- ※未完作品
- 2 :872011/05/03(火) 10:09:41.35 ID:X4a4zsMV0
- 【初春飾利】
その日。私こと、初春飾利はとある女の子と出会った。
名前は打ち止め。なにかの能力名だろうかと、私は勝手に分析した。
空色のキャミソールの上から、男物のワイシャツに腕を通して羽織っている女の子。
アホ毛が目立っている、どこにでもいる女の子に見えた。
その少女は迷子を捜しているらしい。
ちょっとした縁で、私は打ち止めとその迷子を捜すべく、学園都市を歩き回っていた。
だが、この学園都市は広い。
東京都の三分の一を円形に占めているほどだ。
その広い学園都市の中を、少女の感覚で歩き回っていたのだが、長時間歩き回って少し疲れてきた頃だった。
歩きつかれた打ち止めと私は、とあるオープンカフェに向った。
最初は机に突っ伏していた打ち止めも、通りすがりの少女達が持っていた
チェーン系の喫茶店のセットについているキーホルダーを見て、一人で喫茶店へと向っていった。
私は私で、大型甘味パフェを注文してそれを味わっていた。
そして打ち止めが喫茶店へと一人で向った後、それは起きた。
ちょうど私が大型甘味パフェのアイスクリームゾーンに入ったとき、声をかけられたのだ。
「失礼、お嬢さん」
スプーンを動かすのをやめて、私は声のするほうへと顔を向ける。
そこには背の高く、なんだかガラの悪そうな男の人が立っていた。
右手には機械で出来た怪しげな爪の装飾をつけている。
その人は風貌に似合わない、柔和な笑みを浮かべていた。
「はぁ。どちら様ですか?」
「垣根帝督。人を探しているんだけど」
その垣根と名乗った人物は一枚の写真を取り出して。
「こうゆう子がどこにいったか、知らないかな。最終信号って呼ばれてるんだけど」
「……」
その写真に写っていたのは、さっきまで私と一緒にいた女の子、打ち止めだった。
この人はあの子を狙っている……?
もしそうなら、あの子が危ない。
私は写真と垣根と名乗った男の人を交互に見て決意する。
首を横に振り、言う。
「いいえ。残念ですけど、見てないですね」
「そうか」 - 3 :872011/05/03(火) 10:11:39.54 ID:X4a4zsMV0
「どうしても見つけられないなら、『警備員』の詰め所に届け出を出した方が良いと思いますけど」
「そうだね。その前にもう少し自分で捜してみる。ありがとう」
その人はにっこりと笑い、立ち去る。
ほっとして私はスプーンを動かし、大型甘味パフェのアイスクリームゾーンに突入しかけた。
そのとき。
「ああそうだ、お嬢さん。言い忘れていたことがあるんだけど」
「?」
私が顔を上げようとする前に次の言葉がきた。
「テメェが最終信号と一緒にいた事は分かってるんだよ、クソボケ」
その言葉とともに凄い衝撃がこめかみに走り抜けた。
殴られた――
そう気付くときはもう頬には床の冷たい感触がしていた。
自分の足がもつれ、椅子やテーブルを倒してしまう。
さっきまで自分が食べていた大型甘味パフェが、潰れた果物のように路地に散らばる。
本当に一瞬の出来事。
周囲から悲鳴が響く中、私は何がおきたか分からなかった。
だからとりあえず立ち上がろうと力を入れたとき。
右肩に大きな力が加わった。
「だから俺はこう尋ねたんだぜ。『こういう子を知りませんか』じゃなくて、『こういう子がどこへ行ったか分かりませんか』ってな」
「……ッあ!」
グゴキッ! という鈍い音とともに、骨と骨を擦り合わせるような激痛が走った。
痛い 痛い 痛い ――!!
その痛みに耐えられずにのたうち回りたくなるほどだった。
けれど私の右肩を踏みつけている人物、垣根帝督の足は鉄柱みたいに動かない。
表情も少しも変えずに、見下ろしている。- 4 :872011/05/03(火) 10:14:06.02 ID:X4a4zsMV0
- 「テメェが俺の動きに気づいて最終信号を『逃がした』って訳じゃねえのは予想できる。
俺は外道のクソ野郎だが、それでも極力一般人を巻き込むつもりはねえんだ。
だから協力さえしてくれりゃ、暴力を振るおうとは思わない」
周囲の人物は誰も助けてはくれない。
この風紀委員の腕章のせいだろう。
でも誰でもいい。助けて欲しかった。
だってこんなに痛い。
今まで風紀委員の仕事で、怪我をすることはあったけれど。
今までで一番痛い……!
垣根はさらに私の肩を強く踏みつけてくる。
「……ただな、俺は自分の敵には容赦をしない。何も知らずに最終信号に付き合わされたのならともかく、
テメェの意志で最終信号を庇うって言うなら話は別だ。頼むぜーお嬢さん。
この俺にお前を殺させるんじゃねぇ」
グギギガリガリ!!
さらに鈍い音とともに、強烈な痛みが体中を支配するように広がる。
その痛みに、理不尽さに。
いつの間にか涙がぽろぽろと溢れていた。
怖い。 痛い。 助けて。
涙を流しながらも周りを見ると、みんな怯えて助けようとするものは一人もいない。
ゆっくりと目線を上に上げると、表情変えずに垣根が私の方を足で踏みつけてくる。
恐怖と激痛に支配されているなかで、垣根は一つの逃げ道を提示する。
「最終信号はどこだ」
激痛に点滅する意識の中で響いた声。
「それだけを教えれば良い。それでテメェを解放してやる」
もし私が打ち止めの居場所を教えたら、この痛みから逃れられる。
だけど。でも。
私の腕にかかっているのは風紀委員の腕章。
そう。私は風紀委員。
なにを考えていたんだろう。
助けてもらうんじゃない。助ける人なんだ――!
私は決意する。 - 5 :872011/05/03(火) 10:15:25.22 ID:X4a4zsMV0
「――――――――」
激痛に冒されながらも、唇をゆっくりと動かす。
涙をぽろぽろと流しながらも、その言葉を綴る。
自分の無様さに歯噛みしながら、私は告げた。
「……、なに……?」
垣根帝督の眉が、理解できないようにひそめられる。
私はもう一度、震える唇を動かした。
「聞こえ、なかったんですか……」
ありったけの力を込めて。
「あの子は、あなたが絶対に見つけられない場所にいる、って言ったんですよ。
嘘を言った覚えは……ありません」
馬鹿にするように、舌までだして告げた。
その言葉を聞き、垣根帝督はしばらく無言だった。
「……良いだろう」
そして彼は私の肩から足をどけ、そのまま頭を狙ってピタリと止め。
「俺は一般人にゃ手を出さないが、自分の敵には容赦をしないって言ったはずだぜ。
それを理解した上で、まだ協力を拒むって判断をしたのなら、それはもう仕方がねえ」
「だからここでお別れだ」
ブォ! っと風圧に私は思わず涙を溜めた目を瞑った。- 6 :872011/05/03(火) 10:17:56.97 ID:X4a4zsMV0
- ―――――
―――
私は勢いよく飛び起きた。
「……今のは、夢?」
気付くと自分の体には汗が溢れて、目にも涙が溜まっている。
あの時のことはもう昔のことなのに。
たまにだが、夢に見ることがある。
今までで一番怖かったことであり、一番怖い夢。
「もう……終わったことです」
あの後、私の頭は踏み潰されることはなかった。
あの人が足を踏み下ろす直前に学園都市第一位の一方通行が現れたからだ。
そして私が聞いた限りでは。
”学園都市第一位の一方通行は、学園都市第二位の垣根帝督を殺した。”
ということだけ。
あの人が第二位というのも驚いたけれど、第一位に助けられたのも驚いた。
そしてそれ以前に、助かったことにほっとした。
もう今では右肩の怪我も治り、あの悪夢も見ることがなくなったっていうのに。
なんで今日見てしまったのだろう。
「……とりあえず、シャワーでも浴びますかね」
時計を見ると朝の5時過ぎ。
今日は学校があるとはいえ、早く起きすぎてしまった。
この気持ち悪い汗も落とすために私は二段ベッドの上からゆっくり下りた。
静まり、冷え切っている部屋。
この部屋もまた私一人になってしまった。
この部屋に一緒に住んでいた春上さんは、中のいい友達が通う中学校へと転校してしまった。
少し寂しかったけれど、今は春上さんが楽しくやってるようでよかったと思う。
気分を入れ替え私は浴室へと向う。 - 7 :872011/05/03(火) 10:19:18.06 ID:X4a4zsMV0
- 普段より早く起きた私は少し早めに学校にでた。
早めにこの暗い気分を変えたかったからだ。
けれどもう12月だけあって、空気は冷え込み吐く息が白い。
少し明るい空には雲ひとつなかった。
「はぅ……。やっぱり寒いですね」
コートにマフラーを完備してますが、手袋も必要でしたね……。
でも、手袋ってうちにありましたっけ?
……今度買いに行きましょうか。
「うーいーはーる!」
バサァッ! と音とともにスカートが中にまった。
と同時に冷たい風が足に……!
