- ※未完作品
- 1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/15(土) 20:51:00.62 ID:010qYSGAO
- 一言で言えば
小 萌 無 双
・小萌てんてーが魔術師になります
・地の文まぁまぁあります。地の文がないとギャグ路線になってしまうので…
・物語はテッラ編の後からです
・多分小萌てんてーかっこいいです - 2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/15(土) 20:52:50.25 ID:010qYSGAO
- 上条当麻はまたボロボロになって帰ってきた
その報告がいつもの病院から、いつもの人からかかってきた
小萌「か、上条ちゃんは大丈夫なんですか!?」
カエル医者『とりあえずは心配ないようだね。それと土御門君と言う子もこちらで療養中だね』
小萌「よ、よかったです…」
カエル医者『今回はフランスのアビニョンからのご帰還らしいよ?』
小萌「……………」
フランス アビニョン
確か学園都市に対する大規模なデモ、もとい暴動がおきた場所である
小萌「と、とにかくまたご迷惑かけてごめんなさいなのですっ」
カエル医者『いやいや、一番心配なのは先生の方でしょう。あの少年は無茶が過ぎるからね』
小萌「は、はい…」
まるで自分が怒られるかのように丸くなる月詠小萌の内心は、それでも安心していた
小萌(上条ちゃん…また…) - 3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/15(土) 20:53:40.37 ID:010qYSGAO
- 月詠小萌だってバカではない。上条の怪我の原因くらいは、さすがに推測はつく
そしてそこにはいつも、『魔術』というワードがあった
小萌(私の生徒が毎回毎回死ぬような目にあっているのです…。それは教育者、いや、先生として…簡単に見過ごせるわけ……)
月詠小萌は知っている
『魔術』というワードに詳しい人物達を
インデックス、姫神、ステイル…
そして月詠小萌も『魔術』を使った人間の一人でもある
小萌(それなら…私にも…)
たったそれだけ
たったそれだけで十分なのだ。
難しくはないはず
とあの時の『魔術』を思い浮かべ
私が無力だった
と姫神が血の海で横たわる情景を思い出して―― - 4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/15(土) 20:54:55.64 ID:010qYSGAO
- 後日
ステイル「で……なんで貴女が僕の携帯番号を知っているのかは置いといて…、僕に用事なのかい?」
小萌×2=ステイル、と言う式が成り立つ程身長差がある2人がボロアパートの中にいた
幸いステイルは土御門との連絡で学園都市に来ていたのだ
小萌「あ…あの…上条ちゃん達のことなんですけど…」
ステイル「って僕は上条当麻の親じゃないぞ!何で二者面談をやらなくちゃ…」
小萌「上条ちゃんもシスターちゃんも…いつも『魔術』に巻き込まれてるんですよね?」
ステイル「っ!?…………」
この小さい教師から『魔術』と言うワードが出てくることに、ステイルは違和感を顔に出せざるを得なかった
小萌「この前も上条ちゃんと土御門ちゃんはフランスのアビニョンから、ボロボロになって帰ってきました…」
ステイル「……貴女は知らない方がいい。彼らの背負ってるものは重い」 - 5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/15(土) 20:55:57.90 ID:010qYSGAO
- 月詠小萌は知らないが、ステイルから見れば彼らの背負うものは重い
学園都市の学生をしながら、自分以上に魔術関係の事件に関わっているのだから
小萌「それは分かってます!分かっていて見過ごせればどれだけ簡単なことか…」
ステイル「………で、用事はなんだい?」
小萌「単刀直入に言うのです。私を魔術師にして欲しいのです!!」
ステイル「」
ステイル的には学園都市入りをしてからタバコを吸ってない。だから今の台詞はその幻覚だ。うん
小萌「魔術師ってこうなんか…呪文を覚えてパッとやれば行けますよねー?そうそうシスターちゃんの時もちょいちょいとやって…」
ステイル「ふざけるなよ!」バン
突発的に大声と物音をたててしまった。それでもこの分けのわからない動揺と感情はうやむやとしている - 6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/15(土) 20:57:32.64 ID:010qYSGAO
- 小萌「私は、先生は本気なのですっ!!」バン
バンッと小さな手の平を机に叩きつける。ステイルがその瞳を見ると、うっすらと涙がある
小萌「先生は…子供達が…目の前で死にそうなところを何度も見てきました…。でも先生は……何もできずに…」グスッ
そうか、大覇星祭の時にも――
吸血殺しの少女は血の海に伏せ、上条当麻のクラスの女子も一人倒れた。
血まみれのインデックスも、ボロボロの上条や土御門…
そんな情景がステイルの頭を駆け巡る
ステイル「…わかった……貴女は本当にその気のようだ」
小萌「…………」グスッ
ステイル「駆け回ってみるよ。貴女が魔術師になれるように」
小萌「あ、あ、あ…ありがとうなのですー!」ウェーン
ステイル「……」(…もうどうにでもなれ…orz)
その日のステイルの服は、月詠小萌の涙でグショグショになってしまった - 11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/15(土) 22:53:30.45 ID:010qYSGAO
- ステイル「はぁ……」
タバコを吸えないストレスとあの小さな教師との約束が重なり、ステイルはこの上ない悩みに襲われている真っ最中である
ステイル(月詠小萌との約束では『土御門と上条当麻には教えるな』ということだったが…)
ステイル(僕としてはあのようなタイプの人間はこっち側に来て欲しくないが…ん~…)
実に困った。しかしそれ以上に困るのが小萌のやる気だ。多分断固拒絶したら次は超能力開発でも受ける覚悟なのだろう…
ステイル(まったく…土御門も上条当麻もどれだけ心配かけて……)
と愚痴ろうとしたがそれの半分程は自分のせいでもあるのでやめた
ステイル(にしてもあの人は何者なんだ?年齢も意味不明だし、まるで不老不死のような…………!?)
刹那、いくつかの連想を経て辿りついた一つの記憶に、ステイルは顔色を変えた。
それはとっても不快な響きだったからだ―― - 12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/15(土) 22:54:46.94 ID:010qYSGAO
- イギリス凄教
ローラ「ステイルから?」
神裂「はい…、それの報告が…魔術師を希望する人間についてです」
ローラ「は?」
神裂火織からの意味不明な報告について、ローラは不快な表情を見せる
ローラ「魔術師を希望?それならステイルがその人間に魔翌力の練り方でも教えて、それから手品もどきの魔術でも仕込みたれば良いのよ」
魔術師になりたいと言う人間はよくいるものだ。そういう人間は魔翌力を練るところまでは出来ても、そこから先は鍛練の世界。それをクリアした者が魔術師になる、という職人に近い世界なのである
しかし神裂も神裂でしかめっつらをし続けている
ローラ「何かおかしけりなの?」
神裂「いや…その魔術師を希望する人間に関しても…ステイルから報告があって…」
ローラ「?」 - 13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/15(土) 22:55:30.35 ID:010qYSGAO
- 神裂「その人の名前は月詠小萌。上条当麻と土御門のクラスの担任です」
ローラ「ほー。合縁奇縁とはこのことなりけるのね」
座ったまま足をぶらぶらとさせながらおどけているローラ
神裂「ステイルの報告によると、この月詠小萌は実年齢は不明ですが見た目は小学校低学年」
ローラ「ほぇ?いや教師でありけるのでしょ?」
神裂「ああいや…だからその……」
何故か目を回す神裂
神裂「噂では学園都市の最先端技術を用いた不老不死の治療ほ施されているようで…」
ローラ「」
とりあえずローラも頭が回らないが、実年齢は大人だが見た目は子供の教師らしい
ローラ「は?それどこの名探偵の設定なりけるのよ?」
残念ながら学園都市は黒の組織ではない - 14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/15(土) 22:57:07.63 ID:010qYSGAO
- 神裂「さらに詳しい報告によると、月詠小萌はテロメア手術による不老不死が有力とされています」
ローラ「てろめあ?」
神裂「はい。テロメアと呼ばれる染色体の中の一部分です」
テロメアとは染色体にある、DNA修復や細胞分裂などを管理する一種の司令塔なようなものである
神裂「つまりここさえどうにかして制御できれば、不死はともかく、不老はできるようです」
難しい話をすればテロメラーゼ酵素の活性や制御修復因子などを調整すれば、学園都市でも出来ないことはなさそうな話である
ローラ「つまりは科学における不老不死ってこと?」
神裂「そうですそうです」
慣れない科学の話をさせられた神裂は、二つ返事でだるそうに戻っていった… - 15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/15(土) 22:57:57.48 ID:010qYSGAO
- その後もこの部屋に残るローラは先ほどの資料に目を走らせていた
ローラ(ステイルの奴、ちゃーんといい報告をしてるのよね♪)
ローラ(不老不死~♪)
ローラの様に魔術的に肉体を若く保つことができても、それ以外に肉体を若く保つことはできない。
しかし、魔術世界での生き物に『不老不死』の生き物がいた
吸血鬼
『不老不死』という最大のエネルギー、つまり無限の魔翌力を持つ存在は魔術師に恐れられた
ならばこの月詠小萌はどうだろう
吸血鬼のように不死とはいかなくとも『不老』である。となれば無限に『近い』魔翌力を手にすることができる…
ローラ(月詠小萌……)
ローラ(こやつが『最強の魔術師』になる日も近きことなのよん~♪)
そしてこの日はまだ10月10日。
後方のアックア襲来まで、あと数日であった――― - 28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 14:47:24.71 ID:ytADcyXAO
- ステイル「はぁぁぁ…………」
前回よりも重い溜息をついた炎の魔術師は公園のベンチでだらけていた
ステイル「彼女にはインデックスを助けて貰った恩もある……だからこそ、魔術サイドには関わって欲しくなかった…」
ここ数日、このような台詞を四六時中呟いている
ステイル「…それに最大主教までノリ気になってしまって…」
ステイル「これじゃあ土御門や上条当麻に顔を合わせられない……」
それに加え、吸血鬼と似た『不老不死』であることも分かった今、ステイルはただただ後悔の一言であった…
ステイル「………ああもういい!」バッ
鳥のように、急にベンチから飛び上がると、ステイルの顔はあの時のような顔になっていた
そう
とあるシスターを追いかけ回していた、あの頃のような
ステイル「これは全て僕の責任だ。あの人の命も、僕が命をかけて守る」
命をかけて守る
そういえる人が2人になってしまった炎の魔術師は、これからとある決意を表そうとしていた――― - 29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/16(日) 14:48:46.12 ID:ytADcyXAO
- イギリス
小萌(ここが……イギリス清教…)
聖ジョージ大聖堂、と言えば響きは良いが、なにぶん小さい教会である
外見や中の一部は簡単な観光名所と言った感じで、特に着目すべき点もない
生唾を飲み込んで入ってゆく小萌に、一人の女性がひょろっと現れた
ローラ「おっ、あなたが月詠小萌なりけるのね?」
小萌「は、はい!ステイルちゃんからご紹介頂いた月詠小萌ですぅ!」
ローラ「ん~…想像以上にプリティーな容姿なるわね…」
表現に困るローラだったが、そのまま奥の部屋に連れてゆく
ローラ「ステイルから大体の話は聞きゆのよ。魔術師って言ってもそう難しいものではないわよん」
小萌「そ、そうなんですか…」
ローラ「ふむ、小萌の場合はちょっと『特殊』なりけるから、まずは簡単な検査をしけるのよ」
小萌「検査…ですか?」 - 30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/16(日) 14:49:49.28 ID:ytADcyXAO
- 着いた部屋には3つの簡単な魔法陣が床に描かれている
ローラ「ではここの真ん中に」
小萌「はい」
小萌が真ん中に立ち、ローラが紙切れを一枚パラッと飛ばすと魔法陣が光る
ローラ(ほほぉ……)
ニタニタとするローラを尻目に小萌は不安そうに声をあげる
小萌「あのぉ…私は大丈夫なんでしょうか…」
ローラ「心配無用なるわよ!小萌、あなたは魔術師の『優秀』な才能がありけるわよ!」ビシッ
小萌「本当ですかー!?」
単純に喜ぶ小萌だったが、ローラは些か腹黒そうにも見える
ローラ「本当よ本当のよ!」
事実小萌の生命力はやはり『不老不死』レベルであり、それを魔翌力に換算しようものならそれは化け物レベルの魔翌力なのである - 31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/16(日) 14:51:08.67 ID:ytADcyXAO
- ローラ「おーい神裂はどこかー?」
神裂「はい、何ですか」
長身ポニーテールの神裂火織がすぐに現れた。一度小萌とも面識はあるので軽く会釈をした
ローラ「あのーあいつ、スマートヴェリーを呼んでほしいのよん」
神裂「スマートヴェリーを?」
スマートヴェリー
空中要塞ガヴン=コンパスの部隊に所属する、一人の『魔女』である
神裂「スマートヴェリーは『魔女』ですよ?」
ローラ「知ってるのよ」
小萌「『魔女』?」
ローラ「そう『魔女』。箒に乗って空を飛ぶ」
小萌「へ?」
小首を傾げる月詠小萌。まだ状況が分からないようだ
ローラ「もう鈍感なるわねー。小萌はこれから『魔女』になりけるのよ~♪」
小萌「」
小さな教師と魔女が交差する時、物語は始まる――― - 46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 19:25:04.72 ID:ytADcyXAO
- 2日後
スマートヴェリー「そう、その調子よコモエー!」
小萌「ほいっ!」ヒュル
ミニサイズの人間にミニサイズの箒。何とも可愛らしい魔女が聖ジョージ大聖堂の中庭を飛ぶ
月詠小萌はたった2日で魔女の基本的な術式や飛行法もマスターしていた
しかしそれには訳がある
つい先日、ローマ正教後方のアックアから送られてきた手紙と物品
それは上条当麻を粉砕すると言う果たし状と、テッラの遺体
そのためイギリス清教は急遽天草式を上条当麻の護衛のため学園都市へ。そして小萌もそのために今猛特訓しているのだ
ローラ「おー小萌、もう一人前の魔女になりけるのよ!」
スマートヴェリー「コモエは私より素早い動きをしますからねー」
小萌「スマートヴェリーさんのお陰ですー!」
ちなみに、小萌がたった2日間の間でイギリス清教内でもマスコット的な存在になったのは言うまでもない - 47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/16(日) 19:25:55.23 ID:ytADcyXAO
- ローラ「後方のアックアの宣戦布告から見ても、猶予はあと2日…」
ローラ「その間に次は小萌の使う術式を考案しけるのよ」
小萌「私の…魔術…」
魔女の基礎を習得したとは言え主力になる魔術はまだ持っていない
ステイルなら炎 神裂なら肉弾戦 シェリーならゴーレム、と言う具合に
ローラ「小萌は『五大元素』を知りたるかしら?」
小萌「はい。確か…火、水、土、風、空だったと…」
ローラ「ん~それは仏教などが混ざるもので少し違いたるわね」
スマートヴェリー「十字教での『五大元素』は火、水、土、風、エーテルとなるわ」
小萌「エーテル?」
ローラ「確かにエーテルを空と規定する場合もあるけど、厳密には違いたるものなの」
エーテルと言う概念が生まれたのは宇宙と言う存在から。地球には空気、つまり風が満たされ、宇宙にはエーテルが満たされていると考えられていた - 48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/16(日) 19:26:26.80 ID:ytADcyXAO
- ローラ「それらのことからエーテルは光の媒質と考えられていたのよ」
宇宙空間のエーテルを媒質として光は通ると考えられていた
スマートヴェリー「しかし科学が発展してから、光と電磁波は同一とものてした扱われた」
ローラ「となると…どうなるか分かりたる?」
小萌「科学による…エーテルの実験?」
ローラ「そう、エーテルは科学議論の的になった。そしてエーテルは、唯一科学によって否定、消された元素となりたことなのよ」
マックスウェルの電磁気学の発展から始まったエーテル論争は、最終的にあのアインシュタインによって否定されることとなった
科学によって消された元素…
スマートヴェリー「そのために『五大元素』自体は残っていても、魔術サイドでエーテルの属性術式を持つものはほとんどいないの」
ローラ「そう、あの『神の右席』を見ても分かるように、あの組織にエーテルの属性はいない」 - 49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/16(日) 19:27:16.62 ID:ytADcyXAO
- 小萌「つ…つまり…エーテル属性の魔術って難しい魔術なのですか?」
ローラ「そういう訳ではなきのよ。エーテルの霊装は存在するけど、今では『科学に侵食された元素』としてエーテルを忌み嫌うのが魔術サイドの風習になってしまったるのよ」
スマートヴェリー「それにエーテル属性の術式を使うには科学的知識も必要不可欠なのよねー」
小萌「そ、それって…」
ローラ「そう、学園都市の先生の小萌に最も相応しい属性が『エーテル』なのよん♪」
過去にはエーテル術式も流行った時期があったが、今のように科学によって否定されたエーテル術式はほとんどない
しかし霊装は別である
古来から残る霊装は依然機能し、それを使う魔術師も普通に存在する
ローラ「しかしさっき言った通りエーテル属性の霊装を使う者は普通にいる」
ローラ「まぁぶっちゃけ私よりその霊装を使う者の方がエーテル属性には詳しけるのよねー」
小萌「と言うことは……」
ローラ「そう、エーテルを理解するにはその者について学んだ方が良いのよ。例えば、エーテルの象徴武器『蓮の杖』を使う者とかに…」
