2014年2月2日日曜日

サーシャ「亡命します」 2

360VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:14:28.70 ID:NT7sJKE0

【サーシャ「亡命します」Ⅱ】

※注意
オリジナル設定や拡大解釈が多分に含まれています
原作設定はそげぶされています
今回のストーリーは原作の17巻と18巻が中心となっているので、そちらに目を通しておかないと話が分からないかもしれません
もう一度注意しますがオリジナル設定MAXです


サーシャ「第一の解答ですが、そう言う事です」

レッサー「なるほど」

フロリス「いや、オリジナル設定がどうとか原作がとかそんな事は聞いてないの。アンタが一体何者で、何でここに居るのかを聞きたいのよ」

ランシス「ぐぐれwwww」

サーシャ「第二の解答ですが、私はロシア成教殲滅白書に所属していたサーシャ・クロイツェフです」

フロリス「していた?」

サーシャ「第三の解答ですが、亡命してきました。もうあんな上司は嫌です。なんなんですかミ○キーって!」

ベイロープ「亡命とはそりゃまたなんとまあ…」

レッサー「殲滅白書に追われてイギリスまで逃げてきて生き倒れって感じですか?」

サーシャ「第四の解答ですが、だいたいそんな感じです。実は二回目の亡命なので、殲滅白書の追撃もかなり厳しかったのです。
”またお前かwwwwwwいい加減にしろこの露出狂wwwwww”とか言ってましたし。好きでこんなバカみたいな恰好してるわけじゃのに」

ランシス「wwwwwwwwww」
361 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:16:20.96 ID:NT7sJKE0

ランシス「wwwwwwwwww」

サーシャ「第一の質問ですが、この人は何でこんなトリップ状態なのですか?」

レッサー「ランシスは生命力を魔翌力に変換する過程で、異様なくすぐったさに襲われるという病気なんですよ。
いや病気かどうかは知りませんけど」

サーシャ「やめたらいいのでは?別に今は戦闘中じゃないんですから」

ランシス「お前頭良いな」(キリッ)

ベイロープ「やめられたのかそれ」

フロリス「ダメだこのチーム…」
362 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:17:42.17 ID:NT7sJKE0

ベイロープ「ねえ」

サーシャ「はい……!!?」


ドゴン!!


突然ベイロープが槍でサーシャを攻撃してきた

サーシャは辛うじてそれを避け、代わりにサーシャの座っていた木製の椅子が槍の直撃を食らってバラバラに砕けた


ベイロープ「へえ、殲滅白書でも閑職ってわけじゃなさそうね」

レッサー「ちょっ、ベイロープがご乱心ですよフロリス!」

フロリス「いきなり何やってんだよ、ほら大丈夫?」

サーシャ「あ、はい…」

フロリスは、唖然として尻もちをついたままのサーシャに手を差し出した


ベイロープ「ねえ、あなた亡命しにきたのよね?」

サーシャ「そうですが」

ベイロープ「行き先は?」

サーシャ「第一の解答ですが、ロンドンです」

ベイロープ「そう、じゃあ取引しない?私達はあなたがロンドンに辿り着くために協力する。
その代わり、あなたは私達の目的のために働く。悪い話じゃないと思うけど?」
363 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:19:28.44 ID:NT7sJKE0

フロリス「確かに、今は実力のある魔術師が一人でも多く欲しいとこだけど…でも、必要悪の教会から手先の可能性も無いとは言えないし」

レッサー「スパイですか?わざとロシアっぽく見せて油断させようと」

全員「じーっ」


全員でもう一度サーシャを観察する


サーシャ「……?」

フロリス「ないわね」

ベイロープ「そうだね」

レッサー「ないない」

ランシス「ねえよwwwwww」

サーシャ「あの、第一の質問ですが、何を根拠に?」

レッサー「いくらなんでもその格好は無いですよ」

全員「うん」

サーシャ「おい!」


というわけで、新たなる光に新しい仲間が加わりました
364 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:20:43.62 ID:NT7sJKE0

サーシャ「どうでしょうか?」

フロリス「おっ、似合うじゃん」


サーシャは新たなる光のメンバーと同じ、ラクロスの様なユニフォームに着替えた

ちなみにサーシャの格好は、青のスカートに黒いスパッツ、上は彼女等と同じジャケットだが、
フード付きの特別仕様で、サーシャは頭からスッポリとフードを被っている


フロリス「いやーやっぱ拾ってきて正解だったかな♪」(ぎゅっ、すりすり)

サーシャ「あの…」

レッサー「ベイロープ、フロリスがそっちの道へ走ろうとしてますよ?」

ベイロープ「ああ、次私ね!」

レッサー「ええっ!」

サーシャ「解せぬ」
365 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:23:58.73 ID:NT7sJKE0

レッサー「はいちゅうもーく!みなさんちゅうもくですよー!」

ランシス「仕切んなカス」

レッサー「ランシスの口調が掴めないという問題は置いておきましょう。私達はついに念願のブツを手に入れたわけですが」

サーシャ「第一の質問ですが、念願のブツって何ですか?あと、なぜ私はあなたの膝の上に座らされているのですか?」

フロリス「そうだな……話してもいいかな?あと私は人形を膝の上に乗せるが好きなんだ」

サーシャ「人形じゃねえよ」

ベイロープ「ちなみに今ここはエディンバラなわけだけど、私達はあるものをエディンバラ城で発掘したわけよ」

サーシャ「あるもの?」

ベイロープ「そう。この英国大陸を統べるあるもの。清教派、王室派、騎士派の三派閥を束ねる象徴と言えば?」

サーシャ「……第一の解答ですが、カーテナですか?」

ベイロープ「ピンポン♪」

サーシャ「第二の質問ですが、カーテナは現在、クイーンレグナント(英国女王)の手にあるはずですが、発掘したとはいったい…?」

ベイロープ「女王の持つカーテナはセカンドよ。私達が発掘したのはカーテナ・オリジナル。失われた本物の天使長の霊装なのよ」
366 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:28:00.68 ID:NT7sJKE0

フロリス「記録や文献を漁りつくしてなんとかエディンバラ城にあるという事までは掴んだんだけどさ。
さすがに英国最大にして最重要の霊装なだけあって中々発見できなかったわけよ」

レッサー「ところがですね、サーシャはウエストミンスターの女子寮で清教派のシスターと殲滅白書との間で抗争があった事を知ってますか?」

サーシャ「はい」


知ってるも何も当事者だ
むしろ自分がその原因となったのだから


レッサー「ちょうどその戦争が起きてる時に、エディンバラ城内部で爆発的な魔翌力の反応があったわけですよ。
もうテレズマとかそういうレベルじゃないですよ?今まで見た事の無いくらいに巨大な魔翌力の反応があったわけです」

サーシャ「……」


思い当たる節が一つある

あの時にサーシャが使用した偽物の王剣、カーテナ・イミテーション

しかし偽物の剣とは言え、使った力は本物のカーテナの力である

もしかしたら、そのカーテナの力にオリジナルの方が何らかの反応を示したのかもしれない



その魔翌力を頼りに発掘を行ったら本当に出てきやがったんですよと言いながら、レッサーは鞄を持ちあげた

おそらく、その中にカーテナ・オリジナルが入っているのだろう


サーシャ「それで、第三の質問ですが、そんなものを発掘してどうするつもりですか?
確かに骨董マニアには高く売れそうですけど、はっきり言ってそんな次元の話じゃ済まないくらいの霊装ですよ?」

フロリス「そう、私達はそんな次元の話じゃ済まない事をするのが目的なのよ。」

サーシャ「……」

フロリス「王家の人間がオリジナルを手にすれば、女王が持つセカンドの力はほぼ失われる。
つまり、カーテナ・オリジナルを持つ王家の人間が新たな英国の統治者となるの」
367 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:31:56.19 ID:NT7sJKE0

サーシャ「王室派は騎士派に強く清教派に弱い。その三竦みを根底から崩す事になりますよ?」

フロリス「まあそうなるね」

レッサー「もう言わなくても分かりますよね?」



レッサー「イギリスは変わる。王室派の第二王女と騎士派によるクーデターでね」




サーシャ「第一の質問ですが、なぜあなた方はそんな事を?」

ベイロープ「簡潔に言えば、強い英国の復活かしら?分かるでしょ?今の英国の不抜けた現状と危機を」


ランシス「かつての英国の立ち場は、アジアで言う日本と同じ、ヨーロッパにおける窓口的な存在だったの。
第二次世界大戦までは、清教派、騎士派、王室派、そしてそれらを統べるカーテナを中心とした大英帝国の体制は、
英国国内だけに留まらずヨーロッパ全土を席捲していたの。あのローマやロシア成教も手が出せないくらいにね。」

ランシス「だけど、戦後になってからは一変して英国の力は衰退したわ。大英帝国は領土を全て手放す羽目になったし、
ヨーロッパにおける影響力も低下。通貨統合の流れや、ECSCとかECCとかの旧ヨーロッパ共同体の形成を無視できなくなった。
つまり、かつての強い英国は、ヨーロッパにおける覇者では無くなったという事なの。ポンド切り下げによる経済成長の低迷もその一因ね。」
368 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:32:27.61 ID:NT7sJKE0
ランシス「英国が衰退する原因となった第二次世界大戦の裏に、イギリス清教の影響力を疎んじていたローマ正教の影があったのかもしれないわね」

サーシャ「しかし、イタリアは敗戦国では?」

ランシス「ローマ、いえバチカンにとってはイタリアなんてどうでも良いのよ。バチカンの影響力はイタリアの経済力や軍事力に依存してるんじゃなくて、その力は世界中のローマ正教徒の数にあるわけだから。むしろイタリアの方がバチカンを無視する事ができないのよ」

サーシャ「1926年にラテラノ条約が結ばれるまで、イタリア政府と教皇庁の仲はずっと悪かったですからね。結局のところ、バチカンの影響力を無視できなかったという事でしょうか?」

ラ ンシス「そうね。そして第二次世界大戦中はバチカンとナチスの間でコンコルダート(正教条約)が結ばれて批判を浴びたけど、ナチスとカトリックは仲が悪 かったから、カトリック教徒を守るために結んだって口実は一応あるけどね。結局はイタリアとナチス、そして日本が中心となって世界大戦が始まったというわ けで」

サーシャ「つまり、ローマ正教陰謀説ですか。まあ話くらいは耳にした事がありますけど」

ランシス「別の言い方をすれば作者の妄想とも言えるのよ。ああ、作者って言っても原作の方じゃなくてね」

フロリス「おい、いくらランシスの貴重なセリフだからってそういうのは良くない。冷める」

ランシス「wwwwwwwwww」
369 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:36:51.15 ID:NT7sJKE0
改行編集する前に書き込むを押してしまった


サーシャ「第一の解答ですが、要するに私にクーデターに加担しろと言う事ですか」

フロリス「いや、正確にはクーデターのための準備に協力しろって事だね」

サーシャ「第一の質問ですが、嫌だと言ったら?」

フロリス「今すぐサーシャのほっぺが擦り切れるまでスリスリしてやる」

サーシャ「手伝います(キリッ)」

フロリス「そんなに嫌かよちくしょう!(スリスリ)」


アアーヤワラケーマジスベスベサラサラー

チョツ!ホッペガマサチューセッツコウカダイガク


レッサー「フロリスってあんなキャラでしたっけ?」

ベイロープ「言うな、所詮は二次(ry」


ベイロープ「まあいずれにせよ、ここまで聞いた以上は選択肢なんて無い事は分かってるわよね?」

サーシャ「……(ほっぺがヒリヒリする)」


サーシャ「第一の質問ですが、仮にクーデターが起きたとしたら、騎士派のトップもそのクーデターに賛同すると言う事になるのですか?」

フロリス「まあそうなるわね」

サーシャ「では、現女王と清教派トップの最大主教は?」

レッサー「連行されるんじゃないですか?」

サーシャ「……第一の解答ですが、分かりました。あなた方に協力しましょう」

ベイロープ「いやーよかったよかった。ぶっちゃけ断られたらどうしようかと思ってたんだけどね」


サーシャ「……」
370 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/08/26(木) 02:38:59.09 ID:NT7sJKE0

クーデターに加担する

それはすなわち、イギリス清教の仲間を裏切る事になる

かけがえのない友人さえも

しかし…




「いえーい、割りと世界の広い範囲を敵に回しちまったZE!!これでロシア成教の命令を聞く必要はないから」




「ずーっとサーシャちゃんの味方だよー?」





そうだ、もう逃げられない

もう選択肢は無い


彼女に与えられた一縷の望み

そのカギとなる最大主教に接触できるなら…




フロリス「よろしくねサーシャ」


そう言うと、フロリスはサーシャの頭に自分の顎を乗せた

377 :1 [sage]:2010/08/27(金) 04:56:44.19 ID:oY1I06Q0
レッサー「さて、めでたく我らの仲間が増えたのは良いんですよ」

ベイロープ「そうね。喜ばしい事だわ」

レッサー「ですが……さっそく仲間が瀕死とはどういうことですか?」


サーシャ「はぁ……はぁ……」

フロリス「極寒のロシアからはるばる海を渡ってここまで逃げて来たんだから、まあ仕方ないっちゃ仕方ないよな」


瀕死と言うほどではないが
あの後サーシャは急に高熱を出して倒れたのであった

378 :1 [sage]:2010/08/27(金) 04:58:22.34 ID:oY1I06Q0

ベイロープ「医者が言うには過労と栄養不足が原因らしい」

レッサー「栄養不足ですか?見た感じ、私よりありそうな気がしないでもない様な」


もにゅ

サーシャ「んっ……」

フロリス「病人の胸を揉むな!」(ゴチン!)

レッサー「痛たた、あんまり変りませんでしたぁ…」

ベイロープ「どうする?これじゃあ当分の間は動けないけど」

フロリス「仕方ないだろ、無理させるわけにはいかないし」

サーシャ「だ、第一の解答ですが、すみません…」

フロリス「気にするな。ほら、薬ちゃんと飲めよ」

サーシャ「甘いのがいいです…」

フロリス「子供かっての。いやまあ未成年だけどさ」

ベイロープ(弱ってるサーシャ、何気にかわいいな……)
379 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:00:57.35 ID:oY1I06Q0

レッサー「なんなら私が口移しで飲ませてあげましょうか?」

フロリス「ふざけるなレッサー。お前がやるなら私が代わりにやる」

サーシャ「普通に下さい」

レッサー「苦ッ!これマジで苦いですよ!」

ベイロープ「お前本当にやる気かよ!?」

フロリス「サーシャは私が拾って来たんだぞ!その役目は私が引き受ける!」


負けじと薬を口に含むフロリス


レッサー「ひゃあひゃあふあ、ほっひをへひゃふふへふは?」
訳:さあ、サーシャ?どっちを選ぶんですか?

フロリス「わひゃひひゃほ」
訳:私だろ?

サーシャ「あの…正直どっちも嫌なんですが」

ベイロープ「やめんかお前ら!」(バシッ!バシッ!)

レッサー&フロリス「ブーッ!!」


盛大に薬を吹き出す二人


サーシャ「……苦い」


それを顔面にモロに食らったサーシャ

発熱のせいか頬が火照っている上に、ぶっかけられた薬のせいで濡れているため、
妙にエロティックな事になっている
380 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:03:38.70 ID:oY1I06Q0

ベイロープ「ほれ」ぼすっ!

サーシャ「う…!」


薬の次は着替えとタオルのワンセットがサーシャの顔に直撃する


ベイロープ「体冷やさない様にさっさと着替えなよ」

フロリス「私ら忙しいからずっと傍にいて看病してあげられないけど、何かあったら通信用霊装で呼んでね」

レッサー「寂しくなったらいつでも呼んでください。このレッサーがあなたを癒してあげますよ。性的な意m」

ベイロープ「ケツ潰されたいか?」

レッサー「全力で拒否します」


バタンと扉が閉まる音と主に静寂が訪れる

とりあえずサーシャは濡れた上着を脱いだ


衣擦れする音がやたら響く室内

閑静というよりは無機質な無音に近いこの静けさは、サーシャにとってはあまり好ましいものでは無かった
381 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:06:37.53 ID:oY1I06Q0

この静けさは妙な孤独感を誘う

別に一人が嫌だとか、そんな子供みたいな事を言いたいわけではない。まあ子供である事に変りは無いが。

そうではなく、こういう環境だとやたら考え事をしてしまうのだ。

特にサーシャの場合、新たなる光の彼女達と共に居た事で一時的に脳裏から排除されていた物に、
再び自分の心を支配されてしまう様な感覚に陥る。


亡命の事だ


彼女にとっては2度目なわけだが、今回はその原因はあの変態的な拘束衣でも変態的な上司にあるわけでもない

突然自分に下された「捕獲命令」

確かに以前の亡命による脱走、職務放棄という罪はあるが、それは懲罰を受けて清算したはずである

つまり、身に覚えの無い捕獲命令だ

いや、身に覚えが無いと言われれば嘘になるかもしれない。
なぜなら、自分は大天使をその身に下ろした人間であり、それが理由で無理矢理ロシアに連れ戻されそうになったのだから。

ワシリーサによると、どうやらロシアと同盟を結んだローマがこの捕獲命令に関わっているらしいが、
いずれにせよこんな分けのわからない事で逮捕されるのは御免被る
382 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:10:40.35 ID:oY1I06Q0

それにしても、本当に最悪の状況だった

自分の所属していた殲滅白書のメンバー総出で自分を捕獲しようとするのだから、
まさにリアル鬼ごっこだ。しかも自分以外全員の鬼というエクストリームスポーツだ。

つまり、かつての仲間が全て敵になったわけだが
そうは言っても、二人だけ彼女の味方をしてくれた人物が居た


一人はヴェロニカ

かつてイギリス清教の女子寮で戦った敵の親玉である

だがどういう風の吹きまわしか、部隊を引きつれて自分を追跡するふりをして、イギリスまでの逃走経路を確保してくれたのだ

ヴェロニカいわく、「あの人のため」と言う事らしい


そしてもう一人、彼女の味方をしてくれた例のあの人がワシリーサである


彼女は自分の目の前で、殲滅白書の仕事上の契約書を片っ端からビリビリと引き裂いた

一体それが何を意味するか、もはや契約違反とか国家反逆罪とかそういうレベルでは済まされない話である。

そしてワシリーサは言ってくれたのだ”ずっとサーシャの味方だ”と



383 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:14:49.32 ID:oY1I06Q0

あの後ワシリーサから荷物と一緒に窓の外に放り出されたので、彼女がどうなったのかは分からない

殲滅白書の人間が束になってかかっても、恐らくワシリーサを倒すことはできないとは思うが……

しかしまあ、ワシリーサの事と言い、本格的にまた国際指名手配犯に成り下がった自分の立場と言い、
このわけのわからない大天使の力と言い、クーデターへの協力と言い、体調不良と言い、
ついでに一応ヴェロニカの事も心配してあげるとすると、本当に悩みの種は尽きないものだ


まるで多くの人間の悩みを自分だけが一手に引き受けてしまっている様で気が滅入る


ちなみに詳しい状況が知りたい場合は、とある魔術の禁書目録の原作18巻の最後の方を参照してください



だが、こんなゴタゴタな状況でもやるべき事は分かっている

最大主教であるローラ・スチュワートとの交渉だ

もはや単純に女子寮へ逃げても意味が無い。かと言って、簡単に接触できる様な相手ではない。
それが可能な状況を作りださなければならないのだ

そのためなら、例えかつてのイギリス清教の仲間達を一時的に敵に回す様な事になったとしても……


ベイロープ「おい、聞いてるのか?」(コツン!)

サーシャ「!」
384 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:17:58.23 ID:oY1I06Q0

どうやらいつの間にかベイロープが部屋に戻って来て自分に話しかけていたという事に気が付かなかったらしい

だからこの静けさはどうも好きにはなれないのだ
楽しい事に熱中するならともかく、嫌な事を考えるために夢中になってしまうから馬鹿気ている


ベイロープ「ほら、薬よ。さっきあの二人が盛大にぶちまけてくれたからね」

サーシャ「あ、どーも」


サーシャは薬の入った紙袋を受け取った


ベイロープ「ちなみに甘いのは無かったけど、飲みやすい錠剤にしといたわ」

サーシャ「ありがとうございます…」

ベイロープ「ほら、水」


サーシャは錠剤を口に放り込むと、コップを受け取り、口を付けた


ベイロープ「はい、薬飲んだらさっさと寝なさい」


そう言うと、ベイロープはサーシャのおでこを軽く押し、サーシャはそのままベッドに倒れた

毛布を敷き直し、額に乗せる濡れタオルも変えてくれたベイロープ
案外、面倒見が良いのかもしれない
385 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:20:04.25 ID:oY1I06Q0

ベイロープ「アンタの病気が治らないと先に進まないから、さっさと寝て治しなよ」


そう言い、部屋を出て行こうとする


サーシャ「あの」


それを呼びとめるサーシャ


ベイロープ「ん?何だ?一人は寂しいか?まあ病気で弱ってる時はそうなるわよね」

サーシャ「いえ、そうではなく、少し質問をしたいのですが…」

ベイロープ「ああ、まあいっか」


そういうと、ベイロープはサーシャのベッドに腰掛けた


サーシャ「第一の質問ですが、あなた方はなぜクーデターに加担しようと?」

ベイロープ「さっきも言ったでしょ?強い英国を取り戻すためよ」
386 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:22:53.02 ID:oY1I06Q0

ベイロープ「この間のユーロトンネル爆破事件でフランスとの懸念事項が再発した。戦争が起きれば、
イギリスはフランスと敵対する事は間違いない。フランスはローマの傀儡だからね。
昔のイギリスとは違う、戦争が起きれば、EUの主要国レベルにまで堕ちたイギリスは、その地位さえも奪われる。
そうなれば、今後百年イギリスは最低辺での低迷期を迎えるかもしれないのよ」

サーシャ「それは分かります。ですが、なぜあなた方がそんな危険な事をしようとするのですか?
確かにあなた方は一般人とは違うかもしれません。でも、わざわざ自分がそんな危険を冒す必要などあるのですか?」

ベイロープ「でもそれは逆に言えば、誰もがわざわざやる必要が無いという事は、誰がやっても良いと言う事にならないかしら?
いずれにせよ、誰かがやらなきゃ問題は解決しないんだから」
387 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:26:41.68 ID:oY1I06Q0

サーシャ「ですが…」

ベイロープ「サーシャの言いたい事は分かる。誰がやっても良いとは言え、わざわざ私達がこんな危険な事をする理由は何なのかって事だろ?」

サーシャ「……」

ベイロープ「簡単さ。私達はこの国が好きなんだ。いわゆる愛国心って奴さ」

サーシャ「パトリオティズムですか……」

ベイロープ「……そうか、サーシャは亡命してきたんだもんね」

サーシャ「非公式の魔術結社の働きですから、公に評価されるわけではありません。誰に認められるわけでもないのに、
英国があなた方に何かをしてくれるわけでもないのに、なぜ……?」

ベイロープ「うーん…やっぱり自分の生まれた国が好きだって事かな。例え私達がどう評価されても、
国からどんな扱いを受けても、英国のためになにかできるなら本望ってやつよ」

サーシャ「…そうですか」


立派な考えだとは思う

だが、祖国から狙われてるサーシャには理解できなかった

おそらく、どんなに話し合ってもそれを理解することはできないだろう


ベイロープ「ま、そう言う事だ。さ、そろそろ寝なさい」


ベイロープは軽くサーシャの顔を頬を撫でてから、立ち上がろうとした


388 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:29:49.34 ID:oY1I06Q0

サーシャ「第二の質問ですが、もう一つだけお願いをしていいですか?」


そう言うと、サーシャは布団から手を出し、ベイロープの方へ伸ばしてきた


ベイロープ「ん?何だ?」

サーシャ「少しの間で良いから握っていてください」

ベイロープ「え?ああ、まあ良いけど…変った奴だねアンタは」


ベイロープは自分に差し出された白くて小さな手を軽く握った


そして、その冷たさに驚いた


まるで、素手で氷に触れている様な感触だ

微かに震えているのが分かる


そうだ、いくら殲滅白書に所属するプロフェッショナルとは言え、まだ13か14そこそこの子供だ

不安で無いはずがないのだ。たった一人で多くの魔術師から逃げてきて、今もまだ安息には程遠い状況なのだから。


サーシャを新たなる光の活動に参加させたのは間違いだったんじゃないかとすら思えてしまう

この娘は、こんな小さな手で、小さな体で、一体どれほどのものを抱えているのか
ベイロープには想像も付かなかった


ベイロープはサーシャの手を握る力を強くする
389 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:33:28.40 ID:oY1I06Q0

サーシャ「第一の解答ですが……不思議なものですよね…」

ベイロープ「何が?」

サーシャ「第二の解答ですが、手は、何かを行う事においては最も重要な部位です。人を傷付ける時も、
料理する時も、赤ちゃんを抱き抱える時も、人を治療する時も、誰かを撫でる時も、全て手が必要です……
十字教的な儀式は大抵右手で行われてきました…聖書の奇跡も……」

ベイロープ「……」

サーシャ「だから、手は、人の全てを表すんじゃないかって思うんです…」


確かに、例えば初対面の人と握手する時も、文字通り手を使う
それは、自分と言う者の存在を相手に伝えるという意味があるのではないだろうか?
目で見ればそこに居るのは分かるが、手を握る事で相手を感じる事ができる

相手を感じる事ができれば、その人が自分の傍に居るのだとより実感できる


確かにそこに居るのだと、握った手の温もりが教えてくれる



つまり何が言いたいのかと言うと


ベイロープ「結局のところ、寂しいから傍に居てくれと言う事か」

サーシャ「そうとも言います」
390 :1 [sage]:2010/08/27(金) 05:35:31.15 ID:oY1I06Q0

ベイロープ「やれやれ、泣く子も黙る殲滅白書のシスターがこんな甘えん坊だとはね」

サーシャ「第三の解答ですが、もう脱退した身ですから関係ありません」

ベイロープ「はいはい。ほれ、眠れるまで傍に居てあげるから、さっさと目を閉じて聖ジョージが戦った竜の数でも数えなさい」

サーシャ「第四の解答ですが、羊にしておきます」


そう言うと、サーシャは静かに目を閉じた


歪な拷問用霊装を持ち歩いてた魔術師だが、寝顔は年相応の少女よりもあどけなく感じられる

ベイロープは、少し温かくなったサーシャの手を握りながら、退屈凌ぎにサーシャの寝顔を観察することにした

396 :1 [sage]:2010/08/28(土) 04:57:32.82 ID:kZhdO1g0

レッサー「それじゃあいきますよー!」


レッサーはキャリーケース程の大きさの鞄を掲げた

同時に、空中に白いビロードで覆われた物体Xが現れる


ガンッ!

ベイロープ「ゴハッ!」


その物体Xはベイロープの顔面に直撃した


レッサー「あ、こりゃあ失敗ですねー。あははは」


その場を作り笑いで乗り過ごそうとするが、鼻を押さえながら涙目になっているベイロープの剣幕がそれは不可能であると全力で語っている


ベイロープ「ぜんっぜん調整できてねぇじゃねぇかこのクソボケがァッ!!」

レッサー「ちょっ!なんでベイロープは尻ばかり狙ってくるんですか!?」

ランシス「wwwwwwww」


怒りで我を忘れたベイロープは、傍にあった棒を掴んでレッサーの尻を執拗に狙って突いてきた。別に変な意味では無い。
397 :1 [sage]:2010/08/28(土) 05:00:06.35 ID:kZhdO1g0

サーシャ「ところで第一の質問ですが、この大きな鞄はどんな霊装なのですか?」

フロリス「こいつは大船の鞄(スキーズブラズニル)と言って、北欧神話の神様が乗った船を元にしてるんだよ。」

サーシャ「船?」

フロリス「ああ、今は鞄の形をしてるけど、術を解除したらボートくらいの大きさの小舟になるのよ」ツー…

ランシス「ちょっ、ひゃめ!」


フロリスはランシスの背中を指でなぞって遊びながら説明する


フロリス「まあそんな事はどうでもよくて、こいつの凄いとこは、おおまかな相手の位置が分かっていれば
半径100㎞までなら自由に中の物を鞄から鞄へ空間移動させられるってとこさ」

ベイロープ「待てぇこら!!」ガシャン!

サーシャ「第二の質問ですが、要するにラクロスの要領で、空間移動でカーテナオリジナルを鞄から鞄へパスし合いながら
ロンドン市内を移動すると言う事ですね」

フロリス「そーゆーこと」

レッサー「待てと言われて待つ馬鹿がどこに居るかってんですよォ!初体験が棒だなんて絶対絶対超イヤです!!」ドタバタ

サーシャ「ですが、ここには鞄が6つありますね。私達は5人のはずですが」

フロリス「そうだね。これは第二王女のものさ」

サーシャ「クーデターの首謀者ですか」

ベイロープ「パリィパリィパリィってかァ!笑わせんなよクソガキが!」

フロリス「第二王女の手元にオリジナルが渡れば私達の任務は完了ってことよ」ツツー…

ランシス「ひゃっ、そこらめえwwwwww」ゾクゾクッ

ベイロープ「愉快にケツ振りやがってェ!くらえオラァ!」ドスッ!

レッサー「アッー!!」
398 :1 [sage]:2010/08/28(土) 05:01:26.59 ID:kZhdO1g0
【その後、買い出しを任されたサーシャとレッサー】


レッサー「いやー酷い目に遭いました」

サーシャ「大丈夫ですか?」

レッサー「ええ、前は何とか死守しました」

サーシャ「?」

レッサー「ああ、前と言うのは(ry」

Oh Burglar! please! please !help my daughter !OH my god!

レッサー「チッ、猥褻フィルターが発動しましたね」

サーシャ「第一の解答ですが、強盗みたいですね」
399 :1 [sage]:2010/08/28(土) 05:03:25.50 ID:kZhdO1g0

強盗「Freeze!don’t move!」

娘「Daddy-!heeelp!」

父「マジ堪忍してやホンマ」

サーシャ「第一の質問ですが、私達も一応英語で会話してるはずですよね?」

レッサー「そうですね」

サーシャ「なぜあの強盗と娘のセリフは和訳されていないのでしょうか?」

レッサー「それよりも父親が関西弁に訳されてる方が気になりますけど」

レッサー「どうします?無関係とは言え、義を見てせざるは勇無きなりですよ」

サーシャ「第二の解答ですが、確かに寝覚めが悪くなりそうですね」

レッサー「しかしここで一つ問題があるのですよ。実はわたくしレッサーのメインウェポンである鋼の手袋は現在アジトにあるのです」

サーシャ「第三の解答ですが、役立たずですね」

レッサー「せめてオブラートに包んで優しく言って欲しかった!」

レッサー「でもサーシャだって今武器を持ってないじゃないですか?」

サーシャ「第四の解答ですが、あなたとは違うんです」


そういうと、サーシャは何もない空間から金槌を取りだした


レッサー「おお、マジックですか!?」

サーシャ「第四の解答ですが、簡単な空間操作の術式です」
400 :1 [sage]:2010/08/28(土) 05:05:12.59 ID:kZhdO1g0

なぜサーシャがこんな魔術を使えるのか?
理由は簡単で、武器の収納に便利なベルトだらけの拘束衣でなくても、この様に空間を使った武器収納が可能である

だからあの拘束衣は必要無いとワシリーサに主張するためだ。
もちろん二つ返事で却下されたが


刃物で女の子を人質に取った強盗に、金槌一本で近寄るサーシャ


強盗「Son of a bitch!Didn’t you hear me?freeze!fuckkin!!」

サーシャ「第一の解答ですが、うるさい黙れ」


サーシャは金槌を強盗の顔面めがけて投げつけた


ガンッ!

強盗「OH JESUS…」(バタリ)

娘「daddy-!」

父「おお愛しい娘レッサー!ホンマたすかったわー!」

レッサー「だからその中途半端な訳をどうにかしてくださいよ。しかも人質の女の子私と同じ名前ですかい!」

サーシャ「第二の解答ですが、またつまらぬ物を殴ってしまった…」


ちなみに今まで殴って来たつまらぬものは、主に上司のワシリーサです



401 :1 [sage]:2010/08/28(土) 05:06:57.07 ID:kZhdO1g0

レッサー「強盗はポリスに引き渡しましたし、一件落着ですね。良いことした後は気分が良いですねー」

サーシャ「第一の解答ですが、あなたは何もしてませんけどね」

レッサー「サーシャがあんな魔術を使えるとは驚きでした」

レッサー「いっそのこと、オリジナルもサーシャが運べば良いんじゃないですか?」

サーシャ「第二の解答ですが、オリジナルは魔翌力が馬鹿みたいに大きいですから、私の空間操作術式じゃ収まりませんよ。容量オーバーです」

レッサー「なるほど、大きすぎて入らないのですか」

サーシャ「ええ、あんな大きい物を入れたら壊れちゃいます」

レッサー「……ところでサーシャ、そろそろお腹すきませんか?」

サーシャ「……そうですね」




とある公園のベンチ

ベンチに腰掛ける二人の間には、先程某ハンバーガーショップで購入したフライドポテトやシェイクが置かれている


サーシャ「第一の質問ですが、ただのアップルパイが300円とはどういう事ですか?」

レッサー「ユーロトンネル爆破事件のせいで、物流が不安定なんですよ。私が今かじってるメガハンバーガーなんて単品550円ですよ」

サーシャ「第二の質問ですが、そもそもあの店は安さが売りのはずでは?これでは可愛くないキャラクターと
高くて味はイマイチな食べ物という典型的なぼった」

レッサー「サーシャ、それ以上はダメですよ」
402 :1 [sage]:2010/08/28(土) 05:07:57.88 ID:kZhdO1g0

レッサー「サーシャ、そのアップルパイ一口ください」

サーシャ「第一の解答ですが、いいですよ」


バクッ!

サーシャ「第二の解答ですが、アップルパイが半分に減りました」

レッサー「まあまあ、私のハンバーガー一口あげますから」


パクッ

レッサー「ほとんど減ってませんね。サーシャってリスですか?」

サーシャ「第三の解答ですが、あなたが異常なんだと思います」

レッサー「サーシャ」

サーシャ「なんですか?」

レッサー「これって間接キスだよな(キリッ)」

サーシャ「そうですね」

レッサー「……」

サーシャ「……」

レッサー「もう!そこは慌てるとか赤面するとかしてくれないと、見てる方はつまらないじゃないですか!」

サーシャ「第四の解答ですが、そんなの今に始まった事じゃないですよ」
403 :1 [sage]:2010/08/28(土) 05:11:15.79 ID:kZhdO1g0

レッサー「それにしても、こうベンチに座ってると、アレをやってみたくなりませんか?」

サーシャ「第一の質問ですが、アレとは?」

レッサー「アレですよアレ」


そう言うと、レッサーはおもむろにジャケットのチャックを下ろし始めた



レッサー「Let’s do it (やらないか)」

フロリス「Wow… What a good looking girl…(うほっ、いい少女)」

サーシャ「第ニの質問ですが、なぜフロリスがここに?」

フロリス「お前らがいつまで経っても帰ってこないから探しに来たのよ」

フロリス「つーか何言わせんだよレッサー」(ゴツン!)

レッサー「痛ッ!!ノってきたのはフロリスじゃないですかー!」

フロリス「うるさい。おっ、ハンバーガー一個もらうよ」

レッサー「ダメです!これは私の自腹なんです!フロリスは私らが美味しそうに食べてるのを
そこでよだれを垂らしながら眺めていてください!」

フロリス「んだよケチ!まあお前はともかくサーシャのなら眺めてるのも良いかも」

サーシャ「……」

フロリス「なあサーシャ、一口くれよ。その今口を付けたばかりのところを」

サーシャ「第三の質問ですが、正気ですか?」

フロリス「当たり前だろ」

レッサー「サーシャが来てからフロリスが日に日に変態に進化している気がします……」
404 :1 [sage]:2010/08/28(土) 05:15:56.65 ID:kZhdO1g0

【その後】


フロリス「へー、強盗をねぇ」

レッサー「私のレッサー神拳で華麗に倒して見せましたよ」

サーシャ「……」

フロリス「あんま目立つ様な行動は控えろよ?」


ガチャッ


レッサー「ただいまもどりましたでござる」

ベイロープ「戻ったか」

フロリス「どうした?そんな真剣な顔をして。今回はシリアスを入れるつもりは無いぞ?」

ベイロープ「何の話をしてるんだよ。それよりも、ついに来たわよ」

レッサー「来たって、三日ぶりのお通(ガツン!)

レッサー「あたた…なるほど、その怒り具合だと生理が(ゴチン!)

ベイロープ「殴るぞ?」

レッサー「痛ッ!!殴ってから言わないでください。今日はやたら拳骨をくらってばかりですね…」

フロリス「ベイロープ、騎士団長からか?」

ベイロープ「そう、クーデターの日取りが決まったわ」

サーシャ「……ついに来ましたか」

ランシス(セリフ欲しい…)


いよいよ運命の戦いが始まるらしいですよ


413 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:23:57.30 ID:YGrvoQk0

最大の問題は、スコットランドからロンドンまで、魔術師という身分がばれる様な検問を避けられるルートの確保であった。
しかし、先のユーロトンネル爆事件の影響で、主要な幹線道路以外は封鎖されている

それについては、例の「熱膨張って知ってるか?」のハイジャックによる飛行機不時着で主要な幹線道路を封鎖させる事により、
逆に封鎖された道路が解除され、ロンドンへの安全ルートを確保した


そんなわけで、新たなる光のメンバーは、ランシスを除いて現在ロンドンに来ているのであった


新たなる光のメンバー
ベイロープ、フロリス、ランシス、レッサー、そしてサーシャ

任務は、カーテナ・オリジナルを英国第二王女のキャーリサの元に届ける事

この事は、第二王女のキャーリサと騎士団長を始めとする騎士派の連中以外は知らない。ちなみに騎士団長の本名も知らない。

他の王室派や清教派の者達は、新たなる光の彼女達は女王を暗殺するためにロンドン内部に侵入したと考えている

だが本意を知るにせよ知らぬにせよ、ロンドン内部ではすでに魔術師が彼女達を猟犬の様に探しまわっている
414 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:27:01.38 ID:YGrvoQk0

彼女達の作戦は、大船の鞄(スキーズブラズニル)を使い、中身のカーテナ・オリジナルを空間移動で鞄から鞄へパスしながら、
最終的に騎士団長の持つ大船の鞄にオリジナルを渡す事である

とサーシャは聞かされていた

実際は、ロンドン内部でオリジナルをパスし合うわけではない。
オリジナルは常にランシスがロンドンから離れた場所で保有しており、
レッサー達はゴールである騎士団長にオリジナルを空間移動できる距離まで移動するのだ。

レッサー、ベイロープ、フロリス、この三人のうち、誰か一人でも騎士団長の持つ大船の鞄に空間移動できる距離に近づけた者に、
ランシスがオリジナルをパスするという作戦である。

つまり、彼女等は中継役なのだ。

ちなみにサーシャも鞄を持っているが、彼女の鞄はダミーである。
サーシャの役割は、仮にレッサー、フロリス、ベイロープのうち誰かが必要悪の教会の魔術師と戦闘する事になってしまった時、
柔軟に駆け付けて援護するというものである。


サーシャ「第一の解答ですが、ブリーフィングは以上でよろしいですか?不十分という方は、
とある魔術の禁書目録の17巻を参照してください。これを書いてる人は所詮は三下ですから、表現力とか説明能力には限界があるのです」
415 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:28:51.85 ID:YGrvoQk0

サーシャ「そうそう、ちなみに第二の解答ですが、ブリーフィングと言えば、某ステルスアクションゲームを思い浮かべますね」

サーシャ「……第三の解答ですが、分かってます。雰囲気を壊す様な発言は慎むべきでしょう。
ですが、他に書く事が無いのです。たぶんそろそろ…」


突然、彼女のポケットの下から小さな電光が浮かび上がった

彼女達の基本的な通信手段は携帯電話だが、常に携帯電話の電源を切って使用するという不思議な使い方をしている

この携帯電話が発している光は魔術によるもので、実際に手にとって通話しなくても、所持しているだけで脳内に音声が届くのである

ちなみにこちらも原作16巻のアックア戦を参照してください


フロリス「サーシャ、聞こえるか?」

サーシャ「こちらサーシャ。大佐、どうかしましたか?」

フロリス「誰が大佐だ。早速だが、レッサーの馬鹿がしくじりやがった。アイツは今現在進行形で魔術師と交戦中だ」

サーシャ「第一の解答ですが、そちらへ向かえば良いのですね?」

フロリス「いや、あの馬鹿は放っとけ。サーシャはベイロープの支援に向かうんだ」

サーシャ「ベイロープ…彼女も魔術師と交戦を?」

フロリス「ああ、どうやら第零聖堂区の天草式とかいうのに遭遇したらしい」

サーシャ「天草……」


その言葉一つで、サーシャの表情が曇った

416 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:29:57.61 ID:YGrvoQk0

フロリス「場所は○○の地下鉄駅だ。大至急援護にむかってくれ」

サーシャ「第ニの解答ですが、了解しました……」


薄々だが、嫌な予感はしていた

早速レッサーがヘマをやらかしたみたいだが、この作戦は隠密行動が基本だ

となれば、同じ隠密行動を得意とし、尚且つ隠密行動をする敵を発見する事に長けた天草十字凄教が駆り出されるのは当然の話なのだろう


サーシャはジャケットのフードを深く被った

けして、あの少女にだけは顔を見られない様にするためにも


サーシャ「五和……」


今ここで友人の名を口に出した事の意味は特に無い

だが、あえて無理矢理そこに意味を付けるとするのなら、それは“祈り”と意味づけるのがふさわしいのかもしれない

サーシャは鞄を手に取り、ベイロープの元へと向かった
417 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:31:41.16 ID:YGrvoQk0

【五和VSベイロープ】


五和「うぐッ!」

ベイロープ「無理無理、その程度の武器じゃ私には勝てないわよ」


第零聖堂区ネセサリウス(必要悪の教会)傘下の天草十字凄教に所属する五和

地下鉄駅の出入り口は、他の天草のメンバーが封鎖している

そんな状況で、五和は現在ベイロープと交戦していた


いや、交戦しているなどと言える様な状態ではない

ベイロープの武器である、”鋼の手袋”により一方的な戦いを強いられ、五和の海軍用船上槍がバラバラに砕かれてしまったのだ


鋼の手袋

新たなる光のメンバー共通(サーシャ除く)のメインウェポンであるのだが
この武器は、北欧神話の雷神トールの農耕神としての面を研究し、武器にしたものである

トールの強大なパワーと、彼がその力を操作するために使用した手袋を元に得た精密性


その二つを合わせた鋼の手袋は、ただの槍を武装した敵と戦うには相性が良すぎたのだ
418 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:32:54.18 ID:YGrvoQk0

ベイロープ「勝負ありってとこね。まだやってもいいけど、次は”知の角杯”を使わせてもらうわ」


知の角杯は、ベイロープの頭の左側から彼女の髪をかき分ける様に伸びている霊装

これを使う事により、鋼の手袋に雷の属性を加える事が出来る

食らったら消し炭にされる一撃だ


五和「…ッ……!」


まともに戦って勝てる様な相手ではない

だが、戦わなくても勝てる算段はあった

今現在ベイロープと五和が居る場所は、地下鉄のとある線路の上

この線路が走るトンネルは現在使われていないのだが、実はこのトンネルは、
必要悪の教会がスカウトしてきた新人魔術師を試すための施設であり、トラップの一つでもあるのだ。

しかも、現在は新人を試すにはあまりにも危険過ぎると言う事で使用禁止にされている施設でもある。


ちなみに魔術的な事件が多いロンドンでは、この様な施設が沢山あると言うのはちょっとした豆知識

つまり、このままベイロープが原作通り馬鹿正直にこのトンネルを進んでくれたら、彼女を罠にはめる事ができる

しかし、それはあくまでも願望に過ぎなかった
419 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:36:28.51 ID:YGrvoQk0

ベイロープはトンネルの横壁に向けて、軽く鋼の手袋を叩きつけた

すると、ドガン!という爆音と共に、トンネルの横壁が崩れ、衝撃とコンクリートの破片が五和を襲う


五和「ぐッ……あガッ…!」


五和の体は吹き飛ばされ、線路の上に叩き落とされた


ベイロープ「誰だっておかしいと思うわよ。何で最初は数十人で囲っておきながら、今はあなた一人しかいなのかしら?」

五和「……!」

ベイロープ「いくら用人深く私を逃がさない様に出入り口を塞ぐとしても、最低でももうニ、三人は
あなたと一緒に私を捕まえるために戦闘に参加してるのが普通よね?」

ベイロープ「あなたの実力から考えると、はっきり言って私を一人で倒して捕まえるだけの力があると信頼されて、
たった一人で私と戦う様に仕向けられたとは思えない」


ベイロープ「つまり、直接私を捕まえる気は無いんだろ?」

五和「うっ……」


どうやらばれた様だ


ベイロープ「やたら不可思議な魔術的トラップが多いロンドンだ。きっとこのトンネルもその類だと私は見た!
だったらわざわざこの道を行く必要は無い!」


ベイロープは五和の横を通り抜け、トンネルを逆走する


このまま逃がすわけにはいかない

五和は折れた海軍用船上槍を構え、ベイロープに攻撃した

だが、ベイロープの鋼の手袋が横に振られ、折れた海軍用船上槍は原型すら留めずに粉々に砕けてしまう
420 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:38:10.79 ID:YGrvoQk0

ベイロープ「へえ、どうあっても私をここから逃がさないと…」

五和「当たり前じゃないですか…」

ベイロープ「そう、じゃあ死んでもらうしかないわね」


ベイロープ「私はこの任務に命を懸けてるの。別にあなたを殺すつもりは無かったし、特別恨みを抱いてるわけでも無いけど、
邪魔をするなら私と同じ覚悟を持ってもらうわよ?」


そう言うと、ベイロープはゆっくりと鋼の手袋を五和の頭上に振り上げた


五和「しまった…動けない…!」


先程の一撃と、目の前のベイロープの威圧感に気圧され、足が思う様な動かさないのだ


ベイロープ「さようなら」


振り上げた鋼の手袋が五和の頭上に振り下ろされる


五和「ッ……!」



ガギッ!!



