2013年11月6日水曜日

垣根 「ほら、笑って笑って!」 1

1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 01:53:00.10 ID:GObr1kmDO
・初SS+初スレです
・ギャグになったりシリアスになったりします
・基本的に台本形式で、必要な場面のみ地の文がつきます
・キャラ崩壊注意

少しでも暇潰しになれば幸いです。では2時頃から投下します。
 
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:02:35.42 ID:GObr1kmDO





あーあ



まさか、こんなとこで死ぬとはな



ま、こっちに来た瞬間から碌な死に方しねえとは思っていたが



俺の番が来たんだな……







おお、これが走馬灯か。マジで見えるんだな



…………



ハッ、嫌な思い出ばっかだぜ



一つくらい綺麗な思い出があったっていいだろ俺……



虚しい人生だったな――――



8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:03:58.86 ID:GObr1kmDO
―――――――――
―――――
―――

11月20日(土)


かつて第三次世界大戦の渦中にいた学園都市も、ようやく落ち着きを取り戻した

冬も迫りつつあって、道行く学生達の多くは厚着をしたりマフラーを巻いたりして寒さを凌いでいる

そんな中、ある1人の男は久しぶりの外の空気を堪能していた

高い身長、ホストのような服装、肩まで伸びた茶髪、端正な顔立ち

すれ違う女子学生が思わず振り返ってしまうのも無理はない

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:05:20.26 ID:GObr1kmDO

その男の名は垣根帝督

学園都市に7人しか存在しない超能力者<レベル5>の内、第二位に位置する実力の持ち主

そして、学園都市の『闇』たる暗部組織の1つ、『スクール』のリーダーでもある

いや、リーダー“であった”の方が正しいか

何故なら、彼は過去に起こした暗部同士の抗争で命を落とし、組織が壊滅してしまったからだ

では、その命を落とした筈の彼が今こうして街を歩いているのはどういうことか?



12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:06:41.75 ID:GObr1kmDO

―――――――――

1時間前~とある病院~




垣根は病室のベッドの上で目を覚ました

天井の照明の眩しさに眉を潜めながら、ゆっくりと上体を起こす

垣根 「………?」

垣根は朦朧とする意識の中、状況の理解に努めた

ここは、病院?

俺は死んだんじゃないのか?

様々な疑問が脳内を巡るも、結局解らず仕舞い

ふと、自分の身体を見てみる

腕、脚、胴体、隅々まで確認したが、どこにも傷跡らしきものが見当たらなかった

その後、しばらく手を開いたり閉じたり、肩を回したり等をして異常がないかも確認したが、これも問題なし

意識もはっきりしてきた頃、病室のドアが開き、誰かが入ってきた


15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:09:03.17 ID:GObr1kmDO

「調子はどうだね?」

カエルのような顔をした男は『冥土帰し』と呼ばれる医者だ

彼の手にかかれば、どんな怪我や病気も無かったかのように治してしまうのだが、垣根はその事を知らない

垣根 「ああ」

大丈夫だ、と答えてすぐにハッとする

垣根 「…じゃなくて、何で俺は生きてんだ?」

冥土帰しは質問には答えず、ただ黙ってズボンのポケットから何かを取り出した

冥土帰し 「君の携帯電話だね?」

垣根 「俺の…?」


19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:12:12.79 ID:GObr1kmDO
冥土帰し 「君が目を覚ましたら、ここへ掛けるように言われている」

渡された携帯の画面には番号が表示されていた

垣根 (誰だ…?)

暗部の関係者か、統括理事会の人間か…

どちらにせよ、裏の人間には違いあるまいと高を括り、発信ボタンを押した







『お目覚めかな?第二位』

それは、男にも女にも、若人にも老人にも聞こえる声だった

垣根 「……アレイスター」

垣根が呟いた人物は、学園都市の頂点に位置する統括理事長、アレイスター・クロウリー

垣根が死ぬきっかけとなった暗部同士の抗争の最大の目的は“学園都市への反逆”

その反逆の対象である人物が今、電話の向こうにいるのだ
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:13:13.38 ID:GObr1kmDO
アレイスター『お前が今最も疑問に思っているであろうことに答えてやろう』

垣根 「何?」

アレイスター『あの時、お前はまだ生きていたのだよ』

生きていた?と答える間もなく、アレイスターは話を続ける

アレイスター『あの後すぐにお前を回収し、延命措置を施した』

アレイスター『お陰で死なずに済んだが、代わりに人としての原型は無くなってしまった』

アレイスターの話はさらに続いた

自分の脳が3つに分けられ、能力を吐き出すだけの塊にされたこと

その後、第三次世界大戦が勃発し、能力を用いた兵器が作られたこと

垣根 (おちおち死ぬことも出来ねえってか?)

呆れるように、改めて学園都市の『闇』を思い知らされた
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:14:44.00 ID:GObr1kmDO
垣根 「……で、何で今になって俺を元の姿に戻した?」

暫しの沈黙の後、アレイスターは言う






アレイスター『お前はあと少ししか生きられない、と言われたらどうする?』
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:16:29.86 ID:GObr1kmDO
垣根 「……は?」

いきなり何を言い出すんだ?

アレイスター『あれからお前は能力の研究、生産といったあらゆる事に使われた』

アレイスター『その影響で、脳に異常が生じたのだよ』

垣根の能力は、この世に存在しない素粒子を生み出す『未元物質』<ダークマター>と呼ばれるもの

この世に存在しないとだけあって、既存の物理法則をねじ曲げたりする文字通り“常識の通用しない”能力だ

謎の多い稀少な能力であるため、科学者の研究魂に一層火がつくのは当然
垣根 「脳に異常?」










アレイスター『未元物質が、お前の脳を汚染し始めた』

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:17:16.85 ID:GObr1kmDO
垣根はさらに困惑した

俺の未元物質が、俺自身を汚染する?

垣根 「そいつは、暴走したからってことか?」

アレイスター『私も初めはそう考えたが、実際は違った』

アレイスター『それは、お前の意思で起こしたものだ』



俺の意思―――


そうか、何となく分かった気がする


人間とは呼べない姿で生かされ死ぬことも出来ず、尊厳も何もない

ただ、機械のように扱われる自分に嫌気がさしたのだろう



脳の中の僅かに存在した『俺』が許さなかった



――ならば、自らの手で終わらせてしまおう

29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:18:52.78 ID:GObr1kmDO


――それから垣根は只ぼんやりとアレイスターの話を聞いていた

一度始まった未元物質による汚染は垣根自身にも止められず、脳が勝手に演算をしている状態であること

それは目の前の医者、冥土帰しでさえも直す事が出来ない

ならば、せめて残された時間くらいは人間として過ごさせてやってもいいだろうと

そしてアレイスターは最後に

アレイスター『――悪いことをしてしまった』

と言って、電話を切った
端末からは一定のリズムを刻む電子音だけが鳴り響く

――何に対して言ったのだろう

俺があと少ししか生きられなくなった事に対して?

俺が『闇』に堕ちた事に対して?

俺が昔地獄のような日々を強いられた事に対して?
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:19:45.76 ID:GObr1kmDO
少し考え、垣根はすぐに否定した

垣根 (…って、あいつがそんな事本心で言う訳がねえ)

馬鹿馬鹿しい、と溜め息混じりに吐き捨て、携帯電話を降ろす

電話が終わったのを察知すると、ずっと窓の景色を見ている冥土帰しはそのまま話し始めた

冥土帰し 「僕も長年医者を続けてきたが…」

冥土帰し 「こんなに悔しい思いをしたのはこれで二度目だ」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:21:06.85 ID:GObr1kmDO
過去に一度、彼程の医者でも完全に治すことが出来なかった少年が1人いた

その少年は1人の少女を救う為に命を懸け、見事に助け出す

たがその代償に、少女との思い出を失ってしまった

彼は必死に記憶を取り戻そうと尽力したが、遂にそれは叶わなかった

冥土帰しが初めて味わった『敗北』である

そんな堪えがたい『敗北』が今再び、目の前に立っている


冥土帰し 「君の脳には黒い斑点のようなものが沢山あってね」

冥土帰し 「それを幾ら取り除いても、すぐ新しいのが出てくるんだ」

冥土帰し 「まるで、治されるのを拒むかのように…」

32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:22:30.31 ID:GObr1kmDO
『未元物質』という能力は今や、1つの病でもあった

常識通のじない力、常識の通じない病

それが作り出す領域は何人足りとも寄せ付けない

それが、生きている限りどんな患者でも治す『冥土帰し』であってもだ

冥土帰し 「あれが脳を完全に埋め尽くせば、脳のあらゆる機能を失い、君は死ぬ」

冥土帰し 「そしてその日が来るのは3ヶ月後の2月20日」

これが、僕が力を出し尽くした答えだ…と語る彼の背中からは、隠しきれない程の悔しさが滲み出る

垣根は自分の置かれている状況を整理していた

死んだと思えば実は生きてて、元に戻ったと思えば今度は3ヶ月後に死ぬ…

何も知らない人がこれを見れば、彼はさぞ悲しみに暮れていると思うだろう

それか、こんな目に遭わされた事に憤慨するかもしれない
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:23:16.13 ID:GObr1kmDO
だが、彼の心情はそれらとは懸け離れていた





3ヶ月後に死ぬ?

いや、違う


垣根 「あんたが気に病む必要はねえよ」

冥土帰しの眉がピクリと動く

垣根 「本来なら垣根帝督という人間はあの時死んで……俺の人生はあそこで終わってたんだよ」

垣根が死を悟った時感じたものは、何ともいえない虚無感だった

幼き頃から『闇』に飲まれ、明かりも何もない道をひたすら突き進んだ

出口も見えず、黒く染まっていく自分

そしていざ自分の人生を振り返ると、これ程虚しいものだったとは思ってもみなかった

今まで殺してきた人間も同じだったのか…

垣根 「それがどうだ?死んで当然の俺が今こうして存在している」

垣根 「俺にとって、これはまたとないチャンスなんだよ」


――あと3ヶ月も生きていられる

虚無感しかなかった人生を変えられるのは今しかない


34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:24:39.23 ID:GObr1kmDO


垣根 「こうしちゃいられねえ」

そう言うと垣根はベッドから抜け、椅子の上に綺麗に折り畳まれた服を掴む

それに着替え、髪を手櫛で軽く整えると

垣根 「…俺にチャンスをくれてありがとな」

と冥土帰しの背中に向け、早々と病室から出ていった




患者が居なくなった病室に佇む医者が1人

冥土帰し「…患者に慰められたのは初めてだね?」

これまで経験したことのない出来事に、彼はただ窓からの空を眺めるのみだった
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/24(日) 02:26:19.56 ID:GObr1kmDO
病院から出た垣根はふと立ち止まり、大きく息を吸い込む

そしてそれをゆっくりと吐きながら、彼は決意する

垣根 (俺がしてきたことは決して許される事じゃねえ)

垣根 (地獄でも何処へでも落とせばいい)

垣根 (だからこそ、この3ヶ月は悔いのないように生きる)

垣根 (1分1秒無駄にはしねえ)

よし、と心の中で決意表明をすると、歩みを進めた


どこへ行こうか?

何をしようか?


そこにいるのは『闇』に生きる人間ではなく、楽しい事を探す1人の少年だった




垣根 「まずは、あっちへ行ってみるか!」



53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:40:38.77 ID:52TSVZRDO
―――――――――


垣根 「いやー、わざわざ金まで残してくれてたとは」

垣根 「アレイスターの奴、ホントに悪いことしたと思ってたりしてな」 ハハッ

垣根 「けど、1分1秒無駄にしねえとは言ったが、やることが思い付かん」

垣根 「………」 グー

垣根 「…まずは腹ごしらえといくか」


~ファミレス~


店員 「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」

垣根 (1人でファミレスとは寂しいもんだな……ん?)

垣根 (あれ?あいつは……)

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:42:58.81 ID:52TSVZRDO





「はあ……」

とあるファミレスの角のボックス席に少女が1人、重い溜め息をついていた

ファミレスに1人で入るのはなかなか勇気が必要なことだが、少女にはそんなことを考える程の余裕がなかった

緩くウェーブのかかった長い髪や服装が、少女を大人びてみせる

名前は麦野沈利

学園都市に7人しかいない超能力者の1人で、順位は第四位

能力は原子崩し<メルトダウナー>といって、原子を曖昧な形のまま固定し、強制的に操るもの

そんな彼女もまた、学園都市の『闇』を生きる人間だ
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:44:03.41 ID:52TSVZRDO
以前彼女は暗部組織『アイテム』のリーダーを務めていた

仲間とは一緒にファミレスへ行ったりする程仲が良かったのだが、暗部間の抗争で一度は皆バラバラになってしまった

その後色々あって、『アイテム』は再び1つになろうとしている

なのに、何故麦野は浮かない顔なのか?

それは、こうなった一番の原因が自分にあると思っているから



麦野 (浜面はああ言ってたけど、やっぱ無理よ……)

麦野 (仲間をあんな目に遭わせといてもう一度やり直そうなんて、虫が良すぎる話だわ)

麦野 (…ドリンクバー行ってこよ) スクッ

麦野 (普段なら浜面にやらせてたけど、今は独りなんだよな……) スタスタ

麦野 (…寂しい) ポチッ
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:45:40.45 ID:52TSVZRDO
麦野 (皆が居たから、『裏』で生きるのも悪くないと思えた) ガー

麦野 (出来ることなら、また皆と一緒に居たい) スタスタ

麦野 (結局、自業自得って訳よ)

麦野 (あれ、フレンダの口調が移っちゃった?)

麦野 (フレンダ……) ジワッ







垣根 「ドリンクバー1つ」 アトコレトコレト…

麦野 「」

麦野 (……おいおい、寂しさの余り遂に幻覚まで見えるようになっちゃったかにゃーん?)

麦野 (私の席に居る筈のない奴が居るぞ?)

麦野 (よりによってアイツが出るとは、相当きてるな……) ゴシゴシ

麦野 (いつまでもうじうじしてられないな) チラッ

垣根 「麦野、何ボーッとしてんだ?」

麦野 「」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:47:10.60 ID:52TSVZRDO
―――――――――


垣根 「あー美味い、マジ美味い」 モグモグ

麦野 「……」

垣根 「食べることがこれ程幸せなものだったとは」 ムシャムシャ

麦野 「……」

垣根 「生きてるって最高!」 ゴクゴク

麦野 「……」

垣根 「ふいー…さて、ドリンクおかわりすっか」 スクッ

麦野 「おい」

垣根 「なんだ、お前もおかわり欲しいか?」

麦野 「まず座れ」

―――――――――


麦野 「――どういう訳か、身体を手にいれたってのは分かった」

垣根 (3ヶ月だけってのは言わなくていいよな)
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/26(火) 01:48:33.56 ID:52TSVZRDO

麦野 「で、何でここにいる?」

垣根 「ここに来て飯食う以外にする事ってあるか?」

麦野 「違う、何で私の席で食ってんだって言いたいんだよ」

垣根 「ファミレスで1人は寂しすぎるだろ?俺もお前も」

麦野 「ハッ、私が寂しく見えたって?勘違いもいいとこだ」

垣根 「嘘つけ、さっき涙目になってたじゃねえか」

麦野 「ああ?」 ギロッ

垣根 「そうムキになんなって、結構可愛かったぞ?」 ニヤニヤ

麦野 「よし、[ピーーー]」 キュイーン

垣根 「悪い悪い、ちょっとからかっただけだ」

麦野 「チッ…(見られてたのかよ)」

垣根 「お前らは今何してんだ?」

麦野 「あ?」

垣根 「だからよ、『アイテム』は今どうしてんだって、まだ『裏』の仕事とか来るのか?」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:51:12.98 ID:52TSVZRDO
麦野 「……テメェに話す事なんてねえよ」

垣根 「あっそ、俺は戦争の後始末やら何やらで暗部は今活動停止中って聞いたけどな」

麦野 「え?」

垣根 「解散も検討してるって言ってたような…」

麦野 (私の知らない間にそんな話が…)

垣根 「麦野?」

麦野 「……!な、何でもないわよ」

垣根 「お前今日暇?」

麦野 「は?」

垣根 「これから俺とどっか行こうぜ」

麦野 「何でテメェとデートしなきゃいけないんだよ」 ケッ

垣根 「デートってお前……///」

麦野 「照れんな、気持ち悪い」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:52:08.02 ID:52TSVZRDO
垣根 「1人は寂しいんだよー、な、いいだろ?」

麦野 「断r「よし、決まりだな!」

麦野 「……おい、人のはなs「早く行こうぜ、時間が勿体ねえ」 スクッ

麦野 「クソメルヘn「あ、お前の分も払っといてやるよ」 スタスタ

麦野 「」


カイケイ3830エンニナリマス


61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:53:16.63 ID:52TSVZRDO
―――――――――


垣根 「さて、どこへ行こうか…」 テクテク

麦野 「……」 ムスッ

垣根 「何不機嫌な顔してんだよ?」

麦野 「テメェが原因だよ!」

垣根 「そう怒るな、笑顔笑顔」 ニコニコ

麦野 「これで満足かにゃーん?」 ニヤアアア

垣根 「その顔でにゃーんは無理があるぞ」

麦野 「おい何で急に真顔になった」

垣根 「むぎのん恐いにゃーん」

麦野 「死ね!!」 ビーム

垣根 「あぶねっ」 パキーン

麦野 「クソうぜぇ羽だ…」 イライラ

垣根 「カッケーだろ?」 ファサファサ

麦野 「いいからしまえ!」
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:55:07.42 ID:52TSVZRDO


垣根 「――しかし、お前とこうしたやり取りするのは初めてだな」 テクテク

麦野 「そうね…」 テクテク

垣根 「俺達って顔合わせりゃ殺し合いしかしてなかったもんな」

麦野 (私が一方的にやられてた記憶しかないけど)

垣根 「そう思うと、この状況ってすごくね?」

垣根 「敵対してた二人が今こうして一緒に歩いてるんだからよ」

麦野 「……ふん」

垣根 「今なら俺達、もっと仲良くなれるかもな」

麦野 「私がいつテメェと仲良くなったんだよ」

垣根 「違うのか?」

麦野 「勝手に決めんな」 プイ

垣根 「じゃあこれから仲良くなろうぜ」 ニカッ

麦野 「あーうぜ、マジでうぜぇ」

垣根 「安心しろ、自覚はある」

麦野 「あの時と性格変わりすぎて気持ち悪いんだけど、何なのそのポジティブ思考」




垣根 「……お前、本気で死にかけた事あるか?」 ピタッ

麦野 「え?」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:56:45.53 ID:52TSVZRDO
垣根 「あの時俺は、初めて走馬灯ってのを見た」

麦野 「死ぬ間際に過去の記憶が映像になって見えるってやつか?」

垣根 「あれは酷かったぜ…ろくでもねえ思い出ばっか掘り起こされてよ」

垣根 「正直、死ぬより辛かったな……」

麦野 (思えば浜面に初めて負けた時、私よく生きてたわね)

麦野 (片目と片腕を失って、死んでもおかしくなかったってのに)

麦野 (――それ以上に、もっと大事なものを失ったけど)

垣根 「同時に、虚しくもなった」

垣根 「俺の人生って何だったんだろうなって…」

麦野 「……」

垣根 「その時思ったんだ、『たった1つでも楽しい思い出が欲しかった』ってよ」
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:58:04.90 ID:52TSVZRDO
垣根 「俺には『仲間』はいたが、『友達』はいなかったからな」

垣根 「何でもねえ話で笑ったり、バカやってはしゃいだり……」

垣根 「そんな思い出が…『友達』が欲しかった」

麦野 「『友達』か…」

麦野 (あいつらにとって、私は『仲間』だったのかな…)

垣根 「だから俺は、これから楽しい思い出をいっぱい作るんだ」

垣根 「それと『友達』もな」

垣根 「………」






垣根 「あーやめやめ!」 ブンブン

麦野 「!?」 ビクッ
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 01:59:10.64 ID:52TSVZRDO
垣根 「湿っぽいのは俺らしくねえな」 ウン

垣根 「…そうだ、アルバムを作ろう!」 ピコーン

麦野 「アルバム?」

垣根 「色んな思い出を写真にして、それを1冊の本にすんだ」

麦野 「はあ…」

垣根 「まずは電気屋へ行くか!」

麦野 「何で?」

垣根 「カメラ買うからに決まってんだろ?」

麦野 「そう、行ってらっしゃい」

垣根 「お前も来るんだよ」

麦野 「何で私がアンタの買い物に付いてかなきゃいけないのよ!」

垣根 「1人じゃ寂しいって言ってんだろ!」 プンスカ

麦野 (何で私が怒られてんの?)

