美琴は、大戦後、あまり自分の事を話そうとしない。
周りのメンバーも気を使ってか、深くは聞き出そうとはしなかった。 - 76 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/06(水) 23:15:24.53 ID:CBarEwko0
- 固法「私情だろうが任務だろうが、一言掛けてから出てって欲しかったわね。突発的に出て行ったら皆が心配するの目に見えてたでしょ?」ハァ
御坂「すいません……次から気を付けます」ペコッ
固法「……なら、いいけど」ジー・・・
時折見せる翳り。
佐天「……そうだ! 皆で買い物行きましょうよ! 買い物!」ニコッ
白井「良いですわね。久しぶりにお姉さまと二人きりのデートをあウチッ!!」ゲフッ!
初春「皆で、って言いましたよね? 耳聞こえてますか?」ニコッ・・・
白井「……うぃ」コクッ
御坂「でも黒子と初春さん、仕事が」チラッ
上司を気にする部外者A。一応、自身が民間人である事は分かっている様だ。
固法「……良いわよ。行ってきなさい。特に仕事は無いし」コクッ
白井「優しい先輩に恵まれて幸せですの。さぁ、お姉さま! 早速行きましょ! サクサク行きましょ!」グイッ
御坂「ちょ、待、場所も決めないで」アワワ・・・
佐天「いつもみたいにブラブラ行き当たりばったりで大丈夫ですよ! それじゃあレッツゴー!」ニカッ!
御坂「もぅ……仕方ないわね」クスッ
初春「あ! 折角ですから御坂さんの奢りで何か食べたいですねぇ」ニヤッ・・・
御坂「な、何でよ!?」エ?!
白井「そうですわね。勝手に出て行った御詫び……とまではいきませんが、せめて心配掛けたという気持ちくらいは」フフフ・・・
御坂「この……あーはいはい! 奢ってやるわよ、がめつい後輩共め!」ハァ・・・
白井・初春・佐天「「「わーい!」」」ヤッホー!
ワイワイガヤガヤと支部から出て行く仲良し4人組。
固法「……空元気ね」フゥ・・・
一人残された支部長――固法美偉は愛飲しているムサシノ牛乳を啜りながら、ボソリと呟いた。
どれだけ取り繕っていても気付いてしまう御坂美琴の物憂げな表情。
彼女が久しぶりに此処へ顔を出した時……まるで生気が無かった。
後輩――白井黒子に無理矢理連れて来られ、心配掛けた我々への生存報告をしにきただけ、といった感じ。
現在でも顔は明らかに痩せこけ、目元にクマが出ている。本人はダイエットだと苦笑するが、明らかに心配疲労の色だ。
固法「ロシアで何してきたかは知らないけど……」カタカタ・・・
気付いている事。
固法「……上条、当麻くんか」タンッ・・・
天才ハッカー――初春飾利が調べた結果……美琴と仲の良かった一人の男の子の名が『書庫(バンク)』から消えていた。
固法「……辛いわね」フム・・・
それは、いつかの『 』を見ている様で……――― - 77 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/06(水) 23:22:58.16 ID:CBarEwko0
-
【 ――今まで、私の心を埋めていたもの……失って初めてきずいた……
こんなにも私を支えてくれていたこと……こんなにも笑顔をくれていたこと……―― 】
―――とある土曜日、PM04:30、学園都市第7学区、とある商店街……
少し前までシャッターを下ろし切っていた商店街も、今では通常営業を行うまでに活気づいてきた。
学生達がショッピングを楽しみ、ゲームセンターで学校生活の鬱憤晴らしをし、人気のスイーツを食べ歩いている。
4人も周りの学生たち同様、ブラブラと青春を謳歌している……様に見えた。
御坂「―――あ、これ可愛いかも……如何思う?」ニコッ
初春「相変わらず子供っぽ……いえ、可愛いですよ! わー、いいなー」ボウヨミー
佐天「でも御坂さん、もうストラップ飾るとこ無いですよ? ジャラジャラ多過ぎですって」アハハ
御坂「あ、ホントだ。我慢するしかないっか」ハハハ
痛々しい程、健気。
白井(何も……話してくれませんのね)
今に始まった事では無い。彼女は『全て』を自分一人で抱え込むタイプだ。
常盤台のエースだとか、超能力者第三位だとかのプライド故ではない。御坂美琴たる人間の本質が、意図せずして己を孤高にする。
白井(私……私共では、如何にも出来ませんわ)
ただし悔しいが『彼』だけは……彼女の心に入り込めた。だがしかし、その『彼』が、いない。
ジャラジャラと垂れ下がるストラップの中に、一番のお気に入りだった筈の限定ゲコ太ストラップが消えている…… - 78 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/06(水) 23:25:49.52 ID:CBarEwko0
- 白井(居ればプラス。居なければマイナス……私ではお姉さまにとって『0』以上は無い)
御坂「――こ」
白井(なんて、歯痒い……ホント、腹立たしい)
御坂「――黒子―――ねぇ」
白井(顔を見せないさい。お姉さまの安定剤。そして私の好敵手……今すぐ貴方をブン殴って差し上げますのに)ギリッ・・・
御坂「黒子っ! 何ボーっとしてんのよ?」チョップ!
白井「どぅふっ!!? お、お姉さま!?」イテテ・・・
これではいけない。自分がこの調子じゃ彼女に勘付かれてしまう。
白井黒子は道化を演じなければならないのだ。
初春「……白井さん」チラッ
白井「大丈夫ですの、心配しないで……おほほ! お姉さまの幼児思考が如何すれば治るか真剣になり過ぎてしまいましたわ」フフフ
御坂「ったく、余計な御世話だっつぅの……あ! 新作のクレープ出てるじゃん! 戻って来てからチェックしてなかった!」ワァ!
佐天「流石、御坂さん。お目が高い! アレ中々イケますよー!」ブイッ!
御坂「よぅし! じゃあそれ奢ってあげましょうか!」ニコッ!
白井「流石お姉さま! 太っ腹ー! 最近お腹も微妙にふっくらとなぶりゅっ!!」アベシッ!!
御坂「ッ~~~アンタってヤツは……」ビリビリ・・・///
これでいい。これが白井黒子に出来る最善なのだ……
―――とある土曜日、同刻、学園都市第7学区、とある商店街外れのビル屋上……
御坂蛇「御姉様(オリジナル)……痛々しいですね、とミサカは率直に感想を述べます」ジー・・・
彼女達に気付かれないビルの屋上から、妹達(シスターズ)の一体―――個体番号(シリアルナンバー)17600号が監視をしていた。
双眼鏡に写る自分の御姉様(複製元)は、見るのが辛い程、笑顔を振りまいていた。
彼女が強い人間なのは知っている。しかし、知っていても……行動を理解できない。
御坂蛇「……何故」ムゥ・・・
笑えるのか。本来であれば四六時中、ベットの上で泣き続けているだろう心中の筈だ。
御坂蛇「師匠……貴方には理解できますか? とミサカは説明を求めます」チラッ
海原「……」ジー・・・
双眼鏡も使わず、裸眼で御坂美琴の居る人混みを見詰める男性―――海原光貴。
海原「……癪ですが、理解できますよ」コクッ
御坂蛇「と、言うと?」ハテ・・・
海原「スネーク……言葉にするのは無粋です」クルッ
多くは語らず、踵を帰す少年の皮を被った魔術師。 - 79 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/06(水) 23:31:17.79 ID:CBarEwko0
- 御坂蛇「残念ですが……高確率で上条当麻は死にました。とミサカは個体番号10777号との感覚共有を元にデータを―――」
海原「……」ギロッ・・・
御坂蛇「―――っ……すみ、ません。出娑婆り過ぎました……」ペコッ・・・
分かっている。知ってはいるのだ。だがしかし、それでも……
海原「……彼は約束を破らない」カツカツ・・・
御坂蛇「え」
海原「男の約束ですよ……確率が全てではない。彼はそういうモノを全て引っ繰り返してきた人間です」ピタッ
御坂蛇「……約束、ですか?」
海原「ええ。貴女(ミサカ)達を守る為に、彼は必ず戻って来る」ボー・・・
彼を信じずにはいられなかった。
御坂蛇「ミサカには……分からない」フム・・・
海原「こういう時、男は諦めが悪いんですよ……スネーク。貴女もやはり女という訳です」クスッ・・・
御坂蛇「そういう問題ですか?」ハテ?
海原「僕にも、もう判断が出来ませんね……とりあえず帰りましょう。これ以上は色々失礼だ」テクテク・・・
いつもなら何秒何分何時間何日何週間何ヶ月何年でも追跡するくせに……とは言わなかった。
少なくとも『彼』と縁が有った人物は、現在、多少の心的ダメージを負っている。それを更に叩くような真似など、自分には出来なかった。
願わくば、誰も彼もが、日常に……戻らん事を、信ずる限り……
【 ――失ってしまった代償は……とてつもなく大きすぎて……
取り戻そうと、必死に……手を、伸ばして、もがくけれど……―― 】
- 81 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/06(水) 23:40:15.06 ID:CBarEwko0
- ―――とある土曜日、PM06:20、学園都市第7学区、とある商店街……
佐天「ああ、もうこんな時間かぁ」ハァ
星々が輝き、風紀委員や警備員が下校指導を始めた頃、4人は帰路に着く事にした。
特に何を買った訳でも無く、行き当たりばったりではしゃぎ回った一日だったが……これが日常である。
白井「さて、では私共も」チラッ
初春「そうですね。先輩も今日はそのまま家に帰っていいって言ってますし。お言葉に甘えて早引きしちゃいましょ」フフフ・・・
御坂「……」テクテク・・・
彼女(3人)達にとっては、今も昨日も、多分明日も……何も変わらない。
しかし御坂美琴にとっては……
佐天「……えっと、明日は如何しよっかなー! 春上さん達も誘って第6学区でも行こうか!!」アハハ・・・
初春「い、良いですね! 折角ですから婚后さん達も一緒に如何でしょうか!」ウンウン・・・
白井「まったく……二人とも、週末課題が沢山有るから大変だーっ! とか言ってませんでした?」ジー・・・
初春・佐天「「あ、あはははは……」」ポリポリ・・・
御坂「……」テクテク・・・
白井・佐天・初春『……』チラッ・・・ハァ
後輩とはいえ、年相応に怒ってやれば良いだろうか……いや、それで済むならとっくにやっている。
今、彼女にとっては全てのコールが暖簾に腕押し状態なのだ。
白井「……二人とも、今日は此処までに。後は私が」チラッ・・・ボソッ
佐天「う、うん……御坂さんの事、よろしくね」コクッ・・・
初春「白井さん……弱ってる期に乗じて変な『慰め』しちゃ駄目ですよ」ジトー・・・
白井「人をケダモノの様に……分かってますの。お姉さまが自分から告げるまで、私達は控えるしかない」ムゥ・・・
上の空の先輩の数歩後ろで、後輩達は話終えた。
佐天「……それじゃあ、御坂さん。白井さん。私達は此処で」スタッ
御坂「……あ。うん、気を付けてね」ニコッ
初春「白井さんが変な事してきたら直ぐに通報して下さいね。法的措置になればそう簡単には娑婆に出られなぁ痛いっ」ポカッ
白井「一言も二言も多い女ですわね……精々週末課題とやらと格闘して下さいな」フンッ
御坂「あはは。ま、分からないとこ有ったら遠慮無くメールして。先生に教えたってばれない範囲で指導してあげるから」クスッ
他人の心配。
佐天「……御坂さんも」ボソッ・・・
御坂「ん?」
佐天「御坂さんも……何かあったら、遠慮しないで……言って下さいね」ニコッ・・・
御坂「え、あ……あはは。うん、そうだね。『何かあったら』相談するよ」ニコッ・・・
笑顔が、苦しい。
遣る瀬無いが……それ以上は何も言わず、初春と佐天は自分達のアパートの方へ歩いて行った。
残された白井は、多くは語らず、煤けた背中をした御坂の背中をポンッと押し進めた - 82 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/06(水) 23:53:18.71 ID:CBarEwko0
- 白井「さてさて……そろそろあの小五月蠅い寮監(行き後れ)が門前仁王立ちを始める時間ですの。急ぎましょう」テクテク・・・
御坂「そうね……」テクテク・・・
サクサク進む、寮への帰り道。
白井は成るべく……何でもいい、如何でもいい話を御坂に投げ掛ける。勿論、そこにコール&レスポンスが無いのは分かり切っている事。
しかしそうしないと、只でさえ『伽藍』の御坂美琴が消滅してしまう様な気がした。
白井「―――……そしたら、あのイカレ御嬢様の婚后光子が私に向かって……その……」チラッ
御坂「……」テクテク・・・
白井「……っ」グッ・・・
我慢だ……何も言うな。
白井「……ねぇ、お姉さまぁ。今晩一緒にお風呂でストロベっちゃうーなんて計画、如何ですか?」ニコッ・・・
御坂「……」テクテク・・・
白井「ッ……腹を割って、話そー……なんちゃってー……」ジー・・・
御坂「……」テクテク・・・
白井の葛藤……同情。憐れみ。怒り。悲しみ。
此処で彼女に憐れみ同情したとしよう。
例えば『辛いのは分かります……それを私共へぶつけて下さっても構いませんのよ』と優しい言葉を掛ける。
しかし彼女は『あはは。何の事? 気にしてなんか無いよー』と惚けるだろう。
彼女に怒ったとしよう。
例えば『そんなウジウジと、いなくなったものは仕方ないでしょう!!』と此方の感情をぶつけてやる。
そしたら彼女は一言『ごめん』と告げ、その後無言を通すだろう。
何を言ったところで無駄。自分程度じゃ如何しようも、無い。
御坂「……」テクテク・・・
白井「……お姉さま」トボトボ・・・
御坂「……」テクテク・・・
白井「お姉さま、は……何故……」トボトボ・・・
御坂「黒子」ボソッ・・・
ようやくの反応。白井は息を飲み、身構える。
白井「っ……何か」ジー・・・
御坂「……ありがと」ニコッ・・・
白井「ッ!?」ドキッ・・・
御坂「皆して気ぃ使ってくれて……ホント、ごめんね」クスッ・・・
白井「ぁうっ……そんな、こと……」グッ・・・
御坂「ううん。あはは、駄目なお姉さまよね」テクテク・・・
逆に、気を使わせた。
御坂「佐天さんなんか、いつも以上に絡んでくれて……アンタもアンタで無理矢理いつも通りに接してくれて」テクテク・・・
白井「ぁ……ゃ……」テク・・・テク・・・
御坂「もしかして初春さん……調べた?」チラッ
白井「ッ……お姉、さま……」ゴクッ・・・ - 83 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/06(水) 23:58:10.09 ID:CBarEwko0
- 御坂「……いいのいいの。別に隠してる訳じゃないし」ニコッ・・・
如何して、そんな顔を……
御坂「いいよ。全然気にしなくたって。元々アイツがいなかったらいなかったの生活をすれば良いだけの事だしさ」クスッ・・・
白井「そん、な……」
御坂「それに、黒子だって……アイツがいなくなって大好きなお姉さまを独占でき―――」
パンッ・・・・・
御坂「―――っ……」ピタッ・・・
乾いた音。 白井の、平手。
白井「っ……っうぅ……っ……」ポロポロ・・・
御坂「黒、子……」ジー・・・
白井「冗談でも……っ……ぅぅ……言って良い事と、悪い事が……っ……」ポロポロ・・・
御坂「……ごめん」シュン・・・
独占? ……出来る訳が無い。
元々『彼』と自分では、御坂に対して好きの『基盤』が違う。
御坂は白井にとっての『安心』かもしれないが、彼は御坂にとっての『安心』そして『安定』だ。
それに正直……こんな彼女を自分は尊敬できない。
御坂「……泣かないで」スッ・・・
白井「……こんな、時でも……っ……他人の心配……しないで、下さい・・・・・っ……ぅぅ……」ポロポロ・・・
御坂「別に、そんな」ピタッ・・・
白井「じゃあ……ッ……自分の気持ちをぶつけて下さい! 誰にもぶつけてないのでしょう!? 一人で抱え込んで……っ」ポロポロ・・・
御坂「……」
白井「っ、いつも、通りに? ……ぇぅ……出来る訳、無いですの! いい加減にして下さい……御坂美琴ッ!!」ドンッ!
御坂「黒、子……」
白井「私が、頼りないのは十に承知ですの……ぅっ……でも、初春や佐天さん……彼女達に心配掛けた、その末に……言う事が……」グズッ
この演技だ。そんなんじゃ自分達だって……演技で返してやるくらいしかできない。
白井「『あの方』の、代わりに? そんなの……口が裂けても言えません! でも、それでも……辛いって吐露くらいは……うぅぅ」ポロポロ・・・
御坂「……」グッ・・・
白井「寝言で……ぅぅ……魘(うな)されている、お姉さまなんて……っ……もぅ、見たく、ない……」ポロポロ・・・
御坂「っ……ごめ、ん……」ギリッ・・・
白井「お願いです、謝らないで……せめて……っ……泣いて、下さい……怒って下さい……っ……」ポロポロ・・・
そうじゃなきゃ、自分が馬鹿みたいだ。 - 84 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 00:12:06.15 ID:pHVfWOdI0
- 御坂「……黒子」ジー・・・
白井「ぅぅ……っ……私からは、コレ以上何も……」グスグスッ・・・
御坂「……」ギリッ・・・
そして、御坂は―――
ごめん。
―――謝った。
白井「ッ」ギロッ
御坂「ホントに、ごめん……用有るから……先帰っててっ!」タッ!
やはり謝る。そして……逃げ出した。
白井「ッッ!! お姉さまッ!!」バッ!
駆け出す御坂に手を伸ばす。しかし、届かない。
白井「お姉さまっ!! お姉さまあぁっ!!」タッ!
自分が移動能力者(テレポーター)で有る事さえ忘れ、追い駆ける。
しかし純粋な足の速さなら、御坂の方が上。百メートルと少しくらい走った所で……
白井「ハァハァ……っ……」タタタタッ・・・タッタッ・・・タッ・・・スタッ・・・
御坂を見失った。
白井「お姉、さまぁ……うぅ……っ……」ポロポロ・・・
なんて、無力……
自分『が』泣く事しか、出来ないのか……
【 ――……まるで、風のようにすりぬけて……届きそうで、届かない―― 】
- 85 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 00:16:32.27 ID:pHVfWOdI0
- ―――とある土曜日、PM06:50、学園都市第7学区、常盤台中学女子寮事務室……
白井黒子は一人で帰る。
寮の規則だの寮監の折檻が待っているだの、考える気力は無い。
白井「……」トボ・・・トボ・・・
休日だからといって大目に見てくれる寮監では無い事も承知している。だが最早そんな事、如何でもいい。
寮監「……」ジー・・・
白井「……」テクテク・・・
予想通り、玄関に仁王立ちしている凡そ30くらいの女性。
白井「……」テクテク・・・
寮監「せめて言い訳くらいしたら如何だ?」ギロッ・・・
遅刻常習犯の白井黒子を捨て置く訳も無い。
白井「……すいません。遊び歩いてて、遅れました」テクテク・・・ピタッ
寮監「……やけに素直だな」ジー・・・
誰が見ても気力が無いという事が一目瞭然だ。
寮監「御坂は一緒じゃないのか」キョロッ
白井「……」ピクッ・・・
寮監「それならば、どうせアイツの言い訳を預かってきているのだろう? 言ってみろ」ギロッ
白井「……っ」グッ・・・
寮監「隠した所で、貴様も奴も罰則は待逃れん。早く……ん?」ジー・・・
そこで気付いた。様子がおかしい。覇気が無いのは先程からだが、目の周りが赤く、いつも以上に髪が乱れている。
風紀委員の仕事で危険な真似をしてくるのはいつもだが、そういった感じでは無い。
寮監「……御坂と喧嘩でもしたのか?」ピクッ
白井「ッ……うぅ……っ……お姉、さまぁ……ぇぅ……」ポロポロ・・・
寮監「白井?」ピクッ・・・
まさか、あの超能力者の少女に限って……
寮監「白井、何があった。喧嘩じゃないのか?」スッ・・・
白井「うぅぅ……うわあああああぁぁんっ! お姉さまあぁぁ……うええええぇぇんっ!」ポロポロ・・・
寮監「し、白井!?」ビクッ!?
年相応に泣きだす少女。こんな姿の白井は見た事が無い。一体何があったというのだ。
白井「うわあああぁぁんっ! びええええぇぇっ!!」ボロボロ・・・
寮監「し、白井! 一先ず落ち着け! 話を聞くから!」アタフタ・・・
鬼の寮監とはいえ本気で泣いている娘子には敵わない。此処(玄関)で泣かせたままにしていては、何れ誰かに見られてしまう。
加え白井が泣き喚く言葉の中に御坂美琴(お姉さま)という単語が入ってしまっている以上、他に知れたら大事になりかねない。 - 86 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 00:22:34.07 ID:pHVfWOdI0
- 遽しくも多少落ち着かせた後、寮の事務室へ彼女を連れて行った。
寮監「まったく……」ハァ・・・
常盤台の大能力者。そして風紀委員とはいえ、歳にしてまだ12,3。
反抗するいつもの糞餓鬼、もとい御転婆な普段の少女達の方がまだ扱い易い。
寮監「……落ち着いたか?」チラッ
白井「うぅ……っ……すいま、せん……ぇぅ……」グスッ・・・
寮監「ハァ……良いよ、構わないさ」テクテク・・・
ブラックコーヒーとココアを作り、テーブルに置く。
寮監「貴様を泣かせるのは好きだが、元から泣いている貴様を痛ぶる趣味は持ち合わせていないからな」フフッ
白井「……」グズグズ・・・
いつもなら今のジョークに『相変わらず捻くれた根性してやがりますの』と軽口返してくる筈だが、相当滅入っているらしい。
寮監「……話せるか?」チラッ
白井「……」ボー・・・
寮監「別に深くは聞かない。話せるだけ話してみろ。他人に言ったりはしないから」スッ
客人用のソファに座る白井に対し、右斜め隣へとキャスター付きの椅子を移動させる。
暫時無言を続けていた白井は、ココアを一啜りした後、ボソボソと話しだした。
白井「……お姉さまは、大馬鹿者です」グスッ・・・
寮監「……そうかもな」ジー・・・
白井「誰だって、気付くに決まってますの……なんで、いつも自分一人で……」ボソボソ・・・
寮監「……」フム・・・
珍しく御坂を乏しめる発言をする白井。偶に喧嘩はしているが軽口程度がいつもの風だ。
しかし今回は割と本気で怒っている様に見える。
白井「私が頼りないのは自覚しています……でも……今、お姉さまは私くらいにしか気持ちをぶつけられる相手がいない筈です」グズッ・・・
最近―――第三次大戦後、御坂美琴の様子がおかしいのは分かっていた。
寮監としての立場上、深入りはせず傍目から見るに徹していたのだが……それでも違いが分かる。
勿論、常に寮の子供達を見ているという点で自分が敏感だという理由も有るが、それ抜きでも何処か『虚ろ』なのは見て取れた。
行動仕草はいつもと変わらぬ感じだが、雰囲気が、という意味で。
寮監「御坂がああなった理由を知ってるんだな?」チラッ
白井「……」グスン・・・
寮監「言えとは言わないさ。何にしろ私が取るべき行動は変わらない」フッ・・・
白井「……冷たい女ですのね」
寮監「冷静と言って欲しいな。それに……私は大人だ」クスッ
寮生にとって規律、日常。それが『寮監』だ。
白井「もし……お姉さまが帰って来なかったら……」
寮監「長引くようなら捜索願を出すまで。この前(第三次大戦)の時と同じ様に」 - 87 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 00:27:01.23 ID:pHVfWOdI0
- 第三次大戦中、学園都市の多くの生徒は自宅謹慎を命じられた。
常盤台も例外では無く、寮生全員が極力寮から出るなと理事の指示が入る。
その際……御坂美琴は、既に寮にいなかった。
捜索願を出すが一向に行方不明のまま。常盤台の超電磁砲といえばこの街の人間殆どが知っている有名人。
見つからないという事は何処かに監禁されている、または都市に居ないのどちらかであろう。
結果的に後者だった。
大戦後、ひょっこり戻ってきた御坂に対して如何折檻してやろうか大激怒していたのだが……彼女の眼を見て、考えが全て飛んだ。
空(から)。
一言、『ごめんなさい』と告げる御坂美琴は、ただ動いているだけの人形。
肌は荒れ、目の周りはクマと涙の痕で赤黒く、髪はボサボサで、総括すると酷い様。
罰則だから何それやれ、反省文を書け、とも言えないくらいフラフラ。正直いって……危険な状態。
寮監「あの時はマイナスだった……しかし、今はプラマイ0の位置だよ」
数日間、部屋に籠りっきりで何も行動しなかったが、今では日常生活に戻れるレベルになっている。
白井「それでも……お姉さまは……」
寮監「分かっている。だが……」
それが分かっていても、我々には何も出来ない。
寮監「戻って来るさ。アイツの家出は長くは続かない」フフッ・・・
白井「……何故ですの?」
寮監「簡単な事だ」ニコッ
寮、そして……白井が待つあの部屋が、御坂美琴の『家』だから。
白井「っ……」グッ・・・
寮監「確かに私は冷酷かもしれないが、それでも寮生の事を第一に考えている」
白井「寮監様……」
寮監「無論、帰ってきたら怒る。だがそれは規律を乱した罰だからであって、私情では無い。追い出したりしないさ」クスッ
此処(寮)は迎い入れる場所。
寮監「寮監ではなく、私個人として……斜に構える奴に、腹を立ててる部分はある……――」
眼鏡を外し、ゆっくり語る。それは孤児院の子供達に語る様に。
寮監「――……でも私は大人。生(なま)の感情を剥き出しにする訳にはいかない。だけどね、白井」チラッ
白井「……はい」
寮監「貴女は子供よ。御坂もね。貴女が、貴女まで、斜に構える事は無いのと思うの」
御坂に憤りを感じるのであれば、素直にぶつかるべきなのだ。 - 88 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 00:33:30.98 ID:pHVfWOdI0
- 寮監「それで砕ける関係なので有ればその程度。もしかしたらデリケートな問題なのかもしれないけど、貴女達はまだ中学生」
白井「それが……」
寮監「一度壊れても修復は容易い。コレから先、まだまだ長いんでしょ?」
『この程度』で挫けたら、とは言わない。だけど『此処』で挫けたら、とは言える。
寮監「御坂に気持ちをぶつけてくれという前に、貴女からぶつかってやらなきゃ」
白井「私から、ですの?」
寮監「ええ。どうも私にはどっちもどっちにしか見えないわ」
白井「……一応、腹を割って話をしようと言いました」
寮監「その言い方が、子供っぽくないもの」
子供のくせに、遠慮ばかり。
寮監「そんなんじゃ碌な大人にならないわね」
思いのぶつけ方を知らない子供達。
白井「では、一体如何すれば……」
寮監「我儘になるも良し、喧嘩するも良し。だけど度は過ぎない様にね」
白井「……一発、引っぱたいてしまいましたわ」
寮監「なーんだ。やれば出来るじゃない。それで良いのよ」ニコッ
こっちは存外、何とかなりそうかも。
寮監「とりあえず……貴女はもう自室に戻りなさい。夕食は部屋に届けさせるから」
白井「……お姉さまは?」
寮監「私が待つわ。帰ってきたら教えてあげる。彼女の分も部屋に届けてあげるから……特例は嫌いなんだけどね」フフッ
別に何でもかんでも『規律』という訳ではない。そういったモノが無粋である時だって存在する。
では、と……コーヒーを飲み干した寮監。再び眼鏡を掛け、目の前の寮生に向き直った。
寮監「全ては明日以降……いや、奴が帰ってきて落ち着いてからで構わない。それから罰則を考えよう」シャキッ
白井「はい……寮監様」
寮監「何だ?」
白井「個人的に眼鏡を外した時の方が好きですの」クスッ
寮監「甘えるな。早く行け」
白井は苦笑した後、立ち上った。そして素直に頭を下げる。
白井「ありがとうございます」ペコッ
寮監「……気にするな。しっかり休め」
白井「はい……失礼しました」ガチャッ・・・
白井黒子は部屋に戻った。
寮監「……まったく」ハァ・・・クスッ
世話が焼ける子供ほど、可愛いモノだ。 - 89 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 00:40:23.26 ID:pHVfWOdI0
-
【 ――孤独と絶望に胸をしめつけられ……心が壊れそうになるけれど……―― 】
―――とある土曜日、PM07:40、学園都市第7学区、とある公園……
後輩を突き離し、一人駆け出した御坂美琴。
当てなど無い。我武者羅に走るだけ。
自分は最低だ。向き合ってくれている後輩、友人から逃げるだけ。
だが、しかし……違うのだ。向き合うとか向き合わないとか、そういう話じゃない。
無理なのだ。
御坂「何が……常盤台のエースよ……」グッ・・・
彼女達は彼女達。彼は彼……『席』が違う。
御坂「何が……超電磁砲(レールガン)よ……」ポロ・・・ポロ・・・
話した所で如何にもならない。泣いた所で彼は戻って来ない。
自分の目の前で……『死』に飛び込んだのだから。
御坂「何が……頂点(トップ7)よ……何が、超能力者(レベル5)よ……」ウウゥ・・・
自分でも如何したらいいのか、分からないんだ。
誇りとか、義憤とか、そんなんじゃない。
御坂「ただの……ガキじゃない……っ」ペタン・・・
そこに居たのは一人の……年相応の少女だった。その現実を受け止めるには、まだ、幼過ぎた。
謂わば現実逃避。それを吐露してしまう事で……何もかもを認めてしまう気がする。 - 90 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 00:46:00.02 ID:pHVfWOdI0
- 御坂「そんなの……嫌だよぅ……」グスッ・・・
ロシアで枯れる程泣き喚いてきたのに……まだ涙が出る。
そうだ……自分は、認めたくないんだ。
御坂「っ……うぅ……」ポロポロ・・・
上条当麻の……消失(死)を。
御坂「ばかぁ……ぇっ……ぅぅ……」ポロポロ・・・
ふと、自分が何処に居るのか気付く。
御坂「うぅ……アホ、自販機……」グズ・・・
故障の激しい自動販売機。
よく彼と此処で顔を合わせた。素直になって話せる機会は少なかったけど……それでも、出逢えるだけで心地好かった。
御坂「それだけでも……っ、良かったの、に……ぅぅ……」ポロポロ・・・
喧嘩……尤も自分が一方的に吹っ掛けていただけだったが……に構ってくれた。
デパートの爆破事件で、英雄の名を投げ売って助けてくれた。
量産型能力者計画(妹達)の事件も、部外者である筈の彼が首を突っ込んで、解決してくれた。
正体不明の暗殺者に対して、私に関わる全てを救うと約束してくれた。
その通り後輩が危機に陥った際、当たり前の様に動いてくれた。
そして、自分の知らない所でも……数々の問題を解決していたに違いない。
御坂「自分の事も分からない(記憶喪失)のくせに……人の事ばっか……っ……」ポロポロ・・・
自分を、周りを騙してまで……世界の為に。
御坂「恰好、つけるのは……もういいわよ……っ……英雄……ぇぅぅ……」ポロポロ・・・
口癖(『不幸だ』の一言)で良い……声を、聞かせて……
顔を……見せて……
【 ――思い出に残る、貴方の笑顔が……私をいつも、はげましてくれる……―― 】
- 91 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 00:51:54.70 ID:pHVfWOdI0
- ―――とある土曜日、PM07:50、学園都市第7学区、とある公園……
??『……下んねぇ』カツカツカツ・・・
御坂「っ!!?」ビクッ・・・
足音。そして、聞き覚えのある……響く声。
御坂「っ……アンタ……」グシグシ・・・
トップモデルの様な容姿。そして桁外れの威圧感(オーラ)を醸し出す女性。
麦野「……ったく。阿呆みたい」ピタッ・・・
自分と同じ超能力者、第4位―――原子崩し(メルトダウナー)麦野沈利。
以前会った時とは異なり、右目に眼帯の様なものをしている。
御坂「……何しに、来たのよ」ギロッ・・・
麦野「さぁね。少なくともアンタとお友達ごっこじゃないわ」フンッ
御坂「喧嘩? それとも暗部とやらの命令で、私の事殺しに来た?」グッ・・・
麦野「相変わらず威勢だけは良いガキね……空元気でも」ジー・・・
御坂「ッ……悪いけど、今の私、手加減出来ないわよ……」ビジ・・・バジ・・・
麦野「……ふーん」ジー・・・
咄嗟に身構える。弾丸(コイン)は無い。
しかし、コイツになら限界(リミット)を外して『自爆(放電爆発)』してやっても……良心は痛まない。
麦野「異常なまでの放電……乱雑開放(ポルターガイスト)起こしかけてる超能力者っての久しぶりに見たわ」ジー・・・
御坂「うっさい。要件を言え。喧嘩なら買う」ビリ・・・バズ・・・
麦野「冷静になって人の話聞く気無いでしょ? 如何すっかなぁ……自爆覚悟って輩ってマジ、メンドイわ」ハァ・・・
御坂「ッ……いい加減に……」ギリッ・・・
麦野「喧嘩じゃないわよ。如何してもヤるってんならしゃーないけど……今の私、全力でお相手出来ないわよ?」ジトー・・・
御坂「……じゃあ、何よ」グッ・・・
目の前の女は学園都市(この街)の闇の一部。普通の『こんばんは』で終わる筈が無い。
麦野「まったく……こんな後輩、絶対ぇ持ちたくないわ。『あの子』どんだけ御人好しなのよ」ケッ・・・
御坂「……は?」ピクッ・・・
麦野「ハァ……私の『友達』からの頼まれ事よ……アンタを探すの手伝ってって」ポリポリ・・・
友達? コイツに?
御坂「……暗部の仲間って事かしら?」ギロッ・・・
麦野「あーそうですね。アンタの中じゃ私の位置付け永遠に暗部(それ)なのね……抜けても抜けなくてもコイツはそれで良いけどさ」ジトー・・・
御坂「……え」ピクッ・・・
麦野「因果応報? 自業自得か? まぁ認めんのは癪だけど、認めねぇと五月蠅ぇ奴がたーくさん居っからよ」ムゥ・・・
御坂「ちょ、え……待ってよ……」
今、コイツは……抜けたと言ったか? 暗部を? - 92 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 00:59:06.15 ID:pHVfWOdI0
- 麦野「さぁね。自分で考えな。アンタに教えんの癪だし……ったく、何で私が一番にコイツ見つけちまったんだか」フンッ
御坂「……意味、分かんない」
麦野「私だって分かんねぇわ。あまりにもトントン拍子で行き過ぎた。戦争終わってから……世界は変わり過ぎたのよ」ハァ・・・
状況が掴めない。ただ今回は殺し合いをする為に登場した訳ではない様だ。
暫く睨み合っていたが、ふと、麦野は携帯を取り出し異様な早さでメールを打った。
そしてパタンと閉じ……事も有ろうか近くのベンチに腰掛けた。
御坂「……何なのよ」
麦野「監視。アンタが逃げないように」ジー・・・
御坂「はぁ?」
やはり誰かの命令で動いているのか。
麦野「命令、か……そうね。だけど仕事とは程遠いわ。自分でも何でこんな慈善事やってっか分かんねぇもん」ハァ・・・
御坂「……」
麦野「とりあえず頼むから逃げないでもらえる? 色々困んのよ……暴れんのも止めてね」フンッ
御坂「……もし、逃げたら?」
麦野「そうね……私も『自爆(炉心爆発)』覚悟で止めるしかないわ」ケッ・・・
何故そこまでして、自分を留めたがるのだ。
麦野「義理よ。勿論、アンタにじゃないから安心しなさい」
御坂「……友達とやらに?」
麦野「そうね……数少ない私の友達の為に」フフッ
そうして再び携帯を見遣る麦野。
麦野「もう少しで来るって。アンタも座って待ったら?」
御坂「来るって……誰よ」
麦野「教えてやんね」ヒヒッ
腹の立つ女だ。
麦野「結構結構。アンタとだけは絶ッッッ対ぇ慣れ合う気は無ぇから」ハハハ!
御坂「……決着付けたいって事かしら」
麦野「そうね……いつか付けましょ? でも条件整ってから」
御坂「私の事気にしてくれてるの? 優しいのね……でもお生憎様、いつだって全力でお相手出来るわよ」ジトー・・・
麦野「見栄張んなっつーの。てかどっちにしろアンタの為じゃ無ぇし。私が『ベスト』じゃないのよ」
御坂「は? ……怪我でもしてるの? その右目にモノ貰いでも出来たのかしら?」ジー・・・
麦野「モノ貰い……ああ、確かにキッツいの『貰っちまった』よ……」スッ・・・
麦野はゆっくりと……右顎の辺りに手を掛け―――
……いないいないばぁ。
―――歪に輝く機械の眼を露わにした。 - 93 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 01:03:23.09 ID:pHVfWOdI0
- 御坂「ッッッ!!?」ギョッ!?
麦野「あはは! 良い顔! ああ『私って綺麗?』の方が面白かったかしらね」クスッ・・・
御坂「あ、あんた……それ……」ビクッ・・・
麦野「へーんっ! 教えてやんね!」フフフ
麦野はお化け屋敷のバイトが客を驚かせるが如きの演出をしてみせる。
そして想像以上に驚いてくれた観客に満足し、微笑みながら眼帯を元に戻した。
御坂「っ……アンタ程の能力者相手を……第一位か第二位とでも戦ったの?」ジー・・・
麦野「教えねぇっつってんじゃん。とりあえず戦闘用の義眼と義手が調整終わり次第殺し合いましょ」ニコッ
また危ない喧嘩仲間が出来てしまったかもしれない。
麦野「ま、いい加減座れって。喧嘩する気無いの分かったろ?」
御坂「……」スッ・・・
麦野「そうそう。ガキは素直が一番よ」ニコッ
渋々隣に座る。
麦野「しっかし……不思議なもんね。アンタもロシア行ってたなんて」ボー・・・
御坂「っ!? 何で……」
麦野「だから教えないって言ってんじゃん。私にコール&レスポンス期待すんなよ?」ハハッ
御坂「……ふんっ」チッ
コイツ『も』ロシアに行ってたらしい。
御坂「そこで眼、怪我したのかしら」チラッ
麦野「だーかーらー―――」ハァ・・・
御坂「良いわよ。私の勝手な妄想……アンタこそ反応(レスポンス)しないんでしょ?」ジトー・・・
麦野「―――……けっ。やっぱ可愛くねぇヤツ」フンッ
御坂「んで、ミスったか何か知らないけど……クビになったってとこね」ハハハ
麦野「……そう思うならそうしとけ」ボー・・・
大分違うが、とは教えてやらない。
麦野「まぁアンタがアッチで何してきたかは、知ってっけどさ」
御坂「っ」グッ・・・
麦野「……馬鹿よね。相当馬鹿」フンッ・・・
言われたくない奴に言われてしまった。
麦野「『幻想殺し(上条当麻)』かぁ……私は知らねぇけど、浜面が知ってたっけ。正義の味方くん? だか何とか。本物なの、それ?」ハンッ
御坂「知った風な口……」ギロッ・・・
麦野「はいはい、悪ぅござんした。所詮私は赤の他人ですよーだ」フンッ
御坂「……」イラッ・・・
麦野「まったく……早く来ないかしら。息がつまりそう」ハァ・・・
それはこっちの台詞だ。オマエは私をからかって活き活きとしてるだろう……御坂はそう言ってやりたかった。 - 94 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/07(木) 01:07:03.99 ID:pHVfWOdI0
- 麦野「……で」チラッ
御坂「え?」
麦野「幻想殺しと『何処』までの仲だったの? [禁則事項です]ってたとか、まさか[らめぇぇっ!]まで?」ニヤッ・・・
御坂「なあああぁっ!!?」カアアァ・・・///
人差し指と中指の間に親指を通しニヤリと微笑む麦野。
御坂は真っ赤になりブンブンと音が鳴るくらい首を横に振った。
麦野「あはははは! アンタ面白いわ!」フフフ・・・
御坂「う、五月蠅いわねっ! アイツとはそんな関係じゃないわよ!」ガアアァ///
麦野「ははは。そうよね。そんな甲斐性有る奴だったらとっくに火織の事とっくに喰ってるか……ロリコンじゃなきゃだけどね」フフッ
また女の名前か。てかロリコンって……彼と自分とじゃ2つしか違わない。
麦野「そうなの? まぁ、如何でもいいけどね」
御坂「そうよ、アンタにゃ関係無いでしょ……」
麦野「まぁね。でも興味は有るかも。私の友人の一人と、第3位が惚れた男ってんだからさ」クスッ
御坂「……惚れて無い」ムッ・・・
麦野「嘘付け」イヒヒ!
惚れてたか如何かなんて……もう……分からない。
不意に涙が、毀れてきた。
麦野「……泣くなよ」ッタク・・・
麦野沈利は慰めない。
麦野「有り体だが、泣いたって戻って来ねぇんだろーが」フンッ
御坂「っ……ふええぇぇ……」ポロポロ・・・
麦野「……糞っ」ハァ・・・
自分(麦野)が如何こう言えた義理じゃない。
自分はあの時『奪う([ピーーー])側』の人間だった。『表』のドアノブを掴んだ今だって、直ぐに『裏』に引き返すかもしれない。
麦野「とりあえず……」チッ・・・
女を泣かせる男は最低だって事は、分かった。
麦野「……早く来てちょーだいよ、マジで」ポリポリ・・・
御坂「ううぅ……」ポロポロ・・・
此方に向かう『友』がこれ程待ち遠しいと思えたのは、クーデター前のショッピングの時くらいだろう。 - 95 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 01:11:34.80 ID:pHVfWOdI0
- ―――とある土曜日、PM08:10、学園都市第7学区、とある公園……
涙を見せたくないヤツの前で泣いてしまった。しかし、一旦溢れ出すと止まってくれない。
超電磁砲はなるべく隣の垢抜けた原子崩しに顔を見られない様、泣き伏せた。
麦野「ったくさぁ……こんなんが第3位と第4位なんだから、物笑いの種よね」ハァ・・・
御坂「ぇぅ……っ……五月蠅、ぃ……ううぅ……っ……」ポロポロ・・・
出来るだけ声を殺して、頭を上げずに……
麦野「……人間、いつかは死ぬの」ボソッ・・・
御坂「知った様な、口……ええぅっ……っ……止、めて……」ポロポロ・・・
麦野「知ってるから言うのよ。人の『生き死に』に関しては『専門家(プロ)』だったのよ、私は」ハッ・・・
尤も『奪う』専門だったが。
麦野「殺生与奪の権利を決めんのは神様なんかじゃねぇ……人だ」サラッ・・・
御坂「ッ、止めてっ!!」ガシッ!!
麦野「っ……そう思ってただけさ。でも今は違ぇかも……って思ってる。実際は誰も知らない事」グッ・・・
麦野の軽口が痛かった。
普段の自分なら同意していたかもしれない理屈。だが……大切な者を失った御坂にとっては、苦し過ぎる話。
麦野「……手ぇ離せ。私殴ったって何もなんねぇだろ?」ジー・・・
御坂「じゃあ……っ……ぅあぁ……ぇっ……止め、ろ……うううぅ……」ポロポロ・・・
麦野「あーはいはい。服汚れるから泣くなっつぅの……ガキねぇ……絹旗よりガキだわ」ポンポン・・・
麦野の腹部で泣き崩れた御坂。
麦野「フレンダは……アンタくらいか」ボソッ・・・
御坂「ぇあぁ……ぇぅ……」ポロポロ・・・
自分が殺めた、この娘くらいの体格をした少女。
麦野「救われない者に、救いの手は差し伸べられるのかなぁ……火織さんよー……」
友人の口癖……というか『教義』とやら。
『死せる者』に救いの手は伸びやしない。『残された者』にも、それはまた……―――
如何かしらね。
―――いや……伸びるかも、しれない。 - 96 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/07(木) 01:14:50.01 ID:pHVfWOdI0
- 麦野「ん? ……やれやれ。アンタに『知った様な口』を聞ける御方が御到着だよ」ニヤッ・・・
御坂「ぇぅ……ううぅ……っ……ぇ?」ポロポロ・・・
麦野「遅ぇよ、このやろー」ハァ
御坂「うううぅ……えぅ……っ……せんぱ……ぃ……」ポロポロ・・・
息を切らして目の前に現れた、風紀委員の先輩。
麦野「風紀委員さまが遅刻たぁ褒められないわね」チラッ
固法「ハァ……これでも、急いで来たのよ……ふぅ……」ゼェゼェ・・・
麦野「バイクで来りゃいいのに。何で走ってんのよ?」ジトー・・・
固法「冬タイヤに変えてる最中なのっ……ハァ……それより」チラッ
御坂と目が合う。
固法「……まったく、何から言ってやればいいやら」ハァ・・・
御坂「固法……先輩」グズグズ・・・
固法「とりあえず、麦野さん」チラッ
麦野「ん?」
固法「ありがと」ニコッ
麦野「いいよ。この程度」クスッ・・・
苦笑する二人。御坂は一人涙を拭いながら、麦野の傍を離れた。
そしてこの状況に多少戸惑い、結果……重大な事に気付く。
御坂「何……え、ま、嘘」キョトン・・・
麦野「どったの?」ン?
御坂「アンタの『友達』って……まさか!?」ギョッ!?
麦野「……悪ぃかよ」フンッ
御坂「……信じられない」ポカーン・・・
『全て』において正反対の二人だ。まるで共通点が見当たらない。
麦野「おっぱい」サラッ
御坂「……馬鹿じゃないの」ジトー・・・
麦野「まぁ確かに美偉の方が[ピーーー]㎝くらいデカいけどさぁあ痛っ!!」ポカッ!
固法「っ~~~」カアアァ・・・///
また大きくなったんだ……とは言わないでおく。
御坂「え、あ、でも……何で……」キョロッ・・・
麦野「何でって……うーん……」ポリポリ・・・
固法「私と麦野さんが友達じゃおかしい?」ニコッ
申し訳無いが、オカシイ。固法先輩が『暗部』だとでもいうのか……有り得ない。
ただ、先輩が武装無能力者集団(スキルアウト)時代、レディース仲間として第3位をブイブイ言わせてたというなら分からない話でも無いが。 - 97 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 01:19:21.64 ID:pHVfWOdI0
- 麦野「存外失礼な奴だな、テメェ」ジトー・・・
固法「ふふっ、彼女は超能力者でしょ? 私は伸び悩んでスキルアウト入ってたけど、麦野さんがスキルアウト入りする訳ないじゃない」
御坂「じゃあ……如何して」ウーン・・・
固法「友達になるのに、理由がいる?」ジー・・・
御坂「……」フム・・・
しかし、麦野は……暗部だ。それを知っているのか?
御坂「先輩……コイツが何者か分かった上で、その言葉を?」チラッ
麦野「オイ……てめぇ……」ギロッ・・・
固法「二人とも、止めなさい」
静かに重たく、二人に言い放つ。
御坂「でも……」
固法「……麦野さんが私に隠し事をしてる事くらい百も承知よ」
麦野「ふんっ……全部見透かしてるくせに」ケッ
御坂「それなら―――」
固法「御坂さん。貴女は『隠し事』をしている人間とは仲良く出来ない程潔癖症なの?」
御坂「―――っ」グッ・・・
それは、違う。
例え『隠し事』があってもアイツはアイツだ。しかし……コイツとアイツとじゃ、訳が違う。
御坂「先輩は風紀委員でしょ。知ったら、きっと……」
麦野「悪ぃが……固法美偉って女は、例え私が『殺し屋』だったとしても、離してくんねぇんだ」ハァ・・・
御坂「っ!!?」ギョッ!?
固法「大袈裟ね。でも……うん。麦野さんが殺し屋さんでも、テロ屋さんでも、死神さんでも……私は友達」ニコッ
成程。先輩も『こういう類』の人間か。何を言っても無駄だろう。
麦野「ふんっ。くっせぇセリフだぁ……とりあえず私は帰る。あとはどーぞ御勝手に(ごゆっくり)ー」スタッ
固法「うん。どうもね」ニコッ
麦野「ふふっ。じゃあ二日くらい旦那貸し、てぉ……冗談だってば」アハハ・・・タラー
色んな意味で、先輩が怖い。
麦野「やれやれ……浜面(サンドバック)で鬱憤晴らしでもすっかなぁ」テクテク・・・
固法「じゃあ傷心の神裂さん慰めてあげて。多分香焼くん家でグデングデンに酔ってるから……妹さんと一緒に」フフフ
麦野「え……火織酒呑めんの?」エ?
