2013年10月30日水曜日

日誌 ロールシャッハ記 9月1日 ヨークシンシティ

2以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:00:27.90 ID:wkFc3Fii0
改めて言い訳と謝罪にすべてを費やすレス

書かねー書かねー言ってましたが、反響がよかったので書きました。

ただし最初に、
“このSSでサディズムと呼べるのは投下したことであり、
マゾヒズムとはそれを読むことである”
ということをどうか念頭に入れてください。

あと俺自身なんかよくわかんないつくりになってます。

こんなのはロールシャッハと認めない、と感じる人が多々いるかと思います。
前より確実につまらないし、色々と台無しにしてます。
あとおもしろくないっす

3 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:01:20.36 ID:wkFc3Fii0
日誌 ロールシャッハ記
1999年 9月 1日

この日の朝を迎えた。

俺は今、この街の頂点から真下を見下ろしている。

摩天楼の隙間に、朝と夜のあいだをうごめく者が見える。

それらをひとつひとつ眺めていると、
改めてこの街がニューヨークとよく似ていると感じる。
ニューヨークと同じく、この街も巨大な獣だ。
嘘と強欲と金がそのはらわたの中で渦巻いている。

二一時、セメタリービルにて地下競売が始まる。
悪の渦の中心部だ。罰すべき多くの者がそこにいる。

セメタリーか。
それこそ、奴らの魂を埋葬するべき地であるということに他ならない。

四人と再会するのは、そのあとのこととなるだろう。

今夜、狩りが始まる。
4 :以下、新鯖からお送りいたします :2013/09/09(月) 20:01:56.60 ID:PAId46kgO
ハンター試験の人か。楽しみ楽しみ
5 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:02:40.29 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 市内

キルア「――携帯買っただけでギャラリーができて、拍手までされるなんて初めて見たぜ」

レオリオ「値切るのは当然だろ? 言っとくが、俺の本気はあんなもんじゃないぜ」

レオリオ「で、クラピカはどこだ?」

ゴン「仕事中だって。時間が空いたら連絡するって言ってた」

キルア「あ、じゃあシャッハのおっさんに電話しようぜ。俺イタ電のバリエーションいくらでもあるし」

ゴン「いや、それはちょっと……」


レオリオ「無駄だと思うぜ。あいつ携帯持ってねえから」

キルア「ああ、さっきついでに買ってたやつ、おっさんにあげるんだ?」

レオリオ「連絡したっつったって、俺もホテル調べて、伝言預けたってだけだからな。
     さっきも行ったけど、外出てて行方がわからねえ」

レオリオ「あいつのことだから、逢ったらすぐ渡しとかねえと」


キルア「携帯とか自分で買いそうにないもんなあ、あのおっさん」

ゴン「こっちに着いてるなら、逢いに来るくらいいいのに」

レオリオ「……しょーがねえな。こっちから逢いに行くか」
6 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:03:21.08 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 安ホテル 廊下

ロールシャッハ(今夜のオークション会場に潜り込むことができなかった)

ロールシャッハ(それこそ俺がDr.マンハッタンのように瞬間移動でもできればよかったのだが)

ロールシャッハ(あいにく、そのような能力は修行でも得ていない)

ロールシャッハ(対策を練らねばならない)

ロールシャッハ、部屋の戸を開ける。

レオリオ「おーう、ひっさしぶりだな」
キルア「遅かったじゃん、どこほっつき歩いてたんだよ」

レオリオとキルア、テレビでムーディーな有料チャンネルを見ている。

ゴンはテレビと反対を向いて座っている。

ロールシャッハ「……何をしている」

レオリオ「な゛に゛を゛してい゛る゛うう」
キルア「な゛に゛を゛してい゛る゛ううう」

レオリオ「ほんっと久々だぜ、その声聞くの!」

ロールシャッハ「……………………」
7 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:03:53.29 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 安ホテル 廊下

ロールシャッハ(今夜のオークション会場に潜り込むことができなかった)

ロールシャッハ(それこそ俺がDr.マンハッタンのように瞬間移動でもできればよかったのだが)

ロールシャッハ(あいにく、そのような能力は修行でも得ていない)

ロールシャッハ(対策を練らねばならない)

ロールシャッハ、部屋の戸を開ける。

レオリオ「おーう、ひっさしぶりだな」
キルア「遅かったじゃん、どこほっつき歩いてたんだよ」

レオリオとキルア、テレビでムーディーな有料チャンネルを見ている。

ゴンはテレビと反対を向いて座っている。

ロールシャッハ「……何をしている」

レオリオ「な゛に゛を゛してい゛る゛うう」
キルア「な゛に゛を゛してい゛る゛ううう」

レオリオ「ほんっと久々だぜ、その声聞くの!」

ロールシャッハ「……………………」
8 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:05:18.96 ID:wkFc3Fii0
ゴン「あああの、あの、ごめんなさい。ロールシャッハさん、連絡とれないって言うから……」

レオリオ「賞金首が潜伏してるつって、これ見せたんだよ」

レオリオの手にはハンターライセンス。

キルア「フロントでリオレオが、おっさんがどんだけ危険かまくしたてんの聞かせてやりたかったぜ」



ロールシャッハ、無言でテレビの背面に回りこみ、ケーブルを抜く。

レオリオ「ああ――! ちょっと今いいところだったのによお!」


ロールシャッハ「レオリオ」

ロールシャッハ「貴様、子供に何を見せている」

レオリオ「いやいやいや、俺も最初はどうかと思ったのよ? ホント。でェも社会勉強になるかと思ってだなあ」

レオリオ「キルアだって自分から見たいって言ったんだぜ、な、キルア!」

キルア「うわーんシャッハのおじさーん、リオレオがいじめるー」

ロールシャッハ「貴様……」

レオリオ「おい卑怯だぞキルア! ロールシャッハ、お前も騙されてんじゃあねえッ!」

レオリオ「つーかそのくらいでなに怒ってんだ!?」
9 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:06:15.55 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ、レオリオの腕をつかみ力を込める。

レオリオ「な、なんだやる気か? 俺だって一応試しの門で……」

レオリオ、振りほどこうとするが、ロールシャッハはさらに力を込める。

レオリオ「あで、あでででででっ!」

キルア(やっぱやるじゃん、おっさん。半年ベッドの上で過ごしたわけじゃなさそーだな)

レオリオ「タイム、タイム!」

ゴン「ロールシャッハさん!」

ロールシャッハ、ゴンの声に手を止める。そのすきに離れるレオリオ。

レオリオ「んだよ、久しぶりに再会したっつうのに……」

ロールシャッハ「なんだ、ゴン」
10 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:06:42.28 ID:wkFc3Fii0

ゴン「あー、あの、えと……ロールシャッハさんは、念は覚えたの?」

ロールシャッハ「当然だ」

ゴン「ああ、うん、じゃあ、えと、ちょっと見せてくれないかなー、なんて……」

キルア(続き続き……)

キルア、コンセントを差し込む。
それを見て、テレビを叩き潰すロールシャッハ。

キルア「げ!」

ロールシャッハ「今のが俺の念能力だ」

レオリオ「ウソつけ! 力任せに殴っただけじゃねえか!」
11 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:07:32.33 ID:wkFc3Fii0
レオリオ「ほらこれ、土産だ」

レオリオ、携帯電話の入った包みを渡す。

ロールシャッハ「なんだ」

レオリオ「携帯だよ、携帯」

ロールシャッハ「形態?」

レオリオ「そいつがありゃ、いつでもどこでも電話ができる。」

ロールシャッハ「EHH.トランシーバーか」

レオリオ「うーん、まあ、似たようなもんだ」

レオリオ「クリケットG2型、軽くて丈夫、防水・防塵機能完備、
     屋外はもちろん都市部の地階の圏外なし。
     元はブルーカラー御用達で、頑丈さには定評がある。
     翻訳機能なんかは最新機種に劣るが、あんたにゃぴったりだと思うぜ」


ロールシャッハ(携帯……)

ロールシャッハ「HURM……」
       「なんだかよくわからないがもらっておこう」
12 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:08:03.77 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ「ゴン、ヒソカには会ったのか?」

ゴン「うん、ヨークシンに来る前、天空闘技場で。プレートも返してやったよ!」

ロールシャッハ「……そうか」

ロールシャッハ(たくましくなったものだ。試験のときより数段……)

ロールシャッハ「では、これから父を捜すのか」

ゴン「そのことなんだけど……」
13 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:08:33.26 ID:wkFc3Fii0
レオリオ「最低落札価格が89億ジェニー?」

ロールシャッハ「それで所持金が500万、か……」

レオリオ「元締めのサザンピースはオークションハウスの最高峰だぞ? それじゃ入場料にも足んねーぜ」

ロールシャッハ「不可能だな。そのゲームにゴンの父親の手がかりがあろうと、他を当たるしかない」

キルア「でも、グリードアイランドは入手難易度が『易しい』だったぜ」

キルア「金がありゃ手に入る。それじゃ、真の宝ですらない」

キルア「その程度のモノ楽勝でゲットしてこそ、プロのハンターってもんじゃないの? お三方」

ロールシャッハ「HUNH」
14 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:09:14.02 ID:wkFc3Fii0

ゴン、レオリオ、パソコンに向かう。

ゴン「何かいい方法がないか調べてみよう」

レオリオ「おう、ヨークシンにはウソみてえな実話がゴロゴロ転がってっからなあ」

ゴン「そっか、ゴロゴロなんだね」カタカタ

キルア(単純バカ。レオリオも強化系だな)

キルア「おっさんはいいの? 二人に加わんなくて」

ロールシャッハ「くだらん。金もゲームも興味はない」

ロールシャッハ「ゴンの父親を捜すのは、奴自身に任せるべきだ」

キルア(だろーな)

キルア(おっさん、むしろ二人以上に他のこと見えてないもん)
16 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:10:09.60 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ「ガリ、クチャ、ガリ」

キルア「なに喰ってんの。また角砂糖?」

ロールシャッハ「これだ。向かいのコンビニに売っていた」

キルア「チョコロボ君じゃん! いい歳したおっさんが喰うなよ」

ロールシャッハ「カロリーが摂れればなんだっていい」

キルア「一個ちょーだい」

ロールシャッハ「…………」

一粒手に取り、指で弾いて飛ばすロールシャッハ。
キルアはその場から動くことなくキャッチする。

キルア「サンキュー」

ロールシャッハ「……」

ロールシャッハ「それより、いつまで俺の部屋にいるつもりだ」

レオリオ「いいじゃねえかいいじゃねえか、せっかくダチと再会できたんだからよ!」

ロールシャッハ(…………)

レオリオ「えー……縛り……条件競売の俗称……」

レオリオ「……そうか……!」
19 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:13:07.21 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 路上

机に座るゴン。その前に立つレオリオ。ダイヤを持つキルア。

レオリオ「さああああ、さあさあ、右や左の旦那様ァ! 条件競売が始まるよ!」

レオリオ「競売品はこちら、300万相当のダイヤ!」

レオリオ「落札条件は腕相撲! 賭け金1万ジェニーでこちらの少年に勝てたら――」

『300万のダイヤ 早い者勝ち!』
と書かれたプラカードを持つロールシャッハ。マスクはしたまま。

ロールシャッハ「なぜ俺がお前らの金稼ぎに付き合わねばならん」

レオリオ「かてーこと言うなよ、これも人助けだと思え」

ロールシャッハ「HUNH」

キルア「どうせおっさんのことだから、オークション会場に入ろうとして金がなかったんでしょ?
    セキュリティも万全で忍びこめなかったとか」

ロールシャッハ「…………」

キルア「図星だね。そんなことより、マスク脱がないわけ?」

ロールシャッハ「お前らの前ではな」

キルア(もう中身知ってるけど……)

レオリオ「それではオークション、スタート!」
21 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:14:28.55 ID:wkFc3Fii0

ロールシャッハ(ゴンは相当の修業をしたと見え、数々の男をねじふせた)

       (それはいい。問題は途中やってきた少女だ)

       (そのときのゴンの表情は、それまでの演技ではない)

       (間違いなく本気だった)

ロールシャッハ(それに、その連れの二人……)


レオリオ「三人とも休憩だ、飯にしろ」

ロールシャッハ「こんなことしていたところで、89億には到底届かんだろう」

キルア(言えてる……)

ロールシャッハ「いい加減にしろ。俺は帰るぞ」

レオリオ「え、ちょ、おい、待てよ!」

ロールシャッハ、立ち去り路地裏に入る。

レオリオ、あとを追ってその路地裏に入るが、ロールシャッハの姿はない。


フック銃と己の脚を使い、ビルとビルを飛び越えていくロールシャッハ。

ロールシャッハ(やはり再会するべきではなかった)

(俺の仕事の邪魔でしかない)

(とにかくセメタリービルに行かねば。周辺の状況を今一度確認しよう)

(開催中なら、侵入も可能かも知れん……)

ロールシャッハ「ガリ、ガリ、ガリ」
23 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:17:02.42 ID:wkFc3Fii0

ロールシャッハ、あるビルの屋上に人影を見つける。


ロールシャッハ(なんだ、あれは)

(会場の監視か? なぜあのようなところで)

(見覚えがある……あの青い珍奇な服は……)

ロールシャッハ(…………クラピカ?)
24 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:18:15.66 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ ベーチタクルホテル 屋上

クラピカ「……誰か来るな」

センリツ「ええ」

ロールシャッハ、二人の元へ降り立つ。

クラピカ(…………ロールシャッハ……!)

ロールシャッハ「こんばんは、クラピカ。久しぶりだな」

センリツ「クラピカ、あなたこの人と面識が?」

クラピカ「……ああ、ハンター試験来の友人だ」

ロールシャッハ「友人ではない」

クラピカ「……ロールシャッハ、こんなところでなにをしている?」

ロールシャッハ「お前こそなにをしている。セメタリービルを見ていたようだが……」

クラピカ「お前には関係ない」

クラピカ「私たちの狙う賞金首が、あのオークション会場にいるというだけのことだ」

ロールシャッハ「HUNH.嘘をつくな。お前が狙う相手など、ひとつしかあるまい」

クラピカ「…………」
25 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:19:16.63 ID:wkFc3Fii0

センリツ「……私たちの仲間が、あの会場に潜入しているの」

ロールシャッハ「HURM」

ロールシャッハ「クラピカ。お前が徒党を組み、その仲間が地下競売にいるというならば……」

ロールシャッハ「マフィアか」

クラピカ「……だとしたら、どうだと言うんだ?」

ロールシャッハ「…………お前には失望した」

クラピカ「お前の倫理観に私を巻き込むな。
     私はボディガードとして雇われた身。ファミリーの動向に関与する気はない」

屋上への扉を開け、バショウが現れる。

バショウ「お二方、何か変化はあったかい」

ロールシャッハ「…………」

バショウ「なるほどな。ボスの元にも襲撃か……」

クラピカ「待て、バショウ。この男……ロールシャッハは、我々の敵ではない」

ロールシャッハ「いいや」
       「敵だとも」

クラピカ「!」
26 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:19:59.58 ID:wkFc3Fii0

そのとき、セメタリービルにて爆発。4人はそちらを注視する。

ロールシャッハ(襲撃か。抗争が起きたのだろう)

ロールシャッハ(クラピカは、ボディガードとして雇われていると言った)

ロールシャッハ(それが現在会場ではなく、ここにいるということは……)

ロールシャッハ、ホテル内に走ろうとする。
クラピカ、鎖を飛ばし、その腕を絡め捕る。

クラピカ「どこへ行く、ロールシャッハ」

ローリシャッハ「それがお前の念か。具現化……いや、操作系というやつか」

クラピカ「……答える義務はない」

ロールシャッハ「……HUNH」

バショウ「そいつは俺に任せろ」

センリツ「クラピカ、私たちは行かなきゃ」

クラピカ「…………」

鎖を緩めるクラピカ。センリツとともに駆け出す。

ロールシャッハ「待て、まだ話は――」
28 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:23:27.76 ID:wkFc3Fii0
バショウ「……ふむ」

筆をとり、札に俳句を書くバショウ。

バショウ「床が燃え ロールシャッハが 四苦八苦」

ロールシャッハ「なんのつもりだ」

バショウ「“流離の大俳人(グレイトハイカー)”」

ロールシャッハ「!」

その句のとおりに、ロールシャッハの足元に炎が広がる。

ロールシャッハ「AAAAK!」

バショウ「火の粉舞い ロールシャッハは 地に落ちる」

コートに火がつき暴れるロールシャッハ、手すりから地上へ落下していく。

ロールシャッハ(フック銃を……)

ロールシャッハ(ダメだ、間に合わない……)

ロールシャッハ(この落下速度も、あの男の念か……?)

バショウ「ふむ。毛唐の言葉はやはりイマイチだな」

路上に叩きつけられた体を起こし、帽子を拾うロールシャッハ。

ロールシャッハ(ダメージは微々たるものだが……)

ロールシャッハ(あのような念能力者がいるとは厄介だ)

ロールシャッハ(一度退くしかない……)

バショウ「敵は去り 炎も消えて 平穏に」
29 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:24:11.03 ID:wkFc3Fii0
セメタリービル地下 オークション会場

もぬけの空の会場。到着したマフィアたちがざわめいている。
その中を進むクラピカとセンリツ。

クラピカ、血のついた輪を拾う。

クラピカ「これは…………」

センリツ「ヴェーゼのだわ……」


クラピカ(犯人は強力な念の使い手……それもおそらく複数……)

(こんなことをやってのける連中は、幻影旅団しかない……)

(だがロールシャッハは? あの男が仲間と組むなど考えにくいが……)

クラピカ「センリツ。なぜあのとき、あのマスクの男に本当のことを言った?」

センリツ「ウソをついても無駄だと思ったから。でなければあなたが危なかった」

クラピカ「……心音は聞いたのか」

センリツ「ええ」
31 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:33:07.05 ID:wkFc3Fii0
センリツ「とても珍しい音だったわ。
     砕けたコンクリートと鉄、ガラス片を際限なく飲み込む、
     巨大などす黒い、タールのような沼……」

    「その中で……言葉にするのは少し難しいけれど……冷たい炎の爆発がずっと繰り返されてる」

    「彼はこの世のなにか、有象無象のものに、人間が持てるすべての憎悪と敵意を向けている。そんな感じ」

    「そしてその中で、あの場で一番彼の近くにいたのは、私たちよ」

センリツ「でも彼はここの襲撃とは関係ないわ。爆発のとき、急激に心音が上がったから」

クラピカ(……ロールシャッハの線はない……ならばやはり旅団が……)
 
    (しかし、ロールシャッハも野放しには……)

    (……いや。今は、余計なことは考えなくていい……)

クラピカ、旅団のあとを追って郊外の砂漠へ。

幻影旅団一の肉体派、ウボォーギンがマフィアとその一派の陰獣を屠るのを目撃したのち、
クラピカは彼の捕縛に成功する。
32 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:33:57.54 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ市内 安ホテル ロールシャッハの部屋

レオリオ「ふん、はっ……ふんっ!」

レオリオ「お前らこんなの習得したってのかよ……」

キルア「楽勝だったぜ」

ゴン「レオリオもすぐできるようになるよ」

レオリオ「だァ――、やめやめ、纏だけありゃ結構だ、出かけてくる」

ゴン「どこ行くの?」

レオリオ「散歩だ、散歩」

キルア「レオリオ、どっかでクラピカに逢ったら連れてきてよ。
    仕事が忙しいらしいけど、ゴンが逢いたがってるから」

レオリオ「ガキらしくするんじゃなかったのか? 『連れてきてくださいレオリオさん』だ」
33 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:34:31.06 ID:wkFc3Fii0
地下 ウボォーギンの捕らえられた監禁部屋

クラピカ、携帯を取り出しメールを見る。

クラピカ「『約束どおり例の場所で』……」

ダルツォルネ「これからコミュニティの連中が来る。俺がそいつを見張っておくから、お前たちは休め」

クラピカ「……リーダー、人と会う約束がある。二時間ほどいただきたい」

ダルツォルネ「いいだろう。時間厳守が条件だ」
34 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:35:38.94 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 路上

レオリオ(…………逢えない、か)

    (帰るか……)

    (ん……あのシルエットは……)

レオリオ、こちらへ向かって歩くロールシャッハの姿を目にする。


レオリオ「ロールシャッハ! どこ行ってたんだお前!」

ロールシャッハ「レオリオか……何をしている」

レオリオ「いや、なんだ、クラピカに逢えるかと思ったんだが……」

ロールシャッハ「残念ながら俺というわけか」

レオリオ「いやそんなつもりじゃ……
     っていうかお前、服焦げてるじゃねーか。なにがあった?」

ロールシャッハ「……クラピカに逢った」

レオリオ「!…………どこでだ?」

ロールシャッハ「再会を求める気持ちはわかるが、それに答えるつもりはない」

ロールシャッハ「奴は俺の敵となった」

そう言い残して立ち去るロールシャッハ。

レオリオ「おい待て、そりゃどういう意味……」
35 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:36:14.37 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 某所の廃屋

ヒソカ「……早かったねェ◆」

クラピカがやってくる。

ヒソカ「顔色、よくないねェ。半年前とは別人のようだ◆」

ヒソカ「……あのマスクの彼も、そうなのかな?◆」

クラピカ「…………」

クラピカ(今なら見える……奴のオーラが……)

ヒソカ「安心しなよ。今君とやる気はないから◆」

クラピカ「無駄話の必要はない。お前たちについて、聞かせてもらおう」

ヒソカ「…………◆」
36 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:37:33.51 ID:wkFc3Fii0
ヒソカ「……僕が入団したのは団長と闘うのが目的でね。
    でも彼の周りには常に他のメンバーが二人以上いて手が出せない◆」

ヒソカ「ともに一人では目的達成が困難だと思わないかい?◆」

クラピカ「どうしたいと……?」

ヒソカ「……僕と、手を組まないか?◆」

クラピカ「……」

クラピカ(……ロールシャッハならこう言うだろう)

    (『笑わせるな』と)

    (だが私には、私のやり方というものがある)

    (私は私のやり方で……)

クラピカ(……暗黒に足を踏み入れるとしよう……)

同じころ、ウボォーギンの救出に向かった旅団のメンバーが
ダルツォルネを殺害し、救出に成功。

ウボォー「ああああああああんの鎖野郎! この借りは必ず返すッ!」
37 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:38:36.62 ID:wkFc3Fii0
翌日 ヨークシンシティ 路上

レオリオ「さあさあさあ、急ぎと御用でない方は寄っといで! 条件競売が始まるよ!」

レオリオ「競売品はこちら、300万相当のダイヤ!」

レオリオ「落札条件は腕相撲! こちらの少年に勝てたら……」


ロールシャッハ(結局、3人は俺の部屋に入り浸った)

       (それは別に構わない。奴らは一銭でも多く金がほしいというのだから)