垣根 「いいから行こうぜ麦野!」

麦野 「分かったわよ…」

麦野 (何なのコイツ……) ハァ


66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/26(火) 02:01:52.07 ID:52TSVZRDO


~電気屋~



麦野 「―――おい」

垣根 「ん~~?」 ウィーンウィーン

麦野 「電気屋に着くなりマッサージチェアに座るってどゆこと?」

垣根 「久々の身体だから歩き疲れてよ~~」 ウィーンウィーン

麦野 「カメラはどうした?」 イライラ

垣根 「あと5分待って~~」 ウィーンウィーン

麦野 「私は放置か」 イライラ

垣根 「あと5分~~」 ウィーンウィーン

麦野 「……」

垣根 「あ~~……」 ウィーンウィーン

麦野 「……」

垣根 「い~~……」 ウィーンウィーン

麦野 「……」

垣根 「……」 ウィーンウィーン

麦野 「……」

垣根 「ZZZ……」 ウィーンウィーン

麦野 「」 ブチッ


81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:30:38.77 ID:Hwe21mYDO





垣根 「イテテ……」 ジンジン

麦野 「目的忘れて寝てんじゃねーよ」

垣根 「普通ゲンコツで起こすか?」

麦野 「帰らなかっただけマシだと思え」

垣根 「それもそうだな」 ケロッ

麦野 「切り替え早っ」



垣根 「どうせ買うなら一眼レフだよなー」 ウーン

麦野 「そんなゴツいの買うの?デジカメでも写真に出来るのに」

垣根 「バカ、カメラといえば一眼、一眼といえば男のロマンなんだよ!」 クワッ

麦野 「はあ?」
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:31:31.73 ID:Hwe21mYDO
垣根 「この黒光りするボディ、圧倒的なフォルム…」 マジマジ

垣根 「男なら一度は手に取ってみたいと思うに違いない」 ウットリ

麦野 「ふーん…」

垣根 「よし、これに決めた!」

麦野 「結構高い値段ね。といっても、私達が気にする程でもないか」

垣根 「あとフィルムも買っとかないとな、50個ぐらい」

麦野 「そんなに買うの?」

垣根 「常に持ち歩くからな、寧ろまだ足りない位だ」

麦野 「街中でゴツいカメラぶら下げて歩くアンタを想像するとシュールでならないわ」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:33:00.43 ID:Hwe21mYDO
垣根 「となると、買い物かごがいるな」

麦野 「私は取りに行かないわよ」

垣根 「分かってるって、ちょっとそこで待ってろ」 スタスタ






麦野 「――なんだかんだ言って、今日はアイツとずっと一緒だな」

麦野 「殺したいくらい憎い相手の筈なのに…」

麦野 「『表』の人間みたいに呑気にはしゃいでやがる」 フッ

麦野 「……ちょっと羨ましいな」

麦野 「……」

麦野 「独りは寂しいよ…」

麦野 (皆、今頃どうしてんだろ)

麦野 (解散したら、2度と会えなくなるのかな…)
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:33:56.10 ID:Hwe21mYDO

麦野 「ん?あれって……」






絹旗 「ここは家電製品の品揃えが超いいらしいですよ」

滝壺 「結構広いね」 キョロキョロ

絹旗 「ここなら超お目当てのDVDレコーダーも見つかりそうです!」 ウキウキ

浜面 「なあ、俺がついてく意味あんのかよ?」

絹旗 「何言ってんですか?浜面には荷物持ちという超重要な役目があるじゃないですか」

浜面 「そんなの能力使えば…」

絹旗 「こんな可愛い女の子に能力使わせてまで荷物を持たせるなんて、超浜面はとことんダメな奴ですね」 プンプン

滝壺 「大丈夫、そんな紳士の風上にも置けないはまづらを私は応援してる」

浜面 「」
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:35:13.25 ID:Hwe21mYDO
麦野 (絹旗に滝壺に浜面!?何でここに…!) アタフタ

麦野 (とにかく、見つからないようにしないと…!) ササッ





垣根 「あれ、麦野どこいった?」 キョロキョロ

垣根 「……」 ポツーン

垣根 「ヤバイ、急に心細くなってきた」




滝壺 「たくさんあるね」 ジー

絹旗 「まさか壊れるとは思いませんでしたよ」

浜面 「壊したのは自分だろ?」

絹旗 「元はといえば、浜面が叩けば超直るって言ったからじゃないですか!」 プンプン

浜面 「だからって力いっぱい叩くことはねえだろ!」
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:36:34.89 ID:Hwe21mYDO
滝壺 「ぺしゃんこになってたね」

絹旗 「…確かに、ちょっとやり過ぎたかもしれません」 シュン

滝壺 「大丈夫、お金ははまづらが出すから」 チラッ

浜面 「え!?」 ギョッ

絹旗 「ホントですか!?」 キラキラ

浜面 「あ、いや…」

滝壺 「いいでしょ?」

浜面 「うーん…まあ、俺にも一因はあるし…分かったよ」 ポリポリ

絹旗 「やった!今日の浜面は超カッコいいです!」 ワーイ

滝壺 「カッコいいよ、はまづら」 ニコッ

浜面 「ハハ……」

浜面 (明日からピンチだ……)
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:38:10.16 ID:Hwe21mYDO


垣根 「どこだよ麦野~」 トボトボ

垣根 「ここ広すぎて探すの大変なんだよ~」 トボトボ

垣根 「1人にしないでくれ~」 トボトボ

垣根 「お、アイツらは…」



絹旗 「超これにします!」

浜面 (うわ、高!こんなにすんのかよ!)

滝壺 「はまづら?」

浜面 「い、いや、何でもない…」

絹旗 「では、レジまで超行きましょう!」

滝壺 「……」

絹旗 「滝壺さん?」

滝壺 「ねえ、あれって…」

浜面 「……!!」



垣根 「よっ」

浜絹滝 「「「垣根帝督!?」」」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:39:23.07 ID:Hwe21mYDO
絹旗 「何であなたが…!」

浜面 「滝壺、下がってろ」 スッ

滝壺 「はまづら……」

浜面 (麦野が手も足も出ない奴に俺達がどうこう出来る訳が…)

浜面 (クソッ、どうする!?)

垣根 「おいおい何身構えてんの?」

絹旗 「どうして生き返ったかは知りませんが、また良からぬ事でも超企んでるんでしょ!」 キッ

垣根 「それより麦野見なかったか?さっきまで一緒だったのにいなくなっちまってよ」

浜絹滝「「「え?」」」

滝壺 「むぎのと一緒に来てるの?」

垣根 「まあ話を聞けって――」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:40:33.91 ID:Hwe21mYDO
―――――――――



浜面 「――なるほど、それでカメラを買いにここへ来たと」

垣根 「そゆこと」 ドサドサ

滝壺 「何入れてるの?」

垣根 「カメラのフィルム」 ドサドサ

浜面 「棚にある分全部買う気かよ」

絹旗 「あの麦野が……超信じられません」

垣根 「お前ら『アイテム』はどうするんだ?活動してないんだろ?」 ヨイショ

浜面 「分からん、何せ麦野がまだ帰って来てないからな」

垣根 「え?」

浜面 「実は――」


浜面はこれまで経験したことを垣根に話した

麦野が仲間だったフレンダを裏切りの罪で殺したこと

命の危機に瀕した滝壺を助ける為、麦野に反旗を翻したこと

そして麦野と三度にも及ぶ戦いの末、和解を果たしたこと……
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:41:57.89 ID:Hwe21mYDO
垣根 「――そうか、それで1人足りなかったのか」

絹旗 「フレンダはきっと、何か超深い事情があってあんなことしたんだと思うんです…」

滝壺 「むぎの、フレンダの墓の前で泣きながら謝ってた…」

垣根 「アイツが…」

浜面 「和解はしたけど、それ以来麦野の奴俺達を避けるようになっちまって…」

浜面 「見掛けてもすぐ逃げるし、電話にも出ないから話が出来ないんだ」

滝壺 「きっと、私達に負い目を感じてるんだと思う…」

垣根 (それであんな顔してたのか…)

絹旗 「確かに麦野は皆に超酷いことをしたし、フレンダを殺した…」

絹旗 「その時は麦野に対して超怒りも感じましたし、許せませんでした」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:43:18.06 ID:Hwe21mYDO

絹旗 「……でも今は、前を向いて欲しいと思ってる」

絹旗 「垣根みたいに、自分のこれからの人生を超大事にして欲しいんです!」

絹旗 「こんなの、フレンダも望んでないと思う……」 グスッ

滝壺 「きぬはた……」 ナデナデ

垣根 「……とりあえず行こうぜ」

浜面 「そうだな……」



アリガトウゴザイマシター



垣根 「麦野の奴、どこうろついてんだ…?」

浜面 「俺達がいなくなれば戻ってくるさ」

絹旗 「麦野……」

滝壺 「大丈夫、きっとむぎのは帰ってくるよ」 ナデナデ

絹旗 「はい……」

浜面 「垣根はあの時と随分変わったな」

垣根 「はあ?」

浜面 「お前もいろいろあったと思うけど、なんか生き生きしてるし」 ハハッ
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:44:14.71 ID:Hwe21mYDO
垣根 「俺はただ自分に素直なだけだ」

浜面 「そうか」

垣根 「…1つ聞いていいか?」

浜面 「なんだ?」


垣根 「お前らにとって、麦野は何だ?」

絹旗 「それは…」







麦野 「――しかし広いわね」 トコトコ

麦野 「これだけ広いと見つかる心配もなさそうだけど…」

麦野 「……こんなこと、いつまで続けるんだろ」 ハア

麦野 「でも私には……っ!?」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:45:59.94 ID:Hwe21mYDO






絹旗 「それは…」

垣根 「あ、麦野」

浜面 「え?」 クルッ

麦野 「あっ……!!」 ギクッ

滝壺 「むぎの…!」

絹旗 「麦野!!」

麦野 「……」

麦野 「……あ」

麦野 「あはははははは!」

麦野 「見つかっちゃったー」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:47:31.29 ID:Hwe21mYDO
麦野 「ゴメンね?話の途中だったかにゃん?」

浜面 「おい、麦……」

麦野 「いいのいいの、気にしないで?」

麦野 「ちょっとこの辺ぶらついてただけだから!」 スタスタ

滝壺 「ねえ…」

麦野 「あ、もうこんな時間だ、急がないと!」 スタスタ

絹旗 「待って!」

麦野 「…っ!!」 ダッ


タッタッタッタッ……


95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/04/29(金) 01:49:38.01 ID:Hwe21mYDO
浜面 「アイツ、また…!!」

垣根 「……」

垣根 「ちょっとこれ持ってろ」 スッ

浜面 「垣根…?」 ガサッ

垣根 「アイツを追いかける」 ダッ

絹旗 「垣根!」


タッタッタッタッ……


絹旗 「……行ってしまいました」

滝壺 「でも、かきねならむぎのを救える気がする」

浜面 「どうしてですか?」

滝壺 「分からない、ただそんな気がしただけ…」



105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:12:09.77 ID:enTUVBLDO
―――――――――


人が行き交う通りを麦野は走る

どこへ向かうでもない。ただ無我夢中に、逃げるように

その表情は焦燥や恐怖といったもので埋め尽くされていた


麦野 (クソッ、クソッ……!!)

麦野 (アイツに見られた……!)


アイツも気付いたかもしれない

私がずっとこんなことを繰り返してるのを――


どれくらい走ったのだろう、先程までいた電気屋の看板が随分遠くに見える

ここは町外れの広場のようだが、人は1人も見当たらない 
 
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:12:51.78 ID:enTUVBLDO
麦野は一端止まって息を整える

『アイテム』として活動していた時はこれ程疲れることはなかった

肌寒い気候にも関わらず、その身体には汗が滲む

それは走ったことによるものか、はたまた別の何かか…

少し休んだ後、麦野は広場をフラフラと歩き始める


――また1人になった


太陽がやや西へ傾く空をぼーっと見ながら、そんなことを考えていた

麦野 「…ざまぁねえな」

そう自嘲しながら、あの頃を思い返してみる

彼女が持つ数少ない“綺麗な”思い出を――

108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:13:48.54 ID:enTUVBLDO
麦野 (よくファミレスに5人揃って行ったな)

麦野 (浜面に全員分のドリンクバー行かせて、その浜面を滝壺が応援して…)

麦野 (絹旗は映画の話ばっかして、フレンダはサバ缶食べてて…)

麦野 (ま、私もシャケ弁食べてたことあったけどね)

自然と顔が綻ぶのが分かる

血生臭い世界で生きる麦野にとって、あの時間は本当に楽しかった

あの瞬間は『友達』でいられた気がした



だがそれも、今は昔の話
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:14:35.55 ID:enTUVBLDO

身から出た錆

自分のしてきた事を思えば当然の結果だ

後悔先に立たず

人間とはいつも終わってから間違いに気付くものだ

現実に引き戻されると、再び表情は暗くなる

麦野 「何やってんだか…」

かつて仲間を地の果てまで追い回したかと思えば、今度は自分が仲間から逃げ回っている

無様だ、滑稽だ、と思い付く限りの罵言を自分に浴びせた







「おい」

麦野は足を止めた

後ろから聞こえたその声には聞き覚えがある

さっきまで隣ではしゃいでた男の声だ
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:15:27.24 ID:enTUVBLDO
麦野 「テメェ……」

垣根 「お前さ、今日俺の事一回も名前で呼んでないよな?」

垣根帝督って名前があるんだぜ?と目の前の男はおどけてみせる

麦野 「…何でついて来んだよ?」

垣根 「1人じゃ寂しいだろ?」

それは自分に向けてなのか、彼女に向けてなのか

この男は出会ってからこればかり言ってる

1人になるのを極端に嫌がるその姿は、自分の本心を映し出されているようだった

だからか、この男がとても憎らしく見える
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:16:03.88 ID:enTUVBLDO
麦野 「いい加減にしろよ、こっちはもううんざりしてんだよ!」

垣根 「少し落ち着けって」

麦野 「うるせぇ!これ以上付きまとうんじゃねぇ!」

調子を崩さない垣根に麦野はますます苛立つ

垣根 「なあ、麦野…」


直後、一筋の閃光が垣根の顔を横切る


麦野 「……うるせぇっつってんのが聞こえねぇのかああああああ!!!!」

怒髪天を衝くとはこの事を言うのだろう

麦野の周りにポツポツ浮かぶ光が矢となって垣根に放たれる

今度はその身体を射抜く為に

垣根 「……」

垣根は黙ったままその場から動かない

その背中には天使を彷彿とさせる純白の羽が6枚
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:16:51.59 ID:enTUVBLDO


麦野の『原子崩し』は鋼鉄を紙同然に貫く程の威力を持っている

生身の人間が直撃すれば原型を保つのも難しい

しかし、目の前の男はたった6枚の羽で麦野の何十もの光の矢を防ぎきっていた

未元物質の前ではそんな常識も覆される

第二位と第四位では実力に差がありすぎるのだ

そんなことは麦野自身が一番理解していた

それでも、怒りを抑えられずにはいられない

攻撃は更に激しさを増す

麦野 「私もテメェも、所詮はクズなんだよ!!」

麦野 「どんなきたねえ事もしてきた!虫けらのように人を殺した!」

麦野 「なのに、今更まともな人生を歩む?出来る訳ねぇだろ!!」



同じ『闇』に生きる身でありながら、何故お前は光に満ち溢れている?

何故お前はそんなに笑っていられる?

私はこんなに苦しんでいるのに、何故……

113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:17:26.61 ID:enTUVBLDO






――気付けば麦野は攻撃を止めていた

立ち込める煙が晴れると、そこにはさっきと変わらない様子で垣根が立っていた

彼が避けなかったお陰で周囲の物は1つも壊されずに済んだのだ

垣根 「……」

麦野から殺気を感じなくなると、背中の羽は消えた

肩で息をする彼女に、垣根はゆっくりと歩み寄る

垣根 「落ち着いたか?」

麦野 「……」

垣根 「……全部聞いた」

麦野 「……」

観念したかのように、麦野はぽつりぽつりと話し始めた
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:18:43.60 ID:enTUVBLDO
麦野 「笑っちまうよな、全部自分が撒いた種だってのに……」

麦野 「アイツらは許してくれるって言ってたけど、私は私を許せない」

麦野 「私には、許してもらう資格なんてないのよ」

麦野 「なのに…!」

突如、麦野は垣根の胸ぐらを両手で掴んだ

今にも噛みつきそうな目で睨みながら、思い思いをぶつける

麦野 「何でテメェはそんなに笑っていられんだ!!」

麦野 「ムカつくんだよ、『表』の人間みたいなこと考えやがって!」

麦野 「過去が帳消しになるとでも思ってんのかよ!?」

麦野 「今までやったことを忘れたのかよ!?」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:19:25.25 ID:enTUVBLDO

麦野には垣根が輝いてみえた

今まで手に入れられなかった物を得るために前へ進むその姿が、羨ましかったのだ

……だから否定したかった

『闇』を忘れ、『光』を求めようとする垣根<じぶん>を――


麦野 「出来ねぇよ、出来る訳がねぇ!」

麦野 「私には、もう何も……」

彼女は俯くと、それから何も喋らなくなった

少しの間、沈黙が訪れる…







垣根 「……お前自身はどうなの?」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:25:02.63 ID:enTUVBLDO
えっ?と声にならない声を漏らす麦野

垣根 「資格はないだの出来ないだの言ってっけど、それって決め付けてるだけじゃね?」

垣根には麦野の気持ちが痛いほど分かる

何故なら、以前の自分がそうだったから

自分のような人間が『光』を求めてはいけないと、言い聞かせてきたから――

垣根 「…忘れる訳ねえよ。俺もお前も、その罰は充分受けただろ?」

この罪はこれからも背負っていく

それが『闇』を生きた自分達のケジメだ

垣根 「……だから、そろそろ前見て歩かねえか?」

垣根 「後ろばっか見てると、目の前の幸せを掴み損ねるぜ?」
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:25:44.42 ID:enTUVBLDO
自分が人間である以上、生きてくしかない

引き返すことの出来ない旅路の中でどれだけ躓き転び、後悔するのだろう

もしかしたら、突然道が閉ざされるかもしれない

垣根 「お前にもチャンスはあるんだよ、これからの人生を変える……な」


だから歩こう、道が続く限り――

だから生きよう、悔いのないように――


垣根 「そろそろ、自分に素直になろうぜ?」
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:26:29.04 ID:enTUVBLDO
麦野 「……っ!」

肩が震え、襟を掴む手に力が入る

――自分に素直になろうぜ?

麦野 「似合わねえこと言いやがって……」


本当にいいのだろうか?

もう自分を殺さなくていいのだろうか?

こんな自分が、幸せを望んでもいいのだろうか?



