- 395 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:44:32.03 ID:ygwqLV1Vo
- 辺りは暗くなってしまっていた。
はっきり言えば、御坂美琴の門限が迫っている。
カラオケの個室にこもると時間間隔がくるってしまうから困る。
あっはっは、と快活に笑う上条当麻とは違い、御坂は顔を真っ青にさせていた。
今からダッシュで帰れば、ギリギリで間に合いそうな時間だ。
ヤバいヤバいと言いつつも、
運動前のストレッチをのんびりとしているとイマイチ危機感が伝わってこない。
「まぁ、ちゃんと謝れば許……」
「されないからこうして焦ってるのよ!」
「いや、そんなゆっくりじっくり丁寧にストレッチしているのを見てると
とてもじゃないけど急いでいるようには見えないのですが」
「柔軟馬鹿にすんな!怪我する奴に限って柔軟怠ってるのよ!!」
「だぁー!そうですね!!ベストコンディションには欠かせませんよね!!」
ちなみに、場所はカラオケ店の受付の隅っこの方。
邪魔とは言わないが、そんな姿を見せられては仲睦ましいカップルの姿を妬む男もいるだろう。
だがそんなことはお構いなしの掛け合いだった。
「よし!終わった!」
「いや、むしろ今からが本番だろ。頑張れよー」
「な!女の子が1人で帰るってのに送ろうとかそんな心遣いは無いの?!」
「今からダッシュで帰るって宣言してる奴について行こうとは思わねーよ!」
「トレーニングと思いなさいよ!今日してないでしょ!!」
「うぐっ、そう言われると上条さんも言い返せません事よ……」 - 396 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:45:16.93 ID:ygwqLV1Vo
- 結局、御坂と共にランニングをする事にした上条は、
カラオケ店の外へと足を踏み出した。
すると、雨。思わず上条は顔をしかめながら、
「うげっ、雨かよ……ちゃんと天気予報見とけばよかったわ」
上条は外に出てすぐさま空を仰いだために気付かなかったが、
続いて御坂が外に出て周りを見渡した時に、異変に気付いた。
「何、あれ……?」
何やらアンチスキルの数が多い。
何処かで事件でも起きたのだろうかと思ったのだが、
その瞬間、目の前を走っていたアンチスキルが突如として糸の切れた操り人形のように、プツリと倒れ伏した。
本当に、何の前触れもなく。
意味も無く水溜りの中に突っ込む人間がいるだろうか。
いや、居た所で上条の目の前でそんな事をする意味がわからない。
防水機能の自慢でもしたいのですか?
とか馬鹿みたいな事を考えつつ近づいてみると、
「この人……意識が……?」
御坂が上条の代弁をするように、呟いた。
防護服に身を包んだアンチスキルは、ピクリとも反応を示さない。
明らかに異常事態で、すぐさま他のアンチスキルを目で探す。
アンチスキルはすぐに見つかった。
「「ッ!!?」」
上条達の目の前にいるアンチスキルと同様に、いや、『一斉』に倒れた。
意味がわからない。音も無くアンチスキルだけを狙って意識を飛ばすなど、あり得ない。
麻酔ガスか何かかと思ったが、それなら自分や御坂が無事なのもおかしい。
とりあえず防護服で身を固めたアンチスキルのヘルメットの様なパーツを剥がすと、
とりあえず顔からは生気が感じられ、口からは確かに呼吸を感じられた。
何処か怪我をしているようにも見えないし、純粋に意識が無いだけに見える。
とはいえ、その現象そのものがあやしいのだが。 - 397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/25(木) 00:45:19.87 ID:kNshSbADO
- 予想外のリアルタイム遭遇来たー
- 398 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:47:30.54 ID:ygwqLV1Vo
「……とりあえず救急車だな」
「……うん」
頭の理解が追いつかないが、
ここまで落ち着いていられるのも互いに互いがいたからだろう。
もし仮に1人でこの状況に陥って居たら混乱は必至だったはずだ。
携帯電話でお決まりの番号を押してコールセンターへと接続した。
こういった通報は初めてという訳でも無いので落ちついて状況と場所を説明し、電話を切る。
一先ずはこれで大丈夫だろう。
だが、この現象の原因が未だに不明。
ならばそれをなんとかせねば、
目の前で倒れているアンチスキル達の様な人間が続々と増えるに違いない。
これからどうしようか、考えるところで地面に転がっている
無線機からノイズ交じりの声が聞こえてきた。
『ザッ……聞こえるか……ザザざザざざ……侵入sザザ……繰り返す、
侵入者!ゲートの破壊を確認!誰か聞いていないか!!?こちらの部隊も侵入者n』
無線機からの声は、最後まで言い切ることなくブツリと通信が途絶えた。
その先の声の主がどうなったかは、分からない。
何にせよアンチスキルが持っていた物なのなら、相手もアンチスキルなのだろう。
そう考えると、侵入者がアンチスキルをこのような姿へと変えたと見て間違いないはずだ。- 399 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:48:25.44 ID:ygwqLV1Vo
- (インデックス、大丈夫か……?)
侵入者と聞くと、魔術師しか思い浮かばないのは今までの生活が生活だったからだろうか。
何にせよ、魔術師だとしてもインデックスが狙いとは限らない。
とはいえやはり彼女の事が真っ先に心配になる。
安全確認を兼ね、インデックスと合流したい。しかし、御坂の事もある。
帰宅は一端諦め、一緒に行動しないかと提案しようとしたところ、
「?」
その前に上条の背後から衝撃が走った。
衝撃を受けた位置は上条の腰辺りで、そちらへと振り向くとそこには、
「「打ち止め?」」
打ち止めが居た。
こんな時間に一方通行や、他の奴らも伴わずにどうしたと聞きたいが、
打ち止めは上条にぶつかったと言うより、しがみついたと言った方が正しいだろう。
その身体は雨の冷たさからかガクガクと震え、
濡れた髪の毛がぺたりと打ち止めの神に張り付いて、その表情は読めない。
しかし、切羽詰まっている事は分かった。
「ねえ、一体どうしたの?」
茫然と2人を見ていた御坂は気を取り直して打ち止めに尋ねる。
打ち止めが顔を上げると、その瞳は真っ赤に充血し、
頬を伝う水滴は雨だけでは無いと言う事が容易に見てとれた。
そして、打ち止めは息絶え絶えに叫ぶ。
「あの人を助けてほしいのっ……!ってミサカはミサカは頼んで……みたり……!!」
その願いを、聞き入れない理由は存在しなかった。 - 400 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:50:01.31 ID:ygwqLV1Vo
- ・・・
拳が交錯する。
男は、大きく仰け反ったが、拳による痛みよりも、
殴られたと言う事実に驚愕していた。
「テメェ……!!」
木原数多は、一方通行によって殴られた。
木原数多は、一方通行を殴る事が出来なかった。
木原は先程の出来事を頭の中で反芻する。一体何が起きたのか。
まず、互いが互いに急接近する中で、一方通行は自身の傷口から手を離した。
そうして、木原の攻撃を真っすぐ伸ばした右腕で払って受け流し、
血まみれの左手で攻撃を放ったのだ。
しかしそれでは傷口から血液の流れを操作する事が出来ない。にも関わらず、血は流れ落ちなかった。
恐らく、演算を手で触れることを介して行うのではなく、直接血管から行ったのだろう。
しかし人間の体を十全に理解して、血管の強度や位置を把握していなければ出来ない行為だ。
それを為せるだけの演算力と知識があったと言う事なのだが、
それでも脳内の演算区域はかなり切迫するはず。
そこで気がついた。
(一方通行が『気付かないうちに』反射を切ってやがったってことか……!!)
木原が一方通行を殴る事が出来た理由。
それは反射の直前に手を引く事で、
一方通行自身がその木原方向に向かう運動ベクトルを一方通行へと反射させてしまっているのだ。
言ってしまえばそれだけの事なのだが、それを為す事の難易度は非常に高い。
何せ無駄な紫外線すらカットしている一方通行の反射の、わずかな隙をついての攻撃。
一方通行の動きや思考、能力の使用状況までも完璧に読みきる頭脳。
それが狙い通りとはいえ、『引き戻す』という本来の動作とは
真逆に動かされているのに問題無く動き続ける筋肉や関節。
そしてその理論に寸分の疑いも持たず、迷いなく実践する胆力。
はっきり言えば、ほぼ不可能な事を可能にしてしまっているのだ、木原数多と言う男は。
しかし、その自身の理論に対する疑いが無さ過ぎた。
確かに、一方通行が反射を切ると言う可能性も頭に入っていたのだ。
しかし、こうして一方通行自身が「反射をさせていたつもりだった」時は、木原の理論が足元から崩れさる。
とはいえそのような偶然、二度は無いのだが、それでも。 - 401 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:51:16.77 ID:ygwqLV1Vo
- 「成程なァ……」
それでも、一方通行が木原の攻撃法に気付くのには、十分だった。
「今、明らかに俺は殴られなかったが……
成程、反射を貫いていたのは、拳を反射する瞬間に引き戻してたからかァ……
普通、考えついてもそンな事するかァ?
失敗したら拳ぐちゃぐちゃになるじゃねェか、狂ってンなァオイ!」
攻撃方法がバレた。しかし、それがどうした?
意図的に反射を切ろうとも、
一方通行の思考パターンなら完璧に読み取る自信はある。
先程の偶然程度では木原の理論は揺るがない。
一方通行は口から血の混じった唾を吐きだしながらも、
ニヤニヤと木原に向かって笑いかけるが、木原もまたニヤリと笑った。
「ギャハハ!たった一度の偶然程度に喜んでんじゃねえよ!!
そっこーでひねり潰してすり潰して肉団子にして好色家にでも売り飛ばしてやるよ!!
つぅかあのガキ放っておいたらうちのクソ共がさっさと捕獲しちまうぜ?
追わなくていいのか?まぁ邪魔するけどよ」
「ハッ!!だったらこっちはお前の四肢を千切り飛ばして達磨さんにして
石膏で固めた後石像にして東京湾の海の底に沈めてやンよ!!!
てか、お前の事そっこーでブッつぶせばそれで万事オーケーだろォが!!!」
「言ってろクソガキ!!」
「吠えてろオッサン!!」
「「ぶち殺すぞクソ野郎ォオォォオオォォォ!!!」」
舌戦は再び殴り合いへと発展。
二つの影は一つになり拳が交錯を始めた。 - 402 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:52:38.16 ID:ygwqLV1Vo
- ・・・
次々と人間が倒れて行く。
冷たい雨が降りつける中で、
抵抗も無く、無造作に、悲鳴も無く、無意識に、鮮血も無く、平等に。
人々は倒れ伏して行った。
彼らは一様に装甲服だとか防護服だとか呼ばれる耐ショック機構を備えた物を着こんだ大人ばかりだ。
学園都市の守護を司る、アンチスキル達。
倒れた彼らは、冷たい雨に晒されて居ながらも、指一つ動かさない。
ドサリ、と音を立て倒れて行くアンチスキル達とは別に、
カツンコツンと細々とした足音が辺りを響かせる。
そのシルエットは女性の物で、その女は傘もささず、
雨をふる街を、倒れるアンチスキルの隙間を縫うように歩いていた。
まるで気軽に散歩でもするかのような足取りで。
そうして歩いた先、そこにはアンチスキルが無線機を用いて何かを発信していた。
「ふうん」
女は武装した男相手に、何の用意も無しに堂々と近づいて行く。
そして後ろからトントン、と肩を叩くとアンチスキルの男の顔は驚愕に染まり、
続いて意識を失ったのか、力なく崩れ落ちた。
女の方はそんなアンチスキルに目もくれず、男と共に地面に落ちた無線機を拾い上げる。
地面に落ちた事で泥にまみれている事に対して、眉をひそめながら。
そうして、女は無線機に向かって声を放った。 - 403 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:53:52.04 ID:ygwqLV1Vo
- 『はぁーい、アレイスター元気ぃ~?』
ザザ、とノイズが混じった後に困惑する
アンチスキルの声が聞こえてくるが、それに構わず女は続けた。
『どうせあんたはこういう回線とかも傍受してんでしょ?
せっかくだから相手してくれるとうれしーなー』
すると無線機のチャンネルが切り替わったのか
アンチスキルの声が聞こえなくなり、代わりに別の声が聞こえてきた。
先ほどとは違いこの場に居るのではと言う程の、明らかにクリアな声で。
『何の用だ』
『聞く気があるなら、話してやってもいいかな、って感じなんだけど』
『私がその挑発に乗ると思っているのか?』
『そっ。統括理事会の頭を何個か潰してきたけど、これくらいじゃあ揺るがないのね』
『当然だ、その程度の替え等いくらでも利くし、例え「全滅」させられたとしても、
反対意見はねじ伏せて替えを据える事は容易いさ』
『それって独裁宣言?
おー怖、ニンゲン身の丈にあった力を持たないと性格歪んじゃうってことね』
『……それは自分(貴様)に言っているのか?』
『そうね、自分(アンタ)に言ってるのよ』
『何やら見解の相違がありそうだが、まあいい。
それで、もう一度聞くが一体何の用だ?』
『んー、とりあえず私の名前わかる?』
『さてな。賊は取調室で調べるので』
『神の右席』 - 404 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:54:46.87 ID:ygwqLV1Vo
- あっさりと、自身の立ち場をばらした。
それはローマ正教でも最も重要で秘匿すべき組織の名前。
知っている人間が居たとしても、それを『知るに値する』者で無いと判断された場合、
秘密裏に「処理」される程秘匿されるべき組織で。
そんな組織名をあっけらかんと女は言い放った。
『ふむ、テロ行為指定グループにそのような名前はあったかな』
しかし、その名を聞いてもアレイスターの口調に変化はない。
『6割、7割か。この街の掌握された人員は』
『へぇ、被害状況の把握は出来てるんだ。
でもまあ、それの対応も出来ないようじゃ司令官としては置物レベルね。
アンチスキルだかジャッジメントだか知らないけど、脆弱すぎてあくびが出るわ』
『クク、この街を甘く見てはいかんよ』
『ふふ、負け惜しみとして受け取っておくわ。いずれ10割にするから覚悟しといてね』
『「その程度」で、学園都市の防衛網を砕けたと思うのなら、本当におめでたいな。
この街の形をまるで理解していないと見える』
『へぇ……』
『隠し玉は、君だけの専売特許ではないと言う事だ。
この場でいつまでも暴れると言うのであれば、見せてあげよう。
最も、そこまで学園都市で立って居られるかは君次第だがな』
『何であれ、私は敵対する全てを叩いてつぶす。それは生まれた時からの決定事項』
歌うように、女は無線機に口元を近づける。
『私は、『前方のヴェント』。20億が誇る最終兵器』
一息ついて、最後に告げる。
『全部壊してあげるわ。
あんたの思惑も、禁書目録も、幻想殺しも、超能力者も。
そしてこの街も、文字通り『全部』。この一晩の間にね』
アレイスターの言葉を待たずして、ヴェントは無線機を握りつぶし、2人の通信は終わりを迎えた。 - 405 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:55:45.75 ID:ygwqLV1Vo
- ・・・
<???>
アレイスター=クロウリーは、相も変わらず窓の無いビルの中で、
フラスコのような円筒器の中に揺られていた。
自身の生命維持を全て科学技術に任せて、
そして彼もしくは彼女は思考のみに全てを捧げている為、
今もなお目の前に広がる異常を知らせるモニターの数々を見て、笑みを浮かべた。
普段そのモニターには異常など感知されるはずもないのだが。
それは大覇星祭の『使徒十字』でも同様だったのだが。
たった1人の魔術師によってここまで場を乱されてしまったのだ。
ヴェントが侵入してからわずか1時間足らずで、ここまでの人員が犠牲になった。
アンチスキル・ジャッジメントの7割弱が、ヴェントの手にかかったのだ。
調べる限りでは犠牲者は居ない、と言うか恐らくそう言う『術式』なのだろう。
とはいえ、いつまでもこの状態が続けば立て直しは図れないだろう。
この街は、既に死に体だった。
しかし、その街の長は、笑みを崩す事は無く。
『人間』は喜怒哀楽の全てを同時に表し、
それでいて全てを否定するかのような笑みを浮かべていた。
そうして呟いた言葉。
「面白い」
「これだから人生は止められない。
人生にイレギュラーは付き物だが、ここまでの物は久方ぶりだな。
しかし、これは丁度良い。飛んで火に居る夏の虫、とはこの事を指すのだろうな」
予想より早いが、『実験』にはうってつけの環境を奴は作ってくれた。
アレイスターはヴェントに対して感謝の意を示すと、無線装置の一つを使い、
とある暗部組織の部隊長に連絡を飛ばす。
「猟犬部隊――木原数多」
相手の返答を受け、アレイスターは短く指令を出した。
「虚数学区・五行機関……AIM拡散力場だ。少し早いが、
ヒューズ=カザキリを起動させ『選別』のついでに奴らを潰すぞ。
現在逃走中の検体番号20001号を捕獲後、指定のポイントへと運んでくれ。
早急かつ丁寧にな」
無線を切ると、彼は言った。
「Project. Tartaros、まずは『適正者』を選び出すとしようか」 - 406 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/25(木) 00:57:39.24 ID:ygwqLV1Vo
- 尾張です
ヴェントとアレイ☆とのやりとりはほぼ原作まんまで言い回しとか変えてるだけなので早々に透過しました。
ペルソナと学園都市のクロス設定をようやくあれこれ出せそうです。
でも俺の妄想なのでこれ矛盾してね?とかあったとしても、まああれだ、ねぼし的なあれで許してやろうじゃねえか、寛容な心でよ……! - 417 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:48:02.28 ID:xDGXGo14o
- 月の淡い光と人工の光が学園都市を彩る。
雲の隙間から見る限りでは、今宵は満月のようであり、
普段の一回りほど強い光が街を照らしていた。
辺りは静寂に包まれ、雨が降る音だけが響き渡る。
そんな中で。
「ぎゃはっ!!テメェクソガキの癖に中々根性見せるじゃねえか!
まあこのままならうちのクソ共があのガキ捕まえてゲームオーバーだけどなぁ!!」
「そンならお前ぶち殺してその首振り回しながらクソ共あぶり出してやるよ!!!」
「それが出来てねぇからこその現状だろーが!!やせ我慢してんなよ!!」
「ハァ~?そっちこそもう歳なンじゃねェの!?動きが鈍くなってンぞオッサン!!」
「ぶち殺すぞクソガキィィィ!!!」
「二度と朝日拝めなくすンぞクソ野郎ォォォ!!!」
一方通行と木原数多は互いに決め手を得られないまま殴り合いを続けていた。
と言うよりは、木原の攻撃を一方通行がひたすら受け流している、と言うのが現状だ。
反射を捨て止血することに全てを捧げている為、木原は一方通行に触れる事が出来る。
しかし、それだけでは肉弾戦では木原には及ばない事がよく分かった。分からされてしまった。
木原の反射を貫く戦い方、それは常人にはできるはずもなく、
理論を立てそれを実行するだけの格闘センスの持ち主である木原数多に、
ちょっと鍛えただけでは勝てるはずもなかった。
とはいえ、能力を使用した戦い方をしていては木原の理論通りになってしまう。
現状が最善の戦い方なのだが、それでも木原には及ばない。
何か綻びが無いか、それを探すものの見つからない。
一方で、木原も現状に歯?みしていた。
こんな所でいつまでも子守をしている時間は無い、と言うのが正直な気持ちだ。 - 418 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:49:10.97 ID:xDGXGo14o
- (……わざわざこいつに付き合ってやる必要もねぇか)
先程まで一方通行が何をして来るのか楽しみで仕方なかったのか
木原は獰猛な笑みを浮かべていたのだが、どうやらここまでのようだと表情を消した。
何か考えつくまでの時間稼ぎ、と言った様子の一方通行に終わりを告げるべく、一端距離を取る。
その為の準備も完了している。
「もーいいや。オッサンだからもう疲れた」
突然やる気なさげにヒラヒラと手を振る木原に、一方通行は怪訝な表情を浮かべる。
その表情からは疑いの色しか見えない。
胸元に手を当てて止血をしていると言う事は、
そちらの方が演算しやすいのだろう、恐らく反射も戻っているはずだ。
しかし木原は、一方通行がそのまま疑心暗鬼で居れば良い、と思う。
「もうさー、じゃれつくガキをあやすのも飽きたしさー、とっとと死んでくんね?」
「ハァ?何を……」
瞬間、一方通行の側頭部に何かが直撃した。
「ッ……!?」
「ギャハハ!!よかったなあ俺が離れたからってとりあえず反射を起動させてて!
俺だけを見てたら間違いなく昇天してたな!!」
一方通行は木原の言葉を無視して弾丸の軌道上へと振り向くが、
少なくとも1キロは離れているだろう。狙撃手の姿形までは見えなかった。
そんな一方通行の姿を見て木原は更に高笑いをする。 - 419 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:49:40.99 ID:xDGXGo14o
- 「ギャーッハッハ!!!俺と戦うなら反射もつかわねーと
その真っ白な頭を真っ赤に染める事になるぜ!?」
そして木原は一方通行の言葉を待たずして駆けだした。
一方通行は、それを今まで通り待ち構えたいが、狙撃手の存在もある。
時間が足らない。
かといって逃げると言う選択肢もあり得ない。
木原が居る限り、猟犬部隊は打ち止めを追い続けるだろう。
何故なら木原の命令が絶対だから。
言われた事を必ずこなさねば殺されるから。
故に猟犬部隊は木原の命令に忠実に従う。
ならば木原を生かしておくわけにはいかない。
だが、一方通行だけの力では及ばない。
それでも、一方通行は抗う。
護れなければ、一方通行が今存在する理由が無くなってしまうから。
そんな大義名分以上に、打ち止めを、妹達を護りたいから。
迫る木原。
いつ来るかわからない弾丸。
双方に対抗するには少なくとも反射が必要。
かといって反射をさせると片手を止血にあてがわなくてはならない。
そんな状態で勝てるかと問われれば、否。
ならば、どうする? - 420 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:50:20.90 ID:xDGXGo14o
瞬間。
一方通行の両手が木原へと伸びていった。
(このガキッ……!)
それを見た木原は足を止め勢いが前に前に向かおうとする身体を無理矢理後ろに持って行った。
何とか体勢を整えてバックステップをする。
そうして一息ついた所で一方通行を睨みつけた。
「テメェ、正気か?」
「ハッ、何言ってンだこれくらい屁でもねェよ」
一言で言えば、「止血」を止めた。
更に言えば、足で地面を踏み抜き身体を固定した。殴られても、その場から動かないように。
そうして一方通行は木原を抱擁するように迎え入れようとしたのだ、確実に仕留める為に。
そんな一方通行は濁々と血を流し、服の白地の部分を赤に染めていた。
雨が血を薄めるように降り注ぐが、赤々とした血を洗い流す事は叶わない。
そのままではすぐに血が足らなくなるので一方通行はすぐさま傷口に触れ、血の流れを整える。
とはいえそのような戦い方を続けていればいずれ失血死もありえるだろう。
捨て身の策を捨て身でぶつけてきた一方通行に、木原は楽しげに笑った。- 421 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:51:36.29 ID:xDGXGo14o
- 「クソガキにしちゃあ、まぁまぁの作戦考えたじゃねえか!
お前は弱いんだからその位しねぇと俺には及ばねえんだよ!やっと気付いたか!!」
「ハァ……御託並べてねェでとっとと来いよ、お望み通りさっさと終わらせてやるからよォ……」
「まあ、その策は悪手だけどなぁ……
だったら、こっちから動かなきゃいいじゃねぇか。
オラまだ動けるだろーが、かかってこいよ!
こねーなら俺はあのガキ捕まえるまで仮眠でもとるかぁ!!?」
とは言え、この策は完全に受け身。
木原がそれに付き合う理由など存在しない。
ならば一方通行の策など、無視すれば良い。
捨て身の策は、決死の策は、一瞬にして瓦解してしまった。
そして、一方通行は。
「クソッ……たれがァァァ!!!!」
「そーだぜ一方通行!!
亀が甲羅にこもってるだけじゃあ勝てるもんも勝てねーってもんだ!!
まあ、どっちにしても勝たすつもりなんざねーけどなぁ!!!」
このまま戦うのなら、最早詰みだった。
とはいえ、逃げると言う選択肢は頭になく。
しかし、そんな一方通行を動かす出来事が起きた。
「そこで、何をしているの?」
思わぬ方向から声がかかり、木原も一方通行もそちらを振り向いた。
距離はおよそ20m程だろうか、木原と一方通行が相対している大通りの脇道から
不意に出てきたその少女は、とても長い銀髪で修道服を身に包んでいる。
一方通行ともなじみのあるその少女の名は。 - 422 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:52:35.42 ID:xDGXGo14o
- 「インデックス!?お前こンなとこで何してやがる!!?」
血を大量に流しながらも、未だギラギラと生きた目を輝かせる一方通行だが、流石にこれには狼狽した。
猟犬部隊は、元々非公式の工作部隊で一般人が知っていいものではない。
ならばそれを見たインデックスがどうなるかなど明らかで、普通に逃げた所で3日ともたないだろう。
ここにきて、暗部から護らねばならない対象が増えてしまった。
打ち止めとインデックス、どちらかを選ぶなど、どちらかを見捨てるなど、一方通行には出来ない。
故に、一方通行は、すぐさま逃げる事を選択した。
打ち止めへの手がかりが木原しかなくとも、
打ち止めを見つける為に自分しか動けなくとも。
木原より、猟犬部隊より先に打ち止めを見つけてみせる。
その決意を抱いてからの行動は早かった。
先程地面を踏み抜いた時とは反対に、自身が高速で動く為に地面を蹴り抜き、
まるでロケット砲の様な加速でインデックスの元まで移動し、そのままビルの屋上まで飛び上がる。
そんな一方通行を茫然と見届けた木原は。
「ギャハハ!!第一ラウンドは引き分けって事でいいかぁ!?
第二ラウンドは鬼ごっこってとこか!?先にあのガキ捕まえた方の勝ちな!!
その為のヒントくれてやる、『マヨナカテレビ』だ!!
真夜中のテレビは部屋を明るくして離れて見ろよぉ!!」
インデックスを抱えて逃げる一方通行の背を、
まるで遊ぶ約束をした子供のように笑いながら木原は見送った。
その言葉を、一方通行の耳は捉えていたのだろうか。
とはいえ、タダで見送る程木原は甘くない。
「まぁ、あの白いガキにはくたばってもらうけどなー」
気の抜けた声で超長距離対物ライフルを構える。
一方通行達は空中に舞い上がり真っすぐに飛んで行く。成程、的としては丁度良いだろう。
そうして後1mm、引き鉄を手前に引いたら弾丸が飛び出すその瞬間、一瞬だが標準に黄色い影が見えた。
更に不幸な事に、その影に遮られた間に一方通行は一端地面に降りたらしく、標準から見えなくなっている。 - 423 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:53:54.06 ID:xDGXGo14o
- 「?」
木原はそれが何なのか確認するためスコープから目を離すと、女が地面に着地していた。
何やら顔面にピアスの数々を付けバランスの悪い顔つきになっている。
服装は学園都市に似つかわしくない
中世ヨーロッパのようなものの色違いの様なものとなっており、
黄色一色に染められたそれは見ていて目が痛い。
とはいえ、そんな事はどうでもいい。
今重要なのは、目の前の女のせいで標準を見失った事だ。
せっかく白いガキの血を以って楽しい楽しい幕間を迎えられそうだったのに、それを邪魔された。
木原の表情は一瞬にして消え失せ、迷わず女に対して引き鉄を引く。
しかし、何処からか風が吹き荒れ、木原や猟犬部隊達の視界をふさぐ。
そして風が消えると、女は変わらずそこに居た。
「良い街ね」
明らかに生きている。
弾丸を喰らった形跡も無い。
そんな中黄色い服の女は事もなげに呟いた。
まるで木原達等眼中にないと言わんばかりに。
「学生と教師ばかりの街ってのも考えものね。お陰で『侵食』が進むのが遅れたわ。
まあ、それだけの話なんだけど」
そしてようやく、木原達の存在を認めたのかそちらの方を向きながら、 - 424 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:54:26.88 ID:xDGXGo14o
- 「最も、あんたらは真っ黒みたいだけどね。
どんないい場所にも黒い部分はあるってことかな」
「何者だ」
「商売敵ってとこ?まあ別にあんたらがあいつらを殺っても良いんだけど、
ターゲットを横から取られるのは気に食わないの」
「……殺せ」
木原は黄色い女と問答をするつもりはなかったらしく、迷わず部下達に女の処分を命じる。
それと同時に部下達は行動を開始するが、
「やめとくコトね……ってもう手遅れか」
部下達が構えた銃から、銃弾が放たれる事は無かった。
引き鉄を引く寸前に、バタバタと部下達がうめき声を上げながら倒れて行く。
それが当たり前のように、一切の抵抗なく。
木原はそれを見て眉をひそめる。
「なんだそりゃ」
「見て分かんない?」
「分かんねーから聞いてんだよ。馬鹿かテメェは」
「分からないとすぐ答えを求める、ひょっとしてゆとりなの?」
「ブチ殺すぞ」
「おー怖。にしても、殺意があっても敵意は無しと来たか。
殺す事が当たり前で、その辺の雑草を摘む程度にしか思っていない。
少なくとも、私程度には腐ってるわけね」
木原は、そんな女の言葉を無視しながら、
まだ意識のある部下達に億劫そうに指示を出す。 - 425 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:55:16.26 ID:xDGXGo14o
「あー、班を二つに分けろ。使えねー奴を下から10人そこの黄色いのに当てがえ。
残りは俺と本部に戻る。異論反論は殺す」
余りにもざっくりとした命令だが、木原の思い通りに動けねば殺される。
更に言えば、木原数多に一方通行、そして黄色い女。
先程までの一方通行と木原の戦いぶりを見る限りでは、
そこの黄色いのを相手にした方が幾分かましな気がする。
素早く囮を残して当の木原は黒のワンボックスカーへと乗り込む。
そんな木原の背中に、女は声をかけた。
「アンタには敵意が無いのね」
「向けて欲しけりゃ、もうちょい有能になるこった」
それだけ言い残し、運転手の頭をはたいて発進を促した。
そうして残ったのは女と囮。
「……全く、私の術式はこういう情報収集には向いてないってのに……
あいつらが何者か知りたいけど、手加減も出来ないし……倒し過ぎってのも考えものね」
囮の方を見向きもせずに、女は小さくなっていくワンボックスカーを見やりながら溜息をつき、
「さてさて。随分と舐めてくれたみたいだけど、アンタらは私の役に立てるのかしら?」
ジャラリ、と鎖を舌から垂らしながら、ニコリと笑った。- 426 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:56:34.30 ID:xDGXGo14o
- ・・・
上条当麻と御坂美琴、そして打ち止めは雨の中立ちつくしていた。
そこには濛々と燃え盛るワンボックスカーと、
先程見たアンチスキル達のように身動き一つしない黒づくめの武装をした男達。
しかし、その男達は何となく正規の部隊には見えなかった。
別に武器に関して詳しい訳でも無いので、アンチスキルの武装と男達の武装の違いが
分からないのは事実なのだが、あくまでも何となくだ。
目の前で意識を失い倒れ伏す男達が何者なのか考えていると、打ち止めが口を開く。
「あの人たちに襲われたの。ってミサカはミサカは黒づくめの事を思い出して話してみたり」
打ち止めが嘘をつく理由は無い。ならば本当なのだろう。
たとしたら、目の前の男達は一体何だ?何故、打ち止めを襲うのだろう。
そして、
「一方通行はここで戦ったってことだよな」
「そうだよ、ってミサカはミサカは答えてみたり」
「ってことは、一方通行がこれを……?」
「そこまでは分からないかなってミサカはミサカは……」
「あっ、ご、ごめんね打ち止め。あなたは一方通行のことを途中までしか見れなかったんだよね」
そこで3人は口を閉ざした。
状況を何とか理解しようと試みるものの、分からない。
当の一方通行が居ないのだから仕方ない。
とりあえず無事か確認すべく連絡をしようかと思い携帯を開いたのだが、電話がつながらなかった。
「出ないじゃなくて、繋がらない……?」
それは上条達の不安を煽るものだが、一方通行の事だ。何か行動を起こしているに違いない。
一旦一方通行の事を頭から外して、目の前の状況について考える。 - 427 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:57:27.41 ID:xDGXGo14o
- (まず、こんなひでぇ状況なのに、誰も居ない、来てないってのはおかしい)
どうやら御坂も同じようなことを考えていたらしく、
辺りを見渡しながら呟くように語りかけてきた。
「ねえ、何で『倒れている人』しか居ないのかな……?」
「ああ、こんな異常な状況だ、誰かしら通報してもおかしくないのに」
現状の異様さに息をのむ2人だったが、
そんな中で打ち止めだけは1人黒づくめの男達の1人の懐をあさっていた。
何をしているのだろう、と上条達はぼんやりと思うが、
打ち止めは突如として何かに気付いたように顔を上げ、こちらへと駆けこんできた。
「奴らが来た!ってミサカはミサカは2人を物陰に引っ張ってみたり!」
奴らとは?と2人は思うが、十中八九『仲間達』の事だろう。
武器の事には詳しくないが、あのように完全武装する連中だ。
スキルアウトの様な素人ではなく、訓練されたプロなのだろう。
そんな奴らに追われた時、逃げ切れるかと問われれば無理と言わざるを得ない。
足元は水たまりが池のように溜まっており、
靴の中どころかくるぶし辺りまで水につかってしまうが、この際気にしていられない。
何故なら3人が車の影に隠れ、その視線の先にはヘッドライトも付けずに、
まるで人目を避けるように走って来た奇妙な黒いワンボックスカーから黒づくめの男達が現れたからだ。
数にして10人程。素手で戦えば勝てないし、ペルソナを使ったところで狙撃される方が早いだろう。
男達は全員肩にサブマシンガンを下げ、他にも腰に手榴弾や拳銃で武装している。
どう見てもアンチスキルがして良い武装では無い。
そんな中、御坂美琴だけはその男達を強い意志を以って見据えていた。
思わず上条は御坂に尋ねる。 - 428 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:58:21.75 ID:xDGXGo14o
- 「……おい、何するつもりだ?」
「私が奴らを相手するから、その隙に逃げて」
「……そんなことできる訳ねぇだろうが。奴らだってあれで戦力のすべてとは限らないんだ、
お前がレベル5の超能力者だからって長距離から狙撃されてそれを回避できるのか?」
確かに、いつまでもここに隠れてやり過ごせるかと言ったらどう考えても無理だろう。
何せ、相手はプロなのだから。
何か指紋や血痕を調べているのか、薬品の様なものをばらまいている。
そこまでする相手だ。こんなに近くに潜んでいる事自体が奇跡だ。
そんな相手が真正面から戦ってくれるのか?
そんな訳が無いだろう。
「分かってるわよ、だけどね」
雨は私の領域だから、あんたらが居ると邪魔なの。
御坂は突き放すように告げると、車から顔を出し、そのまま男達へと近づいて行く。
まるでアンチスキルに助けを求める少女のように。瞬間、
紫電が辺りを駆け巡った。
ここまでされて、最早この場に居る訳にはいかなかった。 - 429 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/27(土) 21:58:53.72 ID:xDGXGo14o
- 「くそ!行くぞ打ち止め!」
打ち止めの返答を待たずして、上条は打ち止めを抱えるようにして駆けだした。
しかし猟犬部隊の面々は御坂の攻撃によって気付かない。
(無事でいろよ!御坂!!)
路地裏に駆け込んだ上条は、どこか隠れられる場所が無いか模索を始めた。
御坂美琴はレベル5の電撃使い(エレクトロマスター)だ。
その能力は『超電磁砲』と言う異名が出来る程の強度を持っている。
しかし、彼女の力の真髄は、超電磁砲では無い。
(あいつはああ言ったけど)
上条の心配をよそに、御坂はのんびりと佇んでいた。
何せ彼女の力は、電磁波を自在に扱う事が出来る。
それはすなわち。
「近代兵器で私を打倒できると思ったら、大間違いよ」
―――彼女は電磁波や地の文など関係無しの、超電磁砲を放った。
一応、電磁波でレーダーの真似事だとか、機械の制御を奪ったりだとか出来、
多岐にわたった攻撃法を持っているとだけ追記しておく。
- 437 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:03:11.14 ID:oqJcByqvo
- 一方通行はインデックスを抱えて重力を逆らって空を舞っている。
何処に向かっているのか知らないが、
とりあえずインデックスは一方通行の身体が血に染まっている事を見てギョッとした。
「あくせられーた!病院行かなくちゃ!!どうしてそんな……」
「うるせェそりゃこっちのセリフだっつゥの!
なンでまたあンなとこに……!」
「……とうまが帰ってこないから探してたんだけど、物音が聞こえたから……」
どうやら帰宅しない上条当麻を探すべく外に出てきたらしい。
しかし、インデックスと言うイレギュラーが無ければ
一方通行は自ら退くことをしなかっただろう。
それを感謝すべきか否かと問われると、
どちらを選ぶと言うのは出来そうもない。
何故なら、インデックスが暗部を見てしまったから。
ほぼ確実にインデックスも狙われる事になるだろう。
ならば自分がしなければならない事、
それは猟犬部隊ごと木原数多をこの世から消し去る。
とはいえ、その間インデックスを安全地帯に置いておきたいのだが、心当たりが一つしかない。
最悪マヨナカテレビに放り込んでしまおうとか考えたのだが、
木原数多はマヨナカテレビと関わりがありそうだ。
とてもじゃないがそんな事は出来ない。
魔術側の人間を、これ以上科学の闇に引きずり込む訳にはいかない。
従ってその心当たりに頼ろうと携帯を取り出そうとするが、
電波を傍受される可能性を考え何処か適当な公衆電話に行こうと決めた。
その前に、目的地の近くに辿り着いたので地面に降り立つ。
どうせ雨が降っているのであまり意味は無いのだが、
なるべく水溜りの少ないところを選び、水が跳ねないようにゆっくりと。 - 438 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:03:55.82 ID:oqJcByqvo
- 「こっから歩いて5分か10分した所に、俺が入院してた病院がある。お前もわかるだろォ?」
「うん、今からそこに行くんだよね?」
その言葉に、一方通行は首を横に振りながら、
「あァ、行くのはお前だけだけどなァ」
「何で!?治療が必要なのはあくせられーたのほうで……!」
「まァ待て、何もこの状態で行動しよォって訳じゃねェ。
ただ、じっくり腰を据えて治療って訳にもいかねェから、応急処置だけしてェンだ。
だからこっから病院まで行って来てくれねェか?
俺の傷の具合を把握してるのは冥土返し……
あのカエル顔の医者しか居ねェから、あいつに会って話を聞けばわかる」
「……わかった!」
インデックスは一方通行の言葉に訝しげにしていたが、
一方通行の様子を見る限りでは相当に切羽詰まっているのだろう。
了承の意を示すと同時に病院へと駆けだした。
一方通行はその背が曲がり角を行くのを見送ったと同時に
近くの公園に公衆電話があったはずだ、と再び宙へと舞い上がった。 - 439 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:05:03.69 ID:oqJcByqvo
- ・・・
木原数多は一方通行が逃走を図った後、
数人の部下を伴って本部へと戻っている。
しかし、その前に気になる事があるので
運転手の後頭部をはたき、自身の研究所で道草を食う事にした。
(あの女……)
黄色い女。
あれに銃を向けた奴全員が突然糸が切れたように倒れていった。
全くをもって不可解。
あの場はすぐに離脱した為倒れた部下達を連れ帰り検分する事は出来なかったが、
あのような理解不明な出来事に少しだけ興味があった。
―――魔術。
大覇星祭の時に外部の人間が侵入しようとしているのでそれを殲滅、という指令が下ったのだが、
その際に魔術と言う物と出会う事となったのだ。
超能力とはまた違ったプロセスで発動させる異能に木原は大いに喜び、
命令を無視して何人かの魔術師を生きたまま連れ帰った。
その後その魔術師達がどのような目にあったのかは、不明。 - 440 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:06:58.09 ID:oqJcByqvo
- しかし、こうして木原が研究所に赴いて話を聞きに行くと言う事は
まだ生きている者も居ると言う事だろう。
そうして自身の研究所に辿り着いた木原は、
真っ先に一番奥にある地下へと向かう階段へと進んだ。
そこには全身に電極を刺されている男に、
培養液に全身を浸からせている女や、
とりあえず健康そうな人間は木原を除いて誰1人として居なかった。
先に挙げた男女はまだマシな方で、元々なのかあるいはこの場で持っていかれたのか、
四肢や身体の一部が欠損していたり、腹部を切り開かれてそこから何本もチューブが通され
何か薬品の様なものを注入されている者も居た。
そんな中で、電極を刺されている男の耳元で、木原は囁くように質問をする。
「ある特定の相手の意識を問答無用で飛ばす魔術ってのはあるのか?」
「……」
男は何も答えない。
しかし、そんな男を見ても木原は眉一つ動かさない。
その代わりに男の隣に設置されているモニターに顔を移す。
そこには一般人が見てもわからないような大量の数字と、
脳波を示すグラフか何かだろうか、波線が絶え間なく変動していた。
今この男の状態としては、意識はあるが身体を動かす事が出来ない、という状態である。
更には薬品と電極からの信号によって
常に大脳上皮を麻痺させられながらも無理矢理正常な状態を保たせている為、
本人が望む望まないに限らず質問した事には必ず自身が知っている情報を以って返答をする。
それはモニターに示されている大量の数字で判断出来るのだが、
それをできるのはこの場では木原しかいない。 - 441 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:08:29.66 ID:oqJcByqvo
- そんな木原はじーっとモニターを眺めた後に、キーボードを叩き始める。
しばらくの間、何かをモニターに打ちこんだ後に
エンターキーを押すと男の身体がビクンと震えた。
続いて、再び木原が男に質問をする。
「あー、魔術に関して詳しい人間ってのは居るのか?」
もしあれが魔術師だとしたら、
今までも似たような感じで魔術師が侵入してきた事があるのだろうか。
だとしたら色々と調べないといけない事が出来る。
はっきり言って木原もあまりこの実験体からの情報に期待はしていなかったのだが、
とりあえず何も知らない木原からしたら無いよりマシ、と言う程度で質問をしていたのだろう。
しかし、その思いとは裏腹に、実験体は予想以上の答えを返答してきた。
「お、あ……Ind…ex…あ、Libr、、oruう、m…Prohib、itorum……」
無理矢理口と声帯を動かされているからだろうか、
母国語で語っているというのに何処か慣れない異国の地の言葉を
使っているかのような片言で、魔術に関するヒントを提示した。
聞き取りにくい口調だったが、このようなやりとりは今までに「何度も」してきたので、もう慣れた。
「Index-Librorum-Prohibitorum……?姿形は分かるか?」
「イギリス……清教…う、ぎ、…シスター…ぐ、修道服…」
イギリス清教と言うと、この実験体を回収するきっかけを作ってくれた組織の名前ではなかったか。
どうやらそこに所属する人間らしいが、『インデックス』という単語。
「……あのクソガキが何か言ってたよなぁ……?」
まさかとは思うが、一方通行は既に魔術と関わっていたのだろうか?
木原の思考は呻く男の声すらも聞こえない程に深くへ潜り込んで行った。 - 442 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:09:25.50 ID:oqJcByqvo
- ・・・
インデックスと別れた一方通行は、公園の公衆電話にて通話を開始した。
とりあえず、打ち止めに対して電話をかける。
しかし、相手からの返答は無い。
電話が壊れたか、落としたか、電波が届かない所に居るか、或いは。
そこまで考えて思考を打ち切った。
そもそも逃げている最中で、声を出せない状況かもしれないし、
何にせよ打ち止めの安否を考えるより、打ち止めの安否を信じた方がまだマシだろう。
兎にも角にも、こうしている間にも状況は変動して行くのだから。
一方通行は続いて別の番号へと電話をかける。
何度かコール音が鳴り響くと、女性看護師と思われる声の主が応対をした。
一方通行はカエル顔の医者に取り次ぐように命令すると、すぐに医者に代わった。
『こんな時間にどんな用件かな?』
『デケェトラブルが起きた』
『一応、『彼女達』の電気的ネットワークを介して情報はある程度集まっているけど?』
『成程なァ、そォいやそんなのもあったな。だったら話は早ェ。
あのガキは今どォなってる?』
『今は猟犬部隊の別働隊に追われていたらしいけど、上条君と御坂さんに保護されたらしいね?
ただ、御坂さんが囮になったから今は上条君と2人で逃げているようだが……』
それを聞いて思わず舌打ちをする。
まさか上条達がこんな所で暗部に目をつけられる可能性を持ってくるとは思わなかったからだ。
そして何より、自分の抱えた闇を、上条達に尻拭いさせてしまっている自分自身に腹が立つ。 - 443 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:10:39.88 ID:oqJcByqvo
- 『場所は?』
『どこか路地裏を走っているようだが……場所までは分かっていないようだね?』
それだけの情報では何も分からなかった。
とにかくこの電話を終えた後、上条にも連絡を飛ばさねばと思う。
このような闇の世界に上条達の様な人間に足を踏み入れて欲しくないと思うが、
今の自分では、自分だけではその闇には及ばない。
ならば、頼るしかないじゃないか。惨めだろうと、情けなくとも、弱弱しくとも。
だけど、それでも、結果だけは出して見せる。
何せこちらには『冥土返し』が居る。
怪我前提と言うのもどうかと思うし、
勿論無傷で全員が帰ってこられるのに越した事は無い。
それでも、可能性として十分あり得る事なのだ。
一方通行は、ギュッと受話器を握りしめると口を開いた。
『そっちに白シスターは来てるな?』
『今対応に困っていたところだよ。それはそうと君、また無茶なことしたみたいだね?
この件が終わったらまた戻ってきてもらうけど構わないかな?』
『問題ねェよ』
『それは入院など要らないという意思表示なのか、
僕の言葉に同意したのか、どっちなんだい』
『ンなこたァどォだってイイ。そのガキ保護してくれ。猟犬部隊のクソ共に目をつけられた。
少なくとも24時間程度は命を狙われるかもしれねェ』
『……やれやれ、ネットワークを介して話を聞いたけど、
こうやって当事者と話をすると、ますます危機感が募って来るよ』
『わかってンなら丁度イイ。難しいだろォが、
非戦闘員……特に重病者や妊婦とか、退避させられるか?
急患の対応もそォだが……出来るか?』
はっきり言って無茶苦茶を要求しているのは一方通行自身良くわかる。
しかし、事は急を要するのだ。それだけ切羽詰まっているのだろう。 - 444 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:11:40.75 ID:oqJcByqvo
- そんな一方通行に対して、冥土返しはきっぱりと告げる。
『やろう』
そして一方通行の言葉を待たずに、冥土返しは続ける。
『発煙筒か何かで火事が起きたと言って、そこからテロにでも結び付ければ大義名分も立つ。
動かすのも危険な患者もいるが、そう言った者達を救うのが僕の仕事だ。やってやるよ』
『……悪ィな。最悪あと数人急患を送りつける事になるかもしれねェ。
勿論、俺も含めてなァ』
『おや、意外だね。僕はてっきりこの件に関わった者
全てを救ってみせる位言ってくると思ったんだけど?』
少し申し訳なさそうに感謝の意を示す一方通行だが、
冥土返しはそれ以上に一方通行の言葉に対して意外そうな口調で返答した。
『ハッ、夢は寝て見るもンだぜェ?まァ、それが出来るのに越した事はねェンだけどな。
なるだけ無傷で助けてみせる。だが、最低限『助ける』しか出来ねェ場合もある。
……ムカつくけどな、形振り構ってらンねェンだ。だからその後は任せる……俺達を、助けてくれ』
『……当然だ、僕を誰だと思っているんだい?……『冥土返し』、だ。
それが出来なくてその名を名乗るなんておこがましいとは思わないかい?』
その力強い返答が、どれだけ心強いものだったろう。
一方通行は感謝の意をもう一度示すと、続いて病院の退避先を聞いてから受話器を降ろす。
―――その目には、今まで以上に炎のようなギラついた何かが滾っていた。 - 445 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:13:14.41 ID:oqJcByqvo
- ・・・
ビリビリッ!と電撃が水たまりや宙を駆け廻りあたりを照らした。
そうしてその電撃が止んだ時、その周辺には黒づくめの男達が倒れ伏し、
電撃が放たれたと思われる中心点には、茶髪の女子中学生。
彼女の名は御坂美琴。
ここ学園都市が誇るレベル5の序列第三位『超電磁砲』その人だ。
彼女は今現在手ぶら状態で、学生鞄とゲコ太ストラップの入った
携帯電話の紙袋は近くのコインロッカーに放り込んでいた。
というのも、上条当麻と罰ゲームと言う名のデートを敢行するにあたって
その日の日程や天候は既に把握していた為、
上条の学生鞄も共にそのロッカーにしまっておいたのだ。
しかし、カラオケ店に入るまでは雨が降らなかったので結局雨の事を忘れていた為に、
鞄に入れた折り畳み傘を取り出す事は無かったせいで、
今現在彼女は水もしたたるイイ女状態になっている。
自分は濡れ濡れだが、主にゲコ太ストラップをあらかじめ
コインロッカーに置いといて本当に良かったと思う。
そんな中で、ポケットに入れた携帯電話が鳴り響いた。
彼女の携帯は見た目ゲコ太だが中々に実用性が高く、
勿論防水機能もありありなので雨の中でも気にせず携帯を開く。
表示は白井黒子、彼女の後輩だ。
『おっねえさまーん』
『何よ黒子』
『あのですね、ジャッジメントの職務の為寮に帰れないので、
あの口うるさい寮監に一言連絡してほしいのですの。
ほら、もう門限も過ぎてますでしょう?』 - 446 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:14:59.74 ID:oqJcByqvo
- そこで御坂も思い出した。
自分は門限ギリギリだったという事実を。
そしてそれは既に過ぎてしまっているという事実を。
冷汗を雨で洗い流しながらも、それでもなお流れ落ちる水滴は、
やはり雨だと思いたい御坂は震える声で話す。
『あの、ごめん、私も今外』
『何……だと……?』
思わず白井も淑女らしくない返答をよこした。
そんな中で、白井の少し後方から、別の声がスピーカーに届く。
『あれー?白井さん、御坂さんに連絡付かなかったんですか?
よかったですね、これで寮監さんからの懲罰確定で――』
『うおっとしいですの!!』
何やら騒がしいが、この声は恐らく初春飾利のものだろう。
となると、彼女らは今現在支部でお勤めの真っ最中という事か。
『しかし、これはまずいですの。
2人して外に出ているという事は門限超過に関する書類を提出できませんし。
と言う事は2人してあの寮監に……』
『あれ?そういえば白井さんは良いとして、御坂さんはどうしてこんな時間に外に?』
『ッッ!!?』
白井と初春の声をぼんやりと聞いていた御坂だったが、
ここで通話の音声に雑音がすこし混じり、ミシミシッと何か圧のかかったような音が響いた。
恐らく、白井が力の限り携帯を握りしめているのだろう。
『お、お姉さま?まさかとは思いますが、あの類人猿と今一緒に……?
己れあのクソッタレめ!!雨の夜景を楽しむとはなんて渋いチョイスを……だが、良いセンスだ!』
『……良かったわね、私は1人よ(今は)』 - 447 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:16:14.12 ID:oqJcByqvo
- 白井の憎々しげだが何処かライバルの力を誇るような声に、御坂は少しだけ間をおいて返答する。
この冷静さは実際にデートっぽい事をできた事による余裕だろうか、
何にせよ落ちついた口調で返答して来るので白井は安心したように少しだけ溜息をついた。
『良かったですの……てっきり黒子は、お姉さまの貞操の危機かと思い、
今すぐにでも逆探知をかけお姉さまの元へと誰よりも早く向かおうとしてしまいましたわ』
本当にやりかねないから怖い。
御坂はそんなことをぼんやりと思いながら突っ込みを入れようとするものの、初春によって遮られた。
『駄目ですよー、白井さん。
今晩はこのアルプス山脈の様な書類達を更地に変えるって誓ったじゃないですかー。
ほらほら手が動いてないですよ、電話しながらでも書類は減らして行って下さーい。
ここで遅れた分だけ私の仕事もしてもらいますよ?