       (解せないのは、俺が今日もまたこうしてプラカードを持っているということだ)

ロールシャッハ「UUUUUMM」

キルア「シャッハのおっさんさあ、暑くないの? その格好。マスクも脱がないで」

ロールシャッハ「暑くなどない。むしろなぜまた立たされなきゃならん」

キルア「レオリオに聞いてよ。あいつ、おっさんのことサンドイッチマンのプロだっつってたぜ」

ロールシャッハ「…………」
38 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:40:22.52 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ(確かにこうしてプラカードを持っているのは懐かしい)

ロールシャッハ(だがそこに書かれている文句がこうも低俗とは)

ゴン「やっぱり今日は人集まんないよ」

キルア「昨日あれだけやり散らしたからなァ」

ロールシャッハ「……帰るぞ」

レオリオ「待て待て待てチミたち! 今日の腕相撲はエサだ」

ロールシャッハ「どういうことだ?」

レオリオ「まあまあ、見てなって」

通行人「おいボウズ、俺が相手だ」

レオリオ「来た来た」

レオリオ「かかった魚はでけェかな……?」
39 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:41:38.84 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 地下競売場のひとつ

ロールシャッハ(あのあと、レオリオはゴンに代わって挑戦者をひねった)

       (挑戦者の方も相当の力があったはずだが、それを負かすレオリオも大したものだ)

       (やはり奴に医者は向かないと俺は思う)

       (その後俺たちは、挑戦者に付き添っていた男に見込まれ、その紹介でここに来た)

       (エサとはつまり、マフィアどもに取り入るためのパフォーマンスか)

       (地下競売場……)

ロールシャッハ(ここに潜り込めたということは、無駄ではなかったということか)

中央にリング。周囲にはただものではない顔つきの男たち。
40 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:42:46.43 ID:wkFc3Fii0
キルア「おー、殺気立ってるねェ」

レオリオ「ここなら3億4億の品は当たり前。でもってここも条件競売だ、
     こっちにそれを競る金はいらねェ」

リングアナ「よォ――――うこそいらっしゃいましたァ!
      さっそく、条件競売を始めさせていただきます!」

リングアナ「今回の条件競売は、『かくれんぼ』!」

リングアナ「ターゲットとなるのは七人の男女!」

四人の手に、写真の載った紙が渡される。


レオリオ「……おい」

ゴン「このコ……」

キルア「確か……」

ロールシャッハ「……腕相撲に来ていた奴だな」
41 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:43:43.67 ID:wkFc3Fii0
リングアナ「落札条件は、標的を確保して我々へ引き渡すこと! 無論、生死は問わず」

リングアナ「標的一名につき、20億ジェニーの小切手と交換いたします!」

ゴン「1人20億……七人全員捕まえたら……120億!」

レオリオ「140億!」

ロールシャッハ「……HUNH」
42 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:45:13.06 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 公園

ゴン「あれ、探しに行くんじゃないの、三人とも」

キルア「ゴン、さっきの競売、何か変だと思わなかったか?」

レオリオ「競売の品が小切手だなんて聞いたことねえぜ」

ゴン「?」

ロールシャッハ「これはオークションとは名ばかりのマンハントだ。
        あのリングは、マフィアがそこで別の条件競売をする予定だったものだろう」

キルア「ところが、そうはいかなくなった」

レオリオ「予定を変更してでも、こいつらを探す必要ができたってわけさ」

ロールシャッハ「しかしマフィアには手の負えない連中――そこで街中のゴロツキを集めて、即席の兵隊を作るという腹だろう」

ロールシャッハ「無駄に死体を増やすだけだ」

ゴン「でも、なんでそんなことしなくちゃなんないの?」

レオリオ「推測はつく。マフィアがここまで躍起になってるってこと、
     あの地下競売が行われなかったこと……」

    「大方、地下競売の品をこいつらに盗まれた」

レオリオ「しかし、そんなことをする連中に俺たちは心当たりがある」

ゴン「ってことは、この人たちが……幻影旅団……」

レオリオ「ゴン、クラピカに連絡してやれ」

ロールシャッハ「無駄だな」

レオリオ「なんだと?」

レオリオ(夕べ敵だのなんだの言ってたが……こいつ、ホントに……)

ロールシャッハ「今、奴は出ないだろう」

そう言うと、ロールシャッハは立ち去る。
43 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:46:17.99 ID:wkFc3Fii0
レオリオ「おい!」

キルア「どこ行くんだよ、シャッハのおっさん! 今回も協力しないってか?」

ロールシャッハ「いや」

ロールシャッハ「その前に、確認すべきことがある」


ゴン「行っちゃったね、ロールシャッハさん」

レオリオ「ちくしょーあの野郎、マジでなに考えてんだ?」

キルア「けっ」

キルア「少なくとも、おっさんは金に興味はないんだ。
    多分興味があるとしたら、この七人を殺せるか否か、ってことじゃねーの」

レオリオ「あいつがやってくれるなら渡りに舟だけどよ……
     幻影旅団ともなりゃ、A級首だぜ。あいつ一人に務まるとは思えねえ」

ゴン「……やっぱり俺、クラピカに電話してみるよ。出ないかもしれないけど、とにかく目的が一致したんだから!」
44 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:47:05.32 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ どこかのビルの一室


ノストラードファミリーのひとりを、壁に押しつけるロールシャッハ。
テーブルには酒と氷が散乱している。

ロールシャッハ「お前たちのボスと、セメタリービルの事件について聞かせてもらおう」

マフィア「なんだてめェ! 言うことなんかなにも」
ボキボキボキボキボキ
マフィア「っ…………あああああああ!」

ロールシャッハ「右手の指をすべて折らせてもらった」

マフィア「……はあっ、はあっ、はあっ」

ロールシャッハ「話す気になったか?」

マフィア「だ、誰が言うかよ」

ロールシャッハ「そうか。ならいい」

マフィア「……はあっ、はあっ……」

ロールシャッハ「お前にはまだ左手がある」

マフィア「!」
45 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:49:06.30 ID:wkFc3Fii0
マフィア「関係なんかない……俺たちも被害者だ」

ロールシャッハ「セメタリービルの襲撃を逃れたのは、ノストラードファミリーの他、
        お前らと友好関係にある組ばかりだ」

ロールシャッハ「ノストラードの関与があったはずだ」

ロールシャッハ「次は手のひらを折る」

折れた指を握るロールシャッハ。

マフィア「は、話す! だから手を放してくれ!」

マフィア「うちのボスは娘の力で成り上がったんだ、
     ボスの娘は占いがよく当たるっていうんで、いろんな組に顧客を抱えてる!」

マフィア「襲撃を逃れたのはその占いがあったからだ……
     あと、そ、そうだ、その娘のボディガードが、襲撃した連中のひとりを捕まえたって話だぜ!」

ロールシャッハ「誰がやった?」

マフィア「誰かは知らねえ! そいつは組員じゃない、ただのボディガードだ」


ロールシャッハ「HURM」

46 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:50:22.36 ID:wkFc3Fii0
マフィア「ただな、さっきその捕まえたって奴に逃げられたらしくて、
     またうちの組員が何人か殺されたらしい」

ロールシャッハ「どんな奴だ」

マフィア「毛皮着て銀髪の、大男だとさ!」

マフィア「なあ、これだけ話したんだ、手ェ放してくれ」

ロールシャッハ「HURM……」

手を放すロールシャッハ。

テーブルからアイスピックを取る。

マフィア「なんだ、おい、そいつでどうするつもりだ? 待てよ、情報をやったはずだろ!?」

ロールシャッハ「それとこれとは関係ない」

マフィア(銃を、銃を、早く……)

マフィア(指が……折れてる……)
47 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:51:07.98 ID:wkFc3Fii0

日誌 ロールシャッハ記
1999年 9月 2日

幻影旅団と思われる七人の顔はわかった。
おそらくその全員がヒソカと同等の力を持っている。

奴らは俺と同じく、マフィアを敵に回した。
盗むだけでは終わらなかったはずだ。
当然、血が流れただろう。マフィアどもの薄汚れた血が。
なんにせよ、潰し合いなら好都合というものだ……

試験後に別れた四人全員と再会した。

ゴン、キルア、レオリオとの再会もいい形とは言えないが、
誰よりも最悪だったのはクラピカだ。
奴がマフィアに属しているとは思わなかった。


奴との対立は避けられないかも知れない。
ある程度予測はしていたが、このタイミングで来るとは。

まだ眠るわけにはいかない。この街が眠らないからだ。
48 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:51:39.00 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ ベーチタクルホテル
ダルツォルネのチームがいた部屋

部屋にただひとり残るクラピカ。
携帯が鳴っている。そして止まる。

クラピカ「…………」

そこへウボォーが入ってくる。

ウボォー「ひとりか。感心だ」

ウボォー「どこで死ぬ? 好きなところで殺してやるよ」

クラピカ「……人のいない荒野がいい」

クラピカ「お前の断末魔はうるさそうだ」
49 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:52:54.84 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 郊外 荒野

クラピカ「――殺した者たちのことを、覚えているか」

ウボォー「少しはな。印象に残った相手なら、忘れねえと思うぜ」

ウボォー「つまるところあれか、復讐か。誰の弔いだ?」

クラピカ「クルタ族。『緋の眼』を持つルクソ地方の少数民族だ」

    「五年ほど前に、お前たちに襲われた」

ウボォー「知らねえな。五年前なら、俺も参加しているはずだが」

「覚えていないだけだと思うぜ」

クラピカ「……およそ関わりのない人間を殺すとき、お前はなにを思い、なにを考えている?」

ウボォー「別に。なにも考えちゃいねえ」

クラピカ「……クズめ。死を持って償え」
50 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:55:29.64 ID:wkFc3Fii0

スコップを引きずり、荒野を歩くクラピカ。

クラピカ(いつか、ロールシャッハが言った)

クラピカ(『お前は連中と対峙したとき、同じ行動をとるだろう。仮に奴らが天を見上げてこう叫ぶ』)

    (『助けてくれ』)

    (「そのとき、見下ろしてお前は答える」)

    (『いやだね』)

クラピカ(この男は、命乞いなどただの一言もしなかった)

    (それでも殺した)

    (……………………)

クラピカ(…………………………)


ロールシャッハ「殺しは初めてか」

ロールシャッハ、クラピカの前に忽然と現れる。

クラピカ「!」

クラピカ「…………」

ロールシャッハ「答えたくないならばいい。別に俺にはどうでもいいことだ」

クラピカ「……あとをつけていたのか」

ロールシャッハ「ああ」

クラピカ(……絶か)

    (そう考えるのが自然だろう)

クラピカ「私の首も狙いに来たのか?」

ロールシャッハ「今はそのときじゃない」

ロールシャッハ「幻影旅団の始末が先だ」

クラピカ「……それで? 一体どうするつもりだ」

ロールシャッハ「旅団もマフィアも、すべてを潰す」
51 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:56:10.26 ID:wkFc3Fii0

クラピカ「ロールシャッハ、お前の論理は破綻している」

ロールシャッハ「敵の敵は味方。そう言いたいのだろう」

       「だがそうではない。俺にとってはな」

ロールシャッハ「お前はクズどもと慣れ合わなくとも、充分な味方がいる」

クラピカ「自分がそうだ――とでも言いたいのか?」

ロールシャッハ「違う。あの三人だ」


ロールシャッハ、地下競売で渡された写真を渡す。

ロールシャッハ「ゴンたちも奴らを追っている。電話が鳴ったはずだ。お前に助けをよこすために」

クラピカ「……今すぐやめさせろ。危険すぎる」

ロールシャッハ「かもな」

ロールシャッハ「だがその手を切り、あえてマフィアに身を置くというのならば、
        お前は遅かれ早かれ悪に身を染めるだろう」

ロールシャッハ「幻影旅団と同様にな」
52 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:58:39.93 ID:wkFc3Fii0
クラピカ「…………」

ロールシャッハ「お前の念の持つ力を、少しばかり見させてもらった」

ロールシャッハ「あの毛皮男を殺すというのはかなりのものだ。俺には真似できない」

クラピカ「……まさか、お前に誉められるとはな」


ロールシャッハ「誉めたのではない。これは警告だ」


ロールシャッハ「お前は今、深淵に見つめ返されている」

ロールシャッハ「飲み込まれたとき、俺はお前を殺しにかかるだろう」


クラピカ「…………」

クラピカ「教えてくれ、ロールシャッハ」

ロールシャッハ「なんだ」


クラピカ「お前は人の命を奪うとき、一体なにを感じている?」

ロールシャッハ「HEH.勘違いしているようだな」

       「俺が殺すのは人間ではない。人間の型に詰め込まれたケダモノだ」

       「感じるとすれば、腕に伝わる衝撃と、生ぬるい血」

       「そしてあの月の上に、神はいないということを改めて確認する」

       「それだけでしかない」

ロールシャッハ「話は終わった。警告は伝えたからな」

ロールシャッハは去り、クラピカはじっとその背を見ている。
53 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 20:59:49.28 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ ベーチタクルホテルの一室

クラピカ「…………天に還り、地に宿り、我の身体は地を離れて、我の魂は空に舞い立つ……」

    「……この日の光と月の光を一身に浴び、緑の恵みが我が身を潤す――」

    「――そして我のこの緋き一対の瞳とその命を」

    「我の犯せし罪と共にクルタの血の最後の一滴となりて」

    「我の悲願の成就のその時まで永らえんことを……」

クラピカ、ポケットから日に焼けた一枚の紙片を取り出す。
そこには、『.┓┏.』とサインが書かれている。

しばらくそれを眺め、くしゃくしゃに丸めてまたポケットに入れる。
54 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:01:18.46 ID:wkFc3Fii0
日誌 ロールシャッハ記
1999年 9月3日

ゴンとキルアから、ゼパイルという男を紹介された。
グリードアイランド入手のための資金繰りの協力者だという。
見るからに胡散臭い男だ。
二人を騙して金をかすめ取ろうなどいう考えならば、
相応の覚悟をしておけと伝えておいた。

ハンターサイトにノストラードファミリーの連中の顔写真がいくつか上がっていた。
クラピカの姿はなかった。

奴と逢ったことは、ゴンとキルアには言うなとレオリオに釘を刺された。
そのとおりかも知れない。

便利なものだ。
インターネットなるもので情報を得られるとは。
ただしその情報の信憑性は、指を折られた者の言葉よりはるかに劣る。
確証を得るためには、己の足で行動する必要がある。

幻影旅団に関して、二人の情報が入った。
サムライ風の男と若い女。
現在、その二人のいる広場まで来ている。
ひとまずの確証は得られた。


クラピカの念能力を見た。
詳細は不明だが、その鎖で旅団員を束縛できるほど強いものだ。
おそらく、強大な制約を自らに架したのだろう。

旅団も恐怖心と復讐心とを抱いているに違いない。

復讐。

俺の師は俺の怒りを、目玉のくりぬかれた空っぽの眼窩で見抜いた上、
その怒りは自分の目より空虚なものだと言った。
きっと師はクラピカに対しても同じことを言うだろう。
あるいは、奴も自身の師にそう言われたに違いない。


だがそれは見当違いだ。俺や奴の行為から生まれるものは必ずある。
それはあのパラソルの下で二人が発している、新たな怒りなどでは断じてない……
55 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:03:00.82 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ 市内

近くのビルから、カフェテラスにいるノブナガ、マチを見張る、ゴン、キルア、レオリオ、ロールシャッハ。

ロールシャッハ「あそこの二人組がそれか」

レオリオ「んで、どうやって捕まえるかだが――」

キルア「無理だね。俺たちの手に負える相手じゃない」

レオリオ「なんだと、今さらなに言ってやがる」

ゴン「……俺もやばいと思う」

レオリオ「ぐぬぬ…………」

レオリオ「……ロールシャッハ、あんたから見てもやばそうかい」

ロールシャッハ「そうだな。二人の言うことは正しい」


ロールシャッハ「……お前たちは帰れ。ここからは俺ひとりで追う」

キルア「おい、いくらあんただってひとりじゃ無理だって」

ゴン「そうだよ! せっかく四人集まったんだから、なにかいい手を……」

ロールシャッハ「お前たちの情報収集は役に立った」

ロールシャッハ「だがお前たち子供が、これ以上関わるべきことじゃない」

キルア「ちっ……」

   「いい加減子供扱いするのやめろよな。俺だってあんたと同じくらい念は使えると思うぜ?」
   「ゴンだってヒソカに一発入れたくらいだし」

ロールシャッハ「だが奴らと正面から闘うのが無理なのは、お前も充分理解しているのだろう」

キルア「…………」

ゴン「……だからって、」
  「だからってひとりで行くなんてダメだ!」

キルア「……ゴン、静かにしろ、奴らに気づかれる」

ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「安心しろ。俺も死ぬ気でいるわけじゃない」

ロールシャッハ、ビルから飛び降りて三人の元を去る。

レオリオ「おいおい、マジで行っちまったよあいつ……」

キルア「ほんと協調性がないぜ、あのおっさん」

レオリオ「そんで俺たちゃ、どうすんだ?」

ゴン「……やるさ、俺たちも」
  「ロールシャッハさんも死なせないし、幻影旅団も捕まえる……」
56 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:04:05.80 ID:wkFc3Fii0
カフェテラス

ノブナガ「――見られてるな」

マチ「素人じゃないね」

ノブナガ「ああ。さっき後ろのビルから飛び降りた奴だ」

マチ「鎖野郎かな。ウボォーを殺ったっていう」

ノブナガ「おいマチ。言葉に気をつけろよ」
    「ウボォーを殺っただと?」

マチ「でも、あいつが時間に遅れることなんてなかったじゃん」

ノブナガ「……ウボォーが死ぬわけねえ」



ロールシャッハ(動いた)

       (靴だ。奴らの靴を見ろ)

       (男の持つあの袋は刀か。なら攻撃の射程はおそらく3、4m前後……)

       (だが、女の方の武器がわからん)

ロールシャッハ(もう少し様子を見るべきだ……このまま行けば、おそらくアジトも判明するだろう)
57 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:04:58.88 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ郊外 廃屋を囲む空き地

ノブナガ「……もしもし」

フィンクス「俺だ。そちらの様子はどうかと思ってな」

ノブナガ「今つけられてんだけどよ。襲ってこねーんだ。
     相手の位置もつかめねーし、長引きそうだ」

フィンクス「難儀だな。ならいい情報を教えよう」
58 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:06:05.23 ID:wkFc3Fii0
廃屋内 

ノブナガとマチを尾行するゴンとキルア。

キルア「……ゴン! 一度切るぞ! 注意して見てろ……」

キルア「奴らに違和感を感じたらすぐ逃げろ。俺が携帯を鳴らしたら速攻脱出だ」

キルア(親父やシャッハのおっさんの言うとおりだ)

   (幻影旅団は、俺の手なんかに負えない)

   (もし尾行に気づかれたのがシャッハのおっさんなら)

キルア(おっさん次第ではまだ尾行は続けられる……)

ノブナガの目玉が動く。

キルア(ダメだ! 気づかれたのはこっち……)

走り出すキルアとゴン。
だが二人の前にそれぞれ、フィンクスとパクノダが立ちはだかる。

ノブナガ「フィンクス。なんでお前がここにいるんだ」

フィンクス「敵を欺くにはまず味方から。お前らが普段どおり振る舞えるようにと、団長のご命令だ」

キルア(っ……二重尾行!?)



マチ「どうやら鎖野郎の尻尾、つかんだみたいね」

パクノダ「坊や……鎖野郎って知ってる?」

マチ「あんた、そいつに頼まれて私たちのことつけてたんでしょ?」

ゴン「……知らない!」

ゴン(一瞬でいい、隙があれば……)

ゴン(……? なんだ、この匂い……)
59 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:07:26.98 ID:wkFc3Fii0
ノブナガ「問1。なぜ俺たちをつけた?」

フィンクス「簡潔に述べよ」

キルア(下手なウソは逆効果だな……)

   「マフィアがあんたたちに莫大な懸賞金をかけてるんだ」

   (ちくしょー……シャッハのおっさん、あんなこと言って逃げやがったな……)


ノブナガ「問2。尾行は誰に習った?」

キルア「尾行っていうか、絶っていう気配を消す技なんだ。俺、プロハンター目指してるから」

ノブナガ「誰に習った?」

キルア「心幻流の師範代だよ」

ノブナガ「問3。鎖を使う念能力者を知っているか? 具現化系か操作系の奴だ」

フィンクス「お前の師匠とやらが、鎖をじゃらじゃら身に着けてるんじゃないのか?」

キルア「違う。師匠は強化系だし、教えてもらったのも基本の四体行だけ」


ノブナガ「知らねえなら仕方ねえ。それじゃ最後の――」

ロールシャッハ「問4。なぜ俺の忠告を聞かなかった」

窓枠にしゃがむロールシャッハ。

キルア「!」

ノブナガ「!……まだ仲間がいやがったのか……ホント、どうりで絶の達人が多いわけだぜ」

刀を構えるノブナガ。隙を逃すことなく、フィンクスの脇を走り抜けるキルア。

フィンクス「ちっ……」

ノブナガ「追うな。ガキどもなんかより、こいつの方がずっと厄介だぜ」

フィンクス「二重尾行をしていたのは俺たちだけじゃなかった、ってわけか」

ロールシャッハ「……HURM」
60 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:08:47.39 ID:wkFc3Fii0
ノブナガ(こいつが鎖野郎? だとすりゃどこかに鎖を隠し持ってるか、戦闘の際に鎖を具現化するはず……)

ロールシャッハ「どうした、サムライ。マゲを結っていないと力が出ないとでも言うのか?」

ノブナガ「ほざけェッ!」

ノブナガ(円…………)

ロールシャッハ「……」

ノブナガ(間合いに入った瞬間に斬る……奴の背後に道はねえ)

ロールシャッハ、ガンスリンガーさながらにフック銃を抜く。

ノブナガ(あれが鎖だってのか?)
    (ウボォーを押さえたんだろうがなんだろうが構わねえ)

フックから伸びるワイヤーに、ノブナガの刀が触れる。
それと同時にロールシャッハは銃を持つ腕を引き、フックは刀に絡みつく。

ノブナガ(!)

ロールシャッハ、さらに腕を引いてノブナガを引き寄せ、
刀の刃を握り、後方へ投げる。そのまま窓から転落するノブナガ。
61 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:10:12.06 ID:wkFc3Fii0
フィンクス「ほう」

フィンクス(ノブナガは大丈夫だろうが、こいつは確かにちと厄介かもな)

フィンクス、腕を回し始める。

ロールシャッハ「HUNH」

ロールシャッハ「準備運動のつもりか」

フィンクス(……八回くらいで様子を見るか)

フィンクス「廻天(リッパー・サイクロトロン)」ボッ

ロールシャッハ、床板をはがしてその拳にぶつける。床板は粉々に砕け散る。

ロールシャッハ「なるほどな。回転するだけ威力が増すということか」

フィンクス(!……あれだけ回して床板一枚分のはずがない……)

フィンクス(今の一発を超えるほどのオーラをまとわせて、あの床板の強度を引き上げたっていうのか?)