「って、佐天さん!!」
「えへへー。おはよー、初春」
後ろを振り返ると、佐天さんが笑顔で手を振っていた。
あっ、赤い手袋ですか。
温かそうですね……。
「ん? 初春、手が悴んでるよ。ほら、ぬくぬくー」
佐天さんが私の両手を包むように温めてくれる。
温かいです……。
やっぱり、手袋も必需みたいですね!
「ところで、佐天さん。今日は早いんですね」
「うん。今日は日直だしねー。にしても朝早くとかだるいねー」
「今は寒いですもんね。今日も特に冷える見たいですよ」
「うわー。どうりで今日は一段と布団から出られなかったわけだわ」
そんな、たわいもない話をして通学路を歩く。
空はだんだんとなり始め、通学路にも生徒の歩く姿が見え始めた。
みんな、寒そうにしながら歩いている。
「初春も早いじゃん。こんな寒い中よくおきられたね」
「私は……ちょっと悪い夢を見ちゃって」
「悪い夢……?」
再びあの出来事がフラッシュバックされる。
因みに、佐天さんたちには私が風紀委員の活動中に怪我をした。ということしか知らない。
第二位にやられた、ということは言ってない。
そのときはあまり思い出したくなかったし、佐天さんたちも詳しく聞かなかったからだ。
「……夢なんてね。あんまり気にしないほうがいいよ、初春」
「……ですね」
「どうせ夢なんだし! 思い込んでも仕方がないさー! 前向きに行こう!」
「……はい!」
こういうときの佐天さんは凄い。
一瞬で気分を変えさせてくれるのだから。
辛いときも悲しいときも、一瞬で笑顔に変えてみせる。
「ってことで初春。ちょっと日直手伝ってね」
「えっ! それは自分でしてくださいよ!」
こうして、私は悪夢のことなんて忘れていった。
だけどまた、あの悪夢に出会うことになるとは想像もしなかった……。 - 14 :872011/05/04(水) 15:16:12.19 ID:8SUUmgK10
- 【???】
「そもそも、何で俺とオマエが第一位と第二位に分けられてるか知ってるか」
真っ白の髪、赤い目をした人物は、笑いながら両手を広げて言った。
「その間に、絶対的な壁があるからだ」
そして勝負は一瞬で決まった。
何故アイツが第一位で、俺が第二位なんだ。
なんで俺は『第二候補』なんだよッ!
ソイツが真っ黒の心の中で叫ぶ。
「どれだけ暗い世界にいようが、どれだけ深い世界にいようが、必ずそこから連れ戻す、……だと……」
そんなことは不可能だ。この学園都市の闇はそんなに甘くない。
これが俺たちの世界だ。
これが闇と絶望の広がる果てだ!!
結局テメェは俺と同じなんだよ、一方通行。
誰も守れやしない。
これからもたくさんの人が死ぬ。
俺みてえな人間に殺される。
オマエだって俺と同じ。
今までだってこんな風に大勢の人間を死なせて来たんだろうが。
そうだ。
俺やオマエみたいなヤツには、もう光の世界なんて戻れねえ。
なのに何故だ……?
ソイツが真っ黒の心の中でうめく。
「ォォォおおおおおおおおおおおおおッ!!」
あの時のアイツの背中から弾け飛んだ、どす黒い翼。
たしかにすげえと思ったさ。
あっという間にそれは数十メートルも伸びアスファルトを薙ぎ払い、ビルの外壁を削りとったのだから。
「スゲェな……。スゲェ悪だ。やりゃあできんじゃねえか、悪党。
確かにこれなら『未元物質』は『第二候補』だよ。
ただし、そいつが勝敗まで決定するとは限らねえんだよなあ!!」
俺は六枚の翼を展開する。
第一位の力を目にし、今まで感じた事もないほどの力が、体中で暴れているようだった。
これで、学園都市の第一位と第二位の順位は逆転された――
「ははははは!! はははははははははははッ!」
この俺が、垣根帝督が第一位だッッ!!
ソイツは真っ黒の心の中で確信した。
- 15 :872011/05/04(水) 15:16:42.05 ID:8SUUmgK10
- 俺は六枚の翼を一方通行に叩きつけた。……はずだった。
それは一瞬だった。
まるで世界がぐにゃりと曲がったように見えた。
そして考える暇もなく、俺の体はアスファルトにめり込まれていた。
ブチブチという音とともに『ピンセット』を装着した右手が肘の辺りから一気に千切れた。
強烈な痛みが俺を襲う。
一体、何が起きた? 何が一体――ッ!!
アイツはただ緩やかに手を動かしただけだ。
一体どうやってこれだけの現象を起こしてるんだッ!!
理屈がない。
理解ができない。
痛みで頭がまわらなかった。
そして一方通行はゆっくりと、まるで歩幅が俺の寿命だというように、ゆっくり近づいてくる。
「は、は」
笑いしかでなかった。
もう一方通行は俺の元へとやって来たのだから。
ソイツは理解ができていない。
俺も理解が出来なかった。
ただ、ぐにゃりとした化物がソイツの元へやってくる。
「――yjrp悪qw」
「ちくしょう。……テメェ、そういう事か! テメェの役割は――!!」
返事はなく、ただ殺意の篭る拳が振り落とされた。
そこで俺は目を覚ました。
- 16 :872011/05/04(水) 15:17:29.22 ID:8SUUmgK10
- 目を覚ますとそこは白い部屋だった。
真っ白い天井に真っ白い壁。
目線を右に移すと棚が。左に移すとカーテンが閉まりきった窓が。
カーテンからは明かりが差していることから今は昼なのだろうか。
ここはどこだろうか。
それにあの夢はなんだったんだろう?
再び夢の記憶を思い出そうしたら、頭痛が走った。
「……ここはどこだ」
とりあえず、俺はカーテンを開けることにした。
サッとカーテンを開けると久しぶりに光を浴びる。
眩しくてしばらく目を瞑っていたが、なれる頃にゆっくりと目を開く。
そこには青い空が広がっていた。
下を覗くと人々が病院を行き来している。
しばらく俺は空を眺めていると後ろからガラッとドアの開く音で振り返った。
「目覚めたようだね?」
「……誰だ」
そこにたっていたのはカエルのような顔をした医者だった。
「ところで君。自分のことは憶えているかい?」
「俺の……こと……?」
……あれ。
自分の名前はなんだったっけ。
いや、ちょっと待て。もう少しで出てきそうなんだか。
……思い出せない。
俺って誰だ……?
「やはり記憶を失っているようだね?」
「嘘……だろ……」
記憶喪失? 俺が?
呆然と立ち尽くす俺にカエル顔の医者はゆっくり、落ち着かせるように話しかける。
「無理に思い出すことはない。君のはいつかは治るかもしれないからね?」
「いつかはって……いつだよ!」
「……いつかは、だよ。焦らなくていいんだよ?」
「……ッ。俺は、誰なんだよ?」
「君は――――」 - 17 :872011/05/04(水) 15:19:15.35 ID:8SUUmgK10
- ―――――
―――
垣根帝督。
それが俺の名前らしい。
超能力者。第二位。
能力名は『未元物質』。
カエル顔の医者に言われた言葉をのみ込むことができない。
「とりあえず、散歩でもしてきたらどうだね?」
「……そうする」
と、病室を後にして今は病院内の公園のベンチにいた。
服は患者が着るような服だが、周りもたいして変わらないので目立ちはしないが、金髪が少し目立っているようだ。
「俺が……超能力者ねえ」
超能力者という単語は頭の中にあった。
学園都市に7人しかいないレベル5。
そして俺はその中でも第二位らしい。
今でも信じられなかった。
……たしか記憶というものはいろんな部類に分けられていて、俺が失ったのは『エピソード記憶』と言うものだ。
だが俺は何故記憶を失ったのか。
カエル顔の医者は事故だと言っていたが定かではない。
「考えても仕方がねえ……か」
一つ溜息をつき、俺は何度も思い出そうとした。が頭痛が走るだけで思い出せない。
「そういえば、超能力って使えるのか……?」
だが知識だけはある。
どういう風に演算すればいいのか、頭にはあるが実際に使えるのか……?
「……ためしに使ってみるか」
神経を集中させて、演算をはじめる。
……。
…………。
………………。
「なんだよ……使えねえじゃねえか」
何も起きてはいなかった。
ホントに俺はレベル5の中でも第二位だったのか?