とにかく、今日は徹夜です。デスマーチです。お弁当はありますし部屋から出る必要もありませんね、
お風呂も駄目ですトイレは書類を片しながらなら許可します』
『……にゃあああああああああああああああああ!!!!』
『!?白井さん?白井さーん!!』
電話の向こうで何やらドタバタと物音が聞こえる。
携帯電話を離しながら、もう片方の手でうるさそうに耳をふさぐと、御坂は呆れたように口を開いた。
『もう切っていい?』
白井はどうやら錯乱しているらしく、代わりに初春が答える。
『はい、もう大丈夫です。白井さんは馬車馬のごとく働いてもらうので、
あの、邪魔は入りませんので!』
『だから違う!(今は)』
割と事実なので、あまり言い返せない御坂であった。 - 448 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:16:46.87 ID:oqJcByqvo
- ・・・
上条当麻は打ち止めを抱えて走る。
前にも後ろにも『立っている』人は居ない。
その代わり、地面に倒れ伏した人、人、人。
ここでもアンチスキルの部隊が1つ撃破されたらしい。
(マジで何が起こってんだ……!?この街で!!)
焦る思考の割に冷静にあたりを見渡せているのは、
御坂美琴が囮になって猟犬部隊を引きつけてくれたからだろう。
追手は今のところ来ていないようで、
緊張感はもっているがそこまで張りつめたものではなかった。
それでも不安なのだろう、
打ち止めは心細そうに上条のシャツをギュッと掴んでいる。
そうして、バシャバシャと水たまりに足を取られながらも大通りへと躍り出た。
そろそろ追手にも気を張るべきか、そう考えた所で100m先だろうか、ある異変を見つける。
そこには、1人の女が悠然と佇んでいた。
そこには、多数のアンチスキルと思われる人員が倒れ伏していた。
―――そして、その女は、こちらを振り向いた。
思わず身を翻して曲がり角に隠れる。 - 449 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 01:18:08.32 ID:oqJcByqvo
- 「ハッハァーイ♪びっくりしちゃったカナ?怖がらないで出ておいでー?」
聞こえてきた女の声は、想像以上に自己主張の激しいものだった。
遠目に見る限りでも黄色を基調とした服で、
どう見ても御坂が相手をしている黒づくめとは違う人種だ。
そして、倒れ伏す人々の中で、あのように笑う人種とは。
(魔術師……か……?)
だとしたら、マズい。
何がマズいってどう見ても打ち止めより上条の方が狙われているだろう。
別にそれは構わない。
しかし、そうなった時打ち止めだけでも逃がしたとして、打ち止めが1人になってしまう。
とは2人で言え逃げ切れるかどうか、相手の力も出方も不明なのだから、分からない。
ならば、囮になるしかない。
「打ち止め、お前携帯は?」
「えっと……あれ?落としちゃったかもってミサカは―――」
「なら、これ持ってけ。とりあえず逃げろ。
一息ついたら一方通行でも誰でも連絡を飛ばしてくれ。
多分、あれの狙いは俺だ」
「でも、」
「打ち止めには辛いかもしれねぇけど、頼む」
「……分かったよってミサカはミサカは静かに駆けだしてみる」
そうして打ち止めが先程来た道を引き返すと同時に、上条は再び大通りへと歩いて行った。
そこには、変わらず女が雨に打たれていた。
ただし、その距離をゆっくりと縮めながら。
ターゲット
「さてさて、ようやく見つけた最初の被害者。
他にも居たけど、普通にこっちに気付かずに逃げられちゃったしねー」
じゃらじゃらと音を立てながら、その女は笑った。
あまりに女性に似つかわしくない醜い笑いに、
上条は少しだけ動揺しながらも口を開く。
戦わなくとも、とにかく打ち止めがここから離れるだけの時間稼ぎをする。
それだけで頭はいっぱいだった。
「お前、は……?」
「『神の右席』、前方のヴェント」
ヴェントは手にしていたハンマーを肩に担ぐように振り上げながら、続ける。
「とりあえず、まあ、ぶっ殺されてくれない?」
舌から垂らされた十字架付きの鎖から、唾液か雨水かが滴り落ちた。
- 459 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:13:15.38 ID:oqJcByqvo
- 暗闇の中、とある大通りでは張りつめたような緊張感で覆われていた。
ドクドクと脈打つ心臓が持つ熱を、降り注ぐ雨が幾度となく冷まして行く。
それでも、上条当麻の極度の緊張感から来る熱を冷ます事は叶わない。
「緊張なんてしなくても大丈夫ダヨ?痛みなんて感じるヒマも無いんだし」
彼の目の前にはヴェントと名乗った女が、
薔薇の茎のような有刺鉄線を巻きつけたハンマーを持って、
鼻歌交じりに野球選手の様な素振りをしていた。
何だかそれだけを見てると悪そうな人には見えないが、
倒れ伏すアンチスキル達の中、平気な顔して素振りをしているのでその評価は一気に覆るというものだ。
何にせよ、呑気に素振りしてるしそろそろお暇をば……
と言った感じでそそくさとその場を去ろうとする上条に、ヴェントは声をかける。
「私をムシして何処行こうっての?」
「え、ええっと……その、あっちの方に」
「ふうん、成程ね」
しどろもどろに返答する上条だったが、何やらヴェントは納得したように頷いた。
え?どゆこと?と疑問符を浮かべる上条をガン無視しつつも、ヴェントは笑う。 - 460 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:14:04.74 ID:oqJcByqvo
- 「他の人間に被害が及ばないように場所を変えようってことね?
OKOK、そう言う事ならいくらでも付き合ってあげるヨン。
私もアンタを抹殺する為にやってきてるんだし、
周りの事気にしなくてもイイかなーとか思ったりしてたけど、
死者への手向けってのも乙なモンだしね、その望み叶えてあげよう!」
「は?イヤ、そげなことなかですたい!?」
「またまたそんなこと言ってー」
もう、イヤン♪と言った突っ込みのテンションでヴェントがハンマーを振るった。
両者の距離はおよそ10m。
突如として上条の体に、横殴りに衝撃が走りそれに従って
車道の端にあるガードレールまで紙切れのように吹き飛ばされる。
そんな上条を見てヴェントは少しだけバツが悪そうに呟いた。
「あ、いっけね。術式発動したまんまだった。ごっめーん」
ガードレールにぶつかったことでその勢いを止めた上条、はすぐに直感した。
―――あれと敵対してはならない、と。 - 461 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:15:43.14 ID:oqJcByqvo
- ・・・
「さァて……」
まずは上条当麻と御坂美琴の安否が知りたい。
とりあえず上条の電話にかけたが、誰も出なかった。
それだけで不安を煽るものであるが、
とりあえず御坂にも電話をするべく硬貨を入れる。
すると今度は繋がった。
一先ず御坂は無事そうだ、と言う事実に安堵しながら口を開く。
『御坂、無事か?』
『その声、一方通行?……その口ぶりだと、あんたも無事そうね』
実際は胸がぱっくりと開いていてそれを無理矢理閉じているという状態なのだが、
気を抜くとすぐに傷口から血も抜ける。
しかし、そんな重症な状態だと微塵も感じさせない一方通行の口調に、
御坂は安心したように溜息をついた。
『ただ、上条と連絡がつかねェ。何処行ったかわかンねェか?』
『ごめん、途中まで打ち止めと一緒だったんだけど……』
『そりゃ仕方ねェってもンだ。誰が悪いってあのクソ共が悪ィ。
とりあえず、インデックスの奴も暗部に目をつけられたかもしれねェから、
あいつはあのカエル顔の医者に匿ってもらってるンだが、戦力に不安がある。
だからお前にそこでの防衛を頼みてェンだが……』
『あら?てっきり俺1人でやる位言ってくると思ったのに……』
『……そォしてェのは山々なンだがな。ちっとばっか俺の手に余る問題なンだよ。
とにかく、頼めるかァ?』
『了解~、頼まれちゃあ行くしかないわね。』
『何でちょっと嬉しそうなンだよ』
『いや、こうやって一方通行から頼みごとされるのって初めてだから……
何でもかんでも1人でこなしたりこなそうとしたりするし』
『……うるせェさっさとしろォ』
『はいはい、それじゃあね』
何だか楽しそうな雰囲気を醸し出しながら、御坂は電話を切った。
そうして取り残された一方通行は、舌打ちをしながら硬貨を入れる。
続いて芳川桔梗にも連絡を入れるためだ。
恐らく鬼ごっこを終えて9982号も近くに居るはずだと考えながら、電話に出るのを待つ。
しかし出なかった!
チッ、と舌打ちをしながら受話器を置き、
返却された硬貨をもう一度入れ、今度は9982号の電話番号を押す。
しかし出なかった!
一方通行は叩きつけるように受話器を置いて、硬貨をポケットに突っ込み公衆電話を後にした。
(なンであいつらは電話に出ねェンだよ!!)
ひょっとしたらあいつらにも何かあったのだろうか。
そんな嫌な予感が脳裏によぎりながらも、
とりあえずテレビの中に言って何か異常が無いか調べに行く事にした。 - 462 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:16:49.17 ID:oqJcByqvo
- ・・・
一方その頃。
「はぁ、はぁ……!!」
少女は雨の降る街を駆ける。
その表情は焦燥に満ちており、
明らかに異常事態であると主張しているようにも見える。
しかし、そんな少女に助けは来ない。
その代わり、背後からは追手がやってきている。
彼女が前進しながらも背後にチラリと視線を送ると。
「悪ぃ子はいねぇか~?人を年増呼ばわりする悪ぃ子はぁ~いねぇが~!!?」
「ひぃぃいい!!!こいつしつけえ!と、ミサカは芳川に戦慄します!!」
修羅の国を生き抜いてきたような威圧感……いや、最早存在感と言っても良いだろう。
圧倒的な恐怖を携えて、鬼が少女に迫っていた。
成程、未だに追いかけっこをしていたようで、
一方通行の電話に出る余裕などなかったのだろう。
あまりに呑気な2人は、家に帰る事も忘れて走り続けていた。
「一発!一発ぶん殴らせて!全力で!!」
「だが断る!と、ミサカは逃走を続けます!!」
「先っぽ!先っぽだけでいいから!!」
「何処の部位を指して言ってるんですかそれは!!?」
未だに2人は街の異常に気付いていなかった。 - 463 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:17:51.15 ID:oqJcByqvo
- ・・・
風が、吹き荒れていた。
それは一方通行や布束砥信のペルソナに
勝るとも劣らないレベルの風だと、上条当麻は感じている。
その風は辺りに溜まっている雨水や地面へと落ちようとしている
雨粒すら吹き飛ばし、局地的に雨が降って来ない空間を生み出していた。
そして吹き飛ばされた雨は、何処かの店の看板やら駐車されていた車両やらと共に上条に襲いかかる。
そんな中で上条は回避できないと反射的に判断して、
オケアノスのブフーラによる人工の氷壁を作りだし防御に回った。
何とか逃げ切ろうとか思っていたのに、力を使わざるを得ない。
(どうする!?逃げる!?いや、既に逃げ切れてねぇし!!
かといって、あんな風を使われたら、成す術なく吹き飛ばされるんじゃんかよ!?)
そして何より、『頭に召喚器を突きつける』という過程が圧倒的なまでに隙を作ってしまう。
テレビの中では仲間達も居たからその隙を無くす事も出来たし、
オリアナ=トムソンの時は事前にある程度の情報―オリアナの魔術について
知っていたからこそ、ペルソナを使って戦う事も出来た。
しかし、今相手の力は未知数なのである。
例えば今使っている風も、全力ではないかもしれないし、
それ以上の魔術を行使して来る可能性もある。
そして何より、アンチスキルが事ごとく意識を奪われたという現実。
どう見ても隠し玉があると言っているようなものだ。
少なくとも、打ち止めが遠くに移動するまでは相対して戦う気にはならない。 - 464 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:19:05.95 ID:oqJcByqvo
- (クソ、打ち止めの安否が気になって仕方ねぇ……
一方通行も何処居るかわかんねーし、ああああ御坂も大丈夫なのか?!
久々葉とか芳川さんとか、気になりだしたら止まんねーぞ!!?)
上条が極限まで思考をフル回転させて現状を打破する策を考えていると見せかけて
思考が脱線している一方で、風を生み出した本人はぼんやりと上条が使用した力について反芻していた。
(どう見ても幻想殺しではなく、別の力を行使している)
(ひょっとすると、幻想殺しは、使わないじゃなく使えない?)
(でも、時折織り交ぜている『本命』には引っかからない)
(それはただ単に戦意が無いから?
てっきり幻想殺しに阻まれているだけかと思ったんだけど、
『幻想殺し消失』の噂は本当なのか、確かめる必要があるわね)
まあ、そんな反則は消失してくれてた方が楽なんだけど、
とヴェントは声にならない程小さく呟いた。
「てゆーかさ、アンタと一緒に居たちっさいの、どっかに逃がしたみたいだけどイイの?」
「……何がだよ?」
「こんな暗闇にあんな幼子を1人放り込んで、嗚呼可愛そうに。
今も雨の寒さに、暗闇の深さに震えてるかもネ。
それだったらこの場で苦しみも無く死んだ方が楽じゃない?」
「……大丈夫だよ、携帯持たせてるし、すぐに誰か助けを呼ぶだろうさ。
それに、俺も居る。すぐに打ち止めの元まで向かうさ」
ヴェントは上条のリアクションを見て、やはりヴェントと敵対する気はない……
と言うかそもそも別の事に気を取られていると考えた。
それはやはり、上条が逃がした子供の事だろう。 - 465 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:19:58.38 ID:oqJcByqvo
- (全く、心ここにあらずなら、そりゃ私の術式も反応しないわ)
だったら、こっちに意識を向けさせなきゃね。
ヴェントはジャラリと舌から垂らした鎖を揺らしながら、口を開く。
「とりあえず、あなたの背後に居る『ソレ』、一体何?」
「お前は、自分の魔術についてペラペラ人に話すのか?
つまりはそう言う事だよ、手の内は晒さないに限るよな」
「え?同業者には結構話してるけど」
「えっ」
「私のチカラは、分かってて避けられるモノでも無いし。
それこそ、『幻想殺し』でも引っ張って来ないと。
……どんな力か、知りたい?」
ニタァ、と言う効果音がふさわしいだろうか、
おぞましい笑みを浮かべたヴェントに対して、上条は焦りながら召喚器を頭に突きつける。
「……ケッコーです!」
上条はオケアノスを召喚し、マハブフを唱えた。
すると降り注ぐ雨粒が氷のつぶてとなって無差別に降り注いで来る。
それを目くらましに上条は逃走を図ろうとしたのだが。
すると氷のつぶての中心点、前方のヴェントはその氷を全く気にする事無く、
少し風を操るだけでその氷を退けつつ、笑った。 - 466 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:21:05.19 ID:oqJcByqvo
「アンタが相手してくれないなら、あっちで寝転がってる奴らを玩具にして遊ぼっカナー?
だってそっちが約束反故にして逃げようとしてるんだモン。仕方ないよね」
基本的に軽いノリでどんな事でも大したことない、
と言った口調をするヴェントだが、彼女は一度口にした事は何があってもやり遂げる、
上条は、ヴェントがそんな人間に違いないと、彼女と相対している間に理解させられた。
その彼女が、『意識の無い一般人に手を出す』と言ったのだから、
それは確実に行われてしまうだろう。
上条当麻が前方のヴェントから逃げ続ける限りは。
その言葉を受けて思わずカッとなった上条は、
逃げる足を止め召喚器をこめかみに突きつけた。
―――明確な『敵意』を持って。
それを感じとったヴェントはニヤリとほくそ笑む。
トリガーは上条の手によって引かれた。
そして、魔術と言う名の弾丸は上条当麻の喉笛を食い破る。
「ガッ……!!?」
条件は、魔術を発動させる条件は完全に出揃い、
上条当麻もまたヴェントの『チカラ』に呑まれてしまった。
突然息が出来なくなった上条は召喚器を地面に落とし、喉に手をやる。
しかし、彼を蝕む魔術を解除する事は叶わずに、彼は水たまりの中に音を立てて崩れ落ちた。
そして薄れる意識の中、ヴェントの笑い声と。
―――いけ好かない自分の片割れの溜息が聞こえた気がした。- 467 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:22:08.11 ID:oqJcByqvo
- ・・・
一方通行はテレビの中へ入った。
何か情報が無いか、何でもいいからという藁をもつかむ思いで。
するとそこには何か焦った表情を浮かべるクマと、狼狽する布束砥信が居た。
何かあったな、と一方通行は考えながら地面に降り立つと2人に声をかける。
「オイ、なンかあったのかァ?」
「well、クマが何か嗅ぎ取ったらしくて……ってむしろあなたの方が何かあったの?!」
白と黒のストライプの変則形みたいな服を着ている一方通行だが、
その服の白地部分は真っ赤に染まった上、全身ずぶ濡れ状態である。
布束の突っ込みは当然のモノなのだが、詳しく説明する暇も無いので
「暗部が動き出した」とだけ言うと、布束も何となく理解したようだ。
「それで、クマどォしたってンだ?」
「クマ。最近放り込む人の匂いを感じなかったけど、ここにきて強烈に嗅ぎとれるんだクマ!
これは1人じゃなくて、いっぱい居るクマよ!!」
クマの言葉と、木原数多の言葉を合わせると、これは罠なのではと考えた。
とはいえ放り込まれた人間が関係の無い一般人だとしたら、
ただ巻き込まれただけの存在だとしたら、助けねばならないとも考える。
「……案内しろ、行くぞォ」
「indeed、事は急を要するみたいだけど、他の人を待つ時間も無い程切羽詰まってるの?」
「それは移動しながら説明する。とっとと行くぞォ、こォしてる間にも事態が悪くなる」
先導するクマを抱え、布束の首根っこを掴むとクマのナビを受けて
足を踏み抜きジェットコースターのごとく一気に駆け出した。
悲鳴を上げる布束に、悲鳴のようなナビをするクマ。
そんな中で、ふんふんとクマのナビを聞きながらも、2人に状況説明をする一方通行。
いちいち2人のリアクションを気にする暇などなかった。 - 468 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:22:54.68 ID:oqJcByqvo
- ・・・
<天上楽土F1>
「すごくきれーな場所クマね……」
「but、暗部の人間でこんな場所を作りだせる人が居るとは思えないんだけど……」
「……確かになァ……」
そこは天国、と言う物を具現化したような場所だった。
豪奢な装飾の施された石造りの柱や壁、石畳などに木々が絡まっており、
ところどころ浮き島のような構造をしていて、一面が静かだった。
何処か中世ヨーロッパに建てられた城の園庭の様な外観をするその場所は、
純粋な「白」に覆われた世界で、人の心から生まれるこの地において、
ここまで真っ白でまっさらで、ここまで純粋で綺麗な場所を作りだせると言うのは、
とても素晴らしい事だと思う反面で、そんな人間がこの場に放り込まれたという事実にただただ驚愕させられる。
そして何より、今まで不気味なまでに放り込まれる人間が居なかったというのに、
動き出した暗部と木原の言った言葉、そしてこの状況。
どう見てもこの現状には木原数多が関わっている。
だとしたら、この場を作った人間もしくは人間達は木原の味方か、敵か。
何にせよ一度顔を合わせねばならない。
そう考えた所で入口に足を踏み入れた一方通行だが、不意に『声』が聞こえてきた。
それは初めてこの地に降り立ち、御坂美琴や9982号を伴って研究所に行った時に聞いたような、
ラジオか何かで放送しているような音声で、思わず一同はその声に聞き入った。 - 469 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:23:24.87 ID:oqJcByqvo
- ・・・
《《―――木山先生っ!》》 - 470 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:24:43.87 ID:oqJcByqvo
- ・・・
《いよう木山先生?元気してるー?》
《誰だ、貴様は》
《俺?俺ぁ木原ってんだ。しがない研究者だよ、
今日はお前んとこのガキ共を……5人かな、回収にあがったわけだ》
《なっ!?貴様どういうつもりだ!!?》
《どーもこーもねーよ、つべこべ抜かしたら殺す。
そーだな、医療ミスにでも見せかけて殺すか?
そしたらここの医者もおしまいだな、お前ここの奴に世話になってたんだろ?
恩を仇で返す気かぁ?》
《ふざけた事を……!!》
《しーんぱいすんなって、そもそもこっちもこんな事するつもりなかったっつーの》
《どの口が抜かすんだ……!?》
《だーかーらぁ、飽くまでも一時の間……そーだな長くて3カ月、
早くて1カ月ガキ共のうち何人か借りるだけだって。
色々しなきゃならねぇ事があってな。それが終わったら解放するっての》
《そんなふざけた話、信じられると思うのか?》
《いや、信じる信じないの問題じゃねーよ。既に規定事項だし、そいじゃおやすみー》
《なっ!?ふざけ……る、な……》 - 471 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:25:50.41 ID:oqJcByqvo
- ・・・
《とりあえず、おめーらには普通に学校に行ってはもらうが、
放課後たまに呼び出しすっから、その時は必ず来いよ?
でねーとお前らの大好きなセンセーはサヨナラする事になるからなぁ!
ん、そーいやお前は木山春生とは関わり無かったんだっけか。
まーいいやお前の場合、そっちのデコっぱちの危険が危ないってなぁ!!》
《《……》》
《俺の命令に対しては、はいかわかりました、もしくはイエッサーと返答しろよ?
あんまり我儘なクソガキは殺したくなる程大嫌いだから。
まぁ、言う事を聞く限りはそんなひっでーことにはならねーから安心しな……
例えば、何年も意識不明になったりなぁ!ギャハハッ!!》
《《……はい》》
《よーしそれでイイ。そんじゃ一人ずつ身体検査してくから……
右から順にあっちの部屋に行ってこい》
《《……はい》》
・・・
《よーしガキ共、朗報だぜー。
今回の任務が終わればお前らも木山センセーもお役御免で開放してやるよー。
何せ『適合者』があつまりゃお前ら『人工』のはいらねーかんな。
実際人工のはお前らと言う成功例もあるし、いつでも造り出せるしよぉ》
《《……はいっ……!》》
《それでだな、最後の任務地は―――》 - 472 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:26:21.85 ID:oqJcByqvo
- ・・・
《《―――木山先生!》》
・・・
《……バァーカ、解放するって意味を履き違えてんなよ》 - 473 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:27:07.28 ID:oqJcByqvo
- ・・・
一方通行はあふれんばかりの激情を抑えきれずにいた。
布束砥信は血が出る程に唇を噛みしめていた。
クマは状況が分からないものの、放り込まれた人たちは被害者なのだと理解した。
今、この場に居ると思われる人間達は、『暴走能力の法則解析用誘爆実験』の被験者達の一部。
そして響き渡る音声を聞いた限りでは、本来『暴走能力の法則解析用誘爆実験』は
『AIM拡散力場制御実験』を隠れ蓑として行われた実験だったのだが、
実はそれすらフェイクに過ぎず、この実験での目的は『人工』のペルソナ使いを作りだす事にあったのだ。
結局その被験者達が昏睡状態に陥った為、見た目上は中止になった。
しかし木山春生や御坂美琴達がその被験者を見事に救ったので、
『色々』とデータを収集する為に再び被験者達を集めたようだ。
そして今、用無しになったからか、適当な事を言ってテレビの中に放り込んだのだ。
事もあろうに、一方通行達の足止めをするついでに。
「あンのクソ野郎ォ……何処までも馬鹿にしやがってェ……!!」
ギリギリと歯ぎしりをする一方通行だが、
そんな中で布束砥信は神妙な顔つきで一方通行に語りかけた。
「well、この世界は、「木山先生と共に日常に戻れる」という安心感から出来たものかもしれないわね……
それはさておき、一方通行。あなた外に戻った方がいいわ。ここは私とクマが何とかするから」
「ハァ?何を……」
「私とクマは、ココでしか動けない。でも、あなたは違う。そうでしょう?
therefore、適材適所って奴」
「……」
確かに、そうだ。
あの音声を聞く限りでは、木原はここには居ない。
だったらいつまでもこんな所に居る暇は無い。
かといって騙された子供達を放っておく訳にもいかない。
ならばクマと布束がこちらで動けばいい。
そして一方通行はあちらで木原を叩けばいい。 - 474 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/29(月) 23:28:14.22 ID:oqJcByqvo
- 「それじゃークマと一方通行ンは一旦戻るクマ?」
「イヤ、ここであっちに戻る」
「「えっ」」
「考えても見ろ、あいつらが何処から入って来たのか」
「……高確率で奴らの研究所がありそうね」
「恐らく、罠なンだろォな。
だが、あいつは、あいつらは骨の髄まで消し飛ばしてやらなくちゃー気が済まねェ」
「……分かったクマ、それじゃあここで出口を出すけど、気をつけるクマよ?
敵は人を人とも思わない外道クマ!!」
「分かってる。餅は餅屋、蛇の道は蛇……ってなァ。
あァいうクソ共の相手は俺がすべきなンだよ」
落ちついた口調に聞こえるが、その表情を見ると今にも爆発しそうな時限爆弾、と表現したらいいだろうか、
これを敵に回した奴らの方に同情したくなる程に、一方通行はキレている。
布束とクマは南無南無と心の中で念じながら、
一方通行がクマの出したテレビの中に吸い込まれて行くのを見送ったのだった。
- 485 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:30:02.45 ID:Av3vpw7Go
- 「ホントに第一位は来るのか?」
黒づくめの1人は第五学区に点在する研究所のうちの一つの中で待機しながらも、
本当に来るかもわからない敵に対して溜息をついた。
ここ第五学区は大学や短大などが多く、
数多くのビルが建ち並ぶ学区で、それに伴い大学の付属研究所なども多い。
そんな学区にある『野村産業技術総合研究所』の
敷地内で『猟犬部隊』の1班は待ち伏せをしている。
待ち伏せをするにあたって武装している事を怪しまれないように、
テロリストが潜伏している可能性ありと言う名目の元、
アンチスキルに扮した状態で目的のポイントに部隊を並べた訳だが、
こんな場所で戦闘行為をしても良いのかという疑問が一同の頭の中にあった。
この研究施設はそこらにある研究所とは一線を画しており、
環境を利用したエネルギー運用や、ナノテクノロジーを駆使した材料の製造、
個人の身体に合わせた健康維持や増進、回復を支援する技術の開発など、
とにかく名前の中に『総合』とあるだけあって多くの研究が為されており、
分野ごとの研究所が野村産業技術総合研究所の敷地内に、所狭しと立ち並んでいる。
この「野村産業技術総合研究所(通称ノムケン。その名を呼ぶ者は少ないが)」
と言う名はその地を呼ぶ為の便宜上の物に過ぎず、その実態は大量の研究所を
ショッピングモールの様に一つにまとめている場所だった。
その広さは約9平方キロメートル。およそ3キロ四方にわたって展開されるこの場所では、
一流と呼べる優秀な研究者達が集まっている為、研究者にとっては一つのパーソナリティと言うか、
ここに配属される事を目標にしている者も少なくない。 - 486 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:31:40.35 ID:Av3vpw7Go
- 木を隠すには森の中、と言う事で人の為に尽力している研究者が居る傍らで、
人に言えないような実験を行う研究者も中には存在している。
ここ野村産業技術総合研究所には木原の研究所もあり、
その研究所から置き去りの子供達はテレビの中に放り込まれた。
そして、木原数多には放り込む事は出来てもそこから戻す術を知らない。
だが、そこから戻る力は一方通行達には存在する。
その事実を知っている木原は、一方通行は間違いなくこの研究所にやって来るはずだと考えている。
そんな訳でこの班に対する指令の内容は、一言で言うなら「時間稼ぎ」。
この研究所に20時までに一方通行がやって来た場合、
最低でも30分足止めを、可能であれば一方通行及び
一方通行に加担する者を撃破しろ、と言うものであった。
ペルソナに関する実験は猟犬部隊の面々は知らない所で行われている為、
木原の指示に頭をかしげたいところだが、命令は絶対なので
こうして待ち伏せをしつつも、影で疑問を露わにする黒づくめだった。
「さぁ、とりあえずあの人の言う事は絶対だから、来るんじゃない?」
「全く、とんでもねぇ上司が居る所に配属されたものだな、ナンシー」
黒づくめのため息に対して、どうでもよさげに返答した、女の声。
同僚の「ナンシー」という言葉に、言われた本人は思わず笑って
誰がナンシーかと呟いてしまうのだが、そう言うコードネームで行動しているのだから仕方が無い。
ナンシーは普通に普通で黄色人種のジャパニーズだ。
勿論黒髪黒眼で日本人ぽくない部位は存在しない。
本人も別にその事にコンプレックスは抱いていないのだが、
どうせなら普通に漢字のコードを付けて欲しかったものだ。
この名付け親である木原数多はきっとネットなどでは派手なハンドルネームを使っているに違いない。
(例えばなんだろう、アクセラキラーとか?)
ナンシーは自分で考えた事に自分で噴き出した。
本人は面白いのだろうが、もし仮に周りの人間達と仲が良ければ、
突然噴き出してどうしたという和やかな雰囲気に包まれるかもしれない。
しかし、このメンツではそんなことはありえない。
- 487 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:32:34.81 ID:Av3vpw7Go
- ナンシーは勿論そうだし、ここ『猟犬部隊』に配属される人間は
男女問わずとにかくクズばかりを集めた組織なので、
とりあえず仲良しこ良しなんて雰囲気が出来るわけがない。
例えばアンチスキルとして犯罪者を嬲る様に追い詰める快感に酔いしれた奴や、
身体に傷を残さない拷問方法を提唱・実行に移した奴。
兎にも角にも、自分も含めて周りの人間は全て軽蔑されるべきクソ野郎なのだから。
彼女は周囲の重苦しい雰囲気などガン無視し、
未だにくつくつと笑いながら手の中の先程まで使っていた器具をゆっくりと揺らしていた。
一見玩具の拳銃に見えるのだが、それは実は嗅覚センサーという、対象の匂いを追い続ける道具だ。
途中までそれを使って一方通行を追っていたのだが、突然対象の匂いが『消えた』。
このセンサーは例え雨によって匂いが混ざろうとも、正確に対象のみを追う。
だと言うのに文字通りセンサーから消えたのだ、当然ナンシーは驚きを隠せなかった。
と思ったらこの研究所で待ち伏せしてろと言う木原数多の指示。
更には命令の中から分かる通り、一方通行に加担する者が居るかもしれない、と言う事実。
自分の知らない裏側に、一体何があるのだろうか。
気にはなるが、追及する気にはならない。好奇心は猫を殺す、つまりはそう言う事だ。
ただでさえこんな肥溜めにいるのだから、これ以上余計なことして命すら散らすのは勘弁したい。
しかし、これだけは気になる。
「あの人は自分の研究所で戦闘されても気にしないのかしら?」
- 488 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:33:22.07 ID:Av3vpw7Go
- 「気にしないからこうやって班を動かしたんだろ」
別に誰に向けて言った言葉でも無いのだが、
ナンシーの隣に立った黒づくめの男が返答をした。
無駄口であるが、確かにその通りである。
木原の研究所は300m四方程度の敷地で、研究所としてはかなりの広さを誇る。
野村産業技術総合研究所の中では裏の研究も為されていると先述したが、
木原数多は『木原一族』のブランドも相まってかなり有名である為、
「この」研究所ではあまり裏側の研究は為されておらず、
基本的には表向きの立ち位置を固定する為の研究しか木原はしていない。
つまり、そんな研究所にて一方通行を待ち伏せする意味がわからない。
「まあ、何か俺達の知らない裏があるんだろ」
「そーね」
またしても聞いてないのに返答をする同僚に対して、ナンシーは気の無い返事を送った。
それと同時に、嗅覚センサーに反応が示された。音も気配も無く。
「……来たわね」
そして猟犬部隊は動き出す。音も気配も無く。
- 489 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:34:29.58 ID:Av3vpw7Go
- ・・・
学園都市は東京西部の山岳部を切り開いて作られた街だ。
自然破壊だ何だと騒ぐ団体もあるが、
利益とそれに代わる植栽の技術を提供したら全員が黙った。
兎にも角にも紆余曲折を経て造られた学園都市だが、
山岳部にある為にその周りには村すら存在せず、
学園都市から一度外に出ると人と出くわすのにかなりの時間を要する。
そんな中で山道を通る豪奢で面長な車体が1つ。
所謂リムジンと呼ばれるそれはもっと走るにふさわしい道路があるだろうと突っ込みを受けそうだが、
突っ込みを入れる人間がその周囲には居ない為に、リムジンは丁寧な運転で音も無く快適に目的地へと向かっていた。
その車内には、運転手のほかに7人の男女と犬が1匹。
明らかにリムジンに似合う面子ではないと突っ込みを受けそうだが、
やっぱりそもそも周りに突っ込みを入れる人間が居ないので、何事も無かったかのようにリムジンは進む。
「ところで、学園都市に入る時どうするんですか?」
まるで戦闘前の張りつめた空気が漂う中で、
少しでもそれを和らげようとする為か、ふかふかリッチな座席に縮こまりながら岳羽ゆかりは口を開いた。
「そうっすよ、だってこないだの大覇星祭に行った時もかなり厳重な感じだったじゃないっすか」
やはり緊張感はある程度持った方が良いのだろうが、こういった重苦しい雰囲気は苦手なのだろう。
岳羽の質問に同調して伊織順平も桐条美鶴に対して質問をした。
2人の質問は他の面々も気になっていたらしく、美鶴が口を開くのを一同は待つ。
「……いつだったか、夜の学校に侵入したのは。
懐かしいな、私は今あの時の事を思い出しているところだ」
「……いや、流石に学園都市へ侵入するのと夜の学校に侵入するのを同列に考えるのはどうかと思うぞ」
思わずずっこけそうになった真田明彦だが、
体勢を立て直すとかなりズレたことを口走る美鶴に対して突っ込みを入れた。
しかし、流石にそんな無計画なはずもなく、美鶴は口角を上げながら答える。
- 490 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:35:18.11 ID:Av3vpw7Go
- 「ふふ、冗談だ。一応先方には話を通してある。
学園都市に送った研究者達の様子を見る為にそちらに向かう、とな」
「「何だよかった……」」「わん!」
「……」
「どうしたの?アイギス」
美鶴の言葉に安堵する一同とコロマル。
しかし、そんな中で1人アイギスだけが思案顔をしていたので、
山岸風香がアイギスの顔を見やる。
「いえ、先程の美鶴さんの言葉だと……
桐条グループの長として学園都市に行くのですよね?
なら私達は一体どんな立ち場として学園都市に入れるのかなーって思いまして」
「「あっ」」「わふ……」
そこのとこどうなのだ、と言う視線が美鶴に集まった。
すると先程と同様に口角を上げながらなのだが、
若干の動揺が見え隠れしつつ言い放つ。
「……ぶ、部下と言う事にしよう」
「それ、かなり苦しいと思うんですけど……」
パッと思いつきましたみたいな事を言う美鶴に対して苦言を呈したのは、天田乾。
しかし、彼の言い分は最もだ。
何せ桐条グループの人間とは思えないような普通の私服でリムジンの車内に居るのだから。
- 491 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:36:11.29 ID:Av3vpw7Go
- 「ぐぬぬ……」
「?どうしたのアイギス」
するとまたしてもアイギスが思案顔をしながら呻くので、
山岸は再びアイギスに声をかけた。
「いえ、強行突破も已む無しという事で、
弾薬が早くも減りそうだと思うとちょっと今後が不安になりますね」
「「止めて!」」「わふ!」
それだけはあかん。学園都市を敵に回すのはあかん。
美鶴に対して総突っ込みを入れていた面々が一気にアイギスに対して総突っ込みを入れた。
え?駄目なの?と言った感じでキョトンとするアイギスだったが、
「……冗談ですよ」
「いや、今の絶対マジだったでしょ!?」
岳羽が代表してもう一度突っ込んだ。
- 492 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:37:09.22 ID:Av3vpw7Go
- ・・・
木山春生の本職は研究職である。
色々あって今は木原数多と言う男が所有する研究所に
半ば監禁状態で押し込まれているが、厳重に拘束されたり監視されたりはしておらず、
所内ならば自由に動いていいと言うのでそれに従って彼女も自由に動いている。
一応この研究所にはシャワールームも仮眠室も、
更には娯楽室としてビリヤードやら卓球やらゲームやらが出来ると言う
何だか研究所と言うよりは娯楽施設だなと間違えそうな程過ごしやすい空間であった。
そんな中何か木原の弱みでも握れまいかと、自分の得意分野とする大脳生理学の研究をする傍らで
度々木原の研究室を漁るという暴挙に出ているが、今のところ何も見つかっていない。
と言うよりは、この場では木原にとっても木山にとっても
本当にどうでもいい(表側)の研究しかしていないらしく、
火の無い所に煙は立たないと言うか、本当にこの研究所にはやましい部分が無いらしい。
それ故に木原も木山に対して別に好きに動けばいいと言ったのだろう。
唯一気になる点が今日の夕方頃に、監視の目を付けた上で部屋から出ないように命令された事だ。
確実に裏があると思いながらもそれを調べる事は不可能な状況で、
結局日が落ちた所でようやく解放された為、今日もまた所内をうろうろと徘徊している。
すると、ある異変を察知した。
(今日は誰も居残ってないな……)
ここ木原研究所では「アフターファイブは残らない」をモットーにしているのだが、
それは木原数多のみで他の研究所員は律義に仕事をこなしてから帰る為、
かなりの確率で誰かしら残っている。
しかし、今日に限っては人っ子一人いない。
仮眠室やらシャワールームも行ってみたのだが、誰もいないのだ。
確かに、居残りメンバーが少ない日は存在する。しかし、0と言う日は今まで一度も無かった。
そして今日の監視も相まって、それが酷く不自然なものに感じられる。
(一体何が……)
木山の疑問に答える者は誰もおらず、彼女は1人所内を彷徨う。
- 493 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:38:36.73 ID:Av3vpw7Go
- ・・・
意識が暗転する。
目を開いているのか、はたまた閉じているのか。
落ちているのか飛んでいるのか。
倒れているのか立っているのか。
何も分からない。
しかし、深い暗闇だけが視界を捉えている事と、
ぼんやりと自分が上条当麻であると言う事だけは分かった。
すると徐々に先程まで感じていた息苦しさは無くなり、
何だか天に召される時はこんな感じなのかとぼんやり思っていた。
(いやいや、天に召される時はこんな感じって……)
それってまさに今なのではとか自分で突っ込みを入れられる辺り、
本当に自分は死ぬ直前なのか?とか考えてしまうものの、
やはり先程受けた謎の攻撃で息が出来なくなったと言う記憶がある所を見ると―――
そこまで考えた所で暗闇が一気に晴れる。
「ふっふ。ようこそ、ベルベットルームへ。お久しぶりでございますなあ」
するとそこはいつか見た車の中で、
目の前にはいつか見た鼻の長いおじいさんと、いつかみた幸薄そうな金髪美人。
そして、
「おーっす」
「何でテメーがここにいるんだよ?」
「まあ、ちょっとな」
上条当麻の影が、金髪美人・マーガレットの隣で紅茶をすすっていた。
- 494 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:40:27.77 ID:Av3vpw7Go
- 以前も意識を飛ばされた時にここに来た事があったが、
あれ以降この場に来る事は無かった。
いや、そもそも意識を飛ばされるような事態に陥る事が無かったからなのか、
はたまた何か別の事情でもあるのか。
何にせよ「客人」でない上条が、またしてもこの場に呼ばれた。
それにはきっと何か意味があるのだろう。
本能的に何かあると察知した上条は、改めてイゴールの方を向く。
「いやはや、本来は『今』お呼びする事は無かったはずだったのですが、
こちらの方がどうしてもとの事ですので、こうして再びお呼び立てた次第でございます」
「ま、そーいうこと。で、どうだった?今回の敵は強かったか?」
「強いも何も……」
何もさせてもらえなかった。
訳もわからずここに来た。
そうとしか言えない。
ポツポツと語り出す上条を、影は楽しそうに眺める。
「まあ何て言うか……完敗?」
「なっさけねーなー。少し位どんな力か見定めてからこっち来いよなー」
「うるせえよ!」
何だか双子の兄弟のやり取りの様だ。
そんな2人のやり取りを、イゴールもまた楽しそうに眺めていた。
マーガレットは上条の影が飲み干した紅茶に注ぎ足して、
更に別のカップに紅茶を入れて上条に勧める。
「あ、ども」
上条はそれを受け取るとゆっくりと紅茶を口にした。
「まあ良いや。何にせよ、おめーがあいつに勝つには、『コレ』が無いと駄目だろ?」
上条の影は左手でカップを掴みながらも空いた右手をプラプラと揺らす。
「そりゃあ異能に対しては『ソレ』が合った方がありがたいけど……」
「オッケーオッケー。本当はそこのおっさん風に言えば
『命のこたえ』を見つけたらってつもりだったけどあれだ、緊急事態って奴だな」
「は?」
どういう事だ、と上条が尋ねる前に、上条の影は紅茶を一気に飲み干して続ける。
- 495 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:41:27.14 ID:Av3vpw7Go
- 「俺を屈服させろって言ってんだよ、その為の場を借りる為にこいつらの所に来た」
「ふっふ、私どもからは特に用があった訳ではございませんが、
思う存分動ける場所をお貸ししろとの事でしたので……こちらのマーガレットが御用意致します」
「そう言う訳だから、着いてきて頂戴」
今まで紅茶を淹れる以外には置物の様に口を閉ざしていたマーガレットだが、
ポツリとつぶやくように口を開くと、腰を上げ車の扉を開いて外へと出て行った。
それに追従して上条の影も出て行く。
訳もわからないうちに話が進んで行く為、
首をかしげながら上条もまた流されるようにして車内から出て行った。
そして一人、残されたイゴールはどこから取り出したのか、1枚のタロットカードを眺めている。
以前一方通行に占った時の様に、1枚のカードを選び出したのだ。
その対象は、今回は上条当麻である。
イゴールの手に握られたカード。
そこには左手に天秤を、右手に剣を持った女神が描かれていた。
「正義の正位置……相反する二つの力の調和……
ふっふ……彼はお客人ではあられませんが、やはり面白い……
いずれ、彼もまた『命のこたえ』に辿り着けるやもしれませんな」
「しかし、それと同時に一歩間違えるとその均衡は一気に崩れさる……
さて、彼らは無事均衡を保つ事は出来るのでしょうか」
イゴールの独り言は、彼以外に誰もいない車内に響き渡るだけだった。
- 496 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/08/31(水) 18:42:09.36 ID:Av3vpw7Go
- ・・・
一方通行は暗闇の中に突如として現れた。
先程まで割と明るい場所に居た為に、目が慣れない。
ゆっくりと目を慣らしながら、辺りを見やるとどうやら何処かの研究所内の様だ。
何か機材のようなものがずらりと並んでおり、自身の背後には巨大なモニター。
恐らくここから置き去りの子供達は放り込まれたのだろう。
更に、この場は無菌室の様に厳重に閉め切られた空間のように見受けられた。
(木原の野郎が居ないにせよ……猟犬部隊のクソ共が居る可能性は高い)
ならば、何かしら対策を講じてくるはずだ。
何せこちらは腐っても超能力者で、相手はプロといえども無能力者の大人。
普通の武器を普通に扱っても勝てるはずが無い。
(キャパシティダウンやらAIMジャマーは当然として、他に何かあンのかァ?)
能力者の力を削る物としてはそれらが有効だろうが、
そのどちらもあらかじめ存在を予測しておけば対策するのは易いものだ。
とはいえ、そんなことを思えるのは学園都市第一位としての力があるからなのだが。
(とりあえず、ココが何処なのか、それからだなァ)
動かない事には始まらない。
一方通行は暗い室内から出るべく、目を凝らして出口を探すのだった。 - 508 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:24:33.26 ID:GQuHMGOqo
- 暗闇の中。
一方通行は室内から廊下へと出た。
廊下を照らす淡い蛍光灯が一方通行の視界を明るくするが、
急激に明るくなった事で目がはっきりするのに少しだけ時間がかかる。
ようやくはっきりとし始めた目を良く凝らしながら前を見ると、壁。
両サイドに道が広がっており、奥まで歩くのにはかなりの距離があるようで、
相当にデカい研究所だと言う事が見て取れる。
まるで研究所と言うよりどこかの企業のビルの中、
と言った内装をしているその場から、一方通行は足を踏みだした。
(とりあえず、近くに誰かが居る感じはねェな……)
きょろきょろとあたりを見回しながら、右か左か、どちらから行ってみるか考える。
(まァ、ンなもンどっちでもイイか、どォせここが何処かすらわかンねェンだし)
とりあえず右で。と、アバウトに決めた一方通行は、再び歩き始めた。 - 509 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:25:36.55 ID:GQuHMGOqo
- ・・・
「どういう事だ?」
猟犬部隊の1人がナンシーの提案した作戦に首をかしげる。
と言うのも、今現在猟犬部隊はアンチスキルの格好をしているのだが、
名目上は研究所に潜伏していると思われるテロリストの捜索と言う事なので、
なるべく戦闘は避け目標を捕捉する事だけに集中するべき、と提案したからだ。
ナンシーはだらんとしてやる気なさげに自身が潜伏している待合室のソファーに座りこみ、
とてもじゃないがこれから任務を行う姿には見えない。
ナンシーの同僚は、彼女の考えが読めずに首をかしげている。
ここで、一方通行がこうして猟犬部隊に狙われているのは、彼が打ち止めを保護しているからだ。
その為、打ち止めを捕獲するにあたってその障害になり得る一方通行は
出来れば排除したいところ、と言うのがお上の決定である。
とはいえ、最低限時間稼ぎが出来ればそれで良い為、必ずしも排除をする必要はない。
本気で一方通行を殺害するなら、このように大々的に部隊を動かすよりも、
普段の日常の中で一方通行が本領を発揮する前に暗殺する、
と言った方法を取った方が人材的にも金銭的のも楽なものである。
そう言った事情もある為、木原数多は猟犬部隊に対して
「時間稼ぎ30分もしくは撃破」と言う条件で任務を与えたのだ。
確かに、今後も障害になり得る一方通行は、今撃破した方がいいのだろう。しかし、
「手負いとはいえ、反射を稼働させた状態の一方通行を打倒できる人間は限られているわ」
例えば、木原数多。
例えば……ここでもうナンシーが挙げられる人物は居なくなった。
ナンシーは嗅覚センサーをゆらゆらと揺らしながら、事もなげに続ける。
「あの人は私らに何も期待していない」
木原は、猟犬部隊に何も期待していない。
失敗したら殺すし、成功したら引き続き使い潰す。
それが当たり前で、従前から十全に当然のことで。 - 510 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:26:31.29 ID:GQuHMGOqo
- 「そんなこたぁここに居る全員が知ってるっての」
何を急に、と言った表情でナンシーの同僚は
拳銃に弾を込めながら呆れた様子で突っ込みを入れた。
「ま、有り体に言えばどうせ死ぬなら、なるべく楽な道を進みたいわよねって話よ。
何が楽しくて超能力者何かと戦わなきゃならんのさ」
ナンシーに宿っている感情、それは諦念。
自分がクズである事はとうの昔に知っているし、
自分が無様に死ぬと言うのも暗部に落ちた瞬間に理解している。
木原数多と言う男の下についた時点で、明日死ぬかもしれないし
今すぐ死ぬかもしれないし、何にせよ長生き等望めるはずもない。
とはいえ自殺しようと言う気にもならないナンシーは、
どうせ死ぬなら困難はなるべく避けたい、そのように考えて今までの任務も気を抜いて行ってきていた。
今回も、例え相手が学園都市最強といえどもその精神は変わらない。
いつも通り楽な道を選び、任務に失敗したらあっけなく死んでしまおう。
そして「時間稼ぎか撃破のどちらか」と言うのなら、迷わず時間稼ぎを選ぼう。
と言っても、何も無い状態で時間稼ぎと撃破を比較したら、
そんなん無能力者のナンシーからしたら五十歩百歩で縊り殺されるのがオチだろう。
しかし、今回は違う。
作戦の為の装備と場所は、既にそこにあるのだから。
「ここが『表』の研究しかしてないってのと、木原の名前に宿ったブランド。
そして私らの格好を考えたら、わざわざ反射を貫く方法考える必要も無いって事よ」
嗅覚センサーは、相手の大まかな位置を知らせる事は出来るものの、
はっきりと何処に居るのかまでは分からない。
何せ匂いを追う為だけの機械なのだから、そこに地図などはインプットされていないのだから。
そんな訳で、この研究所内に一方通行が居る事は分かっている為、一先ず嗅覚センサーは用無しである。
ナンシーはスッと立ち上がると嗅覚センサーを腰に差し、
軽くストレッチをしながら床に放置していた装備品を拾い上げた。
「どっからどうやってこの場にやって来たかは知らないけど……」
彼女はニヤリと意地悪な笑みを浮かべながら、呟く。
「何にも情報すら得られないまま時間つぶしてしまえば良いのよ、主に私の為に」 - 511 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:27:31.68 ID:GQuHMGOqo
- ・・・
テレビの中から直接木原が居たと思われる
拠点を叩くべくクマの力を借り、何処かの研究所へと降りたった。
まず一方通行は自身が何処に居るのか調べる為に所内を動き回る事にしたのだが……。
(うげっ、蜘蛛の巣張ってやがる……反射出来ねェのがなァ……)
今現在の一方通行の所在地。
それは通風口の中。
研究所の中でもかなりの広さを誇るこの研究所は通風口も
人が通れるくらいの大きさで、隠れるには持って来いだろう。
いや、そんな話はさておき、何故隠れざるを得ないのか。
(なンだってアンチスキルがここに居るンだよ……!)
アンチスキル(ホントは猟犬部隊)が所内を探索して回っているのだ。
こちらには気付いていなさそうだったが、
一方通行が先にその姿を発見できたのは不幸中の幸いだと言えよう。
しかし、彼らの武装はアンチスキルに模しているだけであり、本物ではない。
それ故に黄泉川愛穂などの本職ならば遠目に見ても気付けただろうし、
一方通行も間近でよく見れば分かったはずだ。
―――それがアンチスキルの真似事をしているナニかだ、と言う事が。
しかし、ここは敵の懐で、そんな場所にアンチスキルの姿を見れば
まずは身を隠すことを考えてしまうのも無理は無い。
そう言う意味ではやはり一方通行は不幸だったと言う事だろうか。
(本物かどォかはわからねェが……偽物と見極められるまでは手を出せそォにねェな……)
一方通行は肘を立てながらほふく前進で進んでいる為、
胸の傷に触れて血流操作を行う事が出来ない。
その為、今は反射を切って通風口の中を這って進んでいる。
一定の距離を行くたびに通風口の出入口が見える為、そこから辺りを見渡して。
何度かそれを繰り返したところで、一方通行は異変に気付いた。
(アンチスキルしか居ねェ……)
今現在、この建物で見つけた人間はアンチスキルしか居なかった。
はっきり言って、何かあったとしか思えない。
(待て待て、ここは木原の手が加わってる可能性大な場所だ、
アンチスキルが踏み込んでくるようなヘマをあのクソ野郎がするかァ?)
先程まで頭に血がのぼっていたのか、考えが巡ってなかったがようやく落ち着いてきた。
まず、何故アンチスキルがこの場に居るのか。
アンチスキルの任務、それは街の治安維持。 - 512 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:28:22.52 ID:GQuHMGOqo
- (ってこたァ犯罪者がこの中に居るってことだァ)
犯罪者。
(一番怪しいのって、俺だよなァ)
不法侵入の一方通行。
ならば彼らの任務は、研究所に侵入した一方通行を逮捕する事だろうか。
何故既にいるのかと言うのは、あらかじめアンチスキルを動かすように手配をしていた等が考えられる。
一方通行は、過程は違うが結果として正しい結論を導き出した。
そして一方通行の思考は続く。
(だとしたら、木原の目的は俺を潰すンじゃなく、
時間稼ぎでこの場に縛りつけるってことかァ……?)