ロールシャッハ、背後に回りフィンクスの両腕をつかむ。

ロールシャッハ(腕……いや、せめて指だけでも折らねば)

フィンクス(力の方も相当だな)

フィンクス「うおらァ!」

腕を振りほどき、さらに裏拳を放つフィンクス。
まともに喰らい、壁に激突するロールシャッハ。

ロールシャッハ(……さすがに強い)
62 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:11:05.89 ID:wkFc3Fii0
フィンクス「どうした。ウボォーを殺したってのはガセか?」

立ち上がり、埃を払うロールシャッハ。

フィンクス(もう立ってきやがった)

     (だが鎖を使わないところを見ると、こいつは鎖野郎じゃないらしい)

     (だが、こいつ……)

フィンクスの携帯が鳴る。

フィンクス「ちィっ」

電話に出るフィンクス。視線はロールシャッハに向けられたまま。

殴りかかるロールシャッハ。フィンクスは携帯を手にしたまま、回避を続ける。

フィンクス「なんだ、今少しまずいことに……ガキどもに逃げられただと?」
63 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:11:36.54 ID:wkFc3Fii0
ゴンとキルア、走りながら市内へ向かう。

ゴン「ロールシャッハさんは!?」

キルア「あのおっさん、携帯の電源切ってやがる……」

キルア「これじゃ持たせた意味ないじゃんか」

キルア「……先に言っとくけど、おっさんの無事を確認に引き返すなんて、俺はゴメンだからな」

ゴン「……もし捕まってるなら、助けてあげたい」

キルア「よせよ! せっかくあのおっさんに助けてもらった命だぜ」

ゴン「でもやっぱり、今の俺たちにはできない」

キルア「…………」

ゴン「あの人の言ったこと、正しかった」
64 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 21:12:35.23 ID:wkFc3Fii0
廃屋内

フィンクスの表情が険しくなる。

ロールシャッハ、拳の連打に交え、ポケットから瓶を取り出して投げる。
電話を切り、首をかたむけて回避するフィンクス。

フィンクス「お前はあのガキどもの保護者か?」

     「金目当てには見えねーんだが……」

     「……ごほっ、ゲホッ!」

フィンクス(なんだこりゃ、壁に跳ね返って……胡椒?)

フィンクス「目がっ……」

ロールシャッハ「念能力だけで闘えると思うな」

ロールシャッハの拳が、フィンクスの顔面をとらえる。

フィンクス「ぐっ……」

ロールシャッハ(硬い)

ロールシャッハ(だがさっきのサムライがやってくるより先に、この男の頭蓋骨を割らなくては)


ロールシャッハの首筋に、刀の刃が触れる。

ノブナガ「そこまでだ」

フィンクス「……遅かったな、ノブナガ」

ノブナガ「ああ。まったくケチくせえ攻撃してきやがる」

ロールシャッハ(遅かった)

ロールシャッハ(俺の方も、また)
70 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:37:08.99 ID:wkFc3Fii0

幻影旅団 アジト

椅子に拘束されたロールシャッハ。

ロールシャッハ(……どうしたものか)

ヒソカ「…………◆」

ロールシャッハ(ヒソカがいる。奴も旅団の一員か。別に驚くべきことではない)

ロールシャッハ(他の連中は……)

(サムライ、ジャージ男、若造、アンダーボスにも匹敵するデカブツ)

(娼婦、アカ、ミイラ、毛玉、女のガキが二人)

ロールシャッハ「HEH.まるでタチの悪いサーカスだ」

ノブナガ「黙れ」

シズク「なんかくさいよ、あいつ」

フランクリン「体臭には触れてやるな。香水で必死に隠そうとしてる」

フランクリン「ていうか、前に会っただろ」

フェイタン「ああ思い出した。腕相撲のとき、脇に立ってた奴ね」

フェイタン「こうして見ると、体臭とは関係ないけど同じ匂いがするよ」

ロールシャッハ「お前と一緒にするな、このアカめ」

フェイタン「アカ? なんのことかわからないね」

シャルナーク「このフック銃、よくできてるなあ」
      「マスクも変わったものだね。具現化してるのかな?」

マチ「剥がしてみれば?」

フェイタン「興味あるね、それ」

シャルナーク、ロールシャッハのマスクに指をかける。


シャルナーク「んー、マスク自体はただのゴムみたいだけど、念で顔に貼りつけてるね。
       顔と一体化してるみたいだ。前見えんのかな?」

ノブナガ「パク。とりあえず調べろ」

パクノダ「……わかったわ」
71 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:37:44.53 ID:wkFc3Fii0

パクノダ、ロールシャッハの肩に手を触れる。

ロールシャッハ「俺に触るな、娼婦」

シズク「あいつ、口悪いね」

フランクリン「……お前以上かもな」

パクノダ「鎖野郎について、なにか知らない?」

ロールシャッハ「答える義務はない」


パクノダ「別にいいわ。あなたが答えなくてもね」

パクノダの脳に流れ込む、ロールシャッハの原記憶。
72 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:38:20.93 ID:wkFc3Fii0
――――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――

「ロールシャッハ! てめえはおしまいだ!」
「待ってな、絶対殺すからよ」
「全身から血を搾ってやる」
「オフクロはいるのか? 殺してやるぜ!」
「搾って、搾って……」
「ロールシャッハ!」
「ガキは? そいつも殺す!」
「てめえの死体が目に浮「ロールシャッハ!」
「妹は? 殺す!」
「舌を引きずり出して剃刀「ロールシャッハ!」
「ロールシャッハ!」
「ロールシャッハ!」
「おめえに言ってんだよこのチビ!」
「マジでおめえの母ちゃん淫売なのか?」
「何だあこのクソガキ……」
「AHHHHHHHHHHH!」
「腕を押さえろ! 放すんじゃない!」
「さっさとブタ箱にブチ込め!」
「狂犬そのものだ……」

「俺がお前らと一緒にブチ込まれているんじゃない」

「お前らが俺に繋がれてるんだ」


――――――
――――――――――――
――――――――――――――――――――
73 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:38:54.64 ID:wkFc3Fii0
パクノダ(……なに、これ……)

パクノダ(この光景は……一体……)

フランクリン「どうした?」

パクノダ「いいえ、なんでもないわ」

パクノダ「ただちょっと彼、精神が不安定みたい」

パクノダ「あまりにもノイズが多くて……断片的にしか読み取れそうにないわ」

パクノダ「……ロールシャッハ……それがあなたの名前?」

ロールシャッハ(揺さぶりをかけているだけだ。動じるな)

ロールシャッハ(マスクの意味を読み取ることはレオリオにすらできた……)


パクノダ「ロールシャッハ。鎖野郎っていうのは」

パクノダ「……私たちの仲間を殺した者よ」
74 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:39:53.82 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハの記憶が、再びパクノダへ流れ込む。

わずかなあいだ、緋の眼をしたクラピカの姿が映る。

パクノダ(……これだわ)

パクノダ「金髪……歳は17か18……」

ロールシャッハ「!」

パクノダ「これは……緋の眼?」

ロールシャッハ(なぜわかった!? クソ、クソクソクソ!)

ロールシャッハ(この娼婦の念能力だというのか!?)


フィンクス「緋の眼……クルタ族か。まだ生き残りがいたとはな」

シャルナーク「で、能力は?」

パクノダ「詳しくはわからない。彼自身、能力についてはわかっていない。
     でも、ウボォーを拘束しているところを見ると、相当な強化系の使い手か……」

パクノダ「あるいは、なにか強力な制約をかけているか」

ノブナガ「……ウボォーは死んだのか」

パクノダ「…………ええ」

ノブナガ「…………俺にも見せてくれ」

パクノダ、ノブナガの額に念弾を撃ち込む。

ノブナガ「こいつが……こいつがウボォーを……」

パクノダ「残念ながら、引き出せたのはそれだけ」

パクノダ「こんなに粗い記憶は初めてよ」
75 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:40:55.10 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ(今のはなんだ? 娼婦がサムライを撃ったように見えたが……)

ロールシャッハ(記憶を抜き出し……他者にそれを植えつける能力だと……?)


ノブナガ「……おい、顔なし男。おめェと鎖野郎の関係は」

ロールシャッハ「敵だ」

ロールシャッハ「時が来れば、俺は奴を始末することになるだろう」

ノブナガ「……なァに言ってるかわかんねーよ」

フィンクス「そういえば、お前が俺たちをつけていた目的もまだはっきりとわかってない」

フィンクス「あのガキどもとの関係は?」

ロールシャッハ「ただの顔見知りだ」

ロールシャッハ「ハンター試験の会場で出逢った」

マチ「あんたプロハンター?」

ロールシャッハ「一応な」

ロールシャッハ「奴らは懸賞金が目的だ。
        グリードアイランドというゲームの入手のために、金をかき集めている」

フェイタン「それであの腕相撲?」

ロールシャッハ「そうだ」

ロールシャッハ(こいつらが信じるかどうかはわからない)

ロールシャッハ(だが、ゴンとキルアはターゲットから外れることだろう)
76 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:41:46.58 ID:wkFc3Fii0
ノブナガ「おめェは」

ロールシャッハ(偽れ)

ロールシャッハ(マルコム・ロングと話したときのように)

ロールシャッハ「…………」
       「…………マフィアを潰そうとしている。
        お前らがセメタリービルを襲ったというので、その戦力の参考のためにつけていた」

ノブナガ「本当に、すべてそれだけか」

フェイタン「私、拷問するか? ホントかどうか、はっきりさせるよ」

パクノダ「……もう少し質問をさせて」

ロールシャッハ「……断る」

シャルナーク(パクノダの能力に気づいちゃったか)

パクノダ「いいわ。勝手にやるから」

フランクリン「なにを引き出すつもりだ、パク」

パクノダ「彼の、もっと遠い記憶よ」

再びロールシャッハの肩に手を置くパクノダ。
77 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:42:29.92 ID:wkFc3Fii0
パクノダ「手錠」

ロールシャッハ「…………」

パクノダ「友達」

ロールシャッハ「……」

パクノダ「神」
    「母」

ロールシャッハ「やめろ」

パクノダ「虐殺」
    「死」

ロールシャッハ「やめろ」

パクノダ「少女」


ロールシャッハ「やめろ!」
78 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:43:19.46 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ、体を拘束する鎖を引きちぎる。
それを見逃さず、マチは念糸をロールシャッハに巻きつける。

マチ「動くな」
ロールシャッハ「AAHHH!」

マチ「動くなって言ってるでしょ」

激情に駆られるロールシャッハの首を、念糸で絞めるマチ。
意識を失うロールシャッハ。

マチ「大丈夫。殺してないよ」

シズク「母……虐殺……少女……」

シズク「マザコンでロリコンの性犯罪者かなあ」

マチ「だったらなんで私たちをつけたわけ?」

シャルナーク「マチが童顔だからとか、お母さんに似てたとかじゃない?」

マチ「気色悪……」

ノブナガ「そんで、なんかわかったのかよ、パク」

パクノダ「彼があまりにもイレギュラーだってことはね。
     もしかすると、流星街よりも、ずっと」

フランクリン「……全員にわかるように説明しろ。それが無理なら、念弾を撃つんだ」
79 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:44:01.93 ID:wkFc3Fii0
パクノダ「……彼はこの世の住人じゃないわ」

パクノダ「少なくとも彼は、一度死んでいる」

ノブナガ「死んで生き返った……つうことか?」

シャルナーク「誰かがこいつの死体を操ってるとか、そういうんじゃなくて?」

パクノダ「いいえ。彼を殺したのは念能力者ですらないわ」

パクノダ「なにか……人間をはるか彼方から見下ろすような」

ノブナガ「んじゃ、神サマに殺されて、生まれ変わったって? ちゃんちゃらおかしいぜ」

パクノダ「神かどうかはわからないけど、それに近い存在であることは確かよ」

フィンクス「こいつは鎖野郎を敵だと言っていたな。
      こいつを殺したその神とやらが、俺たちの敵となる危険性は?」

パクノダ「はっきりとは言えない……ないとは言い切れない」

フランクリン「それで、こいつの始末はどうつける?」

パクノダ「…………彼の入団を推薦するわ」
80 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:45:08.86 ID:wkFc3Fii0
ノブナガ「!」

フランクリン「本気か、パク」

パクノダ「ええ。団長はきっと、彼に興味を持つはずよ」

フェイタン「入団の推薦とまでは行かないけど、私も興味あるよ、そいつ」

フィンクス「しかし、俺たちを尾行していた奴だ」
     「少しやりあったからわかる。こいつはオーラの絶対量が尋常じゃない」

フィンクス「もしこいつが受け入れずに楯つくか、あるいは裏切ったらどうする?」

マチ「フィンクス。あんたなにビビってんの?」

ヒソカ「……そのときはさァ」
   「みんなで殺しちゃえばいいんじゃない?◆」

ノブナガ「おい、勝手に話を進めるんじゃねえ。俺は認めねェぞ。そんな奴がウボォーの後釜だなんて」

フランクリン「ノブナガ。コインで決めろ」

ノブナガ「……っちィ!」

コインを投げるフランクリン。

パクノダ「裏」
ノブナガ「表」

フランクリン「……裏だ」

ノブナガ「ちっ……よかったな、顔なし野郎。ほんの少し寿命が延びたぜ」

フィンクス「パクノダ、フェイタン。団長が帰るまで、そいつの見張りをしていろ」

フィンクス「俺たちはノストラードの連中の中から、鎖野郎を探しに向かう」
81 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:45:49.72 ID:wkFc3Fii0
幻影旅団 アジト 監禁室

フェイタン「死んで生き返るて、本気か?」

パクノダ「ええ。もしかすると、彼を殺した男なら……ウボォーを甦らせることも……」

フェイタン「それは多分ないね。神サマはそう都合よく動いてくれない」

パクノダ「神を信じるの?」

フェイタン「いたら、の話よ」

ロールシャッハ「UUUUM……MM」

フェイタン「起きたね」

ロールシャッハ「……他の連中はどうした」

パクノダ「鎖野郎を探しに行ってる」

ロールシャッハ「HEH」

フェイタン「それはそうと、お前、旅団に入る気ないか? パクノダが推薦してくれてるよ」

ロールシャッハ「なんの冗談だ、このアカめ」

フェイタン「またアカ。なにそれ」

パクノダ「それで、どうするの」

パクノダ「YESかNOで答えなさい。あなた、旅団に入らない?」

ロールシャッハ「NOだ」

フェイタン「……残念ね」
82 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:46:48.86 ID:wkFc3Fii0
部屋の扉が開き、クロロが入ってくる。

フェイタン「団長……」

ロールシャッハ(こいつが団長か。まだ若いガキだが……)

       (……形容しがたい、気味の悪い奴だ)

パクノダ「彼は――」

クロロ「話は聞いている」

クロロ「パクノダ。この男の記憶をすべて、俺に撃て」

パクノダ「…………」

念弾でクロロを撃つパクノダ。

クロロ「お前たち、席を外せ」

クロロ「二人だけで話がしたい」

部屋をあとにするパクノダ、フェイタン。


クロロ「ロールシャッハ。お前の名だな」

ロールシャッハ「ああ」

クロロ「お前の入団の件についてだが」

ロールシャッハ「答えはもう出ている」

クロロ「――――入団自体は、俺が認めよう」

ロールシャッハ「!」

クロロ「あとはお前が決めろ」

クロロ「どちらでも、好きにしてくれて構わない」

ロールシャッハ「…………」
83 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:47:37.55 ID:wkFc3Fii0
クロロ「さて、それとは別に質問があるのだが」

クロロ「お前の記憶の中の、この青い男は何者だ?」

ロールシャッハ(俺の記憶……娼婦の撃った弾か)

ロールシャッハ(まったく、嫌な能力だ)

クロロ「神を見たのかい?」

ロールシャッハ「神などではない」

ロールシャッハ「奴は人間であることを捨て去った者だ」

クロロ「彼の居場所はわかるか?」

ロールシャッハ「わからん。二度と逢えないと、俺は思っている」

クロロ「お前の記憶によると、お前は確かに殺されている。
    どこかよくわからない、雪景色の中で」

   「服から、肉から、骨まで……肉体のすべてを粉々にされて、それから暗転する」

クロロ「その後ははっきりしてないが、覚えているか」

ロールシャッハ「それもわからん」

クロロ「そうか」
84 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:48:30.44 ID:wkFc3Fii0
クロロ「…………お前は、霊魂を信じるか?」

ロールシャッハ「信じてなどいない」

クロロ「……だろうね。でも、俺は信じてる」

クロロ「お前も知ってるように、俺たちの仲間が殺された」

ロールシャッハ「鎖野郎にか」

クロロ「……ああ」

クロロ「お前は一度死んでなお、今ここにいる」

クロロ「殺されたウボォーもどこか別の地で、お前と同じように、誰かにその記憶を伝えているのだろうか」

ロールシャッハ「さあな」

ロールシャッハ「死ぬということは、虚無に還ることだ」

クロロ「お前は、どうなんだ?」

ロールシャッハ「ここも虚無に変わりはない」


ロールシャッハ「俺が生前なし得たことのすべては、この世界となんら関わりを持たないからな」

ロールシャッハ「俺の世界は白紙に戻ったのだ」

クロロ「……かつていた世界に、もう一度戻りたいと思うか」

ロールシャッハ「いいや」

ロールシャッハ「俺はもうこの世界に、新しいインクを垂らし始めた」

ロールシャッハ「そいつは再び、形を取り戻そうとしてる」

クロロ「……どんな形だ? 教えてくれ」

ロールシャッハの顔の模様が動く。
黒いシミが、徐々に蜘蛛に似た形となる。

ロールシャッハ「……お前には、俺の顔がなんに見える?」

クロロ「…………」

クロロ「なにも」

クロロ「なにも見えない」
85 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:50:41.82 ID:wkFc3Fii0



日誌 ロールシャッハ記

1999年 9月3日

ここから先は普段よりさらに字を崩して書く。
絶対に他人に読まれるわけにはいかない。
清書の際、俺の苦労する顔が目に浮かぶ……

結論から言う。
俺は幻影旅団に入団することとなった。
経緯の詳細は伏せる。無論本意ではない。
連中がどれだけ俺を高く買っているのかはわからない。

これから行うのは地下競売への襲撃だ。

団長というその男は、それが死んだ仲間の弔いだと言った。
弔う気などさらさらないが、マフィアを殲滅するというなら加わろう。

奴らの能力が判明するまで。
それさえ済めば、確実に一人ずつこの世から消すことができるだろう。


クラピカのことが嫌でも頭をよぎる。

いつか――まだ俺がウォルターだったころ、ふと耳にした歌がある。


“悪魔が現れた。路上の蒸気を抜け、まるでイエスのように
 そしてお巡りもかなわないような手を見せてくれた
 奴の熱い息を首に感じ、俺はその熱の中に飛び込んだ”


あのときの俺は、こんな日が訪れることを夢にも思わなかった。
ヴェイトの陰謀も、自らの死も、祖国との別れも、
今この瞬間も、そのすべてのことを。

人の生きる世には、あらゆる理不尽が突きつけられるものだ。
俺はハリー・トルーマンを心から信じていた。
ヴェイトの陰謀を目の当たりにして、それが許されざる行為であると気づくまで。

ミニッツメンがアスファルトの上を駆け回った時代は、はるか昔に終わった。
ニューヨークでも、おそらくこのヨークシンでも。


だが、俺だけは屈するものか。
俺は俺の、本当にすべきことを果たさなければならない。
今度こそは、必ず。

.┓┏.
86 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:52:52.56 ID:wkFc3Fii0

フェイタン「団長になに言われた?」

ロールシャッハ「お前に言う必要はない」

フェイタン「…………」

フェイタン「今日の襲撃に加わるなら、即席だけど刺青入れとくよ」

フェイタン、ロールシャッハの肩の肌に指を這わせる。

フェイタン「スカリフィケーションて奴よ」

マチ「あんたそれ、麻酔なしでやるわけ?」

ロールシャッハ「構わん。さっさとやれ」

フェイタン「お前、新入りのクセに生意気ね」
87 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:53:22.37 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハの耳元でささやくヒソカ。

ヒソカ「本当に入団するとはねェ◆」

ヒソカ「これじゃ、せっかく強くなったキミとも闘えないじゃないか◆」

ロールシャッハ「安心しろ。俺が入団した理由は、お前とそう大して変わらん」

ヒソカ「…………!」

ヒソカ「…………お見通しってわけ?◆」

ロールシャッハ「当然だ」
88 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:54:28.93 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ「娼婦」

パクノダ「…………なに?」

ロールシャッハ「ひとつだけはっきりさせておく。二度と俺の記憶を盗み見るな」

「この次は、絶対にお前を殺す」

パクノダ「…………」
89 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:55:08.54 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ(奴らの動きからすると、クラピカはまだ殺されていないようだ)

ロールシャッハ(だがそれも時間の問題だ。インターネットとは、敵が武器にすると厄介な代物だ)

ノブナガ「本当にこんな奴信用できんのかよ」

ロールシャッハ「信用されるつもりなどない。マフィアを潰せるなら、俺はそれで充分だ」

フランクリン「こいつが使えるか使えないかは、今夜わかることだろう」

ロールシャッハ「そのとおりだ、アンダーボス」

フィンクス「アンダーボス? いつからフランクリンは副団長になったんだ?」

フランクリン「ロールシャッハの奴が、勝手にそう呼んだだけだ」
90 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:55:39.62 ID:wkFc3Fii0

マチ「ロールシャッハってあれ、本名なの?」

フェイタン「パクノダはウォルター、なんとかって言ってたね。
      ま、名前なんて困らなければ別にいいよ」

シズク「あいつの方は人の名前、覚える気ないみたいだけど」

マチ「あたしニンジャ娘だってさ」

フェイタン「アカって呼んでくるね、私のこと」

コルトピ「…………」

コルトピ「…………毛玉って言われた」


91 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:56:31.57 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ 安ホテル

レオリオ「それで、ロールシャッハの行方はわからずか……」

レオリオ「ゴン、お前の得意の鼻で、あいつの匂いを追うってのは――」

ゴン「やってみたけど、ダメだった。
   ロールシャッハさんのつけてた香水と、同じ匂いの人がたくさんいすぎて」

レオリオ(クソ、あの野郎……変なとこ律儀でいやがる)