後方のアックアが学園都市に襲来するまで、あと2日――― - 64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/01/17(月) 21:28:47.18 ID:uUqaZ8ZAO
- 翌日
アニェーゼとローラを師に仰ぎ、小萌はエーテル術式を学んでいた
アニェーゼ「魔術的なエーテルの要素は万物に似ていることと、宇宙を満たす元素だと言うことですかね」
ローラ「そしてエーテルが使われにくいものの一つとして極端な魔力消費が上げられたるのよ」
アニェーゼ「それは小萌の魔力なら問題ないですがね」
小萌「……………」
ローラからも自分の魔力は莫大なものだと伝えられたが、小萌自身には全く実感できない。事実生命力から魔力への精製を行ったときも実感を得ることはなかった
小萌「ま、魔力が多いと…そのコントロールとかできなくなったりしませんか?」
ローラ「そんな話は聞いたことはないのよ。魔術って言うのは自身の魔力に制限があるから、効率のいい術式を考案したり、霊装を作り出したりしけるのよ」
アニェーゼ「つまり早い話は魔力=魔術の強さと言っちまってもいいってことです」 - 65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]:2011/01/17(月) 21:30:06.93 ID:uUqaZ8ZAO
- とにかくその道のプロの二人が断言するからには間違いないのであろう
ローラ「そうそう、小萌はもっと自信を持ちたりければ良いのよ♪」
アニェーゼ「昨日1日でエーテル元素は理解しちまいましたし、この分だと術式のマスターもチョロいもんです」
小萌「わ、分かったのです!これも上条ちゃん達を守るが故!先生頑張るのですよー!」フンス
熱血教師、月詠小萌は魔術師になった今も健在であった
ローラ「その意気なのよ~小萌~♪」
小萌「頑張るのです!!」
ステイル「…………」
その様子を見つめる炎の魔術師は、今日もまた『ステイル専用』の柱から様子を伺っていた
ステイル(…うまくやっているようでなによりだ…)ホッ
ステイル(とりあえず今回ばかりはあの女狐にも感謝だな…)
ドキドキハラハラのステイルの気持ちもいざ知れず、時は無情に過ぎてゆく…
後方のアックア襲来まで、あと1日と迫っていた―― - 66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]:2011/01/17(月) 21:31:34.08 ID:uUqaZ8ZAO
- 翌日
土御門「最大主教ッッ!!」ドン
声を荒げた土御門が聖ジョージ大聖堂の荘厳な雰囲気をぶち壊しながら入ってきた
ローラ「あらら~どうしけるのかしら土御門元春~」
土御門「どういうことだッ!月詠小萌は学園都市の人間のはずだ!」
ローラ「あ~ら、それが特別問題でも?」
土御門「こんなことをして…科学サイドとの関係は破綻するぞ!あまりにもやり過ぎだ!」
ローラ「ふむふむ、しかし土御門が怒りたるのはそこではなく、小萌を魔術師にしたることを怒っているように見えたるわね~」
土御門「ッ…………」
まさか自分の担任を科学と魔術の争いに巻き込むことになるとは考えていなかった土御門の興奮は収まらない
ローラ「今回の後方のアックア襲来は幻想殺しに関する、科学と魔術の関係を含む問題。しかし相手が『神の右席』だと言うのに、建前上天草式の連中しか派遣できない今、動けるのは『学園都市の人間』である小萌だけなるわ」 - 67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]:2011/01/17(月) 21:32:55.35 ID:uUqaZ8ZAO
- 土御門「だからと言って…何故月詠小萌を選んだ?」
ローラ「んーそれには二つの理由がありけるわ。一つは小萌が『不老不死』の魔力を得ていること」
土御門「!?…まさか…」
ローラ「さすがに絶対不死とまではならなきものけど、魔力は通常の魔術師とは比較にならないわね」
ローラ「そしてもう一つの理由は…」
ステイル「彼女自らが魔術師に志願してきた」
土御門「!?ステイル…」
のそっと柱から出てきたステイルが口を挟んできた
ステイル「彼女が魔術師になりたいと、僕に頼んできたんだ」
土御門「そんな…バカな…」
ステイル「いや、妥当だね。あの人は学園都市の人間の中でもかなり魔術との接点は多かった…」
ステイル「インデックスの回復魔術、僕や神裂、大覇星祭の時のドタバタも」
土御門「…………」
ステイル「そして決定打になったのは、『魔術』というトラブルに巻き込まれ、ボロボロになって帰ってくる君や上条当麻だ」 - 68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]:2011/01/17(月) 21:34:08.59 ID:uUqaZ8ZAO
- それは土御門にとって嫌なほど身に覚えのあることばかりだった
土御門「…………」
ステイル「安心しろ、なんて無責任なことは僕には言えない。だが神裂も不穏な動きを見せている」
今回の学園都市との密約では天草式は動けても、聖人である神裂は動けない。その神裂が『不穏な動き』を見せているというのは十中八九今回の襲撃についてだ
ステイル「そしてあの人に万が一のことがあれば、責任は全て僕にある。僕の『名』にかけてね」
土御門「………ステイル、お前の覚悟はよくわかった」
ステイルの説明で全てを理解した土御門の怒りは収まっていた
ローラ「ま、でも小さな小さな『エーテルの魔女』には『神の右席』に対抗できるくらいの術式は習得させたし、天草式も覚悟を決めているようだから心配なきことなのよ~♪」
いつにも増して腹黒い雰囲気を醸し出すローラに、土御門もステイルも決して心地好い心境ではなかった―― - 77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/19(水) 16:53:50.83 ID:ceJAw0gAO
- 第二二学区
建宮「あ…が………」バタリ
アックア「ふん…鎧袖一触とはこのことであるか…」
周囲に展開する天草式を無力化することは、この男にとって実にたやすいことであった
アックア「……………」
大して感傷に浸る時間もなく、後方のアックアはそのまま進む
アックアは思う
アックア(上条当麻…。その右手はあまりにも危険である…)
今まで科学と魔術は対立していたと言えば戦争のようにも聞こえるが、逆に言えばお互いの領分を弁えていただけにすぎない
表があり裏がある。宗教があり科学がある…
それは勢力均衡、パワーオブバランスとも言うべき状態だった
アックア(しかしあの右手はそれを軽々と壊していった)
結果として、神の右席のアックアから見れば科学と魔術の本格的な対立は上条当麻が生み出したとしか言えないのである
アックア(だからこそ、潰す)
上条当麻は科学サイドのいいように扱われているにしか過ぎず、しかし自身の影響力をまるで理解していない
だからこそ『争いの元凶』を潰さなければ、この争いは終わらない。
絶対に終わらない。戦争が始まるまで… - 78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/19(水) 16:54:19.13 ID:ceJAw0gAO
- 後方のアックアは強い
あまりにも強い敵は、上条に感傷の暇さえ与えなかった
そして気付いた時にはこの有様である
(ああ……俺死ぬのかな…)
体に蓄積された、いや一気にのしかかってきたダメージは――しかしダメージと呼ぶにはあまりにも重い――上条の体を縛り付ける。
動かない。そしてこの戦いで苛立ちを覚える頃には自分は無くなって消えてしまっているのではないだろうか、という絶望感
しかし隣にいる五和は諦めずに何やら止血や包帯やらを巻いている…
回復魔術を実行しようとしているらしい
(やめろよ五和………どうせ俺の右手が邪魔をして……)
バギン
五和「うわああああああああああああッ!」
五和の悲鳴が叫び終わる頃には、上条の決心はついていた
(……でも…五和まで死ぬことねぇよな……) - 79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/19(水) 16:55:08.44 ID:ceJAw0gAO
- 「もう良いであるか」
問い掛けと同時に、アックアのメイスが横一線に襲いかかる
が
上条「ぐっ、がぁ…ォォおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
死力を尽くした上条が五和の盾になる。薄くて頼りない盾だ
上条「ありがとう五和。お前の回復魔術のおかげで、ちょっと元気が出た」
上条はその言葉を最後に決してこちらを振り向かなかった
五和「待―――ッ!」
上条「うおおおおおおおおおおおおおッ!!」
向かい行く上条に対し、アックアのメイスがありえない速度で横一線に薙ぎ払れ――――
ガギィッッ!!
アックア「!?」
「ふーっ…危ないところでしたねー……」
巨大なメイスは見えない『何か』の力で動きを止められ、その真上からは、小さな魔女がおりてきて――― - 80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/19(水) 20:10:31.95 ID:ceJAw0gAO
- それは『神の右席』後方のアックアの力すら凌駕していた
アックア(メイスが…動かない…)
あの天草式の女でもなければもちろん上条当麻の力でもない。何か別の力が働いている
そう思考を巡らせた時には空に一閃が走った
「ふーっ…危なかったですねー……」
干渉魔術を使って束縛されたメイスを解放し、アックアは目の前の人物を見た
小さくてピンク色の髪、小さな箒を持ち格好は魔女そのもの――
小萌「あなたが…後方のアックアさんなのですねー…?」
アックア「そうであるが…。イギリス清教の者であるか」
小萌「ん~厳密に言えば私は上条ちゃんの先生なのですよー」
アックア「先生…であるか…」
気絶する上条を尻目にアックアも五和も驚愕の表情を隠せずにいる
小萌「魔法名は『smilers100』【生徒達の笑顔のために】ですよー」
そしてここに、『エーテルの魔女』と『後方のアックア』の戦いの火蓋が切って落とされる―― - 87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/20(木) 18:14:46.37 ID:oU1V22IAO
- アックア「貴様……」
アックアがメイスを構える。その理由は二つ
相手がいきなりに魔法名を名乗ってきたこと
もう一つは、この魔女からの魔翌力が異常なこと
アックア「『Flere210』…」
とだけアックアは魔法名を名乗り返した
小萌「では行くのですよー」
その声と同時にアックアは一瞬で間合いを詰め小さな魔女に迫り――
ガギィィィッ!!
アックア(またか…!?)
妙な空間に阻害された巨大なメイスはまたもや動かない
小萌「よく動きますねー」
ドガッ!
小萌の小さな箒はアックアのメイス並の威力を持って激突した
がそこにあるのは空間に固定されたメイスだけ。アックア本体は――
アックア「遅い―――」
バゴッ ドガッ
アックアの巨躯が、ビルの一つや二つ薙ぎ払えそうな打撃を繰り広げる
それを小萌は小さくか弱そうな箒一本で受け止めている - 88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/01/20(木) 18:16:04.34 ID:oU1V22IAO
- その信じられない光景を目の当たりにしている五和は、ただ尻餅をついているので精一杯だった
五和(何が起こって……)
しかし五和の目の前で、ハロウィンのコスプレさながらの小さな魔女は、優勢と言える戦況を繰り広げる
小萌「『宇宙を満たす第五の元素。その役割は光の道となる』」
瞬間、キラキラと舞った光の粒子は、消えた
アックア「なっ……!?」
魔力、姿、音までも消えた小萌。その目の前の世界で、後方のアックアは独活(ウド)の大木でしかない
小萌「ここですよー♪」
メイスを再び握り、声の方向へ薙ぎ払った瞬間だった
アックアの顔右側面に違和感が走る
アックア「!?―――」
あまりの不快感にバランスを失いかける巨体の足元に、小萌の一撃が入る
アックア「がっ………」
ズドン!
大きくバランスを崩し転倒した後方のアックアはあまりにも惨めな姿
小萌「こんなものですかー?」 - 89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/01/20(木) 18:17:08.36 ID:oU1V22IAO
- 後方のアックアは考えた
アックア(引いて態勢を立て直すべきであるな…)
アックアは強い。だから故に冷静になれる
『神の右席』というプライドにかけてここで戦いを続行していたならそれは間違い。目の前の状況を受け入れ冷静に分析しなければ、自分でも負ける。と言う事を知っていたから
ムクッとアックアは立ち上がった
アックア「仕方ないが、次に来る時は、上条当麻の命の保証は出来なくなったである」
ドバッ
アックアは砲弾のように川の上流に飛んで行った
小萌「ふ~っ………本当ギリギリセーフでした~…」
五和「あ…あなたは…上条さんの…先生?」
小萌「ん?はいそうですよー」
五和「なら…なんで魔術を…」
小萌「そんなの決まってるじゃないですかー。私の生徒さん達を守るためですよー」
非常に簡潔な台詞で、小さな魔女は回答した - 109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 18:52:07.77 ID:jLAgKv/AO
- 医者「…と言うことです。なので絶対安静にして下さい」
とある病院に天草式はいた
上条当麻は療養中で、天草式の面々も怪我をしていた
奇妙な集団の天草式だが、例の通り『馴染んで』いるので不自然なほど自然体だった。だがそれは逆に、小萌の不自然さを際立たせるだけだと言うことは言うまでもない
建宮「とりあえず後遺症も命の心配もなかったか…」
小萌「もう少し遅かったらどうなっていたか…」
建宮「それには本当に感謝してるのよな。月詠小萌」
小萌「でもまだ終わっていません。後方のアックアは必ず来ます」
五和「本当に…本当にありがとうございます小萌さん…」グスグス
半泣きの五和は何度も何度も小萌に礼を言った
小萌「大丈夫ですよ五和ちゃん。今は上条ちゃんを守ることだけ考えましょう」
五和「守……る」 - 110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/22(土) 18:52:58.05 ID:jLAgKv/AO
- 小萌「そのために後方のアックアを殺します…。絶対に――」
いつもの小萌からは想像できないような怖い顔。それを見た五和も決意を決めたのだろう
五和「分かりました…。絶対に守ります…」
建宮「(え?今アックアを[ピーーー]って言わなかった?ねぇ今)」
牛深「(い、言いましたね…)」
建宮「(え、こう言うバトルものって[ピーーー]じゃなくて倒すでしょ普通、ねぇねぇ??)」
牛深「(教皇代理がなんとかしてくださいよぉぉ!)」
建宮「(無理無理無理無理!あの二人ヤバいよマジ。俺が殺されかけ――)」
五和「建宮さん……」
五和のくらーい声が建宮を呼ぶ
建宮「は…はい…」
五和「三時間ほどまって下さい…。海軍船上槍の加工をします…」
小萌「私も調子を整えましょうかねー」ドバー
延々と槍に加工をし続ける五和の隣に、ドラゴンボールよろしく魔翌力をなんかドバーっとやっている小萌
正直、建宮はアックアと対面した時より怖かった - 111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/22(土) 18:54:07.59 ID:jLAgKv/AO
- 午前3時頃――
アックア「まさかエーテル魔術が私に立ちはだかるとはな…」
襲い掛かる学園都市の無人兵器を薙ぎ払い、後方のアックアは独りごちた
アックア(神の右席の弱点だとでも推測したであるか…)
世界は五大元素によって構築されると定義されているものの、神の右席は4人。エーテルはない
アックア(忌ま忌ましい『科学』に侵食された元素か…)
それが昨今の魔術世界の共通認識、みたいなもの
アックア(そして、まさか聖人でもないただの魔術師が私と対等に渡り合うとは…)
アックア(『エーテルの魔女』。面白いである)
その時だった
ザザッ
アックア「刻限の時間まであと半日以上あるのであるが…」
建宮「こうも無理難題を押し付けられると、悩む必要も無くなるってのよ」
再び激突が始まろうとしていた――― - 112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/22(土) 18:56:29.93 ID:jLAgKv/AO
- アックア「あの小さな魔女はいないのであるか?」
建宮「気になるのか?」
アックアは天草式など眼中にない。自分と渡り合うあの『エーテルの魔女』に興味があった
五和「その前にまず私達の相手をして貰いましょう」
ドバァッ!
例の加工した槍は『冷たい夜気』を利用した魔術で、一気に爆発した
アックア「私の質問にも答えて貰えぬのであるか」
無傷の巨体は鋭くこちらを見据えている。そして爆発による灰色のカーテンを薙ぎ払おうとした、その時だった
ざわ…
アックア「!?」
まただ
またあの不快感が右の首筋を襲った
アックア「魔女めッ!!」
ドバッ!
アックアの足元に巨大な氷柱が生え、その巨躯は空を舞った
小萌「氷なんかに乗ってると、すべっちゃいますよー」
アックア「!?」
まさか…
と息を呑んだ瞬間、アックアの足場が、『滑った』 - 113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/22(土) 18:58:42.93 ID:jLAgKv/AO
- アックア(エーテルの特性は『万物に似ている』。ここまで厄介だとは…)
氷柱に何らかの干渉をされたらしい、と推測したアックアは態勢を立て直すべく、第二、第三の氷柱を作る
しかし小萌の追撃は止まない
小萌「おっと、空中戦では私の方が有利ですよー」
バッ バッ
しかし応戦するアックアは一つのことに気づく
アックア(空中……!?)
するとアックア上空の小萌を見上げ、十字架を切った
ドガァァァァァァッ
十字架を切る。たったそれだけの動作で雷に似た光線が空飛ぶ魔女を襲った
かつて十二使徒の一人ペテロは、空飛ぶ魔術師シモン=マグスを主に祈るだけで撃墜した
だからアックアは知っている、いや魔術師のほとんどは知っている
『現代の魔女は、空を飛ばない』
アックア「なっ…!?バカな!!」
そして、それを熟知している『神の右席』後方のアックアにとって、今目の前に広がる光景は信じられなかったのである - 114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/22(土) 19:00:06.66 ID:jLAgKv/AO
- 小萌「現代の魔女は空を飛ばない。それは撃墜術式の発展によります――」
アックア(何故だ…何故『墜ちない』!?)