固法「宗教上の関係で赤ワインは常時OK。他にも濁酒(ドブロク)は子供の頃から味噌汁代わりに飲まされてたって言ってたわ」クスッ
麦野「げぇ……呑蛇(ウワバミ)相手とかマジ勘弁してよ……」ハァ・・・
大きな溜め息をつき、トボトボ消えて行った第4位。 - 98 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 01:21:36.84 ID:pHVfWOdI0
- 固法「ふふふ。何だかんだ言って、彼女……ヘコんでる友達のとこ行ってくれるのよ。優しいわよね」クスクスッ
御坂「……それで良いんですか、風紀委員さん」ジトー・・・
固法「皆には内緒よ」フフッ
おどけた笑みにドキッとする。真面目な先輩の意外な部分を見たギャップ何たらというヤツか。
固法「風紀委員の私は風紀委員。プライベートの私はプライベート。そういう事よ」ニコッ
御坂「それは……分かんないです」ムゥ・・・
固法「……いいえ、分かる筈。貴女なら特にね」ジー・・・
一転、真面目な顔になる先輩。
固法「……とりあえず座りましょう」
御坂「え、あ、はい……」
固法「麦野さんさっき飲み物の一つも買わずに此処に居たのね? まったく……風邪引くわよ」ハァ
そうぼやき、御坂を座らせたまま自販機(イカレた札飲み機)の下へ向かった。
御坂「私に、分かるって……」ボー・・・
プライベートを?
御坂「……私達と一緒じゃない、先輩?」キョトン・・・
如何いう意味だ。
御坂「麦野……さんと仲の良い先輩って事かな?」ムゥ・・・
固法「大体そんな感じよ」テクテク・・・
御坂「え、あ……えっと……」ポリポリ・・・
固法「はい。カフェオレで良かったかしら?」スッ・・・
御坂「ど、どうも」ペコッ
右手に持つ温かいペットボトルの飲料を渡された。
余談だが、左手の『ぬるいムサシノ牛乳』って美味しいのか? と疑問を抱かざるを得ない。
固法「……御坂さん、ハンカチとティッシュ持ってる?」
御坂「え? い、いや、持ってませんけど」
固法「必死だったのね、もぅ……」スッ・・・
御坂「え、と……」キョトン・・・
固法「目の周り、あと鼻水」フフッ
御坂「っ!!」カアアァ・・・///
忘れてた。というかそんな顔を第4位(アイツ)にも見られていたのか!?
固法「気にしないわよ。とりあえず、落ち着きなさい」クスッ
御坂「あぅ……」モジモジ・・・
固法「そしたら、少し……お話しましょ」ニコッ・・・
先輩は後輩の真っ赤な目の周りをハンカチで拭いてやり、朗らかに微笑んで、諭すように告げた。 - 99 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 01:24:52.64 ID:pHVfWOdI0
- ―――とある土曜日、PM08:30、学園都市第7学区、とある公園……
それからポツポツと先輩が語り始めた。
固法「白井がね。今にも死にそうな声で電話掛けてきたの」
御坂「黒子が……そうですか」シュン・・・
突き離して尚、喰らい付いて来る後輩。
固法「『びえーんっ!! ほねぇざばぁがぎれだいまじだーっ!!』って、正直何言ってるか解読するのに大分掛ったわ」ハァ
御坂「あはは……すいません」ポリポリ・・・
固法「ええ、まったく……世話の掛る後輩達よ、ホントに」フフッ
じゃあ本題に、と固法は声色を変えた。
固法「私や白井が……上条くんの事知ってるってのは、聞いたのね」ボソッ・・・
御坂「っ……はい」グッ・・・
固法「そう……」コクッ・・・
何処まで、知っているのだ。
固法「『書庫』から名前が消えているって事以外は知らないわよ……私以外は」ジー・・・
御坂「え……」ドキッ・・・
固法「別の友達がね。さっき神裂さんって言ったでしょ。その子が……上条くん……『 』って、嘆いてた」
御坂「……っ」グッ・・・
固法「深くは聞けないけど、とても『大きな物』を相手に戦ってたんだってね。彼」
それは自分も知らない。でも……
まだ、やるべき事がある。
……そう言って、御坂の手を離れた。
固法「御坂さん。他言はしないわ。何があったのか、聞かせて貰えないかしら?」
御坂「知りません」ギリッ・・・
固法「……そう」フム・・・
思い出したくない。もう……泣きたくない……
固法「さっき……私が『プライベート』って言葉を口にしたわね」
御坂「……」
固法「加えて私にとってのプライベート(それ)を『特に貴女なら』理解できるって言ったわ」
御坂「……分かりませんよ」
固法「いいえ。『知ってる』筈」
優しく、語る。 - 100 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 01:30:46.08 ID:pHVfWOdI0
- 固法「風紀委員として白井や初春と活動するのが、風紀委員の私」
御坂「……はい」
固法「それから貴女や佐天さんを交えて、支部でグダグダ過ごす私。これは……まぁ公私混同してるけどプライベート」
御坂「……そうなんですか」
固法「ええ。口では呆れた風で注意してるけど、何だかんだ言って楽しいもの」フフッ
それから、と胸に手を当て……
固法「貴女達の知らない所での、プライベート」
御坂「そんなの、誰だって」
固法「ええ。でもこれは『交友関係』という意味でのプライベートよ」
御坂「交友……ですか」
固法「そう。私にとって碧美や麦野さん、神裂さんは……貴女や白井達が知らないプライベートでしょ?」
御坂「……そう、ですけど」
意図が掴めない。
それこそ誰にだって知られていない秘密(プライベート)はある。別に秘密にしている訳ではないが、秘密にならざるを得ない事だ。
固法「はっきり言うわ。悪いけど御坂さん……貴女、私の知り得る限り本当に信用出来る『友人』少ないでしょ?」
御坂「あ、ぅ……」タラー・・・
固法「図星ね」
確かに……白井達以外の友人と言われるとパッと浮かんでこない。
慕ってくれている常盤台の生徒や学舎の園内の女子達は多いが、友人とは呼べない。プライドという訳では無いのだが、何とも……
固法「御坂美琴(貴女)を一個人として見てくれる人が少ない。尊敬の対象であって、交友の関係には至らない……そうね?」
御坂「……何でもお見通しですか」
この人に隠し事は通用しない。探偵にでもなればいいのに。
固法「少し考えれば誰にでも分かる事よ」
御坂「誰も考えてくれませんよ、そんな事」
固法「そうかしら。少なくとも白井あたりは分かってると思うわ。口にしないけどね」
清々しい程はっきり言ってくれる。
固法「それでね……貴女が『第3位』とか『超電磁砲』として見られる様に、私も『風紀委員』として見られるの」
御坂「え、あ……まぁはい」
固法「多くの人間は『風紀委員』以外の私を知らないわ。固法美偉、一個人としての私を知らない」
確かに。この先輩の第一印象からして『真面目な風紀委員さん』というイメージが浮かんでしまう。
固法「でもね……麦野さん達は逆よ」
御坂「逆?」
固法「風紀委員の私より、固法美偉の私を先考させる」
御坂「……そうなんだ」
個人を見てくれる人。それを『親しい者』と呼ぶのかもしれない。 - 101 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 01:38:53.19 ID:pHVfWOdI0
- 固法「うん。碧美(ルームメイトや友人)達が私のプライベート。じゃあ貴女のプライベート……私の知らない範囲でいうと……って事よ」
御坂「それは……」
彼。
御坂「……っ」グッ・・・
固法「理解、出来たわね」ニコッ・・・
自分を、御坂美琴として、見てくれる人。
固法「彼の事、教えてもらえるかしら? 勿論話せる範囲で結構よ。無理にロシアであった事を話してくれる必要は無いから」
御坂「……」コクッ・・・
少しだけ……ちょっとだけ、話そう。
御坂「アイツは……アイツ、は……」グッ・・・
固法「……うん」
御坂「ただ、御人好しで……無能力者(レベル0)だっていうのに……超能力者の私を、普通の女の子扱いして……」グゥ・・・
固法「うん」
自分を……御坂美琴として見てくれた、数少ない人。
御坂「アイツは……っ……馬鹿、で……ぅぅ……自分勝手で……ぇっ……人の事ばっか、優先して……っ……」グッ・・・
言葉が矛盾する。
御坂「弱いくせに、しゃしゃり出て……っ……嘘吐きで、笑ってて……ううぅ……」ポロポロ・・・
固法「……そう」
御坂「なのに……でも……っ……なんで……ぁぅぅ……アイツが……死なな……っ……」ポロポロ・・・
固法「……」
理不尽。だが現実。
御坂「如何して……うううぅ……」ポロポロ・・・
助けられなかった。
御坂「もう、少しで……手が届いたのに……っ……っく……ぅぁ……自分から、離れてって……」ポロポロ・・・
彼の『不思議な能力』の所為もあるが、それよりも彼(自分)の意志で。
御坂「やるべき事って……何よ……うううぅ……っ……知らないわよ、そんなの……」ポロポロ・・・
固法「……一人で、消えたのね」
御坂「自分の、命、懸けて……ふ、ぇ……ぇっ……人の気も、知らないで……っ……消えないで、ょ……うぅ……」ポロポロ・・・
まだ言いたい事が沢山あった。
一生返し切れない莫大な借りがある。素直に言えてない言葉が山ほど残っている。
御坂「あ、うぅ……っ……ヤダ、よぅ……うぁぁ……っ……とう、まぁ……」ポロポロ・・・ - 102 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 01:42:09.47 ID:pHVfWOdI0
- また、泣いてしまった。涙を流す度、彼の事を思い出してしまうのに。
固法「……辛いのね」
御坂「ううぅ……」ポロポロ・・・
固法「男って、そういう生き物よ」
この人まで、知った様な口を―――
言えるわよ……私には、ね。
―――……聞いて欲しく、無かった……のに。
固法「独り善がりで、命顧みず危険に飛び込んで」
御坂「ぇぅ……っ……せんぱ、い……な、にを……っ……」ポロポロ・・・ビクッ・・・
固法「後先考えず、目の前の危機に挑んで……女が何か言う前に、消えちゃうのよね」
御坂「ぅ……あ……っ」ポロポロ・・・
固法「ホント……そういう男に惚れた女って、辛いわ」クスッ・・・
ああ、そうか……
固法「私はね……自分なりに結構待って……でも、一度諦めた女だけどさ……」ポリポリ・・・
この人は……
固法「貴女は『彼』を、どのくらい待てる? 御坂さん」ニコッ・・・
自分と、同じなのか。
固法「私の大切な人は……戻ってきてくれたもの。事の、現場の大小は別として」フフッ
御坂「ううぅ……あ、ぅ……先、輩……っ……」ポロポロ・・・
固法「まったく……男は死地ってのが好きなのかしら。それとも私達が惚れた野郎共だけ?」フフッ
御坂「ぇうぅっ……う、わあぁ……」ポロポロ・・・
固法「御坂さん……もう、素直になりなさい……泣いていいわよ。私も、泣いたんだから。今は泣いて良い時よ」ニコッ・・・
もう……無理だ……
御坂「うぅ……うぅわああああああぁぁんっ!! 当麻があぁっ! あああああああぁっ!!」ボロボロ・・・
固法「っ……ホント……男って、ズルいわね。でもきっと……ね」ポロッ・・・ギュッ・・・
最後の歯止めが、壊れた。今はただ『同情』出来る者の胸の中で、泣くしかなかった……――― - 104 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 01:49:23.67 ID:pHVfWOdI0
- ―――とある土曜日、PM09:00、学園都市第7学区、とある公園……
どれくらい泣いていたか分からない。
固法「やれやれ……大分溜め込んでたのね」フフッ
御坂「ぅぅ……とう、ま……」スゥ・・・スゥ・・・
泣き疲れたのか、固法の膝の上で眠ってしまった御坂。
固法「こんな時期の夜中に、外で寝たら風邪引くわよ」モゥ・・・
移動能力者(テレポーター)の後輩は迎えに来れるだろうか。
固法「最悪、負ぶってかなきゃ駄目かなぁ。タクシー呼べればそっちの方が良いか」ハハハ・・・
仕方あるまい。世話の焼ける、可愛い後輩の為だ。
そう考え、携帯でタクシー会社の電話番号を検索し出した時―――
『まったく……風紀委員が通報の原因とは……考えもんじゃん』
―――知った声がした。
固法「……あらら」チラッ
黄泉川「よう。不良少女」テクテク・・・
固法「元、です。今は模範生徒ですよ」クスッ・・・
黄泉川「夜中騒音で通報される風紀委員がいてたまるか」ジトー・・・
大分長い間大声で泣いていた為、流石に付近の住民が通報したのだろう。
しかし来てくれたのがこの人で良かった。
黄泉川「……御坂か」ジー・・・
固法「はい」コクッ
御坂「ぅぅ……っ……ゃ、だょ……」スヤ・・・スヤ・・・
きっと悪夢を見ているのだろう。
黄泉川「固法が泣かせたってか?」ハハッ
固法「うーん、そうですね……まったく泣いてくれないので、私が泣かせました」クスッ・・・
黄泉川「ははは、言うじゃんよー……まぁ何があったかは聞かない。傷害とは思えないし」ハァ
普通の喧嘩であれば、泣き疲れて寝入っている少女の方に分が有る。
黄泉川「もしかして御坂もロシア帰りで……『訳有り』じゃん?」ジー・・・
固法「『御坂も』って事は?」
黄泉川「ウチの糞餓鬼共も、この前二人仲良くロシアから戻ってきたじゃんよ」ハァ・・・
学園都市第1位の少年と御坂の妹(詳しくは違うらしいが)も、ロシア帰りらしい。 - 105 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/04/07(木) 01:55:17.94 ID:pHVfWOdI0
- 固法「二人は無事に?」
黄泉川「ああ……あの馬鹿野郎……何も言わずに出て行きやがって」グッ・・・
固法「そうですか……」
黄泉川「帰って来てから打ん殴ってやったじゃん。そりゃもう態々反射切らせて」
固法「あはは……エグいですね……」タラー・・・
黄泉川「それくらいしてやらないと気が済まなかったじゃん!」フンッ!
固法「……で、その後彼に一言『ごめん』と謝られて、芳川さんと一緒に号泣したと」フフフ・・・
黄泉川「なぁっ?! す、する訳ないじゃん!! そ、そんなの桔梗だけに決まってんじゃんよっ!!」アタフタ!!
分かりやすい人だ。この動揺から察するに、二人が帰って来た時は白井並に号泣したのだろう。
仄暗い水の底に浸かっていたあの少年―――、一方通行の為にそこまでしてやれるのは彼女達だけかもしれない。
さておき、理由は分からないが、第1位くんも御坂さんと同じ様に突発的に行動した訳だ。
黄泉川「もぅ……大人(他人)の頼り方知らないのは今に始まった事じゃないけどさ、少しは頼って欲しいじゃん。私、そんなに頼りない?」ハァ
固法「まさか。黄泉川さんが頼りなかったら殆どの大人が頼りないですよ」フフッ
黄泉川「うんうん。オマエは良い子じゃんよー。一方通行に爪垢飲ませたいじゃん」ケラケラ
遠慮しておきます。
黄泉川「ふふふ。冗談じゃん、オマエの体の隅々は旦那の[ピーーー]だもんな」イヒヒ!
固法「……警備員(アンチスキル)呼びますよ? 変態がいますって」ジトー・・・
黄泉川「私が警備員じゃん。夜間騒音の犯人の風紀委員さん」クスッ
固法「それは……えっと……」ポリポリ・・・
黄泉川「ハハッ。まぁいいさ」テクテク・・・
そそくさと自販機の方へ歩み寄る黄泉川。そして……
ガンッッ!!
……側面部を防弾盾で打っ叩いた。けたたましく響き渡る故障警告。
固法「よ、黄泉川さん!?」ギョッ!?
黄泉川「……原因は自販機の故障。あー、ほら。よく聞くと人の泣き声に聞こえるじゃん」アハハ
固法「も、もぅ……」ハァ・・・
この人も大概自分勝手だ。それが美徳なのかもしれないが……兎角今回は助かった。
固法「ありがとうございます」ペコッ
黄泉川「構わんさ。その子の為に泣かせたんじゃん? じゃあ……子供達の為だ」ニコッ・・・
子供の味方、か。
黄泉川「アレの警告音止めたら家に送るじゃん。エンジン掛けといて」ポイッ
固法「態々すいません」パシッ
普通自動車の免許は持ってないのだが……この際、細かい事は気にしないでおこう。 - 106 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:01:40.92 ID:pHVfWOdI0
- 黄泉川「良いよ。てか御坂を寮に返す時、オマエじゃあの寮監(堅物女)説得できないじゃん?」
固法「あはは……堅物って」タラー・・・
知り合いなのか。
黄泉川「大学時代ちょっとね……恵未と一緒によく泣かされたじゃん。物理的な意味で」アハハ・・・
恵未とは警備員本部特殊迎撃部隊副隊長の手塩恵未さんの事だろう。
というかあの寮監、警備員のエース二人相手に泣かせるって……どんなバケモノだ。
黄泉川「まぁとりあえず今はいい。落ち着いてから話聞かせるじゃん」
固法「はい」コクッ
自分にとっては大き過ぎる後輩を警備員に任せ、高そうな都市製の車のエンジンを掛けに向かった。
御坂「すぅ……くぅ……」コクッ・・・コクッ・・・
今は、おやすみなさい。祈りはきっと、届くから……―――
【 ――もう一度……あの頃に戻ろう。今度は……きっと、大丈夫―― 】
- 107 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:04:07.11 ID:pHVfWOdI0
- ―――翌日、とある日曜日、AM08:00、学園都市第7学区、常盤台中学女子寮208号室(御坂・白井部屋)……
目を開けると、そこはいつもの部屋だった。
御坂「……」ボー・・・
状況が把握できない。
昨晩、白井を突き離した後……公園で第4位に出合い……それから先輩と……
御坂「…………」ボー・・・
あれ?
御坂「………………私、何で此処に居るの?」キョトン・・・
あの後、恥ずかしながら先輩にしがみ付いて大泣きした筈だ。
思い出すと顔から火が出そうだが……それよりも心成しか気持ちが軽くなっている事に驚いた。
御坂「うーん……その後……如何したんだっけ」ポカーン・・・
思い出せない。
此処は如何見ても自分と白井の部屋。自分はキチンとベットで寝ているしパジャマに着替えてある。
御坂「えっと……ん?」キョロッ
枕元に何やらメモが置いてある。内容は……
御坂「『目が覚めたら身嗜みを整えて、私の所へ来い』……寮監よ、り……」ダラダラ・・・
死刑宣告だった。 - 108 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:08:42.08 ID:pHVfWOdI0
- ―――とある日曜日、AM08:30、学園都市第7学区、常盤台中学女子寮事務室……
ベットから飛び起き、浴室へ駆け込む。急いでシャワーを浴び、制服に着替えた。
いつまで、と指定が書いてある訳でもないのだが、兎に角急ぐ。
御坂「昨日の時点で書いてあったとしても……ヤバい! もう8時半じゃん!」タタタタッ!
道理で白井が部屋に居ない訳だ。
この寮の生活リズムとして7時起床、7時半食堂点呼、8時食事終了が規則である。無論、休日だろうがお構い無しだ。
何にしろ日を跨いでしまっている時点で、どんな折檻が待ち受けているか分からないという焦燥感。
バックレても良いのだが、後が怖い。
警備員のエース二人、ましてや超能力者二人相手に圧倒する力量の持ち主だ。自爆覚悟じゃ無ければ敵わないかもしれない……
なんて、馬鹿な妄想をしつつ、現在事務室前。
御坂「……っ」ゴクッ・・・
ノック2回。返事は無い。
御坂「えっと……208号室、御坂美琴です」タラー・・・
寮監『……入れ』
今度はハッキリとした声が帰って来た。御坂は息を飲み、失礼しますと扉を開けた。
御坂「あ、あの……」ダラダラ・・・
寮監「おはよう」チラッ
御坂「え、あ、はい……おはようございます」ヘコッ
軽い目配せだけ。あくまで業務的に話を続ける。
寮監「座れ」
御坂「は、はい」スゥ・・・
直ぐ激怒が飛んでこないのが逆に恐ろしい。御坂はカチコチとぎこちなくソファに腰掛る。
寮監は粗方作業が片付いたのかペンと動かす手を止め、コーヒーメーカーの方へ向かった。
寮監「砂糖とミルク、どちらも入れるぞ」カツカツ・・・
御坂「え」
寮監「……ブラック好きか?」チラッ
御坂「え、あ、いや……お任せします」ペコッ
寮監「分かった」カチャカチャ・・・
何だ……何の真似だ?
寮監「ほら」スッ・・・
御坂「あ、ありがとうございます」
寮監「うん……まず飲め」スゥ・・・
表情を変えず目の前に腰掛ける寮監。御坂はチビチビと、寮監は何気ない風にコーヒーを啜った。 - 109 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:14:34.18 ID:pHVfWOdI0
- 御坂「……」モジモジ・・・
寮監「ん……何を堅くなっている?」
御坂「え、いや、その……」アハハ・・・
寮監「まぁ気持ちは分からんでも無いがな……では……」コトッ・・・
いよいよ本題か。一体何を言われる……どんな罰則が待っている。御坂は息を飲み、身体を強張らせて……覚悟した。
寮監「……痩せたな。御坂」ボソッ
……え。
寮監「だが昨夜はよく寝れた様だな。幾らか顔色は良い」ジー・・・
御坂「……」ポカーン・・・
寮監「おや? どうした?」
どうしたっていうか……
御坂「……怒らないんですか」モジモジ・・・
寮監「そんなに怒られたいのか?」フム・・・
御坂「い、いえ! まさか!」アハハハハ・・・
寮監「勿論怒るが……今は怒らんよ」クスッ
苦笑する寮監。その反応に戸惑う御坂。
寮監「白井にも言ったが、確かに私は厳しいだろう。しかしそれは貴様らが規則を破る故だ」
御坂「……私は、破りましたよ」
寮監「やれやれ……『如何なる理由が有ろうと寮則を――』……と言いたい訳だな?」
御坂「だって……失礼ですが、いつも……」
寮監「ああ、そうだ。私はこの『寮』というモノ、全てを監督するが……」コクッ・・・
足を組んで、頷き……眼鏡を外す。
寮監「……それは貴女達、寮生あっての事なのよ」ニコッ
御坂「……」コクンッ・・・
寮監「一番は生徒達自身。規則はその次。当たり前じゃない」フフッ
優しい雰囲気。
寮監「ハッキリ言って、貴女は寮則を順守できないレベルまで衰弱していた」フム・・・
御坂「それは、その……」
寮監「別に話してくれる必要は無いわよ。人の心にズカズカと上がり込む趣味は持ち合わせて無いわ。心理掌握(メンタルアウト)と違ってね」
御坂「……すいません」ペコッ
寮監「私じゃなくて白井に謝りなさいな。一番心配していたのはあの子よ」フフッ
御坂「……そういえば、黒子は?」
自分が身支度をしている最中、部屋に戻って来なかった。 - 110 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:18:31.26 ID:pHVfWOdI0
- 寮監「白井は風紀委員の早番よ。聞いて無かった?」
御坂「あ、う……そういえば聞いてた様な、聞いてない様な……」ポリポリ・・・
寮監「まぁ心此処に非ず状態の貴女に言い聞かせた白井が悪かったわね」フフフ
面目無い。
寮監「とりあえず食事はちゃんと取りなさい。今日は顔色が良いから、しっかり食べられるでしょ?」
御坂「あ、多分、はい」コクッ・・・
数日間、食事が喉を通らなかったが……今日は幾分楽だと思う。
寮監「貴女の事を話したら繚乱の土御門が残ってくれたわ。あの子も居残りが無駄骨に為らなくて良かったわね」フフッ
御坂「舞夏が?」
寮監「実習とは関係無く『友人』として、だって。感謝なさいよ」クスッ
御坂「友人……はい」フフッ・・・
思えば舞夏も『友人(プライベート)』の一人。迷惑を掛けてしまった。
寮監「じゃあ、食堂に」スッ・・・
御坂「あ、その前に……聞いていいですか?」
寮監「ん?」ピタッ・・・
昨晩の事。何故自分が部屋で寝ていたのか。
寮監「ああ、それ」
御坂「私、確か外に……いた筈じゃ……」ポリポリ・・・
本来門限を過ぎていた故、後ろめたい。
寮監「ちゃんと反省はしてるのね」フフッ
御坂「あはは……すいません」ペコリッ
寮監「とりあえず今は不問にするわ。それで、昨晩の事だけど……何処まで覚えているの?」
御坂「えっと……」ウーン・・・
公園で先輩にしがみ付き……大泣き。此処までだ。
寮監「成程成程」フム・・・
御坂「知ってるんですか?」
寮監「『何を』知ってるのか、分からないけど。とりあえず貴女が公園で寝たって事は聞かされたわ」クスッ・・・
御坂「……え!?」ハイ?!
寮監「何で泣いてたのかは聞いてない。でも、泣き疲れて眠ったそうよ」フフッ
御坂「なぁっ!!?」カアアァ・・・///
恥ずかしい……後で先輩に謝らなければ! - 111 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:23:48.08 ID:pHVfWOdI0
- 御坂「じゃ、じゃあ先輩が私を送ってくれたんですか?」タラー・・・
寮監「風紀委員の彼女? まぁ彼女もだけど……車を出したのは補導してくれた黄泉k……警備員よ」
御坂「ほ、補導!? 警備員!?」ゲェ・・・
先輩まで補導されたというのか……本格的に拙い。
寮監「いいえ。風紀委員の子は貴女を保護、指導してたって事でお咎め無しだそうね」
御坂「よ、良かった……」
寮監「加えて『訳有り』で済ませてくれたそうよ。まったく……昔から伊達と酔狂とノリで生きてる女だわ、アイツってヤツは」フフフ
御坂「え?」
寮監「ん、何でも無い。兎に角……その後は私が引き継いで部屋に運んだの」コホンッ
御坂「え! す、すいません」ペコッ
寮監「別にいいわよ。それも私の仕事。ただ、幾ら痩せこけているとはいえ中学生は流石に重かったかな」ハハッ
まぁ自分は同年齢の平均くらいだから……いや、アンタそのくらい余裕でしょ。とは口が裂けても言えない。
御坂「じゃあ着替えも……」
寮監「ええ。動き回る『園』の子供達に比べれば楽だったわね」フフッ
御坂「あはは……何とも」ポリポリ・・・
寮監「因みに注意は出来ないんだけど……貴女の下着と寝巻き幼過ぎない?」
御坂「え”!?」タラー・・・
寮監「白井が隠し持ってるレベルのを穿けとは言わないから、せめてプリント物はお止めなさい。今時小学生でも着けないわよ」クスッ
御坂「よ、余計なお世話ですよっ!!」カアアァ・・・///
別に全部が全部そういう訳ではない。その日は偶々それだっただけど。プリントなんて……2,3着くらい。
寮監「ふふふ。そうね、ごめんなさい。とりあえず……そろそろ食堂の待ち人も痺れを切らすだろう。行ってやれ」キリッ
眼鏡装着。仕事モード。
御坂「はい。色々とありがとうございました」ペコッ
寮監「構わない。私の仕事だ」クルッ
この二重人格さんめ。
御坂「うーん……あの」ジー・・・
寮監「眼鏡を外せと言うのは聞かんぞ」フンッ
御坂「え……読心能力?」アハハ・・・
寮監「白井といい貴様といい……甘やかすと付け上がるのであれば、やはり考えものだな」マッタク・・・
いや、自分達以外もきっとそう思っているだろう。
寮監「兎角……もう大丈夫だな、御坂」フッ・・・
御坂「……はい。今日からは、頑張れます」ニコッ
寮監「ふむ。宜しい」コクッ
今まで通りとは言えないけど……少しずつ……頑張ろう。 - 112 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:29:08.72 ID:pHVfWOdI0
- ―――とある日曜日、PM02:30、学園都市第7学区、風紀委員第一七七支部……
元気の無い少女が一人増えてしまった。
白井「……」シュン・・・
姦しければ姦しいで面倒なのだが、こうも黙々されると調子が狂ってしまう。
今日は生憎、初春と佐天は課題と格闘中らしいので支部には来ていないのだが……二人きりでは何ともなん。
固法「まったく……」ハァ・・・
一人解決……とまではいかないが、ある程度回復したであろうというに。
固法「仕事出来ないなら帰っていいわよー」サラッ
白井「……意地悪。冷酷先輩」ボソッ・・・
固法「意地悪だろうが冷酷だろうが結構。膝を抱えて落ち込むのは自分の部屋の片隅だけにしてくれないかしら?」ジトー・・・
白井「……新妻。若妻。団地妻。黒づばふぅっ!!」ボンッ!
固法「次は……クッションだけじゃ済まさないわ」ゴゴゴゴ・・・
白井「くぅ……私の事を『さん』付けしたり、しなかったり」グチグチ・・・
固法「まだ言う? それ『原作者』と『アニメ監督』に文句言って。私の所為じゃない」ハァ
白井「……関西。大阪」ボソッ・・・
固法「悪口なの? あと因みに京都よ」ッタク・・・
何がとは言わない。
固法「折角の休みなのにずっと此処に居る訳かしら? 何にしろ門限までに帰らなきゃ寮監さんに怒られちゃうでしょう」
白井「……」
固法「やれやれ、ね。一応解決したまではいかないけど……もう斜に構える事は無いと思うわ」
白井「……むぅ」
変な所で子供だ。
白井「先輩こそ折角のお休みですの。御友人と遊ぶなり、真っ昼間から彼氏とわっふるわっふるすrぁ痛ぁっ!!」ボカッ!!
固法「……それだけ軽口叩ければ平気ね」ギロッ・・・///
白井「んもー……悪魔! 元レディース! 鬼畜眼鏡! 牛乳(うしちち)! おっぱいお化け! 夫子持ち!」ンニャー!!
固法「はいはい。子供はいないわよー」サラッ
白井「んぎぎ……これがリア充の余裕ですのね……」クソゥ・・・
やはり子供だ。変態思考の子供。
白井「もう良いですの! 物置になってる臨時当番室フル掃除して黒子の部屋にしますの!」ルールル・・・ルルルルールルー・・・
固法「お馬鹿。視察入った時、怒られるの支部長の私なんだから止めて」ハァ・・・
白井「いいえ! 今日から泊まり込みですわ! それから徐々に支部毎私色に染め上げてさしあげぶぅっ!!」ベシッ!
固法「いい加減にする。貴女まで現実逃避しない」メッ!
白井「ううぅ……だってぇ……」ウルウル・・・
固法「御坂さん、昨日ちゃんと帰って来たでしょう? もう大丈夫よ」 - 113 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:32:01.71 ID:pHVfWOdI0
- 白井「でも……あんな事言ってしまった手前、どんな事話せば良いやら……」グスンッ
一難去ってまた一難とはこの事だろう。寮監さんが色々言い聞かせたと話していたが、効果は薄かったようだ。
固法「気にし過ぎよ。佐天さんが私達くらいは普段通りに接しようって言ってたでしょ?」
白井「ですが……」ウウゥ・・・
固法「ハァ……やっぱりアッチから来て貰わないと駄目みたいね」
白井「……ハァ?!」ヘェアッ!?
固法「もうそろそろ来るわよ、御坂さん」サラッ
白井「ちょ、な、は……何でっ!!?」
固法「さぁ。私も何でかは聞いてない」
大体見当は付いているが……本人の口から聞かねば、ね。
コンコンッ・・・・・
固法「ほら、噂をすれば何とやら」チラッ
白井「ぎょぶぇいっ!?」ギョッ!
変な声を上げて固まる白井。
御坂「こんにちは……」ガチャッ・・・
固法「いらっしゃい」ニコッ
御坂「すいません、日曜日なのに……あれ? 黒子は?」キョロキョロ
固法「え?」
いない。空間移動し(逃げ)たらしい。
固法「逃げたか、隠れたか」ハァ
御坂「居たんだ」
固法「今の今まで此処にね……ちょっと待ってて」スタッ
立ち上がり、白井のロッカーを開ける。
固法「いないわね」ガチャッ
御坂「あの……何してるんですか?」タラー・・・
固法「白井探し」サラッ
御坂「へ?」ポカーン・・・
固法「いつもなら此処に隠れるんだけど……じゃあ次は」カチャッ
物置となっている臨時当番室の鍵を開ける。
雑多の山の中……二畳の仮眠床の上に、不自然に盛り上がりガクガク震える白黒ニ色の毛布。 - 114 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:34:34.39 ID:pHVfWOdI0
- 御坂「……黒子」
毛布『此処ニハ誰モ居ナイデスノー』ガクガク・・・
固法「喋ってるじゃない……」ハァ
毛布『座敷童子デスノー』ブルブル・・・
ビビり過ぎて頭のネジが数本飛んだようだ。
御坂「黒子……話、しよ」テクテク・・・
毛布『……』ガクガク・・・
御坂「私の所為で、悩ませて……本当にごめんなさい」ピタッ
毛布『……』ピタッ・・・
御坂「でも……今のが最後。もう、謝らない」ニコッ・・・
毛布がモゾモゾと……御坂に近づいてきた。
御坂「それ取りなって。顔見せなよ」アハハ・・・
毛布『構いませんの……私は毛布の精ですの』モゾモゾ・・・
固法「座敷童子は何処行ったのよ」タラー・・・
自称毛布の精はズルズルとソファに移動し、律義に靴を脱いで体育座りをした。
御坂と固法も苦笑しつつ座る事にする。
毛布『……本当に、もう大丈夫ですの?』モゾモゾ
御坂「大丈夫か如何かって言われると……多分、大丈夫じゃ無いかも」シュン・・・
毛布『……』クシュ・・・
御坂「でも……それ以上に信じなきゃ駄目かなって、思う事にしたから」ニコッ・・・
固法・毛布「『……』」フム・・・
昨晩、話して聞かせた事が良い薬になった様だ。
御坂「だからもう心配しないで。気を使ってくれなくても良いよ」コクッ・・・
毛布『……お姉さま』モフン・・・
普通に戻ろう。当たり前に。
毛布『お待ちください……今、黒子ちゃんを召喚します』モゾリ
固法「何その設定……てか毛布で全身包んでソファの上に乗らないで欲しいんだけど、毛布怪人さん」ハァ
毛布『毛布の精ですの。今の私から毛布を取ったら消えてしまいますの』モゾモゾ
どんな妖精だか精霊の類なんだ、オマエは。
それから三秒後、白井も決心がついたのか、毛布から丁度人一人分の質量が消えモフリとソファに落ちた。
そして背後のロッカーからガタリと音が鳴る。
御坂「今度はロッカーの魔人さん?」フフッ
ゆっくりと現れる……泣きベソ少女。 - 115 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:38:45.64 ID:pHVfWOdI0
- 白井「えっぐ……っ……うぅ……」ポロポロ・・・ガチャリ・・・
御坂「く、黒子!?」アタフタ・・・
白井「ぼねぇざばぁ……ぇぅ……っ……」ポロポロ・・・テクテク・・・
固法「あらあら」クスッ
御坂の方へ歩み寄る白井。
御坂「ったく……ありがと」ニコッ・・・
瞬間、飛び付く。
白井「う、ぅぅ……うわあああああぁんっ!! おねえざばのバガああああぁッ!!」ダァッ
御坂「ちょ、く、黒子っ」ワトト・・・
白井「ええええぇんっ!! 勝手に一人で解決してだあああぁっ!!」ガシッ!
御坂「も、もぅ……違うわよ。皆の御蔭」クスッ・・・
白井「あああああぁんっ!! ぞうだんじでおしがったのにぃいいいっ!!」ビエエエエェンッ!!
やれやれ、これではまた通報されかねない。
固法「こらこら、白井。御坂さん困ってるでしょ」ハァ・・・フフフ
白井「離じばぜんのおおぉぅっ!! 黒子が許ずまで離じまぜんのおおぉっ!!」ウワアアアァンッ!!
御坂「ハァ……私の所為だから仕方ないっか」ハハハ・・・
固法「程々にしなさいよ。先輩後輩揃って泣き疲れ寝入りましたなんて勘弁願いたいからね」クスッ
御坂「あはは……」ポリポリ・・・
それから暫く、白井の号泣が止む事は無かった……―――
【 ――いつもそばで笑っていよう……貴方の、すぐ、そばで……―― 】
- 116 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:41:35.09 ID:pHVfWOdI0
- ―――とある日曜日、PM04:00、学園都市第7学区、風紀委員第一七七支部……
結局、白井が一時間以上も泣き続けたので、御坂も固法も帰るに帰れない状況となってしまった。
やっと泣き止んだかと思うと、今度は無言で御坂の胸に顔を埋める白井。
いつもなら『お姉さまハァハァ』とか言って馬鹿みたいに興奮している筈なのだが……今は落ち着く為に母親に抱き着いている子供の様だ。
御坂「仕方ないわね」クスッ
白井「っく……ずびばぜん……」ヒック・・・ウック・・・
固法「いつもこのくらい可愛げがあれば、御坂さんも優しくしてくれるのにね」フフッ
常に純粋無垢な白井黒子……それはそれで、気持ち悪い。
御坂「とりあえず帰りましょ。もう4時過ぎだし……先輩もお休みなのにいつまでも拘束する訳にはいかないでしょ」
白井「ううぅ……分かり、ましたの……」グズッ
御坂「うわぁ……ま、まず顔洗ってきなさい」アハハ・・・
白井「うぃ……」テクテク・・・
クシャクチャな泣き顔。白井は洗面所に足を運んで行った。
固法「ふふっ。昨夜の貴女もあんな顔だったのよ」クスッ
御坂「ありゃりゃ……それは拙いですね」ポリポリ・・・
固法「さーてと。じゃあ帰り支度しますか」スタッ
コートを羽織り、荷物を纏め出す固法。
御坂「……彼氏さん家ですか?」ジー・・・
固法「さぁ、どうかしらね」ニコッ
一度『死んで』……そして『戻ってきた』想い人。
固法「一度……まぁ結構危ない目にあってるらしいんだけどね。私の知ってる限りでも、知らない所でも」ハァ・・・
御坂「……ふふっ」クスッ・・・
『彼』も……そういうヤツだ。
御坂「……先輩」ボソッ
固法「ん?」チラッ
御坂「先輩は、私に『いつまで待てる』って聞きましたよね」ジー・・・
固法「……ええ。言ったわ」コクッ・・・
御坂は、力強く……
御坂「私は……いつまでだって、待ってみせます」
はっきりと、宣言する。 - 117 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:53:23.91 ID:pHVfWOdI0
- 固法「そう……辛いわよ」
御坂「上等です」キリッ
もう迷わない。
御坂「私……諦めません」ニコッ
信じてみせる。『彼』の無事を。
固法「うん……私みたいに、妥協しないでね」ニコッ
御坂「はい。ありがとうございます」ペコッ
他者の例を上げるのは不謹慎かもしれないが……先輩の実例話の御蔭だ。
白井「ふぅ……すいません。お待たせし……あれ?」ジー・・・
固法「うん、待たされた。さっさと出なさい。早く鍵閉めたいわ」クルッ
御坂「ほら、先輩に迷惑でしょ。さっさと帰りましょ」ニコッ
白井「え……ま、いっか」ピョンッ
3人で部屋を出て、鍵を閉め、各々の帰路に着く。
白井「おっ姉っさまぁ! 今日こそは久しぶりーに同伴してお風呂に浴いれますのねー!」キャッキャッ!
御坂「ええぇい、引っ付くな! 久しぶりって一度も一緒に入った事無いでしょ!」ガー!
白井「んもぅ、イケずぅ! そんなツンデレールガンなお姉さまだからこそ黒子は愛を捧げらぁ痛っ!」ポカッ!
御坂「公道のド真ん中で訳の分からん事を言うなっ!」ハァ
再び尊敬できる強さに戻った先輩にしがみ付く後輩。困りながらも楽しそうに応対する御坂。
固法「ふふふ……頑張れ。恋する乙女」テクテク・・・
御坂美琴は諦めない。強い男に恋する乙女もまた、強いのだ。
だから、いつまでも……待っている。
御坂(早く帰ってきなさい……上条当麻っ!)ニコッ
『貴方』を……――― - 118 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/04/07(木) 02:59:36.57 ID:pHVfWOdI0
-
【 ――貴方は今どこで、なにをしていますか?―― 】
【 ――この空の続く場所に、いますか?―― 】
【 ――何時ものように、笑顔でいてくれますか?―― 】
【 ――今はただそれを……願い続ける―― 】
―――・・・fin 。 - 119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/04/07(木) 03:05:33.47 ID:ewtMg/2Q0
- 深夜におつかれさん
- 120 :>>1にかわりましてカキネがお送りしました [saga]:2011/04/07(木) 03:35:54.16 ID:pHVfWOdI0
- ―――とある日、時刻不明、学園都市第7学区、とある病院地下・とある部屋……
垣根「……お粗末さまでしたー」ペコッ
テレス「この作品は新約前に書いていたモノを、新約後に補足した短編です」
垣根「【――】で書かれていた詞は、同人ゲーム『ひぐらしのなく頃に 解』から作曲dai氏、作詞癒月(ユヅキ)氏の『you』って曲だ」
テレス「今更説明するまでも無いでしょうけど、気になる方は是非どうぞ……って何で宣伝してんのよ。私達」タラー・・・
垣根「細けぇ事はい(ry」
テレス「ったく……まぁとりあえず、22巻読み終えた時浮かんだイメージがこれだと」
垣根「他はグレ○ラガ○挿入歌、中川翔子氏の『Happily ever after』や……●トルバスターズ!ED曲、Rita氏の『Song for friends,』な」
テレス「アニソン以外出て来ないのかしらね……」
垣根「仕方ねぇだろ。後は歌詞の意味分かりもしないのに洋画のサントラばっか聞いてんだから」
テレス「ま、如何でもいいけどね……幻想殺しか」フーン・・・
垣根「何? 興味有る?」ジー・・・
テレス「あんまりない。多分私や数多、那由他なら瞬殺出来る一般人でしょ?」フッ
垣根「……浪漫が無ぇ」ハァ・・・
テレス「結構よ。とりあえず次回はアンケ通り書きなさいよ。もう『溜め』無いんだから」ジトー・・・
垣根「そだなー……因みに>>66のアンケート答えてない方いたら御協力お願いしゃーっす!」ペコッ!
テレス「そうね。あと、偶には私達主体の話も欲しいなー……とかボヤいてみる」ジトー・・・
垣根「オレやオマエは話が纏まらなくなった時の便利屋だったりメタキャラだってさ! ……畜生めぇっ!!」ウガー!
テレス「ハァ……とりあえず夜分遅く読んで頂いた方、ありがとうございました。次回の投下予定はまだ未定です」
垣根「てか『アッチ』先に書くかもな!」アハハ・・・
テレス「『アッチ』こそ私達の出番無いじゃない……」
垣根「だから『カキネラジヲ』でジャックしようぜー! 誰かリクで垣根希望って書いてくれー!」ギャーギャー!
テレス「……>>1が却下だって」
垣根「」チーン・・・
テレス「ヤレヤレね……では今日は此処までです。おやすみなさい」ペコッ
垣根「うぃ……宿題したか? 歯ぁ磨けよ! じゃあなっ!」ノシ” - 124 :>>1にかわりましてカキネが報告します :2011/04/08(金) 02:15:44.19 ID:c9t5xVoDO
- 垣根「携帯からこんばんは。また地震きた‥‥電気死んだ。冷蔵庫死んだ。もぅマジ勘弁してくれ‥‥」チーン…
テレスティーナ「と、いうわけでまた暫く篭るかもしれません」ペコッ
垣根「最悪、虚無るかもしれません」キリッ!
テレス「おまえは何を言っているんだ?」ハァ?
垣根「まぁとりあえず‥‥そんな生存報告っした」
テレス「皆々様もご無事であることをお祈り致します」 - 133 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/12(木) 22:50:56.35 ID:5Rr44aak0
- ―――とある日、PM09:00、学園都市第7学区、とあるアパート(黒妻宅)……
ベットの上に……一人、死んだように臥している男――黒妻。
黒妻「……身体、動かね」グデェ・・・
とある『慈善活動』を終えて部屋に戻ってきたのは良いが、何のアフターケアもない。所詮ボランティア止まりの行為。
人助けをするのは素敵な事というが、助ける側がブっ倒れては元も子もない。
黒妻「マッサージとか行ってみてぇな……今度先生にどっか良いとこ紹介して貰おう」ハァ・・・
全身の筋肉を振い立たせ跳び駆け周り、1時間半9㎜弾の集中砲火を浴びてきた。
直接肉体に弾丸は届いてないとはいえ、鉄パイプで刺突され続けている様なモノだ。体中が軋んでいる。
これでは明日は碌に動けないだろう。畜生め。
ただ、幸か不幸か、明日は仕事(バイト)がない。
学生でない自分が仕事を持っていないのは如何なのだろうと悩んではいるが、正直助かった。
兎に角、今日は適当に3分飯(カップラ)でもカッ込んでドブ寝しよう……そう決め込んだ時だった。
Prrr・・・Prrr・・・・・
黒妻「……3人のうちの誰かじゃありませんように」チラッ・・・
【 雲川 】
神様の馬鹿野郎。
黒妻「……うぃ」Pi!
雲川『こんばんは。今日は御苦労だけど』クスッ
黒妻「気楽に言いやがって……事前情報と違ぇぞ」ハァ・・・
雲川『事前調査は服部くんかアホ御門の仕事。私に当たらないでほしいんだけど』フフッ
事前情報……能力者による『無能力者狩り遊び(ハンティングゲーム)』の制裁、及び無能力者達の救出。
実際現場……能力者・無能力者関係無しの乱戦。要は『能力vs武器』の喧嘩。
雲川『事後処理は完璧だって。全員、逮捕・補導させたけど』ニコッ
黒妻「そういう問題じゃねぇ……どっちも弱者じゃねぇだろ」ッタク・・・
雲川『でも、無能力者が圧倒的不利な喧嘩だったけど? それに貴方の活動は街の平和を守る事じゃない』
黒妻「んなヒーロー活動してねぇっつの……あくまで弱者救済だ」
雲川『んー……弱者の基準が今一なんだけど』
駒場の意志を継ぎたい一心から始めた活動だ。
コイツらの便利屋になるつもりは毛頭有りはしない。特にコイツ――雲川と土御門の道具には、だ。 - 134 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/12(木) 23:14:29.09 ID:5Rr44aak0
- さておき、本題を聞く。
黒妻「まさか今からもう一件仕事だってんじゃねぇだろうな……」
雲川『そうしたいならそうさせるけど。今は服部くんと郭さん達がパトロールしてるから安心なさい』フフッ・・・
黒妻「……」ホッ・・・
雲川『……正直、そのスタンスは直すべきだと思うけど』ハァ・・・
黒妻「スタンス?」
雲川『あのさぁ……―――』
愚痴が長く、余計な話まで入ってきたので要約すると……
・短時間限定では連続して活動できない。
・一回一回のインパクトが薄過ぎて『駒場利徳』の恐怖を、心許無い能力者共に植え付けられない。
・学園都市を守るくらいのイメージが欲しい。
・銃を使わない。
……だそうだ。
黒妻「……前二つは同意だ」コクッ
雲川『いやいや、全部大事なんだけど』ハァ・・・
都市を守るのは警備員という警察組織であるべきという思想がある。
銃は……ポリシーというのだろうか、ワイヤーガン以外は持ちたくない。
雲川『……貴方とヒーロー談義をするつもりはないけど、それじゃあ飛び道具を使わない透明な3分間ヒーローだ』ハァ・・・
黒妻「透明って……まぁカップラヒーローは認めざるを得ないな」ハハハ・・・
雲川『少し考えさせて貰うけど。スタンスとしては蜘蛛男か蝙蝠男、精神的超人くらい常に動けるようじゃなきゃ』
黒妻「俺は超人でもないし、大富豪でもねぇ。まして完全なプータロでもねぇぞ」
雲川『へぇ。戸籍もない違法バイト繰り返してるくせにそんな事言えるとは、結構驚きだけど』クスッ
黒妻「く、区役所が遅ぇんだよ! 行方不明届2年経って如何こうとか、死亡届が一度如何こうとか!」フンッ!