キルア「携帯の使い方、ちゃんと教えたわけ?」

レオリオ「あったりめえだ。だがあいつ、全然電話に出やがらねェ」

ゴン「……俺たちのせいだよ」

キルア「…………」

ゴン「俺たちが、ロールシャッハさんの邪魔さえしなかったら」

レオリオ「言うな、ゴン。あいつはただで死ぬような奴じゃねえ」

    「そうだ、そうに決まってる……」

レオリオ「どうせ、またひょっこり戻ってくるに決まってらあ!……旅団の首を二、三人くらい引っさげてよ! そしたら俺たちもあいつもクラピカも、万々歳じゃねえか……」
92 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:57:38.84 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ セメタリービル

今夜の地下競売にも幻影旅団が現れると見て、
マフィアンコミュニティーはゾルディック家のゼノ、シルバを始めとした殺し屋を雇う。

クラピカはウボォーを拘束したことを見込まれ、その戦列に加わるよう指示が下る。

クロロはノストラードの娘・ネオンを利用してセメタリービルへ侵入。
そこへ向かう幻影旅団。
ビルの周囲を封鎖するマフィアを殺しながら進んでいく。

その中には、ロールシャッハの姿も。

ノブナガ「おめェなんかと組まされたことが腑に落ちねえけどよォ」

ノブナガ「案外やるもんだな、おめェも」

マフィアたちの死体の中に立つロールシャッハ。

ロールシャッハ「HUNH」

ノブナガ「殺しにためらいがねえ。フェイタンの言うとおり、俺たちと同類だ、お前さんは」

ノブナガ「俺たち、きっといいコンビになるぜ」

ロールシャッハ「勝手に言ってろ」

先に進むロールシャッハ。

ノブナガ「おい、そんな急ぐこともねェーだろうが」

ロールシャッハ「お前はゆっくりしてろ。俺が全部片づけてやる」

ノブナガ「ちっ、愛想の悪ィ奴だ」
93 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 22:58:37.44 ID:wkFc3Fii0

ロールシャッハ(ヘリコプターが撃ち落とされている)

       (実弾ではない。念の弾丸だ)

       (あの娼婦のものではない。別の団員のものか)

       (あたり一帯が戦場だ)
 
       (いつか、ダニエルがコメディアンとともに暴徒の鎮圧に向かったというが、)

       (そのときですら、この現状の比ではないだろう)


ロールシャッハ(だが構わない。今の俺の相手は、罪なき市民ではないからだ)
94 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:00:18.07 ID:wkFc3Fii0
セメタリービル内部 入口付近

銃声と爆音と悲鳴に混じり、携帯の着信音が鳴っている。

クラピカ「……もしもし」

ゴン「あっ、クラピカ? やっと繋がった!」

クラピカ「ゴン……」

ゴン「用件だけ言うよ。すぐに終わるから」

ゴン「俺とキルア、旅団に会った」

クラピカ「!……なにを考えているんだお前たちは! 相手がどれほど危険な連中かわかってるのか!?」

キルア「ゴン、代わって」

キルア「わかってたさ。確かに奴らは強い。今の俺たちだと、手も足も出ない」

   「だからクラピカの力が要るんだ」

   「今、今だから言うけど」

キルア「シャッハのおっさんが、捕まったか、多分……殺された」

クラピカ「!」

クラピカ「なら私が説明するより充分だろう。下手に手を出せばそうなる」

    「お前たちの手を借りる気などない。奴の二の舞になりたくなければ……」

レオリオ「おいキルア、代われ」

レオリオ「聞こえるか、クラピカ。ロールシャッハの奴は、幻影旅団みたいな連中を許すわけないことは知ってるよな」

    「お前が俺に話した、ゼビル島での一件も忘れちゃいねえだろう」

    「あいつは少なくともお前に力を貸そうとしたはずだ!」

    「そのダチが死んじまったかも知れねえってのに、その言い草はなんだ!?
     お前は骨の髄までマフィアになっちまったのかよ!」
95 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:01:05.79 ID:wkFc3Fii0
クラピカ「…………」

クラピカ「ずいぶんと、勝手なことを言ってくれるな」

携帯を持つクラピカの前に、ロールシャッハが現れる。

クラピカ「!……」

クラピカ「……後でかけ直す」

レオリオ「おい、ちょっと待て! まだ話は」ピッ

ロールシャッハ「やはり、お前もいたか」

クラピカ「ロールシャッハ……死んだと聞いたが?」

ロールシャッハ「南極でな」

ロールシャッハ「そこを通せ。お前と闘う気はない」

クラピカ「断る」

ロールシャッハ「俺などに構っている場合ではない」

ロールシャッハ「今すぐ逃げた方がいい。お前の顔は、旅団に割れている」

クラピカ「!」

クラピカ「……お前が伝えたのか」

ロールシャッハ「…………」
96 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:01:56.55 ID:wkFc3Fii0

クラピカ「答えろ!」

ロールシャッハ「……俺の記憶を」

直後、ビルの外でシャルナークに操られたマフィアの一人が
機関銃を乱射し、入口のガラスが吹き飛ぶ。

その寸前、ロールシャッハはクラピカの足に自分の足を引っ掛ける。

クラピカ(!…………)

バランスを崩したクラピカの体に、数発の弾丸が命中。

ロールシャッハ「…………」

奥へと進むロールシャッハ。
だがその腕を、クラピカのダウジングチェーンが捕らえる。
傷口を押さえながら、立ち上がるクラピカ。

クラピカ「なぜ今この場で、旅団を狙わない?」

クラピカ「それとも、奴らと手を組んだとでも言うのか?」

ロールシャッハ「……俺も、お前に付き合っているほどヒマではない」

腕に絡まる鎖を力任せに引き、引き寄せたクラピカの顔面に拳を叩きつけるロールシャッハ。
97 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:03:25.12 ID:wkFc3Fii0

ロールシャッハ「お前は重傷だ。これ以上は……」

クラピカ「……癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)」

クラピカの体の筋肉が収縮を始め、傷口から銃弾が床に落ちる。


ロールシャッハ(……オーラの量が目に見えて増えた。毛皮男を屠ったときと同じだ)

       (今、奴の瞳は黒い)

       (カラーコンタクトを入れているのだろう)

ロールシャッハ(だがおそらくその奥は、緋色に染まっている)

クラピカ「今度は、私の方が失望する番のようだな」

クラピカ「……深く失望したぞ、貴様に」

クラピカは再びダウジングチェーンを飛ばす。
ロールシャッハは拳で弾くが、その先端は軌道を変えてロールシャッハの胸を砕く。

ロールシャッハ「AAAK……!」
98 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:04:54.05 ID:wkFc3Fii0

クラピカ(……チェーンジェイル)

    (奴が旅団ならば使えるはずだ)

    (……だが使えない。奴にだけは使いたくない)

クラピカ「いつかお前は言ったな、ロールシャッハ」

    「私が深淵に飲み込まれたとき、私を殺すと」

    「飲み込まれたのは、お前の方ではないのか?」

倒れ込むロールシャッハを蹴り飛ばし、馬乗りになるクラピカ。
顔面へ、首へ、肩へ、さらに何度も浴びせられる拳。
ロールシャッハのマスクの模様が、クラピカの拳に合わせて変形していく。
99 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:05:57.70 ID:wkFc3Fii0

マスクの隙間から、血が漏れ出している。

拳を止めるクラピカ。

クラピカ「…………」

    「お前の言うとおりだ、ロールシャッハ」

    「腕に伝わる衝撃と返り血」

クラピカ「……そして神は、確かにいなかった」


ロールシャッハ「HEH」

クラピカ「!」

ロールシャッハの膝が持ち上がり、クラピカの背中へ一発。

クラピカ「くう……くく……」

ロールシャッハ「オーラの増幅には、制限時間があるようだな」

クラピカの頭をつかんで立ち上がり、壁に押しつけるロールシャッハ。

ロールシャッハ「……俺の番だ」
100 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:07:23.75 ID:wkFc3Fii0
クラピカ(馬鹿な……)

    (頬骨も……顎骨も……肩も、肋骨も……)

    (いかに念でガードしていようと、相当のダメージを与えたはず……)

クラピカ(加えて、この威力……)


ロールシャッハ(『廃墟の街(ザ・ハート・アタック・マシーン)』)

ロールシャッハ(皮肉な名を与えられたものだ)


ロールシャッハ、動揺するクラピカのミゾオチを数度殴る。
クラピカは少し血を吐いて咳き込み、徐々に意識を失っていく。

ロールシャッハ「今度こそ寝ていろ。お前は、今死ぬべきではない」

       「お前の力は必要だ」

ロールシャッハ(……他の団員に見られるわけにはいかない)


クラピカの体を抱え、ビルを去るロールシャッハ。

あたり一帯では、まだ銃声と爆音と悲鳴が交錯している。
101 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:08:28.02 ID:wkFc3Fii0

セメタリービル オークション会場裏

ロールシャッハ(この毛玉の能力……触れたもののコピーを作る……か)

ロールシャッハ(あの死体もそうやって作ったのだろう)


マチ「ロールシャッハ。人のすぐ横で香水吹くんじゃないよ。匂いが移る」

マチ「ったく、デリカシーのない奴……」

ノブナガ「そうだ。おめェは協調性ってもんに欠けてる。勝手に先に行きすぎなんだよ!」

ロールシャッハ「それはお前が鈍足だからだ」

ノブナガ「ンだと?」

フランクリン「まあ待て。こいつも入って早々、充分に活躍したそうじゃねえか」

ノブナガ「ちっ」

フィンクス「まだ殺し足りねえって顔だな、ロールシャッハ」

マチ「あんた、こいつの表情わかんの?」

フィンクス「なんとなくだ」

ロールシャッハ「HUNH.あの客席のマフィアどもも、殺す気でいたのだがな」

フランクリン「そんなにあいつらに恨みがあるのか?」

ロールシャッハ「顔を見るのも初めてだ」

ノブナガ「お前、快楽殺人者かよ?」

ロールシャッハ「違う」

ノブナガ「ホントわっけわかんねェーぜこいつ。パクの奴なに考えてんだか」

    「それに……」

ノブナガ「鎖野郎も見当たらねえしよォ……」
102 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:09:18.35 ID:wkFc3Fii0

セメタリービル 周辺

クラピカ「…………」

クラピカ「…………ここは……」

センリツ「よかった、無事みたいね」

クラピカ「センリツ……バショウ……!」

クラピカ「ボスは無事か!? 旅団は!?」

バショウ「落ち着けよ。もうドンパチは、じき終わる」

クラピカ「……ロールシャッハ……マスクの男はどうした?」

バショウ「あいつがお前を連れてきたんだ。まったく現れたときはヒヤヒヤしたがな」

クラピカ「……」

バショウ「やってきて、いきなり手首をつかまれて、
    『利き手は左だったな』、ってよ。危うく握り潰されるところだったぜ」

クラピカ「……センリツ」

センリツ「ええ、また彼の心音は聴いたわ」

センリツ「信じられないほど心拍数が上がっていたけど、
     音の感触自体はまるで変わっていなかった。前とおんなじに、ね」

クラピカ「そうか……旅団は?」

バショウ「リーダーがやられたらしい。他の団員の死体も、あちこちで見つかってるそうだ」

クラピカ「……そんな……」
103 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:10:16.53 ID:wkFc3Fii0

セメタリービル オークション会場



クラピカ(団長と思われる男と、旅団員数名の死体を見た)

    (だが、ロールシャッハの姿はなかった)

クラピカ(……死体はなかったのだ)


司会「……さあ皆様、本日最後の品となりました」

  「世界七大美色の一つ、『緋の眼』でございます」

司会「クルタ族が滅亡した今、現存するのはわずか36対――」



クラピカ、携帯を取り出す。

クラピカ「……申し訳ありません……私の読み違いでした……
     旅団のリーダーは殺られ、競売が予定通り行われています」

クラピカ「現在、最後の品の緋の眼が競りにかけられています……参加しますか」

ライト「無論だ、予算の上限はない! なんとしても落札しろ!」

104 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:11:26.37 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ 路上

『緋の眼』を抱え、歩くクラピカ。
見開かれた眼は、緋色に染まっている。

街灯の下に立つ、ロールシャッハとすれ違う。

ロールシャッハ「コロコロと顔の変わる奴だ。まるで俺のように」

足を止めるクラピカ。

クラピカ「……今の私に関わるな」

ロールシャッハ「旅団はまだ生きている。一人も死んでなどいない」

クラピカ「…………」

ロールシャッハ「あの死体は精巧な偽装だ。お前の持つその箱の中身もな」

クラピカ「……なぜそれを、私に伝えに来た」

ロールシャッハ「伝えねばならないことだからだ。俺がお前に」

振り向くクラピカ。
だがロールシャッハの姿は、もうそこになかった。
105 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:11:59.33 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ どこかのビルの屋上

クラピカ(…………)

クラピカ(…………………)


クラピカ、ポケットからくしゃくしゃのメモを取り出して開く。

『.┓┏.』とサインが書かれたそれを再びしばらく眺め、そして破り捨てた。

携帯電話を開く。メールが来ている。

『デイロード公園で待ってる ゴン』
106 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:14:02.25 ID:wkFc3Fii0
翌朝 デイロード公園

ゴン「クラピカ!」

クラピカ「ゴン……」

ゴン「よかったね。旅団がいなくなって、これで一番やりたいことに……」

クラピカ「ゴン、」

ゴン「?」

クラピカ「……ロールシャッハに、逢った」

ゴン「ほんとに!? どこで?」
107 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:15:34.08 ID:wkFc3Fii0


日誌 ロールシャッハ記

1999年 9月4日

マフィアの幹部連中を仕留められなかったのは残念だ。
だがあれだけの抗争ならば、奴らもある程度弱体化したことだろう。

団長から、昨夜の顛末の詳細を聞き出した。

マフィアンコミュニティーの雇ったゾルディック家の
ゼノとシルバという二人の殺し屋に殺されかけたものの、
一歩早く自分の雇った殺し屋が、依頼である十老頭の殺害に成功したため、
ゼノとシルバは依頼人を失い、団長の殺害の中止を決定したという。

なんとも腹立たしい結末だ。
おそらく団長の雇った殺し屋というのも、ゾルディック家の一員であろう。

ハンター試験の際に姿を見せた、
キルアの兄の、ギタラクルという男かも知れない。
先に殺しておくべきだったのは、奴の方か。

団長は今夜、ここを発つと言っている。

ここが本拠地だと思っていたが、どうやら間違いのようだ。
俺にとってそれは望ましいことではない。
一方で、サムライは鎖野郎――つまりクラピカへの復讐に拘泥している。

クラピカはまだ死ぬべきではない。
旅団の壊滅には、奴の力は絶対に必要だ。

毛皮男を拘束したあの強固な鎖を、奴は俺には使わなかった。
奴は俺の真意に気づいているはずだ。
だとするならば、まだ希望はある。

クラピカが旅団に殺されるか、あるいは旅団がそれをあきらめてここを発つか。
どちらの結末に至るとしても、三日とかからないだろう。
それまでに、少しでも深い傷を負わせなくては。
最大限、可能な限り。
108 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:16:23.16 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ どこかのビル

ゴン「クラピカ。もう、いいでしょ。ロールシャッハさんとは、どこで逢ったの?」

クラピカ「昨夜の、セメタリービルでだ」

レオリオ「本当か!? じゃあ、旅団の死体ってのも、あいつが――」

クラピカ「違う」

クラピカ「あの死体はフェイクだと、奴は言った」

キルア「!」

キルア「じゃあ、死んだ、っていう旅団のメンバーはまだ生きてるってことかよ?」

クラピカ「……ああ」

レオリオ「確証はあるのか?」

クラピカ「実は私はヒソカと取引して、情報をもらっている」

ゴン「ヒソカも……旅団の一員なの?」

クラピカ「そうだ。先ほどの奴のメールにも、同じことが書かれていた」

キルア「シャッハのおっさんは、なんでそれを知ってたわけ?」

クラピカ「……これもヒソカのメールにあった」

クラピカ「奴も旅団の一員となったと」
109 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:17:38.85 ID:wkFc3Fii0
ゴン「…………そんな」

キルア「そんなわけあるかよ、あのおっさん、旅団なんていう連中真っ先に嫌うタイプじゃん」

レオリオ「……いや、わからねえぜ。
     確かに奴は悪事大嫌いのクソ頑固野郎だが、」

レオリオ「前に俺と逢ったとき、
    『クラピカは敵になった』とかのたまってやがった」

キルア「それって、クラピカがマフィアになったから?」

レオリオ「多分そうだろう。旅団に捕まったとき、奴はきっとこう思ったんだろうぜ。
    『とりあえず今は旅団と組んで、マフィアを潰そう』ってな」

キルア「ったく、単純だぜ」
ゴン「…………ロールシャッハさんが、そんな人のわけないよ」

ゴン「旅団に入団したフリをして、敵の能力を探ってるんだよ、きっと!」

レオリオ「まあ、それが一番考えられることだ。
     あいつが旅団にずっぽり浸かるなんてことはあるわけねえからな」

キルア「入団した、ってのが本当ならそう思うよ。でもさ、旅団側が入団を許すと思うか?」

レオリオ「昨夜だけ一時的に手を組んだか……
     悪けりゃ、信用を得るためにクラピカの情報を売った、つうことも考えられるな」
110 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:18:33.29 ID:wkFc3Fii0

クラピカ「彼は、旅団側に私の顔が割れていると言っていた」

レオリオ「! つうことはやっぱりあいつ、裏切ったんじゃねえか!」

クラピカ「待て。私の話を最後まで聞いてくれ。昨夜、彼と対峙したのだが」

クラピカ「そのあと私は、また彼に助けられた」

クラピカ「意識を失う寸前に、『お前の力は必要だ』、とも言っていたんだ」

ゴン「じゃあ、じゃあやっぱり、ロールシャッハさんは旅団を探ろうとしてるってことでしょ?」

キルア「割れている、って言ったのも妙だな……ホントにそう言ったの?」

クラピカ「ああ」

キルア「じゃ、もしかしたらおっさんが自分で言ったんじゃないかも知れない、
    ってわけだよな? 詭弁でなければさ」

レオリオ「どこか別の……たとえば、ノストラードの連中から情報が漏れている、とかか?」
111 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:19:44.60 ID:wkFc3Fii0

ゴン「あ!」

レオリオ「なんだゴン、急にでかい声出すな!」

ゴン「俺たちも旅団に会った、って言ったでしょ?」

ゴン「そのとき旅団の女の人が、鎖野郎について知らないか、って聞いてきたんだ」

レオリオ「ゴン、お前がしゃべったのか!?」

ゴン「そんなわけないよ!
   そのときは、鎖野郎ってのがクラピカだとは分からなかったし、答えようがなかったもん」

クラピカ「それで、その女はどうしたんだ?」

ゴン「俺が知らない、って言ったら、納得しちゃった」

キルア「俺の方もそういう問答はしたぜ?」

ゴン「でもその人、すごく納得してた感じがしたし、
   もう一人の女の人も、その人に確認とってたんだ」

ゴン「もしかしたらその人、ウソを見破る念能力者とかじゃないかなー、って」

キルア「それじゃ結局、シャッハのおっさんが口を割ったってことじゃん。
    それにそんな念能力なら、おっさんの目的もバレバレだっつーの」

ゴン「あ、そか」
112 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:21:06.48 ID:wkFc3Fii0

クラピカ(……ロールシャッハはあのとき……)

クラピカ「……記憶、か?」

クラピカ「記憶を読み取る念能力…………」

レオリオ「……ロールシャッハは、お前の能力についてどこまで知っている?」

クラピカ「能力の詳細については、そう多く知らないはずだ。
     記憶を読まれたのがいつかにもよるが、
     昨夜以前なら、私が鎖を使うということ程度だろう」

キルア「なら、それ以上俺たちにも話さない方がいい。
    記憶が読めるってのが本当なら、それがいくら仮定でも、
    これ以上情報が漏れる危険性は増やさない方がクラピカの身のためだ」

レオリオ「とにかく、ロールシャッハの奴はまだ信じられるってわけだな」

レオリオ「ハッ、少し安心したぜ」

キルア「まだ安心はできねーだろ。クラピカがメチャクチャ危ないんだからさ」

クラピカ「ロールシャッハについては、しばらくそのままにしておく」

ゴン「……連絡、とれそうにないもんね」
113 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:22:22.92 ID:wkFc3Fii0
クラピカ「いずれ奴は旅団を裏切ることに間違いはない。
     そのために入団したはずだからな。
     そしておそらく、旅団員ひとりひとりと渡り合えるだけの実力がすでにある」


クラピカ「問題はそれがいつか、ということだ」

    「今日かも知れない……明日かも知れない……」

    「我々がヨークシンを去ったあとかも知れないし、
     あるいは、今この瞬間かも知れない」


クラピカ「彼はこの状況において……」

    「…………究極のワイルドカードだよ」

114 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:23:16.31 ID:wkFc3Fii0

ロールシャッハ(アジトの中に、錆びた看板の残骸を見つけた)

       (『ようこそ、ヨークシンシティへ』)
       (『誰も彼もが、新しい色に染まる街!』)


       (だが中央部の錆が激しく、“ヨーク”の文字はほとんど見えない)

ロールシャッハ(HEH.罪の街……か)
115 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:24:22.18 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ(団長の能力は判明した)

ロールシャッハ(他人の念能力を盗むというもの)


(それによって、予言の力を得たという)

(ノストラードの娘だ。セメタリービルへの潜入の際、接触してその能力を盗んだに違いない)

(その後、俺たち全員を占った)

(サムライの予言には、クラピカへの復讐を続けるならば、旅団の半分が死ぬと出ている)

(俺にとっては好都合だ。占いなどに興味を持ったことはないが、これなら当たってくれと願ってもいい)
116 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:25:40.87 ID:wkFc3Fii0

クロロ「ロールシャッハ。お前はこの中で唯一、鎖野郎と接触している」

クロロ「お前の意見を聞きたい」

ロールシャッハ「俺は新入りだ。とやかく言うつもりはない」

ノブナガ「意見を聞かせろっつってんだよ。お前が俺たちの行動を決定しろなんて言っちゃいねえ」

ロールシャッハ「HURM」

ロールシャッハ「少なからず」

       「奴は強大な制約によって、恐るべき力を得ている」

       「それがなにかはわからんがな」

ロールシャッハ「あの毛皮男を屠ったところからして、
        お前たちの能力如何によっては、対峙すれば間違いなく死ぬ」

クロロ「お前はどうだ」

クロロ「お前が鎖野郎と殺り合って、勝算はあるか?」

ロールシャッハ「……HURM」

ロールシャッハ「ゼロだ」
117 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:27:31.58 ID:wkFc3Fii0