頭に血がのぼっていた時は、立ちはだかるモノ全てを
撃破して進む位のつもりだったが、こうして冷静になってみると馬鹿みたいである。
一方通行も、妹達も、打ち止めもここで終わりではない。
これからも学園都市で生きて行くと言うのに、この程度の事で学園都市と敵対してどうするのだろうか。
そこまで考えると猟犬部隊も潰す必要はないのではと思う。
どうせ替えの人材(クズ)はいくらでもいるはずで、あれらを消したところで何の意味も無い。
それどころか無駄に戦力を削いで、「じゃあ削いだ戦力の分働け」等と言われたらたまったものではない。
まず第一に何としても打ち止めの命を救う事。
そして余裕があるのなら、木原数多を殺す。
(まァ、あのクソッタレも有能だ。消して困るのはやっぱ学園都市じゃねェか……)
とはいえ、飽くまでも所詮は1人。
その程度なら膨大な要求をしてこられるはずもない。
(ハッ、結局助ける過程でアイツは殺す事になりそうだけどなァ……)
一先ずこの場を相手に見つからずに抜け出すとしよう。
結局何一つ得られてねェじゃねェか、と自嘲しながら一方通行は蜘蛛の巣を払ってほふく前進を続けた。 - 513 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:29:15.01 ID:GQuHMGOqo
- ・・・
『こちらクリス、監視カメラからターゲットは発見できない。
恐らく予定通り通風口を移動中と見られる、オーバー』
『りょーかーい。それじゃクリスは引き続きカメラから所内を探索、
私を含めたその他は予定通りのポイントで待機。
今回の作戦はターゲットをこの場に釘付けにする事だから、
適当にアンチスキルのフリをして時間稼いで頂戴な、おーばー』
『『了解』』
必要な事だけ伝えると、ナンシーは無線を切った。
状況を開始してから10分が経過して、交戦は0。依然どちらも被害は無し。
この時点で一方通行がアンチスキルと言うか、
表側の人間に手出しはしない人種であると言う事は確実となった。
流石にこちらが偽物だとバレれば命も無いだろうが、その前に先手は打てる。
アンチスキルとして動く理由を先に一方通行に教えるのだ。
それと同時に、この場所がどういった場所なのか、知らしめる。
木原数多は裏の世界の人間であるが、何も普段からずっと裏側に居る訳ではない。
表としての立ち位置もあり、それを作っているのがこの場所である。
すなわちこんな所で殺し等働けば、表側の人間を表立って敵に回す事になるのだ。
こうなってしまえば一方通行の逃げ場がなくなってしまうだろう。
(ま、後20分、適度に時間つぶしてから外に出してあげればいっか)
等とナンシーはぼんやりと気楽に思っていた。
しかし、そこに小さなイレギュラーが介入する。
『こちらクリス。監視カメラに人影、恐らく木山春生と思われる。オーバー』
『うげ、そう言えば木原さん、科学者1人ここに軟禁してるみたいな事言ってたよねー……。
その地点から一番近いのは誰?そいつに木山と接触させるから』
『ナンシーだな』
『げっ面倒くさ……了解、変に動かれて邪魔されても困るから、
部屋に戻ってもらう事にするわ、おーばー』
『了解』
ブツリ、と無線が切れる音と同時に、
ナンシーは通風口の見える潜伏ポイントから移動を始めた。 - 514 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:31:08.05 ID:GQuHMGOqo
- ・・・
「あ、それポン」
「オイオイ、またかよ畜生。どんだけポンすんだよ、ポンポンとポンすんなよ」
垣根提督は対面の少年―360度にプラグが挿してあり無数のケーブルを腰の機械に繋げている、
土星の輪のように頭全体を覆うゴーグルが特徴である少年に対して苦言を呈した。
「速攻で上がるのが僕のやり口だよ。何事も早い方が良い」
「その理論だとベッドの上じゃ1人先にイクんだろうな?」
「……一応、女子が居る中でその発言はどうかと思うぞ」
ゴーグルの少年の早上がり安上がりのお陰で何度も良い手が潰されて、
鬱憤がたまったのだろう、垣根は冗談交じりに下ネタを吐くのだが、
下家に座る傭兵の様な装備を舌単発の男、砂皿緻密はそんな垣根を諌める。
「こいつを女の子扱いしてくれる奴がまだいたとは……お兄さん嬉しい」
「……黙って聞いてれば、言ってくれるじゃない。
あんまりふざけた事言ってると、ムキムキのそっち系な男の人との『距離』を『ゼロ』にするわよ?」
「「すみませんでした」」
そして上家に座る少女は、舐めた扱いをしてくれた
一同に対して(主に垣根のせいだが)ギロリと人睨みすると、3人は平伏した。 - 515 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:32:21.87 ID:GQuHMGOqo
- 何せ彼女の能力は心の距離を操るもの。
その気になればノンケをガチにすることも、逆にする事も出来るのだから。
とはいえ、彼女よりも上位のレベルの垣根に効くかは怪しいものだが、そこはノリと言うものだ。
彼らは『スクール』と言う名の暗部組織に所属しており、今日は任務のはずだったのだが。
「……しかし、学園都市に呼ばれて何をするかと思えば、麻雀とは……
俺の値段はそんなに安いものだったか?」
「いやいや、紹介料だけで70万ってとんでもねえ額だっての。
俺だってお前の初仕事をこんなんになっちまうとは思ってなかったわ。
まぁ、こーして麻雀牌いじってるだけで金もらえるなんて、
なんて楽なお仕事でしょ、って気楽に受け止めてくれや」
垣根はヘラヘラと笑いながら、不要牌を不用心に切った。
それを見たゴーグルの少年は自身の疑問を吐露するついでに、上がる。
「……ていうかさ、『隠れ家』で待機っていつも通りじゃん。どゆこと?あ、それロン。白のみ」
「げっ……まあ大した手も入ってなかったから良いけどよ……」
やってらんねー、と自身の牌を閉じた垣根に続いて、
何事も無かったかのように砂皿も牌を裏返した。
そんな中でプルプルと震え、何度もゴーグルの少年に上がりを
阻止された事に怒り心頭したのか、ドレスの少女は頬を膨らませながら文句を言う。
「私トイトイと三色同刻だったんだけど!?」
「……上がれなければどうという事はない」
彼女の文句を一刀両断する、砂皿。
しかし彼自身今日に入ってまだ一度も上がってない。
だと言うのに何も気にした様子も無く牌の山を崩して行く。 - 516 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:34:11.84 ID:GQuHMGOqo
- 「とか言う砂皿さんよぉ、アンタ今日一回もあがってねーじゃん。
その代わり放銃もしてないけどさ」
「……む」
「とか言う垣根さんは僕から何回上がられたのさ?
大物狙いか何か知らないけど、狙い撃ちさ、そんなのは(←?)」
「……良いぜゴーグル野郎、てめーが何度も
俺から上がれるってんなら、まずはそのふざけた常識ぶち壊す」
そう。
「隠れ家で待機してろ」と言われて、こうしてダラダラと待機しているのだ。
ついでに『アイテム』によって潰されたスナイパーの代わりとの顔合わせも行った。
しかし、顔合わせに何時間もかかる訳も無く、
上からの指示が来るまでどうしようか話し合う事にした。
そうして始まったのが、麻雀。
隠れ家の中でじゃらじゃらと麻雀牌がぶつかり合う音が響き渡る。
ここは雀荘では無いので、自動の麻雀卓は置いてない。
少し早目のこたつに麻雀用のゴムマットを乗っけただけの簡易的なものだ。
ドレスの少女はすっかり白熱した様子で、
メラメラとゴーグルの少年に対して対抗意識を燃やしていた。
「見てなさいよね……その早上がりが、巨大な「ツキ」の偏りを生むみたいな事を
燃牌って漫画が言ってたんだから……!」
「あ、それ読んだ読んだ。4巻だか5巻だっけ?面白かったよねー。
でも実際にそんな事が起きてないから今の状況じゃない?」
て言うか、あの漫画のは自動卓だしね。とゴーグルの少年。
「ぐぬぬ……」
そんな突っ込みに対して、ドレスの少女は何も言い返せずに呻いた。
しかし、垣根がドレスの少女をたしなめながら、
「まあまあ、落ちつけよ。あのゴーグルに俺達の点棒
剣山のように突き刺してやろうぜ、勿論麻雀でな」
「え?それって僕に点棒献上してくれるってこと?しまったなー、お金かければよかったよ」
「……言ったなクソったれ、金賭けるぞデカピンくれー行っとくか?」
「乗ったわ!」
「僕は構わないよ」
「……問題ない」
一応、この場に待機しておくと言うのも任務の一つなのだが、
そんな事は頭の隅っこに追いやって、全力で麻雀を始めるスクールのメンバーだった。 - 517 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:35:06.53 ID:GQuHMGOqo
- ・・・
「ヘイヘイヘイテメェそれでも心にソウル刻んだブラザーなのかよ!?」
「抜かせ短足!!お前程度の炎じゃちっともたぎらねぇんだよ!!」
「だったら……燃やしてやるよ!!テメェのソウルをよ!!」
「御託は良いからかかってきな!!」
「「うおおお!!!」」
アフロの男とロン毛の男が荒野で向かい合って、決闘をしている。
互いが互いに違った信念を持ち、それがぶつかり合ったからだ。
最早この戦いを止められるものは、ただ1人。
「もう止めて!!」
「「その声は、キャサリン!!」」
「もう、戦わなくても良いのよ!?どうして血を流すことでしか語りあえないの……?」
「そんなもん、決まってらあ……」
「そうさ、最早生まれる前からの運命ってとこだな……」
「「俺の中の魂が、信念を貫けと叫んでいるんだ」」
「トム……ダニー……なら私はもう何も言わないわ。でも、これだけは言わせて。
……2人とも、無事で戻ってきて頂戴」
「「当然さ!!」」 - 518 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/05(月) 02:35:38.08 ID:GQuHMGOqo
- 「……絹旗ァ、いつまで続くの?この茶番」
絹旗最愛が借りてきた映画の数々を見せられて、辟易した表情で絹旗に尋ねるは麦野沈利
。
アイテムに課せられた任務、それは「隠れ家にて待機する事」。
最初それを言われた時、意味が分からずに電話の主と口論をしたものだったが、
電話の主はこいつときたらこいつときたらと捲し立てて一方的に電話を切った。
結局良くわからないが、隠れ家で待機する事にしたアイテムだったのだが、
絹旗がウキウキと映画を用意していたので待機で暇な麦野やフレンダ=セイヴェルン、滝壺理后もそれに便乗する事にした。
しかし、
「ちょっと今いいところなので、少し超静かにしてもらっていいですか?」
「……分かったよ」
はっきり言って、詰まらない。
何が面白いのかさっぱりなのだが、麦野はそれでも根気よく映画を見続けた。
そんな中で、フレンダと滝壺は。
「「zzz」」
寝ていた。
それはもう気持ちよさそうに。
(私も寝たいんだけど……)
この待機と言う任務。
任務と言うからには何か裏があるのだろう。
いざ何かあった時、動けないのはマズいはずだ。
「行くぜ!!燃えるソウルハンド!!」
「させるか!!凍てつくコールドソウル!!!」
最初はカウボーイとか、西部劇的な感じだったのに、
いつの間にか超能力バトルみたいな特撮物に変貌を遂げていた。
全く理解できない。
(……暇つぶせるモン、そのうち買ってこよう)
映画に釘付けになる絹旗に、肩を寄せ合って眠っているフレンダと滝壺。
そんな3人に囲まれた麦野は、とりあえず4人だし麻雀か?とかそんなことを考えていた。
- 529 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:29:55.15 ID:5XMi+z0uo
- 「さて、こちらの扉へどうぞ」
本来は、私が闘う為の場所なんだけど。
と、マーガレットは面倒くさそうに2人に部屋へ入るよう促した。
「ここは……」
そこは無数の扉が宇宙の中を漂っている、と表現したら良いのだろうか。
上を見ても下を見ても、左を見ても右を見ても。
そこはキラキラと星が3人を照らしていた。
上条当麻はそんな幻想的な風景に見入るが、
そう言えば地面はどうなっているんだと思い、ぺたぺたと地面を触る。
下も星空だったが、しっかりと足を踏みしめる事が出来ていた。
透明な何かが辺りを覆っているのか、それとも周りの星は作りものなのか。
そんな疑問を浮かべるが、今そんな話はどうでもよかった。
「ガッ!?」
唐突に、後頭部から衝撃を受けたからだ。
「おいおいどーしたァ!?この俺をどうにかしてお前ん中にもどせねーと、
あっちにゃ帰れねーし何にも助けらんねーよ!!」
それの正体は、上条の影。
思い切り蹴り上げた足をそのままに、戦闘は既に始まっていると、笑った。
「ちっくしょ……!オケアノス、ブフーラァ!!」
上条はちょっと涙目で頭をさすりながら召喚器を取り出すと、オケアノスを顕現させる。
それを見た上条の影は大仰に両手を広げながら、上条の攻撃を迎え入れるべく攻撃を受け入れた。 - 530 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:30:53.93 ID:5XMi+z0uo
- 「ハッハァ!!良いぞ、かかってこいやぁ!!
今後良い関係を築く為にも、殴り合いで語りあいってのも悪くねぇだろ!!?
時間はたっぷりあんだからよ!!心配すんな、こっちとあっちじゃ時間の流れが違うから、
あっちじゃまだ1秒もたってねーだろうよ!!」
それをあっさりと影が持つ幻想殺しで打ち消すと、真っすぐ上条へと向かって行く。
「そんなもん俺ん中帰ってきたらいくらでも出来るだろ!?」
影は右のハイキック。上条はそれをしゃがんで避けると、
影の軸足である左足を屈んだ状態で蹴り払い、体勢を崩しにかかる。
しかし、影は余裕の笑みを浮かべながら蹴りの勢いで
横に回転しながらその場で軽くジャンプし上条の足を避けた。
「たしかにそれもそう……おっと、そう言う誘導尋問的なもんはお断りってなあ!!」
そして空中で1回転すると、影はその勢いを利用し宙に浮いた状態で回し蹴りを放つ。
しゃがんだ状態で避ける事の出来そうにないと、
上条は両腕でガードしたものの、回し蹴りの威力によって思い切り地を転がった。
「オケアノス!ブフーラだ!!」
しかし、タダでやられる上条ではなく、影の追撃をかわす為に
転がりながらも器用に召喚器を使い、オケアノスに攻撃させる。
面ではなく、点での攻撃。それも右手だけでは止めきれない程の量を伴って。 - 531 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:31:30.70 ID:5XMi+z0uo
- 大量のツララが、影を襲う。
明らかに一つ一つが必殺になりうる威力を持っている。
しかし、これは上条に殺意があった訳ではなく、
その位しないと自身の影には勝てないと判断したからだ。
そしてその考えは正しかったらしい。
「……イヤイヤ、ありえねーだろ、右手だけでそんなとめられるわけねーだろ!?
これでも、かなりの量を飛ばしたつもりだったんだけど……」
体勢を崩しながらの攻撃だった為、影が何をしたかは
分からなかったが、確かに上条は影に向かって攻撃を放っていたはずだ。
それも大量のツララで、それこそ広い壁でも生み出さねば止めきれないだろうと、上条が考える程の。
しかし、何かを使って攻撃を止めたと言う痕跡は残されておらず、
影の射線上だけぽっかりと空き、その周りの地面にツララが突き刺さっていた。
と言っても、下は星空にしか見えないので、ツララも宙に浮いているように見えるのだが。
・・・
「へえ、中々の威力を持ったブフーラね」
マーガレットは感心したように上条と影の戦いを眺めていた。
やはり、力を司る者としては強い力には興味が沸くのだろう。
影と初めて対面した時も軽く手合わせしたのだが、
どう考えてもこの影は上条が勝てる相手では無い。
それ程に強敵だった、とマーガレットは思う。
(それでもここで勝たねば、これから一生勝つ事は無くなるわね)
有り体に言えば、自分に勝てない者が一体何に勝てようか、と言う事だろうか。
マーガレットは最初3人がこの場に入って来た扉に
もたれかかりながら腕を組み、2人の戦いをゆったりと観戦し続ける。 - 532 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:32:41.62 ID:5XMi+z0uo
- ・・・
「あっはっは、あぶねーだろこのやろー」
間延びした間抜けな声で、影は上条に対して文句を言う。
確かにあんな攻撃を受ければ誰だって文句は言いたくなるだろう。
「何言ってんだよ、この攻撃すらノーダメージの癖によく言うぜ……」
「いやいや、まあまあ焦ったぜ?流石に『右手だけじゃ』止めらんねえよ」
「……そりゃどういう事だ?」
「前も言ったけどわかんねーだろうな、幻想殺しの本質は、今のお前じゃわかんねーよ。
よしんば俺がお前の中にもどっても。まーそのうち理解出来るようになるって」
やはり、何の事かわからない。
上条は影の言葉に首をかしげるが、それを待つ程影も甘くない。
「真っすぐ行ってぶっ飛ばす、右ストレートでぶっ飛ばす!!」
真っすぐと上条の元へ向かった影は、渾身の右ストレートを放った。
影の放つ何の変哲もない右ストレートを上条は左腕で止めたのだが、
かなりの威力でビリビリと痺れさせられた。
それにより上条は少し表情を歪めるが、余った右手で影の右手を掴むと、
「……オケアノス、剛殺斬」
「おろ?」
ポカンとする影に対して何のためらいも無く、
自身が持つ最大の物理攻撃を上条の影へと放った。
しかし、影は表情を切り替え、再び笑みを浮かべる。
その口から、何か短い単語が吐かれた瞬間に、オケアノスの剣が振り下ろされた。 - 533 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:34:22.39 ID:5XMi+z0uo
- ・・・
木山春生は不気味に静まり返った研究所内を彷徨っていた。
人の気配を感じないこの異様な雰囲気に呑まれまいと、
ギュッと手を握りしめ、辺りをきょろきょろと見渡す。
……人は居ないはずだ。気配を感じない、だというのに。
嫌な予感がする。
木山の素人ながらに研ぎ澄まされた神経は、その予感だけを感じ取った。
気配は感じないが、誰かいるのではないか?という確信めいた予兆。
そして、それはすぐさま現実として現れる。
木山が居る地点の10mほど先に見える曲がり角から、
1人の女が出てきてその場から木山に語りかけてきた。
「止まってくださーい、アンチスキルです。
只今この研究所はテロリストが潜伏している恐れがあるので、この場に居ては危険です。
あなたここの研究者さんですよね?」
「あ、ああそうだが……」
一応木山は表向きはこの研究所で働いているという設定である。
そんな訳で女のアンチスキルに対して曖昧に頷いたのだが、少しおかしい。
確かに、アンチスキルはかなりの手練も中にはいるはずだ。
しかし、ここまで鮮やかに気配を感じさせない人間が、アンチスキルに何人いるだろうか。
戦闘に関しては門外漢な木山ではあるが、この研究所に軟禁されている間は人目を避けて
木原数多に関する情報を集めていたのだから、ある程度は人の気配を感じ取る事は出来るようになってきた。
とはいえ、意図的に気配を消している人間相手に、それを読みとることなどは出来ないのだが。
そんな木山だからこそ感じた違和感。
(目の前に居る人間は、本当にアンチスキルなのか?)
そこまで瞬間的に考えた木山は、とりあえずカマをかけてみる事にする。 - 534 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:35:13.38 ID:5XMi+z0uo
- 「……私はこう見えて昔はやんちゃしててな」
「はい?」
「アンチスキルには結構世話になってるんだが、君は何処の支部の人間なんだ?
ひょっとしたら私の知っている人も近くに所属しているかもしれん」
木山はジッと女を見つめる。しかし、女には動揺は見られない。
女は自分にしか分からない程度に目を見開くと、続いて口も開いた。
「私はこの通り、第八十三支部でしがない下っ端をやらせていただいてますよ」
女は懐をごそごそとまさぐった後、警察手帳の様なアンチスキルとしての証明証を取りだした。
これは研究員達をこの場から離れさせる為にも使った
偽造手帳なのだが、一般人に対してならほぼ確実に騙せるほどの精度である。
それを見た木山は納得したように一つ頷きながら、続ける。
「ほほう、これはすごい偶然だな。数多くあるアンチスキルの支部で、私が知ってる支部と一致するとは……
そこの部隊長に『黄泉川愛穂』って女性が居るんじゃないか?彼女には随分と世話になってね」
黄泉川愛穂とは、『幻想御手』の際に顔を合わせていたのだが、彼女は第七十三支部の所属だ。
これにどう反応するか、木山は表情一つ変えずに女の様子をうかがう。
「え?違いますよ、うちの隊長は『山笠』さんですけど、
どっか別の支部と勘違いしたんじゃないですか?」
当たり前のように返答する女からは、動揺の一つも見られない。 - 535 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:36:48.69 ID:5XMi+z0uo
- 「そうか、そういえばそうだったな。黄泉川さんは第七十三支部だったか」
「そうですよ、そんな人聞いたことも無いです」
少し首をかしげながら言い放つ木山に対して、女は笑いかけながら答えた。
そして木山も、そんな女と同様に笑いながら答える。
「……おや、おかしいな?彼女は第七十三支部の部隊長なんだが、
やる事為す事物凄く派手でな。部隊長全員を把握する事は出来なくとも、
彼女の名くらいは知っていないとおかしいぞ?」
両者の距離は、変わらず10m。
木山はジリジリと後ずさりしながらその距離を伸ばしつつ、女に対して質問する。
「そして何より、その装備、一見してアンチスキルに模してあるが、アンチスキルのそれでは無いな。
非殺傷を目的として改造された装備ではなく、本来の殺傷を目的とした非改造のライフルなのではないか?」
木山はもう一度、笑った。
「アンチスキルには、ずいぶんと世話になっていてな。装備の違いがわかる程度には」
「あーらら、バレちゃ仕方がねぇ。
とりあえず動かないでくださいね、ケツに挿れられる穴を増やしたくないでしょう?」
「……残念ながら、そのような関係を持った事など一度も無いよ。
研究者とは孤独なものだ」
「……そいつは失礼しました」
瞬間、2人は動き出す。
木山は後ずさりそのままにバック走で勢いを付け身を翻し、
女―ナンシーは笑みを浮かべながらライフルを構えつつ駆けだした。 - 536 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:38:18.12 ID:5XMi+z0uo
- ・・・
「嘘、だろ……?」
剣を振り下ろしたはずだ。
自分の半身だとかそんな事情抜きに手加減なしで渾身の一撃を入れたはずなのに。
影が持つ幻想殺しも自身の右腕で動かせないように止めたはずなのに。
確実に、攻撃を当てることが出来る状況だったはずなのに。
故に上条当麻は驚愕を隠せずにいた。
この攻撃すら、止められたと言う事実に。
そして何より。
「何だってお前が……『ペルソナ』を出してんだよ……!?」
「あ?そりゃ防御するためだろ」
上条の知りたい内容はそんなことではない。それは影も分かっててとぼけたのだろう。
オケアノスの剣を、影の背後から現れた天秤を持つ『女神』が止めたと言う事実について知りたかった。
「ユースティティア、ってんだ。法を司る女神様ってとこか?
そしてお前のそれは、本来ミカエルが持つべき断罪の剣なんだけどな……」
何処を間違えてオケアノスが持ってんだか、と影は笑うが、何の事かさっぱり分からない。
何にせよ、幻想殺しを持つ影が、上条と同じくペルソナを扱っている。
力量差は、はっきりしていると言えよう。
「何かよくわかんねーが、やる事は変わんねえよな……
お前を俺ん中に戻して、そんであっちに戻るだけだ!!
オケアノス、ブフーラァ!!」
「だったら、力と覚悟をこの場で示してみろ!!ユースティティア、ジオンガ!!」
ペルソナは、すなわち心の力。
覚悟と、折れない心を持つ事が、自身のペルソナをより強くする。
オケアノスは、上条の強い思いに呼応するように力を発揮し、
それを見た影はニヤリと笑いながらユースティティアに攻撃の指示を出した。 - 537 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:40:29.20 ID:5XMi+z0uo
- ・・・
木山春生は逃げる。
この研究所内は隅々まで歩きまわったので監視カメラの死角を縫って行くのは容易い。
ナンシーの追走を振り切ると、監視カメラにも気を回して見つからないように隠れる事にした。
とはいえ、逆に死角を縫って捜索されればすぐに見つかるだろう。
どう考えても、敵は単独では無く複数で行動しているはずだ。
そして何より、木山自身が戦闘を得意としない。
何度も言うようだが、彼女は素人なのだ。
確かに戦闘は経験した事はあるものの、訓練していた訳でも無い。
(それでも上手く撒けたのは、見逃してもらったと言う事だろうか……?)
そんな事があるのだろうか。
木山は監視カメラに気を使いながらも、思考の渦に呑まれていく。
一方で、ナンシーは動くのが面倒なのか、本来のポイントに戻っていた。
『あー、こちらナンシー。目標喪失。多分監視カメラにも映ってないから
所内の見取図と比較してカメラの死角を挙げてってー。多分そこに隠れてるから』
『了解……ナンシー、お前のやる気の無さは前から知ってたが……
もう少し本気出さないか?俺はまだ死にたくねーんだけど』
『はいはい、それじゃ私の分まで頑張って頂戴』
ナンシーの面倒くさそうな声に、監視カメラを監視しているクリスが苦言を漏らした。
適当な返事をして無線を切ると、ナンシーはそんなクリスの言葉に嘲るように笑う。
「なーに言ってんのよ、私らみたいなクズが生きたいなんて望み叶えられる訳ないでしょー。
それを叶えるには、クズなりに有能になって周りの人間出し抜く位出来ないとねー」
こんな肥溜めで燻ってる時点で、たかが知れてるっつーの。
ナンシーの独白……もとい毒吐くは小さく所内に響き渡った。 - 538 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:41:43.51 ID:5XMi+z0uo
- ・・・
「……それで、こんな狭い所で何をしようって言うのだ?」
「……とりあえず、お前の知ってる事を話せ。
俺ァお前の教え子の居場所を知ってる。それと引き換えだァ」
その言葉に木山春生は息を呑んだ。
一先ず敵ではなさそうだ、と考え木山も自身の事情を話す事にする。
2人は、通風口の中でうつぶせになって向き合っていた。
と言うのも、木山の姿を一方通行が通風口から発見し、
話を聞く為に通風口にぶら下がりながらUFOキャッチャーのように
木山を捕まえて通風口に引きずり込んだからだ。
何だかシュールな光景ではあるが、2人は真面目も大真面目で話をしている。
一方通行は木山がここに居る理由や、ここが何処なのか等の情報を仕入れると、溜息をついた。
「すると何か?あのアンチスキルは偽物っつゥ事は……」
十中八九猟犬部隊の連中だ。
それを知った一方通行は更に深く溜息をつく。
「時間稼ぎ確定だなァ……そして何故時間を稼ぐ必要があるのかってのを考えっと……」
木原数多が打ち止めを必要とする理由が思い浮かばない。
一方通行の心をへし折り、そして殺すつもりなのであれば、
さっさと打ち止めを物言わぬ肉塊に変えて一方通行の下へ送りつければ良いはずだ。
それをしない理由は、目的はそんなことではないから。 - 539 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:42:37.70 ID:5XMi+z0uo
- (なら、目的はなンだ?)
こう考える事も出来る。
木原は自発的に行動をしているのではなく、誰かからの指示を受け、こうして動いている。
木原数多と言う男を動かせる存在となると、学園都市内に何人もいるとは思えない。
(こりゃ下手すると……統括理事会……いや学園都市そのものが、
打ち止めを使って何かしようとしてるのかァ……?)
ギリッと歯ぎしりをすると、一方通行は口を開いた。
「まず、こっから先は常識が通じねェ事だけを理解してくれ」
「……?良くわからないが、とにかく君を信じれば良いのだな?」
「まァ、そォだな。それにお前が居ればあいつらも止める事が出来るだろォし」
「それはどういう……」
木山の言葉を待たずして、一方通行は通風口を降りた。
そして木山にも降りるように促す。
続いて、降りてきた木山を抱えると、一気に駆け出した。
目的地は、モニターのあった研究室。
最早人目は気にしなくて良い。
何せ相手はアンチスキルでは無いのだから、こちらを捕まえる権限など無く。
そしてこちらが相手に手出しをしなければ、表側の人間が動く事は無い。
途中何人か猟犬部隊と思われる人間と遭遇したが、これを一切無視して突き進み、
木山の言葉も無視して有無を言わさずモニターの中へと駆けこんだのだった。 - 540 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:44:17.70 ID:5XMi+z0uo
- ・・・
『ハァ?一方通行が消えただぁ?』
木原数多は猟犬部隊からの報告を受け、もう一度確認を取る。
『ええ、文字通り消えました。場所は第三実験室です。後木山春生も同様です』
『くは!オーケーオーケー、取り逃がしたかと思って危うくおめーらに
処分の命令を出すとこだったじゃねえか!!
そこで消えたんなら問題ねえ、てこたあアイツはケツまくってテレビん中に逃げたって訳だ!
殺しに日和って逃げだすたぁ情けねぇなあオイ!!』
木原は1人納得していたが、報告をしたナンシーは良くわかっていなかった。
何せ失敗したと思い、今日が命日だなー、と気楽に考えていたのに、
何故か任務成功だと言われたのだから。
『よし、今そこの実験室に居るな?』
『はい』
『その室内の中央に、デケェモニターがあるだろ?それ粉々にぶっ壊してくれや』
『了解です』
ナンシーは終始木原の考えが読めなかったが、その疑問を質問にする事は無い。
余計な口をはさむ事自体が無駄な事であると理解しているからだ。
とりあえずモニター壊せば良いんだな、とライフルを構えながら無線を切った。
そして通信を終えた木原は、用済みの無線をその辺に放り、笑う。
「ったく馬鹿だねぇ、こっちはとっくに目的を捕まえてんのに、まだ必死こいて動きまわってやがる」
笑う木原の視線の先、そこには頭に何か機器を取りつけられた打ち止めの姿があった。
意識は無く、ピクリとも動かさない打ち止めだが、
死んでいると言う訳では無く、確かに呼吸も心臓も働いている。
「ったく、こんな時間なんだからガキはオネムの時間だってのに、
一方通行の野郎添い寝の一つもしてやれねえたぁ保護者失格だなオイ」
木原は1人自分の冗談に笑うと、キーボードを叩きパソコンの液晶を眺め始めた。 - 541 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/09(金) 14:46:15.39 ID:5XMi+z0uo
- 「虚数学区……AIM拡散力場……そして……ペルソナ」
ブツブツと呟きながらも思考を回転させる。
いや、むしろこの呟きは無意識的なもので、思考に全てを注いでいる状態だろう。
それでもキーボードを叩く指の動きは止まらない。
もはや身体に染みついた動きで慣れたものである、と言ったところか。
(『心』と言う自分だけの現実と演算によって事象を歪める超能力。
対して、『心』によって直接現実を歪めるペルソナ……。
そして、現実の理に沿って現実を歪める魔術……)
(魔術と超能力は対を為す存在であるってのは分かったが、
ペルソナと言う存在の立ち位置は……どちらかと言えば超能力寄りだよなぁ……)
(いやむしろ、超能力をもっと広義的なものにしたのがペルソナと言えるか……?
だとすると、学園都市の超能力開発の目的は……イヤ、そりゃいくらなんでも突拍子なさすぎるな)
(……『召喚器』が無い場合、マヨナカテレビの中でしかペルソナを出せない。
マヨナカテレビとこちらの世界、その差はなんだ?)
そこまで思考を続けた所で、ふう、と息をついた。
知らない間に呼吸をしろと言う命令すら脳が行えない程に思考が集中していたのだろうか。
身体が限界に達し、酸素を求める事で思考を一旦中断した。
「マヨナカテレビに虚数学区。ヒューズ=カザキリだったか、それにAIM拡散力場とペルソナ。
この辺の関連性をはっきりさせりゃ、色んな疑問が解決出来そうだよなぁ」
やはり人生はこうでなくてはならない。
分からない事を理解出来るようになる、それが気持ち良くて、研究職についた。
子供の時からそうだった。
どうして車は動くのか。
どうして物は下へ下へと落ちるのか。
どうして生物は息をするのか。
日常の中で『どうして』と言う疑問はいくらでも浮かび上がっていた。
そしてそれを一つ一つ調べ上げ、理解する。
そんなことを繰り返しているうちにいつしか人の身体をもいじくるようになっていた。
少し前までは何故こうなるんだ、と言う事を考える事自体が少なくなっていたが、最近は違う。
魔術に超能力、そしてペルソナと、自身の理解を越えた何かがそこにはある。
木原はそれを確信したものの、理解には程遠いと痛感したが、そこには喜びしかなかった。
(アレイスターの野郎は、どんだけ俺より先に行ってんだぁ!?)
ワクワクが止まらない。と、木原は高らかに笑ってキーボードを叩き続けた。
- 552 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:20:55.93 ID:7T4Cw5wio
- 最初は、上条当麻と影は基本的に殴り合いの肉弾戦を行っていた。
たまに上条が隙をついてオケアノスによる攻撃も放ってはいたが。
つまり、影は上条ともう一つ、オケアノスによる攻撃も視野に入れて立ち回らねばならない。
そんな中で上条は影に大きな隙を作り、オケアノスによる強力な一撃を入れたかに見えた。
しかし、それは影に更なる本気を出させる為の布石に過ぎなかったのだ。
「うらあああああああああ!!!!」
影は咆哮と同時に上条へと向かって駆けあがる。
その背後には天秤を左手に持った『女神』が全身から雷を纏って、
まるで御坂美琴が能力を放つ3秒前のような状態を見ているような佇まいをしていた。
それを見た上条はオケアノスを顕現させ、
まず先にブフーラにてユースティティアに対する迎撃を行う。
しかし、オケアノスを出す為に使う召喚器。これが隙となるのだ。
上条は基本的に召喚器を持って戦っている。
ちなみに召喚器はかなり丈夫なので乱暴に扱っても問題は無い。
と言うのもいちいち召喚器を取り出す暇も無いからなのだが、
それでも召喚する瞬間はどうしても隙が出来てしまう。
上条と影による攻防は目まぐるしく何度も入れ替わっていたが、
やはり上条がペルソナを召喚するのと影がペルソナを
召喚するのではワンテンポ差がついてしまっていた。
その隙を突く事は簡単だが、上条にその隙を埋める方法を考えつかれてはたまったものではない。
隙を突く時は、そこで上条に大ダメージを与える。
そしてその隙を突く瞬間は、今。 - 553 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:22:32.96 ID:7T4Cw5wio
- 影は笑いながら、上条が右のこめかみに召喚器を
突きつけているのに対して、左のこめかみに向かってハイキックを放つ。
対する上条は思わずそれを回避するために
首を下に曲げることで、辛くも影の足を避ける事に成功した。
しかし、
「あっ!?」
上条の頭上を通過した影の足は、上条の右手に持ったままの召喚器を弾き飛ばしていた。
からからと音を立てて弾かれた召喚器は、上条から10mは離れてしまっただろうか。
取りに行くには隙が大きすぎる。
しかし、その一瞬の逡巡すら、大きな隙となっていて。
「あぐっ!!?」
召喚器の方を見やった上条の腹に、思い切り前蹴りを放つ影。
痛みによる叫び、と言うより思わず肺から息が漏れてしまったような
音を出しながら、上条もまたゴロゴロと地に倒れ伏した。
「さぁて、いつまでもあんなオモチャに頼ってんじゃ……ねぇよ!!」
倒れ伏した上条に対して、影は。
―――ボキリ。 - 554 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:23:54.37 ID:7T4Cw5wio
「~~~ッ!!!」
鈍い音が鳴ると同時に、上条は自身の右腕を抱えて声にならないままに叫んだ。
それを見た影は、盛大に笑って嘲る。
「おいおい、まだ右腕がやられただけだろ?足は動くし左も動く。
もうギブアップ何て言うんじゃねえだろうな?」
影は、いともたやすく上条の右腕を圧し折った。
普段から怪我の絶えない上条ではあったが、
こうして骨がポッキリしてしまう事など初めての体験である。
いや、確かに三沢塾に行った際にポッキリどころかバッサリと斬り落とされた事はあったが、
何かあそこまで行くと色々と吹っ切れてしまいアドレナリン全開だった為に痛みはあまり覚えていなかった。
しかし、今回はあまりにあっけなく、あまりに当たり前のように折られた為に、
すぐに現実を受け入れてしまい、それによって右腕から常に電気を流されているかのようなビリビリとした痛みが全身を駆け廻る。
「ぐっ、うぅ……!」
その痛みに耐えようと、残った左腕で自身の肩を抱き、
歯を食いしばる上条だが、チラリと右腕を見やるとあらぬ方向に腕が曲がっており、
新たに追加された関節部は真っ赤に腫れあがっていた。
追撃を入れないのは、影の余裕だろうか。
何にせよ、上条はまだ戦いを止めるつもりはない。
前方のヴェント。
彼女の目的が分からない以上、インデックスどころか学園都市の住人全員が危険の可能性もある。
いや、既にアンチスキルは全滅してしまっているだろうか。
早く戦わねば、早く戻らねばと思い、何とか立ち上がろうとするものの、
少し右腕が動くたびに鋭い痛みが上条を襲う。- 555 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:26:34.96 ID:7T4Cw5wio
- (痛え……くっそ、動くたびにズキズキしやがる……)
しかし、ここで違和感が上条の脳裏をよぎった。
(何で、痛いんだ?)
(いや、腕折られりゃそりゃ痛ぇに決まってる)
(だが、それは現実の世界での話だ)
現実での世界。
上条は確かにヴェントによって意識を刈り取られた。
そして、イゴールの下へとやって来たはずだ。
ならばその世界が現実のはずは無い。
ここは夢の狭間。
(そんな場所なら……!!)
ここは心の世界。
(ペルソナくらい、召喚器に頼らなくても、出せてもいいだろ!?)
ここは信じる心が力となる世界。
とはいえ、それは『この世界』だけの話ではないのだが、
上条はまだそこまでは気付かなかった。
だが、それでも十分だ。
それを見た影は、待ちくたびれたように呟く。 - 556 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:27:22.94 ID:7T4Cw5wio
- 「やっと気付いたか……この場での戦い方ってのによ」
あっちでもそれが出来れば上等なのだが、
凝り固まった常識と言う物は中々覆す事は出来ない。
それは異世界だろうと変わらない。
目の前の現実を受け入れたつもりでも、心のどこかで信じきれない事もあるのだ。
しかし、上条はここだけとはいえ、受け入れた。
そして心のままに、その言葉を口にする。
「ペ、ル、ソ、ナ……!!」
痛む腕に耐えながらの発声だった為にとぎれとぎれになったものの、
その合言葉を口にする事によって発現する。
「オケアノス!!」
召喚器があらぬ所に転がったままに。
上条は何もこめかみにつきつける事無しに。
自発的に『死』を受け入れ、『恐怖する心』を受け入れた。
それにオケアノスも上条の望んだ力を以って応える。
「オケアノス、アムリタ」
上条が唱えると、以前吹寄制理に降り注いだ淡い光が、上条の右腕にも照らされる。
すると真っ赤に腫れあがりあり得ない方向に曲がっていた右腕は、
いつもの真っすぐな状態へと戻った。
それを確認した上条は手を何度か握ると、影を見やる。 - 557 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:27:58.96 ID:7T4Cw5wio
「わざわざ待っててくれるとか、ありがとな」
「悪役は正義の味方の準備が整うのを待つもんだろ?」
「それってお前負けフラグだろ……」
「バカか、そんなテレビみたいな事が現実にあってたまるか。
いつだって生き残るのは生きる意志の強え奴だ。そこに悪も糞もあるかよ」
「そうだな……はっ!つまりやっぱり俺が勝つってことじゃねえか!!」
「バーカ、言ってろ三下!!」
「へっ、そっちこそいつまでもえらそーにしてんなよ!!」
「ブン殴んぞテメェ!!!」
「そりゃこっちのセリフだ!!人の腕へし折りやがってええええ!!」
第二ラウンドの、ゴングが心の中で鳴り響いた。
「オケアノス、ブフーラ!!」
「ユースティティア、ジオンガ!!」- 558 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:28:28.18 ID:7T4Cw5wio
再び、異能と異能がぶつかり合う。
今度は互いに隙は無い。
しかし、ペルソナ同士の戦いではある意味決着がつく事は無いだろう。
何故なら、本質的には上条と影は同一人物なのだから。
それでも、今まで影が上条を上回り続けたのは、
『心』に対する理解の深さの差から来るものだろう。
だがそのアドバンテージは、この場においてのみ、無に帰すこととなった。
上条もまた、本能的にそれへの理解を深めた為だ。
「駄目だな、やっぱ男なら夕陽を背後に殴り合いだわ」
「確かにこんな宇宙みたいな場所で殴り合うのは何か違うよなー」
「いや、俺ぁそう言うつもりで言ったんじゃねーっての!!」
影は相殺されたジオンガを見ると同時に上条の下へと駆ける。
しかし、上条も同じことを考えていたらしく、上条もまた影の下へと駆けて行った。- 559 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:30:12.38 ID:7T4Cw5wio
- ・・・
紫電と氷塊がぶつかり合い、氷塊に遮られた電は四方八方へ霧散していき、
電撃を受けた氷塊は粉々に砕け散っていく。
紫電が辺りを駆け巡り、氷がつぶてとなって降り注いでいる中で、
上条当麻と影はその中を無傷で潜り抜け、互いに肉薄する。
高ぶる心と研ぎ澄まされた神経が瞬間的に身体を動かしたのだろうか、
上条と影は舞うように拳を突き合わせていた。
それを何度繰り返しただろうか。
互いが互いの拳を受け止め、まるで鍔迫り合いの様な状況になる中で、上条は影に笑いかける。
「なぁ……俺は今記憶をなくしちまってるけどさ……」
「あん?」
言葉を紡ぎながらも、上条は掴んだ影の手を離すと同時に影に掴まれた手も振り払うと、
少しだけ後ろに下がり影の顎を蹴りあげる為か思い切り右足を振り上げる。
何だか不意討ちっぽいが、戦いの最中に動きを止める事は致命的になるかもしれない事は
影もわかっているので、上条の言葉に返答しながらも軽く仰け反ってその足を回避した。
「ごめんな、お前の味わった苦しみも、わからなく……てっ!!」
とか言いつつ上げた右足を踵落としする。
謝る気があるのかと問いただしたいが、その言葉からは真摯な思いが込められていた。
それを聞いた影は少しだけ口角を上げるが、軽く踵落としをいなしつつ口を開く。
「はっ、別に謝罪が欲しくて『外』に出てきたわけじゃねえっての!」
「……それ、どーいう……」
右足をいなされた事で若干体勢を崩しながらも地面に踵を叩きつける。
しかし崩れた身体を立て直す隙を、影は逃さず突きながら意地悪そうな笑みを浮かべた。 - 560 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:31:13.22 ID:7T4Cw5wio
- 「おしえ……ねぇっ!!」
「うおっ!?……だけどさ、『死』と向き合って、『死』を体感して、分かったんだ」
影の放った右ストレート、それをスウェーバックで衝撃を和らげると、
顔を回した方向に身体も回すことで勢いを付け、後ろ回し蹴りを影の側頭部目掛けて放った。
「何を分かったって!?」
上条の足は影に届いたかに見えた。
しかし、足の動きに合わせて影も側転した為に、上条の後ろ回し蹴りは空振りする。
そして影は一端距離を取ると、攻撃の手を止めた。
続いて、それを見た上条もファイティングポーズを構えつつも警戒を解く。
「俺が、お前に『死』への恐怖を押しつけていたって事だよ」
上条当麻が記憶を失って、そして上条の影と別れるまでに、
命を賭して戦った事は吸血殺し騒動の時しかなかったはずだ。
しかし、頭で覚えていなくても、心が覚えていた。
『死』の恐怖を影に押しつけながらも、それを見て見ぬふりをしていた自分が居たと言う事を。
そして、それに気付いたのが、召喚器に組み込まれた『黄昏の羽根』を通して『死』と向き合った時。
「人を助けて、怪我して。
俺が怪我するだけで事が済むならそれでいいと思ってたんだけどな……
それじゃ駄目だって事だよな……「誰もが笑って終われるハッピーエンド」、
そんな事考えてたけどさ、俺自身もそこに含まれているつもりになってただけだった。
だからこうして俺とお前が対峙する事になってんだ」
まあ、自業自得っつったらそれまでなんだけど、と上条は自嘲気味に笑った。
上条の謝罪に対して、影もまた笑った。上条の笑みとは違って、楽しげな笑みである。
「……その謝罪、記憶がある時に言えりゃあ説得力もアップするもんだがな」
「そりゃ悪かったな、記憶戻ったら改めて謝るわ。許してくれるかしらねーけど」
「まぁ、その時の態度によるなぁ。なんつーかこう、金一封でも持ってよ」
「……お前って意外と俗物なのな」
「……まぁ、『お前の分身』みてーなもんだしな」
影はそう言ってバツの悪そうな顔をする。 - 561 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:32:40.22 ID:7T4Cw5wio
- その言葉を聞いた上条は鬼の首を取ったかのような顔をすると、
「今、認めたな?お前=俺だって認めたな?」
「あっ」
「だったら話は早いじゃん!戻ってこいよ!!
つーかさっさとあっち戻りたいんだっての!!」
大体、屈服させろってなんだよ!厨二病かよ!
と大笑いする上条だったが、影は自分の失言にプルプルと震えている。
しかしすぐに落ちつきを取り戻すと、軽く溜息をついて背後にいるユースティティアを消した。
「……ハァ。おーけーおーけー、何か疲れた。このまま戦っても埒が明かねえしな。
とりあえず、戻っても良い」
影の言葉を受けて、「ホントか?!」と上条は聞き返そうとするが、それより早く影の言葉が遮る。
「ただし、だ。飽くまでも緊急事態による措置みてーなモンだからな。
色々と事が落ちついたら俺は帰るぞ、第一完全には認めてねえから」
「よし!話が決まれば善は急げだ!!あっちに帰る!!あ、でもどうやって!?」
そしてそんなやり取りを、マーガレットは楽しそうに眺めていた。
「ふふ……戦わずとも、影の心を変える。か……私には出来ないわね。
力が全てじゃないってことかしら」
「……2人が本当の意味で1人になった時、手合わせを願いたいわね」
私より強い奴に会いに行くと言わんばかりの力に対するこだわりは、
やはり力を司る者にふさわしいものであった。
「心配しなくても、すぐ帰れるわ」
そして、マーガレットが上条と影を元の場所へ帰す為に案内をするのだった。 - 562 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:33:23.12 ID:7T4Cw5wio
- ・・・
窓の無いビル。
その中でただ1人の住人である彼、もしくは彼女は、実に人間らしい笑みを浮かべながら、誰に向かって言う訳でも無く呟いた。
「予定の時間より早いが、それによる予想との差異を調べるのも悪くない」
くつくつと笑い、それに合わせてアレイスターを包んでいる液体から、ゴポゴポと空気の泡が浮かんで行く。
―――その時、『学園都市』と言う場は、世界から切り離された。 - 563 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:34:18.85 ID:7T4Cw5wio
・・・
場はオーラス。
手牌は最悪。
垣根提督は今現在、残り17600点。
対して、ゴーグルの少年は30000点。
1位のゴーグルに追い付くには跳ね満以上をツモで上がるか、満貫以上を直撃するしかない。
しかし、ドラは東。
せめて南がドラならまだ何とかなりそうなものだったが。
(金はある、金はあるんだが……こいつにやるのだけは許せねぇ)
チラリと対面に居るゴーグルの少年を見やる。
何を考えているかわからない眼が、ニヤリと歪むのを見て、垣根は軽くプチッと来た。
(ぜってぇ上がる……いや、まずこの場は何とかテンパイして流すしかないか……?)
とはいえ、親は砂皿緻密であり、彼がノーテンだった瞬間終わってしまう。
下家の砂皿を見るが、相変わらず何を考えているのかわからない。
場にはまだ役牌が白と發が1つずつしか出ていない上に、
ゴーグルの少年の手の動きを見る限りでは手が良く進んでいる事がわかる。
(やっぱ早上がり濃厚くせえ……)
切る牌に迷いが無い。真っすぐ最短ルートを目指していると考えて差支えないだろう。
ゴーグルを上がらせず、かつ砂皿に差しこむ。
(いや待てよ、砂皿の捨て牌を見る限りじゃチャンタ濃厚じゃね?)- 564 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:35:29.36 ID:7T4Cw5wio
- ヤオ九牌を一つも捨ててない。
何を考えているかは分からないものの、鳴いてすらいない為、
字牌どころかドラの東を抱え込んでいる可能性もある。
そうなると差しこんで泣きを見るのは垣根だ。
だがしかし、ゴーグルの少年が東を捨て、続いてドレスの少女も東を捨てた。
(まず親の砂皿は東のみで上がる事は無くなった、か……)
順子でも明刻でも構わない。とにかく鳴いてくれれば
何考えてるかわからん砂皿の動きもわかると言うもの。
淡い期待を抱きながら萬子の1を捨てようとした瞬間。
垣根の目の前のゴーグルの少年と、右に見える砂皿が。
「何だこりゃ」
「何よ、これ……?」
思わず呟いたのだが、ドレスの少女も同じような事を呟く。
考えた事は同じだったらしい。
「敵襲?にしちゃ随分突拍子どころか殺気もないな。
つーか何の気配もねーし」
敵襲だとして何故自分達だけが無事なのか。
そして2人が棺桶の様な姿になったのは一体何なのか。 - 565 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:36:07.78 ID:7T4Cw5wio
- 「とりあえず外出てみるか?」
「え、ええ、そうね」
狼狽するドレスの少女を率いて垣根は外がどうなっているのか確認を取る事にした。
「あ、その前に」
垣根はドレスの少女の後ろを通り、ゴーグルの少年が居た所まで移動すると、
「やっぱ中握ってやがったか……つーかもうテンパイだし」
犯罪は見つからなければ犯罪ではないし、
イカサマも見つからなければ……いや、例え見つかっても黙認されればイカサマではない。
サムズアップするドレスの少女を見るのと同時に、
垣根は中で出来た暗刻を王牌の3つと入れ替えた上に、
ゴーグルの少年の捨て牌と手牌をぐちゃぐちゃに入れ替えると言う鬼畜も真っ青な所業を為した。
「よし、これでこいつがこっからテンパイすることもねーだろ」
「そうね、後は私達がノーテンで終われば、
砂皿さんがテンパイしようとするまいとこの局は千点以上の被害はない、と言うことね」
利害が一致した、と言う事だろう。
2位のドレスの少女と3位の垣根。彼らはこの場においてのみ同盟を結んだ。
「ああ、だがこの後からは敵通しだと言う事を理解しておけよな」
「ええ、分かってるわよ」
こんな異常な状態の中、いつまでも冷静な垣根を見て、ドレスの少女も落ちつきを取り戻したのだろう。
先程の狼狽はどこへやら、隠れ家の出入口へと向かう垣根にドレスの少女も迷わず追従して行った。 - 566 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/13(火) 19:37:15.45 ID:7T4Cw5wio
- ・・・
「生まれてから死ぬまで、いつだって俺は俺だけの味方だよ」
成程、台詞はカッコイイのだが、半裸でブーメランパンツのみと言う装備で言われても説得力に欠ける。
麦野沈利は辟易した表情で映画を見続けていた。
相変わらず絹旗最愛はワクワクした面持ちで映画を眺めている。
「生きるも死ぬも自由だ。立ち向かう事も逃げる事も出来る」
「だが、お前が例え死んでも何も変わらない。世界は変わらず回ってるだろうさ」
「だが、お前が生きているのであれば、きっと何かを変えられるはずだぜ」
やはりカッコイイ事を言っているのだが、彼は半裸なのだ。
これを作った脚本家と監督に今すぐ物申したい。「真面目に作ったの?」と。
だがしかし、役者の演技力自体はかなり高いもので、
金ばかりかけてイケメンタレントを映画に出演させるよりも、
この役者を安く使った方が儲けも出るのではと思うほどだ。
(私が生きても、何も変わらなかったっつーの)
あれは映画、あれはフィクション。
それは分かっているものの、その台詞に何か思う事があったのだろう。
脳内で毒を吐きつつも映画を見続けていたのだが。
唐突に、ブツリとテレビが切れた。
そして全身にザワザワとした違和感が走り、思わず辺りを見渡すと。
「滝壺!フレンダ!?」
先程まで寄り添って寝ていたはずの滝壺理后と
フレンダ=セイヴェルンの居た場所には二つの棺桶があった。
そしてその場に残ったのは、麦野と絹旗。
「これは……超敵襲ですか?にしても物音どころか殺気の一つも感じませんが……」
「分からない。分からないけど……とりあえず、外に出てみる?」
コンコンと棺桶を叩き、丈夫な何かで出来ているらしいと言う事だけを確認すると、麦野は外に出て行く為か上着を着込んでいた。
それを見た絹旗もポップコーンに洗濯バサミで封をしてテーブルの上に置く。
「まずはこの超異常現象の中、私達みたく無事な人を超探してみるって事ですよね」
「そゆこと。何となく、これが私達を狙った事って訳じゃなさそうな気がするしねー」
修羅場には慣れている。
麦野と絹旗は散歩に出るかのような気軽さで外へと向かって行った。
- 571 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:22:58.59 ID:61qfjt2Qo
- 桐条御一行が誰もいないゲートを潜り抜け、
学園都市入りを果たしてからしばらくの事である。
懐かしいあの感覚が一同の身体を駆け廻った。
「これは……!」
誰とは無しに辺りを見渡す。
まだ零時では無いと言うのに、表の時間はなりを潜め、裏の時間が影を出した。
「待て待て!まだ影時間には早すぎじゃねーのかよ!?」
伊織順平が、皆が同時に抱いた疑問を叫ぶ。
しかし、それに答えてくれるものなどおらず、
結局は自分達のすべきことをするだけであるという結論に達した。
すべき事、それは影時間に誘われた者の救助。
はっきり言って、この現象自体を止める事は不可能だった。
何より情報が足らず、今日と言う日に影時間が来る、と言う事しか分からなかったのだ。
とはいえそれだけ分かったのも僥倖で、後は何も知らない人間を助けることと、この事態に一方通行も動いているはずなので、
彼と合流し今後の方策を考えることの二つを同時に行おうと言うのが一同の考えである。
とはいえこの学園都市はかなり広い上に連絡を取ろうにも影時間では普通の機械は動かせないし、
事実岳羽が懐から出した携帯も動かなかった。
やはり、『黄昏の羽根』を組み込んだ無線機しか使えそうにないらしい。 - 572 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:23:32.23 ID:61qfjt2Qo
「さて、とりあえず4人二組に分かれるか……」
ここでどう分かれるかはかなり重要になって来るため、
桐条美鶴は慎重にそのメンバーを選び出す。
「山岸程ではないが私にも索敵能力はある。
それ故に山岸と私は分かれて行動しようと思うんだが、どう思う?」
「そうですね、私もそれが良いと思いますよ。
それなら戦闘面も考慮して、私は風香さんの方に行きましょうか」
「それじゃ、男女のバランスも考えて僕とコロマルもお2人の方に混ざりますね」
「何だか適当な感じはするが……まあ確かにバランスは取れているか……?」
「まあ何とかなるでしょ!天田君はしっかりしてるし、アイギスの手綱を握ってくれるはず!」
真田明彦が思案顔をするが、岳羽のそんな言葉にすんなりと納得し引き下がった。
何だか後半は割と適当だったが、そんなやり取りをして
4人ずつのパーティを二組作って行動を開始した一同であった。- 573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/09/16(金) 11:23:39.32 ID:WJOQN2reo
- リアルタイム遭遇ktkr
- 574 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:24:51.83 ID:61qfjt2Qo
・・・
時は少しだけ遡り、学園都市に影の時間がやって来る前の事。
土御門元春は学園都市の外でただ一人、剣山のように大量の杭が刺さっている中で、
杭の一つにもたれかかり気だるげな表情を浮かべていた。
何故学園都市の外に居るのかと言うと、勿論魔術師関連である。
ローマ正教が誇る『神の右席』が1人、前方のヴェントが学園都市に侵入した。
それが学園都市における現状ではあるが、
いくら戦力に自信があろうとも本当に彼女だけが単騎で攻め込むだろうか?