困ったものだ。マトモに就活できない。
雲川『まぁ貴方の就職なんか如何でも良いけど。もし無能力者が次々と襲われるような事態が起きたら如何すんの?』
黒妻「そん時は……意地でも立つさ」
雲川『ふーん……兎に角、提案させて貰うけど。素の貴方でも余裕そうな時は発条包帯(ハードテーピング)抜きで活動しなさい』
黒妻「……土御門と半蔵にも相談してからな」
雲川『元よりそのつもりだけど。じゃないと貴方、最悪過労で死ぬけど』
黒妻「……大丈夫だ」
雲川『ダイジョーブじゃない。問題だけど』ハァ・・・
根拠の無い見栄を張る。 - 135 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/12(木) 23:30:31.26 ID:5Rr44aak0
- 黒妻「とりあえず、それだけか?」
雲川『は? 本題言ってないんだけど』
コイツ、話長ぇ。
雲川『明日、5時に病院前来なさい』
黒妻「普通さ……『明日の予定は?』から入らねぇか?」
雲川『どうせ暇だと思ったんだけど』
当たってるが……腹立つ。
雲川『精々定職着いてから文句言え』
黒妻「」
雲川『兎に角、鞭打ってでも病院来る事。OK?』
黒妻「……待てっつの。理由が無ぇ」ハァ・・・
雲川『理由? 必要なの? 生産者と非生産者のギリギリラインの貴方が?』
カチンと来る。似非御嬢様め。
雲川『慈善活動とは言わない。報酬は出るけど』
黒妻「ったく……せめて何をするのか教えてくれ」
雲川『治験のち改造手術を―――』
Pi! ツー・・・ツー・・・・・
黒妻「…………………………………さて、飯を食うか」イデデ・・・
Prrr・・・Prrrr・・・・・
黒妻「……」タラー・・・
Prrr・・・Prrrr・・・・・
黒妻「……ハァ」Pi! - 136 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/13(金) 00:00:12.70 ID:UQfd/7qX0
- 黒妻「……なんだっつの」
雲川『貴方、女性からの電話切るってどんな神経してんの?』ジトー・・・
黒妻「オマエを女性として見た事無い」キッパリ!
雲川『……いつか泣かす』
女性に泣かされる趣味はございません。香焼とは違います。
雲川『さっきのは冗談なんだけど』
黒妻「いや、オマエと土御門は冗談の境界線が存在しないから怖い」
雲川『アレと一緒にすんな。話戻すけど、貴方には精神病院行って貰う』
人の頭を心配する前に手前の人格疑って下さい。
雲川『違ぇっつってんの! そして貴方無礼過ぎんだけど!』ギロッ!
黒妻「はいはい、さーせん」
雲川『ったく……移動の車は出すけど。とりあえずいつもの病院まではバイクなり何なりで来なさい』
黒妻「待て待て。その精神病院でオレは何すんだ?」
雲川『……PCのアド教えなさい。詳細送るから』
黒妻「オレん家PC無ぇ」
雲川『貴方いつの時代の人間よ……仕方ないから土御門に送る。プリントアウトさせて受け取りなさい」
面倒臭そうに語る似非御嬢様。というか、この件に土御門と半蔵は絡んでいるのだろうか。
雲川『貴方の今後にも関わる事だから話すつもりではいたけど。服部くんには既に伝えてある』
黒妻「土御門にはまだだったのか」
雲川『口出しされるのが厄介だから直前にしようと思ってた。まぁ仕方ないけど』ハァ・・・
雲川と土御門の無言の喧嘩に挟まれている半蔵は大変だろうな。
雲川『良い? 今回の件は土御門の阿呆が何を言おうとも無視りなさい。命令だけど』
黒妻「……そんなに毛嫌いしなくても」
雲川『そうじゃないけど。今回はアイツも貴方と同じ「立場」なの。私の「駒」だけど』
駒、か。
雲川『怒らないで欲しいけど。今は私の策戦に口出ししないで……メリットは多いわ』ニコッ
黒妻「……信じるぞ」
雲川『あら、嬉しいけど』クスッ
その喋り方は意図を掴めないから怖い。
一寸後、目的の精神病院の名前だけ聞き出し電話を終えた。 - 137 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/13(金) 00:27:54.90 ID:UQfd/7qX0
- ―――とある日、PM09:30、学園都市第7学区、とあるアパート(黒妻宅)……
カップラの残り汁(豚骨)にレンジで解凍したご飯をブチ込もうとした寸前、玄関のドアが勢い良く開いた。
土御門「あの腐れアマ、俺をパシリに使うたぁ良い度胸してんじゃねぇか!」ドカドカ!
黒妻「せめてインターホンを鳴らせ、非常識人」ピタッ・・・
土御門「しゃーらっぷ! 元はといえばセンセがPC持ってねぇのが悪いんだぞ」ジトー・・・
んなPC買う金無いし。
土御門「知るか。早く就職しろ! そして俺ん部屋の遠くに住め!」ダンダンッ!
黒妻「五月蠅い。下の階の住人に迷惑だ」
土御門「センセと嫁さんの[らめぇぇっ!]よかぁ静かだっつの!」ガアアァ!
殴って良いか?
土御門「そりゃこっちのセリフですー。前の休み昼夜ブっ続けでわっふるわっふるしてたろ? ホテル行けっつの喧しい!」
黒妻「……さーせん」ダラダラ・・・
土御門「ったくよぉ……さっさと学生アパートから出てって防音完璧な家に引っ越せっての……」ハァ・・・
自称(仮)童貞少年には刺激が強過ぎたようだ。
土御門「んで……ほれ、この二枚だにゃ」スッ・・・
黒妻「ん、さんきゅ」
急いでご飯をカップに入れ、再度電子レンジに入れる。
そして2分にセットした後、土御門から書類を受け取った。
土御門「何とも御丁寧に俺を兵隊の頭数にしてやがる……マジ泣かすぞ、あの糞女」ンギギ・・・
黒妻「……直接電話したのか」
土御門「するかっての! 『[ピーーー]』ってメール送ったら『[ピーーー]』と帰って来た! マジ腹立つ……」ギリリ・・・
仲良いなぁ。
土御門「……まぁだが、あの女の考える事も一理あるぜぃ」ハァ・・・
黒妻「お、デレた……スタイルについてか?」
土御門「デレ言うな……ああ、戦闘スタイルだ。前に話していた事を実行せにゃならんと思ってるのは俺らだけじゃないらしいぜぃ」コクッ
やはり効率の悪い戦い方は避けるべきか。
とりあえず、カップラおじやを食べながら話を続けよう。 - 138 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/13(金) 01:30:32.17 ID:UQfd/7qX0
- 土御門「それで、内容なんだが……」チラッ
黒妻「ん」ジュルルル・・・
土御門「場所は聞いているんだろうけど……」チラッ
黒妻「むん」ジュルルル・・・
土御門「……」ジトー・・・
黒妻「ん……あ?」ピタッ・・・
サングラスの奥が翳った。
土御門「その畜生の餌喰うの一旦止めろ」
黒妻「は?」
土御門「五月蠅くて話できねぇ」ジトー・・・
黒妻「おま……カップラおじや馬鹿にすんなし! アレだろ? オマエ、猫まんま喰えないタイプだろ」ベー!
土御門「違ぇよ! 汁飯ってのぁ他人が見てねぇ時にだけ許される行為なんだっつの! センセは邪道な上、うっせぇんだ!」ガアアァッ!
見かけによらずナイーブなヤツめ。
土御門「アンタが杜撰なんだよ……続けるぞ。今回の目的地から確認だ」
黒妻「確か、精神病院……って名目の研究施設だったか?」
土御門「そうだ。加えて言えば……刑務所でもある」
黒妻「さしずめ、アーカムアサイラムって事だな」チラッ
土御門「御名答。此処にブチ込まれている輩は皆、狂人だ。本来であれば死刑レベルのな」コクッ
黒妻「……なら如何して縛り首にならない」
土御門「主な理由は二つ。一つはこの施設の成り立ちだ。死刑反対派の理事のバックアップで運営されている」
つまり、反対派の理事が今現在多いのだろう。それは潰すに潰せない。
黒妻「んで、もう一つは?」
土御門「希少能力者や政治犯も収容されているんだ。利用価値があるから殺さない」
黒妻「精神病患者扱いにすれば殺せないってか……上手くやるもんだな」フンッ
土御門「本来であれば一方通行や麦野沈利、垣根帝督なんかも此処の住人だぜぃ」フフフ・・・
黒妻「……ノーコメントだ」
それに関しては首を突っ込まないつもりである。
土御門「まぁ個人的にはまだ何か隠されていると思うんだけどにゃー……気になる点も有るし」フムフム
黒妻「気になる点?」
土御門「ああ……この施設から暗部入りがいないんだ」
暗部……学園都市の裏。汚れ仕事を受け持つ連中。
それに化す者達は多額の負債、生まれ付いての殺人教育、汚職隠蔽、理事会直々のスカウト等、あまり好ましいと言えない影持ちの輩だ。
そう考えると確かにこの施設は暗部養成のうってつけの機関かもしれない。 - 139 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/13(金) 01:59:55.66 ID:UQfd/7qX0
- 黒妻「とりあえず、オマエはそれを調べる為にも敢えて雲川の策に乗ってやろうって訳か」
土御門「まぁな……ただ、此処を見てくれ」スッ・・・
――『道化(土御門)』は2,3名、自分で駒を準備するのは自由。
黒妻「……やっぱ危険なのか」ウヘェ・・・
土御門「場所が場所ってのもあるが、戦闘は無い筈……何故態々兵を増やす必要があるのか不明だ」
黒妻「まぁ念には念をって事じゃね」
正直、オレは当てにならないからな。
黒妻「それから、この活動内容が気になる」ピッ
土御門「『所長に挨拶』、『未成年棟の見学』、それ以降は基本所長の指示に従い必要であれば『頭脳』が追って連絡……やっぱ変だ」
黒妻「ミソは『所長さん』と『未成年棟』やらだな。何か心当たりは?」チラッ
土御門「うーん……知ってるけど……言えないが……関係無い気が……」ポリポリ・・・
黒妻「……裏か?」
土御門「裏、じゃないにゃ……でも裏っぽい……悪い。ハッキリ言えないぜよ。まぁだが、行けば嫌が応にも分かりますたい」ポリポリ・・・
行ってからのお楽しみって訳か。楽しみで泣けてくるよ。
黒妻「じゃあもう一つだけ。此処は研究施設も兼ねてるって話だが、何の研究なんだ? やっぱ精神学とか犯罪心理か?」
土御門「……それが、言えない。行けば分かる」
黒妻「……まさか凄ぇ危険な事してんじゃねぇだろうな」タラー・・・
土御門「危険じゃないが、未知の領域って感じだにゃ。理解するのに時間が掛るぜ?」
つまり中卒のオレには理解できないという訳か。
土御門「じゃなくて、この街の人間には理解し難いんだぜぃ……あ、でもセンセは身体以外、永遠の中学生だから理解できっかも」ニカッ!
黒妻「聞かなかった事にしてやる……とりあえずもう良いぞ。明日またな」コクッ
土御門「あいよ。てか……明日学校迎えに来て。俺授業終わり一回家戻んのメンドイですたい」ニコッ
黒妻「……図々しいヤツ」ハァ・・・
土御門「ふふふ。そう言いながらもキチンと迎えに来てくれるセンセは好きだぜぃ」ヒヒヒ!
相変わらず癪に障る道化師だ。
その後、多少の会話を交わし土御門は自分の部屋に戻って行った。 - 140 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/13(金) 02:00:41.86 ID:UQfd/7qX0
- 黒妻「とりあえず、オマエはそれを調べる為にも敢えて雲川の策に乗ってやろうって訳か」
土御門「まぁな……ただ、此処を見てくれ」スッ・・・
――『道化(土御門)』は2,3名、自分で駒を準備するのは自由。
黒妻「……やっぱ危険なのか」ウヘェ・・・
土御門「場所が場所ってのもあるが、戦闘は無い筈……何故態々兵を増やす必要があるのか不明だ」
黒妻「まぁ念には念をって事じゃね」
正直、オレは当てにならないからな。
黒妻「それから、この活動内容が気になる」ピッ
土御門「『所長に挨拶』、『未成年棟の見学』、それ以降は基本所長の指示に従い必要であれば『頭脳』が追って連絡……やっぱ変だ」
黒妻「ミソは『所長さん』と『未成年棟』やらだな。何か心当たりは?」チラッ
土御門「うーん……知ってるけど……言えないが……関係無い気が……」ポリポリ・・・
黒妻「……裏か?」
土御門「裏、じゃないにゃ……でも裏っぽい……悪い。ハッキリ言えないぜよ。まぁだが、行けば嫌が応にも分かりますたい」ポリポリ・・・
行ってからのお楽しみって訳か。楽しみで泣けてくるよ。
黒妻「じゃあもう一つだけ。此処は研究施設も兼ねてるって話だが、何の研究なんだ? やっぱ精神学とか犯罪心理か?」
土御門「……それが、言えない。行けば分かる」
黒妻「……まさか凄ぇ危険な事してんじゃねぇだろうな」タラー・・・
土御門「危険じゃないが、未知の領域って感じだにゃ。理解するのに時間が掛るぜ?」
つまり中卒のオレには理解できないという訳か。
土御門「じゃなくて、この街の人間には理解し難いんだぜぃ……あ、でもセンセは身体以外、永遠の中学生だから理解できっかも」ニカッ!
黒妻「聞かなかった事にしてやる……とりあえずもう良いぞ。明日またな」コクッ
土御門「あいよ。てか……明日学校迎えに来て。俺授業終わり一回家戻んのメンドイですたい」ニコッ
黒妻「……図々しいヤツ」ハァ・・・
土御門「ふふふ。そう言いながらもキチンと迎えに来てくれるセンセは好きだぜぃ」ヒヒヒ!
相変わらず癪に障る道化師だ。
その後、多少の会話を交わし土御門は自分の部屋に戻って行った。 - 141 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/13(金) 02:40:21.93 ID:UQfd/7qX0
- ―――とある日、PM10:00、学園都市第7学区、とあるアパート(土御門宅)……
まったく以て度し難い。
メリットが多いとはいえ、あの目狐に出し抜かれるのは内心腹立たしい限りだ。
土御門「糞ったれ……」ドサッ・・・
黒妻綿流には言えなかったが……あの施設は『原石』の研究機関である。
正しくは、研究機関も兼ねているといったところだ。名前通り精神病院且つ刑務所としても機能はしているが、主軸はそっちではない。
黒妻に『狂人』を見せつけたいのか、それとも『原石』を見せつけたいのかは知らないが……今一あの女の腹が掴めない。
土御門「まさか……」スッ・・・
自分のアクセス権を用いて『書庫』を探る。そして一人の少年の写真をズーム。
土御門「……利用、するのか?」フム・・・
世界最高の原石―――超能力者(レベル5)第7位、削板軍覇。
確かにコイツは勝手気ままに自警活動を行っている。
小悪党どもの下らない犯罪行為を止める事もあれば、裏が関わっている厄介でデリケートな仕事の邪魔をする事も屡(しばしば)。
土御門「ふざけている……あの女郎、ジャスティスリーグでも作るつもりじゃねぇだろうな」ハァ・・・
黒妻が『ダークナイト』だとすれば、削板は文字通り『超人』だ。
土御門「危険だな……」Pi!
念には念を入れ、今回の私兵を準備する事にしよう。
本来であれば第一位という絶大なカードがあるのだが、アレは顔が知れ過ぎている。故に……
土御門「夜分遅くすまんな」
海原『いえいえ、仕事ですか?』
『顔』がばれないコイツに交渉してみる。
土御門「仕事……確かに仕事だが、受けるか如何かは貴様次第だ」
海原『はいはい。それでは内容を伺いましょう』
土御門「最初に言っておく。これは半分俺の私用だ。一方通行や結標……つまり暗部(グループ)はまるで関係無い」
海原『……詳しく』フム・・・
俺は話せる範囲で、今回の傭兵稼業の説明をした。 - 142 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/13(金) 03:04:57.29 ID:UQfd/7qX0
- 海原「―――……成程。例の怪しい精神病院ですか」ホォ・・・
土御門『悪いがこれ以上の詳細は話を受けて貰ってからだ。徒労に終わるかもしれないが……やるか?』ニヤッ
海原『先に質問を』
土御門「答えられる範囲なら」
海原『まず、僕の他に今回この件に当たる人間は?』
土御門「黒妻綿流だ。現時点ではヤツのみ」
服部と雲川本人は如何するのか、まだ分からない。
海原『では、何故僕を御誘いに?』
土御門「社交的且つ(腕と緘口性が)信用出来るからだ」
海原『ふふっ。純粋にそう考えているのなら嬉しい限りです』
一方通行は先の理由と社交性に問題アリなので駄目。結標は社交性はまずまずでも大事な時にヘマるから駄目。
魔術サイドの知り合いは私兵として使い辛い。現在都市在住で腕利きなのは五和くらいだが、神裂にばれると厄介なのでパス。
その他の輩で今回の件に首を突っ込む事が出来そうな知り合いは……いないだろう。
土御門「どうだ? 受けるか?」
海原『おっと、大事な事を……報酬は?』ニヤッ・・・
がめついというか、抜け目ない奴め。
土御門「……その前に良いか」
海原『何か?』
土御門「オマエの知り合いで口が堅く、腕が立つヤツはいるか? この際社交性は無口だとか口調がオカシイとかは目を瞑る」
海原『……意味が分からないんですけど』
土御門「そいつも雇ってやるって言っているんだ。予算はある」
海原『ほぉ……暗部では無いのにその資金源(スポンサー)という事は、必要悪の教会(ネセサリウス)の仕事でしたか』
土御門「……違う。個人的な付き合いの輩だ。んな事はテメェが気にする事じゃねぇ」
いるのか、いないのか言えというだけの話。
海原『因みに何名程欲しいんですか?』
土御門「2,3人だな」
海原『分かりました。当たってみましょう……とりあえず僕は引受けますよ』ニコッ
土御門「助かる……では詳細をメールしておくから集合時間場所等を確認してくれ。人員は任せた」
海原『はいはい。しかし……貴方も大概友達少ないですね』フフッ
土御門「喧しい。表(リアル)にはざっと百はいるっつの。テメェらみてぇな社会不適合者と一緒にすんな」ケッ
海原『あはは。これは手厳しいですね』クスッ
これ以上は喧嘩の種になりかねない。
兎角、明日の胡散臭い策に備え床に着く事にした。 - 149 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/15(日) 22:34:20.14 ID:ULYa6KwH0
- ―――とある翌日、PM04:50、学園都市第7学区、とある病院……
次の日の夕方、雲川に言われた通り『いつもの病院』にオレは向った。
途中学校へ土御門を迎えに行ったのだが、どうもヤツはバイクに乗り慣れてないらしく、到着する頃にはグッタリしてしまっていた。
何とも情けないヤツ。
土御門「いや……センセの運転がヤベェんだっつの」ウヘェ・・・
黒妻「そんな飛ばして無いだろ? 精々出しても70㌔程度だぜ」
土御門「何回ブレーキ踏んだ? 信号有る道通らないのは何故?」ジトー・・・
黒妻「んな道通ったら警備員にしょっ引かれんだろ。あと、ブレーキ踏まなかったのは気分だ」ニカッ!
土御門「スピード狂が……」ハァ・・・
それは褒め言葉だ。
黒妻「それより、待ち合わせ場所は駐車場で良いんだよな?」
土御門「ああ。雲川本人が来るかどうかは知らんがな」
黒妻「今日学校で会ってないのか?」
土御門「アイツの顔は極力見ない様に生活しています……ブチ殺したくなるんだぜぃ」ギリリ・・・
アイツも同じような事言ってた。相変わらず仲良いなぁ。
黒妻「ところで……兵隊は如何したんだ?」
土御門「ヤツらも此処で待ち合わせなんだが……そろそろ来る筈だにゃ」クイッ・・・
コイツが準備する『兵隊』は碌なヤツじゃない気がするが、大丈夫だろうか。
土御門「……ん、ほら。噂をすれば何とやらだぜぃ」ニコッ
土御門が指差す――病院の入り口の方から、数名の男女が歩み寄ってきた。
その中で、自分が知り得る人物も交じっている事に気がつく。
黒妻「御坂ちゃん……いや、妹ちゃんの方か」チラッ
土御門「ふふふふふ……本人から直接自己紹介聞きなってばにゃ」クスッ
とはいえ……同じ顔が二人とはな。 - 150 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/15(日) 23:01:27.80 ID:ULYa6KwH0
- 土御門「よう、態々悪いな」ニコッ
????「いえいえ。報酬さえ頂ければ問題ありませんよ。仕事も無く、暇でしたしね」ニコッ
土御門と気軽に挨拶を交わす男性。声は何処かで聞いた事がある様な気がするが……
????「どうも。はじめまして……では無いですね、こんにちは」ニコッ
黒妻「ん? え、えっと……」タラー・・・
????「ふふふ。やはり分かりませんよね」クスクス・・・
土御門「まぁオマエを一発で把握できるのは『元同僚』共と『蛇』くらいだぜよ」ニシシ!
黒妻「……そっちは、御坂の妹ちゃんだろ? 一人は……知ってる」
確か、スネークと呼ばれていた妹さん。他の妹さん達とは異なるゴーグルと、腕に巻いてあるバンダナで思い出した。
御坂蛇「ええ……個体番号(シリアルナンバー)17600号、とミサカは簡潔に挨拶を済ませます」コクッ
御坂?「17600号(スネーク)。挨拶はもう少し丁寧にしましょう、とミサカは呆れながら訴えます」ハァ・・・
黒妻「そっちの妹ちゃんは?」
御坂春「私(ミサカ)の個体番号は14510号です。いたって普通の妹達(シスターズ)なので御好きに御呼び下さい、とミサカは――」
御坂蛇「春子、レーコ、春厨と呼んであげるべきでしょう。とミサカは適切な補足を入れます」キッパリ!
御坂春「――す、スネーク! 適当な事は言わないで下さいよぉ! 私の印象がまた悪くなりますから!」アタフタ!
とりあえず、春子ちゃんと呼んであげよう。
黒妻「んで、そっちは?」
????「んー……土御門」チラッ
土御門「面白いから黙ってたいんだけどにゃぁ」フフフ・・・
黒妻「……」ジトー・・・
御坂蛇「彼はエツァリ。貴方の知る所の『海原光貴』ですよ、とミサカは解説します」キッパリ
????「……スネーク。君は本当に空気が読めないね」ハァ・・・
御坂蛇「回りくどくダラダラになるのが嫌いなだけです。とミサカは駄目師匠に指摘もとい説明します」ジー・・・
成程。胡散臭い感じは納得できる……だが、顔姿がまるで別人。特殊メイクか何かしてるのだろうか。
土御門「そういう『能力』とでも思っておけ。詳しくはセンセが知る必要はないぜよ」クイッ・・・
黒妻「……そうか。それじゃあ、海原と呼ばせて貰うぞ」
海山田「今は仮の姿をしているので『海山田ミッチェル』とでも御呼び下さい。何なら『みっちゃん』でも可ですよ」ニコッ
一同『うわぁ……』ドンビキ・・・
ウザいので普通に海原と呼ぶ事にする。 - 151 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/15(日) 23:36:43.29 ID:ULYa6KwH0
- (海山田改め)海原「つれませんね……まぁ今は好きに呼んで貰って構いませんよ。ただアチラに着いてからは海山田でお願いします」
黒妻「素性がばれるとヤバいのか?」
土御門「訳有って、今回は『海原光貴』を参加させる事は出来ないんだ。深くは聞かないでくれ」チラッ
黒妻「ああ、分かった」コクッ
元よりコイツらの関係に深入りするつもりは無い。
御坂春「……ところで、土御門さん」キョロキョロ・・・
土御門「ん? 何だ?」
御坂春「……あの人は?」ジー・・・
土御門「は?」ポカーン・・・
御坂春「……え」キョトン・・・
黒妻「春子ちゃん、如何した?」
御坂春「……蛇師匠(スネークマスター)?」ギギギ・・・
海原「おやおや。残念でしたね。『彼』は不参加の様です」クスッ・・・
御坂春「だ、騙しましたね!! 貴方は『彼』が今回の私用に参加すると豪語してたじゃないですか! とミサカは憤怒します!」ムキー!
海原「えー。『グループの【あの有名人】と一緒に仕事をしよう!』って書いただけですけどぉ」フフフ・・・
オレと土御門置いてけぼり。
土御門「……蛇。今回如何やって人集めた?」タラー・・・
御坂蛇「MNW(ミサカネットワーク)内のバイト募集板、短期バイトスレから収集しました、とミサカはコアな説明をします」
……日本語でおk?
海原「スネークにお願いして今日暇な都市在住妹達を選択してもらったのですよ」
御坂蛇「御坂妹(10032)・御坂丸(10039)・御坂.jp(13577)・御坂囁(19090)はまだ看護師勤務です、とミサカは主な都市組の行動報告をします」
土御門「如何でも良いが、打ち止めを通して一方通行に知られる様な事は無いだろうな?」ジトー・・・
海原「一応大丈夫ですよ。R-18バイトのスレに書き込んだので、チビ御坂さんが覗く様な事は無いでしょう」
御坂蛇「その点は御坂龍(18413)が上手くやってくれているので問題ないかと。ミサカもヤツの管理能力だけは高く評価します」
御坂春「そんなの良いから『彼』は何処ぉ!! とミサカは土御門さんに詰め寄り抗議します!」クウウッ!!
面倒臭そうな娘が一緒なのか……
海原「ハァ……レーコ。よく聞きなさい。実はこの仕事……彼の命を狙う組織の謎を解く重大な任務なのです」シー・・・
御坂春「な、何と!?」ギョッ!!
土御門「ああ、本当だ……敵はDr.マ○ハッタ○より強力な力を持つ宇宙人かもしれないという情報を得ている」コクッ・・・
海原「彼を救う為にも、協力して貰いたい……勿論報酬は出します。良いですね、レーコ!」カッ!!
御坂春「わ、分かりました! 微力ながら私(ミサカ)め、通称一方恋心(アクセラレーコ)! 助力します!」キリッ!
御坂蛇「馬鹿ばっか……とミサカは呟きます」ッタク・・・
同意……それからそんな化け物、居てたまるか。 - 153 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 00:32:55.85 ID:njTDwYoK0
- 黒妻「そういえば……アイツは来ないんだな。オマエなら誘うと思ってたんだけど」
土御門「アイツって?」
黒妻「上条」サラッ
一同『……』ピタッ・・・
……オレ、何か拙い事言ったか?
海原「……い、いや……えっと、黒妻さん」タラー・・・
土御門「カミやんは、その……極力普通の学生生活を送るべき人間なんだにゃ。ただ勝手に問題事に首突っ込む機会が多いだけで」タラー・・・
黒妻「へぇ。まぁ問題事の中心にアイツか第一位が居るってのは多いよな。最近は仕上もだけど」コクッ
土御門「アイテムのチンピラは知らねぇが、他二人はそういう星の下に生まれちまった人間なんだぜぃ……」
どんな星だよ、それ。
土御門「兎に角だ、今日はこのメンツで仕事をする。増えるとしたら服部と女狐(雲川)くらいだぜぃ」
黒妻「ん……あのよぉ、最後に一つ」チラッ
土御門「中々面倒臭ぇにゃ、センセも」ハァ
黒妻「うっせぇよ……コイツらは……『知ってる』のか?」ボソッ
無論、『仮面』の事だ。
土御門「……14510号だけ知らない。海原と17600号は、協力者だ……服部の所の『くの一』みたいなものだと思ってくれ」チラッ
黒妻「了解だ……因みに今更だが、他に協力者はいるのか?」
土御門「協力って訳じゃないが一方通行はセンセと『同業者』。後は知っての通り冥土帰しだ。今はその程度を知っててくれれば良い」クイッ
先生(冥土帰し)には『活動』を始めてから幾度と世話になっていた。生傷の絶えない活動だからな。
海原「……土御門。来た様ですよ。あのバンでは?」チラッ
土御門「……かもしれん。センセ、雲川に電話して」
黒妻「オマエがし……あーはいはい。そんな顔しないでください」ハァ・・・
結局、迎えのバンだと確認できたので5人で乗り込む事となった。 - 154 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 01:18:44.66 ID:njTDwYoK0
- ―――とある翌日、PM05:10、学園都市第7学区、とある道路……
半蔵「ったく……まぁ俺に出来る事っつーのも少ないんですけどねぇ……まさか運ちゃんやらされるとはなぁ」ハァ・・・
何となく想像は出来たが、半蔵が送迎の運転手だった。
勿論、いつもの如く郭ちゃんがセット同伴して助手席に座っている。
土御門「まぁそうカッカするな、服部。あの女に腹が立ってるのはオマエだけじゃねぇって」
半蔵「別に腹立たしい訳じゃねぇけどよ……何だかなぁ」
郭「……ま、策があるというのであれば乗ってあげるべきでしょう」
頭脳はは辛いよって訳か。
郭「ところで……其方の3名は協力者さんですか?」チラッ
土御門「ああ。そんなところだ」
御坂春「スネーク! 凄いですよ! 忍者です! ジャパニーズ忍者がいます! とミサカは終始興奮気味で後ろ指を指してみます!」キラキラ!
一同『……』タラー・・・
あの子は大丈夫なのだろうか。打ち止めちゃんみたいな子供なんだが……
海原「ま、まぁ異・強能力者(レベル2~3)程の力はあります。大丈夫ですよ」アハハ・・・
土御門「……もう船は出たんだ。信じるしかないにゃ」ハァ・・・
黒妻「そういえば、今向かってんのは精神病院なんだよな……何処にあんだっけ?」
郭「第12学区と第19学区の丁度区間です」
半蔵「距離あるんで環状線高速乗っちゃいますよ。少し休んでて貰って結構です」
ではお言葉に甘えるとしよう。
御坂蛇「……」ジー・・・
海原「如何しました?」チラッ
御坂蛇「……あの二人『専門家(プロフェッショナル)』ですね、とミサカは解析してみます」ジー・・・
海原「ほぉ」ニヤッ・・・
土御門「にゃはは。良かったな、御二人さん。何のプロか分からないが、称えられてるぜぃ」ニシシ!
郭「あら、ありがとうございます。サインでもあげましょうか?」クスッ
御坂春「えっ!? 良いのですか!! ではミサカのブレザー裏にこっそり」
半蔵「郭……この馬鹿女郎。プロとか如何とか話題に上がる時点でプロじゃねぇんだよ」ケッ・・・
何だこの隠密談義……草は華より目立っちゃいけないってヤツか。 - 155 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 01:53:53.91 ID:njTDwYoK0
- ―――とある翌日、PM05:40、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)……
学園都市の内周部を囲むように走っている環状高速。
中心地である第7学区から東に、第18学区を抜け、敷地面積の広い第23学区のインターに入る。
そこから北へ数十分、神学系の施設が多い12学区のインターで降りて……廃れた第19学区との境へ向かう。
半蔵「到着っと……此処ですね」キキィッ・・・
駐車場、というよりは唯のジャリ置き場の様な場所にバンを停める。
目の前にはやたらとデカく重々しい『塀』。
土御門「まさに刑務所だな……センセがブチ込まれてた年少(少年院)もこんな感じだったのかぃ?」ニヤッ
黒妻「馬鹿野郎。オレが入ってた年少はもっと綺麗な更生施設だったっつの」フンッ
半蔵「言って貰えれば何時でも脱獄の手伝いしたのに。兄貴の入ってたとこ、凄ぇ緩いじゃんか」チラッ
逃げたら美偉が死ぬほど泣くので出来ません。
海原「とりあえずこれからの手順を教えて頂きたいのですが、宜しいですか?」ニコッ
土御門「そうだな……多分、2班に分かれて行動する事になるかもしれない。中の教授だか博士だかの指示に従う様言われてるが……」
半蔵「正直、不安だな。出来れば俺か土御門の2頭で行動しよう」
土御門「賛成だ。海原……状況によって、追って伝える」
海原「了解です」
黒妻「オレは如何すりゃいいんだ?」
半蔵「兄貴は……単独行動だけは控えてください。はっきり言って雲川の女郎がブン投げ状態でパスしやがったんで、策を練れないんです」
難しく考え過ぎな気がするけどなぁ。
半蔵「……とりあえず、郭はバンで待機だ。何かあったら直ぐ動かせるようにはしておけ」
郭「えー。私も中に入りたいですよぉ」
半蔵「黙れ。残れ。邪魔すんな」ジトー・・・
郭「ぶーぶー!」ベー!
郭ちゃん、影のくせに派手好きなのは何故だろう。
兎に角、拠点は大事だという事でバンには郭ちゃんと御坂春ちゃんを残す事にした。
何かあった時の保険という訳だろう。まったく頭の回る連中だ。 - 156 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 02:55:37.30 ID:njTDwYoK0
- 土御門「さて、今から入る訳だが……その前に」チラッ
黒妻・半蔵「「ん?」」ピタッ・・・
土御門「アンタら、その恰好で入るつもりかにゃ?」ジトー・・・
いつもの私服だが、何か問題でも。
土御門「仮にも仕事だぜぃ? 俺らは学生だから学生服で済むけど……なぁ」ジトー・・・
黒妻「んな事言ったってよぉ、俺ぁ学生じゃ無ぇしスーツだって持ってきてねぇぞ」
半蔵「歳にしてオマエとタメくらいだが、学校通ってませーん」
土御門「……今度、雲川に経費でスーツ買わせよう」ハァ・・・
ネクタイ嫌いなんだが……仕方ねぇな。
海原「あ、そうだ。今から僕の事は『海山田』でお願いしますね」ニコッ
黒妻「そういえばそうだったな……スネークちゃんは如何する?」
御坂蛇「……」チラッ
海原「如何身繕っても『御坂』ですからね……スネークのままで良いのでは?」
黒妻「あいよ」
それでは入ろう。
半蔵「まず受付か。土御門、頼んだぞー」
土御門「はいはい……あー、すいませーん」ビー!
機械的な受付場でベルを鳴らす。数秒後、声が返って来た。
受付『はい、ドチラ様でしょうか』ガガガ・・・
土御門「貝継理事の使いの者です。アポを入れている筈なのですが、所長さんはいらっしゃいますでしょうか?」ニコッ
受付『少々お待ちを……………………………確認できました。今玄関を開けます。案内ロボに連いて御進みください』Pi!
塀の脇にある小さな扉が開いた。
オレらはそこから中に入り、待機していたドラム型ロボの後をつけ、敷地内を進んだ。 - 157 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 03:13:29.09 ID:njTDwYoK0
- 物々しい外壁とは裏腹、内部は普通に小奇麗な施設が立ち並んでいた。
病院・研究所と言われれば納得できる建物はある。逆に刑務所という感じの建物は見当たらない。
土御門「此処に居る囚人は仮にも『精神病患者』扱いだ。普通の牢屋にゃ入れられんぜよ」テクテク・・・
海原「しかし、地下にあるという可能性も無きにしも非ずですけどね」
半蔵「……土御門」ボソッ
土御門「ん?」チラッ
半蔵「そこの海原とやら、『原石』については?」ボソボソ・・・
土御門「……海原も妹達も齧る程度だ。無論、此処がその研究施設だという事は知らない筈」コクッ
半蔵「隠すのか?」ジー・・・
土御門「俺らの口からは言わない。その博士とやらに任せるさ」
土御門と半蔵がこそこそ話をしているが、無視しておこう。首を突っ込まれたく無いに違いない。
それにしても……普通過ぎる。
人は見当たらないのだが、何故か生活感がある様に思える場所だ。
御坂蛇「不思議ですね……とミサカは率直な感想を述べます」キョロ・・・キョロ・・・
黒妻「ああ。普通なのに、人が居ないから不気味だ」
御坂蛇「……スコープに反応はありませんね。やはり、いたって普通の『生活空間』です。ミサカは観察を続けます」ジー・・・
海原「……観察は勝手ですが、M9はしまいなさい。まさかライフル持ってきてないでしょうね」ジトー・・・
御坂蛇「必要であれば現地調達。潜入の基本です、とミサカは師匠の教えを確認してみます」チラッ
出来た師弟で。
黒妻「ん? ……分岐点か」
半蔵「右に行く様ですね」コクッ
数分歩いた後、分かれ道が見えた。
右側はやはり普通の大学病院の様な建物。左側は……賑やかな声が聞こえた。
土御門「どうせ、そっちにも行く事になるんだぜぃ……今はまず博士とやらが最優先だ」
博士、ねぇ……研究者とか先生とかいう類は苦手なんだが。
だがしかし仕事は仕事。オレ達は誘導されるがままにドラムロボの後を追った――― - 158 :>>1にかわりましてカキネがお送りしました :2011/05/16(月) 03:14:01.23 ID:njTDwYoK0
- すいません。一度寝ます。
- 159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/05/16(月) 03:48:00.25 ID:FE59QvSg0
- 乙!
- 160 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 21:31:43.51 ID:njTDwYoK0
- こんばんわ。続き書きます。
- 161 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 21:51:29.08 ID:njTDwYoK0
- ―――とある翌日、PM06:00、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所……
歩く事数分、オレ達は見目普通のビルの前に辿り着く。
案内ロボは自分の仕事は此処までですと言わんばかりに、そそくさと消えて行った。
海原「勝手に入れ、という事でしょうか」チラッ
御坂蛇「妙ですね……何か罠でも……ある訳ではない様です、とミサカは簡易チェックを済ませて報告します」キョロキョロ・・・
土御門「んな物騒な施設じゃないぜよ、多分な……受付に人が居る筈だにゃ。まずは建物に入ってみないと」チラッ
半蔵「こっち見んな。手前が先行しろ」ジトー・・・
面倒臭ぇので、オレが先に突っ込んだ。
海原「相変わらず貴方は不用心ですね」フフッ
黒妻「五月蠅ぇ。グダグダしてんのは嫌いなんだよ……すいませーん」オーイ
返事が無い……と思いきや、奥の方から足音が聞こえてきた。
土御門「……『博士』か?」ジー・・・
半蔵「さぁ。話してみないと」ジー・・・
初対面の人の前でコソコソ話とは、失礼な連中め。
黒妻「こんちは」ペコッ
受付「はい、お待ちしておりました。今から御案内しますね」ペコッ
スーツの女性。何処にでも居そうな理系のお姉さんといった感じか。
土御門「えーっと……お姉さんが『博士』さん、かにゃ?」ニコッ
受付「いえ、多分貴方方が『博士』と呼んでいるのは今から会う私の上司でしょう」
海原「上司……失礼ですが、貴女は此処の研究員さんですか? それとも唯の職員さんで?」
受付「私は上司……『博士』の秘書の様なモノです。職員・研究員については歩きがてら説明します。どうぞ此方へ」ニコッ
言われるままに誘導される事にした。
余談だが、土御門と半蔵が『秘書って響き良いよな』『ああ、何かこう……えっちぃ』と馬鹿な会話していた。聞かなかった事にしてやろう。 - 162 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 22:16:11.41 ID:njTDwYoK0
- 所長室に着くまでの間、この『病院』の簡単な説明を受けた。
まず、大きく分けて二つ。
西側:第19学区寄りに精神病棟(という名の刑務所)。東側:第12学区寄りに大学・研究所。
此処はその中心にある管理ビルの様な役割らしい。
土御門「質問しても良いかにゃ?」
受付「はい。私が答えられる範囲であればどうぞ」
土御門「精神病棟には『普通』の患者も居るのかぃ?」ボソッ
受付「……」チラッ
土御門以外を見渡す受付さん。
土御門「言っとくが、俺らは全員貝継氏の使者だぜぃ。この大学施設成り立ちの『さわり』くらいは知ってる」コクッ
受付「そうでしたね……ええ、勿論『狂人』とは別棟ですが入院されてますよ」コクッ
海原「ほぉ。では普通の精神科医も何人かは居らっしゃるのでしょうか」
受付「ええ。医者以外にも保育士、看護師、介護士、警備員上がりが居ますよ」
御坂蛇「警備員、上がり?」フム・・・
受付「理事会立施設とはいえ、個で警備員は常駐させておく訳にはいきませんからね」クスッ
成程。重要な天下り先という訳か。
半蔵「保育士が居るという事は……例の『子供達』は、其方か?」ボソッ
受付「いえいえ、『子供達』は東側ですよ。西側の子供は……単に社会不適合者なのです」
黒妻「如何いう意味だ」チラッ
土御門「分かり易い例えはあるんだが……聞いても怒らないか?」チラッ
黒妻「……ああ」
土御門「絹旗最愛」サラッ
黒妻「っ……成程、な」フム・・・
通常倫理が通用しない子供を外に出さない為の施設もあるらしい。
半蔵「しかしなぁ、『子供達』も不適合っちゃ不適合じゃねぇのか?」
受付「ふふふ、まさか。あの子達は可愛い可愛い子供達ですよ。ただ望まずして強大な『力』を持ち合わせているだけですので」
半蔵「その『力』が問題なんじゃ」
受付「その『力』をコントロール出来るよう教育するんです……詳しくは『彼』にお聞きください」ニコッ
難しい話をしているうちに、所長室の前まで来ていた様だ。
さて……どんな『博士』さんなのやら。 - 163 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 22:45:18.88 ID:njTDwYoK0
- 受付「失礼します。貝継氏の使者をお連れしました……って、また部屋汚くなってる」ガチャッ・・・
後に続く。
所長室という割には……汚い部屋。いやドラマ等の先入観でそう考えてしまうだけかもしれない。
??『……』ジー・・・
しかし件の所長さんとやらはフィクション相応、大きな革張りの回転椅子に背を預け無言状態。此方に振り返る気も無い様子。
受付「……もし?」フム・・・
??『待っていたぞ!』クルッ!
一転、勢い良く振り返る所長とやら。その正体は……
削板「遅かったな! 待ちくたびれて資料漁りに精が出てしまったぞ!」バーン!
一同『……』
⑦(バカ)が居た。
土御門「……姉ちゃん。まさかこれ、博士?」チラッ
受付「……いえ、ありえません」ハァ・・・
削板「山崎のねーちゃん! ノリ悪いぞ! そこは俺に合わせるべきだ――」
受付「軍覇っ!! 勝手に此処入るなって言ってるでしょ!!」ガアアァッ!!
削板「―――……う、ぃ。さーせん」ショボーン・・・
受付(所長秘書)さんに叱られてしょげる―――超能力者第7位、削板軍覇。
海原「秘書さん……山崎さん、でしたか。何故彼が此処に?」チラッ
受付「此処は『そういう施設』でしょ。彼の主事研究は此処がメインですから」ハァ・・・
御坂蛇「成程。第7学区では無かったのですね……ミサカは第7位をジトジト見遣ります」ジトー・・・
削板「あ。九つ子。その節はどうも」ペコッ
御坂蛇「……ミサカはあの屈辱を忘れてませんよ」ジトー・・・
何やら遺恨があるらしい。
さておき、本当の所長さんとやらは何処に居るのだろう。 - 164 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 23:03:26.31 ID:njTDwYoK0
- 削板「『アイツ』なら中庭出てったぞ」チラッ
受付「え? ……ホントだ」テクテク・・・チラッ
窓の外を見降ろす受付――改め山崎秘書さん。
山崎「お客さん来るって言っといたのに……ホント、軍覇(貴方)と同じで勝手ね」マッタク・・・
土御門「あはは……とりあえず、此処で待ってれば良いかにゃ?」
山崎「少々お待ちを」クルッ・・・Pi!
内線電話らしきモノでコールをする。
山崎「もしもし。貝継氏の……え? ちょ、客人ですよ!? ……あー、はいはい。分かりました」ガチャッ・・・
半蔵「何か問題でも?」ム?
山崎「申し訳ありません。此方に来てくれとの指示です……ホント、あの人は勝手で……」ハァ・・・
削板「アイツは自己中だからなぁ!」アハハ!
山崎「……それに影響された貴方は環を掛けて自分勝手でしょ」マッタク・・・
どうやら大分苦労人らしい。
山崎「中庭へ御案内します。何度もすいません」ペコッ
海原「いえいえ。お察ししますよ」クスッ
削板「ねーちゃん。俺は?」チラッ
山崎「自分の部屋戻ってなさい。あ、此処片付けてからね。あと偶には自分の部屋の片付けもする事!」ギロッ!
削板「えー」ブーブー!
山崎「口答えしないの! 飯抜きにするわよ」┣¨┣¨┣¨┣¨・・・・
削板「んな理不尽なぁ」ゲェ・・・
家族の様な人、なのかもな。
山崎「まったく……どうもすいません。恥ずかしい所を」ペコッ
土御門「……第7位についても、『博士』さんとやらに直接聞けば良いのかにゃ?」クスッ
山崎「まぁそうですね。父親……とは違いますが、彼にとっては研究者的な存在では無い様ですから」フフフ
アットホームな研究所なのか。それとも芳川さんと一方通行の様な関係なのか……少々気になるな。 - 165 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/16(月) 23:25:29.59 ID:njTDwYoK0
- ―――とある翌日、PM06:20、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所中庭……
三度目の案内で漸く『博士』とやらの所まで辿り着く。
ただ意外だったのは……その場にそぐわぬ賑やかな声が響いていた事だった。
御坂蛇「……子供、ですね」ジー・・・
はしゃぎ回る子供達。上は17,8歳くらい。下は3,4歳くらいだろうか。
少女A「あ! あの時のお姉ちゃんだ!」ビシッ!
少年B「え……本当だ! 僕の事見つけてくれたお姉ちゃん!」ワーイ!
海原「スネーク?」チラッ
御坂蛇「いえ……少々、待って下さい……ああ、成程。MNW(ミサカ達)の『記憶』にありました」コクッ
土御門「……『原石』の子供達、か」ジー・・・
半蔵「1,2,3,4…………………………………………30人は居るぞ」ジー・・・
少年C「おねーちゃん。この人達誰?」ホェ?
山崎「お客さんよ。それより貴方達、そろそろ夕飯の時間だから食堂に向かいなさい」ビシッ!
子供達『はーい!』ワヤワヤ・・・
元気良く建物の中に入って行く子供達。
そして、一人残った……異様な男性。
受付「……まったく。せめて一言掛けてから外に出て下さい」モゥ・・・
??「俺の勝手だ。態々貝継の言う事なぞ聞いてやる義理は無い」フンッ
男性は面倒臭そうに俺達を見遣った。
??「しかし使者である君達には罪は無い、か……何だ。大人は一人だけか。それでも若いな。おまけに妹達まで居るとは」フンッ
土御門「若くて悪かったですねぃ。貴方が『博士』で合ってるのか?」ジー・・・
??「その呼び方は止めろ。まだ所長の方がマシだ」テクテク・・・
受付「ちょ、ドチラへ?!」
??「飯の時間だろう。食堂に決まってる」テクテク・・・
受付「仕事で来てらっしゃるのですよ! 挨拶くらいなさってください!」モゥ・・・
??「……ハァ」ポリポリ・・・
男はだるそうに此方を向き、静かに告げた。 - 166 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/17(火) 00:06:42.90 ID:dMSwLPJ40
- 神「神(ジン)だ」サラッ
一同『……は?』ポカーン・・・
山崎「もう少しマシな紹介をしてくださいよ……彼は神所長です。因みに『神』という苗字ですので」
海原「その様な苗字が……『ゴッド』ですか」ヘェ・・・
土御門「キリスト教圏でも『マリア』や『ヨセフ』は居るだろ。そんなもんだ」ボソッ
まぁ『土御門』や『服部』って苗字も古来だがな。
神「詳しい話は飯の後でも良いだろう。君達も一緒に来るといい……山崎。軍覇も呼べ」テクテク・・・
山崎「あーもう……すいません。先に食事を。子供達も一緒ですが宜しいですか?」ペコッ
黒妻「オレは構わねぇが。あの人の指示に従う様言われてんだろ?」チラッ
土御門「はいはい……ったく。雲川後で絞めれば何でも良いぜよ」テクテク・・・
また移動かという顔をする面々。
黒妻「あ、半蔵。郭ちゃん達呼んだら」チラッ
半蔵「え? いや、アイツはキチンとベースに置いておかないと」ウーン・・・
海原「良いのではないでしょうか。流石に飯抜きは可哀想ですよ」ニコッ
半蔵「……携帯食は積んである。問題無い筈なんだが」
黒妻「オマエ、ああいう子供相手に郭ちゃんより上手くやれるか?」フフッ
半蔵「……はいはい。分かりましたよーだ」Pi!