小萌「しかし防御を徹底すれば、小萌先生にも空は飛べるのですー。例えば、『ガヴン=コンパス』みたいに」
全員「!?」
天草式もアックアも、驚いた
つまりあの魔女は、今見せたように、移動要塞ガヴン=コンパス並の防御術式を常時展開している。つまりそれは―――
アックア「貴様…もしや吸血鬼…」
小萌「違いますよー。私は上条ちゃん達の先生ですー」
ドバァッ!
小萌は空爆かのように空から地上を殴りつける
アックア(あの防御術式…つまり通常の人間、いや『神の右席』さえも越える魔翌力を保持していると言うのか――)
アックアは一方的に応戦の形をとる
いくら天草式が雑魚だとは言っても、空からの強烈な攻撃に対し、地上の天草式に足場を崩されば非常に厄介だ
アックア(ええい!!) - 115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/22(土) 19:01:10.76 ID:jLAgKv/AO
- すると、そのまま地上を駆けるアックアの目の前に無数の鋼糸が…
アックア「ふんッ!」
メイスでそれらの鋼糸を薙ぎ払うと、切断面から赤い霧が吹き出し――
アックア(そうくるか………)
そのままアックアの全身は赤い霧に包まれる
五和「その術式の正体は『殺人に対する罪』。ワイヤーを生命と再定義した罰を与える術式で―――」
ドバッ!
赤く纏う霧を無効化するかのように、中心から爆発がおこる
アックア「私の特性を教えよう」
上空にいる小萌にも対峙する天草式にも、アックアは強く大きく写る
アックア「私の特性は『神の力(ガブリエル)』聖母崇拝の秘儀をある程度行使することができる」
アックア「その特徴は『厳罰に対する減衰』である」
その声に天草式は一線を引く
アックア「結論を言おう、我が特性は罪を打ち消す『聖母の慈悲』。殺人罪ごときの罪が私に通じるとでも思ったか――」 - 116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/22(土) 19:02:42.83 ID:jLAgKv/AO
- 小萌「もしやあなたの特性は罪だけでなく、『神の右席』の約束・束縛・条件すら無効化する…ということですか?」
アックア「よく気づいたであるな」
それが聖人アックアの強さの秘密
しかし、それを知ったところで小萌と天草式の考えは変わらない
アックア「さて、説明も終わった。そろそろ私も本領発揮といきたいところである」
すると橋の下を流れる川が突如爆発を見せる
五和「ッ!?」
建宮「来るぞ!!」
水は砲弾となり槍となり、地上の天草式に襲い掛かる
小萌「くっ…!」
小萌は急降下して天草式の助けに入ろうとする、が
アックア「貴様は私の相手をしろ――」
エーテルの干渉魔術を恐れたのか、アックアは氷を使わず移動し、メイスは水で加工されている
小萌「仕方ないですねー…」
すると小萌はあっさり箒から降り、空中で足場のない2人のメイスと箒が爆音を奏でる―― - 198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/01/23(日) 14:44:41.36 ID:nLCkoo1AO
アックア「見事な体裁きであるな」
小萌「ちょっと苦しいのですよー……ッ!」
ガギィッ ドバッ!
クルクルと空を舞う小萌と、水の砲弾を足場とするアックアの速さは一閃の光を煌めかせた
このままではさすがに小萌自身も苦しい…
小萌「『宇宙を満たす第五の元素。それは電磁波の媒質ともなる』」ギン
箒を両手に、祈るようにして唱えたその魔術は――
ドバァァァァッ!!
アックア「――ッ!?」
突如アックアの足場の水と、メイスを加工していた水が爆発をした
アックア(電磁…波…。まさか……)
小萌「アックアさんは科学のお勉強は嫌いですかー?」
その問いの意味が、アックアにはすぐ分かった…- 200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/23(日) 14:45:10.94 ID:nLCkoo1AO
- 小萌「エーテルは光と同時に電磁波の媒質ともなります。その意味は魔術的要素にも――」
ドバッ!
アックアは一旦地上に降り立つ
小萌「つまり小萌先生のエーテルは、電磁波の魔術なのですー」
19世紀末に科学者マックスウェルの予言よりヘルツによって発見された『電磁波』。光と同等の伝播速度を持つそれは、必然的にエーテルが媒質とされてきた訳で――
小萌「つまりー、私の魔術は…」
アックア「自らが開発した…『独自の魔術』」
魔術を作るエネルギーはもちろん魔翌力。そして属性に関連性のある魔術が一般的とされている
小萌「そうですねー。『科学の魔術』とでも名付けましょうかねー」
アックア「―――ッッッ!?!?」
それはアックアの理性を越えた一言だった
この魔女は……知らない
何も知らないのだろう、と - 202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/23(日) 14:45:41.48 ID:nLCkoo1AO
- アックア「貴様…『科学の魔術』を…自分一人で開発したのではあるまい」
小萌「?…まぁローラさんのアドバイスでこの魔術を完成させましたけどねー」
ローラ・スチュアート
その名を聞いたアックアはさらに怒りの感情が込み上げてきた
アックア「クッッッ!!」
小萌「??」
『科学の魔術』
それは魔術世界で禁忌とされる魔術であった。科学的伝承を利用し科学的効果を利用する魔術
恐らくさっきの『電磁波』の攻撃は強力なマイクロ波による水の爆発。つまり電子レンジのようなもの
アックア「ローラ・スチュアート………」
何とも忌ま忌ましい名前
そして何故ここまで『科学の魔術』が嫌われるか。それは簡単で、『魔術を侮辱する』と言う理由
そして、昔にも本格的な『科学の魔術』を使用した人間がいた――
アレイスター・クロウリー - 204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/23(日) 14:46:22.95 ID:nLCkoo1AO
- アレイスターの名を知らぬ魔術師はいない
魔術世界で最大の魔術師。そして、最も魔術を侮辱した人間を
そして学園都市で『人工天使』を作りあげ、また一つ魔術を侮辱した人間
アックア「貴様が使用したその魔術。それを知ったからには、私は『神の右席』として見過ごす訳にはいかないである」
小萌「………いいですよー」
ドバァァァァッ!
小萌(はや…)
ガギィィィッ!
重い
アックアの一撃は重く、メイス越しに憎しみが伝わってきた
小萌(電磁波の…魔術で…)
さっきと同じように箒に祈りを捧げると周囲の水は爆発の連鎖を起こす
しかしもちろんの如くアックアは防御術式を展開しマイクロ波を利用した魔術は効かない
小萌「―――ッッ!?」
ドグッッ!
小さな魔女の体が、鈍い音をたてて遥か後方へ飛んでいった… - 227 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/01/23(日) 20:51:09.86 ID:nLCkoo1AO
- ――来るッ
そう知覚したのは五和だけでなく天草式全員がそうだった
ズドンッ!
メイスを振るい、水をミサイルの如く乱発するその巨体は、先程と違う
建宮「陣を…崩すなッ!」
『怒り』を表にしたアックアは手加減を知らない
五和(『本命』を叩き込むどころか…陣さえ持たない…!)
じわじわと崩れてゆく、とかそんなものではない。一瞬にして崩壊させられる一打一撃が大地震のように大地を震わせる
アックア「貴様らに構っている暇は…ないッッ!」
ゴゴゴッ!
氷の壁が迫ったかと思うと、そこから無数の水槍が襲う
一気に散開した天草式だが、そこにアックアはいない…
建宮「まさか…まだ月詠小萌を…!」
五和「そのようです…ね」
体力は損耗しているものの、致命傷はない
そう確認した天草式の面々には無謀か勇敢か、『まだやれる』という根拠のない希望だけが脳裏を支配した - 228 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/23(日) 20:52:40.20 ID:nLCkoo1AO
- アックア(あの魔女は……どこに……)
今だ平静を取り戻せない後方のアックアは夜の街を飛ぶ
アックア(あの魔女だけは…仕留めるであるッ!)
そう決断したとき、右方向からの殺気がアックアの足を止めた
神裂「…私の『仲間』達が、お世話になりましたね」
現れたのは極東の聖人。そして天草式女教皇「神裂火織」
しかし今のアックアには、そんな軽い自己紹介も彼を苛立たせる要因の一つでしかない
アックア「あの魔女は…どこにいるッ!!」
高速で氷を滑るアックアの速度に対応してみせた聖人神裂は、疑問の表情を浮かべる
神裂「魔女……月詠小萌の…」
バギィッ
やはりアックアは今『怒って』いる
神裂ですら受け止めるのも危ういメイスを、怒りに任せ振るう、そして振るう
ブォン ブォン! - 229 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/23(日) 20:54:15.61 ID:nLCkoo1AO
- 行動が読めなさすぎるアックアに対し、神裂はただ身構えるしかなかった
神裂「――ッック!!」
すると後方から大人数の足音が…
五和「女教皇!!」
五和が叫び、神裂が答えようとした時だった
アックア「貴様ら……ッ!」
ドバァァッ!!
足元を流れる水道管でも利用したのか、周囲一辺の地表が爆発する
神裂「ッ!?こんな…こんなふざけたことが…」
しかし神裂も暴れるようなアックアの動きを辛うじて読み、懐に潜りこむ
アックア「私の相手は貴様ではないッッ!!」
片手一本で吹っ飛ばされた神裂はギリギリ受け身をとった
神裂(ダメだ…読めない。速さも動作も魔術も…)
そして受け身をとった後顔を上げると、後方のアックアはいない
神裂「ッ!?上!」
その時にはもう遅かったのかもしれない - 230 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/23(日) 20:56:47.71 ID:nLCkoo1AO
- アックア「『聖母の慈悲は厳罰を和らげる』」
神裂「!?」
アックア「『時に、神の理へ直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ!!』」
一瞬で神裂には分かった。これは必殺である、と
そしてこの必殺を受ければ、聖人である神裂ならいざ知らず、周囲にいる天草式の面々はどうか
この巨躯から繰り出される必殺を受けて耐えられるか、どうか
その思考は遅かった
後方のアックアは一直線に落下。そして振り下ろされる特大のメイス。それは圧倒的な破壊を意味する訳で―――
ドガァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!
辺り一面を占める砂埃が消えると、そこは大きく穴の開いた地表。第五階層まで続くその穴
しかし神裂及び天草式全員は、死んでいない
どころか傷一つない訳で――
小萌「言ったじゃないですかー、エーテルは『光の媒質』だって」 - 231 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/23(日) 20:58:02.02 ID:nLCkoo1AO
- アックア「エーテルの…魔女ッッ!」
アックアも、自分の必殺が当たらなかった理を理解したようだった
小萌「エーテル魔術で光の屈折を変え、目標座標をずらす。たったそれだけのことを見破れなかったのは、あなたは相当頭に血が上ってたのですねー…」
アックア「―――ッッ!」
第五階層から大きく上方に飛んだアックアは小萌に襲いかかる。が、空中戦では小萌が地の利を得ている
バッ バッ
小萌「だからいいましたよねー。私の方が有利だって」
アックアの戦闘は怒りに満ちている。だがそれは動きに無駄が多いことを小萌は洞察していた
小萌「ほっ!」バシッ
小さく短い足が、アックアの腹を蹴る。それだけで無理矢理地球の引力に引き込まれたようにアックアは第五階層に叩き付けられる
メキメキ…
そしてその引力は第五階層をも突き破った… - 232 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/23(日) 20:59:22.00 ID:nLCkoo1AO
- 神裂「すご…い……」
ただのその言葉が自然に出たのは、聖人神裂にとって生まれて初めてかもしれなかった
アックア「チィッ!!」
あれだけの威力をモロに喰らいながらも、数ヶ所の傷だけですむアックアはやはり化け物だと認識せざるを得ない
そして闇が覆う第六階層に、小さな魔女と巨体の聖人が再び対峙した
小萌「頭は冷えましたかー?」
アックア「残念ながら、そう簡単にこの怒りは消えぬのである」
小萌「ならば仕方ありませんねー。ここで決着つけたいと思いますぅ」
アックア「私も本来の仕事がある。ここで立ち往生するのは得策ではないのでな」
地下貯水池が近いのか、アックアは水の気配を感じ地の利を確かめた
アックア「月並みな台詞ではあるが…私とここまで渡り合う魔術師は、貴様が初めてである」
小萌「それはどうもなのですー」
これから戦う相手の実力を再確認し、その莫大なまでの魔力を知覚したアックアは、今までに無く武者震いが止まらなかった――― - 244 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/01/24(月) 20:36:49.40 ID:dv37q9eAO
- ゴバァッ!
先を発したのはアックア。どこからか水が飛んできて、それは水の散弾と化して小萌に襲い掛かる
小萌「しかし…!」
ブォォン!
小萌は箒を前に突き出すと、その先から風が巻き起こり水の散弾を上手く弾く
万物に似ている特性は擬似的に他属性を操ることも可能だった
アックア「賢しい…ッ!」
アックアの片手からバスケットボール大の水玉が投げられる
それを小萌は、電磁波術式での迎撃を試みる…が
バチバチッ…
小萌「!?圧縮…」
グググ…
それは小さく圧縮された「水玉」。マイクロ波で爆発させようものなら、周囲の被害は甚大なもので…
しかし遅かった
ドバァァァァァァァッ!
本物の爆弾のように飛び散る様は近代の戦争のようだ。それを感想として抱いたアックアは、それほど世間知らずではないということか
アックア「……………」
また、いない
魔女が - 245 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/24(月) 20:38:07.10 ID:dv37q9eAO
- アックア「……………」
エーテル使いの知識がまるでないアックアにとってこの戦いは先が読めない
先が読めないと言う理由でオドオドしていては元傭兵の名が泣けるところだが、それはホラー映画にも似た恐怖でもあった
小萌「ふぃ~…」
不気味だ…
まさか神の右席で聖人の自分がそんな感想を持っていることに、一番驚いた
スッ…
小萌「もうすぐですよー」
ドガッ!
右下方から入った箒の一撃。無論アックアは受け止めたものの、不気味さはまだ拭えない
アックア「ふざけた真似を…!」
ドガッ! バギィ!
今がチャンスと言わんばかりにアックアは追撃をかける。無限に近い魔力を持つ的に対して長期戦は絶対不利。ならばスピードで勝負するしかない
アックア「動きが…遅いであるな」
小萌「ッッ………」
次第に小萌の防御術式の破壊も、アックアの強大な膂力にかかれば時間の問題 - 246 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/24(月) 20:39:01.54 ID:dv37q9eAO
- しかし
小さな魔女は笑っていた
アックアはそれに気づかず、小萌を吹っ飛ばす一撃をいれた時だった
ドッ!
しかし小萌は見事なまでに受け身をとる
小萌「じゃあ、もうこれで完成のようですねー」
アックア「……………ッ!」
周辺を流れる強大な魔力、地脈などを利用していない、この魔女から流れるものだ
小萌「『セオレムは第一の矛盾を示します』」
ドクンッ
アックアは『動けなく』なった
アックア「ッッ!?!?」ギギギ
ギロリ ギロリとアックアが周りに目をやると、そこにはルーンらしき紙が不規則に散らばっている…
小萌「あなたの『聖母の慈悲』は、様々な束縛・条件・約束から逃れることができます」
アックア「…………」ギギギ
現に天草式の『殺人の罪』を利用した術式は効果を成さなかった
小萌「しかし、その束縛法が『科学の定義』ならばどうでしょうかねー?」
アックア「…!?!?」 - 247 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/24(月) 20:40:20.06 ID:dv37q9eAO
- まだアックアは完璧に理解していなかった。いくら科学とは言えこの『聖母の慈悲』の特性に当て嵌まらないのは…
小萌「『グリム・セオレム』。と言ってもわからないでしょうねー」
アック「……………」
アックアには分からない、しかし何か分かればまだこの束縛状態から逃れるヒントがあるかもしれない。この聖人はそれを必死に求めていた
小萌「この術式は『グリムの定理』という一つの定理を応用した特殊な魔術です」
アックア「………」ギギギ
小萌「この定理は簡単に説明するとですねー…。『神様の存在』を否定するんですよー」
1991年にパトリック・グリムにより発表された、『神の存在』を否定した定理
小萌「それの定理や数値を術式に変換、こうしてルーン化することに説明しましたー」
ルーンをよく見ると、緻密な数式のようなものが書かれていた - 248 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/24(月) 20:42:33.07 ID:dv37q9eAO
- アックアも少しづつ理解してきた
確かに神の存在を根本から否定するのなら『聖母の慈悲』も効果を成さないはずだ…と
小萌「そしてこの定理は『神様の存在』を否定するだけではないのですー」
まだこの魔術には『隠し種』があった
小萌「『神様の存在』を理解しようとする、そのものを矛盾と捉えるのですー」
この定理での結論は『神は人間の知性を越えた存在』
そして神の三位一体を理解する行為、もしくは理解したのならそれは理解したのでなく全くの『異端』だと
アックア「――――ッッ!!!」
アックアはやっと気づいた
小萌「そう。あなた達『神の右席』のように、神と同列対等になろうとする者の全てを否定させる魔術。この術式において、『神の右席』は最大の矛盾でしかないのですー」
これが対アックア用とも言うべき、必殺の術式――― - 249 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/24(月) 20:44:44.49 ID:dv37q9eAO
- つまり普通の魔術師ではあまり効き目がない
『神の右席』のように、天使に近い体をし、神と同列対等になろうとするそれこそが、この術式が喰らうところ
小萌「ではお休みなさい……。『セオレムは第二の矛盾を示します』」
ドバァッッッ
周囲の特殊なルーンが特殊な陣を描き、その力は中心のアックアに襲い掛かり―――
アックア「…がぁッッッッッッッッッッッ!!――――――――――――」
声にならない悲鳴をあげ、内から爆発するような音が幾度となく第六階層をこだまする
アックア「――――――――――――――」
――悶死したのか無傷なのか、アックアか別人か、全ての判断を狂わせそうな一つの肉塊が、そこに転がった
小萌「…………これで…よかったのですよね…」
ただただ心を鬼にして、生徒のためを思い、『魔女』になった月詠小萌は今何を思うか
『生徒達の笑顔のために』
そう誓った『エーテルの魔女』は、もの哀しげに佇立していた―――― - 261 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/01/25(火) 22:34:05.93 ID:AIwXzsmAO
上条(……俺、は…)
五和「わっわっ、気づかれましたか?」
ここは病院らしい、と言うのは何となく毎回のパターンから分かっていた
しかし毎回のパターン、とは言っても今回はアックアにねじ伏せられただけであり、大した活躍はない
上条「五…和…?」
あれ?さっきまで二人ともアックアにフルボッコにされてなかったっけ?あれは夢か?