なにかの間違いな気がした。
だって、この俺は能力が発動しなかったのだから。 - 18 :872011/05/04(水) 15:19:52.91 ID:8SUUmgK10
- 【初春飾利】
「初春さん、佐天さん。こっちこっちー!」
学校が終わり、私と佐天さんは常盤台中学の御坂さんと白井さんとで遊ぶことになった。
ちなみに、ファミレスで落ち合おうということ今合流したばっかりだ。
御坂さんたちは窓際の席で手を振っていた。
「遅くなってすいません」
「いいわよ、私達もさっき着いたからね。さっそく、何か頼もうっかなー」
「私はお姉さまと同じ物で!」
「うーん。どれにしよっかなー。とりあえずドリンクバーは必須でしょ」
私の前でメニューを開く御坂さんに。
それを横からくっ付いて見ている白井さん。
そして私の横でメニューを見て唸っている佐天さん。
「私はパフェでも頼みましょうかね」
「え。この季節にパフェってちょっと寒くないかしら? これアイスクリーム入ってるわよ?」
や、やはりこの寒い中パフェってあれなんでしょうか……。
私はふと窓の外を覗くと寒そうに歩く人たちが。
そして冷たそうな風がふいている。
「やっぱり、紅茶とケーキのセットにします!」
「そうね、私もそれにしようかな」
「んじゃ私もそれにしよっと」
「私はお姉さまと一緒のって決めてますの」
早速、店員さんを呼び注文した。 - 19 :872011/05/04(水) 15:20:30.98 ID:8SUUmgK10
- 「にしても、寒いわねー」
「ホントですわ。でも夏よりは馬鹿が減って風紀委員の仕事も少しは楽ですの」
「そうなんですか? でも、冬に仕事って大変そうですね」
「ええ。お肌がかさかさになって困りますわ。お姉さまも、あまり無茶行けませんわよ!」
「な、なんで私の話しになるのよ!」
「お姉さまはここ最近外出が多いですの! きっとあの類人猿と――」
いつものおしゃべり。
白井さんが御坂さんにくっ付いて、御坂さんはそれを必死に離す。
そしてそれを、私と佐天さんで笑う。
「お姉さま。クリスマスもあの殿方とお過ごすつもりで?」
「んなわけないでしょ! アイツとはそんなんじゃ……!」
「へえー。そこまでの仲なんですか。一度見てみたいなー」
「私も御坂さんがそこまで惚れてる方、見てみたいです」
「そ、そんなんじゃないって言ってるでしょ!」
真っ赤になりながら反論する御坂さん。
可愛いです。
この人が学園都市第三位なんてみんな思いませんよね。
私も最初あったときはびっくりしました。
そんな御坂さんの意中の人ってのもちょっと気になりますね……。
「さ、佐天さんや初春さんはどうするの?」
「特に予定はないですけどー……。そうだ、みんなでクリスマスパーティしませんか?」
クリスマスパーティですか!
私も予定がなかったし、みんなでって楽しそうですね。
「クリスマスパーティか、いいんじゃないかしら!」
「これであのお姉さまの貞操が守れるというのなら……。お姉さま! 一緒に参加しましょう!」
「その動機はあれだけど。是非参加させてもらうわ、佐天さん」
「私も参加します! ……で、どこでするんですか?」
私の言葉に手を顎にあてて考え始める佐天さん。
もしかして、何も考えてなかったり……?
「それじゃ、私の家でいいですよ! めいいっぱい楽しみましょう!」
「おお! 佐天さん、ふとっぱらですね!」
「それじゃ、私達はケーキとか買ってくるわね。学び舎の園限定のクリスマスケーキ!」
「ホントですか! じゃ、私と初春はパーティグッツ買ってきますよ!」
こうして、クリスマスパーティの開催は決定した。
日にちは12月25日。
場所は佐天さんの家。
御坂さんと白井さんがお料理担当で、私と佐天さんがグッツ担当。
……今から楽しみですね。
特にケーキ! 待ち遠しいですよ! - 20 :872011/05/04(水) 15:21:48.26 ID:8SUUmgK10
- 【垣根帝督】
能力を再び発動しようとしたり、記憶を思い出そうとしているうちにあたりは薄暗くなっていた。
公園に人はおらず、冷たい風がただ吹いている。
そろそろ戻るとするか。
俺はベンチから立ち上がる。
すると、俺の元へ白衣を着た老人がゆっくりと近づいてきた。
白衣を着ていることから……医者なのか?
「垣根……帝督だな?」
「まあ……そうだが」
一瞬誰だっけと思ったが、俺は垣根帝督という名前だったなと再び思い出す。
「是非、私達の研究所に来て欲しいのだが」
「研究所?」
「そう。君の持つ「未元物質」について新たに調べたくてね」
その老人の言葉に、少しだけぞっとした。
研究所。調べる。能力を。
記憶にはないが、それはとても酷いものらしい。
そしてレベル5となればそれは一般の能力者よりも……。
「悪い話ではないだろう。奨学金もたっぷり出そう」
老人は気持ち悪いくらいの笑顔で俺を見ていた。
研究材料……モルモットを見るような目で。
「……ッ!」
もしこの話にのったら俺はどうなるんだ?
今までの俺はどうしていたんだ?
考えただけで気分が悪くなってきた。
声が出ない。
身体中にサイレンが鳴り響いている。
俺よりも小さいのに、とてつもない恐怖に襲われる。
「こっ……断る……ッ!」
なんとか声をだすことができた。
だが、老人は顔色一つも変えることはない。
「いいや、そんなことを言わずにね? 君は能力者なんだよ。能力者は……ただ従っていればいいんだよ」
「……!」
老人が合図を出すと、草陰から黒ずくめの男たちが現れた。
「せっかく戻ったのだから、このチャンスは無駄にはしたくないんだよ」
再び老人が合図すると、男たちが銃を構えゆっくりとこちらにやってくる。
銃を見て、考える余裕が吹っ飛んだ俺は、その場から走り去っていた。
「おえ」
走り去った後に残された老人は静かに命令する。
黒ずくめの男たちは素早く垣根の後を追った。 - 21 :872011/05/04(水) 15:23:18.05 ID:8SUUmgK10
- 【初春飾利】
「それじゃ、またねー!」
「また明日!」
先ほど、御坂さんと白井さんと別れて、今佐天さんと別れる。
陽はほぼ落ちてきて、あたりは薄暗くなっていた。
そのせいか風は冷たく、冷え切っている。
「やっぱり手袋、買っとくべきでしたね……」
あの後、ファミレスを後にしてゲームセンターで遊んだので買い物に行く時間がなかった。
それにもう完全下校時刻。
風紀委員の自分としては、ちゃんと守らないといけません。
手袋は今度の休日にでも買おう。
「はうー。寒いなー……」
ゆっくりと歩いているうちに陽が落ちて真っ暗になっていた。
明かりは外灯やビルの光だけ。あたりには学生の姿はなかった。
やばいな。そろそろ急がなきゃ。
少し足を速める。
「……?」
ふと、前を見るとゆっくりと歩く人影があった。
学生かのように見えたが、制服を着ていない。
多分あれは患者が着るような服だろう。
「こんな時間に患者さん……?」
このあたりには病院はなかったはず、ずっと先に大きな病院しかない。
そしてその人影の動きも少しおかしかった。
わき腹を必死で両手で押さえながらゆっくりとふらつきながら歩いていた。
今にも足がもつれ、倒れそうなくらいに。
そしてその心配をしていると、その人は外灯が照らす場所で足をもつれさせて倒れた。
「だ、大丈夫ですか!」
私は急いで駆け寄った。
その金髪の男の人は息が荒く、うつ伏せになって倒れている。
しゃがみこんで、
「どこか怪我をしてるんですか?」
体を起こした。
「……ッ!」
その苦しい顔をしている人は、みたことある人物だった。
「だ、誰だ……」
その声にも聞き覚えがある。
「あ……あなた……、は」
垣根帝督。
学園都市第二位。
死んだはずの人だった。
私を殺そうとしていた人だった。
そして再び、あの悪夢が私の頭に蘇える。 - 29 :87[saga]:2011/05/22(日) 06:55:42.19 ID:rZ9489cc0
- 【初春飾利】
垣根の辛そうな姿を見て、ふと我に返る。
どうしてこんなに辛そうなのか、すぐに分かった。
患者服が真っ赤な血に染まっていた。
「血……ッ!?」
ほとんどが垣根が押さえているわき腹からだが、おかしなところにまで血痕が広がっている。
傷口とは反対の服や、肌にまで。
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
出血はないが、意識がないようだ。
私は深く深呼吸をした。
風紀委員で、よく怪我をしてくる同僚がいる。
その傷を見るたび、私は酷く怯えていたけれど、先輩が言っていた。
まずは落ち着くべきだと。
何度かするうちに、やがて落ち着いてきた気がした。
「……病院に連絡を。警備員にも連絡を入れたほうがいいかもしれませんね」
私は急いで携帯電話をとりだすと、まずこの近くの大きな病院へと電話をかけた。 - 30 :87[saga]:2011/05/22(日) 06:57:43.09 ID:rZ9489cc0
- 【垣根帝督】
あれから、ずっと走って走って。
街の風景も変わってきて安心しきったときだ。
大きな銃声とともに、わき腹に痛みが走ったのは。
なにかに打ち抜かれたような痛み。
目線を移すと、真っ赤な血が俺のわき腹から溢れていた。
「……!」
後ろを振り返ると、追いかけてきていた黒ずくめのうちの一人が発砲していた。
まさか本当に、撃たれるなんて思っていなかった。
だが、この痛みは本物だ。ものすごく……痛い。
俺は出血と痛みを抑えるために、両手をわき腹に当て、そのまま逃げ出す。
ここを逃げ延びなければ、命さえどうなるかわからない。
研究所。
実験動物。
ただでさえ、よく分かっていないこの状況で。
もし捕まったら……。
どうなるか分かったものじゃない。
逃げろ 逃げろ 逃げろ …… !