麦野 「………たい」


ならば、今日からは――


麦野 「また……皆…と…」


ほんの少し――


麦野 「また皆と、一緒に戻りたい……!!」


素直に生きてみよう――


119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:28:24.62 ID:enTUVBLDO

麦野 「勝手なのは分かってる……」

麦野 「でも私には、あそこしかないんだよ!」

麦野 「絹旗が、滝壺が、浜面が、フレンダが、皆がいる『アイテム』しかないんだよ!!」

麦野 「もう…独りは嫌だ……!」

垣根 「……それが、お前のホントの気持ちか?」

麦野 「……」 コクリ

垣根 「そうか……」







垣根 「…聞いたか?」 ニヤリ

麦野 「えっ…?」

麦野が顔を上げると、垣根の後ろにはかつての仲間が立っていた
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:29:22.58 ID:enTUVBLDO
麦野 「み、みんな……!?」

絹旗 「……麦野、もういいです」

絹旗 「これ以上、自分を超責めないで下さい…!」

浜面 「俺達だって、麦野がいないと寂しいんだぜ?」

浜面 「フレンダも、今のお前を見たら絶対悲しむ」

滝壺 「私達に居場所をくれたのはむぎのだよ?」

滝壺 「ねえ、帰ってきてよ……」

麦野 「……いいの?」

麦野 「だって…私、み…皆を………傷つけて……」

絹旗 「当たり前じゃないですか!だって、私達……」



絹旗 「――『友達』ですよ?」 ポロポロ

麦野 「……っ!!」 ジワ

麦野 「うわあああああん!!」 ダキッ

絹旗 「麦野…ヒック…帰って…グスッ……来てくれるんですね?」 ギュッ

麦野 「うん…うん……!!」 ボロボロ

麦野 「グスッ……むぎの…!」 ギュッ
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:30:50.67 ID:enTUVBLDO


ヒック、エグッ……


垣根 (……幸せ者が) フッ

浜面 「…垣根、本当にありがとう」 ペコッ

垣根 「何頭なんか下げてんだ?」

浜面 「お前のお陰で、また皆が揃う事が出来たんだ」

垣根 「素直になれば?って言っただけで、直接的な事は何もしてねえぞ?」

浜面 「あの麦野の心を動かしたのはお前だ、礼を言わずにはいられねえよ」

垣根 「あっそ…」


麦野 「ねえ…」

絹旗 「何ですか?」

麦野 「今からフレンダのところへ行かない?」

麦野 「皆がまた1つになれたのを見せたいの…」

滝壺 「……いいよ」

麦野 「他の皆は?」

絹旗 「超賛成です!」

浜面 「そうだな、行こうぜ」

垣根 「俺もついてっていいか?」

麦野 「アンタも来るの?」

垣根 「ダメか?」

麦野 「……そんなことないわ」 クスッ
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:32:35.55 ID:enTUVBLDO
―――――――――

~町外れの岬~


麦野 「フレンダ…」

麦野 「私、今日から前を見て生きることにしたわ」

麦野 「自分の人生を悔いのないように……」

麦野 「勿論、この罪も背負ってくつもりよ」

麦野 「……」

麦野 「今、すごく幸せなの」

麦野 「私の周りには『友達』がたくさんいる」

麦野 「フレンダだってその1人」

麦野 「『アイテム』がまたこうして1つになれて良かった…」

麦野 「これからもよろしくね、フレンダ――」

浜面 「…これでフレンダも安心しただろうな」

絹旗 「もしかしたら、ひょっこり出てくるかもしれませんよ?」

滝壺 「いつ来てもいいように、サバ缶買っておかないとね」


アハハハハ


垣根 「いい絵だなぁ……」 ジーン

垣根 「こういうのが欲しかったんだよ、俺は……」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:33:43.85 ID:enTUVBLDO
垣根 「そうだ!おい浜面、カメラ貸せ!」 バッ

浜面 「どうした?」

垣根 「お前らを撮ってやる」 カチャカチャ

麦野 「え?」

垣根 「じゃあ皆そこに並べ~」

滝壺 「むぎの、撮って貰おう?」 グイ

麦野 「ちょ、ちょっと待って!」

浜面 「そりゃいいや、『アイテム』復活記念だな!」

絹旗 「超可愛く撮って下さいねー!」

麦野 「し、仕方ないわねー」


124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/02(月) 21:34:45.33 ID:enTUVBLDO


彼の思い出の記念すべき第1枚目は、“5人”の少女達の新たな出発を祝福するものだった

夕日に照らされた顔は、どれも満面の笑みで溢れている

麦野 (全く、今日はコイツに振り回されてばっかだわ……)

麦野 「――ありがとう、垣根」 ボソッ

こうして、垣根の思い出作りの日々は始まりを告げた

それと同時に、残された3ヶ月の1日目が終わりを迎える――



垣根 「ほら、笑って笑って!」



149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:11:20.43 ID:IkNHMMLDO
―――――――――
―――――
―――

11月21日(日)
~自宅~


垣根 「うーん……」 ムクッ

垣根 「もう9時か…」 ボー

垣根 「……?」

垣根 (何だこりゃ?勝手に演算なんかしてやがる)

垣根 (アレイスターが言ってたあれか……)

垣根 (俺が死ぬまでの期間とか演算してんのかもな) フッ

垣根 「…さて、準備でもするか」 ノビー


150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:12:18.64 ID:IkNHMMLDO
―――――――――

~ファミレス~


絹旗 「昨日はあのあと超遊びっぱなしでしたね」

浜面 「ファミレス行ってボーリング行ってカラオケ行って……なかなかハードたったな」

麦野 「……」 ジー

滝壺 「昨日の写真?」 ヒョコ

麦野 「そっ、垣根がすぐに現像してくれたのよ」

絹旗 「超見たいです!」

麦野 「みんないい顔で笑ってるわよ」 ピラッ

浜面 「ホントだ、みんな笑ってる」 フッ

滝壺 「みんな笑ってるね」 クスッ

絹旗 「はい、みんな笑ってます」 ニヤニヤ

麦野 (こんな顔して笑ったの初めてかもね…)

麦野 (今度、アイツになんかお礼をしないと)
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:13:46.02 ID:IkNHMMLDO
浜面 「麦野、どうした?」

麦野 「何でもないよ、それよりドリンクバー」 カラカラ

絹旗 「あ、私も!」 ヒョイ

滝壺 「お願いはまづら」 ヒョイ

浜面 「はいはい……」 スタスタ



絹旗 「垣根、あの時とはまるで超別人みたいでした」

滝壺 「人ってあんなに変わるものなんだね」

麦野 「何よ突然?」

滝壺 「あのかきねだったら心を許しちゃうのも分かる」

麦野 「誰も許してなんか……」

絹旗 「でも、昨日は垣根とずっと一緒だったんですよね?」

麦野 「あれはアイツが1人は寂しいってうるさいから仕方なくついてっただけよ」
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:15:17.01 ID:IkNHMMLDO
絹旗 「ホントにそれだけですか?」

麦野 「それだけ」

滝壺 「むぎのも寂しかったんだよね?」

麦野 「えっ?」 ドキッ

浜面 「何の話してんだ?」 オマタセ

絹旗 「超内緒です」

滝壺 「内緒」

浜面 「?」



~公園~


垣根 「……」 テクテク

垣根 「……」 パシャッ

垣根 「……」 テクテク

垣根 「……寂しい」 ボソッ

垣根 「1人じゃ楽しい思い出なんて作れねえな」

垣根 「やっぱ麦野誘うべきだったかなー」

垣根 「誰か~」

153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:16:42.35 ID:IkNHMMLDO





公園のベンチに腰かけ、缶コーヒーを飲む少年が1人

その髪や肌は雪のように白く、瞳は燃えるように紅い

一方通行<アクセラレータ>と呼ばれる彼こそが超能力者の第一位、学園都市最強の男だ

普段の彼は家でゴロゴロすることが多いが、今日は珍しく散歩に出ていた

一方 (この生活にも慣れちまったなァ…)

この前まで彼は『闇』の真っ只中を生きてきた

数え切れない程の命を己の目的の為に奪ったこともある

154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:17:33.32 ID:IkNHMMLDO
そんな自分がこんな生活を送っていいのだろうかと、何度も思った

こんな極悪人がと、何度も卑下した

しかし今は守るべき存在がいる。守ってくれる存在がいる

それらの為に、彼は彼なりに前を向いて生きようと決めたのだ

いつまでも後ろを見ていられない

おぼつかない足取りで一歩一歩、確かめるように歩き出す

自分の人生という道を――



一方 (暗部も今は活動停止中……)

一方 (アイツらはアイツらで何とかやってるンだろォが)

一方 (いよいよ逃げ場がなくなっちまったァ)

一方 「……」 ボー

一方 「眩しい」

一方 「こンな俺も照らしてくれンだなァ、太陽はよ」
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:18:07.22 ID:IkNHMMLDO
一方 「……?」 ジー

一方 「アイツ……」




垣根 「よう、一方通行」 パシャッ

一方 「オマエ…第二位……!」

垣根 「俺には垣根帝督って名前があるんだぞー」 パシャッ

一方 「あの時俺が殺したはず…って、何俺を撮ってやがる」

垣根 「カッコいいだろ?一眼レフだぜ~」 パシャッ

一方 「おい話を聞け、いやその前にカメラ下ろせ」

垣根 「恐い顔すんなよ、ほら笑顔~」 パシャシャシャシャッ

一方 「連写すンなァ!!」
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:18:49.72 ID:IkNHMMLDO


垣根 「……久しぶりだな」

一方 「何だァ?俺に復讐でもしに来たかァ?」

垣根 「……」

不適な笑みを浮かべると、垣根の背中から白い翼が生える

暗部間の抗争の時、垣根は目の前の男に敗れた

それによって彼の人生は一度断たれ、機械として使われることになった

一方 「……そのつもりのよォだな」

一方通行は首のチョーカーのスイッチをオンにする

これによって彼は能力を使えるようになるのだ

あらゆるベクトルを操作する彼の前では、核爆弾ですら傷1つつけることが出来ない

だが垣根は、その一方通行に傷を負わせた経験がある

垣根 「一方通行ァァァァァァ!!」

咆哮と共に垣根が一気に一方通行へ迫る

一方 「面白ェ、もう一度地獄へ叩き落としてやンよォ!!」
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:19:30.89 ID:IkNHMMLDO
公園の真ん中で学園都市の頂点2人が再び衝突する――――










――――かと思いきや


垣根 「俺と街をぶらつこうぜ!」

一方 「」
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:20:45.94 ID:IkNHMMLDO
―――――――――


一方 「――思い出作り、ねェ」

垣根 「お前は今の生活は楽しいか?」 ストン

一方 「さあな」

一方 (ま、悪くはねェかもなァ)

垣根 「じゃあよ、これからもっと楽しくしようぜ!」

一方 「……オマエ、本当に暗部の人間か?そンなポジティブな奴初めて見たぞ」

垣根 「最初で最後のチャンスだからよ……」 ボソッ

一方 「あァ?」

垣根 「いや、何でもない」

垣根 「…さて、そろそろ行こうぜ?」 スクッ

一方 「まだ誰も行くとは言ってねェぞ」
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:22:42.51 ID:IkNHMMLDO
垣根 「日曜日に1人公園でコーヒー飲んでて寂しくねえか?」

一方 「別にィ、俺は平気だ」

垣根 「お前は平気でも俺が寂しいんだよ!」

一方 「オマエ、自分を殺した相手によく誘えンなァ」

垣根 「昨日の敵は今日の友!」 キリッ

一方 「うぜェ」

垣根 「そんなこと言わずにさ~」

一方 「…ったく、仕方ねェなァ」 ポリポリ

垣根 「よし、そう来なくっちゃ!」

一方 (何なンだァ、コイツ……)

垣根 「学園都市ぶらり旅ってな~」 ウキウキ




~ファミレス入口~


浜面 「じゃ、俺達は行くわ」

滝壺 「じゃあね」 ヒラヒラ

麦野 「ん、また今度ね」 ヒラヒラ
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/07(土) 02:24:41.33 ID:IkNHMMLDO


ドコヘイク?
ソウダナー…


絹旗 「では、私もお先に!」

麦野 「じゃあね」


タッタッタッタッ…


麦野 「浜面は滝壺とデートで、絹旗は家で映画鑑賞か」

麦野 「私は何しようかな…」

麦野 「……」 ウーン

麦野 「……」 パカッ

麦野 (昨日垣根とアドレスと番号交換したんだっけ) ジー

麦野 「……」

麦野 「……」 パタン

麦野 「……コンビニでシャケ弁でも買ってくか」 テクテク


175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/10(火) 23:43:56.22 ID:Qwx1oWjDO



垣根 「うーん、撮りがいのあるものが全然ねえなー」 パシャッ

一方 「街中でカメラはやめろ、こっちが恥ずかしい」

垣根 「ぶらり旅っつっても地元だしなー」

垣根 「どっか行ってみたいとことかある?」

一方 「特にねェ」

垣根 「まあいいや、適当にうろうろするか」




~裏路地~


一方 「何でこンなとこ歩いてンだ?」

垣根 「普段通らない道とか歩くと何か出逢いが待ってるかもしれないだろ?」

一方 「何に出逢うンだよ…」


ゾロゾロ…


不良×5 「へっへ……」

垣根 「な?」

一方 「」
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/10(火) 23:44:43.03 ID:Qwx1oWjDO
不良A 「よう兄ちゃん達、ちょっといいかな?」 ニヤニヤ

不良B 「カッコいいカメラ持ってんねー」 ニヤニヤ

不良C 「さぞかし金持ちなんだろなー」 ニヤニヤ

不良D 「俺達今金に困ってんだよねー」 ニヤニヤ

不良E 「何が言いたいか、分かるよな?」 ニヤニヤ

一方 (こンなのと出逢いたくはねェな) ハァ

一方 (面倒くせェ、とっととのして…)

垣根 「お前ら友達か?」

不良×5 「はあ?」

垣根 「だから、友達かって聞いてんの」

不良B 「まあ、小さい頃からの付き合いではあるな」

不良E 「小・中・高と見事に一緒のクラスだったしな」

不良D 「5人揃って飯食いに行ったりゲーセン行ったり…」


アンナコトモアッタヨナ!
アッタアッタ!
ギャハハ……


一方 「……何が起きてやがる?」 ポカーン
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/10(火) 23:46:18.39 ID:Qwx1oWjDO
不良A 「……そうだ、あの頃は本当に楽しかった」

不良D 「夢に向かってひたすらつっ走ってたっけ」 ハハッ

不良C 「それが、今じゃこのザマだ」

不良C 「何でこうなっちまったんだろうな……」

垣根 「……」

垣根 「なあ、お前らが昔よく行った店とかあるか?」

不良B 「そういえば、学校の帰りにたい焼き屋なんかよく行ったな」

不良E 「それがどうした?」

垣根 「俺達を案内してくれよ!」

一方 「!?」

垣根 「たい焼きかー、食ってみてえなー」

不良E 「おい、どうする?」

不良A 「いいんじゃないか?俺も久々に食べたいし」

垣根 「マジか!ありがとよ!」 ガシッ

不良E 「あ、ああ……」 ガシッ

一方 (……何だこの展開)
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/10(火) 23:46:55.07 ID:Qwx1oWjDO


~たい焼き屋~


垣根 「いい匂いがする~」

一方 「屋台なのかァ…」

不良C 「懐かしいな、おばちゃん元気かな…」

おばちゃん 「いらっしゃい…って、アンタら……」

不良A 「……久しぶり」

おばちゃん 「まぁまぁ、随分大きくなって~!」

おばちゃん 「高校行ってからはめっきり来なくなったから寂しかったわ~」

おばちゃん 「学校は楽しいかい?」

不良B 「まあ、楽しい…かな」
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/10(火) 23:47:48.21 ID:Qwx1oWjDO
おばちゃん 「アンタらが小さい頃はちょっと不安だったけど…」

おばちゃん 「立派に成長してるみたいで安心したよ」

不良×5 「……」

垣根 「おばちゃん、たい焼き7個!」

おばちゃん 「はいよ!」 ガサガサ





不良A 「……悪いな、俺達の分まで」

垣根 「いいってことよ」 ホクホク

不良D 「なあ…」

不良A 「?」

不良D 「俺達、もう一度やり直せるかな…?」
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/10(火) 23:54:52.39 ID:Qwx1oWjDO
不良D 「おばちゃんの顔見たら、今のままじゃダメだって思ったんだよ」

不良B 「確かに、会わせる顔がないな」

不良E 「もうあんなことするのやめようぜ」

不良C 「だな」

一方 (何か勝手に盛り上がってンだけど……)

不良A 「なあ、そのカメラで俺達を撮ってくれないか?」

一方 「え?」

不良A 「俺達の再出発を記念に残したくてな」

垣根 「よし、じゃあそこに並んで……」



――この日以来、5人のスキルアウトは暗がりから姿を消した

去り際、彼らは変わるきっかけをくれた少年に感謝の思いを告げる

当の本人は只たい焼きに浮かれるばかりだったそうな
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/10(火) 23:55:45.97 ID:Qwx1oWjDO
―――――――――


垣根 「いいものに出逢ったな」 テクテク

一方 「何だったンだァ、アイツらは」 テクテク

一方 「絡ンで来たと思えば勝手に立ち直りやがって……」

垣根 「あーいうのは撮ってて気持ちいいなー」

一方 「撮ったその場で写真にするとは思わなかったなァ」

垣根 「俺の能力を忘れたか?」

一方 「何でもアリかよ」

垣根 「ほれ、たい焼き」

一方 「俺甘いもンは苦手なンだよ…」

垣根 「そう言わずに……お、美味い!」 モグモグ

一方 「……」 モグモグ

一方 「……悪くねェ」

一方 (今度クソガキ共に買ってやるか…)

垣根 「おっ、あそこにいるのは……」


183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/10(火) 23:56:57.11 ID:Qwx1oWjDO




麦野 「クソッ、シャケ弁売り切れてやがった」 テクテク

麦野 「他のコンビニへ行くのも面倒だし……」

麦野 (やっぱアイツに……) パカッ

麦野 (いや、やっぱやめとこう) パタン

麦野 (でもする事ないしなー) パカッ

麦野 (…って、アイツと何するってんだ) パタン

麦野 「……」 ウーン


ラフメイカージョウダンジャナイ


麦野 「!?」 ビクッ

麦野 (アイツから…?) パカッ

麦野 「もしもし」

垣根 『さっきから何携帯パカパカしてんの?』 ププッ

麦野 「」


垣根 「おーっす」 モグモグ

一方 「誰だァ?この女」 モグモグ

麦野 「」
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/11(水) 00:01:42.11 ID:TsKyb1pDO




一方 「――オマエが第四位『原子崩し』ねェ」 モグモグ

垣根 「それ気に入ったか?」

一方 「……まァ」

麦野 「何食べてんの?」

垣根 「たい焼き、食うか?」 ブチッ

麦野 「じ、じゃあ一口……」 ヒョイ

麦野 「あら、なかなか美味しいじゃない」 モグモグ

垣根 「丁度いい、お前も来いよ」

麦野 「えっ?」

垣根 「俺達と一緒に街をぶらつこうぜ」
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/11(水) 00:03:05.50 ID:TsKyb1pDO
垣根 「いいだろ、一方通行?」

一方 「俺は構わねェが……」

麦野 「いや、ちょっt「まあいいじゃねえか」

麦野 「コラ待t「旅は道連れって言うだろ?」


コレデ3ニンカー、タノシクナッテキタ!