その直前で、何かに遮られる様な金属音が響いた



ベイロープ「どういういつもり?」

?「逃走経路は確保しました。すぐにここから移動すべきです」
421 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:40:33.05 ID:YGrvoQk0

ベイロープと同じラクロスのユニフォームの様な格好をした少女

深くフードを被っているので顔は良く見えないが、フードに収まりきらなかった金髪が端から肩に垂れている


その少女は、バールをベイロープの鋼の手袋の柄の部分に当てて食い止めていた

刃の部分に当たれば、術式強化されたバールでも折れてしまう可能性があるからだ


ベイロープ「……」

?「天草式は人数は少ないですが、それゆえに仲間を何よりも重んずる組織です。ここで彼女を殺せば、
他の天草式の術者の士気を上げる結果になります。必ずこの計画の邪魔になるでしょう。
それに、これから24時間毎日あなたは彼らに命を狙われる事にもなりかねませよ?」

ベイロープ「……」

?「繰り返しますが、逃走経路は確保しました」

ベイロープ「……分かったわ」


そう言うと、ベイロープは鋼の手袋を引いた


ベイロープ「すでに私達の事は敵にバレてる。他の魔術師と交戦しないためにも急ぐよ!」

?「はい」


その少女は振り返らずにベイロープの後を追いかけようとする








五和「サーシャちゃん!」


?「……」


不意に呼ばれたその名前に、少女は足を止めた
422 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:42:07.93 ID:YGrvoQk0

五和「サーシャちゃんですよね…?」

?「……いいえ、人違いです」

五和「嘘です。その声も背丈も、その武器も、私の知っている友人と瓜二つです!」

?「……世の中そっくりな人間が何人か居るものです。それに、これは異端審問のために使われるイギリス清教の道具。
別に私が持っていても不思議ではありません」

五和「では、なぜ足を止めたんですか?違うなら、そのまま無視すればよかったと思いますが?」

?「……」

五和「なぜですか?なぜあなたがこんな事を…」

?「……」

五和「サーシャちゃん…あなたは、私達の敵なのですか!?」

?「もう一度言いますが、私はサーシャでは」

五和「大切な友達を見間違えるわけないじゃないですか!!」


ひと際大きく放たれた彼女の声は、そのフードの少女の心に深く突き刺さる

その言葉は嬉しくもあり、また彼女を騙す事の後ろめたさが自分の心を深く抉る


五和「どうして本当の事を言ってくれないのですか……私達は…友達ですよね……?」


五和は俯いてしまった


423 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:44:19.30 ID:YGrvoQk0

?「……一つだけ、聞かせて下さい」

五和「……?」

?「あなたは、その友人を信じる事ができますか?例え何があっても、あなたを裏切る様な事があっても、それでも信じる事ができますか?」

五和「……」





五和「……例え何があっても、私はあなたの友達ですよ……」


サーシャ「……ありがとうございます、五和…」


そう言うと、サーシャは振り向かずに走り出した

再びサーシャの名を呼びとめる声が聞こえたが、それでもけして振り向く事は無かった

その言葉が聞けただけで十分だ








ベイロープ「遅かったわね、何してたの?」

サーシャ「大した事ではありません」

ベイロープ「……」
424 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:45:55.49 ID:YGrvoQk0

ベイロープ「……」

ベイロープ「さっきランシスから連絡が入ったわ。フロリスとの通信が途絶えたって」

サーシャ「第一の質問ですが、援護に行きますか?」

ベイロープ「その必要は無いわ」

サーシャ「ですが、このままではフロリスが」

ベイロープ「どうやら、レッサーが上手くやってくれたみたいね」

サーシャ「レッサーが?第一の解答ですが、彼女は(ry」

ベイロープ「あの馬鹿、一時はどうなるかと思ったけど……」

サーシャ「あの、先程から何を」


どうも話が噛み合わない


一体どういう事なのか?彼女は何を言いたいのか?

だがそれを理解しようとする暇など無かった





次の瞬間、目に見えぬ速さで何かがベイロープの体を貫いた


同時に鮮血が宙を舞う



425 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:48:12.72 ID:YGrvoQk0

サーシャ「……」


あまりにも突然過ぎる真っ赤な光景

まるで趣味の悪い映画でも見せられている様な気分だ



サーシャ「……!!」


しつこい様だが、事態を把握するのにラグが生じるくらいに突然だった



続けてベイロープの足を、腕を何かが貫いた

三本目の狙撃でかろうじて目で捉える事ができたそれは、高速で放たれた矢だ


ベイロープ「どうやら……成功した……みたいね…」


一体どこから狙ってるのか分からない

サーシャはとっさにベイロープの体を抱え、誰も居ないと思われる建物を見つけて駆け込んだ
426 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:51:12.23 ID:YGrvoQk0

なんとかベイロープの腕を自分の首に回し、彼女の体を引きずる形で建物の奥に逃れる

もう片方の手を塞ぐ鞄が邪魔である事に気付き、それを捨てようとした

しかし、ベイロープはそれを制止する


ベイロープ「その鞄の中身は…ゴボッ!ハァ…ハァ……」


口から大量の血を吐き出した


サーシャ「ベイロープ!」


サーシャは回復術式を使えない

不得意というわけでなく、戦闘に特化した魔術以外は使えないのだ

普段は自分には必要のないものだと考えていた事が、今になって不甲斐無さとして重く心にのしかかる


ベイロープ「逃走用の霊装が……サーシャ一人なら…逃げ切れるから……」


サーシャは鞄を開けて確認してみた
すると、そこには変装用の術式が懸けられた服など、一人分の逃走用の道具が一式揃っていた

それはつまり


サーシャ「まさか、あなた方は最初から死ぬつもりで!?」

ベイロープ「悪かったね…巻き込んで……さあ、早く…」

?「みつけたぞ」


ガチャガチャと金属を揺らす音に気付いたのは、その声を聞いてからであった
427 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:52:58.27 ID:YGrvoQk0

サーシャ「……!」


いつの間にやって来たのか、突然サーシャの目の前に、甲冑を身に付けた者達が現れた

まるで金持ちの家にある中世ヨーロッパの鎧の骨董品が歩いている様な光景だ

おそらく騎士派の連中だろう


騎士「やれやれ、この革命で忙しい時にいらん手間をかけてくれるなよ」

サーシャ「第一の質問ですが、先程の矢は、あなた方が……?」

騎士「ん?ああ、ロビンフッドという長距離狙撃用の矢だなそりゃ」

サーシャ「なぜですか?」

騎士「は?」

サーシャ「新たなる光は、騎士派と第二王女のクーデターに協力していたはずです!なぜ!?」

騎士「貴様がすでに答えを言っているだろう。その事を貴様達が知ってる時点で良くない事だ」

騎士「この計画に、イギリスにとって内敵である魔術結社の手を借りた事がばれたら、これから作られる新たな政権の運営に影響を及ぼす。
今は大事な時なのだ」




428 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:56:13.04 ID:YGrvoQk0

サーシャ「ベイロープ達は、彼女達は、イギリスのために働いたのですよ?危険を顧みずに……」

騎士「そうか、そうだな。それは賞賛すべきだな。よく頑張ってくれた」


騎士「これで良いか?じゃあ死んでもらおうか、この国のために」

サーシャ「……!!(ぎりっ!)」


サーシャは奥歯を噛みしめた


騎士「悪く思うなよ?これは第二王女、いや国家元首たるキャーリサ様の御命令でもあるのだ」



騎士「おい、さっさと斬れ。死体袋の数は二つ用意しろ」


暗闇の中で、白くギラリと研ぎ澄まされた光が目に映る


どうしてだ?

サーシャはベイロープの言葉を思い出す


彼女は、ただこの英国が好きなだけ

ただそれだけだったはずだ

だから、彼女はこの国のために何かしたかった


サーシャは虚空からバールを取りだし、甲冑を来た騎士に立ち向かう

ガンッ!

サーシャ「がふッ…!」


しかし剣を使うまでも無く、片手で殴られ、簡単にあしらわれてしまった
429 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 18:58:41.49 ID:YGrvoQk0

サーシャ「ぐッ…」


全身に力を込め、再び立ち上がろうとするが


騎士「無駄だ」

ドガッ!

サーシャ「あぐッ…!!」


道端の空き缶の様に腹を蹴られ、軽く吹き飛んだ


サーシャ「ゲホッ!!うッ…」


胃の内容物がせりあがってくるのを、口を押さえ、なんとか耐える

だが、口に手をあてたまま、その上から騎士はサーシャの頭を強く踏みつけた


サーシャ「アガッ!」


冷たいコンクリートの床に顔を殴打するとともに、甲冑の重みが後頭部に重く乗せられる


騎士「子供を痛ぶる趣味は無いのだがな。そもそも貴様はなぜ我ら騎士派が清教派に強いのか、
この下らない三竦みの構造を分かっているのか?」


グリグリとサーシャの頭を強く踏みつける

頭蓋骨が砕けそうなほどの痛みが走るが、踏む力が強すぎてうめき声すら上げられない

430 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:00:58.51 ID:YGrvoQk0

騎士「どうあがいても勝てるわけがないからだ。天使長の力であるカーテナの補正を受けた我らは、
この英国では天使も同然だ。ただの魔術師ごときが、天使軍に敵うはずがないだろ?」

サーシャ「ッ……!」


そんなものは関係ない

サーシャは自分を踏みつけている騎士を睨む

しかし、頭を踏みつけられているので視界に騎士の姿は映らない
それでも、彼女の真っ赤な目は、敵意をむき出しにしていた


騎士「ほう、こんな状況でもまだそんな目ができるのか」


騎士「しかし哀れなものだな。所詮は道具に過ぎないと分かっていながら我らに協力するとは」

サーシャ「道具じゃ…無い……」


全力で絞り出したその声は、うめき声よりも弱くかすれている


騎士「あァ?」

サーシャ「彼女達は…みんな…自分の意思で……戦ったんです……」

騎士「ああそうかい。じゃあ意思のある道具って事にしてやる」


そう言うと、騎士は手に持っている剣を頭上に高く掲げた

431 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:02:53.44 ID:YGrvoQk0

騎士「さて、道具に対して処刑と言うのもおかしな話だが、お前達の功績を讃えて苦しまない様に一瞬で終わらせてやる……」

サーシャ「くっ……」


サーシャはふと、血まみれになりながら横たわっているベイロープを見た


あなたはこれで満足なのかと問いかけたかった


こんな結末が、こんな仕打ちが

こんなものがあなたの望んだ結果なのかと

これがあなたの望んだ、あなたの愛したイギリスなのかと




違う

こんなものは

あなただって、出来る事ならこんな結末を迎えたくは無かったはずだ

例えイギリスのためにその命を懸ける覚悟があったとしても

本当は、あなたが信じた行動で変ったイギリスを、あなたの戦いの結果が生み出す未来のイギリスを最後まで見届けたかったはずだ



こんなのは、命を懸けるに値する戦いとは言わない

こんな誰の心にも届かない、これからこの国で生きていくであろう誰かの心に、あなたの覚悟が伝わらない様な戦いは…



騎士「死ね」


高く掲げられた鈍い光を放つ剣が、サーシャの首に振り下ろされた
432 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:05:43.46 ID:YGrvoQk0

銀色の剣はどす黒い血に染まり、胴体との繋がりを失った首が床に転がる




はずだった


騎士「……何だ……それは……?」



サーシャ「……」


まるで深海を空間ごと切り取って固めた様な暗く青い氷の翼

サーシャの背中から生える一対の氷の翼が、彼女の首を斬り落そうとした騎士の剣を弾いたのだ



確かに、連綿と大河の様に連なるこの歴史の中では、功績を残したにも関わらず、誰にも知られず、
賞賛される事無く歴史の闇に沈んだ人間も数多くいる事だろう

そういう人達が、過去の歴史の重要な分岐点において重要な役割を果たしたという事は事実なのかもしれない。

その様な役割を担う者が必要なのかもしれない。

そして今、ベイロープはその役割を与えられたのだろう




だから何だ?

それが何だと言うのだ?
433 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:09:26.66 ID:YGrvoQk0

例えベイロープがこの結末を心から望んだとしても、自分はこの結末を否定する

エゴだろうと構わない

そんな小さな事情なんか知った事ではない



サーシャは立ちあがる

誰でも無いサーシャ自身がこの結末を否定するから

サーシャ自身が、誰も犠牲になる事のない結末を望むから



ただ目の前に血塗れになって倒れているベイロープを助けたいという理由だけが彼女の心を動かす



騎士「ぬおッ!」


サーシャの氷の翼が振られ、騎士数名がまとめて薙ぎ払われた


騎士「何なんだそれは!?」

サーシャ「第一の解答ですが、私にも分かりません。ただ…」



サーシャ「この状況にちょっとムカついただけです」



氷の翼を一回羽ばたかせる

それだけで無数の砲弾並の大きさの氷の塊が、弾丸の様なスピードで騎士たちを襲う

例え甲冑を身に纏っていても、その威力は頭に当たれば脳震盪を、体に当たれば衝撃で当たった部分が一時的に麻痺してしまうほどである
434 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:11:47.06 ID:YGrvoQk0

騎士「どういう事だ!?カーテナの補正を受けた我らがこんな小娘にッ!!」


カーテナは現所有者にして天使長であるキャーリサを介して、天使軍である騎士達に力が分配される

しかし、分配された騎士に宿るのは、所詮は擬似的な天使の力

不意打ちをかませば魔術師でも勝てる可能税がある

そんな偽物の力では、正真正銘本物の天使の力には敵わない


結局、翼を滅茶苦茶に振り回すだけで呆気なく全てが終わってしまった


サーシャ「ベイロープ…!」


サーシャはベイロープの元に駆け寄った

そして首に手を当て、脈を確認する


サーシャ「……(良かった)」


どうやらまだ生きているみたいだ

失血が酷く、気を失っている

予断を許さない状態なのに変りは無い


サーシャはベイロープを抱きかかえ、建物を出た


そして、夜空を見上げると
バサッ!と一対の巨大な氷の翼を展開し、遥か彼方へと飛び立っていった
435 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:13:04.78 ID:YGrvoQk0

【イギリス清教女子寮】


キャーリサがカーテナ・オリジナルを手にした瞬間からクーデターが始まった

清教派の拠点である各地の聖堂や教会および魔術的な施設は全て騎士派によって占拠されてしまった

そして、ここイギリス清教の女子寮も例外ではない


「みんな無事逃走できたのかしら?」

「まだ中に数人いるわね。まずいわ、逃走ルートはもう全部騎士派の連中に抑えられたみたい」


彼女達は、女子寮の他のシスター達の逃走を手助けするためのしんがりである

どうやら殆どのシスターは何とか逃走できたみたいだが、もう彼女達を含め、
残りのシスター達が逃走するのは非常に難しい状況になってしまっている様だ


「ほんと、無駄に手際が良いんだから。どうしよう…」

「こうなったら強行突破するしか…」


その時、遠くで爆音が鳴り響いた

聞こえてくるのは、男達の低い悲鳴

436 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:14:50.56 ID:YGrvoQk0

一体何があったのか?しんがりのシスター二人は音の聞こえた方向に注意を向け、警戒する

すると、その注意を向けた方向から、薄暗い人型のシルエットが浮かび上がるのに気付いた

それはゆっくりとこちらに近づいてくる

しかし、それを人だと断定する事ができない


近づいてくる者は、確かに人の形をしている

しかし、同時に左右に伸びる異様な影は何なのか?

人間にあんなものは付いていない


そして、ついに暗闇から現れたそれは、両腕に血まみれの女性を抱えた少女だった

それだけでも異様な光景であるが、そんな光景さえも少女の背中から生えている巨大な氷の翼の前には印象が薄れてしまう


その少女が二人の前に立った時、背中の翼が、まるでガラスが割れる様に音を立てて崩れた


サーシャ「第一の質問ですが、どなたか回復魔術を使える方は居ますか?」
437 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:17:39.11 ID:YGrvoQk0

「まさか……サーシャちゃん?」

「シスターサーシャ!」

サーシャ「この人を助けたいのです。お願いできますか?」

「ええ、確か中にまだシスターオルソラが居るはずです!」

それを聞くと、サーシャは女子寮の中に足を踏み入れた






上条当麻

右手に幻想殺しという異能の力を問答無用で破壊する能力を持つ少年

そして、同時に不幸体質と天然フラグ体質のハイブリッドという世界でも有数の才能を持つ少年でもある

ついでに主人公らしい


上条当麻は、現在女子寮の一室に居た

彼が追っていたレッサーがロビンフッドによる狙撃を受けて負傷したため、治療を受けさせるためにここに来たのだ

ほとんどのシスターはクーデターが原因でどこかへ避難してしまったのであるが、偶然にも避難し遅れたオルソラ嬢と遭遇し、
上条は彼女にレッサーの治療を依頼したのであった


上条「頼めるか?」

オルソラ「ええ、その代わりと言ってはなんですが…」

上条「分かってる、しんがりの一人としてお前が脱出するのを手伝ってやるよ」

サーシャ「その必要はありませんよ」


ふと聞こえてきた第三者の声がした方向に、上条とオルソラは振り向いた

そこには、上条が運んできたレッサーと同じ、ラクロスの様なユニフォームを着た血塗れの少女と、
その少女を抱きかかえるこれまた同じラクロスの様なユニフォームを着た金髪の少女が立って居た
438 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:20:00.17 ID:YGrvoQk0

サーシャ「第一の解答ですが、この女子寮を取り囲んでいる騎士派の連中は一通り始末しました。
援軍が来るまではしばらく時間を稼げたと思います」


始末と言っても全員気絶させただけで、殺してはいない


上条「お前は、コイツの仲間なのか?」


サーシャは少年の指差す方向を見た


サーシャ「レッサー……第二の解答ですが、その通りです」


どうやらレッサーもベイロープと同じく口封じをされたのだろう


オルソラ「あなたは、サーシャさんでございますよね……?」

サーシャ「第三の解答ですが、お久しぶりですオルソラ。さっそくですが、この人の治療を頼めますか?
失血は酷いですが、これ以上出血しない様に私の力で止めておきましたから…」

サーシャはベイロープをオルソラに引き渡すと、台の上に寝かされているレッサーの方に歩み寄った

サーシャ「レッサー……」


サーシャは軽くレッサーの傷口に手を当てた

すると、そこから青い光が零れる


ガブリエルは、生命の誕生を告げると同時に死を司る天使でもある

サーシャはその力の一端を使い、水の流れを止める氷の様に、生命力の枯渇を制止させる力を行使した

それが今のサーシャに使える力の限界


上条「サーシャ、お前、何をしたんだ?」

サーシャ「第四の解答ですが、出血を止めただけです」
439 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:22:20.33 ID:YGrvoQk0

サーシャ「では、私はやらなければならない事があるので、あとはお願いします」


その場を立ち去ろうとするサーシャ


オルソラ「お待ちください」


そのサーシャを、オルソラは後ろから抱きしめた


オルソラ「どんな理由があるのかは、私には分かりません。ですが、あなたはこの方達の仲間であると同時に、
私達の仲間でもあると言う事を忘れないでください…」

サーシャ「オルソラ……」


サーシャは後ろから抱きしめてくるオルソラの腕に触れた



「第一の解答ですが、もちろんそのつもりです」


嬉しかった

立場的に彼女達の敵に回り、こんな危険な状況を生み出してしまった原因の一人である自分を

それでもまだ仲間だと言ってくれた事が……



サーシャ「第二の解答ですが、時間を稼いだとは言え、のんびりしている暇はありません。早めに避難をすませるべきでしょう」

オルソラ「はい」

サーシャ「補足しますが、彼女達の事をお願いします」

オルソラ「もちろんでございます。サーシャさんもどうか御無事で」


オルソラから解放されたサーシャは、そのまま振り返らずに女子寮を出て行った

440 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:25:29.42 ID:YGrvoQk0
【サーシャVSローラ】


女王と、その女王に進言する清教派のトップであるローラ・スチュワートが匿われている場所として、
バッキンガム宮殿とウィンザー城の二つの可能性を考えた

両方とも、王族警護のために最高峰のセキュリティーが整備されているからだ

しかし、渦中のロンドンにあるバッキンガム宮殿に匿われている可能性は低い

となると、ロンドンから少し離れたウィンザーという都市にある、現在も公邸として使用されているウィンザー城が選択の結果残る

しかし時間的に考えて、おそらくは騎士派に拘束されて、すでにウィンザー城から移送されている可能性が高い


騎士派の連中は、できるだけ早くロンドンに辿り着けるルートを通って女王と最大主教を護送するであろう

だが、本当に最短ルートを通れば襲撃される可能性がある

つまり、ウィンザーからロンドンへの、襲撃を避けて馬車で走れる最短ルートを絞り込んでいけば…



サーシャ「……」


サーシャは上空から、一台の馬車が森の中へ入って行くのを見つけた

クーデターにより移動が制限されている中で見つけた、たった一台でこんな人気のないルートを通る馬車

すでに森の中へ入ってしまっていたら、おそらくはその馬車を見つける事はできなかったかもしれない

入る直前で見つけられたのは運が良かったのだろう

相手側にしてはこれ以上無いくらいに運が悪かったのかもしれないが
441 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:28:31.80 ID:YGrvoQk0

サーシャは上空から森の中へと降下していった


サーシャ(さて、どうしよう…)


おそらく運転している騎士が一人と、中で見張っている騎士がニ、三人居るはずだ

そのくらいなら、今のみなぎるサーシャならニ秒で黙らせる事ができるだろう


サーシャ(それにしても、なんか騒がしいですね)


馬車から聞こえてくる謎の女性の叫び声

一体何が起きているのかとサーシャは小首を傾げ、頭上に?マークを出した


そして次の瞬間、いきなり馬車が光り始めた


サーシャ(うおっ、まぶしっ!)


光っているとかそういうレベルではない

まるで小型核弾頭くらいの大きさのスタングレネードが爆発した様なまぶしさだ


そして光が収まったのを察知し、ゆっくりと目を開けた

すると、いつの間にか馬車は粉々に吹き飛んでおり、二人の女性が言い争いをしているのが目に映る


サーシャ(どういうことなの?)


まさかローラの髪が光って爆発したなんて想像できないであろう


軍馬(もう帰りたい…)


そして、あんな爆発でも逃げずにその場に留まる軍馬は評価されるべきだろう
442 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:31:07.96 ID:YGrvoQk0

騎士A「貴様ァ!何してくれてんだこの妖怪ババァ!」

ローラ「ババァ!?失敬な!私はまだピチピチの、花も恥じらう少女なりけるのよ!」

エリザード「嘘をつくな妖怪ババァ」

ローラ「貴様にババアなどと言われたく無きことよ!」

騎士「ええい!大人しくお縄につけいッ!」

サーシャ「そぉい」(ガンッ!)


サーシャは氷の塊を騎士の頭に思いっきりぶつけた

上空からの重力と速度を併せ持つその一撃で、騎士の鉄仮面がグワングワンと鳴り響き、そのまま前に倒れ伏してしまった


ローラ「何かよく分からないけどざまあwww」(ゲシゲシ!)


倒れた騎士を喜々として踏みまくるローラ(年齢不詳)


エリザード(王室派ってこんな奴がトップの清教派に弱いんだよな……)

サーシャ(……)
443 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:33:14.15 ID:YGrvoQk0

サーシャ「……」


サーシャは翼をはためかせながら、二人の前に舞い降りた


エリザード「天使…?まさか…本物か!?」

ローラ「!……」


初めてサーシャを見るエリザードにとっては、まるで本物の天使の様に見えてしまうのも無理は無い

常識的に考えて背中から翼の生えた人間など存在しないし、それから連想されるものは天使か悪魔のどちらかであるのだから


ローラの方は、サーシャのこの姿を見て一瞬驚きの表情を見せたが、彼女の素情を知る故にすぐに状況を理解した


サーシャ「第一の解答ですが、お久しぶりですね最大主教。直接会うのは初めてですが」

ローラ「お前は……そうか。その翼、天界のガブリエルとリンクしたるのだな」

エリザード(えっ?誰?)

ローラ「ここに来たるのは、コンビニ帰りというわけでも無き事であろう?私を助けしことの報償でも要求しに来たりけるのか?」

エリザード(コンビニってお前)

サーシャ「ローラ・スチュワート。第二の解答ですが、あなたと交渉するためにここに参りました」

ローラ「ほう…」
444 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:38:51.94 ID:YGrvoQk0

サーシャ「第一の解答ですが、あなたに要求する事は二つ。まず一つは、私の正式な亡命の受理です」

ローラ「その様な事なら、わざわざ私に要求する事では無き事じゃなくて?」

サーシャ「第二の解答ですが、あなたがヴェロニカ部隊の活動をわざと見逃していた事は分かっていますよ」


最大主教ともあろう者が知らなかったはずは無い

イギリス清教のトップに立つ彼女が、あの女子寮での戦いを防げなかったはずが無いのだ


全てはロシアとの交渉の材料を得るために、自分も女子寮の仲間達も、
ヴェロニカ部隊の者たちさえもみんなローラに利用されていただけなのだから



ローラ「それで、お前は私に恨み事でものたまいにここに来たりけるのか?」

サーシャ「いえ、第三の解答ですが、二つ目の要求として私をロシアと同じく要人として扱っていただきたいのです」

ローラ「自分からVIP待遇を要求したるとは、図々しい奴だな」


ただ亡命しただけでは、またあの悲劇を繰り返してしまう

だから、このためにクーデターに協力したのだ

誰も傷つけないように、また彼女達に元へ帰れるようにするために
445 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:41:10.45 ID:YGrvoQk0

サーシャ「第四の解答ですが、こちらの交渉材料として私の体を差し出しましょう」

エリザード「ローラ、貴様そんな趣味があったのか…」

ローラ「違いたるわよ!そんな変態趣味の危ない人間を見る様な眼で見るな!」

ローラ「コホン…で、お前はそれが英露条約よりも魅力的な交渉材料だと言いたるのか?」

サーシャ「第一の質問ですが、あなたも興味が無いわけではないでしょう?大天使の力を下ろしたこの体と、
いつ破られるか分からない条約モドキなど、比べるまでも無いでしょう」

ローラ「ふふ、いと面白きかな。だが、お前がロシアと同じくイギリスを裏切らないという保証はありけるのか?」

サーシャ「第五の解答ですが、このクーデターを鎮圧してみせます。それを英国への忠誠の証と認めて下さい」

ローラ「……良いだろう。本当にそれができたならば、お前の要求を全て受け入れけるのよ」

サーシャ「補足しますが、約束はちゃんと守っていただきますよ」

ローラ「そうだ、一つ忠告しておく」

サーシャ「?」
446 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [saga]:2010/08/30(月) 19:45:01.71 ID:YGrvoQk0

ローラ「お前はあくまでも、天使が身を納めるための器でありけるのよ。力をつかうための能力は備わっていないがゆえ、
お前は神の右席を遥かに超えるだけの器を持って生まれたるのだ」

ローラ「そうでなければ、お前は人間ではない。器と力を両方備えてしまえば、それは人間ではなく天使として分類されたる。
お前が今人間たる理由は、片方しか備わっていないがゆえのことよ」

サーシャ「……」

ローラ「気を付けろ。その決まりを破り、人間の体で人と天使の境界を歪め、人間であるサーシャ・クロイツェフの意思で力を行使し続ければ、その先に待ち受けているのは崩壊しかなきゆえ」

サーシャ「……第一の解答ですが、私はこの力を持って人を超え、人を支配する存在になる事は望みません。
ただ些細な望みのために、必要な力を必要な分だけ行使します」

ローラ「さようか」

サーシャ「では」


サーシャは再び翼を広げ、空へ飛び立っていった




エリザード「……まるで本物の天使みたいだな。新たな争乱の元にならなければいいが」

ローラ「問題は無きことよ。ガブリエル、いやミーシャ・クロイツェフとリンクしているとは言え、
アイツが使える力はせいぜい本物のミーシャ・クロイツェフの一割、よくてニ割程度だ。聖人と同程度と言ったところか」

エリザード「それでも十二分に脅威である事に変りは無いけどな」


456 :1 [saga]:2010/09/02(木) 18:59:09.66 ID:ppJouOI0

【ミカエル(神の如き者)vsガブリエル(神は我が力なり)】


上条「うおおおおお!!!」


叫び声と共に、上条当麻は右手を目の前の巨人にぶつけた

すると、目の前の巨人は魔力を失い、自重によりバラバラに砕けて行った


巨人の名はモックルカールヴィ

北欧神話で雷神トールと戦わせるために作られたのだが、最後の最後で心臓に使う材料を間違えてしまったために
貧弱になってしまったという何とも滑稽な逸話を持つ巨人である

その巨人を何千何万何億もの大量の紙束を使って再現し、上条達が現在居るこの場所、
バッキンガム宮殿近くにある地下鉄を守護していたわけであるが


そもそもなぜこんな状況になっているのか?


サーシャが女子寮を出て行った後、アックアvs騎士団長や、フロリス&第三王女ヴィリアンとのジャパニーズモモタロウ逃走劇や、
アックアとの再会、キャーリサとの戦いを経て、上条当麻は再び天草式と合流したのだ。

そして、天草式の主に建宮からの説明によると、キャーリサと正攻法で戦うのは、聖人である神裂の力を持ってしても無理だと言う事で、
キャーリサの持つカーテナ・オリジナルの魔力を暴走させようという作戦を立てたらしい
457 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:01:35.39 ID:ppJouOI0

イギリス清教の空中要塞カヴン=コンパスから大規模閃光術式に使う超大容量の魔力を使って、
地下鉄経由でバッキンガム宮殿にいるキャーリサのカーテナ・オリジナルに干渉し、
カーテナの暴走を引き起こそうという内容である。

そのために、バッキンガム宮殿近くの地下鉄に、カヴン・コンパスからの魔力を受ける特殊車両を配備したのだが、
魔術的隔壁によりルートが遮断されているので、その隔壁を破壊する必要があるということだ。


詳しくはとある魔術の禁書目録18巻のp142を参照してください


?『あ、良かった、繋がりました!』


耳に当てた携帯電話から、覚えのある少女の声が聞こえてくる


上条「その声、五和か……?」

五和『は、はい!酒は完全に抜けました!』

上条「?……なんか良く分からないけど、とりあえず変な巨人みたいなのを倒したぞ?」

五和『上条さんが倒したのは、地下鉄の魔術的隔壁ロックを守るための巨人だと思います。
その隔壁ロックが破壊された事により、遠隔地から特殊車両の動力源にアクセスできたんです』

上条「そっか、それならカーテナ・オリジナルへ間接攻撃を加える事が出来るんだな?」

五和「はい、これもヴィリアン様と上条さんのご活躍の賜物です!」

インデックス「私も居るんだよ」
458 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:03:17.59 ID:ppJouOI0

上条「あ、そうだ。なあ、五和。ひとつ聞いても良いか?」

五和『何でしょうか?』

上条「さっき、女子寮でサーシャ・クロイツェフに会ったんだ」

五和『えっ!?』

上条「以前、俺もエンゼルフォールの時にあいつに会った事があるんだけどさ、いや、あれはミーシャだから正確には初対面か」

五和『サーシャちゃんと何かあったのですか…?』

上条「いきなり女子寮に怪我人を抱えてやってきたんだよ。サーシャはどうやらレッサー達の仲間らしいんだが。
ってことは、レッサー達と一緒にカーテナ・オリジナルをキャーリサのもとに運ぼうとしてたって事になるよな」


上条「でも、もうその役割は終わったはずだ。だからレッサーも、サーシャが運んできた怪我人も、騎士派の連中に粛清されそうになった」



上条「でも、アイツはこう言ったんだ。”やらなければならない事がある”ってな」



五和『やらなければならない事ですか……?』

上条「アイツの役割は終わった。終わったのにやらなきゃならない事って何なんだ?サーシャは一体何をしようとしてるんだ?」

五和『すみません、私にも分かりません…』

上条「……そっか。オルソラの話だと、アイツは五和の友達なんだってな。もしかしたらお前なら何か分かると思ったんだけど…」
459 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:06:30.25 ID:ppJouOI0

五和『……実は、私もサーシャちゃんと会ったんです』

上条「えっ?」

五和『地下鉄駅で新たなる光の人と交戦状態になって、その時に殺されかけたんですけど、
そこにサーシャちゃんが突然現れて、私を助けてくれたんです』

上条「…実は俺も、オルソラと一緒に女子寮から脱出する時に、アイツに助けられたんだ。
アイツが女子寮を囲っている騎士派の連中をまとめて退治してくれたみたいでさ」

五和『そうなんですか…』

五和『上条さん…あなたは、あなたの目から見て、サーシャちゃんは味方だと思いますか?それとも……敵だと思いますか……?』

上条「さあな。俺はサーシャの事は良く分からねえから何とも言えねえよ」

五和『そう…ですよね……すみません……』

上条「でも、お前は友達なんだろ?だったらお前が自分で判断すれば良い。判断した結果は、何があっても曲げるんじゃねぇぞ」

五和『……そう言われても、私にもどうすれば良いのかわからないんです……』

上条「お前がアイツと一緒に友達として過ごしてきた日々を思い出せ。それで、アイツが信用できるかできないか、敵か味方を判断しろ」
460 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:11:14.99 ID:ppJouOI0

サーシャと過ごしてきた日々

もちろんとても楽しかった

なんとなく自分が迷惑かけてばかりだった様な気がする

自分の方が年上だが、サーシャの方が歳不相応に大人びているせいだろうか?

まあそんなサーシャがたまに見せる子供っぽさがたまらなく可愛いのであるが


そんなこんなで色々と思い出はあるのだが、一つだけ確かだと胸を張って誇れる事がある

自分があの時計塔で拘束され、操られていた時、サーシャは命を懸けて自分を守ってくれた


上条「味方だと思うなら最後まで信じ抜けば良い。敵だと思うなら、全力でアイツを止めてやれ。
誰かの考えを聞くんじゃなくて、自分の判断を信じろよ。間違ってるかどうかなんて関係ない。
お前が信じる判断で、お前が正しいと思うやり方でアイツと正面からぶつかりあえよ。それが友達ってもんだろ?」

五和『上条さん…』

五和『……そうですね。ダメですね、私は…。あんな些細な事で臆病になって…』


不甲斐無い自分のせいでサーシャを殺しかけたのに、それでもサーシャは「幸せだ」と言って笑ってくれた

最後のお別れの時、耐えられずに泣いてしまった自分を、泣きやむまで抱きしめ続けて、慰めてくれた

自分だって悲しいはずなのに

……そういう人なのだ

目の前のたった一つの幸せのためなら、命を投げ出す事すら厭わない

もしも自分達の敵に回る様な選択をしたとしても、その裏に、ひとつの幸せを守りたいという想いが存在する


サーシャ・クロイツェフとはそういう人物なのだ


上条「……」

五和『決めました!私、サーシャちゃんを信じます!きっと何か言えない理由があるだけで、
今でもサーシャちゃんは私達の仲間のはずですから』
461 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:13:37.81 ID:ppJouOI0

上条「そっか。お前がそう言うならきっとそうなんだろうな」

五和『ありがとうございます!上条さん!』

上条「別にお礼を言うほどの事じゃ『ああっ!!』うわっ!何だよいきなり!」

五和『すみません!すっかり忘れてました!!』

上条「心臓止まるかと思った……どうしたんだ?」

五和『現在、カーテナ用特殊車両が、バッキンガム宮殿直下へ配置するためにそちらへ猛スピードで走行しています!
ですから早く離れて下さい!!』

上条「………」


上条「えーっと、それはつまり?」

五和『これから特殊車両を経由して、空中要塞カヴン=コンパスの心臓部とカーテナオリジナルをリンクさせます!
力の逆流に伴い、大規模な魔力放出が発生する事でしょう。おそらく異変を察知した「騎士派」がそちらへ調査活動に出向くはずですし、
そこに居ると「爆発」に巻き込まれるリスクも高いんです!!大至急こちらに戻ってきてください!!』
462 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:15:47.27 ID:ppJouOI0

上条「ばっ、おまっ!それを早く言えよ!!」

五和『はう、すみません…』

インデックス「なんか私たち空気なんだよ…」

ヴィリアン「仕方ないですよ…」


ガタン!ガタン!!


上条「ちょっ、なんかヤバい音が聞こえてきてるんですけどおおおお!!!」






不幸だァーーーー!!!


不幸だーーー!!


不幸だーー!


不幸だー……

だー…


サーシャ「…?」


サーシャ「地上から誰かの叫び声が聞こえた気がしますが、気のせいですね」
463 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:18:28.18 ID:ppJouOI0

【その頃バッキンガム宮殿では】


清教派の作戦通り、カーテナの暴走に成功した

暴走による爆発の影響は、バッキンガム宮殿を中心に半径50キロにも及んだ

とは言え、別に建物に影響があるわけではなく、その爆発も魔術を知る人間にしか感知できないものである

要は、中性子爆弾の改良型、或いは魔術を使う者だけが影響を受ける細菌兵器の様な物だと思ってもらいたい


そして、その爆発の影響を一番強烈に受けるのは、カーテナを保有しているキャーリサである


キャーリサ「がっ…ゴボッ…!」


まるで体の内側から無数の刃で突き刺され食い破られる様な激痛が走り、宮殿の豪奢な絨毯の上に赤い血の塊が落ちる


キャーリサ「カヴンコンパスからの強制逆流か…ゴホッ!ゲホッ!」


咳をする度に飛ぶ赤い飛沫

キャーリサの唇の端に、一筋の赤い血の線がなぞられる


カヴンコンパスの魔力自体は、カーテナの一割にも満たない

しかし、カヴンコンパスを通じてカーテナ自身の力に影響を及ぼし、暴走を引き起こされたら話は別だ

この爆発の影響で、カーテナの力と、それによるキャーリサの力は50%を削られた

同時に、カーテナを介して騎士派の連中に分配されていた力も大半が削られた
464 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:21:00.97 ID:ppJouOI0

キャーリサ「まずいな…」

もともとこのクーデターは、三派閥の一角である騎士派の長、すなわち騎士団長の合意と、
カーテナを持つキャーリサの手腕により、英国の軍事コントロールを得た事が成功の要因である

しかし、騎士団長はアックアことウィリアム・オルウェルとの戦いに敗北した

そして今カーテナが暴走し、その力の大半を削られた

つまり、騎士派の連中にとってのクーデターのニ柱のうち、ひとつは崩壊し、もう一つも崩壊寸前の状況なのである


キャーリサ「このままでは、騎士派の中でクーデターから離反する者が出てくる。そうなる前に、
何人か裏切りそうな奴を血祭りに上げて、騎士派の統制を引き締めねば……」


ガシャン!!


突然、このバッキンガム宮殿のキャーリサの居る部屋の窓ガラスが豪快に割れる音が響いた
465 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:24:50.88 ID:ppJouOI0

キャーリサ「何だ!?この忙しい時に次から次へと!?」


キャーリサは怒鳴りながら、ぶち破られた窓の方を振り返った


するとそこには、暗くて人物の判別はできないが、何者かが両手と片膝を付いて、まるで短距離走の選手の様な格好で屈んでいた


月を背に浮かびあがるそのシルエットは、まるで王女キャーリサに跪いている様に見える



キャーリサ「誰だ、貴様は……?顔を上げて、無礼者の面を私に見せてみろ!!」


カーテナの切っ先を”それ”に向けながら、キャーリサは叫んだ


すると、”それ”はバサッ!と翼を左右一対に大きく広げ、影が横に大きく伸びる


そして、ゆっくりと”それ”は立ち上がり、まるで猫の様に暗闇の中で浮かぶ真っ赤な瞳でこちらを見据えてきた






サーシャ「第一の解答ですが、この革命に終止符を打つべくここに参りました。どうか御無礼をお許しください」

466 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:34:08.71 ID:ppJouOI0

キャーリサ「ほー、貴様一人で私を倒せると?大した自身だな」


ようやく露わになったサーシャの姿を見て、キャーリサは気付く


キャーリサ「ん?貴様、その格好はもしや新たなる光の……そーか、口封じで仲間が殺された事に対する仕返しとゆーわけか」

サーシャ「第一の質問ですが、その程度の考えしか頭に浮かばないのですか?
でしたら、あなたがそのカーテナを手にして英国女王の座に就くのは場違いも良いとこでしょう」

キャーリサ「言ってくれるな小娘が」

サーシャ「第二の解答ですが、自分のために働いてくれた人間を殺す様な君主では、この国の行く末に光は無いでしょうね」

キャーリサ「甘っちょろいお子様の考えだな。切り捨てる物はさっさと切り捨てる。でなければ本当に守るべき物は守れない。
全てを守りながら天下を取る事などできないの。寛容、慈愛、融和、人道、
そんな下らないロマンティシズムに裏打ちされたパラダイムのせいで、英国はここまで衰退したの」

サーシャ「第二の質問ですが、リアリズムもロマンティシズムも両立する事はできないのですか?
できないなら所詮はその程度の器と言う事でしょう」

キャーリサ「くっ……!」


サーシャの挑発に、キャーリサは奥歯を噛みしめた


サーシャ「その程度の器では、放っておいても全て失敗すると思いますが」

キャーリサ「どの道、この英国は衰退するけどな。例え貴様がここで私を止めたとしても」
467 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/02(木) 19:35:36.45 ID:2LA0G.DO
サーシャちゃんマジヒーロー
468 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:38:03.01 ID:ppJouOI0

サーシャ「第三の解答ですが、そんな事はありません」

キャーリサ「何?」

サーシャ「あなたは一つの大きな力に囚われ過ぎて、もっと大きな力の存在に気付いていないのです」

キャーリサ「何が言いたい?」

サーシャ「第四の解答ですが、話し合いに来たわけではありませんから、あなたを説得するつもりはありません。
知りたければご自分でお考えになってください」

キャーリサ「言っておくが、このロンドン周辺は爆発の影響で高濃度のテレズマが満ちている。
少しでも魔術を使えば、ロンドンが丸ごと吹き飛ぶぞ?」

サーシャ「第五の解答ですが、ご安心を」


突然、空から星が消え、同時に光の紋様の魔法陣が空一面に描かれる


キャーリサ「これは…天体制御(アストロハインド)だと!?」

サーシャ「限定範囲なので、そんな大それたものではありません。ここバッキンガム宮殿の周辺のみ、テレズマを制御しました」

キャーリサ「こんな技が使えるとは、貴様は人間ではないみたいだな」

サーシャ「ええ、あなたと同じ化け物です」


そう言うと、サーシャは翼をはためかせ、無数の氷の砲弾をキャーリサにぶつけた

キャーリサはカーテナによる次元切断で作りだした残骸物質を盾にし、それを防ぐ
469 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:42:34.92 ID:ppJouOI0

キャーリサ「これは、氷?いや、水晶か。なるほど、水を魔力で固め、溶けない鋼鉄並みの強度を誇る氷を作りだしたとゆー事か」

サーシャ「……」

キャーリサ「そーかそーか。先程の天対制御と言いその氷の翼と言い、こんな力を使うのは、
水を司り、月と後方を守護するガブリエル(神は我が力なり)以外に思い浮かばん」

サーシャ「……」

キャーリサ「分かったぞ。貴様、サーシャ・クロイツェフだな。確か英露条約の時に殲滅白書のシスター達と一緒に
ロシアへ引き渡したはずだが、どーした?そんなに英国が恋しかったのか?」

サーシャ「第一の解答ですが、随分とお喋りが好きな様ですね。第二王女は口より先に手が出るタイプだと伺っていましたが」

キャーリサ「そーだな。いかん、どーも興奮すると口数が多くなってしまう。こーゆーのは私らしくないな」


次の瞬間、常人の目では到底追えない様な速さでサーシャに斬りかかって来た


ガギィッ!


サーシャはとっさに氷の剣を取りだし、キャーリサの一撃を受け止める


キャーリサ「この方が私らしーな!」

サーシャ「そうですね!」
470 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:46:06.18 ID:ppJouOI0

カーテナと氷の剣がつばぜり合いをする

気を抜けば一瞬で殺られる様な、怪物と怪物が生み出す歪な均衡状態

先に集中力を切らした方が、間違いなくその瞬間に死ぬ様な状況だ


キャーリサ「気を付けろ、カーテナは整数で表わせる全ての次元を切断する」


キャーリサはつばぜり合いの均衡状態から次元切断を発動させる事により、鋼鉄並みの強度を誇る氷の剣を次元ごと切断する事で、
強引に戦いの主導権を獲得する


そして、そのままの勢いでサーシャの首をも切断しようとカーテナが真横に振るわれた


サーシャ「ッ…!」


横に振るわれた一撃を、しゃがむ事によって回避するサーシャ

しかし、横に振るわれた時にできた、真っ白な陶器の様な形をした切断残骸物質が、そのまま重力でサーシャの頭上に落ちてくる


サーシャは後ろに飛び退く事で残骸物質を回避した。そうしなければ、潰れたカエルの様になってしまうからだ


だが、キャーリサはそれを逃さない


キャーリサ「落ちろッ!!」(ドスッ!)

サーシャ「うぐッ!!」


キャーリサは、後ろに飛び退いたサーシャに思いっきりタックルをかました
471 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:51:09.74 ID:ppJouOI0

吹き飛ばされたサーシャの体は、入って来た窓とは違う窓を突き破り、バッキンガム宮殿の庭園へと放り出される


ドスッ!


サーシャ「あがッ!!」


宮殿の最上階から地面に叩きつけられたサーシャの小さな体

ガブリエルの力による補正が無ければ、一体どんな悲惨な死体が出来上がっていた事だろうか


サーシャはなんとか起き上がろうとするが、怪物同士の戦いには一秒の猶予も無い

サーシャが横たわっているその上空から、キャーリサが剣を逆さに構え、そのままサーシャの体ごと地面に突き刺そうと降下してくる


重力による自由落下の速度を遥かに超えた一撃


ズドン!!とまるでロードローラー!が高層ビルの屋上から落下した様な轟音が鳴り響く


サーシャは横に転がることで何とかその一撃を回避するが、衝撃により体が軽く吹き飛び、さらに地面をニ転、三転と叩きつけられた


サーシャ「あうッ…ぐッ…」

キャーリサ「ほー、避けたか。だがまだ終わらんぞ?」


地面に深々と突き刺さったカーテナ

ここで18巻の最初の上条とキャーリサの戦いを思い出してほしい

次元を切断するほどの魔力を誇るカーテナを、地面に突き刺したらどうなるか?
472 :1 [saga]:2010/09/02(木) 19:55:36.48 ID:ppJouOI0

地響きが起きるとともに、キャーリサの立つ位置を起点として地下で大規模な魔力の爆発が起きる

その爆発はキャーリサの周囲の地面を円形にべゴン!とへこませ、さらにその周辺の地面を無理矢理まるで津波の様に盛り上げてしまう


ドガッ!


サーシャ「ッ!!!」


サーシャの体は下から強く叩きつけられ、空中に投げ出された

そして、高く空中に放り出された分だけ、地面に叩きつけられる力も強くなる


ドスン!!