ロールシャッハ「こちらの被害なく奴を殺すとなれば、外部の連中に依頼でもすべきだろう。
        それで勝算があるかはわからないが、まず団員に被害は出ない」

       「もうひとつ確実なやり方があるとすれば、
        単純に奴が単独でいる際に、複数で襲うことだ」

ロールシャッハ「そこのサムライのように、
        自らの手で確かに始末することを望むならばそうした方がいい」

ノブナガ「『そこのサムライ』じゃねえ。ノブナガだ、ノ、ブ、ナ、ガ」

ロールシャッハ「ただしこちらの場合、おそらく一人か二人、死者が出る危険性がある」

ノブナガ「無視かよテメエ!」

フランクリン「しかし、思ったよりマジメに考えてるじゃねえか」

シズク「至極真っ当なやり方だと思うけど」

マチ「鎖野郎の居場所は、あんた知ってるわけ?」

ロールシャッハ「いや」

ロールシャッハ「ネットの情報や、ノストラードファミリーの潜伏するホテルなどをシラミ潰しに当たるか――」

       「あるいは再び死体を偽装して、ノストラードではない、
        むしろどこか険悪な関係にある組へ、賞金稼ぎを装ってそれを送りつける」

ロールシャッハ「そのとき奴は姿を見せるだろう」

フィンクス「現れると断言できるのか?」

ロールシャッハ「変装程度はするかも知れない。だが、奴は旅団に恨みを持つ者だ。
        単独で確認するくらいのことはしてもおかしくない」
118 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:28:43.95 ID:wkFc3Fii0
クロロ「……なるほど、な」

クロロ「だが、後者の手は使えそうにない。
    会場に残した死体によって、俺たちが流星街の出身であることはすでに知れ渡っている」

   「マフィアは流星街との摩擦を避け、残党狩りを中止するだろう」

   「そんなところにノコノコ新たな死体を増やしては、
    賞金稼ぎを装ったところで、またマフィア連中とのあいだに諍いが生じる」

クロロ「その中では鎖野郎を探り当てるより先に、奴によってこちらにまた死者が出ないとも限らない」

ロールシャッハ「HURM.なら殺し屋でも雇うか? 昨夜のように」

ノブナガ「いいや。そんなもん、俺は認めねえぞ」
119 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:29:30.29 ID:wkFc3Fii0

パクノダ「――ウォルター。あんた、占いの結果はどう出たわけ?」

ロールシャッハ「俺をウォルターと呼ぶな」

パクノダ「いいから見せなさい」

ロールシャッハ「その義務はない」

フィンクス「お前、あまり調子に乗るなよ」

クロロ「彼の占いは、白紙だった」

パクノダ「!」

クロロ「ウォルター・ジョセフ・コバックス、
    1950年3月21日生まれ。パクノダの読み取った記憶に出ていたから、多分間違いない」

マチ「ってことは、49歳? もうすぐで50?」

シズク「結構年上なんだね」

フランクリン「まあ、間違いなく人生経験は豊富だろうな」
120 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:30:24.98 ID:wkFc3Fii0
クロロ「だがなにも書かれなかった」

ノブナガ「そりゃ一体どーいうことだよ?」

シズク「今日中に死ぬとか、そういうことかなあ」

フランクリン「だったら、それを回避するための予言が出るはずだ」

クロロ「おそらくこの生年月日は、俺たちとは別の時間軸のものだ。予言ができないのはそのためだろう」

   「彼の記憶の中にある街は、ヨークシンと似てはいるがまったく異なるものだ。
    俺はその中に、青く光る男の姿を見た。それが彼を一度殺している。
    その男が、ここへ遣わせたのかも知れない」

クロロ「無論、どれもにわかには信じがたいがな」

ロールシャッハ「そうか、ハハハ。新参者をいびろうとしているのかと思っていた」
121 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:31:03.16 ID:wkFc3Fii0
ノブナガ「答えな、ロールシャッハ」

ロールシャッハ「俺が聞きたいほどだ」

ロールシャッハ「もし奴と再会できたら、それについてたずねるとしよう」

クロロ「そのときは、俺も呼んでくれないか」

ロールシャッハ「HURM……考えておこう」

ロールシャッハ「それより、俺の真っ白の紙よりも、
        見るべきものが他にあるんじゃないのか」

パクノダ「……なんのこと?」

ロールシャッハ「たとえば、ヒソカの占いの結果とかだ」

コルトピ(……ヒソカは名前で呼ぶんだ)
122 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:31:52.27 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ(ヒソカの占いには、奴が毛皮男を売ったと思われる記述があった)

(それが本当ならば、ヒソカはクラピカと組んでいる)

(俺も知らないクラピカの能力で、ヒソカが言動を縛られているらしいこともわかった)

(そうまでしてヒソカがクラピカに従う理由は?)

(クラピカに力づくで脅迫されたということは考えにくい)

(ならば、最初の俺の推測どおりだろう)

(ヒソカは戦闘狂だ)

(旅団員のうちの誰か……多分、団長との闘いを望んでいる)

(他の団員にそれを邪魔されないために、クラピカと取引したのだろう)

(自ら手を汚すことなく欲望を満たそうなどと、クズらしい考えだ)

(もうひとつ、パクノダという女)

(記憶を読むという厄介な能力の持ち主だが、俺が利用すべきのはその仲間意識だ)

(奴になにがあったのかは知らない。どのような過去を歩んだのかも)

(ただしこれだけはわかる。奴がクズに身を落としたということだ)
123 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:32:54.20 ID:wkFc3Fii0

ロールシャッハ(団長の盗んだ能力のひとつも新たにわかった)

       (他者の位置を一瞬にして移動させる)

       (ヒソカと、仲間を売ったことに激高し斬りかかったサムライと)

       (そのどちらかが死ぬと思ったが、団長はそれを止めた)

ロールシャッハ(リーダーらしい判断だ。だが、それだけに厄介だ)


ロールシャッハ(ヨークシンを離れることは回避できた)

       (問題は、これからだ)
124 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:33:52.64 ID:wkFc3Fii0

パクノダ「ウォルター、あんたさ」

ロールシャッハ「ウォルターと呼ぶなと言ったはずだ」

パクノダ「……ロールシャッハ。これでいい?」

ロールシャッハ「HUNH」

パクノダ「聞かせて。あなた、ここへ来たことをどう思ってる?」

ロールシャッハ「それはこの廃屋でたむろしているという意味か?
        それとも、俺がこの星へ来たということについてか?」

パクノダ「どちらでも、好きなようにとりなさい」

ロールシャッハ「HURM」

       「難しい質問だ」

ロールシャッハ「だが、特になにも思うことなどないと言っておこうか」

パクノダ「確か、ダニエル、っていう親友がいたわね」

ロールシャッハ「それがどうした」

パクノダ「彼とは、もう二度と逢えないと思う?」

ロールシャッハ「ああ」

パクノダ「心残りはないの?」

ロールシャッハ「ない」

パクノダ「どうして?」

ロールシャッハ「……奴が俺を必要としていたのではなく、俺が奴を必要としていたからだ」

パクノダ「余計にわからないわ」

ロールシャッハ「俺がいなくとも、奴は幸せの中を歩いていける」

パクノダ「あなたは?」

ロールシャッハ「俺にそんな道は必要ない」

パクノダ「…………」
125 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:34:50.97 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ どこかのビル

レオリオ「クラピカ。どこ行ってたんだ?」

クラピカ「今夜の競売が行われるかどうか、確かめに」

レオリオ「……開催されるのか?」

クラピカ「なんとも要領を得ないな。コミュニティーの回答はまだだそうだ」

レオリオ「開催されるっていうなら、そこでまた旅団の襲撃を――」

クラピカ「それを待つ気はない。いつまでも先手を譲るわけにはいかないからな」

レオリオ「せめて、ロールシャッハの連絡を待った方が」

クラピカ「それも、いつになるかわからない」

レオリオ「マフィアの後ろ盾もなしに奴らとやり合うのは無謀だぜ」

クラピカ「それは誤解だよレオリオ。最初からそんなもの期待していない」

レオリオ「ちィっ! おめーなあ、そいつを先に言っときゃ、
     ロールシャッハともごたごたしなかっただろうによお」

ゴン「クラピカ!」

ゴン「俺たちにもなにか、手伝わせてよ!」
126 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:35:45.05 ID:wkFc3Fii0
クラピカ「――まず、アジトを見張る役がひとり」

キルア「俺がやるよ」

クラピカ「ターゲットは……」

キルア「シャッハのおっさん、だろ?」

クラピカ「……そうだ。もしロールシャッハが現れなければ、団長でいい。
     顔はフェイクの死体が公開されている」

クラピカ「それと、私とともに行動する運転手がひとり。レオリオ、頼めるか」

レオリオ「ええ!? お、おう」

ゴン「クラピカ、俺は?」

クラピカ「敵の目を眩ます、撹乱係だ」

キルア「ちょっと待った、そいつはかなりヤバい役だろ?」

クラピカ「やり方次第だ。一秒でもいい」

クラピカ「これだけは賭けとしか言いようがないが、
     ロールシャッハの動き次第で、その時間はもっと得られるだろう」
127 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:38:08.15 ID:wkFc3Fii0
幻影旅団 アジト

クロロ「ハンターサイトに載せられていた、ノストラードの娘の護衛はこの七人だ」

   「だがここに、ロールシャッハのいう鎖野郎の姿はない」

   「ロールシャッハの情報によれば、鎖野郎の目的はひとつ」

   「旅団への復讐だ」

   「が、ネオン・ノストラードはオークションが目的でここに来た」

   「そして、ノストラードの娘には人体収集家というもう一つの側面がある」

クロロ「鎖野郎の目的はもうひとつあった。『緋の眼』の回収だ」

ロールシャッハ(HURM)

ロールシャッハ(クラピカはそれを知った上で、マフィアに関与した、というわけか)

クロロ「鎖野郎がノストラードに入ったのは、偶然じゃない」
128 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:39:12.37 ID:wkFc3Fii0

フランクリン「昨夜の競売でも、『緋の眼』はあったはずだな、シャル?」

シャルナーク「最後に競り落とした奴……
       ごめん、わかんない……あのときは自動操縦にしていたから」

コルトピ「あったよ。『緋の眼』」

クロロ「コルトピ。円を張れ」

オリジナルの『緋の眼』に触れるコルトピ。

コルトピ「わかった」

コルトピ「あっちの方。5500mくらい」

ロールシャッハ(あれがオリジナルか……)

ノブナガ「団長。俺に行かせてくれ」

ノブナガ「頼む」

クロロ「いいだろう」

ノブナガ「よしッ!」
129 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:40:32.06 ID:wkFc3Fii0
クロロ「ただし、ロールシャッハを連れて行け。単独では危険だ」

ロールシャッハ「HUNH」

ノブナガ「しょうがねえ、いいぜ。一応、こいつとは夕べもコンビ組んだからな」

クロロ「俺も同行する。パク、マチ、シズク、それとコルトピもだ」

ロールシャッハ「ヒソカはいいのか?」

クロロ「……なぜそう思う?」

ロールシャッハ「今まで黙っていたが、奴とは面識がある。敵の危険性を鑑みた上で、
        なるべく戦闘に向いたメンバーで固めるべきだ」

クロロ「それはできない」

クロロ「奴が鎖野郎のなんらかの念で拘束されている以上、
    先陣を切らせるわけにはいかない」

ロールシャッハ「HURM」

マチ「なんでそのこと、黙ってたわけ?」

ロールシャッハ「あいつが嫌いだからだ」

マチ「なるほど、ね」

ヒソカ「…………◆」
130 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:41:23.03 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ 路上

アジトから動いた旅団を追うキルア。クラピカの要請を受けたセンリツが同行している。

センリツ「……この道曲がって、さらに100mくらい先に奴らがいるわ」

センリツ「ロールシャッハさん、だったかしら? あの人もいるわね」

キルア「そんなことまでわかるの?」

センリツ「ええ、あの人とは前にも会ってるから。特徴的な足音だしね」

キルア「へえ。俺も聞こえる方だと思ってたけど、全然わかんないや」

センリツ(厚底のことは黙っておきましょう)

センリツ「……待って。二人ほど足音が遠くなったわ。ロールシャッハさんと、もうひとり」

センリツ「多分、地下に潜ったみたいね」

キルア「もしもし、クラピカ? 奴ら、電車に乗ったよ。
    おっさんはもうひとりと一緒に別れた。それと、背中に逆十字の奴がいる。
    顔は見えないけど、多分そいつが団長だ」
131 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:44:32.25 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 下水道内

ノブナガ「――で、なんで俺たちゃマンホールの下を行くんだ?」

ロールシャッハ「あれだけの数なら、当然二手に分かれるべきだ」

ノブナガ「分け方が不自然じゃねえか?」

ロールシャッハ「復讐に執着しているのはお前だ。俺ならば奴の元にいち早く向かえる」

ノブナガ「その自信はどっからくんだよ」

ロールシャッハ「ノストラードファミリーについての情報なら、調べ上げてある」

ノブナガ「そーいやおめェも、なァんかわけありだったな」

ロールシャッハ「団長の言うとおり、俺たちが特攻ならば奇襲に越したことはない」

ノブナガ「だからってよ、なにもこんなくっせえところ
     歩く必要はねーんじゃねーかって言ってんだ。こちとら草履だぜ」

ロールシャッハ「下水道は便利だ。他人に見られる心配もなく、
        車の往来を気にすることもない」

ロールシャッハ「かつての相棒ともよく使った手段だ」

ノブナガ「おめェに相棒がいたなんざ驚きだな」

ロールシャッハ「そうか」

ノブナガ「おめーの大嫌いなマフィアどもを追ってたってか?」

ロールシャッハ「ああ」

ノブナガ「ならさぞ懐かしいんだろうな。年取るとノスタルジーになるっつうだろ?」

ロールシャッハ「ああ。あのころは楽しかった」

ノブナガ「今はどうだ?」

ロールシャッハ「最悪の気分だ」

ノブナガ「俺もだよ」
132 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:45:28.27 ID:wkFc3Fii0

ノブナガ「――っ! ちくしょう、あンの野郎また勝手にどっか行きやがった!」

ノブナガ「道わかるかってんだクソ! こりゃホントのクソだぜ!」



ロールシャッハ(サムライは撒いた。昨夜より簡単だった。やはり下水道は便利だ)

(ヨークシンに着いてから、ここの下水はひととおり調べた。地図もある)

(5500m……約3マイル半か。ベーチタクル……ノストラードの娘がいたというホテルだ)

(そこに、あの毛玉が作ったというコピーがある)

(それをさらに遠ざければ……他の団員の撹乱になるだろう)

(携帯電話とかいうトランシーバーはある……どうやら下水道でも、地上と交信できるようだ)

(レオリオ。感謝する)
133 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:46:23.13 ID:wkFc3Fii0
ヨークシンシティ 路上

クラピカ「まずいな…連中はホテルの方へ向かっている」

レオリオ「ちっ、なんだ、運転中に……」

レオリオ「この番号……ロールシャッハか!?」

クラピカ「!」

レオリオ「もしもし! お前から電話だなんて……」

レオリオ「……クラピカ、今から仲間の護衛に伝えな」


134 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:47:42.55 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ ベーチタクルホテル

スクワラ「マジか!? そんならさっさとずらかるぜ……え?」

    「『緋の眼』をそこらのタクシーに載せて走らせろだあ!?」

    「なに言ってんだよおめェ、ありゃボスの……」

    「わかったわかった、リーダーはあんただよ」ピッ

スクワラ「ったくよー……ほんとに転職考えねえとなあ」

    「さて……」

    「ヘイ、タクシー!……ちょいと、この包み持ってこの金の分だけ、
     適当にどこまでも走らせてくれ。中は見るなよ!
     終わったら……それ捨てちまえって」

スクワラ「……俺だって上司に頼まれただけさ!
     なにしたいんだかさっぱりわかんねえ!
     しゃあねえ、チップはずむからよ……そんじゃな、頼むぜ」

スクワラ「俺も、ずらかんねえとな……」
135 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:49:15.27 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ リパ駅

駅から地上に出る旅団。
駅前に停めた車の中から、それを監視するクラピカたち。

コルトピ「動いた」

コルトピ「北西に走ってる」


クロロ「『緋の眼』を持って出かける気か?」

   「これから全員で捕獲にかかる。互いがフォローできる間合いを保て」

クロロ「コルトピ。ノブナガに連絡しろ。『緋の眼』の向かう方向へ、先回りさせる」
136 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:50:03.53 ID:wkFc3Fii0

クラピカ「動いた……」

ゴン「車で先回りできない?」

レオリオ「そろそろラッシュの時間だ、奴らの方が早いかもしれねえ」

クラピカ「ちっ……」

車を降り、走るクラピカ。

レオリオ「おい! どこ行くんだ!」

ゴン「待って、クラピカ!」

レオリオ「ゴン、お前まで!」

137 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:50:37.37 ID:wkFc3Fii0
キルア「もしもし、クラピカか? 今センリツと駅の出口にいる。二人が北西方向に――」

クラピカ「ああ、ロールシャッハの策のようだ。私も今、追っている」

キルア「って、まさか、走って追い駆けてんのか? それはヤバいって!」

138 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:52:42.87 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ 下水道内



ノブナガ「……二度も勝手な行動取らせるかよ……」

    「円なら、壁の向こうもわかる……」

ノブナガ「…………」
    「…………そこか」

壁を蹴り壊すノブナガ。

ロールシャッハが携帯を持ちながら、マンホールの下に立っている。

ロールシャッハ「…………」

ロールシャッハ「レオリオ。連絡できるのはここまでだ」ピッ


ノブナガ(間違いねえ。こいつ、地上と連絡を取ってやがった)

ノブナガ「ハナから裏切る気だったってか。ちっとばかりぼんやりしすぎたぜ」

ロールシャッハ「裏切る? そもそも俺はお前と仲間のフリをしていただけだ」

ノブナガ「心外だな。少しはうまくやってけそうだったのによ……
     猪突猛進で、ウボォーみてェな奴だと思ってたっつうのによ……」

ノブナガ「もっぺん聞くぜ。お前と鎖野郎の関係は」

ロールシャッハ「答える義務は」

ノブナガ「ねえってかあああ!」

ロールシャッハに斬りかかるノブナガ。

ロールシャッハ、携帯を投げて壁にぶつける。
砕け、小さなスパークが光る。

同時にフック銃を抜くロールシャッハ。
フックはマンホールを突き破り、ロールシャッハは地上へ飛び出す。


ノブナガ「んなっ……!」

スパークの地点から爆風が起こり、下水道を炎が駆け抜けていく。
地上に噴き出た火柱の中から、地上に降り立つロールシャッハ。
歪んだフックの先端が、近くの木に引っ掛かっている。

「おいなんだ!?」
「爆発!?」
「やべえ、逃げろ!」
139 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:54:21.03 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ 路上

キルア「もしもし! レオリオ、ゴンは?」

レオリオ「クラピカについて行っちまったよ!」

キルア「さっきの爆発は!?」

レオリオ「わかんねえ。ただの事故なんかどうかもな」

キルア「シャッハのおっさんは? 連絡入ったんだろ!?」

レオリオ「それがまた繋がんねーンだ!」

キルア「ちくしょー……ほんとどいつもこいつも勝手に動きやがって!」

携帯を切り、走り出すキルア。

センリツ「キルア君! どこ行くの!?」
140 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:55:59.07 ID:wkFc3Fii0

豪雨と渋滞と人混みの中を走るロールシャッハ。

ロールシャッハ(……充満させたメタンガスに引火させた)

       (この手が使える確証はなかったが)

ロールシャッハ(念は生命のエネルギーであると師は言った)

       (そう言いながら、死にかけた獣に念を送り蘇生させた)

       (だがまさか、足元の細菌にまで使えるとはな)

ロールシャッハ「そこをどけ、デブ」ドン

ミルキ「なっ、なんだよ!」

ロールシャッハ(周でフック銃を強化させたはいいが、少し損傷が激しい。修復が必要だ)

       (サムライが死んだかどうかはわからん。だが当分出てこないだろう)

141 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:56:37.93 ID:wkFc3Fii0
『緋の眼』を積んだタクシーを追う旅団。

マチ「爆発!?」

シズク「鎖野郎が仕掛けたのかな?」

コルトピ「ノブナガ、電話に出ないよ。ロールシャッハにも繋がらない」

パクノダ「…………」

クロロ「気にするな。今は目の前の状況に集中しろ」

クロロ「俺たちがつけられているのに、気づいていないわけでもあるまい」

マチ「……そいつが鎖野郎?」

クロロ「おそらくな。誘い込まれたのかも知れん」

クロロ「コルトピ、パクノダ、前を追え」
142 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:57:40.80 ID:wkFc3Fii0

ロールシャッハ(さて、クラピカがこちらに出向いているなら都合がいい)

       (……ノストラードの護衛連中にも、一役買ってもらうとしよう)

       (これほどの事態だ。絶は使ってなどいない)

ロールシャッハ、走りながら渋滞の中を通る。


ロールシャッハ(いた。あのインド人風の男だ)


車のガラスを叩き割るロールシャッハ。

スクワラ「ひィッ!?」

ロールシャッハ「降りろ」

スクワラ(こいつがクラピカの言ってた旅団の奴か!?)

ロールシャッハ「降りるんだ」

スクワラ(俺の勘が言ってる。こいつはやべえ……)
143 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:58:12.09 ID:wkFc3Fii0
ロールシャッハ「来い」

ロールシャッハ「ネオン・ノストラードの護衛だな」

スクワラ「あ、ああ、そうだ、あんたは」

ロールシャッハ「俺に協力してもらおう。逆らうという選択肢はとらない方が身のためだ」

スクワラ「……俺は、どうなるんだ?」

ロールシャッハ「命だけは助かるかもな」

ロールシャッハ「お前の能力は、犬の操作と聞いている」

スクワラ「……ああ、そうだ」

スクワラ「……あんた、犬は好きかい?」

ロールシャッハ「大嫌いだ」

ロールシャッハ(もうひとり、用意しておくか)
144 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/09(月) 23:58:57.79 ID:wkFc3Fii0

ヨークシンシティ ベーチタクルホテル周辺

路上を走り、クロロを追うクラピカとゴン。

立ち止まり、振り返るクロロたち。

その瞬間に、ゴンとクラピカは歩道を離れて隠れる。

クロロ「見えたか?」

シズク「影だけ」

マチ「路地にひとり、ゴミ箱にひとり」

ゴン(…………)

クラピカ(…………)

影から飛び出そうとするクラピカ。だがそれより早く、ゴンがクロロたちの前に姿を現す。

クラピカ「!」

ゴン「ごめんなさい! もう追っ駆けないから、許してください!」

マチ「!……またこの子」

クロロ「こいつか。例の子供というのは」

マチ「もうひとり、路地にいるだろ? 出てきな」

ゴン「!」

すると、路地裏からキルアが姿を現す。

マチ「何の用だ。もう私らに賞金賭けてるマフィアはいないよ」

キルア「……えっ、ホント? どうして?」

マチ(この子供たちを前に逃がしたとき……)

マチ(ロールシャッハが原因だった)

マチ(ロールシャッハは……)

クロロ「もしもし。パクノダか?」
145 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:01:32.55 ID:4KSwqC1U0

ヨークシンシティ 某デパート

ネオン「次あっちねー! エリザ、早く!」

エリザ「はい、ただいま」

バショウ「は――っ、たくやれやれだぜ……」

バショウ「……ん……ありゃあ……」

サングラス越しのバショウの目に、ずぶぬれになったロールシャッハの姿が映る。

周囲の客の目も引きつけながら、あたりを見渡すロールシャッハ。

バショウ(おいおいあの野郎は!)