御坂蛇「では14510号も呼びますね」ツー・・・
食堂で飯か……碌な思い出がないな。
山崎「それでは所長について行って下さい。私は軍覇を呼んできますから」ペコッ
土御門「あいよー……ハァ」ポリポリ・・・
半蔵「なぁ土御門。あの所長さん、如何思う?」チラッ
土御門「よく分からん……が、聞いてた話と違うな。狂人という噂だったが……まぁこれからだろう」コクッ
海原「狂人、ですか。本来であれば東側にいてもおかしくない人物なのですかね」フフフ・・・
そうは思えない。ああいう風に子供と仲良くできる人間は根は優しい筈だ。
それに……狂人だろうが悪魔だろうがそれなりの『正義感』が無ければ、第7位の様な人間は育たないだろう。
兎にも角にも、暫く接してみねば。 - 167 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/17(火) 00:33:49.16 ID:dMSwLPJ40
- ―――とある翌日、PM06:30、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所食堂……
子供達『いただきまーす!』ワーイ!
元気の良い子供の声。まるで研究所とは思えない空間。
土御門や半蔵、海原、スネークちゃんは何処か警戒心を持って食事を行っている。
反対にオレと郭ちゃん、春子ちゃんは子供と一緒になって楽しく飯を板出していた。
少女D「ねぇ。お姉ちゃんもこの街に来たの?」モグモグ
御坂春「え? あ、えっと、多分貴方が知るミサカは……15100号でして、私(ミサカ)は別のミサカで……」アタフタ・・・
少女D「へ?」ポカーン・・・
少年E「ねぇねぇ。お姉ちゃんは先生のお客さんなんでしょ? 何しに来たの?」モグモグ
郭「はいはい、まずは口のモノが無くなってから御喋りしましょうねー」ニコッ
少年E「んぐっ……はーい」ニカッ
この二人は自然だな。
少女F「ねぇオジたん」トントン・・・
黒妻「オジ……あ、あのねぇ。オレまだ21歳だぞ」タラー・・・
少女A「えー。21だったらもうオジさんだよー」アハハ!
少年B「はははは。黒い人、オジさーん」ケラケラ!
黒妻「てめ、お兄さんと呼びなさい!」ダァッ!!
土御門・削板「「やーい。オジさーん」」ニヤニヤ・・・
オマエら後で絞める。
半蔵「まぁ後2,3年もすりゃ兄貴は子供出来るでしょうからね……」クスッ
郭「いやいやぁ、存外来年の春辺りには姐さんのお腹がふっくらと」ニシシ!
海原「おやおや。計画的に、ね」クスクス・・・
黒妻「オマエらも……子供の前だっつの!」ダアアァッ!!
少女F「オジたんじゃなくて、パパになるの?」ヘー!
少年数名『ヤっちゃったんだー!』ワーイ!
少女G「ちょっと男子! そういう風に揶(からか)うの良くないわよ! 素敵な事なんだから!」メッ!
黒妻「え、いや、違くて……ハァ……」グデェ・・・
まったく子供は無邪気だ。泣けてくるぜ。 - 168 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/17(火) 00:49:08.39 ID:dMSwLPJ40
- 山崎「こーら! さっさと食べないと食堂のオバちゃん達に失礼でしょ。お話するのは食べ終わってからにしなさい!」メッ!
秘書さんの一声で、そそくさと飯をかっ込む子供達。成程、この人には頭が上がらないと見た。
黒妻「美偉みたいなモンか」クスッ
神「……」フッ・・・
黒妻「ん? ……何か」チラッ
神「いや、何……子供に好かれるんだな」パクッ・・・
黒妻「まぁ子供好きなんでね。神さんも好かれてるみたいですけど」フフッ
神「まぁ、腐った大人連中……更には歪んだこの街の子供達よりは純粋な此処の子供達が好きなんだよ」モグモグ
歪んだ子供達、ね。黄泉川さんも似た様な事を言ってたな。
神「黄泉川か……まさか今、彼女が警備員のエースになろうとは思いもしなかったよ」フフッ
黒妻「お知り合いで?」
神「若い頃にな。まだ彼女が大学生くらいの時だよ……古い話さ」
古いって、十年前くらいじゃないのか?
神「あっという間さ。君も気をつけとくんだな。直ぐ歳を取るぞ」フフッ
山崎「神さん。貴方もさっさと食べてしまって下さい。子供達が真似るでしょう」ジトー・・・
神「はいはい。女性は怖いねぇ」クスッ
同意します。
神「とりあえずこの後所長室へ行こう。茶でも飲みながら話を聞く」
黒妻「分かりました」コクッ
やはり良い人そうだ。土御門達は難しく考え過ぎなんだと思う。
その後……先のメンバーは所長室へ向かい、郭ちゃんと春子ちゃん、ついでに第7位は食堂で子供達に相手をする事となった。 - 169 :>>1にかわりましてカキネがお送りします :2011/05/17(火) 01:19:33.93 ID:dMSwLPJ40
- ―――とある翌日、PM07:00、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所所長室……
神「それじゃ、自己紹介でもしてくれ」カチッ・・・フゥ・・・
所長室に入るや否や煙草に火を点け、適当にそう言い放った神さん。山崎さんは一同にコーヒーを配って回っている。
俺達は言われた通り、各々簡潔な自己紹介をした。
神「ふーん……一般人は黒妻くんだけか……煙草喫うヤツ喫っていいぞ」ジジジ・・・
山崎「神さん……この子達殆ど未成年ですよ。喫う訳……」
黒妻・半蔵・御坂蛇「「「どーも」」」カチッ・・・フゥ・・・
山崎「」
土御門「おい、海ば……海山田。17600号、煙草喫うのか?」タラー・・・
海原「止めろと言っているんですがね」ハァ・・・
喫い始めちまうと止め時が分からなくなるのが、煙草の怖い所です。
神「ははは。まさか『妹達』の一人が煙草を喫おうとはな! これを天井が聞いたら卒倒するだろう」クスクス・・・
御坂蛇「嗜好品に関しては私の自由。御姉様(オリジナル)の体細胞クローンであるミサカ達とはいえ、如何こう言われる筋合いはありません」
海原「スネーク……」ギロッ・・・
神「いやはや、その通りだ。限られた寿命の中で好き勝手やるのが正解だと言える」フフフ・・・
山崎「発破掛けないで下さい。クローンとはいえ未成年なのには変わりありませんよ」ハァ・・・
因みに半蔵も未成年です。
神「まぁ煙草の一本や二本、些細なもんだ……それで、代表者は何方だ」ジー・・・
土御門「……一応、自分だぜぃ」コクッ
神「土御門、と言ったか。京の家柄か? それとも関東の裏家か?」ジー・・・
土御門「俺の個人情報については内緒だにゃ。それより人に自己紹介させといて自分は無しとは、最近の大人は荒んでるぜぃ」クスクス・・・
神「ガキがよく言う……山崎。名刺でも渡してやれ」クイッ・・・
ヤレヤレと呆れる秘書さんは、はたまた言われた通り所長の名刺をオレらに配った。
半蔵「肩書き凄ぇな……」タラー・・・
海原「理事会立大学特任教授……特別精神病患者治療会副理事……『原石を知る会』特任担当委員……」マジマジ・・・
半蔵「警備員特別指導顧問……対学園都市外害意排他研究員……何だコレ?」ポカーン・・・
神「気にするな。肩書き等上が適当に付けただけだ」フゥ・・・
土御門「上ってのは……貝継氏の事か?」
神「その他スポンサー、更には理事長殿が直接御付けなすった訳の分からんモノまでもだよ」ケシケシ・・・
本当に面倒だという表情で、椅子に腰掛ける所長。では……とマトモに話をする姿勢に変わった。 - 170 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/17(火) 01:36:34.61 ID:dMSwLPJ40
- 神「まず何を言われてきたんだ?」ジー・・・
土御門「俺らはとりあえず此処に来る様指示された。その後についてはアンタの指示に従えと言われている」クイッ・・・
神「それは貝継からの指示か? それとも芹亜からの指示か?」ジー・・・
土御門・半蔵「「っ!!?」」ギョッ!!
神「別に驚かなくて良い。能無しの貝継が様も無いのに俺の下へ人を寄越す訳が無いからな」
それよりも雲川を知ってる点で驚いているのだと思う。
神「……土御門くん。芹亜に電話を掛けると良い」クスッ
土御門「分かった……あと、呼び捨てで結構だ」タラー・・・
神「分かった。其方も呼び捨てで良いかな?」チラッ
全員頷く。
さておき、土御門は雲川に電話を入れた。
土御門「……おい」Pi!
雲川『あら。存外遅かったけど。彼の所に着いた?』
土御門「所長さんが電話しろとよ。手前の事知ってんのか?」チッ・・・
雲川『仕方ないじゃない。貝継がその人に脅されてばらしちゃったんだけど』
土御門「脅し……と、とりあえず、俺らはコイツの指示に従えば良いのか? 不気味なんだが」タラー・・・
雲川『何ガキみたいな事言ってる? とりあえず彼と替わって欲しいんだけど』
土御門はブツブツ言いながら電話を所長に手渡した。
神「俺だ」
雲川『こんばんは。お元気そうね』フフッ
神「ああ、残念ながらまだ死なせて貰えないらしい」クスッ
雲川『貴方は死ねないわよ、簡単にはね。さて、今から説明するけど……―――』
それから1,2分くらい話が続いた後……電話を切った。
神「話は聞かせて貰った。さて、と……」チラッ・・・
俺ら全員の顔を見渡してから、不気味なニヒル笑いを浮かべ……呟いた。 - 171 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/17(火) 02:05:40.19 ID:dMSwLPJ40
- 神「用件は三つだそうだ」
半蔵「3つ?」
神「……山崎。病棟の『狂人』の資料と『原石』研究の資料を刷って来てくれ」チラッ
山崎「了解です」コクッ
それは態と秘書を退出させたように見えた。
神「まずは今告げた通り『原石』についてだ……何故芹亜が君達に教えたがってるのかは後ほどな」コクッ
海原「やはり『原石』ですか……」
神「皆、『原石』のさわり程度は知っているのだな?」
一同頷く……俺以外。
土御門「センセ……前に少し教えたにゃ」ハァ・・・
黒妻「長ったらしくてうろ覚えだっつの……」ポリポリ・・・
確かこの街の能力者が強化人間だとしたら、『原石』ってのがニュータイプで当ってたっけ?
半蔵「兄貴……大体合ってるけど、物事フィクションに例えんの止めましょうよ。メタいっすから」ハァ・・・
土御門「因みに強化人間っていうより、最早サイキッカーレベルだぜぃ」アハハ・・・
神「何を言ってるか分からんが詳しくは資料が来てからだ。兎角、順を追わせて貰う」
御坂蛇「では次は『狂人』とやらですね、とミサカは推測します」
神「ああ。この街の危険人物達……精神病患者という名の犯罪者共だ」コクッ
犯罪者、か。
神「先に言っておくが、此処の犯罪者共の殆どは軍覇が捕えてきている」
海原「ほぉ……伊達に都市の自治活動してませんね」クスッ
神「まぁな……だがアイツが捕まえてくる大半は能力者だ」
半蔵「は? そりゃまぁそうだろ?」
黒妻「……無能力者もあそこに収容されてんのか?」
神「イエスだ。寧ろ無能力者の方が多い……それについても後ほどだ」コクッ
意外や意外。
黒妻(那由他が言ってた『真の悪党は頭を弄られて無い己ある大人』というヤツかな)
尤も、テレスティーナの受け売りらしいが……不思議なモノだ。 - 173 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/17(火) 02:26:05.64 ID:dMSwLPJ40
- 土御門「んで、三つ目は?」
神「その前に……君達は全員、互いの秘密を共有してるのだな?」ジー・・・
如何いう意味だ。
神「まぁ妹達は問題無いとして……男4人」チラッ
半蔵「意味が分からないな。理解し兼ねるぞ」ジー・・・
神「そうかい、伊賀の統領息子。父上は元気かい?」サラッ
半蔵「っ……」タラー・・・
まぁその程度は皆知っているのだが……
神「それから……土御門。叔父上は最近調子が悪い様だな。見舞いに行ってやれよ」ニヤッ・・・
土御門「っ……余計な御世話だ。実家の話は止めて貰おう」ギリッ・・・
神「では暗部の話でもすれば良いのかね? それとももう片方の『密偵』についてか? スパイ・ゾルゲ」フフフ・・・
土御門「ハァ……分かった。口答えしないからベラベラ言わないでくれ」ダラダラ・・・
海原「……とりあえず今の話程度なら共有していますよ。ただそれ以上は、ね」ジー・・・
神「君は……分からないな。情報にない……という事は例の『グループ』の変装屋か。もしくはそういう能力者を寄越したか」
海原「……暗部にまで精通してるとは驚きですね」ハハハ・・・
神「暗部と『原石』、ドチラの気密度が高いと思ってる。少なくとも芹亜が知り得る限りは俺も知っているぞ」
聞かなかった事にしておこう。
神「今から話す事はそれなりの事だよ……黒妻綿流」チラッ
黒妻「……成程な」コクッ
『仮面』について、触れるらしい。
神「君が最近話題になっている『亡霊』とはな……それについても資料を貰ってから話そう」コクッ
半蔵「資料って、『活動』についての資料があるのか?!」ギョッ!?
神「君達の『活動』を支援する様、芹亜に頼まれた。そういう事だよ……分かったか? ブレインくん二人」ニヤッ・・・
土御門・半蔵「「んの女郎勝手に……後で干す!」」タラー・・・
神「ははは。兎角、犯罪者についてと『原石』については今後君らの『活動』に関わって来る。頭に入れておいてくれ」カチッ・・・フゥ・・・
全てお見通し……やれやれだ。 - 174 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/17(火) 02:44:57.16 ID:dMSwLPJ40
- ―――一方その頃、とあるアパート・・・・・
絹旗「もぐもぐ……兄貴さんはお仕事ですか?」ゴックン
固法「らしいわよ。何でも精神病院で如何こうとか」
打ち止め「ま、まさか!? いくらクロヅマが暴走特急野郎とはいえ頭に爆弾を抱えているとは……ミサカはミサカはあ痛っ!」ポコッ!
固法「そういう事言わないの」メッ!
那由他「そういえば、最近黒妻さんと顔合わせる機会少ないかも」モグモグ
香焼「そういえば自分もっすね」モグモグ
絹旗「私もバイトでアイテム(ウチ)来る時以外は超会わないです」
固法「うーん……」ポリポリ・・・
打ち止め「もしかしてミィもなの? ってミサカはミサカは奥さん放っぽり出して仕事ばっかしてる旦那さんに憤怒してみたり!」プンスカ!
固法「え、えっと、そういう訳じゃないんだけど」アハハ・・・
那由他「じゃあ如何なの?」ジー・・・
固法「……寝てる事、多いかな。仕事で疲れてるんでしょうけど」ハァ・・・
那由他「まぁ真面目に就職考えてるっぽいからね」コクッ
絹旗「でもぉ……実際は姉貴さん、大分『御無沙汰』だから超寂しいんですよねぇ」ニヤニヤ・・・
香焼「こ、こら! 最愛!!」///
打ち止め「ほぇ? ごぶさた?」ポカーン・・・
那由他「……」///
固法「……最愛ちゃん。悪い意味で麦野さんみたいになってるわよ」ハァ・・・
絹旗「うっ……それは超ショックですね。てか良い意味でも麦野チックにはなりたくないです」タラー・・・
打ち止め「えー? ムギノン綺麗だよー! ってミサカはミサカはファッションセンス『だけ』はピカイチのムギノンを褒め称えてみる!」
香焼「それ褒めてるの?」アハハ・・・
那由他「とりあえず、近い内にでも黒妻さん込みで御出掛けでもしたいね」ニコッ
固法「そう、ね……(出来れば、良いんだけど)」クスッ・・・
冷蔵庫『……クーデター間近なりー』ボソッ・・・
- 183 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/19(木) 22:55:28.47 ID:TXmrt8p10
- ―――とある翌日、PM07:30、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所所長室……
秘書さんが資料持ってくるまでの間、酷く沈黙が長かった気がする。
それは資料が来てからも続いたが……あの男の所為だろう。
神「それでは始めに何から話そうか。希望はあるかい?」チラッ
土御門・半蔵「「……」」ジー・・・
特にオレは口を出さない。作戦方針についてはこの二人と雲川に任せてある。
海原とスネークちゃんも土御門の私兵扱いである為、口を開く気は無いようだ。
半蔵「その前に、確認を」
神「何だ?」
半蔵「その3つの共通性は?」
神「追って話そうと思っていたが、先に必要か?」
土御門「分かった……じゃあ『原石』からだ」
神「宜しい……では資料に目を通せ」
一同、細かい字がビッシリの分厚い冊子に目を向けた。オレも言われるがままに目を通す。
黒妻「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
海原「ん? 如何しました?」
黒妻「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
御坂蛇「……フリーズ?」ジー・・・
読むのを諦めました。
半蔵「兄貴にこんなもん渡すのが間違いだな……漫画とか映像じゃねぇと頭に入んないぞ、その人」ハァ・・・
土御門「ハァ……中卒乙だぜぃ」
黒妻「五月蠅っえぇ!! んなもん学者が知っときゃ問題無ぇんだよ!!」ガアアァッ!!
山崎「アレかしら。黒妻さんって……軍覇と同じタイプ?」
半蔵「……残念ながら、ハイ」アハハ・・・
好きかって言いやがって……グレるぞ? - 184 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/19(木) 23:16:03.75 ID:TXmrt8p10
- 神「ハハハハハ!! オマエの様な人間は嫌いじゃ無いぞ。まぁ確かに学会説明用の資料なんぞ前線には必要無い」ククク・・・
黒妻「だろ! ほら見ろ!」ケッ!
半蔵「甘やかすとすぐ付け上がる……」
黒妻「あ?」ギロッ・・・
土御門「睨むな馬鹿野郎……えっとだな、まず簡単に説明すると……」ウーン・・・
オレにでも分かる様な説明を考え中らしい。しかし口を開いたのは……
御坂蛇「先程のNTと強化人間・サイキッカー論であってます。補足すると言葉通りダイヤモンドで考えて下さい、とミサカは説明します」
土御門「……うぃ」
黒妻「ダイヤモンド?」
御坂蛇「はい。まず超能力……『レベル5』ではなく、この街の能力開発で開花される『能力』について想像して下さい」ト、ミサカハ・・・
例えば、美偉の透視能力(クレアボイアンス)。
御坂蛇「はい。ではその『透視』能力者……強度(レベル)を問わず、この街のカリキュラムを受け開花した能力者ですよね」ト、ミサカハ・・・
黒妻「ああ」
御坂蛇「それは所謂、人工ダイヤモンド。その人に問わず、能力者=それ、となります」ト、ミサカハ・・・
黒妻「だから強化人間だろ?」
半蔵「だからアニメに例えんなっつの」ハァ・・・
御坂蛇「続けます。では……鼻から、もしくはカリキュラムを受けていないのに『能力』が具現する者が居るとしたら?」ト、ミサカハ・・・
天然物の……ダイヤ。
黒妻「それが『原石』か……本当の意味で『超能力者』って訳だな」
御坂蛇「そういう訳です。とミサカは肯定します」コクッ・・・
成程な。だから、宇宙生まれという訳じゃないがNTだと。
神「今からそれをもう少し詳しく説明していく……どうやら紙は見ない方が良いらしいな」パサッ・・・
半蔵「すいません……主要人物の一人がアレなんであ痛っ!!」ゴツンッ!!
黒妻「態々口に出すな……自覚してるっつの」グヌヌ・・・ - 185 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/19(木) 23:40:48.48 ID:TXmrt8p10
- 神「まずは数について……今さっき見て貰ったが、あの子供達(アイツら)は『原石』だ」
黒妻「へ? そうなのか?」
土御門「センセ。見た目は普通の子供だが、内側まで普通とは限らないにゃ」
海原「能力者がむやみやたらに能力を見せないのと同じですよ」
無能力者(レベル0)のオレには分からないが、美偉がそんな事言ってた気がする。
神「先の資料にリストアップしているが、この研究所では33名の『原石』を保管している」
黒妻「……言い方があんだろ。人間だぜ?」
神「それは君の論だろう。俺は並の人間なんかよりも『子供達』を丁重扱いをしてるから『モノ』なのだ」
海原「ははは。人間嫌いですか」クスッ
神「さぁな……続けるぞ。この地球上に『原石』は50はあると予想されていた」
それでは、この研究所で70%近くを保管してる事になる。
神「あくまで予想だ。あてにはならん……とりあえずは当初の予想の70%を押さえる事が出来てはいる」
土御門「妹達の御蔭だろうに」ジトー・・・
御坂蛇「……ノーコメント」
神「手段など如何でも良い。結果が此処にあるのだ」
裏話の方がよっぽど如何でもいいのだが……聞いてやるしかあるまい。
半蔵「それで?」
神「貝継の馬鹿……というよりも芹亜の突飛押しの所為だな。ヤツらは回収に成功した後の事を甘く考え過ぎていた」
土御門「やーい。雲川のうっかりボケナス女郎ー」ニャハハハ!
半蔵「五月蠅ぇ! ……甘くというのは? 『原石』の収容場所について考えて無かったとかか?」
神「いや、それは設けていた。だがな。ヤツらが甘かったのは『原石』の扱い方についてだ」
土御門「……扱い方?」ピタッ・・・
如何いう事だろう。
冷蔵庫『※この話はクーデター前ですが、10月第二週で起きた作戦を先取りしています。ご了承ください』
- 186 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/20(金) 00:03:07.07 ID:iznZAeyF0
- 神「黒妻……綿流にも分かり易い様に例を挙げる。『X-MEN』というアメリカンコミックスは知ってるか?」
黒妻「十八番です」キリッ!!
半蔵「あー、良かったっすねー(棒)」アハハ・・・
神「あの作品には突然変異種(ミュータント)と呼ばれる人間が存在する。先天・後天問わず異能の者だな」
マニアのオレから言わせるとそこに分類があるが……止めておこう。
神「先天性突然変異種を『原石』とする。妹達が彼らを保護したとしよう……君……コードネームはスネークと言ったか」チラッ
御坂蛇「肯定です」コクッ
神「君の回収担当は誰だった?」
御坂蛇「……第、7位です」ギリリ・・・
神「ふむ……アレは参考にならんな。アレは早い内から私が担当していたモノだ」
またモノ扱い、か。
神「では……資料の165pを見てくれ。分かり易く『発火能力者』がいる」
海原「……ベトナム出身の子ですね」
神「ああ。その子の経過を見て貰えば分かるが……始めは能力を暴走させていた。前の施設では職員を消し炭にしてしまってな」
一同『っ!?』ギョッ・・・
制御の仕方が分からなかったのか……
神「その通りだ。次に178pを……『読心能力者』。コイツは日本出身だが鬼子……妖怪扱いされていた」
土御門「……サトリ、か」
神「御名答。流石陰陽師……この様に能力を制御し切れてない『原石』は他10は居た」
海原「逆にコントロールしていた子供も居たのですね」
神「この街風に言えば『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が確立していた『原石』だな」
半蔵「ふーん……つまり、雲川は『原石』が皆、自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を確立してるものだと踏んでたんだな?」
土御門「だが、外れたと。ざまぁねぇぜぃ」ヒヒヒ・・・
雲川も完璧って訳じゃないんだな。 - 188 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/20(金) 00:33:06.80 ID:iznZAeyF0
- 黒妻「という事は……差し詰め此処の研究所はエグゼビア機関っつー事か」
神「そんな殊勝なモノでは無いがな。思想までは弄らん……教えているのは能力の制御くらいだ」コクッ・・・
黒妻「……神さん、サイキッカー?」ポカーン・・・
神「馬鹿言え。俺は人間だ。普通のな」ハハッ!
山崎「徒手で人間のハラワタ引き釣り出せる人が普通の人間な訳ありませんよね」ハァ・・・
一同『っ!!?』ダラダラ・・・
神「昔の話だろう……オマエら、気にするなよ」ハハハ
化け物。
神「とりあえず、俺は俺のやり方で『原石』達を教育した。幸か不幸か、皆、ある程度制御できるようになった」
土御門「な……如何やって……」タラー・・・
神「時間があったら教えてやる」ククク・・・
半蔵「……で? 何故この件が俺らに必要な事柄なんだ?」ジー・・・
神「ああ、本題だな。要するに……此処に居る『原石』達が問題を起こしたら、優先的に止めてくれ、だそうだ」
土御門・半蔵「「……は?!」」
神「加え、この先発見される未知の『原石』の回収も手伝えとの事。そう伝えてくれと言われている」
海原「所長さん、疑問が。『問題を起こしたら――』とは……意味が分かりません。貴方がキチンと教育してるのでは?」
神「俺が教えたのは制御法だけだ。悪用するなとは教えてない」サラッ・・・
山崎「ハァ……一応、普通教育を受けさせてはいますよ……」タラー・・・
しかし能力(チカラ)に酔い、溺れ……悪事を働くかもしれないという訳か。
土御門「ちょちょちょちょ! 待った! それはアンタらの勝手だろう? 俺や服部、センセは関係無いぜ!」アタフタ・・・
神「……俺の知った事でもない。だが『原石』を警備員や風紀委員に保護させるのは拙いだろうな」
海原「公にしたくないから、ですね?」
神「ああ。まぁ万引き程度の悪戯レベルならまだしも……人を殺す様な事になったら、流石にな」ククク・・・
半蔵「笑い事じゃねぇだろうが」
神「悪の美酒の味を知った馬鹿はそのまま常習犯や暗部に成り下がるやもしれん」
作品さえ出来上がれば後は如何でも良い、と……最悪な芸術家だな。
山崎「……あの子達には一般的に見て正しい常識道徳倫理は教えています。しかし、所長の言う事が有り得ないとも言い切れません」ムゥ・・・
土御門「だから非常時は止めろと? ハッ!! 笑わせる! お門違いも良いとこだぜ!」フンッ!
神「そうか……ではこの話は終わりだ」サラッ・・・
一同『え』キョトン・・・
随分、アッサリしている。何故だ。 - 190 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/20(金) 00:50:38.19 ID:iznZAeyF0
- 御坂蛇「……質問、宜しいですか? とミサカは静かに挙手します」スッ・・・
暫時、沈黙が続いたがスネークちゃんが口を開いた。
神「何だ」
御坂蛇「もし彼らが非常時に保護をしなかった場合、また我々妹達が保護を? とミサカは我が身に関わる質問をしてみます」
神「それも有り得るだろう……だがな。彼らのレベルは上がったぞ? 以前の様に易々と保護出来るか?」ジー・・・
御坂蛇「……皆、第7位程に強くなってると?」ギリリ・・・
神「アレは別格だが、制御法は覚えた。君達が保護した時は別の研究機関に弄り回され衰弱した『原石』達だったろう」
御坂蛇「……」
神「因みに『原石』についての案件は全て貝継の担当だ。暗部を使う事はそうそう無いだろう」
では、如何する。
神「俺や軍覇が直々に出るだろうな」
土御門「な、にを……」
山崎「この人が出たら、棺が必要になります……軍覇も手加減を知らないので、死にはしなくとも……」ハァ・・・
半蔵「……雲川の女郎ぉ」グヌヌ・・・
話を聞いた上で、オマエらに人の血が通っているのなら嫌が応にも首を縦に振れ……か。
土御門「……知った事か。ノーに決まってる!」フンッ!
神「其方二人は?」チラッ
半蔵「……兄貴に任せます」ハァ・・・
黒妻「……」ジー・・・
先程を思い出す。
食堂で楽しそうに夕飯を食べていた。中にはで騒がしく目の前の男に遊んで貰っていた。
……決まってる。
神「……そうか」ニヤッ・・・
土御門「チッ……この案件に俺は無関与だ。服部、任せるぜ」フンッ・・・
半蔵「やれやれだ……」ポリポリ・・・
神「まぁ本来の目的は無能力者(力無き者)を守る事なのだろう? 『原石』達の暴走を食い止める事はそれにも繋がる」フフッ
海原「無能力者だけではなくこの街の人間全てが危険でしょうけどね」クスッ・・・
神「そういう事だ。頼むよ、【駒場利徳】」ククク・・・
ああ、良い様に使われちまったよ。畜生め。 - 192 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/20(金) 01:07:34.95 ID:iznZAeyF0
- 山崎「……補足させて下さい」
半蔵「ん?」チラッ
山崎「ドチラかというと此方の方が大事なのですが、仮にもあの子達は『原石』です」
海原「それは知っていますよ」
山崎「そして、貴重……物扱いしたくはありませんが、先の例えの様に天然物のダイヤモンドなのです」
土御門「……誰もが欲しがる、な」フンッ
神「今は此処に置いているが、元はといえば各国各所の超特秘研究機関から奪取してきたモノだ。後は分かるな?」ニヤリ・・・
また奪取しにくる輩が現れるかもしれない、という訳だ。
半蔵「それも、助けろって事かい……」ポリポリ・・・
山崎「厚手がましく申し訳ないとは思います……ですが我々には味方が少ないのです」
この所長じゃそうだろうな。
土御門「その所長と⑦が居れば問題無ぇぜよ」ジトー・・・
山崎「人海戦、数で攻められた場合は物理的に無理があります……そうなった場合、多少でも仲間が必要です」
海原「ふふふ、成程。さながら『ホープ防衛』ですね……如何します、黒妻さん?」チラッ
まぁこういうのは、取っ捕まえるより守る方が好きだ。それが駒場の本来の理念でもあるだろう。
神「決まりだな」ニヤッ・・・
山崎「ありがとう……」ニコッ・・・
土御門「けっ……メリットも無ぇのににゃぁ……」ハァ・・・
神「そう言うな……君が『実家』と揉めた時、助けてやる。陰陽師だの鬼退治は昔したことがあるからな」ククク・・・
土御門「期待しないでおくぜぃ」マッタク・・・
結局、雲川が描いた通りにシナリオが進んだ様だ。
神「さて、では次の話題だな……一応、別の資料を見てくれ。『狂人』のヤツだ」カチッ・・・フゥ・・・
半蔵「兄貴は見ても分かんないでしょうから、見なくていいよ」サラッ・・・
海原「ぷっ」クスクス・・・
半蔵、後で説教だな……ついでに海原も。 - 193 :>>191・・・3Pシュートの宗一郎さま! [saga]:2011/05/20(金) 02:01:23.26 ID:iznZAeyF0
- ―――とある翌日、PM08:00、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所所長室……
一度一服タイムを取り、引き続き話に戻った。
神「まず『狂人』の定義だが……」
・此処の精神病棟に監収されている精神病患者兼犯罪者。
・大多数が第7位が捕獲してきた。
・能力開発をされていない『成年』が殆ど。
・未成年の場合は能力者が多い。
海原「確か能力開発をされていない人間の方が多いのでしたね?」
神「ああ。頭を弄られて無い成人が殆どだ。元研究者、元政治家、元運動家……死刑に出来ない人間共が多い」
土御門「利用価値があるからか? それとも他に何かが?」
神「先も言った通り、死刑反対派が増えてきてな……人権擁護だが何だか知らんが、下らない」フンッ・・・
死刑に関する論争はキリが無いので止めておこう。
黒妻「まぁだがしかし……今回のは分かり易い。要はオレ……【駒場利徳】が捕まえた犯罪者を此処に連れてくれば良いんだろ?」チラッ
神「御名答。話によると『不殺』の理念らしいからな……まったく、少しは暗部の粛清班を見習え」ハァ・・・
土御門「同感だが……それに関してはセンセの方針に従うと決めている。汚れは一方通行にでもさせるさ」チラッ
黒妻「……アイツにもなるべく殺しはしない様、言ってある。後で此処に連れてくるよう伝えろ」チラッ
土御門「アレが素直に聞くタマだと思うかにゃ?」ハァ・・・
海原「ですね……死体回収が大変でしょう」クスクス・・・
物騒な連中め。
神「第1位か……まぁヤツに守る者が無ければ『狂人』共を捕まえるのは容易いだろうな」フッ・・・
御坂蛇「……」ピクッ・・・
神「ヤツらは容易に人質を取るぞ? 二人以上いる場合は小動物を捻る様に、殺す」サラッ・・・
黒妻「っ」ピタッ・・・
神「……オマエらは面が割れてないのだろ? 軍覇も身内なんていない。親しいモノは殆どが此処の中だからな」
海原「それこそ危険なのでは?」
山崎「所長が居る限り大丈夫でしょう。この人への反抗は『死』を意味しますから」
土御門「……人質が取られても?」
山崎「この人は……そういう人ですよ」ニコッ・・・
神「そういう事だ」ジー・・・
納得いかない。だが、今は何も言わないでおく。 - 194 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/20(金) 02:24:22.38 ID:iznZAeyF0
- 半蔵「ふむ……とりあえず、この件の本題はそれだけか?」
神「芹亜が詳しくは土御門に聞け、と言っていたぞ?」チラッ
土御門「……は?」ポカーン・・・
神「何でも『幻想殺し』について、だそうだ」コクッ・・・
幻想殺し……上条の事か。
土御門は暫し俯き、何かを思い出したように口を開いた。
土御門「……火野、か」ボソッ・・・
一同『え』
土御門「畜生、あの女ぁ……何処まで筒抜けなんだっつの」グヌヌ・・・
神「思い当たる節があるようだな」フフフ・・・
ヤレヤレと溜息をつき、道化師は説明を始めた。
土御門「……俺がこの『活動』を行う上での条件でカミやん……上条当麻について上げたのを覚えているか?」チラッ
黒妻「ああ。一応、守れだか何だか」
土御門「今まで黙ってたが上条当麻はかなりの重要人物だ。ヤツの不幸伝説を本人から聞いてるだろ?」
黒妻「まぁ色々な」クスクス・・・
土御門「アイツは各所から狙われる。だが本人はその重大性にまったくと言って良い程、無頓着だ」
御坂蛇「彼は自分をタダの無能力者に過ぎないと思ってますからね……ミサカ、というかミサカ達は嘆きます」ハァ・・・
海原「ええ、彼は自分の危うさに気付いた方が良い」
……タダのウニ頭じゃなかったんだな。そういえば香焼も上条を護衛する仕事があるとか偶に言ってた気がする。
土御門「無論、能力者共に関しては問題無い。何だかんだでアイツの取り巻き……御坂美琴や白井黒子、妹達が出張るからな」
海原「暗部や『もっと大きな組織』が関わろうモノなら我々や土御門の別枠仲間が護衛します」
黒妻「……いやいや、それだけ居れば充分だろ。オレ必要無ぇじゃん」アハハ
土御門「話を最後まで聞け……アイツの右手は謂わば『原石』より貴重なモノ。欲しがる連中は多々存在する」
海原「ですが……数々の危険があろうとも彼はその『右手』で解決してきました。無論、一人であっても」
アイツ意外と凄ぇなぁ。
海原「知っての通り御坂さんの雷だろうが、一方通行の能力だろうが打ち消します。第4位の粒子砲でも無効化するでしょう」
土御門「魔法だろうが超能力だろうが、消せるんだよ……オーバーだと思わないで聞け」
魔法って……案外メルヘンだな、土御門も。 - 195 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/20(金) 02:45:00.04 ID:iznZAeyF0
- 土御門「だがな……アイツはハッキリ言って、それだけなんだ」
黒妻「それだけって、十分凄ぇんじゃねぇのか?」
土御門「いや、考えてもみろ。異能の条件をキャンセルするだけだ」
今一ピンと来ないな。
半蔵「兄貴。要は異能じゃなきゃ、って話です」
黒妻「普通って事か?」ムゥ・・・
海原「刃物、銃、武術、武具術……何でも良い。それは異能の力ではありません」
半蔵「その類の暗殺者、もしくは刺客に狙われたら……」
黒妻「……そりゃまぁ、な」ポリポリ・・・
土御門「上条当麻はサシの喧嘩ならそれなりに強い。経験上慣れてるからな……だが所詮は素人だ。多分、センセや俺には勝てん」
つまり土御門レベルの武術家に狙われた場合、一溜まりも無いという事か。
土御門「……そして昔、一度だけそのピンチがあった」
海原「それは、初耳ですね」タラー・・・
土御門「火野神作という男を知っているか? 都市外の脱獄した死刑囚だ」
確か30人くらい殺した犯罪者だったか。
土御門「純粋な殺人鬼にゃ敵わない。ましてプロの殺し屋なら尚更だ……所長」チラッ
神「ん?」
土御門「『狂人』達の中で腕利きのシリアルキラーはどれくらい居る?」
神「ざっと6~70くらいか。無能力者だけなら50は居るだろう」
半蔵「つまり……間違って上条当麻が『狂人』に狙われた場合に、近くに土御門やその他の護衛が居なかったらって事だな」
土御門「ああ。センセが守れ。身を盾にしてでも守り切れ」
たった一人の為に、とは考えない。
黒妻「当たり前だ。アイツも……無能力者なんだろ? 例え違くとも、守るけどな」ハハハ
そんな貴重だとか何とか面倒な理由じゃなく、普通の隣人、ダチ公として。 - 196 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/20(金) 03:14:46.47 ID:iznZAeyF0
- 神「……ふふっ。ダチ公か」クスッ・・・
黒妻「悪ぃかよ」チラッ
神「いや、悪くない。戦い守るのに理由は要らないという輩は好意を持てるぞ」ククク・・・
柄でも無い。怖い人だ。
神「だが、兎に角気を付けろ。ヤツらに常識は通用しない」
半蔵「元よりこの街に常識なんてモンは無いでしょ」ハハハ・・・
神「それでも、だ。六枚羽をラジコン感覚で複数操作したり、猟奇ゲームをするが如く狩りを楽しむ輩ばかりだ」
土御門「それなら能力者にも居るけどにゃぁ」フンッ・・・
神「中にはカニバ、人間剥製、悪魔信仰、電子ジャック、新種麻薬、金で自慰、等……イっちまってる趣味のヤツらだ」
御坂蛇「食人や人間模型とは……○チガイ、ですか……ミサカには信じられません」
神「そして目的の為には手段を問わない。平気で仲間を殺す。雑草を抜く感覚で人を殺す。犯す。嬲る」
……カスか。
神「恋人の前で女を犯して殺す。友人の前で自殺を強要し、その友人を殺す……そこまでの過程はあっという間だ」
海原「『狂人』のシナリオの前では全てが無駄という訳ですか……」
神「自分の命も他人の命も軽く考えているのが殆どだ。自殺の延長ついでに殺し強奪強姦でもしておこう……そんな考え」
御坂蛇「しかし……この街でそんなに暴れれば、暗部が粛清に」
神「だから言ったろ? 殺されても良い。一回の犯罪(目的)で命を使う。それが『狂人』だ」
山崎「……此処に収容されているのは軍覇が偶々捕まえてきた者達です。普通であればその場で射殺されていますよ」
その暗部は、きっと『狂人』になりかけてる大人に違いあるまい。
海原「え……何故です?」
黒妻「んな狂った人間は暗部みてぇな汚れ仕事で精神イカレちまった連中だろう。もしくは狂った思想の持ち主だ」
神「良いとこに気付いたな。確かに暗部仕事で精神を病んで狂気に堕ちた輩も多い。元研究者だの元政治家だのは……」
土御門「何かトンデモ無ぇモンを使用して、か? 例えば……生物兵器や破壊兵器等の戦略兵器ってヤツ」
神「ああ。自分の実験結果や高説を通す為にな……まったく、死刑肯定派の俺に此処の所長を任せる理事共の神経が知れん」フンッ!
御尤もだ。オレも此処の勤務は耐えられないだろう。 - 197 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/20(金) 03:48:50.62 ID:iznZAeyF0
- 神「とりあえず以上だ。何か質問は?」チラッ
皆無し。後は紙面を見て確認する様だ。
神「宜しい。では3つ目だが……オマエらの計画、というよりも綿流の身体に関してだな」
黒妻「は? オレ?」ポカーン・・・
神「オマエ、身体襤褸襤褸なのだろう。芹亜の資料と教授……冥土帰しのカルテをパクったが、酷い戦い方をするもんだ」
黒妻「……だがよ」
神「だがよ、も糞も無い。駆動鎧の発条包帯を使うなんぞ自殺者の考えだぞ? おまけに武器はチャフとアンカーガンだけとは……」
土御門「だから銃くらい持てって言ってんのににゃー」ハァ・・・
喧しい。同じ人間相手に銃なんぞ邪道だ。
神「暫く発条包帯の使用は控えろ。アレは此処ぞという時にだけ使え」
半蔵「しかし、だ……犯罪者の中にはバケモンレベルだって居る」
神「だからだ。此処ぞという時以外は使うんじゃない。よく分からないが防弾繊維(ケブラー)加工の布を持ってるんだろ?」
土御門「それは……『仮面』以外に流用できないんだぜよ。資金が無いぜ」
神「使えんな。仕方ない……適当な防弾チョッキを作ってやる」
そりゃ有難いが、発条包帯の機動性に関しては?
神「それも考えておこう……兎角、当分は自重しろよ」
黒妻「……あいよ」ハァ・・・
このオッカナイ男を信じるしか無い様だ。
ああ、畜生・・・・・
神「計画に関してはもっとじっくり資料を読んでから、口出しさせて貰う……そんなところだな」コクッ・・・
やっと終わった……これで帰れるのか……
神「……何言ってる? 今から見学だろ?」
一同『』チーン・・・
面倒事が、増えてる。
とりあえずオレらはこの後、所長と秘書さんに案内され、敷地内の施設と『原石』『狂人』達を見せて貰った……――― - 205 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 23:05:52.75 ID:zUS5QOsw0
- ―――とある翌日、PM09:30、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所所長室……
山崎「―――皆さん、お疲れさまでした」コトッ・・・
東西棟、歩きっ放しの一時間半。ようやく見学が終了した。
一同クタクタ状態である。
オレは元より疲れた体に鞭打ってこの使いの仕事をしている訳だが、他の連中もすっかり疲弊しきっている。
土御門「疲れたっちゃ疲れたんだが、何かなぁ」ハァ・・・
海原「精神的にドッと、ね」ハハハ・・・
東側(『原石』)の研究所では、子供達にオモチャにされ……
西側(『狂人』)の精神病棟では、オツムのネジが飛んじまってる野郎共の奇行の説明を受け……
半蔵「まぁB級アトラクションと児童施設が合併してる大学病院なんて滅多に来れたもんじゃないけどな」ハハハ・・・
黒妻「B級ねぇ」ボー・・・
確かに最愛ちゃんが好きそうな刑務所だったな。
神「御苦労。まぁ見学して貰った通りだよ……普段は双方とも大人しいものだろ」
御坂蛇「大人しい……アレでですか? とミサカは率直な疑念を口にします」
神「ああ。子供達は能力を制御しているし、罪人共も安定剤をブチ込んでいるからまだ静かな方だ」
土御門「確かに『原石』達の方は一般学生と差し支え無かったにゃ」コクッ
海原「しかし犯罪者の方は……無論、全員という訳ではありませんが、キマってる人間は完全に……」
山崎「奇行に走ってはいますが、大人しいものです。全て内側(自分)に向けての奇行でしょう?」
壁一面に意味不明な計算式書いたり、鏡の中に話しかけたり、パン屑で身体こすったりしてるのにか?
神「ヤツらも全員が馬鹿では無い。此処に居る限りは命の保証をして貰えると分かっているからな」
刑務所が犯罪者の命綱とは……税金払いたくないな。元から払ってないけど。
半蔵「ん? 全員、が?」
神「ああ……稀に脱獄するキ○ガイもいる。その度被害者が出て、軍覇が処理してるけどな」
土御門「そんなにザル警備なのかにゃ?」
神「……我々とて人だ。完璧という訳ではない」ムッ・・・
そりゃそうだろう。あの変態狂人共を完全沈黙させておく事が出来たら、そりゃ常人の沙汰じゃない。 - 206 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 23:24:01.47 ID:zUS5QOsw0
- 神「さてと……質問が無ければ、次に移るぞ」チラッ
特に無し。ああいう場所があると分かっただけでも収穫だ。
神「では、倉庫に行く」スッ・・・
土御門「倉庫?」
神「用具庫……要は武器庫みたいなモノだ。綿流の武器が必要なんだろ?」
黒妻「え、いや、別に」サラッ・・・
半蔵「必要です」キッパリ!
黒妻「えー……武器とか現地調達で良いだろ。鉄パイプとか空き瓶とか結構落ちてるし」
半蔵「だから、そんなモンで戦う自警員が居るかってんです!」ガアアァ!
シャッハさん、ディスってんなよ?