サーシャ「ぐッ!!!がはッ!ごふッ!」


全身を強打し、体中の酸素無理矢理引きずり出される様な感覚がサーシャを襲う

酸素と一緒に、おびただしい量の血も一緒に吐きだされた


キャーリサ「どーした?あれだけデカイ口を叩いておきながら、もー終わりか?とんだビッグマウスだな。
こーゆーのを日本では能無しの口叩き、いや吠える犬は噛みつかぬと言ったかな。まったく日本語と言うのは面白い表現が多い」

サーシャ「うぐッ…ッ!!」


地面に這いつくばりながらキャーリサを睨みつけるサーシャ


キャーリサ「ほー、良い目だ。先程の言葉は訂正しよう。私を前にビクビク怯えて従うだけの無能な騎士共とは違うな。
ちょうど騎士団長がやられたところだ。貴様の様な強い部下は喉から手が出る程欲しい」
4731 [saga]:2010/09/02(木) 20:02:38.56 ID:ppJouOI0

サーシャ「第…一の解答…です…が、冗談はあなたの小さな器だけにしてください…」


地面に這いつくばったまま、ビュン!と高速でサーシャの氷の翼がキャーリサに向かって振るわれた

だが、キャーリサは次元ごとその翼を叩き斬る

硬度は関係ない

どんなに硬くても、次元ごと斬り裂いてしまえるのだから


キャーリサ「ふむ、その度胸。ますます殺すには惜しーな。本格的に貴様が欲しくなってきたぞサーシャ・クロイツェフ」

サーシャ「第二の解答ですが…どうやら剣による撃ち合いも、この翼も通用しないとなると、打つ手がありませんね…」

キャーリサ「私の力はミカエル(神の如き者)だ。ミカエルより格下のガブリエル(神は我が力なり)では始めから勝負は付いている。
私を倒したかったら、本物のガブリエルでも連れてくることだな」

サーシャ「第三の解答ですが、日本には”一矢報いる”という言葉があります……例えガブリエルの力を借りているに過ぎなくても、
こんな事もできるのですよ……」

キャーリサ「……!?」


圧倒的優位に立っていたキャーリサの顔色が変わった
474 :1 [saga]:2010/09/02(木) 20:09:19.87 ID:ppJouOI0

気が付いたら、いつの間にか見渡す限り、魔法陣で覆われた夜空の全方向に点々と赤い光が灯っていたからだ


その数は数億


キャーリサ「これは…まさか!?」

サーシャ「”神戮(しんりく)”です。かつてソドムとゴモラを一晩にして地上から消滅させた大規模一掃魔術。ガブリエルの神罰ですよ」


赤い星の様に夜空に光る点は、ひとつひとつが核ミサイル級の破壊力を持つ炎の矢

とは言え、さすがに本物のガブリエル及びミーシャ・クロイツェフではないのでそこまでの威力は無い

本物のガブリエルがこの技を使えば、おそらくイングランド全域がニ度と生命が生まれない程の焦土と化すだろう


サーシャは範囲をバッキンガム宮殿とその周辺に定め、威力もロンドンが地図から消えない様に細心の注意を払って調整している

それでも全部直撃すれば、バッキンガム宮殿ごとこの周辺を更地に変えるだけの威力はある


キャーリサ「そーか、今までただやられていたわけではなかったのだな……クソッタレ!全てはこのためにッ!!」

サーシャ「今この状況でバッキンガム宮殿という拠点を失うなんて失態を犯したら、
はたしてそれでも騎士派はあなたを信じて付き従う事ができるでしょうか?」


這いつくばりながら不敵な笑みを浮かべるサーシャ

一体どちらが追いつめられているのだろうか?
475 :1 [saga]:2010/09/02(木) 20:13:27.63 ID:ppJouOI0

キャーリサ「やってみせるさ……貴様に見せてやる!そして貴様の口から言わせてやる!!
この私キャーリサは、この英国で、いやこの世界で覇権を握るに相応しい器の持ち主だとな!!」


サーシャが氷の翼で自分の体を覆うと同時に、無数の炎の矢がキャーリサごとバッキンガム宮殿と周辺一帯を襲った


キャーリサ「誰も死なせはしない!!誰もッ!!」


全次元切断をフルパワーで使用し、カーテナを振るう

ゴオッ!!という耳をつんざく様な轟音と共に、炎の矢が一斉に薙ぎ払われ、消滅する


キャーリサ「クソッ!数が多過ぎる!」


だがそれだけでは足りない

次元切断により生まれた残骸物質を炎の矢の盾になる様に計算し、さらにまた次元切断で矢をまとめて斬り裂く


それを何回も何回も神速とも呼べる速さで行うキャーリサ



数分後には彼女の宣言通り、バッキンガム宮殿も破壊される事なく、全ての炎の矢を消し去ってしまった



キャーリサ「ハァ…ハァ……どーだ?やってみせたぞ……」

サーシャ「第一の解答ですが、お見事です…」


流石に力を使い過ぎたのか、キャーリサはカーテナを軽く地面に突き刺し、それを支えにして片膝をついている

肩で息をしており、その表情にはあからさまな疲労感がうかがえる

一方サーシャはと言うと、依然地面に伏したままだが、神戮を防がれたというのにその表情に悔しさというものは感じられない
476 :1 [saga]:2010/09/02(木) 20:16:45.65 ID:ppJouOI0

サーシャ「”誰も死なせはしない”ですか…」

キャーリサ「……」

サーシャ「第一の質問ですが、どうやら私はあなたを誤解していたみたいですね」

キャーリサ「勘違いするな。みなに死なれては私の戦力に影響が出るからだ」

サーシャ「……そうですか」

キャーリサ「これで万策尽きたといったとこか。覚悟は良いな?」


キャーリサは立ち上がり、カーテナを振り上げた


サーシャ「第二の解答ですが、I get back at you(一矢報いる) という言葉をお忘れですね」

キャーリサ「なに……ぐがッ!」(ドスッ!)


突然一本の炎の矢が、キャーリサの肩を貫いた


数億もの炎の矢に隠した本命の一本

それはキャーリサの肩を貫き、地面に突き刺さり、そして音も無く霧散して消えた


サーシャ「本来ならその体ごと粉々に吹き飛んでいるとこですが、やはりミカエル(神の如き者)の力による補正は反則ですね
……ガフッ!ごぼっ!」


再び口から大量の血を吐きだしたサーシャ

彼女の体は、本来は力を使う機能が備わっていない

それを天体制御や神戮まで本来は使えるはずのない大技を無理矢理行使し続けたのだ


ローラの言った通り、無理を続けたサーシャの体は確実に崩壊を始めている

477 :1 [saga]:2010/09/02(木) 20:20:08.80 ID:ppJouOI0

キャーリサ「貴様……わざと外したな?」

サーシャ「さて…なんの事でしょうか……がぼっ!ゲホッ!」


惨たらしく血の塊を吐きだすが、その顔は依然変わらずに満足そうな不敵な笑みを浮かべている

誰が見ても勝利したのはキャーリサだが、どうも彼女の心にはその実感が沸かない

むしろ、自分の心の内を見られた様な気がして、釈然としない忌々しさが心の内を支配する


キャーリサ「……ふん、ほっといても勝手に死ぬだろー。貴様の勇気に敬意を表したいとこだが、私を侮った事は許し難い」



キャーリサ「よって、とどめは刺してやらん。そのまま苦しみながら死んでゆけ」


そう言うと、キャーリサはサーシャに背を向け、バッキンガム宮殿の内部からキャーリサとサーシャの人の枠を超えた戦いの
一部始終を見ていた者達に向かって叫んだ

478 :1 [saga]:2010/09/02(木) 20:22:13.67 ID:ppJouOI0

キャーリサ「見たかお前達!!カーテナの力を振るう私は、大天使の力をも簡単に覆して見せたぞ!!
幾億もの炎の矢も、我らにとっては微塵も脅威にはならん!!我らの勝利と、この全英大陸の栄光は約束されている!!
栄光を欲する者は私に続け!!勝利を欲する者は私と共に剣を取れ!!」


その言葉は、不安に揺れていた騎士達の心に一つの希望の光を灯した


そうだ!キャーリサ様に従えば我らの勝利は確実だ!

全英大陸万歳!キャーリサ様万歳!

キャーリサ様マジ天使長!

サーシャ!俺だ!結婚してくれ!

騎士団長が居なくても、キャーリサ様がいればイギリスは安泰だ!


聞こえてくる騎士派の喚起の声


それに対し、キャーリサは


キャーリサ「ふん、流され易い愚か者共が。なぜ不利な時にこそ意地を見せぬ。あと若干二名、いや一名はブチコロシカクテイだな」


吐き捨てる様にそう言った
479 :1 [saga]:2010/09/02(木) 20:27:54.02 ID:ppJouOI0

後ろを振り返るキャーリサ

サーシャは受けだダメージと力の使い過ぎにより意識を失っていた


キャーリサ「……」


ほっといてもこのまま死ぬだろう

死なすには惜しい人材だが、ここでサーシャを助けるわけにはいかない

キャーリサは再び前を向き、バッキンガム宮殿に戻ろうと足を進めた




?「貴様のその雄姿、感服したのである」





突然聞こえてきた声に振り向くと、そこにはここに居る誰もが知っている人物が立っていた

青が印象的な服装

生まれながらの聖人にして神の右席の一人

騎士団長を撃破し、クーデターの柱を一つ崩した男

王女はその名を叫ぶ


キャーリサ「ウィリアム・オルウェルッッ!!」


ウィリアムことアックアは、ボロボロになったサーシャをそっと抱きかかえた


アックア「今はこの娘を回収しに来ただけである。その首はまた後ほど頂こう。しっかり洗って待っていろ」

キャーリサ「ふん、貴様の死期が伸びるだけの話だ。死んだあとに後悔しないよーに精々今のうちに余生を楽しんででおくんだな」
480 :1 [saga]:2010/09/02(木) 20:31:01.35 ID:ppJouOI0

アックア「私に後悔は無い。戦場で生きる私には、いついかなる時も死ぬ覚悟はできているのである」


それが口先だけではないという事が、彼の覚悟を奥に秘めた、研ぎ澄まされた様に鋭い眼光から感じられる

神の右席としてではなく、それが傭兵ウィリアムの生き方だから

アックアは瞬く間にサーシャを抱きかかえたまま、その場から消えていった





キャーリサ「Flere210、その涙の理由を変える者か……」


この魔法名を遂行するためなら、彼は死ぬ事さえも恐れない


キャーリサはしばらくアックアの消えて行った方角を眺めていた

そして、彼女は静かにつぶやく


キャーリサ「……それは私とて同じだウィリアム。この英国の行く末のために、この忌々しい剣を未来永劫に葬り去る事ができるのなら……」


488 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:14:56.93 ID:vM39g9o0
【再開】


目を覚ますと、視界一面が黄色に染まった

5秒後にそれがビニール製の生地であるという事を知った

10秒後に自分の体にかけられた毛布の柔らかな感触を覚えた



そしてやっと、自分がまだ生きていたという事に気がついた


ここはどこだろうか?

空間のせまさと形状から察するに、おそらくテントの中だ

と言う事は、ここは野外だろう

こんなところで、このクーデターが起きている最中に呑気にキャンプでもやっているのか?

そうだ、そう言えば、今はまだクーデターの最中だったのだ
489 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:20:56.62 ID:vM39g9o0

とりあえず体を起してみる

痛い、体中が軋む

先の戦いで、あの第二王女相手に力を使い過ぎてしまった様だ

ここは国家元首と呼ぶべきか?

いや、やっぱりやめよう



とりあえず、その行動自体には何の意味も無いのだが、何となく自分の右側に視界を切り変えたくなった


だから右を見た


五和が居た



サーシャ「………」



もう一度正面に視界を戻す
490 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:23:10.97 ID:vM39g9o0
とりあえず気持ちの整理をしてみる

まずは落ち着いてみる事が大事だ


息を吸って


サーシャ「スー」


吐いて


サーシャ「ハー」


もう一度息を吸って


サーシャ「スー」


吐いて…


サーシャ「ハー」


心が少し落ち着いた


改めて右を見る


五和が居た


まごうことなく五和がいた
491 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:24:20.11 ID:vM39g9o0

自分のすぐ傍に座りながら、規則正しく寝息を立てている


サーシャ「……」(ダラダラ)


冷や汗が出てくる

どうして彼女がここに居る?

と言う事は、ここは天草の拠点だろうか?

自分は天草式の人間に回収されたのか?

あのキャーリサの居るラスボスのダンジョンで?

そんな事ができる程の術者が居ただろうか?

そう言えば、聖人である神裂は天草式の女教皇だった


多分、神裂が回収してくれたのだろう

そして五和が自分の治療をしてくれたということか
492 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:27:09.01 ID:vM39g9o0

よくよく五和の顔を観察してみると、目元が少し赤くなっている


また彼女を心配させてしまった様だ……


ところで、自分は彼女に何て言えば良い?

正直気まずい

このまま逃げ出そうか?

いや、心配かけた上に看病までしてくれたのだ

それはいくらなんでも友人に対して不誠実ではないだろうか

だが、気持ち良く寝ている人間を起こすというのも少しかわいそうではないか?


……うん、かわいそうだ


諸々の事情は後で話せば良い

だから、今はこの状況からの一刻も早い脱出を試みるべきだ



五和「むにゃ…かみじょうさぁん、わたしはあなたの大精霊ですよぉ…」

サーシャ(ビクッ!)



………



ああ、問題ないぞ大佐(ワシリーサ)。ただの寝言だ
493 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:28:48.83 ID:vM39g9o0

五和「えへへ~らめれすよぉかみじょうさん、こんなとこでそげぶしちゃ…だれかにみられちゃいますよぉ……」(グラリ)


大佐(ワシリーサ)、五和がこちらに向かって倒れ込んできたぞ


サーシャ「!!!」

バタッ!


そのまま倒れ込んできた五和の下敷きになるサーシャ

柔らかい特大オレンジが凶器となってサーシャを圧迫する

事情を知らない人が見たら、まるで五和がサーシャ押し倒している様に見えるだろう
いや、そうとしか見えない


五和「いいですよぉかみじょうさん。わたしのはじめてがほしいなら、まずはその×××で×××を×××××」


寝ぼけた五和の顔がこちらに迫ってくる

まずい!犯される!!
494 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:30:15.03 ID:vM39g9o0

大佐!指示をくれ!大佐!!「サーシャちゃんのはじめては私のものだ!さっさとそこをどけ売女ァ!」
とか言ってないで指示をよこせ大佐ッ!


サーシャ「大佐ぁッ!!」

五和「……」

サーシャ「あ……」

五和「……」



BGM:目が逢う瞬間



鼻先数センチの距離で、サーシャの「大佐ぁッ!」という声でばっちり目を覚ました五和と視線が重なる


サーシャ「……」

五和「……」

サーシャ「……」

五和「……」

サーシャ「だだだ、第一の解答ですが、お久しぶり…です…」
495 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:32:11.87 ID:vM39g9o0

五和「……」

サーシャ「お久しぶりなんです!五和が地下鉄で会った謎の少女Sは私ではないのです!ですから、あの…」


えぇーっ?サーシャちゃんはどちらかと言えばMでしょ?


サーシャ「やかましいですよ大佐!!あっ、えーっと、その…」

五和「……」


五和「ぐすっ…ふえっ…」


突然、溢れんばかりの涙で五和の目が覆われた


サーシャ「あの、五和…?」

五和「サーシャちゃああん!!」(ぎゅうううっ!!!)

サーシャ「はうあ!」(ベキバキボキバキリ!!!)


マウントポジションから無理矢理サーシャを抱き起こして、思いっきり抱きしめる五和

なにやら色々と折れた音が聞こえたが、たぶん大丈夫だろう
496 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:34:01.13 ID:vM39g9o0

五和「ばかっ!サーシャちゃんのばかぁ!!どれだけ心配したと思ってるんですか!!」

サーシャ「……すみません」

五和「いつも自分ばっか死にそうになって!!」

サーシャ「反省してます」

五和「私を泣かせるのはそんなに楽しいですか!?」

サーシャ「……少し」

五和「私の事が嫌いなんですか!?」

サーシャ「そんな事はありませんよ」

五和「じゃあ今すぐここで好きって言って下さい」


サーシャ「……え?」


五和「…言えないのですか?」

サーシャ「いえ、あの、その……」

五和「まさか、他に女ができたんですか?だから私の事なんて……」

サーシャ「第一の質問ですが、あなたさっき寝言で上条って連呼してましたよね?」


そう言うと、いきなり五和の抱きしめる力が強くなった


サーシャ(やばいです、全身の骨がミシミシ言ってます…)
497 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:35:45.54 ID:vM39g9o0

五和「誰ですか?私の可愛いサーシャちゃんをたぶらかしたのは……そっか、あの新たなる光の人達ですね……」

サーシャ「いえ、だ、第一の解答ですがッ!」(ミシミシ)

五和「ゆるせない、サーシャちゃんは私だけのもの……誰にも渡さない……クスクス」

サーシャ「第ニの解答ですが、病む対象は私ではなく上条当麻では…」

五和「じゃあ好きって言って下さい」

サーシャ「えっ」

五和「やっぱ言えないんだ…」

サーシャ「いえ、好きです。好きですよ五和(友人的な意味で)」

五和「聞こえません、もっとはっきりいってください」(ぎゅっっっ!!)


ホールド力がマックスに達し、サーシャの体がメキメキと嫌な音を立てる
498 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:37:00.43 ID:vM39g9o0

サーシャ「まずいでず、ごのままだどサー/シャになっでじばいまず、うぐっ!」(メキメキ)

五和「さあ、はやく」(ぎりぎり)

サーシャ「好きでず!ずぎでずがら!!」


アニェーゼ「oh…」

ルチア「修羅場というやつですか」

アンジェレネ「あれが噂の天草流殺人術なんですね」

神裂「いえ、天草十字凄教はそんな物騒な組織ではありませんから。ていうか誰ですかそんな噂流してる人は」

サーシャ「そこで眺めてないで、せめて私の体が分割される前にだずげで……ぐふっ」

アニェーゼ「無茶しやがって…」

神裂「いえ、無茶したのは五和でしょう。常識的に考えて」


サー/シャちゃんマジ天使になりました
499 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:39:27.76 ID:vM39g9o0

その後、サーシャは全てを話した

ロシア成教とローマ正教から狙われており、それが原因で亡命した事

前回と同じように女子寮に逃げ込んだだけでは、みんなを危険な目に遭わせてしまう

それを避けるために、最大主教と交渉する必要があった

願わくば、禁書目録級の重要人物として扱われるように

そうすれば、ロンドンのランべス区という必要悪の教会の本元に居る限りは、ロシアやローマも簡単に手を出す事はできないと考えたのだ

だから、最大主教と交渉できる様な環境が欲しかった

そのために、新たなる光に協力し、クーデターの肩棒を担いだ

その責任を取るために…



上条「キャーリサに一人で挑んだのか?いくらなんでも無茶だろ」

五和「そうですよ!女教皇様ですら一人では敵わないかもしれないのに!」
500 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:40:29.04 ID:vM39g9o0

アニェーゼ「ガツガツ」

インデックス「ひょいぱくっ!」

アンジェレネ「あぁーッ!今私のミートボール食べたでしょ!?」

インデックス「食べてないよ?ひょいぱくっ!」

アンジェレネ「言ってる傍から人のハンバーグを食べないでください!」

ルチア「アンジェレネ、私の分をあげますから、怒りと大食と嫉妬の三重苦からさっさと脱しなさい」

アンジェレネ「苦っ!なんですかこの苦い野菜!これ絶対毒ですよ!」

上条「誰も聞いちゃいねぇなオイ」

建宮「いつわーちょっといいか?」

五和「あっ、はい!」

サーシャ「……」
501 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:41:58.67 ID:vM39g9o0

サーシャ「結局、一人で私がキャーリサに挑んだ事以外は誰も責めないのですね」

アニェーゼ「責めたって仕方ないでしょう。私だってもしかしたら、サーシャと同じ立場だったら同じ行動をしていたかもしれませんし」

アニェーゼ「確かに一人で抱えて一人で行動していた事は責めたくなりますけど、それは強くない私らにも原因はあるんですから」

サーシャ「……」

アニェーゼ「まあこまけえこたぁ良いんです。サーシャは良く頑張りました。隊長として褒めてあげます」

サーシャ(そう言えば、私は無理矢理加入させられてましたね)


アニェーゼはサーシャの肩をガシッ!と力強く掴んだ


アニェーゼ「サーシャは私らを守ろうとしてくれた。今度は私らがそれに答える番じゃねえですか!」


そう言いながら、彼女は力強く逞しく笑ってみせた


サーシャ「相手は、ヴェロニカ部隊とは比較にならない程の強さですよ?」

アニェーゼ「大丈夫です。今回は聖人の神裂も居ますし、イギリス全土から清教派のシスターが集まってくれています。
それにほら、切り札に上条当麻が居るんですよ」

上条「えっ、いやまあ切り札なんて大それたもんでもないけどよ」
502 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:44:04.45 ID:vM39g9o0

神裂「サーシャ、ちょっといいですか?」

サーシャ「第一の解答ですが、何でしょうか?」

神裂「キャーリサに一人で挑んで、生き残る事ができたというのが不思議でならないのです。たぶん、私でも無理でしょう」

神裂「それに、あなたの体から非常に強力なテレズマの欠片の様なものを感じるのです。まさかとは思いますが、
またその体にミーシャ・クロイツェフが?」

上条「ミーシャだって!?」


その言葉に傍で話を聞いていた上条が反応した

無理も無い。彼も神裂も、エンゼルフォールの時に大天使の恐ろしさを嫌と言うほど思い知らされたのだから


たった一人で世界を滅ぼす程の圧倒的な存在

絵空事の様に聞こえるが、それを現実だと認識できた時には、他のどんな物も比較にならないくらいの恐怖に変る


サーシャ「第二の解答ですが、直接ガブリエルが降りて来たわけではありません。どうやら、
その力の一端を使える様になったみたいなのです。私もどうしてそうなったのかは理解できませんが……」

上条「でも、それでもキャーリサには敵わなかったんだよな…」

サーシャ「第三の解答ですが、それが現実みたいです。キャーリサは、王族とカーテナという特殊な条件の元で、
私と同じように大天使の莫大なテレズマを扱う事ができます。そして、彼女は私のテレズマよりも遥かに大きかったのです…」

神裂「それは覚悟の上です。それともう一つ聞きたいのですが、あなたは後方のアックアと面識があるのですか?」

サーシャ「後方のアックア……神の右席ですか?いえ、そんな大物とは面識はありません」

神裂「しかし、実は瀕死のあなたをここに運んで来たのは、後方のアックアなのです。」
503 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:46:56.41 ID:vM39g9o0

てっきり神裂が回収してくれたのかと思っていたが、どうやら自分は後方のアックアとやらに助けられたらしい

神の右席そのものもオルソラと五和から聞いた話でしか知らなかったのだが、なぜアックアが自分を助けてくれたのかは理解できない


実のところ、それは単に彼の気まぐれであるのだが


それと一つだけ、サーシャは上条や神裂に伝えなかった事がある

あの時、一本だけキャーリサに当てる事ができた炎の矢

実はキャーリサの言う通り、わざと狙いを外したのだ

その気になれば、キャーリサの心臓や肺を貫く事ができた

まあそれでキャーリサが死ぬかどうかは疑問だったが


漠然とだが、サーシャはキャーリサが何かを隠している様に感じた

自分と同じように、一人で何か重いものを抱えている様な気がしたのだ

論理的では無いその考えが、自分のキャーリサに対する敵意をどこか別の方向に逸らしてしまった様に思える

言葉や態度では冷徹な君主を気取っていたが、どこかそれになりきれていない様に感じられたのだ

こんな曖昧でまとめる事のできない考えなど、上条達に言う事はできないし、下手に自分の考えを話して彼らが
キャーリサに対する同情心を持ってしまえば、これから始まるであろう彼らとキャーリサとの戦いに影響を及ぼす可能性がある


それを言ってしまえば、あの時ためらうことなくキャーリサを殺していれば、これから戦いが始まって彼らが傷付く事も無いのだが


だが、本当に曖昧で漠然ではっきりしないのだが、彼女を殺してはいけないと思ったのだ
504 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:49:23.90 ID:vM39g9o0
【おまけと言う名の本編】


建宮「じゃじゃーん!大精霊チラメイドなのよ♪」

五和「なっ、なっ、なんでヒック」


突然現れたゲテモノメイド服を見て息が止まり、語尾がしゃっくりの様になってしまった


建宮「五和!今がチャンスなのよ!これを着て、上条にお前の隠れ巨乳をアピールするんだ!」

五和「できるわけないでしょうそんな恥ずかしこと!しかも何で建宮さんが私のバストサイズを把握してるんですか!?
で、でもこのままじゃ…」

建宮「なんでサーシャにはあんなに積極的になれるのに、上条当麻にはアタックできんのよ?」

五和「だ、だってサーシャちゃんは友達だからですよ。それとこれとは話が別です!」

対馬(そう言えば、五和って自分のペットが他人に懐くと嫉妬するのよね。独占欲が強いのかしら?)

建宮「むむむ、じゃあ仕方ない、ここは俺が着るしか」

対馬「やめんか!!」

建宮「ちなみに女教皇様の嫁入り道具であらせられる堕天使メイドと堕天使エロメイドはちゃんと保護してあります!ほら!」ヒラヒラ

神裂「ブゴッ!!」
505 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:51:10.64 ID:vM39g9o0

サーシャ「……」

上条「えーっと、まあ何かアレだけど、五和はお前の事すごく心配してたんだぞ?」

サーシャ「第一の解答ですが、分かっています。彼女には本当に迷惑をかけてしまいました」

上条「それにアニェーゼ部隊もだいぶ変わったみたいだし、お前は本当に良い仲間を持ったよな」


それも上条のおかげであるのだが、彼に自覚は無い


サーシャ「第二の解答ですが、その通りですね。仲間に恵まれている事が私の唯一の誇りです」


上司に恵まれているかどうかはともかく


オルソラ「上条さん!見て下さいませ上条さん、これは小悪魔ベタメイドというのでございます」

シェリー「だから着てんじゃねえよこのばかああああああああ!!!」

オルソラ「似合っているでございましょうか?」

上条「ブフッ!!オルソラ!そんなメロンみたいな胸元全開で迫られたら……!うおっ、ちょっ!!」

サーシャ「えっ、あのッ…!」


オルソラに迫られる→上条さん後退→何かにつまずく→サーシャを巻き込んで転ぶ

ドサッ!!
506 :1 [sage]:2010/09/09(木) 20:53:21.52 ID:vM39g9o0

上条「いてて…悪いサーシャ、何かに足を引っ掛けたみた…い……?」

サーシャ「あ……」


間近にそのサーシャの顔があった

雪の様に真っ白な肌と、年相応のあどけなさが残る端正な顔立ち

驚きで見開かれた赤い大きな瞳が、上条当麻の顔を覗き込むように見つめてくる


誰がどうみても上条がサーシャを襲って押し倒している様にしかみえないだろう


サーシャ「あの、第一の解答ですが、その手をどけていただけませんか////」

上条「へ?あ、ああ、なあっ!!」むにゅ

サーシャ「ふにゃっ////」


驚きのあまり、自分の手の下にあった柔らかいものを思いっきり揉んでしまった

慌ててサーシャの上から身をどけた上条さん


上条「すみませんすみません!上条さんはけしてやましい気持ちがあったわけではなくt」


インデックス「トーマ?」┣¨┣¨┣¨┣¨ド

五和「カミジョウサン?」ゴゴゴゴゴ


上条「あの…お二人さん?なんかすごーく顔が怖いのですが…」

インデックス「とーまのバカぁッ!」

五和「上条さんの節操無し!」

上条「な、何でお前らが怒るんだよ?ちょっと待て、槍は危ないですよ!インデックスの歯がギロチンみたいになってんですけどおおお!!」
507 :1 [sage]:2010/09/09(木) 21:14:41.98 ID:vM39g9o0
ルチア「まったく、相変わらずですねあのツンツンヘッドは」

アンジェレネ「私ももう少し胸があったら…」

アニェーゼ「なんか面白そうなんで私らも参加しましょう」

オルソラ「あらあら、賑やかでございますね」

シェリー「アンタが原因だっつーの」

サーシャ「……////」ドキドキ

上条「やめろおおおおおお!!不幸だーーーーーっ!!!」

ガブッ!!ドスッ!!アッー


【その頃アックアさんは】

アックア「む、何やら叫び声が…」

騎士団長『どうした?』

アックア「いや、気のせいである」

騎士団長『そうか』

アックア「ところで騎士団長」

騎士団長『やめてくれ。お前からそう言われるとむず痒くなる』

アックア「だが、貴様の本名を覚えていないのである」

騎士団長『……もうお前とは絶交だ』

【その頃第三王女と運び屋は】

ヴィリアン「こ、これは…騎士団長×アックアですって……?」

オリアナ「何読んでるの?」

ヴィリアン「さっき道端で拾ってのですが……ってわひゃあ!!」

オリアナ「なに間抜けな声出してんのよ。へぇ、どれどれ?”もはや第三王女などどうでもいい、
お前が欲しいのである”ああ、これってBLとかいうやつ?作者はkazari…ペンネームかしら?」

ヴィリアン「……どうでもいい?」┣¨┣¨┣¨┣¨

オリアナ「落ち着きなさい!これは同人誌だから!」

今日も平和でなによりです
513 :1 [sage]:2010/09/10(金) 17:41:56.40 ID:LXAF5OM0

午前三時

上条当麻は、清教派のメンバー達と共にロンドンへ突入した

さすがに馬鹿正直に歩いて行ける様な距離ではないので、20台以上もの大型トラックに乗って突入したのだ


最終決戦は始まる


キャーリサのカーテナ暴走に一役買った清教派の空中要塞カヴン・コンパスは、イギリスとフランスの国境ギリギリのところで
騎士派の連中の攻撃を避けながら、ロンドンに向けて砲撃の準備をしている

ドーバー海峡では、これまた清教派の潜水型母艦であるセルキー・アクアリウム8機が砲撃のために待機している

もはや女子寮で起きた抗争など比較にならないほどの大規模な内紛

目的はただ一つ

キャーリサのカーテナ・オリジナルを破壊する事ただそれだけ

しかし、ただそれだけなのだが、これほどの軍事力を行使してもそれは非常に難しいというのが現実である


ところでサーシャはと言うと

フロリス「まさかこんなとこで会うとはね。そんなに私に会いたかったのかサーシャ?」

サーシャ「第一の解答ですが、怪我を治療するためにここに運ばれただけです」
514 :1 [sage]:2010/09/10(金) 17:43:57.25 ID:LXAF5OM0

ここはとある聖堂の隠し部屋

サーシャもキャーリサと戦うためにバッキンガム宮殿に向かいたかったのだが、回復が間に合わなかったために本隊から外され、
ここに運ばれて治療を受けているのである


ちなみにフロリスは上条の無自覚の罠により天草に捕えられた後、ここに運ばれたのであるが…

フロリス「あの野郎、次会ったらタダじゃおかねえ」


サーシャ「第一の質問ですがオルソラ、後どのくらい掛りますか?」

オルソラ「ある程度までは回復していますが、それでもキャーリサ様と戦える様な状態ではございませんよ?」

サーシャ「ある程度で十分です」


そう言うと、サーシャはラクロス風のジャケットを手に取り、袖を通した


オルソラ「止めても無駄でございますか?」

サーシャ「第二の解答ですが、治療してくれた事に感謝しますオルソラ」

オルソラ「では約束してください。無事に帰ってくると」

サーシャ「はい、約束します」


嘘ではない。しかし、五体満足で帰ってこれる保証など無い

それはサーシャもオルソラもわかっている


フロリス「なあサーシャ、アンタは何で戦うんだ?」

サーシャ「第一の質問ですが、どういう意味でしょうか?」
515 :1 [sage]:2010/09/10(金) 17:51:36.21 ID:LXAF5OM0

フロリス「だって、亡命してきたって言っても、命を懸ける程この国に思い入れなんて無いだろ?
わざわざ自分が体を張る理由なんてあるのか?」


確かに、もうすでに目的は果たした

自分にもこのクーデターの責任の一端はあるが、仲間達からはその事でキャーリサと戦った事を責められた

今だってまともに戦える状態ではないし、むしろ無理するなと怒られるだろう

もうわざわざ自分が戦わなければならない理由などない

だが……


サーシャ「第一の解答ですが、理由は後で考えます」

フロリス「ははっ、何だそりゃ」

サーシャ「私はこれが正しい行動だと信じている。ただそれだけです。理由なんて行動した後で考えれば良いのでは?
大切なのは“どうして”ではなく“どうするか”ですから」


一生懸命頭を働かせて考え出した答えなど、自分が実際に行動した結果に比べたら価値など無い

今の彼女にとっては、戦う理由などそれで十分だ


フロリス「そっか。まあこのクーデターに協力した身だから大っぴらには応援できないけど」


フロリス「絶対に生きて帰ってきなよ?」

サーシャ「約束します。できる限り」

フロリス「一言多いんだよバカ」
516 :1 [sage]:2010/09/10(金) 17:53:21.46 ID:LXAF5OM0

聖堂の外を出ると、急に寒気がサーシャの体を襲ってきた


もうすぐ季節は冬に入る

そんな時期の凍えるような寒さは、サーシャの傷だらけの体には地味に堪える

だが、立ち止まるわけにはいかない

こうしている間にも、上条達は命がけで戦っているのだから


「行くのか?」


突然、何者かの声が聞こえてきた

低い男の声


振り返るといつのまに背後にいたのか、見知らぬ男が立っていた


鍛え抜かれた屈強な体

それは彼の青い服の上から見ても一目で分かる

そして何よりも異常なのは、彼の肩に担がれた大剣

明らかにその男の身長よりも遥かに巨大な剣である


?「戦場に向かうのかと聞いている」

サーシャ「第一の質問ですが、あなたは何者ですか?」

?「この争いを止めるために戦う傭兵である。貴様に戦う意思があるというのなら、協力してもらいたい事がある」
517 :1 [sage]:2010/09/10(金) 17:55:49.40 ID:LXAF5OM0

サーシャは背中の両翼を振るう

すると、巨大な鉄塔は簡単に切断され、ひしゃげてしまった

とどめに巨大な氷の塊を鉄塔の上に落とす

とてつもない轟音とともに、鉄塔が原型すら留めずに完全に潰れた


サーシャ「これで二つ目ですね…」


サーシャは今、謎の男と一緒に軍事用の鉄塔を破壊する作業をしていた

その男が入手した情報によると、ドーバー海峡に数隻の駆逐艦が配備され、こちらに向けて爆撃が開始されるとの事だった

イギリスの兵器事情から察するに、駆逐艦からバッキンガム宮殿にむけて放たれるのは、おそらくバンカークラスターではないかとの事

はっきり言ってカヴン・コンパスやセルキー・アクアリウムの砲撃なんて比べ物にならないくらいの脅威だ


今からドーバー海峡に向かうには時間が足りない

と言う事で、その男は、キャーリサが駆逐艦に指示を出すための通信用の鉄塔を破壊することで、
駆逐艦からのバンカークラスターの砲撃を阻止しようとしたらしい

しかし、これだけ広いロンドンとその周辺も含め、軍事用アンテナを全て破壊する事も、ましてや数あるアンテナの内、
軍事用のアンテナとして使用されている鉄塔だけをピンポイントで発見するのは、歴戦の傭兵でも専門外のため困難な事である


そこで、彼はサーシャの力を借りる事にした

二手に分かれて探し出し、破壊していけば短時間で済むからだ
518 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:00:23.01 ID:LXAF5OM0
サーシャ「まだ探していない所は……これは骨が折れますね…」

サーシャはロンドンの地図を見ながら、まだチェックしていない所を確認していた

そんな作業をしている時に聞こえてきた、妙な音

先程からセルキー・アクアリウムやカヴンコンパスからの砲撃が続いていたが、カヴン・コンパスの様な閃光でも無く、
セルキー・アクアリウムの様な弾幕でもない


サーシャがその地図から目をそらした時、別の方角の空に妙な物体が見えた

巡航ミサイルだ

ミサイルの向かう方角は、おそらく……


嫌な予感がした


巡航ミサイルは規定ポイントで分解され、大量の子弾をばら撒く


そして数秒後に、派手な爆発音が遠くの空で鳴り響いた


バンカークラスターは地下施設を破壊するためのものだ

地上であんな派手な爆発を起こさないはずだが


?「聞こえるか?」


通信用霊装により例の男の声が耳に入ってきた


?「一撃目が発射された。数はおよそ200発。予想通りバンカークラスターだ。宮殿上空に誰かが防護結界を張ったゆえ、
全てが直撃したわけではないみたいだな」

どうやらあの派手な爆発は、防護結界に衝突したバンカークラスターの様だ


サーシャ「!……被害はどの程度ですか?」

?「大丈夫だ。この程度で死ぬ様な奴らではない」


それはそれで異様であるが

とにかく急がねばならない
519 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:02:24.85 ID:LXAF5OM0

『聞きなさい』


サーシャ「!?」

?「……?」


今度は突然、その男のものでも無い、別の女性声が響いてきた


『私は英国第一王女、リメエアです』

サーシャ「第一王女…?」

?「……」


『エジンバラに放っておいた密偵からの報告により、クーデター首謀者キャーリサの真の狙いが分かりました。
これはおそらく、あなた達「騎士派」の者にも伝えられていないであろう、我が妹キャーリサが胸に秘めた本当の狙いです』

サーシャ「……」
520 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:04:19.27 ID:LXAF5OM0

英国の三人の王女

長女リメエアは政治に、次女でクーデターの首謀者でもあるキャーリサは軍事に、三女のヴィリアンは人徳にと、
それぞれ独自の得意分野を持っている


どうやらリメエアの声明は、サーシャ達ではなく騎士派の連中に向けられているみたいだ


長女のリメエアがこのタイミングで騎士派に訴えかけるという事は、何かキャーリサに対するスキャンダルでも掴んだのだろうかと推測した

だが、それは半分当たりであり、半分外れであった


『彼女はこの国の軍事を司る代表者としてローマ、ロシア勢力からイギリス国民が脅威にさらされている事に、
誰よりも責任を感じていました。EUを手駒として、クラスター爆弾や他の兵器類の禁止条約を盾に国の兵力を奪われ、
ユーロトンネルの爆破によってイギリスという国家そのものが挑発される状況に追いやられ、キャーリサは次の様に結論付けたのです』


『このままではイギリスという国家そのものの価値や威厳を奪われてしまう、と。』


『イギリスの民であるというだけで、よその国から嘲られ、迫害されてしまう状況が来てしまうと。だからキャーリサはこう考えたのです。
戦争によって激変する時代そのものにイギリスの民が滅ぼされぬようにするには、武力によって国家の価値や威厳を保つしかないと』

『そして同時に彼女は悩みました。軍事に優れた才を持つが故に、カーテナの強さと恐ろしさの双方を、誰よりも理解していたのです。
もしも国家元首の手にカーテナがなければ、そこまで絶対的な王政でなければ、ローマ正教との戦争がここまで酷くなる前に、
王が民の言葉に耳を傾けて国家の舵取りを修正する機会があったのではないかと』


だから、キャーリサはカーテナを対ローマ正教の切り札として振るう覚悟を決めた一方で、その戦いが終わったら、
カーテナを完全に封じようと考えていたのだ


それが、国家の暴走を民が止める手段を得るために必要だから

521 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:06:35.57 ID:LXAF5OM0

カーテナという絶対的な武器が無ければ、王は民の声を無視する事ができなくなるから

しかし、ただカーテナを破壊するだけでは意味が無い

実際にカーテナ・オリジナルが喪失した後も、カーテナ・セカンドが作られ、今も女王エリザードの手にあるのだから


すべきことは、カーテナの完全破壊だけではない

カーテナを使用できる王族を全て抹[ピーーー]る事

そして、今後新たにカーテナが製造される可能性を無くすために、セカンドの製造に関わったとされる暗号文や書物を全て
徹底的に破壊し尽くす必要がある


(この英国の行く末のために、この忌々しい剣を未来永劫に葬り去る事ができるのなら……)


そして、全てが終わった後のキャーリサは


『破壊したカーテナ・オリジナル、セカンドの残骸と共に、残りの人生を死ぬまで「墓所」奥深くで過ごす覚悟まで決めて』

サーシャ「……」
522 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:08:53.88 ID:LXAF5OM0

『結論を言います。キャーリサの狙いは二つ。一つ目は、フランスやローマ正教を排除し、後世にこの国の汚点と言われるようになってでも
イギリスを守る事。そして二つ目は、その最強最悪の兵器であるカーテナを封じ、無能な王政を排除することで、
国家の暴走を民衆の手で止められる様にする事です。……仮にこの先、何らかの要因が重なって私達とは違う王政が成立したとしても、
その王が間違えた選択をしようとしかけた時に、王が民衆の声に傾ける程度の「弱さ」を残すために。キャーリサはそれらの目的のために
「カーテナと言う極悪な兵器を振るい、国の内外に居る多くの敵を虐殺してしまった罪」を、暴君としてたった一人で背負おうとしているのです』


リメエアの演説はそこで終わった


彼女の言葉で、キャーリサに従う騎士の内どれだけの者が心を動かされたのかは分からない

中には武器を捨てる者も出てくるかもしれない


?「どうする?お前はまだ戦うか?」

サーシャ「第一の解答ですが、もちろんです」

?「そうか、ならさっさと片付けてしまうのである。また後ほど連絡する」


そう言うと、男からの通信が途絶えた



サーシャ「やはり、女王様は向いてないかもしれませんね。あなたは…」


通信が途絶えた後、サーシャは静かにそう呟いた
523 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:10:29.73 ID:LXAF5OM0

トップに立つ者は常に孤独である

信頼していた同じ志を持つ者から裏切られる事など当たり前の様にある

それでも信頼できる人間を見極め、政策を実行しなければならない

国民から石を投げつけられる事もあるかもしれないが、それでも国民を人徳を持って導かねばならない

それが正しい君主の在り方
自分を捨石にするだけでは君主は勤まらない



サーシャの戦う意思は変わらなかった

しかし、戦う理由は変った

ずっと一人で戦ってきた王女を

自分の様に一人で全てを抱えてしまう馬鹿な王女を助けるために、彼女は戦う







リメエア「私だけセリフが無いのは納得いかないから、強引に割り込んでやったわ」

騎士団長「セリフ?何の話でしょうか?」
524 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:15:16.11 ID:LXAF5OM0

そこはとあるビルの屋上

第一王女のリメエアは、ここから通信用霊装を使って騎士派の通信網に割り込みを入れ、キャーリサに従う騎士達に向けられたのだ

途中で途切れてしまったが、それがたまたまサーシャと男の間の通信にも割って入って来たのであった


リメエア「私はあなた方の行動を強制しません。あなた方にも国家のほかに守るべき家族が居て、友人が居て、恋人が居る事でしょう。
彼らを悲しませぬため、逃げ出す事を否定しません」


リメエアは演説を続ける。全ての騎士達に、そして自分の背後に居る男に向かって


リメエア「ですが、もしも我が妹キャーリサを哀れと思う方が居るのでしたら、第二王女という立場に関係なく、
一人の女を助けたいと思う騎士がいらっしゃるのでしたら。今一度、剣を取ってはいただけませんか?おそらく、
それだけで救われる女が居るはずです。どれだけ力を振るえるかではない。本当の意味で自分のために戦ってくれる人物が居る。
その事実が伝わるだけで、救われる女が」

騎士団長「……」


今度こそ本当にリメエアの演説が終わり、男は黙考した

きっと今もどこかで、彼と同じように決断を迫られている者が居るだろう

そして決断した男は、静かに剣を抜いた

つい数刻前、ウィリアム・オルウェルとの死闘の末敗れた騎士派の長


彼は再び剣を取り戦う

しかし、戦う理由は変わらない。

前も今も、第二王女いや、キャーリサという一人の女を助けるために彼は戦う
525 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:18:18.99 ID:LXAF5OM0

何もかもが消えてしまいそうな程の真っ白な光景が終わった

辛うじて動かせた指が地面をなぞるのを感じられた時、自分はまだ生きているという事を自覚した


上条「イン、デックス……?」


少女の名を呼ぶ。しかし返事は無い。


「神裂?五和?」


「シェリー、アニェーゼ!オリアナ!!くそっ……ルチア、アンジェレネ、建宮っ、ヴィリアン!!ちくしょう、誰か答えてくれ!!」


200発ものバンカークラスターがバッキンガム宮殿に向けて放たれた

神裂が上空に張った防護結界により、200発全てが直撃する事は無かった

それでも何発かは地面に深く潜り込み、地下で爆発し、失明を錯覚させるほどの閃光とともに上条達は爆撃に煽られ吹き飛ばされた


名前を呼んだ者達の返事は無い

バンカークラスターで盛り返された土砂の中に生き埋めにされているのかもしれない
526 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:19:38.64 ID:LXAF5OM0

上条は自分の体を確かめる様に少し動かしてみた

どうやら欠損した部分は無い様だ。下半身も繋がっており、足も動かせる

だが、だからと言って、何をすれば良いのかまで頭が回らない

あれだけの衝撃で、皆の生死すら分からない状況なのに、一人だけ爆撃前と変わらずに、精々ドレスに埃が被った程度の
被害しか受けずにそこに立つ怪物相手に何ができる?


「さぁーって、と。希望はまだ残ってるの?」


そんな上条の焦燥を知ってか知らずか、キャーリサは凶悪な笑みは見せながらそう言う


「駆逐艦ウィンブルドンに告ぐ、発射準備をせよ」


圧倒的な力の前に成すすべなく打ちひしがれている上条に追い打ちを懸ける様に、キャーリサは無線機を顔に近づけ、
二回目のバンカークラスターの発射を命令した
527 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:21:10.11 ID:LXAF5OM0

?「どうだ?」

サーシャ「第一の解答ですが、三つ目を破壊しました。残りは後一つです」

?「そうか。破壊するよりも発見する方が困難であるが、何とか見つけ出してくれ」

サーシャ「はい」


残りは後一つ



だが、再び二回目のバンカークラスターが発射されてしまった



?「あの男が居てくれれば助かるのだが…」

サーシャ「ッ……!」

?「焦るな。今はやるべき事だけに集中しろ。奴等を信じるのである」

サーシャ「第二の解答ですが、分かっています……」


そうは言われても、やはり動揺は隠せない

無事を祈るくらいの事しかできないのが歯痒かった


きっと、自分を止めずに送り出してくれたオルソラも同じ気持ちなのだろう

オルソラと同じように、今は仲間を信じて耐えるしかない。三回目のバンカークラスターが発射される前に
なんとしてでも全ての軍事用アンテナを破壊しなければならない
528 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:23:49.46 ID:LXAF5OM0

「ゼロにする!!」


遠方から新たな声が届いた

直後、四つに分解して大量の子弾をばら撒くはずだった巡航ミサイルが誤作動を起こした。

既定のポイントに達してもミサイルの外郭が開くことは無く、後部の噴射炎がいきなり消滅し、
暴投したようにバッキンガム宮殿敷地外の道路に落ちる

ミサイルはかなりの重量のはずだが、なぜか道路に突き刺さることなく何度もバウンドしながら転がった

まるで兵器の持つ攻撃翌力を丸ごと奪った様な現象



ヴィリアン「騎士団長……?」


第三王女の目に映るのは、クーデターの時に自分を殺そうとした男の姿だった(17巻p358~361)

ヴィリアンは震える声で男の名を呼ぶが、彼は振り返らず、ただ静かに告げる


騎士団長「罰には応じます。このクーデターが終わったら、私の首は切断してもらっても結構」

騎士団長「ですが、せめて処断を受けるための下準備程度は我らの手で。なおかつ願わくば、再び貴女達王室派が力を合わせ、
フランスやローマ正教と正しく向き合ってくれる事を」


そう言うと、騎士団長は一本のロングソードを強く握り直した


騎士団長「キャーリサ様は、たった一人であれだけの事を成せる方です。その力を正しく扱い、
なおかつ他の王室派の方々と力を合わせる事が出来れば、必ずやローマ正教を退けられる事でしょう」


それを実現させるために、彼はキャーリサの元へ歩み寄ろうとした

死ぬ覚悟で
529 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:26:08.93 ID:LXAF5OM0

ヴィリアン「待ちなさい」


だが、ヴィリアンはそれを許さない

目的のために自分が犠牲になるのでは、キャーリサと同じだ


ヴィリアン「身勝手な死を押しつけられても迷惑なだけです。本気で償いをしたいというのなら、喜ぶような事をしていただきましょう。
何をすべきかは、各々が自らの頭で考えて下さい。自ら率先して行う事にこそ、意義はあるのです」


言葉こそ上品な王族のものであったが、そこには確かな力強い意志があった

優しいだけではない、確かな強さが伴った人徳の第三王女の言葉は、全ての騎士達の覚悟に揺らぐ事のない意志を与える


騎士団長「必ず勝つぞ。これ以上、キャーリサ様を一人きりにさせるわけにはいかん!」


その言葉に、キャーリサに従っていた騎士達が応えた

キャーリサに尻を叩かれなければ動かぬ馬とは違う
今はキャーリサを守るために、彼らは自分の意思で戦う騎士に変ったのだ



騎士団長「すまない。我が国と王女の行く末を、君達に預けっぱなしにしてしまったな」

上条「おう。あいつを助けるために協力してもらうぞ」
530 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:28:29.15 ID:LXAF5OM0

キャーリサ「なるほど、人徳のヴィリアンに続いて、頭脳の姉上まで来るとはな」

キャーリサ「最高のタイミングを狙った演説だったよ!清教派はカーテナ・オリジナルの力で心を折られかけた直後だったし、
騎士派も私が脅して何人か見せしめに斬りつけてやらねば動かぬ愚図だったのが、姉上に絆されてコロッと態度を変えやがった!」


キャーリサ「貴様らが自分の意思だと誤解しているそれも、姉上に唆されて植え付けられたに過ぎないし。
どこまでも貴様ら騎士は愚鈍な生き物なのだな!!」

騎士団長「愚鈍で構いません、あなた様をお助けする原動力となるならば」


キャーリサ「オリジナルからの供給は断たれ、微弱なセカンドからの供給のみに頼る貴様の力では、私に触れる事すら叶わんぞ?」

騎士団長「力の有無など瑣末な事、その程度では揺らぎはしません!!」

キャーリサ「チッ!気持ちの悪い男だな!」


だが、騎士達も全て騎士団長の側に着いた

しかも、自分に従っていた時と比べて圧倒的に士気が高い

けして笑える様な状況では無かった
531 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/10(金) 18:30:37.69 ID:9F421cDO
しえ
532 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:31:09.62 ID:LXAF5OM0

キャーリサ「対フランス用に残しておきたかったが、どうやらバンカークラスターを使い切るしかないよーだな」

騎士団長「私のソーロルム術式はカーテナと残骸物質の攻撃をゼロにする事はできません。
しかし、先程の様にバンカークラスター程度なら容易くできます。それでも無駄遣いなさいますか?」

キャーリサ「お前のソーロルムは”術者の認識する武器のうち、標的となる物を選択して攻撃翌力を無効化する”
と言うものだったな?ならばこうしよう」


そう言うと、キャーリサは再び無線機に向かって命令を下した


キャーリサ「バンカークラスター弾頭を搭載した巡航ミサイルを準備せよ。ドーバーで待機中の駆逐艦ウィンブルドンから二四発、
キングヘンリーから二六発、シャーウッドからニ十発、ヘイスティングズから一五発、シェイクスピアから一五発。
関係各位はバッキンガム宮殿に照準を合わせ、総勢八十発のバンカークラスターを私の合図とともに発射せよ」


「さーて、私はどのミサイルを幻術で隠すと思う?」


騎士団長「……ッ!!」


身を強張らせる騎士団長に、キャーリサは凶悪な笑みで応じた。


キャーリサ「単なるハッタリかもしれないが、すり抜けたら終わりだし。その上、私がカーテナで同時攻撃を仕掛ければダメ押しだな。
一発でも逃せば全員が死滅する状況で、我が剣を押し返す事ができるかどーか、英国の騎士の真髄をテストしてやろう」
533 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:32:11.05 ID:LXAF5OM0

上条「チッ! 止めるぞ!!」


上条は騎士団長を促しながら、自身も拳を握ってキャーリサの元へ突っ込もうとする。
 
だが、第二王女が指先を動かして通信ボタンを押す方が早い。

上条の拳が届くまえに、キャーリサは小さな無信機に向けて破壊の命令を飛ばしてしまう。


「該当する五隻の駆逐艦に告ぐ。巡航ミサイルを発射せ……」


歯噛みする上条だったが、対するキャーリサはなぜか怪訝な顔をした


直後、キャーリサの頭上を目掛けて上空から大量の鉄骨が降り注いできた


それは、謎の男とサーシャが破壊した鉄塔の残骸


キャーリサ「ッ……!!」


素早い挙動でそれを避けるキャーリサ



ガンッ!