麦野 「」

一方 「……俺も似たようなもンだァ」 
 
 
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:22:09.23 ID:eNlSQmCDO
―――――――――


垣根 「し~あわっせは~、あ~るいってこ~ない」 テクテク

一方 「やめろ、周りの視線が痛いだろォが」 テクテク

麦野 (……何このデジャヴ) テクテク

麦野 (まっ、暇だったからいいけどね)

麦野 「アンタ、以前アイツと戦ったことがあるんだって?」

一方 「あァ、途中から意識が飛ンで気付いた時には殺してた」

麦野 「さすが第一位ね、私じゃ手も足も出せないわ」

一方 「それが復活したと思えばこれだァ、正直別人かと思ったぜ」

麦野 「ホント、あの変わりようは異常ね」

208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:23:06.89 ID:eNlSQmCDO
垣根 「さ~んっぽすっすんで……」

一方 「……」

麦野 「……」

垣根 「さ~んっぽすっすんで……」

一方 「……」

麦野 「……」

垣根 「さ~んっぽすっすんd」

一麦 「「二歩さがるゥゥゥゥゥゥ!!」」



―――――――――


一方 「けっこう長い階段だなァ…」

垣根 「アレやろうぜ、アレ!」

一方 「アレ?」

垣根 「じゃんけんして勝ったら登ってくやつだよ」

麦野 「グリコ、チョコレート、パイナップルで文字数分登るんだっけ?」

垣根 「そう、それ!やったことあんの?」
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:23:48.61 ID:eNlSQmCDO
麦野 「聞いたことがあるだけよ」

一方 「そンな遊びがあるなンて知らなかったなァ」

垣根 「先にてっぺんまで登った奴の勝ちな」

一方 「俺はやらねェぞ」

垣根 「負けるのが恐いか?第一位さんよ~」 ニヤニヤ

一方 「上等だァ!遊びにおいても俺に勝てねェってことを思い知らせてやらァ!」 カチッ

麦野 (あれ、意外と単純……?)

垣根 「麦野、お前も参加な」

麦野 「はいはい……」







一方 「ギャハハハ!!どォしたよ垣根クゥゥゥゥゥン!!」

垣根 「なかなかやるじゃねえか…!」

麦野 (何だかんだで楽しんでるじゃない)
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:25:54.92 ID:eNlSQmCDO
一垣麦 「「「じゃんけんぽん!」」」

垣根 「よっしゃ!グ・リ・コ」 トントン

一方 「オマエ!さりげなく一段飛ばしてンじゃねェぞォ!!」

麦野 「グ・リ・コ、結構疲れるわねこの遊び…」 トントン

垣根 「何だ、もうそんな年か?」

麦野 「うっせぇぇぇぇぇ!!!」



―――――――――


垣根 「チクショウ、勝てると思ったのに……」 テクテク

一方 「下らねェことに能力使っちまうたァな…」 テクテク

麦野 「とか言って、一番ノリノリだったじゃない」 テクテク

一方 「負けず嫌いなだけですゥ」
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:26:31.66 ID:eNlSQmCDO
垣根 「おい、今度はアレ行ってみようぜ!」

一方 「…バッティングセンター?」

麦野 「こんなの学園都市にあったんだ」

垣根 「次は負けねえぞ!」



~バッティングセンター~


垣根 「ボールを一番多く前へ運んだ奴の勝ちな」
一方 「全球ホームランにしてやるよ」 カチッ

垣根 「まずはお前からなー」

一方 「しっかり見とけよォ」 ガチャ

麦野 「何カメラ構えてんの?」

垣根 「アイツの勇姿を撮ってやろうと思って」
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:27:21.08 ID:eNlSQmCDO


ゴウンゴウン…


一方 「ハッ、この俺を誰だと思ってやがる…」

一方 「来たものを跳ね返すなンざ訳ねェンだよ」


バシュッ


一方 「もらったァァァァァァ!!」 スカッ


コロコロ…


麦野 「……」

垣根 「……」 パシャシャシャシャッ

一方 「……」 クルッ

麦野 「……」 プルプル

垣根 「……」 プルプル

一方 「……」 ダラダラ

垣根 「ブハハハハハ!!盛大に空振りやがったぁぁぁ!!」 ゲラゲラ

麦野 「あ…あんなドヤ顔で、あんなこと言っておきながら空振りって……!」 プクク

一方 「チクショォォォォォォ!!!!」

垣根 「見ろ一方通行、いい写真が撮れたぞ!」 ピラッ

一方 「ヤメロォォォォォォ!!!!」
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:28:01.86 ID:eNlSQmCDO






麦野 「記録は30球中7球、と…」

一方 「こンなはずじゃねェんだ……」 ズーン

垣根 「ま、そういうこともあるさ」 クスクス

一方 「この野郎…」 ギリギリ

垣根 「次は俺の番だ、カメラ持っててくれ」 ガチャ

麦野 「んっ」 ヒョイ


ゴウンゴウン…


垣根 (へへっ、俺が態々“ボールを前へ運ぶ”って言った意味が分かるか?)

垣根 (俺には秘策があんだよ) ニヤリ

一方 「外せ外せ外せ外せ外せ……」 ブツブツ

麦野 「ちょっとアンタ怖いわよ」
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:29:11.83 ID:eNlSQmCDO


バシュッ


垣根 「ほい」 コキン


コロコロ…


一麦 「「……」」

一方 「ハアァァァァ!?バントかよォ!!」 ガタッ

麦野 「その手があったか…」

垣根 「この勝負は貰ったぜ!」

一方 「きたねェぞコラァ!」

垣根 「これも立派な作戦だよっと」 コキン

一方 「……」 イライラ

一方 「おい、そこに何か落ちてンぞ」

垣根 「え、どれ?」 キョロキョロ

一方 「バカ、もっとこっちだァ」

垣根 「どれだよー」 キョロキョロ


バシュッ


垣根 「ぐおォ!?」 ズドム

一方 「ギャハハハハ!!何よそ見してンですかァァァ!?」 ゲラゲラ
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:32:09.25 ID:eNlSQmCDO
垣根 「テメ…ハメやがったな……」

麦野 「アハハハハ!今の顔最高だったわ!」 ゲラゲラ

垣根 「うぐぐ、負けるかあ…!」

一方 「あっ、携帯落としたぞォ」

垣根 「マジで?」


バシュッ


垣根 「ぐはァ!?」 ズドム

一方 「バァーカ!!二度も騙されてンじゃねェよ!!!」 ゲラゲラ

麦野 「やめて…笑い死ぬ……」 ヒーヒー






麦野 「あれからも頑張って結果は30球中8球…」

垣根 「脇腹痛ぇ…」 ズキズキ

一方 「チッ、俺の負けか…」
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:33:02.77 ID:eNlSQmCDO
麦野 「次は私ね」 スクッ

一方 「オマエもやンのか」

麦野 「これでも運動は出来る方よ?」

垣根 「階段遊びで息上がってたじゃねえか」

麦野 「うるせぇ、黙って見てろ」 ガチャ


ゴウンゴウン


麦野 (久しぶりね、この緊張感…)

麦野 (暗部にいた頃を思い出すわ) ゾクゾク

一方 「何かアイツの様子おかしくねェか?」

垣根 「そうか?」


バシュッ


麦野 「っしゃあぁぁぁぁぁ!!!」 カキーン

一方 「」

垣根 「すげー、ホームランだ」 パシャシャシャシャッ

麦野 「どしたどしたぁ!止まって見えんぞ!!」 カキーン

一方 「顔が悪党みてェになってやがる……」

垣根 「アイツ、野球の才能あんのかもな」 パシャシャシャシャッ
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:33:44.60 ID:eNlSQmCDO






一方 「30球中22球、内6球がホームランかァ…」

麦野 「どうよ」 フン

垣根 「いやースゲェなー、かっこよかったぞ」 パチパチ

麦野 「そ、そう?」 テレテレ

垣根 「この顔なんか特に男みたいだ」 ピラッ

麦野 「」



―――――――――


垣根 「何不機嫌そうな顔してんの?」 テクテク

麦野 「別にー」 テクテク

麦野 (夢中になってて気付かなかったけど、あんな顔してたなんて…)

垣根 「しかし、あの麦野は男の俺でもカッコいいって思えたなー」 ピラッ

麦野 「ヤメロォォォォォォ!!」
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:35:23.46 ID:eNlSQmCDO


チョット、アレナニ?
コワッ!


垣根 「おいおい、周りがビックリしてんじゃねえか」

麦野 「くっ…!」

一方 「ったく、それぐらい撮られたっていいだろォ」 テクテク

垣根 「これよりはマシだよなー」 ピラッ

一方 「ヤメロォォォォォォ!!」


ナンヤナンヤ!?
アノヒト。コワイ


垣根 「お前もうるさいぞ」

一方 「クソッ…」



―――――――――

~公園~


垣根 「最初の場所に戻ってきたな」

一方 「歩き疲れたァ」 ストン

麦野 「ちょっと飲み物買ってきてよ」 ストン

一方 「俺ブラックコーヒー」

垣根 「仕方ねえなー、勝手にどっかいくなよー」 スタスタ
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:36:13.58 ID:eNlSQmCDO



一方 「もう夕暮れか……」

麦野 「何か、変な感じね」

一方 「あァ?」

麦野 「こうやって遊んだり笑ったりするの」

一方 「俺達にとっては“アッチ”が普通の生活だったからなァ」

一方 「生きてるうちにこンなこと出来るとは思っても見なかった」

麦野 「……人って、ふとしたきっかけで良くも悪くも変わるものなのね」

麦野 「でも、敵だった相手にあれだけフレンドリーなのもどうかと思うわ」 フッ

一方 「……俺の周りは変な奴ばっかだァ」

麦野 「それって私も含まれてるわけ?」

一方 「さァな」 ニヤリ

垣根 「お待たせ」 ポイッ

一方 「おォ」 パシッ

垣根 「お前炭酸でもいいだろ?」 ポイッ

麦野 「バカ、投げんな!」 パシッ



220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:36:59.52 ID:eNlSQmCDO
―――――――――


麦野 「――じゃ、私はこっちだから」

垣根 「おう、また明日」 フリフリ





垣根 「今日は楽しかったなー」

一方 「こういうのはこれっきりにしろよ」

垣根 「何言ってんだ、これからもっと色々やるんだぞ?」

一方 「付き合いきれねェな」

垣根 「そう言わずに…」 スッ

一方 「なンだァ?」

垣根 「アドレス交換だよ」

一方 「何でオマエなンかと…」

垣根 「『友達』だからに決まってんだろ?」

一方 「はァ?」

垣根 「お前と友達になる日が来るなんて、前の俺じゃ考えもつかなかったろうな」

一方 「勝手に決めンな」

垣根 「俺はお前のことを友達だと思ってるぞ」 ニコッ

一方 「……」 ポリポリ

一方 「分かったよ――」
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:37:47.71 ID:eNlSQmCDO
―――――――――

~麦野宅~


麦野 「また明日、か……」

麦野 「明日もアイツに振り回されるのかよ」 フッ


ラフメイカージョウダンジャナイ


麦野 「またアイツ?」 パカッ

麦野 「…どうしたの?」

垣根『今日は楽しかったか?』

麦野 「なによいきなり」

垣根『今日はノープランで行動したから気になってよ』

麦野 「まあ、ああいうのもたまにはいいんじゃないの?」

垣根『そうか、そりゃよかった』

垣根『何より麦野がまた笑ってくれたしな』
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:38:57.65 ID:eNlSQmCDO
麦野 「はあ?」

垣根『くそー、あの顔も撮っておくべきだったな』

麦野 「余計なことしなくていい」

垣根『よし、次はお前らをもっと笑わせてやるからな!』

垣根『そして、その顔をカメラに収めてやる!』

麦野 「はいはい」

垣根『期待しとけよ?じゃあな!』ブツッ

麦野 「…笑わせてやるって何よ」 パタン

麦野 「……」

麦野 「ラフメイカー、『笑顔を届ける者』」

麦野 「……冗談じゃないわ」 クスッ



223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:39:56.29 ID:eNlSQmCDO






垣根と別れた後、一方通行は今日の事を思い返していた

かつて自分が殺したはずの男が目の前に現れた

その男に1日中振り回され、挙げ句には自分のことを『友達』と……

一方 (トモダチ……)

そんな言葉を言われたのは生まれてこの方初めてだ

あまりに似つかわしくないそれを言い放った男の笑顔が妙に憎たらしい

何故、自分とあんな風に接することが出来るのか理解に苦しむ

しかし何だろう、この胸の奥を擽られるようなこそばゆい感覚は――



一方 「帰ったぞォ」 ガチャ

打止 「おかえりー!ってミサカはミサカはあなたに飛びついてみたり!」 ガシッ
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/16(月) 17:40:56.25 ID:eNlSQmCDO
一方 「ウゼェから離れろ!」 グイグイ

番外 「ギャハ、帰ってきて早々お熱いこったね~」

一方 「うるせェ」

芳川 「あら、おかえりなさい」

黄泉川 「もうすぐ夕飯が出来るから先に手洗いしてくるじゃん」 パタパタ

一方 「おォ」 スタスタ

番外 「……」 ジー

一方 「何ジロジロ見てやがる」

番外 「べっつにー、何か今日は機嫌が良さそうだっからさ」

打止 「そういえば、今日は何してたの?ってミサカはミサカは質問してみる」


この感覚が何を意味しているのかは分からない


一方 「大したことじゃねェ……」


しかし







一方 「――友達<バカ>の相手してただけだ」


それほど嫌でもない感覚だ――



249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 00:52:56.65 ID:kMINOC3DO
―――――――――
―――――
―――



君の名前は?



……そうか、垣根帝督というのか



君はどんな能力を身につけたいのかな?



…………



常識に囚われない能力?



ははははっ!これはまた随分変わった子だ



……っと、失礼
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 00:53:39.65 ID:kMINOC3DO



君が能力を得る為に大切なことがある



自分を信じることだ



周りにどれ程笑われ、馬鹿にされても、自分を決して疑わないことだ



自分なら出来る、自分にしか出来ないと……



あとは私達に任せてくれればいい――――






251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 00:54:29.84 ID:kMINOC3DO
―――――――――
―――――
―――

11月17日(水)
~とある病院~


(一体何の用なんだ…?)

黒い学ランを着た1人の高校生は手術室の前の長椅子に腰かけていた

ツンツン髪の彼の名前は上条当麻

筋金入りの不幸体質で、一歩外へ出ると大抵何かしらの災難に出くわす

時には財布を落とし、時には騒ぎに巻き込まれ、時には女子のスカートの中を覗いてしまったり……

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 00:55:10.49 ID:kMINOC3DO
上条 (学校が終わったらすぐここへ来いとは言われたけど…)

今朝、冥土帰しから電話があった

事情は何も聞かされず、学校が終わり次第病院に来るようにとだけ言われたのだ

そして病院に着くと入口の看護婦に手術室の前まで案内され、今に至る

上条 (もしかして、俺の身体に異常が見つかってすぐ手術しなきゃいけないとか…?)

一抹の不安がよぎる

実は彼、この病院の常連患者でもあった

騒ぎが起きる度に大怪我をし、その都度冥土帰しに治してもらっていた
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 00:55:47.96 ID:kMINOC3DO
切断された右腕も、冥土帰しなら手術痕1つ残さず治してみせる

彼の腕は確かだ。だからもしそうであったとしても、あまり心配はしない



…突然、手術室の扉が開いた

上条が扉の方に目をやると、手術着に帽子・マスク・手袋をした医者が1人

『冥土帰し』の異名を持つ医者だ

冥土帰し 「来てくれたね?」

上条 「あの、俺はどうして……」

冥土帰し 「説明は後でする、僕についてきてくれ」

そう言うと、冥土帰しは再び手術室の中へ入っていった

上条は一瞬躊躇うも、彼の後に続く

255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 00:57:12.38 ID:kMINOC3DO
冥土帰し 「君もこれに着替えるんだね?」

上条が渡されたのは手術着だった

いろいろ聞きたいことはあるが、とりあえず着替えることに

準備が整ったところで上条はもう一度冥土帰しに問う

上条 「俺はどうしてここへ呼ばれたんですか?」

冥土帰し 「……君に見せたいものがある」

こっちだ、と彼を奥の部屋へ案内する

そこには数人の医者が何かを囲むようにして立っていた
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 00:57:46.58 ID:kMINOC3DO
彼らに軽く挨拶すると、冥土帰しが上条のことを簡単に紹介した

医者達もそれに応え、立ち位置から少し左右へずれると……

上条 「……っ!!」

彼は目の前の“何か”を見て言葉を失う







それは、円柱型の容器一杯の培養液に浸された人間の脳だった――

257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 00:58:16.50 ID:kMINOC3DO
上条 「うっ……!」

思わず目を背ける

当然だ、医者でもない人間が本物の脳を直に目にすることなど殆どない

大丈夫かと聞かれた気がしたが、気持ちを落ち着かせるので精一杯だ

しばらく胃の中で虫が這い回るような感覚に襲われる

上条 「……すみません」

冥土帰し 「そうなるのも無理はない」

少し落ち着いた様子を見て、冥土帰しは本題に入る

冥土帰し 「ここへ呼んだのは他でもない、君の力を借りたいんだ」

冥土帰し 「その右手に宿る『幻想殺し』をね…」

上条 「俺の力を……?」
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 00:59:01.67 ID:kMINOC3DO
上条当麻は記録上、能力を持たない“無能力者”と呼ばれる分類に含まれている

しかし、彼の右手には不思議な力が宿っていた

『幻想殺し』と称されたそれは、あらゆる“異能”を打ち消すことが出来る

彼はそれで数々の死線をくぐり抜けてきた

学園都市最強と対峙し、数多の魔術師を退け、“天使”とも渡り合った

そのポテンシャルは統括理事長アレイスターも一目置いている

冥土帰し 「これは見ての通り、人間の脳だ」

冥土帰し 「この脳は今、異能の力に侵されているんだ」

冥土帰し 「僕も最大限の努力はしたが、今回ばかりはどうにもならない」
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 00:59:32.21 ID:kMINOC3DO
あの冥土帰しの口から“どうにもならない”という言葉が出たのには驚いた

しかし、今回は医療の範囲から大きく逸れているらしい

“異能”であれば、上条当麻なら何とか出来るかもしれない

冥土帰しは彼にある種の希望を抱いていた

冥土帰し 「よく見てごらん」

上条は再び培養液の中の脳を見る

よく見ると、脳のあちこちに黒い斑点のようなものがある

上条 (これは一体何だ……?)

冥土帰し 「その黒い斑点は徐々に増え、脳を少しずつ汚染している」

260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/22(日) 01:01:46.54 ID:kMINOC3DO
冥土帰し 「その斑点に覆われた部分の脳細胞は活動を止めてしまうようだ」

冥土帰し 「1つ取り除くのにおよそ1時間…、それではとても追いつかない」

冥土帰し 「それなら、1度に纏めて消してみようと思ってね」

冥土帰しは言わないが、この手術の成否は上条当麻の手に懸かっていた

医者でもない自分がこんな重荷を背負わされるなんてたまったものじゃない

……と、普通の人間であればそう思うだろうが、彼は違った

彼の“困っている人を放っておけない”精神がその考えに至らせなかったのだ

冥土帰し 「では、その右手で脳に触れてみてくれ」

上条は目を閉じ、小さく深呼吸する

そして培養液の入った容器に恐る恐る右手を入れた。それも素手で

周りの医者も固唾を呑んで見守る



273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:05:34.41 ID:Dg8EFFbDO






ヌチャッ、とした感触が右の掌に伝わる

培養液は粘りけが強く、少しひんやりとした温度だった

上条は若干の嫌悪感を抱くも、そのままゆっくりと右手を中へと進めていく



脳まであと数センチ……



3センチ……



1センチ……



274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:06:12.79 ID:Dg8EFFbDO






ニチャッ

この日、上条当麻は生まれて初めて人間の脳に触った

同時に、脳に貼り付いた黒い斑点のようなものは1つ残らず消滅する



「やった…!」

1人の医者が、安堵の声を漏らす

上条 「これで……」

上条は右手を培養液から抜いた

1人の医者から貰ったタオルで手に付いた液体を拭う

掌にはまだ、あの生々しい感触が……
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:06:55.18 ID:Dg8EFFbDO
“右手で脳に触れる”、これだけの動作にも関わらず彼の身体からは汗が滲む

さながら、手術を終えた後のような気分だ

上条 「何とかなったみたいで良かったです」

安心した彼は冥土帰しを見て言う

冥土帰し 「……」

冥土帰しから返事はない

彼は只、培養液に浮かべられた脳をじっと見ていた

その表情はマスクの上からでも曇っていることが窺える

上条 「どうかしましたか?」

上条も彼と同じ方向に目を向ける






脳には、さっき消滅したはずの黒い斑点が――

276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:07:52.43 ID:Dg8EFFbDO



上条 「そんな、どうして…!」

治ったんじゃないのか、何が起きたんだと他の医者もざわつき始めた

その後二度三度と脳に触れてみたが、結果は同じ

時を巻き戻すように、消した分だけ斑点がまた出現した

如何に幻想殺しといえど、打ち消しきれない異能が幾つかある

1つは、異能の持つ力があまりに大きいこと

1つは、打ち消した異能が瞬時に再生されること

1つは、異能が都市や国など超広範囲に及ぶこと
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:08:46.56 ID:Dg8EFFbDO
この場合だと2つ目が最も近い

消滅した斑点を補う為、新たに斑点を生み出した…といったところだろう

更に時間と共に少しずつ増殖するときたものだから非常に厄介だ

こういった力に対処するには、それらの根源となるものを叩かなければならない

殆どの場合、行使する魔術師や能力者が該当するのだが……

上条 「一体、誰がこんなことを……」

そうなると、その魔術師ないし能力者を探す必要がある

しかし、手掛かりが1つもない

これはどういった能力なのか?それとも魔術なのか?目的は?経緯は?