結論から言えば、それはあり得ない。
まず間違いなく学園都市の外で他の魔術師が待機し、制圧する準備でもしているだろう。
学園都市を本気で制圧するなら数で押すなりなんなり出来ると言うのに、
それをしないのはヴェントと言う人間の力がそれほどまでに圧倒的なのだろう。
すなわち、学園都市の周囲にはヴェントが先攻した「後始末」をするだけの人員しか配備されていないのかもしれない。
兎にも角にも、ヴェントの扱う術式が一体どんなものなのかすら、土御門は分かっていなかった。
そして今、土御門は学園都市の外にてとある術式の破壊に成功した。
恐らく、学園都市内部で動けなくなった人間達を、
目の前に広がっている杭のにて串刺しにしていくつもりだったのだろう。
しかし、それは阻止した。
後はヴェントを何とかしなければならないのだが。
(カミやんは無事なんだろうな……?)
まず第一に上条当麻、インデックス等が狙われると考えて間違いないだろう。
ある意味、学園都市制圧は事のついでと見ても良いはず。- 575 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:26:46.21 ID:61qfjt2Qo
- それでも学園都市の中には、舞夏が居る。
彼にとって、彼女の無事を確保する事が最優先事項であった為にこうして術式の破壊を行った。
しかし、それを行う為に何度か魔術を使ってしまった為に、既に身体はボロボロだった。
土御門は血の塊を吐きだすと、自身が出てきた第三ゲートから再び学園都市に戻ろうと身を翻す。
しばらく重たい身体を引きずるように走っていくと、
視線の先から車のヘッドライトが見えたので、
思わず木の影に隠れその車がなんなのか確かめる。
そこには山道に似合わないような面長な車体をしたリムジンが目の前を過ぎ去っていった。
遠目に見る限りでは黒塗りの窓である為に、運転手が乗っていると言う事しか分からない。
(リムジン……?)
どこのどいつだ、と土御門は思うがどうやら土御門を探している訳でも無く、
学園都市に行くのが目的であるらしい事から何処かのお偉いさんが
ノコノコやって来たという事だろうか。
魔術師、と言う可能性も考えたが、あのような目立つ車に
乗って来るだろうかと思ったら、それは無いと考えた。
(敵なら排除すればいい、か)
どの道ここからならあのリムジンに追いつくことなど出来ないのだから。
隠れていた木の陰から身体を出して、再びゲートへと向かう。
しばらく歩を進めると、先程のリムジンも第三ゲートを目指していたのだろう。
リムジンがゲートの前に止まっていた。
どうやら中に乗っていた人間は既に学園都市入りを果たしたらしく、
そこには運転手しか居ないようだ。
(さて、接触すべきか否……ッ!?)
瞬間、全身を衝撃が駆け抜けた。
突然受けた謎の攻撃に、土御門はゴポッ、と音を立てながら血を吐きだす。 - 576 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:30:05.26 ID:61qfjt2Qo
- 一体何が、と考える前に背後から爆発音。
恐らく先程まで居た木の杭が破壊されたのだろう。
敵の魔術師による攻撃にしては随分となおざりな攻撃だった。
リムジンの運転手も物音であたりを見回していた。
みたところ執事の様な姿をしていることから、
何処かのご令嬢でも学園都市に連れて来たのだろうか。
それでもここにとどまっている、と言う事は
そのご令嬢も用事を済ませばすぐに帰るつもりだったはずだ。
兎にも角にも、その執事の様な人間は無事だった。
(となると……?!)
思考を進める前に、学園都市に起きた異変に気付く。
(アレイスターの野郎……使いやがったな……!?)
はるか遠くに見える、学園都市内部に展開されている光の翼。
開かれたゲートのほぼ真下に居る為、そのゲートから無数のそれを見る事が出来た。
それだけで、思わず呼吸が止まる。
人工の天使。
魔術師の排除。
しかし、魔術の排除は、飽くまでも副次的なものに過ぎない。
あれの本質は、AIM拡散力場の集合体。
言うなれば、心の欠片を無理矢理一つにまとめ上げた『人工のペルソナ』。
更には虚数学区・五行機関。
学園都市を中心に収束し、世界中にばらまかれた妹達によって
拡散されたAIM拡散力場を制御する事で生み出される『人工の界』。
あの光の翼を纏ったペルソナは、言うなれば『妹達のペルソナ』と言う事だろうか。
しかし、恐らくそれは飽くまで便宜上の話で、あらかじめプログラムされた機械か何かで
その制御を奪われていると考えて良いだろう。 - 577 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:32:17.28 ID:61qfjt2Qo
- 更に言えばあの『界』は、まだ完成していないはずである。
『界』の完成とは、あの世界がAIM拡散力場と言う心の集合体によって造られた世界であり、
その世界では現実の理が歪められオカルトは悉く消滅するはずで、
しかし現に土御門と言う魔術師はまだ生きている。
とはいえ、学園都市の外に居る土御門ですらダメージを受けたのだから、
学園都市内に居るヴェントがどうなるかなど考えるまでも無い。
そして何より、あの世界では、『適合者』でなくてはまともに動けない。
そういう風に造られているはずだ。
(と言っても、完成された『界』では無い所を見ると、いくらかのイレギュラーはありそうだがな……)
未だにうろたえているリムジンの運転手の前に土御門は姿を現す。
暗がりから見える血まみれの土御門は最早ホラーの域に達しているだろうが、
狼狽するリムジンの運転手をなだめつつゲートへと向かった。
しかし、ゲートは開かれていると言うのに、
見えない壁がその場を区切っている、と言えば良いのだろうか。
全く先に進めそうにない。
無駄だと分かりつつも、身体を蝕む魔術を行使し、ゲートの上へと向かってみる。
しかし、ゲートの上もドーム状に学園都市を覆っているのか、透明な何かがそこを遮っていた。
(クソ、何も出来そうに無いってのか!?)
ガリガリと苛立ちを抑えるように頭を掻くと、再び地面へと降りたつ。
すると先程のリムジンの運転手がこちらへと話をかけてきた。 - 578 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:33:18.29 ID:61qfjt2Qo
- 「恐らく、『影時間』の最中なのでしょう。
本来私どもはそれを感知することすらできないのですが……
学園都市はどうやったか知りませんが、学園都市にのみ影時間を迎えさせると言う事をやってのけたのだと考えられます」
「……待て、影時間、だと?」
「その通りです、先程は初めての事にうろたえましたが、美鶴様の言う通りの事が起きたようですね」
「美鶴……成程、桐条か……」
「おや、よくご存じで」
「職業柄、お偉いさん方の名前と顔位は一致させてるさ」
どうやら、ここでリタイアらしい。
ストン、と土御門はその場に座り込んだ。
(後は任せるしかない、か……)
土御門はこれ以上介入できそうも無いと言う事実を確認すると、
恐らく学園都市入りをしたであろう桐条美鶴に後を託すのであった。 - 579 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:34:14.42 ID:61qfjt2Qo
- ・・・
ヴェントは倒れ伏した上条当麻に一瞥もくれず、その場を去ろうとしていた。
しかし、しばらく歩いたところで背後から気配を感じる。
誰だ、と思うよりも早く、条件反射的に後ろを振り向いたところ、
そこには驚愕すべき光景が広がっていた。
「アンタ……不死身か何か?学園都市の実験で生み出されたバケモノ的なサムシングなの?」
「いや、残念ながらふつーの高校生ですが何か?」
そこには、先程自身の術式を受け倒れた上条の姿があった。
ヴェントは少しうろたえるものの、それをおくびにも出さずに上条へと問いかける。
「ふつーの高校生が、私の術式喰らってヘーゼンとしてて良いはずが無いっての!」
ヴェントが上条の身に起きた事を確認すべく、ハンマーを振るい風の塊を上条へと飛ばす。
今までは頭に拳銃を突きつけ背後から異形を出し、
その異形の力によって攻撃を回避していたと言うのに。
今の上条は右手をかざすだけで攻撃を受け止めた。
つまりは。
「何?ご都合主義的な漫画によくある力の復活とかそんな感じ?」
「まあそういう解釈でもかまわねーよ!」
上条は念の為左手にて召喚器を扱う。
そして背後から、出てきた異形は。 - 580 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:35:33.30 ID:61qfjt2Qo
- 「アンタ、さっきの剣持ったデカブツはどーしたっての?」
「あ?……あれ」
上条の背後に居たペルソナ。
それは今まで暴走時に上条の身体を乗っ取っていた存在の、クロノスと呼ばれるペルソナで。
今は上条の指示を待っているかのように静かに佇んでいた。
「んん……?オケアノス!」
何か怖い。チェンジ。
そんなことを思いながらオケアノスの名を叫ぶ。
すると今までお世話になった、剣を持ったペルソナが現れた。
「おー、これこれ……」
とここで、上条の動きが止まる。
ヴェントは一体何なんだ、と言った様子でジッと上条の事を眺めていた。
そして、当の上条は心の中に響き渡る声を聞いていた。
それは先程まで殴り合っていた自身の片割れの声。
と言ってもそれはヴェントが知る由も無い事なので、
ヴェントからしたら何も無いのにしきりにうんうんと頷く上条の姿しかなく、何だか気味が悪い。
そうしてようやく上条は動き出す。
「よし、それなら行くか!ユースティティア!ジオンガ!」
「なっ!?」
すると今度もまた別の異形が現れ、紫電がヴェントへと向かって解き放たれる。
ヴェントは瞬間的に風を操り雨水をも操ることで上条の電撃を雨水で受け止め、
電流の流れる方向を逸らすことで攻撃を受け止めたのだが、
ヴェントの表情は驚愕に染められていた。 - 581 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:37:07.41 ID:61qfjt2Qo
『幻想殺し』は、復活した。
それも何か別の異能を携えた状態で、だ。
幻想殺しはその性質上能力も魔術も使えない。
だと言うのに、今現在上条は異能をも操っている。
右手にしか宿らない幻想殺しの倒し方などいくらでも考えつくが、
それだけでは無く何か別の力も操るのでは、彼を倒すのは一筋縄ではいかないだろう。
元々確定事項だった事だが、ヴェントの決意は更に固まる事となる。
(こいつは、ここで確実に殺す!!)
それを決め、いざ攻撃に移ろうとしたところで、学園都市に異変が生じた。
「ゴハッ!?」
辺りに倒れ伏していたアンチスキル達は1人残らず棺桶の姿へと変貌し、
更にはヴェントが突如として苦しみながら血を吐きだし始めた。
そして上条の視線の先には、無数の光の翼が空へと向かっていた。
あの光の翼を見て、上条は反射的に思った。
(シャドウ……!?いや、ペルソナか……?)
なんにせよ、すんごく強そう。
それよりも、目の前の魔術師。
死人に鞭打つ、とはこのことか。
明らかに苦しんでいる人間を殴るのは心苦しいが、意識を失う前に放った言葉は、
間違いなく事実でヴェントは遊び半分に人の命を奪う事すら出来る人間に違いない。
そう考えるとここでヴェントを倒さねばと思う。
何より、右手の力と共に影がいつ出て行くかもわからないのだから。
(事が落ちついたらってーと、こいつ倒したらって事でいいんかな……?)
そんなことは後で考えるか、と思考を切り替え、一気にヴェントの下へと駆けあがる。
「ぐっ、がぁああぁぁぁ!!!!」
しかしそんな上条への牽制の為か、ヴェントはハンマーを
二度、三度と振りまわし、辺りに風をばらまいた。
それを防いでいる間にヴェントは路地裏の中へと駆けこんで行き、
上条がその路地裏へと入った頃には既にその姿は分からなくなっていた。
「……何なんだ……?」
その呟きは、様々な疑問が一緒くたになって現れた結果だろう。
本当に、何なんだ一体。- 582 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:38:53.14 ID:61qfjt2Qo
- ・・・
第七学区のとある立体駐車場に、10台ほどの巨大な病院車が鎮座していた。
その車体は観光バス程の大きさなのだが、窓が無く、
1台につき10人の人間を収容できる生命維持装置付きのベッドが完備されている他、
簡易ながらも手術をする為のスペースも各車両に搭載されており、
これをフルに使えば単純に100人の患者をこの場に置いておく事が出来る。
そんな車両の陰に、3人の小さな影があった。
妹達だ。
少女達は常盤台の制服には似合わないアサルトライフルやら対戦車ライフルやらを武装しており、
彼女らは今現在、木原数多なる人物が放った猟犬部隊と言う暗部組織の警戒をしている。
そんな中で、ある2人の少女の声が響き渡る。
「放してほしいかも、短髪!街の様子は何だかおかしいし、
あくせられーたも何処かに行ったみたいだし、私はここで何が起きてるのか調べないといけないかも!」
「だーかーら、それが危ないって言ってんの!
あんたはここでおとなしくしてなさいよ!私だって動きたいのに!」
インデックスと御坂美琴だ。
一方通行の治療を行う為の道具をもらおうとしたインデックスをなし崩し的に保護した訳だが、
その後すぐに御坂という護衛と合流したのち、この場までたどり着いたのだ。
今のところ敵襲が無い所を見ると安心して良いのかもしれないが、
敵が敵なので警戒は固めるに越した事は無い。
しかし、2人はまだ気付かない。
象徴化した医者と患者達と、妹達の異変。そして無数の光の翼に。 - 583 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/16(金) 11:39:42.30 ID:61qfjt2Qo
- 少女達が口論する中で、妹達はそれを止められそうにないと判断した。
まともに首すら回すことが出来ない程に、身体が何かに縛られたかのごとく動かない。
最終信号からの緊急コードだ。
この命令には下位個体である妹達は抗う事が出来ない。
一瞬にして脳の稼働領域を奪われた彼女達は、
ただ呼吸をおこなうだけの生物と化し、各々がその場に固まっていた。
どうする、それは妹達全員が同時に思ったことだ。
例えば奪われた演算領域を取り戻す為の抵抗を止めるとしよう。
そこから出来る1人1人の演算区域はさほど広いものではないが、
それを1万人分集めるとなると話は違う。
1人分の演算能力を補助する程度には脳の稼働を取り戻す事は可能である。
しかし、誰の演算能力を取り戻す?
そんな中、1人の声が、ミサカネットワーク上を巡った。
『ミサカに、皆さんの演算領域を貸しては頂けませんか?と、ミサカ9982号は提案します』
別にそれは構わないのだが、何故?と言う疑問が浮かび上がる。
だがしかし、それに答えている暇も無く、9982号の提案を断る理由も存在しないので妹達は一瞬にして一致団結した。
『―――ありがとうございます』
薄れゆく意識の中、9982号の声を聞いた。
そして妹達の1人である10032号は、確信を持つ。
(やはり、9982号や一方通行の抱える事情と関わりがある、と言う事ですね……)
色々と調べてはみたが、ろくに調べは進む事が無かった。
やっぱり直接問いただした方が早い気がする。
(あの似非忍者は無事なのでしょうか……)
もはや深く何かを考え込む程の演算領域は残っていない。
最後に残った意識の残滓は、自身の我儘に嫌々ながらも付き合ってくれていたお人よしの忍者を想っていた。
- 589 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:38:32.97 ID:lqTf1nfxo
- 「ふう……ようやく動けるようになりました。と、ミサカは現状を確認します」
妹達の1人である9982号はミサカネットワークの力を借りて、
上位個体から送られてきた命令(便宜上これをウィルスと定義した)によって演算領域のほとんどを奪われていたのだが、
その残った演算力を全て9982号に回すことで動けるようになったのだ。
なんにせよ、この分だと上位個体は敵の手に落ちたのだろう。
とはいえ、この上位個体の命令文こそが
彼女の生きている証となっているのは何とも皮肉な話である。
そして、今。
9982号は未だに雨にぬれたコンクリートの上に横たわっていた。
先程のウィルスコードのせいで少しの間とはいえ「立て」という命令を
脳から送る事が出来ない程にまで演算力を奪われてしまったからだ。
突然の出来事だったので、芳川桔梗から逃走を図っている最中だったと言うのにそれはもう無様に、盛大にこけた。すりむいた傷が痛い。
とりあえず、元々雨に打たれてずぶ濡れだったので
今更水たまりの上を這おうとも何とも思わない。
しかし、しかしだ。
9982号はうつ伏せに倒れたままじろりと背後を見やる。 - 590 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:39:22.73 ID:lqTf1nfxo
「……いつまでも勝ち誇ってないでそこからどいてもらえませんか?重た「何か言った?」……いえなんでもないですと、ミサカは慌てて訂正します」
「あら、せっかく勝利の余韻に浸っていたのに。仕方ないわね」
そこにはドヤ顔しながら足を組んで9982号を椅子にしている芳川の姿があった。
芳川は、先程まで見事なダッシュをしていた9982号が突如として転倒するので少し疑問に思ったのだが、
とりあえず疲れたので9982号を椅子にする事にしたのだ。ミサカネットワークで会話している間もずっと。
「とりあえず、緊急事態みたいね」
「あ、分かった上でその態度なんですね。
と、ミサカはいつまでもどかない芳川を振り落とすべく身体を揺すります」
「わわっ……もう、そんなに焦っても事態は好転しないわよ?」
9982号が懸命の抵抗をするので、芳川は渋々ながら立ち上がると、
誰もいない大通りを見回して怪訝そうな表情を浮かべた。
「この感じ……」
「どうしたんですか?と、ミサカは芳川に尋ねてみます」
「それがね、私が初めてマヨナカテレビに行った時と同じ感じがするのよ……」
少し考え込む芳川だったが、すぐに納得した表情に切り替わり、9982号へ向けて口を開く。- 591 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:40:43.83 ID:lqTf1nfxo
「そう、シャドウの力を感じた時みたいな……」
「……え」
嘘だ、そんな短い単語が口から飛び出すよりも早く、
芳川の言葉の証明になる出来事が起きた。
対面して話をしている9982号の視線の先、
すなわち芳川の背後およそ30m程先だろうか。
そこには明らかに人間じゃないだろうお前、と言った姿をした異形の姿があり。
それはマヨナカテレビで色々とお世話になったにっくきシャドウの姿であった。
「ッ!!ペルソナァ!!」
それを見た9982号は条件反射的に自身のペルソナであるワカヒルメを召喚しようとするのだが。
「……」
何も出てこなかった。- 592 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:41:30.94 ID:lqTf1nfxo
- 「……ブフッ、「ペルソナァ!」ですって」
それを見た芳川は思わず噴き出す。
あたかも結果が分かっていた上で、
9982号の言葉を止めることが無かったかのように。
芳川の笑いを見た9982号は、羞恥に顔を赤らめながらも芳川に対して文句を言った。
「どーいうことですか!!説明を要求します!と、ミサカは芳川に苦言を呈します!!」
「この感覚はね、私がペルソナを使えるようになる前に感じた感覚なの。
あれを使えるようになってからはもう少し鋭敏な感じになったわ。
でなきゃここまでシャドウの接近を許すはずが無いじゃない」
9982号にもわかるように、簡単に説明する芳川。
しかし、芳川の言葉通りにシャドウは着実にこちらへと這い寄ってきていた。
「な、成程ですね……ってことはミサカの能力だよりって事ですか?!」
「そう言う事。まあ、レベル2とか3で何処までいけるか……試してみる?」
「いえ、逃げます」
「その言葉が聞きたかった」
同時に、2人は同じ方向に走り出す。
今度は2人とも逃走する為に。 - 593 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:42:53.72 ID:lqTf1nfxo
・・・
「全く、何だこりゃひょっとして夢でも見てんじゃねーのか?」
「夢か現か調べてあげるわ、えいっ」
パシン、と頬を叩く音が響き渡るが、
その音は2人が歩く事によって起きる水たまりを踏む音と混じり合い溶けて行った。
しかし、ドレスの少女の痛烈な平手を受けた垣根提督からすると
文字通り肌で体感した訳で、突然の痛みにそれを行った本人をギロリと睨む。
「痛ぇじゃねぇか、殺すぞ」
「良かったわね、これが夢じゃないって分かって」
少し不機嫌そうな顔をする垣根ではあったが、
あまりに飄々とした態度をするドレスの少女を見て、げんなりとした表情を浮かべた。
「畜生……未だに人も居ねえしあるのは棺桶だけだし、
アレイスターの野郎またろくでもねぇこと始めやがったな?」
「あなたって任務の時もそうだけど、
身の危険が及ぶたびにアレイスターのせいにしてるわよね」
「バカ野郎、俺に降りかかる不幸は全部アレイスターのせいだろうが。
そうだと思わなきゃやってらんねーよ」
盛大な舌打ちをしながら、垣根は雨の中を歩く。勿論傘はさしている。
割と歩いてみたのだが、日が落ちたとはいえまだ21時を回ったところだろうか。
全く人の気配を感じさせない。
それどころかこの時間ならまだ空いているであろうコンビニなどにも明かりはともっておらず、
そんな中で街灯だけが不気味に街を照らしていた。- 594 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:43:43.87 ID:lqTf1nfxo
- 「にしても、ここまで何も無いとホラー感じるわよね。
学校の怪談とかだと町に出たら全員のっぺらぼうだったとか」
「あー、鏡の世界だったか……
そんな映画もあったっけなあ。人面犬とかかなり強烈だったわ」
「あれって結構シリーズ続いてた気がするけど、どの辺まで行ったっけ?」
「4だったか?俺は3までしか見た記憶ねーけど。3がのっぺらぼうの奴だよな?」
「あー、それなら多分私も3までしか見てないわね。私も3つしか見た記憶ないわ」
「何かなついな。久々に見たくなった」
「でも科学に染まった今、それを見てもあんまり怖く感じない気がするんだけど」
「ハッ、そんなもんその場のノリだろ?」
「ウギャー!とか間抜けな悲鳴を上げるのなら一緒に見てあげても良いけど?」
「……俺の役者魂に火を付けたぞ、その発言」
DVDボックスが確かあったはずだ、と自身の記憶を探る垣根を見て、どんだけ詳しいんだとドレスの少女は微笑んだ。
非常で異常な事態の中で、何処までもマイペースに街を歩く。
しかし、そんな中でその和やかなムードを引き裂く『ナニか』が現れた。 - 595 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:45:11.08 ID:lqTf1nfxo
- 「なんだあれ……」
ぼんやりと遠くから何かが見える。垣根もまたぼんやりと呟いた。
ガシャガシャと鎧がぶつかり合うような音が、
こちらに近づくにつれて大きくなっていく。
それは騎士だった。
いつか一方通行がテレビの中で相対した漆黒の騎士を、
真逆の真っ白にしたかのような姿をしたそれは、『征服の騎士』と言う名のシャドウであった。
しかし、そんなことを垣根やドレスの少女が知る由も無く。
「俺に武器を向けてるっつーことは、戦るって事だな?」
純白の羽をはためかせながら、垣根は獰猛に笑った。
その羽を見たからかは知らないが、
鉄の塊のような馬にまたがる騎士は、2人に向かう速度を上げてきた。
しかし、いざ戦らん!と言った状態まで気力を高めた垣根に対して、ドレスの少女が取った行動は。
「ストップ!駄目~!!」
「ぐふっ!?」
垣根の背後からのフライングヘッドバッドだった。
それにより盛大に転倒する垣根だったが、
彼らの頭上を突進して騎士は通りすぎると、その身体を急停止させている。
そんな中で、尤もな文句を垣根はドレスの少女に対して言った。 - 596 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:46:34.40 ID:lqTf1nfxo
「何しやがる!?」
「駄目……あれは違う……人間じゃない……」
「あ?」
自身の背中でプルプルと震えているドレスの少女を一瞥すると、
彼女を背中からどかした後に騎士の方を見やる。
何か能力でも使って馬に模した鉄の塊にでもまたがっているのかと思っていたのだが、
近くでよく見るとそうでは無く、鉄の塊そのもののように見えた。
しかし、それならば鉄の塊を遠隔操作でもしていると考えるのが一般的な見解だろうに、
彼の目の前で震える少女は、明らかにあれが「人間ではない何かである」と断言した。
しかもそれはただの無機物に向けるべき感情ではない、『恐怖』をその何かへと向けている。
「どういう事だ?」
再び騎士がランスを構える中で、垣根は冷静に尋ねた。
「ただの無機物なら、私の『心理定規』は作動しない。
更に言えば普通の動物……犬とか猫とかでも一応私の能力って適応されるんだけど……」
心理定規と言う、対象の心の距離を測ったり操作したり等するこの能力。
それは動物等にも適用される。
例えば飼い犬と飼い主同士の心の距離を図ることだってできるし、
野良犬を飼い犬のごとく従順にさせることや逆に飼い犬を野良犬のごとく警戒心丸出しにする事も出来る。
そんな能力を持ったドレスの少女は、
敵対するにあたってとりあえず自分との心の距離を測ってみる。
赤の他人に対して意味があるのかと問いかけたいが、
よっぽど鍛えられた相手ではない限りは殺意の度合いから、
金を積めば退いてくれるのかやら逆に確実に仕留めないといけないやら、
そう言った情報を引き出すことが出来るのだ。
そしてその能力を、『征服の騎士』にも使った結果。- 597 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:50:42.55 ID:lqTf1nfxo
- 「あれには確かに心がある……いえ、その表現は正しくないわね……
言うならば、『心そのもの』だと思う」
「ハァ?」
どういう事だ、と尋ねる間にも、騎士はこちらめがけて再び突進してきている。
垣根は舌打ちをしながら、彼女の話を聞く為に一旦空へと回避しようと
再び翼を展開してドレスの少女を小脇にかかえて飛び立った。
「……もうちょっとイイ感じの抱え方は無かったの?」
意外と力持ちだな、とドレスの少女は思う。
と言っても自分はそこまで重くは無いはずだと脳内で訂正を入れる。
それに続いて、お腹を抱えられ、両手両足をだらんと地面の方に向けながら
不平を洩らすドレスの少女だったが、垣根は完全にその言葉を無視して続けた。
「で、どういうことだ?」
「……何て言うか、人間って複雑な感情が一緒くたに混ぜられてるから、
一度測ってみるだけでも色々と距離がわかるのよね。
それで、例えただの動物を相手にしても人間程じゃないけど、
対象にした者に対する心の距離をそれなりに見ることが出来るの。
でもね、あれは違った。あれには一つしかなかった。
どんなに心を殺した人間にも、あそこまで洗練できるはずが無い。
ましてやただの無機物から観測出来て良いはずが無いのよ」
「……1つってーと?」
「……食、欲」
「……うげぇ」
どう表現したらいいのか分からなかったのか、
ドレスの少女は言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いたが、垣根はその言葉にドン引きした。 - 598 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:51:36.51 ID:lqTf1nfxo
「……いや、食欲が一番近いと思ったけど、
何て言うか食事したいって意味じゃないのよね……」
「ホントにどういうことだよ?」
「私にだってわからないわよ……
ううん、存在その物が欲しいって感じかしら……」
だらしなくぶら下げられた両手のうち右手を顎に置いて考え込むドレスの少女。
彼女の言葉を反芻させながら、今までに起きた現象について垣根も考察する。
「……わかんねぇな。あの変な騎士に、俺ら以外の棺桶姿。それにあの光の……翼?」
「まず、私達以外にも無事な人はいるはずだと思うから、
その人達を探した方がいいと思うわ」
「まぁそれが懸命だろうな。あれに話が通じるとは思えねーし」
ドレスの少女の提案には文句も無かったので、
そのまま翼をはためかせて雨空の中宙を舞い始めた。
傘は、2人ともとっさの事に捨ててしまっていた為に、前方からの雨が冷たい。
「ところで、この抱え方って何とかならなかいの?」
「お姫様だっことこれ、どっちがいい?」
「……お姫ひゃわあああああ!!」
彼女の言葉は、飛行速度を上げた垣根によって遮られてしまうのだった。- 599 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:52:31.80 ID:lqTf1nfxo
- ・・・
「なンですかこれ!この超B級感漂うモンスターはなンですか!?
もっと手作り感の沸く超C級モンスターは居ねェンですか?!
いつまで出てくるンですかこれ!?」
「うるせーよ絹旗ァ!!こっちが聞きたいってのそんなことは!!」
「麦野も実はC級映画が超好――」
「私が言ってんのはそういう話じゃねー!!」
悲鳴のような叫び声を上げながら、
麦野沈利は自身の能力である『原子崩し』を放つ。
その対象は突如として現れた異形。
1体1体はそこまで強くないのだが、
こうしてワラワラと出てこられては非常に面倒だ。
一方の絹旗最愛も、そこらの街灯を引っこ抜いて無双をしていたが、
そろそろ電柱の方が限界に達しそうであった。
「あー、そろそろ限界ですねこれ!
次はガードレールでも使ってあのクソ共ぶつ切りに……!」
手に持った街灯を思い切り投合する。
その射線上に居たシャドウを3、4体程巻き込んだところで街灯は動きを止めた。
そうして空いた両手で近くにあった5m程のガードレールを引きぬくと、
まずはくっついてきたコンクリートでシャドウを叩き潰し、
ブチュリと言う嫌な音と共にコンクリートを砕いて行く。
続いてガードレールの平べったい部分を使って
再びシャドウをその重さを以って叩き潰していく。
まるで北斗神拳でも喰らったかのように異形達は次々と潰されて行く中で、麦野はもっと派手に敵を殲滅していた。 - 600 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:54:38.31 ID:lqTf1nfxo
- 「麦野のそれは、相変わらず凶悪ですね!!」
「あんなグロテスクに叩き潰してるお前の力もどうかと思うけどな!!」
その点一瞬で蒸発させる私の方が良心的だろう、
と、麦野はシューティングゲームのように指をかざしながら次々とシャドウを消し飛ばしていった。
「つゥか、本当になンなンでしょうねこれ!?」
「だから、私に聞くな!!」
身長差があるものの、互いが互いに背合わせになるような体勢を取りながら、息を整える。
最初は2、3体程のシャドウが襲ってきたので、
突然の事にうろたえながらもサクッと対処した。
しかし、それで騒いだのがいけなかったのだろうか、
はたまたそう言う場所だったのか、何にせよ次々とシャドウが群がって来たのだ。
「いつまでも戦っていても、超埒があきやがりませンけど、どォしますかァ?!」
「アァ!?向かってくる奴は全部つぶして行くっつーの!!」
絹旗の言葉に、麦野は後ろを振り向きながらも手を前に突き出して『原子崩し』を放った。
照準も何もない。
割とうじゃうじゃと居たのでとりあえず放つだけで敵に当たった音がする。
そんな中で、絹旗もまた麦野の方を振り向くと同時に、ガードレールも横に振りまわした。
これによって麦野の死角から急接近していたシャドウが真っ二つに切り裂かれる。
「戦闘中によそ見なンてするから、接近に超許しちまうンですよ!」
「ハッ!そりゃてめーにブーメランだっつーの!!」
続いて、そのガードレールを思い切りしゃがんで避ける麦野もまた足を大きく広げている絹旗の股下から光の塊を放つと、
今まさに炎を放とうとしていたシャドウに直撃した。 - 601 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/18(日) 23:56:30.84 ID:lqTf1nfxo
- 「……やはり、こンな意味不明な空間での生存者を探す方が重要なンじゃねェですか?
何かしら知っているかもしれませンし」
「……それもそうだな、こんな訳わかんねぇのに殺されるってのも癪だし」
冷静になったのか、絹旗の言葉にうなづいた麦野は、
そのまま前方に向けて今までで一番特大な一撃を放った。
それによって車が通れる程度の道がシャドウ達の真ん中に出来た為、2人は一気に駆け出す。
「逃げんのは良いけど、アンタのそのガードレール、私も巻き込まないでよ!?」
「大丈夫です、麦野なら避けるって超信じています!」
「言ってくれるじゃないの畜生!」
シャドウ達を横切る瞬間、麦野は左に居るシャドウに向かって、
絹旗は右に居るシャドウに向かって迎撃を行った。
息の合う攻撃を放った2人は、その隙をついて更に駆けるペースを上げる。
元々足は速くなかったのだろう。
シャドウ達が追いかけてくる音は、程なくして消え失せる。
動かす足を止め息を整えることに専念する2人は、程なくして口を開いた。
「……追って来る感じはしないわね」
「……これが、ただ単に雨音で近づくのが分かんないってだけだったら超ホラーですね」
「そーゆーの止めろって、イヤマジで」
「あれ?麦野って怖いの超苦手でしたっけ?」
ニヤリと鬼の首を取ったかのような顔をする絹旗である。
恐らくその頭の中は今度借りて来るDVDはホラーで決まりだ、
とか考えているのだろうが、麦野の言葉は予想の斜め上を行っていた。
「いや、いちいちビビられるとイライラするんだよね。
軽く消し飛ばしたくなる程に」
「……そうですか」
ホラー祭り中止。
- 610 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/25(日) 07:26:22.37 ID:H2krb3OFo
- 「は、はは……ははははは!!!!」
木原数多は笑った。
喜怒哀楽のうち、「喜」だけを前面に押し出したような表情を浮かべる木原は、
自身が潜伏しているビルの窓から見える景色を見やる。
「あーっはっはっはっは!!!なんだよありゃ!?畜生アレイスターの野郎、どんだけ先に行ってやがんだ!?
悔しいなあ理論の理の字もわかんねーぞ!?科学者のくせに科学を否定するたぁ、何たる科学者だよオイ!!」
視覚では人工の天使から発せられる光の翼を捕らえ、
感覚ではこの場が学園都市出会って学園都市にあらずと本能的に察せられ。
アレイスター=クロウリーの言う『適合者』を探すという行為がどういうものかすぐに理解した。
「つまり、虚数学区ってのは、『あのテレビそのもの』ってことか!?
そして学園都市と言う箱庭を舞台に、虚数学区……いや、テレビの中を再現してみせたっつーのかぁ!?」
興奮のあまり思考がそのまま言葉になっているが、それを聞く者はこの場におらず。
「成程なぁ!だからこそ、『適合者』の選別ってことか!」
木原はチラリと背後を見る。そこには猟犬部隊だった人間達の棺桶が並んでいた。
この場で棺桶となっている者は、もちろんペルソナなど使えない。
その為にこのような棺桶姿となって影時間に気付かずにいるのだが、
それと似たようなものでテレビの中に入るにも、ペルソナを使えるかもしくはペルソナを使える者と共に行かなければテレビの中には入れない。
「つぅか、AIM拡散力場の塊に指向性を持たせるだけであんなことが出来んのかぁ!?
あぁ畜生ォ!!任務なんぞほったらかしてあの天使がなんなのか調べてぇなあ!!
間違いなくアレイスターの野郎が見てる景色に一歩以上近づけるはずなのになぁ!!」
木原は嬉しそうにキレると言う器用な真似をしながら、ガリガリと頭を掻くと同時に頭を抱える。
しかしここで文句を垂れていても仕方が無い事は木原自身良く分かっている為、
ひとしきり叫び声を上げ頭を冷やすと再びパソコンのモニターに眼をやった。
「……つか、『黄昏の羽根』がなきゃろくに機械もうごかせねーのな」
木原の居る部屋の温度を調整していた空調の音が消えていた。
更にはポツポツと光がともっていたビルの窓からは、全ての光が消え去っていた。
そんな中で、動かせている機械は、木原が扱うパソコンと。
「……」
こんこんと眠る打ち止めの頭に取り付けられた学習装置だけだった。 - 611 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/25(日) 07:26:57.54 ID:H2krb3OFo
- ・・・
「……なんだここは」
「だから言ったろォが、常識は通用しねェって」
木山春生は、一方通行に連れられてテレビの中へとやって来た。
そこには少し前に一方通行が来た時と変わらず天国の様な光景が広がっており、
それは木山を驚愕させるに値するもので、一方通行もその事は分かっているのか
興味なさげに木山の呟きに返答した。
「確かに……ここまでとは思わなかった、が……」
最早幻想的とも表現できるそれは、夢では無く現実。
この世界が何なのか、と言う事は木山も気にはなるところだが、
一方通行も木山も今はそれどころでは無く。
「それで、あの子達は何処に居るんだ?」
「ここに居ることは分かってる。後はアイツらが連絡に応じてくれりゃ問題ねェ」
何処から取り出したのか、一方通行は無線機を用いて布束砥信とクマに連絡をする。
戦闘中などでない限りは無線に出ることが出来るはずだ、と考えて。
(無事でいろよ……)
一方通行は2人の安否を気遣いながら無線機を耳に近づける。
するとそこから聞こえてきたのは。
『おいーっすひょっとして一方通行ン?こっちは無事クマよー』
想像以上に間の抜けた、かつ気の抜けた声で無線に応じたクマだった。
『……なンだその気の抜けっぷりはよォ』
こっちの心配した気持ちを返せと言ってやりたかった。
そしてクマの背後から聞こえてくる子供達の声。 - 612 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/25(日) 07:27:49.29 ID:H2krb3OFo
- 『子供達は無事クマよー』
『戦闘は無かったのかァ?』
『この場に行くまでは戦闘が何度かあったクマ。
でも子供達の目的はクマ達の足止めだったクマよ』
足止めが目的。
つまり2人は戦わずともその場に残ると言う意思表示でも示したのだろう。
それにより子供達は無傷で、布束とクマはシャドウと戦闘した事によって少し傷ついただけのようだった。
『とりあえず、そのガキ共の保護者を連れてきた。
一旦あのボロアパートまで戻るから、そのガキ共連れてこい』
『え?でもこの子らは時間稼ぎしないと、木山センセーが危ないって言ってるクマよ?』
『だから、その木山センセーを連れてきたっつってンだ』
『マジで!?』
『マジだ』
『わかったクマ!すぐに戻るから待ってるクマよ!!』
ブツリ、と無線を切る音が響き渡る。
この場は周りにシャドウの気配も無く静寂を保っていた為、
クマとの会話の間に子供達の声が聞こえたからか、木山も安心したような表情を浮かべていた。 - 613 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/25(日) 07:28:34.26 ID:H2krb3OFo
しかし、一方通行の心配事はそれだけでは無かった。
(……布束の場合、ペルソナを酷使する事で暴走し、
自身の影を生み出す結果になっていた)
となると、2人と一緒に居る子供らは戦ってすらいない為、暴走の心配は無いだろう。
チラリと木山の方を見る。安堵の表情を浮かべて、
天国への門を見ながら彼らの帰還を今か今かと待ち続けていた。
(だが……)
しかし、木山春生の場合はどうだろうか。
彼女は別にペルソナを扱う為の開発は行われていないらしい。
(なら、高確率で木山の影が出てくるはずだ)
だとすると、なるべく早くテレビの外に出たい。
こちらから迎えに行っても良いのだが、如何せん何処に居るかわからない上に土地勘も無い。
土地勘は仕方ないとして何処に居るかわからないと言うのが問題だった。
互いにすれ違ってしまう事を避けるために、ここからは動けない。
「チッ……」
結果として一方通行の苛立ちは、小さな舌打ちへと収束されるのだった。- 614 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/25(日) 07:29:15.98 ID:H2krb3OFo
- ・・・
「あれはAIM拡散力場の塊……」
ポツリと木原数多は呟く。
紫電を撒き散らしながら雷光のように天空へと伸びている光の翼が、
異変の塊となった学園都市を照らしている中で、
その光を背景にしながら木原はデスクの上にだらしなく足をのせながら、パソコンの液晶を眺めていた。
「そういえば……」
木原は何か思いだしたかのように足をデスクから降ろすと、キーボードをたたき始める。
しばらくして、木原の望む情報が載っているページまでアクセスできたのだろう。
木原は再び足を組むとそのページをスクロールして行った。
「『幻想御手』の主演女優は木山ちゃんだったな、そーいや」
どうでもいい事を思い出したかのように吐き捨てながらも、
木原はそのページを下へ下へと移動させていく。
木原がアクセスした場所、それは学園都市にはびこる「裏」の実験の一部始終を収めたデータベースであり、
それを見ることが出来るのはほんの一握りの科学者と統括理事会しか居ない。
そんな中で、木原は当たり前のようにそのページへと行っている辺り、
かなり優秀な科学者である事が見て取れる。
「つか、こうしてアクセス出来るってこたぁ、この回線も『黄昏の羽根仕様』って事か?」
だとすると、この異世界の様な場と異様な天使を降臨させた計画に、統括理事会も一枚噛んでいるのだろう。 - 615 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/25(日) 07:30:17.73 ID:H2krb3OFo
- 「ま、そんなこたぁどーだって良いんだけどな……」
自分は任された任務をさっさと終わらせて研究を続行するだけだ。
そう考えた木原は任務を放って調べ物を進めて行く。
考えとしては一方通行が邪魔しない限りはこうして最終信号を手元に置いておくだけで任務は終わる、と考えているのだろう。
「木山春生から現出した『幻想猛獣』……これは明らかに不完全なものだが……」
チラリと背後の光の翼を見やる。
「恐らく、木山の場合ネットワーク自体に無理があったんだろーな。
だがしかし、こっちのミサカネットワークは全てのネットワークをつなぐ個体が同一のクローン体だったからこそ、
こうして完全に近い状態を作り出すことが出来たってことか……?」
とここで、木原は今まで考えていた仮定のうちの一つを頭の中に浮かべた。
「……もし俺の考えが正しいのであれば……」
―――木山春生もまた、ペルソナを扱う事が出来るのではないか?
「ま、あいつらが無事テレビの中から帰ってこれたからっつってこの仮定の証明にはならねぇけどな……」
木山春生をあの研究所に置いておくんじゃなかった、と木原は少しだけ残念がりながら開いていたページを閉じたのだった。
そういえば、と木原数多はふと思い出す。
「しまった、魔術師(モルモット)共に取り付けた機材も全部止まってんじゃねーか?」
だがしかし、このイレギュラーな世界では魔術師もまた棺桶になっているのだろうか?だとしたら何も問題は無いのだが。
まあ、どっちでもいいやと木原はキーボードを叩き続ける事にするのであった。 - 619 : ◆DAbxBtgEsc[sage]:2011/09/28(水) 07:37:53.75 ID:/6iHKUtlo
- 今日明日休みの金曜出勤して土日も休み!
今日は投下は無理っぽいので明日と土日に進める!
とりあえず>>1でもまとめきれないから現状をまとめてみた↓
マヨナカテレビ
一方通行→布束、クマ待ち
木山春生→同上
クマ、布束砥信、子供達→ゾロゾロ
学園都市(影時間)
暗部組
スクール:垣根提督、ドレスの少女→上空ふわふわ
アイテム:麦野沈利、絹旗最愛→真・能力無双
猟犬部隊:木原数多→窓の外見てパソコンの液晶見てニヤニヤ
仮称特別捜索隊
9982号、芳川桔梗→逃走中
御坂美琴→某所にてゲコ太先生の患者達の護衛
上条当麻→ヴェント逃走後、光の翼を見てとりあえずそっちの方に行ってみる
魔術師
土御門元春→学園都市内に入れそうにないので入る方法を模索してはいるものの状況は中の人に丸投げ。
インデックス→御坂美琴と口論中
前方のヴェント→光の翼をモロに受け逃走。
特別課外活動部
山岸風香、アイギス、天田乾、コロマル→シャドウを片っ端から殲滅しながら無事な人探し
桐条美鶴、真田明彦、岳羽ゆかり、伊織順平→同上
窓の無いビル
アレイスター=クロウリー→ニヤニヤ
吃驚するほど登場人物多い…
なによりP3サイドの人達があんまり描けてないから頑張りたい
魔術師が影時間で無事なのはご都合主義です!
- 621 : ◆DAbxBtgEsc2011/09/29(木) 12:58:51.59 ID:ILBBzcqxo
- 小雨、と表現する程度には雨脚が弱くなっていた。
それでも実際に雨は降っている為に、
じめじめとした感触がより一層この場の雰囲気を重くしている。
そんな中で、ある場所ではそのじめじめした雨を吹き飛ばす程の風が吹き荒れていた。
それは能力者による攻撃では無く、単なる余波。
そしてそのような強い余波を生み出すような戦闘を行っている面々は。
「アイギスさん!前方にいっぱい居る敵は貫通攻撃に弱いので一気にやっちゃってください!