「う……ぐッ……!」
俺は自分にそう言い聞かせて、走った。
ずっと逃げているのに、男たちはまだ後を追ってくる。
痛みもそろそろ限界だった、たっているのさえ辛い。
どうすればいい? どうすれば、この状況から逃げ出せるんだ。 - 31 :87[saga]:2011/05/22(日) 06:59:58.98 ID:rZ9489cc0
- 「あ……う゛……」
突然、頭が割れそうになるほどの頭痛が始まった。
記憶を思い出そうとしたときにおきた頭痛よりも、ひどい痛みが。
なんで、こんな、時にッ。
「今だ! とりおさ――!」
「――! ――――!」
なんて言ってるんだ?
分からねえ
ワカラネェ
意識が薄れていく中で、思ったんだ。
もし俺が本当に学園都市第二位だったとしたら。
その第二位の能力でなんとかならないのか、と。
そして、それは起きた。
まるで苦しみから解放されたような気がした。
身体の中から力があふれでた、ような。 - 32 :87[saga]:2011/05/22(日) 07:01:25.68 ID:rZ9489cc0
- 【初春飾利】
連絡をして私は垣根帝督の様子を見て、救急車を待っていた。
救急車は10分もせずに到着したが、この人の息は荒く、意識を戻しはしなかった。
あの人が救急車へ運ばれているのを見ていると、警備員までやってきて事態を調べ始めた。
私も参考人ということで、警備員の人に話を聞かれて。
終わったときはもう夜遅かった。
警備員の人に寮まで送ってもらい、やっと家に帰ったとき、疲れが一気にでてきた。
コップに水を一杯注ぎ、一気に飲み干すと私はカーベッドに転がり込む。
そして、今まであった出来事を思い返していた。
夕方まではあんなに楽しかったのに。
どうして、あの人とまた再会してしまったのか……。
「……なんであの人は怪我なんか負っていたのでしょうか」
仮にも学園都市第二位だ。
そんな人が、あんなところで、血まみれになっているなんて。
「…………」
正直言って、とても怖かった。
何度も何度もあのコトを思い返してしまった。
だけど。
あの人は私よりもとても辛そうな顔をしていた……。
「はぁ……お風呂に入って早めに寝ましょうか」
そのほうがいい。
もうあの人のことは思い出さないほうが。
温かいお風呂に浸かって、布団の中でぐっすり眠ればまた普通の日常に戻る。
学校へ行って、佐天さんと話して、御坂さんや白井さんと遊んで、風紀委員で頑張る日常へ。
そう、もうあんな怖い思いをしなくてすむ。
……きっと。 - 33 :87[saga]:2011/05/22(日) 07:03:09.28 ID:rZ9489cc0
- でも、それはまた起きた。
「初春、学校が終わったら第七学区の一番大きな病院へ行ってくれないか?」
「え?」
次の日の朝、担任に呼び出され、なんだろうと思ったら……病院?
「昨日、事件に巻き込まれたんだろう? それでどんな様子だったか、被害者の医師が聞きたいそうだ」
「そう……ですか」
きっと被害者とはあの人のことなんだろう。
私の頭の中に、昨日の辛そうなあの人が思い浮かんだ。
「わかりました」
それだけを伝え、私は教室へ戻る間、あの人のことを考えていた。
用があるのは医師の人みたいだが、もしあの人とあったらどうしよう?
またあの時みたいなことが……。
それだけで、体が震えてくる。
「うーいはーるっ!」
バサァッ! という音とともに、スカートが中に舞った。
この声、この悪戯。
「……佐天さん」
「ん? どうした、初春。元気ないみたいだけど」
「……なんでもないです」
「……本当に?」
佐天さんが、心配そうに見つめてくる。
だけど、この事を話しても……。
「なにか悩み事があったら聞くよ?」
「いえ……大丈夫です」
「……ま、無理には聞かないけどさ。何かあったらいいなよ」
その言葉を聞いて、胸の奥がジーンとした。
佐天さんはホント……優しいですね。
「……ありがとうございます」
「さっ、教室行こ!」
「はい!」
いつの間にか、私の顔に笑顔が戻っていた。 - 34 :87[saga]:2011/05/22(日) 07:04:27.76 ID:rZ9489cc0
- 学校が終わって、佐天さんと一緒に帰る約束も断って。
私は一人、第七学区で一番大きな病院へと向っていた。
少し緊張や、躊躇いもあったけれど、なんとか無事にこれた。
「待っていたよ? コーヒー飲むかい?」
病院に来て、案内してもらい、入った診察室にはカエル顔のお医者さんが座っていた。
その顔に少し驚いたけど、コーヒーは断ってカエル顔のお医者さんが座っている向かいの椅子に腰掛ける。
「あの……私になにか……?」
「そのことだけどね? 君が見たときの様子でいいから聞いときたくてね?」
私が見たときのこと……。
あの時のあの人は……ただ苦しそうで。
私が話しかけたときに、意識を失ってしまって。
だけどずっと苦しそうだった。
「それだけですが……」
「そうかい。……うーむ、ちょっと謎は解けないままみたいだね?」
「謎?」
「そう、謎だよ。……君、彼以外に人を見なかったかい?」
人?
あの時は誰もいなかった気が……。
「ならいいんだよ。わざわざ来てもらって悪かったね?」
「大丈夫です。……あの」
「なんだい?」
「あの人は今……」
どうしているのだろう? という疑問をいつの間にか声にだしていた。 - 35 :87[saga]:2011/05/22(日) 07:05:43.07 ID:rZ9489cc0
- 「彼の知り合いだったりするのかい?」
「そ、そんなわけでは……!」
殺されそうになりました、なんて言えるわけないです。
「彼、今は安静にして眠っているんだけどね?」
「そうですか……」
「まだ意識は戻らず、眠っているんだよ?」
「えっ」
「……もしよかったら、彼に会っていくかい?」
そのカエル顔のお医者さんの言葉に、私は何故か頷いていた。
やっぱり……、昔怖い目にあった人だけど。
あの苦しそうな顔が、頭から離れなかったから。
「そう、大事なことを言い忘れていたよ?」
「な、なんでしょうか?」
「……彼には」 - 36 :87[saga]:2011/05/22(日) 07:06:56.32 ID:rZ9489cc0
- カエル顔のお医者さんに言われたとおりの病室へ向うと、入り口にあるプレートに垣根帝督と書かれていた。
一人分しかないから、きっと個室なんだろう。
……でももし起きていたら、どうしよう。
少しドアを開けるのを躊躇ったけれど、勇気を振り絞り、そっとロックする。
コンコンッ。
……。
まだ寝ているのか、声は聞こえなかった。
私はそっと、ドアを開ける。
「…………」
息を呑み、ゆっくりとベッドの方へ歩いていくと。
そこには垣根帝督が眠っていた。
昨日見た辛そうな顔ではなく、穏やかな顔で。
「……」
ゆっくりと、ベッドの横にあるパイプ椅子に座り、様子をみた。
こうしてみると、顔が綺麗に整っていて雑誌に出てきそうだ。
……きっと、あんな出会い方をしなかったら好感を持てたかもしれない。
私は何故か、じっくりと垣根帝督の顔を見つめていた。 - 37 :87[saga]:2011/05/22(日) 07:09:15.61 ID:rZ9489cc0
- 【垣根帝督】
意識がだんだん戻ってくると、俺は歩道で横になっていた。
たしかさっきまで、怪しい奴らから追いかけられていたはずなのに。
もう追いかけてこなくなって、ふと気を失っていたのか?
「な、なんだよ……これ……」
その疑問は瞬時に吹き飛んだ。
俺の目の前にいたのは
真っ赤な血を流し、横になっていた黒ずくめの男たちだったからだ。
数歩、また数歩、俺は後ろへと下がる。
そして自分の胃の中に溜まっていたモノを吐き出した。
どうやったら、こんな殺し方が出来るんだ――?
どうやったら、こんな……風に……殺せるんだよォ――!!
その死体はとても見れたものではなかった……。
人の形すら残っていないものもある……。
そこにいるのさえ恐ろしくなって、俺はその場から逃げ出した。
いつの間にか、わき腹の出血は止まっていた。
だが疲労は溜まりに溜まり、あまり早く走ることさえ出来ない。
やがて、その歩幅はだんだん小さくなっていった。
速度もだんだんゆっくりとなっていく。 - 38 :87[saga]:2011/05/22(日) 07:10:21.89 ID:rZ9489cc0
- 「どこまで……行けば……」
頭も重くなって、また意識が薄れ始めてきた。
きつい。苦しい。
目蓋がだんだんと重くなって、ゆっくりと閉じ始めたとき、一つの人影が見えた。
さっきの男たちとは違う、学生服を着ている。
助かった――?