そう考えているうちに五和から説明があった
五和「後方のアックアは撃退しました」
上条「」
いやいやいやいや、これは夢だな、うん。五和には悪いが、あの化け物を言うほど簡単に倒せるとは上条は思っていない
五和「と、とは言っても天草式は壊滅的で…そこに女教皇、そして小萌先生の助けが入ったからであって……」
はい。これ夢確定
ははははー。まさかこの面子に小萌先生がでてくるなんてなー。上条さんも面白い夢を見てるもんだー。まぁ最近禁書二期とかで忙しいし、過労ってやつ?うん。そうだよねー…
ねー……………- 262 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/25(火) 22:35:12.61 ID:AIwXzsmAO
- スイッチが切れたように再びベッドに潜り込む上条
五和「あれ?上条さーん?どこか具合でも…」
上条「リアルな夢だなー。あれこれ走馬灯?いや流石に違うか……??」
小萌「上条ちゃん!!」
その呼びかけにバサッと起きる上条。右を見ると、魔女の格好をした小萌先生がこちらを見つめているのであって…
上条「うふふふー、ふふふー。これは流石の上条さんでも…」
禁書「…とうまッッ!!」ガブッ
あれ、痛い
そう知覚した時に、その幻想(夢)は無くなっていた
上条「だっははー!インデックスさんが噛み付いてきたー!!」
五和「……上条さん…アックアの一撃で脳に深刻なダメージが…」ウルウル
なんか本気で上条の頭がおかしくなった感じの空気なので、上条はもう一度状況を確認した - 263 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/25(火) 22:36:16.54 ID:AIwXzsmAO
- 上条「…第一の質問です。後方のアックアはどうなりましたか?」
五和「へ?いやだから…女教皇と小萌先生のお陰で撃退することができました」
上条「……第二の質問です。何故小萌先生が入ってるのですか?」
小萌「小萌先生は上条ちゃん達を守るために魔術師になったんですよー」
どこぞのロシア成教魔術師のような口調で上条は質問するが、やはり頭は混乱している
上条「………第三の質問です。どのような経緯で小萌先生は魔術師に?」
小萌「ステイルちゃんに頼んだのですよー。そしたらイギリス清教に招待されて、ローラさんやスマートヴェリーさん、アニェーゼちゃんに魔術を習って…」
上条「たんま!……ツッコミたいところは山ほどあるけど…、魔術師ってそんなに簡単になれるものなんでせうか?」
その問いに小萌は無い胸を張って答えた
小萌「私を誰だと思ってるのです!私は小萌先生なのですよ!!」キラーン - 264 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/25(火) 22:37:28.28 ID:AIwXzsmAO
- 答えになっていない答えを受け、代わりに五和が答える
五和「と、とりあえず話によると、小萌先生は見ての通り『不老』ですよね」
上条「あ……。それって……」
五和「そうです。簡単な話吸血鬼に近い魔力を保持しているんです」
上条「…ほぇ~成る程…。そりゃあ魔術師になるのも簡単な訳だ……」
無理矢理のようだが納得した上条はもう一つ疑問を投げつける
上条「……いや待てよ。でもあのアックアをどうやって倒したんだ?…まぁ神裂もいたみたいだから何とかなったのか?」
五和「それはですね…。実は天草式も女教皇もボロボロでして……」
上条「えぇ…!?」
それはつまり…
小萌「後方のアックアは、小萌先生が倒したのです!!」フンス
上条「」 - 265 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/25(火) 22:40:09.99 ID:AIwXzsmAO
- 上条「それって……」
ここで待ってましたと言わんばかりに、インデックスが魔術の話題に饒舌を振るう
禁書「こもえはさっきも言った通り無限に近い魔力を保持できる。そしてこもえの行使する魔術は『エーテル』。これは『神の右席』の弱点と言ってもいいかも」
五和「それに小萌先生は魔女です。『空を飛ぶ』という面も強大な魔力のお陰で様々なハードルをクリアしています」
禁書「そして最後は『科学の魔術』。これは正直私も専門外かも」
小萌「」エッヘン
先ほどより無い胸を張る小萌だが、とにかく凄いらしい
少なくとも、後方のアックアと言う化け物を倒すくらいに
上条「……………」(それってほぼ最強じゃね…?)
とにかく複雑な心境の上条だったが、小萌のお陰で命拾いできたのは否めない
小萌も明るい表情を見せているものの、上条以上に複雑な心境のはずだ
酷い戦いを経験し、魔術と科学の争いに最も深く関わることになった月詠小萌
少なくとも、もう後戻りは許されないのだから――― - 266 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/25(火) 22:40:54.56 ID:AIwXzsmAO
- 神裂(どうしましょう。明日にはロンドンへ戻らなくてはいけないのでスケジュール的には今しかないのですが…)
土御門「……ねーちん。そうこうしてる内に日が暮れちまうぜーい?」
ビクッ!と震える神裂の肩
やはり図星だにゃーと土御門は予感を的中させた
土御門「せっかくの激務の中やってきたのに、そろそろお礼をしなければ…」
神裂「わ、分かっています!しかし今はあの子がいますし…」
土御門「ところで神裂、堕天使メイドセットは持ってきたかにゃー?」
神裂「そばぶっ!?な、何でアックアを撃退するのに堕天使メイドセットなど…」
土御門「そう思って持ってきたのが…………じゃーん!堕天使エロメイドだにゃー!」
土御門の手には見るからにいやらしそうな服が… - 267 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/25(火) 22:41:53.32 ID:AIwXzsmAO
- 神裂「……どこがどう変わったと?」
土御門「そりゃあ、この胸の開け具合とスカートの透け具合が…」
??「ちょっと待ったのです!!」
土御門を殴りかけた神裂の耳に、あの可愛いらしい声が響いた
小萌「ちっちっち、土御門ちゃんもまだまだなのですねぇー」
土御門「小萌先生!?」
戸惑いの表情を見せた土御門だが、小萌の右手には…
小萌「堕天使エロメイド?そんなのはもう流行遅れで上条ちゃんの好みではないのですよ!」
土御門「なっ……」
小萌「それは土御門ちゃんの好みであり上条ちゃんの好みではない!どうですか?」
土御門「うっ………」
神裂(あの土御門を言い負かしている……さすが担任)
何とも珍しい光景を神裂は興味深そうに眺めていた
土御門「でも何で小萌先生がこの事を?」
小萌「もちろん、ローラさんから詳しく聞いたのですよー」
あの女…と神裂がムカついてももう遅い - 268 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/25(火) 22:43:26.70 ID:AIwXzsmAO
- 小萌「そこでそこで!先生からの提案は……」
土御門・神裂「え…?」
小萌「これです!『魔女っ子ダークエロメイド』!!」
土御門「なっ!?」
神裂「」
土御門「うおおおおおおおおおおお!さすが小萌てんてーだにゃー!!!」
小萌「」フンス
おいちょっと待てよ、これ私が着るの?
そんな思考を巡らせた時にはもう遅かったのかもしれない…
小萌「ささ、早く着ましょう神裂さーん」
土御門「ほらほらねーちん、恩返しだぜよ」
神裂「…………」
土御門「わざわざ小萌てんてーがイギリスから持ってきてくれて、え何?天草式の女教皇はその程度の女?」
神裂「…!?」
小萌「あらあら?こうしている間にも五和ちゃんが…」
土御門「本当だにゃー!さすが五和は女の器が違うぜよー」
神裂「………」プルプル
土御門「いいんだぜい、天草式女教皇は所詮こんなものでしたということで処理すれば……」
ズズ…
何やら神裂のオーラが変わった… - 269 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/25(火) 22:44:36.53 ID:AIwXzsmAO
- 神裂「小萌先生」
小萌「はい?」
神裂「覚悟が決まりました。例の物を」
およそ10分
小萌の着付け指導を終え、神裂火織は完璧に魔女っ子ダークエロメイドと化した
ゲラゲラと笑う土御門の顔面に拳を叩きこみ、上条当麻のいる病室に、突撃した
結果、上条当麻は
これから、魔女っ子の脅威に怯え続けることになるだろう……
ギャー! プリエステスッ! マジョナンダヨ! - 270 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/25(火) 22:47:14.03 ID:AIwXzsmAO
- ローマ正教
特に光も闇もない、無機質な空間。その数々の通信傍受霊装の山の中、その男はいた
フィアンマ「アックアが落ち、学園都市とイギリス清教の突出」
フィアンマ「そしてローマ正教とロシア成教の連合も成った」
フィアンマ「いい方向に進んではいるのだが…」
ヒラッ
フィアンマは一枚の報告書式の霊装を眺める
フィアンマ「『エーテルの魔女』全くの不確定な因子だ…」
リリリ…
古式でアンティークな電話機を操作するフィアンマ。恐らくこれも霊装であろう
フィアンマ「こちらフィアンマだ。『エーテルの魔女』が目障りだ、『ノート』を出せ。後はわかるだろ」
『はっ…しかしこれからの状況を鑑みますと…必ずしも戦略的な価値を持つかどうか…』
フィアンマ「俺様の考えはある。貴様は従っていればいい。『ノート』をそのままの意味で使う道理もないしな」
『………はっ…了解しました…』
フィアンマ「…こんなことで時間を食っている場合じゃないが…、これも『ハロウィン』を盛り上げる一つの余興…かな」
面白い回り方だ、それがフィアンマの純粋な感想であった――― - 271 : ◆hgtZ6E9g5E[sage]:2011/01/25(火) 22:51:45.59 ID:AIwXzsmAO
- ということでアックア編は完結しやした!
今後の方針は、完璧オリジナルにしようと思いましたが、魔術側の敵がほとんどいないでブリテン・ザ・ハロウィンに入ります
でもオリジナル要素はちゃんとありますので多分飽きないとは思います…
では次回ー - 272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/25(火) 23:02:57.89 ID:tfdVChgio
- 乙
- 273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/01/25(火) 23:20:35.40 ID:AomsA/seo
- おつん
- 274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/25(火) 23:41:53.63 ID:csc2KUZ00
- >>1モツ
- 283 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/01/27(木) 18:07:36.52 ID:ufRzkx5AO
結標「やっと綺麗に片付いたわね……」
ボロアパートの一室、酒類やらタバコやらが散乱していた汚い部屋を1日かけて掃除した結標淡希はようやく一息ついた
お得意の座標移動を使用してまで片付けた結標だが、それでも1日かかってしまったのはやはり昨日の宴会だろうか…
結標(突然いなくなって帰ってきたと思ったら、天草式とか言う訳の分からん連中連れてきて……)
ここの部屋の主、月詠小萌が久しぶりに帰って来たのは昨日。と思うのもつかの間で、数十人の客を招いて酒や料理やらを振る舞い、結標もその対応に追われていたのだ
結標(にしてもバカみたいに酒飲んでいったわね…アイツら…)
結標の記憶では二重瞼の女が日本酒中心に一気飲みをし、メイド服がなんたらかんたらと叫んでいた- 284 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/27(木) 18:08:37.70 ID:ufRzkx5AO
- 結標(もう夕方…、もうすぐ小萌が帰ってくる頃ね)
なんだかんだで昨日は楽しかったのでよしとする結標
カンカンカンカン
…外から足音が聞こえる、小萌のものではない招かれざる客のようだ
でもまぁ結標には大方の予想はついている
ガチャ
禁書「こーもえー!来たんだよー!」
結標「またあなたね…、生憎小萌はまだ帰ってきてないわよ」
禁書「そうなの?なら中で待つんだよ」
こいつ図々しいな、と思わなくなったのはいつからだろうか…。まぁ実際は結標が失敗した料理を残さず食べてくれる『白いポリバケツ』としての機能の方がデカい
結標「今日はなに?また失敗した料理でも食べにきたの?」
禁書「違うよ。今日はこもえに頼まれごとをしたから来たんだよ」
頼まれごと?
この『白いポリバケツ』に他の用途があった方が驚きである - 285 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/27(木) 18:09:24.63 ID:ufRzkx5AO
- 小萌「ふー遅くなったのですー」
禁書「あっ、こもえ!」
小萌「シスターちゃん!もう来てたのですか?」
禁書「もちろんなんだよ!だって報酬は…」
小萌「もちろん!今日は豪華絢爛焼肉セットですー!」
すると後ろから買物袋を持った女学生が現れた
姫神「久しぶり。焼肉」
禁書「あっ、あいさ久しぶりなんだよ」
某戦場カメラマンに似た喋りをするのは姫神秋沙
結標も彼女とは知り合いで、料理が上手いため時々指導をしてもらっていたりする
結標「姫神さんもご苦労様ね」
姫神「久しぶりに。皆とご飯食べる」
禁書「ほらほら!早く用意するんだよあいさ!」
結標・姫神(コイツ………)
いろいろとツッコミたいところだが、このシスターにとってそれは野暮なことなのでそこは慎んだ - 286 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/27(木) 18:11:02.30 ID:ufRzkx5AO
- ――――焼肉は戦争だ
無限胃袋の『白いポリバケツ』がいる焼肉は、まさに戦争という定義が当て嵌まるだろう
全員「いっただっきまーす!」
フライングはなし。正々堂々と宣戦布告をした焼肉は、まず箸というミサイルが鉄板という戦場に飛来する
もちろん先手はあの白いシスターだ
ここいらの都市伝説でバイキング方式の店を一つ潰したという話も、今となっては真実味が溢れでている
野菜には目もくれず肉を真っ先に目標とした箸は一直線に走る…………が
姫神「やらせない」バシッ
その鈍重な喋りからは想像のつかない箸が戦場を駆け抜ける
禁書「!?」
虚空を突かれた白いシスターは体制を立て直し、すかさず安全圏の肉をとる
小萌(連邦の『白いポリバケツ』…)
小萌は野菜と肉をちょうどよく保守した
結標(ふっ…欲を張りすぎなのよ)
少なめに肉をとりつつも、鉄板の上に肉を補充する結標 - 287 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/27(木) 18:12:02.13 ID:ufRzkx5AO
- 姫神(野菜。肉。肉……)
リズムをとるように鉄板の具材全てを把握する姫神
数多の戦いの結果、白いシスターとやり合えるのは姫神だけだ、ということを全員了解済みでもある
しかい白いシスターは戦場を駆け抜ける
禁書(箸は右から上に、左右の肉を同時に掴む)
強制詠唱で培ったリズム、数々のバイキングで鍛えた箸の動き。それはまさに無駄のない無駄な動き…
小萌(…シスターちゃんの動きは格段にパワーアップして…)
そう記憶を回顧する内に、肉は圧倒的スピードで『白いポリバケツ』の餌食となる
結標(勝てるッ!補充と警戒のリズムを崩さずにいれば…)
防御を中心とする結標の焼肉は無難と言えよう
禁書(左右のフェイント、肉を下から3枚掴む)
結標(なっ……!?)
油断はしていない
しかし白いシスターの圧倒的スピード、高度なフェイントにかかっては結標の防御焼肉は形骸でしかなかった - 288 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/27(木) 18:12:51.93 ID:ufRzkx5AO
- 戦いはもう終盤――
圧倒的なスピードを誇りながらも白米3杯目のおかわりを終えた白いシスターは留まるところを知らない
結標の防御焼肉は敗北を喫した
姫神も白いシスターの攻勢によりリズムは崩れ、小萌もまた野菜中心の箸裁きにしかならなかった
バッ ジュウウゥ…
そして最後の肉が投入される
全員(…………ッ!)
まさに固唾を飲んで肉を見守るその光景は異様だった
独特の構えを見せる『白いポリバケツ』
決して正しい姿勢を崩さない姫神
自陣の崩壊に苛立ちを隠せない結標
今だに野菜しか楽しめていない小萌
ジュウウゥ……
肉が焼けた―――― - 289 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/27(木) 18:14:09.88 ID:ufRzkx5AO
- 禁書「――――ッ!!」バッ
今までにないスピード。そして箸裁き
姫神(は、速い…!)
あの姫神さえも対抗できないそのスピード
しかし
バシッッ!
結標(あんたの思い通りには…)ギギギ
禁書(ふん、未熟なんだよ!)キンッ
百戦錬磨の白いシスターに敵うはずもなく、結標の箸は弾かれる
しかし、この犠牲を姫神と小萌は逃さなかった
禁書(なっ………!!)
肉があと半分
禁書(しかし…まだッ!)
結標(残念ね、あなたの負けよ)
言外に語る結標の手元。結標が握る箸は、もう戦場の外、取り皿に移行していた
禁書(ま…さか………!!!)