土御門「ハァ……とりあえず防弾チョッキくらいは身繕って貰おうぜぃ。どーせ何言っても銃持たねぇんだろうしにゃ」ジトー・・・
黒妻「だからアンカーガンあるだろ! 十分じゃねぇか!」
神「確かに。使い方によっては十分人を殺せるな」コクコクッ
海原「そういう問題では無いと思いますが」タラー・・・
近づいて打ん殴る。それで問題ない。
神「単純明快で結構。コストも掛らん。結構な事だと思う……寿命を縮めるを善しとするならな」ククク・・・
黒妻「……別に、死ぬ気は無ぇよ」ムスー・・・
土御門「……所長。何か超回復のカプセルとかクスリとかは無いのかにゃ? 一番の問題点は行動時間のスパンだ。長過ぎだぜよ」
神「ふむ。クスリ……トンでも良いなら」チラッ
却下。
神「だろうな。とりあえず防弾チョッキ準備してやる。ついて来い」テクテク・・・
またもや言われるがまま、所長の後を付けて行った。 - 207 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/23(月) 23:49:30.91 ID:zUS5QOsw0
- ―――とある翌日、PM09:40、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、研究所倉庫……
神「此処だ」パチッ・・・
地下にある重々しい電子扉を潜り、暗闇の中へ足を進める。
所長が電気を点けたその部屋を一望すると……
半蔵「……完璧、武器庫だな」アハハ・・・
海原「戦争でも始める気でしょうか……って、スネーク。目を輝かせないでください」タラー・・・
御坂蛇「ぱ、パトリオット!! 師匠、パトリオットです! AR-15カスタムですよ! とミサカは珍しく興奮気味であの銃に喰い入ります!」
神「金さえあれば特注してやるぞ。ウチは合衆国側との武器提携してるからな。専門の技師もいる」
御坂蛇「ぜ、是非に!」キラキラ・・・
物騒な連中だ。
神「しかし、先に綿流の方だな……服部の。普段使用してる装備諸々は?」
半蔵「全て兄貴が管理してる。兄貴、持て来てます?」
黒妻「持ってくる訳無ぇだろ。あれ結構重いし」
神「では資料だけで判断、か……土御門の。服部の。ちょっと」チラッ
土御門・半蔵「「……」」テクテク・・・
黒妻「あー……オレらは?」
神「少し武器見て回ってろ。気に入ったのがあれば山崎に言え。尤も、使用は控えてくれよ」ククク・・・
しないっつの……
御坂蛇「こ、高周波ブレード! これなら一方通行でも演算処理に支障が出るのではないでしょうか、とミサカは……ふふふ」ニヤリ・・・
海原「す、スネーク?」タラー・・・
黒妻「しっかし、色々あるな……単分子カッターの軍事使用版、新型セムテック爆弾……あ、このナイフ。香焼好きそう」ジー・・・
海原「……山崎さん。何故彼はこの様な武器収集を? ただの趣味レベルではないですよね?」チラッ
山崎「え、ええ……昔色々と、ね。神さんは入念に保険を掛ける人ですから……」アハハ・・・
保険で戦争の準備とは、穏やかではないな。 - 208 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 00:15:45.29 ID:4pOu+H9k0
- それから暫く、銃火器等を見て回った。
スネークちゃんは若干興奮気味で銃器を撫でたりしていたが、オレと海原はそんな気にはなれなかった。
海原「ふむ……これなんて、如何ですか?」チラッ
黒妻「ん?」
海原「ランチャータイプのグレネード」スッ
黒妻「いやいや、だから銃は」
海原「勿論、弾丸は特注で。中に火薬では無く、攪乱の羽(チャフシード)を詰めてみては?」
黒妻「む……だが、チャフってのは絶対じゃねぇだろ」
対能力者対策という点では良いアイデアかもしれないが、風等で『羽(金属膜)』が吹き飛ばされたりしたら元も子もない。
海原「しかし無いよりは有った方が良い。元より貴方は無能力者なのですよ?」
黒妻「そりゃ分かってるが」
海原「貴方が活躍……目的をこなす為には、自分を相手と同等に上げるか、もしくはその逆をしなくてはいけません」
謂わばオレは喧嘩が強い程度の常人。そんな輩が能力者と真っ向に勝負して勝てる訳が無い。
故に……チャフや『C・D』といったAIMジャマーの類で、相手を凡人にしてやらねばならない。
海原「そうなれば貴方のモノでしょう。能力者なんて種は基本的に『能力』に頼りっ放しの傾向にあります」
御坂蛇「むっ。私は能力を過信した事はありませんよ、ミサカは師匠に意見させてもらいます」
海原「スネーク、というより妹達は凡庸性が売りでしょう。言葉が悪くてすいません」
御坂蛇「……褒められてるのだか、何なんだか」ムゥ・・・
黒妻「だがスネークちゃんの言う通り、能力者でも喧嘩が強ぇヤツはタンといる」
現に土御門や麦野さんなんかは、もしかしたらオレより強いかもしれない。
海原「如何でしょうね……ですが、同じ土台に引きづり込めば勝率は上がります。能力を使われるよりはマシでしょう」
黒妻「まぁな。理屈で言ったらそうなんだろうけどよ」ポリポリ・・・
海原「ドチラにしろ、チャフは携帯すべきです。『駒場利徳』も愛用していたのでしょう?」
黒妻「……らしいな」コクッ・・・
伝聞に過ぎない。
オレが年少でタダ飯を喰らってる間に、アイツは戦って……死んでいた。 - 209 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 00:42:08.91 ID:4pOu+H9k0
- 一寸後・・・・・
神「待たせた」テクテク・・・
黒妻「あ、いえ」
神「目ぼしいモノは有ったか?」
黒妻「まぁチャフくらいですかね。他は別に」
神「ふむ……後で準備しよう。先に方針を」チラッ
所長の後方から、難しい顔をした二人が紙面を見詰めながら現れた。
土御門「んー……俺は別に駆動鎧の上にジャケット着ても良いと思うぜぃ」ポリポリ・・・
半蔵「いや、無理あるっつの……ポ○太くんじゃあるめぇ」ポリポリ・・・
神「……おい」
半蔵「あ、はいはい……とりあえず発条包帯の使用は当分控えて貰う事にします」
黒妻「ああ、そのつもりだ」
土御門「んで、そうなるとだ……長期戦闘は可能になったが、俊敏性が落ち被弾率が上がる」
能力過信型の犯罪者ならそれでも問題無いが、組織的なタイプだと銃火器を所持している事も屡である為、危険度が増すだろう。
土御門「いや、能力者相手でもやっぱ危ないぜよ。『被弾』ってのは何も鉄砲玉だけじゃねぇんだぜぃ?」
海原「発火能力、風力使い、電気使い……『仮面』で頭は守れても、その他は無防備ですよね」
半蔵「駒場の兄貴のジャケットも防弾加工してるとはいえ、限界がある。となると……」
神「インナーに対応策を仕込むしかないな」
だから駆動鎧、か……無理あるだろ。見た目的に。
神「いや、最新型の駆動鎧はコンパクトになってきている。悪くないと思うが?」
黒妻「そいつぁ那由他の専売特許です……オレは生身で行きますよ」コクッ・・・
神「そうか……では硬化能力者の実験データに基づいた防弾チョッキを準備する。それで良いか?」チラッ
半蔵「兄貴がそう言うなら、お好きに」
土御門「……ただし、チャフに関してはもう少し慎重に考えようぜぃ」クイッ・・・
そのつもりだ。凡人と才人の境を取っ払う重要事項だからな。 - 210 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 01:38:02.13 ID:4pOu+H9k0
- 暫く話しあった末、新しいスタイル(構想)が出来上がった。
・様々なタイプのチャフを使用する。
・アンダーアーマー(インナー)タイプの防弾着の装備を徹底。
黒妻「あとは、基本的に同じだな」
神「チャフは3つ。一つは対電子、所謂一般的なチャフグレネード。それから攪乱の羽(チャフシード)、これは今まで通りだな」
半蔵「といっても資金に限りが有った当初じゃ、乱用は出来なかった。今回を機に絨毯散布作戦でも取ろうかなー」フフフ・・・
この策士マニアめ。
神「続けるぞ。もう一つが……液状タイプのAIM拡散力場錯乱弾。まぁ攪乱の水(チャフウォーター)とでも名付けようか」
海原「液状タイプ、ですか? 初めて見ましたね……使い方は?」
神「単純だ。ぶつけてやるも良し、散布するも良し。メリットは羽(シード)と違って風で流されない所にある」
御坂蛇「つまり……その液体を浴びた者は、拭いきるまで能力の使用は困難になるという事ですね、とミサカは確認します」
神「そうだ。おまけに液体といっても実際はジェル状。そう簡単には落ちない」
何それ卑猥。
半蔵「喧しい……兎角、【駒場】の兄貴の威圧感は大分残せる様だ。大丈夫でしょう」
土御門「ああ。同じ土台で素手戮になりゃ圧倒的にセンセが有利だぜぃ」
神「……有利、か」ククク・・・
買い被り過ぎだ。オレは多分、そこまで強くない。
発条包帯の使用で【怪物】と化していたがそれが無くなった今、並の喧嘩屋レベルだろう。
黒妻「相手が格闘の専門家だった場合、オレぁ完璧不利だぜ」
神「……綿流の流派は?」
黒妻「だからタダの喧嘩、我流だっつの。空手でも柔道でもねぇ」
半蔵「といっても、並の警備員相手なら悠々伸すでしょ。手段を選ばなきゃ軍人でも相手出来る」コクッ・・・
黒妻「さぁな。純粋な腕力脚力ならそうかもしれねぇが……」
多分、黄泉川さんには勝てない。
神「ふふっ……弁えているのだな。軍覇の様に『俺最強っ!』と馬鹿を抜かす類じゃなくて安心したよ」クスクス・・・
黒妻「生憎、無能力者と分かった時点で弁えてるよ」
神「だが俺は綿流の戦闘法は嫌いではない。資料を見させてもらったが、アレは―――」
所長が何か言いかけた時、山崎さんが小走りに険相で近づいてきた。 - 211 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 01:55:44.83 ID:4pOu+H9k0
- 山崎「所長……」ボソボソ・・・
神「―――……そうか」コクッ・・・
緊張感が走る。
神「一旦、所長室に戻るぞ……オマエら、何か好きな武器を持って来い」テクテク・・・
一同『……は?』
神「話は後だ。急げ」テクテク・・・
また自分勝手な事を……
半蔵「如何する」チラッ
土御門「如何って……野暮用みたいだにゃ」クイッ・・・
海原「山崎さん。『危ない事』ですか?」チラッ
山崎「なるべく穏便に済ませたいのですが、所長が所長なので……ハァ」タラー・・・
穏便には行かないだろう、と。
土御門「……海、山田。『槍』は?」ボソッ
海原「無論。一応、銃も持ってきてはいます」
半蔵「俺も持ってきてはいるが、弾そんなに無ぇぞ。弾丸だけ貰って良いっすか? マグナム弾」チラッ
山崎「どうぞ。合う弾があれば持って行って下さい。基本、使わないモノばかりなので」
御坂蛇「……」キラーン・・・
先程からイソイソとAR-15カスタム(パトリオット)に手を伸ばそうとしているスネークさん。
山崎「……ど、どうぞ。ただし大分整備してませんよ?」タラー・・・
御坂蛇「構いません。ミサカの手に掛れば数分と掛らずにチェーン出来ます! とミサカは己の武器マニアっぷりを自慢してみせます」ニヤッ
海原「……では、スネークのF2000R(トイソルジャー)お借りしても良いですか」チラッ
御坂蛇「私は人に銃を貸す気はありません、とミサカはキッパリお断りします」ビシッ!
土御門「凄い我儘な妹達だにゃ……御坂美琴(オリジナル)並に我儘なんじゃねぇの?」ニャハハ!
半蔵「如何でも良いが、早いとこ選んで行こうぜ。兄貴も適当なの掴んで行きますよ」チラッ
仕方ないので殺傷能力の低いスタンロッドを持って、所長室に向かった。 - 212 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 02:18:42.04 ID:4pOu+H9k0
- ―――とある翌日、PM10:10、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所所長室……
部屋に戻ると、所長が年季の入った天井付けディスプレイを見詰めていた。
どうやらオレらが入ってきたゲートを映しているらしい。
土御門「ショチョーさんよ、何があったんだにゃ?」
神「……厄介な連中が来た」ジー・・・
半蔵「厄介?」
神「アレは下っ端共だ……まぁそろそろ来る頃合いだろうとは思っていたがな。タイミングが良いのか、悪いのか」フム・・・
だから何だってんだ。
神「山崎。軍覇は何処にいる?」
山崎「多分、研究所の屋上でしょう。彼らを監視してます」
神「そうか。今日は私が許可するまで動くなと伝えろ」
土御門「オイオイ……物騒って事かい? 穏やかじゃねぇなぁ」クイッ・・・
神「そういうな。この施設は謂わば『宝箱』だから仕方ないんだよ……偶にある」コクッ・・・
半蔵「……成程な」タラー・・・
黒妻「半蔵。オレにも教えろー」ブーブー・・・
半蔵「……言葉通り『原石』は宝。そして『狂人』共も特殊な人間共からすれば宝なんです」
……良く分からん。
海原「『原石』の未知なる能力は、世界中の研究者皆が弄りたいと考えるモノです。磨いて光れば万々歳ですし」コクッ・・・
黒妻「要は『ホープ』って事だな……んで『狂人』は?」
土御門「センセ。昨日言ったろ……此処の刑務所の輩は是非とも『暗部』にスカウトしたい輩ばっかなんだって」
黒妻「あー、それで……じゃあ何か? ソイツらはガキ共か犯罪者連れ出しに来た訳か?」
下らない。理事会の連中も何考えてるんだか。
神「無論、理事会も一枚岩ではない。先程芹亜に裏を取って貰ったが、スポンサーと支持者の動きで連中が誰なのか割れた」
大概、雲川も怖いな。スーパーハカーとかいうヤツだ。
御坂蛇「ハッカーですよ常考、とミサカはテンプレで返します」チラッ
黒妻「……うぃ」ハァ - 213 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 02:42:24.95 ID:4pOu+H9k0
- 神「端的に言えば、暗部だな」サラッ・・・
一同『っ』ピクッ・・・
暗部って……色々あるからピンと来ません。
神「……アイテム」ボソッ・・・
黒妻「なっ……」ビクッ・・・
神「と、言ったら如何する?」ニヤリ・・・
黒妻「ど、如何って……」タラー・・・
……想像出来ない。
土御門「チッ……センセ。あんまりアイテムのチビ娘に情沸かすな。アレは異常者だと言ってるだろ?」ジトー・・・
神「ふふふ、脆いモノだ。まぁ綿流も人間という事だろう」クスクス・・・
黒妻「別に……場合によっちゃ正しい方につく」ムゥ・・・
神「ククク。冗談だ。別に俺は粛清対象になった覚えはない。歪んでいるがヤツらの任務は一種の『正義』だからな」
それは麦野さんが言ってた。
都市の浄化の為に『粛清』という『正義』を振りかざす。そう割り切らなければ、やってられない。
神「無論、第4位なら迎え撃っても面白そうだが……今回は違う様だ」
海原「では、ドチラ様で?」
神「『スカウト』か『トレジャー』、もしくは単独で『博士』が動いたかと思ったんだが……」
半蔵「……聞いた事無い連中だな」
神「言ったろ。一枚岩は有り得ない。理事だろうが暗部だろうが同じだ」
半蔵「グループ(土御門ら)が何でも屋で、アイテムが粛清班……とかだっけか?」チラッ
海原「何でも屋って……」アハハ・・・
土御門「……その前に『博士』たぁ、あの『博士』か?」
神「ああ。『メンバー』の指揮だ……我々の業界でもちょっとした有名人でな。しかし、今回は来てないらしい」
最早、さっぱり分からん。さっさと次の行動を示してくれ。 - 214 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 03:03:30.86 ID:4pOu+H9k0
- 半蔵「……で?」チラッ
神「ああ、全員ではないが……『ブロック』が来てる」コクッ・・・
半蔵「ブロック?」
土御門「服部……手前、ウチとアイテム知っててブロック知らねぇのかよ」
半蔵「す、スクールってのは知ってる! 第2位いるとこだろ!」
皆博識だなぁ……オレぁ暗部事情なんか興味無いぜ。
海原「しかし……彼ら(ブロック)が来るという事は『宝』漁りじゃない様ですね」フム・・・
土御門「アイツらは外交監視、関税官みてぇな連中だからにゃ」クイッ
神「そうとも限らん」ジー・・・
土御門・海原「「え」」
神「……リーダーの佐久が見えない。主要メンバーで来てるのは二人の様だ」コクッ・・・
そう言ってノートパソコンを弄り出す所長。
神「この二人が……確認された」スッ・・・
一同『……』ジー・・・
神「目的は分からんが『意見解析(スキルポリグラフ)』が居るのをみる限り、いきなり戦闘は無いだろう」
山崎「アポイントはありませんが、最悪押し掛けで『病棟』の方に収容されている『誰か』に、というのは考えられますね」
神「ああ……ん? 綿流?」チラッ
黒妻「……」ジー・・・
土御門「……あ、ヤベッ」タラー・・・
神「如何した?」
土御門「……ちょっと、雲川の馬鹿に電話してきまーす」イソイソ・・・
海原「はい?」ポカーン・・・
一枚の、顔写真。
黒妻「……半蔵」ボソッ
半蔵「兄貴……馬鹿な事は考えないで下さい。極力、接触は避けましょう」ボソッ
懐かしい、顔。 - 215 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 03:23:09.79 ID:4pOu+H9k0
- 神「綿流?」ジー・・・
黒妻「……神さん」ボソッ
神「ん」
黒妻「この後の行動予定は?」
神「アイツら次第だ。大人しくインターホンを馴らす様ならそれなりの対応をする。だが強行侵入なら……」ニヤッ・・・
黒妻「……すぐさっきの戦闘装備準備できますか?」
神「如何してだ?」
半蔵「あ、兄貴……拙いって」タラー・・・
黒妻「黙ってろ……オレが玄関で応答してきます」
一同『っ』ギョッ・・・
どうしても、話をせねば。
神「ヤツらは暗部の中でも警備員所属が多い部隊だぞ? それこそ黄泉川クラスの腕前だっている」
黒妻「知っているから、頼んでます」
神「ほぉ……」ニヤリ・・・
暫時の沈黙。そして……
神「……分かった。下手に荒されるよりコッチから穏便に出迎えた方が早く事が済むだろう」スッ・・・
山崎「ちょ、しょ、所長?!」ギョッ!
神「服部の。オマエらは『原石』が荒されぬ様、影から監視を頼んで良いか? 『狂人』に関しては護衛は不要だ」チラッ
半蔵「え、あ、はぁ……」ポリポリ・・・
黒妻「悪ぃな、半蔵」チラッ
半蔵「ったく……雲川の女郎に給料弾んで貰わねぇとなぁ」ハァ・・・
ついでにこの人からも、ブん取っとけ。
神「そこの男と妹達は服部の指示下に。山崎は軍覇に俺の下に来る様伝えてくれ。その後は君も『原石』の寮へ」
山崎「はいはい。あまり派手に暴れないで下さいよ」ハァ・・・
神「奴(ヤッコ)次第だな……それでは行こうか……【駒場】くん」スッ・・・ポイッ
書類とカードキーを渡される。 - 216 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/24(火) 03:42:11.81 ID:4pOu+H9k0
- 神「革ジャケットは無いが、黒の対衝撃作業服がある。図体もデカく誤魔化せるから丁度いいだろう」
黒妻「『仮面』は?」
神「それに関しては土御門だ。関与できんな……とりあえずさっさと準備しろ。先に外で待ってる」テクテク・・・
所長と入れ違いに土御門が戻って来る。
土御門「ったく……あの女郎、仕組んでやがったに決まってる!」ギリリ・・・
黒妻「おい。『仮面』の代わり、持ってるか?」
土御門「はぁ? 何言ってんの?」ポカーン・・・
半蔵「あー、土御門。あのな……」
かくかくしかじか。
土御門「」チーン・・・
黒妻「という訳で、代わり」ホレッ
土御門「ん、の……ボケナス!! 包帯でも巻いてろ!!」ガアアァッ!!
黒妻「えー……」ショボーン・・・
土御門「ハァもう……まるであの女(アマ)が描いた通りになってて面白くねぇ」ゴソゴソ・・・スッ・・・
黒妻「お! 持ってんじゃん!」オー!
土御門「悪いがそれ、前みたいに異能はシャットアウト出来るが物理攻撃にゃ弱いぞ? 銃弾貫通すっからな?」ジトー・・・
黒妻「はいはい。ダイジョーブ……手袋もある! 流石何でも屋!」ニカッ!
土御門「喧しい! とりあえず今日は派手に暴れるなよ……身体も本調子じゃねぇんだからな」ギロッ・・・
分かってる。無茶はしない。
半蔵「それでは俺らは別所に移ります……相手が相手ですから、気をつけて」チラッ
黒妻「ああ、一応電話には出れる様にしといてくれ。何か頼むかもしれん」
半蔵「了解……御武運を。兄貴」スゥ・・・
閑散となる……さて、では御対面しましょうか。此方は『仮面』だが文句はあるまい。
黒妻「手塩さん、ねぇ」グッ・・・
懐かしき、警備員さん……――― - 222 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/25(水) 23:15:37.44 ID:HR1smUKx0
- ―――とある翌日、PM10:30、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、メインゲート……
本来であれば客人など訪れる筈の無い時間帯、病院(研究所)の正門付近に怪しい輩がうろついていた。
数にして凡そ20。多くは警備員の様な武装をした者達だ。
現在、数名を用いて院の長い塀をチェックしている。
下っ端「チーフ」
一人の男がベースとなる機材車に駆け寄ってきた。
その中には……女性が二人。
下っ端「やはり、正門以外からの侵入は不可能かと……」
鉄網「そ、そうですよね。というかこの施設に強硬手段で出たら後が大変なんじゃ……やっぱり日を改めて正式に」
手塩「セムテックは、持ってきてるのか?」
下っ端「は、い? ち、チーフ??」
手塩「C4爆弾……準備できるのかと、聞いてるんだよ」
チーフと呼ばれた筋肉質の女――手塩恵未は重々しく、発破の可不可を尋ねた。
鉄網「手塩さん! そんな事したら後々佐久さんに迷惑を」
手塩「彼の事は、気にしなくて良いよ……出来るか、如何かだけ、聞いてるの」
下っ端「え、えっと……壁の厚さからして、繰り返し発破を掛けなければ穴は開かないかと……」
手塩「その間に、気付かれるね……仕方が無い」スッ・・・
鉄網「な、ど、何処行く気ですか!?」
ただゆっくりと車を降りる手塩。手にはグレネード付きライフルとライオットシールド。そして……閃光弾。
手塩「鉄網、行くよ」チラッ
下っ端「ち、チーフ!? 如何する気ですか!?」
手塩「正攻法しかないね。花火を上げて、門を開かせる……そこからは、交渉次第かしら」
鉄網「だ、だったら佐久さんに話を通して貰って、山手さんも一緒に来ないと!」
手塩「……アイツらは、駄目。貴女だけが、頼りだよ」テクテク・・・
チーム行動の筈なのに、何処か孤独。そんな手塩がチーフである、この『ブロック』特別編成班。
今日の要と言われて来た鉄網は不安な思いでいっぱいだった。 - 223 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/25(水) 23:54:10.63 ID:HR1smUKx0
- 下っ端「……鉄網さん」
鉄網「は、はい! ななな、な、何ですか!?」オドオド・・・
下っ端「いや、そんなに怯えなくても……何で手塩チーフ、あんなに急いでるんですか?」
鉄網「え? えっと……すいません。私も分からないんです」
今回の任務は二つ。
一つは、とある『狂人』との接触。可能であればセーフハウスへ連れて帰る事。
もう一つは、似た様なものだがとある『原石』の資料(データ)確保である。
前者も後者も正式に順を追えば、表でも十分こなせる仕事であるのだが……そうはいかなかった。
鉄網「佐久さんがなぁ……」
下っ端「はい? リーダーが?」
鉄網「う、ううん! 何でも無いです! と、兎に角手塩さんに続きましょう!」アタフタ・・・
平然を装い、急いで手塩を追う。
実のところ今回の件、簡単に説明するとスポンサーの関係上、表立っての交渉が不可能になった。
この施設も所謂『裏(暗部)』寄りの施設。しかし……暗部といえど一枚岩ではない。
自分達の『ブロック』は警備員のタカ派と、理事会の中でも外務をこなす右寄り連中がメインスポンサーだ。
反対に此処のバックは保守派の貝継理事、法務の死刑反対派等穏健左寄りの連中がスポンサー。
鉄網「大人って、難しいなぁ……何で皆仲良くできないんだろぅ」ムゥ・・・
下っ端A(ヤベ! 鉄網さん、マジ可愛い……)
下っ端B(ちょ、オマエ、我らがゆるふわアイドル鉄網さんに馬鹿な事したら許さんぞ!)
下っ端C(男達は黙ってなさい! 鉄網ちゃんは手塩さまが主となった私達女組が守るのだから!)
一同妄想馬鹿丸出し。
手塩「……オマエら、さっさと準備しろ」ギロッ・・・
一同『い、イエスマム!』バタバタ・・・
まったく、佐久がいないだけでこれだけ緩み切るのか……現場チーフは嘆いた。
手塩「……閃光弾を、三発上げる。そしたら、嫌が応にも、彼らが声を出すだろう」
鉄網「声って、インターホンに? それとも扉から?」
手塩「さぁね。最悪、第7位が出てくるかもしれない」
一同、『第7位(超能力者)』という言葉を聞いて身を引き締めた。 - 224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/25(水) 23:55:56.74 ID:SbtAefODO
- 鉄網って確か、腕吹っ飛んだ娘だよね?
- 225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/05/26(木) 00:00:53.80 ID:GFFmUiQ30
- >>224
正確には指が何本かとんだ描写だけ(しかも彼女の物とは明言されてない)
……にしても、本当に可愛いなここの鉄網は - 226 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/26(木) 00:10:15.42 ID:V7ZwyPf30
- 鉄網「そ、その時は如何するんですか?」アタフタ・・・
手塩「別に、如何もしない」
下っ端「……え」
手塩「あの子の扱い方は、知ってる……厄介なのは、此処の所長。だから心配しないで」
そう言って、手塩は銃口を空に向けた。
手塩「鉄網は、安全な距離をとって。ゲートに2人、私の傍に4人、その他は鉄網と共に、距離を置きなさい」
一同『了解』ザッ・・・
全員が配置についたのを確認。その後……夜空に、3つの光が昇った。
手塩「鬼が出るか、悪魔が出るか……いや、彼はそれよりも、性質が悪いな」ジー・・・
即座、暗視ゴーグルに手を掛ける。見詰めるは塀の上。
インターホンなら問題無いが……⑦(バカ)が来るとしたら、高い所と分かり切っているからだ。
下っ端A「ち、チーフ!」ビクッ・・・
手塩「っ……大人しくしてろ。絶対に、手を出すなよ。銃を抜いたら、ヤツは牙を出すぞ」
一人の隊員が叫ぶ。そこには、やはりというべきか……ヤツがいた。
削板「……」ジー・・・
監視のつもりだろうか、何をするでもなく此方を見詰めている。
手塩「……インターホン。反応は?」チラッ・・・
下っ端B「今のところは何も」コクッ・・・
手塩「そうか。じゃあ、あの子に呼んでもらうしか、ないね」ジー・・・
そして、何を思ったか……
削板「……ん?」ピクッ・・・
一同『え』ギョッ・・・
手塩は塀の上の少年に向かって、手を振っていた。 - 227 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/26(木) 00:29:00.63 ID:V7ZwyPf30
- 下っ端C「ち、チーフ?!」ポカーン・・・
下っ端D「て、鉄網ちゃ……鉄網さん。何してるんですか、アレ?」ポカーン・・・
鉄網「わ、私に聞かれても……うーん」ムゥ・・・
ブンブンと大きく振る訳ではないが、知り合いに対して気軽に挨拶する様に手を上げている。
下っ端A「ち、チーフ!?」タラー・・・
手塩「黙ってて……今に喰い付くから」ボソッ
そう答えた刹那……少年は跳んだ。
一同『なぁっ!!?』ギョッ!?
手塩「……」ジー・・・
高さにして凡そ10階建ビル程はありそうな塀の上から平然と跳び下りる少年。
普通なら自殺行為だろう。だがしかし……彼はこの学園都市で屈指の『非常識』人間。
削板「ふ、んっ……よいしょっと!」ズシーン・・・・・
一同『』
手塩「ふむ。流石だね」ニコッ
この場で本人を除き、一人だけ平然としている手塩もまた、特別な人間なのかもしれない。
削板「んー……」テクテク・・・
下っ端B「はっ!」ビクッ!!
鉄網「て、手塩さんっ!!」ギョッ!
手塩「良いから、任せて……」チラッ・・・
この奇妙な集団のリーダーを、一人堂々とした態度でいる女性だと判断した少年は、彼女の方へ歩み出した。
対する手塩も周りに余計な手出しをするな、と目配せし憮然と彼を待つ。
削板「……うぃ」ピタッ
手塩「こんばんは」
削板「ん? おう、こんばんは。始めに挨拶するなんて先公みたいだな。あ、オレ学校行った事無ぇや」ニコッ
手塩「そう……良い夜ね。今日は、散歩に出ないのかな?」ニコッ
削板「お、おう。そんな日もあるさ……」アハハ・・・
手塩「そうなんだ。御月見とか?」
削板「え、まぁうん……何か絡み辛ぇな」タラー・・・
彼女のペース。伊達に教員免許は持っていない。 - 228 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/26(木) 01:07:22.76 ID:V7ZwyPf30
- それから暫く他愛ない話を手塩は続けた。
それは普通過ぎる会話で、傍から見れば逆に変だと感じる話し合い。勿論、話相手の削板も十分違和感を感じている。
逆に、手塩は心中でシナリオ通りだねと苦笑していた。
手塩「……ところで、先生は?」
削板「え、あ、せ、先生ってのは?」
手塩「貴方の知る、先生は一人しか、居ないんじゃないかな?」
削板「ん……ああ、ジジイの事か。中に居る筈だぞ」
自然な流れで中の話に切り替わった。
手塩「忙しいの?」
削板「うーん、分かんねぇけど客が来てたぞ。グラサンとか忍者とか九つ子とか」
手塩「え、そう……ちょっとで良いから、呼んでもらえる?」
削板「おう、了解。ちょっと待ってろ」トンッ・・・
再び塀の方へ走り出す。そして……軽く一越え。
手塩「ふぅ……まったく、『原石』だからって、特別扱いし過ぎね。普通教育が、なってないわ」ハァ
鉄網「あ、あのぉ……手塩さーん」ゴニョゴニョ・・・
手塩「ん?」チラッ
鉄網「……いえ、やっぱり何でも無いです」アハハ・・・
手塩「そ」
この子も大概普通教育を受けてないのだろうな、と教師目線で鉄網の事を見てしまった。
逆に鉄網はアンタはカウンセラーか保育士の類ですか、と手塩に聞いてやりたかった。
手塩「とりあえず、次は私一人では、無理。皆にも、動いて貰うからね」
鉄網「わ、分かりました! 頑張ります!」ムンッ!
下っ端A「……チーフ。先程、第7位が『客』と言っていましたが、大丈夫でしょうか?」
手塩「分からない。だけど、穏便に済ませられる。私達は、戦闘をしに来た訳じゃ、ないよ……銃(コレ)は、あくまで、圧力程度だから」
下っ端B「は、はぁ」ポリポリ・・・
『ブロック』内で一番強いくせに、戦闘を好まない……エース。
リーダーの佐久には良く思われていない節があるが、鉄網や下っ端達からは慕われているチーフだった。 - 229 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/26(木) 01:41:18.20 ID:V7ZwyPf30
- ―――とある翌日、PM10:45、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、ゲート裏……
削板「」チーン・・・
ずた襤褸になっている超能力者が一人。
神「オマエは相変わらずアホだな。行動する前に少しは考えろと言ってるだろう」ギロ・・・
山崎「しょ、所長……私が軍覇を捕まえられなかったのも悪かったので……その辺で」タラー・・・
神「……ふんっ」
塀を越えて、神の下までやってきた削板は気軽に『外でお客さんが待ってるよー』と報告してきた。
ヤツらの目的すら聞き出さないままノウノウ帰って来たガキには仕置きを……それがこの所長のポリシーである。
例えそれが何者であろうとも、だ。
神「……服部らは?」
山崎「服部くんだけは所長室で他の方々の指示を。他の方々は散り散りにポジションを固めたそうです」
神「ふむ……では後は綿流だけだな」
研究所の方を見遣る。今、倉庫で黒妻が装備を終えている頃だ。
削板「痛ぅ……ジジイ。ホントに無能力者かよ……」アダダ・・・
神「その括りが間違いだ。才能ある者はそれに過信する……俺はオマエに己を過信する様教育した覚えは無いが」
削板「いや、分かってるけどさぁ……アンタは異常なんだよ」ハァ・・・
神「まぁ素手で俺に勝てるのは最早とある女だけだろうな……今何処で何してるんだか知らんが」
バケモノの上にはまだバケモノが居るようだ。
神「……ん。来たか」チラッ・・・
削板「む? ……何だ?」ジー・・・
全身黒づくめの、駆動鎧の様な巨躯。顔は神々しい刺繍の入った白いマスクで隠れている。
【それ】はゆらりゆらりと削板達の方に歩み寄り、ピタリと止まった。 - 230 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/26(木) 01:59:01.91 ID:V7ZwyPf30
- 神「重いか?」
??「……まだ、身体が筋肉痛でね……まぁ問題無い」ジー・・・
削板「……ジジイ。コイツ誰だ?」ジー・・・
神「知る必要はない。例え分かっても口にするなよ? 瞬間、オマエの目玉を抉る」
削板「お、おぅ……」タラー・・・
ボロボロになっている超能力者を見る。
やはりこの神という男、タダモノではないらしい。
神「武器は?」
??「一応、テーザー銃(スタンガン)を借りた……これなら、殺傷力は無いだろう」
神「……山崎。そこの消火斧を」チラッ・・・
山崎「え、アレ非常時用ですよ?」
神「良いから寄越せ」
山崎は渋々緊急用の消火斧を取り外し神に渡す。
その後何かボソボソ告げられ、溜息をつきながら寮の宿舎へ引き返して行った。
神「コレを」スッ・・・
??「……如何しろと」
神「そんなモノより似合う。それだけだ……それに使い易かろう。今まで鉄パイプなどで暴れてきたのだろ?」
??「……分かった」パシッ・・・
斧を受け取る。重くもなく軽くもない、丁度良い重量。
神「では行くか……ところで、何と呼べば良い? 覆面をしているのだから『黒妻綿流』では拙いのだろう?」ジー・・・
削板「へ?! そいつ、ヤンキーの兄ちゃんなの?!」ギョッ!?
神「ぅ……黙ってろよ? 言ったら分かってるな?」タラー・・・
削板「いや、今ジジイが自爆ったんだろーが……あ、うん。分かりました。黙ってます」コクコク・・・
意外とお茶目だな、二人とも。
??「呼び名は……そうだな……―――」
【それ】は静かに『名』を告げる。
神はニヤリと笑い、削板の首根っこを掴んで外へ向かった。【それ】も後ろから、のらりくらりとゲートを潜った。 - 231 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/26(木) 02:16:17.57 ID:V7ZwyPf30
- ―――とある翌日、PM10:50、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、メインゲート……
誰かが『ゲート、開きます!』と叫んだ。手塩や鉄網、他の隊員達一同、門に注目し身構える。
そこから2人の男と……【何か】が現れた。
手塩「……っ?」ジー・・・
鉄網「て、手塩さん……えっと、何ですかアレ……」タラー・・・
手塩「私に聞かれても、ね……とりあえず、鉄網は、私が合図するまで、隠れてなさい」チラッ・・・
色々とツッコミ所が満載だ。
まず超能力者がボロボロ。それを引っ張る様に歩いて来る傷顔男(スカーフェイス)。そして……正体不明の【何か】。
下っ端「チーフ。あの後ろの……最近話題になってる、カメラに移らない【仮面】じゃ……」ボソッ・・・
手塩「静かに……【正体不明】より、先頭を来た男の方が、厄介よ」
下っ端「……戦闘配備で?」
手塩「止めなさい。殺気を読む、男だから……後手に、ならざるを得ない。その時の、犠牲(リスク)は、覚悟しましょう」
彼をその気にさせたら、コミカルでは済まない。
手塩は息を飲み数歩前に進んだ。そして話しかける。なるべく悪い雰囲気にせぬ様、話をする。
手塩「こんばんは……その子、大丈夫なの?」ジー・・・
削板「大丈夫じゃねぇよ……耳千切れそうだった」ハァ・・・
神「喧しい。オマエは口開くな。舌を抜かれたいか?」ギロッ
削板「う、ぃ……」タラー・・・
神「ふん……俺の教え子はこの程度で屁垂れる甘ちゃんではない。貴様とて知ってるだろ」ジトー・・・
手塩「恐怖教育は、好かないのだけど……そうね。貴方は、そういう教え方しか、出来ないものね」ハァ・・・
周りは不思議な目で神と手塩を見る。まるで旧知の仲の様。
手塩「話をしたい、けど……先に」チラッ・・・
神「【それ】か?」ニヤッ・・・
手塩「……【それ】というか、【彼】なのかしら。貴方の、新しいオモチャか、何か?」
神「さぁな。俺にも分からん」ククク・・・
注目が【それ】に移った。 - 232 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/26(木) 02:47:28.72 ID:V7ZwyPf30
- 手塩「君……何と、呼べば良い?」ジー・・・
神「ほぉ。『君』とはねぇ。人扱いしてくれるらしぞ」ククク・・・
手塩「……人じゃ、ないの?」ムッ・・・
AI搭載の駆動鎧か、もしくは人間扱いされない『狂人』の一人か。
疑わしい眼で見詰められる【それ】は、静かに……名を告げた。
【駒場】「……―――駒場―――……だよ。手塩恵未」
手塩「っ!!?」ギョッ!?
神「キヒヒヒ……良い顔をするなぁ、恵未」ニヤニヤ・・・
手塩「じ、神さん! 貴方、まさか!?」ギロッ・・・
神「おっと、俺ぁ殆ど関与してないぞ。読心能力者に記憶読ませたって良い」ククク・・・
二重の驚き。二重の矛盾。
まず初対面である筈の自分を知っていた事。
そして今や『故人』である筈の……自分が見知った武装無能力集団(スキルアウト)の元リーダーの名前。
手塩「……っ」フゥ・・・
落ち着け。【コイツ】の正体については後だ。
多分『駒場利徳』の名を騙った知人、もしくは同じ境遇(暗部)の人間だろう。
手塩「率直に言う……話が、あります。どうしても、正式なアポイントが、取れないので、こういう形に。スイマセン」コクッ
神「ああ、分かってるさ。オマエらのバックアップは我々の後ろ盾と犬猿だからな……まぁオマエ個人が来てくれる分には歓迎だ」ニコッ
手塩「ありがとう。では……此処で、話をしても?」
神「いや、折角だ。積もる話もあるだろう……所長室へ来い。ただし5人、いや4人までだな」チラッ・・・
何やら匂う兵隊達を睨む。まるで猛禽類の様な眼光。
手塩は止むを得なしと、鉄網と他の部下2人を指名し、更に前へと進み出た。
【駒場】「……(小せぇな。香焼と最愛ちゃんくらいか? 那由他よか上っぽいけど)」ジー・・・
鉄網「て、手塩さん……何か見られてる気がしますよぅ」プルプル・・・
手塩「大丈夫だよ。それが【駒場】の名を使う以上、むやみやたらに、手は出さない筈……」ジー・・・
流石、スキルアウトが顔を利かせていた全盛期に、黄泉川さんと双頭で警備員のエースを務めていただけの事はある。
神「ククク……ところで恵未。武器チェックは必要かな?」
手塩「任せます。ですが貴方に……銃程度で、如何こう出来るとは、思ってませんけどね」ハハッ
神「ああ。盾(軍覇)が有るからな」ハハハ
手塩「酷い人だ……他の者は、待機しててくれ。一応、無線にはいつでも出られるように、しておく事。良いね?」
一同『了解です』ザッ
削板「ジジイ、いつかブッ飛ばす……」ブツブツ・・・
そして7人は塀の内側へと入って行った……――― - 237 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/26(木) 22:32:31.47 ID:V7ZwyPf30
- ―――とある翌日、PM11:00、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所所長室……
人気の無い施設内を7人は進んだ。
先導に所長と超能力者。間にブロックの4人。そしてそれを監視する様に後ろから【駒場】が続く。
下っ端A「……チーフ」ボソッ
手塩「今は、余計な事を、考えないで……成り行きで済ませられるなら、そうしよう」
鉄網「うぅ……何だか不気味な所だなぁ……」オドオド・・・
手塩「鉄網。今日は貴女が、要なの。我慢して頂戴」チラッ・・・
鉄網「うーん……」トボトボ・・・
鉄網という少女、場違いといえば場違いである。到底暗部には見えない短髪の少女。
手塩以下二名の大人とは違い、無理矢理軍服を着せられ歩かされている……その様にしか見えないのだ。
恐る恐る三人の後ろを進む少女。如何か何事も起きませんようにと願う刹那……
【駒場】「……」ポンッ・・・
鉄網「ひ、ひゃあああぁっ!!?」ビクッ!!?
一同『っ!?』ギョッ!
【仮面】が、頭に手を乗せた。
鉄網の絶叫に一同振り返る。そして同僚の3人はすかさず銃を構えた。
手塩「っ……何を」ギロッ・・・
【駒場】「……別に」ポンポンッ
鉄網「ふぇ、あわわぅ……」ビクビク・・・
下っ端A「しょ、所長さんよぉ! 何なんだこりゃぁ! 如何いうつもりだよ!!」ギロッ・・・
神「知るか。俺に聞くなよ」
下っ端B「聞くなって……アンタの部下だろ!?」
神「部下? 知らん。提供関係ではあるがな」ククク・・・
削板「え? マジ?」キョトン・・・
神「オマエは知らんでも良い」
一同に緊張が走る。そして【仮面】は…… - 238 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/26(木) 22:46:46.17 ID:V7ZwyPf30
- 【駒場】「……幼いな」ポンッ
鉄網「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え、ぁう??」ポカーン・・・
一同『……』ジー・・・
場違いな事を抜かした。
【駒場】「何かされると思ったか? ……それは、済まない事をした」コクッ
手塩「……」ジー・・・
【駒場】「多意は無い。気にしないでくれ」チラッ・・・
下っ端A「気にするなって、アンタ……鉄網さんに何かする気じゃ!」ギロッ・・・
手塩「分かった。神さん、行きましょう」スタッ
下っ端B「って、え?! て、手塩さん??」タラー・・・
神「……進もうか」コクッ
多くは語らず、二人が歩き出す。
鉄網「え、あ、うーん……」アタフタ・・・
手塩「鉄網。安心して。【それ】は『絶対』に、貴女に危害を、加えないから」スタスタ・・・
鉄網「あ、ぅー……」タラー・・・
削板「……変なのー」テクテク・・・
【駒場】「貴様にそれを言われたら、お終いだな……第7位」クスクス・・・
まるで緊張感が無い。いや⑦はまだしも、この【仮面】は鼻からそんなモノが無いのかもしれない。
下っ端二人は疑念を残しつつも、手塩の後を追う事にした。
鉄網「う、えっと……」チラッ・・・
【駒場】「……怖いか?」ポンッ
鉄網「え、そ、その……」ウー・・・
怖くない訳無いだろう。人間かどうかも定かではない【何か】に触れられているのだから。
【駒場】「そういう事ではなく……まぁいい。歩きながら、話そう」ポンッ
鉄網「は、はい……」コクン・・・
怖がるな……自分は読心能力者。相手を探る専門家だ。自分が探られる様な事があってはならないのだ。
そう強がりつつ、【仮面】に背中を押され先へ進んだ。 - 239 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/27(金) 00:39:29.81 ID:qBzmVqNj0
- 研究所内に入り廊下を進む間、『黒妻』は知り合いの警備員から言われた言葉を思い出した。
『子供を撃つな。子供に銃を持たせるな』
今、まさに銃を持った子供(チャイルドソルジャー)が目の前に居る。
その子はまるで小動物の様に震えながら、只管暗い廊下を小さな歩幅で急いで進んでいた。
鉄網「もう11時……此処、電気つけないのかなぁ……」オドオド・・・
【駒場】「鉄網といったな……やはり、怖いか?」ボソッ
鉄網「え、い、いや……別にそういう訳じゃ……」アタフタ・・・
【駒場】「嘘が下手だな……」フッ・・・
鉄網「あ、ぅ……」ムゥ・・・
下っ端AB((鉄網ちゃん、可愛いなぁ))ムフフ・・・
普通で有れば、家で寝ている時間帯だろう。
【駒場】「安心しろ。オバケなんか、出ないぞ」クスッ
鉄網「そ、そんなオカルト染みたものに怯える程子供じゃありません!」ムンッ!
【駒場】「ふふっ……そうか。現代っ子だな」クスクス・・・
鉄網「んもぅ……」ムスー・・・
【駒場】「それとも、手塩恵未の方が怖いか?」ジー・・・
鉄網「……手塩さんは優しい人です。皆は苦手がりますけど、私はそう思いません」テクテク・・・
【駒場】「そうか……そうだな」クスリ・・・
暗部に居て尚、人望はある様だ。
手塩「……神さん」ボソッ
神「【アイツ】に関しては何も答えん。というか、本当に知らん」サラッ・・・
手塩「……そう」ムッ・・・
自分の知っている『駒場』に、類似し過ぎている。特にあの本当は温厚で優しい性格。
【駒場】「……君くらいの子供を、預かっていてな」ボソッ
鉄網「え」
【駒場】「色々問題のある子なのだが、良い子だよ」
鉄網「貴方……学校の先生か何かですか? それとも児童施設の関係者?」
【駒場】「それは楽しそうな仕事だ。だが、この容姿では無理だろう」
鉄網「ふふっ。そうですね……あ、でも動物感覚で人気になるかもしれませんよ。熊とか馬とか」クスッ
【駒場】「……きっと身が持たないな」ハハッ
嘘をつけ。そのガタイで何を言う……とツッコミたかったが押さえておいた。 - 240 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/27(金) 00:59:48.04 ID:qBzmVqNj0
- 【駒場】「ところで……君は此の仕事、長いのか」チラッ・・・
鉄網「え、別に……最近という訳でもないけど……如何してそんな事?」
【駒場】「いや……君くらいの年頃の少女は、意外と暗部に多いのでな……不思議に思うのはおかしいか?」
鉄網「……いえ。そう考えるのが当たり前かと」アハハ・・・
【駒場】「その判断が出来るのに……」フム・・・
その先は言わない。何故か仲の良い少女の事を思い出してしまったからだ。
この先を言えば……彼女に『卒業』を勧めてしまいかねない。今はまだ、それは早計。
神「……だそうだ。如何考える、警備員」ククク・・・
手塩「……」
神「まぁ俺が如何こう言えた立場じゃないか。軍覇を扱き使ってるしな」ハハハ
削板「自覚有るのかぃ……逆に性質悪ぃぞ、ジジイ」ジトー・・・
神「安心しろ。そう簡単に壊れやしない、そういう輩だろ」ククク
削板「あー僕はナイーブなんだよ。だから酷い事しないで欲しいなー(棒)」
手塩「……仲が、良いのだな」クスッ
削板「……姉ちゃん、目ぇ腐ってんじゃねぇの?」ウヘェ・・・
そうは言うものの、世界最高の『原石』に対してこれだけフレンドリーに近づく研究者も珍しい。率直な感想だ。
神「もう着く……あ、少し待て。中が汚ないのでな。ソファくらいは綺麗にしてくる」チラッ・・・
【駒場】「……急げよ。客人はあまり待たせるモノではない。(そういや、中に半蔵居たんだっけ?)」コクッ
手塩「気にしないで欲しい。客人と呼ばれる程、高尚な者ではないよ。私達は」ジー・・・
神「そう言うな。少しくらい待て……軍覇来い」グイッ
削板「ぐぇっ! す、少しは愛情をぉ!」ズルズル・・・
部屋の前に残された4人と【仮面】。
下っ端AB「「……」」チラッ・・・
【駒場】「……」ドドドド・・・
正直、気拙い。 - 241 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/27(金) 01:34:47.07 ID:qBzmVqNj0
- 鉄網「手塩さん……これから如何するんですか?」ボソッ
手塩「……」チラッ・・・
【駒場】「オレを気にするな。別に、告げ口などせん」
手塩「そう……とりあえず、私が交渉する。貴方の出番は、まだ先ね」
下っ端A「我々は?」
手塩「A(アーチ)は、鉄網の護衛を。B(ボーイ)は、外との連絡を取れる様、回線を保って」
下っ端B「了解です」
時間はある。なるべく穏便に行こう。
【駒場】「……流石だな。無駄な血は流さない。流したくない、と」
手塩「悪いかな?」チラッ・・・
【駒場】「いや、賛成する。手塩恵未」ククク・・・
手塩「……」フンッ
鉄網「……あのぉ」ジー・・・
手塩・【駒場】「「ん?」」ピクッ
鉄網「二人は、お知り合いで?」ジー・・・
純粋な質問。だが地雷。
手塩「……確証は無い。けど多分、知ってるかも」チラッ・・・
鉄網「ふぇ? かも?」ポカーン・・・
【駒場】「……ノーコメントだ」
手塩「鉄網。【この男】に関しては、貴女が知る必要、ないから」ニコッ
鉄網「……はい」ウーン・・・
幼い者ほど、好奇心は旺盛。止められれば止められるほど気にはなる。
しかしチーフの手塩が念を押すのだから、安易に詮索は止そう。覗く者はまた覗かれる。心理学の真理だ。
さておき『黒妻』は考える。
手塩と如何話をするべきか。この期を逸っしたら、もしかして二度と彼女と接触できなくなるやもしれない。
逆に手塩も悩む。
個人的な交友とはいえ『知人(死者)』の名を騙る【コイツ】を調べるべきだろうか。ただそれは、とても危うい事。
結局、この場では無言が続いてしまった。 - 242 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/27(金) 02:03:49.14 ID:qBzmVqNj0
- ―――一方、室内では……
半蔵「……あのさ、先に連絡してくれるなりなんなりあったんじゃねぇの?」ハァ・・・
神「仕方なかろう。他に場所が無い」
半蔵「いや、外で良いだろ! 何で態々此処連れてくんだよ!」
神「俺の研究所だ。何しようが勝手だろ」
半蔵「……頭痛ぇ」ハァ・・・
削板「ハハハ。ジジイに何言ったって無駄だぞ。根性ひん曲ってるからな」ケラケラ
その通りだ。コイツらには常識が通用しない。
半蔵「……とりあえず、ヤツらの目的は『原石』か『狂人』なんでしょう? 如何すんですか?」ジトー・・・
神「さぁ。話を聞いてからでないとな」
半蔵「こ、いつ……」プルプル・・・
神「とりあえず他の連中は隠れる様伝えておけ。特に土御門はヤツらと接触すべきではないだろう」
半蔵「言われなくてもそうしますっての……」カチカチ・・・
頭を掻きつつ、急いでメールを回す。そして最後に電話。
半蔵「もしもし。郭か」
郭『はいはい。何か』
半蔵「オマエは外の部隊の監視をしろ。それからスネークにこの室内を屋上から狙えるポイントに移動させろ」
郭『了解です……半蔵様は?』
半蔵「……俺は兄貴に付く。何かあったら拙いからな。兎角、頼んだ」Pi!