そう認識して、俺の意識はまたゆっくり、薄れていく。
そのとき、足がもつれ俺の体は歩道へと倒れこんだ。
衝撃で身体中に痛みが走るが、もう俺の体は限界だった。
まるで全身石になってしまったかのように、動かない。
「――――夫で――か!」
声がした。
女の子の声だ。
うっすらと目を開くと、頭にたくさんの花を飾っている女の子がいた。
「ど―― 我を―――― すか?」
だけど、その声はだんだん薄れていき、意識までもが薄れてきて。
そのまま俺は意識を失った。 - 39 :87[saga]:2011/05/22(日) 07:14:57.49 ID:rZ9489cc0
- ゆっくりと、目を覚ます。
……俺はどうなったんだ?
とても恐ろしい夢を見ていた、そんな感じだ。
ぼやけていた視界には一面の真っ白な天井があったが、その手前には少女の顔があった。
「……あ?」
「あ」
ここはいつもの病院なんだろう。
だが、この子は一体……?
「ご、ごめんなさいっ!!!」
その頭を花一杯に飾っている女の子は顔を真っ赤にして、顔を引っ込ませた。
俺はゆっくりと身体を起こし、俯いている女の子に話しかける。
「君は?」
「わ、私ですか?」
覚えがあるような、ないような顔だ。
……記憶を失くす前で友人だったんだろうか?
記憶がなかったとしても、こんな目立つ頭(というか、髪飾り)をしていたら思い出しそうな気もするが。
まったくもって思い出せない。
「わ、私は初春。……初春飾利です」
「ういはる……かざり……?」
「はい。初日の初に、季節の春。飾るの飾で、利用の利です!」
「そ、そうか」
名前を聞かれてもさっぱりだった。
「ちなみに、私と貴方が会ったのは…………昨日です。昨日、貴方が倒れているのを発見して」
「あ! あの時の子か」
確か、気を失う前に。
こんな感じの女の子に話しかけられていた。
無事病院にいるってことは助かったんだな、俺は。
「ありがとな。俺はその、垣根帝督っていうんだ。よろしくな」
「……! よろしく、お願いします……」 - 40 :87[saga]:2011/05/22(日) 07:18:44.10 ID:rZ9489cc0
- 少しもじもじとしていたが、可愛い女の子だった。
最初、記憶を失う前に知り合いだったらと思ったけれど。
まだ俺の前には記憶を失う前に知り合いだったヤツが現れない。
……まさか、友達いなかったのか。昔の俺。
第二位だったからか? それとも、そこまで酷い性格だったのか……。
「か、垣根さん?」
「……あ。悪ぃ。つい考え事を……」
「その……記憶がないって」
「聞いてたのか。……ああ、俺には記憶がない。垣根なんて呼ばれても相変わらずたまに自分のことかと忘れることがあるしな」
笑って話してみたが、女の子、いや初春は困った顔をしていた。
「その……記憶をなくして大変かもしれませんけど……」
「ま、ゆっくりと戻していくさ。……でもな、未だに誰も面会になんて来ないからよ。友達いねぇのかな、俺。なんて思ってさ」
「……!」
「学園都市の第二位っていうやつだからなのか?」
「そ、そんなことないと思いますよ。私の友人にも学園都市第三位がいますが、その人は知り合いが多そうですし」
「ふーん。……それか昔の俺が性格悪かったりするかもな。それか学校なんて行ってなかったり」
「ど、どうなんでしょう……?」
記憶を失って、医者や看護士としか話しなかったせいか、俺は初春と長く話をしていた。
初春は最初、戸惑っていたが、話を進めていくうちに向こうから話しかけてくれた。
……記憶を失ってからこんなにも話したのは、初めてだった。
病室にいると、なにも楽しいことがなくてつまらなかった。
だけどこの時間はとても楽しく、早く過ぎていった。 - 41 :87[saga]:2011/05/22(日) 07:21:43.04 ID:rZ9489cc0
- 【初春飾利】
垣根さんと話していくうちに、いつの間にか面会時間の5分前にまでなっていた。
それほどまでに、垣根さんと話しているのが楽しかった。
最初は怖くてあまり喋らなかったけれど、いつのまにかこっちがたくさん話をしていた。
……この垣根さんはとても優しくて、たくさん笑っていたからかもしれない。
「なあ、初春」
「なんですか?」
「……ん、もしよかったらさ……また来てくれねえか?」
「えっ?」
「あ、ほらよ。俺、話し相手いなくてさ。……久々に誰かと話せて楽しかったていうか」
垣根さんは照れながら話してくれた。
でも、それは私と同じだった。
またこの人と、話をしてみたいと心のどこかで思っていた。
本当は、こんな風にいい人なのかもしれないと。
「はい。……また来ますね」
「ありがとな」
垣根さんに手を振って、病室を後にした。
最初はとても怖かったのに、どうしてだろう?
また話したいと思ってしまったのは……。
でも、一つだけ。
一つだけ嘘をついてしまった。
ホントは昔、会った事があるのに。
……昨日会ったと喋ってしまった事。
そのことを気にしながら、私は廊下を歩いていった。 - 49 :87[saga]:2011/06/11(土) 00:48:07.10 ID:JHd4PPel0
- 【初春飾利】
学校も終えて、私は急いで家に帰宅した。
準備するのは家庭用ゲーム機やボードゲームから、お菓子や漫画まで。
一気にリュックサックに詰め込んだらとても重くなってしまった。
ちなみに家にある一番大きな、修学旅行用のリュックサックである。
なので漫画はやめて、また新たに家に備蓄していたお菓子を投入した。
うん、大丈夫。
チョコ系は多分溶けないと思う!
「それじゃ、行きますか」
リュックサックを背負う前に、鏡で自分の容姿をチェックする。
少しはねている髪を直しながら、なにかおかしいところがないか見直した。
自分の格好は制服の上から学校指定の黒コートを羽織り、桃色のマフラーを巻いているだけ。
これでいいのかと少し悩みながらも、リュックサックを背負った。
私こと初春飾利が向うのはとある病院。
そこに入院している一人の人に会いに行く為だ。 - 50 :87[saga]:2011/06/11(土) 00:49:36.96 ID:JHd4PPel0
- 【垣根帝督】
暇だ。
俺は病室の天井にあるしみを見ながらそう呟く。
一昨日作った傷のせいで、すぐ退院できるはずが一週間近くも増えたのだから仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。
でもこのわき腹にある傷を見て、俺はあのことが頭から離れなかった。
あの黒ずくめの男たち。
俺を研究動物のような目でみる科学者。
あの夜のことは本当のことだったのだろうか。
そう思いたいけれど、この傷の痛みを思い出すたびそれは現実のものと思い知らされた。
俺はあの時、追われていて。
もしかしたら今頃はアイツの実験動物として苦しめられていたかもしれない。
でもそうはならなかった。
誰かがそう……、あの黒ずくめの男たちを……、殺したんだ。
アレはどうなったんだ?
現実なら今頃ニュースにも出ているはずだ。
もしかして、あれからはずっと夢?
そして昔の俺だったら、どう対処したんだ?
あんなこと、日常茶飯事だったのか……?
ズキッ、と頭に頭痛が走る。
アア
思イ出ソウトスルタビニ
頭 ガ 痛 イ
またあの痛みだ。
俺が記憶を思い出そうとするたびに、この頭痛はおきる。
頭を押さえながら、さっきまでの思考を忘れようとしているときに
コンコンッ、とロックが病室に響いた。
「だ、誰だ……?」
寝ていた体を起こしながら考える。
この病室に訪れるのは医者と看護士のみ。
その両方とは違うロックの音だった。
またあの科学者か? と一瞬疑ったが、その声によってかき消された。
「初春です。……その、お見舞いに来ました」
初春。初春飾利の声だった。 - 51 :87[saga]:2011/06/11(土) 00:50:34.97 ID:JHd4PPel0
- 「入れよ」
「失礼します」
俺をあの場から助けてくれた少女、初春飾利はドアを音も立てずに開けて入ってきた。
頭にお花畑のような髪飾りに、背中に大きなリュックサックが目立っている。
初春はベッドの横にあるパイプ椅子の横に、リュックサックを置き椅子に腰掛けた。
「体調はどうですか?」
「まあまあってとこか。もう数日で退院出来る」
まるで元から知り合いだったような気分がするが、一昨日会ったばかりだ。
にしても、その隣にある馬鹿でかい(ふくらみがはんぱねぇ)リュックサックはなんだろうか。
「入院中ってとっても暇! と聞きましたので遊べる物を持ってきました!」
「遊べる物?」
初春がリュックサックを持ち、ベッドについている机にその”遊べる物”を並べ始めた。
お前のリュックサックは四次元ポケットかよ、っとツッコミを入れたくなるほど一気に出てきた。
トランプ、将棋、チェス、オセロに……おいこれ、CMで見たことあるぞ。
出たばっかりだという(よく知らない)の家庭用ゲーム機じゃねえか。
「大丈夫です! 通信用にもう一つ常備してますから!」
まじすか。
「あとお菓子も持ってきました! 私の備蓄用ですが、食べてくださいね」
満面の笑みの初春に俺は何も言い返せなかった。
ってか普通、知り合ったばかりの男にこんなことするもんなの?