天田君は右に見える大きいのに光属性、コロマルはあっちの敵に火炎属性の攻撃をお願い!」
「了解です!」
「ペルソナ、ハマオン!!」
「わうわう!」 - 622 : ◆DAbxBtgEsc2011/09/29(木) 12:59:58.44 ID:ILBBzcqxo
- 山岸風香は周囲を見渡して瞬時に最適な攻撃方法の指示を出した。
それに対して一同は指示された攻撃を以って返答とする。
本来山岸は学園都市の外の安全地帯にてシャドウの感知を行うべきだったのだが、
彼女の護衛に裂く人員すら作れなかった、と言うべきか。
アイギス、天田乾、コロマルが山岸を囲うようにして陣を取りシャドウを迎え入れていた。
とはいえ、山岸が危険な戦場のど真ん中に立つ事と引き換えに、
『感知する事』に秀でた彼女のペルソナ『ユノ』はその本領を発揮していた。
タルタロス内では距離の離れた場所から敵の弱点などを探っていたのだが、
こうして近距離で相手の力を調べるのは前者のそれよりもはるかに楽なものである。
そんな彼女の懸念、と言うよりは特別課外活動部の面々も「それ」に対して不安を覚えているのだが。
(あの光の翼は……)
紫電を撒き散らしながら天へと登っているような、はたまた天から落ちる雷のようなその翼は。
―――明らかに自分達の扱うペルソナと同列の力を感じる。
(それも、かなり強い……ううん、私達1人1人の力よりも……)
何度も何度も注ぎ足して圧縮して、そうして無理矢理枠に収めたかのような人工的な力。
しかしその力の大きさ、と言うより密度と言った方が良いだろうか。
兎にも角にも視界の端に捉えている光の翼は、
見た目だけでなく実際に強い力を有していると言う事が山岸には感じられたのだった。
そうしているうちに、アイギス達が戦闘を終えたらしく、近くにシャドウの気配は感じられなくなっていた。 - 623 : ◆DAbxBtgEsc2011/09/29(木) 13:00:44.55 ID:ILBBzcqxo
「皆さん、お疲れ様です!この調子で頑張りましょう!」
山岸のその言葉と同時に、一同の周囲が淡い光に包まれる。
癒しの波動、という彼女の持つ力の一部で対象の力を少し回復させるといったものだ。
優しく包み込むような光を受けたアイギス達は、すっきりした面持ちで山岸の方を振り返った。
「久々の戦闘でしたが十分動けましたね。とはいえまだ敵自体が強かった訳ではありませんが」
アイギスの言葉に一同は同意を示す。
タルタロスを踏破した特別課外活動部のメンバーからしたら、
今の敵は『奇顔の庭アルカ』に出てくる程度のものだったろう。
山岸のアシストも相まって更に楽にシャドウを倒す事が出来た。
「それで、とりあえずあの光の翼を目指すって事で良いんでしょうか?」
先のシャドウの事などすぐに忘れ、
次にすべきことを考えていると言う子供の癖に少し大人びた少年。
天田乾は天に昇る光を指差しながら尋ねてきた。
「そうですね、それが賢明でしょう。
何の手がかりも無い今、あからさまな異変はあの光からしか見てとれませんし」
アイギスが同意すると、山岸やコロマルもそれに同意するように頷いた。
それと同時に、無線に連絡が入る。
桐条美鶴からだ。- 624 : ◆DAbxBtgEsc2011/09/29(木) 13:01:39.67 ID:ILBBzcqxo
『山岸か、そっちは大丈夫か?』
『はい、今のところ問題はありません。
とりあえずあの光の翼を目指して移動しようかと思います』
『成程、君が直接あの光の翼を見た方がよさそうだな……
それならこちらは鈴科や他に無事な人が居ないか探す事にしよう』
『わかりました、気をつけて下さいね』
『ああ、ありがとう。そちらもな』
無線が切れる。
山岸は無線をしまうと、恐らく美鶴の声が聞こえていたのだろう。
アイギス達も光の翼へと向かうべくそちらの方を向いていた。
「それではあっちは無事みたいですし、私達も頑張って行きましょう!」
「「はい!」」「わう!」
そして3人+1匹という表現するにあたって少しばかり変わっているパーティは、
光の翼を目指すべく水たまりを蹴って駆けだしたのだった。- 625 : ◆DAbxBtgEsc2011/09/29(木) 13:02:48.20 ID:ILBBzcqxo
- ・・・
一方、特別課外活動部のもう半分はと言うと。
「ふむ……シャドウ自体はあまり強力なものではない、か……」
「しかしこんなイレギュラーの中だ。たまたま弱い奴に当たっただけかもしれん」
「まー楽な分には良いっすけどね、でも何か拍子抜けっつーか」
「じゅんぺーはそーやって気を抜くから足元すくわれるのよ」
丁度戦闘を終えたようだが、気合い入れた割にはシャドウ自体は強くなかった。
この位の敵なら4人がそれぞれ単独行動しても問題無い考えてしまう程に。
しかし、どんな不足な事態があるかわからないからこそ4人1組のパーティを組んだのだ。
一先ず山岸風香達の状況を聞いてから方針を考えることにしたのか、
桐条美鶴は無線を取り出して連絡を飛ばしてみる事にする。
『山岸か、そっちは大丈夫か?』
『はい、今のところ問題はありません。
とりあえずあの光の翼を目指して移動しようかと思います』
どうやら無事のようだ。
今のところは問題無いようで(この状況が既に問題なのだが)、安心したように軽く息を吐いた。
『成程、君が直接あの光の翼を見た方がよさそうだな……
それならこちらは鈴科や他に無事な人が居ないか探す事にしよう』
『わかりました、気をつけて下さいね』
『ああ、ありがとう。そちらもな』
無線を切る。
それと同時に3人の方を向き再び口を開いた。
「山岸達はあの翼を目指すらしいから、
我々は鈴科や他に無事な人間が居ないか探そうと思うんだが…」
「それが良いだろうな」「ですね」「ですな」
その言葉に3人は同意する。
折角別れたのに同じ場所を目指しても仕方あるまいだろう。
どうやら3人も同じことを考えたらしく、光の翼に関しては一先ず山岸達に任せることにし、
自分達はこのまま探索を続ける事にしたのだった。 - 626 : ◆DAbxBtgEsc2011/09/29(木) 13:04:34.73 ID:ILBBzcqxo
- ・・・
そうしてかれこれ20分位。
あれからシャドウの気配は感じられず、
ただたまに見かける棺桶を見て少しだけ安心するだけだった。
棺桶を見て安心、と言うのもおかしな話だが、この場ではそれが当たり前となっている。
影時間においては、本来死を意味する棺桶は自身の身を守る盾となる。
死を司る空間で生きる為には、生を司る空間での死に包まれる必要があるからこその棺桶なのだろうか。
だとしたら随分な皮肉だ、と桐条美鶴はぼんやりと思う。
すると、唐突にシャドウの力を感じた。
とはいえ美鶴の探索能力は山岸風香のそれと比べると少し劣る。
その為はっきりあそこにいるだとかこちらにいるだとかまでは分からない。
「……どうやら、先のシャドウよりも数段強い敵のお出ましのようだ」
「「!」」
その言葉を聞いた3人は気を引き締め、警戒のレベルを一つ上げた。
中でも真田明彦の、張り巡らしかつ研ぎ澄まされた神経はすぐさまその力の出どころを発見し、
それと同時に3人に知らせるべく声を上げる。
「お前ら、上だ!」
彼の言葉を聞いたと同時に、トマトか何かが潰れたような、
聞いて少し気持ち悪いと思う音が上空から発せられた。
そしてその音の正体は。 - 627 : ◆DAbxBtgEsc2011/09/29(木) 13:05:09.23 ID:ILBBzcqxo
「……オラァアァ!!!」
誰かの叫び声と同時に、鳥の様なシャドウ―ブラックレイヴンが
数匹まとめて地面にたたきつけられ、その中身を辺りに巻き散らす。
その上にはブラックレイヴン達を踏みつけるように地面へと叩き落とした張本人が居たのだが。
「うげっ、汚ぇ!ふざけんなこの靴たけーんだぞ!?」
「それを言うなら私だってそうよ、ホラドレスのすそに何か付いちゃったじゃない!」
「そんなもんお前おっさんから買ってもらえよ!!貢いでもらえよ!!」
「あなただって新しく買えばいいじゃない!金持ちの癖に!!」
女の子を抱えてその子と口論をしている。
シャドウを撃破したと言うのにイマイチ緊張感に欠ける2人を見て、美鶴達は軽くずっこけそうになった。
「うるせぇ!最近買った靴をまた買いに行くって恥ずかしいだろうが!何か別の奴買うか畜生!」
「じゃあ私のドレスも見繕ってよ!よっ、日本一の優男!」
「けなしてんだろ、それ」
「むしろあなたからしたらご褒美でしょ?」
「いつ俺はドM認定されたんだよ!?」
「ていうか何であの鳥をあんな倒し方したのよ?もっと楽な方法があったんじゃ……」
ドレスの少女がそこまで口を開いたところで周りの状況に気がついた。
2人の口論をポカンと眺める4人組が居る。- 628 : ◆DAbxBtgEsc2011/09/29(木) 13:06:17.63 ID:ILBBzcqxo
「よーやくこの場で無事な人間を発見したんだ、さっさと会いに行きたいって思うのは当然だろ?」
その代償が靴なら、安いもんだ。とちょっと格好よさげに髪をかきあげるは、垣根提督。
どうやら戦闘中で上空に居たにも関わらず4人をいち早く発見し、
シャドウを倒すついでに自分も地面へと降りようと考えたようだ。
女の子を1人抱えながらというハンデをものともしない戦闘を目の当たりにした美鶴達は、
何が何だか分からないと言う表情をしていた。
そして何より特筆すべきは。
「あー、君達取り込み中のとこ悪いのだが……その背中の翼は……」
代表して美鶴が垣根に尋ねた。
「あ?ここが学園都市って事考えりゃわかるだろ」
ポイッとドレスの少女を地面に捨てた垣根が翼を消しながらも美鶴の質問にさらっと答える。
その際ドレスの少女が何か文句を言っていたのだが、
垣根がそれを無視するので美鶴もそっとしておこうと思い、思考を切り替える。
確かに、学園都市は「超能力者を育成する機関」である事は知っているのだが、こんな力は初めて見た。
何より垣根の発する威圧感が、「この翼はただの翼ではない」と言う事をひしひしと感じさせる。
そんな人間が突然現れたのだ。
いくら無事な人間を探すと言うことを条件に入れていたとしても警戒は解けない。- 629 : ◆DAbxBtgEsc2011/09/29(木) 13:07:45.14 ID:ILBBzcqxo
- 「成程、超能力か……それで、君達は私達に何の用かな?
おっと、自己紹介がまだだったな。私は桐条美鶴と言う者だ」
警戒は解けないが、敵と確定した訳でも無い。
なるべく敵対はしたくない為まずは対話から入る事にする。
そんな美鶴を見た垣根は感心したようにほうと息を吐いた。
「へぇ……この潰れた何かを見ても動揺はない、か……
てこたあこいつが何か、俺よりも知ってるってことだな。
そんでご丁寧にアリガトウ。俺の名は垣根提督だ」
一発目でジャックポットだ。それを感じた垣根はニヤリと笑う。
その意味深な笑みは4人の警戒を引き上げるに十分なもので、
いつでも動けるように各々が召喚器をギュッと握りしめていた。
一見拳銃にしか見えないそれをしっかり握っている4人を見た垣根は、
拳銃など効かないのにとか思いながらも情報を引き出すべく口を開く。
「あー、待て待て別に敵対するつもりはねぇよ。
俺らだって訳もわからずこの何か良くわからんのに襲われたんだからよ。
とりあえず、情報が欲しい。俺がお前らにやれる情報はないかもしれねぇけどよ」
威圧を解くように両手を上げて攻撃意志の否定をする。
それにより少しだけ警戒心を解いた美鶴が再び口を開いた。
「成程な……まず、君が今倒したのは『シャドウ』と呼ばれるモノだ。
そしてそのシャドウが現れる時間の事を『影時間』と呼び、
普通の人間にはその時間を感知する事は出来ない。
それを証明するのが、棺桶なのだが……」
「棺桶……納得。だからあいつらは棺桶になってんのか。
その口ぶりだとむしろ棺桶の奴らの方が安全ってことだよな?」
「ひょっとして君達の知り合いも棺桶になったのか?
だとしたら安心して欲しい、その通りだからだ。
しかし、私達はこうして動くことが出来るんだが……」
「棺桶になってる奴とお前らに、何か違いと言うか明確な差があるってことだな?」
「そうだ。理解が早くて助かる」 - 630 : ◆DAbxBtgEsc2011/09/29(木) 13:09:11.67 ID:ILBBzcqxo
- 美鶴の言葉にうんうんと頷きながらとめどなく質疑応答を続ける。
どうやら美鶴の目の前に居る金髪の少年は、
かなり頭が良いらしくすんなりと現状を受け入れて行った。
「それで、その差ってのはなんだ?」
「ああ、この力の事だ」
カチャリ。
別にそんな音が鳴った訳ではないのだが、
何となく垣根の脳内に響き渡った。
「おいおい、自殺でもする気か?」
「ふふ、まあ見ててくれ」
美鶴が召喚器……垣根からしたら拳銃なのだが、それをこめかみに突きつけているのだ。
窮地に追いやられて頭に拳銃突きつけて自[ピーーー]る、
何て光景など何回か見た事があるので別に驚くような事でも無いのだが、
唐突にそんな行動をされると突っ込みを入れざるを得ない。
そう言う訳で垣根が怪訝な表情を浮かべながら美鶴に尋ねたのだが、どうやら違うらしい。
ふうん、と相槌を打ちながら美鶴の動向に注目する事にした。
「これが……ペルソナ、だ!」
突きつけた召喚器の引き鉄を引く。
すると美鶴の背後からペルソナ『アルテミシア』が出現した。
突如現れた異形に垣根とドレスの少女は今日一番の驚きを示したのだが、
すぐに落ちつきを取り戻して美鶴に質問をする。 - 631 :saga忘れェ……自殺する、な ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/29(木) 13:10:30.03 ID:ILBBzcqxo
- 「で、そのペルソナってのを使えるか使えないかで棺桶行きか否かが決まる訳だ」
「そうだな。一応一般人でもこの場に来てしまうと言うイレギュラーもあるのだが……」
美鶴は言葉を区切り、垣根とドレスの少女、
そして潰れて消滅したシャドウの跡を見やる。
「まあ、十中八九君達は『こちら側』だろうな」
「そうか、俺にもペルソナってのが使えるのか……」
顎に手をやりながら少し思案顔を浮かべる垣根を見て、
美鶴は軽く提案をしてみることにした。
「どうだ、この召喚器をこめかみにつきつけ引き鉄を引けたらペルソナがだせるんだが……」
ただでさえ能力者として強者である、と言う事が分かっているのだ。
それにペルソナの能力を加えれば確実に戦力になる為、
彼の協力を得られればと思い美鶴は提案したのだが。
「いや、俺は止めとくわ」
垣根は考える間もなくその提案を断った。
「む、何故だ?よかったら理由も聞かせて欲しいのだが」
「単なる我儘さ。ガキみてえな、な……」
「ほう、物分かりの良い君が子供、か……」
「そうさ、こう見えて俺はこの力に愛着があるんだよ。
どうも他の力に頼る気にはならねぇんだ」
「・・…そうか、なら仕方ないな」 - 632 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/29(木) 13:11:32.69 ID:ILBBzcqxo
- おどけながら口を開く垣根に対し、
美鶴は軽く笑みを浮かべながら身を引いた。
どちらにせよ今すぐ召喚器を準備できる訳でもないのだから。
「所で、お前達2人はこの後どうするんだ?」
ここで、美鶴と垣根のやり取りを見ていた真田が垣根とドレスの少女に尋ねた。
情報が欲しいからここに来た、と言うのは分かるが
その後どうするかを決めるのは垣根達自身なのだから。
「そういや現状を把握する事しか頭に無かったからな……どうしたものか」
その発想は無かった、と言った表情を浮かべる垣根は本気で考え込み始める。
「だったらさ、私達と一緒に行動しない?戦力は多いに越したこと無いと思うけど!」
「そうだぜ、お前らみたいに無事な奴がまだいるかもしれねえから、
それ探すの手伝って欲しいんだ!」
「あ?あーそれが一番かもなあ……
お前もそれが良いだろ?空中で抱えられるよりかは」
「そうね、私も別に文句は無いわ」
そんな垣根を見た岳羽や伊織が垣根とドレスの少女の勧誘を始めた。
確かに戦力は多いに越したことはないのだが。
(戦場……死が付きまとうこの場に置いて、平常心どころかおどける余裕すらあるこの2人……
警戒に値すると言って差し支えないだろう)
美鶴は内心警戒していた。
以前に一方通行と邂逅した時も垣根に抱いた警戒心を一方通行にも抱いたものだったが、
あの時は一方通行も自身の状況を包み隠さず全て教えた為に美鶴もその警戒心を解いたのだが。
(……彼はまだ何か隠している)
隠している、と言うよりはこちらが聞かないから答えていない、と言ったものだろうか。
しかしそれが何なのかは美鶴には分からずに、ただただ警戒心が募るばかりだった。 - 633 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/29(木) 13:13:17.38 ID:ILBBzcqxo
- (……上手いことこいつらの中に混ざれたな)
一方で垣根は岳羽や伊織の相手を適当にこなしつつ、
頭では別の事を考えていた。
(ペルソナ……明らかに学園都市の中で見られる異能とはまた一線を画した代物に見える)
(表も裏もそれなりに見てきた俺ですら、
「頭に拳銃突きつけて異形を召喚する」なんて超能力は初めて見たしな……)
垣根が求める『黄昏の羽根』が美鶴達の手にした召喚器の中に内蔵されている、と言う事を彼は知らない。
故にこのペルソナと言う力が『絶対能力進化実験』の要である、と言う事にも気付けず。
兎にも角にも今の垣根には、あらゆる点で情報が足りてなかった。
ペルソナにシャドウに影時間。
いくら思考を巡らせようとも知らない事は分からないのだ。
(だったらこいつらに着いてった方が色々と分かることもあるかもしれないな)
そんな垣根なのだが、一つだけ仮定を頭の中に浮かべることが出来ていた。
(……棺桶になる奴とならない奴の条件……)
先程、美鶴は『ペルソナ』を使えるか否かと言ってはいたのだが。
確かにそれも正解なのだろう。
しかしここは学園都市、超能力者の住む街だ。
それを知る垣根は、別の正解を頭に思い浮かべていた。
(それの証明には他に無事な奴を探す必要があるな……)
だとすると、美鶴達と共に行動し人を探すと言うのはやはり有効だろう。
そんな訳で岳羽や伊織の提案を受け入れ、しばらく一緒に行動する事にしたのだった。 - 634 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/09/29(木) 13:14:45.07 ID:ILBBzcqxo
- ・・・
とある大通り。
シャドウが円を作るように並び、誰かを囲うように蠢いていた。
その中心には、黄色い女。
彼女は呪詛のように学園都市に、
アレイスター=クロウリーに怨み言を呟いていた。
「クソ、クソが、舐めやがって、殺す、幻想殺しだの超能力者だの後回しだ……殺してやる!
そうか、これが虚数学区・五行機関の全貌……!
いや、まだ一部かもしれないけどそんなことどうだってイイ!!
舐めやがって、そこまでして、私達を貶めたいかアアアアァアァアァァアァ!!!」
ヴェントは八つ当たりをするようにハンマーを振りまわす。
すると彼女の周りに居たシャドウ達が突如として現れた風に吹き飛ばされ、
互いの身体が凶器となり互いにぶつかって消滅させられてゆく。
「ゴハッ……!!」
しかし、ヴェントの身体は魔術と引き換えに蝕まれて行く。
と言うよりは『そう言う空間』と化している為に、
魔術を使う事自体が毒になってしまっているのだがそんなことお構いなしの一撃だった。
「ハァ……ハァ……一先ず、あのクソッタレの似非天使をブッつぶす……
アレイスター……アンタも絶対殺してやる……」
ハンマーを杖のように扱い、フラフラとおぼつかない足取りのままにヴェントは光の翼の下へと向かう。
ただ一つ、心に科学への憎しみを抱いて。 - 638 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 06:58:06.38 ID:CDROJ70Ho
- 「クソ!何だよこれ!?」
ここは学園都市のはずだ。
なのに目の前にはヒトでは無くシャドウ。
上条当麻は学園都市に何が起きたかわからないまま、
目の前で蠢いているシャドウを殲滅していく。
そしてその視線の先には。
「あの光……」
あれが間違いなく何らかの形で関わっている。
直感以前の問題だった。他の面子もあの光を見て動いているに違いない、
と上条は考えとりあえず光の翼の下へと向かおうとしていたのだが。
「ああ畜生!オケアノス、マハブフーラだ!!」
いい加減煩わしい。
そう感じた上条は氷の壁を作り、無理矢理シャドウの居ない道を作りだした。
そしてその道を一気に駆け抜けると、氷の道の終点にシャドウの姿を発見する。
「またかよ畜生!!」
人工の道は人が1人通れる程度にしか開いておらず、
シャドウが入って来ることは叶わないようだが、はっきりと待ち伏せしていると言う事が見て取れる。
しかし氷の壁によって何体のシャドウが居るかまでは分からない。
瞬時に戦闘は避けると判断した上条は、再び銃口をこめかみに突きつけると、
「オケアノス、ブフーラ!」
自身の望みをかなえるべく、オケアノスに攻撃の指示を出した。
背後の氷の壁を無理矢理突き破りながらも、オケアノスは前方に氷の塊を作りだす。
一見自分自身で行き止まりを作ったかにみえるがそうではない。
上条は目の前の壁に臆することなく賭ける速度を上昇させた。 - 639 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 06:58:36.51 ID:CDROJ70Ho
- 「……よっ、と!」
それは壁では無く、氷壁の上へとよじ登る為の足場。
勢いをつけた上条は一足飛びに氷の頂点へとたどり着いた。
「うげ、いっぱい居るんですけど……」
氷壁の下ではラッシュアワーを見ているかのように
シャドウ達がうじゃうじゃといた。流石に気持ち悪い。
氷の壁は高さにして5m程しかないので、シャドウ達の攻撃も普通に届く。
このまま氷の壁を階段のように造り出してビルの上にでも向かおうか、とも思ったが。
「それならこいつら倒した方が良いよな」
その音で誰かがこっちに来るかもしれないし。
淡い期待を抱きながら、上条はペルソナを召喚する。
「……クロノス、マハジオンガ」
あの光の翼に負けない程の紫電が、その場を支配しシャドウ達を屠って行く。
誰か気付いてくれ、という自己主張を発しながら。 - 640 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 06:59:09.88 ID:CDROJ70Ho
- ・・・
「あーもう!雑魚は引っ込んでやがれ!!!」
罵倒の言葉と同時に射出されるは、『原子崩し』と言う名の破壊の光。
一閃、シャドウ達の合間を通過するとその射線上に居た全てのシャドウを貫いて行く。
一体何度繰り返した事だろうか。
確かに弱いので倒すのに苦労は無いが、
こうもたくさん群がって来られると非常にわずらわしい。
そしてその怒涛とも呼べる攻撃を運良くすりぬけて接近してきたシャドウが1体。
麦野は右手でシャドウの頭を掴むとそのまま原子崩しを発射した。
その光景を見て麦野と共闘する少女はげっそりとした顔を浮かべる。
「逃げても逃げてもこいつらが超居ますね!
他の場所でも超こンなンだとしたら、生存者は滅多にいねェンじゃないですか!?」
ブン、グシャ、ブン、グシャ。
絹旗最愛の攻撃を擬音で表現するならこのようになるだろう。
単純な力押し。物量・重量にモノを言わせた連打。
おそらく次の日に車の持ち主がそれを見たら「ローン何年残ってたっけ」と絶望する事請け合いである。
絹旗は、ステーションワゴンを振りまわしていた。
明らかに体格と不釣り合いなそれを軽々と振りまわすその様は、
最早見る者にトラウマを植え付けるレベルなのではと錯覚を覚えてしまう程である。
その光景を捉えた麦野もまた軽くげっそりとした表情をしていた。 - 641 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:00:12.45 ID:CDROJ70Ho
- 「つーかさ絹旗、その車の持ち主の事考えてる?」
「ていうか麦野、周りの建物の事超考えてます?」
「「……」」
「「仕方ない仕方ない」」
2人が生み出した破壊の爪痕、
それを互いに見やると2人は何も言わず戦闘を続けることにした。
「これはこの車の超持ち主の分!これも超持ち主の分!これも!これも!」
と、絹旗は原形をとどめていない車の持ち主の分まで
シャドウを倒すと誓いながら鉄の塊を振りまわしている。
「これはあのビルの分!これはあの銀行の分!これはあの郵便局の分!!」
一方で麦野も周りの建物の分まであの異形共を
倒すと誓いながら原子崩しをあちこちに飛ばしている。
この場における破壊の主だった理由は麦野と絹旗だった。
しかし、その一方的な蹂躙も終わりを迎えようとしている。
「超さらばです!レガシィィィィ!!!」
車種名を叫びながら絹旗は車を真っすぐに放り投げた。
その投擲によってグシャグシャとシャドウが巻き込まれて行くのだが、
突如として車が真っ二つになり爆発した。 - 642 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:01:05.15 ID:CDROJ70Ho
- 「レガシィィイイィィィイィイ!!?」
思わず絹旗も声を上げた。心からの悲しみを表現するかのように。
何せ短い間とはいえ戦闘を共にした相棒(戦友)をこうもあっさり真っ二つにされてしまったのだから。
そしてその怒りは絹旗の視線の先に居るシャドウへと向かう。
「超良い度胸ですね、私の大事な超戦友をぶっ壊してくれるなンて」
いや、あれはお前のじゃない。
そんな突っ込みが何処からともなく聞こえてきそうなものだったが、
それはともかく絹旗の目の前にはマドハンドに大剣を持たせたような異形が3体居た。
その名を『判決の剣』。恐らく3体のうちどれかの剣によってレガシィは分割されてしまったのだろう。
絹旗は、必ず仇は取ると心に誓ってガードレールを手に取ったのだった。
「何やってんだアイツは……」
小さく溜息をつきながら次々とシャドウを倒して行く麦野。
如何に効率よく、如何に早く、如何に多く倒すかだけを頭に入れて、
ひたすらシューティングゲーム感覚でシャドウを消し飛ばしていたのだが、突如としてシャドウの動きが止まる。
「……?」
今までは有無を言わさず襲って来たというのに、
今更どうしたのだと言った怪訝そうな表情を浮かべる麦野だったが、
シャドウ達の動きが止まった原因がすぐに分かった。
「「……」」
それは3体の巨人。
明らかにそこらのシャドウとは別格の力を持ったそれは、
周りのシャドウをおびえさせるに十分な威圧感を放っている。
その名は『平衡の巨人』。全身が城壁で造られたかのようで、
その手には判決の剣程ではないがかなりの業物が握られていた。 - 643 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:02:33.66 ID:CDROJ70Ho
- それを見た麦野は、先程までつまらなそうにしていたのだが
ようやく楽しそうで、それでいて獰猛な笑みを浮かべる。
「はっ!さっきまでイージーモードでクソつまんねぇって思ってたが、
ようやくまともそうなのが現れたじゃねぇか!!」
その言葉と同時に平衡の巨人の一体が剣を振るった。
それによりその周辺にいたシャドウ達が一気に殲滅される。
「……何だ?仲間割れかぁ!?
それとも私なんぞの攻撃よりも自分の方が沢山潰せるってアピールかぁ!!?
だったら見せてやるよ!!私の超能力をよォ!!」
真実は定かではないが、巨人による一撃を自分へ向けた挑発だと判断した麦野は、
懐から三角形のパネルが組み合わさったカードの形状をした何かを取りだした。
そのパネルをトランプ投げの要領で巨人たちに向けて放ると、
続いてそのパネルめがけて原子崩しを放つ。
するとパネルに直撃した電子線と言う名の破壊が辺り一面に拡散され、
一瞬にして大量のシャドウが消滅した。
そして土煙が立ち込めるが雨のお陰ですぐに収まる。
「……!」
しかし、そんな中で平衡の巨人3体だけは無傷。
それを見た麦野は一瞬驚きを示すがすぐに表情を変えた。
「はははははは!!!イイね、やっぱただやられるだけの的を相手にしてもつまんねぇもんなぁ!!」
高らかに笑う麦野は、更に戦果の渦へと自ら呑まれて行くのだった。 - 644 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:04:12.94 ID:CDROJ70Ho
- ・・・
「……!」
「どうしたんですか、風香さん?」
光の翼に向かって移動中の時の事。
突如として山岸風香が立ち止まると、虚空を見上げた。
その行動に合わせるように、ある二つの地点から紫電と光線が空へと向かって舞う。
それを見た山岸やアイギス、天田乾やコロマルは顔を見合わせた。
「あれは……!」
あちこちで戦闘の気配を感じていた山岸であったが、
ここ一番の力を感じた為に思わず立ち止まってしまったのだ。
紫電が巡った方向では戦闘が終わったように感じられたが、
一方で光線の方はそれが交戦の合図のように感じられ、
実際に力を持ったシャドウがその方向から居ると山岸は判断した。
「強いシャドウです!先の光線が見えた方向に居ます!
恐らく……誰か戦っています!」
「「!」」
それはすなわち、自分達以外にも生存者がいると言う事だ。
だとしたら早く救出に向かわなければならない。
しかし、シャドウの気配が無いとは言え紫電が舞った方角にも誰かが居る可能性が高かった。 - 645 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:04:49.30 ID:CDROJ70Ho
- 「二手に分かれますか?今のところそこまで強力なシャドウは出ていませんし」
天田が山岸とアイギスに尋ねる。
しかし、今までで一番強い気配を今まさに感じているのだから
二手に分かれるのは得策でないように思える。
紫電が見えた方向も光線が見えた方向も、
どちらも自分達よりも光の翼に近い位置にあったのだが、
紫電と光線自体に距離があったのが問題であった。
とここで、二兎を追う者なんとやらと言う言葉が山岸の頭をよぎる。
どちらかに集中すべきか、分散すべきか。
「……まず戦闘をしている方へ行ってみましょう。
もう片方の戦闘は終わっているみたいですし、
そちらへ向かっても誰も居ない可能性が大きいです」
考えをまとめあぐねている山岸の代わりに、アイギスが結論を出す。
ただでさえ一刻を争う時に戦力を削るのはまずいと判断したのだろう。
「そうですね、僕もそれが良いと思います。もう片方も気になりますけど……」「わうわう」
「では……行きましょうか」
「「はい!」」「わふ!」
そうして再び3人と1匹は駆けだすのだった。 - 646 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:05:41.87 ID:CDROJ70Ho
- ・・・
「ここまできたら大丈夫でしょう。と、ミサカは大丈夫じゃないフラグを立ててみます」
「そう言うの止めて」
9982号と芳川桔梗は命からがらシャドウ達の追撃を逃れていた。
それまでは考える余裕など皆無だったが、
ようやく落ち着いたのでこの現象について考える事にする。
「何でここにシャドウが居るんでしょうね。と、ミサカは息を整えながら芳川に尋ねてみます」
「分からないわ……何にせよ連絡取らなくちゃ……ってあれ?」
明らかに緊急事態だ。
一方通行だけでなく他の皆も何かしら動いているに違いない。
そう考えて携帯電話を開いたのだが、電源が入らない。
「充電切れ……はあり得ないわね、毎日充電してるし」
「とりあえず、そこに見える棺桶も気になりますね。
と、ミサカは今までどうして気付かなかったのかと反省します」
9982号が指差す方向には棺桶が何体か鎮座していた。
「ところで、棺桶の単位って何て言えばいいのかしら。箱?ケース?」
「少なくともその二つは違う気がします。個で良いんじゃないですか?
と、ミサカは適当に返答します」
「……」
「……」
「「はぁ……」」 - 647 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:06:29.87 ID:CDROJ70Ho
- どうしたものか。
全く方針が思い浮かばない。
歩きまわっても泥沼に沈んで行く気がするし、
かといって動かなくてもシャドウに気付かれればアウトだ。
更に致命的なのは、シャドウが居るのにこっちはペルソナを使えないと言う事実。
やはり『召喚器』が関係している、と言う事なのだろう。
「全く、ハードモードすぎじゃね?と、ミサカは愚痴ってみます」
「ちょっとしたバイオハザードね」
「他人事みたいに言わないでくださいよ、あなたも当事者なんですし」
「て言ってもねぇ……ペルソナ使えないなら出番は無いかなって……」
「そんなんミサカも同じですよ……」
「「……はぁ」」
とりあえず誰か居ないか探すしかないだろう。
そのような事を芳川が提案しようとした瞬間、それは起きた。
立ち上る、二つの光。
一つは雷光、一つは光線。
曲がりくねって拡散する紫電と、真っすぐに拡散する光線。
とりあえず眼に見えた二つの地点には何かがある、と言う事だろう。
「これは……」
「行くしかありませんね。と、ミサカは芳川の言葉を引き継ぎます」
その言葉に、否定する理由が無かった。 - 648 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:07:16.93 ID:CDROJ70Ho
- ・・・
「あれは……」
一方で、桐条美鶴らも先程山岸風香達や9982号達が見た光景を目の当たりにしていた。
それはすなわち、生存者の可能性を示す指標であったのだが。
「遠すぎるな……」
垣根提督が呟いた。
確かに、誰かが居る可能性はある。しかしここから向かおうと思うと
結構な距離があり、行ったところで既に誰も居ないかもしれない。
「だがまあ、このまま闇雲に動き回っていても埒が明かないだろう。
だったらとりあえずどちらかに向かってみるのも悪くない」
真田明彦の言う通り、情報も無い今やみくもに走り回るよりかは良いだろう。
伊織順平や岳羽ゆかりもまた同意見のようだ。
「そうッスね!誰か戦ってるんだとしたらなおさら行かないと!」
「誰か居るとして、無事だったら良いんだけど……」
そして4人は紫電が見えた方向へと駆けだす。
続いて、垣根やドレスの少女も特に文句は無いらしくとりあえず前を走る4人について行った。 - 649 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:07:59.62 ID:CDROJ70Ho
- ・・・
「あーもう!何やってるのよ、インデックスの奴!!」
光の翼だけでなく、御坂美琴が扱う電撃の様な紫電と、
電撃使いである御坂だからこそわかった事だが
もう一つの光線もまた電子を扱ったものである攻撃であり、
それら二つをみて驚きを示している瞬間に自身の制止を振り切ってインデックスが外へと行ってしまった。
追おうにもここには護るべき患者が大勢いる。
どちらかを選べ、などと言うのは御坂には少し酷だろう。
一先ず判断に迷ったので他の妹達やゲコ太先生に相談しようと思って妹達の下へ向かったのだが。
「どうしたの!?」
そこには無造作に倒れ伏している10032号、10039号、13577号の姿があった。
すぐさま3人に駆け寄る御坂だったが、呼吸はしっかりしている為、
何らかの原因で身体が動かせなくなっている事が見て取れた。
(とにかくゲコ太先生を……)
あの医者なら何か分かるかも、そう考えて病院車の中に駆け込んだのだが。
「!?」
そこには異様な棺桶しか存在しなかった。
「なに……これ……?」
敵襲?ありえない。
気配も影も形もなにも感じられなかった。
確かに、インデックスと口論している最中に何か違和感を覚えたのだが、
インデックスを引きとめることで頭がいっぱいだった為にそちらに関して頭が回っていなかった。
恐らく、その違和感がこの現象の正体で。
モゾリ、と何かが蠢く音が病院車の外で聞こえた。 - 650 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:08:29.87 ID:CDROJ70Ho
- 「……」
御坂は何も言わず病院車の外に出る。
恐らく、イヤ確実に。
「……やっぱり、アンタら……」
シャドウの仕業。
「インデックスの事も気になるけど……」
ピンッ、と1枚のメダルを宙へ弾く。
「まずは自分の妹を護らなきゃね!!」
そして放つは自身の十八番。
それによってあっけなくシャドウを殲滅出来たのだが。
「そういえば、調子自体は本調子ね……」
十全に能力を発揮していた。
その事に違和感を感じ、ペルソナを召喚しようとしたのだが。
「……成程、ペルソナは出せないのね」
1人納得する御坂だったが、だとすると非常にまずい。
この場で戦力になるのは自分と一方通行、
それに召喚器を持つ上条しか居ないのではないか?
9982号は武装していれば問題無いのだろうが、果たしてどうだろう。
考える事柄が多すぎる為、とりあえず妹達の様子を診ることにした。 - 651 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/01(土) 07:09:13.13 ID:CDROJ70Ho
- 「……」
この異常事態、恐らくミサカネットワークが関わっているのだろう。
そう考えた御坂は、問題のミサカネットワークへの侵入を試みる。
何せ彼女の能力は『電撃使い(エレクトロマスター)』。
自身のクローンである妹達の脳波リンクに干渉する事も理論上は可能なのだが。
「……!?」
しかしそれは叶わなかった。
(……何かプロテクトが掛けられていた、って印象ね……
それを為すには打ち止めと言う上位個体の存在が不可欠。
だとすると、打ち止めは……)
確かに、この試みは初めての事で成功するかは軽く賭けのようなものだった。
失敗すると自身の脳が焼き切れてしまう程度には。
それを迷わず実行するあたり妹達の大切さが眼に見える事であるが、
このような形で防がれるとは思わなかった。
「成程ね、敵は一筋縄じゃいかないってことか……」
ギリッと歯ぎしりをする御坂であるが、この場を離れるわけにはいかない。
どうにもできないジレンマが、御坂を襲っていた。
- 657 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/03(月) 07:50:09.17 ID:avVsFyI5o
- <天上楽土F1>
「……」
「……」
無言。
一方通行は近くの柱に寄りかかり、木山春生は花壇の縁を椅子にしていた。
結構な時間を待機に……と言ってもまだ30分も経っていないだろうか、
兎に角待機に費やしているが、未だに帰ってきていない。
本来ここまでする義理は無かったのだが、
どちらにせよクマが居ないと帰れないのだから仕方ない。
そんな中で、一方通行は物憂げにする木山の顔を見ながら、一つ疑問を浮かべた。
(……やっぱ影が出てくる気配がねェな)
今までマヨナカテレビに入った中で自身の影と遭遇していないのは一方通行のみで、
他の面々は自身の恐怖やトラウマを乗り越えてきた。
クマに関してはある意味例外であるが、
他の面々はマヨナカテレビに入ったその日に自身の影と遭遇している。
このまま影が出てこないのであれば、それはすなわち
ペルソナを扱う事が出来ると言う事実を示しているのではないか?
以前桐条美鶴らと初めて対面した際、美鶴達もまた『影』と相対せねば
マヨナカテレビではペルソナを扱えない、と一方通行は言ったが恐らくそうではない。
美鶴達は問題無くペルソナを扱う事が出来るだろう。
布束砥信のように暴走さえしなければ。
そして話を聞く限りでは美鶴達はペルソナの制御を出来ているらしいので
とどのつまり問題など無いと言う訳だ。
ただ、それを証明する術は実際に美鶴達のうち誰かが
マヨナカテレビに入る必要がある為真実は不明であるが。
あの時の一方通行の言葉はただ単に、彼女らを
マヨナカテレビにまで付き合わせる必要が無いと判断した為の発言である。
それはさておき、未だに木山に異変が見られない、と言うのは偶然かはたまた必然か……
「ン……?」
すると、門の奥から人影が見えてきた。
どうやらようやく到着したらしい。 - 658 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/03(月) 07:51:54.81 ID:avVsFyI5o
- ・・・
(『幻想猛獣』の上位互換……いや、正しい形がヒューズ=カザキリ……
しかしその根本、『AIM拡散力場の塊』つまりは『自分だけの現実』を
元にして造られていると言うことには変わりない……)
木原数多の思考は未だに続いていた。
打ち止めは相も変わらず頭に機材を付けた状態で眠り続け、
木原の背後にある窓からは光の翼が学園都市の明かりとして機能している。
(自分だけの現実とはすなわち、心の形……)
心の形は千差万別。
それと同時に、ペルソナの形も。
(はん、personalrealityたぁよく言ったもんだな……)
自分だけの現実(personalreality)というネーミングは、
ペルソナから取って来たものなのではないか?
などと考えた時期もあったが、そんな駄洒落みたいなネーミングを
誰がするかいとか思いなおした訳で、まさかそれが当たりだとは思わなかった。
と言うよりは、自分で勝手にその可能性を否定していたと言った方が正しいだろう。
やはり、魔術の時もそうだったが自分自身で築き上げてきた
研究を、常識を崩すと言う事は簡単な事では無い。
しかし、そうでなくては見る事は出来ない。
アレイスター=クロウリーの見ている景色はこんなものではない。
(待ってろよ……いや、どこまでも進めよアレイスター。
じゃねぇと追いこしちまって培養液からポイだわな)
木原数多は、着実にアレイスターの持つ知識へと近づいていた。 - 659 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/03(月) 07:52:58.37 ID:avVsFyI5o
- ・・・
<天上楽土F1>
「よォやく来たか……」
先導するクマと布束砥信の後ろから、恐る恐る歩みを進める6人。
そのうち5人は木山春生の教え子で、残りの1人は教え子の1人の友人。
「おーっす一方通行ン!待った~?」
「あァ、あくびが出る程になァ」
ようやく動ける。
そう感じた一方通行は一同が無事な事に少しだけ安堵しながら口を開いた。
「well、木山春生も居るわ。皆行かないの?」
いつの間に仲良くなったのか、布束が子供達の先導をしていた。
一方通行は、顔に似合わず布束は保母さんとか似合うんじゃねェ?
とか思ったりしていたのだが、どうにもその子供達が動く気配が無い。
「お、お前達……どうしたんだ……?」
思わず木山が尋ねる。
すると子供達はビクンと肩を震わせた。
まるで悪さがばれてしまった時のように。
「あの……私達……先生とは一緒に行けません」
「な!?……どうして……?」
枝先絆理が木山に対して放ったのは、拒絶の言葉。
木山は驚きのあまり声を荒げるが、
ぶんぶんと顔を振り落ちつけると続いて優しく尋ねた。 - 660 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/03(月) 07:54:48.71 ID:avVsFyI5o
- 「「……」」
しかし、子供達は口を開かず、ただただ俯いている。
そんな中、教え子たちの代わりに意を決したように春上衿衣が口を開いた。
「……私達は、人を、殺した、の」
恐る恐る言ったせいか、言葉が区切り区切りになっていたが意味は伝わった。
人を、殺した。
その言葉に他の子供達は更に肩を震わせる。
その反応から察するに、春上は嘘や冗談を言っている訳ではないということがよく分かった。
そしてその告白を皮切りに、子供達が口を開く。
「僕達は、人を殺しました。命令されるがままに、何人も、殺しました」
「実験の一環と言って、魔術師と呼ばれた人々を、殺しました」
「だから、ここに来たのは木山先生にお別れを言う為です」
「本当は他の皆にも言いたかったけど、木山先生から伝えておいてほしいんです」
「俺達はもう、皆と一緒に居られません。ですが」
―――どうか、嫌いにならないでください。 - 661 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/03(月) 07:55:56.64 ID:avVsFyI5o
- 5人が一斉に頭を下げる。
木山を見上げるその瞳からは、悲しみしか見てとれなかった。
その事実を初めて知った木山だけでは無く、布束やクマも驚愕の表情を浮かべている。
そんな中でただ一人、事の顛末を一方通行はただただ眺めていた。
「……」
対して、木山は言葉を選ぶ為か何も言葉にせずただただその場に立ちつくしていた。
その様子を柱に寄りかかったまま眺めている一方通行は、ただ一言。
「……先に生きる者と書いて先生と読むンだ、お前がそンなンでいいのかよ?」
「……!」
そうだ、自分のすべきこと等何も変わらない。
自分は子供達を護り、導くだけだ。
人を殺した?それがどうしたと言うのだ。
確かに殺された側は気の毒ではあるが、
自分は正義を名乗るつもりなど皆無だ。
故に殺された側に立って糾弾するつもりなど無い。
悪と罵られようとも構わない。
ただただ、子供達の為だけに動く。
子供達が後悔していると言うのなら、その罪を一緒に背負ってやる。
子供達が罪滅ぼしをしたいと言うのなら、一緒に動いてやる。
だから、だから……
「そんな、悲しい事を、言わないでくれ」 - 662 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/03(月) 07:57:02.18 ID:avVsFyI5o
- ちゃんと意図は、意志は伝わっただろうか。
口が震えて上手くしゃべれなかった。
駄目だ、目頭が何だか熱くて前が見えない。
気付いたら腰に何かぶつかったような感触を受けた。子供達だ。
自分はこれからも先生として皆と一緒に居ても良いのだろうか。
兎に角皆の顔が見たい。
木山春生は袖で顔を拭うと、5人を抱きとめるのだった。
そんな中、木山達をぼんやりと見守る影が一つ。
それに対して一方通行は声をかけた。
「……お前は行かなくていいのかァ?」
「私は……あの人の教え子じゃないの」
「そォか」
「……私は悪い人なの。あなた達はどうして何も言わないの?」
「逆に悪い奴が居たらいちいち説教して回る人間が居ると思ってンのかァ?」
「それは……そう、なの」
「それにお前にだって説教してくれるダチの1人や2人居るだろ?
悪ィと思うンならそいつに懺悔でもしてきたらどォだ?ちったァ気が楽になるだろォぜ。
……俺が言うのもなンだが人間と言わず生きてる奴は、
大なり小なり何かしら誰かしらを殺して生きて来てンだ。
そう深く考え過ぎる事もねェと思うがな」
本当にどの口が言うんだ、と一方通行は内心自嘲しながら春上に対して事もなげに言う。
それをどう受け止めるかは春上自身の問題だ、と割と無責任な事も同時に考えながら。 - 663 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/03(月) 07:58:26.63 ID:avVsFyI5o
- ・・・
(さて、テレスティーナの馬鹿はいつまでも能力体結晶にしがみついて悪あがきをしてたが……)
存外に良い仕事をする、と木原数多はほくそ笑んだ。
何せ自分だけの現実やAIM拡散力場と、ペルソナとの相互関係を導き出せた要因に
テレスティーナ=木原=ライフラインの行っていた実験が挙げられるからだ。
(ポルターガイスト事件……あれの真相はあのガキ……
春上衿衣の精神感応が枝先絆理の思考と共鳴した事に起因する)
元々レベル2程度の『精神感応(テレパシー)』である春上だが、
場合によってはレベル4相当まで強度が跳ね上がる事が分かっている。
それは言うなれば、布束砥信の実験の際に見られた暴走に近い。
自分だけの現実が乱される事による暴走と、ペルソナを制御できずに起こる暴走。
これはどちらも『心』のリミッターが外れる、とでも表現したらよいだろうか。
(つまり、あの悪あがきは存外的外れなもんでもねぇってことか)
そう思って木山春生の教え子を使うついでに春上も連れて来たのだが。
(ま、あのガキじゃ元々のレベルが低すぎたって事だな。だが、新たな可能性は示せた)
ミサカネットワークによって発現したヒューズ=カザキリもまた、ある種の精神感応による共鳴である。
何もかも同一であるクローン体による、
力の重ね掛けとでも表現すれば良いだろうか。
その結果が、窓の外に見える力の片鱗だ。
「楽しみだなぁ、おい」
快活に笑う木原。
底なしの知識欲は、まだまだ新たなる発見を求めていた。 - 664 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/03(月) 07:59:28.27 ID:avVsFyI5o
- ・・・
「……ま、期待なんてしてなかったけどな!してなかったけどな!」
誰か来ないかな、そう思ってしばらく待っていたが。
この異常な状況の中でホイホイと危険そうな場所に来るはずもないか。
もしくは戦闘中で手が離せない、と言う可能性もあるし。
上条当麻は再び動き出すべく腰を上げた。
「どうしよう……アパートの方行ってみるか?誰かいれば良いんだけど……」
布束砥信やクマが居ればいいんだけど。と、上条は独りごちて駆けだした。
……それが、桐条美鶴らがこの場に来るほんの10分程前の事である。
「これは……」
上条が戦闘した跡へやって来た桐条達は、まず氷の壁による道に驚きを示す。
この場では雷撃も放たれていた事を見ると複数人この場に居たのではと勘違いしてしまったようで、
「この氷壁を作った奴と雷を放った奴の最低2人居るって事になるよな」
そして垣根提督も例外ではない。
なにせ『多重能力(デュアルスキル)』など机上の空論で
実現不可だと言う事は過去の実験で明らかになっているのだから。
「能力者か、ペルソナによるものか、
はたまたシャドウによるものか……結局何も分からず仕舞いか……」
真田明彦が少し残念そうに呟く。
誰か居たら良かったのだが、既に移動した後かそれとも最初から人間など居なかったのか。
こう言っては何だが、死体すら残っていない為何も分からない。
しかし、この場に来たのも悪くは無いと思える事が1つ起きた。 - 665 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/03(月) 08:00:26.74 ID:avVsFyI5o
- 「あ、何してるんですかあなた。と、ミサカはいつか見た知的美人を指差します」
その言葉に一同は一斉に振り返った。
そこには9982号と芳川桔梗が。
特別課外活動部と顔合わせする機会が無かったのか、
芳川桔梗は目の前に居る面々を誰も知らないし、9982号も美鶴の顔しか知らない。
何にせよ美鶴達に敵意はなさそうなので2人はホイホイと近づいて行った訳である。
「あなた達もあの雷を見て来たの?」
「ええ、そう言う感じ。御坂さんかと思ったけどどうやら違うようね」
岳羽ゆかりの質問に芳川がのんびりとした口調で答える。
「そっちの子は桐条先輩の事知ってたみたいだけど、どういう関係?」
「あ、病院の見舞いで見たんですけどね。と、ミサカは簡単に答えてみます」
一方で伊織順平の質問に9982号もまたのんびりとした感じで答える。
そんなのんびりした雰囲気の中、垣根提督は1人思考を回転させていた。
(あれは……第三位のクローン……か?
第三位が変な語尾付けるなんて聞いたことねぇし、多分そうなんだろうな。
で、あっちは研究者風だが……てこたあ、俺の予想は外れか?)
垣根提督の予想。
それはこの場で棺桶化しない人間の条件が、
『ペルソナを扱える事』もしくは『能力者としてのレベルが一定以上である』と言う事である。
(『未元物質』はレベル5で、『心理定規』はレベル4。そんでゴーグルはレベル3だし砂皿はレベル0だ。
レベル4とレベル3がその境目だと思ったんだが……まあ、直感だしそんなもんか)
そして垣根は自身の考えを1人取り消す訳だったのだが、
その予想が正しかったと言う事に気付くのはまだ先の話である。
「でさ、あなた達が敵じゃないってのは分かるんだけどこの後どうするの?
雪だるま式に無事な人見つけてっても結局この空間?を何とかしないといけないじゃない」
ドレスの少女が口を開いた。
その言葉は誰もが思った事だったので一同はそれについて考える事にする。
続いて9982号が真っ暗な画面の携帯を閉じながら美鶴に尋ねる。
「とりあえず、一方通行と連絡が取りたいですね。
と、ミサカは使えない携帯をポケットにしまいつつ他に連絡方法が無いか尋ねます」
「そうだな、この場では普通の機器は使えない。その為この無線機を使っているんだが……
あちらがこれを持っていないことにはどうしようもない」
うーん。と、一同が唸る中で芳川が小さく挙手しながら口を開いた。
「それじゃあ一度あのボロアパート行かない?
軽く拠点みたいになってるとこあるし、一方通行や他の面子も居るかもしれないわ」
「ふむ、そんな場所があるのか……ならば案内してもらってよろしいでしょうか?」
「任せて頂戴。ここからならそんなに遠くないし」
その意見に対して特に異論も無いようで、一同が小さくうなずくと
芳川と9982号はアパートへ向けて移動を始めるのだった。
- 675 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/05(水) 09:11:56.09 ID:+71UYdlfo
- 「さあて……ヤルかぁ……?」
ゴキリ、と指を鳴らしながら『平衡の巨人』を見やる。
その言葉を聞いたからかは分からないが、
3体の巨人たちは剣を携え麦野沈利へと向かって行った。
「ははは!!考えるオツムもありませんってかァ!?