バショウ(……誰か探しているようだが……)

バショウ(まずい、こっちに来る!)

荷物を押しながら、バショウが走る。
だが、追いついたロールシャッハに腕をつかまれる。

ロールシャッハ「ヘタクソな変装はかえって目立つぞ」

バショウ「おいちょっとやめてくれ! 俺はもう別に、あんたと争う気は――」

ロールシャッハ「俺だってない」

       「いいか、よく聞け。そして実行しろ」

       「お前がクズかどうか、それでわかる」
146 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:03:28.30 ID:4KSwqC1U0

バショウ「……お前、本気かよ」

ロールシャッハ「本気か。俺には縁のない言葉だ。それ以外の道はないからな」

ロールシャッハ「用件は伝えた。ガキのお守りに気を取られぬことだな」

バショウ「……ちっ」

ネオン「ちょっとモミヒゲのおじさーん、なにやってんの!?」

ロールシャッハ「あれがノストラードの娘か」

バショウ「お前、ボスにまで手を……?」

ロールシャッハ「いや。あんなガキに危害を加えるつもりはない」

ロールシャッハ「少し、確認したいことがある」

ネオン「おじさ……あれ、その人誰?」

ロールシャッハ「ネオン・ノストラードか」

ネオン「そうだけど? おじさん、そんなずぶぬれでなんの用?」

ロールシャッハ「占いができると聞いた」

ネオン「占ってほしいの? パパのお友達?」

ロールシャッハ「どちらも違う。その占いとやらを実演してほしい。
        誰を占っても構わん。そこのモミアゲでも、女中連中でもな」

ネオン「別にいーけど、なんかここ最近出て来ないんだー。スランプっていうか」

ロールシャッハ「……昨夜のオークション以降か?」

ネオン「そーそー! 私はオークション行けなかったんだけどさー、
   『緋の眼』だけはパパがゲットしてくれたの! それでね――」

ロールシャッハ「HURM」

背を向けて走り出すロールシャッハ。

ネオン「あれ?」

ネオン「あの人なんだったの?」

バショウ「……ちょっと、頭がいかれてんですよ」

    「……もしもし、センリツか? クラピカは一緒にいるか?」

    「そうだ、あのロールシャッハ・マスクの奴が――」
147 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:11:08.24 ID:4KSwqC1U0

日誌 ロールシャッハ記

1999年 9月4日

離脱は終わった。最初の想定よりずいぶん早いものとなった。
団員の判明している能力は六つ。

知り得た名前を追記しておく。
ただし、各団員の持つ能力が、ここに書かれたものだけであるという確証はない。

フィンクス/ジャージ男――腕の回転とともに拳の威力を増大させる。
      威力こそ絶大だが、当たらなければどうということはない。

パクノダ/娼婦――触れた相手の記憶を読み取る。記憶を銃弾に込めて、
     他者に植えつけることも可能。
     記憶を抜き取り植えつけるということは、記憶の改竄など、
     他にもできることがあると思われる。


マチ/ニンジャ娘――念の糸を用いる。単純な拘束の他、糸を伝っての追跡も可能なようだ。
   非常に応用力のある能力だと言える。

コルトピ/毛玉――手に触れたものの複製品を生み出す。
     コピーは円の役割を果たすが、時間とともに消失するらしい。

不明――無数の念弾を射出する。その威力から見て、正面からの対峙はほぼ絶望的である。

クロロ/団長――他人の能力を盗む。俺の前で見せたのは、予言と瞬間移動の二つ。
    そしておそらく、奪われた者は念が使えない状態となる。


団長の奪った予言の能力はネオン・ノストラードのものだ。
つまり、ノストラードファミリーは団長が健在である限り
――団長が死んだ場合はどうなるのだろうか? 俺にはよくわからないが――
娘の占いに頼ることができない。

これは大きな発見だ。
ノストラードはじきに失脚する……連中の周囲のマフィアも、混乱を迎えるだろう。
それまで、団長は生かしておくべきかも知れない。



現在、市内の廃屋に潜伏している。
有用価値があると思われる、ノストラード・ファミリーの男とともに。
奴は頭を抱えて、しきりに女の名前を呟いている。女々しい男だ。

もし俺の身になにか起きれば、このページをゴンたちに送り届けるつもりだ。
そしてその仲間には、この文字を解読できる奴がいる。

148 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:12:21.33 ID:4KSwqC1U0
スクワラ「……そんで? 俺はどうすりゃいい?」

ロールシャッハ「犬どもに、この香水の匂いを追わせろ」

スクワラ「シャルルサーチ? こんなもんつけてる奴ァ無数にいるぜ」

ロールシャッハ「その中で、念能力者だけを識別させることはできるか?」

スクワラ「……やらなきゃ……俺が危ねえんだろ?」

150 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:41:50.15 ID:4KSwqC1U0

ベーチタクルホテル ロビー

クロロ「ここでパクノダたちを待とう」

キルア(……)

ゴン(…………)


キルア(……シャッハのおっさん……多分あの爆発で、誰か団員と刺し違えたのかな)

キルア(でも、シャッハのおっさんを気にしてる場合じゃない)

キルア(今は俺たちの方がヤバい)

キルア(センリツならさっきの電話も盗聴してるはず……)

キルア(クラピカたちは、ここに来ているはずなんだ)



キルア「センリツ……聞こえるか」ボソボソ

キルア「聞こえたら、合図をくれ」ボソボソ

キルア(クソ……ダメか……)

すると、ロビーに座るレオリオの罵声が聞こえる。

レオリオ「何時だと思ってんだ、てめえ!」

ゴン・キルア(レオリオ!)
152 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:43:25.71 ID:4KSwqC1U0

レオリオ「バッカ、ベイロークじゃねえよベーチタクルホテルだよ!」

携帯に向かって怒鳴るレオリオ。

レオリオ「どう聞いたら間違えんだよお!?」

レオリオ「ったく、マヌケな手下を持ったおかげで、俺のお先真っ暗だぜ!」

レオリオ「いいか、目ェつぶるのは今回だけだ!
     七時きっかりだ! それまでにホテルに来い!」

ゴン(真っ暗……目をつぶる……七時きっかり……メッセージだ)

レオリオ「なァに見てんだよォ? 見世モンじゃねェーぞォ」

シズク「消します?」

クロロ「いや、いい。目を合わせるな」


レオリオ「ああん!? 不測の事態ィ? そんなもん、
     てめーみてェなふざけ者がひっかきまわしたからに決まってんだろうが!
     俺は知らねえ! こっち予定通り進めるっつうの!」ピッ

キルア(不測の事態? ひっかきまわす、ふざけ者……)

キルア(!……ジョーカー……)


キルア(関節を外して、瞬時に糸から抜け出し……)


ラジオをつけるレオリオ。

DJ「最後の曲となりました、テルミンさんからのリクエスト、『ムーンチャイルド』です」

ゴン・キルア(あと、五分……!)
153 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:44:44.02 ID:4KSwqC1U0

やってくるパクノダとコルトピ。

コルトピ「コピーを運んでたのはやっぱり陽動だったよ」

パクノダ「運んでたタクシーの運転手も、無関係の人間だったわ」

コルトピ「ノブナガから、連絡があったよ」

コルトピ「こっちに向かってるって」

マチ「ロールシャッハは?」

コルトピ「それが」

コルトピ「裏切ったって」

マチ「……」

クロロ「ふむ……」

クロロ「いずれこうなるとは思っていたのだが……こんなにも早くとはな」

クロロ「すまないな。俺の好奇心というだけで、敵を増やしてしまって」

コルトピ「そのコたちは?」

マチ「私たちをつけてたガキだよ。二回もね」

マチ「ロールシャッハが裏切ったってことは、あいつとも仲間だったみたい」

シズク「でも裏切るったって、なんか早くない? 昨日の今日でしょ?」

クロロ「そのとおりだ」

クロロ「潜入するというなら、裏切るのは俺たちの能力や動向を調べてからでも遅くはない。
    むしろそうするべきだったはずだ」
154 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:46:42.09 ID:4KSwqC1U0

クロロ「だが、なぜ今なのだろう…………」

   「……いや、そうか」

   「予言を回避するために、俺たちはヨークシンに残った」

   「奴の裏切りはヨークシン以外では成し得ないことだった」

クロロ「つまり鎖野郎だ。奴に俺たちの情報をもたらすためだろう」

シズク「じゃあ、鎖野郎は敵だって言ったのは」

クロロ「それも、おそらくウソではない」

   「大方、奴の狙いは俺たちと鎖野郎とを、同士討ちさせることにある」

   「わからないのは、奴がなぜそうまでしなければならないのかということだ」

   「奴の望みは、このガキどものような金でも、鎖野郎のような怨恨でもない」

クロロ「……パクノダ。このガキたちを調べろ」

パクノダ「OK。なんについて?」

クロロ「ロールシャッハだ」

クロロ「奴自身を探るより、簡単だろう」

ゴンとキルアの首を絞め上げるパクノダ。

ゴン(くうっ……)

キルア(記憶を読むってのは、こいつか……)

もがきながら、目を閉じるゴンとキルア。

パクノダ「教えてちょうだい」

パクノダ「ロールシャッハについて」
155 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:48:03.60 ID:4KSwqC1U0

――――――――――――――――――――
――――――――――
――――

ロールシャッハ「おい、なぜここに子供がいる」

ゴン「え、俺のこと?」

ロールシャッハ「そうだ」


ゴン「俺、ゴン! こっちはレオリオとクラピカ。
俺、父さんと同じハンターになって、父さんに逢いにいくんだ!」

ロールシャッハ「いいことだ。だが、深淵は深く見つめすぎるな」


キルア「おいおっさん、俺のどこがクズだって?」シャー

ロールシャッハ「……子供は子供らしくしろ。それだけだ」


キルア「これでも充分、子供らしくしてるつもりだけど」

ロールシャッハ「お前は、自分では気づいていない」

キルア「あ、あんたに、何がわかるんだよ!」

ロールシャッハ「わかるさ。お前ほど恵まれてはいないが、
        俺も俺なりに不幸なガキの時分を過ごしていたからな」


ロールシャッハ「あとはお前が決めろ」


キルア「おっさん!…………その、ありがとな……」

ロールシャッハ「なにがだ」

キルア「うるせえ、さっさと風呂入ってこいよ!」


ゴン「試合のこと、サトツさんから聞いたよ」

ゴン「……なんていうか、俺が言うのも変だけど、ロールシャッハさん、ありがとう!」

ロールシャッハ「…………HEH.」

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156 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:50:05.27 ID:4KSwqC1U0

パクノダ「ふうん。子供に優しいのね、彼」

ゴン(いや、まだ大丈夫…………)

キルア(俺たち、おっさんの能力は知らない……このまま、時間が稼げれば……)

パクノダ(彼は単純に子供が好きなわけではない……あのときも、助け出すのが目的だったわけじゃない)

    (競売の襲撃の際、マフィアたちにも強い敵意を向けていたけど)

    (なら私たちまで敵に回すのは何故?)

パクノダ「彼の目的ってなにか、知らない?」

再び流れ込むゴンたちの記憶。

パクノダ(この姿は……鎖野郎?)
157 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:51:18.68 ID:4KSwqC1U0
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クラピカ「彼は、精神的超人なのだと思う」

ゴン「超人? 超能力があるってこと?」

クラピカ「違う。古い哲学書の言葉だ。己の信念にただひたすら殉じ、
     それを曲げることなく、一切の妥協を許さない。
     私もそうした人物を見るのは、彼が初めてだ」

クラピカ「これは私の推測だが……
     彼はこの世の『悪』と呼ばれるものに対して憎悪を抱いているのだと思う。
     単身ヒソカに立ち向かった件や、先ほどの殺人行為……
     ……彼の行動理念がそうだとしたら、どれも納得いくものではないか?」

キルア「『悪』ねえ。何がそう決めるんだか。テレビの見すぎで変になったんだろ」


クラピカ「それを決めるのはきっと彼自身だ。彼のマスクを見てくれ。
     これも私の推測にすぎないが、このマスク……
     白と黒とが動いて対称形を形成しているが、決してその二つが灰色には混ざることはない。
     これは彼の目を通して見た世界……白が善、黒は悪という、彼の信念の表れなのだと思う」

レオリオ「つまり何が言いたいんだ、クラピカ」

クラピカ「彼は聖者にも悪魔にもなり得る、ということさ。私は彼は優秀なハンターになるとは思う。
     ただもしかすると彼の行動如何によって……」

クラピカ「世界の命運が決定されるときが来るかも知れない」

レオリオ「せかいのめえうんだあ? 話が大袈裟なんだよ」


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158 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:52:44.35 ID:4KSwqC1U0

クロロ「なにかわかったか?」

パクノダ「……彼はおそらく、精神的超人だということ」

シズク「精神的……超人?」

クロロ「なるほどな。精神的超人……実物を見るのは初めてということになるだろうが、
    確かに納得のいく解釈ではある」

パクノダ「彼を突き動かすのは、『悪』への憎悪よ」

クロロ「ふむ。この世の『悪』を討つ、か――
    言葉にすれば簡単だが、本当にその信念を生み、実行するというのは容易ではないな……」

   「奴の意識改革はどこにあったのだろう…………白黒ドレスを発注した女……
    いや、犬に喰われた少女……もしくはそれ以上に、自らの死……」

クロロ「動機の言語化……その点については、やはり根底で俺と通ずるものが……」

シズク「…………このコたちはどうするんですか?」

クロロ「ロールシャッハとも、鎖野郎とも少なからず繋がりがある」

   「交渉の材料程度にはなるだろう」

クロロ「パク。もう一度こいつらを調べろ」

パクノダ「今度はなにを?」

クロロ「なにを隠しているか、だ」

DJ「――JNFが、七時をお知らせします」

ゴン・キルア(来た……!)
159 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:54:01.51 ID:4KSwqC1U0

「なんだ?」
「どうした?」
「停電?」

キルア(いける!)

キルア、マチの念糸から抜け出し、パクノダに蹴りを浴びせる。

マチ(右の奴が抜けた!? 見えない……!)

マチ(でも、左の奴は放さない!)

ゴンを束縛する念糸を引き絞るマチ。
しかしその両腕に、不意に強烈な痛みが走る。

マチ(くっ……)

マチ(犬!?)



スクワラ(――犬の咬合力ってのは半端じゃねえ)

    (操作系の俺の攻撃力のなさを補うには充分だ)

    (だがすまねえ! お前らをこんな危険な目に合わせちまって……!)

スクワラ「もしもし、バショウか!?」
160 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:55:02.86 ID:4KSwqC1U0

ゴン(糸を引く力が弱まった! これなら抜けられる!)

マチの胸に貫手を放つキルア。しかし、側面から蹴りを喰らい、吹っ飛ばされる。

キルア(っ……クソ! 奴ら、もう目が慣れたってのか!?)



バショウ「……よし」

バショウ「盗人の 集いし宿に 火を放て」

バショウ「……充分か? マスク被ったイカレ野郎」


ベーチタクルホテル・ロビー一帯に巻き上がる炎。
火災報知機がけたたましくベルを鳴らす。

パクノダ(火災!?)

パクノダ(事故なんかじゃない……これも計画に入っていたこと……)

キルア(……不測の事態ってのはこれか?)

キルアの視線の先、炎に照らされるロールシャッハ。


ロールシャッハ「早く逃げろ」

キルア(おっさん……!)

キルア「ゴン! 退くぞ!」

マチ(バカだね、炎のおかげでまる見えだ)

マチ(音だって充分に……ベルとあんたたちを識別できる!)

マチ「!」

天井から、スプリンクラーの水が降り注ぐ。
水滴の音とベルの音、さらに再び訪れる暗闇。

マチ(……くっ!)

マチ(また犬っ……!)
161 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:56:03.73 ID:4KSwqC1U0

スクワラ「もういい、戻れ!」

    「11……12、よし、全部いる」

スクワラ「もうおさらばだ、こんなクソッたれな仕事、すぐ辞めてやる!
     ……待ってろエリザ!」

入口から抜け出すゴンとキルア。
路地裏から車を走らせるスクワラ。
壁の装飾を駆け上り、窓から飛び出すロールシャッハ。
162 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:56:56.16 ID:4KSwqC1U0
パクノダ「マチ、さっきの二人は?」

マチ「…………逃げられた」

コルトピ「ロールシャッハ、来たよね」

コルトピ「その二人を助け出すためかな」

パクノダ(確かに、前もそうだった……でも、それだけのために来たとは思えない……)


シズク「あれ? 団長は?」

パクノダ「!」

パクノダ「団長がいない……!」

    (ロールシャッハの狙いはこれか……)

    (子供二人を人質に使うこともできない)

パクノダ(こちらは一方的に……団長を奪われた……!)

163 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:58:05.73 ID:4KSwqC1U0

ヨークシンシティ 路上

ホテルを飛び出し、雨の中を走るロールシャッハ。

ロールシャッハ(クラピカは団長を捕らえた)

       (ゴンとキルアも逃走に成功した。こちら側に被害はない)

       (問題は、クラピカがそのまま団長を殺してしまうかどうかだ)

       (今殺されてはまずい……)

ロールシャッハ(?……あの姿は……)


フィンクス「おう、ロールシャッハの奴がいるぜ」

フェイタン「なにか、問題が起きたみたいね」

シャルナーク「ロールシャッハ! ちょっと待てって!」

ロールシャッハ(……気づかれた)

止まることなく走るロールシャッハ。その足元に念弾が飛び、路面がえぐれる。

ロールシャッハ「!」

「きゃあ!」
「なに!?」
「また爆発!?」「戦争か!?」

フランクリン「待てって言ってんだよ、ロールシャッハ」

ロールシャッハ「……UUUUUMM」
164 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 00:59:33.55 ID:4KSwqC1U0
フィンクス「ホテルでなにがあった? 詳しく話せ」

ロールシャッハ「…………」

フランクリン「言えねえわけでもあるのか?」

ロールシャッハ(団長を追うとでも答えれば、ただこの場を切り抜けるのはたやすい)

       (だがそれは得策ではない。団長がクラピカに捕らえられたことを伝えてしまっては、
       クラピカたちが絶望的な状況になる)


ロールシャッハ「……答える義務はない」

フィンクス「おいおい、そりゃどーいう意味だ?」

フェイタン「義務がないって言うなら、私答えさせるよ」

シャルナーク「おい、団員同士で争うのは――」

フランクリン「シャル」

フランクリン「……ここはフェイタンに任せるべきだ。俺たちはホテルへ向かう」

シャルナーク「…………」

ロールシャッハ「ああ。俺は構わない」

ロールシャッハ「口を割らせてみるがいい」

フェイタン「…………」

雨の中、激突するフェイタンとロールシャッハ。

付近の市民は走り出し、往来が途絶えていく。
165 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:00:33.24 ID:4KSwqC1U0

ベーチタクルホテル ロビー

ノブナガ「やれやれ、ひでェ目にあったぜ」

マチ「! どうしたの? その頭」

ノブナガ「ああそうだよ!……クソ、しばらくマゲが結えねえな」

ノブナガ「それで? こっちの状況は――」

そこへやってくるフィンクス、フランクリン、シャルナーク。

フィンクス「おい、なにか問題が起きたようだが……説明してもらおうか」

ノブナガ「そうだ。ちゃんとわかるように言え」

シャルナーク「ノブナガ!? どうしたの、その頭」

ノブナガ「うるせえええっ!」

フランクリン「そんで、なにがあったんだ、パク」

パクノダ「前に尾行していた子供二人を捕まえて、あんたたちが来るのを待っていた」

パクノダ「でも、ロールシャッハに乱入されて、子供二人には逃げられたわ」

シャルナーク「!」

フィンクス「おいおいロールシャッハっつったらよ……途中、出くわしたぜ」

マチ「わざわざ放って、ここへ来たってわけ?」

フランクリン「放ってなんかいねェよ。フェイタンが相手してる」

フィンクス「フランクリンの判断は、正しかったってことか」

ノブナガ「そもそも俺は、あんな奴入団させんのは反対だったんだぜ」
166 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:01:34.62 ID:4KSwqC1U0
フィンクス「団長はどうした」

パクノダ「わからない……おそらく、鎖野郎が
     このホテルのロビーに紛れていて……連れ去られたのかも」

ノブナガ「……おいパク、お前それ、マジで言ってんのか?」

パクノダ「ええ……こうなったのもすべて、ウォルターを推薦した私の責任よ」

シズク「パクだけのせいじゃない。彼の入団は、団長が認めたんだから」

マチ「それに、一緒にいながら出し抜かれたのはあんただよ、ノブナガ」

ノブナガ「……ちっ」

ノブナガ「てめーらもみすみす団長さらわれて、なにやってたんだ!?」

シャルナーク「今はいがみ合ってる場合じゃない。とにかく、ロールシャッハの元へ行こう」

シャルナーク「今手掛かりになるのはあいつだけだ。団長も、鎖野郎へも」
167 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:02:45.21 ID:4KSwqC1U0

ヨークシンシティ 路上


フェイタン「――なかなかやるね。久しぶりに結構喰らったよ」

ロールシャッハ(身体面でも相当の強敵だ)

ロールシャッハ(勝てるかは危うい)


ノブナガ「フェイタン!」

ロールシャッハ(さらにまずいことになった……ホテルにいた連中が……)

シズク「団員同士でマジギレ……」

フランクリン「気にするな。あいつはもう団員じゃない」

シズク「誰が決めたの?」

フランクリン「生かすべきは旅団。そうだろ」

フランクリン「あいつは俺たちを潰しに掛かるつもりだったんだ。多分最初からな」

フィンクス「おいフェイタン、殺すんじゃねーぞ」

フェイタン「それ無理ね。そろそろ使う」

フィンクス「あの馬鹿……おい、離れるぞ!」
168 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:03:50.19 ID:4KSwqC1U0

フェイタン「許されざる者(ペインパッカー)」

ロールシャッハ(!……あの光球……)

       (小型の太陽だと!?)

ロールシャッハ(まずい、まずいまずい!……ダメだ、隠れる場所などない!)