278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:09:34.69 ID:Dg8EFFbDO
思考する上条を察してか、冥土帰しはようやく口を開く

冥土帰し 「……これを生み出したのは彼なんだ」

上条 「彼…?」

冥土帰しの視線は未だ脳に向いたまま

上条 「彼って、脳…ですか?」

冥土帰し 「そう、この脳の持ち主さ」



君は想像出来るかい?


人間である為のあらゆる権利を奪われ、人の形をすることも許されない人生を…


それが半永久的に続くとしたら?



冥土帰し 「彼は自分を守りたかったのだろう…『死』という選択をもってね」

279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:10:13.39 ID:Dg8EFFbDO
正直のところ、上条の頭の中は疑問符しか浮かんでこない

突拍子もない事を言われ、想像以前に言葉の意味すらまともに理解しきれてないからだ

だが、これだけは分かる


彼を蝕む要因は彼自身であること


そして彼は『死』を選んだ。これは紛れもない真実


…なるほど、道理で幻想殺しが通じない訳だ

冥土帰し 「皮肉にも、彼は再び人間としての権利を取り戻した」

冥土帰し 「もしかしたら、僕のやってることは彼の意に反する事なのかもしれない」

冥土帰し 「それでも、彼には生きていて欲しいんだ」
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:11:38.47 ID:Dg8EFFbDO
斑模様の知恵は何も答えない

だが、容器の中のそれからは彼という人物を垣間見た気がする

冥土帰し 「君でも無理なら仕方ない、このまま移植しよう」

医者達も半ば諦めたように頷くと、作業の準備に取り掛かる

上条 「彼はもう助からないのですか…?」

不安げに問う彼に対して、冥土帰しは「分からない」としか答えなかった


大方の準備が整った所で

冥土帰し 「ご苦労だったね、あとは僕達の仕事だ」

そう言って上条を出口まで送る
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:12:24.95 ID:Dg8EFFbDO
元の制服に着替え、扉の外へ出ると「今日はありがとう」と一礼して冥土帰しは手術室へと消えた

扉が閉まると、辺りには静寂……

踵を返し、院内を歩く彼にはもやもやしたものが付きまとう

顔も名前も知らない彼がどうも気になる

彼はこれからどうなるのか、何を思うのか……

上条 「…名前、聞いとけばよかったな」

少しの後悔と共に、彼は病院を後にした――






282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:13:12.91 ID:Dg8EFFbDO






手術室に一台の台車が運ばれてきた

上から大きな布が被せられてるが、膨らみからして人間であることは間違いない

これから行われるのは“帰還”

彼が自身のもとへと帰る時だ


――彼はもう助からないのですか?


あの時分からないと答えたのには理由があった

それは、ある意味で彼はもう助かっているようにも思えたからだ

結果として、自分の力であれを治すことは出来なかった

彼の『敗北』は覆らないだろう
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/26(木) 02:14:39.16 ID:Dg8EFFbDO
しかし、例え僅かな時間でも人間らしさを取り戻した彼は本当に助かってないと言えるのか?

もっとも、彼がそれを喜ぶかは別だが…


「…準備が整いました」

1人の医者の声によって思考は止まる



そうだ、あれこれ考えてる場合ではない


今は目の前の患者のことだけを考えよう――



冥土帰し 「ではこれより、手術を始める――」







295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:33:17.81 ID:o3VitKRDO
―――――――――
―――――
―――

11月24日(水)
~とある高校~


上条 「はあ……」 グデー

青髪 「最近カミやんため息ばっかついとるでー?」

姫神 「何か。あったの?」

上条 「いや、別に……」

土御門 (まあ、大体想像はつくけどにゃー)

彼はここのところずっとこの調子だ

何をするにも無気力で、授業中机に項垂れてる事が日常化している

只でさえ単位がギリギリの彼がこんなのでは進級も危うい

そんな事すらどうでもいいと思う程、彼は今気に病んでいるのだ
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:34:04.64 ID:o3VitKRDO


原因は1人の少女との別れ――


禁書目録<インデックス>という名の少女が、上条当麻の物語の起源だった

ある日、追われていた彼女を助けて以来彼の日常は一変する

魔術師という存在からは目をつけられ、何度も命を狙われた

果ては先の戦争の渦中に身を投げ、神に等しい力にも立ち向かった

不幸体質もここまで来れば最早笑うしかない

それでも今日を生きていられるのは彼女が側にいたから

いつも無邪気に、時には聖女のように接してくる彼女に、どこか心を癒されてたのかもしれない

修道服を着たそれは正しくシスターそのもの

まあ、彼女の暴飲暴食っぷりには泣かされた事もあったが…

297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:35:11.87 ID:o3VitKRDO


そんな彼女は今側にいない――


戦争の影響は故郷イギリスにも及び、そちらの支援に向かったのだ

相当立て込んでいるらしく、暫くは戻って来そうにない

上条も納得し、彼女をイギリスまで見送った

向こうには信頼出来る仲間もいる

けれども……

上条 (もう1ヶ月か……)


心に穴が空くとはこんな気分なのか

もしこれが幻想だったらこの右手でぶち壊すのに……


青髪 「カミやーん」 ユサユサ

上条 「その幻想を…ぶち殺す……」 ブツブツ

青髪 「アカン、脱け殻みたいになっとるわ」

土御門 「カミやんがこの調子だとこっちまで滅入るにゃー」
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:36:59.88 ID:o3VitKRDO


キーンコーンカーンコーン


姫神 「もうすぐ。授業始まる」

青髪 「次は小萌センセーの授業やーん!」 クルクル

土御門 「カミやん、授業ぜよ」 ユサユサ

上条 「その幻想を…ぶち殺す……」 ブツブツ

土御門 (禁書目録と離れたのがそんなに辛いのか?)



小萌 「授業を始める前にお知らせがあるのですよー」

青髪 「なんやろか?」

土御門 「さあ…」

小萌 「今日はこのクラスに学校見学に来た人達がやってきます」

小萌 「みんなの授業風景を是非見たいという事でOKしちゃいましたー」


エーナンダヨソレ!
キイテナイヨー!


姫神 「よく。許可降りたね」

青髪 「こんな時期に見学?けったいやねー」

299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:37:53.06 ID:o3VitKRDO
小萌 「では、入って下さーい!」


ガラララ


垣根 「スゲー、皆座ってる」 パシャッ

麦野 「撮影許可は貰ってんの?」

一方 「なンで俺まで……」

土御門 「」


イ、イケメンダ!
アノコハダシローイ!
キレイナオネエサン…


土御門 (どういうことだ?一方通行と垣根帝督が何故一緒に…)

土御門 (っていうか、垣根は統括理事会に『回収』されてたんじゃ…?)

土御門 (それにあの女は確か『アイテム』のリーダー、麦野沈利…)

土御門 (第一位、第二位、第四位が揃って行動してるだと?)

300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:39:09.53 ID:o3VitKRDO
一方 (アイツ土御門じゃねェか。この学校だったのかよ…)

垣根 「先生歳幾つ?」

小萌 「失礼な!これでもちゃんと成人してます!」

垣根 「そっかー」 チラッ

麦野 「何でこっち見た」

垣根 「あれ、あそこの奴どうした?」

上条 「その幻想を…ぶち殺す……」 ブツブツ

小萌 「ちょっと上条ちゃん!寝てはいけませんよー!」

一方 (上条…?) ピクッ

土御門 「カミやん、いい加減にするにゃー」

上条 「その幻想を…ぶちkいでっ!!」 ビシッ

土御門 「!?」 ビクッ

垣根 「いやー、やってみたかったんだよチョーク投げ」 パッパッ

姫神 「チョークが粉々に…」

青髪 「ぜ、全然見えへんかった…」

301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:40:31.26 ID:o3VitKRDO
上条 「なっ、チョークが飛んで……?」 ムクッ

一方 「三下……」

上条 「お前、何でここに?」

小萌 「で、では皆さんは後ろの方で見学していって下さい!」

垣根 「はーい」 スタスタ

麦野 「あまりはしゃぐなよ」 スタスタ

一方 (気まずい…) スタスタ


上条 (…何で皆さん俺の後ろに集まるんでしょうか)






デハココヲヒメガミチャンニ…


垣根 「しかしあの先生、ホント小学生にしか見えねえよな」 パシャッ

麦野 「肌も小学生みたいに柔らかそう、羨ましい…」

302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:41:15.74 ID:o3VitKRDO
垣根 「お前の肌って硬いのか?」 ツン

麦野 「ひゃっ、テメッ、いきなり頬をつつくんじゃねえ!!」 ビュッ

垣根 「うぉっ!?それくらいの事で怒るなよ!」 サッ

上条 (ひいぃぃぃぃ!!) ガタガタ


ウルセークソメルヘン!
ギャーギャー


青髪 「ず、随分と賑やかやね」 ハハッ

土御門 「」

小萌 「お、お静かに願いますー!」

垣麦 「「あ、すみません…」」

一方 (帰りてェ…)

303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:42:10.42 ID:o3VitKRDO


ココジュウヨウデスヨー


垣根 「……」 ジー

麦野 「……」 ジー

一方 「……」 ジー

上条 (背後から視線を感じる…) ゾクッ

垣根 「お前、アイツの知り合いなの?」 ヒソヒソ

一方 「そンなンじゃねェよ」 ヒソヒソ

麦野 「じゃあ友達?」 ヒソヒソ

一方 「そこまで親しくもねェ!」 ヒソヒソ

垣根 「いいや、アイツに直接聞いてみる」 スッ

一方 「おい!」

垣根 「お前名前は?」 ヒソヒソ

上条 「か、上条当麻です」 ヒソヒソ

垣根 「お前、一方通行のこと知ってんの?」 ヒソヒソ

上条 「知ってるといいますか、戦ったといいますか…」 ヒソヒソ

304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:43:28.44 ID:o3VitKRDO
垣根 「マジで!?って事はアイツに勝ったってのか?」 ヒソヒソ

上条 「まあ、なんとか……」 ヒソヒソ

一方 「チッ…」

垣根 「おい聞けよ麦野!コイツ一方通行に勝ったんだとよ!」 ヒソヒソ

麦野 「なにそれ、アンタあの人に負けたの?」 ヒソヒソ

一方 「……あァ」

垣根 「上条、もっと話を聞かせてくれ!」 ヒソヒソ

上条 「え、えっと…」

小萌 「上条ちゃーん!授業に集中するですよー!」

上条 「俺のせい!?」



305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:45:28.99 ID:o3VitKRDO
―――――――――

~体育館~


ワーワー


青髪 「カミやんの色男!そのフラグ体質ボクにも分けてーな!」 ブン

姫神 「私を。見て」 ビュッ

上条 「何でみんなして俺ばっか狙うんだよ!!」 サッ

吹寄 「最近腑抜けてばかりだから喝を入れてやろうと思ってね!」 ブン

上条 「顔は危ないですよ吹寄さん!?」 ガバッ


オラー
カミジョウモゲロ!


垣根 「ドッジボールか、楽しそうだなー」 パシャッ

麦野 「女の子達、あんな端に固まってたらすぐ狙われちゃうじゃない」
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/05/30(月) 00:48:01.79 ID:o3VitKRDO
垣根 「その反面、あの吹寄って子は積極的に攻めるな」 パシャッ

麦野 「私に似たものを感じるわね」

垣根 「でもあっちの方が胸とか大きいし…」

麦野 「……」 バシッ

垣根 「いって!何しやがる、上手く撮れねえだろ!」

麦野 「このスケベ」 フン

垣根 「何だよ、お前だって○○○とか□□□とか叫んでたくせにこの変態」 フン

麦野 「ブ・チ・こ・ろ・し・か・く・て・い・ね」 ピキピキ

垣根 「あんまり怒ると小皺が増えるぞ」


カァァァァァァキネェェェェ!!
チョッ、コンナトコデビームウツナ!

上条 「あの二人またやってる…」

吹寄 「隙あり!!」 ブン

上条 「へぶしっ!!」 バチーン

青髪 「顔面モロいったで……」 ウワァ

姫神 「青髪君より強いかも」

上条 「不幸だ……」



313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:35:41.01 ID:0XS851CDO

垣根 「そういえば一方通行は?」

麦野 「さあ、トイレでも行ったんじゃないの?」


~廊下~


土御門 「久しぶりだな、一方通行」

一方 「何だよ、俺を呼び出して…」

土御門 「お前はここへ何しに来たんだ?」

一方 「特に意味はねェ、アイツに引っ張られて来たンだよ」

土御門 「それに、垣根は統括理事会に『回収』されたはずだが…」

一方 「アイツが言うには『用済みになったから解放された』ンだとよ」

土御門 「……」
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:37:03.97 ID:0XS851CDO
一方 「仮にまたくだらねェ事考えてたとしても、俺が叩き潰すだけだ」

一方 「まァ、今のアイツを見る限りじゃ、そンな事もなさそうだけどな」

土御門 「…そうか」

一方 「話はそれだけか?」

土御門 「ああ、そうだな」

一方 「じゃあさっさと戻るぞ、アイツもうるせェし」 スタスタ

土御門 「そうするにゃー」 スタスタ

土御門 (垣根帝督を戻すよう指示したのは恐らくアレイスター…)

土御門 (一応の警戒はしておいた方が良さそうだ)

土御門 (……それにしても、一方通行が仕事意外で誰かとつるむのは珍しいな)

土御門 「……『友達』ってやつが出来たのかもにゃー」 フッ

一方 「あァ?」

土御門 「何でもないぜい」

315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:37:36.77 ID:0XS851CDO

~昼休み~


上条 「――とまあ、そんなこんなで彼とは縁がありまして…」

垣根 「……ヒーローだ、ヒーローがここにいる」

一方 「……」 モグモグ

麦野 「アンタも何か言ったら?」

一方 「三下ァ…」

上条 「何でせうか?」

一方 「あの時は…世話ンなった……」

上条 「いやいや、大したことしてないって」

一方 「そンなことはねェ。オマエとのアレがあったから、俺は色ンなもンを手に入れた」

一方 「だから……アレだ…」 ポリポリ

上条 「?」

一方 「………ありがとよォ」 テレ

上条 「」

麦野 「デレた、一方通行がデレた」

垣根 「そのデレ顔頂き」 パシャッ

一方 「」

316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:38:24.20 ID:0XS851CDO
―――――――――

~放課後~


上条 「今日は余計に疲れた……」 テクテク

上条 「あの人達、一方通行の友達かな?」

上条 「カメラぶら下げてた人とか特に楽しそうにしてたなー」

上条 「……」 ハァ

上条 「あ、もうすぐ特売の時間」

上条 「行くか…」



~スーパー~


ガヤガヤ


上条 「うわ、いつにも増して争奪戦が激しいな」

上条 「この中に飛び込むか…」

上条 「……いや、今日はもう諦めよ」

上条 (前はもっと必死になってたのになー)

上条 (インデックスの腹を満たす為にちょっとでも安いものを…ってさ) 
 
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:39:20.36 ID:0XS851CDO
麦野 「あら、アンタは今日の…上条だっけ?」

一方 「三下ァ」

上条 「あれ、一方通行と……」

麦野 「麦野沈利よ」

上条 「麦野さんね。買い物ですか?」

一方 「いや、あのバカがどうしても行きたいって言うからよォ」

上条 「あのカメラの人?」

麦野 「ほら、あそこ」



垣根 「オラどけ!そいつは俺んだ!」 ウガー

上条 「あんなところに…」 ボーゼン

麦野 「何でも、夕方のスーパーでは『トクバイ』っていう競技が開かれるんだって」

一方 「もの買うのに何であンな必死なのか意味分からねェ」

上条 「」



319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:40:14.48 ID:0XS851CDO
垣根 「なかなかハードな競技だったぜ」 ポイ

麦野 「…牛ミンチ?」 パシッ

垣根 「そ、戦利品だ」 フン

上条 「安っ!やっぱり俺も加わるべきだったなー」

垣根 「お、上条じゃねえか」

上条 「どうも」 ペコッ

垣根 「そういや自己紹介まだだっけ?俺は垣根帝督、学園都市の超能力者第二位だ」

上条 「だ、第二位!?」

垣根 「因みにそこにいる麦野は第四位だ」

上条 「そう考えた途端に威圧感が…」

麦野 「どういう意味よ」

上条 (ということは、皆金持ちってことか)

上条 (だから特売とか知らなかったのか……畜生)

垣根 「あと、俺らに敬語は使わなくていいぞ?よそよそしいのは嫌だし」

上条 「そうで……そうか、分かった」
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:43:43.87 ID:0XS851CDO
垣根 「よし、今日からお前も友達だ!」

上条 「と、友達?」

垣根 「当然、コイツらとも仲良くな!」

麦野 「垣根に振り回される奴がまた1人増えたわね」

一方 「三下と…友達だァ?」

上条 「よ、よろしく…」 ハハッ

垣根 「この肉、手に入れたのはいいけど何に使うんだ?」

上条 「何にって、代表的に言えばハンバーグとか…」

垣根 「お前料理出来る?」

上条 「まあ、それなりに」

垣根 「なるほど、じゃあ今からハンバーグの食材でも買うか」

上条 「俺が作るの!?」

垣根 「俺料理出来ねえし、肉が勿体ねえじゃん?」

一方 「ファミレスのばっかじゃ飽きるしなァ」

麦野 「今日は上条の家で食べましょ」

垣根 「金は俺が出すから安心しろ」

上条 「俺の意思は!?」

垣根 「さて、買い物かご取ってくるか」 スタスタ

一方 「諦めろ、アイツと『友達』になったのが運の尽きだァ」

麦野 「私で良ければ手伝うわよ?」

上条 「不幸…なのか?」
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:44:28.33 ID:0XS851CDO






垣根 「具体的に何がいるんだ?」

麦野 「玉葱、ニンニクとか……」


コレカ?
ソウ、ソレト…


上条 「皆仲がいいんだな」

一方 「何言ってやがる、麦野は知らねェが俺は嫌々付き合わされてンだよ」

一方 「ったく、朝っぱらから家に押し掛けて来やがって…」 ブツブツ

上条 「でも、本当に嫌だったらお前なら抵抗するだろ?」

一方 「呆れて抵抗する気も起きねェよ」

上条 「そっか」 クスッ

一方 「オマエは今どうしてンだ?」

上条 「特に何も、いたって普通の学生生活を送ってますよ」

上条 「普通の……」

一方 「?」

垣根 「…こんなもんか」

麦野 「そうね、じゃあ会計行くわよ」

垣根 「お前らは先に外で待っててくれ」

一方 「行くぞ三下」 スタスタ

上条 「あ、ああ」

322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:45:03.90 ID:0XS851CDO
―――――――――

~上条宅~

垣根 「これがお前の家かー」

一方 「狭い」

上条 「どうせ上条さんは貧乏学生ですよ」

麦野 「早速キッチン借りるわね」 パタパタ

上条 「あ、いいよ。俺1人で出来るから」

麦野 「いいから手伝わせなさい」

上条 「悪いな、じゃあ二人は適当に寛いでくれ」 パタパタ

一方 「おォ」

垣根 「期待してるぞ、上条シェフ」 グッ



―――――――――


上条 「こうして誰かに料理を作るのは久しぶりだな」 ニチャニチャ

麦野 「私も、一時前は家に友達呼んでパーティーみたいな事してたっけ」 ザクザク

上条 「自分の料理で『美味しい』って言って笑ってくれる瞬間はたまりませんよ」 ニチャニチャ

麦野 「分かる!心の中でガッツポーズとかしちゃってねー」 ザクザク
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:46:03.64 ID:0XS851CDO
上条 「同居人が食いしん坊ってのもあって、やりくりが大変だったな」 コネコネ

上条 「特売やタイムセールにはいつも行って、色々と工夫してさ」 コネコネ

麦野 「アンタ学生のくせに同棲してたの?」 キャベツハコンナモンカ

上条 「成り行きで…」 アリガトウ

麦野 「アンタ、後先考えずに行動しちゃうタイプでしょ?」 ツギハソースヅクリネ

上条 「仰る通りです…」 オオキサハコレクライカナ?