真っすぐ向かってくるだけの案山子で私を倒せると思ってんじゃねぇよォ!!!」
腕を横に一閃。
それと同時に光線が地面を抉る。
チェスの駒のような体躯をした『平衡の巨人』。
平べったい足元は麦野の作った溝に引っ掛かり3体は同時に前方へこけた。
「ひゃはははは!!!やっぱ頭わりー!」
ゲラゲラと下品に笑う麦野はお嬢様のような綺麗な容姿に反して醜い。
あまりのギャップにトラウマを植え付けられた暗部の人間も少なくは無いそうだがそれはさておき。
「ま、絹旗の奴があっちの片付けるまで、遊んでやるよ」
チョイチョイと指で挑発する。
先程原子崩しの直撃を受けたにもかかわらず、
傷一つなく佇んでいた異形に対して麦野は少しだけ感謝を示していた。
―――イイ実験台になる。
先程の嘲笑うかのような笑みから一変、
獣が獲物を狙うかのような獰猛な笑みへと表情が変貌を遂げた。
この笑みにもトラウマを植え付けられた人間は少なくない。 - 676 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/05(水) 09:13:26.15 ID:+71UYdlfo
- ・・・
瞬間、地響きとともに轟音が辺り一面に響き渡った。
『判決の剣』、剣の側面部分をガードレールにて叩いて
攻撃を逸らしたことでその剣が地面にたたきつけられたからだ。
絹旗最愛はその剣が生み出した惨状を目の当たりにして冷汗をかく。
(やっべーやっべーですね、この威力となると流石に
あれを『窒素装甲』で防ぐのは超辛いかもしれねーです)
しかしその思考とは裏腹に表情は非常に軽い。
同時に、両サイドから2体の『判決の剣』によって剣が横薙ぎに振るわれるのだが。
「当たらなければ超どうという事は無い、って奴です!」
バク転によって、2本の剣をギリギリ回避し白銀の剣に絹旗のドヤ顔が映る。
無駄にスタイリッシュな回避を見せた絹旗はガードレールを用いて『判決の剣』の手首を狙った。
「折れろ!超折れろ!」
マドハンドのような見た目をしたシャドウであるために、攻撃できる部分も限られてくる。
明らかな武器である剣をその手から離れさせられれば無力化は易いはず。
絹旗はそう考えて岩のような手に攻撃しているのだが、
「超かってークソったれだなァオイ!!」
思わず言葉も汚くなる。
絹旗の力はとある実験にて一方通行の思考パターンを植え付けられている為、
能力を発揮した時一方通行のような口調になってしまうのだ。 - 677 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/05(水) 09:14:11.83 ID:+71UYdlfo
- 「!」
すると絹旗は自身の背後に向けてガードレールを振るう。
ガキィッ!!と金属がぶつかり合った
甲高い音が鳴り響き、『判決の剣』と鍔迫り合いになった。
暗部で鍛えられた戦闘技術や不意打ちに対応する直感。
それが3体の異形を前にしても一歩も引かずに絹旗に戦闘を続けさせた。
「ハッ!!そうですよ、そうやって無ェ頭……
って言うか手?を超ひねってかかってこねェと、私は殺せませンよ!?」
しかし、その瞬間に全身に電撃が走ったかのような痺れが絹旗を襲った。
「ガァッ?!」
その正体は『判決の剣』によるジオダイン。
剣に帯電させることで剣を直撃させずともダメージを与えたのだ。
実際にガードレールを握っている訳でもないのに絹旗にもダメージが及ぶ程の威力。
絹旗は身体を後逸させ鍔迫り合いから逃れると、
更にガードレールを一本引き抜き二刀流のような体勢になった。
「チッ……超めンどくせェですね」
手を何度か握り、しっかり動く事を確認すると射殺さんとばかりに『判決の剣』を睨みつける。
「さァ、行きますよ」
地面を思い切り踏み抜くと、莫大な推進力を体に持たせ1体の『判決の剣』を狙う。
狙われた『判決の剣』もそれを迎え撃つように上から下へと剣を叩きつけた。 - 678 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/05(水) 09:14:55.09 ID:+71UYdlfo
- 「アアァァアァァァア!!!」
絹旗は体を無理矢理ストップさせただけでなく先程のように
バク転して後ろに少し下がりその剣を回避する。
それだけでなく、宙に浮いたまま2本のガードレールをクロスさせ地面に突き刺すと、
地面に叩きつけられた『判決の剣』をそのまま固定した。
勿論、剣を持ち上げるのでなく普通に引き抜けば問題無いのだが、それをさせる絹旗ではない。
「→殺してでも 超うばいとる」
『判決の剣』が握っているその手を無理矢理開くと剣を奪う。
そして奪い取った剣を残された手に全身全霊を
以って叩きつけると、簡単に真っ二つに裂けるのだった。
それと同時に残された剣も消滅した。
どうやら『判決の剣』の剣と手は一心同体らしい。
「ふン、超他愛もねェですね」
すると後ろから2体の剣が迫っている気配を感じる。
それに対して2本のガードレールを再び握り締め、迎撃の体勢を取った。
「戦闘ってのは手だけで出来ると思ったら超大間違いです!」
まず1本目。
ガードレールの側面を滑らせるようにして剣を受け流し地面に叩き付けさせる。
続いて2本目。
こちらは横薙ぎに払ってきたのでガードレールを地面に立たせ棒高跳びのように飛び上がると、
今度は剣の側面を思い切り殴りつけることでその剣もまた地面へと叩きつけられた。
これにより1本目の剣が2本目の剣に邪魔される形で動きを阻害される。
「最初は超グー!じゃンけン、超・グー!!」
2体の『判決の剣』のうち1体を、全霊を込めた右ストレートでその手を砕く。 - 679 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/05(水) 09:15:40.79 ID:+71UYdlfo
- 「ちょっと借りますよっと!」
砕かれた事により剣を地面に落とした。
『判決の剣』は既に消滅しそうな状態である為、剣自体もすぐに消える事だろう。
そうなる前に、もう1体に対して一撃入れるのに使う。
「超とどめです!!」
野球のバッターのように剣を一閃させた。
『窒素装甲』の馬鹿力は剣速を限りなく最速へと近づく。
その速度は『判決の剣』と言う名を冠した剣その物と言って良いシャドウのそれを圧倒する。
「おらああああああああああ!!!」
斬。
まさに一刀両断を地で行った絹旗は、
最後の『判決の剣』を一刀の下に斬り伏せた。
そしてあっけなく剣は手と共に消滅する。
「ふぅ……おっと麦野の方は大丈夫でしょうか?ひょっとしてやられ」
その刹那、ジュッと頬を何か光線のようなものが通りすぎていった。
「……るわけないですね、分かります」
「当たり前よ、私を誰だと思ってんだ」
絹旗は小さく裂かれた頬をなぞりながら背後を振り向くと、そこには麦野沈利の姿があった。
どうやら麦野の方も戦闘を終えたらしく、まだまだ余力を残している所を見ると、
そこらのシャドウよりかは強力だったのかもしれないが、
それでも麦野には及ばなかったということだろう。
実際、『平衡の巨人』は基本的に物理攻撃しか扱えず、
一方で麦野は原子崩しによる遠距離攻撃が可能。
とどのつまりフルボッコだった。
例えば麦野が愛用している三角形のパネル。
これを『拡散支援半導体(シリコンバーン)』と呼ぶのだが、
これは簡単に言うと電子を拡散するパネルであり、
レーザーのような1点集中型の原子崩しを拡散するにはもってこいの道具である。
しかし拡散する事により威力が下がる為に、
先程拡散支援半導体を用いた原子崩しを直撃しても『平衡の巨人』は無傷だったのだ。
なら話は簡単で、原子崩しを普通に放てば良い。
それで足りないのなら更に出力を上げれば良い。
『平衡の巨人』は、その防御力の高さが仇となり
麦野の能力の練習台と成り下がってしまったのだった。
「さーて、さっさとあの翼のとこに……って」
またしても何かの気配を感じる。
背後を振り向くと、50m先から人影が徐々に近づいていた。
- 690 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:30:09.23 ID:4b9YOKk+o
「うおっ、ホントにテレビから出てきた」
一方通行がテレビから戻って来た時に聞いた第一声がこれだ。
そしてその声に聞き覚えがあるなと思ったら伊織順平だった。
どうやら桐条美鶴と愉快な仲間達の一部もこの場に来ているようだ。
はっきり言って狭い。この後クマや布束砥信、木山春生だけでなくその教え子らも出てくる予定なのに既にこの人口密度。
辺りを見渡すと右から岳羽ゆかり、真田明彦に伊織、美鶴に9982号、芳川桔梗に上条当麻。
そして……第二位とドレスを着た女。
こんなボロに何の用だろうか。全くをもって意味がわからない。
何やらやけに敵愾心向きだしな第二位の視線を無視しつつ
一方通行はこの状況について尋ねる事にした。
「で、なンだこの状況はよォ」
「いや、お前の方がどうしたんだよ!?大丈夫か!?」
上条当麻が思わず突っ込みを入れた。
平然としている一方通行に対し垣根やドレスの少女を除いた他の一同の顔は青い。
何せ一方通行の胸元からは大きく血の跡が出来ているからだ。
明らかに傷は深い。だと言うのにその声は落ちついている。
そのギャップが更に不安を煽る要因になっているようだったが、
一方通行がとりあえず無事であると言う事を説明したことでようやく落ち着きを取り戻した。
そして一方通行の質問に対して美鶴が現状をまとめる。
「学園都市に起きている状況をどうすべきか話し合う場を設けた、とでも言おうか」
「何?」
学園都市に影時間が訪れたのは一方通行がテレビの中に入った後の為に、
今現在学園都市を取り巻く環境について何も知らない。
故にそれについて尋ねようとするのだが。- 691 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:31:52.45 ID:4b9YOKk+o
- 「……この感じは……」
どこかテレビの中の世界と似た感覚を覚えた。
それはすなわちペルソナやシャドウに関係する。
そして桐条達と来たら……分からないはずが無い。
「影時間、か……」
一方通行が1人納得する中、その背後から続々とにゅるにゅるとテレビからの帰還者達が現れていた。
「well、いつの間にこのボロアパートは集会場になったのかしらね」
「暗黙の了解って奴クマね!難しい言葉知ってるクマはひょっとして物知りクマ?」
まず布束とクマがテレビから這い出てきた。
一同がクマの姿を見てリアクションを取る前に木山や子供達もニュッと出てきたのでその場は更に混沌と化す。
人口密度は最高潮に達し何が何だか分からない状態の中、
玄関の方からドンドンと扉を叩く音が聞こえてきたので
ワイワイと騒ぐ一同の中一方通行はその輪から抜け出して扉を開けた。
するとそこには。
「いっだいな”んな”のよ”ぉぉぉおお!!!」
扉の前でグスグスと泣きじゃくるのは、結標淡希。
背後では人々が敷き詰まり、前方では結標が泣きじゃくり。
本当に何なんだ。一方通行は夏休み明けの学生のように気だるく溜息をついた。
「……そりゃこっちのセリフだァ……」
「だって!いきなり暗くなったと思ったら小萌が棺桶になるし、
光の翼みたいなのが出てるし、外に出ても棺桶しかないし!」
「お、おォ……」
怖かったんだから!!と涙を流しながら物凄い形相で睨みつける結標に少しだけ気おされる一方通行だった。
とりあえず無事な人々も居ると言う事を確認できた結標はようやく落ち着きを取り戻したのか
ぐしぐしと目元をぬぐうと一方通行の横をすり抜け部屋の中に入ろうとする。 - 692 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:32:26.70 ID:4b9YOKk+o
- 「何してンだお前」
「え?」
「え、じゃねェよお前の部屋は隣だ、そっちに帰れ」
「良いじゃないこんなに人が居るんだから今更1人や2人くらい!!
あなたこんなか弱い女の子が1人棺桶しかない部屋に取り残されてる姿を想像してみてよ!!」
とどのつまり、誰でも良いから人が居る場所に居たいらしい。
ぎゅうぎゅうに詰め込んだこの部屋に更に人が増えると言うのは少し嫌だ。
とはいえそんな事を言えばまた先程のような癇癪を起こしかねないと判断し、一方通行はそれ以上何も言う事は無かった。
「まァいい。それで、お前らはどォすンだ?俺は別件で動いてっからあンま協力出来ねェぞ」
「む、そうなのか?一先ず光の翼……まぁ後で外を見たらわかるだろうが、
それに原因の一端があるかもしれないからここに居ない山岸達がそれを調べに行くはずだ。
だから私達も無事な人を探しつつそちらへ向かおうと考えている」
「そォか。はっきり言ってこっちもいっぱいいっぱいでなァ。とりあえず光の翼とやらは任せるぜェ。
そこの上条も持ってってくれて構わねェ」
「あぁ、任せてくれ」
「一方通行はどうすんだよ、そんな傷で」
淡々と話を進める様子を見る限りでは大丈夫そうに見えるが、
あのような大きな傷を作って大丈夫なはずがない。
上条は自分の事を棚に上げ一方通行が無茶をする一方通行を咎めようとするが、一方通行は意に介さない。 - 693 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:33:17.13 ID:4b9YOKk+o
「とりあえず9982号、お前はミサカネットワークから打ち止めの場所を割り出すとか出来ねェのか?」
「残念ながら無理ですね、上位個体からの命令文が何処から送られているのか分からないようにプロテクトをかけてあります」
「そォか……」
9982号から打ち止めの位置を逆探知出来るならその方が良かった。
それが叶わないとなれば手段は一つしかない。
「この件、恐らく学園都市上層部……統括理事会も一枚噛んでるはずだ。
そォいう訳だから、俺はそっちを洗ってくる」
美鶴の話を聞く限りではこの場では通常の機器は使えないと言う。
だがしかし、統括理事会もこの件に関わっているのであればそれの対策が為されている可能性も高い。
もちろん統括理事会に歯向かうと言う行為の意味がわからない一方通行では無いが、
そこら辺に関してはどうなんだ、と言う疑問を学園都市組は考えたのだが。
「大丈夫だ、誤魔化す。もみ消す。犯罪はバレなけりゃ犯罪じゃねェ」
ニヤリと笑みを浮かべる。
この一方通行に狙われた統括理事会の人間の方に同情したい。一同は本気でそう思った。
「あー、その前にちょーっと試したい事があるんだけど、良い?」
その声の元に視線が集中する。
発言者は芳川。一同がその発言に対して口を開く前に芳川は続ける。
「ミサカネットワークを『解析』したら打ち止めの居場所を突き止められるかもしれないわ」
成程、と一方通行は思う。
決してそんな設定あったなとかそういうあれはない。決して。
「そう言う訳だから誰か召喚器貸してくれない?」
その言葉に一番近くに居た春上衿衣が反射的に召喚器を差し出した。- 694 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:34:41.16 ID:4b9YOKk+o
- 「それはあげるの」
「あら、良いのお嬢ちゃん?」
「それはもう要らないから大丈夫なの」
「そう。それならありがたく受け取るけど……」
チラリと一方通行を見やる。
影時間が今回だけで終わればいいのだが、これからもこうならないとは限らない。
そうなった時自衛の手段がないのは危険なのではないだろうか。
その考えを知ってか知らずか一方通行は美鶴に対して口を開いた。
「なァ桐条。一つ頼まれてほしい事があるンだが」
「何だ?」
「木山春生とその教え子共、桐条グループの学園都市で引きとっちゃくンねーか」
「な!?そんなことできるはずがないだろう!?何の犠牲も無しにここから離れることなど……!」
その言葉に美鶴よりも早く木山が反応を示した。
しかし木山の言葉に対して一方通行は何の動揺も見せない。
「問題ねェよ、俺に考えがある。もうお前らが学園都市に居る理由もねェンだろ?こンな危ねェ目にあってまでよォ。
つゥかお前らの為じゃなく、俺の為にこの提案をしてンだ。変に義理立てする必要もねェよ」
「し、しかしだな……」
「こちらとしては特に問題は無いぞ、鈴科が上手くやってくれるならな」
「はン、誰にモノ言ってンだ」
「そう言って2週間近く入院したのはだれだったかな?確か通り魔(笑)に襲われたとか何とか……」
「グッ……」
一方通行と美鶴のやり取りを見て決心したのだろう。
この2人なら頼りにしても大丈夫だと、自分達を利用するような人間では無いと。
木山は意を決したのか、一方通行へ返答をする。 - 695 : ◆DAbxBtgEsc[sage]:2011/10/11(火) 09:35:36.99 ID:4b9YOKk+o
「すまないがよろしく……頼む。この場には居ないが後5人程居るんだが構わないか?」
「問題ねェよ。後は……」
一方通行は春上を見やる。
彼女は木山の教え子では無いが既にペルソナに関する出来事に巻きこまれてしまっている。
しかし学園都市から出ていくかどうかは彼女次第な為に、一方通行は春上の返答を待った。
「私は……ここに残るの」
「衿衣ちゃん!?どうして!?」
それに対して声を荒げるのは、枝先絆理。
当然だ。自分を含めた置き去りの子達はこの学園都市で幾度となく実験材料にされてきた。
そこから抜け出せる機会を、『普通の日常』に帰るチャンスを、
自ら捨てると言うのだから異論を唱えざるを得ない。
しかし春上の表情から察するに、その決意は固い。
「知りたい事があるからなの」
「知りたい事って!?」
「絆理ちゃん達が受けた実験の裏側を知りたいの。
このペルソナの力と、何か関係がある気がしてならないの」
何故木原数多と言う男は枝先達置き去りの子達がペルソナの適性があると考えたのだろうか。
それは適正があると言う予想ではなく、適正があると言う事実に基づいて自分達を使ったのではないのか。
枝先達5人は既に適性があったにも関わらず、自分だけはペルソナの力を人工的に植え付けられた。
5人と自分の違い。それは暴走能力の法則解析用誘爆実験を受けたか否かではないだろうか。
そして自分が連れてこられたのは、枝先と自分が『精神感応』で繋がっていると言う事実があったからではないか。
木原の主導の元行われた実験の数々をこなしながら春上は以上の事ばかり考え続けていた。
ペルソナと言う力。そして暴走能力の法則解析用誘爆実験。
学園都市は一体何を考えているのか、何を求めているのか。
その牙は、枝先だけでなく初春飾利らにも及ぶのか。
そう考えただけで身震いしてしまう。- 696 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:36:52.46 ID:4b9YOKk+o
- 「そんなこと知らなくたってもう良いじゃん!!」
そんな春上の思いとは裏腹に、枝先は依然として納得をしていない。
「それに……木山先生との時間、大事にした方が良いの。
私と絆理ちゃんは『精神感応』で繋がってるから、離れたってずっと友達なの」
「そんなの当たり前だよ!それより、一緒に行こうよ!
衿衣ちゃんまでこれ以上危険な目に合う必要なんて無いじゃん!!」
「それでも、私は知りたいの。本当の事を。
学園都市が裏側で何をして来たのかを……」
春上の目からは意志が感じ取られた。
テコでも動かない程に固く強い意志、それは親友たる枝先ですら動かせそうにない。
数瞬目線を交えると、枝先は諦めたように溜息をついた。
「……分かったよ、それだったらこれ使って」
ゴソゴソと懐から取り出したのは、召喚器。
「私はもう使わないし、これを私だと思ってくれたら嬉しいかな」
それを受け取ると、春上は強く頷き、手を差し伸べる。
「握手なの」
「……うん、それじゃあ約束だよ。次会う時まで無事でいる事」
「大丈夫なの、この人たちも居るから」
続いてチラリと一方通行を見やる。
どうやら一方通行達の力を当てにしているようだ。 - 697 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:37:42.83 ID:4b9YOKk+o
- 「あァ?なンでそォなるンだよ」
「皆さんが関わっている事と私達の関わっている事は多分同じ道だと思うの。
だから私は皆さんに勝手について行く事にするの!」
確かに、春上は既にペルソナと関わりを持ってしまっている。
そうである以上ペルソナの制御法も知っておかなければならない。
一方通行は布束と上条にアイコンタクトを取ると溜息をついた。
「分かった。ただしお前は自分の意志でこっちの領域に踏み込ンだって事を忘れるなよォ。
必ずしも助けが入るとは限らねェ。そうなって来ると頼れるのは自分の力だけだ」
「大丈夫なの、でも代わりに鍛えて欲しいの!」
「まァ、その辺は当てがあるから任せとけェ……ってチョット待て。
木山ンとこの教え子、これだけじゃねェンだろ?残りの奴らは無事なのか?
ペルソナの適性はあるのか、ないのか?」
ペルソナの適性があるなら影時間にも気付けるし存在できる。だとすると危険だろう。
春上は自身の予想が概ね正しいと確信していたので首を縦に振って一方通行の質問に肯定する。
「……そうなの、他の子達も少なくともペルソナを使う事は出来ると思うの。
だとしたら危ないかもしれないの、早く助けないと」
「成程なァ。桐条、悪ィが光の翼よりも木山の教え子の保護を優先に頼むわ。
どォせこの場に居ない山岸達が光の翼の方に向かってンだろ?」
一方通行の言う通り、2つのグループに分かれて行動していた為
山岸達はこの場には居らず、既に光の翼の方に向かっている。
美鶴は一方通行の提案に特に異論は無かったようで小さく頷いた。
「そうだな、ならば私たちはその子供達を保護した後に木山さん達を連れて一旦学園都市の外へ出てみようか。
出られるかは分からないが……」
「その辺の判断は任せる。そンで、上条達で光の翼の方に向かってくれ」
「分かった。その山岸って人たちも味方で良いんだよな?」
実は上条は美鶴の事しか知らなく、今日他の面子と初対面したのだ。
故に山岸達の事は話にしか聞いたことが無い為、一応の確認をする。 - 698 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:39:15.43 ID:4b9YOKk+o
- 「そォいやお前らまともに顔合わせしてなかったンだよなァ。
丁度良い機会だから自己紹介でもしてこいよ」
一方通行のあまりに軽い言葉に一同は脱力する。
だがしかし、変に気張るよりかは良いだろう。誰とは無しに噴き出した。
そんな中で話についていけない結標はボケーッとし、
ドレスの少女は垣根の様子を見てクスクスと笑い、当の垣根の表情は暗い。
方針は決まった。後は動くだけだ。
決意を新たにした美鶴は立ち上がり、動き出すべく口を開いた。
「では、時間も押してる事だろうし急ごうか。
木山さん、他の教え子の現在地は把握しておられますか?」
「住所は分かっている。一先ずその場所まで向かおう」
「分かりました、それでは先導をお願いします。子供達とあなたの警護は任せてください」
「俺たちなら対シャドウとしての戦力なら申し分ないはずだ」
「まっかせといて下さいよ!このじゅんぺーさんに!」
「じゅんぺーは頼りにならないけど真田先輩と美鶴先輩は頼りになるから安心してください!」
美鶴に引き続き三者三様に心の準備が整っている事を示した。
それによって美鶴達と子供達は木山が先導するままに部屋を出ていく。
その前に木山は最後に一方通行の方を振り向くと、
「一方通行……すまないな、迷惑をかける」
「さっきも言ったが、気にすンな。精々自由な時間を謳歌すると良い」
「……そうだな、そうさせてもらうよ。少しだけ……疲れたからな」
そして木山は簡単な別れの言葉を述べた後、部屋を出て行った。
これにより部屋の人口密度は大幅に小さくなる。
とりあえず芳川は打ち止めの位置に関してミサカネットワークを『解析』する事で逆算出来ないか実験を始めていた。
そんな中で垣根はこの部屋に一方通行が現れてから初めて口を開いた。 - 699 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:41:07.96 ID:4b9YOKk+o
- 「なぁ、第一位さんよ」
「あ?なンだよ第二位さン?」
「お前さ、今更人助け何かして英雄(ヒーロー)気取りか?
それとも良いことした分だけ今までの分は帳消しになるとでも思ってんのか?」
詰み上げてきた罪。
それは清算するにはあまりに重すぎる。
1人や2人の命を救ったところで、殺した命は戻って来ない。
垣根の言葉に一方通行は口を開かない。
そして垣根の言葉は続いた。
「そりゃ無理ってもんだろ?今更正義を語ったところで騙ってるだけにしか見えねぇよ。
俺達はクソだ。クソったれの悪党だ。そんな奴が今更良い事したからって何になるんだよ?
お前が殺した連中に「僕はこんなに良い事したから許して下さい」とでもいうつもりか?
そりゃ甘すぎんぞ実際。マックスコーヒーより甘過ぎて反吐が出る」
贖罪、すなわち罪を贖う事。
しかし根本的に罪を帳消しにする事など不可能だろう。
いくら償っても、いくら取り繕っても、過去に行った事実を変えることなど出来ないのだから。
自分と同じ悪党が、暗闇から抜け出そうともがいている。
垣根にはそのように感じられて、心底腹が立った。
だったら最初からするな。最初から罪を犯すな。
堕ちるのが嫌なら、その場から動かなければよかっただろうが。
だと言うのに、一方通行は今誰がどう見ても善行を行っている。
まるで贖罪を求めているかのように。
それが垣根には我慢ならない。
ギロリと睨みつける垣根の目を、一方通行はつまらなそうな表情で見つめ返した。
それはまるで、話が噛み合ってない人間に対してどう理解させようか悩んでいるようにも見える。 - 700 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:43:07.21 ID:4b9YOKk+o
- 「お前よォ、なンか勘違いしてねェ?」
「あ?」
「俺ァクソったれの悪党だ。ンなもン言われなくても分かってるっつゥの。
つゥか人助け?木山の話か?ありゃ飽くまでも俺の為だ。事のついでに助かる道を提示しただけだ。
別に罪を清算してェとかそォいう考えがあった訳でもねェ。
打ち止めの事だってそォだ。別に償いとか正義とか悪とかそンな事考えてやってる訳じゃねェよ」
一息に垣根の言葉を否定すると、一旦呼吸を整える。少し溜めた後に再び口を開いた。
「……助けてェから助けるンだ。木原はぶちのめしてェからぶちのめす
それだけの事にいちいち漫画みてェな善悪論持ってこられてもどう返答しろっつゥンだよ」
その言葉に拍子抜けしたかのような表情を浮かべる垣根。
しばらく放心したように考え込むと、ばつの悪い表情へと切り替わった。
「……悪かったな、見誤っていたよ。勝手に勘違いしちまってたらしい。
テメェは相も変わらず俺と同じクソったれだ。さっきの言葉は訂正させて貰うわ」
それだけ言うとドレスの少女を促し共に部屋を出ようと腰を上げた。
「ちょっと気になる事があるんでな、俺らはここで帰らせてもらうぜ」
「別に期待してねェから気にすンな。帰れ帰れ」
「はん、大したムカつきっぷりだぜ、第一位」
「お前ほどじゃねェよ、第二位」
「ま、そのうち相対する事もあるだろうから、その時地面に這いつくばらせてやるよ」
「そりゃこっちのセリフだ。そンときゃパシリにでも使ってやるから安心しろ、命までは取らねェよ」
「言ってろクソ野郎。じゃあな」
「おォ」
ひらひらと手を振りながら玄関から出て行く2人。
そうして残ったのはいつものメンバー(御坂美琴不在)と春上に隣人A。 - 701 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:43:46.35 ID:4b9YOKk+o
- 一方通行は明らかに場違いな少女に対して苦言を呈する。
「少し待ってもらったらこの騒ぎも終わるンで、隣の部屋に帰ってもらえませン?」
「イヤよ」
「でも僕達これからそと行くクマよ?結局君は取り残されるクマ」
「イヤよ」
「諦めろよ」
「イヤよ」
「諦めるなよ」
「イ……勿論よ」
「……足引っ張ったら容赦なく置いてって構わねェ。上条、そいつも連れてけ」
その言葉に若干の驚きを示しつつも上条は了承した。
流石にこの場に1人放置するのも可哀そうに思ったのだろうか。
「あら?こう見えてレベル4だから足手まといにはならないと思うわよ」
「だったら1人で頑張れよ」
「イヤよ」
「……」
結局、春上だけでなく結標とも一緒に行動する事にした一同だった。 - 702 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/11(火) 09:44:55.03 ID:4b9YOKk+o
- ・・・
その時、打ち止めの脳波に一瞬だけだが異常が見られた。
これを発見できたのは本当にたまたまだ。
先程までAIM拡散力場についての考察を深めていた所で、
ようやく1段落ついたのか何とは無しに脳波を検出するモニターを眺めていたのだが、
その際に瞬きする程度の時間だけだが脳波が乱れ、再び安定した状態に戻ったのだ。
(これは……?)
本来ならあり得ない事象。
例えば下位個体は上位個体に逆らえないように作られているし、
上位個体を使うにあたって強固なプロテクトをかけたはずだ。
(いや、待てよ……そのプロテクトを突かれたってことか?)
ネットワーク上でただ1点だけ強固な壁で覆われた場所がある。
それこそが打ち止めの居場所であり、木原の潜伏場所でもある。
(だが、下位個体からはどうにも出来ないよう命令文を送っている。だとすれば……)
ペルソナしかないだろう。第3位ですら介入出来ないプロテクトを打ち崩せる存在は。
だとすると、もうじき奴が来る。そう思うと笑いが止まらない。
「ははははは!!来いよ一方通行!軽く遊んでやるぜぇ!!」
木原の笑い声は、止まらない。
- 711 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/13(木) 23:48:26.92 ID:CIoTymloo
- 「意外とわかるものね、ここからそこまで遠くはないわ。
場所は第十九学区の……ああ、地図無いの?地図!」
電気機器は使えない為、地図もアナログの物が必要になる。
とはいえそんなものはここには無い。
これが進み過ぎた技術の弊害か、と一方通行はどうでもよさげにぼんやり考えるものの、
第十九学区に向かうついでに適当なコンビニから拝借しようと決めた。
「俺と芳川、9982号は打ち止めンとこに向かうから、
お前らはあの光の翼の所に向かえ。なンかあるだろ多分」
「おっけークマ!」
「おう、任せとけ。一方通行もあんま無茶すんなよ、怪我してんだから」
「well、影時間ってシャドウが出るのよね?私も召喚器もらっとけばよかったわ」
「一応『鋼鉄破り』ならここにありますがちょっと扱いが難しいですしね。
と、ミサカはこっちのハンドガンを自衛用に渡しておきます」
芳川桔梗のペルソナ『カシキヤヒメ』の両手に頭を包まれている9982号は
今の今まで部屋に置いてある装備を整備していたらしく、装備のうちの一つを布束砥信に手渡した。
その黒い塊を受け取った布束は一言呟く。
「indeed、これである程度は何とかなりそうだけど、
何だか召喚器と同じ要領で頭に突きつけちゃいそうね」
「やめて!」
思わず9982号が突っ込みを入れる。 - 712 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/13(木) 23:49:17.84 ID:CIoTymloo
- そんな中、結標淡希は芳川のペルソナ『カシキヤヒメ』を凝視していた。
召喚器やペルソナ、シャドウだの聞いた事のない単語ばかり出てきた為
話について行けて居なかったのだが、ようやくペルソナの存在を知ることが出来たのだ。
話半分に聞いていたのだが実際に見せられた事でようやく現状を把握したようである。
「ここに居る皆はあそこにいるのみたいなのを出してシャドウってのと戦うって事?」
「そうなの。召喚器が無くて出せない人も居るけど、それはその時になって考えたらイイと思うの」
「さっきまで居た子達の分もらっておけばよかったのに」
「確かにアイツらにゃもォペルソナに関わらせるつもりはねェが、
こっから脱出するのにある程度力が要るからなァ。
最後にちっとだけシャドウどもの相手してもらわなくちゃならねェ。
そン時に戦力にならねェ奴を1人でも減らす必要があンだよ」
2人の会話に一方通行が混ざって結標の疑問に答えた。
とは言えそれはこちら側でも言える事なのだが、
平均年齢を考えたらこちらが譲るべきだろう。
更に言えばシャドウ相手の経験値もこちらの方が高い。
それに春上衿衣と芳川の持つ召喚器は無いと困るのでそのまま頂戴したわけだが、
元はと言えばあの召喚器は桐条グループで作られたものだ。出来るだけ美鶴に返しておきたい。
「まァ、元々俺らによこすはずのもンだったンだがなァ。とりあえず返しといた」
「ふーん、まあ良くわからないけど光の翼って言うのをなんとかしたらいいのよね?」
「……まァ、それを何とかしたところでどうなるかはわからねェンだけどな。
情報が足りねェンだ」 - 713 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/13(木) 23:50:16.39 ID:CIoTymloo
- 光の翼。
今現在一方通行達が居る部屋からはそれを見ることが出来ない。
外に出ればわかるのだが、そちらは上条達に何とかしてもらうしかないだろう。
だがしかし、当の上条の表情が固い。
まるで別の悩み事を抱えているかのように。
「どォした、上条」
そんな上条に対して、一方通行は小さく尋ねた。
上条は少しだけ考える素振りをすると、
意を決したのか周りに聞こえないよう小さく返答する。
「……魔術師が学園都市に侵入してるみたいなんだ」
「何?」
「俺も一旦やられちまったんだけど、色々あって今だけ右手も使える」
「……マジかよ」
半信半疑な一方通行は上条が反応するよりも早く上条の右手を手に取った。
「……!!」
思わずその手を離す。
何故なら本当に『幻想殺し』は機能していて、止血が出来なくなってしまったからだ。
包帯の一つでも買っておけばよかったと後悔する一方通行の胸元の赤色が少しだけ広がった。
そんな一方通行の様子を見て呆れた表情を浮かべる上条は。
「……お前何やってんだよ」
「……うるせェ、その魔術師はどォすンだ?居場所もわかンねェンだろ」
憮然とした態度で返答する一方通行は、続いて魔術師について尋ねる。 - 714 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/13(木) 23:51:02.28 ID:CIoTymloo
- 「いや、最後に見た時は光の翼目指して移動を始めたみたいだけど、
何か魔術の反動か何かで体引きずるような感じになってたから、
そこまで早く翼のとこまで行けるとは思えないんだ」
「まァ、敵対するようであれば臨機応変に対応してくれ」
この場において本当にヤバいのは魔術師なんかより学園都市の上層部である。
そのように考えている一方通行は事もなげに上条に言うのだが、
あの魔術師と実際に戦った上条からしたらやはり気が重くなる。
あんなのと他の仲間たちを関わらせたくない、絶対に。
「他の奴らには関わらせたくは無いんだけどな……」
「同じ場所を目指すとは言え、実際に出くわすかもわかンねェ奴の事考えても仕方ねェだろ」
「まぁそうなんだけど……」
もし仮に魔術師と出くわしても互いにそれどころじゃないはずだ、
と一方通行は楽観的な発言をするのだが、やっぱり上条の気は重たい。
「それじゃ、そろそろ出発しますか?と、ミサカは一方通行に尋ねます」
「そォだな、とっととこの馬鹿騒ぎも終いにしよォぜ」
9982号の言葉と共にスッと玄関の方へと歩き始める。
ここからはもう戦場だ。危険しかないこの場で誰もが無事に帰れるという考えは捨てろ。
一方通行は自身の手を握り締めると外へと出る。
どこか絵画のような光景が目の前に広がっていた。
何故だろう。何故だかわからないが一方通行はある1人の人物を思い浮かべる。
(風斬……?)
そして何故だかわからないがあの光の翼は風斬氷華が生み出した……いや、風斬氷華そのものだと直感した。
すると背後から芳川が声をかけてきたので後ろを振り向くと何かチップのような物を投げ渡された。 - 715 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/13(木) 23:51:58.91 ID:CIoTymloo
- 「なンだこりゃ」
「打ち止めの人格データよ。今日取ったデータだから一番最新の」
「そンなもンいつの間に……」
最後まで言い切る前に思いだした。
そういえば芳川は昼間に打ち止めを連れて何処かに行っていたではないか。
それはこの人格データを保存する為だったと言う事か。
「いやね、気になる事があったから調べ物のついでにチョチョイとね。
まさかこんな形で使う事になるとは思わなかったけど」
「どォいう事だ?」
「さっき『解析』した結果なんだけど、恐らくあの光の翼はミサカネットワークが生み出した物で、
打ち止めがそれを統括してる状態にあるのよね。
勿論、打ち止めの意志ではなく『学習装置』によってだと思うけど」
つまり、と言葉を区切って一方通行が手にしている打ち止めの人格データを収めたICチップを指差しながら続ける。
「『学習装置』によって書き換えられた打ち止めの脳内を、
それで元に戻せば全て丸く収まると言うことね」
「成程なァ……だが通常の機器は使えな……
イヤ、特殊なもンなら使えるからこそのこの状況か……
だがこのチップ自体が使えるかは賭けになるなァ」
「学習装置さえ動かせたら問題無いはずよ。万が一駄目だとしても……これがあるしね」
芳川は手の中で召喚器を弄びながら一方通行の言葉に返答する。
とりあえず打ち止めについては何とかなりそうだ。
木原数多さえどうにかしたら、の話だが。
(まァ、あのクソ野郎に関してはコレでどうにでもなるか)
兎にも角にも、さっさとこの一件にケリをつけてしまおう。
一方通行は9982号と芳川を伴ってアパートを発つのだった。 - 716 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/13(木) 23:52:35.10 ID:CIoTymloo
続いてそれを見送った上条達も光の翼の元へ行くべく行動を始める。
「うっし、俺たちも行くか」
「行クマよー!!」
「私も頑張りますなの!」
「incidentally、あなたレベル4って言ってたけどどんな能力なの?」
「ん、『座標移動(ムーブポイント)』って奴ね。
あんまり使いたくないけど早く終わらせたいし、実際にやってみせるわ」
瞬間、上条を残して4人が消えた。
「……あっれえええええ!?」
その場に取り残された上条の悲鳴が虚しく響き渡るのだった。- 717 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/13(木) 23:53:42.96 ID:CIoTymloo
- ・・・
「ふうん、あんたらが使うそれがペルソナで、さっきまで私らと戦ってたのがシャドウで……」
「このシャドウとか言うのが超発生する時間を影時間と呼ぶんですね」
「そう言う事です。でも本当はこんなことあり得ないはずなのに何故か発生してて、
それを調べる為に……と言うか何とか影時間を終わらせたいと思っています」
麦野沈利と絹旗最愛がまとめた山岸風香らの説明を、アイギスが肯定した。
麦野と絹旗が戦闘を終えると同時に山岸達がその場に到着したので、
互いに情報を交換する事にしたのだ。
「ところでここに来る前に凄い光が空に向かってたんですけど、
あれってあなた達の超能力って奴ですか?」
天田乾が最初に見た光線について尋ねると、麦野は肯定する。
「ん、そうだよん」
それの証明の為か空に向けて『原子崩し』を放つ。
空へと昇る光線は麦野の力の証明であり、
シャドウと敵対しても問題無く無事で居られると言う証明でもあった。
その光景を見た一同は改めて超能力のすさまじさを理解する。
「やはり学園都市は凄まじいですね。
超能力者を生み出すと言う技術、明らかに周りと比べても先を行っています」
アイギスが空を仰ぎながら技術力の高さに舌を巻いていたのだが、
その発言を聞いて麦野は顔をしかめる。
「あれ?あんたら外から来たの?
だとしたら何でこんな訳のわからない事態になる事を知ってたのかにゃーん?」 - 718 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/13(木) 23:56:20.51 ID:CIoTymloo
- 情報。これは何に置いてもかけがえのない物である。
暗部に棲む麦野もそれは重々承知しているらしく、
不信感を抱かれないように笑顔で尋ねた。
ところで、下品な言葉づかいをする麦野ではあるがああ見えてかなりの美人である。
その美人が笑顔をするとなれば男だろうと女だろうと不信に思う人間は居ない。
「ええと、何て言えば良いのかな……
色々あって学園都市に研究者を派遣するついでにスパイもしてもらってて、
この事に関する情報を集めてもらってた、って言う感じかな?」
山岸は美鶴の名前を出さずに今回情報を集める事が出来た概要を説明する。
しかしそんなことを知りたいのではなくてその背後に居る人間、
すなわちスパイを送り込んだ人間について知りたかったのだが。
麦野の方もその話を聞いてやはり初対面の人間を全面的に信用は出来ないか、
と内心舌打ちしつつもその言葉に頷いた。
「成程ねぇー。それで、この意味のわからない状態を終わらせる方法はあるの?」
「残念ながらそこまでは分かってないんです……」
ホントに使えねぇ。
麦野の心の中で表現するのが億劫になる程の罵倒の言葉が渦巻いていた。
しかしそれを表情に出す事は無い。
いちいち争っている暇も無いし、
少なくとも棺桶姿になってしまったフレンダと滝壺理后は無事であると言う事は分かったのだからそれでよしとしよう。
しかしそこで疑問が1つ浮かび上がる。
「何で私らは棺桶にならなかったのかしら?連れが2人今棺桶なんだけど」
「それはこのペルソナの力に対して適性があるか否かなんだけど……」
「てことは私達も使えるって事?」
「そうですね……でも、ちょっと怖いですよ?」 - 719 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/13(木) 23:58:00.47 ID:CIoTymloo
- ものすっごい目をキラッキラさせる麦野を見て山岸は少し意地悪げに微笑む。
軽く挑発ともとれる笑みを受け麦野はその挑戦を受けて立つ事にしたのか、
「へぇ……じゃあちょっと貸してほしいなー?」
目の光をキラキラからギラッとしたものに変貌させると、
山岸は苦笑しながらも召喚器を差し出した。
先程山岸達のペルソナやシャドウに関する説明の過程で、
3人+1匹の持つペルソナを見せられている為か絹旗もその光景に目を輝かせながら眺めている。
そしてその召喚器を受け取った瞬間。
「ッ……!!?」
暗部の任務でも味わったことのない濃厚な『死』の気配を感じ取る。
レベル5と言う学園都市が誇る最強の一角。
麦野沈利は今まで圧倒的な力を以って敵を制圧してきた。
その麦野が今、ただの拳銃……それも銃口を樹脂か何かで閉ざされたただの模型に恐れを為している。
普通に召喚していたものだから当たり前のように出来る物と思っていたのに、
手に取るだけで全身に『死』がまとわりついてくる。
しかし、麦野は恐怖以上に『死』を恐れている自分自身に激怒した。 - 720 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/13(木) 23:59:45.76 ID:CIoTymloo
- (今更死ぬのが怖いって!?馬鹿じゃねぇのか、私は!!)
自分で自分を叱咤する。
(私が今まで何人殺してきたと思ってんだ!!
なのに自分は死にたくない、だなんて馬鹿げてる!!)
そんな都合のいい話があってたまるか、と。
(死を恐れると言う事は、死にたくないと心のどっかで思ってるって事だ!!)
いつどんな死に方をしてもおかしくないと思っていた。覚悟していたつもりだった。
(ってことは詰まる所殺してきた事を心のどっかで後悔してるって事だ!!)
死にたくない、殺されたくないと思う気持ちは今まで誰かを殺してきた事への否定、後悔につながる。
こんなことなら、殺すんじゃなかった、と。
(それだけは許さねぇぞ、麦野沈利!!私はいつどこで野垂れ死んでもおかしくない存在だ!!)
とは言え、潔く死んでやるつもりなど欠片も無いのだが、それでも。
(だったらそいつらの味わってきた『死』の恐怖位受け入れてやるのが礼儀だ!!)
殺されて行った人間達の最期に味わった恐怖。
それを一つに凝縮したのが自分の手の中にある召喚器だと言うのならば。
召喚器を手にした瞬間に目から光が消えそうになったのだが、すぐに光が再び灯る。
ギラリと召喚器を睨みつけるとこめかみに突きつけ、引き鉄を、『死』の手綱を引いた。
実際には鳴らないのが、パンッと乾いた音が麦野の耳に響き渡った。 - 721 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/14(金) 00:01:18.18 ID:rI90NY8zo
- ・・・
「ねぇ、ねぇってば」
「あぁ?」
「気になる事って何なの?一方通行達と別れた時に言ってたけど」
「あぁ、あれね……」
垣根提督は自身の手牌を凝視しながらどうでもよさげな口調で言葉を選ぼうとする。
垣根とドレスの少女は隠れ家へと戻っていた。
いずれ元に戻ると言うのなら、その場に居なければ2人に怪しまれてしまうからだ。
何せ勝負はまだついていないのだから。ゴーグルの奴にぎゃふんと言わせねばならないのだから。
「まー何だ、ここじゃケータイも弄れないみてーだから今は何も調べられねーんだけどな。
その分こーやって考える事が出来る」
「考えるってのは今後の役の選び方って事?
ゴーグルより先に三元牌手にするのも悪くないわね」
「そうじゃねーよ、あのペルソナとか言う力の事だよ」
「あら?あなたあの力は要らないって言ったじゃない」
「まあ、要らねぇと言えば要らねぇんだけどな。あって損するもんでもねーだろ」
桐条美鶴の勧めをきっぱりと断っていた所を見ると、
その力に興味がないのだとドレスの少女は勝手に思っていた。
しかしどうやらそれは違うらしい。
垣根はただ単に赤の他人から召喚器と言う得体のしれない物を受け取る気にならなかっただけのようだ。
「それに、影時間……この時間に普通で居られる奴らの違いについてなんだが、
俺はペルソナへの適性だけではなく能力者としてのレベルも関係あるんだと予想してた」
「でも普通に研究者とか居たじゃない」
「そうだ。だから一旦はその仮定を否定したんだけどな、やっぱり合ってる気がしてならねえんだ。
ただの直感だがな、こういう何の情報も無い時の直感って結構重要だったりするんだぜ?
だから影時間とやらが終わった後、『黄昏の羽根』と並行してペルソナとシャドウについても調べる。
何より一方通行の野郎がテレビから出てくるって言うマジシャンも吃驚な光景についても気になるしな」
これから忙しくなりそうだ、と仕事を嫌がるサラリーマンのような表情を浮かべる垣根だが、
その口調は何処か楽しそうなもので、ドレスの少女はそのギャップにクスリと笑う。
「それなら一方通行達の事手伝ってきたらいいのに」
「あいつらなら何とかなるだろ。俺らはここでダラダラ過ごしてりゃ良いんだよ。
「一応」あいつは、「今は」第一位だからな」
一応と今は、という部分を強調させながらも一方通行の持つ能力と実力は素直に認めている。
果報は寝て待て、と垣根は少し早いこたつに対して
少し早いみかんを手に取ってゴロリと寝転がるのだった。
- 733 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/18(火) 02:21:06.19 ID:W+lugpeco
- 「はぁ、はぁ……ちょっと休憩……」
結標淡希は息を整えるように手を胸に当て深呼吸をする。
額からは汗がダラダラと流れ落ち、見るからに体調が芳しくないと言う事がわかった。
「ちょ、大丈夫?」
あまりの変貌っぷりに能力について尋ねた布束砥信も語頭に接続詞をつけ忘れてしまう程に結標の様子がおかしい。
当の結標は頬を伝う汗を一拭いするとげっそりした表情で答える。
「私の能力……昔の実験の心的外傷(トラウマ)が原因で
自分自身を転移させるとこうなるのよね……」
昔話をする時間も無いので結標は端的に現状を説明した。
自身を転移させる恐怖。それを乗り越えない限りこの状態は続くそうだ。
一応暗部で仕事をするという条件の元、そのトラウマを克服するための研究が為されてはいるものの、
現状では低周波振動治療器と言う特殊な装置を使用する事で結標の能力使用によるストレスを軽減させる程度にしか研究が進んでおらず、
とどのつまりトラウマ自体は自分の力で乗り越えるしかないらしい。
「それでもちょっと前と比べたら幾分かマシになったんだけどね……」
例えば壁越しに見えない場所への転移だと10m先でも辛かったのだが今ではその程度の距離なら何とかなるし、
更に言えば開けた場所……例えば空の中で転移すると言うのならばかなりの距離を一気に進める。
つまり結標は最初の転移で上空へ移動すると後は真っすぐ一気に突き進んだ、と言う訳だ。
とは言え流石に何度も繰り返すと精神的な余裕も無くなるのだろうか、一旦地上に降りたのだが。 - 734 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/18(火) 02:23:05.46 ID:W+lugpeco
- 「無茶はアカンクマよー、こっからは歩いて進むクマ!もうあの光の翼まで目の前だし」
「そう言ってもらえるとありがたいわね……」
クマって語尾は一体何なんだ、と最初にあった頃から突っ込みを入れたかったのだが、今はそれをする余裕すら無い。
結標は何とか笑みを作って一同に感謝を示した。
一方で、春上衿衣は辺りをキョロキョロ見回している。
そんな春上の姿を見て布束も辺りに意識を向けた事で初めて異変に気がついた。
「incidentally、上条君が居ないわね」
「え、嘘……?」
息を切らした結標もまた辺りを見回す。
布束とクマは一応『幻想殺し』について話を聞いてはいる……
聞いてはいるものの力が復活したと言う事は聞いていない為、『幻想殺し』の事は頭から消え去っていた。
となるとこの場で残された可能性は……。
「「……」」
「え、ええっと……」
じーっと一同は結標を見た。当の結標は少し涙目である。
体力を限界まで振り絞った結標に対して、一同はこれ以上何かを言う事など出来なかった。
「……well、とりあえず光の翼のとこまで行きましょうか。上条君はほら、1人でも十分強いし」
「そうクマね!そうときまったら出発クマよ!」
「はいなの」
その優しさが、結標には辛い。
とは言えこの場に責任を持つべき人間は居ないのだが、
強いて言うのなら幻想殺しについて布束とクマに伝えなかった上条当麻が悪い。
そんな事知る由も無い結標からしたら責任感と罪悪感で押し潰されそうなのであるが。
多分目に溜まっているのは精神的疲労から来た汗だ、そうに違いない。
結標は目元を拭うと先を歩く3人について行くのだった。 - 735 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/18(火) 02:28:21.18 ID:W+lugpeco
- ・・・
「すごいです……」
圧倒的なまでにシャドウ達を蹂躙する光景。
確かに、およそ1年戦い続けた特別課外活動部の面々が集まればある程度のシャドウなら余裕で倒せるだろう。
しかし、それを為しているのはシャドウと言う存在を今日知ったばかりの2人の女性だった。
そのあり得ない光景に驚愕を露わにしつつもシャドウを殲滅していくアイギスと天田乾にコロマルなのだが、
この様子だと2人は山岸達の補助がなくとも問題無いのだろう。
そして、注目の的となっている2人は。
「絹旗ー、そっちに2匹行ったわー」
「はいよー」
麦野沈利は両手からズバズバと『原子崩し』を放つ。
それによってシャドウの大半は近づけずに消滅するのだが、その合間を縫って近接してきたシャドウを絹旗最愛が相手をする。
そのコンビネーションは、元々は戦闘用に造られたアイギスをして認めるほどであり、
対シャドウ戦においては山岸風香らに軍配が上がるだろうが、しかしシャドウと言う存在を知った今。
「は!雑魚は雑魚でもわんさかいりゃ邪魔になるわなぁ!!
いい加減うっぜーんだよチンカス共がぁ!!」
「まァ、所詮は、超、雑魚、です!!」
如何に速く動き、如何に敵を多く倒し、如何に手数を少なく戦闘を終えるか。
言うなれば戦闘の効率化においては暗部で長く生きてきた2人に軍配が上がる。
そして、その暗部で培ってきた戦闘技能は対シャドウ戦でも健在していた。
「ラストォ!!」
絹旗の叫びとは裏腹に残りのシャドウは10体程居る為、明らかにラストであるとは言えない。
一体どうするのだ、とアイギスは弾薬を補充しながら足を止めた。
すると絹旗は最も手近に居た『失言のアブルリー』を鷲掴みにしたと思うと、
思い切り中に放り投げつつも麦野から三角形のパネルを受け取った。
―――拡散支援半導体(シリコンバーン)だ。
山岸達はそのパネルの存在を知らない為一体どうするのだと言わんばかりにそのパネルに注目する。 - 736 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/18(火) 02:29:48.49 ID:W+lugpeco
- 「こいつで超ド派手な花火をブチ撒けやがれってなァ!!」
宙へと舞い上がった失言のアブルリーに対して拡散支援半導体を投げつけると、高速で回転するそれは容易に目標の体を貫いた。
しかし完璧に力加減された拡散支援半導体はそのまま体内に残る。
何故わざわざそのような真似をしたのか?
答えは単純明快。
「JACKPOT、ってね」
最後くらい、派手に行きましょ。
そんな思考が見え隠れする程に派手な一撃だった。
失言のアブルリーを原子崩しが貫いた瞬間、その体内から光線が四方へと降り注ぐ。
それによって残されたシャドウ達はまとめて原子崩しに貫かれ、消滅の一途をたどった。
「超汚ェ花火です」
何処かで聞いたような台詞を以って、戦闘は終わりを告げるのだった。
「さーて、次行きましょ次……ってどしたのあんたら?」
「「……」」
戦闘時と普段のギャップがすごい。
2人の変貌っぷりに軽く引いた一同は何も見なかった事にして再び光の翼の元へと向かう事にした。 - 737 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/18(火) 02:31:39.58 ID:W+lugpeco
- ・・・
「なんつーか、あれだな。不幸だーってか?困った困った」
『幻想殺し』が戻った途端にこれだ。これには流石の上条当麻も苦笑い。
力と共に不幸っぷりも復活したと言う事だろう。
取り残された上条だがその表情には戸惑いは無い。
それもそのはず。
命の危険等、シャドウと関わりを持つ事を決めた時から幾度となく晒されて来たのだ、今更この程度で焦る上条では無い。
「だけどあいつらの方が間違いなく先に着くよなあ……」
わざわざ戻って来る等考えられない。
よしんば戻ってきたところで自分は天に出来ないのだから。
ここからは単独行動になると判断しすぐに駆けだしはしたのだが、一つだけ不安がある。
「あいつらとヴェントが鉢合わせたらヤバい。何がヤバいってあいつらが危ない」
そもそも何をされたかすらわからなかった。
反撃しよう、そう考えた瞬間にはイゴールの元に居た。
何を言ってるかわからないと思うが俺も何をされたかわからなかった。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃ断じてない。
そんな事はさておき。
「とりあえずあいつは間違いなくあの光の翼に向かっている。
ならあの魔術がどういうものか理解できねーとあいつらが危ない……」
とはいえ、魔術に関する知識は深くない。
そして魔術の知識と言えばインデックスが挙げられるが。
「あいつも何処に居るかもわからねぇ……畜生、やっぱ不幸は駄目だな、マジで」
しかしここは『影時間』。
生と死が逆転するこの場に於いて不幸と幸運も逆転したのだろうか、
ご都合主義のような奇跡が今ここに起きたと記そう。(上条当麻日記、9がつ30にちから抜粋)
「とーま?とーま!!」
歩く魔術百科事典ことインデックス。
上条と彼女は今、奇跡的な邂逅を果たしたのだった。 - 738 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/18(火) 02:33:17.05 ID:W+lugpeco
- ・・・
「クソが……何なんだ、一体さっきからわらわらとよォ……!!」
血の塊を吐きだす。全身が痛みを訴えてくるがそんなものは知ったこっちゃない。
前方のヴェントは重たい腕を振るいながら魔術を発動させる。
しかし、その魔術を発動させるたびにヴェントの身体は死へと近づいて行く。
とはいえ何もしなければ待っているのは死だけだ。
そんな理不尽な状況下でもヴェントは手にしたハンマーを片時も離さない。
しかしいい加減体力も尽きて来たのだろうか、
ようやく周囲から気配が消えた事で腰を落ち着けた。
そうして呼吸を整えながら頭に上った血を冷やしつつ現状について思考を始める。
(明らかに科学とは思えない、魔術ですらない……)
一体何の力で魔術を否定し、一体何の力で目の前のバケモノ共は蠢いているのか。
(そう言えば、フィアンマの野郎が何か言ってたな……)
魔術が現れた理由。
それは『才』ある者に対抗するための知恵と力だ、と。
その時ヴェントは何を当たり前の事を、と思いながらもふと疑問に思う。
当たり前すぎて疑問に思う事すらなかったのだが、
フィアンマと言う人間の言葉によって初めて疑問に思う機会が得られたと言うべきだろうか。
『才』とは一体何なのか?