うーん。よくわかんねぇ。 - 52 :87[saga]:2011/06/11(土) 00:54:55.45 ID:JHd4PPel0
- 机の上のゲームやらはいったんリュックへと戻して。
今卓上にあるものはオセロだ。
俺が白で初春が黒となっている。
始めたばかりで、現在黒が若干盤上を支配している感じである。
「垣根さんって入院中何して過ごしてるんですかー?」
「テレビ見たり、雑誌読んだり。ぶっちゃけると、凄く暇だった」
「やっぱり元気に過ごすのが一番ですね。あっここいっちゃいますね」
「そうくるか……。初春は普段何してんだ?」
「乙女の日常を探るとはいい度胸してますね、垣根さん」
「乙女なのかよ。あんなにお菓子を備蓄してるヤツは乙女とは言わねぇんじゃ……」
「そんなこと言うと、ここ取りますよ!」
「うわっ。お前この盤上並に黒くね?」
「そんなことないですよ! ……このまま黒いと認定されるのもあれなんで教えてあげますよ」
「ほう。聞かせてもらおうか」
「普段は学校行って、友達と話して、甘い物食べて、ゲームして。……そうそう、風紀委員の仕事を頑張ってます」
「風紀委員?」
俺が石を打とうとする手が止まった。
風紀委員ってのは確か……そうだ。
風紀委員。
学園都市にある治安維持組織。
生徒によって結成されていて、学校内の事件を管轄する。
と、俺の頭の中に残っていた知識が呼びおこされた。
ちなみに、掃除や見回りなどの雑用をよくやらされている……とも。 - 53 :87[saga]:2011/06/11(土) 00:57:28.94 ID:JHd4PPel0
- 「風紀委員ってどんな感じだ?」
「そうですね……。やりがいがありますよ。仲間と協力して事件を解決させたりとか……」
「ふーん」
「なんですかそのどうでもいいような顔は! それに一気に白が増えてるんですが!」
「俺は後半から巻き返す方だ」
「マジですか。……ま、まあ流石超能力者って感じですね。演算能力も相当な物ですし……。あっ」
一気に畳み掛けて俺の勝利に終わらせ、俺は盤上に置かれている石を戻しているとき。
初春が何かを閃いたようだった。
「垣根さん、風紀委員に入りませんか?」
風紀委員?
なんだよ、いきなり。
「超能力者ですし、いるってだけで事件がぐっと減ってくると思うんですよ! それに楽しいですよ!」
「興味ねえな」
「そんなー、勿体ないですよ」
がっかりしながら、同じく石を片付けている初春には悪いが、あまり興味はなかった。
それに、”超能力者”って言っても今の俺には能力は仕えない。
もし風紀委員になったとしても足をひっぱるだけだと思うしな。
「あっ、そろそろ風紀委員の仕事がありますのでこれで! また来ますね垣根さん!」
オセロボードをさっさと片付けて、初春飾利は病室を出て行った。
そして病室はまた静まりかえる。
まるで太陽がいなくなったかのような、静けさと冷たさで包まれた。 - 54 :87[saga]:2011/06/11(土) 00:59:47.21 ID:JHd4PPel0
- 【初春飾利】
あれから。垣根さんと再開してから、もうすぐ一週間が立つ。
最初にゲームやお菓子を持ち込んでから今回が三回目の訪問になるけど、垣根さんの記憶はまだ戻っていない。
正直、どこかで戻って欲しくないって所もある。
未だに病室のドアをロックするときは緊張するし。
けれど。
「これでチェックメイトです! 垣根さん!」
この垣根さんと会話したり、遊んでいる時間はとても楽しかった。
今回はチェスをやろうということだったけど、
持ち主である私がやり方がイマイチわからなかったので垣根さんに教えてもらっていた。
こういうルールやらは覚えているらしい。
超能力者というだけありながら未だに手加減してもらってゲームを進めてもらっているけど、
その実力はとても高くて本気だされたらすぐチェックをかけられそうです……。
でもこのまま負け続けってのもイヤなので早く覚えないと!
「だいたい慣れてきたんじゃねえの?」
「ですね。ありがとうございます、垣根さん」
「それじゃ次は本気だすからな」
「ま、まだ無理です!」
たまに意地悪なところもあるけど、最初よりは大分印象変わってきた気がする。
まるであのときの人と同一人物とは思えないほどに。
「そういえば、垣根さん。明日退院でしたよね?」
「そうだけどそれがどうした?」
「よければ一緒にデパートに行きませんか!? なにか買い物してたほうがいいと思うんですよ」
「確かに……ってそれお前が買い物行きたいだけだろ」
な、なぜ分かったんですか!
この際手袋を購入しようとたくらんでいたのに!
「お前……」
「えへへ」
「まあ、行ってもいいぜ。その前に俺の家へ帰るのが先だけどな」
「垣根さんの家行ってみたいです。きっととってもいい寮に住んでるんでしょうね……」
って垣根さんが通っている学校すら知らないんですけど。
「とりあえず、明日十時頃でしたっけ? に来ますから。待っててくださいよ?」
「遅れずにこれたらな」
ってことで次の日に買い物へと行くことになりました。
明日が休みでホントによかったです。
そうだ。手袋はどんなのにしよう。
マフラーと同じ桃色がいいですかね……? - 61 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:02:45.44 ID:8KcjYazA0
- 【初春飾利】
今日、垣根さんの退院日だ。
私は約束して十時に病院へ行くと約束もした。
そうそんな日に限って……!
「寝坊しましたあああああああ!!」
そう、寝坊したのである。
因みに現在時刻は十時二十分であり、無事病院へ到着した。
エレベーターに乗りながら私は慌てて髪を整える。
今日の服は茶色のブーツに黒タイツ、白のワンピースの上から黒のコートと桃色のマフラーを巻いている。
普通の冬の防寒着だけれど、走ってきたせいと病院に全域暖房がついているせいでとても暑かった。
いや、今はそんなことよりもあることが重要だ。
「絶対、垣根さんに怒られる!」
自分から約束したくせに遅れるなんて絶対怒ってますよね。
それに買い物にも誘ってるし……。
エレベーターが止まった音ではっと我に返る。
とにかくまずは急いで病室に行かなきゃ。そして謝らないと。
なるべく走らないような小走りで、垣根さんの入院していた病室へと向った。
だが、病室の前に来たときにあることに気付く。
「もし垣根さんが先に帰ってたらどうしよう……」
そんな事を心配しながらコンコンとノックする。
「どーぞ」
いつもの、垣根さんの声が聞こえた。
「ごめんなさい! 遅れまし……た」 - 62 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:04:04.03 ID:8KcjYazA0
- ドアを広げて頭を下げようとして……止まる。
垣根さんは窓の外を見ていたらしく、ゆっくりとこちらへ振り向いた。
「何してんだよ、寝坊か? 昨日お前が約束したよなー?」
いつものように意地悪な笑顔を浮かべていた。
けど、一つだけいつもと同じではなかった。
「か、垣根さん……その服」
「ああ、これか? 俺が入院してきたときに着ていた服らしくてな、これしかないから着てんだよ」
その外見はまるで、あのときの垣根さんのようだった。
あの、とても怖い第二位のような姿。
あの時の服装そのものだ。
「どうした、初春」
「え……。あ、あはははー。なんだかガラの悪いホストさんみたいですね」
「心配するな、自覚はある。でもこれしかねぇんだよ、仕方ねえだろ。それより、なに遅れて来てんだよ」
「ご、ごめんなさい!」
その優しい声音と笑顔に、ほっとした。
ここにいる垣根さんが、あのときの垣根さんじゃなかったからだ。
あんなことがあって、もしまた記憶が戻ったらと少しだけどびくびくしていた。
けれど、これにももうなれなきゃ……。
「ま、いいけど。ほら、俺んち行くぞ」
「あ、はい!」 - 63 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:05:44.69 ID:8KcjYazA0
- 【垣根帝督】
俺の家に行く。と言ってもこの俺も行くのは初めてになる。
カエル顔の医者から地図を貰って、その場所へ初春と二人で向っていた。
今時地図ってのもあれだが、携帯がないので仕方がない。
「ここからの寮ってまさか長点上機学園の寮ですか! 凄い立派なマンションですね……!」
「書類上のみの籍らしいし、その学校についてよく知らねえけど、ここまでとはな」
そう、今俺と初春が前にしてるのは高級マンションが連なる長点上機学園の寮だ。
この中でもひときわ大きいマンションの一室が俺の部屋らしい。
「ここのマンションですかね」
そのひときわ大きいマンションはすぐに分かり、俺たちはエレベーターを使い部屋へと向う。
マンションは九階建てで俺の部屋も最上階の九階にあった。
「905……、ここですかね」
エレベーターから降りて一番奥にある部屋のネームプレートは何も書かれていない。
たが、ここであってるはずだ。
同じくカエル顔の医者から返してもらった部屋の鍵をポケットから取り出して鍵を開ける。
「ドキドキしますけど、ごみばっかりだったらどうします?」
「むしろなんもないかもしれねえな」
ガチャりとゆっくりドアを開くと、使われていないような広く綺麗な玄関が俺たちを迎えた。