結標(――――座標移動よ) - 290 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/27(木) 18:15:01.10 ID:ufRzkx5AO
- 触れずとも、一度に多数の対象物をテレポートさせれる能力
それが『座標移動』
そう。結標淡希は最強のテレポーターだ
パッ
戦場にある全ての肉が、消えた
結標(座標移動とまともに勝負しようなんて…この戦場では……)
しかし、『白いポリバケツ』の猛攻は終わってはいない――
結標(――――ッ!?!?)
禁書(私を舐めていたようなんだね?)
座標移動によってタレの入った取り皿の僅か3cm上にテレポートした全ての肉
その肉は寸分の狂いなく取り皿に入るはずだったのに――
バッ
その3cm上にテレポートされた肉を、『白いポリバケツ』の箸が全てを持ち去った―――― - 302 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/01/29(土) 13:28:25.37 ID:sMsEVbzAO
- 結標「ちょ、ちょっとアンタ!それはいくらなんでもおかしいでしょう!」
禁書「肉はあわきの箸にも取り皿にも触れてなかったんだよ!それに超能力を使うこと自体反則なんだよ!!」
結標「チートな胃袋のアンタには言われたくないわよ!」
小萌「ま、まぁまぁ。また今度焼肉パーティーすればいいじゃないですかー?」
姫神「できれば。白いの抜きで」
結標・禁書「ムムム……」
とにかく戦いは終わったらしい
小萌「では片付けに入りましょうかねー」
姫神「私。洗い物する」
結標「ほら、食器運ぶから。そこの白いの、食器とって」
禁書「は?私は食べる専門だから片付けはしないんだよ」
姫神(この。糞ニートシスターが)
結標(コイツどっかに飛ばしてやろうかしら…)
とは言いつつもこれがいつもの一連の流れだった - 303 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/29(土) 13:29:42.19 ID:sMsEVbzAO
- 結標「食器は運んだから、私も洗い物手伝うわ」
姫神「ありがとう。助かる」
2人とも慣れた手つきで後片付けをこなしていた
禁書「じゃあまず初めは属性別の回復魔術から教えるんだよ」
小萌「了解なのです!」
結標「ねぇ姫神さん」
姫神「なに?」
結標「あの2人は何をしてるのかしら…?」
もの珍しそうに2人を見つめる結標。『カイフクマジュツ』とかいう言葉が聞こえたことに疑問を抱いた
姫神「ああ。あれね。小萌は魔術師になったから」
結標「へ?……マジュツシ?」
そういえば昨日の天草式とか言う奴らも似たようなこと言ってたかな~、と酒に埋もれた記憶を呼び覚ます結標
姫神「うん。それであのシスターに。回復魔術を習ってるの」
結標「……回復魔術…。魔法?」
姫神「そんな感じ」
まぁ確かに無限胃袋をもつ白いシスターと年齢不詳のロリ教師が魔術師であっても不自然ではないような気もする
というかそっちの方が理解が追いつく - 304 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/29(土) 13:30:31.78 ID:sMsEVbzAO
- 結標「魔術………ねぇ」
結標にも思い当たる節はある
『グループ』に所属する海原と土御門
あの2人から時々『魔術』と言うワードが出てくる
よくわからないがあの2人はその『魔術』に深い関わりがあるようだった
結標「まぁ超能力があるんだし、魔術ってのがあっても不思議じゃないわね」
現に超能力の全てが科学によって解明されている訳ではない
『シュレディンガーの猫』を用いて超能力が表現される場合もあるが、それも不確かなのだ
姫神「どちらも。物理法則をねじ曲げているのは。同じ」
結標「姫神さん詳しいのね」
姫神「私も。魔術に関わってたから」
結標(……姫神秋沙…)
結標と姫神は同じ霧ヶ丘女学院の生徒だった
今は姫神は小萌の学校の生徒だが、結標も姫神の噂くらいは聞いたことがある
能力名までは聞いたことはないが、非常に稀なAIM拡散力場で様々な科学者が躍起になって解明に挑んだものの、ついに解明は成されなかったと言われる - 305 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/29(土) 13:31:10.85 ID:sMsEVbzAO
- 姫神「とにかく。小萌が魔術師になったのは。生徒達を守りたいからだって」
結標「……確かに、最近になって学園都市と、『魔術』と目される宗教関連の軋轢は酷いものね…」
その軋轢に巻き込まれる生徒もいるんだろう、と海原や土御門を例に上げても容易に想像できた
それにあの白いシスターだって幸せそうな表情を見せているものの、『魔術』に関わる人間がここにいるには様々な過去があったのだろう
結標「……皆、大変なのね…」
姫神「……そう。みたい」
月詠小萌の小さな体にのしかかる様々な重荷は、これから更に増えてゆくのだろう
大変なのは暗部にいる自分だけじゃない
しかし月詠小萌はその笑顔を崩さない。それがどれだけ大変なことかは、結標に想像もつかなかった
だからこそ結標淡希は決意した
この人の重荷は自分に背負えない。けれどこの人に自分の心配はかけたくない、と――― - 308 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/01/29(土) 22:36:59.10 ID:sMsEVbzAO
- とある日
とある高校の教師、月詠小萌は久しぶりに高校に出勤していた
黄泉川「おっ、先生久しぶりじゃん」
小萌「お久しぶりなのですー」
ちなみに魔術云々で仕事を休んだ際は、上の方に掛け合ってちゃんと休む手筈は整えてあった。統括理事会の方でも月詠小萌が魔術師になるということは特別認可しており、学校の仕事の方も手回ししてくくれていた
親船「あら小萌先生」
小萌「親船先生おはようですー」
親船「……先生、少し話が…」
小萌「??」
少しばかり暗い顔をした数学教師の親船は小萌を呼び付ける
親船「……実は…その…小萌先生のクラスの上条当麻の件で…」
小萌「へ?」
嫌な予感はしていた
親船「このままだと…確実に単位が足りないわね…」
小萌「」
上条は魔術と科学の争いで身が持たないほど忙しい
しかしそこはもちろん上の方やら小萌の努力やらで出席日数はとりあえずクリアできそうだった
しかし
上条当麻は、予想以上にバカだった―――― - 309 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/29(土) 22:38:14.45 ID:sMsEVbzAO
- 親船「私の担当の数学の方も、小萌先生の努力のお陰で上条の出席日数はクリアできてるみたいたけど…その…」
小萌「テストの方ですか…」
親船「そう…」
小萌「で、でも上条ちゃんはやはり授業を受けれていないので…」
親船「同じクラスの土御門も休みが多いけど、テストは至って優秀な成績よ」
小萌「」
上条ちゃんってやっぱバカだったんだ…
何か新しいタイプの絶望が小萌を襲う
親船「多分、数学だけじゃなくて他の教科の成績も危ういと思うわね…」
小萌(上条ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!)
もう神の右席が云々どころじゃない
このままだと上条はもう一度高校一年生をやり直さなければならない……
親船「どうするの?追試で救うならできるけど、彼の頭は本当絶望的ね」
しかし月詠小萌の本業は魔術師ではない
小萌「決まってます!私は教師ですから、上条ちゃんを救ってみせます!!」 - 310 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/29(土) 22:38:50.68 ID:sMsEVbzAO
- 小萌は改めて上条当麻の成績を確認した
小萌(成績が絶望的な教科は…、数学、日本史、英語、古典……)
上条当麻はレベル0で能力開発の成績も絶望的だが、能力開発の単位は出席してれば良い
『能力開発の成績のせいで単位が足りない』となったら学園都市の6割のレベル0達が開発の単位を落としてしまうからだ
小萌(とりあえず英語と数学の追試は数日後にお願いできたのですが…)
後は上条次第である
小萌(仕方ありません…ここは『鞭』を使うしかないようですね……)
『鞭』を振るうと小萌は決意していた
無論、上条のためを思って
上条(バカ)と勉強が交差する時、物語は始まる―――!? - 316 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/01/30(日) 21:12:35.72 ID:h4mL3zVAO
- 小萌「ということで上条ちゃんの勉強合宿を行うのです!」
上条「」
上条も気にしてなかったのだろう
神の右席とか言う超人ばかりと戦わされてもいれば、学校のことなど気にしていられるわけがない
小萌「先生の計らいで英語と数学の追試は明日にお願いしときましたー」
上条「ええええええええ!?ちょ先生!?一日で追試を合格しろと?」
小萌「追試は簡単なので一日で余裕です!しかしもっと心配なのは上条ちゃんの頭です!」
上条「………ま、まぁ…」シュン
小萌「そこで上条ちゃんが一日頑張れるように、もう一人先生わ用意したのですー」
上条「え……?」
インデックスは与えられた餌を食べて家でゴロゴロ、同居人の結標は一日いない
小萌「ではお願いするのですー」
ガチャ
ステイル「一応挨拶はしようか、ステイル=マグヌスだ。よろしく」
上条「」
不幸だ、と叫ぶ空気でないのは上条でも分かった
心の中で反芻したのだ、自業自得だと - 317 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/30(日) 21:13:42.60 ID:h4mL3zVAO
- ステイル「後方のアックアの件もある、月詠小萌先生には頭が上がらないものでね」
上条「が……がが……」アワアワ
小萌「ステイルちゃんは英語は勿論のこと、数学も出来ますからねー」
ステイル「ルーン魔術師は理系なんだよ。日本の高等数学くらいは余裕さ」
上条「た、確かに…こいつほど適任な奴もいないな…」
ステイル「先生と呼べ!!!」ボワッ
上条「ぎゃあああああああああああああああああああ!!」バギン
これはこれでいい組み合わせだな、と小萌は感じていた
小萌「ステイルちゃーん、さすがに炎剣は家が燃えちゃうのでこっちの鞭にしてくださーい」
ステイル「ほう、学園都市製の鞭か。確かに使いやすい」パンッ パンッ
上条「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
それってアンチスキルが持ってる鉄をも貫通するような武器で…
ステイル「ほらやるぞ!上条当麻!」パァンッ
上条「ギョギョォォォォォォォ!!」 - 318 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/30(日) 21:14:43.79 ID:h4mL3zVAO
- 小萌「じゃあまずはこっちのページからですねー」
上条「……………」ビクビク
ステイル「…………」
小萌「じゃあこれ(Monday)はなんと発音しますか?」
上条「……もんでー」
ステイル「死ねよ!!!」パァンッ
上条「イギャアアアアアアア!!」
やはり上条は絶望的だった
ステイル(上条当麻に鞭を振るえるのは快感だが、コイツがここまでバカだとはな…)
小萌「『I go to school today』これを訳してください」
上条「私は東大に行きます」
ステイル「死ねよッ!もう本気で死ねよッ!」パァンッ パァンッ
上条「あばばばばばばばばばばばばばばば!!」
小萌「………………」
ステイル(……こんなバカな奴に負けたのか…僕は…)
そう思ったら、神の右席の連中が酷く可哀相に思えてくる - 319 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/30(日) 21:15:46.64 ID:h4mL3zVAO
- 小萌「じゃ、じゃあ次は数学をやるのですー!」
ステイル「君…因数分解はできるのか?」
上条「ま、まぁ…ボチボチ…」ビクビク
ステイル「なら簡単なことから聞こう。これは何乗の展開式だ?」
上条「……上条」
ステイル「殺す!これは殺すッ!!」パァンッ パァンッ パァンッ パァンッ
上条「がががががががががががががががががががががががががががががが!!」
小萌(上条ちゃん………)ウルウル
ステイル「はぁ…はぁ…はぁ…」
上条「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」
上条とステイルが初めて戦ったあの時より、数十倍は激しい
ステイル「…じゃあ…数学Aだ。確率くらい、さすがの君でもわかるだろう…」
上条「あ、ああ……」
ステイル「…じゃあほら、このコインを投げるだろう?裏が出る確率は何だ?」
上条「50割」
ステイル「顕著せよ!イノケンティウス!!」
イノケンティウス「ゴアアアアアア!!」
上条「ちょおおおおおおおおおおおおお!!」
小萌「ステイルちゃぁぁぁぁぁぁん!」 - 320 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/30(日) 21:17:01.70 ID:h4mL3zVAO
- ステイル「……君なあ、ふざけるのも大概にしろよ!」
上条「ふ、ふざけては…ねぇよ…」
そう。上条は割と真面目である
ステイル「大体君の周りでバカな奴は君くらいなんだぞ!」
上条「はっ!?」
確かに、インデックスは言わずと知れた超がつく天才。魔術サイドの人間もイタリア語、日本語、英語、ラテン語、ロシア語やらを話せる超エリート集団
御坂美琴や一方通行なんかも学園都市では超秀才である
上条(つ、つまり…俺ってバカなのか……?)