(超能力者では無い。あれはここ50年で台頭してきた人工的なモンだ)
その『才』に関する事柄は完全に秘匿されてきた。
と言うより忘れ去られた存在だと言っても良いだろう。
あの『禁書目録』ですら知らない力の存在。
いや、禁書目録は『魔術』に関する知識しかないのだから知らないのは当然だろう。 - 739 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/18(火) 02:35:22.98 ID:W+lugpeco
- (……『悪魔憑き』、フィアンマはそんな風に呼んでたっけか)
しかしそれは『才』無き者達が嫉妬し、
排斥する為に名付けた名称だとフィアンマは言っていた。
その時当のヴェントはと言うと、本当に興味なかったのだろう。
話半分に聞き流していた為にその内容はよく覚えていないし、
何でそんな話になったのかも覚えていない。
フィアンマの方も世間話のつもりで詳しい事は言っていなかった気がする為に大した事は思い出せなかった。
(だけど、『悪魔』という表現はあながち間違いじゃないとか何とか……)
眉間にしわを寄せ、額に指を当てながら記憶を探っていく。
『才』への嫉妬もさながら、力に呑まれ暴走した姿が
悪魔と形容するにふさわしいものだった為にそのような呼称が生み出され、
『才』ある者は迫害されて行ったのだと言う。
(その『才』が暴走した姿が、あのバケモノ共だってんなら辻褄は合う気がするケド……)
何故学園都市に?
アレイスター=クロウリーは何を考えている?
(……ハッ、そんなもんどーだってイイか。まずあの光をブッ潰す。
そんで幻想殺しも禁書目録も、超能力者も何もかもまとめて潰せばイイ)
思考の果ての、思考停止。
はっきり言って、バケモノの正体等どうだって良かった。
結局のところ、『科学』の総本山である学園都市を潰せたら何だって良かった。
自身のハンマーを杖に立ち上がるとギラついた目線を光の翼へと送り、その下へと突き進むのだった。
- 746 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:46:35.95 ID:RF9ZxTn3o
- 「見つけた。第十九学区……丸藤ビルの8階。
確かこのビルもう閉鎖されていたはずだからすぐ見つかるはずよ」
木原数多の下へ向かっていた一方通行達はその道中に地図を入手し、
打ち止めと木原の位置を特定していた。
地図上を指差す芳川桔梗は召喚器をしまうとペルソナ『カシキヤヒメ』も消える。
一方通行はその位置を確認すると9982号と芳川を見て口を開いた。
「丸藤ビル……よォし、分かった。
そンじゃこっからは別行動だ。お前ら2人御坂ンとこ行って来てもらいてェンだが」
恐らく何も事情が伝わっていない為に訳もわからずシャドウと戦っているに違いない。
またミサカネットワークを使っている、と言う事は他の妹達も棺桶にならずに済んでいるはずだ。
ならば御坂美琴は妹達の元から動けずにいるに違いない。
「ですが、一方通行は1人で大丈夫なのですか?と、ミサカは尋ねます」
「問題ねェよ。策って程のもンじゃねェがあのクソ野郎を潰す手段はある」
一方通行は応急処置された胸元を確かめるように指でなぞると、第19学区の方向に目をやる。
「……わかりました、気をつけて下さい。と、ミサカは一方通行の必勝を祈願します」
「はン、言われるまでもねェよ」
一体どうするのだろう、とは思うものの御坂や妹達の事も気になるらしく、
9982号はそれ以上何も尋ねる事はなく行動を始める。
一方通行もそんな2人を一瞥するとすぐに第19学区へ向け飛び立つのだった。
高速で飛翔する一方通行はその場からあっという間に見えなくなってしまう。
妹達や御坂の事も気になるが、やはり大怪我を負ったままの
一方通行も気になるのだろう、9982号の表情は暗い。
そんな9982号の様子を見ている芳川は一つ疑問に思っていた事を9982号に尋ねた。
「ところでさっきミサカネットワークを『解析』した感じだと、
9982号が行動できてるのって皆の演算能力を9982号に集めてるからって事でいいのよね?」
「そうですね、芳川の言う通りです。と、ミサカは質問に答えながらも急にどうしたと疑問に思います」
9982号の肯定を受けて芳川は少し考える素振りをすると、9982号にある提案をした。 - 747 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:47:17.07 ID:RF9ZxTn3o
- ・・・
「インデックス!良かった無事だったのか!」
「とーま!とーま!それよりも……!」
上条当麻はインデックスの無事に心底安心する。
しかし、当のインデックスは心ここにあらず……
と言うよりかは光の翼にしか意識が言っていないようだった。
「分かってる、あの光の事だろ?今なら『幻想殺し』も使えるし、何とか……」
焦燥した表情を浮かべるインデックスを落ちつかせるべく、
一時とは言え『幻想殺し』が戻った事を教えたのだが、その言葉にインデックスは驚愕する。
「だめだよとーま!ひょうかを殺さないで!!」
「待て、ひょうかだって?」
ひょうか、ひょうか。上条は自身の記憶を探る。
学園都市におけるインデックスの知り合いは多くない。
故に風斬氷華と言う名を思い出すのに時間はかからなかった。 - 748 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:48:21.50 ID:RF9ZxTn3o
- 「……ひょうかって、風斬の事か!?何でまた……」
風斬氷華といえば、あの控えめな感じの女の子だったはずだ。
それがまたどうしてどこかの電撃娘のような自己主張の激しい紫電を放っているのか。
「そんなのはこっちが聞きたいかも!
どういう理屈かは知らないけど、あの『天使』はきっとひょうかなんだよ。
絶対に止めなくちゃいけない現象なんだけど、
とうまのその右手は善悪関係なく消しちゃうから、とうまはひょうかのとこに行かないで!!」
恐らく、インデックスの言っている事は本当の事なのだろう。
ならばインデックスの言う通り、自分は風斬の所には行かない方が良いはずだ。
芳川桔梗が言うには、風斬の異変にはミサカネットワークが関わっているらしい。
つまり、風斬に関しては別行動をしている一方通行に一任するしかないだろう。
更に言えば万が一風斬が暴走でもしてしまっているのであれば、
布束砥信やクマ達がどうにかしてくれるはずだ。
今、上条の『幻想殺し』は風斬には必要が無かった。
だからといって自分は何もしなくていい、なんてことは無い。
まだもう1人、学園都市内に危険な人物が居るのだから。
インデックスの言葉に頷きながら上条は言葉を紡ぐ。 - 749 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:49:18.03 ID:RF9ZxTn3o
- 「分かった、風斬は他の奴らに任せる。
一方通行達もこの件で動いてるから、風斬の事は心配すんな」
「私も手伝う!!」
一方通行も動いている、という言葉に少し安心感を覚えるインデックスだが、
自分も何かしなければならないと言う使命感に駆られているのか、
はたまた友達の危機に居ても立ってもいられないのか、身を乗り出して上条に迫っている。
「風斬が心配なのもわかるんだが、実は問題はそれだけじゃねえんだ……」
「……どういう事かな?」
「魔術師が1人、学園都市内に侵入してる。
恐らくその魔術師も風斬のとこに向かってるから、俺達はそれを止めなきゃならねえ」
「ッ!?どんな魔術を使うのかな!?絶対止めなくちゃ!!」
魔術師が風斬の下に向かっている。その言葉だけでインデックスは奮起した。
時間がない為移動しながらヴェントについて、
上条が持ちうる情報をすべてインデックスに伝える。
「ひょうか以外にも別の魔力を感じていたのはそう言う訳だったんだね……
でも、それだけじゃないかも。棺桶とか、変なのとか……」
棺桶、と聞いて上条は思い切りビクンと肩を揺らした。
今まで隠してきた事に対する核心に迫ってきているインデックスに、何と説明したら良いのか。
幸いインデックスは考え込んでいたからか、上条の動揺には気付かなかったが。
とはいえ、インデックスも既に影時間と関わりを持ってしまっている。
やはり事情は知っておくべきだろう。 - 750 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:50:16.29 ID:RF9ZxTn3o
- 「棺桶とか、変なの……多分シャドウの事を言ってるんだろうけど、それはあれだ。
俺のこの力が関わってる」
神妙な表情を浮かべながら上条は召喚器を取りだした。
それは以前アドリア海にてビアージオ=ブゾーニと敵対した際、
上条がペルソナを出すのに使った拳銃の模型で。
今までひた隠しにしてきた『幻想殺し』消失に関する重要なファクターでもあった。
「詳しい事は後で話す。とりあえず今すべきことは魔術師を……ヴェントの奴を止める事だ」
その言葉に対して、インデックスは上条の目をジッと見つめる。
真っすぐな視線を送ったインデックスに対し、上条も同じく真っすぐに返した。
それを見たインデックスはどうやらその場しのぎと言う訳でも無い、と判断して軽く溜息をつく。
「……絶対だからね」
「おう、絶対だ」
「それなら、それは良いとして……そのヴェントって人の魔術は、『天罰』だと思うんだよ」
「天罰?」
「ある感情を始動キーとしてるの。その感情を抱いた者は距離なんて関係無しに叩き潰す!
だから神様の『天罰』って言うネーミングって事かな!」
インデックスは続けて上条に対して尋ねる。
「とうま、その魔術師と戦った時そう言う素振りを見せたりしなかった?
相手にある特定の感情を抱かせるように誘導する、みたいな感じの!」
尋ねられた事で上条は自身の記憶を隅々まで探っていく。
例えば、必要以上の挑発や嘲笑。例えば、不意討ちなどで反抗心を抱かせるような攻撃。
そして、何より。
初めてまともに反撃しよう、と思った瞬間に意識が飛んだ。 - 751 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:51:23.01 ID:RF9ZxTn3o
- 「……敵意とか……悪意、か?うん、そう言われたらそう表現するのが一番近いな。
多分攻撃しようって言う意志だったり、ヴェントの奴に不快な気分を抱いたり、それが『天罰』の始動キーだと思う!
でももし仮にそうだとして、魔術ってのはそんな事まで出来ちまうのか!?」
「普通は出来ないよ、そんな術!私の頭にある魔道書にだってそんな記述はないかも!
でも、そうとしか言いようが無いんだよ。
本来、『天罰』は文字通り天からの罰であって、人間が扱える代物であるはずが無いかも!
でも、もし仮に……そうだとしたら、私も危ないかも。
今はそのヴェントって人の事は全然知らないけど、実際に会ってみたらどうなるかは分からないもん!」
今、インデックスは『歩く教会』の恩恵を受けていない状態にある。
つまり事前に魔術に関しての予備知識があったとしても、
心のどこかで不快に思ったり敵意を抱いたりすることもあるかもしれない。
だとするとインデックスですらヴェントの魔術の餌食になってしまう恐れがある。
「てことは、ヴェントは俺が何とかするしかないか……」
「ごめんね、とうま……」
申し訳なさそうにするインデックスだが、
インデックスは悪くないし悪いのはヴェントなので気にするなと上条は小さく笑った。
それよりも一つ気になる事がある。上条はそれについて尋ねる事にした。
「気にすんなって、『天罰』って言う魔術について知れただけでも十分だし。
……ところでさっき「ひょうか以外にも魔力を感じる」みたいなこと言ってたけどさ、
逆に風斬も魔術に関わってんのか?」
ミサカネットワークがうんたらと言う時点で科学側に敵が居るのかと思っていたのだが。
しかし、インデックスの方もそれに関してはよくわかっていないらしい。
インデックスは首をかしげながらも自身が感じていた疑問を口にした。 - 752 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:52:14.02 ID:RF9ZxTn3o
- 「私の頭の中にある魔道書と、外観や仕組みはよく似てるんだけど……
そこに使われているパーツは全く見た事が無いの。
絵画か何かで見た感じからしてることは何となくわかるんだけど、
その裏側……文化性や精神性っていう『奥』の所まで踏み込めないかも!」
恐らくは、科学と魔術が複合したような状態にあるのだろう。
故にインデックスは魔術部分が分かっても、
科学部分の知識が無い為にこうして頭を抱えている。
「つまり、科学側の知識に明るい奴が居れば良いってことか……」
上条自身とてもじゃないが成績が優秀とは言えない為、そこで自分がとは言えなかった。
しかし、一方通行が持つ打ち止めの人格データさえ使えれば問題は……。
「あ」
そこで気付く。
もしその人格データが使えなければ?
何せ事は魔術も絡んでいる。科学側の知識だけでは解決できない可能性も高い。
そして、『打ち止め』だ。
「もしかするけどさ、あの『天使』を為す核みたいなもんが、別の場所にあったりする?」
その言葉を聞いて、インデックスは驚いた表情を浮かべる。何故分かったのか、と。
「多分、核になってんのは……いや、させられてんのは、打ち止めだ。
そんで今、打ち止めのとこに一方通行達が向かってる。
何とかしてくれると思ってたんだけど、そこに『魔術』が関わるなら話は別だ」
そこまで聞いて、インデックスも上条が言いたい事は分かった。 - 753 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:53:28.96 ID:RF9ZxTn3o
- 「つまり今からあくせられーたや、らすとおーだーのとこに行ってこいってことかな?」
「そう言う事なんだけど……場所もわかんねーし、シャドウも……
っていうかインデックス、お前どうやってここまで無事にたどり着けたんだ?
シャドウっていう変なのが居たはずなんだけど」
「色んなとこで魔力の流れが乱れてたから、
そこに行ってみたら変なの……とうまの言うしゃどうって奴の事かな。
そのしゃどうから嫌な感じがしてきたから、
同じような魔力の乱れを避けてたからしゃどうには出くわさなかったのかも!」
「……てことはシャドウは大丈夫だけど……打ち止めの場所がなあ……」
「そっちも大丈夫だよ?ひょうかから発せられる魔力と
『天使』を為している核は繋がってるから、それを辿ればらすとおーだーのとこにもたどり着けるかも!」
「何……だと……?」
それなら早速行ってもらわねばなるまい。
ご飯1週間分位には値する仕事をしたのではないか。
冗談交じりに上条が言うと、
「こんなの朝飯前かも!」
随分と頼もしい台詞が返って来たのだった。 - 754 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:53:54.80 ID:RF9ZxTn3o
- ・・・
「ここか……あのクソ野郎が居るって噂のビルはよォ……!」
ギリ、と憎々しげにビルを睨みつけた。
そのビルは少し前に取り潰される事が決定していた為、
周りには工事を行う為の仕切りのようなもので覆われていた。
しかしそんなものは関係ない。一息に八階まで飛び上がれば良いのだから。
「さァて、後はどの部屋に居るかだが……」
気配を殺しながらビルに近づき、その外壁に手を触れる。
後は全力で能力を行使するだけだ。
意識を8階に集中させ、振動からどのあたりに人の動きが見られるか当たりをつける。
しばらくそれを続けたところで、一方通行の口元が大きく歪んだ。
「オッケェクソ野郎ォ……見つけたぜェ……!」
そして軽く足に力を込め、音も無く飛び上がる。
打ち止めが窓際に居なければそのまま窓ガラスをぶちまけてやろう。
どうせこのビルは取り壊されるのだから。
そうして8階に辿り着くと、打ち止めは部屋の奥に居る事が見て取れた。
そして木原は部屋の真ん中で椅子に座って本か何かを読んでいる。
そんな訳で。 - 755 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:55:02.97 ID:RF9ZxTn3o
- 「木ィィ原くゥゥゥンよォォォ!!!」
窓ガラスに蹴りの一つを入れてやると、
容易に砕け散り部屋一面に散らばった。
そして当の木原数多はゆったりと首を回し一方通行の姿を確認すると、
つまらなそうな表情が一変して非常に楽しそうなものへと変貌を遂げた。
「ははは!!やっと来たか一方通行ちゃんよぉ!!ちっとばっか遅ぇんじゃねーのか!?
ガキは見ての通りオネムの時間だぜ!?駄目じゃねえか大声出したら!!」
「そりゃてめーもだろォが!!」
「俺は良いんだよ、悪人だから!そんでテメェは一体何なんだぁ!?
正義の味方気取りでガキ一匹救いに来たんじゃねぇのかよ!!?
全く今更1万人殺した罪を洗い流したいなんて笑わせてくれるよなァ!!?
俺なんかまだ可愛いもんだぜ?ガキ一人昏睡状態にしただけで殺してすらいねぇんだからよ!」
言葉で一方通行の心を折りに来たのか、木原は笑いながら一方通行の過去を抉る。
確かに、後ろめたい気持ちも一方通行にはあるだろう。
しかし、その言葉は、その非難は既に聞いた。
「ンだよ、テメェも第二位の野郎みたいなこと言うのかよ……
悪党ってのはどいつもこいつも漫画の読み過ぎで頭がパーになっちまってンのかァ?」
「あぁ?」
何か思ってたのとリアクションが違う。
木原は訝しげに一方通行を見ると一方通行は非常に冷めた表情を浮かべており、
同じような説教を日に何度も受けたような子供みたいにつまらなそうにしていた。
「特撮のヒーロー物でもあるまいし、
どっちが正義でどっちが悪だとか言い合うのは不毛ってもンだろォが。
打ち止めは助けてェから助けるし、テメェはぶちのめしてェからぶちのめすンだ。
それを正義か悪か、いちいち議論する程俺は暇じゃねェンだ」
だから、と変わらず冷たい瞳を携えたままに一方通行は木原を見据える。
「ここで死ね」
腰に隠していた拳銃を取り出すと迷わず引き鉄を引く。
近くに居たら思わず耳を防ぐほどに大きな銃声と、
程なくして硝煙の臭いが部屋を包み込んだ。 - 756 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/19(水) 20:56:46.15 ID:RF9ZxTn3o
- 尾張です。
次回か次々回予告
一方通行「や……やったか……?」
???「ククク……」
一方通行「何…だと…?」 - 757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/10/19(水) 21:05:09.78 ID:wkZvYeOjo
- 一方さんフラグ建ててんじゃねーよww
- 758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)[sage]:2011/10/19(水) 21:45:16.01 ID:3JZOqLGso
- フラグ乙www
- 767 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:07:30.71 ID:Z+vgETdzo
- とある第七学区の一角では、オフィス街のように有名企業のビルやらグレードの高いデパートやレストランが立ち並んでいる。
一方通行達が良く利用するファミレスもその中の一つであり、
料理の値段はその周辺の店より安く、かといって味もその分落ちると言う訳ではない為に
給料の良い有名企業の社員であろうとも好んで利用される傾向がある。
学園都市が誇るお嬢様学校・常盤台中学校の『学舎の園』のような高級感を持つエリアもあれば
上条の住む学生寮のような庶民的な雰囲気を持つエリアも存在する第七学区で、この地は前者のエリアであると断言できるだろう。
事実、このエリアでは日中常盤台中学やら霧ヶ丘女学院やらの制服を着た少女達が沢山歩いていたはずだった。
そう、はずだった、のだ。
何故過去形なのか?
言葉にするだけなら簡単だ。
一言で言い表すなら、廃墟。 - 768 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:08:09.93 ID:Z+vgETdzo
- 便宜上、事の中心を「爆心地」と表現するなら、
その爆心地から半径100メートル前後の建物が残さず破壊されていた。
破壊されていた、と言ってもその全てを徹底的に叩き潰した訳では無く、
巨人が無造作に腕を振るった後とでも言えば良いだろうか。
中途半端に傾いている建物があれば、5階から上が見当たらないデパートもあるし、
ドミノのように倒れた何棟かのビルも見られる。
被害の度合いで言えば爆心地に近い所から遠く離れる程、
幾分かマシになって行くというもので、半径100メートルと
表現はしたもののそこまではなれると飛ばされてきた破片による被害の方が大きいだろう。
と言ってもそんなものはただの気休めに過ぎない。
確か、影時間では、人々は『棺桶』になっているはずだ。
この光景を見た布束砥信はまずその事を思い返した。
しかし、それが何だと言うのか。
例え今は無事でもいずれ影時間は終わりを迎える。
そうなった時、棺桶と言うシェルターもまた消え去るはずだ。
一体何人の人間を助けられるのか。
桐条美鶴らが言うにはこの状態になったのは午後八時半から午後九時の間らしい。
不幸中の幸いと言うか、ここはオフィス街でその時間だと残っている人間は殆ど居ないだろう。 - 769 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:08:59.57 ID:Z+vgETdzo
- だが、少ないながらも確実に人間は存在していた。
この惨状の中でその数少ない人間の内、何人助けられるのか。
巻き込まれた人間からしたら、
「残業をしていると思ったら建物が倒壊していた。催眠術とか超スピード云々」と言う感じだろうか。
いや、そんな何処か余裕の感じられる思考すらさせてもらえなかったに違いない。
布束は魔術師と言う存在も、それによって学園都市の住人の大半が昏倒させられていると言う事実も知らない。
その為救助は更に遅れる、と言う最悪の事態を想定出来なかったが既に状況は最悪だった。
自身が持つ拳銃等でどうこうできる訳が無い。
(actually、私も召喚器欲しかったわ)
美鶴らは木原数多と関わりを持っていない為に
ペルソナは使えるだろうが召喚器を持たない子供達を助けに行っている。
そちらを優先させるあまりにこちらの戦力が疎かになってしまった。
確かに遠目にしか見えなかった為に力量差は分からなかったが、
ここまで差があるとは思わない。
芳川桔梗の言葉通りなら、
一方通行がどうにかするまでの時間稼ぎが出来れば良いと言うつもりだったのだが。
「well、結標さんは瓦礫の中に棺桶が埋まってないか探してもらえない?
大変な作業になると思うけど、一般人が巻き込まれるのは流石に心苦しいから」
「……了解、確かにこれじゃあ棺桶から抜け出した時どうなるかわかったもんじゃないし……」 - 770 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:09:36.40 ID:Z+vgETdzo
- 布束の頼みを聞いて、結標は手近の崩れた建物へと向かって行く。
この広さを1人で探せと言うのは焼け石に水だが、ないよりかはマシだろう。
それに、もし戦闘になるのだとしたらペルソナ使いでは無い結標を巻きことなど出来ない。
戦力半減だがそうも言ってられないだろう。
「砥信ちゃん、砥信ちゃん、ちょっと良いクマ?」
「ん?」
こっちが覚悟決めてる時になんですか。
ジロリと視線をクマへと運ぶと、呑気にこう言い放った。
「本当にアレが悪いか様子見しないクマ?」
「anyhow、状況証拠は十二分に揃ってると思うんだけど?」
「いや、でも今は力出せないしショージキ怖いクマ」
「やっぱそれか!私も怖いわそんなもん!」
クマに盛大な突っ込みを入れると、続いて布束は春上の方を見やる。
突然振り向かれた為春上もビクリと肩を揺らした。 - 771 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:10:04.32 ID:Z+vgETdzo
- 「but、あなた一人に戦わせる訳にはいかないから、召喚器頂戴な」
「え、でも……」
「あなたの事は、ちゃんと護ってくれるわ。そうでしょ?」
「も、もしかして……ク、クマがですかクマ……?」
「身を呈して護ってくれるでしょ?」
イエスかはいか、首を縦に振る事でしかこの威圧感から逃れられまい。
そう感じたクマはぶんぶんと首を縦に振りながら、
「はいクマ!」
高らかに良い返事を返した。
必死に首を振るクマを見た布束は満足そうに頷きつつ、
クマと春上に結標の下へ行くよう指示をだすのだった。
その言葉に従ってクマ達は結標の向かった方向へと駆けだす。
それを見送った布束は光の翼の下の……『天使』を見据え、自身も足をそちらへと運び始めた。
「well、全く勝てる気しないけど何とか頑張らないとね」
『天使』は後ろを向いたままこちらには気付かずに居る。
後ろから不意をついても良いのだが、どうしようか。
今まで使っていた拳銃を腰に差すと、春上に受け取った召喚器を指で
クルクルと回しながら散歩するような気軽さで『天使』の下へと歩いて行くのだった。 - 772 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:11:07.46 ID:Z+vgETdzo
- ・・・
「何だあれ、アヘ顔晒して恥ずかしい奴だなぁオイ」
麦野沈利は目の前に見える「それ」に対して突っ込みを入れた。
あまりにあんまりな表現に女性陣はげんなりとした表情を浮かべ、
コロマルや天田乾は意味が分かってないようで困惑したまま『天使』の表情を見る。
頭を垂れ、だらしなく開かれた口からは舌と唾液がポタポタと落ち、
更には雨によって涎と混じり合った液体が胸元をぬらす。
普通の人間だったなら、無造作に涎を垂れ流す事など寝てる時位にしかしないし、
雨に濡られたら顔を拭く位はするだろう。
しかし、そんな気配を見せない……と言うよりは、「無駄な動きをしない」と言った方が正しいだろうか。
頭の上で浮いている天使の輪のようなものはガチャガチャとせわしなく動き続け、
その輪の動きで『天使』が動いているようにも見えた。
(あの天使……のような人?は、多分……)
『感知』に特化した山岸風香がこうして間近で見たからこそわかった事。
まず一つ、その力は本物であると言う事。
次に、頭の上の輪に力が収束し、続いて下の女性の姿をした者に
その力を送りこむことで無理矢理操っている、と言う事。
危険だ、と山岸は直感的に察する。
そしてその虚ろな瞳が、山岸達を見据えると、ギチギチと嫌な音を立てながら右腕を向けて来た。 - 773 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:12:06.06 ID:Z+vgETdzo
- 「お?ヤンのかコラ」
何処のヤンキーだ、と言った態度で麦野は
『天使』の行動に対する威圧をするのだが、そんなもの効くはずが無い。
普段の風斬氷華だったならまだしも。
お返しだ、と言わんばかりにかざした掌から強烈な紫電が放たれた。
「まずはお手並み拝見ってかぁ!!?」
紫電に対して、『原子崩し』にて対抗する。
その力は拮抗しており、しばらくの間鍔迫り合いのようにぶつかり合うと、
パァン!と甲高い音を立てながらはじけあった。
それを見た麦野は楽しそうに笑う。
「ハッハァ!!イイね、アンタも中々どうして強いらしい!!」
しかし、当の天使の様子が何かおかしい。
無理矢理挙げた腕を降ろそうとしているように見えるが、それを輪がさせまいとグルグル回る。
そしてその力の矛先は、自身の関節部の悲鳴に現れた。
バキィ!!と音を立てて肘が圧し折れたのだ。しかし、それでも天使は腕を降ろそうとする。
「あァ?何だよ、アイツ……?」
その様子に拍子抜けになる麦野だが、山岸はその光景に驚愕した。 - 774 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:13:10.43 ID:Z+vgETdzo
- (やっぱり……下の子は無理矢理操られてる……!!原因は頭の輪……
でも、どうすれば……!)
風斬はAIM拡散力場の塊である。
言うなれば力の塊を頭の輪が制御している状態なのだが、それを壊せば一体どうなるのか。
単純に拘束から解放されるとは思えないのだが、そんな事は山岸は存ぜぬ事である。
無理矢理動かされている風斬は、やはり無理矢理力を発せられた。
しかし今度の紫電を防いだのは麦野の原子崩しでは無く。
「incidentally、あなた達は味方でいいのよね?て言うかアイテム居るし何の集まり?」
布束のアトロポスが生み出した風が瓦礫を飛ばし、それを壁としたのだ。
山岸達は桐条美鶴から連絡を受けていた為、
自分達以外にペルソナを使える人間に対する驚きは少ない。
ただ、布束1人しか居ない事に違和感を覚えたのだが。
「そうですね、あなたは1人でここまで……?」
「今は1人だけどね。but、他に3人瓦礫に誰か居ないか探してもらってるわ」
well、焼け石に水かもしれないけど。
と、特徴的な語頭を扱う少女は周囲の荒れ果てた光景を見て自嘲するように笑った。
それを見た麦野はキョロキョロと周りを見渡した後に山岸らを見ると、
「アンタらもこの惨状に巻き込まれたかもしれねぇ奴らを探してこいよ」
「しかし……」
確かにそれもしたいが、そもそもここで天使の暴走を止められねば何にもならない。
そんな考えも相まって動けなかったのだが、麦野はそんなもん放っておけばイイと言う。
どういう事だとアイギスは首を傾げるものの、事もなげに言い放った。 - 775 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:14:13.02 ID:Z+vgETdzo
- 「だってあれ、無理矢理動かされてんじゃん。それを寄ってたかってってイジメですか?
イジメ、ダメ、ゼッタイって標語しらないの?」
確かに、抵抗している。
こうして話が出来ているのも風斬が動くまいと抵抗しているからなのか、
全身から聞いていて嫌な音が鳴り続けていた。
だがその抵抗もいつまで持つかわからない為、決断を迫られる。
「あー、何だ。私に構わず行け!とかカッケー事言われんの期待してるならそんな期待はドブに捨てちまえよ。
私は操られてるとは言え私の力ぶつけても原型とどめられる奴を相手に出来るのがありがたいだけだし。
むしろアンタらはここに居られると邪魔なのよ。あ、絹旗もだからな。馬鹿力を瓦礫撤去で発揮しろよ」
適材適所だ。そう言い残した麦野はこれ以上話す事は無いと言わんばかりに天使を見据えた。
短い付き合いだが、麦野沈利という人物は自分の我儘は絶対通す、
と言ったお嬢様気質だと理解していた為、山岸達は溜息をつきながらその場を離れて行く。
「……無理そうだったらさっさと助けを超呼ぶ事ですね。文字通り超すっ飛んできますから」
「誰にモノ言ってんのよ。私は第四位だぞ」
「そーでしたね。流石ですぅ」
その口調にイラッとした麦野は絹旗最愛を原子崩しで追い払うと、ようやく布束の方を振り向いた。 - 776 :>>774の一番最後の部分の主語は麦のんです ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:16:16.88 ID:Z+vgETdzo
- 「久しぶりね。まさか生きてるとは思わなかったけど」
「indeed、まさかこうやって外を駆けまわれるとは思わなかったけど、お陰さまで」
アイテムと布束砥信は少なからず因縁がある。
かつて絶対能力進化実験にてそれの妨害及び崩壊を狙って
画策していた布束を抑えたのがアイテムの面子なのだが、布束のその後を麦野は知らない。
それ故に2人きりになって話を聞きたくなった。
何故、ペルソナを扱えるのか。
別の場で会っていたのなら、「あー生きてたんだ」で済んでいたのだが。
「well、聞きたい事もあるかもしれないけど、とりあえずこれを何とかしましょうか」
「そうだな……って対策があんの?」
「対策というか……第一位が動いてるわ」
「な~る。そりゃ安泰だ」
操られようと操られまいと、向かってくるのだから迎撃するのは仕方ない。
のんびりした会話を交わしながら、風斬の抵抗とは裏腹に放たれる攻撃をのんびりとかわす。
戦意を見られない攻撃を回避する事など容易い。
さっさと時間稼いで終わりだ。
そんな矛盾をはらんだ思考と共に、2人は操り人形に立ち向かうのだった。 - 777 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:16:55.47 ID:Z+vgETdzo
- ・・・
「オイ、何だよそれはよォ」
「あん?テメェこの『影時間』で行動出来る条件分かってねぇのか?」
一方通行は焦った様子も無く木原数多に問う。
恐らく最早通じないであろう拳銃を腰に戻しながら。
対して木原は一方通行の問いに対して嘲るように聞き返した。
影時間で行動出来る条件。
そして目の前の光景。
「お前も、ペルソナ使えンのかよ……」
「むしろ使えねえっていつ言ったよ?」
確かに言われてないけど。
何か納得いかない。そんな不満げな目で木原を睨みつけるが、全く気にした様子では無い。
「まー色々あってよぉ。使えねーよか使える方が実験もはかどるし便利っちゃ便利だぜ?
つーかその可能性を考慮しなかったお前が悪ィよ、ここは」
「違いねェな」
怪我は無いかと言えばウソである。
木原はこめかみあたりから血を流しているが、致命傷とは行かないだろう。
確かに一方通行は木原の額めがけて銃弾を放った。
銃の扱いは慣れていないが、その辺は能力で補正をした。
しかしその補正は飽くまでも狙いを定める為だけにしか使っていなかった。
故にペルソナでガードされたのだろう。
しかしペルソナのダメージは使い手に還るからこその怪我。 - 778 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:17:30.23 ID:Z+vgETdzo
- 死ぬよりかはよっぽどマシではある。
「安心したぜ、一方通行よぉ!うちのクソ共を殺さなかったりそこのクソガキ助けるっつったり、
てっきりどっかの抜刀斎みてぇに不殺を貫くとかしだすと勘違いしちまったじゃねぇの」
「馬ァ鹿。こっちは効率重視だっつゥの。あそこで殺して何になるンだってンだ。
まあお前はどォなるかわかンねェけどな」
「言ってろよ。テメェはボコッてそこの窓からポイだから」
「遺言はそれだけですかァ?」
「そりゃこっちのセリフだっつーの!!ペルソナァ!!」
木原はこめかみに召喚器を突きつけ、再びペルソナを召喚する。
しかしペルソナ使いの弱点と言うか、隙が出来るタイミングを一方通行は熟知している。
その隙はペルソナを召喚したまさにその瞬間なのだが。
「馬鹿なのかよテメェは!?」
そんな事は木原も分かっているらしい。
まるで図ったかのようなタイミングでカウンターが返って来た。
それをマトリックスのように仰け反って回避するとそのままバク転の要領でサマーソルト。
しかしその足の矛先は。
バックステップでその足を避けると、木原の顔には少しばかり冷汗が浮かんでいた。
ベクトル操作が出来る一方通行の渾身の蹴りだ。まともに股間で受ければただでは済むまい。 - 779 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:18:10.95 ID:Z+vgETdzo
- 「うお!?テメェ下の木原さん狙うとか流石にふざけんなよ!?」
「どォせ研究ばっかで使う機会ねェンだろォが!!」
「馬鹿野郎テメェこそ実験付けで学園都市第一位のチェリーだろうが!!
こちとらまだまだ現役だっつーの!!」
「ボク大事な人にささげるって決めてるンですゥ。あなたとは違うンですゥ」
「キメェキメェキモすぎるぜ第一位さんよぉ!!
生存本能として女とヤらねェのは男として間違ってる!!」
「……なンつゥか、止めよォぜ」
「……そうだな」
中年と青年の男が閉所で幼女が眠る中下ネタの応酬。
不毛を通りすぎて不気味だった。
殺気ぶつかり合う闘争の場が一転して、変な空気に。
そんな緩んだ空気の中、木原は話を変える為か一つ気になる事を尋ねる。
「つーか一方通行よォ、さっき会った時『インデックス』っつってなかったか?」
「あぁ?ニーソックスと聞き違えたンじゃねェの?」
「……せっかく人が話題変えよーってんのに何考えてんだテメェはよ」
「うるせェ、こっちにも事情があるンだよ」
「おーけーおーけー。それだけで十分だ」 - 780 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:19:06.09 ID:Z+vgETdzo
- 一方通行は魔術と関わりを持っている。
それもイギリス清教が誇る一〇三〇〇〇冊の魔道書を頭に収めた、
対魔術の鬼札とも呼べる存在と。
その一〇三〇〇〇冊の中身も非常に気になる所だが、
それ以上に『一方通行の能力と魔術の相性』が非常に気になる。
何せペルソナやシャドウの攻撃にも対応してきているのだから。
魔術の成り立ちは超能力とはまた違った過程(プロセス)を描く。
故に『燃焼』と言う現象一つとっても普通に反射しようとすると、
見えない力とでも言えば良いのだろうか、反射を貫いてダメージを与えるはずだ。
そのダメージこそが通常の現象とは違う部分。
その差異を調べてみたいとは思うものの、如何せん魔術師(モルモット)が居ない。
前から思っていた事なのだが、一方通行の能力は本当に『ベクトル操作』なのか。
傍目から見る限りではそのように表現して差し支えないものとなって入るのだが。
実験をしているとたまに見つけるイレギュラー。
飽くまでも誤差の範囲内でごくごく僅かの数量なのだが、
科学では説明できないそれが一体何なのか考え続けていた。
ここ最近それに大きく近づけるヒントをいくつか得られた。
『ペルソナ』と『シャドウ』、それに『魔術』だ。
はっきり言って、こんな所で眠りこけてるクソガキと起きて騒いでるクソガキの相手をする暇など無い。
「ガキの世話は保育士にでも任せとけってんだ」
「あァ?何言ってンですかァ?」
どうやら愚痴での呟きらしかったのだが、如何せん場は静まり返っていたせいで聞かれたらしい。
「うるせぇ、こっちの話だよクソガキィ!!」
話の内容に関わらず独り言を聞かれた時の恥ずかしさは異常。
木原は照れ隠しするかのように一方通行に殴りかかるのだった。 - 781 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:21:08.07 ID:Z+vgETdzo
- ・・・
「成程ね……影時間とシャドウ……そりゃ大変だわ。
まあ何にせよ私はここで妹達を護れば良いって事よね?」
「その通りです。と、ミサカは肯定します」
事情をようやく把握する事が出来た御坂美琴は、情報を整理すべく頭を抱えた。
やはり想像をはるかに超える事態だったのだろう。
とはいえ相手は学園都市で、いずれはこんな事になるはずだと頭を落ちつけた。
そして御坂を中心にしてその周辺は何か焦げたような跡……
電熱によるものだろうか、それでも御坂の背後にある病院車と妹達は傷つけまいとする意志が見え隠れする戦闘跡が見られた。
「おっけーおっけー。
言われなくてもそうするつもりだったけど、現状把握出来て正直助かったわ」
「お姉さま、大丈夫ですか?と、ミサカは確認を取ります」
「ん?何が?」
「いえ、正直ミサカでは足手まといにしかならないと思うのですが……」
「大丈夫よ、あんたらは私が護る。
超能力者なんて言って、その力をろくに振るう機会も無かったけど、
こうして皆を護る為に使えるなら血反吐を吐いて超能力者になった甲斐があるってもんよ。
まあ、それで妹達の半分を殺しちゃったんだから良かったのかどうか微妙だけど……」
正直、憎んでるでしょ?
そんな意図が見え隠れするような自嘲気味の笑みを浮かべる御坂。
そんな訳ない。
本当に憎んでいるなら、妹達がこうしてただ倒れ伏しているだけのはずが無い。
結果的には何かを為す力が足りなかった結果なのだが、
それでも御坂を信頼し、頼ったからこそこうして思考放棄して倒れ伏していたのだから。
「そんな事はありません!ミサカ達はお姉さまに感謝こそすれ憎む何て……」
「あはは、そうやって言葉にしてくれるとやっぱり嬉しいわね!」
カラカラと快活に笑うと、御坂は自身の背後に現れたシャドウに向けて強烈な電撃を放った。
「それじゃお姉さんとして、良いとこみせないとね!!」
元気百倍。
精神論など信じていない御坂であるが、今の精神を表現するならこれが一番近いだろう。
世界で一番妹の多い姉として、御坂は電撃を放ち続けるのだった。 - 782 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/23(日) 04:22:10.51 ID:Z+vgETdzo
- 尾張です。木原くン、ペルソナ使えるってよ!まるでペルソナ使いのバーゲンセールだな!
そんな事より、木原くンのペルソナの名前まだ考えてないです。何か無い? - 783 : ◆DAbxBtgEsc[sage]:2011/10/23(日) 06:17:34.79 ID:Z+vgETdzo
- NGシーン
「well、全く勝てる気しないけど何とか頑張らないとね」
『天使』は後ろを向いたままこちらには気付かずに居る。
後ろから不意をついても良いのだが、どうしようか。
春上に受け取った召喚器を拳銃のつもりで腰に差すと、
実弾入りの拳銃を召喚器のつもりでクルクルと回しながら、
散歩するような気軽さで『天使』の下へと歩いて行くのだった。
・・・
「あれ?なんだか攻撃しようとしてるわね」
雨と紫電の翼によって天使から先が見えない。
しかし天使の右腕に紫電が収束し、放たれようとしている。
と言う事はその先に誰かいるのだろう。
「well、とりあえず邪魔しておきましょうか」
先程まで手で弄んでいた拳銃を頭に突きつけると。
「アトロポス」
パァン!と甲高い音が鳴り響き、布束砥信の意識はそこで途絶えた。
正直すまんかった……失敗した失敗した失敗した - 788 :後ペルソナ名の案出してくれてありがとな!ベルフェゴール辺り使うかもわからん ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:02:56.26 ID:6/gzPk47o
科学が、憎い。
弟を守れなかった、弟を殺した、科学が。
自分だけを助けた、自分だけを生かした、科学が。
殺しても、殺しても、まだ足りない程に、憎い。
とはいえ、科学による恩恵は計り知れないものがある。
事実自分もその技術に頼る事がしばしばあった。
頭では理解出来る。
科学も完璧では無い、と。
しかし、心では理解できなかった。
それも当然だろう。
何せ弟が『事故』で亡くなった時、ヴェントも弟もまだ子供だったのだから。
そんな簡単に受け入れられるものではない。
子供の頃に受けたトラウマとは、そういうものだ。
血にまみれて弱弱しく手を握る男の子と、それを握り返す女の子。
―――おねえちゃんを、たすけてください。
弱弱しく握られたその手からは、確かな力を感じられ。
弱弱しく微笑んだその顔からは、確かな意思が感じられた。
多分、自分何かよりもずっと強い子に育ったはずだ。
私が死んでいれば。私が弟の代わりに生きなければ。
科学は憎い。
弟を救えなかったから。
神様は憎い。
弟を救わなかったから。
そして何より。
弟も救えない無力な自分が、憎い。- 789 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:03:22.81 ID:6/gzPk47o
- ・・・
「……?」
目を覚ますと、目の前にはアスファルト。
嫌な事を夢見ていた。
と言うか知らない間に気絶していたらしい。
こうして再び目を覚ませたのは奇跡だろうか。
何にせよ、状況は全く変わっていない。
棺桶がいっぱいあるし、体もどこか重圧をかけられているように重い。
そして。
「まだ居んのかよ……もうあのクソ似非天使も目前だってのによぉ……」
何分意識を失っていただろうか。
しかしその甲斐あって少しだけ動ける程度の体力が戻って来た。
それで十二分だ。
邪魔する者は、異形だろうと潰す。
前方のヴェントに後退の二文字は無い。
「ま、もう目と鼻の先だ。とっとと潰して、潰しつくしてやる」
すると目と鼻の先にあった光の翼が激しく揺らいだ。
どうやら何か動きがあったらしい。
誰かが対峙しているのか、はたまた別の攻撃でも来るのか。
目の前のシャドウと、その後方に見える光の翼。
正直前者は無視しても問題無い気はするが。 - 790 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:04:01.42 ID:6/gzPk47o
- 「やっぱ逃げるのはムカつく」
魔術使うと体力削られるからあまり使いたくは無いが、生来の負けず嫌いが災いした。
こればっかりはどうしようもないのだが、ヴェントがハンマーを振るうまさにその瞬間。
「オケアノス、マハブフーラだ!!」
背後から聞こえた、聞き覚えのある声が、目の前の異形共を駆逐した。
思わず振り返ると、やっぱり気にくわないツンツン頭の少年が拳銃を頭に突きつけていた。
「何?アンタ私を助けて恩でも売るつもり?」
「違うっつうの。お前風斬の下に行く気だろ?悪いが、邪魔させて貰うぜ」
「風斬?……ああ、あの似非天使か」
何の事だと一瞬思ったが、会話の内容と状況からして十中八九人工天使のことなのだろう。
その天使はビルをはさんだ先に翼だけ見えている。
本来そこは回り道をしなければ天使の居る通りにはでられないのだが、
ヴェントは文字通り真っすぐ進めば良いと考えているので、
天使までもう目と鼻の先と言っても差支えないだろう。
ここで上条の言う事など無視してさっさと向かっても良いのだが。
「ま、誘われてそれを断る程朴念仁でも無いけどネ」
シャドウに向けようとしていたハンマーを方向転換。
上条へと矛先を変え、ニヤリと笑う。
その笑みは上条に対して軽くトラウマを植え付けたものだが、上条はもう恐れない。 - 791 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:05:25.66 ID:6/gzPk47o
「いっくぜえええええ!!」
駆ける上条。
それを迎撃すべくヴェントは苦々しい表情を浮かべながらハンマーを振るう。
上条はそれを右手で防ぎながらも左手では召喚器をこめかみに突きつけている。
少し前に上条と対峙していたヴェントはそれを見て直感的に回避行動に移った。
「クロノスッ!!」
「チッ!!」
クロノスによる強烈な一撃をヴェントは何とか回避すると、
体勢を崩した状態で再びハンマーを振るう。
上条のオケアノスによるブフーラ。ヴェントの魔術による暴風。
それらを互いに回避し、打ち消し、はじき返して。
しばらくの間はRPGのように攻守を交代させながら目まぐるしく攻撃の撃ち合いをしていた。
一見、拮抗しているように見える。
しかしどういった理由かは分からないがこの場では魔術を使う事で
体が蝕まれて行く為に、戦況は徐々に上条が圧して行くこととなった。
そんな中、上条の動きを止める為かヴェントは足を止めハンマーを降ろす。
それを見た上条は怪訝そうな表情を浮かべながらも召喚器を降ろすと、
背後のオケアノスは姿を消した。
「どうしたってんだよ?」
話し合いで解決できるなどと最初から思っていなかった上条は
心の底から意外そうな顔をするので、ヴェントはちょっとだけイラッとしながら口を開く。
「アンタのその力、一体なんなワケ?
魔術なはず無いし、かといって科学による産物とも思えないんだけど?
どちらかと言えば最近そこらでよく見るバケモノと似たようなモノを感じるし。
学園都市は、一体何を考えてる?」
一度聞いてはいたもののその時はフィアンマとの会話をすっかり忘れていた為に、上条の反応など覚えていなかった。
故にもう一度問うてみる。- 792 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:06:05.44 ID:6/gzPk47o
- 上条以外にもその力を振るう存在が居るのならば、少し面倒だ。
未知の力はそれだけで武器になる。
分からない、知らないという恐怖はどんな人間にも存在するからだ。
それ故に知る必要がある。
とは言え素直に答えてもらえる、などと言う甘い考えは存在しない。
ヴェントは上条の答えよりも上条の反応に注視していた。
恐らく、上条はバケモノについて知っている。
故にこの問いかけならば何らかの反応を返すはずだ。
そうして返って来た上条の答えは。
「答えて学園都市から出てくってなら教えてもいーけど?
教えるのは学園都市のゲートでな」
少し考え込む素振りを見せた後に、ものっそい嫌な笑顔で答えた。
イライラッ。
帰ってから調べよう。
そう決心したヴェントは無言でハンマーを振るった。 - 793 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:07:07.82 ID:6/gzPk47o
- ・・・
「ハハハァ!!どーしたよ一方通行ァ!!!
まさか初撃の不意打ちでカタがつくとでも思ってたってのかァ!?
だとしたら甘甘だぜぇ!?」
戦況は木原数多が良いように操作していた。
召喚器をこめかみに突きつけたからと言って必ずしもペルソナを召喚する訳ではない。
そうしたフェイントを混ぜるだけで一方通行の動きを容易に予測できる状態にもちこんだのだ。
ただでさえペルソナを使われなくても木原には良いようにやられていた一方通行。
そこでイレギュラーとして普通の拳銃を用いたわけだが、
それは飽くまでも木原が一方通行は武器を使わない、
という前提で行動している場合のみに効果が表れるものであって。
初撃で決まらなかった今、
木原は一方通行が拳銃を使うと言うパターンも頭に入れているはずだ。
故に木原もペルソナを使うことで一方通行の動きを抑制した。
これによって一方通行の攻撃パターンをより予測しやすい状況にもって行ったのだ。
しかし、ここはビルの8階。
一方通行がその気になればこのビルを畳むことだって出来るし、
そうなった場合一番危険なのは木原自身である。
だからこそ。
「チッ……そこを……!どきやがれェエェエェェ!!!」
「だぁれがどくかこの真っ白ヤロォォォ!!!」
木原は背後に居る最終信号を奪取されることを阻止し続けるのだ。
いつまで最終信号を使ってこの空間を作り出すのかは知らないが、
任務が終わりを迎えれば最終信号を返すのもやぶさかではないし、
一方通行の相手など適当に部下に任せて(何秒もつか分かったものではないが)切り上げても良い。 - 794 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:08:41.95 ID:6/gzPk47o
- 逆に一方通行だけなら潰したって一向に構わないのだが、
色々と興味が湧いてきている今、一方通行(モルモット)を捨てるなどと言う選択肢はありえない。
とりあえず、これからもマヨナカテレビの中を好きに探索でも何でもしていれば良いとも思っている。
そんな中で一方通行は現状を打破すべくあれこれと考えながら動いていたのだが、
やはり木原を突破して打ち止めを保護するしかなさそうだ、という結論に達していた。
(学習装置は思いっきり簡略化されたヤツを使ってるみてェだから、
打ち止めを動かすことには問題はねェはずだ)
しかし、部品を最小限に抑えた簡単な学習装置となると、その性能も最小限に過ぎないだろう。
問題は、奪取した後の人格の入力(インストール)に関してだ。
この簡略化された装置を使っても大丈夫なのか。
かといって専門の機器はこの空間内では使えない。
ならばすぐに治療が出来る場所で人格データを使い影時間を終わらせ、そして治療に取り掛かる。
恐らく、それが最善だと思われるのだが。
「テメェは何処まで行っても俺の邪魔するンだよなァ……木原くンよォ……
ストーカーか何かですかァ?」
「ハッ!そりゃテメーの方だろうが!!
そんなにこのガキが大事なら誰にも入れないよう大事に大事に幽閉でもしたらどうだ?」
「ハァ?逆だろそれは!テメェら暗部のクソ共は暗部らしく暗い路地裏ン中だけで縮こまって生きてろっつゥの!!
わざわざ表に出てきて無関係のガキ攫ってンじゃねェよ!!!」
一方通行が許せないのはまさにこれに尽きる。
何故わざわざ無関係の人間を巻き込むのか。
別に悪事が許せないだとかそんな話では無い。 - 795 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:09:57.92 ID:6/gzPk47o
- ただただ、気に喰わない。
だからこそ、木原の思惑は全部ぶち壊しにしてやりたい。
しかし、それを為す力がなかった。
(―――力ってなンだ?)
(今までちっとばっかし鍛えてきたこの拳か?)
ア ク セ ラ レータ
(それとも、自分の身を守るしか能のねェ役立たずの盾か?)
(もしくは、『才』を望んだ非才の人間が生み出したとっつゥ、魔術か?)
(それか、心の中を心のままに発揮する、ペルソナの事か……?)
(イヤ、違ェ。それだけじゃ足りねェ……)
こうして考えている間にも木原から拳が飛んでくるのだが、
それをかろうじて避けながらも思考を続けた。
(……風斬)
チラリ、と自身の背後に見える力の奔流……風斬氷華と思しき紫電の翼を見やる。
戦闘中だと言うのに呑気にも「ゆらゆら揺れてて綺麗だなァ」とかなんとか思ってしまい、
それが決定的な隙となり、一方通行は木原に殴り飛ばされてしまった。
ゴロゴロと床を転がり、窓の手前でその動きを止める。
それと同時に、応急処置を施した胸元からは血があふれだす。
やはり応急処置は応急処置に過ぎず、
ちゃんとした治療もせずに動きまわればそうなるのは必然だろう。
しかし殴られた事など、胸元から血が噴き出すなど、
そんな事は些事だと言わんばかりに一方通行はユラリと立ち上がった。
「……お前……殴られといて何だよ、その面はよォ……!」
一方通行のその動きを見て、何かに気圧されたかのように木原は一歩後ろに下がる。
その間にも一方通行は思考を加速させることで、何かを得ようとしていた。 - 796 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:11:10.85 ID:6/gzPk47o
- (AIM拡散力場……魔術……そ、して……ペ、、ル、ソ、、、ナ、…、…)
―――カチリ。
何かを理解した。
全ての歯車が、噛み合った。
それと同時に、何かがキレた。
「き、は、、らァ……」
絶え絶えに、敵の名前を、目標の名前を、告げる。
「木ィィィ原ァァァァァァァァ!!!」
瞬間、背中から黒い翼が吹き荒れた。
生えている、と言うより絶え間なく噴き出している。
全てを塗りつぶし、覆い尽くすような黒い翼。
見た者全てが『死』を連想してしまうような、そんな暗闇を翼で表現したかのような。
それを目の当たりにした木原すら、一瞬で絶望に追いやられてしまう程の『力』。
しかし、一方通行に動きは見られない。 - 797 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:12:20.62 ID:6/gzPk47o
あまりに大きすぎる『力』だからだろうか。
それを振るう事で打ち止めに害が行く可能性があるからか、
未だにそれを木原に向けて振るう事が無い。
その隙を利用して木原は目の前の現象に関して考察する。
(一方通行の野郎……『自分だけの現実』に何の数値を入力しやがった……!?