「おお……! こんなに広いなんて……」
初春は興奮気味に中へと入っていく。
にしても自分の部屋とは思えないような綺麗さだ。
憶測通り、昔の俺はあまりこの家に帰らなかったらしい。
理由は知らないが。
「わー! こっちのリビングも凄すぎますよー!」
玄関から真っ直ぐにある半開きのドアから初春の声が聞こえてきた。
ったく、荷物を置きにきただけなのに何そんなに興奮してんだよ。
「おー! こっちのキッチン綺麗すぎませんか!?」
リビングへ向うと、初春はダイニングキッチンをまじまじと見ている。
このままだと家中探索に出かけそうな勢いだ。
買い物に行くってこと忘れてるよな、絶対。 - 64 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:07:34.00 ID:8KcjYazA0
- 【初春飾利】
もっと垣根さんの家を探索したかったのですが、家主である垣根さんに怒られてしまいました。
また今度見せてくれるらしいですが、あの高級なところに一人で行く勇気なんてないですよ。
などと言い合いながら、垣根さんとデパートにやってきました。
「この手袋もかわいいし、あっこっちも捨てがたいですね」
因みに先ほど昼食を食べ終えて、今垣根さんは自分の服を買いに行くということで別行動をしてます。
私は念願の手袋購入の為、手袋コーナーを見て回っているのですが……。
「うむむ、迷います。迷いすぎます」
二つの手袋で悩んでいるところです。
一つはピンクで白い小さなリボンがついたふわふわとした手袋。
もう一つもピンクで、五本指に分かれていいる普通のシンプルな手袋。
「やっぱり普通のが……いや、このふわふわ感捨てがたいですし」
「あっちの手袋でいいんじゃねぇか?」
「か、垣根さん!」
振り返ると買い物袋を二つほど持っている垣根さんの姿があった。
そして指差す先にも手袋コーナーがあった。
「こっちにも合ったんですね。見落としてました」
「で、ピンクならこれがいいんじゃねえのか」
垣根さんが指差したのはピンクのふわふわした手袋。
普通の五本指に分かれていて、手にはめたら付け心地がいい。
「いいかもしれません。……これにしようかな」
ふわふわ感もあって使いやすい。そして暖かい。
これにしましょう。
「垣根さんも手袋やマフラー、買ったらどうですか」
「俺はいいから、さっさと買ってこいよ」
「でも外は寒いですよ。さっきだって寒さ我慢してたじゃないですか」
っていうかその格好は薄すぎだと思います。
コートすら羽織ってないですし。
「マフラーだけでも選んであげますよ! 早速マフラー売り場にゴーです!」
「お、おい初春!」
それに冬は温かいのが一番ですし、風邪なんて引いて欲しくありませんしね。 - 65 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:09:07.91 ID:8KcjYazA0
- 【垣根帝督】
「似合ってますよ、そのマフラー」
結局初春は俺のマフラーを選んでくれた。
今俺が巻いている黒いマフラーだ。
まあ、なにもないよりは暖かい。
「お前のその手袋もあったかそうだな」
「はい。このふわふわ感が気持ちいです。垣根さんも手袋買ったほうがよかったのに」
「はいはい、また今度な」
「手袋も黒の方がいいですかね……あ」
初春の足が止まった。
「なんだよ、何か買い忘れたのか」
「いえ、違います」
初春が見る先には4人の男子生徒が歩いていた。
皆同じ制服で高校生のようだが、一人に三人が絡んでいるように見える。
「俺たちさー、金に困ってるんだよな。だから今日も頼むよ」
「で、でも前のお金戻ってきてないよ……」
「今度返すからよー。な?」
そんなことを言いながら裏路地へと歩いていく。
それを見て初春は鞄から風紀委員の腕章を取り出し、荷物を道に置いた。
「垣根さんはここで待っててください。私は風紀委員の仕事が出来ましたので」
「お前一人じゃ無理だろ。俺も行く」
「大丈夫です。同僚が来るまで時間稼ぎをするだけですので。
いくら超能力者とあろうとも一般人には変わりありません。だから垣根さんはここに!」
初春は腕章を腕につけて、ポケットから携帯電話をとりだしてそのまま裏路地へと入っていった。
「たしかに俺は一般人かもしれねぇ」
でも、だからって、知り合いの女の子をそのまま危険な目にあわせられるわけねえだろ。
能力も使えないから足手まといになるかもしれねえが、盾になるぐらいならできる。
俺は初春が置き去りにした荷物と、自分の持つ買い物袋を道の隅に置いて、初春達が入っていった裏路地へと入っていく。 - 66 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:10:08.90 ID:8KcjYazA0
- 【初春飾利】
「白井さん、あとどれくらいでこれますか?」
『少し遅れそうですの。でも初春、決して無理はしないように』
「分かってます。では、お待ちしてます」
同僚への連絡を入れて、私は路地の奥まで進んでいくと一つの廃ビルに出た。
このような場所で、事件は起こりやすい。
ここなら誰も入ってこないからだ。
そしてきっと先ほどの学生達はこの中にいるだろう。
私は慎重に古びたドアを開けて中に入る。
中は柱がむき出しになっていて、ほかにはなにもなかった。
壁も古びて、窓のガラスはなくなっている。
しばらく進むと奥から声が聞こえてきた。
「もっとあんだろ? ああ、ならキャッシュで貸せよ」
「む、無理だよ……」
「無能力者が俺たち能力者に立てつくのかよ? ああ?」
柱の影から覗くと床に倒れている男子生徒とその周りに三人の男子生徒だ。
話を聞くからには、周りの三人は能力者なのだろう。
学園都市ではよくある事件だ。
無能力者をいじめる能力者。
私も低能力者であって能力者であるけれど、力は微弱なものだ。
けれどたとえこれからレベルが上がってもこのような犯罪は許せない。
親友の顔を思い浮かべて、深呼吸する。
絶対にとめなければ。
そして……。
「風紀委員です!」
私はその場に乗り出した。 - 67 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:11:17.93 ID:8KcjYazA0
- 「風紀委員だ? ハハハッ! てめえみたいなガキに何ができんだよ」
聞き流し周りの状況を確認。
最初に確認したとおりそれ以上の人数はいない。
私は床に倒れている男子生徒の前に立ちはだかった。
「もう大丈夫です。ここから急いで逃げてください!」
「あ、ありがとう……」
男子生徒はいろいろと怪我を負わされたらしく、上手く立つことが出来ないようだった。
けれどやがて立ち上がると、足を引きずりながら必死に出口へと向う。
「逃がすわけねえだろ? まだカードの暗証番号聞いてねえぜ」
すると一人の男子生徒は手に火の玉を出し、逃げている男子生徒の近くの柱にぶつけた。
その衝撃音に驚き、男子生徒はその場へ倒れる。
「大丈夫ですか!?」
反応はない。気を失しなっているのかもしれない。
「何をしても無駄です。もうすぐここにほかの風紀委員や警備員もやってきます!」
「うぜえ!」
私が発火能力者を気にしていたとき、横から電気の音が聞こえた瞬間だった。
「うあっ!!!」
体中に電気が走り、激痛が走った。
その痛みに耐え切られずに私はその場に倒れてしまう。
迂闊だった。
発火能力者に発電能力者……。そしてあと一人、発火能力者の後ろで笑っている男子生徒も能力者。
これじゃ被害者すら助けられない……!
「初春ッッ!!」
「か、垣根……さん?」
倒れながらもゆっくりと後ろを見ると、そこには垣根さんが立っていた。 - 68 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:14:00.21 ID:8KcjYazA0
- 【垣根帝督】
初春飾利は埃や土で汚れきった床に倒れていた。
俺の横には何かがぶつかって壊れかけている柱に、その横で気絶しているいじめられていた男子生徒。
そして初春の目の前には能力者が二人、横に一人だ。
「大丈夫か、初春!」
俺はゆっくりと俺の方を見る初春の元へ駆けつける。
初春の身体は震えていた。
そして汚れきった床に倒れていたせいか、頬や腕や服に土埃がたくさんついている。
あの新品の手袋にもだ。それに気付いた初春はゆっくりと土埃を落とし始める。
「せっかく……垣根さんが選んでくれた物なのに……」
「大丈夫だ。……お前は安静にしてろ」
初春は涙を溜めながら首を横に振るが、俺は気にせず初春の前に立つ能力者の前に立ちはだかる。
「よくも俺の友人に手ぇだしたな」
「お前も能力者にたてつくのかよ?」
今の俺には能力は仕えない。
きっと使えたらこんなやつら一瞬で跳ね除けることができるだろうが、それは無理に近い。
それでも、初春を守る為なら……。
「おっりゃあァ!!」
俺は拳に力を込めて、目の前に立つ能力者へ放った。
「ガハッ!」
まさか拳が来るとは思わなかったのだろう。能力者の顔面へ直撃した。
まるでどこかの超能力者みたいな戦い方だが、これぐらいしか攻撃方法はない。
それに超能力者の肉体能力でも、少しは戦えるみたいだ。
「あァ!? なめてんのかコイツ!!」
横に立っていた能力者が電気を拳に溜め、こちらへと向ってくる。
でもその拳を避けてしまえばいい!