そして、何者かが降り注がれた鉄骨の山に着地した
534 :1 [sage]:2010/09/10(金) 18:34:00.14 ID:LXAF5OM0

アックア「少々遅れたが、これで駆逐艦への無謀な指示は出せないのである。彼らとてイギリスの民。
独裁者の命令無しに、本来守るべき自国の首都に向けて攻撃できまい」

キャーリサ「なるほど、余計な真似をしてくれるし……ッ!」



サーシャ「第一の解答ですが、派手にやってくれましたねこの野郎」


さらにアックアの頭上、青い一対の氷の翼を広げたサーシャが上空からキャーリサを見下ろす


憎らしい程のタイミングで、かつて上条達を苦しめ、クーデターでヴィリアンを救い、騎士団長を打ち負かした傭兵と

莫大な大天使の力をその身に降ろし、そしてその莫大な力の一端を使えるまでに成長した少女


強力な二人の味方が戦線に加わった

539 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:31:20.03 ID:ycMU23M0

騎士団長「……よもや、この人生でもう一度、お前に背中を預ける時が来るとはな」

アックア「フルンテイングへの移行は不能であるか。せいぜい足は引っ張らぬようにな」

騎士団長「ぬかせ」


騎士団長はロングソードを軽く振るって前を見た
 
クーデターの始まりの時、10年ぶりに再開し、剣を交え、死闘を繰り広げた古き友

もはやお互い、出方を確認し合う必要は無い


「行くぞ。互いの一〇年の研鑽を。それぞれ点検してみる事にしよう」


ゴバッ!と大地が裂けた。
二人が同時に駆けた事で、地面の方が耐えきれなくなったのだ。

アックアは右から、騎士団長は左から。

それぞれ回り込むような挙動で、もはや肉眼で追い掛けるのも難しい速度で、彼らはキャーリサの元へと突き進む。



サーシャ「……」


サーシャは上空からその様子を見ていた

聖人クラスの力が使えるとは言え、剣術において素人のサーシャはこの二人の間に入り込む余地を持てる程の実力は無い

だがサーシャが直接加勢しなくとも、戦況は確実に変っていた
540 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:32:56.04 ID:ycMU23M0

キャーリサ「斬り飛ばすぞ、首」

アックア「やってみろ」


ガギッ!


カーテナとアスカロンが衝突する

しかし、刀身を交えてしまえば次元切断でアスカロンの方が負けてしまうため、アックアは剣の鍔の部分をカーテナの鍔にぶつけた

そこに生まれる純粋な衝撃は、キャーリサに強烈な重みと鈍い痛みを与える


キャーリサ「チッ!」


衝撃により両者の体は後ろに弾かれる

踏ん張ろうと足に力を込め、地面がガリガリと削られる


神裂「二人だけでっ、戦っているとは……ッ!!思わない事です!!」


体勢を立て直したばかりのところへ、すかさず神裂が斬りかかってきた

一神教の天使をも斬り伏せる真説の”唯閃”

それは、カーテナの次元切断と相殺し合うほどの威力であり、キャーリサもこの一撃を本気で受け止めざるを得ない


動いたのは神裂だけではない。ダメ押しとばかりに騎士団長も動いていた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


三人の雄叫びが重なって独特の震動を生み出す

人間を超越した三人が、同時にキャーリサに挑み、刃を交えた
541 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:35:43.29 ID:ycMU23M0

キャーリサはアックアの足を蹴ってバランスを揺らがせ、わずかに剣の軌道を曲げる。
ギリギリの所をアスカロンが通過するのも待たず、
カーテナ=オリジナルと拮抗する神裂の七天七刀を弾くと、騎士団長の追撃から逃れるべく大きく後ろへ跳び下がる。

今までの上条達を軽くあしらっていた時とは違う、全力の回避だった。

さらにそこへ、上空からサーシャがキャーリサに向かって滑空し、氷の翼をぶつけてくる

一本一翼で山を根こそぎ吹き飛ばし、地を抉って谷を築くと言われているガブリエルの翼


キャーリサ「ええい、鬱陶しい!!」


キャーリサは体を旋回してカーテナを翼に叩きつけ、何とか直撃を避ける

そしてサーシャの翼を次元切断で斬り裂き、さらにサーシャの体に目がけてカーテナを振るうが、
間一髪の所でサーシャが上空に飛翔し、カーテナが空振りする。

そこへすかさずアックア、騎士団長、神裂が斬りかかり、サーシャは上空から投げ槍の様な鋭利な氷の塊を
キャーリサが足を取られる様に計算して放つ。

聖人二人に聖人クラスの騎士団長も合わせて三人、上空からも大天使のテレズマを行使するサーシャが後方支援に回り、
その四人の怪物相手にたった一人で立ち回るキャーリサ。
542 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:37:57.29 ID:ycMU23M0

キャーリサ「……なるほど……」

キャーリサの額から、一筋の赤い血が垂れていた。
神裂やアックア達が傷つけたのではない。キャーリサ自身が回避行動の時間を取るために破壊した、
残骸物質同士の破片。それが第二王女に血を流させたのだ。


キャーリサ「このままでは私の方が消耗戦を強いられる。いかに特別な力を手に入れているとはいえ、
流石に聖人級の怪物が4人集まるのは面倒だし」

神裂「特別な人間だけで、全てを成し遂げられるとは思わない事です」

 
神裂は特殊な呼吸法で体力を取り戻しながら、静かに告げる。


神裂「我々が全力を出せるのも、それを支えてくれる者がいればこそ。現に、多くの魔術師によって全方位から
常に照準を合わせ続けられる事で、あなたは自然と死角からの攻撃を意識せざるを得ず、
本来なら数多とあるべき選択肢を狭められてはいませんか?」

キャーリサ「……かもしれない」
 
キャーリサ「確かに、味方の数が勝敗を決するという事も、軍事においては間違いではないのだが」

 
目だけをジロリと動かし、隙あらば聖人や騎士団長の攻撃を縫って遠距離攻撃を放とうとする魔術師達を睨みつける


キャーリサ「だが、だからこそ、そこに勝機があるとは考えなかったの?」

 
キャーリサから、これまでに無かった嗜虐性のようなものが広がっていく

直後、彼女は足元にあった残骸物質を恐るべき脚力で蹴り上げた

それは、神裂やアックア、騎士団長などに向けて放たれたものではない

倒れている清教派の傷を手当てするために後方で動いていた騎士派の集団を目掛けて放たれたのだ。
543 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:40:18.10 ID:ycMU23M0

凄まじい爆音と共に、複数の影が宙に飛ばされる

神裂の視線がそちらへ向いた一瞬の間に、キャーリサはさらにカーテナ=オリジナルを大きく振るう

生み出されるのは100メートル級の残骸物質

キャーリサはその端を爆発させ、その勢いを利用して巨大なプロペラの様にそれを回す

全てを引き裂く回転刃と化して壁のように群衆へ襲いかかる。


騎士団長「くそっ!!」


騎士団長は音速を超える速度でプロペラの前へ飛び出し、その回転刃を弾き飛ばそうとする

同時に真後ろから攻撃を受けた

それは、本来味方であるはずの清教派の魔術師が、傷だらけの体を無理に動かして必死で放ったものだった。


「あ……」


握り返れば、向こうも向こうで愕然とした顔をしている

敵意は無い、彼女も向かってくる残骸物質を止めようとしたに過ぎない

そして、バランスを失った騎士団長へと巨大な回転刃が襲いかかった。


騎士団長「ッ!?」
 

慌てて迎撃しようとする騎士団長だったが、衝撃を殺しきれずに体を弾かれ、止める事ができなかった回転刃は軌道を曲げ、
生き物のようにのたうち回り、それがさらに別の被害を増大させていく
544 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:41:59.93 ID:ycMU23M0

キャーリサ「どれほどの数が結集した集団であっても、その本質が個と個の繋がりである事に変わりはないし」

キャーリサ「ならば、個と個を切り裂くための隙は、どのよーな組織であっても必ず存在するの。
たとえ魔術的な思念や科学的な脳波を接続した所で、これは絶対に消える事はない」


キャーリサはさらに別の魔術師や騎士の集団に向かって残骸物質を投げつけた

味方を守るために神裂が七本のワイヤーを残骸物質に絡みつけ、七閃で残骸物質をバラバラにする


ドスッ!!


神裂「ゴフッ!!」


しかし、その隙だらけの彼女の腹部を目掛けてキャーリサの鋭い蹴りが入れられ、神裂の体は吹き飛んだ


キャーリサ「むしろ。数が増えれば増えた分だけ、切り裂く糸口も増すというものだぞ」


神裂に蹴りを入れたばかりのキャーリサが大勢を立て直す前に、アックアが間髪いれずに斬りかかる

だがキャーリサはそれを片手で受け止め、アスカロンとカーテナが、鍔ぜり合いの状態で拮抗する

もはや個の戦いの化してしまった上に、この英国内においては、神の右席としての力が回復していない
ただの聖人であるアックアよりも、限定的だが天使長としての力を行使できるキャーリサの方が圧倒的に強い

何度かの斬撃を交わした後、アックアの脇に浅い一撃が入れられ、そこに一瞬の隙が生まれる

その隙を逃さずに、キャーリサは浅く蹴りつけた所を思い切り蹴り飛ばした


アックア「ッ…!!」

545 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:44:32.90 ID:ycMU23M0

後方に飛ばされるが、ズザザッ!と地面を足で強く噛み、深く削られると共に何とか体勢を維持した


アックア「ぐッ……」


アックアの表情は依然として殺気に満ちており、戦意は少しも失われていないが、苦悶を抑える代わりに嫌な汗が浮かんでいる


キャーリサ「数千だろーが数万だろーが、集まった所で揺らぎはしないの」


軍事に優れた第二王女は、集団を相手にした戦い方を知っている

そして、劣勢の状況から好転させるすべも心得ている

サーシャが上空から氷の剣を両手で構え、背後から矢の様にキャーリサに向かって滑空するが、
キャーリサは振り向く事無く、体を少し動かすだけでそれを避けた

そして攻撃を当てる事ができなかったサーシャの腕を片手で掴み、宮殿の壁に目がけて放り投げた


サーシャ「がッ…!!!」(ドガン!!)


サーシャが直撃した壁は、まるで爆弾でも爆発したかの様な衝撃音とともに崩れ、サーシャの体はその壁に軽く埋もれてしまった

壁にめり込んだ状態から脱出して体制を立て直す、などと考えている暇は無かった

もう次の瞬間にはキャーリサが目の前に立っていた

そして、キャーリサはガシッ!とサーシャの首を乱暴に掴み、壁から無理矢理サーシャの体を引き剥がし、サーシャの体を宙に掲げた
546 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:46:49.90 ID:ycMU23M0

キャーリサ「判断を誤った。やはりキサマはあの時殺しておくべきだったな」


キャーリサは三日月の様に口の両端を釣り上げ、ぞわりと悪寒が走る様な残虐な笑みを浮かべる


サーシャ「第一の解答ですが、私はあの時殺さなくてよかったと思います……」


サーシャはあの時、一矢報いた時と同じように、勝ち誇った笑みを浮かべた

キャーリサの顔はさらに醜く歪んだ笑顔に変り、サーシャの首を握る手に力を込めた


キャーリサ「だが今度は迷わない。キサマの首の骨を折り、そのままちぎってやる」


ギリッ!!


サーシャ「うぐッ…!!」


喉が潰され、息ができなくなる

背中の翼がバラバラに崩れ、無数の氷の塊が地面に落ちる

抵抗する力ももはや残されてはいない

視界がかすみ、意識が遠のいていく……



ドゴッ!!!

キャーリサ「!?」
547 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:49:12.91 ID:ycMU23M0

深い深い常闇の底へと沈んで行きそうになった意識を再び覚ましたのは、突然に響いてきた轟音

そして自分の体が一度だけ振り回されると、そのままキャーリサの手から解放され、地面に乱暴に投げ捨てられた


キャーリサ「よーやく顔を出したの、元凶たる母上よ!!」


轟音の正体は、キャーリサのオリジナルと剣を交差させた時に生まれた衝撃音

女王エリザードの手に握られたカーテナ・セカンドから放たれたものだった


ギリギリと音を立てて互いに押し合うキャーリサのオリジナルとエリザードのセカンド

交差する二つのカーテナを挟んで睨みあう二人


エリザード「好きにやるのは構わんが、やるならば徹底的に、そう、私以上の良策を提示してもらわなければな。
どうやら私以下の展開になりそうだったので止めに来たぞ、という訳だ」

キャーリサ「ほざくな元凶、そーまでして玉座が惜しいのか!!」


カーテナの力は8割がオリジナルの方に移っている

力の差は歴然。同じ材質とは思えない程に、キャーリサのオリジナルがセカンドの刀身に食い込み、
そのままセカンド共にエリザードの体ごと両断しようと迫ってくる


キャーリサ「……どれだけお膳立てをして、組織と組織がぶつかった所で、最後はカーテナ同士の激突となるか。
難しく考えてきたのが馬鹿らしくなるよーな展開だし」


傷一つないオリジナルを手に、キャーリサは自嘲するように笑った
548VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:50:47.89 ID:ycMU23M0

キャーリサ「だが、カーテナ同士の戦いとなれば、それこそ私に負けはありえないし。八割以上の力を集めた私のオリジナルと、
二割に満たない母上のセカンド。同種の力を取り扱ってる以上、単純に量の差が勝負を決するぐらい分からなかったの?」


対して、エリザードは軽く笑う


エリザード「……意外と小さい女だな、我が娘よ」

キャーリサ「なに?」

エリザード「愚劣な王政の責任を取り、そしてイギリスの国民を守るため暴君と化してヨーロッパ中の敵国を丸ごと粉砕し、
その後は政治の舵取りを民衆に明け渡す。何やらスケールの大きな話だが、その端々にお前の小心が見え隠れしている事には気づいているか?」

キャーリサ「ッ……、」

エリザード「本当にこの国を変えたいか。政治を形作る巨大な柱をへし折ってでも、民を守りたいと願うのか。
それなら既存のシステムになど頼るんじゃない。やるならせめてこれぐらいやってみろ」
 

そう言うと、女王は一度大きくカーテナ・セカンドを後ろに振り、キャーリサ目がけて思い切り投げつけた。

慌ててキャーリサはそれを弾き飛ばすが、そこでふと気づく。

弾かれたカーテナ・セカンドが突然消えてしまったのだ
549 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:53:25.84 ID:ycMU23M0

キャーリサ「何を……考えてるの?」

エリザード「変革だよ」


武器を失ったというのに、女王の絶対の自信を伴った表情は失われていない


キャーリサ「今までにない事、というのはここまでのレベルで初めて成立する。粋など取り払え。
停滞するセオリーを覆そうとする者が、そのセオリーにすがるんじゃない。史上初の行動を見て驚いている時点で、
お前はまだまだこの国の太い柱に縛られているぞ」


単なるパフォーマンスだと思った

ならばこちらも暴君ならではのパフォーマンスとして、最も残虐で見る者に恐怖を与える様な殺し方をしてやろうと
キャーリサはオリジナルを構える

しかし、そこで彼女は気づいた

気付くのが遅すぎた


キャーリサ「これは……まさか……」

 
カーテナ・オリジナルの調子がおかしい

見た目では分からないが、実際にそれを握るキャーリサは確かな違和感を感じていた


エリザード「だから言っただろう。これが変革というものだと」

 
バサリ、という空気を布で叩くような音が聞こえた

いつの間にか、エリザードの手には大きな布いや、旗があった。
550 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 19:56:28.95 ID:ycMU23M0

表には現在のイギリスの国旗、裏には白と緑を基調にした、かつてウェールズの国旗として使われていたものだ。

エリザード「英国の国旗はイングランド、アイルランド、スコットランドのものを併合したデザインを採用している。
ウェールズについては、国旗制定の前に当時のイングランドが吸収してしまっていたからな。彼らの文化に敬意を表し、
こうして表と裏を合わせて一枚の旗とした訳だ。……まぁ、大英博物館までこいつを回収しに行くのは骨だったが」

 
イングランド、スコットランド、ウェールズ、北部アイルランド。

英国を構成する四文化の象徴
 
そして、カーテナの操る力の基盤となるもの


エリザード「もちろんこれがあれば誰でもできるものではないが……私の抹殺を最優先しなかったのは間違いだったな。
英国王室専用に設定された国家レベルの魔術の中には、こんなものも含まれているんだよ」


エリザードは一枚の旗を大きく振るい、夜空へ広げた。


エリザード「ユニオンジャック(連合の意義)」

 
女王は術式の名を呟いてから、一度だけゆっくりと息を吸い込んだ。


「命じる」


そして、大きな声を張り上げる


エリザード「カーテナに宿り、四文化から構築される”全英大陸”を利用して集められる莫大な力よ! 
その全てを解放し、今一度イギリス国民の全員へ平等に再分配せよ!!」
551 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 20:00:09.82 ID:ycMU23M0

ユニオン・ジャック(連合の意義)

王室の人間だけが使える国家クラスの大規模魔術

それは発動と共に、カーテナに宿る莫大な力がイギリスの全ての国民に平等に分け与えられるものである


「詳しい理屈は明かせんが、今宵この一夜に限り、お前達は平等にヒーローになれる。その目で見てきた、
法則も分からない不可思議な現象そのものと戦える人間だ!今のお前達なら何でもできる!!
 その上で、お前達には選んでほしい。誰のために、誰と共に戦うかは、お前達のその頭で判断しろ!!」


そもそも王とは何か?なぜ王や騎士だけにカーテナの力が分け与えられるのか?

それは、彼らが単に国の代表として中心に立っているだけに過ぎない

彼らが国の意思決定機関の役割を担っているだけなのだ

だが、本当にそんなものは必要なのか?それだけで国の意志というものは決められてしまうのだろうか?


「私に協力したい者には感謝をする!クーデターに協力する者がいても一向に構わん! 
また、全く違う第三の道を提示してくれても問題はない!!力があるからと言って、無理に戦う必要もない!!
迷惑だと感じた者は”返す”と念じれば良い、自分よりも信用できる者がいると判断した場合は”渡す”と念じればそれで済む!!
今この時だけ、それは正真正銘、お前達の力だ、戦うか、逃げるか。それすらもお前達が自由に判断しろ!!」


女王は問う

国民一人一人の小さな意志を

所詮自分一人のちっぽけな力など意味が無いと諦めている国民の意志を
552 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/11(土) 20:05:56.27 ID:ycMU23M0

「誰かが言っていたから、それが正しいと教えられたから、そんな風に踊らされるな! 私自身の言葉すら否定しろ!!
あらゆる情報に主観の優先順位をつけずに一度整理して、全てを自分の頭で考えた上で、最後に残った正義と勇気と度胸にただ従え!!」


誰かに従うのではない

大きな力とその決定だけで国が動くのではない

お偉い役人や政治家、偉そうにふんぞり返る有識者の権威に惑わされてはいけない

この国に生きる者達一人一人に意志を問う

お前はどう考えているのかと

力を与えられた今、お前はこの国のために何ができるのかと


エリザード「……いい加減に、お偉い人間に好き勝手やられて振り回されっ放しなのも飽きただろう?」

 
それは、ちっぽけな一票
 
しかし確実に一つの国家を左右するであろう“力“を手にした者達に、英国女王エリザードはこう叫ぶ




「さあ、群雄割拠たる国民総選挙の始まりだ!!!」




ある意味では、カーテナの力は本来あるべきところに戻ったのかもしれない

本当に国を動かすべき者は王でも政治家でもない、国民一人一人の”意志”なのだから


5621 [sage]:2010/09/14(火) 19:17:05.47 ID:cuKdJHw0
やばい、途中で書き込みしてしまいました。ちょいと小ネタを投稿します


【華麗なる英国王室】

サーシャ「第一の解答ですが、みなさんお元気ですか?」

サーシャ「本日は、英国王室の王女様達にインタビューをしてみたいと思います」

※ここでの設定はあくまでも作者のオリジナルであり、原作設定とは関係まりません


では第一の質問ですが、簡単なプロフィールをお願いします

リメエア「長女のリメエア。年齢は30代前半。得意分野は政治的駆け引き。信頼できる仲間はペット兼毒見係の犬よ。
こういう世界にいると、常に暗殺や裏切りの危険があるから、私は私の素情を知る人間を信用したりはしないわ」

権力争いというのは大変なものですね。では次、さっさと始めて下さい

キャーリサ「何か私の扱いが酷いし」

そんな事ありませんよ?

キャーリサ「第二王女のキャーリサ。得意分野は軍事。趣味は射撃に剣術、アーチェリー、乗馬、キツネ狩り、あとサッカーも好きだし。
もしも私が男に生まれていたら、アーセナルで活躍してワールドカップにも代表として出ていただろーな。ちなみに年齢は2×歳だ」

年齢の部分がよく聞こえなかったのでもう一度お願いします

キャーリサ「聞こえたし。ちゃんと聞こえたし!」

リメエア「堂々と20代ギリギリって言いなさいよ。意外と小心者ね」

キャーリサ「うるさいし!20代は20代だし!」

では次にヴィリアン様、お願いします

ヴィリアン「は、はい!あ、えーっと、第三王女のヴィリアンです。年齢は24。趣味は音楽鑑賞とか、劇場鑑賞です。
音楽は自分でも実際に弾いたりするのが好きで、ピアノやバイオリンなどを嗜んでいます。あと、美術館によく足を運ぶ事もありますね」

サーシャ「なるほど、いかにも典型的なお嬢様って感じですね。ちなみに再び警告しますが、この趣味は作者の妄想ですので
原作設定とは関係ありません」


5631 [sage]:2010/09/14(火) 19:18:51.65 ID:cuKdJHw0

ヴィリアン「でも一番好きなのは、使用人や庭師の方達とお話する事です。みんなとても優しくしてくれて、
辛い時も女王という立場を気にせずに慰めて下さったりして、本当に素敵な人達だと思います。
ちなみにお恥ずかしい話ですが、お姉様方の様な特技は私にはありません……」

キャーリサ(あれって絶対に演技だし。私はお姉様みたいに自分の特技をひけらかしたりしませんのよオホホホ♪
みたいな感じで好感度アップを狙ってるし)ヒソヒソ

リメエア(まったく、なんて腹黒いのかしら。ヴィリアンはシンデレラで、差し詰め私達はいじわるな継母って
イメージでも植え付けるつもりね。これだから王室の人間は信用できないのよ)ヒソヒソ

ヴィリアン「そんなんじゃありません!!」


では次に第二の質問ですが、最も好きな、または尊敬しているイギリスの首相を教えて下さい

キャーリサ「何でそんなマニアックな事を聞くんだ。もっと親近感の湧くよーな質問は無いの?」

第一の解答ですが、うるさい黙れ

キャーリサ「テメェ!!表出やがれ!もう一度ガチンコ対決s」

リメエア「落ち着きなさキャーリサ。喧嘩っ早いのはあなたの悪い癖よ」

リメエア「尊敬する首相ねぇ……強いて上げるとすれば、ヴィクトリア女王の治世を支えたグラッドストンとディズレーリが上げられるけど、
私は特にディズレーリが好きね。彼の政治手腕は英国の歴史において特別ずば抜けていると言っても過言ではないわ。
ちなみに彼は様々な名言を残しているから、興味があったら調べてみる事をお勧めするわ」
5641 [sage]:2010/09/14(火) 19:20:39.54 ID:cuKdJHw0

ありがとうございますリメエア様。次、さっさとしろ

キャーリサ「……もーいいや。定番だが、私はチャーチルとサッチャーが好きだな。チャーチルは第二次世界大戦を戦い抜いた
英雄的存在の首相で、今でも国民的人気が高い。サッチャーもフォークランド戦争に勝利した首相だ。
男顔負けの気の強さと冷徹さから“鉄の女”とも呼ばれていたの。鉄の女……まさしくこのキャーリサに相応しいとは思わないか?」

ケツの女?そう言えば、18巻p122の9行目でそんな事言ってましたね

リメエア「あなたの場合は“脳筋女”の方が相応しいんじゃない?」

キャーリサ「いい加減私の扱いのひどさに泣きそーなんだけど……」

では次はヴィリアン様、お願いします

ヴィリアン「はい、私はクレメント・アトリー首相を尊敬しています。アトリー首相は戦後のイギリスを立て直すために、
NHSをはじめとする様々な福祉政策や住宅政策、国有化政策に力を入れ、復興のための基盤を作り上げた偉大な首相なんです」

ありがとうございました。なんとなくイギリスの王女様達の性格が分かる様な気がしますね

キャーリサ「つーか、好きな食べ物とか好きな紅茶とかそーいう質問は無いわけ?」

第二の解答ですが、紅茶の話はマニアック過ぎますし、イギリスの食べ物は不味いから参考になりません

キャーリサ「貴様は今9000万人のイギリス国民を敵に回したな。つーか首相の方がマニアックな質問だろーが」

第三の解答ですが、国を敵に回す事には慣れてますから

リメエア「苦労してるのね」
565 :1 [sage]:2010/09/14(火) 19:22:27.45 ID:cuKdJHw0

では第三の質問ですが、今最も気になっている男性、またはぶっちゃけ付き合っていますとかまあそんな感じの話をお願いします

リメエア「それは流石に明言できないわね。スキャンダルに発展しそうだし。
まあとりあえず、宮殿内には居ないとだけ言っておきましょうか」

キャーリサ「そんな男は居ない。つーか私は私より弱い男に興味が無いの」

ヴィリアン「わ、私は…その……/////」

キャーリサ「ん?ああ、あのムッツリ男か」

ヴィリアン「た、確かにちょっと寡黙で無愛想なゴロツキですけど、ムッツリとかそんな人じゃありません!」

キャーリサ「はッ!どーだか」

第四の解答ですが、たぶんキャーリサの推測は間違ってるでしょう

キャーリサ「おい、どうして姉上と妹には“様”を付けて、私だけ呼び捨てなんだ」

言わせないでください恥ずかしい/////

キャーリサ「ちょっ!いい加減にしろよお前!////」

リメエア「へぇ……呼び捨てする様な関係ってこと(ニヤニヤ)」

ヴィリアン「スキャンダルですねお姉様」

第五の解答ですが、乱暴にあんなことやこんなことをされちゃいました////

リメエア「第二王女が少女に性的虐待……明日の三面記事は決まりね。週刊誌にある事無い事書かれるんだわきっと」

ヴィリアン「見そこないましたわお姉様……」
566 :1 [sage]:2010/09/14(火) 19:24:04.77 ID:cuKdJHw0

キャーリサ「………」ポチッ

無線機(あん…////)

キャーリサ「駆逐艦ウィンブルドンに告ぐ、ウィンザー城に向けてバンカークラスターを発射しろ!!全部だ全部!!」

騎士団長「何してんだこの馬鹿王女!!早まってはなりません!!」

キャーリサ「いいや限界だッ!撃つねッ!!」

騎士団長「やめてください!」ガシッ

キャーリサ「ええい!止めてくれるな騎士団長!」ジタバタジタバタダバダバ

騎士団長「誰かッ!キャーリサ様の尻をッ!その辺に落ちてるカーテナでキャーリサ様の尻をぶっ叩いてください!」

エリザード「落ちつけバカ娘」ブスリ!

キャーリサ「アッー!」バタッ…ビクンビクン…



サーシャ「……大変見苦しい光景で申し訳ありませんが、何か滅茶苦茶になってしまったのでここで終わらせていただきます」
5671 [sage]:2010/09/14(火) 19:25:25.78 ID:cuKdJHw0

ヴィリアン「ところで、例の話の続きですが」

サーシャ「第一の解答ですが、ムッツリについてですね。それなら…」ゴソゴソ


騎士団長×アックア

Kazari『この話は全てノンフィクションかもしれませんよ』

ヴィリアン「………」

ヴィリアン「騎士団長、ちょっと良いですか?」

騎士団長「は、はい。なんでしょうか」ビクビク

ヴィリアン「そう言えば、“罰には応じます。このクーデターが終わったら、私の首は切断してもらっても結構”とおっしゃってましたね?」

騎士団長「ええっ!?ですが、ヴィリアン様だって“喜ぶような事をして償え”とおっしゃったじゃないですか!」

ヴィリアン「ええ、ですから、私が喜ぶ様な事をして償っていただきましょうか?」

騎士団長「ちょっ」

ヴィリアン「お別れです。最期に一つだけ、約束しましょう。斬り落とした後の首の取り扱いについてはお任せ下さい。
筋肉や皮膚に手を加え、生前と同じく……いえ、生前より凛々しいお顔になる様に演出させていただきます」

騎士団長「助けて下さい女王様!」

エリザード「やべっ!カナミン再放送の時間だ!」

騎士団長「リメエア様!」

リメエア「そろそろペットの餌もとい毒見の時間だったわね」

騎士団長「キャーリサ様ッ!ちくしょう!悶絶してんじゃねえよバカ!」

騎士団長「そこの少女!!」

サーシャ「wktk」
5681 [sage]:2010/09/14(火) 19:27:10.96 ID:cuKdJHw0
騎士団長「使用人!庭師!誰かぁッ!!」




ガシャン!!




エリザード「戻ったか…」

リメエア「戻ったか!」

キャーリサ「……」へんじがない、ただのしかばねのようだ

ヴィリアン「戻ったかッ!」



「「「ウィリアム・オルウェル!!」」」




アックア「ご無事ですか。王の国の騎士団長」

「……遅いん…だよ……」




騎士団長「遅いんだよ!この傭兵崩れのゴロツキがぁ!!」









初春「って感じの内容です」

黒子「……なんですの?これ?」

初春「騎士団長×アックア2『その涙の理由を変える者』です」

黒子「ダメですのコイツ…はやく“ジャッジメントですの“しないと…」


5691 [sage]:2010/09/14(火) 19:29:23.90 ID:cuKdJHw0
小ネタ「騎士団長×アックア」終わりです。いや、この場合はアックア×騎士団長でしょうか?

それでは続いて本編の方を投下します
5701 [sage]:2010/09/14(火) 19:34:28.36 ID:cuKdJHw0

10月31日はハロウィンの日である

ケルト人の1年の終りは10月31日で、この夜は死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていた

それが様々な経緯と時代を経て一種のお祭りへと変化し、この日はオレンジ色の特大カボチャを切りぬいて
不気味な表情に形作られたジャックランタンを家の前に飾ったり、子供達が魔女やドラキュラなどの民間伝承に
出てくる様な妖怪の仮装をし、一件一件家を回ってお菓子を要求するという様な事が行われている

そしてこのクーデターの起きた日は、英国の人々がみんな、なぜだか摩訶不思議な力を使える様になったのだ


後にこの不可思議な現象が起きたクーデターを、英国の人々は“ブリテン・ザ・ハロウィン”と呼ぶようになった


ある所では、街を徘徊する軍人に怯え、映画館の一室に籠っていた少年が、そしてその両親が

またある所では大型ホテルに軟禁されていた多くの人々が、そして、その多くの人々を輸送した軍人が

老人も、ただのサラリーマンも主婦も学生も、おおよそ魔術とは縁の無い生活を送っていた人々が立ち上がった


彼らは“戦う”という選択肢を選んだのだ


この国のために、そして一人の女を助けるために


そして魔術に携わる者達も…
5711 [sage]:2010/09/14(火) 19:35:57.85 ID:cuKdJHw0

ベイロープ「……」

レッサー「起きてますか?ベイロープ」

ベイロープ「……」

レッサー「生理痛ですか?」

ベイロープ「[ピーーー]つもりでぶん殴るけどいいかしら?」

レッサー「起きてるなら返事してくださいよ」

ベイロープ「ちょっと考え事をしてたのよ」

レッサー「奇遇ですね。私はちょうどその事で相談しようとしてたとこです」

レッサー「アーアーこちらレッサー。通信用術式の調子はどうですか?ランシスとフロなんとか」

ランシス「キコエルヨ」

フロリス「レッサー、後でアレな」

ベイロープ「協力するよフロリス」

レッサー「嫌です!あんな事されたらお嫁にいけなくなっちゃいますよ!!」

ベイロープ「さて、何かやたら強力なテレズマが身に宿ったわけだけど」

レッサー「やだやだー!!もうアレは嫌なのーッ!!」

ベイロープ「うるさい」(ゴチン!)

レッサー「オウフ」
572 :1 [saga]:2010/09/14(火) 19:37:42.82 ID:cuKdJHw0

フロリス「カーテナの力が何らかの原因で、騎士派だけじゃなくて一般人にも分配されたってとこかな?」

ベイロープ「そう考えるのが妥当でしょうね」

レッサー「それで、どうするんですか?」

ベイロープ「どうするって言っても、ねえ……」

フロリス「……なあ、私さっき、つーか数時間前にサーシャに会ったんだよ」

ベイロープ「ほんとに!?」

フロリス「そう、本当に。第二王女とガチンコ勝負したみたいでさ、見るに堪えないくらいにボロボロになってた」

レッサー「チャレンジ精神どころか自殺行為ですよそりゃ」

ベイロープ「待てフロリス、数時間前に会ったって事は…」

フロリス「ああ、ボロボロの状態でまたキャーリサと戦いに行った」

ベイロープ「何で止めなかったのよバカ!!」

レッサー「落ち着いてくださいベイロープ!」

フロリス「……レッサー、ランシス、ベイロープ。私はサーシャに、何でそんなにボロボロになってまで戦うんだ?
って聞いたのよ。そしたら何て言ったと思う?」

ベイロープ「……」


フロリス「”理由は後で考えます”だってよ」



573 :1 [saga]:2010/09/14(火) 19:42:20.61 ID:cuKdJHw0

レッサー「……それで止めなかったんですか?おかしいですよフロリスもサーシャも」

フロリス「でもさ、良いんじゃないのか?それで」

フロリス「確かに、私らはクーデターに協力した身だ。でも、もう良いんじゃないのか?」

レッサー「フロリス……」

ベイロープ「……やれやれ。まあ確かにクーデターの共謀者が何を今さらって感じだろうけど……」

ベイロープ「一番イギリスのためになる事をするのが私達の流儀なのよね。だったら、恥も外聞も無く動くしかないか……」

フロリス「もはや、サーシャの事をどうこう言える立場でもないな」

レッサー「結局、ここで真剣に話し合ってた時間すら無駄だったって事になりますね」

フロリス「そう言う事だ。じゃ、無駄話もこの辺でお開きということで……」


四人はガシッ!と同じタイミングで武器握った


レッサー「私らも戦いましょう!この国のために、そして第二王女のために!」

ランシス(セリフ無かった…)


彼女達も“戦う”という選択をした

574 :1 [saga]:2010/09/14(火) 19:44:59.17 ID:cuKdJHw0

そしてここバッキンガム宮殿でも、何の力も持たなかった使用人や庭師達が第三王女のヴィリアンを取り囲んでおり、
みな我先にとヴィリアンを気遣う様に声をかけた

本当はすぐにでもヴィリアンの元へ駆け付けたかったのだが、彼らはみな自分には力が無いという自覚しており、
戦場に足を踏み入れる事すら躊躇っていた

しかし、今の彼らには力がある。ヴィリアンを守り、ヴィリアンと共に戦うだけの力があるのだ


彼らは敬愛するヴィリアンのために“戦う”という選択をした


キャーリサの様に軍事に優れているわけでもない、騎士派がキャーリサから離反する様に仕向けたリメエアの様な駆け引きや
根回しができるわけでもない


そんなヴィリアンが見せた人徳の力

しかし、彼女は自分の人徳を誇らない

彼女の人徳によって、勇気を振り絞ってここに駆け付けてくれた者達こそ彼女が誇るべき宝物なのだ


感極まったヴィリアンは、溢れそうになる涙を堪え、埃まみれの手で拭った


ヴィリアン「……それなら、私も自分のために使わせていただきましょう」


ヴィリアンはそう言うと、改めてボウガンを握る両手に力を込める

この者達と共に行く未来を守るために、と心の中で付け加えながら
575 :1 [saga]:2010/09/14(火) 19:48:09.27 ID:cuKdJHw0

エリザード「ガキの悪戯はもうおしまいだ。今から私が本物の国政を見せてやる」

キャーリサ「ふざけるな!!お前がやってるのは、何の力もない国民に武器を与えて戦場に送り出し、
自分だけは安全な玉座の上で享楽に耽溺するよーな事だし!!身に余る力を押し付けるだけ押し付けておいて、
守るべき国民を盾にしてでも己の利権が惜しーのか!?」

エリザード「……そういう風に考える事こそが、王の傲慢と何故気がつかない?」
 
エリザード「普通の民にはカーテナの力を扱えぬなどと、誰が決めた? カーテナを持つ新女王だけが英国を収め続けなければ
国家が崩壊するなどと、誰が決めた? カーテナによって戦争に勝利する、国家の暴走を民衆の考えで止められるようにする。
確かに都合は良いが、結局お前はカーテナの莫大な戦力を唯一存分に使える特権階級……国家元首という呪縛に囚われたままだ。
その程度の小さな変化など、歪みしか生まん。本当に捻じ曲げるほどの変革を求めるならば、自分の立ち位置の行方など恐れるな!」

キャーリサ「なん、だと……ッ!!」

エリザード「ガキのくだらん自殺願望に説教をしてやると、一人の母親が言っているだけだ。後は……そうだな。
お前があっさり絶望したほど、この国は安くはない。9000万人もの民が、ヒーローとなる決意をしてまで
お前を助けようと思ってくれている事を今から知ると良い!!」


その言葉を皮切りに、力を手に入れた多くの民間人がキャーリサに向かって突撃していった


“一つの力に囚われて、もっと大きな力に気付いていない”


キャーリサふと、サーシャの言葉を思い出した

サーシャ自身はこの様な展開を予想して言ったわけではない

しかし、サーシャは知っている。誰かのために戦う人間の強さを

そして今、9000万人のイギリスの民がキャーリサのために戦っているのだ
576 :1 [saga]:2010/09/14(火) 19:52:43.08 ID:cuKdJHw0

キャーリサ「ほざけ!!このっ、程度で……カーテナ・オリジナルが揺らぐと思うな! 現に今も、我がカーテナには……
地下鉄での暴走である程度の力を失ったとはいえ、残された総量の八割強の力を維持し続けてるの!!」

エリザード「確かに。だが一瞬でも集中が途切れれば、即座にその力は9000万人もの手によって、丸ごと削ぎ落とされるぞ。
内の制御に躍起になって、外からの攻撃をおろそかにせんようにな」

キャーリサ「くッ!!それが狙いか、この策士め!!」


時間と共に次々と増援がやってくる

それは学生であり、スーツ姿のサラリーマンであったりとまるで朝の通勤ラッシュの光景がそのまま戦場に反映されている様だ

直接的な増援だけではない。距離的に現地に赴く事ができないと判断した者達が、遠くから光弾を放ってくる


キャーリサ「いわば巨大神殿の中で執り行われる最大級に精密な儀式魔術の途中に、義勇軍の大部隊が突っ込んできたようなものだ。
力の制御を失えば失った分だけ、こちらの軍が増強される事も忘れるなよ?」

577 :1 [saga]:2010/09/14(火) 19:53:50.83 ID:cuKdJHw0
訂正します


キャーリサ「いわば巨大神殿の中で執り行われる最大級に精密な儀式魔術の途中に、義勇軍の大部隊が突っ込んできたようなものだ。
力の制御を失えば失った分だけ、こちらの軍が増強される事も忘れるなよ?」



エリザード「いわば巨大神殿の中で執り行われる最大級に精密な儀式魔術の途中に、義勇軍の大部隊が突っ込んできたようなものだ。
力の制御を失えば失った分だけ、こちらの軍が増強される事も忘れるなよ?」
578 :1 [saga]:2010/09/14(火) 19:55:42.33 ID:cuKdJHw0
キャーリサ「まやかしだっ!!どれだけ人口が増えた所で、総量ならば二割弱!
変わらず八割を掌握するこの私を倒す事などできないはずだし!!」


キャーリサの言う通り、確かにこれだけの増援が集まってもキャーリサの方が有利なのは事実である

それに、いくら力を手にしたとは言え、彼らは民間人であり力を制御する方法を知らない

だが、そんな問題は些細なものである


エリザード「そうか。ならば民だけには任せられん。なに、私も元々玉座よりは現場向きでな。
正直、純粋に手合わせする楽しみも感じてはいるんだ」


そう言うと、エリザードはキャーリサに鋭い拳を振るった

その一撃を腕で庇う様にして慌ててガードする


キャーリサ「ッ!!お前、その力……ッ!?セカンドは自ら捨てただろーが!!」

エリザード「阿呆が、女王とてイギリス国民の一人、清き一票を投じる権利ぐらいは持っているぞ。
もはや生身の拳しか振るえぬ身だが、僭越ながら花の舞台の最前線に立たせてもらおうか!!」
 

気が付くと、いつの間にか倒れていた清教派の魔術師も、騎士派の連中も、みんな民間人と一緒に戦線に加わっていた

神裂やアックア、騎士団長、エリザードを中心にまるでいくつかの部隊が形成され、キャーリサに総攻撃を仕掛けている
579 :1 [saga]:2010/09/14(火) 19:57:38.33 ID:cuKdJHw0

そして、上条当麻もサーシャもインデックスこの戦いを目にしていた。


負傷した騎士から武器を受け取ったメイドが巨大な剣を大きく振り回し、回転刃のように襲いかかる巨大な残骸物質に対し、
数十人もの警察官が同時に飛び蹴りを放って逆に弾き返す。
カーテナの力を身の内で制御しようと躍起になるキャーリサには『軍事』の才としての頭の切れはなく、
ただがむしゃらに剣を振るう内にどんどん追い詰められていく。


もちろん、本職の魔術師も負けてはいない。


アニェーゼ「ヒャッハー!作戦なんか気にしねぇで突撃突撃ィ!!」


アニェーゼ部隊のシスター達が、一つの集団となって武器を振るう


シェリー「エリス!!」


辺り一面の物体を取り込んだ巨大なゴーレムが残骸物質の攻撃を受け止める


ステイル「やれやれ、これはまた派手にやらかしたもんだね」


深夜の大空を軍の輸送機が通り過ぎたと思ったら、大量のルーンのカードがばら撒かれ、炎の巨人が坐み出される。




そして、それぞれの感想を抱いていた

これだけの事態にも関わらず、国民はけして“魔術”というものの存在を認識するという事は無い。きっと、
みんな秘めた力が解放されたとか、宇宙からの神秘のパワーだとか、包帯を巻いた右腕がとかそんなオカルト的な見解を持って
それぞれ勝手に自分自身を納得させてしまうのだろう。

インデックスは、それを可能にするエリザードの魔術の力量に驚いていた
580 :1 [saga]:2010/09/14(火) 19:59:59.39 ID:cuKdJHw0

上条とサーシャの感想はだいたい似ている

ユニオンジャックの力でもなく、エリザードの逆転劇でも無く、イギリスの国民全員が全員ヒーローになって戦っているという事に驚いていた

けしてその力を悪用する事はなく、このクーデターを止めるために、キャーリサを助けるために

そして何よりこの国のためにこんなにも沢山の人間が意志を持って立ち上がれるという事に驚嘆していた



キャーリサも本当は知っていたのかもしれない

彼らの内にある意志を

この国のために立ち上がれる勇気を、そして自分のために戦ってくれる優しさを

だからこそ、彼らをローマ正教の魔の手から守ろうとした

だが、守ろうとする過程で、彼女は軍事に走り過ぎたのだ

誰にも頼る事無く、自らの苦悩を他者に打ち明ける事も無く…


彼女は優し過ぎたのかもしれない。だから、誰にも自分の苦しみを共有させる事を許さず、守るべき民が傷付く事も良しとせず、
一人で苦しみを背負い、そして自分を犠牲にして全てを守ろうとした。


(こんなふざけた負の連鎖から、必ずあいつを引きずり上げよう)


上条は拳を強く握り、戦乱の渦中へと駆け出して行った
581 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:02:03.75 ID:cuKdJHw0

ちょうどその時


C T O O C U (カーテナの軌道を上に!)