右手では殺せない幻想(バカ)が上条を襲う
ステイル「魔術師の全員が日本語を喋れるわけじゃない。その時は君の説教だって意味を成さないぞ」
上条「……………」
ステイル「それに君が留年することで小萌先生にも迷惑がかかる、分かるか!?」
小萌(ステイルちゃん…上条ちゃん…) - 321 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/30(日) 21:17:38.99 ID:h4mL3zVAO
- 上条「…………ステイル…」
ステイル「……何だ」
上条「俺がバカだった…」
ステイル「知ってるよ」
上条「…………と、とにかく俺は頑張る!小萌先生のためにも、自分自身のためにも!!」
小萌「が、頑張ってください上条ちゃん!!」
ステイル「…ふん、ならばもうこの際君にとことん付き合ってやる」
上条「…ありがとう…ステイル…」
ステイル「マグヌス先生と呼べ!!」パァンッ
上条「いだだだだだだだだだだだだだだ!!」ヒリヒリ
上条の決意も固まったところで、再び勉強に望む
上条「その幻想(バカ)をぶち殺す!!」ソゲブ
ステイル「その調子だ上条当麻!!」
小萌「頑張ってください!!」
追試は、明日の授業後である――― - 322 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/01/30(日) 21:18:50.55 ID:h4mL3zVAO
- 数日後
親船「ふ~ん……」
上条「…………」ゴクリ
小萌「ど、どうでしたか?上条ちゃんの追試は…」
親船「……上条にしては上出来ね、合格よ!」
上条「ほ、本当ですか!?」
小萌「上条ちゃん!!」
上条「やった!やったよ小萌先生!!」
加えて、英語の方もなんとか合格点に届いていた上条は、なんとか留年はまのがれることになったのだった
小萌「よかった……です…」ウルウル
親船「大袈裟ねー、小萌先生も」
上条「小萌先生はずっと応援してくれてましたから…」
小萌「だって上条ちゃんだけ進級できなかったら…可哀相じゃないですかー……」ウェーン
生徒一人のために全力になれる
それこそが小萌先生なのだろうと、上条も親船も深く思い知らされたのだった―――― - 340 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/02/05(土) 15:15:02.36 ID:rKBx+zgAO
- 久しぶりに来たら誤爆ワロタww
今までのあらすじ
『魔術』によって傷ついてゆく生徒達を見て、高校教師月詠小萌は『魔術師』になる決心をする
イギリス清教の計らいで『エーテルの魔女』となった小萌は後方のアックアすら軽く蹂躙し、最終的には撃破してしまう
それでも生徒達のため、魔女でありながら教師を続ける小萌であった
だがそんな小さな魔女に、魔術サイドの波が容赦なく押し寄せる…… - 341 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/02/05(土) 15:16:12.48 ID:rKBx+zgAO
- 小萌「あっ、もうこんな時間ですー」
高校教諭月詠小萌は思い付いたように携帯を手にした
発信先は、例の同居人
小萌「結標ちゃーん!どこほっつき歩いているんですかーっ?」
小萌「今日という今日は野菜炒めが作れるように頑張るって事で、先生はお腹を空かせて待っているのですー!」
結標『………………』
小萌「女の子が料理が出来なければならないということではないですけど、色んなスキルを覚えていた方が、進む道の幅も広がるもので……」
結標『……直球で言うけど急用できたから野菜炒めは無理みたいね』
小萌「ええっ!?今日もなのですか!じゃあ野菜を冷蔵庫パンパンにするほど買ってきた小萌先生は…」
結標『それは良かったわね。ベジタリアンは長生きするわよ』
そういうと結標は一方的に電話を切っていた
小萌「『今日も』ですか…」 - 342 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/05(土) 15:17:10.10 ID:rKBx+zgAO
- 小萌だってそれなりのベテラン教師である
レベル4の才能をもつ結標淡希がどのような事情を持つかは推測がつく
しかし、それも彼女の道。今の小萌にはそれを見守ることしか出来ない
小萌(…結標ちゃんは自分の道がちゃんとありますからねー……)
するとつけっぱなしのテレビから、また似たような報道が流れていた
『先日未明に発生したユーロトンネル爆破事件以来、フランスとイギリス両国はEU間での対応や経済的打撃も受けており……』
小萌(……ま、先生も忙しくなりそうですねー)
学園都市に住むこの魔女は、予感していた - 343 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/05(土) 15:19:11.83 ID:rKBx+zgAO
- ピピピピ ピピピピ…
案の定、かかってきた携帯電話。画面には『ステイルちゃん』と着信が出ている
ピッ
小萌「もしもしー?」
ステイル『月詠小萌かい?ステイル=マグヌスだ。手短に言う、イギリスに来て欲しい』
小萌「…だと思いましたよー」
ステイル『…すまない、なら話は早い。こちらも上条当麻と禁書目録を召集する事態だ』
小萌「はいはいおーけーですよー。ならすぐに向かいますからー」
あらかじめ魔術薬品を仕込んだ箒、久しぶりに着る魔女のコスプレ
すかさずそれを手にとった月詠小萌はその瞬間から『エーテルの魔女』になる
小萌「では簡単に説明して貰えますかー?」
エーテル魔術で姿を巧みに隠した小萌は一瞬にして学園都市上空を抜け、超音速旅客機よりも高速でイギリスに向かう
その間に携帯は電波式ではなく魔術的に受信できるように設定し直していた - 344 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/05(土) 15:20:13.92 ID:rKBx+zgAO
- ステイル『もしもし、では話すよ?』
小萌「おーけーですよー」
ステイル『事はユーロトンネル爆破事件だ。イギリス王室直々にこの事件の魔術的方面から禁書目録を介して解明するのが今の名目だ』
小萌「やはりあの事件でしたかー…」
ステイル『しかし最大主教の考えではイギリス3人王女のいずれかが不穏な動きをしている。その解明に禁書目録を使うつもりだ』
小萌「すると…」
ステイル『そう、これから何らかのことが起きるのは明白だ。そしてもう一つの噂ではローマ正教が後ろで何らかの手回しをしているらしい…』
小萌「ローマ正教が?」
ステイル『そう。ローマ正教は致命的な損害を受けている。だからこそイギリス三派のいずれかを利用するつもりかも知れない』
現在、裏の裏では清教派、王室派、騎士派の三派が互いに牽制し探りを入れている状態であり、とにかく複雑である - 345 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/05(土) 15:20:53.64 ID:rKBx+zgAO
- 小萌「つまり、とっても複雑な事態だというのは分かりましたー…」
ステイル『ああ…。正直な話、もう手遅れかも知れない。その時は……また貴女を危機に晒すことになるかも知れないが…』
小萌「私の心配は無用です!今はこれから起こる事態を見極めましょう…」
小萌はようやくヨーロッパ圏上空に差し掛かるところだ
あと10分もあればイギリスに到着する
小萌「上条ちゃんとシスターちゃんは?」
ステイル『安全……と言える状況ではないのは確かだ…』
小萌「……分かりました」
申し訳なさそうに報告するステイルも非常に忙しそうに動作しているのが分かった
小萌「とにかく、私が何とかしますから」
神の右席を単身撃破した『エーテルの魔女』のその一言は、頼もしい限りだった - 346 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/05(土) 15:22:50.61 ID:rKBx+zgAO
- ステイル「ふぅー……、遠路遥々、ご苦労さま」
小さなオープンカフェに、タバコを加えた黒い神父と箒を抱えた小さな魔女が座っている
奇妙と言えば奇妙だが、それなりに絵になっているので存外溶け込んでいた
小萌「いいんですか…?こんなとこでくつろいでいて…」
ステイル「とりあえず説明しよう。今はどうやら清教派の諜報部もロンドン市内の警備に駆り出されているらしい…」
小萌「つまり…情報がないと?」
ステイル「ああ…。今分かっているのは騎士派が怪しいと言うこと。だが騎士派全てが怪しいのか一部が怪しいのか、大規模なのか小規模なのか分からない」
小萌「下手には動けない…ですか…」
実のところ清教派にも裏切り者がいる可能性を踏まえて、この調査知っているのはローラとステイルと一部諜報部のみ
ステイル「下手に動けない。だからこそ学園都市の貴女を呼んだのさ」
学園都市にいる小萌が裏切り者だという可能性は一番低い、と言うのが小萌を呼びだした理由だった - 347 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/05(土) 15:23:46.21 ID:rKBx+zgAO
- ステイル「今は『新たなる光』とか言う組織が『何か』をしでかそうとしている…。恐らく3人の王女のいずれかの依頼を受けている」
小萌「それの警備で清教派の方々はいないと…」
ステイル「ああ…。しかし清教派はイギリス三派の中で一番纏まりまがない。だから裏切り者がいるかもしれないし、逆に独自に動いている奴もいるかもしれない…」
小萌「やりにくい…ですねー…」
ステイル「全くだ…。なのに当の本人最大主教とは連絡もつかない…」
小萌「……………」
つまりはことが始まってからしか動けない…ということ
ピピピピ ピピピピ
ステイルの携帯が鳴った
ステイル「……!?諜報班か!」
魔術信号を受信した骸骨のストラップが赤く光り、通話を開始する - 348 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/05(土) 15:26:22.46 ID:rKBx+zgAO
- ステイル「もしもし」
諜報部『ステイル、分かりました!これはクーデターです!首謀者は第二王女キャーリサ、及び騎士団全てです!』
テロだとでも踏んでいたステイルには驚愕の事実だった
ステイル「なに……!?騎士団全てを相手しろと…!?」
諜報部『まだ騎士団は動いてませんがあと数分の限界でしょう…。カヴン=コンパスの魔女部隊には出動要請をすませましたが…』
ステイル「ちぃッ!!これじゃテロどころか内紛、クーデターじゃないか!国が終わるぞ!」
小さなオープンカフェで突如叫ぶ黒い神父に客は唖然としている
小萌も状況を察知し、人払いを実行した
諜報部『そしてもう一つ…。騎士団の一部がローマ正教と繋がっていました。その一部組織は別の動きをすると報告があり…』
ステイル「どいつもこいつも……!」
諜報部『要するにキャーリサと騎士団のクーデターとは別に、その組織の狙いは………学園都市』
諜報部の魔術師はただならぬ一言を告げた - 349 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/05(土) 15:28:09.28 ID:rKBx+zgAO
- ステイル「なっ……!?どういうことだ!この情報はどこからどこまでが…」
すると電話の向こう側がやけに騒がしくなっていた
諜報部『もしもしステイル!あなたはこちらの組織を潰して下さい!そして騎士団の………があッ!!』
ガッ ガガッ ザザ…
途切れる通話はそこで切れた
ステイル「ちぃッ!……もう動いたのか…」
小萌「ど、どういうことですか……」
ステイル「……第二王女と騎士団のクーデターだ…」
小萌「ええ!?」
ステイル「しかしもう一つ、騎士団の一部がローマ正教と通じ学園都市を狙っている」
小萌「そんな…でもそれは相手も…」
ステイル「そいつらはこの事態をいいことにイギリスをクーデターよりも最悪の状況に持っていくだろう…」
小萌「……………」
ステイル「今学園都市を攻撃したらどうなると思う?学園都市とローマ正教ロシア成教同盟を相手戦争になるぞ…」
クーデターによる混乱、一部騎士団による学園都市攻撃
それはイギリスが一瞬にして国家滅亡を辿ることになるのだった――― - 358 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/02/06(日) 19:57:24.38 ID:BiHcF0mAO
- ステイル「やはりここは手をつけられていないようだな…」
イギリス清教の拠点の一つ、サザーク大聖堂にやってきたステイルと小萌には勿論やるべきことがある
ステイル「とにかく学園都市への攻撃だけは阻止する。宗教的な力も政治的な力も、今のイギリスは学園都市に遠く及ばない…」
突出し、学園都市攻撃を目論む一部騎士団を潰す。そのためにサザーク大聖堂での情報収集を試みるのだ
小萌「しかし…今は混乱状況で情報だってまともに…」
ステイル「何を言っているんだい?必要悪の教会はその道のプロさ」
地図大の古びた白紙の紙に紫のルーンを置くと、直ぐさまにイギリス全体が浮かび上がる
ステイル「僕自身土御門みたいに探索魔術を持ってないが、ここには霊装が山ほどあるからね」
小萌「じゃあすぐに分かるのですねー!」
ステイル「相手はただの戦争屋の騎士団だ。容易いよ」 - 359 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/06(日) 19:59:20.41 ID:BiHcF0mAO
- 古びた紙はイギリス全土を正確に書き出す
時間はかかるが、確実な方法はこれしかなかった
ステイル「…しかし第二王女や騎士団長に逆らってまで学園都市を潰しにかかる…」
小萌「ローマ正教への裏切り者…なんですかね?」
ステイル「いや…このタイミングはひっかかるね…」
するとステイルは霊装保管庫へ再び足を運んだ
小萌「まだ何かあるのですかー?」
ステイル「たしか…通信傍受の霊装があったはずだ…」ガサゴソ
小萌「き、騎士団内部の情報を傍受するのですかー!?」
ステイル「ああ…、恐らくこの場所を探知されるだろうけどね」
逆探知される、それは一つの賭けだ
今や『天使の力』を得た騎士団を相手するのは聖人を相手するのに等しく、バレれば一瞬にして駆け付けるだろう - 360 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/06(日) 20:00:49.27 ID:BiHcF0mAO
- 例の探索魔術はまだ終わらないが、その間にステイルは通信傍受霊装を稼動させる
ステイル「さあ……やるか…」
ピラミッド型をした安い置物のようなそれは、エメラルド色に発光し始めた
『い……がの……部隊…』ザザッ
小萌「ちょっと聞こえてきました…」
ステイル「ちっ…テレズマの干渉か……」
強大な力のテレズマが自然とジャミングの役割を果たしているのだ
ステイル「聞こえないのか…!」バンバン
古いテレビを叩くようにステイルはその霊装の頭を叩いた
『……はどうした?……だ!……いつはファンダメン……の……くにんをとれ!清教派のトップは……』
ステイル(まさか………)
合点がゆく。これなら合点がゆく
ステイルの中で絡み合った紐がじわじわと解けていった - 361 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/06(日) 20:02:01.72 ID:BiHcF0mAO
- 小萌「す、ステイルちゃん?何か分かったのですかー?」
ステイル「静かに!」
通信傍受はまだ続いていた
『……のファ……は…ジェズ教会で……は止めさ…!な…』
ステイル「ジェズ…教会?」
小萌「??」
断片的だがそれなりの情報を得て、ステイルはそれらを繋げてゆく
ステイル(確かジェズ教会は……)
ステイルは無言で携帯を出すとどこかにかけだした
小萌「え!?ステイルちゃん今はテレズマのせいで魔術通信は…」
ステイル「電波の方の通信さ」
使い分ける柔軟さも必要なのが魔術師である
ステイル「……もしもし?聞こえてるかい?」
オルソラ『あらあら、ステイルさんなのでございますね』
この状況に似つかわしくないゆったり口調は、オルソラそのものであった - 362 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/06(日) 20:03:24.03 ID:BiHcF0mAO
- ステイル「とりあえず今話しができる状況かい?」
オルソラ『ふふふ、まだ大丈夫なのでございますよ』
まるで隠れんぼを楽しむかのような口調は緊張感がまるでなかった
ステイル「最大主教ですら連絡がとれない、連携をとるほど必要悪の教会は器用じゃないが、重要な質問がある」
オルソラ『何でございましょう?なんならシェリーさんに代わりましょうか?』
その側でシェリーがギャアギャア喚いている声を確認して、とりあえずステイルは安堵した
ステイル「ローマ正教出身の君なら分かるだろう。ジェズ教会って知らないかい?」
オルソラ『ジェズ教会?それならローマ正教管理下にある教会でございます。ジェズ教会とボン・ジェズ教会がございます』
ステイル「何か変わった霊装やら鍵やらが隠されてはいないのかい?」
オルソラ『それなら、ジェズ教会は一つ特徴があるのでございますよ―――』 - 363 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/06(日) 20:05:13.24 ID:BiHcF0mAO
- カチャ
ステイルは携帯をしまう
小萌「ステイルちゃん、分かったのですか!?」
ステイル「話は後だ。とりあえずここから逃げよう」
通信傍受霊装を使ったので、テレズマ干渉下とは言え逆探知の可能性は拭えない
一刻も早く逃げる必要がある
ステイル「探索も終了しているな…」
地図大の霊装を丸めて雑にポケットにしまいこむとステイルと小萌はサザーク大聖堂を後にした
ステイル「小萌、移動するよ」
小萌「ど、どこにですかー?」
するとステイルは一台のタクシーを止める
ガチャ バタン
ステイルは先程の地図大の紙霊装を広げる
運転手「お客さんどこまで?」
ステイル「……ボストンまで頼む」
小萌「ボストン…?」
ボストンはロンドンからさほど遠くない海に近い街
ステイル「領収書は出るかい?」
運転手「ああ、はい」
ステイル「なら出してくれ。宛名は『イギリス清教最大主教』で」
抜かりない魔術師、ステイル=マグヌスの算段はもうこの時点からついていた…… - 364 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/06(日) 20:07:30.80 ID:BiHcF0mAO
- シェリー「う………」
オリアナ「全く…こんな暴れ散らかして…いろいろと後片付けが大変そうね」
派手で露出の激しい女の側にはゴスロリ服のライオン女が寝そべっている
騎士団相手に暴走していたシェリーを止めたのがオリアナ=トムソンその人だった
オリアナ「さて……お姉さんの契約的にはもう終わっても良さそうだけれど…」
一時的にイギリスと契約を結んだ『追跡封じ』のオリアナの仕事はもう終わったと考えていいだろう
いや、もうイギリス自体が混乱の渦中であるためそんな基準もあるか分からない
オリアナ「けど……まだまだ面白くなるのはこれからみたいね」
ガガ… ザッ…
情報収集に使っていた一枚の単語帳サイズの紙から雑音が聞こえる
オリアナ(カーテナ・オリジナル…テレズマの干渉が酷いわね)
暫く何をしようかと考えていると雑音の中から興味深い単語が聞こえてきた
『のファンダメ……奴だ!……が来て……学園都市は今………』 - 365 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/06(日) 20:10:11.07 ID:BiHcF0mAO
- オリアナ(あらあら…酷いことする輩もいるものね……)
雑音から拾った単語で憶測を立ててゆく
その憶測では一部騎士団が暴走し勝手に動いている状況。学園都市に攻撃をしかけるという最悪な方向に、だが
オリアナ(このテレズマなら探索迎撃はされないはずね…)
それに相手は騎士団。魔術師と比べれば小細工では劣る
オリアナ(お姉さんも、あの坊やを見ていたら……ちょっと熱くなっちゃったわね)
敵である女の子を死力を尽くしてまで救いだしたあの少年
敵であった時も全力でぶつかってきたあの少年に、オリアナもなんらかの熱を受けとっていた
オリアナ「たまには熱くなるのも悪くないわね…」
ゴスロリ魔術師を置いて、『追跡封じ』の魔術師は気まぐれに足を運んだ
別にイギリスのためでも、騎士団への復讐のためでもない
ただの気まぐれで、誰かが少しでも幸せになるのなら
そして、誰かの『礎』を担える役になりたいと――― - 368 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/02/07(月) 21:55:09.26 ID:UmoQY0BAO
- ブロロロロ…
深夜のロンドン郊外に一台のタクシーが走る
クーデター侵略は順調に進んでいるらしく、ロンドン市民が軍により家からの退去を命令されていた
騎士団を把握すると言うことはイギリス国軍も管理下にあるために、軍はこのような仕事をやらされている
勿論ステイルはこのタクシーに人払いの一種である術式を使用しているので、一般の人間である軍人達の検問には引っ掛からなかった
運転手「……て、テロですかね…こんな深夜に…」
流石の運転手も怖じけづいているようだが、後ろのデカい黒服神父と小さな魔女を蔑ろにする訳にも行かないので目的地までは連れていくようだ
ステイル「ああ…ロンドンも物騒になったものだ」
そういうステイルは、正方形のルーンにペンで何かを書いている
ステイル「…………」スッ
無言で小萌に渡すと、ジェスチャーで体に貼れと命令した - 369 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/07(月) 21:56:26.75 ID:UmoQY0BAO
- ステイル《あーあー、聞こえるかい?》
小萌《ああ、はい聞こえるのですー》
それは簡易的な通信魔術だった
ステイル《さすがにこの運転手に話を聞かれる訳にはいかないからね。とりあえず話を要約するよ》
小萌《了解なのです》
ステイル《まず、僕が例の通信から傍受した内容だが…》
ステイル《学園都市攻撃を目論んでる奴らは『キリスト教原理主義者』、ファンダメンタリストという奴だ》
小萌《原理…主義…》
原理主義とはあまりいい響きではない、というのが小萌の印象だ
事実『原理主義』とは右よりな組織であり、某宗教原理主義などはテロリストとして認識されるのが主である
それが危険なのは、政治的な極右でなく、宗教的な極右だからというのが大きいであろう - 370 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/07(月) 21:57:44.34 ID:UmoQY0BAO
- ステイル《元々イギリス騎士団は実に古い歴史を持っていて非常に有能な組織だ》
ステイル《それを見ればファンダメンダリズムが残っていてもおかしくはないが…、それを踏まえ騎士団は内部の改革も行って来たし、イギリス王室指導の下その種の撲滅には力を注いできた》
実際に、十三騎士団が有名なイギリス騎士団であったが、それすらも合理化の波で統合され一つの騎士団としての改革がなされている
小萌《じゃあ何故こんなことが…》
ステイル《ファンダメンダリズム自体は穏やかな形で残っていた、騎士団の誇りとしてね。だがイギリスが学園都市と友好的になったり、そのせいで清教派との中が最悪な状況になったり……。うちの聖人は一人で騎士団の奴らをボコボコにしたしね》
小萌《……………》
ステイル《そんなこともあれば誇り高き騎士のメンツはがた落ちさ》 - 371 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/07(月) 21:58:47.53 ID:UmoQY0BAO
- ステイル《そしてそれに火を付けたのがローマ正教の手引きだ》
小萌《どのような手引きを?》
ステイル《とりあえずは霊装の手引き。他にもいろいろと唆したんだろう》
魔術サイドと科学サイドでここまで混乱化すれば確かに不満も積もる
それが魔術サイドでありながら学園都市の味方をするイギリスならば、もっともな話
ステイル《つまり……当然の如く不満は爆発した。もしかしたら騎士団長や第二王女も見逃しているかもしれない…。そこまでバカだとは思わないが、クーデターを起こすような奴らだ、信用ならないね》
小萌《……………》
学園都市との摩擦はローマ正教とだけではない
イギリス全体にも軋轢は広がっていた
これも時代と状況が生み出した結果なのか?