「うおおおおお!」
かわして相手がよろけた瞬間に、腹に拳をお見舞いした。
「グアッ!」
発電能力者も腹を抑えながらゆっくりと倒れた。
これなら最後の能力者もいけるかもしれねぇ。
と気を緩めた瞬間だった。
「くらえっ!!」
最後に残る能力者は風を生み出し、俺の体は宙に浮いた。
そしてそのまま勢いよく柱に投げ飛ばされた。 - 69 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:14:47.25 ID:8KcjYazA0
- いてぇ。背中や後頭部に激痛を感じた。
血の臭いもした。
ゆっくりと目を覚ますと、誰かが喋っている声が聞こえた。
高い声と、低い声。
高い声は……初春か? 悲鳴を上げているようだった。
低い声は気持ちわるく笑っていた。
「――だいっ……。いたい……っ!」
「風紀委員がでしゃばるからこうなんだよ!」
薄く開いた目でゆっくりと確認する。
そこには何度も風に飛ばされ、床に打ち付けられいる初春の姿があった。
「う……い……はる……」
声を絞りだしても、初春には届かない。
助けねえと……、初春が……。
でも、うごけねぇ。
体がちっともうごかねぇ……。
笑いながら初春を吹き飛ばしている能力者の顔は気持ち悪い笑みを浮かべている。
対して初春はもう意識があるのかすら分からない。
なんだよそれ。
初春が何をしたんだよ……。
風紀委員の仕事をしていただけだろ……?
どうして、そこまで、ぼこぼこにする必要が、あるんだ。
「……けて」
意識が引いていく中で初春の言葉が聞こえた。
ああ、アイツはとても苦しんでいる。
俺よりも、とても苦しんで、そして助けを待っている……。
クソ……。
俺は、学園都市の第二位なんだろ……。
どうして……女一人助けることが……できねぇんだ。
そしてそれはまた起きた。
あの時と同じ感覚。
苦しみが消えて、翼が生えたように体が軽くなる。
その翼は白く、六枚も生えている。
ああ、これなら軽くなるのも当然だよな。
そのまま飛んでいけそうだ。
でもこの六枚の翼で、どうなるんだ……?
……でも、これだったら。
- 71 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:18:57.68 ID:8KcjYazA0
- 【初春飾利】
遠くで声が聞こえた。
誰かが苦しんで、叫んでいるような声。
それは少し、垣根さんの声に聞こえた。
もしそうだとしたら、どうしたんだろう?
どこか痛いところがあるんでしょうか。
もしそうだったら、早く病院に行きましょう。
また入院なんてことならないといいですけど。
もし違うのなら、どうしてそんなに苦しんでるのか、教えてください。
その苦しみから解放させる手伝いをさせてください。
ねえ、垣根さん。
どうしてそんなに苦しそうなんですか?
ゆっくりと意識が戻ってくる。
ああ、あれからどうなったんだっけ……。
もう白井さんたちはやってきてくれたんでしょうか……。
でも床が冷たいってことは……意識を失ってたんでしょうか。
じゃあ、あの能力者さんたちはどうなって……。
私はゆっくりと目を開く。
「……え?」
私の前に、垣根さんらしい人物が立っていた。
いや、これは垣根さん……?
後姿でよく分からない。
というより背中に生えている物体でよく分からなかった。
垣根さんの背中には六枚もの翼が生えていた。
とても白くて天使のような翼。
垣根さんが見る向こう世界は、きっと立っていたら翼が邪魔で見えなかっただろう。
寝ていたから、目線が低かったから、その向こうの世界を見ることが出来た。
とても残酷な世界が。
「あ……」
声が出なかった。
そこには先ほどの能力者と思われる人が血まみれになって倒れていた。
「うあ……」
その光景に胃が逆流しそうになるのをなんとかこらえた。
能力者たちは、まだ人間の形を残しているけれど、ほろぼろで、いまにも形を失いそうで。
もう生きているのかすら分からない。
「……」
そして私は垣根さんを見た。
表情は見えなかった。
けれど垣根さんの背中の翼の一枚が能力者へと襲い掛かるところを見てしまった。
一枚の翼は、多分私を何度も飛ばしていた風力使いと思われる人の体を突き刺して、
さっと包丁で野菜を切るかのように軽く腹を横に切った。
そう、上半身と下半身を見事に分けてきったのだ。
「グァ……」
その風力使いは苦しそうな少しの悲鳴を上げて、……動かなくなった。 - 72 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:19:53.45 ID:8KcjYazA0
- 「あ……あぁ……!」
生きているのか死んでいるのか、分からない。
そしてもう一枚の翼が動き出そうとしたときに、私は垣根さんの足元へすがりついた。
「もう……やめてください。……垣根さん! それ以上その人たちを……傷つけないで……!」
「……」
だが一枚の翼はそのまま発火能力者の下へと向う。
「垣根さん……! 垣根さん……!」
「……ッ」
翼が動くのをとめた。
「垣根さん、約束したでしょ……? また一緒に買い物に行くって……、今度は……垣根ざんの手袋もがおうって……」
「だから……だから……っ」
いつの間にか涙が溢れていた。
それで私は垣根さんを呼ぶのをやめない。
垣根さんにこれ以上人を傷つけてほしくない……!
「……ぅあ……」
垣根さんの背中の六枚の翼がゆっくりと消えていく。
そして垣根さんはそのままその場に倒れこんだ。
「垣根さん……!」
垣根さんは頭を抑えながら、苦しそうな表情をうかべていた。
やがて苦しそうに絞りだしたような声をあげて。
「……う、うい……はる。ここは……」
「垣根さん……! 大丈夫ですか……?」
「変な夢みてえなの……見てた」
「夢、ですか」
「ああ、その夢っていうのが……」
頭を抑えるのをやめて、垣根さんは能力者たちが倒れているほうをみた。
その瞬間垣根さんの顔が血の気の引いたような、驚愕の表情へ変わっていく。
「こんな感じに……血の海…………だった」 - 73 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:23:09.56 ID:8KcjYazA0
- 【垣根帝督】
そうだ。
さっきの夢はまさしくこんな感じだった。
能力で出来た翼のようなものを使って、人を切り刻んでいく。
そしてそいつらは苦しながらも生きようと必死で……。
でも俺はそいつらの言葉に耳を貸さず……こんなふうに……。
「これ、俺がやったのか?」
「え……」
初春の顔を見ると、その目は泳いでいる。
それだけで確信できた。
そうか。そうだったのかよ。
「俺ってヤツは……ろくな人間じゃなかったんだな……」
さっきの夢はきっと現実。
そして殺していたヤツはきっと俺だ。
昔の俺は、人殺しを簡単に出来るようなやつだったんだ。
「っはは……なんだよ……。それ……」
そんなヤツがどうして生きてるんだよ。
入院するような何かが起きたのなら、そのまま放置して殺せばよかったんだ。
「垣根……さん」
「……俺を、捕まえるのか?」
「え……?」
「俺はこいつらを殺したんだ。いや、もっとたくさんの人間を殺した。あの時も……そうだ」
あの時の黒ずくめの男たち。
意識を失って、目を覚ますとそいつらは死んでいた。
そいつらもこの能力者と同じような死体だった。
「捕まえたりなんか……しません。垣根さんは……私を助けようとして……くれたじゃないですか」
「でも俺はコイツらを殺したんだ。……だって見てみろよ。誰も息すらしてない。
そして俺はかすかに覚えている。コイツらに能力を使ったこと……」
「垣根さ……」
「あっははは……! こんな人殺しなのに、なんであの時死ななかったんだ。
これじゃ、あの時捕まって研究材料になったほうがマシじゃねぇかよォ……!」
そうだ。あの時、アイツらについていって。
誰にも害を及ぼさない場所で一生研究材料として生きとけば!
初春にこんな姿を見せずに、コイツらを殺さずにいれたんだ! - 74 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:24:26.03 ID:8KcjYazA0
- 【初春飾利】
「垣根さ……」
「あっははは……! こんな人殺しなのに、なんであの時死ななかったんだ。
これじゃ、あの時捕まって研究材料になったほうがマシじゃねぇかよォ……!」
そういって垣根さんは悲しそうに、苦しそうに笑っていた。
まるで泣いているようなとても苦しそうな笑い声。
「垣根さんっ!!」
私はそんな垣根さんを抱きしめた。
「うい……はる……」
「大丈夫です。私が、私が一緒に背負いますから……。その苦しみを背負いますから……!
もうそんな……。そんなこと言わないでください……!」
もう見たくなかった。
垣根さんが苦しんでいるところを。
……大丈夫ですよ。きっとなんとかなります。
「垣根さん」
「私があなたを助けます」
- 75 :87[saga]:2011/06/26(日) 12:26:10.22 ID:8KcjYazA0
- 投下終わり
これから何も思い浮かばないので
またしばらくした後に投下すると思います - 76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]:2011/06/26(日) 12:50:33.75 ID:0gtk7irAO
- 乙
待ってるよ - 79 :87[sage]:2011/07/28(木) 07:16:55.31 ID:gRamQAlD0
- すいません。
忙しくて更新できないのでHTML依頼だします。
見てくださった方々、ありがとうございました。
2013年11月5日火曜日
初春「私があなたを助けます」
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