S A A (斬撃を停止)

R T S T (余剰分の『天使の力』を再分配せよ)


その声が聞こえてきた瞬間、まるでマリオネットの様にキャーリサの腕が不自然な形で上空に釣り上げられ、
彼女の握るカーテナ・オリジナルが天に高く掲げられた

インデックスの強制詠唱(スペルインターセプト)

どうやら、ついにカーテナ・オリジナルへの術式介入に成功したようである


キャーリサ「く……っ!?」

 
キャーリサは歯噛みし、慌てて剣の制御を取り戻そうとする

おそらく硬直時間は数秒とない

上条は改めて右手を握り締めたが、ここからでは間に合わない


だから、上条は素直に自軍へ協力を求めた

この最高の一夜へと、本当の意味で全力を注いで参加するために
582 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:03:54.37 ID:cuKdJHw0

上条「アックア!!」


叫ぶと、アックアはこちらを振り向き応じた

上条が地面を蹴って数十センチ程度の高さに跳ぶと、地面との隙間を潜るように、アックアの大剣アスカロンが差し込まれる。
上条はサーフボードのように巨大な剣の側面に足の裏をつけて着地する。

打合せも何もない100%アドリブだ
だが、言わなくてもやるべき事は分かっていた。

もはや言葉は必要はない

ただ一つ、その覚悟だけを右手に…


アックア「おおおおおッ!!」


横に振り回すような軌道でアスカロンを思い切り薙ぐ

風を斬り裂き、空気さえも破いてしまいそうなほどの爆音が鳴り響く

上条当麻の体が、アックアの膂力を借りて砲弾のように射出されたのだ


キャーリサ「なッ……!!?」


キャーリサは絶句した

未だカーテナの制御を取り戻せないうちに、まるで弾丸の様なスピードで、多くの人々の間をくぐり抜けてこちらへ一直線に飛んでくる
上条当麻を見て…


上条(誇りに思えよキャーリサ。お前には、これだけの味方が居るんだ。お前一人で何もかも背負う必要なんか無いんだ。
怯える事なんて何一つ無いんだよ。)



上条「だから終わらせてやる、お前が囚われてる幻想をここでッ!!!」


583 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:05:54.01 ID:cuKdJHw0

着弾まで、0・1秒あったか否か。
 
しかしその一瞬の間に、第二王女キャーリサは確かに見た。

強く強く拳を握る上条当麻の顔は、力強く笑っていた事を。


バギン!!


ノーバウンドで30メートル以上もの距離を突き進んだ上条の拳は、真っ直ぐにカーテナー・オリジナルへと直撃し、
カーテナは粉々に砕かれた


ドゴン!!


キャーリサ「ぐッ…!!!」


勢いは止まらずに、カーテナを砕いた右手はそのままキャーリサの顔面も打ち抜いた


夜空へ高く飛ばされるキャーリサ

彼女の体は一度バッキンガム宮殿の屋根にぶち当たり、バウンドし、宮殿を超えて反対側の路上にまで吹っ飛んで行った


上条の手首と肘と肩の三点で、同時に骨が外れるような嫌な音が聞こえた

彼が苦痛を感じ表情を歪めるより前に、彼の体は10メートル以上前進してようやく地面に着地した。
だが当然ながら二本の足で立ち止まる事などできる訳もなく、ほとんど転がるような格好で、さらに二回、三回とバウンドしていく。


上条(終わっ……た、か……?)


キンッ!と甲高い音と共に、半ばから折れたカーテナの先端が地面に突き刺さるのを見た。
そして、その残骸は銀色の粉末と化し、風に舞って夜空へと消えて行った。



カーテナ・オリジナルは失われた

それはキャーリサの敗北と、このクーデターの終わりを意味していた
584 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:09:03.60 ID:cuKdJHw0

長い夜が明けた

いや、案外短かった様な気もする



サーシャ「どうやら…終わったみたいですね……」


クーデターの終わりと共に、カーテナから分配された力は消えた

普通の人間に戻った国民は、やがて冷静さを取り戻し、それぞれの帰るべき場所へと散って行った

非日常が終わり、普通の日常に戻った。ただそれだけの事だ。

だが、彼らの心には確かに残った物がある。それは、自分達にもこの国のために何かができるという事実であった。


戦いを終えたアニェーゼ達も天草式のみんなも、女王エリザードもヴィリアンも騎士団長も何やら楽しそうに話をしていた

大団円というやつだろう

あの巨大な剣を携えた傭兵はいつの間にかどこかへと消えてしまっていたが、まあ全て後腐れなく終わったのだから気にする事はない


サーシャはボロボロになった体をなんとか立ち上がらせ、みんなの元へ向かおうとした







ドクン……






サーシャ「……!?」


突然だった

まるで、何者かに心臓を鷲掴みにされた様な圧迫感がサーシャを襲ったのは……
585 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:10:32.32 ID:cuKdJHw0
キャーリサ「終わった…のか…」


キャーリサはロンドンの路上にぶっ倒れていた

右手にはこの期に及んでまだ折れたカーテナの柄が握られていたのを見て、自重気味に笑った

軍事に秀でているとは言いつつも、どうやら一番の臆病者は自分だったみたいだ

あれだけの強さを持った国民を信じる事ができなかった。そのくせに元首を気取っていたとは、全てが終わった今、冷静になって考えてみるとなんとも情けなく感じられる。





「ハハッ、こいつはすごいな。王女ともあろうものが血と泥に塗れて道路に転がってる様なんぞ、見られるものではないと思っていたが、
こいつは滑稽だ」





突然聞こえてきた声に、キャーリサは痛む体を無理矢理起こし、立ち上がる

そして剣を構えるが、先端が折れていた事に気付いて舌打ちをした


キャーリサ「チッ…誰だ貴様は?」

フィアンマ「右方のフィアンマ…」

キャーリサ「……!?」


その言葉を聞いた瞬間に、キャーリサの顔が驚きに満ちた表情に変った
586 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:13:04.09 ID:cuKdJHw0

フィアンマ「ん?返事が無いという事は知らないってことか?なら一度諜報機関を解体して組み直した方が賢明だな。
自分の国が敵対する組織のトップの名前すら知らんとは」

キャーリサ「ッ…!?」


知らないわけではない

右方のフィアンマ

ローマ正教を実質的に動かす神の右席のリーダー

ローマ正教最大の魔術要塞である聖ピエトロ大聖堂およびバチカンをたった一撃で壊滅させてしまった男


キャーリサ「なぜ貴様がここに…」

フィアンマ「なに、ちょっと欲しいモノがあった。ただそれだけだ」

キャーリサ「欲しいモノだと?……確か、貴様の属性はミカエルだったな。と言う事は、狙いは同じミカエルの属性を持つこのカーテナか?」

キャーリサ「だが、残念だったな。見ての通り、カーテナはこのザマだ」

フィアンマ「ふむ、なるほど…そうかそうか…そういう方法もあったな。それは俺様も盲点だった」


フィアンマ「うーん、いや、やはり無理だな。その程度の玩具では、俺様の力を移した途端に消滅してしまう。
属性の点ではクリアしてるが、容量の点で問題ありってとこか」

キャーリサ「カーテナが玩具だと…?なら貴様の欲しいものとは一体…」
587 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:14:40.20 ID:cuKdJHw0

フィアンマ「この英国において最も重要な霊装の一つだ。そんな玩具とは比べ物にならないくらいのな」

キャーリサ「……」


このカーテナ・オリジナル以上の重要な霊装…?そんなものは…


フィアンマ「その様子だと知らないみたいだな。ま、俺様がフランスをせっつかせてイギリス国内で不穏な動きを引き起こさせたのも
このためなのだが」

キャーリサ「なん…だとッ!?」


目を剥き、瞳孔が獣の様に細くなり、その表情から血の気が失われる


フィアンマ「お前らがガチで戦争でも起こして焼け野原になったロンドンから回収するって方向でも良かったんだが、
その点に関してお前は優秀だったぞ?現にお前の下らないママゴトのおかげでロンドンは虐殺と凌辱の嵐にならずにすんだのだからな」

キャーリサ「くッ…貴様ァッ!!」


真実を知ったキャーリサは激高し、刃が折れてる事も忘れてフィアンマに斬りかかった

だが…


ゴバッ!!!


キャーリサ「なッ!!?」

フィアンマに斬りかかろうとした瞬間に、強烈な衝撃波がキャーリサの体を叩きつけ、彼女を吹き飛ばした


フィアンマ「もう目的は果たした。夢見がちな王女様と遊んでやるほど俺様は暇ではないのだ。
女王のババァならともかく、お前の様な雑魚なら見逃してやっても良いんだぞ?」


特に勝ち誇るわけでもなく、フィアンマは心底メンドクさそうな顔をしてそう言った

右肩から巨大な何かを生やしながら…
588 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:16:13.33 ID:cuKdJHw0

キャーリサ「何だ…それは…?」


フィアンマの右肩から生える巨大なそれは、まるで爬虫類の手に似ている


フィアンマ「そうだ、せっかくだからお前にも見せてやろう」


キャーリサの質問には答えず、フィアンマはポケットから何かを取りだした

それは、手のひらサイズの金属製の錠前だった

しかも、やたら番号の多い錠前。いや、その大量に組み込まれたダイヤルに記されているのは、番号ではなくアルファベットだ。


フィアンマ「お前ら王族がコソコソと作っていた禁書目録に関する逸品だ」


フィアンマはその錠前を人差し指と親指で挟みながら、軽く回したりしてキャーリサにお披露目する


キャーリサ「禁書目録の……まさかッ!?実在したのか!?」

フィアンマ「俺様も驚いたぞ?厳重に管理してあると思いきや、まさかバッキンガム宮殿に
『盗んでくださいバカ野郎』とでも言わんばかりに無造作に置かれていたのだからな」


キャーリサですら知らなかった“錠前“を、クーデターの時にバッキンガム宮殿から
重要な魔術の品を持ちだす様に命令されていた魔術師達が知ってるはずがなかった

だから重要な物にも関わらず無造作に放り出されていたのだろう
589 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:17:46.43 ID:cuKdJHw0

フィアンマ「で、どうする?例えそのカーテナが100%の力を発揮していたとしても、俺様は一瞬でお前を木っ端微塵にする事ができるが」

キャーリサ「ぬかせッ!」

フィアンマ「俺様は見逃してやると言ってるのだぞ?」

キャーリサ「ローマ教皇がどーしてお前に最後まで抗ったのか、今なら分かる気がする……!」

フィアンマ「そうかい。つまらん女だ」


そして今度こそ、本当にキャーリサを消し去るために巨大な右腕が振るわれた

圧倒的な力を前にしてもキャーリサは目を閉じる事無くフィアンマを睨みつける

しかし、そんな態度を取った所でキャーリサに抗うすべなどなかった

巨大な右手がキャーリサの頭上に下される……その寸前の事だった


突然凄まじい光の爆発と共に、衝撃が四方八方に飛散した


フィアンマ「ほう」


突然目の前に現れ、キャーリサを庇う様にフィアンマの巨大な右腕を、同じく幻想殺しの右腕で受け止めた上条当麻がそこに居た
590 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:19:54.92 ID:cuKdJHw0
上条「ぐッ…がァッ!!」

だが、フィアンマの右腕に威力があまりにも強過ぎるため、一瞬で消し去る事ができず、上条の体はフィアンマの右腕に押される

キャーリサ「ッ…!!」


キャーリサは、踏ん張る上条の肩を押して支えた

そして、ようやくフィアンマの一撃を完全に消し去る事に成功した


上条「何やってんだテメェ…」


上条はフィアンマを睨みつけながら低い声でそう言った

だが、対するフィアンマは


フィアンマ「くっ、はは!本日のラッキーな星座のアナタはピンポイントで俺様でしたってか?
お前は最後の仕上げだと思っていたが、まさかこんな所で二つとも手に入るとはなぁ!」

上条「誰だって聞いてんだよ!!」

キャーリサ「アイツは右方のフィアンマ。神の右席の実質的なリーダーだ」

上条「…!?」

フィアンマ「オイオイ、自己紹介くらいは自分で……」


何かを言いかけたフィアンマだったが、そこで彼の口は止まった


フィアンマ「おい、お前、運命ってやつを信じるか?俺様は今、それを信じたくなったぞ」


気味の悪い笑みを浮かべるフィアンマ

その視線の先には…


サーシャ「……」

上条「サーシャ!」

怪我をした腕を庇い、足を引きずりながらこちらへ向かってくるサーシャが居た
彼女は、自分の胸を圧迫する力の正体を追ってここに来たのだ
591 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:21:25.07 ID:cuKdJHw0

フィアンマ「ハハッ!!もはやラッキーなんてもんじゃない!この世界の全てが今、
この俺様が計画を遂行するためにお膳立てをしてくれてるみたいだな!!」

上条「テメェ!一体何を考えてやがる!サーシャに何をする気だ!」

フィアンマ「やるか?いいぞ。不格好で申し訳ないが、やっとコイツも温まってきたみたいだからな」


フィアンマは巨大な右手をブン!と試す様に一回振った
それだけで爆発的な閃光がほとばしる

しかし、上条は怯むことなくその光に向かって右手を差し出した

バチカンをたった一振りで壊滅させた一撃

その衝撃は傷だらけの上条を容赦なく襲う


上条「くッ……!!!」


上条はそれを何とか耐え、フィアンマの放った衝撃を打ち消して見せた

眩い光が消え、睨みあう二人


フィアンマ「流石は俺様が求める希少な右手。間近で見ると、改めてその特異性に驚かされる」
592 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:22:48.98 ID:cuKdJHw0

フィアンマ「だが、不完全であるという点に関しては俺様と同じだな。いや、もともとが似たような力なのだが」

上条「……!」


突然、フィアンマの右腕が、まるで別の生き物であるかのようにのたうち回る


フィアンマ「どうやら時間切れの様だな。まったく、我ながら扱いにくいじゃじゃ馬を手にしたものだ」


緊迫し、敵意を向ける上条達とは対照的に、フィアンマはやれやれと言った感じでため息をついた


フィアンマ「今日の所は幻想殺しは諦めよう。せっかく手に入れた霊装を破壊されちゃたまらんからな」

上条「霊装?手に入れた?何の話をしてやがる…」

フィアンマ「お前も見るか?凄いぞ?」

キャーリサ「まずい!あれを使わせるな!」


突如叫び出したキャーリサだが、それを止める事はできなかった

フィアンマは手にした錠前のダイヤルを回す……すると


ドッ!!という轟音と共にアスファルトが砕け、真下から勢いよく何かが飛び出て来た


それは、上条にとっては見慣れたもの

金刺繍の白い修道服を着た、小柄な銀髪碧眼の……


上条「イン……デックス?」
593 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:24:44.80 ID:cuKdJHw0

光の無い虚ろな瞳の少女

感情の欠片さえ感じさせない、機械の様に抑揚の無い声で喋り始めた


インデックス「はい、私はイギリス、清教内……第零聖堂、区『必要悪の教会』……所属の魔道、書、図書館です。
正式名……称はIndex-Librorum-Prohibitorumで……すが、呼び名の略称の……ジジジザザザガガガガガガガ」


声に機械的なノイズが走る

フィアンマが手に入れた霊装。それは、インデックスの自動書記(ヨハネのペン)を外部から遠隔操作する装置であった

それは10万3000冊の魔道書を外敵から守るための装置であり、同時に禁書目録が絶対に反乱を起こさないという事を証明するための
安全装置でもある


フィアンマ「おや?」


フィアンマにとっても想定外だったのだろうか?
無表情にぶつぶつと言葉を発していたインデックスが、突然小刻みに震えだし、そのまま地面に倒れ伏してしまった


上条「インデックス!?」

フィアンマ「どうやら自動書記の方にダメージがあるみたいだな。だが、この程度なら問題ない。
本体の制御ができないのは残念だが、10万3000冊の知識にアクセスできさえすればそれで良い」

上条「何をした……インデックスに何をしたんだ!?」

フィアンマ「知らんよ。整備不良はそっちのミスだろ?クレームならネせサリウスか女王のババアにでもつけろ」
594 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:26:07.36 ID:cuKdJHw0

上条「テメェ!!」


上条はフィアンマに殴りかかるべく拳を強く握り締めた


フィアンマ「こいつを破壊されたら敵わんから、今日の所は貴様の幻想殺しは諦める。だが、せっかくだ。
天使を降ろした素材の方は回収させてもらおうか!」


正面にいたはずのフィアンマが、いつの間にか上条の背後に立ち、そして上条に対して背を向けていた

もはや上条当麻など眼中に入っていない

彼が今見ているのは、サーシャ・クロイツェフだ


上条「しまっ……」


彼は驚きの表情と共に振り返った

そして次の瞬間、さらに彼を驚かせる様な出来事が起きた


ドガン!とどこからともなく砲弾が飛んできて、それがフィアンマの目の前で爆発したのだ


フィアンマ「……」

上条「ッ!?」


さらに連続して数発の爆撃音が鳴り響く。どこかから砲撃を受けているみたいだが…

もはやクーデターは終わったはず。なのに、一体誰がこんな真似を?
595 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:27:56.65 ID:cuKdJHw0

ズドン!ズドン!と続けざまに砲弾が上空からばら撒かれる


上条「クソッ!何が起きてんだ!?サーシャ!!」


止む事の無い砲撃

見渡す限り一面が爆煙と粉塵に塗れ、もはやサーシャの安否もフィアンマの姿すらも確認できない




グイッ!

サーシャ「えっ…?」


そしてこの状況に唖然としていたサーシャだが、辺り一面が煙だらけで何も見えない中、突然彼女は何者かに腕を引っ張られた


「逃げるわよ!」


聞こえて来たのは女性の声

そしていきなり抱きかかえられると、そのまま凄いスピードで自分の体が宙を移動する感覚を覚えた



フィアンマ「チッ、下らない事をしてくれたものだ……」

フィアンマ「だが、行き先はもう分かっている。求めずともそこに全ては集まるのだからな」




破壊的な音が止み、辺り一面を覆っていた煙が晴れると、そこにはもうフィアンマもサーシャも居なかった


上条「サーシャ……?ちくしょう!!」


何も知らない上条は、サーシャがフィアンマに連れ去られたのだと思い憤慨した
596 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:30:57.15 ID:cuKdJHw0

キャーリサ「待て、そう悪い方向に考えるのは早計だ。これは明らかにフィアンマのものじゃない。
たかが少女を一人連れ去るために、こんな手の込んだ真似をするとは到底思えない」

上条「……じゃあ、誰かがフィアンマを倒すために砲撃を…?」

キャーリサ「いや、そもそも核ミサイルをピンポイントで撃った所で殺せない様な化け物だ。それにあの大量の砲弾は、
煙幕と音は激しかったが火薬の量自体は殺傷力のあるものではない。たぶん魔術的に改良を施されたものだろ」

キャーリサ「つまり、こー考えられるだろ?フィアンマに敵対する誰かがサーシャを連れ去ったとな。
あの砲撃は、フィアンマを撹乱、あるいは警告を与えるためのものだと」

上条「結局連れ去られた事に変りは無いだろ!」

キャーリサ「あのフィアンマ相手にそんな真似ができる奴は、私は一人しか知らんが。いずれにせよ、
フィアンマの手に渡るという最悪な事態は回避された可能性があるのだ。それに、今のお前にはもっと心配すべき人間が居るだろう?」


そう言うと、キャーリサは路上で倒れている少女に目を向けた


上条「インデックス!?」


上条はインデックの体を抱き起こした
597 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:33:31.25 ID:cuKdJHw0

白い修道服が煤汚れてはいたが、どうやら砲撃による目立った外傷は無いみたいだ

とりあえず、インデックスが無事だった事に安堵した上条。しかし、儚くもその安堵はわずか数秒で脆く崩れ去った


上条「おい、大丈夫かインデックス?……インデックス?」


上条は軽くインデックスの頬をぺチぺチと叩いた

だが、インデックスは目を覚ますどころか、顔の筋肉一つ動かそうとはしなかった


上条「嘘だろ……おい……?」


残酷な結末が上条の頭をよぎる


上条「インデックス!?インデックスッ!!……目を覚ませよ!!インデックスーーーッ!!!」





かつてその少女を守り抜くと誓った少年の悲痛な叫び声だけが、砲撃の止んだロンドンの路上で虚しく響いていた……





そして……

?「イギリスにルートを変えて正解だったみたいね。あのクソ野郎がアンタを狙っていたのは分かっていたけど」

サーシャ「あなたは…?」

ヴェント「ヴェント。そう呼びなさい」
598 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:36:32.39 ID:cuKdJHw0

サーシャ「第二の質問ですが、どこへ行くのですか?それに、なぜ私はここに居るのですか?」

ヴェント「私はガイドじゃない。どこへ逃げるのが最良かくらい自分で考えろ。それと次の質問だが、知りたきゃデカルトでも読みな」

サーシャ「ですが、せめてこの船の向かう先くらいは教えていただけませんか?」


そう、サーシャとヴェントは現在、海上を走る船の上に居るのだ

その船は透明な氷で作られた帆船。かつて上条当麻がイタリアのキオッジアおよびヴェネツィアで戦った女王艦隊のうちの一隻である。
先程の砲撃も、この帆船から遠隔操作で放たれたのだ。


ヴェント「お前さんの生まれ故郷だよ」


ヴェントは船の先端で勇ましく仁王立ちをしながら、サーシャの方を振り向く事無くそう答えた

彼女の舌には透き通った青い十字架と、それを繋ぐ長い鎖がぶら下がっている


サーシャ「ロシアですか!?第一の解答ですが、私はロシアから狙われている身です。なぜわざわざ敵の陣中に?」

ヴェント「ロシアはあくまでも通過点よ。それにもうあのクソ野郎のせいで戦争は始まっている。
ロシアだけじゃない、イギリス以外は全てローマ正教の陣中だ」

サーシャ「第三の質問ですが、インドや中国は?」

ヴェント「この戦争には中立の立場だ。つまり、お前を引き渡す様に要請されたら全力で協力するでしょうね。
わざわざ火種を匿うなんてバカな真似をするわけないでしょ」

サーシャ「そうなると、もはや学園都市しか…」

ヴェント「あのクソみたいな街が素直に亡命を受け入れてくれるはずが無い。もっと近くよ。ロシアの情勢を考えてみろ」
599 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:37:51.06 ID:cuKdJHw0

サーシャ「独立国家共同体からの離反…つまり、ロシアから離反した国に行くつもりですか?
しかし、相手側もこの不安定な情勢の中で素直に入国を認めてくれるとは……」

ヴェント「エリザリーナ独立同盟国。近年ロシアのやり方に反発してできた小国家の連合よ」

サーシャ「エリザリーナ……?」



ヴェント「全ての勢力はそこへ結集する。受け入れな、もう亡命ごっこは終わりだってな。自由が欲しけりゃ戦うしかないのよ」



600 :1 [saga]:2010/09/14(火) 20:38:34.74 ID:cuKdJHw0
ここで区切ります

ロシア編どうしよう…
601 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/15(水) 00:11:07.70 ID:ZRNOhiIo
イギリス編終了乙。
ヴェントがここで来たか。

ロシア編は折角だから殲滅白書のオリキャラ4人組再登場とか、
新たなる光全員登場とかを希望。
604 :これより神の右席定例会議を始める2 [saga]:2010/09/17(金) 20:24:13.62 ID:LwiVe3A0
ロシア編投下します

22巻発売までに完結できそうなペースなら完璧オリジナル展開になりますが御容赦ください

でももしも22巻の内容とかけ離れ過ぎてたら恥ずかしい…
605 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:29:30.50 ID:LwiVe3A0
またやってしまった…

スレごとに名前がリセットされないのは中々不便ですね



20××年

ロシアの学園都市への宣戦布告により、ついに三度目となる大規模な戦争が始まってしまった

第三次世界大戦、それは長く人々の心に生々しい傷跡として残るのだろう。



そして、ここロシアでは


セルゲイ「見てくれイワン、俺の嫁のナージャだ」

イワン「T-95になんて名前付けてやがんだ」

セルゲイ「学園都市との戦争に備えてやっと予算が降りたんだ。たまんねぇだろこのフォルム。イヤらしい体しやがって、フヒヒ…」

イワン「……」

セルゲイ「俺、この戦争が終わったら、こいつをピカピカに磨いてやるんだ」

イワン「……死ぬなよ?セルゲイ」

セルゲイ「ハァ?死ぬわけねぇだろ?ナージャの硬さをナメんなよ?」

イワン「いや、戦車じゃなくてお前の事だ」

セルゲイ「ハッハッハッ!タイタニック号でも突っ込んでこねぇ限り、こいつにゃ傷一つ付けられねえよ」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ド


ヴェント「ちょっと通りますよ」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ドドグシャッ┣¨┣¨┣¨┣¨ドドド


イワン「……」

セルゲイ「……」
606 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:31:20.06 ID:LwiVe3A0



俺、この戦争が終わったら、こいつをピカピカに磨いてやるんだ……




セルゲイ「ナ―ジャああああああ!!!!」


ヴェント「ん?誰かアンタの名前を呼んだみたいよ?」

サーシャ「第一の解答ですが、似てはいますが私の名前はサーシャです」


現在、サーシャとヴェントはロシアを横断していた

船で…


ヴェント「これが本当の水陸両用ってやつね」

サーシャ「……」

ヴェント「完全ステルスだからレーダーにも引っ掛からないし、認識妨害も働いてるから誰にもこの船を視認する事はできない。
おまけに実は船体を地面から少し浮かせているから跡も付かない。まさに完璧な移動手段だわ」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ドド

サーシャ「第一の解答ですが、騒音が」

ヴェント「文句があるなら歩いても良いのよ?この広大なロシアをな」

サーシャ「いえ、何でもありませんmam……」
607 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:33:24.92 ID:LwiVe3A0

エリザリーナ独立同盟国

ロシア連邦内、殲滅白書の本拠地のある場所から一番近くに存在する国家。
近年、ロシアのやり方に納得できず独立した小国の集まりで形成された。
独立時の立役者である女性、エリザリーナの名を国名に頂いている。

内陸部で一国だけが独立したとしても周りは全てロシア領土となってしまい、
人員や物資のやり取りにロシア政府からの許可が必要な状況になってしまう。
そうした間接的支配から脱するために、小さな国をいくつか繋げることによって
ロシアの外の東ヨーロッパの国々までのルートを自力で構築しており、
そのため独立した国の中でも特にロシアから疎んじられている。
そのような経緯から東西に細長く伸びており、長さは大体300km程になっている。

ちなみに東京から西へ滋賀県、北へ山形県までの距離がだいたい300kmほどである



【エリザリーナ国境】

兵士A「ついに戦争が始まったな。俺達どうなるんだろ」

兵士B「大丈夫だ。俺達にはエリザリーナ様がついておられる」

兵士A「まあそうだけどよ…」


┣¨┣¨┣¨┣¨ド


兵士A「おい、何か変な音が聞こえないか」

兵士B「いや、連絡は何もきてないが…」
608 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:35:02.29 ID:LwiVe3A0


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ド


兵士A「ほら、聞こえるだろ」

兵士B「ああ、聞こえるな。何だ?まさか本当に敵襲か?」


┣¨┣¨┣¨┣¨ドド


ヴェント「超気持ちいい」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ガシャンバキッグシャッ┣¨┣¨┣¨┣¨ド


サーシャ「……」


兵士A「……」

兵士B「……」

兵士A「なんかいきなり国境のフェンスが粉々になったな」

兵士B「お前、何か見えたか?」

兵士A 「いや、何も見えなかった。北島康介が居た様な気はしたけど」

兵士A「……」

兵士B「……」

兵士A「これって敵襲じゃね?」

兵士B「そうかもな」
609 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:36:25.33 ID:LwiVe3A0

兵士「エリザリーナ様!」

エリザリーナ「どうしたの?慌ただしいわね」

兵士「国境付近で襲撃が確認されました!」

エリザリーナ「…ロシアかしら?予想よりも早いタイミングね」

エリザリーナ「敵の位置は?襲撃を受けた境界線付近の住民の避難と警護を最優先にしましょう」

兵士「それが…確認できないのです…」

エリザリーナ「…?どういう事?」

兵士「襲撃があったのは確かなのですが、報告によると、見えない何かにフェンスを食い破られたとの事です。
現在捜索を続行中ですが、レーダーにも一切反応しません」

エリザリーナ「……」
610 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:38:47.93 ID:LwiVe3A0

【その後】

サーシャ「あの、この船はどこへ向かっているのでしょうか?」

ヴェント「私は回りくどい事が嫌いでね」

サーシャ「?」

ヴェント「分かるだろ?親玉のとこまで一直線よ」



そして、街が見えて来たところで氷の船が止まった


ヴェント「流石にこのまま街に突っ込むわけにはいかないしね」


ヴェントは船の先端から身軽に飛び降り、久しぶりに踏みしめる事になる地面に着地した

同じくサーシャは背中から氷の翼を生やすと、軽く羽ばたきながら雪の上に着地した

そしてサーシャが雪に覆われた地面に足を付けたのと同時に、ビシッ!と裂ける様な音が響く

氷の船の全体に亀裂が走り、巨大な氷の残骸に変った

不思議な事に、残された氷の残骸は溶ける事なく、まるで風に舞う砂の様にバラバラの粒子になって
どこかへと吹き飛んでいってしまったのであった

証拠を残さないために、ヴェントは徹底してこの氷の船の術式を調整していたのだ


ヴェント「その翼…なるほど、フィアンマがお前を欲しがっている理由が分かった気がする……」

サーシャ「?」
611 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:41:06.95 ID:LwiVe3A0

二人は街の広場へとやって来た

ロシアは世界でも稀に見る多民族国家であり、その内陸部に様々な独立国を束ねて
同盟国を建てたここエリザリーナ独立同盟国もまた然りである

広場を行き交う人々は様々な人種の人が居て、また飛び交う言語も複数の種類が確認できる


そして、その人々の中に軍人の姿もちらほらと見えた


ヴェント「ここで問題を起こすのも面倒ね」


そう言うと、ヴェントはサーシャの正面に立って屈み、サーシャの首の後ろに腕を回した

傍から見ると、まるでヴェントがサーシャを抱きしめているかの様に見えなくもない


サーシャ「はわっ…////」


突然の行動に少し驚くサーシャ


ヴェント「変な声出すなバカ」


ヴェントはそのままサーシャの首の後ろで何やら作業をしていた


ヴェント「よし」


作業が終わったヴェントはサーシャを解放する


サーシャ「あの、これは?」


サーシャの胸元には、銀色のロザリオがぶら下がっていた

ローマ正教の十字架である
612 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:42:15.51 ID:LwiVe3A0

ヴェント「簡単な視認障害を起こす様に工夫してある。さっさと行くわよ」


そう言うと、ヴェントは再びどこかへと足を進めた

慌ててそれについていくサーシャ

ヴェントもサーシャも衣装としてはかなり目立つ筈だが、周りの人間はそれに一切目を向ける事は無かった。
まるで透明人間にでもなったかの様な気分だ。

簡単な工夫とは言っていたが、彼女は元神の右席の魔術師である

サーシャはその事を改めて認識させられたのだった
613 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:47:01.31 ID:LwiVe3A0

広場を進んでいくにつれ、軍人の姿が増えていった

そして、その先に四角い石で作られた建物が見えた

どうやら元は大きな教会の一部だった様だが、今は軍の施設と化しているみたいだ

なんとなく、アリの巣を発見した様な気分になった


ヴェント「さて、覚悟を決めなサーシャ」

サーシャ「えっ」


ヴェントは右手の指をパチン!と鳴らした


その瞬間、同時に周囲に居た軍人達が一斉にこちらを振り向いた

どうやら、視認妨害の術式が解除されたらしい


軍人「誰だ貴様ら!いつの間にッ!?」


軍人達は一斉にヴェント達を取り囲み、銃をこちらに突きつけて来る

だが、ヴェントの表情は全く変わっておらず、慌てる事も無く、不安な様子さえ微塵も感じられなかった


ヴェント「ちょいとお前らの親分に会わせてもらいたいんだけど。いいかしら?」

軍人「ふざけるな!」

ヴェント「まじめに言ってんだけどね、やれやれ…」


ヴェントはめんどくさそうにため息をついた


じゃらっ…


同時に、鎖の擦れる音と共に彼女の口から銀色のロザリオが飛び出てくる

それで全てが終わった
614 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:49:25.79 ID:LwiVe3A0

サーシャ「…!?」

軍人「うっ…な、なんだ……」


ガチャガチャと一斉に構えた銃が地面に落ちる音が聞こえた

そして、彼女を取り囲んでいた軍人はみな立つ事さえできずに地面に方膝を付いていた。
まるで、ヴェントにひれ伏している様に見える。
中には、それすらも出来ずに地面に全身をあずけ、息をする事だけに全ての力を捧げている者さえいた。

もちろんそれは驚くべき事であり、サーシャの表情は目の前の不可思議な現象に対する戸惑いを隠せないでいる

だがヴェントの方はと言うと、なぜか心底落ち込んだような顔をしてため息を付いていた


ヴェント「やれやれ、これじゃあ一割も復元できてないじゃない」


彼女がガッカリするのも無理は無かった

ヴェントが発動したのは、”天罰術式”

かつて学園都市の警備員の7割を直接手を下す事無く戦闘不能にした強大な魔術である

彼女に敵意を向けた者を、有無を言わさずに仮死状態にする

しかも、それは写真や映像を通しても、脳裏に彼女の姿が焼き付いているだけでも
時間の経過に関係無く発動してしまうという凶悪極まりないものであった

わけあって今はそれを完全に使いこなす事ができないのだが、かつての威力を考えたら、
せいぜい相手を脱力させる程度の効果しか発揮できないのは、彼女にとっては不満以外の何物でもないのだろう
615 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:56:37.78 ID:LwiVe3A0

ヴェント「アンタらが案内してくれないなら、勝手に探させてもらうわよ」

軍人「くッ…」


何もできず、何が起きたのかすら理解できず、倒れ伏した軍人はただヴェントの背中を見ながら歯噛みする事しかできなかった





「エリザリーナ様!」


慌ただしく司令室に駆け込む軍人


エリザリーナ「敵の正体が確認できたのかしら?」

「いえ!敵襲です!」

エリザリーナ「何ですって!?」


そして次の瞬間、その軍人の背後に黄色い服を着た女が現れた


ヴェント「 Привет♪」

「くそっ!もう来やがっ……!」


報告に来た軍人は突然しゃがみ込み、膝を付いて、近くのスチール製のデスクに寄りかかった


「ハァ…ハァ…?」


本人も何が起きたのか分からず、戸惑いの表情と共に息を荒げている


ヴェント「へー。意外と簡素な部屋ね。つーか散らかり過ぎ。掃除したら?」


そんな軍人の様子などまる見えていないかのように全く気に止めず、
ヴェントはエリザリーナの執務室を見渡して呑気に感想を述べた
616 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 20:59:34.61 ID:LwiVe3A0

エリザリーナ「どういう事!?なぜここまで…うっ」


突然の眩暈がエリザリーナを襲う

同時に彼女はヴェントから咄嗟に目を逸らした


ヴェント「へえ、流石は聖女と呼ばれるだけの事はあるわね。本能的にコイツがヤバい物だと気付くとは」

エリザリーナ「これは……あなたは一体…?」


エリザリーナは極力敵意を向けない様にヴェントに訪ねた

ここで抵抗しても無駄だと悟ったのだ

普段は拙い腕だと謙遜しているが、エリザリーナはそれなりに魔術の腕は高い。
だが、その彼女から見てもこの相手は格が違い過ぎる


ヴェント「このままじゃ話辛いわね」


そう言うと、ヴェントは舌から垂れている鎖の先端についたロザリオを外した

すると、いくらかエリザリーナ達の顔色に生気が戻る
617 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 21:04:14.94 ID:LwiVe3A0

ヴェント「まず最初に、私はアンタらと戦いに来たわけじゃない。
場合によっちゃ、アンタらにとっては味方になる可能性もある」

エリザリーナ「味方…ですって?」

ヴェント「そうそう、自己紹介が遅れたわね。私の名前は…ヴェントって呼んでちょうだい」

エリザリーナ「ヴェント…」


思考を巡らせる。その名をどこかで聞いた覚えがある…


エリザリーナ「まさか…神の右席…?」

ヴェント「正確には元よ。つーか、そのワードがすんなり出てこなかったって事は、
アンタはこの戦争の首謀者を知らないみたいね」

エリザリーナ「どういう事?ローマ正教のあなたが、なぜ我々に?」


彼女の頭に二つの可能性が浮かんだ。一つはローマ正教からの罠の可能性。
だがこんな小さな国を一つ落とすために、しかも罠なんて回りくどい事などさせるために
神の右席の魔術師を派遣してくるだろうか?


罠の可能性はすぐに消えた。そもそも、ここでさっさと自分を殺してしまえば、
それだけでこの独立同盟国に大きな亀裂を与える事が出来る。わざわざ話し合う必要など無いだろう。

となると、残るはローマ正教の反主流派の可能性


ヴェント「たぶんアンタの考えてるので正解よ。私はあのクソ野郎の暴走を止めたいだけ。
好き勝手やられんのが気に食わないだけよ」


どうやら後者の方で正しい様だ
618 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 21:07:02.36 ID:LwiVe3A0

エリザリーナ「それで、あなたの要求は?」

ヴェント「要求?ハハッ、バカかアンタは?」


ヴェントは見下す様に鼻で笑った


ヴェント「良いか?術式が完璧に回復してないこの私でさえ、こんなにも簡単に懐まで入って来れたのよ?
それを分かってんのかしら?」

エリザリーナ「……」


確かに、それは否定できない

もしも彼女が自分達を始末するためにやってきたのだとしたら、とっくに全てが終わっていただろう
まるで一匹の蟻を踏み潰すのと同じくらいの容易さで


ヴェント「敵の名前は右方のフィアンマ。気に食わないが、奴は私よりも強い。
アンタらがロシア、ローマの勢力に呑まれて同盟国としての
力を保てなくなるのはもはや確定事項だって事くらい、いい加減自覚しな」

エリザリーナ「ッ…!」


エリザリーナは身を庇う様に自分の細い左腕を握っていた右手に力を込めた

ヴェントはエリザリーナに対してこう突き付けているのだ。
“この国を守りたかったら私に頭を下げて媚びろ”と
619 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 21:08:35.15 ID:LwiVe3A0

相手は元神の右席。ここで素直に協力を仰ぐには抵抗があった。
ここで借りを作ってしまえば、後々大きな禍根を残す可能性もあるからだ。

だが、この弱小国家では到底右方のフィアンマを退ける事はできない。まさに八方塞がりな状況である


ヴェント「ついでに、私とこの娘がこの国に居る限り、敵は大規模な空爆をする事ができない。まあ理由は後で話してやるが」


ヴェントは軽くサーシャの頭にポンと手を乗せた


エリザリーナ「……分かったわ。お願い、この国のために力を貸してちょうだい」

ヴェント「良い判断だ。仕方ないから協力してやるわよ」


危ない橋だが、“右方のフィアンマ“に関する情報を集めるためには手を組まざるを得なかった
620 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 21:11:24.80 ID:LwiVe3A0

【その後】


広場の喧騒を離れ、しんしんと静かに雪が降り積もる路地裏を二人は歩いていた

大きな足跡に少し遅れて、小さな足跡がまっさらな雪の上に作られていく


あの後、ヴェントは右方のフィアンマに関して自分の知る情報と対策、
そしてフィアンマがサーシャ・クロイツェフを狙っている事についてエリザリーナに話したのであった。

ちなみに現在、彼女等はエリザリーナから紹介された宿泊施設へ向かっている最中だ

なぜか一部屋しか用意されていないらしいが、その事に関しては深い意味は無い


サーシャ「匿ってくれるところを見つけられてひと安心しましたね」

ヴェント「……ハァ、平和ボケしてんじゃないよ」


サーシャの言葉を聞いてガックリと方を落としたヴェント


サーシャ「そんなダメ人間を見る様な目で見ないでください…」
621 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 21:14:44.30 ID:LwiVe3A0

ヴェント「私がフィアンマの情報と対策を話した事によって、奴等はフィアンマに対する対抗手段を得た。
次にあの女は何をする?」

サーシャ「第ニの解答ですが、対抗手段を構築するための準備では?」

ヴェント「まあそうね。あの女は優秀な人間だ。けして高を括らない、それこそ数年に一人出るか否かの指導力を持つくらいのね」

ヴェント「つーことは、奴等はフィアンマに対して過剰なまでの対抗策を取るでしょうね」

サーシャ「つまり?」

ヴェント「フィアンマの狙いはお前だ。つまり、独立同盟国からお前を一端ロシアまで追い出して、
あくまでも国外で決着を付けようとするだろうな」


手を組んだとは言え、それはあくまでも表面上の話

ヴェントもエリザリーナも互いに利用し合うだけの関係に過ぎないし、
そのためなら囮に使う事すら厭わないだろう


サーシャ「何か酷い扱いですね…まあ無理もありませんが。
第二の質問ですが、それでフィアンマは倒せるのでしょうか?」

ヴェント「100%無理だろ」

サーシャ「えっ?」


ヴェントは迷う事無く断言した
622 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 21:21:07.70 ID:LwiVe3A0

ヴェント「あの女は優秀だ。だけど、フィアンマはあの女の想像の遥か上を行く。
おそらく奴はもうすでにこの国に潜入してるわ」

サーシャ「!?」


サーシャはその言葉に驚いたが、良く見るとヴェントの表情も若干ながら緊張している様子が伺える

彼女はもうすでに警戒していたのだ。いつ、どのタイミングでフィアンマがサーシャを襲撃してくるかを。


それは明日か一時間後か、あるいはもう次の瞬間にはフィアンマが目の前に立っていてもおかしくはない。


ヴェント「そう、全部遅すぎるのよ…」

サーシャ「では、一体どうするのですか?このままでは…」

ヴェント「私が奴をぶっ[ピーーー]。それがベストね」


そうは言うが、それが非常に難しいという事は彼女自身も分かっている。

それができるなら、あの時イギリスでフィアンマを倒していただろう。



ヴェントは一つの可能性に賭けていた

サーシャ・クロイツェフと同じく、フィアンマが狙うもう一人の人物

かつて、学園都市で自分を撃ち負かしたあの少年だ。


おそらく、時間的に間に合えば彼は確実にエリザリーナと対面する事になるだろう。
サーシャと同じく、彼は交渉材料になるからだ。

これは、彼がここにやってくると言う事を前提にした話

戦力的にはあくまでも賭けであって、希望というにはあまりにも拙すぎる

しかし、いずれにせよあの右手が唯一の可能性である事に変りは無かった……
623 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/17(金) 21:24:31.65 ID:LwiVe3A0

【オマケ】

「ふぅ、意外と浴槽は綺麗だったわ。流石に一番高い部屋なだけあるわね」

サーシャ「……」

「……何だよ?おい?何で“家に帰ったら知らない人が寛いでた”みたいな顔してんのよ」

サーシャ「あの…第一の質問ですが、あなたは誰ですか?」

ヴェント「ハァ?私に決まってんだろ」

サーシャ「……」

ヴェント「だからその沈黙はやめろ!」

サーシャ「第一の解答ですが、ピアス外して化粧落としたら随分と印象が変りますね」

ヴェント「悪かったな不細工で」

サーシャ「第二の解答ですが、むしろ中々の美人だと思うのですが。意外と童顔なんですね」

ヴェント「黙りなさい」

サーシャ「第三の解答ですが、金髪青眼で美白でツリ目気味の美少女というのは中々ウケが良いと思いますよ。
ツンデレキャラみたいで」

ヴェント「なんのウケだよ。下らねぇ事言ってんじゃないっつーの!」


コンコン


「夜分に失礼しますが、エリザリーナ様からの伝言です」

ヴェント「ああ、今行くよ」


ガチャッ




軍人「誰だ貴様はッ!!」

ヴェント「だから私だっつってんだろおおお!!!!」



628 :1 [sage]:2010/09/19(日) 18:52:50.99 ID:ND1AOxs0

猫を飼っている人なら経験があると思うが、冬になると布団の中に猫が入ってくる事がある
それはとても微笑ましくて和むものである。


では、自分のベッドに女の子が入って来た場合はどうだろうか?


男性であればそれはとても嬉しいイベントだろう

だが、不幸な事に彼女は同性である


ヴェント「……」


真夜中の事であった

ふと目を覚ましたら、何やら自分のベッドの中に生温かい物体が潜り込んでいたのだ

とりあえず手探りでそれに触れてみた

すると何やら「う~ん…」という呻き声がきこえてきたのであった


バサッ


ヴェントは上体を起こし、勢いよく掛け布団を捲った


サーシャ「……寒い」


すると、そこには猫というか胎児の様に体を折り曲げ、丸くなって寝ている少女が居た
629 :1 [sage]:2010/09/19(日) 18:55:22.61 ID:ND1AOxs0

ヴェント「……」


ヴェントは一瞬、サーシャの首根っこを掴んで窓から放り投げてやろうかと考えた

だが、さすがに彼女もそこまで鬼畜ではない


ヴェントはため息をつきながら、掛け布団を戻してやった

そして、本来はサーシャが寝ていたはずのもう一つのベッドに潜り込み、再び夢の世界へと旅立って行ったのであった






それから数時間後


カーテンの隙間から明るい光が零れているのに気が付き、ヴェントは体を起こした


ヴェント「くあぁ……」パキポキ


ベッドの上で思いっきり背伸びをすると、骨が擦れる音が響く

女王艦隊の連続使用に、完璧に調整の施されていない天罰術式の発動などなど、
並の魔術師だったら3日は疲労で寝込んでもおかしくはないくらいに力を使い過ぎてしまった

だが文句を垂れて体調が良くなるなら、栄養剤など販売したとこで商売上がったりだろう
630 :1 [sage]:2010/09/19(日) 18:57:04.23 ID:ND1AOxs0

ヴェントは眠たい目を擦り、長い金色の髪を軽く掻き分けた

彼女の前髪はサーシャよりも長く、フードを取って髪を降ろすと、両目が長い髪で隠れてしまうのだ。
だから、普段は前髪を右端に寄せて、左目だけが出る様な感じにしている。イメージで言うと鬼太郎だ。


それにしても寒い

室内とは言え、早朝の纏わりつく様な寒さがヴェントの肌を這って来る

ヴェントははだけたYシャツの襟元を軽く直した



ヴェント「さてと…まずは」


ヴェントは自分が寝ていたベッドの布団の中に手を突っ込んだ

すると、中からズルリと何かが引きずり出される。サーシャだ…


ヴェント「おい、起きやがれこのマヌケ」ぺチぺチ

サーシャ「うーん…」


サーシャの頬を軽く叩いて起こすヴェント

そして、朦朧としながら眠そうに目を擦るサーシャを、自分と向かい合う様な形でベッドの上に座らせた
631 :1 [sage]:2010/09/19(日) 18:58:31.87 ID:ND1AOxs0

ヴェント「お前、昨日私のベッドの中に潜り込んできたわよね」

サーシャ「ん……」

ヴェント「まあ起こすのもかわいそうだし?仕方ないから私はお前の使っていたベッドに移動して寝たわけだ」

サーシャ「……zzz」(低血圧)

ヴェント「なのに、何でその移動した先にまた潜り込んでんのよお前は!」

サーシャ「だいいちの…かいと…私はぬくもりを求める旅人…」

ヴェント「意味分かんねぇっつーの!さっさと目を覚ませ!」

サーシャ「寒っ!」ぎゅっ!