小萌は両方に属する人間としてそのような自問に捕われた - 372 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/07(月) 21:59:47.64 ID:UmoQY0BAO
- ステイル《それともう一つ、霊装の話だ》
小萌《ローマ正教からの手引きの…ですか?》
ステイル《ああ、奴ら中々面白い物を引っ張り出してきたよ》
懐に手を入れタバコを取り出そうとしたが、車内は禁煙&小萌が無言でムッとなったため止めた
ステイル《………、奴ら日本に攻撃するって言ったろう》
小萌《はい》
ステイル《その霊装だ。しかも日本でしか発動できない非常に稀な霊装。何だと思う?》
小萌《え?……日本限定…、十字教関連なら…天草式とか…》
ステイル《流石にそれはないよ》
小萌《なら幕末頃の話ですかね?シーボルトとかポンペとか、外人さんが多く来ましたし》
ステイル《幕末は大して布教は行われなかったさ》
小萌《なら……戦国時代?》
ステイル《ご名答》 - 373 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/07(月) 22:00:56.84 ID:UmoQY0BAO
- ステイル《上条当麻は伊能忠敬を知らなかったからね、こんな会話も成り立たなかったろう》
小萌《》
上条ちゃん…………
ステイル《話を戻すとその霊装は戦国時代に作られたもの》
小萌《確かに戦国時代にはキリシタン大名が多くて、天草式もそこからの発展ですよね?》
ステイル《ああ、長崎の大名の大村とかいう奴は熱心なキリシタンだったために、長崎をイエズス会に寄進したこともあったらしい。つまり昔の長崎は外国領だったんだよ》
小萌《そんなに影響が……》
ステイル《ちょっと本題からズレてしまったが、ここまで十字教を布教したの誰だと思う?》
小萌《……あっ……もしか…して…》
そう
かの有名な
ステイル《霊装の名前は『ザヴェーリョ・ノート』。フランシスコ・デ・ザビエルの記した魔導書さ》 - 374 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/07(月) 22:01:44.10 ID:UmoQY0BAO
- 小萌《フランシスコ…ザビエル》
ステイル《イタリア語読みではザヴェーリョ、日本語に近く読むとザベリオってとこさ》
小萌《あの人魔術師だったんですか?》
ステイル《魔術界では高名な魔術師さ。イエズス会を立ち上げた一人で非常に有能な魔術師で聖人でもあった》
小萌《せ、聖人……》
ステイル《極東にまで布教したほどの人間だ。聖人でない方がおかしいくらい偉大な人さ》
ステイル《それに魔導書まで書いてみせたと言うんだから、完璧としか言いようがないね》
魔導書記官、聖人、魔術師と3拍子揃った完璧な人物、それがフランシスコ・ザビエル
ステイル《イエズス会日本通信と言うザビエル記した日本布教の報告書みたいなのもあるんだが、実はこれも魔導書を作るための資料だったらしい》 - 375 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/07(月) 22:02:47.89 ID:UmoQY0BAO
- 小萌《じゃあ、逆に何でザビエルはその魔導書を今まで使わなかったんですかー?》
ステイル《彼は人徳ある心優しい人物だった。魔術は人民を守り、神に捧げるものだと信じていた》
ステイル《最初は日本の人民を幸せにさせるべく、布教させるための魔導書を記したが、それは魔術による強制的なものだと悟りこの魔導書は封印した》
小萌《……………》
ステイル《使徒十字よりは強制力がないものの、日本人全員に十字教を信仰させるくらいの力はある》
普通の魔導書は持つ人間に魔導書を『広まらせる』変わりに強大な力を与えるが、この魔導書は限定的で自ら『広まる』という特殊な魔導書である
ステイル《ザビエルも強固な封印をしていたみたいだが、それすらも解いて持ちだしてくるとは、守護聖人を侮辱してまでこんなことをするローマ正教がイカれてるよ》 - 376 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/02/07(月) 22:03:41.80 ID:UmoQY0BAO
- 小萌《とにかく、その魔導書の発動は…》
ステイル《日本でしか発動できない。魔導書自身が日本の地脈などを計算して力にするからね、下手したら日本に着いた途端発動させられる。だからボストンで止める》
小萌《わかりしまた……》
小萌はギュッと小さな箒を握りしめた
外はさらなる闇夜に包まれ、軍のトラックが行き来する程度の閑散ぶりだった
運転手はいよいよ怯えだしたが、黒い神父の険呑にのまれ、仕方なくと言った感じでタクシーは走り続けた
ステイル《偉大なる聖人を侮辱し、魔導書を悪用するのは……実に許し難いな…》
小萌《……それに…学園都市はやらせないです…》
一人の神父と一人の魔女は
イギリスのため、学園都市のため
守らなければいけない国があった――― - 390 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/02/12(土) 21:55:46.42 ID:52HqUasAO
- 時刻はまだ日が過ぎ、やっと夜になった頃だろうか
??「ローマ正教、彼らは極東の人間達をサルと呼び、決して神の教えが伝わらぬ人間と考えている」
円卓を囲む12人の騎士の中の、オペラ歌手のように響くその声は、骨董品よろしく古びた甲冑を纏った大男から発せられる
??「しかし、かの聖人『フランシスコ・ザヴェーリョ』は極東の人々を決して見捨てず、布教活動に殉じた人だ」
??「それは何故か?極東の人々も我らと同じ人間だからだ。だからこそ、科学と言う『行き過ぎた教え』を捨てさせ、『科学と十字教』の両立した世界こそ我らの夢見た世界ではないか?同志諸君よ!」
ワーッ!と小さな部屋が沸き立つ
??「そして我ら『原理主義』、いや『福音主義』は、聖人ザヴェーリョの教えを経て、この時代に一つの灯を迎え入れようだはないかァァァッ!!」 - 391 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/12(土) 21:56:57.97 ID:52HqUasAO
- ワァァァァァァッ!
盛り上がりは最高潮に達し、騎士達は最後の杯を交わしながら迫り来る武者震いを抑えようとしていた
??「剣を取れ!槍を取れ!真実と平和を求めた我ら福音主義こそが正しい、私は胸を張ってそう言える!」
??「このクーデターが成功すれば世界は終息する!輝しき未来に!!」
十字教の教えを守り、原理主義、ファンダメンタリストとまで罵られて来た彼らには輝しすぎる大舞台だった
ガッ
12人の騎士は一斉に立ち上がった
??「『主の元に福音の鐘を鳴らせ!!』」
一斉の掛け声と共に忙しく駆け出した騎士達は手に手に武器をとり、戦場へと向かった
真なる福音を鳴らす
それが彼らの使命
そして騎士達の福音は、もう目の前にあった―― - 392 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/12(土) 21:58:14.23 ID:52HqUasAO
- バタンッ
例のタクシーを降り、黒い神父と小さな魔女は閑散とした海沿いの街を歩いた
ステイル「さて……あの探知が正確なら、『原理主義』の連中に遭うのももう少しだね」
独りごちながらも手は忙しく働いていた
小萌「それは…?」
ステイル「これはルーンさ。僕は小細工の必要な魔術師でね」
黒い服の中に何枚持っているのか、手際よくルーンを展開していた
小萌「にしても…その騎士さん達は本当にザビエルさんのノートで学園都市を…」
ステイル「ファンダメンタリスト、まぁ極右全体に言えることだが、奴らの一番怖いところはそれを絶対的に正しいと思い込むことさ」
ステイル「だから過激な連中は『聖戦』なんて託けて自爆テロを起こす」
小萌「…………」
ステイル「それがある意味宗教の一番恐ろしいところさ」 - 393 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/12(土) 21:59:26.70 ID:52HqUasAO
- ステイル「それに、今の騎士達は『天使の力』を受けている。聖人に近い力を持った奴らと戦う、とでも言っておこうか」
小萌「聖人…………」
神裂やアックアという聖人に近い力。あまりにも強大であった
ステイル「まさか本物のカーテナを掘り出すとは……たまげたもんだ」
小萌「上条ちゃん達は…どうなんでしょう…」
ステイル「上条当麻のことだ…、死ぬようなことはないだろうね」
ルーンを展開する作業を止め、こっそりタバコに手を伸ばしたその時だった
ガチャ ガチャ…
重い金属の触れ合う音…
??「……魔術師か……騎士団の同士討ちよりはマシだな」
ステイル「……………」
??「たった2人での迎えとは、清教派も忙しいのか」
一人淡々と饒舌な喋りの展開を、ステイルは黙々と観察していた - 394 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/12(土) 22:01:38.12 ID:52HqUasAO
- 今目の前に現れている十二の騎士達こそが、『福音主義』すなわち『原理主義』と呼ばれる騎士達であった
ステイル「…これはこれは…、まさか貴方が『原理主義』の連中を従えていたとは…。『騎士副長』(サブナイト)殿」
騎士副長「『必要悪の教会』か……。面白い面子だな」
それは単純に魔女の小萌を見下げて言った言葉だった
ステイル「騎士団の中でも聡明な貴方が、『十字教原理主義者』、ファンダメンタリストだったとはね…」
騎士副長は騎士団長よりも年配で、騎士団長と仲が良い、と言うよりも騎士団長も一目置くような変わった存在だった
誰とでも折り合いはよく、癖のない人物で騎士団の中では珍しいタイプの人間だった
聡明でありつつも独特な雰囲気を醸し出す彼はどことなく謎の人物とも言えた
騎士副長「クーデターはもうじき完了する。貴様達も無駄な抵抗はしない方がいいのではないか?」 - 395 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/12(土) 22:03:11.40 ID:52HqUasAO
- ??「っと、こっちも先を急ぎたい。そこをどくか肉塊になるか、さっさと選んでくれよ」
ステイル「……元先槍騎士団部隊長か…」
騎士副長「ガウェイン、そう早まるなよ」
ガウェイン「ちっ………」
槍を抱えたガウェインと呼ばれた男は不満そうに後ろに下がった
ステイル「ガウェイン……。『円卓の騎士』の真似事でもしているのか。ふん、さすがは原理主義様だ。すると貴方がランスロットかい?」
騎士副長「……まぁコードネームと言ったところだ」
ガウェイン「早く肉塊にされたいようだ、なぁガヘリス」
ガヘリス「ああ、貴重な時間だからな、まだかよランスロット」
ステイル「元鉄斧騎士団部隊長まで……。騎士団全てがバカバカしく思えてきたよ」
騎士副長「我らの信条は一つだ。ただ場を荒らして来た魔術師風情に分からんだろう…」 - 396 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/12(土) 22:04:25.48 ID:52HqUasAO
- ステイル「…なら、どうする?」
空気が歪んだ
そう騎士副長が知覚した時には一拍遅かった
あの神父も後ろの魔女もいない
その時、後ろから爆音が鳴り響く
ステイル「『吸血殺しの紅十字』!!」
ドバァァァッ!
本物の魔術師の炎は存外鮮やかに輝くものだ、と騎士副長は感じていた
ステイル「魔術師が場を荒らしてきた?貴様らみたいな世間知らずの宗教右派団体には言われたくない台詞だな!」
ドバッ!
炎とは別方向からの謎の衝撃に一人の騎士が吹っ飛んだ
小萌「学園都市へは…行かせません!」
騎士副長「ふんッ!目くらましからの奇襲とは、さすが魔術師だな」
ステイル「古い考えばかりに固執する原理主義のざれ言よりマシさ…」
ステイルが後方に姿を現すと既に12人の騎士達は迎撃の陣を為していた - 397 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/12(土) 22:06:21.10 ID:52HqUasAO
- 騎士副長「同志よ!この魔術師はたった今から大英王国の敵となった!!」
ワァァァッ!と12人とは思えないような歓声があがる
ガウェイン「そうこなくてはな!!」
一級品の量産聖槍(ロンギヌス・レプリカ)を担ぎ、ガウェインは槍を前に繰り出す
小萌「魔法名は『smilers100』――学園都市はやらせませんッ!」
ギンッ!
量産聖槍に対し小萌の箒が鎬を削る
ステイル「さあて……僕も名乗らせてもらおうか…」
ゾワッ…と、何か雰囲気の違う炎の魔術師に騎士達すら後退りをする
ステイル「魔法名は『sacrificium931』、【我が身は守る人の生け贄となれ】!!」バッ
小萌「……ッ!?」
小萌がローラから聞いていたには、ステイルの魔法名は少なくともこんな名前ではなかったはず…
【守る人の生け贄】
それは二人の女性を命にかけた、ステイルの全身全霊の言葉だった―――― - 410 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/02/17(木) 22:41:34.42 ID:UvTTLcBAO
- ステイル「『巨人に苦痛の贈り物を!』」ドバァッ
騎士達の陣を割るように巨大な炎剣が頭上から降りかかる
ステイル自身が天草式の布陣などを参考にルーンの配置を意識して変えてみた結果、文字通り火力が数段上がっていた
ガヘリス「芸がないなぁ、魔術師!!」バッ
それでも分厚い防御術式の盾と鎧には炎は通じず、鉄斧騎士団部隊長のガヘリスが襲い掛かる
ステイル(『鉄の斧』………イソップ童話をモデルとした霊装とは珍しいな)
ガヘリスの持つ斧は『鉄の斧』
イソップ童話『金の斧』がモデル。この『鉄の斧』は泉の女神である古代ギリシャのオリュンポス十二神の一柱であるヘルメス神の与えた霊装だと言われる。
ヘルメスは能弁、体育技能、眠り、夢の神とも言われ、この『鉄の斧』は手に持つと、思考するだけで斧が自ら動くという優れた霊装である - 411 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/17(木) 22:43:22.32 ID:UvTTLcBAO
- ガヘリス「遅ぇなッ…!」バッ
『天使の力』の恩恵と『鉄の斧』の斧とは思えない俊敏性は高く、すぐさまステイルに斬り掛かる
ステイル「仕方ない、魔術師の戦いって奴を教えてやるよ」
モワァ……
霧がかかったと思った時にはステイルの体は真っ二つに斬れ、消えた
ガヘリス「なん…だ…」
ガウェイン「怯むんじゃねぇガヘリス!」
戦争屋である騎士団は小細工を得意とする魔術師との戦いは不得手だった
とは言ってもこの力の差では騎士達が圧倒的に有利なのは変わりない
騎士副長「ただの目くらましだ…」
先程の魔女もいない
こちらが有利な状況で出を探るのは有効な手段であろう
ガウェイン「ほら、皆自慢の武器を用意してきたんだろ。なら仕事させなきゃなぁ」
各々が自慢の武器をこの日のために調達、調整してきた
騎士副長「ああ…相手は二人とはいえ武器を振るうには問題ない」
福音を奏でる武器が、各々の手に握り締められる - 412 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/17(木) 22:44:19.63 ID:UvTTLcBAO
- 小萌(…前回の時みたいにはいかないですねー…)
2対12では分が悪い
上空の魔女とりあえず様子を伺っていた
小萌(じゃあ、こっちは派手に行かせて貰うのですー)バッ
騎士達の頭上から魔女が落ちてきた
小萌「ほいッ!」ドッ
ドガァッ!エーテルをそのまま力のハンマーと化し、騎士達へ叩きつけた
ガウェイン「魔女狩りとは、懐かしいな!!」バッ
飛んだガウェインを小萌が迎撃する
ドバッ ギリッ!
小萌「上空では私の方が有利みたいですねー」パッ
ガウェイン「ッ!?」
ドバンッ!
調子に乗ったガウェインを地面にたたき付ける
ボワァァァ
下ではステイルが火力頼みに炎を展開している
小萌(この調子なら…)
姿を隠しながらの上と下から奇襲、だったが騎士達も無能ではない - 413 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/17(木) 22:45:09.40 ID:UvTTLcBAO
- 騎士副長「上の魔女が邪魔だ。トリスタン」
トリスタン「了解」
ギギギ……
トリスタンと呼ばれた騎士は返事と同時に既に弓を引いていた
バッ! ダグッ!
小萌(弓…矢……!?)
小萌は思わずバランスを崩した。ただの弓矢ではなく、かなり高威力である
幸い上空飛行の際には分厚い防御術式を施してあるが、それをも破るようなミサイルのような威力の弓矢だった
ステイル(ちぃ……『必中聖弓』(フェイルノート)か…)
円卓の騎士の一人トリスタンが作ったと言われる弓の霊装
それ自体にも改造が施してあるためにかなりの威力を誇る弓である
ステイル(あんな霊装…どこから引っ張り出してきたんだ…!)
ローマ正教の手回しか、とにかく手に追えないほどの霊装揃いであった - 414 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/17(木) 22:45:49.28 ID:UvTTLcBAO
- ステイル《月詠小萌、こいつらの霊装は正面から当たって勝てるものじゃない。奇襲を中心に動くんだ》
小萌《了解ですー!》
ステイルと小萌は暗闇に身を隠すが追撃は止まない
ドバッ バシュッ!
小萌「くっ…」
1対多数の形に不慣れな小萌は本来の実力も発揮できずに追撃をくらう
しかし無数の槍と剣が繰り出される戦いだが、炎の魔術師は勇敢に戦っていた
ステイル「我が身を喰らいて力と為せ!顕現せよ、『イノケンティウス』!!」
グワアアアアァァァ!