麦野 「ダメよ?あんまりそういう事してるといつか痛い目みるわよ」 ケチャップトソースト…

上条 「十分過ぎる程味わったよ」 サテ、ヤクカ

上条 「でも、一度も後悔はしたことなかったな」

麦野 「どうして?」

上条 「どんなに辛い目に遭っても、最後には皆笑ってくれるからさ」 ジュー

上条 「やっぱ、人間笑顔が一番に決まってる!」

麦野 「アンタも垣根みたいな事言うのね」 ヨワビデ5フングライ…
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:46:41.40 ID:0XS851CDO
上条 「垣根とはいつから友達に?」 ミズイレテフタヲシテ…

麦野 「ついこないだよ。正直、それまでアイツのこと嫌いだった」

上条 「今とは随分違うんだな」

麦野 「でも、アイツのお陰で大事なものを取り戻すことが出来た」

麦野 「アイツには感謝してるよ」

上条 「それで垣根が好きになったって訳か…」

麦野 「ま、まあ、みる目は変わったわね」


グツグツ…


麦野 「久しぶりってことは、同居人は今帰ってないの?」

上条 「アイツは1ヶ月前からイギリスに行ってて、いつ帰ってくるかも分からない」

上条 「生活は前より楽になったけど、楽しくなくなったな」

上条 「寂しいんだろうな、きっと……」

上条 「お、もう出来たみたいだ」 パカッ

麦野 「じゃあ皿とか用意するね」

上条 「頼むよ」
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:48:03.72 ID:0XS851CDO



麦野 「お待たせ」 コトッ

垣根 「おお~、いい香りだ~」

一方 「……」 ゴクリ

上条 「これで揃ったな?それじゃ…」

「「「「いただきます」」」」



垣根 「うん、美味い!」 モグモグ

一方 「やるじゃねえか」 モグモグ

麦野 「アンタ、ホント料理上手ね」 モグモグ

上条 「そう言って貰えると嬉しいよ」

垣根 「誰かの手料理なんて何年ぶりだろうな」

垣根 「何かこう……温かい?幸せな気分になる」

上条 「幸せ?」

垣根 「料理と一緒に愛情も貰ってるように思えてよ」 モグモグ

垣根 「お前の愛情、しっかり受け取ったぜ」 キリッ

326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:48:54.51 ID:0XS851CDO
上条 「自分で言ってて恥ずかしくないか?」

一方 「キメェ」 モグモグ

垣根 「うるせぇ!俺は愛情に飢えてんだ!」

垣根 「お前みたいに愛情に囲まれてる奴には分からねえよ」 ヒョイパクッ

一方 「あ、何しやがる!」

垣根 「もっと愛情をくれー!」


ギャーギャー


麦野 「食事中ぐらい静かにしなさいよ」 ハァ

上条 「そういう麦野だって、授業中垣根とあんなことしてたぞ?」

麦野 「…思い出したら恥ずかしくなってきた」






垣根 「いやー美味かった」

一方 「これからはたまに三下の家で飯食うかァ」

麦野 「それいいね、次はもうちょい豪華なもの作ろうか」

上条 「アイツがいたら大喜びしただろうに…」 ハハッ
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:49:43.54 ID:0XS851CDO
垣根 「アイツ?」

一方 「あのシスターのことか?」

麦野 「シスターって…女の子だったの?」

上条 「そ、そうなんだ」

垣根 「その歳で女と1つ屋根の下とは、やるな上条」 ホウ

麦野 「で、その子とはどこまでいったの?」

上条 「ちょっとちょっと!上条さんはそんなことしませんよ!?」

垣根 「年頃の男ともなれば何もないはずがない!」

麦野 「私が男だったら間違いなく押し倒すわね」

垣根 「神聖なるシスターを穢す……まさに幻想殺しだな」

上条 「だーかーらー!一方通行も何とか言ってくれ!」

一方 「何か…スマン」

上条 「不幸だー!!」

328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:50:26.95 ID:0XS851CDO






垣根 「――そりゃ、寂しくもなるわな」

上条 「でも、今日は皆が来てくれたから楽しかったよ」

垣根 「……」 ウーン

垣根 「あ、そうそう!」 ガサガサ

上条 「どうした?」

垣根 「お前らコレ知ってるか?」

一方 「…ハッピーターン?」

麦野 「お菓子みたいね」

垣根 「そう、これがまた美味いんだって」

上条 「変わった名前だな」

垣根 「よくぞ気付いてくれました!これはその名の通り、“幸福が帰ってくる”お菓子だ」

垣根 「“幸福よ帰ってこい!”って念じながら食べると、ホントに叶うかもしれないぜ?」

麦野 「なにそれ」 プッ

一方 「メルヘンが考えそうなことだァ」

上条 「ここは科学の街ですよ?」

垣根 「信じることに意味があるんだよ!いいからやってみようぜ……」

329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:51:22.84 ID:0XS851CDO
―――――――――


すっかり日も暮れ、部屋に居座るのは冷えた空気と暖房の熱

――今日は珍しく楽しい1日だった

これまでぼーっと過ごしていた自分が嘘のように生き生きしてたんじゃないか?

久々に増えた洗い物を済ませながら、こんなことを呟く

上条 「帰ってくるのかな…」

あの“おまじない”は効果があるのか?

半分ジョークでやってみたが、もっと真剣にやった方が良かったか?

今まで散々不幸な目に遭ってきたんだから、幸せの1つや2つ帰ってきても……



ピンポーン



暖房の乾いた風の音に覆い被さるように、チャイムの音が鳴り響く
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:52:45.95 ID:0XS851CDO
上条 「こんな時間に?」

時計の短針は8の数字を、長針は4を指していた

洗い物を中断し、タオルで手を拭くと玄関へ急ぐ

隣に住んでる土御門かな?等と思いながらドアノブに手をかける

上条 「どちらさんで……」


扉を開けると、目の前にあったのは白――



雪が降るにはまだ早い時期なのに、そこは白かった

上条 「………え?」


――ビックリした?


331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/01(水) 17:53:30.13 ID:0XS851CDO


その声は白から発せられた

同時に、上条の止まった思考の歯車が再び回りだす

聞き慣れた声、白をその身に纏う銀髪碧眼の少女

例えるならそう、シスターのような……






「お腹すいたんだよ、とーま」



幸福<インデックス>が帰ってきた――




347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:05:46.25 ID:4Id7tHkDO
―――――――――
―――――
―――



――素晴らしい!



この数値、まさしく本物だ!



レベル5と言っても過言ではないぞ



さて、能力名を決めなければな……



この世に存在しない物質



――『未元物質』<ダークマター>なんてどうだろう?



おめでとう垣根君。君は今日から『未元物質』を持つ超能力者だ



次からは君の能力を最大限に発揮できる場所へ招待しよう



光栄に思うがいい、『未元物質』――――

348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:07:05.84 ID:4Id7tHkDO
―――――――――
―――――
―――

11月29日(月)


――寝覚めは悪かった

昨日夜更かししすぎたせいか、あんな夢を見たせいか、己の頭に巣食う『未元物質』のせいか……

朝の気温はおよそ6℃、本格的に寒くなってきた

布団の温もりを手離すのが辛い、しかしずっとこうしてる訳にもいかない

彼は意を決して、その身体を冷えきった空間へ投げ出した

寒さに身を震わせながら、日光を得る為にカーテンを開ける

……空は灰一色だった
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:08:31.51 ID:4Id7tHkDO
今の彼の気分を絵に描いたような天気に、益々げんなりする

良い事は長く続かないものだ。その通り

寧ろ、ここまで良い事ずくめだったのが不思議なくらいだ

暖房のスイッチを入れ、顔を洗いに洗面所へ向かう

……何とか気分を直せないか

歯を磨きながら、このもやもやを晴らす方法を模索する

今日は誰にも会えない日

ウニ頭のアイツは学校、華奢な身体のアイツは1日病院で検査、男勝りなアイツは他の友達とお出かけ…

なんともつまらない日だ

顔をぬるま湯で濡らし、すっかり目も覚めたところで、1つの手段を見つけ出す






350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:09:44.14 ID:4Id7tHkDO
―――――――――


やはり平日の昼間ともなると、人影は少ない

結局彼が導き出した方法は、とりあえず外へ出ようというものだった

こういう日は良くないことが起きると相場は決まっている

かといって家でゴロゴロしているのもつまらない

何より、貴重な1日を無駄にしたくなかった

こうして外を歩いていると何かに遭遇するやもしれん

それが良い事であれ悪い事であれ、何もないよりかはマシだ

垣根 「今日はどうすっかな…」

いつもより静かな通りをぶらぶらと歩く



そして彼は出会う――


自ら刻んだ歴史の足跡と――



351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:10:34.26 ID:4Id7tHkDO
―――――――――

~とある高校~


青髪 「いつものカミやんに戻ったねー」

上条 「そっかー?」 ニマニマ

土御門 「いや、逆に変になったぜよ」

上条 「そんなことないってー」 ニマニマ

土御門 「1日中机に突っ伏してたかと思えば、今度は1日中ニヤニヤしてるにゃー」

土御門 「これが変と言わずして何と言う?」

上条 「いやー土御門、幸せってのは案外すぐ近くにあるもんだなー」

土御門 「は?」

上条 「無くしてから初めて、あれは俺にとっての幸せなんだってのに気付いてよ」

上条 「俺、今が物凄く幸せ」

土御門 「」

青髪 「あ、あのカミやんが、“幸せ”って……」 ガタガタ

土御門 「何があったぜよ……?」

上条 「それがさ――!」


352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:11:30.99 ID:4Id7tHkDO






青髪 「――あのシスターちゃんがねー…」

上条 「イギリスの方も大分落ち着いてきたから帰れるようになったってさ」

土御門 「それで有頂天になってたと…」

上条 「ビックリしたのがよ、インデックスの奴向こうで料理の修行までしてたらしくて…」

上条 「最初は心配だから横で見てたんだけど、手際が良いのなんの!」

上条 「『とーまに少しでも恩返しがしたい』なんて言ってさ、上条さんは涙が出そうでしたよ」


ソレニ、アンナコトヤコンナコト…


土御門 「こいつは、今までの反動かにゃー?」

青髪 「どないしよ、ちょっとイラついてきたわ」 ピクピク
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:12:18.93 ID:4Id7tHkDO
上条 「土御門、舞夏と過ごせる日々を大事にしろよ」 キリッ

土御門 「あ、ああ…」

上条 「幸福だーーー!!」 ガタッ

青土 「「!?」」 ビクッ


オイ、カミジョウガコウフクッテ…
セミガナクカモナ…


上条 「一度言ってみたかったんだよなーこの台詞」 スッキリ

土御門 (流石にちょっとウザイかもにゃー…)

青髪 (1発殴ってええかな?)






354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:13:00.95 ID:4Id7tHkDO
―――――――――

~映画館~


絹旗 「この映画超オススメですよ!」

絹旗 「撮影に使ったのはデジカメと写真だけで、登場人物も5人と超低予算で出来た作品です」

麦野 「随分凝った作りね」

絹旗 「にも関わらず、その完成度の高さにリピーター続出のいい映画なんです!」

絹旗 「私もこれで4回目ですよ」

浜面 「よく飽きないな」

絹旗 「分かってませんね浜面、映画を超楽しむには最低3回は見ないといけません」

絹旗 「1回目は映像を楽しみ、2回目に内容の考察、その上で3回目を見るのがいいんですよ」

浜面 「はあ…」
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:13:56.96 ID:4Id7tHkDO
絹旗 「ま、超浜面には言っても無駄でしょうけど」 ヤレヤレ

滝壺 「きぬはたがいつになく熱いね」

麦野 「それだけ言うんだから、余程面白い作品なんじゃないの?」

浜面 「でもこれまで勧められたやつが面白かったためしがないぞ?」

絹旗 「今回は段違いに超いい作品なんです!」


ブー


滝壺 「あ、そろそろ始まるよ……」






―――――――――


絹旗 「……」 グスッ

滝壺 「すごい作品だったね」

麦野 「ええ、正直嘗めてたわ」
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:17:16.42 ID:4Id7tHkDO
浜面 「反則だろあの演出…泣けるじゃねえか」 グスッ

麦野 「浜面キモい」

浜面 「ひっでぇ!」

絹旗 「余命半年を宣告された主人公が最期の思い出作りに励む…何度見てもいいです」

滝壺 「最初から最後までずっと笑ってたね」

浜面 「あの主人公は本気で楽しんだんだろうな…」

麦野 「……」

絹旗 「どうしました?」

麦野 「ん?ああ、何でもないわ。ちょっと内容を思い出してただけ」

麦野 (あの主人公の性格、何となくだけど…)






麦野 (……垣根みたいだったな)


357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:17:54.88 ID:4Id7tHkDO
―――――――――

~とある病院~


一方 「あークソッ、何度やっても慣れねェな……」 グデー

打止 「チョーカーの調整中は何も出来ないしね、ってミサカはミサカはあなたに馬乗りになりながら言ってみたり」

一方 「いい加減降りろクソガキ」

打止 「え~もうちょっといいでしょ?ってミサカはミサカは必死にしがみついてみたり!」 ギュー

一方 「あァもう暑苦しい!!降りろってンだよ!」 グイグイ

打止 「ちぇ、折角あなたと触れ合ういい機会だったのに、ってミサカはミサカは渋々降りることにしてみる…」 ブー

358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:18:34.79 ID:4Id7tHkDO
番外 「イチャイチャは終わったかな?」 ガチャ

一方 「テメェ、俺が動けないのをいいことに好き勝手しやがって…」 ピキピキ

番外 「何よ、顔にちょっと落書きしただけじゃない。油性ペンで☆」 ギャハ

一方 「後で覚えてろよ……」

番外 「や~ん、こんなことで怒らないでよ~」 ヘラヘラ

打止 「最近相手してくれないから寂しいんだ、ってミサカはミサカは番外個体の本音を代弁してみたり」

番外 「そんなんじゃないしー!この頃もやしが外出ばっかでつまんなかっただけだしー!」

打止 「それを寂しいって言うのよ、ってミサカはミサカは素直じゃない番外個体を生温い目で見てみたり」 ジー

番外 「あーもううるさい!!」
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:19:35.51 ID:4Id7tHkDO
冥土帰し 「お疲れ様だね?」

打止 「あ、冥土帰しのおじさん!」

一方 「次から調整は俺1人で行く」

番外 「だったら尚更ついていかないとね☆」 キャピ

冥土帰し 「余程彼が気に入ったようだね」

番外 「そうなの、こんなに弄りがいのある人はそうそういないから!」

打止 「全くー、ってミサカはミサカは相変わらずの様子に呆れてみる」

一方 「……いちいち言い返すのも面倒だァ」

打止 「あなたもすっかり丸くなったね!ってミサカはミサカは母親目線で言ってみたり!」

番外 「俺も、ずっと一緒にいたかった…」 キリッ

一方 「コイツらを部屋から追い出せェ!!」
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:21:15.22 ID:4Id7tHkDO



一方 「……ったく、これじゃおちおち調整にも行けねェな」

冥土帰し 「満更でもないように見えたけど?」

一方 「ンな訳あるか!こっちはされるがままなンだよ!」

一方 「まァそれはさておき、最近俺を巻き込むバカが出来てよ」

冥土帰し 「友達のことかい?」

一方 「……そいつの変わりようが異常でなァ」

一方 「過去に一度八つ裂きにしたってのに、何事もなかったかのようにヘラヘラしてやがる」

361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/05(日) 01:26:13.72 ID:4Id7tHkDO
一方 「恨みこそすれ、俺のことを『友達』だと…?」

冥土帰し 「君がきっかけを与えたんじゃないかね?」

一方 「俺が…?」

冥土帰し 「君があの少年に得たように、その人もまた君に同じものを得たんじゃないかな」

一方 「そンなことした覚えねェけどな。寧ろ、全部奪ったってのが正しい」

冥土帰し 「今が、その証明にならないかね?」

一方 「どうだか……」

一方 (そういう俺も、アイツのせいで色々変わっちまったけどなァ…)



373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:12:07.34 ID:hX9F4HnDO
―――――――――


つまらん、実につまらん

1人でファミレス・1人でゲーセン・1人でカラオケ……粗方やってみたが、ちっとも楽しくないぞ

それどころか、余計孤独感に苛まれるではないか

時刻は午後4時、学生達が帰宅で賑わう時間帯だ

現に、それまで人も疎らだった通りは学生で溢れかえっている

今なら大丈夫かと思い上条に電話してみたが、補修で学校に残らなければならないとのこと

なんだよ、結局今日は1人きりか

空を見上げれば、相変わらず不機嫌そうな色をしている

喧騒の中、彼の脳裏には孤独の2文字が浮かび上がる……

だんだんいたたまれなくなってきた彼は、堪らず路地裏へ逃げ込むように向かった

明日絶対アイツらに付き合って貰うからな、等と子供染みた事を考えながら……
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:13:07.44 ID:hX9F4HnDO






先程とは打って変わり、路地裏は薄暗く不気味なくらい静かだ

光の届きにくいここでは不良や無能力者達の武装集団『スキルアウト』という組織が活動している

故に、一般の学生が好んで路地裏を通ろうとはまず思わない

垣根は歩きながら、少し懐かしむように思い出す


――かつてはここが自分の『世界』だった

それも、不良やスキルアウトが可愛く思えるような、もっと深くどす黒い『世界』

最初に足を踏み入れたのは幾つの時だったか……

垣根帝督ではなく『未元物質』と呼ばれるようになったのもその時からだと思う

375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:13:40.77 ID:hX9F4HnDO
その日以降、実験を繰り返しながら“悪党退治”をする毎日だった

初めは自分の境遇が誇らしく思えた

他人より十歩も百歩も抜きん出て、正義のヒーローみたいな事もやってのけるのだから

只、自慢出来る友達が1人もいなかったのが残念だ

それでも正義の為なら仕方ないと割り切れる

悪い奴なら幾ら殺したって構わない。そう思うと血に塗れるのもすぐに慣れた

彼に敵う者などなく、やがて『世界』の住人からも恐れられるようになった

自分は選ばれた存在なんだ。そう信じて疑わなかった彼は学園都市の更なる深みを知ろうとする
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:14:31.17 ID:hX9F4HnDO






彼は知ってしまった――



そしてあの日に繋がる――



ここで回想を中断し、垣根はピタリと足を止めた

……人の気配、それも殺気を帯びたものだ

この一本道を歩く者は彼1人……つまり、垣根に向けられたものだろう

静寂が耳鳴りでうるさく感じるこれも久しぶりだ

垣根は直感する……これは『世界』の住人だ

377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:15:48.92 ID:hX9F4HnDO
垣根 (どこのどいつだ……?)