ヴェント「抱きつくなバカ野郎!」


まるで寒さを思い出したかの様に身震いし、Yシャツを着たヴェントに抱きついたのであった

632 :1 [sage]:2010/09/19(日) 18:59:29.03 ID:ND1AOxs0


サーシャ「……」

ヴェント「……」


二人は広場を並んで歩いている

早朝から多くの人々があちらへこちらへと忙しそうに動いていた

活気があると言うよりは、慌ただしいと言う方がしっくり来る。これも戦争の影響なのだろうか?
ちなみに二人とも視認障害を起こす術式を掛けられているため、一般人には彼女らを視認することはできない

すでにロシア成教の魔術師がこの街に潜入している可能性があるため、用心するに越したことは無いのだ


サーシャ「……」

ヴェント「……」


並んで歩くが会話は全くない

非常に気まずい雰囲気だ


サーシャ「あの…」

ヴェント「……」

サーシャ「第一の質問ですが、怒ってますか?」

ヴェント「別に。機嫌はよくないけど」

サーシャ「怒ってるじゃないですか…」
633 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:00:43.38 ID:ND1AOxs0

じばらく歩き続けた後、急にヴェントは足を止めた


ヴェント「ここでお別れよ」

サーシャ「えっ?」

ヴェント「何?」

サーシャ「すみません、謝りますから見捨てないでください。ここで捨てられたら、私はどうすれば良いのか…」

ヴェント「はぁ?ったく、朝っぱらから何回ボケれば気が済むのよ」

サーシャ「?」

ヴェント「ご指名だ。お前は一人であの女のとこに行け」

サーシャ「第一の質問ですが、私一人で、ですか?」

ヴェント「ああ、どうやら私はお邪魔らしい。ま、悪い様にはされないだろうから安心しな」

サーシャ「第二の質問ですが、ヴェントはどうするのですか?」

ヴェント「私はやる事がある」

サーシャ「そうですか……まさかこのまま私を置いてどこかへ」

ヴェント「だからんな事しねぇっての!夕方になったら迎えに来るから安心しな」

サーシャ「絶対ですよ?」

ヴェント「分かったからさっさと行け」

……

サーシャの後ろ姿を見送るヴェント


ヴェント「全く、ガキかっての……いや、ガキか。やれやれ…」


呆れながら軽くため息を吐いた後、ヴェントは路地裏へと消えて行った
634 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:01:57.03 ID:ND1AOxs0

ガチャ


サーシャ「失礼します…」


扉を開けると、まず乱雑に並べられたスチール製のデスクと、同じく乱雑に散らばった大量の資料が目に入る

こんなに散らかっていては、どこにどの資料があるか分からなくなるのでは?と些細な疑問が浮かぶ

そして、そんな散らかった司令室の中で、異様な存在感を放つ一人の女性

分厚いコートを羽織っているが、恐らく中はかなり痩せているだろう

顔立ちは非常に整っていて美人だと思うのだが、目のあたりが落ちくぼんでいる。

ストレスを伴う危険なダイエットをするとこうなるのだろうか?と思ってみたりもした。
まあ、それくらいに彼女の仕事は大変だと言う事なのだろうが



エリザリーナ「御労足感謝するわ。彼女は?」

サーシャ「第一の解答ですが、ここには来ません」

エリザリーナ「そう」
635 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:03:20.76 ID:ND1AOxs0

サーシャ「第一の質問ですが、用件は何でしょうか?」

エリザリーナ「その前にコーヒーはいかがかしら?わざわざ来ていただいたのに、
何も用意しないのはさすがに失礼でしょう?」

サーシャ「どうぞお構いなく」


とは言うが、エリザリーナは立ち上がり、ミルから既に抽出されたコーヒーをカップに注ぎ、サーシャに手渡した


サーシャ「ありがとうございます…」


それを両手で受け取るサーシャ


エリザリーナ「お砂糖とミルクは?」

サーシャ「両方いただきます」

エリザリーナ「くすっ、はいどうぞ」


サーシャは砂糖とミルクを受け取ると、それを大量にコーヒーに注いだ

もはや黄朽葉色と言うよりは、ミルクだけを注いだ白に近いかもしれない。
カップが浅かったら零れていただろう。

むしろ最初からホットミルクを勧めた方が良かったかもしれない


エリザリーナ「ふふっ…」


そんなサーシャの様子を見て、エリザリーナは少し顔を綻ばせた

あの右方のフィアンマが狙う重要人物

まだ中学生くらいの子供だが、元殲滅白書のプロの魔道士だ

だが、それでもやはり子供は子供という事なんだろうと思い、
エリザリーナは張り詰めていた心が少しだけ和らぐような感覚を覚えた
636 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:04:24.19 ID:ND1AOxs0

サーシャ「それで、再度質問しますが、用件とは?」

エリザリーナ「……人は誰しも守らなければならないものがある。それは財産であったり名誉であったり、
あるいは家族、友人、恋人であったりと、まあそれは千差万別なんでしょうね」

サーシャ「……」

エリザリーナ「なんて、回りくどい言い方をする必要は無いかしら?私はこの国の人々を守らなければならない。
そのための手段を選ぶ前提として、国民が誰一人として犠牲にならないと言う事が望ましいの」

サーシャ「第一の解答ですが、フィアンマとの交戦を避ける必要があると言う事ですね」

エリザリーナ「国民全員を守りながらフィアンマと戦うというのは、どうシュミレートしても勝てる見込みが無かったわ」

サーシャ「第二の質問ですが、それでも好き勝手にやらせるというわけでは無いのですよね?」

エリザリーナ「……ええ。我々は、国民の命を守りつつ、フィアンマを撃破する事も考えてる。つまり…」

サーシャ「私を一端外に追い出すと言う事ですね」

エリザリーナ「……気付いていたのね」


どうやら、ヴェントの読みは当たっていた様だ
637 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:05:53.66 ID:ND1AOxs0

心なしか、エリザリーナは少し申し訳なさそうな、悲しそうな表情をしている様に見えた


サーシャ「第二の解答ですが、気にしないでください。守りたいもののためにそれを行うと言うのなら、
私は咎めたりしません。それに保護してもらっている身ですから、
私に協力できる事があるのなら、喜んで引き受けさせていただきます」

エリザリーナ「ごめんなさい…あなたには感謝してもしきれないわ…」

エリザリーナ「でも安心して。外に逃げるのは、あなた一人ではないから」

サーシャ「どういう事ですか?」

エリザリーナ「フィアンマが狙っているもう一人の人物。昨日ヴェントが話していた
“幻想殺し“の少年がこの独立同盟国に入国したという情報が入って来たわ」

サーシャ「!?」


咄嗟に一人の少年の顔が浮かんで来た

キャーリサとの戦いで、カーテナを粉々に打ち砕いた

そして、フィアンマとの戦いで、あの巨大な右手の攻撃を打ち消した

ついでに押し倒されて胸を揉まれた

上条当麻がここに?
638 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:06:56.35 ID:ND1AOxs0

エリザリーナ「あなたは上条という少年と面識があるみたいね。そして、
彼もフィアンマを追っている。でも、彼にはマクロ的な情報はあまり無いはずよ」

エリザリーナ「だとしたら、情報を求めるために動く彼らは、放っておいてもいずれここに来るかもしれない。
でも今は急を要する事態だから、ちょっと乱暴な手段になるかもしれないけど、見つけ次第ここに連行させる様に指示を出したわ」

サーシャ「……彼に何をするつもりですか?」

エリザリーナ「あくまでもここに来て、フィアンマとの戦いに協力してもらうだけ。彼とは利害上対立する事は無いわ」

サーシャ「……」

エリザリーナ「もう質問は良いかしら?」

サーシャ「はい」

エリザリーナ「そう。じゃあこれで話は終わりよ。どうする?使ってない部屋があるから、そこで休んでいっても良いわよ?」


サーシャは一瞬迷ったが、ヴェントが迎えに来るまでは暫く時間がある

自分の立場を考えたら、あまり無暗に動き回らない方が良いだろう


サーシャ「第一の解答ですが、そうさせてもらいます」
639 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:08:44.30 ID:ND1AOxs0

サーシャ「……」


サーシャが案内された部屋は本当に簡素なものだった

コンクリートの壁に覆われていて、窓の無い部屋

あるのはスチールデスクとパイプ椅子がそれぞれ一つずつ

休んでいけとは言われたものの、ここは簡易的に作られた軍事施設だ
柔らかいソファーとか、そういう贅沢品があるわけは無い


サーシャ「……第一の解答ですが、まるで取り調べを受けている様な気分になります…」


……



サーシャ「……」バタリ


グデ―っと机に突っ伏したサーシャ


静かというよりも無音に近い静寂

以前もこの様な状況があったのだが、サーシャはこの静寂が本当に苦手だ

何か本の様なものでもあれば気を紛らわせる事ができるのだが、生憎とここにあるのは、異様な拘束衣に包まれた自分の身一つ

こういう状況だと、今まで蓋をしていたものを無理矢理こじ開けて考えを巡らせてしまう。

それは、時として行動の妨げになる様な不安な事も思い出し、メランコリーな気分にさせられてしまう事もある…
640 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:10:24.65 ID:ND1AOxs0

そう言えば、イギリス清教のみんなは今頃どうしているだろうか?

たまたま耳にした情報によると、イギリスはフランスと交戦状態にあるとの事

みな無事でいてくれると良いのだが…


それと、もう一つ気になる事がある。というか、それが一番の本命とも言えるのだが。

右方のフィアンマ

なぜ彼が自分を狙っているのか?
おそらく自分が“天使を身に降ろした”という事に関係があるのだろう

右方はミカエル(神の如き者)の位置

フィアンマの性質はミカエルである

そして、オルソラの推測によると、自分の器もミカエルと同じ性質を持っているらしい


あの時、突然自分を襲った胸の圧迫感

もしかすると、この性質になにか関係があるのだろうか?

そもそも、フィアンマの目的とは一体何なのだろうか?

今のところ、はっきりしている事はただ一つ

仮に自分がフィアンマと対峙する事になったら、確実に負けるだろうと言う事だ。
641 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:11:48.39 ID:ND1AOxs0

あの心臓を鷲掴みにされる様な圧迫感の正体を探った末にフィアンマの姿を見てしまった時、
やめておけばよかったと後悔した

理屈ではない、生存本能のレベルで、アレには勝てないとすぐに理解できた

フィアンマの右肩から生える、巨大な右腕

同じミカエルの性質を持つ者だから理解できたのかもしれないが、あれはただ歪で大きい腕という単純なものではない

破壊力がどうとかそういう問題でもなく、もはや勝負に勝てるかどうかの問題ですらない様な気がする。
例えるなら、捕食者と被食者の違いに似ているかもしれない。

キャーリサもカーテナの力により限定的にミカエルの力を振るっていて、
それは神裂の様な聖人クラスの人間が数人で束になって戦っても敵わなかった程の圧倒的な強さだった

だが、それすらもあの右腕の前には酷く稚拙に感じられてしまう
642 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:14:24.77 ID:ND1AOxs0

サーシャ「……ハァ」


悩んだ所でどうなるわけでも無いのだが…

これからどうしようか……

そう言えば、今日はヴェントに無理矢理起こされたので、いつもよりも早く目が覚めてしまった

まだ彼女は怒っているのだろうか?

まあ、良いか…

コーヒーを飲んだにも関わらず、カフェインはあまり効果を発揮していないみたいだ

目蓋が重い……




















サーシャ「カナミン…だと…zzz」

643 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:15:17.01 ID:ND1AOxs0











どれくらい寝ていたのだろうか?

夢と現実の間でふら付いている意識を捕まえようとしてみる……












ミ ツ ケ タ ゾ











サーシャ「!?」
644 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:16:54.67 ID:ND1AOxs0

まだ意識が朦朧としており、足もふら付く

だが、それでも自分の体はやらなければならない事が分かっているらしく、
ドアを蹴破り、一秒でも早くこの建物から離れようとしていた


その直後だ、とてつもない破壊音が鳴り響いたのは


まさかテロか?

いや違う、この心臓を鷲掴みされる様な圧迫感は……


なんとかサーシャは建物から脱出できた。

外はもうすっかり日が沈んでいる様な時間帯だった

一瞬、自分はどれだけ寝ていたのだろうか?と考えてみたが、広場に居る多くの人々が、
皆同じように驚いた顔をして自分が出て来た建物を見つめている事に気付き、瞬時に思考が切り変る


ヴェントが掛けてくれた術式はまだ効果が続いているみたいだ

人ごみのなかに隠れれば、あの男から逃れる事ができるかも……






「見つけたぞ、サーシャ・クロイツェフ」



サーシャ「ッ…!」


どうやら手遅れみたいだ
645 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:17:58.12 ID:ND1AOxs0

追い詰められた被食者は、食われないために抵抗する

サーシャは多くの人ゴミの間を縫う様に駆け抜け、フィアンマに向かって突進した


直後に、フィアンマは指で何かを弾く


ドスッ

サーシャ「がッ…!?」


何だ?何が当たった?

どんな攻撃を受けた?

腹部に強烈な衝撃を受け、何も理解できないままサーシャの体は真後ろに弾き飛ばされた


上条「サーシャ!?」

サーシャ「!?…上条…とうま…」


どうやら彼はすでにここに来ていたみたいだ
646 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:19:17.98 ID:ND1AOxs0

フィアンマ「ほう、まだ気を失わないとは。どうやらあの話は本当みたいだな」

サーシャ「くッ!」


サーシャは体勢を立て直す

そして、背中からバサッと氷の翼が飛び出てきた

ガブリエルの水翼

大天使の力とリンクしている時だけ、彼女は聖人クラスの爆発的な力を使う事ができる
のだ

今度は低高度から滑空しながら、矢の様な早さでフィアンマに襲いかかる


フィアンマ「その力は本来お前が使うべきものではない…」


フィアンマは軽く右手を振った


サーシャ「ッ…!?」


まるで鬱陶しい虫でも払う様に、見えない力でサーシャの体を地面に叩きつけた

右手を振るう意外の動作は何もしていない

だが今の一撃で、背中の翼がバラバラに砕け散ってしまった


フィアンマ「器は所詮、器と言う事だ」


地面に這いつくばるサーシャの元へ、ゆっくりとフィアンマが近づいてくる…

対抗するための手段が思い浮かばない

たった数秒、2回の攻撃で、近づく事すらできずに撃墜されてしまった
647 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:20:54.74 ID:ND1AOxs0

サーシャ「あなたの……目的は……」

フィアンマ「ん?そうだな、俺様がしようとしている事は、簡単に言えば…」


そこでフィアンマの言葉が途切れた

フィアンマは突然、自分の後方に向かって右手を真っ直ぐに伸ばした

すると、見えない空気の塊がフィアンマの右手に当たって四方八方に分散され、残った風の残骸がフィアンマの髪を軽く揺らす


フィアンマ「懐かしい顔だ」


フィアンマの背後

型は中世の女性の服装だが、それを派手な黄色に染め、現代風にド派手なパンクファッションの様なスタイルで着飾る女性

顔は大量のピアスを付け、目元にも派手な化粧をしている

そして、その女の肩には有刺鉄線で巻かれた巨大なハンマーが担がれていた
648 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:21:45.91 ID:ND1AOxs0

サーシャ「ヴェン…ト…?」


ヴェント「別にそこらのガキやローマ成教のシスターに肩入れする義理はないんだけどさ。
いい加減、アンタがローマ正教を引っ掻きまわすの、見てらんないのよねぇ」

フィアンマ「得意の天罰は使えんと報告を受けているが?」

ヴェント「その程度で終わるとでも思ってるワケ?」


突然、二人の周りを風が渦巻いた
まるで、空気がこの二人から逃げようとする様に


人とそれを超えた者との境界を別つように


ローマ正教20億人のトップ

その手で世界を動かしてきた、次元の違う魔術師の戦いが始まった
649 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:23:08.08 ID:ND1AOxs0
フィアンマ「どうやら、ある程度まで術式の復元はできている様だな」

フィアンマ「だが、天罰術式を復元するまでには至っていないみたいだ。
まあ、仮に復元できていたとしても、その方法論では俺様は倒せないぞ?」

ヴェント「もともと敵意や憎悪そのものの考え方が歪みまくってるアンタにあんなものを使おうとは思わないわよ」

フィアンマ「ならばどうする?」

ヴェント「そうだな…アンタのその右腕の力、現状では完璧に振るえないんだったな確か」


フィアンマの巨大な右腕は、圧倒的な力を持っている。だが、その力は強過ぎるが故に、
体は人間であるフィアンマには使いこなす事ができず、空中分解してしまうのだ。
それを解決するために、インデックス、上条当麻、サーシャの三人を欲しているわけだが……


フィアンマ「……」

ヴェント「その右腕、使用制限があるはずよ?」


フィアンマは上条、レッサー、エリザリーナ、そしてサーシャを退けるために力を行使した
だが、不完全であるがゆえに、莫大過ぎる力を連続して自由に使う事はできない


つまり、力が無くなれば、フィアンマはただの人同然と言う事になる



だが、なぜかフィアンマの口は緩やかなカーブを描き、余裕の表情を見せていた
650 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:24:33.71 ID:ND1AOxs0

フィアンマ「まさか」


フィアンマ「その程度で俺様との差を埋められるとでも?」


ヴェント「いいや」


ヴェント「面白いのはこれからよ?」


ゴバッ!!

フィアンマ「!?」


直後、フィアンマの体が真後ろに薙ぎ払われた


上条「何が…起きたんだ?……!?」

サーシャ「あれは……」


いきなりフィアンマの体が弾かれた事も驚いたが、さらに驚くべき事がもう一つ。

突然、地震が起きたかの様に雪の大地が揺れ、そして何かが大地から顔を覗かせた


サーシャはすぐにその正体に気が付いた

上条もヴェネチアでの戦いを思い出し、それを理解した
651 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:26:41.35 ID:ND1AOxs0

ヴェント「アドリア海でビア-ジオ・ブゾーニが“アドリア海の女王”と
それを護衛する“女王艦隊”を指揮していたのは知ってるかしら?」


フィアンマを薙ぎ払った一撃の正体は、女王艦隊から高速で放たれた透明な錨

ヴェントは囁く様に遠くのフィアンマに向かって話しかけた

どうやら、何か魔術的な力を使って声を届けているみたいだ


ヴェント「あの“聖霊十式”を実用レベルに再調整したのはこの私。“アドリア海の女王”全体の制御は不可能だけど、
大艦隊の一部だけなら、私にも操作するだけの親和性があるのよ」


ヴェントの舌からジャラリと長い鎖に繋がれたロザリオが飛び出て来た

氷の様に透明なロザリオだ


ヴェント「そうそう、もう一つ」

ヴェント「十字教じゃ海の嵐を静め、船の安全を守るエピソードが多い。神の子やら聖ニコラウスやらね。
本来、私が司る属性は風や空気だが、海の嵐は風と水の混合属性。このエピソードを介する事によって、
私は部分的に水への干渉も可能となる。……あんたの火一辺倒とは違う、複雑で巨大な効果も生み出せるのよ」


突如、フィアンマの体を吹き飛ばした氷の錨が爆発し、
無数の氷の刃と化してフィアンマの吹き飛ばされた場所を目掛けて降り注いだ

その数は、もはや隙間を見つけて逃れられるものではない

それはゾッとする様な光景、まるで鉄の処女の様な状態だ

フィアンマが氷の刃に串刺しにされている惨状か、或いはもはや原型すら留めずに無数の肉塊と化してる様なグロテスクな想像しかできない
652 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:28:04.70 ID:ND1AOxs0
9月30日の学園都市で、自分は何ておぞましい怪物と戦っていたのだろう

その日にヴェントを打ち負かしたはずの上条は、改めて神の右席の桁外れな力を前に身震いした

ヴェント「私を[ピーーー]ことだけを考えて戦術を組み立てていれば、多少は結果が変ったかもしれない。けど、その空中分解してしまった右腕では、今の一撃は防げないでしょうね」


嘲る様に、舌を出しながらそう言う


ヴェント「無駄弾を撃ち過ぎなのよマヌケ……っても、もう聞こえちゃいないか」






「そうか?俺様は、お前が思っているよりも物持ちは良い方だぞ?」



ヴェント「!?」


突然、爆発的な閃光がフィアンマの倒れた場所から放たれた


フィアンマ「どうやらマヌケはお前の方らしいな…」


ゆっくりとこちらへ向かってくるフィアンマ

彼に放たれた無数の氷の刃は、さらに何億倍、何兆倍もの氷の粉となって、
まるでダイヤモンドダストの様に煌めきながらその体に降り注ぐ

フィアンマの体には傷一つ無く、空中分解しているはずの巨大な右腕は、異様な存在感を放ちながらその形を保っていた
653 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:32:32.46 ID:ND1AOxs0

ヴェント「どういうこと……その腕はッ!?」

フィアンマ「空中分解そのものは避けられないみたいだが、状態を固定させる事には成功した」


フィアンマの右手に何かが握られていた

過剰なまでのダイヤルが付けられた錠前。インデックスの制御装置だ。

10万3000冊の魔道書から、好きな時に好きな知識を引き出せるイギリス清教の機密霊装


フィアンマ「有体に言えば、もはや今の俺様に制限など存在しない」



ヴェント「ッ…!!」


ヴェントは女王艦隊から連続して氷の錨を放った

まるで虫一匹を[ピーーー]ために、重火器を持った軍隊に一斉射撃を指示する様に

だが……


フィアンマ「破壊力はいらない」


フィアンマは軽く右腕を振るう

それだけで全ての錨が粉々に打ち砕かれた

それだけではない。ヴェントの女王艦隊も、周りの建物や景色さえも全てが根こそぎ破壊されていく

不思議な事に上条やサーシャ達、そして野次馬が居る所だけは攻撃の余波の影響を受けなかったのだが、
その周囲の物は全てが消えてしまったかの様に破壊し尽くされた
654 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:36:33.03 ID:ND1AOxs0
フィアンマ「触れれば終わるのだから、相手を壊すための努力は必要無い」

ヴェント「チッ!」


ヴェントは慌ててハンマーを構え直し、ぶつぶつと早口で何かを呟く

おそらくまだ切り札があるのだろう。その術式を使用するために、高速で必要な詠唱を行う


フィアンマ「速度はいらない」

ヴェント「なッ!!?」

フィアンマ「振れば終わるのだから、当てるための努力は必要無い」


数キロ先に居たフィアンマが、次の瞬間にはヴェントの真正面に立っていた

そして何も分からないままヴェントの体が吹き飛ばされる


ヴェント「ごッ…ッ!?」


だがそれだけでは終わらない

吹き飛ばされるヴェントの体に合わせて、尾を引くように漂う銀色の鎖

フィアンマはそれを軽く掴んで引っ張った。吹き飛ばされる本体と反対方向にだ。
そんな事をしたらどうなるだろう?


ブチリ…


ヴェントの舌から嫌な音が聞こえた

無理矢理舌から鎖が引き千切られたのだ


ヴェント「がッ、ああああああああああああああああッ!!!!!!」


数秒遅れてヴェントの絶叫が聞こえてくる


フィアンマ「舌を丸ごと引っこ抜いた分けじゃない。少し裂けたくらいで大げさな奴だ」


口を押さえ、雪の上でのたうち回るヴェントを、まるで下らない物でも見るかのようにそう呟いた
655 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:38:18.13 ID:ND1AOxs0

フィアンマは引き千切った鎖を軽く宙に投げると、肩から飛び出ている巨大な右腕を軽く振るい、ロザリオを粉々に砕いた


ヴェント「ごぶッ…な…にが…?」


口を押さえ、よろよろと立ち上がるヴェント

指と指の隙間から零れる血が雪の上に落ち、赤い浸みを作る


フィアンマ「まさかこの腕が俺様の力の本質だと思っていたのか?
だとしたらそれは勉強不足だ。この腕はいわば偶像の様なものに過ぎない」

フィアンマ「とはいえ、理屈は簡単だ。俺様の力の本質は、右腕に備わっている力そのものなのだからな。
例えば、神の子が人を癒すとき、または十字教の儀式を行う時には右手を使う。
聖書が書かれたのも右手と、まあ色々だ」


右は特別な位置である

フィアンマの属性であるミカエルも、神と対等である事を示す右に座している。
それが神の右席の由来であり、彼らが目指すところであるのだが。

十字教だけではない。例えば日本にも、“左遷“や、”右に出る者はいない“という言葉がある。
またインドでも、対極である左手は不浄の手とされている。

右が特別な物、或いは神聖なものであるという事は、例外を除けば人類にとっては普遍的なものなのかもしれない
656 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:40:32.60 ID:ND1AOxs0

フィアンマ「俺様の力はそれだけ多くの十字教的超常現象を操れると言う事だ。
あとは言わなくても分かるだろ?それほど無能でもあるまい」


それがサーシャが本能で感じた、絶対に勝てないと悟った恐怖の正体であった

相手の破壊力を上回る破壊力を叩きつけてやればいい

相手が速いなら、それを超える速さで砕けば良い

不思議な力を使うなら、その不思議な力ごとまとめて薙ぎ払えば良い

相手がどうしようも無いくらいに強いなら、それを上回る強さで倒せば良い

それができるのがフィアンマの“聖なる右”の本質


物語で追い詰められた勇者に奇跡が起きて魔王を倒す

その奇跡を自在に操れるのが“聖なる右”の力


ヴェント「馬鹿な……その右腕は……」

フィアンマ「そうだよ。不完全だ。本来はお見せできる様なものじゃない。
ただな、それはお前が得意げに言えた様な事でもないんだぞ?神の右席は、
いや、この世界全体さえも、そんなあやふやな状態になりつつあるのだから」

ヴェント「……」

フィアンマ「エンゼルフォールの時、不完全な状態で現れた天使は、ミーシャと名乗ったそうだ」


フィアンマの顔に影が差し、彼が初めて悲しそうな、物憂げな表情を見せた
657 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:42:16.79 ID:ND1AOxs0

フィアンマ「おかしいとは思わないか?ミーシャはミカエルの別称だ。なぜロシア名でガブリエリではなくミーシャなのだ?」

フィアンマ「大天使の名は神から与えられた役割を指す。その名を偽ると言う事が、どれだけ重大な事かを理解できるか?」


フィアンマは訴える様に問いかけた


フィアンマ「左方のテッラは“土”と“緑”と“ラファエル(神の薬)”を司っている。
前方のお前は“風”と“黄色”と“ウリエル(神の火)”を担っているとされている。」

フィアンマ「だがこれはおかしい。本来はウリエルが土、ラファエルが風を担っているはずなのだ」


その言葉を聞いて、ヴェントは心臓が止まりそうな程の驚きを覚えた

なぜ今まで気が付かなかったのか?

まるで、雪は冷たい、火は熱い、自分は人間、そんな言葉にする必要が無い程の当たり前な事を思い出したかのような気分だ


だがそれ以上に、自分の術式の柱としていた物がひっくり返された事の方が遥かにショックが大きかった


フィアンマ「そうだ…誰も気付かない…俺様もこの右腕がなぜ不完全なのかを考えた時に初めて気付かされた」

フィアンマ「誰も気付かない、だがそれでも世界は何事も無く回り続けている。魔術も発動できてしまう。
分かったか?これがどれだけ危機的な事か?誰かがこれを正さなければならないんだ」
658 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:48:30.10 ID:ND1AOxs0

ヴェント「御使堕し(エンゼルフォール)がそこまで影響していたとでも…?」

フィアンマ「何も分かっちゃいないじゃないかマヌケが。四大属性の歪みがあったからこそ、
あんなふざけた術が発動してしまう隙が生まれたのだ」

フィアンマ「サーシャ・クロイツェフ。お前はもう気付いてるはずだ。どういう経緯で理解したのかは知らんが、
でなければお前がガブリエルの力とリンクして、その一端を行使できる事など有り得ないからな」

サーシャ「……」


正確に言えば、最初に気付いたのはオルソラに指摘された時だ

この世界の属性は歪んでいる。それを知っているからこそ、歪んだ公式と異世界の法則を無理矢理繋ぎ合わせ、
天使の力を納める器という類稀なる才能を使ってサーシャは力を行使する事ができた。

歯車が歪んだまま動き続けたら、いつかどこかでそのボロが出てくる

それが御使堕しだとしたら、人類が世界の歪みに気付くために起きたボロなのだとしたら…

きっと、聡明なオルソラもそれで気付いたのかもしれない。サーシャの素情を調べると言う事をきっかけしにて…



フィアンマ「これで理解できたか?ならもう良いな。……振り返る必要は…」


フィアンマは右腕を振り上げ、それを真後ろに振るった


上条「あガッ!!……ッ!」

フィアンマ「ない」


背後から襲いかかった上条を薙ぎ払うフィアンマ

強烈な一撃を受け、全身に満遍なく痛みが駆け巡る

相手が強いなら、それを上回る強さで倒せば良い

ヴェントの女王艦隊を砕くほどに力は必要無い。右手以外はただの人間である少年を叩きのめせる程度の力で良い

もしもこの力が完成してしまったら、理論上彼を倒せる者は存在しないと言う事になるだろう
659 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:51:02.66 ID:ND1AOxs0

上条は唇の端から垂れる血を拭い、再び拳を握り直した


フィアンマ「……愉快な奴だ」

フィアンマ「今までどれだけの人間のために立ち上がって来た?どれだけの人間のために戦ってきた?
どれだけの事件を解決するためにその拳を振るってきた?本当に愉快な奴だよお前は」

フィアンマ「だが一番愉快なのは、多くの人間に触発されて危地へと赴いて行きながら、
結局全ての報酬や成果はお前自身の中に蓄積されている所だな」

上条「何が言いたい?」

フィアンマ「お前は自分の行動が本当に正しい物だと確信しているのか?」

フィアンマ「お前が憤っている俺様の行動と、お前自身が今まで行ってきた事は、根本的なところでは何も変わらない。
俺様は地震の問題を解決するために右腕を振るい、お前は自身の周囲で起こる事件 を解決するために右腕を振るう。
他人が必死に積み上げてきた努力を一撃で粉々に砕くような やり方でな。手段に差はないぞ。
そして俺様には確信がある……自らの行動が、絶対的な善 の到来を意味するものであるとな」

上条「……そのために、インデックスがさんざん苦しめられても放っておけって言うのか」


上条は一秒も迷わずに告げる。


上条「ふざけるんじゃねぇよ。ローマ正教の人たちを自分の都合で利用して、フランスからの圧迫を 強めて
イギリスのクーデターを後押しして、そんなものが絶対的な善だって?頭がどうにか なってんじゃねぇのか」

フィアンマ「なら、それを止めるお前は善だとでも?」

上条「善かどうかなんて問題じゃない」

フィアンマ「……、」
660 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:53:31.83 ID:ND1AOxs0

上条「インデックスが苦しんでいるんだ。お前が始めたクソくだらない戦争のせいで、
どれだけの 人が泣いていると思ってやがる。立ち上がりたいと思うことは、そんなにおかしい事かよ。
目を覚ますこともできない女の子のために戦おうと思うことは、そんなに悪い事かよ。
少なくとも、大勢の人を苦しめて喜んでいるような野郎に、いちいち文句を言われる筋合いはねえ」

フィアンマ「愉快だな」


フィアンマは笑いながら、右腕を上条の方に差し出した。
そこにあるのは、小さな錠前

インデックスの遠隔制御霊装だ

顔色の変わる上条に対し、フィアンマはニヤニヤと頬を緩めながらこう告げた。


フィアンマ「その台詞。お前が嘘をつき続けるシスターの前でも言えるのか?」


ピクリ、と上条の肩が僅かに動いた


フィアンマ「この遠隔制御装置を使うと、たまにあの女の意識とリンクする事がある」

上条(まさか…)

フィアンマ「その事に納得し、消化できたのはお前だけだ。だが、あの女はどう思ってるかな?
お前の自己満足で庇い続けられてきたあの女は、今までどんな気持ちでいただろうか?」

上条(気付いて…)

フィアンマ「まあ貴様の欺瞞に対してジャッジを下すのはあの女自身だが、
はたしてどんな結末になる事やら……本当にあの女にとって救いになっているのか否か、
ジャッジが下るのが楽しみだな」

上条「……」


戦意は失われ、同時に上条の顔から血の気も失せる


フィアンマ「変らないんだよ。お前も、俺様も…」


追い撃ちを掛ける様にフィアンマは反論できない事実をもう一度突きつけた
661 :1 [sage]:2010/09/19(日) 19:55:08.81 ID:ND1AOxs0

フィアンマ「さて」


軽く一息つくと、フィアンマは第三の腕をカメレオンの舌の様に動かし、サーシャの体を掴んだ


サーシャ「!?」

上条「サーシャ!?」


ふと我に返った上条はフィアンマに殴りかかろうとするが、突然フィアンマの周囲から爆風が生じる


フィアンマ「天使の媒体を確実に封じて輸送したいところだが、そうするとお前の右手が邪魔になる。
今日の所はお前を諦めるとしようか」

上条「ッ!?」


右手で爆風を防ぐのに必死で、フィアンマの元へ近づく事ができない



フィアンマ「簡単に死ぬなよ?その右手には用があるからな」



上条「フィアンマッ!!!」


衝撃を消し終わり、やっとのことでフィアンマに近付けると思った時には、もうフィアンマの姿はそこにはなかった




“本当にあの女にとって救いになっているのか否か、ジャッジが下るのが楽しみだな”




フィアンマのその言葉だけが、頭の中で狂ったオーディオの様に何度も何度も再生されていた


667 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:02:58.55 ID:9CZt.is0

そこは冷たい牢獄でもなく、薄暗い取調室でもなかった

目を覚ましたら、まず飛び込んできたのは豪奢な飾りの天井だ

慌てて上体を起こすと、自分はベッドに寝かされていたという事に気が付いた。
自分の体には不釣り合いな大きなベッドだ。

部屋を見渡すと、まるでどこぞの高級ホテルのスイートルームの様に飾られていた


サーシャ(ここは…?確か私は、フィアンマにさらわれたはずじゃ……?)


『お前は大事な素材だ。ぞんざいな扱いをするわけにはいかないだろう?』

サーシャ「!?」


サーシャはベッドの上から転がる様に脱出し、すぐさま体勢を立て直した


『おいおい、たかが人形に何を警戒している?』


そして気が付いた

声の主。それは、自分が寝ていたベッドの枕元に置かれていた、小麦粉を練って作られた人形から発せられていたものだと
668 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:04:57.89 ID:9CZt.is0

『ま、起きたのならちょうどいい。そのまま部屋を出ろ』


サーシャ「……」


『何をしている?さっさと部屋を出ないなら、少し面倒だが…』


突然、枕元にあった小麦粉の人形が宙に浮かびあがった

それだけではない、ベッドの中から、カーテンの陰から、壺の中から、様々な場所から大量の同じ小麦粉の人形が現れる


『グズグズしてると痛い目に合うぞ?』


ボン!と小麦粉の人形の内の一つが爆発した


サーシャ「!?」


それを合図に大量の人形がサーシャを目掛けて飛んで来た

サーシャは扉を見つけると慌てて駆け寄り、勢いよく扉を開け、バタンと勢いよく扉を閉めた
すると、べチべチと扉の反対側で人形がぶつかる音が聞こえてくる

だが、爆発音は最初の人形の時以来は一度も聞こえなかった

もしかしたら、あれはハッタリだったのか?


フィアンマ「そうだ、それで良い」

サーシャ「…!?フィアンマ!」
669 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:08:55.97 ID:9CZt.is0

フィアンマ「ついて来い」

サーシャ「何をする気ですか……」

フィアンマ「ここで気絶させた方が楽だが、それはお前も嫌だろ?」

フィアンマ「俺様は譲歩してやってんだ。それが理解できてるなら大人しくついて来いと言っている」

サーシャ「……」


フィアンマはどこかへと足を進め始めた

サーシャもその後について行く


フィアンマは護衛を付けておらず、無防備にもこちらに背を向けたまま歩いている

それは彼の自信の現れなのだろうか?

サーシャは試しにナイフ程度の大きさの氷の刃を出してみた


フィアンマ「俺様で遊ぶのはやめてくれないか?」

サーシャ「……」


フィアンマは足を止めず、振り向く事もせずに呆れながらそう言った

どうやら抵抗は無駄みたいだと諦め、サーシャの手から氷の刃が消えていく
670 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:10:26.83 ID:9CZt.is0

フィアンマ「……」

サーシャ「……」


サーシャ「フィアンマ、あなたの目的は何なのですか?」

フィアンマ「それはお前を使う目的か?それとも俺様の最終的な目的とかいうヤツか?」

サーシャ「第一の解答ですが、できれば両方聞きたいのですが」

フィアンマ「ははっ、俺様に負けないくらいの欲張りだな」

サーシャ「……」

フィアンマ「お前は、この世界の構造についてどう思う?」

サーシャ「……質問の意味がよく分からないのですが?」

フィアンマ「そうか。なら、例えば善悪の二元論で考えるとしよう。お前は善とは何で、悪とは何だと考える?」

サーシャ「……」

サーシャ「第二の解答ですが、それは簡単には割り切れないものだと思います」

フィアンマ「そうだな。だからこそ必要悪という言葉もあるくらいだ」
671 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:13:15.39 ID:9CZt.is0

フィアンマ「ならば、この世界の構造は善で満たされているのか、それとも
必要悪と言うものが歪なバランスを維持しているのか、はたまた
世界は悪魔が子羊を食い物にして成り立っているのか……」

サーシャ「……」

フィアンマ「答えはその全てだろう。善でもあり悪でもあり、あるいはグレーでもある。
60億人もの人間の思惑を一つの尺度で操作すると言う事は不可能だからな」

フィアンマ「俺様は善悪の尺度を作ろうと思う程傲慢な人間ではない。
だが、尺度は無くとも、この世界には、いや人類の普遍的な価値観には
善と悪と言うものが存在するのは明らかだろう。そして多くの人間は、
悪よりも善を美徳として受け入れる。だからお偉いさん方は悪を行うために
善という張りぼてを立てるんだろ?大義名分が必要だからな」

サーシャ「……つまり、あなたは何がしたいのですか?」

フィアンマ「お前も十字教徒なら分かるはずだ。十字教の本来の目的とは何だ?」

サーシャ「“救い”ですか」

フィアンマ「その通りだ。では救いとは何だ?救済は十字教徒を信ずる者だけに与えられるのか?」
672 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:16:12.69 ID:9CZt.is0

フィアンマ「ならば、十字教徒で無い者に救済は無い、いわゆる聖絶を支持するのか?
あるいは罪を犯した者でも十字教徒ならば神の国へ行けるのか?」

サーシャ「第三の解答ですが、罪を悔いるものには救いがあるべきでは?」

フィアンマ「悔いる…ね。懺悔など、ただの自己満足だとは思わないか?」

サーシャ「第四の解答ですが、それは十字教徒らしからぬ発言ですね」

フィアンマ「十字教にも様々な考え方がある。だからお前達ロシア成教や
イギリス清教、ギリシア正教、東方教会、ネストリウス、プロテスタントetcなどの分派ができたんだろ?
まあ俺様はカトリックの身だから、確かにお前の言う通りなのかもしれんが」

フィアンマ「話が逸れたが、悔いるとは何だ?」

サーシャ「それは…」

フィアンマ「神の前で罪を告白したところで、そいつに酷い目に遭わされた奴は、
そいつを許すことはできるのか?快楽殺人者に殺された奴は、そいつをどう許せばいい?」

サーシャ「……」

フィアンマ「悔いるだけでは終わらないのさ。そこには恨みという連鎖的な憎悪がある。
まあ十字教では“許す”という事も救われるための基本ではあるが、それで本当にこの世界から悪は消えるのか?」
673 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:18:01.45 ID:9CZt.is0

フィアンマ「人の世はそう簡単には行かない。かつてルシフェルが光を与えてから
幾年もの時代を得て倫理的な価値観を築いてきた。だが、それでもこの世界は善と悪、
それが歪なバランスを保ちながら動いている。だからこそ、少し歯車を狂わせれば
戦争などという人的な災害が起きてしまう」

サーシャ「戦争を起こした超本人がふざけた事を言ってくれますね」

フィアンマ「だが、火薬が無ければ弾は発射されない。俺様はトリガ―を引いただけに過ぎないのだぞ?」

フィアンマ「もともとこの世界はそうできている。結局最後に残るのは武力による衝突だ。
殴り合い、奪い合い、殺し合う。二千年経ってもそれだけは変らないみたいだな」

サーシャ「仮にそうだとして、結局あなたは何がしたいのですか?」

フィアンマ「言っただろ?“救い”だとな」

サーシャ「第一の解答ですが、どうやら私には理解できないみたいです」

フィアンマ「シンプルに考えたら良い。そして、もう一つの質問に対する解答だが」


いつの間にか、目の前には大きな扉があった

フィアンマがその前に立つと、触れる事無く扉は勝手に開いていく


サーシャ「これは……!?」
674 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:18:54.99 ID:9CZt.is0

そこは広大な儀式場だった

全体的に目が痛くなるほどに真っ赤に塗られた部屋

前方には緑の円盤、後方には青い杯、左方には黄色の短剣がある

それぞれ属性を表す象徴武器(シンボリックウェポン)

だが、それらの三つの色がそこにあると言う事自体が違和感を感じてしまうほどに、全体的に赤い印象を強く受ける


そして、どういう規則性があるのかは分からないが、数十本の細い柱が並んでいた

表面はガラスの様に透明なもので、中には黒い液体が入った柱と、白い液体に満たされたものの二種類の柱を確認できる

白と黒の一対は、儀式における“門”の象徴である

この門を通して儀式場にオカルト的な力を呼びこむわけであるが、その柱が何十本もあるという事は、
そのオカルト的な力を複雑な経路を通らせるためなのだろう

何をする気かは分からないが、儀式場自体はどうやら既存の知識で理解できるものである様だ。ある事柄を除けば…
675 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:21:02.07 ID:9CZt.is0

フィアンマ「ベツレヘムの星を浮翌揚させるぞ。奴らに天使を見せてやろう」


ベツレヘムの星?天使?

何を言っている……?


いつのまにかフィアンマの手に握られていた赤い杖

赤い杖は火の象徴武器。だが、その先端に付いているものは、ダイヤルの沢山付いた錠前の様な物。
普通は磁石などを使うのだが、一体どんな意味があるのだろうか?

そして、儀式場を取り囲む様に並ぶ、赤いローブを着た者達

あれは、ロシア成教の魔術師だろう。

おそらく100人くらいだろうか?いや、もっと居そうだ

フィアンマは、一体何をしようとしている…?


フィアンマ「お前を使う目的をまだ話していなかったな?サーシャ・クロイツェフ」


フィアンマ「不安定ではあるが、かつて発動された御使堕しの派生術式を行う。
そのために天使を降ろした素材のお前を使わせてもらう」

サーシャ「まさか……」

フィアンマ「そうだ。俺様も、いやこの世界の人類全てが未だかつてその目で見た事は無いだろうな」


フィアンマ「ガブリエルをここに召喚しよう」
676 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:22:36.86 ID:9CZt.is0

サーシャ「正気ですか……?あなたは自分が何をしようとしてるのか分かっているのですか!?」

フィアンマ「たかが大天使を一人降ろすだけだろう?大げさな奴だな」

サーシャ「一つ間違えたら世界が滅ぶかもしれないのですよ……?」

フィアンマ「あまり俺様を低く値踏みするなよ?」

サーシャ「ッ!!」


止めなければならない、なんとしてでも…!

サーシャは一対の水翼を展開させ、一瞬で氷の剣を取り出し、フィアンマに斬りかかった


だが…


バキン!


サーシャ「……!?」

フィアンマ「そんなに驚く事でもないだろ?ガブリエルは火の浸食を受けているのだからな」


サーシャの氷の剣は打ち砕かれた

フィアンマが手にする同じ氷の剣で
677 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:24:50.21 ID:9CZt.is0

そして呆気にとられているサーシャの体を、フィアンマの右腕が掴み、宙に持ち上げる


フィアンマ「この右腕が不完全である事の代償として、俺様は限定的にガブリエルの力を使えるわけだが」

フィアンマ「そもそも一つの属性は、あくまでも全ての属性における先端であるというのが本来の在り方だ。
だから、例えば火の属性なら火を操る事しかできないという見方は間違っている。
正確には、火の力が最も強く現出するという考えのほうが正しい」

サーシャ「ぐッ……!」


ギリギリとフィアンマの巨大な右腕にサーシャの小さな体が強く締め付けられる


フィアンマ「とは言え、俺様の火の属性は、四大元素の歪みのせいで水の力に強く浸食している。
つまり、火がその先端でありながら、同時に水も先端に立ってしまっているのだ。
いくらガブリエルの力が使えるとは言え、俺様の本来の力がこのザマでは割に合わないな」


フィアンマ「だから」


フィアンマ「正さなければならない。この歪みを…」


サーシャ「……」


サーシャの手足が力無く垂れ下がる

彼女の意識は、深い闇の中へと沈んでしまっていた

これから起こる悲劇を止める事ができずに……
678 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:27:43.17 ID:9CZt.is0















帰る 位置 正しい 座 天界 元の あるべき 場所



        全て 破壊…





やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!







サーシャ「はっ……!?」



本当に聞こえたのかもしれないし、はたまたそれは夢だったのかもしれない

だが、自分の目を覚まさせたあの声は、間違いなくあの少年のものだ

心の底から放たれた、恐怖と悲痛の入り混じった叫び

なんとなく、あの少年が近くに居る様な気がする…
679 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:30:51.70 ID:9CZt.is0

そうだ、大天使(ガブリエル)!

とっさに体を起こし、姿勢を低くして周囲を伺う

すると、何人かの魔術師の姿が確認できた


しかし、どうやら誰一人として自分が目が覚めた事に気付いていない様だ


チャンスは今しかない

戦うなんて馬鹿な真似はしない

サーシャは彼らに気付かれぬように、そっと儀式場から脱出した










フィアンマ「誰一人気付かんとは、不抜けた連中だ。ま、もうあの女にもお前達にも用は無いから構わんが…」

『フィアンマ様、ニコライ司教からの通信です』

フィアンマ「ああ、こちらへ繋げ(用が無くなったのは、この救い様のない司教もだな…)」



フィアンマ「さて、出撃だ、大天使ガブリエル(神の力)。いや、ミーシャ・クロイツェフの方が正しいか?」

フィアンマ「例の羊皮紙を回収しろ。邪魔する者は全て吹き飛ばせ。弱者と言えども容赦をする理由にはならないからな。
遠慮無く、全力で取り返して来い」
680 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:33:03.26 ID:9CZt.is0

果てしなく澄み渡る水色の空は、一瞬にして全てが黒く染められ、漆黒の夜空に変った

星が一つも無い夜空

普段は美しく輝く月さえも、この漆黒の空の上では不気味に感じられてしまうだろう


太陽と月と地球の位置関係すらその手で歪めてしまう天体制御(アストロハインド)



けして人間には解せない様な仕組みの大魔術


そして、それを行使するのは……


星の無い漆黒の夜空で、唯一同じような輝きを見せる一つの青い光


ソレは翼を振るうと、上空を覆っていた無人戦闘機がまとめて薙ぎ払われ、鉄屑の雨が大地へ降り注ぐ

敵と認識したものを見つけては、それを軽々と破壊していく


戦車や駆動鎧の密集地を見つけると、そこへ急降下し、ただ乱雑に、背中から飛び出る様に生えた数十本もの水翼を振るう

ただそれだけ。

それだけで科学の粋を結集した殺戮兵器が何の役にも立たないゴミに変る
681 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:34:34.07 ID:9CZt.is0

『うおおおおおおお!!』

『距離を取れ!砲撃するにしても近過ぎる!!』

『馬鹿野郎!そんな暇があると思ってんのか!?』


駆動鎧から大型の散弾銃やランチャーが放たれ、戦車が近距離から砲撃を行う

だが、避ける必要は無い

数十本もの水翼が音速で振られ、砲弾や弾丸を、戦車や駆動鎧ごとまとめて粉々にする

同時に大地が削られ、地殻津波を起こし、周りの兵器を飲み込んでいく

おそらくソレは本体に直撃してもダメージがあるかどうかは分からないし、もしかしたら本人にも
攻撃を防いでるという意識は無く、単にソレが攻撃のために振るう翼の威力が強すぎて当たらないというだけなのかもしれない。

戦場に送り込むレベルに限定した既存の学園都市の科学力では、恐らく傷一つ付けられないのだろう


大天使を[ピーーー]武器など、一体この戦場の誰が保持していると言うのだ?