フェイタン「太陽に灼かれて(ライジングサン)」

ロールシャッハ(雨が蒸発していく……靴が、アスファルトにへばりつき始めた…………)

溶けた車のタイヤが路上に広がっていく。
残されたホイールが、カタカタと揺れ始める。
169 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:04:40.65 ID:4KSwqC1U0

ヨークシンシティ また別の路上

キルア「とりあえず、またシャッハのおっさんに礼言うハメになっちまったな」

ゴン「うん。二回目だね」

キルア「『二回目だね』じゃねーよ!
    今回はお前が勝手に突っ走ったせいでもあるんだぞ」

キルア「おっさんがいなかったら死んでたっつうの!」

ゴン「うう、ゴメン」

キルア「ったく……」

ゴン「ん?」

ゴン「キルア、なんだろう、あれ」

キルア「……?」

キルア「…………光? 太陽!?」

ゴン「あれ? また光った――」


170 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:08:51.86 ID:4KSwqC1U0

ロールシャッハ(一体、どれだけの熱が……)

       (オーラが……底を尽きてきた)

ロールシャッハ(ダメだ……もう熱を……遮断できない……)


ロールシャッハは気づかないが、自身の腕の毛が逆立ち始めている。

熱で縮れたトレンチコートの肩ベルトも、
表面の繊維を引っ張られ、天へ向かっている。

そして次の瞬間、青い光が周囲を照らした。

フェイタン「!?」


ロールシャッハ「…………!」

ロールシャッハ(――一瞬)

       (あたりが恐ろしいほど静かになった。
        まるでこの街自身が、その生の終わりに直面したかのように)

瞬く間にフェイタンの光球は消え、雨が再び路上に落ち始める。


ロールシャッハ(雨の音が鮮明になった)

       (少しずつ遠くから、街の音が甦り始めた)

       (これはヨークシンに着いてから……最大の驚きだ)


降りしきる雨はアスファルトに残った熱で蒸気となり、
空に吹き上がっていく。
171 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:16:08.45 ID:4KSwqC1U0

シズク「なに? なにが起きたの?」

シャルナーク「ペインパッカーを止めた? あれがロールシャッハの念能力?」

パクノダ「…………いいえ、違うわ……」

パクノダ「神が来たのよ」


光の中心、中に浮かぶ青い肌の男。
全裸で、頭髪も瞳もない。



ロールシャッハ(この男だけは……どうあっても見間違えなどしない)

ロールシャッハ(Dr.……マンハッタン……)

向かい合うロールシャッハと、Dr.マンハッタン。

ロールシャッハ「……なんの用だ、Dr.マンハッタン」
172 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/10(火) 01:18:42.29 ID:c23H6fFP0
ついにマンハッタンきたか
173 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:19:25.19 ID:4KSwqC1U0
Dr.マンハッタン「……ロールシャッハ……」

Dr.マンハッタン「君を飛ばしたこの星に、少し興味を持った」

       「私は南極で君を分解し、この星で再び構築した」

       「今回ばかりは少し距離が遠すぎて、君の肉体はしばらくのあいだ、
        この次元から消え失せていたが」

Dr.マンハッタン「我々がいた地球と、この星の住人の肉体を構成する原子は一切の違いも見られない。
         生きた人間と死体を構成する原子が、寸分の狂いもないようにね」

       「にも関わらず、この星の住人がこれほどのエネルギーを生み出すことができるのは驚異だ」


フェイタン「……お前が神サマ?」

Dr.マンハッタン「私は神などではない。神がいたとしても、それは私と異なる存在だよ」


フェイタン「なんだかわからないけど、団長がお前に会いたがってたよ。一緒に来るね」

Dr.マンハッタン「君の言う人物と私は接触しない。私はこのあとロールシャッハと会話して、
         彼の要求を受け入れ、それを実行したのち、この街を離れる」


Dr.マンハッタン「この星は私の定義した生命の存在以上の驚異に満ちている。
         かつていた地球以上のだ。私はこれから、それらを観察しに向かう……」


フェイタン「お前の予定などどうでもいいね」

Dr.マンハッタン「予定ではない。これは定まった私の運命だ」

フェイタン「ごちゃごちゃ言ってないで――」

Dr.マンハッタン「少し、黙っていてくれないか」

Dr.マンハッタンが手をかざすと、フェイタンの姿が消える。
174 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:20:29.60 ID:4KSwqC1U0

フィンクス「なにが起きた?」

フィンクス「答えろ、青坊主!」

フランクリン「フィンクス!」

Dr.マンハッタン「邪魔をしないでくれ」

再び手をかざすDr.マンハッタン。フィンクスの姿が消える。



シズク「フィンクスも……消えた……?」

ノブナガ「てめえ、なにしやがった!」

ビルの壁面を蹴って跳躍し、斬りかかるノブナガ。

Dr.マンハッタンは再び手をかざし、ノブナガの姿は消える。

シャルナーク「まずい、一旦退こう!」

パクノダ「……あなたが、Dr,マンハッタン?」

Dr.マンハッタン「……君は私に強く興味を持ち、そして交渉と議論を試みる……」

パクノダ「……そのとおりよ」

マチ「なんなの? あの男、ホントに何者?」

Dr.マンハッタン「だが今は果たされない」

パクノダ「! 待って――――」

パクノダの姿が消える。

マチ「パク!」

Dr.マンハッタン「今の私がすべきことは、ロールシャッハとの会話だ」

シズク、マチ、コルトピ、シャルナーク、フランクリン。
次々と姿が消える。

雨の音に混じり、市民が少しずつ、通りに現われていく。


「なんだ今の!?」
「人が消えちまったよ」
「宇宙人の襲撃?」
「映画の撮影じゃないよな」
「ママ、あの人が神様なの?」
175 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:23:02.65 ID:4KSwqC1U0

Dr.マンハッタン「これで、我々の邪魔をする者は消え去った」

ロールシャッハ「…………HURM」

ロールシャッハ「助けに来るとは、ヒーローの本分も取り戻したのか」

Dr.マンハッタン「ヒーロー? 私の興味はそこにはない」


ロールシャッハ「まあいい。助けられたことは事実だ」


Dr.マンハッタン「この一帯の生命が奪われかねない事態だった。
         それも、私の知っていた運命とは異なる形で」

Dr.マンハッタン「だから止めた。私はレールを元に戻しただけだ」

ロールシャッハ(……あの予言か。それを避けたためだというのか)


ロールシャッハ「奴らは殺したのか?」

Dr.マンハッタン「いや。私はこの星の生命の死に関与するつもりはない。
         君も知るように、生命というものの価値と尊さを、私はもう学んだ。
         無論、それは遅すぎたのだが」

ロールシャッハ「命の尊さか。お前の口から出るとは、笑わせる」

ロールシャッハ「善人も悪人もこの俺も、お前からすればシロアリ同然だったな」
176 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:24:44.81 ID:4KSwqC1U0

ロールシャッハ「……ひとつ聞きたい。この星はなんだ?」

Dr.マンハッタン「宇宙に無数に存在する地球型惑星のひとつだ。
         宇宙はあらゆる偶然により幾多の顔を見せる。
        
        「その偶然が如何に微小な確率のものだとしても、
         それが起こるまで何度でも挑戦する機会が宇宙には与えられている」

        「数ある中からこの星を選んだ理由はない。
         地球やこの星が生まれた、その偶然と同じだ」


Dr.マンハッタン「我々の地球の顛末を、今ここで伝えようか?」


ロールシャッハ「……その必要はない。お前も予知でわかっているのだろう」


Dr.マンハッタン「そのとおりだ。そして君はもうひとつ質問をする」

Dr.マンハッタン「なぜ君を、他の惑星へ送り届けたのか」

Dr.マンハッタン「私は答える。君はもう理解したはずだと」

ロールシャッハ「HUNH」

ロールシャッハ「そこまでわかっているなら、俺の頼みもわかっているはずだな」

Dr.マンハッタン「ああ。それに関して、私の答えはYESだ」
177 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:26:46.50 ID:4KSwqC1U0

レオリオの運転する車内


レオリオ「おおい、なんかまた光ったぜ!」

レオリオ「この世の終わりか!?」

センリツ「落ち着いて。とにかく、私たちはまだ無事なんだから」

クロロ(あの男が来たか。僥倖だな)

レオリオ「いや、そうは言ってもよ、二度も光って……」

クラピカ「レオリオ。静かにしてくれ」

レオリオ「お、おお、すまん……って、でもな……」


クラピカ「現状はわかっているはずだ。お前の命を握るのは、私の機嫌一つだ」

    「お前たちがその欲望のために、私の同胞を殺したようにな」

クラピカ「簡単には死なせない……」

クロロ「わかってるさ」

   「あの娘の占いには、このことは書いていなかった」

クロロ「つまりこれは、俺にとって予言するまでもない、取るに足らない出来事だとな」

クラピカ「……」

クロロの顔面を殴るクラピカ。
瞳が赤くなり、何度も殴打を浴びせる。

レオリオは車を路肩に止め、後部座席を見る。

レオリオ「落ち着けクラピカ! 今はゴンたちと合流するのが先だ!」

    「そいつを生かしてさえおけば、奴らもこっちに手は出さねえだろう」

レオリオ「とにかく目立つ行動をするな!」

クラピカ「…………」

クロロ「どうした? お前の同胞の痛みというのは、こんなものだったのか?」

クラピカ「!」

クロロ「痛みを与えたいなら別の箇所を狙え。傷を残したいなら別の道具を使え」

   「俺のいない世界を望むならばさっさと殺せ」

   「頭だけ狙っても、お前の拳が痛むだけだ」
178 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:28:50.70 ID:4KSwqC1U0
クロロ「もうひとつ、運転手。お前も勘違いをしている」

レオリオ「!?」

クロロ「俺がここにいるから、俺の仲間は手を出せない。それが間違っている」

   「俺が今この場で鎖野郎に殺されようと、俺たち旅団に変わりはない」

クロロ「俺に人質の価値などない」


センリツ「……ウソじゃないわ、その人の言っていること」

    「彼の心音はいたって平常。死なないと思っているんじゃなく、
     死を常にあるものとして受け入れている音」

センリツ「……どうしてこんな音が出せるの……?」


クロロ(心音で感情を読み取る、か)

   (だがそれも少しだけ間違っているな)

   (俺はまだ、あの神に出会えていない)

   (俺が死んだあとで出会えるのであれば、それも構わないが。
    ロールシャッハのように)

クロロ(これほどに知識欲を刺激されたのは、久しぶりだ)


レオリオ「……じゃ、どうしろっつうんだ!?……」
179 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:30:26.16 ID:4KSwqC1U0

レオリオ(ん……歩道から、誰か……)

レオリオ(……ロールシャッハ!?)

ロールシャッハ「乗せろ」

レオリオ「ロールシャッハ! お前、一体今まで……」


ロールシャッハ、強引にクロロ側の扉を開き、中へ入る。

ロールシャッハ「出せ、レオリオ」

レオリオ「……お、おうよ」

ロールシャッハ「そこの女は誰だ?」

クラピカ「私だ」

ロールシャッハ「HUNH」

ロールシャッハ「お前にそんな趣味があるとは思わなかったな」

クラピカ「趣味などではない」

クラピカ「……今度はなにをしに来たんだ、ロールシャッハ」

ロールシャッハ「そいつを殺さないよう、お前を見張りにな」

クラピカ「……どういうことだ?」

クラピカ「いつかお前は、私に彼らを殺させることを望んでいたんじゃなかったのか?」

ロールシャッハ「今は状況が違う」

       「組織のトップひとりを殺したところで、その組織を潰すにはいたらない」

ロールシャッハ「ボスを失った一時の混乱はすぐに治まる。
        マフィアに身を堕としながら、そんなことにも気づかなかったのか」

クラピカ「……ならば、どうしろと?」

ロールシャッハ「この男を、連中の元に帰すことだ」

ロールシャッハ「不利な条件を与えてな」
180 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:31:56.03 ID:4KSwqC1U0

幻影旅団 アジト


ノブナガ「おえ、おええええっ!」

ヒソカ「お帰り。みんな面白い登場をするねえ◆」

ノブナガ「笑いごとじゃねえよ、お、げええ」

マチ「吐くならもっと向こうで吐きなよ」

ノブナガ「なんでお前ら平気なんだよ、おええっ!」

フィンクス「戻しそうだったが……飲み込んだ」

シズク「なんか、頭ガンガンする……」

シャルナーク「俺も……」

コルトピ「なんかすごかったね」

フェイタン「みんな、あの青坊主に帰されたてわけね」

フランクリン「全員いるか? パク?」

パクノダ「ええ、大丈夫」

パクノダ(今は果たされない……彼はそう言っていた)

パクノダ(単にそのつもりがないだけなのか、それとも……)


フェイタン「あれがロールシャッハを殺したって奴?」

シズク「それにしてはなんだか、ロールシャッハを助けたように見えたけど」

フランクリン「お前たち。今の論点はそこじゃない」

フランクリン「団長が捕らえられてるってことを忘れるな」

ヒソカ「なんだか結構、まずいことになってるみたいだねえ◆」

マチ「あんたは黙ってな」

ヒソカ「はいはい◆」
181 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:33:27.20 ID:4KSwqC1U0
ヒソカ(クラピカから連絡は来ない……まだ殺してないとは思うけど◆)

ヒソカ(彼が団長を殺しちゃう前に、なんとか抜け出さないとなあ……◆)



シャルナーク「そうは言っても、あの青坊主が敵だというなら、
       鎖野郎以上の脅威だよ」

シャルナーク「団員の半数が死ぬ、っていう予言が、あの男にもたらされるものだとしたら……」


フランクリン「占いの内容に、神や、もしくは超人というような記述のあった奴は?」

      「……いないはずだ。ロールシャッハの占いは白紙だった」


フランクリン「あの青坊主も、充分すぎるほどイレギュラーなんだよ」


ノブナガ「けっ、ひでェジョークだ」

ノブナガ「神サマは人の生き死にのなにもかも、どーでもいいってか」


電話が鳴る。

フィンクス「団長の携帯からだ……」

フィンクス「……もしもし」

フィンクス「………パク、お前にだ」
182 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:43:17.10 ID:4KSwqC1U0
リンゴーン空港

クラピカ「……これでいいのか、ロールシャッハ」

ロールシャッハ「お前に、他の策があればな」

ロールシャッハ(もっといい案はある)

       (Dr.マンハッタンに全員を殺させることだ)

       (だがそれは不可能だ。奴は善悪という概念で人間を見ていない)


ロールシャッハ「ゴンとキルアは? まだこちらには着かないのか」

レオリオ「向かってはいるってよ。あいつらが無事なのも、一応はお前のおかげだ」



クロロ「いいのか?」

クロロ「復讐すべき相手を、みすみす逃すとは」

クラピカ「……今すぐ殺しておきたいところだが……」

    「お前の言うことも、ロールシャッハの言うことも、すべて真実だ」

クラピカ「腹立たしいことに、変わりはないがな」
183 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:44:14.46 ID:4KSwqC1U0

ヨークシンシティ 路上

パクノダ(条件付きとはいえ……どうして、団長の解放を?)

    (当然罠かも知れない。でも、団長を助けるには他に道はない……)

    (追跡はされていない。罠だろうと、それを受けるのは私ひとり)

    (…………大丈夫。旅団への裏切りはならないわ)

パクノダ(けど……)

    (……ウォルターは……一体……)

    (……彼は……)

パクノダ(いいえ。考えるのはあと。今私のやるべきことは……)
184 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:55:22.03 ID:4KSwqC1U0

クラピカ「……ロールシャッハ。パクノダという女は、本当にひとりで来ると?」

ロールシャッハ「ああ」

ロールシャッハ「間違いない」

クラピカ「相手にとっては、あまりに都合のよすぎる話ではないか?」

ロールシャッハ「HEH,確かにな」

       「団長は自分を切り捨てるべきだと考えているのだろうが、
        それは団員の総意ではないはずだ」

ロールシャッハ「でなければ、お前へのさらなる復讐に対し、
        拘泥する必要などそもそもないからな」

       「死人のためにできた欠番はすぐ埋められる。
        ただし生かしてさえおけば、奴らは無力の者を抱えたまま、右往左往することだろう」

ロールシャッハ「これはそのひとつの段階だ」


レオリオ「――復讐は復讐しか生まねえってか。
     それで、殺し合いはもう全部水に流せりゃいいんだがな」

クラピカ「……」

ロールシャッハ「そんなことは考えていない」



ロールシャッハ「クラピカ」

ロールシャッハ「お前も心の内では、どこかで復讐に対する疑念が湧いているのだろう」

クラピカ「………」

ロールシャッハ「今はそのときではない。それは正しい。俺から見てもな」


       「ただし、その復讐に疑念を抱く必要はない」

ロールシャッハ「復讐は虚しいものなどではないからな」


クラピカ「……」


クラピカ「……続けてくれ、ロールシャッハ」

ロールシャッハ「お前の行為から生まれるものはある」

クラピカ「……それはなんだ?」


ロールシャッハ「よりよき世界だ。より強き、愛ある世界だ」


ロールシャッハ「お前がなすべきことをしたとき、お前は、その中で死ぬことができる」


クラピカ「…………」

    「……………………」

クラピカ「なぜ、そう思える」

ロールシャッハ「俺はお前が、なぜそう思えないかの方が疑問だな」

185 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:56:15.43 ID:4KSwqC1U0

ロールシャッハ「話は終わりだ。レオリオ」

ロールシャッハ「メスがあるだろう」

レオリオ「? あるにはあるが、なにをしようってんだ?」

ロールシャッハ「いいから貸せ。安心しろ。別になにもしない」

センリツ「……彼の言ってることは本当よ。誰かに危害を加えるつもりはないわ」

レオリオ「…………」

メスを受け取るロールシャッハ。そのまま、トイレに入る。

レオリオ「なにをするってんだ、あいつ……」
186 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:57:21.95 ID:4KSwqC1U0
レオリオ「おい……なんだあの音は。やっぱり、なんか切ってるみてェだが……」

センリツ「待って。彼の心拍数………」

トイレの戸が開く。

ロールシャッハ「返す」

血のついたメスを受け取るレオリオ。

レオリオ「ロールシャッハ……お前、その肩、血だらけじゃねえか!」


ロールシャッハ「団長。これはあんたにだ」

ロールシャッハ、肩からはぎ取った肉を一枚、クロロの足元に投げる。

クロロ「……こういう形で、メンバーが去るのは初めてだ」

ロールシャッハ「制裁が必要か?」

クロロ「いや」
   「俺が残念なのはそんなことじゃない」

クロロ「彼に会っただろう。俺も呼んでくれと、そう言ったはずなんだがな」

ロールシャッハ「お前の占いの結果になかったというなら、それがお前の運命だろう」
187 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 01:58:35.18 ID:4KSwqC1U0

レオリオ「おい、ごちゃごちゃ話してねーでちょっと診せろ、ロールシャッハ!」

レオリオ「その傷は止血が必要だ」

ロールシャッハ「HUNH.なら任せる」

レオリオ「……? 待て、よく見せろ」

ロールシャッハの体をあちこち触り始めるレオリオ。


ロールシャッハ「やめろ。やめろ。お前はゲイではないと思っていたが……レオリオ」

ロールシャッハ「やめろ!」

後ずさりするロールシャッハ。

センリツ「……なにか、わかったの?」

レオリオ「あんたの言ったとおりだ……尋常じゃねえほど、心拍数が上がってる」

    「加えて……体中、あちこち骨がいかれたまんま癒着してやがるぜ」
188 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:03:00.69 ID:4KSwqC1U0
クラピカ(!)

クラピカ「しかし、ロールシャッハは強化系ではないのか? なら、治癒力を高めて……」

レオリオ「多分マスクを取ったら、瞳孔もがんがんに開いてるだろうぜ」

クラピカ「――どういうことだ、レオリオ?」


レオリオ「おそらく、おそらくだが、こいつは肉体の強化に加えて、
     脳内麻薬をメチャクチャに分泌しまくってる」

    「そういう能力だ。そういう念能力にしやがったんだ、こいつは」

    「こんだけダメージを受けてまともに回復もしてねーのに動けるのも、
     さっきも肩の肉をなんでもねえように削いだのも、きっとそのせいだ……」

    「文字通り、死ぬまで闘う、って奴さ」

レオリオ「間違いねえよ、この争いで一番の負傷者はこいつだ」

レオリオ「いつリミッターを振り切ってもおかしくねえ」

センリツ「どうなるの、彼?」

レオリオ「死んじまうか、そうでなくとも廃人になりかねねえな」

クラピカ「…………」
189 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:04:28.54 ID:4KSwqC1U0
携帯が鳴る。

クラピカ「……パクノダか」

クラピカ「……ひとりか」

クラピカ「第三航空路に、飛行船が停まっている。そこまで来い」
190 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:06:12.42 ID:4KSwqC1U0

幻影旅団アジト


イルミ(……ヒソカに頼まれてやって来たけど、)

   (こんなことになってるとは思わなかったな)

   (おかげで、楽に入れたからいいか)

イルミ(でも、ヒソカは落胆するだろうな)


旅団の前に立つ、Dr.マンハッタン。


フィンクス「おい、フランクリン。俺たちの敵になるかどうか、だけどよ」

フィンクス「こりゃどう見ても敵だぜ」


Dr.マンハッタン「……君たちと争う気はない」

Dr.マンハッタン「ただ、私は古い友人の頼みのひとつを聞き入れる」

フランクリン「あんたがその頼みを突っぱねる、というわけには?」

Dr.マンハッタン「それはできない」

ノブナガ「……なんでだよ?」


Dr.マンハッタン「君たちにどう説明すればいいのか……」

Dr.マンハッタン「私にとっては、すでに起きたことだからだ」


両手をDr.マンハッタンに向け、念弾を撃つフランクリン。

マチ「無傷!?」

シャルナーク「いや、全部通り抜けてる!」

Dr.マンハッタン「君たちと争う気はないと、そう言ったはずだ」

姿を消すDr.マンハッタン。

ノブナガ「後ろかっ!」

ノブナガ「!?」


団員たちの背後に、三人のDr.マンハッタンが立っている。


シャルナーク「具現化か?
       奴は安全な場所に身を隠して……分身をここで操作し……」

Dr.マンハッタン「分身? 分身などではない」

再び背後から声がする。
そこには、四人目のDr.マンハッタンの姿が。

Dr.マンハッタン「すべて私だ」
191 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:08:00.97 ID:4KSwqC1U0
リンゴーン空港

飛行船の中へ入るパクノダ。

クラピカ「パクノダ本人だな」

パクノダ「ええ、そうよ」

クラピカ「……センリツ」

センリツ「嘘じゃないわ」

ロールシャッハ「待て」

パクノダ「……ウォルター……!」

ロールシャッハ「誰か、もうひとり来るな」

クラピカ「!」
パクノダ「!」

やって来るヒソカ。
クロロに巻きついたチェーンジェイルが、きつく締め上げられる。

パクノダ「ヒソカ……!」

ヒソカ「連れないなあ。帰すって言うなら、ボクに渡してくれればいいのに◆」


ロールシャッハ「俺が行こう」

クラピカ「ロールシャッハ……!」

レオリオ「待てよ、お前、自分の体がどーなってんのか、わかってんのか!?」

レオリオ「あいつを倒せたとしても、お前も死ぬかも知れねえんだぞ!」

ロールシャッハ「お前には関係ない」

レオリオ「関係ねーわけあるかこのアホ!」

レオリオ「医者が目の前で、ダチを見殺しにできるわけがねーだろ!」


ロールシャッハ「…………」

       「HUNH.まだそう思っていたのか」

       「ならばむしろ、なにも言うな」

       「どの道、妨害が入るならば俺が行くべきだ」

ロールシャッハ「クラピカ。お前が俺の策を聞き入れたことには、感謝しておく」


クラピカ「……お前の口から、そんな言葉が出るとは思わなかったな」

クラピカ「……ゼビル島での借りとして、受け取っておこう」

ロールシャッハ「行け。お前に言うことはもうなにもない」

レオリオ「待てって! まだ俺との話は――」

船を降りるロールシャッハ。
ハッチが閉まり、飛行船が離陸を始める。
192 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:11:02.18 ID:4KSwqC1U0

ヒソカ「せっかくのデートなんだ………邪魔をしないでくれないか◆」

ロールシャッハ「俺じゃ不満か?」

飛びかかるロールシャッハ。

カードが放たれる。
ロールシャッハはそのあいだをくぐり抜け、ヒソカに迫る。

ロールシャッハ「どうした。奇術師という割りに、芸がないな」

ヒソカ「君も、相変わらずだ」

拳の応酬。

ロールシャッハ(肉弾戦だ。そうでなければ、奴のペースに……)

ロールシャッハ(以前の俺ではない。今なら、奴と充分に闘える……)


ロールシャッハの拳が、ヒソカの顔面に触れる。

振り抜くその拳と同時に、鉄の棒が彼の両足をつらぬく。

ロールシャッハ(!)