……って、あるじゃねぇか!『新たな力』として、おあつらえ向きの奴が!!)
ヒューズ=カザキリ。
既存の法則に加え、魔術の要素をも兼ね備えたそれはまさにうってつけの『参考書』と言ったところか。
と言っても飽くまでそれは木原の予想に過ぎないのだが、状況証拠が揃いすぎている。
『一方通行(アクセラレータ)』と言う力は魔術にすら対応出来る、つまりはそう言う事なのだろう。
しかし、未だに攻撃する気配を見せないと言う事は。
「んだよそりゃあ!!?
力持て余してガキごと潰すのが怖ェからって使わなきゃ宝の持ち腐れってモンだろが!!!」
「く、そ、が……!」
ほんの少し残された理性。
それが翼を振るう事を留めていた。
これで木原と一方通行の立ち位置が逆であれば喜んでその力を解放した事だろう。
しかしそんな仮定は無意味であり、そんな仮定は無駄であった。
て言うか立ち位置逆なら打ち止め奪還してビル叩き潰してただろうし。
とは言え今の一方通行に突っ込む程木原も命知らずでは無い。
普通に攻撃してしまえばカタはつくだろうが、問題は黒い翼だ。
暴発でもしたら間違いなくとんでも無い事になるだろう。
さてどうしたものか。
キリが無いと言えばキリが無いが、
何か変化が欲しいところだ、と木原は呑気に考えるのであった。- 798 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:13:43.64 ID:6/gzPk47o
- ・・・
「わぁお、見て見て!こいつ多分瓦礫に埋もれてる連中も守ろうとしてる!」
麦野沈利は天使の行動を楽しそうに眺めている。紫電が麦野を襲ってるのに。
しかしそれは布束砥信のペルソナ『アトロポス』に防がれた。
と言うか、麦野は攻撃ばかり放って防御は全て布束に任せている。
(indeed、効率は良いかもしれないけれど……)
いくらなんでも酷使しすぎである。
いっそのこと麦野を守るのを止めてしまおうかと思うが、
それをやって間違って麦野が生き残れば間違いなく自分の命は無い。
いや、その可能性は高いはずだ。
何せ麦野と布束だけでなく、辺り一面に光の粉がばら撒かれているからだ。
良くわからないが、これは目の前の天使の庇護とでもいいのだろうか。
この光の粉は、自分達を護ってくれている。
事実体が軽い。気がする。
恐らく、命令に逆らっての行動なのだろう。
天使の輪はグルグルと回り続け風斬氷華の動きを抑制しているように見えるが、それに何とか耐えているのだろう。
体が悲鳴を上げようとも、何かを強制されようとも。
人間を護る事を止めない。
それでも周囲にばら撒かれる紫電は麦野が相殺させ、
それでも麦野に向かってくる攻撃は布束が防ぐ。
それが駄目でも風斬が生み出した光輝く鱗粉は人間を護り続ける。
後は打ち止めを救出するだけだ。それで全て終わる。
出来レースのような戦闘は、佳境を迎えていた。 - 799 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:14:35.44 ID:6/gzPk47o
- ・・・
「ここの8階ですよね?と、ミサカは再度確認します」
「その通りよ。と、芳川は縄を固定しながら長さを調節します」
「オイコラ真似すんなや」
「ハイハイそーですね」
グイグイと縄を手摺に縛り縄がしっかりと縛られている事を確認すると、芳川桔梗は9982号に縄を投げ渡した。
「それじゃ、行ってきま~。と、ミサカは飛び降ります」
9982号はターザンジャンプのようにあ~ああ~と雄叫びを上げながらビルの頂上から飛び降りるのだった。 - 800 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:15:22.04 ID:6/gzPk47o
- ・・・
「……オイ、何だこの状況は?」
木原数多は目の前の間抜けな状況にすっかり毒気を抜かれてしまった。
「お見苦しい所を見せました。と、ミサカは一方通行の頭をはたきながら覚醒を促します」
「あ、あァ……?」
一体何が起きたのか?
時は数十秒戻る。
木原と一方通行の睨みあいが続く中、
突如一方通行の背後から9982号が飛び込んできたのだ。
本来一方通行に飛びこむなどしたら反射されて8階から落ちるだけだろう。
しかし、止血に演算領域を割いていたのかは不明だが、
反射は効かず一方通行をうつ伏せに押し倒す形になったのだ。
これによって一方通行の意識は完全に遮断され、同時に黒い翼も消え去った。
9982号はその翼を一瞬しか見ていない為、
「ん?何か一方通行の背中おかしくなかった?」程度にしか思っていないだろう。
何にせよ、一瞬も気を抜けない状況が、気を抜くしかない状況へと成り下がったのだった。
そしてしばらくして縄から降りて来る芳川桔梗。
素直にビルの通路を使えば良いのに、罠を恐れたと言うところだろうか。
確かにあってもおかしくは無いが、ペルソナがあるのだから普通に回避できそうなものだが。
「月並みな言葉ですが、動いたらそのドタマカチ割り氷ですよ。
と、ミサカは鋼鉄破りを構えます」
それに続いて芳川も無言で召喚器の銃口をこめかみにトントンと当てる。
2人の動作を見た木原はと言うと。 - 801 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:16:29.08 ID:6/gzPk47o
- 「あ~。詰んだわ、コレ」
対一方通行の能力は群を抜いているし、それによって体術もかなり優れた物を持っている木原であるが、
このような閉所でペルソナを扱える人間と銃器を扱える人間を相手にするのは厳しいものがある。
そして極めつけはもうそろそろ目を覚ますであろう一方通行だ。
(昔はコミュ障だったくせによくもまァこんなにお仲間を集めたもんだぜ……)
内心愚痴りながらも割と素直にハンズアップしながら召喚器を床に投げ捨てる。
そして、その直後に一方通行は目覚めた。
「アァ……?」
「お、ようやく起きましたか。ねぼすけさんですね。
と、ミサカは一方通行の背から退きながら軽く鼻で笑います」
何があった?一方通行は体を起こしながらあたりを見回す。
両手を上げて戦意を否定する木原に、鋼鉄破りを構える9982号と召喚器を構える芳川。
あり得ない光景に一方通行は盛大に突っ込みを入れた。
「お前ら御坂ンとこ行けっつったろォが!!?」
「何言ってんですか、そうやって1人で背伸びした結果がこれでしょうが。
と、ミサカは未だに上位個体を保護できてない事実を突きつけます」
こんな状況になっている3割位は9982号の責任なのだが、
勢いで全部一方通行のせいにしている。
一方通行もその事実には反論できない為黙りこむが、まだ質問に答えてもらっていない。 - 802 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:17:15.68 ID:6/gzPk47o
- 「いえ、お姉さまのとこには向かいましたが?」
「イヤ、時間的に早すぎるだろォが!?テレポートでも身に付けたってのかァ!?」
「何言ってんですか。と、ミサカは一方通行は私の……
いえ、妹達の能力を忘れたのですかと尋ねます」
「……!」
その言葉で気が付いた。妹達の能力と言えば一つしかない。
―――ミサカネットワーク。
とは言え、他の妹達は昏倒状態にあると言うのに、どうやって?
その問いに対しても9982号は淡々と答えた。
「私1人が動ける演算力を再び分け合えさせれば、
他の個体とネットワークを介して話す程度お茶の子さいさいです。
と、ミサカは簡単に説明します」
「こんな状況だしね、遅かれ早かれペルソナについて教えるはずだったろうし、
巻き込まれた妹達にも事情を知らせないといけない今こそそのタイミングかなと思ってね」
「だったら俺と別れる前にそれやっとけば良かったじゃねェか」
「どうせ何だかんだ理由つけて1人で行くつもりだったでしょ。
と、ミサカはジト目で一方通行を非難します」
確かに、全部1人で解決するつもりだった。
木原などと言うクソ以下のクソは同じくクソな自分が相手取るべきだと。
「甘甘だぜ、一方通行。上から目線で守ってやる、なんてそんなもん必要ありませんよ。
……仲間なんですから。と、ミサカは当然の様に言い放ちます」
「ッ……!」
それを言われたら、妹達の1人にそれを言われたら自分は何も言い返せないではないか。 - 803 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:18:21.35 ID:6/gzPk47o
- 「……悪ィな、世話かけさせた」
「最初からそう言ってれば良いんですよ。と、ミサカはドヤ顔します」
「……調子に乗ンな」
何かイラッと来たのでデコピンを一発。
9982号は額を抑えながらも鋼鉄破りは構えたままだった。
そんな光景を木原はただニヤニヤとしながら眺めている。
「はん、テメェを悪党だクソ野郎だって自虐しながらこんな時だけお仲間ごっこたぁ良い御身分だな」
嘲る木原に対して、一方通行は憮然とした態度で言い返す。
「……何とでも言え。こいつらを護る為なら何だってしてやる。
矛盾してっけど、こいつらを護る為なら、こいつらにだって頼ってやるよ」
「そぉかい。そんで小悪党からお姫様を無事救出出来たわけだけど?
これからどーするってのよ?」
何故か素直に道を開ける木原。
そのまま壁際に寄りかかると、もうどうでもいいですと言わんばかりにタバコに火をつけた。
「どォしたよ、木原くゥン?
ちょっと脅かされたからっつって任務放棄たァ良い御身分だぜ」
そんな一方通行の問いに対し、木原はポケットに手を突っ込むと一昔前に見たポケベルのような小さな機器を取り出して笑った。
「いいや、逆だぜ一方通行。「任務完了」のお知らせだ」
どうやらその機器は任務終了を知らせる為のもので、
それが振動した為に最終個体の身柄はどうでもよくなったらしい。
何を以って任務終了とするのかは、木原は終ぞ知る事は無かったが。 - 804 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:19:29.72 ID:6/gzPk47o
- 「チッ……」
試合に勝って、勝負に負けた。
そんな気分だろうか。いや、試合の方も9982号と芳川が居なければ負けていた。
(……やっぱ、力が足ンねェな)
先程9982号になんでもかんでも1人でしょいこむな的な事は言われたものの、1人で解決できるに越した事は無い。
やはり、力はいくらでも欲しいものだ。
「ねぇ一方通行。人格データのあれ頂戴。一先ず打ち止めを何とかするから」
と、ここで芳川から人格データを渡すよう頼まれた為、
ポケットに突っこんでいたICチップを投げ渡そうとするも。
「ッ……!!?」
ものの見事に割れていた。
それもそのはずで、あんなに激しく運動したりゴロゴロと地面を転がったりすれば運が良ければ壊れないだろうが、壊れる時は壊れるだろう。
一方通行の驚愕した表情は、芳川や9982号の表情に曇りを、木原の表情に笑みを与えた。
「ギャハハハハ!!マジで!?最終個体助けに来て助ける為のキーを自分で壊すってマジかよ!?
チョーウケるんだけど!!後で「一方通行ヘマやらかしなう」って呟いとかなきゃなあオイ!!」
「ウルセェウルセェ!!テメェだって影時間から抜け出せねェンだぞ!!ちょっとは何とかしよォって思わねェのかァ?!」
「へえ~。ここって影時間っつぅのな。豆知識ありがとよ」
呑気にタバコの煙で遊んでいる木原に対して、
あの黒い翼をぶつけてやろうと思ったが、何故か出来なかった。
あまりはっきりと覚えていないのだが、先程のあれは一体何だったのだろうか。
一方通行が頭を抱える中で、救世主……いや、女神(メシア)とも呼べる少女が現れた。 - 805 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:20:20.60 ID:6/gzPk47o
- 「やっと見つけた!」
そう、インデックスだ。
その姿を見つけた一方通行達は、一体何しに来たんだと言う驚きに包まれ、
対する木原はこれから何をしてくれるのかと言う期待感に包まれた。
この後に一方通行らが科学的知識をインデックスに与えながら、
インデックスの歌によって打ち止めの容体は回復するのだが。
一連の騒動において一番の勝者はやはり木原数多なのだろう。
ペルソナやシャドウに関する考えを深めた上に、
インデックスと言う少女に関する十万三千冊の知識の一端を垣間見る事も出来たし、
『一方通行』と言う力の片鱗を目の当たりに出来た。
そして何より。
―――アレイスター=クロウリーの予測が……いや、予定が外された。
とは言え、ある意味では不幸なのかもしれない。
アレイスターはイレギュラーが大好きであるが、
大好きであるが故にイレギュラーに構いたくなるという性質を持っているのだから。
本来ならば、力の片鱗を見せた一方通行に木原は殺される予定だったのだ。
しかし、その運命(よてい)から難を逃れた木原数多と言う研究者。
これは木原だけに起きたイレギュラーなのか。はたまた全体が歪んでしまっているのか。
それは、人間にはわからない。 - 806 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:20:59.55 ID:6/gzPk47o
- ・・・
「ハァ、ハァ……疲れた」
決着はついた。
勿論、上条当麻の勝利だ。
とは言え、魔術を使うたびに体を蝕まれると言う事実さえなければ
地に伏していたのは上条の方だったかもしれない。
しかしそれは仮定の話であり、結果としては上条が勝ったのだからそれでよしだろう。
「他の奴らは無事か……?」
気になるが、やっぱ疲れた。
影時間もまだ終わっていないが、
後は一方通行達やインデックスに任せるしかないだろう。
そのように考えてから数分後に、影時間は終わりを告げた。
不気味な空はいつもの夜空(雨雲)に戻り、
空を彩っていた紫電はなりを潜め学園都市を包むのは淡い街灯のみとなった。
「ダーッ、流石に疲れたぞチクショーッ」
既に濡れ濡れのびしょ濡れだった為上条は無造作に倒れ込んだ。
普段ならジトジトして気持ち悪い濡れた服も、今は火照った体を冷ますのに丁度イイ。
しかし、ふと倒れ込んだヴェントの方を見やるとそこにヴェントの姿は無かった。
「ッ~~!?」
代わりに居たのは、ヴェントを抱えた大男。
慌てて飛び起き戦闘態勢に入ろうとするのだが、どうやら戦意自体は無いらしい。
誰だ、と叫ぶ前に大男から声が発せられた。
随分と流暢な、日本語。 - 807 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:22:05.13 ID:6/gzPk47o
- 「失礼、この子に用があったのでな。
目眩ましを、とも思ったが君はゆっくり休んでいるようだったから静かにしようと思ったのだが」
「……誰だ、お前は」
「『後方』のアックア。ヴェントと同じく『神の右席』である」
その言葉を瞬間、体が強張った。
アックアと名乗った男の言う事が事実ならば、
ヴェントと同じ実力を持っていると考えた方が良い。
下手すると、それ以上の実力かもしれない。
はっきり言って、疲労困憊だ。
そんな中で目の前の大男の相手など出来るだろうか?
危険だ。頭ではそう叫んでいる。
上条の影も、あれは強いと察しているらしい。
危機感が募る一方であるが、当のアックアは小さく笑った。
まるで子供をあやすような、強面の男には似合わない表情だ。
「心配するな。今日の所は引き返すつもりだ。
ヴェントを苦しめていた魔術を潰す効果も既に潰えているようであるが。
こちらにも事情があるのでな」
一気にまくしたてると、早々に立ち去ろうとするアックアを前に、上条は指一本動かせなかった。
そんな上条に対してアックアは思い出したかのように口を開く。
「ああ、そうだったな。学園都市の負傷者を治す方法を教えていなかったであるか」
その言葉と共に、上条に向かって指で何かを弾き飛ばしてきた。
それを慌てて受け取った上条は怪訝そうな表情を浮かべる。
「……十字架?」
「既に貴様の右腕で破壊されては居るのだがな。
故に『天罰』は使えないし、学園都市の住民も時期に回復する事であろう」
「オイ待ッ……!」
「ではな」
上条の言葉など聞く必要も無い。そう言わんばかりに跳躍し立ち去った。
いや、跳躍したのかも駆けて行ったのかもわからない。一体どれほどの速度だったのか。
と言うより人間が出せて良い速度では無い。だとすると、先程の男は。
「……聖人……?」
何なんだ、次から次へと。と、上条は独りごちる。
止みそうだった雨が、再び降り始めた。
黒い雲から覗いている月が、今日だけは何処か不気味に思えた。 - 808 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 00:23:06.35 ID:6/gzPk47o
- 尾張です。
あとちょこっとエピローグ的なものを書いたら木原編尾張です。
木原くン生きルートです。とはいえ改心なんてしませんけどね
- 810 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:14:10.68 ID:6/gzPk47o
- ・・・
「インデックスと打ち止めの事、頼む」
「あ、ちょっと……!」
一方通行は一同の制止を振り切って窓から飛び出した。
まるで何処かに急ぎの用事でもあるかのように。
「オイオーイ、テメェらこいつらに手ェ出すなよー。出したら殺すからなー」
棺桶状態から元に戻った猟犬部隊が一斉に銃を突きつけるのだが、それを木原数多は止めた。
「ま、お前らにゃ一応助けられたっつー形にはなるしな。そこのガキ持ってさっさと消えろ」
シッシと手を振る木原に鉛玉をぶち込んでやりたい衝動にかられる9982号だが、
それをやったら昇天END確定なのでその言葉に甘えそそくさと帰る事にした。
結局ビルの通路を使うのだから最初からそうしたらよかったのに。
そうして女子供の背中を見送った木原は、
召喚器を拾い上げると無造作に部下に投げ渡した。
……良く見ると、実弾入りの拳銃だ。
部下はそれを腰に差すと木原の指示を待ちただ立ちつくす。
「結局あいつらは手札晒すだけ晒して行ったって事だな」
ざまぁ見ろ、と高らかに笑うのだった。 - 811 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:14:55.34 ID:6/gzPk47o
- ・・・
「どうして、こんな事になってるんですか……?」
風斬氷華は動かない。いや、動けない。
操られていたとはいえ、自身が生み出した惨状を目の当たりにして。
そしてそれを糾弾する人間も居ないのなら、自分で自分を責めるしかないではないか。
「well、何と言うか……ドンマイ?」
そんな風斬に対して布束砥信は何と言葉をかければ良いかわからなかった。
いや、分かるはずもないだろう。
「操られて半径100メートル程を滅茶苦茶にしてしまった」人の気持ちなど。
自身にそんな力は存在しないし、ペルソナが暴走すればあるいはと言ったところか。
故に布束の慰めも随分アバウトな仕上がりになっていた。
そして麦野沈利は。
「あーダル。おーい絹旗ァ。帰っぞー」
携帯にて絹旗最愛を呼び出して帰るつもりらしい。
この場は全て布束に任せたとサムズアップしながら。
「ま、慰め頑張ってね。布束ちゃん☆」
(殺したい)
それをする実力は無いけれど。殺意を抱く位は許されていいだろう。
布束の事情も粗方聞けたから、
もう用事は無いし後は救助隊にでも丸投げしたらいい、と言うのが麦野の考えだ。
そしてその考えに従って麦野は早々にアジトへと帰って行った。
「何て奴だ……」
麦野に対する怨み言を呟いている間にも、
目の前の眼鏡の女の子は自己嫌悪に押し潰されそうになっている。 - 812 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:16:22.28 ID:6/gzPk47o
- (救世主!救世主来い!!)
「……風斬」
白い救世主が来た。
自分はシリアス組ではない感じなのでそそくさと布束は退場し、
救助に当たっている面々の下へ向かうのだった。
そして、まるで布束は元から居なかったかのように風斬と一方通行の対話が始まる。
「一方通行さん……私……」
ズズ、と鼻をすすると、風斬は涙ながらに訴える。
「もう、消えたいです!!
あの子に「友達」って言ってもらえたのに、一方通行さんに人間だって肯定してもらったのに!!
それでちょっとは人間らしくなれたかなって思えたのに……!!
あんな翼はやして、こんな街を滅茶苦茶にして!!
これじゃあやっぱりただの化け物じゃないですか!!
もう嫌なんです……消えてしまいたい……殺されてしまいたいです……」
一方通行はただ黙って風斬の独白を聞く。
するとおもむろに地面に手を触れると、
しばらくして周囲のいたるところで瓦礫の崩れる音が響き渡った。
「……!」
風斬が驚くのも無理は無い。
それは埋もれた一般人を正確に掘り返したもので、
他の面々が行っていた救助作業を一瞬にして終わらせたのだから。
「……生きてるじゃねェか。あンな瓦礫に埋もれてても、しっかり生きてたじゃねェか」
確かにこうして影時間が終わった今、
瓦礫に埋もれていても無事だったのは風斬の功績だろう。
しかし、それの原因である風斬に、その事実を誇る事など出来なかった。
「そんなの……ただの詭弁じゃないですか……
一度は危険に晒したと言う事実は残ります……!」
「だったら、そんな強い力を持ってるってンなら……
その力を上手く操れるよォになれば良いじゃねェか。
そォすりゃこンな事にもならねェし、インデックスの奴だって守ってやれる。
だからよォ……」 - 813 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:17:30.17 ID:6/gzPk47o
「……力から、逃げンな」
ある意味では、風斬を突き放す言葉。
しかし、下手な激励よりもよっぽど力になる言葉だった。
風斬は涙を拭うと、未だにあふれ出す涙は結局無視して口を開く。
「随分と……無茶を要求してくれますね……」
「第一位だからなァ」
「どういう理屈ですか……」
涙も鼻水も止まらないが、何処かすっきりしたように微笑む風斬。
「まァなンだ。一先ずボロアパートに戻るから、お前も来るかァ?
ちったァ事情も把握出来るだろォぜ。
まだ野暮用が残っててなァ。
後はあいつらに任せる事になるが、構わねェか?」
クイ、と親指で背後を指差すと、上条当麻やクマ、
それに布束に春上衿衣、ムスッとした表情を浮かべる結標淡希や山岸風花らが居た。
そんな個性的な一同に対して、風斬はもじもじしながら尋ねる。
「あの……皆さんが良いのであれば……ついて行っても良いですか?」
答えは一つだった。- 814 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:18:18.60 ID:6/gzPk47o
- ・・・
木原数多は事後処理に追われていた。
と言っても事の顛末を適当にまとめて報告するだけと言う簡単なものだが。
高々報告書の作成にわざわざ移動するのも面倒なので、
戦闘後のその場で報告書を作る事にした為、部屋は荒れ放題のままである。
そんな部屋を目の当たりして部下達は困惑していたが、
気にすんなの一睨みで黙りこんだのだった。
しばらく沈黙が続いた後、木原の下に『猟犬部隊』とはまた別の部隊が現れる。
その部隊長と思しき人物は物腰柔らかに木原に向かって話をかけてきた。
「無事終わったようですが、御怪我の方はありませんか?」
「あぁ、お陰さまでなぁ。つーかアンタがわざわざ出向くんなら報告書なんて要らなくねーか?
いや、むしろ報告書を書く俺がまだ生きてるたぁ思わなかったってか?」
「いえいえ、とんでもない。
最終信号の容体を確認しに来たのですが、もうここには居ないようですね」
「ケッ、良く言うぜ。下の階でも上の階でも待機してた癖によ」
腹の探り合いなのか、これが普段の会話なのか。
その場に居たら口を開いても無いのに胃に穴があきそうな異様な雰囲気。
そんなストレスがマッハな場の中に、1人の超能力者が現れた。
「よォ、まだいらっしゃるよォで何よりだぜェ?」
一方通行だ。
木原は何の用だと訝しげにするが、
もう1人の男は笑みを浮かべながら一方通行の方を振り向いた。 - 815 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:20:56.27 ID:6/gzPk47o
- 「おやおや、こんな所に一体何の用でしょうか?」
「逆だろォが。どォせ俺に用があるだろォからこっちから出向いてやったンだ。
感謝しやがれってンだ」
「確かに、今回の件に関して色々と請求したい所ではありますが、
生憎と貴方は必要最小限に抑えてしまってますからねえ……」
8兆円何て大金請求しようもありませんよ、と意味深な発言をする男。
対して一方通行はそれを鼻で笑いながら返答する。
「はン、そりゃそォだろォな。
そンな事態を避けるためにこォしてあくせく動き回ってたンだからよォ。
そォだな、他の奴らが無駄に壊した事による事後処理含めて後一押しってとこか……」
少し溜めた後、その一押しを自ら挙げた。
「木山春生とその教え子共、勝手にだが学園都市から解放したからよォ、
その後処理諸々も合わせて『暗部』に落ちてやっても構わねェぜ?」
その言葉に意外そうな表情を浮かべる男だったが、すぐに柔らかな笑みに切り替える。
「おや?それでも貴方が『落ちて来る』には少し弱い気がしますが?」
「だからまァ、『アルバイト』ってとこだな。
こっちも暗部のクソ共と遊ンでる暇はねェンだ。
気が向いたら手伝ってやるが、こっちの事情を優先してもらう」
「くく……それが今回の落とし所、ですかね」
話がついたところで、男は終始柔らかな笑みを浮かべたままその場を去って行った。
やはり戦闘による爪痕は大きく、それの処理や色々と隠滅しなければならない事もあるらしい。
残された一方通行は窓からの去り際に木原へ向かってニヤリと笑った。
「そンな訳でよろしく頼むぜェ?木原センパイ?」
「殊勝な心がけじゃねぇか……とりあえず、焼きそばパン買って来いや」
「死ね木原くン」
「お前こそ死ねよ」
昨日の敵は、今日の友。
……と言う訳でもないらしい。 - 816 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:22:34.26 ID:6/gzPk47o
- ・・・
「それでは、私達はこれで」
山岸風香やアイギス、天田乾にコロマルは件のボロアパートに到着すると、
そこで測ったかのようなタイミングで到着したリムジンへと乗る。
やはりゴタゴタしているうちにさっさとこの場を離れておきたいのだろう。
なにせ学園都市に入った際、門(ゲート)では
警備員が気絶していた為に普通に不法侵入したのだから。
何て命知らずな、とは思うが影時間に自ら突入しようと言うのだからやっぱり命知らずなのだろう。
「バイバイクマー」
「however、またそのうちねー」
「バイバイなのーみんなによろしくなのー」
「じゃあなー」
「お疲れ様」
「あ、ありがとうございました……」
上からクマ、布束砥信、春上衿衣、上条当麻、結標淡希、そして風斬氷華の6人である。
何となく結標淡希も仲間の輪に加わってはいたものの、
異常事態は終わりを告げたのでそのまま部屋へと帰って行った。
そうして残った5人。
「ってもなー話す事ってもなー」
「とりあえず皆の帰りを待つクマ?」
「それが良いと思うの」
「indeed、今はただ疲れたわ」
「……」
一同が思い思いに話す中で風斬は何やらもじもじしている。
「どうしましたなの?」
春上が口を開けずにいる風斬に対して話を振った。
風斬はビクゥ!と肩を揺らしながらも恐る恐る言葉を紡ぐ。
「あ、あの……皆さん本当にご迷惑をおかけしました!」
思い切りのいい一礼である。
上条は謝罪の内容よりもブルンと揺れた胸の方が気になるらしく、布束に足を踏まれた。
流石に空気読もうな?
無言の圧力はそれだけで恐怖を与え、上条は顔を青くしながら風斬の言葉に耳を傾ける。
「私……こんな化け物じみた力を持ってたりしますけど……
頑張って制御できるようになります!
なので、よろしくおねがいします!」
何がよろしくなのだろうか、良くわからないけど。
「「よろしくな(マ)!」」
一同は暖かく受け入れるだけだった。 - 817 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:24:41.94 ID:6/gzPk47o
- 木原編エピローグ尾張です。
多分続きます
シェリー=クロムウェル編では上条さん仲間外れだったけど、今回は御坂さんが結構仲間外れだった感が強いですね。
- 818 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:25:31.31 ID:6/gzPk47o
- おまけ
今まで影時間の中では常に気持ち悪い感覚が垣根提督やドレスの少女に付きまとっていたのだが、
ようやく終わりを迎えたらしく目の前にはゴーグルの少年や砂皿緻密が自分の手牌を眺めていた。
するとみるみるうちにゴーグルの顔が青くなって行く。
捨て牌と手牌を見比べ、「ありえない!!!イヤマジで!!」とか思っているに違いない、
と感じた垣根やドレスの少女は笑いをこらえるのに精いっぱいである。
(ザマァ見やがれ!!調子こいて早上がりばっかしてっからそんな目に遭うんだよ!!)
内心笑いが止まらない垣根であるが、
それをやったのはお前だと何処からか突っ込みが入りそうだ。
しかし、イカサマはバレねばイカサマでは無い。
ゴーグルの少年も何が起きたのかさっぱりなので、
絶望感に塗れた顔で真ん丸が二個刻まれた牌を半ば自棄気味に捨てた。
その顔を見て垣根は更に笑う。
(人の不幸の味は蜜の味ってな!ハッハァ!)
ドレスの少女と垣根は互いに顔を見合わせると、この局を流すべく『降り』を選択した。
ゴーグルの少年に続いてドレスの少女も同じくピンズの2を捨て、そして垣根は。
(『東』とか……)
場に2枚捨てられている東を使うなど、そうそう無いだろう。
そもそもテンパイしているかすら怪しい。
(ま、ここまでうまくいってんだ。コレ捨ててもいいだろ)
そうして切った東。
不用意に切った東。
影時間が終わったことで気が抜けていたからだろうか。
普段なら感じ取れていたはずの「殺気」をここで感じ取ることが出来なかった。
いや、感じ取れたのだが、それは牌を捨てた後である。 - 819 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:25:57.65 ID:6/gzPk47o
- 「ッ……!?」
感じるのだ。
濃厚な「死」の気配を……!
その正体は……
「すまないな、垣根。ロンだ……」
「「「!!?」」」
ここまで一度も上がっていなかった砂皿の上がり。
果たしてどのような役なのか。
(まてまてまて!地獄待ちだと!?だとするとチャンタドラ2で……!)
しかし、砂皿から開かれた手牌は想像をはるかに超える内容だった。
ラ イ ジ ン グ・サ ン
「「「ら、国士無双十三面!!?」」」
「何をしたかは知らんが……私も甘く見られたものだ」
「ッ……!!」
ぬかった。
砂皿とて死線を潜り抜けてきた傭兵である。
いや、飽くまで戦場の話だけど。
ともかく砂皿を侮った結果がこれだ。
その報い、甘んじて受けねばなるまい。
「48000……トビで終了だな」
しかし、それで垣根が納得するはずが無い。
他の面々も以下同文。
「待て……夜はまだ始まったばかりだぜ……!?」
『スクール』の夜は、始まったばかりであった。 - 820 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/10/25(火) 02:28:06.42 ID:6/gzPk47o
- ていとくんがドレスの少女側を通ってゴーグルの手牌を滅茶苦茶にしたと言う描写は、すべて砂皿印のライジング・サンの為でしたと言う落ち。
今回で1万5千字位一気に進めたわけだけど、それでも描写不足と言うか、何だろ。なんか物足りない感がします。
総じて俺の描写力不足なので精進しようと思いますです。
応援ありがとうですこれからもがんばるよていです - 821 : ◆DAbxBtgEsc[sage]:2011/10/25(火) 03:04:28.61 ID:6/gzPk47o
- 勝手にリスペクトした某スレ風次回予告(と言うより今後の方針)
「……無能力者狩りだァ?暇人も居たもンだなァオイ」
学園都市序列第一位『一方通行』――――――― 一方通行
「確かに能力者からしたら俺達は底辺かもしれねえけどさ、
いつまでも弱肉強食の弱者で居続けなければならない理由なんてねぇだろ!!?」
スキルアウト所属のレベル0――――――― 浜面仕上
「何するか知らねえけどさ、それじゃあ結局無能力者狩りをしてる能力者達と同じじゃねえのか!?」
『幻想殺し』を持つ少年――――――― 上条当麻
「……反撃、開始だ」
スキルアウトを束ねるリーダー――――――― 駒場利徳
「ふざけんなよ……!だったら最初から俺だけを狙えよ!!
何だって周りの関係ねえ奴まで……!!」
スキルアウト所属のレベル0――――――― 半蔵
能力者達による『無能力者狩り』。
やはりやられっぱなしは趣味では無いのだろう、スキルアウト達はそれの報復に赴く。
リーダーの駒場利徳は一方通行の様に理解ある能力者だって居る事を知っている為あまり気乗りはしないのだが、
それで仲間がやられるのを防げると言うのなら、と立ち上がった。
暗部からの要請。
それを無視して無能力者側に立つ一方通行。
そしてその抗争を下にして始まる暗部組織のうねり。
「今までずっとおかしいと思ってたんだ、
俺の能力ながら『未元物質』なんつー矛盾しか感じらんねえ名前をよぉ」
学園都市序列第二位『未元物質』――――――― 垣根提督
「イイ加減いつまでもお上の連中に媚びうるのも飽きてきたしさあ、そろそろ噛みついてみるかにゃーん?」
学園都市序列第四位『原子崩し』――――――― 麦野沈利
「へぇー。ソレが『元・レベル6』の拠り所になるカラダっつーわけ?」
猟犬部隊隊長兼研究者――――――― 木原数多
「エルゴ研の遺した研究結果さ。それにちょっと改良を加えたのだが……お気に召されましたかな?」
マッドな研究者―――――――???
「……どうでもいい」
無気力そうな表情の少年―――――――???
「あの人の眠りを無理矢理妨げるなら……まずはそのふざけた幻想に……メギドラオンでございます」
エレベーターガールの女性―――――――???
「『宇宙(ユニバース)』、か……」
人間―――――――アレイスター=クロウリー
……ゴメン勢いで書いたから嘘予告だと思って下さい。
はっきり言ってこうやって予告出来るのってやっぱ書き溜めあってこそだもんね。
ボク今書きため0だしさっきまで透過してたのだってさっきまでシコシコと書きつづったモンだし。
こうやって次回予告するのが僕の夢でした。
余は満足じゃ……
満足じゃ……
とりあえず時系列的にはSS1巻なのでそこから始まると思います。
とはいえ何にも考えてないので次の投下もそのうち始まると思います。息抜きにちょっとした日常とか挟みたい(白目) - 822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/25(火) 03:29:17.65 ID:iMndyCP8o
- ミスドコーヒーでラノベを二冊半、計三時間以上粘って眠れない夜に長文投下ありがとう。8杯は飲んだかな。
長文お疲れさまです。予告はJAROに通報しておきますね。 - 823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/25(火) 04:27:04.00 ID:yvmiujsH0
- キタロー来るー?
- 826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/26(水) 16:12:05.12 ID:nZ6CwX1AO
- みさきちとか根性の人は影時間で何をしてたのだろうか
- 827 : ◆DAbxBtgEsc[sage]:2011/10/27(木) 01:32:46.96 ID:oSfoet1/o
- みさきち「ほらほら、これが欲しいんでしょ?
だったらそれなりの態度ってもんがあるんじゃないの?」
取り巻き「あっ……!お、お願いします!お願いします~!!」
みさきち「ふふ……可愛い子ね……」
~影時間到来~
棺桶「」
みさきち「……!?」
みさきち「……」ゲシゲシ
棺桶「」
みさきち「……??」
みさきち「……とりあえず、デザインが悪いわね……」
~5分後~
┌─┐
│ | /\
│ | ┌┐┌┐ \ \
│ | └┘└┘ \/ _
| \ ┌────┐ ./ /
| \ .┌┐ .└────┘ / /
| |\ \ ┌─┘└─ / /
| | \/ │┌── ノ /\ / /
| | └┘ ノ ノ \ \_ / /
└─┘ ノ ノ \___ノ
 ̄
\ /
\ \ 丶 / / /
\ \ 丶 i | ./ / /
ヽ \ \ 丶 i | / / / /
ヽ \ \ 丶 i. | ./ / / /
ヽ \ \ ヽ i. .| / / / /
ヽ \ \ ヽ i | / / / /
ヽ \ /
\
-----‐‐‐‐‐
ー―――――――― 花花花花 ハナヤカー
____________ ..花棺桶花 -----------
二二二 花花花花 === 二二二
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/ /
/ / / \
/ / / 丶 \ \
/ / / / | i, 丶 \ \
/ / / / | i, 丶 \ \
/ / / / | i, 丶 \ \
/ / / | i, 丶 \ \
/ / / | i, 丶 \ - 828 : ◆DAbxBtgEsc[sage]:2011/10/27(木) 04:10:23.88 ID:oSfoet1/o
- みさきち「なんということでしょう」
みさきち「必要最低限のデザインだった棺桶がこんなにも美しく生まれ変わりました」
みさきち「見た目地味で暗かった棺桶の色は真っ赤に染まり、周囲のバラと見事に調和しています」
みさきち「美しい花にはとげがある、まさに私にふさわしい見た目に生まれ変わりました」
花花花花
花棺桶花 ハナヤカー
花花花花
みさきち「……」
花花花花
花棺桶花 ハナヤカー
花花花花
みさきち「……精神感応系の最高峰とまで言われたこの私に、幻覚を見せるなんてどういうことぉ?」ゲシッ
みさきち「痛ッ……小指棺桶に打ったマジ痛いんですけどぉ……ってこれ現実!?」
みさきち「携帯は……使えないみたいだし……」
みさきち「……」
影時間に誘われた超能力者!
事情を知らぬ彼女に待ち受ける物は一体!?
食蜂操祈の運命や如何に!?
(続かない) - 829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/10/27(木) 09:45:25.84 ID:5ck3wsHAO
- 何してはるんですか
- 830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/10/27(木) 09:55:03.55 ID:pTuMcUif0
- 木原くン・・・改心はしなくても、味方にもならない、とは書いてないよね
一方通行との共闘がみたい・・・
そしてみさきちワロタ、かわいいなww - 833 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/11/01(火) 16:53:48.49 ID:7XGk9NhVo
- 短いっす。ほんっとすんまっせん
今までコーヒーは急須に入れて飲んでたけど今さっきやっすいコーヒーのドリッパー買ってきてテンションだけは高いです。
とりあえず自称次章の序章を透過します
- 834 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/11/01(火) 16:54:18.28 ID:7XGk9NhVo
- 「……」
吹き抜ける風が少し肌寒い。
と言っても一方通行は反射があるので精神的に、だ。
時は既に10月。
そろそろ朝や夜に半袖で過ごすのが辛くなる季節である。
そんな中で、一方通行はぼんやりと窓から見える木々を眺めていた。真っ白な布団に包まれて。
「うーん、うーん、もう食べられないかもってミサカはミサカは……」
もう片方のベッドでは打ち止めが絶賛昼寝中である。
そう、一方通行は案の定入院していた。後打ち止めも。
木原数多や風斬氷華の件から1日しか経っていないのだから当然だろう。
本来一方通行はあのような大立ち回りを出来る体では無いのに、
それを無理矢理酷使したために傷が開いてしまったのだ。
冥土返しはやっぱりね、と呆れた表情を浮かべていたが
今度は傷が治るまで入院すると一方通行が宣言したのでご機嫌である。
- 835 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/11/01(火) 16:55:01.16 ID:7XGk9NhVo
「……チッ」
何となく舌打ちした一方通行。
手元には暗部組織『グループ』の資料がおさめられていた。
3人の少年少女の写真とプロフィール。
内2人は見たことのある風貌をしていた為、
世の中どんだけ狭いンだ、と思わず突っ込みを入れてしまった。
先日の戦闘終了の際自ら暗部に堕ちる事を宣言した訳だが、
蛇の道は蛇、と言う事で色々と情報を集めたいが故である。
元々自分はグレーゾーンの人間。やっていた実験は既に暗部に等しい。
だったら暗部に居ようと居るまいと構わないだろう。
「ふン」
大体知ってる奴ならいちいちプロフィールなど確認する必要も無い。
それよりも、と言わんばかりにテレビをつけ、何度かチャンネルを変更するとニュース番組で手を止めた。
「学園都市はこの襲撃の犯人を『魔術集団』という、
学園都市とはまた別の超能力開発機構によるものだと発表しています」
「……」
なーにが魔術しゅーだンだ。適当な事を言いやがって、と一方通行は内心毒づいた。
しかし、上条当麻の言う通り、あの戦闘時に参入した魔術師はとんでもなくヤバい奴だったと言う事を知り、
上条には無茶を頼んでしまったと後悔している。
- 836 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/11/01(火) 16:56:23.20 ID:7XGk9NhVo
魔術の事を思い出すと、何故かあの時に造り出した『黒い翼』について思い出される。
あれは一体何なのか。無意識のうちに発生させた為か、今はどんなに原因を探ろうとも思い出せない。
それもそのはず、あの力の塊は何から生成されたのか、今でも理解できていないのだから。
兎に角必死で、兎に角木原数多を潰したかった。
気が付いたら背中から羽根生やして意識も軽く飛んでいた。
あの騒動で、自分は何を得たのか。
(まずは、妹達の生存権を獲る)
その為には暗部を叩き潰す位しなければ無理だろう。
臥薪嘗胆、と言う訳ではないが、ひたすら暗部に潜る。
マヨナカテレビや影時間は、学園都市の暗部につながっている。それは確定したと言っていいだろう。
しかし、差し迫っている問題はそれだけではない。
(……神の右席)
上条はそのように言っていた。
そしてその集団の中には『聖人』とか言う身体能力がずば抜けて高い……
それこそ、自身の身体能力だけで超能力者を圧倒出来るような人間が魔術を扱ってくると言う。
(……俺ァマヨナカテレビと妹達の関連を調べてェだけなンだがな……)
上層部は間違いなく魔術と言う物を認知している。
でなければ「魔術集団という名の超能力開発機構」などと嘘をつけるはずがない。
そして魔術師側も自分の信じる神を真っ向から否定され、
「その力は科学的なものだ」と言われたとなれば黙っているはずが無い。
(どォ考えたって世界中の魔術師に挑発してるとしか思えねェ)
戦争でもしたいのか?そんな事を考える一方通行。
そちらに関しても、色々と調べる必要があるだろう。
何せ世界中の科学的機関で、妹達が預けられているのだから。
- 837 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/11/01(火) 16:57:11.20 ID:7XGk9NhVo
- ・・・
「木原さん、何か魔術集団とかいう組織が学園都市を襲撃したって発表がありましたよ。
実際に魔術って訳じゃなくてそういう名前の超能力開発の組織らしいですけど」
ナンシーは木原数多に先日行われた戦闘後の学園都市における変化に関して報告を上げている。
しかし、当の木原は深くソファーに座りこみテレビのニュースでその事についてボケーッと眺めていた。
「あー?丁度そのニュースみてるとこだよ」
一応ナンシーを含む猟犬部隊の面々は少し前に魔術師なるものを捕獲しに学園都市外へ赴いた事がある。
しかし、あれを超能力と呼ぶには些か下準備が多すぎじゃないかと疑問に思っていた。
肝心の木原からはただ捕まえろとしか言われなかったし、素直にそうしたのだが。
「木原さん、ぶっちゃけ聞きますけど、学園都市の発表丸々嘘だって事ありますか?」
ナンシーの言葉に木原はニヤリと笑う。
一方のナンシーは気が気でなかった。
ひょっとして地雷を踏んだか?とも思うが殺される気配が無いのでセーフと言う事だろう。
「こないだ捕まえた奴らの攻撃方法を見て、あれが超能力だと思えたか?」
「……いいえ」
「じゃーそう言う事だよ。異能ってもんが超能力に限ると思いこんでたら世界を狭めるぜ?」
「はぁ……そーなんですか」
「そーなんだよ」
そんな事を言われても、そこまで言う程興味は無いんだけど。
ナンシーは自身の気の無い返答に対する木原の気の無い返答を受けた後、報告を続ける。
- 838 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/11/01(火) 16:57:49.46 ID:7XGk9NhVo
- 「一方通行はどうやら『グループ』とか言う組織に配属されたらしいです。
と言っても幽霊部員みたいなもので、任務に参加するしないは一方通行の意志で決められるそうです」
「はっ、そりゃまた随分と贅沢な事で」
「全くですね」
木原は一方通行と言う言葉に少し眉を動かしたが、
それ以上追及する事も無くナンシーの報告に耳を傾ける。
「そして、最後にオーダーが1つ。
その『グループ』と協力してスキルアウトの掃討を行え、と。
具体的な内容はこちらに」
説明するよりも資料を見てもらった方が早いだろう。
ナンシーはそのように考え自身の資料をそのまま木原に渡した。
受け取った木原は凄い嫌そうな顔をしていたが。
「あ?何だそりゃ、めんどくせえ。お前らで勝手にやってろよ」
「そういうオーダーですので、諦めて下さい」
「はいはいやりゃーいいんでしょやりゃーよー。
ホンットめんどくせーなーオイ死ねよ一方通行」
一方通行と同じ権限を俺にも。
木原は本気でそう思った。
- 839 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/11/01(火) 16:58:15.37 ID:7XGk9NhVo
- 「スキルアウトを掃討する、と言っても殺す必要は無いらしいです。
それは飽くまで名目上の話で、本命はある無能力者の暗殺だとか」
「あ?めんどくせえな、クズは全員殺せばいいだろ?」
どんだけめんどくさがってんだうちの上司は、
とナンシーは内心毒づくがそんな自分もめんどくさいと思っているので人の事は言えなかった。
「まあその通りですが、一応その詳細もこっちに書いてるんで読んでください。
私では何の事を書いてるのか理解できなかったので」
どうやらナンシーの知らない事が任務の資料には書かれているらしい。
うちの屑どもが知らないと言えばペルソナやら「本物の魔術師」やら位か。
気は進まない。
気は進まないが喰いっぱぐれる事は避けたいので渋々仕事はする事にした木原だった。
- 840 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/11/01(火) 16:58:49.18 ID:7XGk9NhVo
- ・・・
九月三十日。
スキルアウト達が集まる集会場は浮足立っていた。
それもそのはず。
学園都市のあちこちで能力者による『無能力者狩り』が頻発に行われており、
主にスキルアウトの面々がそれに狙われているからだ。
「駒場さん!第7学区でまたやられちまった!!」
「こっちは5人!」
「俺んとこは3人だ!!畜生あいつら、能力にモノ言わせてこっちの武装を解除した上でよってたかって……!」
「……」
駒場利徳はどう動くべきかまとめあぐねていた。
スキルアウトがこれ以上無能力者狩りに遭うのを黙って見ている訳にもいかない。
かと言ってそれを止めようにも結局後々報復に来るに違いない。
「……『無能力者狩り』を行った者の特定は……?」
「そんなもん、それっぽい奴を片っ端からボコってけばいいでしょ!?」
「能力者共に遠慮は要らねえでしょ、駒場さん!!」
「「そうッスよ!!」」
マズイ。
一言で言えばそうとしか言いようが無い。
能力者は個人的にも好きではないが、無関係の人間を巻き込むのは不本意だ。
更に言えば、話のわかる能力者……と言うか、
そう言う能力の有無や過多で人を見ない人間等いくらでもいる事を駒場は知っている。
しかし、目の前の仲間達は、その事を知らない。
教師に蔑まされ、今まで友人だと思っていた相手からも馬鹿にされ。そしてここまで堕ちてきた。
そんな奴らが今更能力者にもイイ奴はいる、で納得するはずが無い。
そんな言葉で納得できるようなら、こんな所には居ない。
- 841 : ◆DAbxBtgEsc[saga]:2011/11/01(火) 16:59:15.32 ID:7XGk9NhVo
- 「……」
駒場は、スキルアウトの面々だって大事だし、
一方通行達だって能力者だとかそんな事関係無しにこれからも付き合って行きたいと思っている。
故に悩む。
正当防衛ならまだしも、周りの仲間達は無差別に能力者たちへの報復をと考えているのだ。
それをしてしまえば最後、自分は一方通行達とは一緒に居られなくなるだろう。
そんな時、駒場の後ろから声がかかった。
「何悩んでんだよ、駒場さん」
浜面仕上。
駒場が自分の身に何かあった時の次期リーダーをしてもらうつもりである男。
その男は既に腹をくくっているらしく、眉間にしわを寄せながら険しい表情を浮かべている。
「やられたら、やり返す。二度とやられないように、簡単な事じゃねえか」
「……だが」
「だがもかかしもねえよ!仲間があんな目にあって黙ってられるか!!
……つっても、駒場さんの気持ちもわからねえでもねえ……。
だったら簡単で、『能力者狩り』だけを狩れば済む話だ」
それが出来れば話は簡単だ。
しかし事はそう単純ではない。
『能力者狩り』の連中は足がつかないように行動を取っている。
書庫(バンク)に侵入出来れば特定は出来るだろうが……。
学園都市のセキュリティを突破するには
守護神(ゴールキーパー)の包囲網を突破しなければならず、はっきり言って不可能に近い。
「……いや、待てよ……」
駒場は考える。守護神とて人間だ。
噂によると第七学区の風紀委員の一員だとか聞いた事はあるが、それはさておき。
「……原始的な方法になりそうだな」
どうやら浜面も駒場と同じ事を考えていたらしく、その言葉に頷く。
「だけど、最も効果的に俺達の『本気』を見てもらえると思うぜ?」
しかし、その為には人員がいくらあっても足りないだろう。
これ以上被害を増やさない為にも時間もおしている。
「……反撃、開始だ」
何処までも重たく、低い声。
その重圧に周りのスキルアウトは冷汗を流す。
しかし、それこそが、荒くれ者の集団をまとめ上げるにふさわしい。
「「応!!」」
決行は、10月3日。
- 842 : ◆DAbxBtgEsc[sage]:2011/11/01(火) 17:00:48.25 ID:7XGk9NhVo
- 尾張です
ほんっとすいまっせん、何て言うか書いててペルソナ要素が介入する部分が無くてどうしようとか考えてたら続きを書く手が止まってました
- 846 : ◆DAbxBtgEsc[sage]:2011/11/16(水) 22:07:30.12 ID:rioHsjaGo
- とりあえず、時間をください。
何と言うか、久々にこのSSを初めから読んで見て「ああすればよかった」「こうすればよかった」とか、
それだけじゃなく誤字脱字がいたるところに見られて頭を抱える日々。
それはまあ自分の技量不足なので仕方ないと言えば仕方ないので割り切ってはいますが、問題はこれから先の展開。
ある程度の指針は決まっていて、問題はそれの肉付けなのですがその肉が全く思いつきません。
と言うか当初の予定では木原くン編で俺達の戦いはこれからだENDで締めくくるつもりだったのですが、
書いてるうちにマルマルモリモリ設定が増えてってそんな終わり方個人的にNOって感じになってしまいました。
そんな訳で続きを考え始めたのは良いのですが、何か駆け足とは言え木原編を終えて燃え尽きた感があるというか、燃え尽きたというか。イマイチモチベーションがあがらないのです。
いつ投下すんのかわからん状態をいつまでも続けるのも仕方ないので一旦打ち切りと言う形にしたいと思います。
戻ってくンの?と問われたらただただ全力を尽くしますとしか言えないです。
たかだか一SSの作者ごときがわざわざ長々と何をと感じられる方も居られるとは思いますが、
態々このようなSSに目を通して頂いた方々へのけじめと言う事で報告と同時に謝罪とさせていただきたいと思います。
しばらくしたらhtmlのいらいも出して来ようと思います。
再び投下する事が出来るのであればひょっとしたら色々と改訂して初めから透過する感じになるかもしれないです。
中途半端な終わり方でほんっとに申し訳ない、いつかリベンジする。
- 847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)[sage]:2011/11/17(木) 01:25:30.31 ID:NpwpMZ5Vo
- ネットで肩肘張ることないのですよ
そのうちリベンジしておくれ
あなたの話の続きが読みたい
あ、もし再うpするならタイトルに「ペルソナ」の一言あってもいいかもと思ったり - 854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福島県)[sage]:2011/11/20(日) 00:07:22.98 ID:iQfhOiYlo
- ペルソナ知らないけど楽しんで読んでた
リベンジ待ってるよ - 855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/11/20(日) 14:02:18.69 ID:jZCUdv8no
- このSS読んで面白かったからP4買ったよ
今3週目ですごい楽しい
これ見なかったら興味持たなかったと思う、>>1ありがとう
復活楽しみにしてます
2014年4月20日日曜日
とある仮面の一方通行 そのに 2
ラベル:
クロス,
とある魔術の禁書目録,
ペルソナ,
一方通行
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