聖書に出てくる様な本当の意味で神様に近い者と戦うすべなど、誰が知っているというのだろうか?
682 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:35:43.85 ID:9CZt.is0

サーシャはそんな作り笑いすらできそうにないファンタジーをモノレールからガラス越しに眺めていた

まず驚いたのが、自分の居る場所がやたら高度の高い場所だったという事だ

どうやら都市一つが浮いているみたいな感じなのだと思うが、一体地上から何千メートル離れているのだろうか?
しかも今この瞬間にもこの巨大な浮翌遊物体は上昇し続けているみたいだ

これがベツレヘムの星なのだろうか?

まあこのくらいならフィアンマのする事だからまだ許容できる。いや、本当はしてはいけないのだろうが。

そして、今自分が乗っているモノレールなのだが、この魔術的な空間になぜこんな近代的なインフラがあるのだろうか?

疑問に思ったが、まあこれもフィアンマなら仕方ない。あのフィアンマでも移動手段を確保しないと
面倒なくらいにこの“ベツレヘムの星”は広いのだろう
683 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:37:20.23 ID:9CZt.is0

本題であるが、一番驚いたのが、あの青い飛翔体だ

まるで玩具の様に学園都市の兵器を弄び、蹂躙するあの怪物

まさか、あれがガブリエル(神の力)なのか?

十字教徒である身としては、本物の天使を見られるという事以上に感動できる事などこの世にはないのだろう

神話と現実が重なる瞬間は、誰もが心を踊らされるものである


だが、違う。あのガブリエルから感じられるモノは、そんな類のものではない

例えるなら、神聖な場所だからけして立ち入っては行けないと、
注連縄で硬く閉ざされた禁断の場所に足を踏み入れてしまった様な気分だ。


神への畏敬と戦慄が、混じり合う様に心の中で渦巻く


受胎告知に見られる様な宗教画とは違うガブリエルの姿

確かに一般的に神学で語られている様な女性的な姿をしている

だが、その体は全身が青い布で覆われていた。頭の先からつま先まで、そして顔の輪郭の細部に至るまで、
まるで皮膚と同じ様に青い布がピッタリと張り付いている様だ。
684 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:38:06.65 ID:9CZt.is0
大きさは本体が2mくらいだろうか?

だが、その本体から生える暗い深海を固めた様な水翼は、100メートル級のものもあれば、
数十センチ程度だろうと思われるものまで様々である。

それが数十本、一斉に音速の様に振るわれ、台地が裂け、戦車や駆動鎧が蟻の様に散らされていく

ガブリエルの水翼は、一本一翼で山を根こそぎ吹き飛ばし、地を削って谷を作ると言われているが、
“百聞は一見に如かず”という言葉がこれ程パズルのピースの様に当てはまる光景も無いだろう

なんとしてでも止めなくてはならない

実際にその身に宿し、そしてリンクする事でその力の一端を使っていた身だからこそ、
大天使の恐ろしさは誰よりも理解しているつもりだ

一刻も早く、上条当麻との合流を果たす事がサーシャにとっての最優先事項であった
685 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:40:40.54 ID:9CZt.is0

意図して作られたのか、それともこのベツレヘムの星自体にそう言う空間が作られる必要があってできたものなのか?

サーシャは今、礼拝堂らしき場所に居た

だが礼拝堂とは言っても長椅子やその配置が似ているというだけで、
一面にパイプオルガンの様な複雑な機構が広がっているという点に関しては
“ここは礼拝堂です”と言われると首を傾げたくなるかもしれない。

モノレールを降りて進んだ先でこの様な場所に辿り着いたわけだが、ベツレヘムの星の進行状況から考察すると、
儀式を行っていた場所はベツレヘムの星の最右部で、移動してきたこの場所は恐らく星の後方という事になるのだろう。

それにしても、これからどうするか?

先程から自分もガブリエルの様に水翼を出そうとしているが、上手くいかないのだ

ガブリエルとのリンクそのものが途切れたわけではない。今でもあの大天使がどこで何をやっているのか?
おおまかではあるが、何となく伝わってくる。

そして、あの大天使が“天界、帰る、正しい位置”と断片的なワードを発しているのも聞こえていた

おそらく、本物が力を行使している間は、自分は力を借りる事ができないとか、そういうルールでもあるのだろう

まあ仮に力を使えた所で、その程度の力では大天使を倒す事などできないのは百も承知だが

あの大天使は、自分が居た儀式場と何らかの関係があるはず

術式の行程は分からないが、そんなめんどくさい物をまとめてぶち壊せるあの右手があれば……………!?

サーシャ(まずい、誰か来ました!?)
686 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:42:05.76 ID:9CZt.is0

突然、礼拝堂らしき部屋の扉が開かれた音が聞こえ、サーシャは咄嗟に長椅子の間に身を隠した


自分を探しに来たロシア成教の魔術師だろうか?

非常にマズイ。天使の力を使う事ができない今、まともに戦ったら怪我では済まないかもしれない。

となると、ここを乗り切るためには奇襲攻撃しかないだろう


扉を開け、この部屋に入って来た者は、両サイドに並べられた長椅子に挟まれた真ん中の道をゆっくりと歩きながらこちらに近づいてくる…



今だ!

サーシャその人物が自分の近くを通る直前に、真横から脇腹に体当たりを食らわせた


?「……!?」


そして、二人して床へと叩きつけられた

もつれ合う様にして床を転がる両者。この場合、マウントポジションを取れた方に勝負の主導権が渡る。

相手もそれを意識してるのか、自分が上に立とうとしている。しかし、先程の脇腹に当てた一撃は、
確実に相手に対して効果があったはず。体勢としてはこちらが有利だ。


だが


ドカッ!

サーシャ「ぐッ…!?」
687 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:44:03.69 ID:9CZt.is0

転がり合う最中、サーシャは思いっきり長椅子にぶつかってしまった

激痛が走り、動きを止めたその瞬間、覆いかぶさる様にしてその者はサーシャの腹の上に乗り上げた

奇襲は失敗だ。どうやら自分の命運はここで尽きたらしい……



「……サーシャ?」


ふと自分の名を呼ばれ、サーシャは自分の上に跨る男の顔をよくよく確認してみた


サーシャ「上条……当麻ですか……!?」



上条「無事だったのか!」


上条は確かめる様にサーシャの肩に触れ、そして強く掴んだ


サーシャ「上条当麻ッ!」ギュツ!


サーシャはそれを振り払い、上条に強く抱きついた


上条「えっ……?」

サーシャ「上条当麻、あなたを探していました!あなたに会いたかったのです!(幻想殺し的な意味で)」

上条「ええっ!いや、あのそれって……ま、まあとにかく落ちつこうぜ!な?」


上条はしどろもどろになりながらもサーシャの体を引きはがした
688 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:46:22.37 ID:9CZt.is0

上条「サーシャ、フィアンマはどこに居る!?」

サーシャ「第一の解答ですが、私にもわかりません。最後に見かけたのは、儀式が始まる前だったと思います」

上条「その儀式は、ミーシャ・クロイツェフを呼び出すためのか?」

サーシャ「第二の解答ですが、おそらくはそうだと思います」

サーシャ「……ですが、私が目を覚ました時にはすでに儀式が終わっていました。なんとか隙を見て脱走する事はできましたが」

上条「儀式場を見て何か気付いた事は無かったのか?例えばこう大天使的な何かを」

サーシャ「第三の解答ですが、儀式は十字教の様式でした。四大属性のうち、主に火を集中的に運用する奇妙な作り……。
本来、攻撃手段としての極端な使用法を別にすると、儀式では四大属性が四つワンセット揃って初めて効果が得られるとされています。
その、フィアンマと呼ばれる男の儀式場は、あまりにも一色で統一されていて……」

上条「……」

上条(なんかよく分からん)


上条はふと自分の右手を見た

あらゆる異能の力を打ち消す幻想殺し。フィアンマが欲している希少な右手だ。

今回、あのミーシャ・クロイツェフは御使堕しの時とは違い、サーシャの体の中に憑依しているのではなく、
大天使そのものが外部に露出しているのだ

だが、フィアンマはミーシャを呼び出すためにサーシャを必要とした

という事は、ミーシャの存在を安定させるためにサーシャが必要なのであり、
ミーシャとサーシャは幽体離脱の様に繋がっているのではないか?

と上条は考えた
689 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:48:07.17 ID:9CZt.is0

だとしたら、この右手の力を使えば、ミーシャに何らかのダメージを与える事ができるかもしれない


上条(こうしている間にも、ミーシャは無差別な破壊を繰り返してるんだよな……軍はもちろん、周りの民間人まで……)

上条(だったら、試せる事は全部試すしかない!今ここで動けるのは俺達しか居ないんだ!!)

サーシャ「補足説明しますと、儀式場の場所は、要塞の進行方向から見ると、このベツレヘムの星の最右部の端。
おそらく、これも火を象徴する天使のミカエル(神の如き者)の記号を利用しているのでしょう。
かなり徹底したやり方ですが、一方で、今戦場を舞っている天使はガブリエル(神の力)。
つまり、水を意味するところに強い違和感を覚えていまひゃわんっっっ!?」


突然奇妙の声を上げたサーシャ

何の前触れも無く、いきなり上条の右手が自分の頬に触れたのが原因だ


サーシャ「あの…////」

上条(ほっぺたは違うか。じゃあ肩か?腕、お腹、太股……)


ペタペタとサーシャの体を触って行く上条


サーシャ「ひゃうっ…!?」

上条(ここも違うか。まさかインデックスの時みたいに口の中とかか?一応背中も試して……
つーか、相変わらず無茶苦茶な衣装だなおい…)


上条当麻に悪意は無い

ただミーシャとサーシャの繋がりを絶とうと試みているだけである

だけであるのだが…


サーシャ(ぶちっ)

バガン!

上条「へぶッ!?」


ブチ切れたサーシャのバールが上条のこめかみにクリーンヒットした
690 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:49:12.32 ID:9CZt.is0

すかさずサーシャは上条をバールで殴りまくる


サーシャ「あなたはッ!(ドスッ!)この非常事態にッ(ドガッ!)一体何をしているのですかッ!(ゴスッ!)」

上条「なっ!ぎゃぶっ!?俺はっ!ぐはっ!ミーシャをがふっ!」


床に転がりびくびくと足を震わせながら朦朧とする意識で応える

これ以上殴り続けるとせっかく合流できた幻想殺しを本当に殺してしまう可能性があるので、
サーシャは切りの良いところでバールをしまった

サーシャ「はぁ…続けますよ?補足説明ですが、フィアンマの儀式場の道具自体は高価な物でしたが、
使っている霊装そのものはポピュラーなものでした。あれだけで大天使を制御できるとはとても思えません」

上条「そ、そうか…」

サーシャ「ただ、一つだけ見た事の無い霊装がありました。通常、火の象徴武器(シンボリックウェポン)は、
赤く塗った杖の先端に棒磁石等を埋め込むのですが、フィアンマの手に握られていた象徴武器の先端には、
見た事の無い霊装がありました。まるで錠前の様な…」


錠前と聞いて思い当たる節は、正直あり過ぎる

その錠前の正体は、おそらくインデックスの遠隔制御霊装

まさか、遠距離から他者を操る霊装の効果を利用して、ミーシャを操っているとでもいうのだろうか……?
691 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:51:20.43 ID:9CZt.is0

ミーシャ・クロイツェフによる一方的な破壊は今も続いていた

キャーリサとか傾国の女が頑張っているが、その辺の事については
このSSはサーシャ視点が中心となるので詳しくは語らない。
頑張れキャーリサ!

高度3000メートルを余裕で超える高さまで“ベツレヘムの星”は上昇し、
それでもまださらに上空へ上がり続けているのだが、ミーシャの攻撃による衝撃はこのベツレヘムの星まで響いていた


サーシャ「第一の解答ですが、ベツレヘムの星は元々、預言者が目撃した天体です。
この星の輝きによって、預言者は神の子の誕生を確信しました」

上条「人工的な方法で浮かびつつある星、か。とてつもなく不幸な感じだ。衛星軌道上まで飛んでいったり、
巨大隕石みたいに氷河期のお手伝いをしない様に祈るしかないな」


ベツレヘムの星の広さは半径40キロほど

フィアンマはおそらく、このベツレヘムの星の中でも特別な場所だと思われる最右部に居る可能性が高い

だが、とても平均的な高校生の体力で簡単に移動できる様な距離ではないだろう


上条「サーシャ、そもそもお前はどうやって最右部からここまで来たの?」

サーシャ「第二の解答ですが、ほら、あれを見て下さい」

上条「あれ?って……」


サーシャが指を差したその先に、モノレールらしき乗り物があった
692 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:52:36.95 ID:9CZt.is0

上条「……」

サーシャ「ツッコンだら負けです」

上条「でもよぉ、何でこんな遺跡みたいなとこにあんな近代的な乗り物が?」

サーシャ「フィアンマですから」

上条「そうか、フィアンマなら仕方ないな……って納得できるかぁ!」

サーシャ「第一の質問ですが、乗らないのですか?」

上条「乗るよ。乗りますよ。アイツをブッ倒せるなら、モノレールでも時速7000キロの旅客機でもなんでもな」


ぶつぶつと文句を言いながらも上条はモノレールに乗り込んだ

操縦方法は分からなかったが、どうやら場所を指定すると勝手にそこまで移動してくれるらしい。
モノレールというよりは、まるでエスカレーターの様である



サーシャは再び、最初のこのモノレールに乗った時と同じ様に、星一つない真っ暗な空をガラス越しに眺めた


サーシャ「ベツレヘムの星…」


ポツリとそう呟く


サーシャ「神の子の到来を告げる星……旧約聖書では、神の子は最終戦争の後に、
再び人類の前に姿を現し、神の国へと導くとされています」

上条「聖書の話はよく分かんねえけど、アイツを止めねぇと、このままじゃ本当に世界が壊れちまうかもしれねぇ…」
693 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:55:39.17 ID:9CZt.is0

下は分厚い雲だが、その切れ間からポツポツと赤い光が確認できる

おそらくは炎だ。争いが生み出す人を傷付けるための炎…


上条はギリッと僅かに奥歯を噛んだ


その時だった。地上の赤い輝きの中から、何か水蒸気の様な物が噴き出た。

直後に雲が流れて見えなくなったが、いきなりその分厚い雲が引き裂かれた

中から鈍く輝く、円筒状の物体が飛び出してくる


上条「地対空ミサイル……ッ!!」


1つ2つではない。50、100の光が夜の闇に風穴を開ける

おそらく起死回生の一手としてこのベツレヘムの星に放たれたのだろう
だが、そのうちの数発がこちらへ向かって飛んできているのだ

非常にマズイ。車両に当たれば木っ端微塵だろうし、車両に当たらなくとも
レールが破壊されてしまえばそのまま空中に放り出されてしまう


サーシャ「伏せてください!!」

上条「ッ……!!」


咄嗟に身を屈めた二人

同時にとてつもない爆発音が響き渡り、窓ガラスが粉々に砕け、熱風が車両の内側まで吹きぬけてくる
694 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:56:43.41 ID:9CZt.is0

だがおかしい。ミサイルが直撃したのなら、車両がまるごとアルミ缶の様に潰されて二人分の棺桶になっていただろう

ミサイルは直撃する事無く、撃ち落とされたのだ

だが、それは喜ぶべき事では無かった


上条は見てしまったのだ

この氷点下の車内で、呼吸が止まりそうな感覚を覚えた…


ミサイルを撃ち落とした正体

ミーシャ・クロイツェフが、上条とサーシャの乗るモノレールと速度を合わせ、並走していたのだ


立て続けに発射されて眼前で爆発するミサイルなど、もはや恐怖の対象としてはあまりにも矮小過ぎる

ミーシャ・クロイツェフはその全てを軽々と撃ち落としてしまう

天使は上条達を守ったわけではない。フィアンマとの協力関係において、ただベツレヘムの星を守ろうとしたに過ぎないのだ。
695 :1 [sage]:2010/09/22(水) 06:58:44.09 ID:9CZt.is0

間近で見る大天使

十字教徒であれば感動するのだろうが、無宗教の彼にとっては天使など、
自分が天界に帰るために父親を殺そうとした、しかもそのために世界中の人類全てを根絶やしにしようとした
おぞましい恐怖の対象でしかない

十字教徒であるサーシャは何を思っているのか?と上条は一瞬気になった

彼女も彼女で先程、上条と似た様な感想を抱いたのであるが

なにより、あんな恐ろしい者が自分の体に宿っていたのかという何とも表現しがたい気分にさせられたのであった

だが、そんな事を語り合っている暇など無かった




ミーシャ「…( ゚д゚) 」



ミーシャ「( ゚д゚ ) 」チラッ

上条「……(;^ω^)」



目が合ってしまった

実際には眼球と呼べる物など確認できないのだが、それでも背筋に嫌な感覚が走る
696 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:00:11.81 ID:9CZt.is0

ミーシャは一瞬、首を傾げる様な仕草をしたが、直後に背中の巨大な水翼を大きく弓の様にしならせた

ミーシャの目的は敵を排除する事。

上条やサーシャはフィアンマの目的に必要なのだが、ミーシャにとってはどうやらそんな事情など関係無い様だ

ミーシャは自分にとって天敵とも呼べるだろう“幻想殺し”を潰すために、無慈悲に翼を振るった


その直後



ガギィィィッ!!!



巨大な力と力がぶつかる音が響く



何が起きたのか理解できなかった


思わず自分が生きているという事を確認しようと、自分の頬や腕を触って感覚を確かめてしまった

目の前に見える光景が幻想ではないとしたら、あの凶悪な翼が振られたのにも関わらず、まだ生きているのだとしたら…


サーシャ「だ、第一の質問ですが、一体何がッ……!?」


サーシャが呻くような声を出す

大天使とまともにぶつかりあえる様な存在など、一体どこに居るというのだろうか?

だが、上条当麻は知っている。大天使に唯一対抗できそうな存在を
697 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:02:03.67 ID:9CZt.is0

9月30日

あの事件が起きた日に現れた、学園都市によって作られた人工の天使

AIM拡散力場の集合体

そして、インデックスと上条当麻の友人でもある彼女は、紫電の光を撒き散らし、
背中から数十の翼を生やし、ミーシャと正面から対峙する


上条「風斬…氷華…ッ?お前、どうしてここにっ!?」

風斬「……」


風斬は上条の言葉に反応し、こちらを向いた

あの時のヒューズ・カザキリとは違う、いつもの気弱そうな顔色を合わせた微笑みを見せた


そして、すぐに彼女はミーシャの方に向き直る

その顔は、今まで上条が見た事の無い様な、闘争心と覚悟に満ちていた…


ちょうどそこで上条とサーシャの乗ったモノレールはトンネルへ入ってしまったので、
その後、風斬とミーシャがどうなったのかは彼らには分からない

ただ一つ分かる事は、風斬が助けに来てくれたということ。


友達を助けたい。ただその一つの想いだけを闘争心に変えて


その想いは確かに上条に届いていた

この絶望をぶち壊すための希望として…
698 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:03:56.03 ID:9CZt.is0

風斬「……」


圧倒的な暴力を振るっていたミーシャと真正面から対峙し、睨みつける風斬

彼女の手には、AIMで形作られた紫電の剣が握られている


それを見たミーシャも、手の平を天にかざし、その上に巨大な氷の剣が形成されていく


ミーシャ「帰る。fr 位置。正しい。座。uj。天界。元のあるべき。qe 場所」


文章にならない言葉の羅列


ミーシャ「戻る。必要。作業 t。行う。フィアンマ。利用。利害。接点。y 計画。協力」


断片的な言葉しか理解できない

だが、そもそも理解する必要など無い。和解する事など無いのだから


風斬「……そのために、私の大切な『友達』を傷付けるというのであれば、私は持てる力の全てを使ってあなたを止めます!」



青い光と紫電の光が空中で衝突した


699 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:05:56.37 ID:9CZt.is0

フィアンマ「ほう、面白いなこれは…」


高度7000メートルに浮かぶベツレヘムの星の上で、フィアンマはこの戦いを見ていた

フィアンマの五感はミーシャの感覚と詳細にリンクしている

直接自分の目で確認しなくても、彼は戦果の全てを知ることができた


フィアンマ「あれは学園都市の人工天使か……そしてもう一人、ミーシャ・クロイツェフの攻撃を防いだ奴が居るみたいだ」


ミーシャの感覚を通して見るフィアンマの目には、白髪に赤い目が特徴的な少年の姿が映っていた


フィアンマ「学園都市の虎の子という奴か?どうやら、俺様の羊皮紙を持っていたのはアイツだったみたいだな」

フィアンマ「まあ良い。もう中身は確認できた。ここまで披露してくれたのだ、俺様も少しだけ
本気という奴を見せてやらねばならないみたいだ。少しだけな…」




フィアンマ「“一掃“を発動しろ、ミーシャ・クロイツェフ」



700 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:07:18.39 ID:9CZt.is0

夜空が瞬いた

それを確認する暇も無かった

半径二キロと設定された領域の中に、数千万の破壊の礫が降り注がれた


一方通行「ッッッ!!!」


考える暇など無い

破壊の嵐が一方通行を襲った

宙に投げられ、すべての感覚を失い、真っ白になり、ひたすら全身で破壊を受け入れる事しかできなかった


ドスッ!

一方通行「ご……ご……がッ!?」


地面に叩きつけられ、叫ぼうとした一方通行だが、喉に溜まった血液のせいで呼吸ができない

能力を駆使してなんとか血の塊を吐き出し、ようやく五感を取り戻す事に成功した


一方通行「クソッタレ……ッ!!一体何が……ッ!?」
701 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:08:16.20 ID:9CZt.is0

舞い上げられた雪の中で唯一異彩を放つ青い破壊の光


一方通行「ッ…!!ふざけやがって!!」


夜空に不気味な光が輝きを増す

おそらくあの一撃では終わらなのだろう

全てを破壊し尽くすまで、何発でも繰り返すつもりだ


一方通行(倒せるかどうかなんざ関係ねェ!叩き潰すための理由がありゃあ十分だ!!)


ドン!!という爆音が炸裂し、一方通行は真っ直ぐに青い光の怪物へと突っ込んでいく


ミーシャ「第二ko波。攻wager撃準備ws開始。『一掃』再ise投下までnvsp三十秒」


水の天使の無慈悲で無機質な声が繰り返された
702 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:09:38.70 ID:9CZt.is0
……大地だけでなく、空の果てまでも揺さぶる様な轟音とともに、一撃目の“一掃“が放たれた



フィアンマ「やりすぎだ」


フィアンマは“一掃“の成果に対し、つまらなそうに呟いた

範囲を指定した際、このベツレヘムの星もその範囲内に入ってしまっていた

ミーシャの一掃は、このベツレヘムの星よりもさらに上空で行われているので、必然的に被害を被る事になる


だが、フィアンは特に気にしてはいない様だ

ベツレヘムの星には自己修復機能があるから問題は無い

もう間もなく二発目が発動するだろうが、まあ好きにやらせとけば良いかというのが彼の率直な感想であった


フィアンマ「こんなものか」


退屈そうにフィアンマは呟く


フィアンマ「こんなものか、俺様の敵は。大天使が出てくればどの様に戦況が傾くか、シミュレートできなかったとは言わせんぞ」


学園都市の人工天使と最強の超能力者が共闘しても、ミーシャ・クロイツェフを止める事はできなかった

おそらく、このまま一掃を何回か繰り返せば、呆気なく全てが終わるのだろう
703 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:10:56.83 ID:9CZt.is0

フィアンマ「この程度で終わるのなら」


フィアンマの指先が杖を撫でる


フィアンマ「誰も俺様を止めんと言うのなら」


インデックスの制御霊装を組み込み、大天使の操縦へ応用した霊装を



フィアンマ「俺様の『一掃』は世界を覆うぞ?」



アックア『そうはさせん』

フィアンマ「……久しいな、アックア」


突然、フィアンマの中心から声が広がった


フィアンマ「まだ神の右席の一角を名乗るつもりはあるか?それとも、今はただの傭兵稼業に逆戻りかな?」

アックア『いずれでも構わん。貴様の暴虐を止められる立場であればな』

フィアンマ「どうやって?」

フィアンマ「世界60億人が戦乱の中で刃を交えている。この状況で、あくまでも個に過ぎんお前はどうやって皆を救う?」

アックア『……』
704 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:12:32.07 ID:9CZt.is0

フィアンマ「お前はむしろ、そうした戦乱の象徴だよ。暴力性を帯びた善の肯定。
各地で人知れず危機を打破し、救われた民衆へその種を撒いてきたお前は素晴らしい駒だった。
おかげで皆はお前に憧れているぞ?暴力によって解決するお前のやり方をな」


そして役目を終えた駒に様は無い


フィアンマ「この戦争がなぜ起きたのか?分からぬお前でもあるまい。引き金を引いたのは俺様だ。
しかし、火薬も無しに弾丸は発射されん。この機構の意味を理解していると判断した上で、お前に尋ねよう。
どうやって皆を救う、と」

アックア『だからといって、大天使を民衆に振りかざす理由になるか』

フィアンマ「止めるのか?結局は武力による解決だな。茶番にもならん展開だが、しかしどうする。
学園都市製の天使に加勢した所で勝敗は決している。
九月三十日、ヴェント回収のために街へもぐりこんだお前は知っているはずだ」

フィアンマ「学園都市の天使の存在は、各界へ歪みを生み、魔術の制御に強い影響を及ぼす。
ヴェントが必要以上の苦戦を強いられたのはそのためだ。アレとお前が共闘することはできんよ。
無理に武力を行使すれば、互いに競合を起こして暴走し合うのが関の山だ」

アックア『……』

フィアンマ「そして、ここが連戦を仕掛けた所で、ミーシャ・クロイツェフの総量はお前達を上回る。
曲がりなりにも本物の大天使だぞ?正面からの闘いで勝てるのは俺様ぐらいのものだろう」

フィアンマ「お前にはそこそこの力はあるが、それはあくまでも駒としての強さだ。
お前が今更どう刃を振るおうが、どう武力を行使しようが、大天使の動きは止められん。
無駄な抵抗を与える権利くらいは与えてやっても良いが、指をくわえて眺めているのが得策さ」
705 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:14:02.82 ID:9CZt.is0

アックア『そうか』


フィアンマは笑い声を聞いた

アックアの失笑だ


アックア『ならば、武力を使わぬ方法とやらを提示してやろう』


ドッ!とフィアンマは体の内側に衝撃を覚えた

五感をリンクさせて伝わるミーシャのテレズマが、その瞬間に一気に薄らいだのを確かに感じたのだ


フィアンマ「何を……した?いや……これは…」

アックア『忘れたのであるか?私が後方の青(ガブリエル)を司っているという事を』

フィアンマ「お前、まさか……その体の中にッ!」

アックア『十字教の術式においてテレズマの封入と解放など基本の基本。
そして、私の肉体そのものがガブリエルとリンクする最大の媒体として機能する。
仮に私が水属性のテレズマを徹底的に吸い上げた場合、
その源であるガブリエルの総量がどうなるかなど言うまでも無いだろう』
706 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:15:36.93 ID:9CZt.is0
フィアンマ「正気か…?」

アックア『不可能なわけではあるまい。現に貴様が利用したロシア成教の修道女とて
それができたからこそ貴様の目に留まったのだろうからな』

フィアンマ「馬鹿が、あれは元々の素養と許容量があってこそ、御使堕しの時も自然に流れただけなのだ!
誰にでもできる事ではない!仮にサーシャ・クロイツェフを複製した所で、同じ許容量が得られるとは思えん!
それほどの才でなければ、俺様が利用しようなどと思えるわけがないだろ!!」

アックア『そう言う事を言っているのではない。他人の手で出来る事なら、この私にもできる。
それだけの、単純な事実を述べているだけである』

フィアンマ「……そうか、腐っても神の右席と言う事か……」

フィアンマ「ならばやってみるがいい」

アックア『やってみるとも』

フィアンマ「だが分かっているのか?お前のその無謀な挑戦は、お前と言う戦力を確実に削ぐものだと言う事を。
お前の行いはただの自滅だよ…」
707 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:18:00.45 ID:9CZt.is0

アックアは巨大な大剣を地面に半ばまで突き刺し、自分の体を支えた


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」


歪んだ青いオーラがアックアの体に纏わりつく

周囲にゆらゆらと漂う青い波

それが一気にアックアの体を目掛けて飛び込んでいく


アックアの許容量を遥かに超えるテレズマが、アックアの体に食らいつく様に取り込まれていく。
一瞬でも気を抜けば、体は内側から爆発するだろう。


血管が破裂し、神経がズタズタになり、体中から血が吹き出てくるが、アックアはそれでも倒れない

強過ぎるテレズマは、自分の体と心を内側から砕いていく

血管や神経だけではない。彼の力の根源たる“聖人”としての力と“神の右席”としての力も両方とも崩れ去って行く

それは、自分がただの人に成り下がるという事を意味している

それでも彼はけして止まる事はなかった


自分が水のテレズマを取り込めば、それだけガブリエルの力が弱体化する

本来は人を救うはずの天使の力が、人を[ピーーー]機会は減る

それだけで十分だった

そのためなら、この力も命も彼にとっては些細なものである
708 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:20:06.10 ID:9CZt.is0

そして…


ゴッ!!!

ミーシャ「!?」

一方通行「通じた…!?」


一方通行の攻撃が届き、ミーシャの体が揺らぐ

“一掃“は途中で照準制限を失い、夜空を揺るがす程度に留まった


一方通行と風斬の反撃が始まった

これ以上、戦場を鉄屑と瓦礫の山にしないために

そして、それぞれの守るべきもののために…



フィアンマ「後方のアックア…いや、ウィリアム・オルウェル。50%を削るだけに留まったとは言え、大したものだ」


フィアンマ「だが、50%もあれば十分だ。聖人と神の右席の両方を失ったというのに、ここでお終いか。報われんよ、お前の人生は…」
709 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:22:13.69 ID:9CZt.is0

さて、そろそろこの下らない戦いも終わりにするとしよう

ここで全てを潰す事ができれば、世界大戦の結果はもはや確定したも同然だ


フィアンマ「殺せ」


戦士たちへの最期の手向けとして、フィアンマは一言そう命じた

だが…


フィアンマ「……?どうした?」


殺せと命じたはずのミーシャが動かないのだ

嫌な感じだ、完全な優勢だったはずなのに、ほんの僅かに傾きが生じた。




フィアンマ「あの野郎……」


忘れかけていた、この戦場におけるイレギュラーな存在を


フィアンマ「あの野郎……ッ!」


それはある意味ジョーカーの様な存在でもあった
710 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:24:12.39 ID:9CZt.is0

上条当麻は件の儀式場に居た

今、彼の足もとでは白と黒の液体が混ざりあい、マーブル模様を描いている

儀式において門の役割をしていた、白と黒の柱を“幻想殺し”で全て破壊したのだ

ミーシャ・クロイツェフの根幹となる儀式場の柱を



アックアにより力の半分を削られ

上条当麻により根幹を崩され

学園都市が生み出した天使と、学園都市最強の能力者の猛攻を受けたミーシャ


サーシャは儀式場の外からミーシャの最期を見た

理性という人間らしさを持つ箍など欠片も感じれらない、むき出しの感情をそのまま言葉にした様な咆哮がミーシャの口から発せられた

そして、莫大なミーシャの力が歪み、その女性的な姿が原型を留められなくなり、爆発しようとしていた

サーシャはそれを警戒したが、大天使の爆発は、思ったよりも小規模なものだった

あれだけの総量のテレズマが爆発したら、おそらく広大なロシア全域に多大な被害が出るだろうと思っていただけに、
あまりの呆気無さに思わず肩の力が抜けてしまったくらいだ

ただ、その爆発は小規模ではあったものの、まるで外側から威力を押し込められている様に見えた事が気になった。
だが、その事については特に考察する意味も無いし、たぶん自分には理解できない現象なのかもしれないと無理矢理納得し、
そういうものなのだと受け入れる事にしたのだった。
711 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:26:16.11 ID:9CZt.is0

それよりも気になるのが、大天使の力が削られた原因だ

サーシャはその現象が起きた時、かつてイギリスのクーデターで、協力して共に鉄塔を破壊した、あの屈強な傭兵を思い出していた

二人は同じガブリエルのテレズマを使っていた者同士

サーシャとミーシャは共にリンクしていた。そして、アックアがミーシャのテレズマとリンクした瞬間に、
サーシャの中にアックアの意識が流れ込んできたのだった


それは計り知れない程の苦痛と、それを上回る強い意志と覚悟


総量を遥かに超えた大天使の力を取り込むなど、あくまでも受動的にではあるが、
それができる程の才能を持つサーシャから見ても正気の沙汰とは思えない


それをさせる程の強い覚悟の正体は一体何なのか?

一体何が彼をそこまで突き動かしていたのか?


アックアが神の右席としての力を失った時点で意識の交差が途絶えてしまったため、
もはやそれを知ることは叶わないし、彼が生きているかどうかも分からない

ただ、かつて命を助けられ、共に闘った者であるだけに、無関心ではいられなかった
712 :1 [sage]:2010/09/22(水) 07:28:01.23 ID:9CZt.is0

サーシャ「……!?」


だが、どうやらそんな事に想いを馳せている暇は無い様だ


突然、儀式場の方から聞こえて来た破壊音

間違いなくフィアンマの仕業だ


アックアの覚悟の正体は分からないが、その先にあるだろう彼が望むものは、きっと自分と同じものだと思う

だから、彼の覚悟を無駄にしないためにも、今は全てを忘れ、戦わなければならない

この戦争の元凶であるフィアンマと…


718 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:33:58.10 ID:9CZt.is0

上条当麻は右手を体の前に伸ばし、五指を広げていた

突然彼を襲いかかった莫大な閃光を右手で受け止めたのだ


フィアンマは自分が居た場所から、遠く離れたこの儀式場目掛けて莫大な閃光を放った

そのおかげで、儀式場の壁や天井の一部が粉砕された


サーシャ「上条当麻!?」


衝撃音を聞いて慌てて儀式場に戻って来たサーシャ

そして…


上条「来るぞ……」


上条が鋭い視線を向けるその先

崩れた壁の隙間から、フィアンマの姿が見えた
719 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:35:46.81 ID:9CZt.is0

フィアンマ「面倒な事をしてくれたな」


インデックスの遠隔制御霊槍を片手で弄びながらそう言う


フィアンマ「おかげで学園都市やイギリスから邪魔が入る前に儀式を執行する必要が出て来た。
というわけで、そろそろその右手をいただこうか」

上条「そう簡単に進むと思ってんのか?ミーシャはもう居ないぞ?
どうしてここまで上手く話が転がったか分からねえけど、人間は大天使に勝ったんだ。
どう考えたって。天秤はこっちに傾いている」

フィアンマ「心配には及ばんよ」


フィアンマは天空を指さしながら言う


フィアンマ「……分からないか?」

上条「……!?」


そこでやっと気付いた

ミーシャを倒したはずなのに、空の色が変っていないのだ


フィアンマ「天使を倒した?笑わせるなよ。天使は神の力そのものであって、奴等に死というものは存在しない。
お前達が必死になってやってきた事は、あくまでも偶像としての天使を破壊しただけに過ぎん」


フィアンマ「ミーシャ、いやガブリエルならまだこの空に浮いているぞ?」

上条「嘘…だろ……?」
720 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:37:54.92 ID:9CZt.is0

フィアンマ「それと、だ。実はこの夜空を天体制御で俺様好みに塗りつぶした時点で、ミーシャの役割は終わっていたんだよ」


フィアンマは第三の腕を大きく広げた


フィアンマ「以前、ウリエル(神の火)とラファエル(神の薬)の象徴がずれているという話をしたな。
ミーシャはミカエル(神の如き者)に由来するのであり、ガブリエル(神の力)が自称するには相応しくない事も」

フィアンマ「ガブリエルを利用し、一度空から全ての星を消した上で、テレズマに満たされた
不完全な天空へベツレヘムの星だけを浮かべたのは、大きな力の流れを規定し、四つの属性を再設定するための儀式だ。
使徒十字を退けたお前なら分かるだろう?天空というスクリーンの制御にどれだけ重要な魔術的意義が付加されているのかくらいは」

フィアンマ「夜空にとある星が出現した事によって、預言者は神の子の誕生を確信したのだからな。
俺様がやっているのは、その神話的事実を応用した大規模術式と言ったところだろう」


フィアンマ「ま、世界各地の教会や聖堂を適度に破壊したことで、地上の流れも幾分か手を加えているのだけどな。
天と地、そして3と4。十字教文化において重要な数字を丸ごと独占と言うわけだ」

上条「なん、だ……?お前、何をしようと……」

フィアンマ「逆に尋ねようか?まさかとは思うが、ベツレヘムの星を浮かべた程度ではいおしまいなんて考えてはいないだろうな」


嘲る様にフィアンマは言う


フィアンマ「ベツレヘムの星も第三次世界大戦も禁書目録もミーシャも、所詮は手段に過ぎん。
何てことは無い、全てはこの右腕一本のためのお膳立てに過ぎんのだよ」
721 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:39:07.26 ID:9CZt.is0

上条「そんなもののために、お前は…」

フィアンマ「そんな物とは酷い言い様だな。まあつまり、事前にそうした場を整えなければ、
俺様が望む儀式が執行できないと言うわけだ。第一段階は終了と言ったところだが、
この時点でも嬉しい特典が付いてくる」


バジンッ!と異音が発せられた

星空が広がる

黄、赤、青、緑の順番に、奇妙な色の星がフィアンマの合図に合わせて夜空に上がって行く

ベツレヘムの星は、大仰なプラネタリウムだった


フィアンマ「知ってるか?」

フィアンマ「火、風、水、土。これらの四大属性は、それぞれの力の端を担っていながら、
同時に一つの属性を操ると言う事は、広義において他の属性に影響を与える者となる。
風を司るヴェントが氷の術式を使っていたみたいにな。つまり、俺様の“火”の中には最初から
四大属性の全てを制御する条件が備わっていた。その全てを制御する事で、
俺様は莫大な力を得るはずだった。……世界全体の属性の布陣に歪みさえ存在しなければ」
722 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:40:12.39 ID:9CZt.is0

フィアンマ「もう言わなくても分かるよな?正しい力とは、正しい世界でこそ万全に振るえるものだ」


ドン!!と見えざる何かがフィアンマを中心に炸裂した

それは殺気

ジリジリと肌をさす様な刺激を上条に感じさせるほどの、圧倒的な重圧だ


上条「……」


だが、上条は下がろうとはしなかった

インデックスを救うために、退くわけにはいかない


空中分解で苦しんでいたはずの第三の腕に、莫大な力が宿って行く


フィアンマ「さあ、正しい力の意味をしってもらうぞ…」


正しい世界の始まりと同時に、その世界で生きる者を分ける最後の戦いが始まった
723 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:41:36.25 ID:9CZt.is0

フィアンマ「さて、まずは邪魔者を消す必要があるな」


突然、四つの星のうち、後方の青い星が強く輝き始めた

同時に、フィアンマの右腕に歪な青いオーラが漂う


フィアンマ「何だと思う?」

上条「……」

フィアンマ「お前達が必死になって倒した、ガブリエルの残骸だ」

上条「ッ…!?」


いつの間にかフィアンマの姿が消えていた


サーシャ「ぐッ…!?」


そしていつの間にか、サーシャの体がフィアンマの右腕に掴まれていた


フィアンマ「この段階に来ると、もはやお前の才能は厄介だからな。潰させてもらう」


巨大な右手に捕えられたサーシャの体に、青い光が満ちて行く

フィアンマの右手で捕えたガブリエルの残骸を、サーシャの体の中に移しているのだ


フィアンマ「安心しろ。ガブリエルの力そのものは、お前達に砕かれたおかげでもはや
本来の力を発揮する事はできない。完璧に復元するには気の遠くなる様な長い年月が必要になるだろう」
724 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:43:46.12 ID:9CZt.is0

フィアンマ「だがな、お前は知らないだろうが、この女の本来の属性は俺様と同じミカエルだ。
四大元素の歪みが完璧に正されたこの世界で純粋な水の属性と化したガブリエルの力を、
無理矢理ミカエルの火の属性の器に移したらどうなると思う?」


そう言うと、フィアンマはサーシャの体を乱暴に地面に落した


上条「サーシャッ!?」


少女の名を呼ぶが、返事は無い


サーシャの体を異様な振るえが襲う

そして…


サーシャ「がはっ!ごぼっ!あああああああッ!!!!!」


体の中に入った異物を吐き出そうとするかの様に、サーシャは大量の血を吐き出し、そして地面をのたうち回り始めた


上条「フィアンマ!テメェ!!!」

フィアンマ「本来、水と火は混ざり合う事はないから、こりゃあ相当堪えるみたいだな。
オマケにお前達にバラバラにされたせいで、あの女の中に封入されたテレズマは不安定なまま暴走している」


上条はサーシャの元に駆け寄ろうとした

幻想殺しを使えば、サーシャの体の中に入ったテレズマを消せるかもしれないからだ


だが


上条「ゴッ…ぼッ!?」ドガッ

フィアンマ「おっと、残念だったな。偶然俺様の蹴りがお前の鳩尾に入ってしまったみたいだ」
725 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:45:34.64 ID:9CZt.is0

いつの間に上条とサーシャの間の直線距離場に割って入ったのか

そしていつ間に腹を蹴られたのか、上条にはまったく見えなかった

上条の体は吹き飛ばされ、サーシャとの距離を離されてしまった


フィアンマ「まあそう焦るな。いや、時間もそれほどあるわけではないが、
余興と言うものを見せてやるくらいの余裕は必要だろう?」

上条「ッ…!!」

フィアンマ「見ろ、これが正しい力だ」


フィアンマの巨大な右手が軽く振られた







その瞬間、世界が消えた



視界が消え、音が消え、五感が消え、思考も、存在すらも、全てが消え、真っ白でも真っ黒でもない“無“がそこに広がった







そう錯覚させるほどの衝撃


フィアンマ「なるほど、10%以下でもこれ程の力か。制御はできている様だし、空中分解もしていない」


全てが消えてしまいそうなほどの光が止み、そこに君臨する絶対的な存在
726 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:47:57.57 ID:9CZt.is0

感覚を取り戻した上条の目に映るのは、儀式場の壁と天井が全て破壊され事により完全に露わになった、
真っ暗な天体と異様な光を帯びる四つの星

遥か向こうに見える空の彼方まで、フィアンマの一振りによる衝撃の残骸がビリビリと震えている。
雲は全て、あの一撃で消滅した

雪の大地は全て盛り返され、白という色がたった一点すらも残さずに消えていた


そして、彼の眼前には…


上条「サーシャ!!」

サーシャ「……あ…ッ…!」


サーシャが巨大な氷の壁を作り、上条を衝撃から守ってくれていたのだ

鉄よりも硬いはずの氷の壁がバラバラに砕け、サーシャはその上に倒れ伏した


上条は倒れたサーシャに近寄ろうとするが


フィアンマ「お前の相手はこの俺様だろう?部外者にかまけている余裕など無いはずだ」


フィアンマは右腕でサーシャの体を掴み、再び乱暴に投げ捨てて上条との距離を取らせた


上条「ッ!!」

フィアンマ「さて、この力を見た後で、まだお前は抗う事をやめるつもりは無いのか?」

上条「当たり前だろ!!」

フィアンマ「そうか。大した度胸だ」
727 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:49:12.98 ID:9CZt.is0

上条は強く拳を握りしめ、歯噛みした

力の差など、もはや語るまでも無い

フィアンマがその気になれば、息をするのと同じ手軽さで自分を[ピーーー]事ができるのだろう

でも、ここで止まるわけにはには行かない


上条「うおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」


インデックスを守り抜くと誓ったんだ

もう記憶を失う前の事は思い出せないけど

どういう気持ちで最期を迎えたのかは分からないけど

それでも、インデックスをこんなふうに扱う、コイツみたいな連中から

守り抜くと決めたはずだ!!


フィアンマ「小さいな」


フィアンマは小さく呟くと、殴りかかって来た上条を蹴散らした


上条「がはッ…!!」


フィアンマは特に何も動作を起こしてはいない

いや、上条の目にはそう見えただけで、実際はなんらかの攻撃を仕掛けたのだろう

だが、少なくとも彼には、まるで近づく事すら拒絶され、見えない壁に弾かれた様に感じられた
728 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:50:53.14 ID:9CZt.is0

フィアンマ「小さいな…」


フィアンマはもう一度小さく呟いた


上条「何だと…?」

フィアンマ「小さいと言っている。貴様の守ろうとしているものなど」

上条「訂正しろ……」

フィアンマ「俺様は事実を述べているだけだが?」

上条「ふざけんなッ!!」


上条は再び立ち上がり、拳を握りしめ、殴りかかる

だが


フィアンマ「ほら、こんなにも小さい」


再び見えない壁に弾かれた様に、上条の体は飛ばされた


フィアンマ「個を守るために生まれる力など、所詮はこの程度のものだ」

上条「ッ…!?」

フィアンマ「力は、守るモノの大きさに比例する。守るための覚悟や意志などまやかしに過ぎない。
俺様からすれば、あのアックアやキャーリサの守るものすら小さく感じられる」
729 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:52:25.57 ID:9CZt.is0

上条「ふざけんなよ。これだけの破壊をしてきたお前が、今更何を守ってるってほざく気だよ…」

フィアンマ「俺様が守るべきは人類全てだ。俺様は全ての人類を救うために力を手にしたのだからな」

上条「人類を救う?そんな奴が、何で戦争なんか起こしてんだよ?一体どれだけの人間が、
テメェの夢物語のために犠牲になったと思ってんだ!!」

フィアンマ「覚えてないのか?俺様とお前は同じだとな」

上条「ッ…」

フィアンマ「お前が守ると誓ったあの女に対し、お前は嘘を吐き続け、傷付けた。
俺様は、守るべき人類を傷付けてきた。必要があったとは言え、それは許されることではないだろう」

フィアンマ「俺様は審判を受けるつもりだ。貴様より遥かに重い罪を背負ってな。その覚悟が俺様にはある。お前はどうだ?」

上条「後で死ぬほど謝るさ。お前じゃなくてインデックスにな…」
730 :1 [saga]:2010/09/22(水) 17:55:27.92 ID:9CZt.is0

上条「それと、お前は間違ってる。大切なのは、守るモノの大きさじゃねぇ!!
何があっても守り通す覚悟に決まってんだろ!!」

フィアンマ「ハハッ!それは守るための力が備わっていなければ説得力に欠けるぞ?」

上条「テメェがどうやって人類を救おうと考えてんのかは知らねえが、
インデックスを守りたいって覚悟がそれに比べて小さいとは言わせねえ!!
テメェがそれをちっぽけだと否定するのなら、誰かを守るために立ち上がる奴の想いを否定するならッ!!」





上条「テメェのそのふざけた幻想をぶち殺す!!!」





フィアンマ「なら示してみろよ、お前のその想や覚悟を」

上条「ッ!!」


一瞬にして間合いを詰められる


フィアンマ「分かっただろ?」


巨大な腕が振られ、上条の体を薙ぎ払った


上条「ごがッ!ゴぼッ!があッ…!」


バスケットボールの様に地面を跳ね、壁にぶち当たり
全身の骨が砕ける様な痛みが上条を襲う

必死に呼吸を繰り返し、奪われた酸素を取り戻し、意識を明瞭にさせる事を試みた


上条「ごぼッ!ごほッ!」


だが吐き出されたのは二酸化炭素だけではなく、鮮血も一緒に飛び出て来る
731 :1 [sage]:2010/09/22(水) 17:57:39.89 ID:9CZt.is0

フィアンマ「所詮はこの程度のものなのだ。
仮にお前が言う覚悟や想いの大きさに価値があるのだとしたら、
おそらく俺様のそれはお前をかるく上回るのだろうな」

フィアンマ「だが、覚悟は所詮覚悟に過ぎない。それは大きさや量を計る対象ではない。
想いはあっても行動に移せる力が無ければ意味はない」

上条「ぐッ……」


視界が霞む

立ち上がろうと足に力を込めるが、まるで体中の神経回路がバラバラにされたか様に手足に力が入らず、
どうやって動かしていたかさえも思い出せない


フィアンマ「さて、そろそろ時間だ。優しいだろ?俺様はお前に抗うための時間を与えてやったのだから」
732 :1 [sage]:2010/09/22(水) 18:00:00.31 ID:9CZt.is0
上条「何…を…」

フィアンマ「無駄だと分かっていても抗ってみたくなる。人間の性という奴だな。俺様はお前のニーズに応えてやったのだ」


フィアンマ「だが、感謝はいらない。代金は、そうだな……こいつで払ってもらおうか」


そう言うと、フィアンマは片手を軽く掲げた

その手には、学生服の袖ごと肘から先を引き千切られた右腕が握られている








ちょっと待て


それは……誰の……




おそるおそる自分の右腕を確認してみた

同時に、ここに来てようやく絶望的な痛みが彼を襲う


上条「があああああああああッ!!!!!!」


いつだ?いつ奪われた?