後はなるようになるしかないか……
半蔵「俺は天井に行く。アイツらとの交渉はアンタの勝手だが、兄貴に関しては他言無用でな」スッ・・・
神「大丈夫だ。心配は軍覇が口を滑らす事だけだろう」ククク・・・
削板「安心しろ! 俺の根性が口を強固にするぜ!」フフフ・・・
根性論ほど信用ならんモノは無いが、信じるしかあるまい。
半蔵はヤレヤレと音を立てずに物陰に消えて行った。 - 247 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/28(土) 22:54:04.63 ID:apZSxBHm0
- ―――とある翌日、PM11:20、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所所長室……
暫くして、所長が入れと外の5人を中へ呼んだ。多分中に居た半蔵を何処かに移動させたのだろう。
ブロックの4人の内、手塩と鉄網はソファに腰掛け、残る二人はその背後に立つ形となる。
所長は自分の椅子に、第7位は如何でも良さそうに窓の外を眺めている。
とりあえず、と【仮面】はドアの前に立ち彼らのやりとりを見遣る事にした。
神「さて……まずコーヒーでも出した方がいいかな?」
手塩「必要無い。手短に、用件を述べます」サラッ
神「相変わらずつまらない女だな、君は……それとも変な所で佐久に感化されたか?」ジトー・・・
手塩「彼は、関係ありません」
神「ふっ。まぁ良い。それで?」チラッ・・・
本題に入る様だ。
手塩「用件は、二つ……鉄網。資料を」チラッ・・・
鉄網「はい……ええっと、この二枚ですね」スッ
手塩「うん……神さん、これ」
所長は面倒臭そうに二枚の紙を受け取り、ヤレヤレと資料を眺めた。
神「どうも御丁寧に『原石』と『狂人』の話題か」ハァ・・・
手塩「まず『原石』から……貴方は『コイツ』を、知っていますか?」
神「ああ、知ってる」
手塩「この施設に?」
神「居る訳なかろう。オマエは馬鹿か?」ジトー・・・
手塩「……」ジー・・・
疑いの眼を向ける手塩。一体、どんな人物だ。
神「ったく……軍覇」チラッ・・・
削板「ん?」
神「『ホワイトプレイヤー』って『原石(貴様の仲間)』なんぞ、この施設に居ないよな」
削板「は? 誰それ?」ポカーン・・・
神「……ほらな」ニヤッ
手塩「……彼がそう言うのなら、本当なのね」ムゥ・・・
純粋馬鹿には嘘は付けないという基準らしい。
それよりも……『ホワイトプレイヤー』って何だ? - 248 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/28(土) 23:18:14.31 ID:apZSxBHm0
- 神「居るかどうかも定かではない『原石』の事だ。『未来移動(タイムトラベル)』なんて馬鹿げた能力と言われている」
【駒場】「……随分とまた、SFチックな能力だな」タラー・・・
神「まぁ確かに誰もが欲しがる『原石』だが……何故コイツに拘っている?」チラッ・・・
手塩「さぁ。上(スポンサー)の指示よ。私が知る所では、ない」
神「だろうな。オマエ個人は『過去』の方が気になろう」ククク・・・
手塩「っ……」グッ・・・
神「『ホワイトプレイヤー』は『未来』への干渉だ。オマエの欲するモノではない」カチッ・・・フゥ・・・
まるで他人事。自分の世界に入ったかの様に煙草を吹かす。
神「それで、上には如何報告する? 居なかった、で済ますのか?」
手塩「……此処に居る『原石』のリストは、貰えませんか?」
神「馬鹿言うな。俺が貝継にネチネチ言われてしまうだろ」
手塩「では、一応読心を」ジー・・・
神「……構わないが、良いのか?」
手塩「……貴方では無く、第7位の方を」チラッ・・・
削板「え、俺?」ポカーン・・・
鉄網「て、手塩さん?」キョトン・・・
何故、所長に真偽を問わないのだ。
手塩「鉄網……貴女の能力は、凄い。正直に認める。だけど……それに反して、心が未熟」チラッ・・・
鉄網「うっ……分かってますよぅ……でも、仕事ですからキチンと」
手塩「私より『闇』が深い彼の心を、貴女が覗いたら……精神崩壊を起こしかねないよ」
鉄網「っ!!」ギョッ・・・
神「ハハハ、別に構わん。どうぞ覗いてみろ、俺の『運命』を」ククク・・・
『闇』とか『運命』とか、良い歳した大人が厨二病だと部下が困るだろう。
さておき、鉄網は手塩の指示通り第7位の読心をする事にしたらしい。
削板「あー、どうすりゃいいの? 握手だけ?」キョトン・・・
鉄網「ええ。余計な解析はしないので……貴方も余計な考えはしないで下さいね」グッ・・・
削板「おう」ジー・・・
数秒後……
鉄網「……分かり辛いけど、やはり嘘は無い様です」ウーン・・・
手塩「そう。分かった」
削板「あれ、もう終わり?」キョトン・・・
鉄網「貴方の心、ごじゃごじゃしてて分かり辛いんです。もう読みたくない」ハァ・・・
多分血液採取の時、血管見えないタイプの人間だな。 - 249 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/28(土) 23:55:47.24 ID:apZSxBHm0
- 手塩「……『原石』に関しては、以上です。ご協力感謝します」
神「ああ、それでもう一つは……ふーん」ジー・・・
先程渡された資料を再度見遣る。
手塩「先日、第23学区にて、違法な武器取引を、仕出かしていた者です。多分、君が捕まえたんじゃないかな」チラッ・・・
削板「俺が? うーん……色んな根性悪い奴等捕まえてっからなぁ」
手塩「資料を見れば、思い出すと思うよ」
削板「おう。ジジイ見せろ」チラッ・・・
神「ん」スッ・・・
削板「む……字が小せぇ」ハァ
神「相変わらず馬鹿野郎だな」フンッ…チラッ・・・
同レベルと言いたいのだろうが、コチラを見るな。
手塩「……『水鉄砲』の取引よ。覚えてない?」
削板「は? みずてっぽー?」ポカーン・・・
【駒場】「随分と、可愛いモノを取引するのだな」
神「……やはり、貴様も馬鹿だな。喋るな。ボロが出るぞ」ハァ・・・
【駒場】「……」ハァ・・・
手塩「ま、まぁ『水鉄砲』とは。名ばかりで、実際は『能力活用』武器の一つだよ」
能力活用武器。
確か、テレスティーナが使っていた駆動鎧に搭載されてる『疑似超電磁砲(ニア・レールガン)』も、それだったな。
手塩「水流使い、水質操作、水圧変化……水力系能力(チカラ)を集約した銃剣だ」
鉄網「ウォーターカッターとか、超水圧弾とか……そんなのです」
削板「ああ! 居たなぁ、そんな連中! ベルト切られてパンツ一丁のまま戦ったぞ、うん」
下っ端A(いや、普通腹真っ二つだぞ)タラー・・・
下っ端B(アイツに常識望むなっつの)ハァ・・・
……兎角、優れた能力はいつの時代も戦場で利用される様だ。
ノーベル大先生涙目だぜ。 - 250 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/29(日) 00:42:56.56 ID:JOCPNvNu0
- 神「それで……確か元外交理事だった男だな。政治犯として精神病患者扱い(収容)されてる」
手塩「はい」
神「そいつを如何したいんだ?」
手塩「出来れば、引き渡しを。とある上(スポンサー)の、元部下らしいので、自分で『ケジメ』を……との事です」
神「バックスポンサーの話を出すなよ。その話は頭が痛くなる……」ハァ・・・
そういえば麦野さんが『誰』にかは分からないけど、偶に電話でヘコヘコしてるのを見た事が有る。
暗部といっても組織だ。一筋縄ではいかないのだろうな。
土御門『そういう事だぜぃ!』Pi!
【駒場】「っ!!?」ギョッ!
突如聞こえた【道化】の声。
土御門『心配すんな。マスクの裏っ側に通信機を付けてる』
【駒場】「……」タラー・・・
土御門『音漏れは気にしなくて良い。ただアンタは喋るなよ? 左耳を塞いで、念じる様に心で話してみろ』
【駒場】(……こうか?)
土御門『そうそう! 良く出来ましたー』フフフ!
凄いな。これも能力活用か?
土御門『うーん……魔力を使わない魔術(マジック)ってヤツ?』
【駒場】「は?」ポカーン・・・
一同『ん?』チラッ・・・
土御門『こら馬鹿! 声出すな!』アニャニャニャ・・・
【駒場】「……んんっ。すまん、煙草を喫ってくる」コホンッ・・・テクテク・・・
神「……別に此処で喫っても構わんぞ」ジー・・・
【駒場】「子供が居る場では、喫わん。外に出る」
鉄網「え、あ……すいません」ジー・・・
手塩「……駒場、か」クスッ
逃げる様に一旦外に出た。
土御門『バーカ』クスクス・・・
五月蠅ぇ。手前の所為だ、アホ。 - 251 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/29(日) 01:10:29.84 ID:JOCPNvNu0
- ――引き続き、所長室内部……
手塩「……続けます。確かに、此処の『狂人』を、勝手に外に出しては、色々と問題でしょう」
神「分かっているなら始めから諦めて欲しいな」
手塩「ですので、尋問を任せて貰いたい」
神「……尋問?」ジー・・・
この施設に収容されている『狂人』は皆、ある程度の秘密は持っている。
特に政治犯ともなれば尚更だ。
神「……何を聞き出したい。場合によっては俺がしておくぞ?」
手塩「貴方に任せたら、大事になるでしょ……鉄網に、任せるつもりでした」チラッ・・・
神「読心、か。まぁ内容によるぞ」
手塩「先程述べた『水鉄砲』の隠し場と、援助を受けていた結社の、聞き出しです」
神「その程度の事か……何故事前に調べられん? その程度容易かろう?」
するとブロックの一同は苦そうな顔をして、第7位と所長の顔を交互に見た。
手塩「基本、削板軍覇が捕まえた犯罪者は、此処に収容される」
削板「ああ。ジジイが連れて来いって言うからな」
手塩「しかし、そうなると……他が中々介入できない。特に暗部は、『新入生』のスカウトの場を失う所か、機密の尋問さえも出来ない」
神「まぁな。俺は暗部という形が嫌いだ。堂々と悪い事しやがれ」ハハハ
手塩「……暗部は、必要悪なのです。貴方だって、分かる道理でしょう」
神「必要悪だぁ? ……逃げ口上だろ。汚れ仕事の」フンッ
白でなければ黒。灰色もまた黒なのだ。
神「もし知りたかったら『警備員』として正式に取り調べ証を持って来い。それとも、表立っては拙いのか?」ニヤッ・・・
手塩「……」タラー・・・
鉄網「て、手塩さん……」チラッ・・・
削板「やっぱり、良い根性してんよ……可哀想になってくるぜ」ハァ・・・
神「喧しい。裏でこそこそしてるヤツらの言葉など、耳に入れる必要は無い。俺の信条だ」
天井に隠れている半蔵は内心ドキッとした。 - 252 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/29(日) 01:45:20.29 ID:JOCPNvNu0
- 手塩は悩む。
上からは強行してでも情報を聞き出して来いと、命令されていた。
しかし正直この程度の任務で強行突破はしたくないし、何より目の前のバケモノ二人に牙を剥きたくない。
次の手を考えようとした時……部屋のドアが開いた。
【駒場】「……失礼」ガチャッ
手塩「……」チラッ・・・
【駒場】「小難しい話は終わったか?」
神「いや、余計難しくなりそうだよ。スポンサー様々の関係でね」クスクス・・・
【駒場】「下らない」ジトー・・・
一同同意。
神「……そうだな。ではこういうのは如何だ?」チラッ・・・
手塩「え」キョトン・・・
いきなりの提案。更なる驚愕。
神「【ソイツ】はある種、公の存在であり裏の存在でもある。謂わば俺承認済みの暗部役だ」ニヤッ・・・
【駒場】「……は? (そうなの?)」
土御門『知らん。だけど話合わせとけ』
手塩「……それが、何か?」
神「【ソイツ】を通せ。公的な取り調べとしてな。それなら構わん」ニヤリ・・・
それは公的とは言わないぞ。
手塩「如何いう、意味だ」
神「【ソイツ】にメリットがあれば、動いてくれる。例えば……その外交理事によって無能力者が何らかの犠牲になった、とか」
手塩「……」ジー・・・
成程。そのついでと言っては何だが、武器の在り処と協力関係にあった結社を聞き出せという訳か。
手塩「『狩り』は知っているな……ヤツは、ある『狩り団体』の主催者に、武器を流していた……という噂が有る」ボソッ
神「ほぉ……十分だ」ニヤッ・・・
手塩「あくまで噂、だぞ……『水鉄砲』の様なモノではないが、普通の銃器をだ」
神「……だそうだぞ。【駒場利徳】」チラッ・・・
何だか信憑性の低い話だが……要は話に乗れという事だろう。
土御門『ああ。それにその話が真なら新たな情報ゲットだし、手塩らに貸しを作れる……乗っても良いぞ』
【駒場】(半蔵は?)
土御門『……多分、センセの意志に任せるだろう』
そんじゃあ、乗るっきゃないか。 - 253 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/29(日) 02:46:46.17 ID:JOCPNvNu0
- 【駒場】「……所長」
神「ん?」
【駒場】「少しでも『狩り』に関する手掛かりが有るのであれば……オレは動くぞ」チラッ・・・
神「……だそうだ」ククク・・・
『狩り』……要は無能力者を狩るゲームの略称だ。
心許無い能力者が暇潰し感覚で始めたこれ等が、今や裏の社会問題にまで発展している。
性質悪いのは、その遊びに大人がスポンサーとして付きだした事。
手塩「……では、頼めるか」ジー・・・
【駒場】「オマエらのはあくまで、ついでだ……構わんな?」
手塩「ええ」コクッ
【駒場】「因みに、手塩恵未。そこの少女を借りても構わないのか」
手塩「鉄網を?」
【駒場】「読心能力者なのだろう? ヤツから事の真偽を聞き出したい」
鉄網「え、えっと……」オドオド・・・
所長の方を見遣る。
神「……好きにしろ。ただし武器は預かる。良いな?」
手塩「はい、感謝します」コクッ
【駒場】(……っつー感じで良いか?)Pi!
土御門『ま、上手くやれ。でも如何すんだ? マジで尋問すんのかにゃ?』
【駒場】(基本は鉄網ちゃんに任せるよ。だがもし……『狩り』に関して、マジで情報持ってたら……)
土御門『……任せた』Pi!
場合によっては……な。
神「では行こうか。もう夜も遅い……軍覇。山崎を呼んで来い。病棟に移る」スタッ
削板「もう眠いんだけど……」ムゥ・・・
神「あ?」ギロッ・・・
削板「……うぃ」テクテク・・・
トボトボと部屋を出る第7位に続き、一同は外に出た。 - 257 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/31(火) 22:47:38.72 ID:6OUMuH5Y0
- ―――とある翌日、PM11:40、学園都市第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、西・精神病棟……
研究所を出て数分、西側の別棟に移る。
先程の『原石』の研究施設とは打って変わって、物々しい雰囲気の建物。
手塩「……病院の、何処に向かうの?」チラッ
神「カウンセリングルーム……要は取調室だな。そこを使う」テクテク・・・
鉄網「病院なのに、取り調べ。物騒ですね」ムゥ・・・
神「病院なんてのは名ばかりだ。知っての通り、実際は頭のネジがブっ飛んだ連中の監獄だよ」フンッ
能力者の様に頭を弄られて無いのに、キチガイ染みてる連中だと鼻で笑った。
土御門『もしもーし。気を付けろよー』Pi!
【駒場】「……」テクテク・・・
土御門『さっきアッチの病棟は見学したが、所詮建物見学だ。「狂人」を見て回った訳じゃねぇ』
【駒場】(分かってる。個人的には手塩さんの動向の方が怖い)
土御門『まぁそっちはショチョーさんに任せとけ。因みに、服部から連絡の連絡だが配置変えしたって』
半蔵は【仮面】を追尾。土御門は病棟へ先回り。郭ちゃんと海原が東・研究所で『原石』の護衛。
そして御坂妹ちゃん二人は塀の外の兵隊達の監視に移動、との事。
【駒場】(監視必要か?)
土御門『手塩恵未の動きに注意するんだろ? 今怖いのはヤツ個人より外で待機している2個小隊だぜぃ』
【駒場】(……スネークちゃんと春子ちゃんだけで大丈夫なのか?)
土御門『まぁ妹達の中でもズバ抜けてるのが一人居るからにゃ。心配すんな。指揮は服部がちゃんと出してるっぽい』
相変わらず現場に出たがらない男だ……土御門も半蔵も。
神「そろそろ着くぞ。規則で手錠を付けられないから、俺と軍覇がヤツを連れてくる。待機室で待ってろ」
削板「えー。俺も行くのか? 地下牢の方?」ジトー・・・
神「グチグチ抜かすな……恵未。余計な場所へ行くなよ。【駒場利徳】、キチンと監視しておけ」テクテク・・・
念を押すように告げる。そして5人を待機室へ案内した後、2人は地下の方へ降りて行った。 - 258 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/31(火) 23:18:36.31 ID:6OUMuH5Y0
- ―――一方、メインゲート屋上・・・・・
御坂蛇「……やれやれ、物騒だ。とミサカは下の兵隊どもを観察します」ジー・・・
御坂春「17600号。何ですか、その銃……とても羨ましいんですけど。とミサカは羨望の眼で貴女の銃を見詰めます」ジー・・・
御坂蛇「ふふふ、良くぞ聞いた……AR-15カスタム……『パトリオット』です! とミサカは誇らしげにゲッチュした銃を自慢します」ドヤッ!
御坂春「ちょ、私達にはF2000R(トイソルジャー)という新世代ライフル渡されてるでしょ! ミサカは勝手な新装備を手に入れてる貴女に――」
御坂蛇「はいはい。嫉妬の眼は苦しいです、14510号。これは私の実力(※嘘)で手に入れたモノ。とミサカは立て続けにドヤ顔します」フフフ・・・
御坂春「――ぐ、ぬぬぅ……」
御坂蛇「悔しければ愛しの『彼』にでもオネダリしてみれば如何です? とミサカは少々意地悪な言葉をぶつけてやります」ニヤッ・・・
御坂春「」ブチッ・・・
御坂蛇「まぁ冗談はさておき……私達の帰りのバンが荒されない様、監視を―――っ!!?」ギョッ・・・
御坂春「……」カシャッ!
御坂蛇「……14510、号?」タラー・・・
御坂春「……MNW内に、その銃の写真流します」ジー・・・
御坂蛇「な……待て! わ、私が悪かった! だからコレは私達だけの秘密に――って、ぎゃあぁっ!! クレクレ厨共黙れえぇっ!!」ギャー!
御坂春「すねぇーくぅ……今のはミリヲタ板です……次は速報板に流しますよ? とミサカは貴女を脅します」ニヤリ・・・
御坂蛇「ば、馬鹿な真似は止めて……運営にばれたら、色々と面倒な事に……」ハラハラ・・・
御坂春「では……如何すれば良いか、分かりますよね?」フフフ・・・
御坂蛇「ぐっ……ぱ、パトリオットは渡せませんが、所長に貴女専用の銃を注文してあげます……これで良いですね?」グヌヌ・・・
御坂春「OKOK! 演算機能付きの対物ライフルでよろしくー!」ウッシ!
御坂蛇「チッ。自分で頼めよ……その前に、先程の写真は釣りでしたと宣言してください。とミサカは懇願します」ジトー・・・
御坂春「はいはい……って、あ」タラー・・・
御坂蛇「……如何しました?」ジー・・・
御坂春「……てへぺろっ☆」エヘッ♪
御坂蛇「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!? 速報に載ってる!!?」ギョッ!?
御坂春「あー……12345号が告げ口したみたいだね……とミサカは……げ!? やっぱり運営にもばれてーら」アハハ・・・
御坂蛇「あ、の……腐れジェバンニ娘えええぇっ!! いや、その前に貴様だ! 春子!!」ガアアァッ!!
御坂春「きゃあああああぁっ!!」イヤアアアァッ!!
ブロック兵s『……何アレ?』ポカーン・・・
- 259 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/05/31(火) 23:46:47.66 ID:6OUMuH5Y0
- ――再び、待機室・・・・・
さて、そろそろ元外交担当の理事さんがお出ましする。
手塩「……」チラッ
【駒場】「……何か?」
手塩「……ホントに、任せて良いの?」ジー・・・
【駒場】「信用ならんか」
手塩「そういう訳じゃない、けど……」
あからさまな演技をしてまで付き合ってくれるオレへの不信、というより不安か。
何か裏が有るのではないかと思っているのだろう。
【駒場】「……オレに対する信用云々は知らんが、オレはアンタをそれなりに信用している。それでは不服か?」
手塩「……貴方、本当に『駒場』なの?」
【駒場】「さぁな。だが志は今も昔も『駒場利徳』だよ」
手塩「……分からない」ハァ
そりゃ分かられたら困る。
下っ端A「……チーフ。さっきから気になってたんですが『駒場』って名前、何処かで」ジー・・・
手塩「調べれば出てくる。ある筋では、かなりの有名人」
下っ端B「有名人……凄い能力者とかですか?」
手塩「……無能力者」
鉄網「む、無能力者なのに有名人なんですか?」
手塩「一時期、最大勢力を誇った、武装無能力者集団の、頭……でも、故人の筈」
鉄網・下っ端AB「「「っ!!?」」」ギョッ・・・
それを言ったら『黒妻綿流』も故人の筈なんだけど。
【駒場】「生死など些細な事……目的や志が生きてれば、問題無い」
手塩「力無き者達の、代弁者。そう言いたい訳?」
【駒場】「そこまで大袈裟なモノではない。それを為すとしたら……真の大人足る、貴女や黄泉川愛穂の様な警備員だと、オレは考える」
手塩「過大評価よ……愛穂には、出来るかもしれないけど、私には……」ムゥ・・・
そこで言葉が止まる。そして所長が来るまで、誰も口を開かなかった。 - 260 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 02:40:10.08 ID:x8oUuAvt0
- 神「……準備が出来た」ガチャッ・・・
面倒臭そうな表情で所長が戻ってきた。
【駒場】「……どういう形式で面会すれば良い?」
神「特に形式など無い。【オマエ】と読心能力者の嬢ちゃんだけ部屋に入る。それでいいだろ」
鉄網「え、あの……理事の方は?」
神「机に座って待ってるよ。どうも眠いとこ無理矢理起こしたようで機嫌が悪い様だがね……気にするな。ヤツに人権など無い」
勧善懲悪主義か。
神「入口には軍覇を置く。何かあればヤツが黙らせるだろう。安心して質問なり尋問なりするがいい」
【駒場】「……分かった。行くぞ」テクテク・・・
鉄網「あ、は、はい!」ドキドキ・・・
手塩「……利徳」ボソッ
【駒場】「……」チラッ・・・
手塩「最悪、その子を守ってくれ……頼む」ジー・・・
鉄網「て、手塩さん!?」ギョッ・・・
やはり……この人は、この人か。
【駒場】「……」コクン・・・テクテク・・・
手塩「ありがとう。よろしく頼む」ペコッ
下っ端AB「「……」」ペコッ・・・
神「……ふっ」ククク・・・
手塩「……何か?」チラッ
神「いやぁ、なぁに……どうして心持は同じでも、こうまで境遇が違うのかと嘆かわしくなってな」ククク・・・
手塩「っ……私と、愛穂を比べないで……彼女に失礼よ」
神「そうかいそうかい」ククク・・・
やっぱり……アンタも大人なんだよ。手塩恵未(警備員)。 - 261 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 02:57:17.83 ID:x8oUuAvt0
- ―――翌々日、PM00:00、第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、西・精神病棟、カウンセリングルーム……
所長、他3名は部屋の外からカメラでオレらの遣り取りを視るらしい。
さて……いざ部屋に入る前、第7位に声を掛けられた。ヤツは力はそう無いが『大人』として歪んでいる、と。
【仮面】は頷き、少女と共に部屋に入った。
中に居たのは……何処にでも居そうな、小太り白髪の容姿をした中年男性。
名前は何やらややこしかったので、元外交官とでも呼んでおこう。
【駒場】「……」テクテク・・・
鉄網「こ、こんばんは」コクッ
元外交官「こんばんはも糞も無いだろう……何時だと思ってる?」ジトー・・・
気味の悪い甲高い声。
元外交官「取り調べだか何だか知らんが、睡眠時間くらいは保証して貰いたいものだな」
鉄網「す、すいません……」シュン・・・
【駒場】「だったら、嘘をつかずに全てに答えろ。嘘の分だけ長引くぞ」
元外交官「……何だ、貴様は? マスクでの審問官など今時笑いモノだぞ?」ハハハ
【駒場】「減らず口を叩いてもやる事は変わらん。黙ってろ」
低い声で、威圧を掛ける。
それから少女を席に着かせ、【仮面】は質問を始めた。
【駒場】「早速始めるぞ……」
元外交官「黙秘権は?」
【駒場】「有ると思うか?」
元外交官「……」
【駒場】「嘘をついても無駄だぞ。この子は読心能力者だ」
鉄網「は、はい」コクッ・・・
元外交官「チッ……何だ」フンッ・・・
では最初の質問……まずはこの子達の用事から済ませる。 - 262 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 03:12:38.74 ID:x8oUuAvt0
- 【駒場】「まず……『水鉄砲』。それの在庫を何処に隠した?」
元外交官「……さて、何処だったかね」フム・・・
【駒場】「嘘は、無駄だぞ」
元外交官「嘘など付いていないだろう。少々物忘れが酷くてねぇ」クスッ
詭弁を。
【駒場】「……鉄網」チラッ
鉄網「え、えっと……その……」タラー・・・
【駒場】「……何だ?」ム?
耳を貸してと呟かれる。
鉄網「実は……私の能力、応用利かなくて……」
【駒場】「ん?」
鉄網「相手の手を握らないと……」ムゥ・・・
【駒場】「……分かった」コクッ
簡単に説明を受け、それを伝える。
【駒場】「すまない。待たせた」
元外交官「おいおい。そのお嬢さん、使い物になるのかね? 先程から怯えてばかりじゃないか?」
【駒場】「汚職塗れの貴様よりはずっと優秀だ。御託は良いから続けるぞ」
元外交官「はいはい」ハァ・・・
【駒場】「……じゃあ手を出せ」
元外交官「は?」
【駒場】「手だ」
戸惑う中年男。
元外交官「……ほら」スッ・・・
鉄網「あ、はい……続けて」ピタッ
元外交官「おやおや。若いお嬢さんの手に触れられるなんて、オジさんとしては嬉しい限りだねぇ」フフフ・・・
鉄網「っ!」ビクッ・・・
【駒場】「余計な事を言うな。次馬鹿の事を言ったら、タダじゃ済まんぞ」
元外交官「はいはい。それではそれでは」フフッ - 263 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 03:30:48.23 ID:x8oUuAvt0
- 【駒場】「まず『水鉄砲』を何処に隠した?」
元外交官「……何処、という言葉では表せんな」フンッ
【駒場】「……曖昧な表現をするな」
元外交官「いやいや、本当本当」コクコクッ
これでは心を読めない。少女も困っている。
【駒場】「痛い目見なければ、分からんか」スッ・・・
元外交官「っ!? ま、待て! 何も嘘は言っとらん!」アタフタ・・・
【駒場】「では如何いう事だ」グッ・・・
中年の小指を握り、机と直角程に曲げてやる。
元外交官「っ!! ち、散らせた! だから正直分からんのだ!」
【駒場】「散らせた? では在庫数は?」
元外交官「わ、私の知る限りでは50は有った……だが正直現状は知らん! 量産されていれば最早一人歩きだ!」アタフタ・・・
【駒場】「……」チラッ
鉄網「……嘘では無い様です」
成程、性質が悪い。
【駒場】「では協力者、援助を受けていた結社が居るな」
元外交官「そ、それは……っ……」ゴクッ・・・
【駒場】「都市内部、か? それとも外部か?」
元外交官「……知れば、後悔するぞ」ギリッ・・・
【駒場】「……分かった」フンッ
鉄網「え、な……」
簡単な話だ。コイツは我々を都市の人間だと分かっている。しかも暗部の類と。
つまり、そういう手合いに後悔の念を抱かせる様な協力者……
鉄網「……り、理事会」タラー・・・
【駒場】「しかし……理事会(供給する側)が有れば、相手(需要ある側)も居る。国内か? 海外か?」
元外交官「……私の身の安全は絶対だな?」
【駒場】「あの所長と第7位の監視下より安全な場所が有るか?」
元外交官「……―――」
ベラベラと語り出す中年男。鉄網の顔を見るに、嘘偽りなく吐露している様だ。
成程、第7位が言った通り大した器の男では無いな。 - 264 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 03:47:29.09 ID:x8oUuAvt0
- * * * * * * * * * * * * * * * *
手塩「……」ムゥ・・・
下っ端A「ち、チーフ……上が別理事の指示だったとあれば、我々には如何にも……」
手塩「仕方ない。佐久にそのまま、伝えるしかないね」
下っ端B「在庫の回収も我々だけでは不可能です」ハァ・・・
手塩「……頭が痛くなる」ポリポリ・・・
神「ふんっ。一枚岩ではない暗部の弱点だな。別理事が関与してるとなると即座には動けん」
手塩「それは、貴方も同じでしょう」
神「何を言う。俺は何時でも勝手に動くぞ? その気になれば軍覇と一緒に『原石』達と外へ逃げてやっても良い」ククク・・・
手塩「……喰えない人だ」
* * * * * * * * * * * * * * * *
ある程度の暴露が終わり、一段落つく。
鉄網が何やらメモをこなす最中、中年男は嫌な汗を流していた。
元外交官「しょ、所詮私は『水鉄砲』の管理を任されていたに過ぎないんだ……今回だってあの⑦に邪魔されなければ『公務』として――」
【駒場】「では何故、統括理事が助けに来ない?」
元外交官「――そ、それは……まだ、タイミングが……」
【駒場】「貴様が別に『何か』をやらかしてたからだろう。捨駒には持って来いだったという訳だ」フンッ
元外交官「ぐっ……」ダラダラ・・・
それ相応の結果だ。悪い事をすればタダでは済まない。
【駒場】「……安心しろ。命の保証はしてもらえる。此処はそういう施設だ」
元外交官「……親船や貝継の様な穏健派など」
【駒場】「しかしヤツらの御蔭で暗部の粛清班から『制裁』を受けてない……違うか?」
元外交官「っ」
鉄網「こ、『駒場』さん……そろそろ」チラッ
余計な喋りが過ぎた。自分の質問へ移ろう。 - 265 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 04:05:29.17 ID:x8oUuAvt0
- 【駒場】「さて、では……『狩り』について。知っているか?」
元外交官「狩、り?」
【駒場】「無能力者狩り……元理事役員であれば、聞いた事くらいあろう」
次の瞬間……中年の顔が一転した。
元外交官「ああ! あの会員制クラブだな!」コクン!
【駒場】「会員制?」ピタッ・・・
元外交官「ん? 何だ、知ってて聞いたんじゃないのか?」
【駒場】「……詳細を教えろ」グイッ
元外交官「ちょ、ま、待て待て……何故そんな事を聞く?」タラー・・・
確かに、先の質問とは打って変わり過ぎだろう。だが……拒否権は無い。
元外交官「あ、アレに関しては私も会員だっただけで特に関与はしとらんぞ」コクンッ
【駒場】「……貴様も参加者だったのか?」チラッ
鉄網「で、でもこの人は能力者じゃないタダの役員ですよ」タラー・・・
元外交官「別に私が直接『狩り』を楽しんでいた訳ではない。あくまで一、スポンサーみたいなものだからな」
【駒場】「……加担するメリットは何だ」ギリッ・・・
元外交官「め、メリットだなんて……ただ催しだったり賭け事だったり、『商品』が素晴らしいから参加してるだけに決まってる」
何だ、それ。
元外交官「金に困って自ら催し物になった無能力者が何分間逃げられるか、とか。偶に能力者同士でのデスマッチもあったなぁ」クスクス・・・
成程……やはりコイツも『狂人』だ。
鉄網「もしかして……貴方は、その会に『水鉄砲』を提供した事あるんじゃ」ジトー・・・
元外交官「んー……そういえば、3丁程……あ、だがしかし私の金で貸したモノだから理事会的に何も問題は―――」
グキッ・・・・・
鉄網「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」ピタッ・・・
元外交官「ぎ、あ、ああああああああああああああああああああああぁっ!!?」ガタンッ!!
……我慢できなかった。 - 266 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 04:18:02.34 ID:x8oUuAvt0
- * * * * * * * * * * * * * * * *
神「理事会に見捨てられた理由……それが原因だろうな」
手塩「……良いの? 怪我したみたいよ」
神「別に構わん。人権など無い」
手塩「……」
神「それに……オマエだって、殴っていただろう? なぁ」ククク・・・
手塩「……多分ね」ジー・・・
* * * * * * * * * * * * * * * *
小指を折られ、椅子から転げ降りる中年男。
元外交官「ひ、ぁ……ふざける、な……こ、これじゃ拷問だぞ……っ……」ガタガタ・・・
【駒場】「鼻から、そのつもりだったよ……鉄網」チラッ
鉄網「は、はぃ!」ビクッ・・・
【駒場】「……戻って良いよ。後は一人でやる」
鉄網「で、でも……」オドオド・・・
【駒場】「大丈夫だ。コイツはもう嘘は付けん……な?」グイッ
元外交官「ひぃっ……」コクコク・・・
恐怖。
【駒場】「さて……『狩り』の会員制とやらについて、だ」ゴンッ・・・
元外交官「わ、分かった! 分かったから手を離せ! お、おい嬢ちゃん! 行くな! 助けて!」ガタッ・・・
鉄網「ひぁっ」ビクッ・・・
【駒場】「逃げるな」ガンッ!!
元外交官「ぶっ!」ゴンッ!
少女は、逃げる様に部屋を去った……これで良い。
【駒場】「さぁ……洗い浚い、答えて貰うぞ……憎たらしい大人。心許無い権力者!」グイッ・・・
正義という名の恐怖を振り翳す――― - 272 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 22:20:07.72 ID:x8oUuAvt0
- ―――翌々日、PM00:30、第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、西・精神病棟、待機室……
神「……あの馬鹿」ハァ・・・
手塩・下っ端AB「「「……」」」タラー・・・
カウンセリングという名の尋問室で繰り広げられている暴力行為。
モニタリングが付いている外の待機室で、4人は言葉を無くしていた。
下っ端A「あれ……アイツ、聞きたい事聞き出せてないんじゃ……」タラー・・・
手塩「……」ジー・・・
下っ端B「……あ、鉄網さん戻ってきた」チラッ
ドンヨリと、何とも言えない表情で戻ってきた少女。
手塩「大丈夫?」チラッ
鉄網「……はい」コクン・・・
手塩「少し休んでなさい……神さん、何処か座らせてあげたいんだけど」
神「奥のソファでも使え」
鉄網「すいません」テクテク・・・
やつれた顔の少女に水筒を渡す。
神「……あのガキ、無理矢理暗部に入れられた口か」フンッ
下っ端A「好きで暗部に入る輩なんて3割居るかいないかだろ」
神「まぁその鼻からっつうか、根っからっつぅか……暗部になるべくして成るヤツが『狂人』なんだ」
有名どころでは『木原』の一族とか。
神「貴様らのリーダー(佐久)もそれに近い気はするがな」フッ・・・
下っ端B「……」アハハ・・・
神「否定しないか。正直で何よりだ」ククク・・・
多分、アンタも狂ってますよ……とは言えなかった。 - 273 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 22:55:35.10 ID:x8oUuAvt0
- 手塩「暫く休んでて良いよ。貴女は十分、仕事した」ナデナデ・・・
鉄網「い、いえ……途中で抜けちゃってすいません……」
手塩「いいよ。此処から先は、『駒場利徳』の暴走みたいなモノだもの。貴女には、関係無いからね」ポンッ・・・
少女を宥めて戻ってきた手塩は、責任者たる神へ尋ねた。
手塩「神さん。彼、止めなくて、良いの?」
神「別に。ヤツの気の済むまでやらせればいい」サラッ
手塩「しかし、アレでは無意味だ。対象への生傷だけが増えて、効果的では……」
神「何処が?」
手塩「え」
モニターを指差す。
神「この中年デブ。今現在、小指以外に酷い怪我してるか?」
手塩「……ん」
神「ギャアギャアと根性の無いガキめ……大袈裟なんだ。どうせゲロするんだったら大人しくゲロしろ」
下っ端AB「「……」」ゾッ・・・
神「分かったのは『会員制』と『出資者(スポンサー)』って言葉だな……しかし肝心な所まで踏み込めてない」フンッ
アクションはオーバーで声も荒げてはいるものの、実際大きな怪我は小指だけだ。
胸倉を掴んだり、机に顔を押し付けたりしているのは恐怖演出のブラフなのだろうか。
手塩「流石、『駒場』の名を騙るだけの事は、あると?」
神「さぁな。だが効率的ではないのは確かだ。質疑応答がマトモに出来ていない……冷静さを欠いている」
手塩「……ふむ」
神「アレでは疲れるだけ、か……一度軍覇に止めさせるとしよう。それとも貴様が止めてみるか? 恵未」ククク・・・
手塩「遠慮する。第7位に任せるよ」コクッ
所長はカウンセリングルームの扉前に居る門番に電話を入れた。
門番の少年は二つ返事で了承し、部屋の中へ向かう。
神『とりあえず、今日はもう終わりと伝えろ。なるべく穏便にな』
削板「話通じんのか?」
神『上手くやれ。無理であれば、黙らせろ』Pi!
削板「……物騒だねぇ」テクテク・・・ガチャッ
削板は考える。成るべく、彼とは喧嘩したくないのだが、と…… - 274 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 23:17:25.67 ID:x8oUuAvt0
- 削板軍覇は部屋に入る。
扉と【仮面】と元外交官がいる空間には、大きな防弾ガラスで仕切られている為、彼らの行動をじっくり見る事が出来た。
外で聞いていた怒声や殴打音。中に入るとこれまた大きい。
削板「……ったく」ハァ・・・
じっくり聞く。
元外交官「も、ぅ……話せる事など、無いと、言うにぃ!」ガタガタ・・・
【駒場】「どうやって出資者になった……『狩り』が会員制だという事は、何らかの『会』があるのだろ……何処だッ」ガンッ!
元外交官「ひ、し、知らないぃ! わ、私も紹介されただ、け……ひゃっ!!」ビクッ!
【駒場】「では誰からだ……答えろ!」ググッ・・・
元外交官「と、匿名でメールが来た!! 嘘ではない!!」ヒィ!
【駒場】「そのメールは貴様の家にあるのか? ……渡せ」グリッ・・・
元外交官「ぎゃああぁっ!! 小、指は止めぇ……な、無い! もう消しぎいいぃっ!!」ジタバタ・・・
傍から見ても、無駄骨だ。もうあの男から絞り出せるモノなどあるまい。
削板少年は所長に言われた通り、【仮面】を止めに向かった。
削板「……邪魔するぞ」ガチャッ・・・
元外交官「ぎ、た、助けてぐれぇ……」バタバタ・・・
【駒場】「……何しに来た」チラッ
削板「ジジイからの伝言だ。終わりだってよ」ジトー・・・
その言葉に、元外交官は安堵する。しかし……
【駒場】「まだだ」グイッ
元外交官「っ!!?」ギョッ・・・
削板「……はい?」
【駒場】「まだコイツは答えていない……」グググ・・・
元外交官「ぐ、へぇ……だ、だから、もぅ……何もぅぐっ!!」ゲホゲホッ
これまた大分脳味噌が煮えたぎっている様だ。仕方ない…… - 275 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 23:32:40.15 ID:x8oUuAvt0
-
―――すごいパーンチ―――
【駒場】「っ」バッ!
元外交官「ぐっ、ぎゃあああぁっ……」バタッ・・・
『狂人』に念動力弾(自称)をブチかました。
紙の様に吹き飛び、壁に打ち当たる中年男性。そのまま力無く、気絶した。
【駒場】「……何のつもりだ」テクテク・・・
削板「何もかーにも有りはしないぜ? もうソイツからは何も出て来ねぇってば」ツンツン・・・
【駒場】「……しかし」ジー・・・
削板「必要であればジジイが続き聞き出してくれんだろ。兎に角、根性が一周してオーバーヒートしてんぜ?」チラッ
【駒場】「……」チラッ
元外交官「」チーン・・・
【仮面】の男は、漸く我に返った。
【駒場】「……すまん。やり過ぎた様だ」
削板「まぁ気にすんな。よくある事だ」ハハハ
【駒場】「少し……この部屋で休んでから戻る。構わないか?」
削板「ああ、伝える」コクッ
削板少年は内線で待機室の方へコールし、所長に事の終了を告げた。
神『御苦労。では一服して来い。カメラは消してやる……元外交官は縄拘束目隠し猿轡でもして、そこらに転がして置いてくれ』
酷い責任者も居たもんだ。
削板「やれやれ……とりあえず、カメラ消したってよ。一服でもしろだとさ」チラッ
【駒場】「灰皿は?」
削板「あるけどよぉ……【仮面(それ)】付けたまま喫うのか?」
【駒場】「……」チラッ
元外交官「」
削板「ソイツは目隠しして此処に置いとく。煙草はガラスの向こうで喫え」テクテク・・・
言われるがままに【仮面】は移動した。 - 276 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/01(水) 23:52:47.07 ID:x8oUuAvt0
- 一寸後……【駒場】は、仮面を脱いだ。
削板「インスタントのコーヒーしかないけど、文句言わないでくれ」コトッ
黒妻「……ん」カチッ・・・フゥ・・・
男はタダのチンピラに戻る。
削板「……」ジー・・・
黒妻「……何だ?」チラッ
削板「いや……何だかな、って……」ジー・・・
黒妻「そうか」ジジジ・・・
特に言葉は無い。
黒妻綿流は削板軍覇を知っている。だが、削板軍覇は……
削板「知ってるだろ。何度か顔を見てる」
黒妻「そうだったな……けど普通に話した事は無かったか」ゴクッ・・・
確かその時は香焼や一方通行が一緒だった気がする。 (※『おやすみ』参照)
削板「それ以外にも、アンタは路地裏とかでよく見かけてた」
黒妻「そりゃまた光栄だな」ハハハ
削板「タダの喧嘩屋だと思ってたけど、違うみてぇだ」クスッ
黒妻「失礼な。オレは普通の就活青年だぜ?」ククク
カメラが回ってないからこそできる、他愛ない会話。
黒妻「そういえば、さっき何で『オレ』を殴らなかった? 普通止めるんだったらヤツじゃなくオレを殴るだろ?」
削板「んー……」ポリポリ・・・
削板は困った様に答えた。 - 277 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 00:07:46.78 ID:tOnsC5JX0
- 削板「ソイツ殴っても心は痛まねぇけど、アンタ殴ると何だか……なぁ」ポリポリ・・・
黒妻「……ん?」ジジジ・・・
削板「何つったら良いかアレなんだけどよ……香焼を、な……」アハハ・・・
意外な人物。
削板「アンタ、香焼・最愛と仲良いんだろ?」チラッ
黒妻「まぁ……何でその二人?」
削板「分かんね。でも……何だか殴り辛ぇ」
知り合いだから殴り辛い、か。
タダの単純根性⑦馬鹿だと思っていたが、一応人間らしいとこがある様だ。
黒妻「香焼と最愛ちゃん……仲良いのか」クスッ
削板「最愛はよく分からんけど、香焼はまぁ……一応『友達』って」ムゥ・・・
黒妻「……ふっ」プカプカ・・・
照れ臭そうに頬を掻く少年。
しかし香焼も香焼だ。人類皆兄弟思想というヤツだろうか。
削板「なぁ。その『マスク』の事、香焼達知ってるのか?」
黒妻「いや……黙っておく」
削板「そっか。分かった」コクッ
俺も黙っとく、と無言で頷く。物分かりは良いらしい。やはり意外と悧巧というか空気を読める少年である。
削板「でもアンタ、無能力者なんだろ? どうしてこんな危険な真似すんだ?」
黒妻「ダチ公との約束だよ。ま、オレの勝手な思い込みの約束だがな」ハハハ
削板「ダチ公、かぁ。じゃあ仕方ないな」クスクス
黒妻「オマエこそ、ヒーロー活動みたいな真似してるみてぇだが何でだ?」
削板「恰好良いから、じゃ駄目か?」
黒妻「ははは。いやいや。らしいっちゃらしいよ」クスッ
謂わば『正義』に従順という訳だ。
力もある、バックアップもある……象徴的な英雄像だろう。流石ヤングスーパーマンだ。 - 278 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 00:23:38.81 ID:tOnsC5JX0
- 削板は言葉を続けた。
削板「でもな、この街が好きだからそうしてるんだ。嫌いだったら態々恰好良い真似なんかしねぇ」
黒妻「そうだな……オレも好きだ」
削板「だろ? だから兎に角、根性曲ったヤツは許せねぇ」パシッ
ある意味、潔癖症なのだろう。では……
黒妻「暗部は、如何だ?」
削板「……暗部が如何こうじゃねぇな。個人だろ」
黒妻「へぇ」
削板「だって正直、神(ジジイ)は危ねぇ仕事してる人間だ。けど筋は通ってる」
筋道通せば何とやら、か。
黒妻「……香焼達については、何処まで知ってる?」
削板「詳しく知らねぇけど、香焼も最愛もよく夜の街中に居るのは知ってる」
黒妻「……それで?」
削板「別に……ただ、最愛はやり過ぎかもしないとは思ってる」
黒妻「そっか……だろうな」フゥ・・・
悩みの種だ。あのままでは何れ……死ぬ。
例え死ななくとも、戻れない所まで踏み込んでしまっている。
削板「アンタ、止めないの?」
黒妻「オレ程度がか?」
削板「いやいや、十分止めれるんじゃね? 物理的な意味じゃなく、根性的な意味で」ウンウン
黒妻「根性論なぁ……それをするとしたら、オレじゃなく……」
香焼や那由他、打ち止めちゃん……美偉の仕事だろう。
黒妻「兎角、今は期じゃない。仕掛けるのはもうちょい先かな」
削板「そうか……まぁそん時は手伝うぞ」ハハハ
黒妻「ああ、よろしくな」クスッ
片や本物の超人、片や紛いモノの精神的超人。
下らない御喋りを二三続け、二人は再び待機室へ戻った。 - 279 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 00:50:26.03 ID:tOnsC5JX0
- ―――翌々日、PM01:00、第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所所長室……
一段落着いた所で、一同は所長室に戻った。
勿論、再び『マスク』を着け直している。
神「――……さて、恵未。まだ何かあるか?」
手塩「……いえ。聞き出したい事は、聞き出せた。あとは佐久の判断次第よ」
神「だろうな。一応テープのダビングは要るか?」
手塩「頂けるのであれば、貰う」
神「分かった。軍覇、山崎にダビングテープを作る様伝えてくれ」
削板「んな面倒臭ぇ。ROMデータとかで渡せよ」エー・・・
神「阿呆。複製防止を掛けるんだ。分かったらさっさと行って来い」
ヤレヤレと肩を落として部屋から出て行く削板。
神「兎角、以上だな。テープは追って軍覇にでも届けさせる。今日は帰れ」スタッ
手塩「ええ、そうするわ。長居しても、良い事はなさそうだし」コクッ
神「悧巧で結構だ……門まで送るぞ。オマエもついて来い」チラッ
【駒場】「ああ……」スッ・・・
一同、部屋から出てゲートへ向かう。その最中、一つの不安が浮かんだ。
このままだと……多分、もう二度と手塩さんに会えない。
【駒場】(土御門)Pi!
土御門『うぃうぃ』Pi!
【駒場】(今後、手塩恵未とコンタクトをつける手立ては可能か?)
土御門『んー……難しいにゃ。俺のメインコネクションは親船の婆ちゃんだから、ブロックの連中とはねぇ……でも何で?』
【駒場】(彼女が暗部を辞めた際、強力な仲間になると思う)
土御門『……マジで言ってんの?』ゲッ・・・
マジも何も、彼女の実力は本物だ。
裏事情にも長け、黄泉川さんに負けず劣らずの格闘術。そして子供に対しての愛情は本物……申し分ない『大人』である。 - 280 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 01:03:59.28 ID:tOnsC5JX0
- 土御門『だったら黄泉川センセでも……あー、駄目だな。一方通行に殺される』タラー・・・
【駒場】(如何にか出来ねぇか?)