過去の経験から、恨まれる相手など星の数程いるから判別出来ない

それでも大雑把に相手を割り出そうと思考を巡らしていると


ジャリ……


靴底とアスファルトが擦れる音がした

音の方向、手前右側の曲がり角からより濃い気配を感じる

やがてその気配はコツコツと足音をたて、垣根の目の前に現れた

「……アンタ、俺を覚えてるか?」

同い年に見える黒髪短髪の、赤いパーカーを着た少年が問いかける

垣根 「……いや」

はっきり言って何も、と付け加える

378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:17:27.84 ID:hX9F4HnDO
やはり……と言いたげに、少年はため息を漏らした

事実、垣根には目の前の少年が初対面にしか思えないのだ

だが相手は自分の事を覚えている。という事は、過去に面識があるのだろう


「教えてあげようか?」


少年とは違う、誰かの声がした

声の主は垣根の背後2M辺りに立っていた

どうやら挟まれたらしい

それでも彼に焦りの色は微塵もなかった

垣根は首だけ動かし姿を確認する

その姿は金髪を横に1つ括りにした15歳くらいの華奢な少女

やはりこれも、彼には覚えがなかった
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:18:02.74 ID:hX9F4HnDO
少女は不適な笑みを浮かべながら話す

少女 「私達は昔あなたに潰された名もなき暗部組織の一員よ」

垣根が記憶している組織は『グループ』『アイテム』『メンバー』『ブロック』の4つ

これらは抗争の時、特に表立って行動していた組織だ

暗部組織はこれら以外にも存在するらしいが、流石に把握しきれていない

その把握しきれていない組織のいずれかに彼女らはいたという事か

しかし、1つだけ気になる事が……

垣根 「名もなき暗部組織…?」

暗部組織には必ず組織名が与えられるのだが、少女は“名もなき”と置いている

ちっぽけという意味での例えだろうか?
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:18:58.41 ID:hX9F4HnDO
少女は笑みを浮かべたまま答える

少女 「ええ、文字通り名もなき暗部組織よ」






少女 「――だって、結成する前にあなた達『スクール』に潰されたんだから」

そう言った瞬間、少女の笑顔が消えた

少年 「……俺達『置き去り』は小さい頃から実験動物として扱われてきた」

少年 「身寄りのない存在だったから、それは酷いものだったよ」

置き去り<チャイルドエラー>……いわゆる孤児だ

学園都市はこの置き去りを使って様々な実験を行ってきた
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:20:06.19 ID:hX9F4HnDO
その大半は実験の影響で死に、生き残ったとしても廃人のようになってしまうのが殆どだ

2人はその中でも数少ない“正常な”生き残りらしい

少年 「俺達は仲間と共に、いつか学園都市に復讐する事を決意した」

少年 「そこで利用しようと考えたのが暗部組織だ」

学園都市の側に忍び込み、奴らに協力しつつ情報を集めていく

そして全ての準備が整った時、行動を起こそう――

何とも単純な内容だった

無骨で不安定で、それでいて信念を感じ取れる……

正直、不可能なのかもしれない

それでもやってみよう
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:21:08.57 ID:hX9F4HnDO



暗闇の中に見つけた微かな光――



仲間がいれば、きっとうまくいく



そう、思っていた……



少年 「……でも駄目だった」

少年の声が僅かに震える
少女 「私達の計画が誰かに知られたらしく、すぐ鎮圧部隊が現れたわ」

少女 「それがあなた、垣根帝督がリーダーを務めていた『スクール』よ」

ここまで言われてようやく、朧気ではあるが過去の記憶を思い出した

垣根 (確か、俺が全てを知る前……)

垣根 (学園都市を脅かす危険分子を排除するって仕事があったような……)

垣根 (ターゲットは4人で、相手をしたのは俺1人……)
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:21:44.99 ID:hX9F4HnDO
曇りガラスが晴れるように、記憶が鮮明に映し出されていく

少女 「レベル4相当が4人掛かりだってのに、あなた1人に何も出来なかった」

少女 「そして仲間2人は私達を逃がす為に囮に……」

少年 「あの時のアンタの顔、一度たりとも忘れた事はない…!」



何の興味も持たない顔だった……



俺達の事なんて初めから見ちゃいない



そんな奴に、俺達の仲間は、俺達の光は――!



少年の両手に紅き火が灯る

その両手を広げると、激しい轟音・閃光と同時に少年の周囲は一瞬で火の海と化した

燃え盛るそれは、まるで彼の内なる怒りを具現化した様

384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/10(金) 00:22:38.33 ID:hX9F4HnDO
垣根 (発火能力か、レベルは4ぐらいってとこか……)

垣根は火の海の中の少年を見据える

熱によるものか、表情は酷く歪んでいた

少年 「アンタが奪ったんだ!俺達の光を!同じ『世界』の住人であるアンタが!!」

怒りを露にした少年が垣根に向けて炎を一直線に放つ

…やはりこうなってしまったか

そう簡単に『闇』から抜け出せる筈もない

外出したことをほんの少し後悔し、垣根は臨戦態勢をとる



……だが



400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:40:14.94 ID:yc5PP3FDO
垣根 「チッ、やるしか……っ!?」

異変を感じた垣根は、咄嗟に攻撃を右へかわした

垣根 (どういう事だ…?)

異変を確かめる前に、今度は後ろから電撃が迫る

すかさず未元物質を展開、電気を通さない物質を生成し、これを防ぐ

垣根 (あっぶねー…)

心の中でほっと胸を撫で下ろした

少女 「流石『未元物質』ね……」

軽く舌打ちをする少女の身体からは、パチパチと静電気が走る

垣根 「こっちは発電能力か…」

先程の威力・精度からしてこちらも大能力者<レベル4>だろう

垣根 (しかし、ちょっとまずいかもな……)

401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:41:07.84 ID:yc5PP3FDO
普段の彼であればこれくらいの状況どうとでも出来る

だが、どうにも様子がおかしい



垣根 (能力がうまく使えねえときた……)



少年の炎を防ごうとした時、何故か能力が発動しなかった

あの瞬間、垣根の脳内では不思議な出来事が起きていた

能力を行使する為に行った演算が、突然別の演算に切り替わったのだ

垣根 (……ここに来てコイツが邪魔するかよ)

それは垣根が人の姿に戻った時からある謎の演算

恐らく、自分の脳のあれと関係しているのか…

少女 「でも、今度はあの時のようにはいかないわ!」

少年 「許さない!アンタは俺達が必ず殺す!」

前後から同時に攻撃が放たれる

402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:41:37.95 ID:yc5PP3FDO
またいつあんなことが起こるか分からない

こんな不安定な状態での戦いは短く済ませるに限る

垣根 「一瞬で終わらせてやるよ!」

翼で攻撃を防ぎ、そのまま前へ飛び出した

まずは発火能力者からだ

少年 「…っ!!」

凄まじい速さで迫られ、彼は完全に反応が遅れた



――勝算は著しく低いだろう

そんなことは分かってる

だが、やらねばならないのだ


何としても、垣根帝督と戦わねばならない


仲間の、俺達の無念を晴らす為に

……なのに、もう終わりか?



少年 (畜生……!!)

1枚の翼が振り下ろされ、それによって生じた烈風が周囲の炎を吹き消す

少年は死を覚悟し、グッと目を瞑った

403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:42:25.79 ID:yc5PP3FDO



……



少年 「……?」

攻撃が来ない?

恐る恐る目を開けてみると、眼前には憎き仇の顔

それも、呆気にとられたような間抜けな顔だ

少女 「――――!!」

少女の声で我に帰ると、瞬時に後方へ跳んで垣根と距離をとる

よくよく見れば、垣根の背中から翼は消えていた

少年 「……俺達をおちょくってるのか!」

なめられてると思った少年は奥歯を軋ませ、垣根に迫る

同じく少女も垣根を挟み撃ちにせんと走り出した

垣根 (またかよ…!こないだまで何ともなかったってのに!)

また演算が切り替わった

再度演算を組み直そうとするがどうもうまくいかない

その間にも、二人は垣根との距離を縮めていく

垣根 (クソッ!)

切羽詰まった彼は少年が通ってきた通路へ逃げ込んだ

404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:43:22.22 ID:yc5PP3FDO
少年 「逃がすか!」

後を追おうとする少年を、少女は引き止めた

何だよ、と血気に逸る彼を落ち着かせながら彼女は疑問を口にする

少女 「彼、何だか様子がおかしくない?」

言われてみれば、垣根の挙動に幾つか不審点がある

1つ目、最初に放った炎を彼は“避けた”事

彼の能力を持ってすれば、あれくらい防ぐのも容易いだろうに

現に2回目の攻撃は能力で防がれている

2つ目、彼が目前まで迫っておきながら寸でのところで攻撃しなかった事

最初はなめられていると思ったが、彼の表情を思い出せばそうとも言いにくい

攻撃しなかったのではなく、“出来なかった”……?

少年 「……言われてみれば確かに」

少女 「もしかしたら、うまく能力を発揮出来ないでいるんじゃないかしら」

少年 「どうして?」

少女 「それは分からない、でも……」






これはまたとないチャンス――



405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:43:55.72 ID:yc5PP3FDO






……状況は良くない。逆に悪化しつつあった

あれから何度も試みたが、その度に演算が切り替わり、能力の使用を阻止されてしまう

仮に演算に成功したとしても、持続出来るのはおよそ0.5秒。さっきよりさらに短くなった

垣根 「ハハッ、こりゃ参ったぜ」

余裕のない笑みだ。内心焦っているのだろう

(一方通行戦を除き)彼は初めて“窮地”というものに立たされたのだ

これまでどんな能力者がどんな人数来ようと、翼を1振りするだけで退けてきた

未元物質という比類なき力が彼の武器であり鎧である

それを持たない垣根帝督は只の人……

ましてや相手は大能力者2人、半ば無能力者となった彼じゃ分が悪い

なら答えは1つ……



垣根 「逃げるしかねえよな…」



406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:44:27.91 ID:yc5PP3FDO
あの学園都市が誇る超能力者第二位が逃げる事を決意した

理由は簡単、まだ死ねないから

彼を知る者達からすれば信じられないことだろう

今の垣根にはやるべきことが沢山ある

プライドもへったくれもない、何としてでも死ぬ訳にはいかないのだ

そうと決まれば早くこの薄暗い路地裏から出よう、と足を動かそうとした瞬間

垣根 「…っ!!」

強い殺気を感じ、垣根はすぐさま後ろへと下がる

その刹那、垣根の目の前を横一線に巨大な火柱が駆け抜けた

視界を埋め尽くす紅はコンクリートの壁を突き破り、数秒前まで居た空間を焼き払う

もう見つかったのかと思うのも束の間、壁に空いた穴からあの少年が飛び出してきた

少年 「チッ、避けられたか」

表情は相変わらず怒りに満ちていたが、いくらか冷静さを取り戻しているようだ
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:45:14.31 ID:yc5PP3FDO
少年 「アンタ、実は今能力がうまく使えないんじゃないのか?」

垣根 (おいおい、もう気付かれたのかよ)

図星をつかれ僅かに動揺するも、それを決して表に出さずに余裕の表情を浮かべる

垣根 「そう見えるか?」

少年 「これからそれを確認する」

そう言うと少年は演算に集中する

そして通路を丸ごと呑み込むように、高さ3Mもの火の津波が轟音を響かせ垣根を襲う

垣根 (マジかよ!)

この一本道に逃げ場はない。これをやり過ごすには能力を使う他ないが……

垣根 (頼むぜ俺…!!)




408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:45:47.55 ID:yc5PP3FDO



火の津波が押し寄せた後の通路には焦げ臭い匂いが漂う

少年は焼け跡に死体が転がってないか歩きながら探していた

殺したいと思う反面、これくらいで死なれては困るとも思うから訳が分からない

一体どっちなんだと自分に問いかけるが、答えが出る前にあるものを見つける

少年 「これは……」

壁にポッカリと空いた直径2M程の穴

中の物置小屋は突風が来たかのように荒れ果て、その奥にも同様の穴が見られる

少年 「ここから逃げたか」

どうやら難を逃れたらしい

しかし、同時に確信する

少年 「アイツはまともに戦える状態じゃない……!」



410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:47:05.27 ID:yc5PP3FDO
垣根 「…こりゃマジでヤバイな」

危なかった……

間一髪能力が発動し、消えるまでの間に壁を突き破って逃れることが出来た

何故その一瞬の間に攻撃しなかったかと言うと、その行動にはリスクが大きかったからだ

2人の距離は然程なかったものの、0.5秒も保っていられる保証はどこにもない

突っ込む間に能力が途切れたら、その瞬間身体は消し炭にされてしまう

それよりも隣の壁を壊して避難する方が幾分生存率は高い

垣根 「もうすぐ夜か」

冬場は日が沈むのが早いこともあって、辺りは更に暗くなる

早いことここから抜け出さねばと自らを掻き立てる
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:48:28.43 ID:yc5PP3FDO
表通りに出れば、向こうも迂闊に手は出せない筈……

彼の最優先事項は生き延びる事

その為には何とかあの2人から逃げ切らなければならない

垣根 「どうやら、認めざるを得ないようだな……」


垣根帝督は今、2人の人間に追い詰められている――


「――気分はどう?」

正面にあの少女が立っていた

少女 「あの時と逆の立場に立った気分は」

カツ…カツ…と靴音を響かせながらゆっくりと歩み寄る

垣根 「あぁ、今まで味わった事のないスリルを堪能してるよ」

少女 「…その余裕、いつまで続くかしらね」
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:49:00.41 ID:yc5PP3FDO
あくまで余裕さを見せる垣根に少女は少し苛立つ

少女 「知ってるのよ、あなたは今まともに戦えないことは」

垣根 「確かに、女が相手だとまともに戦える訳ねえよな?」

直後、5つもの雷の槍が一斉に投げ出される

垣根はそれをどうにかかわすと、少女とは反対方向へ走り出した

少女 「逃がさないわ!」

少女は垣根を追いかけながら雷撃を飛ばし続ける

それをかわし、たまに能力で防ぎながら迷路のような路地裏をひたすら駆け抜ける

少女 「あなたが学園都市に反旗を翻したのには驚いたわ。同じ事を考えてた私達を叩き潰したってのにね!」

少女 「そして失敗し、あなたが死んだと聞いた時は絶望した…」

少女 「だって、私達の生きる意味を失ったんだもの」

413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:49:43.27 ID:yc5PP3FDO
2人は垣根への復讐のみを考えて生きてきた

その意味では、垣根帝督の存在は2人にとっての生きる希望なのかもしれない

「――そしてこの間、街を歩くアンタを見掛けた」

突如、目の前の道が炎で遮られる

そこには少年の姿があった

垣根 「チッ!」


すぐさまもう1つの道へ切り替える。今度は追手に少年が加わった

少女の雷と少年の炎が床を焦がし、壁を抉り、暗い路地裏をチカチカと照らす

少年 「まるで『表』の人間みたいに笑ってるアンタを見た時は気が狂いそうになった」

少年 「俺達の光を奪ったアンタが、同じ事を考えてたアンタが、ヘラヘラしてるのが許せなかった!」

少年 「あの時確信したよ、俺はアンタを殺さなきゃ前に進めないってな!」



だから絶対逃がさない、どこまでも追いかけてやる



これが、俺達が見つけた新たな光だ――



414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/15(水) 20:50:50.69 ID:yc5PP3FDO
垣根 「……」

垣根は火と電撃の嵐を潜り抜けながら考える

垣根 (その気はなかったにしても、コイツらをこんなにしたのは俺だ)

垣根 (俺はコイツらに責任を取らなきゃならないんじゃねえのか?)

垣根 (俺が逃げるのは違うんじゃねえのか…?)

ここに来て垣根は自らの行動に疑問を抱きだした

今の彼が生き延びるには2人から逃げる必要がある


だが、本当にそれでいいのか?


次に会った時も逃げるのか?


だがここで足を止めたら自分が死ぬかもしれない


折角のチャンスを無駄にしてしまう


俺はどうすればいい?どうしたい?

俺は……






420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:32:26.65 ID:X2T00aNDO






垣根を追っていた2人は異変を感じ、足を止めた

少年 「…どういうつもりだ?」

少女も怪訝な顔で垣根を凝視する



彼が走るのを止めたのだ



少女 「諦めたの?」

垣根 「……そうだな」

振り返った垣根からは、今までの余裕さはなかった

垣根 「逃げる訳にはいかねえよな」

少女 「……そう」

それだけ聞くと、少女は演算を始めた

不倶戴天の敵、垣根帝督を確実に殺す為に威力や範囲を綿密に計算する

態度を一変した垣根に拍子抜けした少年も続いて演算に集中

己の持てる力を、ありったけの憎しみと共にぶつけてやる

421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:33:03.46 ID:X2T00aNDO
上空に灯る火が雷を纏いながらみるみる肥大化していく

歪に揺らめくそれはやがて形を整え、高密度の球体となった

その圧倒的な様は『太陽』と呼ぶに相応しい

高揚する気持ちを押し殺しながら、少年は垣根に懺悔を促す

少年 「最期に言い残すことはあるか?」

返事はない……

ここまで来て謝罪の1つもないとは、とんだ神経の持ち主だ

そう思うと、更に殺意が込み上げてくる

少年 「…ならいい」

少年は垣根の懺悔を諦め、裁きを下す事にする



これで終わるんだ――



今度こそ光を掴む事が出来る――



422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:33:48.32 ID:X2T00aNDO
「「死ね!」」

小さな太陽が、裁きの鉄槌が、2人の憎悪が、垣根帝督に振り下ろされた



世界がスローモーションのようにゆっくりと流れる――

二度目となるこの妙な感覚、これが何を意味するかはもう分かっていた

垣根 (まるであの時の俺を見てるみたいだ…)

あの2人は己の歴史が作り上げた産物であり、己の過去そのもの……

それが今、自分のつけた足跡を辿って目の前に立っている

逃げ切れる訳がない、逃げてはいけない

彼が出来るのは、己の過去を受け入れるのみ



ならば――



垣根 (死んで逃げる訳にはいかねえよな…!)



そうだろ、垣根帝督――!!






423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:34:50.31 ID:X2T00aNDO
―――――――――


――表通りは騒ぎになっていた

突然、路地裏の方で大きな爆発音が鳴り響いたのだ

通報を受けた警備員<アンチスキル>が周囲を封鎖し、野次馬達を寄せ付けないようにする

直に原因を調査しに現場へ乗り込むようだ

「何だあれ?」

ざわつく野次馬の多くがあるものに目を奪われていた

「あれは……柱?」






424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:35:40.71 ID:X2T00aNDO
路地裏の狭苦しい景色はすっかり変わり果てていた

あの攻撃で周囲3Mは吹き飛び、その中心には天高く伸びる火柱

2人はしばらくその火をずっと見ていた

今2人にあるのは達成感と解放感、それと少しの後悔

少年 「これでよかったんだよな…」

あれだけ憎い相手だった筈なのに、いざ殺したとなると何とも言えない気分になる

一体どうして?