炎の巨人の咆哮が海辺近くにこだまする
予想よりも遥かに巨大な『イノケンティウス』に騎士達もたじろいでいる
ステイル「凌げよ…イノケンティウス」
小萌「ここからですよー!」
すると『万物に似ている』というエーテルを支配する小萌は箒を槍のように持ち出した - 415 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/17(木) 22:46:32.38 ID:UvTTLcBAO
- ガウェイン「槍術の真似事かぁー?」
嘲笑するガウェインに構わず、小萌は遠間から一突きした
ガゴンッ
ガウェイン「がっ……!?」
転倒するほど強い衝撃が鎧を無視して体に伝わった
小萌「エーテル使いを舐めないことですねー」
ガウェイン「魔女……ッ!」
『天使の力』を受けている今、生身でくらっても倒れはしないものの、ダメージは蓄積される
ガウェイン「ガァァッ!!」
ギンッ!
鮮やかに槍を繰り出したガウェインはやはり本物の騎士だと言えた
優秀な魔術師であるが体術、格闘術まで心得ていない小萌に槍は厳しかった
小萌「………ッ!」バッ
苦汁の表情を浮かべる小萌
ギシッ ドガッ!
他にも多数の騎士を相手にしているこの状況は、やはり優勢とはいえなかった - 416 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/17(木) 22:47:33.26 ID:UvTTLcBAO
- 小萌「『第五の元素エーテルは万物類似の特性を示す』!」ギッ
バムッ!
空間が凹むような衝撃が伝わり騎士達は吹っ飛ばされる
しかし戦い慣れている騎士には吹っ飛ばされるのはむしろ好都合であり、その隙に陣を変えたり攻撃を仕掛けたりする
小萌(『陣』そのものは崩せない……!?)
これこそが『現代の騎士』の表れであり、戦闘方法であった
個々は突出せずにカバーする形での戦闘形態
ステイル《このままじゃジリ貧だ…、月詠小萌、貴女は一旦下がれ》
小萌《……了解です…》
ステイルのイノケンティウスの弱点も騎士達は知らないわけではない
さすがに数万枚のルーンを剥がそうとは思わないが、空気、水といった属性術式で攻撃すれば動きは鈍くなり弱ってゆくのだ
ステイル(イノケンティウスも…絶対完璧な魔術じゃない…)
何だか魔法名に『最強』とか入れてた自分が恥ずかしく思えた - 417 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/17(木) 22:48:42.04 ID:UvTTLcBAO
- 小萌「ふっ!!」バッ
フワッと空に浮いた小萌は騎士達の追撃をうまくかわせた
トリスタン「しぶとい魔女だ……」ギギギ
バンッ
小萌「……ッ!?」フッ
放たれた弓矢は強く誘導し小萌をかすめたが、小萌はその矢を叩き落とした
ガウェイン「隙が多いなぁッ!!」バッ
その隙をつくように高く真上に跳躍した槍の騎士ガウェインが小萌の横に位置した
小萌「……ま…」
先程の矢で態勢は著しく崩れた
ここで攻撃を受ければ間違いなく地面に落とされる
そうなれば、もう逃げられない…
しかし、その瞬間だった
ブワァァァッッ!
風の砲弾、と呼べるような現象がガウェインにぶち当たっていた
ガウェイン「がぁッッッ!……な…に……」ザッ
ステイル「風の…術式だと…」
??「『Wind Symbol/海風の砲弾(シーバースト)』っていう説明でよかったかしらね?」
海風の強い浜辺を、一人の女が歩いていた
ステイル「…オリアナ…トムソンだと…」 - 418 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/17(木) 22:49:43.77 ID:UvTTLcBAO
- オリアナ「あ~ら、坊やだったのね。今回は足手まといになってないかしら?」
ステイル「貴様……どちらの味方だ」
突如オリアナの参戦に戸惑うステイル
オリアナ「酷いわねぇ、今の攻撃を見てなかったの?」
騎士副長「すると…貴様は我らの敵か」
オリアナ「その通りよ、『福音の騎士』さん」
ガウェイン「『追跡封じ』のオリアナ・トムソンか……。調度いい、今までの因縁を晴らしてやるよ!」
オリアナ「因縁?まぁそんなこともあったかしらねぇ…」
ステイル「まさか騎士団まで敵に回していたとはね…」
オリアナの本職は運び屋であり、凄腕の魔術師でもある
そのために幾度かイギリス騎士団まで相手にしていたことはあるが、大抵はオリアナが逃げ切る形で勝利していた
ステイル「……貴様のことだ、僕達に味方する意味は深く問わないが…油断するなよ。奴らはそこらの騎士とは違う」
オリアナ「分かってるわよ。お姉さんだって覚悟ぐらいあるもの」 - 419 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/17(木) 22:50:37.22 ID:UvTTLcBAO
- するとオリアナはビリッと単語帳のようなものを口で破る
小萌「ルーン…じゃない…、単語帳?」
ステイル「『速記原典』、タチの悪い『原典』の一つさ…」
身をもってその『タチの悪い原典』を体感していたステイルに、オリアナの強さは痛いほど分かっていた
オリアナ「お姉さんの魔法名は『Basis104』【礎を担いし者】。ということで、あなた達の好き勝手されると世界は無茶苦茶になっちゃうの。わかる?」
フッ
破いた単語帳の紙を優しく吹くと、同時に水の槍が騎士達の陣を割った
ドバァァァッ!
ステイル(やはり…コイツもとんでもない化け物だな…)
応用性にすぐれたオリアナは1対多数の戦闘にも慣れており、そして『陣』そのものを崩すことにも周知していた
オリアナ「さあ…『福音の騎士』さん達は、どこまでお姉さんを楽しませてくれるかしらねぇ?」
異色の魔術師3人が揃った
そしてここから、本当の戦いが始まろうとしていた――― - 425 : ◆hgtZ6E9g5E[saga]:2011/02/24(木) 21:03:59.33 ID:B0zyUUEAO
ガウェイン「この手の魔術師が3人と来たか……。ふん、面白そうじゃないか」
ドスンと槍を短く持ったガウェイン
そろそろ『遊び』が終わりということを示しているらしい
オリアナ「この国はクーデターで今大変なの。だからお姉さんもあなた達だけに構っていられないわ。分かるかしら?」
そんなオリアナの挑発に乗らないところはさすがにエリートの騎士達だ
陣を変えたと思えば12人を割り振り4対1の形で囲みだす
ビリッ
ガウェイン「ッ!?」
警戒していたガウェインだったが、気づいたらオリアナは速記原典を書き終えていた
ガウェイン「貴様…ッ!」バッ
咄嗟に前に出たガウェインだったがオリアナの魔術はもう発動したらしい
オリアナ「『Wind Symbol/潮風の重量』」
ガウェイン「ぐっ…!?」ドッ
ガウェインの体は一気に重くなった- 426 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/24(木) 21:05:05.32 ID:B0zyUUEAO
- オリアナ「武具の重さを変える魔術よ。いいハンデじゃなくて?」
ガウェイン「…ああ、4対1じゃつまらんからな…」
ガウェインの発言は見栄を張ったものではない
事実騎士達もそんな考えなのだろう
ガウェイン「これで遠慮はいらねぇな!!」バッ
ビュッ!とガウェインの槍が先程よりも速く繰り出される
オリアナ(さすがに精鋭をかき集めた『福音の騎士』…お姉さんの肉弾戦じゃ話にならないわね…)
オリアナの魔術というのは万能に近いが万能な訳ではない
その時の自身のコンディション、環境により存外制限されている
今の環境の場合は海辺な為に、使うのは風と水属性が有利なのだ
オリアナ(逆に…決定打はない。そこはあの二人に任せるしかないわね…)
それがオリアナの分析であった - 427 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/24(木) 21:06:04.99 ID:B0zyUUEAO
- ステイル「『吸血殺しの紅十字』!!」ドバッ
文字通り高火力で騎士を翻弄するステイルだったが、彼の魔力も無限ではない
ステイル(環境は海辺…。僕の属性との相性は最悪だ…)
本来ならばルーンにより周囲の地脈などの恩恵を少なからず得られのだが、海辺という環境ではそれも期待できなかった
案の定イノケンティウスもフル稼動は難しく今は出現できないのだ
ガヘリス「なんだ?芸がないんじゃないか炎の魔術師!」バッ
さっきよりは速度は落ちたとはいえ、スムーズな動きをみせる『鉄の斧』は非常に厄介だった
ステイル「まさか」バァッ
ステイルは両手から球状の炎を爆発させるとガヘリスはそれをもろに喰らう
ガヘリス「ぐっ…危ねぇなコイツは…」
瞬時に『鉄の斧』によりガードしたガヘリスはまだピンピンしていた
ステイル「…まだまだ、僕の『マジック』はこれからさ」
まだまだこんなものでは終われない
それが今のステイルだった - 428 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/24(木) 21:06:54.77 ID:B0zyUUEAO
- 騎士1「ダァァッ!」バッ
小萌「はっ!!」ビリビリ
小さな魔女、月詠小萌はまだまだ戦っていた
小さな箒の先にはエーテルにより帯電させた『エーテルの雷』が宿り、多様に変化する技にさすがの騎士達も焦りを感じていた
小萌「さっきより威勢がよくないですねー?」
騎士副長「…………」
騎士副長は相変わらず剣すら抜かずに傍観していた
騎士1「魔術師風情に何が分かるかァ!!」バッ
ドガッ!剣を振り回す騎士だったが小萌には当たらない
小萌「分かりたくもありません!あなた達のやっていることは……」
小萌がフラフラの騎士に対し、箒を振りかざした時だった
ガギィィンッ!
騎士副長「決着は、私の手でつけよう」
小萌「……ッ!」
急に飛び出した騎士副長は剣と箒を切り結んだ - 429 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/24(木) 21:08:05.28 ID:B0zyUUEAO
- 騎士副長「この剣を抜いたからには、もう後戻りは出来んぞ」
小萌「…………ッ」
気迫に満ち溢れた騎士副長だったが、小萌から見てもあまり特殊な剣には見えなかった
ただしかし
小萌は確実におされていた
ギギギギ…
小萌(そん…な…)
バッ!と小萌は距離をとった
騎士副長「後戻りは出来んと言ったはずだ!」バッ
ギンッ!ギンッ!
しかし騎士副長の猛攻はとまらない
小萌(この剣が…いや…攻め方が違う!?)
騎士副長の攻め方は直接小萌に斬りかかるというよりかは、わざと箒に切り結ぶような振り方なのである
騎士副長「箒の調子でも悪いか?」ギンッ
小萌(箒の…調子?)
ふと小さな箒を見ると、既にボロボロで激しく消耗していた
小萌(ま…さか…)
騎士副長「それがこの剣の特徴、とでも言っておこう」 - 430 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/24(木) 21:08:58.77 ID:B0zyUUEAO
- 騎士副長「かの『聖剣』、エクスカリバーを作りだした魔術師マーリン。その魔術師は何を恐れたと思う?」
小萌「!?」
魔術師マーリン、イギリスにおける伝説的な魔術師として名高い。エクスカリバーを作った魔術師としての技術も相当なものだった
騎士副長「自らが作りだした『聖剣』そのものだ」
小萌「……………」
騎士副長「『武器を殺す』為の剣。それが『聖剣殺しの剣』(キル・カリバーン)」
小萌「……………ッ」
騎士副長「さすがに箒を相手にするのは少しばかり本来の用途とは違うから手間がかかるようだな」
バッ!と再び前にでてくるとまたもや箒に向かい剣を振り下ろす
騎士副長「騎士団長の『ソーロルムの術式』もこいつとならいい勝負ができるものだ」
『ソーロルムの術式』で攻撃力をゼロにされようが、騎士団長のフルティングに触れてさえしまえば『殺せる』のだ - 431 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/24(木) 21:10:24.04 ID:B0zyUUEAO
- 小萌「『エーテルの雷は弓となり矢となれ』」
ブゥン…
淡く光るエーテルに包まれた雷の矢は、雨のように騎士副長に降り注いだ
騎士副長「つまらんな」
バシッバシッ!
まるで虫を追い払うように矢を払った
騎士副長「魔術そのものを消すほど万能ではないが、干渉そのものは受け付けん。故に壊れはしない」
別名『不壊の剣』と呼ばれたその剣は、テレズマのような莫大な魔力はともかく、魔術の干渉は受け付けず物理的な干渉もほぼ受けないために長年新品同様で運用されていた
騎士副長「さあどうするか、『エーテルの魔女』?」
窮地とはこのことだろう、小萌はそう思うしかなかった
そして小萌はもう一つ思ってしまった
ヒーローとは
この窮地に現れるものなんだと――――
ズバァァァァッッ!! - 432 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/24(木) 21:11:59.75 ID:B0zyUUEAO
- 水面から何かが飛び出して来て、それは瞬時に小萌の目の前を駆けていった
騎士副長「あ………」
騎士副長の腹から背にかけて走った青白い光
小萌「―――――!?」
状況が飲み込めないのは無理もない
それは実に『速い』から
騎士1「な………ぁ……」
情けない声を上げた騎士
小萌はその騎士の方向へ振り向くと、騎士は地に伏せていた
ステイル「……ば…バカ…な………」
オリアナ「……………」
ほかの騎士達も例外なく倒れていた
ドスッ
3人の魔術師の後ろの方で何かを地上に刺す音がした
??「『福音の騎士』……まるで予想外のことをしだすのであるな」
小萌「ッッ!?」
聞き覚えのある声
アックア「こんなバカげた幻想を持つ騎士達にばかり構っていられないである。貴様達も早く第二王女との決戦へ合流しろ」
小萌「後方の……アックア…」
かの聖人、後方のアックアだった―――― - 433 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/24(木) 21:12:47.45 ID:B0zyUUEAO
- 小萌「あ……あなた…は…」
アックア「もう神の右席ではない。今はとりあえずこの国の内乱を抑えるのが私の目的である」
見るからに巨大な剣『アスカロン』を地上に刺し、右手で支える姿だが
左腕が、ない
小萌「あなた…その左腕は…」
アックア「貴様がやったのである。貴様のあの術式から逃れるのに左腕一本が代償なら安いものである」
小萌の発動した『グリム・セオレム』
『神の右席』そのものの矛盾を魔術化する対神の右席の魔術
それにより絶命したと思われていた後方のアックアが再び小萌の前に現れたのだ
アックア「しかし、幸い聖人の力を自由に振るえるほどの『聖母の慈悲』は残っているからな」
小萌「で、でもなんで…今…」
アックア「少し小細工をしてる最中である。その最中に『福音の騎士』の存在を知った。さすがに『聖剣殺人の剣』と真っ向勝負は避けたいから不意打ちをしたまでである」 - 434 : ◆hgtZ6E9g5E[saga sage]:2011/02/24(木) 21:13:50.12 ID:B0zyUUEAO
- ステイル「…ということは上条当麻達の状況も知っているのかい?」
アックア「ああ、今は第二王女との決戦に向かっている」
ステイル「……なら早く行った方がよさそうだ…」
アックア「だから早く行け。私はもう少し時間が掛かりそうである」
ドバッ!!その言葉を残し、片腕の聖人は闇夜の街に飛び去って行った
ステイル「まさか…生きていたとはね…」
小萌「……………」
急な展開だったが、とにかくアックアは味方だということは証明された
オリアナ「…ならお姉さんはこれ以上参戦しても無駄そうだし…、とりあえずこの騎士達の後始末をしておくわ」
ステイル「分かった。ならば月詠小萌、次は決戦だ」
小萌「……………」
ステイル「…覚悟は…出来てるかい?」
小萌「覚悟なら、魔術師になった時から出来てるのですよー」
いつもの軽い調子で返事をした月詠小萌とステイルは、遂にクーデター決戦の場へと舞台を移す
戦いを終わらす、たったそれだけの簡単な理由だった――― - 435 : ◆hgtZ6E9g5E2011/02/24(木) 21:15:46.94 ID:B0zyUUEAO
- ということで微妙に原作と違う展開になりました
次は対キャーリサ戦! - 436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/02/24(木) 21:17:03.45 ID:JlWrGeoXo
- アックアさん来たああああああああああああああああああああ
- 437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/24(木) 21:36:16.74 ID:orJ2gGKT0
- まさかオリアナだけでなくアックアまでくるとは
展開もおもしろいしわかりやすい、なにより発想が良い
まあ何が言いたいかと言うと乙ってことなのよ - 438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金) 11:44:05.30 ID:hKlOHQsAO
- 片腕…だと…
それはそれでカッコイイが
乙 - 446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/03/27(日) 11:23:16.72 ID:BSYgiMtAO
- 追いついたがこっから気になるな…
ツヅキマダー? - 448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/03/27(日) 20:51:16.04 ID:dD+z/kbbo
- 地震からいまだに生存報告が……?
- 449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)[sage]:2011/03/29(火) 20:33:39.21 ID:r18qmbDd0
- >>1、無事なら報告してくれ……
- 450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/04/11(月) 23:49:40.49 ID:D42sAI9+0
- >>1、応答を願う
- 454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/04/15(金) 21:15:34.71 ID:LWrO9dkLo
- 地震ってか、その前から行方不明なわけだがwwwwww
- 455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)[sage]:2011/05/10(火) 12:23:47.20 ID:+qaC6MMpo
- もう…駄目なのか…
2013年10月31日木曜日
小萌「魔法名は『smilers100』【生徒達の笑顔のために】ですよー」
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