土御門『手塩恵未の引き抜きは同意しかねるが……まぁ足取りを掴んでおくのは確かに賛成だ。実力者ってのは認めるからな』コクッ
土御門は数秒黙り込み、嘆息交じりに呟いた。
土御門『……服部と相談して決める。少し待ってろ』Pi!
【駒場】(よろしく頼む)
作戦を考えるのはオレの性分じゃないからな。
神「……時に『駒場』。先は聞きたい事聞き出せたか?」ニヤッ
【駒場】「気になる言葉は引き出せた。後はそれを元に、自分で探しだす」
神「そうか。ま、頑張れ」ハハハ
まるで他人事……いや、この人が暴れると拙い様なので自粛して貰ってても構わないか。
鉄網「……」ジー・・・
【駒場】「……ん」チラッ
鉄網「っ……」ビクッ・・・
【駒場】「……先程は、すまなかった。怖がらせてしまったな」コクッ
鉄網「え、あ、えっと……」オドオド・・・
【駒場】「君の能力は、素晴らしいよ。自身を持つと良い」ポンッ
鉄網「ぁ、ありがと……です……」コクン・・・
ただし、使い道を誤って欲しくは無い。
手塩「……」チラッ
神「やはり気になるか?」チラッ
手塩「……だからといって、如何なる問題でも無い。私も『彼』も、きっと隠し事ばかりで、話が進まないよ」テクテク・・・
神「いや、オマエ次第だな。言っておくがヤツは暗部でも何でも無いんだぞ」
手塩「そういう問題じゃない……」ムゥ・・・
色々と複雑なのだ。まだまだ平和だったあの頃の自分達には、もう戻れない。
そう決め込んでいる。 - 281 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 01:47:08.61 ID:tOnsC5JX0
- そして、ゲート裏・・・・・
手塩「此処までで、結構」チラッ
神「そうか」コクッ
所長と『駒場』はその場で止まる。
手塩「出来れば、もう会わない方が、良いわね」クスッ・・・
神「悲しい事言うじゃないか。昔馴染みなのだから何時尋ねて来てくれても良いのだぞ?」
手塩「……ありがとう。その言葉だけで、十分です」フフッ
この人は、自ら『壁』を作ってしまっている。典型的な裏の色……暗部病に罹った人間だろう。
神「……オマエからは?」チラッ
【駒場】「……」ジー・・・
手塩「……」チラッ
【駒場】「……少し、質問させてくれ」
手塩「私に?」
【駒場】「アンタと鉄網にな」コクッ
鉄網「わ、私!?」ドキッ・・・
手塩「内容による、けど、私からも質問、良いかな?」
勿論、内容による。まずは【仮面】から。
【駒場】「鉄網。君は……学校へは?」
鉄網「え……えっと……」モジモジ・・・
【駒場】「別に、学校名を聞き出そうとしている訳ではない。ただ……通っているか、いないかだ」
鉄網「……通えるわけ、無いじゃないですか」シュン・・・
【駒場】「そうか……」チラッ
これもまた、暗部病。
【駒場】「では、手塩……仕事は今でも?」
手塩「……」チラッ
他3人を気にする。成程……表が警備員だと知らない者も居るのか。 - 282 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 02:01:24.95 ID:tOnsC5JX0
- 【駒場】「……辞めたのか?」ボソッ
手塩「……一応、所属は本部付け」ボソッ
【駒場】「そうか……鉄装の言うとおりだったな」コクッ
手塩「鉄装……そう、あの子が……あの子は元気?」クスッ
【駒場】「相変わらずだよ。苦労人の様だ」コクッ
優しい笑み。
手塩「じゃあ、私から質問……手を握っても、良い?」ジー・・・
【駒場】「……何?」
手塩「質問じゃなく、お願いだったね……それだけよ」
意味が分からないが……いきなり投げ飛ばされるのではなかろうか。
手塩「失礼ね。そんな物騒な事、しないよ」
【駒場】「……」スッ・・・
手塩「ありがとう……じゃあ」パシッ
手首を掴まれ―――
手塩「鉄網。『意見解析(スキルポリグラフ)』なさい」サラッ
―――……あー。
鉄網「え、な……はい!?」ギョッ・・・
手塩「……良いわね?」チラッ
神「俺は知らん」フンッ
薄情者。
【駒場】「……やられたよ。抵抗したら組伏せるのだろう?」
手塩「貴方次第ね。騙す様で悪いのだけど……どうしても、死者の衣を被っている輩の、正体が気になってね」
鉄網「て、手塩さん……でも私……『駒場』って人のプロフ知らないから、正否が分からないですよ」アタフタ・・・
手塩「読み込めたモノを、言ってくれれば、私が判断できる……ごめんなさい。私情で貴女を、使う様な真似して」
鉄網「え、あぅ……」チラッ・・・
こっちを見るな。オレも困ってる。 - 283 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 02:10:12.83 ID:tOnsC5JX0
- 【駒場】「……所長」チラッ
神「……」ジー・・・
【駒場】「宛てに出来んか……」
鉄網「……ごめんなさい。直ぐ終わらせます」スッ・・・
手を掴まれた。
下っ端AB「「……」」ゴクリ・・・
神「……」フンッ・・・
手塩「……如何?」ジー・・・
そして……
鉄網「……あれ?」ポカーン・・・
手塩「鉄網?」
鉄網「……読めません」タラー・・・
手塩「え」
鉄網「この人……分からない」
やれやれ。土御門から貰った『マスク』と同じ素材(新型試作:歩く教会)『手袋』の御蔭で助かった。
手塩「……鉄網。彼、手袋してる」ビシッ
【駒場】・鉄網「「あ」」キョトン・・・
何とまぁ、目敏い……あっという間に手袋を取られてしまった。
大ピンチ。
手塩「……もう一度、お願い」グイッ
鉄網「はい」スッ・・・
どうする。無理にでも抵抗すべきだろうか……と決断しかけた次の瞬間――― - 284 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 02:28:16.13 ID:tOnsC5JX0
-
――ダダダンッ!!
一同『っ!?』ギョッ・・・
まさかの銃声。重々しい三点バースト音。
神「……施設内での発砲は御法度だぞ」ギロッ・・・
手塩「っ……オマエ……」ジー・・・
物陰からゆっくりと、正体を現す忍び草。
半蔵「ったく……アンタが厄介がって止めないのが悪いんでしょ、神さん」ハァ・・・
神「ふんっ。オレは別にお前らの完全な協力者って訳じゃない。あくまでプランの見直しや装備の提供相談を受けただけだ」
手塩「……神さん。嘘つき」ジトー・・・
神「嘘なんぞついてねぇ。関係者ってのは親身ななる輩の事を言うんだろ? 俺は親身じゃないからな」
何という屁理屈詭弁。
手塩「……半蔵」ジー・・・
半蔵「……まぁ互いに色々言いたい事はあるんすけどねぇ、手塩さん。とりあえず今はそういう事止めて貰えます?」ジー・・・
手塩「……」ジー・・・
半蔵「スナイパー二人が狙ってますよ? そこのお嬢さんの事」クイッ
塀の上を指差す……確かにスコープを覗いている影が二つ見えた。
半蔵「んな命懸けてまで知りたい事ですか? 『駒場』の兄貴も困ってますって」ジー・・・
手塩「……ホントに、駒場、なの」スッ・・・
【駒場】「……さぁな。もしかしたらそうなのかもしれん」ジー・・・
半蔵の出現によって、更なる混乱。
確かこの子は駒場の側近というか、最も仲の良かった少年。昔何度か留置所で話をした事が有る。
兎角、手塩は『駒場』から手を離し、鉄網の安全を確保した。 - 285 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 03:25:38.45 ID:tOnsC5JX0
- 半蔵が出張って来てしまい、下手に動けなくなった一同。
【仮面】も対応に困っていたが、突如通信が入った。
土御門『おう、もしもし』Pi!
【駒場】(……何だよ)
土御門『とりあえず服部を送った。ヤツが上手くやるだろう。任せておけ』
この期に乗じた策が有るらしい。
半蔵「とりあえず、今日の所は御引き取りを……でしょ? 所長さん」チラッ
神「暴れなけりゃ居座ろうが勝手だよ」
半蔵「アンタも大概適当だな……」ハァ・・・
手塩「……」ジー・・・
下っ端A「ち、チーフ……此処は素直に帰った方が……」タラー・・・
半蔵「ほら、アンタの私情で居残る訳にもいかんでしょ?」コクン・・・
手塩「……分かった。B(ボーイ)、引き上げの連絡を」チラッ
下っ端B「了解です」コクッ
先にゲートを抜ける下っ端さん。続けて鉄網少女も抜けようとした。
空気を読んだのだろう。今この場には旧知の人物だけが残るべきだと。
【駒場】「……鉄網」チラッ
鉄網「え、はい」ピタッ
【駒場】「現状に絶望して、表に戻る事を諦めるな……君はまだ若い。戻る事を諦めなければ、救いはある」ジー・・・
鉄網「……ありがとう。『駒場』さん」クスッ
まるで身近の親しい誰かに告げる様に……
手塩「……」ジー・・・
そして、此方は複雑な顔。仕方あるまい。 - 286 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 03:42:24.16 ID:tOnsC5JX0
- 半蔵「さて……手塩さん」チラッ
手塩「……」ジー・・・
半蔵「『駒場』の兄貴について、気になるかい?」
手塩「気にならない……と言ったら、嘘になるね」コクッ
半蔵「おーけぃおーけぃ……教えてやっても良い」ニヤッ
手塩「っ!」ドキッ!
一体何を……
半蔵「ただし、此処では駄目だ。もし本気で正体を知りたいのであれば機会を改めさせて貰う」
手塩「……何故?」
半蔵「悪いが今のアンタは『個人』じゃない。あくまで暗部の一部だ。『駒場』の兄貴について、暗部の関与を受けるのは真っ平なんでな」
手塩「私個人で来れば、という事?」
半蔵「物分かりが早くて助かるね……コレ、俺の連絡先。悪戯で掛けてきちゃダメだぜ?」フフフ
手塩「……追って連絡しろ、と」
半蔵「ああ。正直に言えばアンタの力、俺や兄貴は買っている。だから信じても良いと考えた訳っすよ」
あくまで『手塩恵未』としてである。
手塩「……分かった。後日改めて、連絡する」コクッ
半蔵「マジ一人で来て下さいよ。悪ぃが俺は手段問わない暗部連中ってのがオッカナくて仕方ねぇんだ」ハハハ
手塩「暗部を出し抜ける貴方が、よくもまぁそんな事を言う」クスッ
神「まったく……恵未、彼らが待ってる様だぞ」チラッ
ゲートの方を見遣る。数名の兵が此方を伺っていた。
手塩「ええ……今日は失礼したよ。では」コクッ
神「ああ……俺も、君が個人で訪問してくる分には歓迎だよ。久しぶりに愛穂や桔梗の顔も見たくなった」ククク・・・
手塩「そうね。私もよ……さよなら」クスッ
そして『またね』とは言わずに、彼女は去った。
時刻は深夜一時過ぎ……突然のドタバタ騒ぎは呆気らカンと幕を閉じた。 - 287 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 03:52:56.31 ID:tOnsC5JX0
- ―――翌々日、PM01:30、第12~19学区、理事立大学付属病院・精神科(研究所兼刑務所)、中央研究所所長室……
一同、所長室へ戻ってくる。皆憔悴しきった表情だ。
山崎「皆さん、お疲れさまでした」コクッ
土御門「うい。はぁ……眠い。明日学校午後から出よ」グデェ・・・
半蔵「大変だな、学生さん」ククク・・・
黒妻「……オレ、明日バイトなんだけど」タラー・・・
海原「頑張って下さいな。ヒモじゃないところを世間に証明しなければね」クスッ
郭「ぷっ! ……あ、兄貴さん……女子高生の、ヒモ」プルプル・・・
喧しい。美偉に養って貰ってなんかねぇ。
神「兎角、今日の所はコレで終わりだ。芹亜には俺から報告しておく。帰ってゆっくりしろ」
削板「ジジイ……俺ももう寝て良い?」
神「……まぁ良いだろ。今日は稽古無しだ」
削板「うっしゃぁ……んじゃオヤスミ」スピー・・・
山崎「部屋で寝なさい」ベシッ
苦笑。
神「一応、今日の尋問のテープは後で送ってやる。『狩り』の『会員制』や『出資者』については芹亜に調べさせた方が良かろう」
土御門「ああ。アイツ今日全っ然仕事してねぇから押し付けてくれ」キッパリ!
半蔵「同意」キッパリ!
コイツらは相変わらずだな。 - 288 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/02(木) 04:03:39.36 ID:tOnsC5JX0
- 半蔵「んじゃ帰るとしようか……郭、運転任せて良い?」チラッ
郭「……蛇さん、春さん。お任せします」チラッ
蛇・春「「……」」チラッ
海原「僕は免許を持ってませんので……黒妻さん?」ニコッ
都合の良い時だけ大人扱いすんな。
郭「やれやれ……今日だけですよ」ハァ・・・
半蔵「わーい」ニヤニヤ
山崎「ふふっ。郭さん……良ければまた来てくださいね」ニコッ
郭「え、はぁ」コクッ
山崎「妹達も、子供達が喜びます。是非来て話相手だけでもなってください。お願いします」コクッ
御坂春「え、ええ。ミサカ程度で良ければ、時間が有る時にでも、とミサカはお答えします」
神「そうだ、綿流。給料払うから遊び相手しに来い」ククク・・・
オジさんと呼ばない様伝えておいてくれるなら考えよう。
黒妻「ま、今日はありがとう。また何かあったら頼む」
神「ああ。また近い内にな。武器や防弾チョッキも揃えておく……くれぐれも無茶はしないように」
黒妻「分かってる。そんじゃまたな」
そしてオレらは部屋を後にし、門を出て帰路に着いた――― - 289 :>>1にかわりましてカキネがお送りしました [saga]:2011/06/02(木) 04:09:01.45 ID:tOnsC5JX0
- はい。次回で『原石・狂人』編は終わりです。
さて……アンケ! 今回と次回、二回取ります!
・『If.アンジェレネ・アフター』について。
ドロドロと予告してましたが諸事情でデータが飛びました。なので書き直してますが……
①構わん! ドロドロをやれ!
②いやいや、ほんわかの方が良い。
③その他、何か新たな方向性を! (※具体例も添えて)
ご協力お願いします。そんじゃまた次回! ノシ - 290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 10:18:33.97 ID:wmWLvwXDO
- >>1
乙
アンケは②で
平和に行きましょ - 291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/02(木) 17:55:55.33 ID:8aTwFEOQ0
- >>1 乙!?
いやいや、②でしょ!!
ところで、最近香焼分、最愛分が摂取できずに死にそうなんだぜぃ・・・ - 292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/02(木) 18:25:04.47 ID:fQGSun9AO
- >>1乙ッス!
①の展開も見たいがやはりここは②で! - 293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 19:09:51.05 ID:Tq+grt870
- ③アンジェレネアフターの後でもいいけど
アフターが香焼sideに偏ってるから、視点を変えた話を読んでみたい
学園都市内で科学側…「半蔵と郭」最近よく出てるミサカの話も面白いかも。
- 294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/02(木) 19:30:15.17 ID:U0GTiGr00
- 乙
1でも2でも好きな方で良いと思うよ - 295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/06/02(木) 22:09:36.56 ID:p9ol3gnJ0
- 正直①を見たくないと言えば嘘になる
あの二人が「溺れる」経緯、そして過去最大であろう濡れ場シーン……
でも、迷った挙句②を選ぶ - 296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/03(金) 03:29:51.49 ID:jp3TOZCDO
- 元々の通り‥‥①だな!
てか気になったんだけど、「コッチ」と「アッチ」の世界観が混ざってきてるの?
あとこのりんの出番が‥‥ - 297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/03(金) 06:33:51.30 ID:6bRy0ni10
- ・・・やっぱり①だな!
- 298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方) [sage]:2011/06/03(金) 21:45:38.56 ID:/SOkX88X0
- ここまでで一旦集計をば
①:2票
②:5票
③:1票
他:1票(①か②) - 299 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/03(金) 22:51:31.98 ID:FTV15ue50
- こんばんわ。続きっす。
アンケは②が多いみたいっすね。やっぱりアンジェレネにはホンワカが良いのかな?
何にしろ、今日で一区切りつけます。では投下! - 301 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/03(金) 23:13:36.90 ID:FTV15ue50
- ―――とある数日後、PM11:30、学園都市第7学区、とある廃ビル……
病院での一件から数日後、オレと土御門、そして雲川は半蔵がベース地としている廃ビルに集合した。
尋問に手聞き出した事など、色々と厄介事が溜まっているので一度3人が洗った情報を確認し合う為だ。
雲川「……しっかし、汚い建物だ。もっとマシな場所が無かったかどうか聞きたいのだけど」ハァ
郭「文句があるなら出て行って貰っても構いませんよ?」ジトー・・・
土御門「そーだそーだ出てけー」ヤーイヤーイ!
雲川「あそう。じゃあ……お言葉に甘えるけど」スタッ
半蔵「まぁまぁ。我慢してくれ。内緒話をするには一番良い場所なんだ……郭と土御門の、ガキじゃねぇんだから一々カッカすんな」ッタク・・・
ホント、こいつら仲良いな。
半蔵「さて、んじゃ誰から報告する?」チラッ・・・チラッ・・・
雲川「……じゃあ私からだ」スッ
土御門「はいはい。さっさとしろ」ドカァ
雲川「チッ……神所長から連絡が来た。防弾チョッキとチャフ等の武器ができたらしいけど」
黒妻「仕事速ぇな。早速夜にでも取り行く」コクッ
半蔵「車出します。バイクで行かないで下さいよ? 荷物嵩張り(かさばり)ますから」
土御門「てかセンセさぁ、車持たないのかにゃ?」
車買う金、ありません。
郭「我々の方から一台『準備』しましょうか?」
黒妻「駄目だ……違反プレート見つかったら色々面倒なんでな」
雲川「じゃ、私の方から回す? 防弾使用にするけど」フフフ
黒妻「どっちにしろ、黄泉川さんに見つかったら『何処で手に入れた』とか聞かれて厄介だから止めとく」アハハ・・・
それに美偉にも同じ事言われそうだ。泣かれるのは勘弁だからな。
土御門「……センセ。奥さん人質に取られたらアウトじゃねぇの?」ボソッ
半蔵「いや、固法さん色んな意味でそれなりに強いし……何かあれば超電磁砲(御坂美琴)が動いてくれるからよ」ボソッ
土御門「成程。そりゃ僥倖だぜぃ」ニャハハ・・・ - 302 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/03(金) 23:44:58.12 ID:FTV15ue50
- しかし、社会人になるつもりなら何時までもバイクじゃ拙いよな。
今度真面目に車のカタログ買ってみよう。
雲川「んな平和馬鹿な事は家に帰ってから勝手にやれ。それよりも、だ……本気で武器持たない気らしいけど」ジー・・・
黒妻「いや、演算銃器(スマートウェポン)あるじゃん」
雲川「あれアンカーガンに改造しただろ。んな物、銃と呼べないんだけど」
土御門「まぁ確かに今までは発条包帯(ハードテーピング)の御蔭で弾避けてたけど、これからは難しいぜぃ?」
黒妻「だからその為の防弾チョッキじゃねぇか。当たっても良い様にって」
半蔵「当たる前提ですか? それだと今までの方針と変わってきますよ」
いや……まぁ、弾幕張られなきゃ当たるつもりは無いけどな。
土御門「接近戦主体のセンセは、如何に相手に近づけるかが問題だぜぃ。でーじょぶなの? 弾幕張られたら無理じゃん」
半蔵「……煙幕(スモーク)と閃光(フラッシュ)、チャフ系を上手く使って貰うしかないっすね」
雲川「て事は、前線支援の貴方(服部)の仕事が増えるけど、OK?」フフフ
半蔵「仕方ねぇっしょ……元々、兄貴一人で無茶すんのにも限界はあった」
黒妻「悪いな……とりあえず、極力発条包帯は使わない方針で行く。それで良いんだな?」
雲川「だけど、常に使える状態にはしておけ。使うタイミングの判断は……私達3人の許可が下りた時だけど」コクッ
3人が頷く。一回のフル活動より、数回の安定性だ。
半蔵「そんじゃ次は……つっちー」チラッ
土御門「つっちー言うなボケ……『狩り』についてだ」
空気が変わる。
土御門「先日出てきたワード、『会員制』と『出資者』……確かにその筋の情報は有ったんだが、これは特定するのに時間が掛る」
黒妻「如何いう意味だ?」
土御門「バラバラなんだ。どっちも、な。『狩り』のギルドみたいなのは有るんだが、『頭』が見つからない」
雲川「……『管理人』も?」
土御門「それは分かった」
一同『っ!!?』ピクッ・・・
じゃあ、ソイツを潰せば万事終わるんじゃ…… - 303 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 00:12:28.37 ID:S0B9F4d/0
- 土御門「んな簡単な話な訳ぁ無ぇっしょ……」クイッ
半蔵「……何?」
土御門「死んでんのさ……『狩り』の発端者さん」
黒妻「なっ……」ギョッ・・・
雲川「誰かが引き継いだって事だけど」
土御門「最初はそうだったようだ。しかし……『管理人(纏め役)』がコロコロ変わり過ぎて、今じゃ誰が『頭』なのか分からない状態らしい」
ネット中の管理者不在掲示板みたいなものか。
『狩り(ゲーム)』を創った者はいなくなっても、『それ』は残る。まさに一人歩きの状態。
半蔵「……だが『会員制』って事はそれを承認する『何か』が必ず有る。違うか?」
土御門「それが今一分からねぇ。俺の勘じゃ、幻想御手(レベルアッパー)騒ぎの時みたいに『ひょっこりクリック』じゃねぇかと思ってる」
郭「でもそれだと簡単に警備員に見つかるのでは?」
土御門「いや、見つからない。現にあの事件、音声ファイルだって事が中々見つからなかっただろ?」
雲川「でも今回は音声ファイルじゃないけど。まぁ広告とかをクリックしたら飛んだ、とか在り来たりなのも隠れ蓑としては考え得るわね」
何だか難しい話になってきた。中卒にも優しく伝わる様、よろしく。
一同『……』タラー・・・
黒妻「……こ、こほんっ。兎に角、この件については引き続き調査頼んだ。場合によっちゃ警備員や風紀委員も使おう」コクッ
土御門「馬鹿。この活動ばれるにゃ。少し考えろってんだ」ハァ
半蔵「土御門……その件だが、提案がある」スッ
半蔵は携帯を取り出し、卓上に置いた。そして画面を指差す。
黒妻「……これは?」
半蔵「手塩恵未からのメール」Pi!
土御門「っ!?」エー・・・
黒妻「ああ、連絡来たのか。あの人、てっきり無視るかと思ってた」アハハ
雲川「……何それ?」ポカーン・・・
土御門が面倒臭そうに説明をした。その後……雲川の表情が土御門と同様に面倒臭そうな顔に豹変した。 - 304 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 00:36:40.94 ID:S0B9F4d/0
- 雲川「服部、言いたい事分かったけど……本気?」エー・・・
半蔵「おいおい、俺ぁまだ何も言ってねぇぞ」
土御門「いや、オマエさん、ヤツを仲間にする気だろ? ……馬鹿な真似は止せ。アイツは暗部だ」
半蔵「まぁ待てよ、オマエら。人の話は最後まで聞け」スッ・・・
携帯の文面を読む。
黒妻「……『何故、今、駒場が出てきた』……ふーん。ま、当然の疑問だな」
半蔵「ええ。そんで俺は方針通り『無能力者、はたまた弱者の象徴(シンボル)』です、と返した」
無論、能力者との『平等』。能力(チカラ)に屈しない、という意味だ。
半蔵「そしたら彼女は『話を、聞かせて』だとさ……如何する?」
土御門「無視しても良いんだろ?」
半蔵「勿論だ。だが彼女は良い駒だぞ? これを機に警備員本部にも手を伸ばせる」
土御門「……アレイスターの目より深い所は無い。必要無いぞ」
半蔵「悪いが、俺はその統括理事長の目ってのを信用してない……いや、語弊が有るな」ジー・・・
道化師のサングラスの奥を覗き込む様に、半蔵は続ける。
半蔵「あんたら二人、情報全ては公開しない。だろ?」
土御門・雲川「「……」」タラー・・・
半蔵「それに、土御門。オマエが引き出していると思ってる統括理事長からの情報は確実か?」
土御門「それは……」
雲川「……違う。彼の方が貴方より何枚も上手だと思うけど」
土御門「……」ギリッ・・・
認めざるを得ない、か。
半蔵「何もアンタを責めてる訳じゃない。寧ろ良くやってくれてると思う。情報開示だって必要な分だけで十分だしな」
郭「あら、優しいんですね。全て出せ(フルオープン)要求するかと思いましたよ」
半蔵「馬鹿言え。俺だって隠し事くらいしてる」ハハハ
土御門・雲川「「……」」フンッ
相変わらずコイツらは、変な所でドロドロしてるな。 - 305 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 00:54:25.27 ID:S0B9F4d/0
- 半蔵「とりあえず……判断は、兄貴。アンタだ」チラッ
黒妻「え、オレ?」キョトン・・・
半蔵「如何する? 暴露するか? それ即ち『活動』への協力支援に繋がる」
土御門「ちょちょちょ、待て! それはオカシイぜぃ!」アタフタ・・・
雲川「正体を暴露した所で彼女が協力してくれるとは限らないけど!」アタフタ・・・
半蔵「……兄貴は如何思います?」
如何って……
黒妻「あの人なら手伝うだろ」コクッ
雲川「なっ……何を根拠に」タラー・・・
黒妻「あの人との付き合いだ。オレや駒場とは長い付き合いだからな……基本的に弱者の味方だよ」
根本は黄泉川さんと似ているんだ。ただ、進む道を間違えただけ。
土御門「んな昔の話は知らねぇけどさぁ、今ヤツは『暗部(ブロック)』の一員なんだ。甘い事ぁ言ってられんぜよ」ジトー・・・
半蔵「甘い? ……この『活動』は甘いか?」ジー・・・
土御門「っ……そ、そういう訳じゃ」タラー・・・
半蔵「上条当麻にシリアルキラーの手が伸びた時。そして手前の『義妹』に危機的状況が訪れた時……一人で頑張るか?」ジー・・・
土御門「あー、分かった分かった! ……まぁメリットが無ぇ話じゃない。センセに一任するにゃ」ハァ・・・
半蔵「雲川は?」チラッ
雲川「……手塩恵未が誰かに私達の『活動』を密告する可能性は?」ジー・・・
黒妻「無い。多分」キッパリ!
雲川「多分って、不安なんだけど」ハァ・・・
半蔵「大丈夫……一番効果的な手を打つさ」ニヤッ・・・
土御門「……もう良いや。その件に関しては手前とセンセでやれ。だがキチンと報告しろよ」ハァ・・・
毎度有りー、と半蔵はメールを打ち出した。
黒妻「んじゃとりあえず、今日はこれで終わりか?」
土御門「ああ。今分かってる『狩り』参加者のリスト書き直すから、それ出来次第また行動だにゃ」
黒妻「一方通行(アイツ)が『消した』分と照合か」
土御門「加えて削板軍覇が『消してた』分。それから『勝手に消えた』分……んで残念ながら『増えた』分だぜよ」
雲川「『会員制』らしいから、常に増える訳だ……」
厄介な連中。 - 306 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 01:05:35.70 ID:S0B9F4d/0
- 土御門「雲川。手前は『出資者(スポンサー)』を調べろ。得意だろ?」チラッ
雲川「命令するな。活動指針として動くけど」
半蔵「一々喧嘩すんな……ま、今日は終わりでOK。兄貴は残ってね。手塩さんについての話が有る」チラッ
黒妻「了解だ」コクッ
それでは、と土御門と雲川は立ち上がった。郭ちゃんが面倒臭そうに帰りの車の場所まで誘導する。
オレも一旦煙草を……
雲川「ちょっと」ボソッ
黒妻「ん?」ピタッ
雲川「後で大事な話があるけど。電話する」ボソッ
黒妻「二人の前では言えないのか?」
雲川「少なくとも土御門の前では無理……それじゃ」テクテク・・・
大事な話、ね……物騒な事って。
半蔵「兄貴ー。話するよー」オーイ!
黒妻「ん、ああ。外で煙草喫ってからなー」テクテク・・・
半蔵「煙草喫いながらでも良いでしょ」モー・・・
外の空気が吸いたいんですよーだ。
半蔵「あ、ったく。行っちまった」ハァ・・・
郭「……半蔵様」
半蔵「んー?」ポリポリ・・・
郭「最近、兄貴さん……家族サービスしてない様ですよ。姐さんがぼやいてました」
半蔵「それ今言われてもなぁ……」
郭「我々の志の為に時間を削って貰ってるんです。何か良い休暇をプレゼントしては如何かと」
半蔵「……やれやれ。考えとくよ」ハァ・・・ - 307 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 01:17:09.90 ID:S0B9F4d/0
- ―――とある数日後、AM00:00、学園都市第7学区、とある廃ビル……
深夜を回った頃、オレは再び半蔵の部屋に戻った。
半蔵は首を捻りながら紙に『何か』を書いている。
黒妻「……何それ?」ジー・・・
半蔵「脚本です」
黒妻「しなりお?」ポカーン・・・
半蔵「役者を、如何するかねぇ……俺、兄貴……これじゃ足りねぇんだ」ポリポリ・・・
策士は大変だな。
黒妻「んー、仕上とかは?」
半蔵「分かってないのに適当言わんで下さい……どっちか……」ポリポリ・・・
だからドッチとかコッチとか、ハッキリ言え。
半蔵「……如何します? 兄貴、顔出ししても良い?」
黒妻「まぁ仲間にすんだったら構わないだろ」
半蔵「仲間、か……多分、協力関係程度にしかならないと思うんだよ。忙しそうだし」
黒妻「それでも良いだろ。黄泉川さん並の敏腕なんだし」
半蔵「その黄泉川さんが仲間だったら一番良いんだけどねぇ……あの人にばれたら『表立って行動しろ!』って言われるっしょ?」
黒妻「あー、うん」アハハ
それじゃ駄目だ。心許無い能力者達への『畏怖』が薄れる。
半蔵「……んじゃ、良し! こうしよう! 兄貴、役者演じてねー」バッ!
半蔵から策が書かれた紙を渡される。
それでまるで首筋にナイフを立て合うかの如く、危ない賭けだった……――― - 308 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 01:49:44.88 ID:S0B9F4d/0
- ―――とある数日後(その翌日)、PM05:00、学園都市第7学区、とあるファミレス・・・手塩side・・・
先の病院での一件後、服部と連絡を取り合った。勿論『駒場』についてだ。
警備員だとか暗部だとか抜きにして、手塩恵未個人的に『何故』と考えさせられる。
私が『こんなとこ』まで堕ちる以前、警備員を本職としていた頃……彼らと知り合った。
昔語りをする気は無いが、あの頃は良かった。『素敵な馬鹿』が多い時代。今のネチネチした悪党とは違い、豪気有るとでも謂うのだろう。
その時代の代表的な馬鹿(チンピラ)、それが『駒場利徳』だ。
無能力者にして、能力者に屈しない弱者の味方。純粋無垢な子供や動物に優しい大男。
不思議なカリスマの有る人物だった。
手塩「だけど……死んだ」
やり過ぎた。いや、やり方を誤ったというべきだろう。理事会に手を出すのは目を瞑れる行為ではなかった。
警備員内で報告されている公の報告書では『テロ首謀者。人質を取った為、射殺』とあるが……違う筈。
噂では第一位の手にかかって死んだとか、誰かを庇って自殺したとか。
真相は闇の中だ。佐久は知っている様だが、私に教える気は無いらしい。あの男らしい良く分からない判断だ。
さておき今、私はとあるファミレスに居る。
普段なら絶っっっ対に訪れたくない様な場所ではあるが、約束とあらば仕方あるまい。
手塩「でも……」ムゥ・・・
賑やかだ。周りの目が気になる。
こういうのは苦手だ……いや、少し前までは多少の耐性はあったのだが、今ではすっかり不得手となった。
久しぶりに着た私服の7分袖のOネックシャツ&ダメージジーンズ。やはり筋肉の所為でキツくなっていた。
それにしても、彼らは遅い。
手塩「それとも、この遅刻まで……服部の、策かな」フフッ
あの子は聡い。多分、並の大人よりずっと賢い。
今回も『駒場』の正体と引き換えに私を利用する手立てを練っているのだろう。
構わない……敢えて乗ろう。
手塩「利用する側も、また、利用されるんだ。特に、こんな街じゃね」カランッ・・・
ドリンクバーを飲み干し、窓の外を見る……街は眩しい程に、平和だった。 - 309 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 02:12:41.61 ID:S0B9F4d/0
-
??「―――……何で黄昏てんのか知りませんけど、コップ空ですよ」コンッ
先日聞いた声。来たようだ。
手塩「年上を、待たせるモノではないよ」チラッ
半蔵「ははは、すいません。ちょっと忙しいのが立て込んでましてね」ポリポリ・・・
優位性からくる表情か。もしくは、これすら策なのか。
手塩「……一人かい?」
半蔵「今はまだ、ね。あ、俺もドリンクバー注文して良いっすか?」ニコッ
手塩「御勝手に」クスッ
至って普通に動く少年。『まだ』仕掛けない訳だ。
半蔵「いやぁしっかし、手塩さんの私服見るの初めてですね。少しサイズ小さいんじゃないっすか?」ハハハ
手塩「女性に向かって、失礼な子だな」クスクス・・・
半蔵「こりゃまた失礼。警備員服の印象が強いモンで……わぅ。思い出しただけでも鳥肌が」アハハ・・・
手塩「ふふっ……貴方達は、補導し甲斐が有ったからね。豪快な、不良少年だったもの」クスクス
半蔵「いやぁ昔話は止して下さいよ。恥ずかしい」ダハハ!
昔話、か。今はもう武装無能力集団(スキルアウト)では無いのだろうか。
半蔵「ん? ……手塩さん、意外と情報収集してない口ですか?」
手塩「え、まぁ……そうかもしれないね。下っ端業務で、忙しいから……」
本当は自分の『目的』のみ、情報を収集 している。
故にそん所そこ等の小さな世間話など気にも留めない。
半蔵「……実は俺、今頭(リーダー)っすよ」ニコッ
手塩「そうなのか? それは、何とも……意外だね。君が表役職とは」ヘェ・・・
半蔵「色々、あったんでね……時代は変わるってか、無慈悲ってか」フフン・・・
それは、同意しよう。残念だけどね。 - 310 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 02:27:43.29 ID:S0B9F4d/0
- さて、そろそろ本題に入りたい。
半蔵「構いませんが……確認を」ジー・・・
手塩「何かな?」
半蔵「手塩さん、アンタ『駒場』の兄貴の正体知った所で、如何すんの?」
手塩「え」
半蔵「いやいや、アンタも馬鹿じゃないでしょ。コッチから無理難題吹っ掛けられるかもとは予想してるでしょうけど、アンタからのカードは?」
手塩「……好奇心じゃ、駄目かい?」
呆気に取られた表情。
半蔵「それだけ?」ポカーン・・・
手塩「それだけというか……正直、分からないんだ。頭で考える前に、行動してしまう性質でね」ハハハ・・・
半蔵「アンタもそっち寄りだったか……仕方ない。じゃあ約束事を」ジー・・・
手塩「守るとは、限らないよ」
半蔵「いや、嫌でも守る……『駒場利徳』の正体を知っても、口外しないっすね?」
手塩「やはり、ばれたら拙いの?」
半蔵「ええ。3つの意味で」
一つ、暗躍していたテロ首謀者扱いの男を公に出来ない。
一つ、服部達(誰かは知らないが)の『活動』に支障が出る。
一つ、『駒場利徳』の正体その人の私生活に支障が出る。
手塩「一つ目は、テロ事態を、公にしないという事かな? それとも、暗部からの、再刺客を憂いて?」
半蔵「ドチラもです。というかテロを公にしない為、再びテロを起させない為に暗部が動くでしょう」
手塩「成程……その件については、了解したわ」
最後のは、まぁ仕方ないとして……二つ目の『活動』とは何なのだ?
半蔵「……今はまだ教えられません。貴女が『駒場利徳』と会ってからです」
手塩「ふむ……分かった」
相変わらず、手を凝らす子だ。 - 311 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 02:49:55.53 ID:S0B9F4d/0
- 半蔵「さて、それじゃあ選んで貰いますよ」
手塩「何?」
半蔵「『彼』を待ちたいですか? それとも『彼』の下へ行きたいですか?」
意味が分からない。
半蔵「悪いが俺の口から正体は言えません。直接『本人』に会って下さい」
手塩「……」ジー・・・
半蔵「無理矢理吐かせます? 手塩さん……悪いが第7学区(此処)は俺のホームだ。そしてこの店からもキチンとミカジメを貰ってる」ジー・・・
手塩「私のアウェイ、か……やれやれ。流石というか、呆れるというか」ハァ
立派なシノギめ。厄介事を起せばタダでは帰れないと脅してきた。
齢15~7くらいだろうに、しっかりしてる。
手塩「……直接会うというのは、如何いう事だい? その『駒場』が、今はまだ就学勤労中だとか?」
半蔵「そんな所です。だけどもう少しで終わる。呼べば来ますし、此処っから俺らが向ってもそう遠くない場所だ」
手塩「じゃあ、ドチラでも良いよ。因みに、場所は?」
半蔵「学校、とだけ……学生か教師か、ドチラかはまだ教えられないのでね」フフッ
上手い返し方をする。
手塩「分かった。それじゃ、向かおう。私の興味で、呼びだしたんだ。そっちの方が、筋が通るでしょ」スッ
半蔵「あいさー。んじゃ……此処は奢らせて貰いますよ」スタッ
手塩「子供に、奢らせられないよ。私が払うから、寄越しなさい」
半蔵「良いから良いから」ニコッ
サクサク行ってしまった……と思いきや、厨房に……あ、戻ってきた。
半蔵「行きましょ」スタスタ・・・
手塩「……何したの?」タラー・・・
半蔵「んー……お得意様割引かな?」ハハハ
それはシノギ特有の脅しだ。
私はレジに札を一枚置いて、外に出て直ぐ、この馬鹿な子の頭をゲンコツした。 - 312 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 03:20:17.79 ID:S0B9F4d/0
- ―――とある数日後(その翌日)、PM05:40、学園都市第7学区、とある学校(上条当麻の通う高校)・・・・・・
服部の運転する車――免許云々は目を瞑る――に乗り、数分奔った所にある高校へ向かう。
この学校は確か学力・運動・能力開発共に、あまりレベルの高くない学校だった筈。
今は放課後らしく、部活に勤しむ生徒、校門から出て行く生徒で賑わっていた。
何とも清々しい空気。教職時代が懐かしい。
半蔵「着きました。行きましょうか」
手塩「……」ジー・・・
半蔵「手塩さん?」ン?
そして……『彼女』が勤務していたと記憶している。
手塩「此処で待ってちゃ、駄目かな」ジー・・・
半蔵「何故?」チラッ
手塩「……もしかして、分かってて連れてきたの?」ジトー・・・
半蔵「え?」ポカーン・・・
この反応、偶然なのか。
手塩「申し訳無いけど……学校の中には、入れない」
半蔵「……じゃあ呼んで来ましょう。少々お待ちを」
車から降り、校舎の方へ歩き出す服部。
何だか、逃げたくなってきた。此処まで我慢して、正体を知る必要があるのだろうか。
手塩「外に出よう」ハァ・・・
車の外に出る。それから暫く、平和な学生達を見送りながら時間を潰した。 - 313 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 03:40:52.17 ID:S0B9F4d/0
- 数分後、服部が一人で戻ってきた。何やら困った様な顔をしている。
手塩「如何したの?」
半蔵「いやぁ、何だか仕事長引いてるみたいで……やっぱ来て貰いたいそうです」
手塩「……日を、改めるのは?」
半蔵「うーん、都合あえば良いんだけど……色々忙しいからなぁ」ポリポリ・・・
手塩「……愛穂は」ボソッ
半蔵「え」
手塩「……まだ愛穂、居るの?」
半蔵「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」タラー・・・
忘れてたのかい。
半蔵「あー、成程……すいません」ポリポリ・・・
手塩「……仕方ない。一旦帰りましょう。都合あう日で、良いから」ニコッ・・・
半蔵「そうですね、気拙いでしょうから……」
気遣われるのも申し訳ないが、彼女には会えない。
私は彼女の前から姿を消したのだ。オメオメと『こんにちわ』と言えた立場じゃない。
申し訳なさそうに頭を掻く服部に、気にするなと微笑み再び車内へ―――
上条「うわああぁっ!! ちょ、勘弁して下さいよおおおおぉ!! 二人を上条さんは止めましたってぇ!!」フコウダアアァッ!!
青ピ「いやああああぁっ!! ほんの出来心だったんですううぅ!! てかカミやんだけ逃げんのズルいですからああぁっ!!」ウギャアアァッ!!
土御門「にゃはははははっ!! まぁ例の如くカミやんが一番ガン見してたけどにゃあ! 眼福眼福ぅっ!!」ケラケラケラケラ!
上条・青ピ「「手前は反省しろおおおぉっ!! 首謀者あああぁっ!!」」ダアアアァッ!!
―――……何だか騒がしいのが通り過ぎてった。何なんだ?
土御門「ニシシシシシィ! 流石学園都市No.1おっぱいだぜぃ! (あー、もう二度としねぇからな。覚えてろよ?)」チラッ
半蔵「五月蠅いっすねぇ……学生楽しそう。(あはは。GJ。後で一杯奢ろう)」ハハハ・・・
手塩「君も、送ろうと思えば、普通の学生生活送れるでしょ」ハハハ
半蔵「……いや、俺の学ラン姿とか想像できないって」タラー・・・
いや、十分学ランみたいな格好だと思うのだけど。などと苦笑した……刹那、息が止まった。 - 314 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 03:56:14.88 ID:S0B9F4d/0
- 半蔵「っ!!? て、手塩さん! 隠れて!」ギョッ・・・
手塩「……」ピタッ・・・
半蔵「手塩さん! (良し……完璧だ)」アタフタ・・・ニヤッ・・・
目の前に……
黄泉川「くぉるぁあああああぁっ!! 糞餓鬼共おおおおぉっ!! 逃げんなじゃんよおおおぉっ!!」ダアアアァッ!!
猛ダッシュで此方に向かってくる、彼女。昔と何ら変わりない、子供の様な女性。
服部の言葉も耳に入らず、まるで思い出のフィルムに魅入った子供の様に……私は動けなかった。
黄泉川「ぜぇぜぇ……あんのガキ共ぉ……明日学校来たらブチのめしてやるじゃんよ」グヌヌ・・・
手塩「……」ボー・・・
黄泉川「ハァ……ん?」チラッ・・・
手塩「……ぁ」ピクッ・・・
目が合った。
半蔵「あ、そ、えっと、あはははは! よ、黄泉川さーん! お久ー! 元気っすかぁぶべらっ!!」ゴンッ!
黄泉川「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい」グイッ・・・
半蔵「う、べぃ?」グヘェ・・・
黄泉川「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オマエは半蔵じゃん」ズンッ
半蔵「う、うぃ……見て分かるっしょアウチっ!!」ドンッ!
黄泉川「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、こっちは」チラッ・・・
手塩「……」
半蔵「え、ええっと、その……お、俺の知り合いの弟の姉の伯母の従兄の友達の上司の孫の先生の友人の母親の同級生のお痛ぁっ!!」ブヘラッ!
黄泉川「喧しいじゃん。もう細かい事ぁ良いや……」テクテク・・・
此方に近づいて来る愛穂。
半蔵「よ、黄泉川さん。ちょ、待ってくれ! えっと、その、ちょっと今日は……」
黄泉川「黙ってろ。盗車容疑でブチ込むじゃんよ」ギロッ・・・
半蔵「……ぁ、う」ダラダラ・・・
三人共に、沈黙。 - 315 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/04(土) 04:11:27.44 ID:S0B9F4d/0
- 黄泉川「……恵未?」
手塩「っ……」
黄泉川「ホントに、恵未じゃん? ホントのホントに?」
手塩「……」
目を逸らす。
黄泉川「ねぇ、恵未……い、色々言いたい事とか聞きたい事あるじゃん……」
手塩「……」
黄泉川「ねぇってば!」スッ・・・
手塩「っ」パシッ!
黄泉川「な……」
まるでコミュニケーション方法を知らない子供や動物の様な対応。
黄泉川「め、恵未……」
手塩「ご、めん……っ」バッ!
黄泉川「あ、待、恵未!!」バッ!!
如何する事も出来ない。だから、逃げる。
半蔵「ちょ、て、手塩さん!?」
手塩「……今日は、もう良い」ダッ・・・
黄泉川「待つじゃん! 走るな!」ダッ!
本来の用事を忘れ、只管逃げる。車の存在を忘れて、ただ走る。宛など無いが、止まれない。
しかし彼女も走ってついて来る。
半蔵「……もしもし」Pi!
黒妻『あいよ。やれやれ、トンデモねぇ脚本だな。土御門に女子教員更衣室覗かせるたぁ。黄泉川さんマジギレしてたぞ』ハハッ
半蔵「良いんですよ。アッチの精神状態を普通にしなきゃ良い。あの人は兄貴と同じで野性的にキレる。だから正常にさせない」
黒妻『エゲツねぇよ……んで、この後は黄泉川さん追い駆けりゃ良いんだな?』
半蔵「はい。あくまで消えた先生を呼びに行った『バイトの事務員』としてね」フフッ
黒妻『あいよ……でもオレぁそんなに演技上手ぁねぇぞ?』
半蔵「見越してますよ。とりあえず黄泉川女史の前でボロ出さないようにだけ宜しくですね」ハハハ
黒妻『りょーかい。そんじゃ行きますよー』Pi! - 326 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/06(月) 22:24:26.30 ID:dfgCrYiL0
- ―――とある数日後(その翌日)、PM05:55、学園都市第7学区、とある公園・・・・・・
結構遠くまで逃げた筈、と手塩恵未は息を整えつつ公園のベンチに腰掛けた。
本来の目的が何だったのか忘れそうな程、混乱している状況。
一体何なのだ。まさかコレを見越して私をアソコに連れて行ったのか……だとしたら、あの少年を許しはしない。
手塩「……駄目だよ。愛穂には、会えない」シュン・・・
有り体の言葉だが、最早住む世界が違うのだ。
180度とは言わない。だが90度違う。
多分、正反対であった方が楽だっただろう。だが微妙なラインで『志』が同じである為、性質が悪い。
彼女は日の下の守護正義。私は日蔭の汚れ者。
昔の様に、タダの『警備員(同僚)』席に居られなくなった。
手塩「……帰ろう」ハァ・・・
服部には、改めて連絡するしかない。いや……『駒場利徳』の事はもう、諦めるとしようか。
そんな事を考えた刹那。
Prrr・・・Prrrr・・・・・・・
手塩「……服部め」ジー・・・
少年からの電話。辺りを確認し、通話ボタンを押す。
手塩「何?」
半蔵『何? じゃないですよ……まぁ此方の不手際もありましたが、如何します?』ハァ
手塩「……とりあえず、今日はもういいよ。愛穂に見つかると、厄介だから」
半蔵『そうですか。ただねぇ……言えた義理じゃねぇですが、さっきの手塩さん。恰好悪かったですよ』
手塩「それはお互い様でしょ。それに、余計な御世話」
恰好悪いのは自負してる。だが、無理なモノは無理なのだ。
兎も角、今日はもう帰る旨を報告して―――
黄泉川「あ……恵未っ!!」ハァハァ・・・ダッ!!
―――……拙い。
半蔵『手塩さん?』
手塩「ごめん、また後で」Pi!
半蔵『ちょ、まだ話が―――……』Pi!
逃げなければ…… - 327 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/06(月) 22:48:24.53 ID:dfgCrYiL0
- 黄泉川「ぜぇぜぇ……チッ……言う事聞けっ!!」バッ!!