ロールシャッハ(背後から……他の仲間か!?)


口元から垂れた血を拭い、立ち上がるヒソカ。

ヒソカ「伸縮自在の愛(バンジーガム)」

   「さっき飛ばしたカードで手すりにくっつけ、その一部を引き寄せたんだ◆」

   「君の両足を通して、ね◆」


ロールシャッハ「……これしきの、これしきのことで……」

ロールシャッハ(足が……動かない……)

足に刺さった鉄棒を引き抜くロールシャッハ。

ロールシャッハ「RRAAAAAALLL!」

二本の鉄棒を振り回し、ヒソカに襲いかかる。
だが、難なくヒソカにかわされ、ロールシャッハは殴られ続ける。

ヒソカ「ここに来るまで大分無茶したみたいだねェ。おまけにその出血……そろそろ終わりかな◆」

崩れ落ちるロールシャッハ。
彼の足元に、血だまりが広がっていく。
193 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:13:31.58 ID:4KSwqC1U0
飛行船内

クラピカ「パクノダ。お前は記憶を操ると聞いた」

クラピカ「まず、その能力を包み隠さずに話せ」

パクノダ「……わかったわ」



クラピカ(やはり……ロールシャッハの読みは当たっていた)

    (記憶を読み取り他者に植えつける他、それを消し去ることも可能……)

クラピカ「わかった」

    「ではこれからお前たち二人に、それぞれ二つ条件を出す」

クラピカ「それを厳守すれば、お前たちのリーダーは解放する」


ジャッジメントチェーンを垂らすクラピカ。

パクノダ(念の鎖……)

クラピカ「まずはお前たちリーダーへの条件」

    「今後一切、念能力の使用を禁じる」

    「二つ。他者への攻撃行為を禁じる」


クラピカ(……ひとりで来たというなら、ロールシャッハを無視して、
     二人とも殺すつもりでいた……)


    (だが、奴は正しい……ここで二人を殺そうと、旅団は瓦解などしない……)

    (それこそ、神とも言える力の鉄槌がない限り……)


    (そしてなにより、私の復讐すべきはずの相手は……)


クラピカ「最後に、旅団員と一切の接触を断つこと。これが条件だ」

クラピカ「OKか否か、お前が決めろ、パクノダ」

パクノダ「……OKよ」

クロロの心臓に突き刺さるジャッジメントチェーン。

クラピカ「次はお前だ、パクノダ」

クラピカ「お前に架す条件はたったひとつ。旅団員全員から、
     我々とロールシャッハ、その記憶のすべてを抹消し、葬り去ること」
194 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:21:34.27 ID:4KSwqC1U0
センリツ(……クラピカ。あなたは自分の心音の矛盾に気づいていない)

    (旅団が本当に非情なだけの集団なら、この取引さえ成立していないはず)

    (でもパクノダは違う)

    (こんな不条理な取引の場に、彼女がたったひとりで来たということ)

センリツ(あなたは、それに気づいているんでしょう?)


クラピカ「五日間。それだけの猶予をお前に与える」

    「私がこのヨークシンで、お前たちのリーダーの命を左右するまでに要した時間だ」

クラピカ「異存はないか」

パクノダ「…………」

パクノダ「…………OKよ」

クラピカ「……なぜだ?」

クラピカ「…………なぜそんな条件が呑める?」

クラピカ「理不尽だとは思わないのか?」

パクノダ「…………急いでちょうだい。時間が惜しいわ」


クラピカ「…………」

クラピカ(私には、彼女が人間の型に詰め込まれたケダモノと思えない)

    (ロールシャッハ。お前の見る世界には、本当に白と黒しかないというのか?)

    (……私の踏み込んだ暗黒は、まだ明るかったと?……)

    (『よりよき世界』……『より強き、愛ある世界』……)

クラピカ(…………)

    (……………………)

ジャッジメントチェーンが飛ぶ。
195 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:23:50.41 ID:4KSwqC1U0

リンゴーン空港


血だまりの中でもがくロールシャッハ

ロールシャッハ「クソ、クソ、クソ!」

ロールシャッハ(回復が間に合わない……)

両手を地面に突いて倒立し、血をまき散らしながら飛び上がるロールシャッハ。

停泊中の飛行船の外皮にしがみつき、よじ登る。

ヒソカ「頑張るねェ◆」

ヒソカ「……壊れたオモチャに興味はないけど、」

ヒソカ「ボクの邪魔をしたなら別◆」

追撃するヒソカ。

屋根の上に立ち、振り向くロールシャッハ。

ヒソカ「火でもつける気かい? そのダメージだと、君もただじゃ済まないと思うけど◆」

ロールシャッハ「いや……」

ロールシャッハ「そうじゃない」

ヒソカ「!」

突如、破裂する飛行船。二人は吹き飛び、空高く投げ飛ばされる。

ロールシャッハ(外皮の強度を限界まで引き上げ、それから内部のガスを膨脹させた)

ロールシャッハ(修行中タイヤ相手によく使った、水見式の応用だ)
196 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:26:55.86 ID:4KSwqC1U0

ヒソカ「驚いた。まだそんなにオーラをため込んでたなんて◆」

ヒソカ「結構効いたよ」

空中で、ロールシャッハに急接近するヒソカ。

ロールシャッハ「!」

ロールシャッハ(さっきのゴム……俺に貼りつけていたのか)

ロールシャッハ(俺を殴りつける、そのあいだに……)

ヒソカ「もう逃がさない。キミはここで殺る◆」

ロールシャッハ「構わん」

ロールシャッハ「……逃げる気などない」

ロールシャッハは接近するヒソカに組みかかる。

ヒソカ「!」

そして、そのままヒソカの指を握り潰す。

ロールシャッハ「もうゴムは飛ばせまい」

ロールシャッハ「落ちろ。このまま、俺とともに」

ヒソカ「やだなあ。これじゃ、クロロとも満足に闘えないじゃないか◆」

ロールシャッハの腹を蹴り飛ばすヒソカ。

ロールシャッハ「UUK……」

ロールシャッハから離れ、ヒソカはひとり落下していく。

ヒソカ「それと、やっぱり万全のキミとも闘いたくなったし◆」

ヒソカ「じゃ、そういうことで◆」

ロールシャッハの視界から、ヒソカの姿が消える。

ロールシャッハ(クソ……逃がした……)

彼の体は空港の真上を外れ、隣接する海へと落下していく。
197 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:28:36.25 ID:4KSwqC1U0
そのまま、フック銃を抜くロールシャッハ。

ロールシャッハ(頼む、ダニエル)

ロールシャッハ(この一発だけでいい、この一発だけ……)


フックの尖端が、空港端の手すりに引っかかる。

が、フックに亀裂が生じて折れる。
落ちていくロールシャッハ。


ロールシャッハ(!…………)


       (…………やはり、そうだった)


ロールシャッハ(ダニエル。お前が必要だったのは、俺の方だ)

198 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:30:58.95 ID:4KSwqC1U0


ガシッ

ロールシャッハ「……!」

キルア「……あっぶねー……!」

ゴン「ギリギリだったね」

ゴンとキルアがワイヤーをつかみ、ロールシャッハを引き上げる。

ゴン「ふー。今回は、俺たちが助ける番だったね、ロールシャッハさん」

ロールシャッハ「お前たち……」

キルア「よくもまあ、あんなバンバンバンバン……ひとり軍隊かよ」

キルア「ていうか、脚、平気? 血まみれじゃん」

ロールシャッハ「ああ……血はもう止まった」


ロールシャッハ「……礼を言おう、ゴン、キルア」

ゴン「いいって。ずっと助けられっぱなしだったし」

キルア「ほんっと、ゴンもおっさんも、協調性なさすぎ!」

キルア「マジで生きた心地しなかったっての」

ゴン「クラピカとレオリオは?」

ロールシャッハ「あいつらは……多分、まだ、空の……上に」

倒れるロールシャッハ。

キルア「おい、おっさん! しっかり――――」
199 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:31:47.61 ID:4KSwqC1U0

ヨークシンシティ 路上


パクノダ(…………鎖野郎と接触して、わかった)

    (奴には、人並みの感情がある)

    (でも、ロールシャッハは……ウォルターは……)

    (真に非情で、手段を選ばないのは彼の方)

    (誰よりも異端で、誰よりも無慈悲で、誰よりも孤独で……)

パクノダ(…………)

    (……………………)

200 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:32:53.09 ID:4KSwqC1U0
ヨークシンシティ どこかのビル

ロールシャッハ「……………………」

ロールシャッハ「UUUUU………………MM」

起き上がるロールシャッハ。

レオリオ「お、起きたか!」

ロールシャッハ「……どこだ、ここは……俺は」

自分の顔に手を当てるロールシャッハ。

ロールシャッハ「……俺の……顔がない」

ロールシャッハ「どこへやった、レオリオ」

レオリオ「おまっ、起きてまずそれかよ!」

ロールシャッハ「俺の顔を返せ。早くしろ」

レオリオ「ほらよ。血、洗っといたぜ」

マスクを差し出すレオリオ。帽子も添えてある。

レオリオ「お前の帽子、見つかんなかったから買っておいた。
     あれと似た奴探すの大変だったんだからよ、もう」

レオリオ「あとこれ、携帯! せっかくやったのに、なにしたらそんなすぐ壊すんだか」

ロールシャッハ「HUNH.」

マスクを被るロールシャッハ。
201 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:33:56.79 ID:4KSwqC1U0
レオリオ「礼もナシかよ」

ロールシャッハ「……携帯電話」

レオリオ「は?」

ロールシャッハ「これは役に立った。下水道を吹っ飛ばすのに」

レオリオ「お前、マジでどんな使い方したんだ?」

ロールシャッハ「クラピカはどうした」

レオリオ「隣で寝てるよ。あんなごたごたのあとであいつ、
     お前の傷も鎖使ってなんとか手当てしてやってたんだ。
     あいつにゃちゃんと礼を言っとけよ!」

ロールシャッハ「ほう、医者志望のお前を差し置いてか」

レオリオ「うるせーな。そのあとであいつも熱出して寝込んじまって、
     俺が看病してやってんだ!」

レオリオ「あとな、クラピカがマフィアになったってのはだな――」
202 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:36:01.29 ID:4KSwqC1U0
ロールシャッハ「……まあいい。それで、旅団の方はどうなった」

レオリオ「取引自体は問題なく終わった。そのあと動きが見られねえってことは、
     ある程度奴らも疲弊したってことだと思うがな」

ロールシャッハ「HURM.団長はともかく、娼婦はそのまま逆らって死ぬと思っていたが……」

ロールシャッハ(他の団員にも動きが見られないということは……)

ロールシャッハ「……Dr.マンハッタンか……」

レオリオ「ん? なんだって?」

ロールシャッハ「いや、なんでもない」

立ち上がり、コートを着るロールシャッハ。

レオリオ「おい、どこ行くんだ?」

ロールシャッハ「こんなところで寝ている場合じゃない」

レオリオ「いや、寝てろって!」

    「お前はもっと自分の体をいたわりやがれ! 大体な、五日も不眠不休の緊張状態で闘うなんざ――」

レオリオ「あれ、どこ行った? ロールシャッハ!」

廊下から、ゴンとキルアのいる部屋を眺め、通り過ぎるロールシャッハ。
203 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:37:31.50 ID:4KSwqC1U0
ロールシャッハ(……早いところ、ここを去るべきだ)

       (あの娼婦が条件を遂行したか否か……おそらく無視するのだろうが、
        それでも旅団の戦力は、この数日のうちに三人は減った)

       (新たに団長を立てるより、存命中の団長に対し対処を試みるはずだ)

       (ヒソカも殺せこそしなかったが、あの指の治癒はそう簡単にはいくまい)

       (Dr.マンハッタンは……殺しこそしないだろうが、相当の恐怖心を奴らに植えつけたことだろう)

ロールシャッハ(奴に頼んだ品を、引き取りに行くとしよう)

204 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:38:34.52 ID:4KSwqC1U0

ゼパイル「よう。お目覚めかい」

ロールシャッハ「誰だ?」

ゼパイル「やだな、忘れちまったってのか、俺だよ、俺、ゼパイル!」

ロールシャッハ「……?」

ゼパイル「ま、まあいい、これ、あんたのだろ」

ゼパイルの手には、ボロボロのフック銃。

ロールシャッハ「!」

ロールシャッハ「返せ。俺のだ」


ゼパイル「いやいや、盗むつもりなんかねえさ!」

ゼパイル「ただ、知り合いに話したらこいつに興味があるっつうもんでよ。
     ガタがきてるってんなら、そいつに見せりゃ多分直してもらえる」

ロールシャッハ「HURM.紹介は、してもらおうか」

205 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:42:05.60 ID:4KSwqC1U0
ヨークシンシティ 東のどこか



クロロ(幕間劇に興じよう。新たに仲間を探すもいいだろう)

クロロ(向かうなら東がいい)

クロロ(きっと待ち人に逢える)


クロロ「――待ち人というのは、君のことか?」

Dr.マンハッタン「君と会うことは、私の運命には存在しなかった」

クロロ「奇遇だな。俺も、そのような予言は受けていなかった」

Dr.マンハッタン「干渉波によるものだ。それにより未来に混沌が生じている」

Dr.マンハッタン「タキオンではない……ならば核爆発か」

クロロ「君には、未来が見えると?」

Dr.マンハッタン「私が見えるのは、私を操る糸と、そのシナリオだ」

クロロ「君こそが神だと、俺は思っていたがね」

Dr.マンハッタン「私は神ではない。定められた運命に沿って歩く者だ」

Dr.マンハッタン「これからも、この先も」

クロロ「人はみな、運命の操り人形というわけか?」

Dr.マンハッタン「私の口から言えることは、ただそれだけだよ」

Dr.マンハッタン「だが今、確かに私は不確実性というものの喜びを感じている」

クロロ「俺にせよ、君にせよ、他の誰にせよ」

   「その元あったはずの運命が……」

クロロ「そのシナリオが、書き換えられつつあるようだな」
206 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:43:22.68 ID:4KSwqC1U0

クラピカ「鍵? コインロッカーのもののようだが……」

ゴン「ゼパイルさんから渡されたんだ。
   ロールシャッハさんが、クラピカが起きたら渡すように、って」

キルア「まったく、また連絡は取れねーし、ホテルも空になってたし」

キルア「携帯渡しても、全然役に立ってないじゃん」

レオリオ「あいつは役に立った、って言ってたぜ」

ゴン「とにかく、ヨークシンを離れる前に、そのロッカーまで行ってみようよ!」
207 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:45:25.95 ID:4KSwqC1U0
ヨークシンシティ どこかの駅

クラピカ「ここだな……番号は……」

ゴン「あった! あれだよ!」

キルア「シャッハのおっさんからプレゼントか?」

レオリオ「クラピカの労をねぎらう、ってか?」

レオリオ「あいつの贈り物って……ろくなもんじゃなさそーだがな」

キルア「俺のためにチョコロボ君詰め込んだってんなら歓迎だけど」

レオリオ「それやるなら、あいつの場合角砂糖ぎっしりじゃねえか?」


クラピカ「…………」


扉を開けるクラピカ。紙が一枚と、包みがひとつ。

レオリオ「なんだこりゃ?」

ゴン「手紙?」

キルア「いや、日誌の切れ端かなんかだろうな」

ゴン「そっちの包みは?」

キルア「開けてみようぜ」

レオリオ「待て待て、クラピカに、って渡されたんだぞ」

クラピカ「これは…………」


クラピカ(緋の眼……)

    (…………)

    (また借りができたようだな、ロールシャッハ)
208 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 02:50:19.12 ID:4KSwqC1U0

日誌 ロールシャッハ記

1999年 9月X日

雑踏の人間は相変わらず無関心を装っている。
この一週間、奴らの目にとまるほど、街では事件が起きていたにも関わらず。

ニュース・スタンドで新聞を買った。
下水道の爆破、豪雨の中の太陽、破裂した飛行船、
青い超人に、顔のない男。

どれも、その表面をなぞるだけの記事でしかない。

真実を語るのは、スタンドの連中だ。

ニューヨークでも、ヨークシンでも、
その他世界のどの都市であろうとも。

幻影旅団は今のところ、まだ動きを見せていない。足取りもつかめない。
団長にかけられた鎖の対策を練っているのかも知れない。
どの道、対峙すれば再び厳しい闘いを強いられるだろう……

ダニエルのフック銃の修理が終わった。

俺にとって、これが最も信頼すべき存在だった――
――ニューヨークとの繋がりを、確かなものにするという意味でも。

だが、信頼に足るものは他にもある。
この街で、俺はそれを知った。

それはあまりに脆弱な希望だ。
しかし、なくてはならない。

崩れることのないようかき集め、
その存在を強固にする必要があるほどに。


あの歌のタイトルを思い出した。
“都会で聖者になるのは大変だ”。

聖者をヒーローに置き換えれば、事実、そのとおりだ。
ウォルターにとっても、ロールシャッハにとっても、
その他、この夜の下を歩く多くの人間にとっても。

簡単なことではない。だが、苦でもない……



俺は今、その街の頂点から真下を見下ろしている。

墓石のような数々の摩天楼。
人々のあいだを渡り歩く金。
夜空の星を消し去るイルミネーション。
野犬や野良猫どものうろつく路地裏。


そのどこかで、まだ罰さねばならない奴が無数にいる。


.┓┏.

210 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 03:09:00.37 ID:4KSwqC1U0
ピッ

クラピカ「……もしもし」

レオリオ「おう、クラピカか? 荷物届いたかよ?」


クラピカ「レオリオ……ああ、あれのことか……」


クラピカ、机の上の冊子を手に取る。
四色刷りの絵が描かれている。


レオリオ「いやー俺も最初見たときメチャクチャ驚いてよォ!
 この驚きと感動と笑いを誰かに伝えたくてしょーがなかったから」

クラピカ「奴自身と、連絡はとれないのか?」

レオリオ「十回に一回くらいは出るようになったぜ。
     このコミックのことは、俺からは教えちゃいないが」


レオリオ「『ヨークシンの平和を守る、正体不明のヒーロー!』」


レオリオ「『その名も謎の、クエスチョン!』…………」


211 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/10(火) 03:10:25.46 ID:sRgoNq/jo
凄い大作だった乙
GI編もありますよね…?
212 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/10(火) 03:24:00.42 ID:Dx4yPp/AO
実に乙
213 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 03:24:23.03 ID:4KSwqC1U0
終わりです。

いろいろおかしな点がありますが、とりあえずまた補足というか、
日誌にでてきた歌のことを。

http://www.youtube.com/watch?v=BktOzc8m93U

ロールシャッハが娯楽に接する描写がないのは周知のとおりですが、
個人的な趣味として、なにか歌の話を入れたいなと思って入れました。

この歌の発表は1973年で、ブレア・ロッシュの死の二年前となります。
スプリングスティーンはノヴァ・エクスプレスの記事にもその名が出てまして、
おそらくウォッチメンにおけるアメリカでも成功を収めているようです。
ミック・ジャガーの名も出ていますが、これも個人的な趣味と、
ロールシャッハならイギリスよりアメリカの歌だろう、ということでこちらにしました。
214 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 03:28:31.60 ID:4KSwqC1U0
続き……というか、これを書きながらだんだん欲がでてきたので、
次回はロールシャッハをカスカベに行かせたいなと思っています。

ただパラレルという扱いにはしたくないので、
ハンゾーやバショウのいたジャポンにカスカベがある……
……という形で続きを書ければいいな、と思ってます。
215 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 03:35:32.41 ID:4KSwqC1U0
>>211
グリードアイランドは行く理由がないから……
ゴンやキルアが修行してるあいだも、ヨークシンで犯罪と闘ってる、
ということでお願いします。

あと、パクノダと幻影旅団の行方はご想像にお任せします。
死んではいないかと思います。
ボドロもスクワラも助かったし、死ぬはずだった奴が生きてる、
ということがロールシャッハのいる意味だと思っていただければ。
216 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/10(火) 03:38:35.76 ID:4KSwqC1U0
最後に、これは本当に関係のない話なんですが、
『WATCHMEN』が好きな人も、俺のSSから知ってくれた人も、

本当に全然関係なくて恐縮なんですが、
『世界大戦争』という映画がオススメです。
機会がありましたら是非。
217 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/10(火) 05:09:18.27 ID:hMOlGlFDO
乙乙乙
素晴らしい。
続編楽しみにしています。
218 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/10(火) 07:35:52.93 ID:CXV3NPSb0
乙でした
シャッハさんは本当にハードボイルドだわ
221 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/10(火) 21:33:09.82 ID:n2g5Fbt10
乙でした。
前作のハンター試験のss読んで、WATCHMENにはまりました。
今回も面白かった。
227以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/12(木) 16:03:32.78 ID:uqC+V1V6o
乙!
いやぁ、狂ってるね……しんのすけとの触れ合いはどうなることやらwwww
期待しちゃうよ!
228 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/12(木) 22:48:20.86 ID:raL2oFNKo
一気読みさせていただきました。
面白かったです。

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