きっと、隣にいる少女も同じ事を考えていると思う

少女 「……ええ」

火柱に目を向けたまま、少女は答える

少女 「みんな、この火が見えてる?私達、遂にやったわ」

そう虚空へ言い放つ少女の顔は喜びとも悲しみとも取れる色だった

425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:36:21.74 ID:X2T00aNDO
生きる目的を達成したと同時に、生きる目的を失った……

復讐こそ全てだった2人にとって、この事は良くも悪くも影響を及ぼしたことだろう



これからどうする?



今更『表』の世界に出ることが出来るのか?



少年 「……行こう」

もうじき騒ぎを聞きつけた人がやってくる

見つかると厄介だ、その前に姿を消そう

2人が火柱に背を向け、歩き始めようとした時……


ゴォッ!!


突如、強烈な風が2人の背中に叩きつけられる

慌てて振り返ると、そこにはありえない光景があった



少女 「天使…?」



426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:37:07.09 ID:X2T00aNDO
ありのまま見たものを口に漏らす

風によるものか火柱は消え、そこには天使があった

大半の人が思い浮かべるような白い羽の生えた人、正にそれだ

少年 「な…何で……」

少年は恐怖する、目の前の天使に

いや、厳密に言えば天使ではない、天使のような人間にだ






垣根 「よう、帰ってきたぜ」

その実態は学園都市超能力者第二位『未元物質』、垣根帝督である――

427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:38:02.18 ID:X2T00aNDO
少女 「元に戻ったって言うの…!?」

――殺せなかった

勝利を確信し、全身全霊の一撃を叩き込んだのに、まさか最後の最後で復活されてしまうとは

少年 「く、クソ……っ!?」

少年が再び演算を開始しようとした途端、頭に激痛が走る

脳を何本もの針で串刺しにされたような痛みに彼は方膝を突く

脳の負担はピークに達していた

少女も、痛みと懸命に戦いながら垣根を睨み付ける

……最悪だ

こうなってしまっては抵抗どころか逃げる事も出来ない

垣根 「…もうやめろ」

そう言うと右の拳を2人に突き出す

垣根 「お前らの憎しみ、確かに受け取った」

その皮膚は炭のように黒く焼け焦げ、少し骨も見える
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:38:54.30 ID:X2T00aNDO
あの時、垣根は1つの賭けに出たのだ

それは、痛みによって謎の演算を強引に止めるというもの

しかしそれは妨害に成功し、且つそこから演算を組み直せるという前提での話

そんな事をするのは彼が初めてだろう

一歩間違えれば死に直結する危険な賭け――

そして垣根は迫り来る火球に自ら右手を差し出し、これに勝利する

彼の右手は痛みをとうに過ぎており、何も感じなくなっていた

が、今の垣根にとって右手の事などどうでもいい事だ

429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:40:02.36 ID:X2T00aNDO
憎悪のままに今を生きてきた2人、垣根の過去……

取り返せないなら、受け入れるしかない

垣根 「それでもまだ憎しみが晴れないなら、もっと俺にぶつけて来い」


一度と言わず、二度と言わず――


垣根 「全部俺が受け止めてやるよ、1つ残らずな…」


忘れなくていい、だが諦めないでくれ――


垣根 「だから俺はまだ死ねない、お前らが生きている限り」



何度でも殺しに来い――


430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:40:43.77 ID:X2T00aNDO






ポタ…ポタ…

コンクリートに雫が落ちた

その元は空からではない、蹲る少年と少女の瞳からだ

その内の少年が何かを堪えながら必死に言葉を絞り出す

少年 「……ふざけるな」

憎しみを受け取った?違う

少年 「アンタは……」

もっと俺にぶつけて来い?まだ足りないのか

少年 「俺達の…生きる糧すら…奪うってのか……!」

全部受け止めてやる?止めろ…!!

少年 「この腐れ外道があぁぁぁぁぁ!!!!」

垣根 「っ!!おい、何を――――」






431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:41:29.88 ID:X2T00aNDO
―――――――――

~とある病院~


右手の火傷も、冥土帰しにかかれば2時間で治してみせる

あの医者に常識は通用しねえなーなどと考えていると、彼はホールに備え付けられた薄型テレビに目が入る

『――11月29日、第7学区路地裏で爆発事故が発生』

『爆発が起きたのは2回、通行人1人が右手に大火傷を負う』

『現場は瓦礫の山で埋め尽くされ、復旧には4日程かかる模様』

『尚、他に人は見当たらず、これだけの事故で怪我人がたった1人だったのは不幸中の幸い――』
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/18(土) 23:43:41.56 ID:X2T00aNDO
垣根 「腐れ外道…か」

あの後、少年はポケットから取り出した手榴弾で少女もろとも自ら命を絶った

垣根の思いを、2人は歪んだ形に受け取ってしまったのだ……

最後に見たのは泣き崩れる少女と発狂する少年

2人に笑顔が戻る事はなかった

垣根 「間違っちゃいねえよ…」



確かに外道なのかもしれない――



それでも――



垣根 (それでも俺は、歩みを止める訳にはいかねえんだ……)






439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:48:12.62 ID:Oc9qLk3DO
―――――――――
―――――
―――

12月4日(土)


上条 「あのー…」

麦野 「何?」

上条 「もう帰りませんか?」

麦野 「ここまで来て何言ってんのよ」

一方 「今度はオマエに呼び出されるとは、あのバカが移ったかァ?」

麦野 「どうせ暇人なんだしいいでしょ?」

一方 「しかし、こりゃあ中々面白そうじゃねェか」 ニヤニヤ

麦野 「あ、あっちへ行くつもりよ!」 コソコソ

一方 「行くぞ三下ァ」 コソコソ

上条 「はい…」 コソコソ






440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:48:47.63 ID:Oc9qLk3DO
―――――――――

2時間前


――12月、学園都市にもようやく冬が訪れる

街は一足早いクリスマスムードで、サンタクロースの人形やらツリーやら、赤と緑で一杯だ

その景観に溶け込むように、赤いコートを羽織る金髪の少女が1人往来を歩いていた

13~15歳に見える外見とは裏腹に、そこらの学生とは比べ物にならない何かを感じさせる

それもその筈、彼女も学園都市の『闇』を知る人物の1人だからだ

『心理定規』<メジャーハート>――、それは人と人との“心の距離”を知り、操作するというもの

彼女の能力名であり、仲間からもそう呼ばれていた
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:49:17.22 ID:Oc9qLk3DO
しかし、所属していた組織は先の抗争で壊滅し、仲間は全員再起不能


唯一逃げ延びた彼女は学園都市の『闇』からも姿を眩ました

その後何処で何をしていたかは謎だが、今もこうして生きている

路地裏に咲く1輪の花のように、ひっそりと――



心理 (最近まで戦争があったとは思えない光景ね) テクテク

心理 (それに、科学の街でキリストの誕生日を祝うなんて矛盾してるわ)

心理 (大方、そこまで深く考えず皆でワイワイやりたいだけなんでしょうけど)
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:50:11.14 ID:Oc9qLk3DO


ホントダッテ!
エー、ウソダー


心理 (……)

心理 (時々、この能力が嫌になるわ…)

心理 (どれだけ愛想良く振る舞っていても、本質が見えてしまうもの)

心理 (人との関わりなんて持たないのが一番)

心理 (その方が余計な災いを招かなくて済むし)

「そこのお嬢さん」

心理 (……それが出来ないのが現実ね) ハァ

心理 「私に何か用……」 クルッ

垣根 「よう、元気にしてたか?」

声をかけてきた男は彼女が所属していた組織『スクール』の同僚にしてリーダー、垣根帝督だった

垣根 「何だその幽霊でも見たような顔は?感動の再会だぞ?」 パシャッ

心理 「あなた、どうして…て、カメラ?」

垣根 「カッコいいだろ?」
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:51:34.64 ID:Oc9qLk3DO
心理 「そっちじゃなくて、あなた学園都市に『回収』されてたんじゃ…」

垣根 「あー、なんかもう用済みらしいから解放してくれた」 シレッ

心理 (なんてアバウトな理由…)

垣根 「色々話したい事もあるだろうし、あの店でも行こうぜ」 スタスタ

心理 「あ、ちょっと!」



~コーヒーショップ~


心理 「――綺麗な思い出を、ね…」 ズズー

心理 (私の知ってる彼じゃないみたい)

心理 (いえ、そもそも私彼の事何にも知らないんじゃ…?)

心理 (仕事意外で関わった事ないし、関わろうとも思わなかったし……)

垣根 「――って、聞いてんの?」

心理 「はっ!え、ええ……」
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:52:08.79 ID:Oc9qLk3DO
垣根 「そういや、プライベートでお前と会うの初めてだよな」 ズズー

心理 「暗部組織なんて何処もそんなものよ」

心理 「たまたま一緒になって、互いを利用し合ってるだけ」

心理 「過度な馴れ合いは返って弱みになるわ」 ズズー

心理 (私の場合、それだけじゃないけど…)

垣根 「じゃあ今日から馴れ合おう」

心理 「え?」

垣根 「今や暗部なんてあってないようなもんだし、そうだそうしよう!」

垣根 「馴れ合うって言い方が嫌だな…よし、仲良くなろう!」

心理 「ちょっと…」

垣根 「俺お前の事何にも知らないし、知りたい」






垣根 「てな訳で、今から遊園地行こう」

心理 「」

445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:55:19.17 ID:Oc9qLk3DO


アリガトウゴザイマシター


垣根 「寒いな~外は」 ブルブル

心理 「ちょっと待って」

垣根 「ん?」

心理 「何で遊園地に行く事が決まってるのよ」

垣根 「違うとこがいいか?」

心理 「じゃなくて、私は行くとは言ってn「実は俺も行ってみたかったんだよ」

心理 「私の話聞いt「確か駅はあっちだったか?」


ホラ、ハヤクイクゾー


心理 (……本当に、あの垣根帝督なの?)

心理 (行かないとうるさそうだし、仕方ないから付き合ってあげるわ)




446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:56:40.40 ID:Oc9qLk3DO
―――――――――


麦野 「う~寒い」 ブルッ

麦野 「全く、冬は肌が乾燥するから嫌だわ」 テクテク

麦野 「それにしても、まだ12月になったばっかってのにクリスマスムード全開かよ」

麦野 「……今年はちゃんと過ごせるかな」


サムイナーソトハ


麦野 「…あ、垣根」

麦野 (今日は寒いし、アイツらも呼んで何かスポーツでもやるか)

麦野 「おい、垣根…」


チョットマッテ
ン?


麦野 「!?」 サッ


麦野 (って、何で隠れるんだよ…)
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:57:13.54 ID:Oc9qLk3DO
麦野 (あの女は……?) チラッ

ナンデユウエンチニ…
チガウトコガイイカ?


麦野 (ゆ、遊園地!?あの野郎、デートすんのか……!?)


ホラ、ハヤクイクゾー


麦野 「アイツ、いつの間にあんなのと……」

麦野 「……」

麦野 「……」 カチカチ

麦野 「あ、もしもし上条?今から遊園地行くんだけど――」






448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:57:50.36 ID:Oc9qLk3DO
―――――――――

2時間後~遊園地~


ワイワイ


上条 「――そんな訳で来てみたら垣根の尾行に付き合わされる羽目になったんですよ」

一方 「誰に説明してンだ?」

麦野 「遊園地なんて1人で入れる訳ないでしょ」

上条 「あの赤いコートの女の子は誰なんだ?」

麦野 「それを確かめる為に、こうして後をつけてるんじゃない」

上条 「そんなの直接聞けばいいじゃないか」

一方 「バァカ、それじゃつまンねェだろうが」

449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/21(火) 23:58:31.40 ID:Oc9qLk3DO
一方 「もしかしたらアイツの弱みを握るチャンスかもしれねェ」

一方 「あのバカが狼狽える様を見たいとは思わねェか?」

上条 「別に俺は…」

麦野 「つべこべ言わない!入場料私が出してるんだから拒否権はないわよ」

上条 「う…それを言われると何も言い返せない……」

麦野 「絶対見逃さないからな~垣根ぇ~」 ケケケ

上条 「何か怖いんですけど…」

一方 「あれが本当のアイツだ」


465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:39:19.79 ID:8Ck1WooDO
―――――――――

ワイワイ


垣根 「うぉーすげー!」 パシャッ

心理 「そんなに大はしゃぎする事?」

垣根 「だって遊園地行くの初めてだからよー」 ウキウキ

心理 (小学生みたい…)

垣根 「こんなことならアイツらも誘えばよかったかなー」

心理 「アイツらって?」

垣根 「俺の友達だよ」

心理 「友達……」

心理 (信じられない、あなたが『友達』なんか作るなんて)

心理 (『裏』の事は割り切れたっていうの?)

466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:40:54.46 ID:8Ck1WooDO
垣根 「でも一方通行は遊園地に興味なさそうだなー」

心理 「え、その友達ってまさか…」

垣根 「おう、それと麦野もだ」

心理 「」

垣根 「さて、まずはあれに乗ろうか!」

心理 「え、ええ…」

心理 (敵だった筈の第一位と第四位が友達…?)

心理 (彼に一体何があったの?)






上条 「コーヒーカップに乗るつもりらしいぞ」

一方 「あのグルグル回るやつか」

麦野 「初めは軽めのアトラクションを選ぶ、分かってるわね」

上条 「麦野デート経験とかあるの?」

麦野 「え?ま、まあね」

麦野 (実は恋人とか一度も作った事ないなんて、恥ずかしくて言えない……)

467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:41:47.21 ID:8Ck1WooDO
麦野 (いやでも、デートなら垣根と1回…って違う!あれは買い物に付き合わされただけだっつの!)

上条 「いいなー、俺もデートとかしてみたいけど女の子に縁がないから…」

一方 「……オマエが言うと嫌味にしか聞こえないのは気のせいか?」

麦野 「それ私も思った」

上条 「なんで!?」






垣根 「目が回る~」 グルグル

心理 「あなた回し過ぎよ…」 グルグル

垣根 「流石は学園都市、レベルが違うな」

心理 「それにしたって、あそこまで回るとは思わないわ」

垣根 「もしかして、お前も遊園地初めて?」

心理 「私が遊園地に行くように見える?」
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:42:21.37 ID:8Ck1WooDO
垣根 「うーん…」 ジー

心理 「…何ジロジロ見てるのよ」

垣根 「よく見ると結構可愛いな」

心理 「かっ……い、今はそんな話してないでしょ」

垣根 「いや、お前がそう見えるかって聞いたから…」

心理 「意味が分からないわ」

心理 (何なのこの人、誰?)

垣根 「初めてなのか…んじゃ、今日はとことん遊び尽くすぞ!」 グイ

心理 「ちょっと、引っ張らないでよ!」

垣根 「目指せ、全アトラクション制覇!」






上条 「あ、手繋ぎだした!」

一方 「あの野郎、チャラいのは見た目だけじゃねェンだな」 ピロリーン

469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:42:55.81 ID:8Ck1WooDO
上条 「写メ撮ってんの?」

一方 「オマエも撮っとけェ」

上条 「こりゃ、もしかしたら本当に垣根の……って、麦野?」

麦野 「……」

一方 「おい、聞いてンのかァ?」

麦野 「…はっ!だ、大丈夫よ!」

上一 「「?」」

麦野 (アイツ、あの女と手繋いでた…)

麦野 (いや、だから何だよ。別にいいじゃん、アイツが誰と仲良くしてても)

麦野 (でも友達だからって手繋ぐか?しかも男と女で、まさか……)

麦野 「いーや、アイツに限ってそれはない!」

上条 「!?」 ビクッ

麦野 「よし、行くぞお前ら!」

上条 「は、はい!」

一方 「気合い入ってンなァ」

麦野 (クソが、こうなりゃ意地でも確かめてやる…)

麦野 (あの女がアイツの何なのかを!)

470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:43:39.12 ID:8Ck1WooDO
―――――――――


ワーワー


上条 「」

麦野 「」

一方 「」 ピロリーン

上条 「まさか、メリーゴーランドに乗るとは…」

麦野 「見てるこっちも恥ずかしい…」

一方 「女の顔が引きつってンぞ…誰か降ろしてやれよ」

上条 「本人は本気で楽しんでるってのがまた…」

イケメンガメリーゴーランドニ!
ナニアレメルヘン!


一方 「おい、周りがアイツ見て笑いだしたぞ」

上条 「あの女の子辛そうだなー」

麦野 「……ちょっとジュース買ってくる」 スタスタ


471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:44:10.28 ID:8Ck1WooDO






心理 「……」

垣根 「どうした?」

心理 「死ぬ程恥ずかしかった」

垣根 「お前でも恥ずかしいって気持ちは持ってるんだな」

心理 「当たり前よ、私を何だと思ってるの」

垣根 「なんていうか、不思議系?お前の感情的なところって見たことないからさ」

垣根 「何だ、普通の女の子じゃん」

心理 (普通の女の子…)

心理 (……駄目よ、こんな気持ち持っちゃ)

心理 「そういうあなたは大分変わってるわね」

垣根 「自覚はある」

心理 (取り乱すなんてらしくないわ)

心理 (いつも通りでいいのよ、いつもの『心理定規』でいれば……)

垣根 「じゃ、次はあれだ!」

心理 「はいはい…」

472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:44:48.74 ID:8Ck1WooDO






一方 「お次はジェットコースターか」

麦野 「これじゃよく見えないわね」 ウーン

上条 「俺達も乗る?」

麦野 「私は遠慮しとく」

一方 「なンだァ?第四位様はジェットコースターすら乗れねェってか~?」 ニヤニヤ

麦野 「ちげーし!見つかるかもしれねぇから乗らないだけだし!」

上条 「まぁまぁ折角来たんだし、楽しんでいこうぜ」

麦野 「お、おい待てコノヤロー!」

473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:45:23.84 ID:8Ck1WooDO






麦野 「うぷ……」 グッタリ

上条 「そんなにダメだったのか」

一方 「おい見ろよ、アイツまでダウンしてやがる」 ププ

上条 「本当だ、女の子なんか気遣って背中さすってるよ」

麦野 「なに…?」 ピクッ

一方 「オマエもさすってやろうかァ?」

麦野 「いらん、それと上条後で覚えてろ」

上条 「わ、悪かったって!今度なんか奢るからさ」

麦野 「言ったな~?」 ニタァ

上条 「お、奢るって言ってもそんな高級なものは困りますよ!?」

麦野 「男に二言はない」

上条 「そんな…」 ズーン

一方 「口は災いの元ってやつだ」

麦野 (クソッ、何だこのイラつく感じは…)
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:46:03.25 ID:8Ck1WooDO
垣根 「悪いな、ちょっと楽になった」

心理 「こんなところで戻されても困るからね」

垣根 「優しいんだなお前」

心理 「…っ、これくらい普通でしょ」

垣根 「でもありがとよ」 ニコッ

心理 (この人のこんな顔、初めて見た)

心理 (どうしてそんなに笑えるの?)

心理 (……ちょっとだけ、あなたの事知りたくなったかも)

垣根 「おお、こんなのもあるのかー」

心理 「これは……」






一方 「なァ、アイツらが入ったのって……」

上条 「そうだよな…」

麦野 「……お化け屋敷?」

475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/06/24(金) 17:48:19.97 ID:8Ck1WooDO
今日は以上です

心理ちゃん可愛いよ心理ちゃん

次は月曜日の予定です 
 
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/24(金) 17:49:14.63 ID:g8jNUuvw0
リアルキターーーー
かわいいよ心理定規ちゃん。
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/06/24(金) 20:32:42.82 ID:VzhkyJcOo
麦野さんかわいい乙
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/06/24(金) 22:35:56.61 ID:g8jNUuvw0
ひさしぶりにかわいいメジャーちゃんを見た。乙
そういえば魔術サイドのキャラは出るの?
個人的には、苦労人の対馬さんに花を持たせてあげたいところだ。 
 
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/27(月) 01:36:38.42 ID:ALg0dJqE0
垣根の雰囲気がいいなぁ。
ほのぼのしてる

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