荒い息を整えながら、腕を伸ばしてきた。それはもう殴りかかる勢いで……これは本格的に拙い。
彼女は今、軽くキレてる。
手塩「あ、愛穂……落ち着いて」タラー・・・
黄泉川「宥めようったって無駄じゃん! オマエ、それで逃げる気だろ!」ブンッ・・・ギリッ!
手塩「べ、別にそういう訳じゃ」アタフタ・・・
黄泉川「恵未の手口は知ってるじゃんよ! クール気取って、ちゃっかり逃げる! 桔梗よりセコいじゃん!」オラァッ!!
共通の知人……芳川桔梗と比べられても、何とも言えない。彼女は別にクールじゃなく『自称』甘ちゃんなヘタレだし。
兎に角、捕まらない様逃げなければ。
結構な喫煙者(スモーカー)の彼女は、持久戦にしてしまえば如何にか撒ける。
黄泉川「持久戦とか考えても無駄ぁ!! ふんっ!!」シュッ!!
手塩「なっ……て、手錠出すとか、何考えてるんだ!!」ギョッ・・・
黄泉川「逃がさない為じゃん!! こら待てっての!!」ブンッ!!
何という職権乱用。誰か警備員か風紀委員呼んで下さい。
手塩「こ、の……ったく!」グルッ・・・タタタタタッ・・・・
逃げる。
黄泉川「待てっつってんじゃんよ、ボケ恵未ぃ!!」バッ・・・タタタタッ・・・・
追われる。
バカみたいな光景だった。大の大人が公園で追い駆けっこしている。
しかも片方はスタンガンやら捕縛用のロープやらを出そうとしているのだから、完全に危ない大人だ。
私はブっ壊れてるらしいと有名な自販機の辺りまで逃げ、そこから雑木茂みの方へ飛び込んだ。
黄泉川「猪口才なっ!!」ゴンッ!!
自販機『ぎゃあああああああぁっ!!』ビービー!!
手塩「ちょ、公共物壊さないの!! (自販機、今喋った?!)」アワワワ・・・
黄泉川「恵未が止まれば壊れなかったの!! 大人しく御縄に付けってんじゃん!!」ギャーギャー!!
あー、もう、誰か助けて下さい。 - 331 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/06(月) 23:52:24.41 ID:dfgCrYiL0
- ――数分後……
木などの遮蔽物を利用して逃げきろうとしたのだが……意味が無い。
流石、エースオブエースの警備員。この程度では撒く事は出来ない様だ。
黄泉川「ハァ・・・ハァ・・・…この、こんにゃろおおぉっ!!」ガアアァッ!!
しかし、確実にスタミナが切れてきている。煙草の所為か、歳の所為か……
黄泉川「五月蠅ぇじゃん!! テメェと同い年じゃんよ!!」ダアアァッ!!
手塩「だったら年相応に、『疲れた~』とか言って、引き下がってよ」ハァ・・・
黄泉川「嫌だっ!! 恵未こそ捕まれ!!」ゼェゼェ・・・
何言っても無駄か。こういう性格なのは知ってるが……面倒臭い。
黄泉川「だー、もう……こうなったら鉄装と桔梗に応援頼んで捕獲の手伝いを!」スッ・・・
手塩「馬鹿な事、言わないで!」アタフタ・・・
黄泉川「だったら止まれ! じゃないと……『先輩』呼ぶじゃんよ!!」ガアアァッ!!
手塩「い”……あの人は、マジで駄目だって……というか、あの人の連絡先、知ってるの?」タラー・・・
黄泉川「この前、悪ガキ捕まえようとちょっとバイオレンスな事してたら、見つかって……首折られそうになったじゃん!」ダラダラ・・・
多分この街最強と名高い『先輩』を呼ばれたら、流石の私も逃げ切れない。
黄泉川「兎に角……ふんっ!!」ヌルポッ!!
手塩「通りに出れば……あ」ガッ!!
ヤバい、掴まれた。緩めのシャツなんか着てくるんじゃなかった。
黄泉川「逃がさん!!」ドンッ!!
手塩「っ!!」グラッ・・・
アメフト選手よろしく、押し倒される。
そのまま手錠を私の手に向かって振り降ろしてきた……仕方ない。
手塩「……ツ」ブンッ!!
黄泉川「な……け、警備員に向かってサブミッション掛けようとすんなってんじゃん!!」バッ!!
残念。腕を取って三角絞めしようとしたが、逃げられた。 - 332 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/06(月) 23:52:59.75 ID:dfgCrYiL0
- ――数分後……
木などの遮蔽物を利用して逃げきろうとしたのだが……意味が無い。
流石、エースオブエースの警備員。この程度では撒く事は出来ない様だ。
黄泉川「ハァ・・・ハァ・・・…この、こんにゃろおおぉっ!!」ガアアァッ!!
しかし、確実にスタミナが切れてきている。煙草の所為か、歳の所為か……
黄泉川「五月蠅ぇじゃん!! テメェと同い年じゃんよ!!」ダアアァッ!!
手塩「だったら年相応に、『疲れた~』とか言って、引き下がってよ」ハァ・・・
黄泉川「嫌だっ!! 恵未こそ捕まれ!!」ゼェゼェ・・・
何言っても無駄か。こういう性格なのは知ってるが……面倒臭い。
黄泉川「だー、もう……こうなったら鉄装と桔梗に応援頼んで捕獲の手伝いを!」スッ・・・
手塩「馬鹿な事、言わないで!」アタフタ・・・
黄泉川「だったら止まれ! じゃないと……『先輩』呼ぶじゃんよ!!」ガアアァッ!!
手塩「い”……あの人は、マジで駄目だって……というか、あの人の連絡先、知ってるの?」タラー・・・
黄泉川「この前、悪ガキ捕まえようとちょっとバイオレンスな事してたら、見つかって……首折られそうになったじゃん!」ダラダラ・・・
多分この街最強と名高い『先輩』を呼ばれたら、流石の私も逃げ切れない。
黄泉川「兎に角……ふんっ!!」ヌルポッ!!
手塩「通りに出れば……あ」ガッ!!
ヤバい、掴まれた。緩めのシャツなんか着てくるんじゃなかった。
黄泉川「逃がさん!!」ドンッ!!
手塩「っ!!」グラッ・・・
アメフト選手よろしく、押し倒される。
そのまま手錠を私の手に向かって振り降ろしてきた……仕方ない。
手塩「……ツ」ブンッ!!
黄泉川「な……け、警備員に向かってサブミッション掛けようとすんなってんじゃん!!」バッ!!
残念。腕を取って三角絞めしようとしたが、逃げられた。 - 333 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 00:12:04.87 ID:48Pzi7xs0
- 黄泉川「何つー真似を……」タラー・・・
手塩「それはコッチの、台詞だよ。相変わらず愛穂は、暴力的ね」ハァ・・・
黄泉川「恵未に言われたらお終いじゃんよ」ジトー・・・
ああ、そうだ。彼女の拳は加減が出来る。だが私の拳は加減が苦手だ。
さておきとりあえず、雑木林から公園の方へ出れば誰かが通報してくれるかもしれない。
そう考え、急いで表の方へ逃げた。無論彼女の追跡は止まない。
こうなったら大声で助けを呼んでみようか。
手塩「……柄じゃないね」ハァ・・・
黄泉川「さっきからチョコマカと……いい加減にしろっ!!」ガチャッ!!
手塩「て、テイザースタンは、やり過ぎじゃない?」ピタッ・・・
黄泉川「そっちがその気なら、手段は選ばない!!」ギロッ!!
本気か……
手塩「……そろそろ、私、怒るよ?」ジトー・・・
黄泉川「ああ……そっちの方が私達らしいじゃんよ。構えな!」フンッ・・・
手塩「模擬戦じゃ、6体4で、私の勝ち越しだよ。忘れたの?」スッ・・・
黄泉川「いつまでも昔の事をネチネチと……良いから黙ってかかって来い! チキン女郎!!」ダッ!!
手塩「っ! かかって来いって、そっちから、来てるじゃん!」バッ!!
胸倉に向かっての貫手。そのまま掴まれると読み、その手を右脚を蹴り上げる。
黄泉川「つっ」イテェ!
手塩「……恨まないでよ」スッ・・・
上げた脚を愛穂の肩に向かって振り降ろす。
彼女は即座に反応し、頭上で両手を交差。私の脚を挟んだ。
黄泉川「こ、の……嘗めるな!!」グッ・・・
手塩「だけど……甘い」グルッ・・・
黄泉川「な―――」
左脚が残っている。そのまま……
黄泉川「―――ッッ……」ガンッ!!
左脇腹に飛び回し蹴りを打ち込んでやった。 - 334 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 00:35:07.61 ID:48Pzi7xs0
- 黄泉川「お、ま……」グラッ・・・
手塩「……」ジー・・・
黄泉川「チッ……こんにゃろぉ!!」ブンッ!!
手塩「な、砂っ」バッ・・・
砂粒手。思わず目を閉じる。
黄泉川「今度こそ……腕取った!」ガシッ!
手塩「っ……私を掴んで、勝った事、ある?」グイッ
そのまま再びサブミッションへ……
黄泉川「五月蠅ぇ! 離さん!!」ゴンッ!!
手塩「ずっ……痛ぃ」グラッ・・・
まさかの胸部へ頭突き。危険な真似をする。
黄泉川「ぐぬぬ……恵未、胸筋鍛えんの止めなさいって学生時代から言ってんのに」ヒリヒリ・・・
手塩「……それ、愛穂が言うと、嫌みにしか、聞こえないんだ」ジー・・・
黄泉川「喧しい。好きでデカいんじゃないじゃん、ボケ!」グッ!
手塩「それも嫌み……そんな事如何でも良いけど、私に、関節技掛けれた事、無いでしょ?」フンッ!
黄泉川「一々五月蠅い! 今成功させてやんじゃんよぉ!!」ギリリ・・・
必死に直立アームロックをしようとする愛穂。
しかしさせない。空いた手で再び左脇腹にブローを入れてやる。
黄泉川「っ……密着(この)距離からのブローなんてタカが知れてるじゃん!」グググ・・・
手塩「……じゃあ、弱点狙うわ」スッ・・・
黄泉川「え―――」
豪快に、左胸部(乳房)を鷲掴みにしてやった。
手塩「―――い”! だだだだだっ!! は、離せえええぇっ!!」ギャアアァッ!!
手塩「っ……愛穂こそ、放しなさい」グヌヌ・・・
声は情けないものの、互いに力は緩めず。一向に妥協の色を見せない――― - 335 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 01:11:38.96 ID:48Pzi7xs0
- ―――とある数日後(その翌日)、PM06:20、学園都市第7学区、とある公園・・・・・・
黒妻「あー、もしもし。只今二人はキャットファイト中。どーぞ」Pi!
半蔵『……冷静に解説しないでください、おーばー』ハァ・・・
土御門『早く止め入れよ、おーばー』ッタク・・・
黒妻「あ、手塩さんが黄泉川さんの胸揉みしだきだした」
半蔵『●RECで送って下さい!!』イヤッホゥイッ!!
土御門『いや待て近くの公園だな!? 直ぐ向かう!!』ニャッホォッ!!
黒妻「……じゃーな。半蔵、手筈通り電話しろよ」Pi!
土御門・半蔵『『ちょ、待―――』』ガチャッ・・・
足の速い二人を追い駆け遅れて公園に入ったのは良いが、もれなく喧嘩中だった。
周りに人が居ないのが唯一の救いだろう。傍から見ればかなり奇妙な光景だ。
黒妻「……問題はこっからだな」ポリポリ・・・
道化を演じる。問題はタイミングなのだが……
黄泉川「痛だだだだっ!!」ギャアアアァッ!!
手塩「ぐっ……」ダラダラ・・・
……これでは入れない。如何にか動いてくれないだろうか。
黒妻「ん? 待てよ……」ピクッ・・・
こういう時こそ、風紀委員の役目だろう。
黒妻「電話してみるか。オレが上手くやれば……問題無い」Pi! Prrr・・・
多分脚本(シナリオ)にイレギュラーが生じ、後で半蔵に怒られるが大丈夫だろう。きっと上手くいく。
そういう訳で、着信履歴で一番多い名前をコールした。
固法『はい』Pi!
黒妻「もしもし。何処居た?」
固法『え? 何処って……まだ支部に居ましたけど』
黒妻「公園で喧嘩してるぞ」サラッ
固法『……えっと、もう少し言葉を足して貰えます?』
黒妻「大の大人が二人喧嘩してるよ」
固法『……先輩。何も無いのに喧嘩はしないで下さいと、あれほど忠告したのに』ハァ・・・
オレじゃねぇ、馬鹿女郎。 - 336 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 01:52:12.42 ID:48Pzi7xs0
- とりあえず詳細を伝えた。
固法『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・黄泉川先生?』ポカーン・・・
黒妻「ああ」
固法『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それって、風紀委員より警備員呼んだ方が』タラー・・・
警備員だろうが風紀委員だろうが、あの人の暴走止められないだろ。
固法『うーん……じゃあ、芳川さんか一方通行くんに連絡するのは?』
黒妻「それで止まるかなぁ」ポリポリ・・・
固法『それじゃ如何しようも……あ、ちょ、御坂さん行こうとしないの! 打ち止めちゃんも座ってなさい!!』ワーワー!
黒妻「……後輩共も聞いてるんかい。てか打ち止めちゃんまで」ハァ・・・
固法『彼女達が勝手に聞き耳立ててるだけです! 白井さん早く止めて!』ギャー!
流石に超能力者……というか完全部外者は拙い。
残念だが美偉は宛てに出来ないか。仕方あるまい。
黒妻「うーん……じゃあ良いや。何とかオレ止めてみる」ハァ・・・
固法『え、でも……大丈夫ですか?』
黒妻「ばーろー。オレを誰だと思ってやがる」ニコッ
固法『誰とかっていう問題じゃなく……ハァ。しょうがない、一応向いますからあんまり無茶しないで下さいね』
黒妻「ああ。それと、美偉一人で来いよ」
固法『え? 私より白井さんの方が』
黒妻「喧嘩の相手は手塩さんだ」ボソッ
固法『え……あ』
双方、警備員。加えて昔の『色々』で喧嘩中っぽい。
ならば諸々を和らげる為にも、多少顔見知りであるオレや美偉の方が良いだろうという事だ。
固法『内輪解決ですか……了解です』
黒妻「じゃあ待ってるぞ」Pi!
さて……では止めるとしましょうか。 - 337 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 01:53:34.93 ID:48Pzi7xs0
- とりあえず詳細を伝えた。
固法『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・黄泉川先生?』ポカーン・・・
黒妻「ああ」
固法『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それって、風紀委員より警備員呼んだ方が』タラー・・・
警備員だろうが風紀委員だろうが、あの人の暴走止められないだろ。
固法『うーん……じゃあ、芳川さんか一方通行くんに連絡するのは?』
黒妻「それで止まるかなぁ」ポリポリ・・・
固法『それじゃ如何しようも……あ、ちょ、御坂さん行こうとしないの! 打ち止めちゃんも座ってなさい!!』ワーワー!
黒妻「……後輩共も聞いてるんかい。てか打ち止めちゃんまで」ハァ・・・
固法『彼女達が勝手に聞き耳立ててるだけです! 白井さん早く止めて!』ギャー!
流石に超能力者……というか完全部外者は拙い。
残念だが美偉は宛てに出来ないか。仕方あるまい。
黒妻「うーん……じゃあ良いや。何とかオレ止めてみる」ハァ・・・
固法『え、でも……大丈夫ですか?』
黒妻「ばーろー。オレを誰だと思ってやがる」ニコッ
固法『誰とかっていう問題じゃなく……ハァ。しょうがない、一応向いますからあんまり無茶しないで下さいね』
黒妻「ああ。それと、美偉一人で来いよ」
固法『え? 私より白井さんの方が』
黒妻「喧嘩の相手は手塩さんだ」ボソッ
固法『え……あ』
双方、警備員。加えて昔の『色々』で喧嘩中っぽい。
ならば諸々を和らげる為にも、多少顔見知りであるオレや美偉の方が良いだろうという事だ。
固法『内輪解決ですか……了解です』
黒妻「じゃあ待ってるぞ」Pi!
さて……では止めるとしましょうか。 - 338 :なんか今日ダブル投下になるねw [saga]:2011/06/07(火) 03:01:20.86 ID:48Pzi7xs0
- 黄泉川「んぎぎ……ね、ねぇ……一旦、離れない?」イテテ・・・
手塩「……そ、そうだね」グヌヌ・・・
黄泉川「5カウントでOKじゃん?」フゥ・・・
手塩「分かった……絶対よ?」ジトー・・・
黄泉川「そっちこそね……行くじゃんよ。5,4,3……」
双方の空気が変わった。
手塩「2,1……―――」ブンッ!!
黄泉川「0ッ―――」ブンッ!!
互いの手を離した瞬間……クロスカウンター。
黄泉川「ぎっ……い、いきなり殴んな!!」ブッ・・・
手塩「ぐっ……どの口、言うか……」ブッ・・・
黄泉川「だあああぁっ!! こうなったらとことんやったるじゃんよぉっ!!」オラァッ!!
手塩「スマートじゃ……無いわねっ!!」チィッ!!
本格的に殴り蹴り合いが始まった。
黒妻「アハハ……まぁさっきよりはコッチの方、止め易いな」タラー・・・
半蔵にメールをする。『殴り合い開始』……後はオレ次第だな。
黄泉川「こんのぉ! いつもいつもスカしやがってぇっ!! そういうのクールじゃなくて根暗っつーじゃんよ!!」ミギストレート!
手塩「別にっ、何と言われようがっ、構わないっ! そう言う愛穂こそっ、熱血じゃなくてっ、ウザったいのよ!!」ミギローキック!
黄泉川「喧しいじゃん! アンタが勝手に消えた所為で諸々の仕事私に押し付けられたんだ!! 謝れ馬鹿!!」ミギマワシゲリ!
手塩「だからっ、手紙で謝った筈だろっ。グチグチっ、言うな!! 脳筋女!!」ヒダリシュトウ!
黄泉川「顔見て謝れってんじゃん!! あとポーカーの負け金払ってないじゃんよ!!」ミギショウテイ!
手塩「アンタがっ、貸した5万返したらっ、払ってやる!! それとっ、私のライフル壊したのっ、愛穂まだ弁償してない!!」ヒダリヒジウチ!
黄泉川「んなモン支給品なんだからチマチマすんな! 良いから大人しく私に頭下げて、その後桔梗とか色んな人に頭下げろ!!」ミギハイキック!
手塩「ふざけるな! いつもっ、姉貴ぶって……そういう所っ、気に喰わないのよ!!」ミギフック!
かなり下らない会話だが……オッカネェな、おい。 - 339 :なんか今日ダブル投下になるねw [saga]:2011/06/07(火) 03:02:02.27 ID:48Pzi7xs0
- 黄泉川「んぎぎ……ね、ねぇ……一旦、離れない?」イテテ・・・
手塩「……そ、そうだね」グヌヌ・・・
黄泉川「5カウントでOKじゃん?」フゥ・・・
手塩「分かった……絶対よ?」ジトー・・・
黄泉川「そっちこそね……行くじゃんよ。5,4,3……」
双方の空気が変わった。
手塩「2,1……―――」ブンッ!!
黄泉川「0ッ―――」ブンッ!!
互いの手を離した瞬間……クロスカウンター。
黄泉川「ぎっ……い、いきなり殴んな!!」ブッ・・・
手塩「ぐっ……どの口、言うか……」ブッ・・・
黄泉川「だあああぁっ!! こうなったらとことんやったるじゃんよぉっ!!」オラァッ!!
手塩「スマートじゃ……無いわねっ!!」チィッ!!
本格的に殴り蹴り合いが始まった。
黒妻「アハハ……まぁさっきよりはコッチの方、止め易いな」タラー・・・
半蔵にメールをする。『殴り合い開始』……後はオレ次第だな。
黄泉川「こんのぉ! いつもいつもスカしやがってぇっ!! そういうのクールじゃなくて根暗っつーじゃんよ!!」ミギストレート!
手塩「別にっ、何と言われようがっ、構わないっ! そう言う愛穂こそっ、熱血じゃなくてっ、ウザったいのよ!!」ミギローキック!
黄泉川「喧しいじゃん! アンタが勝手に消えた所為で諸々の仕事私に押し付けられたんだ!! 謝れ馬鹿!!」ミギマワシゲリ!
手塩「だからっ、手紙で謝った筈だろっ。グチグチっ、言うな!! 脳筋女!!」ヒダリシュトウ!
黄泉川「顔見て謝れってんじゃん!! あとポーカーの負け金払ってないじゃんよ!!」ミギショウテイ!
手塩「アンタがっ、貸した5万返したらっ、払ってやる!! それとっ、私のライフル壊したのっ、愛穂まだ弁償してない!!」ヒダリヒジウチ!
黄泉川「んなモン支給品なんだからチマチマすんな! 良いから大人しく私に頭下げて、その後桔梗とか色んな人に頭下げろ!!」ミギハイキック!
手塩「ふざけるな! いつもっ、姉貴ぶって……そういう所っ、気に喰わないのよ!!」ミギフック!
かなり下らない会話だが……オッカネェな、おい。 - 340 :なんか今日ダブル投下になるねw [saga]:2011/06/07(火) 03:02:40.02 ID:48Pzi7xs0
- 黄泉川「んぎぎ……ね、ねぇ……一旦、離れない?」イテテ・・・
手塩「……そ、そうだね」グヌヌ・・・
黄泉川「5カウントでOKじゃん?」フゥ・・・
手塩「分かった……絶対よ?」ジトー・・・
黄泉川「そっちこそね……行くじゃんよ。5,4,3……」
双方の空気が変わった。
手塩「2,1……―――」ブンッ!!
黄泉川「0ッ―――」ブンッ!!
互いの手を離した瞬間……クロスカウンター。
黄泉川「ぎっ……い、いきなり殴んな!!」ブッ・・・
手塩「ぐっ……どの口、言うか……」ブッ・・・
黄泉川「だあああぁっ!! こうなったらとことんやったるじゃんよぉっ!!」オラァッ!!
手塩「スマートじゃ……無いわねっ!!」チィッ!!
本格的に殴り蹴り合いが始まった。
黒妻「アハハ……まぁさっきよりはコッチの方、止め易いな」タラー・・・
半蔵にメールをする。『殴り合い開始』……後はオレ次第だな。
黄泉川「こんのぉ! いつもいつもスカしやがってぇっ!! そういうのクールじゃなくて根暗っつーじゃんよ!!」ミギストレート!
手塩「別にっ、何と言われようがっ、構わないっ! そう言う愛穂こそっ、熱血じゃなくてっ、ウザったいのよ!!」ミギローキック!
黄泉川「喧しいじゃん! アンタが勝手に消えた所為で諸々の仕事私に押し付けられたんだ!! 謝れ馬鹿!!」ミギマワシゲリ!
手塩「だからっ、手紙で謝った筈だろっ。グチグチっ、言うな!! 脳筋女!!」ヒダリシュトウ!
黄泉川「顔見て謝れってんじゃん!! あとポーカーの負け金払ってないじゃんよ!!」ミギショウテイ!
手塩「アンタがっ、貸した5万返したらっ、払ってやる!! それとっ、私のライフル壊したのっ、愛穂まだ弁償してない!!」ヒダリヒジウチ!
黄泉川「んなモン支給品なんだからチマチマすんな! 良いから大人しく私に頭下げて、その後桔梗とか色んな人に頭下げろ!!」ミギハイキック!
手塩「ふざけるな! いつもっ、姉貴ぶって……そういう所っ、気に喰わないのよ!!」ミギフック!
かなり下らない会話だが……オッカネェな、おい。 - 341 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 03:18:55.64 ID:48Pzi7xs0
- 黒妻「水を指す様で悪いが、こっちも色々あるんでね……止まって貰う」スッ・・・
足元のに落ちてた石を二つ拾う。そして軽く放る。
黄泉川「―――五月蠅い! 恵未はだから……ッ」バッ!
手塩「―――しつこい! 人を馬鹿にして……ッ」バッ!
見事に避けられた。『ヒューッ!』ってヤツだな。
黒妻「はいはい、止まった」テクテク・・・
黄泉川「……黒妻」チラッ・・・
黒妻「ったく、女性があんな格闘戦するもんじゃないですよ……御蔭で止めるタイミング迷いましたね」ハハハ
手塩「……え」ポカーン・・・
オレの顔を見て、目を丸くする手塩さん。
仕方あるまい……この人はオレが『生きてる』事を知らない。
黒妻「……お久しぶりですね、手塩さん」ペコッ
手塩「黒妻……綿流、なのか」ポカーン・・・
黒妻「ええ、幽霊じゃないですよ。ちゃんと足も有りますし」ホラッ
手塩「……」キョトン・・・
黄泉川「……如何でも良いが、何の様じゃん? 見ての通り今『お話中』なんだけど」ジトー・・・
貴女(肉体言語)の『お話』程、怖いモノは無いな。
黒妻「そりゃ無いっしょ。黄泉川さん、アンタ仕事放っぽり出して何してんすか? 追い駆ける様、教頭に頼まれたんですよ」ジー・・・
黄泉川「うっ……」タラー・・・
黒妻「しかも随分と走り回ってくれて……後で煙草の一箱でも奢って下さいよ。割に合いませんって」ハァ・・・スッ・・・カチッ
手塩「……」ジー・・・
黒妻「ふぅ……ん? 何か?」ジジジ・・・
手塩「何故……生きてるの」ジー・・・
黒妻「『色々』あったんすよ。生きてちゃ駄目っすか?」ハハハ
誰も彼もが『色々』あるのだ。貴女と同じ様にね。 - 342 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 03:40:47.89 ID:48Pzi7xs0
- 黒妻「兎に角、黄泉川『先生』。一緒に帰って貰いますよ」ジトー・・・
黄泉川「で、でもさぁ……」ウー・・・
手塩「……言うとおりになさい。愛穂、仕事中なんだろ」
黄泉川「ぐっ……だけど逃がさないじゃんよ」グヌヌ・・・
黒妻「ったく……そんじゃ手塩さん。少しばっか黄泉川さんと話してやってくださいよ。じゃないとこの人帰ろうとしないんで」ハァ・・・
手塩「それは……無理」ムゥ・・・
後ろめたいってか。顔にそう書いてある。
黒妻「……忙しいんすか?」フゥ・・・
手塩「え、ええ。今から用事があって」
黄泉川「嘘付け。私服のくせに……恵未の嘘は分かり易いじゃんよ」ヘンッ!
手塩「兎に角、無理ね。黒妻、久しぶりに会って、悪いのだけど、愛穂無理矢理にでも、連れて帰って頂戴」クルッ・・・
黒妻「無理ですね。オレの力じゃ」ハハハ・・・
黄泉川「……大人しくしろ。逃げても無駄じゃん」ジー・・・
手塩さんは嘆息を漏らし、再びその場から逃走しようとしている。そろそろだ……
オレは携帯を取り出し、急いで電話を入れた。
黒妻「……手塩さん」ポイッ!
手塩「え?」パシッ・・・
黄泉川「は? 何してんの?」ポカーン・・・
黒妻「いや、今さっき半蔵から電話掛ってきましてね。校門前居たんでしょ? 見つけたら電話くれって言われてて」
黄泉川「そういえば一緒に居たじゃん……」
黒妻「手塩さん、安心して出て下さい。電話中は馬鹿な真似させませんから」ニコッ
黄泉川「オマ……生意気を」ジトー・・・
黒妻「電話中に喧嘩売る程、常識無いんすか? 黄泉川『先生』」ジトー・・・
黄泉川「むっ……さっさと終わらすじゃんよ。あと終わったら電話貸せ。何であんな場所に恵未と半蔵居たか聞き出してやる」フンッ!
やれやれ、頑張れよ半蔵。とりあえずオレは煙草一本渡して落ち着かせるくらいの事しか出来ないからな。 - 343 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 04:01:42.29 ID:48Pzi7xs0
- ―――とある数日後(その翌日)、PM06:30、学園都市第7学区、とある公園・・・(手塩side)・・・
先日から本当に驚いたり悩まされたりと忙しい。
愛穂もそうだが、目の前の男についても色々と因縁は有る。
兎角、幸か不幸か黒妻が愛穂を留めていてくれているうちに携帯の方に集中しよう。
手塩「……もしもし」
半蔵『ああ、手塩さん。落ち着いた?』
手塩「本気で、そう思ってる?」
半蔵『あはは。まぁ黄泉川から逃げ切れるまで無理ですよね』クスッ
手塩「ところで……また色々、聞きたい事が、増えたんだけど」チラッ
煙草を喫いつつ、此方を見遣ってくる二人。
半蔵『兄貴?』
手塩「……何故、生きてるの?」
半蔵『先日からその質問ばっかですね』アハハ
手塩「良いから、答えろ」ギリッ・・・
半蔵『やれやれ、せっかちな……何故生きてたかはオレも知りませんよ。兄貴、教えてくれませんもん』
あの大火災から生き延びれる筈が無いのだが……
半蔵『まぁ兄貴ですからね。戸籍無くなって大変らしいっすけど、それ以外は不自由無く暮らしてるみたいですよ』ハハハ
手塩「……じゃあ何で彼、此処に居るの?」
半蔵『あれ? 聞きませんでしたか? 黄泉川の紹介で学校の事務バイトしてるんすよ』
あの都市一の走り屋集団―――『大蜘蛛(ビッグスパイダー)』の頭がカタギになったというのか。
半蔵『嫁さん……固法さんの世話(ヒモ)になってますからね。あ、本人に言っちゃダメっすよ』クスクス・・・
手塩「固法……あの固法か。最近、風紀委員になったとか」
半蔵『最近? 結構前ですけど……手塩さん、ホントに情報収集して無いんすね』
確かに『一つの目標』にしか目がいってなかった。
今後少しは他の話題の情報も聞き入れる事にしよう。 - 344 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 04:16:57.45 ID:48Pzi7xs0
- では話はこれで……と電話を切ろうとした瞬間、ふと疑問が浮かぶ。
服部と、黒妻の共通は?
確かにスキルアウト出身同士仲が良いのかもしれないが、あまりに都合が良過ぎる。
愛穂についてもだ……まるで仕組まれているかの様で―――
手塩「ぁ……っ!」ギリリ・・・
半蔵『……ふふっ、ははは』
―――やられた。
半蔵『手塩さん……今日本来の目的は?』クスクス・・・
手塩「……」
半蔵『気付くのが遅すぎましたね。そうですよ……「死者」は「死者」なんです』ニヤッ・・・
この、策士め。
黒妻「……」コクッ・・・
ああ、成程。辻褄が合う。
半蔵『そういう事です。言った通り……【仮面】の下は「死者」だったでしょ?』ハハハ!
手塩「……覚えてなさい」ギリリ・・・
半蔵『おっと、怒らないで下さいよ。その場に黄泉川居るんでしょ?』
手塩「っ……暗部の事、ばらすの? 脅す気?」
半蔵『まぁまぁ、そんなに気を張らずに。俺らはアンタなら信用出来ると思って今に「至らせてる」んだ。あーゆーおけ?』
全て筋書き通り。まんまと乗せられた。
完全にアチラが有利。此方が【仮面】についてばらした所で、アチラも開けるカードがある。
半蔵『とりあえず「正体」は分かったでしょ。今回は此処までです。何れ、しっかりと話の場は設けます……兄貴込みでね』
手塩「……従えと」
半蔵『いえ、協力ですよ。無碍にはしない。寧ろ貴女有利に話を進めても良いと思ってる。安心して下さい』
ああ、畜生。お手上げだ。 - 345 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 04:31:49.88 ID:48Pzi7xs0
- 半蔵『それじゃあ黄泉川に換わって下さい。手塩さんは少し兄貴と御喋りでも』ニコッ
手塩「……秘密は、守りなさい」ボソッ
半蔵『分かってます。フラットな関係なんだから言えませんよ』クスッ
電話を愛穂の方に投げる。
それから私に向かって『逃げるなよ!』と釘を刺し、怒鳴る様に服部と会話を始めた。
私は……黒妻の方を見る。彼はゆっくりと此方に近づいてきた。
手塩「……何と言ったらいいか、分からないよ」
黒妻「そうっすか……鉄網ちゃんは元気で?」
手塩「いつも通り、元気にオドオドしてる」
黒妻「そりゃ可哀想に」ククク・・・
手塩「……」ジー・・・
この男が『駒場利徳』を騙っている。何故だ。
黒妻「……駒場の死因は御存じで?」
手塩「詳細は、知らない」
黒妻「理事会への反攻作戦。無能力者を守る為にね……そんで暗部と戦った。第1位に立ち向ったそうですよ」
手塩「……そう。彼らが殺し合いを」ジー・・・
一方通行。彼もまた、私の馴染みの者。
黒妻「その一方通行も今は黄泉川さんの居候ですよ。知ってました?」
手塩「なっ……今日はつくづく、驚かされっ放しだ」ハハハ・・・
黒妻「……アンタ、過去に取り残され過ぎだよ」ハァ・・・
手塩「……」クスッ・・・
過去に取り残される、か。その通りかもしれない。 - 346 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 04:49:22.83 ID:48Pzi7xs0
- 黒妻「さて……さっき『何故』と聞きましたね」
手塩「ええ。死者の真似事を、する意味は?」
黒妻「志半ばで倒れた友の意志を継いだ……ってんじゃ駄目ですか?」
志……友、か。
手塩「……無能力者の為に、立ったと?」
黒妻「助けが必要な者の為です。それから……『狩り』を止めます」
手塩「『狩り』……あの、狂ったマンハントパーティーね」
黒妻「それは知ってましたか。ええ、潰してやりますよ。その為には『抑止力』が必要です」
それが『駒場利徳』。
成程、無能力者(弱者)の象徴。能力者(強者)に負けない無能力者。
黒妻「凄腕の悪党であっても畏怖する存在。アイツはそのくらい強かった」
手塩「でも、それなら貴方だって」
黒妻「知名度の差ですよ。オレは所詮、第十学区……小山(ストレンジ)の大将に過ぎないから」
そんな事は無い。駒場、黒妻、横須賀、服部……マル武(武装無能力集団対策警備班)の中では屈指の有名人だ。
黒妻「昔の話でしょ。だけど駒場のヤツはまだ忘れ去られる程時間が経ってない……利用って言葉はアイツに申し訳無いが、幅が効く」
手塩「……警備員としては、止めなきゃいけないんでしょうけど、目を瞑るよ」
黒妻「ありがとう」ニコッ
今に生きるモノの邪魔はしない。それが過去に縛られた私の信条だ。
黄泉川「―――……だぁっ!! 喧しい!! 何で私じゃ無くて黒妻の方が先なんじゃんよ!! ……五月蠅い! 後で叩きのめす!」Pi!
黒妻「おっと、そんじゃまた後ほど……黄泉川さん。オレの携帯乱暴に扱わないで下さいよ」テクテク・・・
手塩「……」
……話だけでも、聞いてみるか。 - 347 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 05:11:02.93 ID:48Pzi7xs0
- ―――とある数日後(その翌日)、PM07:00、学園都市第7学区、とある公園・・・(固法side)・・・
連絡のあった公園へ来てみると、何とも厄介そうな光景が目に飛び込んだ。
騒ぎ立てる黄泉川先生。それを宥める先輩。そして……俯いたまま棒立ちの手塩さんの久しい姿。
固法「ハァ……こんばんは、風紀委員です」テクテク・・・
黄泉川「―――うがー! 口開けこのスカポンタン恵未ぃ!!」ギャーギャー!
黒妻「ちょ、いい加減に……あ、良いとこ来た! 止めるの手伝え美偉!」アタフタ・・・
固法「まったく……」チラッ・・・
手塩「……今度は、固法か。大きくなったな」クスッ・・・
固法「御無沙汰してます、手塩さん」ニコッ・・・
この人はスキルアウト時代の私しか知らない筈。本当に久しぶりだ。
黄泉川「無視すんなやぁごるぁっ!!」ガーガー!
黒妻「あーもう……黄泉川さん! これ以上はホントにヤバいですから、帰りましょう!」ンモー・・・
固法「……手塩さん、少しお話してあげれば気が済むんじゃないですか?」ハァ・・・
手塩「多分、もう無理……今の愛穂は、何言っても、怒ってて聞き入れないよ」
黄泉川「うっせぇじゃん!! 澄ましてんじゃねぇぞ!! 面と向かって話せっつってんじゃん!!」ギリリ・・・
いっその事、警備員の本部にでも連絡してやろうか。
手塩「……私、今本部勤めだから、止めて」ポリポリ・・・
固法「え? そうだったんですか。栄転ですね、おめでとうございます」ニコッ
手塩「デスクに、左遷されただけだよ」ハハハ・・・
黒妻「何を呑気な……何とかしてくれよ! 風紀委員殿!!」ハァ・・・
やれやれ、一応手は打ってるから大丈夫だと思う。
黒妻「手って……何を?」グヌヌ・・・
固法「白井さんに頼んで『とある人』にお願いをしました。そろそろ来る頃だと思いますよ」
黒妻「……内輪でって言ったろ」ジトー・・・
固法「安心して下さい。白井さんも空気は読めますよ。黄泉川先生が問題を、って言ったら黙って首を縦に振ってくれました」
黄泉川「んぎぎ……固法まで私を馬鹿にするかぁ!!」ギャーギャー!
まったく、この人は変な所で子供っぽい。まるで先輩の女性バージョンだ。
あ、噂をしてれば黄泉川さんの背後から……――― - 348 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 05:13:02.63 ID:48Pzi7xs0
-
コキャッ・・・・・
- 349 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 05:30:04.74 ID:48Pzi7xs0
- 首が変な方向へ曲がる軽快な音。
黒妻・手塩「「なっ……」」ギョッ・・・
確か、黄泉川先生が頭上げられない人だって聞いてたから呼んで貰いました。
寮監「……」フンッ・・・
黄泉川「」チーン・・・
常盤台中学女子寮の寮監さん。
寮監「昔から人様に迷惑を掛けるなと、口を酸っぱくして忠告してきた筈だが……警備員になっても変わらないのか、貴様は」グイッ・・・
黄泉川「せ……ぱ……ぃ……」ガクッ・・・
寮監「少し寝てろ」ギロッ・・・
首を元の位置に戻し、先輩の方へ黄泉川先生を放った。
固法「寮監さん。態々すいません」ペコッ
寮監「いや、此方こそ愚かな後輩共が馬鹿騒ぎして何と謝罪すれば良いか」チラッ・・・
手塩「……っ」ビクッ・・・
寮監「……久しいな、手塩」ジー・・・
手塩「……はい」コクッ・・・
何やらシリアスな感じだ。
寮監「……今は何も聞かん」スッ・・・
手塩「え」
寮監「聞かれたくないのだろう? だったら貴様が自分から話すまで待つ……おい、男。黄泉川を寄越せ。連れて帰る」ヨイショッ・・・
黒妻「え、あ、はい……でも学校には」ドーゾ・・・
寮監「私が電話をしておく。警備員の仕事だと言えば何とでも誤魔化せるからな」
手塩「……」
黄泉川先生を肩に背負い、踵を翻す寮監さん。
そのまま消える……と思いきや、眼鏡を外して優しく呟いた。
寮監「恵未……必ず挨拶しに来なさい。時間が経っても良いから……私や愛穂にキチンと、もう大丈夫ですって報告しにね」ニコッ・・・
手塩「先輩……」
寮監「……前を向きなさい。頑張るのよ」クスッ・・・
それだけ告げ、再び眼鏡を掛けて……帰って行った。 - 350 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 05:42:18.93 ID:48Pzi7xs0
- さて、残るは私を含めて3人だけ。
黒妻「やれやれ……んじゃオレらも帰りますか」ハァ・・・
固法「……何だかなぁ」ポリポリ・・・
手塩「……」ジー・・・
固法「あ、手塩さん。もう大丈夫ですよ。報告書類は黄泉川先生宛てに回しときますから」ニコッ
しかし無言。動く気配がない。
固法「手塩さん?」キョトン・・・
手塩「……黒妻」ボソッ
黒妻「……何か?」チラッ・・・
手塩「オマエの『顔』は……彼女の為か?」
黒妻「それもかもね」クスッ・・・
顔?
手塩「そうか……大事にしろよ」クスッ・・・
黒妻「言われんでもそうしてます。手塩さんも、前向きにね。貴女は生きてるんですから」ニコッ
手塩「生意気だよ。死人のくせに」フフフ・・・テクテク・・・
悲しそうな、でも少しほっとした様な顔で帰って行く手塩さん。
一体何なのだ?
黒妻「うーん……生き死にって難しいな」ハハハ
固法「先輩の言葉遊び、嫌いです」ムゥ・・・
黒妻「あはは。ま、生きて様が死んで様がオレらは変わりないな」ニコッ
固法「……ばーか」フフフ・・・///
恥ずかしいセリフ、禁止です。 - 351 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 05:54:10.03 ID:48Pzi7xs0
- ―――とある数日後(その翌日)、PM07:30、学園都市第7学区、とある道路・・・・・・
その後、一度学校にバイクを取りに行くと告げ、美偉を先に帰らせた。
帰り道、半蔵へ報告の電話をする。
半蔵『……兄貴馬鹿でしょ』ハァ・・・
黒妻「うっせぇよ。自覚してるわ」ケッ
半蔵『土御門から聞きましたよ? 部外者二人も入れて……何かあったら如何すんですか?』ッタク・・・
あの道化、見てやがったのか。
半蔵『兎に角、手塩さんは確実に此方のペースには乗せました。後は交渉次第ですね。それは雲川にでも押し付けましょう』
黒妻「そこん策(とこ)はオマエらに任せるよ。とりあえず、今日は御苦労さん」
半蔵『ええ、御気をつけて』Pi!
さて、そんじゃぁ今晩くらいはゆっくりと――
Prrr・・・・・
――したいなぁと思った矢先、電話だ。相手は……雲川。
黒妻「……あいよ」Pi!
雲川『おや、お疲れの御様子だけど。如何した?』
黒妻「今の今まで黄泉川さんと手塩さんの相手してたんだっつの」ハァ
雲川『成程な。それはお疲れ様』フフフ
そういえばオマエは何もしてないな。
雲川『私は私なりに動いてるけど……まぁ良いわ。話があるんだけど』
黒妻「今回の件か? それとも……『狩り』について?」
雲川『違う。この前、大事な話があるから後で電話すると言ったろ。それだけど』
そういえばそんな事言ってたな……何だ。 - 352 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 06:12:34.82 ID:48Pzi7xs0
- 雲川『悪いけど、他言無用の話だ。土御門や服部にもだぞ』
黒妻「……ああ」コクッ・・・
雲川『……まず、今世の中が戦争ムードだって事は知ってるな?』
確か第三次世界大戦がおきそうだとかいう話か。
雲川『それに乗じてるのかは知らんが、理事会の威厳が落ちてきている』
黒妻「まぁ責められるのは政治家の役目だろ」
雲川『まぁね。ただ戦争の所為だけじゃないんだけど……度重なる不手際ってヤツだな』
黒妻「不手際?」
雲川『「0901テロ」や「0930テロ」……そして「1003運動」。貴方が良く知る駒場が起こした運動よ』
※0901・・・シェリー。 0930・・・ヴェント。 1003・・・駒場。
雲川『正直言って、理事会の信用はガタ落ち状態だけど』ハァ・・・
黒妻「だから何だよ」ポリポリ・・・
ハッキリ言え。
雲川『……じゃあ率直に言う。暗部が今危険な状態だけど』
黒妻「暗部が?」
雲川『ええ。彼らの「親」は理事会。その「親」に対して「子(暗部)」らが疑念を抱いているけど』
黒妻「疑念……信用できないって訳か?」
雲川『そうだ。非常に危険な状況にあるらしいね』
つまり……親元から離れるってか。
雲川『そんな生易しい言い方で済まないけど』
黒妻「何?」ピクッ・・・
雲川『反逆、親殺し、クーデター……何でもいいけど、その類よ』
トンでも無い事を宣いやがった。 - 353 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 06:26:36.88 ID:48Pzi7xs0
- 雲川『……具体的な決行日は分からない。でもそう遠くない筈だけど』
黒妻「お、おいおい。ちょっと大袈裟じゃねぇか? しかも決行日って……まるでマジで反逆が起こるみたいな事」
雲川『起こるわよ。確実に……私の読みは外れない。少なくとも2グループは既に準備を始めてるみたいだけど』
黒妻「穏やかじゃないな」ハァ・・・
だが、それがオレに何の関係があるんだ。
雲川『……分からない?』
黒妻「いや、危ないって事ぁ分かるけど……」
雲川『……アイテムも、暗部だけど』
黒妻「っ」
そういえば……忘れていた。
雲川『まぁそれはさておき』
黒妻「さておきって、それが問題なんじゃ!」
雲川『それはあくまで貴方の身内に関する事だろ……そうじゃない。街の問題を言っているんだけど』
黒妻「む……街、か」
雲川『ハッキリ言って、平穏が崩れる。それはもう個のレベルじゃない』
確かにそうだ。オレらがチマチマ動いた所で、大規模なクーデターが起こったらどうしようもない。
黒妻「だが……巻き込まれる無関係な人間は居る」
雲川『ええ。それらを守りなさい。ついでに……「私情」の方も動けばいいけど。OK?』
黒妻「ああ。だけどさ、何で二人には伝えないんだ? 土御門は暗部っぽいから仕方ねぇけど」
雲川『……今はまだ駄目。服部に教えるのは直前で十分だけど』
黒妻「何で?」
雲川『今回ばかりは彼、掻き乱す方に回りかねないから怖いんだ……兎に角、黙っといて。直前で気付けば馬鹿な事はしない筈だけど』
成程……だが考え過ぎだと思うけどな。 - 354 :>>1にかわりましてカキネがお送りします [saga]:2011/06/07(火) 06:42:09.39 ID:48Pzi7xs0
- 雲川『いい? あの二人にはまだ伝えない事』
黒妻「……分かった。この件についてはオマエの指示を仰ぐ」
雲川『宜しい。それから……土御門舞夏を保護出来る様にしておきなさい。一応約束だけど』
ほぉ……遂にデレたか。
雲川『うっさい。それから上条当麻もだぞ……まぁアレは事件に勝手に首突っ込みそうで怖いんだけど』
黒妻「まぁ出来得る限りの事はするさ」
雲川『ええ……あ、最後に』
黒妻「……」
雲川『……アイテムには暫く干渉しない事、特に、絹旗最愛』サラッ・・・
何故だ。
雲川『何故? 言わせる気?』
黒妻「……悪いが、当日は動くぞ?」
雲川『ハァ。何言っても無駄だろうけど、一応言っとく……―――
絹旗最愛を見殺しにする覚悟、しときなさい。
―――……情が入ってしまってるのは分かってるけど、でも……』
お断りだ。
雲川『……やっぱ無駄ね。何も言わない』
黒妻「兎に角……探りは入れない。だがもし『審判の日』が来ても……オレは自分を通すぞ」ギリッ・・・
雲川『……また連絡する。急にこんな事話してすまなかった』Pi!
電話が切れる。
黒妻「くーでたぁ……あはははは……反逆、ねぇ。はははは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・く、そったれがぁッ!!」ガンッ!!
目の前が真っ暗になりそうだった。
ふと子供達と美偉の顔が浮かぶ……誰かこの低脳なオレに画期的な判断を授けてくれ……――― - 355 :>>1にかわりましてカキネがお送りしました [saga]:2011/06/07(火) 06:50:20.87 ID:48Pzi7xs0
- はい。以上です。何か今日、訳分かんない投下になってになってごめんなさいね(汗”
兎に角やっと一段落だ……次から遂に『クーデター』編です。なるべく本編には差し支えない様努力します。
んでもって……次回はおまけの『If.アンジェレネ・アフター』です。期待しないでお待ち下さい。
あ。えっと、>>289 、のアンケートまだお答えしてない人、御協力よろしくね!
そんじゃあ、例の如く感想質問意見罵倒提案リクエスト等々、コメントお願いします。ではまた次回! ノシ - 356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/07(火) 10:16:29.88 ID:7ze2915DO
- >>1
乙
アイテムて
クーデター側だったけ?
まあこのSSはどっちでもいいのか - 357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/06/07(火) 18:38:46.24 ID:CjRDZVBN0
- 実際アイテムは学園都市の反逆者を[ピーーー]のが仕事だけど、
こまけえこたあ
2013年5月14日火曜日
固法「――……風紀委員です。先輩」 1
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