いつフィアンマが動いた?

激痛により冷静な判断ができない。だが、そうでなくとも正解を導き出す事はできなかったかもしれない

答えは、いつでも奪えたし、いつでも動けた

ただそれをしなかったというだけの話
733 :1 [sage]:2010/09/22(水) 18:02:35.79 ID:9CZt.is0

フィアンマ「さて、俺様の聖なる右は、どんな邪法だろうが悪法だろうが、問答無用で叩き潰し、
悪魔の王を地獄の底へ縛り付け、1000年の安息を保障した右方の力だ。俺様の右腕はあらゆるモノを破壊する」

フィアンマ「だがな、そんな聖なる右にも足りないものがある。それが神浄の力だ。
俺様は右腕で奇跡を操る力はあるが、奇跡を打ち消す力は無い。問答無用で浄化させる力は無いのだ」

上条「ぐあッ…!」


腕の失血を止めるのに夢中で、フィアンマの言葉は聞いてはいない

だが、それでもフィアンマは話し続ける


フィアンマ「奇跡とは神の力の総称だ。空中分解は避けられたが、それでも俺様の腕には制限が残る。
俺様が人間であるという事と、この腕が扱える力の制限にな」


フィアンマ「だから、俺様はその制限をぶち壊す。この神浄の右手でな」


フィアンマは上条の右腕は軽く宙に投げ、第三の腕でキャッチした


上条「なッ!?」


フィアンマ「何を驚いている?俺様はお前とは違う、単に何でもかんでも異能の力を破壊するだけのお前とはな」


異能の力を打ち消すはずの右手を、異能の腕で握るフィアンマ

そして、上条の右腕は飲み込まれる様にフィアンマの右腕に吸収されていった


フィアンマ「さあ、計画は最終段階へ移ったぞ?どうする?」


嘲る様にフィアンマはそう言った


739 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:16:04.86 ID:9CZt.is0

フィアンマ「さて、もうそろそろだな…」

上条「何を…する気だ……?」

フィアンマ「救いだよ。いや、浄化とも言えるかな」

上条「……」

フィアンマ「そうだな、ここまで協力してもらったお前達には礼がしたい。
特別に、新しい世界の創造を間近で見せてやろう」


フィアンマ「上条当麻、お前はこの世界から悪を消すにはどうすればいいと思う?」

上条「何言ってんだ……そんなの……」

フィアンマ「言いたい事は分かる。そんな抽象的なモノを消す方法など考えるだけ無駄と言うものだろうな」

フィアンマ「だが、俺様はそれを真剣に考えた。どうすれば皆を救えるのか?とな。
どれほど頭を悩ませたのか、俺様自身ももはや覚えてはいない」

上条「分かんねぇ、テメェは一体何がしてぇんだよ?」

フィアンマ「”救い”だ。具体的に言えば、最後の審判だな」

上条「最後の……審判……?」
740 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:19:47.06 ID:9CZt.is0

フィアンマ「ああ、無宗教のお前には馴染みが無いか。最後の審判は、
世界の終末と共に天使と神の子が現れ、天国に行ける者と地獄に堕ちる者を分けるという十字教の思想だ」

フィアンマ「大事なのはこの”終末”という部分でな。終末にも様々な思想があるが、
俺様は特にヨハネ黙示録の終末思想に着目した」

フィアンマ「ヨハネの黙示録は、神の子の使徒によって書かれた新約聖書のうち、唯一預言書的な性格を持つ書だ。
このヨハネの終末論によると、善と悪の最終戦争が行われた後、神の子が降臨し、
キリスト教の教えに忠実に生きてきた善人のみを救い出し、1000年続く王国を作り出すとされている」

上条「……」

フィアンマ「気に食わないのは、キリストの教えに忠実に生きた者のみという点だな。
それでは十字教徒以外は救われないという事になってしまう。
それに、本当に最後の審判を行うとしたら、それ相応の力と知識が必要となる」

フィアンマ「だからこそ、俺様は神の右席になり、審判で判決を下すミカエルの知識を集めた。
十字教徒だけではない、全ての人間を救うためにな」

上条「つまり…テメェが善人と悪人を選ぶって事か…?」

フィアンマ「俺様はそこまで傲慢ではない」


そう言うと、突然フィアンマの右腕から一本の炎の矢が放たれた


上条「!?」


矢は上条の頬をかすり、壁を貫いた

そして、そのまま赤い塵と化し、朽ちて行く…
741 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:21:02.81 ID:9CZt.is0

上条「これは…」


不思議な事に、矢が掠めたはずの上条の頬には傷が付いておらず、痛みも感じない




だが、突然、彼の心に暗い影が差した



とうまは…私の事が嫌いなんだね?


上条「違う…」


なぜか、目の前にインデックスが居た

あの時、記憶を失ってから初めて会った時と同じような、今にも泣き出しそうな顔をして…


だから本当の事を話してくれなかったんだよね?


上条「違う、俺は、お前を……」


私はとうまに騙されてたんだよね

嘘をついてたんだよね…


上条「違うッ!!俺はっ!!!……はっ!」


突如我に返った上条

いつの間にか、目の前に居たはずのインデックスの姿は消えていた
742 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:23:53.80 ID:9CZt.is0

フィアンマ「体験版だな。言葉で語るよりもこの方が分かりやすくて良いだろ?」

上条「一体…何が…ッ?」

フィアンマ「そうだな、名前は特に無いが、メギドの矢とでも名付けようか」

フィアンマ「今お前が体験したように、この矢は直接相手を[ピーーー]ものではない。
相手の心に潜む悪意や罪悪感。それだけでなく、他者からの恨み、人類が築いてきた倫理感など、
その全てがこの矢の攻撃対象となる」

フィアンマ「罪を重ねた者は、その罪によって浄化の炎で焼き殺されるだろう。
罪の意識が無い者も、他者からの恨みで浄化される。他にも色々と調整してあるが、
まあ概要は分かってもらえたかな?」

上条「まさかお前……その矢で全人類を[ピーーー]つもりか!?」

フィアンマ「違う。この浄化の炎で作られた矢は、罪を焼くだけ。
つまり、死ぬのは罪の重さに耐えきれなくなった悪人だけだな。
まあ、改心した奴も死ぬかもしれないが、それも因果応報というヤツだろう。
ミカエルは天秤によって魂の行き先に判決を下す。俺様は、このメギドの矢によって判決を下す。
それだけの違いだ。平等で良い方法だろ?」

フィアンマ「まさに善と悪の最終戦争に相応しいとは思わないか?」

上条「ふざけんな!テメェに一体何の権利があって、そんな勝手な事が許されるってんだ!!」

フィアンマ「俺様の属性は審判のミカエルだぞ?」

上条「じゃあ何か?テメェは裁くだけ裁いて、テメェ自身はその裁きから逃れるつもりか?
一番裁かれなきゃならねぇはずのお前がッ!!」
743 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:26:19.02 ID:9CZt.is0

フィアンマ「聞いてなかったのか?俺様は裁きを受ける覚悟はあると言ったはずだが?」

フィアンマ「全ての人類をこの矢で浄化した後に、最後はこの俺様自身の罪も裁かれる」

フィアンマ「そして、全ての罪を浄化し、神の奇跡を操る力と、
神の奇跡をも打ち消す力の両方を兼ね備えた俺様は、さらなる高みへと登る」


フィアンマ「”神上”になるのだ。新たな善の世界を導く存在としてな」


上条「狂ってやがる…」

フィアンマ「否定するのか?今この瞬間にもこの世界では多くの人間が理不尽な悪意により苦しめられているというのに。
まあ、安穏とした先進国で生きて、悲劇などディスプレイの向こう側からしか見てこなかったお前には分かるまい」

フィアンマ「今までお前が見て来た、そして立ち上がって来た不幸や悲劇など、
俺様が見てきたものの中では最も底が浅くて生易しい部分だ。そして、
そんな生易しい悲劇すらも俺様は救ってみせるというのだぞ?」
744 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:27:56.15 ID:9CZt.is0

上条「それでも俺はお前のやり方を否定するけどな」


上条は立ち上がり、拳を硬く握り締めた

何の力も無い、普通の左手を


フィアンマ「吠えるだけなら犬でもできる。否定するなら俺様を止めて見せろ」


フィアンマは左右に大きく両腕を広げ、三日月の様に口を釣り上げた


フィアンマ「太陽、月、地球、そしてこのベツレヘムの星が規定とポイントに達した時に、俺様の最期の審判は始まる」





フィアンマ「さあ、始めようじゃないか!最終戦争を!」





745 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:29:06.37 ID:9CZt.is0

上条に出来る事は、残った左の拳を振るう事しかない

だが、利き腕で無い方の拳は当たらずに、簡単に回避されてしまう


フィアンマ「どうした?止めるんだろ?」


上条の拳を避けたフィアンマの膝が、上条の腹部にめり込んだ


上条「がふっ!!ごふっ!!」

フィアンマ「右手を失ってもまだ立ち上がれるお前の覚悟とやらは、この俺様にとっても驚くべき事だ。
その点に関しては、お前は口だけではないと認めてやる。だが…」


ブォンと第三の腕が振られ、上条の体が吹き飛ぶ


フィアンマ「結局のところ、俺様を止めるだけの力が無ければ意味は無いわけだ」

上条「ぐッ…ッ!!」


右手を失った事により、全身のバランス感覚も崩れ、立ち上がる事さえ困難である

もはや痛みさえも感じられないくらいに意識が朦朧としている

だがそれでも上条は立ち上がった
746 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:31:23.70 ID:9CZt.is0

自分はこの世界で起きている悲劇について、偉そうに語れる程知ってるわけではない

目の前で苦しんでいる人間を見たら立ち上がるだろうけど、
フィアンマの様に全ての人類のために立ち上がれるかどうかと問われたら、おそらく無理だろう

確かにフィアンマのやり方で救われる人間は沢山居るかもしれない

それを止めるのは、救われるはずだった人間を[ピーーー]と言う事になるのかもしれない



『オマエは、ヒーローだろォが!!!』


上条「違う…」


『助けろよ!他の誰もできねェ事ができンなら、そいつをちっとはあのガキにも向けてやれってンだよ!』


上条「違う…そいつは…お前が守らなきゃいけねぇはずだ……」


『俺は血みどろの解決方法しか選べねェんだよ!!』


上条「そんな事はない……」


『あのガキだって、あンなに苦しむ事はなかったンだよォォおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』


上条「そいつは、苦しんでただけだったのか?お前はそいつの笑顔を守りたかったんじゃねぇのか?」



そいつは、お前が傍に居たから笑う事ができたんだろ?


747 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:33:01.74 ID:9CZt.is0

上条当麻は、かつて一万人以上もの人間を殺した男を知っている

そして、そいつが今、自分が犯した過ちに苦しんでいる事も

それでも守りたい奴のためにボロボロに傷付きながらも戦っている事も


もしもメギドの矢を食らったら、アイツは死ぬかもしれない


それで良いのか?


誰を守りたかったのかは知らないが、そいつに守られていた奴からそいつを奪う事が本当に正しいのか?


違う。誰かが犠牲になるハッピーエンドなんざ、本当のハッピーエンドとは言わない。


手を貸してやる、インデックスを助けるついでだけど、協力してやるよ

お前が選んだ通りにな…


上条当麻は再びフィアンマに立ち向かって行った

不安定な体で、何の力も無い普通の少年と言う事も忘れ
748 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/22(水) 23:33:05.27 ID:Jyg5D6co
熱いね
749 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:34:17.15 ID:9CZt.is0

上条当麻、あなたはなぜ立ち上がる事ができるのですか?

なぜあなたは恐れずに立ち向かう事ができるのですか?


サーシャは這いつくばりながらそれを見ていた

体の中を異様な力が駆け巡り、内側から膨張し、肉体を食い破ろうとしている

体中が裂けそうなくらいに痛い。一瞬でも気を抜けば、自分の体は内側からズタズタに切り裂かれ、破裂するだろう


とてもフィアンマと戦おうとは思えなかった

それどころの話ではないのだ



それは上条当麻も同じだった

幻想殺しを失った今、彼がフィアンマに勝てる可能性など1%も無いだろう

だが、それでも彼はけして諦めなかった

立ち上がる事をやめようとしなかった
750 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:35:14.66 ID:9CZt.is0

なぜだ?なぜそこまでできる?

何がそこまで彼を動かす?

上条にしろアックアにしろ、なぜ無謀だと分かっていても戦う事をやめないのだ?



………



ああ、そうか

忘れかけていた


もう答えは知ってるじゃないか


女子寮でヴェロニカ達と戦った時、なぜみんな自分のために立ち上がってくれたのだ?

9000万人ものイギリスの民が、なぜ勇気を振り絞って戦ったのだ?



彼らはみなヒーローなのだ

守る者のために何度でも立ち上がるヒーローなのだ
751 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:36:53.82 ID:9CZt.is0

自分はそんなヒーローにはなれないかもしれない


十字教の目的は”救い”だ

ならば、それを実行してやろうじゃないか


弱き者、力無き者に手を差し伸べるのが救いなら

無力でも誰かのために戦うヒーローを助けるのも十字教が成すべき”救い”のはずだ


サーシャ「これは……本当に死ぬかもしれませんね……」


今なら、アックアの覚悟が分かる気がする

その覚悟に、自分の覚悟を重ねて……





ドッ!!!


フィアンマ「……?」


気のせいか?

本当に些細な違和感であったのだが、自分の右腕に何らかの衝撃が起きた気がした
752 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:37:58.90 ID:9CZt.is0

フィアンマ「……まさか」


フィアンマはサーシャの方を向いた

サーシャは方膝を付きながらこちらを見据えている



フィアンマ「いや、有り得ない……」

サーシャ「どうしてそう思うのですか?」


フィアンマの顔に初めて不安の表情が浮かぶ


ドッ!!!と再び第三の腕に衝撃が走った。今度は気のせいなんかではない


フィアンマ「お前……本当にそんな事ができると思っているのか?これを防ぐために、
俺様はお前の体にガブリエルのテレズマを移したのだぞ?」

サーシャ「第一の解答ですが、他人の手で出来る事なら、この私にもできる。
それだけの、単純な事実じゃないですか」

フィアンマ「……!!」
753 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:40:20.13 ID:9CZt.is0

狂ってる

敵意や憎悪の価値観が狂ったフィアンマですら恐れる程の狂気をサーシャから感じ取った

できるできないの問題ではない

その身に大天使のテレズマを降ろすと言うだけでも本来ならまともな事ではない

にもかかわらず、すでに大天使のテレズマを身に封入したまま、サーシャはさらに
フィアンマの右腕に宿る莫大な力をその身に移そうとしているのだ

もはや許容量の問題ではない。満タンまで注がれたコップの上からさらに水を注ぐ様なものだ。


サーシャ「私の属性がミカエルなら、あなたの右腕に干渉して力を奪えるはずです!!!」

フィアンマ「ふざけるなッ!こんな、こんな馬鹿な事がッ!!!」


サーシャの干渉を受け、力を吸い上げられた第三の腕が暴走する


フィアンマ「ぐあッ!!」


フィアンマは必至で右腕を制御しようとした


サーシャ「…………!!!!!!!!!」


アックアと同じ様に、血管が破裂し、全身から血が吹き出てくる

だがサーシャのしている事は、もはやアックアの無謀さなど遥かに超えていた

四大元素の歪みが正されたこの世界で、ただでさえ本来とは違う属性の水のテレズマを体に取り入れる事自体がすでに危険な事だ

だというのに、そこにさらに莫大な火のテレズマを取り入れるなど、それはもはや自殺と同義である
754 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:41:59.08 ID:9CZt.is0

水と火はけして混ざり合う事は無い

だからこそミーシャはサーシャという器を守ろうとしたし(フィアンマとの契約で乗り換えたが)
フィアンマも自身の正しい力を取り戻すために四大属性の歪みを正そうとしたのだ

二つの相容れない莫大な力がサーシャの中で葛藤し、暴れ回る

痛いなんてものではない、まるで内臓をズタズタにされている様な気分だ

サーシャは自分の体を抱きしめる様に腕を交差させ、利き手とは反対側の二の腕を掴んだ
。爪が食い込み、血が流れるくらいに強く…


サーシャ「がッ!あああああああああああああッ!!!」


赤い目を極限まで見開き、喉が潰れそうな程の咆哮を上げる






そして……







サーシャ「……」


今までの喧騒が嘘の様に、一瞬にして静寂が訪れた

サーシャの体は、背中が天井を向くくらいに項垂れた




バサッ!!!!
755 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:43:54.99 ID:9CZt.is0

”天使”というワードを聞いた時、誰もが思い浮かべるであろう真っ白な翼


それはガブリエルの水翼でもない、ミカエルの属性である火の翼でもない




白く、白く、白く、どこまで白く、一点の汚れさえ存在しない様な白すぎる程白く輝く翼だった




フィアンマ「何だ……それは……?」


第三の腕の制御を取り戻し、安堵したフィアンマの表情が、驚愕に変った


漆黒の夜空の闇さえも受け入れずに輝く白い翼



ガブリエルの水のテレズマと、ミカエルの火のテレズマというけして相容れない二つのテレズマを合わせて生み出された白い翼

理論などもはや存在しない。禁書目録を隅から隅まで調べても、該当するページは見つからないだろう

限界を超えるという事に、マニュアルなど存在しないのだから
756 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:46:02.24 ID:9CZt.is0

フィアンマ「くッ……!!!」


フィアンマの巨大な右腕が振るわれ、サーシャの体を引き裂いた

様に見えただけで、フィアンマの右腕が通過したサーシャの立っていたはずの場所に、無数の白い羽根が降り注いだ

まるで羽毛布団を切り裂いたかのように


フィアンマ「どこだ!どこに消えた!」


フィアンマは後ろを振り向く


すると、サーシャは翼と同じくらいに白く輝く剣を振りかざしていた


フィアンマ「ッ…!?」


ガギッ!!!!


それを受けとめたフィアンマ

莫大な力と力がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が周囲に響き渡る


上条「うおっ…!」


もはやこの展開についていけてない上条は、体を庇う様にして衝撃波から身を守った

いままで多くのファンタジーを見て来た彼だが、この光景は、その中でもべスト3にランクインするだろう
757 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:47:42.33 ID:9CZt.is0

フィアンマ「どうやら、力の総量自体は俺様の方が上みたいだな」

サーシャ「ッ……!!!」


サーシャの体が押し返され、弾かれた

同時にその隙を逃す事無く、フィアンマは右腕でサーシャの体を掴む


フィアンマ「驚いた、本当に驚かされたぞサーシャ・クロイツェフ。だが、
どうやらこの世界は俺様のやり方を支持しているみたいだな。これが運命と言うやつなんだろう…」


フィアンマは右腕を一度大きく後ろに振り、そして思いっきり壁に向かってサーシャの体を投げつけた

得体のしれない力の塊であるサーシャを、いつまでも掴んだまましておく事に躊躇いを感じたからだ


上条「サーシャ!?」


上条は突然飛び出し、サーシャの体を受け止めようとした

だが、あのフィアンマから放たれた力は、上条がサーシャを受け止めると同時に上条の体を潰してしまうだろう

サーシャは上条に受け止められると同時に、上条の背中を庇う様に自分の翼を折り曲げた


上条「ぐッ…!!!」


その甲斐あってか、何とか無事サーシャの体を受け止めつつ、
上条の体を守る事にも成功した。上条さん余計じゃね?とか思ってはいけない
758 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:50:09.11 ID:9CZt.is0
上条「大丈夫かサーシャ!?」

サーシャ「ええ、何とか取り返してきましたから」


そう言うと、サーシャは切断された上条の腕を取りだして見せた


フィアンマ「なッ、何をした……サーシャクロイツェフッッ!!!!!」

サーシャ「第一の解答ですが、私をその手で掴んだのが失敗でしたね」

フィアンマ「ッ……!!!!」


第三の腕から上条の右腕を無理矢理抜き取った

だが、それだけではない


フィアンマ「がッ…ごぼ…ッ!!?」


いきなりフィアンマが吐血した

それだけではない。血管が破れ、目からも耳からも血が流れてくる…


よく見ると、彼の第三の腕には、無数の白い羽が突き刺さっていた


サーシャ「第二の解答ですが、大切な物みたいなのでお返しします」


その言葉の通り、サーシャは返したのだ。フィアンマから奪ったテレズマを

律儀にもガブリエルのテレズマという利息を付けて

火のテレズマと水のテレズマが合わさったらどうなるかなど、もはや説明はいらないだろう

空中分解に苦しんでいたフィアンマの右腕は、再び歪み始めた
759 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:52:00.05 ID:9CZt.is0

サーシャ「さあ、上条当麻、早くこの右腕を…」

上条「繋げるのか!?」

サーシャ「………」

上条「……どうした?」

サーシャ「すみません、幻想殺しの事を忘れていました」


この場面で今更ながら重要な事を思い出し、サーシャはがっくりとうなだれた

上条の幻想殺しは、あらゆる異能を打ち消す。例えそれが回復魔術であってもだ


サーシャ「…すみません」


だがそれに対し、上条は明るく笑ってみせた


上条「大丈夫だサーシャ。頼む、やってくれ」

サーシャ「えっ…しかし…」

上条「大丈夫だって。お前の幻想は、俺が守ってみせるから」

サーシャ「当麻……分かりました!」
760 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:52:56.01 ID:9CZt.is0

サーシャは露わになった上条の腕の切断面に、奪い返した腕を繋ぐ

すると、接合面から白い光が零れた……


上条「……」

サーシャ「……どうですか?」


上条は手を握ったり、指を伸ばしたりして確かめてみた


上条「サーシャ……」

サーシャ「はいっ!」

上条「ありがとうな…」なでなで

サーシャ「ふえっ…!」


思わず変な声を上げてしまった
761 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:54:25.37 ID:9CZt.is0

フィアンマ「ぐッ…こんな……馬鹿な事が…俺様は世界を…すくおうと…ガフッ!!」


もはや今までの圧倒的な力は影を潜め、体はふら付いており、立つのがやっとと言った感じである

彼には、サーシャの様に相反する二つの力を受け入れる事はできなかった



上条「フィアンマ」

フィアンマ「かみ…じょうっ!!!!」

上条「サーシャはスゲぇよな。あれだけ強かったお前を、ここまでボコボコにしちまうんだからな。
きっと、サーシャみたいな奴をヒーローって言うんだろ。俺には荷が重すぎる」

上条「だけどな、アイツの覚悟を無駄にしないための力くらいは、俺にもあるんだぜ?
この右手で、テメェの面をぶん殴るくらいの力はな」

フィアンマ「ッ…!!!」
762 :1 [sage]:2010/09/22(水) 23:56:44.15 ID:9CZt.is0

上条「覚悟を決めろよフィアンマ。テメェが小さいと嘲笑った、
そんな大切なモノを守るために命がけで戦ってきた奴等の覚悟が、今全部ここにある。
こいつらの覚悟を受け止めるだけの覚悟を、テメェも決めてみせろって言ってんだ」


それはサーシャであり、アックアであり、風斬であり、一方通行であり、キャーリサであったりと、
この戦争に関わって来た全ての人間の想いだ


全て、彼が小さいと嘲笑った想い



上条「誰にだって守るべきものがある。大きさなんて関係ねぇ!
そこに守りたいって立ち上がらせるほどの強い想いがあるんだよ!
それがどれだけデカイもんかも分からねぇくせに世界中に人間を救おうだなんて考えてるなら、
テメェの目を覚まさせてやる。そして分からせてやるよ。
守りたいと願う奴の、想いの、覚悟の大きさって奴をな…」


上条は右手を強く握り締め、そして駆け出した






上条「言葉にするのはここまでだ!!!あとはテメェの頭で考えろッ!!!!!」





フィアンマ「黙れッ!!俺は神上にッ!!!!」


フィアンマは不安定な第三の腕を振るった

だが、上条はそれをしゃがんで避け、そのまま低い姿勢から伸びあがり

上条の拳がフィアンマの顔面を貫いた


フィアンマの体は吹き飛び、地面をニ転三転する

それでも何とか立ち上がろうと試みたが、最後には力尽きて仰向けになったまま気絶してしまった


769 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:40:43.77 ID:3pDr6vs0

上条はフィアンマからインデックスの遠隔制御霊装を奪った

だが、手に取る前に錠前は上条の幻想殺しにより、触れた瞬間にバラバラに砕けてしまった。
まあ何はともあれ、これでインデックスは助かったはずだ

遠隔制御霊装を破壊すると同時に、あの星一つ無い漆黒の夜空が終わり、遥か遠くの空まで見慣れた水色が広がった

見慣れたとは言っても、こんな高い場所から見下ろすのは初めてだし、
できれば二度目は謹んでお断りしたいものであるのだが


フィアンマ「ムカツクくらいに青い空だな……」

上条「!?」


仰向けになりながら、フィアンマは上空に広がる青を見てそうつぶやいた


フィアンマ「そう警戒するな……俺様の聖なる右は、サーシャ・クロイツェフのおかげで
使い物にならなくなった…今の俺様はもはや普通の人間だ」

上条「そうか、案外あっさりしてんな」

フィアンマ「俺様は、お前が思ってるほど未練がましくはないぞ?」
770 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:43:03.21 ID:3pDr6vs0

フィアンマ「だが…例えこの俺様を止めたとしても、俺様と同じ考えの人間は山ほど居る。
今回はたまたまこの俺様が動いたが、次は違う人間が動くかもしれないぞ?」

上条「……」

フィアンマ「それに、人類はいつか、俺様の悩んできたものと同じ壁にぶつかるだろう。
階級が生まれ、寡頭制が生まれ、帝政が生まれ、絶対王政が生まれ、軍事独裁や共産主義が生まれ、
そして共和制、民主主義が生まれた様にな。いつかは新たなシステムが生まれるだろう。
その時、人類にとって最も幸福で平等な世界になるのか、はたまた、俺様の様なやり方でなければ、
その様な世界は永遠に訪れはしないと悟るのか。まあそれは統治システムの限界を認めると言うことになるのだがな」

フィアンマ「歴史は繰り返す。繰り返しながら少しずつ変わっていく。
俺様は失敗したが、人類にとって最大の命題の一つとも言えるこの問題に答えが出ない限り、
また俺様と同じ考えの元に誰かが動くだろう。必ずな」

上条「その時は、また誰かが止めるさ」

フィアンマ「大切な誰かを守るためにか?」

上条「ああ」

フィアンマ「愉快な奴だ。そんな愉快なお前に愉快な事を教えてやろう」

フィアンマ「どうやらあの女にとって、お前の存在がかなり大きくなっているみたいだな」

上条「……どういう事だ?」

フィアンマ「鈍い奴だ。つまり、あの女はお前のことを…」


フィアンマが何かを言いかけた時、いきなりベツレヘムの星が激しく揺れた

同時に地面が音を立てて崩れ始める

フィアンマの魔術により支えられていたベツレヘムの星全体が、それが途切れたことによって崩壊し始めたのだ
771 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:46:13.68 ID:3pDr6vs0

フィアンマ「チッ、時間切れか」

上条「フィアンマ!お前、何を言おうとしてたんだ!?」


フィアンマ「求めよ、さらば与えられんだな。気付いてやれない事は、
時と場合によっては相手を傷つける事に繋がるのはもうわかっているだろ?」


そうは言われたものの、フィアンマの言葉は全く理解できなかった


上条「うわっ!!?」


儀式上の床は殆ど崩れ去り、上条の体が宙に投げ出される






フィアンマ「エリ、エリ、ラマ、サバクタニ……とか言ってみたりしてな。最期に……」




それは、神の子が処刑の際に残した一節の冒頭

ベツレヘムの星は最後にフィアンマだけを取り残し、上条は地上へと落下していった
772 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:47:53.14 ID:3pDr6vs0
上条「フィアンマ……」


結局、何が言いたかったのか分からなかった

今更だが、これで良かったのだろうか?

と思う前に、今一番考えなければならない問題がある



上条当麻は空を飛ぶ事ができない



上条「そうだ、忘れてたけど、俺どうすれば良いんだ?」


上空1万メートルの大空に放り出された彼に、生存するだけのスキルは無い



ああ、不幸だ……



父さん、母さん、インデックス、三毛猫、あと小萌先生といつもお世話になってるカエル顔のドクター、
ついでに土御門とか青ピとかその他

今までかなり無茶を重ねてきたけど、今回はマジで駄目みたいです

そう言えば、本棚の裏に隠したアレはどうしようか……このままでは上条さんの趣向がモロバレで、
きっと遺影の前でクラスメイトにクスクス笑われたりとか、お供え物の所にさり気無く飾られたりするんだろうな。
遺影なだけにイエーイってか?もうどうにでもなれよちくしょう!!



「諦めるのはまだ早いですよ」


上条「えっ?」


上空に閃光の様に輝く太陽に中に見えた、ひとつの影

それは大きな白い翼を広げ、天使の様に舞い降りてきた…

というよりは急降下して来たと言うほうが適切かもしれない
773 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:49:02.69 ID:3pDr6vs0

上条「サーシャ!ごあッ!!」ドスッ!!

サーシャ「お待たせしました」


急降下しながら勢いを殺さずに上条の胸に飛び込んできたサーシャ

せめてもう少しソフトに飛び込んで来て欲しかったと言いたいところだが、
「文句があるならパラシュートの無いスカイダイビングを楽しんでもらいますよ?」と言われそうなのでそこは我慢する


上条「えっと…」

サーシャ「第一の解答ですが、翼には触らないでください。このまま私と心中したくなければ」

上条「あ、ああ」


ということなので、上条は左手をサーシャの腰の後ろに回し、右手をサーシャの後頭部に回した。
サーシャも空中で上条の体を離さない様に強くしがみ付いているため、まるで抱き合っている様な感じである。

サーシャは器用に翼を羽ばたかせ、威力を殺しながら地上へ落下していく

気圧の影響もあまり受けていないのだが、これもサーシャの力なのかもしれない
774 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:51:25.32 ID:3pDr6vs0

上条「ありがとう、サーシャ。お前には助けられてばっかりだな」


ようやく地上が見えてきたおかげか、少し落ち着いた上条は、改めて耳元でサーシャに囁いた


だが


サーシャ「第二の解答ですが、まだ安心できませんよ?」

上条「なんか凄く不幸な予感…」

サーシャ「補足しますが、フィアンマにテレズマの大半を返してしまった事と、
あなたの右腕を接合するために力を使った事により、そろそろ燃料が底を尽きてしまうかもしれないという懸念事項が…」

上条「そうかそうか、それでさっきから俺の体が仰向けのまま落下してるというわけかコラ!」

サーシャ「第三の解答ですが、最悪あなたをクッションにする事で私が生還できるという素晴らしい作戦です」

上条「させるか馬鹿野郎!!!」ジタバタ

サーシャ「逃がしませんよ」ギュッ


上空2000メートルあたりで喧嘩してるのかイチャついてるのか分からないが、何やら楽しそうに騒ぎながら落ちていく二人



そして……


サーシャ「あ…」

上条「どうした?おい……まさか……」


けして右手で触れたわけではない

だが、視界いっぱいに広がる澄み渡たった水色のキャンバスに、フワフワとした白い羽根が大量に散らばった
775 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:52:35.42 ID:3pDr6vs0

上条「うおおおおおお!!!上条さんの人生は露出趣味の美少女のクッションになって終わるんですかああああああッッッ!!!」

サーシャ「これはワシリーサの趣味であって私の趣味じゃありません!!」







ズドン!!!






上条「……」

サーシャ「……」


サーシャ「……生きてますか?」

上条「ああ、生きてる……信じられないけど……生きてる…幸福だ……」

サーシャ「まさかあなたの口からその言葉を聞く日が来るとは」


上条「やれやれ、まあ何はともあれ、お互い無事に帰ってこれましたな」

サーシャ「クスッ、そうですね…」


サーシャは上条にしがみ付いたまま、微笑みながら同意した
776 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:53:57.18 ID:3pDr6vs0

上条「お?」

ポケットの中で小刻みに震える携帯を取り出す上条


『何だ、生きてたのか』

上条「何で残念そうなんだよお前は」


声はロン毛神父のものだった


ステイル『死体にコールし続けるのも不気味だし、これでも感謝してるさ。
彼女をこんな目に遭わせたクソ野郎をぶちのめしてくれたみたいだしね』

上条「そうだ!インデックスは無事か!?」


『とーま…?』


どうやらいつの間にか電話の相手が変わっていたみたいだ

それは、ずっと聞きたかったシスターの声


上条「インデックス……もう大丈夫なのか?」

インデックス「うん、とうまのおかげだよ」

上条「……」


言わなくてはならない

そして、下されなければならない。嘘をつき続けたことに対する判決を…
777 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:55:25.62 ID:3pDr6vs0

上条「…あのな、インデックス。実は…」

インデックス「もう良いよ」

上条「え……?」

インデックス「とーまが私のために嘘をついてたのは分かってるから。でも…」

インデックス「寂しかった……」

上条「インデックス…」

インデックス「とうまは、私の事を心配してくれた?」

上条「当たり前だ。心配しないはずがないだろ」

インデックス「私もずっととうまと同じ気持ちだったんだよ。とうまはいつもいつも自分だけで抱え込んで一人で戦って、
いつもいつもボロボロに傷ついて病院のベッドに居るんだから……だから…」

インデックス「寂しかったんだよ…」

上条「ごめん…」

インデックス「いいよ。とうまはそれでも絶対に戦うことをやめないって分かってるから。
関係無い事に自分から巻き込まれて戦っちゃうのがとうまのアイデンティティだし、別にもう気にしてないよ?」
778 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:57:04.76 ID:3pDr6vs0

インデックス「むしろ、巻き込まれるたびに色んな女の子と仲良くなってることの方が気になるかも。
ほら、今とうまの隣に居るその子は誰なの?」

上条「ちょっと待て!これテレビ電話じゃないぞ!どうして分かったんだ!?」

サーシャ「?」

インデックス「やっぱ誰かと一緒に居るんだね」

上条「なっ!ちくしょう、この策士め!!」

インデックス「相変わらずとうまは節操無しなんだよ」

上条「あのなあ、この一大事に上条さんは女の子とそんなピンクな空気を作ってる暇なんか…」

インデックス「暇なんか?」

上条(やべっ、そう言えばレッサーはどうなったんだろ?)

インデックス「やっぱピンクな雰囲気があったんだね」

上条「ちがッ!違うぞ!あれは一方的に迫られたでだな!!」

インデックス「とうま、語るに落ちたってやつなんだよ」

上条「だあーっ!!くそっ!何でだ!魔術以外は食べることが脳の大半を占めてるくせに、
何でこういう時に限って頭をフル回転させてやがんですか!?」

インデックス「そこはかとなく馬鹿にされてる!?とーまが悪いはずなのになんで私が馬鹿にされてるんだよ!?」

上条「だっていつもいつも二言目には“お腹すいた”じゃねえか!
インデックスが頻繁に使うワードランキングを作ったら堂々の第一位に輝くだろうな!」

インデックス「トウマ……」

上条「な、なんだよ…」

インデックス「マルカジリシテイイ?」
779 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 10:59:39.93 ID:3pDr6vs0

上条「そ、そうやってすぐ暴力に訴えるのは良くないぞ?だいたい上条さんの頭は食べても美味しくないし、
そもそも食べ物じゃありません!」

インデックス「確かに中身はスカスカしてそうだね。でも歯ごたえは悪くないんだよ?」

上条「ちくしょう!事実なだけに反論できねえ!歯ごたえは知らないけど」

インデックス「とうま」

上条「なんだよ」

インデックス「とうまは記憶を失う前もそんな感じだったよ」

上条「失う前から脳がスッカラカンだったってことか?」

インデックス「うん、それもあるけど」

上条「あるんかい!」

インデックス「でもね、とうまはとうまなんだよ。記憶があっても無くても、とうまは変わらないんだよ。だからね」



インデックス「私は、記憶を失う前のとうまも、今のとうまも同じくらい大好きなんだよ」



上条「……」

インデックス「とうま?」

上条「あ!い、いやあ!その、なんだ…俺もだな、その…」


少年は顔を赤くしながら慌てふためいた

その後、上条さんは何やらクサイセリフを発動していたのであるが、
現場を見ていたサーシャ・クロイツェフ氏は「ごちそうさま」との感想と、
「五和の恋のハードルは高そうですね」とのコメントを残していた
780 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 11:02:13.94 ID:3pDr6vs0

インデックス「とうま」

上条「どした?」

インデックス「……ううん、やっぱ良いかな…」

上条「何だよ、気になるだろ」

インデックス「……あのね、とうま。本当は私がとうまの記憶喪失に気付いてたって事、フィアンマを通じて知ったんだよね?」

上条「……ああ」

インデックス「フィアンマと私の意識がリンクした時、私の記憶もフィアンマに流れたけど、
同時にフィアンマの記憶も私に流れてきたんだよ…」


自動書記モードの時のインデックスは、本来の意識は心の深層に沈んでしまうためにその時の記憶は無い。
だが、どうやら遠隔制御霊装を介してリンクした意識については、完全記憶能力により脳内に記録されているらしい。


インデックス「フィアンマの心は、何も無かったんだよ」

上条「どういう事だ?」

インデックス「空っぽだったんだよ。誰に対しても思い入れを持つことが無く、誰に対しれも平等に扱い、
敵対すれば誰でも平等に排除する。とても怖くて、とても虚しかったんだよ…」


どこまでも平等に扱う

まるで、道端に倒れ、死んでしまった動物に対しても、道端に落ちている空き缶も同じように考える。
それは別に気取っているわけでもなく蔑んでいるわけでもなく、本当に何の疑問も無くそう考えてしまうのだ。
781 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 11:04:16.89 ID:3pDr6vs0

インデックス「色んな悲劇を見て来て、本気で人類を救いたいと願っていた。
でも、どこかで人間を一つの生き物としか見れなくなっちゃったみたい……
男も女も子供も大人も家族も友人も犯罪者も敵も他人も、同じものにしか見えなくなっちゃったんだよ…」

上条「……インデックス、サーシャ、俺は、間違ってないよな?」


彼も、キャーリサと同じだったのかもしれない

キャーリサがイギリス国民の強さを信じることができず、一人で暴走して死のうとした様に

フィアンマは、もはや人間そのものを信じる事ができなくなってしまったのだろうか?


もしも遠隔制御霊装なんか使わずに、普通にインデックスに協力を仰いでいたら

もしもガブリエルを天体制御だけに使えたら

もしも右腕を奪う方法じゃなくて、もっと違う協力の仕方があったなら

そうしたら、誰も犠牲にならずに世界を平和にできる方法が、フィアンマなら見つけられたのかもしれない

例えそれが無理でも、せめて今日一日は世界中から不幸が消えて、みんなが幸福を享受できる、
そんな世界一凄い魔術ができたのかもしれない


もちろん、世の中はそんな都合良く行くほど優しく作られてはいない。
だからこそフィアンマはこんな方法で世界を救おうとした。

人を救うという事を、数の多い少ないの損得勘定で割り切ってしまえる様になってしまったのだ。

それでも、上条はキャーリサの様に、フィアンマを救えたんじゃないかという考えをどうしても捨てられなかった…
782 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 11:06:06.76 ID:3pDr6vs0

サーシャ「第一の質問ですが、後悔してますか?」

上条「いや、インデックスを助けるために戦った事への後悔は無い。無いけどよ…」

サーシャ「第一の私見ですが、必ずしも誰かと誰かの利害は一致するとは限りません。
ですから、その時は、譲歩するか、妥協するか、或いは想いを通すためにぶつかるという事は避けられないのです」

サーシャ「今すぐ答えを出せとは言いません。ですが、少なくとも我々は、
彼の願いを踏み躙って自分の守りたいものを守ったというのは事実です」

上条「サーシャ……」



サーシャ「当麻、あなたの守った者の笑顔を見てからでも、結論を出すのは遅くはありませんよ?」

上条「……そうだな。アイツに頭をかじられてから考えるとするよ」
783 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 11:07:43.49 ID:3pDr6vs0

【その後】


オルソラ「お茶が入りましたのでございますよ」

神裂「結局のところ、第三次世界大戦は学園都市とイギリス清教の勝利で幕を閉じましたね」

五和「フランスとの戦争は大変でしたけど、結局和平という事になりましたし、何よりみんな生きて帰って来れて良かったです」

アニェーゼ「こちとら戦争の後始末でてんやわんやですよ。勝っても負けても過労死しそうです」

ルチア「戦争の勝者は国であって、シスター個人にはあまり縁が無いですからね。アンジェレネ、お砂糖入れすぎですよ」

アンジェレネ「ところで、サーシャはどうなったんでしょう?クーデターの後にすぐどこかに消えてしまいましたし」

サーシャ「第一の解答ですが、意外とどこかで元気に過ごしていると思いますよ」

五和「ですよね…でも会いたいです…」

オルソラ「生きていれば、きっとそのうちどこかで会えるのでございますよ…」

シェリー「………」




「「「「「おい!!!」」」」」


784 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 11:09:00.18 ID:3pDr6vs0
アニェーゼ「何自然に溶け込んでやがんですかあなたは!?」

神裂「隠密行動を業とする天草式の私ですら気付かなかっただと…?」

サーシャ「実はですね、ワシリーサから皆さんへこんな手紙を預かっていまして」

五和「えっと…これは…」

アニェーゼ「日本語…ですか?いえ、こんな日本語知らねぇ…」

シェリー「芸術(アート)だ…」

ワシリーサ『ス″ ├″ ラ ─ ス ├ ゥ″ィ 于 ェ♪ モ ス 勹 ワ ょ 丶) 愛を ぇ入 めτ。
ナょ ω カゝ 今回 @ 単戈 争 @ 夂几 王里 ー⊂ 、 □ ゙/ 了 成 孝攵 @
再 糸扁 成τ″ ]″ッ 勺 ]″ 勺 ι τ ゑ カゝ ら、 禾厶 @ 可愛 レヽ 廾 ─ ゙/ ャ ちゃ ω を
ι レよ″ら < ξちらτ″ 予頁 カゝ っτ < ナニ″ 、ナ レヽ 。最大主 孝攵 レニ レよ 言舌 を
イ寸 レナ τ ぁ ゑ カゝ ら問 是頁 ナょ レヽ ゎ ょ 。ξれ ι″ゃ ぁ 皆 、ナ ω 、 廾 ─ ゙/ ャ ちゃ ω
ー⊂ イ中 良 < ι τ ぁ レナ″τ ね』
785 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 11:10:54.82 ID:3pDr6vs0

ルチア「暗号ですか?」

オルソラ「目に優しくないのでございます」

アンジェレネ「クッキーおいしいです」

五和「翻訳してみますね」

ワシリーサ『ズドラーストヴィチェ♪モスクワより愛を込めて(はぁと)なんか今回の戦争の処理と、
ロシア成教の再編成でゴッタゴタしてるから、私の可愛いサーシャちゃんをしばらくそちらで預かってください。
最大主教には話を付けてあるから問題ないわよ。それじゃあ皆さん、サーシャちゃんと仲良くしてあげてね』




『追伸、くれぐれも私のサーシャちゃんに手ェ出すなよ?これを読んでる天草式のお前だあああああああああああああッッッ!!!!!!!』




五和「ひいいいっ!!!!」ガクガク

サーシャ「第一の解答ですが、そういう事なのでまたお世話になります」

全員「……」


しばらくの間、全員呆気にとられた顔をしていたが、すぐにみんな同じ言葉が出てきた





           

          『おかえり、サーシャ』






786 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 11:14:28.71 ID:3pDr6vs0
正午を告げる鐘の音で、サーシャは静かに目を覚ます



サーシャ「第一の解答ですが、という夢を見たのです」

五和「ダメですよ、そういうオチは」

サーシャ「また五和の膝枕で眠れる日が来るとは思ってませんでしたから、私にとっては夢の様な現実ですよ」

五和「結局、サーシャちゃんは何のために戦っていたんですか?」

サーシャ「そうですね……」


サーシャ「第二の解答ですが、夢を、いえ、たった一つの幻想を現実にするためですね」

五和「それはどんな幻想ですか?」

サーシャ「こんな幻想です」ギュッ


サーシャは起き上がると、そのまま五和に抱きついてきた


五和「サーシャ…ちゃん////?」
787 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 11:15:50.10 ID:3pDr6vs0

サーシャ「今この瞬間が、私にとっては幻想でした」


そして、いつも理不尽な何かで阻ばれていた幻想は、現実へと変わっていく



サーシャ「第一の解答ですが、これからもよろしくお願いします五和。
今度こそ、もうあなたを悲しませたりはしませんから」


五和「はい♪」




かつて二人で別れを悲しんだ時計塔で、二人は幸せそうに笑い合っていた


たぶん、これからも楽しそうに笑うのだろう。そのために戦ってきたのだから


今まで苦しんだ分だけ、傷付いた分だけ、彼女たちは幸せを手に入れる


もう亡命は必要ない


サーシャが求めた全てはここにあるのだから


だから、これからは……




サーシャ「自由になりました」【完】



788 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 11:24:24.79 ID:3pDr6vs0
ちょうど一カ月と半月ですね。ようやく完結しました。
フィアンマは原作の方ではどうなるかは分かりませんが、一応ここでは実は良い奴だった
んじゃね?という展開で書かせていただきました

もはや名前すら登場させられなかった美琴先生やはまづら、滝壺、むぎのんは
原作の方で素晴らしい活躍をしてくれると思うので、そちらの方に期待します

それでは二度目になりますが、今回も最期まで見て下さったみなさんに御礼を言いたいと思います
本当にありがとうございました。

789 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします :2010/09/26(日) 11:35:11.69 ID:mK9Qb2DO
乙! ちくしょう第二の女子寮編開始を予期させる夢に騙されたwwww サーシャちゃんマジ天使悪魔
全編通して面白かったよ
790 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:10:03.90 ID:QaHZzWQo
乙!
よくこんなに先の展開を想像できるな
791 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/26(日) 12:22:46.44 ID:IperKf6o
おもしろかったよ おつ
792 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2010/09/28(火) 15:00:38.93 ID:ic1sK5co
激しく乙

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